H15. 3.26 東京地裁 平成13(ワ)3485 特許権 民事訴訟事件

平成13年(ワ)第3485号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成14年10月28日


              判       決  
             原      告        東芝テック株式会社
             訴訟代理人弁護士       大 場 正 成
             同              尾 崎 英 男
             同              嶋 末 和 秀
             被      告        ファミリー株式会社
       訴訟代理人弁護士        三 山 峻 司
       同               室 谷 和 彦
       補佐人弁理士         角 田 嘉 宏
       同               高 石   郷
       同               西 谷 俊 男
       同               古 川 安 航
              主       文  
  1 被告は,別紙物件目録の(3)及び(4)の椅子式マッサージ機の製造,販売,販売の申出をしてはならない。

  2 被告は,その占有する別紙物件目録の(3)及び(4)の椅子式マッサージ機を廃棄せよ。
   3 被告は,原告に対し,15億4744万3172円,及び内金7億3469万8514円に対する平成13年3月6日から支払済みまで年5分の割合による,内金8億1274万4658円に対する平成14年5月9日から年5分の割合による,各金員を支払え。
  4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
   5 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
   6 この判決は,第1ないし3項に限り,仮に執行することができる。
                           事実及び理由
第1  請求
 1 被告は,別紙物件目録の(1)ないし(4)の椅子式マッサージ機の製造,販売,販売の申出をしてはならない。
 2 被告は,その占有する別紙物件目録の(1)ないし(4)の椅子式マッサージ機を廃棄せよ。

 3 被告は,原告に対し,金36億5669万7000円及び内金19億257万4000円に対する平成13年3月6日から,内金17億5412万3000円に対する平成14年5月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
   原告は,被告に対して,別紙物件目録の(1)ないし(4)記載の椅子式マッサージ機(以下順に「被告製品1」ないし「被告製品4」と,これらを併せて「被告各製品」という。)を製造,販売等する被告の行為が,原告の有する後記本件特許権1ないし5を侵害するとして,被告の上記各行為の差止等と損害賠償金の支払を求めた(ただし,後記本件特許権2に基づく被告製品3,及び後記本件特許権4に基づく被告製品2,3,4の差止等の請求は,本訴請求から除外している。)。
 1  前提となる事実(当事者間に争いがない。なお,便宜上,証拠を摘示したものがある。)

   (1) 原告の有する特許権
     原告は,次の1ないし5の各特許権(以下順に「本件特許権1」ないし「本件特許権5」と,これらを併せて「本件各特許権」といい,それぞれの特許請求の範囲記載の各発明を順に「本件発明1」ないし「本件発明5」といい,これらを併せて「本件各発明」という。なお,本件発明4については請求項3のみを,その余の各発明については請求項1項のみを指す。)を有している。
    ア 本件発明1
       (ア) 発明の名称   エアマッサージ装置
       (イ) 出願日          平成5年10月29日
       (ウ) 登録日          平成11年12月10日
       (エ) 特許番号        第3012127号
    (オ) 特許請求の範囲 別紙「特許公報1」写しの請求項1欄記載のとおり(以下同公報掲載の明細書を「本件明細書1」という。)

     イ 本件発明2
      (ア) 発明の名称   エアマッサージ装置
       (イ) 出願日          平成5年10月29日
       (ウ) 登録日          平成11年12月17日
       (エ) 特許番号        第3014572号
    (オ) 特許請求の範囲 別紙「特許公報2」写しの請求項1欄記載のとおり(以下同公報掲載の明細書を「本件明細書2」という。)
     ウ 本件発明3
      (ア) 発明の名称   エアーマッサージ機
       (イ) 出願日          平成6年10月13日
       (ウ) 登録日          平成11年12月10日
       (エ) 特許番号        第3012774号
    (オ) 特許請求の範囲 別紙「特許公報3」写しの請求項1欄記載のとおり(以下同公報掲載の明細書を「本件明細書3」という。)
     エ 本件発明4
      (ア) 発明の名称   エアーマッサージ機

       (イ) 出願日          平成7年3月23日
       (ウ) 登録日          平成11年12月10日
       (エ) 特許番号        第3012780号
    (オ) 特許請求の範囲 別紙「特許公報4」写しの請求項3欄記載のとおり(以下同公報掲載の明細書を「本件明細書4」という。)
     オ 本件発明5
      (ア) 発明の名称   椅子式エアーマッサージ機
       (イ) 出願日          平成6年8月17日
       (ウ) 登録日          平成12年10月20日
       (エ) 特許番号        第3121727号
    (オ) 特許請求の範囲 別紙「特許公報5」写しの該当欄記載のとおり(以下同公報掲載の明細書を「本件明細書5」という。)
   (2) 本件各発明の構成要件
     本件各発明を構成要件に分説すると,以下のとおりとなる。
    ア 本件発明1

     A 空気袋と,この空気袋に対してエアを給排気するエア給排気装置とからなり,前記空気袋を膨張・収縮させてマッサージを行うエアマッサージ装置であって,
       B 上方および前後端が開放されるとともに人体の脚部を載せる1対の凹状受部を形成し,
       C 前記各凹状受部の相対向する側面には空気袋をそれぞれ配設した
       D ことを特徴とするエアマッサージ装置。
    イ 本件発明2
     A 複数の空気袋を有し,前記複数の空気袋を膨縮させるエア給排気装置とを備えたエアマッサージ装置において,
       B 前記複数の空気袋は,人体当接面の中心線の左右に跨って配置されて前記人体当接面から人体を押し出すように膨張する空気袋と,
       C 前記中心線の左右に間隔をおいて配置されて前記人体当接面上の人体を挟み付けるように互いに接近する方向に膨張する空気袋とを備え,

       D 前記中心線の左右に跨る空気袋と前記中心線の左右に間隔をおいた空気袋とを人体の同一部位に対応させて前記人体当接面の左右方向に沿って配置し,
       E 且つ,前記中心線の左右に間隔をおいた空気袋の少なくとも一部を前記中心線の左右に跨る空気袋の両端より左右方向外方側に位置させて人体の同一部位に対して押し出しによる押圧マッサージ作用と挟み付けによる揉みマッサージ作用とを与える
       F ことを特徴とするエアマッサージ装置。 
    ウ 本件発明3
     A 身体支持台と,この身体支持台の前部に上下方向に回動自在に設けられ脚載置壁とこの脚載置壁の両側に形成した側壁とからなる溝状の脚載置部を有する脚載置台と,
       B 少なくとも前記脚載置部の両側壁に配設された気密性を有するとともに軟質材からなり圧搾空気の給排気に伴って膨縮するエアーバッグと,

       C 前記エアーバッグに圧搾空気を供給する圧搾空気供給手段と,
       D 前記身体支持台に設けられ前記脚載置台を回動させて所定の位置に位置決めする位置決手段とを備え,
       E 前記エアーバッグへの圧搾空気の供給量を一定としたままで,前記脚載置台の回動位置に応じて太さが変化する脚部の側部への前記エアーバッグによる押圧力を前記脚載置台の回動に応じて可変とした
       F ことを特徴とするエアーマッサージ機。
    エ 本件発明4
     A 座部及び背凭れ部を有した椅子本体と,
       B 前記座部前側に配置して前記椅子本体に取付けられ,かつ,両側壁及び中間壁を有し,これら側壁と中間壁との間に上面及び前後両端を開放して前記椅子本体に座った使用者の下肢を収容し得る1対の施療凹部が形成され,前記中間壁の両側面に脚用空気袋が夫々取付けられるとともに,前記両側壁の内側面にも脚用空気袋が夫々取付けられた脚載置部と,

       C 前記各脚用空気袋に連通して設けられこれら脚用空気袋に対してエアーを給排気するエアー給排気装置と,
       D を具備した椅子式のエアーマッサージ機(以上請求項1)
       E 底部空気袋を前記施療凹部の底面に配置した前記請求項1に記載のエアーマッサージ機。
    オ 本件発明5 
     A1 圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者を押上げる座部用袋体が配設された座部,
       A2 及びこの座部の後部に所定の傾斜角度をもって設けられた背もたれ部とを有する椅子本体と,
       A3 前記座部の前部に設けられ,かつ,圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置部と,
       A4 圧搾空気を供給する圧搾空気供給手段と,
       A5 この圧搾空気供給手段からの圧搾空気を給排気管を介して前記各袋体に分配して供給する分配手段と,

       A6 前記座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて前記脚用袋体への給排気を行う動作モードを含む複数の動作モードを入力する入力手段と,
       A7 この入力手段から前記動作モードの中から所望の動作モードが入力されたときこの動作モードに応じて前記袋体への給排気を行うように前記圧搾空気供給手段及び分配手段を制御する制御手段とを備え,
       B  前記座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて前記脚用袋体への給排気を行う動作モードにおいて,前記脚用袋体が膨張して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用袋体が使用者を押上げるように膨張することを特徴とする

       C  椅子式エアーマッサージ機。
   (3) 被告の行為
     被告は,被告各製品を製造,販売した。なお,被告製品3及び4は,それぞれ被告製品1及び2の脚部の設計を変更した製品であり,被告が,本訴提起後に,製造,販売したものである。

   (4) 被告各製品の本件各発明の構成要件充足性
    ア 本件発明1と被告製品1ないし4との対比
        被告製品1ないし4は,本件発明1の構成要件A,Dを充足する。
    イ 本件発明2と被告製品1,2,4との対比
      被告製品1,2,4は,本件発明2の構成要件A,Fを充足する。
    ウ 本件発明3と被告製品1ないし4との対比
     (ア) 被告製品1,2は,本件発明3の構成要件AないしD,Fを充足する。
     (イ) 被告製品3,4は,本件発明3の構成要件BないしD,Fを充足する。
    エ 本件発明4と被告製品1との対比
      被告製品1は,本件発明4の構成要件A,C,Dを充足する。
    オ 本件発明5と被告製品1ないし4との対比
       (ア) 被告製品1,2は,本件発明5の構成要件A2ないしA7,Cを充足する。

       (イ) 被告製品3,4は,本件発明5の構成要件A2,A4ないしA7,Cを充足する。
   (5) 本件各特許についての無効審判請求,訂正請求等の経緯
    ア 本件特許1について
     (ア) 被告は,平成13年11月8日,本件特許1についての無効審判請求を行った。
     (イ) 原告は,同14年2月18日,本件発明1の請求項1について,以下のとおりとする旨の訂正請求を行った(下線を付した部分が訂正請求により付加した部分の記載である。)。
      「空気袋と,この空気袋に対してエアを給排気するエア給排気装置とからなり,前記空気袋を膨張・収縮させて前記空気袋によってマッサージを行うエアマッサージ装置であって,上方および前後端が開放されるとともに人体の脚部を載せる1対の凹状受部を形成し,前記各凹状受部の相対向する側面には膨張により前記脚部を挟み付ける空気袋をそれぞれ配設したことを特徴とするエアマッサージ装置。」

       (ウ) 特許庁は,平成14年7月31日付けで,原告の上記訂正請求を認めた上,本件発明1の請求項1の発明についての特許を無効とする旨の審決を行った(乙77。以下「乙77審決」という場合がある。)。
       (エ) 原告は,上記に対し,平成14年8月19日,東京高等裁判所に審決取消請求訴訟を提起した。
    イ 本件特許2
     (ア) 被告は,平成13年12月5日,本件特許2についての無効審判請求を行った。
     (イ) 原告は,平成14年3月11日付けで,本件発明2の請求項1について,以下のとおりとする旨の訂正請求を行った(下線を付した部分が訂正により追加を求めた部分の記載である。)。
      「複数の空気袋を有し,前記複数の空気袋を膨縮させるエア給排気装置とを備えたエアマッサージ装置において,前記複数の空気袋は,人体当接面の中心線の左右に跨って配置されて前記人体当接面から人体を押し出すように膨張する空気袋と,前記中心線の左右に間隔をおいて配置されて前記人体当接面上の人体を挟み付けるように互いに接近する方向に膨張する空気袋とを備え,前記中心線の左右に跨る空気袋と前記中心線の左右に間隔をおいた空気袋とを人体の同一部位に対応させて前記人体当接面の左右方向に沿って配置し,且つ,前記中心線の左右に間隔をおいた空気袋の少なくとも一部を前記中心線の左右に跨る空気袋の両端より左右方向外方側に位置させて人体の同一部位に対して押し出しによる押圧マッサージ作用と挟み付けによる揉みマッサージ作用とを異なるタイミングで与えることを特徴とするエアマッサージ装置。」

       (ウ) 特許庁は,平成14年7月31日付けで,原告の上記訂正請求を認めた上で,被告の請求は成り立たない旨の審決を行った(乙78)。
   ウ 本件特許3
    (ア) 被告は,平成13年12月4日,本件特許3についての無効審判請求を行った。
     (イ) 特許庁は,平成14年6月20日付けで,本件発明3の請求項1ないし3についての特許を無効とする旨の審決を行った(乙72。以下「乙72審決」という。)。
     (ウ) 原告は,上記に対し,平成14年7月8日,東京高等裁判所に審決取消請求訴訟を提起した。
     エ 本件特許4
       (ア) 被告は平成13年11月16日,本件特許4についての無効審判請求を行った。
     (イ) 原告は,平成14年2月18日付けで,本件発明4の請求項3について,以下のとおりとする旨の訂正請求を行った(下線を付した部分が訂正請求により付加した部分の記載である。)。

      「底部空気袋を前記施療凹部の底面に配置し,前記各空気袋による下肢に対する圧迫動作において前記底部空気袋用の弁手段を前記脚用空気袋用の弁手段よりも遅れて開くように制御した前記請求項1又は2に記載のエアーマッサージ機。」
       (ウ) 特許庁は,平成14年8月12日付けで,原告の上記訂正請求を認めた上で,請求項1に係る特許は無効とする旨,他の請求項に係る特許について,被告の請求は成り立たない旨の審決を行った(乙79)。
     オ 本件特許5
       (ア) 被告は,平成13年12月11日,後記2(4)エ(被告の主張)(ア),(イ)記載の無効理由があるとして,本件特許5についての無効審判請求を行った。
     (イ) 特許庁は,平成14年6月20日付けで,請求は成り立たない旨の審決を行った(乙73)。

     (ウ) 被告は,平成14年7月26日,東京高等裁判所に審決取消請求訴訟を提起した(乙96)。
     (エ) 被告は,平成14年10月15日,後記2(4)エ(被告の主張)(ウ)記載の無効理由に基づき本件特許5についての無効審判請求を行った(乙96)。
 2  争点及び当事者の主張
   (1)  被告各製品の構成
   (原告の主張)
     被告各製品の構成は,別紙「被告製品1説明書」ないし「被告製品4説明書」記載のとおりである(なお,争いのある部分に下線を付した。)。
   (被告の認否)
     以下に指摘する点を除いて原告の主張を認める。
    ア 被告製品1について
     (ア) 構成の説明について
         a 別紙被告製品1説明書の「第2 構造の説明」のC,Eのうち,脚載置部は「溝状」ではなく,「平面状」とすべきである。

         b 同Fについて脚載置部は,符号41,42で示されるような溝状の空間ではなく,平面状である。
         c 同Gについて,空気袋g,hは膨張しても使用者の大腿部や尻部を押し上げるようには動作しない。
       (イ) 図面について
         認める。
    イ 被告製品2について
       (ア) 構造の説明について
        a 別紙被告製品2説明書の「第2 構造の説明」のC,Eのうち,脚載置部は「溝状」ではなく,「平面状」とすべきである。
        b 同Fについて,脚載置部は,符号41,42で示されるような溝状の空間ではなく,平面状である。
        c 同Gは否認する。被告製品2の座部は,図6,7に示されるようなものではない。被告製品2においては,使用者が座部に座っても,ウレタンボードが図7のように大きく湾曲することはない。被告製品2においては,座部の空気袋が膨張しても,使用者の尻部を左右から挟み付ける揉みマッサージ作用を行うことはない。被告製品2においては,バイブレータの下の空気袋が尻部に対して下方から上方へ押し出す押圧マッサージ作用を行うことはない。また,空気袋oは大腿部を押し上げるようには膨張しない。

          着座しない状態における被告製品2の座部は,別紙「被告製品2座部説明書」(以下「被告製品2被告座部説明書」という。)記載のとおりであり,使用者が着座した状態における被告製品2の座部は,別紙「使用者着座状態における被告製品2座部説明書」(以下「被告製品2着座座部被告説明書」という。)記載のとおりである。
      (イ) 図面について
      a 原告の主張する別紙被告製品2説明書の「第1 図面の説明」のうち,図6,7はいずれも否認する。
        原告の主張する別紙被告製品2説明書の図6は,前記「被告製品2被告座部説明書」の図1のとおりである。原告の主張する別紙被告製品2説明書の図7は,使用者が着座しない状態では,同「被告製品2被告座部説明書」の図2のとおりである。
      b 被告製品2に使用者が着座した状態における座部の断面図は,前記「被告製品2着座座部被告説明書の図2(空気袋膨張時),同図4(空気袋収縮時)のとおりである。

    ウ 被告製品3について
     (ア) 構成の説明について
         a 別紙被告製品3説明書の「第2 構造の説明」のCのうち,脚載置部は「溝状」ではなく,「平面状」とすべきである。
         b 同Eについて,脚載置部は,符号41,42で示されるような溝状の空間ではなく,平面状である。
         c 同Fについて,脚載置部は,符号41や符号42で示されるような溝状の空間ではなく,平面状である。また,側壁62のチップウレタン71〜74,ウレタンフォーム81は,空気袋a,b,cが下肢に与える押圧力をその反対側で吸収するのみであり,人の手のような能動的な動きを示すことはないので,下肢に対し両側から挟み付ける揉みマッサージ作用を行うことはない。また,側壁63のチップウレタン71〜74,ウレタンフォーム81は,空気袋d,e,fが下肢に与える押圧力をその反対側で吸収するのみであり,人の手のような能動的な動きを示すことはないので,下肢に対し両側から挟み付ける揉みマッサージ作用を行うことはない。

         d 同Gについて,空気袋i,jは膨張しても使用者の大腿部や尻部を押し上げるような動作はしない。
       (イ) 図面について
         認める。
    エ 被告製品4について
       (ア) 構造の説明について
        a 別紙被告製品4説明書の「第2 構造の説明」のCのうち,脚載置部は「溝状」ではなく「平面状」とすべきである。
        b 同Eについて,脚載置部は,符号41,42で示されるような溝状の空間ではなく,平面状である。
        c 同Fについて,脚載置部は,符号41,42で示されるような溝状の空間ではなく,平面状である。側壁62のチップウレタン71,72,低反発ウレタン8は,空気袋a,b,cが下肢に与える押圧力をその反対側で吸収するのみであり,人の手のような能動的な動きを示すことはないので,下肢に対し両側から挟み付ける揉みマッサージ作用を行うことはない。側壁63のチップウレタン71,72,低反発ウレタン8は,空気袋d,e,fが下肢に与える押圧力をその反対側で吸収するのみであり,人の手のような能動的な動きを示すことはないので,下肢に対し両側から挟み付ける揉みマッサージ作用を行うことはない。

        d 同Gは否認する。被告製品4の座部は,図5,6に示されるようなものではない。被告製品4においては,使用者が座部に座っても,ウレタンボードが図6のように大きく湾曲することはない。被告製品4においては,座部の空気袋が膨張しても,使用者の尻部を左右から挟み付ける揉みマッサージ作用を行うことはない。バイブレータの下の空気袋が,尻部に対して下方から上方へ押し出す押圧マッサージ作用を行うことはない。また,空気袋oは大腿部を押し上げるようには膨張しない。
     (イ) 図面について
      a 別紙被告製品4説明書の「第1 図面の説明」のうち,図5は否認する。被告製品4の座部の平面図は,別紙被告製品4座部説明書の図1,3,5,7のとおりである。
      b 別紙被告製品4説明書の「第1 図面の説明」のうち,図6は否認する。被告製品4の座部の断面図は,別紙被告製品4座部説明書の図2,4,6,8のとおりである。

   (2) 本件各発明と被告各製品との対比
    ア 本件発明1について
     (ア) 被告製品1と本件発明1との対比
     (原告の主張)
         a 構成要件Bについて
            構成要件Bにおける「凹状受部」は,「保持溝」とも表現されているように,対向させて設けられている空気袋23a,23bを含む全体を指すのであって,被告の主張するように脚部の重量を受ける部分のみを指すのではない。
           これに対し,被告製品1のフットレスト3は,上方及び前後端が開放される構造を有しており,2つの溝状の脚載置部41,42が下肢を載せる「1対の凹状受部」に当たることは明らかである(別紙被告製品1説明書の構造の説明C,図1ないし3)。よって,構成要件Bを充足する。
         b 構成要件Cについて
            「凹状受部」の解釈は上記のとおりであるから,構成要件Cにおける「凹状受部の相対向する側面には空気袋をそれぞれ配設した」とは,凹状受部の一部を構成する「相対向する側面」に,それぞれ「空気袋」を配設したことを意味する。

            これに対し,被告製品1においては,2つの溝状の脚載置部41,42が「凹状受部」に該当し,そこには相対向する側面が存在して,それぞれの側面に空気袋a,b,c,dが配設されている(上記構造の説明E,図2ないし4)。よって,構成要件Cを充足する。
     (被告の反論)
         a 構成要件Bについて
           構成要件Bにおける「凹状受部」とは「人体の脚部を載せる1対の凹状受部」との記載に照らすならば,脚部を載せる部分(脚部重量を受ける部分)を意味する。そうすると「受部」自身が「凹状」(例えば本件明細書1の図1,4のような湾曲略V状)であることが必須であるというべきである。
            これに対し,被告製品1では,脚部を載せる「受部」は平面状に形成されており,「受部」自体は凹状になっていない。また,被告製品1の上記平面状の「受部」に脚部を載せただけでは本件発明1のようなリラックス状態は得られず,またこのリラックスにより脚部が柔らかくなる,という本件発明1の作用効果も得られない。

            よって,構成要件Bを充足しない。
         b 構成要件Cについて
           構成要件Cにおける「凹状受部の相対向する側面には空気袋をそれぞれ配設した」とは,「凹状受部」を形成する「相対向する側面」にそれぞれ「空気袋」を配設したことを意味する。
           これに対し,被告製品1は,平面状の「脚載置部」の両側に別途ほぼ垂直な壁を設けて,この壁の側面に「空気袋」を配設する構成を採用しているのであって,原告がいう「脚載置部」はそもそも溝状ではないし,「相対向する側面」も存在しない。
           よって,構成要件Cを充足しない。
       (イ)  被告製品2と本件発明1との対比
       (原告の主張)
        a 構成要件Bの充足性
            被告製品2のフットレスト3は,上方及び前後端が開放される構造を有しており,2つの溝状の脚載置部41,42が下肢を載せる「1対の凹状受部」に当たることは明らかである(別紙被告製品2説明書の構造の説明C,図1ないし3)。よって,構成要件Bを充足する。

         b 構成要件Cの充足性
            被告製品2においては,2つの溝状の脚載置部41,42が「凹状受部」に該当し,そこには相対向する側面が存在して,空気袋a・b,c・d,e・f,g・hが配設されている(上記構造の説明E,図2ないし5)。よって,構成要件Cを充足する。
       (被告の反論)
          被告製品2において,「脚載置部」は凹状ではなく,平面状であり,「脚載置部」には「相対向する側面」がない。
          よって,構成要件B,Cを充足しない。
     (ウ) 被告製品3と本件発明1との対比
       (原告の主張)
        a 構成要件Bについて
          構成要件Bの「凹状受部」の解釈については,前記被告製品1において述べたとおりである。
            被告製品3のフットレスト3は,上方及び前後端が開放される構造を有しており,2つの溝状の脚載置部41,42が下肢を載せる「1対の凹状受部」に当たることは明らかである(別紙被告製品2説明書構造の説明C,図1ないし4)。よって,構成要件Bを充足する。

         b 構成要件Cについての均等の主張
         被告製品3においては,2つの溝状の脚載置部41,42の各々の相対向する側面のうち,一方の側壁61,64の側面には空気袋a・b・c及びd・e・fが配設されている。また,他方の側壁62,63の側面にはチップウレタン71〜74及びウレタンフォーム81が配設されている(上記構造の説明E,図2ないし4)。
         被告製品3は,構成要件Cの「凹状受部の相対向する側面に配設された空気袋」の一方を,チップウレタン及びウレタンフォームで置換している点において相違する。しかし,以下のとおりの理由から被告製品3における「チップウレタン及びウレタンフォーム」は,構成要件Cの「凹状受部の相対向する側面に配設された空気袋」と均等であり,本件発明1の技術的範囲に属する。

           (a) 本質的部分について
              本件発明1は,脚部のマッサージを,凹状受部の相対向する側面に設けた空気袋をエアを給排気して膨張・収縮させることにより行うもので,空気袋により脚部が両側から押圧されたり,開放されたりすることで,人手によるような挟み揉み効果が得られることを特徴とする。
              被告製品3においては「チップウレタン及びウレタンフォーム」を設けて,空気袋が凹状受部の両側面に設けられているのと同じ作用効果を奏しているのであるから,両者における異なる構成は,本件発明1の本質的部分にあるとはいえない。
           (b) 置換可能性
              被告製品3は,脚部のマッサージを凹状受部の相対向する側面に設けた空気袋の膨縮によって行うものである。すなわち,凹状受部の相対向する側面のうちの一方には空気袋が設けられ,空気袋が設けられていない他方の側面にはチップウレタンとウレタンフォームが前記空気袋と相対向して,脚部を包むように配設されている。一方の側面に設けられた空気袋が膨張すると,空気袋が脚部に押圧力を及ぼし,それによって脚部は他方の壁からも反作用を受けるが,他方の壁にはチップウレタンとウレタンフォームが脚部を包むように配設されているので,脚部は両側から空気袋によって押圧されているのと同様の,脚部を包むような押圧力を受ける。その結果,空気袋の膨縮によって脚部は両側から包むように押圧されたり,開放され,人手によるような挟み揉み効果が得られる。

              以上のとおり,本件発明1では凹状受部の相対向する側面の両方に設けられた空気袋で挟み揉みマッサージ作用を行うのに対し,被告製品3では凹状受部の相対向する一方の側面に設けられた空気袋の膨縮と,チップウレタンとウレタンフォームが配設された反対側の側壁からの反作用で,両側から本件発明1の空気袋の膨縮によって得られるのと同様の挟み揉み効果が得られる。したがって,「チップウレタン及びウレタンフォーム」と構成要件Cの「凹状受部の相対向する側面に配設された空気袋」とは作用効果において同一であり,置換可能性がある。
           (c) 置換容易性
              被告製品3の製造時において,構成要件Cの「空気袋」から「チップウレタンとウレタンフォーム」に置換することは,当業者であれば容易に想到することができる。

           (d) 被告製品3が公知技術から容易推考されないこと
              本件発明1の出願日前には,凹状受部の相対向する側面に設けた空気袋で脚部を挟み揉みする公知技術は存在しなかったから,被告製品3が出願日当時の公知技術に基づき容易に推考されるものではない。
           (e) 包袋禁反言などの特段の事情の不存在
 本件発明1についてはそのような事情は存在しない。
       (被告の反論)
        a 構成要件Bについて
            被告製品3において,「脚載置部」は凹状ではなく平面状であり,「脚載置部」には「相対向する側面」がない。よって,構成要件Bを充足しない。
         b 均等の主張に対する反論
           被告製品3における「チップウレタン及びウレタンフォーム」は構成要件Cの「凹状受部の相対向する側面に配設された空気袋」と均等とはいえない。

