2024.09.24
令和5(行ケ)10107 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年8月28日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
ウ 以上を踏まえ、相違点1について検討する。前記(2)のとおり、甲1発明
において、「加熱コイルを収容するケース」は、「コア10とソールプレ\nート26」から構成されるものと認められるところ、このうち「ソ\ールプ
レート26」は、「アセンブリの底部に適用され、溶接されるべき非金属
複合アセンブリに含まれる金属サセプタに、コイルによって発生した渦電
流を印加するために設けられる」(甲1文献・訳文3頁)ものとされてい
ることからすると、「ソールプレート26」は、コイルを収容するケース\nとしてコイルと加熱対象物との間に置かれ、コイルによって発生した磁束
を加熱対象物である金属サセプタに届かせるため、当該磁束を通過させる
材料で構成されているものと理解される。そして、前記の誘導加熱の原理\nからすると、電気絶縁性の非磁性材は、磁束に何ら影響を与えることなく、
磁束を通過させる性質を有するものであり、前記各文献によれば、電気絶
縁性の非磁性材の構成材料としてはセラミックや樹脂があったことが周知\nであったと認められる。
そうすると、甲1発明の「ケース」を構成する「コア10とソ\ールプレ
ート26」のうち「ソールプレート26」について、磁束を通過させる性\n質を有する電気絶縁性の非磁性材として周知のセラミック又は樹脂を選択
し、「コア10と電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂」で構成され\nる「ケース」とすることは、当業者にとって容易想到であったというべき
である。
エ この点に関し、被告は、本件発明1に係る特許請求の範囲の請求項1の
記載によれば「ケースの全て」や「ケースの一部」などの解釈がされる余
地はなく、本件審決は、フェライト材料又は粉末鉄で作られたコアを請求
項1のケースの構成に置き換えられるかを判断しているだけであるなどと\n主張する。
しかしながら、前記(1)のとおり、本件発明1に係る特許請求の範囲の請
求項1には「電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂で構成され前記加\n熱コイルを収容するケース」と記載されているにとどまるから、ケースの
構成が前記の要素「のみ」からなるものに限定されるものと解することは困難である。\nよって、被告の主張は前提となる本件発明1の特許請求の範囲の解釈を
異にしており、これを採用することはできない。
(5) 小括
以上によれば、本件発明1と甲1発明の相違点1については容易想到であ
ったというべきであり、相違点2から4までについては、前記のとおり進歩
性は否定されるから、結局、本件発明1は、甲1発明に基づいて出願前に当
業者が容易に発明することができたとものと認めるのが相当である。
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2024.09.16
令和5(行ケ)10053 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年6月24日 知的財産高等裁判所
異議申立に対する取消訴訟です。裁判所は、本件発明における「RB0.4以上事項の有無」は、相違点であるとして、進歩性有りと判断しました。\n
1 取消事由1、2(引用文献1に基づく新規性、進歩性の判断の誤り)について
原告らが取消事由1、2を通じて主張するところの眼目は、1)引用文献1に
は「自立CNTペリクル膜」の発明が記載されているとはいえない、2)引用発明
1には本件発明のRB0.4以上事項の記載がないところ、これらに係る本件発
明1との相違点は実質的なものであり、かつ、引用発明1にRB0.4以上事項
を持ち込むことは容易想到ともいえないという2点に集約される。
当裁判所は、1)に係る原告らの主張は採用できないが、2)の主張は理由があ
るものと判断する。以下に詳説する。
・・・
(3) RB0.4以上事項の有無は実質的相違点か
ア 本件決定が認定した本件発明1と引用発明1の相違点1A(別紙3「本
件決定の理由」1(2)アの[相違点1A])の中には「引用発明1ではRB0.
4以上事項の構成が明らかでない」点が含まれているところ、本件決定は、\nこのRB0.4以上事項の有無に係る相違点は実質的な相違点ではないと判
断した。
イ しかし、引用文献1には、RBの数値を特定する記載は一切なく、その示
唆もない。また、CNT膜の面内配向性をRBによって特定すること自体も、
引用文献1その他の出願時の文献に記載されていたと認めることはできず、
技術常識であったということもできない。
ウ 本件決定の上記アの判断は、RBの値が、0.40以上では面内配向して
おり、0.40未満では面内配向していないことを表す旨の本件明細書等\nの記載(【0104】)から、本件発明1のRB0.4以上事項が、CNT
のバンドルが面内配向していることを特定するものであり、引用発明1は
面内配向しているものを想定しているから、RB0.4以上事項を満たすこ
とになるとの理解に基づくものと解される。
しかし、本件発明1の特許請求の範囲に照らすと、CNTバンドルが面内配向しているという定性的構成(構\成1C)と、RB0.4以上事項とい
うパラメータによる定量的構成(構\成1D)は独立の構成となっており、本\n件明細書の【0104】等の記載を踏まえても、引用発明1のCNTバンド
ルが面内配向の特性を有しているからといって、RB0.4以上事項を当然
に満たすと判断することはできない。
エ 被告は、通常の発想のもとで、通常の性状のSWCNT及び通常用いら
れるプロセスで製造された薄膜自立無秩序SWCNTシートであれば、膜
厚、バンドル径及び自立性のいずれの観点においても、本件明細書等にお
ける比較例1よりは実施例1に相当程度似通っているといえる上、比較例
1のRBの値(0.353)がRB0.4以上事項の下限である0.4に相
当程度近いこと等を考慮すれば、比較例1よりも実施例1に相当程度似通
っている薄膜自立無秩序SWCNTシートであれば、RB0.4以上事項を
満たしている旨主張する。
しかし、被告の主張する「通常の発想のもとで、通常の性状のSWCNT
及び通常用いられるプロセスで製造された」との薄膜自立無秩序SWCN
Tシートの製造方法や、当該薄膜自立無秩序SWCNTシートの「膜厚、バンドル径及び自立性」について具体的に特定する主張立証はされておらず、
したがって、「比較例1よりも実施例1に相当程度似通っている薄膜自立
無秩序SWCNTシート」の内容も明らかではないというよりほかない。
かえって、原告ら提出に係る甲40によれば、原告らが引用文献2記載
の方法で作製したCNT自立膜(サンプル1、2)ではそれぞれRBが−0.
38、−0.26であったのに対し、本件発明の完成当時に製造されたCN
T自立膜では1.04だったのであり、薄膜自立無秩序SWCNTシート
であれば、RB0.4以上事項を満たしているともいえない。
被告は、甲40について、1)RB測定サンプルの保管が実際にどのような
条件で行われていたか確認できず、サンプルの実在も確認できない、2)本
件明細書等に記載された実施例及び比較例と実験条件が異なる、3)当該各
RB測定サンプルは、特性が位置的にみて不均一となっている、4)RB0.
4以上事項を満たさないとされるサンプル1、2は一部破損がみられるか
ら自立膜とみられないなどと論難するが、1)については、サンプル1、2は
平成29年4月の開発時に作製したものと推認され、2)については、甲4
0は、「面内配向していてRBが0.4未満の膜が存在するかどうか」の点
を検証する実験であるから本件明細書等の実施例及び比較例の条件によら
ねばならないものではない。また、3)については、もともとRBの測定方法
は局所的な断面に対するものであり、RB0.4以上事項は、少なくとも一
つの断面で0.4未満以上となることを意味するのであるから、被告主張
の点をもって甲40に基づく上記判断は左右されない。さらに、4)につい
ては、甲40では、サンプル1、2について製造過程で一部破損があったとしても、自立膜となったものを測定しているのであるから、やはり被告の
主張は採用できない。
(4) 以上のとおりであって、本件決定には、RB0.4以上事項を含む相違点1
Aが実質的なものであることを看過し、引用発明1に基づき本件発明1、3
〜5が新規性を欠くとした誤りがあり、取消事由1は理由がある。
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2024.09.16
令和5(行ケ)10110 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年6月27日 知的財産高等裁判所
進歩性無しと判断された拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟です。
争点の一つが「登録を通じてまたは登録を通じずに前記カラー反射率画像とOCTデータコンテンツとを結合する」の意義でした。審決では「登録を通じてまたは登録を通じずに」は、意味が無いと判断されました。知財高裁も同様です。
「登録を通じて」と「登録を通じずに」で、処理が異なる場合には技術的意義があると認定できる場合もあると思いますが、何か別の意図があったのでしょうか。
ちなみに分割出願もありません。
(1) 本願発明の認定について
ア 構成要件Dの「登録を通じてまたは登録を通じずに」の技術的意義について\n本願発明における「カラー反射率画像とOCTデータコンテンツ」の「結合」に
おいて、本願明細書には、「カラー反射率画像とOCTデータコンテンツ」が同じ光
路を共有して取得され固有的登録がもたらされる形態では、「登録」するための追加
の処理が必要ではなく(【0035】、【0058】)、一方で、代替的アプローチである前記光路が共有されていない形態では「登録」を行うこと(【0059】、【0065】)が記載されているところ、前者の形態が本願発明の「登録を通じずに」に、後
者の形態が「登録を通じて」に、それぞれ該当する形態であると認められる。
そうすると、引用発明の特定事項が、少なくとも「前記カラー反射率画像とOC
Tデータコンテンツとを結合すること」を満たすのであれば、そのような特定事項
は「登録を通じてまたは登録を通じずに」のいずれか一方を必ず満たすものといえ
る。したがって、「登録を通じてまたは登録を通じずに」の有無により本願発明の特定
事項は実質的に何も変わらないとした本件審決の認定は、原告主張のように本願明
細書を拡張して行われたものとはいえず、誤りがあるとはいえない。
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2024.08.26
令和5(行ケ)10146 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年7月25日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決(拒絶査定不服審判)が維持されました。
原告は、甲1には卵パックの搬送方向を変更することにつき、記載も示唆もない
と主張する。しかし、上記(2)イのとおり、引用発明に係る装置において、コンベア
や関連する装置の配置を最適化することは、当業者において自明の課題といえると
ころ、同一の技術分野及び作用機能に係る甲2には、パックの搬送方向を変更でき\nる旨が明記されているから、引用発明及び甲2に接した当業者が、引用発明におけ
る卵パックの搬送方向につき、甲2に記載された構成を適用する動機付けが認めら\nれる。原告の主張は採用することができない。
原告は、引用発明ではラベルが空気抵抗の影響を受けて挙動が不安定になり落下
位置がずれやすいのに対し、甲2発明ではラベルが空気抵抗の影響をほとんど受け
ないとして、前提の異なる甲2記載の構成を引用発明に採用することはできないと\n主張する。しかし、甲1には、従来の装置の課題として「ラベルを水平方向にしたま
ま落下させるとラベルは空気抵抗でどこに落下するか予測できない」(明細書2頁1\n3〜15行目)ことを挙げ、引用発明は「ラベルを水平方向にしたまま落下させな
いで、ラベルを斜めにした状態で落下させると、ラベルはその傾斜の下方延長方向
に確実に落下すると云う原理に基(づ)いている」(同3頁1〜4行目)として課題
を解決する旨が記載されている。甲1の記載を総合しても、このようにして課題を
解決することとした引用発明において、それにもかかわらず、ラベルが空気抵抗の
影響を受けて挙動が不安定になり、ラベルの落下位置がずれやすいと認められるも
のではなく、少なくとも、引用発明における卵パックの搬送方向を変更することに
阻害要因があるとは認められない。原告の主張は採用することができない。
原告は、引用発明では、ラベルが落下していく傾斜の下方延長方向と、コンベア
による卵パックの搬送方向とが交わるようにすることで、発明の目的を達成してい
るところ、卵パックの搬送方向を変更することはその目的に反することになり、阻
害要因があると主張する。しかし、甲1には、ラベルが落下していく方向と卵パッ
クの搬送方向とが交わるようにすることにより発明の目的を達成している旨の記載
はないし、甲1の記載を総合しても、卵パックの搬送方向が変更された場合に、引
用発明の目的が達成されないと認めることはできない。また、パックが輸送される
タイミングに合わせてラベルを投入することは、当該技術分野における技術常識と
いえ、パックの搬送方向を変更させた上で、タイミングに合わせてラベルを投入で
きるようにすることは、当業者が通常採用し得る事項といえる。引用発明における
卵パックの搬送方向を変更することに阻害要因があるとはいえない。
原告の主張は採用することができない。
・・・
原告は、本件審決が引用発明につき、「ラベルLは、保持を解除された後も、上ベ
ルト3と接してベルトの駆動方向に押し出されるようになる」とした点につき、ラ
ベルLは、上下ベルト3、4の挟持が解除された後、再び上ベルト3に接すること
はないから、本件審決の認定は誤りであると主張する。しかし、本件審決の上記認
定部分は、ラベルLが上ベルト3との接触を離れた後に再び上ベルト3に接触する
旨をいうものとは解されない。引用発明において、ラベルLは、上下ベルト3、4の
運動によって輸送されていくから、その前端部分から後端部分にかけて、徐々に上
下ベルト3、4の挟持から離脱していくこととなるが、その間も、少なくとも後端
部分は上ベルト3に接してその運動により駆動方向に押し出されていく。本件審決
の上記認定部分は、これと同旨をいうものと理解できる。原告の主張は採用するこ
とができない。
原告は、卵パックにラベルを投入する直前にラベルを一旦保持する構成は技術常\n識であるから、引用発明においても、ラベルLの後端部がプーリ7、10の位置に
到達した際、上下ベルト3、4は駆動を止めてラベルLを一旦保持し、その後、上下
ベルト3、4が駆動を再開することで保持が解除され、ラベルLは、傾斜の下方延
長方向(ラベルの短辺に沿った方向)に落下すると主張する。しかし、仮に引用発明
において上下ベルト3、4が駆動を止めてラベルLを保持し、その後駆動を再開し
てラベルLの保持を解除するとしても、上下ベルト3、4の駆動の再開により、ラ
ベルLには上下ベルト3、4の駆動による同駆動方向への駆動力が働くのであるか
ら、ラベルLがその長辺に沿った方向に押し出されることは否定できない。原告の
主張は採用することができない。
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2024.08.21
令和5(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年5月14日 知的財産高等裁判所
数値限定発明について、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。被告(特許権者)は、動機付けがないと主張しましたが、裁判所は設計事項と判断しました。
ア 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(1)アのとおり、相違点2が設計事
項であるとは認められない旨主張する。
しかし、前記(1)イのとおり、本件明細書の記載からは、「(A)成分以外
の界面活性剤」という意味での(G)成分は、含まれていてもよいという
位置付けの成分であって、重要性が高くなかったものであり、本件発明1
で特定された(G)成分に含まれるG−2、G−2’及びG−3について
も、本件防臭効果評価において、これらの成分を用いた実施例が他の実施例に比べて優れた防臭効果を得られていないことからすれば、本件発明1
において、(G)成分を一般式(I)又は一般式(II)に特定したことに
格別な技術的意義があるとは認められず、少なくとも、ノニオン界面活性
剤((G)成分)の含有量を、甲1発明における含有量の範囲内で検討し、
「20〜25質量%」としたことは、当業者における設計事項であると認
められる。したがって、被告の上記主張は採用することができない。
イ 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(2)イのとおり、甲1発明における
ノニオン界面活性剤成分を本件発明1の(G)成分に置き換える動機付け
がない旨主張する。
しかし、甲1発明のNI(7EO)と、本件発明1の(G)成分の式(I
I)で表される化合物とは、一般式において共通し、R4(炭素数12及び\n14の天然アルコール由来の炭化水素)の部分においてのみ異なるが(前
記2(2)イ)、炭素数12及び14の天然アルコール由来の炭化水素は、甲1
発明のNI(7EO)のRである「C12からC15のアルキル鎖」に包
含されるものであることが明らかであり、かつ、天然アルコール由来の炭
化水素と合成アルコール由来の炭化水素とで、いずれか一方が他方よりも
衣料用洗浄剤の組成物に適しているとの技術常識があるとは認められな
いから(前記(1)ア、ウ)、甲1発明のNI(7EO)において、「C12か
らC15のアルキル鎖」の原料として、天然アルコール(炭素数12及び
14の直鎖アルコール)を選択する動機付けがなかったとはいえず、相違
点2に係る構成を想到し得ないとも解されない。\nしたがって、被告の上記主張は採用することができない。
ウ 被告は、相違点1に関し、甲1発明において(C)成分の含有量を特定
することによって本件各発明に係る特定の洗浄剤組成物に至る動機付けはないと主張する。この点、甲1発明において(C)成分に相当する成分であるMGDA(T
rilon M)について、甲1は、製剤の抗菌効果を向上させる添加剤
の一つであるとしており(別紙3「文献の記載」1(5))、MGDAのような
添加剤の使用はDCPPによる殺菌効果を高めるものであると記載して
いる(別紙3「文献の記載」1(8))。
そうすると、甲1発明において、DCPPによる殺菌効果ないし抗菌効
果を高め、臭気の抑制効果を高めるのに十分となるように、その含有量を\n甲1発明の範囲(0.1〜5wt%)内で設定し、0.1ないし1.5質
量%にすることは当業者が適宜なし得たことにすぎないというべきであ
り、甲1発明の上記数値範囲の中から本件発明1の(C)成分の割合を選
択する動機付けがないとはいえず、相違点1に係る構成を想到し得ないと\nも解されない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
エ 被告は、相違点3に関し、相違点3が設計事項にすぎないとはいえない
とか、甲1発明においてA/C比を調整することによって本件発明1に係る特定の洗浄剤組成物に想到する動機付けはないなどと主張する。
しかし、上記ウのとおり、甲1の記載によれば、甲1発明において(C)
成分に相当するものであるMGDAは、DCPPによる殺菌効果を向上さ
せるための添加剤として配合され、その含有量の範囲が示されているので
あるから、その含有量の範囲内で数値の範囲を選択することは、当業者の
設計事項であるといえる。また、甲1発明には(A)成分に相当するアニ
オン界面活性剤が配合されているところ、甲31(別紙3「文献の記載」
7)、甲33(別紙3「文献の記載」8)には、それぞれ別紙3「文献の記
載」7及び8のとおりの記載が存在し、これらの記載によれば、アニオン
界面活性剤は、衣類の洗浄の成分であり、他の成分による消臭効果を向上
させる効果も有することが、本件出願日時点における技術常識であったと
認められるから、甲1発明のアニオン界面活性剤の含有量を、その洗浄等
の効果を高めるのに十分なように、甲1発明における範囲内(合計で12\n〜32wt%)で検討することも、当業者の設定事項であるといえる。
そうすると、(A)成分と(C)成分を甲1発明に記載の各含有量の数値
範囲内で設定した結果として、A/C比を最小で2.4、最大で320(前
記2(4)ア)の範囲内である「10〜100」とすることも、当業者にとっ
て格別の創意工夫を要するとはいえず、当業者の設計事項であるといえる
し、A/C比を「10〜100」とする動機付けがないともいえないから、
相違点3に係る構成を想到し得ないとは解されない。\n
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2024.08. 9
令和5(行ケ)10084等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年7月17日 知的財産高等裁判所
審判では訂正要件充足、訂正後の発明について進歩性違反無しと判断されました。知財高裁は、訂正自体は有効だが、進歩性無しと判断しました。
被告(特許権者)は、「甲2発明に甲1発明を適用して、甲2発明のインナロータ型モータをアウタロータ型モータに置き換え、さらに周知技術を適用して磁石を筒缶部の内周面に貼設されるようにするという複数のステップを求めるものであり、容易の容易として認められない。」と主張していました。
甲8文献は、平成15年9月19日公開された発明の名称を「ロータおよびその製造方法」とする特許出願の公開公報(特開2003−264963)である。甲8文献に記載された技術は、ロータ軸に接着剤を用いて焼結磁石を固定したロータおよびその製造方法に関するものであり(甲8文献の段落【0001】)、甲8文献の図1(a)及び(b)には、ロータ10は、ロータ軸12の外周面上に周方向に沿って配列された複数の磁石片20と、複数の磁石片20を外周面に固定する接着剤層14とを備えていること(甲8文献の段落【0021】)が記載され、甲8文献の図1において、複数の磁石片20がロータ10に互いに隙間を空けて貼設されていることが記載されている。\n
(エ) 甲9文献(日本接着学会誌 Vol.39、No.9〔2003/9/1〕「構造接着技\n術の応用展開と最適化技術の構築」原賀康介)には、モーターの磁石接\n着について、甲9文献の図7は、モーターのロータ―の構\造を示してお
り、スパイダーにセグメント状の永久磁石が接着されており、磁石の接
着には、従来から加熱硬化型エポキシ系接着剤が使用されてきたが、ネ
オジウム系磁石は線膨張係数が0からマイナスであるため、加熱硬化では熱応力が大きく耐ヒートサイクル性に劣ることや加熱硬化で作業性に劣るため、最近は生産性に優れた2液室温硬化型の耐熱性アクリル系接着剤に変わりつつあることが記載されている。
(オ) 甲5文献は、平成17年6月2日公開された発明の名称を「回転電機
のロータ」とする特許出願の公開公報(特開2005−143248)
である。甲5文献に記載された技術は、発電機やモータ等の回転電機に
使用されるロータに関するものであり(甲5文献の段落【0001】)、
その実施形態である甲5文献の図1及び図3のアウターロータ5は、ロ
ータ本体50と、ロータ本体50に固定された複数個の磁石部7とを有
し、磁石部7は、ロータ本体50のリング部55の内周領域57におい
て周方向に間隔を隔てて保持された永久磁石で形成されていること(甲
5文献の段落【0030】〜【0034】、図3)、磁石部7は接着剤
等により 方向に間隔を隔てて形成された着座溝61に接合されている
(甲5文献の段落【0034】)、上記実施形態は、回転電機として働
くモータのアウターロータ、インナーロータに適用しても良いこと(甲
5文献の段落【0072】)が記載されている。そして、甲5文献の図
1には実施形態の発電機の断面図が、甲5文献の図3には発電機のアウ
ターロータのうち磁石部をリング部が保持している状態の異なる方向の
部分断面図が、それぞれ記載されている(甲5文献の段落【007
8】)。
(カ) すなわち、甲5文献においては、磁石を保持する態様として、アウタ
ロータ型電動モータでは、ステータの外周側(ロータの内周側)に複数
の磁石が相互に隙間を空けて配置されることが記載されている。また、
甲8、9文献においては(甲70、71文献にも同様の記載があること
から、当時の技術常識と認められる。)、接着剤固定法では、通常、エ
ポキシ系やアクリル系などの接着剤で固定する方法により貼設されるこ\nとが、それぞれ記載されている。
イ 以上を踏まえ、相違点II)について検討すると、アウタロータ型電動モー
タにおいて、磁石を保持するために、複数の磁石をステータの外周側(ロ
ータの内周側)に沿って配置し、接着剤固定法等により「貼設」すること\nは、周知技術であると認められる(甲5、8、9)。したがって、上記周知技術を適用して、相違点II)の構成とすることは当業者にとって容易想到であったというべきである。\n
ウ この点について、被告は、主引例の甲1発明と、副引例(甲5、8、9)
の各技術の課題は相互間でも異なるから、組み合わせることに動機付けを
肯定する余地はないなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、これ
らの副引例(甲5、8、9)に記載された磁石の配置及び固定方法は、周
知技術であると認められるから、これを適用することの動機付けを肯定す
ることが困難ということはできない。
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2024.07.29
令和3(ネ)10086 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月25日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟の控訴審判決です。1審は技術的範囲外または新規性なしとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。該当特許は7件あり、判決文は400頁を超えます。
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すると、402W製品は、遅くとも被控訴人
からカナデンに納品された平成24年4月17日頃には、同社に譲渡されたことに
よりその構造が解析可能\な状態に至ったものと認められる。
これに対し、控訴人パナソニックは、上記アの認定事実を認めるに足りる証拠が\nないことを指摘すると共に、仮に平成24年4月17日頃に被控訴人からカナデン
に対して402W製品が納品されたとしても、被控訴人とカナデンとの間に秘密を
保持することが暗黙のうちに求められていたため、公然実施されたとはいえないな
どと主張する。
しかし、本件申請書は、その書面の体裁等に鑑みると、被控訴人において内部的\nに定形化された書式に基づき作成されたものと見られ、日常的な業務の一環として
作成されたものであることがうかがわれる。また、その記載内容並びに「申請者印」\n欄及び「完了印」欄の押印は、平成24年4月16日付け「見本品引取書」(乙7
8)及び同月17日付け「判取票」(乙88)の記載又は押印と一致ないし整合す
ることから、本件申請書の作成日は、上記認定のとおり、同年2月10日と認めら\nれる(なお、同様の理由及び筆跡の字体そのものから、判取票の作成日付は、同年
9月17日ではなく同年4月17日であることも認められる。)。また、上記「判
取票」は、カナデン担当者(乙148)の姓と同一の印影が存在することから、平
成24年4月17日に同社に402W製品が納品されたことを裏付けるものといえ
る。
また、本件申請書には、「処理方法」の「渡し切りサンプル(点灯試験・分解テ\nスト)」欄にチェックがされているものの、カナデンは、電気工事業等の建設業許
可を得ている事業会社であり(乙76)、また、被控訴人による402W製品の商
品開発に共同研究その他の形で関与していたことをうかがわせる事情も見当たらな
いこと、本件チラシ及び本件カタログの記載からは、カナデンに納品された平成2
4年4月頃又はこれに極めて近接した時点で、402W製品は既に一般向けに販売
されていたことがうかがわれることによると、カナデンに対する402W製品の納
品が、その構成等につき同社に守秘義務を負わせることを前提として行われたもの\nであるとは考え難い。その他控訴人パナソニックが主張する点を考慮しても、この点に関する控訴人パナソ\ニックの主張は採用できない。
ウ 小括
以上によると、402W発明は、本件原出願日2より前に日本国内において公然
実施された発明といえる。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成29(ワ)1390
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2024.07.29
令和3(ワ)18031等 特許権 民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日 東京地方裁判所
特許権侵害訴訟において、サブコンビネーション発明の要旨について、”「請求項4記載の携帯電話」との記載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認めることはできない。”として、新規性無しとして権利行使不能(104条の3)と判断されました。
ウ 乙12の各構成が本件発明の構\成要件JないしMの構成にそれぞれ相当\nするか否かを検討する前提として、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電\n話との間で送受信するための」との記載の性質について検討する。
原告らは、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信す\nるための」との記載は、本件発明の受信装置の構造及び機能\を特定して
いるから、請求項1ないし4の解釈を踏まえて請求項5に係る本件発明
の構成を認定すべきであると主張するものと解される。\n
そこで検討すると、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の各記
載によれば、本件発明は、受信装置が、携帯電話との間で送受信するた
めのRFIDインターフェースを介して同携帯電話に対して個別情報の
発信要求をし、これに対し、同携帯電話が、要求された個別情報を送信
し、受信装置が、同携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報
であるか否かを判断し、受信した判断情報が前記要求した個別情報であ
ると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行うという、二つ
以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し、それに組み合わ
される受信装置の発明すなわちサブコンビネーション発明であって、本
件発明に係る特許請求の範囲の請求項5には、受信装置とは別の他の装
置すなわち他のサブコンビネーションである携帯電話に関する事項が記
載されているものと理解できる。
そして、サブコンビネーション発明においては、特許請求の範囲の請求
項中に記載された他の装置に関する事項が、形状、構造、構\成要素、組成、
作用、機能、性質、特性、行為又は動作、用途等の観点から当該請求項に\n係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握し、発明の技術的範囲
を画する必要があるところ、他の装置に関する事項が、当該他の装置のみ
を特定する事項であって、当該請求項に係る発明の構造、機能\等を何ら特
定していない場合には、他の装置に関する事項は当該請求項に係る発明を
特定するために意味を有しないといえる。
本件特許の特許請求の範囲において、構成要件Jの「RFIDインター\nフェースを有し、」との記載は、受信装置が「RFIDインターフェース
を有し」ていることを、構成要件Kの記載は、受信装置が「個別情報の発\n信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を有していることを、構成要\n件Lの記載は、受信装置が「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し
た個別情報であるか否かを判断する判断手段」を有していることを、構成\n要件Mの記載は、受信装置が「前記判断手段で受信した判断情報が、前記
要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理
を行う」ことを、それぞれ特定していると認められるのに対し、構成要件\nJの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するための」との記載は、
上記の構造、機能\等を有する受信装置と送受信をする携帯電話の構造、機\n能等を請求項4記載の構\成に限定するものにすぎず、受信装置の構造、機\n能等自体を何ら特定していないから、「請求項4記載の携帯電話」との記\n載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認
めることはできない。
以上によれば、上記の「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するた
めの」を除外して請求項5に係る本件発明の要旨を認定することが相当で
あるというべきであって、原告らの上記主張を採用することはできない。
・・・
以上によれば、本件発明は、乙12発明と同一の構成を有しているから、\n新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの
と認められ、原告らは被告に対してその権利を行使することができない(特
許法104条の3第1項、123条1項2号、29条1項3号)。
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2024.07.29
令和6(行ケ)10002 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年5月23日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした無効審決が取り消されました。審決では、設計書で定まっている事項を変更することには阻害要因がありと判断されていましたが、裁判所はこれを否定しました。
本件明細書等における、白色繊維と黒色繊維の混合比率を変えた実施例
1ないし7と比較例1及び2による試験によれば、この混合比率と、繊維
の縦及び横の強度及び伸度とは、相関関係はないといえる(段落【004
8】の試験結果)。また、光の反射性は、黒色繊維の混合比率を高めるほど
眩しさを感じにくくなる(段落【0050】)。そして、本件明細書等にお
いて、黒色繊維を10%未満の割合で混合した比較例との対比は行われて
おらず、比較例1及び2は、全て白色繊維のもの及び全て黒色繊維のもの
であるから、白色繊維と黒色繊維の混合比率を、10ないし90%の範囲
とした場合と、10%未満とした場合との効果の差異は、本件明細書等に
記載された実施例及び比較例による試験からは明らかでない。
以上によれば、本件発明2について、黒色繊維の混合比率を高めると、
1)斑が形成され、これを用いて不織布の伸び率を把握することが可能とな\nり、2)光の反射を抑えて眩しさを感じにくくなり、3)耐候性及び耐摩耗性
が高まり、他方、黒色繊維の混合比率を高くしすぎると、全体の色が濃く
なって斑を識別するのが困難になるという結果が生じるが、本件発明2に
おいて黒色繊維の混合比率を10ないし90%の範囲としたことに特段
の技術的意義があるとは認められない。
エ 上記ア及びイのとおり、カーボンブラックが、耐候性、耐摩耗性及び遮
光性の向上、光の反射による作業者への作業上の障害の防止、景観を損な
うことの防止等を目的として、所望の効果が発揮できる量で土木工事用不
織布を含む土木工事用シートに添加されているものであること、及び、土
木工事用の防砂シート(不織布又は織布)として用いられる製品の色の濃
さが一様でなく、白色の製品、灰色の斑模様の製品とともに濃灰色ないし
黒色の製品も使用されていることが、本件出願日の時点における技術常識
であったと認められ、白色繊維と黒色繊維を混合した土木工事用不織布に
おける黒色繊維の混合比率が多様なものであると当業者が認識していた
ということができる。
また、上記ウのとおり、本件発明2についても、黒色繊維の混合比率を
10ないし90%の範囲としたことに特段の技術的意義があるとは認め
られない。
そうすると、引用発明1の土木工事用不織布において、耐候性、耐摩耗
性及び遮光性の向上、光の反射による作業者への作業上の障害の防止、景
観を損なうことの防止、並びに不織布の伸び率測定のための斑模様の明確
さを好適なものとするために、カーボンブラックにより着色した黒色繊維
の比率を増減することは、当業者の設計事項にすぎないというべきである。
また、白色繊維と、カーボンブラックにより着色した黒色繊維を混合し
た土木工事用不織布において、黒色繊維の割合を高めれば、斑模様が濃く
なって、斑点の間の距離の測定に基づく不織布の伸び率の測定が容易にな
るほか、耐候性、耐摩耗性及び遮光性の向上、光の反射の抑制といった効
果があることが、上記のとおり本件出願日の時点における技術常識であっ
たといえるから、黒色繊維の比率を7.5%より高める動機付けがあった
ということができる。
以上によれば、引用発明1について、黒色繊維の混合比率が7.5%と
されているところ、これを10ないし90%の範囲とすることによって、
相違点2に係る構成を導くことは、当業者が容易に想到することができた\nものというべきである。
オ 本件審決は、800Z製品は一定の品質を保って製造されるものであり、
白色繊維と黒色繊維の比率を変えるような設計変更は通常行わないとか、
800Z製品の製品仕様書(甲22)では黒色の綿の混率が5%と記載さ
れていることを指摘した上で、製品仕様における黒色繊維の比率5%を桁
の異なる10%以上にすることには阻害要因があると判断している。
しかし、800Z製品について、製品の同一性あるいはその品質を維持
するために、仕様書で定められた仕様の遵守が求められるとしても、同製
品を基に、仕様の一部を変更して、新たな仕様の土木工事用不織布の製品
を開発、製造しようとすることは当然に行われることであって、800Z
製品の仕様として黒色繊維の比率が特定の値に定められているからとい
って、この値を変更することに阻害要因があると認められることにはなら
ず、800Z製品の使用における黒色繊維の比率が1桁である5%とされ
ていることから、この比率を2桁の10%にすることに阻害要因があると
解することもできない。
そして、前記ウ及びエのとおり、黒色繊維の比率を特定の割合又は特定
の範囲に定めることについて特段の技術的意義があるとは認められず、か
つ、カーボンブラックにより着色した黒色繊維の比率を高める動機付けが
あったといえることからすれば、引用発明1について、その黒色繊維の比
率を、上記仕様書に記載された数値から変更することに阻害要因があると
は認められない。
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2024.06.16
令和5(行ケ)10086 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年6月5日 知的財産高等裁判所
無効理由なし(進歩性、明確性等)とした審決が維持されました。
(2) 原告は、仮に相違点5が認められるとしても、周知技術1(皮膚に電気刺
激を与えるブラシ型の美容機器において、ブラシの櫛歯を肌の形状に合わせ
て屈曲できるようにすること)を考慮して相違点5に係る構成を採用するこ\nとは容易であると主張する。
ア しかし、甲1公報の「動作する際には、通常の髪をとかすように髪をと
かして、シリコンスリーブ9の底端が頭皮に接触すると、ばね8が圧縮
され、スライドスリーブ4がシリコンスリーブ9を収縮させ、シリコン
スリーブ9全体の底端が頭皮に接触し」([0023])の記載などか
ら明らかなように、甲1発明では、櫛としての通常の使用により櫛歯の
底端が頭皮に接触することで櫛歯がスムーズに伸縮することが前提とさ
れているところ、スライドスリーブ4を径方向に屈曲する構成とすると、\nスライドスリーブ4と電流ガイドロッド3及びストッパー5との間の抵
抗・摩擦の増大等により、スライドスリーブ4が電流ガイドロッド3に
沿ってスムーズにスライドすることを妨げることは明らかである。そう
すると、原告主張の周知技術1を甲1発明に適用することには阻害要因
があるというべきである。
イ これに対し、原告は、電流ガイドロッド3及びストッパー5の摺動(ス
ライド)とスライドスリーブ4及びシリコンスリーブ9が径方向に屈曲す
ることは両立する旨主張するが、根拠を欠くものといわざるを得ない。す
なわち、原告が挙げる甲2公報は、「電極41が配設された先端部40」
が上下左右に動くことが可能な「育毛剤導入装置」に係るものであり、軸\n方向に摺動する構成を有するものとは認められない(甲2)。\nまた、原告は、スライドスリーブ4が屈曲できない部材であればストッ
パー5と磁石6の位置を「固定」する必要がないと主張するが、本件審決
が認定する甲1発明のとおり「電流ガイドロッド3の底端にストッパー5
が固定して接続され」ていなければ、シリコンスリーブ9からなる櫛歯が
電流ガイドロッド3から抜けることになるし、製造時の手間を考慮しても
ストッパー5を電流ガイドロッド3に、磁石6をスライドスリーブ9に固
定する方が自然といえるから、スライドスリーブ4が屈曲することの根拠
にはならない。
原告は、その他、髪をとかす動きをする際や「頭部の曲率の変化に応じ
て、シリコンスリーブ9の底部が常に頭皮にフィットするように調整する」
([0022])ためには径方向に屈曲することが必要である等主張する
が、シリコンスリーブ9の屈曲により底部の放電孔が常に頭皮にフィット
するとは認め難いし、いずれにせよ甲1公報の記載に基づく主張ではなく、
上記アの認定を左右するものではない。
(3) したがって、本件発明1は、甲1発明及び原告主張の周知技術1に基づい
て当業者が容易に想到できるものではないから、本件発明1の発明特定事項
を全て含み、更に減縮したものである本件発明2〜10についても同様であ
って、本件審決の甲1発明に基づく進歩性の判断の誤りはなく、原告が主張
する取消事由2には理由がない。
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2024.06. 9
令和5(行ケ)10002 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年4月25日 知的財産高等裁判所
審決は無効理由無しと判断しましたが、知財高裁は本件発明の認定誤りがあるとして、これを取り消しました。
ア 本件発明1について
まず、本件発明1の要旨認定につき当事者間に争いがあるため、以下検討する。
(ア) 本件発明1の特許請求の範囲の記載によると、「取付部材」は、構成要件B\n「前記LED基板が取り付けられる取付部材と」、構成要件C「拡散性を有し且つ前\n記LED基板を覆うようにして前記取付部材に取り付けられるカバー部材とを備え
た」、構成要件E「前記カバー部材は、前記取付部材に取り付けられる一対の突壁部\nと」、構成要件F「を有し」、構\成要件I「前記取付部材は、前記複数のLEDが前
記収容凹部の外側を向くようにして前記LED基板を前記器具本体に取り付けるた
めの部材であり」と特定されているところ、「取付(け)」とは、「1)機器・器具など
をとりつけること。装置すること。」(広辞苑第六版)を意味する名詞であるから、
「取付部材」とは、機器・器具などをとりつけること、装置することに関わる部材
であると理解できる。
また、「取り付ける」とは、「1)機器などを一定の場所に設置したり他の物に装置
したりする。」(広辞苑第六版)を意味する動詞であり、構成要件Bにおいて、「られ\nる」という受け身を表す文言とともに用いられているから、構\成要件Bにより、「取
付部材」は、LED基板が装置される対象物であると理解できる。
さらに、構成要件Cにおいて、「取付部材」は、LED基板を覆うようにしてカバー\n部材が取り付けられる対象物であることが特定されており、そのための構成として、\n構成要件E及び構\成要件Fによると、カバー部材が一対の突壁部を有することが特
定されている。そして、「にして」とは状態を表すものであり、「ため」とは「目的」を意味するものである(広辞苑第六版)から、構\成要件Iによると、「取付部材」は、複数のLEDが収容凹部の外側を向いた状態でLED基板を器具本体に取り付ける
ことを目的とした部材であることが特定されていると理解できる。
以上によると、本件発明1の各構成要件の特定事項から、本件発明1の「取付部\n材」は、カバー部材が装置されて一体となること、及び、LED基板が取り付けら
れ、それが収容凹部の外側を向く状態で器具本体に取り付けることを目的とした部
材であると認められる。
他方、本件発明1では、カバー部材を取付部材に取り付けるための手段として、
カバー部材が一対の突壁部を有することが特定されている(構成要件E)ものの、\n「取付部材」を器具本体に取り付けるための具体的な構成、例えば、ボルトやフッ\nクなどの構成についての特定はされていないものといえる。\n
そうすると、本件発明1では、「取付部材」を器具本体に取り付けるための具体的
な構成の特定がない以上、当業者は、「取付部材」を器具本体に取り付けるための構\
成として、技術水準を踏まえて任意のものを採用し得るものと解される。例えば、
本件出願日前に公開された甲2の図13の「係止部材4」、甲202(実用新案登録
第3126166号公報)の「取付部材4」、甲204(特開2012−18598
1号公報)の「係止部材40」及び「係止穴84」、甲205(ワイドキャッツアイ
器具ERK8775W/WEHP108Mに係る報告書)の「キックバネ3」、乙1
の「取付ばね18」及び「取付金具13」(乙2、3も同様)の取付部材と器具本体
の間に係止又は嵌合させる手段を介在させる構成を含め、カバー部材を介在するよ\nうな態様を排除するものではないと解することができる。
(イ) もっとも、特許請求の範囲の記載の意味内容が、本件明細書において、通常
の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれば、異なる解釈をする余
地があるため、以下検討する。
この点、本件明細書によると、「取付部材」については、従来技術の説明(【00
03】)、課題を解決するための手段(【0007】、【0008】、【0012】)、実施形態(【0021】、【0024】〜【0028】、【0030】、【0032】〜【0035】、【0037】、【0044】、【0046】、【0047】、【0051】など)に、それぞれ記載があるが、いずれの記載によっても、前記(ア)の特許請求の範囲の記載の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されているものとはいえない。
ここで、更に本件明細書の実施例についてみると、取付部材について以下のよう
に説明されている。図1に係る実施形態における取付部材21は、複数のLED基板22が取り付けられ、LED基板22を覆うようにしてカバー部材23が取り付けられること(【0021】)、板金に曲げ加工を施すことで形成され、所定の形状、穴、LED基板を取り付けるための係止爪(図示せず)を有すること(【0024】〜【0026】)、電源装置24や端子台ブロック25を取付部材21に取り付けるための構成を有す\nること(【0030】、【0032】〜【0035】)、さらに、例示として、器具本体1と取付部材21にそれぞれ設けた嵌合構造(図示せず)により光源ユニット2を\n器具本体に取り付ける(【0037】)ものである。
また、図5に係る実施形態の別の例における取付部材21は、器具本体として構\n成された反射板5及び取付部材にそれぞれ設けた嵌合構造(図示せず)により光源\nユニット2を反射板5(器具本体)に取り付ける(【0044】)ものである。
このように実施形態では、図示はないものの取付部材21と器具本体には嵌合構\n造が設けられていることが理解でき、「嵌合」とは、「〔機〕軸が穴にかたくはまり合ったり、滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語」(甲201)である
から、取付部材21と器具本体とは、はまり合うための構造を有し、これにより取\nり付けられることが記載されているものと理解できる。もっとも、かかる実施形態
における取付部材21と器具本体が、はまり合うための具体的な構造については図\n示されておらず、何ら具体的な構造が開示されていないことに照らすと、実施形態\nにおいて取付部材21と器具本体との間にカバー部材を介する態様も包含している
といえる。
(ウ) 被告は、本件発明における「取付部材」は、特許請求の範囲の文言上、直接
器具本体にLED基板を取り付ける部材として特定されており、この点に関する本
件審決の認定に何ら誤りはないと主張するが、上記(ア)のとおり、かかる主張は首肯
できない。
また、被告は、実施形態において開示されているのは、カバー部材を介すること
なく、取付部材と器具本体に設けられた嵌合構造により両者が取り付けられている\n構造のみであって、カバー部材を介する構\造は存在しないとも主張するが、上記(イ)
のとおり、かかる実施形態における取付部材21と器具本体が、はまり合うための
具体的な構造については図示されておらず、何ら具体的な構\造が開示されていない
ことに照らすと、実施形態において取付部材21と器具本体との間にカバー部材を
介する態様も包含しているといえるから、被告の上記主張も採用できない。
・・・
(ア) 本件審決は、相違点1−1−3(1)として、「LED基板を器具本体に取り付
けるための部材について、本件発明1では、これが「取付部材」であるのに対して、
甲3−1発明では、これが「蓋部3」であって、絶縁板13は基板10をこの蓋部
3に取り付ける部材である点。」を認定しているところ、原告はこの相違点の認定を
争っていることから、以下検討する。
(イ) 相違点1−1−3(1)について
本件審決は、本件発明1と甲3―1発明との対比において「後者の「絶縁板13」\nと前者の「取付部材」とは「部材」において共通する。」としながらも(本件審決8
3頁末から2行目〜末行)、相違点1―1―\3(1)の判断において「甲3−1発明で
は、「絶縁板13」は、基板10を蓋部3に取り付けるためのものであって、器具本
体に取り付けるための部材(取り付ける機能を有する部材)は「蓋部3」である。」\n(同86頁4〜7行目)と認定・判断しており、本件発明1では、「器具本体」と「取
付部材」との間に取り付けに資する構造が介在することが排除されていることを前\n提としている。
しかしながら、前記(1)の本件発明1の要旨認定のとおり、「器具本体」と「取付
部材」との間に取り付けに資する構造が介在することを含むものであってこれが排\n除されていると解することはできない。
以上を前提とすると、本件発明1は、甲3−1発明のように「絶縁板13」と「取
付ベース1」との間に「蓋部3」が介在する取付構造を排除するものではないし、\n甲3−1発明の「絶縁板13」には、LED2を配設した基板10が配設されてい
るのであるから、「絶縁板13」が存在しなければ、LED2は「取付ベース1」に
配設することができないことに照らしても、「絶縁板13」は、「LED基板を器具
本体に取り付けるための部材」に相当するものと認められる。
そうすると、本件発明1と甲3−1発明と対比において、相違点1−1−3(1)は、
相違点とはいえない。
(ウ) 相違点2−1−3(1)について
次に、カバー部材に関して、本件発明1では、「拡散性を有」するのに対して、甲
3−1発明では、「アクリル樹脂やガラス等の透明な絶縁材料からできて」いるもの
の、拡散性を有するか否かは不明であるとの相違点2−1−3(1)についてみると、
LED照明器具のカバー部材が拡散性を備えることは周知技術であり(甲1[00
32]、甲2【0022】、甲6)、甲3−1発明において、適宜採用して相違点2−
1−3(1)に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることで\nある。
(エ) 小括
そうすると、本件発明1は、甲3−1発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものと認められるから、本件審決は、進歩性の判断において、結論に
影響を及ぼす誤りがあったものといえる。
987/092987
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2024.06. 9
令和5(行ケ)10056 承継参加申立事件 特許権 行政訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月25日 知的財産高等裁判所
審決は無効理由無しと判断しましたが、知財高裁は、進歩性なしと判断しました。
d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判断
参加人は、1)甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階
を異にする別個の工程である、2)前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧
条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ
イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の
発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製
品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。
しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(III))
(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン
トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが
あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお
いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの
であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し
て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲
11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性
を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に
つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨
の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、
甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな
い別個の工程であるということはできないから、上記の1)の点を根拠とする参加人
の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ
る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ
ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を
第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証
拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1
の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ
る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌
保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第
1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱
についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される
膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに
足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい
て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、
第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認
識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主
張する工程(III))(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)
を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ
(イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当
時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き
な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が
あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の2)の点を根拠とす
る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定)
に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
(オ) 本件適用に係る阻害要因の有無
a 参加人は、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用いられる膜の孔サ
イズが0.22μmであるのに対し、本件周知技術の予備濾過膜の孔サイズは0.\n45μmであるところ、甲11記載の発明における第1の濾過工程の目的(安定性
を有するエマルジョンのバルクを得るために径が1.2μmを超える大きな粒子を
十分に除去すること)に照らすと、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用\nいられる膜に代えて、孔サイズが2倍以上になる本件周知技術の予備濾過膜を適用\nすることには阻害要因があると主張する。
しかしながら、前記(イ)c(a)のとおり、甲65には、「膜の実際の孔径よりも大
きい粒子や微生物は、効果的に除去される。」との記載があり、孔サイズが0.4
5μmである本件周知技術の予備濾過膜を採用した場合であっても、径が1.2μ\nmを超える大きな粒子を十分に除去し、もって、安定性を有するエマルジョンのバ\nルクを得ることができるものと認められる。また、前記(エ)bのとおり、甲11発
明(認定)は、1)細菌を効果的に保持するとの課題のほか、2)総処理量を大きくす
るとの課題及び3)流速を妥当なものにするとの課題を内在しているところ、当該2)
及び3)の課題の解決のためには、目詰まりの防止等の観点から、適当な範囲で膜の
孔サイズを大きくすることも十分に考え得ることであるから、甲11発明(認定)\nに接した本件優先日当時の当業者は、本件課題を解決するため、甲11発明(認定)
において用いられる各膜の孔サイズを適当な範囲で大きくすることも小さくするこ
とも検討するものと認められる。
以上のとおりであるから、本件周知技術における予備濾過膜の孔サイズが0.4\n5μmであることは、本件適用に係る阻害要因ではない。
b 参加人は、本件製品の膜につき、丙4にはこれをスクアレン含有水中油型エ
マルジョンを含む水中油型エマルジョンの滅菌濾過に用い得る旨の記載がないとし
て、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用いられる膜に代えて、本件周知
技術の予備濾過膜を適用することには阻害要因があるとも主張する。\nしかしながら、甲11発明(認定)と本件周知技術とが技術分野を共通にしてお
り、甲11発明(認定)が本件課題を有しており、かつ、本件製品が備える膜を用
いることにより本件課題を解決することができることは、前記(エ)aからcまでに
おいて説示したとおりであるから、丙4に参加人が主張する記載がないことは、本
件適用に係る阻害要因があることを根拠付けるものではない。
c なお、参加人は、本件製品が製品歩留まりの点で他の製品に劣るとして、本
件優先日当時の当業者による本件適用に阻害要因がある旨の主張をするが、丙4の
102頁及び110頁の各「Highest product yield」の記載は、高価なたんぱく
質溶液や吸着(adsorption)に敏感な医薬品を高い回収率(product recovery
rates)で濾過するのに適した膜に係る記載であると解されるから、これらの記載
が、たんぱく質を含有しないMF59C.1の製造方法に係る甲11発明(認定)
に本件周知技術を適用することを否定したり、その阻害要因になったりするなどと
認めることはできない。
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2024.06. 9
令和1(ワ)24736 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月15日 東京地方裁判所
空調服の特許について、進歩性無しとして、権利行使不能と判断されました。\n
前記aないしdの各記載によると、本件出願当時、被服の技術分野
においては、二つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、
そもそも二つの紐状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容
易ではないとの周知かつ自明の課題が存在したものと認められる(な
お、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、本件出願当時に存在した課
題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは
非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調整
することができないとの記載がみられるところである。)。
そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成\n(「前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第\n一の位置に取り付けられた紐1と」、「前記紐1が取り付けられた前記
第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付
けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによって、
空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、\n乙46説明書に「首と襟足の間隔を広くし」との記載及び紐が首の後
ろにある旨の図示(前記(1)イ )があることからすると、本件公然実
施発明に接した本件出願当時の当業者は、上記の課題を認識するもの
と認めるのが相当である。
乙33発明’が解決する課題
前記(3)アの記載のとおり、乙33発明’は、「帯紐6a」に「ボタン
7a」を、「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタ
ン7a」を複数ある「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成\nを採用することにより、「帯紐6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調
整し、もって、個人差のある腰回りの大きさに応じて介護用パンツ1を
装着することを可能にするというものであるところ、乙33公報に装着\nの容易さについての記載(【0008】、【0009】、【0011】)があ
ることや、前記 eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願当時に被
服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願当
時の当業者は、乙33発明’につき、これを二つの紐状部材を結んでつ
ないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手
段として認識するものと認めるのが相当である。
課題の共通性についての結論
前記 及び のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される
課題と乙33発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当であ
る。
ウ 本件公然実施発明に乙33発明’を適用することについての動機付けの
有無
前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実
施発明に接した本件出願当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調
整するための手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調
整することが手間で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するた
め、同じ被服の技術分野に属する乙33発明’を採用するよう動機付けら
れたものと認めるのが相当である。
エ 原告の主張について
原告は、本件公然実施発明は、排出する空気の量に応じて、中に支え
る物体がない、空気を排出するスペースを調整するのに対して、乙33
発明’は、体型等に応じて中に支える物体があるものの周りを調整する
ものであるから、その目的や機能が異なると主張する。\nしかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の
締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし
する。
しかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の
締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし機能\nにおいて異なるものではないから、本件公然実施発明が空調服の首回り
の空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、乙33発
明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すな
わち、両者が何を調整するのかにおいて異なることは、前記ウに係る結
論を左右するものではない。
また、原告は、1)空調服は、世の中に存在しなかった革新的技術であ
ることや、2)本件発明1は従来技術に比して有利な効果を有しており、
本件公然実施発明と異なる技術的意義を有することを主張している。
しかし、上記1)について、本件発明1は、本件公然実施発明等によっ
て既に実用化されている空調服における空気排出口の開口度の調節方法
に係る発明であり、従来技術の延長線上に位置付けられるものと評価で
きるところ、上記の調節方法が被服の技術分野で周知といえることは前
記(3)で説示したとおりである。そうだとすれば、空調服という製品自体
が革新的技術であることは、本件発明1の進歩性を基礎付ける事情とは
ならないというべきである。
上記2)について、本件全証拠によっても、本件発明1がその進歩性を
基礎付けるほどの有利な効果や技術的意義を有しているとは認められな
い。
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2024.06. 7
令和5(ネ)10063 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年5月15日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特許権侵害について、原審は約4500万円の損害賠償を認めましたが、知財高裁はこれを取り消しました。争点は、主引発明に副引用発明を適用し、さらに周知技術を適用できるかです。知財高裁(2部)は、本件では相互に関連する技術ではなく、適用可能と判断しました。\n
イ 本件適用2に係る動機付けと阻害要因の有無
前記(4)イ(ア)のとおり、乙15発明は、回転駆動源に電動モータを使用したトル
ク制御式パルスツール(ねじ締めツール等)の技術分野に属するものである。また、
前記アによると、本件周知技術は、電動モータに使用される磁石の固定方法に関す
るものであるから、電動モータの技術分野に属するものである。そして、相違点B
に係る本件発明等の構成の内容は、磁石がステータに隙間を設けて貼\設されている
ことであるから、本件適用2との関係では、乙15発明(電動モータに係る部分)
と本件周知技術は、その属する技術分野を共通にするものである。さらに、乙15
発明(乙6発明Aを適用したもの)に接した本件優先日当時の当業者は、磁石をど
のようにして筒状のロータの内周面に保持するかという課題に直面することになる
ところ、接着剤を用いて磁石をロータに隙間を設けて貼設する技術である本件周知\n技術は、当該課題を解決することのできる手段(技術)となる。したがって、本件
優先日当時の当業者において、乙15発明(乙6発明Aを適用したもの)に本件周
知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
本件適用2をするに当たり、阻害要因があることを認めるに足りる証拠はない。
ウ 相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性についての小括\n
(ア) 以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、乙15発明に乙6
発明A及び本件周知技術を適用することにより、相違点Bに係る本件発明等の構成\nに容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(イ) この点、原告は、乙15発明に乙6文献記載の発明を適用し、その後に周
知技術を適用して相違点Bに係る本件発明等の構成を導出することは「容易の容易」\nに当たるから、本件優先日当時の当業者において、相違点Bに係る本件発明等の構\n成に容易に想到し得たとはいえないと主張する。
確かに、前記イのとおり、本件適用2は、乙6発明Aを適用した乙15発明を前
提とするものである。しかしながら、電動式衝撃締め付け工具において、電動モー
タをアウタロータ型のものとすること(相違点A関係)と当該電動モータにおいて
磁石を筒状のロータの内周面に隙間を設けて貼設すること(相違点B関係)は、そ\nれらの内容に照らし、相互に関連する技術ではなく、互いに独立した別個の技術で
あるといえるから、原告の主張は、相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性\nを左右するものではない。
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1審はこちらです。
◆令和2年(ワ)4913
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2024.05.16
令和5(行ケ)10091 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年4月22日 知的財産高等裁判所
特許異議申立がなされて取消審決がなされましたが、知財高裁は、相違点1−2と相違点1−3は一体として検討すべきとして、これを取り消しました。
(2) 相違点の容易想到性についての判断の誤りについて
ア 原告は、本件決定が相違点1−1から同1−3までを関連付けずに判断
している点が誤りであると主張するところ、当裁判所は、相違点1−1は
ともかく、少なくとも相違点1−2と相違点1−3は一体として検討する
必要があると判断する。その理由は、以下のとおりである。
本件発明の内容は前記第2の2のとおりであって、ポリプロピレンフィ
ルムと蒸着膜との間に、密着性に優れた極性基を有する樹脂材料を含む表\n面コート層を備えることにより、層間の剥離を防止し、また、シランカッ
プリング剤とともに用いられる場合も含め金属アルコキシドと水溶性高
分子との樹脂組成物からなるバリアコート層を蒸着膜上に設けることで、
蒸着膜のクラック発生をも防止し、さらには、ボイル又はレトルト処理が
行われる場合であってもガスバリア性の低下の抑制が図られるように、バ
リアコート層表面の珪素原子と炭素原子との割合を特定の範囲にしたも\nのであって、高いガスバリア性を有するボイル又はレトルト用バリア性積
層体を提供するという技術的意義を有するといえる。そして、本件明細書
によれば、珪素原子と炭素原子の比(Si/C)の上限は、バリア性積層
体を屈曲させてもガスバリア性の低下を抑制できるという観点から定め
られ、下限は、バリア性積層体を加熱してもガスバリア性の低下を抑制で
きるという観点から定められているのであるから(【0076】、表5〜\n表7)、ボイル又はレトルト用であるか否かに係る相違点1−3と、珪素\n原子と炭素原子の比の数値範囲に係る相違点1−2は、一体として検討さ
れるべきものである。
イ 以上を前提に、相違点1−2と相違点1−3に係る容易想到性につき一
括して判断するに、まず、本件決定が副引用例とする甲4には、別紙6の
記載があり、ここから本件決定の認定に係る甲4記載事項(別紙4の1(2))
を認定できることについては争いがない。
甲4は、電気製品等の機器の消費エネルギーを削減するための真空断熱
材用外包材等に関するもので、外包材により形成された袋体内に芯材を配
置し、上記芯材が配置された袋体の内部を減圧して真空状態とし、上記袋
体の端部を熱溶着して密封し、上記袋体内部を真空状態とすることにより、
気体の対流が遮断されるため、真空断熱材は高い断熱性能を発揮すること\nができるというものである(【0001】〜【0003】)。
甲4記載事項は、第1フィルム(金属酸化物リン酸層付きフィルム。第
1樹脂基材と金属酸化物リン酸層から成る。)、オーバーコート層付きフ
ィルム(樹脂基板、無機層、オーバーコート層から成る。)、熱溶着可能\nなフィルムから構成される真空断熱材用外包材のうち、オーバーコート層\n付きフィルムの中のオーバーコート層及び無機層をもとに抽出されたも
のである。
ウ 本件決定は、甲3発明に、甲4記載事項のオーバーコート層における炭
素原子に対する珪素原子の比率を適用するものである。
しかし、甲4記載事項は、前提とする積層構造が、甲3発明と異なる上、\n以下のとおり、甲4は、甲3発明とは技術分野が共通するものとはいい難
く、さらに、相違点1−3に係る構成(ボイル又はレトルト用)を開示又\nは示唆するものでもない。すなわち、甲4は、高温高湿な環境においても
長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材用外包材等の提供を\n目的とするものであるが(【0008】)、高温多湿な「環境」を想定す
るにとどまり、物を入れて積極的に加熱殺菌処理をする行為であるレトル
トやボイル(一例として、優先日前の公知文献である特開2007−13
7438号公報〔乙4〕では、レトルト処理について110゜C)〜130゜C)
位、圧力、1〜3Kgf/cm 2 ・G位で約20〜60分間程度の加熱加
圧殺菌処理、ボイルについて90゜C)位で30分間位の加熱殺菌処理〔【0
002】〕等が挙げられている。)を想定しているとはおよそ考えられず、
実際、甲4には、レトルトやボイルを前提とする記載はない。
その上、甲3の【0044】には、「炭素の割合が50%より多い場合、
バリア性が温度、湿度の影響を受け易く、15%より少ない場合、バリア
性が悪くなり、膜質が脆くなる。」として、炭素が少なすぎると膜質が脆
くなることが示唆されているのに対し、甲4の【0111】には、「オー
バーコート層を構成する原子における、炭素原子に対する金属原子の比率\n(金属原子数/炭素原子数)は、0.1以上、2以下の範囲内であり、中
でも0.5以上、1.9以下の範囲内、特には0.8以上、1.6以下の
範囲内であることが好ましい。」という炭素原子に対する金属原子の比率
(金属原子数/炭素原子数)を示す記載に引き続いて、「比率が上記範囲
に満たないと、オーバーコート層の脆性が大きくなり、得られるオーバー
コート層の耐水性および耐候性等が低下する場合がある。一方、比率が上
記範囲を超えると、得られるオーバーコート層のガスバリア性が低下する
場合がある。」として、金属原子に対して炭素原子の数が過剰に多くなる
とオーバーコート層の脆性が大きくなって、ガスバリア性の低下につなが
る旨の記載があるところ、これは、上記甲3の【0044】の記載と正反
対の内容である。
そうすると、当業者において、甲3発明の食品包装材料についてボイル
又はレトルト用途とすることを想起したとしても、甲4におけるオーバー
コート層を構成する原子における金属原子の比率は加熱によってもガス\nバリア性が維持されるかどうかとは関わりのないものであること、甲4に
は、炭素原子と金属原子の比率と、膜質の脆性について、甲3と正反対の
記載があることに鑑みても、甲3発明とは技術分野も積層構造も異なる真\n空断熱材用外包材に関する甲4の積層体の中から、オーバーコート層付き
フィルムの中のオーバーコート層及び無機層に関する記載に着目した上、
オーバーコート層における炭素原子に対する金属原子の比率(金属原子数
/炭素原子数)を参酌して、甲3発明に適用する動機付けを導くには無理
があるというほかなく、本件決定の判断には誤りがある。
エ 被告は、Si/Cの数値範囲に特段の技術的意義はなく、層構成に係る\n共通の技術について「Si/C」を用いて数値範囲を検討することが甲4
にあるとおり公知であることを併せると、甲3発明において甲4記載事項
を参考にして、相違点1−2に係る本件発明の構成とすることは、当業者\nが容易に想到し得た旨主張する。
被告が、Si/Cの数値範囲に特段の技術的意義はないと主張する根拠
は、1)本件発明1の発明特定事項が「バリアコート層が、金属アルコキシ
ドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜で\nあるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリ
ング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜」と択一的なも\nのになっており、シランカップリング剤には珪素が含まれるにもかかわら
ず、本件明細書上効果が確認されているのはシランカップリング剤を含む
バリアコート層だけであるという点、2)本件発明1の数値範囲は甲3から
簡単に算出でき、甲4にも同数値範囲内のものが例示されているという点
にある。
しかし、上記1)についていえば、シランカップリング剤が珪素を含むと
いうような一般論だけで、シランカップを含むものであるバリアコート層
の効果に係る【表4】〜【表\7】の結果、及びSi/Cの数値範囲の効果
に係る【表5】〜【表\7】が、シランカップ剤を含まないバリアコート層
について技術的意義がないとは直ちにいえないし、そもそも、技術的意義
が裏付けられているかどうかと、構成が容易想到といえるかどうかの問題\nは直結するものではない。
また、上記2)についていえば、甲3発明の「X線光電子分光分析法」の分
析における「炭素と酸素と珪素が、それぞれ15〜50%、30〜65%、
5〜30%の割合で存在すること」から、珪素原子と炭素原子の比(Si/
C)は、0.1以上、2以下と算出することができ、この数値範囲は、本件
発明1の数値範囲である「0.90以上1.60以下」を包含するからとい
って、炭素と酸素と珪素の数値範囲で一定の技術的意義を示している甲3
の記載から、炭素と珪素だけを抽出すべき合理的な理由、技術的な必然性
は認められない。
甲4の表1には、30質量部(Si/C比率1.58)、38.5質量部\n(同比率1.25)及び50質量部(同比率1.03)という、本件発明1
の数値範囲内のものが開示されているが、同表では膜特性は示されておら\nず、このSi/C比率で、本件発明1の数値範囲外の他の質量部より優れ
ていることが示されているわけでもないから、当業者が当該数値に着目す
るともいえない。
そして、甲3とは「層構成に係る発明である」という程度の共通性しかな\nい甲4に「Si/C」を用いて数値範囲を検討することが記載されていた
からといって、当業者において甲4記載事項を参考にして相違点1−2、
相違点1−3に係る構成とすることが容易に想到できるとはいえない。\n
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2024.04.22
令和5(ネ)10010 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月27日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審では、技術的範囲に属するが新規性違反の無効理由有りと判断されました。控訴人は訂正審判を請求するとともに、控訴しました。被控訴人は訂正要件違反の無効理由を主張しましたが、知財高裁は訂正要件違反なしと判断し、差止と約50万円の損害賠償を認めました。
(イ) 乙18分析及び乙24分析における分析対象物である公然実施発明
(引用発明)に基づく進歩性欠如の主張について
a 公然実施発明は、公然実施品の具体的な構成又は組成等に基づいて認\n定されるため、通常、その公然実施品自体に課題が記載されていること
はなく、何らかの課題があることを認識することは困難であるから、公
然実施発明に基づく容易想到性の有無を判断するにあたっては、公然実
施品から出願日(優先日)当時の技術常識を前提にして技術的思想や課
題を認識できるかどうか、その構成又は組成を変更する動機付けがある\nか否かを検討すべきである。
・・・
c 被控訴人の主張について
(a) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕イ・ウのとおり、
本件特許の優先日前に公然実施された被控訴人製品「無限七星FIS
H」の重量平均分子量4.5×104との比較において、「1500
0」という上限値が技術的にいかなる意義を有するのかが不明であ
り、本件優先日において、ポリアリルアミンの重量平均分子量上限値
の「15000」と、公然実施発明に係る同「45000」は、いず
れもポリアリルアミンの重量平均分子量として広く知られ、一般的に
利用されている範囲内のものであるから、本件発明は、公然実施発明
に基づいて当業者が当然に予測することができたもので、進歩性を有\nしない旨を主張する。
この点につき、乙13(特開昭58−201811号公報)は、モ
ノアリルアミンの重合体の製造方法について記載されたものである
ところ、アリル化合物が通常のラジカル系開始剤によっては重合し難
いという問題があったことから、ラジカル系開始剤を用いて、モノア
リルアミンの高重合度の重合体を製造する方法を提供することを目
的とするものであり、請求項1に記載の特定のラジカル系開始剤(分
子中にアゾ基とカチオン性の窒素原子を持つ基とを含む。)を用いれ
ば、モノアリルアミンの無機酸塩が、極性溶媒中で極めて容易に重合
し、高収率で高重合度の重合体が得られることを見出したものであっ
て(特許請求の範囲の記載、2頁左上欄及び3頁左下欄)、実施例に
は、乙13記載の製造方法によって製造された数平均分子量(Mn)
が「6500〜45000」のポリアリルアミンが記載されている。
しかし、乙13は、ポリアリルアミンを水に含有した際の機能につい\nて、また、数平均分子量の違いによる機能の差異について記載ないし\n示唆するものではないから、乙13の記載から、公然実施発明(引用
発明)の「無限七星FISH」について、含有成分であるポリアリル
アミンの重量平均分子量等の物性を変更することが動機付けられる
ものとはいえない。
また、乙12の1(メディカル社のウェブサイト)には、「PAA
🄬(ポリアリルアミン)」の製品紹介が記載されており、「日東紡が
世界で初めて工業的製法を確立したポリアリルアミン(PAA🄬)は、
一級アミンを主成分とする機能性カチオンポリマー」であり、「様々\nな素材のカチオン化や高機能化に最適」であることや、「お客様の使\n用目的・用途に応じてのご提案も可能」であることが記載され、「ア\nリルアミン塩酸塩重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量
平均分子量(M.W.)が「1,600」(PAA−HCL−01)、
「15,000」(PAA−HCL−3L)、「100,000」(P
AA−HCL−10L)等の製品が、また、「アリルアミン(フリー)
重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量平均分子量(M.
W.)が「1,600」(PAA−01)、「15,000」(PA
A−15C)、「25,000」(PAA−25)等の製品が、それ
ぞれ記載されている(1/3−2/3頁)。
また、乙12の2には、メディカル社の研究・開発の歴史について
記載され、「PAA🄬」に関して、「1984(昭和59)年 PA
A🄬の(ポリアリルアミン)の重合方法発明および販売開始」、「1
991年(平成3)年 低分子PAA🄬を直接染料用固着剤として用
途開発・販売開始」等の記載がある。
しかし、乙12の1及び乙12の2も、ポリアリルアミンを水に含
有した際の機能や、重量平均分子量の違いによる機能\の差異について
記載ないし示唆するものではないから、乙12の1の記載から、公然
実施発明(引用発明)の「無限七星FISH」について、含有成分で
あるポリアリルアミンの重量平均分子量等の物性を変更することを
動機付けられるものとはいえない。
そうすると、乙13、乙12の1及び乙12の2の各記載を考慮し
ても、前記公然実施発明(公然実施品)の構成又は組成について、技\n術的思想や課題を認識できるような、本件優先日当時の技術常識があ
ったとはいえないから、たとえ、重量平均分子量が「15000」又
は「45000」であるポリアリルアミンが市販されたものであり、
当業者に広く知られ、一般的に利用されているものであったとして
も、そのことを根拠に、当業者が公然実施発明のポリアリルアミンの
重量平均分子量等の物性を変更することを当然に予測できるとはい\nえない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(b) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕エのとおり、本件
明細書にはポリアリルアミンの重量平均分子量につき本件訂正に係
る数値範囲は記載されていないから、当該数値範囲に特別な技術的意
義は認められず、本件明細書には重量平均分子量と発明の効果との間
に因果関係があることも記載されていないから、市販品として容易に
入手可能な重量平均分子量のポリアリルアミンを採用することに困\n難性はなく本件発明は進歩性を有しないと主張する。
そこで本件発明の技術的意義について検討すると、前記アのとお
り、本件明細書には、簡便に調製でき、且つ優れた機能を有する機能\
水を提供することを課題とし(段落【0002】ないし【0010】)、
当該課題を解決するために、機能水に、式(3)(式(3’)を包含\nする。)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含むポリマー
等の多価アミン及び/又はその塩を機能成分として含有することを\n特徴とし、当該機能成分の機能\として、魚介類又は精肉の鮮度保持を
含む種々の機能を有することが開示されている(段落【0012】、\n【0013】、【0015】及び【0026】)。
また、式(3)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含む
ポリマーとして、本件発明のポリアリルアミン又はジアリルアミン重
合体に該当するポリマーBが例示されており、その重量平均分子量が
「例えば100〜200,000、好ましくは300〜100,00
0、さらに好ましくは500〜50,000である」こと(段落【0
052】ないし【0055】)、ポリマーBの市販品として、重量平
均分子量が「1600」であるポリアリルアミン(PAA−01)、
「15,000」であるポリアリルアミン(PAA−15C)及び「5,
000」であるジアリルアミン重合体(PAS−21)が開示されて
いる(段落【0065】)。
そして、実施例において、具体的に、重量平均分子量が「1600」
若しくは「15,000」であるポリアリルアミン又は重量平均分子
量が「5,000」であるジアリルアミン重合体及び精製水を配合し
た試験液を用いて、魚介類又は精肉の鮮度保持を含む種々の機能を確\n認したことが開示されている(段落【0108】ないし【0237】)。
そうすると、本件明細書の記載から、「重量平均分子量500〜1
5000」のポリアリルアミン又はジアリルアミン重合体を含有する
機能水である本件発明には、前記のとおりの機能\を有する点で技術的
意義があることが認められる。
そして、前記(a)のとおり、公然実施発明(引用発明)に基づいて、
その含有成分であるポリアリルアミンの組成に着目し、重量平均分子
量等の物性をあえて変更することについて動機付けがあるとはいえ
ないから、前記本件発明との相違に係る重量平均分子量の数値範囲の
ものに置換することが容易に想到できたものとはいえない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和3(ワ)4920大阪地裁
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2024.04.17
令和5(行ケ)10034 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月27日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が取り消されました。知財高裁は、新規性違反、冒認出願違反であると判断しました。
(2) 甲53の1文書について
ア 甲53の1文書は、ベルベット織りの立毛シートの製造工程を示すものとし
て交付されたものであり、別紙2のとおり、「「生機投入」→「スチームセット」→
「ドライセット」→「糊抜き」→「脱水」→「染色」→「脱水」→「乾燥(ブラシ)」
→「ブラシ※ブイテック様」」との工程が記載されている。
イ 「生機投入」の部分により、製織工程と切断工程が開示されているといえる
かという点について争いがあるので検討するに、「生機」とは「織り上げて織機から
はずしたままの織物」を意味するところ(甲114・大辞林第四版)、ベルベット織
りの織り機は、織ると同時に切断も行うことから一度に2枚分が織り上がるもので
あって、「織り機からはずしたままの織物」は、切断後の織物であると認められるか
ら(甲40、112)、「生機投入」との記載から、甲53の1文書を受領した当業
者は、当然に、製織工程と切断工程を経た生機が投入されると理解すると認めるの
が相当である。そして、甲53の1文書の「生機投入」の使用機器欄に記載された
「ZQ40 4mm」はパイル長4mmのポリエステル製パフ用の立毛シートの生
機の品番を意味するものと認められ(証人C〔28頁〕)、ポリエステルは熱可塑性
繊維であるから(本件明細書【0020】等)、甲53の1文書の「生機投入」工程
の記載により、本件各発明の製織工程と切断工程が開示されていると認められる。
ウ そして、甲53の1文書の「スチームセット」は本件各発明の「蒸し工程」
に、「ドライセット」は本件各発明の「プレセット工程」に、「糊抜き」は本件各発
明の「精練工程」にそれぞれ相当する(証人A〔5〕)。また、「染色」は本件各発明の「染色工程」に相当し、「染色」の次に記載された「脱水」は、真空脱水とあるか
ら脱水機を用いたものであることが明らかであって、本件各発明の「脱水機により
前記染料を脱水する脱水工程」に相当する。さらに、「乾燥(ブラシ)」はドライセ
ッターで150゜C)で乾燥させるものであるから、本件各発明の「前記立毛シートを
熱風で乾燥させる乾燥工程」に相当する。なお、特許請求の範囲の記載及び本件明
細書の記載を総合しても、本件発明1の乾燥工程から、ブラシを用いるものが除外
されているとは認められない。
エ そうすると、甲53の1文書に記載された工程は、本件発明1を構成する工\n程を全て含むものであるから、本件発明1を開示するものといえる。
オ この点、被告は、甲53の1文書記載の工程では、精練工程の後に脱水をし
ていること、タンブラー乾燥をしていないこと、使用液剤に酸性の液剤が含まれて
いないこと等から、本件各発明とは異なると主張する。しかしながら、本件発明1
の特許請求の範囲の記載に照らすと、請求項1に記載された工程を全て含む必要が
あるとはいえるものの、同工程のみを含むものに限定されており、別の工程が付加
されたものが除外されているものと理解することはできない。そして、本件明細書
の記載に照らしても、本件発明1は、請求項1に記載された工程のみを含むものに
限定されていると理解することはできない。そうすると、「精練工程の後に脱水」を
していることをもって本件各発明とは異なるということはできない。また、タンブ
ラー乾燥は本件発明3を構成する要素ではあるものの、本件発明1を構\成するもの
ではない(なお、前記2(5)(8)のとおり、タンブラーを利用した乾燥工程は、平成
18年頃から新栄染色で行われていたものと認められるが、当時、当該乾燥工程の
存在及び内容が秘密事項として管理されていたことをうがわせるような主張立証は
ない。そもそも、甲12(パイル織編物の仕上げ方法に関する公開特許公報(昭6
2−191566号))中にもパイル織物の染色加工後、タンブラー乾燥機で乾燥す
る旨の記載があることにも照らすと、本件各発明の出願時において、少なくとも、
熱可塑性繊維のパイル織物についてタンブラーを利用して乾燥する工程自体は公知
であったと考えられる。)。さらに、酸性の液剤を使用することは本件各発明の技術
的範囲に含まれるものではなく、その他の被告の指摘する事項はいずれも本件各発
明を構成する事項ではない。したがって、上記被告の主張はいずれも前記エの判断\nを左右するものではない。
被告は、甲53の1文書の工程は開発途中のものであって技術として確立してい
なかったとも主張するが、前記2(9)のとおり、同工程は、平成23年10月頃、新
栄染色において、現に商品の製造に用いられていた工程なのであるから、これが発
明に当たるとすれば、発明として完成していたのは明白である。
(3) 甲2文書について
甲2文書は、前記2(11)のとおり、ベルベット織りによる立毛シートの製造工程
を示すものとして交付されたものであり、別紙3のとおり、「織り」→「蒸しセット」→「PS」→「精練」→「染色」→「乾燥」の各工程が記載されたものである。甲
2文書に記載された工程について前記(2)と同様に検討すると、甲53の1文書に
記載された工程と同じであり、本件発明1を開示するものであると認められる。な
お、「織り」が製織工程と切断工程を含むことについては前記(2)イと同様であり、
「PS」はプレセットを意味するものと認められる(証人A〔34頁〕)。また、甲
2文書の工程には「乾燥」の前の「脱水」が記載されていないものの、乾燥する前
に脱水を行うことは当然であるから、当業者は、甲2文書により、脱水工程を含む
ものが開示されているものと理解すると認められる。
(4) 小括
そうすると、本件発明1は、平成23年10月頃には公然知られていたと認めら
れるから、本件発明1に係る特許は特許法29条1項1号の規定に違反してされた
ものであって、特許法123条1項2号の無効理由がある。
したがって、甲2生産工程(甲2文書に記載された工程であり、かつ甲53の1
文書に記載された工程)が公然知られたものとはいえず、本件発明1が特許法29
条1項1号に該当しないとする本件審決の判断には誤りがあるから、取消しを免れ
ない。
4 取消事由4(冒認出願についての判断の誤り)について
(1) 冒認出願を理由として無効審判請求をすることができるのは特許を受ける権
利を有する者に限られるから(特許法123条2項、1項6号)、原告は、自らが特
許を受ける権利を有する者であることを証明する必要がある。そして、原告が主張
する本件各発明に係る特許を受ける権利は、Bが発明者として有していた本件各発
明に係る特許を受ける権利に由来するものであるから、原告が特許を受ける権利を
有する者であるといえるためには、Bが本件各発明の発明者であると認められる必
要がある。
(2) ここで、発明者とは、発明の技術的思想の創作行為に現実に加担したもので
あって、課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与した者をいう
ところ、前記1(2)によると、本件各発明の特徴的部分は、蒸し工程と乾燥工程の双
方を用いることにより、高い立毛性を得ることにあり、本件発明3については、こ
れに加えて、タンブラーを使用することでブラッシング付き乾燥機を要しないもの
となったことにあると認められる。
(3) 前記2(9)及び前記3(2)のとおり、本件発明1は平成23年10月までに完
成していたということができる。前記2の経緯及びAが、新栄染色のAとして作成
した平成21年7月1日付け文書(甲128の3)に、「現況のB流を60点とする
と80点迄は持っていける」と記載していたことからすると、新栄染色では、平成
21年7月当時、Bが指導した工程により染色加工が行われていたことが認められ、
これに反する証拠はない。そして、前記2のBの職歴や本件訴訟に提出されたBが
作成したメモ(甲132)、Bが、新栄染色設立以前にも昌和染色に対し染色工程を
指導するなどしていたこと(甲1の1、証人C〔29頁〕)に照らすと、Bは、立毛
シートの染色加工に関し、創意工夫を凝らして発明をするに足る十分な知見を有し\nていたことが推認されるのであり、Bが、その陳述書(甲1の1)において、昭和
40年代の後半、プレセットの前に蒸し工程をするという工程を開発した経緯等と
して、株式会社杣長からポリエステルなど合成繊維のパフ用ベルベット織物(立毛
シートの半製品)の製造委託を受けたが、ポリエステルでは、シルクやレーヨンと
は異なり、ピン式ヒートセッターでピン止めして吊るしてプレセットを行うとピン
付近とそれ以外の部分が不均質になるという問題があったことから、プレセット前
に蒸し工程を行い、ポリエステルを収縮させてからプレセットをしたところ、パイ
ルが立毛になるという効果があったこと、蒸しは蒸し箱内にベルベット織物を垂下
させて高温水蒸気で蒸すものであり、Bが条件を90〜110゜C)、2時間と指示し
て行ったこと、パイル長が2〜3mmであったことなど、開発の経緯及び内容を具
体的に陳述していることは、これと整合するものである。
また、Bは、昭和50年代から、京都において、日本化工有限会社の従業員とし
てハセガワベルベットから委託を受けた染色加工工程に関与し、平成元年に有限会
社新栄テキスタイルを設立した後も、同社において被告から染色加工の委託を受け
ていたこと、同年頃までにBが作成したとされるメモ(甲132の2)には、染色、
脱水後の乾燥をタンブラーで行う旨の記載があること、平成18年に、新栄染色が
設立された際、BはAからの誘いにより代表取締役に就任したこと、その頃、Bが\n京都からタンブラー乾燥機を新栄染色に持ち込んで設置したこと、新栄染色におい
ても、Bは染色加工業務を担当し、被告代表者であったCに対し、染色加工の具体\n的内容を指導していたことは、前記2(3)から(6)までのとおりである。以上を総合
すると、Bは、遅くとも新栄染色を退職する平成21年3月よりも前に、本件各発
明をいずれも完成させていたものと推認するのが相当である。
なお、被告は、Bの陳述書(甲1の1)にパイル長が2〜3mmであったとある
から、Bには短いパイル長のものに係る知見しかなかったと主張するが、本件各発
明の特許請求の範囲(請求項4)には「切断工程後のパイル糸の長さを、織物基布
から3〜10mmの範囲で突出させる」とあるから、パイル長が3mmのものは、
本件各発明の技術的範囲に含まれるものであり、上記被告の主張は、Bが本件各発
明をするに必要な知見を有していたとする上記判断を左右しない。
(4) これに対し、Aは、本件の審判手続における尋問では、本件各発明のキーポ
イントは蒸し工程であり、蒸し工程の後にヒートセット(プレセット)を加えるこ
とにたどり着いた、長い間、蒸し工程をいれないでやっていた(甲74の3・06
4項目、130項目、131項目、149項目)と述べ、本件訴訟においても、被
告は、令和5年11月8日付け被告準備書面(2)2頁においては、本件各発明をする
前の短いパイル糸のベルベットに関する新栄染色の染色工程には蒸し工程及びプレ
セットが含まれておらず、長いパイル糸のベルベットを製造することができなかっ
た旨主張し、それに沿う内容のAの陳述書(乙8)を提出した。ところが、被告は、
同年12月19日付け被告準備書面(3)5頁では、本件各発明をする前にも新栄染
色では長いパイル糸のベルベットの製造をしており、その工程には蒸し工程が含ま
れていたがプレセットが含まれていなかったと主張を変更し、更に、令和6年1月
22日付け被告準備書面(4)では、短いパイル糸の染色工程にも蒸し工程が含まれ
ていたと主張を変更し、変更後の主張に沿う内容のAの陳述書(乙11)を改めて
提出した。この主張内容及び陳述内容の変更は、発明の課題そのものや発明の必要
性、発明の創作過程に極めて大きな影響を与えるものであるから、真にAが発明者
であるのであれば、単なる記憶違いなどによって上記のごとくその内容を変遷させ
るとはおよそ考え難い。なお、前記2(6)のとおり、新栄染色では当初は外注により、
遅くとも平成19年からは自社で蒸し工程を実施していたのであるから、新栄染色
が以前は「蒸し工程をしていなかった」との被告の従前の主張は事実とは認められ
ない。
さらに、被告の主張によると、従前の新栄染色の染色工程においてはプレセット
を行っていなかったことになるが、Aが述べる試行錯誤の内容は、プレセットにつ
いては、それを行う順番を試行錯誤したというものであって、プレセットを入れる
こととした理由については何ら説明をしていない。このことは、当時、既にプレセ
ット工程自体は存在しており、Aは専らその工程の順番について試行錯誤していた
ことをうかがわせるものである。また、Aが蒸し工程について試行錯誤した内容と
して述べる条件は、「90゜C)の蒸気で、0分、30分、60分、120分」と試した
というものであって、「95〜110゜C)で2〜3時間蒸す」(【0022】)という本
件明細書の記載と合致しない。Aは、本件の審判手続の尋問において、自ら発明ノ
ートを作成したことはないことを前提とした発言をしているが(甲74の3・13
5項目)、これは試行錯誤を繰り返していたはずの発明者としておよそ不自然とい
うほかない。
被告は、本件各発明においては乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いることが重要
である旨主張する。しかし、前記2(5)(8)のとおり、新栄染色には、平成18年頃
から既にタンブラー乾燥機が設置されており、平成23年頃にはその台数が3台に
増加していたことが認められる。Bらが作成し、平成21年8月20日に被告大阪
営業所からFAX送信されたものと認められるメモ(甲106)によっても、遅く
とも同日までには、新栄染色では、乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いていたこと
がうかがえる。前記2(10)のとおり、A自身が作成した平成24年1月10日付け
メモ(甲100の3)にも、新栄染色に関し、タンブラー方式はコストが高いこと
から平成24年中旬にテンター方式へ変更する旨の記載がある。これらの点に照ら
すと、遅くとも、平成24年までには、ベルベット織物の製造分野において乾燥工
程にタンブラー乾燥機を利用することは普通に行われていたと認めるのが相当であ
るから、本件各発明において創作されたものとは認められない。Aは、中和剤を用
いることで精練工程の後の脱水工程を省略し、ウィンス機で精練工程と染色工程が
できるようになったと証言しているが(証人A〔6頁〕)、そもそも中和剤を用いる
ことは本件各発明の特許請求の範囲に記載された事項ではなく、本件明細書には「ウ
ィンス機を使用して、」「立毛シートを処理液(例えば、アルカリ剤、非イオン活性
剤)中に順次送り込んで洗浄する」(【0024】)との記載があるものの、中和剤を
用いることで脱水工程を省略することができる旨の記載はないから、結局、上記A
の証言は、それが発明について述べたものだとしても、本件各発明とは関係のない
別の発明について述べるものにすぎない。Aは、小型、大型、中型のタンブラーで
試し、中型のタンブラーを用いることで目的を達成することができたとも証言して
いるが(証人A〔9頁〕)、本件発明3の特許請求の範囲にはタンブラーの大きさに
ついての言及はなく、本件明細書の記載を考慮しても、「タンブラー」の大きさは不
明であり、特許請求の範囲に記載された「タンブラー」が「中型のタンブラー」で
あり、タンブラーの大きさが何らかの技術的意義を有するものであると解すること
ができるような記載もない。
以上を総合すると、Aが染色工程につき様々な工夫をしたことがあったとしても、
いずれも本件各発明に係る特許請求の範囲の内容に含まれるものではないから、本
件各発明の発明者がAであるとの被告の主張を採用することはできない。他にBが
平成21年3月よりも前に本件各発明をいずれも完成させていた旨の前記認定を覆
すに足りる主張立証はない。
(5) したがって、本件各発明に係る発明者はBであると認めるのが相当であるか
ら、本件の出願は冒認出願に当たり、本件特許には特許法123条1項6号の無効
理由がある。また、原告は、Bから特許を受ける権利の一部について譲渡を受け(甲
16)、残部はBの相続人の全員が相続放棄したことにより原告に帰属したから(甲
110、111)、本件各発明に係る特許を受ける権利を有する。
よって、本件特許について冒認出願の無効理由がないとした本件審決の判断には
誤りがある。
◆判決本文
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2024.04.11
令和5(ネ)10086 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月27日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
「化合物自体が公知文献に明記されており、当該化合物を初めて製造できたことに技術的意義が認められる物質特許の発明については、化合物自体は公知であるから、その発明は新規性を欠く」と無効主張しましたが、知財高裁は1審と同じく、技術的範囲に属すると判断しました。
控訴人は、化合物自体が公知文献に明記されており、当該化合物を初めて
製造できたことに技術的意義が認められる物質特許の発明については、化合
物自体は公知であるから、その発明は新規性を欠くと解すべきであり、仮に
新規性を有するのであれば、その発明の技術的意義は当該化合物を製造でき
たことについて認められるものであるから、その技術的範囲は、発明者が現
実に発明した製造方法によって製造された物か、単離された高純度の化合物
に限定されるべきであると主張するが、以下に述べるとおり採用できない。
ア 発明が技術的思想の創作であること(特許法2条1項参照)にかんがみ
れば、特許出願前に頒布された刊行物(同法29条1項3号)に物の発
明が記載されているというためには、同刊行物に発明の構成が開示され\nているだけでなく、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の
創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその\n技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されてい
ることを要する。
特に当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製造
方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから、
刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、当
該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理解\nし得る程度の記載があることを要するというべきであり、刊行物に製造
方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業
者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時\nの技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出すことがで
きることが必要であるというべきである。
そして、本件において、公知文献である本件引用例に5−アミノレブ
リン酸リン酸塩の製造方法に関する記載は見当たらず、乙16〜18の
各論文によっても、特許出願時の技術常識に基づいて当業者がその製造
方法その他の入手方法を見出すことができたとは認められない(以上は
原判決「事実及び理由」第3の3(1)イ〔14頁〜〕に同じ。)。
イ 他方、本件明細書には、5−アミノレブリン酸リン酸塩の物質の構成が\n開示されている(【0009】、【0014】〜【0016】)にとど
まらず、当業者がその製造方法を理解し得る程度の記載があるところ
(【0007】、【0019】〜【0028】、【0034】〜【00
36】)、これは、新規の化学物質の発明である本件発明について、当
業者が実施し得る程度の発明の技術的思想を開示するものであって、単
なる製造方法としての技術的意義にとどまるものではない。
そして、特許が物の発明についてされている場合には、その特許権の
効力は、当該物と構造、特性等が同一である物であれば、その製造方法\nにかかわらず及ぶこととなる(最高裁平成24年(受)第1204号同
27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁参照)。
ウ なお、控訴人が指摘するような、本件特許の出願の際に製造等していた
者については先使用による通常実施権(特許法79条)により、本件特
許の出願後に製造方法等の発明をした者については通常実施権の設定の
裁定(同法92条)により、特許権者との利益の調整が図られることに
なる。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)9716
本件特許の無効審判に関する審決取消訴訟です。
結論は本件と同じです。
◆令和4(行ケ)10091
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2024.04.10
令和5(行ケ)10056 承継参加申立事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月25日 知的財産高等裁判所
サポート要件違反および進歩性違反の無効理由無しとした審決について、知財高裁は後者の無効理由有りとして審決を取り消しました。
(エ) 本件適用に係る動機付けの有無
a 技術分野
(a) 前記アの甲11の記載によると、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュ
バントのエマルジョンを製造する技術の分野に属する発明であると認められる。
他方、前記(イ)のとおり、甲65には、「導入」として、「合成ポリマーの微小
多孔性膜を使用する通常のフローフィルタ等は、多種多様なバイオ医薬液体の濾過
用途に広く使用され、これらのフィルタの主な目的は、製品中の細菌汚染の可能性\nを減らすことである」旨の記載、「濾過膜は、血液分画、血清の処理、大容量非経
口剤(LVP)等の従来の製薬用途でも日常的に使用され、ここでの目標は、バイ
オ医薬品プロセスと同じであり、製品の細菌汚染の可能性を低減させることである」\n旨の記載等があり、甲65は、これらの膜を備えた具体的な製品として、本件製品
に言及している。また、前記(ア)のとおり、丙4には、本件製品が「広範囲の医薬
製品を濾過できるように設計されたものであり、広範囲の化学的適合性を備えるも
のである」旨の記載がある。これらによると、本件製品は、少なくとも上記の「従
来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも
当然に適用し得るものであると認められるから(なお、前記(ア)のとおり、丙4に
は、本件製品の用途の例として「バルク医薬品」が挙げられている。)、本件周知
技術は、甲11発明(認定)が属する技術分野を包む技術分野に属する技術である
と認めるのが相当である。
以上のとおりであるから、甲11発明(認定)と本件周知技術とは、その属する
技術分野を共通にするといえる。
(b) 参加人は、甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用いて製造
したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであるところ、ワ
クチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらない、丙4には本
件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンの滅菌フィルタに使用し得る旨の記
載がないとして、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知技術が属する技
術分野とが異なる旨主張するものと解される。
しかしながら、前記(a)のとおり、本件製品は、少なくとも甲65にいう「従来
の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも当
然に適用し得るものであるから、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知
技術が属する技術分野とが異なるとはいえない。参加人の主張は失当である。
b 甲11発明(認定)が有する課題
(a) 甲11には、前記アにおいて認定した箇所を含め、本件適用を動機付ける
ような課題の記載はみられない。
しかしながら、甲20(日本ワクチン学会編「ワクチンの事典」(平成16年))
の「無菌性の保証 ワクチンは通常、…無菌製造、無菌充填が行われる。」との記
載、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「プレフィルタと最終フィルタの組合せを
正しく選択することで、流速、濾過時間及び全体的な濾過コストの最適なバランス
が得られる」旨の記載、「膜濾過の主な目標である滅菌濾液の提供を評価する基準
として、1)細菌の効果的な保持がされること、2)高い総処理量を有することによる
濾過コストの削減がされること、3)許容可能な範囲の流速による妥当な時間枠にお\nけるバッチ全体の濾過がされることなどが挙げられる」旨の記載、「本件製品の製
造業者が製造する本件製品と同種の製品のプレフィルタ層は、非常に高い処理量を
実現し、10インチエレメント当たりの有効濾過面積を30%以上向上させ、0.
2μmの最終フィルタ層は、本件製品の組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を
提供する」旨の記載等)に加え、甲11発明(認定)と本件周知技術とがその属す
る技術分野を共通にすること(前記a)に照らすと、ワクチンアジュバントのエマ
ルジョンの製造に用いられる濾過膜については、その品質を向上させるため、1)細
菌を効果的に保持すること、2)総処理量が大きいこと及び3)流速が妥当なものであ
ることが求められているものと認められる。それのみならず、そもそもワクチンア
ジュバントのエマルジョンの製造に用いられる濾過膜において、上記1)から3)まで
の要請が達成されることにより当該濾過膜の品質の向上につながることは、これら
の要請の内容に照らし、本件優先日の当業者にとって自明であったというべきであ
る。したがって、甲11発明(認定)には、これらの要請を達成するとの課題(以
下「本件課題」という。)が内在しており、甲11発明(認定)に接した本件優先
日当時の当業者は、甲11発明(認定)が本件課題を有していると認識したものと
認めるのが相当である。
(b) 参加人は、ここでも甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用
いて製造したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであり、
ワクチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらないから、甲6
5の記載をもって甲11記載の発明の課題を認定することはできないと主張する。
しかしながら、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュバントのエマルジョンを
製造する技術の分野に属する発明であり、甲65は、従来の製薬用途でも日常的に
使用され、製品の細菌汚染の可能性を低減させることを目的とする濾過膜について\n述べた文献であるから、甲65記載の事項(本件課題)は、少なくとも甲65にい
う「従来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製
造にも当然に当てはまるものというべきである。それのみならず、そもそもワクチ
ンアジュバントのエマルジョンの製造に用いられる膜において、本件課題が本件優
先日当時の当業者にとっての自明の課題であったことは、前記(a)のとおりである。
参加人の主張を採用することはできない。
c 本件課題の解決手段
(a) 前記(ア)のとおりの丙4の記載(「本件製品のフィルタカートリッジは、現
存する滅菌フィルタカートリッジのいずれと比較しても優れた特性を持ち、広範囲
の化学的適合性、高耐熱性、高処理量、高流速の特性を全て備えている」旨の記載、
「本件製品のカートリッジは、0.45μm膜を用いた「組み込み予備濾過」によ\nる分画濾過のため、非常に高い総処理能力を持ち合わせている。ポリエーテルスル\nホン膜の非対称的孔構造は、低い圧力下で、高い流速を提供する」旨の記載、「本\n件製品のフィルタカートリッジは、HIMAやASTM F−838−83ガイド
ラインに従う滅菌グレードのフィルタエレメントとして十分検証されている」旨の\n記載、95%閉塞時における総処理量において本件製品が最も優れている旨のグラ
フ等)、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「本件製品の製造業者が製造する本件
製品と同種の製品の0.2μmの最終フィルタ層は、本件製品の0.45μm/0.
