H17.11.10 知財高裁 平成17(行ケ)10125 特許権 行政訴訟事件

平成17年(行ケ)第10125号 審決取消請求事件
(旧事件番号 東京高裁平成16年(行ケ)第552号)
口頭弁論終結日 平成17年10月20日
                   判決
     
             原告   コーニンクレッカ フィリップス
                                           エレクトロニクス エヌ ヴィ
             代表者   
             訴訟代理人弁理士   沢  田  雅  男
     
             被告   特許庁長官  中  嶋     誠
             指定代理人         山  田  洋  一
             同                片  岡  栄  一
             同                小  池  正  彦
             同                伊  藤  三  男
                   主文
         1 特許庁が不服2002−6873号事件について平成16年8月9日にした審決を取り消す。

         2 訴訟費用は被告の負担とする。
                   事実及び理由
第1 請求
    主文同旨
第2 事案の概要
    本件は,後記特許の出願人である原告が,特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁が同請求は成り立たないとの審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
 1 請求の原因
   (1) 特許庁における手続の経緯
      原告は,平成2年5月8日,名称を「情報記録システム並びにその情報記録システムに使用される記録装置及び記録担体」とする発明につき特許出願(パリ条約による優先権主張1989年5月8日,オランダ国。以下「本願」という。)をした。
      特許庁は,平成13年12月14日,本願につき拒絶査定をしたので,原告は,これを不服として審判請求をした。特許庁は,これを不服2002−6873号事件として審理し,その係属中の平成15年9月12日に原告は,請求項の数を35とする等を内容とする補正(以下「本件補正」という。)をした(甲3)。

      特許庁は,平成16年8月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は平成16年8月24日原告に送達された。
   (2) 発明の内容
      本件補正後の請求項は,1ないし35から成るが,そのうち請求項1の内容(以下「本願発明」という。)は,下記のとおりである。
                             記
     【請求項1】 記録坦体と記録装置を有する情報記録システムであって,コードのシークエンスを有する補助信号に従って横断方向に変調されている予め形成された連続するトラックを有する記録坦体であって,前記コードが,アドレスコードが位置する逐次トラック部分のアドレスを規定するアドレスコードを有し,コードの前記シークエンスが,前記記録システムによる使用のための制御データを規定する補助コードも含み,前記補助コードが,当該シークエンス内で前記アドレスコードと交互に配置されていて,前記アドレスコードと前記補助コードが同一のデータフォーマットを有し,かつ前記補助コードが,当該アドレスコードとそれらを識別する識別要素を有する,記録坦体,および当該トラックから当該補助信号を読出す読出し手段と,当該トラックに情報を記録する記録手段と,当該トラックから読出された当該補助信号から同一のデータフォーマットを有する当該コードを検索する手段および当該アドレスコードと当該補助コードを選択的に抽出する抽出手段と,当該補助コードによって規定される当該制御データに従って当該記録手段を制御する制御手段とを有する,記録装置を,有する情報記録システム。

   (3) 審決の内容
     ア 審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。
        その理由の要旨は,本願発明は,下記の引用例に記載された発明及び周知例に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない等,としたものである。
                                   記
       ・引用例 特開昭64−39632号公報(甲4,以下これに記載された発明を「引用発明」という。)
       ・周知例 特開昭64−33726号公報(甲5)
     イ なお,審決は,引用発明を次のとおり認定し,本願発明と引用発明には,次のような一致点と相違点があるとした。
       (引用発明)
        記録担体と情報信号記録手段とを具えた情報信号記録装置であって,位置情報コード(PIC)を具えた位置情報信号Vpが予め形成されたトラック変調により記録される,情報区域を有するトラックを備えた記録担体であって,位置情報コード(PIC)は,情報信号を記録する所望のトラックを位置決めするためのものであって,位置情報信号Vpからはクロック信号clが再生され,クロック信号clは走査速度を制御する目的で使用され,かつ,放射ビームで情報区域を走査する光学装置(書込み/読取りヘッド53)と,情報区域により反射される放射ビームを検出しトラック変調に起因する放射ビームの変調を現わす検出信号を発生する光学検出器と,その検出信号から位置情報信号を抽出する検出回路とを具えた,情報信号記録手段と,を具えた情報信号記録装置。

       (一致点)
        記録坦体と記録装置を有する情報記録システムであって,コードのシークエンスを有する補助信号に従って横断方向に変調されている予め形成された連続するトラックを有する記録坦体であって,前記コードが,アドレスコードが位置する逐次トラック部分のアドレスを規定するアドレスコードを有する,記録坦体,および当該トラックから当該補助信号を読出す読出し手段と,当該トラックに情報を記録する記録手段と,当該トラックから読出された当該補助信号から当該コードを検索する手段および当該アドレスコードを選択的に抽出する抽出手段とを有する,記録装置を,有する情報記録システム。
       (相違点1)
        本願発明の「補助信号」が,「記録システムによる使用のための制御データを規定する補助コード」も含み,「補助コード」が,「シークエンス内でアドレスコードと交互に配置」されていて,「アドレスコード」と「補助コード」が「同一のデータフォーマット」を有し,かつ「補助コード」が,「アドレスコードとそれらを識別する識別要素」を有しているのに対し,引用発明には,これら「補助コード」に関する構成が示されていない点。