          (a) 本質的部分について
              本件発明1の明細書(甲5)によれば,本件発明1は従来のマッサージ装置には「身体を掴みもみするようなマッサージ効果が得られないもの(同号証2頁段落【0005】)」や,人手によるような充分な揉み効果が得られないもの(同号証2頁段落【0007】)」しかなかったところ,「人手によるような充分な揉み効果がえられるエアマッサージ装置を提供することを目的(同号証2頁段落【0008】)」としたものである。そして本件発明1の出願人は,人の手によるような充分な掴み揉みをなす具体的な押圧手段として,空気袋を相対向する側面のそれぞれに配設することを選択し,これを特許請求の範囲に記載した。よって,空気袋が凹状受部の両側面に設けられていることは,本件発明1の本質的部分である。

          (b) 置換可能性について
            本件発明1が凹状受部の相対向する側面に空気袋を配するのは,脚部に対して手揉みのような挟み揉みマッサージ作用を与えるためである。空気袋は空気が給排されることによって脚部に対して手揉みのような挟み揉みの作用を与える。このような作用が得られるのは,空気袋がそれ自身,人の手のような能動的な動きをするからである。
            これに対し,被告製品3のチップウレタン及びウレタンフォームは,それ自身が能動的な動きをすることはない。チップウレタン及びウレタンフォームは,脚部の片側面に空気袋が与える押圧力をその反対側で吸収するという受動的な作用をするにすぎない。
            すなわち,被告製品3では,チップウレタン等が,ふくらはぎの形状に合わせて柔軟に変形し,ふくらはぎを包み込むようにして密着することにより,使用者が心地よい囲繞感を感じることができる。このマッサージ作用は,本件発明1によって得られる人の手によるような挟み揉みという局所的な強い刺激とは,別異のものである。

            このように,被告製品3における「空気袋」による作用効果と本件発明1におけるチップウレタン及びウレタンフォームの作用効果とは別異のものであるから,置換可能性はない。
          (c) 置換容易性について
            被告製品3におけるチップウレタン及びウレタンフォームは,ふくらはぎを能動的に押圧することはなく,ふくらはぎの形状に合わせて柔軟に変形し,ふくらはぎを包み込むようにして密着するので,使用者は心地よい囲繞感を感じることができる。このような,本件発明1とは異なるマッサージ作用を得るために,空気袋に換えてチップウレタン等を適用することは,当業者にとっても容易なことではなく,置換容易性はない。
       (エ) 被告製品4と本件発明1との対比
       (原告の主張)
        a 構成要件Bについて

          構成要件Bの「凹状受部」の解釈については,前記被告製品1において述べたとおりである。
         被告製品4のフットレスト3は,上方及び前後端が開放される構造を有しており,2つの溝状の脚載置部41,42が下肢を載せる「1対の凹状受部」に当たることは明らかである(別紙被告製品4説明書構造の説明C,図2ないし4)。よって,構成要件Bを充足する。
         b 構成要件Cについての均等の主張
          被告製品4においては,2つの溝状の脚載置部41,42の各々の,相対向する側面のうち,一方の側壁61,64の側面には空気袋a・b・c及びd・e・fが配設されている。他方の側壁62,63の側面にはチップウレタン71,72及び低反発ウレタン8が配設されている(上記構造の説明E,図2ないし4)。

         被告製品4は,構成要件Cの「凹状受部の相対向する側面に配設された空気袋」の一方を,チップウレタン及びウレタンフォームで置換している点において相違する。しかし,以下のとおりの理由から被告製品4における「チップウレタン及びウレタンフォーム」は,構成要件Cの「凹状受部の相対向する側面に配設された空気袋」と均等であり,本件発明1の技術的範囲に属する。
         均等が成立することについては,前記被告製品3についての原告の主張と同様である。
         なお,置換可能性について,以下のとおり付加主張する。すなわち,乙12(被告製品4のカタログ)3頁右下には,脚部のマッサージについて,「エアバックと低反発ウレタンにより包み込むようにしっかりマッサージ」,「脚に合わせた新設計でフルカバー」,「エアバックと低反発ウレタンで脚部の形状にあわせてしっかり包み込むように圧迫と開放を繰り返す新方式を採用。足首からふくらはぎを絞るようにほぐし,脚の疲れをとり血行を促進します。」と記載されている。同記載によれば,被告製品4では,空気袋の膨縮によって,低反発ウレタンを配置した側からも脚部を包み込むようにマッサージ作用が行われることが示されている。            

       (被告の反論)
        a 構成要件Bについて
            被告製品4において,「脚載置部」は,凹状ではなく平面状であり,「脚載置部」には「相対向する側面」がない。よって,構成要件Bを充足しない。
         b 均等の主張に対する反論
           被告製品4における「チップウレタン及び低反発ウレタン」は,構成要件Cの「凹状受部の相対向する側面に配設された空気袋」と均等とはいえない。その理由は,前記被告製品3についての被告の主張と同様である。
     イ 本件発明2について
      (ア) 被告製品1と本件発明2との対比
     (原告の主張)
         a 構成要件Bについて
          構成要件Bにおける「人体当接面の中心線」は,本件発明2のエアーマッサージ装置と人体部位が当接する面の中心線を指すと解すべきである。「人体当接面の中心線」は,特許請求の範囲の記載上,空気袋の配置関係を規定するために用いられている文言であって,「人体の中心線」ではない。脚部の場合には,各々の下肢についてそれぞれ「人体当接面の中心線」が存在するのであり,両脚の中間に位置する線と解することはできない。

          これに対し,被告製品1のフットレスト3の複数の空気袋は,下肢が当接する面の中心線の左右に跨って配置され,下肢の当接面から下肢を押し出すように膨張する空気袋e,fを備えている(別紙被告製品1説明書構造の説明E,図2ないし4)。よって,構成要件Bを充足する。
         b 構成要件Cについて
             構成要件Cにおける「前記中心線」とは,上記のとおり,下肢においては,両脚の中間に位置する線である。
           被告製品1は,前記構成要件B記載の中心線の左右に間隔をおいて配置され,前記下肢当接面上の下肢を挟みつけるように互いに接近する方向に膨張する空気袋a,bとc,dを備えている。よって,構成要件Cを充足する(上記構造の説明E,図2ないし4)。
         c 構成要件Dについて
          本件発明2では同発明が規定する位置に空気袋が配置されることによって,人体の同一部位に対する2種類のマッサージ作用が行われるものである。このような空気袋の位置関係に照らすならば,構成要件Dにおける「人体の同一部位」とは,2種類の空気袋によって挟み付けマッサージ作用と押圧マッサージ作用を行う対象部位をいう。

          この点,被告は,一方で,「人体の同一部位」とは1対の空気袋の隙間にはまり込むような極めて局部的な狭い部位を意味すると主張しながら,他方で,乙2の第5図の各空気袋が「同一部位」に作用していると主張しており,これは極めて局部的な狭い部位という主張と矛盾する。
          これに対し,被告製品1において,空気袋a,b及び空気袋c,dは,それぞれ,空気袋fと空気袋eの下肢当接面の左右方向に配置され,各空気袋は,それぞれ下肢の同一部位に対応してマッサージを行う。よって,構成要件Dを充足する(上記構造の説明E,図2ないし4)。
         d 構成要件Eについて
          構成要件Eの「人体の同一部位」の解釈については,構成要件Dにおいて述べたとおりである。
           これに対し,被告製品1は,空気袋a,bは空気袋eの両端より左右方向外側に,空気袋c,dは空気袋fの両端より左右方向外側に,それぞれ位置し,下肢の同一部位に対し押し出しによる押圧マッサージ作用と挟み付けによる揉みマッサージ作用とを与える。よって,構成要件Eも充足する(上記構造の説明F,図2ないし4)。

       (被告の反論)
        a 構成要件Bについて
         構成要件Bにおける「人体当接面の中心線」とは,以下のとおり,下肢については,両脚の中間に位置する線を指すと解すべきである。
         すなわち,本件明細書2の図8には,第2実施例として,マット式のエアマッサージ装置A’が示されている。第2実施例は,大腿部に対応して配置された空気袋a2,下腿部に対応して配置された空気袋a11を有する。空気袋a11は,右脚用に1対,左脚用に1対,合計4個配置されている。そして,第2実施例においても,人体当接面の中心線Pが,両脚の中間を貫くようにして表されている。したがって,脚部については,「人体当接面の中心線」は,両脚の中間を貫く線であると解釈するのが自然である。
       これに対し,被告製品1の空気袋e,fは,両脚の中間を貫く線を跨っていないから,「下肢が当接する面の中心線の左右に跨って」配置されていない。よって,構成要件Bを充足しない。

        b 構成要件Cについて
          構成要件Cの「前記中心線」とは,上記のとおり,下肢においては,両脚の中間に位置する線である。被告製品1においては,空気袋a,b,c,dは「前記中心線の左右に間隔をおいて配置され」ていない。よって,構成要件Cを充足しない。
        c 構成要件Dについて
          構成要件Dの「人体の同一部位」とは,極めて局所的な狭い部位のみを指すものと解すべきである。
          すなわち,本件明細書2の図1には,人体の腰部に対応して中心線Pの左右に跨って配置された空気袋a4と中心線Pの左右に間隔をおいて配置された空気袋a5,a5とが記載されている。空気袋a4と空気袋a5,a5とは一部が重なっている。さらに,【実施例】の【0021】には,「空気袋a4と空気袋a5,a5とは,人体の一番重要な腰部に対応しているため,中心線Pと交差する同一軸線(図示せず)上に配設されて,異なったタイミングで腰部を人体の左右中央を押し出す伸び作用と人体の左右を押し出す収縮作用とを行なう。」と記載されている。【作用】の欄には「人体の同一部位に対して押し出しによる押圧マッサージ作用と挟み付けによる揉みマッサージ作用といった人手によるような十分な揉み効果を与えることができる。しかも,人体の同一部位に異なったマッサージ作用を与えることができる。」と,【発明の効果】の欄にも「人体の同一部位に対して押し出しによる押圧マッサージ作用と挟み付けによる揉みマッサージ作用といった人手によるような十分な揉み効果を与えることができ,しかも,人体の同一部位に異なったマッサージ作用を与えることができる。」と,それぞれ記載されている。そして,空気袋a5,a5は,構成要件Cの「人体を挟み付けるように互いに接近する方向に膨張する空気袋」の唯一の実施例として示されている。空気袋a5,a5は,背凭れ部14に配置されているので,人体の背面を前方に押し出す作用をするはずであるが,構成要件Cの記載からすればこの空気袋a5,a5は,膨張によって互いに接近することになる。1対の空気袋a5,a5が膨張によって互いに接近するということは,1対の空気袋a5,a5の隙間が空気袋a5,a5の膨張によって狭くなるということである。したがって,空気袋a5,a5によって挟み付けられる人体の部位とは,1対の空気袋a5,a5の隙間にはまり込むような,極めて局所的な狭い部位のみを指すものと解すべきである。
          被告製品1において,空気袋eと空気袋fは,それぞれ下肢後面全体に当接するように配置されており,空気袋a,bと空気袋c,dはそれぞれ下肢側面全体に当接するように配置されているから,「空気袋eと空気袋a,b」,「空気袋fと空気袋c,d」は,いずれも,下肢の異なる部位に対して作用を与える。よって,構成要件Dを充足しない。

        d 構成要件Eについて
             構成要件Eにおける「人体の同一部位」は,構成要件Dにおいて述べたとおり,人体の極めて局部的な狭い部位を意味すると解釈すべきである。
             これに対し,被告製品1において,「空気袋eと空気袋a,b」,及び「空気袋fと空気袋c,d」は,いずれも,下肢の異なる部位に対して作用を与えるから,構成要件Eを充足しない。
       (イ)  被告製品2と本件発明2との対比
       (原告の主張)
        a 構成要件Bについて
          構成要件Bの「人体当接面の中心線」の解釈については,前記被告製品1において述べたとおりである。
            これに対し,被告製品2において,複数の空気袋は,下肢が当接する面の中心線の左右に跨って配置され下肢の当接面から下肢を押し出すように膨張する空気袋i・j,k・lを備えている(別紙被告製品2説明書構造の説明E,図2ないし5)。さらに尻部が当接する面の中心線の左右に跨って配置され尻部の当接面から尻部を押し出すように膨張する空気袋pを備えている(上記構造の説明G,図6,7)。よって,構成要件Bを充足する。

         b 構成要件Cについて
          構成要件Cの「前記中心線」の解釈については,前記被告製品1において述べたとおりである。
           これに対し,被告製品2においては,空気袋a・bとc・d,e・fとg・hは,それぞれ,中心線の左右に間隔をおいて配置され,下肢当接面上の下肢を挟みつけるように互いに接近する方向に膨張する機能を備えている(前記構造の説明E,図2ないし5)。さらに,空気袋m,nは,前記中心線の左右に間隔をおいて配置され,前記尻部当接面上の尻部を挟みつけるように互いに接近する方向に膨張する機能を備えている(同G,図6,7)。よって,構成要件Cを充足する。
         c 構成要件Dについて
          構成要件Dの「人体の同一部位」の解釈については,前記被告製品1において述べたとおりである。

           これに対し,被告製品2において,「空気袋iと空気袋a,c」,「空気袋jと空気袋a・b,c・d」,「空気袋kと空気袋e,g」,「空気袋lと空気袋e・f,g・h」は,いずれも,下肢の同一部位に対応させて下肢当接面の左右方向に配置されている(前記構造の説明E,図2ないし5)。よって,構成要件Dを充足する。
         d 構成要件Eについて
           被告製品2は,「空気袋a,c」は「空気袋i」の,「空気袋a・b,c・d」は「空気袋j」の,「空気袋e,g」は「空気袋k」の「空気袋e・f,g・h」は「空気袋l」の,それぞれ両端より左右方向外側に位置し,下肢の同一部位に対し押し出しによる押圧マッサージ作用と挟み付けによる揉みマッサージ作用とを与える(前記構造の説明F,図2ないし5)。さらに「空気袋m,n」は「空気袋p」の両端より左右方向外側に位置し,尻部の同一部位に対し押し出しによる押圧マッサージ作用と挟み付けによる揉みマッサージ作用とを与える(同G,図6,7)。よって,構成要件Eを充足する。

       (被告の反論)
        a 構成要件Bについて
          構成要件Bの「人体当接面の中心線」の解釈については,前記被告製品1において述べたとおりである。
            被告製品2の空気袋i・j,k・lは,それぞれ,右脚,左脚の後面に対応して配置されているが,両脚の中間に位置しているのではない。したがって,被告製品2の空気袋i・j,k・lは,人体当接面の中心線の左右に跨って配置されてはいない。
          また,被告製品2の空気袋pは,人体当接面から人体を押し出すように膨張するものではない。すなわち,使用者が被告製品2の座部に座ったときに空気袋pが膨張すると,空気袋pは,バイブレータの振動が使用者の尻に伝わる程度にバイブレータを下から押し上げるが,使用者の尻部の当接面から尻部を押し出すように膨張するものではない。よって,構成要件Bを充足しない。

         b 構成要件Cについて 
            構成要件Cにおける「前記中心線」の解釈については,前記被告製品1において述べたとおりである。
           被告製品2の空気袋a・b,c・dは「(人体当接面の)中心線」の左右に間隔をおいて配置されてはいないし,空気袋e・f,g・hも「(人体当接面の)中心線」の左右に間隔をおいて配置されてはいない。
           また,被告製品2の空気袋m,nは,人体を挟み付けるように互いに接近する方向に膨張することはない。すなわち,使用者が座部に座ったときに空気袋m,nが膨張すると,空気袋m,nは上に突出して使用者の尻を下から押し上げる。収縮状態において空気袋mと空気袋nの隙間は120mmであり中心間距離は270mmであるので,その隙間に尻部がはまり込むことはない。空気袋m,nは膨張によって上下方向に膨らむことから左右方向には縮んでしまい,むしろその隙間を大きくする。被告製品2の空気袋m,nが,尻部を挟み付けるように互いに接近する方向に膨張することはない。よって,構成要件Cを充足しない。

         c 構成要件Dについて
           構成要件Dの「人体の同一部位」の解釈は,前記被告製品1において述べたとおりである。
           これに対し,被告製品2の空気袋i・j,k・lが対応する下肢後面と,空気袋a・b,c・d,e・f,g・hが対応する下肢側面とは,下肢において異なる部位である。よって,構成要件Dを充足しない。
         d 構成要件Eについて
             構成要件Eの「人体の同一部位」の解釈は,前記被告製品1において述べたとおりである。
           これに対し,被告製品2の空気袋iと空気袋a,cは人体の同一部位に対して押圧マッサージ作用と揉みマッサージ作用とを与えるものではなく,空気袋jと空気袋a・b,c・dは人体の同一部位に対して押圧マッサージ作用と揉みマッサージ作用とを与えるものではない。また,空気袋kと空気袋e,g,空気袋lと空気袋e・f,g・hにおいても同様である。また,空気袋pは人体当接面から人体を押し出すように膨張するものではなく,空気袋m,nは人体を挟み付けるように互いに接近する方向に膨張するものではないので,空気袋pが押し出しによる押圧マッサージ作用を与えることはなく,空気袋m,nが挟み付けによる揉みマッサージ作用を与えることもない。よって,構成要件Eを充足しない。

       (ウ) 被告製品4と本件発明2との対比
       (原告の主張)
        a 構成要件Bについて
          被告製品4においては,空気袋pは,尻部が当接する面の中心線の左右に跨って配置され尻部の当接面から尻部を押し出すように膨張する機能を備えている(別紙被告製品4説明書構造の説明G,図5,6)。よって,構成要件Bを充足する。
        b 構成要件Cについて
          被告製品4においては,空気袋m,nは,中心線の左右に間隔をおいて配置された前記尻部当接面上の尻部を挟みつけるように互いに接近する方向に膨張する機能を備えている(上記構造の説明G,図5,6)。よって,構成要件Cを充足する。
         c 構成要件Dについて
          被告製品4の空気袋pと空気袋m,nは尻部の同一部位に対応させて尻部当接面の左右方向に配置されている(上記構造の説明G,図5,6)。よって,構成要件Dを充足する。

         d 構成要件Eについて
          被告製品4においては,空気袋m,nは空気袋pの両端より左右方向外側に位置し,尻部の同一部位に対し押し出しによる押圧マッサージ作用と挟み付けによる揉みマッサージ作用とを与える(上記構造の説明G,図5,6)。よって,構成要件Eを充足する。
       (被告の反論)
        a 構成要件Bについて
          被告製品4の座部の空気袋pは,人体当接面から人体を押し出すように膨張するものではないから,構成要件Bを充足しない。
        b 構成要件Cについて
            被告製品4の空気袋m,nは,人体を挟み付けるように互いに接近する方向に膨張しないから,構成要件Cを充足しない。
         c 構成要件Dについて
           被告製品4の空気袋m,nは,左右に間隔をおいて配置されてはいるが,両者の中間点である尻部中心部にはなんらの作用を与えるものではなく,それぞれの空気袋は尻部のそれぞれの側を上方に押圧するだけであり,両者の中間点である尻部中心部を挟み付けることはない。一方,空気袋pは尻部中心部にバイブレーターを接触させる。したがって,空気袋pとm,nはそれぞれ作用する点が異なり,同一部位に対応させて配置されていない。よって,構成要件Dを充足しない。

         d 構成要件Eについて
           被告製品4の座部の空気袋pは,押し出しによる押圧マッサージ作用を与えることはなく,空気袋m,nは挟み付けによる揉みマッサージ作用を与えることはない。よって,構成要件Eを充足しない。
     ウ 本件発明3について
      (ア) 被告製品1と本件発明3(構成要件E)との対比
     (原告の主張)
         被告製品1は,下肢をフットレストに載せてその回動位置を変えると,その回動位置に応じて下肢の横方向の長さが変化するので,空気袋による下肢の側部に対する押圧力は,空気袋への圧搾空気の供給量を一定とする条件下で,回動位置に応じて変化する(甲13)。よって,構成要件Eを充足する。
         この点について,被告は,脚載置台の回動位置を変えると,脚部の押圧位置が変わるので,被告製品1は,構成要件Eを充足しない旨主張する。しかし,使用者は脚載置台に載置される脚部の位置をずらして,回動位置の変化後も脚部の同じ場所が押圧位置となるようにしてそこにかかる押圧力を変化させることもできるし,使用者の所望する脚部の他の位置に,回動位置によって変化する押圧力をかけることもできる。被告製品1にはフットレストの回動位置を調節する手段(別紙被告製品1説明書構造の説明D)が存在するほか,フットレストと脚部の相対位置を調節するフットレスト位置合わせ手段が装備されていて,使用者はフットレストの回動位置に応じて脚部の位置を容易に変えることができるのであるから(甲11),被告の上記主張は失当である。

       (被告の反論)
        a 構成要件Eの「脚載置台の回動位置に応じて太さが変化する脚部」の意義
         (a) 構成要件Eの「脚載置台の回動位置に応じて太さが変化する脚部」とは,以下のとおりの理由から,脚載置台の回動位置に応じて脚全体に加わる重力が変化すると,この重力変化によって変形して太さが変化する部分,すなわち,「ふくらはぎ部」を指すと解すべきである。
              また,本件明細書3の【作用】の欄には,「単に脚載置台を回動させて所望の位置に位置決めするだけで脚全体に加わる重力による脚部(ふくらはぎ部)の変形を利用して押圧力を変えることができる。」と,【発明の効果】の欄には,「単に脚載置台を所望の位置に回動して位置決めするだけで脚全体に加わる重力による脚部つまりふくらはぎ部の変形を利用して押圧力を変えることができ,」と,【実施例】,特に【0017】【0018】には,脚載置台16が垂直位置にある場合は,図3(A)に示すようにふくらはぎ部Hには重力による変形が生ずることなく略円形状となり,脚載置台16が水平位置にある場合は,図3(C)に示すようにふくらはぎ部Hに重力が作用して偏平状となり,脚載置台16が垂直位置と水平位置の中間位置にある場合は,図3(B)に示すようにふくらはぎ部Hも中間の変形量となることが,それぞれ記載されている。そして,図3の(A)には略円形状のふくらはぎ部Hが,(C)には偏平状のふくらはぎ部Hが,(B)には略円形状と偏平状の中間の形状のふくらはぎ部Hが,それぞれ示されている。

            本件明細書3の図4には,脚載置台が垂直位置にあるときの状態と,水平位置にあるときの状態とが重ねて描かれ,両位置において脚載置台はほぼふくらはぎ部に対応する状態が示されている。【0021】〜【0023】には,膝の脚の屈曲点Qと脚載置台16の回動中心たる枢軸17の軸心とが距離Lだけ離間しているので脚載置台16の回動によって押圧力を変えるとともにマッサージのポイントを変えることができる旨,及び,脚載置台が垂直位置にあるときにはふくらはぎ部Hの下方がマッサージされ,脚載置台が水平位置にあるときにはふくらはぎ部Hの略中心部分がマッサージされる旨,がそれぞれ記載されている。
            これらによれば,構成要件Eの「脚載置台の回動位置に応じて太さが変化する脚部」とは,ふくらはぎ部を指すと解するのが合理的である。

          (b) 構成要件Eは「脚載置台の回動位置に応じて太さが変化する脚部の側部へのエアーバッグによる押圧力を脚載置台の回動に応じて可変とした」と記載されている。太さが変化する脚部の側部への押圧力を脚載置台の回動に応じて可変とするためには,脚載置台が回動しても押圧力が脚の所定箇所(すなわち,ふくらはぎ部)に作用するような構成でなければ,意味を持たない。すなわち,脚載置台が回動することによって押圧力の作用する箇所が大きくずれれば,本件発明3の作用・効果は奏されることがないから,押圧力の作用する箇所は,ふくらはぎ部に限られる。
         b 対比
           これに対し,被告製品1では,フットレスト3が垂直位置を採るか水平位置を採るかによって,フットレスト3の空気袋a,b,c,dが作用する箇所が全く異なる。すなわち,フットレスト3が垂直位置にあるときには空気袋a,b,c,dは使用者の足首付近に押圧力を及ぼし,フットレスト3が水平位置にあるときには空気袋a,b,c,dは使用者の膝付近に押圧力を及ぼし,フットレスト3が垂直位置と水平位置との中間位置にあるときには空気袋a,b,c,dは使用者のふくらはぎ部に押圧力を及ぼす。このように,フットレスト3が回動すると,空気袋a,b,c,dの作用点は,脚において太さの異なる別の部位へ移動する。

           したがって,被告製品1は,ふくらはぎ部に押圧力を及ぼすものではなく,本件発明3の作用効果である「重力による脚部(ふくらはぎ部)の変形を利用して押圧力を変える」という作用・効果を奏することはない。よって,構成要件Eを充足しない。
       (イ) 被告製品2と本件発明3との対比
       (原告の主張)
         構成要件Eについて,被告製品2は,下肢をフットレストに載せてその回動位置を変えると,その回動位置に応じて下肢の横方向の長さが変化するので,空気袋による下肢の側部に対する押圧力は,空気袋への圧搾空気の供給量を一定とする条件下で,回動位置に応じて変化する(甲13)。よって,構成要件Eを充足する。
       (被告の反論)
           構成要件Eの「脚載置台の回動位置に応じて太さが変化する脚部」とは,前記被告製品1において述べたとおり,ふくらはぎ部を指すと解すべきである。

           これに対し,被告製品2は,フットレスト3が垂直位置を採るか水平位置を採るかによって,フットレスト3の空気袋a,b,c,d,e,f,g,hが作用する箇所が異なる。すなわち,フットレスト3が垂直位置にあるときには空気袋a,b,c,d,e,f,g,hは使用者の足首付近に押圧力を及ぼし,フットレスト3が水平位置にあるときには空気袋a,b,c,d,e,f,g,hは使用者の膝付近に押圧力を及ぼし,フットレスト3が垂直位置と水平位置との中間位置にあるときには空気袋a,b,c,d,e,f,g,hは使用者のふくらはぎ部に押圧力を及ぼす。
           また,被告製品2に関する実験報告書(乙7)によれば,被告製品2においては,押圧力調整用スイッチを「強」もしくは「中」に設定したときには,フットレスト3の回動位置にかかわらず,ほぼ一定の押圧力が作用することがわかる。押圧力調整用スイッチを「弱」に設定したときには,フットレスト3が垂直位置にしても水平位置にしても押圧力は同じであり,フットレスト3を中間位置に設定すると垂直位置にするよりも押圧力が小さくなることがわかる。このことから,被告製品2においては,重力による脚部の変形とは別の要因によって押圧力が変化したということがわかる。よって,構成要件Eを充足しない。

       (ウ) 被告製品3と本件発明3との対比
       (原告の主張)
        a 構成要件Aについて
            構成要件Aは,「脚載置壁とこの脚載置壁の両側に形成した側壁とからなる溝状の脚載置部」と記載され,エアーバッグを少なくとも脚載置台の有する脚載置部の両側壁に設けたことが要件とされているが,エアーバッグの配置についてそれ以上の限定は存在しない。
            これに対し,被告製品3においては,背もたれ部1と座部2からなる椅子と,この椅子の前部に上下方向に回動自在に設けられたフットレスト3を有しており,フットレスト3は脚載置壁51,52とこの両側に形成した側壁61と64とからなる溝状の脚載置部41,42を有する(別紙被告製品3説明書構造の説明@,B,C,図1〜4)。よって,構成要件Aを充足する。

         b 構成要件Eについて
           構成要件Eについて,被告製品3は,下肢をフットレストに載せてその回動位置を変えると,その回動位置に応じて下肢の横方向の長さが変化するので,空気袋による下肢の側部に対する押圧力は,空気袋への圧搾空気の供給量を一定とする条件下で,回動位置に応じて変化する(甲18)。よって,構成要件Eを充足する。
       (被告の反論)
        a 構成要件Aについて
         構成要件Aにおいて,脚載置部を溝状としたのは,両方の側壁に配置された空気袋からの作用を,収容される脚に対して及ぼすためであるから,「溝状」とは,脚載置部の中央に側壁を設けたものを含まないと解すべきである。
         これに対し,被告製品3においては,右脚を収容する空間41と左脚を収容する空間42とを一体とした空間は,中央に側壁62,63を有する。右脚用の空間41に収容された右脚は,左脚用の空間42の左側壁64に配置された空気袋d,e,fの作用を直接的にも間接的にも受けることがなく,また,左脚用の空間42に収容された左脚は,右脚用の空間41の右側壁61に配置された空気袋a,b,cの作用を直接的にも間接的にも受けることがない。このように,右脚を収容する空間41と左脚を収容する空間42は,中央に側壁62,63を有するため,「溝状」とはいえない。