2μmの組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を提供する」旨の記載等)及び弁
論の全趣旨によると、本件製品が備える親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜
をワクチンアジュバントのエマルジョンの製造(濾過)に用いることにより、本件
課題をいずれも解決することができるものと認めるのが相当である。
(b) 参加人は、丙4の記載は本件製品の特性に関する一般論を述べるものにす
ぎず、丙4には本件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンを含む水中油型エ
マルジョンの滅菌濾過を用途とし得るものである旨の明記がないとして、丙4記載
の本件製品の特性をもって甲11記載の発明が有する課題を解決することができる
ものであると認めることはできないと主張する。
しかしながら、本件製品は、広範囲の医薬製品を濾過することができるように設
計され、広範囲の化学的適合性を備えるものであり(前記(ア))、また、ワクチン
アジュバントのエマルジョンの製造にも当然に適用し得るものである(前記a)と
ころ、甲65及び丙4には、本件製品をワクチンアジュバントのエマルジョンの製
造に用いた場合に、本件製品が持つ本来の性能が十\分に発揮されないものとうかが
わせる記載は一切なく、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はないから、
甲65及び丙4に記載された本件製品の性能は、本件製品をワクチンアジュバント\nのエマルジョンの製造に用いた場合にも発揮されるものと認めるのが相当である。
参加人の主張を採用することはできない。
d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判
断
参加人は、1)甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階
を異にする別個の工程である、2)前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧
条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ
イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の
発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製
品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。
しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(III))
(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン
トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが
あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお
いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの
であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し
て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲
11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性
を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に
つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨
の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、
甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな
い別個の工程であるということはできないから、上記の1)の点を根拠とする参加人
の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ
る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ
ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を
第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証
拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1
の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ
る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌
保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第
1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱
についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される
膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに
足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい
て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、
第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認
識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主
張する工程(III))(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)
を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ
(イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当
時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き
な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が
あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の2)の点を根拠とす
る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定)
に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
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2024.04.10
令和5(行ケ)10069 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月25日 知的財産高等裁判所
無効審判の判断について争いましたが、第一次判決の拘束力により、請求理由なしと判断されました。
前記第2の1(特許庁における手続の経緯等)並びに証拠(甲39、乙22)及
び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(1) 原告は、令和元年11月12日、本件各発明に係る本件特許について特許
無効審判の請求をした。
(2) 特許庁は、令和3年10月8日、本件訂正を認めた上、本件発明1等に係
る本件特許を無効とし、本件発明4に係る本件特許に対する審判請求は成り立たな
い旨の第一次審決をした。第一次審決においては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて
容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものとはいえない。
(3) 被告は、令和3年11月13日、第一次審決のうち本件発明1等に係る本
件特許を無効とした部分の取消しを求める訴えを提起し、原告は、同月16日、第
一次審決のうち本件発明4に係る本件特許に対する審判請求は成り立たないとした
部分の取消しを求める訴えを提起した。
(4) 知的財産高等裁判所は、被告の訴えに係る事件及び原告の訴えに係る事件
を併合審理した上、令和4年8月31日、被告の請求を認容し、第一次審決のうち
本件発明1等に係る本件特許を無効とした部分を取り消すとともに、原告の請求を
棄却する旨の第一次判決を言い渡し、第一次判決は、その後確定した。第一次判決
においては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて
容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものとはいえない。
(5) 特許庁は、令和5年5月22日、本件訂正を認めた上、本件各発明に係る
本件特許についての審判請求は成り立たない旨の本件審決をした。本件審決におい
ては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて
容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものとはいえない。
(6) 原告は、令和5年6月29日、本件審決のうち審判請求を不成立とした部
分の取消しを求めて本件訴えを提起した。本件訴訟における原告の主張は、前記第
3のとおりであるが、結局、次のとおり要約することができる。
ア 本件発明1等と甲1引用発明との間に本件構成に係る相違点2及び相違点4\nは存在しないというべきである。しかるところ、本件審決は、このような相違点が
あることを前提に、本件発明1等に係る本件構成は、いずれも本件出願日前に当業\n者が甲1引用発明に基づいて容易に想到し得たとはいえないと判断した点において
判断を誤っている。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものであるから、その進歩性を認めた判断は誤りである。
2 本件発明1等に係る本件特許について(審決取消判決の拘束力)
(1) 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が
確定したときは、審判官は、特許法181条2項の規定に従い、当該審判事件につ
いて更に審理を行って審決をすることとなるが、審決取消訴訟は、行政事件訴訟法
の適用を受けるから、再度の審理又は審決には、同法33条1項の規定により、当
該取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに
必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は、取消判決の当該
認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって、再度の審判手
続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につき、こ
れを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは、当該主張を裏
付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束
力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟におい
てこれを違法とすることができないのは当然である。
このように、再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決の主文のよ
って来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた
再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判
決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消)
事由たり得ない。
以上を特許発明の進歩性判断が問題となる特許無効審判事件の審決の取消訴訟に
ついて具体的に考察すると、特許無効審判の対象とされた特許発明が、特許出願前
に当業者において特定の引用例に記載された発明に基づき容易に発明をすることが
できたとはいえないとの理由により、当該特許発明に係る特許を無効とした審決の
認定判断が誤りであるとして当該審決を取り消す旨の判決がされ、これが確定した
ときは、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は、同一の引用例
に記載された発明に基づく進歩性の判断に当たり、当該判決と異なる認定判断をす
ることは許されない。したがって、再度の審決に係る審決取消訴訟において、関係
当事者が、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断が誤りである
(当該特許発明は特許出願前に当業者において同一の引用例に記載された発明に基
づき容易に発明をすることができた)として、これを裏付けるための新たな立証を
し、また、裁判所が、これを採用して取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決
を違法とすることは許されないと解するのが相当である(前掲最高裁平成4年4月
28日第三小法廷判決参照)。
(2) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、第一次審決(本件発明1
等に係る本件特許を無効とした部分。以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)
は、本件発明1等につき、これらがいずれも本件出願日前に当業者において甲1引
用発明に基づき容易に発明をすることができたものであると判断して、本件発明1
等に係る本件特許を無効としたところ、第一次判決(第一次審決を取り消した部分。
以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)は、本件発明1等につき、これらがい
ずれも本件出願日前に当業者において甲1引用発明に基づき容易に発明をすること
ができたものとはいえないと判断して、第一次審決を取り消したものである。また、
第一次判決の確定後にされた本件審決(本件発明1等に係る本件特許に対する審判
請求は成り立たないとした部分。以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)は、
本件発明1等に係る甲1引用発明に基づく進歩性について、第一次判決と同様の判
断をして、本件発明1等に係る本件特許に対する審判請求は成り立たないとしたも
のである。
ここで、前記(1)によると、再度の審判請求において、本件発明1等が本件出願
日前に当業者において第一次判決が認定判断した同一の引用例(甲1)に記載され
た発明に基づき容易に発明をすることができたか否かにつき、審判官が第一次判決
とは別異の事実を認定して異なる判断を加えることは、第一次判決の拘束力により
許されないのであるから、本件審決は、第一次判決の拘束力に従ってされた限りに
おいて適法であるとされなければならない。
そして、前記(1)によると、第一次判決の拘束力に従ってされた本件審決の取消
訴訟(本件訴訟)において、第一次判決の認定判断(本件発明1等が本件出願日前
に当業者において甲1引用発明に基づき容易に発明をすることができたものとはい
えないとの認定判断)を否定する関係当事者の主張立証は許されないことになるか
ら、原告は、本件訴訟において、このような主張立証(本件発明1等の甲1引用発
明に基づく進歩性欠如の主張立証)をすることができないというべきである。
したがって、甲1引用発明に基づいて本件発明1等が進歩性を欠く旨原告が主張
することは許されない。
(3) 原告は、本件訴訟における原告の主張(取消事由1及び2)につき、これ
は「相違点2又は4に係る本件発明1等の構成のうち本件構\成に係る部分は、本件
発明1等と甲1引用発明との相違点ではない」との第一次判決が判断していない事
項についての本件審決の判断の誤りを指摘するものであるから、本件訴訟において
取消事由1及び2を提出することは第一次判決の拘束力に反しないと主張する。
確かに、乙22によると、第一次判決においては、原告が本件訴訟において取消
事由1及び2として指摘する事項(相違点2又は4に係る本件発明1等の構成のう\nち本件構成に係る部分の実質的相違点性)についての判断がされなかったものと認\nめられる。しかしながら、本件発明1等に係る甲1引用発明に基づく進歩性の判断
は、本件発明1等及び甲1引用発明の各認定並びにこれを前提とする一致点及び相
違点の認定を踏まえて行われる法律判断である。前記のとおり、拘束力は、判決主
文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、甲1
引用発明に基づく進歩性欠如を否定した第一次判決の法律判断の前提となった本件
発明1等と甲1引用発明との間の相違点に係る事実認定についても、第一次判決の
拘束力は及ぶというべきである。したがって、本件審決の審判官が、同じ甲1引用
発明に基づく進歩性の判断に当たり、第一次判決とは別異の事実を認定して異なる
判断を加えることは、第一次判決の拘束力により許されず、第一次判決の拘束力に
従ってされた本件審決は適法なものである。原告の主張は、第一次判決の拘束力が
及ぶ事実認定及び法律判断部分について、本件審決が誤りである旨主張し、本件審
決の取消事由とするものにほかならず、前掲最高裁平成4年4月28日第三小法廷
判決に照らし、採用することはできない。
3 本件発明4に係る本件特許について(請求棄却判決の既判力)
行政処分の取消訴訟については、請求棄却判決が確定すると、処分に違法性がな
いことについて既判力(行政事件訴訟法7条、民事訴訟法114条)が生じるから、
審決取消訴訟についても、請求棄却判決が確定すると、審決に違法性がないことに
ついて既判力が生じる。
しかるところ、最高裁昭和51年3月10日大法廷判決(昭和42年(行ツ)第
28号)民集30巻2号79頁の趣旨を踏まえると、特許発明の進歩性判断が問題
となる特許無効審判事件の審決の取消訴訟における請求棄却判決の既判力は、審決
に違法性一般がないことではなく、特許無効審判事件において審理された特定の引
用例に記載された発明(公知技術)に基づく進歩性の有無について判断した審決に
違法性がないことに関して生じるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前記認定のとおり、第一次判決(原告の請求を棄却
した部分。以下同じ。)は、本件発明4につき、これが本件出願日前に当業者にお
いて甲1引用発明に基づき容易に発明をすることができたものとはいえないと判断
して、これと同じ判断をした第一次審決を是認し、原告の請求を棄却したものであ
る。そして、第一次判決は、その後確定したのであるから、甲1引用発明に基づき、
本件発明4が進歩性を欠くとはいえないとした第一次審決に違法性がないことは、
既判力をもって確定されているというべきである。
本件で問題となっているのは、本件審決の違法性であって、第一次審決の違法性
ではないが、原告が、本件訴訟において、甲1引用発明に基づき、本件発明4が進
歩性を欠く旨主張(取消事由3)し、進歩性欠如を否定した本件審決の判断部分が
違法である旨主張することは、実質的にみれば、第一次審決の違法性に関し既判力
が生じている部分(同じ引用発明に基づき進歩性がないとはいえないとの判断)に
ついて、これと異なる判断を求めるものとして、許されないというべきである。
仮にこの点を措くとしても、甲1発明の半田鏝は、先端部の開口部の径が1.0
mmであり、後端部の貫通孔の径が2.5mmであり、この貫通孔内に半田片が落
下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構成され、これにより、半田片は、途\n中で引っかかって溶融してしまうことなく、そのまま先端まで落下して溶融するも
のである(甲1の段落【0006】、【0031】、【0034】)。そうすると、
甲1発明の半田鏝については、甲11から13までに記載されたように半田鏝先端
部の内径を半田鏝後端部の内径より大きくすることには、阻害要因があるというべ
きである。したがって、いずれにせよ、本件発明4について、甲1引用発明に基づ
いて進歩性を欠くとは認められない旨の本件審決の判断に誤りはない。
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2024.04.10
令和4(行ケ)10084 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月21日 知的財産高等裁判所
治療薬に関する発明について、進歩性無しとした審決が維持されました
(4) 相違点に係る容易想到性について
ア 相違点1について
(ア) 「心不全の患者」及び「心不全の治療薬」について
前記2(1)、(2)、(5)及び(6)のとおり、本件優先日当時、利尿薬は、心不全の症
状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬として、急性心不全(慢
性心不全の急性増悪期を含む。)と慢性心不全とを問わず、また心不全の重症度を問
わず、広く用いられていた薬剤である。また、代表的な利尿薬として用いられるフ\nロセミド等のループ利尿薬は、利尿作用が強い反面、塩化ナトリウムの再吸収を抑
制するために低ナトリウム血症等の電解質異常をきたし得るとの副作用がある上、
利尿薬抵抗性の問題も認識されており、加えて、特に重症心不全患者においては、
体液貯留の管理が重要とされていた。
そして、前記(2)ア(ア)のとおり、甲2には、体液貯留のある心不全患者(NYH
AクラスI)〜III))に対し、フロセミドに上乗せして、異なる部位に作用し、また、
ナトリウムを排泄せずに水のみを排泄する選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬と\nしてのトルバプタンを投与したところ、良好な忍容性とともに、血清電解質の有害
な変化なく、体重減少、尿量増加及び浮腫改善等の効果が得られた旨が記載されて
いる。
そうすると、本件優先日当時、甲2発明及び甲2の記載に接した当業者において、
前記2に認定した技術常識も考慮して、甲2発明のトルバプタンを、「急性心不全ま
たは慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IV)の患者」
における体液貯留等を改善するための治療薬とすることには、十分な動機付けがあ\nり、容易に想到し得たということができる。
(イ) 「活性成分の投与」について
甲2発明における「安定したフロセミド用量(20〜240mg/日)」が、フロ
セミドを必要に応じて投与することを制限する趣旨と読み取れないことは、前記
(2)ウ(イ)bのとおりであるから、この点は実質的な相違点とはいい難い。また、前
記(2)ウ(ウ)のとおり、対象患者の症状や投与方法等を捨象した、単に治療薬を投与
する際に患者が入院下であるか否かという点も、実質的な相違点とはいい難い。
次に、前記2(1)ウのとおり、本件優先日当時、トルバプタンは、経口投与で強力
な水利尿薬として作用する薬物として知られていたのであるから、甲2発明では経
口投与されたか不明であるトルバプタンを本件発明1の対象患者に投与するに当た
り、これを経口投与とすることは、当業者が適宜なし得た事項というべきである。
(ウ) 原告の主張について
原告は、1)医薬分野における容易想到性は、「当該発明の治療及び治療効果につい
て、優先日当時における科学的根拠をもって当業者がこれを容易に評価・確認でき
るか」という観点から判断されるべきであるとした上で、本件優先日当時の技術常
識として、2)ADHFの重症患者と慢性心不全の慢性期の軽症〜中等症患者とは、
その症状、治療内容・態様、治療薬の適応・治療効果が大きく異なっていた、3)同
じ心不全治療薬であっても、NYHAクラスI)〜III)の患者には有効だがクラスIV)の
患者には効果がない又は悪化させる例があった上、NYHAクラスIV)の患者は利尿
薬抵抗性の問題がより深刻であって治療に限界が生じており、トルバプタンにも利
尿薬抵抗性の問題が認識されていた、4)既存の利尿薬の作用機序・薬理作用と、ト
ルバプタンの作用機序・薬理作用は異なるものである、5)ADHFの重症患者に対
して、トルバプタンを含む選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬の投与実績は存在\nしていなかったところ、選択的バソプレシンV2受容体拮抗作用は、内因性バソ\プ
レシンレベルの上昇を誘引し、それがバソプレシンV1a受容体を刺激することに\nより、心血管系や腎臓に悪影響を及ぼすことが理解されていたから、選択的バソプ\nレシンV2受容体拮抗作用を有するトルバプタンを、NYHAクラスIV)のような重
症患者に投与すれば、心不全の症状をさらに悪化させ、最悪の結果にもつながりか
ねないと認識されていた、6)本件試験のような「最適の治療」(併用薬の用量増加、
投与経路変更を含む。)に対する上乗せ試験では、甲2試験のような併用薬の用量固
定・経口投与のみ等の制約されたデザインの試験と比して、上乗せ治療薬の治療効
果が得られにくいと理解されていたなどと主張し、これらの技術常識によると、甲
2発明から相違点1に係る本件発明1の構成に想到する動機付けはなく、又は阻害\n要因があると主張する。
しかし、1)について、進歩性についての判断基準として独自の見解というほかな
く、採用の限りではない。2)について、急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含
む。以下この項において同じ。)と慢性心不全とで、また重症患者と軽症〜中等症患
者とで、治療の内容が異なる点は指摘のとおりであるが、前記2のとおり、利尿薬
に関していえば、急性心不全と慢性心不全とを問わず、また重症と軽症〜中等症と
を問わず、心不全の症状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬
として広く用いられていたのであるから、甲2に記載されたトルバプタンの水利尿
効果が、体液貯留等の症状を呈する急性心不全の患者や重症患者にも得られるであ
ろうことを、当業者は当然に想起するというべきである。3)について、NYHAク
ラスI)〜III)の患者とクラスIV)の患者とで取扱いを異にする例として原告が挙げてい
る例(甲38、43、47、70〜77、88)には、利尿薬とは異なる心不全治
療薬が含まれているほか、利尿薬に関するものであっても、NYHAクラスIV)であ
ることを理由に利尿薬の取扱いを異にすべき旨が記載されているとは読み取ること
はできない。前記2(6)のとおり、重症心不全患者では、特に体液貯留等の管理が重
要とされており、重症度の高さや利尿薬抵抗性の問題から利尿薬が十分に効果を発\n揮しない場合があるとしても、また、仮にトルバプタンにも利尿薬抵抗性の問題が
あるとしても、当業者は、NYHAクラスによる重症度を問うことなく、体液貯留
等の症状を改善するために利尿薬の使用を試みるというべきである。4)について、
既存の利尿薬とトルバプタンとの作用機序・薬理作用が異なることは、上記(ア)のと
おり、むしろ動機付けとなるといえる。5)について、本件優先日前に頒布された刊
行物である甲149(Florence Wongほか「A Vasopression Receptor Antagonist
(VPA-985) Improves Serum Sodium Concentration in Patients With
Hyponatremia: A Multicenter, Randomized, Placebo-Controlled Trial 」37
Hepatology 182 (2003))には、NYHAクラスIV)のうっ血性心不全患者に対し、ト
ルバプタンと同じ選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬である「VPA−985」\nを既存の利尿薬と組み合わせて投与したところ、低用量群(25mgを1日2回投
与)では、起立性血圧、血清クレアチニン値及び血清バソプレシン濃度の有意な変\n化なしに、プラセボ対照群と比して有意な水利尿反応及び血清ナトリウム値の増加
が得られた旨が記載されている。同記載からすると、原告が主張するように、選択
的バソプレシンV2受容体拮抗薬につき、血中バソ\プレシン濃度上昇による悪影響
がある可能性を指摘する文献があったことを考慮しても、適切な用量設定等により\n安全に効果を得られることが示されていたのであるから、トルバプタンをNYHA
クラスIV)の重症患者に、また急性心不全の患者に適用することが禁忌であったとは
いえず、阻害要因となるべきものとは認められない。6)については、前記(3)ウ(ウ)
のとおり、トルバプタンと組み合わされる本件発明1の「最適の治療」と甲2発明
の「水分制限なしの標準治療」に実質的に異なるところはなく、また、前記(2)ウ(イ)
bのとおり、甲2発明における「安定したフロセミド用量(20〜240mg/日)」が、治療の制限を意味するものとは読み取れない。
したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
◆判決本文
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2024.02.24
令和5(行ケ)10054 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年2月13日 知的財産高等裁判所
一致点・相違点の認定に誤りがあるものの、動機付けなしとの審決が維持されました。
カ 甲8発明と本件発明1との相違点として本件審決が認定したもの(前記
第2の4(2)ア(イ))のうち、甲8相違点2は、前記エの説示によれば、甲8
発明と本件発明1との相違点となるとは認められない。
また、甲8相違点3は、甲8発明における台車用安全カバー及び本件発
明1における保護部材の用途を特定する物としての手押部材の違いを述
べるものであって、甲8発明における台車用安全カバーと本件発明1にお
ける保護部材との相違点とはいえない。したがって、甲8発明と本件発明
1との相違点は、甲8相違点1及び取付位置に係る相違点のみであると認
められる。
キ 前記第2の2(3)のとおり、1)本件発明2は、本件発明1の構成要件1A\nないし1Fを全て含み、2)本件発明3は、本件発明1の構成要件のうち、\n1Eを「前記保護部は、円板状である。」(構成要件2E)に変更したもの\nであり、3)本件発明4ないし7は、本件発明1の構成要件1Aないし1F\nを全て含むか、又は本件発明3の構成要件1Aないし1D、2E及び1F\nを全て含むものである。
そうすると、本件発明2ないし7は、いずれも、甲8発明との関係で、
甲8相違点1及び取付位置に係る相違点があると認めることができる。
ク 以上のとおり、甲8発明と本件各発明との一致点及び相違点に係る本件
審決の判断には相当でない部分があるものの、これによって直ちに本件審
決の判断が違法となることはなく、甲8相違点1を前提に、当業者が、本
件優先日の技術水準に基づいて、これらの相違点に対応する本件各発明を
容易に想到することができたかどうかを判断すべきである。
(3) 容易想到性について
前記(1)のとおりである甲8発明の内容によれば、甲8発明の台車用安全カ
バーは、その本体、すなわち甲8発明の全体が保護部を構成しており、作業\n者の手挟み事故を防止するとともに、手押部材の掌握部、すなわち台車のコ
字状のハンドルのグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつもので
あるといえる。このことは、甲8商品2と同一の構成の商品を含む甲8商品\n1に係るパンフレット(甲8の2)に、「台車に取り付けることで、作業員の
手挟み事故を防止!掌握部もわかりやすくなり、安全指導がしやすくなりま
す」との記載があることからも裏付けられる。
このように、甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルの水平部
分をグリップ部とすることを前提として、コ字状のハンドルのカーブ部分に
取り付ける台車用安全カバー(保護部材)であって、これによって手挟み事
故の防止を図るものであるから、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)
にグリップ部を設けることは全く想定されていないといえる。
そうすると、仮に、台車の手押部材にグリップ部を設けること、又は台車
等の保護部をグリップ部と一体化したものとすることが、本件優先日の時点
で周知技術であったとしても、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)に
接した当業者において、これらの周知技術を甲8発明に適用する動機付けが
あったとは認められない。
したがって、引用発明である甲8発明に基づいて、甲8相違点1に係る本
件各発明の構成が容易に想到できたとは認められず、甲8発明を前提とする\n進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとは認められない。
(4) 前記第3の1〔原告の主張〕について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)のとおり、甲8発明の台車用安
全カバーは、直線の棒にも装着可能であり、コ字状のハンドルのカーブ部\n分に対してのみ取り付け可能な製品ではないから、本件審決における甲8\n発明の認定は誤りであると主張する。
この点、長岡産業代表取締役である甲の陳述書(甲53)には、甲8商\n品2は、甲8商品1とともに、カーブ部分に装着することに特化した形状
(特に孔の形状)となっておらず、曲がっていない直線の棒にも装着可能\nなものであった旨の陳述がある。
しかし、甲8商品2の本体及び取付穴の形状から、物理的には直線の棒
に装着することが可能であるとしても、甲8商品2のパンフレット(甲8\nの3)及び甲8商品2と同一の構成の商品が含まれる甲8商品1のパンフ\nレット(甲8の2)の各記載及び掲載された写真からすれば、甲8商品2、
すなわち甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルのカーブ部分
に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に
掛からないように規制し、これによって手挟み事故を防止するものである
と認められる。
上記各パンフレットに掲載された、各商品が台車のハンドルに装着され
た状態の写真は、いずれもコ字状のハンドルのカーブ部分に装着されたも
のを撮影したものであって、直線の部分に装着した写真ではないと認めら
れる。また、甲8の2には、「ハンドルのカーブ部分に挟み込み、テープを
はがして包むだけ!」と表記されているのであって、カーブ部分に挟み込\nむことが単なる使用の一例にすぎない旨の記載はされていない。
以上のとおり、甲8発明に関する本件審決の認定に誤りがあるとは認め
られない。
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2024.02.23
令和5(行ケ)10015 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年12月11日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が維持されました。甲2発明を組み合わせる動機づけ無しです。
ウ 甲1発明と甲2の技術的事項とを組み合わせる動機付けについて
前記イのとおり、甲2発明の気体吹込羽口の周囲に使用するマグネシ
ア−カーボン煉瓦は、酸素吹込みによって生じるホットスポットによる
高熱や不活性ガス吹込みによる冷却作用により、激しい温度勾配や熱衝
撃が加えられるという過酷な環境下の内張煉瓦として使用される前提に
おいて、目地損傷原因の目地開きを生じせしめるクリープ変形を防ぐこ
とによって、損傷防止が図られるものとなっている。
これに対し、甲1発明のN2ガスを吹き込むガス吹き込み用マグネシ
ア・カーボン質耐火物は、前記第2の2(3)アの[甲1発明の内容]記載の
とおり、それ自体が気体を吹き込む部材となっている点において、甲2
発明の内張煉瓦とは態様が異なる上に、甲2発明の気体吹込羽口のよう
にホットスポットによる高熱を生じさせる酸素を吹き込むことは想定さ
れていないものということができる。
そうすると、温度勾配や熱衝撃の点において、甲2発明の煉瓦のほう
が甲1発明の耐火物よりも損傷しやすい過酷な環境にさらされる蓋然性
が高いということができ、そのような甲2発明の煉瓦では目地開きを生
じせしめるクリープ変形を防ぐことが特性として重要であるとしても、
それとは使用態様や使用環境の異なる甲1発明の耐火物にも、当然同じ
特性が求められるものとはいえないというべきである。
そうすると、当業者であっても、甲1発明と甲2の技術的事項とを組
み合わせて、相違点2に係る特定事項を得る動機付けがあるとはいえな
いということができる。
なお、この点につき、甲3には、前記第2の4記載のとおり、「ごく一
部の大型煉瓦などは800゜C)から1200゜C)程度の還元雰囲気下で焼成
し」、「焼成後に消化防止、低気孔率化のためピッチ含浸されることが多
い。」と記載されているのであって、その記載内容が相違点2に係る特定
事項を得る動機付けについての認定を左右しないというべきである。
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2024.02.23
令和5(ネ)10026 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年1月31日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特許権侵害訴訟の控訴審判決です。原審は、被告製品は本件発明2の技術的範囲に属さない、本件発明1は公然実施発明Bであって新規性を欠くとして請求棄却しました。控訴審も同様です。
ア 控訴人は、構成要件2Bを「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であることを要する」と解する根拠は、特許請求の範囲の文言にも本件発明2の課題にも
なく、当業者の技術常識等からみても非現実的である旨主張する。
イ しかし、構成要件2Bは「前記排水溝の壁面の表\面粗さが、算術平均粗
さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする」と規定してお
り、本件発明2の特許請求の範囲の文言全体をみても、排水溝壁面の表面粗さについて、一部は2.0μmを超えるが製品の一定範囲や所定の\n測定箇所が2.0μm以下であるものを含む、あるいは全体の算術平均
粗さ(Ra)の平均値が2.0μm以下であるものを含むと解すべき文
言はない。
この点は、本件明細書2の記載をみても同様である。控訴人が指摘す
る本件明細書2の記載や図面は、従来技術や実施例に係る排水溝の性状
等を特に留保なく説明するものであり、控訴人が主張するように、作業
過程で異常(イレギュラー)が発生した箇所があることを前提とし、こ
れを除いた「任意の箇所」を示すものであることを窺わせる記載はない。
控訴人は、1)製紙用弾性ベルトの排水溝は、作業前に設定した加工条
件に基づいて均一的に連続加工されるものであること、2)作業時の諸要
因によって加工結果にばらつきが生じることが避けられないこと、3)排
水溝の壁面を全長にわたって測定する作業は現実的に不可能であり、任意に選定された排水溝の壁面を測定する作業によって製品の性状を把握\nするという、当業者の技術常識を考慮すべき旨主張する。
しかし、上記のとおり明確な構成要件2Bの文言について、明細書にも記載がなく、その範囲も不明確な例外を含むと解することは、不当な\n拡張解釈というべきであって、特許請求の範囲の解釈に当たって当業者
の技術常識を考慮するという枠組みを超えるものといわざるを得ない。
控訴人の主張は、当業者が定める自社製品の品質基準としてはともかく、
独占権が付与される特許請求の範囲の解釈としては採り得ない。
なお、控訴人が指摘する大阪地方裁判所平成15年(ワ)第10959号
同17年2月28日判決は、控訴人の主張を裏付けるものではない。
ウ したがって、原判決判示のとおり、構成要件2Bは「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であること」を要すると解するのが相当である。
そうすると、控訴人が主張する<ステップ1>から<ステップ2の2
B>まで、すなわち「各測定結果に係る9溝ないし18溝のデータ数値
を参照し、特定の溝壁面の表面粗さ数値が他の溝の同一壁面に比して突出して高くなっている」ものを「当業者からみて明らかに溝加工作業時\nに生じた異常(イレギュラー)」として除外すること、及び「測定結果
に係る各壁面の表面粗さの平均値が算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下である結果が得られているか否か」(控訴人の他の主張と併せると、\n任意の測定箇所の算術平均粗さの「平均値」が2.0μm以下であるこ
とを意味すると解される。)により充足性を判断する判断手法は、構成要件2Bを逸脱する独自の解釈に基づくものといわざるを得ず、採用で\nきない。
・・・
(2) 公然実施発明Bに基づく本件発明1の新規性欠如の有無について
イ 公然実施をされた発明に当たるかについて
(ア) 控訴人は、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面にD
MTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可能な分析方法によって知ることができなかった旨主張する。\n
(イ) しかし、まず、証拠(乙37、124、128、129)によれば、
エタキュアー300は、本件特許1の出願前から実用化され、ウレタン
用の硬化剤として注目されていたことが認められる(原判決44頁〜)。
控訴人は、上記文献等はシュープレス用ベルトに使用される硬化剤に
ついて言及するものでないと主張するが、上記文献等はポリウレタン全
般向けの硬化剤としてエタキュアー300を説明するものであるところ、
シュープレス用ベルトに利用される硬化剤が他の一般的なポリウレタン
の硬化剤と異なるとみるべき根拠はない(上記文献等には、代表的な従来品が本件明細書1【0003】に従来のシュープレス用ベルトの硬化\n剤として記載されているMOCAである旨の記載も複数ある。)。
また、被控訴人は、遅くとも平成9年7月時点ではエタキュアー30
0を使用していたところ(原判決45頁)、上記ア(イ)の認定事実によ
れば、被控訴人は硬化剤としてDMTDAを使用することを独自に見出
したのではなく、エタキュアー300を製造販売するアルベマール社の
国内関連会社との取引を契機として知ったと認められる。この事情は、
他の当業者が硬化剤の候補としてエタキュアー300に着目する蓋然性
を裏付ける事情となることは明らかである。
控訴人は、さらに、ポリウレタンの硬化剤はDMTDAの他にも約8
0種類存在し(甲43)、その全てについて標準品を準備して分析依頼
を行うことは非現実的であると主張する。
しかし、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(乙128)に「実用化
されている熱硬化PUエラストマー用芳香族ジアミン架橋剤」として記
載された5種類、あるいは特開2000−248040号公報(乙12
7)にポリウレタンプレポリマーと反応させるアミン硬化剤組成物とし
て記載された芳香族ポリアミンの15種類、その中でも好ましいと記載
された4種類には、いずれもエタキュアー300又はDMTDAが含ま
れており、当業者は、従来用いられているMOCA(本件明細書1【0
003】)と同類であるこれらの硬化剤を想定するとみるのが自然であ
る。
(ウ) 控訴人は、ベルトの外周面に着目し、外周面のみを切り出して分析を
依頼することは、当業者が通常に利用可能な分析技術とはいえない旨主張する。\nしかし、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の
層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤と
を混合してベルトの弾性材料とすることは技術常識であり(原判決44
頁)、自由に解析等をなし得る状態に置かれたベルトを解析して構造等を特定することは可能\であったと認められる(このことは甲25に記載された断面写真から明らかであり、原判決の認定に問題はない。)。
したがって、ベルトBの外周層を切り出して分析を依頼することは、
本件訴訟において控訴人(甲10の1〜4)及び被控訴人(乙1〜3)
が行ったのと同様、本件特許1出願前の当業者にも可能であったと認められる。\n
なお、当業者が仮に外周層と内周層に異なる硬化剤を用いる製造方法
を認識せず、これらを区別せずに分析を依頼した場合、全体について硬
化剤としてDMTDAが使用されているという分析結果を知ることにな
り、この結果はベルトBの正しい構成なのであるから(乙32)、「外周面を構\成するポリウレタンは、」「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている」との構成を含め、本件発明1の内容を知り得たといえることに変わりはない。\n
(エ) したがって、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面に
DMTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可
能な分析方法によって知ることができたと認められる。ベルトBが公然実施された発明とはいえない旨をいう控訴人の主張は採用できない。\n
◆判決本文
原審はこちら。
◆大阪地裁平成29(ワ)4178
原審では、被告は、一旦、損害論に入ってから、2.0μm以下である」との構成要件を充足しないとして、非侵害の主張を行いましたが、これは「時機に後れた」とは認定されませんでした。
原告は、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわ
らず、被告は、被告製品1〜3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁
面の表面粗さの測定結果(乙152〜159)を新たに証拠提出するとともに、非侵害の主張を行ったことが時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を主張する。\nしかし、被告が前記証拠等を提出したのは、原告が、訴状においてはイ号製品
が本件発明2の技術的範囲に属する旨を主張しつつも、被告製品1〜3及び5の
排水溝壁面の表面粗さに限定して立証活動をしていたが、裁判所が本件発明2については損害論に入る旨の心証開示を行ったことを受けて、被告製品1〜3及び\n5の各製品と同じシリーズの製品等についても本件発明2の技術的範囲に属する
旨を改めて主張したことに対応するものであって、必ずしも時機に後れたものと
は認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。
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2024.02.19
令和5(行ケ)10049 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年1月31日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が維持されました。争点は、相違点の認定誤り、動機付け、阻害要因です。
(1) 原告は、引用例2及び引用例3に開示されたイメージファイバを介して照
明光を導く周知の方法はイメージファイバを振動させないものであるのに対
して、引用発明はイメージガイド2の接眼側の端部を振動させるものである
から、イメージファイバの前提構成が異なるものであって、引用発明に上記\nの周知の手法を適用する動機付けがあるとはいえない旨主張する。
(2) しかし、引用例2及び引用例3によれば、集光レンズを介して入射した光
源からの光をイメージファイバにより伝送することは、本件審決が認定する
とおり周知の手法であると認められるところ、引用例3の【0008】、及
び特開2000−121460号公報(乙2)の【0018】、【001
9】、【0029】の記載によれば、内視鏡の技術分野において挿入部を細
径化することは周知の課題であると認められるから、その課題は引用発明に
も内在していると認められる。
そして、本件審決の認定する周知の手法は、引用発明にも内在する上記の
課題の解決手段となるものであるから、引用発明にこれを適用する動機付け
はあるというべきである。
(3) 原告は、さらに、照明光を被観察物体に導くイメージガイド2の接眼側の
端部を振動させると、被観察物体の撮像にどのような影響を与えるのかが不
明であることを考慮すれば、上記周知の方法を引用発明に採用することには
阻害要因がある旨主張する。
しかし、イメージファイバを振動させる技術と、光源からの光をイメージ
ファイバにより伝送する技術とを同時に採用できないとする技術的根拠は見
当たらず、上記(2)のとおり周知の課題を解決する手段である周知の方法を
採用することは、当業者であれば容易に着想して試みるものと認められる。
(4) したがって、引用発明に引用例2及び引用例3の周知の手法を適用するこ
とによって、相違点1及び相違点2に係る構成は容易に想到し得るとした本\n件審決に誤りは認められず、原告主張の取消事由2は理由がない。
◆判決本文
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2024.02.16
令和5(行ケ)10016 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
車の部品について、進歩性違反無しとした審決が維持されました。理由は動機付け無しです。
原告は、スカッフプレートにおいて電池の交換は必要不可欠であるから、
電池交換のための電池カバーを設ける動機がある、電池カバーを表示部の表\
側に設けることはさまざまな事情から好ましなく、甲8公報の技術常識等を
適用して、裏側に電池カバーを設ける動機がある、本件審決指摘の(a)〜(d)
の変更は、電池交換のため必要であれば当業者は容易に想到し得る旨主張す
る。
しかし、甲1公報によれば、甲1公報の「実用新案登録請求の範囲」に記
載された考案は、外部電源が完全に不要な自動車スカッフプレートに適用さ
れる発光モジュールを提供することを課題とし(【0004】)、この課題
を解決するための発光モジュールは、発光素子及びリードスイッチが設けら
れた「ランプ板」、及び電線を介してランプ板に接続される「電池」が、い
ずれも「導光板」に埋設される構成を有し(【0005】、【0015】〜\n【0017】)、この構成により「導光板10の内部に発光素子20に必要\nな電力を供給することができる電池40を設置するため、完全に外部電源が
不要となる」(【0019】)ことで、上記の課題を解決するものと認めら
れる。
甲1公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載され\nていない。
そして、本件審決が認定した甲1発明の構成は、外部電源が完全に不要な\n発光モジュールである上記「導光板10」に、これに埋設された「ランプ板
50」、「電池40」等を密封するための「収容溝カバー70」を設け、本
件発明1の「底板」に相当する「スカッフプレート80」の上面には「凹部」
を設け、この「凹部」に発光モジュールである上記「導光板10」を収容す
るものである。
そうすると、甲1発明においては、電池40が導光板10内に埋設される
ことを含め、「導光板10」に係る上記構成は課題解決に直結した構\成であ
ると理解するのが自然であり、本件審決のいう「甲1電池収容構成」もこれ\nと同趣旨と認められる。
加えて、甲1公報には、電池の交換についての記載はなく、甲1発明に接
した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点1に係
る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)導光板10
に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設け、当該電
池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)該収容孔を覆うカバーを設け、
該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)スカッフプレート
80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設されているランプ
板50等との電気接続を行うという変更が必要になることは、本件審決が認
定するとおりである。
甲1発明をこのように変更することは、課題解決に直結した構成である\n「甲1電池収容構成」を変更するものであることと併せると、動機付けはな\nいといわざるを得ず、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
また、甲8公報からは、表示部を有し電池を電源とする電子機器において、\n表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能\なカバーを設けるこ
とは技術常識であるといえるが、甲1発明のように独立したモジュールが設
けられ、底板(スカッフプレート80)の凹部にモジュールを収容する電子
機器において、裏側からモジュール内部の電池を交換することまでが技術常
識であったとは認めるに足りない。
甲2公報については、甲1発明のスカッフプレート80、すなわち底板に
相当する部材がないから、下側から電池カバーを設けるという抽象的な点を
もって「甲1電池収容構成」と置換可能\ということはできない。
(2) 原告は、甲1発明において収容溝カバー70の取外しは想定されており、
外部から電池40を交換することは当業者が想起し得る旨主張するが、甲1
発明において収容溝カバー70の取外しが可能か否かは不明であるし、仮に\n取外しが可能であれば、取り外すことにより電池交換が可能\と考えられるか
ら、むしろ、電池交換のため底板(スカッフプレート80)に電池収容孔と
電池カバーを設ける構成に変更する必要性は乏しいといえる。\nそうすると、原告の上記主張を考慮しても、上記の構成変更に係る動機付\nけは否定せざるを得ない。
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2024.02.16
令和4(行ケ)10123 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
周知技術であっても、適用する動機づけがないとした審決が維持されました。
相違点2〜4は密接に関連するものであるから、事案に鑑みこれを一括し、
甲1発明に周知の技術的事項1及び周知の技術的事項2を適用して、相違点
2〜4に係る本件発明1とすることが容易になし得るかについてまず検討
する。
ア 甲1発明への周知の技術的事項1の適用について
(ア) 周知の技術的事項1は、半導体ウェーハの表面を加工する際の焦点の\n位置を調節するものであり、甲3〜5には、半導体ウェーハの表面以外\nの部位を加工する際の課題や解決手段についての記載はない。また、周
知の技術的事項1は、加工対象物に反りがあることを課題とする解決手
段である。
一方、甲1発明は、前記(1)オのとおり、加工対象物の内部に集光点を
合わせて改質領域を形成し、切断予定ラインに沿って加工対象物を割る\nというものである。また、甲1には、加工対象物の反りについての記載
はない。加えて、甲1には、溶融処理領域を切断予定ラインに沿うよう\nに加工対象物の内部に形成する工程において、レーザ光の集光点につい
てZ軸方向の制御をすることについての記載もない。
そうすると、甲1発明に周知の技術的事項1を適用すべき動機付けは
認められないというべきである。
(イ) 原告は、前記第3の1(1)ア(ア)(イ)のとおり、焦点の位置が加工対象
の表面か、内部であるかにかかわりなく、振動などの外的要因により、\n集光が不安定になることから、加工中の集光点のAF制御が必要になる
のは、当業者の技術常識であり、甲1において、周知の技術的事項1(A
F制御)が明示的に記載されていないとしても、当業者であれば記載さ
れているに等しいと認識し、また、シリコンウェハは一般に反るもので
あり、当業者は反ったシリコンウェハが加工対象となることも認識する
旨主張する。
しかし、甲1発明は、加工対象物の内部に集光点を合わせて改質領域
を形成し、切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものであり、\nその目的や機序からして、加工対象物の表面からレーザ加工する従来技\n術と本質的に異なるのであるから、甲1に半導体ウェーハの表面の加工\nの際の技術である周知の技術事項1が記載されているに等しいとはい
えないし、甲1にはシリコンウェハの反りについて何らの言及もないの
であって、原告の主張は採用できない。
(ウ) 原告は、前記第3の1(1)ア(ウ)のとおり、本件審決が、甲1発明にお
ける集光点のZ軸方向のずれの許容幅の大きさを指摘し、これを根拠に
周知の技術的事項1の適用を否定する判断をしたのは誤りであるとし、
その理由として、1)本件出願日の時点において、厚さ30μmまでの薄
型シリコンウェハも甲1発明の加工対象となり得るところ、加工中の集
光点をウェハ内に収める必要があること、2)甲1の105頁15〜23
行に、比較的厚いウェハの場合にも、改質領域のZ方向の位置が割断精
度に影響を与える旨の記載があること、3)セミフルカットでも改質領域
の深度のばらつきによりクラック等の問題が生じることからすれば、セ
ミフルカットより改質領域以外の部分が大きいステルスダイシングに
おいて、改質領域の深度がばらつけば、チップ分割に支障を来すであろ
うことから、当業者がAF制御の必要性を理解する旨を主張する。
しかし、1)に関し、甲38、39は、薄型シリコンウェハがステルス
ダイシングの加工対象となることを示すものであるが、それが直ちに甲
1発明においてZ方向のAF制御の必要性を導くものではない。
また、原告が2)において引用する甲1の記載は、「クラック領域9と
表面3の距離が比較的長いと、表\面3側においてクラック91の成長方
向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が電子デバイス等の
形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等が損傷
する。クラック領域9を表面3付近に形成すると、クラック領域9と表\
面3の距離が比較的短いので、クラック91の成長方向のずれを小さく
できる。よって、電子デバイス等を損傷させることなく切断が可能とな\nる。但し、表面3に近すぎる箇所にクラック領域9を形成すると、クラ\nック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもの\nのランダムな形状が加工対象物の表面に現れ、表\面3のチッピングの原
因となり、割断精度が悪くなる。」というものであるが、これは、改質
領域を形成する深さ方向の位置は加工対象物の表面に近いことが望ま\nしいが、近すぎてもいけないという程度のことを述べるにすぎず、形成
位置を特定したり、それが一定でなければならないとするものではなく、
まして、AF制御の必要性を示すものでもない。また、甲1には、「図
98に示すクラック領域9は、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物
1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位\n置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工対象物1の
内部中の表面3側に形成される。」(105頁1〜4行)、「なお、パ\nルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半
分の位置より表面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成する\nこともできる。この場合、クラック領域9は加工対象物1の内部中の裏
面21側に形成される。」(105頁24行〜106頁1行)等の記載
もあり、甲1発明においては、シリコンウェハ内部の改質領域の位置は
シリコンウェハの厚み方向において厚みの半分の位置より表面に近い\n位置の近くから、厚みの半分の位置より表面に遠い位置まで、ある程度\nの幅をもって設定され得ると理解できるのであり、当業者が、甲1発明
において、X、Y軸ステージの振動やウェハの反りにより、レーザ光の
集光点がずれること、すなわち改質領域の位置がずれることが、直ちに
シリコンウェハの割れに影響を及ぼすと理解することはないというべ
きである。
そして、3)に関し、セミフルカットとステルスダイシングは切断の原
理、機序が異なるのであり、前者で改質領域の深度のばらつきにより問
題が生じるからといって、後者においても同様であると当業者が認識す
るとはいえない。
(エ) 以上のとおりであって、原告の主張するところを踏まえても、甲1発
明に周知の技術的事項1を適用することが当業者にとって容易になし
得たとはいえない。
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2024.02.16
令和5(行ケ)10046 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
除くクレーム「・・全量に対して0〜10体積%であるものを除く。」について、進歩性無しとした審決が維持されました。
以上の甲5の1〜3の記載を総合すれば、角栓除去用クレンジング組成
物において、クレンジング機能(洗浄性)、ウォッシュオフ機能\(水での
洗い流し性)、角栓除去機能、皮膚への負担を考慮して、界面活性剤を1\n0〜20質量%程度、すなわち10体積%を超える量で配合することは、
本件優先日前における当業者の技術常識であったと認められる。
他方、甲5の1には「5〜10質量%」、甲5の2には「10質量%」
の界面活性剤を含むクレンジング剤等が記載されていること自体は、原
告の主張するとおりであるが、本件除く構成における「0〜10体積%\nであるものを除く」との特定は、「0体積%〜100体積%」から「0〜
10体積%であるものを除く」範囲のものであるため、結局、「10体
積%超」の範囲である(「10体積%より多く配合する」)ことを意味す
るものにほかならない。そうすると、構成の容易想到性を判断するに当\nたっては、甲1発明において、界面活性剤の配合量を「10体積%超」
とする(「10体積%より多く配合する」)ことを、当業者が容易に想到
できたことの論理付けができるかを検討すれば足りる。甲5の1〜3が
「0〜10体積%」の界面活性剤を配合したものを含むとしても、その
ことが本件発明と甲1発明との相違点に係る容易想到性を判断する上で、
どのような意味を有するのか、原告の主張によっても明らかでない。
ウ また、本件除く構成の数値限定が顕著な効果を有するものであれば格別、\n本件発明はそのようなものとも認められない。
すなわち、本件明細書によれば、本件発明の効果は、「タンパク質を簡
便に抽出できるため、皮膚に付着したタンパク質を抽出洗浄することが
可能な液状化粧品(「タンパク質洗浄用の液状化粧品」)として好適に使\n用できる」というものであり(【0064】)、「また、本発明のタンパク
質抽出剤は、界面活性剤等を含まなくとも、優れたタンパク質抽出効果
を奏する」ことから、「本発明のタンパク質抽出剤によれば、皮膚への負
担を低減しつつ、所望の洗浄効果が得られる」というものである(【00
65】)。
しかしながら、界面活性剤配合量に関しては、本件明細書の実施例1
6、18及び20が界面活性剤(Tween 80、Span 80)を含む組成の溶液
であるが、「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」量で配合し
たものが存在しないことは前記のとおりである上、試験管内でタンパク
質抽出作用を確認しただけで、皮膚に対する洗浄効果は確認されていな
い。角栓の除去については、実施例13において角栓のある皮膚に対す
る洗浄効果を確認する唯一の実施例が記載されているものの、第2のタ
ンパク質抽出剤Aを含むタンパク質抽出剤を使用した結果、石けんと比
較して「高い洗浄効果を示した」こと、「本発明のタンパク質抽出剤は、
クレンジング剤として好ましく使用できる」ことが示されているのみで
(【0149】)、その組成は界面活性剤を含まないものである(【007
3】、【0138】〜【0141】、【0149】)。そうすると、本件発明
において界面活性剤を「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」
量で配合することにより、「角栓除去用液状クレンジング剤」が具体的に
どのような顕著な効果を奏するのかは不明であるといわざるを得ない。
以上に加え、甲1には「角栓やメラニンを含む古い角質や酸化した汚
れもすっきり。」との角栓の除去機能についての記載があることからする\nと、本件発明による上記程度の効果は、当業者が予測し得たものにすぎ\nない。
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2024.02.15
令和5(行ケ)10020等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年1月23日 知的財産高等裁判所
パラメータを含む特許について、無効審決が取り消されました。
クレーム1は「・・外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.39×10−3/Dという関係を満足するものとし、・・・」でした。
(3) 相違点3Aに係る容易想到性についての検討
前記1に認定した本件各発明の概要によると、本件発明3の相違点3Aに係る構\n成は、杭の全塑性の要求性能を満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に\n伴う建設コストの増加との課題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることに\nより解決を図るべく、変形性能の指標として曲率φpを用い、少なくとも陸側に対\n面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ変形性能の\n高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において曲率φpを越えないようにした
ものである。
ここで、前記(2)のとおり、甲1発明が属する鋼管杭式桟橋においては、鋼管杭に
高強度鋼管を採用することは周知技術であって、また、本件出願日当時、技術1)(直
杭式横桟橋の性能照査では、杭に発生する応力、杭の支持力、変形量を適切に設定\nして検討すること、杭の断面力は深さ方向に変化し、地中部の深いところでは小さ
くなるのが一般的であるため、経済性の観点から鋼管杭の板厚又は鋼種を変更する
ことがあること)、技術2)(鋼管杭に生じる軸力及び曲げモーメントに応じて杭の曲
げ剛性を低下させて解析を行うこと)、技術3)(杭の断面力は、深さ方向に変化し、
地中部の深いところで小さくなるため、経済性の観点からは鋼管杭の板厚及び材質
を地中部の発生断面力に応じて変更することが望ましいこと)、技術4)(計画水深が
深い岸壁では、強度の大きいSTK490の鋼管杭を用いている例が多くなるこ
と)、技術5)(陸側の地中部において下杭よりも上杭の板厚を大きくすること)及び
技術6)(鋼管杭の部材として、一般に用いられているSKK400及びSKK49
0よりも基準降伏点の高い鋼管杭が、高支持力杭が普及し始めている建築分野にて
商品化されていること)等の技術が公知であったことが認められるが、いずれの技
術によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コストの増加を回避する\nため、甲1発明の「鋼管杭」を、変形性能の指標として曲率φpを用いた上で、少\nなくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分
にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該部分での発生曲率が曲率φ\npを越えないようにすることは導出できないといわざるを得ないし、このような構\n成を得ることが甲1発明及び上記周知技術又は各公知技術に接した当業者が通常行
うべき試行錯誤の範囲内のものということもできない。
したがって、当業者であっても、甲1発明の「鋼管杭」につき、相違点3Aに係
る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1発\n明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明することがで
きたものということはできない。
(4) 相違点3Bに係る容易想到性についての検討
本件発明3の相違点3Bに係る構成は、前記(3)のとおり、杭の全塑性の要求性能\nを満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に伴う建設コストの増加との課
題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることにより解決を図るべく、変形性\n能の指標として曲率φpを用い、鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分に\nのみ変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において全塑性モーメン\nトに対応する曲率を越えないようにしたものである。
甲13発明の「鋼管杭」は、少なくとも陸側の鋼管杭の地中部は、φ1300m
m×16tのSKK490からなる上杭の下方にφ1300mm×13tのSKK
400からなる下杭で構成されており、技術3)及び4)によると、上杭部分の強度は
下杭部分よりも大きいといえる。しかし、前記(3)と同様に、前記周知技術及び公知
技術(技術1)〜6))によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コスト\nの増加を回避するため、上杭と下杭とからなる甲13発明の「鋼管杭」を、変形性
能の指標として曲率φpを用いた上で、少なくとも陸側に対面して配置された鋼管\n杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭\nを用いて、当該部分での発生曲率が曲率φpを越えないようにすることは導出でき
ないといわざるを得ないし、このような構成を得ることが甲13発明及び上記周知\n技術又は各公知技術に接した当業者が通常行うべき試行錯誤の範囲内のものという
こともできない。
したがって、当業者であっても、甲13発明の「鋼管杭」につき、相違点3Bに
係る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1\n3発明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明すること
ができたものということはできない。
(5) 被告の主張について
ア 被告は、「杭の断面力(曲げモーメントを含む概念である。)は深さ方向に変
化するため、深さや発生断面力に応じ杭の材質・鋼種を変更することがある」との
周知技術が認定でき(技術1)、3)参照)、これは典型的には降伏強度の異なる鋼管杭
を用いることである上、「強度の観点のみならず経済性の観点から鋼管杭の板厚及
び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」、「杭全体のうち、大きい曲げモ
ーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を用いること」、「杭に生じ
る曲げモーメントが大きい箇所において全塑性モーメントに達しないように設計す
ることが望ましいこと」がいずれも技術常識であり、鋼管杭の設計に際しどのくら
いの降伏強度の鋼管杭とするかは周知技術に基づき適宜設計されるものだから、相
違点3A又は3Bに係る構成は、周知技術又は技術常識から導出し得る旨主張する。\nしかし、本件審決が説示するとおり、被告は、「強度の観点のみならず経済性の観
点から鋼管杭の板厚及び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」や「杭全
体のうち、大きい曲げモーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を
用いること」が技術常識であることをいかなる証拠の記載から認定できるかを具体
的に指摘していない上、仮に、これらが技術常識であるとしても、これらを組み合
わせる動機付けや、組み合わせた結果からどのようにして相違点3A又は3Bに係
る構成が導出されるかにつき、技術的視点に基づいた具体的な主張をしていない。\nそして、前記のとおり、周知技術及び公知技術(技術1)〜6))によっても、甲1発
明の「鋼管杭」又は甲13発明の「鋼管杭」を、相違点3A又は3Bに係る構成に\nすることは導出できず、そのような構成を得ることが、当業者が通常行うべき試行\n錯誤の範囲内ということもできない。
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2023.12.14
令和4(ワ)5553 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年12月7日 大阪地方裁判所
特許は公然実施による新規性違反があるとして、権利行使不能と判断されました。時期に後れたとの主張は認められず、また、訂正の再抗弁も認められませんでした。
前記認定事実アによれば、本件プレイヤードの部材Aは本件発明の縦枠に、
部材Bは側面シートに、部材Cは底面シートにそれぞれ相当し、部材Gに固定され
た部材Aの下端部分は、部材Cの六角形の頂点にあたる部分に部材Dを介して固定
され、外側への移動が制限されているものと認められる。そうすると、本件プレイ
ヤードは、「環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材A(縦枠)と、
隣り合う部材Aを渡すように張られメッシュ部B1を有する部材B(側面シート)
と、底面に位置する非伸縮性の部材C(底面シート)と、を備え、部材Cは平面視
において多角形の形状を有しており、各部材Aの下端部分は非伸縮性の部材Cの多
角形の頂点にあたる部分に(部材Dを介して)固定され外側への移動が制限されて
いる、プレイヤード」との構成を有するものということができるから、本件発明の\n各構成要件を充足する。\n
そして、特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多
数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記認定事実イ
のとおり、被告は、本件特許出願前の平成17年頃、カタログに本件プレイヤード
を掲載して需要者に対して販売していたから、その内容を不特定多数の者が知り得
る状況で本件発明を実施したものと認められる。
(4) 原告は、本件無効審判事件の進行状況等に照らすと、被告による乙第12
号証を証拠とする無効理由の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下される
べきである旨の申立て(民訴法157条1項に基づくものと理解される。)をする。\nしかし、攻撃防御方法の提出について時機に後れたかどうかは、本件訴訟の具体的
な進行状況等に即して判断されるべきである。そして、原告の訂正の再抗弁等に対
するものとして、乙第12号証及びこれに基づく無効理由を主張する被告の準備書
面(1)が令和5年2月15日に提出されたところ、その時点では、書面による準備
手続における協議が重ねられ、争点及び証拠の整理手続中(いわゆる心証開示前)
であり、被告が故意又は重大な過失により当該攻撃防御方法を提出したとか、それ
により訴訟の完結が遅延するなどの客観的な事情があったとは認められないから、
原告の前記申立ては理由がないものとして却下する。\n
(5) 以上のとおり、本件発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施
された発明であって、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきものである
から、後記3で検討する訂正の再抗弁が成り立たない限り、原告は、被告に対し、
本件特許権を行使することができない(特許法123条1項、104条の3第1項、
29条1項2号)。
3 訂正の再抗弁の成否(争点3)について
本件訂正により、本件プレイヤードに基づく新規性欠如(前記2)の無効理由が
解消されるか否かにつき検討する。
(1) 原告は、本件訂正発明と本件プレイヤードを対比すると、1)本件訂正発明
の接続テープは各縦枠に対して取外しできるように構成されているのに対し、本件\nプレイヤードの部材Dは部材Aに対して取外しできるように構成されていない点、\n2)本件訂正発明の側面シート及び底面シートは各縦枠に対して取外し可能に構\成さ
れているのに対し、本件プレイヤードの部材B及び部材Cは部材Aに対して取外し
可能に構\成されていない点の2つの相違点があるから、本件訂正により本件プレイ
ヤードに基づく新規性欠如の無効理由は解消される旨主張する。
(2) しかしながら、前記2(2)ア認定のとおり、本件プレイヤードにおいては、
各部材Aの下端部分は、接地部材Gが受けて固定しているところ、部材Cに取り付
けられた部材D(テープバンド)が部材Gに挟み込まれて2か所でねじ止めされて
(以下「本件ねじ止め」という。)、各部材Aの下端部分が(部材Dを介して)部
材Cに固定されている。そして、本件ねじ止めは、タッピングねじによるものであ
るが、ねじの取外しをすることは可能であり、このねじを取り外せば、部材Dを部\n材Aの下端部分が固定されている部材Gから取り外すことができるから、部材Dは、
部材Aに対して取外し可能であると認められる。\nまた、前記のように部材Dを部材Aから取り外せば、部材Dが取り付けられてい
る部材C及びこれと一体に形成されている部材B(前記2(2)ア)も部材Aから取
り外すことができるものと認められる。
そうすると、本件訂正発明と本件プレイヤードの対比において、原告が主張する
前記(1)の1)及び2)の相違点はいずれも認めることができない。
(3) これに対し、原告は、本件ねじ止めはタッピングねじによるものであると
ころ、同ねじは、日常的に繰り返し取り外す必要がある部位には使用されないもの
であるから、本件プレイヤードは、使用者が再組立できなくなる等のリスクを冒し
てまで、部材Dや部材B及び部材Cの「取外し」を行うことは想定されていない旨
主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件Xは「…各縦枠に対して取外しできる\nように構成されている接続テープを備え」、構\成要件Yは「前記側面シート及び前
記底面シートが…各縦枠に対して取外し可能に構\成されている」というものである
ところ、取外しの具体的な態様や頻度等について何ら限定をしていない。そうする
と、タッピングねじによる本件ねじ止めは、その構造上も実際上も取外し可能\であ
る以上、本件プレイヤードの構成につき、本件訂正発明の前記各構\成要件との相違
点を認めることはできず、原告の主張は採用できない。
また、原告は、本件プレイヤードは「WATERPROOF」、つまり防水性の
製品であって、洗濯機での洗濯や脱水は危険であることから、市販製品の一般的な
意味での「取外し」はできず、このような製品を「取外し可能」と評価することは\nできない旨主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件X及びYにおいて、「取外\nし」の目的が特定されているものではないし、本件明細書の段落【0013】の記載
(「この構成によれば、側面シートと底面シートを縦枠から取り外して洗うことが\nできるため、幼児用サークルを清潔に保つことができる。」)を参酌するとしても、
その洗い方が洗濯機によるものに限定されているものではないから、原告の主張は
採用できない。
(4) したがって、本件訂正によっても、本件プレイヤードに基づく新規性欠如
の無効理由は解消されないから、原告の訂正の再抗弁は成り立たない。
◆判決本文
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2023.10.14
令和5(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月3日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、進歩性無しとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。\n
◆本件特許6865989号
については、無効審判で無効判断がなされてますが、確定前に取り下げられています。無効審判請求人は、被告ではありません。
控訴人は、授乳室は最適の場所に設置されるものであり、通常は移動が考
えられないから、乙6発明に授乳室の移動を容易にするという動機付けが内
在しているとはいえない旨主張する。
しかし、乙6文献の記載によれば、乙6発明に係る授乳室は設置場所の
壁と床から独立した部材からなる筐体であり、これを既存の建物内に搬入す
る形で設置したものと認められるから、設置場所の変更や一時的な退避等の
理由による移動を行うことも十分想定されるものである。乙6発明は移動を\n容易にするという動機付けを内在しているというべきであり、控訴人の主張
は採用できない。
(2) 控訴人は、乙6発明と本件各引用文献記載の技術事項は技術分野が異なり、
乙6発明の属する「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」
技術分野においては、筐体にキャスターを付けることが周知技術であるとは
いえない旨主張する。
しかし、本件発明と乙6発明の相違点である「筐体を移動させるキャス
ターを備えること」(本件発明の構成要件E)の技術的意義についてみると、\n本件明細書の記載(【0009】「キャスターを利用して授乳用ユニットを
適切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成された
授乳エリアを設置することができる。」、「キャスターを利用して授乳用ユ
ニットを移動させるだけで…授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ
とができる。」、【0032】「…このように筐体4の底面7にキャスター
36が設けられているため、キャスター36を利用して、地面上で授乳用ユ
ニット1を簡易に移動させることができる。」、【0033】「このように、
本実施形態に係る授乳用ユニット1は、キャスター36を利用して地面上を
移動させることができると共に、固定部材37により任意の位置に固定する
ことができる。この構成のため、以下の効果を奏する。…本実施形態によれ\nば、所定の空間に、授乳用ユニット1を持ち込み、キャスター36を利用し
て、適切な位置に授乳用ユニット1を移動させて、固定部材37で位置を固
定するという簡単な作業を行うのみで、授乳者がプライバシーが完全に保護
された状態で授乳を行うことが可能な授乳用空間3を設けることができ\nる。」、【0034】「さらに、本実施形態によれば、授乳用ユニット1は、
キャスター36を利用して地面上を移動させることができるため、授乳エリ
アのレイアウトの変更も容易である。」)によれば、本件発明においても、
授乳中に筐体を移動させることまで想定しているとは認められず、単に内部
の空間に利用者が入ることが可能な筐体を簡易に移動させることができるよ\nうにすることにあると認められる。
このような構成要件Eの技術的意義からみると、本件各文献記載の技術\n事項において、筐体に人を収容する目的が異なるからといって本件発明と技
術分野が異なるなどということはできない。
さらに、本件各引用文献のうち、乙5公報に記載された発明の内容は、
「少なくとも周囲の人の視線を遮ると共に、内部に保育空間を画成する遮蔽
体からなる本体」と「扉」が取り付けられたものであるから(乙5)、「プ
ライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」ものと認められるし、
その他の本件各引用文献の記載内容も、筐体に人を収容する目的はそれぞれ
異なるものの(乙13公報は感染性疾患を有する患者の治療、乙14文献は
内部で仕事や読書をするためのパーソナル空間、乙15文献は高気圧酸素環\n境での有酸素運動、乙16公報は浴室、乙17公報は居室内の個室)、いず
れも外部の視線を遮り、プライバシーを守る目的又は効果を有する筐体に関
するものである。控訴人の上記主張は、いずれにせよ採用できない。
(3) 控訴人は、乙6発明には、授乳室を当初設置した場所から移動することに
よる利用者の利便性の低下、スペースが十分に確保されていない場所への移\n動による人の動線の悪化、人目の届かない場所等への設置による利用者の安
全性の低下又は巡回のための町役場職員の業務増加等、移動による支障が非
常に大きいという阻害要因がある旨主張する。
しかし、控訴人の主張する内容は不適切な場所に移動した場合の弊害に
すぎないから、乙6発明に適切な場所への移動を容易にするための移動手段
を設けることについての阻害要因があるとはいえない。
(4) 控訴人は、本件発明は予測できない顕著な効果を有する旨主張する。\n しかし、1)簡易迅速な授乳室の移動を可能・容易にすること、2)授乳用空
間の増設やレイアウト変更を実現することは、いずれもキャスターを付ける
ことによる通常の効果であり、3)利用者による授乳室周辺への回遊の促進を
実現すること(例えば、フードコート付近に設置することによるフードコー
トの利用者の増加〔甲33〕)は、適切な場所に授乳室を設置することによ
る効果であり、いずれも予測できない顕著な効果ということはできない。\n
(5) 以上のとおり、控訴人の当審における補充的主張はいずれも採用できず、
原審が判断するとおり、本件発明は、当業者が乙6発明に周知技術を組み合
わせることにより容易に発明をすることができたものと認められ、本件発明
は特許無効審判により無効にされるべきものである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)16934
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2023.10.11
令和5(行ケ)10023 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年10月3日 知的財産高等裁判所
特許異議申立で取消審決がなされましたが、特許権者は知財高裁に取消訴訟を提起しました。知財高裁は、請求項の「内接」の意義を定義した上、審決を維持しました。出願人は「ドクター中松」で、本人訴訟です。
本件特許はこれです。多数の分割出願があります。
◆本件特許
(1) 本件発明は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複数の翼に内接させるこ
とでプロペラガードとして兼用するとの構成を備えるものであるところ、個別の取消事由の検討に入る前に、ここでいう「内接」及び「プロペラガード\nとして兼用」の意義を明らかにしておく。
(2) 「内接」とは、国語辞典に「多角形の各辺がその内部にある一つの円に
接する時、その円は多角形に内接する…」との用例が挙げられているとおり
(甲11)、図形の各辺とその内部の円などが接していることを表す用語である。\n
本件明細書の【0013】には、「図8は本発明第5の実施例で、上下用
プロペラ4つの回転軌跡39を全部内接させ、プロペラガードを設けずに4
枚の主翼24と先尾翼28と尾翼29をプロペラガードに兼用させたもので
ある」との説明が記載され、図8には、上昇下降用の4つのプロペラが示さ
れ、うち翼の間に配置された左右2つのプロペラの回転軌跡がそれぞれ前後
の主翼24と接するように示されている。
同様に、図7、9においても、翼の間に配置された上昇下降用の複数のプ
ロペラの回転軌跡が前後の翼に接するように示されており、これに本件明細
書の【0012】〜【0014】(前記第2の2(2)イ)の記載を総合すれ
ば、図7〜9に係る第4〜6実施例は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複
数の翼に内接させることでプロペラガードとして兼用するとの構成を示すものと解される。\nもっとも、プロペラの回転軌跡と翼が文字通り接する(接触する)場合、
プロペラの回転が妨げられることが明らかであるから、本件発明の「内接」
とは、プロペラの回転軌跡が翼と接触するには至らない限度で十分に近接していることを意味するものと解される。\n
(3) そして、本件発明の「プロペラガードとして兼用」とは、特許請求の範
囲の記載に示されているとおり、複数の翼の間に配置された上昇下降用プロ
ペラの回転をガードする機能をいうものであり、この機能\は、複数の翼の間
に配置された上昇下降用プロペラの回転軌跡を前方又は後方の複数の翼に内
接させることによって生じるものであると認められる。また、本件発明の上記第4〜6実施例(図7〜9)では、複数の翼の間に配置された上昇下降用プロペラの回転軌跡の一部のみが翼に内接する構成が示されていることから、上昇下降用プロペラの回転軌跡の少なくとも一部が翼に内接していれば、翼がプロペラガードとして機能\するものと解される。
(4) 原告は、「内接」とは「プロペラ軌跡が両翼に挟まれ、かつ両翼端部を結んだ線を出ないことを意味する」とも主張するが(上記第3の1(2)ア)、図7〜9の実施例がそのような構成を有するものだとしても、特許請求の範囲に当該構\成を加える訂正(減縮)をしたわけでもないのに、「内接」という文言自体をそのような限定的な意味で解釈することは許されないというべきである。
◆判決本文
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2023.10.10
令和4(ネ)10094 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月5日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、分割の遡及効が認められず、親出願から新規性違反の無効理由有りと判断していましたが、知財高裁はサポート要件違反ありとして権利行使不能と判断しました。
当裁判所は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載には、分割出願が適法である
か否かにかかわらず、サポート要件違反があり、本件訂正が有効であったとしても、
サポート要件違反があることが認められるから、結局、本件特許は特許法36条6
項1号違反により無効にされるべきものであり、同法104条の3第1項により、
原告は被告に対し、本件特許権を行使することはできないと判断する。その理由は、
以下のとおりである。
(2) 本件についてみると、本件明細書(以下、原出願当初明細書も同じ。)には、
「発明が解決しようとする課題」として、「出願人は、1234yf等の新たな低地
球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在すること
を見出した。」(【0003】)との記載がある。また、「本発明によれば、HFO−1234yfと、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HCFC−243
db、・・・caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化
合物とを含む組成物が提供される。組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約
1重量パーセント未満を含有する。」(【0004】)、「HFO−1234yfには、いくつかある用途の中で特に、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤
としての用途が示唆されてきた。また、HFO−1234yfは、V.C.Pap
adimitriouらにより、Physical Chemistry Che
mical Physics、2007、9巻、1−13頁に記録されているとお
り、低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である。このよ
うに、HFO−1234yfは、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補である。」
(【0010】)といった記載に、【0013】、【0016】、【0019】、【0022】、【0030】、【図1】の記載を総合すると、本件明細書には、HFO−1234yfが低地球温暖化係数(GWP)を有することが知られており、高GWP飽和HF
C冷媒に替わる良い候補であること、HFO−1234yfを調製する際に特定の
追加の化合物が少量存在すること、本件発明の組成物に含まれる追加の化合物の一
つとして約1重量パーセント未満のHFC−143aがあること、HFO−123
4yfを調製する過程において生じる副生成物や、HFO−1234yf又はその
原料(HCFC−243db、HCFO−1233xf、HCFC−244bb)
に含まれる不純物が、追加の化合物に該当することが記載されているということが
できる。
しかるところ、HFO−1234yfは、原出願日前において、既に低地球温暖
化係数(GWP)を有する化合物として有用であることが知られていたことは、【0
010】の記載自体からも明らかである。したがって、HFO−1234yfを調
製する際に追加の化合物が少量存在することにより、どのような技術的意義がある
のか、いかなる作用効果があり、これによりどのような課題が解決されることにな
るのかといった点が記載されていなければ、本件発明が解決しようとした課題が記
載されていることにはならない。しかし、本件明細書には、これらの点について何
ら記載がなく、その余の記載をみても、本件明細書には、本件発明が解決しようと
した課題をうかがわせる部分はない。本件明細書には、「技術分野」として、「本開
示内容は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニ
ング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよ
びポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にあ
る消火剤として有用な組成物の分野に関する。特に、本開示内容は、2,3,3,
3,−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)また
は2,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243db
または243db)、2−クロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−
1233xfまたは1233xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフ
ルオロプロパン(HCFC−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有
用な組成物に関する。」(【0001】)との記載があるが、同記載は、本件発明が属
する技術分野の説明にすぎないから、この記載から本件発明が解決しようとする課
題を理解することはできない。
そうすると、本件明細書に形式的に記載された「発明が解決しようとする課題」
は、本件発明の課題の記載としては不十分であり、本件明細書には本件発明の課題が記載されていないというほかない。そうである以上、当業者が、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することができるというこ\nともできない。
(3) 仮に、上記【0001】の記載をもって本件発明の課題を説明したものと理
解したとしても、次に述べるとおり、本件明細書の記載をもって、当業者が当該課
題を解決することができると認識することができるとは認められない。
すなわち、この場合の本件発明の課題は、「2,3,3,3,−テトラフルオロプ
ロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)または2,3−ジクロロ−1,
1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243dbまたは243db)、2−ク
ロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xfまたは123
3xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC
−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物を提供すること」
と理解されることとなるはずである。
そして、本件発明は、1)HFO−1234yf、2)0.2重量パーセント以下の
HFC−143a、3)1.9重量パーセント以下のHFC−254ebを含む組成
物によって、当該課題を解決するものということになる。
しかるところ、本件明細書には、上記1)〜3)を含む組成物についての記載がされ
ているとはいえない。すなわち、【0121】〜【0123】(表5(【表\6】))には、実施例15として、HCFC−244bbからHFO−1234yfへ、触媒無しで変換したところ生じた、HFO−1234yf、HFC−143a及びHFC−
254ebを含む組成物が4例記載されており(加熱された温度(゜C))がそれぞれ
550、574、603、626)、当該組成物に含まれるHFC−143aの量が
それぞれ、0.1、0.1、0.2、0.2モルパーセントであること、及び同H
FC−254ebの量がそれぞれ1.7、1.9、1.4、0.7モルパーセント
であることが記載されている。しかしながら、表5(【表\6】)に記載された組成物
には「未知」のものが含まれており、その分子量を知ることができないから、同表において、モルパーセントの単位をもって記載されたHFC−143a及びHFC−254ebの含有量を、重量パーセントの含有量へと換算することはできない。\nそうすると、本件明細書には、上記1)〜3)の構成を有する組成物についての記載がされていないというほかない。それのみならず、本件明細書には、このような構\成を有する組成物が、HFO−1234yfの前記有用性にとどまらず、いかなる意
味において「有用」な組成物になるのか、という点について何ら記載されておらず、
示唆した部分もない。したがって、当業者が、本件明細書の記載から、上記1)〜3)
の構成を有する組成物が、熱伝達組成物として「有用な」組成物であるものと理解することもできない。したがって、当業者は、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することはない。
(4) 以上のとおり、分割出願が有効であり、出願日が原出願日(平成21年5月
7日)となると考えたとしても、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、サポー
ト要件に適合するということができないから、本件発明に係る特許は、無効審判請
求により無効とされるべきものである(特許法123条1項4号、36条6項1号)。
そして、このことは、分割出願が無効であり、出願日が分割出願の日(令和元年9
月4日)となる場合でも同様である。
3 争点3(訂正の再抗弁の成否)について
本件訂正発明についても、本件発明に係る請求項1のHFO−1234yfにつ
いて「77.0モルパーセント以上」という下限が設定されただけで、本件訂正後
の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合しても、当該下限にどのような技術
的意義があり、これによりどのような課題を解決することができるのかは明らかに
されていない。また、前記2(2)及び(3)と同様、本件訂正発明に係る組成物の構成により解決しようとしている課題や、その解決方法が本件明細書に記載されていないことには変わりはない。したがって、訂正が有効だとしても、本件訂正発明に係\nる特許請求の範囲の記載には、前記2(2)及び(3)と同じ理由により、サポート要件
違反の無効理由が存在することとなるので、訂正の再抗弁によりサポート要件違反
の無効理由を解消することはできない。
そうすると、本件訂正の適法性及びその余の争点につき判断するまでもなく、特
許法104条の3第1項により、原告は被告に対し、本件特許権を行使することが
できない。
本件特許の無効審決審決取消訴訟です。
◆令和4(行ケ)10126
◆令和4(行ケ)10125
侵害訴訟の1審はこちらです。
1審は、新規性違反を理由として、権利行使不能と判断していました(特104-3)。
◆令和3(ワ)29388
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2023.08.23
令和4(行ケ)10108 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年8月10日 知的財産高等裁判所
出願人ディズニーの拒絶査定不服審判の審取です。審決維持です。争点は周知技術への置換の動機づけがあるかです。
(2) 本件周知技術の甲1発明への適用に係る動機付けについて
甲1の記載及び弁論の全趣旨によると、甲1発明は、HDRビデオにおけるトー
ンマッピングの方法に関する発明であると認められる。これに対し、甲2ないし4
の記載及び弁論の全趣旨によると、本件周知技術も、HDRビデオにおけるトーン
マッピングの方法に関する技術であると認められるから、甲1発明と本件周知技術
は、その属する技術分野を同一にするといえる。
また、甲1の記載及び弁論の全趣旨によると、甲1発明は、トーンマッピングさ
れたビデオの各フレームの間の輝度の差を小さくし、受信画像をより自然なものに
するため、トーンマッピング関数を徐々にしか変化させないものとするとの課題を
有すると認められる。これに対し、本件周知技術は、その内容に照らし、トーンマ
ッピングするビデオの各フレームに適用されるトーンマッピング関数を徐々に変化
させるための技術であると認められるから、本件周知技術は、甲1発明の上記課題
を解決するための技術であるといえる。
加えて、甲3の記載によると、本件周知技術(甲3にいうトーンカーブ補正部1
42の第2の構成例に係るもの)は、甲1発明のようにあらかじめ用意されている\nルックアップテーブル(LUT)により時間的な変化が小さいトーンマッピング関
数を使用するとの構成(甲3にいうトーンカーブ補正部142の第1の構\成例に係
るもの)に代えて採用し得るものと認められる。
以上によると、本件周知技術を甲1発明に適用することについては、十分な動機\n付けがあるものと認められる。
そして、本件全証拠によっても、本件周知技術を甲1発明に適用することについ
て、これを阻害する要因があるものと認めることはできないから、当業者は、甲1
発明に本件周知技術を適用することができたものと認めるのが相当である。
◆判決本文
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2023.08.23
令和4(行ケ)10118 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年8月10日 知的財産高等裁判所
進歩無しとした審決が維持されました。原告は、技術分野が異なるので組み合わせ困難と主張しましたが、裁判所は「無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術に係るものであり、その属する技術分野を共通にする」と判断しました。
(1) 技術分野
ア 前記3(5)イにおいて説示したところは、甲4に記載された技術のみならず、
リモートコントローラ3(制御端末装置)が無線通信を利用して再生装置1等の制
御を行うことを内容とする引用発明(前記2)についても同様に当てはまるといえ
るから、引用発明及び本件技術は、いずれも無線通信を利用して電子機器の制御を
行うとの技術に係るものであり、その属する技術分野を共通にするものと認めるの
が相当である。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は、「甲1に記載された発明と甲4に記載された技術は、制御主体、
操作場所、制御対象機器及び制御内容を異にするものであるところ、甲1に記載さ
れた発明及び甲4に記載された技術が共に無線通信を利用して電子機器の制御を行
うとの技術分野に属するとすることは、技術分野を極めて抽象的なレベルで捉える
ものであって相当でないから、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記
載された技術が属する技術分野との間に関連性又は共通性はない」と主張する。
しかしながら、前記3(5)イにおいて説示したとおり、無線を利用して電子機器
の制御を行うとの技術においては、制御主体、操作場所、制御対象機器及び無効な
ものとされる操作の内容が具体的に何であるかにつき特段の技術的意義はないとい
うべきであるから、当該技術において、制御主体、操作場所、制御対象機器又は無
効なものとされる操作の内容が異なれば、当該技術が属する技術分野が異なること
になるということはできない。
原告は、無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術において、制御主体、
操作場所、制御対象機器又は制御内容が異なれば、当該技術に係る当業者が異なる
とも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない(かえって、前記3
(2)ないし(4)のとおりの乙1ないし3の記載(特に、前記(2)エ、前記(3)ア及びイ、
乙3の段落[0080]等)によると、無線通信を利用して電子機器の制御を行う
との技術においては、制御主体又は制御対象機器が異なっても、当該技術に係る当
業者を異にしないことがうかがわれる。)。
(イ) 原告は、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記載された技術
が属する技術分野の関係を検討するに当たり、甲1及び4とは別の文献である乙1
ないし3の記載を参酌するのは相当でないと主張する。
しかしながら、ある発明ないし技術が属する技術分野が何であるかを認定するに
当たり、当該発明ないし技術の意義を検討するのは当然であるところ、当該意義に
係る証拠として、当該発明ないし技術が記載された文献以外の文献の記載を参酌す
るのが相当でないということはできない。
(ウ) 原告は、特許庁における担当技術分野によると、スピーカとテレビは異な
る技術分野に属すると主張するが、仮に、特許庁における担当技術分野が原告主張
のとおりであったとしても、そのことをもって、引用発明及び本件技術につき、無
線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術に係るものとして、その属する技
術分野を共通にするとの前記判断を左右するものではない。
◆判決本文
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2023.08. 9
令和4(ワ)9716 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年7月28日 東京地方裁判所
特許侵害訴訟で差止請求が認められました(損害賠償請求なし)。無効主張についても「新規化合物については引用例にその製造方法に関する記載がない」として、無効ではなぽしと判断しています。並行進行している無効審判および審決取消訴訟でも、同様です。
(ア) 特許法29条1項は、同項3号の「特許出願前に」「頒布された刊
行物」については特許を受けることができない旨規定する。当該規定の
「刊行物」に物の発明が記載されているというためには、同刊行物に発
明の構成が開示されているだけでなく、発明が技術的思想の創作である\nこと(同法2条1項参照)にかんがみれば、当該刊行物に接した当業者
が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の\n技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技
術的思想が開示されていることを要するというべきである。
特に、当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製
造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないか
ら、刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、
当該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理\n解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして、刊
行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に
接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、\n特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出
すことができることが必要であるというべきである。
ここで、5−ALAホスフェートは、新規の化合物であり、上記アの
とおり、本件引用例には、列挙された化合物の中に5−ALAホスフェ
ートが含まれているものの、本件引用例にその製造方法に関する記載は
見当たらない(乙2)。
したがって、5−ALAホスフェートを引用発明として認定するため
には、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思考や試行錯誤
等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技術常識に基づ\nいて、5−ALAホスフェートの製造方法その他の入手方法を見出すこ
とができたといえることが必要である。
(イ) 被告は、乙16文献から乙18文献の記載からすれば、本件優先日
当時、5−アミノレブリン酸単体の製造方法は周知であった上、5−ア
ミノレブリン酸をリン酸溶液に溶解すれば、弱塩基と強酸の組合せとな
り、5−アミノレブリン酸リン酸塩を得ることができることは技術常識
であり、このことからすれば、本件優先日当時の当業者は、5−ALA
ホスフェートの製造を容易になし得た旨主張する。
確かに、上記第2の1(5)イ及びエのとおり、乙16文献及び乙18文
献には、甲13の1文献を引用しつつ、「ALA生産が確立されてい
る」、「ALAの産生に成功した」、「発酵の下流では、イオン交換樹
脂を使用するALA精製プロセスも確立されて」いるなどと記載されて
いる。しかしながら、甲13の1文献には、同オのとおり、「発酵液か
らのALAの精製」の項において、ALAが塩基性水溶液中では非常に
不安定であり、種々の検討の結果、5−アミノレブリン酸塩酸塩結晶を
得るプロセスを確立することに成功した旨が記載されているにすぎない。
そうすると、乙16文献及び乙18文献においては、細菌を培養して発
酵液中にALA(5−アミノレブリン酸)を産生させる技術は開示され
ているものの、5−アミノレブリン酸単体を得る技術は開示されていな
いといえる。
また、上記第2の1(5)ウのとおり、乙17文献には、発酵液中に培地
成分と混合した状態で存在するALAの濃度が開示されているにすぎな
い。そうすると、乙17文献においても、5−アミノレブリン酸単体を
得る技術は開示されていないといえる。
以上のとおり、乙16文献から乙18文献までにおいて、5−アミノ
レブリン酸単体を得る技術が開示されているとはいえない。これに加え、
上記第2の1(5)アのとおり、本件引用例においても「5−ALAは・・
・化学的にきわめて不安定な物質である」、「5−ALAHClの酸性
水溶液のみが充分に安定であると示される」と記載されていて(【00
07】)、これらの事項が本件優先日当時の技術常識であったと認めら
れることも考慮すると、本件優先日当時において、5−アミノレブリン
酸単体を得る技術が周知であったとは認められない。
この点に関し、原告は、5−アミノレブリン酸リン酸塩を製造する上
で、5−ALAが物質として取り出されている必要はなく、発酵液中に
培地成分等と混合した状態であってもよい旨主張する。
しかしながら、本件優先日当時、種々の成分を含む混合液に酸又は塩
基を添加するという方法が、化合物である塩の製造方法として技術常識
であったとは認められないことからすれば、本件引用例に接した本件優
先日当時の当業者が、化合物である5−アミノレブリン酸リン酸塩を製
造する方法として、培地成分等と混合した状態で5−アミノレブリン酸
が存在する発酵液にリン酸を添加する方法(又はこの発酵液をリン酸溶
液に添加する方法)を、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮することな\nく見出すことができたとはいえない。
また、上記第2の1(5)ウのとおり、乙17文献において、培地に酵母
抽出物やトリプトン等が含まれることが記載されていることからも明ら
かなように、培地成分等と混合した状態にある発酵液には種々のイオン
が夾雑物として含まれているのであるから、このような発酵液にリン酸
を添加したとしても、等しい物質量の酸及び塩基の中和反応によって5
−アミノレブリン酸リン酸塩という化合物が製造されたと評価すること
はできないというべきである。したがって、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。そして、このほか、本件優先日当時の当業者が、5−ALAホスフェー
トの製造方法その他の入手方法を見出すことができたというべき事情は
存しない。
(ウ) 以上によれば、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思
考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技\n術常識に基づいて、5−ALAホスフェートの製造方法その他の入手方
法を見出すことができたとはいえない。したがって、本件引用例から5−ALAホスフェートを引用発明として認定することはできない。
◆判決本文
本件特許についての審決取消訴訟です。
◆令和4(行ケ)10091
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2023.07.31
令和4(行ケ)10111 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年7月25日 知的財産高等裁判所
知財高裁(二部)は、「ほぼ水平に・・・」について、何らかの技術的意義があるとは認められないとして、進歩性なしと判断しました。
審判では、被請求人(特許権者)は、「ほぼ水平に延びる段差部(13c)はモールをアウタパネルの上縁部に組み込む際に引掛けフランジ部(13)とモール本体部(11)との間隔(挟持力)を維持するのに重要となります。」と主張して、先行技術から容易ではないと判断されていました。
ア 相違点1
(ア) 相違点1は、「縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部」が、本件発
明1においては、縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部
であるのに対して、甲1発明1においては、縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス
側方向に「やや下方に」延びる段差部であるというものである。甲1発明1のモー
ルディングが取り付けられるドアパネルが、アウタパネルであることについては当
事者間に争いがなく、甲1発明1の「昇降窓ガラス側方向」は、本件発明1の「内
側方向」(車内側を指す。)と同じ方向を意味するものと認められるから、相違点1
においては、段差部が「ほぼ水平」に延びるか「やや下方」に延びるかという点の
みが問題となる。
(イ) そこで検討するに、本件明細書には、段差部が縦フランジ部の下部から内側
方向に「ほぼ水平に」延びることの技術的意義についての記載はない。また、前記
1(2)のとおり、本件発明は、端末の剛性に優れるベルトラインモールを提供するた
めに、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して、水切りリップ\nや引掛けフランジ部を切除できるようにし、モール本体部と縦フランジ部とで略C
断面形状を形成しつつ断面剛性を確保したというものであり、ベルトラインモール
の端末では、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して切除され\nるものであって、段差部も切除されるのであるから、段差部が「ほぼ水平に」に延
びても「やや下方」に延びても、本件発明の作用効果に何ら影響するものではない。
そうすると、段差部が「ほぼ水平に」延びるものとすることについて何らかの技術
的意義があるとは認められない。
そして、甲1発明1においても、段差部が縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス
側方向(内側方向)に「やや下方に」延びることに何らかの技術的意義があるとは
認められず、甲1発明1において「やや下方に」延びる段差部を「ほぼ水平に」延
びるように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべ\nきである。
そうすると、甲2記載事項について検討するまでもなく、甲1発明1において段
差部に設計的変更を加え、これを「ほぼ水平に」することは、当業者が容易に想到
できたものと認めるのが相当である。
(ウ) したがって、本件審決には、相違点1に係る容易想到性の判断に誤りがある。
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2023.07.20
令和4(行ケ)10064 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年7月13日 知的財産高等裁判所
進歩性違反・サポート違反として無効審判を請求しました。審決は無効理由無し、裁判所も同様です。進歩性については、「非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを考慮すると、・・・結晶の平均粒径を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであったと認めることはできない」と判断しました。
(イ) また、甲7、9、52、61、63、71及び73並びに乙7によると、
薬物の安定性を高める方法として、結晶の結晶化度を高めること、遮光、湿気の遮
断等を目的として薬剤に保護コーティングを形成すること、遮光を目的として遮光
剤(酸化チタン)を含むコート液をコーティングすることなどは、本件優先日当時
の周知技術であったと認められる。
(ウ) しかしながら、甲5、7、52、54及び61によると、本件優先日当時、
非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在し、そのため、水難溶
性の薬物の溶解性を改善するとの目的で、かえって結晶化度を低くすることが一般
に行われていたものと認められるところ、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件優先日当
時、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術として、結晶
の粒子径を小さくすること以外の方法も存在し、また、薬物の安定性を高めるため
の周知技術として、結晶の結晶化度を高めること以外の方法も存在していたのであ
るから、化合物1の溶解性及び安定性を高めるとの課題を認識していた本件優先日
当時の当業者において、化合物1の溶解性を追求するとの観点から、経口投与され
る水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術(結晶の粒子径を小さくすると
の周知技術)を採用し、かつ、化合物1の安定性を追求するとの観点から、薬物の
溶解性を低下させる結果となり得る周知技術(結晶の結晶化度を大きくするとの周
知技術)をあえて採用することが容易に想到し得たことであったと認めることはで
きない。
(エ) この点に関し、原告らは、結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持するこ
とは特段の処理が不要で薬剤をそのまま使用するという最も基本的な態様を含むも
のであり、他の手段よりはるかに容易な態様のものであると主張する。しかしなが
ら、前記(ア)のとおり、本件優先日当時、結晶の粒子径を小さくするための主たる
手段として、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル等を利用した粉砕が考えら
れていたところ、甲52によると、粉砕により結晶の結晶化度が低下し、結晶が非
晶質化することは、よく経験される事象であったものと認められるから、結晶の結
晶化度を一定の数値以上に維持することが特段の処理を要しないものであるという
ことはできず、原告らの上記主張は、前提を誤るものというべきである。
また、原告らは、本件優先日の当業者であれば、薬物の安定性を向上させるとの
課題に基づいて結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持することを検討しつつ、粒
子の微細化等の手段により溶解度を向上させるなど、結晶の結晶化度や平均粒径と
いったパラメータを適宜調整することを十分に動機付けられると主張するが、上記\nのとおり、非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを
考慮すると、原告らの上記主張によっても、本件優先日当時の当業者において、相
反する効果を生ずる事項同士であると認識されていた、化合物1の結晶の平均粒径
を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであっ
たと認めることはできないといわざるを得ない(この点に関し、本件明細書には、
実施例(試験例2、実施例2)として、化合物1の微細結晶Aの結晶化度が84.
6%であり、粒径がD100=8.7μmである場合(後記5(4)ア(ア)のとおり、化
合物1の平均粒径が数μmである場合)においても、結晶が凝集することなく、良
好な溶解性及び分散性を示したとの記載があるが、前記(2)イ(ウ)において認定した
技術常識(非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識)並びに甲6及び
52によって認められる技術常識(特に薬物が疎水性のものである場合には、結晶
の粒子径を小さくすればするほど凝集が起こやすくなり、その有効表面積がかえっ\nて小さくなる結果、溶解性が低下することがあるとの技術常識)に照らすと、上記
実施例が示す効果は、甲1結晶発明及び本件優先日当時の技術常識から予測し得な\nかったものといえる。)。
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2023.07.13
令和4(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年7月6日 知的財産高等裁判所
審決は、周知技術であっても主引例にはそのような動機付けがないとして、進歩性違反の無効理由なしと判断しました。知財高裁も同様です。
イ 前記(1)イの相違点に係る構成を甲1発明において採用することが容易想到といえるか検討するに、甲1には、加工対象物の反りや、X、Y軸ステージの振動等\nにより、レーザ光の焦点ずれが生じ得ることについての記載はなく、加えて、前記
2(1)エのとおり、甲1(105頁)には「図98に示すクラック領域9は、パルス
レーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工\n対象物1の内部中の表面3側に形成される。」「パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表\面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成することもできる。」といった記載があり、甲1発明においては、
シリコンウエハ内部の改質領域の位置は、シリコンウエハの厚み方向において厚み
の半分の位置よりも表面に近い位置から、同半分の位置よりも表\面に遠い位置まで
の、ある程度の幅をもった範囲に設定され得るものであると理解されることからす
ると、甲1の記載に触れた当業者が、直ちに、X、Y軸ステージの振動等の外的要
因や加工対象物であるシリコンウエハの反りのために、レーザ光の集光点のZ軸方
向の位置がずれ、改質領域の位置がずれることによって、シリコンウエハの割れに
大きな影響を及ぼして品質低下を生じさせると理解するとはいえない。
そうすると、甲1発明において、AF制御をする動機付けがあると認めることは
できない。また、周知の技術的事項1は半導体ウエハの表面の加工についてのAF制御をいうものであるところ、これが周知であるからといって、動機付けがないに\nもかかわらず、甲1発明のようなステルスダイシングに適用できるとはいえない。
したがって、甲1発明において「前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿
って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する」構成を採用することについて、当業者が容易に想到できたと認めることはできない。\n
ウ(ア) 原告は、レーザ加工の技術分野において、加工時におけるレーザビームの
振動やテーブルの振動などの外的要因や加工対象物の凹凸や反りが、レーザ光の焦
点ずれの原因となることが知られており、高さ方向(Z軸方向)の集光点をAF制
御することは当然のことであり技術常識であったから、Z軸方向のAF制御をする
ことは甲1に記載されているに等しく、少なくとも容易想到であると主張する。
しかしながら、甲1には、加工時に、レーザ光Lの集光点Pについて、Z軸方向
の制御をすることについての記載はない。また、前記2(1)ウのとおり、甲1(2頁)
には「本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせ
てレーザ光を照射しかつ多光子吸収という現象を利用することにより、加工対象物
の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があ
ると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係る
レーザ加工方法によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小さ\nな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予\定ライ
ンから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。」との記載があり、同記載に照らすと、甲1発明は、加工対象物であるシリコンウエ\nハの内部に改質領域を形成して、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものである。そして、前記アのとおり、周知の技術的事項1\nは、半導体ウエハの表面を加工する際に、半導体ウエハに反りがあると加工位置に対して加工用レーザ光の焦点がずれることから、表\面の変位に基づいてAF制御をして表面を加工するというものであるところ、シリコンウエハの内部に改質領域を形成する際に、このような半導体ウエハの表\面加工に係る周知の技術的事項1をそのまま適用できるとはいえない。
(イ) 当業者が、甲1の記載から、甲1発明において、加工中の集光点AF制御が
当然に採用されるものと理解するといえるには、甲1発明において、シリコンウエ
ハの反りやX、Y軸ステージの振動により、集光点のZ軸方向の位置がずれ、その
結果、改質領域が形成される位置がずれることとなり、その改質領域の位置のZ軸
方向のずれに起因して割断精度が悪くなる等の品質低下の問題を生じることが明ら
かであり、そのために、AF制御が必要であることまでを当業者が認識することを
要するものと考えられる。ところが、当業者にとって、上記のような問題が生じる
ことが明らかであると認識できたと認めるに足りる証拠はなく、そのような技術常
識は認められないところ、前記のとおり、甲1には、改質領域が形成される位置が、
ある程度の幅をもった範囲に設定され得ることを示唆する記載があるから、周知の
技術的事項1を考慮しても、また、甲1発明の加工対象物として、30㎛程度まで
の薄いシリコンウェアが対象となり得ることを考慮しても、当業者が、甲1の記載
から、甲1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解する
とはいえない。
(ウ) 原告は甲1の「クラック領域9と表面3の距離が比較的長いと、表\面3側に
おいてクラック91の成長方向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が
電子デバイス等の形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等
が損傷する。クラック領域9を表面3付近に形成すると、クラック領域9と表\面3
の距離が比較的短いので、クラック91の成長方向のずれを小さくできる。よって、
電子デバイス等を損傷させることなく切断が可能となる。但し、表\面3に近すぎる
箇所にクラック領域9を形成するとクラック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもののランダムな形状が表\面3に現れ、表面3のチッビン\nグの原因となり、割断精度が悪くなる。」との記載(105頁15〜23行)をもっ
て、比較的厚いウエハの場合には、改質領域のZ軸方向の位置が割断精度に影響を
与えるものであることが甲1に明記されていると主張するが、同記載をもって、シ
リコンウエハの反りやX、Y軸ステージの振動に起因する改質領域の形成される位
置のZ軸方向のずれが、品質低下の問題を生じる程度のものであることが明らかと
なるものではないから、上記記載部分を踏まえても、当業者が、甲1の記載から甲
1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解するとはいえ
ない。
(エ) 原告は、本件明細書(【0004】)に、従来技術に加工対象物の端部におい
てレーザ光の集光点がずれる場合があるとの課題があると記載されていることから
も、一般的なレーザ加工技術の課題として、甲1発明においても、加工中の集光点
のAF制御が必要であると主張するが、本件明細書の上記記載を踏まえても、前記
(イ)のとおり、当業者が、甲1発明において、加工対象物の内部に改質領域を形成す
るために、加工時におけるAF制御としての加工中のZ軸方向の位置の制御が必要
であるとの課題を認識するとはいえない。また、原告が指摘する証拠はいずれも、
加工対象物の内部に改質領域を形成する甲1発明において、加工中のZ軸方向の位
置の制御が必要であることが技術常識であることを裏付けるものとはいえない。
そして、原告主張に係る被告の本件以外の出願の状況が、本件発明の進歩性の判
断を左右するものではない。
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2023.07.10
令和4(ネ)10070 特許権侵害損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年5月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明についての特許権侵害事件です。1審の東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。控訴人は、請求項17に基づく侵害主張、および訂正の再抗弁を追加しました。知財高裁は、時機に後れた攻撃防御方法には該当しないとして判断自体はおこないましたが、最終的には無効として、控訴棄却しました。
事案に鑑み、争点7(乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の当否)について、まず判断する。
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)イ のとおり、乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁は、時機に後れた攻撃防御方法であるとしてその却下を求めるが、この防御方法の提出が訴訟の完結を遅延させるものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討する。
(2) 無効理由の解消の有無等について
事案に鑑み、仮に、本件訂正が適法であり、本件訂正により本件訂正発明と乙22発明との間に当事者の主張に係る相違点が全て生じるとした場合、乙22発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消されるかをまず検討する。
ア 本件訂正発明1
相違点22−6ないし相違点22−8の容易想到性
相違点22−6ないし相違点22−8は、前記第2の4(1)イ aのと
おり、本件訂正発明1において、1)閲覧者がWebブラウザに対して閲
覧指示を行った段階においては、Webブラウザは閲覧指示に対応する
HTMLをサーバに要求するだけであること(相違点22−6)、2)サー
バはWebブラウザからの要求に従い、画像表示に必要な演算を実行す\nる、HTMLに記述されたJavaScriptをWebブラウザに送信すること
(相違点22−7)、3)WebブラウザがHTMLに記述されたJavaScr
iptを受信する前に表示領域内に表\示する分割画像を特定する演算を行
わないこと(相違点22−8)というものであるのに対し、乙22発明
は、地図データの要求をサーバに送信するまでの間に、ディスプレイに
表示する地図データ(メッシュ地図)を特定する演算を行っているとい\nうものである。
Webブラウザを用いた表示では、閲覧者がWebブラウザに対して\n閲覧指示を行うと、Webブラウザが閲覧指示に対応するHTMLをサ
ーバに要求し、サーバが要求に対応するHTMLをWebブラウザに送
信し、Webブラウザが受信したHTMLに基づいて表示を行うという\n表示ステップを経るというようなプログラム上の取決めがあることは顕\n著な事実であるところ、このようなHTMLを用いるWebブラウザの
処理におけるプログラム上の取決めがある以上、閲覧者がWebブラウ
ザに対して閲覧指示を行った段階では、Webブラウザは閲覧指示に対
応するHTMLをサーバに要求するだけであり、WebブラウザがHT
MLを受信する前の段階では、Webブラウザによって当該HTMLに
基づくいかなる処理も実行されることがないことは、上記取決めから生
じる当然の帰結にすぎない。
そして、JavaScriptは、HTMLに直接記述されるか、あるいはHT
MLによって読み出される外部ファイルに記述されるかのいずれでもよ
いものであることは、本件特許出願時の技術常識と認められるから(甲
46、48、49)、当業者は適宜それを使い分ければよく、Webブラ
ウザにおいてJavaScriptを用いたときにJavaScriptがHTMLに直接記述されることは当業者の自然な選択の一つにすぎず、その選択をした場
合、WebブラウザがHTMLを受信する前に当該HTMLに直接記述
されたJavaScriptを実行しないことはいうまでもない。
そうすると、Webブラウザを採用して動的表示をJavaScriptを用い\nて実行しようとするならば、当業者が適宜になす自然な選択の結果、ほ
ぼ必然的に相違点22−6ないし相違点22−8に係る本件訂正発明1
の構成をとることになるのであって、当該構\成についてとりたてて創意
を発揮する余地はない。そうであるところ、前記2(1)のとおり、本件特
許出願当時において、Webクライアントによる動的表示を行う処理を\nWebブラウザでJavaScriptを用いて行うことは周知慣用技術であり、
そして、この周知慣用技術を適用すればそれに起因して相違点22−6
ないし22−8の本件訂正発明1の構成となるというのであれば、上記\n相違点に係る本件訂正発明1の構成は容易に想到し得るものというほか\nない。
・・・
時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)ア のとおり、被告地図表示方法の本件\n発明17の充足性に関する主張は、時機に後れた攻撃防御方法であると
してその却下を求めるが、この攻撃方法の提出が訴訟の完結を遅延させ
るものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討
する。
相違点22−17−1の容易想到性について
a 本件訂正発明17は、本件訂正発明1について、1)同じ内容の画像
データを2)複数の倍率で有すること、3)各倍率の画像を構成する分割\n画像の画素数は表示倍率に関わらず一定であること、4)分割画像の分
割数は倍率が低い画像ほど少なく、倍率が高い画像ほど多いこととの
限定を付したものであるところ、乙22発明は、上記のような構成を\n有するとは特定されていない。
b 乙10文献には別紙9のとおりの記載がある。これによると、乙10技術として、次のような技術が記載されているものと認められる。
クライアントから要求される画像の指定、表示範囲の指定の変化に\n関わらず、高速かつ一定時間内に高精細画像を表示するためのデータ\n構造を備える高精細画像表\示装置を提供することを目的とするもので
あって(【0006】)、
サーバに格納される画像データのデータ構造が、複数段階の解像度\nの画像を有するものであり(【0024】ないし【0026】、【図2】)、
それぞれ解像度の画像はそれぞれpピクセル×pピクセルのブロッ
クに分割されて保持され、個々のブロックを単位としてアクセスされ
るものであって、個々のブロックを構成する画素数は解像度に関わら\nず同じであり(【0028】、【0029】、【図3】)、
ブロックの分割数は解像度が少ない画像ほど少なく、解像度が高い
画像ほぼ多い状態であり(【図3】)、
クライアント側の表示装置において表\示される表示枠に関連する各\nブロックの画像データを、サーバからクライアントに伝送して表示す\nる技術(【0031】、【0032】)。
c 本件訂正発明1が乙22発明により容易に想到できるものであるこ
とは、前記アにおいて判示したとおりであるところ、乙10技術は、
相違点22−17−1の構成に係る分割画像の格納形態を開示するも\nのであり、本件訂正発明17と乙10技術は、分野を同一とするもの
であって表示領域より大きい画像データを領域分割し、表\示装置に対
応する分割画像を送信して表示することにより表\示を高速化するとい
う機能も共通するものであるから、乙22発明の分割画像の格納形態\nとして、乙10文献記載の分割画像の格納形態を採用して、相違点2
2−17−1に係る本件訂正発明17の構成とすることは容易に想到\nできる。
控訴人らの主張について
控訴人らは、前記第2の4(1)イ e(g)のとおり、乙10技術は、個々
の分割画像(ブロック)を送信しているわけでもないし、同じ画像を複
数の倍率でかつ倍率ごとにそれぞれ複数の領域で分割してサーバから送
信しているわけではないから、乙22発明に乙10技術を適用して本件
訂正発明17の構成とすることは容易に想到できない旨主張するが、乙\n10技術の分割画像の送信手法と分割画像の格納形態とは、特に必須に
結合しているわけではなく、それぞれ独立した技術事項であるから、乙
10技術の送信手法までを乙22発明に適用する必要はなく、乙10の
分割画像の格納形態のみを採用することに阻害要因も見当たらない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和1(ワ)21901
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2023.06.22
令和1(行ケ)10114 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年9月24日 知的財産高等裁判所
漏れていたのでアップします。動画配信における視聴者からのギフトの処理(CS関連発明)について、審判で進歩性無しと判断されました。知財高裁も同様です。
「・・・(D1)前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中に前記動画へ
の装飾オブジェクトの表示を要求する第1表\示要求がなされ,(D2)前記動画の配信中に前記動画の配信をサポートするサポーター又は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択された場合に,(D3)前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて、(D4)前記装飾オブジェクトを前記動画に表示させる,(A)動画配信システム。」というクレームです。\n
原告は,甲2には,視聴者から配信者へギフトを贈ること(ユーザーギ
フティング)が動画配信中に行われるとの記載はないので,引用発明に甲
2記載の技術を追加したとしても「動画配信中に行われた表示要求に応じ\nて,装飾オブジェクトを表示する」という本願発明の構\成には至らない旨
主張する。しかしながら,甲2には,CGキャラクターへのユーザーギフティング
を動画配信中に行うことについての記載はないものの,これを排除する旨
の記載もなく,この点は,配信時間の長さ,ギフト装着のための準備,予\n想されるギフトの数等を踏まえて,配信者が適宜決定し得る運用上の取り
決め事項といえるから,甲2のユーザーギフティング機能において,CG\nキャラクターが装着するための作品を贈る時期は,配信開始前に限定され
ているとはいえない。したがって,引用発明に上記ユーザーギフティング
機能を追加することによって,相違点1に係る「前記動画を視聴する視聴\nユーザから前記動画の配信中に前記動画への装飾オブジェクトの表示を要\n求する第1表示要求がなされ」るという構\成を得ることができる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ なお,原告は,甲2記載のCGキャラクター「東雲めぐ」が登場する実
際の番組において,ユーザーギフティングが配信開始前に締め切られてい
ること(甲9の2,甲10)を指摘する。しかしながら,そのことは,当
該番組における運用上の取り決め事項として,ユーザーギフティングの時
期を配信開始前と定めたことを示すにとどまり,上記アの判断を左右しな
い。
(3) 動機付けについて
ア 甲2には,配信も可能なVRアニメ作成ツール「AniCast」にユーザー
ギフティング機能を追加することが記載されている。一方,引用発明は,\n声優の動作に応じて動くキャラクタ動画を生成してユーザ端末に配信する
ものであるから,引用発明も「配信も可能なVRアニメ作成ツール」とい\nえる。また,ユーザーギフティング機能のような新たな機能\を追加することに
よって,動画配信システムの興趣が増すことは明らかである。
そうすると,当業者にとって,「配信も可能なVRアニメ作成ツール」\nである引用発明に対して,甲2記載の技術であるユーザーギフティング機
能を追加することの動機付けがあるといえる。\n
イ 原告は,甲1には創作したギフトを配信者に贈ることの開示はないから,
引用発明に甲2記載のユーザーギフティング機能を組み合わせる動機付け\nはない旨主張する。しかしながら,動画配信システムの興趣を増すことは当該技術分野において一般的な課題であると考えられるから,甲1自体にユーザーギフティ
ング機能又はこれに類する技術の開示又は示唆がないとしても,引用発明\nを知った上で甲2の記載に接した当業者は,興趣を増す一手段として甲2
記載のユーザーギフティング機能を引用発明に適用することを動機付けら\nれるといえる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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2023.05.19
令和4(行ケ)10003 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月27日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換
する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間
に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数
値範囲を容易に想到することができるかについて
甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により
トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工
業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた
後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので
あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg
/l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以
下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0.
8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水
に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として
いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする
と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、
かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲
1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5
発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩
素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1
のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。
原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない
し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度
を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m
g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること
が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃
度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素
の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で
ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に
甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記
のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの
というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張
はいずれにしても採用し得ない。
甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生
剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ
サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別
紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙
3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用
いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ
サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め
た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.
40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以
下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次
亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0
3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト
リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、
実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2
0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で
は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本
件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ
ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は
同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違
点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15mg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが\n開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で
あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提
とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施
例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度
の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。
かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水
し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試
験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18
では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で
も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5
mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、
比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、
甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載
の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得
られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸
化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易
想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき
本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発
明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと
は後記3のとおりである。
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2023.05.19
令和4(行ケ)10003 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月27日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換
する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間
に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数
値範囲を容易に想到することができるかについて
甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により
トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工
業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた
後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので
あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg
/l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以
下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0.
8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水
に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として
いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする
と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、
かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲
1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5
発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩
素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1
のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。
原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない
し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度
を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m
g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること
が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃
度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素
の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で
ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に
甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記
のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの
というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張
はいずれにしても採用し得ない。
甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生
剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ
サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別
紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙
3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用
いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ
サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め
た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.
40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以
下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次
亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0
3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト
リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、
実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2
0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で
は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本
件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ
ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は
同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違
点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15\nmg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが
開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で
あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提
とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施
例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度
の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。
かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水
し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試
験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18
では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で
も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5
mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、
比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、
甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載
の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得
られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸
化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易
想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき
本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発
明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと
は後記3のとおりである。
◆判決本文
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2023.04.27
令和4(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月20日 知的財産高等裁判所
無効理由なしとした審決が維持されました。なお、別訴の本特許に基づく特許権侵害については技術的範囲に属しないと判断されています。
(1) 本件審決が前記第2の3(1)アのとおり甲1発明を認定し、同(2)アのとおり
本件発明1と甲1発明における茶葉の移送方法を対比して一致点及び相違点1を認
定したのに対し、原告は、本件審決は、本件発明1と甲1発明が、「負圧吸引作用を
奏する背面風(W)を前記刈刃(22)の直後方から移送ダクト(6)に送り込む
こと」で一致していることを看過したと主張する。原告の上記主張は、甲1発明の内容として、1)送風ダクト52からの吹出口が刈刃34の「直後方」から風を送り込むものであることと、2)送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風が「負圧吸引作用を有すること」が認められるべき旨をいうものと解されるが、次のとおり、甲1発明の内容として、上記1)及び2)のいずれも認めることができない。
ア(ア) まず、原告は、甲1の「なお刈刃34は、摘採機フレーム基板32の前方
ほぼ延長上に設けられるものである。そしてこの摘採機体3における摘採機フレー
ムパイプ31と摘採機フレーム基板32とにより区画され、摘採された茶葉Aが中
継移送装置5によって上昇移送されるまでの部分を摘採作用部36とする。」との
記載(【0013】)及び「送風ダクト52は、摘採した茶葉Aを摘採作用部36た
る刈刃34後方部から収容部4まで風送するものであり、具体的には吹き上げファ
ン51から送り出された風が、茶葉摘採機1の側部を回り込むようにして摘採作用
部36に達し、この部分で茶葉Aと合流し、合流後この茶葉Aを茶葉移送路52a
を経由させて収容部4まで風送するものである。」との記載(【0016】)を指摘し
て、「刈刃34」で刈り取られた茶葉が直接「摘採作用部36」に送り込まれること
から、「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位置することは明らかであると
主張する。
(イ) しかし、甲1の【0013】の上記記載は、「摘採作用部36」を区画するも
のの一つである「摘採機フレーム基盤32」と「刈刃34」との位置関係について、
刈刃34が摘採機フレーム基盤32の「前方ほぼ延長上に設けられる」と示すにと
どまり、摘採作用部36と刈刃34の位置関係について具体的に特定するものとは
みられない。
また、同【0016】の上記記載も、「摘採作用部36たる刈刃34後方部」とい
う部分において、摘採作用部36が刈刃34の後方に位置することを示しているも
のの、摘採作用部36が刈刃34の後方のどの程度の距離にあるものか等について、
具体的に示すものとはみられない。
その他、甲1において、「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位置するこ
とを認めるべき記載は見当たらない。
(ウ) また、仮に、甲1において、「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位
置することが認められるとした場合に、そのことから直ちに、「送風ダクト52風」
が「刈刃34」の直後方から送り込まれることが認められるものでもない。
この点、甲1に、吹き上げファン51から送り出された風が、送風ダクト52を
介して、刈刃34の後方に位置する摘採作用部36のどの部分に達するのかを具体
的に特定する記載は見当たらない。
むしろ、甲1の【図1】の左下部の丸枠内及び【図5】によると、送風ダクト5
2は、刈刃34の後方に位置するとされる摘採作用部36の後端部に位置付けられ
ているところである。そして、【図4】によると、刈刃34と送風ダクト52との間
に少なからず距離が存することは、明らかである。
(エ) したがって、甲1発明について、送風ダクト52からの吹出口が刈刃34の
「直後方」から風を送り込むものであることが認められるべき旨をいう原告の主張
は、採用することができない。
イ(ア) 次に、原告は、「送風ダクト52からの吹出口は、摘採機フレーム基板32
後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」しており(甲1の【図5】等)、
この吹出口から送り込まれた「送風ダクト52風」が、「摘採作用部36」に達し、
「この部分で茶葉Aと合流し、合流後にこの茶葉Aを茶葉移送路52aを経由させ
て収容部4まで風送する」(同【0016】)ところ、「摘採作用部36」において「送風ダクト52風」に負圧吸引作用がなければ、このような事象を説明することはで
きない、甲1の【0016】の上記記載は、「摘採作用部36」が密閉又は半密閉状
態のダクトでなければ説明できない内容であるなどと主張する。
(イ) しかし、甲1の【0019】及び【図5】によると、摘採された茶葉は、ま
ず、送風ダクト35から排出される風によって摘採作用部36の後方に送られ、次
いで、送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風により茶葉
移送路52a内を上昇移送されるのであって、送風ダクト52を介して吹き上げフ
ァン51から吹き出された風に負圧吸引作用がなくとも、送風ダクト35から排出
される風により、上昇移送が可能となる位置まで茶葉が送られることは容易に理解される。\n
この点、同【0013】には、摘採作用部36について、摘採機フレームパイプ
31と摘採機フレーム基盤32とにより「区画」される旨が記載されているのみで、
それが密閉構造を有することはもとより、閉鎖的な構\造を有することも明記されて
おらず、他に、甲1に、摘採作用部36の構造について特定する記載も見られない。そうすると、摘採作用部36は、送風ダクト35から排出される風によって茶葉\nを摘採作用部36の後方に送ることが可能な構\造となっていれば足り、原告の主張
するように、密閉又は半密閉状態にあることを要するものではないと解される。
(ウ) 上記に関し、原告は、摘採作用部36が密閉又は半密閉状態でないとすると、
送風ダクト35から排出される風によって周辺に分散して回収不能になってしまう茶葉が生じ、甲1発明における茶葉の中継移送機能\が低下することになるなどと主張するが、茶葉の分散を避けるためには、茶葉が通過しない程度の空隙を有する部
材で摘採作用部36を構成することで足りるといえるし、茶葉の損傷を避けるためという観点を更に考慮したとしても、直ちに摘採作用部36が密閉又は半密閉状態\nであることまで要するものとは解されない。
(エ) したがって、甲1発明について、送風ダクト52を介して吹き上げファン5
1から吹き出された風が「負圧吸引作用を有すること」が認められるべき旨をいう
原告の主張は、採用することができない。
(2) 前記2の甲1の記載事項によると、甲1には、前記第2の3(1)アのとおり本
件審決が認定した甲1発明が記載されていると認められる。その上で、本件発明1と甲1発明における茶葉の移送方法を対比すると、それらの間には、前記第2の3(2)アのとおり本件審決が認定した一致点及び次の相違点1が認められるというべきである
・・・・
(2) 前記3(3)で認定説示した点に照らし、新規性及び進歩性の判断の誤りをいう原告の主張は、採用することができない。
◆判決本文
同特許についての侵害訴訟です。
1審
「圧力風の作用のみによって」を備えず、構成要件Aを充足しない
◆令和2(ワ)17423
控訴審
均等主張もしましたが、第1要件を満たさないとして、控訴棄却。
◆令和4(ネ)10071
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2023.04.18
令和4(行ケ)10010 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月6日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁も結論は同様です。なお、審判では基礎出願2に基づく優先権は認められていましたが、知財高裁はこれを否定しました。
6 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り)について
(1) 優先権について
ア 本件出願について、被告が基礎出願1又は2に基づく優先権を主張できるか
否かについて検討する。
イ(ア) 基礎出願1及び2がされた平成22年6月ないし7月頃時点で、一定のリ
ソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素の一定量をリソソ\ーム蓄積症の患者のし
かるべき組織等に送達することができれば、治療効果を生ずること自体は技術常識
となっていた一方で、どのような方法で補充酵素を有効に送達することができるか
について検討が重ねられており、本件出願がされた平成29年9月においても、そ
のような状況がなお継続していたものと認められる(甲1〜4、16、17、55、
56、弁論の全趣旨)。
本件発明1は、リソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物
であって、脳室内投与されることを特徴とするものであるところ、上記の技術常識
及び前記1(2)の本件発明の概要を踏まえると、本件発明1の薬学的組成物につい
ても、中枢神経系(CNS)への活性作用物質の送達をいかに有効に行うかという
点がその技術思想において一つの重要部分を占めているものというべきである。
(イ) この点、本件明細書の【0005】には、「髄腔内(IT)注射または脳脊髄
液(CSF)へのタンパク質の投与・・・の処置における大きな挑戦は、脳室の上
衣内張りを非常に堅く結合する活性作用物質の傾向であって、これがその後の拡散
を妨げた」、「脳の表面での拡散に対するバリア・・・は、任意の疾患に関する脳に\nおける適切な治療効果を達成するには大きすぎる障害物である、と多くの人々が考
えていた」との記載があり、【0009】には、「リソソ\ーム蓄積症のための補充酵
素が高濃度・・・での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導
入され得る、という予期せぬ発見」という記載がある。\nまた、甲17の「発明の背景」においても、高用量の治療薬を必要とする疾患に
ついて髄腔内ルートの送達に大きな制限があり、濃縮された組成物の調製にも問題
がある旨が記載されていた(前記5(2)カ及びキ)。
さらに、基礎出願2がされた翌年である平成23年に発行された乙6(「Drug
transport in brain via the cerebrospinal fluid」Pardridge et al., Fluids
and Barriers of the CNS 2011 8:7)においても、CSFから脳実質への薬物浸透
は極めて僅かであり、脳への薬物の浸透がCSF表面からの距離とともに指数関数\n的に減少するため、高濃度の薬物を投与する必要があるが、上位表面は非常に高い\n薬物濃度にさらされており有毒な副作用を示す可能性があることなどが記載されて\nいた。その更に翌年である平成24年に発行された乙13(「CNS Penetration of
Intrathecal-Lumbar Idursulfase in the Monkey, Dog and Mouse: Implications
for Neurological Outcomes of Lysosomal Storage Disorder」 Calias P. et al.
PLoS One, Volume 7, Issue 1, e30341)には、「本研究は、組換えリソソ\ームタン
パク質の直接的なCNS投与によって、投与されたタンパク質の大多数が脳に送達
され、カニクイザル、イヌ両方の脳および脊髄のニューロンに広範囲に沈着するこ
とを、初めて示した研究である。」と記載されている。
そうすると、少なくとも基礎出願2がされた平成22年7月頃においては、CN
S送達のための組成物として特定の組成物の組成等が開示された場合であっても、
当該組成等から直ちにその脳への送達の程度や治療効果を推測等することは困難で
あることが技術常識であったものと認められる。
このことは、甲17に、「本明細書で用いる場合、「中枢神経系への送達に適して
いる」という語句は、それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、この
ような組成物の安定性、耐(忍)容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例
えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのよう
な組成物の能力を指す。」(前記5(5)ナ)として、「標的送達部位(例えば、CSF
または脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能\n力」が「送達に適している」ということの意味内容に含まれることが明記されてい
ることとも整合するものといえる。
(ウ) 他方で、本件明細書の【0085】には、「いくつかの実施形態では、本発明
による髄腔内送達は、末梢循環に進入するのに十分な量の補充酵素を生じた。その\n結果、いくつかの場合には、本発明による髄腔内送達は、肝臓、心臓および腎臓の
ような末梢組織における補充酵素の送達を生じた。この発見は予期せぬものであ・・・\nる。」との記載があり、標的組織への送達について、【0132】には、「本発明の意
外な且つ重要な特徴の1つは、本発明の方法を用いて投与される治療薬、特に補充
酵素、ならびに本発明の組成物は、脳表面全体に効果的に且つ広範囲に拡散し、脳\nの種々の層または領域、例えば深部脳領域に浸透し得る、という点である。さらに、
本発明の方法および本発明の組成物は、現存するCNS送達方法、例えばICV注
射では標的化するのが困難である脊髄の出の組織、ニューロンまたは細胞、例えば
腰部領域に治療薬(例えば、補充酵素)を効果的に送達する。さらに、本発明の方
法および組成物は、血流ならびに種々の末梢器官および組織への十分量の治療薬(例\nえば、補充酵素)を送達する。」との記載があり、【0133】においては、実施形
態により、「治療用タンパク質(例えば、補充酵素)」が、対象の「中枢神経系」に
送達され、あるいは「脳、脊髄および/または末梢期間の標的組織のうちの1つ以
上」に送達され、また、「標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末
梢標的組織であり得る。」などと記載された上で、【0134】以下で特に「脳標的
組織」について説明がされ、そして、実施例においても、例えば、実施例1ではI
T投与が、実施例3ではICV投与及びIP(腹腔内)投与が、実施例5、実施例
10及び実施例13ではIT投与及びICV投与が用いられるなどしている。
そして、証拠(甲2〜5。後記7(1)〜(4)参照)のほか、本件明細書の記載内容
に照らしても、CNSへの酵素の送達においては、ICV投与とIT投与とは、そ
れぞれ別個の投与態様として取り扱われ、組織への酵素の送達に関する実験やその
結果の評価においても、それらは別個に取り扱われること、換言すると、ICV投
与とIT投与の相応に密接な関連性を考慮しても、ICV投与による実験データと
IT投与による実験データとを直ちに同一視することはできないことが、平成22
年7月頃における技術常識であったことが認められるというべきである。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)の技術常識を踏まえると、本件発明1が甲17に記載されて
いた発明であると認められるためには、甲17に、本件発明1の組成物が実質的に
記載されていたものと認められるのみならず、甲17に、本件発明1の組成物によ
る送達の効果が、ICV投与した場合のものとして、実質的に記載されていたと認
められる必要があるというべきである。
ウ(ア) その上で、甲17の記載を見るに、まず、「発明の背景」の記載(前記5(2))
は、専ら背景技術について説明するものである。「発明の概要」の記載(同(3))に
は、本件発明1の組成物に含まれる組成物の記載があるといえるが、当該組成物が
どのように送達されて治療効果を奏するのかについては記載がない。そして、「発明
の詳細な説明」(同(5))を見ても、組成物の構成やその使用方法に関する一般的な\n記載はみられるものの、どのように送達されて治療効果を奏するのかについて具体
的な記載はない。
(イ) 甲17の実施例1(前記5(6))には、15mg/mLのタンパク質濃度のリ
ソソ\ーム酵素を含む組成物で、pH6〜7であってリン酸塩を含むものが記載され
ていると見ることができるが、具体的にどのような酵素が用いられたかは不明であ
り、また、どのような領域まで送達されて治療効果を奏するかについても記載がな
い。
(ウ) 甲17の実施例2(前記5(7))には、「酵素治療薬の使用による繰り返しI
T−脊椎投与の毒性及び安全性薬理を評価」や「酵素投与群」との記載はあるが、
酵素の種類も濃度も不明であり、また、どのような領域まで送達されて治療効果を
奏するかについても記載がない(なお、対照群との差異もみられていない。)。
(エ) 甲17の実施例3(前記5(8))には、用量1.0mL中酵素14mgとして
調製された酵素と、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0.