       (相違点2)
        本願発明の「検索する手段」及び「抽出手段」が,同一のデータフォーマットを有する「アドレスコード」と「補助コード」とを,「検索」及び「選択的に抽出」しているのに対し,引用発明においては「検出回路」は,「アドレスコード」を検索して抽出するものであるが,「補助コード」を検索し抽出することが示されていない点。
       (相違点3)
        本願発明が,「補助コード」によって規定される制御データに従って「記録手段」を制御する「制御手段」を有しているのに対し,引用発明が,この様な構成を有していない点。
   (4) 審決の取消事由
      審決のなした引用発明の認定,一致点及び相違点の認定はいずれも認める。
      しかしながら,本件審決には,「適合化情報」が「補助コード」に相当するとしたこと,及び引用発明に周知例の技術を適用することができるとしたことにつき,以下のとおり認定判断の誤りがあるから,違法として取消しを免れない。

     ア 取消事由1(周知技術の認定の誤り)
        審決が,特開昭64−33726号公報(甲5。以下「甲5文献」という。)を周知例として引用し,甲5文献の「適合化情報」が「記録システムを制御するためのデータであり,アドレス情報であるトラック番号と同一のフォーマットで交互に配置され,特異なビットコンビネーションによって識別されるものであるから,本願発明の「補助コード」に相当するものである」(審決7頁12〜15行)とし,本願当時,本願発明の「補助コード」が周知技術であった旨認定したのは,次に述べるとおり,誤りである。
       (ア) 甲5文献は,第11図(CD基準に基づいたEMF信号のサブコードQチャンネル信号のフォーマット)に関し「グループ104の8ビットによって,グループ105に記録されている情報のタイプの特性が表示される。これは一般的には特定のトラック部分を示すトラック番号であり,その部分のアドレスは,グループ105内で規定されている。」(10頁左上欄8〜12行)と記載されているように,アドレスは,グループ105内に記録される一方で,グループ104によって表示されるトラック番号は,グループ105内のデータの特性を規定するのみでアドレスを含むことはないから,審決が「アドレス情報であるトラック番号」と認定し,トラック番号がアドレス情報であると判断したことは誤りである。

          また,本願発明のアドレスコードは,レーザビームが照射されてデータが書き込まれるトラック部分の実際の位置のアドレス(いわば実際位置アドレス)を示すのに対し,甲5文献記載のアドレスは,CDの最内周のリードイン領域の「TOC」(テーブル・オブ・コンテンツ)内に記録されているアドレスで,CDのプログラム領域における音楽(プログラム)の位置を示すもの(いわば参照アドレス)であり,レーザビームが照射される位置(TOCデータが読まれる位置)とTOCから読み出される位置(参照アドレス)とは対応していないのであるから,本願発明のアドレスコードと甲5文献記載のアドレスとは,全く別異のものである。
          したがって,この点からも,審決が,トラック番号がアドレス情報であると判断したことは誤りである。

       (イ)@ 本願発明の「補助コード」は,請求項1に記載のとおり,@当該シークエンス内で前記アドレスコードと交互に配置されていて,A前記アドレスコードと前記補助コードが同一のデータフォーマットを有し,かつB前記補助コードが,当該アドレスコードとそれらを識別する識別要素を有するとの3要件を満たすものである。
            ところで,ヘッド(読み出し/書き込みヘッド)が,トラック・パターンのある位置にアクセスしようとする場合,ディスクが回転し,かつ,トラック・パターンが螺旋状であることから,ヘッドは,まず目的の実際位置より数ブロック前の位置に到達しなければならず,その上で,ヘッドは同期を取る目的のため数個以上のブロックを通過する。このことから,実際位置アドレスには冗長性があり,いくつかの実際位置アドレスを補助情報(補助コード)によって置換しても,その実際位置アドレスは特定され,アドレシングシテムは稼動することを認識し,本願発明に至った。

            そして,補助コードの要件@は,レーザビームが照射される位置の実際位置アドレスを補助コードにより置換する場合に意味があるところ,甲5文献記載のアドレスは,前記(ア)のとおり本願発明の実際位置アドレスとは異なるTOC内の参照アドレスであって,上記のような置換がありえないから,甲5文献記載の「適合化情報」において,要件@は何の意味も持つものではない。
            なお,被告提出の特開昭63−87682号公報(乙1。以下「乙1文献」という。)には,他の情報をトラックに加えることは開示されているが,実際位置アドレスを他の情報で置換することは開示されていない。
            さらに,TOC内で繰り返される内容は,経過時間,絶対時間等の内容の情報のひとかたまりであり,これをもって「適合化情報」と「アドレス情報」の異なる情報が交互に記録されることが,この分野の技術常識であるということもできない。