          よって,被告製品3は構成要件Aを充足しない。
        b 構成要件E
          構成要件Eの「脚載置台の回動位置に応じて太さが変化する脚部」とは,ふくらはぎ部を指すと解すべきである。
          これに対し,被告製品3は,重力による脚の太さの変化によって押圧力を変化させているのではないので,本件発明3の作用効果である「重力による脚部(ふくらはぎ部)の変形を利用して押圧力を変える」という作用・効果を奏することはない。
            よって,構成要件Eを充足しない。
       (エ) 被告製品4と本件発明3との対比
       (原告の主張)
         a 構成要件Aについて
            構成要件Aにおける「脚載置壁とこの脚載置壁の両側に形成した側壁とからなる溝状の脚載置部」の解釈については,被告製品3において述べたとおりである。

            これに対し,被告製品4においては,背もたれ部1と座部2からなる椅子と,この椅子の前部に上下方向に回動自在に設けられたフットレスト3を有しており,フットレスト3は脚載置壁51,52とこの両側に形成した側壁61と64とからなる溝状の脚載置部41,42を有する(別紙被告製品4説明書構造の説明@,B,C,図1ないし4)。よって,構成要件Aを充足する。
         b 構成要件Eについて
           構成要件Eについて,被告製品4は,下肢をフットレストに載せてその回動位置を変えると,その回動位置に応じて下肢の横方向の長さが変化するので,空気袋による下肢の側部に対する押圧力は,空気袋への圧搾空気の供給量を一定とする条件下で,回動位置に応じて変化する(甲18)。よって,構成要件Eを充足する。

       (被告の反論) 
        被告製品4は,構成要件A,Eを充足しない。その理由は,被告製品3について述べたのと同様である。
     エ 本件発明4について(被告製品1の構成要件B,Eの充足性)
     (原告の主張)
       被告製品1は,以下のとおり本件発明4の構成要件B,Eを充足する。
       すなわち,被告製品1は,フットレスト3は座部2の前側に配設され,椅子本体に取付けられ,かつ両側壁61,62と中間壁7を有し,両側壁61,62と中間壁7の間に上面及び前後両端を開放して椅子本体に座った使用者の下肢を収容し得る1対の溝状の脚載置部41,42(施療凹部)が形成され,中間壁7の両側面71,72には空気袋b,cが,両側壁61,62の内側面に空気袋a,dが取付けられている(別紙被告製品1説明書構造の説明B,C,E,図1ないし4)。よって,構成要件B,Eを充足する。

     (被告の認否)
       被告は,被告製品1の構成要件B,Eの充足性について,明らかに争わない。
     オ 本件発明5について
      (ア) 被告製品1と本件発明5との対比
      (原告の主張)
       a 構成要件A1について
        (a)  構成要件A1の「押上げる」の意義
          構成要件A1の「押上げる」とは,座部に座っている使用者の尻部や大腿部に対し座部から上方向に力を加えることであり,筋肉の引き伸ばしに必要な程度,尻部や大腿部の筋肉に変形が生じる程度の力を加えることを指すと解すべきである。本件発明5では,座部用袋体の膨張を単独で行うのではなく,脚用袋体の膨張による脚部の束縛と連動させて行うことに特徴があり,これによって単に大腿部や尻部に対する押圧マッサージだけでなく,大腿部や尻部の筋肉に対する引き伸ばし(ストレッチ)の作用を新たに加えている。

          この点について,被告は,「押上げる」とは,実際に身体全体を持ち上げることを指すと主張する。しかし,本件発明5における「筋肉が引き伸ばされる」及び「ストレッチ」とは,椅子式マッサージの袋体の膨張によって実現できる程度の筋肉の引き伸ばしやストレッチのことであって,被告の主張するような床の上で行うストレッチ運動と同じような効果が椅子に座ったまま可能となるという意味でない。この点の被告の主張は失当である。
        (b) 対比
          被告製品1においては,圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者を押上げる座部用空気袋g,hが配設された座部2が存する。よって,構成要件A1を充足する。
         b 構成要件Bについて
             構成要件Bにおける「押上げる」の意味についても,前記構成要件A1と同様に解すべきである。

           これに対し,被告製品1においては,下半身コースのコースKの動作モードにおいて,脚用空気袋a〜dが膨張して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用空気袋g,hが使用者を押上げるように膨張することを特徴とするものであるから,構成要件Bを充足する。
       (被告の反論)
        a 構成要件A1について
         (a) 構成要件A1の「押上げる」の意義
           本件発明5は,以下のとおり,座部用袋体の膨張によって,椅子に着座した使用者の腿部や尻部の筋肉がストレッチされること,筋肉が伸展して緊張や張りが生ずることを目的とするものであるから,構成要件A1の「押上げる」の意味は,身体を持ち上げる程度に「使用者を押し上げる」ことを指すと解すべきである。
              すなわち,本件明細書5の【0002】【0003】によると,従来の椅子式エアーマッサージ機(座部や背もたれ部に空気袋が配されたもの)では,身体が自由状態になっていたので身体が上下動し,ストレッチしつつマッサージすることができず,効果的なマッサージができなかったとされている。本件発明5は,身体の上下動を脚用袋体で拘束し,腿部や尻部の筋肉を引き伸ばす(ストレッチする)というものである。

              「ストレッチ」とは,関節可動域を広げることなどを目的として,筋肉に緊張や張りを感じるまで伸展させてその状態を維持する運動である。本件明細書5の【0005】には本件発明5の作用として「座部用袋体が膨張して・・・腿部および尻部の筋肉は引き伸ばされることになり,ストレッチされつつマッサージがされる。」と,【0035】には効果として「座部用袋体が膨張して・・・腿部および尻部の筋肉は引き伸ばされることになり,ストレッチされつつ同時にマッサージがなされる」と,それぞれ記載されていることに照らすならば,本件発明5は,座部用袋体の膨張によって,椅子に着座した使用者の腿部や尻部の筋肉がストレッチされること,つまり,筋肉が伸展して緊張や張りが生ずることを目的としている。したがって,「押上げる」とは,身体を持ち上げる程度に「使用者を押し上げる」ことを指すと解すべきである。
           (b) 対比
             被告製品1においては,座部の空気袋g,hは,大腿部の裏側や尻部をマッサージ作用が生ずる程度に押圧はするが,「使用者を押し上げる」までには膨張しない。
              被告製品1の座部の空気袋g,hは,脚部や尻部を押圧はしており,この押圧力によって多少は脚部等が動かされるとしても,身体を上方に押し上げるといえるほどではない。被告製品1では,フットレストの空気袋a〜dを膨張させずに座部の空気袋g,hを膨張させても,身体が持ち上げられるようなことはない。被告製品1では,関節可動域を広げるように腿部や尻部の筋肉を伸展させるというストレッチの作用を生ずることがない。
              よって,構成要件A1を充足しない。
     b 構成要件Bについて
           (a) 「押上げ」について

              被告製品1は,構成要件Bの「使用者を押上げるように膨張する」を充たさない。
           (b) 「脚部の挟持」について
        被告製品1においては,座部の空気袋g,hが膨張するとき,フットレストの空気袋a〜dは使用者の脚部を挟持した状態にはならない。よって,構成要件Bを充足しない。
        すなわち,被告製品1では,各空気袋a〜d,g,hへ供給するための空気をポンプから空気室に送り込む。そして,この空気室から各空気袋a〜d,g,hへ空気が供給されるが,空気室と各空気袋a〜d,g,hとの間には各々弁が介在しており,この弁の制御によって各空気袋a〜d,g,hへの空気の給排が制御される。弁は空気袋a〜d,g,hそれぞれに対応して設けられている。そして,座部の空気袋g,hへの空気の給排を制御する弁と,フットレストの空気袋a〜dへの空気の給排を制御する弁とが,共通の空気室に設けられている。よって,フットレストの空気袋a〜dが膨張を開始した後に座部の空気袋g,hが膨張を開始すると,座部の空気袋g,hの膨張開始時において,フットレストの空気袋a〜dの空気が座部の空気袋g,hに逆流する。つまり,座部の空気袋g,hの膨張開始時において,フットレストの空気袋a〜dの圧力が一旦急激に低下する。そして座部の空気袋g,hとともにフットレストの空気袋a〜dにも空気が供給されて行き,徐々にフットレストの空気袋a〜dの圧力が回復する。

              以上のとおり,被告製品1は,フットレストの空気袋a〜dの空気が座部の空気袋g,hに逆流したときに,フットレストの空気袋a〜dによる脚への押圧が一旦緩むので,構成要件Bの「脚用袋体が・・・脚部を挟持した状態で,座部用空気袋が・・・膨張する」を充足しない。
       (イ) 被告製品2と本件発明5との対比
       (原告の主張)
        a 構成要件A1について
          被告製品2は,圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者を押上げる座部用空気袋oが配設された座部2を有するので,構成要件A1を充足する。
        b 構成要件Bについて
          被告製品2は,自由選択コースの「脚&座」の動作モードにおいて,脚用空気袋aないしhが膨張して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用空気袋oが使用者を押上げるように膨張することを特徴とするものであるから,構成要件Bを充足する。

       (被告の反論)
        a 構成要件A1について
          被告製品2の座部の空気袋oは,大腿部の裏側をマッサージ作用が生ずる程度に押圧はするが,「使用者を押し上げる」までには膨張しない。
        b 構成要件Bについて
          被告製品2では,座部の空気袋oが膨張するとき,フットレストの空気袋a〜hは使用者の脚部を挟持した状態にはならない。
          すなわち,被告製品2では,各空気袋a〜h,oへ供給するための空気をポンプから空気室に送り込む。そして,この空気室から各空気袋a〜h,oへ空気が供給されるのであるが,空気室と各空気袋a〜h,oとの間には各々弁が介在しており,この弁の制御によって各空気袋a〜h,oへの空気の給排が制御される。
            被告製品2は,前記被告製品1の場合と同様,フットレストの空気袋a〜hの空気が座部の空気袋oに逆流したときに,フットレストの空気袋a〜hによる脚への押圧が一旦緩むので,構成要件Bの「脚用袋体が・・・脚部を挟持した状態で,座部用空気袋が・・・膨張する」を充足しない。

       (ウ) 被告製品3と本件発明5との対比
       (原告の主張)
        a 構成要件A1について
          被告製品3においては,圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者を押上げる座部用空気袋i,jが配設された座部2を有するものであるから,構成要件A1を充足する。
        b 構成要件A3について
         構成要件A3の「圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者の脚部をその両側から挟持する」は,使用者の脚部を全体として両側から脚用袋体によって挟持することを指し,左右の脚部の各々について脚用袋体が配置されることを必須とするものではない。
         これに対し,被告製品3においては,前記座部2の前部に設けられ,かつ,圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用空気袋a・b・c及びd・e・fが配設されたフットレスト3を有する。よって,構成要件A3を充足する。

        c 構成要件Bについて
          被告製品3においては,「脚&座モードK」の動作モードにおいて,前記脚用空気袋a・b・cとd・e・fが膨張して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用空気袋i,jが使用者を押上げるように膨張することを特徴とするものであるから,構成要件Bを充足する。
       (被告の反論)
        a 構成要件A1について
          被告製品3の座部の空気袋i,jは,大腿部の裏側や尻部をマッサージ作用が生ずる程度に押圧はするが,「使用者を押し上げる」までには膨張しない。よって,構成要件A1を充足しない。
        b 構成要件A3について
          構成要件A3は,脚用袋体が膨脹時に使用者の脚部をその両側から挟持することが必要であると解すべきである。
            これに対し,被告製品3においては,右脚も左脚も,空気袋a・b・cと空気袋d・e・fとによって挟持される状態にはならない。すなわち,被告製品は,フットレストの中央には空気袋が配設されていない側壁62,63があり,右脚の右側面を押圧する空気袋a・b・cの押圧力は,直接的にも間接的にも左脚には及ばないし,左脚の左側面を押圧する空気袋d・e・fの押圧力は,直接的にも間接的にも右脚には及ばない。したがって,右脚が空気袋a・b・cと空気袋d・e・fとによって両側から挟持されることはないし(左脚も同様である。),フットレストの空気袋a・b・cと空気袋d・e・fが膨張しても,それらが使用者の脚部を両側から挟持することはない。よって,構成要件A3を充足しない。

         c 構成要件Bについて
          被告製品3では,空気袋a・b・cと空気袋d・e・fが膨脹しても,空気袋a・b・cと空気袋d・e・fが使用者の脚部を挟持することにはならない。
             よって,構成要件Bも充足しない。
       (エ) 被告製品4と本件発明5との対比
      (原告の主張)
       a 構成要件A1について
         被告製品4においては,圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者を押上げる座部用空気袋oが配設された座部2を有するものであるから,構成要件A1を充足する。
       b 構成要件A3について
         被告製品4は,上記座部2の前部に設けられ,かつ,圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用空気袋a・b・c及びd・e・fが配設されたフットレスト3とを有する。よって,構成要件A3を充足する。

         c 構成要件Bについて
           被告製品4は,自由選択コースの「脚&座」の動作モードにおいて,前記脚用空気袋a・b・c及びd・e・fが膨張して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用空気袋oが使用者を押上げるように膨張することを特徴とする。よって,構成要件Bを充足する。
       (被告の反論)
         a 構成要件A1について
           被告製品4の座部の空気袋oは,大腿部の裏側をマッサージ作用が生ずる程度に押圧はするが,「使用者を押し上げる」までには膨張しない。よって,構成要件A1を充足しない。
         b 構成要件A3について
           被告製品4では,右脚も左脚も,空気袋a・b・cと空気袋d・e・fとによって挟持される状態にはならない。すなわち,被告製品は,フットレストの中央には空気袋が配設されていない側壁62,63があり,右脚の右側面を押圧する空気袋a・b・cの押圧力は,直接的にも間接的にも左脚には及ばないし,左脚の左側面を押圧する空気袋d・e・fの押圧力は,直接的にも間接的にも右脚には及ばない。したがって,右脚が空気袋a・b・cと空気袋d・e・fとによって両側から挟持されることはないし,左脚が空気袋a・b・cと空気袋d・e・fとによって両側から挟持されることもない。よって,構成要件A3を充足しない。

         c 構成要件Bについて
           被告製品4では,空気袋a・b・cと空気袋d・e・fが膨脹しても,空気袋a・b・cと空気袋d・e・fが使用者の脚部を挟持することにはならない。よって,構成要件Bを充足しない。
   (3) 本件発明2についての先使用権の存否(被告製品1,2,4について)
   (被告の主張)
    ア 仮に,被告製品1が本件発明2の技術的範囲に属するとしても,被告は本件発明2について,先使用に基づく法79条所定の通常実施権を有する。
    (ア) 本件明細書2又は図面については,平成11年10月18日に,補正され,これにより構成要件C所定の「互いに接近する方向に膨張する空気袋」という文言が付加された。ところが平成5年10月29日提出の願書に添付された明細書又は図面には,このような技術的事項は開示されていない。

    (イ) 本件明細書2には,構成要件Cの「互いに接近する方向に膨張する空気袋」の実施例としては,空気袋a5,a5が記載されているのみであるところ,出願当初の明細書及び図面において,空気袋a5,a5に関する記載としては,【0021】に「空気袋a4と空気袋a5,a5とは,人体の一番重要な腰部に対応しているため,中心線Pと交差する同一軸線(図示せず)上に配設されて,異なったタイミングで腰部を人体の左右中央を押し出す伸び作用と人体の左右を押し出す収縮作用とを行なう。」との記載があるが,このことをもって空気袋a5,a5が互いに接近する方向に膨張するということはできない。すなわち,出願当初の図1からも明らかなように,空気袋a5,a5は背凭れ部14の前面に左右に間隔をおいて配置されているだけであるから,当業者であればこれが膨張すると前方に突出すると考えるのが通常である。そして,空気袋a5,a5は左右に配置されているのであるから,当業者であれば上記【0021】に記載されているように「人体の左右を押し出す」ことを理解し,さらに,人体の左右を前方に押し出すことによって人体の中心部に「収縮作用」が与えられると理解する。つまり,中心線P上に配置された空気袋a4が膨張して前方に突出すると腰部に伸び作用が与えられ,その反対の作用として,中心線P上の左右に間隔をおいて配置された空気袋a5,a5が膨張して前方に突出すると腰部に収縮作用が与えられるのである。
      同様に,出願当初の図3(B)には,空気袋a9,a9が膨張によって互いに接近する状態が記載されているが,このことから背凭れ部14に配置されたすべての空気袋が膨張によって空気袋a9,a9のように互いに接近することが記載されているとはいえない。例えば,同じく図3(B)には,空気袋a10,a10が記載されているが,この空気袋a10,a10は膨張しても前方に突出するだけであって右の空気袋a10と左の空気袋a10とが膨張前よりも互いに接近しているとは認められない。

      また,出願当初の明細書全体を精査しても,人体当接面の中心線の左右に跨って配置された空気袋と同一部位に対応させて中心線の左右に間隔をおいて配置された空気袋が,互いに接近する方向に膨張することについて開示した部分はない。
      このように,平成11年10月18日に行った明細書又は図面の補正は,発明の構成に関する技術的事項が当初明細書等に記載した事項の範囲内でないものとなったと認められるから,要旨変更を伴う補正である。
    (ウ) 出願公告決定謄本送達や特許査定を受ける前に明細書又は図面についてした補正が要旨変更の補正であることが特許権の設定登録があった後に認められたときは,その特許出願はその補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなされる(平成6年法律第116号による削除前の特許法40条。ただし,平成5年法律第26号による改正後のもの。)から,本件発明2に係る特許出願は平成11年10月18日にしたものとみなされる。

    (エ) 被告製品1は,本件発明2の特許出願日とみなされる平成11年10月18日よりも前の同年1月ころから,被告によって製造,販売されていたものであるから,被告は本件発明2について,法79条所定先使用による通常実施権を有する。
     イ 被告製品2,4は,先使用者たる被告の被告製品1に具備されている技術的思想の範囲内にあるから,被告製品2,4についても被告は通常実施権を有する。
   (原告の反論)
    ア 本件発明2の「互いに接近する方向に膨張する空気袋」は,出願当初明細書及び図面の実施例の空気袋a5,a5に相当する。
        出願当初明細書の【0021】には「空気袋a4と空気袋a5,a5とは,・・・中心線Pと交差する同一軸線(図示せず)上に配置されて,異なったタイミングで腰部を人体の左右中央を押出す伸び作用と人体の左右を押し出す収縮作用とを行う。」と記載されている。

       また,出願当初明細書には空気袋a1〜a11が記載されており,このうち,空気袋a4,a6,a8が,押圧による伸びマッサージ作用を行う空気袋に当たり,空気袋a5,a5;a7,a7;a9,a9;a10,a10が,挟み付け(収縮)によるマッサージ作用を行う空気袋に当たる。出願当初明細書の【0046】には,それらの空気袋の作用について「その膨張に伴う人体へのマッサージを,人体の伸び方向(中心線Pに跨ったもの)と人体の収縮(挟み付け)方向の両方向で行うことができ,あたかも,人手によるような充分な揉み効果を得ることができる」と記載されている。
       前記手続補正は,本件発明2を,出願当初の請求項3の発明,すなわち,「前記本体の人体当接面の中心線の左右に跨って配置した空気袋と,中心線の左右に間隔をおいて分離独立して配置した空気袋とは,中心線と交差する同一軸線上に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のエアマッサージ装置」の発明に限定したものである。

        前記手続補正により付加された「互いに接近する方向に膨張する空気袋」は,出願当初の特許請求の範囲の請求項1,3に記載された「中心線の左右に間隔をおいて分離独立して配置した空気袋」(出願当初の請求項1の実施例としてはa5,a7,a9,a10)を,その膨張動作を含めて記述したものである。当初明細書には,これらの空気袋が膨張して「人体の収縮(挟み付け)方向」へのマッサージ作用を行うことが記載されているが,人体を挟み付けるように膨張する空気袋である以上,当然に,互いに接近する方向で膨張するものであることを意味している。
    イ この点について,被告は,実施例の空気袋a5,a5は背凭れ部14の前面に左右に間隔を置いて配置されているだけであるから,当業者であればこれが膨張すると前方に突出すると考えるのが常識的であると主張する。しかし,図1,図8のとおり,空気袋a5,a5は腰部が当接する位置の外側にまで横方向に広がって配置されており,また,一般に背凭れ部は適度に湾曲しており,背凭れ部自体の材質も軟らかいので,背凭部に中心線の左右に1対の空気袋を適当な間隔を置いて配置すれば,1対の空気袋の膨縮によって腰部を挟みつける作用が得られる。

    ウ 以上のとおり,本件発明2について手続補正による要旨変更はなく,出願日が平成11年10月8日とみなされることもない。
   (4) 本件各特許の明らかな無効理由の存否
    ア 本件特許1について
    (被告の主張)
      本件発明1には,特許法29条1項(新規性)の要件を欠く無効理由の存在することが明らかであるから,これに基づく請求は権利の濫用として許されない。
     (ア) 特公昭52−28517号公報(乙1,以下「乙1公報」という場合がある。)について
          本件発明1の出願前に頒布された刊行物である特公昭52−28517号公報(乙1)には,本件発明1(請求項1)のすべての構成要件を備えた発明が開示されている。
       すなわち,同公報には指圧装置に係る発明が開示されており,第3欄第12行〜27行には,「前記取付板23の端部には,大腿部に対面する内面が凹状になるように屈曲させた固定枠24が一体的に形成され,この固定枠24の一端縁には同じく前記被指圧部に対面する内面が凹状になるように屈曲させた可動枠25がその固定枠24に対して開閉自在に蝶着26されており,前記固定枠24と可動枠25とによって前記被指圧部を抱持し得る抱持枠27を構成する。固定枠24と可動枠25の相対向する内面には対をなす,蛇腹式の指圧筒28,29が気密状態にして固着され,指圧筒28,29の上端部には,指圧頭30,31がそれぞれ固設されている。指圧筒28,29にはそれぞれ図示しない空気圧生成装置によって生成された空気圧が導管32を介して給排できるようになっており,指圧筒28,29を伸縮作動させることができる。」 と記載されている。同公報記載の「指圧装置」,「蛇腹式の指圧筒28,29」,及び蛇腹式の指圧筒28,29に空気圧を給排する「空気圧生成装置」は,それぞれ本件発明1の「エアマッサージ゙装置」,「空気袋」,及び「エア給排気装置」に相当する。

       また,同公報には「大腿部に対面する内面が凹状になるように屈曲させた固定枠24が一体的に形成され,この固定枠24の一端縁には同じく前記被指圧部に対面する内面が凹状になるように屈曲させた可動枠25」が記載され,同公報の第2図から明らかなように,これらの「固定枠24」と「可動枠25」により,本件発明1の「上方及び前後端が開放されるともに人体の脚部を載せる1対の凹状受部」との構成が明示されている。
       さらに,同公報には「固定枠24と可動枠25の相対向する内面には対をなす,蛇腹式の指圧筒28,29が気密状態にして固着され,」と記載され,これにより本件発明1の「前記各凹状受部の相対向する側面には空気袋をそれぞれ配設した」構成が明示されている。
       以上のとおり,同公報に記載された指圧装置の構成は本件発明1と同一である。

     (イ) 意匠登録第296760号公報(乙4の1)について
       昭和44年7月25日に頒布された刊行物たる意匠登録第296760号公報(乙4の1)には,「指圧子でマッサージを行うマッサージ装置であって,上方及び前後端が開放されるとともに人体の脚部を載せる1対の凹状受部を形成し,前記各凹状受部の相対向する側面には指圧子をそれぞれ配設したことを特徴とするマッサージ装置」の図面が示されている。乙4の2は,乙4の1に記載されている底面図を拡大し,指圧子が設置されている部分を囲む円等を,被告において朱書したものである。朱書された円で囲まれた部分において,マッサージ装置のカバーをその裏から指圧子が押し出し,カバーに突起がでているのがわかる。
       乙4の1に記載されたマッサージ装置と本件発明1とを対比すると,本件発明1が,エア給排気装置からのエアの給排気によって膨張・収縮する空気袋を指圧子とするのに対して,乙4の1は,指圧子が空気袋である旨の記載がない点で相違する。しかし,エア給排気装置からのエアの給排気によって膨張・収縮する空気袋をマッサージ装置の指圧子として用いる点については,乙2,91,95等から明らかなとおり,本件発明1に係る特許出願日において周知であった。

          乙4の1に記載された装置と本件発明1との相違点は,発明の作用効果に影響することのない微差にすぎず,乙4の1に記載の装置の構成は本件発明1と実質的に同一である。
       (ウ) 以上のとおり,本件発明1が新規性を欠くことは明らかである。
    (原告の反論)
       (ア) 乙1記載の発明について
         被告は,特公昭52−28517号公報(乙1)に本件発明1のすべての構成要件を備えた発明が開示されていると主張する。
         乙1記載の装置は,指圧頭30,31が脚部に対して点接触して指圧を行う「指圧装置」であるのに対して,本件発明1は,空気袋の膨張により脚部を挟み付けて挟み揉み効果をもつマッサージを行う装置である点において相違する。すなわち,指圧装置は,ツボを押圧することでツボに関係した特定の効果を得る療法であるのに対して,本件発明のような揉み効果をもつマッサージは,筋肉全体の血行を良くするために施されるものである点において相違する。このため,乙1の指圧装置は,「点」を対象とするから,面で押圧する本件発明1のように人体部位の広い範囲に効果を及ぼすことができないため,異なる位置に指圧を行うためには指圧筒28,29への給排を一旦停止して,指圧装置Aを移動して指圧位置の変更を行わなければならない(乙14欄36ないし末行)。

         また,乙1記載の指圧装置においては,屈曲させた可動枠25が固定枠24に対して開閉自在に蝶着されており,固定枠24と可動枠25とによって脚部を上方から覆うような抱持枠27を構成しているため,脚部を載せるためには,一度可動枠25を開く必要があり,また,脚部を載せた後に可動枠25を閉じる必要が生ずる。これに対し,本件発明1においては,人体の脚部を載せる1対の凹状受部は,上方が開放されているので,脚部を凹状受部に簡単に載せることができる。
          以上のとおり,乙1記載の発明においては,本件発明1の「上方が開放される・・・凹状受部」との構成要件を具備しない。
       (イ) 乙4の1記載の図面について
         乙4の1には,その外観を示す7枚の不鮮明な写真が掲載されているほか,意匠に係る物品が「指圧椅子」であることが記載されているだけで,その他文章による説明は,何ら記載されていない。

 この点について,被告は,乙4の1記載の椅子が「指圧子」を有しているとし,乙4の1の底面図を拡大した乙4の2中の,被告が朱書した部分に,「マッサージ装置のカバーをその裏から指圧子が押し出し,カバーに突起ができている」のが分かる旨主張する。しかし,乙4の1には,被告の主張するような構成が記載されていない。すなわち,被告が朱書した4つの円のうちの1つには突起状の黒い影が認められるが,他の3つの円には突起は認められない。突起がカバーの裏から指圧子が押し出て生じたものであることは全く不明である。
         被告は,本件発明1が,エア給排気装置からのエアの給排気によって膨張・収縮する空気袋を指圧子とするのに対して,乙4の1は,指圧子が空気袋である旨の記載がない点で相違するが,空気袋を指圧子として用いることは本件発明1の出願日において周知であったと主張し,その根拠として乙1等をあげる。しかし,本件発明1の空気袋はそもそも身体の所定部位を点接触で押圧する「指圧子」ではない。本件発明1のように空気袋で脚部の挟み揉み効果を得るマッサージ作用を行う技術は,本件発明1の出願前には存在しなかった。

