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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

その他

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和5(行コ)10001 特許分割出願却下処分取消請求控訴事件 特許権 行政訴訟 令和5年9月28日 知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許料納付後、設定登録されてからした分割出願の却下処分について、不服申し立てを行いましたが、1審の東京地裁は却下処分は妥当と判断しました。知財高裁も同様です。
経過としては、7月7日特許査定謄本送達、同月20日特許料納付、同月29日設定登録、同月8月5日分割出願です。時期としては、分割出願日が設定登録の後となってます。査定謄本の送達日から30日以内(特44条1項2号)という要件は満たしていると争いましたが、設定登録後は「特許出願人」ではないと判断されました。
法解釈的には裁判所の解釈は正しいです。ただ、条文の規定も、ユーザフレンドリーからすると、同2号に「ただし、設定登録後は除く」と確認的に明記しておけば、このような問題は生じないと感じました。

特許出願の分割は、もとの特許出願の一部について行うものであるから、 分割の際にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要であり、法4 4条1項の「特許出願人」及び「特許出願」との文言は、このことを示すも のである。同項1号から3号は、これを前提に、分割の時的要件を定めるも のであり、これに反する控訴人の主張は、同項所定の「特許出願」、「特許出 願人」との文言を無視する独自の議論といわざるを得ず、採用できない。な お、控訴人は、法65条1項を「特許出願人」と記載されていても「特許権 者」と解釈すべき例として挙げるが、同項の「特許出願人」は「警告をした」 の主語でもあるところ、これが出願公開後、設定登録前の特許出願人を指す ことは明らかである。
また、控訴人は、設定登録後は分割出願できないとの処分行政庁の解釈は 法44条1項に関する改正法の立法趣旨に反する旨主張する。しかし、同項 2号が、特許料納付期限(法108条1項)と平仄を合わせる形で、特許査 定の謄本送達日から「30日以内」を分割出願の期限と定めたのは、同期限 内であれば、特許査定を受けた特許出願人の意思によって「特許出願人」た る地位を継続することが可能であることを踏まえて、当該特許出願人が、特\n許査定を受け入れてそのまま特許料の納付に進むのか、分割出願という選択 肢を行使するのかという表裏一体の判断を検討するための猶予\期間を付与 したものと理解することができる。したがって、改正法の内容は、特許出願 が特許庁に係属していることを分割出願の要件とするとの解釈と何ら矛盾 するものではなく、むしろこれと整合するものといえる。
また、中国、台湾における取扱いを述べる控訴人の主張は、各国工業所有 権独立の原則、工業所有権の保護に関するパリ条約4条G(2)第3文に照 らして、本件の判断に影響を及ぼすものとはいえない。
(2) 取消事由2について
控訴人は、特許登録について独占権発生という効果のほかに分割不可化という効果が生じるのであれば、当該効果の部分については特許出願人に通知されて初めて効果が生じる旨主張する。しかし、設定登録は分割不可化という効果を目的とする行政処分ではなく、設定登録によりもとの出願が特許庁に係属しなくなることの派生的効果として、結果的に適法な分割ができなくなるというにすぎないのであって、控訴人の主張は、前提を欠くというべきである。

◆判決本文

原審はこちら

◆令和4(行ウ)382

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令和3(ワ)14272  登録ドメイン名使用権確認請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年4月28日  東京地方裁判所

JPドメイン紛争処理手続において登録が取り消された裁定の取り消しを求めましたが、東京地裁は、裁定を維持しました。

2 争点2(紛争処理方針4条a項(iii)号の要件を満たすか)について
当事者の主張に沿って、紛争処理方針4条b項(iv)号所定の事情の有無につ いて検討する。
商業上の利得を得る目的の有無について
原告が「商業上の利得を得る目的」で本件ドメイン名を使用していること は当事者間に争いがない。 商品の出所について誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネッ ト上のユーザーを本件サイト等に誘引するために、本件ドメイン名を使用し ているか否かについて
ア 証拠(乙1ないし5)によれば、本件販売契約2の終了後である令和3 年2月8日当時、本件サイトにおいて、「VENOSAN」ブランドの被告 の商品が販売されていたことが認められる。 そして、本件サイトには、当該商品の商品名として「VENOSAN5 000」、「VENOSAN6000」、「VENOSAN7000」などと 記載されるとともに(乙1・1頁、乙2・6頁、乙3・1頁)、当該商品に 関連して、「スイス医療ブランド」(乙3・4頁)、「スイスのデザイン力」 (乙3・4頁)、「区分スイス製・一般医療機器(医療機器届出番号13B 3X10094000001)」(乙3・6頁)、「最新の弾性ストッキング がスイスから上陸しました。」(乙4・2頁)と記載されていたことが認め られる。
イ(ア) 加えて、令和3年2月8日当時、本件サイトにおいて、次の記載がさ れていたことが認められる(乙5)。 「2020年、ベノサンから新しくFOOTNURSEが誕生しま す!」「FOOTNURSEは、医療用着圧ソックスとして大ブレイクし\nた『ベノサン』から新しく誕生したブランドです。もともと『医療用』 に開発されていたベノサンの着圧ソックスが、このたび『健康な女性用』\nに新たなブランドを立ち上げました。」
(イ) また、令和3年9月22日当時、ベノサンジャパンが開設していたウ ェブサイトには、次の記載がされていたことが認められる(乙13)。 「FOOTNURSEは、…一般医療機器としてもしっかり認定され ています(医療機器届出番号13B3X10094000001)。」(同 3枚目)、「その点FOOTNURSEは、創業1883年の医療用弾性 ストッキングを50年以上にわたって製造している着圧ソックスの本場\n『SWISSLASTIC社』と、『ベノサン・ジャパン』が企画力・技 術力を結集させて、丁寧に編み込まれていますので…」(同4枚目)。
(ウ) そして、原告は、令和3年9月3日当時、被告と関係のない「FOO TNURSE」ブランドの商品をインターネット上のオンラインストア で販売していたことが認められる(乙7)。
ウ 前記アにおいて認定した本件サイトの記載を見た需要者は、「VENOS AN」という標章は、本件サイトで販売されている医療用弾性ストッキン グについてのスイス所在の製造元又は同製造元が使用するブランド名を示 すものと理解するのが通常と考えられる。また、「ベノサン」は「VENO SAN」の日本語読みに相当することからすると、前記イ(ア)の記載を見た 需要者は、「FOOTNURSE」ブランドの商品についても、「VENO SAN」ブランドの医療用弾性ストッキングと同じ製造元の商品であると 理解するといえる。また、前記1(3)アにおいて認定したとおり、本件サイ トのヘッダー部分に本件サイトを運営する会社又は店舗の名称と解し得る 態様で「ベノサン」との標章が付されていたことも考慮すると、上記記載 を見た需要者は、「FOOTNURSE」ブランドの商品も、「VENOS AN」ブランドの医療用弾性ストッキングと同じ製造元の商品であると誤 信したり、本件サイトが当該製造元、当該製造元の正規販売代理店又は当 該製造元と提携する者などによって運営されていると誤信するおそれがあ ると認められる。 そして、前記イ(イ)のとおり、「FOOTNURSE」ブランドの商品は 被告と何ら関係がないにもかかわらず、ベノサンジャパンが開設していた ウェブサイトに、「FOOTNURSE」ブランドの商品に被告が関与して いると理解できる程度の記載がされていることからすると、本件サイトの 前記イ(ア)の記載は、原告が、「FOOTNURSE」ブランドの商品の出 所について誤認混同を生ぜしめることを意図して掲載したものと認めるの が相当である。
エ 以上によれば、原告は、「FOOTNURSE」ブランドの商品の出所に ついて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザ ーを本件サイト又はベノサンジャパンが開設していたウェブサイトに誘引 するために、本件ドメイン名を使用していると認められる。
原告の主張について
ア 原告は、令和3年2月当時、本件サイトにおいて「ベノサン」と「ベノ サンジャパン」との使い分けが適切にできていなかったにすぎないと主張 する。 しかし、前記イ(イ)のとおり、「FOOTNURSE」ブランドの商品は 被告と何ら関係がないにもかかわらず、ベノサンジャパンが開設していた ウェブサイトに、「FOOTNURSE」ブランドの商品に被告が関与して いると理解できる程度の記載がされていることからすると、本件サイトの 前記イ(ア)の記載が単なる使い分けに関する過誤によるものであるとは考え 難い。
イ また、原告は、「VENOSAN」という名称が被告のブランドとして日 本国内で認知されていないから、原告が日本国内で認知されていない被告 の商品との誤認混同を生ぜしめることを意図すること自体あり得ないなど と主張する。 しかし、本件サイトを見た需要者が、「FOOTNURSE」ブランドの 商品の出所は被告であると具体的に認識しなくとも、「VENOSAN」ブ ランドの医療用弾性ストッキングと同じ製造元の商品であると理解するこ とになれば、商品の出所について誤認混同が生ずることになるから、「VE NOSAN」との名称が被告のブランドとして日本国内で認知されている 必要があるとはいえない。
ウ したがって、原告の前記各主張を採用することはできない。
小括 以上によれば、紛争処理方針4条b項(iv)号所定の事情があると認められ るから、その余の点について判断するまでもなく、紛争処理方針4条a項 (iii)号の要件を満たす。

◆判決本文
関連事件です。

◆令和3(ワ)18318

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令和4(ネ)10046  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

知財高裁(大合議)は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」と判断しました。
 損害額については、ほぼ伏せ字になっています。102条3項の侵害は料率2%で計算し、それよりも2項侵害の額の方が大きくて最終的に約1100万円の損害賠償が認定さられています。
 なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。概要だけはすぐにアップされていましたが、全文アップは約1ヶ月かかりました。