         A 次に,審決は,甲5文献記載の「適合化情報」が特異なビットコンビネーションによって識別されることが周知であることを述べるにとどまり,補助コードとアドレスコードを識別する識別要素の存在について判断しておらず,「適合化情報」は,補助コードの要件Bの構成を有していない。
         B 以上のとおり,甲5文献記載の「アドレス」(アドレス情報)は,本願発明の「アドレスコード」に対応しないので,甲5文献記載の「適合化情報」は,補助コードの3要件(要件@ないしB)をいずれも充足しないから,審決が「適合化情報」が補助コードに相当するとした判断は誤りである。
     イ 取消事由2(引用発明に周知例の技術を適用できるとした判断の誤り)
       (ア) 引用発明(甲4)は,従来の書き込み装置において,情報区域(データ領域)が常に同期区域(アドレス領域)により中断されるという欠点(3頁右上欄6〜9行)を,トラック変調により位置情報コード(PIC)を書き込むことにより解決した発明であって,その技術的課題は,未記録担体上に補助データを設けることにある。なお,引用発明は,書き込み等の制御情報を読み出すこと及びその読み出し機構を開示していない。

          一方,甲5文献記載の発明は,従来の書き込みシステムにおいて,その書き込み信号がアブラティブ型の材料からなる記録層に記録する場合にしか適合していなかった欠点(3頁左下欄13〜18行)を,アブラティブ型の記録層のほか,相変化型の記録層にもそれに適した書き込み信号波形を用いることにより書き込むことを可能とするシステムを提供すること(3頁右下欄7〜10行)により解決した発明である。その技術的課題は,適合化データを設けるときにデータ容量が減ることを回避する方法である。
          このように,引用発明と甲5文献記載の発明が,解決しようとする問題点及びその解決手段において,何ら共通するものを有していない状況で,当業者が,制御情報の読み出しについては何ら開示していない引用発明に,適合化情報をリードイン領域という特定の場所から読み出すことしか開示していない甲5文献記載の技術を記録担体に適用したとしても,トラックの揺動(変調)によりアドレスを示す,予め形成されたトラックと,適合化情報が予め記録されているリードイン領域等の別個のデータ部分とを有する記録担体が得られるのみで,書き込み等の制御情報とアドレス情報の両者が同一フォーマットで揺動により記録されているトラックを有する本願発明の構成の記録担体を容易に想到することはできない。

          また,引用発明に甲5文献記載の技術を適用しても,本願発明の補助コードの3要件を満たすシステムを得ることはできないから,単一のハードウエアにより,アドレス情報と書き込み情報を読み出すことができる本願発明の構成の記録装置を容易に想到することはできない。
          したがって,引用発明及び甲5文献記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に本願発明をすることができたとする審決の判断は誤りである。
       (イ) なお,被告提出の特開昭63−146224号公報(乙2。以下「乙2文献」という。)の記録担体は,その第1図に示されるように,データ領域がヘッダー領域により中断されているから,「連続するトラック」と明確に規定されている本願発明が規定する記録担体とは,その前提において全く異なるものであり,また,乙2文献には,基準レベルピットを,中断されている各セクターのヘッダー領域に加えることしか開示されていない。乙2文献において,ヘッダー領域に「アドレス信号」と共に「レベル検出信号」をも記録することが示されているとしても,その前提が異なるので,乙2記載の技術を引用発明に適用して,本願発明に規定される記録担体が得られるものではない。

          また,引用例(甲4),甲5文献,乙1文献,乙2文献のいずれにおいても,実際位置アドレスには冗長性があり,いくつかの実際位置アドレスを補助情報によって置換しても,その実際位置アドレスは特定され,アドレシングシテムは稼動するとの本願発明の認識(前記ア(イ)@)は示唆されていないから,当業者が引用発明に周知技術を適用して本願発明を構成する記録媒体及び記録装置を有する情報記録システムを得ることはできない。
 2 請求原因に対する認否
    請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
 3 被告の反論
   (1) 取消事由1に対し
     ア 審決が周知例として引用した甲5文献には,「適合化情報」に関する記載として,「グループ104の8ビットによって,グループ105に記載されている情報のタイプの特性が示される。これは一般的には特定のトラック部分を示すトラック番号であり,その部分のアドレスはグループ105内で規定されている。 しかしながら,例えばFF(16進数)の様な特異なビットコンビネーションは,グループ105のビットが記録担体のパラメータに関する情報を表していることを示す。例えば,サブグループ105fの最上位の3個の数字の様な,これらのビットのうちのいくつかのビットが,書き込み信号波形を決めるために必要な適合化情報の記録に使用される。」(10頁左上欄8〜20行)との記載がある。

