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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

実施可能要件

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

平成29(行ケ)10143  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年7月5日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件およびサポート要件に違反するとした無効審決が維持されました。\n
 ところで,本件訂正発明のような有機アンモニウム化合物を含有するレジ スト除去・洗浄剤では,レジスト除去は塩基の作用によるものであって,塩 基の濃度が高い,あるいは,pHが高いほど,その除去作用が強いという傾向 にあることは当業者における技術常識である(弁論の全趣旨)。また,回路 に用いられる代表的な導電性金属である銅やアルミニウムの腐食性が,接触\nする組成物・溶液の種類とそのpHに依存することも,当業者における技術常 識であり,例えば,アルミニウムは,接触する溶液の種類によるものの, pH が12以上で不安定化する傾向にあることは周知の技術常識である(甲48)。
これらの技術常識に照らせば,当業者は,一般論として,塩基の濃度とpH を調整することにより,レジスト除去に代表されるポリマー,エッチング・\nアッシング残渣の除去作用の強弱と,回路材料である金属の腐食作用の強弱 とを変化させることが可能であると一応理解できるというべきである。さら\nに,当業者は,本件明細書の段落【0089】の記載から,レジスト除去を より高温で,より長時間行うと,より完全となる傾向があることも理解する ことができる。 しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,実際のpHが明らかにされた 具体的な組成物の記載は一切存在しないし(例えば,W3,W11〜W13 はpH<7,W5及びW6はpH>12であることが記載されているものの,具体的に pHがいかなる値であったのかは明らかでない。),上記(3)において説示した とおり,訂正後発明1に係る成分を含有し,基板からのポリマー,エッチン グ・アッシング残渣除去と金属で形成された回路の損傷量を許容し得る範囲 に抑えることが両立している具体的な組成物の例も記載されていない。 また,本件明細書に記載されているその余の組成物についても,基板から のポリマー,エッチング・アッシング残渣の除去作用と回路材料である金属 の腐食作用の各程度を,同一の組成物について具体的に評価した例は発明の 詳細な説明に記載されておらず,実際のpHの値が具体的に明らかにされた組 成物すら記載されていない。
(5) 以上検討したところによれば,本件明細書に接した当業者は,塩基の濃度 及びpHと,基板からのポリマー,エッチング・アッシング残渣の除去作用, 及び回路材料である金属の腐食作用との間に関係性があるとの技術常識を考 慮して,pHを調整することにより,ポリマー,エッチング・アッシング残渣 の除去と金属で形成された回路の損傷量を許容し得る範囲に抑えることの両 立が可能であることを一応理解できるとはいえるものの,反面,本件明細書\nの発明の詳細な説明においては,当該調整の出発点となるべき具体的組成物 の実際のpHの値が一切明らかにされていない上,基板からのポリマー,エッ チング・アッシング残渣の除去作用と回路材料である金属の腐食作用との関 係において,どの程度のpHの調整が必要であるのかについての具体的な情報 が余りにも不足しているといわざるを得ない。そのため,当業者が,本件明 細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,本件訂正発明に係る組成物を生 産しようとする場合,具体的に使用するレジストや回路材料等を念頭に置い て,基板からのポリマー,エッチング・アッシング残渣の除去と回路の損傷 量を許容し得る範囲に抑えることとが両立した適切な組成物を得るためには, 的確な手掛かりもないまま,試行錯誤によって各成分の配合量を探索せざる を得ないところ,このような試行錯誤は過度の負担を強いるものというべき である。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,訂正後発明1〜7 の組成物を生産でき,かつ,使用することができるように具体的に記載され ているものとはいえない。
・・・
しかし,上記2において説示したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明 には,上記2つの性質が両立していると具体的に評価された実施例に関する 記載はなく,技術常識を併せ考慮したとしても,当業者が本件訂正発明に係 る組成物を生産しようとする場合,過度の試行錯誤によって各成分の配合量 を探索せざるを得ない。 したがって,本件訂正発明1〜7に係る特許請求の範囲の記載は,技術常 識を考慮しても,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,集 積回路基板等から,ポリマー,エッチング残渣,アッシング残渣,又はそれ らの組合せの除去と回路の損傷量を許容し得る範囲に抑えることとを両立さ せることのできる組成物と認識できる範囲内のものであるとはいえない。

◆判決本文

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平成29(行ケ)10153  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年6月19日  知的財産高等裁判所

 「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の明確性、本件発明の課題が解決できるのかについてサポート要件違反が争われました。
 上記記載事項によれば,めっき処理を行った亜鉛又は亜鉛系め っき鋼板において,酸化性雰囲気中で加熱を行うことによって,亜鉛の蒸 発を阻止するバリア層として酸化皮膜層が形成されるが,亜鉛又は亜鉛系 めっきの共通成分は亜鉛であり,亜鉛又は亜鉛系めっき鋼板がいずれも均 一な酸化皮膜を形成し,塗膜密着性,耐食性が良好という共通の性質を有 することが理解できる。そうだとすれば,当業者であれば,当然,本件発 明1の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「亜鉛の酸化皮膜」 であると理解すると認められる。 してみると,本件発明1の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」 が,亜鉛系めっきに由来する亜鉛の酸化皮膜を意味することは明確である といえる。このことは,本件発明1を引用する本件発明2ないし6及び(同 様の文言を有する)本件発明7についても同様である。
ウ 原告の主張について
原告は,本件訂正によって,特許請求の範囲の記載にあった「亜鉛また は亜鉛系合金のめっき層」に代えて,「スズ−亜鉛合金めっき層」などの 具体的な合金めっき層が記載されたこと,本件明細書においては,「スズ −亜鉛合金めっき」の具体例としては,「スズ−8%亜鉛合金めっき」の みが記載されている(【0038】)こと,「スズ−8%亜鉛合金めっき」 を加熱した場合に生ずる変化については本件明細書に全く記載がないこと などを挙げて,「亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」が亜鉛の酸化皮膜でな ければならないと当然に解釈できるとはいえないから,金属酸化物の種類 が不明確であると主張する。 しかしながら,本件明細書の記載から,亜鉛又は亜鉛系めっき鋼板がい ずれも均一な酸化皮膜を形成し,塗膜密着性,耐食性が良好という共通の 性質を有することが理解でき,当業者であれば,本件発明1の「加熱時の 亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「亜鉛の酸化皮膜」であると理解する と認められることは,前記ア,イのとおりである。他方,「スズ−8%亜 鉛合金めっき」についてのみ,これと異なる理解をすると認めるべき合理 的事情はない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(2) 酸化皮膜の形成時期について
ア 原告は,本件訴訟におけるのと同様に,先行事件訴訟においても,「亜 鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期が明らかでないと主張して明確 性要件を争っており,その結果,原告の主張を排斥する先行事件判決がな され,同判決は既に確定しているものである(当裁判所に顕著な事実)。 そうすると,原告が本件訴訟において再びこの点を争うことは,実質的 に前訴の蒸し返しに当たり,訴訟上の信義則に反するものとして許されな いというべきである。
よって,この点に関する原告の主張も採用できない。
イ 念のため,中身について検討してみても,この点に関しては,先行事件 判決が示すとおり,本件明細書の【0018】には,酸化皮膜は熱間プレ スに先立つ加熱前にある程度形成されることが必要で,その後熱間プレス 加工のための700〜1000℃の加熱によっても形成が進むと推測され ることが記載され,【0042】及び【0043】には,酸化皮膜は,熱 間プレス加工のため700〜1000℃に加熱する前に,予め形成されて\nいる場合と形成されていない場合があることを前提として,予め酸化皮膜\nが形成されている材料の場合には,酸化皮膜の維持に悪影響がない限り熱 間プレスのための加熱方法については特に制限がないことが記載され,さ らに,【0064】及び【表5】には,実施例No.2,3として,電気\nめっきを施した後,熱間プレスに先立つ加熱を大気炉で850℃,3分間 行ったものについて均一な酸化皮膜が形成されたことが記載されていると ころ,電気めっきにおいては,めっき層は加熱されないことから,上記実 施例はいずれも熱間プレスに先立つ加熱前に予め酸化皮膜が形成されてい\nない場合であって,この場合の酸化皮膜は,熱間プレスのための加熱(大 気炉で850℃,3分間)により形成されたものと理解することができる。 そうすると,本件発明の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は, 熱間プレスの加熱前に,予め形成されている場合,ある程度形成されてい\nてその後熱間プレスの加熱時に形成が進む場合,予め形成されていないが\n熱間プレスの加熱により形成される場合のいずれでもよいことから,その 形成時期は熱間プレスの直前までであればよいと解するのが相当である。 したがって,本件発明1及びこれを引用する本件発明2ないし6並びに 本件発明7の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期は, 本件明細書の発明の詳細な説明を参照すれば明確というべきであるから, 原告の主張はいずれにしても失当である。
(3) 「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス 用」について
ア 本件明細書の【0016】ないし【0018】,【0029】,【00 34】,【0042】,【0044】,【0048】,【0050】及び 【0064】には,熱間プレスは700〜1000℃という温度で加熱す ることを意味すること,熱間プレス成形の特徴として成形と同時に焼き入 れを行うことから,そのような焼き入れを可能とする鋼種を用いること,\n熱間成形後に急冷して高強度,高硬度となる焼き入れ鋼,例えば表1にあ\nるような鋼化学成分(鋼種A等)の高張力鋼板が実用上は特に好ましいこ と,700〜1000℃の温度で加熱してから熱間プレスを行い,めっき 層表面に亜鉛の酸化皮膜が,下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層\nとして全面的に形成されていること,具体的には,表1に示す鋼種Aを,\n大気雰囲気の加熱炉内で950℃×5分加熱して,加熱炉より取り出し, このままの高温状態で円筒絞りの熱間プレス成形を行うこと,また,熱間 プレスに先立つ加熱を,大気炉で850℃,3分間行うことが記載されて いる。 そして,これらの記載によれば,本件発明1の「700〜1000℃に 加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用」という文言において, 1)「700〜1000℃に加熱されて」は,熱間プレスの加熱条件であり, 2)「プレスされ焼き入れされる」は,成形と同時に焼き入れを行う熱間プ レス成形の特徴であり,3)「用」という文言の意味は,「(接尾語的に) …に使うためのものの意を表す」(広辞苑第六版)であることからすると,\n「熱間プレス用」は,後に続く,本件発明1の「鋼板」を修飾し,鋼板が 熱間プレスに使うためのものであることを意味するものと理解できる。 してみれば,「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れさ れる」は,「熱間プレス」の加熱条件及び特徴を表現するものと理解でき\nるから,本件発明1の「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き 入れされる熱間プレス用」という文言は明確である。このことは,本件発 明1を引用する本件発明2〜6及び(同様の文言を有する)本件発明7に ついても同様である。
イ 原告の主張について
原告は,本件発明は用途発明であるとした上で,種々理由を述べて,「7 00〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用」 という記載の意味が不明確であると主張する。 しかしながら,前記アのとおり,「700〜1000℃に加熱されてプ レスされ焼き入れされる」は,「熱間プレス」の加熱条件及び特徴を表現\nするものと認められるから,その余の点について判断するまでもなく,本 件発明1の「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる 熱間プレス用」という文言の意味は明確である。 また,本件発明1が用途発明であるか否かは,その結論を左右するもの ではない。

◆判決本文

関連事件は以下です。

◆平成26(行ケ)10201

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平成27(ワ)21684  特許権  民事訴訟 平成30年4月20日  東京地方裁判所(40部)

 特許権侵害事件です。争点は、本件発明「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法」は製造方法の発明か、サポート要件違反、実施可能要件違反などです。製造会社だけでなく、商社、コンビニが被告とされています。裁判所は、製造方法の発明かについては判断することなく、サポート要件違反・実施可能\要件違反として無効と判断しました。
 ところで,耐食コーティングに用いる材料の種類や成分の違いにより, 缶内の飲料に与える影響に大きな差があることは,本件特許の出願日当時, 当業者に周知であるということができる(乙34〜36)。例えば,特開平 7−232737号公開特許公報(乙36)には,「エポキシ系樹脂組成物 を被覆した場合,ワイン系飲料に含まれる亜硫酸ガス(SO2)をはじめと するガスに対するガスバリヤー性が劣っており,かつフレーバー成分の収 着性が高い。例えば,ワイン系飲料等を充填した場合,含有する亜硫酸ガ ス(SO2)が塗膜を通過して下地の金属面を腐食する虞があり,場合によ っては内容物が漏洩することもある。この亜硫酸ガスは下地の金属と反応 して硫化水素(H2S)を発生させるが,この硫化水素(H2S)は悪臭の 主要因となるばかりでなく,飲料の品質保持のため必要な亜硫酸ガス(S O2)を消費するため飲料の品質を劣化させフレーバーを損なうこととな る。また,この樹脂組成物は飲料中のフレーバーを特徴付ける成分を収着 しやすく,飲料用金属容器の内面に被覆するには官能的に充分満足のでき\nるものではない。」(段落【0004】),「一方,ビニル系樹脂組成物を被覆 した場合,…エポキシ系樹脂組成物と同様に亜硫酸ガス(SO2)等に対す るガスバリヤー性に乏しく,やはり腐食や漏洩の危険性及び官能的な問題\nがある。」(段落【0005】)との記載がある。これによれば,耐食コーテ ィングに用いる材料や成分が,ワイン中の成分と反応してワインの味質等 に大きな影響を及ぼすことは,本件特許の出願日当時の技術常識であった ということができる。
上記のとおり,耐食コーティングに用いる材料の成分が,ワイン中の成 分と反応してワインの味質等に大きな影響を及ぼし得ることに照らすと, 本件明細書に記載された「エポキシ樹脂」以外の組成の耐食コーティング についても本件発明の効果を実現できることを具体例等に基づいて当業 者が認識し得るように記載することを要するというべきである。 この点,原告は,本件発明の課題は,ワイン中の遊離SO2,塩化物及び スルフェートの含有量を所定値以下にすることにより達成されるのであ り,耐食コーティングの種類によりその効果は左右されない旨主張する。 しかし,塗膜組成物の組成を変えることにより塗膜の物性が大きく変動し, 缶内の飲料に大きな影響を及ぼすことは周知であり(乙34の第1表,乙\n35の第2,3表等),ワイン中の遊離SO2,塩化物及びスルフェートの\n含有量を所定値以下にすれば,コーティングの種類にかかわらず同様の効 果を奏すると認めるに足りる証拠はない。
(4) 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,具体例の開示がなく とも当業者が本件発明の課題が解決できると認識するに十分な記載があると\nいうことはできない。そこで,本件明細書に記載された具体例(試験)によ り当業者が本件発明の課題を解決できると認識し得たかについて,以下検討 する。
ア 本件明細書には,「パッケージングされたワインを,周囲条件下で6ヶ 月間,30℃で6ヶ月間保存する。50%の缶を直立状態で,50%の缶 を倒立状態で保存する。」(段落【0038】)との方法で試験が行われ た旨の記載がある。しかし,本件明細書には,当該「パッケージングされ たワイン」の「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度,そ の他の成分の濃度,耐食コーティングに用いる材料や成分等については何 ら記載がなく,その記載からは,当該「パッケージングされたワイン」が 本件発明に係るワインであることも確認できない。
イ また,本件明細書には,試験方法について,「製品を2ヶ月の間隔を置 いて,Al,pH,°ブリックス(Brix),頭隙酸素及び缶の目視検査に関 してチェックする。…目視検査は,ラッカー状態,ラッカーの汚染,シー ム状態を含む。…官能試験は,味覚パネルによる認識客観システムを用い\nる。」(段落【0039】)との記載がある。「頭隙酸素」については, 乙29文献(4頁下から2行〜末行)に「ヘッドスペースの酸素は,アル ミニウムの放出に関して非常に重大である」との記載があるとおり,ワイ ンの品質に大きな影響を与え得る因子であり,「官能試験」はワインの味\n質の検査であるから,いずれもその方法や結果は効果の有無を認識する上 で重要である。しかし,本件明細書には,「頭隙酸素」のチェック結果や 「目視検査」の結果についての記載はなく,「官能試験」についても「味\n覚パネルによる認識客観システム」についての説明や試験結果についての 記載は存在しない。
ウ さらに,本件発明に係る特許請求の範囲はワイン中の三つの成分を特定 した上でその濃度の範囲を規定するものであるから,比較試験を行わない と本件発明に係る方法により所望の効果が生じることが確認できないが, 本件明細書の発明の詳細な説明には比較試験についての記載は存在しな い。このため,当業者は,本件発明で特定されている「遊離SO2」,「塩 化物」及び「スルフェート」以外の成分や条件を同程度としつつ,「遊離 SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度を特許請求の範囲に記載 された数値の範囲外とした場合には所望の効果を得ることができないか どうかを認識することができない。 加えて,耐食コーティングについては,試験で用いられたものが本件明 細書に記載されている「エポキシ樹脂」かどうかも明らかではなく,まし て,エポキシ樹脂以外の材料や成分においても同様の効果を奏することを 具体的に示す試験結果は開示されていない。
エ 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された「試験」は, ワインの組成や耐食コーティングの種類や成分など,基本的な数値,条件 等が開示されていないなど不十分のものであり,比較試験に関する記載も\n一切存在しない。また,当該試験の結果,所定の効果が得られるとしても, それが本件発明に係る「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の 濃度によるのか,それ以外の成分の影響によるのか,耐食コーティングの 成分の影響によるのかなどの点について,当業者が認識することはできな い。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明に実施例として記載された 「試験」に関する記載は,本件発明の課題を解決できると認識するに足り る具体性,客観性を有するものではなく,その記載を参酌したとしても, 当業者は本件発明の課題を解決できるとは認識し得ないというべきであ る。
オ この点,原告は,本件発明の特徴的な部分は,従来存在しなかった技術 思想であり,「塩化物」等の濃度には臨界的な意義もないので,その裏付 けとなる実験結果等の記載がないとしてもサポート要件には違反しない と主張する。 しかし,前記判示のとおり,特許請求の範囲に記載された構成の技術的\nな意義に関する本件明細書の記載は不十分であり,具体例の開示がなくて\nも技術常識から所望の効果が生じることが当業者に明らかであるという ことはできない。また,「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」 に係る濃度については,その範囲が数値により限定されている以上,その 範囲内において所望の効果が生じ,その範囲外の場合には同様の効果が得 られないことを比較試験等に基づいて具体的に示す必要があるというべ きである。
・・・
(5) 以上のとおり,本件発明に係るワインを製造することは困難ではないが, 本件発明の効果に影響を及ぼし得る耐食コーティングの種類やワインの組成 成分について,本件明細書の発明の詳細な説明には十分な開示がされている\nとはいい難いことに照らすと,本件明細書の発明の詳細の記載は,当業者が 実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできず,特許\n法36条4項1号に違反するというべきである。

◆判決本文

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平成29(行ケ)10138  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年4月18日  知的財産高等裁判所