ア 被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行為が本件発 明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に該当するか否 かについて
(ア) はじめに
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末 装置を備えるコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の 発明であるところ、その実施行為としての物の「生産」(特許法2条3 項1号)とは、発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為をい うものと解される。 そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介 して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(以下「ネットワーク型システム」という。)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構\成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有す るようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいう ものと解される。 そこで、被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行 為が本件発明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に 該当するか否かを判断するに当たり、まず、被告サービス1のFLAS H版において、被告システム1を新たに作り出す行為が何かを検討し、 その上で、当該行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか及び 当該行為の主体について順次検討することとする。
(イ) 被告サービス1のFLASH版における被告システム1を新たに 作り出す行為について
a 被告サービス1のFLASH版においては、訂正して引用した原判 決の第4の5(1)ウ(ア)のとおり、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定する(2))と、それに伴い、被控訴人FC2のウェブ サーバが上記ウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを ユーザ端末に送信し(3))、ユーザ端末が受信した、これらのファイ ルはブラウザのキャッシュに保存され、ユーザ端末のFLASHが、 ブラウザのキャッシュにあるSWFファイルを読み込み(4))、その 後、ユーザが、ユーザ端末において、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押す(5))と、上記SWFフ ァイルに格納された命令に従って、FLASHが、ブラウザに対し動 画ファイル及びコメントファイルを取得するよう指示し、ブラウザが、 その指示に従って、被控訴人FC2の動画配信用サーバに対し動画フ ァイルのリクエストを行うとともに、被控訴人FC2のコメント配信 用サーバに対しコメントファイルのリクエストを行い(6))、上記リ クエストに応じて、被控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイ ルを、被控訴人FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、 それぞれユーザ端末に送信し(7))、ユーザ端末が、上記動画ファイ ル及びコメントファイルを受信する(8))ことにより、ユーザ端末が、 受信した上記動画ファイル及びコメントファイルに基づいて、ブラウ ザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\と なる。このように、ユーザ端末が上記動画ファイル及びコメントファ イルを受信した時点(8))において、被控訴人FC2の動画配信用サ ーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末はインターネットを利用 したネットワークを介して接続されており、ユーザ端末のブラウザに おいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる から、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の 全ての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り 出されたものということができる(以下、被告システム1を新たに作 り出す上記行為を「本件生産1の1」という。)。
b これに対し、被控訴人らは、1)被告各システムの「生産」に関連す る被控訴人FC2の行為は、被告各システムに対応するプログラムを 製作すること及びサーバに当該プログラムをアップロードすることに 尽き、いずれも米国内で完結しており、その後、ユーザ端末にコメン トや動画が表示されるまでは、ユーザらによるコメントや動画のアップロードを含む利用行為が存在するが、ユーザ端末の表\示装置は汎用ブラウザであって、当該利用行為は、本件各発明の特徴部分とは関係 がない、2)被告システム1において、ユーザ端末は、被控訴人FC2 がサーバにアップロードしたプログラムの記述並びに第三者が被控訴 人FC2のサーバにアップロードしたコメント及び被控訴人FC2の サーバにアップロードした動画(被告システム2及び3においては第 三者のサーバにアップロードした動画)の内容に従って、動画及びコ メントを受動的に表示するだけものにすぎず、ユーザ端末に動画やコメントが表\示されるのは、既に生産された装置(被告各システム)をユーザがユーザ端末の汎用ブラウザを用いて利用した結果にすぎず、 そこに「物」を「新たに」「作り出す行為」は存在しない、3)乙31 1記載の「一般に、通信に係るシステムはデータの送受を伴うもので あるため、データの送受のタイミングで毎回、通信に係るシステムの 生産、廃棄が一台目、二台目、三台目、n台目と繰り返されることま で「生産」に含める解釈は、当該システムの中でのデータの授受の各 タイミングで当該システムが再生産されることになり、採用しがたい」 との指摘によれば、被控訴人FC2の行為は本件発明1の「生産」に 該当しないというべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、被控訴人FC2が被告システム1に 対応するプログラムを製作すること及びサーバに当該プログラムをア ップロードすることのみでは、前記aのとおり、本件発明1の全ての 構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が完成していないと いうべきである。
2)については、前記aのとおり、被控訴人FC2の動画配信用サー バ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインターネットを利用し たネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必要なファイルを受 信することによって、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能\を 備えた被告システム1が新たに作り出されるのであって、ユーザ端末 が上記ファイルを受信しなければ、被告システム1は、その機能を果たすことができないものである。
3)については、上記のとおり、被告システム1は、被控訴人FC2 の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインタ ーネットを利用したネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必 要なファイルを受信することによって新たに作り出されるものであり、 ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存されたファイルが廃棄され るまでは存在するものである。また、上記ファイルを受信するごとに 被告システム1が作り出されることが繰り返されるとしても、そのこ とを理由に「生産」に該当しないということはできない。 よって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(ウ) 本件生産1の1が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否か について
a 特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、 移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が 当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものであると ころ(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷 判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12年(受)第580 号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参 照)、我が国の特許法においても、上記原則が妥当するものと解され る。 前記(イ)aのとおり、本件生産1の1は、被控訴人FC2のウェブ サーバが、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを国内のユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、また、被控訴人FC2の動画配\n信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2のコメント配信用サー バがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信し、ユーザ端末 がこれらを受信することによって行われているところ、上記ウェブサ ーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバは、いずれも米国 に存在するものであり、他方、ユーザ端末は日本国内に存在する。す なわち、本件生産1の1において、上記各ファイルが米国に存在する サーバから国内のユーザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信 することは、米国と我が国にまたがって行われるものであり、また、 新たに作り出される被告システム1は、米国と我が国にわたって存在 するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生産1の1が、 我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題とな る。
b ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(以下、単に 「国外」という。)に設置されることは、現在、一般的に行われてお り、また、サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システム の利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵害物件であ るネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構\成する端末が日本国内(以下「国内」という。)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用するこ とは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義\nの原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえす\nれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る 特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。他方で、当該システムを構\成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を 生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。 これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許 権を適切に保護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り 出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについ ては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構\成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考\n慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができる ときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当 である。
これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的 態様は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが 送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われ るものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、 国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム 1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観 念することができる。 次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人FC2のサー バと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明1の主要な機能\である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表\示されるように するために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能\と構成要件1Gの表\示位置制御部の機能を果たしている。
さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利 用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケー ションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現し ており、また、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係る システムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るもので ある。
以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内 で行われたものとみることができるから、本件発明1との関係で、特 許法2条3項1号の「生産」に該当するものと認められる。
c これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の 効力が当該国の領域においてのみ認められる」のであるから、海外 (国外)で作り出された行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当 しないのは当然の帰結であること、権利一体の原則によれば、特許発 明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施することをいうことからすると、一部であっても海外で作り出されたものがある場合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきであ\nる、2)特許回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要 件を満たす物の一部さえ、国内において作り出されていれば、「生産」 に該当するというのは論理の飛躍があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判例においては、 カードリーダー事件の最高裁判決(前掲平成14年9月26日第一小 法廷判決)等により属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、そ の例外を設けることの悪影響が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは立法によってされるべきである旨主張する。\n
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に 関し、被疑侵害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法 2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システム を構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、前記bに説示した事情を総合考慮して、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生\n産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することがで きない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否か の上記判断は、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすというものではないから、2) の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特 許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定めら れ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意 味することに照らすと、上記のとおり当該行為が我が国の領域内で行 われたものとみることができるときに特許法2条3項1号の「生産」 に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しないというべ きである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁 判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たる ためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内において完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、また、我が国が締結した条約及び特\n許法その他の法令においても、属地主義の原則の内容として、「生産」 に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要であることを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用する ことができない。 したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(エ) 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)を 「生産」した主体について
a 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)は、 前記(イ)aのとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが、所望の動画 を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存された上記SWF\nファイルによる命令に従ったブラウザからのリクエストに応じて、被 控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2 のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末 に送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって、新たに作り 出されたものである。そして、被控訴人FC2が、上記ウェブサーバ、 動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設置及び管理しており、 これらのサーバが、HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファ イル並びにコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末によ る各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介することなく、 被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、 自動的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生 産」した主体は、被控訴人FC2であるというべきである。
この点に関し、被告システム1が「生産」されるに当たっては、 前記(イ)aのとおり、ユーザが、ユーザ端末のブラウザにおいて、所 望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定すること(2))と、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すこと(5))が必要とされるところ、上記のユ ーザの各行為は、被控訴人FC2が設置及び管理するウェブサーバに 格納されたHTMLファイルに基づいて表示されるウェブページにおいて、ユーザが当該ページを閲覧し、動画を視聴するに伴って行われる行為にとどまるものである。すなわち、当該ページがブラウザに表\示されるに当たっては、前記のとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが当該ページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末 に送信し、ユーザ端末が受信したこれらのファイルがブラウザのキャ ッシュに保存されること(4))、また、動画ファイル及びコメントフ ァイルのリクエストについては、上記SWFファイルによる命令に従 って行われており(6))、上記動画ファイル及びコメントファイルの 取得に当たってユーザによる別段の行為は必要とされないことからす れば、上記のユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブペ ージの閲覧を通じて行われるものにとどまり、ユーザ自身が被告シス テム1を「生産」する行為を主体的に行っていると評価することはで きない。
b これに対し、被控訴人らは、1)米国に存在するサーバが、ウェブペ ージのデータ、JSファイル(FLASH版においてはSWFファイ ル)、動画ファイル及びコメントファイルを送信することは、被控訴 人FC2が行っているのではなく、インターネットに接続されたサー バにプログラムを蔵置したことから、リクエストに応じて自動的に行 われるものであり、因果の流れにすぎない、2)日本(国内)に存在す るユーザ端末が、上記ウェブページのデータ、JSファイル(SWF ファイル)、動画ファイル及びコメントファイルを受信することは、 ユーザによるウェブページの指定やウェブページに表示された再生ボタンをユーザがクリックすることにより行われ、ユーザの操作が介在しており、また、仮に被控訴人FC2が1)の送信行為を行っていると しても、特許法は、「譲渡」と「譲受」、「輸入」と「輸出」、「提供」 と「受領」を明確に区分して規定している以上、被控訴人FC2が上 記受信行為を行っていると解すべきではない旨主張する。
しかしながら、1)については、前記aのとおり、被控訴人FC2 が、ウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設 置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファイル及びSW Fファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送 信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操 作を介することなく、被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプ ログラムの記述に従い、自動的に行われるものであることからすれば、 被告システム1を「生産」した主体は、被控訴人FC2であるという べきである。
また、2)については、前記aのとおり、ウェブページの指定やウ ェブページに表示された再生ボタンをクリックするといったユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブページの閲覧を通じて行われるにとどまるものであり、ユーザ端末による上記各ファイルの受\n信は、上記のとおりユーザによる別途の操作を介することなく自動的 に行われるものであることからすれば、上記各ファイルをユーザ端末 に受信させた主体は被控訴人FC2であるというべきである。 したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(オ) 小括
以上によれば、被控訴人FC2は、本件生産1の1により、被告シス テム1を「生産」(特許法2条3項1号)したものと認められる。
・・・
8 争点8(控訴人の損害額)について
(1) 特許法102条2項に基づく損害額について
ア 主位的請求関係について 控訴人は、被控訴人らが、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月 17日から令和4年8月31日までの間、被告各システムを生産し、被 告各サービスを提供することによって、●●●●●●●●●●円を売り 上げ、これにより被控訴人らが得た利益(限界利益)の額は、●●●● ●●●●●●円を下らず、このうち令和元年5月17日から同月31日 までの分(5月分)の売上高は●●●●●●●●円、限界利益額は●● ●●●●●●円を下らないと主張する。 しかしながら、控訴人が上記主張の根拠として提出する甲24によって、 上記の売上高及び限界利益額を認めることはできず、他にこれを認める に足りる証拠はない。 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
イ 予備的請求関係について
(ア) 本件生産1ないし3により「生産」された被告システム1ないし3 で提供された被告各サービスの割合 前記4のとおり、被控訴人FC2は、本件生産1により被告システム 1を、本件生産2により被告システム2を、本件生産3により被告シス テム3を「生産」し、本件特許権を侵害したものであり、本件生産1な いし3は、いずれも、サーバがユーザ端末に動画ファイル及びコメント ファイルを送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって行われ るものである。 しかるところ、被告各サービスで配信される動画でコメントが付され ているものの数は限られており、令和3年1月11日の時点において、 被告サービス1で公開された●●●●●●●●個の動画のうち、コメン トが付された動画は●●●●●●●個であり(乙85)、その割合は● ●●●パーセントであったこと、被告各サービスは、日本語以外の言語 でもサービスが提供されているものの、そのユーザの大部分は国内に存 在すること(甲9、弁論の全趣旨)からすれば、被告各サービスのうち、 本件生産1ないし3で「生産」された被告システム1ないし3によって 提供されたものの割合は、本件特許権が侵害された全期間にわたって● ●●パーセントと認めるのが相当である。
(イ) 被控訴人FC2の利益額(限界利益額)
a 被告サービス1関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和4年8月31日まで の期間の被告サービス1の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等\n一覧表の「限界利益額」欄の「被告サービス1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●●円であることが認められる。このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産1により「生産」\nされた被告システム1によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産1による売上高は、 ●●●●●●●●●●●円(●●●●●●●●●●●●円×●●●● ●)と認められ、被控訴人FC2が本件生産1により得た限界利益額 は、別紙7−2限界利益額算定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●円と認められる。
b 被告サービス2関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和2年10月31日 までの期間の被告サービス2の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス2」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等一\n覧表の「限界利益額」欄の「被告サービス2」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●円であることが認められる。このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産2により「生産」\nされた被告システム2によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産2による売上高は、 ●●●●●●円(●●●●●●●●円×●●●●●)と認められ、被 控訴人FC2が本件生産2により得た限界利益額は、別紙7−2限界 利益額算定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産2」欄記載のとおり、合計●●●●●●円と認められる。
c 被告サービス3関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和2年10月31日 までの期間の被告サービス3の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス3」欄記載のとおり、合計●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等一覧表\の「限界利益額」欄の「被告サービス3」欄記載のとおり、合計●●●●●●円であることが認められる。 このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産3により「生産」 された被告システム3によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産3による売上高は、 ●●●●円(●●●●●●円×●●●●●)と認められ、被控訴人F C2が本件生産3により得た限界利益額は、別紙7−2限界利益額算 定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産3」欄記載のとおり、合計●●●●円と認められる。
d まとめ
(a) 前記aないしcによれば、被控訴人FC2が本件生産1ないし 3により得た限界利益額は、別紙7−2限界利益額算定表の「限界利益額(消費税相当分(10%)を含む)」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●円と認められる。\n なお、被控訴人FC2は、仮に、本件において被控訴人FC2に 対する損害賠償の支払が命ぜられるとしても、消費税上輸出免税 の対象になる旨主張するが、被控訴人FC2による被告各サービ スの提供が輸出取引に当たることを認めるに足りる証拠はないか ら、被控訴人FC2の上記主張は理由がない。
(b) 以上のとおり、被控訴人FC2が本件生産1ないし3により得 た限界利益額は、合計●●●●●●●●●●●円であり、この限 界利益額は、特許法102条2項により、控訴人が受けた損害額 と推定される(以下、この推定を「本件推定」という。)。
(ウ) 推定の覆滅について
被控訴人らは、被告各サービスにおいて、本件各発明のコメント表示機能\が、システム全体の機能の一部であり、顧客誘引力を有していないことは、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張する。\n そこで検討するに、被告各サービスで配信されている動画で、その売 上高に貢献しているものの多くはアダルト動画であり(甲4の1及び2、 9、11、弁論の全趣旨)、動画上にコメントが表示されることが視聴の妨げになることは否定できないこと、令和3年1月11日の時点において、被告サービス1で公開された●●●●●●●●個の動画のうち、\nコメントが付された動画は●●●●●●●個であり(乙85)、その割 合は●●●●パーセントにとどまっていることに照らすと、被告各サー ビスにおいて、コメント表示機能\が果たす役割は限定的なものであって、 被告各サービスの多くのユーザは、コメント表示機能\よりも動画それ自 体を視聴する目的で利用していたものと認められる。そして、本件各発 明の技術的な特徴部分は、コメント付き動画配信システムにおいて、動 画上にオーバーレイ表示される複数のコメントが重なって表\示されるこ とを防ぐというものであり(前記1(2)イ)、その技術的意義自体も、上 記システムにおいて限られたものであると認められる。
以上の事情を総合考慮すると、被告各サービスの利用に対する本件各 発明の寄与割合は●●と認めるのが相当であり、上記寄与割合を超える 部分については、前記(イ)d(b)の限界利益額と控訴人の受けた損害額 との間に相当因果関係がないものと認められる。 したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるか ら、特許法102条2項に基づく控訴人の損害額は、上記限界利益額の ●割に相当するものであり、別紙4−2認容額内訳表の「特許法102条2項に基づく損害額」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●円と認められる。\n
(2) 特許法102条3項に基づく損害額について(予備的請求関係)
ア 特許法102条3項に基づく控訴人の損害額については、1)株式会社帝 国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の 在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルテ ィ料率に関する実態把握〜」(本件報告書)の「II).我が国のロイヤルテ ィ料率」の「1.技術分類別ロイヤルティ料率(国内アンケート調査)」 の「(2) アンケート調査結果」には、「特許権のロイヤルティ料率の平均 値」について、「全体」が「3.7%」、「電気」が「2.9%」、「コンピ ュータテクノロジー」が「3.1%」であり、「III).各国のロイヤルティ 料率」の「1.ロイヤルティ料率の動向」には、国内企業のロイヤルテ ィ料率アンケート調査の結果として、産業分野のうち「ソフトウェア」については「6.3%」であり、「2.司法決定によるロイヤルティ料率調査結果」の「(i)日本」の「産業別司法決定ロイヤルティ料率(20 04〜2008年)」には、「電気」の産業についての司法決定によるロ イヤルティ料率は、平均値「3.0%」、最大値「7.0%」、最小値 「1.0%」(件数「6」)であるとの記載があること、2)前記(1)イ(ウ) のとおり、本件各発明の技術的な特徴部分は、コメント付き動画配信シ ステムにおいて、動画上に複数のコメントが重なって表示されることを防ぐというものであり、その技術的意義は高いとはいえず、被告各サービスの購買動機の形成に対する本件各発明の寄与は限定的であること、\nその他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、本件生産1ないし3 による売上高に実施料率2パーセントを乗じた額と認めるのが相当であ る。
そして、本件生産1ないし3による売上高(消費税相当分(10パー セント)を含む。)の合計額は、●●●●●●●●●●●円(●●●●● ●●●●●●円+●●●●●●円+●●●●円(前記(1)イ(イ)aないし c記載の本件生産1ないし3の各売上高に消費税相当分(10パーセン ト)を加えた額の合計額))と認められるから、●●●●●●●●円(● ●●●●●●●●●●円×0.02)となる。 これに反する控訴人及び被控訴人らの主張はいずれも採用することが できない。
イ そして、控訴人の特許法102条2項に基づく損害額の主張と同条3項 に基づく損害額の主張は、選択的なものと認められるから、より高額な 前記(1)イ(ウ)の同条2項に基づく損害額合計●●●●●●●●●円が本 件の控訴人の損害額と認められる。