005%のポリソルベート20をpH7.0で含むビヒクルにより作成された製剤\nが髄腔内投与されたことの記載があるが、図5を含めて見ても、主に有害な副作用
の有無等が検討されたものと解され、治療効果については記載がない。
(オ) なお、甲17の図2には、30mg用量の髄腔内投与後のリソソ\ーム酵素の
ニューロンへの分布が示され、尾状核のニューロンにリソソ\ーム酵素が認められた
ことが示されているが、どのような組成物が投与されたのかも不明である。
(カ) さらに、甲17には、投与の態様としてICV投与とIT投与とが選択的な
ものである旨は記載されているといえる一方で、いずれの方法によっても同様に送
達され得る旨等を明らかにする記載もないから、前記(ウ)〜(オ)は、ICV投与した
場合のものとして、本件発明1の組成物による送達の効果を記載するものでもない。
エ 以上によると、甲17には、本件発明1が記載されているものとは認められ
ず、本件発明2〜8及び12についてこれと異なって解すべき事情も認められない
から、本件出願について、基礎出願2に基づく優先権を主張することはできない。
基礎出願1についても、基礎出願2と異なって解すべき事情はない。
これと異なる被告の主張は、いずれも採用することができない。ICV投与とI
T投与において、組成物はいずれの場合でもCSFに投与されるものであり、その
ためそれらの間に処方としての共通性や標的組織等への送達における相応の関連性
があるということができたとしても、そのことをもって、具体的な送達の程度や治
療効果についてまで、一方の投与態様についての実験結果等の記載をもって直ちに
他方についての記載と実質的に同視することができるとの技術常識は認められない。
被告の主張は、甲16及び17の記載内容を、本件明細書の記載内容を前提にしな
がら解釈しようとするものであって相当でない。
(2) 甲6が公知文献とされなかったことが直ちに取消事由に当たるかについて
ア 原告は、取消訴訟の審理範囲を根拠として、本件審決に当たり甲6を副引用
例として考慮しなかった本件審決は、優先権に係る判断の誤りによって直ちに取り
消されるべきである旨を主張するので検討する。
イ(ア) 証拠(甲61、62)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件審判請求においては、本件発明1の進歩性に係る無効理由として、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ甲5〜10を適用すること(甲5の適用については、甲5技術と実質的に同一の内容が主張されていた。)により容易想到である旨を主張し、その中で、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を主張する一方、甲6発明(ビヒクル)については主張していなかったことが認められる。本件審決は、基礎出願2に基づく優先権の主張を認めたことから、副引用例としての甲6記載の発明の適用について検討するには至らなかったが、上記のとおり、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を副引用例とする範囲で、審判手続においても審理の対象となっていたものであって、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ上記副引用例を組み合わせることにより進歩性を欠くという無効理由自体は、審判手続において審理対象となっていたものである。
(イ) そして、本件審決は、甲2発明ないし甲4発明と本件発明の相違点について、
甲5及び7〜10を適用して容易想到であるといえるか否かについて判断した一方、
優先権主張を認めたことから甲6は除外し、それゆえ相違点に係る本件発明の構成\nについての甲6発明(製剤)の適用について具体的には判断しなかったものの、甲
2発明ないし甲4発明に甲6発明(製剤)を適用することにより本件発明は容易想
到であるという旨の原告の主張自体については、これを認めることができないとの
判断を示したものである。
(ウ) 原告は、本件訴訟において、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とした上で、
前記(ア)及び(イ)のとおり本件審決で排斥された甲5技術の適用による容易想到性の
主張のほか、甲6に基づき、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を副引用
例として主張するとともに、甲6が技術常識(エリオットB溶液の技術常識及び高
濃度化の技術常識)を補足するものである旨を主張しているところ、本件訴訟にお
いて、容易想到性が争いとなっている本件発明の構成(甲2発明ないし甲4発明と\nの間の各相違点)は、本件審決で判断されたものと基本的に同じであり、甲6発明
(製剤)や甲6発明(ビヒクル)の適用に当たり、本件審決で判断されたもの以外
の相違点が問題になるなどといった事情はない。
(エ) 前記(ア)のとおり、甲6の適用については審判手続においても問題とされ、当
事者双方において攻撃防御を尽くす機会はあったといえる。この点、証拠(甲6、
16、17、乙14、24。なお、訳文として甲6の2・3、乙36)及び弁論の
全趣旨によると、甲6は、基礎出願1及び2がされて間もない平成22年7月2日
に公衆に利用可能となった雑誌「注射可能\なドラッグデリバリー2010:製剤フ
ォーカス」に掲載された「CNSが関与する遺伝学的疾患を治療するためのタンパ
ク質治療薬の髄腔内送達」と題する論文であるところ、同論文は、基礎出願1及び
2に関わった研究者も関与して行われた研究発表に係るものであって、本件発明と\n同様の技術分野に属するもの、すなわち、酵素補充療法において、中枢神経系(C
NS)病因を有する疾患の処置に係るリソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素
を含む薬学的組成物に関連するもの(前記1(2)ア)と解されるほか、その記載内容
は、かなりの部分甲16及び17と重なり合うものである。そのような甲6の性質
や、甲16及び17と本件発明との関係についても優先権主張の可否という形では
あるが各当事者において攻撃防御を尽くす機会があったというべきことを考慮する
と、上記のように審判手続において各当事者に与えられていた甲6の適用について
攻撃防御を尽くす機会は、実質的な機会であったといえる。
(オ) 以上の事情の下では、本件審決においては副引用例としての甲6発明(製剤)
の適用が具体的には判断されるに至らず、また、甲6発明(ビヒクル)については
そもそも審判段階で問題となっていなかったこと(この点、被告は、甲6発明(ビ
ヒクル)を適用しての容易想到性に係る原告の主張について、特にそれが審理範囲
外であるとして争ってはいない。)を考慮しても、本件訴訟において、審判手続にお
いて審理判断されていた甲2発明ないし甲4発明との対比における無効原因の存否
の認定に当たり、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を適用することによ
って容易想到性の有無を判断することが、当事者に不測の損害を与えるものではな
く、違法となるものではない。最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月1
0日大法廷判決・民集30巻2号79頁は、本件のような場合について許されない
とする趣旨とは解されない。
(3) 以上によると、取消事由1は、優先権の判断の誤りという限度において理由
があるが、それをもって直ちに本件審決を取り消すべきという結論において、理由
がない。そこで、以下、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とする容易想到性の主張に係る取消事由5〜7について、検討する。
◆判決本文
当事者が同じ関連事件です。
◆令和4(行ケ)10022
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2023.04.12
令和3(ワ)28206 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年3月16日 東京地方裁判所
原告「ホンダ」VS被告「マツダ」の特許権侵害訴訟です。裁判所は進歩性無しの無効理由があるとして、権利行使不能と判断しました(特104-3)
当裁判所は、本件発明は、進歩性を欠くものとして無効であると判断するものであり(争点2−1−2)、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。以下、進歩性については、争点2−1−2(後記7)を先に判断することとし、構成要件充足性については、当事者双方の主張立証の経緯及び内容を踏まえ、次のとおり、念のため必要な限度で判断の理由を示すこととする。なお、原告は、予\備的に訂正の再抗弁を主張するものの、弁論の全趣旨によれば、現実に訂正請求をするものではなくその予定もないというのであるから、その要件を欠くものであり、後記7において説示するところによれば、上記進歩性に係る判断を左右しないことは明らかである。\n
・・・
上記認定事実によれば、乙9発明と乙10発明は、共に安全性の観点から、
原動機付車両における車両停止時にブレーキがかかった状態を保持すると
いう技術思想が共通するものといえる。そして、乙9発明は、安全性の観点
から、エンジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不可分性を
必須の特徴とするものであるところ、乙9(11頁2〜18行)によれば、
「ステツプS24では、ブレーキペダル信号の有無によりブレーキペダルが
踏込まれているか否かが判断される。・・・運転者が車両を停止させる意思
があると判断するためである。」、「更にステツプS25では、エンジンを
自動停止させるための他の停止条件、例えばターンシグナルが出されていな
いこと、ヘツドランプが点灯していないこと、エアコンデイシヨナが作動し
ていないこと、水温が所定以上であること、等が、ターン信号、ライト信号、
エアコン信号、水温信号等により判断される。」、「これらのステツプS2
1〜S25がすべて肯定判断されれば、エンジン自動停止条件が満足された
こととなる・・・」が記載されていることからすると、乙9発明は、エンジ
ン自動停止始動装置を安全な状態で作動させる観点から、各種検出信号を用
いていることが認められる。
そうすると、エンジン自動停止始動装置を安全な状態で作動させるために、
各種検出信号の一つとして、乙9発明に対し、制動保持装置の異常を検出す
る乙10を適用する動機付けを認めるのが相当である。
したがって、エンジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不
可分性を必須の特徴とする乙9発明の技術的思想に鑑みると、制動保持装置
の異常を検出した場合には、安全性を欠くことは自明であるから、安全性の
観点から各作動の一体不可分性を確保するために、エンジン自動停止始動装
置を安全な状態で作動させるための判断用各種検出信号の一つとして制動
保持装置異常検出信号を加えた場合において、制動保持装置の異常が検出さ
れたときは、乙9発明にいうステップS21〜S25が肯定判断されず、エ
ンジン自動停止条件が満足されなくなる。
そのため、上記場合には、制動保持装置異常検出信号が、エンジン自動停
止始動装置を作動させないことになり、もってその作動を禁止することにな
る。したがって、乙9発明に乙10発明を適用してエンジン自動停止始動装置
の作動を禁止することが、当業者の適宜なし得る設計事項の範疇であること
は、上記一体不可分性に照らし、明らかである。
以上によれば、制動保持装置の異常を検出した場合には、エンジン自動停
止始動装置の作動を禁止する構成(相違点1に係る構\成)を容易に想到でき
るものと認めるのが相当である。
実質的にみても、本件発明は、原動機停止装置の実行を判断するための各
種検出信号の一つとしてブレーキ液圧保持装置の故障検出信号を備えるも
のであり、乙9発明に乙10発明を適用した構成との間に、技術思想におい\nて異なるところはない。
◆判決本文
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2023.04. 7
令和4(ワ)16934 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年3月28日 東京地方裁判所
実案を基礎としてした特許出願について登録となりました。権利者が権利行使しましたが、無効主張がなされ、進歩性無しと判断されました(特104-3)。
本件特許はこれです。
◆本件特許
「本発明」は、前記アの課題を解決するため、授乳者のプライバシーが
保護された状態で授乳を行うことができる授乳用空間が形成された授乳
エリアを簡易に設置できるようにすると共に、授乳用空間のレイアウト
の変更を容易にできるようにすることを目的とするものであり、「本発明」
の授乳用ユニットは、内部に空間が形成された箱状の筐体と、筐体に形
成された開口状の出入口と、出入口に設けられ、閉状態のときに出入口
を塞ぎ、筐体の内部の空間を遮蔽するドアと、筐体の内部の空間に設け
られ、授乳者が着座可能な1つの一人着座用の椅子と、筐体を移動させるキャスターと、を備えることにより、ドアを閉状態とすれば、筐体の内部の空間が遮蔽され、外部から筐体の内部が視認できない状態となる\nため、授乳者は、筐体の内部で、他人に見られることなく、プライバシ
ーが保護された状態で授乳を行うことができ、授乳エリアとなる空間に
授乳用ユニットを持ち込み、キャスターを利用して授乳用ユニットを適
切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成され
た授乳エリアを設置することができることから、授乳エリアの設置に際
し、綿密な設計の下、各設備を適切な位置に固定的に設ける必要がなく、
授乳エリアの設置が簡易化し、キャスターを利用して授乳用ユニットを
移動させるだけで、授乳エリアにおける授乳空間のレイアウトの変更を
行うことができるため、授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ
とができるとの効果を奏する(【0007】ないし【0009】)。
・・・
a 原告は、乙6発明の技術分野は、「プライバシーに配慮した筐体内
部に保育空間を形成する技術」に関するものであり、前記(ア)の公報
及び文献に記載の発明の技術分野とは異なっているから、筐体の移動
を容易ならしめるため、筐体にキャスターをつけることは、乙6発明
の技術分野における周知技術であるとは認められないと主張する。
しかし、前記(ア)において認定したとおり、少なくとも利用者と機
器等を収納する筐体に係る技術分野においては、当該筐体の具体的な
用途にかかわらず、広く当該筐体の移動を容易ならしめる手段として
のキャスターが利用されている。そのような利用状況からすると、移
動対象が授乳室という「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間
を形成する」用途の筐体であるからといって、当業者において、当該
技術分野における周知慣用技術である筐体にキャスターを設けるとい
う構成を乙6発明に係る授乳室に適用することが困難であるとはいえない。
b 原告は、1)乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付けると、
設置面と授乳室の床面との間に段差が生じ、授乳室の安全な利用を図
るという目的に反する、2)乙6発明に係る授乳室においては、授乳用
チェア等の室内装備が固定・固着されていないから、乙6発明に係る
授乳室にキャスターを取り付けて移動可能にすると、授乳等を安全に行うことができなくなる、3)乙6発明に係る授乳室の安全性を保ちつ
つ、キャスターを取り付けることには技術的ハードルがあるとして、
乙6発明に係る授乳室に、キャスターを適用することを妨げる特段の
事情があると主張する。
しかし、1)については、乙6文献の記載から、乙6発明に係る授乳
室は、ロビーの床面と授乳室の床面との間の段差があり、これによる
弊害を解消するため、乙6発明に係る授乳室の出入口付近の床面から、
ロビーの床面に延びるスロープを備えているものと認められ、段差に
よる弊害は、同スロープの設置により解消することができるといえる。
また、技術常識に照らし、取り付けるキャスターのサイズや取付方法
を工夫することにより、上記のような段差が生じることを抑制するこ
とが困難であるとは考え難い。したがって、段差が生じることが乙6
発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因になるとは認め
られない。
次に、2)については、授乳者を授乳室に収容したまま授乳室を移動
させない限り、乙6発明に係る授乳室内の設備が固定されていない
ことによる授乳者の安全性への影響が生じるとは考え難く、実際に
そのような影響が生じると認めるに足りる証拠もない。むしろ、授
乳者を乙6発明に係る授乳室に収容したまま授乳室を移動させるこ
とは通常の使用方法ではないというべきである。したがって、室内
装備が固定・固着されていないことが乙6発明に係る授乳室にキャ
スターを取り付ける阻害要因になるとは認められない。
さらに、3)については、筐体にキャスターを取り付けることによ
って、不意に筐体が動き出すとの事象が生じ得ることは、容易に想定
できるところ、これによる弊害は、キャスターにストッパーを取り付
けることにより回避することができる。そして、筐体にキャスターを
取り付け、同キャスターにストッパーを取り付ける構成は、前記(ア)
e及び同fのとおり、乙16公報及び17公報において開示されてお
り、周知技術であると認められるから、当業者であれば、筐体にスト
ッパー付きのキャスターを取り付けるという周知技術を適用し、容易
に克服できる弊害であるといえる。したがって、安全性を保つ必要が
あることが乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因
になるとは認められない。
◆判決本文
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2023.04. 7
令和4(ワ)3847 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年3月23日 大阪地方裁判所
本件特許には無効原因があるにもかかわらず、被告が税関に輸入禁止の申立てを行った行為が不法行為に該当するとして、不法行為に基づく損害賠償が請求されました。大阪地裁は「理由無し」と判断しました。税関で、特許権に基づく輸入禁止認定がなされる例があるんですね。該当特許は、形状がユニークなトレーニング機器です。無効審判も理由無しと判断されています。
◆該当特許
原告は、甲7公報の記載からバー10を抽出し、別紙「主張一覧表」の「無効理由1」の「原告の主張」欄記載の構\成a〜gを有するとして、これを引用発明(甲7発明)とし、本件各発明は甲7発明の構成を全て備える、本件各発明の構\成要件Fが甲7発明の構成fと相違するとしても、バー10を用いてトレーニングすることは可能\であるから相違点は軽微である旨主張する。しかし、甲7公報の記載から、バー10のみを分離して独立の運動器具としての発明と理解することは相当でない。すなわち、前記(2)イ認定のとおり、甲7
公報には、従来のバーベル機材およびダンベル機材において、比較的長いバーを
有する装置はバランスをとることが困難であり、重りを使用しない装置は本格的
なボディビルダーに対しては限定的な有効性しか有さないとの欠点や、三頭筋を
働かせるのに使用されるほとんどの器具が手のひらを上に向けることを必要とす
るが、このようなタイプのハンド・ポジションは、特に重い重りを持ち上げなが
ら肘を内側で維持することを困難にするとの欠点があったこと、甲7公報記載の
発明は、三頭筋をエクササイズするためのウエイトリフティング装置を提供する
ことにより従来技術の短所を解消するものであり、バランスをとることの問題を
有意に低減する中央に位置する重りプレート固定手段を有し、複数のハンド・ポ
ジションおよび間隔を可能にする三頭筋伸展装置を開示すること、装置は、バー・ハンドル組立体および支持クランプ組立体である2つの主要構\成要素を有すること、重り支持プラットフォーム26および解除可能なクランプ手段28が支持クランプ組立体を形成し、バー10が、中央に位置する重り支持プラットフォーム26に固定されること、プラットフォーム26をバー10に取り付けることが、\n好適には、故障を引き起こす可能性を排除するために、溶接によって達成されること、重り又は重りプレート40をプラットフォーム26上で位置決めするのに直立ポスト38が使用され、クランプ部材28がポスト38の周りで固定的に留\nめられ、それにより重りをプラットフォーム26上に固着することが記載される。
これらの記載からすると、甲7公報記載の発明において、重り支持プラットフォー
ム26を含む支持クランプ組立体はバー10とともに装置の主要構成要素であり、バー10は溶接等の方法によりプラットフォーム26に固定され、バー10は重り支持プラットフォーム26等と物理的に一体であることが前提となっていると\nいえる。また、甲7公報記載の発明は、従来のバーベル機材等における、比較的
長いバーを有する装置はバランスをとることが困難であり、重りを使用しない装
置は本格的なボディビルダーに対しては限定的な有効性しか有さないとの欠点を
解消するため、バランスをとることの問題を有意に低減する中央に位置する重り
プレート固定手段を有し、複数のハンド・ポジションおよび間隔を可能にする三頭筋伸展装置を提供するものであり、バー10は支持クランプ組立体と一体となって作用効果を奏するといえる。そして、バー10のみが独立してウエイトリフティ\nング・エクササイズにおける運動器具としての作用効果を発揮することは、甲7
公報には記載も示唆もされていない。
以上によれば、三頭筋運動器具の発明に関する甲7公報の記載から、その部材
の一つにすぎないバー10のみを抽出して独立の運動器具としての引用発明(甲
7発明)と理解することはできず、本件各発明の構成要件Fと甲7発明の構\成f
は明らかに相違する。
・・・
原告は、甲7公報の記載からバー10を抽出した甲7発明を主引用発明と
して、公知技術(甲8、9)を適用することにより、本件各発明は、当業者が容
易に発明することができる旨主張する。
しかし、前記(3)アのとおり、甲7公報の記載から、部材の一つにすぎないバー
10のみを分離して独立の運動器具の発明と理解することは相当でなく、トレー
ニング器具の発明である本件各発明とは技術的内容・性質の異なる甲7発明を主
引用発明として、本件各発明が進歩性を欠如する旨の原告の主張は認められない。
イ 前記(3)ウのとおり、被告は、本件各発明と甲7発明(被告)を対比する
と、少なくとも、相違点1)及び2)が相違する旨主張するところ、原告は、被告主
張の相違点を前提としても、相違点に係る本件各発明の構成は、公知技術(甲8、9)から容易想到である旨主張するので、以下、検討する。
ウ 容易想到性の検討
(ア) 相違点1)(本件各発明は、重り支持部分を備えないのに対し、甲7発明
(被告)は、重り支持部分を備える点)について
前記(3)アのとおり、甲7公報記載の発明は、ウエイトリフティング装置とし
て、バー10に重り支持部分(重り支持プラットフォーム26、クランプ部材2
8、直立ポスト38)を固定し、重り又は重りプレート40を重り支持プラット
フォーム26に固着して使用することを前提とした発明である。すなわち、バー
10は、重り支持プラットフォーム26等により形成される支持クランプ組立体
と物理的に一体となって作用効果を奏するものであるし、バー10が独立して運
動器具としての作用効果を発揮することは、甲7公報に記載も示唆もされていな
いから、甲7公報に接した当業者に、甲7公報記載の発明から重り支持部分を取
り外す動機付けがあるとは考え難い。したがって、相違点1)に係る本件各発明の
構成は甲7発明(被告)から容易想到であるとはいえない。
これに対し、原告は、甲7公報の明細書に溶接前の単独のバー10が記載され
ていること、甲7発明(被告)は重りのついた状態でも本件各発明と同様の作用
効果を奏すること、バー10の状態でも一定の三頭筋エクササイズの効果は得ら
れるところ、よりエクササイズの幅を広げる目的で甲7発明(被告)から重り支
持部分を取り外す動機付けはあることを根拠として、甲7発明(被告)から重り
支持部分を取り外すことは容易想到である旨主張する。しかし、前示のとおり、
甲7公報には、バー10が単独で運動器具としての作用効果を奏することは何ら
開示されていない。仮に甲7発明(被告)が本件各発明と同様の作用効果を奏す
るとして、甲7発明(被告)は、ウエイトリフティング装置として、バー10に
固定された重り支持部分を構成する重り支持プラットフォーム26に重り又は重りプレート40を固着して使用することを前提とした発明であるから、よりエクササイズの幅を広げる目的で重りを取り外して使用する可能\性はあるとしても、重り支持部分全体を取り外す動機付けがあるとはいえない。したがって、原告の主張は採用できない。
・・・
以上より、原告が主張する無効理由1〜3はいずれも認められず、本件各発明
について無効原因があるとはいえない。したがって、被告が本件特許権に基づい
て行った本件申立てが違法なものであるとは認められず、本件申\立てについて、
不法行為は成立しない。
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2023.04. 4
令和4(行ケ)10092 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年3月27日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、ゲームプログラムについて、新規事項である&進歩性なしとした判断は誤りであるとして、拒絶審決を取り消しました。
当初明細書等及び第2次補正後の明細書等に記載の発明の技術的意義は、前
記2(1)イ及び(2)記載のとおり、ユーザの強さの段階を基準として所定範囲内の
強さの段階にある対戦相手を抽出することにより、従来のように対戦相手をラ
ンダムに抽出する場合に比べて、対戦相手間の強さに大差が出て勝敗がすぐに
ついてしまう戦いの数を低減することができ、また、対戦相手の強さに一定の
ばらつきを含ませて対戦ゲームの難度を変化させ、ユーザのゲームに対する興
味を増大させることにある。
そして、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユーザ」の「強さ」に、
攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが
本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間に争いがない(本件審決第
2の2(2)イ(ウ)〔本件審決12頁〕参照)。
上記のような、対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユー
ザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細
書等記載の「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当で\nあり、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」とすることは、発明の一実施形態
としてあり得るとしても、技術常識上「強さ」に含まれる要素の中から、あえ
て体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力と防御力の合
計値」に限定しなければならない理由は見出すことができない。言い換えれば、
「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的
意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付
加的な事項にすぎないと認められる。
そうすると、当初明細書等には、「強さ」の実施形態として、文言上は「攻撃
力及び防御力の合計値」としか記載されていないとしても、発明の意義及び技
術常識に鑑みると、第2次補正により、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」
に限定せずに、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータ」と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたも\nのとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認め
られない。そうすると、第2次補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内
においてされたものであると認められ、特許法17条の2第3項の規定に違反
するものではないというべきである。
したがって、本件審決が、第1次補正発明の「強さ」について、第2次補正
により「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」と補正したことは新たな技術的事項を導入するものである\nとして、第2次補正は特許法17条の2第3項の規定に違反すると判断して第
2次補正を却下した(本件審決第2)のは誤りであると認められ、本件審決に
は、原告主張の取消事由が認められる。
4 被告の主張に対する判断
(1) 被告は、当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の合計値」
に限定されるものであることは明らかである旨主張する(前記第3〔被告の
主張〕2(1)ア)。
しかし、前記3のとおり、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユ
ーザ」の「強さ」に、攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテ
ム数等が含まれることが本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間
に争いがない。そして、当初明細書等に、「強さ」について「攻撃力及び防御
力の合計値」と記載された箇所があるとしても、発明の技術的意義に鑑みれ
ば、「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りるものと解され、「強さ」から\n「攻撃力及び防御力の合計値」以外の要素を除外する理由は見出されない。
対戦ゲームには様々な形態があり得るものであり、技術常識に照らすと、ゲ
ームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパラメータが
想定されるものと認められ、段落【0028】に記載の「攻撃力及び防御力
等」における「等」や図2(b)における「…」が、「強さ」の要素のうち、
攻撃力及び防御力以外の体力、俊敏さ、所持アイテム数等の要素を示すと解
することは十分に可能\である。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(2) また、被告は、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の\n文言によっては、「強さ」にどのようなパラメータが包含されるのかが具体的
に特定できず、第三者に不測の不利益を生じると主張する(前記第3〔被告
の主張〕2(1)イ)。
確かに、対戦ゲームには様々の形態があり得るものであり、技術常識に照
らすと、ゲームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパ
ラメータが想定されるものと認められる。
しかし、各形態のゲームにおいてどのような「強さ」のパラメータを設定
するのが適当かは、当業者であれば適宜判断し得るものと推認され、ユーザ
の強さを基準として所定範囲内の強さを有する他のユーザを対戦相手として
選択することにより、ユーザのゲームに対する興味の低下を防ぐという発明
の技術的意義に照らせば、ある形態の対戦ゲームにおいて「強さ」にどのよ
うなパラメータが含まれるかは、当業者であれば想定し得るものと推認され
る。そうすると、「強さ」が「攻撃力と防御力の合計値」に限定されていない
としても、第三者に不測の不利益をもたらすものとは認められない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(3) 被告は、第2次補正によって「強さ」が広範な概念へと拡張され、新たな
技術的事項を追加するものとなったこと、「数値が高い程前記対戦ゲームを
有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の文言には、どのようなパラメータが包含されるの\nかが具体的に特定できず、第三者に不測の不利益をもたらすことから、第2
次補正は認めるべきでない旨主張する(前記第3〔被告の主張〕3)。
しかし、前記(1)及び(2)において述べたとおり、被告の上記主張は採用する
ことができない。
(4) また、被告は、当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の
合計値」に限定されるものであることは明らかであると主張するが(前記第
3〔被告の主張〕4)、前記(1)のとおり、このような被告の主張は採用するこ
とができない。
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2023.04. 4
令和4(行ケ)10009 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年3月27日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、異議申立の特許取り消し決定について、判断を誤っているとして取り消しました。
本件決定は、相違点1に関し、1)甲2技術的事項に接した当業者であれば、
「複数本数の容器弁付き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1
発明において、「窒素ガス」が、過剰圧力がかかった状態で防護区画へ放出さ
れ得ることを防ぐために、窒素ガスが、過剰圧力がかからないように制御さ
れた速度で、防護区画に順次放出されるようにすればよいことを容易に認識
するといえる、2)甲2技術的事項では、「メインバルブ22」と、「ラプチャ
ーディスク16a」と、「ラプチャーディスク16b」の開放時間をずらすこ
とで、「過剰圧力がかからないように制御された速度で、保護された部屋14
に順次放出されるようにする」ことを実現しているが、「複数本数の容器弁付
き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1発明において、窒素ガ
スの過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出す
るには、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこ
とによって実現でき、ラプチャーディスク等を用いるまでもないことは、当
業者であれば普通に予測し得たことである、3)本件明細書の【0025】の
記載を参酌すると、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイ
ミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであって前記第一
の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止す
る前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」とは、制御部か
らの信号により開弁のタイミングが決定づけられているということ以上を意
味していないと解さざるを得ず、そのタイミングを「前記一つの容器の容器
弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミン
グであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が
重なることを防止する前記第二の開弁タイミング」とすることは、窒素ガス
の過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出する
ことを、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこ
とによって実現するための必然的なタイミングでしかないから、「前記一つ
の容器の容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の
開弁タイミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスの
ピーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、
前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える」ことも当業者が容易に想
到し得たことである、4)甲7及び8の記載事項からみて、「複数の消火ガス容
器を備え、防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消火設
備において、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の容器の
容器弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容器弁の開
弁時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備の技術分野
において、本件出願前、周知技術であったといえる、5)甲2技術的事項に接
した当業者であれば、甲1発明において、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた
「容器弁」の開弁時期をずらすことで、相違点1に係る本件発明の発明特定
事項(構成)とすることは、当業者が容易に想到し得たというべきである旨\n判断した。
しかしながら、本件決定の判断は、以下のとおり誤りである。
ア 1)及び2)について
・・・
(ウ) 以上のとおり、甲1記載の「容器弁」付き窒素ガス貯蔵容器の「容器
弁」と甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」は、動作及び機能が異\nなること、甲1及び2のいずれにおいても貯蔵容器の容器弁又はガスシ
リンダーのバルブの開閉時期をずらして複数のガスシリンダーからそ
れぞれ順次ガスを放出することによって保護区域又は保護された部屋
の加圧を防止することについての記載や示唆はないことに照らすと、甲
1及び2に接した当業者は、甲1発明において、保護区域又は保護され
た部屋の加圧を防止するために甲2記載のラプチャーディスクを適用
することに思い至ることがあり得るとしても、ラプチャーディスクを用
いることなく、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期
をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出するこ
とよって加圧を防止することが実現できると容易に想到することがで
きたものと認めることはできない。
したがって、本件決定の1)及び2)の判断は誤りである。
イ 3)について
本件決定の2)の判断は、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の
開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであっ
て前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重な
ることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」
とは、制御部からの信号により開弁のタイミングが決定づけられていると
いうこと以上を意味していないと解さざるを得ないことを根拠として、容
器弁に接続される制御部を備える甲1発明において、「前記一つの容器の
容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タ
イミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピ
ーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、
前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える」こと(相違点1に係る
本件発明1の構成の一部)も当業者が容易に想到し得たことをいうものと\n解されるところ、本件発明1の「決定し」の用語のクレーム解釈から直ち
にそのような結論を導き出すことには論理的に無理があり、論理付けが不
十分である。\n
ウ 4)について
仮に本件決定が述べるように甲7及び8の記載から、「複数の消火ガス
容器を備え、防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消
火設備において、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の
容器の容器弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容
器弁の開弁時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備
の技術分野において、本件出願前、周知であったことが認められるとして
も、当業者が、甲1発明において、上記周知技術を適用することについて
の動機付けがあることを認めるに足りる証拠や論理付けがない。
エ まとめ
以上によれば、当業者は、甲1、甲2技術的事項及び前記周知技術に基
づいて、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることを\n容易に想到することができたものと認めることはできないから、これと異
なる本件決定の判断は誤りである。
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2023.03.31
令和4(行ケ)10029 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年3月27日 知的財産高等裁判所
特許異議申し立てにより、取り消された特許権について、知財高裁は、審判の判断を破棄しました。特許異議申\立で取り消しが成立することも珍しいですが、さらにその審決が取り消されることも珍しいです。争点は、進歩性、サポート要件・実施可能要件です。\n
発明の詳細な説明が物の発明について実施可能要件を満たすためには、当\n業者が発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の
試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の
記載があることを要するものと解される。
(2) 本件では、長細状凸部ループ構造を有し、光学三特性を有する防眩層を備\nえる第1実施形態に係る防眩フィルムにより本件各発明を実施できることは
当事者間に争いはない。しかし、本件各発明は、光学三特性を満たす防眩層
を備えることを要するものの、特許請求の範囲においては、その構造は限定\nされておらず、長細状凸部ループ構造以外の構\造のものも本件各発明に含ま
れるものと解される。そこで、本件明細書等の記載に長細状凸部ループ構造\n以外の構造のものが含まれているといえるか否かを検討する。\nまず、本件明細書等の段落【0034】には、[防眩層の構造]として、「第\n1実施形態の防眩層3は、複数の樹脂成分の相分離構造を有する。防眩層3\nは、一例として、複数の樹脂成分の相分離構造により、複数の長細状(紐状\n又は線状)凸部が表面に形成されている。長細状凸部は分岐しており、密な\n状態で共連続相構造を形成している。」と記載されている。それに続く段落\n【0035】には、「防眩層3は、複数の長細状凸部と、隣接する長細状凸部
間に位置する凹部とにより防眩性を発現する。防眩フィルム1は、このよう
な防眩層3を備えることで、ヘイズ値と透過像鮮明度(写像性)とのバラン
スに優れたものとなっている。防眩層3の表面は、長細状凸部が略網目状に\n形成されることにより、網目状構造、言い換えると、連続し又は一部欠落し\nた不規則な複数のループ構造を有する。」として、長細状凸部ループ構\造につ
いて記載されているが、この段落【0035】の記載は、第1実施形態の防
眩層として、長細状凸部ループ構造以外の相分離構\造を否定しているものと
は認められない。
また、本件明細書等には、第1実施形態において、共連続相構造だけから\nなる形状のほかに、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構\造(球
状、真球状、円盤状や楕円体状等の独立相の海島構造)との中間的構\造も形
成できることが記載されているし(段落【0072】)、相分離により層表面\nに微細な凹凸を形成することで、防眩層中に微粒子を分散させなくても防眩
層のヘイズ値を調整できることが記載されており(段落【0073】)、共連
続相構造に限定しない微細な凹凸を形成することが示唆されているといえる。\nそして、本件明細書等の段落【0134】には「実施例1〜6は、相分離
構造を基本構\造として防眩層3を形成するものである。」と記載されている
ものの、全ての実施例が長細状凸部ループ構造であるとは記載されていない\nし、甲47(実施例3及び6の防眩フィルムの顕微鏡写真)の実施例3の防
眩フィルムの表面形状・構\造を撮影した写真からは、長細状凸部ループ構造\nとまではいえない凹凸形状が形成されていることが認められるから、第1実
施形態の凹凸構造として、長細状凸部ループ構\造以外の凹凸構造をも製造す\nることができると認められる。さらに、長細状凸部ループ構造以外の凹凸構\
造が形成され、かつ光学三特性を備える防眩フィルムとして、甲47の実施
例3の凹凸構造しか製造できないことを示す証拠はない。\nそうすると、第1実施形態の防眩層には、長細状凸部ループ構造以外の凹\n凸構造のものが含まれており、そのようなものも含め、当業者であれば、少\nなくとも第1実施形態により、光学三特性を満たす本件各発明に係る防眩層
を、過度の試行錯誤なく製造できるものと認められる。
したがって、本件明細書等には、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出
願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を
製造し、使用することができる程度の記載があると認められる。
(3) この点に関し、被告は、本件各発明は、第1構造防眩層を備えた防眩フィ\nルムのみならず、第2構造防眩層及び第3構\造防眩層を備えた防眩フィルム
を含むにもかかわらず、本件明細書等には、実施例として第1構造防眩層に\nついて示されているにすぎず、第2構造防眩層及び第3構\造防眩層について
は、具体的製造例や光学三特性の測定結果等の記載はなく、凹凸をどのよう
に形成すればよいか等について何らの示唆もない旨、原告が光学三特性を得
るための構造として主張する構\造は、第1構造防眩層を上位概念化したもの\nであり、それによって直ちに光学三特性を得られるものではない旨主張し、
そのため、光学三特性のパラメータの数値範囲を満たす第2構造防眩層及び\n第3構造防眩層を製造するには過度の試行錯誤を要すると主張する(前記第\n3の2〔被告の主張〕)。
しかし、第2実施形態または第3実施形態により、第1実施形態では製造
できない防眩フィルムを製造することは、本件明細書等には記載されていな
い。むしろ、本件明細書等の段落【0079】には、「第1実施形態において
前述したスピノーダル分解によって、このような凹凸を防眩層に形成できる
が、その他の方法によっても、このような凹凸を防眩層に形成できる。例え
ば第2実施形態のように、防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒\n子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤と
の斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適
度な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形\n成できる。」と記載され、第1実施形態のような凹凸を他の方法で形成できる
とした上で、その一例として第2実施形態の方法で形成することが示されて
いるし、また、本件明細書等の段落【0079】には、上記の記載に続けて、
「そこで以下では、その他の実施形態の防眩層について、第1実施形態との
差異を中心に説明する。」と記載され、以下に、第2実施形態(段落【008
0】ないし【0102】)、第3実施形態(段落【0103】ないし【011
5】)の説明が続けてされているから、第3実施形態は、第1実施形態によっ
て得られる凹凸を形成する「その他の方法」の一つであると解するのが自然
である。そして、本件各発明に含まれる防眩フィルムであって、第1実施形
態以外の方法により作成できない防眩フィルムの存在やその態様を裏付ける
証拠はない。そうすると、第1実施形態により作成できる防眩フィルムを、
第2実施形態や第3実施形態によっても作成できるものと認められ、仮に、
第1実施形態により作成できる防眩フィルムの中に、第2実施形態や第3実
施形態により作成できないものがあったとしても、それにより、第1実施形
態により本件各発明が実施可能であることが否定されるものではない。\n
なお、第2実施形態により製造された第2構造防眩層、第3実施形態によ\nり製造された第3構造防眩層の中に、第1構\造防眩層とは異なる形状・構造\nを有するものがあり、それらが本件各発明の光学三特性を満たさなかったと
しても、それらは本件各発明を実施するものではないというにとどまり、そ
れによって本件各発明の実施可能性が否定されるわけではない。\n
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2023.03.24
令和4(ネ)10087 特許権侵害損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害として、1審で約800万円の損害賠償が認められました。双方控訴しましたが、控訴棄却されました。原告(控訴人)は代理人なしの本人訴訟です。
(1) 業界における実施料等の相場について
ア 一審原告は、前記第2の4(4)ア aのとおり、原判決が、甲55報告書
の例外的事象における実施料率を理由に、電気等の分野の実施料率の平均
値を採用しなかったのは不当である旨主張する。
しかし、原判決は、一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となると
いう甲55報告書の指摘に着目して、電気等の分野の実施料率の平均値を
採用しないとしたのであり、その判断は首肯できるものである。
イ 一審原告は、前記第2の4(4)ア bのとおり、乙13陳述書における実
施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。
しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙13陳述書は、具体
的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示したものと
理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を吟味する必要
があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や分割出願制度等を
利用した出願を全てまとめて1パテントファミリーとして、パテントファ
ミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、1件当たりのライセンス
料率が過少にならない工夫をしていること等に鑑みると、その信用性が否
定されるべきものとはいえない上、そもそも原判決は、乙13陳述書にお
ける料率をそのまま採用しているのではなく、その他の各種事情を総合勘
案した上で、料率を決定しているのであるから、一審原告の主張は採用で
きない。
(2) 代替品の不存在について
一審原告は、前記第2の4(4)ア のとおり、本件訂正発明によらずに、
本件訂正発明の効果を奏することは経済的に現実的ではなかった旨主張す
る。
しかし、これを的確に裏付けるに足りる証拠はないし、その他の各種事
情を総合考慮すると、そもそもこの点のみをもって本件結論が左右すると
はいい難いから、一審原告の上記主張は採用できない。
・・・
一審被告は、「本来解像度」の用語の意義について、本件明細書等【00
32】に「「本来解像度」とは「本来画像」の解像度をする。」と定義され
ているので、「本来画像」の意義が問題となるところ、「本来画像」の用語
の意義、内容は不明確であるから、本件特許明細書には、構成要件G’にお\nける「本来解像度」の意義を理解するための記載がなく、サポート要件に反
する旨、当審において新たに主張するが、本件明細書等の「本来画像」及び
「本来解像度」に関する関係記載(【0006】、【0032】、【007
9】、【0115】、【0118】、【0119】、【0124】ないし
【0126】、【0128】ないし【0130】等)を総合すれば、当業者
は、「本来画像」及び「本来解像度」が何を意味するかにつき十分に理解で\nきるというべきであるから、本件訂正発明は本件明細書等の発明の詳細な説
明に記載したものといえる。
その他にも、両当事者はるる主張するが、いずれも本件結論を左右し得な
い。
第4 結論
以上によれば、一審原告の請求は、主位的請求である不法行為に基づく損害
賠償請求権に基づき819万9458円及びこれに対する令和元年12月13
日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める限度で理由があり、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由\nがないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、一審原告及
び一審被告の控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとお
り判決する。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和1(ワ)32239
関連審決取消訴訟事件です。
◆令和3(行ケ)10139
◆平成28(行ケ)10257
同一特許についての別侵害訴訟の控訴審と1審です
◆令和4(ネ)10031
◆令和2(ワ)5616
◆令和3(ネ)10023
◆平成30(ワ)36690
◆令和4(ネ)10056
◆令和2(ワ)29604
この事件では、知財高裁は、損害額の算定について以下のように言及されています。
一審原告は、前記第2の3(4)ア aのとおり、甲26報告書の79頁
は、デバイスに関して、クロスライセンスの方式による場合において、
実施料率の相場が1%未満すなわち0.数%であることを示すにすぎ
ないから、原判決のこの点に係る認定には誤りがある旨主張する。
しかし、甲26報告書の79頁によれば、デバイス等においては、製
品が数百ないし数千の要素技術で成り立っていること、互いの代表特\n許をライセンスし合い、実施料率の相場は1%未満であることといっ
た一般的な事情が認められところ、これに加えて、引用に係る原判決
第4の11(3)イ 及び のとおり、一審被告が被告製品の製造販売の
ためにした複数のライセンス契約におけるアプリ特許(標準必須特許
以外の特許)に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率
は平均●●●●●●●%であり、これを画像処理に関連する発明に限
定すると1件当たりのライセンス料率は、平均●●●●●●●●%と
なること等、本件特有の事情も考慮すれば、原判決の相当実施料率の
認定に誤りがあるとはいえない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア bのとおり、ライセンス料は、主
として「代表特許」の価値によって決まるので、乙14陳述書の計算\nにおける標準必須特許を除く「全ての特許の件数で除した1件当たり
のライセンス料率」は不当にディスカウントされたものである旨主張
する。
しかし、乙14陳述書は、代表特許(甲26の79頁にいう「相互\nの代表的な特許」)ではなく、標準必須特許(携帯電話事業分野の標\n準規格の実施に不可欠な特許)と、アプリ特許(通信規格に適合する
ために不可欠とはいえない特許)を分けて扱っているのであり、それ
自体は合理的なことであって、このような方式を採ることが不当なデ
ィスカウントに当たるともいえないから、一審原告の主張は採用でき
ない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア cのとおり、乙14陳述書におけ
る実施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。
しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙14陳述書は、
具体的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示し
たものと理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を
吟味する必要があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や
分割出願制度等を利用した出願を全てまとめて1パテントファミリー
として、パテントファミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、
1件当たりのライセンス料率が過少にならない工夫をしていること等
に鑑みると、その信用性が否定されるべきものとはいえない上、そも
そも原判決は、乙14陳述書における料率をそのまま採用しているの
ではなく、その他の各種事情を総合勘案した上で、料率を決定してい
るのであるから、一審原告の主張は採用できない。
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2023.03.24
令和4(行ケ)10037 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年2月7日 知的財産高等裁判所
空調服に関する特許について、公然実施発明との組み合わせる動機づけありとして、無効理由なしとした審決を取り消しました。
前記aないしdの各記載によると、本件出願日当時、被服の技術分野におい
ては、2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、そもそも2つの紐
状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容易ではないとの周知かつ自明の
課題が存在したものと認められる(なお、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、
本件出願日当時に存在した課題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるよ
うにすることは非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調
整することができないとの記載がみられるところである。)。
そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成(「前記空調服の\n服地の内表面であって前記襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた紐1と」、\n「前記紐1が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第二
の位置に取り付けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによっ
て、空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、甲41\nに「首と襟足の間隔を広くし」との記載(前記(1)イ(イ))及び紐が首の後ろにあ
る旨の図示(同)があることからすると、本件公然実施発明に接した本件出願日当
時の当業者は、上記の課題を認識するものと認めるのが相当である。
(イ) 甲30発明’が解決する課題
前記(3)アの記載のとおり、甲30発明’は、「帯紐6a」に「ボタン7a」を、
「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタン7a」を複数ある
「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成を採用することにより、「帯紐\n6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調整し、もって、個人差のある腰回りの大き
さに応じて介護用パンツ1を装着することを可能にするというものであるところ、\n甲30に装着の容易さについての記載(段落【0008】、【0009】、【00
11】)があることや、前記(ア)eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願日当
時に被服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願日当時
の当業者は、甲30発明’につき、これを2つの紐状部材を結んでつないで長さを
調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として認識するものと
認めるのが相当である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される
課題と甲30発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当である。
(エ)a この点に関し、被告は、本件公然実施発明の課題は空気排出口の開口部
を形成することであり、甲30に記載された技術事項とは異質のものであり、かつ、
異なると主張する。
しかしながら、前記(1)ア及びイの各記載のとおり、本件公然実施発明は、空調
服の服地の内表面であって襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた「紐1」\nと、「紐1」が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第
二の位置に取り付けられた「紐2」とを備え、「紐1」及び「紐2」を結ぶことに
よって、首と襟足との間に形成される空気排出スペースの大きさを調整するもので
あるところ、前記(ア)eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願日当時に被服の
技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件公然実施発明に接した
本件出願日当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するための手段であ
る「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間で容易ではな
いことが本件公然実施発明の課題であると認識するのに対し、前記(イ)のとおり、
本件出願日当時の当業者は、甲30発明’につき、これを2つの紐状部材を結んで
つないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として
認識するものと認められるから、本件公然実施発明から認識される課題と甲30発
明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当である。本件公然実施発明が空
調服の首回りの空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、甲30
発明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すなわち、両
者が何を調整するのかにおいて異なることは、課題の共通性に係る上記結論を左右
するものではない(両者は、紐状の部材の締結により被服が形成する空間の大きさ
を調整するとの目的ないし効果において異なるものではない。)。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
b 被告は、本件発明3の課題は斬新であり、これは本件公然実施発明の課題と
甲30に記載された技術事項の課題との共通性を否定する事情となると主張する。
しかしながら、仮に、本件発明3の課題が斬新であったとしても、そのことによ
り、本件公然実施発明から認識される課題や甲30発明’が解決する課題に影響を
及ぼすものではないから、被告の上記主張を採用することはできない。
ウ 本件公然実施発明に甲30発明’を適用することについての動機付けの有無
(ア) 前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実施
発明に接した本件出願日当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するた
めの手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間
で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するため、同じ被服の技術分野に
属する甲30発明’を採用するよう動機付けられたものと認めるのが相当である。
(イ) この点に関し、被告は、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を
調整できるとの技術常識は存在しなかったから、本件公然実施発明に甲30に記載
された技術事項を組み合わせることはできなかったと主張し、その根拠として、本
件明細書の段落【0006】の記載を挙げる。
しかしながら、前記1(1)のとおり、本件明細書の段落【0006】には、一組
の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは非常に難しく、ほとんどの着
用者は空気排出口の開口度を適正に調整することができなかったことなどが記載さ
れているにすぎず、この記載から、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度
を調整することはおよそできないとの技術常識が存在したものと認めることはでき
ない。その他、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を調整することはお
よそできないとの技術常識が存在したものと認めるに足りる証拠はない。
◆判決本文
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2023.03.22
令和4(ネ)10061 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月9日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審は29-2違反の無効理由有りとして、権利行使不能と判断しました。本件特許1を再訂正しましたが、知財高裁も再訂正後の発明について29-2違反の無効理由有りと判断しました。なお、再訂正発明については、審判では先願との同一性なしと判断されています。
(3) 争点3−1(引用発明1−1に基づく本件再訂正後発明1の拡大先願要件違
反の有無)について
ア 構成要件1D−1及び1D−4−1について\n
(ア) 控訴人は、引用発明1−1の押さえ部は可動であり、仮に可動ではない場合
を含むとしても、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体を巻き出
す又は巻き取る構成は乙10公報に開示されていないと主張する。\n
(イ) しかしながら、乙10公報には、押さえ部を固定する場合を排除するような
記載はない。そして、「スクリーン本体4が被磁着体90に近接した位置にあると、
スクリーン本体4が被磁着体90に磁着しやすくて引き出し操作をスムーズに行い
難いし、スクリーン本体4の表面に傷が付くことがあることから、引き出しを開始\nする前に、図4に示すように、ベース板11に可動片12を重ね合わせた状態(ロ
ック状態)にして、押さえ部5を被磁着体90から離した態様(第1配置態様)に
固定する。」(【0043】)との記載は、特許請求の範囲の請求項3に係る発明の実
施例に係るものと認められる。また、上記記載からすると、スクリーン本体4の引
き出し操作をスムーズに行うことができ、スクリーン本体4の表面に傷が付くおそ\nれがない場合には、引き出し時に、押さえ部を非磁着体(本件再訂正後発明1にお
ける「設置面」)から離す必要がないものと読み取ることができる。さらに、乙1
0公報には、請求項3に係る発明の実施例についての説明として、「前記押さえ部
5を被磁着体90から離した第1配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着
体90との離間間隔(距離)は、20mm〜70mmに設定されるのが好ましい
(図4参照)。」(【0049】)、「前記押さえ部5を被磁着体90に近接させた第2配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着体90との離間間隔(距離)は、
1mm〜15mmに設定されるのが好ましく、中でも2mm〜8mmに設定される
のが特に好ましい(図3、5参照)。」(【0050】)との記載があることからして、引用発明1−1においても、押さえ部と被磁着体との位置関係にはある程度の幅が
あることが想定されているといえるところ、押さえ部と被磁着体との間の距離を調
整することによって、スクリーン本体の引き出し操作をスムーズに行うことができ、
かつ、スクリーン本体の表面に傷が付くおそれがないようにすることが可能\である
ことは、当業者にとって明らかであるといえる。
そうすると、乙10公報には、押さえ部を固定した構成が開示されていると認め\nるのが相当である。
(ウ) 上記を前提とすると、乙10公報の【図5】のような構成で押さえ部を固定\nすることも当然に想定されるから、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリ
ーン本体を巻き出す又は巻き取る構成も、乙10公報に開示されていると認められ\nる。乙10公報の【図1】〜【図6】は、いずれも押さえ部を可動とした場合(す
なわち請求項3に係る発明)の実施例であると認められるのであって、これらの図
をもって、乙10公報に、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体
を巻き出す又は巻き取る構成が開示されていないということはできない。\n
(エ) したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
イ 構成要件1D−4−2について\n
・・・
(ウ) ところで、乙10公報には、「前記可動体24の先端部26の横断面視での
外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面に形成さ
れているので(図10参照)、引き出し操作の際のスクリーン本体4の傷付きを十\n分に防止することができる。」(【0062】)、「前記可動体24の先端部26の横断面視での外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面
に形成されているので(図10参照)、巻き取り操作の際のスクリーン本体4の傷
付きを十分に防止することができる。」(【0066】)との記載があり、これらの記\n載における「稼働体24の先端部26」は引用発明1−1の「押さえ部」に相当す
る部分であることから、引用発明1−1において、押さえ部の横断面視の形状を円
弧面としているのは、引き出し操作及び巻き取り操作の際に、スクリーン本体が傷
付くことを防止するためであるものと認められる。そうすると、乙10公報には、
押さえ部の構成を工夫することによって、引き出し操作及び巻き取り操作の際にス\nクリーン本体が傷付くことを防止することが開示されているといえる。
(エ) そして、シートと接触する部分を回転可能とすることによる効果も、シート\nの移動時にシートが傷付くことを防止するというものである。
そうすると、引用発明1−1において、横断面視の形状が円弧面である押さえ部
を回転可能とし、その結果、押さえ部に接触しながら巻き出され又は巻き取られる\nスクリーンの摺動接触に起因して押さえ部が回転するものとすることは、当業者が
押さえ部の構成の工夫として適宜選択する範囲のものにすぎないと認めるのが相当\nである。
・・・・
ウ 構成要件1D−4−3について\n
・・・
(イ) 乙31(平成24年12月18日付けの株式会社ケイアイシーの商品カタロ
グ)、乙32(特開2006−178916号公報)及び乙33公報には、ケース
から巻き出す形態のスクリーン装置において、ケースに取手が設けられているもの
が開示されており、本件特許1の出願当時、本件再訂正後発明1のようなマグネッ
トスクリーン装置の技術分野において、ケースに取手を設けることは周知・慣用手
段であったと認められる。そして、引用発明1−1において収納ケースに取手を設
けることは、当業者が、運搬の便宜等のため、必要に応じて適宜選択できることで
あると認められる。
(ウ) 控訴人は、本件再訂正後発明1においては、ケーシングを移動させてシート
を巻き出す使用態様のために「取手部」が必須であるのに対し、引用発明1−1で
は収納ケースを移動させてシートを巻き出すような使用形態は想定されていないか
ら、収納ケースに「取手部」に相当する部材を設けることについては開示も示唆も
ないと主張するが、本件再訂正後発明1においても、ケーシングではなく「操作バ
ー」側を移動させてスクリーンを巻き出す態様も想定されているし(本件明細書1
の【0051】、【図12】)、また、取手部ではなく、ケーシング自体を保持して移
動させることが可能であることは明らかであるから、ケーシングを移動させてシー\nトを巻き出すために「取手部」が必須であるという上記控訴人の主張は採用できな
い。
(エ) したがって、引用発明1−1は、構成要件1D−4−3に相当する構\成を含
むものと認めるのが相当である。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和2年(ワ)3297号
本件特許1は以下です。
◆第6422800号
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2023.03.20
令和4(ネ)10078 不当利得返還請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟の控訴審判決です。1審の東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n控訴審において、控訴人(1審原告)は訂正の再抗弁をしました。知財高裁(4部)は、「本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加える」として、訂正の再抗弁について、判断がなされています。
ア 時機に後れた攻撃防御方法に当たるかについて
控訴人は、第4次訂正に係る訂正の再抗弁は、特許庁による令和4年4
月21日付けの審決の予告を受けてした第4次訂正請求に係るものであ\nって、本件特許に係る特許権侵害訴訟における手続においても当然に主張
できるものと考えるようである(同主張によって第3次訂正に係る訂正の
再抗弁が取下げ擬制されたとも主張している。)が、特許権侵害訴訟におい
て無効の抗弁とその対抗主張ともいうべき訂正の再抗弁は、特許権の侵害
に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決するため、
特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことなく主張することが
できるものとされたにすぎず、特許無効審判とは別の手続である民事訴訟
手続内でのものであるから、審理の経過に鑑みて、審理を不当に遅延させ
るものであるときは、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下
されるべきである。
そこで、原審における審理経過についてみると、控訴人は、原審におい
て、第1回弁論準備手続期日(令和元年11月18日)における本件特許
が新規性及び進歩性を欠く旨の無効の抗弁の主張(被告第1準備書面)を
受けて、第3回弁論準備手続期日(令和2年7月27日)までに、第2次
訂正に係る訂正の再抗弁に係る原告第2準備書面を提出したが、本件無効
審判の手続における訂正請求に合わせて、第3次訂正に係る訂正の再抗弁
を記載した令和3年3月3日付け原告第5準備書面及び同年5月27日
付け原告第6準備書面を提出した(これらの準備書面は、第4回弁論準備
手続期日(令和3年12月16日)において、訂正書面を含めて陳述され
た。)。原判決は、第2次訂正及び第3次訂正に係る訂正の再抗弁はいずれ
も訂正要件を充足せず、本件特許は特許無効審判により無効とすべきもの
と判断したところ、控訴人は、控訴理由書で、第4次訂正に係る訂正の再
抗弁の主張を追加したものである。
こうした原審での審理経過に鑑みると、第4次訂正は、時機に後れて提
出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたことについて控訴人に
は重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4
次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る
訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅
延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとす
る。
◆判決本文
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2023.03. 1
令和4(行ケ)10012等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年2月16日 知的財産高等裁判所
齋藤創造研究所の特許についてAppleが無効審判を請求し、特許庁は無効理由なしと判断しました。知財高裁は、審決を維持しました。被告は、IPOD関連のクリックホイールの発明について特許権を有しており、別訴でAppleから不存在確認訴訟を提起され、反訴請求し、約3億円の損害が認められています(平成19(ワ)2525)。
甲1発明は、前記(1)のとおり、従来の制御信号供給装置では、制御信号
を継統的に発生させることができず、 磁気テープに対する連続的な走行
制御が行えないという課題を解決するため、接触操作面を有するととも
にこれに関連して円環状に配列された複数の接触操作検出区分が設けら
れ、各接触操作検出区分から出力されるタッチパネルとの構成を採用し、\nテープ駆動系に供給される制御信号を、特殊変速再生モード状態におい
て磁気テープを所望の一方向に、所望の速度で走行させる制御を任意の
時間だけ連続的に行えるようにしたものである。
一方、周知技術1は、タッチ位置検知手段(タッチパネル)により一次
元又は二次元座標上の位置データを検出することで画面上のカーソル等\nの位置データが設定され、プッシュスイッチ手段により当該設定された
位置データが確定されて入力情報となるものと理解できる。そうすると、
周知技術1は、位置データを入力する装置に関する技術であって、タッ
チパネルとプッシュスイッチが協働して位置データを入力する機能を果\nたすものであるといえる。
磁気テープの走行方向や走行速度を制御するための甲1発明のタッチ
パネルと、走行方向や走行速度という要素を含まない位置データを入力
する装置に関する周知技術1とは、制御する対象が異なるし、たとえ両
者がタッチパネルという共通の構成を有するとしても、磁気テープの制\n御信号供給装置である甲1発明において、位置データを入力する装置に
関するものである周知技術1を適用することが容易であるとはいえない。
結局のところ、甲1発明に、周知技術1を適用できるとする原告らの
主張は、実質的に異なる技術を上位概念化して適用しようとするもので
あり、相当でない。
仮に、周知技術1を、タッチパネルによる選択をプッシュスイッチで
確定して何らかの入力情報を生成する技術であると上位概念化して理解
したとしても、甲1発明は、プッシュスイッチに割り当てるべき機能(選\n択を確定する機能)をそもそも有さないし、甲1文献には、タッチパネル\nにより磁気テープの走行方向や走行速度を連続制御することは記載され
ているが、タッチパネルにより選択された走行方向や走行速度を確定す
る操作や、当該操作に対応するボタン等の構成は記載も示唆もないから、\n甲1発明に、周知技術1を適用する動機付けがない。
原告らは、前記第3の1(1)ア のとおり、甲1発明のタッチパネル1
1も接触点を一次元座標上の位置データDpとして検出するものである
し、本件特許発明であれ周知技術1であれ、タッチパネルの下にプッシ
ュスイッチを設けることの作用効果は、タッチパネルの下にプッシュス
イッチを設けること自体に由来するものであって、プッシュスイッチの
上にあるタッチパネルの形状等や操作態様等にも依存しないから、周知
技術1は、上位概念化するまでもなく甲1発明に適用可能であり、当該\n適用は、先行技術の単なる寄せ集め又は設計変更である旨主張する。
しかし、原告らの主張は、前記 において説示した、甲1発明において
選択を確定する機能がない点等を看過しているものであるし、周知技術\n1において、位置データを入力する機能はタッチパネルの形状や操作態\n様等には依存しないとしても、そのことが同周知技術におけるタッチパ
ネルとプッシュスイッチの機能的又は作用的関連を否定する根拠とはな\nらないし、機能的又は作用的関連が否定できない以上、周知技術1を甲\n1発明に適用することが単なる寄せ集め又は設計変更とはいえない。し
たがって、原告らの上記主張は採用できない。
◆判決本文
平成19(ワ)2525はこちら。
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2023.02.17
令和4(行ケ)10007 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年1月18日 知的財産高等裁判所
容易想到性の判断に当たり、主引用例の選択の場面では、請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決すべき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している必要はないとして、進歩性なしとした審決が維持されました。
原告らは、本願発明は、多数の作用効果を有機的に組み合わせた統合
システムの発明であるのに対し、引用発明は、圧縮機の吸込容積を可変
とするものにすぎず、その具体的な課題や作用・機能は全く異なってお\nり、この観点からも、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想
到するための動機付けはないと主張するので(前記第3の3〔原告らの
主張〕(2)ウ)、この点について検討する。
原告らの上記主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、容易想到性の判
断に当たり、請求項に係る発明と主引用発明との間に具体的な課題や作
用・効果の共通性を要するという主張であるとすれば、主引用例の選択
の場面では、そもそも請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決す
べき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している
必要はないというべきである。これを本件についてみるに、本願発明の
課題は、「冷媒が循環する冷媒回路と水(熱搬送媒体)が循環する水回路
(媒体回路)とを有しており、熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させて
室内の空調を行うチラーシステム(熱搬送システム)において、媒体循
環を構成する配管を小径化するとともに、環境負荷の低減及び安全性の\n向上を図ること」(段落【0005】)であって、格別新規でもなく、い
わば自明の課題というべきものであり、二酸化炭素を熱搬送媒体として
採用した引用発明においては解決されているといえるものである。
また、原告らは、本願発明が奏する効果についても主張するので、こ
の点について検討すると、本願発明の、冷房と暖房が可能であるという\n効果(段落【0007】及び【0061】)、及び複数の室内の冷房及び
暖房をまとめて切換可能であるという効果(段落【0062】)は、本願\n発明が、冷媒流路切換機及び第1媒体流路切換機を備えることによる効
果であるところ、引用発明においても、第1四方弁150と第2四方弁
250を備えるから、冷房と暖房が可能であるし、複数の室内空気熱交\n換器(相違点2に係る本願発明の構成)を備える場合には、第2四方弁\n250と連結された室内熱交換機の数が増えるのみであると考えられる
から、複数の室内の冷房及び暖房をまとめて切換可能であるという効果\nも当然に奏されることになる。そして、1次側にR32冷媒(相違点1
に係る本願発明の構成)を採用した場合でも、そのような効果を奏する\nことに変わりはない。配管小径化、省スペース化・配管施工及びメンテ
ナンス省力化、媒体使用量削減を図ることができるという本願発明の効
果(段落【0008】、【0063】)は、本願発明が熱搬送媒体として二
酸化炭素を採用したことによって奏するものであり、これは、引用発明
も、熱搬送媒体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏する
ものである。着火事故を防止できるという本願発明の効果(段落【00
09】及び【0064】)は、室内側に配置される媒体回路に二酸化炭素
を用いていることによるものであるが、これは、引用発明も、熱搬送媒
体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏するものである(甲
11の段落【0062】)。また、本願明細書等には、HFC−32(R
32)を冷媒として採用する冷媒回路を構成する配管を室内側まで設置\nする必要がないとの記載もある(段落【0009】及び【0064】)が、
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載及びその記載により認定される
本願発明では、冷媒回路が室内側に設置されていないことは特定されて
いないので、上記の効果は、本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記
載に基づくものとは認められない。さらに、技術常識D及びFに照らせ
ば、引用発明のプロパンは強燃性であるのに対し、本願発明のR32は
微燃性であることから、着火事故を防止できるという効果は、引用発明
に比べると本願発明が優れていると解されるが、引用発明において相違
点1に係る本願発明の構成を採用することにより、自ずと奏するように\nなる効果である。環境負荷を低減するという本願発明の効果(段落【0
010】及び【0065】)は、R32と二酸化炭素を採用したことによ
るものであるところ、引用発明において相違点1に係る本願発明の構成\nを採用することにより自ずと奏されるものである。そうすると、原告ら
が本願発明の効果として主張するものは、引用発明も奏するものである
か、又は相違点1に係る本願発明の構成を採用することにより自ずと奏\nするものであり、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想到す
るための動機付けを否定するに足りるような顕著なものではない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 組み合わせの阻害要因について
原告らは、プロパンは、冷媒の能力として、寒冷地での使用が困難であ\nるから、これをR32に代替することには阻害要因があると主張する(前
記第3の3〔原告らの主張〕(3))。
しかし、本願発明においては、寒冷地での使用の可否など冷房又は暖房
の能力に関連する特定はなく、引用文献1にも、引用発明において、特に\n寒冷地での使用が困難なプロパンのような冷媒を採用することに技術的
意味があることをうかがわせるような記載はないから、引用発明のプロパ
ンをR32に代替することに阻害事由があるとは認められない。
また、原告らは、着火事故の防止というビル用マルチの決定的課題に反
する選択となるので、引用発明をビル用マルチに使用することには阻害要
因があると主張する(前記第3の3〔原告らの主張〕(3))。
しかし、本願発明がビル用マルチに限定されたものでないことは前記3
(1)イのとおりであるし、仮に本願発明がビル用マルチに適用されるとして
も、引用発明で採用されている強燃性のプロパンを微燃性のR32に置き
換えることは、ビル用マルチに要請される性能に必ずしも反するものでは\nなく、むしろそれにそう面もあるから、原告らの上記主張は採用すること
ができない。
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2023.02.17
平成29(ワ)4178 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年1月31日 大阪地方裁判所
出願前に納品されたことにより、公然実施されたとして、特104条3に基づき、権利行使不能と判断されました。\n
被告は、平成11年5月から平成12年4月までの間に、日本製紙八代工場に
ベルト4反(ベルトB)を納品し、ベルトBが同工場において平成11年6月1
1日から平成12年5月9日までの間に使用開始されており、ベルトBの構成は\n本件発明1の構成要件と一致し、納品によってその構\成が日本製紙に知り得る状
態となり、また、当業者はDMTDAの同定が可能であったとして、本件特許1\nの出願前にベルトBに係る発明が公然実施された旨主張するので、以下検討する。
(1)ア 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(なお、
原告は乙32が真に平成11年に作成されたのか不明である旨を主張するが、そ
の体裁等に照らすと、作成日等に関する疑義は認められない。)。
(ア) 被告は、昭和63年からベルトを製造していたところ、平成8年4月に新
工場を新設して、ベルトの製造を集約することとなった。それに伴い、被告では、
品質を一定の水準以上に維持するために、製造工程の一連の流れ、各ステップの
管理項目、品質特性(品質保証項目)及び管理方法を明確にしたルールを作成す
ることとなり、平成11年2月26日、QC工程図が作成された。(以上につき、
乙32、83)
QC工程図には、樹脂コーティング工程に関し、1)ビス(メチルチオ)−2,
4−トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン及びメ
チルチオトルエンジアミンの混合物であるエタキュアー300(硬化剤)のほか、
イソシアネート基を末端に有するプレポリマーである、タケネートL2390及\nびタケネートL2395を受け入れ、10)1)の樹脂を調合し、11)基布(ベース)の
シュー側(内周面側)にコートしてキュアし、その後、15)反転して、18)1)で受け
入れた樹脂を調合し、19)基布(ベース)のフェルト側(外周面側)にもコートし
てキュアする旨の記載がある(乙32〜36、130〜132。なお、数字は工
程番号を指す。)。
(イ) 被告は、QC工程図に従って、平成11年3月1日から同月4日の間に反
番51+01349のベルト、同年8月5日から同月10日の間に反番51+0
4750のベルト、同年10月1日から同月5日の間に反番51+06801の
ベルト及び平成12年2月15日から同月22日の間に反番52+00481の
ベルトの各樹脂コーティング工程作業を行い、その頃、基布面を完全に被覆する
両面樹脂構造であり、かつ、排水溝を有するベルトBの製造を完了させ、日本製\n紙に対し、平成11年5月14日、同年9月3日、同年10月21日及び平成1
2年4月27日、それぞれ納品した(乙25、27〜31、83)。
イ 前記ア(ア)及び(イ)によれば、ベルトBは、ポリウレタンにより基布が完全
に被覆されており、内周面及び外周面のポリウレタンは、末端にイソシアネート\n基を有するウレタンプレポリマーとDMTDAを含有する硬化剤とを含んでおり、
熱硬化性であることが認められる。そうすると、公然実施発明Bは、基布を熱硬
化性ポリウレタンが完全に被覆してなり、前記基布が前記ポリウレタン中に埋設
され(構成B−a)、フェルト側およびシュー側が前記ポリウレタンで構\成され
たシュープレス用ベルトにおいて(構成B−b)、フェルト側を構\成するポリウ
レタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ビス(メ\nチルチオ)−2,4−トルエンジアミンおよびビス(メチルチオ)−2,6−トル
エンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている(構成B−\nc)、シュープレス用ベルト(構成B−d)という構\成を有していることが認め
られ、本件発明1の各構成要件を充足する。\n(2) 特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数
の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)ア(イ)の
とおり、被告は、本件特許1出願前の平成11年5月14日から平成12年4月
27日までの間、日本製紙に対し、ベルトBを納品し、その内容を不特定多数の
者が知り得る状況で公然実施発明Bを実施したものと認められる。
(3) 原告の主張について
原告は、ベルトの現物自体からは当該ベルトが幾つの層によって構成されてい\nるか等を把握することは不可能であること、ベルトを構\成するポリウレタンは様々
な化学物質で構成されているから、外周面を構\成するポリウレタンに含有される
硬化剤に着目した分析が行われたとはいえないこと、当時、硬化剤として考え得
る候補物質は極めて多数存在していた上に、エタキュアー300を用いることで
クラックの発生を抑制できることは当業者においてすら知られていなかったから、
硬化剤としてDMTDAに着目し、これをわざわざ入手してサンプルとして分析
機関に送付し、分析を依頼したとは到底いえないことを指摘して、ベルトBを日
本製紙に納品したとしても、ベルトBの外周面に硬化剤としてDMTDAが含有
されていたことが特定できたとはいえない旨を主張する。
しかし、前記(1)アのとおり、ベルトBは、日本製紙に納品され、自由に解析等
をなされ得る状態におかれたものであり、解析等によりベルトの構造等を特定す\nることは可能であるほか(甲25等参照)、本件特許1の出願日前において、外\n周層、内周層等の複数の層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリ
マーと硬化剤とを混合してポリウレタンとし、ベルトの弾性材料とすることは、
技術常識に属する事項であった(甲2、乙26、27)。これに加え、証拠(乙
37、124、127〜133)及び弁論の全趣旨によれば、1)昭和62年に発
行された書籍において、実用化されている硬化剤として、MOCAのほかにエタ
キュアー300が紹介されていたこと、2)米国の会社が平成2年に発行したエタ
キュアー300のカタログにおいて、エタキュアー300は、新しいウレタン用
硬化剤であり、TDI(トルエンジイソシアナート。主にポリウレタンの原料と\nして使用される化学物質)系プレポリマーに使用した場合、MBCA(MOCA
と同義。乙140、141)の代替品として、現在最も優れたものであると確信
している旨が記載されていたこと、3)米国の別の会社は、平成10年に日本向け
のエタキュアー300のカタログを発行したこと、4)平成11年に日本国内で発
行された雑誌には、MOCAには発がん性があることが指摘されており、より安
全性の高い材料が求められていたが、1980年代後半には、既にMOCAに代
わる新しい硬化剤としてエタキュアー300が開発された旨の記事が掲載されて
いたこと、5)被告は、平成3年頃からエタキュアー300の研究を開始し、遅く
とも平成9年7月時点では、製紙用ポリウレタンベルトの硬化剤としてエタキュ
アー300を使用していたこと、6)本件特許1の出願前に、エタキュアー300
と同様にウレタン用に使用された主要な硬化剤は、10種類前後であったことが
認められる。これらの事実関係に照らすと、本件特許1の出願前に、エタキュアー
300は、ウレタン用の硬化剤として注目され、実用化されていたものと認めら
れ、分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが登録されていなかっ
たとしても(平成29年時点において、ライブラリにDMTDAのマススペクト
ルを登録している分析機関と登録していない分析機関がある(甲11、24)。)、
エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼した蓋然性
があったといえ、当業者は、公然実施発明Bの内容を知り得たものと認められる。
証拠(甲39、40)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、平成30年6月、
分析機関に対し、組成を明らかにすることなく被告製品3及び4のサンプルを送
付し、ポリウレタンの定性分析を依頼したところ、硬化剤について特定すること
ができなかったことが認められる。しかし、同分析機関が硬化剤を特定すること
ができなかったのは、同分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが
登録されていなかったこと(甲24の3)によるものと認められるところ、前記
のとおり、エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼
した蓋然性があったといえることに照らすと、前記結果(甲39、40)は、当
業者が公然実施発明Bの内容を知り得たという結論に影響を与えるものではない。
したがって、原告の前記主張は採用できない。
(4) 以上から、本件発明1は、本件特許1の出願前に日本国内において公然実
施された発明であるから、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきもの
であって、原告は、被告に対し、本件特許権1を行使することができない(特許
法123条1項、104条の3第1項、29条1項2号)。
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2023.01.25
令和4(行ケ)10013 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年1月18日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について進歩性なしと判断されました。本人出願・本人訴訟です。多くの分割出願があります。
【請求項1】は以下です
コンピュータによって実行される方法であって、
サービスの要求を受けるステップと、
前記要求を処理するために指示情報を使用するステップと、を含み、
前記指示情報が認証情報に基づいて設定された情報であり、
25 前記認証情報が物品から取得される情報であり、
前記物品が前記認証情報を利用者に提供する物品である、方法。
上記記載によれば、引用発明においては、利用者が、自分が所持する携
帯電話機1に店舗ID、暗証番号、決裁(決済)方法、商品の購入金額を
入力し、QR決裁証明鍵発行要求として認証サーバ41に送信し、QR決
裁証明鍵発行要求を受信した認証サーバ41は、店舗及び利用者の認証処
理を行い、認証が認められる場合、決済方法の情報を含むQR決裁証明鍵
を生成し、これを携帯電話機1に送信し、その後、利用者が店舗において
購入希望商品の発注を行う際、店舗端末22に付属したQRコード読取装
置21は、携帯電話機1の表示部11に表\\示されたQR決裁証明鍵120
1を読み取るとともに、携帯電話機1の正面あるいは側面に印刷された標
識19,20から携帯電話製造番号と携帯電話番号を読み取り、その読取
結果を店舗端末22に転送し、店舗端末22は、携帯電話機1から読み
取った携帯電話製造番号、携帯電話番号及びQR決裁証明鍵1201を決
裁承認要求として認証サーバ41に送信し、認証サーバ41が、携帯電話
製造番号及び携帯電話番号が正当か否かを利用者情報DB44の登録内
容と照合して調べ、この結果、いずれか一方の番号が未登録のものである
か、登録された番号と異なる場合には、不正利用であるものと判断し不正
利用情報データベースに登録した後、不正利用メッセージを店舗端末22
及び携帯電話機1に送信し、一方、携帯電話製造番号及び携帯電話番号の
両方が正当なものであり、しかも店舗端末22から受信したQR決裁証明
鍵1201の情報(全部または一部)が自分自身で発行した正規のもので
あると認められた場合には、認証サーバ41は詳細決裁承認を店舗端末2
2に返信し、店員が、利用者本人に購入意思を確認した上で、決済処理が
行われていることを理解できる。
しかるところ、前記アのとおり、引用発明において、認証サーバ41が
「決済承認要求」(引用例1記載の「決裁承認要求」。以下同じ。)を受け付
けることは、本願発明の「サービスの要求を受けるステップ」に相当する
ものである。そして、認証サーバ41は、決裁承認要求を受け付けると、
決裁承認要求に含まれる携帯電話製造番号及び携帯電話番号の両方が正
当であることを利用者情報DB44の登録内容と照合して確認し、かつ、
QR決裁証明鍵が自ら発行した正規のものであると認めた場合、決裁承認
要求に係る決裁承認を店舗端末22に返信していることからすれば、認証
サーバ41が、利用者情報登録DB44に登録された携帯電話機1の携帯
電話製造番号及び携帯電話番号と紐づけて自らが発行したQR決裁証明
鍵の情報を管理し、店舗端末22から送信された決裁承認要求に含まれる
携帯電話製造番号、携帯電話番号及びQR決裁証明鍵の情報が上記情報と
一致する場合には、決裁承認の処理を行い、そうでない場合には、決裁承
認の処理を行わない制御を行うための情報を有していることは自明であ
り、また、利用者情報登録DB44に登録された携帯電話製造番号及び携
帯電話番号が携帯電話機1から取得されたことも自明である。
そうすると、かかる制御を行うための情報は、「コンピュータ」である認
証サーバ41が、「サービスの要求」としてのQR決裁承認要求を認めるか
否かを処理するために使用する情報であって、「物品」である携帯電話機1
から取得される「認証情報」である携帯電話製造番号及び携帯電話番号に
基づいて設定された情報であるといえるから、本願発明の「指示情報」に
相当するものと認められる。
以上によれば、引用例1に接した当業者は、引用発明において、かかる
制御を行うための情報を有しているものと理解するから、相違点1に係る
本願発明の構成(「(QR決裁承認要求に係る)前記要求を処理するために指示情報を使用するステップ」の構\成)及び相違点2に係る本願発明の構\n成(「前記指示情報が認証情報に基づいて設定された指示情報」であるとの
構成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。\n
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2023.01.12
令和4(行ケ)10039 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年12月21日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性無しとした審決が維持されました。出願人はぐるなびです。
ア 前記(1)のとおり、相違点3は、施設端末に予約内容を通知した後、ユーザー\n端末に第2施設の情報を通知する処理を行うことにつき、本願補正発明では、前記
施設端末からの返信を有効に受け付ける期間として予め設定された待機期間内に前\n記施設端末からの返信がない場合であるのに対し、引用発明では、施設端末から受
信する予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合である点で相違する
というものである。
イ ところで、施設の予約は、利用日又は利用日時を指定して行うものであり、\n予定される利用日又は利用日時よりも前に予\約を完了するという本来的な要請があ
る。そして、引用発明は、ある特定の施設の予約を目的とするものではなく、利用\n者の希望する条件に合致した複数の施設を対象とし、一つの施設の予約ができなか\nった場合に、別の施設の予約をすることが可能\であるような施設予約システムにお\nける予約方法であるところ、前記2(1)イのとおり、引用発明における施設予約シス\nテムは、「施設予約情報サーバ30から、当該予\約情報に基づく、自動的、あるいは
宿泊施設の予約担当者により判断される予\約登録可否(OKかNG)の予約結果情\n報を受信し、」「受信した予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合」
に、次の候補となる施設の検索をしてユーザーに送信して、ユーザーが別の施設の
予約を行うものとされているから、施設端末に当たる「施設予\約情報サーバ」から
の予約結果情報の受信は、宿泊施設の予\約担当者による判断の時期によっては、相
当程度に遅くなる場合も想定され、その間に、当初の検索条件に合致する別候補の
施設の予約枠が埋まってしまうこともある。\nそうすると、引用発明には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nないおそれがあるといえる。
ウ 次に、前記2(2)イの引用文献2記載技術をみると、宿泊施設の仮予約におい\nて、「ホテル端末103が宿泊可否の通知を一定時間経過(タイムアウト)しても行
わなかった場合、ホテル端末103に対して、キャンセルの通知を送信し、次のホ
テルへ空き問い合わせ情報を送信する」ものであるから、甲2には、施設端末が、
一定時間を経過しても予約可否の回答をしなかった場合には、キャンセルとして扱\nい(以下「タイムアウト処理」という。)、次の施設に問い合わせるという技術が開
示されているといえる。そして、予定される利用日又は利用時間よりも前に、タイ\nムアウト処理をして、次の施設に問合せをすることで、最初に問合せをした施設か
らの回答を待っていたために、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nなくなるという事態を回避するのに、一定の効果があると認められる。
エ ところで、引用発明と引用文献2記載技術とは、複数の施設を対象とした施
設予約システムにおける施設予\約方法という共通の技術分野に属するものであって、
第1施設に対して予約可否の問合せを行い、第1施設から予\約不可の返信を受けた
場合には第1施設に類似する他の施設を抽出するという手法も共通するところ、前
記イのとおり、引用発明において、第1施設から予約可否の返信が長時間送信され\nない場合には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件\nに合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあ\nるところ、上記本来的な要請を満たすために、第1施設からの予約可否の返信を長\n時間待ち続けるという事態を回避しようとすることは、当業者であれば当然に着想
するものと認められるから、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を
適用する動機付けがあるといえる。
そして、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を適用すると、引用
発明は、施設端末からの返信を有効に受け付ける期間としてあらかじめ設定された
待機期間内に前記施設端末からの返信がない場合には、予約結果情報の予\約登録可
否の結果がNGであった場合と同様に、予約内容に基づいて第1施設を除く一又は\n複数の第2施設を抽出し、前記抽出された一又は複数の前記第2施設の情報を前記
ユーザー端末に通知する処理を行うことになる。
そうすると、相違点3に係る構成は、引用発明に引用文献2記載技術を適用する\nことより、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。
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2023.01.11
令和3(ワ)4920 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年12月22日 大阪地方裁判所
技術的範囲に属すると認定されたものの、特許権者自らが販売していたとして、新規性違反の無効理由有りと判断されました。
ア 前記(1)アによれば、リベラル社は、平成30年7月5日時点において、別
件特許(「活量調質水溶液及び活量調質媒体の製造方法」)により、水酸化物イ
オン活量調質水溶液を製造し、これを希釈して、旧ATWのほか「ATW−1、
ATW−001」を製造していたことが認められるところ、前記(1)イのとおり、
被告は、当初、リベラル社から購入した旧ATWをそのままボトルに詰め、又は、
ラベルを貼り替える方法により、旧被告製品や無限七星FISHを製造し、販売\nしていたのであるから、これらの製品は、前記水溶液を希釈したものであると認
められる。一方、前記(1)エ及びオのとおり、被告は、原告の本件特許出願の後か
らは、リベラル社から購入した本件特許に規定される組成を有する現ATWを1
0倍希釈して被告製品や無限七星FISHを製造、販売するようになったところ、
本件代理店契約においては、現ATWを含めたATW水溶液は、別件特許の製造
方法による旨の合意がなされている。
また、原告が代表取締役を務めるATW社は、別件訴訟において、旧ATWと\n現ATWは、いずれもアミノ基という原子団を含んだ水溶液で、現ATWを10
倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した準備書面を提出しているところ、リ
ベラル社が発行した請求書では、現ATWの1リットル当たりの単価は旧ATW
の同単価の10倍になっていること、本件代理店契約においてATW水溶液の品
質として標準仕様と10倍濃縮仕様がある旨の記載があることのほか、原告も、
本件訴訟において、現ATWは旧ATWの10倍の濃度である旨を主張している
(原告準備書面(4)第2の2(3)イ)。これらの事実関係に照らすと、旧ATW及び現ATWは、一貫して、同様の製造方法により製造された、アミノ基を含む成分が水溶、濃縮された水酸化物イオン活量調質水溶液を希釈したものであり、本件特許に規定される組成を有する現ATWを10倍希釈したものが旧ATWであると認められる。
イ また、証拠(乙2、18、24、25、33、36、37)及び弁論の全
趣旨によれば、次の事実が認められる。
すなわち、被告が平成30年11月10日にリベラル社に対して発注し同月1
2日に納品された旧ATWのボトル20本のうち、開封せずに保管していたもの
(以下「保管ボトル」という。)について、被告がそのうち1本を開封し、10
0ml分(以下「分析対象物」という。)を小分けにして、愛媛大学のP2名誉
教授に提供した。同教授は、令和3年9月30日、分析対象物について、乙18
分析をした結果、分析対象物の含有成分はポリアリルアミンであることが判明し
た。また、被告は、保管ボトルのうち1本(被告が「無限七星FISH」のラベ
ルを貼付したもの)を、株式会社東ソ\ー分析センターに提供し、前記センターは、
同年10月19日、保管ボトルの内容物について乙24分析をした結果、その重
量平均分子量は、4.5×10⁴であった。
ウ 前記(1)イ及びウのとおり、無限七星FISHは、鮮魚の鮮度を保持する機
能があり、魚の鮮度保持を主な用途として販売されており、また、証拠(乙19)\n及び弁論の全趣旨によれば、リベラル社が被告に販売した旧ATWの成分表記に\nは「重合アミン、水」との記載があったことが認められる。
エ 前記ア〜ウの事実関係に照らすと、現ATWが10倍に希釈化された旧A
TWと同一成分である無限七星FISHに係る引用発明は、ポリアリルアミン又
はその塩を機能成分として含有し、水、ポリアリルアミンの総含有量が95重量%\n以上である水であって(a’)、ポリアリルアミンの重量平均分子量が500〜
50000であって(b’)、魚介類の鮮度保持の機能を有する(c’)、機能\
水(d’)という構成を有するものと認められるから、被告製品のみならず、旧\n被告製品や無限七星FISHも本件発明の各構成要件を充足するものと認められ\nる。したがって、引用発明は、本件発明の各構成要件を充足する。\n
(3) 公然実施について
特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者
が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)イのとおり、
被告は、本件特許の優先日前の平成30年10月から、無限七星FISHを製造
及び販売して、引用発明を実施した。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、旧ATWは、別件特許に基づく方法により製造されているのに対
し、現ATWは、ポリアリルアミンを使用して製造されているから、両者の成分
は異なる旨を主張する。
しかし、両者の成分の違いを明らかにする証拠はなく、前記(1)オ及びキのとお
り、被告は、本件代理店契約において、リベラル社及びATW社との間で、AT
W水溶液の仕様は、別件特許の製造方法によることを合意したことや、ATW社
が、別件訴訟において、旧ATWと現ATWは、いずれもアミノ基という原子団
を含んだ水溶液で、現ATWを10倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した
準備書面を提出したのであるから、旧ATWと現ATWの製造方法が異なる旨や
両者の成分が異なる旨の原告の主張は直ちに採用することはできず、その他、原
告の主張事実を裏付ける証拠はない。
イ また、原告は、乙18分析及び乙24分析は、いずれも、測定対象の水溶
液がどの時期に製造、販売され、どういう形で試験に供されたのか全く不明であ
ることを指摘し、さらに、乙18分析の内容については、1)乙18のFig.1の
スペクトルの面積比を理由に高分子化合物の繰り返し構造をCH₂−CH−CH₂
と推定することが困難なこと、2)3ppm付近のシグナルの変化を理由に当該シ
グナルがアミン(CH₂−NH₂)であると推定できる根拠が不明であること、3)
Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なることといった疑問点があるから、
いずれも信用性がない旨を主張する。
しかし、前記(1)認定の事実からすれば、乙18にいう「2018年10月に販
売が始まった初代無限七星」とは、旧ATWと成分を同じくする旧被告製品又は
無限七星FISHであると理解できるし、乙24は保管ボトルのうち1本を分析
した結果であることが明らかであり、これに反する証拠はない。そして、乙18
分析は、核磁気共鳴分光法及び質量分析法により、分析対象物の含有成分がポリ
アリルアミンであることを推定した上で、それを踏まえて、分析対象物と市販の
ポリアリルアミンの水溶液について核磁気共鳴分光法のスペクトルを比較して、
分析対象物の含有成分がポリアリルアミンであると結論づけているところ、原告
の主張1)について、原告主張のように、ポリマーのNMRはピーク(スペクトル)
がブロードになりやすく、面積比を算出する切断箇所の設定によって面積比の値
が異なり得ることから、Fig.1のスペクトルの面積比「1.00:0.55:
0.80」が完全に「2:1:2」に一致しなくとも、同一環境の水素の数の比
を「2:1:2」とみなし、CH₂−CH−CH₂の部分構造が考えられるとする\nことは不合理ではない。また、原告の主張2)について、3ppm近辺のCH₂に対
応するシグナルの位置は、隣に窒素原子が繋がっていることを示唆するところ、
トリフルオロ酢酸を加えると、2.7〜3.3ppmのシグナルが3.0ppm
のシグナルに変化したというのであるから、分析対象物にトリフルオロ酢酸によ
り塩を形成するアミン(CH₂−NH₂)が存在すると考えて矛盾はないというべ
きである。さらに、原告の主張3)については、確かに、Fig.1とFig.4a)
のスペクトルは一致していないが、一方で、トリフルオロ酢酸塩のスペクトルで
あるFig.2a)とFig.4b)は、ほぼ一致している(乙18、25)。こ
の点について、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、ポリアリルアミンは、
共存物の影響でアミン部位が塩の状態になっている場合、スペクトルのピーク位
置の出現がシフトする可能性があり、ポリアリルアミンの塩の形成状況によって\nスペクトルの形状が変化し、複雑になるものと認められ、一方で、強い酸である
トリフルオロ酢酸を加えて、全てのアミノ基をアンモニウムに変換し、均一な状
況にすることにより、一定の分析結果を得ることができたものと認められるから、
Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なるからといって、乙18分析の信
用性に疑義を生じさせることにはならない。
◆判決本文
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2022.12.24
令和4(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年12月13日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。知財高裁は、新規性無しとして、権利行使不能とした1審の判断を維持しました。
(ア) 前記(2)のとおり、本件発明と乙1発明との相違点は、「医薬組成物につ
いて、本件発明では、『非外傷性である前腕部骨折を抑制するため』のも
のであると特定されているのに対して、乙1発明では、『骨粗鬆症治療薬』
であると特定されている点。」にある(相違点1)ところ、控訴人は、本
件発明につき、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者群において予測されていなかった顕著な効果を奏するものであり、エルデカルシトール\nの新たな属性を発見し、それに基づく新たな用途への使用に適すること
を見出した医薬用途発明であるから、相違点1に係る本件発明の用途
(「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」)は乙1発明の「骨粗
鬆症治療薬」の用途とは区別される旨主張する。
(イ) そこで検討するに、公知の物は、原則として、特許法29条1項各号
により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、
その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した
発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公
知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解さ
れる。
そして、前記1(2)のとおり、本件発明の医薬組成物は、高齢者や骨粗
鬆症患者等の骨がもろくなっている者が転倒等した際に、前腕部である
橈骨又は尺骨に軽微な外力がかかって生じる骨折のリスク、すなわち前
腕部における非外傷性骨折のリスクに着目して、その用途が「非外傷性
である前腕部骨折を抑制するため」と特定されている(相違点1)もの
である。
(ウ) しかしながら、前記(3)イの技術常識によれば、当業者は、乙1発明の
「骨粗鬆症治療薬」につき、椎体、前腕部、大腿部及び上腕部を含む全
身の骨について骨量の減少及び骨の微細構造の劣化による骨強度の低下が生じている患者に対し、各部位における骨折リスクを減少させるた\nめに投与される薬剤であると認識するものといえる。また、前記(3)ア、
エ及びオの各技術常識によれば、当業者は、エルデカルシトールの効果
は海綿骨及び皮質骨のいずれに対しても及ぶと期待するものであり、海
綿骨及び皮質骨からなる前腕部の骨に対してもその効果が及ぶと認識
するものといえる。さらに、前記(3)イ及びウの技術常識によれば、当業
者は、骨粗鬆症においては身体のいずれの部位も外力によって骨折が生
じるものであり、また、前腕部における骨折リスクは、骨強度が低下す
ることによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他
の部位における骨折リスクと共通するものであると認識するものとい
える。
以上の事情を考慮すると、当業者は、骨粗鬆症患者における前腕部の
骨の病態及びこれに起因する骨折リスクについて、他の部位の骨の病態
及び骨折リスクと異なると認識するものではなく、また、乙1発明の「骨
粗鬆症治療薬」としてのエルデカルシトールを投与する目的及びその効
果についても、前腕部と他の部位とで異なると認識するものではないと
いうべきである。
(エ) さらに、本件優先日前に公開された乙12の文献には、エルデカルシ
トールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑制す
ることが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されているこ
とに加え、前記(3)エ及びオの技術常識によれば、エルデカルシトールに
よる前腕部を含む全身の骨折リスクの減少作用は、経口投与されて体内
に吸収されたエルデカルシトールが、骨に対して直接的又は間接的に何
らかの作用を及ぼすことによって達成されるものであるといえるとこ
ろ、本件明細書には、骨折リスクを減少させようとする部位が前腕部で
ある場合と他の部位である場合とで、エルデカルシトールが及ぼす作用
に相違があることを示す記載は存しない。そして、前記(3)ウ及びオの技
術常識を考慮しても、本件明細書の記載から、エルデカルシトールの作
用に関して上記の相違があると把握することはできない。
そうすると、当業者は、前腕部の骨折リスクを減少させるために投与
する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデカルシトールの作
用が相違すると認識するものではないというべきである。
(オ) 以上によれば、エルデカルシトールの用途が「非外傷性である前腕部
骨折を抑制するため」と特定されることにより、当業者が、エルデカル
シトールについて未知の作用・効果が発現するとか、骨粗鬆症治療薬と
して投与されたエルデカルシトールによって処置される病態とは異な
る病態を処置し得るなどと認識するものではないというべきである。
そうすると、本件発明については、公知の物であるエルデカルシトー
ルの未知の属性を発見し、その属性により、エルデカルシトールが新た
な用途への使用に適することを見出した用途発明であると認めることは
できないから、相違点1に係る用途は乙1発明の「骨粗鬆症治療薬」の
用途と区別されるものではない。
(カ) したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 控訴人の原審における主張(原判決「事実及び理由」の第2の4(2)及び
(3))及び当審における補充主張に対する判断
(ア) 前記第2の3(1)〔控訴人の主張〕アの主張について
a 控訴人は、前腕部骨折は他の部位の骨折とは異なる特徴を有するこ
と、乙1文献には前腕部骨折を抑制する骨粗鬆症治療薬が開示されて
いるものではないことなどを理由に、本件発明の用途は乙1発明の用
途と客観的に区別することができる旨主張する。
しかしながら、前記(3)ウの技術常識によれば、前腕部骨折は、身体
的活動性が比較的高い前期高齢者等において好発する特徴があるとい
えるものの、上記アで検討したとおり、前腕部の骨と他の部位の骨と
で病態が異なるものとはいえず、また、前腕部の骨折リスクを減少さ
せるために投与する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデ
カルシトールの作用が相違するともいえないことからすれば、前腕部
骨折に上記の特徴があるからといって、本件発明の用途は乙1発明の
用途と客観的に区別することができるものとはいえない。
また、前記(1)のとおり、乙1文献には、エルデカルシトールにつき、
動物実験において、骨密度増加効果がアルファカルシドールよりも強
力であるところ、骨密度の増加は骨強度の増加を伴っていると考えら
れること、第II)相臨床試験において、腰椎骨及び大腿骨の骨密度の増
加が認められ、ビタミンD補充効果に依存せずに強力に骨密度を増加
させたものと考えられること、新規椎体骨折発生頻度を主要評価項目
としてアルファカルシドールの効果と比較する更なる臨床試験が進行
中であることが記載されているところ、前記(3)ウないしオのとおり、
エルデカルシトールがアルファカルシドールに比して有意に優れた骨
強度改善効果等を有していることや、前腕部の骨折リスクは他の部位
と同様に骨強度が低下することによって増加するものであることが技
術常識であったこと、上記ア(エ)のとおり、本件優先日当時、エルデカ
ルシトールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑
制することが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されてい
る文献(乙12)が存在したことを併せ考慮すれば、当業者は、乙1
文献の記載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前
腕部についても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制
するものであることを、合理的に予測し得たものといえる。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 同イの主張について
a 控訴人は、一般に患者群の特徴に応じて薬剤が選択されており、骨
粗鬆症においても個々の患者の状態に応じて様々な薬剤が使い分けら
れているところ、本件発明は、前腕部骨折の抑制が特に求められる患
者という限定された患者群に対して顕著な効果を奏するものとして、
従来技術とは区別された新規性を有する旨主張する。しかしながら、上記アで検討したとおり、前腕部の骨折リスクは、骨強度が低下することによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他の部位における骨折リスクと共通するものであるか
ら、骨粗鬆症患者のうち、全身の骨折の抑制が必要とされる者と前腕
部の骨折の抑制が特に必要とされる者とを客観的に区別することはで
きないというべきである。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 同ウの主張について
a 控訴人は、本件試験に係る結果において、エルデカルシトールが、
既存薬剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制
が特に求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されている旨主張する。\n
そこで検討するに、本件明細書には、アルファカルシドールを比較
薬とした無作為割付二重盲検群間比較試験である本件試験において、
非外傷性の前腕部骨折の3年間の発生頻度が、アルファカルシドール
投与群においては523例中17例(骨折確率3.63%)であり、
エルデカルシトール投与群においては526例中5例(骨折確率1.
07%)であったこと、これらの骨折発生頻度を層化ログランク検定
及び層化コックス回帰により比較した結果、アルファカルシドール投
与群の骨折確率を1とした際のエルデカルシトール投与群の骨折確率、
すなわちハザード比は0.29であったこと、これにより、エルデカ
ルシトール投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したことが
判明したこと、これらの試験結果の結論として、アルファカルシドー
ル投与群に対するエルデカルシトール投与群の明らかな優越性が認め
られたことが記載されている。
しかしながら、上記アで検討したとおり、当業者は、乙1文献の記
載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前腕部につ
いても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制するもの
であることを、合理的に予測し得たものといえることからすれば、エルデカルシトール投与群における前腕部骨折危険率が減少することも\n予測し得たというべきである。また、ハザード比を用いた解析においては、対照群におけるイベントの発生率が小さい場合には、臨床上の\nわずかな差が大きな数値に置き換えられてしまうことがあることが知
られているところ(乙20、22)、本件試験においては、対照群であ
るアルファカルシドール投与群における骨折確率が3.63%と小さ
かったことからすれば、ハザード比の値に基づいてエルデカルシトー
ル投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したと算定されたこ
とについては、臨床上のわずかな差が大きな数値に置き換えられてし
まった結果である可能性を否定することができない。また、本件試験において、アルファカルシドール投与群における骨\n折確率とエルデカルシトール投与群における骨折確率との差(絶対リ
スク減少率)は、前腕部骨折については2.56%、椎体骨折につい
ては4.1%であり、椎体骨折の方が前腕部骨折よりも大きな値とな
る。
以上の事情を考慮すると、上記のハザード比の値のみに基づいて、
エルデカルシトールの前腕部骨折の抑制効果が、アルファカルシドー
ルに比して格別顕著であり、当業者の予測し得る範囲を超えるものであると直ちに評価することはできないというべきである。\nb 以上によれば、このほかに控訴人が本件試験に関して縷々主張する
点を考慮しても、本件試験において、エルデカルシトールが、既存薬
剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制が特に
求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されたものということはできない。\n
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和2(ワ)13326
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2022.12.16
令和4(ネ)10008 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年11月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明の侵害訴訟の控訴審判断です。1審は技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断しました。知財高裁も同じです。なお、二審第1回口頭弁論期日においてした訂正の再抗弁は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下されました。
(4) 控訴人らによる訂正の再抗弁の主張について
当裁判所は、令和4年9月22日の当審第1回口頭弁論期日において、控訴人らが同月5日付け控訴人ら第4準備書面に基づいて提出した訂正の再抗弁の主張について、被控訴人の申立てにより、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが、その理由は、以下のとおりである。\n
ア 一件記録によれば、1)被控訴人は、令和元年12月19日の原審第1回弁論準備手続期日において、本件発明5に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点4−1及び4−3)等が存在するとして無効の抗弁を主張し、令和3年7月20日の原審第3回弁論準備手続期日において、本件発明1に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由が存在するとして無効の抗弁を追加して主張したこと、2)その上で、控訴人らが、同年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述した後、同日、原審が、口頭弁論を終結し、同年12月9日、被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めて控訴人らの請求を棄却する原判決を言い渡したこと、3)その後、控訴人らは、当審において、令和4年7月21日に書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったことが認められる。
イ 以上を前提に検討するに、本件特許権の侵害論に関する抗弁の主張は、本来、原審において適時に行うべきものであるところ、控訴人らは、原審において、令和3年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述するまでの間に、当審で主張する訂正の再抗弁の主張をしなかったものである。加えて、控訴人らは、原審が原判決において被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めた判断をしたにもかかわらず、当審における争点整理手続においても、書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったものであることからすると、当審における上記訂正の再抗弁の主張は、控訴人らの少なくとも重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるというべきである。そして、当審において、控訴人らに訂正の再抗弁の主張を許すことは、被控訴人に対し、上記主張に対する更なる反論の機会を与える必要が生じ、これに対する控訴人らの再反論等も想定し得ることから、これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。そこで、当審は、民事訴訟法297条において準用する同法157条1項に基づき、控訴人らの訂正の再抗弁の主張を却下したものである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和1(ワ)25121
本件特許の審決取消訴訟です。
◆令和3(行ケ)10027
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2022.12. 9
令和3(行ケ)10163 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年11月29日 知的財産高等裁判所
新規事項違反、進歩性違反の無効理由無しとした審決が維持されました。
一方で、本件明細書には、加工対象物の「シリコンウェハ」の表面又は\n裏面に溝が形成されていることについての記載や示唆はない。また、図1、
3、14及び15には、「切断予定ライン5」が示されているが、切断予\定
ライン5に沿った溝の記載はない。
そして、1)甲36(SEMI規格「鏡面単結晶シリコンウェハの仕様」)
には、「6.1 標準ウェーハの分類」に「6.1.1.それぞれ標準化さ
れたウェーハの寸法、許容寸法及びフラット・ノッチの特性は表3から表\
9にて分類されている。」との記載があり、「6.1.2」には寸法等の特
性の異なる「鏡面研磨単結晶シリコンウェーハ」及び「鏡面単結晶シリコ
ンウェーハ」(分類1.1ないし1.16.3)が掲載され(18頁)、「6.