 サポート要件、実施可能要件について、無効理由なしとした審決が維持されました。\n
 原告は,図1に示された気体溶解装置は,加圧型気体溶解手段3によって生成さ れ,溶存槽4に貯留された水素水を気体溶解装置の内部で循環させるようには構成\nされておらず,図3に示された気体溶解装置は,その内部に,「溶存槽4(41,4 2)」に貯留された水素水を「加圧型気体溶解手段3」に送出する「加圧送水通路」 を備えてはいないから,本件発明1は,図1に示された気体溶解装置,図3に示さ れた気体溶解装置のいずれによってもサポートされていない旨主張する。 しかし,本件明細書には,図1に示された気体溶解装置について,「溶存槽4に保 存された液体は,降圧移送手段5である細管5a内で層流状態を維持して流れるこ とで降圧され(S6),水素水吐出口10から外部へ吐出される(S7)。」(【003 4】)との記載がある一方で,「本発明の気体溶解装置1は,加圧型気体溶解手段3 で加圧して気体を溶解した液体を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段3に送 り,循環した後に,降圧移送手段5に送る」(【0037】)との記載がある。したが って,図1に示された気体溶解装置は,加圧型気体溶解手段3によって生成され, 溶存槽4に貯留された水素水を気体溶解装置の内部で循環させるように構成されて\nいると認められる。 また,本件明細書には,前記イのとおり,本件発明1の「溶存槽」と「加圧型気体 溶解手段」との間に水素水を循環させる経路として,ウォーターサーバーを用いる 場合,水槽を用いる場合,加圧型気体溶解手段で加圧して気体を溶解した液体を, 排出せずに循環して加圧型気体溶解手段に送る経路を用いる場合の開示がある一方, これらの場合に循環の経路が限定されるとの記載や示唆はない。したがって,当業 者であれば,本件発明1においては,水素水が,これらの場合を含む何らかの経路 で循環すればよく,図3に示された気体溶解装置は,水素水を「送出し加圧送水し て循環させ」る経路の例示にすぎないことを理解できる。 よって,原告の主張は採用することができない。
・・・
原告は,請求項1及び8はウォーターサーバーを発明特定事項としていないが, 実施例1,3ないし13には,図3に示すウォーターサーバーに気体溶解装置を接 続した場合の実験条件しか記載されていない,また,実施例2は,図1に示す気体 溶解装置を用いたものであるが,どのように水素水を生成,循環させたのか不明で あるから,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1及び8を実施できる程度 に明確かつ十分に記載されているとはいえない旨主張する。\nしかしながら,本件発明1及び8は,本件明細書に例示された,ウォーターサー バーを用いる場合,水槽を用いる場合,加圧型気体溶解手段で加圧して気体を溶解 した液体を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段に送る場合を含む,何らかの 経路により水素水を循環させるものであることは,前記2(3),(4)で検討したとおり である。そして,本件明細書には,ウォーターサーバーを用いた実施例1,3ないし 13の実験条件が,他の経路により循環させる構成について当てはまらないと解す\nべき根拠となる記載はない。 また,実施例2についても,加圧型気体溶解手段で加圧して気体を溶解した液体 を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段に送る場合を含む,何らかの経路によ り水素水を循環させるものであると理解することができる。 そうすると,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明を参考にして,本件発明 1及び8を実施することができるといえるから,原告の主張は採用できない。

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平成29(行ケ)10051  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年4月12日  知的財産高等裁判所(3部)

 暗号化回路について、実施可能要件違反とした審決が維持されました。\n
 そうすると,本願発明の目的である「サイドチャネルを利用した攻撃 から回路を保護すること」は,段落【0009】,【0010】及び 【0041】で言及されているサイドチャネルを利用した攻撃から関数 鍵 kc を保護することを意味し,この保護は関数鍵 kc を第2の鍵(又は 非機能の鍵)ki でマスクする,すなわち kc と ki を XOR 演算することに よって達成されるものと理解される。換言すれば,本願発明の暗号回路 においてサイドチャネルを利用した攻撃の目標として想定されているの は関数鍵 kc であり,この関数鍵 kc をそのような攻撃から保護するため に第2の鍵 ki を必要とし,関数鍵 kc を第2の鍵 ki と XOR 演算すること によってマスクする(マスク鍵 kc(+)ki とする)という方法によって,関 数鍵 kc の保護が達成されるものと把握される。 さらに,本願明細書等には,サイドチャネルを利用した攻撃の具体的 な目標として関数鍵 kc 以外のものは記載されていない。 このように,本願発明が想定している攻撃目標は関数鍵 kc であり, それ以外の攻撃目標を想定しない以上,本願発明の暗号回路が出力する 暗号文 y の秘密性は関数鍵 kcに依拠し,暗号文の計算手順(すなわち本 願発明の「暗号化アルゴリズム」)に依拠するものではないと認められ る。そうであれば,関数鍵 kc が判明すれば,本願発明により出力され る暗号文 y を解読し得ることになる。これは,本願発明の暗号回路が出 力する暗号文 y の暗号鍵が関数鍵 kcであることを意味する。すなわち, 本願発明は,秘密情報である関数鍵 kcを用いて平文 x から暗号文 y を計 算する関数を F で表したとき,y=F(x,kc)を満たす暗号文 y を出力す る暗号回路であると認められる(以下,この技術思想を「本願技術思想 1)」という。)。 このように理解することは,本願明細書等の「関数鍵 kc が回路21 の暗号化を実施する役割を果たす。この暗号化は例えばレジスタ22の 内部で入力変数 x を暗号化された変数 y=DES(x,kc)に変換する DES アルゴリズム23である。」(【0040】)との記載とも整合する。
・・・
上記本願技術思想1)及び2)によれば,本願発明の暗号回路を具現化 するためには,暗号回路によって実際に計算された暗号文と,暗号化ア ルゴリズム F に基づいて計算された暗号文とが等しいこと,すなわち G(x,kc(+)ki)=F(x,kc) を満たすことが要求される(以下,この要求を「本願発明の技術的要求」 という。)。 しかし,本願発明の技術的要求を満たす関数 G を構成する計算方法\nが,当業者の技術常識に鑑みて自明であると認めるに足りる証拠はない。 そこで,G(x,kc(+)ki)の具体的な計算方法が本願明細書等に示されて いるかについて,以下検討する。
・・・
以上のとおり,本願明細書等の図1及び2に示される回路において は,そもそもマスク鍵 kc(+)ki が計算されているとは認められないこと から,両図の回路をもって関数 G(x,kc(+)ki)の具体的態様を開示し たものということはできない。 d また,段落【0028】記載の「【数2】K(+)M」は,2つの値が XOR 演算されているという点で本願発明のマスク鍵と共通するもの の,記号が異なることから,本願発明を説明したものとは認められな い。

◆判決本文

関連カテゴリー
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平成29(行ケ)10127  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月29日  知的財産高等裁判所

 明確性違反および実施可能要件違反の無効を主張しましたが、審決、知財高裁とも無効理由無しと判断しました。
 原告は,平成13年(2001年)以降でさえ,先行技術(甲20)と 技術常識に基づいて,外部から侵入した水分による劣化を防止しているとはいえ ない程度に蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布の実現は不可能であったのであり,\n本件明細書の「フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材,形成温度,粘度やフ ォトルミネセンス蛍光体の形状,粒度分布などを調整することによって種々の分 布を実現することができ」(【0047】)との記載は,本件構成に対応する技\n術的手段が単に抽象的に記載されているだけで,当業者が発明の実施をすること ができない記載にすぎないことを意味するものに他ならないから,実施可能要件\nを欠くというべきであって,審決の結論には明らかな違法がある旨主張する。 明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができ る程度に明確かつ十分に記載したものであることを要する(特許法36条4項1号)。\n本件発明は,「発光装置と表示装置」(発光ダイオード)という物の発明であるとこ\nろ,物の発明における発明の「実施」とは,その物の生産,使用等をする行為をい うから(特許法2条3項1号),物の発明について実施をすることができるとは,そ の物を生産することができ,かつ,その物を使用することができることであると解 される。 本件明細書には,「蛍光体の分布は,フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材, 形成温度,粘度やフォトルミネセンス蛍光体の形状,粒度分布などを調整すること によって種々の分布を実現することができ,発光ダイオードの使用条件などを考慮 して分布状態が設定される。」(【0047】)との記載があることから,蛍光体の濃 度分布を適宜調整することにより,本件発明の「コーティング樹脂中のガーネット 系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高く\nなっている」発光ダイオードを生産することができ,かつ,使用することができる ことは,本件明細書に接した当業者にとって明らかであると認められる。 したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明を実施することがで きる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められるから,その旨の審決の\n判断に誤りはない。 これに対し,原告が主張する,外部から侵入した水分による劣化を防止している とはいえない程度に蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布とは,本件構成に係る「コ\nーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側から\nLEDチップ側に向かって高くなっている」ものではない状態を示すものである。 そうすると,仮に,このような濃度分布について,発明の詳細な説明や出願時の 技術常識を考慮しても実現することができない,又は,その実現に過度の試行錯誤 を要するとしても,このことは,本件明細書の発明の詳細な説明が,当業者が本件 発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとの前記認定を左右するも\nのではない(発光ダイオードの製造工程において,蛍光体がコーティング樹脂中を 沈降することによって,本件構成を満足するものを製造することができることにつ\nいては,当事者間に争いがないものと解される。)

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平成28(行ケ)10218  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年1月30日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件、サポート要件違反とした拒絶審決が取り消されました。なお、意見を述べる機会を与えなかった点について、手続違背もありと認定されています。
 本願明細書の上記記載によれば,同配列アンタゴニスト化合物は, アゴニスト作用を示していたIMOについて,「GACG」部分に化学修飾を導入し て同部分をN2N1CGモチーフにすることにより,アンタゴニスト作用を示すに至 ったことが認められる(以下,当該作用変化を「本件反転作用」という。)。 このような記載に接した当業者は,本件反転作用を生じさせた原因となる部分は, その他の配列が同一である以上,化学修飾を導入したN2N1CGモチーフに存在す るものと理解するのが自然である。のみならず,本願明細書の前記a(c)の記載に接 した当業者は,細菌性及び合成DNAの塩基配列には様々なものがあるにもかかわ らず,TLR9がそれらに存在する非メチル化CpGモチーフを認識するのである から,IMOの「GACG」部分にある非メチル化CpGモチーフがTLR9に結 合するものと理解するといえる。そのため,本件反転作用の原因は,TLR9に結 合する「GACG」部分に化学修飾を導入し,これをN2N1CGモチーフとするこ とによって,上記の結合部分に何らかの変化が生じたことによるものと理解するの が自然である。 そうすると,12種類化合物の配列は,N2N1CGモチーフの5’末端側に隣接 するオリゴヌクレオチド部分配列(以下「5’末端側隣接配列」という。)が全て「C TATCT」という一つの配列のみであり,かつ,N2N1CGモチーフの3’末端 側に隣接するオリゴヌクレオチド部分配列(以下「3’末端側隣接配列」という。) が「TTCTCTGT」又は「TTCTCUGU」という類似する二つの配列のみ であるものの,当業者は,本件反転作用を生じさせた部分は,N2N1CGモチーフ 自体であって,5’末端側隣接配列又は3’末端側隣接配列ではないと理解するの であるから,N2N1CGモチーフを有する本願IRO化合物も,12種類化合物と 同様に,アンタゴニスト作用を奏する蓋然性が高いものと論理的に理解するのが自 然である。そして,当業者は,TLR9のアンタゴニストとして作用し得る本願I RO化合物が,少なくともTLR9のアゴニスト作用が原因となる癌,自己免疫疾 患,気道炎症,炎症性疾患,感染症,皮膚疾患,アレルギー,ぜんそく又は病原体 により引き起こされる疾患を有する脊椎動物を治療的に処置し得ることを十分に理\n解することができるといえる。 したがって,本願明細書に接した当業者は,本願IRO化合物が高い蓋然性をも ってTLR9のアンタゴニスト作用を奏し,かつ,TLR9のアンタゴニストとし て作用し得る本願IRO化合物がTLR9のアゴニスト作用を原因とする上記各疾 患を治療的に処置し得ることを理解することができるのであるから,本願明細書中 の発明の詳細な説明の記載は,当業者によって本願出願当時に通常有する技術常識 に基づき本願発明の実施をすることができる程度の記載であると認めるのが相当で ある。
以上によれば,本願明細書の記載により,本願IRO化合物が全て,TLR9の アンタゴニスト作用を有するものであることを当業者が認識できるとはいえないな どとして,本願発明が実施可能要件に適合するものではないとした審決の判断には\n誤りがあり,TLR9についての原告の取消事由3は,理由がある。
c これに対し,被告は,実施例11に示されている同配列アンタゴニス ト化合物につき,5’末端側隣接配列が「CTATCT」であり,かつ,「N1N2N 3−Nm」が「TTCTCTGT」である化合物が示されるのみであって,それ以外 の本願IRO化合物は示されていないことからすると,アンタゴニスト作用が「C pGジヌクレオチド」に結合した結果であるのか,あるいは,それ以外の共通する 部分に結合した結果であるのかは定かでなく,また,本願明細書の発明の詳細な説 明には,本願IRO化合物のうち,実施例11に示された化合物以外のものが,実 施例11に示された化合物と同様にアンタゴニスト作用を有することを示唆する記 載もなく,この点が技術常識であるともいえないなどと主張する。 しかしながら,同配列アンタゴニスト化合物は,上記bにおいて説示するとおり, アゴニスト作用を示していたIMOについて,「GACG」部分についてのみ化学修 飾を導入して同部分をN2N1CGモチーフにすることにより,本件反転作用を奏す るに至ったのであるから,このような記載に接した当業者は,本件反転作用を生じ させた部分は,化学修飾を導入したN2N1CGモチーフに存在するものと論理的に 理解するのが自然であるといえる。そうすると,当業者は,実施例11に示された 化合物以外のものであっても,少なくともTLR9については,N2N1CGモチー フが存在すれば,高い蓋然性をもってアンタゴニスト作用を示すものと理解すると 認めるのが相当である。 したがって,被告の主張は,その他の主張を含め,本件反転作用の技術的意義を 正解しないものに帰し,採用することができない。
このような適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,複数の発明が同時に 出願されている場合の拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定の理由が解消さ れている一方,複数の発明に対する上記拒絶査定の理由とは異なる拒絶理由につい て,一方の発明に対してはこれを通知したものの,他方の発明に対しては実質的に これを通知しなかったため,審判請求人が補正により特許要件を欠く上記他方の発 明を削除する可能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充\n足する上記一方の発明についてまで拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れ る機会を失ったといえるときにも,当然妥当するものであって,このようなときに は,当該審決に,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手続違背の 違法があるというべきである。 イ これを本件についてみると,前提となる事実に後掲各証拠及び弁論の全 趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
・・・
(ウ) 原告は,本件拒絶査定不服審判において,平成27年9月16日付け の拒絶理由通知(甲16)を受けた(以下,当該拒絶理由通知を「本件拒絶理由通 知」といい,本件拒絶理由通知に係る拒絶理由を「本件拒絶理由」という。)。請求 項1,請求項8及び請求項13に対する本件拒絶理由は,大要次のとおりである。 a 請求項1,3,4及び7ないし17(請求項3を追加する前のもの) 証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,本件拒絶理由通知では,実施例にお いてアンタゴニスト作用を有することが証明された化合物のうち,本願IRO化合 物に含まれるものは,IRO5,10,17,25,26,33,34,37,3 9,41,43及び98であるとして,これらの12種類化合物に限定して検討を 加えていること,12種類化合物は,いずれもTLR9に対してアンタゴニスト作 用を有するものであるが,IRO5に限り,TLR9のほか,TLR7及び8に対 してもアンタゴニスト作用を有するものであること,本件拒絶理由通知では,12 種類化合物を全体として比較して,N2N1CGモチーフの5’末端側に隣接する部分 の塩基配列及びN2N1CGモチーフの3’末端側に隣接する部分の塩基配列が,それ ぞれ類似の二通りのみであることを根拠として,請求項1,3,4及び7ないし1 7に係る各発明の実施可能要件及びサポート要件違反を示していること,そのため,\n本件拒絶理由通知では,IRO5に固有の問題を検討するものではなく,TLR9 に対するアンタゴニスト作用を有する12種類化合物のみの問題を検討しているこ と,以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば,本件拒絶理由通知は,TLR9に対してアンタゴニスト 作用を有する12種類化合物のみの問題を検討するにとどまり,TLR7及び8に 対してもアンタゴニスト作用を有するIRO5に固有の問題を検討した上で拒絶理 由を通知するものではないから,実質的にはTLR7及び8に対する拒絶理由を示 すものではないと認めるのが相当である。
b 請求項8,13,16及び17(請求項3を追加する前のもの) 証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,本件拒絶理由通知は,請求項8に係 る発明につき,「本願明細書ではTLRとして「TLR7」,「TLR8」及び「TL R9」に対する各種IROのアンタゴニスト作用を確認しただけであって,他のT LRに対してもアンタゴニスト作用を有することは確認されていない。」,「請求項 8の「TLR媒介免疫反応」のうち,「TLR7」,「TLR8」又は「TLR9」の 媒介免疫反応以外の免疫反応については,本願発明のIRO化合物が阻害効果を示 すことが確認できない。」と記載し,また,請求項13に係る発明につき,「請求項 13の「TLRにより媒介される疾患」のうち,「TLR7」,「TLR8」又は「T LR9」によって媒介される疾患以外の疾患については,本願発明のIRO化合物 が治療効果を示すことが確認できない。」と,それぞれ記載していることが認められ る。 上記認定事実によれば,本件拒絶理由通知は,文言上,少なくとも,TLR7な いし9については,アンタゴニスト作用及びその治療効果を有することが確認され たことをいうものと理解するのが自然である。
・・・
(オ) その後,特許庁は,原告に対し,改めて拒絶理由を通知することなく, 平成28年5月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。 ウ 前記イ(ウ)aによれば,本件拒絶理由通知は,TLR9に対してアンタゴ ニスト作用を有する12種類化合物のみの問題を検討するにとどまり,TLR7及 び8に対してアンタゴニスト作用を有するIRO5に固有の問題を検討した上で拒 絶理由を通知するものではないから,実質的にはTLR7及び8に対する拒絶理由 を示すものではないことが認められる。のみならず,TLR7及び8については, 本件反転作用を裏付ける実施例はない上,そもそも認識するアゴニストの対象が, TLR9とは異なり,一本鎖RNAウイルスであると認められるのであるから,T LR7及び8の拒絶理由には,TLR9の拒絶理由とは異なる固有の理由が存在す ることは明らかであるにもかかわらず,本件拒絶理由通知は,これを通知していな いことが認められる。
そして,前記イ(エ)によれば,原告は,本件拒絶理由を受けて,その理由を解消す るために,TLR1ないし6に係る発明部分を削除しているのであり,このような 経緯に鑑みると,原告は,TLR7及び8についても拒絶理由を実質的に通知され ていた場合には,TLR7及び8に係る発明部分についても,TLR1ないし6に 係る発明部分と併せて補正によって削除した可能性が高いものと認められる。\nのみならず,前記イ(ウ)bによれば,請求項8,13,16及び17に係る各発明 に対する本件拒絶理由通知は,文言上,少なくとも,TLR7ないし9については, アンタゴニスト作用及びその治療効果を有することが確認されたことをいうものと 理解するのが自然であるから,このような記載に接した原告が,少なくともTLR 7ないし9については,アンタゴニスト作用を有することが確認されたため,実施 可能要件及びサポート要件違反はないものと理解したのもやむを得ないところであ\nる。現に,原告は,前記イ(エ)によれば,本件拒絶理由通知を踏まえ,請求項9及び 14においては,TLR1ないし6を削除して,TLR7ないし9に限定する補正 をしている事実が認められるのであるから,このような事実からも,上記の原告の 理解が十分に裏付けられるといえる。そうすると,TLR7ないし9についてもア\nンタゴニスト作用を有するものであるとすることはできないとして,本願発明が実 施可能要件及びサポート要件に適合しないとした審決の判断は,実質的にみれば,\n上記の経過に照らし,原告にとっては,不意打ちというほかなく,不当であるとい うほかない。
これらの事情の下においては,本件拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定 の理由とは異なる拒絶理由について,TLR9に係る発明に対してはこれを通知し たものの,TLR7及び8に係る各発明に対しては実質的にこれを通知しなかった ため,原告が補正により特許要件を欠くTLR7及び8に係る各発明を削除する可 能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充足するTLR9\nに係る発明についてまで本件拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れる機会 を失ったものと認められる。 したがって,審決には,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手 続違背の違法があるというべきであり,当該手続違背の違法は,審決の結論に影響 を及ぼすというべきであるから,取消事由1は,理由があるものと認められる。
エ これに対し,被告は,前記イ(ウ)aのとおり,サポート要件違反と実施可能\n要件違反をいう請求項1に係る本件拒絶理由は,旧請求項3及び4,7なしい17 についても存在する旨通知されているのであるから,審決が本件拒絶理由とは異な る新たな拒絶理由に基づき実施可能要件及びサポート要件に適合しないと判断した\nとする原告の主張は,前提を欠くものであるなどと主張する。 しかしながら,上記ウで説示したとおり,本件拒絶査定不服審判において,本件 拒絶理由通知では,TLR9に関する拒絶理由のみを通知し,実質的にはTLR7 及び8に関する拒絶理由を通知しなかったため,原告はTLR7及び8に係る各発 明を削除するなどの補正をする機会を失うことになり,実施可能要件及びサポート\n要件をいずれも充足するTLR9に係る発明まで最終的に特許を受けることができ ないことになったものと認められる。このような結果は,原告にとって,不意打ち となるため,原告に過酷というほかなく,審判請求人の手続保障を規定する特許法 159条2項の趣旨に照らし,相当ではないというべきである。 かえって,被告は,本件訴訟に至っては,そもそもTLR7及び8が認識するも のと,TLR9が認識するものが異なるという技術常識に基づけば,TLR9に対 して本願IRO化合物がアンタゴニスト作用を奏するとする原告の作用機序の説明 が,TLR7及び8には妥当し得ないことは明らかであるなどとして,現にTLR 7及び8に固有の拒絶理由を具体的に主張しているのであるから(準備書面(第1 回)13頁),実質的にみても,上記のように,本件拒絶査定不服審判においてTL R7及び8に固有の拒絶理由を通知することが,審判合議体にとって困難なもので あったとは認められない。 したがって,被告の主張は,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2 項の意義を正解しないものに帰し,採用することができない。
なお付言するに,本願IRO化合物が治療効果を有するかどうかの点につき,本 件拒絶理由では,TLR7ないし9によって媒介される疾患以外の疾患については 治療効果を示すことが確認できないとしているところ,原告は,本件拒絶査定不服 審判においては,TLR7ないし9によって媒介される疾患については治療効果を 示すことが確認されたものと理解した上,本件拒絶理由を踏まえてTLR1ないし 6を削除する補正をし,さらに,その後の意見書において,この点に係る拒絶理由 が解消されたとまで述べているのであるから,審決においてTLR7ないし9によ って媒介される疾患についても治療的に処置することができるといえる根拠がない と判断するのであれば,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の法 意に照らすと,本件拒絶査定不服審判において,この点についても改めて拒絶理由 を通知することが相当であったものと認められる。