        この記載によれば,甲5文献に「グループ104にトラック番号,グループ105にアドレスが記録されている場合と,グループ104に特異なビットコンビネーション,グループ105に適合化情報を含む記録担体のパラメータに関する情報が記録されている場合とがあり,両方の場合において,グループ104,105のフォーマット自体は同一であること」が示されていることは明らかである。
        また,CDにおいては,TOCは,リードイン領域内に繰り返して記録されるものであるから,グループ104,105の内容も,繰り返して記録することはこの分野の技術常識である。
        そうすると,甲5文献記載の「適合化情報」は,@記録システムを制御するためのデータであること,A「グループ104にトラック番号,グループ105にアドレス」が記録された「アドレス情報」と呼ぶべき情報と同一のフォーマットで,TOC内において当該「アドレス情報」と呼ぶべき情報と交互に記録されるものであること,B識別要素とも呼び得る「グループ104に記録される特異なビットコンビネーション」によって「アドレス情報」と呼ぶべき情報と識別されるものであることが明らかである。

        したがって,甲5文献記載の「適合化情報」と本願発明の「補助コード」とは,機能(果たす役割)や,記録態様(他の情報と同一のフォーマットで記録される点)等の重要な特徴部分において共通しているから,「適合化情報」が「補助コード」に相当するとした審決の判断に誤りはない。
     イ これに対し原告は,甲5文献記載の「アドレス」(アドレス情報)は,参照アドレスであって,本願発明の「アドレスコード」(実際位置アドレス)に対応しないので,甲5文献記載の「適合化情報」は,補助コードの3要件(要件@ないしB)をいずれも充足しないなどと主張する。しかし,甲5文献記載の「アドレス」(アドレス情報)と本願発明の「アドレスコード」が原告の主張する意味において相違するとしても,両者は「記録坦体上の位置を表す情報」という意味においては共通し,前記(ア)のとおり重要な特徴部分において共通しているから,「適合化情報」が「補助コード」に相当するとした審決の判断を左右するものではない。

        なお,甲5文献に示されるように「アドレス情報の代わりに適合化情報を特異なビットコンビネーションによって」記録する場合には,当該適合化情報も含めて,TOCのサブコーディング全体が繰り返し記録されるから,アドレス情報と適合化情報とが「交互に」記録されることとなるのは,ごく自然な結果である。
   (2) 取消事由2に対し
     ア(ア) 引用発明と周知例(甲5文献)とは,光学的に情報を記録する担体及び装置に関するものである点で同一の技術分野に属する。また,引用発明は,記録担体上の記録位置の識別ないし決定についてのもの,周知例記載の発明は記録担体上の書き込み信号波形の適合化のためのパラメータについてのものであり,両者は,記録担体に情報を書き込むに際して,それぞれ記録担体のどこに書き込むのか及び記録担体にどのように書き込むのかを技術課題としたもので,解決手段についても両者は互いに深く関連するとともに,適切な情報の記録という共通の課題に対して互いに補い合う関係にある。

       (イ) 周知例(甲5文献)の請求項1に,制御情報である「適合化情報」の記録場所や記録態様(ピットとして記録するか,トラックの揺動として記録するかといった事項)に関する規定がないことからも明らかなように,周知例には,制御情報である「適合化情報」の記録場所や記録態様が任意である周知技術も開示されているというべきである。
          そして,このような周知技術を引用発明に適用する際には,当業者は,当然に「適合化情報」に相当する情報を任意の場所に任意の態様で記録し得るものである。
       (ウ) トラックに変調を施すことで記録される信号がアドレス情報に限定されるものではなく,種々の情報を記録し得ることは,乙1文献にも示されるように技術上当然のことである。
       (エ) 乙2文献には,引用例(甲4)が従来技術として想定しているものの「同期区域」に相当する箇所(ヘッダー領域)に,「アドレス信号」と共に,「記録再生のシステムに使用される制御情報(乙2文献でいう「レベル検出信号」は,制御情報の一種である。)」をも記録するようにしたものが示されている。上記周知技術を引用発明に適用する際,上記「適合化情報」に相当する情報の任意の記録場所,態様として,当業者が,引用発明における「位置情報信号(乙2文献のアドレス信号に相当)」と同じ場所及び態様,すなわち,場所として「情報区域のトラック」,態様として「トラック変調」をも想起し得ることが明らかである。このことは,当業者が,上記周知技術を引用発明に適用する際,「制御情報とアドレス情報の両者が揺動により記録されているトラック」を有する構成とするような適用の仕方をも当然に想起することを意味している。