9 表裏面目視特性」に「ウェーハは、発注仕様に規定された測定可能\な
(目視または他の方法による)ウェーハの表裏面の品質要求をみたさなけ\nればならない。」、「表12 鏡面ウェーハ欠陥限度」の「2.8.11 く
ぼみ」の項目の「最大欠陥限度」欄には「なし」との記載があること(4
1頁〜42頁)、2)「LSIに用いられるウェーハ表面は無ひずみで凹凸の\nない鏡面であることが必要であり…このような鏡面ウェーハは…鏡面研
磨することによって得られる」こと(「半導体用語大辞典」360頁))か
らすると、本件優先日当時、半導体材料に用いられる標準仕様のシリコン
ウェハは、単結晶構造であり、その表\面及び裏面に凹凸のない平坦な形状
であることが、技術常識であったことが認められる。
以上の本件明細書の記載(図1、3、14及び15を含む。)及び本件優
先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物:
シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準\n仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凹凸のない平坦な形\n状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラ
インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明で
ある。
そうすると、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合すること
により導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入す
るものといえないから、本件明細書に記載した事項の範囲内にしたものと
認められる。
したがって、本件訂正事項は、新規事項を追加するものではなく、特許
法134条の2第9項で準用する同法126条5項に適合するとした本
件審決の判断に誤りはない。
イ これに対し、原告は、1)本件明細書には、「シリコン単結晶構造部分に前\n記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の明示\n的な記載がなく、その示唆もないのみならず、溝を形成するかしないか、
形成するとしてどこに、どのように形成するかといった観点からの記載も
示唆もないし、本件明細書を補完するものとして、図面を見ても、「シリコ
ン単結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿った溝が形成されていない
シリコンウェハ」が記載されているのと同視できるとする根拠も見当たら
ない、2)本件明細書の【0027】には、「加工対象物がシリコン単結晶構\n造の場合」との記載があるだけであり、「シリコン単結晶構造部分に前記切\n断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の記載はな\nく、また、図1ないし4に示す「加工対象物1」が「シリコンウェハ」で
あるとしても、どの部分が「シリコン単結晶構造部分」にあたるのか不明\nであり、「シリコン単結晶構造部分」が切断予\定ライン5に沿って存在する
のかも不明である、3)【0033】は、「シリコンウェハは、溶融処理領域
を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコン
ウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。」と記載\nしているだけであり、シリコンウェハの切断部位の形状(溝の有無)に関
係なく、溶融処理領域(改質領域)を起点としてシリコンウェハが切断で
きるものであることの記載はないとして、本件訂正事項は新規事項を追加
するものでないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、前記アで説示したとおり、本件明細書の記載及び本件優
先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物:
シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準\n仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凸凹のない平坦な形\n状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラ
インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明で
あり、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合することにより導
かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものと
いえない。原告の挙げる1)ないし3)は、いずれも、上記判断を左右するも
のではない。
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2022.11.29
令和3(行ケ)10089 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年11月14日 知的財産高等裁判所
経緯が複雑です。2つの無効審判が請求され、いったん併合すると通知されましたが、結局、分離されました。1つ目の無効審判では、訂正を認めたうえ、無効理由なしと判断されました。その後、2つ目の無効審判が開始され、特許権者は2回目の訂正をしましたが、審決は訂正を認めず、無効と判断しました。知財高裁はこの審決を維持しました。
無効理由は特段の効果なしです。
c 訂正明細書の【0075】には、基剤として使用可能な多糖類が、少\n量の水に溶解されると糊状になる「曳糸性を有する物質」であるとの記
載はあるが、その技術的意義の記載はない。また、訂正明細書の【00
93】では、引離法による経皮吸収製剤製造の初期段階で、フッ素樹脂
等からなる平板92の上に、目的物質を含有する基剤91を載せたと
き、基剤として、水に溶解させると曳糸性を示す物質からなるものを用
い、糊状とすることが好ましいとの記載があるが、これは、目的物質を
含有する基剤を針状又は糸状に成形するという引離法における製造上
の便宜を示したものと解される。さらに、鋳型法による場合について
は、訂正明細書の【0095】に、目的物質を含有する基剤が糊状であ
れば孔から取り出した後に乾燥又は硬化させることができることが記
載されているところ、これも、粘度が低い場合には鋳型内で乾燥又は硬
化した後に取り出すことを要することと対照した製造上の利便性の記
載であると解される。
したがって、訂正明細書には、経皮吸収剤が「基剤、目的物質及び水
を含む曳糸性を示す糊状物が乾燥した物」であることと、経皮吸収剤そ
れ自体の構造や特性との技術的関係についての記載は一切存在しない。\nd 甲2−1文献には、「液体溶液の粘度ならびに他の物理的および化
学的特性に依存して、さらなる力(例えば、遠心分離力または圧縮力)
が、鋳型を満たすために必要とされ得る」(【0025】)と記載され、
さらに、粉末形態のマトリクス材料についての記載ではあるが、「粉末
形態がマトリクス材料のために使用される場合、この粉末は、有利に
は、鋳型にわたって分離され得る。粉末の化学的および物理的特性に依
存して、次いで、粉末の適切な加熱が適用されて、鋳型内に粘稠性の材
料を融解または挿入し得る。」(【0026】)との記載もある。この
ような記載に接した当業者であれば、鋳型で液体溶液を乾燥させる場
合、粘度が1つの重要な要素となり、粘度に応じた製法の調整をして対
応するほか、粘度自体も調整の対象となり得ること、粘稠性の材料であ
っても鋳型に充填し得ることを理解するものといえる。
鋳型で乾燥させる液体溶液の粘度の調整については、当業者であれ
ば、乾燥するという目的や、鋳型に充填する際の作業効率といった観点
から行うものであり、ヒアルロン酸水溶液が糊状であるか否かは、ヒア
ルロン酸水溶液の粘度によって決定され、粘度がある程度以上高けれ
ば、糊状になるといえることは前記bのとおりであるところ、上記のよ
うに、甲2−1文献の記載から、粘稠性であっても鋳型に充填し得るこ
とを理解することができるのであるから、乾燥するという目的も勘案
して、液体溶液の粘度を高いものとすることは容易に想到し得ること
である。
そして、そのような液体溶液は粘度によって糊状にも粘稠な液体に
もなり得るのであって、その差は相対的であり、いずれの状態になるよ
うに調整するにしても、それは、当業者が適宜設定し得た事項にすぎな
い。
ヒアルロン酸は曳糸性を有することは前記aのとおり技術常識であ
る以上、当業者においてこのように適宜調整された液体溶液は、曳糸性
を示すものになるといえる。なお、甲57実験成績証明書及び乙19実
験報告書からみれば、希薄なヒアルロン酸水溶液は曳糸性を示さない
が、鋳型で乾燥させてマイクロニードルを作るに当たって、乾燥させる
という目的からみて、そのような希薄な溶液を使用することは想定さ
れない。
以上によれば、引用発明2において、甲1−1文献に記載のヒアルロ
ン酸を採用する際に、ヒアルロン酸と薬剤を含む液体溶液を、「曳糸性を
示す糊状物」とすることは、当業者が容易になし得たことというべきで
ある。
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2022.11.29
令和4(行ケ)10016 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年11月21日 知的財産高等裁判所
「紙破現象を起こし得るように構成している」という発明特定事項が明確性違反かが争われました。知財高裁は、無効理由なしとした審決を維持しました。\n分割出願2件についても同様に判断されています。
ア 本件発明1は、「紙破現象を起こし得るように構成している」との発明特\n定事項を有しているところ、「紙破」又は「紙破現象」とは一般的な用語で
はなく、その意義を特定するためには、本件明細書の記載を参照すること
になる。
そこで、本件明細書の記載についてみると、本件明細書には、「・・・例
えば被着体を紙類とした場合、粘着製品或いは粘着剤を紙類から剥がそう
とする剥離動作を行った際に、紙の表層を確実に損傷させることが要求さ\nれる場合がある。」(【0009】)、「以下本明細書において、このような紙
類の表面を損傷した状態を紙破と記載する。また、粘着製品の粘着剤層を\n剥離させた際に紙類の表層が粘着剤に付着し紙類が厚み方向に破断する\nことを紙破現象と記載することとする。」(【0011】)、「・・・「紙破」:
粘着剤層の表面に紙片の表\層部分を付着させて剥離(図12(a))、「界面
剥離」:粘着剤層と紙片との界面において剥離(同図(b))、「凝集剥離」:
粘着剤が紙類とステンレス板との両方に付着した状態で剥離(同図(c))、
「ナキワカレ」粘着剤層が紙類とステンレス板との両方に付着した状態で
剥離(同図(d))、の何れかに分類して行った。」(【0092】)との記載
があり、【0092】で引用されている図12は、以下のとおりであり、図
12の(a)には、ステンレス板上の粘着剤層の表面に紙類が厚み方向に\n破断した紙片の一部が付着した状態が描かれている。
上記で指摘した本件明細書の記載及び図面を総合すると、本件発明1に
おける「紙破現象」とは、粘着製品の粘着剤層を剥離させた際に紙類の表\n層が粘着剤に付着し、紙類が厚み方向に破断する現象をいうものであると
理解することができる。そして、本件発明1の「紙破現象を起こし得るよ
うに構成している」との発明特定事項は、その他の構\成要件を充足する「感
圧転写式粘着テープ」のうち、「紙破現象を起こし得る」ように構成されて\nいるものと解することができ、「紙破現象を起こし得ない」構成は、本件発\n明1の技術的範囲に含まれないものと理解することができる。
そうすると、「紙破現象」の発生割合や発生条件について本件発明1に係
る請求項1には特定されていないとしても、特許請求の範囲の記載が第三
者に不測の損害を被らせるほど不明確な記載であるとはいえない。
イ これに対して、原告は、前記第3の1 のとおり、1)「紙破」は、通常
の利用者が視認可能な態様で紙が破れることを指すものであり、「紙破現\n象」とはこうした「紙破」が起こる現象を指すべきものである、2)本件明
細書の記載及び技術常識からすると、「紙破現象を起こし得る」とは、ほぼ
確実に「紙破現象を起こすもの」でなければならないが、いかなる条件の
下で起こるのか不明確であり、同一の接着剤を同一の被着剤に用いた剥離
試験に関する技術常識に照らせば、「紙破現象が起こし得るように構成し\nている」かどうかは条件が特定されなければ不明確である、3)原告による
追実験(甲14)及び被告による「事実実験公正証書」(甲29)の各試験
結果からすると、本件明細書の試験結果は信用することができない旨主張
する。
しかし、前記アのとおり、本件明細書には、「以下本明細書において、こ
のような紙類の表面を損傷した状態を紙破と記載する。また、粘着製品の\n粘着剤層を剥離させた際に紙類の表層が粘着剤に付着し紙類が厚み方向\nに破断することを紙破現象と記載することとする。」(【0011】)とあり、
粘着製品の粘着剤層を剥離させたときに紙類の表層が粘着剤に付着し、厚\nみ方向に紙類が破断していることを示す図(図12(a))があることから、
「紙破現象」とは、上記段落で記載されたとおりに解釈されるべきであり、
「通常利用者が視認可能な状態」で紙が破れることという条件を付加して\n解釈する必要はない。また、原告による追実験(甲14)は、紙類の表層\nが粘着剤に付着したかどうかの確認作業について言及がない(むしろ、視
認によって判断している可能性が高い。)ため、この追実験で本件明細書の\n実物剥離試験の結果が信用できないものであると判断することはできな
いし、被告による「事実実験公正証書」(甲29)の試験結果において、「目
視では十分に確認できなかった」との記載があるとしても、そのことが「紙\n破現象」が起きていないことを意味するものではないことについては前示
のとおりであるから、上記1)及び3)の各主張は理由がない。
次に、上記2)について検討するに、本件発明1においては、粘着剤層を
介して紙類同士を止着させた後、粘着剤層を剥離させたときの条件及び方
法は発明特定事項には含まれておらず、他の構成要件を充足する「感圧転\n写式粘着テープ」のうち、「紙破現象を起こし得る」ように構成されている\nものが本件発明1として特定されているのであるから、任意の条件及び方
法で「紙破現象」が生じ得る構成であれば、本件発明1の技術的範囲に属\nするものといえ、他方、「紙破現象を起こし得ない」構成は技術的範囲に属\nさないことが明らかにされている。したがって、少なくとも上記 記載の
明確性要件との関係においては、剥離試験における条件や方法等について
の特定がないとしても、第三者に不測の不利益を及ぼすものとはいえない
から、上記2)の主張も理由がない。
◆判決本文
分割願についての判断です。
◆令和4(行ケ)10017
◆令和4(行ケ)10018
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2022.11.25
令和3(行ケ)10164 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年11月16日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、進歩性なしとした審決を、阻害要因ありとして取り消しました。また、手続き違背についても認めました。
(1) 引用発明1を含む甲8に記載された発明は、特に、「被膜を有しないSn耐食
性に優れた合金材料、この合金材料からなるコンタクトプローブおよび接続端子を
提供することを目的とする」ものである(甲8の段落[0006])ところ、銀の添加に
ついては「Sn耐食性」の向上については触れられていない(同[0018])一方で、
ニッケルの添加は「Sn耐食性の向上・硬度上昇に効果がある」ことが明記されて
いる(同[0019])。
そして、実施例においても、硬度等とともに「Sn耐食性」が独立の項目として
評価され(同[0036])、甲8に係る発明の実施例には全てニッケルが添加され、い
ずれも「Sn耐食性」において「○」と評価されている(同[0038]及び[表1]。\nなお、同[0003]及び[0047]等の記載のほか、同[0040]〜[0045]の比較例1
〜6に対する評価に係る記載をみても、甲8に係る発明は、硬度とSn耐食性を含
む複数の要請をいずれも満たすことを目的としたものであると認められる。)。
この点、比較例7のみにおいては、ニッケルの添加がされていないが、「Sn耐食
性」において「×」と評価され、かつ、「Snはんだ等低硬度材向けのコンタクトプ
ローブ用途として好ましくないといえる」と明記されている(同[0046]及び[表\n1])。
以上の点に照らすと、引用発明1においては、ニッケルの添加が課題解決のため
の必須の構成とされているというべきであり、引用発明1の「合金材料」について、\nニッケルの添加を省略して銅銀二元合金とすることには、阻害要因があるというべ
きである。そして、甲8の記載に照らしても、引用発明1の「合金材料」について、ニッケルの添加を省略して銅銀二元合金とすることの動機付けとなる記載は認められず、
他にそのようにすることが当業者において容易想到であるというべき技術常識等も
認められない。
したがって、引用発明1に基づいて、相違点1に係る本願補正発明の構成とする\nことについて、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。
(2) 被告の主張について
ア 被告は、一次特性と二次特性の区別を前提として、甲8の記載に接した当業
者においては、導電性と硬度という最優先の二大特性が最低限満たされたベース合
金のコンタクトプローブも意識するはずであるから、相違点1に係る本願補正発明
の構成に容易に想到し得る旨を主張する。\nしかし、一次特性と二次特性についての被告の主張を前提としても、前記(1)で指
摘した諸点に照らすと、甲8の記載に接した当業者においては、導電性と硬度とい
う最優先の二大特性を最低限満たした銅銀二元合金に、ニッケルをどのような割合
で添加すること等によって、「Sn耐食性」を向上させ、それや硬度を含めたコンタ
クトプローブとしての要請をどのように実現させるかという観点から引用発明1を
みるものといえるから、「Sn耐食性」が専ら二次特性に係るものであるという理解
を前提としても、そのことから直ちにニッケルの省略が動機付けられるものとはい
えず、相違点1に係る本願補正発明の構成に容易に想到し得るとの被告の主張は採\n用できない。
・・・・
(2) 特許法50条本文や同法17条の2第1項1号又は3号による出願人の防御
の機会の保障の趣旨は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由
を発見した場合にも及ぶものと解される(同法159条2項)。
また、同法53条1項(同法159条1項により読み替えて準用される場合を含
む。)において、同法17条の2第1項3号による補正や審判請求時にされた補正が
独立特許要件に違反しているときはその補正を却下しなければならない旨が定めら
れ、同法50条ただし書(同法159条2項により読み替えて準用される場合を含
む。)において、上記により補正の却下の決定をするときは拒絶理由通知を要しない
旨が定められたのは、平成5年法律第26号による特許法の改正によるものである
ところ、同改正の際には、審判請求時にされた補正の判断に当たって審査段階にお
ける先行技術調査の結果を利用することが想定されていたものとみられるととも
に、同改正の趣旨は、再度拒絶理由が通知されて審理が繰り返し行われることを回
避する点にあったものと解される。
以上の点に加え、新たな引用文献に基づいて独立特許要件違反が判断される場合、
当該引用文献に基づく拒絶理由を回避するための補正については当該引用文献を示
されて初めて検討が可能になる場合が少なくないとみられること等も考慮すると、\n特許法159条2項により読み替えて準用される同法50条ただし書に当たる場合
であっても、特許出願に対する審査手続や審判手続の具体的経過に照らし、出願人
の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるようなときには、拒絶理由
通知をしないことが手続違背の違法と認められる場合もあり得るというべきであ
る。
(3) 本件においては、次の各事情が認められる。
ア 証拠(甲3、7、13)及び弁論の全趣旨によると、甲16(引用文献5)
については、審査段階で指摘されることはなく、本件審判手続に至っても予め指摘\nされることなく、本件審決で初めて指摘された文献であると認められる。
イ 本願の特許請求の範囲の請求項1については、進歩性に関し、1)令和2年6
月22日起案の拒絶理由通知書(甲7)において、甲8が引用文献として指摘され、
「銅銀合金を製造する上で、銅に対する銀の添加量をどのような値とするのかは、
当業者が適宜行う設計的事項にすぎない」という理解が示された上で、甲8に記載
された発明と本願発明との相違点は一点(本件審決にいう相違点2に相当するもの)
に限られることが指摘され、その相違点に係る本願発明の構成が容易想到である旨\nが指摘されたこと、2)原告は、同年8月19日付け意見書において、上記拒絶理由
通知書における上記理解が誤りである旨を指摘し、甲8に記載された合金はニッケ
ルを含むもので、甲8の銅銀ニッケル合金において銀の添加量を変更しても本願発
明には至らないことなどを主張したこと(甲11)、3)同年10月22日付けで上記
拒絶理由通知書の記載に沿う拒絶査定がされたこと(甲13)、4)原告は、令和3年
2月3日付けで本件審判請求及び合金の組成に係る本件補正をしたこと(甲14、
15)、5)令和元年12月9日付けの補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1に
おいても、本願発明の合金は「銅銀合金体」と記載されており、それと上記2)の意
見書における原告の主張を併せて考慮すると、本願発明の「銅銀合金体」がニッケ
ルを含むものではないことを原告が前提としていることは、同意見書の提出の時点
で理解できたことが認められるところであり、原告においては、上記のとおり審査
段階において本願発明について進歩性欠如の根拠とされた唯一の文献である甲8に
対し、合金の材料に係る他の相違点が存在するという点に専らその主張を集中させ
て争い、本件審判請求の際にもそれに沿う趣旨の本件補正をしたものである。
しかるに、前記2(1)及び(2)のほか、本願発明と引用発明1の対比によると、本
願補正発明と引用発明5との相違点である相違点3は、本願補正発明と引用発明1
の相違点2及び本願発明と引用発明1の相違点4と実質的に全く同一のものである
と認められる一方、本願補正発明と引用発明1との相違点1は、本願補正発明と引
用発明5の相違点としては認められないものである。それゆえ、拒絶理由通知をも
って甲16(引用文献5)を示されていた場合には、原告においては、審査段階や
審判段階において、引用発明5の認定並びに本願補正発明と引用発明5の一致点及
び相違点について争ったり、相違点2及び相違点3をより重視した反論をしたり、
あるいは相違点3に係る本願発明の構成に関して補正することを検討するなどして\nいた可能性もあるものとみられ、原告の方針には重大な影響が生じていたものとい\nうべきである。
(4) 前記(2)を前提として、前記(3)の諸事情を踏まえた場合、相違点3と同一の
相違点2については審査段階で原告に反論の機会が与えられていたこと等を考慮し
ても、なお、引用発明5を主引用例として本願補正発明の進歩性を判断することは、
原告の手続保障の観点から許されないというべきである。
◆判決本文
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2022.11.22
令和4(行ケ)10021 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年11月16日 知的財産高等裁判所
「吹矢の矢」の特許についての審決取消請求事件です。特許庁が無効理由無しとした審決が維持されました。侵害訴訟については1審は侵害と認定しましたが、知財高裁は技術的範囲に属しないと判断しています。
ア 事案の内容に鑑み、まず、相違点2−1−cに関する容易想到性について検
討する。
イ 前記4(1)及び(2)によると、甲2及び3には、前記第2の3(3)ア(ア)aのよ
うに本件審決が認定する「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方
に延びる円柱部とからなるピンを備えた吹矢に使用する矢」(甲2・3技術事項)
が記載されていると認められるが、それら甲2及び3に記載された矢は、いずれも、
(円錐形の)フィルムを備えたものではない。
また、前記4(3)によると、甲4において、重りの釘2)は頭部を矢の後方(プラス
ティックフィルム1)が巻かれた側)に位置しており、フィルムに釘の円柱部全てが
差し込まれているものではなく、フィルムの先端部に重りの釘2)の頭部が接続され
ているものでもない。
したがって、仮に、甲1発明に甲2〜4を適用しても、相違点2−1−cに係る
本件発明の構成には至らないから、甲2〜4は相違点2−1−cについての容易想\n到性を基礎付けるものではない。
ウ(ア) これに対し、甲5発明の矢については、釘4の円柱状部分全てがスカート
部6に差し込まれて固着されるとともに、スカート部6の先端部に連続して釘4の
丸い頭部4aが接続されているといえる。
(イ) しかし、甲1発明の矢は、矢軸5の後方に中空円錐状の羽根部6が篏合固着
されており、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着することについて、甲1に
これを示唆し、又は動機付ける記載があるとは認められない。
この点、甲1において、矢じりは金属製とされ、標的台は台板と紙とクッション
ボードから成るものとされ、クッションボードについては所定厚さ(約20mm)が
明記され、全長約10cmの吹矢の約5分の1程度を矢じり4及び矢軸5が占める第
3図が掲載され、吹矢の当たった状態を示すとされる第6図においては矢じり4の
先端が台板8に接している状態が示されていることを考慮すると、甲1において吹
矢が標的面に当たり「小気味の良い音」を発するについては、矢じり4の先端が台
板に到達することが少なからず寄与していることが窺われる。それにもかかわらず、
仮に矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着した場合、第6図のように矢じり4
の先端が台板に到達するかには疑問を差し挟む余地がある。このことは、甲1発明
の矢について、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採用す\nることを阻害する事情となり得るところである。
(ウ) そうすると、甲1発明に甲5発明を適用することについては、示唆も動機付
けもなく、むしろ阻害要因があるともいえるから、甲1及び5に基づいて、当業者
において相違点2−1―cに係る本件発明の構\成とすることが容易になし得たもの
とはいえない。
エ したがって、相違点2−1のうちその余の点について判断するまでもなく、
相違点2−1に係る本件発明の構成が容易想到であるとはいえない。\n
オ 原告の主張について
(ア) 原告は、羽根部分がピンから外れ、又は前側(円頭形部分側)にフィルムが
ずれてしまうことから、甲1に接した当業者であれば、甲5に開示のようにフィル
ムに円柱部を全て差し込む構成とする必要があり、動機付けがある旨を主張する。\n原告の上記主張は、動機付けとして、甲1や甲5の記載を根拠とするものではな
く、物理法則ないし技術常識を指摘するものと解されるところ、原告が上記主張の
根拠として提出する実験結果報告書(甲12)については、実験に用いられた吹矢
の矢の素材や寸法等も明らかでなく(なお、甲1においては、羽根は、紙又は合成
樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより形成された最大外径10〜12mmの軽量
なものとされ、矢の全長は約10cmであるとされている。)、甲1発明の矢を適切
に再現した上でされた実験であることが担保されているとはみられない。また、そ
の内容に沿わない被告提出の報告書(乙1)も存在する。さらに、接着剤の詳細に
ついても不明であり、より強固な接着力を有する接着剤を選択するという方法が存
在しないことも裏付けられていない。したがって、前記報告書(甲12)に基づい
て原告の主張するような動機付けがあると認めることはできず、その他、甲1発明
について矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採る動機付け\nとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。
したがって、原告の上記主張は前記イ〜エの判断を左右するものではない。
(イ) 原告は、1)矢軸の途中にフィルムを巻き付ける構成とした場合、ピンの軸が\nフィルムの中央を通るように固定することが困難となり、上下方向で重心のブレを
生じ、命中精度に影響し得ること、2)上記構成とすると、吹矢を量産する際に差し\n込む部分の長さを一定にするための位置決めが困難であるのに対し、フィルムに円
柱部を全て差し込む構成とすると、同じ長さの吹矢を容易に製造することが可能\と
なるといった点を踏まえても、甲1発明に甲5発明を適用する動機付けがあると主
張するが、命中精度や製造の容易性に関して甲1に示唆や動機付けというべき記載
は認められず、他に上記1)及び2)の点に関して甲1発明に甲5発明を適用する動機
付けとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。
◆判決本文
侵害訴訟の控訴審はこちら。
◆令和3(ネ)10049等
1審はこちら。
◆平成31(ワ)2675
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2022.10.20
令和3(行ケ)10165 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年8月30日 知的財産高等裁判所
動機づけなし・阻害要因ありとして、進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。
ア 本件発明1と甲2発明1との相違点1ないし4は、前記第2の3(3)イの
とおりであるところ、これらはいずれも本件発明1における伸縮部を備え
ているか否かをその内容とするものといえる。
そこで、以下、本件特許が出願された当時の当業者が、甲2発明1、甲
4発明及び甲5公報ないし甲7公報から認定される周知技術に基づいて、
甲2発明1について上記伸縮部を備えることを容易に想到し得たか否か
について検討する。
イ まず、主引用発明である甲2発明1について検討するに、甲2公報にお
いて、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能なものとすることが記載又は示唆\nされているというべき記載は見当たらない。
また、前記(1)のとおり、甲2発明1は、盗難防止用連結ワイヤの一方を
ドアノブや玄関周り固定物に接続し、他方を宅配容器本体に接続するもの
であるところ、甲2公報の段落【0022】並びに図3及び図4の記載に
よれば、甲2発明1の盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側のドアノブや建
物内部の玄関周り固定物に接続するものであるといえる。さらに、甲2公
報の段落【0022】及び図3の記載によれば、甲2発明1において、配
達物を収納していないときの形態の宅配容器本体をドアノブに掛ける際
には、宅配容器本体に備えられた「宅配容器取っ手」を使用することとさ
れている。
このように、甲2発明1においては、配達物を収納していないときの形
態の宅配容器は、「宅配容器取っ手」を使用して玄関外側のドアノブに掛け
られ、他方で、宅配容器に接続された盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側
のドアノブや建物内部の玄関周り固定物に接続することとなるのである
から、同ワイヤは、これを可能とするのに十\分な長さを確保する必要があ
るといえる。そうすると、配達物を収納していないときの形態における甲
2発明1においては、盗難防止用連結ワイヤの長さを、ドアの一部に吊り
下げられるように短縮する構成は採用し得ず、そのような構\成を採る動機
付けは存しないというべきである。
以上によれば、甲2発明1において、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能\nなものとすることは動機付けられないというべきである。なお、上記に照
らすと、甲2発明1においては、少なくとも相違点3に係る本件発明1の
構成を採ることについて、阻害要因が存するというべきである。\n
◆判決本文
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2022.10. 1
令和4(ネ)10052 特許権侵害に基づく損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年9月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
興和vs東和薬品の特許権侵害訴訟です。1審は、サポート要件違反の無効理由があるとして請求を棄却しました。知財高裁は、サポート要件違反についてはふれることなく、公知文献(乙12)から進歩性無しとして無効と判断しました。阻害要因も否定されています。
前記(ア)及び(イ)によると、乙12発明における「コーティング」は、酸
化や環境湿度等に敏感なスタチン類(HMG−CoAレダクターゼ阻害剤)を保護
し、これを安定化するために塗布される材料の層であるところ、従来から、固形医
薬品の安定性を高める目的で保護コーティングが施され、その材料として様々なも
の(ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体ではないアミノアルキルメタアク
リレートコポリマーEを含む。)が開発されていることが周知であり、特に、HM
G−CoA還元酵素阻害剤のコーティング材料として、カルメロース及びその塩、
クロスポビドン等の崩壊剤と共に、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE
を用い得ることが知られていたものと認めることができる。
そうすると、乙12発明の「コーティング」の材料として、「カルボキシメチル
セルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物」に代え、アミノアル
キルメタアクリレートコポリマーE等の「ポリビニルアルコール又はセルロース誘
導体」を含まない周知のものを採用することは、乙12公報に接した本件出願日当
時の当業者において適宜なし得たことであると認めるのが相当である。
(エ) 控訴人の主張について
控訴人は、乙12発明は「ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィル
ム形成剤として含む材料の層でコーティングされた構成」を必須の構\成とするもの
であり、これを従来技術として知られている他のコーティングに変更することは想
定されていないから、上記の必須の構成を相違点2に係る本件訂正発明6の構\成に
変更することには阻害要因がある旨主張する。
しかしながら、乙12公報の記載(前記3(1)キ)を見ても、乙12発明の適切
な「膜形成剤」は、(環境影響に敏感な)粒子又は活性物質を含む医薬剤形のコア
にコーティングの形態で塗布され、環境影響(酸化及び/又は環境湿度等)から活
性物質を保護する任意のものであり、最も好ましい「膜形成剤」は、活性物質を酸
化から保護する任意のものであるとまず理解され、当該任意の「膜形成剤」のうち
好適なものがポリビニルアルコール(PVA)及びセルロース誘導体からなる群か
ら選択されるものであると理解するのが自然であるから、「ポリビニルアルコール
又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされた
構成」が乙12発明の必須の構\成であると認めることはできない。したがって、こ
の構成を相違点2に係る本件訂正発明6の構\成に変更することに阻害要因があると
いうことはできない。
◆判決本文
原審はこちら
◆平成30(ワ)17586等
なお、当事者および該当特許が同じ別訴では、侵害が認定されています。
◆平成27(ワ)30872
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2022.09. 5
令和3(行ケ)10136等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年8月31日 知的財産高等裁判所
知財高裁(2部)は、進歩性判断における動機付けについて「当該構成を得るためにフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用しようとする動機付けはない」として、進歩性無しとした審決を取り消しました。
前記1(2)のとおり、本件発明1は、溶融前の半田片をノズルの内壁及び端
子の先端に必ず当接させるとともに、溶融した半田片を必ず真球にならないまま端
子の上に載った状態で下方に移動しないように停止させ、ノズルからの熱伝導等に
より半田片及び端子を十分に加熱し、これにより適正温度での半田付けを実現する\n結果、半田付け不良の防止という効果を奏するものである。これに対し、甲1には、
ランドに接地した糸半田が貫通孔の周壁から輻射熱、伝導熱及び対流熱により加熱
され、遜色なく溶解され、より的確な半田付けが可能になった旨の記載はみられる\nものの(段落【0023】及び【0042】)、溶融した半田が必ず真球にならな
いまま停止すること、すなわち、溶融後も半田がノズルの内壁に当接し続けること
により半田片及び端子が十分に加熱されることについての記載及び示唆はないから、\n甲1に接した当業者にとって、溶融した半田が必ず真球にならないとの構成が解決\nしようとする課題及び当該構成が奏する作用効果を知らないまま、当該構\成を得る
ためにフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用しようとする動機付け
はないものといわざるを得ない。
(6) なお、証拠(甲39)及び弁論の全趣旨によると、フラックスの含有量が
小さい半田を用いると、半田付け不良の原因になるものと認められる。
(7) 以上によると、使用する半田に含有されるフラックスの量についての記載
及び示唆がない甲1に接した当業者にとって、甲1発明においてフラックスの含有
量が1wt%の半田をわざわざ採用し、溶融した半田が必ず真球にならないとの構\n成を得ることが容易になし得たものであったと認めることはできず、その他、当業
者が甲1発明に基づいて溶融した半田が必ず真球にならないとの構成を得ることが\n容易になし得たものであったと認めるに足りる証拠はない。
なお、乙3(技術説明資料・17頁)には、甲1発明においてフラックスの含有
量が2wt%以下の半田を用いても必ず真球にならないとの構成を得ることができ\nる旨の記載があるが、半田が溶融した際に形成される球の直径を求めるに当たって
は、フラックスの組成、半田の組成、半田の熱膨張、ノズルの熱膨張等の諸般の要
素につき詳細な検討が必要であるから、乙3が引用する甲33(原告の特許庁審判
長に対する回答書)の計算結果並びに残存するフラックスの影響及び半田の熱膨張
の影響のみを考慮することによっては、甲1発明においてフラックスの含有量が2
wt%以下の半田を用いた場合に必ず真球にならないとの構成を得るものと認める\nことはできない。
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2022.08.31
令和3(行ケ)10131 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年8月22日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が維持されました。原告は阻害要因ありを主張しましたが、「専門の技術者がこれを行うことを常に想定しているということはできない」としてこれを否定しました。
(3) 前記(2)の記載によると、甲4の「スクリーン保護膜30」が本件発明1の
「保護シート」に相当し、「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」が
それぞれ本件発明1の「第2剥離部」及び「第1剥離部」に相当することは明らか
である。そして、甲4の「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」は、
それぞれ「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」から、「スクリーン
保護膜30」の外側に延びるように設けられ、「第一の離型膜341」及び「第二
の離型膜342」を剥がす際に手で持つ部分であるから(段落【0025】、【0
026】、【図4】〜【図6】)、いずれも本件発明1の「延出部」に相当すると
いえる。
ここで、甲4において「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」を設
けたのは、手で「第一の突起部343」又は「第二の突起部344」を持って、そ
れぞれ「第一の離型膜341」又は「第二の離型膜342」を便利に剥がせるよう
にするためである(段落【0025】)。そうすると、甲4に記載された発明とそ
の属する技術分野を同じくする甲3−1発明(その内容は、前記第2の3(2)ア
(ア)のとおり)においても、そのような利便性を図るため、甲4に記載された「第
一の突起部343」及び「第二の突起部344」の構成を適用して本件発明1の\n「延出部」を設けることは、本件優先日当時の当業者において容易に想到し得たこ
とであると認められる。
(4) この点に関し、原告は、甲3−1発明に甲4に記載された「第一の突起部
343」及び「第二の突起部344」の構成を適用することには、阻害要因がある\n旨主張するが、以下のとおり、これを採用することはできない。
ア 原告は、まず、甲3−1発明はその貼付の対象として超大型のディスプレイ\nパネル(最低でも17インチのものであり、適するのは82インチのものであり、
更にそれより大きいものを含む。)を想定しており、その貼付を行うのは専門の技\n術者であるから、本件発明1の「延出部」のような部材は不要である旨主張する。
そこで検討するに、前記(1)のとおり、甲3には、甲3−1発明の光学フィルム
を貼付する対象が「大型ディスプレイパネル」であり、「大型」とは17インチか\nら82インチ程度までのものをいう旨の記載がある(前記(1)イ、ケ等)。また、
特許請求の範囲においては、保護フィルムの貼付の対象となる大型ディスプレイパ\nネルが少なくとも17インチのものである旨の特定がされている(前記(1)ツ)。
さらに、実施例1においては、甲3−1発明の光学フィルムは40インチの大型液
晶テレビに貼付され、実施例2においては、甲3−1発明の光学フィルムは23イ\nンチのコンピュータディスプレイに貼付されている(前記(1)ソ及びタ)。これら\n甲3全体の記載を参酌すると、甲3の「要約」に、「この方法は、対角線208c
m(82インチ)の可視領域を有するような大型ディスプレイパネルでの使用に適
している。」との記載があること(前記(1)ア)を考慮しても、甲3−1発明が8
2インチ程度の大型ディスプレイパネルのみをその貼付の対象としていると認める\nことはできず、甲3−1発明は、幅広い大きさの範囲(17インチないし82イン
チ程度)のディスプレイパネルをその貼付の対象とするものであると認めるのが相\n当である。そして、17インチ程度の大きさのディスプレイパネルに光学フィルム
を貼付することが専門の技術者でなければ行えないとみるべき事情もない。そうす\nると、甲3−1発明の光学フィルムの貼付については、専門の技術者がこれを行う\nことを常に想定しているということはできないから、原告の上記主張は、その前提
を欠くものとして失当である(なお、原告が主張する「把持部」(本件発明1の
「延出部」に相当する部材)は、甲4における「第一の離型膜341」及び「第二
の離型膜342」を剥がすのに便利な「第一の突起部343」及び「第二の突起部
344」と同様の機能を有するものであるところ(甲4の段落【0025】等参\n照)、甲4の「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」は、甲3―1発\n明の分離剥離ライナーである「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」に対
応するものである。専門の技術者であったとしても、分離剥離ライナーを剥がすた
めに「把持部」を設けることは便利となるものであって、仮に、甲3−1発明の光
学フィルムがその貼付を専門の技術者が行うことを想定しているとしても、そのこ\nとから直ちに、甲3−1発明の光学フィルムにおいて、分離剥離ライナーである
「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」を剥がすのに便利な「把持部」を
設けることが不要になるわけではない。)。
イ 原告は、また、甲3−1発明の光学フィルムの貼付作業に利用できるように\n「把持部」を形成する場合、最低でも10cm程度の大きさ(これは、「把持部」
と「第1の部分38a」又は「第2の部分38b」が接する部分の長さをいうもの
と解される。)が必要になるところ、そのような大きさの「把持部」が形成される
と、甲3が想定する精度で貼付作業を行うことができなくなる旨主張する。\nしかしながら、甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を形成する場合、最低
でも10cm程度の大きさを必要とするとの原告の主張は、何ら客観的な根拠を有
するものではないし、上記アのとおり、甲3−1発明の光学フィルムは、17イン
チのディスプレイパネルをもその貼付の対象とするものであるから、その場合にも、\n「把持部」を形成するのであれば最低でも10cm程度のものが必要であるという
ことはできない(なお、原告の上記主張は、甲3−1発明の光学フィルムの貼付の\n対象として、82インチ程度の超大型ディスプレイパネルのみが想定されているこ
とを前提とするものと解されるが、その前提が成り立たないことは、前記アのとお
りである。)。したがって、原告の上記主張も、前提を誤るものとして失当である。
ウ 原告は、さらに、甲3−1発明の光学フィルムは、ディスプレイパネルの周
囲に大きな段差のあるフレームがあるような場合に使用されることを想定している
ところ(甲3の図面)、そのような場合に「把持部」を形成すると、フレームと
「把持部」が干渉してしまい、甲3−1発明の光学フィルムの位置決めが不可能に\nなる旨主張する。
確かに、甲3の図面の中には、ディスプレイパネルの周囲にフレームがあり、段
差が生じていると見て取れるもの(図7a等)がある。しかしながら、実施例1に
おいては、甲3−1発明の光学フィルムは大型液晶テレビに貼付され、実施例2に\nおいては、甲3−1発明の光学フィルムはコンピュータディスプレイに貼付されて\nいるところ(前記(1)ソ及びタ)、大型液晶テレビやコンピュータのディスプレイ\nパネルの周囲に必ず段差のあるフレームが存在するわけではないから、甲3−1発
明の光学フィルムが、常にディスプレイパネルの周囲に大きな段差のあるフレーム
があるような場合に使用されることを想定しているということはできない。したが
って、原告の上記主張も、その前提を誤るものとして失当である。
エ なお、原告は、実験報告書(甲28の3、甲36)を根拠に、甲3−1発明
の光学フィルムを巨大なディスプレイパネルに貼付する場合、「把持部」があると、\nかえって作業に支障を来す旨主張する。
しかしながら、上記実験において用いられたのは、82インチの光学フィルムの
みであるところ、前記アのとおり、甲3−1発明は、常に82インチ程度の光学フ
ィルムであることを前提としているわけではないから、82インチよりも小さいサ
イズの光学フィルムを用いた実験を省略する上記実験は、17インチないし82イ
ンチ程度といった幅広い大きさの範囲でディスプレイパネルに貼付することを前提\nとする甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を設けることの不都合さを示す実
験としては、十分なものではない。加えて、23インチのディスプレイパネル及び\n82インチのディスプレイパネルに貼付することのできる2種類の光学フィルムを\n用いた被告の実験結果(「延出部」を設けても貼付作業に支障を来さず、むしろ有\n用であったとするもの。乙1、2)にも照らすと、原告の上記実験結果によっても、
甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を設けると貼付作業に支障を来すことに\nなると認めることはできず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
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2022.08.18
令和1(ワ)20286等 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年6月30日 東京地方裁判所
任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟です。東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n原告は、本人訴訟です。特許は、特許第3382936号(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-3382936/03A51F6D5F3A043A6242B758D39317CEC3E7966037CD769975997EE07C2C14E4/15/ja)ですが、被告が無効審判(無効2020-800098)を請求しており、職権でサポート要件違反などが指摘されています。2022年8月現在では審決はなされていません。なお、2011/08/30に10年目の登録料を支払わずに存続期間満了による抹消がなされています。
前記(ア)のとおり、乙4文献には、使用時に表示板2を見易い傾斜角度\nに開くことができる折畳み式の小型電子機器において、表示板2を手で\n回転させると、回転軸8の溝aないしeに回転軸止め用シャフト10が
弾性的に圧入され、回転軸8の溝b、c、d、eのところで、夫々クリ
ック音を感触させながら位置II)、III)、IV)、V)で停止して表示板2を固定\nさせることが開示されており、第5図からは、傾斜角度が約120度か
ら約170度までの範囲内の予め決められた1つの傾斜角度に対応した\n位置で固定可能なことも理解できる。\nまた、前記(イ)のとおり、乙26文献においても、表示体ケース2を開\n閉可能な小型の電子機器において、回転軸6の凸凹10とクリックツメ\n12を設けることで、表示体ケース2を任意の位置で停止させることが\nできることが開示されている。
そうすると、乙4文献及び乙26文献により、折り畳み式の小型電子
機器において、表示板を含む2つの部材のなす角度が、ユーザーが行う\n表示板の回動により約120度から約170度までの範囲内の予\め決め
られた1つの角度に変化させられたとき、前記回動をストップさせて、
前記2つの部材の間を前記予め決められた1つの角度で固定する中間ス\nトッパであって、前記2つの部材のなす角度が折り畳まれた状態から広
げられて行く動作をストップする機能と、広げられた状態から角度を狭\nめて行く動作をストップする機能を有する中間ストッパを設けることは、\n周知の技術(以下「本件周知技術」という。)であると認めることができ
る。
(エ) 本件相違点への本件周知技術の適用
乙1発明’は、前記(1)イのとおり、第1のパネル12と第2のパネル
14が蝶番手段16によって接続され、ユーザーが座ったり、立ったり、
又は、歩いたりする位置にあるときに、片手でコンピュータを保持し、
もう片方の手でデータを入力することを許容するコンピュータノートブ
ック10の発明であり、これは、折り畳み式の小型電子機器に関する技
術であるという点で、本件周知技術と共通する。したがって、乙1発明’
において、「第1のパネル12及び第2のパネル14の両方が蝶番手段1
6を中心とした多数の角度において配向する」場合に、本件周知技術の
中間ストッパを採用することにより、本件相違点に係る本件発明1の構\n成とすることは、当業者において容易に想到し得たことである。
◆判決本文
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2022.07.31
令和3(行ケ)10069 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年6月22日 知的財産高等裁判所
薬について、無効審判において、訂正請求がなされ無効理由なしと判断されました。知財高裁は、予測できない効果ではないとして、これを取り消しました。\n
本件明細書を見ると、実施例1において、高リスク患者
では、100単位週1回投与群における新規椎体骨折の発生率は、い
ずれも実質的なプラセボである5単位週1回投与群における発生率に
対して有意差が認められるが、低リスク患者では、100単位週1回
投与群における新規椎体骨折の発生率は、いずれも、5単位週1回投
与群における発生率に対して有意差が認められなかったと記載されて
いるのにとどまる(【0086】ないし【0096】、【表6】ないし【表\
11】)ところ、誤記等を修正して再解析したとする数値(前記1(2)オ)
に基づいても、低リスク患者の新規椎体骨折についていえば、100
単位週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人について、それ
ぞれ、ただ1人の骨折例数があったというものであり、このような少
ない症例数のもとでは、上記プラセボ投与群の骨折発生率と対比した
場合の骨折発生率の低下割合(RRR)は、骨折例数が1件増減した
だけでその値が大きく変動することは明らかであるし、そもそも、低
リスク患者を対象とした場合は、5単位週1回投与群であっても骨折
例数が少なく、5単位週1回投与群の骨折発生率に対する、100単
位週1回投与群の骨折発生率の低下割合であるRRRの値が、高リス
ク患者に対するそれに対して小さいのは当然のことといえる。
この点、被告は、3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボ
に対する関係で有意差があり、非3条件充足患者における骨折抑制効
果がプラセボに対する関係で有意差が無ければ、直ちに、本件発明1
の骨粗鬆症治療剤が3条件充足患者に対して優れた効果を有するとい
える旨主張する。しかしながら、有意差が無いということは効果が優れているかどうか不明であるということにすぎず、効果が優れていないということを直ちに意味するものではないし、有意差が無かったことが症例数が不足していることによることも否定できない(甲30、35)から、上記のような結論の導出は適当でない。したがって、実施例1をみても、高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が、低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
◆判決本文
関連事件です。
◆令和3(行ケ)10115
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2022.07.31
令和3(行ケ)10070 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年6月28日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決を取り消しました。理由は引用文献の認定誤りです。
本件審決は、甲2において、制御端末110から複数の家電機器に対す
る制御命令は、家電機器の制御部に対して実行されるものであるから、制
御端末110は家電機器の駆動部に接続して制御する装置ではなく、また、
甲3において、AV用集中制御装置(12)から複数のAV用機器(14)に対す
る制御命令は、家電機器の制御部に対して実行されるものであるから、A
V用集中制御装置(12)はAV用機器の駆動部に接続して制御する装置では
ないので、いずれも、本件発明1の「駆動部に接続されたマイクロコント
ローラ」に相当するものではないと解釈した。しかし、甲2及び甲3に記
載された技術的事項は、前記(3)ア(イ)、イ(イ)のとおり認定されるものであ
って、本件審決のように、制御端末110が家電機器の駆動部に接続して
制御する装置ではないこと、AV用集中制御装置(12)がAV用機器の駆動
部に接続して制御する装置ではないことと限定的に解釈すべき根拠はな
く、本件審決による甲2及び甲3の記載事項から把握される技術の認定に
は誤りがある。したがって、被告の上記主張は採用することはできない。
イ 以上のとおり、甲2及び甲3に記載された技術的事項は、前記(3)ア(イ)、
イ(イ)のとおり認定されるものであって、本件審決による認定は誤りであ
るから、取消事由8は理由がある。
◆判決本文
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2022.07. 4
令和2(ワ)13326 特許権侵害差止等請求事件 令和4年5月27日 東京地方裁判所
用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。東京地裁46部は、新規性無しとして、権利行使不能と判断しました。\n
ア 本件発明1は、「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部
骨折を抑制するための医薬組成物」であるところ、前記(1)によれば、乙1文
献には、エルデカルシトールを骨粗鬆症治療薬として用いることが記載され
ており、本件発明1と乙1発明とは、構成要件1A、1Cにおいて一致して\nいる。他方、本件発明1は、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」
(構成要件1B)医薬組成物であるところ、乙1発明は骨粗鬆症治療薬であ\nり、この点において本件発明1と乙1発明が相違するといえるかが問題にな
る。
イ 本件明細書によれば、「非外傷性骨折とは、転倒などの一般的な日常生活
で起こる軽微な外力により生じた骨折を示す」(【0035】)とあり、「前腕
部は、橈骨と尺骨からなる」(【0022】)とされ、また、「抑制あるいは予\n防は、骨粗鬆症にり患していない者あるいは骨粗鬆症患者のいずれにおいて
も、新たな骨折が発生しないことを意味する。」(【0022】)とされている。
したがって、本件発明1の「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」とは、
骨粗鬆症にり患していない者及び骨粗鬆症患者のいずれについても、転倒な
どの一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨又は尺骨に新たな
骨折が発生しないようにすることを意味しているといえる。
ここで、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴として骨折のリスクが増大しや
すくなる骨格疾患であり(前記2(1)ア)、骨粗鬆症治療薬は、骨粗鬆症を治療
することを目的とする薬物なのであるから、骨折のリスクを低下させること、
すなわち、新たな骨折を発生させないようにすることを目的としているとい
える。そして、本件優先日当時、骨粗鬆症においては、骨強度の低下により、
通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで生ずる骨折である脆弱性骨折
が生ずることが問題とされており、骨折が生ずることがある具体的な部位と
しては、大腿骨、椎体等と並んで、橈骨が含まれていたことが知られていた
と認められる(前記2(1)イ)。
そうすると、乙1発明の骨粗鬆症治療薬とは、骨強度の低下によって通常
は骨折を生じさせない些細なきっかけで大腿骨、椎体、橈骨等に新たな骨折
を発生させないようにすることを目的とする治療薬であり、この中には、骨
粗鬆症患者に対する、通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで橈骨に新
たな骨折を発生させないようにすることについても用途として含まれるこ
とは明らかである。
これに対し、乙1発明の骨粗鬆症治療薬について、原告は、エルデカルシ
トールに骨折抑制効果があることは知られていなかったと主張する。しかし、
乙1文献の表題は「骨粗鬆症治療薬」というものであり、その表\題からも、
そこに記載されたエルデカルシトールが骨粗鬆症の治療薬であること、すな
わち、エルデカルシトールが骨粗鬆症患者に対する骨折抑制効果があること
に関する文献であることが理解できる。そして、乙1発明のエルデカルシト
ールは活性型ビタミンDの誘導体であり、活性型ビタミンDが体内のビタミ
ンD受容体と結合して作用するのと同様にビタミンD受容体に結合して作
用するという、活性型ビタミンDと同一の機序によって骨粗鬆症に作用する
ことが想定されていた。活性型ビタミンDは、前腕部を含む骨における骨形
成を促進し、骨破壊を抑制することによって骨量を増やして骨密度骨強度を
増加させるとともに、転倒自体を抑制するといった作用を有することが知ら
れており(前記2(3)ア、(4))、実際に、乙1文献には、エルデカルシトール
が骨密度を上昇させる効果を有することが記載されている。さらに、当時、
一般に、骨量が多いほど骨折しにくくなり、骨量の多寡が骨折リスクの指標
になると考えられていた(前記2(2) )。これらからすると、当業者は、乙1
発明の骨粗鬆症治療薬について、前腕部骨折予防効果があると理解すると認\nめられる。原告が指摘する文献や記載は、上記技術常識等に照らし、当業者
に対して乙1発明のエルデカルシトールが上記骨折抑制効果を有すること
に対して疑念を抱かせるものとは認められない。
以上によれば、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において一般的な日常生
活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用
途とする構成は、乙1発明のエルデカルシトールの用途と一致すると認めら\nれる。
ウ 原告は、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認
められると主張する。
しかし、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において、一般的な日常生活で
起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途と
する構成について、前記イに述べたところにより、乙1発明のエルデカルシ\nトールにおいても、当然に当該部位に係る骨折予防についても有効であるこ\nとが具体的に想定されていたと認められる。また、乙1文献には、エルデカ
ルシトールを活性型ビタミンD3製剤であると記載されていて、乙1発明に
おいても、既存の活性型ビタミンD製剤と同様の機序、すなわち、ビタミン
D受容体への作用による骨強度の上昇及び転倒防止(前記2 ア、 )が想
定されていたと認められる。本件明細書には、本件発明1について、技術常
識から認められる上記機序と異なる機序によって作用していることについ
ての記載もなく、本件発明1も、乙1発明と同一の作用機序を前提にしてい
ると認められる。仮に年齢等によって第1選択として投与される薬剤の種類
が異なるとしても、エルデカルシトールが投与されたとき、乙1発明のエル
デカルシトールが投与されたのか、本件発明1のエルデカルシトールが投与
されたのかを区別することができるものではない。本件発明1の一部の用途
は、作用機序の点からも、乙1発明の用途と区別することはできない。
なお、原告は、本件発明1において、エルデカルシトールの前腕部骨折抑
制に関する顕著な効果が初めて見出されたとも主張する。原告が本件明細書
で明らかにされた医学的に有用であると主張する具体的な知見は、1)前腕部
の骨折予防の観点からは、アルファカルシドールよりもエルデカルシトール\nの方が顕著に優れていること、2)前腕部以外の部位においては、エルデカル
シトールとアルファカルシドールの効果の差は前腕部における差ほど顕著
ではないという2点である。しかし、仮に原告が主張する上記評価が統計学
上正当であると認められるとしても、1)については、本件明細書で明らかに
されているのは、エルデカルシトールがアルファカルシドールに比べて骨折
抑制効果が高いことのみであり、このことのみからは、エルデカルシトール
がプラシーボに比べて顕著に優れている可能性も、アルファカルシドールが\nプラシーボに比べて顕著に劣っている可能性も、どちらともいえない可能\性
もある。さらに、乙1発明において、エルデカルシトールの骨折抑制効果が
アルファカルシドールを上回ること自体が想定されていたことも認められ
る(前記3)。2)についても、本件明細書の実施例で記載されている前腕部
骨折以外に関する分析結果は椎体骨折に関するもののみ(【0069】)であ
り、前腕部についてのみ良好な結果が得られたのか、椎体についてのみ良好
とはいえない結果が得られたのかすら明らかにされていない。これらによれ
ば、何らかの顕著な効果の存在を理由に乙1発明に対する新規性等が認めら
れる場合があるか否かは措くとしても、本件においてはその前提となる顕著
な効果を認めることはできない。
さらに原告は、65歳の患者群やI型骨粗鬆症患者群においては前腕部に
おける骨折抑制が特に求められており、独立の用途を構成するなどと主張す\nる。しかし、乙1発明のエルデカルシトールにおいても、一般的な日常生活
で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことに有効
であることが具体的に想定されていたと認められるなど、上記に述べた事情
に照らせば、原告が主張する上記知見は、本件において、乙1発明の用途を
前腕部の骨折予防に限定することに新規性を付与すべき事情に当たるとは\nいえない。
エ 以上によれば、本件発明1は、乙1発明で想定される橈骨の骨折抑制、大
腿骨の骨折抑制といった複数の骨折抑制部位に係る用途のうち、前腕部の効
果に着目したものと認められる。本件発明1において「非外傷性である前腕
部骨折を抑制するための」と限定した部分は乙1発明との相違点になるとは
いえず、本件発明1は、乙1発明と同一であり、本件発明1は、新規性が欠
如しているといえる。
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2022.06.30
令和4(ワ)3374 特許権侵害行為差止等請求事件(承継参加) 特許権 民事訴訟 令和4年6月20日 大阪地方裁判所
技術的範囲に属しない、さらに、乙36発明から新規性がないと判断されました。前者については原告被告の双方から実験結果が提出されており、被告のものが採用されました。
このように、甲6食品実験等と乙12実験等の結果は異なっているところ、
前記2(1)において認定したとおり、主たる青色光源であるLED5)が青色
発光するのは、パーシャル室を(チルドではなく)微凍結パーシャル状態と
し、かつオート急冷中のときであって、この場合、パーシャル室内は約−3度
から約−1度に保たれることになるから、乙12ないし乙15の各実験の結
果にみられるとおり、培地の一部や豚肉が凍結していたとする結果と整合的
に理解できるものであり、乙12、13実験における黄色ブドウ球菌や枯草
菌のコロニーが見られなかったという結果も、黄色ブドウ球菌の一般的な増
殖可能温度域は5〜47.8度(至適増殖温度は30〜37度)であり、枯\n草菌の一般的な増殖可能温度域は5〜55度(最適発育温度帯は20〜4\n5度)であること(乙12、13に添付の参考資料)と矛盾なく理解するこ
とができる。
これに対し、甲6実験等は、そもそも本件製品の冷蔵室やパーシャル室内
の温度設定ないし機能設定が明らかでない上、甲15食品実験及び甲15培\n地実験にあっては、試料設置後、冷蔵室扉を封印したというのであるから、
青色光の照射時間は扉の開閉を所定時間行った乙12実験等におけるもの
よりも短いものと推認されるのに、青色光照射区で有意に細菌の生長が抑制
されていると評価されて結果が報告されるなどしており、本件製品の冷蔵室
内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長を抑制する効果があるかを判
定するについての実験条件の統制が的確に取れていたのかについて大きな
疑義を生じさせるものというべきである。
以上によると、本件製品の冷蔵室内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の
生長を抑制する効果があるかを判定するについては、甲6食品実験等を採用
することはできず、乙12実験等によるべきである。
そして、乙12、13実験等によると、そもそも本件製品において青色L
EDが発光する状態となったパーシャル室内では、黄色ブドウ球菌及び枯草
菌は遮光の有無にかかわらず生長しないことが認められ、乙15実験の結果
によると、豚肉中の細菌量が6つに分けた各試料でおおむね一定であり、ま
た結果の判定につき(本件測定器具の精度については議論があるものの)精
度が十分で誤差がないと仮定すると、青色光の照射を受けた豚肉よりも青色\n光の照射を受けなかった豚肉の方が3日後の細菌数が少ないものもあると
いう結果も見て取れる。加えて、そもそも本件製品が食品等に照射する光の
強度(光量子束密度)は、白色光等他の波長域の光も含めて最大7μE/m2/s
程度であって(乙8)、この光は冷蔵庫の扉が開いたときに照射されるが、通
常の用法において冷蔵庫の扉を開けるのは短時間にとどまることからする
と、本件明細書の実施例等で示される光の強度や照射時間と対比するとごく
わずかにすぎないと見込まれること、そもそも冷蔵庫は、一般常識に照らし、
庫内の食品を微生物の活動が抑制される程度の低温に保つことで食品を保
存する機器であることを併せ考えると、本件製品において、LED4)や同5)
の青色光の照射が、黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長が抑制されることに影響
を与えているとは認められないというべきである。
(4) まとめ
以上によると、本件製品が、青色光の照射により枯草菌、黄色ブドウ球菌等
の微生物の生長を抑制しているとは認められず、他に、前記(2)の本件製品の
使用方法による青色光の照射の影響によって微生物の生長が抑制されている
こと(光の照射と微生物の生長抑制させることとの間に直接的な関連性がある
こと)を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件製品の使用方法は、「光
の照射下で」(構成要件B)を充足せず、本件発明の技術的範囲に属しない。\n争点1についての原告の主張(請求原因)は、理由がない。
・・・
(1) 当裁判所は、前記2のとおり、本件製品の使用方法は、本件発明の技術的範
囲に属しないと判断するが、さらに、本件特許は、少なくとも新規性が欠如し
ているから特許無効審判により無効にされるべきものと判断する。以下、事案
に鑑み、争点3−7(乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の有無)
を検討する。
・・・・
これに対し、原告は、乙36公報に記載された「FL-40SB(東芝電気(株))」
は、混在する光を発することを指摘して、乙36公報には青色光に着目した
記載はないから、「およそ400nm から490nm までの光波長領域にある光
の照射下で培養して、この微生物の生長を抑制させる」こと(構成要件B)\nは開示されていない旨や、近紫外線が必須の構成となっていることを主張す\nる。
しかし、前記(2)によれば、乙36公報の特許請求の範囲第2項は「500
nm から近紫外線の波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線」を微生物
に照射することを明示しており、また乙36公報に記載の発明は、「従来の
殺菌及び滅菌方法では、対象菌体のみならず、人体、家畜類及び各種製品を
損傷させるという弊害があり、これらの弊害なく簡便な菌体の繁殖抑制方法」
を課題とし、この課題の解決手段として、「微生物に少くとも500nm から
近紫外線の波長域に含まれる光線を照射することにより、微生物の繁殖を抑
制する」方法を開示したものである。また、「近紫外線」の意義については
「本発明における「近紫外線」とは、(中略)更に好ましくは、360nm か
ら400nm の波長域に含まれる光線を意味する。」とされ、400nm にごく
近い波長の光線が好ましい近紫外線に含まれていることが前提となってい
るし、光源−2についてはおよそ400nm〜500nm で発光する蛍光灯であ
ることがその定義及び分光エネルギー分布図によって明らかである。そして、
実施例−11にあっては、枯草菌に前記光源−2を照射した結果、他の波長
の光源とは有意に異なる微生物の生長抑制効果があったことが記載されて
いる。このような開示がされている乙36公報に接した当業者は、波長が400
nm〜500nm の範囲の青色光が微生物のうち枯草菌の繁殖を抑制するとす
る乙36発明が開示されていると容易に理解し得るものである。
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2022.06. 8
令和3(行ケ)10082 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年5月31日 知的財産高等裁判所
引用発明では、本願発明と共通する課題が異なる別の手段によって既に解決されているので、組み合わせの動機付けがないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。。
しかしながら、前記1 で検討したとおり、本願発明は、被覆層を除
去してコア電線を露出させる作業の作業性に関し、コア材の外周面に粉
体が塗布された従来のケーブルには、コア材を取り出す作業の際に粉体
が周囲に飛散し、作業性が低下してしまうという課題があったことから、
コア電線と被覆層との間に、コア電線に巻かれた状態で配置されたテー
プ部材を備える構成とすることにより、テープ部材を除去することによ\nって容易にコア電線と被覆層とを分離することができるようにして、上
記課題を解決しようとする点に技術的意義を有するものである。
他方で、前記2 イで検討したとおり、引用発明は、線心の取り出し
を容易に行うことができるようにすることを課題の一つとする発明で
あり、この点で本願発明と課題を共通にするものといえるが、電源用線
心及び信号用線心の外周をシースで覆うのみの形で被覆する構成とす\nることによって上記課題を解決しようとするものであり、本願発明とは
課題を解決する手段を異にするものといえる。
このように、引用発明においては、本願発明と共通する課題が本願発
明とは異なる別の手段によって既に解決されているのであるから、当該
課題解決手段に加えて、両線心をテープ部材で巻き、その結果、両線心
とシースとの間にテープ部材が配置される構成とする必要はないという\nべきである。そして、引用発明に上記のような構成を加えると、線心を\n取り出そうとする際に、シースを除去する作業のみでは足りず、更にテ
ープ部材を除去する作業が必要となることから、かえって作業性が損な
われ、引用発明が奏する効果を損なう結果となってしまうものといえる。
加えて、甲1公報をみても、引用発明の効果を犠牲にしてまで両線心を
テープ部材で巻くことに何らかの技術的意義があることを示唆するよう
な記載は存しない。
以上によれば、引用発明に上記周知技術を適用することには阻害要因
があるというべきであるから、相違点3に係る「前記コア電線のみを巻
くテープ部材」という構成の意義について検討するまでもなく、本件原\n出願日当時の当業者が、引用発明及び上記周知技術に基づいて、相違点
3に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものとはいえない。\n
イ 相違点4に係る容易想到性
相違点4に係る本願発明の構成は、相違点3に係る本願発明の構\成であ
る「テープ部材」を含むものであるところ、上記アで検討したところによ
れば、相違点4に係る「前記テープ部材上に形成された被覆層」という構\n成の意義について検討するまでもなく、本件原出願日当時の当業者が、引
用発明及び上記周知技術に基づいて、相違点4に係る本願発明の構成を容\n易に想到し得たものとはいえない。
ウ 相違点6に係る容易想到性
相違点6に係る本願発明の構成は、相違点3に係る本願発明の構\成であ
る「テープ部材」を含むものであるところ、上記アで検討したところによ
れば、本件原出願日当時の当業者が、引用発明及び上記周知技術に基づい
て、相違点6に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものとはいえない。\n
エ 相違点3、4及び6に係る被告の主張に対する判断
被告は、相違点3に関し、1)甲1公報には引用発明が簡素な構成を課\n題解決手段としたものであることについては何も記載されていない、2)
甲1公報に記載された電源用線心及び信号用線心の取り出しが容易に行
えるという効果は従来例と比較しての記載にすぎない上、線心がシース
内に埋め込まれている従来例及び線心をシースで覆う引用発明のいずれ
が簡素な構成であるかは不明である、3)甲1公報に記載された実施例に
ついて、両線心の外周がシースで覆われているのみであるとしても、甲
1公報には両線心の上に何らかの部材を介在させることを排除する記載
はないことを理由に、引用発明にテープ部材を介在させることについて、
原告が主張するような阻害要因があるとはいえない旨主張する(前記第
3の〔被告の主張〕3 エ)。
しかしながら、前記2 イで検討したとおり、引用発明は、線心の取
り出しを容易に行うことができるようにすることを課題の一つとする発
明であり、電源用線心及び信号用線心の外周をシースで覆うのみの形で
被覆する構成とすることによってこの課題を解決しようとするものであ\nるといえることからすれば、上記1)の主張は理由がないというべきであ
る。
また、上記周知技術の適用が引用発明の効果に及ぼす影響については、
引用発明の構成を前提に検討すべきものであって、従来例と対比して検\n討すべきものではないから、上記2)の主張は理由がないというべきであ
る。
さらに、甲1公報には、線心上に何らかの部材を介在させることを排
除する明示的な記載はないものの、上記アで検討したとおり、引用発明
における課題解決手段及びその効果を考慮すれば、引用発明に上記周知
技術を適用すると、線心の取り出しを容易に行うことができるようにす
るという引用発明の効果を損なう結果となってしまうというべきである
から、上記3)の主張も理由がないというべきである。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
被告は、相違点4及び6に係る容易想到性についても縷々主張するが、
これまで検討したとおり、当業者が相違点3に係る本願発明の構成であ\nる「テープ部材」を容易に想到し得たものとはいえない以上、相違点4
及び6に係る本願発明の構成も容易に想到し得たものとはいえないから、\nいずれの主張も前記の判断を左右するものではないというべきである。
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2022.05.19
令和3(行ケ)10080 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年5月11日 知的財産高等裁判所
審判では無効理由無しと判断されましたが、裁判所は、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているとして、進歩性無しと判断しました。
(3) 上記(1)イ及びウの「Reflective ... Film」との用語に加え、上記(1)エ及
び(2)のとおり通常光下では黒色であった商品サンプルがフラッシュ光下では肌色
様に見えることや弁論の全趣旨も併せ考慮すると、甲4に貼付された黒色の商品サ\nンプルは、「黒色の再帰反射フィルム」であると認めるのが相当である。
また、上記(1)ウの「従来の印刷手法に加え、溶剤及びUVインクジェットに対
応しています」との記載は、甲4の黒色の再帰反射フィルムに溶剤インクジェット
印刷を施すことが可能であることを意味するものと解され、溶剤インクジェット印\n刷が施されれば、黒色の再帰反射フィルムの上に印刷層が形成されることは明らか
であるから、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより印刷層を形成す
ることができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているといえる。
(4) そこで進んで、甲4に「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性
の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているかに
つき検討する。
ア 上記(1)ウのとおり、印刷層の形成に関し、甲4には「従来の印刷手法に加
え、溶剤及びUVインクジェットに対応しています」との記載があるのみであり、
溶剤インクジェット印刷が非透光性のインクを用いたものに限られるとの記載又は
示唆はみられない。
イ ここで、溶剤インクジェット印刷の意義等に関し、下記の各証拠には、それ
ぞれ次の記載がある。
(ア) 甲18(全日本印刷工業組合連合会(教育・労務委員会)編「印刷技術」
(平成20年7月発行))
「カラー印刷では基本的にCMYKの4色によって原稿の色を再現している。こ
の4色をプロセスセットインキと呼び、このうちCMYは透明インキとなっている
ので刷り重ねで印刷した場合、下のインキの色が一緒になり2次色、3次色が発色
する。」
(イ) 甲19(高橋恭介監修「インクジェット技術と材料」(平成19年5月2
4日発行))
「インクの色剤としては染料、顔料を挙げることができる。・・・
染料は媒体である水に可溶であり、分子状態でインク媒体中に存在している。個
々の分子が置かれた環境はほぼ同一であるため、吸収スペクトルは非常にシャープ
であり、透明性の高い印刷物が得られる。・・・
従来、インクジェットプリンタ用色材としては、上記特徴とインク設計が容易で
あるということで、染料が用いられた。」
(ウ) 甲20(Janet Best 編「Colour design Theories and applications」
(2012年発行))
「CMYK:印刷業界で画像の再現に使用される減法混色プロセスであって、純
度の高い透光性プロセスカラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)
が網点様に重ね刷りされて、様々な色及びトーンを表現する。」\n
(エ) 甲21(特開2012−242608号公報)
「【0033】ここで、第1の装飾層20aを形成する印刷インクとしては、光
透過性を有し、屋外使用にも耐えられる有機溶剤系のアクリル樹脂インク、例えば、
市販のエコソルインクMAXのESL3−CY、ESL3−MG、ESL3−YE、\nESL3−BK(それぞれローランド社製)を用いることが望ましい。
そして、かかる第1の装飾層20aを形成するには、例えば、インクジェットプ
リンタなどのインクジェット装置に、印刷インクをセットし、これを微滴化して表\n面フィルム12h上の所定場所に、吹き付け処理して行なうことが好ましい。」
ウ 上記イによれば、本件出願日当時、溶剤インクジェット印刷においては、透
光性(透明性)を有するCMYのインクが広く用いられていたものと認められるか
ら、仮に、本件出願日当時、溶剤インクジェット印刷において非透光性のインクが
用いられることがあったとしても、溶剤インクジェット印刷に対応しており、かつ、
前記アのとおり、溶剤インクジェット印刷が非透光性のインクを用いたものに限ら
れるとの記載も示唆もみられない甲4の記載に接した当業者は、甲4は透光性を有
するインクを用いた溶剤インクジェット印刷に対応しているものと容易に理解した
といえる。
エ 以上によると、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性
の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されていると認
められるから、甲4発明は、そのように認定するのが相当である。これと異なる本
件審決の認定は誤りである。
オ この点に関し、被告は、甲4発明の用途(トラックを始めとする車両に貼付\nされるステッカー等)に照らすと、甲4発明に透光性の印刷層を設けることは考え
られないと主張する。確かに、前記(1)ウのとおり、甲4には消防自動車様の車両を撮影した写真が掲
載されているが、車両に貼付して用いる黒色の再帰反射フィルムの上に透光性の印\n刷層を形成すると甲4発明の目的が阻害されるものと認めるに足りる証拠はないし、
また、甲4には甲4発明の用途が車両に貼付して用いるステッカー等に限られると\nする記載も示唆もないから、被告の上記主張を採用することはできない。
◆判決本文
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2022.05.13
令和2(ワ)3297 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年4月22日 大阪地方裁判所
訂正後の特許発明について、技術的範囲に属すると判断されましたが、拡大先願違反(特29-2)の無効理由があるとして、権利行使不能(特104-3)と判断されました。
前記(ア)及び(イ)の「収納」の字義、本件訂正後発明1に係る請求項の記載
内容に照らすと、ケーシングに「収納」するとは、長尺部材の全部がケーシング
内に完全に収まることを要するものではなく、ケーシングと長尺部材の位置関係
として、ケーシングにしまわれている状態(整然と入れられた状態)を意味し、
少なくとも、ケーシングの開口部を含めたケーシングの内部に長尺部材の大部分
が入れられている状態はこれに当たると解するのが相当である。
(エ) 前記(1)のとおり、被告製品の押さえローラーは、マグネットスクリーン
シートの巻き出し及び巻き取りのための開口部付近に、同シートと接するように
配置されている。また、別紙「写真目録」の写真に示されるように、被告製品の
押さえローラーは、本体ケースの内側にその全部が収まっているものではないが、
キャップ(側板)に支持されており、その大部分が本体ケースに覆われているこ
とから、構成要件 1D-1 のケーシングに相当する、本体ケース及びキャップにし
まわれている状態であるといえる。
したがって、被告製品の押さえローラーは、本体ケース及びキャップに収納さ
れていることから、被告製品は、構成要件 1D-1 を充足する。
イ 被告の主張について
(ア) 被告は、本件訂正後発明1において、長尺部材がケーシングの開口部の内
側に位置付けられるのは、スクリーンシートが長尺部材によって局所的に抑え込
まれ、シート全体に張力を与えて端部(特に長手端部)までピンと張った状態で
スクリーンシートを設置面に展張保持できるようにすることを実現するための
ものであるところ、長尺部材がケーシングの縁どりから外側に突出していると、
その作用効果が阻害される旨を主張する。
そこで、長尺部材の技術的意義について検討する。本件訂正後発明1は、マグ
ネットスクリーン装置に関する発明であるところ、従来のマグネットスクリーン
装置には、使用に際して巻き出されたスクリーンシートを設置面に展張保持した
際に“カール”と呼ばれる現象、すなわち、非使用時のスクリーンシートの巻回
形態が“くせ”として残り、巻き出し後も依然として反映される現象が生じ、か
かるカールによってプロジェクターから投影される像を所望に映し出すことが
できない技術的課題があった(【0005】〜【0007】)。これに対し、本件訂正後
発明1は、非使用時ではマグネット面が投影面に対して相対的に内側となるよう
にスクリーンシートがロール部材に巻き取られている構成にすることによって\n(【0009】)、スクリーンシートを巻き出した際、そのシート長手端部では局所
的に湾曲しようとする力が働くものの、その湾曲方向は設置面側となっており、
スクリーンシートが設置面にむしろ貼り付くように作用し、ロール部材に巻かれ\nていた時の“くせ”をスクリーンシートが有する場合であったとしても、それは
設置面に貼り付くように好適に作用するので、スクリーンシートを“カール”の\n発生なく展張保持することを可能とした(【0019】)。一方、かかる構成にする\nことによって、スクリーンシートの巻出し又は巻取りがロール部材の“設置面遠
位側”からなされることになるから(【0036、図6】)、スクリーンシートが設
置面から浮き上がる方向に作用する。すなわち、ロール部材におけるスクリーン
シート巻き出しポイント又はスクリーンシート巻き取りポイント(図7。長尺部
材を設けない場合において、スクリーンシートを巻き出し又は巻き取った際のス
クリーンシートとロール部材の離別箇所又は接触箇所)がロール部材の上側半分
に位置付けられることとなる(【0037】、【0038】)。そこで、長尺部材は、使
用に際して「巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートと接するように」、
「開口部に位置付けられ」、「設置面に対して相対的に近い側に位置付けられる
ロール部材の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」(構成要件 1D-4)ることに
より、スクリーンシートを投影面側から設置面側に向かって局所的に抑え込む機
能を有するものである(【0030】、【0048】)。長尺部材が前記機能を発揮する\nためには、長尺部材がない場合にスクリーンシートが自重や磁着力等により設置
面に自然に接する地点よりもロール部材側でスクリーンシートに接する地点に
存すれば足りるといえる。そうすると、長尺部材の技術的意義からみた場合、必
ずしも、長尺部材はケーシングの内側に完全に位置する必要まではないと解する
のが相当である。加えて、本件明細書1において、「展張保持」は、スクリーン
シートを広げた状態の維持という意で使用されており(【0003】、【0005】、【0019】等)、シート全体に張力を与えながらスクリーンシートを張る作業自体を指すも
のではないし、同作業を経て張られた状態を指すものでもない。したがって、長
尺部材の技術的意義から、「収納」の意義について長尺部材が必然的にケーシン
グの完全な内側に位置づけられることを示すものと解することはできない。
また、被告は、本件明細書1には、「本発明のマグネットスクリーン装置10
0では、スクリーンシート10、ロール部材20および長尺部材30がケーシン
グ40内に収納されている。より具体的には、ロール部材20に対して巻回保持
されたスクリーンシート1がケーシング40の内部に収められており、かかる巻
回状態のスクリーンシート10に隣接して長尺部材30も同様にケーシング4
0内に収められている。」(【0044】)との記載がある旨も指摘する。しかし、
これは、本件特許1に係る発明のスクリーン装置の具体化態様に関するものであ
るから(【0042】)、当該記載があるからといって、「収納」の意義が「内部に
収められていること」に限定されることにはならない。
(イ) 被告は、被告製品において、キャップは「ケーシング」を構成しないこと、\n仮にキャップが「ケーシング」を構成するとしても、被告製品は、キャップの縁\nどりとケーシングの縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラ\nーの半分以上がはみ出した構造であるから、いずれにしても押さえローラーはこ\nれらに「収納」されていない旨を主張する。
確かに、本件明細書1では、「ケーシング40が「第1サブ・ケーシング40
A」と「第2サブ・ケーシング40B」とから構成されている」(【0044】)と
記載されており、ケーシング40の側面を覆う部材がケーシングに含まれること
は明記されていない。しかし、一方で、本件明細書1において、「ロール部材2
0は、その端部がケーシングの内壁に取り付けられており」(【0046】)、「ケ
ーシングに取り付けられた突起具48」(【0058】)などとされており、ケーシ
ング40の側面を覆う部材がケーシングを構成することを前提とした記載がな\nされている。また、本件訂正後発明1に係る請求項1は、ケーシングに関し、「ス
クリーンシート、ロール部材及び長尺部材を収納するケーシングを更に有して成
り、」、「ケーシングはスクリーンシートの巻き出しおよび巻き取りのための開
口部を有し、」と記載されているに留まり、開口部を有することを除いて、ケー
シングの意義について特段の限定を加えるものではない。そうすると、本件訂正
後発明1において、ケーシングとは、スクリーンシート等の部材を外側から覆う
部材であると解するのが相当であり、このうち側面部分についてのみケーシング
から除外するべき理由はない。
また、被告は、被告製品を設置面側から観察することを前提として(別紙「写
真目録」の写真4参照)、被告製品について、キャップの縁どりとケーシングの
縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラーの半分以上がはみ\n出した構造である旨を主張するものと解されるが、同目録の写真1ないし3から\nすると、被告製品の押さえローラーはケーシング(本体ケース及びキャップを含
む。)の開口部を含めたケーシングの内部に大部分が入れられているものと認め
られ、ケーシングにしまわれている状態にあるといえる。押さえローラーがケー
シングにしまわれている状態か否かは、投影面側又は設置状態における側面側を
含む被告製品の全体を観察して判断すべきであって、使用状態において視認され
ない設置面側からの観察に限定すれば押さえローラーがケーシングから多くは
み出しているように見えるからといって、ケーシングにしまわれている状態にな
いと判断する合理的理由はない。
・・・
(3)ア 本件訂正後発明1と引用発明1−1とを比較すると、引用発明1−1
の 1a〜1e の各構成は、本件訂正後発明1の各構\成要件とそれぞれ一致するもの
と認められる。
イ これに対し、原告は、引用発明1−1においては、開口部からスクリーン
本体4を巻き出す又は巻き取る際には、スムーズな巻き出し又は巻き取りを可能\nにし、スクリーンシートを傷付けることを防止するために押さえ部5を、敢えて、
被磁着体90から離した態様(第1配置態様)で行うものであって、押さえ部5
を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体4を巻き出す又は巻き取る
という技術的思想はないことを指摘し、1)本件訂正後発明1では、長尺部材が「非
使用時並びに巻き出し時及び巻き取り時において、ケーシングに収納されて」(構\n成要件 1D-1)いるのに対し、引用発明1−1においては、押さえ部5が収納ケー
ス2に「収納」されていない、2)本件訂正後発明1では、長尺部材が「ロール部
材の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」(構成要件 1D-4)ているのに対し、
引用発明1−1においては、押さえ部5は巻取りロール3の下側ロール胴部分に
隣接した位置から離れないよう設置されているものではないとして、引用発明1
−1は、本件訂正後発明1の構成要件 1D-1 及び 1D-4 において相違する旨を主張
する。
しかし、乙10公報記載の特許請求の範囲請求項2において、「押さえ部」は、
「前記張設されたスクリーン本体における前記巻取りロールに近接した部位を
・・・被磁着体側に向けて押さえ付け得るものとなされている」ところ、同請求項2
では、「前記収納ケースに取り付けられた押さえ部と、を備え」と特定されてい
るに留まり、収納ケースに対し押さえ部が可動か否かについては記載されていな
い。一方、同請求項2に従属する乙10公報記載の特許請求の範囲請求項3では、
「前記押さえ部は、前記収納ケースに対し移動可能に取り付けられ」と押さえ部\nが可動であることが明記されている。また、乙10公報には、請求項2の発明の
効果として、押さえ部によって、巻取りロールに近接した部位をも被磁着体に磁
着させた状態でスクリーン本体を張設することができ、張設されたスクリーン本
体のスクリーン層の略全面を有効面として使用することができる旨が記載され
ている(【0019】)一方、請求項3の発明の効果として、収納ケースに対し移動
可能に取り付けられた押さえ部を移動させ、被磁着体から離れた第1配置態様に\nすることで、スクリーン本体の引き出し操作、巻き取り操作をスムーズに行うこ
とができ、被磁着体に近接した第2配置態様にすることで、スクリーン本体にお
ける巻取りロールに近接した部位を幅全体にわたって被磁着体側に向けて押さ
え付けることができる旨が記載されている(【0020】)。これらの乙10公報の
記載内容に照らすと、引用発明1−1において、押さえ部は、スクリーン本体の
巻取りロールに近接した部位をも被磁着体側に向けて押さえ付けるとの機能を\n有し、被磁着体に磁着させた状態で張設されたスクリーン本体の略全面を有効面
として使用することができるとの効果を奏するものとされるのであるから、引用
発明1−1には、押さえ部5を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体
4を巻き出す又は巻き取るという技術思想が表れているといえるし、また、乙1\n0公報記載の特許請求の範囲請求項2には、押さえ部が移動可能でないものが含\nまれると解するのが相当である。そして、乙10公報の図1、2からすると、押
さえ部5を移動可能でないものとした場合において、押さえ部は収納ケース2に\n収納されているものと認められる。なお、乙10公報上、実施形態や他の実施形
態では、収納ケース又はケース本体に対して押さえ部又は可動体の先端部が可動
なもののみが記載されているが(【0029】)、請求項2との関係においては、付
加的な効果を奏する実施例の一つにすぎず、前記認定を左右するものではない。
以上によれば、引用発明1−1において、押さえ部5が収納ケース2に収納さ
れる構成、及び、押さえ部5が巻取ロール3の下側ロール胴部分に隣接した位置\nに固定して設置された構成を有するものと認められ、本件訂正後発明1の構\成要
件 1D-1 及び 1D-4 と一致する。
◆判決本文
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2022.03.31
令和3(行ケ)10055 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年3月28日 知的財産高等裁判所
スマホの操作関連の発明について、公然実施発明から進歩性無しと判断した審決が維持されました。無効審判請求人(本件被告)はApple Japanです。
公然実施発明と甲3発明1は、技術分野や作用機能を共通にし、甲3文献に接した当業者であれば、公然実施発明には、スリープ状態にお\nいてホームボタンを押してから認証を経てデバイスにアクセスできるま
での一連の動作に関して、デバイスのホームスクリーン又はメニューを
表示する前に、本人認証のためにパスコードの入力を要求することは、パスコードが知られたり、パスワードを忘れたりするという、甲3発明\n1と共通の技術課題が存在することを想起するものといえ、公然実施発
明において、許可されていない人物がユーザの個人情報にアクセスし、
閲覧することを防ぐため、デバイス機能を有効にする前又はデバイスリソ\ースにアクセスする前の起動時に、デバイスが迅速にユーザを認証することを目的とした甲3発明1を適用する動機付けがあるといえる。
(イ) 原告は、前記第3の1(1)イ(イ)のとおり、公然実施発明では、本件
発明1のように、使用者識別機能を、使用者の操作以外の追加の操作をすることなく、実行するという技術思想は全くない旨主張するが、前記\n(ア)のとおり、甲3発明1に接した当業者であれば、公然実施発明が有
する技術課題及び甲3発明1の適用を想起するものといえ、原告の主張
する当初の技術思想の相違は、その後の技術適用の動機付けの有無と直
接関係するものとはいえないから、原告の上記主張は当を得ないという
べきである。
また、原告は、公然実施発明において、ディスプレイがオンにされた
後に、更にディスプレイ上のスライダをドラッグすることで初めて認証
を実行することには、ユーザの誤操作(意図せざる操作等)による誤動
作を防止するという意義があるから、これを改変して本件発明1のよう
に構成することは、公然実施発明の技術的意義・機能\を損なう旨の主張
もするが、甲3発明1の使用者識別機能を採用し、指紋によるユーザ認証をしても、認証に係る誤操作は防止できるから、公然実施発明の技術\n的意義・機能を損なうことにはならない。なお、仮に、原告がホーム画面の誤作動防止に係る機能\をも指摘しているとしても、そもそも本件発明1においては、ロック画面からホーム画面への移行の仕方については
何ら規定していないから、操作入力を行った使用者が正当な使用者と認
証された場合に、ディスプレイ上のスライダをドラッグすることで初め
てホーム画面に移行する構成も本件発明1の構\成に含まれることにな
り(現に本件明細書の図1等においてもスライダが表示されているところである。)、スライダを取り除く改変をしなければ本件発明 1 の構成に至らないわけではないから、原告の主張は前提を誤るものといえる。\nしたがって、原告の主張は、いずれにしても採用できない。
エ 公然実施発明に甲3発明1を適用した場合に、本件発明1の構成に容易に想到するかについて\n
(ア) 甲3発明1において、指紋による認証の結果を得るには一定の時間
を要することは、明らかである。また、公然実施発明に甲3発明1を適
用することで、ホームボタンを押下すると、起動によりディスプレイが
オンになり、それと同時に指紋認証を行い(別紙4のA図右及びB図1
左)、認証が成功すれば、追加の操作を要することなく、更にホーム画面
に移行するという構成を得ることが可能\である(別紙4のB図1右)。
そして、本件発明1で特定されるロック画面は、「前記非活性状態の際
になされた前記活性化ボタンに対する使用者の操作に基づいて」「表示され」るものであって、ロックが解除されていない状態を表\示する機能以\n外は特定されていない。そうすると、公然実施発明に甲3発明1を適用
したものにおいて、ホームボタンの押下後、オンになったディスプレイ
にホーム画面に移行する前に表示される画面も、客観的にロックが解除されていない状態を表\示するものであり、これを「ロック画面」ということができる。したがって、公然実施発明に甲3発明1を適用した場合、使用者によ
る追加の操作なしに、指紋認識による使用者識別機能が、非活性状態からロック画面が表\示された活性状態への切り替えのための操作入力により行われるという、本件発明1の構成に容易に想到するということができる。\n
(イ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)aのとおり、甲3発明1においても、
ロックを解除するために画面上のスライダのドラッグ操作を受け付け
る構成となっているから、公然実施発明に甲3発明1を組み合わせた場合には、当業者は、公然実施発明と甲3発明1の共通の技術思想をなす\n上記構成を残しつつ甲3発明1の指紋認証を行うことを想到することになり、ディスプレイが活性化された後にスライダのドラッグという追\n加の操作を要することになるから、本件発明1の構成とはならない旨主張する。しかし、前記イ(ア)aのとおり、甲3文献からは、ホームボタンの背
後にセンサを配置し、ユーザが当該ホームボタンを押下した時に、ユー
ザからの明示的な入力を要求することなく、指紋による認証を行う構成も、甲3発明1として認定することができるのであるから、原告の主張\nは採用できない。
(ウ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)bのとおり、公然実施発明の構成においては、ロック状態の画面を表\示させ、その画面上に表示されるスラ\nイダがドラッグされたときに初めて、次のパスコードの入力画面に移行
し、パスコードを入力させて認証を行う、という一連の認証操作を行わ
せるものであるから、公然実施発明の使用者識別機能に係る手順のうちロック状態の画面上でのスライダをドラッグする処理を排除するので\nあれば、ロック画面も用いない構成しか想到できない旨主張する。しかし、前記(ア)のとおり、「ロック画面」自体は、ロックが解除さ
れていない状態を示す画面であり、スライダのドラッグ操作とロック画
面の表示を不可分一体のものとして捉えなければならない理由はないから、原告の主張は採用できない。\n
(エ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)cのとおり、公然実施発明のロック
画面は、パスコードの入力における意図せぬ誤操作を防止する意義・機
能があるとした上で、甲3発明1の「シームレス」に使用者識別機能\を
行う構成とは両立しない旨主張する。しかし、公然実施発明において、甲3発明1の使用者識別機能\を採用し、ロック解除する時に指紋によるユーザ認証をしても、偶発的な誤操作等は防止できることは前記ウ(イ)
のとおりであって、原告の主張は採用できない。
(オ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)dのとおり、別紙4のB図1左には
スライダが表示されているところ、指紋認証に成功した場合に「当該成功後に直ちにホーム画面に遷移する構\成」であるとされる以上、スライダの機能は利用されず、当業者がそのように何ら機能\を発揮しないスラ
イダをあえて表示させる構\成を考え付くとすれば、本件発明1を見た上
での後知恵である旨主張する。
原告の主張の真意は判然としないが、そもそも本件発明1においては、
ロック画面からホーム画面への移行の仕方については何ら規定してい
ない(したがって、この場面におけるスライダの表示の有無やその利用の有無等についても何も限定はない)ことは前記ウ(イ)において説示し
たとおりであるところ、被告の主張如何にかかわらず、公然実施発明に
甲3発明1を組み合わせた場合に、正当な使用者と認証されたときに、
スライダを利用しようとしなかろうと、どちらにしてもロック画面から
ホーム画面へ移行させることが可能であること自体は明らかであるから、原告の主張は失当というほかない。\n
(4) 小括
その他原告がるる主張する点は、いずれもその前提に誤りがある、あるい
は理由がないものであり、採用できない。
以上によれば、相違点1についての容易想到性を認めた本件審決の判断に
誤りはないから、原告主張の取消事由1は理由がない。
◆判決本文
関連事件です。
◆令和3(行ケ)10054
本件の侵害事件です。
◆令和3(ネ)10081
上記控訴審の1審です。104条の3で権利行使不能と判断されています。
◆平成31(ワ)647
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2022.03.29
令和3(行ケ)10058 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年3月23日 知的財産高等裁判所
コメント表示装置(CS関連発明)について、進歩性違反なしとした審決が維持されました。FC2(無効審判請求人)vsドワンゴ(特許権者)です。争点は引用文献の開示です。
甲5技術は、コンテンツの映像(主映像)及び主映像を補足するなどの理由で表\n示される字幕等の映像(副映像)を表示することができるようにした復号装置に係\nる技術である。甲5技術においては、主映像及び副映像は、表示装置の画面(甲5\nの第19図参照)上に設けられた各画枠の内部に表示されるところ、主映像の画枠\nのサイズは、表示装置のアスペクト比及び主映像のアスペクト比に基づいて変換さ\nれ、副映像の画枠のサイズも、表示装置のアスペクト比及び副映像のアスペクト比\nに基づいて変換される。このようにしてサイズが変換された主映像及び副映像の各
画枠は、表示装置の画面上に配置されるが、その際、例えば表\示装置のアスペクト
比が16:9であり、主映像のアスペクト比が4:3であるなどの条件を満たす場
合、副映像の画枠の一部は、主映像の画枠と重なり合い、副映像の一部は、主映像
の画枠の内側に表示されるが、その余の部分は、主映像の画枠の外側に表\示される
という事象が生じるものである。
そして、甲5技術によると、主映像の画枠は、主映像が表示される領域であると\n解されるから、これが本件発明1の構成1E及び1Fにいう「第1の表\示欄」(動
画を表示する領域)に相当するものであることは明らかである。\nしかしながら、甲5技術によると、副映像の画枠に表示される副映像の例として\n挙げられているのは字幕であり、甲4技術の「データコンテンツ」と同様、主映像
の配信時に既に存在するものである(なお、甲5によると、甲5技術の副映像に当
たる字幕は、映像データであることがうかがわれる。甲5には、字幕がテキストデ
ータであるとの開示又は示唆はない。)。これに対し、本件発明1のコメントは、
前記のとおり、動画に対し任意の時間にユーザが付与するものである。
また、甲5の記載(明細書1頁5行目〜2頁11行目)によると、従来、副映像
のアスペクト比は、主映像のアスペクト比に関連付けられており、例えば、表示装\n置のアスペクト比が16:9であり、主映像のアスペクト比が4:3であるとき、
副映像(字幕)のアスペクト比は必ず4:3となるため、小型の電子機器において
は字幕が見えづらくなってしまうという問題があったところ、甲5技術は、主映像
のアスペクト比から独立したアスペクト比で副映像を表示することにより、副映像\nを見やすくすることを目的とするものであると認められる。これに対し、本件発明
1は、前記のとおり、動画と重なって表示されたコメントが動画に含まれるもので\nはないこと及びこれがユーザによって書き込まれたものであることをユーザが把握
できるようにすることを目的とするものである。
以上のとおり、甲5技術の「副映像の画枠」は、本件発明1の「コメント」を表\n示する領域ではないから、これが本件発明1の構成1E及び1Fにいう「第2の表\
示欄」に相当するということはできない。また、甲5技術において、副映像の画枠
の一部が主映像の画枠と重なり、副映像の一部が主映像の画枠の内側に表示され、\nその余の部分が主映像の画枠の外側に表示されるという事象を生じさせるのは、副\n映像のアスペクト比が主映像のアスペクト比と関連付けられていたことから来る副
映像の見づらさを解消するためであり、本件発明1のようにコメントが動画に含ま
れるものではないこと及びこれがユーザによって書き込まれたものであることをユ
ーザが把握できるようにすることを目的とするものではなく、この点からも、甲5
技術の上記内容が本件発明1の構成1E及び1Fに相当するということはできない。\nしたがって、甲5技術も、本件発明1の構成1E及び1Fに相当する構\成を有する
ものではない。
エ 原告の主張について
原告は、甲5技術の「字幕」はユーザが入力するものでないものの、これを端末
に表示させる局面においては本件発明1と同様に文字列データとして処理されるも\nのであるし、本件原出願日当時にWEB2.0が技術常識であったことからしても、
甲5に接した当業者にとって、甲5技術の「字幕」を本件発明1の「コメント」に
置換することは容易であったと主張する。
しかしながら、甲5技術の「字幕」と本件発明1の「コメント」の技術的意義の
相違は、前記ウにおいて説示したとおりであるところ、仮に、甲5技術及び本件発
明1において「字幕」及び「コメント」が文字列データとして処理される場面があ
るとしても(ただし、甲5に甲5技術の字幕がテキストデータであるとの開示又は
示唆がないことは、前記ウにおいて説示したとおりである。)、そのことにより上
記相違の本質が解消されるものではない。また、前記(2)エ(ア)において説示した
ところに照らすと、仮に、本件原出願日当時、原告が主張するような内容のWEB
2.0という社会現象が生じていたとしても、そのことから直ちに、甲5技術にい
う「字幕」(副映像)と本件発明1にいう「コメント」につき、これらが相互に置
換可能であると認めることはできない。よって、原告の上記主張は失当である。\n
(4) 前記(2)及び(3)のとおり、甲4技術及び甲5技術は、いずれも本件発明1
の構成1E及び1Fに相当する構\成を有するものではないから、甲1発明に甲4技
術及び甲5技術を適用しても、相違点1−1に係る本件発明1の構成を得ることは\nできない。
(5) なお、原告は、相違点1−1に係る本件発明1の構成は甲1発明において\nふきだしの大きさ並びにふきだし中のコメント(テキスト注釈)の文字長、フォン
トの大きさ及び表示位置を適宜変更することにより得られるものであるから、設計\n的事項にすぎないと主張する。
しかしながら、甲1の図18によると、甲1発明においては、ふきだしが映像表\n示部の枠の外側にはみ出すこととされる一方、テキスト注釈については、それが3
行にわたる場合を含め、ふきだし中の上側、下側、左側及び右側にあえて十分な余\n白を設けて、テキスト注釈が映像表示部の枠の外側にはみ出さないようにしている\nと認められるから、ふきだしの大きさ並びにふきだし中のテキスト注釈の文字長及
びフォントの大きさをどのようにするかが設計的事項であるとしても、ふきだしと
映像表示部との位置関係及びテキスト注釈の表\示位置につき、これを相違点1−1
に係る本件発明1の構成(構\成1E及び1F)とすることについてまで設計的事項
であるということはできない。よって、原告の上記主張を採用することはできない。
(6) 小括
以上のとおりであるから、相違点1−1についての本件審決の判断に誤りはない。
そして、前記2(4)のとおり、本件発明9と甲1プログラム発明との間にも、相違
点1−1と同様の相違点が存在するといえるところ、上記説示したところに照らす
と、この相違点についての本件審決の判断にも誤りはない。取消事由5は理由がな
い。よって、無効理由2−1は理由がない。
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2022.03.15
令和3(行ケ)10072 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年2月21日 知的財産高等裁判所
記載不備、進歩性なしとして拒絶審決が成されました。記載不備については理由ありとされましたが、進歩性欠如として審決維持です。
(1) 特許出願における特許請求の範囲の記載については,「特許を受けようとす
る発明が明確であること」という要件に適合することが求められるが(特許法36
条6項2号),これは,特許制度が,発明を公開した者に独占的な権利である特許権
を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者に
ついては特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図るこ
とを通じて発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであ
ることを踏まえたものである(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月
5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁)。同要件については,同目的の見地
を踏まえ,請求項の記載のほか,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識
を考慮して判断されることになる。
これを本願発明についてみると,前記第2の2の本願の請求項1の記載及び本願
明細書の図1の内容に加え,本願明細書中,本願発明の特徴について説明する段落
において,「増幅器の出力回路」(又は「アナログ増幅器の出力回路」)という表現が\nひとまとまりの語として用いられていること(本願明細書の段落[0001],[0002],
[0007]〜[0009],[0012]。同[0017],[0020]も参照。なお,本願明細書[甲11]中に,本願発明の内容に関して,「出力回路」の語が単体で用いられている個所
はない。),前記1(2)の本願発明の概要からすると,本願発明の技術的特徴の最たる
部分は,出力電流に相関した消費電流の変化がないという点にあり,その旨が本願
の請求項1にも明記されているところ,本願明細書の段落[0009]の記載からする
と,本願発明が上記の技術的特徴を回路の構成によって実現するものであることは\n明らかであることのほか,実施例についても,「信号に相関した電流を電源回路に流
さない出力部」という記載がある(本願明細書の段落[0015]。同[0018],[0023]
も参照)一方で,前段の増幅部については図示されていない旨の記載があること(同
[0016]。同[0019]も参照)を踏まえると,本願の請求項1中,「・・・を特徴と
するオーディオ用増幅器の出力回路」という記載において,「・・・を特徴とする」
という部分は,「オーディオ用増幅器の出力回路」,すなわち,「オーディオ用増幅器」におけるものであるという特定の付加された「出力回路」を修飾するものであるこ
とが,明確であるというべきである。
そうすると,本願の請求項1の記載は,第三者が特許に係る発明の内容を把握す
ることを困難にするものとはいえず,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確
なものであるとは認められず,本願発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法3
6条6項2号に規定する要件を満たしている。
(2) 前記(1)の判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。被
告の主張は,本願の請求項1の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明
確なものであることを根拠づけるものとはいえない。
(3) したがって,取消事由1には理由がある。
もっとも,前記第2の3(2)の本件審決の進歩性についての判断は,本願の請求項
1の記載の明確性についての前記(1)の判断を前提としても,なお問題となるもの
であって,前記進歩性についての判断に誤りがない場合には,本件審決の結論に誤
りはないこととなるから,次に,取消事由2について検討する。
5 取消事由2(進歩性について)について
・・・
以上を踏まえると,相違点アを認定しなかった点で本件審決に誤りがあるとはい
えない。なお,仮に,形式的に引用発明と本願発明を対比して,相違点アを認定し
たとしても,引用発明におけるショットキーバリアダイオードが高抵抗素子として
機能するものであることを含めて既に述べた点のほか,本願発明についても3端子\n増幅素子の入力端子より信号SIG側にバイアス回路として抵抗R1及びR2を設け
ることが示されていること(本願明細書の段落[0015],図1)に照らし,相違点ア
が本願発明の進歩性を基礎付けるものとはいえない。
c 前記bは,あくまで本願発明がショットキーバリアダイオードの構成を付加\nすることを排除していない旨をいうものにすぎず,同構成を本願発明の構\成要素と
して追加するものではない。後者の理解を前提とする原告の主張(それゆえにそれ
が前者の理解と矛盾しているという主張を含む。)は,採用することができない。
また,特に入出力電圧の点で引用発明と本願発明が異なるという原告の主張は,
本願発明の発明特定事項に含まれていない構成を前提に本願発明についていうもの\nであって,その前提を欠き,採用することができない。引用発明との対比のために,
本願発明の入出力電圧の範囲を具体的に検討する必要がある旨をいう原告の主張も,
同様に,本願発明の発明特定事項に含まれていない構成をいうもので,採用するこ\nとができない。
◆判決本文
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2022.02.13
令和1(ワ)25121 特許権 令和3年12月9日 東京地方裁判所
CS関連発明について、技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断されました。
このように,乙8発明は,ユーザから入力された情報から抽出したキーワードに
基づいてそれに関連するウェブページを収集し,そのリンク情報を取得して記憶し,
ユーザ端末にキーワードに関連するウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する
ものである。しかして,かかるウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力すること
は,ユーザに対してユーザの関心のある事項に関連するウェブサイトの閲覧を勧め
るものであるといえ,当該リンクを出力することは,ユーザに対する提案を行うも
のということができ,また,当該リンクはウェブ上から取得されるものであるから,
ウェブサイトからユーザに対して提案すべき情報を取得しているということができ
る。
そうすると,乙8発明がユーザコメントに基づいてリンクを出力するアバター管
理部及び情報収集部は,構成要件1Eの「前記第1又は第2受付手段によって受け\n付けられた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行う提案手段」に相当し,
また,乙8発明の,アバター管理部及び情報収集部によりユーザコメントに基づい
てウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する機能は,構\成要件5Eの「前記受
け付けた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行うステップ」に相当する。
さらに,乙8発明における,ウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリ
ンクを取得する情報収集部は,構成要件1Fの「前記個人情報に基づいてウェブサ\nイトから前記ユーザに対して提案すべき情報を取得する手段」に相当し,上記情報
収集部によりウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリンクを取得する
機能は,構\成要件5Fの「前記個人情報に基づいてウェブサイトから前記ユーザに
対して提案すべき情報を取得するステップ」に相当する。
その他,構成要件E及びFと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件E及びFは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
エ 構成要件G(「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段と,を有する」「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促すステップと,を更に有する」)につき,\n乙8発明と対比する。
構成要件Gに関し,本件明細書の記載をみると,「飲みすぎないように!」などの\nアドバイスのメッセージを出力する旨の記載があり(【0119】),かかる記載内容
からすると,構成要件Gにおける「注意を促す」とは,気を付けるように仕向ける,\n気を配るように仕向けるとの意であると解することができる。
しかして,乙8発明は,スケジュールが未完了であることが確認すると,アバタ
ーから,「スケジュールが未完了だよ。代わりのスケジュールを入力してね」のよう
な,スケジュールの修正を依頼するアバターコメントを出力する機能を有する(【0\n043】)。そして,乙8発明の学習・生活支援サーバ内にはアバターコメントを出
力するアバター管理部が実装されている(【0024】等)ところ,上記機能は,ユ\nーザに対してスケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は,
スケジュールに気を配るように仕向けるものであるといえる。
そうすると,乙8発明の,アバターコメントの出力を実行するアバター管理部は,
構成要件1Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段」に相当し,ま\nた,乙8発明の,ユーザに対して上記の趣旨のアバターコメントを出力するアバタ
ー管理部の機能は,構\成要件5Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す
ステップ」に相当する。
その他,構成要件Gと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Gは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
オ 構成要件H(「情報提供装置。」「を情報提供装置に実行させる情報提供プロ\nグラム。」につき,乙8発明と対比する。
乙8発明のアバター管理部によるアバターコメントの出力は,情報の提供に当た
るため,この点をもって既に,アバター管理部を有する乙8発明の学習・生活支援
サーバは,情報を提供する装置(「情報提供装置」)であるということができる。
また,上記サーバは,アバター管理部のほかに,ユーザ情報管理部,テキスト分
析部,情報収集部,コンテンツ管理部で構成される制御部を有しており,制御部は,\n少なくとも一つのCPU等を備え,ROM等に予め記憶されたプログラムを読み込\nんで実行することにより,上記各部の機能を事項することが可能\となるものである
(【0021】等)ことから,乙8発明の学習・生活支援サーバは,情報提供装置で
あって,各種機能を実行させる情報提供プログラムを有しているといえ,乙8発明\nは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プログラム」と同
一であるといえる。
その他,構成要件Hと乙8発明の間に,実質的に相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Hは,乙8発明の構\成と実質的に同一のものといえる。
(4) したがって,本件各発明は,その全ての構成要件が,乙8発明の構\成と実質
的に同一のものであるから,本件各発明は,乙8発明との関係で,新規性を欠くも
のといわざるを得ず,いずれも,特許無効審判により無効にされるべきものと認め
られる(特許法29条1項3号,123条1項2号)。
(5) 原告らの主張について
原告らは,1)乙8公報に記載されている「スケジュールの修正を依頼する」とは,
構成要件Eにおける,議案や意見を提出するという「提案を行う」こととは相違す\nる,2)乙8公報がユーザ端末に出力するウェブサイトのリンクは,ウェブサイトの
所在を示す情報であって,この所在を示す情報が,「提案を行う」内容である議案や
意見であるはずがなく,乙8発明は構成要件Eと相違し,また,ウェブサイトのリ\nンクはユーザに対して提案すべき情報を規定している構成要件Fの「情報」とも相\n違する,3)乙8発明がユーザのスケジュールが未完了であることを確認した場合に
ユーザにスケジュールの修正を依頼することは,構成要件Gの,気を付けるよう仕\n向けることとは相違する,4)乙8発明のユーザ端末は,情報提供をするものではな
いから,構成要件Hと相違する,などとして,本件各発明が乙8発明の構\成と実質
的に相違する旨主張する。
しかしながら,原告らの上記各主張は,次のとおり,いずれも理由がないという
べきである。
まず,上記1)及び3)の点については,乙8発明において「スケジュールの修正」
を依頼されたユーザは,スケジュールが完了していないことを知り,新たなスケジ
ュールを考えて入力するように促されることとなるのであって,「スケジュールの
修正の依頼」も,ユーザに対して新たなスケジュールを組み立てる旨の議案や意見
の提出にも当たるといえるから,構成要件Eの「提案を行う」と実質的に同一の構\
成であるといえる。また,乙8発明の上記のような働きは,まさにユーザに対しス
ケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は,気を配るよう
に仕向けることであるといえるから,乙8発明は,構成要件Gの「注意を促す手段」\nないし「注意を促すステップ」と実質的に同一の構成を有するといえる。\nまた,上記2)の点については,構成要件Eの「提案を行う」との文言について,\n特許請求の範囲及び本件明細書の記載に,ユーザに提案すべき情報の具体的内容を
限定する根拠となるものはなく,ウェブページを出力することに限る旨の示唆もな
い。その上,前記説示のとおり,キーワードに関連するウェブページのリンクをユ
ーザ端末に出力することは,当該リンク先のウェブページを閲覧することをユーザ
に勧めることに該当し,まさに,この点が「提案」といえるというべきである。そ
うすると,乙8発明のアバター管理部が当該リンクをユーザ端末に出力することは,
構成要件Eが規定するユーザに対する「提案を行う」との構\成と,同一であるとい
わなければならない。また,構成要件Fの「情報」との相違を指摘する原告の主張\nも,結局,リンクはあくまでウェブサイトの所在を示す情報に過ぎず,これがユー
ザに対して提案すべき情報には当たらないとの主張であると解されるが,前記のと
おり,ユーザ端末にユーザの個人情報に基づいてこれに関連するウェブページのリ
ンクを出力することは,ユーザに対して当該リンク先のウェブページの閲覧を勧め
るという意味において,ユーザに提案すべき情報を表示するものであり,乙8発明\nにおいてユーザ端末に出力されるリンクは,構成要件Fの「情報」と異なるもので\nはないというべきである。
さらに,上記4)の点は,前記説示のとおり,乙8発明の学習・生活支援サーバ及
びプログラムは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プロ
グラム」と同一であるといえる。
以上によれば,原告らの主張はいずれも採用することができない。
◆判決本文
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2022.02. 4
令和2(行ケ)10071 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年2月2日 知的財産高等裁判所
訂正後の発明について無効理由なしとした審決が取り消されました。理由は基準日当時の骨粗鬆症に関する技術常識から動機付けありというものです。
(イ) 前記(ア)の各記載によると,本件基準日当時の骨粗鬆症に関する技術
常識は,次のとおりである。すなわち,1)骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折の危険性が増大した骨疾患であり,その治療の目的は,骨折を予防し,QOL(qu\nality of life)の維持改善を図ることである,2)骨粗鬆症は,加齢とと
もに発生が増加する,3)骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子の中で,
わが国では,低骨密度,既存骨折,年齢に関するエビデンスがある,4)
骨粗鬆症の診断基準に関して,1990年当時,厚生省シルバーサイエ
ンスプロジェクト「老人性骨粗鬆症の予防および治療に関する総合的研\n究班」により提唱された診断基準(1989年診断基準)があったが,
1996年に診断基準が改訂され(1996年診断基準),その後,20
00年に更に改訂された(2000年診断基準),5)骨強度は骨密度と骨
質の2つの要因からなり,骨密度が骨強度のほぼ70%を,骨質が残り
の30%を説明することが知られていたといえる。
イ 本件3条件について
(ア) 甲7発明と本件発明1とは,「1回当たり200単位のPTH(1−
34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする」との用量の点
において一致するが,その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を一応
異にする。
(イ) 甲7発明で投与対象とされた患者は,前記(1)のとおり,1989年診
断基準で骨粗鬆症と診断された患者であるところ,より新しい基準を参
酌しながらその患者を選別することは,当業者がごく普通に行うことで
あるから,甲7発明に接した当業者が,甲7発明のPTH200単位週
1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する対象患者を選択するのであれば,
1989年診断基準とともに,より新しい,1996年診断基準又は2
000年診断基準を参酌するといえる。
そして,前記ア(ア)b及びcのとおり,1996年診断基準で骨粗鬆
症と診断される者は,1)骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの8
0%以下の低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か,2)X線上椎体骨折
を認めないが,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAMの70%未
満である者であり,2000年診断基準で骨粗鬆症と診断される者は,
3)骨萎縮度II)度以上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨量が原因で,
軽微な外力による非外傷性椎体骨折等(脆弱性骨折)を有する者か,4)
脆弱性骨折がないものの,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAM
の70%未満の者である。
本件条件(2)及び本件条件(3)は,上記1)と同じであるから(「既
存椎体骨折」は「非外傷性椎体骨折」を含む。),当業者が甲7発明の2
00単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件条
件(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。
また,前記ア(イ)のとおり,骨粗鬆症は,加齢とともに発生が増加す
るとの技術常識があり,高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らかであ
るところ,高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的なことで
あり,高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上が高齢者
とされている。したがって,これらを参酌し,骨粗鬆症による骨折の複
数の危険因子として,低骨密度及び既存骨折に並んで年齢が掲げられて
いることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上として,本件条
件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1)のように設定する
ことはごく自然な選択であって,何ら困難を要しない。
そうすると,甲7発明に接した当業者が,投与対象患者を本件3条件
を全て満たす患者と特定することは,当業者に格別の困難を要すること
ではない。
ウ 被告の主張について
(ア) 被告は,前記第3の3(2)ア(イ)a及びbのとおり,本件3条件は,
層別解析により初めて,本件条件(1)ないし本件条件(3)を組み合
わせるとPTHの骨折抑制効果が高いという新規な知見を得たことに基
づくものであり,本件3条件は一般的な指標ではなく,甲7文献の開示
事項からは導かれず,むしろ甲7文献にはサブグループ間で薬物に対す
る応答は同程度であった旨の記載があり,甲7発明から本件3条件を選
択する動機付けは否定される旨主張する。
しかしながら,前記イにおいて判示したように,本件基準日における
技術常識に照らせば,甲7発明に接した当業者が投与対象患者を本件3
条件を全て満たす患者とすることに格別の困難はない。また,本件3条
件の組合せについても,客観的観点からその選択において格別なもので
ある,あるいは,他の骨折リスク因子等も含めた様々な組合せが想定さ
れる中で本件3条件を組み合わせること自体に特別の意味合いがあると
認めるに足りる証拠はない(被告が主張する層別解析は,後述するよう
に,あくまで本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグルー
プと,本件3条件の全部又は一部を満たさない患者(低リスク患者)の
グループのうちごく一部のグループとを比較するものにすぎず,また,
その結果自体も被告主張の顕著な効果が認められると即断できるもので
はない。)。
そして,確かに甲7文献には,別紙2のとおり,「年齢が64歳以下と
65歳以上,体重が49kg以下と50kg以上,閉経後10年未満,10
から20年,20年以上,および脊椎骨折が0,1および2箇所以上を
有するサブグループに被験者を分類して比較したところ,サブグループ
間で薬物に対する応答は同程度であった。」との記載があることは認めら
れるものの(300頁左欄11行ないし右欄6行目),当該記載は,上記
記載中の条件によってサブグループ化されたサブグループ間の薬物効果
の比較について述べているにすぎず,当該記載により,甲7発明の投与
対象患者をサブグループ化すること全般が阻害されるとはいえない。
したがって,被告の上記主張は,いずれも採用することができない。
(イ) また,被告は,前記第3の3(2)ア(イ)cのとおり,甲7発明におけ
る200単位投与群には,副作用が多発しており,200単位は副作用
脱落率が高い用量と認識されているから,当業者はこれを試みない旨主
張する。
確かに,別紙2のとおり,甲7文献には,PTH200単位週1回投
与のH群の副作用発生率は42%であり,72人のうち16人(約22%)
が副作用により脱落していて,副作用発生率及び副作用による脱落率は,
50単位を投与したL群(副作用発生率19%)及び100単位を投与
したM群(副作用発生率19%)のいずれと比べても高いことが記載さ
れており(表6),骨粗鬆症の治療は長期間にわたるため,臨床使用にお\nいて患者の症状や治療継続意思に直接に影響する副作用が起こることは
望ましくはないから(甲70ないし72,100),甲7文献の上記記載
に接した当業者は,この点に限っていえば,200単位の投与よりも1
00単位の投与の方がより適当であると認識することが考えられる。
しかしながら,他方,甲7文献には,重篤な有害事象は認められない
と記載されており(301頁左欄1行ないし右欄4行目),さらに,20
0単位の投与が腰椎骨密度を48週間後に8.1%増加させたこと,及び,
その増加の程度は,100単位投与の3.6%,及び,50単位投与の0.