    イ 本件特許2について
   (被告の主張)
     本件発明2には,法29条1項(新規性)の要件を欠く無効理由の存在することが明らかであるから,これに基づく請求は権利の濫用として許されない。
       (ア) 乙2について
         本件発明2の出願前に頒布された刊行物である実願昭57−121347号のマイクロフィルム(乙2)には,本件発明2のすべての構成要件を備えた発明が開示されている。
         すなわち,同マイクロフィルムの第6頁の9行〜14行には「第5図に示すように,膝関節をほぼ包囲する殻体21を形成し,その内側に内側側副靭帯部,外側側副靭帯部,或いは膝蓋骨下部等の要所を圧迫する複数のエアーバッグ22をそれぞれ配設して上記と同様の圧迫治療に使用することもできる。」と記載されている。また,同マイクロフィルムの第4頁の3行〜第6頁の19行には,エアーバッグに所定圧の空気を給排気する構成が記載されている。

         同マイクロフィルムに記載の複数のエアーバッグ22,22,22は,本件発明2にいう「複数の空気袋」に相当する。また,エアーバッグ22,22,22に所定圧の空気を給排する機構は,本件発明2にいう「エア給排気装置」に相当する。さらに,エアーバッグ22,22,22によって人体を押圧する動作は本件発明2のマッサージ動作に相当するので,同マイクロフィルムに記載のエアーバッグ式圧迫治療器は,本件発明2の「エアマッサージ装置」に相当する。
         同マイクロフィルム記載のエアーバッグ22,22,22は,人体(脚部の膝関節部)を包囲するように形成された殻体21の内面に,人体の脚部の中心線の左右に跨って配置されたものと,前記中心線の左右に間隔をおいて配置されたものとにより構成されている。

         一方,本件発明2は,人体当接面の中心線の左右に跨って配置された空気袋と,前記中心線の左右に間隔をおいて配置された空気袋とを有している。同マイクロフィルム記載の殻体21の内面は脚部を包囲するようにして当接するのであるが,殻体21を前後に2分割したときのその内面も本件発明2の「人体当接面」に相当し,このように分割したときの内面の中心線が,本件発明2の「人体当接面の中心線」に相当する。
       (イ) 乙50について
         乙50には,本件発明2と同一構成の自動車用空気圧制御式シートが記載されている(なお乙50は米国特許公報であるが,該米国特許出願は優先権主張を伴うものである。この優先権主張は,日本における4件の特許出願を基礎としている。乙51ないし54は,これら基礎出願の出願公開公報である。)。

        a 乙50の第2頁FIG.1には,複数のエアバッグが配置されたシートSが記載されており,第3頁FIG.2には,これらエアバッグへのエア供給のための回路が記載されている。FIG.2の符号27は,ポンプユニットを示しており,符号11〜22は電磁弁を示している。このポンプユニットから電磁弁を介して各エアバッグにエアが供給されるのであるから,このポンプユニットや電磁弁は「エア給排気装置」である。
        b FIG.1から明らかなとおり,エアバッグ4,5,6は,シートSにおいて運転手の腰部が当接する面の中心線の左右に跨って配置されている。よって,エアバッグ4,5,6が膨張すると,運転手の腰部が押し出される。また,FIG.1から明らかなとおり,エアバッグ2,3は,シートSにおいて運転手の腰部が当接する面の中心線の左右に間隔を置いて配置されている。該配置個所は,背もたれ左右端の前方へ張り出した部分であるから,エアバッグ2,3は互いに接近する方向に膨張する。よって,エアバッグ2,3が膨張すると,運転手の腰部が挟み付けられる。

        c エアバッグ4,5,6と,エアバッグ2,3はいずれも運転手の腰部に対応させて,左右方向に沿って配置されている。エアバッグ2,3は,エアバッグ4,5,6の両端より左右方向外側に位置している。エアバッグ4,5,6の膨張により腰部に押し出しによる押圧マッサージ作用が,エアバッグ2,3の膨張により腰部に挟み付けによる揉みマッサージ作用が与えられる。
        d シートSは,自動車の運転席のシートであるが,これらエアバッグにより運転者にマッサージを与える。すなわち,乙50の13頁右欄(第10欄)44〜52行には,「運転手の居眠り防止のために特定エアバッグを周期的に変更することを前述したが,これをキーボードから手動で行い,運転手の所望に応じてすべてのエアバッグの空気圧を周期的に変化させることもできる。この場合,空気圧変化の周期を長くすることもできるが,比較的短い周期,又は高い周波数にすれば,運転手にマッサージを与えて,運転手の疲労を効果的に軽減させることができる。」旨,記載されている。

         このように乙50には,本件発明2のエアマッサージ装置と同一構成の自動車用空気圧制御式シートが記載されている。よって,乙50に記載された自動車用空気圧制御式シートの構成は本件発明2と同一である。
       (ウ) 乙104について
         乙104の第10図には,両側の空気袋4と中央の空気袋6とを有するマッサージ機が開示されている。
        a 乙104の4頁左下欄7行ないし右下欄2行には,「第10図に他の実施例を示す。ここでは壁9,9を密封袋6から独立したものとするとともに,その下端を主ハウジング10に軸支して,直立した状態と,この位置から内側に倒れ込んで密封袋6及び指圧子2,2を覆う位置の間で回動自在としている。また,上記軸支位置に設けたねじりコイルばね92によって,各壁9が内側に倒れる方向に付勢している。このものでは,密封袋6が収縮している時,ねじりコイルばね92による付勢で両壁9,9が内側に倒れ込み,指圧子2,2を完全に覆ってしまうものであり,密封袋6を膨張させた時には,密封袋6によって壁9は直立する位置まで回動するとともに,これ以上の回動ができないようにされているために,密封袋6の膨張を指圧子2が突出する方向に規制する。」と記載されている。

        b このように,乙104記載のマッサージ機では,中央の空気袋(密封袋)6が膨張するときには,両端の1対の空気袋(密封袋)4が収縮している。そして,両端の1対の空気袋4が膨張するときには,中央の空気袋6が収縮して,その(中央の空気袋6の)両側の壁9が内側に倒れ込む。よって,両端の1対の空気袋4は互いに接近する方向に膨張する。
        c 空気袋4,6は上記のように膨張・収縮するので,中央の空気袋6が膨張するときには,その上にある人体の部位を押し出す。また,両端の1対の空気袋4が互いに接近しつつ膨張するときには,中央の空気袋6の上にある人体の部位を挟み付ける。つまり,空気袋4,6は,同一部位に作用する。乙104記載のマッサージ機は,人体の同一部位に押し出しによる押圧マッサージ作用と挟み付けによる揉みマッサージ作用とを与えることができる。

        d 乙104では,中央の空気袋6を人体当接面中心線に対応させることについて記載がない。しかし,このようなマッサージ機においては,使用者の好みに応じた種々な使用方法が採られるであろうことは当業者には自明であるし,中央の空気袋6を人体当接面中心線に対応させる使用方法は,最も典型的であるといえる。乙104の第10図から見て,このマッサージ機の使用方法として,中央の空気袋6を人体当接面中心線(例えば背骨)に対応させるのが最も一般的な方法である。
        e 以上のとおり,乙104には,中央の空気袋6を人体当接面中心線に対応させることが開示されており,乙104記載の発明は,本件発明2と実質的に同一である。
       (エ) 以上のとおり,本件発明2が新規性を欠くことは明らかである。
     (原告の反論)

      (ア) 乙2記載の発明について
        乙2記載の発明は,「患部を緩く包囲するように形成した堅固な殻体の内側に患部の要所を圧迫する複数のエアーバッグを取付けたことを特徴とするエアーバッグ式圧迫治療器」である。従来の同種装置は,帯状のエアーバッグを患部に巻きつけて装着し,患部の周囲全体を圧迫するものであったのに対して,乙2の装置は,患部を包囲する殻体の内側に複数のエアーバッグを取付けて患部の要所を圧迫するものである。
        本件発明2は,「前記中心線の左右に間隔をおいた空気袋の少なくとも一部を前記中心線の左右に跨る空気袋の両端より左右方向外方側に位置させて人体の同一部位に対して押し出しによる押圧マッサージ作用と挟み付けによる揉みマッサージ作用とを与える」(構成要件E)としている。これに対し,乙2記載の発明は,人体の同一部に対してこのようなマッサージ作用を行うことは記載も示唆もされていない。すなわち,乙2の第5図は「膝関節をほぼ包囲する殻体21を形成し,その内側に内側側副靭帯部,外側側副靭帯部,或いは膝蓋骨下部等の要所を圧迫する複数のエアーバッグ22をそれぞれ配設」することを示しているのであり(明細書6頁9ないし14行),乙2では膝関節を穀体21で包囲した上でその中の複数のエアーバッグは別々の要所をそれぞれ圧迫する。また,乙2の明細書5頁9行目ないし6頁2行目では,各エアーバッグが同じタイミングで膨縮することが記載されており,挟み付けによる揉みマッサージ作用は行われないことが明らかである。

        よって,乙2には,本件発明2の特徴的構成は記載されておらず,本件発明2について無効理由は存在しない。
      (イ) 乙50について
       a まず,被告がその主張の根拠としている記載は,乙50の米国特許には存在するが,同特許の優先権主張出願である乙51ないし54の公開特許公報には記載されていない。
       b 次に,乙50には,エアバッグを周期的に膨縮させることが記載されているが,その目的はドライバーの居眠り防止である。
            確かに,乙50の10欄7―43行には,居眠り防止のための圧力制御についての記述箇所の最後に,「運転手にマッサージを与えて,運転手の疲労を効果的に軽減させることができる。」と記載されているが,これ以外には,マッサージに言及した記述はない。そして,本来体圧分布制御の目的のために車輌用座席に埋設されている多数のエアバッグのうち,どのエアバッグを短い周期で膨縮させてマッサージを行うかについては全く記載されていない。

           以上のとおり,乙50には,具体的にどのエアバッグを膨縮させるかが記載されていないのみならず,本件発明2の特徴的構成である,2種類のエアバッグの組合せによるマッサージ作用は記載も示唆もされていない。
      (ウ) 乙104について
           乙104は,「身体押圧用の指圧子をこの指圧子の背後に配した密封袋への流体の充填による密封袋の膨張によって出没させるマッサージ機」に関するものである。乙104記載のマッサージ機は,指圧子2が密封袋6により駆動されて人体を押圧するだけで,そもそも空気袋によるマッサージを行うものではない。のみならず,本件発明2のような,空気袋による2種類のマッサージ作用を人体の同一部位に対して行うような装置ではない。
           よって,本件発明2が乙104記載の発明と同一であるということはできない。

     ウ 本件発明3について
     (被告の主張)
      (ア) 乙1公報について
       a 乙1公報には,「身体支持台と,この身体支持台の前部に設けられ脚載置壁とこの脚載置壁の両側に形成した側壁とからなる溝状の脚載置部を有する脚載置台と,少なくとも前記脚載置部の両側壁に配設された気密性を有するとともに軟質材からなり圧搾空気の給排気に伴って膨縮するエアーバッグと,前記エアーバッグに圧搾空気を供給する圧搾空気供給手段とを備えたエアーマッサージ機」が開示されている。
       b 同公報に記載されたエアーマッサージ機は,脚載置台が回動自在であり,他方,本件発明3は「脚載置台を回動させて所定の位置に位置決めする位置決手段」としている点において,両者は相違する。しかし,マッサージ機において,脚載置台を回動させて所定の位置に位置決めする位置決手段を備える点は,昭和55年9月2日に頒布された刊行物である特開昭55−113455号公報(乙3号証)にも,脚載置台を回動させて所定の位置に位置決めする位置決手段を備えたマッサージ機が開示されており,周知である。したがって,本件発明3は,乙1の公報に開示されたエアーマッサージ機に「脚載置台を回動させて所定の位置に位置決めする位置決手段」という周知技術を単に付加したにすぎないのであるから,新規性(法29条第1項)を欠く。

      (イ) 乙4の1記載の図面について
       a 乙4の1には,「身体支持台と,この身体支持台の前部に上下方向に回動自在に設けられ脚載置壁とこの脚載置壁の両側に形成した側壁とからなる溝状の脚載置部を有する脚載置台と,少なくとも前記脚載置部の両側壁に配設された指圧子と,前記身体支持台に設けられ前記脚載置台を回動させて所定の位置に位置決めする位置決手段とを備え,前記脚載置台の回動位置に応じて太さが変化する脚部の側部への指圧子による押圧力を前記脚載置台の回動に応じて可変としたことを特徴とするマッサージ機」の図面が示されている。乙4の2(同公報の「底面図」)によれば,マッサージ機のカバーをその裏から指圧子が押し出し,カバーに突起がでている。
       b 本件発明3と乙4の1記載のマッサージ機とを対比すると,本件発明3が,気密性を有するとともに軟質材からなり,圧搾空気供給手段によって供給される圧搾空気の給排気に伴って膨縮するエアーバッグを指圧子としているのに対して,乙4の1は,指圧子がエアーバッグである旨の記載がない点において相違する。しかし,上記相違点は,本件発明3出願時において周知であったというべきである。この点は,乙1公報に,気密性を有するとともに軟質材からなり圧搾空気供給手段によって供給される圧搾空気の給排気に伴って膨縮するエアーバッグを指圧子とした指圧装置が開示されていることからも明らかである。したがって,本件発明3は,新規性を欠く。

     (原告の反論)
      (ア) 乙1公報記載の発明について
       a 乙1公報記載の発明は,指圧頭30,31が脚部に対して指圧を行う装置であって,本件発明3のようにエアーバッグによって脚部の側面を押圧するものではない。
            乙1は,せいぜい,第1図に示されているように,利用者2が指圧台1の上に仰臥し,大腿部イ及びふくらはぎ部ロを指圧できるようにして指圧装置Aがそれぞれ装備され,指圧台1に設けた案内レール3の上を指圧装置が走行して移動できる装置が示されているにすぎない。
        b 被告は,乙1公報に,脚載置台が記載されていることを前提として,乙1公報記載のマッサージ機は,本件発明3の「脚載置台を回動させて所定の位置に位置決めする位置決手段」が備わっていない点において本件発明3と相違するが,脚載置台を回動させて所定の位置に位置決めする位置決手段は,乙3からも明らかなように,周知技術にすぎないと主張する。

            しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。まず,乙1には本件発明3の構成要件Aの脚載置台が記載されていないばかりか,被告の主張する乙3などの周知技術を用いて回動することができるような,独立した脚載置台が存在しない。次に,被告が周知技術であるとの根拠とする乙3は,そもそもマッサージ機ではなく,人手によるマッサージを行うための椅子であり,脚載置台は単に下肢を載せるだけのためのものであるので,これを基礎に,周知技術の存在の根拠とすることはできない。
       (イ) 乙4の1記載の図面について
          本件特許1における主張(前記(4)ア(原告の反論)(イ))記載のとおりである。
     エ 本件発明5について
     (被告の主張)
       (ア) 法29条1項柱書の発明でないこと
         本件明細書5によれば,本件発明5が解決しようとする課題は,腿部を含む脚部,尻部の筋肉をストレッチしつつマッサージをすることであり(【0003】),本件発明5はこれを解決するため,従来のマッサージ機(座部や背もたれ部に袋体が配されたもの)では,身体が自由状態になっていたので身体が上下動し,ストレッチしつつマッサージをすることができなかったところ,本件発明5は,身体の上下動を脚用袋体で拘束し,腿部や尻部の筋肉を引き伸ばす(ストレッチする)というものである。

         しかし,本件発明5の手段によって上記課題を解決することは,不可能である。「ストレッチ」とは,関節可動域を広げることなどを目的として,筋肉に緊張や張りを感じるまで伸展させてその状態を維持する運動を指す。ストレッチングの専門書(乙24,25)によっても,腿部,尻部の筋肉を伸展させるためには,膝関節を開いて脚を伸ばした姿勢か,膝が胸に近づくように股関節を内側に曲げた姿勢を取って,椅子に腰掛けて背もたれ部に背中を当てて膝関節を曲げた姿勢で腿部や尻部の筋肉を伸展させるストレッチ方法は記載されていない。
         本件発明5は,使用者が背もたれ部に背中を当て,膝関節を曲げた状態であっても,ふくらはぎを脚用袋体で拘束して座部用袋体を膨張させると,腿部や尻部の筋肉が伸展するというものである。しかし,使用者が背もたれ部に背中を当て膝関節を曲げた姿勢では,腿部や尻部の筋肉はかなり緩んだ状態となっているので,座部用袋体が膨張した程度ではこれらの筋肉に緊張や張りを与えることは不可能である。仮に,脚用袋体によって脚部を拘束した状態で座部用袋体を膨張させたとしても,関節可動域を広げるように腿部や尻部の筋肉が伸展するとは到底考えられない。

         このように,本件発明5の手段によって,腿部や尻部の筋肉をストレッチするという課題を解決することは不可能である。したがって,本件発明5は,法29条1項柱書にいう「発明」に該当せず,無効理由が存することは明らかである。
       (イ) 法17条の2第3項の要件に違反した手続補正
         本件発明5の出願については,平成12年6月22日提出の手続補正書(乙27)によって明細書又は図面が補正された。同手続補正には,いわゆる新規事項が追加されている。
          すなわち,本件発明5の特許出願の出願当初の明細書又は図面(乙26)の特許請求の範囲には請求項1の発明として,「座部とこの座部の後部に所定の傾斜角度をもって設けられた背もたれ部とを有する椅子本体と,前記座部の前部に設けられた脚載置部と,前記座部,背もたれ部および脚載置部のそれぞれに配設された気密性を有するとともに軟質材からなり圧搾空気の給排気に伴って膨縮する複数の袋体と,・・・を備えたことを特徴とする椅子式エアーマッサージ機。」が記載されていた。

          このように,出願当初明細書に記載された発明は,座部,背もたれ部,脚載置部を有し,これらの各部それぞれに袋体が配設された椅子式エアーマッサージ機であった。
          ところが,前記手続補正によって,請求項1は,「圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨脹時に使用者を押上げる座部用袋体が配設された座部,及びこの座部の後部に所定の傾斜角度をもって設けられた背もたれ部とを有する椅子本体と,前記座部の前部に設けられ,かつ,圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨脹時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置部と,・・・を特徴とする椅子式エアーマッサージ機。」と補正された。
          この補正により,出願当初明細書における背もたれ部の袋体との構成を削除したため,補正後の発明は出願当初のそれよりも,発明の技術的範囲を拡大することとなった。以上のとおり,前記手続補正によって,いわゆる新規事項が追加されているから,本件発明5には,法17条の2第3項に違反した無効理由(法123条1項1号)が存する。

       (ウ) 乙80に基づく無効理由(進歩性欠如)
        a 乙80(特公昭44−13638号公報。以下「乙80公報」という。)には,脚用空気袋と座部の空気袋とが配された椅子式の指圧装置が記載され,同指圧装置では,左右両側の脚用袋体(伸縮筒)27は,左脚の左側面と右脚の右側面とに当接するように配置されている。
          また,乙80公報の図6,7には,各袋体への空気の給排を司るためのロータリー式の弁(分給回転バルブ)が記載されている。かかる弁により各袋体の膨縮が制御されるとすれば,脚用袋体と座部用袋体とは異なるタイミングで膨張が開始される。乙80公報記載の指圧装置において,脚用袋体の方を座部用袋体よりも先に膨張開始させると,「脚用袋体が膨張して使用者の脚部を挟持した状態で,座部用袋体が使用者を押上げるように膨張する」こととなり,本件発明5と同一の椅子式エアマッサージ機となる。

        b 本件発明5は「脚用袋体が膨張して使用者の脚部を挟持した状態で,座部用袋体が使用者を押上げるように膨張する」という構成により「腿部を含む脚部,尻部の筋肉をストレッチしつつマッサージできる」という効果が得られるというものであるが,「腿部を含む脚部,尻部の筋肉をストレッチ」という効果は,本件発明5の構成からは得られないから,発明の進歩性の判断において,この作用効果に関する部分は,参酌すべきでない。
           本件明細書5の実施例には,椅子式エアマッサージ装置が記載されており,図1には脚載置部が座部に対して略垂直な角度を保った状態が,図2には脚載置部が水平に設定された状態が記載されている。このうち,図2の状態では,筋肉のストレッチ効果が得られないばかりでなく,膝関節が引っぱられる効果すら得られない。そして,本件発明5の特許請求の範囲の記載には,脚載置部が座部に対して略垂直な角度を保つ旨の記載はなく,脚載置部が座部に対して略垂直な角度を保つ場合のみならず,脚載置部が水平に設定される場合も包含されている。このように本件発明5は,発明の作用効果を奏しない態様を包含しており,上記のとおり,発明の進歩性判断に際して,この点を除いて考えるべきである。 

        c 以上のとおり,本件発明5は,乙80公報記載の発明から,当業者が容易に想到し得るものであり,本件発明5は進歩性を欠く。
     (原告の反論)
     (ア) 法29条1項柱書の発明に当たらないとの主張について
       本件発明5は,椅子式マッサージ機の発明であり,座部用袋体の膨張と脚用袋体の膨張を所定のタイミングで行うことにより,これらの袋体を別々に膨張させた時に得られる押圧マッサージ効果に加えて,腿部や尻部の筋肉に引張り力を与える効果が生じることを特徴とするものである。したがって,本件発明5は,法29条1項柱書の「発明」に当たる。
     (イ) 法17条の2第3項の要件違反について
       被告の指摘する手続補正では,本件発明5の構成要件A1とBを追加することによって,当初明細書に記載されていた特徴的構成の限定を加えると共に,背もたれ部の袋体の限定を削除したものである。

       本件発明5は,座部の袋体を膨張させるときに脚部の袋体が膨張して脚部を挟持した状態であることに特徴を有し,背もたれ部に袋体が存在しなくても,本件発明5の目的,作用効果には関係がなく,背もたれ部に袋体を設けることは,本件発明5の実施においては任意の選択的事項である。
       したがって,前記手続補正によって,いわゆる新規事項が追加されたと解する余地はない。
     (ウ) 乙80公報に基づく無効理由について
       乙80公報記載の発明は指圧頭による指圧装置であり,マッサージ作用を行う空気袋は記載されていない。 
   (5) 損害額及び補償金額
   (原告の主張)
   ア 損害賠償請求についての主位的主張(法102条1項)
    (ア) 被告各製品の販売台数
     a 被告各製品の販売台数及び販売金額については,原告の調査結果(甲35)によると,以下のとおりである。

                  数  量    金  額 
           平成11年  61,000台   6,900,000,000円
            同12年  73,500台   8,800,000,000円
            同13年  80,500台   9,500,000,000円
         b 上記に基づき,平成11年12月10日ないし同14年3月31日の期間に対応する被告各製品の販売数量,販売金額を,比例按分により算出すると(平成14年1ないし3月分は,平成13年の数値を基礎として,その4分の1とした。),以下のとおりである。
           販売台数 合計17万7,514台
           販売金額 合計210億5833万3000円
     (イ) 単位数量当たりの利益の額
      a 原告製品の態様
        平成11年12月10日から同14年3月31日までの間に原告により販売された椅子式マッサージ機の型番は,次のとおりである(以下,これらを総称して「原告製品」という。)。

       MC-133(甲37の1),AC−108,HM−813,HM−813(MA),OH−808(甲37の2),WH−238(甲37の3),BC−320,AM−226(甲37の4),AM−226S,AM−226SMA,AM−226TGNTC−233(甲37の5),MX−220(甲37の6),WH−426(甲37の7),YM−516,OH−707(甲37の8),RB−600(甲37の9),JJ−540(甲37の10),RB−163
        なお,これらの原告製品は,いずれも空気袋による椅子式エアーマッサージ機であり,本件特許1,2,3,5の実施品である。ただし,これらの原告製品は,脚載置部の底部に空気袋を設けていないので,本件発明4の実施品ではない。
      b 原告製品の販売価格
        平成11年12月ないし同14年3月の間の原告製品の平均販売価格は,「4万7570円」である(甲35)。
      c 原告製品の費用構成(甲38〜42)

       (a) 原告会社では,原告製品は生産部門である工場から原告の営業部門に対する「製品価格」が「TOV」として管理されている。
         工場内での,「TOV」についての費用は,「直接材料費」,「直接労務費」,「間接経費」から構成されている。このうち「直接材料費」が変動的費用であり,他は固定的費用であると考えられる。
       (b) 原告の営業部門は原告製品を工場から「TOV」で仕入れ,東芝に販売する。この時の販売金額が「売上高」となる。営業部門にとっての「売上原価」(TOV)以外の費用としては「一般管理費」,「販売部門費」,「荷造発送費」,「広告宣伝費」,「その他販売費」がある。
       (c) 原告製品については,販売活動は株式会社フジ医療器(以下「フジ医療器」という。)が行い,また,フジ医療器が原告工場で製品を引き取るため,「荷造発送費」,「広告宣伝費」,「その他販売費」は,ほとんど必要としていない。そのため,営業部門での費用は,すべて固定的費用である。したがって,原告製品について変動的費用は,「直接材料費」のみである。

       (d) 上記期間における,原告製品1台に対する「平均直接材料費」は「2万7424円」である。
      d 原告製品の単位数量当りの利益の額
        原告製品の前記「平均単価」4万7570円から,「平均直接材料費」2万7424円を差し引いて得られる上記利益は2万0146円である。
       (ウ) 原告の実施能力
          原告は,平成9年度に原告製品を10万5129台販売しており(甲36),平成12,13年度に被告製品の販売数量に相当する需要があれば,これに応じる能力は十分あった。
       (エ) 結論
         以上のとおり,原告製品の単位数量当りの利益は,2万0146円であるから,法102条1項の損害額は,以下のとおり,合計35億7619万7000円となる。
           177,514×20,146=3,576,197,000

       (オ) 被告に対する反論について
        a 市場における競合品について
           被告は,被告製品以外のイス式マッサージ機が市場において競合品として販売されていると主張するが,これらの競合品を分類すると,@第三者による本件各特許権侵害品,A被告製品と同等価格であるが,空気袋を使用しないマッサージ機,B安価なマッサージ機がある。
          (a) 第三者が製造販売する本件各特許権の侵害品は,消費者にとっては代替品であっても,102条1項ただし書の「事情」として考慮すべきではない。
            被告が挙げる他社のイス式マッサージ機のうち,松下電工の「アーバン/モミ&エアー」と「モミモミ/リアルプロ」及びフジ医療器の「リラックスマスター」,「エアーソリューション」,「スーパーリラックス」,「サイバーリラックス」は,いずれも本件特許の技術的範囲に属する製品である。

          (b) 被告が挙げる第三者の製品のうち,フランスベッドの「貴賓席(MFD−2)」(乙64)やツカモト株式会社の「i−seat」(乙65)は,脚部マッサージ用の脚載置台を有しているが,これらの脚マッサージは電動のバイブレータによるものであって,空気袋によるものではない。また,三洋電機株式会社の「家族の椅子」(乙66)は「ワイド4つ玉」と称する機械的なメカニズムによるもので,これも空気袋によるものではない。
          (c) オムロンの販売するフットマッサージャ(乙68)や座椅子式装置「楽椅子座」(乙62)は,被告製品や原告製品とは価格帯や性能が異なり,消費者にとって被告製品の代替品とはなり得ない。
        b 被告の営業努力について
          被告が反論する付加機能やデザイン,広告は,被告製品に空気袋による脚部のマッサージ機能がなかったとしても被告製品に対する消費者の購買意思を決定づけることができるような重要な要素ではない。

        c 寄与度・寄与率の主張について
          法102条1項は排他権である特許権が侵害されたことによる逸失利益の算定に関する規定であり,原告の原告製品の販売による得べかりし利益が損害である。したがって,法102条1項には,被告製品の中で本件各発明が実施されているのがその一部か全体かということは考慮の対象にはならない。
          また,被告製品と本件各発明の関係をみた場合,前述のとおり,本件各発明の脚部マッサージ機能が,需要者の商品選択上極めて重要であり,この機能なくしては被告製品が市場での上位シェアを得ることができなかったことは明らかである。したがって,仮に「寄与率」や「寄与割合」という観点を考慮に入れるとしても,被告製品の市場価値に対する本件各発明の「寄与」は非常に大きいものである。