       (オ) 上記の諸事情に照らせば,引用発明に周知例(甲5文献)の技術を適用して,「制御情報とアドレス情報の両者が揺動により記録されているトラック」を有する構成とすることが,当業者にとって容易想到であったことは明らかである。
     イ これに対し原告は,引用発明に周知例(甲5文献)記載の技術を適用しても,本願発明の補助コードの3要件を満たすシステムを得ることはできない旨主張するが,次に述べるとおり,補助コードの3要件を満たすシステムを得ることは容易であったから,原告の主張は失当である。
       (ア)@ 仮に原告主張の補助コードの要件@(当該シークエンス内で前記アドレスコードと交互に配置されること)を満たさないように制御情報とアドレス情報の両者を揺動により記録しようとした場合,すなわち,ある1か所の領域に制御情報をまとめて記録し,残りの領域にはアドレス情報のみを記録するようにした場合には,「制御情報が1か所にしか存在しないこととなるので,それを探すのに時間を要する」,「制御情報が長大な場合は,それを記録する領域でアドレス情報が欠落する」といった問題が直ちに想定される。

         A 周知例においても,本願発明でいう「補助コード」に相当する「適合化情報」は,リードイン領域のTOC内ではあるが,「アドレス情報」と呼ぶべき情報と交互に記録されている。
         B 記録再生システムによって使用される制御のための情報をアドレス情報と交互に配置することは,乙2文献に「レベル検出信号領域」を,セクターマーク,同期信号及びアドレス信号とともに交互に配置することが示されているように周知の事項にすぎない。
         C 制御情報とアドレス情報の両者を揺動により記録する際に,補助コードの要件@を満たすように記録できない理由はない。
          上記@ないしCの事情に照らせば,制御情報とアドレス情報の両者を揺動により記録する際には,原告主張の補助コードの要件@を満たすようにするのが最も自然であるから,引用発明に甲5文献記載の技術を適用して,要件@を満たすシステムを容易に想到することができたというべきである。

       (イ) 周知例に記載された「適合化情報」が「アドレス情報」と「同一のフォーマット」であるから,引用発明の記録担体に周知例の技術を適用した場合には,原告主張の補助コードの要件A(前記アドレスコードと前記補助コードが同一のデータフォーマットを有すること)を満たすものが当然に得られる。
       (ウ) グループ104に記録された8ビットコード“ポイント”(POINT)がトラック番号を示すときには,その後に続くグループ105のデータがアドレスを示すものであり,「特異なビットコンビネーション」の場合には「適合化情報」であることが識別されるものであるから,前記「特異なビットコンビネーション」は,本願発明の「識別要素」に相当するものであり,引用発明の記録担体に周知例の技術を適用した場合には,原告主張の補助コードの要件B(前記補助コードが,当該アドレスコードとそれらを識別する識別要素を有すること)を満たすものが当然に得られる。

第4 当裁判所の判断
 1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
    そこで,原告主張の審決の取消事由(請求原因(4))の有無について,以下,順次判断する。
 2 取消事由1(周知技術の認定の誤り)について
    原告は,甲5文献記載の「アドレス」(アドレス情報)は,本願発明の「アドレスコード」に対応せず,甲5文献記載の「適合化情報」は,補助コードの3要件を充足しないから,審決が「適合化情報」が補助コードに相当する(審決7頁12〜15行)として,本願当時,本願発明の「補助コード」が周知技術であった旨認定したのは誤りである旨主張する。
   (1) 本願発明の「補助コード」は,請求項1に記載のとおり,「前記記録システム(記録担体と記録装置を有する情報記録システム)による使用のための制御データを規定する」ものであって,「コードのシークエンス内でアドレスコードと交互に配置されていて,アドレスコードと同一のデータフォーマットを有し,かつ,当該アドレスコードとそれらを識別する識別要素を有する」(原告主張の補助コードの3要件はこれと同旨)ものである。