6%のいずれよりも高いことが記載され,PTHは腰椎骨密度を48週
という比較的短期間で用量に依存して増加させる極めて有望なものと評
価されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目,301頁右欄5
行ないし303頁右欄23行目。有望とされた対象から200単位の投
与のみが排除されているとは理解し難い。)。そして,前記ア(イ)のとお
り,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであるところ,骨密度\nが低いことは,既存骨折,年齢とともに,わが国でエビデンスがある骨
折危険因子であり,骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常
識がある。
以上によれば,甲7文献に接した当業者は,200単位週1回投与と
100単位週1回投与とを対比した場合に,副作用の面と効果の面を総
合考慮して,いずれを選択するか判断するものと考えられ,200単位
週1回投与がその選択が排除されるほど劣位したものと見られるとはい
えず,これを選択することもまた十分に動機付けられているというべき\nである。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) さらに,被告は,前記第3の3(2)ア(イ)dのとおり,PTH製剤が
高齢者には効きにくいということは技術常識であったから,PTH製剤
を高齢者に特に使用しようとする積極的な動機付けは生じない旨主張す
る。
被告は,関係文献(乙29)を挙げて,PTH製剤が高齢者には効き
にくいということは技術常識であるとするが,「フォルテオ皮下注キット
600μg フォルテオ皮下注カート600μg「2.7.3臨床的有
効性の概要」」(乙29)における記載(213頁)として,プラセボ投
与群,テリパラチド20μg投与群(連日投与)及びテリパラチド40
μg投与群(連日投与)に分けてフォルテオを投与をした際の新規椎体
骨折発生率の結果が示されているところ,65歳以上75歳未満の患者,
及び,75歳以上の患者いずれに対しても,テリパラチド投与群におけ
る椎体骨折発生率は,プラセボ投与群の椎体骨折発生率より低くなって
いるから,これらの記載をもって,フォルテオが高齢者,すなわち65
歳以上の患者に効きにくいなどとはいえない。また,被告は,20μg投与群又は40μg投与群のプラセボ投与群に対する骨折相対リスク減少率は,患者が75歳以上の場合には,65歳以上75歳未満の場合よりも低くなっている旨を指摘するが,75歳
以上の患者群の骨折相対リスク減少率が65歳以上75歳未満の患者群
の骨折相対リスク減少率よりも低いとしても,それは,投与対象を75
歳以上の高齢者とすることの動機付けの有無の問題にはなるとしても,
投与対象を65歳以上の高齢者とすることの動機付けには何らの影響を
与えない。したがって,上記各文献をもって,200単位のPTH製剤を65歳
以上の高齢者に投与することが妨げられ,動機付けが生じないとはいえ
ない。
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2022.02. 1
令和2(行ケ)10128 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年1月11日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は引用文献の認定誤りです。
(2) 引用発明における「検出部ID」の技術的意義
上記認定に係る引用発明の「検出部ID」が,「電源タップ4」の住居内
での設置箇所を識別するものであるか否かについて検討する。
引用発明の「検出部ID」は,住居内で「電源タップ4」を一意に識別す
る符号であるものの,引用文献1には,前記「検出部ID」が「電源タップ
4」の設置箇所を表す情報と関連するものであることは一切記載されていな\nい。また,電源タップの一般的な使用形態を参酌すると,電源タップを住居
内のどこに設置してどのような電気機器に接続するかは,当該電源タップを
利用する者が任意に決められるものと解される。
引用文献1では,「電源タップ4」に照明器具が接続される態様も開示さ
れているものの(【図6】),照明器具は,居間,トイレ,寝室等,住居内
のあらゆる箇所で用いられるものであり,よって,当該照明器具に接続され
る電源タップの設置箇所も住居内のあらゆる場所が想定されるものであるか
ら,「検出部ID」により「電源タップ4」を一意に識別しても,それは
「電源タップ4」の識別にとどまるものであって,当該「電源タップ4」の
設置箇所も識別できるとする根拠は見出せない。
すなわち,「電源タップ4」の「検出部ID」から住居内の設置箇所を識
別するためには,「検出部ID」と当該「電源タップ4」の住居内での設置
箇所とを対応付けた何らかの付加的情報が必要である。「電源タップ4」の
「検出部ID」という,電源タップを一意に識別する符号から,当該「電源
タップ4」の設置箇所を識別することができる,と認めることはできない。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,本願明細書等の段落【0024】において,照明装置から発信
されるID番号としては「位置ID番号」のみが開示されているところ,
位置ID番号に紐づけられる位置情報に設置箇所(個々の部屋)が含まれ
るか否かが明らかでないと指摘する。
しかしながら,次の(ア)ないし(ウ)に照らすと,本願発明の「位置ID
番号」には,居宅内の各部屋を特定する「内部管理ID番号」が含まれる,
と理解されるから,被告の上記指摘は上記認定を覆すものではない。
(ア) 段落【0026】及び【0027】においては,情報を受信するク
ラウドサーバの側のデータベース内に,居宅内の各部屋を特定する「内
部管理ID番号」が登録されることが記載されており,段落【002
9】以下では,安否確認システムの動作によって,居宅内のどの部屋
(設置箇所)において異常が生じているのかを判定する仕組みが詳細に
説明されている。そうすると,発信装置から発信される「位置ID番
号」が,クラウドサーバの保有する「内部管理ID番号」を含むものと
解しないと,本願明細書等の記載全体を合理的に理解することができな
い。
(イ) 段落【0035】,【0040】及び【0042】には,段落【0
024】と異なり,「位置ID番号」が照明装置の設置箇所(居間,ト
イレ,寝室等の各部屋)を特定することが明示されている。
(ウ) 段落【0024】において,「位置ID番号」に紐づけられる「位
置情報」は,「設置箇所が存在する施設の住所,並びに設置箇所の緯度
経度及び施設の設置する階数等」(下線付加)である。この「等」に,
設置箇所となる各部屋の名称(居間,トイレ,寝室等)を含めることに
よって,位置ID番号が,設置箇所を特定する情報(クラウドサーバの
「内部管理ID番号」に対応する情報)を含むものと解釈することが許
されないとはいえない。
また,設置箇所となる各部屋の名称を「等」に含めることが許されな
い,あるいは位置情報をクラウドサーバへ登録する旨について述べたも
のにとどまる,と解釈し,当該施設の中での「設置箇所」(各部屋)の
位置情報は,利用者が照明装置の設置後にアプリを用いてクラウドサー
バに登録する,と理解することも可能である。段落【0019】の「利\n用者は,取得したアプリにしたがい,・・・照明装置の設置箇所・・・
の設定登録を行う」との記載も参酌すると,むしろ,かかる理解が本筋
であるともいえる。
前記(1)のとおり,照明装置から発信される「ID番号」とクラウドサ
ーバに登録される「ID番号」とを相互に対照することができて初めて
本願発明は所期の作用効果を奏することができるのであるから,本願明
細書等に接する当業者の理解は,上記のいずれかであると考えられる。
イ 被告は,電源タップに接続される電気機器の設置箇所(部屋)は,電気
機器の種別によって通常定まるから,引用発明の「検出部ID」は,単に
「電源タップ4を一意に識別する符号」,すなわち,住居内の「どれ」か
ということを識別する符号にとどまるものでもなく,住居内で「どこ」に
設置されているのかを識別する符号であって,位置情報として意味を有し,
本願発明の「内部管理ID番号」と同じ役割を有している旨主張する。
たしかに,被告がその主張の根拠とする引用文献1の【図5】において,
「住居ID」,「検出部ID」(図5の「計測部ID」との記載は「検出
部ID」の誤記と認められる。),「機器種類」,「稼働状況」などから
なる機器稼働データが例示されており,たとえば,「検出部ID」が“i
d13”の場合は,「住居ID」が“hid7”の場合も“hid2”の
場合も「機器種類」が“電気炊飯器”であること,「検出部ID」が“i
d17”の場合は,「機器種類」が“PC”,“アイロン”,あるいは
“ポット”であることが例示されており,「検出部ID」と電気機器の種
類,ひいては「電源タップ4」の設置箇所との間に何らかの相関関係があ
ることも推測される。
しかしながら,引用文献1の【図5】におけるこれらの例示は,利用者
が住居内に各電源タップを任意に設置して電気機器に接続した結果として
生じる,「検出部ID」と接続されている電気機器との対応関係を示して
いるにすぎないというべきであって,たとえば,前記ポットは,台所,居
間,ダイニング,寝室のいずれでも利用されることに鑑みると,【図5】
の記載をもってして,「電源タップ4」の「検出部ID」と当該「電源タ
ップ4」の設置箇所との間に何らかの対応関係が定められているとするこ
とはできない。
また,引用文献1の段落【0075】ないし【0078】には,実施の
形態3に係る生活状況監視システムにおいて,「電源タップ4」に機器種
類を設定する「スライドスイッチ20a」を設けることが記載されており,
【図16】には,機器種類として,「冷蔵庫」,「炊飯器」,「テレビ」,
「アイロン」,「レンジ」,「その他」が例示されており,「スライドス
イッチ20a」がこれらの機器種類の中から任意に機器種類を選択するこ
とが示されている。
してみると,引用文献1に記載の「電源タップ4」は,「冷蔵庫」,
「炊飯器」,「テレビ」等を含め,種々の電気機器に接続されることを前
提としたものであり,当該「電源タップ4」が設置される箇所も,台所,
居間等,住居内の様々な箇所が想定されるものであるから,「電源タップ
4」の「検出部ID」と当該「電源タップ4」の設置箇所との間には,元
来関連性はない。
以上によれば,引用文献1に,「電源タップ4」を一意に識別するため
の「検出部ID」に基づいて,当該「電源タップ4」の設置箇所を識別す
るという技術思想が開示されているとは認められず,被告の上記主張は採
用することができない。
ウ 被告は,住居内の電源タップ及びそれに接続される家電機器は,いった
ん設置されれば移動しないのが通常であること,引用発明においては「電
源タップ4」の設置箇所が判明しているからこそ警戒すべき状況か否かの
判定ができること,を考慮すれば,「電源タップ4」の「検出部ID」は
設置箇所を識別し得る情報であり,本願発明の位置情報(設置箇所の情報
を含む。)と相違しない旨主張する。
しかしながら,以下のとおり,被告の上記主張は採用することができな
い。
(ア) 引用文献1の【図13】には,警戒すべき状況か否かを判定するた
めの条件の例が記載されている。この記載からは,電気機器の種別(テ
レビ,炊飯器,アイロン等)と稼働状況(稼働中か停止中か)に応じて
警戒状況を判定するという技術思想は読み取れるものの,電気機器の種
別が同一である場合に,当該電気機器の設置箇所に応じて判定する条件
を異ならせる(例えば,居間と寝室のテレビとで判定条件を異ならせ
る)という技術思想を読み取ることはできない。
例えば,【図13】に記載された判定条件のうち,「3日以上,『電
気炊飯器』の『停止』が続いた場合」は,住人が食事をとっていないと
いう事態をうかがわせるから,かかる場合をもって段落【0057】等
にいう「警戒すべき稼働状況」として登録する,というのが引用発明の
技術思想であると解される。電気炊飯器の設置箇所は,通常,「台所」
という住居内の特定の部屋であるが,その間に住人が台所に立ち入った
か否かが,警戒状況か否かを判定するための条件とされているものでは
ない。
このように,引用発明においては,警戒すべき状況か否かを判定する
ための情報として,特定の電源タップに接続された電気機器の種別を用
いているが,当該電源タップ及びそれに接続された電気機器の設置箇所
と関連する情報を用いることの開示又は示唆はない。
(イ) 引用文献1の【図6】には,二つの部屋のそれぞれにおいて,同一
の種別の電気機器である照明装置が「電源タップ4」に接続される態様
が開示されており,二つの部屋にそれぞれ設けられた「電源タップ4」
が,「検出部ID」を「遠隔監視装置1」に送信するものと認められる
が,この場合であっても,上記(ア)に示したとおり,「検出部ID」は,
各々の電源タップ及びこれに接続された電気機器を一意に識別するため
の符号であるにとどまり,「電源タップ4」の設置箇所を示す情報では
ないから,「検出部ID」により各部屋を識別できるとする技術的根拠
は見出せない。
(4) 以上によれば,引用発明の「検出部ID」は,「電源タップ4」の住居内
での設置箇所を識別するものではないから,本願発明の位置情報のうち,住
居内における設置箇所を特定する「内部管理ID番号」(具体的には居間,
トイレ,寝室等の各部屋)とは技術的意義を異にする。
それにもかかわらず,本件審決は,引用発明の「検出部ID」は本願発明
の「内部管理ID番号」に相当するとして,「施設内での設置箇所に係るI
D番号」が安否確認に用いられることを一致点の認定に含めており,この認
定には誤りがあるといわざるを得ない。その結果,本件審決は,原告の主張
に係る相違点5を看過しており,上記一致点の認定誤りは本件審決の結論に
影響を及ぼす誤りである。
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2022.01.18
令和3(行ケ)10050 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年12月22日 知的財産高等裁判所
原告は個人で本人訴訟です。無効審判も代理人無しです。被告は富士フイルムです。
進歩性違反なしとした審決が維持されました。被告は訂正無しでした。
ア 原告の主張(1)について
(ア) 前記1(3)で検討したとおり,従来の撮像装置においては,ヒンジユ
ニットを本体に連結する第1ヒンジに係る軸Aが,ディスプレイをヒン
ジユニットに支持する第2ヒンジの外側で第2ヒンジに係る軸Bと交
差し,軸A上の一対の第1ヒンジがディスプレイの外側に突出して配置
されているために,ヒンジユニットがディスプレイよりも大きくなって
しまうという課題があったところ,本件発明1は,この課題を解決する
ために,一対の第1ヒンジの一方が一対の第2ヒンジの間に配置される
構成(構\成要件1Fの構成)を採ったものであり,この点に技術的意義\nがあるということができる。
他方で,前記2(1)及び(2)によれば,甲1発明においては,軸受44
の孔44bを有する支持部44eが,孔44aを有する支持部44dよ
りも液晶表示ディスプレイ3に近い側にあり,軸受44の支持部44d\n及び第1回転軸41の他方端が貫通するガイド45が,基台43におけ
る第2回転軸42の他方端を軸支するサイドフレーム46と反対側のカ
メラ縦方向の一辺に配置されている(構成要件1gの構\成。甲1公報の
段落【0028】ないし【0030】及び図1ないし3)。そうすると,
甲1発明においては,本件発明1における「一対の第1ヒンジ」に相当
する支持部44d及びガイド45の一方が,本件発明1における「一対
の第2ヒンジの間」に相当する支持部44eとサイドフレーム46との
間に配置されているものではないから,甲1発明は,構成要件1Fの構\
成を備えるものではない。
以上によれば,本件発明1及び甲1発明は,甲1発明が構成要件1F\nの構成を備えていない点に実質的な相違があるといえ,両発明を対比し\nた場合には,この点を相違点として認定するのが相当であるから,両発
明について,ディスプレイ及び中間に位置するプレートが共に動く方向
とディスプレイのみが動く方向とが,縦方向又は水平方向のいずれであ
るのかの違いしかないということはできない。
(イ) また,前記2(1)及び(2)によれば,甲1発明2は,甲1発明と構成\n要件1c及び1f以外の構成を共通にするものであるところ,上記(ア)
で検討したとおりの構成要件1gの構\成の内容からすれば,甲1発明2
も,構成要件1Fの構\成を備えていないものといえる。
そうすると,甲1公報の段落【0074】において開示されている構\n成どおりの図を描けば,本件発明1及び甲1発明は同じものになるとい
うことはできない。
(ウ) 以上によれば,原告の主張(1)は採用することができない。
イ 原告の主張(2)について
(ア) 原告の主張(2)は,善解するに,甲1発明において軸受の方向を90
度ずらして取り付けることにより,構成要件1Fの構\成と同様の構成を\n採ることができること,このことは甲1公報の段落【0074】に開示
されていることを主張するものと解される。
(イ) しかしながら,甲1公報の段落【0074】には,甲1発明におい
て,カメラ縦方向回りに左右に回動させるヒンジユニット及びカメラ横
方向回りに上下に回動させる液晶ディスプレイのそれぞれの回動の向
きを,ヒンジユニットをカメラ横方向回りに,液晶ディスプレイをカメ
ラ縦方向回りとしてもよいことが記載されているにすぎず,軸受の方向
を90度ずらして取り付けることが開示され,又は示唆されているもの
とはいえない。また,上記アで検討したとおり,甲1公報の段落【00
74】には,構成要件1Fの構\成が開示されているものではないという
べきである。
(ウ) 以上によれば,原告の主張(2)は採用することができない。
ウ 原告の主張(3)について
(ア) 本件明細書の図3について検討するに,第2ヒンジ24に係るヒン
ジブラケット33が支持部21に接している部分の位置を基準とすれば,
第1ヒンジ23の軸B寄りに位置する方のヒンジブラケット31は,一
対の第2ヒンジ24の間に配置されているといえる。ただし,図3にお
いては,上記ヒンジブラケット33の先端は,原告が主張するように,
支持部の外側に向かって水平方向に延びており,同ヒンジブラケット3
3に設けられた軸B回りにディスプレイを回動可能に支持する孔が上記\n第1ヒンジ23の外側に位置する形となっているようにもみえる。その
ようにみると,本件明細書の図3における軸A及び軸Bは,図6Aと同
様の位置関係となるといえるところ,図6Aは,ヒンジユニットが大き
くなってしまうという課題を有する従来技術が「参考例」として記載さ
れているものであると解されることからすれば,図3は,本件発明1の
実施形態を説明するための図1Aの分解斜視図であると説明されてはい
るものの,本件発明1の実施例を示す図面としては,適切なものではな
いといわざるを得ない。
しかしながら,本件明細書においては,本件発明1の実施形態を示す
図面として図4Aが記載されているところ,図4Aは,一対の第1ヒン
ジの一方が一対の第2ヒンジの間に配置されるという構成要件1Fの構\
成を適切に示した図面であるといえる。そして,図4Aは,図3のヒン
ジユニットの一対の第1ヒンジ及び一対の第2ヒンジの配置を示す模式
図として説明されているから,図3を上記原告の主張するようにしか読
み取ることができないというものではない。
(イ) そうすると,本件明細書の図3は,原告の主張するようにしか読み
取ることができないというものではないから,図3の記載内容を根拠と
して,本件発明1が甲1発明と同じであるなどということはできない。
(ウ) 以上によれば,原告の主張(3)は採用することができない。
エ 原告の主張(4)について
(ア) 前記1(2)によれば,本件明細書の図6A及び図6Bは,ヒンジユニ
ットが大きくなってしまうという課題を有する従来技術が「参考例」と
して記載されているものである。そうすると,図6A及び図6Bの記載
内容を根拠として,本件発明1が甲1発明と同じであるなどということ
はできない。
(イ) 以上によれば,原告の主張(4)は採用することができない。
オ その他
このほか,原告は,本件発明1は甲1発明に対する新規性を欠くとして
種々の主張をするが,これまで検討したところに照らすと,原告の主張は
採用することができない。
(4) 小括
以上によれば,本件発明1ないし5は甲1発明に対する新規性を欠くもの
ではないとした本件審決の判断に誤りはない。
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2022.01. 3
令和2(行ケ)10069 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年12月9日 知的財産高等裁判所
医薬品の特許について、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
(ア) 検討
a 甲7発明と本件発明1とは,「1回当たり200単位のPTH(1−
34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする」との用量の
点において一致するが,その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を
一応異にする。
b 甲7発明で投与対象とされた患者は,前記(1)のとおり,1989年
診断基準で骨粗鬆症と診断された患者であるところ,甲7発明に接し
た当業者が,甲7発明のPTH200単位週1回投与の骨粗鬆症治療
剤を投与する対象患者を選択するのであれば,より新しい基準を参酌
しながらその患者を選別することは,当業者がごく普通に行うことで
あるから,1989年診断基準とともに,より新しい,1996年診
断基準又は2000年診断基準を参酌するといえる。
そして,前記ア(ア)b及びcのとおり,1996年診断基準で骨粗
鬆症と診断される者は,1)骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの
80%以下の低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か,2)X線上椎体
骨折を認めないが,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAMの7
0%未満である者であり,2000年診断基準で骨粗鬆症と診断され
る者は,3)骨萎縮度II)度以上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨
量で,軽微な外力による非外傷性椎体骨折等(脆弱性骨折)を有する
者か,4)脆弱性骨折がないものの,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度
値がYAMの70%未満の者である。
本件条件(2)及び本件条件(3)は,上記1)と同じであるから(「既
存の骨折」は「非外傷性椎体骨折」を含む。),当業者が甲7発明の2
00単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件
条件(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。
また,前記ア(イ)のとおり,骨粗鬆症は,加齢とともに発生が増加
するとの技術常識があり,高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らか
であるところ,高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的な
ことであり,高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上
が高齢者とされている。したがって,これらを参酌し,骨粗鬆症によ
る骨折の複数の危険因子として,低骨密度及び既存骨折に並んで年齢
が掲げられていることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上
として,本件条件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1)
のように設定することはごく自然な選択であって,何ら困難を要しな
い。
そうすると,甲7発明に接した当業者が,投与対象患者を本件3条
件を全て満たす患者と特定することは,当業者に格別の困難を要する
ことではない
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2022.01. 3
平成31(ワ)7038等 特許権侵害行為差止等請求事件,損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年10月29日 東京地方裁判所
29条1項2号にいう「公然実施」について、出願前から製造していた物と現在製造している物に変化がないとして、公然実施と認定し、権利行使不能と判断されました。\n
29条1項2号にいう「公然実施」とは,発明の内容を不特定多数の
者が知り得る状況でその発明が実施されることをいい,本件各発明のよう
な物の発明の場合には,商品が不特定多数の者に販売され,かつ,当業者
がその商品を外部から観察しただけで発明の内容を知り得る場合はもちろ
ん,外部からそれを知ることができなくても,当業者がその商品を通常の
方法で分解,分析することによって知ることができる場合も公然実施とな
ると解するのが相当である。
・・・
エ 日本黒鉛らについて
(ア) 日本黒鉛各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか
a 日本黒鉛製品2,4及び5に係る日本黒鉛製品結果及び乙A18結
果は近接していること,日本黒鉛製品4及び5に係る乙A18結果の
回折プロファイルにおいて,菱面晶系黒鉛層(3R)の(101)面
及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)面の各ピークが出現すると
される回折線の角度43ないし44°付近のピークは比較的明瞭であ
り,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDXLの自動解析機能を使用しても\n適切な解が得られると考えられること,日本黒鉛製品2に係る乙A1
8結果の回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし44°付
近のピークは明瞭とはいい難いが,このような場合に,PDXLの自
動解析機能を使用して得られた解が常に誤っていることを認めるに足\nりる証拠はないことからすると,日本黒鉛製品2,4及び5のRat
e(3R)については,日本黒鉛製品結果及び乙A18結果のいずれ
も採用することができるというべきである。
他方で,日本黒鉛製品1及び3に係る乙A18結果については,同
じ製品であるにもかかわらず,算出されたRate(3R)にかなり
のばらつきがあること,日本黒鉛製品1及び3に係る乙A18結果の
各回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし44°付近のピ
ークは必ずしも明瞭ではないこと,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDX
Lは,ピークが不明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な解に\n収束したり,解が発散したりすることがあり,このような場合,試料
を考慮した解析条件を手動で入力する必要があること,前記(1)ウ(イ)
aのとおり,原告は,自動解析機能によっては不合理な解に収束した\nり,解が発散したりする場合には適宜の解析条件を手動で入力するこ
とにより,PDXLを用いて解析を行い,日本黒鉛製品結果を得たこ
とからすると,日本黒鉛製品1及び3のRate(3R)については,
日本黒鉛製品結果を採用することができ,乙A18結果は採用するこ
とができないというべきである。
b 日本黒鉛製品結果及び乙A18結果によれば,日本黒鉛製品2は本
件各発明の構成要件1B及び2Bを,日本黒鉛製品4及び5は構\成要
件1Bをそれぞれ充足し,日本黒鉛製品結果によれば,日本黒鉛製品
1及び3は構成要件1B及び2Bを充足することとなり,前記2の本\n件各発明の解釈を前提とすると,日本黒鉛製品1ないし3は本件各発
明の,日本黒鉛製品4及び5は本件発明1の各技術的範囲に属すると
認めるのが相当である。
(イ) サンプルのRate(3R)
a 次に,前記(1)ウ(イ)bのとおり,日本黒鉛工業が保管していた日本
黒鉛製品1,2,4及び5の各サンプルのRate(3R)は,サン
プル結果3)のとおりである。
そして,日本黒鉛工業の証人Zは,日本黒鉛工業においては,平成
13年10月頃からおおむね10年に1回,製品のサンプルを保管す
るようになり,平成20年6月12日に採取した日本黒鉛製品1のサ
ンプル,平成13年10月5日に採取した日本黒鉛製品2のサンプル,
平成20年7月30日に採取した日本黒鉛製品4のサンプル及び同年
12月16日に採取した日本黒鉛製品5のサンプルを保管している旨
証言し,Z証人作成の陳述書(乙A120)にも同旨の記載があると
ころ,証拠(乙A86,94,95)による裏付けがあることからす
ると,Z証人の上記証言は採用することができるというべきである。
したがって,上記日本黒鉛製品1,2,4及び5の各サンプルは上
記各日に採取したものと認めるのが相当である。
b 日本黒鉛製品1に係るサンプル結果3)については,同じ製品である
にもかかわらず,算出されたRate(3R)にかなりのばらつきが
あること,サンプル結果3)の回折プロファイルにおいて,菱面晶系黒
鉛層(3R)の(101)面及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)
面の各ピークが出現するとされる回折線の角度43ないし44°付近
のピークは必ずしも明瞭ではないこと,前記2(1)ウ(イ)のとおり,P
DXLは,ピークが不明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な\n解に収束したり,解が発散したりすることがあり,このような場合,
試料を考慮した解析条件を手動で入力する必要があることからすると,
日本黒鉛製品1のサンプルのRate(3R)について,サンプル結
果3)は採用することができないというべきである。
他方で,日本黒鉛製品4及び5の各サンプルに係るサンプル結果3)
については,複数回算出したRate(3R)にばらつきはほとんど
なく,サンプル結果3)の回折プロファイルにおける回折線の角度43
ないし44°付近のピークは比較的明瞭であり,前記2(1)ウ(イ)のと
おり,PDXLの自動解析機能を使用しても適切な解が得られると考\nえられることからすると,日本黒鉛製品4及び5の各サンプルのRa
te(3R)について,サンプル結果3)を採用することができるとい
うべきである。
日本黒鉛製品2のサンプルに係るサンプル結果3)については,複数
回算出したRate(3R)にばらつきはほとんどないこと,そして,
サンプル結果3)の回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし
44°付近のピークは必ずしも明瞭ではないものの,本件証拠上,こ
のような場合に,PDXLの自動解析機能を使用して得られた解が常\nに誤っているとまでは認められないことからすると,日本黒鉛製品2
のサンプルのRate(3R)について,サンプル結果3)を一応採用
することができるというべきである。
(ウ) 日本黒鉛らが本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属する日
本黒鉛各製品を製造販売していたか
前記イ(イ)のとおり,菱面晶系黒鉛層の増加に影響を及ぼすと考えられ
る要素のほとんどは,黒鉛製品の製造工程及び製造された製品が満たす
べき規格に関わるといえるが,具体的に,どのような条件の下,どのよ
うな操作をすることにより,単に菱面晶系黒鉛層が増加するだけでなく,
六方晶系黒鉛層との総和における菱面晶系黒鉛層の割合であるRate
(3R)がどの程度変動するかは,本件訴訟に現れた全証拠によっても
確定することができない。
そして,前記(1)ウ(ア)のとおり,日本黒鉛工業は,本件特許出願前か
ら日本黒鉛各製品を製造しており,本件特許出願前から現在に至るまで,
その製造工程及び出荷の基準となる規格値に大きな変更はない。
また,前記前提事実(2)及び(7)アのとおり,原告が日本黒鉛製品結果
をもって日本黒鉛らに対して提訴したのは平成31年3月であり,平成
26年9月9日の本件特許出願からそれほど長い年月が経過しているも
のとはいえない。
以上によれば,日本黒鉛らは,本件特許出願前から現在に至るまで,
日本黒鉛各製品の各名称を付した黒鉛製品を製造販売しており,この間,
菱面晶系黒鉛層の増減に影響を与えると考えられるこれらの製品の製造
工程及び規格値に変更はないことから,この間に製造販売された日本黒
鉛各製品は,同じ製造工程を経て,同じ規格を満たすものであると認め
られる。そして,他にこれらの製品に対してRate(3R)の増減に
影響を及ぼす事情が存したとは認められず,前記(ア)のとおり,現時点に
おいて,日本黒鉛製品1ないし3は本件各発明の,日本黒鉛製品4及び
5は本件発明1の各技術的範囲に属する。これらの事情に照らせば,日
本黒鉛らは,本件特許出願前から,このような日本黒鉛各製品を製造販
売していたと認めるのが相当であり,前記(イ)bのとおり,本件特許出願
前の平成20年に採取した日本黒鉛製品4及び5のRate(3R)が
31%以上であることも,この結論を裏付けるというべきである。
なお,日本黒鉛製品2に係るサンプル結果3)は,乙A18結果と相違
しているが,日本黒鉛製品2は土状黒鉛であり,菱面晶系黒鉛層(3R)
の(101)面及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)面の各ピーク
が出現するとされる回折線の角度43ないし44°付近のピークが必ず
しも明瞭ではなく,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDXLは,ピークが不
明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な解に収束したり,解が発\n散したりすることがあり,同じく土状黒鉛である日本黒鉛製品1に係る
サンプル結果3)及び乙A18結果を見てもばらつきがあることからする
と,日本黒鉛製品2に係るサンプル結果3)と乙A18結果が相違するこ
とは,日本黒鉛らが本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属す
る日本黒鉛製品2を製造販売していたという上記認定を左右するとはい
えない。
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2022.01. 3
令和2(行ケ)10089 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年12月15日 知的財産高等裁判所
訂正発明は、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
発明の要旨認定は,特許請求の範囲の記載に基づいて行うべきであ
り,発明が属する技術分野における優先日前の技術常識を考慮した通
常の意味内容により特許請求の範囲の記載を解釈するのが相当である。
もっとも,特許請求の範囲の記載の意味内容が,明細書又は図面にお
いて,通常の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれ
ば,通常の意味内容とは異なるものとして解される余地はあるものの,
そのような定義又は説明がない場合には,上記のとおり解釈するのが
相当である。
・・・
f 本件審決の解釈の適否
(a) 本件審決の説示
本件審決は,シートシェルについて次のように説示する。
(i) 「ア.本件発明1の『シートシェル』で特定される事項」に
おいて「本件発明1の『シートシェル』は,・・・『支持部』と
は別個の部材であると解するのが相当である。そうすると,
『シートシェル』の定義は,『シート』の『シェル』であって,『子
供又は乳児を支持する支持部』とは別個の部材であって,『前
記支持部は前記シートシェルの内側にあ』るから,支持部が
内側にある『支持部のための構造要素』である『シェル』とい\nうことができる。」とする(本件審決第5,2(1)(1−2)ア
〔本件審決49頁9〜17行目〕)。
(ii) 前記(i)の「『シートシェル』の定義からみて,甲1発明1の
『側方支持部6を備えた背もたれ5,座部4,ヘッドレスト
10』は子供を支持する部材であるから本件発明1の『支持
部』に相当するものであり」とする(本件審決第5,2(1)(1
−2)イ〔本件審決49頁19〜21行目〕)。
(iii) 「シートシェルが,従来技術とは異なり,子供を支持する
支持部材とは別な部材であることは,以下の明細書の記載か
らも明白である。」(本件審決第5,2(1)(1−2)オ(ア)〔本
件審決53頁20〜21行目〕)として,本件明細書の段落【0
008】及び【0019】を挙げる。
(b)本件審決の解釈
前記(a)の本件審決の説示を総合すると,本件審決は,本件発明の
「支持部」が,シートシェルに係る技術常識の(a)ないし(c)(前記c
(a)ないし(c)により理解される「シートシェル」及び「子供を支え
る柔軟性のある素材」に相当し,本件発明の「シートシェル」は,
「支持部」を内側に配置する,従来技術(技術常識)における「シ
ートシェル」及び「子供を支える柔軟性のある素材」とは別異の,
それらに更に追加される構造要素と解釈しているものと認められ\nる。
(c) 本件審決の解釈の適否
本件審決は,本件発明の「シートシェルが,従来技術とは異なり,
子供を支持する支持部材とは別な部材である」と解する根拠として,
本件明細書の段落【0008】や【0019】を引用するが(前記
(a) (iii)),これらの段落は,「側面衝突保護部」の配置とその作用又
は効果についての説明にとどまるものであって,「シートシェル」が
従来技術とは別異なものであるとの記載はないし,支持部について
は何らの記載もないことからすると,上記段落が本件審決の上記解
釈を裏付けるものとはいえない。そして,本件発明の特許請求の範
囲の記載や本件明細書の発明の詳細な説明の記載において,前記(b)
の本件審決の解釈を採用すべき根拠を見出すことはできない。した
がって,前記(b)の本件審決の解釈を採用することはできない。
(d)被告の主張の検討
被告は,本件発明の「シートシェル」の解釈について,「背部側か
ら支持部を構造的に保持するシェル(外殻)的構\造要素である」,「支
持部とは別個のシェル形状の一構成要素であり,子供を前部側で支\n持する支持部の背部側を外側から構造的に保持する,支持部のため\nのシェル(外殻)的構造要素であって,車両の側部から伝わる横か\nらの力がシートシェルに導かれるように側面衝突保護部を配置し
たシェルである」,「シートシェルは,シートシェルの内側にある支
持部の背部側を外側から構造的に保持し,かつ側面衝突保護部を取\nり付けるのに必要とされる程度に剛性(段落【0022】)を備える
シェル形状部材である」,「シートシェルはその背部側が露出してお
り,シェルの名のとおり曲面形状である」などと主張する(前記第
3,1(1)ア〔被告の主張〕)。確かに,本件図面の図2,5及び6に,
シートの背部に曲面形状の構造が示されているようにも見え,実施\n例において,それがシートシェルに該当するとされている。しかし,
本件明細書には,本件発明のシートシェルを,被告が主張するよう
な外殻的構造の意味に限定して解釈すべき根拠となるような記載\nはなく,シートシェルという用語の解釈に当たって,本件発明が属
する技術分野における優先日前の技術常識を考慮した通常の意味
内容とは異なるように解釈すべきことを裏付ける根拠もないから,
被告の上記主張は採用することができない。
(イ) 側面衝突保護部の配置について
a 請求項1(本件発明1)により示される側面衝突保護部の配置
本件発明1は「前記シートシェルの外側で前記シートシェルに取り
付けられる側面衝突保護部」(構成要件1D)という構\成を備えるから,
本件発明1の側面衝突保護部は,シートシェルの外側でシートシェル
に取り付けられるものである。そして,前記(ア)dのとおり,「シート
シェル」は,剛性のある素材から成るチャイルドセーフティシートの
基本構造体であると解されることからすると,このような基本構\造体
である「シートシェル」の側面の外側に取り付けられた「側面衝突保
護部」が受けた力は,自ずと「シートシェル」に伝達されることにな
る。
本件発明1は,「前記側面衝突保護部は,前記チャイルドセーフティ
シートが前記車両の前記シートに取付けられた状態において,前記車
両の側部から前記チャイルドセーフティシートに伝わる横からの力が
前記シートシェルに導かれるように,配置される」(構成要件1G)と\nいう構成を備えるところ,上記のとおり,側面衝突保護部がシートシ\nェルの外側で前記シートシェルに取り付けられること(構成要件1D),\nシートシェルは剛性のある素材から成るチャイルドセーフティシート
の基本構造体であり(前記(ア)d),側面衝突保護部が受けた力は自ず
とシートシェルに伝達されることに照らすと,上記の構成(構\成要件
1G)は,シートシェルの外側に取り付けた側面衝突保護部の配置(換
言すれば「取付位置」)が,シートシェルの側面の外側であることを示
すのみであり,その配置について,それ以上に何ら具体的な特定をす
るものではないと認められる。
b 被告の主張の検討
被告は,請求項1(本件発明1)の「側面衝突保護部は,・・・横か
らの力が前記シートシェルに導かれるように,配置される」(構成要件\n1G)という文言は,機能的限定であるから,本件明細書に記載され\nた具体的構成に基づいて限定的に解釈し,「側面衝突保護部が,チャイ\nルドセーフティシートの座部領域より上方であって,チャイルドセー
フティシートの背部に配置される」ことによって,「横からの力が,支
持部(子供)には導かれず,シートシェルにのみ導かれる」ことを意
味するものと解釈すべきであると主張する(前記第3,1(1)イ〔被告
の主張〕)。
しかし,発明の要旨認定は,特許請求の範囲の記載に基づいて行わ
れるべきであり,それは,特許請求の範囲の記載の中に作用又は機能\nを用いて物を特定しようとする記載がある場合であっても同様である。
本件発明1の「前記側面衝突保護部は,前記チャイルドセーフティシ
ートが前記車両の前記シートに取付けられた状態において,前記車両
の側部から前記チャイルドセーフティシートに伝わる横からの力が前
記シートシェルに導かれるように,配置される」(構成要件1G)とい\nう構成には,「車両の側部からチャイルドセーフティシートに伝わる横\nからの力がシートシェルに導かれる」ということしか記載されておら
ず,「横からの力が,支持部(子供)には導かれず,シートシェルにの
み導かれる」とは記載されていないから,被告主張のような限定的な
解釈をとることはできない。請求項6(本件発明6)には,側面衝突
保護部の側部要素がチャイルドセーフティシートの座部領域より上に
配置されるチャイルドセーフティシートが記載され,請求項7(本件
発明7)には,側部要素がチャイルドセーフティシートの背部に配置
されるチャイルドセーフティシートが記載されており,また,本件明
細書の段落【0008】及び【0019】には,衝突による横からの
力が子供の体に直接伝わらず,子供の体を迂回してシートシェルに導
かれるように取り付けられる側面衝突保護部材に関する記載があるが,
請求項1(本件発明1)の文言を,従属請求項である請求項6及び7
の記載並びに本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】及び
【0019】の記載によって限定して解釈する理由はないから,被告
の上記主張は採用することができない。
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2022.01. 3
令和2(行ケ)10150 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年12月16日 知的財産高等裁判所
原告は、訂正発明は、進歩性違反、新規事項、委任省令違反などの無効理由があるとして、無効理由無しとした審決の取消を求めました。知財高裁は審決を維持しました。
特許法36条4項1号の委任する特許法施行規則24条の2は,発明の詳細な説
明の記載について,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発
明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解
するために必要な事項を記載することによりしなければならない」と規定するとこ
ろ,原告は,本件明細書からはオルニチンを用いた本件訂正発明が,どのような課
題をどのように解決したか明らかでないこと,「発酵物の乾燥重量1g当たり」「8
mg 以上のオルチニン」という数値限定に対応する課題も効果も,本件明細書に記載
がなく,当業者において本件訂正発明の課題やその解決手段を認識することはでき
ないから,上記委任省令要件違反である旨主張する。
(2) 本件明細書の記載について
そこで検討するに,前記1(1)のとおり,本件明細書の段落【0226】には,「ア
ルギニンについては,発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。
従って,大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス 20-92 株で発酵処理する
ことにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成させ得ることが明らかと
なった。」との記載があり,本件明細書の段落【0228】【表3】にも,発酵によ\nり,アルギニンからオルニチンが生成することが示されている。また,本件明細書
の段落【0050】には,「ダイゼイン類を含む原料」の一例である「大豆胚軸」を
用いた場合のオルニチンの含有量について,「エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥
重量1g当たりオルニチンが5〜20mg,好ましくは8〜15mg,更に好ましくは
9〜12mg 程度が例示される。」と記載されており,当業者は,本件訂正発明は,こ
の好ましい量の下限を採用したものであると理解できる(前記5(5)参照)。
これらからすると,当業者は,本件訂正発明の技術上の意義は,ラクトコッカス
20-92 株で発酵処理することにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成さ
せ得ることを明らかにし,エクオール及びオルニチンを含有する発酵物(オルニチ
ンの含有量は乾燥重量1g当たり8mg 以上)の製造方法を提供したことにあること
及び発酵処理によりこれを解決することが理解できるから,本件明細書の発明の詳
細な説明の記載には,当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が
記載されているということができる。
(3) 原告の主張について
原告は,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】段落【0010】におい
てオルニチンに係る記載がないことを指摘するが,上記のとおり,特許法施行規則
24条の2は,「発明の詳細な説明の記載」に係る規定であるから,本件明細書全
体の記載から理解できれば足り,必ずしも,発明の技術上の意義を理解するために
必要な事項が「発明が解決しようとする課題」の項目に記載されている必要はない。
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2022.01. 3
令和3(行ケ)10060 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年12月20日 知的財産高等裁判所
ブロックチェーン関連技術のCS関連発明について、進歩性無しとした審決が維持されました。
進歩性無しとされた請求項1は以下です。
請求項1(本件補正発明)
管理主体が存在しないパブリック型ネットワークにおいて台帳を分散して記録する複数のノードの少なくとも1つに対し,トランザクションのリクエストを送信する複数のプロセスであって,設定されるプロセス多重度に応じた複数のプロセスを生成する生成部と,
トランザクションの指示を受け付け,前記複数のプロセスのいずれかに当該トランザクションのリクエスト送信を割り当てる割当部と,を備えるシステム。
これらの記載によると,引用文献1の実験においては,スレッド当たり
のリクエスト数をセキュリティ機能のOFF又はONの相違に従って固\n定し,並列スレッド数を変化させてスループット(1秒当たりのリクエス
ト処理量)を測定しているのであり,「全スレッドによる合計リクエスト件
数」は並列スレッド数にのみ左右されるから,引用文献1は,専ら並列ス
レッド数とスループットとの関係を測定したものであり,その測定結果と
して,並列スレッド数の増加に対するスループットは,ある程度までは増
加し,一定程度で頭打ちとなり,その後は挙動不安定になるというものが
得られたとするものである。そうすると,引用文献1は,並列スレッド数
を増加させていけばスループットは増加するが,ある程度以降は挙動が安
定しなくなるので,その場合には並列スレッド数の増加による効果がなく
なり,「リクエストの流量制限」で対応しなければならないと理解すべきも
のであるから,その記載内容は,スレッド数の増加による効果には一定の
最大限度があることを含意するものというべきである。
以上のとおりであるから 原告の前記第3の1(1)アの主張は採用する
ことができない。なお,原告は,引用文献1においては,「負荷が大きすぎ
ること」,すなわち「単位時間当たりのリクエスト数が大きすぎること」を
認識するための手段としてスレッドの数を増加させてみた測定結果が記
載されているのにすぎず,このような記載をもって,「スレッド数(並列度)
の制御」を,「リクエストの流量制御」における課題解決手段として読み取
ることはできないない旨主張するが,前述のとおり,引用文献1の該当部
分の記載は,単に課題認識手段としての測定結果を表示したものとはいえ\nず,スレッドの数を増加させた場合の結果に応じて,課題解決に向けた対
応策の示唆等にも及ぶものであるから,原告の前記主張は前提を欠くもの
というべきである。
したがって,引用文献1には,引用発明がスレッド数を制御すること,
少なくとも,スレッドの多重度を設定し,これより,設定されるスレッド
多重度に応じた複数のスレッドを生成するものであるとの記載があると
認められる。
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2022.01. 3
令和2(行ケ)10144 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年11月16日 知的財産高等裁判所
無効理由(進歩性、サポート要件など)は無しとした審決が維持されました。
ア 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許
請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載さ
れた発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載によ
り当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,ま
た,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題
を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当で
ある。
イ 本件訂正発明の課題について
(ア) 前記1(2)によると,本件訂正発明は,連通可能な隔壁手段で区画された複数\nの室を有する輸液容器が病院で使用されているところ,輸液中には通常微量金属元
素が含まれていないことから投与が長期になると微量金属元素欠乏症を発症するが,
微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると品質劣化が問題となるため,依然
として輸液の投与直前に混合されているという現状に鑑み,外部からの押圧によっ
て連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い,用時に細菌\n汚染の可能性なく微量金属元素を混入することができ,かつ,保存安定性にも優れ\nた輸液製剤の創製研究が開始されたものの,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一
室に充填して微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量
金属元素が隔離してあっても微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が
生じることを知見し,その上で,微量金属元素が安定に存在していることを特徴と
する含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを目的とするものであ
る。
(イ) 上記(ア)からすると,本件訂正発明1及び2は,微量金属元素が安定に存在し
ていることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを
課題とするものであるが,より具体的には,外部からの押圧によって連通可能な隔\n壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用いて,あらかじめ微量金属元素
を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤であって,含硫化合物を含む溶液を\n一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を提供
することを課題とするものと解される。同様に,本件訂正発明10及び11の課題
は,そのような輸液製剤の保存安定化方法を提供することを課題とするものである。
ウ 本件訂正発明1について
(ア) 本件訂正発明の請求項1は,前記イの課題に関し,「外部からの押圧によって
連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において」,「室\nに・・・微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されて」
いるとして,あらかじめ微量金属元素を用時に混入可能な形で保存することを特定\nしつつ,「一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも
1種を含有する溶液が充填され,他の室に・・・微量金属元素を含む液が収容され
た微量金属元素収容容器が収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂
フィルム製の袋であ」り,「前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液で
あり」,「前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており」,「前記外袋内の
酸素を取り除いた」ものであるとして,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場
合であっても微量金属元素が安定に存在している構成を特定しているものといえる。\n
(イ) 本件明細書の発明の詳細な説明をみると,段落【0006】及び【0007】
で輸液製剤の大枠が示された上で,輸液容器の構造や材料(同【0012】,【00\n13】),微量金属元素,特に銅イオンを安定化することができるという効果(同【0
014】),硫黄原子を含む化合物及びこれを含む溶液の例示(同【0015】,【0
016】),微量金属元素を含有する液を収容する容器の具体的な収納方法や態様(同
【0020】),微量金属元素の例示(同【0021】)や,微量金属元素の組成(同
【0022】),微量金属元素収容容器を収納している室の態様(同【0024】)や
当該室に充填され得る輸液やその組成等(同【0025】〜【0030】)が,それ
ぞれ具体的に記載されている。
そして,本件訂正発明1に係る構造や材質に対応した輸液製剤の好ましい態様で\nある本件明細書の【図1】について,その構造(段落【0031】)や,微量金属元\n素を用時に混入可能とする構\成(同【0032】),輸液の充填の態様(同【003
3】),ガスバリヤー性外袋や脱酸素剤の封入とそれらの材質等(同【0035】〜
【0039】),投与時の混合の態様(同【0046】)がそれぞれ詳細に記載されて
いる。
(ウ) その上で,本件訂正発明1に該当する実施例1(同【0052】,【図1】)と,
これに該当せず,含硫アミノ酸を含む溶液を充填した室に微量金属元素収容容器を
収納した比較例(同【0060】,【図4】)について,具体的な製造方法や溶液(A)〜(C)の具体的な成分組成(同【0062】【表1】,【0063】【表\2】,【0064】【表3】)が示され,実施例1と比較例の重要な差異が微量金属元素収容容器\nを収納する室の差異であることが示された上で,「安定性試験」として,60゜C)で2
週間保存した後の容器の外観を肉眼で観察したところ,比較例の輸液製剤において
のみ微量金属元素収容容器に着色がみられたこと(同【0065】),「銅の安定性」
について,開始時を「100.0%」とした場合,実施例1では,60゜C)で2週間
保存した場合が「100.8%」,60゜C)で4週間保存した場合が「102.6%」
であったのに対し,比較例では,60゜C)で2週間保存した場合が「88.8%」,6
0゜C)で4週間保存した場合が「69.8%」であったことが示されて(【表5】),最後に,発明の効果が記載されている(同【0066】)ところである。\nなお,上記「安定性試験」に関し,輸液製剤の保存時において含硫アミノ酸であ
るシステインやその誘導体であるアセチルシステイン等が分解することにより硫化
水素ガスが発生すること,硫化水素ガスが熱可塑性樹脂フィルムを透過すること及
び硫化水素ガスが銅や鉄などの金属と反応して硫化物を生成する(水溶液中におい
ては黒色の沈殿を生成する)ことは,技術常識である(甲7〜9,弁論の全趣旨)。
また,微量金属の定量分析法としては,ICP発光分光分析法が慣用技術であって,
その測定法等は技術常識であると解される(甲34,35,弁論の全趣旨)。
(エ) 前記(ア)〜(ウ)によると,当業者は,本件訂正発明1の構成を採ることによって,\n同【0065】や【表5】に記載されているように,含硫アミノ酸を含む溶液を充\n填した室に微量金属元素収容容器を収納した場合と比較して,微量金属元素が安定
に存在している輸液製剤を得ることができると認識することができると解され,本
件訂正発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細
な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲内のものであ
るといえる。
したがって,本件訂正発明1がサポート要件を欠くものとはいえない。
(オ) 原告の主張について
a 原告は,本件明細書の実施例1において,アセチルシステインから発生した
硫化水素ガスが溶液(C)を充填した小袋に到達することを妨げることのできる実
施例1の構成は,小袋を収納する「第1室4」にブドウ糖を含む溶液(A)が充填\nされているとの構成1)及び外袋に「脱酸素剤9」が封入されているとの構成2)のみ
であり,当業者も構成1)及び構成2)によるものであると当然に理解すると主張する。
しかし,本件訂正発明1の構成に係る本件明細書の実施例1では,アセチルシス\nテインを含む溶液(B)が「第2室5」に充填された一方で,溶液(C)を充填し
た小袋は,それとは異なる室である「第1室4」に挟着されているのであって,同
小袋を「第2室5」に収納した比較例の場合と比較すると,同小袋の外面が直接溶
液(B)に触れることがないという点と,溶液(B)と溶液(C)との間に,同小
袋の構成素材に加え,「第2室5」の構\成素材及び「第1室4」の構成素材とを介す\nる状態となっている(被告のいう「三重の壁」となっている。)という点で,差異が
あることが明らかである。
そして,上記の差異が,アセチルシステインから発生する硫化水素ガスが溶液(C)
を充填した小袋に到達することを妨げるに当たり,何らの作用を果たさないという
べき技術常識その他の事情は認められないから(なお,被告の実験報告書[甲21,
36,乙1]を排斥して専ら原告の実験報告書[甲19,20,23]の結果の信
用性を認めるべき事情は見当たらない。),当業者の理解に係る原告の上記主張は採
用することができない。
したがって,当業者において,本件明細書の実施例について専ら構成1)及び構成\n2)により微量金属元素の安定が図れたと理解することを前提とする原告の主張は,
本件訂正発明1における「他の室」が空室である場合についての主張も含め,いず
れも採用することができない。
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2021.10.29
令和3(行ケ)10006 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年10月26日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が維持されました。阻害要因についても無しと判断されました。
ア 前記1(3)によれば,引用文献2技術事項は,物質に特有な高吸収X線を
利用することにより,荷物や人体内に隠匿した麻薬,あるいは爆薬や象牙
などの禁制品の有無を検査できるものであるから,人体用だけでなく,荷
物の中の見えない物体の有無を検査するX線荷物検査装置でもあるとい
える。そうすると,食品等の異物検査を行うX線検出装置である引用発明
1の技術分野と,医療検査や荷物検査を行う引用文献2技術事項の技術分
野は,X線検査装置が用いられる技術分野として関連するものであるとい
える。
また,引用発明1においては,判定部24において「各ライン走査ごと
のデータ中の最大画素濃度のデータを所定の閾値と比較してX線吸収率
が大きい金属異物等の混入の有無が検出濃度レベルと閾値との比較によ
り判定される」(M)ものであり,ワークWのX線画像の検出濃度レベルと
所定の閾値とを比較することにより,金属異物等の混入が有る場合の濃度
レベルと混入が無い場合の濃度レベルとを判定する必要があるから,ワー
クWのX線画像における金属異物等の混入の有無の濃度レベルの間の差
異を明確にしなければならず,X線画像において目的とする物体を透過し
たX線の検出出力と前記目的とする物体以外の部分を透過したX線の検
出出力との間に明確な差異を有するX線画像を生成するという課題を有
している。一方,引用文献2においては,従来のX線撮影装置では「目的
とする臓器などを明瞭に表示するようにしたコントラストの高いX線像\nを得ることが難しい」(【0002】)という課題を有し,また,異なる波長
の単色X線を用いて得られたX線像の差分から目的とする部分を際立た
せて表示する方法を用いる場合,「異なる時刻に撮影したX線像の差分を\n取ると,位置がずれてしまい明瞭な動脈像を生成することができない」
(【0004】)という課題を有しているところ,引用文献2技術事項によ
り「それぞれピクセルへの入射X線量をカウントしカウント値の差分を取
ると,軟部組織や骨に吸収されたX線が相殺され血管部分のみに差が現れ
て冠状動脈のコントラストの大きな鮮明な映像を得ることができる」(【0
021】)としている。コントラストが大きなX線画像は,物体を透過した
X線の検出出力と目的とする物体以外の部分を透過したX線の検出出力
との間に明確な差異を有するものであるから,引用発明1と引用文献2技
術事項とは課題を共通するといえる。
さらに,引用発明1と引用文献2技術事項は,いずれも被測定物の中の
外から見えない物体を検出するために用いられるX線画像を形成し,当該
X線画像に基づいて検査を行うという作用・機能が共通するといえ,加え\nて,引用文献2には,「X線検出部11に1次元のリニアアレイを用いて1
次元走査して測定することもできる」【0014】ことが記載され,被測定
物を1次元走査してX線画像を得ることも示唆されており,引用発明1の
X線ラインセンサにより搬送される被測定物のX線画像とは,X線画像を
被測定物を1次元走査して生成するという点においても共通する。
以上のように,引用発明1と引用文献2技術事項との間に,技術分野,
解決課題及び作用機能に密接な関連性・共通性があることからすると,引\n用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせることに強い動機付けがあ
るといえる。
イ 前記第3の1(1)イ(ア)bのとおり,原告は,引用発明1のX線検査装置
は異物の有無を低コストで検査する分野の装置であり,簡易な検査作業の
実現を目的とするのに対し,引用文献2技術事項のX線検査装置は,コス
トを度外視して検査する分野の装置であり,被曝防止を目的とするもので
あるから,当業者は,異物検出の精度向上のためにわざわざ引用発明1に
引用文献2技術事項とを組み合わせたりする動機付けない旨主張する。
まず,引用文献2には,「撮影は1度で済み」(【0010】),「エネルギ
ーを変えて検査するときにも1度の撮影で済むので検査時間が短縮する
利点がある。」(【0022】)との記載があるが,それは副次的なものにす
ぎず,引用文献2技術事項の課題は,複雑で高価な装置を用いずにコント
ラストの高いX線像を得ることである(【0003】ないし【0007】,
【0010】,【0022】,【0024】)。したがって,引用文献2技術事
項のX線検査装置は,コストを度外視して検査する分野の装置であると認
めることはそもそも相当でない。また,引用発明1が,コンベア搬送路上
のワークの金属異物等の混入の有無を検査する異物検査装置であること
からして,引用発明1が製品製造現場用の装置であり,引用文献2の記載
上は,引用文献2技術事項が直接には医療用検査装置に用いることを想定
しているとしても,コストをどの程度かけるかということと技術分野とは
直結しないところ,製品の性質,製造現場の規模,製品の販路等も度外視
して,製品製造現場用の装置であれば,おしなべて性能の低い製品で足り,\n当業者は性能の向上には意を払わず,医療検査装置用の技術には関知しな\nいなどとは当然にいえることではなく,そのようにいえる証拠は提出され
ていない。
異物検査装置の異物検査の性能を向上させることは自明の要請ともいう\nべきところであり,前記アのとおり,引用発明1の異物検査装置に,技術
分野,課題・解決手段,作用・機能,効果とも密接に関連ないし共通する\n引用文献2技術事項を適用する強い動機付けがあるというべきである。
ウ 前記第3の1(1)イ(イ)aのとおり,原告は,1つの「設定時X線画像」
を基準とする引用発明1に,複数個の画像を基準とし,その基礎とする技
術的思想を異にする引用文献2技術事項を適用することには阻害要因が
ある旨主張する。
ここで,「設定時X線画像」とは,実検査前にサンプルを使用した検査に
おいて得られたX線画像データとして設定情報記憶部23に保持された
初期設定データの1つであり(引用文献1の【0052】ないし【005
5】),当該品種に設定された各種パラメータや検出条件及び判定条件にお
ける検査における代表画像とされ(【0042】),実検査時に実検査時のX\n線画像Wiと共に表示器26に表\示され,実検査中に両者を照合すること
により,検査の条件に実検査品が適合したものか否かを判定することや
(【0046】,【0059】ないし【0061】),品種選択操作を視覚的に
容易に把握することに役立てるものである(【0062】,【0063】)。
したがって,検査の目的に合わせたX線画像を得られるならば「設定時
X線画像」も同時に得られる関係にあるところ,引用文献2技術事項によ
ると複数のX線画像を生成することができ得るが,特に感度のよいエネル
ギー領域を選択して目的部位の像を鮮明化したり,異なるX線エネルギー
領域における出力信号の差分に基づいて画像化するなどして,最適な条件
で選んだ画像を1つ生成できることも明らかである。そして,当業者が,
異物検査の目的に応じて最適な画像を選択してそれを代表画像とするこ\nとができないとする理由もない。
そうすると,引用発明1のX線画像を得る手段として引用文献2技術事
項を適用することには,阻害要因はない。
エ 前記第3の1(1)イ(イ)bのとおり,原告は,低コストでの簡便・容易化
を目指す引用発明1に,高精度で複雑・高度な引用文献2技術事項を適用
することには,甲1発明の目的から乖離・矛盾するから阻害要因がある旨
主張する。
しかしながら,前記イにて説示したとおり,技術分野としての観点から
見た場合に,あたかもX線検査装置が低コストでの簡便・容易化を目指す
装置の分野の技術と複雑・高精度で複雑・高度な装置の分野の技術に二極
化していて,両者の技術が相容れないとは認められない。その上,引用文
献2技術事項の課題は,前記イのとおり,複雑で高価な装置を用いずにコ
ントラストの高いX線像を得ることであり,前記アのように,被測定物を
1次元走査して測定するような簡易な方法も示唆されている。また,引用
文献2に禁制品の有無を検査することもできるとの示唆があるからとい
って,引用文献2技術事項が空港や税関等で用いる検査装置のみに用いら
れる技術ととらえることは,同技術の正しい理解とはいい難い。
したがって,原告の上記主張は前提を欠くものであって,採用すること
ができない。
オ 以上のとおり,引用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせる動機付
けがあり,阻害要因があることもうかがわれないところ,引用発明1にお
いて,引用文献2技術事項に基づき,相違点1に係る本件発明1の発明特
定事項を得ることが容易であることは,本件決定が引用する取消理由通知
書が説示するとおりであり,誤りは認められない。
◆判決本文
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2021.10.28
平成29(ワ)1390 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年9月16日 大阪地方裁判所
パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟です。技術的範囲に属しないと判断されました。対象特許は7件です。多くは29条1項2号(公然実施)による権利行使不能です。事件番号が平成29・・なので、提訴から判決まで4年かかったことになります。委託者および受託者が原告となっています。
本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲の記載によれば,同発明に係るランプ
は,「基板を保持する金属製の基台」(構成要件 1-1F’)をその構成要素の1つとして備えるところ,「前記基台は,前記長尺状の底部と,前記底部の短手方向の一\n方の端部に設けられた第1壁部と,前記底部の短手方向の他方の端部に設けられた
第2壁部とを有し」(構成要件 1-1I’),「前記第1壁部及び前記第2壁部は,前
記底部の前記基板側に衝立状に形成されて」(構成要件 1-1J’)いることが特定さ
れている。
これによれば,基台の底部の短手方向の両端部にそれぞれ設けられた第1壁部と
第2壁部は,底部に対し基板側に形成されるものであり,その形状ないし状態が
「衝立状」であることが示されている。もっとも,いかなる形状等をもって「衝立
状」とするかについては記載がなく,その意味が一義的に明らかとはいえない。
イ 本件明細書1の記載等
「第1壁部」及び「第2壁部」について,本件明細書1【0055】には,第1基
台 50 が,長尺状の底部(底板部)と,底部における第1基台 50 の短手方向(基板
11 の幅方向)の両端部に形成された第1壁部 51 及び第2壁部 52 とを有すること,
これらの壁部は,第1基台 50 を構成する金属板を折り曲げ加工することによって衝立状に形成されていることが記載されている。また,同段落には,同明細書図\n3B と合わせ,LED モジュール の基板 11 は第1壁部 51 と第2壁部 52 とによっ
て挟持されており,LED モジュール は,第1壁部 51 と第2壁部 52 とによって
基板 11 の短手方向の動きが規制された状態で第1基台 50 に配置されることも記載
されている。本件訂正における本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J'の追加は,こ
の記載等を含む本件明細書1の記載による開示に基づいて行われたものである(甲
83)。
さらに,広辞苑(乙291)においては,「衝立」とは「衝立障子の略」であり,
「衝立障子」とは「屏障具の一。一枚の襖障子または板障子に台をとりつけ,移動
便ならしめたもの。・・・玄関・座敷などに立てて隔てとする。」と説明されている。
加えて,「衝立障子」は,一般に,それが設置される面に対して略直立するものと
把握される。他方,「状」とは,物事の形,姿,有り様,様子を意味し,「○○状」
とは,ある物事の形等を「○○」に例える際に用いられる表現である。以上の本件明細書1の記載等を踏まえると,第1壁部及び第2壁部は,基台の底\n部の基板側に衝立状に形成されることにより基板11を挟持し,短手方向の動きが
規制する機能を果たすものであるところ,その形状等は上記意味での「衝立障子」に例えられるものである必要があることが理解できる。\n
ウ 小括
以上より,本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲及び本件明細書1の記載等
並びに「衝立」の一般的な意味等に鑑みると,第1壁部及び第2壁部が「衝立状」
に形成されるとは,これらの壁部が基台の底部の基板側に,同底部に対して略直立
した形状に形成されていることを意味するものと解される。これに反する原告の主
張は採用できない。
(2) 被告製品1〜5,7〜10及び12の構成要件充足性
被告製品1〜5,7〜10及び12の断面図は,別添「被告製品断面図」のとお
りである。
このうち,被告製品4及び5については,第1壁部及び第2壁部に相当すると見
られる部位は,基台の底部から基板側に形成された基台の一部が内側に向けて鋭角
に傾斜した形状に形成されており,底部に対して略直立した形状とはいえない。
次に,被告製品1〜3,7〜10及び12については,第1壁部及び第2壁部に
相当すると見られる部位には,基台の底部から基板側に略直立といってよい形状に
延出している部分もあるものの,これと一体のものとして,基板とほぼ同じ高さで
基台の底部に平行に形成された部分もあるため,全体としては「コの字」又は「T
字」と表現すべき形状に形成されているものというべきであって,底部に対して略直立した形状に形成されているとはいえない。\nしたがって,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,第1壁部及び第
2壁部に相当すると見られる部位が底部の基板側に「衝立状」に形成されておらず,
本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J’を充足しない。
(3) 小括
以上により,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,本件訂正発明1
−1の技術的範囲に属しない。
4 充足論のまとめ
本件発明1−1,1−3,1−16及び1−17及び並びに本件訂正発明1−1
7につき,対象となる各被告製品が各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属することは,前記(第1の5)のとおりである。\nまた,本件発明1−14並びに本件訂正発明1−18及び1−20については,
前記2のとおり,被告製品1〜5,7〜16は,対応する各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属すると認められる。\n他方,本件訂正発明1−1については,被告製品1〜5,7〜10及び12は,
いずれもその構成要件 1-1J'を充足せず,その技術的範囲に属しない。したがって,
本件訂正発明1−1については,その余の点を論ずるまでもなく,訂正の再抗弁は
認められない。
5 403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10)
事案に鑑み,まず,403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10)について検
討する。
(1) 403W 製品の先使用について
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
(ア) 被告は,平成24年4月23日頃,韓国で製造された 403W 製品480セッ
トを輸入した(乙143,315)。
(イ) 被告は,同月25日,ミツワ電機株式会社関西支社に対し,403W 製品24
台を含む商品の見積書を作成,送付し,同月26日,同社関西特機営業所から受注
して,同月28日,これを井づつやに納品した(乙167,168)。
その後,井づつやに納品された上記 403W 製品24台は,同所のエントランスロ
ビー等において使用されていたところ,被告は,平成30年7月23日までに,井
づつやからこれを入手した。この被告 403W 製品には,製造ロット番号として
「120416」が表示されているところ,これは,当該製品の製造年月日が平成24年4月16日であることを意味する。(乙166,弁論の全趣旨)\n
(ウ) 被告は,本件チラシ(平成24年1月発行)に,平成24年3月初旬発売予定の商品として 403W 製品を掲載した(乙138)。また,被告は,本件カタログ
(同年2月発行)にも 403W 製品を掲載したところ,他の掲載商品には発売予定時期を明記したものが見られるが,403W 製品にはそのような記載はない(乙35)。
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,被告は,遅くとも本件優先日である
平成24年4月25日以前に,403W 発明の実施である事業をしていたことが認め
られる。
(2) 403W 発明の構成等
ア 403W 発明の構成のうち,上記第2「10」(被告の主張)(3)における構成 1-
3a10〜c及び e並びに 1-14a10〜f及び hについては,原告 PIPM も明ら
かには争わないから,これを認める。
上記構成 1-3a10〜c及び eは,本件発明1−1の構成要件 1-1A〜C 及び E,
本件発明1−3の構成要件 1-3A〜C 及び E,本件発明1−16の構成要件 1-16A〜
C 及び F,本件発明1−17の構成要件 1-17A〜C 及び E 並びに本件訂正発明1−
17の構成要件 1-17B’〜D’にそれぞれ相当するものといえる。また,構成 1-14a10
〜f及び hは,本件発明1−14の構成要件 1-14A〜E,G 及び本件訂正発明
1−18の構成要件 1-18B’〜F’,I’にそれぞれ相当するものといえる。
さらに,403W 製品は,直管形 LED ユニットであり,樹脂(ポリカーボネート)
製カバー(筐体)の長手方向の両端に口金が設けられているところ,その一方には
電源内蔵ユニット用専用口金を備え,この口金のみが,電源内蔵用専用ソケット(給電側)を通じて交流電力を受けるものである(乙35,299)。そうすると,\n403W 発明は,本件発明1−16の構成要件 1-16E 並びに本件訂正発明1−17の
構成要件 1-17E’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18G’,H’に相当する構成を備えていることが認められる。\n加えて,403W 製品は,既存の器具本体をそのまま残し,専用ソケット及び直管形LED ユニットをリニューアルして照明装置として使用する製品シリーズに含まれる製
品である(乙35)。したがって,ランプである 403W 製品に係る発明(403W 発明)
は,そのランプが取り付けられた照明装置に係る発明に含まれるといえる。このため,
403W 発明は,本件発明1−17の構成要件 1-17F,本件訂正発明1−17の構成要件 1-17A’及び G’並びに本件訂正発明1−18の構成要件 1-18A’及び K’に相当する構成を備えていることが認められる。
イ 403W 製品の輝度均斉度等
(ア) 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
a LED モジュールの寿命は,製造業者等が指定する条件下で点灯したとき,
LED モジュールが点灯しなくなるまでの総点灯時間,又は全光束が点灯初期に測
定した値の70%に下がるまでの総点灯時間のいずれか短い時間とされているとこ
ろ,高光束 LED を1万時間連続通電してその光出力の変化を調査した実験データ
によれば,1チップ方式の白色 LED の寿命(光出力が70%になる時間)は4万
5000時間と推定されるとの実験データがある。なお,原告パナソニックのカタログ(乙34)には,直管形 LED ランプについて,4万時間経過後の光束維持率
が95%であることが示されている。
また,LED を連続的に点灯し続けると,LED チップを封止する樹脂(以下
「LED 樹脂部」という。)が黄変し,光量の低下を招くことがある。さらに,LED
照明は,使用する場所の環境温度が高くなるほど劣化が加速されると共に,使用環
境下に硫化ガス等の発生要因がある場合,LED 樹脂部及び接合部にダメージを与
えることなどによっても,劣化が加速する場合がある。
(以上につき,上記のほか,甲37〜39)
b 被告 403W 製品は,平成24年4月28日の井づつやへの納品後,被告が平
成30年7月に入手するまで,6年以上の間継続的に使用されていたものと見られ
るところ,その LED 素子の中央部分はやや黄変しており(乙217,218),
カタログに記載された初期値を100%とした場合の被告 403W 製品の全光束(全
ての方向に放出する光束の総和)は89.0%,光効率は92.6%に減少してい
る(乙216)。もっとも,被告 403W 製品の LED1個あたりの配光データは,
新品の LED の配光データが概ね120度(ランバーシアン配光の場合)であるの
に対し,114度及び115度である(乙214,215の3,215の4)。
また,403W 製品のカバーと 402W 製品のカバーは,共通の部材(ポリカーボネ
ート)を使用した同じ仕様のものであると認められるところ(乙35,298,2
99,315),被告 403W 製品と未使用の 402W 製品について,それぞれカバー
を交換して全光束及び y/x 値を測定した結果,いずれも交換せずに測定した結果と
の差は,1%以下(全光束)及び0.01(y/x 値)であった(乙316〜318,
弁論の全趣旨)。
(イ) 以上の事情を踏まえると,被告 403W 製品の LED 素子は,6年以上使用を
継続されているものであり,LED 樹脂部の黄変及び全光束や光効率の減少は生じ
ているものの,その配光特性は,初期値(ランバーシアン配光)と大きく異ならず,
著しい経時変化は見られないものといってよい。403W 製品の光拡散性を有するカ
バー部分についても,被告 403W 製品には,上記継続使用期間にもかかわらず,全
光束や y/x 値の測定値に影響を与えるような劣化等が生じているとはいえない。
そうすると,被告 403W 製品について,被告が平成30年7月23日に測定した
y 値=15.7mm,x 値=11.7mm,y=1.34x との測定結果(乙166)及び令和2年1
月29日に測定した y 値=15.6mm,x 値=11.7mm,y=1.33x との測定結果(乙29
7)は,いずれも 403W 製品の初期値とほぼ同等のものと見るのが相当である。
(ウ) そうすると,403W 発明は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン
プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合
う前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y=15.7mm,x=11.7mm
であり,y=1.34x」との構成すなわち構\成 1-3d及び 1-14g10)を有するといえる。
したがって,403w 発明は,本件発明1−1の構成要件 1-1D,本件発明1−3の
構成要件 1-3D,本件発明1−14の構成要件 1-14F,本件発明1−16の構成要素 1-16D 及び本件発明1−17の構成要件 1-17D 並びに本件訂正発明1−17の
構成要件 1-17F’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18J’に相当する構成を有していると認められる。\n
ウ 以上より,403W 発明は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1
−18の構成要件を充足する構\成を備えたものであり,これらの各発明と同一性が
認められる。
エ 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告 403W 製品について,長時間の使用による経年変化,LED
素子の樹脂やせや黄変,使用環境の影響等により,被告測定時点での被告 403W 製
品の y/x 値等が初期値のものと同等とはいえない旨を主張する。
しかし,上記のとおり,被告 403W 製品については,長時間の使用による経年変
化等により,LED 素子の中央部に黄変が見られ,また,カタログ値と比較して全
光束や光効率が10%程度減少しているという事実は認められるものの,それ以上
に,LED 素子の劣化(凹み)をはじめ,配光特性に影響を及ぼし得るような LED
素子の劣化等を裏付ける具体的な事情は見当たらず,カバー部材についても,y/x
値等に影響を与えるような劣化が生じているといった事実の存在を具体的にうかが
わせる事情は見当たらない。本件交換実験の結果に関しても,上記のとおり,交換
に係る製品が共通の部材を使用した同じ仕様のものであると認められることに鑑み
ると,原告 PIPM が指摘する事情を考慮しても,その結果の信用性を直ちに疑うべ
きものとまではいえない。
その他原告 PIPM が縷々指摘する事情を踏まえても,この点に関する原告 PIPM
の主張は採用できない。
(3) 先使用権の範囲
上記(1)及び(2)によれば,被告は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及
び1−18の内容を知らないで自らこれらに含まれる 403W 発明をし,本件優先日
の際に,日本国内において,その発明の実施である事業をしている者と認められる。
したがって,被告は,403W 発明及び上記事業の範囲内において,本件各発明1並
びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る特許権について,通常実施権を有す
る。
また,403W 製品は,x 値及び y 値の関係性を特定する技術的思想が明示的ない
し具体的にうかがわれるものではないものの,実際にはその x 値及び y 値の関係性
により,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る構成要件に相当する構\成を有し,その作用効果を生じさせている。加えて,403W 発明につき,
照明器具としての機能を維持したまま,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18の特定する x 値及び y 値の関係性を充たす数値範囲に設計変更するこ
とは可能と思われる。このため,被告製品1〜5及び7〜16は,いずれも,403W 発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式であるにとどまる
ものといえる。
そうすると,被告による被告製品1〜5及び7〜16の製造販売は,被告の上記
通常実施権の及ぶ範囲内に含まれる。
(4) 小括
以上のとおり,被告は,403W 発明に基づく上記通常実施権により,業として被
告製品1〜5及び7〜16を製造販売し得ることから,その余の点につき論ずるま
でもなく,原告 PIPM は,被告に対し,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17
及び1−18に係る本件特許権1を行使し得ない。
6 無効理由9(クラーテ製品2)の公然実施による新規性欠如)の有無(争点12)
(1) 公然実施の有無
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
(ア) リコーは,平成23年7月7日,直管形 LED ランプである「クラーテ P シ
リーズ40形」を同月末発売予定である旨をプレスリリースした。また,同社は,平成24年1月現在の製品を掲載したカタログ「<クラーテ>P シリーズ」(乙1
71の1)にクラーテ製品2)を掲載しているところ,同カタログ掲載の仕様は,上
記プレスリリースに係る製品の仕様と概ね同一である。さらに,同社は,遅くとも
同月には,クラーテ製品2)を含むシリーズ製品を販売していた。(上記のほか,乙
170,172,173,368)
(イ) 被告は,令和元年9月12日終了のオークションにより,クラーテ製品2)1
4本(被告クラーテ製品2))を入手したところ,これらの被告クラーテ製品2)には,
いずれも,製造ロット番号として「1203」が表示されている。これは,当該製品の製造年月が平成24年3月であることを意味する。(乙172,174,186,\n288)
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,クラーテ製品2)は,遅くとも平成2
4年1月頃には,リコーから販売されたことによりその構造が解析可能\な状態に至
ったものと認められる。
これに対し,原告 PIPM は,クラーテ製品2)の上市時期が明らかでないこと,仮
に被告クラーテ製品2)の製造日が平成24年3月であっても,製品製造後すぐ出回
るとは考えがたいことなどを主張する。
しかし,上記のとおり,リコーがクラーテ製品2)を平成24年1月には販売して
いたことが認められるのであって,それから約3か月が経過した本件優先日時点で
は,クラーテ製品2)が実際に市場に出回っていたものと見るのが合理的かつ相当で
ある。したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
ウ 小括
以上より,クラーテ発明2)は,本件優先日より前に日本国内において公然実施を
された発明といえる。
(2) クラーテ発明2)の構成等
ア クラーテ発明2)が構成 1-20a’12〜f’12 及び h’12 を有すること,これらの構成がそれぞれ本件訂正発明1−20の構\成要件 1-20A’〜F’及び H’に相当すること
については,原告は明らかに争わないことから,これを認める。なお,本件訂正発
明1−20の構成要件 1-20D’の「「基台の上に実装された」の意義について,
LED チップが実装された容器が基板を介して間接的に実装された構成を含むことは上記2のとおりである。\nイ 被告クラーテ製品2)14本の構成 1-20g’12 に係るパラメータ(y/x)の被告
測定値は,1.208〜1.278 であった(乙289)。また,関連無効審判における検
証手続の結果によれば,被告クラーテ製品2)は,x 値は 8.6mm,y 値は 10.39mm
であり,y≒1.208x であった(乙346,365,弁論の全趣旨)。
そうすると,クラーテ発明2)は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン
プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合う
前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y≒1.208x の関係である」(構成 1-20g’12)の構成を有するものと認められる。この構\成は,本件訂正発明1−20
の構成要件 1-20G’に相当する。
(3) したがって,本件訂正発明1−20は,本件優先日より前に日本国内におい
て公然実施をされた発明であるクラーテ製品2)に係る発明と同一の発明であるから,
法29条1項2号に違反し,無効にされるべきものと認められる。すなわち,本件
訂正発明1−20に係る本件訂正によっては無効理由が解消されないことから,本
件訂正発明1−20に係る訂正の再抗弁は認められない。
(4) 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告測定値のばらつきや経年変化等の事情を指摘して,被告測定
値が初期値と等しいとはいえない旨を主張する。
この点,被告クラーテ製品2)については,オークションの出品者による説明とし
て,中古品であること,商品の状態として「やや傷や汚れ」があること,使用期間
が2年弱であること,電気工事業者による取り外し作業の際に「ざっくりと中性洗
剤で管だけ拭きあげた状態」で丁寧な梱包により発送すること,「RICOH ロゴマ
ークあたり」が黒ずんで見えるものの,LED は使用が進んでも黒ずむことはない
ため元々の仕様であることなどが記載されている(乙288)。
もっとも,クラーテ製品2)は,光束が70%まで低下するまでの定格寿命が4万
時間とされている(乙170の3,171の1)。このため,被告クラーテ製品2)
につき,仮に25%に相当する1万時間使用された事実があったとしても,配光特
性に影響を与えるとは必ずしもいえず,現に,被告クラーテ製品2)のうち2本の配
光特性はいずれも117度である(乙320)。口金ピンやランプマーク側の管端
部の黒ずみについても,その存在から直ちに他の部位にも同様の黒ずみが存在し,
配光特性に影響を与えるとは必ずしも推認し得ないことから,同様である。また,
クラーテ製品2)については,光触媒の膜が剥がれて本来の効果が得られなくなる場
合があるとして,製品の表面を強く擦らないようにとの注意喚起がされているものの(乙170の3),「ざっくりと中性洗剤で」「拭き上げ」るといった態様がこ\nれに含まれるとは考えられない。むしろ,LED ランプの手入れ方法としてこのよ
うな方法が奨励されているとも見られる(乙35)。さらに,被告クラーテ製品1)
(乙169,214,215によれば,未使用品と認められる。)と被告クラーテ
製品2)のカバー部材を交換した測定によっても,両者の半値幅等に有意な差異はな
い(乙370)。
これらの事情等を踏まえると,被告クラーテ製品2)につき,経年変化等によりパ
ラメータの値に変化が生じているとは考えられず,上記(2)での認定に係る被告ク
ラーテ製品2)の被告測定値及び関連無効審判の検証手続における測定値は,初期値
と概ね等しいものと見られる。
したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
7 まとめ
以上のとおり,本件各発明1(並びに本件訂正発明1−17及び1−18)に係
る本件特許権1に基づく原告 PIPM の請求については,被告に 403W 発明に基づく
先使用権が成立することにより,原告 PIPM は,被告に対し,本件特許権1を行使
し得ない。他方,本件訂正発明1−1に係る訂正の再抗弁は,被告製品1〜5,7
〜16がその技術的範囲に属さないことにより,また,本件訂正発明1−20に係
る訂正の再抗弁は,クラーテ発明2)の公然実施を理由とする新規性欠如の無効理由
があり,本件訂正によって無効理由が解消されないことにより,いずれも再抗弁の
成立が認められない。
以上より,その余の点について論ずるまでもなく,被告による本件特許権1の侵
害は認められないから,原告 PIPM の本件特許権1の侵害に基づく請求は,いずれ
も理由がない。
◆判決本文
◆添付1
◆添付2
◆添付3
◆添付4
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2021.10.19
令和2(行ケ)10103 特許権 行政訴訟 令和3年10月6日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、動機付けがないとして取り消されました。引用文献における「演色性」は本件とは意味が異なるという認定です。
ア 甲1発明の課題の認定について
(ア) 黄色の発色
甲1には,「イエロー系」,「イエローとライトイエローの違いが分かり
づらいです。」(4頁の上から5枚目の写真の上下)と記載されていると
ころ,この記載からは,甲1製品において,「イエロー」と「ライトイエ
ロー」の色の相違が判別し難いという問題があることは認められる。し
かし,上記の記載の前提として,「イエロー」は,色票等ではなくペンラ
イトの「ライトイエロー」との比較がされているにとどまる上(上記写
真),色の相対的な判別の問題と,一般的に各色の基準とされている色(色
票の該当色)にどれだけ近い色を出しているかという発色の問題は異な
るから,「イエロー」と「ライトイエロー」の色の相違が判別し難いとい
う上記の問題は,「イエロー」が一般的に黄色の基準とされている色にど
れだけ近い色を出しているかという発色の問題とは異なる。
本件審決は,「それら『イエロー』及び『ライトイエロー』の各発色に
ついて検討するに,p.4-写真には,写真中央に位置する4本のペンライ
トの他に,その左側に2本(『亜美・真美』及び『小鳥』),右側に2本(『ル
ミスティック』及び『大電光改』)の計4本の他のペンライトが色比較の
ために配置されているところ,上記写真中央の4本(甲1発明)の『イ
エロー』の発色は,上記他の4本のペンライトの黄色の発色とは異なり,
むしろ p.4-6 写真((摘示(1q))示されるオレンジ系の色に近い発色
となっている。」(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)ア(ア) 〔本件
審決47頁〕)と述べ,甲1の写真を根拠として,甲1製品の「イエロー」
とされる黄色の発色自体に問題があるという認定をしている。本件審決
が,甲1サイトのアドレスにアクセスの上,ディスプレイ上に表示され\nた写真(画像)に基づいて上記認定をしたのか,又は用紙に印刷された
写真に基づいて上記認定をしたのかは,本件審決の記載からは直ちには
明らかでないが,仮に,前者であるとした場合,ディスプレイに表示さ\nれる色の発色は,ディスプレイ自体の性能や調整に依存するものである\nし,また,後者であるとした場合でも,紙に印刷される色の発色は,紙
の品質やプリンタの性能や調整に依存するものであり,さらにいえば,\n写真を撮影したカメラの性能や調整によっても発色は相違するものであ\nるから,いずれにしても,実際の甲1製品の発色とディスプレイ上の表\n示又は印刷されたものの発色は,必ずしも同じとは限らない。また,甲
1製品と対比された他社のペンライトが,甲1製品よりも,一般的に黄
色の基準とされている色に近いことを裏付ける客観的な証拠はない。そ
のため,甲1の写真に基づいて,「イエロー」が一般的に黄色の基準とさ
れている色にどれだけ近い色を出しているかを判断することはできず,
甲1の写真を根拠に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題がある
と認定することはできない。
その他の甲1の記載によっても,甲1に,「イエロー」とされる黄色の
発色自体に問題が内在しているという課題が示されていると認めること
はできない。
そうすると,「イエロー」と「ライトイエロー」の各発色の色の違いを
明確に識別することができないという問題は,「イエロー」とされる黄色
の発色自体に問題が内在しているということもできるとする本件審決の
判断(前記(3)ア(ア))は誤りである。
(イ) 演色性
本件審決が甲1発明の課題に関して認定する「演色性」は,発色のバ
ランスを崩れないようにすることや,全体が綺麗に光るようにすること
(前記(3)ア(イ)),多くの色彩の選択肢を提供すること(前記(3)(ウ)。
本件審決は,第6,2,2−1(2)(2−1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で,
甲10に記載されているように周知の課題といえると認定する。)であり,
甲2に記載された技術事項として認定された「演色性」,すなわち,照明
された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという,一般的な意味
での「演色性」(前記(3)イ(イ))とは異なる。
イ 甲2に記載された技術事項の認定
前記(3)イ(イ)のとおり,甲2に記載された技術事項として認定された「演
色性」は,照明された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという,
一般的な意味での「演色性」であるものと認められる。
ウ 相違点1に係る本件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及び\nその「発光色」の容易想到性
前記(2)のとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,技術分野が
完全に一致しているとまではいえず,近接しているにとどまるから,甲1
発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を想到すること
が容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採
用するについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付け
があり,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を容
易に想到することができたと判断する前提として,甲1発明に,「イエロー」
とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があり(前記(3)
ア(ア)),甲1発明に,演色性を向上させるという,甲2と共通の課題があ
ると認定した(前記(3)ア(イ),(ウ))。しかし,前記ア(ア)のとおり,甲1発
明に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課
題があるとする本件審決の認定は誤りであるし,また,本件審決が甲1発
明の課題に関して認定する「演色性」(本件審決が第6,2,2−1(2)(2
−1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で,甲10に記載されているように周知の
課題といえると認定する事項を含む。)は,甲2に記載された技術事項とし
て認定された「演色性」,すなわち,照明された物体の色が自然光で見た場
合に近いか否かという,一般的な意味での「演色性」とは異なる(前記ア
(イ))。
そうすると,本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用
する動機を基礎づける甲1発明の課題の認定を誤っているものであり,ま
た,甲2に記載された技術事項の内容(前記(1)),甲1発明と甲2に記載さ
れた技術事項の技術分野相互の関係(前記(2))を考慮すると,甲1発明に
は,甲2に記載された技術事項と共通する課題があるとは認められず,そ
のため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがある
とは認められない。
したがって,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲
10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ
とができたとは認められず,これを容易に想到することができたとする本
件審決の判断(前記(3)ウ(ア))は誤りである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲
10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ
とができた(前記(3)ウ(ア))という判断を前提として,甲1発明に甲2に記
載された技術事項及び周知の課題(甲10)を採用し,本件発明1の構成\nのうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容易に想到するこ
とができた(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)イ(ア)〔本件審決48
〜50頁〕)と判断するところ,その前提とする判断が誤っているから,本
件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容\n易に想到することができたという判断も誤りである。
エ 黄色発光ダイオードの単独発光色及び混合発光色の容易想到性
前記ウのとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項との間には課題
の共通性がなく,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付
けがあるとは認められないが,念のため,仮にそのような動機付けがある
として,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することにより,黄
色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及
び前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオード
から発せられる光が混合することにより得られる発光色という,相違点1
に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかについて検討\nする。
甲2には,前記(1)認定のとおり,カード型LED照明光源10に実装さ
れるLEDを,相関色温度が低い光色用又は相関色温度が高い光色用や青,
赤,緑,黄など個別の光色を有するものとすることができること(段落【0
080】)が記載されているが,当該事項に係る実施の形態1に関連する段
落【0076】ないし【0080】の記載全体をみても,青,赤,緑,黄
など個別の光色のうちからいずれか1色の単色LEDのみを搭載したLE
D光源により青,赤,緑,黄などいずれかの個別の光色を発光するという
意味なのか,複数色のLED光源を搭載して青,赤,緑,黄などの個別の
光色となるように制御するという意味なのか必ずしも判然としない。段落
【0080】に続いて,段落【0081】の前半において「更に,多発光
色(2種以上の光色)のLEDをカード型LED照明光源10に実装する
ことにより,・・・この場合,2種の光色を用いた2波長タイプのときには」
との記載が続くことに照らせば,段落【0080】の上記記載は,前者の
意味,すなわち,1種の光色を用いた1波長タイプを意味し,黄色の単色
LEDを搭載したLED光源により黄色の光色を有するという意味と解す
ることはできる。しかし,本件発明1は,赤色発光ダイオード,緑色発光
ダイオード,青色発光ダイオード,黄色発光ダイオード及び白色発光ダイ
オードを備え,複数得られる特定の発光色として,少なくとも,黄色発光
ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色の他に,黄色発
光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオー
ドから発せられる光とを混合して得られる発光色が得られなければならな
いところ(相違点1),前者の意味であるとすれば,上記の混合して得られ
る発光色が容易想到であるとはいえない。他方,仮に後者の意味だとして
も,甲2には,複数色のLED光源に黄色のLEDを含んでいるとの直接
的な記載はないから,黄色以外のLED光源によって黄色の光色を得てい
る可能性も否定できず,黄色のLEDの単独発光が容易想到であるとはい\nえない。
さらに,前記(1)イで認定したとおり,甲2には,3種の光色を用いた3
波長タイプの場合は青と青緑(緑)と赤発光の組合せ,4種の光色を用い
た4波長タイプの場合は青と青緑(緑)と黄(橙)と赤発光の組合せが望
ましく,特に4波長タイプのときには平均演色評価数が90を超える高演
色な光源を実現できること(段落【0081】)が記載されており,演色性
を向上させるためにRGBY(赤,緑,青,黄)4種類のLEDを用いる
ことが記載されているが,これらの記載は,一般的な意味での演色性の向
上に関するものであるから,これらの記載からは,RGBY4種類のLE
Dを用いた照明装置において,黄色のLEDを単独発光させることが客観
的かつ具体的に把握できるものとは認められない。
また,甲2には,RGBWY(赤,緑,青,白,黄)の5種類のLED
を用いることが,段落【0065】や【0189】に記載されているが,
具体的な記載としては電源に関する説明があるのみで,これらの記載から
は,RGBWYの5種類のLEDを用いた照明装置において,黄色LED
を単独で発光させることやその他の色と混ぜて発光色を制御することは,
客観的かつ具体的に把握することはできない。
そうすると,仮に甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機
付けがあり,甲2に記載された技術事項を甲1発明において採用し,甲1
発明において黄色発光ダイオードを備えたとしても,黄色発光ダイオード
が単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び,前記黄色発光
ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる
光が混合することにより得られる発光色という,相違点1に係る本件発明
1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n
なお,本件発明1は,黄色LEDを追加した上で,白色LEDとそれ以
外の1つ又は2つのLEDから発せられる光が混合して発光色を得,黄色
LEDとそれ以外の1つ又は2つのLEDから発せられる光が混合して
発光色を得るとの構成をとることによって,電圧が低下した状態において\nも発色のバランスを保つことができるもの(本件特許の明細書の段落【0
007】,【0009】,【0010】,【0013】〜【0017】,【002
1】,【0033】,【0034】)であり,このような発明の効果は,甲1発
明及び甲2に記載された技術事項から予測できるものとはいえないから,\nこの点からしても,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用すること
によって本件発明1を容易に想到することができたとは認められない。
◆判決本文
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2021.10.19
令和2(行ケ)10123 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年10月7日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決に対して、知財高裁は一致点の認定誤りを理由として審決を取り消しました。
(3) 本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御回路」の対比
ア(ア) 本願発明の制御装置は,「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再
水和間隔を提供するために」,「燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように
構成される」ものである。\n
(イ) 本願発明の特許請求の範囲の請求項1の文言や本願発明が燃料電池に係るも
のであることのほか,前記1(2)の本願発明の概要からして,上記のうち「燃料電池
スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」については,燃
料電池の良好な動作のために,膜/電極接合体(MEA)が好適に水和された状態
とすべく,MEA内の水分量を積極的に増加させるという目的をいうものと解され
る。この点,本願明細書の段落【0036】及び【0037】には,「再水和間隔」
が,燃料電池カソードにおいて過剰な水を産生して燃料電池における膜の水分量を\n増加させる短い期間であって,燃料電池上の外部電気負荷及び温度などのその環境
動作条件に基づき有効であるレベルを超えて,水和レベルを増加させるために,燃
料電池アセンブリがその動作環境を能動的に制御する期間である旨が記載されてい\nるところである。
そして,「燃料電池スタックを通る空気流動を調節する」については,上記目的の
ために,膜の含水量の低下等をもたらし得る空気流動を調節することをいうものと
解される。
イ 引用発明の短絡制御回路は,「燃料電池の負の水和降下現象を防止するため
に」,「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」ものであるところ,このうち「負
の水和降下現象」の意味内容については,前記2(3)イで検討したとおりである。そ
して,その意味内容を踏まえると,「負の水和降下現象を防止する」とは,基本的に,
MEAにおける水和の損失が,熱の発生につながり,それが薄膜電極アセンブリの
乾燥につながるといった状態を停止させる,又は抑制することをいうものと解され
る。
そして,「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」については,上記目的のため
に,燃料電池の発熱につながる燃料ガスの供給を停止することをいうものと解され
る。
ウ(ア) 上記ア及びイによると,本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御
回路」は,MEA内の水分量を積極的に増加させることを目的とするか,MEAに
おける水和の損失等を停止させる,又は抑制することを目的とするにとどまるかと
いった点において異なるとともに,燃料電池のカソード側で水分の低下につながり\n得る空気流動を調節するか,アノード側で熱の発生につながる燃料ガスの供給を停
止するかといった点においても異なっている。
(イ) もっとも,上記のうち後者の点については,本件審決は,「空気流動を調節す
る」ことと「燃料ガスの供給を停止する」ことを「気体流動を調節する」とした上
で,相違点2を認定しており,その認定判断に誤りがあるとはいえない。
エ 他方で,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路について,「所定条件
で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して」,気体流動を調節するよ
うに構成される「制御装置」であるという点で一致するとした本件審決の判断に誤\nりがあるとは認められない。
オ 以上によると,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路が,「水和レベ
ルを増加させる再水和間隔を提供するために」という点で一致しているとした点に
おいて,本件審決には誤りがある。
カ 原告は,本願発明の制御装置が短絡制御を行うものではない旨を主張するが,
短絡制御の点は一致点として認定されておらず,原告の上記主張は当を得ないもの
である。また,原告は,引用発明における燃料ガスの供給の停止が「流動を調節す
る」に当たらないと主張するが,甲3の段落【0023】には,燃料電池10への
燃料ガス105の供給を停止するような位置にバルブ104をすると同時に,電気
的スイッチ124を閉鎖電気状態にする旨の記載がある一方,本願明細書の段落【0
010】には空気流動をゼロまで減少させることについて記載があり,これらの記
載も踏まえると,両者は,対象となる気体以外の点で実質的に相違するものとは認
められず,いずれも気体流動の調整を行うとの概念の範囲で一致するものといえる。
さらに,原告は,「所定条件」の内容が本願発明と引用発明とで全く異なる旨を主張
するが,本件審決が認定した相違点1及び2のほか,前記ウ(ア)で指摘した本願発明
の制御装置と引用発明の短絡制御回路の目的の相違があることに加え,別途,それ
らの動作に係る所定条件に関して相違点を認定すべきものとは認められない。
キ(ア) 被告は,燃料電池においてイオン交換膜の含水量が減少する一般的な原因
について主張した上で,引用発明においても,薄膜電極アセンブリの水和レベルが
増加することは明らかであると主張する。
しかし,被告の上記の主張のうち,単に薄膜電極アセンブリの含水量の減少量が
小さくなることをいうにすぎないもの(含水量の積極的な増加を意図した制御を行
っているものではない。)は,前記ウ(ア)の判断を左右するものではない。この点,
被告は,燃料電池内の発熱が収まることで,それまでの発電で生じた水や空気中に
含まれる水蒸気によって水和レベルが増加することも主張するが,当該主張を裏付
ける証拠や,そのような技術常識を直ちに認めるに足りる証拠は見当たらない。
(イ) 被告は,本願発明における水和レベルの増加のメカニズムが明確でなく,本
願の実施例で実行される制御で水和レベルが増加するのであれば,引用発明でも同
様であるという旨を主張するが,本願発明における「燃料電池スタックの水和レベ
ルを増加させる再水和間隔を提供するために」の意味内容については,前記ア(イ)で
認定判断したとおりであって,そのメカニズムが明確か否かという点は,直ちに本
願発明と引用発明の一致点及び相違点の判断に影響を与えるものではない。
(4) まとめ
ア 以上によると,本願発明と引用発明は,次の一致点で一致し,本件審決が認
定した相違点1及び2のほか,次の相違点3及び4で相違するというべきである。
(一致点)
「燃料電池システムであって,
第1の燃料電池スタックと,
前記第1の燃料電池スタックと直列の,第2の燃料電池スタックと,
前記第1の燃料電池スタックと並列の,第1の電子部品と,
前記第1の燃料電池スタックの水和状態を調整するために,所定条件で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記第1の燃料電池スタックを通る気体流動を調節するように構成される,制御装置と,
を備える,前記燃料電池システム。」
(相違点1)
所定条件に関し,本願発明は,「定期的に」であるのに対し,引用発明は,「燃料
電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合」である点。
(相違点2)
気体流動の調節に関し,本願発明は,気体は空気であるのに対し,引用発明は,
気体は燃料ガスである点。
(相違点3)
第1の電子部品に関し,本願発明は,電子部品は整流器であるのに対し,引用発
明は,電子部品は電界効果トランジスタである点。
(相違点4)
燃料電池スタックの水和状態を調整するために関し,本願発明は,水和レベルを
増加させる再水和間隔を提供するためであるのに対し,引用発明は,負の水和降下
現象を防止するためである点。
イ その上で,後記5の点も踏まえると,少なくとも相違点4の看過は,本件審
決の取消事由に当たるというべきである。
5 容易想到性の判断について
(1) 相違点1,2及び4は,いずれも本願発明の「制御装置」又は引用発明の「短
絡制御回路」に関するもので,技術的構成として相互に関連するものといえるから,\n以下,一括して検討する。
(2)ア 前記4(3)イからすると,引用発明が「燃料電池の出力電圧が0.4Vよ
り低くなる場合」に「燃料ガス」を調節する目的は,主として熱の発生を抑えるこ
とで「負の水和降下現象を防止する」ためであり,これは,甲3にいう「第1の動
作条件」(甲3の段落【0024】)に係るものである。
他方で,甲3には,「第2の動作条件」として,燃料電池の特性パラメータを回復
させる構成が記載されている(甲3の段落【0025】〜【0027】)。\nこのように,二つの条件に係る構成があることに加え,甲3の段落【0001】,\n【0009】,【0023】,【0029】及び【0030】の記載並びに【図4】に
照らし,上記「第1の動作条件」が,基本的に,「燃料電池が故障した際」(同【0
001】。【図4】にいう「欠陥は重大」である場合である。)に係るものとみられる
ことからすると,相違点1,2及び4に係る引用発明の構成は,燃料電池の故障を\n示すものとみ得る状態を具体的に検知し,負の水和降下現象を防止するために,燃
料ガスの供給を停止して熱の発生を抑えるためのものと解するのが相当である。
イ 上記のような燃料電池の故障を示すものとみ得る状態を具体的に検知したと
の引用発明に係る「燃料電池の出力電圧が0.4Vより低くなる場合」の動作につ
いて,実際の出力が閾値以上に変化しているか否かにかかわらず,これを「定期的
に」行うことを想到することが,当業者において容易であるとはいい難いというべ
きである。甲3に,引用発明に係る燃料ガスの供給の停止を定期的に行うこととす
る動機付けや示唆があるとは認められない。甲3の段落【0024】には,第1の
動作条件について,「約0.4Vより低い範囲に低下する場合」以外の記載があるが,
そこで挙げられている他の特性パラメータも,燃料電池の故障を示すものとみ得る
状態の検知の範疇に止まるものである。燃料電池の保湿レベルを周期的に増加させ
ることに係る周知の事項(甲4[前記3(1)],甲5[前記3(2)])を参照しても,
上記判断は左右されない。
上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
ウ また,引用発明が,上記アのように,主として熱の発生を抑えることを目的
としたものであることを考慮すると,「気体流動を調節する」ことについて,引用発
明から,燃料電池の乾燥につながり得る一方で冷却効果をも有する空気の流動(本
願明細書の段落【0006】参照)を停止することを,当業者が容易に想到し得た
ということも困難である。甲3に,空気の流動を調節することの動機付けや示唆が
あるとは認められない。
上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
(3) 以上によると,相違点1,2及び4に係る本願発明の構成が引用発明に基づ\nいて容易に想到できたものとは認められないから,相違点1及び2について容易想
到と判断した点において,本件審決には誤りがあるというべきである。
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2021.10.14
令和2(行ケ)10103 特許権 行政訴訟 令和3年10月6日 知的財産高等裁判所
内在する課題が共通するとして進歩性無しとした審決が、課題の認定が誤っているとして審決を取り消しました。
ウ 相違点1に係る本件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」の容易想到性\n
前記(2)のとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,技術分野が
完全に一致しているとまではいえず,近接しているにとどまるから,甲1
発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を想到すること
が容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採
用するについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付け
があり,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を容
易に想到することができたと判断する前提として,甲1発明に,「イエロー」
とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があり(前記(3)
ア(ア)),甲1発明に,演色性を向上させるという,甲2と共通の課題があ
ると認定した(前記(3)ア(イ),(ウ))。
しかし,前記ア(ア)のとおり,甲1発
明に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課
題があるとする本件審決の認定は誤りであるし,また,本件審決が甲1発
明の課題に関して認定する「演色性」(本件審決が第6,2,2−1(2)(2
−1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で,甲10に記載されているように周知の
課題といえると認定する事項を含む。)は,甲2に記載された技術事項とし
て認定された「演色性」,すなわち,照明された物体の色が自然光で見た場
合に近いか否かという,一般的な意味での「演色性」とは異なる(前記ア
(イ))。
そうすると,本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用
する動機を基礎づける甲1発明の課題の認定を誤っているものであり,ま
た,甲2に記載された技術事項の内容(前記(1)),甲1発明と甲2に記載さ
れた技術事項の技術分野相互の関係(前記(2))を考慮すると,甲1発明に
は,甲2に記載された技術事項と共通する課題があるとは認められず,そ
のため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがある
とは認められない。
したがって,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲
10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ
とができたとは認められず,これを容易に想到することができたとする本
件審決の判断(前記(3)ウ(ア))は誤りである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲
10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ
とができた(前記(3)ウ(ア))という判断を前提として,甲1発明に甲2に記
載された技術事項及び周知の課題(甲10)を採用し,本件発明1の構成\nのうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容易に想到するこ
とができた(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)イ(ア)〔本件審決48
〜50頁〕)と判断するところ,その前提とする判断が誤っているから,本
件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容\n易に想到することができたという判断も誤りである。
エ 黄色発光ダイオードの単独発光色及び混合発光色の容易想到性
前記ウのとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項との間には課題
の共通性がなく,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付
けがあるとは認められないが,念のため,仮にそのような動機付けがある
として,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することにより,黄
色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及
び前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオード
から発せられる光が混合することにより得られる発光色という,相違点1
に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかについて検討\nする。
甲2には,前記(1)認定のとおり,カード型LED照明光源10に実装さ
れるLEDを,相関色温度が低い光色用又は相関色温度が高い光色用や青,
赤,緑,黄など個別の光色を有するものとすることができること(段落【0
080】)が記載されているが,当該事項に係る実施の形態1に関連する段
落【0076】ないし【0080】の記載全体をみても,青,赤,緑,黄
など個別の光色のうちからいずれか1色の単色LEDのみを搭載したLE
D光源により青,赤,緑,黄などいずれかの個別の光色を発光するという
意味なのか,複数色のLED光源を搭載して青,赤,緑,黄などの個別の
光色となるように制御するという意味なのか必ずしも判然としない。段落
【0080】に続いて,段落【0081】の前半において「更に,多発光
色(2種以上の光色)のLEDをカード型LED照明光源10に実装する
ことにより,・・・この場合,2種の光色を用いた2波長タイプのときには」
との記載が続くことに照らせば,段落【0080】の上記記載は,前者の
意味,すなわち,1種の光色を用いた1波長タイプを意味し,黄色の単色
LEDを搭載したLED光源により黄色の光色を有するという意味と解す
ることはできる。しかし,本件発明1は,赤色発光ダイオード,緑色発光
ダイオード,青色発光ダイオード,黄色発光ダイオード及び白色発光ダイ
オードを備え,複数得られる特定の発光色として,少なくとも,黄色発光
ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色の他に,黄色発
光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオー
ドから発せられる光とを混合して得られる発光色が得られなければならな
いところ(相違点1),前者の意味であるとすれば,上記の混合して得られ
る発光色が容易想到であるとはいえない。他方,仮に後者の意味だとして
も,甲2には,複数色のLED光源に黄色のLEDを含んでいるとの直接
的な記載はないから,黄色以外のLED光源によって黄色の光色を得てい
る可能性も否定できず,黄色のLEDの単独発光が容易想到であるとはい\nえない。
さらに,前記(1)イで認定したとおり,甲2には,3種の光色を用いた3
波長タイプの場合は青と青緑(緑)と赤発光の組合せ,4種の光色を用い
た4波長タイプの場合は青と青緑(緑)と黄(橙)と赤発光の組合せが望
ましく,特に4波長タイプのときには平均演色評価数が90を超える高演
色な光源を実現できること(段落【0081】)が記載されており,演色性
を向上させるためにRGBY(赤,緑,青,黄)4種類のLEDを用いる
ことが記載されているが,これらの記載は,一般的な意味での演色性の向
上に関するものであるから,これらの記載からは,RGBY4種類のLE
Dを用いた照明装置において,黄色のLEDを単独発光させることが客観
的かつ具体的に把握できるものとは認められない。
また,甲2には,RGBWY(赤,緑,青,白,黄)の5種類のLED
を用いることが,段落【0065】や【0189】に記載されているが,
具体的な記載としては電源に関する説明があるのみで,これらの記載から
は,RGBWYの5種類のLEDを用いた照明装置において,黄色LED
を単独で発光させることやその他の色と混ぜて発光色を制御することは,
客観的かつ具体的に把握することはできない。
そうすると,仮に甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機
付けがあり,甲2に記載された技術事項を甲1発明において採用し,甲1
発明において黄色発光ダイオードを備えたとしても,黄色発光ダイオード
が単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び,前記黄色発光
ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる
光が混合することにより得られる発光色という,相違点1に係る本件発明
1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n
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2021.10.14
令和2(行ケ)10123 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年10月7日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、進歩性無しとした審決が取り消されました。
イ 引用発明の「電界効果トランジスタ」は,甲3における「第1の条件」にお
いて,「不良燃料セルのアノードとカソードの間の電流を短絡し,よってその不良燃料電池のための電流側路を設ける」もの(甲3の段落【0009】)であり,甲3の\n【図3】において,電気的なスイッチ124(nチャネルMOSFET)として示
されているもので,開放電気状態と閉鎖電気状態とを有する(同【0020】〜【0
022】)。そして,引用発明においては,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低
くなるような場合に,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされる(同【002
3】)。
この点,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた場合,ドレインからソース,ソ\ースからドレインのいずれの方向にも電流が流れ得ることは,技術常識であるから,直ちに引用発明の電界効果トランジスタが整流器に相当するものとはいえ
ない。
そこで,上記のように,引用発明の電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされ
た場合の電流の流れについて検討すると,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低
くなるような状態となって電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた時点では,
燃料電池のアノード,カソード間の電位差により,電界効果トランジスタでは,カソ\ード53側からアノード52側へ電流が流れ,その後,燃料電池の電位差が低下することによって,アノード52側からカソード53側へ電流が流れるに至るものと解するのが相当である。そうすると,甲3において,好適実施例として記載され\nている【図3】の構成においても,電界効果トランジスタを流れる電流は一方向に限定されているものではない。\n
ウ 以上によると,本願発明における第1の整流器が飽くまで一方向にのみ電流
を流すものであるのに対し,引用発明における電界効果トランジスタは,双方向に
電流を流すものであるから,引用発明の電界効果トランジスタが本願発明の第1の
整流器に相当するとはいえず,この点において,本件審決には誤りがある。
エ(ア) これに対し,被告は,引用発明においては,電界効果トランジスタが閉鎖
電気状態とされた場合であっても,電流は電界効果トランジスタをアノード52側
からカソード53側に流れると主張し,その根拠として,甲3の段落【0023】の記載を指摘する。\n
しかし,上記イのように,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた時点で
は,カソード53側からアノード52側へ電流が流れるとしても,その後,アノード52側からカソ\ード53側へ電流が流れるに至るのであって,同段落の記載はそのような理解と矛盾するものとはいえない。甲3の段落【0001】,【0005】,
【0008】及び【0009】の記載や,【図4】(上記各段落の記載内容に照らし,
引用発明に係る甲3の「第1の条件」の際の動作は,同図の「欠陥は重大か?」に
対する答えが肯定(Y)の場合の動作,すなわち同図の「燃料電池への水素供給遮
断及び燃料電池の両端を永久的に短絡」という動作に当たるものと認められる。)を
踏まえると,段落【0023】は,引用発明において電界効果トランジスタが閉鎖
電気状態とされた場合に最終的に至る,引用発明の構成においてより重要な電流の流れについてのみ記載したものと理解することができ,そこに至るまでに一旦電流\nが反対方向に流れることを否定するものとは解されない。
したがって,甲3の段落【0023】の記載は被告の上記主張の根拠とはならず,
乙13(前記3(5))の記載や,燃料電池を迂回する経路をMOSFETで形成する
ことに係る周知技術(乙13[前記3(5)],乙14[同(6)]参照)など,その他被
告の主張する点は,いずれも上記認定判断を左右する事情ではない。
なお,被告は,本件第1回口頭弁論期日における技術説明会のための資料におい
て,甲3の【図3】における電界効果トランジスタについて,ドレインとソースの表\記が逆である旨を指摘するが(乙15の10頁),上記認定判断のとおり,同図の記載と段落【0023】の記載が直ちに矛盾しているとはいえず,相当とはいえな
い。
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2021.10. 8
令和2(行ケ)10038 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年9月28日 知的財産高等裁判所
薬について、動機付け無しとした審決が取り消されました。顕著な効果も記載が無い、実験成績証明書の参酌をしたとしても、顕著な効果とはいえないと判断されました。
前示のとおり,本件訂正発明の構成は容易想到であるが,これに対し,\n被告は,前記第3の5(2)イのとおり,本件訂正発明は,本件3条件を全て
満たす患者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本
件条件(4)の服薬歴がある患者に投与すると,本件条件(4)の服薬歴
のない患者に対するよりも骨折抑制効果がより増強される効果(以下「効
果2)」という。)を奏し,これらの効果は,当業者が予測をすることができ\nなかった顕著な効果を奏するものである旨主張する。
以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折
の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり,
骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから,
当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B
MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ
たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ
うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して
いることは,当業者において容易に理解できる。
b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ
ラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を
指すものであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満
たす患者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本
件3条件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対
する骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折
抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ
るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス
ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体
以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位
週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス
ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体
以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ
る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと
どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。
そして,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位週
1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年1月15日
付け被告第1準備書面33頁における再解析の数値による。)について,
それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また,椎
体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1人
の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが,
症例数が不足していることによることを否定できない。このように,
低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び
椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生
率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数
を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑
制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して,
前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。
したがって,実施例1をみても,高リスク患者に対するPTHの骨
折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高
いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他
の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低
リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理
解することはできない。
以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい
うべきである。
c 被告は,効果1)を明らかにするものとして,別紙4の実験成績証明
書(甲79)を提出する。
しかしながら,本件明細書の記載から,高リスク患者に対するPT
Hの骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よ
りも高いということを理解することができず,また,これを推認する
こともできない以上,効果1)は対外的に開示されていないものである
から,上記実験成績証明書を採用して,効果1)を認めることは相当で
ない。
仮に,上記実験成績証明書を参酌するにしても,本件3条件の全て
を満たす患者(高リスク患者)のグループと,本件3条件の全部又は
一部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部の
グループとを比較しているものにすぎないから,本件3条件の効果が
明らかになっているとはいえない。また,上記実験成績証明書には,
本件条件(1)を満たし,本件条件(2)又は本件条件(3)のいず
れかを満たさない患者とされる「非3条件充足患者」につき,「非3条
件充足患者においてもPTH投与群ではコントロール群よりも骨折の
発生が抑制されたが,3条件充足患者においては,PTH投与群では
コントロール群よりも骨折の発生が『有意に』抑制された。」旨が記載
されているだけである。すなわち,本件3条件を満たさない患者につ
いては,PTH投与群においてコントロール群よりも骨折発生が抑制
されたものの有意差がなかったことが理解できるのみであり,それら
有意差がなかったとの結論も症例数が少ないことによるものと推認さ
れることからすると,本件3条件の全てを満たす患者の骨折発生の抑
制の程度が本件3条件を満たさない患者に対する骨折発生の抑制の程
度より優れていると結論付けることはできない。そうすると,上記実
験成績証明書をみても,本件3条件を全て満たす患者に対するPTH
の骨折抑制効果が,本件3条件を満たさない患者に対するPTHの骨
折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
d 以上によれば,いずれにしても効果1)を認めることはできないから,
その他の点について判断するまでもなく,効果1)を予測することので\nきない顕著な効果という余地はない。
(イ) 効果2)について
前記ア(ウ)のとおり,効果2)は本件明細書からうかがうことのできな
い効果である。
被告は,骨粗鬆症治療薬の服薬歴が本件3薬剤のいずれか1剤のみの
場合における新規椎体骨折発生数が記載された甲86証明書により本件
訂正発明の顕著な効果が裏付けられると主張する。仮に,上記実験成績
証明書を参酌するにしても,甲86証明書は,本件3薬剤それぞれにつ