     イ 損害賠償請求についての予備的主張(法102条2項)
     (ア) 法102条2項に基づき本件特許権の侵害行為によって被告が得た利益を算出すると,以下のとおりとなる。
         a 被告製品の平成13年の平均単価(甲35)      118,000円
         b 被告の限界利益率(なお,上記算出した原告の利益率は42%)
                                     50%
         c 被告製品の1台当りの被告の利益(a×b)           59,000円
         d 被告製品の平成11年12月―平成14年3月の販売数
                                      177,514台
         e 被告が侵害行為によって得た利益(c×d)     10,473,326,000円
       (イ) 原告は,上記金額の一部請求として,被告に対し,上記ア(エ)と同額の請求をする。

     ウ 補償金請求(法65条1項)
    (ア) 原告は,平成11年10月1日,被告に対し,本件発明1ないし4の公開特許公報を同封した警告書(甲14)を送付した。
    (イ) 被告は,平成11年10月1日から本件特許1ないし4が特許査定を受けた同年12月9日の期間までの間に,被告各製品を1万1861台販売した(甲35)。販売金額は,合計13億4166万7000円である。      
       (ウ) 本件特許権1ないし4の実施に対する通常の実施料率は販売金額の6%が相当である。
    (エ) 結論
         したがって,補償金額は,以下のとおり,合計8050万円である。
        1,341,667,000円×6% = 80,500,000円
   (被告の反論)
    ア 法102条1項による請求について
     (ア) 被告各製品の販売台数

       原告の推計に基づく被告各製品の販売数量については否認する。
      被告各製品の販売数量は,乙74記載のとおりである。
     (イ) 単位数量当たりの利益の額
         a 原告製品の態様について
           原告製品は,本件特許権1,2,3,5の実施品ではなく,原告は,これらの特許権を実施していない。
         b 原告製品の販売価格
           知らない。
         c 控除すべき経費
           原告は,直接材料費のみが変動的費用であるとするが,少なくとも,下記のものは経費として利益計算の基礎から控除されるべきである。
          (a) 直接労務費
            通常,製造量や作業量に比例して,それに投入される製造員の人数・稼動時間の労務量は増大するから,直接労務費は,明らかに変動的要素を有する。

          (b) 製造設備
           既存の製造設備で対応できなければ新たな製造設備が必要になることは明らかであり,これも売上額から控除されるべきである。
           原告の状況からすると,相当大規模な台数の増産が必要であって,相当規模の設備の導入と投資が必要となる。
      (ウ) 原告の実施能力について
        原告の実施能力は具体的に判断されるべきであり,潜在的能力で足りるとするのは相当でない。原告の実施能力については,以下の事情を指摘することができる。
       a 原告は,原告製品をフジ医療器を通じて販売しているところ,フジ医療器は,自らも原告製品と同じ型のマッサージ機の製造,販売を行っている。上記事実は,原告には,フジ医療器製造分のマッサージ機については,製造能力の余力,あるいは製造計画や製造意思のないことを示している。

       b 原告が,被告と同程度の製造販売を行うと仮定した場合には,相当規模の設備の導入と投資には時間がかかるというべきであり,この点を考慮すべきである。  
      (エ) 原告が被告の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を販売することができないとする事情(法102条1項ただし書)について
       a 競合品の存在   
        (a) 原告及び原告の関係会社であるフジ医療器並びに被告以外の他社の(空気袋によるものを含む)椅子式マッサージ機は主要なものだけでも,下記のとおり多数存在する。
         @ 松下電工の「アーバン/リラックス」,「アーバン/モミモミ」,「モミモミ/リアルプロ」(乙63)
         A フランスベッド株式会社の「貴賓室(MFD−02)」(乙64)
         B ツカモト株式会社の「アイ−シート(i−seat)」(乙65)

         C 三洋電機の「家族の椅子」,「DR21ウェルディ」(HEC−DR21)(ただし,空気袋でない)(乙66)
        (b) 上記のうちで,例えば松下電工の「モミモミ/リアルプロ」名称の製品は,空気袋によるマッサージ作用椅子式マッサージ機であって,「脚受部の両側壁にそれぞれ空気袋を配置」するなど,原告が本件で東芝テック製造と主張する製品とほとんど同一構成の製品である。
        (c) フジ医療器の製造に係る製品
        フジ医療器は,原告製品の販売活動のみを担当しているだけではない。フジ医療器自身がメーカーとして原告製品と同態様の製品を製造販売している。その空気袋による椅子式マッサージ機として,以下の製品が存在する。
       @ 「RELAX MASTER(リラックスマスター)」(SK−510)(乙67)

       A 「エアーソリューション」(AS−777,AS−352)(乙67)
       B 「SUPER RERAX」(SC−361)(乙67)
       C 「CYBER−Relax(サイバーリラックス)」(AS−001)(乙67)
        上記各フジ医療器製品は,「脚受部の両側壁にそれぞれ空気袋を配置」するなど,原告が原告製造と主張する製品とほとんど同一構成の製品である。
              フジ医療器が製造,販売する製品は,原告とフジ医療器間において製造販売量を調整していると思われ,損害額の算定に当たっては,フジ医療器分の製造販売数量分を加算して,原告製品の売上が減少しているのか否かの点を考慮すべきである。
        (d) 競合他社製品の特徴と比較
        松下電工の製品(モミモミ/リアルプロ)は,「脚受部の両側壁にそれぞれ空気袋を配置」するなど,原告が原告製品と主張する製品と,ほとんど同一構成の製品である。同社製品は,椅子式マッサージ機の市場における市場占有率が首位である(乙61,62)。 

       b 被告の営業努力
        (a) 被告製品のセールスポイント
          被告製品は,赤外線センサーにより人の身体,体形を検出し,治療ポイント(ツボ)を探し出してマッサージを行うのが大きな特徴となって需要者に支持されている。
          そして,センサー機能に先鞭をつけたのは被告である。各種の新聞(乙58)あるいは雑誌(乙59)の掲載記事は,こぞって光センサーによる治療ポイント(ツボ)自動検索システムを最も特徴ある点として紹介している。
          さらに,FMC−300では,高級感のある合成皮革とヒーターを採用し機能向上をはかったことも,他製品との差別化によるセールスポイントとなっている。
        (b) 広告活動
          被告は,新聞広告や雑誌広告(乙60)を積極的に行い,最も歴史を有するマッサージ機の専業メーカーであり,そのブランドイメージと相まって,上記の商品特性を消費者に効果的に訴求し,広告宣伝活動が大きく売上げに貢献している。

        (c) 被告製品のデザインやその他の性能
          被告製品は,その座部に,マッサージの効果を促進するヒーターを内蔵(FMC−200,FMC−300)したり臀部を刺激するバイブレーターを付けるなど様々な商品特徴を付加すると共に,デザインとしては被告意匠(乙70)を基礎にしている。市場においても,座り心地のよさと共に抗菌・防汚加工を施した合成皮革を使用した高級感を感じさせるデザインについて高い評価を得ている。
      (オ) 寄与度による減額
        本件のように,製品の一部に特許発明の実施による侵害が問題とされる場合には,製品全体における侵害部分の割合に応じた寄与率又は寄与割合を勘案して,その割合に応じた損害額に限定した額が算定されるべきである。そして寄与割合は,製品全体に占める当該部位の重要度とその部位の製品に占める価格割合を見て決せられるべきである。

       a 本件発明1は,「脚部」という部位に限定したものであり,さらに凹状受部自体も局部的な技術である。
       b 本件発明2は,数多く存在するマッサージの作用と方法に関する技術のうち,限定されたマッサージ作用に関する技術である。
       c 本件発明3は,「脚載置部」という部位に限定したものであり,それをさらに回動させるという動作についての局部的限定した技術である。
       d 本件発明4は,「脚部」の部位に限定し,なおかつ空気袋を用いた点に限られた技術である。
       e 本件発明5は,「脚部」という部位に関連して,「脚を挟持した状態で座部用空気袋が使用者を押し上げるように膨張」という部位に限られた範囲の技術である。
        以上のように,本件各発明は,椅子式マッサージ機の局部や限定された機能に関する部分的な技術にすぎない。したがって,原告の利益額は,相当程度の割合を乗じたものに減額されるべきである。

    イ 法102条2項による請求について
      否認ないし争う。
    ウ 補償金請求について
        原告の推計に基づく被告各製品の販売数量については否認する。被告各製品の販売数量は,乙74記載のとおりである。
      本件各発明自体が,いずれも「脚部」の局部に関係するにすぎないものであり,被告各製品には,本件各発明以外の種々の技術やデザインが使われていることに照らせば,実施料率は高く見積っても1%を上回るものではない。   
第3  争点に対する判断
 1 被告製品と本件発明1との対比について
   (1) 被告製品1と本件発明1との対比
    ア 構成要件Bについて
     (ア) 「凹状受部」の意義
       被告は,構成要件Bの「凹状受部」における「受部」とは,脚を載せる部分,すなわち脚の重量を受ける部分のみを意味するのであり,足を「受ける部分」は,平面であってはならず,凹状でなければならないとの解釈を前提とし,被告製品1では,脚を載置する部分(脚の重量を受ける部分)は,凹状ではなく,平面状であるから,構成要件Bを充足しないと主張する。しかし,当裁判所は,被告主張のように構成要件Bの「凹状受部」を限定すべきでないと解する。その理由は,以下のとおりである。

        a 本件明細書1及び図面の記載
         (a) 【特許請求の範囲】には,「上方および前後端が開放されるとともに人体の脚部を載せる1対の凹状受部」,「前記各凹状受部の相対向する側面には空気袋をそれぞれ配設した」との記載がある。
         (b) 【発明の詳細な説明】には,「請求項1の発明によれば,凹状受部の上方および前後端が開放されているので,人体の脚部をその凹状受部に簡単に載せることができる。そして,凹状受部の側面に設けた空気袋の膨張・収縮により脚部が両側から押圧されたり,開放されたりするので,人手によるような挟み揉み効果が得られる。」との記載がある。
         (c) 【実施例】には,「下肢マッサージ器20は,マッサージ椅子1と同様にクッション性を備えていると共に,本体21に左右脚用の保持溝(凹状受部)22,22を設け,各保持溝22,22の対向する部分に各々1対の空気袋23a,23bを対向させて設けたものである。保持溝22,22は,図1および図4から明らかに,上方が開放されるとともに前後端が開放されている。」(3頁左欄22ないし28行目)との記載がある。

         (d) 図3には,56「凹状受部」として,円弧状の空間が矢印で示され,その円弧状をなしている側面の両側に空気袋55a,55bが配置されている。
        b 「凹状受部」の意義
          上記によれば,構成要件Bの「凹状受部」の意味について,@特許請求の範囲の記載には,凹状受部に相対向する側面が存し,その側面に空気袋が配設される旨が記載されていること,A発明の詳細な説明及び実施例の記載によれば,凹状受部の両側面に設置された空気袋の膨張・収縮により挟み揉み効果が得られるとしていること,B図1ないし4,図6,7記載の下肢マッサージ器の保持溝22及び凹状受部56の形状は,いずれも脚部の曲線に合わせて,脚部の重量を受ける中央部分だけでなく側部を有する半円状の形状をなしていること,C本件明細書1の他の部分を見ても,凹状受部について,脚部の重量を受ける部分のみを意味することを窺わせるような記載が存しないこと等からすると,「凹状受部」とは,脚部の重量を直接受ける部分だけではなく,その両側に形成された側面部分も含む,脚を載せる部分全体を指しているものと認められる。

       (イ) 対比
         被告製品1のフットレスト3の形状は,別紙被告製品1説明書図2,3のとおりであり,特に布製カバーを取り除いたフットレスト3の平面図は,図3のとおりである(争いがない。)。
         これによれば,被告製品1のフットレスト3には,下肢を載置する平面状の脚載置壁51,側壁61と中間壁7の側面71からなり,上部を開放した溝状の部分(脚載置部41)と,同じく平面状の脚載置壁52と,側壁62と中間壁7の側面72とからなり,上部を開放した溝状の部分(脚載置部42)があり,これらの各部分の前後端は開放されているから,脚載置部41,42は,それぞれ構成要件Bにいう「凹状受部」に当たる。
         よって,被告製品1は構成要件Bを充足する。
     イ 構成要件Cについて
       前記アの構成要件Bの解釈において認定したとおり,本件発明1における「凹状受部」とは,側面も含めた脚を載せる部分全体を指すものと解すべきであるから,「各凹状受部の相対向する側面には空気袋をそれぞれ配設した」(構成要件C)とは,空気袋が,上記脚を載せる部分に含まれる両側面に配されたことを意味すると解すべきである。

       被告製品1のうち,下肢を載置する平面状の脚載置壁51,側壁61と中間壁7の側面71からなり,上部を開放した溝状の部分(脚載置部41)と,同じく平面状の脚載置壁52と,側壁62と中間壁7の側面72とからなり,上部を開放した溝状の部分(脚載置部42)とが全体として「凹状受部」に当たることは前記認定のとおりである。そして,被告製品1においては,「凹状受部の相対向する側面」に当たる側壁61の内側面と中間壁7の側面71,側壁62の内側面と中間壁7の側面72に,それぞれ空気袋a,bとc,dが配設されている(被告製品1説明書構造の説明E)。
         よって,被告製品1は,構成要件Cを充足する。          
   (2) 被告製品2の本件発明1との対比
    ア 構成要件Bについて
      構成要件B記載の「凹状受部」の意義は,前記(1)ア(ア)のとおりであるところ,被告製品2には,下肢を載置する脚載置壁51と,脚載置壁51の両側に形成した側壁61,62とからなる溝状の部分(脚載置部41)と,下肢を載置する脚載置壁52と,脚載置壁52の両側に形成した側壁71,72とからなる溝状の部分(脚載置部42)があり(被告製品2説明書の図3),これらはいずれも「凹状受部」に当たるものと認められるから,構成要件Bを充足する。

    イ 構成要件Cについて
      被告製品2における「凹状受部」は上記のとおり脚載置部41,42であるところ,脚載置部41,42を構成する側壁61,62と71,72の各側面にはそれぞれ空気袋a・b,c・d,e・f,g・hが配置されているから(上記被告製品2説明書の構造の説明E),構成要件Cにおける「凹状受部の相対向する側面」に,それぞれ空気袋が配設されているものと認められる。
         よって,構成要件Cを充足する。
   (3) 被告製品3と本件発明1との対比
    ア 構成要件Bについて
      構成要件B記載の「凹状受部」の意義は,前記(1)ア(ア)のとおりであるところ,被告製品3には,下肢を載置する脚載置壁51と,脚載置壁51の両側に形成した側壁61,62とからなる溝状の部分(脚載置部41)と,下肢を載置する脚載置壁52と,脚載置壁52の両側に形成した側壁63,64からなる溝状の部分(脚載置部42)とがあり(被告製品3説明書の図3),これらはいずれも「凹状受部」に当たるものと認められるから,構成要件Bを充足する。

    イ 構成要件Cについて
     (ア) 均等に関する判断
         a 被告製品3における脚載置部の構成
           被告製品3においては,脚載置部41の外側の側壁61の内側面に空気袋a,b,cが,内側の側壁62の内側面にチップウレタン71〜74及びウレタンフォーム81が配設され,脚載置壁51にはウレタンフォーム82を介して空気袋gが配置され,また,脚載置部42の外側の側壁64の内側には空気袋d,e,fが,又内側の側壁63の内側面にチップウレタン71〜74及びウレタンフォーム81が配設され,脚載置部52にはウレタンフォーム82を介して空気袋hが配置されている(上記被告製品3説明書の構造の説明E)。
           そこで,被告製品3において,凹状受部の相対向する側面に配設された空気袋の一方を,チップウレタン及びウレタンフォームに置換したことが,本件発明1の構成要件Cと均等であるか否かについて,判断する。

         b 事実認定
            証拠(該当箇所に適示した。)によれば,以下の事実が認められる。
          (a) 本件明細書1の記載
            本件明細書1には以下の記載がある。
           @ 【発明が解決しようとする課題】の欄に,従来のエアマッサージ装置では,「空気袋の長手方向中央に幅方向のくびれ部を設けて,空気袋の中央部が使用者の体重等により多少沈むようにしておくことにより,空気袋の膨出時に左右の部分が身体を挟むようにした構成となっている。しかしながら,この構成では,空気袋の中央部が使用者の体重等により多少沈む構成であるため,空気袋の膨出時に空気袋の左右の部分が身体を挟み込む力が小さく,人手によるような充分な挟み効果が得られないものであった。」(2頁左欄18ないし27行目)と,「そこで,この発明は,人手によるような充分な挟み効果がえられるエアマッサージ装置を提供することを目的とするものである。」と(2頁左欄28ないし30行目)と,それぞれ記載されている。

           A 【課題を解決するための手段】の欄に,「上記目的を達成するため,請求項1の発明は,空気袋と,この空気袋に対してエアを給排気するエア給排気装置とからなり,前記空気袋を膨張・収縮させてマッサージを行うエアマッサージ装置であって,上方および前後端が開放されるとともに人体の脚部を載せる1対の凹状受部を形成し,前記各凹状受部の相対向する側面には空気袋をそれぞれ配設したことを特徴とする。」(2頁左欄32ないし39行目)と記載されている。
           B 【作用】の欄に,「請求項1の発明によれば,凹状受部の上方および前後端が開放されているので,人体の脚部をその凹状受部に簡単に載せることができる。そして,凹状受部の側面に設けた空気袋の膨張・収縮により脚部が両側から押圧されたり,開放されたりするので,人手によるような挟み揉み効果が得られる。しかも,凹状受部に脚部を載せるものであるからこの脚部をリラックスした状態にすることができ,このリラックスにより脚部が柔らかくなり,その脚部が十分にマッサージされる。このため,人手によるような挟み揉み効果が十分に得られることになる。」(2頁左欄47ないし右欄7行目)と記載されている。

          (b) 本件発明1に対する先行技術
            本件発明1出願前において存在した先行技術としては,以下のものがある。
           @ 乙1公報記載の発明(以下「乙1発明」という。)
                 乙1公報(特公昭52−28517)には,以下の記載がある。
              (あ) 「特許請求の範囲」には「身体の脚部,腕部等の被指圧部に対面する内面を凹状に形成した固定枠24の一端縁に同じく前記被指圧部に対面する内面を凹状に形成した可動枠25を蝶着26してなる抱持枠27と・・・抱持枠27の相対向する内面に取付けられ,流体圧の給排により伸縮運動を繰り返すようにした少なくとも1対の指圧筒28,29と・・・指圧筒28,29の伸縮方向と略直交する方向に往復動させる抱持枠横往復動装置bとを少なくとも有する指圧装置。」と記載されている。

              (い) 「発明の詳細な説明」には,「本発明は,・・・身体特に腕部,脚部を有効に指圧することができるようにした,指圧装置を提供することを目的とするものである。」(1頁右欄3ないし5行目),「取付板23の端部には,大腿部に対面する内面が凹状になるように屈曲させた固定枠24が一体的に形成され,この固定枠24の一端縁には同じく前記被指圧部に対面する内面が凹状になるように屈曲させた可動枠25がその固定枠24に対して開閉自在に蝶着26されており,前記固定枠24と可動枠25とによって前記被指圧部を抱持し得る抱持枠27を構成する。固定枠24と可動枠25の相対向する内面には対をなす,蛇腹式の指圧筒28,29が気密状態にして固着され,指圧筒28,29の上端部には,指圧頭30,31がそれぞれ固設されている。指圧筒28,29にはそれぞれ図示しない空気圧生成装置によって生成された空気圧が導管32を介して給排できるようになっており,指圧筒28,29を伸縮作動させることができる。」 (2頁左欄12ないし27行目),「実施例の指圧装置を使用する場合について説明すると・・・流圧シリンダ43が伸長作動して可動枠25を蝶着部26まわりに閉じ方向に回動して第2〜4図に実線で示すように可動枠25を閉成し」(2頁右欄10ないし13行目)と,「圧力空気が導管32,32を通って指圧筒28,29内に給排されて,指圧筒28,29は伸縮運動を繰り返し数個の指圧頭30,31,39,40を間歇的に大腿部イに押圧することができる。この場合に指圧頭30,39と31,40は大腿部イを挟んで相対向しているので,恰も指圧師が大腿部イを握持して指圧する場合と同じような指圧効果を与えることができる。」(2頁右欄18ないし25行目)と,それぞれ記載されている。
            A 実願昭57−121347(実開昭59−100410)のマイクロフィルム(乙2)記載の考案(以下「乙2考案」という。)
                乙2には,以下のとおりの記載がある。
              (あ) 「実用新案登録請求の範囲」には,「患部の上からエアーバッグを当接させ,該エアーバッグに圧力空気を送って間欠的に脹らませることにより患部を間欠的に圧迫して捻挫や打撲等の治療を行うエアーバッグ式圧迫治療器において,患部を緩く包囲するように形成した堅固な殻体の内側に患部の要所を圧迫する複数のエアーバッグを取付けたことを特徴とするエアーバッグ式圧迫治療器。」と記載されている。

              (い) 「考案の詳細な説明」には,「例えば,膝関節の筋腱等軟部組織の損傷に対しては,第5図に示すように,膝関節をほぼ包囲する殻体21を形成し,その内側に内側側副靭帯部,外側側副靭帯部,或は膝蓋骨下部等の要所を圧迫する複数のエアーバッグ22をそれぞれ配設して上記と同様の圧迫治療に使用することもできる。」(6頁8ないし14行目)と,「上記の実施例では複数のエアーバッグに対し一度に空気を供給したが,順次供給を行って,複数のエアーバッグを順次脹らませて要所を圧迫することも可能である」(7頁8ないし11行目)と,それぞれ記載されている。
            B 意匠296760号の意匠公報(乙4の1)記載の意匠
               乙4の1,2記載の意匠(以下「乙4意匠」といい,乙4の1の意匠公報を「乙4公報」という。)は,「指圧椅子」に係る意匠であり,その正面図,平面図,底面図,参考図によれば,上記意匠は背もたれ及び肘掛けを有する椅子であって,同椅子には人体の脚部を載せる部分が存在し,脚部を載せる部分の前後端及び上部は開放されており,脚部に対応する部分の側壁に若干の突部が存在することが認められる。

          (c) 被告製品3の機能等について
            被告製品3のカタログ(乙11)には,「特に疲れがとれにくいふくらはぎは,3方向から包み込むようにもみほぐし,さらに新搭載のバイブレーターで新感覚のマッサージを実現しました。」と記載されている。また,フットレスト部の両側面から,作用を受ける旨の矢印,波線が記された図が掲載されている。
       c 均等に関する判断
             以上を前提にして,判断する。
        (a) 置換可能性について
          上記認定事実によれば,本件発明1は,空気袋を膨張・収縮させてマッサージを行うエアマッサージ装置についてのものであり,その作用効果は,人体の脚部を,凹状受部に簡単に載せてリラックスした状態にし,これを両側から押圧したり,開放したりして,人手によるような挟み揉み効果を十分に得ることにある。

          一方,上記認定事実によれば,被告製品3は,前後及び上方に開放したフットレストを備え,その脚載置部の側壁の一方では空気袋を配置し,他方では空気袋をチップウレタン及びウレタンフォームに置換することにより,3方向から包み込むようにもみほぐすマッサージ効果を発揮するものであり,このことは,空気袋の押圧力によって,相対する面に設けられたチップウレタン等からも脚部に対して押圧力が生じ,両側からの挟み揉み効果が生じていることを意味する。そうすると,被告製品3においては,上記置換により,本件発明1と実質的に同一の作用効果を奏するものと認められる。したがって,置換可能性を肯定できる。
        (b) 置換容易性について
          チップウレタンとウレタンフォームには柔軟性があることは公知であるから,被告製品の製造,販売当時に,脚載置部の一方の空気袋をチップウレタンとウレタンフォームに置換することによって,上記(a)のとおり,空気袋を用いた構成の場合と同一の作用効果を奏する点については容易に想到し得るものと認められる。よって,置換容易性を肯定できる。

        (c) 非本質的な部分か否かについて
          上記認定事実によれば,@本件発明1出願以前において,空気圧によって指圧頭を移動させて,脚部の一定部位に対して指圧を行う装置(乙1公報),複数のエアーバックに空気を送って脹らませ,脚部等の圧迫治療を行う装置(乙2考案),指圧椅子において,脚部を載せる部分の前後端及び上部が開放されているもの(乙4意匠)はいずれも公知であったこと,また,A本件発明1出願時において,弱いながらも身体を挟み込んでエアマッサージを行う装置(特開昭58−99958)も,本件明細書1に開示されて,公知であったこと,B本件発明1は,これらの技術を前提として,凹状受部の上方及び前後端が開放されていることにより,脚部を簡単に載せることができ,凹状受部の側面の空気袋の膨張・収縮により,脚部に人手によるような充分な挟み揉み効果が得られるという目的を達成するための構成を開示していることが認められる。

              以上の事実に照らすならば,本件発明1の特徴的部分は,上方及び前後端が開放された脚部を載せる部分の側面に,膨張及び収縮によってマッサージ作用をなし得る袋体が設けられ,脚部の両側から十分な挟み揉み作用をする構成にあるということができ,
             凹状受部の相対向する側面に配設された空気袋の一方を,チップウレタン及びウレタンフォームに置換した点の相違部分は,発明を基礎付ける本質的な特徴部分ではないと認められる。
           (d) 対象製品等の容易推考性,意識的除外等の特段の事情の不存在について
             本件全証拠によっても,本件発明1出願時に,脚載置部の側面に配置された空気袋で脚部を挟み揉みする公知技術が存在し,これらにより被告製品3の構成が容易に推考できたとは認められず,また本件発明1について,一方の空気袋をチップウレタンとウレタンフォーム等で置き換える構成を意識的に除外したものとも認められない(なお,被告は,これらの点を争っていない。)。

       (イ) 小括
       被告製品3において,凹状受部の相対向する側面の一方に当たる内側の側壁62,63の内側面に,チップウレタン71〜74及びウレタンフォーム81を配設し,外側の側壁61,64には空気袋を配設した構成は,「凹状受部の相対向する側面に空気袋を配設した構成」と均等といえる。
          以上によれば,被告製品3は,本件発明1の構成と均等なものとして,その技術的範囲に属する。
   (4) 被告製品4と本件発明1との対比
    ア 構成要件Bについて
      構成要件B記載の「凹状受部」の意義は,前記(1)ア(ア)のとおりであるところ,被告製品4には,下肢を載置する脚載置壁51と,脚載置壁51の両側に形成した側壁61,62とからなる溝状の部分(脚載置部41)と,下肢を載置する脚載置壁52と,脚載置壁52の両側に形成した側壁63,64からなる溝状の部分(脚載置部42)とがあり(被告製品4説明書の図3),これらはいずれも「凹状受部」に当たるものと認められるから,構成要件Bを充足する。