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平成28(行ケ)10278  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年1月15日  知的財産高等裁判所(4部)

 異議理由ありとした審決が取り消されました。理由は、新規事項か、サポート要件違反か、実施可能要件違反かです。知財高裁は、当初明細書の範囲内と判断しました。\n
ア 本件出願当初明細書等の記載
結晶多形Aについて,本件出願当初明細書等には,おおむね,次のとおり記載が ある。
・・・・
イ 本件出願当初明細書等に開示された結晶多形Aに関する技術的事項
(ア) 本件出願当初明細書等にいう結晶多形Aは,本件出願当初明細書等におい て名付けられたものである(【0007】)。
(イ) そして,本件出願当初明細書等【0008】には,結晶多形Aに該当する具体的な結晶多形として,【0008】(1)は,本件出願時の特許請求の範囲【請求 項1】で特定される結晶多形を挙げるほか,【0008】(5)は,2θで表して,構\ 成要件Eで特定されるのと同様の26個の角度において,ピークを有する特徴的な X線回析図形を示し,FT−IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量 が3〜15%であるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を挙げており,後者の結 晶多形は,構成要件Eで特定される結晶多形を含むものである。このように,本件\n出願当初明細書等【0008】の記載は,結晶多形Aには,構成要件Eで特定され\nる結晶多形だけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定される 結晶多形も,該当する旨説明するものである。
(ウ) また,本件出願当初明細書等【0009】は,「結晶多形Aの一つの具体 的形態」として,2θで表して,構\成要件Eで特定されるのと同様の26個無偏差 相対強度図形を示す結晶多形を例示しており,この結晶多形は,構成要件Eで特定\nされる結晶多形を含むものである。そうすると,本件出願当初明細書等【0009】 の記載は,構成要件Eで特定される結晶多形は,結晶多形Aの具体的な態様の一つ\nである旨説明するものである。
(エ) さらに,本願出願当初明細書等【0047】には,【0047】に記載さ れた製造方法によって,結晶多形Aが得られること,当該結晶多形AのX線粉末回 析図形は,構成要件Eと同様の26個無偏差相対強度図形を示したことが記載され\nている。本件出願当初明細書等【0047】の記載は,特定の製造方法によって生 成された結晶多形AのX線粉末回析図形を説明するにとどまり,構成要件Eで特定\nされる結晶多形のみが結晶多形Aである旨説明するものではない。
(オ) したがって,本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,構成要件Eで特\n定される結晶多形Aだけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特 定される結晶多形Aも,導くことができる。
(4) 新規事項の追加の有無
本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,構成要件Eで特定される結晶多形A\nだけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定される結晶多形A も,導くことができるから,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定され る結晶多形Aから,構成要件Eで特定される結晶多形Aを除くものを,本件出願当\n初明細書等の全ての記載を総合することにより導くことができるというべきである。 したがって,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】に,構成要件Eを追加す\nる本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件出願当初明細書等 に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
(5) 被告の主張について
被告は,本件出願当初明細書等に記載された結晶多形Aを,26個のピークの回 折角2θ及びその相対強度で特定しなくても,6個のピークの回析角2θ等によっ て特定し得るということは技術常識ではないと主張する。 しかし,本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,26個のピークの回折角2 θ及びその相対強度で特定される結晶多形Aだけではなく,6個のピークの回析角 2θ等によって特定される結晶多形Aも導くことができる。本件補正は,26個の ピークの回折角2θ及びその相対強度で特定される結晶多形を,6個のピークの回 析角2θ等によって特定することを前提としてなされたものではないから,被告の 上記主張は,前提を欠く。
(6) 小括
以上のとおり,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】に,構成要件Eを追加\nする本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではない。そして,本件補正の その余の部分について,被告は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件 出願当初明細書等に記載した範囲内においてしたものであることを争わない。した がって,本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たす。

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平成29(行ケ)10029  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年12月26日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。理由は、サポート要件違反・委任省令違反、進歩性違反です。委任省令違反である以上、サポート要件違反でもあるという理由です。
   前記アのとおり,本件明細書には,「EVOH層の界面での乱れに起因す るゲル」は,ロングラン成形により発生するゲルとは異なる原因で発生するゲルで あると記載されているものの,本件明細書には,「EVOH層の界面での乱れに起因 するゲル」が,乙15における「ゲル状ブツ」の原因となるゲルと,その形状,構\n造等がどのように異なるのかを明らかにする記載は見当たらない。 また,本件明細書においては,前記イのとおり,「EVOH層の界面での乱れに起 因するゲル」は,目視観察できるものであるとされ,乙15における「ゲル状ブツ」 は,前記ウのとおり,肉眼で見ることができるものとされているところ,本件明細 書には,「目視観察」の定義は見当たらず,後者は肉眼で見分けられ,前者は肉眼で 見分けられないものを含む旨の特段の記載はないから,本件発明における「EVO H層の界面での乱れに起因するゲル」と背景技術(乙15)における「ゲル」を, 観察方法において区別することができるとは,理解できない。 このように,本件明細書には,本件発明における「EVOH層の界面での乱れに 起因するゲル」は,本件特許出願前の技術により抑制することができるとされてい るロングラン成形により発生するゲルとは異なる原因で発生する旨の記載があるも のの,その記載のみでは,ロングラン成形により発生するゲルと区別できるかどう かは,明らかでないというほかない。 この点について,被告は,「不完全溶融EVOH」が発生する機序について主張し, これは,従来から知られていた「熱架橋ゲル」とは異なる旨主張する。しかし,本 件明細書には,被告が本訴において主張するようなことは何ら記載されておらず, 被告が本訴において主張するような技術常識が存したとも認められないから,本件 発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」が被告が本訴において 主張するようなものと認めることはできない。 そうすると,本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」の 意義は明らかでないというほかなく,本件特許出願時の技術常識を考慮しても,「成 形物に溶融成形したときにEVOH層の界面での乱れに起因するゲルの発生がなく, 良好な成形物が得られ」るという本件発明の課題は,理解できないというほかない。 オ したがって,本件明細書の記載には,本件発明の課題について,当業者 が理解できるように記載されていないから,「特許法第三十六条第四項第一号の経\n済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解 決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明 の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければなら ない。」と定める特許法施行規則24条の2の規定に適合するものではない。
(2) 以上のとおり,本件発明についての本件明細書の発明の詳細の説明の記 載は,特許法36条4項1号の規定に適合しないから,審決のこの点に係る判断に は誤りがあり,取消事由3には理由がある。
・・・
前記2(1)オのとおり,本件明細書には,本件発明の課題について,当業者が理解 できるように記載されていないから,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の 詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲の ものであると認めることはできないし,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも, 当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲 のものであるとも認められない。 この点について,被告は,「本件発明は,粒径500μm(0.5mm)未満の微 粉の含有量を0.1重量%以下に制御すること(新規な解決手段)により,『不完全 溶融EVOH』に起因する界面での乱れによるゲル(点状に分布する透明な粒状の 不完全溶融ゲルであり,EVOHの一部が極端な場合には他の樹脂層に突出するよ うな形態)の発生(斬新な課題)を抑制することができる(新規課題解決効果の奏 効)という特別な効果を得る」ものであると主張するが,前記2(1)のとおり,この 課題は,本件明細書及び技術常識から理解することができない。

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平成27(ワ)23087  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年12月6日  東京地方裁判所

 医薬品について、薬理データが記載されていないとして、実施可能性違反、サポート要件違反で無効と判断されました。\n
 特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は「その発明 の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることが できる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めると\nころ,この規定にいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明にかか る物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,\n明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が当該発明に係る物を生産し, 使用することができる程度のものでなければならない。 そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示さ\nれることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効 量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができ\nないから,医薬の用途発明において実施可能要件を満たすためには,明細書\nの発明の詳細な説明は,その医薬を製造することができるだけでなく,出願 時の技術常識に照らして,医薬としての有用性を当業者が理解できるように 記載される必要がある。
(2) 本件の検討
本件についてこれをみるに,本件発明1では,式(I)のRAが−NHC O−(アミド結合)を有する構成(構\成要件B)を有するものであるところ, そのようなRAを有する化合物で本件明細書に記載されているものは,「化 合物C−71」(本件明細書214頁)のみである。そして,本件発明1は インテグラーゼ阻害剤(構成要件H)としてインテグラーゼ阻害活性を有す\nるものとされているところ,「化合物C−71」がインテグラーゼ阻害活性 を有することを示す具体的な薬理データ等は本件明細書に存在しないことに ついては,当事者間に争いがない。 したがって,本件明細書の記載は,医薬としての有用性を当業者が理解で きるように記載されたものではなく,その実施をすることができる程度に明 確かつ十分に記載されたものではないというべきであり,以下に判示すると\nおり,本件出願(平成14年(2002年)8月8日。なお,特許法41条 2項は同法36条を引用していない。)当時の技術常識及び本件明細書の記 載を参酌しても,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業 者が理解し得たということもできない。
・・・
すなわち,上記各文献からうかがわれる本件優先日当時の技術常識と しては,ある種の化合物(ヒドロキシル化芳香族化合物等)がインテグ ラーゼ阻害活性を示すのは,同化合物がキレーター構造を有しているこ\nとが理由となっている可能性があるという程度の認識にとどまり,具体\n的にどのようなキレーター構造を備えた化合物がインテグラーゼ阻害活\n性を有するのか,また当該化合物がどのように作用してインテグラーゼ 活性が阻害されるのかについての技術常識が存在したと認めるに足りる 証拠はない。
・・・
以上の認定は本件優先日当時の技術常識に係るものであるが,その ほぼ1年後の本件出願時にこれと異なる技術常識が存在したことを認め るに足りる証拠はなく,本件出願当時における技術常識はこれと同様と 認められる。このことに加え,そもそも本件明細書には,本件特許化合 物を含めた本件発明化合物がインテグラーゼの活性部位に存在する二つ の金属イオンに配位結合することによりインテグラーゼ活性を阻害する 2核架橋型3座配位子(2メタルキレーター)タイプの阻害剤であると の記載はないことや,本件特許化合物がキレート構造を有していたとし\nても,本件出願当時インテグラーゼ阻害活性を有するとされていたヒド ロキシル化芳香族化合物等とは異なる化合物であることなどに照らすと, 本件明細書に接した当業者が,本件明細書に開示された種々の本件発明 化合物が,背面の環状構造により配位原子が同方向に連立した2核架橋\n型3座配位子構造(2メタルキレーター構\造)と末端に環構造を有する\n置換基とを特徴として,インテグラーゼの活性中心に存在する二つの金 属イオンに配位結合する化合物であると認識したと認めることはできな い。 以上によれば,本件出願当時の技術常識及び本件明細書の記載を参酌して も,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業者が理解し得 たということもできない。 したがって,本件明細書の記載は本件発明1を当業者が実施できる程度に 明確かつ十分に記載したものではなく,本件発明1に係る特許は特許法36\n条4項1号の規定に違反してされたものであるので,本件発明1に係る特許 は特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきも のである。
3 争点(1)イ(イ)(サポート要件違反)について
上記2で説示したところに照らせば,本件明細書の発明の詳細な説明に本件 発明1が記載されているとはいえず,本件発明1に係る特許は特許法36条6 項1号の規定に違反してされたものというべきである。

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平成28(行ケ)10205  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年6月14日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件を満たしていないとして、異議理由ありとした審決が維持されました。
 明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度 に明確かつ十分に記載したものであることを要する(特許法36条4項1号)。本件\n発明は,「加工飲食品」という物の発明であるところ,物の発明における発明の「実 施」とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号),物 の発明について実施をすることができるとは,その物を生産することができ,かつ, その物を使用することができることであると解される。 したがって,本件において,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及 び出願当時の技術常識に基づいて,本件発明に係る加工飲食品を生産し,使用する ことができるのであれば,特許法36条4項1号に規定する要件を満たすというこ とができるところ,本件発明に係る加工飲食品は,不溶性固形分の割合が本件条件 (6.5メッシュの篩を通過し,かつ16メッシュの篩を通過しない前記不溶性固 形分の割合が10重量%以上であり,16メッシュの篩を通過し,かつ35メッシ ュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下である) を満たす加工飲食品であるから,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載 及び出願当時の技術常識に基づいて,このような加工飲食品を生産することができ るか否かが問題となる。
前記認定のとおり,本件明細書には,不溶性固形分の割合が本件条件を満たすか どうかを判断する際の測定について,「日本農林規格のえのきたけ缶詰又はえのきた け瓶詰の固形分の測定方法に準じて,サンプル100グラムを水200グラムで希 釈し,16メッシュの篩等の各メッシュサイズの篩に均等に広げて,10分間放置 後の各篩上の残分重量」を測定すること(段落【0036】。以下「本件測定方法」 ということがある。)が記載されている。さらに,「篩上の残存物は,基本的には不 溶性固形分であるが,サンプルを上述のように水で3倍希釈してもなお粘度を有し ている場合は,たとえメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩上に 残存する場合があり,その場合は適宜水洗しメッシュ目開きに相当する大きさの不 溶性固形分を正しく測定する必要がある。」(段落【0038】)とも記載されている。
本件明細書の上記記載によれば,本件明細書には,測定対象のサンプルが水で3 倍希釈しても「なお粘度を有している場合」であって,メッシュ目開きよりも細か い不溶性固形分が篩上に塊となって残存している場合には,適宜,水洗することに よって塊をほぐし,メッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分の重量,すな わち「日本農林規格のえのきたけ缶詰又はえのきたけ瓶詰の固形分の測定方法に準 じて,サンプル100グラムを水200グラムで希釈し,各メッシュサイズの篩に 均等に広げて,10分間放置後の篩上の残分重量」(段落【0036】)に相当する 重量を正しく測定する必要があることが開示されているものと解される。 そして,本件明細書の「より一層,粗ごしした野菜感,果実感,または濃厚な食 感を呈する。」(段落【0009】),「加工飲食品は,ペースト状の食品,又は飲料の形態を有する。」(段落【0030】)との記載によれば,本件発明に係る加工飲食品 は一定程度の粘度を有するものと認められるから,段落【0036】に記載された 本件測定方法によると,実際に,各篩のメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分 により形成される塊が篩上に残存する場合も想定されるところである。 しかしながら,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に塊となって残 存している場合に追加的に水洗をすると(段落【0038】),本件明細書の段落【0 036】に記載された本件測定方法(測定対象サンプル100グラムを水200グ ラムで希釈し,各メッシュサイズの篩に均等に広げて,10分間放置するという測 定手順のもの)とは全く異なる手順が追加されることになるのであるから,このよ うな水洗を追加的に行った場合の測定結果は,本件測定方法による測定結果と有意 に異なるものになることは容易に推認される。このように,本件明細書に記載され た各測定方法によって測定結果が異なることなどに照らすと,少なくとも,水洗を 要する「なお粘度を有する場合」であって,「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固 形分が篩上に塊となって残存している場合」であるか否か,すなわち,仮に,篩上 に何らかの固形分が残存する場合に,その固形物にメッシュ目開きよりも細かい不 溶性固形分が含まれているのか,メッシュ目開きよりも大きな不溶性固形分である のかについて,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて判別 することができる必要があるといえる(本件条件を満たす本件発明に係る加工飲食 品を生産することができるといえるためには,各篩のメッシュ目開きよりも細かい 不溶性固形分により形成される塊が篩上に残存する場合であるか否かを判別するこ とができることを要する。)。 しかしながら,本件測定方法によって不溶性固形分を測定した際に,篩上に残存 しているものについて,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が含まれている のか否かを判別する方法は,本件明細書には開示されておらず,また,当業者であ っても,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に照らし,特定の方法 によって判別することが理解できるともいえない(篩上に残存しているものが,メ ッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分を含むものであるのか否かについて,一般 的な判別方法があるわけではなく,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,測定 に使用される篩は,目開きが16メッシュ(1.00mm)又は35メッシュ(0. 425mm)のものと認められるから,篩上に残った微小な不溶性固形分について, 単に目視しただけでは明らかではないといわざるを得ない。)。 そうすると,当業者であっても,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術 常識に基づいて,その後の水洗の要否を判断することができないことになる。 したがって,本件発明の態様として想定される,「測定したいサンプル100グラ ムを水200グラムで希釈」しても「なお粘度を有している場合」(段落【0038】)も含めて,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願時 の技術常識に基づいて,本件条件を満たす本件発明に係る加工飲食品を生産するこ とができると認めることはできない。 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明を当業者が実施でき るように明確かつ十分に記載されているものと認めることはできない。\n