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令和5年5月26日 知財高裁特別部判決 令和4(ネ)10046号

知財高裁は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」というものです。  なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。\n

ア ネットワーク型システムの「生産」の意義
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備え るコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の発明であるところ、そ の実施行為としての物の「生産」(特許法2条3項1号)とは、発明の技術的範囲に 属する物を新たに作り出す行為をいうものと解される。 そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介して、サー バと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(ネットワー\nク型システム)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件\nを充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有 機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有する ようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解され る。
イ 被告サービス1に係るシステム(被告システム1)を「新たに作り出す行為」 被告サービス1のFLASH版においては、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指\n定すると、被控訴人Y1のウェブサーバが上記ウェブページのHTMLファイル及 びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末が受信した、これらのファイ ルはブラウザのキャッシュに保存され、その後、ユーザが、ユーザ端末において、 ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すと、上\n記SWFファイルに格納された命令に従い、ブラウザが、被控訴人Y1の動画配信 用サーバ及びコメント配信用サーバに対しリクエストを行い、上記リクエストに応 じて、上記各サーバが、それぞれ動画ファイル及びコメントファイルをユーザ端末 に送信し、ユーザ端末が、上記各ファイルを受信することにより、ブラウザにおい て動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる。このように、ユ ーザ端末が上記各ファイルを受信した時点において、被控訴人Y1の上記各サーバ とユーザ端末はインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、 ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが\n可能となるから、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の全\nての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り出されたものと いうことができる(以下、被告システム1を新たに作り出す上記行為を「本件生産 1の1」という。)。
ウ 被告システム1を「新たに作り出す行為」(本件生産1の1)の特許法2条3項 1 号所定の「生産」該当性
特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、移転、効 力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内にお いてのみ認められることを意味するものであるところ、我が国の特許法において も、上記原則が妥当するものと解される。 本件生産1の1において、各ファイルが米国に存在するサーバから国内のユー ザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信することは、米国と我が国にまた がって行われるものであり、また、新たに作り出される被告システム1は、米国 と我が国にわたって存在するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生 産1の1が、我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題と なる。 ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(国外)に設置されるこ とは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネ ットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵 害物件であるネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたと\nしても、当該システムを構成する端末が日本国内(国内)に存在すれば、これを\n用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者\nが当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るも のである。
そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格 に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在するこ\nとを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解するこ とは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該 システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととな\nって、妥当ではない。他方で、当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、\nこれも妥当ではない。
これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保 護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条 3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素\nの一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、 当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果\nたす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、\nその利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該 行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3 項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。 これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的態様は、米国 に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ 端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信 (送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信すること によって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われ たものと観念することができる。
次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人Y1のサーバと国内に存在 するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ\n端末は、本件発明1の主要な機能である動画上に表\示されるコメント同士が重な らない位置に表示されるようにするために必要とされる構\成要件1Fの判定部の 機能と構\成要件1Gの表示位置制御部の機能\を果たしている。 さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することが できるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の 向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、また、その国内における利 用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影 響を及ぼし得るものである。 以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内で行われた ものとみることができるから、本件発明1との関係で、特許法2条3項1号の「生 産」に該当するものと認められる。
これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の効力が当該国 の領域においてのみ認められる」のであるから、国外で作り出された行為が特許 法2条3項1号の「生産」に該当しないのは当然の帰結であること、権利一体の 原則によれば、特許発明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施す\nることをいうことからすると、一部であっても国外で作り出されたものがある場 合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきである、2)特許 回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要件を満たす物の一部さ え、国内において作り出されていれば、「生産」に該当するというのは論理の飛躍 があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、\n我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判 例においては、カードリーダー事件の最高裁判決(最高裁平成12年(受)第5 80号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)等によ り属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、その例外を設けることの悪影響 が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは\n立法によってされるべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に関し、被疑侵 害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」 に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバ\nが国外に存在する場合であっても、前記 に説示した事情を総合考慮して、当該 行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3 項1号の「生産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することが できない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かの上記判断は、 構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の\n効力を及ぼすというものではないから、2)の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その 成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該 国の領域内においてのみ認められることを意味することに照らすと、上記のとお り当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときに特許法2 条3項1号の「生産」に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しな いというべきである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁 判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たるためには、特 許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内に\nおいて完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、ま た、我が国が締結した条約及び特許法その他の法令においても、属地主義の原則 の内容として、「生産」に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物\nを新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要である ことを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用することができ ない。したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
エ 被告システム1の「生産」の主体
被告システム1は、前記イのプロセスを経て新たに作り出されたものであるとこ ろ、被控訴人Y1が、被告システム1に係るウェブサーバ、動画配信用サーバ及び コメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファ イル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送 信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介するこ となく、被控訴人Y1がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、自動 的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生産」した主体は、 被控訴人Y1であるというべきである。
オ まとめ
以上によれば、被控訴人Y1は、本件生産1の1により、被告システム1を「生 産」(特許法2条3項1号)し、本件特許権を侵害したものと認められる。