    イ 構成要件Cについて
     (ア) 均等に関する判断
         a 被告製品4におけるフットレストの構成
            被告製品4においては,脚載置部41の外側の側壁61の内側面にチップウレタン73を介して空気袋a,b,cが,内側の側壁62の内側面にチップウレタン71,72及び低反発ウレタン8が配設され,脚載置壁51にはウレタンフォーム9を介して空気袋g,hが配置されている。また,脚載置部42の外側の側壁64の内側にはチップウレタン73を介して空気袋d,e,fが,内側の側壁63の内側面にチップウレタン71,72及び低反発ウレタン8が配設され,脚載置部52にはウレタンフォーム9を介して空気袋i,jが,それぞれ配置されている(上記被告製品4説明書の構造の説明E)。
            そこで,被告製品4において,凹状受部の相対向する側面に配設された空気袋の一方を,チップウレタン及び低反発ウレタンで置換したことが,本件発明1の構成要件Cと均等であるか否かについて,判断する。

      b 置換可能性について
         被告製品4について,以下の事実が認められる。
            被告製品4のカタログ(乙12)には,脚部に関し,「エアバックと低反発ウレタンにより包み込むようにしっかりマッサージ」,「エアバックと低反発ウレタンで脚部の形状にあわせてしっかり包み込むように圧迫と開放を繰り返す新方式を採用。足首からふくらはぎを絞るようにほぐし,脚の疲れをとり血行を促進します。」と記載されている。そうすると,フットレストの側壁62,63の内側面の空気袋を,チップウレタン及び低反発ウレタンに置換しても,本件発明1の目的を達することができ,実質的に同一の作用効果を奏するものと認められるから,置換可能性を認めることができる。
     c 置換容易性について
         チップウレタンと低反発ウレタンには柔軟性があることは公知であり,被告製品の製造,販売当時,これを一方の側面の空気袋に置換しても,同一の作用効果を奏することは,容易に想到し得るものと認められる。よって,置換容易性を肯定できる。

       d その他の均等の要件は,被告製品3について判示したとおりであって,被告製品4において充足する。
     (イ) 小括
       したがって,被告製品4は,本件発明1の構成と均等なものとして,その技術的範囲に属する。
   (5) 本件発明1の明白な無効理由(新規性の欠如)の存否
     被告は,本件発明1の出願前に頒布された刊行物である乙1公報及び乙4公報には,本件発明1のすべての構成要件を備えた発明が開示されているから,本件発明1には明白な無効理由(法29条1項)があると主張する。なお,被告は,新規性欠如の無効理由の存在のみを主張するが,念のため,進歩性欠如の無効理由の存在についても判断する。
    ア 乙1発明に基づく無効理由について
     (ア) 乙1公報
          乙1公報には,前記(3)イ(ア)b(b)@で認定した内容のほか,以下のとおりの記載がある。

        a 「発明の詳細な説明」には,「前記指圧筒28,29の伸縮作動と同時に前記抱持枠27の横移動装置bが作動されるものであって,すなわち原動機22が駆動されて偏心ピン21と長孔19を介して支持部材15,16は軸支部17,18回りに左右に揺動され,この支持部材15,16に固着される抱持枠27は振幅運動を繰り返し,指圧頭30,31,39,40はその伸縮方向と略直交する方向に往復移動することができる。したがって大腿部にはもみ作用を与えながら指圧することができる。」(2頁右欄26ないし35行目)と,「特定個所の指圧を終つて指圧位置を変える場合には,指圧筒28,29への圧力空気の給排および原動機22の駆動を一旦停止した後,他の原動機9を駆動し円盤10を所定角度だけ回転すれば,・・・移動フレーム4が案内レール3,3上を走行し,これにより抱持枠27も指示部材15,16とともに移動させることができ指定位置の変更を行うことができる。」(2頁右欄36ないし44行目)と,それぞれ記載されている。
        b また,第1図として,指圧装置を備えた指圧台の側面概略図,第2,第3図として,下肢を載せた状態での正面図,拡大図が掲載されている。
       (イ) 一致点及び相違点
         a 一致点
             乙1発明には,「固定枠24と可動枠25の相対向する内面には対をなす,蛇腹式の指圧筒28,29が気密状態にして固着され,」と記載され,これにより本件発明1の「前記各凹状受部の相対向する側面には空気袋をそれぞれ配設した」との構成が明示されていることに照らすと,乙1発明及び本件発明1は,人体の脚部に,空気力によつて挟むような作用を及ぼす点において,共通する。
         b 相違点
           (a) 乙1発明は,「固定枠24と可動枠25とによって前記被指圧部を抱持しうる抱持枠27を構成する」,「図示しない運転釦を押すと,・・・可動枠25を蝶着部26まわりに閉じ方向に回動して第2〜4図に実線で示すように可動枠25を閉成し」と記載されていることに照らすならば,可動枠25はその使用時には閉じるため,使用時の状態での脚部は,固定枠24とともに周囲から抱持されており,開放されていないのに対して,本件発明1では,上方及び前後が開放された脚部を載せる凹状受部の側面に空気袋を設けている点で相違する。

           (b) 乙1発明は,指圧頭30,31が空気力により脚部に対して点接触して指圧を行う「指圧装置」であるのに対して,本件発明1では,空気袋自体を膨張,収縮させて挟み揉み効果を及ぼす,マッサージ装置である点で相違する。
       (ウ) 新規性について
          以上によれば,乙1発明に,本件発明1のすべての構成要件が開示されているものとは到底認められず,新規性を欠くとの被告の主張には理由がない。
       (エ) 進歩性について
          被告の主張はないが,念のため判断する。
          乙1発明は,解決課題の点において,「従来の指圧装置にあっては単に指圧頭を身体に向けて間歇的に押圧するようにしているだけなので,身体が指圧力の作用方向に逃げてしまい指圧効果が損なわれ,・・・実質的な指圧効果が得られないという欠点があった」という問題点を解決するために,「固定枠24と可動枠25とによって前記被指圧部を抱持しうる抱持枠27を構成する」「図示しない運転釦を押すと,・・・可動枠25を蝶着部26まわりに閉じ方向に回動して第2〜4図に実線で示すように可動枠25を閉成し」との構成を開示したものである(乙1)。すなわち,乙1発明に係る指圧装置においては,屈曲させた可動枠25が固定枠24に対して開閉自在に蝶着されており,固定枠24と可動枠25とによって脚部を上方から覆うような抱持枠27を構成しているため,脚部を載せるためには,一たん可動枠25を開く必要があり,また,脚部を載せた後に可動枠25を閉じる必要が生じ,これによって初めて実質的な指圧効果が得られることとなる。これに対し,本件発明1においては,凹状受部の側面の空気袋の膨張・収縮により,人手によるような充分な挟み効果が得られることを発明の目的とし,人体の脚部を載せる1対の凹状受部の上方を開放させることにより,脚部を凹状受部に簡単に載せることができるようにしたものである。
          以上のとおり,本件発明1は,その解決課題が異なるのであって,専ら,指圧装置としての固有の課題解決を目的とした乙1発明に基づいて,当業者が,本件発明1を容易に想到することができたということはできない(乙4公報には,上方及び前後端が開放された1対の凹状受部に人体の脚部を載せるようにした指圧椅子が記載されている点を考慮したとしても,上記判断を左右するものではない。)。
     イ 乙4意匠に基づく無効理由について
      (ア) 乙4意匠
          前記(3)イ(ア)b(b)Bで認定したとおり,乙4の1は,「指圧椅子」に係る意匠公報であり,その正面図,平面図,底面図,参考図によれば,上記意匠に係る物品は,背もたれ及び肘掛けを有する椅子であり,同椅子は,人体の脚部を載せる部分を有し,同部分は,その前後及び上方が開放されていること,脚部に対応する部分の側面に若干の突部が存在することが認められる。

      (イ) 相違点
          しかし,乙4公報には,その外観を示す7枚の写真が掲載されているほか,意匠に係る物品が「指圧椅子」であることが記載されているだけで,その他文章による説明は全くなく,脚部側面の突部が,空気袋からなる指圧子であることも確認できない。
          そうすると,乙4意匠と本件発明1とを対比すると,乙4意匠に@「凹状受部の相対向する側面には空気袋をそれぞれ配設している点」(構成要件C),A「空気袋を膨張・収縮させてマッサージを行うエアマッサージ装置」(構成要件A)の構成が開示されているとは到底認められない。
       (ウ) 新規性について
          以上によれば,乙4意匠に,本件発明1のすべての構成要件が開示されているものとは到底認められず,新規性を欠くとの被告の主張には理由がない。

       (エ) 進歩性について
          被告の主張はないが,念のため判断する。
          上記のとおり,乙4意匠には,脚部に対応する部分に若干の突部が存在することを認めることができるが,同突部が指圧子であると断定することはできないことに照らすと,同記載から,当業者が,本件発明を容易に想到することができたと認めることは到底できない。
 2 本件発明2と被告製品との対比について
   (1) 被告製品1と本件発明2との対比
    ア 構成要件Cについて
       (ア) 「互いに近接する方向に膨張する」の意義
         本件発明2の構成要件Cの「互いに近接する方向に膨張する」の文言は,出願当初の明細書には,人体の中心線の左右に間隔をおいて配置された空気袋に関して記載がなく,後に補正により,付加されたものである。そこで,その経緯を踏まえて,その意味を解釈する。

        a 本件発明2についての補正の経緯
         (a) 出願当初の特許請求の範囲の記載
           本件発明2の出願時(平成5年10月29日)の明細書によれば(乙5。以下「出願当初明細書」という。),請求項1の構成要件Cに係る部分には,「中心線の左右に間隔をおいて分離独立して配置した空気袋とからなる」と記載されていた。
         (b) 原告の行った補正
           原告は,平成11年10月18日,請求項1に関し,構成要件Cについて,「前記中心線の左右に間隔をおいて配置されて前記人体当接面上の人体を挟み付けるように互いに接近する方向に膨張する空気袋とを備え」とする旨の補正を行った。
         (c) 出願当初明細書の記載
          @ 出願当初明細書には,実施例として,人体の中心線の左右に間隔をおいて配置された空気袋をa5,a5とし(【0019】。4頁22行目。),前記空気袋a5,a5に関して,「空気袋a4と空気袋a5,a5とは,人体の一番重要な腰部に対応しているため,中心線Pと交差する同一軸線(図示せず)上に配設されて,異なったタイミングで腰部を人体の左右中央を押し出す伸び作用と人体の左右を押し出す収縮作用とを行なう。」と(【0021】。5頁8ないし11行目。),また,「従って,その膨張に伴う人体へのマッサージを,人体の伸び方向(中心線Pに跨ったもの)と人体の収縮(挟み付け)方向の両方向で行うことができ,あたかも,人手によるような充分な揉み効果を得ることができる。」(【0046】。9頁27ないし29行目。)と,それぞれ記載されている。

          A 出願当初明細書の図3(B)には,空気袋a9,a9が膨張によって互いに接近する状態が記載されており,これに対応して,実施例として,「空気袋a10,a10は,図3(A),(B)に示す様に,空気袋a9,a9が膨張する際に,この空気袋a9,a9で段階的に人体の首部を挟み付けるための壁の役割を果たす。」が記載されている(【0022】。5頁15ないし17行目。)。
             B 出願当初明細書の【発明の効果】には,「本発明のエアマッサージ装置にあっては,複数の空気袋は,本体の人体当接面の中心線の左右に跨って配置した空気袋と,中心線の左右に間隔をおいて分離独立して配置した空気袋とを備えていることにより,人手によるような充分な揉み効果が得られる。」(【0051】。10頁21ないし24行目。)と記載されている。

             C 出願当初明細書の【発明が解決しようとする課題】には,従来技術として,「この公報に開示されたエアマッサージ装置では,空気袋の長手方向中央に幅方向のくびれ部を設けて,空気袋の中央部が使用者の体重等により多少沈むようにしておくことにより,空気袋の膨出時に左右の部分が身体を挟むようにした構成となっている。しかしながら,この構成では,空気袋の中央部が使用者の体重等により多少沈む構成であるため,空気袋の膨出時に空気袋の左右の部分が身体を挟み込む力が小さく,人手によるような充分な揉み効果が得られないものであった。」(【0006】【0007】。2頁13ないし20行目。)と記載されている。
           (d) 上記の経緯に照らして判断する。
              出願当初明細書の実施例によれば,中心線P上に位置する空気袋a4と,左右に間隔を置く2個の空気袋a5,a5とは,いずれも,ほぼ同一平面上に設けられ,上下方向に膨張,収縮するものであるが,異なったタイミングで腰部を人体の左右中央を押し出す「伸び作用」と人体の左右を押し出す「収縮作用」とを行なうことで,同一部分である中心線部分が収縮(挟み付け)作用を受けるという構成が開示されているとみることができ,「互いに接近する方向に膨張する」の意味を,そのように理解する限りにおいて,上記補正は,要旨変更に当たらないと判断することができる。

              そうとすれば,構成要件Cにおける「互いに接近する方向に膨張する」の意味は,「中心線の左右に間隔をおいて,ほぼ同一の平面上に配置された空気袋によって,人体の中心線部分を挟む作用を行うこと」を指すと解すべきであって,「人体の中心線と平行し,互いに対面する2つの平面上に配置された空気袋によって,人体の側面を押圧すること」を含まないものと解するのが相当である(なお,本件発明2に関する無効審判請求に対し,平成14年7月31日,審決(乙78)では,「互いに接近する方向に膨張する空気袋」について,前記(c)記載のとおりの事実を前提として,人体を挟み付ける空気袋(a5,a5)は出願当初の明細書に開示されていたものと認定でき,かかる空気袋は,必然的に互いに接近する方向に膨張するものであると解されるとし,「互いに接近する方向に膨張する空気袋」との文言を付加する補正について,要旨変更はない旨の判断している。)。
       (イ) 対比
          被告製品1においては,フットレスト3の両側壁61,62の各内側面及び中間壁7の両側面71,72に空気袋a,b,c,dが配置されているから,aとb,cとdはいずれも相対向する側面に配設され,ほぼ平面上に配置されたものではない。
           よって,構成要件Cを充足しない。
     イ 構成要件Dについて
      (ア) 構成要件Dの「人体の同一部位」の意義
           構成要件Dの「人体の同一部位」は,人体当接面の中心線上の同じ箇所を指すと解すべきである。その理由は以下のとおりである。
       a 本件発明2の特許請求の範囲には,「前記中心線の左右に間隔をおいた空気袋の少なくとも一部を前記中心線の左右に跨る空気袋の両端より左右方向外方側に位置させて人体の同一部位に対して押し出しによる押圧マッサージ作用と挟み付けによる揉みマッサージ作用とを与える」と記載されている。

         b 【課題を解決するための手段】には,「人体の同一部位に対して押し出しによる押圧マッサージ作用と挟み付けによる揉みマッサージ作用とを与えることを要旨とする。」(本件明細書2の2頁左欄45ないし47行目)と記載されている。
          上記記載及び上記補正の経緯によれば,構成要件Dにおける「人体の同一部位」とは,人体当接面の中心線上の同じ箇所を指すものと解するのが相当である。
      (イ) 対比
        被告製品1においては,フットレスト3の両側壁61,62の各内側面及び中間壁7の両側面71,72に空気袋a,b,c,dが配置され,aとb,cとdはいずれも相対向する側面に配設されているところ,これらの空気袋が挟み付けマッサージを行う部位は,脚部の中心線部分(ふくらはぎの中心)と直角をなすふくらはぎの側面部分であり,これによれば,被告製品1においては「人体の同一部位」に対して押圧マッサージ作用を行うものとは認められない。

        よって,構成要件Dを充足しない(同様の理由により,構成要件Eも充足しない)。
   (2) 被告製品2の本件発明2との対比
    ア フットレスト部の空気袋について
     (ア) 構成要件Cについて
       被告製品2においては,フットレスト3の側壁61,62,71,72の各側面にそれぞれ空気袋a・b,c・d,e・f,g・hが配置され,また,溝状の脚載置部41,42の脚載置壁51,52にもそれぞれ空気袋i・j,k・lが配置されているところ,これら空気袋は,相対向する側面に配置されており,ほぼ同一平面上に配置されているものではない。          
       よって,構成要件Cを充足しない。
     (イ) 構成要件D,Eについて
       被告製品2においては,フットレスト3の側壁61,62,71,72の各側面にそれぞれ空気袋a・b,c・d,e・f,g・hが配置されており,a・bとc・d,e・fとg・hは,いずれも相対向する側面に配設されているところ,これら空気袋が挟み付けマッサージを行う部位は,脚部の中心線部分(ふくらはぎの中心)と直角をなすふくらはぎの側面部分であり,「人体の同一部位」にマッサージ作用を行うものではない。よって,構成要件D,Eを充足しない。

     イ 座部の空気袋について(構成要件B,Eについて)
      被告製品2は,座部4に,空気袋pと空気袋m,nも備えているところ,原告は,空気袋pは,尻部を押し出すように膨張するから,構成要件B,Eを充足すると主張する。
       しかし,座部の空気袋pは,ウレタンボードの中に埋設されているバイブレータの下にあり(争いがない),その機能は,バイブレータを,その振動が使用者に伝わるように持ち上げるためのものであるから,人体を押し出し,これによるマッサージ作用を与えるものではないと認められる。
       したがって,被告製品2は,構成要件B記載の「人体を押し出すように膨張する空気袋」及び構成要件E記載の「押し出しによる押圧マッサージ作用」を充足しない。   
   (3) 被告製品4の本件発明2との対比(構成要件B,Eについて)

      被告製品4の座部の空気袋pも,ウレタンボードの中に埋設されているバイブレータの下にあり(争いがない),その機能は,バイブレータを,その振動を使用者に伝わるように持ち上げるためのものであるから,人体を押し出し,これによるマッサージ作用を与えるものではないと認められる。
      したがって,被告製品4は,構成要件B記載の「人体を押し出すように膨張する空気袋」及び構成要件E記載の「押し出しによる押圧マッサージ作用」を充足しない。
 3 本件発明3と被告製品との対比について
   (1) 被告製品1と本件発明3との対比
    ア 構成要件Eについて
        被告は,構成要件Eの「脚載置台の回動位置に応じて太さが変化する脚部」とは,重力変化によって変形して太さが変化する脚部,すなわちふくらはぎ部のみを指すとの解釈を前提として,被告製品1では,フットレスト3が回動すると,空気袋a,b,c,dの作用点は,ふくらはぎ以外の部位へ移動することになり,本件発明3の作用効果を奏しないから,被告製品1は,構成要件Eを充足しないと主張する。しかし,被告の上記主張は,以下のとおり理由がない。

       (ア) 「脚載置台の回動位置に応じて太さが変化する脚部」の意義
          本件明細書3の【実施例】には,「脚載置台16の回動にしたがって,脚載置台16の両側壁20a,20bおよび中間壁20cに配設したエアーバック20aないし21bと脚の相対的位置が変化するため,脚部の押圧位置を変えることができる。」(3頁右欄43ないし47行目)と,「脚載置台16を回動することにより押圧力を変えるとともに同時にマッサージのポイントをも同時に変えることができる」(4頁左欄12ないし14行目)と,「使用中に押圧力を変えたいときは,・・・脚載置台16を回動させ所望の押圧力となったところで位置決めすればよく,使用中に簡単にしかも確実に所望の圧力値にを選択して設定できる。また,所望のマッサージポイントを自由に選択してマッサージを行うことができる。」(4頁左欄32ないし38行目。ただし,下線を引いた「に」は誤記と認められる。)と,それぞれ記載されている。

          そうすると,本件発明3においては,押圧力を加えるマッサージポイントが脚載置台を回動させることで変化することも前提としていることが明らかであり,構成要件Eの「脚載置台の回動位置に応じて太さが変化する脚部」とは,脚載置台を回動させることによって,重力変化による脚部の太さの変化が生じる場合と,マッサージポイントの変化による脚部の太さの変化が生じる場合とを含み,これらの変化により押圧力の変化を生じさせるものをいうと解するのが相当である。したがって,被告主張のような解釈を前提とすることはできない。
       (イ) 対比
         a 被告製品1の構成は以下のとおりである。
            すなわち,被告製品1のフットレスト3は,スイッチの操作により電動で使用者の望む位置に回動,停止し(FHC−316の場合のみ),又はフットレストレバーを手動で操作して垂直位置から水平位置に回動,停止することができる(別紙被告製品1構造の説明D)。また,フットレスト3は座部2の前部に,座部にとりつけられた軸によって上下方向に回動自在であり(上記構造の説明B),フットレストの脚部の相対位置を調整するフットレスト位置合わせ手段が装備されている(甲11)。被告製品1のフットレストにふくらはぎを載せ,フットレストを座部に対して垂直にした場合及び水平にした場合の2つの位置での空気袋による押圧力を測定した結果は,垂直位置の場合よりも,水平位置での押圧力の方が約36%大きい(甲13)。なお,上記実験に際しては,フットレストの回動時にフットレストをスライドし,ふくらはぎ部に取り付けたセンサーが,空気袋に対し同じ位置になるように調整している。

            上記によれば,被告製品1においては,フットレストを上下方向に回動可能であり,回動させて水平にした場合と垂直にした場合とで,対応するマッサージポイントが変わっているのであるから,脚部の太さは当然に回動に応じて変化しているといえ,それによって空気袋による押圧力も変化しているものと考えられる。また,被告製品1においては,フットレストの回動時にフットレストをスライドし,同じ部位をマッサージすることが可能であり,それらの場合で押圧力に変化がみられるから,フットレストの回動により脚部に重力による太さの変化が生じていることが認められる。したがって,被告製品1は,フットレストの回動による脚部の太さの変化に応じて,空気袋による押圧力を可変とする構成を備えているといえる。
       (ウ) 小括

           以上によれば,被告製品1は,構成要件Eを充足する。
   (2) 被告製品2と本件発明3との対比
    ア 構成要件Eについて
       (ア) 対比
         a 被告製品2の構成は,以下のとおりである。
            すなわち,被告製品2は,フットレスト3がリモコンの操作により電動で回動し,所望の位置に停止する(別紙被告製品2説明書構造の説明D)。被告製品2のフットレスト3は座部2の前部に,座部にとりつけられた軸によって上下方向に回動自在に設けられており(上記構造の説明B),フットレストの脚部の相対位置を調整するフットレスト位置合わせ手段が装備されている(甲12)。被告製品2のフットレストにふくらはぎを載せ,フットレストを座部に対して垂直にした場合,45度に傾斜した場合及び水平にした場合の3つの位置での空気袋による押圧力を測定した結果,水平位置の場合は垂直位置の場合よりも,押圧力が約22%大きく,45度傾斜の場合は,垂直位置の場合よりも押圧力が約14%大きい(甲13)。なお,上記実験に際しては,フットレストの回動時にフットレストをスライドし,ふくらはぎ部に取り付けたセンサーが,空気袋に対し同じ位置になるように調整している。

         b 以上によれば,被告製品2においては,フットレストが上下方向に回動可能であり,フットレストを水平にした場合,45度に傾斜させた場合,垂直にした場合で対応するマッサージポイントが変わっているのであるから,当然に回動に応じて脚部の太さが変化しているといえ,それによって空気袋による押圧力も変化しているものと考えられる。また,被告製品2においては,フットレストの脚部の相対位置を調整することにより,同じ部位をマッサージすることが可能であり,これらの場合に,押圧力に変化がみられることからすれば,フットレストの回動により脚部に重力による太さの変化が生じていることが認められる。したがって,被告製品2は構成要件Eを充足すると解される。
           なお,被告は,乙7(実験報告書)によれば,フットレストの回動位置を変化させても,被告製品2について,押圧力が変化しなかったとする。しかし,フットレストの回動位置を変化させた場合には,重力及びマッサージポイントの位置変化により脚部の太さが変化するのであるから,ある程度押圧力の変化が生じると考えるのが合理的であるが,乙7は,この点で合理性がないのみならず,フットレストのエアーセルに感圧センサーを取り付けて実験を行ったとするだけで,脚部に加わる押圧力の変化を測定したものかが不明であり,採用することはできない。

       (イ) 小括
           以上によれば,被告製品2は,構成要件Eを充足する。
   (3) 被告製品3の本件発明3との対比
    ア 構成要件Aについて
     (ア) 構成要件Aの「側壁」の意義
       構成要件Aは,「身体支持台と,この身体支持台の前部に上下方向に回動自在に設けられ脚載置壁とこの脚載置壁の両側に形成した側壁とからなる溝状の脚載置部を有する脚載置台と,」と記載されているが,この「側壁」とは,脚載置壁の両側にあって,脚部の両側をマッサージするための空気袋を配設したものに限定されると解すべきである。その理由は,以下のとおりである。すなわち,
         a 本件発明3の特許請求の範囲には,「脚載置壁とこの脚載置壁の両側に形成した側壁とからなる溝状の脚載置部を有する脚載置台と,少なくとも前記脚載置部の両側壁に配設された気密性を有するとともに軟質材からなり圧縮空気の給排気に伴って膨張するエアーバッグと」と記載されており,脚載置台は,脚載置壁とその両側の側壁からなり,両側壁にエアーバッグを配設することが明示されている。

         b 【実施例】には,「前記側壁16aと中間壁16cの互いに対向する側壁,および側壁16bと中間壁16cの互いに対向する側壁には,それぞれ前記溝19a,19bの底壁19cおよび19dに載せられた脚のふくらはぎ部を押圧してマッサージするため,上記した各袋体と同様の材質からなる脚用エアーバッグ20a,20bおよび21a,21bが配設されている。そして,これら脚用エアーバッグ20a,20bおよび21a,21bは,圧搾空気が供給され膨張したとき脚のふくらはぎ部を両側に位置する大きさとした偏平形状に形成されている。」(3頁左欄6ないし15行目)と,「脚載置台16を水平位置・・・に位置決めして,脚部を脚載置台16の溝19a,19bに位置させた場合は,脚のふくらはぎ部Hには脚部全体に加わる重力をふくらはぎ部で受けることになるため,この重力のため図3(C)に示すようにふくらはぎ部Hは偏平状に変形した状態で前記底壁19c,19dに支持されることになり,この状態でエアーバッグ20aと20bおよび21aと21bが圧搾空気の供給により所定量膨張すると同図に示すように,ふくらはぎ部Hは斜線部分だけエアーバッグにより押圧されることになり」(3頁右欄3ないし13行目)と,それぞれ記載されている。
          上記によれば,構成要件Aにおける,「側壁」は,脚載置壁の両側にあって,脚部の両側をマッサージするための空気袋を配設したものを指すと解するのが相当である。
     (イ) 対比
       原告は,被告製品3のフットレスト3は,脚載置壁51,52とこの両側に形成した側壁61と64とが,構成要件Aの側壁に当たると主張する。しかし,側壁61及び64は,それぞれ別の脚の片側に対応するものであって,被告製品3は,脚部置壁の両側にあって,脚部の両側をマッサージするための空気袋を配設した「側壁」を有しない。よって,構成要件Aを充足しない。
   (4) 被告製品4と本件発明3との対比
      原告は,被告製品4のフットレスト3は脚載置壁51,52とこの両側に形成した側壁61と64とからなる溝状の脚載置部41,42を有する(別紙被告製品4説明書構造の説明C)から,構成要件Aを充足すると主張する。しかし,前記被告製品3についての判示と同様の理由により,被告製品4の側壁61と64とは,それぞれ別の脚の片側に対応するものであって,被告製品4は,「側壁」を有しないと解される。よって,被告製品4は,構成要件Aを充足しない。