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平成28(行ケ)10249  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月23日  知的財産高等裁判所

 永久機関について、発明の成立性違反、実施可能要件違反とした審決が維持されました。本人訴訟です。
 本願明細書を参酌すると,本願発明は,バッテリの電力をDCモータに給電し, 起電コイルから生じた電力の一部をバッテリに充電しながらDCモータに再給電し てDCモータを永久に稼働させ,起電コイルから生じた電力の残りを外部に永久に 供給するとしたものであり,入力した以上の電力(エネルギー)を出力するとした ものであって,明らかに永久機関とみられるものである(なお,本願発明に係る特 許請求の範囲には,トルク脈動レス発電機を「連続的」に稼働させ続ける,電力を 「連続的」に給電し続けるとの記載があるが,この「連続的」が「永久」を意味す ることは,前記1に認定の本願明細書の記載から明らかである。)。 したがって,原告が自認するとおり,本願発明は,エネルギー保存の法則という 物理法則に反するものであるから,自然法則を利用したものではなく,特許法29 条1項柱書の「発明」ではない。
(イ) 原告の主張について
原告は,本願発明がエネルギー保存の法則を破るものであると主張するが,DC モータの銅損若しくは鉄損等の損失又は起動コイルの銅損の損失,あるいは,ネオ ジム磁石と起電コイルとの間で作用する力などを全く考慮しておらず,その主張は 失当である。 また,原告は,DCモータに給電した直流電圧よりも高い交流電圧が起電コイル に発生していると主張し,本願明細書の図4の記載を援用するが,起電コイルから の出力電圧が上がったからといって,DCモータに供給される電力(消費電力)よ りも起電コイルから出力される電力が上回るということはできないから,その主張 は失当である。
(ウ) 小括
以上から,本願発明は,特許法29条1項柱書の「発明」に該当しないから,発 明該当性を欠くとした審決の判断には,誤りはない。
ウ 実施可能要件について
本願発明は,自然法則に反するものであるから,本願明細書の発明の詳細な説明 のいかなる記載をもってしても,当業者が本願発明を実施できないことは明らかで ある。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号の実 施可能要件を欠くとした審決の判断には,誤りはない。\n

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平成27(行ケ)10201  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年1月31日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反なしとした審決が取り消されました。
 このような技術常識を有する当業者が,本件明細書の記載に接した際には,【00 07】に記載された「顕在化した色調変化」,すなわち,比較例において観察された b*値の変化(Δb*)は,L−アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化を含む可 能性があると理解し,イソ\クエルシトリン及びその糖付加物の色調変化のみを反映 したものであると理解することはできないと解される。 そうすると,実施例において,アルコール類を特定量添加しpHを調整すること により,比較例に比べて飲料の色調変化が抑制されていることに接しても,当業者 は,比較例の飲料の色調変化がL−アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化を含 む可能性がある以上,イソ\クエルシトリン及びその糖付加物の色調変化が抑制され ていることを直ちには認識することはできないというべきである。 そして,本件明細書の実施例のb*値の変化(Δb*)は,0.9〜2.0であっ て,0ではないことから,L−アスコルビン酸に起因するb*値の変化(Δb*)は アルコール類の添加によってもマイナスに転じること(製造直後よりも黄色方向の 彩度が減じて青色方向に傾くこと)がないものと仮定しても,当業者は,実施例に おける飲料全体の色調変化の抑制という結果から,イソクエルシトリン及びその糖\n付加物の色調変化の抑制を認識することはできないというほかない。 また,前記(1)イ(オ),(カ)bのとおり,本件出願日当時,イソクエルシトリン及びそ\nの糖付加物が水溶液中のL−アスコルビン酸の分解を抑制することが知られていた ものと認められる。しかし,乙18によれば,イソクエルシトリン及びその糖付加\n物に相当するフラボノイド配糖体A又はBの配合によるアスコルビン酸を含む3 0%エタノール水溶液のL値の減少率の抑制の程度は,これらを配合しない場合を 100%として41.5%又は39.5%に止まり,L値の減少率を0%としたも のではない(すなわち,L値の減少が解消していない。)し,明度を示すL値(L* 値)の変化を示すものであって,本件明細書で測定している黄色方向の彩度を示す b*値の変化を示すものでもなく,また,エタノールの含有量も本件明細書の実施 例・比較例(0.01〜0.50質量%)とは大きく異なるから,当業者において, 本件明細書の実施例・比較例の条件において,L−アスコルビン酸に加え,イソク\nエルシトリン及びその糖付加物が配合されていることから,L−アスコルビン酸の 褐変が生じない(したがって,本件明細書の実施例・比較例の飲料の色調変化には, L−アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化は含まれない。)と理解するものとは いえない。
ウ 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願日当 時の技術常識に照らして,本件訂正発明9〜16は,容器詰飲料に含まれるイソク\nエルシトリン及びその糖付加物の色調変化を抑制することにより,当該容器詰飲料 の色調変化を抑制する方法を提供するという課題を解決できるものと,当業者が認 識することができるとはいえない。
エ 被告は,甲40及び甲69は,審判手続において審理判断されなかった 事実に関する新たな証拠であるから,本件訴訟において,これらの証拠に基づく審 決の違法性を主張することは許されず,取消事由3−4は,本件訴訟の審理の対象 にはならないと主張する。 しかしながら,被告も自認するとおり(前記第4の1(1)),原告は,審判事件弁 駁書(乙8)において「アスコルビン酸が酸化により黄色となることは周知の技術 的事項である」ことを指摘して本件訂正発明9〜16がサポート要件及び実施可能\n要件を欠くと主張しているから(20〜21頁),「アスコルビン酸が酸化により黄色 となることは周知の技術的事項である」ことを根拠として,本件訂正発明9〜16 がサポート要件及び実施可能要件を満たす旨の審決の判断が誤りであることを主張\nすることは当然に認められ,取消事由3−4は,そのような主張を含むものと認め られる。 そして,本件訂正発明9〜16は,被告も自認する「L−アスコルビン酸を含有 する飲料が経時変化により褐変すること」という事実(被告第2準備書面3頁,被 告第3準備書面16頁)を考慮すると,甲40及び甲69を検討するまでもなく, 被告が立証責任を負担するサポート要件の充足を認めることができないことは,前 示のとおりである。なお,被告は,「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有す\nる容器詰飲料が,L−アスコルビン酸の非存在下においても色調変化を生じ,その 色調変化がアルコールによって抑制されること」を立証趣旨として,乙14の実験 成績証明書を提出するが,乙15(技術説明資料)及び本件訴訟の経過に照らすと, 乙2の実験成績証明書と同様に,甲69の信用性を弾劾する趣旨であり,本件明細 書において開示が不十分な発明の効果を実験結果によって補充しようというもので\nはないと解される(仮に,乙14が,甲69の信用性を弾劾するにとどまらず,こ れによりイソクエルシトリン及びその糖付加物を含有し,L−アスコルビン酸を含\n有しない容器詰飲料の色調変化を立証する趣旨であったとしても,そのような立証 は,本件明細書の記載から当業者が認識できない事項を明細書の記載外で補足する ものとして許されない。)。被告の主張は,理由がない。
オ 被告は,「アスコルビン酸を含む」という条件において実施例と比較例は 同一であることを理由として,サポート要件の充足を認めた審決の趣旨は,アスコ ルビン酸を除けば,実施例と比較例のb*値やΔb*値の絶対値は変わるかもしれな いけれども,アスコルビン酸の有無にかかわらず,アルコールの添加によってイソ\nクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化が抑制されるという傾向自体は不変で あることを当業者が理解できると判断したものであり,その判断に誤りはないと主 張する。 この点について,審決は,アルコールを添加した実施例と,アルコールを添加し ない比較例の双方に,L−アスコルビン酸が含まれているとしても,このような実 施例と比較例の色調変化によって,L−アスコルビン酸の非存在下におけるイソク\nエルシトリン及びその糖付加物の色調変化に対するアルコール添加の影響を理解す ることができると判断するところ,L−アスコルビン酸が褐変し,容器詰飲料の色 調変化に影響を与え得るという本件出願日当時の技術常識を踏まえると,このよう に判断するためには,少なくともL−アスコルビン酸の褐変(色調変化)はアルコ ール添加の影響を受けないという前提が成り立つ場合に限られることは明らかであ るが,そのような前提が本件出願日当時の当業者の技術常識となっていたことを示 す証拠はない。したがって,本件明細書の実施例と比較例の実験結果をまとめた【表\n1】により,イソクエルシトリン及びその糖付加物に起因する色調変化の抑制とい\nう本件訂正発明9〜16の効果を確認することはできない。なお,念のため付言す れば,以上の検討は,特許権者である被告が,本件明細書において,イソクエルシ\nトリン及びその糖付加物の色調変化がアルコールにより抑制されることを示す実験 結果を開示するに当たり,同様に経時的な色調変化を示すことが知られていたL− アスコルビン酸という不純物が含まれる実験系による実験結果のみを開示したこと に起因するものであり,そのような不十分な実験結果の開示により,本件明細書に\nイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化がアルコールにより抑制されるこ\nとが開示されているというためには,容器詰飲料の色調変化に影響を与える可能性\nがあるL−アスコルビン酸の褐変(色調変化)はアルコール添加の影響を受けない ということが,本件明細書において別途開示されているか,その記載や示唆がなく ても本件出願日当時の当業者が前提とすることができる技術常識になっている必要 がある。したがって,特許権者である被告において,本件明細書にこれらの開示を しておらず,また,当該技術常識の存在が立証できない以上,本件明細書にL−ア スコルビン酸という不純物を含む実験系による実験結果のみを開示したことによる 不利益を負うことは,やむを得ないものというべきである。
カ 以上によれば,取消事由3−4のうち,サポート要件の判断の誤りをい う点は,理由がある(実施可能要件の判断の誤りをいう点は,必要がないから,判\n断しない。)。

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平成28(行ケ)10001等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月2日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反および実施可能要件違反はないとした審決が維持されました。裁判所は、実施可能\要件とは、物を作れるかどうかが判断基準であるとも判断しました。
 本件発明1から10は,物の発明であり,本件発明11から17は,方法の発明 であるところ,物の発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為であり(特 許法2条3項1号),方法の発明の実施とは,その方法の使用をする行為であるか ら(同項2号),上記実施可能要件を充足するためには,明細書の発明の詳細な説明において,当業者が,明細書の発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき,\n過度の試行錯誤を要することなく,物の発明については,その物を生産し,かつ, 使用することができる程度の記載があること,方法の発明については,その方法を 使用することができる程度の記載があることを要する。
イ 本件特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりであるところ,前記3(1)イ (ア)のとおり,当業者は,葉酸の補充によってMTA等の葉酸代謝拮抗薬の抗腫瘍 活性を維持しながら投与に関連する毒性を低下させることができるという技術常識 の下,MTA等の葉酸代謝拮抗薬の投与に関連する毒性の低下及び抗腫瘍活性の維 持のために,患者の年齢,体重等の属性や身体状態等に応じて適宜の用量・時期・ 方法により葉酸を投与していた。また,ビタミンB12自体は,出願時において既知 の物質であり,筋肉内注射等の投与の方法も,技術常識として確立していた(甲7, 36等)。これらの技術常識に加え,前記3(1)イ(イ)のとおり,本件明細書の発明 の詳細な説明には,葉酸及びビタミンB12の投与の具体的内容についての記載があ ることから(【0028】【0034】【0039】),当業者は,上記記載及び出願 時の技術常識に基づき,過度の試行錯誤を要することなく,本件特許請求の範囲に 記載された投与の量・時期・方法に係る葉酸とビタミンB12をMTAと組み合わせ て投与することを特徴とする医薬を生産することができ,また,方法を使用するこ とができるものというべきである。 そして,1)葉酸代謝拮抗薬の抗腫瘍活性を維持しながら投与に関連する毒性を低 下させるために必要な葉酸の用量は広範囲にわたること及び2)葉酸は,葉酸代謝拮 抗薬と並行して投与すればよく,葉酸代謝拮抗薬よりも先に投与することは必須で はないことは,出願時における技術常識であったことに加え(前記3(2)ア (ア)(イ)),本件明細書の発明の詳細な説明に,乳腺がん腫のC3H菌株に感染さ せたマウスに対し,ビタミンB12を用いて前処置し,次いで葉酸代謝拮抗薬を投与 する前に葉酸を投与することにより,毒性の著しい低下が見られ,葉酸代謝拮抗薬 の毒性をほとんど完全に除くとの記載があり(【0049】【0052】),ヒトにお ける臨床トライアルに関し,ALIMTA(MTA)ないしシスプラチンと併用す る葉酸及びビタミンB12の投与の用量・時期・方法並びに葉酸とビタミンB12の 組合せが薬物関連毒性を低下させたことが具体的に記載されていること(【005 5】〜【0060】【0064】【0065】【表1】)に鑑みれば,本件特許請求の\n範囲に記載された投与の量・時期・方法に係る葉酸とビタミンB12をMTAと組み 合わせて投与することを特徴とする上記医薬ないし方法は,MTA毒性の低下及び 抗腫瘍活性維持のためのものということができる。 以上によれば,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識 に基づいて,本件発明1から10に係る医薬を生産し,使用することができ,また, 本件発明11から17に係る方法を使用することができる。
(2)甲事件原告及び丙事件原告の主張について
ア 甲事件原告は,本件明細書の【0039】記載の葉酸の投与によってMTA 毒性及び抗腫瘍活性がどのようなものになるかについては言及されていない,実施 例においても,MTA毒性の低下と抗腫瘍活性の維持を両立し得るような葉酸の投 与の時期及び方法は示されていない旨主張する。 しかし,前記(1)のとおり,当業者は,出願時の技術常識及び本件明細書の発明の 詳細な説明の記載から,過度の試行錯誤を要することなく,本件特許請求の範囲に 記載された投与の量・時期・方法に係る葉酸とビタミンB12をMTAと組み合わせ て投与することを特徴とする医薬を生産し,また,方法を使用することができ,そ の医薬ないし方法は,葉酸を本件明細書の【0039】記載の方法で投与するもの も含め,MTA毒性の低下及び抗腫瘍活性維持のためのものということができる。 イ 甲事件原告は,本件明細書の【0039】において葉酸の投与時期とされる MTA投与の約1時間前から約24時間前という短時間のうちにベースラインのホ モシステインレベルが低下することは,当業者一般に知られていなかった旨主張す る。 しかし,証拠上,出願時において,ホモシステインレベルを低下させること自体 によって葉酸代謝拮抗薬の投与に関連する毒性ないしそのリスクが軽減するという 技術常識が存在したことは認めるに足りないこと(前記2(2)ウ(オ)参照)から,短 時間のうちにベースラインのホモシステインレベルが低下することが当業者一般に 知られていなかったとしても,それは,実施可能要件違反の有無を左右するものではない。\nウ 丙事件原告は,サポート要件違反と同じ理由により,本件明細書の記載は実 施可能要件に反する旨主張するが,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能\要件を充足するか否かは,当業者が,同記載及び出願時の技術常識に基づき,過度の試行錯誤を要することなく,その物を生産し,かつ,使用することができる程 度の記載があるか否かの問題である。他方,サポート要件は,特許請求の範囲の記 載要件であり,本件特許請求の範囲の記載がサポート要件を充足するか否かは,本 件特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された説明であり, 同記載及び出願時の技術常識により当業者が本件発明の課題を解決できると認識し 得るか否かの問題であり,実施可能要件とは異なる。よって,丙事件原告の上記主張は,それ自体失当である。\n

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平成27(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年12月6日  知的財産高等裁判所

 数値限定発明について、実施可能性違反なしとした審決が維持されました(知財高裁3部)。
特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発 明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすること ができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。\nその趣旨は,特許制度が,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当 該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであることに鑑み,その制 度趣旨が損なわれることがないよう,発明の詳細な説明に当該請求項に係る 発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載を求めるとした\n点にある。 そして,特許法上の実施とは,1)物の発明にあっては,その物の生産,使 用等をする行為であり,2)物を生産する方法の発明にあっては,その方法に より生産した物の使用等をする行為であるから(特許法2条3項1号,3号), 実施可能要件を満たすためには,それぞれ,明細書及び図面の記載並びに出\n願当時の技術常識に基づき,当業者が,1)当該物を生産できかつ使用できる ように具体的に記載すること,2)当該方法により物を生産できかつ使用でき るように具体的に記載することが必要である。 本件訂正発明は,同1,3,5,7,8が炭酸飲料という物の発明であり, 同9が炭酸飲料の製造方法という物の生産方法に関する発明であるから,こ れらの発明が実施可能要件を満たすためには,それぞれ,上記1)又は2)を満 たす必要がある。
(2) かかる実施可能要件に関し,原告は,「可溶性固形分」,「高甘味度甘味\n料によって付与される甘味の全量」及び「甘味量」の技術的意義が本件訂正 明細書の記載から把握できず,また,甘味の相対比が不明確であるため,甘 味の相対比に基づいた本件訂正発明における「全甘味量」,「高甘味度甘味 料によって付与される甘味の全量」及び「スクラロースによって付与される 甘味量」の数値範囲も不明確であって,そのような不明確な数値範囲の技術 的意義も理解できないため,実施例で用いられている甘味料以外の甘味料を 使用して,植物成分を10〜80重量%,及び炭酸ガスを2ガスボリューム より多く含む炭酸飲料を調製する場合に,甘味料をどの程度の量添加すれば, 「植物成分由来の重い口当たりと炭酸ガスに起因する苦味や刺激を軽減」し た炭酸飲料が得られるのか不明であるから,本件訂正発明を実施する際に, 本件訂正明細書の記載及び本件出願時の技術常識を考慮しても,当業者に期 待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものであり, 実施可能要件が満たされていないと主張する。\n(3) そこで検討するに,まず,本件訂正発明の「砂糖甘味換算」及び「砂糖甘 味換算量」という文言の意味が不明確であるとはいえず,本件訂正発明にお ける砂糖甘味換算量は,必要に応じて,換算又は測定可能なものといえるこ\nとは,前記1(取消事由5)で検討したとおりである。 また,植物成分,炭酸ガス及び可溶性固形分の含量,甘味量,並びに高甘 味度甘味料によって付与される甘味の全量については,それぞれの数値範囲 を逸脱した場合に,本件訂正発明の課題が解決できない旨が本件訂正明細書 に十分記載されており,換言すれば,それらの数値範囲内であれば,当業者\nは,本件訂正発明の課題が解決できると理解するものといえ,また,そのよ うな理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があったとは認められない こと,他方で,スクラロースによって付与される甘味量については,その数 値範囲を逸脱した場合に,本件訂正発明の課題が解決できないことまでが本 件訂正明細書に記載されているわけではなく,単に,その数値範囲が好まし い旨が本件訂正明細書に記載されているのみであるが,この記載に接した当 業者は,その数値範囲を少々逸脱した場合でも本件訂正発明の課題が解決で きるであろうと理解するといえること,換言すれば,その数値範囲内であれ ば,当業者は,本件訂正発明の課題が当然解決できると理解するといえ,ま た,そのような理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があったともい えないことは,前記4(取消事由3)で検討したとおりである。 そして,本件出願時の技術常識からみて,本件訂正発明の炭酸飲料を調製 するに当たり,果物又は野菜の搾汁を10〜80重量%の割合とすること(請 求項1の構成要件(1)),炭酸ガスを2ガスボリュームより多くすること(同 (2)),全甘味量を砂糖甘味換算で8〜14重量%とすること(同(4)),高 甘味度甘味料によって付与される甘味の全量を,砂糖甘味換算で全甘味量の 25重量%以上とすること(同(6)),全ての高甘味度甘味料によって付与さ れる甘味の全量100重量%のうち,スクラロースによって付与される甘味 量を,砂糖甘味換算量で50重量%以上とすること(同(7))自体が,当業者 にとって困難なことであるとは認められず,可溶性固形分含量を屈折糖度計 で測定して4〜8度のものとすること(同(3))も,当業者にとって困難な操 作であるとは認められない。 さらに,前記のとおり,本件訂正明細書には,実施例1として,ぶどう果 汁含有量50重量%,炭酸ガス3.0ガスボリューム,スクラロース0.0 065重量%,可溶性固形分含量5.1度の「グレープ炭酸飲料」を,実施 例2として,りんご果汁,レモン果汁及び人参の搾汁を合わせて31重量%, 炭酸ガス2.5ガスボリューム,スクラロース0.0075重量%及びアセ スルファムカリウム0.0035重量%,可溶性固形分含量4.5度の「果 汁入り炭酸飲料」を,実施例4として,リンゴ果汁33重量%,炭酸ガス2. 6ガスボリューム,スクラロース0.0067重量%,可溶性固形分含量6. 0度の「アップル炭酸アルコール飲料」を,それぞれ調製したことが,具体 的に記載されている(前記1(1)ス〜ソ)。また,本件訂正明細書には,甘味\n料について多数の例示があるとはいえ(同ケ),スクラロースと組み合わせ る高甘味度甘味料について具体的に例示されており(同)コ),搾汁とすべき 果物や野菜についても具体的に例示されている(同カ)。 以上を考慮すれば,本件訂正発明の(方法で)炭酸飲料を調製するに当た り,当業者が特段の困難な操作を要するとは認められず,また,その調製に 当業者の過度の試行錯誤を要するとも認められない。 よって,当業者は,本件訂正発明の(方法で)炭酸飲料を作ることができ るというべきであり,「(当該方法により)物を生産でき…る」の要件を満 たすといえる。
(4) また,そのようにして作られた本件訂正発明の数値範囲を満たす炭酸飲料 は,本件訂正発明の課題を解決する,すなわち,果汁等の植物成分と炭酸ガ スの両者を含有する飲料であって,植物成分の豊かな味わいと炭酸ガスの爽 やかな刺激感(爽快感)をバランス良く備えた植物成分含有炭酸飲料である といえる一方,そのような理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があ ったとも認められない。 よって,本件訂正発明の数値範囲を満たす炭酸飲料は,技術上の意義のあ る態様で使用することができるというべきであり,「物を…使用できる」の 要件も満たすといえる。