   (2)ア 甲5文献には,「適合化情報」に関して,@「システムが,CDオーディオまたはCD−ROM基準に基づいてEFM信号を記録する場合には,予め形成されている情報構造のような手段によって例えばリードイントラックまたはリードアウトトラックの様な予め決められているトラック部分に記録されている,EFM信号のサブコードQチャンネル信号に適合化信号を含ませるのが有利である。リードイントラックにおいて,Qチャンネル信号は,特定なトラック部分が開始する位置,トラック番号を示す8ビットコード“ポイント”及びそのトラック番号によって決められているそのトラック部分の開始点と終了点を示すアドレスコード(PMIN,PSEC,PFRAME)を示す。トラック番号に使用できる8ビットコードの数は,必要とされるコードの数よりも小さい。従って,アドレス情報の代わりに適合化情報を特異なビットコンビネーションによってその8ビットコード“ポイント”に記録することが可能に成る。」(4頁右上欄12行〜左下欄9行),A「第11図はサブコードフレームの98個のQチャンネルビットのフォーマットを示す。その98ビットは,1個の2ビットグループ100,2個の4ビットグループ101と102,2個の8ビットグループ103と104,56ビットグループ105及び1個の16ビットグループ106からなる。」(9頁右下欄15行〜10頁左上欄1行),「グループ104の8ビットによって,グループ105に記録されている情報のタイプの特性が示される。これは一般的には特定のトラック部分を示すトラック番号であり,その部分のアドレスはグループ105内で規定されている。しかしながら,例えばFF(16進数)の様な特異なビットコンビネーションは,グループ105のビットが記録担体のパラメータに関する情報を表していることを示す。例えば,サブグループ105fの最上位の3個の数字の様な,これらのビットのうちのいくつかのビットが,書き込み信号波形を決めるために必要な適合化情報の記録に使用される。」(10頁左上欄8〜20行)との記載がある。
     イ 次に,本願の明細書の記載(甲2・15頁27行〜16頁9行)及び図面(甲1),「図解コンパクトディスク読本(改訂3版)」の記載(甲6・136頁8〜18行,139頁10行〜140頁1行,140頁18行〜143頁8行,図5・26〜図5・29及び表5・4)によれば,次の事実が認められる。
       (ア) CDオーディオ(CD−ROM)の規格として,CDの記録領域は,リードイン領域,プログラム領域,リードアウト領域からなり,プログラム領域に音楽・コンピュータデータ等のデータ信号が記録される。
       (イ) データ信号は,一定量のデータ毎にサブコーディングと呼ばれるデータが付加されて記録され,サブコーディングには,曲の頭出しや設定された順序に従って再生するプログラム機能をもたせるためのQチャンネル信号が含まれる。

       (ウ) プログラム領域のQチャンネル信号には,「TNO」,「AMIN,ASEC,AFRAME」という名称のデータがあり,記録された音楽等のデータ信号について,「TNO」が曲(楽章)番号を表し(プログラム領域では「01〜99」となる),「AMIN,ASEC,AFRAME」が,再生する際の絶対時間「分,秒,フレーム」を表す。「AMIN,ASEC,AFRAME」は,プログラム領域の開始位置で「00分00秒00フレーム」で,以降インクリメントされる(なお,75フレームで1秒である。)。
       (エ) リードイン領域のQチャンネル信号では,「TNO」が「00」であり,絶対時間(分,秒,フレーム)を表すため「AMIN,ASEC,AFRAME」の代わりに「PMIN,PSEC,PFRAME」が用いられ,「PMIN,PSEC,PFRAME」は「POINT」(ポイント)という名称のデータとともに目次に該当するTOC(Table of Contents)を表す。

       (オ) TOCでは,「POINT」が「00〜99」までのときは「POINT」に記録される数字で示される各楽章が始まる絶対時間が「PMIN,PSEC,PFRAME」に記録され,「POINT」が「A0」のときは最初の楽章番号が「PMIN」に記録され,「POINT」が「A1」のときは最後の楽章番号が「PMIN」に記録され,「POINT」が「A2」のときはリードアウトが始まる絶対時間が「PMIN,PSEC,PFRAME」に記録される。
     ウ 以上の認定事実を総合すると,甲5文献(前記アの記載)は,@CDオーディオ(またはCD−ROM)規格では,データ領域の記録トラックのアドレス(絶対時間)がサブコーディングにより記録されること,A目次情報として,リードイン領域におけるQチャンネル信号の「POINT」及び「PMIN,PSEC,PFRAME」を用いてTOCが記録されること,BTOCにおいては,「POINT」に記録されたトラック番号の楽章が始まるアドレス情報が「PMIN,PSEC,PFRAME」に記録されるが,「POINT」に「00〜99」,「A0〜A2」以外の特異なコードを記録することにより,「適合化情報」を「PMIN,PSEC,PFRAME」に記録することができることを開示しているものと認められる。

   (3) そうすると,このように甲5文献において,リードイン領域のTOCのQチャンネル信号の「PMIN,PSEC,PFRAME」に記録される情報は,対応する「POINT」に記録されるトラック番号の楽章が始まる絶対時間(アドレス)を表すものであるから,TOCのアドレス情報は,トラック番号に対応する楽章のデータが記録されるトラックのアドレスを示すものであって,当該Qチャンネル信号自体が記録されるトラックのアドレスを示すものではないのに対し,他方,本願発明の「アドレスコード」は,当該「アドレスコード」が位置する逐次トラック部分のアドレス(実際位置アドレス)を規定するものである。
      したがって,甲5文献におけるリードイン領域に記録されるアドレスは,本願発明の「アドレスコード」とは別異のものであるから,甲5文献の「適合化情報」が本願発明の「アドレスコード」と交互に配置されているものと認めることができない。