   (5) 本件発明3の明白な無効理由(新規性の欠如)の存否
    被告は,本件発明3は,乙1発明に,乙3等に記載されいる周知技術を付加したにすぎず,本件発明1には明白な無効理由(法29条1項)があると主張する。なお,被告は,新規性欠如の無効理由の存在のみを主張するが,念のため,進歩性欠如の無効理由の存在についても判断する。
    ア 乙1公報に基づく無効理由について
       (ア) 乙1公報
          乙1公報の「特許請求の範囲」には,「身体の脚部,腕部等の被指圧部に対面する内面を凹状に形成した固定枠24の一端縁に同じく前記被指圧部に対面する内面を凹状に形成した可動枠25を蝶着26してなる抱持枠27と・・・抱持枠27の相対向する内面に取付けられ,流体圧の給排により伸縮運動を繰り返すようにした少なくとも1対の指圧筒28,29と・・・指圧筒28,29の伸縮方向と略直交する方向に往復動させる抱持枠横往復動装置bとを少なくとも有する指圧装置。」と,また,「発明の詳細な説明」には,「実施例の指圧装置を使用する場合について説明すると・・・流圧シリンダ43が伸長作動して可動枠25を蝶着部26まわりに閉じ方向に回動して第2〜4図に実線で示すように可動枠25を閉成し」(2頁右欄10ないし13行目),「特定個所の指圧を終つて指圧位置を変える場合には,指圧筒28,29への圧力空気の給排および原動機22の駆動を一旦停止した後,他の原動機9を駆動し円盤10を所定角度だけ回転すれば,・・・移動フレーム4が案内レール3,3上を走行し,これにより抱持枠27も支持部材15,16とともに移動させることができ指圧位置の変更を行うことができる。」(2頁右欄36ないし44行目)と,それぞれ記載されている。
       (イ) 相違点
         a 乙1発明は,本件発明3における構成要件Dの「前記身体支持台に設けられ前記脚載置台を回動させて所定の位置に位置決めする位置決手段とを備える」との構成を有しない点において相違する。
         b 乙1発明は,指圧筒28,29を備える抱持枠27が案内レール上を走行することにより,指圧個所を移動することができるが,この抱持枠27等のいずれにおいても,脚部を載置する脚載置台が存在しないのに対して,本件発明3は,脚部を載置する脚載置台を有する点において相違する。
         c 乙1発明は,指圧筒28,29の伸縮により指圧効果を及ぼすものであるが,エアーバッグの膨縮によりマッサージを行うエアーマッサージ機ではないのに対して,本件発明3は,エアーマッサージ機である点において相違する。

       (ウ) 新規性について
          以上によれば,乙1発明に,本件発明1のすべての構成要件が開示されているものとは到底認められず,新規性を欠くとの被告の主張には理由がない。
       (エ) 進歩性について
          被告の主張はないが,念のため判断する。
          本件発明3は,気密性を有するとともに軟質材からなり圧搾空気の給排気に伴って膨縮するエアーバッグを,その両側壁に配設した「脚載置台」を設けたことを前提として,脚載置台を回動させて所定の位置に位置決めする位置決手段とを備えたことによって,脚載置台の回動位置によって押圧力を可変することができるとの作用効果を達成させたものであり,本件発明3は,乙1発明に,乙4意匠の技術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到できたものということはできない。

    イ 乙4意匠に基づく無効理由について
       (ア) 乙4意匠
          前記1(5)イ(イ)記載のとおり,乙4公報には,その外観を示す7枚の写真が掲載されているほか,意匠に係る物品が「指圧椅子」であることが記載されているだけで,その他文章による説明は全くなく,脚部に対応する部分に若干の突部が存在するが,同部分が指圧子であると断定することもできない。乙4意匠は,単に指圧を行う際に用いる椅子であることは推測できるが,指圧に関しての技術的内容は,何ら開示されていない。すなわち,乙4意匠からは,椅子自身が何らかの動きをすることによって指圧を行うのか,使用者自身が自ら身体を動かすことによって指圧を行うのか,施術者により指圧がされるのかすら窺うことができない。
       (イ) 新規性について
          以上によれば,乙4意匠に,本件発明1のすべての構成要件が開示されているものとは到底認められず,新規性を欠くとの被告の主張には理由がない。

       (ウ) 進歩性について
          被告の主張はないが,念のため判断する。
          前記のとおり,本件発明3は,気密性を有するとともに軟質材からなり圧搾空気の給排気に伴って膨縮するエアーバッグを,その両側壁に配設した「脚載置台」を前提として,脚載置台を回動させて所定の位置に位置決めする位置決手段とを備えたことによって,脚載置台の回動位置によって押圧力を可変することができるとの作用効果を達成させたものであり,本件発明3は,乙4意匠に,その他の技術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到できたものということはできない。
 4 本件発明4と被告製品との対比について
      被告は,被告製品1と本件発明4との対比について,構成要件A,C,D,Eの充足性を争わず,また,構成要件Bの充足性について,明らかな反論をしない。

      よって,被告製品1は,本件発明4の技術的範囲に属する。
 5 本件発明5と被告製品との対比について
  (1) 被告製品1と本件発明5との対比
    ア 構成要件A1について
       (ア) 「押上げる」の意義について 
        a 被告は,構成要件A1の「押上げる」とは,本件発明5の作用効果が脚部,尻部にストレッチ効果を及ぼすことにあるから,着座した使用者の身体を空気袋の膨張により,実際に持ち上げるものであることを必要とすると主張する。しかし,当裁判所は,被告主張のように限定すべきではないと解する。その理由は,以下のとおりである。
         (a) 本件発明5の特許請求の範囲には,「圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者を押上げる座部用袋体が配設された座部・・・圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置部と・・・脚用袋体が膨張して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用袋体が使用者を押上げるように膨張することを特徴とする椅子式エアーマッサージ機」と記載されている。

          (b) 【発明の詳細な説明】には,「従来のものにおいては,マッサージ中は身体は自由状態となっているため,圧搾空気の給排気に伴う座部の袋体の膨縮にしたがって身体も上下動することになり,腿部を含む脚部,尻部の筋肉をストレッチしつつマッサージをすることができず,より効果的なマッサージをするという面では満足のいくものではないという問題があった。」(2頁左欄12ないし18行目)と,「座部用袋体が膨張して身体が上方に持ち上げられるとき,膨張した脚用袋体によって脚部はその両側から挟持されているので,腿部および尻部の筋肉は引き伸ばされることになり,ストレッチされつつマッサージがされる。」(2頁左欄47ないし右欄1行目)と,「腿用袋体4および尻用袋体5への圧搾空気の供給と前記袋体15aないし16bへの圧搾空気の供給が同時になされることにより,腿用袋体4および尻用袋体5が膨張し腿部あるいは尻部を押圧しながら身体を上方に押し上げるが,このとき脚用袋体15aないし16bも同時に膨張し脚用袋体15aないし16bの間に位置する脚部は膨張した脚用袋体15aないし16bによって両側から包み込まれるようにして挟持され押さえられるために腿部あるいは尻部の上方への押上げに伴って脚部ないし腿部等の筋肉は引き伸ばされ,つまりストレッチされるので効果的な筋肉疲労の解消が図れるのである」(4頁左欄49ないし右欄10行目)と,それぞれ記載されている。
         b 上記記載によれば,本件発明5は,椅子式のエアマッサージ機において,マッサージ中に身体が動き得る状態ではマッサージ効果が十分でなかった点を解消するため,座部用袋体が膨張して身体が上方に持ち上げられるとき,脚用袋体が膨張することにより脚部が両側から挟持され,脚部ないし腿部等の筋肉をストレッチしつつマッサージをし,効果的な筋肉疲労の解消という効果を達成しようとしたものである。そうすると,構成要件A1における「押上げる」とは,着座した使用者の身体を押し上げるまでの押圧力を意味するのではなく,尻部,腿部が持ち上げられて筋肉を伸ばし得る程度の押圧力を意味すると解するのが合理的である(構成要件B記載の「押上げるように膨張する」についても同様に解される。)。

     (イ) 対比
      a 被告製品1においては,座部にも空気袋g,hが配置されている(別紙被告製品1構造の説明G)。この空気袋g,hは,いずれも座部のフットレスト側半面に,使用者の腿部にまたがるようにして配置されている。そして,この空気袋は,空気給排気装置により,膨張収縮するものである。
        これによれば,座部用空気袋が膨張した際には,使用者の身体が持ち上げられ,筋肉を伸ばし得る程度の押圧力が作用すると認められるから,被告製品1は,構成要件A1を充足する(同様に,構成要件B記載の「押上げるように膨張する」も充足する。)。
      b この点について,被告は,ストレッチに関する専門書である乙24,25によれば,ストレッチとは,関節可動域を広げることなどを目的として,筋肉に緊張や張りを感じるまで伸展させてその状態を維持する運動のことであり,被告製品1においては,関節可動域を広げるように腿部や尻部の筋肉を伸展させるというストレッチの作用が生じないとし,また,乙41によれば,被告製品2(FMC−200,FMC−300)を実際に使用した鍼師,灸師,按摩マッサージ指圧師の見解書によれば,座部前方の空気袋が膨張すると,太ももが圧迫され,その部位が若干盛り上がったが,関節の動きは生じず,ストレッチの効果が得られないから,被告製品2は構成要件A1を充足せず,被告製品1においても同様であると主張する。

        しかし,上記専門書(乙24,25)は,床等で行うストレッチ運動を前提とし,また上記見解書(乙41)は,ストレッチとは,筋繊維が伸ばされることであり,関節の動きが大きいものであれば,筋は10cm近く伸び,この状態になって初めてその筋肉がストレッチされることを前提とした上で,被告製品2によればストレッチ効果がないとするものであるが,本件発明5は,椅子式エアーマッサージ機を前提とした上で,もとより床等で行うストレッチ運動と同等の効果を期待したものではなく,前提において相違する。被告のこの点の主張には理由がない。
    イ 構成要件Bについて
       (ア) 被告製品1においては,座部に空気袋g,hが配置されており(別紙被告製品1構造の説明G),被告製品1の下半身用操作盤・リモコンによって使用者は「下半身コース」,「脚モード」,「座モード」を選択して動作モードを入力することができるところ,この「下半身コース」の「コースK」を選択したときの各空気袋に圧搾空気が供給されるタイミングはタイミングチャート(別紙被告製品1構造の説明I)のとおりであり,フットレストの脚用空気袋(aないしf)が膨張した後,その膨張が維持されている間に座部用空気袋g,hも膨張する。

           上記によれば,被告製品1においては,脚部を挟持した状態で座部用空気袋が膨張するから,構成要件Bを充足する。
       (イ) この点について,被告は,被告製品1では,座部の空気袋g,hが膨張するとき,フットレストの空気袋aないしdは使用者の脚部を挟持した状態にはならないから,構成要件Bを充足しないと主張する。
         しかし,被告の主張を裏付ける適切な証拠はないばかりか,被告の主張によっても,フットレストの空気袋の圧力が一旦低下することがあっても,これによって,使用者の身体が自由な状態になるわけではなく,なお空気袋の膨張状態が保たれているのであるから,この点の被告の主張は採用できない。 
   (2) 被告製品2と本件発明5との対比
     ア 構成要件A1について
        被告製品2においては,座部に4つの空気袋m,n,o,pが配置されており,このうち空気袋oは,座部を構成するウレタンボード10の上,座部のフットレスト側半面に,使用者の腿部にまたがるようにして配置されている(別紙被告製品2説明書構造の説明G)。そして,この空気袋は,空気袋給排気装置により膨張縮小する(同A)。

        以上によれば,座部用空気袋oは,大腿部に対して下方から上方へ向けて,使用者の身体が持ち上げられ,筋肉を伸ばし得る程度の押圧力が作用すると認められるから,被告製品2は,構成要件A1を充足する(同様に,構成要件B記載の「押上げるように膨張する」も充足する。)。
    イ 構成要件Bについて
        被告製品2においては,使用者は自動コース(メディカルコース,快適コース)や自由選択コースが選択でき,自由選択コースでは,「脚」,「座」,「脚&座」の動作モードを選択して,入力することができる。このうち,「脚&座」の動作モードを選択した際の,各空気袋に圧搾空気が供給されるタイミングはタイミングチャート(別紙被告製品2説明書構造の説明I)のとおりであり,フットレストの脚用空気袋(aないしh)が膨張した後,その膨張が維持されている間に座部用空気袋oも膨張する。

         上記によれば,被告製品2においては,脚部を挟持した状態で座部用空気袋が膨張するから,構成要件Bを充足する。
   (3) 被告製品3と本件発明5との対比
    ア 構成要件A1について
      被告製品3においては座部に空気袋i,jが配置されている(別紙被告製品3構造の説明G)。この空気袋i,jは,いずれも座部のフットレスト側半面に,使用者の腿部にまたがるようにして配置されている。そして,この空気袋は,空気給排気装置により,膨張収縮する(同A)。
      以上によれば,座部用空気袋oが膨張した際には,使用者の身体が持ち上げられ,筋肉を伸ばし得る程度の押圧力が作用すると認められるから,被告製品3は,構成要件A1を充足する(同様に,構成要件B記載の「押上げるように膨張する」も充足する。)。

    イ 構成要件A3について
     (ア) 「脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置部」の意義
         被告は,構成要件A3については,脚載置部の両側に空気袋が配設されて,その膨張時に脚部を挟持することが必要であると解すべきであるとの解釈を前提として,被告製品3においては,フットレストの中央には空気袋が配設されていない側壁62,63があり,右脚も左脚も,フットレストに配設された空気袋a・b・cと空気袋d・e・fとによって挟持される状態にはならないから,構成要件A3を充足しないと主張する。しかし,当裁判所は,被告主張のように限定すべきでないと解する。その理由は,以下のとおりである。
        a 本件明細書5の「特許請求の範囲」には,「座部の前部に設けられ,かつ,圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用袋体」と記載されているが,上記記載からは,左右の脚部それぞれの両側に,空気袋を設けた構成に限定されているものとは解されない。

        b また,【発明の詳細な説明】には,「脚のふくらはぎの部分をマッサージするための・・・脚用袋体15a,15bおよび16a,16bが配設されている。そして,これら脚用袋体15a,15bおよび16a,16bは,圧搾空気が供給され膨張したとき脚部のふくらはぎ部分を両側から包み込むような大きさとした偏平形状に形成されている」(3頁左欄13ないし19行目)と,「座部用袋体が膨張して身体が上方に持ち上げられるとき,膨張した脚用袋体によって脚部はその両側から挟持されているので,腿部および尻部の筋肉は引き伸ばされることになり,ストレッチされつつマッサージがされる。」(3頁左欄47ないし右欄1行目)と,「腿用袋体4および尻用袋体5への圧搾空気の供給と前記袋体15aないし16bへの圧搾空気の供給が同時になされることにより,腿用袋体4および尻用袋体5が膨張し腿部あるいは尻部を押圧しながら身体を上方に押し上げるが,このとき脚用袋体15aないし16bも同時に膨張し脚用袋体15aないし16bの間に位置する脚部は膨張した脚用袋体15aないし16bによって両側から包み込まれるようにして挟持され押さえられる」(2頁左欄49ないし右欄7行目)と,それぞれ記載されており,これらによれば,実施例の記載等によっても,左右の脚部の各々の両側について脚用袋体が配置される構成に限定されていない。
       (イ) 対比
         被告製品3においては,座部2の前部にフットレスト3が設けられ(別紙被告製品3説明書構造の説明B),このフットレスト3には,脚載置部41の外側の側壁61の内側面に空気袋a,b,cが,又内側の側壁62の内側面にチップウレタン71〜74及びウレタンフォーム81が配設され,また,脚載置壁51にはウレタンフォーム82を介して空気袋gが配置されている。脚載置部42の構成についても同様であり(同E),これら空気袋は,圧搾空気の給排気に伴って膨縮する(同A)。
         上記によれば,被告製品3においては,脚用空気袋a・b・c及びd・e・fが配設されたフットレスト3を有する上,チップウレタン及びウレタンフォームと合わせ,空気袋の膨張時に,脚部を両側から挟持するものといえる。

         よって,構成要件A3を充足する。
    ウ 構成要件Bについて
        被告製品3においては,使用者は「脚&座モード」と「脚モード」を選択して動作モードを入力することができるが,「脚&座モードK」を選択したときの各空気袋に圧搾空気が供給されるタイミングはタイミングチャート(別紙被告製品3説明書構造の説明I)のとおりであり,フットレストの脚用空気袋(aないしf)が膨張した後,その膨張が維持されている間に座部用空気袋i,jも膨張する。
         上記によれば,被告製品3においては,脚部を挟持した状態で座部用空気袋が膨張する。よって,構成要件Bを充足する。
   (4) 被告製品4と本件発明5との対比
    ア 構成要件A1について
      被告製品4においては,座部に4つの空気袋m,n,o,pが配置されており,このうち空気袋oは,座部を構成するウレタンボード10の上,座部のフットレスト側半面に,使用者の腿部にまたがるようにして配置されている(別紙被告製品4説明書構造の説明G)。そして,この空気袋は,空気給排気装置により,膨張収縮する(同A)。 

      以上によれば,座部用空気袋が膨張した際には,使用者の身体が持ち上げられるものと認められる。よって,構成要件A1を充足する(同様に,構成要件B記載の「押上げるように膨張する」も充足する。)。
    イ 構成要件A3について
      被告製品4においては,座部2の前部にフットレスト3が設けられ(別紙被告製品4説明書構造の説明B),このフットレスト3には脚載置部41の外側の側壁61の内側面にチップウレタン73を介して空気袋a,b,cが,内側の側壁62の内側面にチップウレタン71,72及び低反発ウレタン8が配設され,脚載置壁51にはウレタンフォーム9を介して空気袋g,hが,それぞれ配置されている。脚載置部42の構成についても同様であり(同E),これら空気袋は,圧搾空気の給排気に伴って膨縮する(同A)。

        上記によれば,被告製品4においては,脚用空気袋a・b・c及びd・e・fが配設されたフットレスト3を有する上,チップウレタン及び低反発ウレタンと合わせ,空気袋の膨張時に,脚部を両側から挟持するものといえる。よって,被告製品4は,構成要件A3を充足する。
    ウ 構成要件Bについて
        被告製品4においては,使用者は自動コース(メディカルコース,快適コース)や自由選択コースが選択でき,自由選択コースでは,「脚」,「座」,「脚&座」の動作モードを選択して,入力することができるが,「脚&座」の動作モードを選択したときの各空気袋に圧搾空気が供給されるタイミングはタイミングチャート(別紙被告製品4説明書構造の説明I)のとおりであり,フットレストの脚用空気袋(aないしf)が膨張した後,その膨張が維持されている間に座部用空気袋oも膨張する。

         上記によれば,被告製品4においては,脚部を挟持した状態で座部用空気袋が膨張する。よって,構成要件Bを充足する。
   (5) 本件発明5の明白な無効理由の存否
    ア 法29条1項柱書の発明でないとの主張について
      前記5(1)ア(イ)bで検討したとおり,本件発明5は,床等で行うストレッチと同等の効果を目的とするものではなく,椅子式エアーマッサージ機において使用者の筋肉の引き伸ばしを目的とするものであって,腿用袋体及び尻用袋体への圧搾空気の供給と,脚用袋体への圧搾空気の給排気を同時に行うことにより,脚用袋体に脚部は挟持され押さえられた状態で腿部あるいは尻部は上方へ押し上げられるため,押上に伴って脚部,腿部の筋肉が引き伸ばされマッサージするとの効果を及ぼすものである。そして,上記の意味における発明の効果が実現可能であることは容易に認められるから,本件発明5は,法29条1項柱書の発明に該当する。この点の被告の主張は理由がない。

    イ 法17条の2第3項の要件違反について
       (ア) 被告は,本件発明5について,「背もたれ部」の空気袋に関する記載を削除した補正が,いわゆる新規事項の追加に当たり,無効理由があると主張するので,以下検討する。
         a 証拠(乙26ないし28)によれば,補正の経緯につき,以下のとおりの事実が認められる。
          (a) 本件発明5出願当時の請求項1の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(下線部分は下記手続補正により削除された部分である。)。
           「座部とこの座部の後部に所定の傾斜角度をもって設けられた背もたれ部とを有する椅子本体と,前記座部の前部に設けられた脚載置部と,前記座部,背もたれ部および脚載置部のそれぞれに配設された気密性を有するとともに軟質材からなり圧搾空気の給排気に伴って膨縮する複数の袋体と,圧搾空気を供給する圧搾空気供給手段と,この圧搾空気供給手段からの圧搾空気を給排気管を介して前記座部および背もたれ部に配設された各袋体に分配して供給する分配手段と,少なくとも前記座部に配設された袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて前記脚載置部に配設した袋体への給排気を行う動作モードを含む複数の動作モードを入力する入力手段と,この入力手段から前記動作モードの中から所望の動作モードが入力されたときこの動作モードに応じて前記袋体への給排気を行うように前記各手段を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする椅子式エアーマッサージ機。」

          (b) 原告は,平成12年6月22日,本件発明5の請求項1を現在のとおりとする旨(現在の請求項1の記載は前記前提となる事実(2)オ記載のとおり)の手続補正を行うとともに,同日,意見書を提出した。意見書には,「請求項1の発明において,座部に対して追加された「座部用袋体」,及び脚載置部に対して追加された「脚用袋体」についての補正事項は,当初明細書の請求項1に記載されていた「前記座部,背もたれ部および脚載置部のそれぞれに配設された気密性を有するとともに軟質材からなり圧搾空気の給排気に伴って膨張する複数の袋体」の記載,及び当初明細書の段落「0027」及び「0029」等の記載に基づいております。」と記載されている。
         b 本件発明5の出願当初明細書には,以下のとおりの記載がある。すなわち,

           「この様に腿用袋体4および尻用袋体5への圧搾空気の供給と前記脚用袋体15aないし16bへの圧搾空気の供給が同時になされることにより,腿用袋体4および尻用袋体5が膨張し腿部あるいは尻部を押圧しながら身体を上方に押し上げるが,このとき脚用袋体15aないし16bも同時に膨張し脚用袋体15aないし16bの間に位置する脚部は膨張した脚用袋体15aないし16bによって両側から包み込まれるようにして挟持され押さえられるために腿部あるいは尻部の上方への押上げに伴って脚部ないし腿分等の筋肉は引き伸ばされ,つまりストレッチされるので効果的な筋肉疲労の解消が図れるのである。」(【0027】部分,4頁左欄49ないし右欄10行目。ただし,下線を引いた「分」は「部」の誤記と認められる。)と,「・・・上記各動作モードにおける腿用袋体4および尻用袋体5への圧搾空気の給排気のタイミングと前記脚用袋体15aないし16bへの圧搾空気の給排気のタイミングとは同期するように・・・制御され,腿用袋体4および尻用袋体5への圧搾空気の供給と前記脚用袋体15aないし16bへの圧搾空気の給排気が同時になされる。そして,脚用袋体15aないし16bの膨張によりこれら脚用袋体15aないし16bの間に位置する脚部は挟持され押さえられた状態で腿部あるいは尻部は上方への押上げられるため,この押上にともなって脚部,腿部および腿部等の筋肉は引き伸ばされ,つまりストレッチされつつマッサージされるので効果的な筋肉疲労の解消を図ることができる。」(【0029】部分,4頁右欄25ないし39行目)と,それぞれ記載されている。
       (イ) 検討
         以上によれば,原告により平成12年6月22日に行われた上記補正は,出願当初の明細書に記載されていた,腿用袋体及び尻用袋体への圧搾空気の供給と,脚用袋体への圧搾空気の給排気を同時に行うことで,脚部が脚用袋体に挟持され押さえられた状態で,腿部あるいは尻部が上方へ押し上げられるため,押上げにともなって脚部,腿部の筋肉が引き伸ばされマッサージされるとの点を特許請求の範囲の記載上も明確化するとともに,上記作用効果と関連しない背もたれ部の袋体の記載を削除し,特許請求の範囲を限定したものと解される。よって,いわゆる新規事項の追加を伴う補正とは解することはできず,法17条の2第3項違反に基づく無効理由があるとは認められない。

    ウ 乙80公報に基づく進歩性欠如の無効理由について
     (ア) 乙80公報記載の発明は,指圧装置に関する発明であり,同公報には,以下のとおり記載されている。
         a 特許請求の範囲には,「椅子,寝台などの休息具に,指圧頭部を有する多数の蛇腹状の伸縮筒を配設し,これらの伸縮筒を分給回転バルブの多数の通孔にそれぞれ連通せしめ,該多数の通孔が分給回転バルブの給排孔に順次連通するようにしたことを特徴とする指圧装置。」と記載されている。
         b 発明の詳細な説明には,「蛇腹状の伸縮筒27の指圧頭部29は作動前の平常時において表皮31面より僅か外方へ突出するようにしてある。」(2頁左欄32ないし34行目)と,「伸縮筒27へ接続ホース26から圧縮空気が送り込まれると,第9図Cの如く蛇腹状伸縮筒27は伸長してH3の高さとなり,hの高さだけ蛇腹状伸縮筒27の指圧頭部29は人体を指圧する作用をなすのである。」(2頁右欄22ないし26行目)と,「蛇腹状伸縮筒27は第8図参考図に見られるように大体首筋の通常”ぼんのくぼ”と言われている個所等指圧の急所と言われている個所を参考にして首筋より肩にかけて8点背中から胃裏にかけて16点,両腕が左右で12点,大腿部から脚にかけて24点と合計60個所位が椅子1に適当に配設されている。なおこの数は使用者の希望により適宜増減することができるものであることは勿論である。」(2頁右欄30ないし38行目)と,それぞれ記載されている。

       (イ) 検討
         上記によれば,乙80は,指圧装置に関する発明であり,伸縮筒27の伸縮により,指圧頭部29が指圧を行う装置であるところ,脚用袋体,座部用袋体については記載されておらず,また脚用袋体の膨張時に,使用者の脚部が挟持され,座部用袋体が使用者を押上げるように膨張することについても記載されていない点で,本件発明5と相違する。そして,これらの相違点については,当業者が容易に想到し得ると認めることはできない。
 6 侵害の有無に関する小括                        
   上記によれば,被告各製品の本件各発明との対比に関する結論は,以下のとおりである。
   (1) 被告製品1は,本件発明1,3,4,5の技術的範囲に属する。
   (2) 被告製品2は,本件発明1,3,5の技術的範囲に属する。
   (3) 被告製品3は,本件発明1,5の技術的範囲に属する。

   (4) 被告製品4は,本件発明1,5の技術的範囲に属する。
 7 争点5(損害額及び補償金額)について
    原告は,被告に対して,被告各製品の販売について,平成11年10月1日から同年12月9日までの補償金,及び同年12月10日から平成14年3月31日までの損害賠償金を,それぞれ請求する。そこで,これらの額について判断する。
  (1) 損害額(法102条1項)について
   ア 被告各製品の販売台数
     証拠(乙74)によれば,本件発明1,3,4の設定登録日である平成11年12月10日から平成14年3月31日までの,被告各製品の販売台数については,以下のとおりであることが認められる(なお,本件発明5の設定登録日は平成12年10月20日である。)。
    (ア) 被告製品1の販売台数
     a 被告製品1は,型番FHC−306,FHC−316の椅子式マッサージ機である。被告製品1は,本件発明1,3,4の設定登録日である平成11年12月10日より前から販売されていた。同日以降の販売台数を以下のとおり,算定する。

           (a) FHC−306の平成11年12月10日から同月31日までの販売台数
             乙74の別紙によれば,被告製品1のうち,型番FHC−306の平成11年12月の月間販売台数は,421台であることが認められる。そこで,これを同月9日までの分と同月10日以降の分に按分すると(整数値に四捨五入した。以下同じである。),
        421÷31×9≒122.2(122台)
             421÷31×22≒298.7(299台)
       となる。したがって,同月10日から31日まで販売台数は,299台であると推認される(なお,同月9日以前の販売台数は,122台と推認され,補償金請求の基礎となる。)。
      (b) FHC−316の平成11年12月10日から同月31日までの販売台数

        乙74の別紙によれば,被告製品1のうち,型番FHC−316の平成11年12月の月間販売台数は,1952台であることが認められる。そこで,これを同様に按分すると,
       1952÷31×9≒566.7(567台)
           1952÷31×22≒1385.2(1385台)
       となる。したがって,同月10日から31日までの販売台数は,1385台であると推認される(なお,同月9日以前の販売台数は,567台と推認され,補償金請求の基礎となる。)。
      (c) 被告製品1の平成11年12月10日から同月31日までの販売台数
        上記型番FHC−306,FHC−316の販売台数を合計すると,平成11年12月10日から同月31日までの被告製品1の販売台数は,1684台となる(なお,同月1日から9日までの販売台数は,合計689台となる。)。