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平成28(行ケ)10036  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月28日  知的財産高等裁判所(2部)

 無効理由なしとした審決が維持されました。分割要件、訂正要件、サポート要件など各種争われていますが、中心争点は明細書における発明の開示です。
 前記(1)によれば,本件明細書には,1)技術分野につき,【0002】に は,「この開示は全体的に,リンクされたアイテムを作成するための方法とデバイス に関する。より特定には,この開示は,リンクされた装着可能なアイテムを弾性バ\nンドから作成するための方法とデバイスに関する。」と記載され,2)背景技術につき, 【0003】には,「独自に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るため の材料を含むキットは,常にいくらかの人気を博してきた。しかしながら,そのよ うなキットは通常,異なる色に色付けされた糸およびビーズのような原材料を含む だけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人の技量と才能に依存す\n る。従って,独自の装着可能なアイテムを作成するための材料を提供するのみでな\nく,望ましく耐久性のある装着可能なアイテムを成功裡に作成することを多くの技\n量および芸術的レベルの人々にとって容易するする(原文ママ)ように構築を簡略化\nもするキットについての必要と願望がある。」と記載され,そして,これに対応して, 3)発明の概要として,【0004】には,「ブルニアンリンク(Brunnian link)とは,チ ェインを形成するために,別の閉じたループを捕捉するようにそれ自体上で二重化 された閉じたループから形成されたリンクである。そのようなリンクを望ましいや り方で形成するのに,弾性バンドが利用されることができる。例示的キットおよび デバイスは,複雑な構成のブルニアンリンク物品の作成を提供する。しかも,例示\n的キットは,ブルニアンリンク組み立て技術を使って独自の装着可能な物品の成功\nする作成を提供する。」と記載されるとともに,4)発明を実施するための形態の説明 の総括として,【0027】には,「従って,例示的キットおよび方法は,ブレスレ ット,ネックレスおよびその他の装着可能なアイテムの作成のためにブルニアンリ\nンクの多くの異なる組み合わせおよび構成の作成を提供する。しかも,例示的キッ\nトは,潜在的なブルニアンリンク作成の能力を更に作り出して拡張するために拡張\n可能である。更には,例示的キットは,そのようなリンクおよびアイテムの簡単な\nやり方での作成を提供して,様々な技量レベルの人々に独自の装着可能なアイテム\nを成功裡に作成することを許容する。」と記載されている。 これらの記載によれば,本件明細書には,ブレスレットやネックレスなどの「独 自の装着可能なアイテム」を作成するキットは,通常,異なる色に色付けされた糸\n及びビーズのような原材料を含むだけであり,アイテムを構築することは個人の技\n量と才能に依存するため,このように材料を提供するのみでなく,アイテムを成功\n裡に作成することを多くの技量及び芸術的レベルの人々にとって容易にするように 構築を簡略化もするキットについての必要と願望があったことに鑑み,アイテムを\nブルニアンリンクアイテムとし,ブルニアンリンク組み立て技術を使ってブルニア ンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レベルの人々にブルニアンリ ンクアイテムを成功裡に作成することを許容するキットを提供することが記載され ていると認められる。
イ また,本件明細書において,発明を実施するための形態として,次の(ア) 〜(エ)といった複数のキットが記載されているととともに,前記アのとおり,いずれ のキットによっても,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技 量レベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成することを許容するこ とが記載されている(【0027】)
(ア) 単一の列に規定された複数のピン26を有し,各ピン26に,リンク の作成中にゴムバンドの誤った開放を防止するために外向きにフレアー状になった フランジ状上部38と,ピン26の間でゴムバンドの端部を動かすために利用され るフックツール16の挿入のための間隙を提供する前方アクセス溝40が形成され たピンバー14を,3つ横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造と\nしたキット(【0009】〜【0015】,【0020】〜【0022】)
(イ) (ア)のキットに対しピンバー14を追加して,例えば5つのピンバー1 4を横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造としたキット(【001\n9】)
(ウ) 6つのピンバー14を横並びに揃えてベーステンプレート66上にサ ポートさせて一体構造としたキット(【0024】)
(エ) ベーステンプレート66のサイドに形成されたジョイント80,82 を用いて,例えば2つの(ウ)のキットを縦方向あるいは横方向に連結させて一体構造\nとしたキット(【0025】及び【0026】)
ウ そして,いずれのキットも,複数のピンバー14をベース12ないしベ ーステンプレート66上にサポートさせて一体構造としたものは,ピンバー14及\nびベース12ないしベーステンプレート66が一体をなして複数のピン26をサポ ートする構造にほかならず,このことは,段落【0011】に,「ピン26を望まし\nい揃えでサポートするために,・・・1つまたはいくつかのピンバー14がいくつか のベース12に載置されている。」との記載,すなわち,「ピン26」をサポート対 象とする旨の記載があることからも明らかである。そして,ベーステンプレート6 6も「ベース」の概念であると認められることから,いずれのキットも,複数のピ ンバー14をベース12ないしベーステンプレート66上にサポートさせて一体構\n造としたものは,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レ ベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成するための,複数のピンが (ピンバーの本体部を介して)ベースに(間接的に)サポートされた構造のもので\nあると理解できる。 そうすると,いずれのキットも,特に「ピンバー」の限定がない,本件発明1の 「一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって,/ベースと,/ ベース上にサポートされた複数のピンと,を備え,/前記複数のピンの各々は,リ ンクを望ましい向きに保持するための上部部分と,当該複数のピンの各々の前面側 の開口部とを有し,複数のピンは,複数の列に配置され,相互に離間され,且つ, 前記ベースから上方に伸びている/装置。」,又は,本件発明6の「一連のリンクか らなるアイテムを作成するためのキットであって,/リンクを望ましい向きに保持 するための上部部分と,複数のピンの各々の前面側の開口部を含み,ベースにより お互いに対してサポートされた複数のピンを備え,/前記複数のピンは,複数の列 に配置され,相互に離間され,且つ,前記ベースから上方に伸びている,/キット。」 の構成を充足するものであり,いずれのキットも本件発明の実施形態であると認め\nられる。
エ 以上によれば,本件発明の課題は,審決が認定するとおり,個人の技量 に依存することなく,様々な技量レベルの人々に,「ブルニアンリンクアイテム」を 簡単に作成するキットを提供することにあると認められる。
オ そして,本件訂正により,本件明細書は訂正されておらず,前記ア〜エ に記載の点は,本件訂正発明についても該当するものと認められる。 したがって,本件訂正によって本件発明の課題が変更されたとは認められないか ら,これを根拠とする原告の主張は理由がない。
カ これに対し,原告は,本件訂正の前後を問わず,本件発明及び本件訂正 発明〔全部〕の本質は,「ベースとピンバーを様々な向きに組み合わせることにより, 無尽のバリエーションの編み物製品を容易に作成することができる編み機を提供す ること」にあるが,仮に,本件訂正後の発明の本質が審決認定のとおり「個人の技 量に依存することのない『ブルニアンリンク』作成方法を『提供』する」ことに発 明の本質があるのであれば,本件訂正により発明の本質が変更され,特許請求の範 囲を実質的に変更するものであると主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件明細書の背景技術(【0003】)には,「独自 に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るための材料を含むキット は,・・・原材料を含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人 の技量と才能に依存する」という課題があり,「望ましく耐久性のある装着可能\\なア イテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容 易」となるように,「構築を簡略化もするキットについての必要と願望がある」こと\nのみが記載されており,原告主張の編み物製品のバリエーションに関する課題(バ リエーションに乏しいこと)は記載されていない。また,発明の概要についてみて も,その冒頭(【0004】)には,ブルニアンリンクの説明や,その作成に弾性バ ンドが利用可能であることに続けて,「例示的キットは,ブルニアンリンク組み立て\n技術を使って独自の装着可能な物品の成功する作成を提供する。」として,「原材料\nを含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人の技量と才能に\n依存する」という前記課題を解決したことが記載され,原告主張の編み物製品のバ リエーションについて記載されているものではない。 そうすると,本件明細書には,発明の概要に「ベースとピンバーは,完成された リンクの向きの無尽のバリエーションを提供するように,様々な組み合わせおよび 向きに組み立てられ得る。」と記載され(【0005】),また,ベース12ないしベ ーステンプレート66とピンバー14との組合せにより,前記イ(ア)〜(エ)のいず れのキットをも構成し得ることが記載されていることを考慮しても,これらは拡張\n的な機能であって,ベース12とピンバー14を様々な向きに組み合わせることに\nより,無尽のバリエーションを提供することは,本件明細書において必須の技術事 項であるとは認められない。

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平成27(行ケ)10226  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月24日  知的財産高等裁判所

 発明未完成、明確性違反、実施可能性違反として拒絶された出願について、審決取消訴訟が提起されました。知財高裁(第1部)は、実施可能要件違反として審決を維持しました。
 ア 前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例1)では,本願マトリ ックスを通過した白昼光に対し蒸留水を24時間常温で暴露する実験を行ったとこ\nろ,水が同期化したことが認められ,この点については当事者間に争いがないとこ ろである。しかしながら,上記実験は,実験条件の詳細が明らかではなく,本願明 細書の表1における「基準」に関する実験条件も具体的に記載されていないことか\nらすると,本願マトリックスを使用した場合とこれを使用しなかった場合における 比較実験を行ったものと認めることはできない。のみならず,水の同期化の理論的 なメカニズムは十分に解明されていない上,特開2004−2514985)公報(乙 2の【要約】,【0006】,【0011】)によれば,かえって,マイクロウェーブ,超音波,マイクロ波超音波,赤外線(遠赤外線,中間赤外線,近赤外線を含む。)な どを使用することによって,水分子の回転運動を促進し,本願水特性のように,凝 固点における水温をマイナス10度以下に降下させることが可能になるとされてお\nり,しかも,上記近赤外線(780nm〜2500nm)は,本願発明にいう入射光の 範囲(360nm〜3600nm)に含まれるのであるから,本願マトリックスを通過 しない入射光であっても水を一定程度同期化し得ることが認められ,水の同期化が 本願マトリックス以外の実験条件によって生じた可能性も残るといわざるを得ない。\nそうすると,本願明細書にいう上記実験は,水が同期化された原因が,その他の実 験条件によるものではなく,専ら入射光が本願マトリックスを通過したことによる ことまでを立証するものとはいえない。 したがって,立証事項Aが立証されたということはできない。
イ また,前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例14)では,男 性2名及び女性2名に対し,本願マトリックスを耳鳴り症状を示す耳の後部の頭蓋 基底部に,皮膚に穏やかな接着剤で局所的に配置する実験を行ったところ,このう ち3名の耳鳴り症状が24時間以内に消失し,1名の耳鳴り症状が1週間以内に消 失したことが認められる。しかしながら,上記実験における被験者は僅か4名にと どまり,しかも本願マトリックスを使用しない場合との比較試験を行うものではな いことからすれば,耳鳴り症状が自然治癒又はいわゆるプラセボ効果(乙11)に より消失した可能性も残るというほかない。のみならず,証拠(乙6ないし9)及\nび弁論の全趣旨によれば,キセノンが発する光のうち近赤外線を利用した耳鳴り治 療法(いわゆるキセノン光線療法)が現に実施されていることが認められることか らすれば,上記実施例における実験においても,被験者の耳の後部に照らされた光 が耳鳴り治療に一定程度有効に作用した可能性も残ることが認められる。したがっ\nて,本願明細書にいう上記実験は,耳鳴り症状が本願マトリックス自体によって消 失したものであることまでを立証するものとはいえない。 したがって,立証事項Bが立証されたものとはいえない。
ウ 以上によれば,本件立証事項が立証されたものと認めることはできず,本願 明細書は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載\nたものとはいえない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,本願明細書にいう上記各実験結果はA宣誓書によって裏付けられて いる旨主張する。しかしながら,本願マトリックスを使用した実験がA教授の研究 室で行われたことはうかがわれないことからすれば,A宣誓書は,本願明細書にい う実験によって同期化された水の性質が,A教授の研究室での実験結果と同一であ るというにとどまり,水を同期化するとされる入射電磁エネルギーが本願マトリッ クスによって形成されることまでを裏付けるものとはいえない。したがって,原告 の上記主張は,A宣誓書を正解しないものであって,採用することができない。
イ 原告は,人に対する治療を目的とする発明に対し,特許出願前のごく僅かな 期間に厳格な実験を行うことを求めるのは困難を強いるものであって現実的ではな く,また,本願明細書の耳鳴り治療に関する実験はA宣誓書によっても裏付けられ ている旨主張する。しかしながら,比較実験の被験者となる耳鳴り患者の人数が少 ないことを認めるに足りる証拠はなく,耳鳴り症状の比較実験の方法についても, 例えば耳鳴り症状を示す両耳のうち片耳に限り本願マトリックスを配置すれば足り るのであるから,格別困難を強いるものとはいえず,原告の主張は,その前提を欠 く。また,A宣誓書は,「例14は,パイロット臨床実験におけるTGMの適用が4 人のヒト被験者における耳鳴り症状に対して有利な効果を有したことを実証してい る」(甲11〔53頁4行目ないし5行目〕参照)として,単に実験結果を追認する ものにすぎず,A教授の研究室で本願マトリックスによる耳鳴り症状の改善に関す る実験が行われていない以上,A宣誓書によっても本願マトリックスによって耳鳴 り症状の改善効果があることを認めることはできない。さらに,原告主張に係る報 告書(甲22)における実験も,上記(3)イで説示するところと同様に,比較試験を 行うものではなく,本件立証事項を裏付けるものとして適切ではない。したがって, 原告の主張は,その裏付けを欠くというほかなく,採用することができない。 (5) まとめ
上記によれば,本願明細書は当業者が本願発明の実施をすることができる程度に 明確かつ十分に記載したものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張\nする取消事由3(特許法36条4項15)〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)は\n理由がない。