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令和4(ネ)265等  損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年10月14日  大阪高等裁判所

 共謀して、「YouTube」に投稿した動画を著作権侵害と通知して動画削除させた行為が、共同不法行為に当たるかが争われました。1審は、原告に約7万円支払えと、認定しました。被告が控訴し、原告も附帯控訴をしました。大阪高裁は、被控訴人(1審被告)に対して、約26万円の支払いを命じました。本件編み方動画については著作物性がないという判断は、共通ですが、損害賠償額が変わりました。1審は停止期間中の広告収入のみを認めたようです。

前記(2)のとおり、本件侵害通知は、いずれも法的根拠に基づかないもの であるが、前記(2)で述べたところに加え、上記(3)認定の各事実からすると、 以下に詳述するとおり、控訴人Bは、前記注意義務を怠った過失があるとい えるばかりか、著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできるの であって、これにより、本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控訴人の 法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵害通知 を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害したもの として不法行為を構成するというべきである。
イ すなわち、控訴人Bの提出した本件侵害通知の記載内容をみるに、本件侵 害通知1は、前記(2)アのとおり、被控訴人メランジ動画につき「編み目(ス ティッチ)の著作権侵害」があるというものであって、編み目の著作物性を いう点において、その通知内容自体から著作権侵害が認められないことが明 らかなものである。
また、本件侵害通知2は、前記(2)イのとおり、被控訴人トリニティ動画の 「動画全体」につき「著作権、翻訳権の侵害」があるというものであって、 控訴人Bは、被控訴人トリニティ動画の口頭説明部分が控訴人動画1)〜3)の 口頭説明部分の著作権を侵害すると考えて本件侵害通知2を提出した旨陳述 しており(乙10、控訴人B本人)、本件訴訟においては、その旨主張する ようであるが(これ自体が法的に失当であることは前記(2)イのとおりであ る。)、被控訴人トリニティ動画が控訴人動画のうちいずれの動画のいかなる 部分の著作権を侵害したかにつき、明確かつ具体的な主張をしているもので はないこと、控訴人Bの陳述も、要は、被控訴人動画において控訴人動画に おける編み目の作り方が同じであることを中心に著作権侵害があった旨を述 べるものであること、本件侵害通知2が本件侵害通知1と同日にされている ことに加え、前記(3)の各事実にも照らすと、むしろ控訴人Bは、本件侵害通 知2においても本件侵害通知1と同様、本来、著作権侵害が認められない被 控訴人トリニティ動画が編み目の著作権を侵害したことを根拠として、著作 権侵害通知をYouTubeに提出したものと認めるのが相当である(この ことは、控訴人Bの陳述(乙10)によれば、被控訴人トリニティ動画の2 5分47秒間のうち、著作権侵害に該当する部分は3分43秒間にすぎない にもかかわらず、控訴人Bが、削除依頼ウェブフォーム(甲18)において、 タイムスタンプで該当箇所を特定することもなく、被控訴人トリニティ動画 の「動画全体」が著作権侵害部分に該当するとして本件侵害通知2を行って いることからも裏付けられる。)。したがって、本件侵害通知2も、その内 容において著作権侵害が認められないことが明らかなものというべきである。
ウ しかし、そもそも編み物の編み目に著作物性が認められないことは前記(2) アで説示したとおりであるし、前記(3)アによれば、控訴人Bは、むしろ動画 の著作物性の有無の判断には困難が伴うことをかねてから認識していたこと が認められる。また、著作権侵害が肯認されるには依拠性が必要であるが、 前記(3)エによれば、控訴人Bが本件侵害通知を提出するに当たって依拠性を 検討した様子は全くうかがえない。 そればかりか、控訴人Bが本件侵害通知を提出するに当たり、著作権侵害 の有無を予め検討していたのであれば、それが法的に失当であろうとも、本件侵害通知後の被控訴人からの問い合わせに対して著作権侵害と考える理由\nを端的に回答できるはずであるが、被控訴人に対する回答ぶりは専ら困惑さ せることに終始するものであるし((3)エ)、本件訴訟を提起された後におい てすら、控訴人らは著作権侵害を理由に裁判手続をとろうとしていないこと、 その他前記(3)で認定した本件侵害通知提出前後の状況をも考慮すると、控訴 人Bは、本件侵害通知を提出するに当たり、編み目の著作物性が肯定される には困難を伴うことを十分認識していたと認められるにもかかわらず、控訴人動画で紹介した編み目と同一の編み目を説明する動画であれば、それが控\n訴人動画に依拠したものか否かを問わず、先行して動画を投稿した控訴人B の著作権を侵害するとの独自の見解を有し、この見解が法的に成り立つか否 かを検討することなく、すなわち、控訴人Bが著作権者等であることはもと より、著作権侵害通知の内容が正確であることについて検討することなく、 必要な注意義務を怠って漫然と本件侵害通知を提出したものと認めるのが相 当である。
エ なお、控訴人らは、専門家であるJ弁理士及びK弁護士にも相談した上で、 本件侵害通知を行った旨主張するが、控訴人らが本件侵害通知当時に上記専 門家に著作権侵害に関する相談をしていたことを認めるに足りる的確な証拠 はなく、また、仮に何らかの相談をしていたとしても、前記の本件侵害通知 の内容及び本件訴訟における応訴の内容に照らし、真摯な相談がされたもの ともおよそ考えられないから 、これによって控訴人Bが本件侵害通知を提出 するに当たって必要な検討をしたとは認められない。
オ そして、控訴人Bは、被控訴人に対する以外にも、本件侵害通知に相前後 して、他の複数のチャンネル開設者に対し、その投稿した編み物動画やアプ リケーション上での編み物作品の販売に対し、動画のコメント欄等に抗議を 書き込んだり、被控訴人に対すると同様に、編み目を含む編み方の模倣を理 由に一斉に複数の著作権侵害通知を提出したりすること((3)イ、ウ、オ)によ って、これらの者が、控訴人Bが動画で紹介している編み方と同じ編み方を 動画で投稿することを事実上抑止しようとしていたことがうかがわれる。 さらに、弁護士への依頼や著作権侵害警告に対する異議申立てを考えるようなチャンネル開設者に対しては、控訴人Bに加担する控訴人D又は控訴人\nB自身において、「一度痛い目見ないといけない」「詐欺で警察にも行けるお話」などと強迫的ともいえるメッセージを送信したり、独自の見解を一方\n的に押し付けるようなコメントを公表したりして((3)イ、オ、カ)、裁判手続 で著作権侵害の有無を明らかにするより、示談するよう強く求めていたこと も認められ、以上のような諸事情を総合すると、控訴人Bは、著作権侵害通 知制度を利用して、競業者であるといえる同種の編み物動画を投稿する者の 動画を削除することで不当な圧力をかけようとしていたとさえ認められる。
カ 以上によれば、控訴人Bは、本件侵害通知をYouTubeに提出するに 当たって、単に自らが著作権者であることや、著作権侵害通知の内容が正確 であることについて何ら検討することなく漫然と法的根拠に基づかない本件 侵害通知を提出したという点で必要な注意義務を怠った過失があるといえる ばかりか、前記のとおり著作権侵害通知制度を濫用したものということさえ できるのであって、これにより本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控 訴人の法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵 害通知を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害し たものとして不法行為を構成するというべきである
・・・
ア 前記2(1)アで説示したとおり、YouTubeは、インターネットを介 して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で広く世界中に自己の表\現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYouTubeに投稿する自由は、投稿者の表\現の自由という人格的利益に関わるものであるといえ、控訴人Bによる違法な本件侵害通知により被控訴人動画が一方的に削除された ことにより、被控訴人はその人格的利益を侵害されたものと認められる。
イ そして、その削除期間が、令和2年2月6日から同年8月29日までの2 06日間に及ぶこと、被控訴人トリニティ動画の動画時間が25分47秒間、 被控訴人メランジ動画の動画時間が19分24秒間であって、テロップ挿入 や音声等の編集作業にも相応の労力、時間を要して作成されたものであるこ とがうかがわれること(甲56〜58)、被控訴人動画が投稿されたAのチ ャンネルには少なくとも1000人を超える登録者がいたことに加え、被控 訴人が、削除当日に、控訴人Bに対し、控訴人Bのどの動画の著作権を侵害 したことになるのか教えてほしい旨問い合わせたのに対して、控訴人Bは、 これに対する回答をしないばかりか(前記2(3)エ)、同年6月頃、Cのチャ ンネルにおいて、被控訴人に向け、本件侵害通知のことを取り上げて「2度 あることは3度ある、3度目は命取りです」などとのコメントを記載して、 控訴人Bが3回目となる著作権侵害通知をすることで、被控訴人のチャンネ ル停止・全動画の削除という事態が起きかねないことをほのめかすなど、被 控訴人をして専ら畏怖、困惑させるばかりで、事後的にも誠意ある対応をせ ず、原判決において控訴人らの指摘する被控訴人動画による著作権侵害が認 められない旨判断された後も、被控訴人動画が控訴人動画の盗作であるかの ような独自の見解に基づくコメントをYouTubeのチャンネルに記載し ていること(甲13、14、20、69〜77)など、本件に現れた一切の 事情を考慮すると、被控訴人が上記の人格的利益の侵害により受けた精神的 苦痛を慰藉する金額は20万円を下らないというべきである。
ウ なお、被控訴人は、前記第3の5(被控訴人の主張)(2)イ、ウに記載す る、本件侵害通知による被控訴人チャンネル全体の収益性の低下及び視聴者 に対する信頼毀損による視聴数低下について、慰謝料算定に当たっての根拠 としても主張するが、被控訴人は、上記各事情によって被控訴人チャンネル の収益性の低下による経済的損害が生じたことをいうものであって、その損 害賠償の可否は、そのような経済的損害の発生が認められるか否かの立証に 係るものであり、損害の発生が不明な場合に前記イで認定したところを超え て慰謝料として損害賠償を認めることはできないというべきである。したが って、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 広告収益に関する経済的損害について
ア 被控訴人動画の広告収益の低下
被控訴人動画がYouTubeにおいて削除されていた期間は、前記のと おり令和2年2月6日から同年8月29日までの206日間であるところ、 証拠(甲31、32)によれば、被控訴人メランジ動画(投稿日は同年2月 3日)についての広告収益は、同年2月3日から同月6日までの4日間で合 計1463円(1日当たり365.75円)であったこと、被控訴人トリニ ティ動画(投稿日は令和元年8月1日)についての広告収益は、令和元年1 1月6日から令和2年2月6日までの93日間で合計1766円(1日当た り18.98円)であったことが認められる。
被控訴人トリニティ動画の削除により被控訴人が失った広告収益は、上記 のとおり1日当たり18.98円として算出するのが相当と認めるが、被控 訴人メランジ動画の上記収益単価は、投稿直後の4日間の広告収益に基づく ものである。広告収益は動画の視聴数等によって変動し得るところ、一般的 に、新たに投稿された動画の方が視聴者の耳目を集めやすく、投稿直後は視 聴数が多く、その後時間が経過するにつれて逓減する傾向があること自体は 否定し難いこと、編み物の編み方に関する動画の視聴は、季節柄、夏場には 視聴数が低くなる傾向がうかがわれ、通年で一定しているとはいい難いこと (甲83の1〜5)からすると、被控訴人メランジ動画の広告収益は、削除 後の当初30日間は1日当たり350円、その後は、被控訴人トリニティ動 画との対比を考慮して、1日当たり20円として被控訴人の損害を算定する のが相当と認める。
そうすると、本件侵害通知による被控訴人動画の削除により被控訴人が被 った広告収益に関する損害は、1万7929円(〔350円+18.98 円〕×30日+〔20円+18.98円〕×〔206日−30日〕)。端数 切捨て。)に限り、これを認めるのが相当である(なお、被控訴人動画の削 除又は復元の当日分については、一定程度の広告収益が得られている可能性がないではないが、特に上記認定を左右すべき事情ではない。)。\n
イ 被控訴人チャンネル全体の収益性の低下等 被控訴人は、被控訴人動画が本件侵害通知によって削除されたことは、被 控訴人チャンネルのステータスに影響を与え、被控訴人チャンネルの動画が 視聴者の画面に表示されにくくなったり、広告単価が低下したりするなどの不利益を生じさせ、被控訴人チャンネル全体の収益性を低下させている旨主\n張し、また、被控訴人チャンネルに対する視聴者の信頼が著しく低下し、視 聴数が減少して収益性が低下した旨主張する。
しかし、「YouTubeヘルプ」(甲8)において、著作権侵害の「警 告を複数回受けると収益化に影響を及ぼすおそれがあります。」との記載が されているものの、どのような場合にいかなる仕組みによって収益化に影響 を及ぼすかについては必ずしも明確になっているとは認められない。また、 被控訴人が影響を受けたとする被控訴人チャンネル全体の収益について、本 件侵害通知がされる前後、さらに被控訴人動画の復元後といった各時点の収 益が具体的にいかなるものであったかを認めるに足りる証拠は何ら提出され ておらず、被控訴人から数値を示すなどした具体的主張もされていない。Y ouTubeにおいては、各動画の収益に関する分析情報は期間を区切って 画面上に表示させることが可能\である(甲31、32、83の1〜5)から、 本件侵害通知がされる前後、被控訴人動画の復元後といった各時点で動画の 視聴数、収益等にいかなる変動があるかを立証することは容易であると認め られるにもかかわらず、被控訴人動画ないしチャンネルについてそうした立 証が全くされていないことに照らすと、本件侵害通知による被控訴人動画の 削除により被控訴人のチャンネル全体の収益性が低下するなどして被控訴人 が経済的損害を被ったとは認めるに至らないというべきである。