      (d) 被告製品1の平成12年1月から3月までの販売台数
        乙74別紙によれば,平成12年1月から3月までの被告製品1の販売台数は,合計4766台となる。
      (e) 被告製品1の平成12年4月から平成14年3月までの販売台数
              乙74によれば,平成12年4月以降平成14年3月31日までの販売台数は,7521台である。
           (f) 被告製品1の平成11年12月10日から平成14年3月31日までの販売台数
             以上を合計すると1万3971台となる。
     b 被告製品2ないし4の平成11年12月10日から平成14年3月31日までの販売台数
       乙74によれば,被告製品2ないし4の販売台数は,以下のとおりと認められる。
        被告製品2   36751台

        被告製品3    3384台
        被告製品4   41948台
      c 被告各製品の平成11年12月10日から平成14年3月31日までの販売台数
           上記によれば,被告各製品の平成11年12月10日から平成14年3月31日までの販売台数は,合計9万6054台であることが認められる。
           これに対して,原告は,被告各製品の販売台数について,17万7514台であると主張し,甲35,47ないし51には,これに沿った記載がある。しかし,上記各証拠は,被告製品の市場占有率等からの推測に基づくものであって,上記の認定を左右するものとはいえない。
     イ 原告の実施能力
       証拠(甲36)によれば,原告は,原告製品である椅子式エアマッサージ機を,平成8年度には7万5991台,同9年度には10万5129台,同10年度には8万9776台,同11年度には7万1224台を販売していたことが認められ,平成12,13年度に被告製品の販売数量に相当する需要があれば,これに応ずる能力を十分に備えていたことが認められる。

        以上のとおり,原告の販売実績に照らすならば,原告は,法102条1項本文所定の実施能力を備えていたと解することができる。
     ウ 原告製品についての単位数量当たりの利益の額
      (ア) 原告製品の販売単価
        証拠(甲38,41)によれば,原告は,原告製品(本件発明の実施品であると推認される。)のすべてを株式会社東芝に販売し,東芝はフジ医療器に販売し,フジ医療器が販売活動を行っていること,原告製品の平均販売単価(東芝に対する出荷価格)は4万7570円であることが認められる(なお,その最終価格は30万円ないし40万円である。)。
      (イ) 原告製品について控除すべき経費
          証拠(甲38,39,42)によれば,以下の事実が認められる。
          すなわち,原告製品の1台当たりの直接材料費は,平成11年10月から同14年3月までの平均で2万7424円であること,この直接材料費は,素材,副資材,購入部品,材料込外注費,外注加工費,社製部品(工場内の他の部門から購入した部品),仕損費(生産工程において生じる不良品費)から構成されること,同直接材料費は,いずれも,製造数量によって変動する性質を有する費用であることが認められる。

          ところで,本件全証拠によるも,原告が原告製品を増産した場合に,人件費,販売経費その他の経費のうち,どれだけの額が追加的に必要となるかは,必ずしも明らかであるとはいえない。しかし,@原告は,原告製品をすべて東芝に販売し,東芝がフジ医療器に販売し,販売活動は,専らフジ医療器が行っており,原告は「広告宣伝費」等の費用をほとんど負担していないこと,A原告製品は,原告工場内で,フジ医療器に引き渡され,原告は,「荷造発送費」等の販売経費を負担していないこと,B原告製品の最終価格がおおむね30万円ないし40万円であって,原告の東芝に対する販売価格(出荷価格)との差が大きいことに照らすならば,原告の負担する経費はそれほど大きくないと考えるのが合理的であること,C原告の事業規模や原告の過去における製造規模及び製造実績は小さくなく,仮に,増産したとしても,変動費以外の追加費用を格別に要する状況ではないこと,D前記の直接材料費が販売金額(出荷価格)の約57.6%であり,不合理な額及び割合であるとはいえないこと等の諸事情を総合すると,原告製品の販売利益を算定するに当たり,販売価額(出荷価格)から控除すべき経費は,販売価額(出荷価格)の65%に当たる額とするのが相当である。
      (ウ) 小括
        上記によれば,原告製品の単位数量当たりの利益の額は,販売金額(原告の東芝に対する出荷価格)を基準として,その額の35%に相当する1万6650円であると認められる(なお,同金額は,原告製品の最終価格を基準とすると,その額のおおむね4%ないし5.5%に相当する。)。
     エ 法102条1項ただし書き及び寄与度等の減額に係る主張について
       (ア) 法102条1項ただし書きの主張
          被告は,椅子式マッサージ製品に関しては,他社の製品が存在すること,被告製品が販売できたのは,被告製品に独自の特徴を持たせたことや独自の営業活動を行ったことの結果であるから,被告が販売した数量と同数を,原告において販売することはできなかった事情が存在すると解すべきである旨主張する。しかし,原告の事業規模,原告の過去における販売実績等を総合考慮すると,本件において,法102条1項ただし書に該当する事情が存在すると認めることできない。

      (イ) 寄与度
          被告は,本件発明1,3ないし5は,いずれも,作用を及ぼす部位が限定されていること,また,マッサージ作用と方法に関して限定された技術であるとし,その点を考慮すれば,被告各製品の利益に占める本件発明1,3ないし5の寄与度は低いと主張する。
           この点について,確かに,本件発明1,3ないし5は,脚部を対象とするものではあるが,他方,同発明は,エアマッサージ式の椅子の全体的な機能に関連し,製品の販売促進に寄与しているとものと考えられ,ごく一部分だけに関連すると評価するのは必ずしも適切ではないこと,被告各製品は,いずれも原告の有する複数の特許権を侵害していること等の諸事情を総合考慮すると,本件においては,損害額のうち,5パーセントに相当する額を減額するのが妥当であると判断した。

           そうすると,1台当たりの損害額は,1万5818円となる。
               16650円×0.95=15818円
     オ 損害額
        以上のとおり,被告の本件各特許権を侵害したことにより,原告の被った損害額は,15億1938万2172円となる。
         15818円×96054台=15億1938万2172円
      なお,原告は,予備的主張として,法102条2項に基づく損害賠償を請求する。しかし,本件全証拠によるも,被告各製品の販売によって得られた被告の利益の額が前記認定額を超えると認めることはできない。
     カ 遅延損害金の起算日
        原告は,平成13年3月5日に被告に送達された訴状において,被告製品1及び2のみを対象として,同製品を販売したことによる損害賠償金,及びこれに対する訴状送達の日の翌日である同年3月6日を起算日とした遅延損害金の請求をした(なお,その後,被告製品3及び4を販売したことによる損害賠償金の請求を追加している。)。

        そこで,同年3月6日を起算日とする遅延損害金の請求が認められる損害金額の範囲について,算定する。
       (ア) 被告製品1及び2の平成11年12月10日から同月31日までの販売台数(被告製品2はゼロ)                                                                        1684台
       (イ)  被告製品1及び2の平成12年1月から3月までの販売台数(被告製品2はゼロ)
                                                          4766台
       (ウ) 被告製品1及び2の平成12年4月から平成13年2月までの販売台数(乙74の別紙)
                                                         37670台
       (エ) 被告製品1及び2の平成13年3月における総販売台数(乙74の別紙)
                                 3426台

       (オ) 被告製品1及び2の平成13年3月1日から5日の販売台数
          月間販売台数を基礎として,1日から5日までの販売数を按分すると,以下のとおりとなる。
            3426÷31×5≒552.5(553台)
       (カ) 被告製品1及び2の平成11年12月10日から平成13年3月5日までの販売台数
               1684+4766+37670+553=44673
       (キ) 小括
          以上のとおり,原告の被告に対する損害賠償金のうち,金7億0663万7514円については,平成13年3月6日から年5分の割合による遅延損害金の請求が認められ,その余の8億1274万4658円については,訴えの追加的変更申立書の送達の日の翌日である平成14年5月9日から年5分の割合による遅延損害金の請求が認められる。

              15818円×44673台=7億0663万7514円
              15億1938万2172円−7億0663万7514円
             =8億1274万4658円
  (2) 補償金請求について
   ア 警告文の送付
        原告は,本件発明1ないし4についての公開公報を同封した平成11年9月30日付けの文書で警告を行った(甲14)。
     イ 被告製品1の平成11年10月1日から同11年12月9日までの販売台数
        平成11年10,11月分    4413台(561+3852)
                                         乙74のとおり
        平成11年12月1日から9日分 689台
                        上記(1)ア(ア)a(c)のとおり
        合計              5102台
       なお,原告は,原告提出の証拠によれば,上記期間の被告製品1の販売台数は,1万1861台であると主張するが,上記(1)ア(ア)cのとおり,推測に基づくものであり採用できない。

     ウ 被告製品1の販売単価
       上記期間中の被告製品1の販売単価は,これを認定するに足る直接の資料がないところ,甲35及び弁論の全趣旨によれば,11万円を下回らないものと推認される。
     エ 実施料率
       実施料率は,一切の事情を考慮して,販売金額(出荷価格)の5%が相当であると認められる。
     オ 小括
         以上のとおり,原告が被告に対して請求することができる補償金の額は,上記を計算すると,2806万1000円となる。なお,上記金員の遅延損害金の起算日は,訴状送達の翌日である平成13年3月6日となる。
         110000×5102×0.05=2806万1000円
   (3)  結論
       そうすると,原告は被告に対して,以下のとおりの金員の支払を求めることができる。
     ア 7億3469万8514円及び平成13年3月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金

         7億0663万7514円+2806万1000円
        =7億3469万8514円
     イ 8億1274万4658円及び平成14年5月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金
 8 差止請求について
    弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品1及び2については,本訴提起後,それぞれ被告製品3及び4へと設計変更を行って現時点では生産していないと推認され,また,被告製品3及び4については,遅くとも平成14年7月以降生産を停止した旨述べている。
    しかし,被告による上記各設計変更ないし生産停止は,いずれも被告が本件各特許権を侵害していることを認めたからではなく,被告が,本訴が提起されたことにより取引先に混乱が生じることを防ぐために行ったものである点を考慮すると,少なくとも,被告製品3及び4については,被告が再び販売するおそれが失われたとまではいえない。

    したがって,本件においては,被告製品3及び4についての製造,販売の差止めの必要性があると認められる。
 9 最後に
    付言する。前述のとおり,原告は,被告に対して,平成11年9月30日,本件発明1ないし4を含む合計11個の公開公報を同封した書面で警告を発した。次いで,原告は,同年12月10日に本件発明1,3及び4について,設定登録を受けた。
    しかるに,被告は,被告製品1の製造,販売を継続し,被告製品2の製造,販売を開始した。ところで,被告各製品の構成を仔細に検討すると,被告各製品は,本件各発明への依拠,模倣の程度が極めて高く,被告において,本件各特許権の侵害を回避するための技術的な工夫をした形跡が全く窺えない。
    平成13年2月に本件訴訟が提起され,その後,被告は,被告製品1及び2の製造,販売を中止し,設計変更を行って,被告製品3及び4の製造,販売をしたが,変更後の各製品を検討しても,本件各特許権の侵害を回避するための十分な工夫がされた様子がみられない。また,本件訴訟における被告の主張についても,事前に法的及び技術的事項の検討が尽くされた上での的確な主張とは言い難い。およそ,1つの対象製品が同時に4個の特許権を侵害していることは,あまり例がなく,また,4種の対象製品が延べ合計11個の特許権を侵害していることも,やはり異例といえる。

    確かに,一般論として,特許権紛争において,当該製品が特許権の技術的範囲に属するか否かが微妙であったり,特許の有効性について疑念を抱くような場合も少なくないといえるであろう。しかし,そのような疑問については,製品を製造,販売する者が,製造,販売に先立って,法的ないし技術的な観点から問題点を解消させるための適宜の措置を採るべきであるが,被告は,そのようなことを行うこともなく,漫然と被告製品の製造,販売を継続していたのであって,このような態度は,他者の権利を尊重し,法を遵守し,法的な手続に沿って紛争を解決する立場から大きく離れているといえる。被告は,本件口頭弁論を終結した後においても,本件特許5が発明として成り立たないことを示す証拠を新たに発見したとして,口頭弁論の再開を申し立てているが,このような訴訟活動も,迅速な紛争解決を阻害する行為であるといえよう。
第4  結論
   以上のとおり,原告の本件請求は,主文掲記の限度で理由がある。


             東京地方裁判所民事第29部

                     裁判長裁判官    飯  村  敏  明
                   
                   
                           裁判官        大  寄  麻  代



       裁判官今井弘晃は海外出張のため署名押印ができない。


                     裁判長裁判官        飯  村  敏  明
                         



(別  紙)
                                   
                             物 件 目 録


(1) 商品名「ハイブリッドファミリーチェア」(型番FHC−306,FHC−316)の椅子式マッサージ機

(2) 商品名「ファミリーメディカルチェア i.1(アイワン)」 (型番FMC−100及びFMC−200)の椅子式マッサージ機

(3) 商品名「ハイブリッドファミリーチェア」(型番FHC−317(C)/(H))の椅子式マッサージ機

(4) 商品名「ファミリーメディカルチェア i.1(アイワン)」(型番FMC−100及びFMC−200で製造番号がN−50001以上,並びに型番FMC−300)の椅子式マッサージ機



(別  紙)
                                   
                         被告製品1説明書


 商品名「ハイブリッドファミリーチェア」(型番 FHC−306,FHC−316)の椅子式マッサージ機(被告製品1)は以下の構成を有している。

第1. 図面の説明

 図1――被告製品1の全体図
 図2――フットレストの正面図(フットレストを垂直位置に回動したときに,椅子の正面からフットレストを見た図)
 図3――フットレストの平面図(フットレストを垂直位置に回動したときに,椅子の下方からフットレストを見た図)
 図4――図2のA−Aにおける断面図
 図5――被告製品1の座部の平面図(表面を覆う布製カバーを取り除いた状態)
 


第2. 構造の説明

@ 被告製品1は図1に示されているように,背もたれ部1,座部2及びフットレスト3を有し,背もたれ部の部分ではもみ玉によるマッサージを行うが,座部及びフットレストの部分ではエアーセル(空気袋)によるマッサージを行う。
A 空気袋に対し空気を給排気する空気給排気装置が座部2の下に装備されており,給排気管を介して各空気袋に圧搾空気を分配して供給する分配手段が設けられ,空気給排気装置を作動することによって,各空気袋a―hを膨張収縮させることができる。空気袋は軟質樹脂でできている。
B フットレスト3は座部2の前部に,座部にとりつけられた軸によって上下方向に回動自在に設けられている。
C フットレスト3は図2の示すように2つの
溝状の脚載置部4,4を有し,各脚載置部4,4は下肢を載置する脚載置壁5,5と,フットレスト3の両側に形成した両側壁6,6と,中央に形成した中間壁7から成っている。
D フットレスト3はスイッチの操作により電動で所望の位置に回動,停止し(FHC−316の場合のみ),又はフットレストレバーを手動で操作して垂直位置から水平位置に回動,停止することができる。
E 図2−4に示されているように,フットレスト3の両側壁6
,6の各内側面及び中間壁7の両側面7,7に空気袋a,b,c,dが配置され,又溝状の脚載置部4,4の脚載置壁5,5にも空気袋e,fが配置されている。
8はウレタンシートである。
F 空気袋a,bは脚載置部4
に載せられた下肢に対し両側から挟み付ける揉みマッサージ作用を行い,空気袋eは同じ下肢に対し脚載置部4の脚載置壁5から押し出す押圧マッサージ作用を行う。又空気袋c,dは脚載置部4に載せられた下肢に対し両側から挟み付ける揉みマッサージ作用を行い,空気袋fは同じ下肢に対し脚載置部4の脚載置壁5から押し出す押圧マッサージ作用を行う。
G 又,図5に示すように,座部にも空気袋g,hが配置されていて,膨張したときに各々使用者の大腿部及び尻部を押し上げるように動作する。
H 下半身用操作盤・リモコンによって使用者は「下半身コース」,「脚モード」,「座モード」を選択して動作モードを入力することができる。入力された動作モードに応じて前記各空気袋への給排気を行うように,空気給排気装置や分配手段が制御される。
I 使用者が「下半身コース」の「コースK」を選択したときの各空気袋に圧搾空気が供給されるタイミングは次のタイミングチャートに示すとおりである。


(タイミングチャート省略)



(別  紙)
                                   
                         被告製品2説明書


 商品名「ファミリーメディカルチェア i.1(アイワン)」(型番 FMC−100,FMC−200)の椅子式マッサージ機(被告製品2)は以下の構成を有している。

第1. 図面の説明

 図1――被告製品2の全体図
 図2――フットレストの正面図(フットレストを垂直位置に回動したときに,椅子の正面からフットレストを見た図)
 図3――フットレストの平面図(フットレストを垂直位置に回動したときに,椅子の下方からフットレストを見た図)
 図4――図2のA−Aにおける断面図
 図5――図2のB−Bにおける断面図
 
図6――被告製品2の座部の平面図(表面を覆う布製カバーを取り除いた状態)
 
図7――図6のC−Cにおける断面図

第2. 構造の説明

@ 被告製品2は図1に示されているように,背もたれ部1,座部2及びフットレスト3を有し,背もたれ部の部分ではもみ玉によるマッサージを行うが,座部及びフットレストの部分ではエアーセル(空気袋)によるマッサージを行う。
A 空気袋に対し空気を給排気する空気給排気装置が座部2の下に装備されており,給排気管を介して各空気袋に圧搾空気を分配して供給する分配手段が設けられ,空気給排気装置を作動することによって,各空気袋a―pを膨張収縮させることができる。空気袋は軟質樹脂でできている。
B フットレスト3は座部2の前部に,座部にとりつけられた軸によって上下方向に回動自在に設けられている。
C フットレスト3は図2の示すように2つの
溝状の脚載置部4,4を有し,脚載置部4は下肢を載置する脚載置壁5と,脚載置壁5の両側に形成した側壁6,6とからなり,又脚載置部4は下肢を載置する脚載置壁5と,脚載置壁5の両側に形成した側壁7,7から成っている。
D フットレスト3はリモコンの操作により電動で回動し,所望の位置に停止する。
E 図2−5に示されているように、フットレスト3の側壁6
,6,7,7の各側面にそれぞれ空気袋a・b,c・d,e・f,g・hが配置され,又溝状の脚載置部4,4の脚載置壁5,5にもそれぞれ空気袋i・j,k・lが配置されている。
8はウレタンと板状軟質材をはり合わせた可撓性シートで,空気袋a・b等が下肢と同シートを介して接するように配置されている。9はウレタン製クッション材である。
F 空気袋a・bとc・dは脚載置部4
に載せられた下肢に対し両側から挟み付ける揉みマッサージ作用を行い,空気袋i・jは同じ下肢に対し脚載置部4の脚載置壁5から押し出す押圧マッサージ作用を行う。又空気袋e・fとg・hは脚載置部4に載せられた下肢に対し両側から挟み付ける揉みマッサージ作用を行い,空気袋k・lは同じ下肢に対し脚載置部4の脚載置壁5から押し出す押圧マッサージ作用を行う。
G 又,図6,7に示されているように,座部にも4つの空気袋m,n,o,pが配置されている。空気袋m,n,oは座部を構成するウレタンボード10の上に配置されているが,空気袋pはウレタンボードの中に埋設されているバイブレータの下にある。使用者が座部に座ると,図7のようにウレタンボードが湾曲するので,空気袋mとnは圧搾空気により膨張したときに使用者の尻部を左右から挟みつける揉みマッサージ作用をする。又,空気袋pは同じ尻部に対し下方から上方へ押し出す押圧マッサージ作用を行う。又,空気袋oは大腿部に対し下方から上方へ押し上げるように膨張する。
H リモコンによって使用者は自動コース(メディカルコース,快適コース)や自由選択コースが選択でき,自由選択コースでは,「脚」,「座」,「脚&座」の動作モードを選択して,入力することができる。入力された動作モードに応じて前記各空気袋への給排気を行うように,空気給排気装置や分配手段が制御される。

I 使用者が自由選択コースの「脚&座」の動作モードを選択した時の,各空気袋に圧搾空気が供給されるタイミングは次のタイミングチャートに示すとおりである。(なお,「脚&座」モードでは空気袋pは膨張しない。)

(タイミングチャート省略)
 
   


(別  紙)
                                   
                         被告製品3説明書


 商品名「ハイブリッドファミリーチェア」(型番FHC−317)の椅子式マッサージ機(被告製品3)は以下の構成を有している。

第1. 図面の説明

 図1――被告製品3の全体図
 図2――フットレストの正面図(フットレストを垂直位置に回動したときに,椅子の正面からフットレストを見た図)
 図3――フットレストの平面図(フットレストを垂直位置に回動したときに,椅子の下方からフットレストを見た図)
 図4――図2のA−Aにおける断面図
 図5――被告製品3の座部の平面図(表面を覆う布製カバーを取り除いた状態)


第2. 構造の説明

@ 被告製品3は図1に示されているように,背もたれ部1,座部2及びフットレスト3を有し,背もたれ部の部分ではもみ玉によるマッサージを行うが,座部及びフットレストの部分ではエアーセル(空気袋)によるマッサージを行う。
A 空気袋に対し空気を給排気する空気給排気装置が座部2の下に装備されており,給排気管を介して各空気袋に圧搾空気を分配して供給する分配手段が設けられ,空気給排気装置を作動することによって,各空気袋a―jを膨張収縮させることができる。空気袋は軟質樹脂でできている。
B フットレスト3は座部2の前部に,座部にとりつけられた軸によって上下方向に回動自在に設けられている。
C フットレスト3は図2の示すように2つの
溝状の脚載置部4,4を有し,各脚載置部4,4は下肢を載置する脚載置壁5,5と,側壁6,6;6,6 から成っている。
D フットレスト3はスイッチの操作により電動で所望の位置に回動,停止することができる。
E 図2−4に示されているように,
脚載置部4の外側の側壁6の内側面に空気袋a,b,cが,又内側の側壁6の内側面にチップウレタン7〜7及びウレタンフォーム8が配設され,又,脚載置壁5にはウレタンフォーム8を介して空気袋gが配置されている。又,脚載置部4の外側の側壁6の内側には空気袋d,e,fが,又内側の側壁6の内側面にチップウレタン7〜7及びウレタンフォーム8が配設され,又脚載置部5にはウレタンフォーム8を介して空気袋hが配置されている。
F 空気袋a,b,cは膨張により
脚載置部4に載せられた下肢に対し押圧し,これにより下肢は反対側の側壁6からチップウレタン7〜7,ウレタンフォーム8介して反作用による押圧を受けるので,下肢に対し両側から挟み付ける揉みマッサージ作用を行い,空気袋gは同じ下肢に対し脚載置部4脚載置壁5から押し出す押圧マッサージ作用を行う。又空気袋d,e,fは膨張により脚載置部4に載せられた下肢に対し押圧し,これにより下肢は反対側の側壁6からチップウレタン7〜7,ウレタンフォーム8介して反作用による押圧を受けるので,下肢に対し両側から挟み付ける揉みマッサージ作用を行い,空気袋hは同じ下肢に対し脚載置部4の脚載置壁5から押し出す押圧マッサージ作用を行う。
G 又,図5にも示すように,座部にも空気袋i,jが配置されていて,膨張したときは各々使用者の大腿部及び尻部を押し上げるように動作する。
H リモコンによって使用者は「脚&座モード」と「脚モード」を選択して動作モードを入力することができる。入力された動作モードに応じて前記各空気袋への給排気を行うように,空気給排気装置や分配手段が制御される。
I 使用者が「脚&座モードK」を選択したときの各空気袋に圧搾空気が供給されるタイミングは次のタイミングチャートに示すとおりである。


(タイミングチャート省略)
 
   
 
 (別  紙)
                                   
                         被告製品4説明書


 仕様変更後の,商品名「ファミリーメディカルチェア i.1(アイワン)」(型番FMC−100及びFMC−200で製造番号がN―50001以上,並びに型番FMC−300)の椅子式マッサージ機(被告製品4)は以下の構成を有している。

第1. 図面の説明

 図1――被告製品4の全体図
 図2――フットレストの正面図(フットレストを垂直位置に回動したときに,椅子の正面からフットレストを見た図)
 図3――フットレストの平面図(フットレストを垂直位置に回動したときに,椅子の下方からフットレストを見た図)
 図4――図2のA−Aにおける断面図
 
図5――被告製品4の座部の平面図(表面を覆う布製カバーを取り除いた状態)
 
図6――図5のB−Bにおける断面図

第2. 構造の説明

@ 被告製品4は図1に示されているように,背もたれ部1,座部2及びフットレスト3を有し,背もたれ部の部分ではもみ玉によるマッサージを行うが,座部及びフットレストの部分ではエアーセル(空気袋)によるマッサージを行う。
A 空気袋に対し空気を給排気する空気給排気装置が座部2の下に装備されており,給排気管を介して各空気袋に圧搾空気を分配して供給する分配手段が設けられ,空気給排気装置を作動することによって,各空気袋a―j,m―pを膨張収縮させることができる。空気袋は軟質樹脂でできている。
B フットレスト3は座部2の前部に,座部にとりつけられた軸によって上下方向に回動自在に設けられている。
C フットレスト3は図2の示すように2つの
溝状の脚載置部4,4を有し,脚載置部4,4は下肢を載置する脚載置壁5,5と,側壁6,6;6,6とから成っている。
D フットレスト3はリモコンの操作により電動で回動し,所望の位置に停止する。
E 図2−4に示されているように,
脚載置部4の外側の側壁6の内側面にチップウレタン7を介して空気袋a,b,cが,又内側の側壁6の内側面にチップウレタン7,7及び低反発ウレタン8が配設され,又,脚載置壁5にはウレタンフォーム9を介して空気袋g,hが配置されている。又,脚載置部4の外側の側壁6の内側にはチップウレタン7を介して空気袋d,e,fが,又内側の側壁6の内側面にチップウレタン7,7及び低反発ウレタン8が配設され,又脚載置部5にはウレタンフォーム9を介して空気袋i,jが配置されている。
F 空気袋a,b,cは膨張により
脚載置部4に載せられた下肢に対し押圧し,これにより下肢は反対側の側壁6からチップウレタン7,7,低反発ウレタン8を介して反作用による押圧を受けるので,下肢に対し両側から挟み付ける揉みマッサージ作用を行い,空気袋g,hは同じ下肢に対し脚載置部4の脚載置壁5から押し出す押圧マッサージ作用を行う。又空気袋d,e,fは膨張により脚載置部4に載せられた下肢に対し押圧し,これにより下肢は反対側の側壁6からチップウレタン7,7,低反発ウレタン8を介して反作用による押圧を受けるので,下肢に対し両側から挟み付ける揉みマッサージ作用を行い,空気袋i,jは同じ下肢に対し脚載置部4の脚載置壁5から押し出す押圧マッサージ作用を行う。
G 又,図5,6に示されているように,座部にも4つの空気袋m,n,o,pが配置されている。空気袋m,n,oは座部を構成するウレタンボード10の上に配置されているが,空気袋pはウレタンボードの中に埋設されているバイブレータの下にある。使用者が座部に座ると,図6のようにウレタンボードが湾曲するので,空気袋mとnは圧搾空気により膨張したときに使用者の尻部を左右から挟みつける揉みマッサージ作用をする。又,空気袋pは同じ尻部に対し下方から上方へ押し出す押圧マッサージ作用を行う。又,空気袋oは大腿部に対し下方から上方へ押し上げるように膨張する。
H リモコンによって使用者は自動コース(メディカルコース,快適コース)や自由選択コースが選択でき,自由選択コースでは,「脚」,「座」,「脚&座」の動作モードを選択して,入力することができる。入力された動作モードに応じて前記各空気袋への給排気を行うように,空気給排気装置や分配手段が制御される。

I 使用者が自由選択コースの「脚&座」の動作モードを選択した時の,各空気袋に圧搾空気が供給されるタイミングは次のタイミングチャートに示すとおりである。(なお,「脚&座」の動作モードでは空気袋pは膨張しない。)

(タイミングチャート省略)