いて,服薬歴のある患者につき被験薬(PTH)を投与された場合と対
照薬(プラセボ)を投与された場合との骨密度変化率や新規椎体骨折発
生数を対比しているにすぎず,本件3薬剤のいずれかの服薬歴がある患
者と当該薬剤の服薬歴がない患者との間で,被験薬を投与された場合の
骨密度変化率や新規椎体骨折発生数を対比したものではないから,プラ
セボ投与との対比による被験薬の骨粗鬆症治療に対する効果しか示され
ていない。しかも,各薬剤についての評価例数があまりにも僅少で,そ
のようなデータから算出される骨折相対リスク減少率は,骨折例数が1
件増減するだけで大きくその値を変えることは明らかであり,骨折相対
リスク減少率を対比してその効果を論じることも相当ではない。
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2021.09.20
令和2(行ケ)10044 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年8月30日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が取り消されました。論点は「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」との動機付けがあるか否かです。
原告は,相違点2に関し,本件審決が,1)刊行物5の記載及び脂質の大量
の摂取を控えることが健康上の技術常識であることを考慮すると,1回の「用
量」でω−6脂肪酸を40gを超えた脂質含有配合物として用いることは考
えられないから,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」であること(相違点
2に係る本願発明の構成)は,刊行物5に記載自体がなくとも記載されてい\nるに等しい事項であるから,相違点2は,実質的な相違点ではないか,刊行
物5発明において,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることは,「用
量」の意味が,1回の「用量」や1日の「用量」であるかにかかわらず当業
者が容易になし得る技術的事項である旨判断したのは誤りである旨主張する
ので,以下において判断する。
ア(ア) 刊行物5(甲24)には,1)「従来の技術」として「最近の日本人の
食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,
脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の
種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増
加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。これ
らの疾病の原因は,脂肪酸の摂取過多と考えられていた。しかし,研究
が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和脂肪酸の種類の摂取アンバラン\nスによることが判明した。これは肉類に多く含まれるω−6脂肪酸であ
るアラキドン酸から産生される2型のプロスタグランジンやロイコトリ
エンなどが過剰になり,ω−3脂肪酸によって産出される3型のプロス
タグランジンやロイコトリエンとのバランスがくずれる事による。」(前
記(1)エ),2)「発明が解決しようとする課題」として,「ω−6脂肪酸の
過剰摂取は,PGF2α,TXA2などの2型プロスタグランジンやロイ
コトリエンの産生を促し,血小板凝集や血管収縮を起こし動脈硬化や血
栓症を誘発する。しかしω−3脂肪酸は逆に,これらの疾患を抑制した
り,更に,乳癌や大腸癌の発癌率を抑えたり(・・・),癌細胞の転移能を低\n下させる(・・・)ことが報告されている。・・・気をつけなければならないの
は,ω−3脂肪酸ばかりを摂取するのではなく,ω−3脂肪酸とω−6
脂肪酸をバランス良く摂取することである。しかし,前述のように現在
の日本人の食事はω−6脂肪酸の摂取に偏っている。この状態を改善す
るためにω−3脂肪酸などを高濃度に濃縮して添加した食品や栄養補助
剤などが開発された。しかしこれらの製品を過度に摂取した場合,逆に
ω−3脂肪酸の過剰摂取につながり新たな疾病の原因となる。そこでω
−3,ω−6脂肪酸の適正な比率での摂取が必要である。」,「本発明は,
ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,前述
の疾病の予防や改善に効果が期待されるように,脂質の脂肪酸組成を適\n正比率に調整した食品を提供することを目的とする。」(以上,前記(1)オ),
3)「課題を解決するための手段」として,「本発明の食品は,脂肪酸組成
をω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5になるように調
整した高度不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする。」,「本発明の食品の脂
肪酸組成は,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5にな
るように調整する。この範囲よりも小さいときは,ω−3脂肪酸が過剰
になり,この範囲よりも大きいときはω−6脂肪酸が過剰になってしま
い,いずれの場合もω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との摂取バランスが崩
れてしまうので好ましくない。」(以上,前記(1)カ),4)「発明の効果」
として,「本発明によれば,食品に含有される脂質のω−3,ω−6脂肪
酸の比率を適正比率である1:1〜1:5に保つように調製された食品
を提供することができるので,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバランス
良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸
癌などの疾病の予防や改善に効果が期待される。」(以上,前記(1)キ)と
の記載がある。
これらの記載によれば,刊行物5には,刊行物5記載の高度不飽和脂
肪酸を含む食品(「本発明」)の技術的意義に関し,従来は,高血圧,心
臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の原因は,脂肪酸の「摂
取過多」と考えられていたが,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不\n飽和脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明したこと,現在
の日本人の食事はω−6脂肪酸の摂取に偏っており,この状態(ω−6
脂肪酸の「過剰摂取」)を改善するためにω−3脂肪酸などを高濃度に濃
縮して添加した食品や栄養補助剤などが開発されたが,これらの製品を
過度に摂取した場合,逆にω−3脂肪酸の「過剰摂取」につながり新た
な疾病の原因となるため,ω−3,ω−6脂肪酸の適正な比率での摂取
が必要であることから,「本発明」は,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバ
ランス良く摂取することができ,前述の疾病の予防や改善に効果が期待\nされるように,脂質の脂肪酸組成を適正比率に調整した食品を提供する
ことを目的とし,その課題を解決するための手段として,脂肪酸組成を
ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5になるように調整
した高度不飽和脂肪酸を含む構成を採用し,これによりω−3脂肪酸と\nω−6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循
環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の予防や改善の効果が期待される\nことについての開示があることが認められる。また,前記(1)の刊行物5
の記載によれば,刊行物5において,「過剰摂取」の用語は,ω−3脂肪
酸,ω−6脂肪酸が適正比率(1:1〜1:5)の範囲を基準として,
「この範囲よりも小さいときは,ω−3脂肪酸が過剰になり,この範囲
よりも大きいときはω−6脂肪酸が過剰にな」ると述べていること(前
記(1)カ)に照らすと,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との摂取バランス(比
率)が崩れた状態を表現するために用いており,一方で,「摂取量」が多\nい状態を表現するときは「摂取過多」の用語を用い,「摂取量」との関係\nでは,「過剰摂取」の用語を用いていないことが認められる。
以上を前提に検討すると,刊行物5における「最近の日本人の食生活
は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,脂肪の
摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の種類も
変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増加して,
こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との記載は,
それに引き続き「しかし,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和\n脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明した。」などの記載が
あることに照らすと,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加した
こと自体が問題であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆す
るものではないと理解するのが自然である。
また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取
量を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」
は,1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や
示唆はない。
(イ) 次に,本件審決が述べるように「脂質の大量の摂取を控えること」
自体が健康上の技術常識であるといえるとしても,脂質の適正な摂取量
は,年齢,性別,エネルギー摂取量等の要素によって変わり得るものと
考えられるから,そのことから直ちに「脂肪の摂取量」を1日当り40
g以下とすることが技術常識であることを導出することはできないし,
それが技術常識であることを前提に「ω−6脂肪酸の用量」は,1日又
は1回当たり「40g以下」とすることが技術常識であるということは
できない。本件においては,他に「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」
とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。
イ(ア) 前記アの認定を総合すると,刊行物5には,本件審決のいう技術常
識を踏まえても,刊行物載5発明に含有する「ω−6脂肪酸の用量は,
40g以下であること」についての実質的な開示があるものと認めるこ
とはできない。
そうすると,刊行物5発明が「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」
であるとの構成(相違点2に係る本願発明の構\成)を有することは認め
られないから,相違点2は実質的な相違点であるものと認められる。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(イ) 次に,前記ア認定のとおり,刊行物5には,脂肪の摂取量を1日当
たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」は,1日又
は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆はなく,
また,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であ
ることを認めるに足りる証拠がないことに照らすと,刊行物5に接した
当業者が,刊行物5発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採\n用することの動機付けがあるものと認めることはできないから,上記構\n成とすることを容易に想到することができたものと認められない。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。
ウ これに対し被告は,1)刊行物5には,脂肪の摂取量については1日当た
り40gと増加しているとの記載及びそれを問題であると認識している
ことの記載があり,刊行物5発明は,脂質(脂肪)の取り過ぎの抑制を前
提に,ω−6脂肪酸とω−3脂肪酸をバランス良く摂取することを技術思
想とする発明であるから,脂質の一部である不飽和脂肪酸のさらに一部で
あるω−6脂肪酸を一定以下に抑えることは当然であり,脂質全体として
取り過ぎであるとの認識である40gという値以下と特定することには
強い動機付けがある,2)しかも,1日の脂質摂取は,刊行物5発明のドリ
ンク剤組成物以外の食品からも生じるのであるから,1日又は1回当たり
ω−6脂肪酸40g以下との上限を設定することは,当業者が容易になし
得る技術的事項であるから,当業者は,刊行物5発明において,相違点2
に係る本願発明の構成とすることを容易に想到することができた旨主張\nする。
しかしながら,前記ア(ア)で説示したとおり,刊行物5における「最近の
日本人の食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に
増え,脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾
病の種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが
増加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との
記載は,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加したこと自体が問題
であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆するものではない。
また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取量
を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」は,
1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆は
ない。
加えて,本件においては,他に「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」
とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,刊行物5に接した当業者が刊行物5発明において相違点2
に係る本願発明の構成を採用することの動機付けがあるものと認めるこ\nとはできないから,被告の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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2021.09.18
令和2(行ケ)10132 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年8月31日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決について、裁判所は予測できない効果ではないとして、これを取り消しました。\n
発明の効果が予測できない顕著なものであるかについては,当該発明の\n特許要件判断の基準日当時,当該発明の構成が奏するものとして当業者が\n予測することのできなかったものか否か,当該構\成から当業者が予測する\nことのできた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点か
ら検討する必要がある(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年
8月27日第三小法廷判決・集民262号51頁参照)。もっとも,当該発
明の構成のみから予\測できない顕著な効果が認められるか否かを判断す
ることは困難であるから,当該発明の構成に近い構\成を有するものとして
選択された引用発明の奏する効果や技術水準において達成されていた同
種の効果を参酌することは許されると解される。
前示のとおり,本件発明の構成は容易想到であるが,これに対し,被告\nは,前記第3の3(2)イのとおり,本件発明は,本件3条件を全て満たす患
者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本件条件(4)
を満たす患者に対する副作用発現率と血清カルシウムに関する安全性が
腎機能が正常である患者に対する安全性と同等であるという効果(以下\n「効果2)」という。)及び3)BMD増加率が低くてもより低い骨折相対リス
クが得られるとの効果(以下「効果3)」という。)を奏し,これらの効果は,
当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するものである\n旨主張する。 以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折
の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり,
骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから,
当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B
MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ
たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ
うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して
いることは,当業者において容易に理解できる。
b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ
ラセボの骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を指すも
のであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満たす患
者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本件3条
件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対する骨
折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折
抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ
るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス
ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体
以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位
週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス
ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体
以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ
る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと
どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。
ここで,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位
週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年2月15
日付け被告第1準備書面32頁における再解析の数値による。)につい
て,それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また,
椎体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1
人の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが,
症例数が不足していることによることを否定できない。このように,
低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び
椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生
率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数
を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑
制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して,
前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。
したがって,実施例 1 をみても,高リスク患者に対するPTHの骨
折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高
いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他
の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低
リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理
解することはできず,ましてや,200単位週1回投与群に関し,高
リスク患者における骨折発生抑制が,低リスク患者における骨折発生
抑制よりも優れていると結論付けることはできない。
以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい
うべきである。
◆判決本文
当事者が同じ分割出願についての関連事件です。審決取り消しです。
◆令和2(行ケ)10056
こちらは審決維持です。
◆令和2(行ケ)10004
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2021.08.21
令和2(行ケ)10115 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年6月24日 知的財産高等裁判所
阻害要因ありとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。
甲1には,請求項1に「任意の形状の中央ハンドル」との記載があり,発
明の詳細な説明中に,ユーザが握る中央ハンドルは「球,あるいは他のあら
ゆる任意の形状とすることが可能である。」と記載があることから,長尺状の\nハンドルを排除するものではないと理解することはできる。しかし,「球,あ
るいは他のあらゆる任意の形状とすることが可能である。」との記載ぶりか\nらすれば,まずは「球」が念頭に置かれていると理解するのが自然であり,
しかも甲1の添付図(FIG.1,FIG.2)は,いずれも器具の正面図
であり,実施例を表すとされているが,そこに描かれたハンドルの形状や全\n体のバランスに照らして,球状のハンドルが開示されているとしか理解でき
ないものである。
また,甲1には,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握
り,これを傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を\n皮膚に当てて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転するこ
とにより,球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集め
て皮膚に沿って動き,引っ張る代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿っ
た動きによって皮膚が引き伸ばされることが開示されているところ,こうし
た2つの球がハンドルに2つの軸に固定され,2つの軸が70〜100度を
なす角度で調整された甲1発明において,球が進行方向に対して非垂直な軸
で回転し,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿った動きをさ
せるためには,ハンドルを進行方向に向かって倒す方向に傾けることが前提
となる。
ハンドルが球状のものであれば,後述するハンドルの周囲に軸で4個の球
を固定した場合を含めて,把持したハンドル(1)の角度を適宜調整して進行方
向に向かって倒す方向に傾けることが可能である。しかし,ハンドルを長尺\n状のものとし,その先端部に2つの球を支持する構成とすると,球状のハン\nドルと比較して傾けられる角度に制約があるために進行方向に傾けて引っ張
る際にハンドルの把持部と肌が干渉して操作性に支障が生じかねず,こうし
た操作性を解消するために長尺状の形状を改良する(例えば,本件発明のよ
うに,ボールの軸線をハンドルの中心軸に対して前傾させて構成させる(相\n違点3の構成)。)必要が更に生じることになる。そうすると,甲1の中央ハ\nンドルを球に限らず「任意の形状」とすることが可能であるとの開示がある\nといっても,甲1発明の中央ハンドルをあえて長尺状のものとする動機付け
があるとはいえない。
また,甲1においては,「マッサージする面に適合させるために,より大き
な直径を持つ1つまたは2つの追加球をハンドルが受容可能である」形態も\n開示されており,FIG.2には,小さい直径の球(2)を2つ,大きな直径球
(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された図が開示されている。
このような実施例において,ハンドル(1)を球状から長尺状とすると,前記の
とおり,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握り,これを
傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を皮膚に当て\nて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転することにより,
球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿
って動き,引っ張る代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿った動きによ
って皮膚が引き伸ばされるとの作用効果を生じるところ,例えば,大きい球
(3)を皮膚に当てることを想定し,長尺状のハンドルを中心軸に前傾させて構\n成させると,小さい球(2)を皮膚に当てるときには,ハンドルを進行方向に対
して傾けて小さい球(2)の球を引っ張ることができなくなる。したがって,こ
うした点からすると,甲1のハンドル(1)を長尺状のものとすることには,む
しろ阻害要因があるといえる。
(2) これに対し,被告は,1)甲1のFIG.1の正面図は,ハンドルが円形で
図示されているが,ハンドルが円柱状(長尺状)の形状であるとしても整合
する,2)同FIG.2においては,4つの球をハンドルに取り付けて,皮膚
が吸引される使用方法が記載されており,こうした使用方法を前提とすると,
ハンドルが長尺状であればローラ(球)と接触することなくハンドルを握る
ことができるから,ハンドルの形状は,球体と理解するよりも長尺状(円柱
状)のハンドルと理解するのが自然である旨主張する。
しかし,正面図であるFIG.1やFIG.2において図示されている円
形が球状ではなく円柱状(長尺状)の形状を示すものと理解することが困難
なことは,前記(1)において判示したところから明らかである。また,4つの
球をハンドルに取り付けて使用する形態であっても,FIG.2の実施例の
記載によると,使用されるのは2つの球であり,ハンドルを把持する際には
軸を避けて指でハンドルを把持すれば足り,ハンドルを長尺状(円柱状)の
ハンドルと解するのが自然であるともいえず,かえって,上記のとおりハン
ドルを長尺状とすることについては阻害要因があるというべきである。そう
すると,甲1の実施例(FIG.1,FIG.2)には球状のものしか開示
されていないと認められ,被告の上記主張は採用し得ない。
また,被告は,甲1において,ハンドル(1)は,握って引っ張るものである
という使用方法が明記され,ハンドルの形状としてあらゆる任意の形状とす
ることができると記載されているのであるから,当然ながら握りやすい長尺
状の形状が想定された形状であり,甲1発明のハンドルは,握って傾けなが
ら引っ張るものであるから,ハンドルの先端部に球を設けることは当業者で
あれば容易に想到するものであるから,本件審決の判断に誤りはない旨主張
する。
しかし,たとえハンドルを球に限らず任意の形状とすることは可能である\nとしても,甲1発明の球状のハンドルを長尺状のものとした場合における操
作性の問題があることから,球状の実施形態しか開示されていない甲1発明
の中央ハンドルを長尺状のものとする動機付けがあるとはいえないことは前
記(1)のとおりであり,一般的に長尺状のハンドルが握りやすいものであると
いえたとしても,そのことは結論を左右し得ない。また,小さい球(2)を2つ,
大きい球(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された場合に,ハン
ドル(1)を長尺状とすると,甲1発明の作用効果との関係でその操作に支障が
生じることから,甲1発明のハンドル(1)を長尺状のものとすることにはむし
ろ阻害要因があることも前記(1)のとおりである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3) そうすると,甲1発明のハンドルが長尺状のハンドルを排除するものでは
ないとして,当業者が長尺状のハンドルを容易に想起し得るものとはいえな
いし,ましてや,長尺状のハンドルが甲1に記載されたに等しい事項である
と認めることはできないから,甲1発明のハンドルには長尺状のものが含ま
れ,長尺状のハンドルが甲1の1に記載されたに等しい事項であることを前
提として,相違点1については,ハンドルを長尺状のものとした場合には,
一対の回転可能な球を先端部に配置することは甲1発明,又は甲1発明及び\n周知技術1に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものであり,また,
相違点3については実質的な相違点にならないとした本件審決の判断は誤り
というほかない。
◆判決本文
こちらは審決の判断維持ですが無効理由なしとの審決が維持されています。
原告・被告が入れ替わってます
◆令和2(行ケ)10045
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2021.08.21
令和2(行ケ)10057 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年7月8日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が取り消されました。
前記(1)のとおり,相違点2は,相違点21)及び相違点23)により構成さ\nれるべきものである。本件審決は,相違点21)は容易に想到できるとして
おり(当裁判所としてもその結論を是認できる。),原告は,相違点23)の
容易想到性を否定した本件審決の判断を争っている。
イ 相違点23)の容易想到性
(ア) 相違点23)は,「『フレームと床との間に介護者又は患者の足が存在
しても,挟み込みが生じないように』,下降スイッチが押し状態であって
もフレームをいったん停止させ,『ブザーを鳴らして警報』すること」で
ある。
原告は,前記第3の2(1)イ(イ)のとおり,「フレームと床との間に,介
護者又は患者の足が存在しても,挟み込みが生じないように」との点が
用途による限定を付すものであり発明の構成とはならないから,相違点\nを構成することもない旨主張するが,上記特定事項は,フレームが停止\nする高さを何に基づいて決定するかを特定するものであるから,発明を
構成する部分であり,その主張は失当である。したがって,本件訂正発\n明1が用途発明になることもない。
そうすると,同(2)イ(ア)の被告の主張につき判断するまでもなく,原
告の上記主張はいずれにせよ採用することができない。
(イ)a 前記第2の3(2)アのとおり,甲1発明における下方中間位置は患
者支持面が床から約14インチ(約356mm)の高さであり,同最
下位置は患者支持面が床から約8インチ(約203mm)の高さであ
るところ,下方中間位置から最下位置に153mm下降できるという
ことは,少なくともフレームの下端が床から153mm以上離れてい
なければならないから,下方中間位置でのメインフレーム12の床か
らの高さは153mmよりは高いことになる。
ここで,甲2技術事項に係る別紙3の記載によると,足が届く範囲
の可動部と床面との間に120mm以上の寸法があれば,足を挟み込
む危険がないものと理解される。
そうすると,甲1発明における下方中間位置でのメインフレーム1
2の床からの高さは,本件訂正発明1の「介護者又は患者の足が存在
しても,挟み込み等が生じないような高さ」(本件訂正明細書【002
1】)であるといえ,また,甲1発明の最下位置は「床に近接して配置
される」ものであり(甲1[0011],FIG−4),足が挟み込まれ
る高さであることは明らかであるから,最下位置に向けて下降する下
方中間位置は「これ以上フレーム1が下降すると,足を挟み込んでし
まうような高さ」(本件訂正明細書【0021】)である。
そして,甲1には,「磁石112のホール効果センサ118に隣接し
た配置までの移動は,下方中間位置でのベッド10の位置付けに相当
し,磁石112のホール効果センサ116に隣接した配置までの移動
は,上方中間位置でのベッド10の位置付けに相当する。」([0036])
との記載があり,そして,甲1発明の管部110は,軸受部材108
に摺動接触して支持された状態でねじ式リニアアクチュータ98のね
じ120に対して直線移動で駆動できるよう構成されており,磁石1\n12は,水平移動に当たり必ずホール効果センサ118及び116に
隣接した位置を通るから,甲1発明のベッドは,必ずフレームが下降
する際に上方中間位置及び下方中間位置で自動的に下降を停止するベ
ッドである。
b ここで,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に,\n人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよう下降を停止させるこ
とは当業者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる
(甲4の【請求項1】,【0003】,甲21の【請求項1】,【0003】,
【0005】参照)。
そして,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に\n人体が挟み込まれないよう警告音で周囲に異常を知らせることも当業
者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる(甲4の
【0014】,【0010】,甲21の【0014】,【0010】参照)。
c そうすると,上記aのように,介護者又は患者の足が存在しても,
足の挟み込みが生じないような下方中間位置においてフレームの下降
は停止するが,それ以上フレームが下降すれば介護者又は患者の足が
挟み込まれてしまうことになる甲1発明に接した場合,昇降機能を有\nするベッドにおいて,人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよ
うにベッドの下降を停止するとの周知技術に従い,その下降を停止す
る高さを「前記フレームと床との間に,介護者又は患者の足が存在し
ても,挟み込みが生じないよう」な意図で設定し,この際,警告音で
フレームと床との間に人体が挟み込まれないよう知らせるとの周知技
術に従い,警告音を発するようにすることは,当業者には格別困難な
ことではないといえる。
(ウ) 被告の主張について
被告は,前記第3の2(2)イ(ウ)のとおり,足を挟んでしまうことの防
止という課題は甲1発明に内在する課題とはいえない旨主張する。しか
しながら,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2
002−125807号公報」(甲21)においては,各【発明の詳細な
説明】の中に,子供が入り込むことの防止に係る記載がされているとこ
ろ,各請求項1には,それぞれ「床部下への人体の侵入を監視して,人
体の侵入ありとした際に」又は「人体が存在する旨の検知信号により」
と記載されているのであり,子供が入り込むことのみに限定されるもの
と解すべき事情も見当たらないことに照らしても,これらの発明の技術
的思想としては,人体が挟み込まれるのを防止するということが抽出で
きるのであり,人体の対象には介護者又は患者も含まれるから,当業者
であれば,甲1に介護者又は患者の足を挟んでしまうことを防止すると
の課題の記載や示唆がなくとも,甲1発明のベッドを介護者又は患者の
足を挟んでしまうことを防止するとの意図の下に設定することは容易と
いうほかない。したがって,上記主張は,採用することができない。
さらに,被告は,同(エ)のとおり,「ブザーを鳴らして警報」すること
は容易想到ではない旨主張するが,上記(イ)cのとおり,昇降機能を有\nするベッドにおいてフレームと床との間に人体が挟み込まれないよう警
告音で周囲に異常を知らせることは周知技術であるところ,人体の挟み
込みの防止のために警報音を鳴らすということの目的は,人体の挟み込
みの防止のためにフレームの下降を停止して実際に挟み込みを防止する
こととは異なり,人体が挟み込まれる前の所定の段階であらかじめ操作
者を含む周囲の者に注意確認を促すことにある(警報音を鳴らすものの
フレームの下降を人体の接触を感知するまで停止しないという選択もあ
り得るから,警報音を鳴らすこととフレームの下降停止とは独立に置換
可能な独立の技術的事項である。)。したがって,フレームと床との間に\n人体があって実際に挟み込みの危険があるか否かは,人体の挟み込みの
防止のために警報音を鳴らすという技術的事項を導入するに際して直接
の関係を有するものではない。そうすると,警告音を発する場面を,異
物を検出した段階とするのか,あるいは,フレームがそれより下降すれ
ば人体の挟み込みの危険が生じ得る高さとするかは,設計的事項にすぎ
ず,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2002
−125807号公報」(甲21)に記載の発明から認められる周知技術
と甲1発明とは,むしろ警報音を鳴らす局面,対象又は目的を共通とす
るといえる。したがって,下方中間停止位置で常に自動的に下降を停止
する甲1発明において,上記周知技術に基づいて下方中間停止位置で停
止した際に「ブザーを鳴らして警報」することは容易に想到できるとい
え,上記周知技術が異常を検知した際に警報音を発するものである点が
甲1発明に同技術を適用することを妨げるものではない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。。
そのほか,被告がるる主張するところも,前記イの判断を左右するも
のではない。
(エ) まとめ
以上によれば,相違点21)に加えて,相違点23)についても容易に想
到できるというべきであるから,本件審決の相違点2の容易想到性判断
には,誤りがある。
◆判決本文
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2021.08.17
令和2(行ケ)10033 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年6月28日 知的財産高等裁判所
無効審判では無効理由無しとされた請求項の一部(請求項7、10)について、知財高裁(3部)は、進歩性違反の無効理由ありとしてこれを取り消しました。
(3) 相違点10−2の容易想到性
ア 本件発明7のステップ(b)について
(ア) 相違点10−2においては,本件発明7のステップ(b)に係る構\n成の容易想到性が問題となるところ,上記1(4)のとおり,本件発明7の
ステップ(b)は,原油組成物を実質的に塩基なしで水性流体処理ステ
ップにかけるステップであり,かつ,相分離を改善するために無機塩を
水性流体に添加するものである。
(イ) そして,上記(2)アのとおり,本件優先日当時,油の精製において,
アルカリ精製による脱酸処理の前に脱ガム処理を経ること,一般的な脱
ガム処理の方法の1つとして,水や水蒸気等の水性流体を油組成物と接
触させ,水和したガム質を含む親水性の不純物を油から分離して除去す
る方法があったことは,いずれも周知の技術であったと認められる。ま
た,証拠(甲3,4,6〔693,700,701頁〕)によれば,本件
優先日当時,蒸留(物理的精製)による脱酸処理の前に脱ガム処理又は
水洗の処理を経ることは,周知であったと認められる上,証拠(甲5〔4
75頁の表2〕,6〔693頁右欄の表\1〕,13〔571頁の右欄〕,1
4〔98頁の図2〕,24〔185頁〕)によれば,水や水蒸気等の水性
流体を油組成物と接触させた後に分離する処理によってタンパク質性化
合物が除去されることも,周知であったと認められる。
(ウ) そうすると,本件発明7のステップ(b)は,タンパク質性化合物
を含む親水性の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去し得る
点において,上記の水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水
洗の処理と異なるところはないというべきである。
イ 甲2文献における開示
(ア) 上記(1)のとおり,甲2文献においては,油をストリッピング工程の
前に前処理してもよいと記載されている(【0057】)。
(イ) そして,上記アのとおり,ストリッピング処理を行う前に水や水蒸
気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を経ることが周知
であったことからすれば,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や
水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性
の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去することを,当業者
は当然に動機付けられるものといえる。
ウ 解乳化剤としての無機塩の添加が周知技術であったか否か
(ア) 水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理におい
ては,水相と油相との界面が十分に解乳化され,水性流体を油から容易\nに分離することが可能な状態となることが好ましいことは明らかである。\n
(イ) そして,証拠(甲30,31,44ないし46)によれば,一般科
学においては,従来から,塩化ナトリウム等の塩を解乳化剤として用い
ることが広く知られていたと認められることからすれば,水や水蒸気等
の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においても,水相と油相
との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離することが可能な状\n態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,当業者は当然
に動機付けられるものといえる。
エ 容易想到性
(ア) 上記アないしウで検討したところによれば,甲2文献に接した本件
優先日当時の当業者は,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や水
蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性の
不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去すること,その際に,
水相と油相との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離すること
が可能な状態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,容\n易に想到することが可能であったといえる。\n
(イ) また,本件発明7のステップ(b)に係るその他の構成について検\n討するに,証拠(甲5,24)によれば,魚油には炭素数16から22
の遊離脂肪酸が必ず含まれていることが認められる。
さらに,粗魚油の一般的な遊離脂肪酸濃度は2重量%ないし5重量%
であると認められる(甲5〔475頁の表1〕)ところ,水や水蒸気等の\n水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においては,油組成物中の
遊離脂肪酸は中和されず,その量が変化しないことは明らかであるから,
上記処理後の魚油の遊離脂肪酸濃度が,0.5重量%ないし5重量%の
範囲内となることも明らかである。
(ウ) 以上によれば,甲2文献に接した本件優先日当時の当業者は,本件
発明7のステップ(b)に係る構成を,容易に想到することができたも\nのといえる。
オ 被告の主張について
(ア) 被告は,甲2文献には,ストリッピング処理前の前処理過程の一例
として脱臭工程のみが挙げられている上,脱ガム処理のほか,本件発明
7のステップ(b)に係る構成について何らの記載等もされていないか\nら,当業者は同構成を採ることを動機付けられるものではない旨主張す\nる。
しかしながら,甲2文献の段落【0057】には,ストリッピング工
程の前処理の一例として脱臭工程が挙げられているものの,これに限る
旨の記載は存しない上,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用い
た脱ガム処理等が周知の技術であり,これをストリッピング処理の前に
行うこともまた周知であったことからすれば,当業者は,ストリッピン
グ工程の前処理として,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理等
を行うことを動機付けられるものといえる。
したがって,被告の主張は,採用することができない。
(イ) 被告は,原告が主張する脱ガム処理には様々な方法によるものが含
まれるから,相違点10−2に係る本件発明7の構成には至らない旨主\n張する。
しかしながら,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガ
ム処理が,一般的な脱ガム処理の方法の1つとして周知の技術であった
と認められることからすれば,甲2文献に接した当業者は,これを甲2
発明に適用することを動機付けられるものといえるから,被告が指摘す
るとおり,脱ガム処理に様々な方法によるものが存在するとしても,前
記の結論を左右するものではないというべきである。
したがって,被告の主張は,採用することができない。
(ウ) 被告は,エマルジョン形成の解消が容易ではないことは技術常識で
あったこと,甲44文献に記載された有機相及び本件発明7のステップ
(b)における有機相は全く異なるものであること,魚油の精製工程に
おいて無機塩を解乳化剤として用いることに関する文献が本件訴訟にお
いて提出されていないことから,当業者が無機塩を添加して有機相と水
相とを分離させる技術を甲2発明に適用することを動機付けられるもの
ではない旨主張する。
しかしながら,欧州の特許公開公報である甲44文献に対応する日本
の公開特許公報である乙C6文献には,海産動物油等の天然源からEP
A及びDHA混合物等を抽出する方法に関して,脂肪酸混合物を含む相
と水相との分離を高めるために,塩化ナトリウム等の塩類を少量加える
ことが記載されている。また,甲30文献には,魚鯨油を2%程度の塩
化ナトリウム等の塩類水溶液で洗浄する方法が記載されており,脱ガム
処理として魚鯨油を塩類水溶液で洗浄する方法が行われているものと認
められる。このように,魚油の精製工程において,無機塩を添加するこ
とによって相分離を図る方法が記載されている文献が存在するのに対し,
本件各証拠上,このような方法の採用を妨げるような内容の文献は見当
たらない。
そうすると,一般科学において実施されている相分離を改善するため
の無機塩の添加を,魚油の精製工程において実施することが妨げられる
ものではないというべきである。
したがって,被告の主張は,採用することができない。
(エ) 被告は,本件発明7は当業者には予測し得ない顕著な効果を奏する\n旨主張する。
しかしながら,これまで検討したとおり,本件発明7のステップ(b)
に係る構成は,周知技術である水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム\n処理等に,同じく周知技術である相分離を改善するために無機塩を添加
する方法を組み合わせたものであることからすれば,当業者は,同構成\nが塩基を使用しないものであることや,相分離の改善によりトリグリセ
リド油の回収率を高めることができることを当然に予測し得るものとい\nえるから,本件発明7は,予測し得ない顕著な効果を奏するものとは認\nめられない。
◆判決本文
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2021.08.17
令和2(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年7月29日 知的財産高等裁判所
コンピュータ関連発明について、知財高裁(2部)は、相違点の認定誤りを理由に、拒絶審決を取り消しました。判決文は、長いです(97ページ)。
本件審決は,引用発明の構成b1の「コンテンツ」及び構\成f1の「OTTデバイス」が,それぞれ本願発明8の「デジタル・コンテンツ・アイテム」及び「ディスプレイ装置」に相当するという判断を前提として,クライアントに対してファイルを配信する方法において配信の効率化を図ることは一般的課題であるから,引用発明に甲2技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとし,引用発明に甲2技術を適用した発明は,OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構\成を備える方法ということができ,同構成は,構\成Hの「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構\成に相当すると判断した。
(2) しかし,前記3(1)アの甲2の記載(段落【0002】,【0005】,【0012】,【0014】〜【0018】,【0072】〜【0079】,【0116】〜【0123】等。特に,品質情報を具体的に記載した段落【0073】〜【0078】)からすると,甲2技術は,ファイルの効率的な配信のための技術であって,そこで取得される品質情報は,クライアント計算機の性能や動作状態,あるいは回線状態などに関するものと認められる。なお,甲2の段落【0049】,【0050】,【0053】及び【図3】からすると,甲2において,サーバ201と同様の概略構\成であり得るクライアント211がディスプレイ装置と接続されることは示唆されているが,他方で,ディスプレイ110は,あくまで,サーバ201に備わる表示コントローラ105と接続される外部装置として取り扱われており,そのような外部装置であるディスプレイ110から何らかの情報を取得することについての記載は見当たらない。したがって,甲2技術における「受信品質の指標・・・および受信性能\の指標を含む品質情報」に,ディスプレイ装置の品質等の情報が含まれているとまでは認められず,その点に係る技術常識等を認めるべき他の証拠もない。
(3) そうすると,仮に,引用発明の構成b1の「コンテンツ」及び構\成f1の「OTTデバイス」が,それぞれ本願発明8の「デジタル・コンテンツ・アイテム」及び「ディスプレイ装置」に相当するという判断を前提とし,クライアントに対してファイルを配信する方法において配信の効率化を図ることが一般的課題であると解して,引用発明に甲2技術を適用し,OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構\成を備えるものとしたとしても,直ちに「ディスプレイ装置」の「品質情報を取得する」ことまでをも含む構成になるということはできず,本願発明8の構\成Hの「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構\成に相当するものになるとはいえない。よって,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断には,誤りがある。以上の認定判断に反する被告の主張は,採用することができない。
5 相違点2に係る構成の容易想到性について\n
(1)本件審決は,引用発明と甲3技術は,送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法である点において共通することから,引用発明に甲3技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとし,引用発明に甲3技術を適用した発明は,OTTデバイス(ピア1A)から他のOTTデバイス(ピア1B)に対して,「ピア1Bは,ピア1Aに該当のデータの送信を要求する」構成を備える方法ということができ,当該構\成は,構成Jの「外部の創作地点から,インターネットを介して,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へと,前記サービス・クラウドの外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」構\成に相当すると判断した。
(2) しかし,甲3技術がピアツーピアシステムに係るものである(構成i)のに対し,引用発明は,コンテンツの取込み,自動パブリッシング,配信及び格納並びに収益化等の複合的なタスクが実行可能\であるもので,それ自体が主体的にコンテンツの取込みや配信等を行う方法であるものと解されるから,甲3技術と引用発明とは,少なからず技術分野を異にするものというべきである。この点,「送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法」という広い技術分野に属することから直ちに,それらの関係性等を一切考慮することなく,引用発明に甲3技術を適用することを容易に想到することができるものとは認め難い。そして,甲3に,他に,甲3技術を引用発明に適用する動機付けや示唆となる記載があるとも認め難い。
よって,本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断には,誤りがある。
(3) 被告は,本願明細書(甲6)の段落【0130】の記載を踏まえて,本願発明8の構成Jにいう「外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」という文言の意味について,「デジタル・コンテンツ・アイテム」が「外部コンテンツ・ゲートウェイ」を経由するか否かにかかわらず,「外部コンテンツ・ゲートウェイ」の機能\「により転送する」ことをいうと主張するが,上記(2)の判断は,本願発明8の構成Jにいう「外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」を上記の被告が主張するように理解したとしても左右されるものではない。\n
6 相違点3に係る構成の容易想到性について\n
(1)本願発明8の構成Kの「ライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」については,構\成Kの文言によると,サービス・クラウドに備えられ,コンテンツをサービス・クラウドの外部の供給源からディスプレイ装置に提供する機能を有するものと認められ(前記1(2)ウ(ク)),また,「ライブ・データ・フィード」という用語からすると,外部の供給源から供給されるデータには「ライブ」の要素が含まれるものと解される。しかるに,甲4技術が,上記の「ライブ」の要素が含まれるデータの供給に関する構成を含むものであるかは明らかでない。したがって,引用発明に甲4技術を適用しても,直ちに本願発明8の構\成Kに至るものかは,明らかでない。
(2) 本件審決は,甲4技術の構成kの「オンラインサービスコンピューティング装置108」が,本願発明8の「ライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」に相当すると判断したが,上記(1)の点に関し,この判断の根拠が明確にされているとはいえない。また,被告は,甲4技術の「オンラインサービスコンピューティング装置108」は,コンテンツアイテムを外部供給源(「オンラインソーシャルネットワーキングサービス」)から受信してユーザ装置310に送信するから,データを一方から他方へ転送する制御機能\を有する「ゲートウェイ」に相当するとした上で,データは「多数のユーザにより投稿され共有された種々のメディアコンテンツアイテム」や「コンテンツを共有しているユーザ又は『友達』により供給されたニュースフィード」を含むから,上記ゲートウェイは「サービス・クラウドのライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」といえると主張するが,上記(1)の点に関し,その根拠が明確にされているとはいえない。
(3) 以上の点は,原告が取消事由として主張するものではないが,特許庁において更なる審理判断がされることを考慮して判示するものである。7相違点4に係る構成の容易想到性について(1) 引用発明と甲5技術は,いずれもサーバにコンテンツを取り込む方法に係るものであるという点で技術的な共通性を有するといえ,引用発明に甲5技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。そして,引用発明に甲5技術を適用した発明は,OTTデバイスに表示するための「画像データが表\す画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予め記憶された目標濃度に補正する」構\成を備える方法ということができ,この構成は,本願発明8の構\成F2の「前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」構成に相当するということができる。よって,相違点4に係る構\成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。(2)ア原告は,本願発明における解析は,ユーザが視聴するための,映画やテレビ番組等のコンテンツをディスプレイ装置に送信するために行われるものであるところ,ユーザにおいてそれらの画像の特定の部分(顔等)を調整したいという要求はないから,甲5技術に係る「画像データが表す画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予\め記憶された目標濃度に補正する」構成は,本願発明8の構\成F2には相当しないと主張する。
しかし,本願発明8の構成F2は,「ディスプレイ装置上に表\示するための」「デジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」というもので,「解析」の具体的な内容については記載されていない。そして,本願発明8の構成中に,「デジタル・コンテンツ・アイテム」について,原告の主張するような内容のものに特定する旨の記載もなく,他に本願発明8の構\成F2の「解析」を原告の主張するように限定して解釈すべき理由はない。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。イ原告は,本願明細書の段落【0119】の記載から,本願発明8の構成F2の「解析」は,ビジュアル及び音響コンテンツの両方に対して行われ得るもので,甲5技術の「解析」とは異なる旨を主張するが,本願の特許請求の範囲の請求項8には,「音」について何ら記載がなく,上記アのような記載があるのみであるから,本願発明8の構\成F2の「解析」が音響に対しても行われるものと解することはできない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ原告は,引用発明と甲5技術とを組み合わせる動機付けはなく,シーンごとに画像の特定の部分を調整するために,オペレータの好みに従って事前に手動で入力される「目標濃度」を用い,オートセットアップ機能を介して,画像を調整するという甲5技術の「解析」の特徴は,特定の装置の技術的仕様に画像をより良好に適合させるために画像の調整を行う本願発明の「解析」とは対照的であって,甲5技術の「解析」を本願発明に組み込むことは,無意味であり,逆効果であると主張するが,上記アで指摘したのと同様,本願発明8における「解析」について,特定の装置の技術的仕様に画像をより良好に適合させるために画像の調整を行うためのものと限定して解釈すべき理由はないから,原告の上記主張も,前提を欠くものであって採用することができない。\n
8まとめ
以上によると,原告主張の取消事由のうち,相違点の認定の誤り及び相違点4に係る容易想到性の判断の誤りは,いずれも理由がないが,相違点1に係る容易想到性の判断の誤り及び相違点2に係る容易想到性の判断の誤りは,いずれも理由がある。
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2021.06.16
令和2(行ケ)10092 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年5月31日 知的財産高等裁判所
知財高裁3部は、進歩性無しとした審決を取り消しました。理由は、引用文献の認定誤りです。
上記(1)の記載によれば,引用技術2の「油性ゲル状」「粘着シート製剤」
は,上記(1)イの従来技術である「架橋アクリル系粘着剤」の組成を調整する
ことによって,粘着性を維持しつつ薬剤の溶解性を高めたシートであって,
皮膚への粘着性は,従来技術と同様に,専らアクリル系粘着剤に依存してい
ることが認められる。
3 相違点についての審決の判断の当否
上記1(3)のとおり,本願発明の技術的意義に照らすと,本願発明の「オイル
ゲル」は,アクリル系粘着剤等の粘着性ではなく,ゲル化したオイルの粘着性
によって,皮膚に対して粘着するものである。これに対し,引用技術2の「油
性ゲル状粘着製剤」は,上記2(2)のとおり,アクリル系粘着剤の粘着性によっ
て,皮膚に対して粘着するものである。
このように,引用技術2の「油性ゲル状粘着製剤」は,本願発明の「オイル
ゲル」とは技術的意義を異にするから,引用発明に引用技術2を適用しても,
相違点に係る本願発明の構成には至らない。\nしたがって,容易想到性に関する審決の判断には誤りがある。
4 被告の主張について
被告は,「オイルゲル」は有機溶剤を溶媒とするゲルの総称であるとの技術
常識が存在し,本願発明の「オイルゲル」の意義や組成について本件明細書に
は記載がないから上記技術常識に沿って解釈すべきであり,上記技術常識によ
れば引用技術2の「油性ゲル」は「オイルゲル」に含まれる旨主張する。
たしかに,乙1(特許庁「周知・慣用技術集(香料)第I部香料一般」1999
年1月29日発行)等によれば,「ゲル」を流体(溶媒)の違いという観点から
「ヒドロゲル」「オイルゲル」「キセロゲル」の3種類に分類することが一般
的に承認されている事実は認められ,また,乙6(権英淑ほか「実効感を発現
するためのスキンケア製剤設計」FRAGRANCE JOURNAL Vol.34 No.1 pp.52-55
(2006))等には,この分類を前提として,アクリル系材料を基剤とした「オイ
ルゲル」の粘着剤に言及する記載も見られる。しかしながら,他方,甲7(柴
田雅史「化粧品におけるオイルの固化技術」J.Jpn. Soc. Colour Mater., 85
[8] 339-342 (2012))では,冒頭に「有機溶剤(オイル)を少量の固化剤を用
いて固形もしくは半固形状にしたものは一般に油性ゲルと呼ばれ,・・・・・・メイク
アップ化粧品を中心に幅広い製品の基剤として用いられている」と記載されて
おり,化粧品の分野において,「オイルゲル」の用語をこのような意味で用い
ることも一般的であったと認められるから,「オイルゲル」という用語が,当
然に被告主張のような意味に用いられると断定することはできない。
そうすると,本願発明の「オイルゲル」の技術的意義は,特許請求の範囲の
記載だけからは一義的に明確ではない。そこで,明細書の発明の詳細な説明の
うち,従来技術に関する記載及び解決課題に関する記載を参酌し,上記1のと
おり,「オイルゲルシート」を「アクリル系粘着剤等の粘着性ではなく,ゲル
化したオイルの粘着性によって,皮膚に対して粘着するシート」と解釈すべき
である。
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2021.06.15
令和1(行ケ)12020 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年5月19日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が取り消されました。同じ先行技術について審決は阻害要因あり、裁判所は阻害要因無しとの判断です。
(イ) 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手
段1)の採用と甲1発明の技術思想について
a 空所134への液体の集約
被告は,甲1は,甲1発明が,「改良された液体分布機構」として,ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をい\nったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個
所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており,甲1発明の「改良された液体分布機構\」においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング
30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,コ
ンプレツサ内に存在しないとし,したがって,スラストピストン室6
0についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所13
4を介することなく供給するなどという構成は,甲1発明の技術思想に反するものであって,適用が排斥されていると主張する(前記第3,\n1(2)イ(イ)c(a))。
甲1には,空所134に関し,「中間ハウジング30はまた,圧力の
かかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有して
いる。」(9欄35〜37行),「空所134は,コンプレツサベアリン
グおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形
成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70
に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働
く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152および
パイプ154を介して空所134から室70に供給される。」(10欄
6〜13行)と記載され,ポンプ140によって加圧した液体の供給
について,いったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必
要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するとい
う構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると,ポンプ140により加圧された液体を供給する経路の一部を,あえて空\n所134を経由しない別の経路として設けるように変更することは,
甲1の技術思想に反するものとして,その適用が排斥されているとい
う余地があるとしても,ポンプにより圧力が加えられない液体をスラ
ストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に,これを,
ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが
排斥されていると解することはできない。したがって,被告の上記主
張を採用することはできない。
被告は,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける
と,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂
回することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属く
ず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不物等)がスラストピストン
室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいて
はコンプレツサ10が機能不全に陥るとし,甲1発明において,スラストピストン室60に液体を供給する構\成を,ポンプ140・フイルタ146・空所134を迂回するものの他のフイルタを通過してスラ
ストピストン室60に至る構成に改変しようとすると,フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体\nパイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,甲1発明がコン
プレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等
に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因があると主張する(前記第3,1(2)イ(イ)d(b))。
しかし,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ14
6を迂回したとしても,圧縮機全体での液体の循環が繰り返される中
で,大部分の異物はいずれはフイルタ146を通って除去されること
になるし,必要であれば,ポンプの前にフイルタを経由するように構成を変更し,ポンプにより圧力を加えられる液体も,圧力を加えられ\nない液体もフイルタを通過するようにするなどの対応を取ることもで
きるから,コンプレツサ10が機能しなくなるとは認められない。また,このように構\成を変更するとしても,それによってコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数が著しく増えるとする根拠はない。したが
って,被告の上記主張を採用することはできない。
・・・
。このように,甲1発明に
ついても,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題を
認識できることから,そのような課題を解決するために,逆スラスト
荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるもの
と認められる。そうすると,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が
発生するという技術的課題やその課題の解消について甲1に直接の言
及がないとしても,そのような課題を解決するために甲1発明に非加
圧の経路を設けるという動機付けが生じるものと認められる。したが
って,被告の上記主張を採用することはできない。
3 以上によれば,本件特許発明は,甲1発明に,甲2ないし甲5に記載された
周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許
法29条2項の規定により特許を受けることができず,本件特許は特許法12
3条1項2号の規定により無効とすべきものであると認められ,取消事由1(無
効理由1に関する進歩性の判断の誤り)は理由がある。
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2021.06. 4
令和2(行ケ)10015 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年5月17日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が維持されました。知財高裁は、課題が公知文献に記載されていないだけでなく、解決手段も公知文献から導けないと判断しました。
イ シリコーン誘発凝集阻害という課題の発見の容易性について
原告は,タンパク質製剤におけるシリコーン誘発凝集は知られており,
タンパク質の凝集が多糖類−タンパク質コンジュゲート凝集の原動力であ
ることを当業者は理解していたから,公知発明1に6種の肺炎球菌CRM
コンジュゲートを追加することによりタンパク質含量が増える13価の肺
炎球菌CRMコンジュゲート製剤でシリコーン誘発凝集が生じることは予\n見可能であった旨主張する。\nしかし,原告がその主張の根拠とする公知文献(甲25,26,71)
は,キャリアタンパク質がCRM又は破傷風毒素(TT)である多糖類−
タンパク質コンジュゲートの構造的不安定性に関連する凝集について記載\nするのみであるから,これらの公知文献からは,多糖類−タンパク質コン
ジュゲートのシリコーン誘発凝集が本件優先日当時に課題として当業者に
認識されていたとはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 課題の解決手段の適用の容易性について
上記イで述べたとおり,当業者は本件発明の課題を認識できないから,
既にこの点において容易想到性は否定されることになるが,念のため,課
題解決手段適用の容易想到性に関する原告の主張についても検討しておく。
(ア) タンパク質製剤のシリコーン誘発凝集の解決手段に関する知見につき
原告は,当該課題の解決のために,当業者は,タンパク質製剤におけ
るシリコーン誘発凝集の解決手段に関する知見を採用し得た旨主張する。
しかしながら,原告がその主張の根拠とする公知文献(甲3,69)
には,タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集についての記載はあるが,
多糖類−タンパク質コンジュゲートのシリコーン誘発凝集についての記
載はない。他方,多糖類−タンパク質コンジュゲートの構造的不安定性\nや凝集は,タンパク質部分のみでなく多糖類部分の影響も受けることが
知られていたところ(甲25,50),多糖類とタンパク質は構造や性\n質が異なるから,両者の挙動は異なることが当然に予想される。そうす\nると上記公知文献(甲3,69)に記載されたタンパク質医薬品のシリ
コーン誘発凝集についての知見が,多糖類−タンパク質コンジュゲート
のシリコーン誘発凝集にも直ちに妥当するものとは認められない。また,
上記公知文献は,タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集の問題を解決
する手段として,それぞれ,界面活性剤の添加又はシリコーン含有量の
低減を開示するのみであって,本件発明の構成であるアルミニウム塩の\n添加には触れていないから,公知発明1にタンパク質製剤のシリコーン
誘発凝集の解決手段に関する上記公知文献記載の知見を適用しても,本
件発明の構成には至らない。\nしたがって,原告の上記主張は採用できない。
(イ) アルミニウム塩の発揮する効果に関する知見につき
原告は,凝集体の発生に関連するタンパク質の疎水性表面への吸着は\nアルミニウム粒子で防ぐことができるとの知見(甲81の3,76)が
あったから,疎水性界面を示すシリコーンによるワクチンの凝集も,ア
ルミニウム塩をアジュバントとすることにより防ぐことができると当業
者は理解したと主張する。
しかし,上記知見においては,容器の疎水性表面へのタンパク質の吸\n着は,液体(製剤)と固体(容器)との界面における容器表面とタンパ\nク質分子との相互作用に関連すると理解されていたのに対し(甲81の
3),タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集は,微量のシリコーンの
存在と空気−液体界面におけるタンパク質の変性や(甲3),タンパク
質結合に関与する分子間相互作用へのシリコーンの影響(甲69)に関
連すると考えられており,シリコーン誘発凝集がタンパク質のシリコー
ンへの吸着によって生じると考えられていたとは認められないから,疎
水性表面へのタンパク質の吸着をアルミニウム粒子により阻害する旨の\n上記知見を,直ちに肺炎球菌CRMコンジュゲートのシリコーン誘発凝
集の阻害のために適用することは困難であったといえる。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
エ 単なる「発見」にすぎないとの予備的主張について\n
原告は,相違点4に係る発明特定事項は,ワクチン製剤のアジュバント
としてアルミニウム塩を選択するという周知慣用技術を採用したとき,ア
ルミニウム塩が肺炎球菌CRMコンジュゲートワクチン製剤においてはシ
リコーン凝集阻害という効果を示すという,公知発明1(7価プレベナー
)でも生じていたメカニズムを「発見」したにすぎないから,相違点4を
根拠に本件発明の進歩性を認めることは,自由技術に独占権を与えること
になって不当である旨主張する。
しかし,この主張は,本件発明と公知発明1とは実質的には同一である
という前記の主張と本質を同じくするものであるといえるところ(すなわ
ち,本件発明と公知発明1とは実質的には同一であって,発明の構成にお\nいて違いはないという前提があって初めて,本件発明の独自性は,凝集の
メカニズムを「発見」したにすぎないという議論が成り立ち得ることにな
るはずである。),この主張を採用することができないことは既に説示し
たとおりである。
◆判決本文
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2021.06. 4
令和2(行ケ)10102等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年5月20日 知的財産高等裁判所
10日ほど前に、新聞を賑わしたユニクロのセルフレジの特許についての無効審判事件です。知財高裁は特許無効とした審決を、引用文献の認定誤りがあるとして、取り消しました。
ウ また,甲1の「読取り/書込みデバイス102」は単独で機能するもの\nである。
(ア) 甲1発明は,RFIDタグの読取り/書込みを行うデバイスと,この
デバイスを利用する会計端末に関するものである(甲1の訳文3頁4行〜6行)が,
一般に,RFID読取りデバイスにより情報が読み取られる対象物には,液体を含
む物や水分量が多い物もあるが,そうでない物もある。こうした液体を含む物や水
分量が多い物を取り扱わない店舗も多々あるが,甲1発明の発明者は,スーパーマ
ーケットのように,液体を含む物や水分量が多い物も販売する店舗に着目し,その
ような店舗においては,「FR 2 966 954 A1号」として公開されてい
る特許公開公報(乙30)の図に示された装置では,効率的な読取りを実施するこ
とができないと考えており(甲1の訳文3頁10行〜26行),甲1発明は,「液体
を含む物や水分量の多い物についてもRFIDタグが効率的に読みとれること」,
「対象物のタイプにかかわらず,RFIDタグが効率的に読みとれること」を目的
とするものであることを,当業者は理解する。
そして,当業者は,甲1の具体的構成(甲1の訳文3頁35行〜47行)により,\n「本発明によるデバイスによって,載置キャビティ内において,端末の近傍に置か
れた製品,特に端末に隣接する棚に置かれた製品に貼付されたRFIDタグが通電\nされ,したがって読み取られるリスクを伴わずに,読取り/書込み動作を実施する
のに使用される電波の出力を増加させることが可能になり,またしたがって,キャ\nビティ内に載置されたタグを,液体を含む対象物に貼付されたタグであっても,よ\nり良好に読み取ることが可能になる。」という効果を有すること(甲1の訳文4頁1\n4〜19行)を理解する。
甲1の具体的構成と,乙30に記載されているRFID読取りデバイスの相違は,\n1)「前記挿入アパーチャの周りに配置され,前記挿入アパーチャから上方に延在し,
前記載置キャビティと外部との間の電波を減衰することができる,防壁と呼ばれる
少なくとも1つの壁」(「防壁」)と,2)「前記少なくとも1つの防壁を通して前記挿
入アパーチャにアクセスするための,アクセス開口部と呼ばれる少なくとも1つの
開口部」(「アクセス開口部」)のみである。
2)の「アクセス開口部」は,1)の「防壁」がある場合に,載置キャビティに物を
入れるため(「防壁を通して前記挿入アパーチャにアクセスするため」)の開口部で
あるから,防壁があれば必然的に存在することになるものであり,水分を含む物で
も情報が効率的に読み取れることとは関係しない。甲1の具体的構成が,乙30に\n係る発明と異なり,水分を含む物でも情報が効率的に読み取れるのは,「防壁」があ
るからであると当業者は理解する。
したがって,当業者は,水分を含まない物や対象物が軽い物を読み取るのであれ
ば,電波を低量にするから,「防壁」のない装置で十分であると理解する。\nそして,甲1では,「防壁」のないものとして,「読取り/書込みモジュール20
0」が,[図2]に示され,甲1の訳文10頁1〜19行に具体的な構成が記載され\nており,当業者は,「読取り/書込みモジュール200」は,「防壁」を備えるもの
ではなく,よりシンプルな構成であるが,読取装置に必要な要素をすべて備えるも\nのであり,水分を含まない対象物については,問題なく動作することを理解する。
このように,甲1には[図1]に示されている読取装置と,[図2]に示されてい
る読取装置の二つが開示されており,[図1]の読取装置は,水分を含む物も含まな
い物も,効率よく読み取ることができるものであり,[図2]の読取装置は,水分を
含まない物に使用することができると,当業者は理解する。
甲1発明2のように,読取装置を独立した発明として把握する公知文献,公知技
術は枚挙に暇がない(甲2,乙28〜37)。
(イ) 原告らは,水分を含まない物を読み取るものとして,甲1発明2を単
体で利用することについては甲1に何ら記載がないと主張している。
しかし,被告は,読取対象物が水分の少ない場合については従来技術と同様に甲
1発明2が単体の読取装置として機能することを説明しているのであるから,これ\nに対する反論となっていない。当業者が甲1文献の記載を読めば,読取対象物が水
分の少ない物を取り扱う店舗においては,水分の多い物を読み取るために創作され
た甲1発明1全体を実施するのは無駄であり,従来技術に近い甲1発明2を実施す
べきであると考えるのが当然である。
また,原告らは,電波の出力を下げると金属に貼られたタグも読み取りできなく\nなると主張する。
しかし,そのような事実があるかは不明であるし,仮にそうであるとしても,読
取対象物が金属製でない場合は,従来技術と同様に,甲1発明2が単体の読取装置
として機能し,使用可能\である。本件明細書には,電波強度や金属に貼られたタグ\nを読み取る点について記載がなく,本件発明が金属に貼られたタグが読めるものと\nは解釈できないから,甲1発明2と対比できるものではない。
エ 原告らは,防壁及びアクセス開口部は,甲1に記載される目的を達成す
るために必須の構成であると主張する。\nしかし,上記ウのとおり,甲1の[図2]の読取装置は,水分を含まない物につ
いては読取装置として十分に使用することができると,当業者は理解する。本件審\n決は,甲1に記載されたこれらの発明のうち,水分を含まない物に使用することが
できる[図2]の読取装置を「甲1発明2」と認定したものであるから,誤りはな
い。
オ 原告らは,甲1の実施例に重量計が使われていることを指摘するが,読
取対象物が水分の少ない場合については,重量計が存在しても,従来技術と同様に,
甲1発明2が単体の読取装置として機能することに変わりはない。\n
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2021.05.10
令和2(行ケ)10041 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月25日 知的財産高等裁判所
薬品の特許について、公知文献の記載は技術的な裏付けがない仮説にすぎないとして、進歩性違反なしとした審決を維持しました。
(ア) ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動に関する本件優先日当時
の知見について
前記ア(ウ),(エ),(カ),(ケ)の各記載からすると,本件優先日当時までに,Co
wanらは,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みの間には関連性が
あることを提唱していたものと認められる。
しかし,これらの証拠によっても,本件優先日当時,Cowanらが,ボンベシ
ン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があることを実験等により実
証していたとは認められないし,また,その作用機序等も説明していない。さらに,
甲4には,「この行動,及びその行動の発生におけるボンベシンの考え得る役割に
ついては,更に研究する必要がある。」と記載されており,ボンベシン誘発グルー
ミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があると断定まではされていない。
加えて,前記ア(ア)のとおり,昭和35年に発表された甲25では,そもそもラッ\nトのグルーミングの実施形態,目的,又は,これを支配する状況等は,ほとんど何
も知られていないとされており,前記ア(キ)のとおり,平成4年に発表された甲27\nでも,ボンベシンにより誘発される行動が,痛み等の侵害刺激に基づく可能性があ\nるとの指摘がされており,前記(2)ア(オ)のとおり,平成7年に発表された甲9にお\nいても,信頼性のある痒みの動物モデルは存在しない,マウスは起痒剤Compo
und48/80を皮下注射されても引っ掻き行動をせず,マウスがグルーミング
中に耳及び体の引っ掻き行動するのが痒みに関連した行動とは考えられないなどと
されており,Cowanら以外の研究者は,ボンベシンやそれ以外の原因により誘
発されるグルーミング・引っ掻き行動が,痒み以外の要因によって生じているとの
見解を有していたと認められる。
そして,前記(2)ア(オ)のとおり,甲9は,Compound48/80やサブス
タンスPを起痒剤として取り扱っており,本件明細書の実施例12でも起痒剤とし
てボンベシンではなく,Compound48/80が使用されている一方,ボン
ベシンは,本件優先日当時,起痒剤として当業者に広く認識されて用いられていた
ものであるとは,本件における証拠上認められない。
以上からすると,本件優先日当時,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動
と痒みの間に関連性があるということは,技術的な裏付けがない,Cowanらの
提唱する一つの仮説にすぎないものであったと認められる。
(イ) オピオイドκ受容体作動性化合物とボンベシン誘発グルーミング・引
っ掻き行動との関係について
前記ア(イ)〜(カ),(ケ),(コ)の記載を総合すると,本件優先日当時までに,ベンゾモ
ルファン,エチルケタゾシン,チフルアドム,U−50488,エナドリンといっ
たオピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行
動を減弱すること,他方で,同じオピオイドκ受容体作動性化合物であっても,S
KF10047,ナロルフィン,ICI204448といったものは,ボンベシン
誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱しないこと,さらに,オピオイドμ受容体
作動性化合物であるフェナゾシン,オピオイドκ受容体作動作用を有することにつ
いて報告がされていない化合物(乙6〜11)であるメトジラジン,トリメプラジ
ン,クロルプロマジン,ジアゼパムのようなものであっても,ボンベシン誘発グル
ーミング行動が減弱されることが,Cowanらによって明らかにされていたとい
える。
また,前記ア(エ),(カ)の記載及び弁論の全趣旨を総合すると,上記のボンベシン
誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱するオピオイドκ受容体作動性化合物の基
本構造は,それぞれ異なっており,エチルケタゾシンはベンゾモルファン骨格,チ\nフルアドムはベンゾジアゼピン骨格,U−50488及びエナドリンはアリールア
セトアミド構造をそれぞれ有しており,甲1発明の化合物Aとはそれぞれ化学構\造
(骨格)を異にするものであった。そして,前記ア(ク)のとおり,化学構造の僅かな\n違いは,薬理学的特性に重大な影響を及ぼし得るものである。
以上からすると,本件優先日当時,オピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベ
シン誘発グルーミング・引っ掻き行動を抑制する可能性が,Cowanらによって\n提唱されていたものの,甲1の化合物Aがボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き
行動を減弱するかどうかについては,実験によって明らかにしてみないと分からな
い状態であったと認められる上,上記(ア)のとおり,ボンベシンが誘発するグルーミ
ング・引っ掻き行動の作用機序が不明であったことも踏まえると,なお研究の余地
が大いに残されている状況であったと認められる。
(ウ) 上記(ア),(イ)を踏まえて判断するに,前記ア(イ)〜(カ),(ケ)のとおり,
本件優先日当時,Cowanらは,1)ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動
が,痒みによって引き起こされているものであるという前提に立った上で,2)オピ
オイドκ受容体作動性化合物のうちのいくつかのものが,ボンベシン誘発グルーミ
ング・引っ掻き行動を減弱することを明らかにしていた。
しかし,上記1)の点については,上記(ア)のとおり,技術的裏付けの乏しい一つの
仮説にすぎないものであった。
上記2)の点についても,上記(イ)のとおり,本件優先日当時において研究の余地が
大いに残されていた。
そうすると,本件優先日当時,当業者が,Cowanらの研究に基づいて,オピ
オイドκ受容体作動性化合物が止痒剤として使用できる可能性があることから,甲\n1発明の化合物Aを止痒剤として用いることを動機付られると認めることはできな
いというべきである。
(エ) 小括
以上からすると,当業者が,甲1発明に甲2〜9,12などから認定できる一連
のボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動とオピオイドκ受容体作動性化合物
に関する知見を適用し,本件発明1を想到することが容易であったということはで
きないというべきであり,取消事由1は理由がない。
ウ 原告の主張について
原告は,これまで認定判断してきたところに加え,1)本件審決は,技術常識が存
在しないことから直ちに動機付けを否定してしまっており,公知文献から認められ
る仮説や推論からの動機付けについて検討しておらず,裁判例に照らしても誤りで
ある,2)甲63によると,ダイノルフィンAと同じオピオイドκ作動作用を持つ化
合物は,痒みや痛みを抑制することが容易に予測でき,甲1の化合物Aを使用して\n止痒剤としての効果を奏するかを確認してみようという動機付けも肯定できると主
張する。
しかし,上記1)について,仮説や推論であっても,それらが動機付けを基礎付け
るものとなる場合があるといえるが,本件においては,Cowanらの研究に基づ
いて,甲1発明の化合物Aを止痒剤として用いることが動機付けられるとは認めら
れないことは,前記イで認定判断したとおりであり,原告が指摘する各裁判例もこ
の判断を左右するものとはいえず,原告の上記1)の主張は採用することができない。
上記2)について,本件明細書には,前記1(1)イのとおり,甲63にダイノルフィ
ンと共に挙げられているエンドルフィン,エンケファリン(前記ア(サ))が,痒みを
惹起することが記載されている上,前記ア(サ)のとおり,甲63が,痒みと痛みの関
係は明確ではなく,研究を更に行わなければならないと結論付けているところから
すると,甲63の記載が,ダイノルフィン,エンドルフィン,エンケファリン等の
内因性オピオイドが,止痒剤の用途を有することを示唆するものであるとは認めら
れず,甲63の記載から,当業者が,甲1の化合物Aについて,止痒剤としての効
果を奏するかを確認することを動機付けられるとは認められない。
そして,その他,原告が主張するところを考慮しても,前記イの認定判断は左右
されないというべきである。
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2021.05. 7
令和2(行ケ)10030 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年4月28日 知的財産高等裁判所
進歩性違反ありとした審決が取り消されました。理由は、先行技術甲1に接した当業者は,甲1の構成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識するとはいえないので、甲1に本件周知技術を適用する動機付けがないというものです。\n
原告は,本件審決は,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥
没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具
と接続管とで挟持取付けること」(本件周知技術)は,本件出願前の周知技術
にすぎないから,取付けの強固さや水密性等を考慮して,甲1発明の「縁部
2」の構成を,本件周知技術のように,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥\n没部の底部に形成された内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取
付けることによって,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者\nが容易になし得たことである旨判断したが,甲1発明に本件周知技術を適用
する動機付けはないから,本件審決の判断は,誤りである旨主張するので,
以下において判断する。
ア 甲1発明は,「浴槽の底部1は,開口部を有し,その縁部2は,貫通する
方法で湾曲しながら徐々に下側に向かって成形され,この開口部の中には,
排水装置が挿入されており,この排水装置は,おおよそ筒状を呈した排水
ケーシング3を有しており,排水ケーシング3の上端部にはパッキン5を
保持し固定するフランジ4が配置されて,上記縁部2の下端が該パッキン
5に接しており,上側からは,排水カップ6が,排水ケーシング3の中へ
ネジ固定により挿入されて,上部外側の縁部分で浴槽の底部に接しており,
排水カップ6の内側には,排水カップ6の上端の径と略同径の閉塞板7が
挿入されており,タペット8を用いることにより上昇させたり,下降させ
たりすることができ,閉塞板7は,開口部に接触せず,閉鎖時には,浴槽
の底部1に概ね面一とされ,閉塞板7の裏側には,径内方向に凹んだ断面
コ字状の環状の溝部が設けられ,該溝部にパッキンが保持されている,排
水装置」(前記第2の3(2)ア)である。
甲1の図面(別紙2参照)は,排水ケーシング3の円形断面の中心線に
おける断面図であること(前記2(2)イ(イ)),甲1の「ここでは,唯一の図
面が,本発明に基づく排水装置の横断面の形状を示している。ここに示さ
れた一つの浴槽の底部1は,一つの開口部を有しており,その縁部2は,
貫通する方法で下側に向かって成形されている。この開口部の中には,排
水装置が挿入されており,この排水装置は,排水ケーシング3を有してい
る。・・・排水カップ6の内側には,閉塞板7が挿入されており,一本のタペ
ット8を用いることにより上昇させたり,下降させたりすることができる。」
(前記(1)ウ)との記載に照らすと,甲1の図面は,閉塞板7が下降し,開
口部を閉鎖した状態を示した図面であることを理解できる。
そして,甲1の図面から,甲1発明の縁部2は,断面形状が内側に湾曲
しながら徐々に下側に向かって縮径する構成を有し,縁部2の湾曲面に上\n部外側の縁部分が当接する排水カップ6と,縁部2の下端に接するパッキ
ン5を保持し,固定するフランジ4を含む排水ケーシング3とで挟持取り
付けられていることを理解できる。
他方で,甲1には,縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持
取付けられていることやその作用等について明示的に述べた記載はない。
また,甲1の記載事項全体(図面を含む。)をみても,縁部2が排水カップ
6と排水ケーシング3とで挟持取付けられている構成について,取付けの\n強固さや水密性等の観点から,改良すべき課題があることを示唆する記載
もない。
イ 次に,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に
内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管と
で挟持取付けること」(本件周知技術)が,本件出願当時,周知であったこ
とは,前記(1)イのとおりである。
他方で,本件周知技術に係る甲3,5及び8には,円筒状陥没部の底部
に形成した内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構\n成の作用等について述べた記載はない。
また,甲3,5及び8には,取付けの強固さや水密性等の観点から,内
向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成が,甲1の図\n面記載の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられ
る構成よりも優れていることを示唆する記載はない。\n
ウ 前記ア及びイによれば,甲1に接した当業者は,甲1発明の縁部2の構\n成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識
するとはいえないから,甲1発明の縁部2に本件周知技術の構成を適用す\nる動機付けがあるものと認めることはできない。
したがって,当業者は,甲1及び本件周知技術に基づいて,甲1発明に
おいて,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到すること\nができたものと認めることはできない。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,1)本件発明の「内向きフランジ部」は,円筒状陥没部の底部か
ら縮径するように延出させることで排水口金具と接続管とで挟持取付ける
ものである必要があり,かつ,それで足りるところ,甲1発明の縁部2は,
断面形状が内側に凸となる円弧状を呈し,下方向だけでなく内側方向にも
延出することで,開口部を下側に向かって縮径しており,このように開口
部を縮径することによって「排水カップ6」と「排水ケーシング3」とで
挟持取付けられるものである点において,本件発明の「内向きフランジ部」
と甲1発明の縁部2は,構造的に共通する,2)本件明細書の【0013】
の記載に照らすと,本件発明の「内向きフランジ部」は,「円筒状陥没部」
の底部に位置することで排水口金具が「水槽の底部1」に露出しない状態
で排水口金具と接続管とで挟持取付けられるものであるところ,甲1発明
の縁部2も,「開口部」の底部に位置することで排水口金具が「浴槽の底部
1」に露出しない状態で排水口金具と接続管とで挟持取付けられる点にお
いて,本件発明の「内向きフランジ部」と機能及び作用が共通するとして,\n甲1発明の縁部2は,フランジ形状を呈していないとしても,構造,機能\
及び作用が共通しているから,本件発明の「内向きフランジ部」と実質的
に同一であり,相違点1は実質的な相違点ではない旨主張する。
しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明の「内向き
フランジ部」に関し,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状
陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管と
で挟持取付けられて排水口部を形成」されること,「その円筒状陥没部内
を上下動するカバーが,前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径である」
ことの記載はあるが,本件発明の「内向きフランジ部」の形状や構造を\n規定する記載はない。また,本件明細書においても,本件発明の「内向
きフランジ部」の用語を定義する記載はない。
一般に,「フランジ」とは,「管を他の管または機械部分と結合する際
に用いる鍔型の部品。」(広辞苑第七版)を意味することからすると,本
件発明の「内向きフランジ部」とは,円筒状陥没部において内側に向け
て形成された鍔状の部分を意味するものと解される。そして,上記結合
の際には鍔状の形状であることに即した作用を奏するものといえる。
しかるところ,甲1発明の縁部2は,湾曲しながら徐々に下側に向か
って形成され,下端部に至るまでなだらかな弧状であり,内側に向けて
形成された鍔状の部分は存在しないから,本件発明の「内向きフランジ
部」に相当するものと認めることはできない。
このように甲1発明の縁部2は,鍔状の部分を備えていない点におい
て,本件発明の「内向きフランジ部」と構造が明らかに異なり,その作\n用にも差異があるといえるから,本件発明の「円筒状陥没部の底部に形
成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて」
いる構成と,甲1発明の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで\n挟持取付けられている構成とが実質的に同一であるものと認めることは\nできない。
(イ) したがって,相違点1は実質的な相違点でないとの被告の主張は,
理由がない。
イ また,被告は,水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部
の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と
接続管とで挟持取付けること(本件周知技術)は,本件出願当時,周知で
あったことからすると,甲1に接した当業者は,取付けの強固さや水密性
等を考慮し,甲1発明の「縁部2」に本件周知技術を適用することによっ
て,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することがで\nきた旨主張する。
しかしながら,被告の上記主張は,前記⑵で説示したとおり,採用する
ことができない。
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2021.04.23
令和2(行ケ)10110 決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月18日 知的財産高等裁判所
加圧トレーニングに関する発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。
これに対して,原告は,前記第3の1(1)のとおり,甲1に引用された実
施例と本件発明3の実施例は,全く同一であり,自然締付け力を付与され
ていない状態とする効果を生じさせるための新たな構成要素が付加されて\nいるわけでもないし,仮に,本件優先日当時,自然締付け力を皆無にする
施術が広く実施されていなかったとしても,加圧力の範囲は,身体に対す
る負担や得られる効果を勘案しつつ適宜決定し得る程度の事項である旨主
張する。
原告の主張は,本件明細書と甲1の明細書を対比すれば,本件明細書の
図1ないし図7が甲1の明細書の図1ないし図7と同一であること,すな
わち,本件発明3と甲1−3発明でそれぞれ用いられる緊締具,加除圧制
御装置及び加除圧制御システムが同一であることを指摘するものと解さ
れるが,そうであるとしても,甲1−3発明には,加圧工程と除圧工程を
交互に繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに
緊締具が所定の部位に与える締付け力について,特定部分を締付ける加圧
力を付与しない状態,すなわち,自然締付け力による加圧力も付与しない
状態に制御することについての記載も示唆もないことは前記(1)のとおり
である。
また,甲1−3発明は,四肢の所定の部位の締付け力の上げ下げを行い
ながら,その所定の部位よりも下流側に流れる血流を阻害し,それによっ
て筋肉に疲労を生じさせ,筋肉の効率的な増強を図ることを目的とするも
のである(【0003】,【0004】,【0009】,【0010】)から,甲
1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に繰り返す圧力調整手段
を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締具が所定の部位に与え
る締付け力について,自然締付け力による加圧力も付与しない状態にして
血流を阻害しないようにする構成とする動機付けがあるとはいえない。\nなお,原告は,甲2発明は,筋肉トレーニングの方法を応用することに
よって動脈硬化,つまり,血管のメタボリック症候群状態を改善すること
を目的としており,血管を強化する方法の1つを示している旨主張してい
るところ,上記主張の趣旨は明らかではないが,要するに,甲2発明にお
いて筋肉トレーニング方法を応用することで血管強化も実現できること
が示されている以上,本件発明3と同じ緊締具,加除圧制御装置及び加除
圧制御システムが用いられている甲1−3発明において,血管強化も実現
するために,除圧工程により加圧動作によって付与された加圧力が完全に
除去された状態において特定部分を締め付ける加圧力が付与されていな
い構成にすることは,設計的事項であると主張するものと解される。\nしかし,甲2の発明の詳細な説明には,「メタボリック症候群は,・・・動
脈硬化,心筋梗塞,或いは脳卒中を起こしやすい状態である」(【0005】)
との記載があるのみで,メタボリック症候群が動脈硬化の状態にあると記
載されているわけではなく,また,「加圧トレーニング方法は,四肢の少な
くとも1つで流れる血流を阻害することによりその効果を生じさせるも
のである・・・加圧トレーニング方法を,メタボリック症候群の治療に用い
ようとした場合には,・・一般的には中高年であるメタボリック症候群の患
者は血管の強度,柔軟性が低下していることが多いため,四肢の付根付近
の締付けを行うことにより四肢に与える圧力の制御に最大限の注意が必
要である」(【0007】),「加圧トレーニングは,・・・四肢の付根付近の所
定の部位を締付けて加圧することにより,四肢に血流の阻害を生じさせ,
それにより運動したのと同様の効果を生じさせるものである。・・・しかし
ながら,メタボリック症候群の患者のような,血管の強度,柔軟性が低下
している者の四肢を締付ける場合には,動脈まで閉じさせるような大きな
圧力を与えることは適切ではない。他方,静脈をある程度閉じさせるよう
な圧力で締付けを行わなければ,メタボリック症候群の患者の治療を十分\nには行うことができない。そこで,本願発明における治療システムでは,
四肢の付け根付近の締付けを本格的に行う通常処理に先立って前処理を
行い,その前処理で,四肢の付根付近を締付ける際に与える適切な圧力と
しての最大脈波圧を特定することとしている。・・・本願発明の治療システ
ムは,メタボリック症候群の患者を含む血管の弱い者の治療に適したもの
となる。」(【0009】)との記載がある。そうすると,甲2発明は,加圧
トレーニング方法の機序を応用した,血管の弱いメタボリック症候群の患
者に対する治療装置等に関する発明であって,血管強化方法に関するもの
ではないというべきであるから,甲2に血管強化方法が開示されていると
の原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,その他の点につき判断
するまでもなく,この点に関する原告の主張は理由がない。
イ また,原告は,甲6には,ベルト(あるいはカフ)を外すことにより締
付け力を皆無にする方法が記載されているところ,本件発明3においては,
「自然締付け力」を皆無にするための付加的な構成要素は示されておらず,\n具体的な方法すら示されていないから,ベルトを単に緩める,あるいは外
すという方法もその「自然締付け力」を皆無にする方法として本件発明3
に包含されている旨主張する。
上記主張の趣旨は明らかではないが,甲6に記載されたベルトを外すこ
とにより締め付け力を皆無にするという技術事項を,自然締め付け力によ
る加圧力を付与しない方法として甲1−3発明に適用すれば,本件発明3
の相違点2の構成に容易に想到するというものと解される。\n しかし,そもそも甲1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に
繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締
具が所定の部位に与える締付け力について,自然締付け力による加圧力も
付与しない状態として血流を阻害しない状態とする構成にする動機付け\nがあるとはいえないことは前記アのとおりである。
また,甲6には,1)「(バラコンバンドの効能)・・・2.血管内を清掃し
血管にも弾力がでる。バンドを強く締めると,そこで血流が止まる。心臓
からは絶え間なく血液は送られてくる。血液は,バンドの所で滞留し,血
量はその部で倍加される。バンドをはずすと,血は倍の速力で血管内を流
れる。その時血管壁を掃除し,動脈硬化を治し,血管そのものも弾力がで
る。」(74頁7行目〜75頁5行目),2)「足裏指巻き ●まず親指と第2
指の間を通してかかとにひっかけ,次に第2指と第3指を通して,またか
かとへ巻き,指の間を通した余りで足の甲をこの停止部分にバンドを巻く。
一つでも関節を越したほうがよく効くので,手の場合なら肘の下の二つの
腕にバンドを巻くといい。(肘の上から巻き込んでいてもかまわない)きつ
めに巻いて我慢できなくなったらはずそう。すると,ダムの水門を開いた
ように,血液がどっと流れ込み,これまで充分にいきわたっていなかった
ところまで勢いよく入り込む。」(120頁上段8行目〜121頁2行目)
との記載があるが,これらは,血流を一時的に止めた後にバンドを外した
場合の効果が記載されているに止まる。したがって,これらの記載に基づ
き,緊締具を付けたままの状態で,「ガス袋120へ空気を送って締付け部
位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位
への加圧を行わない下ピークと,を繰り返す加除圧方法」を採用する甲1
−3発明に,下ピークにする度に緊締具(甲6でいえば「バンド」)を外し,
上ピークにする前にこれを付け直すような変更を施すことは想定できず,
この点からも,甲1−3発明に甲6に記載された事項を適用する動機付け
はない。
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2021.04.23
令和1(行ケ)10140 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月16日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。
ア 本件発明1の「利用者データベース」について
(ア) 前記第2の2の特許請求の範囲の記載のとおり,構成要件1Bの「利\n用者データベース」は,管理コンピュータ側に備えられるものであり,
「監視端末側に対して付与されたIPアドレスを含む監視端末情報」が,
「利用者ID」に「対応付けられて登録」されているものと規定されて
いる。
また,管理コンピュータ側は,「利用者の電話番号,ID番号,アド
レスデータ,パスワード,さらには暗号などの認証データの内少なくと
も一つからなる利用者IDである特定情報」を入手し(構成要件1Di),\n「この入手した特定情報が,前記利用者データベースに予め登録された\n監視端末情報に対応するか否かの検索を行」い(構成要件1Dii),「前
記特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合,…この抽出された
監視端末情報に基づいて監視端末側の制御部に働きかけていく」(構成\n要件1Diii)と規定されている。
そうすると,特許請求の範囲の記載からは,「利用者データベース」
は,記憶媒体の種類や構成等の限定は付されていないものの,入手する\n特定情報から,あらかじめ登録された監視端末情報を検索することがで
き,入手した特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合に当該監
視端末情報に含まれるIPアドレスを抽出し得る程度に,IPアドレス
を含む監視端末情報が利用者IDに「対応付けられて登録されている」
ものと理解することが相当である。
(イ) そこで,次に,本件明細書の記載をみると,前記1のとおり,本件発
明の実施例において,「利用者データベース」は,磁気ディスクや光磁
気ディスクからなる記憶装置35に記憶され,利用者の電話番号,ID
番号,アドレスデータ,パスワード,暗号,指紋等を基にした利用者を
識別可能な符号である利用者IDに,該利用者の暗証番号並びに該利用\n者が監視したい場所に設置されている監視端末に付与されているIPア
ドレスを対応付けているものであり(【0020】,【0021】,【図
5】),利用者の認証の際に参照されるとともに,利用者がアクセス可
能な監視端末のグローバルIPアドレスを検索抽出するために参照され\nるものとされている(【0026】,【0029】,【0030】,【図
7】)。
本件明細書の記載によっても,「利用者データベース」は,利用者を
識別できる情報(「利用者ID」)に,当該利用者が監視したい場所に
設置されている監視端末に付与されたグローバルIPアドレス(「監視
端末情報」)が検索できる程度に対応付けられることを要するものと理
解される(なお,実施例における記憶媒体の種類は単なる例示であるこ
とが明らかであるから,やはり,本件発明1において,「利用者データ
ベース」の記憶媒体の種類や構成等に限定が付されたものと理解するこ\nとはできない。)。
(ウ) 以上からすると,本件発明1の「利用者データべース」は,利用者を
識別できる情報に監視端末側に付与されたIPアドレス等の情報が,検
索できる程度に対応付けられて登録されていることを要するものの,そ
れで足り,記憶媒体の種類や構成等が具体的に限定されているものでは\nないと解されるが,利用者を識別できる情報とIPアドレスが関連性な
く記憶され,両者がシステム動作中に単にあい続いて利用されているだ
けの関連性しか有しない場合には,前記(ア)において説示した意味合い
において,当該監視端末情報に含まれるIPアドレスを抽出し得る程度
に,IPアドレスを含む監視端末情報が利用者IDに「対応付けられて
登録されている」ものということはできないから,「利用者データベー
ス」が構成されているとはいえないと解するのが相当である。\n
◆判決本文
こちらは原告被告の同じ関連事件です。
◆令和1(行ケ)10141
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2021.04.22
令和2(行ケ)10073 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月24日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(1) 一致点及び相違点
上記1及び2によれば,本件各発明と甲1発明との一致点及び相違点は,
本件審決が認定したとおり(前記第2の3(2)イ)であると認められる(なお,
以下において,「医療情報取得情報」とは,患者の医療情報を取得するため
に,端末装置から取得され,又は情報処理装置の記憶部にあらかじめ記憶さ
れた情報をいう。)。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,甲1発明の「ベッドサイド端末識別子」は患者名を取得するた
めの識別情報であり,本件発明1の「第1識別情報」に相当するから,相
違点1−1は存在しない旨主張する。
しかしながら,本件明細書1及び甲1公報の記載内容からすれば,本件
発明1の「第1識別情報」は,患者ごとに付された患者ID等であるのに
対し,甲1電子カルテサーバの「ベッドサイド端末識別子」は,ベッドサ
イド端末ごとに付されたIPアドレス等であり,両者が識別する対象は異
なるというべきである。また,甲1電子カルテサーバの「ベッドサイド端
末識別子」は,患者IDと関連付けられて記憶されることによって初めて
患者を識別する情報として用いることが可能となるにすぎないものであ\nり,それのみによって直接に患者が識別されるものではない。
これらの事情を考慮すると,本件発明1の「第1識別情報」と甲1電子
カルテサーバの「ベッドサイド端末識別子」とは,異なる概念であるとい
うべきであるから,相違点1−1を認定することができる。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ なお,原告が主張する相違点は,上記相違点1−2と実質的に同じ内容
である(原告が指摘するとおり,相違点1−2の第2段落及び第3段落は,
第1段落に伴って形式的に生じる相違点にすぎない。)。
◆判決本文
こちらは関連発明です。
◆令和2(行ケ)10074
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2021.04.22
令和2(行ケ)10064 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月22日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が維持されました。争点は相違点が設計事項か否かです。
前記のとおり,相違点1は,切削ローラの路面に対する高さを調節する
ための機構に関するものであるところ,相違点2は,切削ローラの移動方\n向を踏まえた切削ローラ及びこれを支持する切削ローラハウジングとフ
レームとの支持構造に関するものであり,また,相違点3は,切削ローラ\nに一体化された切削ローラ駆動ユニットの可動方向を踏まえた同ユニッ
トの支持構造に関するものである。\nそうすると,これらは相互に密接に関連するものといえるから,相違点
1ないし3の容易想到性については,併せて判断するのが相当である。
イ そこで検討するに,上記2(1)のとおり,検甲1発明においては,切削ロ
ーラ及び切削ローラと一体化した駆動部がハウジング部に支持され,ハウ
ジング部は,上下方向変位用の油圧シリンダが取り付けられた2つの棒状
ガイド及び4本の連結棒を介してフレーム部に支持されているところ,切
削ローラの路面に対する高さの調節に関しては,切削ローラを油圧シリン
ダ等の駆動機構によって垂直方向に移動させる構\成が採られている。
これに対し,本件発明1においては,上記1(3)のとおり,切削ローラ及
び切削ローラハウジングが上下方向及び進行方向に機械フレームに強固
に支持されているところ,切削ローラの路面に対する高さの調節に関して
は,切削ローラを車体の上下動によって垂直方向に移動させる構成が採ら\nれている。
そして,本件優先日時点において,これらの方法以外に,自走式道路切
削機における切削ローラの路面に対する高さを調節する方法があったこ
とをうかがわせる証拠は存しないから,当業者としては,上記2つの方法
のいずれかを採るほかなかったものといえる。そうすると,これらの方法
のいずれを採るかは,当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎないという
べきである(なお,切削ローラを上下させるために,油圧シリンダ等によ
り切削ローラそのものを垂直方向に移動させることは誰しも思いつくと
ころであるといえるし,また,上記3(1)ないし(3)によれば,甲6文献な
いし甲8文献には,いずれも,自走式道路切削機における切削ローラの路
面に対する高さを調節する方法として,車体の上下動を用いる構成を採る\nことが記載されていることからすれば,本件優先日当時の自走式道路切削
機の技術分野において,同構成は,周知の技術であったといえる。したが\nって,これらの2つの方法のうちいずれかを採用することには技術的創意
を要するから設計事項には当たらないなどといった議論は成り立たな
い。)。
これらの事情を考慮すると,検甲1発明において,相違点1に係る本件
発明1の構成を採ることは,容易に想到し得るものであったといえる。\n
ウ また,検甲1発明において,切削ローラの路面に対する高さを調節する
方法として,上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成に代えて,車体\nの上下動を用いる構成を採る場合には,ハウジング部を垂直方向に移動さ\nせるための機構であった同油圧シリンダが不要となるところ,同油圧シリ\nンダが設置されていた棒状ガイドとフレーム部との間に,敢えて新たな別
の部材を設置する必要はない。そうすると,当業者としては,棒状ガイド
をフレーム部で直接支持するような構造を採ろうとするのが自然な技術\n的発想であるといえる。
そして,上記のように,検甲1発明において,棒状ガイドをフレーム部
で直接支持するような構造を採る場合には,切削ローラ及びハウジング部\nは,横断方向にのみ移動することができるようにすればよいのであって,
敢えてこれらを垂直方向又は進行方向にも移動することができるように
する必要はない。そうすると,当業者としては,切削ローラ,ハウジング
部及び切削ローラと一体化した駆動部を,垂直方向及び進行方向に移動し
ないように,垂直方向及び進行方向にフレーム部で強固に支持し,進行方
向に対して横断方向にのみ変位可能に支持する構\造を採ろうとするのが
自然な技術的発想であるといえる。
エ 以上によれば,検甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の構成\nを採った場合には,必然的に,相違点2及び3に係る本件発明1の構成を\n採ることとなるというべきである。
したがって,検甲1発明において,相違点2及び3に係る本件発明1の
構成を採ることは,相違点1と同様に,容易に想到し得るものであったと\nいえる。
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2021.04.22
令和2(行ケ)10032 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月30日 知的財産高等裁判所
引用文献1との一致点の認定が誤っているとして、進歩性無しとした審決が取り消されました。
これに対し,被告は,前記第3の1(2)ア(ア)のとおり,甲1発明におい
ては,撮像装置を光軸まわりに回転させる方向が「ロール方向」の傾きで
あることは技術常識であるから,表示部の回転した角度である「天地方向\nの向き」,すなわち「天地方向の情報を示す矢印の角度」が「ロール方向の
傾き」であると主張する。
しかし,「画像撮像装置1000が,右に30度傾いた状態である場合の,
報知画像600Aを示す図」である図13の「矢印512」は,「天地方向
の情報を示す」(【0112】)ものであるところ,「天地方向算出手段22
2は,傾斜測定部250が算出した重力加速度の方向と大きさに基づいて」
天地方向を判定し(【0079】,【0087】,【0088】,【0107】),
「傾斜測定部250」は,直交する2軸の重力加速度センサーが,【007
2】の式(3)で求められる,「方向D303と水平面P302とが成す角度」
(【0069】)であるθの値を算出し,平面P302の傾斜度を測定する
(【0073】,【0074】)ものである。そして,前記(1)ア(イ)のとおり,
こうした直交する2軸の重力加速度センサーと水平面との角度がなす傾
斜度により判定される角度は,光軸が水平面と平行である場合を除き,撮
像装置を光軸まわりに回転させる方向の傾きの角度とは異なるから,「矢
印512」で示される「天地方向の情報を示す矢印の角度」が「ロール方
向の傾き」であるということはできない。
イ また,被告は,前記第3の1(2)ア(イ)のとおり,甲1発明は,第1傾斜
度及び第2傾斜度の両方に基づいて画像撮像装置の前後方向の傾き,すな
わち,ピッチ方向の傾きを検出するものといえる旨主張する。
確かに,甲1には,1)天地方向算出手段222は,第1傾斜度及び第2
傾斜度のいずれかが所定値A(例えば,30〜60の範囲の値)以上であ
るか否かを判定(ステップS120)し(【0105】),所定値A以上であ
れば,天地方向算出手段222が,傾斜測定部250が測定した第1傾斜
度及び第2傾斜度に基づいて画像撮像装置1000の天地方向の算出を
行い(【0107】),制御部が画像撮像装置1000の天地方向の算出結果
に基づく情報を表示した報知画像を生成し,表\示部150に表示する(【0\n108】),2)ステップS120において,所定値A未満であれば,天地方
向算出手段222が傾斜測定部250が測定した第1傾斜度及び第2傾
斜度に基づいて,画像撮像装置1000の天地方向の算出を行う(【011
8】)ところ,図14のように画像撮像装置1000が水平面に対して平行
である場合,天地方向算出手段222は,傾斜測定部250が測定した第
1傾斜度及び第2傾斜度に基づいて画像撮像装置の天地方向の判定はで
きない(【0119】)が,画像撮像装置が図14の状態になる前に必ず第
1傾斜度及び第2傾斜度のいずれかが所定値A以上(ステップS120に
おいてYESの場合)の状態にあり,天地方向が判定できる状態にあって
(【0121】),傾斜度及び天地方向が記憶(ステップS126)する処理
が行われており(【0122】),こうした場合,天地方向算出手段222は,
記憶されている傾斜度データ及び天地方向のデータの少なくとも一方に
基づいて画像撮像装置1000の天地方向の判定を行い(【0123】),こ
の算出結果に基づく情報を報知した報知画像を表示部150に表\示させ
る(【0124】),3)【図16】は,画像撮像装置1000が水平面P30
2に対し平行である場合の報知画像を示す図である(【0126】)ことが
それぞれ開示されている。
しかし,天地方向算出手段222は,傾斜測定部250が算出した重力
加速度の方向を大きさに基づいて天地方向を判定し(【0079】,【008
7】,【0088】,【0107】),画像撮像装置に内蔵された2軸の重力加
速度センサーである傾斜測定部250は,【0072】の式(3)により求め
られる重力加速度センサーと水平面とが成す角度θ(D301,303と
同じ軸上にある重力加速度センサーと水平面P302とが成す角度)の値
を算出することによって傾斜度を測定するものであるから,甲1で測定さ
れる第1傾斜度及び第2傾斜度は,撮像装置の水平軸が水平面と平行であ
る場合を除き,撮像装置を水平軸周りの傾き度合いであるピッチ方向の傾
きを算出するものではないことは前記(1)イ(イ)のとおりである。また,【図16】について,画像撮像装置の水平軸が水平面と平行であることを前提として,画像撮像装置を水平軸周りに前後に回転(変位)させて画像撮像装置が水平面P302に平行になった状態であると仮定したとしても,上記の開示事項からは,「画像撮像装置が水平面に対し平行である場合」かどうかの判定に際し,第1傾斜度及び第2傾斜度が用いられる
ことは読み取ることができるものの,ピッチ方向の傾きを検出し,判定に
用いることを開示しているとはいえない。
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2021.04.21
令和1(行ケ)10159 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年4月15日 知的財産高等裁判所
審決は、複数のカメラの一方の表示を回転させることは、周知として進歩性なしと判断しました。これに対して、知財高裁は、主引例にはそのような課題が存在しないとして、動機付けなしとして審決を取り消しました。
前記2(1)イのとおり,引用発明は,医師等が観察して診断を行う診断用
画像モニタ装置と離れて,操作者が被検者に対してX線装置のコリメータ
やTVカメラの調整等を行う際の被検者及び操作者のX線被爆を避ける
ために,X線曝射しない状態でコリメータやカメラの操作ができ,簡単か
つ安価で操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものである。\nそして,引用文献1は,こうした課題を解決するために,医師等が観察
する診断用画像モニタ装置とは別に,1対の平行コリメータ位置マーカ2
4,24や円形コリメータ位置マーカ25,カメラ画像正立位置マーカ2
6の画像を,制御ユニット18の制御の下で,X線照射停止直前に撮像さ
れ画像メモリ19に格納されたX線透視像を画像と重ねて操作用液晶デ
ィスプレイ装置21に表示し,マーカ24,25,26上を指などで触れてドラッグすると,その位置情報が制御ユニット18に取り込まれて演算\nされて新たな表示位置が求められ,その位置へ各マーカが動いていくような表\示がされ,この入力情報に応じて制御ユニット18が指令をコリメータ12及びTVカメラ15へ出し,コリメータ12の遮蔽板の位置や方向
が変更され,TVカメラ15の回転角度が調整され,現実に動いた位置・
方向の情報が制御ユニット18に返され,これに応じて制御ユニット18
が平行コリメータ位置マーカ24,24又は円形コリメータ位置マーカ2
5の表示位置を固定するとともに,表\示されたX線透視像23及びカメラ
画像正立位置マーカ26を回転させる(【0018】,【0019】)という
構成を開示している。このように,引用発明は,あくまで,医師等が観察して診断を行う診断用画像モニタ装置とは別に,X線被爆を避けるために,X線曝射しない状\n態で操作ができ,画像を操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものであって,こうした技術的意義を有す\nる引用発明において,引用文献1には,操作者が医師等の術者が被検者を
見る方向と異なる方向から被検者を見ることにより,操作者が被検者を見
る方向と操作用画像表示装置に表\示される患部の方向とが一致しないと
いう課題(課題B2)があるといった記載や示唆は一切ない。
イ この点につき,被告は,前記第3の2(1)のとおり,当業者であれば,課
題B2の存在を理解し,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置に
おいて,「操作者」が異なる方向から被検者に対向する場合,各々の被検者
を見る向き(視認方向)に一致させるという周知の課題(乙3,4)を参
照し,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプ
レイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致
させるという課題を当然に把握し,引用発明に技術事項2を適用する動機
づけがある旨主張する。
しかし,当業者であれば,課題B2の存在を当然に理解するという点に
ついては,これを裏付けるに足りる証拠の提出はなく,むしろ,原告が主
張するように,術者と操作者との力関係や役割の違いに照らせば,操作者
は,従前は,このような課題を具体的に意識することもなく,術者の指示
に基づきその所望する方向に画像を調整することに注力していたもので
あるのに対して,本願発明は,その操作者の便宜に着目して,操作者の観
点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上
げたことに意義があるとの評価も十分に可能\である。
また,乙3には,「本発明の手術用顕微鏡システムでは,前記画像表示手段を複数備え,少なくとも一つの画像表\示手段で表示される画像の向きが\n変更可能であることが望ましい。このような構\成では,術者と助手とが向
き合って手術する時のように,撮像部分を異なる方向から見る場合におい
ても,それぞれの見る方向に応じて画像の向きを変えることにより,撮像
部分を見るのと同じ向きの画像を表示することが可能\となり,より手際の
よい手術が行えるようになる。」(【0007】),「本発明の手術用顕微鏡シ
ステムは,・・・前記画像処理装置は,各電気光学撮像手段からの撮像信号に
基づいて,基準画像信号を生成して,基準画像を前記画像表示手段に表\示
させる基準画像生成部と,前記各撮像信号に基づいて,基準画像と上下ま
たは左右が反転した反転画像信号を生成して,前記画像表示手段に表\示さ
せる反転画像生成部とを備えることを特徴とする。」(【0008】)との記
載があるように,術者とそれを補助する術者が向き合って手術をするとき
のように撮像部分を異なる方向から見る場合でも,画像表示手段で表\示さ
れる画像の向きをそれぞれの見る方向に応じて変更する構成により,撮像部分を見るのと同じ向きの画像を表\示することが可能となり,より手際の\nよい手術が行えるようになるとの課題が示されているにとどまり,術者と
X線撮影装置の操作者についてそのような課題があると開示するもので
はない。
さらに,乙4には,「本実施例の装置の動作について,図を参照して説明
する。まず,図1において術者Aは第1モニタ4を見て,術者Bは第2モ
ニタ7を見て手技を行っている。ここで術者Bは内視鏡2に対向している
ので,内視鏡2の原画像をそのまま第2のモニタ7に表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまう。このため,画像処理装置8にて,第2モニ\nタ7の画面のみを上下左右反転させた倒立像を映し出す。」(【0022】),
「本実施例では,第2モニタ7を倒立像にすることで,術者Bが上下左右
逆の感覚で手技を行うことがないので,スムーズに手技を行うことができ
る。また,第1モニタ4及び第2モニタ7のいずれでも倒立像にできるの
で,内視鏡2の向きや術者の位置が変わっても,容易に対応できる。」(【0
025】)との記載があるように,術者Aと術者Bがそれぞれ異なるモニタ
を見て手技を行う場合において,術者Bが見ている第2のモニタ7に内視
鏡2の原画像を見てそのまま表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまうという課題が示されているにとどまり,術者とX線撮影装置の操作者\nについてそのような課題があると開示するものではない。
そうすると,上記の乙3,4の各文献に記載された課題は,あくまで術
者と助手又は術者と術者がそれぞれ異なるモニタを見ることによって生
じる課題を指摘するにとどまり,術者とは異なる操作者が操作を行うとい
う引用発明の場合において,操作者の便宜のために,操作者が見る患部の
向きの方向と,操作者が見る操作用液晶ディスプレイの患部の向きとを一
致させるという課題を示唆するものとはいえないから,当業者がこのよう
な課題を当然に把握するともいえない。
(2) また,仮に,引用発明について,前記課題B2の存在を認識し,異なる方
向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の
向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題を
把握して,操作用液晶ディスプレイ装置21に表示されるX線画像のみを回転させるという相違点の構\成とする動機づけがあると仮定しても,前記2(2)
のとおり,技術事項2’は,HMDを装着し操作者を兼ねた術者が見るHM
Dの画像表示部に表\示されるX線画像と実際の患者の患部の位置把握を容易
にするために,上記術者の床面上の位置情報に基づいて上記X線画像の回転
処理を行うものであるから,回転処理がされるX線画像はHMDの画像表示部であり(引用文献2の【0014】,【0020】,図14等),また,画像\n回転処理の基になる位置情報は,床面に設けられた感圧センサによるもので
ある(引用文献2の【0022】)。
こうした技術事項2’の構成は,キャビネット43に設置された診断用画像モニタ17は術者である医師が使用し,台車41に設けられた操作用液晶\nディスプレイ装置21は撮像装置のセッティング等のために操作者が状況に
応じて自由に移動し,また台車41に様々な立ち位置を取ることができる引
用発明の具体的な構成と大きく異なるものであるから,引用発明と引用文献2に記載されたX線装置は同一の技術分野に属し,X線画像を表\示する装置を有する点で共通するとしても,HMDに表示されるX線画像の回転処理が行われるという技術事項のみを抽出して引用発明に適用する動機づけがある\nとはいえない。
さらに,技術事項2’は,操作者を兼ねた術者が装着したHMDに表示されるX線透視像を床面の位置情報に基づいて回転させるという構\成を有するものであるから,こうした構成を無視して,表\示されたX線画像のみを回転させるという技術事項のみを適用し,本願発明の相違点の構成に想到するとはいえない。\n
(3) 以上によれば,本願発明と引用発明との相違点は,本願発明は「前記X線
画像のうち,前記表示部に表\示されるX線画像のみを回転させる画像回転機
構を備え」ているのに対し,引用発明は,そのような特定がない点に尽きるが(本願発明における画像回転機構\自体については目新しいものとはいえない。),引用文献1には,「操作用液晶ディスプレイ装置21」を見て操作する「操作者」の視認方向が「診断用画像モニタ装置17」を見る「術者」の「被検者」の視認方向と一致しないという課題(課題B2)について記載も示唆もなく,被告が提出した文献からは,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置において,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題があると認めるに足りないから,こうした課題があることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとはいえず,また,本件審決の技術事項2の認定に誤りがあり,引用文献2に記載された事項(技術事項2’)から引用発明との相違点の構\成に想到するともいえないから,結局のところ,本願発明は,引用発明及び引用文献2に記載された技術事項2’に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものとはいえず,これと異なる本件審決の判断は,その余の点につき判断するまでもな
く,誤りである。
◆判決本文
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2021.04.20
令和2(行ケ)10035 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月29日 知的財産高等裁判所
パチンコ機について進歩性無しとした審決が取り消されました。
原告は,本件審決が,相違点1ないし3について,「再変動」(本願発明の
「単位演出」に相当。)の契機となる前回の「変動(再変動)」に基づく仮停
止について,初回の変動においてチャンス目Aが仮停止し,2回目の変動(再
変動)においてチャンス目Bが仮停止するというように,仮停止させるチャ
ンス目を,段階的に大当り信頼度が高いものとしていく引用発明において,
「再変動」の契機となる,前回の「変動(再変動)」に基づく所定のチャンス
目により仮停止させることを節目として,引用文献2に記載の技術である,
遊技図柄の確変図柄の割合を変化させるという演出である「図柄群変化演出」
を適用することにより,所定のチャンス目が仮停止した後の「再変動」にお
いて,当該「図柄群変化演出」により遊技図柄の確変図柄の割合が変化した
後の遊技図柄を用いた変動を実行するとともに,当該「図柄群変化演出」に
おいて,遊技の興趣を向上させるために,遊技図柄の確変図柄の割合を変化
させる態様として,上記周知技術の態様を採用して,非確変図柄を確変図柄
に変更することにより,相違点1ないし3に係る本願発明の構成とすること\nは,当業者が容易になし得たものである旨判断したが,引用発明から出発し
て,相違点1ないし3に係る本願発明の構成に想到することは,当業者にと\nって容易であったということはできない旨主張するので,以下において判断
する。
ア(ア) 引用文献1には,所定の入賞領域(始動入賞口)に遊技媒体が入賞す
る(始動条件が成立する)と識別情報を可変表示(「変動」)可能\な可変
表示装置が設けられ,識別情報の可変表\示の表示結果が特定表\示結果(大
当り図柄)となった場合に遊技者にとって有利な特定遊技状態(大当り
遊技状態)に制御可能に構\成された従来の遊技機において,可変表示が\n実行されるより前に複数回の可変表示に渡って予\告演出を実行し,連続
した予告演出の態様の組合せにより,表\示結果を予告するものも提案さ\nれているが,遊技に有利状態となる可能性が低い予\告演出が実行された
場合には,遊技者が落胆してしまい,遊技の興趣が低下してしまうおそ
れがあったという問題があったため,「本発明」の課題は,上記実情に鑑
み,遊技の興趣を向上させた遊技機を提供することを目的とすることに
ある旨の開示がある(【0002】,【0003】,【0005】,【0006】)。
(イ) 次に,引用発明の遊技機は,1)「特図ゲームの第1開始条件と第2開
始条件のいずれか一方が1回成立したことに対応して,飾り図柄の可変
表示が開始されてから可変表\示結果となる確定飾り図柄が導出表示さ\nれるまでに,「左」,「中」,「右」の飾り図柄表示エリア5L,5C,5R\nにおける全部にて飾り図柄を一旦仮停止表示させた後,全部の飾り図柄\n表示エリア5L,5C,5Rにて飾り図柄を再び変動させる擬似連の可\n変表示演出であって,擬似連の可変表\示演出(「再変動」)は1回の変動
において最大3回まで実行可能になっていて,再変動の回数が多ければ\n多いほど,大当り信頼度が高くなるように変動パターンが決定され,決
定された変動パターンなどに基づいて演出制御パターンとしての特図
変動時演出制御パターンをセットし,演出制御パターンに含まれる,演
出装置における演出動作の制御内容を示し,演出制御の実行を指定する
表示制御データ#1〜表\示制御データ#n(nは任意の整数)の内容に
従って,画像表示装置5の制御を進行させる演出制御用CPU120と\nを備え」(構成b),2)「可変表示結果が「リーチハズレ」,「大当り」の\nいずれであるかによって擬似連予告演出が実行される割合,擬似連予\告
パターンの決定割合が異なり,具体的には,可変表示結果が「大当り」\nである場合には,「リーチハズレ」である場合よりも,擬似連予告演出が\n実行される割合が高くなっていて,チャンス目Aが停止する擬似連予告\nパターンYP1−1の擬似連予告演出が実行された場合よりも,チャン\nス目Bが停止する擬似連予告パターンYP1−2の擬似連予\告演出が
実行された場合の方が,可変表示結果が「大当り」となる割合である大\n当り信頼度が高くなっていて,チャンス目の種別により大当り信頼度が
異なるものとされ,4回の変動及び再変動(擬似連3回の変動パターン)
に渡って実行される擬似連予告演出の擬似連予\告パターンとして,初回
の変動においてチャンス目Aが仮停止し,2回目の変動(再変動)にお
いてチャンス目Bが仮停止し,3回目の変動(再変動)において,背景
画像が特殊な背景画像に変化し,4回目の変動(再変動)においては継
続して特殊な背景画像において変動が実行される擬似連予告パターン\nを設けることで,大当り信頼度が段階的にステップアップしていくよう
な演出を行」い(構成c),3)「所定の通常大当り組合せとなる確定飾り
図柄が停止表示されると,通常開放大当り状態に制御され,その終了後\nには,時短制御が行われる一方,所定の確変大当り組合せとなる確定飾
り図柄が停止表示されると,通常開放大当り状態に制御され,その終了\n後には,時短制御とともに確変制御が行われ,確変制御が行われると,
各回の特図ゲームにおいて可変表示結果が「大当り」となる確率は,通\n常状態に比べて高くなり,確変制御は,大当り遊技状態の終了後に可変
表示結果が「大当り」となって再び大当り遊技状態に制御されるという\n条件が成立したときに終了する」(構成e)との構\成を有している。
引用発明は,構成cのとおり,疑似連予\告演出で仮停止するチャンス