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令和4(ネ)10024  映画上映禁止及び損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年9月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

インタビュー形式の映画「主戦場」について、著作権侵害(人格権を含む)に基づいて差止などを求めました。1審は、原告の請求棄却、知財高裁も同じ判断です。

ア 控訴人らは、同一性保持権侵害の被侵害利益は、著作者の名誉感情であ るとし、被控訴人Yが、慰安婦問題というデリケートな問題を扱った本件 利用映像等5の一部を切り出し、音声を削除し、ナレーションを加えるこ とは、控訴人X2が客観的証拠もなく偏った主張を述べているにすぎない かのような印象を与えかねないし、また、本件利用映像等6は、控訴人X 2が著作者である本件外部映像等6のうち、日本における人種差別につい てことさらに騒ぎ立てる者がいることを述べた部分のみが利用されてい て、控訴人X2が、日本に人種差別が存在すると指摘すること自体を批判し ているかのような印象を与えかねないから、いずれも通常の著作者であれ ば名誉感情を害されるものであり、控訴人X2の同一性保持権を侵害する 旨主張する。
イ しかしながら、仮に同一性保持権侵害の被侵害利益に著作者の名誉感情 が含まれるとしても、それによっておよそ一切の改変が著作者の名誉感情 を侵害し、同一性保持権の侵害となると解すべき根拠はなく、著作物の性 質や利用行為の態様等を考慮して、同一性保持権侵害の有無を考慮すべき である。
本件利用映像等5、6は、ユーチューブ上の映像である本件外部映像等 5、6の一部である。ユーチューブ上の映像は、無料でいつでもだれでも 閲覧することができ、どの映像を見るかはもとより、映像の全部を見るの か一部を見るのか、映像のどの部分を見るのかを、閲覧者が自由に選択し て見ることができるという性質を有する。 本件利用映像等5、6は、本件利用映像等2、3の後、本件利用映像等 4が3秒間表示された後に表\示されるものであるところ、本件利用映像等 2、3には、左上部に「YouTube」という表示があり、「X2´」という著作 者名が表示されており、被控訴人Yは、本件利用映像等5に先立って、イ\nンターネット上の投稿でビデオを見つけた旨のナレーションを入れてお り、本件映画1のエンドクレジットの「利用した映像及び写真の出所」に、 控訴人X2の氏名、本件外部映像等5、6の題名、ユーチューブに投稿され た動画であることの記載があるから、本件映画1を見る者にとって、本件 外部映像等5、6がユーチューブ上の映像の一部であることは明らかであ り、著作者名や題名から本件外部映像等5、6を検索することは容易に可 能である(乙38)。\n
本件利用映像等5、6は、被控訴人Yが慰安婦問題に関心を有するよう になったきっかけとなった動画を作成した人物であり、本件映画1中のイ ンタビューの対象ともなっている控訴人X2がどのような人物であるかを 紹介することを目的とするものであり、控訴人X2の主張を誤って伝えるも のであるとは認められない。 その他、原判決第3の9(1)イないしエ(原判決68頁19行目から70 頁14行目まで)、同(2)イないしエ(原判決70頁23行目から72頁9行 目まで)に記載された事情も考慮すると、被控訴人らが本件利用映像等5、 6を利用して本件映画1を製作、上映することは、控訴人X2の名誉感情を 害するとは認められず、本件利用映像等5、6の作成は、いずれも「やむ を得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)であり、控訴人X 2の著作者人格権を侵害するものとは認められない。

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原審はこちら。

◆令和1(ワ)16040

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令和1(ワ)16040  映画上映禁止及び損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年1月27日  東京地方裁判所

 インタビュー形式の映画「主戦場」について、著作権侵害(人格権を含む)に基づいて差止などを求めました。パブリシティの権利の侵害、修士卒論と聞いて了承したが商業映画だったとか、修正主義者のように紹介されたなどの事情もあるようです。裁判所は、原告の請求を認めませんでした。

原告らは,被告Fは,政治プロパガンダ映画である本件映画1を制作し, これを商業映画として有料で一般公開することを計画していたにも関わらず, あたかも真摯な学術研究目的であるかのように装うなど前記第2の4(14)(原 告らの主張)のとおり欺罔行為を行い,原告らをその旨誤信させて原告らに\n取材に応じるという役務を提供させたと主張する(争点7)関係)。また,原 告らは,本件各許諾について,被告Fは,原告らに対する取材映像を利用し て商用映画(本件映画1)を製作しようと考えていたが,原告らに対しては, これを秘し,上智大学大学院の修士課程の一環である卒業制作のための真摯 な学術研究目的の活動であると説明して原告らを欺罔したため,原告らはそ\nの旨誤信して,本件各書面を作成したものであり,本件各書面による本件各 許諾は,詐欺取消し又は錯誤無効により存在しない旨主張する(争点1)−2 関係)。
以下,原告ら主張の被告Fの欺罔行為の有無について,検討する。\n
(2)ア 原告らは,大学院生である被告Fから,卒業制作として大学院に提出す るドキュメンタリー映画の製作に協力してほしいと頼まれたことや,製作 された映画が商用映画になるとは説明を受けていなかったことから,取材 に協力し,また,本件各映像の利用について本件各許諾をした旨の供述等 をする(原告C,原告D,原告E,甲6,7,35〜38,41)。
イ 被告Fが,原告らに対して取材に協力するよう求めた際の説明の内容等 は,原告Eについて前記1(2)ア,原告Cについて同(3)ア,原告Dについて 同(4)ア,原告Bについて同(5)ア,原告Aについて同(6)アのとおりである。 被告Fは上記の際,上智大学大学院の学生であることを述べて,「歴史 問題の国際化」についてドキュメンタリーを作成していてそのために取 材をさせてほしいことを述べた。また,その際,それが学術研究である こと,卒業プロジェクトであることを述べたりもしたこともあった。
(3) ここで,被告Fは,前記依頼の当時,実際に上智大学大学院の学生であっ て,修士論文に代わる映像作品として従軍慰安婦問題に関する映画を作成す ることとし,その映画ではこの問題において重要な役割を果たしていると考 えた者たちに対する取材映像を映画の主たる部分とすることを構想し(前記\n1(1)),この問題において重要な役割を果たしていると考える原告らへの取 材を行い,その際の映像である本件各映像を用いて,本件卒業制作映画を完 成して,これを修士論文に代わるものとして上智大学大学院に提出した(同 (7))。そして,被告Fは,本件卒業制作映画に,音楽,アニメーション,字 幕等を追加し,一部を訂正するなど,軽微な編集を加えて鑑賞性を高めて本 件映画1としたものであり,本件映画1は,本件卒業制作映画と,内容,構\n成において同じであって(前同),本件各書面にいう被告Fが製作する「歴 史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」(前記第2の2(2)イ)に該 当する。
被告Fは,当初から良い映画が製作できた場合には映画祭に応募すること を視野に入れてはいたが(この点は後記(4)で検討する。),上記のとおり, 本件各映像を利用して被告Fが製作した映画である本件卒業制作映画は,実 際に修士論文に代わるものとして大学院に提出されたのであり,本件映画1 も本件卒業制作映画と内容,構成において同じものである。したがって,被\n告Fが,原告らに取材を依頼したり本件各書面の作成を求めたりした際に, 上智大学大学院の学生として行うものであり,学術研究として作成されるも のであることを述べるなどしたこと自体は,被告Fが虚偽を述べたとはいえ ない。
(4) 被告Fは,当初から良い映画が製作できた場合には映画祭等に応募するこ とも視野に入れていた。もっとも,原告らに取材をした時点では,具体的な 映画の配給が決まっていたわけではなく,その後,本件映画1を応募したも ののその上映を断った映画祭もあった(前記1(1),(7))。被告Fは,原告E及び原告Dに対しては,同原告らが,被告Fの開設するユーチューブチャンネルの登録者など欧米の視聴者や研究者,学術世論に対して意見を発信できる場所を提供したいなどとして取材を申し込んでおり(同(2)ア,(4)ア),本件映像が大学への提出以外にも使用されることがあることを述べていた。そして,被告Fは,原告E,原告B及び原告Aとの間では「被告F又はその指定する者が,日本国内外において,映画を配給,上映,展示若しくは公共に送信し,又は,映画の複製物を販売,貸与することができる」旨が記載されている書面を,原告C及び原告Dとの間では「映画の公開前に,同原告らに確認を求める」旨が記載されている書面を交わした(本件各書面)(前記第2の2(2)イ,前記1(2)〜(6))。
原告らが署名押印した本件各書面は,文言上,被告Fが製作する映画につ いて,「配給」,「上映」,「販売」されることがあることや,「公開」さ れることがあることを前提とするものである。原告C書面及び原告D書面は, 原告Cが当初被告Fが示した承諾書案への署名を留保したり,原告Dが過去 にメディアから特定の観点だけを切り取られたりしたことなどを述べて被告 Fと合意書案の修正についてのやりとりをした上で,原告C及び原告Dが署 名押印したものであり,映画が公開される場合における被告Fの義務等が具 体的に定められているものである。本件各書面の上映や公開が,商用として の上映,公開を含まないことをうかがわせる記載はない。 そして,被告Fが,原告らに対して取材を申し込み,また,本件各書面へ\nの署名押印を求めるに当たって,本件各映像を利用して製作する映画が一般 に,場合によっては商用として,公開される可能性が排除されると述べたこ\nとは認められないし,被告Fがその可能性を秘匿したと認められる状況も認\nめられない。
また,その後,被告Fは,本件各映像を利用して製作した本件映画1が映 画祭で上映されたり,日本国内で上映されたりすることについて,自ら事前 に原告らに知らせていた。すなわち,被告Fは,平成30年9月30日には, 本件各映像を利用して製作した本件映画1が釜山国際映画祭において上映さ れる予定であること,将来日本と韓国で更に上映される可能\性があることを 各原告に対して告知し,平成31年2月28日には,本件映画1が日本国内 において上映される予定であることを,各原告に対し事前に告知した(前記\n1(8))。そして,上記の告知に対して,いずれの原告らからも一般に又は商 用として公開されることについて許諾をしていないなどとの抗議がされるこ とはなかった。むしろ,原告D及び原告Bは被告Fに対し祝意を表し,原告\nDは試写会に参加し(同ウ,エ),原告Aは,ツイッターに本件映画1の日 本国内における公開等を宣伝する好意的な投稿をしたほか,試写会に参加し て毎日新聞社の取材に感想を述べるなどした(同オ)。その後,原告らは, 本件映画1の上映中止を求めるようになったが,それは,本件映画1が日本 国内において上映されるようになり,原告らがそれぞれ本件映画1を鑑賞し その内容を認識した後,又は,その内容を認識してから少し経過した後であ る平成31年4月から令和元年5月頃からである(同(8),(9))。
以上のとおり,被告Fは,原告らに取材を依頼した際,製作した映画を映 画祭に応募することも考えていたが,具体的な映画の配給についての話はな かったところ,原告らとの間でも,取材の結果を一般に公開する話が出たこ ともあった。また,原告らと被告Fとの間の本件各書面には,製作した映画 の配給,上映や公開についても記載されていた。本件各書面に記載された映 画の上映や公開が商用での公開を含まないことをうかがわせる記載もない。 被告Fが,取材の依頼の際や本件各書面への署名押印の依頼に当たり,商用 を含む公開の可能性を排除したり,その可能\性を秘していたりしたとは認め られない。また,被告Fは,映画祭や日本国内での本件映画1の上映に先立 ち,その上映を原告らに告知し,原告らもそれに抗議をすることはなかった。 これらによれば, 被告Fが,製作した映画が原告らに対する取材の時点 から一般に,場合によっては商用として公開されることがあることを秘して いたということはできず,被告Fが原告ら主張の欺罔行為を行ったとは認め\nられない。原告らは,本件各映像を利用して製作される映画が一般に,場合 によっては商用として公開される可能性をも認識した上で,被告Fに対し本\n件各許諾をしたものと認められる。
(5) 以上によれば,被告Fが,原告らに対して取材を申し込み,また,本件各\n書面への署名押印を求めるに当たって,原告らが主張する欺罔行為によって\n原告らを欺罔したとは認めるに足りず,本件各許諾をするに当たって原告ら\nに錯誤があったとも認めるに足りない。 したがって,本件各許諾は詐欺により取り消され又は錯誤により無効であ\nるか(争点1)−3),及び,被告Fが,原告らを欺罔して取材に応じるとい\nう役務の提供をさせたか(争点7))について,原告らの主張には理由がない。