      また,甲5文献の「適合化情報」とアドレスコードに相当する「AMIN,ASEC,AFRAME」との関係においても,両者は同一のデータフォーマットを有し,識別要素「TNO」及び「POINT」を含んでいるが,前者(「適合化情報」)がリードイン領域に記録されるのに対して後者(「AMIN,ASEC,AFRAME」)はプログラム領域に記録されるから,適合化情報がアドレスコードと交互に配置されているものと認めることはできない。
      そうすると,甲5文献の適合化情報は,「コードのシークエンス内でアドレスコードと交互に配置されていて」との本願発明の補助コードの構成を有しないから(原告主張の補助コードの要件@を満たさない。),「適合化情報」が補助コードに相当するものとは認められない。
   (4) 以上によれば,甲5文献に基づいて,本件出願当時,本願発明の構成の「補助コード」が周知技術であったものと認めることはできないことになるから,原告主張の取消事由1は理由がある。

 3 取消事由2(引用発明に周知例の技術を適用できるとした判断の誤り)について
   (1) 原告は,制御情報の読み出しについては何ら開示していない引用発明に,適合化情報をリードイン領域という特定の場所から読み出すことしか開示していない周知例(甲5文献)記載の技術を記録担体に適用したとしても,トラックの揺動(変調)によりアドレスを示す,予め形成されたトラックと,適合化情報が予め記録されているリードイン領域等の別個のデータ部分とを有する記録担体が得られるのみであって,当業者が,書き込み等の制御情報とアドレス情報の両者が同一フォーマットで揺動により記録されているトラックを有する本願発明の構成の記録担体を容易に想到することはできないし,また,引用発明に甲5文献記載の技術を適用しても,本願発明の補助コードの3要件を満たすシステムを得ることはできないから,単一のハードウエアにより,アドレス情報と書き込み情報を読み出すことができる本願発明の構成の記録装置を容易に想到することはできない旨主張する。

      そこで検討するに,先に説示したとおり甲5文献の「適合化情報」が本願発明の「補助コード」に相当せず,本願当時,本願発明の「補助コード」が周知技術であったものと認めることができないから,原告が主張するように,引用発明に甲5文献記載の技術を適用して,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が相違点1に係る本願発明の構成を容易に想到することができたものとは認められない。
   (2)ア これに対し被告は,甲5文献には,制御情報である「適合化情報」の記録場所や記録態様については任意である周知技術も開示されていること,トラックに変調を施すことで記録される信号がアドレス情報に限定されるものではなく,種々の情報を記録し得ることは,特開昭63−87682号公報(乙1文献)にも示されるように技術上当然のことであること,乙2文献には,引用例(甲4)が従来技術として想定しているものの「同期区域」に相当する箇所(ヘッダー領域)に,「アドレス信号」と共に,「記録再生のシステムに使用される制御情報(乙2文献でいう「レベル検出信号」は,制御情報の一種である。)」をも記録するようにしたものが示されていることなどからすれば,引用発明に周知例(甲5文献)の技術を適用して,「制御情報とアドレス情報の両者が揺動により記録されているトラック」を有する構成とすることが,当業者にとって容易想到であった旨主張する。