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平成27(行ケ)10176  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月12日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、請求項1,2及び4の数値範囲について、実施可能要件を満たしていないと判断しました。また、請求項3について、審判では主張していなかったサポート要件は、本来審理の対象とはならないが、念のため判断するとして、最終的にはサポート要件を満たしていると判断しました。\n
 (カ) 以上によれば,本件出願日当時,パルスレーザー蒸着法により,アモ ルファスのInGaO3(ZnO)m(m=1〜4)を形成することが可能であるこ\nとは確認できるものの(甲3,4,6,7),mが5以上の場合は開示されておらず, mが5以上のZnOに近い組成ではアモルファス相は得られないとの指摘もされて いた(甲3)から,当業者は,mが5以上の薄膜の作成は極めて困難と認識してい たものと認められる。
エ そして,本件明細書には,かかる当業者の認識にもかかわらず,mが5 以上50未満であるアモルファスの本件化合物薄膜を作成する方法についての記載 はない。
(3) したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,mが5以上50未 満の整数である場合を含む本件発明1,2及び4について,当業者が,アモルファ スの本件化合物薄膜を形成することができる程度に明確かつ十分に記載されたもの\nであるということはできないから,実施可能要件を欠くものと認められる。\nそうすると,その余の点について検討するまでもなく,取消事由3には,理由が ある。
(4) これに対して,被告は,本件発明は,InGaO3(ZnO)m膜につい て電界効果トランジスタの活性層に適するという未知の属性を発見し,その属性は アモルファスでも奏されることを見出したものであり,mの値の数値限定にのみ意 義のある発明ではないから,透明薄膜電界効果型トランジスタという物品の活性層 を構成する材料についてmの値の全範囲にわたって物品を作製する実施例の記載が\n必要であるということにはならない,と主張する。 しかし,被告の主張するとおり,本件発明がmの値の数値限定にのみ意義がある のではないとしても,本件発明の請求項の記載には,mが5以上のアモルファス薄 膜も含まれているから,かかるアモルファス薄膜を形成することができる程度の記 載が,本件明細書に求められるというべきである。しかも,上記(2)のとおり,本 件出願日当時には,mが5以上の組成ではアモルファス相は得ることが極めて困難 であるという当業者の認識があったにもかかわらず,本件明細書にはmが5以上5 0未満であるアモルファスの本件化合物薄膜の作成方法についての記載がない以上, 本件発明1,2及び4について,当業者が,アモルファスの本件化合物薄膜を形成 することができる程度に,その作成方法が明確かつ十分に記載されたものであると\nいうことはできない。
・・・・
(2) 原告は,本件発明3に関しては,本件明細書の発明の詳細な説明に記載さ れている実施例は,単結晶のInGaO3(ZnO)5に関するものたった 1 つであ り,本件明細書の発明の詳細な説明には,MがIn,Fe,Alの場合の本件化合 物も,m=5以外の場合の本件化合物も開示されていないから,サポート要件を欠 く,と主張する。これに対し,被告は,原告は上記主張を無効審判請求時にしていなかったから,本件訴訟において主張するのは不適法である,と反論する。
(3)ア 特許法は,特許無効の審判について,そこで争われる特許無効の原因が 特定されて当事者らに明確にされることを要求し,審判手続においては,上記特定 された無効原因をめぐって攻防が行われ,かつ,審判官による審理判断もこの争点 に限定してされるという手続構造を採用していることが明らかである。したがって,\n特許無効審判の審決に対する取消しの訴えにおいて,その判断の違法が争われる場 合には,専ら審判手続において現実に争われ,かつ,審理判断された特定の無効原 因に関するもののみが審理の対象とされるべきである(最大判昭和51年3月10 日,民集30巻2号79頁参照)。
イ 本件において,審判段階では,原告が主張していた本件発明3に関する 無効理由6の概要は,以下のとおりである(甲40)。 本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載に接した当業者は,高温で反応性 固相エピタキシャル成長させて形成した本件化合物単結晶薄膜を,活性層に用いる と,ノーマリーオフの透明薄膜電界効果型トランジスタを得ることができると認識 する。一方,本件発明3には,YSZなどの酸化物単結晶基板上のZnOエピタキ シャル薄膜上に,高温である800℃以上,1600℃以下で反応性固相エピタキ シャル成長して形成した本件化合物単結晶薄膜を,活性層に用いたことが規定され ていない。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は, 本件発明3がノーマリーオフになると認識できないというべきである。
ウ そうすると,原告が本件訴訟において取消事由4と主張する,本件明細 書の発明の詳細な説明には,MがIn,Fe,Alの場合の本件化合物も,m=5 以外の場合の本件化合物も開示されていないことが,サポート要件を欠くというべ きか否かについては,審判においては現実に争われたものではなく,審理判断され たものではないといわざるを得ない。
(4) これに対して,原告は,サポート要件があることの立証責任は特許権者で ある被告にあるから,審判請求人である原告はサポート要件違反があるという争点 を指摘すれば足り,取消事由4に係る主張は不適法ではない,と主張する。 しかし,上記(3)アのとおり,審決取消訴訟における審理範囲は,立証責任の所在 ではなく,実際に審理判断された特定の無効原因といえるか否かによって画される のである。原告の主張には,理由がない。
(5) 以上のとおり,原告の取消事由4の主張は,主張自体失当であるが,念の ため,原告主張の理由により,本件発明3はサポート要件を欠くかについて判断す る。
ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,単結晶の本件化合物薄膜を形成す る方法について,「YSZ(イットリア安定化ジルコニア)基板上に育成したZnO 単結晶極薄膜上に,アモルファスのホモロガス化合物薄膜を堆積し,得られた多層 膜を高温で加熱拡散処理する「反応性固相エピタキシャル法」により,ホモロガス 単結晶薄膜を育成する」(【0007】),「上記のホモロガス単結晶薄膜の製造方法と 同様に,ZnO薄膜上にエピタキシャル成長した複合酸化物薄膜を加熱拡散する手 段を用いる」(【0008】)と記載され,ZnO薄膜上に形成する本件化合物薄膜に ついては,「MBE法,パルスレーザー蒸着法(PLD法)等により成長させる。」 (【0019】),「得られた薄膜は,単結晶膜である必要はなく,多結晶膜でも,ア モルファス膜でも良い。」(【0020】)との記載がある。 そして,実施例1として,単結晶InGaO3(ZnO)5薄膜(m=5の場合) を活性層としたトップゲート型MISFET素子の作製方法が記載されている(【0 028】〜【0031】,図1〜4)。 エ したがって,本件発明3は,サポート要件を満たしているものと認めら れ,いずれにしても,取消事由4には,理由がない。

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平成27(行ケ)10148  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年8月3日  知的財産高等裁判所

 コンピュータにおける処理について、実施可能性違反とした審決が維持されました。最後に審判手続きについて付言がなされています。
 本願明細書には,「複数のプロセッサコア」という分散された環境に備えられた 「プレディケート予測器」において行われる「プレディケート命令の出力」の「予\ 測」処理の内容に関し,【0026】ないし【0029】の記載があり,ここには, 「概略プレディケート経路情報」を用いて,2つの履歴レジスタ,すなわち,コア ローカル履歴レジスタとグローバル分岐履歴レジスタを生成し,それを用いて「プ レディケート命令の出力」の予測を行うこと(【0026】,【0027】),並\nびに,上記グローバル分岐履歴レジスタに対応するグローバル履歴レジスタとして, 「コアローカルプレディケート履歴レジスタ」を用いる実施例(【0028】,図 6A)及び「グローバルブロック履歴レジスタ」を用いる実施例(【0029】, 図6B)が記載されている。 しかし,上記記載からは,「概略プレディケート経路情報」からコアローカル履 歴レジスタとグローバル分岐履歴レジスタという二つの履歴レジスタをどのような 処理により分けて生成するのか,また,当該二つの履歴レジスタをどのような処理 により「プレディケート命令の出力」の「予測」において使い分けるのか,さらに,\n上記二つの履歴レジスタを用いた「プレディケート命令の出力」の「予測」を信頼\n性の高く正確なものとするために「概略プレディケート経路情報」として具体的に どのような内容が必要とされるのか,把握することはできない。 したがって,本願明細書の上記記載から,「複数のプロセッサコア」という分散 された環境に備えられた「プレディケート予測器」において,信頼性の高いプレデ\nィケートの正確な予測に役立ち得るプレディケート履歴を生成し,コア間の通信を\n最小にするために,「概略プレディケート経路を表す情報」に基づく「予\測」の処 理が具体的にどのように行われているのか明らかであるということはできない。 そして,当業者にとって,本願の優先日当時の技術常識に基づき,「複数のプロ セッサコア」という分散された環境に備えられた「プレディケート予測器」におい\nて,信頼性の高いプレディケートの正確な予測に役立ち得るプレディケート履歴を\n生成し,コア間の通信を最小にするために,「概略プレディケート経路を表す情\n報」に基づいて行われる「予測」の処理内容が自明であることを認めるに足りる証\n拠はない。 そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,「複数のプロセッサ コア」という分散された環境に備えられた「プレディケート予測器」において,信\n頼性の高いプレディケートの正確な予測に役立ち得るプレディケート履歴を生成し,\nコア間の通信を最小にするために,「概略プレディケート経路を表す情報」に基づ\nいて行われる「予測」の処理内容を理解することができるように記載されていると\nいうことはできない。 エ 以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は,「複数のプロセッサコ ア」という分散された環境において,「プレディケート予測器」が「概略プレディ\nケート経路を表す情報」に基づいて「プレディケート命令の出力を予\測する」とい う処理を行うことにより,信頼性の高いプレディケートの正確な予測に役立ち得る\nプレディケート履歴を生成することができ,同時にコア間の通信を最小にするとい う作用効果を奏するコンピューティングシステムを製造し,使用することができる 程度に記載されていない。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1の実施をす ることができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。\n
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願明細書には,1)対象のアーキテクチャは,EDGEアーキテク チャのようなハイブリッドなデータフローのアーキテクチャであること,2)コンパ イラが,各ブロックの分岐命令に,プログラム内での分岐命令の順序にしたがって, 3ビットの「終了コード」(「出口コード」ともいう。)を割り当てること,3) 「概略プレディケート経路情報」は,コンパイラによって,分岐命令に符号化され, 特定のブロックの具体的な分岐を識別可能であること,4)予測器が,分岐命令に符\n号化された「概略プレディケート経路情報」を用いてプレディケート予測を行うこ\nとが記載されているところ,EDGEアーキテクチャにおいて,分岐命令に出口を 識別する例えば3ビットの識別子を割り当て,それを分岐命令に符号化することは, 本願の優先日前に技術常識であったから,当業者であれば,本願の「概略プレディ ケート経路情報」は,出口を識別する例えば3ビットの「終了コード」として分岐 命令に符号化された情報であると理解し,コンパイルのタイミングでコンパイラに よって,分岐命令の分岐先を,例えば3ビットの終了コードで表した形式で,分岐\n命令に符号化された情報であり,予測器によってプレディケート予\測に用いられる 情報であると理解する旨主張する。 イ しかし,原告が挙げる甲9(「Analysis of the TRIP S Prototype Block Predictor」平成21年4月)及 び甲10(「Distributed Microarchitectural Protocols in the TRIPS Prototype Proc essor」平成18年12月)は,EDGEアーキテクチャの一例である「TR IPS」という特定のアーキテクチャについて,「分岐命令に出口を識別する例え ば3ビットの識別子を割り当て,それを分岐命令に符号化すること」を記載したも のにすぎず,EDGEアーキテクチャ一般について記載したものではない。したが って,上記証拠(甲9,10)から,本願の優先日前に「EDGEアーキテクチャ において,分岐命令に出口を識別する例えば3ビットの識別子を割り当て,それを 分岐命令に符号化すること」が技術常識であったと認めるに足りず,他にこれを認 めるに足りる証拠はない。 ウ また,前記イの点を措き,仮に当業者において,本願明細書の「概略プレデ ィケート経路情報」は,出口を識別する例えば3ビットの「終了コード」として分 岐命令に符号化された情報であると理解し,コンパイルのタイミングでコンパイラ によって,分岐命令の分岐先を,例えば3ビットの終了コードで表した形式で,分\n岐命令に符号化された情報であり,予測器によってプレディケート予\測に用いられ る情報であると理解したとしても,本願発明1の「概略プレディケート経路を表す\n情報」に相当する「概略プレディケート経路情報」について,1)そのデータ形式, 2)その形式に「終了コード(出口コード)」という,本願明細書全体の記載から見 ても内容が不明なコードが関連していること,3)分岐命令への符号化という処理が コンパイラによってされること,4)予測器によるプレディケート予\測に用いられる ことが把握できるにすぎず,「出口を識別する例えば3ビットの「終了コード」と して分岐命令に符号化された情報」が,「プレディケート命令の出力」の「予測」\nを信頼性が高く,正確なものとする上で,具体的にどのような内容のものであるの かを把握することはできない。 したがって,「複数のプロセッサコア」という分散された環境に備えられた「プ レディケート予測器」において,信頼性の高いプレディケートの正確な予\測に役立 ち得るプレディケート履歴を生成し,コア間の通信を最小にするために,「概略プ レディケート経路を表す情報」に基づく「予\測」の処理が具体的にどのように行わ れているのかが,明らかであるということはできない。
(4) 小括
以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1の実施を することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできないから,\n本願発明1を特許請求の範囲に含む本願は,拒絶すべきものである。
・・・・
以上によれば,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,理 由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 本件審決は,最終的な結論において誤りはなかったことから,取り消すべきもの とはされなかったが,以下の問題があるから,事案に鑑み,本件審決書について付 言する。まず,本件審決は,その判断において,平成25年9月6日付けで通知し た拒絶理由及び同年12月27日付けでした拒絶査定の内容を引用した上で,本願 発明が,拒絶査定で示された理由を解消しているか否かを判断するという体裁で, しかも,前記第2の3のとおり,本件補正前の請求項と本件補正後の請求項が混在 したまま,審決の理由を示している。しかし,本件審決における判断対象は,本件 補正後の請求項であり,本件補正後の本願発明に拒絶理由が存在するか否かを判断 すべきである。また,本件審決におけるサポート要件に係る判断は,その結論部分 において,本件補正後の請求項の全てについてサポート要件を満たさない旨判断し ていながら,本件補正後の請求項1についてしかその具体的理由が言及されておら ず,実施態様の異なる他の請求項についても,サポート要件を満たさないことにな る理由は,何ら具体的に述べられていない。以上のとおり,本件審決書は,適切と はいい難いものであって,判断対象を明確にして,結論を導くに足りる理由を示す ことが望まれる。

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平成27(行ケ)10017  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年11月24日  知的財産高等裁判所

 審決は36条違反(実施可能要件、サポート要件)としましたが、知財高裁はこの判断については取り消しました。ただ、審決が進歩性なしとした判断については維持され、結局審決は維持されました。
 審決は,本願発明のうち,間隔保持部材を有さない構成において,各分\n離ディスク間に精度よく間隔を形成する方法が,発明の詳細な説明に,当業者が実 施可能な程度に記載されていない,とする。\nイ しかしながら,複数の部材を相互にはんだ付け又は溶接により接合する 場合に,当該複数の部材は,一定の時間相互に近接保持される必要があるが,様々 な治具等によって空間内の特定の位置に固定されることは,技術常識といえる。例 えば,従来,・・・が開示されており,このことは,本件発明のように,多数の分離ディスクが含 まれる場合も同様である。そして,当業者にとって,各分離ディスクの間隔をどの 程度とするか,また,その間隔の精度をどの程度とするかは,各分離ディスクの固 定手段により適宜調整可能なことである。\nしたがって,審決の特許法36条4項1号に関する判断には,誤りがある。 ウ これに対して,被告は,本願発明において,間隔保持部材を設けること なしに,はんだ付け又は溶接するだけで,遠心分離機の分離ディスクとして回転す る場合でも回転に関して動的に安定したものとすること,及び,適切に遠心分離を 行うために必要な薄い流動空間を正確に形成できることまでは,明細書の記載から 明らかではなく,技術常識でもない,と主張する。しかしながら,本願発明のよう な遠心分離機において,間隔保持部材を設けることが必須であるといった技術的知 見の存在を裏付けるに足る適切な証拠は提出されていない。 ・・・ ア 審決は,本願発明のうち,間隔保持部材を有さない構成が発明の詳細な\n説明に記載されていない,とする。 イ 確かに,発明の詳細な説明中,実施例においては,間隔保持部材を有さ ない構成は挙げられておらず,かかる構\成が含まれることは明示されてはいない。 しかしながら,本願発明は,分離ディスクの凹部内に配置されている封止部材によ る摩耗などに起因するディスク強度の問題や(【0003】),これを回避するためね じ接続を採用し,さらに,分離ディスクを圧縮する構成によった場合の各分離ディ\nスクの対称性や相互の位置合わせへの悪影響といった問題(【0004】)を解消す るために,金属製のディスクをはんだ付け又は溶接によって接合するという構成を\n採用したものであるところ,間隔保持部材の有無は,上記各課題の解決には関連し ないのであるから,間隔保持部材がない構成が記載されていないと解することはで\nきない。 よって,審決の特許法36条6項1号に関する判断には,誤りがある。 ウ 被告は,遠心分離機においては遠心分離を受ける液体用に分離室を多く の薄い流動空間に分け,分離ディスク間の隔離部材(間隔保持部材)を配置するこ とが一般的であり,適切に遠心分離を行うために分離ディスク間の薄い流動空間を 正確に形成する必要があることは明らかである,と主張する。 しかしながら,被告の摘示する特表平11−506385号公報(甲2)には,\n間隔保持部材を機能させる場合,すなわち,間隔保持部材が必要な場合には,分離\nディスクに固定するとの記載しかなく,間隔保持部材が必須ということは読み取れ ないし,他にこの点を認めるに足る証拠もない。

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平成26(行ケ)10238  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年8月5日  知的財産高等裁判所