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令和3(行ウ)381    その他  行政訴訟 令和4年6月28日  東京地方裁判所

 「八丁味噌」について愛知の組合が地理的表示として申\請をして認められました。岡崎の業者が、これに不服申立を行いましたが、出訴期間を徒過していました。岡崎の会社は、自分たちの製法こそ、「八丁味噌」と主張しているようですので、発展的解消は難しいのかもしれません。\n

前提事実によれば、原告は、平成29年12月16日頃、本件処分があった ことを知ったところ、原告は、令和3年9月17日、本件処分の取消しを求め る本件訴えを提起したことが認められる。そうすると、本件訴えの提起は、本 件処分があったことを知った日から6か月を経過してされたものであるから、 行訴法14条1項本文所定の出訴期間を徒過しているものと認められる。 したがって、本件訴えは、出訴期間を経過したものとして、同項ただし書に いう「正当な理由」がない限り、不適法である。 これに対し、原告は、本件処分について八丁組合が本件審査請求をしている ところ、八丁組合がした本件審査請求は、実質的には原告が行ったものと同視 することができるから、原告は行訴法14条3項本文に規定する「審査請求を した者」に当たり、本件訴えはその出訴期間を遵守するものである旨主張する。 しかしながら、前提事実によれば、本件審査請求をした者は八丁組合であり、 原告と八丁組合の法人格は異なるものであるから、原告が上記にいう「審査請 求をした者」に該当しないことは明らかである。そもそも、原告は、八丁組合 が本件審査請求をした場合であっても、行訴法14条1項にいう出訴期間経過 前に本件処分に係る取消訴訟を提起することができたのであるから、下記2に おいて検討するとおり、同項にいう「正当な理由」がある場合に限り、原告は 本件訴えを提起することができるものと解するのが相当である。そうすると、 原告の主張は、上記判断を左右するに至らない。

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令和2年(受)第1442号 投稿記事削除請求事件 令和4年6月24日 第二小法廷判決

 知財案件ではありませんが、原告の実名入りの逮捕事実が複数の報道機関のウェブサイトに掲載された(有罪確定)。このリンクツイートの削除要請が認められるのか?について、最高裁は、認めないとした高裁判断を取り消しました。
 本件事実は、他人にみだりに知られたくない上告人のプライバシーに属する事実である。他方で、本件事実は、不特定多数の者が利用する場所において行われた軽微とはいえない犯罪事実に関するものとして、本件各ツイートがされた時点においては、公共の利害に関する事実であったといえる。しかし、上告人の逮捕から原審の口頭弁論終結時まで約8年が経過し、上告人が受けた刑の言渡しはその効力を失っており(刑法34条の2第1項後段)、本件各ツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどからすれば、本件事実の公共の利害との関わりの程度は小さくなってきている。また、本件各ツイートは、上告人の逮捕当日にされたものであり、140文字という字数制限の下で、上記報道記事の一部を転載して本件事実を摘示したものであって、ツイッターの利用者に対して本件事実を速報することを目的としてされたものとうかがわれ、長期間にわたって閲覧され続けることを想定してされたものであるとは認め難い。さらに、膨大な数に上るツイートの中で本件各ツイートが特に注目を集めているといった事情はうかがわれないものの、上告人の氏名を条件としてツイートを検索すると検索結果として本件各ツイートが表示されるのであるから、本件事実を知らない上告人と面識のある者に本件事実が伝達される可能\性が小さいとはいえない。加えて、上告人は、その父が営む事業の手伝いをするなどして生活している者であり、公的立場にある者ではない。以上の諸事情に照らすと、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越するものと認めるのが相当である。したがって、上告人は、被上告人に対し、本件各ツイートの削除を求めることができる。\n

◆判決本文

原審はこちら。なお、1審判決(平成30(ワ)66)は判決文がアップされていません。

◆令和1(ネ)4733
現時点(本件口頭弁論終結時)においては,広く利用されている検索事業者であるグーグルの機能を用いて検索しても(甲90,96,102),本件各投稿記事に関する情報が検索結果として表\示されることはない。本件各投稿記事が引用するインターネット上の報道記事も,すでに削除されている(乙23)。第1審原告が本件逮捕を理由に就職や交友関係などで不利益を受けたと考えている出来事は,いずれも平成▲年以前(刑の消滅前)の出来事であって,グーグルなど一般的な検索事業者の提供する検索機能により本件逮捕の事実が知られたことが原因と推定される。そして,ツイッターの検索機能\の利用頻度は,グーグルなど一般的な検索事業者の提供する検索機能ほどには高くないことは,公知の事実である。そうすると,本件逮捕の事実が伝達される範囲はある程度限られ,かつ,本件各投稿記事によって第1審原告が具体的被害を被る可能\性も低下しているということができる。なお,第1審原告は,平成▲年▲月に婚姻したが,配偶者やその家族には本件逮捕や罰金刑確定の事実は伝えていない。
エ 以上の事実を総合すると,罰金の納付(平成▲年▲月▲日)から5年が経過して刑の消滅の効果(刑法34条の2)が発生し,その後更に3年近くが経過したこと及び第1審原告が本件各投稿記事が一般の閲覧に供されることにより各種の社会的な不利益を受ける可能性が消滅したわけではないことを考慮しても,被疑事実の内容や本件各投稿記事が公共の利害に係り公益目的で投稿されたこと,既にグーグルなどの一般的な検索サイトでは本件逮捕の事実が検索結果として表\示されることはなく,具体的な不利益を受ける可能性が低下していることなどに鑑みれば,本件において,本件各投稿記事を一般の閲覧に供する諸事情よりも本件逮捕の事実を公表\されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。よって,第1審原告による本件各投稿記事の削除請求は理由がない。

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平成30(ワ)36690  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月15日  東京地方裁判所

 実施料率0.01%の980万円の不当利得があると認定されました。損害賠償は時効と判断されて、不当利得の返還を求めました。判決に目次があり、目次だけでほぼ3ページあります。

(1) 消滅時効の成否
前記前提事実(2),(6)ないし(8)のとおり,本件特許の登録は平成22年7 月30日にされており,被告各製品の製造,販売は同年12月から平成23 年9月の期間に行われたものであったところ,原告は,平成24年1月9日 頃,被告による被告各製品の製造,販売が別件特許権の侵害に当たる等とし て,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求を求める別件訴訟を提起し, 平成25年8月2日に別件判決が言い渡された。 そして,証拠(甲4,5,乙1,5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は, 別件訴訟の審理を通じて,遅くとも別件判決の言渡日である平成25年8月 2日までには,被告各製品の具体的な構成について本件の訴状で記載した程\n度には認識していたものと認められる。 したがって,本件の主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権に ついては,原告が遅くとも同日までにその損害及び加害者を知ったものと認 められるから,改正前民法724条前段の3年の時効期間は同日から進行し, 平成28年8月2日の経過をもって,本件訴訟提起前に消滅時効が完成した ものと認められる。
・・・
ウ 実施料率の認定
(ア) 前記イ(ア)ないし(ウ)によれば,1)実際の実施許諾契約における実施料 率,業界における実施料の相場等について,次の点を指摘することがで きる。 本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また, 業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率 〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。こ のような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場 等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許 諾契約の内容を参考とするのが相当である。 そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する 標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位 での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,その うち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセン ス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成2 2年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規 格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当 たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5 「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出 した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。 なお,上記陳述書における被告従業員の説明によれば,これらのライ センス契約のうち,C社を含む一部の会社との間の契約においてはクロ スライセンスの条項が設けられていたところ,前記イ(イ)a(a)によれば, クロスライセンスの存在はライセンス料率を引き下げる要因と考えられ るから,上記の被告従業員の説明に係るライセンス料率についても,ク ロスライセンスによる減額がされていた可能性は否定されない。\n(イ) 前記(ア)の点に加え,前記イ(エ)のとおり,2)本件発明が被告各製品に とって代替不可能なものとは認められず,3)本件発明を実施することに よる被告の利益の程度も明らかではないこと,前記イ(ア)のとおり,4)原 告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での 実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針 としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約 の締結に至ったことはないことといった事情を総合考慮すれば,本件発 明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0. 01%と認めるのが相当である。
エ 被告が返還すべき利得の額
以上によれば,被告が返還すべき利得額は,別紙5「被告各製品の販売 状況」記載の被告各製品の売上高合計980億1770万4000円に実 施料率0.01%を乗じた980万1770円と認められる。