目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似連予告演出の回数と背景画像\nの変化とからなる擬似連予告パターンを設けることによって,大当り信\n頼度が段階的にステップアップしていくような演出を行う構成のもの\nであることが認められる。
そして,引用文献1には,チャンス目に関し,「チャンス目Aは,図2
1(A)に示すように,左図柄と中図柄が同じ数字であり,右図柄のみ
が1つずれた数字の組合せとなっている。また,先読み予告パターンS\nYP1−2に基づく停止図柄予告では,連続演出用のチャンス目として,\n図21(B)に示すチャンス目CB1〜CB6(チャンス目B)のいず
れかが停止する。チャンス目Bは,図21(B)に示すように,並び数
字の組合せとなっている。この実施の形態では,後述するように,チャ
ンス目Aが停止する停止図柄予告が実行された場合よりも,チャンス目\nBが停止する停止図柄予告が実行された場合の方が,大当りとなる可能\
性(大当り信頼度)が高くなっている。このようにすることで,停止図
柄予告が実行されるときに,いずれのチャンス目が停止したかに遊技者\nを注目させることができ,遊技の興趣が向上する。」(【0247】),「ま
た,図35(B)に示す決定割合では,チャンス目Aが停止する擬似連
予告パターンYP1−1の擬似連予\告演出が実行された場合よりも,チ
ャンス目Bが停止する擬似連予告パターンYP1−2の擬似連予\告演出
が実行された場合の方が,可変表示結果が「大当り」となる割合(大当\nり信頼度)が高くなっている。このように,チャンス目の種別により大
当り信頼度が異なるので,遊技者が停止図柄に注目するようになり,遊
技の興趣が向上する。」(【0370】)との記載がある。上記記載から,
「チャンス目」(チャンス目A及びB)は,「飾り図柄」を構成する個々\nの数字ではなく,「数字の組合せ」であり,「数字の組合せ」に着目して
可変表示結果が「大当り」となる割合(大当り信頼度)に差を設けてい\nることを理解できる。
・・・
イ(ア) 引用文献2には,1)複数種類の遊技図柄を変動表示装置において変\n動表示させることで変動表\示遊技を行う従来の遊技機においては,「リー
チ状態」が発生した場合,例えば,遊技者の大当たり状態の発生に対す
る期待感を高めて,遊技の興趣を盛り上げるために,最後に停止状態と
なる変動表示部における遊技図柄の変動表\示速度を変化させたり,変動
表示部に表\示される遊技図柄の背景領域を利用してキャラクタ等による
演出表示を行ったりするのが一般的であるが,既に在り来たりのもので\nあり,それらの演出表示だけでは遊技者は遊技の興趣を得難くなってお\nり,また,未だ変動表示中の変動表\示部において変動表示される遊技図\n柄の中で特定の組合せ態様を成立し得ない遊技図柄の数を減少させて,
特定の組合せ態様が成立し易いような状態を演出表示することにより,\n遊技者の大当たり状態の発生に対する期待感を高めている遊技機もある
が,遊技図柄の数を減少させた状態で行われる変動表示の速度が高速で\nあると,遊技者が遊技図柄の数が減少していることを把握できないまま
遊技を終了してしまうおそれがあるため,変動表示の速度を低速にする\nのが一般的であるが,その場合には,遊技自体にスピード感がなくなり,
変化に乏しい面白みのないものとなり,遊技の興趣を得難いという問題
点があったことから,遊技者の遊技に対する興趣を高める上で斬新な変
動表示を行う遊技機が求められており,2)「本発明」の課題は,上記実
情に鑑み,遊技者の遊技に対する興趣を高めることが可能な遊技機を提\n供することを目的とすることにある旨の開示がある(【0002】ないし
【0004】)。
・・・
ウ 以上を前提に検討するに,前記ア及びイの認定事実によれば,引用発明と
引用文献2に記載の技術は,遊技の興趣の向上という課題が共通し,1回の
変動中に複数段階で演出態様を変化させるという共通の機能を有している\nものと認められるが,一方で,引用発明と引用文献2に記載の技術は,遊技
の興趣の向上のために着目する観点が相違すること(前記イ(イ)),引用発
明の「飾り図柄」は,「基本的態様を示す基本要素部」と「第一属性および
第二属性のいずれが設定されているかを示す属性要素部」の二つの要素部
を有する「識別図柄」であるとはいえず,引用発明の「飾り図柄」のうち
の「確変図柄」は,本願発明の「第一属性が設定された識別図柄」に相当
するものではなく,引用発明の「飾り図柄」のうちの「非確変図柄」は,
本願発明の「第二属性が設定された識別図柄」に相当するものではないこ
と(前記(3)イ)に鑑みると,引用文献1及び2に接した当業者が,数字の
組合せからなるチャンス目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似連予告\n演出の回数と背景画像の変化に着目し,この観点から,大当り信頼度が段
階的にステップアップしていくような演出を行う引用発明において,遊技
の興趣の向上のために,「一連の遊技図柄」に含まれる確変図柄の割合の大
きさに着目する引用文献2に記載の技術を適用して遊技図柄の確変図柄の
割合を変化させる構成とする動機付けがあるものと認めることはできな\nいし,引用発明に引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用する動
機付けがあるものと認めることもできない。
また,仮に引用発明に引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用
しようとした場合に,引用発明において相違点1ないし3に係る本願発明
の各構成をそれぞれどのように備えることになるのかを具体的に想到す\nることは,当業者にとって容易であるということはできない。
そうすると,本件審決の相違点1ないし3の容易想到性に関する前記判
断のうち,「当該「図柄群変化演出」において,遊技の興趣を向上させるた
めに,遊技図柄の確変図柄の割合を変化させる態様として,上記周知技術
の態様を採用して,非確変図柄を確変図柄に変更することにより,相違点
1ないし3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得た」\nとの部分は,論理付けが不十分であって,採用することができないから,\n本件審決における相違点1ないし3の容易想到性の判断には誤りがある。
エ これに対し被告は,1)引用発明と引用文献2に記載の技術は,遊技者に
段階的に有利となる期待感を高めることで興趣を向上させるという点で
課題が共通し,1回の変動中に複数段階に演出態様を変化させるという点
で作用・機能も共通すること,2)擬似連変動を行うパチンコ機において,
図柄や画像の段階的な変化を仮停止後の再変動を契機に行うことは,広く
一般に周知の技術であること,3)引用文献2の【0074】の「前記一連
の遊技図柄に含まれる確変図柄の割合を変更させることが可能であれば\n如何なる方法であっても良い。」との記載は,引用文献2に記載の技術にお
いて,「図柄群変化演出」により遊技図柄(識別図柄)の確変図柄の割合を
変化させる方法について,実施例に例示した形態以外の他の周知の態様に
置換することを許容していることを示唆するものであり,当該他の周知の
方法の具体例として,本件周知技術である「通常図柄を確変図柄扱いにし
ていく図柄変化演出」が存在することに鑑みると,引用文献1及び2に接
した当業者は,引用発明における「1回の変動」における「擬似連」とし
てその各「仮停止」した後の「再変動」において,「図柄群変化演出」によ
り遊技図柄の確変図柄の割合が変化した後の遊技図柄を用いた変動を実
行する構成とし,当該「図柄群変化演出」において,遊技の興趣を向上さ\nせるために,遊技図柄の確変図柄の割合を変化させる態様として,本件周
知技術の態様(「変化前に表示装置において変動表\示されていた識別図柄
群には含まれていなかった新規の識別図柄となるように設定された図柄
群変化演出を,変化前の非確変図柄を消して替わりに新たな確変図柄を出
現させること」)を適用して,相違点1ないし3に係る本願発明の構成とす\nることを容易になし得たものである旨主張する。
しかしながら,前記ウで説示したとおり,引用発明と引用文献2に記載の
技術は,遊技の興趣の向上のために着目する観点が,引用発明においては,
数字の組合せからなるチャンス目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似
連予告演出の回数と背景画像の変化であるのに対し,引用文献2に記載の\n技術は,「一連の遊技図柄」に含まれる「確変図柄の割合」の大きさである点
において相違すること,引用発明の「飾り図柄」は,「基本的態様を示す基
本要素部」と「第一属性および第二属性のいずれが設定されているかを示
す属性要素部」の二つの要素部を有する「識別図柄」であるとはいえず,
引用発明の「飾り図柄」のうちの「確変図柄」は,本願発明の「第一属性
が設定された識別図柄」に相当するものではなく,引用発明の「飾り図柄」
のうちの「非確変図柄」は,本願発明の「第二属性が設定された識別図柄」
に相当するものではないことに照らすと,上記1)及び2)の点を考慮しても,
引用文献1及び2に接した当業者が,引用発明において,遊技の興趣の向
上のために,引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用して遊技図柄
の確変図柄の割合を変化させる構成とする動機付けがあるものと認める\nことはできない。
◆判決本文
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2021.04.16
令和2(行ケ)10085 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年2月9日 知的財産高等裁判所
特許庁審査官は、PCTの国際手続きでおこなった補充の扱いについて、欠落部分を含まないようにする手段(施行規則38条の2の2第4項)をしなかったため、出願日が繰りさげて、自己公表よりあとの出願として拒絶査定としました。これについて取消を求めましたが認められませんでした。具体的には、PCT出願のあとに、米国で補充手続きをしましたが、その間に発明者による公表行為がありました。
前記第2の4のとおり,平成24年10月1日より前の国際特許出願
である本願には,特許協力条約の「引用による補充」に関する規定は適用されない
から,本願について「引用による補充」によって本件欠落部分を含んだ出願の出願
日が本願の国際出願日である平成23年8月25日になることはなく,本件欠落部
分を受理官庁に提出した同年9月29日となるが,本件欠落部分を含まない場合に
は,本願の出願日が同年8月25日となる。
そして,本願に本件欠落部分を含まないようにする手段として施行規則38条の
2の2第4項の手続が定められているのであるから,同手続によることなく本件欠
落部分を含まないようにすることはできないものと解される。
前記1のとおり,原告は,施行規則38条の2の2第1項に基づいて本件通知を
受けたにもかかわらず,本件指定期間内に本件欠落部分が本願に含まれないものと
する旨の同条4項の請求をしなかったのであるから,本願の出願日が平成23年9
月29日となることは明らかである。
イ 前記1のとおり,本願発明と同一の発明である引用発明が掲載された本
件学術誌が,本願の出願日の前の平成23年9月11日に公開されたのであるから,
本願発明には,新規性が認められない。
(2) 原告は,1)出願日が発明の公知日よりも後になることを知らずに,論文発
表等により発明を公知にしてしまった場合は,錯誤に陥って発明を公知にしてしまったのであるから,改正前特許法30条2項の「意に反して」に該当する,2)改正
前特許法30条2項の「意に反して」とは,権利者が発明を公開した後に,権利者
の意に反して出願日が繰り下がり,当該発明が遡及的に出願日よりも前の公知発明
となってしまった場合も含むとして,本願においては,同項が適用されるべきであ
ると主張する。
しかし,本件において,原告は,引用発明が掲載された本件学術誌が公開された
ことを認識していたことは明らかである。原告は,当初の出願後に「引用による補
充」を求めた行為によって出願日が繰り下がることを認識し得たのであり,また,
改正前特許法30条4項に規定する手続を,特許法184条の14に規定する期間
内に行うことも可能であったといえる。したがって,本件においては,改正前特許法30条2項の「意に反して」には当たらず,同項は適用されないというべきである。\nこの点について,原告は,出願日が繰り下がることがあることを知らなかったと
主張するが,それは日本の特許法についての知識が乏しかったということにすぎず,
上記判断を左右するものではない。
(3) 原告は,本件通知によって出願日が繰り下がる認定がされた日は平成25
年9月24日であり,この時点では既に「国内処理基準時」から30日が経過して
いるから,原告が改正前特許法30条4項に規定する手続を行うことは不可能であると主張する。\nしかし,原告は,米国特許商標庁に対し,平成23年9月29日に,本件欠落部
分につき「引用により補充」を求める書面を提出しているのであるから,この時点
で,将来,施行規則38条の2の2第4項の請求をしない限り,本願の国際出願日
が平成23年9月29日となり,本件論文が本願の国際出願日前に公開されたこと
になることを認識し得たものである。したがって,原告は,国内処理基準時(特許
法184条の4第6項)から30日以内(特許法184条の14,特許法施行規則
38条の6の3)に,改正前特許法30条1項の適用を受けることができる発明で
あることを証明する書面を特許庁長官に提出することができたものということがで
きる。
よって,原告の上記主張は理由がない。
(4) 以上より,取消事由1は認められない。
3 取消事由2(本願の出願日の認定の誤り)について
(1) 前記2(1)アのとおり,本願の国際出願日は,平成23年9月29日であ
る。
(2) 原告は,特許庁長官に提出した翻訳文には,本件欠落部分が含まれていな
かったから,本願の明細書には本件欠落部分が含まれていないとみなされ,また,
特許法184条の6第2項により,本件翻訳文は,願書に添付して提出した明細書
とみなされるから,本件欠落部分は本願の明細書の範囲外となっていると主張する。
しかし,前記2(1)アのとおり,本願の国際出願日は平成23年9月29日であり,
このことは,特許法184条の4第1項に基づき指定官庁である特許庁長官に提出
した本件翻訳文に本件欠陥部分の翻訳が含まれていたか否かや,本件翻訳文が特許
法36条2項の明細書とみなされ(特許法184条の6第2項),外国語特許出願に
係る明細書等について補正できる範囲は,翻訳文の範囲に限定されている(特許法
184条の12第2項)ことで影響を受けるものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,本件通知には,本願について「引用による補充」がなかったとする
場合には,本件指定期間内に条約規則に基づく請求書に所定の事項を記載して提出
するとともに,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提
出してほしいことが記載されているが,本件通知の発送よりも前に,手続補正によ
り削除すべき本件欠落部分が明細書に存在しないことになるから,本件通知に応答
して,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提出するこ
とは不可能であり,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提出することを求める本件通知は法律に基づいた処分ではなく,重大かつ明白な瑕疵があると主張する。\nしかし,本件通知の文書に上記の記載があるからといって,本願の国際出願日の
認定が左右される理由はない。
(4) 原告は,翻訳文からあえて膨大な量の本件欠落部分を除いているのである
から,本件翻訳文の提出をしたことにより,本件欠落部分が本願に含まれないもの
とする旨の請求をする意思を持っていることが客観的に明らかであるところ,原告
は,本件翻訳文の提出により,本願に「引用による補充」がなかったとする黙示的
な意思表示をしており,同意思表\示は,施行規則38条の2の2第4項の請求に当
たるから,本件通知には重大かつ明白な瑕疵があるとともに,本件通知に対する応
答があったとみなされるべきであると主張する。
しかし,施行規則38条の2の2第4項は,特許庁長官が,認定された国際出願
日を通知する際に指定した期間内に,条約規則20.5(c)の規定によりその国際特
許出願に含まれることとなった明細書等が当該国際特許出願に含まれないものとす
る旨の請求をすることができる旨を規定しており,本件通知前にした本件翻訳文の
提出行為が,上記の請求に当たらないことは明らかである。このことは,本件欠落
部分の分量が70頁であり,一方,本願の当初の明細書の分量が22頁であること
によって左右されるものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
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2021.04. 9
令和2(行ケ)10043 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月30日 知的財産高等裁判所
特許取消審決が取り消されました。争点は動機付けです。裁判所は課題および上限値が知られていたとはいえないと判断しました。
引用発明c−1は,粒子径分布が好適範囲に管理されていても,平均粒
子径から大きく逸脱する粗大粒子が存在する場合には,表示品位の低下や,光学フ\nィルムに欠点が生じる(段落[0005])ため,好適な粒子径を逸脱する粗大な
粒子の含有量が低レベルに低減された微粒子,及び,このような微粒子の製造方法,
並びにこの微粒子を含む樹脂組成物を提供するものであり(段落[0006]),
湿式分級と乾式分級とを組み合わせた方法により処理することで,粒径の好適範囲
から逸脱する粗大粒子や微小粒子を一層効率よく低減するものである(段落〔00
09〕)。
本件発明は,前記(1)アのとおり,架橋アクリル酸系樹脂粒子の揮発分が塗膜表\n面にムラなどを生じさせる結果,塗膜表面の傷付き性能\の低下が生じてしまうこと
を解決することを課題としているところ,甲2−3には,このような本件発明の課
題は現れていない。
また,前記(2)によると,合成樹脂粒子の製造については,水分量を低減させ,
残存モノマーを低減させることにより,その品質を向上させることが知られていた
ことは認められるが,前記(2)の各証拠から,本件発明のように,粒子中の揮発分
が表面ムラの発生や,塗膜表\面の傷付き性低下などを生じさせていたこと(本件明
細書の段落【0005】)という課題や,この課題を解決するために,加熱減量を
減ずるという構成を採用することが,本件優先日当時,当業者に知られていたと認\nめることはできないし,まして,本件発明の「加熱減量のす.5%」が当業
者に知られていたと認めることはできない。
そして,他に,上記の点について動機付けとなる証拠が存するとは認められない
から,甲2−3によって,相違点c−1を容易に想到することができたと認めるこ
とはできず,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
被告は,合成樹脂粒子の技術分野において,粒子の残存モノマー,水分などの揮
発分が存在することに起因して,何らかの問題が発生する場合に,当該揮発分の量
を一定量以下に低減化させることは,一般的な共通課題であるから,本件発明1は,
引用発明c−1から容易想到であると主張するが,被告の上記主張を採用すること
ができる証拠がないことは,既に説示したところから明らかである。
(4) 以上によると,本件発明1が,当業者が容易に発明をすることができたも
のであるとする本件決定の判断に誤りがある。
そして,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものでないから,
本件発明4,8も,当業者が容易に発明をすることができたものではないし,さら
に,本件発明9及び本件発明10も,当業者が容易に発明をすることができたもの
ではない。
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2021.03.19
令和2(行ケ)10075 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月11日 知的財産高等裁判所
進歩性違反有りとした異議決定が動機付け無しとして取り消されました。
甲1発明及び甲3記載事項は,共に,弁当包装体という技術分野に属す
るものであると認められる(甲1の段落【0001】,甲3の段落【0017】)。
しかし,甲1発明は,熱収縮性チューブを使用した弁当包装体について,煩雑な
加熱収縮の制御を実行することなく,包装時の容器の変形やチューブの歪みを防ぎ,
また,店頭で,電子レンジによる再加熱をした際にも弁当容器の変形が生じること
を防ぐことを課題とするものである(甲1の段落【0003】,【0004】)のに対
し,甲3に記載された発明は,ラベルを構成する熱収縮性フィルムについて,主収\n縮方向である長手方向への収縮性が良好で,主収縮方向と直交する幅方向における
機械的強度が高いのみならず,フィルムロールから直接ボトルの周囲に胴巻きした
後に熱収縮させた際の収縮仕上がり性が良好で,後加工時の作業性の良好なものと
するとともに,引き裂き具合をよくすることを課題とするもの(甲3の段落【00
07】,【0008】)である。
そして,上記課題を解決するために,甲1発明は,非熱収縮性フィルム(21)
と熱収縮性フィルム(22)とでチューブ(20)を形成し,熱収縮性フィルム(2
2)の周方向幅はチューブ全周長の1/2以下である筒状体であり,熱収縮性フィ
ルム(22)の熱収縮により,弁当容器の外周長さにほぼ等しいチューブ周長に収
縮して弁当容器に締着されてなるものとしたのに対し,甲3に記載された発明の熱
収縮性フィルムは,甲3の特許請求の範囲記載のとおり,各数値を特定したもので
ある。
これらのことからすると,甲1発明と甲3に記載された発明は,課題においても
その解決手段においても共通性は乏しいから,甲3記載事項を甲1発明に適用する
ことが動機付けられているとは認められない。
イ これに対し,被告は,甲1発明と甲3記載事項は,熱収縮という作用,
機能が共通する旨主張するが,熱収縮は,通常,弁当包装体が持つ基本的な作用,\n機能の一つにすぎないことを考慮すると,被告の上記主張は,実質的に技術分野の\n共通性のみを根拠として動機付けがあるとしているに等しく,動機付けの根拠とし
ては不十分である。\nまた,被告は,甲1発明と甲3記載事項とでは,ポリエステルフィルムを用いて
いる点が共通する旨主張するが,包装体用の熱収縮性フィルムを,ポリエステルと
することは,本件特許の出願前の周知技術(甲1の段落【0010】,甲3の【請求
項7】,段落【0003】,甲6〔特開2008−280371号公報〕の段落【0
001】)であると認められ,ポリエステルは極めて多くの種類があること(乙5)
からすると,材料としてポリエステルという共通性があるというだけでは,甲1発
明において,熱収縮性フィルムとして,甲3記載事項で示される熱収縮性フィルム
を適用することに動機付けがあるということはできない。
ウ 以上によると,甲1発明において,熱収縮性フィルムとして,甲3記載
事項で示される熱収縮性フィルムを適用する動機付けがあると認めることはできな
い。
したがって,甲1発明及び甲3記載事項に基づいて,相違点2に係る本件発明2
の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。\n
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2021.03.14
令和2(行ケ)10058 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年2月25日 知的財産高等裁判所
周知技術から、特許の出願時には,小児外科においては,長さが可変の手術
台が一定程度普及していたとして、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
ア 周知技術について
(ア) 昭和53年に出願され,昭和54年に公開された実用新案登録願(甲
64)には,前記4(3)のとおり,小児用手術台は,患者の身長の長短によって,長
すぎたり,短かすぎて,医師が適切な診療処置を行うのに不便であったこと,この
ことから,医師が適切な診療処置を行うためには,手術台の長さを,患者の身長に
応じたものにする必要があったこと,そのために,小児用手術台の患者受板部を,
中央受板部の前後に連結される頭受板及び足受板の他に,複数の補助受板で構成し,\n小児から中年の患者の身長に応じて各受板を適宜組み合わせ連結して手術台を形成
することが記載されていると認められる。
・・・
(ウ) 前記4(5)のとおり,昭和53年〜昭和55年に,日本において,小児
外科用手術台であるMOC−1800が販売されていたが,そのカタログ(甲76)
によると,前記4(5)のとおり,同手術台は,主枠の両側に,腰板,背板,脚板,枕
板(頭部受板)及び補助板を取り付けることができ,その組合せにより,様々な長
さのテーブルトップを形成することができることが認められ,また,同カタログに
は,「全長60〜187cmの間で幼少児の身長に応じて全長が選べる」,「21種類
の組合せの中より小児の身長に応じて,テーブルトップの全長を選択してください。」
などの記載がある。この事実からすると,患者の身長に応じて,長さの異なるテー
ブルトップを備える手術台の需要があったこと,この需要に対応するために,主枠
の両側に,腰板,背板,脚板,枕板(頭部受板)及び補助板を組み合わせて,様々
な長さのテーブルトップを形成できる手術台が販売されていたことが認められる。
・・・
(オ) 以上の事実からすると,本件特許の出願時には,手術台のテーブルトッ
プは,患者の身長に応じた長さとすることが望まれており,医療機関において,テ
ーブルトップの長さを調整できる手術台の要望があったこと,その要望に応えるた
めに,各種の大きさのコンポーネントを組み合わせて,適宜の長さのテーブルトッ
プとする手術台が販売されており,また,小児外科においては,長さが可変の手術
台が一定程度普及していたことが認められる。
・・・
前記5(3)イのとおり,製品1発明3)においては,患者の頭部側から順に,1)背板,
座板,足板の組合せ,2)背板(短),座板,背板の組合せ,3)背板(短),座板,足
板の組合せを適宜選択し,各組合せによるテーブルトップとし,また,4)各種頭板,
背板,座板,足板の組合せ,5)各種頭板,背板(短),座板,背板の組合せ,6)各種
頭板,背板(短),座板,足板の組合せを適宜選択し,各組合せによるテーブルトッ
プとすることが可能であり,上記1)の組合せを上記2)の組合せに変更することや上
記2)の組合せを上記3)の組合せに変更すること,上記4)の組合せを上記5)の組合せ
に変更することや上記5)の組合せを上記6)の組合せに変更することも可能であると\nころ,甲1,2,4及び5には,これらの組合せを禁止したり,推奨しない旨の記
載もなく,かえって,前記3のとおり,甲2には,「マッケ手術台システム1120
は,モジュール方式でデザインされ」(2頁),「広く世界的に採用されている非常に
フレキシブルなモジュール方式の手術台システムです。」との記載がある。
そして,前記イのとおり,製品1において,患者の背が高い場合には,足側の背
板の先に頭板を付け加える使用方法が行われていたことからすると,前記アのとお
り,手術台のテーブルトップを患者の身長に応じた長さとすることが望まれており,
その要望に応えるために各種のコンポーネントを組み合わせることなどが行われて
いることを知る当業者は,製品1発明3)において,患者の身長に対応させるために
各種モジュールを取り換えて手術台を患者の身長に対応したものとすることを容易
に想到することができたものと認められる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,背板(短)は頭部手術という特定の用途のためにのみ頭板と
共に使用されると主張する。
しかし,甲5の20頁には,背板(短)に頭板「1002.62」と取り付けら
れた写真が載っているが,同頁の表題は「眼科,ENT,一般外科,麻酔科」と表\
記されていることから,背板(短)は,必ずしも,特定の用途のために頭板と共に
使用されるとは認められない。
また,患者の頭側に頭板を取り付けた背板(短)を配置した場合,前記5(3)イの
とおり,足側は背板又は足板を配置することが可能であり,足側の背板を足板に交\n換すれば,テーブルトップの全長も変わるから,被告の主張を前提としても,使用
者の体格に対応して,床板を支えるフレームを交換したことになる。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
(イ) 被告は,製品1の具体的な構成は,それぞれが独立した構\成であり,そ
れらの構成を組み合わせることにより相違点を解消することはできないと主張する。\nしかし,製品1発明3)の構成は,前記5(2)のとおりであるところ,同構成は,背\n板,座板及び足板の各コンポーネント並びに背板(短)及び各種頭板のアクセサリ
ーを含めて,一つの製品である製品1から認定できる技術的構成であるから,一つ\nの発明の構成である。そして,前記イの実施態様も製品1の実施態様であるから,\nこれを考え併せて,製品1発明3)から本件発明を容易に想到することができるとい
うべきである。
(ウ) 被告は,原告の主張は,「設計事項」という名目の下,甲61以下の証
拠に基づく異なる構成(公知事実)を組み合わせることにより相違点を解消できる\nという新たな進歩性欠如の主張をするものであり,本件訴訟の審理事項から排除さ
れるべきものであると主張するが,前記アの周知技術を本件発明の進歩性を判断す
るに当たっての当事者の技術水準を示すものとして考慮することはできるのであり,
前記ウの判断はそのような趣旨で考慮したものであるから,本件訴訟の審理範囲外
ではない。
(3) 以上より,取消事由2は理由がある。
7 そうすると,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の主張し
た無効理由は認められないとした本件審決の判断は誤りであるから,本件審決は取
り消されるべきである。
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2021.03.12
令和1(ネ)10074 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年2月10日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
CS関連発明についての侵害事件で、知財高裁(3部)は、技術的範囲に属するが無効理由ありと判断しました。1審は一部の構成要件の非充足でした。\n
前記(ア)bのとおり,インタ−ネット広告配信の技術分野において,
同じ広告を必要以上に見せることにより起きる「バナ−バ−ンアウト」
(広告に反応がなくなる状態)を防ぐために,利用者一人一人に対する
広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であった。
乙5発明は,インタ−ネットにおける広告配信という,上記技術と共
通する技術分野に属する。そして,乙5発明は,「モバイル・ウェブ・
クライアントによりウェブにアクセスしているユ−ザ−に対する広告の
効力を高めること」(乙5【0011】)を目的としており,広告の効
力を高めるという課題は,上記周知技術の課題と共通する。そのため,
乙5発明に,技術分野及び課題が共通する上記周知技術を組み合わせる
ことには動機付けがあるものと認められる。
そして,乙5発明において,特定の広告オブジェクトについて各ユ−
ザ−に配信する回数を1回に制限するためには,ウェブ・サ−バが,受
信したモバイル・ウェブ・クライアントの位置情報と広告オブジェクト
(広告情報)に関連付けられた位置情報が一致したことにより(前記ア
(イ)b4)〔本判決74頁〕)一度供給した広告オブジェクト(前記ア(イ)
b5)〔本判決75頁〕)を,その後,上記モバイル・ウェブ・クライア
ントの位置情報と広告オブジェクト(広告情報)に関連付けられた位置
情報が再度一致しても,上記モバイル・ウェブ・クライアントに送信し
ないようにすればよいことは,明らかである。
したがって,乙5発明に,特定の広告を各利用者に配信する回数を1
回に制限するという周知技術を適用することができたものと認められる。
そうすると,乙5発明に,特定の広告を各利用者に配信する回数を1
回に制限するという周知技術を適用し,構成要件E(「広告情報管理サ\n−バが,無線通信装置が一旦指定地域の外に出た後再び指定地域内に戻
った場合であっても,指定地域内にとどまり続けた場合であっても,同
じ広告情報を無線通信装置に送信しないこと」を特徴とする無線通信サ
−ビス提供システム,前記2(1)ア(ア)〔本判決48頁〕)を容易に想到
することができたものと認められる。
エ 控訴人の反論について
控訴人は,一般的に,広告は目に触れる回数が多ければ多いほど効果が
あるので,乙5発明は,広告情報が関連付けられた位置情報及び時刻と一
致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対し,
可能な限り長い時間,繰り返し広告を表\示することを目的としており,回
数は無制限で広告情報を配信する発明であるとし,広告の配信回数を制限
するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することには阻害事
由があると主張する(前記第3の4(2)イ(イ)b(b)〔本判決25頁〕)。
しかしながら,前記ウ(ア)b〔本判決83頁〕のとおり,インタ−ネッ
ト広告配信の技術分野において,本件特許の出願時(平成12年9月5日)
には,同じ広告を必要以上に見せることにより起きる「バナ−バ−ンアウ
ト」(広告に反応がなくなる状態)を防ぐために,利用者一人一人に対す
る広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であったから,本件
特許の出願時において,一般的に,広告は目に触れる回数が多ければ多い
ほど効果があると認識されていたとは認められない。そして乙5発明は,
広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた位置情報及び時刻と一致
する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対して
広告オブジェクト(広告情報)を配信することにより広告の効果を高める
ものであると認めることはできるが(乙5【0011】,【0012】【0
017】),乙5には,広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた
位置情報及び時刻と一致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェ
ブ・クライアントに対し,可能な限り長い時間,繰り返し広告を表\示する
ことが広告の効力を高めることである旨の記載はなく,かえって,広告の
繰り返しは,その効果を減ずるという認識を前提とする上記周知技術が存
在したことからすると,広告の繰り返しによって,その効力を高めること
が乙5発明の唯一の目的であったということはできない。したがって,広
告の配信数を制限することにより広告の効果を高めることを乙5発明が
排斥するものであったと認めることはできないから,広告の配信回数を制
限するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することに阻害事
由があるとは認められず,控訴人の上記主張は,採用することができない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)7123
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2021.02.25
令和1(ネ)10078 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年2月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害について、東京地裁(40部)は新規性違反(発明1,3)および進歩性違反(発明2,4)の無効主張を認めました。知財高裁も同じ判断です。
イ A邸工事が「公然」実施されたものではないとの主張について
控訴人は,A邸は塀や草木に囲まれており,容易に外部からA邸をのぞ
き見ることはできないこと,山に囲まれており,近隣の住民もわずかであ
ること,作業が屋根上で行われるものであり,外部から容易にその作業の
内容を確認することができないことから,A邸工事は,公然と行われたも
のとはいえないと主張する。
しかし,被控訴人のために発明の内容を秘密にする義務を負わない不特
定の者によって技術的に理解されるか,そのおそれのある状況で実施され
たのであれば,工事は公然と行われたと評価するのが相当であるところ,
本件においては,まず,A邸の屋根からストーブの煙突が突出している側
(煙突の正面側)の隣地は,本件工事の当時には駐車場であり(乙14の
10),同駐車場には10台を優に超える駐車スペースがあり,敷地もA邸
より高いことが認められるのであって(乙24の2),同駐車場からは煙突
についても十分視認が可能\であるし,当該工事が第三者から視認されるこ
と等を拒むような態様で行われていたことはうかがえない。
また,乙12の資料4は,前記ア(イ)認定のとおり平成19年7月2日
に被告から住友林業に提出されたものであるところ,同図面にはインナー
フラッシングが明記されており,これが,住友林業からニシカネにファッ
クスで転送されている(乙32)。そして,前記ア(イ)において認定したと
おり,住友林業の下請業者であるニシカネがA邸の煙突について不燃材の
装着を行うことになっていたが,その時点では,煙突の屋内からの引き出
し及び立ち上げ部分はまだ設置されておらず,住友林業又はニシカネにお
いて煙突の屋根貫通部の構造を認識することは十\分可能であったといえ\nるところ,A邸工事の施工方法及び防水構造は,引用に係る原判決の「事\n実及び理由」第4の2(3)ア及びイ(ア)記載のとおりであって,いずれも複
雑なものではなく,当業者であれば,乙12の資料4や,II)期工事時の煙
突の屋根貫通部の構造から,これらの発明を技術的に理解できるものと認\nめられる。
以上によれば,A邸工事は,本件特許出願前に,被控訴人のために発明
の内容を秘密にする義務を負わない不特定の者(少なくとも上記住友林業
やニシカネ等の下請業者等)によって技術的に理解されるか,そのおそれ
のある状況で実施されたもので,公然実施された発明に当たるというべき
であるから,控訴人の主張は採用できない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)9909
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2021.02.23
令和2(行ケ)10011 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年2月17日 知的財産高等裁判所
引用文献の開示認定に誤りありとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
上記記載から,隔壁の遠位部に備えたスリットは,隔壁の遠位部を通る
イントロデューサ針の位置決めをし,その挿入を簡単にするために設けら
れたものであることを理解できる。
さらに,図1,23,25ないし27から,延長チューブの遠位端が,
カテーテル・アダプタの近位端と遠位端との間で,かつ,隔壁の遠位部の
遠位端よりも更に遠位側に開口した中空部分に接続していることを看取
できるから,引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセン
ブリにおいては,患者への流体の注入及び患者の循環系からの流体の除去
は,延長チューブを通じてカテーテル・アダプタの上記中空部分を介して
行うものであることを理解できる。
ウ 以上によれば,引用文献1記載の隔壁は,針の保管及び使用中に針の周
りにシールを提供し,針が引き出された場合に密閉されるように隔壁アセ
ンブリ内に設けられたものであって,隔壁の遠位部に備えたスリットは,
そこを通るイントロデューサ針の挿入を簡単にするために設けられたも
のであるから,隔壁の遠位部は,流体の「該流入及び流出を可能とするよ\nうに開口可能なスリットを有して」いると認めることはできない。\nそうすると,引用文献1記載の「隔壁」の遠位部は,本願発明の「前記
第2弁部材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブの前記内室を
通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように\n開口可能であ」るとの構\成(本件構成)に相当するものといえず,引用文\n献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリは,本件構成を\n有しない点で本願発明と相違するから,この点において,本件審決には,
一致点の認定の誤り及び相違点の看過があるものと認められる。
(2) これに対し被告は,1)引用文献1には,カテーテル及びイントロデューサ
針アセンブリについて,従来より,流体を患者に注入することができるとと
もに,患者の循環系からの流体の除去を可能にするものであることが述べら\nれていること(【0002】),2)流体の患者への注入及び患者の循環系からの
流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された,「二方弁」として機能\nする「スリットを備えた隔壁」を介してされることが技術常識であること(例
えば,甲3,乙6)からすれば,当業者は,引用文献1記載のカテーテル及
びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相当す\nると当然把握するから,本件審決における一致点の認定に誤りはない旨主張
する。
ア 1)について
引用文献1の【0002】には,「医療では,このようなカテーテル及び
ントロデューサ針アセンブリは,患者の脈管系内に適切にカテーテルを配
置するのに使用される。定位置になると,静脈(すなわち,「IV」)カテ
ーテルなどのカテーテルを使用して,生理食塩水,医療化合物,及び/ま
たは栄養組成(完全非経口栄養,すなわち「TPN」を含む)を含む流体
をこのような治療を必要とする患者に注入することができる。カテーテル
は加えて,循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視を
可能にする。」との記載がある。\n上記記載から,カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリのカテー
テルは,「循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視」を
可能にすることを理解できるが,上記記載は,隔壁の遠位部又はその遠位\n部に設けられたスリットが流体の「流入及び流出を可能とするように開口\n可能」な構\成であることを示唆するものとはいえない。
イ 2)について
乙6(国際公開第2008/052791号)には,バルブ組立体の具
体的構造として,側部のポートに沿って配置され,ポートを閉じる弁であ\nって,ポート内の加圧された流体の作用により開口可能となる第1バルブ\n要素(チューブ要素5),流体が遠位方向又は近位方向のいずれかに流れる
ことを可能にする二方向バルブとして形成されるスロット6aを備えたバ\nルブディスク6(原文4枚目7行〜5枚目3行(訳文5枚目),原文5枚目
17行〜20行(訳文6枚目),図1,2等)の記載がある。
引用文献3(甲3・訳文乙5)には,1)スリットを有する隔壁と隔壁作動
体とを含み,使用中は,隔壁作動体が隔壁のスリットを通って前進し,隔
壁を通る流体経路を形成する血液制御バルブと,カテーテルアセンブリ内
の流体がサイドポートから漏れることを防止できるポートバルブ(【000
2】,【0003】),2)「カテーテルアダプタは,隔壁作動体と隔壁とを含
む血液制御バルブを収容する。隔壁は,管腔の一部を封止する。1つ以上
のスリットが隔壁を貫通して延在することで,隔壁を通る選択的なアクセ
スを提供できる。よって,ポートバルブは,ポートを介してカテーテルア
ダプタの内部管腔に対する一方向の選択的なアクセスを提供し得る。」(【0
005】)との記載がある。
上記記載から,カテーテル組立体において,流体の患者への注入及び患
者の循環系からの流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された「二
方弁」として機能する「スリットを備えた隔壁」を介してされ得る技術が,\n本願優先日当時,一般に知られていたことが認められる。
一方で,上記記載から,カテーテルハブの中空部に配置された「スリッ
トを備えた隔壁」が常に「二方弁」として機能するとまで認めることはで\nきないから,上記技術が一般に知られていたことを踏まえても,前記⑴ウ
の認定を左右するものではなく,当業者は,引用文献1記載のカテーテル
及びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相\n当すると当然把握するものと認めることはできない。
◆判決本文
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2021.02.16
令和1(行ケ)10106 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年2月4日 知的財産高等裁判所
CS関連発明についての無効審判の取消訴訟です。知財高裁も審決同様、無効理由無しと判断しました。無効理由としては進歩性、実施可能要件、サポート要件と全て争点とされています。\n
原告は,本件発明1において,代入用スクリプトと自ノード変数データと
が,同一のノードデータに含まれるのに対し,甲1発明ではそうではないこ
とが相違点に当たるとした場合であっても,甲1発明において,直系上位ノ
ードに含まれている代入用スクリプトを,直系上位ノードではなく,自ノー
ドに含ませることとすることは,当業者の技術常識ないし周知技術に基づく
設計事項であるから,当業者は,相違点2及び相違点3に係る構成を容易に\n想到することができると主張する。
しかし,前記2において判示したとおり,甲1には,本件発明1の構成要\n件Fの代入用スクリプトに相当する事項自体が開示されていないから,原告
が主張するように,単に代入用スクリプトを自ノードに含むか含まないかと
いう点のみが相違点となるのではない。
そして,甲1には,ノードデータに当該ノードデータに含まれる変数デー
タである自ノード変数データと,当該ノードの直系上位ノードのノードデー
タに含まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行っ
て,前記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプトが含まれるよう
にする方法について記載も示唆もない。
したがって,その他の点について判断するまでもなく,当業者が,甲1発
明において,「スクリプトは「当該ノードデータに含まれる変数データであ
る自ノード変数データと,当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含
まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行って,前
記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプト」を含む」という相違
点2に係る本件発明1の構成及び「前記代入用スクリプトの実行により,前\n記自ノード変数データの値を更新する」という相違点3に係る本件発明1の
構成を容易に想到することができたとはいえない。\n
同様に,当業者が,甲1発明において,本件発明1の発明特定事項を全て
含む本件発明14について,前記相違点2に係る本件発明14の構成及び前\n記相違点3に係る本件発明14の構成を容易に想到することができたとはい\nえない。
◆判決本文
侵害訴訟はこちらです。
1審、2審とも技術的範囲に属しないと判断しています。
◆平成31(ネ)10034
◆平成29(ワ)31706
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2021.02.16
平成31(行ケ)10041 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年2月4日 知的財産高等裁判所
審決は進歩性違反無しとして無効請求を棄却しました。知財高裁も同じ判断です。
本件発明6は,貫通孔に関し,開孔率が3.07%以上であって,深さが
100〜2000μmであり,50個〜400個/cm2の密度で存在し,開
口面積が直径280〜1400μmの円形であるとの発明特定事項(相違点
6B)を有するところ,前記1(2)のとおり,第1表面のシート材のこの貫通\n孔は,創傷から滲み出した滲出液を貯留し,創傷面との間や上記の貫通孔内
などに滲出液を保持して湿潤環境を良好に維持するものでありながら,その
貫通孔は上記の第1表面側から第2表\面側への液体の透過を許容して,創傷
部位に過剰の滲出液を保持することがないという技術的意義を有するものと
認められる。
これに対し,甲1の発明の詳細な説明には,「被覆層下面側の少なくとも傷
接触表面は疎水性を有する。」(【0028】), 「 次に,液体の移動について
述べる。被覆層のこの疎水性の表面は,吸収層へ体液などの液体が移動し得\nるように形成される。被覆層の下面側を液体透過性とするためには,メッシ
ュ,穿孔フィルム等のプラスチックシートや,編布,織布,不織布等の液体
透過性の繊維状シートを使用することができる。被覆層に疎水性樹脂層を形
成する場合は,被覆層の液体が移動し得る孔を塞がないように疎水性樹脂層
を塗工するか,疎水性樹脂層を塗工した後に疎水性樹脂層ごと被覆層を打ち
抜けば良い。」(【0029】),「 次に,吸収層について述べる。吸収層は,セ
ルロース系繊維,パルプ,高分子吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独
又は併用して使用することができ,必要とされる吸収量にあわせてこれらの
量を調整すればよい。特に,水吸収時にゲルを形成する物質を含ませること
が好ましく,このようにすることで,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促
進することができる。」(【0034】)との記載がある。これらの記載によれ
ば,甲1発明においては,被覆層を貫通する孔60は,傷からの体液を吸収
層へ移動させるようにする機能を有するものであり,創傷を湿潤状態に保ち,\n傷の治癒を促進することができるのは,必要とされる吸収量にあわせて材料
を調整し,特に水吸収時にゲルを形成する物質を含ませることが好ましい吸
収層によってであり,被覆層を貫通する孔の機能によるものではないと理解\nすることが相当であり,甲1の発明の詳細な説明には,被覆層20に設けら
れた孔60に創傷部位からの滲出液を保持し,創傷面の湿潤状態を保つこと
についての記載や示唆はない。
また,甲7には,甲1発明の被覆層に相当するところの,多数の凸部及び
その周囲に形成される凹部を有し,凸部には厚さ方向に貫通する孔を有する
樹脂製のシート材からなる第1層と水を吸収保持可能な第2層の順に積層さ\nれてなる創傷被覆材が開示されており(【0010】,【0014】),この創傷
被覆材は,創傷部と第1層の凹部との間に滲出液を貯留する空間が形成され
ることにより,創傷部から流出する滲出液を保持し,創傷部の湿潤状態を保
持し,滲出液が多くなると,第1層の凸部に形成された孔を通して第2層の
吸収層に吸収されることが開示されている(【0012】,【0024】)。しか
し,甲7の創傷被覆材は,「 第1シート材は,創傷部と凹部(6)との間に滲
出液の貯留空間を形成する。これは,創傷面と第1層との間における前記貯
留空間に,創傷部からの滲出液を保持することにより創傷部の湿潤状態を保
持できるという点で優れている。また,第1シート材は滲出液が多くなると,
凸部(5)に形成された貫通孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させるこ
とができるため,滲出液が面内方向に広がるのを防止するという点でも優れ
ている。」(【0024】)との記載があるように,創傷部と凹部(6)との間
に滲出液の貯留空間を形成し,創傷部の湿潤状態を保持するものであり,貫
通孔(4)については,「滲出液が多くなると,凸部(5)に形成された貫通
孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させることができる」という機能を果\nたすものである。
そうすると,甲7の貫通孔は,そもそも創傷面からの滲出液を貯留する機
能を有しないから,甲7に記載された貫通孔の開孔率,深さ,密度,直径に\n関する技術的事項を甲1発明に適用しても,第1表面のシート材に創傷から\n滲み出した滲出液を貯留するための貫通孔を設ける本件発明6に想到するこ
とができないし,また,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進することが
できるのが孔の機能によるものではない甲1発明に甲7に記載された発明を\n適用する動機付けもない。
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2021.02.16
令和2(行ケ)10001 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年2月8日 知的財産高等裁判所
異議申立で進歩性無しとして取り消されましたが、知財高裁は動機付け無しとしてこれを取り消しました。
(ア) 相違点1は,引用例1発明の共重合体が,本件発明とは異なり,d
成分を構成モノマーとして含まないというものであるところ,上記(1)
ア(イ)bのとおり,甲7文献には,第1成分(a成分)及び第2成分(b
成分)又はそのいずれか(特に第1成分)と共重合させる第3成分とし
て,「架橋性の官能基(エポキシ基,水酸基,アミド基及びN−メチロー\nルアミド基の少なくとも1種)を有するもの」が挙げられている。
そこで,引用例1発明における第3成分として,エポキシ基を有する
モノマー(c成分)及び水酸基を有するモノマー(d成分)の2種を併
用することを,当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
(イ) まず,上記(1)ア(ア),(イ)a及びdのとおり,引用例1発明は,可
塑化ポリ塩化ビニルシート上に積層して使用するのに好適な接着剤組成
物に関する発明であり,共重合体中のカルボキシル基の10%以上をア
ルカリ金属と反応(中和)させることにより,耐ガソリン性及び耐油性\nを向上させることを目的とするものである。
そうすると,化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用の化合物
の発明である本件発明と引用例1発明とでは,技術分野や発明が解決し
ようとする課題が必ずしも一致するものではないから,もともと引用例
1発明に本件発明の課題を解決するための改良を加える動機付けが乏し
いというべきである。
(ウ) また,上記(1)ア(イ)bのとおり,甲7文献には,第3成分として選
択し得る4種のモノマーの例示として8つのモノマーが挙げられてい
るほか,4種のモノマーの1種のみ又は2種以上を併用して第1成分と
共重合させることができる旨が記載されている。そうすると,引用例1
発明における第3成分は,上記の各モノマーのうち1種のみを選択する
場合のほか,2種ないし4種のモノマーを併用する場合もあり得るとい
うことになるから,その組合せは,異なる官能基に属するモノマーを併\n用する場合に限ったとしても,被告が主張する6通りにとどまるもので
はない。
そして,証拠(甲7)によれば,甲7文献には,エポキシ基を有する
モノマー(c成分)と水酸基を有するモノマー(d成分)を組み合わせ
た合成例は記載されておらず,また,d成分を構成モノマーとして含む\nことによる効果等に関する具体的な記載もされていないものと認められ
る。そうすると,甲7文献には,引用例1発明の技術思想として,複数
の組合せの中からエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有するモノ
マーの2種を選択すべきである旨や,水酸基を有するモノマーを選択す
ることによって特定の効果が得られる旨が開示されているものとはいえ
ない。
これらの事情を併せ考慮すると,甲7文献に接した当業者が,引用例
1発明の第3成分として,複数の組合せの中から敢えてエポキシ基を有
するモノマー及び水酸基を有するモノマーの2種を選択する理由に乏し
いというべきである。
(エ) 以上のとおり,本件発明と引用例1発明とでは技術分野や発明が解
決しようとする課題が必ずしも一致するものではないから,もともと引
用例1発明に本件発明の課題を解決するための改良を加える動機付け
が乏しいことに加え,甲7文献の記載内容からすると当業者が複数の組
合せの中から敢えてエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有する
モノマーの2種を選択する理由に乏しいことからすれば,甲7文献に接
した当業者において,相違点1に係る本件発明の構成に至る動機付けが\nあったということはできない。
したがって,引用例1発明において,構成モノマーとしてd成分を含\nませることを,本件出願時における当業者が容易に想到し得たというこ
とはできない。
・・・
(3) 相違点2の容易想到性
上記(2)のとおり,相違点1について容易想到であるということはできな
いが,事案に鑑み,相違点2の容易想到性についても検討する。
ア 検討
(ア) 相違点2は,(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマ\nーの全量を100質量%としたときのb成分の配合量b及びc成分の配
合量cの値が,本件発明は「10≦b+40c≦26(但し0.05≦
c≦0.45)」であるのに対し,引用例1発明の共重合体においてはc
が0.5,b+40cが26.8であるというものである。
そこで,引用例1発明における上記b及びcの値を変更し,本件発明
における数値範囲内に調整することを,当業者が容易に想到し得たか否
か否かについて検討する。
(イ) まず,上記(2)ア(イ)のとおり,本件発明と引用例1発明とでは技術
分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではない
というべきである。
(ウ) また,上記(1)ア(イ)fのとおり,引用例1発明の実施例には,引用
例1発明における第3成分を,N−メチロールアクリルアミドからアク
リルアミドに量比を変えることなく置き換えた場合に,ピール(g/2
cm)が「1025FA」から「675AF」になり(なお,「ピール」
とは,剥離に要する力をいう(甲7)。),凝集力が「ずれ0.6mm」か
ら「ずれ16mm」になった例が示されている(表−8の実施例6,7)。\nこのことからすれば,架橋性官能基であるエポキシ基,水酸基,アミド\n基及びN−メチロールアミド基は,その種類に応じて異なる粘着力や凝
集力を示すものと考えられるから,各モノマーは,粘着力や凝集力の点
で等価であるとはいえないというべきである(なお,表−8の実施例7\nにおける凝集力の数値(「ずれ16mm」)については,他の実施例にお
ける数値と比較すると,「ずれ1.6mm」の誤記である可能性もあると\nいえるが,誤記であったとしても,実施例6とは3倍弱の違いが生じて
いるのであるから,結論を左右しない。)。
そうすると,当業者において,各モノマーを同量の別のモノマーに置
き換えたり,水酸基を有するモノマー(d成分)を導入した分だけグリ
シジルメタクリレート(c成分)の配合量を減少させて第3成分全体の
配合量を維持したりすることが,自然なことであるとか,容易なことで
あるなどということはできない。
(エ) さらに,上記(1)ア(ア)によれば,引用例1発明においては,第3成
分(グリシジルメタクリレートはこれに当たる。)を第1成分及び第2成
分の合計量100重量部に対して0.5〜15重量部とするとされてい
るから,第1成分ないし第3成分の合計量を100質量%としたときの
第3成分の配合量は,0.5〜13.0質量%となる(0.5/(10
0+0.5)×100〜15/(100+15)×100)。
そうすると,引用例1発明において,グリシジルメタクリレートの配
合量を本件発明における数値範囲内である0.45質量%以下とするた
めには,第3成分の配合量の下限値とされている値である0.5質量%
を下回る量まで減少させる必要があるところ,甲7文献の記載をみても,
このような調整を行うべき技術的理由を見いだすことはできない。
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2021.02. 8
令和2(ネ)10003 特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年1月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1億円の損害賠償を求めましたが、1審は無効理由あり(29-2および進歩性)として請求棄却しました。特許権者は訂正をしさらに控訴しました。知財高裁(3部)は、被告製品は本件訂正発明の「アクセス制御手段」を充足しないと判断して、控訴を棄却しました。
特許請求の範囲の記載によれば,本件訂正発明の「アクセス制御手段」は,
携帯電話の所有者が第三者による閲覧や使用を制限し,保護することを希望
する被保護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段であって,
RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別できる識別情報を
受け取って,該受け取った識別情報と当該携帯電話に予め記録してある識別\n情報との比較を行う比較手段で,前記アクセス要求を許可するという比較結
果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過す
るまでは前記被保護情報へのアクセスを許可するものである。
一方,被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,上記1のとおり,画面
ロックを解除し,または画面ロックを継続する手段であって,背面にかざさ
れたICカードの固有IDを受信し,その固有IDを用いて,当該ICカー
ドが登録済ICカードであるか否かの比較を行う比較手段で,画面ロックを
解除するという比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定さ
れた場合)は,画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しな
い限り,画面を介して操作することができるものである。
ここで,被告製品の「背面にかざされたICカードの固有ID」が,本件
訂正発明の「RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別でき
る識別情報」に相当することに争いはないから,被告製品の「画面ロック解
除制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に係る構成要件を充\n足するというためには,1)被告製品の「画面ロックを解除し,または画面ロ
ックを継続する手段」が,本件訂正発明の「携帯電話の所有者が第三者によ
る閲覧や使用を制限し,保護することを希望する被保護情報(以下,単に
「被保護情報」という。)に対するアクセス要求を許可または禁止する手
段」に当たるとともに,2)被告製品において「画面ロックを解除するという
比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定された場合)は,
画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しない限り,画面を
介して操作することができる」ことが,本件訂正発明の「アクセス要求を許
可するという比較結果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてか
ら所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」こと
に当たることを要するといえる。
(2) そこで,上記1)及び2)の2点に分けて,被告製品の「画面ロック解除制御
手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するか否かについて
検討する。
ア 上記1)の点につき
(ア) 証拠(甲4など)によれば,被告製品の「画面ロック機能」とは,ス\nマートフォンの画面をロックすることによって画面を介した操作が行え
ないようにするためのものであり,画面ロックの解除とは,スマートフ
ォンの操作(画面を介した操作)が可能な状態にするためのものであっ\nて,これらは被保護情報へのアクセスを許可するとか禁止するといった
ことそのものを意味するわけではないし,それと同視すべき事柄である
ということもできない。このことは,画面を介した操作が可能となった\nからといって,常に被保護情報へのアクセスが行われるわけではなく,
公開された地図の検索等,被保護情報には当たらない情報へのアクセス
に終始する場合もあり得ることや,逆に,被保護情報そのものにパスワ
ードが付されている場合等を想定すると,画面ロックを解除したからと
いって直ちに当該被保護情報にアクセスできるようになるわけではない
ことなどからも明らかである。
もちろん,被保護情報そのものにパスワード等が付されていない場合
には,画面ロックを解除した後,ユーザが画面を介して所定の操作を行
うことにより,スマートフォンに格納された被保護情報へのアクセスが
可能になるし,壁紙として,第三者に見られたくない写真を設定してい\nるような状況の下では,画面ロックの解除と同時に,被保護情報へのア
クセスが起こり得ることとなる。しかしながら,これらは,画面が開か
れたことそのものや,それによって画面を介した操作が可能になったこ\nとに付随して生じた結果というべきものであって,画面ロックやその解
除の直接の目的や効果といえるものではない(なお,1)の構成における\n違いが,2)の構成における違いにも反映していると考えられることにつ\nいては,後述のイ参照。)。
(イ) また,証拠(乙2)によれば,被告製品は,「画面ロック」状態にお
いても,画面を介した操作によらないアクセス要求(例えば,自動改札
機の通過のために乗車券の情報にアクセスすること,電話着信があった
ときに発信者の名前を画面に表示するために電話帳の情報にアクセスす\nること等)に対しては,アクセスを禁止していないことが認められ,こ
の場合には,画面ロックの解除を経ないで被保護情報へのアクセスが可
能になることとなる。このことも,画面ロックやその解除が,被保護情\n報へのアクセスの禁止や許可そのものではないことを裏付ける一事情と
いうべきである。なお,控訴人は,上記の例は,被告製品の構成を認定\nするための対象にはなっていない事例であるから考慮すべきではないと
いう趣旨の主張をするが,画面ロックやその解除の意義を認定するため
の事情として考慮することには何ら妨げはないものというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)に検討したところによれば,被告製品の「画面ロックを
解除し,または画面ロックを継続する手段」が,本件訂正発明の「被保
護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段」に当たるとい
うことはできない。
イ 上記2)の点につき
本件訂正発明の「アクセス制御手段」の「前記アクセス要求が許可され
てから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可す
る」構成は,その記載のみからは,所定期間が経過した後の状態が明らか\nでない。しかしながら,本件明細書の【0009】に,本件訂正発明の目
的は,「個人情報や金銭的価値のある情報を統合して管理する場合に当該
情報の第三者による不正使用を確実に防止するための情報保護システムを
提供することにある。」と記載されていることや,【0039】に,「タ
イマを設けて一定のタイムラグを許容することで,ICアセンブリ130
とICアセンブリ140とを実際に使用するときの距離が比較的長い場合
であっても,通信可能距離の短い通信方式を採用することが可能\にな
る。」と記載されていることからすると,上記の構成の意義は,所定時間\nに限ってアクセスを許容する構成を付加することで,第三者による被保護\n情報の不正使用を確実に防止しつつ,Rバッジと携帯電話とが離間してい
ても,自動改札機等による被保護情報に対するアクセス要求を適切に処理
できるようにしたことにあると解される。そうすると,所定時間経過後に
は,被保護情報の保護のために,再度アクセスを禁止することが必須とさ
れているというべきであり,「前記アクセス要求が許可され」たときを起
点とし,それから所定の時間が経過した後は,たとえ被保護情報へのアク
セスが継続している最中であっても,被保護情報へのアクセスは禁止され
ることになるものと解される。
これに対し,被告製品の構成は,前述のとおり,「画面ロックを解除す\nるという比較結果が得られた場合は,画面ロックが解除された後,無操作
状態が一定期間継続しない限り,画面を介して操作をすることができる」
というものである。その一定期間の起点は,画面ロックが解除された後,
何の操作もしないという例外的な場合には,画面ロックが解除されたとき
となるが,何らかの操作がされる多くの場合には,その操作が終了したと
きとなるのであって,常にアクセス許可がされたときが一定期間の起点と
なる本件訂正発明とは異なる。また,本件訂正発明においては,アクセス
許可がされた後,一定期間が経過すれば,被保護情報へのアクセスが継続
してDいたとしてもアクセスが禁止されることになるのに対し,被告製品に
おいては,画面を介した操作が継続している限り,一定期間がカウントさ
れることはなく,したがって,画面がロックされることはあり得ないので
あり,この点においても違いが存するものというべきである。
そして,両者にこのような違いが生じているのは,本件訂正発明におい
ては,アクセス許可が被保護情報へのアクセスという意味を有するため,
被保護情報の保護という観点から時間制限が設けられているのに対し,被
告製品の画面ロック解除は,単に,画面を介した操作を可能にするという\n意味しか持たないため,被保護情報の保護という観点から時間制限をする
必要はなく,無駄な電力消費を防ぐという観点から時間制限が設けられて
いるのにすぎないからであり,両者の時間制限が持つ技術的意義が全く異
なるからであると解される(このように本件訂正発明におけるアクセス許
可と被告製品における画面ロック解除が持つ技術的意義に違いがあること
は,被告製品が1)の構成要件をも充足しないことをも裏付けるものである\nといえる。)。
ウ 上記ア及びイに検討したところによれば,被告製品の「画面ロック解除
制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するとはいえ
ない。
(3) 控訴人は,本件訂正発明の「アクセス」とは,携帯電話の正当なユーザと
して被保護情報を閲覧・利用・更新することを意味しており,被告製品にお
いては,画面ロック状態では,正当なユーザであることを確認できていない
ため,被保護情報(電子マネー,電話帳,写真などのデータ)の閲覧・使
用・更新は禁止されているとして,被告製品が,本件訂正発明の構成要件を\n充足する旨主張する。
しかしながら,被告製品の画面ロック状態においては,被保護情報の閲
覧・利用・更新に制限があるとはいえ,それが全面的に禁止されているもの
ではなく(上記(2)ア(イ)),画面ロック状態の解除後においても,それだけで
被保護情報へのアクセスが全面的に可能になるものでもない(上記・・・(2)ア(ア))。
被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,まさに文字どおり,画面ロック
解除を制御しているにとどまり,被保護情報へのアクセスの制御との関連は
限定的なものにとどまる。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成30(ワ)39914
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2021.02. 8
令和2(行ケ)10007 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年1月25日 知的財産高等裁判所
無効審判請求に対して訂正請求がなされ、特許庁は無効理由なしと判断しました。知財高裁はかかる審決を維持しました。
上記の甲11,甲22,甲24,甲25の記載によれば,これらの文
献には,チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するよ
うな深い位置で耕耘すると,前記チェーンケースによって前記耕耘地面
にチェーンケース跡の溝が形成されてしまい,次工程の播種作業の障害
になることから,飛散土を一部遮蔽しないようにして前記チェーンケー
ス跡の溝に土を供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻すという技
術事項が記載されていたことが認められる。
(ウ) そこで,甲14発明に,飛散土を一部遮蔽しないようにしてチェー
ンケース跡の溝に土を供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻すという
甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項を適用して,相
違点d(開口部について,本件発明1は,耕耘された土砂を外側方に流
し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝
を埋め戻すためのものであるのに対し,甲14発明は,そのような特定
がない点。)に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかが\n問題となる。しかし,前記(ア)のとおり,甲14の補助側板は,耕耘具
により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接する既耕地の境界部分
の均平性を高めるものであり,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐも
のであるのに対し,甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術
事項は,一部といえども泥土の飛散を遮断せずに,かえって泥土の飛散
によって溝に土を供給するというものであり,両者は,泥土の飛散を防
ぐのかそれともそれを利用するのかという点で対極の技術思想に基づく
ものであり,したがって,甲14の補助側板に,甲11,甲22,甲2
4,甲25に記載された技術事項を適用することについては阻害事由が
あるものと認められる。そうすると,甲14発明に甲11,甲22,甲
24,甲25に記載された技術事項を適用して相違点dに係る本件発明
1の構成を容易に想到することはできなかったものと認められる。\nウ(ア) 原告は,本件審決は,補助側板の「新たな取付位置」を設定してい
るが(判断1)),「新たな取付位置」は不要であると主張する(前記第3
の1(4)イ)。
しかし,前記イ(ア)のとおり,甲14の補助側板は,どのような耕耘
深さで作業するかにかかわらず,畑で作業する場合には畑用の取付け位
置に,水田で作業する場合には水田用の取付け位置に取り付けて作業す
るものであり,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接
する既耕地の境界部分の均平性を高めるものであるから,チェーンケー
ス跡の溝を埋め戻すための開口部を設置するためには,耕耘深さに応じ
て補助側板の取付位置を設定する必要があり,本件審決の上記判断(判
断1))に誤りがあるとは認められない。
◆判決本文
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2021.02. 3
令和1(行ケ)10144 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年1月21日 知的財産高等裁判所
「地熱発電促進方法」について、新規性なしとした拒絶審決が維持されました。出願人はドクター中松氏です。特許庁への出願時は代理人がついてましたが、拒絶査定以降は代理人なしです。
本件クレーム1は下記です。
我国地熱エネルギ活用の地熱発電を促進するため,地熱発電発電反対を抑止
する目的のため,第一に地熱発電用の井戸を掘らないこと,第二に既存のd温泉
の源泉からのお湯で発電すること,第三に発電により源泉の温度を下げ,第四
に入浴に適する温度に下げた温泉を温泉業者に提供し,第五に温泉業者の源泉
低温化のコストを不用にしてメリットを与えるという五つの組み合わせの方法
により温泉業界の地熱発電反対を抑止し,地熱発電を促進し,我国地熱エネル
ギ活用を増大し得ることを特徴とする我国地熱発電促進方法。
引用発明は下記です。
地熱発電の普及が実現されるため,源泉の権利者への不具合を生じさせず
熱水蒸気発電装置1を設置するモチベーションを高くするため,温泉利用設
備30用の源泉を吸い上げる機構に熱水蒸気発電装置1を接続するだけで,\n自らが使用する電力をまかなうことができ,発電に使用した熱水を,本来の
温泉水としても利用でき,温泉利用設備30の所有者にとっても利益になり,
源泉の権利者への不具合を生じさせず温泉利用設備30の所有者にとって熱
水蒸気発電装置1を設置するモチベーションを高くし,熱水蒸気発電装置1
の普及を進みやすくする,地熱発電の普及が実現される方法。
◆判決本文
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2021.01.29
令和2(行ケ)10066 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年1月14日 知的財産高等裁判所
知財高裁(2部)は,進歩性なしとした審決について,請求項2,3については動機付けがないとして,取り消しました。
本件審決は,甲1文献には甲1文献記載技術的事項2,すなわち,「2軸式ヒンジ
において,第1回転軸11と第2回転軸12とを平行状態で互いに回転可能となる\nように連結する,一対の支持片511,512の間に,第1位置制限カム521,
第2位置制限カム522及び一対の支持片511,512に対し,両側の短軸53
4により揺動可能である切換片53を設けることにより,第1回転軸11と第2回\n転軸12を交互に回転させるようにする」という技術事項が記載されているところ,
甲2発明において,「接続部材3」を一対とすれば,第1回転軸11及び第2回転軸
21をより安定して平行状態で互いに回転可能に支持できることになるとして,甲\n2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用して,甲2発明の相違点Aに係る構成を\n本件発明1の構成とすることは容易であると判断し,被告も同様の主張をする。\n
しかし,前記2(2)のとおり,甲2文献には,「本考案で開示されている開閉が安定
した2軸ヒンジは,軸スリーブ4及び当該軸スリーブ4を収容するハウジング5を
更に含む。当該軸スリーブ4は,当該接続部材3に接続される接続板41と,当該
接続板41に設置され,それぞれ当該第1回転軸11と当該第2回転軸21とが設
置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する。当該ハウジング5は,収
容空間51及び当該収容空間51に連通する開口52が設けられ,当該軸スリーブ
4と当該接続部材3とを収容し,当該接続板41と当該ハウジング5とに,相互に
対応してガイド凸条411とガイド凹溝53とが設けられ,当該ハウジング5の収
容空間51に配置されるように当該軸スリーブ4をガイドする。」(段落【0016】)との記載があり,同記載と甲2文献の【図2】からすると,甲2発明に係るヒンジ
は,接続部材3に接続される接続板41と,同接続板41に設置され,それぞれ第
1回転軸11及び第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部4
3とを有する軸スリーブ4並びに同軸スリーブ4を収容するハウジング5を備えて
いることが認められ,同部材により,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定し
て平行状態で回転可能に支持できるから,甲2発明においては,甲1文献記載技術\n的事項2を適用する必要はない。
また,前記3(1)のとおり,甲1発明における支持片512は,第1自動閉合輪2
13・第2自動閉合輪223と共に自動閉合機能を発揮する部材を構\成すること,
第1位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイ
ドブロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝512c
を備えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していること,第1トルク装\n置21及び第2トルク装置22は,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223
に接して設けられ,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223を圧迫しており,
この作用により,上記の自動閉合機能が発揮されることが認められるから,これら\nの部材(第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512,切換片5
3)は,機能的に連動しており,一体的に構\成されているといえる。また,甲1発
明における支持片511は,第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412と一
体となってストッパ機構を構\成すること,第1ストッパ輪411と第1ストッパ凸
点511aとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第1位置制限ブロック
531が第1位置制限口521a内に嵌入して,第1回転軸11が回動不能となり,\n第2回転軸12のみが回動可能となるように制限し,第2ストッパ輪412と当該\n第2ストッパ凸点511bとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第2位
置制限ブロック532が第2位置制限口522a内に嵌入して,第2回転軸12が
回動不能となり,第1回転軸11のみが回動可能\となるように制限すること,第1
位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイドブ
ロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝511cを備
えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していることが認められるから,\nこれらの部材(切換片53,第1位置制限カム521・第2位置制限カム522,
支持片511,第1ストッパ輪412・第2ストッパ輪411)も,機能的に連動\nしており,一体的に構成されているといえ,さらに,これらの部材と上記の第1自\n動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512も一体的に構成されている\nといえる。そして,上記のとおり,甲2発明は,軸スリーブ4及びハウジング5を
備えることにより,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転
可能に支持できる構\成を有しており,甲1文献記載技術事項2を適用する必要がな
いことを考慮すると,上記の一体的に構成された部材から,支持片511及び支持\n片512のみを取り出して,一対の支持片を有するという構成を甲2発明に適用す\nる動機付けはないというべきである。
また,前記(1)のとおり,甲2発明の接続部材3は,第1位置制限部113に当接
して第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35と,第2位置制限部21
3に当接して第2回転軸21の回転を制限する第2位置決め部36とを有するので
あるから,甲2発明は,甲1発明のストッパ機構に相当する部材を備えていると認\nめられ,また,前記(2)のとおり,甲2発明は,選択的回転規制手段を有していると
ころ,甲1発明の上記の一体的に構成された部材は,ストッパ機構\と選択的回転規
制手段を含むものであるから,甲1発明の上記の一体的に構成された部材を甲2発\n明に適用しようする動機付けもないというべきである。
したがって,甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用する動機付けはないと
いうべきであり,甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明2の構\成とすることが
甲1文献により動機付けられているということはできない。
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2020.11.21
令和2(行ケ)10005 特許権 行政訴訟 令和2年11月10日 知的財産高等裁判所
特29−2違反に対して、先願は未完成発明と主張しましたが、知財高裁(1部)はこれを退けて、拒絶審決を維持しました。
ア 原告は,当業者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度に
まで具体的・客観的なものとして構成されていないいわゆる「未完成発明」は,特\n許法29条の2における「他の特許出願‥の発明」に当たらず,後願排除効を有さ
ないとし,甲1明細書に記載された発明は発明として未完成であると主張する。
イ そこで判断するに,特許法184条の13により読み替える同法29条の2
は,特許出願に係る発明が,当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録
出願であって,当該特許出願後に特許掲載公報,実用新案掲載公報の発行がされた
ものの願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書等」という。)に記
載された発明又は考案と同一であるときは,その発明について特許を受けることが
できないと規定する。
同条の趣旨は,先願明細書等に記載されている発明は,特許請求の範囲以外の記
載であっても,出願公開等により一般にその内容は公表されるので,たとえ先願が\n出願公開等をされる前に出願された後願であっても,その内容が先願と同一内容の
発明である以上,さらに出願公開等をしても,新しい技術をなんら公開するもので
はなく,このような発明に特許権を与えることは,新しい発明の公表の代償として\n発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でない,というものである。
このような趣旨からすれば,同条にいう先願明細書等に記載された「発明」とは,
先願明細書等に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握され
る発明をいい,記載されているに等しい事項とは,出願時における技術常識を参酌
することにより,記載されている事項から導き出せるものをいうものと解される。
したがって,特に先願明細書等に記載がなくても,先願発明を理解するに当たっ
て,当業者の有する技術常識を参酌して先願の発明を認定することができる一方,
抽象的であり,あるいは当業者の有する技術常識を参酌してもなお技術内容の開示
が不十分であるような発明は,ここでいう「発明」には該当せず,同条の定める後願\nを排除する効果を有しない。また,創作された技術内容がその技術分野における通
常の知識・経験を持つ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術
効果をあげることができる程度に構成されていないものは,「発明」としては未完成\nであり,特許法29条の2にいう「発明」に該当しないものというべきである。
ウ これを本件についてみると,・・・・
エ 以上によれば,ガラス合紙の,シリコーンのポリジメチルシロキサンであ
る有機ケイ素化合物の含有量を3ppm以下,好ましくは1ppm以下で,0.
05ppm以上とした先願発明は,ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケ
イ素化合物に起因する配線の不良等を大幅に低減でき,特にポリジメチルシロキ
サンがガラス板に転写され,より配線や電極の不良等が発生し易くなることを抑
制できるものであって,先願発明の目的とする効果を奏するものであること,そ
のようなガラス合紙は,ポリジメチルシロキサンを含有する消泡剤を使用しない
で製造したパルプを原料として用い,ガラス合紙の製造工程において,パルプの
洗浄,紙のシャワー洗浄,水槽を用いる洗浄や,これらを2種以上行う方法によ
り製造できること,以上のことが理解できる。
そうすると,先願発明は,創作された技術内容がその技術分野における通常の知
識・経験を持つ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果を
あげることができる程度に構成されたものというべきである。\nよって,先願発明は,特許法29条の2にいう「発明」に該当し,未完成とは
いえないから,同条により,これと同一の後願を排除する効果を有する。
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2020.11.20
令和1(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年11月11日 知的財産高等裁判所
用語「臀部の頂上部よりも上側」とはいかなる位置かが争われました。裁判所は、拒絶審決を維持しました。
1) 以上によれば,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)及び本願
明細書には,本願発明1の「臀部の頂上部よりも上側」は,「下方窄ま\nり」の状態の設定の開始位置(起点)を規定したものであることの開示
はあるが,その用語の意義や技術的意義について述べた記載はない。
しかるところ,「頂上」の用語は,一般に,「いただき,てっぺん」
などを意味すること(広辞苑(第七版)),ヒップサイズの寸法は,人
体を側方から見て臀部が最も後方に突き出している位置(最も高い位置)\nをメジャーで測定するのが一般的であることに鑑みると,本願発明1の
「臀部の頂上部よりも上側」にいう「臀\部の頂上部」の用語は,臀部が\n最も後方に突き出している位置(最も高い位置)を意味するものと理解
することができ,身頃の展開状態(展開平面図)においては,その位置
は,「臀部における点」として観念できるものと解される。\n
そうすると,本願発明1の「臀部の頂上部よりも上側」は,臀\部が最
も後方に突き出している位置(最も高い位置)よりも,上方であれば,
それが多少の上方であっても,「臀部の頂上部よりも上側」に含まれる\nものと解される。
イ これに対し原告は,本願明細書の記載(【0010】,【0013】等)
によれば,相違点1に係る本願発明1の構成は,下方窄まりにする領域の\n開始位置(臀部の形状と不整合にする領域の開始位置)を「臀\部の頂上部
よりも上側」に設定(相違点1に係る本願発明1の構成)し,この設定に\nより,生地が「臀部の頂上部」に対して「下方窄まり」の形状で接するこ\nとになるため,「臀部の頂上部」を押圧する力には上向きの成分(上向き\nのベクトル)が含まれることになり,これが臀部の頂上部をも上方に持ち\n上げる作用を果たすので,「ショーツ等衣料のヒップ下部該当部位周りを
ヒップ下部体形にフィットすべく絞ることができ」,「背面覆い部分の下
部がヒップ下部の膨らみ体形にぴったり合って該下半分を絞り込むように
深く包み込むことができる」という作用効果を奏する旨主張する。
しかしながら,前記ア認定のとおり,本願明細書の【0010】及び【0
013】の記載は,「下方窄まり」の状態に設定した構成によれば,ヒッ\nプ下部体形の半球形状の下半分を深く立体的に包み込むことができるので,
ヒップ下部へのフィット性に優れ,ヒップ裾ラインのずり上がりを確実に
防止できるとともに,直立姿勢時にショーツ等衣料のヒップ下部や臀溝部\nに相当する個所に弛み皺やだぶつきが発生することが無くなり,美しいヒ
ップ裾ラインを出すことことができるという効果を奏する旨を開示するも
のであるが,本願明細書には,この効果が「下方窄まり」の状態の設定の
開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」としたことによるもので\nあることについての記載はない。
また,前記ア認定のとおり,本願明細書には,本願発明1の「臀部の頂\n上部よりも上側」の具体的な位置を示した記載はないし,「下方窄まり」
の状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とするこ\nとの技術的意義について述べた記載もない。ましてや,「下方窄まり」の
状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とすること\nによって,生地が「臀部の頂上部」に対して「下方窄まり」の形状で接す\nることになるため,「臀部の頂上部」を押圧する力には上向きの成分(上\n向きのベクトル)が含まれることになり,これが臀部の頂上部をも上方に\n持ち上げる作用を果たすことについては,記載も示唆もない。
したがって,原告の上記主張は,本願明細書の記載に基づかないもので
あるから,採用することができない。
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2020.11. 4
令和1(行ケ)10137 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年10月28日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が支持されました。争点は進歩性違反、記載不備、手続き違背です。手続き違反について裁量の範囲を逸脱してないと判断しました。
原告らは,本件審判において,主引用例である甲1に記載された発明と
して「シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤としてヒトに経口投与される,3
00mgのセレコキシブを含む経口投与用カプセル」の発明を主張し,当
事者双方は,発明の目的を発明特定事項に含めることについて議論してい
なかったが,審判合議体は,本件審決において,審理の過程で当事者が一
切主張しなかった目的を発明特定事項に含む甲1発明を認定し,この認定
について原告らに反論の機会を与えることなく,本件発明1と甲1発明と
の相違点に係る容易想到性の判断をし,甲1発明を主引用例とする進歩性
欠如の無効理由は理由がないと判断したものであり,このような審理は,
原告らにとって不意打ちであり,原告らの手続保障を著しく欠くものであ
るから,本件審決には審理不尽の手続違背がある旨主張する。
しかしながら,審判合議体が審決で認定する主引用例記載の引用発明の
内容と請求人の主張する引用発明の内容とが異なる場合において,当事者
対し,事前に審決で認定する引用発明の内容を通知し,これに対する意見
を申し立てる機会を与えるかどうかは,審判合議体の審判指揮の裁量に委\nねられていると解されるから,このような機会を与えなかったからといっ
て直ちに審判手続に手続違背の違法があるということはできない。
また,原告らの主張する甲1に記載された発明と本件発明1との相違点
は,本件審決が認定した甲1発明と本件発明1との相違点1−1及び1−
2と異なるものではないから,審判合議体が本件審決認定の甲1発明を引
用発明として認定した上で,本件発明1の進歩性について判断をしたこと
が,原告らにとって不意打ちであるとはいえず,上記裁量の範囲を逸脱し
たということはできない。
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2020.10.29
令和1(行ケ)10126 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年10月22日 知的財産高等裁判所
本件特許についての第三次取消訴訟で無効理由無しの審決が取り消されました。第一次、第二次はいずれも、「無効理由無し、審決維持」でした。
正規状態での施工の利点(上記(2)ア)及び2枚目クランプ状態での施工の
問題点(同イ)にかんがみると,甲1発明において,400mmの場合に2
枚目クランプ状態で施工すると,地盤が硬い場合や鋼矢板が長い場合には施
工不能となるおそれがあるから,正規状態での施工が可能\になるように構成\nすることを当業者は動機付けられるといえる。
ここで,600mm用のチャック装置のままで400mmの鋼矢板を正規
状態で施工すると,チャック装置が大きすぎるために干渉問題が生じる(上
記(2)ウ)。この干渉問題を解決するために,上記(3)の周知事項を適用して,
必要に応じて圧入機に仕様変更を加えつつ,600mm用のチャック装置よ
りも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用のチャック装置を備え\nる一体型チャックフレームに交換することにより,あるいは,600mm用
の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm\n用の着脱式チャック装置に交換することにより,400mmの場合でも正規
状態での施工が可能になるように構\成することは,当業者が容易に想到し得
たことといえる。
なお,本件特許の明細書の【0027】には,従来技術の説明として,溶
接事項記載に相当する記載があるが,溶接の工程にはそれなりの手間や費用
を要する上に,溶接した鋼矢板は,その再利用にも支障が生じ得ることなど
を踏まえると,鋼矢板の溶接は,あくまでも次善の策にすぎず,当業者とし
ては,より抜本的な解決策の採用に向けて動機付けられるであろうことは否
定できない。そうすると,溶接事項記載の存在により,相違点に係る本件発
明1の構成を採用することが阻害されるとはいえない。\n
2 第2次審決(甲7−1)との関係について
なお,甲7の1,2によれば,本件審判手続と第2次審決に係る無効審判手
続とでは,類似の無効理由が主張されていたことが認められるので,第2次審
決との抵触等が問題にならないではないが,同証拠によれば,両者で主張され
た無効理由は,主引例が異なる上に,その根拠として提出された証拠にも違い
があることが認められるから,本件において,原告が,甲1発明に基づく進歩
性欠如を主張することが,第2次審決の効力に違反するものではないし,また,
その主張が既に決着済みの問題を蒸し返すものであって信義則に違反するとま
で認めるに足りる証拠もない。
◆判決本文
1次判決はこちら
◆平成28(行ケ)10161
2次判決はこちら
◆平成30(行ケ)10030
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2020.10.29
令和1(行ケ)10130 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年10月22日 知的財産高等裁判所(3部)
無効審判の審理で訂正し、無効理由無しとされましたが、これについては、審決取消訴訟(前訴)で取り消されました。再開した審理で、訂正がなされ、無効理由無しと判断されました。知財高裁は審決を維持しました。争点は新規性・進歩性、サポート要件です。概要は、先行公報に記載された事項については前訴の拘束力化あり、また阻害要因ありと判断されました。
本件訂正発明1と甲1発明の相違点の認定の誤りについて
ア 甲1の【0016】には,「図1にホットプレスにより作製したターゲッ
トの断面組織写真を示す。これによれば,微細な黒い点(SiO2)が均質
に分布しているのが観察され,・・・以上の結果より,このターゲット組織は
SiO2がCo−Cr−Ta合金中に分散した微細混合相からなっている
ことがわかった。」との記載があるから,甲1の図1の黒い点はSiO2と
認められる。そして,甲1の図1によれば,SiO2の黒い点は粒子状をな
しており,いずれも半径2µmの仮想円よりも小さいと認められる。したが
って,甲1の図1のSiO2粒子はいずれも,SiO2粒子内の任意の点を
中心に形成した半径2µmの全ての仮想円よりも小さいと認められ,形状2
の粒子の存在を確認することはできないから,本件訂正発明1が必ず形状
2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否かが
一見して明らかではないと認められる。
前訴判決は,審決を取り消す前提として,甲1発明の図1の全ての粒子
は形状1であると認定しており(甲30,61頁),この点について拘束力
が生じているものと認められ,この点からしても,本件訂正発明1が必ず
形状2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否
かが一見して明らかではないということができる。
そうすると,本件訂正発明1が形状2の粒子を含むのに対し甲1発明に
おいて形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでないとの本件審
決の相違点(相違点2)の認定に誤りはないものと認められる。
イ(ア) この点につき,原告は,甲3に記載された再現実験は,甲1の実施
例1の再現実験であり,甲3で確認される非磁性材料粒子の組織は,甲
1の実施例1の組織と同じであるとして,甲3の断面組織写真である図
6の画面右下には形状2の粒子が存在するから(甲47),本件訂正発明
1と同じく,甲1発明にも形状2の粒子が存在するということができ,
形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでない点をもって,本件
訂正発明1と甲1発明の相違点ということはできないと主張する。
(イ) 前記2(2)アのとおり,メカニカルアロイングは,高エネルギー型ボ
ールミルを用いて,異種粉末混合物と硬質ボールを密閉容器に挿入し,
機械的エネルギーを与えて,金属,セラミックス,ポリマー中に金属や,
セラミックスなどを超微細分散化,混合化,合金化,アモルファス化さ
せる手法で,セラミックス粒子を金属マトリクス内に微細に分散させる
ことを可能とするものであり,このようなメカニカルアロイングの仕組\nみに照らすと,メカニカルアロイングにおいては,ボールミルのボール
の衝突により異種粉末混合物にどのような力が加えられるかにより,生
成物の組織が異なってくるものと認められる。また,甲52に「一般に
粉末のミリング時には衝撃,剪断,摩擦,圧縮あるいはそれらの混合し
たきわめて多様な力が作用するがメカニカルアロイングにおいて最も重
要なものはミリング媒体の硬質球の衝突における衝撃力とされている。
衝撃圧縮により粉末粒子は鍛造変形を受け加工硬化し,破砕され薄片化
する。・・・薄片化および新生金属面の形成に加え,新生面の冷間圧接およ
びたたみ込みが重なるいわゆる Kneading 効果により,次第に微細に混
じり合い,ついには光学顕微鏡程度では成分の見分けがつかないほどに
なってしまう。」(前記2(1)オ)との記載があることからすると,メカニ
カルアロイングにおいて最も重要なものはミリング媒体の硬質球の衝突
における衝撃力であると認められる。そうすると,ボールミルのボール
の材質や大きさ,ボールミルの回転速度等の条件が異なれば,メカニカ
ルアロイングによって得られる粉末の物性は異なり,そのような粉末か
ら得られるスパッタリングターゲットの研磨面で観察される組織の形態
も異なると認められる。
そうであるとすれば,少なくともボールミルのボールの材質や大きさ,
ボールミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件が明らかにされな
ければ,どのような組織の生成物ができるかが明らかにならないものと
いうべきである。
そこで本件についてみると,甲1には,甲1発明のスパッタリングタ
ーゲットを製造する際の,ボールミルのボールの材質や大きさ,ボール
ミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件についての記載はなく,
甲3のメカニカルアロイングの条件が,甲1発明のスパッタリングター
ゲットを製造する際のメカニカルアロイングの条件と同じであったとい
う根拠はない。そうすると,甲3に記載されたスパッタリングターゲッ
トが形状2の粒子を含んでいたとしても,このことのみから,甲1発明
のスパッタリングターゲットも形状2の粒子を含むということはできな
い。そして,その他に,甲1発明のスパッタリングターゲットが形状2
の粒子を含むことを認めるに足りる証拠はない。
・・・
(2) 本件訂正発明1〜6の進歩性についての判断の誤りについて
ア 本件訂正発明1と甲1発明の相違点2,本件訂正発明2と甲1発明の相
違点2’の容易想到性について検討する。
甲1発明は,ハードディスク用の酸化物分散型 Co 系合金スパッタリン
グターゲット及びその製造方法に関する発明であり(【0001】【産業上
の利用分野】),発明の目的は,保磁力に優れ,媒体ノイズの少ない Co 系合
金磁性膜をスパッタリング法によって形成するために,結晶組織が合金相
とセラミックス相が均質に分散した微細混合相であるスパッタリングタ
ーゲット及びその製造方法を提供することにある(【0009】【発明が解
決しようとする課題】)。そして,発明者らは,Co 系合金磁性膜の結晶粒界
に非磁性相を均質に分散させれば,保磁力の向上とノイズの低減が改善さ
れた Co 系合金磁性膜が得られることから,そのような磁性膜を得るため
には,使用されるスパッタリングターゲットの結晶組織が合金相とセラミ
ックス相が均質に分散した微細混合相であればよいことに着目し,セラミ
ックス相として酸化物が均質に分散した Co 系合金磁性膜を製造する方法
について研究し,甲1記載の発明を発明した(【0010】【課題を解決す
るための手段】)。そして,甲1には,急冷凝固法で作製した Co 系合金粉末
と酸化物とをメカニカルアロイングすると,酸化物が Co 系合金粉末中に
均質に分散した組織を有する複合合金粉末が得られ,この粉末をモールド
に入れてホットプレスすると非常に均質な酸化物分散型 Co 系合金ターゲ
ットが製造できる(【0013】(課題を解決するための手段))と記載され
ており,甲1発明のスパッタリングターゲットは,アトマイズ粉末とSi
O2粉末を混合した後メカニカルアロイングを行い,その後のホットプレ
スにより製造されたものであり,SiO2が Co−Cr−Ta 合金中に分散した
微細混合相からなる組織を有する(【0015】,【0016】(実施例1))。
他方,メカニカルアロイングについては,本件特許の優先日当時,前記
2(2)記載の技術常識が存在したと認められ,当業者は,甲1発明のスパッ
タリングターゲットを製造する際も,原料粉末粒子が圧縮,圧延により扁
平化する段階(第一段階),ニーディングが繰り返され,ラメラ組織が発達
する段階(第二段階),結晶粒が微細化され,酸化物などの分散粒子を含む
場合は,酸化物粒子が取り込まれ,均一微細分散が達成される段階(第三
段階)の三段階で,メカニカルアロイングが進行すること自体は理解して
いたものと解される。
そして,メカニカルアロイングが上記第一ないし第三の段階を踏んで進
行することからすると,メカニカルアロイングが途中の段階,例えば,第
二段階では,ラメラ組織が発達し,形状2の粒子も存在するものと考えら
れ,甲49(実験成績報告書「甲3の混合過程で形状2の非磁性材料粒子
が存在すること(1)」)及び甲50(実験成績報告書「甲3の混合過程で
形状2の非磁性材料粒子が存在すること(2)」)も,メカニカルアロイン
グの途中の段階においては,形状2の粒子が存在することを示している。
しかし,甲1には,形状2のSiO2粒子について,記載も示唆もされて
いない。むしろ,本件特許の優先日当時のメカニカルアロイングについて
の前記技術常識(前記2(2))に照らすと,メカニカルアロイングは,セラ
ミックス粒子等を金属マトリクス内に微細に分散させるための技術であ
り,第二段階は進行の過程にとどまり,均一微細分散が達成される第三段
階に至ってメカニカルアロイングが完了すると認識されていたものと推
認されるところであり,前記2(1)の技術文献の記載に照らして,メカニカ
ルアロイングをその途中の第二段階で止めることが想定されていたとは
認められない。メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階までで終
了することについて,甲1には何ら記載も示唆もされておらず,その他に,
これを示唆するものは認められない。むしろ,甲1には,合金相とセラミ
ックス相が均質に分散した微細混合相である結晶組織を得ることが,課題
を解決するための手段として書かれており,セラミックス相が均質に分散
した微細混合相を得るためには,均一微細分散が達成される第三段階まで
メカニカルアロイングを進めることが必要であるから,甲1は,メカニカ
ルアロイングをその途中の第二段階で止めることを阻害するものと認め
られる。
そうすると,当業者は,メカニカルアロイングについて前記2(2)記載の
技術常識を有していたものではあるが,甲1発明のスパッタリングターゲ
ットを製造する際に,メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階ま
でで終了することにより,SiO2粒子の形状を形状2(形状2’)の粒子
を含むようにすることを動機付けられることはなかったというべきであ
る。
したがって,相違点2及び相違点2’に係る事項は,当業者が容易に想
到し得たものとは認められない。
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2020.10.27
令和1(行ケ)10161 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年10月21日 知的財産高等裁判所
本件発明の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
本件審決は,相違点の認定において,本件補正発明が,「ダンパを囲繞す
る空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連である」点と,「想定される入力方向に
対して機能する向きに設置され」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され」る点とを分けて認定して\nいる。
しかし,本件補正発明は物の発明であること及び前記1で認定した本件明細書の
記載からすると,本件補正発明の,「想定される入力方向に対して機能する向きに設置され」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜す\nるように上記剪断部が設置され」との構成は,「端部の連結部を介して一連に設けられ」,「ダンパを囲繞する空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連である」二つの\n剪断部の形状について,いずれの剪断部も,想定される方向からの入力に対して機
能し,想定される入力方向に対し面内方向に傾斜するように設置できる形状であることを特定したものと解するのが相当であるから,本件補正発明の,「二つの剪断部\nが,当該ダンパの端部を成す連結部を介して一連に設けられ」との構成,弾塑性履歴型ダンパが「想定される入力方向に対して機能\する向きに設置され」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部
が設置され」との構成及び「ダンパを囲繞する空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連である」との構\成は,いずれも,ダンパの形状を特定するものである。そして,これらの形状の構成は相互に関連して,ダンパが振動エネルギーを吸収する機序に影響を与えるものであるから,上記の各構\成を別個の相違点として,それぞれ独立に容易想到性の判断をするのは相当ではないというべきである。これに反する
被告の主張は理由がない。
(2) 相違点4’の容易想到性について
ア 前記2(1)で認定した引用文献1の記載からすると,引用発明1は,水平
方向の全方向からの震動エネルギを,X)成分とY成分に分担して極低降伏点鋼製パ
ネルが塑性変形して吸収する制震パネルダンパであること,従来は,水平方向の全
方向からの震動エネルギを吸収するために,極低降伏点鋼製パネルの向きが直角と
なるように二つのダンパをL字状やT字状に並べて配置していたところ,そのよう
なダンパの配置方法では,それぞれのパネル毎に一対のエンドプレートを設置する
ため,取り付けのためのスペースが大きくなり,また,取り付けのための手間がか
かるという課題があり,同課題を解決するために,引用発明1−2は,ダンパの形
状を,平面視した場合に断面が中空の矩形になる四角柱状とし,これを一対のエン
ドプレートの間に設置する構成にしたもの,引用発明1−1は,ダンパの形状を,平面視した場合に断面が互いに直交する十\字状としたものであり,それぞれこれを一対のエンドプレートの間に設置する構成にしたものであることが認められる。一方,本件補正発明の特許請求の範囲の「想定される入力方向に対して機能\する向きに設置される弾塑性履歴型ダンパであって」,「上記想定される入力方向に対し,
二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され」との記載及
び前記1で認定した本件明細書の記載によると,本件補正発明は,振動エネルギー
の入力方向を想定し,特定の入力方向からの振動に対応するダンパであること,本
件補正発明の従来技術であるダンパは,剪断部を一つしか有していないために,地
震の際にいずれの方向から水平力の入力があるかは予測困難であるのに,一方向からの水平力に対してしか機能\せず,また,想定される入力方向に対して高精度にダンパの剪断変形方向を合わせる設置角度設定が必要であるという課題があったこと,
本件補正発明は,剪断部を二つ設け,これらを端部で連結させたことにより大きな
振動エネルギーを吸収できるようにし,また,向きの異なる二つの剪断部を想定さ
れる入力方向に対し面内方向に傾斜するように設置できる形状とすることにより,
入力の許容範囲及び許容角度が広くなり,据付誤差を吸収することができるように
したことが認められる。
このように,引用発明1は,水平方向の全方向からの震動エネルギーを吸収する
ためのダンパであるのに対し,本件補正発明は,振動エネルギーの入力方向を想定
し,その想定される方向及びその方向に近い一定の範囲の方向からの振動エネルギ
ーを吸収するためのダンパであり,両発明の技術的思想は大きく異なる。これに反
する被告の主張は理由がない。
そして,相違点4’に係る本件補正発明の構成は,上記のような技術的思想に基づくものであるから,引用発明1−2との実質的な相違点であり,それが設計事項\nにすぎないということはできない。
イ(ア) 前記2(2)で認定した引用文献2の記載からすると,引用文献2には,
本件審決が認定した引用発明2(前記第2の3(1)イ)が記載されているが,引用発
明2の略L字状に配置された二つの剪断パネル型ダンパー90の各パネル部は,端
部で連結されていないことが認められる。
引用発明1−2においては,各側面のパネルはすべて端部で隣接するパネルと連
結されているが,引用発明1−2のこの構成に代えて,引用発明1−2に,二つの剪断パネル型ダンパー90のパネル部を,端部を連結することなく,略L字状に配\n置するという引用発明2の上記構成を適用して,ダンパの断面形状をL字状とするなど2枚のパネルを端部で連結する構\成とすることの動機付けは認められない。
(イ) 前記2(3),(4)で認定した引用文献3,4の記載によると,塑性変形す
る部材を用いて震動を吸収するダンパー部材において,塑性変形する部材の降伏強
度を調整するなどの目的で,穴又はスリットを設けることは,周知技術であること
が認められるが,引用発明1−2にこの周知技術を適用したとしても,ダンパを囲
繞する空間と一連とはなるが,ダンパの断面形状をL字状とするなど2枚のパネル
を端部で連結する構成となるものではない。
(ウ) その他,相違点4’に係る本件補正発明の構成を引用発明1−2に基づいて容易に想到することができたというべき事情は認められない。\n
(エ) 以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,引用発明
1−2に基づいて本件補正発明を容易に発明することができたとは認められない。
(オ) なお,本件審決は,引用文献1には,断面が十字状や中空の矩形の形状の引用発明1のほか,断面が円状のダンパも記載されていることから,引用文献1\nにおける極低降伏点鋼パネルの数や配置及び交点の接合形態については,異なる方
向成分の震動を分担して塑性変形により吸収する機能が維持される範囲で,自由度がある,引用文献1は,断面が略L字状となるダンパを排除していないと判断する。\nしかし,本件補正発明を引用発明1−2に基づいて容易に発明することができた
ということができないことは,既に判示したとおりであって,引用文献1において,
極低降伏点鋼パネルの数や配置及び交点の接合形態については自由度があり,また,
断面が略L字状となるダンパを排除していないとしても,そのことから直ちに本件
補正発明を発明する動機付けがあるということができないことは明らかである。
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2020.10.12
令和1(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年10月7日 知的財産高等裁判所
コンピュータシステム(医薬品相互作用チェックシステム)について、進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(3) 原告の主張に対する判断
ア 原告は,「医薬品」の語は,販売名(商品名),一般名あるいは,薬効,
有効成分及び投与経路を特定できるコードを意味するとの本件審決の認定は,リパ
ーゼ事件判決に反していると主張する(前記第3の1(2)ア)。
特許請求の範囲から発明を認定するに当たり,特許請求の範囲に記載された発明
特定事項の意味内容や技術的意義を明らかにする必要がある場合に,技術常識を斟
酌することは妨げられないというべきであり,リパーゼ事件判決もこのことを禁じ
るものであるとは解されない。
そして,本件発明1における「相互マスタ」に登録される「一の医薬品」と「他
の一の医薬品」が,いずれも,販売名(商品名)又は一般名,薬価基準収載用薬品
コードであれば薬効,投与経路・有効成分(7桁のコード)以下の下位の番号によ
って特定されるものなど,具体的に当該医薬品の薬効,投与経路及び有効成分が特
定できるレベルのものを意味すると認められることは,前記(2)ウ(ア)のとおりであ
り,特許請求の範囲の記載や技術常識からこのように判断できるものであることは,
前記(2)ウ(ア)で判断したとおりである。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
イ 原告は,本件審決の要旨認定は,「医薬品」の概念と,「医薬品」を表現\nするデータ(本件明細書の【0040】)を区別する本件明細書の記載と矛盾すると
主張する(前記第3の1(2)イ(ア))。
しかし,「相互マスタ」に登録される「一の医薬品」と「他の一の医薬品」につい
て,具体的に当該医薬品の薬効,投与経路及び有効成分が特定できるレベルのもの
を意味すると判断することは,データの格納の構成について判断しているものであ\nり,本件明細書の【0040】の記載にも沿うものであるから,本件明細書の記載
と矛盾するものではない。
原告は,本件審決の「医薬品」の認定は,「相互作用が発生する医薬品の組み合わ
せ」の概念と,その表現方法,すなわち医薬品の組み合わせを表\現するためのデー
タの概念・種類(薬効コード)を区別している本件特許の請求項2の記載に反する
ものであるとも主張する(前記第3の1(2)イ(ウ))が,同様に,「相互マスタ」に登
録される「一の医薬品」と「他の一の医薬品」について,具体的に当該医薬品の薬
効及び有効成分が特定できるレベルのものを意味すると判断することは,データの
格納の構成について判断しているものであり,本件特許の請求項2の記載にも沿う\nものであるから,本件特許の請求項2の記載と矛盾するものではない。
ウ 原告は,本件審決は,特許請求の範囲に記載のない構成要素を付加して\n「医薬品」の文言を殊更狭く要旨認定をしており,サポート要件違反,実施可能要\n件違反,明確性要件違反の無効理由が存在することを示すものである旨の主張をす
る(前記第3の1(2)イ(オ))が,本件発明1における「相互マスタ」に登録される「一
の医薬品」と「他の一の医薬品」が,いずれも,販売名(商品名)又は一般名,薬
価基準収載用薬品コードであれば薬効,投与経路・有効成分(7桁のコード)以下
の下位の番号によって特定されるものなど,具体的に当該医薬品の薬効,投与経路
及び有効成分が特定できるレベルのものを意味すると認められることは,前記(2)
ウ(ア)のとおりであり,そのように解することから,本件発明1にサポート要件違反,
実施可能要件違反,明確性要件違反があるとは認められないから,原告の上記主張\nを採用することはできない。
エ 原告は,本件審決の理論で相互作用マスタに格納されるデータの概念の
レベルについて解釈を行うと,結局どの概念のレベルまで特定すれば本件発明1の
範囲に含まれ,どの概念のレベルでは当該範囲に含まれないのか判然とせず,発明
の外縁が不明確となると主張する(前記第3の1(3)エ(ウ))。
しかし,既に判示したとおり,本件発明1において,「相互マスタ」に登録される
「一の医薬品」と「他の一の医薬品」について,具体的に当該医薬品の薬効,投与
経路及び有効成分が特定できるレベルのものを意味すると認められるのであり,そ
のように解することが,本件発明1の外縁を不明確にするということはできない。
また,原告は,本件明細書の【0040】が「薬効コード」は「何でもよい」と
していることを指摘するが,この段落の記載は,本件特許の特許請求の範囲の記載
を超えたものを意味していると認めることはできないから,「何でもよい」というの
も,具体的に当該医薬品の薬効,投与経路及び有効成分が特定できるレベルであれ
ば「何でもよい」と述べているにすぎないと認められる。
オ その他の原告の主張を採用することができないことは,既に判示したと
ころから明らかである。
(4) 以上によると,本件審決の一致点及び相違点の認定に誤りはなく,それに
基づく相違点1,2についての容易想到性の判断(前記第2の4(1)ウ)も誤りはな
いから,取消事由1は理由がない。
3 取消理由2(本件発明9の容易想到性の判断の誤り)について
(1) 原告は,本件審決は,本件発明1の要旨認定を誤った結果,請求項1の従
属項である請求項9に係る本件発明9の要旨認定をも誤り,引用例との一致点,相
違点の認定を誤ったと主張する。
しかし,前記2で判示したところによると,本件発明9と甲1発明には,少なく
とも前記第2の4(1)イの相違点1〜4が認められることになる。そして,相違点1
及び2についての容易想到性の判断(前記第2の4(1)ウ)にも誤りがないから,そ
の余の点を判断するまでもなく,本件発明9は,当業者が容易に発明をすることが
できたものとは認められない。
したがって,取消事由2は理由がない。
(2) なお,原告は,本件発明9は,個別マスタを共通マスタと別に設け,個別
マスタを優先して処理する点において,甲1発明と相違するが,本件審決は,この
点の容易想到性の判断を誤ったものであると主張する。
原告の上記主張は,令和元年12月10日付けの原告準備書面(1)において主張さ
れたものではなく,この準備書面に対し,被告らから令和2年2月10日付け被告
ら第1準備書面で反論がされた後の同年3月27日付け原告準備書面(2)において
初めて主張されたものであるから,時機に後れた攻撃防御方法の提出であるが,取
消事由2については,前記(1)のとおり,原告の上記主張について判断するまでもな
く判断することができるので,上記主張は,訴訟の完結を遅延させるものではない。
したがって,上記主張を却下することはしないこととする。
◆判決本文
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2020.09.17
令和1(行ケ)10150 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年9月15日 知的財産高等裁判所
新規性・進歩性違反については、一致点と相違点の認定を誤っているとして取り消しました。その他の記載要件(実施可能要件・サポート要件)については無効理由無しについても判断しています。\n
イ 本件審決は,引用発明1を前記第2の3(2)アのとおり,低純度酸素の生成に
関し,「高純度酸素が側塔から抜き取られる位置よりも15〜25平衡段高い位置で
側塔から液体として抜き出され,液体ポンプを通過することにより高い圧力に圧送
され,主熱交換器を通過することによって気化され」るものと認定した。
原告は,上記認定を争い,引用発明1は,低純度酸素を専ら液体として抜き出す
ものではないと主張し,その根拠として記載Aを指摘する。
ウ 記載Aは,「Either or both of the lower purity oxygen and the higher
purity oxygen may be withdrawn from side column 11 as liquid or vapor for
recovery.」というものである(甲1の1。5欄8行〜10行)。引用例1の他の箇所
(例えば,5欄11行〜22行,23行〜32行,33行〜39行)において,
“recover”の用語が最終的な製品を得ることという意味で用いられていることから
すると,記載A文末の“recovery”も最終製品の回収のことを意味し,他方で文中の
“withdrawn”は,中間的な生成物の抜き出しのことを意味するものと解される(4
欄40行の“withdrawn”,5欄43行の“withdrawal”も同様である。)。そうすると,記載Aは,前記ア gのとおり,低純度酸素及び高純度酸素のいずれか又は両方は,
回収のために,液体又は気化ガスとして側塔11から抜き出されてもよいと訳すの
が相当である。
そうだとすると,記載Aからは,引用発明1が低純度酸素を専ら液体として抜き
出すもので,気体としての抜き出しは排除されている,と理解するのは困難である。
しかも,引用例1の全体をみると,引用発明1が解決しようとする課題は,低純
度酸素及び高純度酸素の両方を高回収率で効果的に精製することができる極低温精
留システムを提供することであり ,課題を解決する手段は,空気成分の
沸点の差,すなわち低沸点の成分は気化ガス相に濃縮する傾向があり,高沸点の成
分は液相に濃縮する傾向があることを利用したものである(同 と認められ,図
1に示されたのは,あくまで,好ましい実施形態にすぎない 。図1の説明
においては,低純度酸素を液体として抜き出し,それにより大量の高純度酸素を得
られるとしても,それは,最も好ましい実施形態を示したものであって,引用例1
に側塔11から低純度酸素を気体として抜き出すことが記載されていないとはいえ
ない。
エ また,証拠(甲2,3の1,4,7の1,8)によれば,本件発明1の出願当
時,空気分離装置又は方法において,高純度酸素と区別して低純度酸素を回収する
ことができ,その際に,精留塔から,低純度酸素を気体として抜き出す方法も液体
として抜き出す方法もあることは,技術常識であったと認められる。上記認定の技
術常識に照らしても,引用例1には,低純度酸素を液体として抜き出すことのみな
らず,気体として抜き出すことが記載されているに等しいというべきである。
オ そうすると,本件審決が,引用発明1を,低純度酸素を専ら液体として抜き
出すものと認定し,これを一致点とせずに相違点1と認定したことは,誤りといわ
ざるを得ない。
本件審決は,その余の相違点及び本件発明2〜4と引用発明1との相違点につい
て判断せず,原告被告ともにこれを主張立証していないから,これらの点に係る新
規性及び進歩性については,再度の審判により審理判断が尽くされるべきである。
・・・
事案に鑑み,取消事由3についても判断する。
(1) 実施可能要件適合性\n
ア 本件各発明に係る「空気分離方法」のための「空気分離装置」は,2種以上の
純度の酸素を取り出すものであり,そのうち1種を低純度のガス酸素で取り出すこ
とによって,低圧精留塔内の主凝縮器に必要な酸素の純度を低減でき,その結果,
空気圧縮機の吐出圧の低減を図り,該圧縮機の消費動力を低減し,「空気分離装置」
の稼動コストを従来よりも小さくすることができるものである。
イ 本件各発明において用いられる装置は,「空気圧縮機」,「吸着器」,「主熱
交換器」,「高圧精留塔」,「低圧精留塔」,「低圧精留塔」内に設けられた「主凝
縮器」,「昇圧圧縮機」,「液酸ポンプ」,「空気凝縮器容器」及び「空気凝縮器容
器」内に設けられた「空気凝縮器」を主として備える「空気分離装置」であり,それ
ぞれの意味するところは,図面をもって具体的に示されている(【0023】,図
1)。
工程についても,1)「低圧精留塔」内で精留分離された液体酸素が,「空気凝縮器
容器」内に供給され,「空気凝縮器容器」内で気化したガス酸素(低純度酸素)が,
供給ライン(ガス酸素供給ライン)により「主熱交換器」に送られて常温に戻された
後,必要に応じて空気が混合されて酸素富化燃焼用酸素として外部(酸素富化炉)
に供給されること(【0027】〜【0029】),2)「空気凝縮器容器」内の液体
酸素は,供給ラインにより「液酸ポンプ」に送られて必要圧に昇圧された後,「主熱
交換器」で蒸発及び昇温されることによりガス酸素(高純度酸素)となり,酸化用酸
素として外部(酸化炉)に供給されること(【0030】),3)「空気凝縮器容器」
内の液体酸素(高純度酸素)の抜き出し量は,例えば10%〜80%の間とするこ
と(【0059】,【表3〜5】),以上のことが,具体的に示されている。\nそして,以上のような「空気分離装置」によれば,必要とされる高純度酸素が全体
の酸素の一部である場合に,必要とされる高純度酸素の純度を確保しつつ,「低圧
精留塔」の「主凝縮器」から取り出す液体酸素の純度を低減し,低減分の酸素の沸点
を下げることが可能となり,また,「低圧精留塔」内で液体酸素とガス窒素との間で\n行われる熱交換の温度差を大きくすることにより,「高圧精留塔」内の必要圧力を
下げることができ,これにより,「空気圧縮機」の吐圧力を低減し,ひいては該圧縮
機の消費動力の低減が可能となるので,「空気分離装置」の稼動コストを従来より\nも抑えることができるとして,効果及びその機序の説明もされている(【0018】,
【0035】,【0036】)。
ウ 本件明細書の発明の詳細な説明には,前記ア,イのことがその具体的な実施
の形態も含めて記載されており,当業者は,これをみれば,過度の試行錯誤を要す
ることなく,本件各発明を実施することができる。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合する。\n
◆判決本文
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2020.09.17
令和1(行ケ)10070 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年9月10日 知的財産高等裁判所
進歩性違反の無効理由無しとした審決が維持されました。裁判所は「性質の異なる泥土を,発明の対象とすることの動機付けはないというべきである」と述べました。
エ 進歩性の判断について
原告は,原告甲1発明は,シールド工法により発生する泥土の処理方法
に関する発明であるから,仮に,その泥土に気泡シールド工法により発生
する泥土が含まれないとしても,気泡シールド工法がシールド工法の典型
例であることなどを考慮すれば,気泡シールド工法によって発生した泥土
を原告甲1発明の対象とすることは容易に想到することができると主張す
る。
しかしながら,原告甲1発明に開示された発明は,「推進工事,シール
ド工事,基礎工事,浚渫工事のような建設工事等で発生する泥土」であっ
て,高い含水比により流動性が高い反面,気泡の存在は想定されていない
ものを対象とし,これに凝集剤を適切に供給することよって「凝集された
無数の土粒子間に自由水を満遍なく抱合して,粒状化した状態に処理」
【0049】するという発明である。これに対し,気泡シールド工法によ
って発生する泥土は,含水比が低く,気泡を有している点において,原告
甲1発明が想定する泥土とは性質が異なるのであるから,当業者には,こ
のように性質の異なる泥土を,原告甲1発明の対象とすることの動機付け
はないというべきである。このことは,気泡シールド工法がシールド工法
の典型例であるとしても,それによって左右されるものではない(問題は,
泥土の性質であるからである。)。
原告は,気泡シールド工法とその他の泥土圧シールド工法とは技術分野
に親近性があり適宜の互換性があること,両工法には発生する泥土の流動
性という課題の共通性があることなども指摘している。しかし,前者に関
していえば,問題は,泥土の性質であって,工法の種類ではないことは既
に指摘したとおりである。また,後者についていえば,気泡を有する泥土
の場合には,流動性をなくすために気泡を消滅させなければならないとい
う固有の課題が存在するのであるから,流動性という表面的な現象面にお\nいて共通性があるからといって,直ちに,気泡を有する泥土を原告甲1発
明の対象とすることが容易であるということはできない。
よって,原告甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の構成とす\nることは,当業者が容易に想到できたものとはいえない。したがって,本
件発明1が進歩性を欠くとはいえず,審決の同旨の判断には結論において
誤りはない。
◆判決本文
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2020.09.17
令和1(行ケ)10091 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年9月10日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が維持されました。争点の1つが引用文献の認定です。裁判所は、引用文献から発明を抽出する点について、「発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認定すれば足りる」と判断しました。
ア 原告は,審決が事項1)(ボルトの本数)及び事項2)(三角部材)を構成\nに含めずに引用発明を認定したことは誤りである旨主張するので,検討す
る。
(ア) 引用発明の認定に際しては,ひとまとまりの技術的思想を構成する要\n素のうち,本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない
限度で認定すれば足り,特段の事情がない限り,本件補正発明の発明特
定事項との対応関係を離れて,引用発明を必要以上に限定して認定する
必要はないと解される。
審決の認定した引用発明は,「操作コントロールとバランス感覚を養
う上で支援となる自転車を提供すること」及び「走行練習の期間を短縮
させる自転車を提供すること」という考案の課題(引用文献1の【00
03】)に照らし,「接続部品を車体上の接続部の収納空間内から取り
外し,前記ペダルユニットを車体上から分離させる」こと(同【000
7】)及び「ペダルユニットが枢設されている接続部品を車体上の接続
部の収納空間内に固設する」こと(同【0008】)に対応する構成を\n含めて「走行練習用の自転車」の構成要素を特定したものであるから,\n課題を解決するために必須の構成を,ひとまとまりの技術的思想として\n把握できるように特定したものということができる。
(イ) 事項1)(ボルトの本数)を捨象したことについて
a ボルトの本数について,引用文献1の実施例を示した【図1】【図
2】【0006】では2本とされているものの,【実用新案登録請求
の範囲】においてボルトの本数は特定されていない上に,【考案の詳
細な説明】においても,実施例においてボルトを2本としたことの理
由やその作用効果,自転車の機能との関係等についての記載や示唆は\nみられない。そうすると,引用発明において,ボルトの本数(それが
2本であること)は,発明の本質的要素には当たらないというべきで
あるから,事項1)を欠くことによって,引用文献1に開示された考案
の技術的思想を把握できなくなるものではない。
したがって,引用文献1において,ボルトの本数には特段の技術的
意義はないと解するのが当業者の通常の理解であると考えられるから,
「ひとまとまりの技術的事項」としての引用発明を認定するに当たっ
て,ボルトの本数に関する事項1)を捨象することは妨げられないとい
える。
b なお,本件補正発明は,ボルトの本数を,発明特定事項として何ら
限定するものでないから,引用発明の認定に当たって事項1)を捨象し
ても,本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限
度で認定しているといえ,この点からしても,原告の主張は失当であ
る。
また,原告の主張中には,本件補正発明の意義の中には,組立てを
容易にすることが含まれているとする部分があり,この主張は,本件
補正発明は,組立てを容易にするという観点から,ボルトの本数(1
本)を本質的な要素とするという趣旨であると考えられないでもない。
しかしながら,本件補正発明の請求項の範囲には,ボルトの本数は含
まれていないし,本件明細書を検討しても,ボルトの本数が1本であ
ることが,本件補正発明の本質的要素であることが記載されていると
理解することはできないから,上記のような理解は成り立たない。
(ウ) 事項2)(三角部材)を捨象したことについて
a 引用文献1の【図1】〜【図3】には三角部材らしき図示がなされ
ているものの,考案の詳細な説明では言及がないし,同種の形状を有
する自転車車体において三角部材が必須の部材であるとの技術常識が
あるとも認めがたい。そうすると,引用文献1に接した当業者が三角
部材に特段の技術的意義があると理解することは想定し難いから,ひ
とまとまりの技術的事項としての引用発明を認定するに当たって事項
2)を捨象することは妨げられない。
b 他方,本件補正発明は,三角部材に相当する部材を備えることを発
明の構成要素とするものではなく(本件明細書において発明の一実施\n形態として【0018】で言及され,本願図1ないし3に図示されて
いるにとどまる。),それを除外することを構成要素とするものでも\nない。したがって,引用発明の認定に当たって事項2)を捨象しても,
本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認
定しているといえ,この点からしても原告の主張は失当である。
(エ) 以上によれば,事項1)及び2)を捨象した審決の引用発明の認定は,引
用文献1に開示された考案の有するひとまとまりの技術的思想につき,
本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認定
したものということができる。かかる認定が,引用文献1に記載された
技術内容から必須の一部構成を捨象したとも,不当に抽象化・一般化・\n上位概念化したともいえない。
したがって,引用発明の認定に誤りがあるとの原告の主張は採用する
ことができない。
◆判決本文
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2020.09. 1
令和1(行ケ)10155 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年8月26日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が維持されました。ただ、知財高裁は、引用文献に記載の発明について誤りがあるが、結論は妥当としました。
「袋」の辞書的な意味は,「中に物を入れて,口をとじるようにした入れ物。」
とされている(広辞苑第七版)。そして,本件発明においても「袋」の語がそのよ
うなものとして扱われている(本件明細書の段落【0052】,【0055】,【0
058】,【0059】参照)と認められ,「袋」について上記辞書的意味を超え
て,それを限定する記載はない。
他方,甲1の段落【0053】の「・・・複数の区画室28には,少なくとも2
種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,
別々に収容されている・・・」,「・・・壁材39の内壁面同士を剥離可能に熱溶\n着した弱シールからなる隔離部43により下端部が収容室24と隔離され・・・」
との記載,段落【0054】の「・・・収容容器30の隔離部43は,区画室28
の壁材39を押圧することにより,剥離して開放できる・・・」との記載及び【図
6】からすると,甲1発明の区画室28は,内部にビタミン等を収容することが予\n定されたものであり,隔離部43が閉じたり,開いたりして「口」としての役割を
果たすものであると認められるし,【図6】に表れた区画室28の形状からしても\n区画室28は「袋」と呼んで差し支えないものである。
そうすると,甲1発明の区画室28の形態は,本件発明1にいう「袋」に相当す
るものであり,この点を否定した審決の認定は相当ではない。
・・・
本件発明1では,輸液製剤は,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されてお
り,上記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して,甲1輸液製剤発明では,
そのような特定のない点。
イ 前記(1)イ(エ)bのとおり,当業者は,甲1から,収容室23にシステイ
ン,またはその塩,エステルもしくはN−アシル体を収容し,区画室28に微量金
属元素を収容するという構成を認識することができないところ,本件発明1の「ア\nセチルシステイン」は,システインのN−アシル体であるから,相違点1−1及び
相違点1−2は,実質的な相違点ということができる。
(3) 小括
以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1が甲1輸
液製剤発明と同一ではないとした審決は結論において相当であり,原告が主張する
取消事由1は理由がない。
◆判決本文
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2020.09. 1
令和1(行ケ)10174 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年8月26日 知的財産高等裁判所
電子たばこの特許について、新規性・進歩性、サポート要件・実施可能要件、明確性要件について無効理由があるのかが争われました。審決は理由無しと判断しました。知財高裁(2部)もかかる判断を維持しました。
(イ) 前記ア(イ)〜(エ)の本件明細書の記載からすると,特許請求の範囲の請求
項1及び15にある第1,第2及び第3段階と第1,第2及び第3の温度の技術的
意義は,次のとおりであると認められる。
1) 第1段階として,加熱要素の温度をエアロゾル形成基材からエアロゾルが発
生する温度であるが許容温度(「エアロゾル形成基材から所望の物質の揮発が開始さ
れる温度」から「エアロゾル形成基材から望ましくない物質の揮発が開始される温
度」未満又は「エアロゾル形成基材が燃焼する温度」未満)の範囲内の第1の温度
まで上昇させ,装置及び基材が温まり,凝縮が抑えられてエアロゾルの送達が増加
することに伴い,2)第2段階として,エアロゾルの送達を抑えるため,第1の温度
より低いが,エアロゾル形成基材のエアロゾル揮発温度よりは低くならない,エア
ロゾルの送達を軽減する温度である第2の温度へと加熱要素の温度を低下させ,そ
の後,エアロゾル形成基材の枯渇及び熱拡散の低下に起因するエアロゾル送達の減
少が生じるため,それを補償するため,3)第3段階として,加熱要素の温度を第2
の温度より高いが許容温度内にある第3の温度に上昇させる。4)これらの構成を採\n用することにより,「ユーザによる複数回の吸煙を含む期間にわたって特性がより一
貫したエアロゾルを提供するエアロゾル発生装置及びシステムを提供すること」と
いう本件発明の課題が解決される。
(ウ) 以上の本件発明の課題やその解決手段の技術的意義に照らして,本件特
許の特許請求の範囲の請求項1及び15を見ると,原告が主張する特性がより一貫
したエアロゾルを提供できない態様の時間や温度のもの(前記第3の1(原告の主
張)(1)で原告が例として挙げているようなもの)までが本件特許の特許請求の範囲
に含まれるとは解されない。