 薬剤投与に用いる活性発泡体について、実施可能要件違反であるとした審決が取り消されました。
 特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発 明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすること ができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。\n特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実 施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の 技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法36条 4項1号が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当 業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されて\nいない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許 法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことにあると解される。 そして,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする 行為をいうから(特許法2条3項1号),同法36条4項1号の「その実施 をすることができる」とは,その物を作ることができ,かつ,その物を使用 できることであり,物の発明については,明細書にその物を生産する方法及 び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載が なくても,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき,当業 者がその物を作ることができ,かつ,その物を使用できるのであれば,上記 の実施可能要件を満たすということができる。\n さらに,ここにいう「使用できる」といえるためには,特許発明に係る物 について,例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることが できるなど,少なくとも何らかの技術上の意義のある態様で使用することが できることを要するというべきである。 これを本願発明についてみると,本願発明は,前記第2の2に記載のとお りの活性発泡体であるから,本願発明は物の発明であり,本願発明が実施可 能であるというためには,本願明細書及び図面の記載並びに本願出願当時の\n技術常識に基づき,当業者が,本願発明に係る活性発泡体を作ることができ, かつ,当該活性発泡体を使用できる必要があるとともに,それで足りるとい うべきである。
(2) 活性発泡体を作ることができるかについて
まず,当業者において,本願明細書の記載に基づいて,本願発明に係る活 性発泡体を作ることができるかどうかを検討する。 前記1によれば,
・・・・
これらの記載に接した当業者であれば,本願明細書に記載された各種 のゴム又は合成樹脂と,各種のジルコニウム化合物及び/又はゲルマニ ウム化合物とを組み合わせ,実施例に記載された製造方法に従って,本 願発明の「天然若しくは合成ゴム又は合成樹脂製で独立気泡構造の気泡シ\nートを備えた活性発泡体であって,前記気泡シートは,ジルコニウム化合物 及び/又はゲルマニウム化合物を含有」する活性発泡体を製造することがで きるというべきであり,また,当該活性発泡体を,例えば,敷きマットのよ うな,「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことが できる形態とすることもできるというべきである。
(3) 活性発泡体を使用できるかについて
次に,当業者において,本願明細書の記載及び本願出願当時の技術常識に 基づいて,本願発明に係る活性発泡体を使用できるかどうかについては,活 性発泡体を前記(2)のとおりの形態とすることができる以上,当該活性発泡 体を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」こと自体 は当然にできると考えられることから,かかる用い方にどのような技術上の 意義があるのかについて検討する。
ア 本願明細書には,本願発明が解決しようとする課題として,「血行を促 進し,体質改善や,癌等の病気の治癒を促進することができる活性発泡体 を提供すること」との記載がある([0007])。しかしながら,これ らの効果については「そのメカニズムは解明されていない」とあり([0 009]),その作用機序に関しても,ジルコニウム化合物及びゲルマニ ウム化合物によって活性発泡体外へ発生させた特定波長の赤外線と人体の 波長とが共振する結果,人間の自然の治癒力が増進される旨の記載はある ([0010])ものの,これも本願明細書自体が認めるとおり,推測の 域を出るものではない。
イ そして,本願明細書では,<試験1>として,被験者1名が活性発泡体 を敷いた椅子の上に30分間静止状態で座った後の血流量,血液量,血流 速度及び体圧を,活性発泡体を敷いていない椅子の上に30分間静止状態 で座った後のそれらと比較した結果を踏まえ,「本活性発泡体を使用すれ ば,血行がよくなり,体圧が下がることが分かる。」と結論付けている ([0035]ないし[0040])。 しかしながら,この試験は,活性発泡体を「人体に直接又は間接的に接 触させて用いる」態様で行われた試験ではあるものの,この試験において 用いられた活性発泡体がどのようなものであるのか(特に,ジルコニウム 化合物及びゲルマニウム化合物のどちらを,あるいはその両方を,どの程 度含有するのか)については,本願明細書に記載がなく定かではない。ま た,本願出願当時の当業者の技術常識に照らしても,被験者は50代の女 性1名のみであるから,その試験結果を人体一般に妥当する客観的なもの として評価することが可能であるともいい難いし,試験条件の詳細も明ら\nかではないから,この試験における血流量や体圧の計測結果から導かれる とされる「本活性発泡体を使用すれば,血行がよくなり,体圧が下がる」 との効果が,活性発泡体を使用したことによるものであるのか,それ以外 の要因に基づくものであるのかどうかについても,直ちに検証することは できない。 そうすると,<試験1>の結果のみから,活性発泡体を「人体に直接又 は間接的に接触させて用いる」ことに,人体の血行を促進することが期待 できるという技術上の意義があるというのには疑問がある。とはいえ,例 えば,<試験1>に係る諸条件の説明や,他の試験結果の存否及びその内 容次第では,本願発明に係る活性発泡体の使用に,かかる技術上の意義が あることが裏付けられたということのできる余地もあるというべきである。
ウ また,本願明細書は,<試験2>に基づき,「活性発泡体は,ガン細胞 のアポトーシス回路を立ち上げ,ガン細胞の働きを弱体化する作用を促進 する。」とする([0051])。 しかしながら,<試験2>は,前立腺癌細胞を培養した培養皿を上下か ら活性発泡体で挟んだ状態で培養し,活性発泡体なしの状態で培養したも のとの比較を行ったというものであり,活性発泡体を,「人体に直接又は 間接的に接触させて用いる」場合として想定されるような態様とはおよそ 異なる態様で用いているから,本願出願当時の当業者の技術常識を踏まえ ても,かかる試験結果から,活性発泡体を「人体に直接又は間接的に接触 させて用いる」ことに,癌細胞の弱体化を期待できるという技術上の意義 があるということはできない。
エ さらに,本願明細書には,本願発明の効果や産業上の利用可能性に関し\nて,「本活性発泡体は,薬剤投与の際に,人体に直接又は間接的に接触さ せて用いれば,その薬剤の効果を上げることができる。また,大量に使え ば副作用のある薬剤であっても,本活性発泡体を併用すれば少量ですむの で,副作用を抑えることができる。」との記載がある([0024], [0061])。そして,これらの効果に関して,<試験3>に基づき, 「活性発泡体とHDACIとを同時に用いることにより,活性発泡体は, HDACIのヒト前立腺癌細胞の増殖抑制効果を促進することができる。 原理的には,この方法は全ての癌に有効な治療法と考えられる。」とする ([0059])。 しかるに,<試験3>についても,前立腺癌細胞を培養したマイクロプ レートにSB(酪酸ナトリウム)を添加し,プレートを活性発泡体で上下 から挟んだものと,活性発泡体を用いずに前立腺癌細胞を培養し,SBを 添加したものとの比較を行ったというものであり,活性発泡体を,「人体 に直接又は間接的に接触させて用いる」場合として想定されるような態様 とはおよそ異なる態様で用いているから,本願出願当時の当業者の技術常 識を踏まえても,これらの試験結果から,活性発泡体を「人体に直接又は 間接的に接触させて用いる」ことに,薬剤の効果を増強させることが期待 できるという技術上の意義があるということはできない。
(4) 審決の判断について
以上を踏まえて,審決の判断の適否を検討する。 審決は,活性発泡体の薬剤との併用効果について当業者が理解し認識でき るような記載がないことを理由に,本願明細書が特許法36条4項1号所定 の要件を満たしていないと結論付けている。 しかしながら,本願発明の請求項における「薬剤投与の際に」とは,その 文言からして,活性発泡体を用いる時期を特定するものにすぎず,その請求 項において,薬剤の効果を高めるとか,病気の治癒を促進するなどの目的な いし用途が特定されているものではない。よって,本願明細書に,活性発泡 体の薬剤との併用効果についての開示が十分にされていないとしても,活性\n発泡体を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」こと に,それ以外の技術上の意義があるということができるのであれば,少なく とも実施可能要件に関する限り,本願明細書の記載及び本願出願当時の技術\n常識に基づき,本願発明に係る活性発泡体を「使用できる」というべきであ る。そして,検討次第では,少なくとも,本願発明に係る活性発泡体を,血 行促進効果を発揮させることができるような形で「使用できる」と認める余 地があり得ることは,前記(3)イにおいて説示したとおりである。 よって,審決には,かかる点についての検討を十分に行うことなく,上記\nのような理由により本願明細書が特許法36条4項1号所定の要件を満たし ていないと結論付けた点で,誤りがあるといわざるを得ず,審決は,取消し を免れない。

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平成25(行ケ)10250  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年4月28日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件を満たしていない範囲について、サポート要件違反が成立すると判断されました。
 一般に,膜厚を薄くすると熱膨張係数が小さくなることが知られているから(甲9。訳文1頁),甲8及び甲10のような熱イミド化によるポリイミドフィルムにおいて,膜厚を薄くすることでさらに熱膨張係数を下げることが可能であるとはいえるものの,どの程度まで下げることができるのかについて,本件明細書には具体的な指摘がされていない。\nまた,熱イミド化によるポリイミドフィルムの場合には,固形分量が多くなり延伸することが困難とされている(甲13の段落【0018】)。そして,甲29の実施例5のように,約1.04倍程度の延伸が可能であるとしても,45.6ppm/°Cの熱膨張係数を3〜7ppm/°Cという低い数値まで下げることが可能であるとする根拠はなく,本件明細書にも何ら具体的な指摘がない。\nさらに,4,4’−ODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムを化学イミド化により製造して,膜厚や延伸倍率等を調節したとしても,3〜7ppm/°Cという低い数値まで下げることが可能であるとする根拠はなく,本件明細書にも何ら具体的な指摘がない。\n被告は,この点について,ポリイミドフィルムについて最終的に得られる熱膨張係数は,延伸倍率に大きく影響されるほかに,延伸に際しての,溶媒含量,温度条件,延伸速度等多くの条件に影響され,またフィルムの厚さにも影響されることが甲9に記載されているから,ODA/BPDAの2成分系について,甲8のデータのみに基づいて,本件発明9の熱膨張係数の数値範囲を実現することができないと断定することはできない旨主張する。しかし,本件明細書は,具体的に溶媒含量,温度条件,延伸速度等をどのように制御すれば熱膨張係数が本件発明9の程度まで小さくできるのかについて具体的な指針を何ら示していない。本来,実施可能要件の主張立証責任は出願人である被告にあるにもかかわらず,被告は,本件発明9の熱膨張係数の範囲を充足するODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムの製造が可能\であることについて何ら具体的な主張立証をしない。 したがって,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識を考慮しても,4,4’−ODA/BPDAの2成分系フィルムについては,本件発明9の熱膨張係数の範囲とすることは,当業者が実施可能であったということはできない。\n
・・・・
しかし,前記2(5)のとおり,少なくともODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムについては,当業者が,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づき,これを実施することができない。そ うすると,上記2成分系のポリイミドフィルムの構成に係る本件発明9は,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識によっては,当業者が本件発明9の上記課題を解決できると認識できる範囲のものということはできず,サポート要件を充足しないというべきである。\n

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平成24(ワ)15612  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成26年10月9日  東京地方裁判所

 特許権侵害訴訟です。開示不十分として、特104条3により権利行使不能と判断されました。
 証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「ここで本発明において「介在物」とは,鋳造時の凝固過程に生じる一般に粗大である晶出物並びに溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物,硫化物等,更には,鋳造時の凝固過程以降,すなわち凝固後の冷却過程,熱間圧延後,溶体化処理後の冷却過程及び時効処理時に固相のマトリックス中に析出反応で生じる析出物であり,本銅合金のSEM観察によりマトリックス中に観察される粒子を包括するものである。」(段落【0009】),介在物のうち晶出物及び析出物について,「時効処理は所望の強度及び電気伝導性を得るために行うが,時効処理温度は300〜650℃にする必要がある。300℃未満では時効処理に時間がかかり経済的でなく,650℃を越えるとNi−Si粒子は粗大化し,更に700℃を超えるとNi及びSiが固溶してしまい,強度及び電気伝導性が向上しないためである。300〜650℃の範囲で時効処理する際,時効処理時間は,1〜10時間であれば十分な強度,電気伝導性が得られる。」(段落【0019】)との記載があることが認められ,これによれば,時効処理温度及び時間につき,粗大な晶出物及び析出物の個数を低減させる方法についての一定の開示があるということができる。\nしかしながら,溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物,硫化物等については,本件明細書の発明の詳細な説明に,直径4μm以上の介在物個数を低減させる方法の開示は全くない。
(3) そして,本件明細書の記載内容及び弁論の全趣旨からすれば,原告が本件特許出願時において直径4μm以上の全ての介在物個数を0個/mm2とするCu−Ni−Si系合金部材を製造することができたと認めるに足りず,技術的な説明がなくても,当業者が出願時の技術常識に基づいてその物を製造できたと認めることもできない。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明には,特許請求の範囲に記載された数値範囲全体についての実施例の開示がなく,かつ,実施例のない部 分について実施可能であることが理解できる程度の技術的な説明もないものといわざるを得ない。
(4) したがって,本件発明は,特許請求の範囲で,粗大な介在物が存在しないものも含めて特定しながら,明細書の発明の詳細の説明では,粗大な介在物の個数が最小で25個/mm2である発明例を記載するのみで0個/mm2の発明例を記載せず,かつ,全ての粗大な介在物の個数を低減する方法について記載されていないことなどからすれば,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明の少なくとも一部につき,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。\n3 以上のとおりであって,被告製品のうち亜鉛の含有量が1.5%以下のものは本件発明の技術的範囲に属するが,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,特許法104条の3第1項により,本件特許権を行使することができない。そうすると,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。

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平成25(行ケ)10117 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年03月10日 知的財産高等裁判所

 明確性要件及び実施可能要件違反とした審決が取り消されました。\n
 ア 本願発明は,一般式(1)における各原子の組成比が,不定比となる場合を含むものであり,その組成比は変数y,z,u,wを用いて特定されているが,これらの各変数が相互にどのように連関するかは特定されていない。しかし,無機化合物において,格子欠陥等のため,その組成比が不定比となる(自然数でない)ものが存在することは,技術常識であって(甲21),このことは,無機化合物からなる蛍光体についても同様である(乙1,2)。そして,無機化合物は,定常状態では,その全体の電荷バランスが中性であり,無機化合物を構成する各原子の原子価と組成比との積の総和が,実質的にゼロとなっていることは,技術常識である(乙2【0015】,【0016】)。このような技術常識を踏まえると,組成比が不定比となる場合には,各原子の原子価が自然数とはならないことは明らかである。また,不定比を具体的な状況に応じて確定するのは困難である上,一定の数値をとるかどうかも不明である。そうすると,一般式(1)における各原子の組成比が不定比となる場合を含む本願発明においては,上記の各変数が相互にどのように連関するかを特定することは,相当程度困難である。本願明細書(甲1)の段落【0039】,【0040】,【0047】,【0049】,【0059】によると,実施例1,5,7(表\\2)で,実際に不定比組成である蛍光体が合成されている。これらの蛍光体は不定比組成であり,各原子の原子価は自然数ではなく,その具体的な数値は不明であるが,蛍光体の電荷バランスが中性となるように組成比が選択され,化学量論的に成立したものとなっていると解される。以上によれば,本願発明においては,上記の各変数が相互にどのように連関するか特定されていないとしても,一般式(1)における各原子の組成比は,一般式(1)に示される各原子の組成範囲内において,蛍光体の電荷バランスが中性となるように選択され,化学量論的に成立したものとなると認められるから,審決が認定するように,一般式(1)における各原子の組成比が化学量論的に成立するためには,上記の各変数が連関することが必要であるとはいえない。また,一般式(1)が,いかなる化合物を意味するのか不明であるともいえない。

◆判決本文

◆関連事件です。平成25(行ケ)10118

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平成25(行ケ)10061 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月12日 知的財産高等裁判所

 切り餅事件とは別の特許です。こちらは無効理由無しとした審決が維持されました。
 相対的に強度が低い部分(切り込みが存在する部分)は,一定程度の圧力がかかると,変形して伸びやすいともいえる。切餅の内部空間の圧力は,切り込みが存在する部分に限らず,全方向,例えば上下方向にもかかるから,切り込みが存在する部分が変形して伸びることにより,切り込みの上側が下側に対して持ち上がることになる。その持ち上がりにより,最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態(上下の焼板状部が平行に近い対称な状態で持ち上がる場合もあるが,非平行な片持ち状態に持ち上がる場合も多い。)に自動的に膨化変形する。このような膨化変形によれば,切餅の内部空間の体積は大きくなり,その分だけ圧力が高くなるのを抑えられること,また,それにより,膨化による噴出力(噴出圧)が大きくなるのも抑えられることは明らかであるから,上記のように膨化変形することでも,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを一定程度抑制できることは,当業者にとって明らかといえる。 ウ 以上によれば,本件発明における「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制する」について,以下のとおり認めることができる。側周表面に所定の切り込みを設けた切餅をオーブントースターで焼くと,切餅の内部が軟化するとともに,切餅の内部に含まれる水分が蒸発して水蒸気となる等により,切餅の内部空間の圧力が高くなり,膨化するが,その圧力によって切り込みが存在する部分が変形して伸びることにより,切り込みの上側が下側に対して持ち上がる。その持ち上がりにより,最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い。以下同じ。)に自動的に膨化変形する。切餅の側周表\面に所定の切り込みを設けたことにより,膨化による噴出力(噴出圧)を小さくすることができるため,上記切り込みを設けない場合と比べて,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを抑制できるが,上記のように膨化変形することでも,膨化による噴出力(噴出圧)が大きくなるのを抑えられるため,上記切り込みを設けない場合と比べて,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを一定程度抑制できる。

◆判決本文

◆関連事件です。平成25(行ケ)10062

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平成24(行ケ)10178 審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成25年07月23日 知的財産高等裁判所

 36条違反(実施可能要件)とした審決が維持されました。\n
 そこで,本願明細書の発明の詳細な説明がかかる要件を満たすかにつき検討するに,まず,本願発明の優先日当時の技術常識は上記3のとおりである。しかるに,本願発明におけるサファイア基板の上部表面は,「光を散乱または回折するための突出部及び/または陥凹部が含まれるように」「粗面にされ,突出部及び/または陥凹部はLEDによって生じる光の前記第1の層における波長より大きいか,あるいは,その程度の大きさ」というものであるところ,本願明細書に記載の上記突出部又は陥凹部の形成方法(【0018】〜【0020】),及び公知の可視光線に相当する電磁波の波長(下界が360〜400nm,上界が760〜830nm)に照らすと,本願発明におけるサファイア基板の上部表\面は,突出部又は陥凹部が不規則に存在し,かつ,研磨により表面粗さが1nm程度の極めて平滑な状態にされたサファイア基板に比して極めて高い表\面粗さを有することになる。そうすると,半導体の技術分野における上記の技術常識に照らせば,本願発明におけるサファイア基板の上部表面にエピタキシャル成長により半導体材料の第1の層を堆積しようとしても,サファイア基板の不規則な凹凸を結晶核生成の元とした島状結晶の形成や不規則な凹凸の斜面による異種結晶粒の生成が著しく増大するために,半導体材料の結晶を一定の方位関係をもって成長(エピタキシャル成長)させることは技術常識からは困難と理解される。しかるに,上記2に認定のとおり,本願発明の発明の詳細な説明には,実質的には,『サファイア基板の上部表\面上に陥凹部又は突出部を被うように半導体材料の層をエピタキシャル成長させる。』との記載があるだけであり,半導体材料の層をエピタキシャル成長させる際の手順及び条件を示した具体的な説明が記載されていない。したがって,本願発明の優先日当時の技術常識に照らして,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から本願発明を実施し(本願発明のLEDの生産),本願発明にいう「改善されたLED」を得ることは,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ない。以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は実施可能要件を満たさないというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。\n

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平成24(行ケ)10365 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年06月06日 知的財産高等裁判所

 実施可能性違反およびサポート要件違反を主張しましたが、無効理由無しと判断した審決が維持されました。
 なお,仮に原告の主張の趣旨が,本件各具体例の個々の構成について本件明細書の発明の詳細な説明に記載がないことのみを問題とするのではなく,請求項2及び3の記載が本件各具体例の構\成を全て備えた特定の発明を含むものであることを前提として,発明の詳細な説明には当該発明の記載がない上,本件具体例6の構成(「完全には溶着されていないものの部分的に又は工程進行的に溶着されつつある状態」で切除するもの(「溶着ヘッドが素線を台座とで挟んで密着した位置にあるときに,溶着機による溶着部分の中心部を台座の下側から切除するもの」))を有する当該発明においては本件各発明の課題を解決することができないことを理由に,本件各発明はサポート要件に違反する旨を主張するものであるとしても,以下に述べるとおり,原告の主張は理由がない。\n・・・・
ところで,本件明細書の上記各段落が示す実施例は,回転ブラシに回転軸を挿入するためのブラシ単体の孔を形成するために,溶着機6による溶着の動作が終了した後に,ノズル4の先端に形成した切除手段7が下動し,台座に固定された開かれた素線群1の溶着部の中心部分を台座の上側から切除する構成のものであるのに対し,本件具体例6は,ブラシ単体の孔を形成するために,台座に固定された開かれた素線群に対する溶着機による溶着動作の進行中に台座の下側から切除の動作を開始し,溶着部分の中心部を台座の下側から切除する構\成のものであり,本件明細書には,本件具体例6の構成に関する記載はないのみならず,本件各発明において台座の下側から切除することができることを明示した記載もない。しかしながら,回転ブラシに回転軸を挿入するためのブラシ単体の孔を形成するために,開かれた素線群を台座に固定した状態でその素線群の中央部分を切除する場合における切除の方向は,通常は,台座の上側から下側に向けて切除するか,台座の下側から上側に向けて切除するかのいずれかであるから,本件明細書に接した当業者であれば,本件各発明の「切除する第4の工程」(請求項2)及び「切除する切除手段」(請求項3)における切除の方向は,本件明細書の実施例の構\成のほかに,台座の下側から上側に向けて切除する構成をも含むことを容易に理解するものといえる。加えて,当業者であれば,ブラシ単体の孔を形成するために溶着された部分を切除する切除手段として先端が円形又は円筒状の切除刃,治具等を用いることができ,この切除手段を挿通孔を介して上下にスライドすることでブラシ単体の孔を形成することができることを容易に理解するものといえるから,本件各発明において,本件具体例6のような台座の下側から切除する切除手段を設けることには格別の困難はないものと認められる。そして,前記のとおり,本件各発明において溶着による固化がされた状態で切除が行われるのはブラシ単体の孔を均一の形状に保つ必要があることからすると,本件明細書に接した当業者であれば,開かれた素線群の中央部分を溶着する工程を開始し,溶着による固化がある程度の範囲で進行し,切除後に中心部分に形成される孔(本件審決にいう「環状部」)が維持される程度に固化している段階であれば,当該固化している部分を切除することができることを理解し,固化の進行状況,切除手段の動作速度,切除手段を構\成する部材の強度等を考慮し,切除のタイミングを適宜設定することにより,切除により形成される孔を一定の形状(均一の形状)に保つように当該固化している部分を切除することに格別の困難はないものと認識するものと認められる(原告が指摘するように溶着機の振動構造と切除刃との接触による切除刃の摩耗等が生じ得るとしても,それは切除刃の寿命等の問題であって,切除刃の部材の強度を高めること等によって対処し得るものであり,当該固化している部分を切除すること自体ができなくなるものではない。)。以上によれば,本件明細書に接した当業者は,請求項2及び3の記載に含まれる本件具体例6の構\成を有する上記発明においても,従来のブラシ単体の製造方法のようにブラシ単体の厚みを均一とするのに熟練を要することなく,均一な厚さのブラシ単体の量産化を可能とし,しかも素線の重なりを少なくしたブラシ単体を高速度で効率良く製造することができるという本件各発明の課題を解決できると認識できるものと認められるから,原告の上記主張は,理由がない。\n