◆判決本文

別件訴訟はこちらです(請求棄却)。

◆平成24年(ワ)237

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平成31(ワ)2034  損害賠償請求事件  その他  民事訴訟 令和3年1月8日  東京地方裁判所

 被告会社は原告に事業譲渡をしました。原告は競業避止義務違反を理由に事業の中止を求めました。裁判所はこれを認めました。争点は問題の事業が譲渡対象であったか否かでした。

(1) 本件事業譲渡の対象について
本件事業譲渡の対象について,原告は,関東地方に所在する食品加工業者 及び食品工場向けの食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンス の事業等が包括的に含まれると主張するのに対し,被告は,本件事業譲渡の 対象は,旧関東事業部の行っていた食品用機械のメンテナンス及び付属部品, 資材の販売等の事業に限られると主張するので,以下,検討する。 ア 本件事業譲渡契約書第1条には,被告は原告に「関東事業部」を譲渡す る旨の記載があるところ,前記前提事実(第2の1(1)),証拠(甲11, 12)及び弁論の全趣旨によれば,1)被告は,平成23年11月,海外メ ーカー製の食品用機械の輸入及び販売事業等を行うことを目的として,関 東産機事業部を被告所沢事務所内に立ち上げたこと,2)その後,関東産機 事業部の責任者であるAが平成27年に被告を退社したことから,被告所 沢事務所内に同事業部の担当者が不在になり,関東産機事業部が行ってい た事業は,原告代表者を含む旧関東事業部の従業員等が引き継いで行うよ\nうになったこと,3)平成28年から平成29年頃にかけての被告の受注予\n定表は「札幌」と「関東」とで別々に作成されており,関東地方の受注予\ 定表には関東産機事業部と旧関東事業部の区別なく,受注案件の進捗状況\n等が記載されていること,の各事実が認められる。 上記各事実によれば,本件事業譲渡当時,関東産機事業部の活動は事実 上休止状態にあり,被告の関東地方における事業やその営業は,そのほと んどを旧関東事業部が行っていたものと認められ,本件事業譲渡契約書第 1条の「関東事業部」とは,同契約締結当時に旧関東事業部が行っていた 事業,すなわち,被告の関東地方における食品加工業者及び食品工場向け の食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンスの事業を包括的 に含むものと解するのが相当である。
イ また,前記前提事実(第2の1(2))のとおり,本件事業譲渡契約書には, 関東産機事業部に残される資産や契約等についての記載は存在せず,かえ って,同契約書第2条は,被告は,原告に対し,建物付属設備,機械装置, 器具備品等の全てを含む資産,旧関東事業部の敷地及び建物(工場・事務 所)の物品の全てに関する契約,並びに旧関東事業部の行う事業に関する 営業上の秘密,ノウハウ,顧客情報等を含む必要又は有益な全ての情報を 譲渡すると規定されている。 被告は,原告に譲渡した事業には関東産機事業部の事業は含まれないと 主張するが,本件事業譲渡契約書の草案を作成したのが被告であることに ついては当事者間に争いないところ,仮に被告の主張するように関東産機 事業部を事業譲渡の対象としないのであれば,本件事業譲渡契約書におい て旧関東事業部に譲渡する食品用機械や資材等の資産,契約,顧客等と被 告の関東産機事業部に残す資産,契約,顧客等とが区別して規定されてし かるべきであるが,本件事業譲渡契約書においては,関東産機事業部に一 部の資産,契約,顧客情報等を残すことを前提とする記載は存在しない。 そうすると,本件事業譲渡契約書第2条の規定は,被告が,原告に対し, 被告の関東における食品加工業者及び食品工場向けの食品用機械の開発, 製造,加工,販売又はメンテナンスの事業等に関する資産,顧客情報を包 括的に譲渡する趣旨であると解するのが相当である。
ウ さらに,平成28年10月21日に開催された役員会議の議事録(乙1 2)には,本件事業譲渡に関し,被告代表者が「(関東事業部の)事業譲\n渡を考えています。・・・関東事業部の資産価値1,000万円,営業権1,000万円 くらい。Xさんが関東事業部の頭でもあるため,Xさんが関東事業部を買 う形が望ましい。」と発言した旨の記載があると認められるが,同議事録 には,関東産機事業部の事業を譲渡対象としないことやその資産価値につ いての記載は存在しない。 このことに照らしても,本件事業譲渡契約の対象には,被告の関東にお ける食品加工業者及び食品工場向けの食品用機械の開発,製造,加工,販 売又はメンテナンスの事業等が包括的に含まれると解するのが相当であ る。

◆判決本文

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平成31(ネ)10033  パブリシティ権侵害等差止等・著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和2年2月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 バブリシティー権に基づく請求として、1審が認定した額(100万円)が争われました。知財高裁3部は、原審の判断を維持しました。

 (1)原判決を引用して認定した事実経過によれば,本件事案には,次のような 事情がある。
(2) 両当事者は,平成9年から平成25年までの間,本件ブランドを用いた日 本での婦人服販売事業のための契約関係にあり,本件ブランドの知名度の向 上について共通の利益を有していた。被告各表示の素材となった一審原告X\nの肖像写真及び紹介文並びに被告写真に複製された原告写真は,上記事業に おける本件ブランドの宣伝広告の目的のために,一審原告側から提供された 素材である。そして,その提供に当たっては,当時の両当事者は協力関係に あったという背景から,使用の目的,態様及び期間等について,文書等によ る明確な取極めはなされていなかった。 平成25年の修正サービス契約の解除(本件解除)により両当事者間の契 約関係が解消された時点において,これらの素材は,被告ウェブサイト上及 び店舗内の被告各表示及び被告写真として現に用いられていた。そのことは,\n一審原告側においても了知していた可能性が高いし,仮に了知していなかっ\nたとしても,被告ウェブサイトの閲覧及び店舗の訪問によって容易に知りう る状態にあった。
契約関係の解消後も,一審被告は,日本国内のJS商標を既に譲り受けて いた以上,本件ブランドの下での婦人服販売事業をそれ以前とほぼ同じ態様 で継続することが可能であり,そのことは一審原告側も了知していた。また,\n乙7の終了合意書が締結された平成14年以降,同事業における商品のデザ インや宣伝広告の手法等について,一審原告側は具体的に関与する権利を失 っていたから,本件解除によりすべての契約関係が解消されたからといって, 一審被告が被告ウェブサイトを改修するなどして宣伝広告の内容を改めるべ き事業上の必然性はなかった。そうすると,契約関係の解消後も,被告各表\n示及び被告写真をそれまでと同様に使用し続けることを,一審被告は予定し\nており,一審原告側も,これを予想していたか少なくとも予\想し得たといえ る。
また,JS商標は一審原告Xの氏名と同一であるから,JS商標及び各商 標に関連するグッドウィルを商標権譲渡契約によって譲り受けた上で行う一 審被告の事業活動は,その需要者層に,一審原告X個人がこれに関与してい るとの認識又は印象を必然的に生じさせるものであったといえる。このよう な状況は,契約関係の終了後においても直ちに変わるものではない。
(3) このように,本件事案は,長期間にわたり契約関係にあった当事者が,必 ずしも明確に定めてこなかった事柄が問題となり,それが原因となってパブ リシティ侵害行為,著作権侵害行為及び不正競争行為(いずれも法的性質と しては不法行為)として損害賠償等が請求されている,というものである。 そうすると,権利侵害の成否や損害額の算定の判断に当たっても,契約関係 にない権利者と侵害被疑者との間の訴訟におけるものとは異なり,契約関係 にあった当時の事情を踏まえた合理的な意思解釈が必要とされる。 (4) そして,当裁判所は,上記(3)のような観点に立った上で,原審の判断は是 認し得ると考え,原判決を引用して上記1のとおり判断するものである。
3 両当事者の当審における主張に対する判断
・・・
ア パブリシティ権侵害に基づく使用料相当損害について
原判決の認定した100万円という損害額につき,一審原告会社は高額 に過ぎる旨主張し,一審被告は低額に過ぎる旨主張する。 そこで検討するに,本件においては,以下のような事情を考慮する必要 があると考えられる。すなわち,
(ア) 本件証拠中,例えば甲28には,一審原告Xについて,「世界12ヶ 国に進出。どの国でも高い人気を獲得している。」という記載がある一 方で,「日本は世界最大のマーケット」という記載もある(前者につい ては甲27,後者については甲27,29,30にも同旨の記載があ る。)。 そして,後掲各証拠(いずれも枝番含む)によれば,「世界12ヶ国 に進出」というその実態は,一審原告Xの生地である米国ニューヨーク 市のソーホー地区に平成5年ころから直営の実店舗を有している(乙1\n0)ほかは,米国を含む各国のデパート等に断続的に商品を卸したり (甲134),ネットショップに商品が掲載されたり(甲117〜12 1,133)しているにとどまる。一審原告側が運営するウェブサイト には,店舗の所在場所として18か国のデパート等が挙げられているが (甲122),その中には商品の実際の取扱いを確認できないものが多 い上(乙39ないし45),取扱いがある場合でもデパートの店内に本 件ブランドを冠した売場を確保してはいない(乙11,48)。そして, 一審原告側が主要国の大都市の目抜き通りに独自の路面店を構えている\nこと等を示す証拠は見当たらない。 なお,一審原告Xの日本国外での活動に関する証拠(甲2〜7,10 1〜116)はいずれもウェブサイトへの掲載であるところ,ウェブサ イトは,紙媒体と異なり,掲載可能な記事数が極めて多い媒体である。\nまた,一審原告Xが出展したファッションショー(甲103〜109, 111〜115)は,いわば「地元」であるニューヨーク市でのもので ある上に,出展料を支払えば参加資格に制限はない(一審被告前代表者\n本人尋問)。
(イ) 一審原告Xの世界的な名声については上記(ア)のとおり一定の留保を付 けざるを得ないのに比して,日本国内での名声(特に被告商品の需要者 層におけるもの)は,それなりに高いと認められる。 もっとも,本件ブランドの日本での立上げ以前から一審原告Xが日本 の需要者層に広く知られていたことを示す証拠は見当たらないのに対し, それ以降は一審被告を先駆けとする各ライセンシーが本件ブランドのビ ジネスに深く関わってきたことからすれば,日本における一審原告Xの 名声には,各ライセンシーによるマーケティングの成果という側面が多 分にある。一審原告Xの日本国内での名声を示すものとして一審原告側 から提出されている証拠(甲8〜10,27〜34,83,84,16 2,214〜470等)も,各ライセンシーによる上記と同様のマーケ ティングに影響されたものである可能性がある(例えば,外見上は出版\n社が編集したムックである甲8にも,Editorial cooperatorとして,複 数名の一審被告の関係者が関与している(5頁)。) そして,各ライセンシーがそのマーケティングに当たり,一貫して, 一審原告Xを被告表示2〜4のとおりの容貌・経歴・信条を有する人物\nとして需要者層に印象付けようと努めてきたことは本件各証拠から明ら かであるから,一審原告Xが「世界的に有名な」ファッションデザイナ ーであるとの名声が日本において形成されるについては,各ライセンシ ーの寄与,中でもその先駆けである一審被告の寄与が相当程度に大きか ったと認められる。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の事情によれば,一審原告Xの肖像等が顧客誘引力を有 し同人にはパブリシティ権が認められるとしても,それらは,いわゆる 超一流のファッションデザイナー(例えばB,C,Dにつき甲44,5 4,56)のものと同列ではないし,パブリシティ権の形成に当たって 一審被告がライセンシーとして寄与してきたという経緯を考慮すべきで ある。
(エ) 一審原告らは,一審原告Xのパブリシティ権の価値が高く,その侵害 による損害が大きい旨の主張を裏付けるため,過去の裁判例及び文献の 記載を多数援用する(甲85,131,166〜169,194〜20 0,473等)。しかしながら,過去においてパブリシティ権の価値が 検討された事案の多くは,きわめて知名度が高い権利者(その多くは, 知名度の高さが「公知の事実」に近いような芸能人,運動選手等であ\nる。)の名称及び肖像等が有する顧客誘引力を,その知名度の形成に寄 与していない他者が利用した事案であるから,これらの事案を通じて形 成された法理論及びマーケティング理論並びに個別の事案における裁判 所の判断は,本件にそのまま適用できるものではない。もっとも,一審 原告Xの我が国における認知度は,それなりに高いことからすると,そ の形成に当たって一審被告の貢献が大きいことを考慮しても,パブリシ ティ権侵害に対する損害賠償の額を余りに少額とすることもまた相当で はないというべきである。 上記(ア)〜(エ)で検討した点を踏まえると,一審原告Xのパブリシティ侵害 によって生じた使用料相当損害の額は,原判決が説示するとおり,100 万円と評価するのが相当であって,これに反する一審原告会社及び一審被 告の主張は,いずれも採用することができない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成28(ワ)26612等