(エ) そうすると,本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び15は,発明の
詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明
の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。
(2) 原告は,1)本件特許の特許請求の範囲には,第1,第2及び第3の温度の技
術的意義や持続時間又は切替タイミングについて何も規定されていないから,特許
請求の範囲を本件明細書の記載に基づいて限定解釈することは許されない,2)「第
3の温度」に関して,加熱要素の温度を上げることで,エアロゾル送達の減少を抑
制できるという技術常識が存在せず,当業者はそのことを理解できないし,「第2段
階」についても,エアロゾルの送達を抑制するために加熱要素の温度を下げるとい
うことは当業者には理解できないと主張する。
ア 上記1)について
(ア) 前記のとおり,サポート要件の判断は,特許請求の範囲の記載と発明
の詳細な説明の記載とを対比して行うものであるが,対比の前提として特許請求の
範囲から発明を認定するに当たり,特許請求の範囲に記載された発明特定事項の意
味内容や技術的意義を明らかにする必要がある場合に,必要に応じて明細書や図面
の記載を斟酌することは妨げられないというべきであり,当事者が引用するリパー
ゼ判決は,そのことを禁じるものと解することはできない。
そして,本件においては,本件明細書の記載に照らすと,特許請求の範囲の請求
項1及び15について,前記(1)で認定したとおりのものであると理解できるのであ
り,それを基に特許請求の範囲と発明の詳細な説明を対比すると,特許請求の範囲
に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の
記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると
いえる。
(イ) 原告は,この点について,サポート要件の判断に当たって,発明の詳
細な説明に基づく特許請求の範囲の限定解釈が許されるとすると,特許請求の範囲
が文言上どれだけ広くてもサポート要件違反になることがなくなり,その趣旨が没
却されるし,侵害の場面で広範な特許請求の範囲に基づき充足を主張でき,二重の
利得を得ることになるから不当であると主張する。
しかし,サポート要件の判断に当たって,発明の詳細な説明を参酌するからとい
って,特許請求の範囲に発明の詳細な説明を参酌して認められる発明の内容が,発
明の詳細な説明によってサポートされていないときは,サポート要件違反になるこ
と(例えば,特許請求の範囲の文言に発明の詳細な説明を参酌して認められる発明
の内容が,AとBの両方を含むものであるが,実施例等としては,Bしかないとき
にAはサポートされていないと判断する場合があることなど)はあり得るのであっ
て,常にサポート要件違反を免れるということにはならない。
また,特許発明の技術的範囲を定めるに当たり,明細書及び図面を考慮するとさ
れていること(特許法70条2項)からすると,原告のいう二重の利得が発生する
とはいえない。したがって,原告の上記主張は,前記(1)の判断を左右するものではない。
イ 上記2)について
「第3の温度」について,本件明細書では,段落【0056】において,【図4】
を示しつつ,成分の送達は,ピークを迎えた後に,「基材の枯渇」及び「熱拡散効果
が弱まること」によって,時間と共に低下すると説明しているところ,同説明は一
般的な科学法則に合致した合理的なものであり,当業者は,ここから吸い終わりに
近い頃に,より高い熱量を加えて,熱拡散効果を高めてエアロゾル形成基材全体の
温度を上げ,エアロゾルの発生量を増やすことで,エアロゾル送達の減少を抑制で
きると理解することができると認められる。
また,「第2段階」について,本件明細書では,段落【0019】において,装置
及びエアロゾル形成基材が温まることによって凝縮が抑えられてエアロゾルの送達
が増加するため,第2段階で加熱要素の温度を第2の温度へと低下させると記載さ
れている。【図4】は,上記段落【0019】に記載されている一定時間経過後のエ
アロゾル送達の増加に沿うものとなっている。これらの本件明細書の記載も一般的
な科学法則に合致した合理的なものであり,これらの記載に接した当業者は,「第2
段階」において,加熱要素の温度を下げることにより,エアロゾル発生基材からの
エアロゾルの発生を抑えることで,エアロゾルの送達の増加を抑制することができ
ると理解することができると認められる。
そして,このような第3段階におけるエアロゾル送達の減少の抑制や第2段階に
おけるエアロゾル送達の増加の抑制が,「特性がより一貫したエアロゾルを提供する
エアロゾル発生装置及びシステムを提供する」という本件発明の課題を解決するも
のであることも,本件明細書の記載から明らかである。
なお,原告は,「第3段階」の開始タイミングと「第3の温度」についても主張す
るが,それらが本件発明の課題やその解決手段の技術的意義に照らして解釈される
べきことは,前記(1)のとおりである。
以上のとおり,当業者は,本件明細書の記載から「第3の温度」や「第2段階」
について理解することができると認められ,これらが理解できないとする原告の主
張は採用することができない。
(3) よって,原告が主張する取消事由1は理由がない。
3 取消事由3(実施可能要件違反についての判断の誤り)について\n
(1) 本件発明は物及び方法の発明であるところ,物の発明における発明の実施と
は,その物の生産,使用等をいい(特許法2条3項1号),方法の発明における発明
の実施とは,その方法の使用をする行為をいうから(同項2号),物及び方法の発明
について実施可能要件を充足するか否かについては,当業者が明細書の記載及び出\n願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を生産,
使用等することができるか,その方法の使用をすることができるか否かによるとい
うべきである。
前記2で認定,判断したとおり,特許請求の範囲の請求項1及び15についての
技術的な意義は明らかであり,また,本件明細書には,設定されるべき許容温度の
範囲の例や三つの具体例を含む発明を実施するための形態が記載されている。また,
従来技術について記載した本件明細書の段落【0002】,【0003】や後述する
甲1の段落【0045】,【0046】,【0048】〜【0050】,甲2の段落[0003],[0027],[0037],[0039]などからすると,加熱式エアロゾル発生装置において,各種のエアロゾル形成基材の種類,香味などを考慮して,加熱温度や時間を適宜設
定することは,本件出願日当時における周知技術であったと認められる。
以上によると,当業者は,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基
づいて,過度の試行錯誤を経ることなく,使用するエアロゾル形成基材に応じて,
「第1の温度」・「第1段階」,「第2の温度」・「第2段階」及び「第3の温度」・「第3段階」を設定し,本件発明を実施することができるものと認められるから,実施
可能要件は充足されていると認められる。\n
(2) 原告は,任意のエアロゾル形成基材に対して最適な温度プロファイルと時
間的プロファイルを実験的に求めるのは過度の試行錯誤に当たり,エアロゾル形成
基材の材料が明らかにならないと本件明細書に開示された三つの実施例すら実施で
きないと主張するが,上記(1)で判示したところに照らし,採用することはできない。
(3) よって,原告が主張する取消事由3は理由がない。
4 取消事由2(明確性要件違反についての判断の誤り)について
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみな
らず,明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を
基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明
確であるか否かという観点から判断されるべきである。
原告は,本件特許の請求項1及び15の「少なくとも1つの加熱要素」が複数の
加熱要素である場合,請求項1及び15に記載された各「前記加熱要素」が1)複数
の加熱要素のうち一つの加熱要素を意味するのか,2)複数の加熱要素のうちのいく
つかを意味するのか,3)全ての複数の加熱要素を意味するのかが不明であると主張
する。
しかし,前記2で認定,判断した特許請求の範囲の請求項1及び15の技術的意
義からすると,これらの発明においては,複数の加熱要素がある場合には,最終的
に複数の加熱要素が協働することにより,「第1の温度」・「第1段階」,「第2の温度」・
「第2段階」及び「第3の温度」・「第3段階」が実現できるように各加熱要素を適
宜制御するものであることは明らかである。
そうすると,請求項1及び15の「少なくとも 1 つの加熱要素」は,加熱要素が
一つある場合には,その加熱要素を,加熱要素が複数ある場合には,適宜制御され
る複数の加熱要素を意味するのであって,原告が主張する1)〜3)のいずれかが特定
されていなくても,請求項1及び15の記載は明確であるといえる。
この点について,原告は,請求項1に5回登場する「前記加熱要素」がどのよう
なものを指すか不明であると主張するが,これらの「前記加熱要素」も,上記のと
おり,加熱要素が複数ある場合は,適宜制御される複数の加熱要素を意味するので
あって,不明確であるということはできない。
よって,原告が主張する取消事由2は理由がない。
・・・
他方,甲2発明は,前記ア,イのとおり,加熱が開始された後,天火の温度が2
40゜C)に達すると,制御部の制御により,電気加熱片による加熱が停止され,天火
の温度が180゜C)を下回ると加熱が再開されることが繰り返され,吸い始めから吸
い終わりまでの間,天火の動作温度が180゜C)〜240゜C)に維持されるように制御
されるというものであり,本件明細書の段落【0056】や【図3】,【図4】にあ
るような,動作中に一定の温度をもたらすように構成され,エアロゾル成分の送達\nがピークを迎えた後,エアロゾル形成基材が枯渇して熱拡散効果が弱まるにつれ,
時間と共にエアロゾル成分の送達が低下する従来技術に相当するものといえる。甲
2には,ユーザによる複数回の喫煙を含む期間にわたって,エアロゾルの送達量を
一貫とするために,凝縮が抑えられてエアロゾルの送達量が増加することに応じて
第1の温度から第2の温度へと温度を低下させたり,逆にエアロゾル形成基材の枯
渇及び熱拡散の低下に応じて第2の温度から第3の温度へと温度を上昇させたりす
るという技術思想については,記載も示唆もされていない。
以上からすると,甲2発明と本件発明1及び15では,加熱要素の制御方法やそ
のための電気回路の構成が異なっているというべきであり,甲2発明と本件発明1\n及び15との間には,本件審決が認定した前記第2の3(5)エ(ア)a及び(ウ)a記載の
相違点1B及び相違点15Bが存在すると認められる。
◆判決本文
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2020.09. 1
令和1(行ケ)10139 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年8月27日 知的財産高等裁判所(3部)
無効審判に対して訂正請求がなされ、無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁もかかる判断を維持しました。理由は、動機付け無し、阻害要因ありです。
前記2(1)のとおり,甲1発明は,プリント配線板との位置合わせ用
のマークであるアライメントマーク(認識マーク)を備えた金属製の印
刷用マスクに関する発明である(甲1【0001】ないし【0003】)。
また,アライメントマークは,印刷用マスクをプリント配線板に対して
正しい位置に配置するためのものであり,カメラで読み取られるなどし
てその位置座標が正確に認識されることによって位置合わせ用のマーク
としての機能を果たすものといえる(甲1【0003】,【0004】)か\nら,形成されるアライメントマークには,その形状や記載内容に係る精
度よりも,マークの位置や輪郭の寸法に係る精度が強く求められるもの
ということができる。
他方で,上記(1)のとおり,甲3文献には,高速度鋼や超鋼合金製の工
具類に文字や数字等のパターンをマーキングする方法として,甲3記載
技術が従来の技術として挙げられるとともに,その課題を解決する手段
として湿式鍍金法を用いたマーキング方法が記載されている。そして,
甲3文献に記載されたこれらの技術は,高精度を要求されるドリル等の
工具類に識別情報としての文字や数字等を表示するためのものであるか\nら,マーキングされる文字や数字等には,その位置や大きさに係る精度
よりも,文字や数字等としての明瞭さや高い解像度が強く求められるも
のということができる。
これらの事情を考慮すると,甲1発明及び甲3記載技術は,各技術が
属する分野が異なるものである上,技術の適用対象や要求される機能も\n異なるというべきである。
これに加え,前記2(1)のとおり,甲1発明における被加工品は,金属
製の印刷用マスクであるところ,その材料としてはニッケル合金やニッ
ケル−コバルト合金等が好ましいとされている(甲1【0012】)のに
対し,上記(1)によれば,甲3文献における被加工品は,高速度鋼や超硬
合金性の工具類であるから,甲1発明及び甲3記載技術は,被加工品の
材料も異なる。
以上によれば,甲1発明及び甲3記載技術は,技術分野や技術の適用
対象,要求される機能,材料がいずれも異なるというべきである。\n
・・・
オ 原告は,欠点(1)ないし(4)につき,甲3記載技術を甲1発明に適用する
ことの阻害要因とはなり得ないなどと主張する。
しかしながら,上記(1)のとおりの甲3文献の記載内容によれば,欠点
(1)ないし(4)は,電解マーキング法一般を念頭に置いた欠点を列挙したも
のと読むことができるのであって,そうであれば,同文献に接した当業者
が,電解めっき法に劣るマーキング方法であると否定的に評価されている
甲3記載技術を,電解めっき法を採用するのが好ましいとされている甲1
発明に敢えて適用しようとすることは考え難いというべきである。また,
欠点(1)ないし(4)につき,本件出願時の時点において既に克服された欠点
であることが技術常識又は周知の事項であったと認めるに足りる証拠は
存しない。
したがって,欠点(1)ないし(4)は,甲3記載技術を甲1発明に適用する
ことについての阻害要因となり得るというべきである。
◆判決本文
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2020.08.24
令和1(ネ)10066 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年6月17日 知的財産高等裁判所(2部) 東京地方裁判所(40部)
コンピュータ関連発明の特許権侵害事件で、1審の被告敗訴部分が取り消されました。理由は乙14から新規性無しです。乙14は1審で時期に後れた攻撃防御として採用されなかった証拠です。個人的には、新規性無しというレベルの証拠があるにもかかわらず、時期に後れたとして、1審判決を出すのは引っかかります。
構成要件6)(「前記識別情報を前記ウェブサーバに向けて送出可能な状\n態から送出不可能な状態へと変化させるステップを,前記ウェブサーバに向けて前\n記識別情報が送出されてから一定期間が満了した場合に,又は前記ウェブサーバへ
アクセスされた回数が基準に達した場合に実行する機能とを」)について\n
(ア) 「一定期間」の始期について
a 乙14では,「ウェブページ・・・を顧客のブラウザに表示させる」\n(段落[0032]),「バートの広告は・・・顧客にのみ表示されることになる」(段落[0033],「広告描画エンジン74は,キャンペーン管理インターフェイス・・・を広告主に表\示する」(段落[0042]),「表示ページ中でバートの広告を順位付\nける」(段落[0045]),「クリックして表示する方法」,「広告は,広告主の完全な電話番号を表\示していないが,その代わりに・・・残りの部分を表示するための\nハイパーリンクを含む。」(段落[0059]),「新聞の告知欄は,消費者がかける電話番号を表示するテレビコマーシャルと同様に」(段落[0070]),「歯科医らは\n同業者よりも上に表示されることを望む場合に高い料金を支払うことができる。広\n告会社は,架電単価が最も高いものから最も低いものへと降順に歯科医を表示する。」\n(段落[0089]),「広告会社は,ウェブサイト上に3つの広告を表示するとき,\n広告に現れる固有の電話番号を動的に割り当てる。」(段落[0090]),「広告主
に対応する広告が少なくとも2つの位置の第1の位置に表示された場合に・・・」\n(請求項11)などにおいては,「表示(display)」は,「情報が画面に映される(it
shows it on its screen)」,「画面に単語や写真等を見せる(to show words,
pictures, etc. on a screen)」,「コンピュータの画面に情報を見せる(to show
information on a computer screen)」などの意味で用いられていることが認めら
れる。
しかし,乙14には,「広告会社は,ウェブサイト上に3つの広告を表示すると\nき,広告に現れる固有の電話番号を動的に割り当てる。」(段落[0090]),
「広告会社は一日中10人の歯科医を何百もの異なるサイトに絶えず表示してい\nる。」(段落[0092])などのように,「表示」について,ユーザ端末等の画面の\nみに情報を映すという意味に限定されず,システム(広告会社)が要求パートナー
のウェブサイトに対して電話番号を割り当てた広告等の情報を提示することをも含
むと理解することができる記載がある。
また,乙14の「一実施形態において,ある特定の広告主の広告がある時間にあ
る特定のウェブサイトにある特定の固有の電話番号と共に表示されたことをシステ\nムが記録する。ますます多くの広告が異なるウェブサイトに表示されるため,一実\n施形態において,システムは割り当てられた電話番号がそれぞれ最後に表示された\nのはいつかを記録する。」(段落[0095])との記載では,「システムが記録す
る」とされていて,システムが,ユーザ端末等の画面に電話番号が割り当てられた
広告が映されたことを把握し,それを記録に反映することについての記載が全くな
いことからすると,ここにいう「表示」は,ユーザ端末等の画面のみに情報を映す\nという意味に限定されず,システム(広告会社)が要求パートナーのウェブサイト
に対して電話番号を割り当てた広告等の情報を提示することを含む意味であると理
解することができる。
そして,構成要件(c)のとおり,乙14発明の要求パートナーの検索エンジン\nは,「検索要求に対する検索結果内に,システムから送信された『固有の電話番号が
挿入された広告』を表示する」ものであり,構\成要件(b),(c)のとおり,要求
パートナーの検索エンジンのウェブサイト等に情報を提示することは,システムが
「固有の電話番号が挿入された広告」を当該要求パートナーへ送信することにより
行われるのであるから,乙14発明において「表示」というときに,システムが,\n「固有の電話番号が挿入された広告」を,要求パートナーのウェブサイトに提示さ
せるために送出するという意味をも含むと理解することができる。また,構成要件\n(d)の「表示されたことを記録し」についても,システムが,「固有の電話番号が\n挿入された広告」を要求パートナーのウェブサイトに提示させるために送出したこ
とを含むと理解することができる。
したがって,乙14発明において,固有の電話番号が再利用のために「電話番号
のプール」に戻されるまでの期間の始期である「表示されてからある一定期間」に\nいう「表示されてから」は,「固有の電話番号が挿入された広告が要求パートナーの\n検索エンジンに送出」されたときを含むものと解することができる。
b これに対し,1審原告は,当業者は,「ウェブページが何時の時点で
ユーザ端末に表示されたか」を把握するためのウェブビーコン等の周知技術を参酌\nして乙14の記載を理解するため,ユーザ端末等に電話番号が表示された時期を容\n易に把握することができるから,乙14における「表示してから」は,文字どおり,\nユーザ端末等に電話番号が表示された時点と解すべきであると主張する。\nしかし,上記aのとおり,乙14には,システムが,ユーザ端末等の画面に電話
番号が割り当てられた広告が映されたことを把握することについて記載も示唆もな
く,また,乙14のシステムは,「固有の電話番号が挿入された広告」を提供した
ことを記録することにより,要求パートナーのウェブサイトに「電話番号が割り当
てられた広告」が提示されたことを把握できるから,乙14発明の出願時に,We
bページ(又は電子メール)上にグラフィックを設置し,利用者が当該Webペー
ジ(又は電子メール)を開いた際に,自社のサーバに対してGET要求をし,どの
IPアドレスのマシンが,いつ,どのWebページにアクセスしたのかについての
情報をトレースすることができるというウェブビーコンなどの技術が周知技術であ
ったとしても,乙14発明がこの技術を用いることを前提としたものであると理解
されるとは認められない。
また,乙14発明は,固有の電話番号を提供するには費用がかかるため,広告及
びウェブサイト毎に固有の電話番号を割り当ててペイ・パー・コールの実績型広告
を実施するための架電トラッキングを実施すると,非常に多くの固有の電話番号,
すなわち非常に多くの費用が必要になるとの課題(段落[0076])に対して,「当
該方法では,電話番号は,ジャスト・イン・タイム方式で広告に動的に割り当てら
れ,所定期間,電話番号が表示されない又は架電されないと,そのとき当該電話番\n号は,割り当て解除されて,再利用される。」(段落[0006])ことにより上記課
題を解決するものである。そうすると,このような乙14発明において,「所定期間」
の始期を,ユーザ端末等に電話番号が表示された時点に限定するような技術的な必\n要性は特に認められない。1審原告は,「一定期間」の始期を「送出されてから」と
する本件発明は,ユーザの動作部分を対象としておらず,サーバの側で完結するも
のであり,「一定期間の始期」がユーザ端末等に「表示されてから」とする乙14発\n明は技術思想が異なると主張するが,乙14発明の上記のような意義を考慮すると,
乙14発明において,システム設計の便宜(一定期間の計測の容易性)よりも,ユ
ーザ側の利益(表示期間の確保)を優先させる必要性は特に認められないから,1\n審原告が主張するような本件発明と乙14発明との技術思想の違いを認めることは
できない。
かえって,乙14発明において,「表示」をユーザ端末等に電話番号が表\示された
時点と解すると,通信エラー等で電話番号が送出されたがユーザ端末等に表示され\nなかった場合には,「一定期間」が進行しないことになり,乙14発明の上記の課題
が解決されないことになる。
したがって,1審原告の上記主張を採用することはできない。
c また,1審原告は,乙14の段落[0059]で引用されている米
国公開公報(甲33)によると,乙14発明の構成要件(c)における「表\示」は,
ユーザの「コンピュータの画面に情報を見せる(to show information on a computer
screen)」という意味を有するものとして使用されていると主張する。
しかし,乙14の段落[0059]には,広告が要求パートナーのウェブサイト
を介してユーザに提示されるに当たり,広告が,広告主の電話番号又は電話番号の
残りの部分を表示するためのハイパーリンクを含んでいる方法が記載されており,\nその中で,甲33に記載されている「クリックして表示する方法」が引用されてい\nるにすぎないから,仮に,甲33の「表示」が1審原告主張の「表\示」の意味のみ
を有するものとして用いられているとしても,甲33の記載をもって乙14の「表\n示」を1審原告主張のように認めるべき事情があるということはできない。
1審原告は,乙14発明の[0078]の「表示された」の解釈について,1審\n原告の主張に沿った内容を記載した意見書(甲32)を提出するが,上記説示に照
らし,この意見書の記載内容を採用することはできない。
d 以上によると,乙14発明においての「表示されてから」とは,要\n求パートナーの検索エンジンに向けて電話番号が「送出」されたときを含むと認め
るのが相当であるから,本件発明と乙14発明には「一定期間」の始期について相
違点がないことになる。
(イ) 「『送出可能な状態』である」ことについて\n
a 前記(2)によると,乙14発明では,エンドユーザから要求パートナ
ー(ある検索エンジンのウェブサイト)に対して検索要求がされると,「ジャスト・
イン・タイム方式」で,未割り当ての電話番号のプール内にある電話番号の中から
「固有の電話番号」となる電話番号が検索要求におけるキーワードと関連付けがさ
れた特定の広告主の広告に対して直前に動的に割り当てられて,その広告に自動的
に挿入されるものであり(段落[0006],[0033]〜[0035]),そのよ
うに「固有の電話番号」が挿入された広告は,検索結果のページ内に表示され,「固\n有の電話番号」は,「表示されてからある一定期間」が経過した場合には,「再利用」\nのために「電話番号のプール」に戻され(段落[0006],[0077]〜[00
81]),また,「問合せをもたらすが架電がない場合」には,この「固有の電話番号」が「表示されてからある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間,「動的に割\nり当てられた電話番号」は「その広告に関連付けられる」(段落[0082])ので
あるから,乙14発明の「固有の電話番号」は,広告情報と関連づけられて送出さ
れ,「表示されてからある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間は,広告情\n報と関連付けられていることが認められる。
b もっとも,乙14の段落[0078]には,固有の電話番号が表示\nされてから一定時間が経過した場合や固有の番号が架電されてから一定時間が経過
した場合,システムは自動的にその番号を再利用し,番号のプールに戻すことがで
きるなどの記載はあるが,乙14には,ある要求パートナー(検索エンジンのウェ
ブサイト)に固有の電話番号が表示された後,番号のプールに戻るまでの間に,当\n該電話番号が,同じ要求パートナー(検索エンジンのウェブサイト)で新たに検索
された際に同一の広告に表示されるのか否かについての明示の記載はない。\nしかし,乙14発明は,固有の電話番号を提供するには費用がかかるため,広告
及びウェブサイト毎に固有の電話番号を割り当ててペイ・パー・コールの実績型広
告を実施するための架電トラッキングを実施すると,非常に多くの固有の電話番号,
すなわち非常に多くの費用が必要になるとの課題(段落[0076])に対して,「当
該方法では,電話番号は,ジャスト・イン・タイム方式で広告に動的に割り当てら
れ,所定期間,電話番号が表示されない又は架電されないと,そのとき当該電話番\n号は,割り当て解除されて,再利用される。」(段落[0006])ことにより上記課
題を解決するものである。
そして,ペイ・パー・コールの実績型広告を実施するための架電トラッキングで
は,支払先を特定するために,架電があった電話番号が,どの検索エンジンのウェ
ブサイトで表示されたものなのかさえ特定できればよいのであるから,同じ検索エ\nンジンのウェブサイトの第2の顧客の検索に対して,第1の顧客の検索によって割
り当てた電話番号とは異なる電話番号を新たに割り当てて表示する必要はなく,同\nじ電話番号を再び割り当てて表示することにより,管理する電話番号の数を減らす\nことは,乙14発明が当然の前提としていると解される。そうでなければ,所定期
間「固有の電話番号」を広告情報と関連付けておく意義が乏しいことになる。1審
原告は,表示されてから一定期間,当該番号が送出不可能\である場合に,当該期間,
同じ要求パートナーや同じコンテキストで同じ番号が表示されないとしても,一定\n期間の長さなどを適宜調整するなどすれば,発明の課題は十分解決することができ\nると主張するが,1審原告が主張する方法をとるよりも,同じ要求パートナーの同
じコンテキストに同じ番号を表示する方が管理する電話番号の数を減らすことに資\nするのであるから,1審原告の主張を採用することはできない。
そうすると,乙14の段落[0078]の記載は,エンドユーザから要求パート
ナーの検索エンジンに対する検索要求に対して,広告に「ジャスト・イン・タイム
方式」でプール内にある電話番号を割り当てるに当たって,同じ要求パートナー又
は同じコンテキストにおいて,広告が表示されてから所定期間内の電話番号は,再\n度「固有の電話番号」として前記「広告」に割り当てられ,前記「所定期間内の電
話番号」が挿入された広告が要求パートナーの検索エンジンに送信されることを示
していると解される。
これに対し,1審原告は,乙14発明において,表示されてから一定期間,電話\n番号が送出不可能であったとしても,すでに送出された電話番号を「ウェブサーバ」\nに表示させ続けることにより,同じ要求パートナーや同じコンテキストについて同\nじ番号を表示することは可能\であるから,乙14発明において,所定の期間,電話
番号が送出可能である必要はない旨主張するが,乙14発明は,ジャスト・イン・\nタイム方式であり,検索された都度,電話番号が割り当てられるものであるから,
1審原告が主張するような構成を採るものであると解することはできない。\n
c 以上によると,乙14発明は,「固有の電話番号」が「表示されてか\nらある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間,識別情報(「固有の電話番号」
は広告情報(「その広告」)と関連づけられており,当該期間内の,エンドユーザか
ら要求パートナーの検索エンジンに対する検索要求に対して,同じ要求パートナー
又は同じコンテキストにおいて,広告に関連付けられた電話番号が挿入された広告
が要求パートナーの検索エンジンに送信され前記エンドユーザに対して表示される\nことになるから,本件発明における,「一定期間」が終了して「送出不可能な状態」\nとなるまで「送出可能な状態」である点は,乙14発明との一致点となる。1審原\n告は,乙14の段落[0078],[0086]及び[0098]の記載から,広告
に「ジャスト・イン・タイム方式」で割り当てられたプール内にある電話番号は,
表示されてから所定期間の間「送信可能\状態」が継続しているとの1審被告の主張
は,本件発明の「一定期間」(構成要件6))と乙14発明の「所定期間」を混同する
ものであると主張するが,乙14発明の「所定期間」については前記aのとおり認
められるのであり,1審原告の主張するところは前記aの判断を左右するものでは
ない。
(ウ) 前記ウによると,乙14発明は,構成要件3)を備えていることが認め
られる。そして,前記(ア),(イ)によると,乙14発明の「一定期間」の始期である
「『固有の電話番号』が『表示されてから』」とは,本件発明の「一定期間」の始期\nである「前記ウェブサーバに向けて前記識別情報が送出されてから」に相当し,乙
14発明には,「『一定期間』の間『送出可能な状態』であること」が記載されてい\nることが認められる。
したがって,乙14発明は,本件発明の構成要件6)を備えていると認められる。
◆判決本文
原審はこちら
◆平成28(ワ)16912
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2020.08.18
令和1(行ケ)10084 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年8月5日 知的財産高等裁判所
無効理由(進歩性)無しとした審決が維持されました。理由は引例には、動機付けがないというものです。
上記記載によれば,甲1発明のパック剤は,皮膚に塗布し,乾燥後に
皮膜となったものを剥離して使用するものであって,使用時に皮膚上で
皮膜を形成して作用するものと理解できるから,甲1には,甲1発明の
A剤に含まれる「ポリビニルアルコール」及び「カルボキシメチルセル
ロースナトリウム」は,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」である
ことの開示があるものと認められる。
他方で,甲1には,「本発明のパック剤には上記必須成分のほかに,
通常のパック剤に使用される・・・増粘剤・・・などを適宜配合することができ
る。」(前記2(1)カ)との記載はあるが,「アルギン酸ナトリウム」に
ついての記載はなく,「アルギン酸ナトリウム」が皮膚上の皮膜形成に
寄与する「増粘剤」であることを示唆する記載もない。
(イ) 原告は,甲87ないし89を根拠として挙げて,本件優先日当時,
アルギン酸ナトリウムが,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」とし
て周知であった旨主張する。
そこで検討するに,甲87(特開平成9−278926号公報)には,
「【発明の属する技術分野】本発明は,主として,青果物や加工食品等
を高品質な状態に保存するのに使用されるガス透過性フィルムに関す
る。」(【0001】),「【課題を解決するための手段】本発明のガ
ス透過性フィルムは,アルギン酸と水溶性化合物とを含む水溶液で皮膜
を形成し,この皮膜をカルシウ塩等の多価金属塩の水溶液に接触させて
アルギン酸を不溶化させアルギン酸凝固フィルムとし,不溶化したアル
ギン凝固フィルムを水洗して水溶性化合物を溶解し,溶解される水溶性
化合物でガス透気度を調整することを特徴とする。」(【0010】),
「皮膜を形成するアルギン酸を含む水溶液は,アルギン酸を酸やアルカ
リに溶解させた水溶液,水にアルギン酸ナトリウムやアルギン酸カリウ
ムやアルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩を溶解させた水溶液が使
用できる。」(【0011】),「本発明のガス透過性フィルムは,ア
ルギン酸と水溶性化合物を含む水溶液で皮膜を形成し,この皮膜をカル
シウム塩等の多価金属塩で凝固させて,不溶化されたアルギン酸凝固フ
ィルムを水洗してガス透気度を調整する。アルギン酸と水溶性化合物と
を含む水溶液は,たとえば,段ボール箱や食品等の被コーティング物の
表面に塗布して皮膜とし,あるいは,スリットから多価金属塩の水溶液中に押し出して皮膜とする。」(【0015】),「被コーティング物\nに塗布される皮膜は,アルギン酸ナトリウムの濃度で調整できる。アル
ギン酸を含む水溶液は,アルギン酸の濃度を高くすると粘土も高くなる。
粘土の高いアルギン酸水溶液を含む水溶液を使用すると,被コーティン
グ物の表面に付着される膜厚が厚くなる。たとえば,アルギン酸ナトリウムの水溶液は,濃度を高くすると粘度も高くなるので,被コーティン\nグ物を濃度の高いアルギン酸ナトリウムの水溶液に浸漬して,厚い皮膜
を形成し,あるいは,アルギン酸を含む水溶液を噴霧して,被コーティ
ング物の表面に厚い皮膜を形成する。」(【0016】),「[実施例1]下記の工程でガス透過性フィルムを製造する。」,「1) 1wt%
のアルギン酸と,1wt%のプルランを含む水溶液を,5×5cmの段
ボールライナーの片面にに塗布し,段ボールライナーの表面にアルギン酸とプルランを含む水溶液の皮膜,膜厚500μmを形成する。」(【0\n019】)との記載がある。上記記載から,アルギン酸を含む水溶液を
段ボール箱や食品等の被コーティング物の表面に塗布することにより皮膜が形成されることを理解できるが,他方で,甲87には,アルギン酸\n又はアルギン酸を含む水溶液が人体の皮膚上の皮膜形成に寄与すること
についての記載も示唆もない。
また,甲88及び89(「機能性包装資材の開発技術の形成−機能\性
段ボール箱の開発」徳島県立工業技術センター研究報告Vol.4)に
おいても,アルギン酸又はアルギン酸を含む水溶液が人体の皮膚上の皮
膜形成に寄与することについての記載も示唆もない。
そうすると,原告の上記主張は採用することができない。他に本件優
先日当時,アルギン酸ナトリウムが,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増
粘剤」として周知であったことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 以上によれば,甲1に接した当業者において,甲1発明のA剤に含
まれる,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」であるポリビニルアル
コール又はカルボキシメチルセルロースを,このような機能を有する「増粘剤」であるとはいえないアルギン酸ナトリウムに置換する動機付けが\nあるものと認めることはできないから,原告の前記主張は採用すること
ができない。
◆判決本文
関連事件です。
◆令和1(行ケ)10082
本件特許の侵害訴訟事件です。特別部の判断です。
◆平成30(ネ)10063
原審はこちら
◆平成27(ワ)4292
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2020.08.18
令和1(行ケ)10168 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年8月12日 知的財産高等裁判所
クレームに基づかない主張として、相違点の認定に誤りはなしとして、拒絶審決が維持されました。
本願の請求項1は,「前記切削切断部は,この根菜類の表面から切削対象\n部位を削り出す切削手段,及び根菜類の切削対象部位を二片,又は多片の形状に切
断するための切断手段の根菜類切削切断装置」としており,「切削手段」は,「根菜
類の表面から切削対象部位を削り出す」ものであり,「切断手段」は,「根菜類の切\n削対象部位を二片,又は多片の形状に切断するためのもの」である。このような請
求項1の文言によると,「切削対象部位」は,切削手段により根菜類の表面から削り\n出されるものであるとともに,切断手段により二片,又は多片の形状に切断される
ものであることは理解できるが,「切断手段」が,切削手段によって切り出された後
の切削対象部位を二片,又は多片の形状に切断することまでが記載されているとい
うことはできない。
また,上記請求項1の記載によると,本願発明の「切断手段」は,「根菜類の切削
対象部位を二片,又は多片の形状に切断するためのもの」であるから,先に根菜類
の表面から切削対象部位を削り出し,その後,その切削対象部位を切断するものは\nもとより,先に根菜類の切削対象部位に縦溝を入れ,その後,「切削手段」によって,
根菜類の表面から切削対象部位が削り出され,根菜類の切削対象部位が二片,又は\n多片の形状に切断される状態になるものについても,請求項1の文言上,「根菜類の
切削対象部位を二片,又は多片の形状に切断するためのもの」ということができる。
原告は,本願発明において,根菜類から「切削手段」によって削り出す前の「根
菜類の切削対象部位」に対しては,縦溝を入れることは可能であっても,物を断ち\n切ること,切り離すことを意味する「切断」を行うことはできないと主張するが,
原告の上記主張は,上記で判断したとおり採用することはできない。
イ また,本願明細書を見ると,段落【0048】には,実施例1として,
切削手段1Aで切削切断片KSを形成し,切削手段1Aで切削切断片KSを形成す
る直前に,その部分を切断手段1aで切削切断片KS1,KS2,KS3となるよ
うに切断するが,工程的には切削と切断が順次,又は略同時に行われることが示さ
れているものの,切断工程の切断手段1aが先で,切断線を備えた人参に,切削工
程の切削手段1Aが切断すると他の例もあり得ることも示されており,さらに,段
落【0052】は,実施例1の根菜類切削切断装置Nにおいて,切削片KS(切削
対象部位)が切断手段1aで完全でない切断がされた後に(「根菜類の表面から分離\nしていない状態で」を意味すると解される。)切削手段1Aで切削されて切削切断片
KS1,KS2,KS3となることが記載されているから,本願発明においては,
「切削対象部位」である切削片KSは,「切削手段」による切削の後に又は略同時に
「切断手段」により切断される態様のみならず,根菜類から切断手段により完全で
ない切断がされた後に切削手段により切り取られる態様のものも含まれているとい
える。
ウ そうすると,本願発明において,「切削手段」による切削と「切断部分」
による切断の前後関係は特定されておらず,前後関係がいずれであっても本願発明
に含まれるということができる。
なお,原告は,本願明細書の【図16】の(a),(b),(d)は,先に切削部分
から切削され,その後切断部分により切断される態様を示していることを指摘する
が,本願明細書の段落【0047】によると,【図16】の(a),(b),(d)は一実施例を示したものにすぎないと認められるから,上記判断を左右するものではな
い。
エ 以上によると,本願発明の「根菜類の切削対象部位」は,先に根菜類の
表面から切削手段によって削り出された後のものに限定されるものではなく,先に\n切断手段によって切断された後に,切削手段によって根菜類の表面から切削される\nものも含まれているといえるから,切断部分が切断するのは,根菜類の表面(外周)\nである場合も含まれることになる。
したがって,甲1発明の「ごぼう60の外周」は,本願発明の切断手段によって
切断される「根菜類の切削対象部位」に相当しないとの原告の主張を採用すること
はできない。
(3) 原告は,甲1発明の「2つ割り刃11」は,本願発明の「切削手段」によ
って根菜類の表面から削り出された「切削対象部位を二片,又は多片の形状に切断\nするための」「切断手段」に相当しない旨主張する。
まず,本願発明は,先に根菜類の表面から切削手段によって切削対象部位を削り\n出し,その後,その切削対象部位を切断手段によって二片又は多片に切断するもの
に限られることはなく,先に切削対象部位を切断手段によって完全でない切断がさ
れ,その後,根菜類の表面から切削手段によって切削対象部位を削り出すものも含\nまれることは,前記(2)のとおりである。
また,甲1発明において,「2つ割り刃11」は,ごぼう60の外周に縦溝を入れ,
その後,「ささがき刃10」がごぼうの外周の表面をささがきし,その結果,2つ割\nりになるささがきを生成するものであることは,前記2のとおりである。
そうすると,甲1発明の「2つ割り刃11」は,本願発明における「切断手段」
に相当すると認められるから,この点に相違点があるとは認められない。
◆判決本文
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2020.08.12
平成31(行ケ)10047 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年7月22日 知的財産高等裁判所
進歩性違反の無効理由なしとした審決が維持されました。相違点4の容易相当性(1)の判断に誤りはあるが,容易相当性(2)の判断について誤りはないから,進歩性違反なし、と判断されました。
相違点4の容易想到性の判断(1)の誤りの有無について
原告は,1)甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」は,
予め一体とされた後,一体となった状態のまま,ベース2に取り付けられ,\n「回路遮断器の取り付け構造」における「回路遮断器」として用いられるも\nのであり,本件訂正発明の「回路遮断器」とその機能及び用途において相違\nするものではないから,本件審決における相違点2の認定には誤りがある,
2)本件審決における相違点4の容易想到性の判断(1)は,本件訂正発明と甲1
発明との間に相違点2が存在することを前提とするから,その前提において
誤りがある旨主張する。
ア(ア) そこで検討するに,本件訂正発明の「取付用板側に設けられた母線
とねじ無しで接続を行うためのプラグイン端子を電源側に設けたプラグ
インタイプの回路遮断器」,「取付用板」と「回路遮断機の取付構造」\nとの文言からすると,本件訂正発明の「取付用板側に設けられた母線と
ねじ無しで接続を行うためのプラグイン端子を電源側に設けたプラグイ
ンタイプの回路遮断器」における「回路遮断器」は,取付用板に取り付
けられる取付機構を有するものと理解できる。\nそして,「回路遮断器」の構成の一部である取付機構\は,回路遮断機
能を有する機器そのものと予\め一体不可分に作製する場合のほかに,回
路遮断機能を有する機器と別部材の取り付け部材とを一体化して作製す\nる場合などが考えられる。
しかるところ,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項2)には,「回
路遮断器」の取り付け機構について,回路遮断機能\を有する機器そのも
のと予め一体不可分に作製されたものに限定する記載はない。また,本\n件明細書においても,そのような限定をする趣旨の記載はない。
そうすると,別部材の取付部材を有する回路遮断器は,本件訂正発明
の「回路遮断器」に含まれるものと解すべきである。
(イ) これに対し被告は,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項2)に
は,「回路遮断器を分電盤などの母線が設けられた取付板に取り付ける
ための前記回路遮断器と取付板の構造」,「前記回路遮断器の前記母線\nとは反対側の負荷側には…ロックレバーを設け」,「前記取付板と前記
回路遮断器とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部」との記載が
あること,本件訂正明細書には,本件発明の実施形態として,凹部やロ
ックレバーを含む1つの部材として回路遮断器が構成されている実施形\n態のみが記載されていることからすると,本件訂正発明は,回路遮断器
を取付板に直接取り付けることを前提にした発明であるといえる旨主張
する。
しかしながら,前記(ア)認定のとおり,本件発明1の「回路遮断器」
は,取付板に取り付けられる取付機構を有するものであるところ,本件\n訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)には,「回路遮断器」の取り
付け機構について,回路遮断機能\を有する機器そのものと予め一体不可\n分に作製されたものに限定する記載はなく,また,本件訂正明細書にお
いても,そのような限定をする趣旨の記載はないから,被告の上記主張
は採用することができない。
イ(ア) 次に,甲1には,取り付け部材5に関し,「各分岐開閉器4の下に
は夫々取り付け部材5を配置してあり,この取り付け部材5を介して分
岐開閉器4をベース2を取り付けるようになっている。取り付け部材5
は図6に示すように上片5aと両側の側片5bとで略コ字状に形成され
ている。取り付け部材5の長手方向の両端には上記引っ掛け凹所8に引
っ掛け係止する引っ掛け爪9を設けてある。両端の引っ掛け爪9のうち
導電バー3側の引っ掛け爪9は変位可能な形状にした係脱用引っ掛け爪\n9aとなっており,他方の引っ掛け爪9は略剛体になっている。取り付
け部材5の上には分岐開閉器4が配置され,両端の引っ掛け爪9を分岐
開閉器4の引っ掛け凹所8に引っ掛け係止することで取り付け部材5の
上に分岐開閉器4を取り付けてある。」(【0013】),「そして分
岐開閉器4を取り付け部材5に取り付けた状態で取り付け部材5と一緒
に分岐開閉器4が次のように装着される。取り付け部材5をベース2の
上に配置して係止爪23が長孔23に挿入され,分岐開閉器4と一緒に
取り付け部材5が導電バー3の方にスライドさせられる。分岐開閉器4
と取り付け部材5をスライドさせると,接続端子16が導電バー3に差
し込まれて電気的に接続される。…このとき板ばね25の先端部25a
が係止孔24に係止して取り付け部材5が動かないように止められる。
このように分岐開閉器4を取り付けたとき,係脱用引っ掛け爪9aが導
電バー3側に位置するため,導電バー3と接続端子16の係止にて係脱
用引っ掛け爪9aと引っ掛け凹所8との係止が外れにくくなり,分岐開
閉器4が外れにくいように取り付けることができる。また板ばね25の
先端部25aの係止を外して上記と逆にスライドさせることで分岐開閉
器4と一緒に取り付け部材5を取り外すことができる。」(【0014】)
との記載がある。この記載によれば,甲1発明の取り付け部材5と分岐
開閉器4は,別部材ではあるが,分岐開閉器4を取り付け部材5に取り
付けた状態で,ベース2の上に配置し,取り付け部材5と一緒に分岐開
閉器4を導電バー3の方向にスライドさせていくと前記導電バー3が接
続端子16に差し込まれていき,ベース2に分岐開閉器4を取り付けた
取り付け部材5が取り付けられること,板ばね25の先端部25aの係
止を外して上記と逆にスライドさせることで分岐開閉器4と一緒に取り
付け部材5を取り外すことができることからすると,「分岐開閉器4を
取り付けた取り付け部材5」は,予め一体とされた後一体となった状態\nのまま,ベース2に取り付けられ,また,一体となった状態のままベー
スから取り外されるのであるから,「分岐開閉器4を取り付けた取り付
け部材5」における取り付け部材5は,分岐開閉器4と一体化された分
岐開閉器4の取付機構としての機能\を有するものと認められる。
そうすると,甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」
は,本件訂正発明の「取付用板側に設けられた母線とねじ無しで接続を
行うためのプラグイン端子を電源側に設けたプラグインタイプの回路遮
断器」における「回路遮断器」に相当するものと認められる。
したがって,甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」
は,本件発明の「回路遮断器」に相当するものでないとした本件審決の
認定は誤りであるから,本件審決における相違点4の容易想到性の判断
(1)も誤りである。
(イ) これに対し被告は,1)甲1の記載によれば,甲1発明は,取り付け
部材を介在させて分岐開閉器をベースに取り付ける場合に生じる問題
(【0003】)を課題とし,取り付け部材を介在させて分岐開閉器を
ベースに取り付けることを前提にした発明である,2)甲1には分岐開閉
器が同じ構成で取り付け部材の高さが違う実施形態が記載されており,\n取り付け部材は,分岐開閉器をベースに取り付けるためのスペーサとし
て機能する別部材であるから,取り付け部材は,回路遮断器の一部を構\
成するものではない,3)甲1発明において,分岐開閉器は協約形ブレー
カであり,取り付け部材はそれに用いられる分岐取付台であるから,「分
岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」を本件発明の回路遮断器とみ
なすことはできないなどとして,甲1発明の「分岐開閉器4を取り付け
た取り付け部材5」は,本件発明の「回路遮断器」に相当するものとい
えない旨主張する。
しかしながら,前記(1)イ認定の甲1の開示事項によれば,甲1には,
「本発明」は,差し込み式の分岐開閉器の取り付けがしやすく,しかも
取り付けた後の分岐開閉器が外れにくい分電盤を提供することを課題と
し,本件審決認定の甲1発明は,「請求項4の分電盤」に係る構成を採\n用することにより,分岐開閉器の接続端子が導電バーから外れる方向に
取り付け部材が移動するのを抑えることができ,分岐開閉器を強固に固
定できるという効果を奏するとともに,「請求項5の分電盤」に係る構\n成を採用することにより,弾性体を変形させることにより取り付け部材
をベースから外すことができ,分岐開閉器の交換作業が容易にできると
いう効果を奏することが開示されているものと認められることに照らす
と,甲1発明は,取り付け部材を介在させて分岐開閉器をベースに取り
付ける場合に生じる問題のみを課題としたものとはいえない。
次に,甲1には,分岐開閉器の一定の寸法に限定することを示す記載
や導電バーを分岐開閉器の寸法に合わせた位置に配置することができな
いことを示す記載はなく,取り付け部材が,所定形状の分岐開閉器を導
電バーの異なる高さに合わせるためのスペーサとして機能することを示\nす記載はない。また,前記(ア)認定のとおり,「分岐開閉器4を取り付
けた取り付け部材5」における取り付け部材5は,分岐開閉器4と別部
材であるが,分岐開閉器4と一体化された分岐開閉器4の取付機構とし\nての機能を有するものであるから,取り付け部材5が別部材であること\nは,「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」が本件発明の「回路
遮断器」に該当しないことの根拠となるものではない。
さらに,甲1には,甲1発明において分岐開閉器は協約形ブレーカで
あり,取り付け部材はそれに用いられる分岐取付台であることについて
の記載はないし,また,仮に分岐開閉器と取り付け部材がそのような関
係にあるからといって,「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」
が本件発明の「回路遮断器」に該当しないことの根拠となるものではない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
ウ 以上のとおり,本件審決における相違点4の容易想到性の判断(1)には誤
りがある。
(4) 相違点4の容易想到性の判断(2)の誤りの有無について
原告は,1)甲1及び2に接した当業者においては,甲1発明及び甲2発明
は技術分野,課題及び作用・機能において共通すること,甲1発明において\nは,プラグコネクタの接続を解除する方向に分岐開閉器をスライドさせる際
においては,板ばねの先端部25aが底面から突出しない状態に維持(ロッ
クを外した状態に維持)させなければならないという課題があることを認識
するといえるから,甲1発明において,この課題を解決し,分岐開閉器の取
り外しを容易にするために,甲1発明の板ばねに係る構成部分に甲2発明の\n係止アーム及び操作用取手(ロックを外した状態を維持できる構造)を適用\nすることを試みる動機付けがあるといえる,2)甲1発明に甲2発明を適用す
るに当たっては,甲2に記載された機器の底面から突出することによって機
器のスライドを防止するための部材を,突出する状態と突出しない状態のそ
れぞれにおいて択一的に選択「保持」可能な構\成とするという技術的思想を
甲1発明に適用すれば足りるものであり,例えば,別紙原告主張書面記載の
図1ないし図5に示した構成が考えられ,甲2に記載された選択保持可能\と
いう技術的思想を甲1発明に適用することは可能であり,かつ,その適用に\nおいて特段の技術的困難はない,3)そうすると,甲1及び甲2に接した当業
者は,甲1発明において,プラグコネクタの接続を解除する方向に分岐開閉
器をスライドさせる際に,板ばねの先端部25aが底面から突出しない状態
に維持(ロックを外した状態に維持)させなければならないという課題があ
ることを認識し,この課題を解決し,分岐開閉器の取り外しを容易にするた
めに,甲1発明の板ばねに係る構成部分に甲2発明の係止アーム及び操作用\n取手(ロックを外した状態を維持できる構造)を適用し,相違点4に係る本\n件訂正発明の構成(本件訂正発明におけるレバーは,「前記突出部が回路遮\n断器の取付面から突出しない状態で保持されるように構成され」る構\成)と
することを容易に想到することができたものである旨主張する。
ア しかしながら,甲1には,甲1発明の板ばねの係止が解除された状態(上
方に撓んだ状態)で保持されることについての記載や示唆はない。また,
甲1の【0014】の記載によれば,甲1発明においては,取り付け部材
5の側片5bの下面から板ばね25が自動的に突出してベース2の係止
孔24に係止することにより取り外し方向の規制が行われるから,取り外
し方向の規制を行う際に,規制部材を突出した位置に保持する必要もない。
そうすると,甲1発明において,甲2発明の構造を適用して,機器の底\n面から突出して機器のスライドを防止するための部材を,操作用取手を用
いることで突出する状態と突出しない状態のそれぞれにおいて択一的に
選択保持可能な構\成とするという動機付けがあるものと認めることはで
きない。
イ また,仮に原告が主張するように甲1発明において,プラグコネクタの
接続を解除する方向に分岐開閉器をスライドさせる際においては,板ばね
の先端部25aが底面から突出しない状態に維持(ロックを外した状態に
維持)させなければならないという課題があることを認識し,当業者が,
甲1発明において,甲2発明の係止アーム及び操作用取手(ロックを外し
た状態を維持できる構造)の構\成を適用することを検討しようとしたとし
ても,具体的にどのように適用すべきかを容易に想い至ることはできない
というべきであるから,結局,甲1発明に甲2発明の上記構成を適用する\n動機付けがあるものと認めることはできない。
この点に関し,原告は,甲1発明に甲2発明の上記構成を適用する具体\n例として,別紙原告主張図面の図1ないし5で示した構成が考えられる旨\n主張するが,板ばねや分岐開閉器のような小さな部材にさらに操作用取手
や突起等を設け,その精度を保つ構造とすることを想起することが容易で\nあったものとは考え難い。
ウ 以上によれば,甲1発明における板ばねに係る構成部分に,甲2に記載\nされた発明の係止アーム及び操作用取手(ロックを外した状態を維持でき
る構造)を適用する動機付けがあるものと認めることはできないから,本\n件審決における相違点3の容易想到性(2)の判断に誤りはない。
したがって,原告の前記主張は理由がない。
(5) 小括
以上のとおり,本件審決における相違点4の容易想到性(1)の判断に誤りは
あるが,相違点4の容易相当性(2)の判断について誤りはないから,その余の
点について判断するまでもなく,本件訂正発明は,甲1発明及び甲2発明に
基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはでき
ない。
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◆平成31(行ケ)10046
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2020.08.12
令和1(行ケ)10129 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年7月29日 知的財産高等裁判所
無効審判が請求され、訂正請求がなされました。審決は無効理由なしと判断しました
裁判所も「背面カバー部材31との間に隙間1,2を設けることを明示又は示唆する記載は,全く存在しない」として、審決を維持しました。
原告は,甲1発明には,隙間1,2が存在し,隙間1,2は,甲1発明
において,本件発明1にいう「開口」に相当する部分(ボンベ装填部8の背面部の
開放された部分)の一部をなしているから,甲1発明は,「専用小型ガスボンベ2
A」を器具本体にセットしたときに「上記開口を含む空気導入口」を備えており,
仮に,隙間1,2が本件発明1いう「開口」に含まれないものであるとしても,隙
間1,2は,外部からボンベ装填部8の内部に空気を導入する機能を有するから,\n本件発明1と甲1発明が同一である旨主張する(原告の主張1)ので,まず,この
点について判断する。
a 前記1(2)で認定したとおり,本件発明は,小型ガス容器を器具本体
にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を,空気導入口
として活用し,そのような開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入する空冷機構を備えることで,ガス器具の小型化に伴う発熱の問題を解決し,標準型ガ\nス容器によるガス器具とほぼ同等の熱量を発生可能で,熱害の心配のない安全性の\n高い小型ガス器具を提供するというものである。
また,本件明細書の【発明の実施の形態】には「・・・上記の開口27を,器具
本体10内へ空気を導入する空気導入口28としても利用し,冷却性能を向上させ\nるための空冷機構を構\成する。・・・小型ガス器具では,その分冷却性能の向上を図\nることが好ましいのに対して,前記の開口27を空冷機構の一部として活用するこ\nとができるという特徴を発揮する。」(段落【0017】),「・・・後部開口27や小開口29よりなる空気導入口28から流入する多量の空気が排出部32へ抜け
る・・・」(段落【0023】)との記載がある。
以上からすると,標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出すための開口を,小型
ガス容器を器具本体にセットしたときには,空気導入口として活用し,器具本体内
に十分な空気の流れを生じさせて冷却性能\の向上を図るというのが本件発明の技術
思想であると認められる。そうすると,本件発明にいう「開口」とは,小型ガス容
器を器具本体にセットしたときに,器具本体内に十分な空気の流れを生じさせて冷\n却性能を向上させるような「空気導入口」として機能\し得る程度のものである必要
があるというべきである。
b 上記aを踏まえて,甲1について検討するに,確かに甲1の【図6】
や【図8】には,原告の主張する隙間1,2らしきものが記載されている。しかし,
特許公報に添付された図面は,発明の技術内容を理解しやすくするためのものにす
ぎず,部材の大きさや位置関係が正確に記載されているとは限らないものであると
ころ,甲1の【発明の詳細な説明】には,カバー部材5・仕切板9と背面カバー材6又は背面カバー部材31との間に隙間1,2を設けることを明示又は示唆する記載は,全く存在しない。
特に,隙間2に関しては,甲1の段落【0037】の「・・・背面カバー部材3
1には,その両側縁に係合凸部32が形成されており,この係合凸部32が仕切板
9及びシャーシ3に立設した図示しない支持柱部材とに形成した高さ方向の係合溝
に相対係合される。」との記載及び【図8】からすると,被告が主張するように係合
凸部32と図示されていない支持柱部材に形成された係合溝により,ボンベ装填部
8の背面部が閉塞され,隙間2は生じないとも考えられる。
そうすると,甲1の【図6】及び【図8】から直ちに原告が主張するような隙間
1,2の存在を認めることはできないというべきであるから,原告の主張1はその
点からして採用することができない。
c 仮に,甲1の【図6】や【図8】から隙間1,2の存在が認められ
るとしても,甲1には,隙間1,2から空気を導入して冷却性能の向上を図るとい\nう技術思想については全く記載も示唆もない上,【図6】や【図8】に描かれた隙間
1,2はいずれもごく小さいものであるから,それらに接した当業者が,隙間1,
2から空気を導入することで,器具本体内に十分な空気の流れを生じさせて冷却性\n能の向上を図ることができると認識すると認めることはできない。したがって,隙\n間1,2が,原告が主張する本件発明1にいう「開口」に相当する部分(甲1発明
におけるボンベ装填部8の背面部における開放された部分)に含まれるかどうかに
かかわらず,原告の主張1を採用することはできない。
(イ) 原告は,甲1発明は,ボンベ装填部8の背面側を開放するという使用形態が可能な機械的構\成を備えているから,本件発明1と甲1発明は同一又は実質的に同一であると主張する(原告の主張2)。
しかし,前記アの甲1の記載事項からすると,甲1発明には,標準型ガス容器を
器具本体にセットするときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出すための開口
を,小型ガス容器を器具本体にセットした際に空気導入口として活用し,器具本体
内に十分な空気の流れを生じさせて冷却性能\の向上を図るという技術思想は存在せ
ず,かえって,甲1発明では,専用小型ガスボンベ2Aの使用中にボンベ装填部8
の背面部を閉塞するために,敢えて部品点数を増やしてまで背面カバー部材6又は
背面カバー部材31を設けている(甲1の段落【0019】,【0025】〜【00
28】,【0034】,【0037】,【0038】)のであり,甲1には,専用小型ガスボンベ2Aの使用中に背面カバー部材を開放することについては何ら記載されてお
らず,そのことは全く想定されていないというべきである。このことは,甲1にお
いて,背面カバー部材6にトーションスプリング等を使わない態様が記載されてい
るとしても変わるものではない。
また,甲1発明のうち,背面カバー部材6がシャーシ3に取り付けられている実
施形態の場合,背面カバー部材6を開放すると,背面カバー部材6分だけガスコン
ロ装置の設置スペースが増大することになり,大きな設置スペースを必要としない
小型のガスコンロ装置を提供するという甲1発明の目的(甲1の段落【0005】
〜【0008】)とも反することになる。
そうすると,甲1発明が,ボンベ装填部8の背面側を開放するという使用形態が
可能な機械的構\成を備えているとしても,そのことをもって,本件発明1と甲1発
明が同一又は実質的に同一であるということはできず,原告の主張2は採用するこ
とができない。このことは,ボンベ装填部8の背面側を開放するという使用形態が
周知・慣用技術であったとしても変わるものではない。
(ウ) 以上の検討及び弁論の全趣旨からすると,本件発明1と甲1発明と
の間には,審決が認定した前記第2の3(2)イ記載の一致点及び相違点1があるこ
とが認められる上,相違点1は実質的な相違点であって,本件発明1と甲1発明は
同一又は実質的に同一とはいえない。
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2020.08. 7
令和1(行ケ)10068 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年7月15日 知的財産高等裁判所
動機付けなしとして進歩性違反の無効理由なしとした審決が維持されました。
前記(ア)からすると,甲3発明は,「マウント1及びLEDユニット2からなり,
マウント1はLEDユニット2を収容する凹部10aを備えるLED照明装置A1
において,LEDユニット2が複数のLEDモジュール20,支持部材3及び電力
変換部5を備え,コの字状とされた支持部材3に電力変換部5を収容する照明器具」
というもので,天井からの突出量を低減することによって室内がスマートであると
の印象を与え得るLED照明装置を提供するものであると認められる。
イ 甲2発明に甲3発明を適用して,点灯装置を器具本体側ではなく,光源
ユニット側へと配置するように変更する動機付けがあるかどうかについて判断する。
前記(1)イのとおり,甲2発明は,器具本体に設けられた収容凹部に点灯装置を配
置することで,点灯装置を効率的に配置するという課題を解決したことに技術的意
義がある発明であるが,点灯装置を光源ユニット側に配置することは,配置可能な\n点灯装置のサイズ(幅方向の長さ)が取付部材21の取付面21a の長さ程度のも
のとなってしまい,収容凹部の収容スペースを有効に活用できなくなるから,甲2
発明の課題解決手段と相容れないものである。
また,甲2の段落【0024】の「・・・点灯装置3は,箱状のケース内に回路
基板及びこの基板に実装された回路部品を収容して構成されており,商用交流電源\nACに接続されていて,この交流電源ACを受けて直流出力を生成するものである。
点灯装置3は,例えば,全波整流回路の出力端子間に平滑コンデンサを接続し,こ
の平滑コンデンサに直流電圧変換回路及び電流検出手段を接続して構成されてい\nる。・・・」との記載からすると,甲2発明の点灯装置は,複数の部品から構成され\nる一定の重量のある部材であると認められ,甲2発明では,器具本体側にそのよう
な重量のある点灯装置を配置することを前提として,光源ユニットは,簡易な係止
部材で取り付けられているが,仮に点灯装置を光源ユニット側に配置するとした場
合,器具本体と光源ユニットの係止機構を中心として甲2発明全体の構\造を再検討
する必要がある。
したがって,甲3発明を甲2発明に適用する動機付けがあるとは認められない。
ウ 原告は,1)甲2発明と甲3発明が課題や課題解決手段を共通にしている,
2)器具本体と光源ユニットが分離されるLED照明器具にあって,光源ユニット側
に甲2発明の点灯装置のような電源装置を配置することは周知慣用技術であり,点
灯装置を光源ユニットに配置することに伴う設計変更は当業者にとって通常の創作
力の範囲内の設計事項であると主張する。
(ア) 上記1)について
前記ア(ア)のとおり,甲3発明は,本件発明1と同様に天井からの突出量の低減を
課題としているものと認められる。他方,甲2発明の課題は,前記(1)イのとおり,
施工作業の省力化と点灯装置等の部品の効率的な配置である上,甲2からは甲3発
明にあるような天井からの突出量の低減という技術思想を読み取ることはできず,
甲2発明と甲3発明とが課題を共通にしているとはいえず,原告の主張はその前提
を欠くものである。
この点について,原告は,かさばる部材である点灯装置(甲3発明の電力変換部)
の効率的な配置という限度で甲2発明と甲3発明が課題を共通にしている旨主張す
るが,発明の課題をあまりに抽象化して捉えており,相当ではないので,採用する
ことができない。
(イ) 上記2)について
証拠(甲1の12・13,甲3〜5)によると,審決が認定したとおり,「光源
としてLEDを用いた照明器具において,光源ユニット側に電源装置を配置する」
ことは本件出願日当時,周知慣用技術(周知慣用技術1)であったと認められる。
しかし,前記イのとおり,甲2発明において,点灯装置を光源ユニット側に配置
することは甲2発明の技術的意義を没却するものである上,甲2発明の構造を大き\nく変える必要があるから,当業者の通常の創作力の範囲内の設計事項であるという
ことはできない。
この点について,原告は,甲2発明の「収容凹部」において,電源装置を光源ユ
ニット側に取付配置した場合でも,器具本体側に取付配置した場合でも,発明の目
的とした照明器具全体での高さ寸法,天井からの突出量は変わらないと主張するが,
直ちにそのように認めることはできないのみならず,仮にそうであるとしても,上
記で述べた理由により,甲2発明において,点灯装置を光源ユニット側に配置する
ことが当業者の通常の創作力の範囲内の設計事項であるとはいえない。
また,原告は甲2発明の係止部材の構造等は特定されておらず,甲3発明の係止\n機構は,甲2発明の係止部材と同様に簡易なものであると主張するが,甲2発明に\nおいて,「係止部材4」は,「取付部材21」,「発光素子22」,「基板23」及び「カバー部材24」からなる光源部を係合保持するものである(甲2の段落【0023】,【0027】,【0028】,【図3】,【図4】)が,甲3発明の係止機構であるホルダ11は,LEDモジュール20,支持部材3,カバー4及び重量のある電力変換部\n5からなるLEDユニット2を保持するもの(甲3の段落【0026】,【0027】,【図2】,【図4】)であり,甲2発明の係止部材の方が,甲4発明のホルダより簡易
なものであれば足りることはその役割から明らかであるから,甲2発明において,
点灯装置を光源ユニット側に配置することが当業者の通常の創作力の範囲内の設計
事項であるとはいえない。
(4) 小括
以上のとおり,相違点について,甲2発明に甲3発明を適用する動機付けがある
とは認められないから,阻害事由の点について判断するまでもなく,本件発明1は,
甲2発明及び甲3発明又は周知慣用技術1から容易想到なものとはいえない。
◆判決本文
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2020.08. 7
平成31(行ケ)10040 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年7月2日 知的財産高等裁判所
審決は想到容易と判断しましたが、知財高裁は、「主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に想到することを動機付ける記載又は示唆を見出せない」としして審決を取り消しました。
(ア) 甲1又は甲2の内容中の示唆について
a 甲1及び甲2には,次の(a)及び(b)の事項が開示されているので,以
下,これらが,引用発明において,単層カーボンナノチューブとして
甲2実施例1CNTを適用することの示唆となるか否かについて検討
する。
(a) 引用発明における導電剤としての単層カーボンナノチューブは,
「直径が0.5〜10nmであり,長さが10μm以上であり,炭
素純度が重量基準で99.9%以上である」単層カーボンナノチュ
ーブである。一方,上記(2)ア(ア)及び(オ)によれば,甲2実施例1CN
Tは引用発明の単層カーボンナノチューブの純度,直径,長さの規
定を満たすものといえる。(以下「事項(a)」という。)
(b)甲2には,上記(2)ア(イ)〜(エ)より,単層カーボンナノチューブの用
途として,導電体,電極材料が挙げられ,甲2の単層カーボンナノ
チューブが優れた電子・電気特性を有すること,単層カーボンナノ
チューブ・バルク構造体を導電体として使用することも記載されて\nいる。(以下「事項(b)」という。)
b 事項(a)について
甲20,21,23には以下の記載がある(引用に当たり,文意に
影響しない範囲で記載の一部を省略又は変更した。)。
[甲20](ドージンニュース新連載「新しいナノ材料としてのカー
ボンナノチューブ−最近の展開(バイオからエネルギーまで)1)」
URL省略,令和元年6月6日検索)
「2.カーボンナノチューブの構造,特性\n
CNTはグラフェンシートを円筒状に丸めた構造をしている。\n円筒が一本のみからなるCNTをSWNTと呼ぶ。SWNTは直
径0.5〜数nmとかなり細いが・・・CNTの合成後の長さは
数十nmから,長いものでは数mmに及ぶものがあり,合成法に\nより様々な長さ分布を持つ混合物として得られる。」(2頁)
「2012年現在,30社以上のメーカーがCNTを製造販売して
いる。それぞれ製造法,直径分布,純度,結晶化度等に差があり,
一口にCNTと言っても多様性があることを認識して使わなけれ
ばならない。表1に代表\的なCNTメーカー(2012年1月現
在)を挙げた。」(4頁。表1には代表\的なCNTメーカーとし
て8社が列挙されている。)
[甲21](「雑科学ノート−カーボンナノチューブの話−」URL
省略,令和元年6月6日検索)
「CNTの直径は,これまで書いてきた巻きの強さや層の数によっ
ていろいろですが,SWCNTの場合は1〜3nm,MWCNT
の場合は10〜20nmぐらいのものが一般的です。髪の毛が5
0〜100μmぐらいですから,その数千分の一から数万分の一,
ということですね。長さは,一般的な大量生産品では0.1〜数
十μm程度ですが,基板の上に垂直に成長させる方法では数百μ\nm以上のものも作られています。」(4頁)
[甲23](末金皇ら「ブラシ状カーボンナノチューブの高速成長技
術の開発」大陽日酸技報 No.23(2004),URL省略 )
「CNTは,直径が数nm程度,長さが数μmから数百μmと極め
て高いアスペクト比を持つ構造物である。」(8頁左欄13〜1\n5行)
甲20,21,23の上記各記載によれば,本願特許出願当時,単
層カーボンナノチューブの直径や長さは製品によって様々であり,そ
の中で,0.5〜10nmの直径,10μm以上の長さは,単層カー
ボンナノチューブの直径や長さとしてごく一般的であったと認められ
る。そうすると,事項(a)のとおり,甲2実施例1CNTが引用発明の
単層カーボンナノチューブの純度,直径,長さの規定を満たすことが
開示されているからといって,そのことが,多数存在する単層カーボ
ンナノチューブから甲2実施例1CNTを選択し,引用発明のカーボ
ンナノチューブとして使用することを示唆するものとはいえない。
c 事項(b)について
甲2は,甲2に記載された発明の単層カーボンナノチューブが種々
の技術分野や用途へ応用できることを開示しているが(上記(2)ア(イ)),
電池の電極材料への応用としては,負極の材料として用いることが挙
げられているのみであり(同(エ)),正極の導電助剤として用いること
の記載又は示唆はない。また,導電性を生かした応用としては,電子
部品の銅配線に代えて用いることの記載はあるものの(同(ウ)),これ
が電池の正極の導電助剤としての応用を示唆するものとはいえない。
d 以上によれば,事項(a)又は事項(b)が,引用発明の導電助剤の単層カ
ーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを適用することの示唆
となるとはいえない。そして,他に,甲1又は甲2に,引用発明の導
電助剤の単層カーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを使用
することの示唆となる記載も見当たらない。
以上によれば,甲1及び2のいずれにも,引用発明の導電助剤の単
層カーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを使用することの
示唆はない。
(イ) 技術分野の関連性について
引用発明は,リチウムイオン二次電池正極用導電剤を用いたリチウム
イオン二次電池の技術分野に属するものである【0001】。一方,甲
2に開示された発明は,導電体,電極材料,電池等の技術分野に属する
ものである(上記(2)ア(イ)〜(エ))。
そうすると,両発明は,導電体,電極材料または電池という限りにお
いて,関連する技術分野に属するといえるにとどまる。
(ウ) 課題の共通性について
引用発明は,正極に混合する導電剤の量を低減して,リチウムイオン
二次電池を大容量化し,かつ,高出力におけるリチウムイオン二次電池
容量の劣化を抑制することを課題とする【0012】。一方,甲2に開
示された発明は,従来にみられない高純度,高比表面積のカーボンナノ\nチューブ(特に配向した単層カーボンナノチューブ・バルク構造体)を\n提供することを課題とする(上記(2)ア(ア))。
よって,両発明の課題は共通しない。
(エ) 作用・機能の共通性について\n
引用発明において,単層カーボンナノチューブは,リチウムイオン二
次電池正極用の導電剤として用いられ,ここで,導電剤は,導電性の低
い正極活物質に混合することにより電池の容量を大きくすることができ
るという作用・機能を有する【0003】。一方,甲2に開示された発\n明の単層カーボンナノチューブは,導電体,電極材料,電池等の用途に
用いられるものであるところ(上記(2)ア(イ)及び(エ)),導電体として使用
される際には,配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体として,\n電子部品の縦配線,横配線に代えることにより微細化,安定化を図ると
いう作用・機能を有し(同(ウ)),電極材料として使用される際には,配
向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体として,リチウム二次電池\nの電極材料,燃料電池や空気電池等の電極(負極)材料という作用・機
能を有するが(同(エ)),いずれの作用・機能も,導電性の低い正極活物\n質に混合することにより電池の容量を大きくすることができるという作
用・機能には当たらない。\nよって,両発明の作用・機能が共通しているとはいえない。\n
(オ) 以上のとおり,甲1及び甲2には,引用発明において,導電助剤とし
て用いるカーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを適用するこ
とを動機付ける記載又は示唆を見出すことができない。
ウ 上記イのとおり,主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に想到す
ることを動機付ける記載又は示唆を見出せない以上,上記アに説示したと
ころに照らして,かかる想到を阻害する事由の有無や,本願発明の効果の
顕著性・格別性について検討するまでもなく,その想到が容易であるとし
た審決の判断には誤りがある。
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2020.08. 7
令和1(行ケ)10080 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年7月2日 知的財産高等裁判所
争点は新規事項か否か、進歩性違反があるか否かです。審決は、新規事項ではない、進歩性違反なしと判断しましたが、知財高裁は後者について取り消しました。
原告は,アンチローリングタンクが,「浸水防止部屋」に相当する旨主
張するのに対し,被告は,「浸水防止部屋」とは,損傷を受けた場合に浸
水する「空間」であって,主として「浸水防止」を企図した「空間」であ
ると解すべきところ,アンチローリングタンクは,主として「浸水防止」
を企図した「空間」ではないから,本件訂正発明の「浸水防止部屋」に該
当しない旨主張する。また,本件審決は,「浸水防止部屋」は,損傷を受
けた場合に浸水する「空間」であり,専ら「浸水防止」を企図した「空間」
であると解すべきであるところ,甲4発明のアンチローリングタンクは,
専ら「浸水防止」を企図した「空間」であるとはいえないから,本件訂正
発明の「浸水防止部屋」には該当しないとして,本件訂正発明と甲4発明
との対比等を行うことなく,進歩性違反の無効理由は成立しないと判断し
た。
ウ 「浸水防止部屋」の意義
(ア) 特許請求の範囲の記載によれば,本件訂正発明1の「浸水防止部屋」
は,側壁及び隔壁に接すること,仕切板により形成されること,機関区
域に設けられること,側壁と隔壁との連結部を覆った空間であり側壁が
損傷した場合浸水することなどが特定されているものの,「専ら」ある
いは「主に」浸水防止を企図した空間であるべきかは明らかでない。な
お,当業者の技術常識として,「空間」とは,「空所」や「ボイド」と
は異なり,必ずしも物体が存在しない場所には限定されないと認められ,
このことは「下層空間13の船尾側に推進用エンジン14が配置されて
いる」(段落【0022】)などの本件明細書の記載とも整合する。し
たがって,「空間」であることから,直ちに「専ら」あるいは「主に」
浸水防止を企図していることは導けない。また,SOLAS条約によれ
ば,浸水率の計算において,タンクは,0または0.95のいずれかよ
りリスクが高くなるケースを用いて計算すべきとされており,タンクで
あってもそれに面する側壁が損傷した場合浸水する場合があることとな
るから,「空間に面する側壁が損傷した場合浸水すること」が,必ずし
もタンクを排除するものとはいえない。
次に,本件発明の課題及び解決手段は,前記のとおり,浸水防止部屋
を設けて,側壁における隔壁の近傍が損傷を受けても,浸水防止部屋が
浸水するだけで,浸水防止部屋を設けた部屋が浸水することがないよう
にすることで,浸水区画が過大となることを防止し,設計の自由度を拡
大することを目的とするものである。そうだとすれば,「浸水防止部屋」
は,それに面する側壁が損傷し浸水しても,それが設けられた「部屋」
に浸水しないような水密構造となっていれば,浸水区画が過大となることを防止するという本件発明の目的にかなうのであって,タンク等の他\nの機能を兼ねることが,当該目的を阻害すると認めるに足りる証拠はない(被告は,タンクが浸水すると,タンク本来の機能\を果たせなくなったり,環境汚染につながったりするから,タンクと「浸水防止部屋」は
両立しえないと主張するが,本件発明は,「浸水防止部屋」を意図的に
浸水(損傷)しやすくするわけではないから,上記認定は左右されない。)。
かえって,実願昭49−19748号(実開昭50−111892号)
のマイクロフィルム(甲17)には,別紙5に示す第1図及び「本考案
は,横置隔壁2の船側部両端に,船側外板1を一面とした高さ方向に細
長い浸水阻止用の区画7を備えているから,横隔壁数を増加しなくても,
船側外板1の損傷による船内への浸水を該区画7内に,または該区画7
と隣接する1つの船内区画内にとどめることができ」(4頁下から7〜
1行)との記載があり,本件発明の「浸水防止部屋」の機能に類似する「空間7」を有する船舶の発明が開示されているところ,同文献には,\n「該区画7を小槽として利用することもできる。」(5頁7行)とも記
載されているから,浸水防止を目的とした区画を,小槽(タンク)とし
て利用することは,公知であったと認められる。また,「浸水防止部屋」
が他の機能を兼ねることを許容する方が,設計の自由度が拡大し,その意味で本件発明の目的に資するものである。\n以上によれば,「浸水防止部屋」とは,それに面する側壁が損傷し浸
水しても,それが設けられた「部屋」に浸水しないような水密の構造となっている部屋を意味すると解するのが相当である。\n
(イ) 被告は,本件明細書の段落【0004】を根拠に,本件明細書では,
タンクと浸水防止部屋は区別されている旨主張する。
しかし,段落【0004】は,ボイドスペースを海水バラストタンク
として機能させるという従来技術が記載されているにとどまり,タンクと浸水防止部屋を比較して記載しているものではないから,前記「浸水\n防止部屋」の解釈を左右するものではない。
エ アンチローリングタンクについて
甲4発明のアンチローリングタンクは,タンクであって液体を貯留する
ものであるから,それが設けられた部屋に液体が浸水しないような水密の
構造となっている可能\性がある。
しかるに,本件審決は,アンチローリングタンクが,専ら浸水防止を企
図した空間ではないとの理由のみから,これが浸水防止部屋に該当せず,
無効理由2−2は成立しないと判断したものであるから,本件審決の判断
には誤りがあり,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。
なお,原告は,本件訂正発明3,4については,無効理由2−2が成り
立たないとの本件審決の判断を争っていない。
(2) 甲6発明を主引例とする無効理由(無効理由2−3)について
ア 甲6文献の記載
甲6文献の55頁から61頁は,「2基2軸CPP装備・船尾双胴型旅
客船兼自動車航送船“3号はやぶさ”の概要」と題する文章であり,57
頁19〜28行の下記の記載のほか,「共栄運輸向け旅客船兼自動車航送
船“3号はやぶさ”」の一般配置図(別紙3【甲6図面】参照)が示され
ている。
「(9)トリム及びヒール調整装置
本装置は車輌乗降時の岸壁と舷外ランプの高さを保つため,船首トリミ
ングタンク(F.P.T.,No.1W.B.T.(C),No.2W.B.T.(C),No.3W.B.T.(C))
及び船尾トリミングタンク(No.4W.B.T.(C)&No.4W.B.T.(P/S))を利用し
て船体のトリムを調整し易いように配管されており,船橋操縦盤に組み
込みのタッチパネル式監視制御コンソールによりポンプ,弁の遠隔操作が出来るようになっている。」\n
イ 本件審決は,船尾トリミングタンクが,専ら「浸水防止」を企図した「空
間」であるとはいえず,「浸水防止部屋」に相当しないと判断したが,か
かる浸水防止部屋の解釈が誤りであることは,前記(1)と同様である。
よって,本件審決の判断には誤りがあり,その誤りは審決の結論に影響
を及ぼすものである。
なお,原告は,本件訂正発明3,4については,無効理由2−3が成り
立たないとの本件審決の判断を争っていない。
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◆令和1(行ケ)10079
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2020.08. 7
令和1(行ケ)10124 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年8月4日 知的財産高等裁判所
異議申し立てで取り消し決定がなされましたが、知財高裁(1部)は、引用文献には当該記載がないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。また、複数の引用文献からの周知の認定も否定されました。
以上によれば,甲2文献には,プローブ装置において,1)プローブ装置筺体
内から外に向かってガイドレールを設け,プローブカードを交換する際に,プロー
ブカードをガイドレールに沿って引き出すこと,2)プローブ装置本体の上面に被検
査体に対向して載置されたテストヘッドのメンテナンスやパフォーマンスボードの
交換については,テストヘッドをプローブ装置本体から分離して上昇させて別の場
所に移動することが記載され,検査室の内部から整備空間側にテストヘッドを引き
出すことの記載はない。
・・・・
被告は,甲2文献や乙1〜3の記載によれば,メンテナンスの対象物を引き
出してメンテナンスをすること,また,その際に,スライドレールにより引き出す
構成とすることは周知技術であると主張する。\n前記(1)ア及び上記ア(ア)のとおり,引用例及び甲2文献には,プローブ装置におい
て,メンテナンスの際に検査室からプローブカードを引き出すこと及びその際ガイ
ドレールに沿って引き出す構成とすることの記載がある。しかし,本件原出願の当\n時,テストヘッドの重量は25kgから300kgを超えるものが知られ(本件明
細書【0022】,甲5【0003】・【0043】,甲6【0014】,甲7,乙3【0005】),テストヘッドとプローブカードとは重量や大きさにおいて相違すること
は明らかである。したがって,プローブカードに関する上記記載から,テストヘッ
ドを含むメンテナンスの対象物一般について,メンテナンスの対象物を引き出して
メンテナンスをすること,また,その際に,スライドレールにより引き出す構成と\nすることが周知技術であったということはできない。
また,乙1〜3には,検査室に収容されたテストヘッドの構成は開示されておら\nず,テストヘッドを引き出すものではないから,被告の主張する周知技術を裏付け
るものではない。
以上によれば,被告の主張する各文献の記載から,メンテナンスの対象物を引き
出してメンテナンスをすること,また,その際に,スライドレールにより引き出す
構成とすることが周知技術であったということはできず,ほかにこれを認めるに足\nりる証拠はない。
(イ) 被告は,乙3(【0024】)にも記載があるとおり,テストヘッドを引き出
した方が作業性に優れることは自明であるから,メンテナンスの対象物をスライド
レールにより引き出してメンテナンスを行う方が,作業が容易であることを動機付
けとして,引用発明において,相違点1に係る構成を想到することは容易であると\n主張する。
しかし,前記ア(イ)cのとおり,乙3はテストヘッドが検査室に収容されたプロー
ブ装置を開示するものではなく,同段落の「超重量級のテストヘッドであってもテ
ストヘッド4を安全且つ円滑に反転させ,前後,上下に移動させることができ,テ
ストヘッド4をメンテナンス等の作業性に優れた位置へ移動させることができる。」
との記載から,テストヘッドを引き出した方が作業性に優れていることを読み取る
ことはできない。
また,引用例には,1)試験対象の仕様及び試験内容に応じて行うピンエレクトロ
ニクスの交換や,その他のテストヘッドのメンテナンスは収容室の背面扉を開けて
行うこと(【0029】,【0036】,【0063】,【0080】,【0085】),2)レイアウトの異なるウエハに対応するためのプローブカードの交換や,その他のプローブカードのメンテナンスは収容室のメンテナンスカバーを開けて行い,プローブ
カードは収容室の外部に引き出すことができること(【0028】,【0029】,【0030】,【0037】,【0080】,【0085】),3)背面扉はテストヘッドのメンテナンスが容易な位置に配置され,メンテナンスカバーはプローブカードのメンテ
ナンスが容易な位置に配されていること(【0029】)が記載されている。
このように,引用発明においては,テストヘッドのメンテナンスは背面扉を開け
て行うものとされ,背面扉はメンテナンスを行うのに容易な位置に配置されている
のであるから,検査室が整備空間側にテストヘッドを引き出すスライドレールを備
え,テストヘッドを引き出す構成を採用することの動機付けは見いだせない。\n
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2020.07.14
令和1(行ケ)10096 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年6月3日 知的財産高等裁判所
異議申し立てにて、登録取り消し決定が取り消されました。添加目的が異なるので組み合わせる動機付けがないというものです。\n
甲2において,シランカップリング剤は,金属アルコキシドやその他の物質のポ
リイミド系重合体の前駆体であるポリアミック酸系重合体への分散性,混合性を向
上させ,熱膨張率などの特性にもとづく寸法安定性を改善することを目的とするも
のであり,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的\nな方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明2とは異なる目的の
ために配合されている。
甲3において,アルコキシシラン化合物は,透明性を損なわずに,寸法安定性に
優れ,かつ無機化合物基板との密着性が高いシリカ粒子が分散してなる新規なポリ
イミド組成物及びその製造方法を提供するために,ポリイミド溶液に添加し,ポリ
イミド溶液において水の存在下で反応させるものであり,本件発明2において,ア
ルコキシシランが,ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の組成物に配合されるの
とは,配合対象が異なっている上,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」\nを有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発
明2とは異なる目的のために配合されている。
甲4は,ポリイミド銅張積層板のポリイミド層と銅箔との間の接着性を高めるた
めに,ポリイミド前駆体コーティング溶液中に,アルコキシシランを組み込むとい
うもので,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的\nな方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明2とは異なる目的の
ために配合されている。
甲5は,良好な熱伝導性と接着性を有し,さらに,良好な耐熱性を有する樹脂組
成物を提供することを目的とするものであるが,(C)成分の例として,3−ウレイ
ドプロピルトリエトキシシランを含む組成物が,ポリイミド樹脂と無機フィラーの
相溶性を高め,ボイド(空隙)を抑制し,少ない無機フィラー含量でも高い熱伝導
性が得られると記載されており,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を\n有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明
2とは異なる目的のために配合されている。
甲6は,電子部品の絶縁膜又は表面保護膜用樹脂組成物,パターン硬化膜の製造\n方法及び電子部品に関するものであり,最終加熱時においてメルトを起こすことな
く,最終加熱以降の加熱においても架橋成分等の昇華及びガス成分の発生が少ない
層間絶縁膜又は表面保護膜を製造するために,3−ウレイドプロピルトリエトキシ\nシランを添加することができる(段落【0057】)というものであり,シリコン基
板に対する接着性増強剤として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,ビ
ス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアル
コキシシラン化合物を含むことができる(段落【0069】)との記載があるが,「支
持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離すること」が可能\
なポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供するという本件発明\n2とは添加目的が異なっている。
g 以上によると,甲2〜6によって,甲2〜6にされたアルコキシシ
ラン化合物を本件発明2のために用いるという動機付けがあるとは認められないか
ら,相違点3が容易想到であると認めることはできない。
なお,甲2〜6には,ポリイミド前駆体に添加するシランカップリング剤として,
本件発明2における4種のアルコキシシラン化合物のうちの少なくとも1種と甲1
記載の他種のものが並列的に列挙されているとしても,甲2〜6は,アルコキシシ
ラン化合物を使用する目的や対象が本件発明2とは異なるから,本件発明2におい
て,甲2〜6に記載するアルコキシシラン化合物を用いることが容易想到であると
は認められない。
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2020.06.26
令和1(行ケ)10077 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年6月11日 知的財産高等裁判所(1部)
進歩性判断における相違点の認定については、「まとまりのある構成を単位として認定するのが相当であり,かかる観点を考慮することなく,相違点をことさらに細かく分けて認定し,各相違点の容易想到性を個々に判断することは,進歩性の判断を誤らせる結果を生じることがあり得るものであり,適切でない」と判断されました。ただ、結論に影響なしとして取り消しはされませんでした。なお、一事不再理の「同一証拠」についても言及しています。\n
もっとも,発明の進歩性の判断に際し,本件発明と対比すべき主引用発明は,
当業者が,出願時の技術水準に基づいて本件発明を容易に発明をすることができた
かどうかを判断する基礎となるべき具体的な技術的思想でなければならない。そし
て,本件発明と主引用発明との間の相違点に対応する副引用発明があり,主引用発
明に副引用発明を適用することにより本件発明を容易に発明をすることができたか
どうかを判断する場合には,主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆,技術分野
の関連性,課題や作用・機能の共通性等を総合的に考慮して,主引用発明に副引用\n発明を適用して本件発明に至る動機付けがあるかどうかを判断するとともに,適用
を阻害する要因の有無,予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断する\nこととなる。
このような進歩性の判断構造からすれば,本件発明と主引用発明との間の相違点\nを認定するに当たっては,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構\n成を単位として認定するのが相当であり,かかる観点を考慮することなく,相違点
をことさらに細かく分けて認定し,各相違点の容易想到性を個々に判断することは,
進歩性の判断を誤らせる結果を生じることがあり得るものであり,適切でない。
ウ 前記アのとおり,本件発明1と引用発明の一致点及び相違点が本件審決の認
定したとおりのものであることについては,当事者間に争いがない。
しかし,前記イで述べたところに照らせば,本件審決が認定した相違点のうち,
少なくとも相違点4ないし6に係る構成は,グラブバケット自体の水中での抵抗を\n減少させて降下時間を短縮し,グラブバケットが掴み物を所定の容量以上に掴んだ
場合でも該グラブバケットの内圧上昇に起因する変形,破損を引き起こすことがな
いようにするという技術的課題の解決に向けられたまとまりのある構成であるから,\n本件において,相違点4ないし6は,本来,次のとおりに認定すべきものであった。
(相違点A)
本件発明1においては,シェルカバーの一部に形成された空気抜き孔に取り付け
られた「開閉式のゴム蓋を有する蓋体」が,「シェルを左右に広げたまま水中を降下
する際には上方に開いて水が上方に抜け」るとともに,「シェルが掴み物を所定容
量以上に掴んだ場合にも,内圧の上昇に伴って上方に開」き,「グラブバケットの水
中での移動時には,外圧によって閉じられる」ものであるのに対し,引用発明にお
いては,掩蓋の一部に形成された空気抜きのための開口に取り付けられた「開閉式
の逆止弁」が,「シエルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて空
気が上方に抜けるとともに,バケットを海上に引き上げる場合に閉じられる」が,
「シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開」
くか否かは明らかでない点。
エ 本件発明1と引用発明との相違点は,本来,前記ウのとおりに認定すべきも
のであった。しかしながら,この点を措き,本件審決の認定したところ及び当事者
の主張に従い,相違点6の判断の当否として検討してみても,後記(3)のとおり,本
件審決の判断に誤りがあるとはいえない。
・・・
3 特許法167条又は信義則の違反をいう被告の主張について
(1) 被告は,本件無効審判における事実及び証拠は,別件無効審判のそれと実質
的に同一であるから,本件無効審判の請求は,特許法167条の規定に違反し,「紛
争の蒸し返し防止」及び「紛争の一回的な解決」の要請に反し,許されない旨主張す
るので,事案に鑑み,以下,判断する。
(2) 別件無効審判の経緯は,前記第2の1(2)認定のとおりであり,本件特許につ
いて,平成22年12月14日付け別件無効審判の請求以来,約7年4月間の長期
間にわたり,4回の審決と3回の判決,1回の決定がされたことが認められる。
現行特許法が,同一の請求人についても,同法167条の場合を除いて,何回で
も,かつ,時期的制限もなく(同法123条3項),無効審判を請求することのでき
る制度を採用していることについては,特許権の安定や紛争の一回的解決の見地か
ら再検討の余地があるが,特許法167条は,「特許無効審判‥の審決が確定したと
きは,当事者‥は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求すること
ができない。」と規定している。そして,同条の趣旨は,(1)同一争点による紛争の蒸
し返しを許さないことにより無効審判請求等の濫用を防止すること,(2)権利者の被
る無効審判手続等に対応する煩雑さを回避すること,(3)紛争の一回的な解決を図る
こと等にあると解され,無効審判請求において,「同一の事実」とは,同一の無効理
由に係る主張事実を指し,「同一の証拠」とは,当該主張事実を根拠づけるための実
質的に同一の証拠を指すものと解される。
ところで,無効理由として進歩性の欠如が主張される場合において,特許発明が
出願時における公知技術から容易に想到できたというためには,(1)当該特許発明と,
引用例(主引用例)に記載された発明(主引用発明)とを対比して,当該特許発明と
主引用発明との一致点及び相違点を認定した上で,(2)当業者が主引用発明に他の公
知技術又は周知技術とを組み合わせることによって,主引用発明と相違点に係る他
の公知技術又は周知技術の構成を組み合わせることが当業者において容易に想到で\nきたことを示す必要がある。そうすると,主引用発明が異なれば,特許発明との一
致点及び相違点の認定が異なり,これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容
も異なってくるから,無効理由としても異なることになる。
したがって,進歩性の欠如という無効理由について,主引用発明が異なるときは,
「同一の事実」に当たらないことになる。
(3) これを本件についてみると,別件無効審判において,主引用発明とされたの
は,甲8及び甲9に記載された各発明であり,本件の主引用例(甲7)は,別件無効
審判では提出されていない。主引用例から認定される発明(主引用発明)が別件無
効審判で主張された主引用発明と異ならなければ,無効理由としても同一と評価で
きるが,本件審決は,別件無効審判のそれとは異なる発明(掩蓋に逆止弁が取り付
けられた構成を含むもの)を甲7の記載から認定している。浚渫用グラブバケット\nにおいて逆止弁に技術的意義があることは明らかであるから,本件無効審判の主引
用発明が別件無効審判のそれと異ならないということはできない。
したがって,現行法下の無効審判請求及び審決取消訴訟においても,「紛争の蒸し
返し防止」及び「紛争の一回的な解決」の要請を満たすような主張立証がされるべ
きことは,被告の主張するとおりであるものの,本件においては,理由がない。
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2020.06.19
令和1(行ケ)10116 審決(拒絶)取消 令和2年5月20日判決 審決取消(2部) 特許権 (回転ドラム型磁気分離装置) 新規性,進歩性,相違点の判断
相違点の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
本件補正発明では,第1の回転ドラムと底部材との間にクーラント液の流路を
形成するのに対し,引用発明は,上記のような流路を形成しているか否かが不明な
点
ウ これに対し,被告は,引用文献1においては,タンク17の底部が底部
材に相当し,マグネットドラム27とタンク17の底部との間に混濁液の流路が形
成されるとして,相違点3は存在しないと主張する。
(ア) しかし,本件補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,「・・・前記使
用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流
れ,・・・前記第2の回転ドラムに付着した磁性体を掻き取るスクレパーと,前記第
1の回転ドラム下部の流路を形成する底部材とを備え,前記スクレパーにより掻き
取られた磁性体が大きくなった状態のまま,前記使用済みクーラント液の流れに沿
って前記第1の回転ドラムへ誘導されることを特徴とする回転ドラム型磁気分離装
置。」というものであり,同記載からすると,第2の回転ドラムから第1の回転ドラ
ムに向かうクーラント液は,第 1 の回転ドラム下部に第 1 の回転ドラムと底部材と
の間に形成された流路を流れるものであって,スクレパーによって掻き取られた磁
性体を第1の回転ドラムに誘導するものであると解される。そして,このことは,
本件明細書に,「スクレパー27は,第1の回転ドラム13の下部の流路を形成する
底部材30に連結されており,掻き取られた不要物(磁性体)は第1の回転ドラム
13へと誘導される。」(段落【0041】),「スクレパー27は,第1の回転ドラム13の下部の流路を形成する底部材に連結されていれば足りるので,第2の回転ド
ラム21側から第1の回転ドラム13に向かって下降するよう傾斜していても良
い。」(段落【0053】),「図7に示すように,本実施の形態に係る回転ドラム型磁気分離装置は,第2の回転ドラム21の外筒29に当接するスクレパー27が,第
2の回転ドラム21側から第1の回転ドラム13側へ傾斜するよう設けられてい
る。」(段落【0054】),「これにより,スクレパー27で書き取られた第2の回転ドラム21に付着した不要物が,傾斜に沿って第1の回転ドラム13側へと流れに
乗って移動しやすく,第1の回転ドラム13により確実に回収することが可能とな\nる。」(段落【0055】)と記載されていることからも,裏付けられているというこ
とができる。
したがって,本件補正発明の特許請求の範囲の「流路を形成する」とは,第2の
回転ドラムから第1の回転ドラムに向かうクーラント液の流路を形成するものと解
すべきである。
(イ) 引用文献1には,マグネットドラム27(第1の回転ドラムに相当)
とタンク17の底部との間にマグネットドラム25(第2の回転ドラムに相当)か
らマグネットドラム27に向かう混濁液の流れが生じていることは記載されていな
い(甲1)から,相違点3’は存在し,被告の上記主張は理由がない。
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2020.06.19
令和1(行ケ)10118 審決(無効・不成立)取消 令和2年6月17日判決 請求棄却(2部)特許権 (アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン訪導体を含有する局所的眼科用処方物)進歩性,顕著な効果の有無,判決の拘束力
進歩性の判断に誤りがあるとして、最高裁で取り消された事件の差戻審の判断です。予測できない効果ありとして進歩性ありと判断されました。\n
まず,本件優先日当時,本件化合物について,ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率が30〜2000μMまでの濃度範囲において濃度依存的に上昇し,最大で92.6%となり,この濃度の間では,阻害率が最大値に達した用量(濃度)より高用量(濃度)にすると,阻害率がかえって低下するという現象が生じないことが明らかであったことを認めることができる証拠はない。
(イ)次に,ケトチフェンの効果から,本件化合物の効果を予測することができたかどうかについて判断する。\n
a 甲1によると,Ketotifen(ケトチフェン)とKW−4679(本件化合物のシス異性体の塩酸塩)は,いずれも,モルモットの結膜からのヒスタミンの遊離抑制効果については有意でないと評価がされているが,甲32には,Ketotifen(HC)(ケトチフェン)点眼液のヒスタミンの遊離抑制効果をスギ花粉症患者の眼球への投与実験によって検討したところ,アレルギー反応の誘発後,5分及び10分後の涙液中ヒスタミン量は,対照眼と比べて,有意なヒスタミン遊離抑制効果がみられ,ヒスタミン遊離抑制率は,誘発5分後で67.5%,誘発10分後で67.2%であったことが記載されている。これらによると,ケトチフェンは,ヒトの場合においては,モルモットの実験結果(甲1)とは異なり,ヒト結膜肥満細胞安定化剤としての用途を備えており,ヒスタミン遊離抑制率は,誘発5分後で67.5%,誘発10分後で67.2%であることが認められる。
もっとも,本件優先日当時,ケトチフェンがヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制率について30μM〜2000Mの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであったと認めることができる証拠はない。なお,甲39は,本件優先日後に公刊された刊行物であって,その記載を参酌してケトチフェンが上記で認定したものを超える効果を有していると認めることはできない。b甲1において,Ketotifen(ケトチフェン)及び本件化合物と同様に,モルモットの結膜におけるヒスタミンの遊離抑制効果を有しないとされているChlorpheniramine(クロルフェニラミン)については,本件優先日当時,ヒト結膜肥満細胞の安定化効果を備えることが当業者に知られていたと認めることができる証拠はない。また,本件化合物やケトチフェンと同様に三環式骨格を有する抗アレルギー剤には,アンレキサクノス(甲1のAmelexanox),ネドクロミルナトリウムが存在する(甲1,11,19,31,弁論の全趣旨)ところ,アンレキサクノスは有意なモルモットの結膜からのヒスタミン遊離抑制効果を有している(甲1)が,本件化合物は有意な効果を示さないこと(甲1),ネドクロミルナトリウムは,ヒト結膜肥満細胞を培養した細胞集団に対する実験においてヒトの結膜肥満細胞をほとんど安定化しない(本件明細書の表1)が,本件化合物は同実験においてヒトの結膜肥満細胞に対して有意の安定化作用を有することからすると,三環式化合物という程度の共通性では,ヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果につき,当業者が同種同程度の薬効を期待する根拠とはならない。さらに,ケトチフェンは各種実験において本件化合物(又はその上位概念の化合物)との比較に用いられており(甲208〜210。ただし,甲210は,本件優先日後の文献である。),甲1では,ケトチフェンは本件化合物と並べて記載されているが,ケトチフェンと本件化合物の環構\造や置換基は異なるから,上記のとおり比較に用いられていたり,並べて記載されているからといって,当業者が,ケトチフェンのヒスタミン遊離抑制効果に基づいて,本件化合物がそれと同種同程度のヒスタミン遊離抑制効果を有するであろうことを期待するとはいえない。
原告は,ケトチフェンが,三環式骨格を有する抗アレルギー剤である点で本件化合物に共通し,本件化合物の上位概念の化合物やKW−4679などの効果において,比較対象とされている(甲208〜210)ことから,ケトチフェンの効果の程度から,KW−4679(本件化合物)の効果の程度を推認することは可能であったと主張するが,原告の主張を採用することはできない。したがって,甲1の記載に接した当業者が,ケトチフェンの効果から,本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する効果について,前記アのような効果を有することを予\測することができたということはできない。
(ウ)さらに,本件優先日当時,甲20,34及び37の文献があったことから,本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果をこれらの文献から予測できたかについて判断する。a甲20には,スギ花粉症患者の眼球への投与実験における塩酸プロカテロ−ル点眼液のヒスタミン遊離抑制率が,誘発5分後で0.003%点眼液が平均81.7%,0.001%点眼液が平均81.6%,0.0003%点眼液が平均79.0%,誘発10分後で0.003%点眼液が平均90.7%,0.001%点眼液が平均89.5%,0.0003%点眼液が平均82.5%であることが記載されている。また,甲34には,スギ花粉症患者の眼球への投与実験におけるDSCG(クロモグリク酸二ナトリウム)2%点眼液のヒスタミン遊離抑制率が,誘発5分後で平均73.8%,誘発10分後で平均67.5%であることが記載されている。\nさらに,甲37には,スギ花粉症患者への眼球の投与実験におけるペミロラストカリウム点眼液のヒスタミン遊離抑制率が,誘発5分後で0.25%点眼液が平均71.8%,0.1%点眼液が平均69.6%,誘発10分後で0.25%点眼液が平均61.3%,0.1%点眼液が平均69%であることが記載されている。
b しかし,本件化合物と,塩酸プロカテロ−ル(甲20),クロモグリク酸二ナトリウム(甲34),ペミロラストカリウム(甲37)は,化学構造を顕著に異にするものであり,前記(イ)bのとおり,三環式骨格を同じくするアンレキサクノスと本件化合物のモルモットの結膜からのヒスタミンの遊離抑制効果が異なり,ネドクロミルナトリウムと本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果が異なることからすると,ヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果も,その化学構造に応じて相違することは,当業者が知り得たことであるから,前記aの実験結果に基づいて,当業者が,本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果を,前記a記載の化合物と同様の程度であると予\測し得たということはできない。また,前記aの各記載から,塩酸プロカテロ−ル(甲20),クロモグリク酸二ナトリウム(甲34),ペミロラストカリウム(甲37)がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率について30μM〜2000Mの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであると認めることはできず,他に,これらの薬剤がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率について30μM〜2000Mの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであると認めることができる証拠はない。
したがって,前記aの各記載から,本件化合物のヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害について前記アのような効果を有することを予測することができたということはできない。\n
ウ 原告は,本件発明1の顕著な効果が認められるためには,本件化合物が0.0001〜5w/v%の濃度の全範囲で,かつ,本件明細書の表1に記載された29.6%〜92.6%というヒスタミン放出阻害率の全範囲でヒスタミン放出阻害率が顕著な効果を有しなければならないと主張する。しかし,本件発明1の効果は,30μM〜2000μMの間でヒスタミン放出阻害率が濃度依存的に上昇し,最大値92.6%となり,この濃度の間では,阻害率が最大値に達した用量(濃度)より高用量(濃度)にすると,阻害率がかえって低下するという現象が生じていないことにあるから,0.0001〜5w/v%の濃度の全範囲で,かつ,本件明細書の表\1に記載された29.6%〜92.6%というヒスタミン放出阻害率の全範囲で,他の薬物のヒスタミン放出阻害率を上回るなどの効果を有することが必要とされるものではない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
エ 以上によると,本件発明1の効果は,当該発明の構成が奏するものとして当業者が予\測することができた範囲の効果を超える顕著なものであると認められるから,当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
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平成30(行ヒ)69 審決取消請求事件 令和元年8月27日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻 知的財産高等裁判所
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2020.06.12
令和1(行ケ)10085 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年6月4日 知的財産高等裁判所(3部)
ゲームの特許について進歩性無しとした審決が取り消されました。理由は「「ゲーム上の取決めにすぎない」として,他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断できない」というものです。出願人は「グリー(株)」です。
相違点6に係る構成が容易想到であると判断するに当たっての審決の論理構\成は,次のとおりである。(1)「手持ちのカード」が他のフィールド又は領域への移動に伴いその数を減
じたときに「手持ちのカード」を補充するという構成を採用するに当たって,どのフィールド又は領域への移動を補充の契機とするかはゲーム上の\n取決めにすぎない。
(2) よって,第7領域への移動をカードの補充の契機とする引用発明の構成を,第3領域(敵ヒーローへの攻撃を行うための領域)への移動を補充の\n契機とする本願発明の構成に変更することは,ゲーム上の取決めを変更することにすぎない。\n(3) よって,引用発明の構成を本願発明における構\成とすることも,ゲーム
上の取決めの変更にすぎず,当業者が容易に想到し得た。
(2) しかしながら,審決の上記論理構成は,次のとおり不相当である。ア 審決は,引用発明の認定に当たって「カード」の種類に言及していない
が,CARTEによれば,第10領域から第11領域へのカードの補充の
契機となるのは,「シャードカード」(深緑の地色に白抜きで円形と三日
月形が表示されているカード)の第11領域から第7領域への移動及び第7領域から第6領域への移動である(00分39秒〜40秒,00分49\n秒〜50秒等)。
そして,「シャードカード」は,専ら「マナ」(カードのセッティング
やスキルの発動に必要不可欠なエネルギー<00分42秒>)を増やすため
に用いられるカードであり,その移動先はシャードゾーン(第7領域)又
はマナゾーン(第6領域)に限られ,敵との直接の攻防のためにアタック
ゾーン(第3領域)又はディフェンスゾーン(第4領域)に移動させられ
ることはない。これに対し,「クリーチャーカード」は,敵のクリーチャ
ーやヒーローとの攻防に直接用いられるものであって,第11領域から適
宜アタックゾーン(第3領域)又はディフェンスゾーン(第4領域)に移
動させられ,攻防の能力を表\す「APの値」及び「HPの値」を有してい
る。
イ このように,引用発明におけるカードの補充は,本願発明におけるそれ
との対比において,補充の契機となるカードの移動先の点において異なる
ほか,移動されるカードの種類や機能においても異なっており,相違点6は小さな相違ではない。そして,かかる相違点6の存在によって,引用発\n明と本願発明とではゲームの性格が相当程度に異なってくるといえる。し
たがって,相違点6に係る構成が「ゲーム上の取決めにすぎない」として,他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断すること\nは,相当でない。
(3) 被告の主張について
被告は,手持ちのカードの数が減じたときにこれを補充する構成(乙7,乙8)とするかこれを補充しない構\成(乙9,乙10)とするかは,ゲーム制作者がゲームのルールを決める際に適宜決めるべき設計的な事項にすぎな
いから,引用発明において,第3領域(アタックゾーン)にカードを配置し
た場合でも第11領域の手持ちカードが補充されるようにすることは,何ら
技術的な困難性があることではなく,まさに,提供しようとするゲーム性に
応じたゲーム上の取決めにすぎない旨主張する。
しかしながら,相違点6は,ゲームの性格に関わる重要な相違点であって,
単にルール上の取決めにすぎないとの理由で容易想到性を肯定することはで
きないことは,(2)において説示したとおりである。。
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2020.06.12
令和1(行ケ)10075 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年5月28日 知的財産高等裁判所
一部のクレームについて、審決は進歩性ありと判断しましたが、知財高裁(1部)は、これを取り消しました。
イ 相違点2−4について
本件明細書には,「樹脂層40の原料は,低温接着性樹脂(低融点樹脂)であって,
熱ラミネート(熱融着)が可能なものであれば制限されない」(【0043】)との記載があるところ,かかる記載によれば,本件発明7の「熱ラミネート」との用途は,\n「熱封着樹脂層」に基づくものである。
一方,引用例2の「接着層となる…エチレン・メタクリル酸共重合体の金属塩な
どの,融点が85〜135℃のヒートシール性樹脂よりなるフィルム層」との記載
によれば,引用発明2Bの「融点が90℃のエチレン・メタクリル酸共重合体(C)
からなるC層」は,「ヒートシール性樹脂よりなるフィルム層」であり,熱封着樹脂
層である。
そうすると,本件発明7の「熱封着樹脂層」と引用発明2Bの「融点が90℃のエ
チレン・メタクリル酸共重合体(C)からなるC層」とは,ともに熱封着樹脂層であ
るから,「熱ラミネート」用であるとの点において,相違はないものと認められる。
したがって,相違点2−4は,実質的な相違点ではない。
ウ 小括
以上によれば,本件発明7は,当業者が引用発明2Bに基づいて容易に発明をす
ることができたものである。
(4) 本件発明8の容易想到性について
本件発明8は,本件発明7の「第1のスキン外層」をポリエチレン系樹脂,「コア
層」をポリプロピレン系樹脂,「第2のスキン内層」をポリプロピレン樹脂及びポリ
エチレン系樹脂から選択された1種以上,「熱封着樹脂層」をエチレンビニルアセテ
ート,エチレンメチルアセテート,エチレンメタクリル酸,エチレングリコール,エ
チレン酸ターポリマー,及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーより
なる群から選択された1種以上に,それぞれ限定したものである。
引用発明2Bの「融点が90℃のエチレン・メタクリル酸共重合体(C)からなる
C層」は,「ヒートシール性樹脂よりなるフィルム層」,すなわち,「熱封着樹脂層」
であるから,「エチレンメタクリル酸」を原料とする「熱封着樹脂層」が開示されて
いる。
また,引用発明2の基材層として,従来技術(甲33)に開示された構成を採用する動機付けがあることは,前記(2)アのとおりであるところ,甲33に開示された複
合フィルムは,ポリプロピレン,ポリプロピレン,ポリエチレンからなるから,「第
1のスキン外層」をポリエチレン系樹脂,「コア層」をポリプロピレン系樹脂,「第2
のスキン内層」をポリプロピレン樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された1種
以上にすることも容易に想到できる。
他方,阻害事由の主張はない。
したがって,引用発明2Bの層構成を本件発明8のものとすることは,当業者が容易に想到することであるから,本件発明8は,当業者が引用発明2Bに基づいて\n容易に発明をすることができたものである。
(5) まとめ
本件発明6は,引用例2に記載された発明から容易に発明できたものではないが,
本件発明7,8は,いずれも,引用例2に記載された発明から容易に発明できたも
のであり,取消事由2は,本件発明7,8に係る部分に限り,理由がある。
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2020.04. 2
令和1(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月19日 知的財産高等裁判所
発明の具体的な作用・機能も,引用発明1とは大きく異なるので、阻害要因ありとして進歩性無しとした審決が取り消されました。
本件審決は,引用発明1及び甲4発明の装身具は,いずれも,装身
具を簡単にシャツの第一ボタンに装着できるようにするという共通の課
題を有し,また,これを着用するに当たり,切欠き状の部分にボタンが
はまり込むことで装着するという共通の機能を有するから,引用発明1のボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的な形状として,甲\n4発明の係止導孔を有する円形の釦挿通孔の態様を採用し,相違点2に
係る本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得たことである旨判断した。\nしかしながら,前記(2)イのとおり,引用発明1は,簡易型のネクタイ
本体を取付ける着用具を改良することによって,着用状態における位置
ずれや傾きを生じ難く,低コストで生産でき,そして着用操作も容易で
ある簡易着用具付きネクタイを提供することを課題とするものである。
一方,前記ア(イ)のとおり,甲4に記載された考案は,襟飾り,生花
等の種々の装飾小物,殊に襟前に止着する装身具について,着脱が簡単
であり,かつ,衣服の損傷がほとんどない装身具取付台を提供すること
を課題とするものであるが,かかる装身具として,蝶ネクタイやネクタ
イを例示するものではなく,蝶ネクタイやネクタイを着用する際に固有
の問題があることを指摘するものでもない。
したがって,引用発明1と甲4発明は,その具体的な課題において,
大きく異なるものといえる。
また,発明の作用・機能をみても,引用発明1は,基板部,ネクタイ取付部及び一対の突出片から成る簡易着用具を備え,ネクタイ取付部の\n裏側に位置する基板部に,その下縁を凹状に切り欠いたボタン係合部を
設け,その切欠きにシャツの第一ボタンを係合させるとともに,一対の
突片を襟下へ挿入することで,簡易蝶ネクタイの良好な着用状態及び簡
単な着用操作を実現するものである(前記(2)ア(オ))。
そして,甲1には,引用発明1に関し,(1)「ボタン係合部19」の奥
部は,ボタン取付け糸の部分を丁度跨ぐことができる程度の小円弧状を
なすものとし,その幅は,ボタンとの係合状態において横方向にほとん
ど移動しない程度のものとすること,(2)着用時にボタンとの係合を容易
にするとともに,着用時に基板部2の片側がボタン穴に入り込むことを
防ぐために,「ボタン係合部19」の下方を,ラッパ状に下方へ拡大し
て基板部2の下縁に達するものとすることの記載(前記(2)ア(エ)a)が
ある。これは,結び目の陰に隠れて見えない状態のボタン係合部を,上
方から探りながらも容易に装着できるようにするための工夫といえるか
ら,簡易着用具1の基板部2における,ボタン係合部19の配置位置及
びその形状を引用発明1の構成とすることは,引用発明1の課題を解決するために,重要な技術的意義を有するものであることを理解できる。\n他方,甲4発明は,取付台主板に対して上方に係止導孔を連続形成し
た釦挿通孔を穿設すると共に,他の一部に背面方向に突出するピンを突
設し,ピン先端にピン挟持機構を有するピン挿入キャップを冠着することで,釦の確実な止着と,各種装身用小物の衣類への簡単な着脱を実現\nするものであって(前記ア(イ)b),第1ボタンへの係合方法,衣類への
確実な止着及び簡単な着脱の実現手段において,引用発明1と大きく異
なるものであるから,発明の具体的な作用・機能も,引用発明1とは大きく異なるものといえる。\n
加えて,甲4の記載事項(前記ア(ア)c)によれば,甲4発明の装身
具取付台は,衣類に装着する際に,第1ボタンの前部からアプローチし
て,釦挿通孔(2)に挿入した後,装身具取付台を鉛直方向の下部に移
動させ,係止導孔(3)を第1ボタンの取付糸に係合するものであるか
ら,当業者であれば,第1ボタンを釦挿通孔(2)に挿入する際に,こ
れらを視認できる状態でないと,ボタンの着脱動作が困難となることを
理解できる。
そうすると,仮に,引用発明1のボタン係合部19における切欠き状
の部分の具体的な形状として,甲4発明の「細幅の係止導孔(3)を有する
円形の釦挿通孔(2)」の態様を採用した場合には,ボタン係合部19の前
側に位置し,その前側にネクタイが取り付けられるネクタイ取付部3が
存在するため,簡易蝶ネクタイを着用する際に,簡易蝶ネクタイ及びネ
クタイ取付部に隠されて,第1ボタン及びボタン穴を視認することがで
きないことになる。そのため,ボタン係合部を切欠き状にする場合より
も,着用具へのボタンの係合が困難となることは明らかであるといえる。
(イ) 以上によれば,引用発明1と甲4発明とは,発明の課題や作用・機
能が大きく異なるものであるから,甲1に接した当業者が,甲4の存在を認識していたとしても,甲4に記載された装身具取付台の構\成から,「細幅の係止導孔(3)を有する円形の釦挿通孔(2)」の形状のみを取り出し,
これを引用発明1のボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的
な形状として採用することは,当業者が容易に想到できたものであると
は認め難く,むしろ阻害要因があるといえる。
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2020.04. 2
平成31(行ケ)10019等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月25日 知的財産高等裁判所(2部)
サポート要件・実施可能要件、さらに進歩性について無効主張をしましたが、理由無しとした審決が維持されました。
1997年(平成9年)に執筆された甲8の共同執筆者の一人は,クラマー博士
であるところ,甲8は,上記乙39,40を引用し,後述のとおり,甲8の実験で
観察されたグルタミン酸の排出が担体によるものであるとの結論を導いている(甲
8,乙39,40,42)。
イ 上記アに関連し,原告らは,証拠(甲47〜50)からすると,本件優
先日当時,コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて,グルタミン酸が,浸透圧
に応じて浸透圧調節チャネルから排出されることが周知となっていたと主張する。
しかし,甲47には,「特別な条件下で,大腸菌がトレハロースを排出した観察結
果(StyrvoldとStrem 1991)およびコリネバクテリウム・グル
タミカムがグルタミン酸を排出した観察結果(Shiioら 1962)は我々の
研究と関連している。」との記載があるにすぎず,これだけで,原告らが主張するよ
うな技術常識があったと認めるには足りない。
また,甲48,49はいずれも大腸菌に関する文献であって,そこからコリネバ
クテリウム・グルタミカムをはじめとするコリネ型細菌におけるグルタミン酸排出
の技術常識の存在を認めることはできない。
甲50には,その5頁の図に関して,コリネバクテリウム・グルタミカムの低浸
透圧における相溶性溶質の排出が,少なくとも3種類の機械受容チャネル(浸透圧
調節チャネル)を通じて起こる旨の記載がある。しかし,後述する甲8の記載から
すると,浸透圧調節チャネルを通じた排出は全ての溶質について等しく行われるも
のではなく,特定の溶質について選択的に行われるのであると認められるから,上
記排出されるべき「相溶性の溶質」の中にグルタミン酸が含まれるのかは,上記図
だけからでは必ずしも明らかになっているとはいえず,甲50から原告らの主張す
る技術常識の存在を認めることはできない。
以上からすると,原告らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(2) 甲8発明の認定の誤りについて(取消事由2)
前記(1)の事実関係を踏まえて,甲8において,原告らが主張するように,グルタ
ミン酸が浸透圧調節チャネルから排出されたと認定できるかについて検討する。
・・・
甲8のTable 1.には,上記のとおり,低浸透圧の状態になった際にグルタ
ミン酸が排出されていることが記載されているが,beforeの値を基準にその
排出量を検討すべきとする原告らの主張を前提としても,グルタミン酸は,浸透圧
が540mOsmになるまでほとんど排出されず,540mOsmになって20%
が排出されているにすぎないところ,これは,全部で11種類検討されている溶質
の中でATPに次いで小さな値である。そして,上記のようなTable 1.の
結果を受けて,クラマー博士をはじめとする甲8の執筆者らは,グリシンベタイン
など多くが排出されている溶質については浸透圧調節チャネルから排出されたとし
つつ,グルタミン酸の排出については,浸透圧調節チャネルではなく,担体による
排出であるとの結論を導いている。
Table 1.でグルタミン酸に次いで排出が制限されていることが観察された
リジンについては,前記(1)アで認定したとおり,本件優先日当時までに,その輸
送を担う担体がクラマー博士らによって発見されており,グルタミン酸の排出につ
いてもリジンなどと同様に担体によるものであるとの説がクラマー博士らによって
提唱されていた。そのクラマー博士が,自ら実験をした上でTable 1.の結果
を分析し,甲8の共同執筆者の一人として上記のような結論を導いていることから
すると,甲8に接した当業者が,それと異なる結論を敢えて着想するとは通常は考
え難いところである。
以上からすると,原告らが主張するように,当業者が,Table 1.の結果を
受けて,甲8に記載された浸透圧調節チャネルをグルタミン酸の排出と関連付けて
認識すると認めることはできないというべきである。
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2020.03.30
平成31(行ケ)10032 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月25日 知的財産高等裁判所(4部)
特別部、いわゆる大合議の判断がなされた事件(平成31(ネ)10003)の関連事件です。無効理由無しとした審決が維持されました。
原告は,(1)甲7の1には,甲7の1記載のマッサージ器の開き角度の
構成により,一対のローラを用いて,マッサージ器をある一方向に移動\nさせることで,一対のローラが,皮膚をひだよせしたり,押し曲げたり,
引っ張ったりし,逆方向にマッサージ器を移動させることで,皮膚が弛
緩したり,ほぐしたりする効果を奏することの開示があること,(2)甲7
の1記載のマッサージ器のローラによって,筋肉が引っ張られ,押して
ほぐされるのであれば,それと並行して毛穴が収縮し,毛穴の中の汚れ
が押し出される効果も認められるから,甲1−1発明の油分の浮き上が
らせ効果及びゲルマニウムの浸透効果がより促進されることに照らすと,
当業者は,甲1−1発明において,甲7の1記載のマッサージ器の前記
(ア)bの構成を適用する動機付けがあるといえるから,「ローラの回転\n軸が,柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ,一対のローラ
の回転軸のなす角が鈍角に設けられ」た構成(相違点2に係る本件特許\n発明1の構成)とすることを容易に想到することができたものである旨\n主張する。
そこで検討するに,前記ア(イ)a認定のとおり,甲1−1発明のロー
ラ支持部200は,別紙2の図1に示すとおり,横軸部210と縦軸部
220とで形成された「T字形状」であり,2つのローラ100,10
0が単一の横軸部210の両端に取り付けられているから,2つのロー
ラの回転軸が共通する一軸の構成であり,これにより2つのローラ10\n0,100は平行な位置関係にあることを理解できる。
他方で,甲7の1記載のマッサージ器は,別紙5の正面図及び背面図
に示すように,「一対のローラの回転軸が,柄の長軸方向の中心線とそ
れぞれ鋭角に設けられ,一対のローラの回転軸のなす角が鈍角」に設け
られており,一対のローラの回転軸は,別異の軸で構成された2軸の構\
成であり,これにより2つのローラは,甲1−1発明と比べて接近した
位置関係にあることを理解できる。
このように甲1−1発明と甲7の1記載のマッサージ器は,2つのロ
ーラの回転軸の構成が異なるところ,甲1には,2つのローラ100,\n100の回転軸を1軸から2軸とすることについての記載も示唆もない。
かえって,甲1には,「前記ローラ支持部は二股になっており,2つの
ローラが離れて支持されていると,皮膚に与える機械的な刺激が大きく
なるというメリットがある。」(【0015】)との記載があり,2つ
のローラが離れていることが望ましいことを示唆する記載がある。
また,甲7の1の「意匠の創作内容の要点」欄には,「本願マッサー
ジ器は,人体の部位を引っ張り,押して筋肉をほぐすマッサージ器であ
って,安定感と立体感を強調し,新しい美感を生じさせるようにしたこ
とを創作内容の要点とする。」との記載があるが,一方で,甲7の1に
は,ローラの材質,表面の構\成等についての記載はなく,「人体の部位
を引っ張り,押して筋肉をほぐす」ことによって皮膚に対していかなる
効果が生じるかについての具体的な開示はない。
そうすると,甲1及び甲7の1に接した当業者において,甲1−1発
明において,2つのローラの回転軸が1軸より複雑な構造である2軸の\n甲7の1記載のマッサージ装置の上記構成を適用する動機付けがあるも\nのと認めることはできない。
以上によれば,当業者が甲1−1発明と甲7の1に記載された発明に
基づいて,相違点2に係る本件特許発明1の構成を容易に想到すること\nができたものと認めることはできない。
◆判決本文
関連する審決取消訴訟はこちらです。
◆令和1(行ケ)10090
◆令和1(行ケ)10066
◆平成31(行ケ)10057
◆平成30(行ケ)10160
関連侵害訴訟および審決取消訴訟です。
◆平成31(ネ)10001等
◆平成30(行ケ)10049
◆平成30(行ケ)10048
◆平成29(ネ)10086
◆平成28(ワ)4356
◆平成30(行ケ)10013
◆平成29(行ケ)10201
◆平成29(行ケ)10095
◆平成28(ワ)6400
◆平成31(ネ)10003
原審
◆平成28(ワ)5345
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2020.03.26
平成31(行ケ)10018等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月19日 知的財産高等裁判所
無効理由として、実施可能要件、サポート要件、進歩性が争われました。裁判所は、無効理由無しとした審決を維持しました。\n
前記(1)イのとおり,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの核酸
配列(図1)が記載されており,コリネ型細菌の染色体上の,GDH
遺伝子のプロモーター配列の−35領域に「TGGTCA」配列及び−10
領域に「CATAAT」配列を有し,CS遺伝子のプロモーター配列の−3
5領域に「TGGCTA」配列及び−10領域に「TAGCGT」配列を有するこ
とが示されている。また,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの
セットにおいて,最もよく保存されている配列は-35 領域の「ttGcca.a」
及び-10 領域の「ggTA.aaT」であることが記載されている(図5)。
一方,甲2には,コリネ型細菌を用いた発酵法によるグルタミン酸
の製造方法において,グルタミン酸生合成系遺伝子であり,コリネ型
細菌の染色体上の特定の遺伝子であるGDH遺伝子及びCS遺伝子の
プロモーター配列について,その−35領域及び−10領域の塩基配
列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することの動機付けとな
るような記載はない。
したがって,甲2発明に接した当業者は,甲2の原告ら指摘箇所を
認識していたとしても,甲2発明において,GDH遺伝子のプロモー
ター配列の−35領域及び−10領域の配列と目的遺伝子の発現量の
強化の程度及びそれによるグルタミン酸生産能の向上との関係に着目\nし,グルタミン酸を高収率で生産する能力を有する変異株を得るため\nに,GDH遺伝子のプロモーター配列の−35領域及び−10領域の
配列を本件発明1−1の配列に置換する動機付けはないから,当業者
は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。\nb これに対し原告らは,(1)L−グルタミン酸の生産を増強するために
は,L−グルタミン酸に至るまでの各反応に関与する酵素(CS,G
DH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいことは,本件優
先日前において技術常識であったこと,(2)E.coli において,プロモー
ターの−10領域及び−35領域をコンセンサス配列に変更ないし近
づけることによって,目的遺伝子の発現を強化できることも,本件優
先日前において技術常識であったこと,(3)甲2には,コリネ型細菌と
E.coli のコンセンサス配列が同等であることや,コリネ型細菌のプロ
モーターの−10領域のコンセンサス配列が「TA.aaT」であり,この
3番目の塩基「.」として,相対的に「T」が最も頻度が高いことが記
載されていることからすると,甲2の記載は,当業者に対し,甲2発
明のGDH遺伝子のプロモーター配列の−10領域(CATAAT)の1番
目の塩基「C」を「T」に変異して,コンセンサス配列,すなわち本件
発明1−1の構成(「TATAAT」)とし,同−35領域(「TGGTCA」)
の1番目〜3番目の塩基を保存性の高い「TTG」にするために,2番目
の塩基「G」を「T」に変異して,本件発明1−1の構成(「TTGTCA」)
とすることを示唆するものである旨主張する。
しかしながら,仮に,本件優先日前において,L−グルタミン酸の
生産を増強するために,L−グルタミン酸の生成反応に関与する酵素
(CS,GDH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいこと
が知られていたとしても,当該酵素の遺伝子を増強する具体的な方法
は,相当多数のものが想定し得たものと考えられるのであって,かか
る方法として,本件発明1のように,目的遺伝子のプロモーターの特
定の領域に変異を導入する方法が知られていたことは認められない。
また,E.coli において,プロモーターの−10領域及び−35領域
をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子
の発現を強化できる場合があることが,本件優先日前において知られ
ていたとしても,コリネ型細菌について,これと同様の知見が存在し
ていたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,前記(1)イのとお
り,甲2には,C.グルタミカムにおけるプロモーターの活性と-35 及
び-10 のコンセンサス配列との類似性の間には,E.coliと異なり,相
関は確認できなかった旨が記載されている。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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2020.03.26
令和1(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月19日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が、動機付け無し・阻害要因ありとして取り消されました。
本件審決は,引用発明1及び甲4発明の装身具は,いずれも,装身
具を簡単にシャツの第一ボタンに装着できるようにするという共通の課
題を有し,また,これを着用するに当たり,切欠き状の部分にボタンが
はまり込むことで装着するという共通の機能を有するから,引用発明1\nのボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的な形状として,甲
4発明の係止導孔を有する円形の釦挿通孔の態様を採用し,相違点2に
係る本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得た\nことである旨判断した。
しかしながら,前記(2)イのとおり,引用発明1は,簡易型のネクタイ
本体を取付ける着用具を改良することによって,着用状態における位置
ずれや傾きを生じ難く,低コストで生産でき,そして着用操作も容易で
ある簡易着用具付きネクタイを提供することを課題とするものである。
一方,前記ア(イ)のとおり,甲4に記載された考案は,襟飾り,生花
等の種々の装飾小物,殊に襟前に止着する装身具について,着脱が簡単
であり,かつ,衣服の損傷がほとんどない装身具取付台を提供すること
を課題とするものであるが,かかる装身具として,蝶ネクタイやネクタ
イを例示するものではなく,蝶ネクタイやネクタイを着用する際に固有
の問題があることを指摘するものでもない。
したがって,引用発明1と甲4発明は,その具体的な課題において,
大きく異なるものといえる。
また,発明の作用・機能をみても,引用発明1は,基板部,ネクタイ\n取付部及び一対の突出片から成る簡易着用具を備え,ネクタイ取付部の
裏側に位置する基板部に