       (ア) 乙1文献には,記録装置に関する発明が記載されており,その発明について,@「〔問題を解決するための手段〕」として,「この発明では,光学的に情報を再生し得る円盤状記録媒体のトラックを形成するための記録装置において,光源からの記録ビームを円盤状記録媒体の半径方向に偏移させる偏向装置と偏向装置を制御する偏向制御信号を発生する偏向制御信号発生装置とを有し,偏向制御信号は,所定周波数を有する第1の信号に所定周波数よりも低い繰り返し周波数を有する第2の信号が重畳されてなる合成信号とされる。より具体的には,第1の信号がウォブリング信号であり,第2の信号が絶対時間情報であり,トラックが案内溝とされる。」(2頁右下欄4〜15行)と記載され,A「変形例」として,「この発明は,CDフォーマットのタイムコードに限らず,他のSMPTE等の時間コード或いは時間コード以外のディジタルデータを変調して記録する場合に対して適用することができる。」(7頁左下欄13〜16行)と記載されている。
          上記記載によれば,乙1文献には,トラックに変調を施すことで記録される信号がアドレス情報に限定されるものではなく,種々の情報を記録し得ることが示されているということができるが,乙1文献においてトラック変調によりコードを記録する際に,アドレスコードと補助コード等その他の情報を同一のフォーマットで交互に記録することが示唆されているとまで認めることができない。
          したがって,被告が主張する周知技術を引用発明に適用するに際して乙1文献を参照しても,トラックに変調を施すことで「適合化情報」を記録し得ることが想定されるにすぎず,「補助コードをアドレスコードと交互に同一のフォーマットで記録する」という本願発明の構成を容易に想到することができたものと認めることはできない。
       (イ) また,乙2文献には,@特許請求の範囲第1項として,「光ディスク上のヘッダー領域内に,飽和信号レベルを与えるピット深さで,かつ該光ディスク上の光スポット径に対しても十分な再生信号振幅の得られる径を有する基準ピットを予めプリフォーマットしておき,情報再生時には,該基準ピットから得られる信号のピーク値を基準レベルとして閾値を設定し,データ信号を量子化することを特徴とする記録再生方式。」(1頁左欄5〜12行),A「第1図(b)に示したフォーマットは,未記録領域と,再生信号振幅が最大となる領域をレベル検出信号5の領域として各セクターのヘッダー領域2内に一箇所だけ設け,該検出信号5の各レベルをサンプルホールドして,以下に続くユーザデータ領域7に記録された多値記録データの量子化閾値の基準として用いる場合の構成例である。各ヘッダー領域の先頭には,セクターの開始を示すセクターマーク3が置かれ,次にクロック発生,および復調開始を示す同期信号4,レベル検出信号5,アドレス信号6が,ヘッダー領域2として,プリフォーマットされている。第1図(b)では,レベル検出信号5が同期信号4の直後に置かれているが,セクターマーク3の直後,ないしはアドレス信号6の直後であっても,該検出信号5の領域が検知,確定するならばさしつかえない。 第1図(c)は,レベル検出信号5のピット配置例である。レベル検出ピット8は,ピット深さが,使用レーザ光波長の約4分の1になるようにプリフォーマットされており,かつピット幅,ピット長が,再生光スポット径に対して十分な信号レベルが得られる様な大きさになっている。該レベル検出ピット8からの再生信号レベルをサンプルホールドし,該ホールド値を,最大振幅レベルとして使用する。レベル検出ピット8に続き,未記録領域9を設けてある。同様に該未記録領域9の再生信号レベルをサンプルホールドすることにより,未記録再生レベルとして用いる。」(3頁右上欄2行〜左下欄10行)との記載がある。
          しかし,乙2文献記載のレベル検出信号は,各セクタのヘッダー領域にアドレス信号と共に記録されるものであって,本願発明のように,「アドレスコードが位置する逐次トラック部分のアドレスを規定するアドレスコード」と交互に配置されるものではなく,また,レベル検出信号は,読み出しレーザ光の検知に用いる飽和信号レベルや未記録信号レベルを与えるものであって「コード」ではないから,本願発明にいう「記録システムによる使用のための制御データを規定する補助コード」に該当するものと認めることはできない。

          したがって,乙2文献を参照しても,甲5文献の「適合化情報」をアドレスコードと同一のフォーマットで交互に配置するという相違点1に係る本願発明の構成を得ることができるものではない。
       (ウ) したがって,被告の前記主張は採用することができない。
     イ さらに,被告は,制御情報をアドレス情報とともにトラック揺動により記録する場合に一箇所にまとめて記録すると種々の問題が生じること,周知例(甲5文献)においても,「適合化情報」が「アドレス情報」と呼ぶべき情報と交互に記録されていること,記録再生システムによって使用される制御のための情報をアドレス情報と交互に配置することは,乙2文献に「レベル検出信号領域」を,セクターマーク,同期信号及びアドレス信号とともに交互に配置することが示されているように周知の事項であること,制御情報とアドレス情報の両者を揺動により記録する際に,原告主張の補助コードの要件@を満たすように記録できない理由はないことからすれば,制御情報とアドレス情報の両者を揺動により記録する際には,上記要件@を満たすようにするのが最も自然であるから,引用発明に甲5文献記載の技術を適用して,上記要件@を満たすシステムを容易に想到することができた旨主張する。

        しかしながら,制御情報をアドレス情報と交互にトラック揺動により記録することが,乙1文献や乙2文献の記載を参酌しても,引用発明や甲5文献記載の周知技術から容易に想到することができないことは先に説示したとおりである。
        また,請求項1のとおり,本願発明のコードのシークエンスは,「アドレスコードが位置する逐次トラック部分のアドレスを規定するアドレスコード」を有するものであり,「補助コードが,当該シークエンス内で前記アドレスコードと交互に配置されていて,前記アドレスコードと前記補助コードが同一のデータフォーマットを有し,かつ前記補助コードが,当該アドレスコードとそれらを識別する識別要素を有する」ものである。このように配置すると,補助コードが位置する逐次トラック部分のアドレスはアドレスコードにより規定されなくなるから,何らかの動機付けや示唆がない限り,相違点1に係る本願発明の補助コードの記録を採用することが容易に想到することができたものと認めることはできない。

        したがって,被告の上記主張は採用することができない。
   (3) したがって,原告主張の取消事由2は理由がある。
 4 結論
    以上のとおり,審決は周知技術の認定を誤り(取消事由1),引用発明に周知例の技術を適用できるとした判断を誤った(取消事由2)ものであり,これらの誤りはいずれも審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取消しを免れない。
    よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容して,主文のとおり判決する。
   
             知的財産高等裁判所 第2部
   
                     裁判長裁判官    中  野  哲  弘
                           
                           
                           裁判官    大  鷹  一  郎
                           
                           
                           裁判官    長谷川 浩 二