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平成30(ネ)10067  商号使用禁止等請求控訴事件  その他  民事訴訟 平成31年2月14日  知的財産高等裁判所  さいたま地方裁判所

 業務提携が、解消されたときに本件商号を使用しない旨の黙示の合意があったかが争われました。知財高裁は上記合意はなかったと判断しました。
 加えて,前記認定事実によれば,控訴人が平成24年9月に控訴人の保有する被控訴人の株式全部を被控訴人代表者(A)に譲渡して,控訴人と被控訴人との資本関係及び業務委託関係(業務提携)を解消した際,控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人が上記解消後に被告商号を継続して使用することについて異議を述べたり,被控訴人の商号を別の商号に変更するよう求めなかったこと,その後も,控訴人は,平成29年6月17日に本件訴訟を提起するまでの約4年9か月間,被控訴人が被告商号を使用して営業活動を行っていることを認識しながら,被控訴人に対し,被告商号の使用を差し控えるよう求めなかったことが認められる。また,控訴人は,控訴人の保有する被控訴人の株式全部をAに譲渡する前は,被控訴人の発行済株式の過半数を有する株主であったから,Aに株式全部を譲渡する前に,被告商号が株式譲渡後に確実に変更されるための対策を講じようと思えば,講じることが可能な立場にあったにもかかわらず,控訴人がそのような対策を講じることを検討した形跡はうかがわれない。\nこれらの諸事情を勘案すると,被控訴人は,控訴人が新築した建物の顧客に対するアフターケア業務を代行して担当する子会社として設立され,被告商号が,控訴人と被控訴人の間に資本関係及び業務委託関係(業務提携)が存在することを踏まえて決定されたという経緯があったからといって,控訴人及び被控訴人のいずれにおいても,被控訴人の設立の際に,控訴人と被控訴人の資本関係及び業務提携が解消されたときは,被控訴人の商号を被告商号から別の商号へ変更する意思又は意向を有していたものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。

◆判決本文

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平成27(ネ)10021  パブリシティ権侵害差止等請求控訴事件  その他  民事訴訟 平成27年8月5日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審と同様に、女性芸能人の裸の胸部のイラスト画を合成した画像を用いた記事について、パブリシティの権利は否定されました。ただ、人格権・人格的利益侵害が認められました。
,1審原告らは,いずれも幅広く芸能活動を行い広く知られた女\n性芸能人であり,本件記事に用いられた1審原告らの肖像等は,顧客吸引力\nを有するものといえることは事実である。 しかしながら,本件記事の内容は,前提事実(3)及び原判決別紙原告らの 記事目録に記載のとおりであり,「勝手に品評!!芸能界妄想オッパイグラ\nンプリ」との見出しや,「手の届かない美女だからこそ,エッチな妄想は膨 らむばかり。そこで,本誌が勝手に検証した結果をもとに,彼女たちのオッ パイを大公開します。禁断のヌードを股間に焼き付けろ!」との文章ととも に,1審原告らを含む女性芸能人25名の顔を中心とした肖像写真の胸部に\n相当する箇所に,裸の胸部(乳房)のイラストを合成した画像を,同人らの 乳房の形状等を想起させるようなコメントやレーダーチャートを付して掲載 したというものである。 また,本件記事に用いられた1審原告らの肖像写真は,表紙を含めて24\n8頁ある本件雑誌全体のうち,グラビア部分とはいえわずか3頁の中に,合 計25名の女性の写真を組み込んだ記事において,その一部として用いられ たものにすぎない。これらの写真は,いずれもモノクロ写真であって,写真 の大きさも,縦6cm,横4cmのものから縦12.2cm,横10.7c m程度のものであり,それ自体として見れば,独立した鑑賞の対象としては ややありふれたものであり,かかる事情は,これらを本件記事に掲載された 他の肖像写真と併せて全体的に評価したとしても,同様である。 このような本件記事の内容やその体裁に照らすと,本件記事は,1審原告 らを含む女性芸能人らの肖像写真それ自体を鑑賞の対象とすることを目的と\nするものというよりもむしろ,上記肖像写真に乳房のイラストを合成するこ とによって,これらに付された上記のようなコメントやレーダーチャートと 相俟って,1審原告らを含む女性芸能人らの乳房ないし裸体を読者に想像さ\nせることを目的とするものであるというべきである。そして,本件記事は, このような目的に供するために,1審原告らを含む女性芸能人らの肖像写真\nに乳房のイラストを加えることによって新たに創作されたものを,読者によ る鑑賞の対象とするものということができる。一方,本件記事における乳房 のイラスト部分は,それ自体としては肖像写真を離れて独立の意義があると は必ずしもいい難いものの,上記のような目的を踏まえると,コメントやレ ーダーチャートとともに本件記事における不可欠の要素となっており,これ らを単なる添え物と評価することは相当ではない。 そうすると,本件記事に1審原告らの肖像等を無断で使用する行為は,肖 像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用するものとはい えず,また,専ら1審原告らの肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とす るものと認めることもできず,かかる行為が,1審原告らのパブリシティ権 を侵害すると認めることはできない。
(3) 1審原告らは,本件記事は1審原告らを含む女性芸能人らの肖像が主要\nな構成要素になることにより初めて雑誌記事として成立しており,肖像部分\nを除いた部分は本件記事の添え物で独立した意義を認めることはできないと 主張する。 確かに,本件記事は,一般人ではなく1審原告らを含む女性芸能人らの肖\n像等を用いていることに,読者を惹きつける記事としての意味があるという ことができる。しかしながら,本件記事は,肖像写真に乳房のイラストを加 えることによって新たに創作されたものを,読者による鑑賞の対象とするも のであり,本件記事における乳房のイラスト部分は,それ自体としては肖像 写真を離れて独立の意義があるとは必ずしもいい難いものの,本件記事にお ける不可欠の要素となっているから,これらを単なる添え物と評価すること は相当ではないのは前記(2)のとおりである。 以上によれば,本件記事が,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的 とする場合に当たるということはできない。

◆判決本文

◆1審はこちらです。平成26年(ワ)第7213号

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平成20(あ)1071 行政書士法違反被告事件 平成22年12月20日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 札幌高等裁判所

家系図が「事実証明に関する書類」に該当するのかが争われました。最高裁は該当するとした原審を破棄自判しました。
 上記の事実関係によれば,本件家系図は,自らの家系図を体裁の良い形式で残しておきたいという依頼者の希望に沿って,個人の観賞ないしは記念のための品として作成されたと認められるものであり,それ以上の対外的な関係で意味のある証明文書として利用されることが予定されていたことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。そうすると,このような事実関係の下では,本件家系図は,依頼者に係る身分関係を表\示した書類であることは否定できないとしても,行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に当たるとみることはできないというべきである。したがって,被告人が業として本件家系図を作成した行為は行政書士法19条1項に違反せず,被告人に同法違反の罪の成立を認めた原判決及び第1審判決は,法令の解釈適用を誤った違法があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって,原判決及び第1審判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。・・・裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」の外延は甚だ広く,行政書士法の立法趣旨に従い,その範囲は「行政に関する手続の円滑な実施に寄与し,あわせて,国民の利便に資する」(同法1条)という目的からの限定を受けるべきであるとともに,職業選択の自由・営業の自由(憲法22条1項)と調和し得るよう合理的に限定解釈されるべきものである。そして,行政書士法1条の2第1項では「官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類」とあり,文理上,「事実証明に関する書類」の内容については「官公署に提出する書類」との類推が考慮されなければならない。このように考えると,「事実証明に関する書類」とは,「官公署に提出する書類」に匹敵する程度に社会生活の中で意味を有するものに限定されるべきものである。そもそも,家系に関する人々の関心は古くからあり,学問も成立しており,郷土史家をはじめとして多くの人々が研究調査し,ときに依頼を受けて家系図の作成を行うなどしてきたのである。そして,家系図の作成は,戸籍・除籍の調査にとどまらず,古文書・古記録を調査し,ある程度専門的な判断を経て行われる作業でもある。行政書士は,戸籍・除籍の調査に関しては専門職であるが,それを超えた調査に関しては,特段,能力が担保されているわけではない。家系図は,家系についての調査の成果物ではあるが,公的には証明文書とはいえず,その形状・体裁からみて,通常は,一見明瞭に観賞目的あるいは記念のための品物であるとみることができる。家系図作成について,行政書士の資格を有しない者が行うと国民生活や親族関係に混乱を生ずる危険があるという判断は大仰にすぎ,これを行政書士職の独占業務であるとすることは相当でないというべきである。\n

◆判決本文

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