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平成24(行ケ)10321 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月16日 知的財産高等裁判所 

 実施可能性を満たしていないとした審決が取り消されました。\n
 このとおり,訂正明細書では,吸湿による中間膜の白化の原因となるアルカリ(土類)金属塩の「粒子径」を一定値以下に保つことや(段落【0024】,【0042】),この「粒子径」をTOF−SIMS(Time of flight secondary ion mass spectrometry,飛行時間型二次イオン質量分析装置)の二次イオン像イメージングで計測することが記載されているだけで,測定条件等の詳細は開示されていない。しかしながら,A大学理工学部物質生命理工学科教授B作成の意見書(甲1)によれば,TOF−SIMSは,超真空下に試料を置き,この試料に対してガリウムイオン等の一次イオンのパルス化されたビームを照射し,一次イオンが試料表面の原子等と衝突した結果,試料表\面から空間に向けて発生,放出される二次イオン(試料表面の原子によるイオン)を質量分析計にかけ,二次イオンが検出器に到達するまでの飛行時間に応じて,二次イオンの質量を測定した上で,一次イオンビームの被照射位置の情報に照らして二次イオンの質量分布(質量スペクトル)を画像処理し,地図状の画像データを得る装置であると認められるところ,0.1μm(原告主張によると,本件優先日当時でも0.2μm)の面的解像度を有しているものであって,本件発明の「粒子径」の上限3μmに比して十\分に細かな分析ができるものである。そして,訂正明細書の段落【0093】には,炭素数6ないし10のカルボン酸等のマグネシウム塩は,中間膜中で電離せず塩の形で存在し,かつ凝集することなく膜表面に高濃度で分布していることが記載されている。そうすると,訂正明細書に接した当業者において,TOF−SIMSを用いて中間膜表\面のアルカリ(土類)金属塩の粒子の大きさを測定すること,より具体的には二次イオン像のイメージングにより粒子の最大径を測定することが可能であったことは明らかである。\n
(2)
審決は,TOF−SIMSでアルカリ(土類)金属塩ばかりでなくアルカリ(土類)金属イオンをも検出していることを実施可能要件違反の根拠の1つとするが,まず,前記のとおり,訂正明細書の段落【0093】では,例えばアルカリ土類金属塩の1種であるマグネシウム塩が中間膜中で電離せず塩の形で存在することが示されているから,本件発明において,アルカリ(土類)金属塩が相当程度(相当割合)電離してイオンを生成することが予\定されているものではない。そして,原告のグローバルテクニカルセンターのC作成の実験成績証明書(甲64)によれば,中間膜表面の赤外線分光法測定で,本件発明の技術的範囲に属する中間膜(実験例3)では,遊離している酢酸(イオン)に特有の吸収スペクトルが確認されなかったから,添加された酢酸マグネシウムの電離(解離)の度合いはごく低水準であったものと認めることができる(なお,添加された酢酸マグネシウムの量が多かったとしても,解離する酢酸マグネシウムの絶対量が少なくなるわけではないから,検出すべき吸収スペクトルの観点では問題がない。)。そして,上記Cが作成した別の実験成績証明書(甲28)によれば,中間膜をFE−TEM(電界放射型透過電子顕微鏡)で撮影した写真でみられる凝集物の像とEDS(エネルギー分散型X線分析)で撮影した写真でみられるマグネシウム,酸素の像とが位置的に符合するから,酢酸マグネシウムは中間膜表\面で凝集していることが認められる。これらのとおり,本件発明の中間膜,とりわけその表面では,ポリビニルアセタール樹脂を製造するときに中和工程に用いる薬剤あるいは接着力調整剤に起因する残留アルカリ(土類)金属塩の大部分が電離せず塩の形で残っており,電離してアルカリ(土類)金属イオンとなる割合はごく小さい。そうすると,TOF−SIMSの二次イオン像のイメージングの分析において,アルカリ(土類)金属イオンの存在を考慮外としても差し支えないというべきである。したがって,TOF−SIMSがアルカリ(土類)金属イオンをも検出していること,ないしその可能\性があることを根拠に,当業者において本件発明を実施可能でないとはいえない。\n
この点,被告は,本件発明の中間膜の含水率がナトリウム等の含有率に比して十分大きいことから,アルカリ(土類)金属塩は溶解,電離(解離)してイオンの形で高濃度に存在し得ると主張する。しかしながら,本件発明のような合わせガラス用中間膜は,吸湿による白化の問題を解決するために,耐湿性を確保することが課題とされており(段落【0003】〜【0019】),含水率を小さくすることが予\定されている。本件発明の中間膜も,その水分の含有率(含水率)は,ナトリウムやカリウムの含有率よりは相当大きいが,0.5重量%以下にすぎないのであって,ごく微量のものと評価することができる。したがって,製造時の含水率で考えれば,中間膜中の水分がアルカリ(土類)金属塩の電離に与える影響は必ずしも大きいものとはいえない。また,上記Cが作成した実験成績証明書(甲82)では,酢酸マグネシウムを添加した中間膜と酢酸マグネシウムを添加していない中間膜とで,電気伝導度に差がみられないことが示されているが,この実験結果は,中間膜中のアルカリ(土類)金属塩が電離する割合がごく小さいことを裏付けるものである。なお,アルカリ(土類)金属イオンがTOF−SIMSの二次イオンイメージング画像上の連続した領域にまたがるように存在するときに,この連続した領域分の大きさの輝点として検出されることが原理的にあり得るとしても,本件発明の中間膜のアルカリ(土類)金属塩の含有率程度の含有率でも,本件発明で特定される「3μm」との最大径の基準に比して,上記イオンが有意な大きさを占める輝点の像を実際に示すことを認めるに足りる証拠はない。アルカリ(土類)金属塩とそのイオンとが,2次イオンイメージング画像の連続した領域にわたって接続して存在し,両者があたかも1つの粒子のようにみえる可能性に関しても,実際にかかる事態が生じ,凝集物の大きさが相当の規模において過大に大きくみえる事態が生ずる蓋然性(なお,小さな輝点が塩粒子の周囲に付着してみえる程度であれば,粒子の最大径の測定に影響を与えない。)があることを証拠上認めることができない。結局,TOF−SIMSがアルカリ(土類)金属イオンをも検出していることを根拠に,本件発明に実施可能\要件違反があるとした審決の判断は誤りである。
(3)審決は,輝点として検出される二次イオンとサンプル中の金属量とが一般には比例せず,中間膜のTOF−SIMSによる粒子径の測定には定量性がないことを実施可能要件違反の根拠の1つとするが(17,18頁),本件発明の特許請求の範囲上,アルカリ(土類)金属(塩)の量(金属量)が特定事項となっているわけではなく,アルカリ(土類)金属塩の粒子の大きさが特定されているにすぎないから,上記の定量性をもって本件発明に係る実施可能\要件違反の裏付けとすることはできない。
(4)審決は,閾値の設定により測定値が変化すること等を根拠に,本件発明には実施可能要件違反があると判断するが,前記甲第1号証の資料1や,甲第35ないし第43,第76号証によれば,TOF−SIMSを用いた測定は,一般にバックグラウンド(1次イオンビームを照射しないときに検出される値)が低く,絶対感度がごく高いため,通常,2次イオンビームの測定結果(カウント数)を輝点と評価するかに関する設定値である閾値をゼロにして測定することは,当業者に広く行われている取扱いであると認められる(技術常識。審決も19頁でこの旨認定する。)。そして,本件発明の中間膜のTOF−SIMSを用いた測定では,かかる通常の取扱いと異なる取扱いを採用する理由は存しない。そうすると,訂正明細書にTOF−SIMSの閾値に関する記載がないからといって,当業者が本件発明を実施することができないとすることはできず,閾値を変化させたときに2次イオンのイメージング画像が異なり得る可能\性をもって実施可能要件違反があるということはできない。なお,TOF−SIMSの2次イオンの検出には,2次イオンの個数をカウントする上限である飽和点があるところ,TOF−SIMSでは試料の損傷を抑えるために,単位時間当たりに照射する1次イオンビームの強度を大きくしないのが通常であるから,かような飽和点は問題となりにくい(乙4)。仮に飽和点が問題となるとしても,当業者であれば,可能\な限り飽和点に近いが,飽和点を超えない積算回数を採用して試験を実施することが容易であり,かつかような手法で試験することが当業者に一般的である(甲79)。したがって,訂正明細書にTOF−SIMSの1次イオンビームの照射回数ないし積算回数に関する記載がないからといって,当業者が本件発明を実施することができないものではない。また,被告のPVB研究開発グループのD作成に係る実験報告書(甲18)は,2次イオンイメージングのドット(輝点)の大きさが1μmと大きすぎ,積算回数等に係る発明の実施の困難性の論拠として採用し難い。結局,「ポリマーのTOF−SIMS分析では閾値をゼロにすることが当業者の技術常識であるとしても,合わせガラス用中間膜中のアルカリ(土類)金属塩の粒子径の測定において,閾値をゼロとすることが当業者にとって技術常識であるとすることはできない。」との審決の認定,判断は誤りであり,測定条件の詳細が訂正明細書に明示的に記載されていないことを根拠に,本件発明に実施可能要件違反があるとした審決の判断は誤りである。\n

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平成24(行ケ)10299 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月11日 知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が、サポート要件違反ありとして取り消されました。
 被告は,本件明細書には液体調味料に対するACE阻害ペプチドの配合量について,「血圧降下作用及び風味の点から液体調味料中0.5〜20%,更に1〜10%,特に2〜5%が好ましい。」との具体的な数値の記載があり(【0030】),これがACE阻害ペプチドを配合した場合に風味変化が改善されることを確認した結果に基づくものであると主張する。しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明によれば,前記1オに記載のとおり,本件発明1ないし5及び9に利用可能なACE阻害ペプチドは,乳,穀物又は魚肉等の食品原料由来のものであり,かつ,その種類も多岐にわたるところ,これらの多種類の原料に由来するACE阻害ペプチドの風味が共通し,かつ,加熱処理によって同等の風味変化を生じ,あるいは生じないという技術常識が存在することを認めるに足りる証拠はない。しかも,ACE阻害ペプチドの配合量の数値に関する上記記載も,概括的なものであるから,仮にこれがACE阻害ペプチドを配合した場合の風味変化の改善を確認した結果に基づくものであるとしても,上記多種類の原料に由来するACE阻害ペプチドのいずれについて風味がどの程度改善されたのかを明らかにするものとは到底いえない。したがって,上記配合量の数値の記載があるからといって,本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者は,血圧降下作用を有する物質としてACE阻害ペプチドを液体調味料に混合して加熱処理した場合に,風味変化の改善という本件発明の課題を解決できると認識することはできず,サポート要件を満たすことになるものではない。\n
・・・・
以上によれば,血圧降下作用を有する物質として専らコーヒー豆抽出物を使用した本件発明6ないし8は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものであるから,サポート要件を満たすものといえる一方,血圧降下作用を有する物質として,コーヒー豆抽出物に加えてACE阻害ペプチドを使用する場合を包含する本件発明1ないし5及び9は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるが,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものではなく,また,当業者が本件出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるともいえないから,サポート要件を満たすものとはいえない。

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平成24(行ケ)10200 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月27日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反とした審決が取り消されました。\n
 審決は,1)本願明細書の発明の詳細な説明(段落【0031】)に記載された「表面が黒く処理された」金属は,例えば,顔料の素材のように導電性を持たないものを含むところ,そのような物質では,「電磁波遮断機能\を効率的に具現することができる」との効果を発揮することができない,2)本願明細書の発明の詳細な説明には,「表面が黒く処理された」金属を金属粉末として樹脂に添加した後も,「黒色の金属」という物理的性質を保持するための具体的手段が開示されていないとして,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十\分に記載されたものではなく,特許法36条4項1号に違反すると判断する。しかし,審決の上記判断には,以下のとおり,誤りがある。すなわち,上記のとおり,本願発明は,特許請求の範囲において,「前記金属粉末は,黒色の金属である」とし,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「表面が黒く処理された」金属と「黒色の金属」のうち,「黒色の金属」に特定したものと解される。そして,上記のとおり,金属粉末として黒色のものが存在することは,技術常識というべきであり,当業者は,黒色の金属粉末が具体的にどのようなものであるか理解することができるものと認められる。そうすると,「金属粉末の表\面が黒く処理された」金属について実施可能要件を満たすか否かにかかわらず,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「黒色の金属」については,特許法36条4項1号に違反しないものと認められる。
イ 被告の主張についてこれに対し,被告は,1)鉄やコバルト,ニッケル,クロム等の白い光沢を持つ金属の金属粉末は,外光遮断機能を具現化することができない,2)本願明細書の発明11の詳細な説明に記載された「金属粉末の表面が黒く処理された」金属について,「12〜20μm」よりはるかに小さな微粒子とした場合にも,依然として電磁波遮断機能\及び外光遮断機能を備えた「黒色の金属」として存在し得るのかが明らかでなく,その表\面処理の方法も明らかでないと主張する。しかし,上記のとおり,本願発明は,樹脂に添加される金属粉末が,黒色の金属粉末であるとするものにすぎず,金属の種類(鉄など)を特定するものではない。また,本願発明は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「表面が黒く処理された」金属と「黒色の金属」のうち,「黒色の金属」に特定したものと解される。したがって,被告の上記主張は,その前提に誤りがあり,採用することができない。\n

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平成24(行ケ)10071 審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成25年02月12日 知的財産高等裁判所

 実施可能性要件を満たしていないと判断されました。出願人は、MITです。
 請求項7に係る本願発明は,(a)ウリジン,ウリジン塩,リン酸ウリジン又はアシル化ウリジン化合物,及び,(b)コリン又はコリン塩,の2成分を組み合わせた組成物が人の脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用を示す経口投与用医薬についての発明である。そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したといえるためには,薬理試験の結果等により,当該有効成分がその属性を有していることを実証するか,又は合理的に説明する必要がある。本願明細書には,例2として,アレチネズミに前記(a)成分であるウリジンを単独で経口投与した場合に,脳におけるシチジンのレベルが上昇したことが記載されているものの,(a)成分と(b)成分を組み合わせて使用した場合に,脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験の結果は示されておらず,(b)成分単独で脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験結果も示されていない。また,(b)成分であるコリン又はコリン塩を(a)成分と併用して投与した場合,又は(b)成分単独で投与した場合に,脳のシチジンレベルを上昇させるという技術常識が本願発明の優先日前に存在したと推認できるような記載は本願明細書にはない。そうすると,詳細な説明には,本願発明の有効成分である(a)及び(b)の2成分の組合せが脳シチジンレベルを上昇させるという属性が記載されていないので,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十\分に記載したということはできない。したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に規定する要件を満たさない。この趣旨を説示する審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,取消事由1において,本願明細書の記載を援用するが,いずれも上記判断を左右するものではない。取消事由1における原告のその余の主張も,脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用に関して裏付けるものではない。

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平成24(行ケ)10020 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月31日 知的財産高等裁判所

 開示不十分とした審決が取り消されました。
 確かに,前記2(2)アのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,赤色蛍光体及び緑色蛍光体として使用できる具体的な物質が,内部量子効率を含む各特性を含めて記載されているところ,本件明細書に開示されている緑色蛍光体の内部量子効率は80%以上であるが,赤色蛍光体の内部量子効率は80%未満であり,したがって,本件明細書には,内部量子効率が80%以上の緑色蛍光体については記載されているが,内部量子効率が80%以上の赤色蛍光体については,直接記載されていないというほかない。しかしながら,前記1(8)のとおり,本件明細書には,赤色蛍光体及び緑色蛍光体の製造方法について,その原料,反応促進剤の有無,焼成条件(温度,時間)なども含めて具体的に記載されているのみならず,赤色蛍光体の製造方法については,本件出願時には製造条件が未だ最適化されていないため,内部量子効率が低いものしか得られていないが,製造条件の最適化により改善されることまで記載されているものである。そうすると,研究段階においても,赤色蛍光体について60ないし70%の内部量子効率が実現されているのであるから,今後,製造条件が十分最適化されることにより,内部量子効率が高いものを得ることができることが記載されている以上,当業者は,今後,製造条件が十\分最適化されることにより,内部量子効率が80%以上の高い赤色蛍光体が得られると理解するものというべきである。
イ 証拠(甲5,12〜17)によれば,蛍光体の製造方法において,製造条件の最適化として,結晶中の不純物を除去すること,結晶格子の欠陥を減らすこと,結晶粒径を制御すること,発光中心となる付活剤の濃度を最適化すること等により,蛍光体の効率を低下させる要因を除去することは,本件出願時において当業者に周知の事項であったと認められる。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に内部量子効率が80%未満の赤色蛍光体が記載されているにすぎなかったとしても,当業者は,蛍光体の製造方法において,製造条件の最適化を行うことにより,赤色蛍光体についても,その内部量子効率が80%以上のものを容易に製造することができるものと解される。実際,証拠(甲18)によれば,本件出願後ではあるが,平成18年3月22日,内部量子効率が86ないし87%のCaAlSiN3:Euの赤色蛍光体が製造された旨が発表されたことが認められる。
 ウ 以上によると,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が内部量子効率80%以上の赤色蛍光体を製造することができる程度の開示が存在するものというべきである。 

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平成23(行ケ)10418 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月25日 知的財産高等裁判所

 実施可能性要件および明確性要件違反とした審決が維持されました。
まず,実施例1(P/V比:10/100)と比較例2(P/V比:2.6/1 00)をみると,P及びVの屈折率差と溶剤を同一にして,P/V比を減少させる と,内部ヘイズ値は7から1に,表面ヘイズ値は19から14にそれぞれ減少して\nいることが示されているので,P/V比を減少させると,内部ヘイズ値及び表面ヘ\nイズ値の双方が減少する関係にあると推認される。 しかし,実施例1と2をみると,P及びVの屈折率差を同一にして,P/V比を 減少させ,溶剤を変化させると,内部ヘイズ値は7から5に減少し,表面ヘイズ値\nは19から25に増加している。他方,実施例2と比較例2をみると,P及びVの 屈折率差を同一にして,P/V比を減少させ,溶剤を変化させると,内部ヘイズ値 は5から1に,表面ヘイズ値は25から14に減少している。前記の実施例1と比\n較例2での変化の傾向に加えて,これらの比較からは,表面ヘイズ値と内部ヘイズ\n値は溶剤の種類による影響が大きいことが推認されるが,溶剤の種類とP/V比が, 協働して表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の値に影響を与えているのか,それぞれ独立\nして影響を与えているのかは,全く不明である。 また,実施例1とこれに対して溶剤のみを変えた比較例5を比較すると,内部ヘ イズ値は7から9に増加するのに対して,表面ヘイズ値は19から3に減少し,実\n施例2とこれに対して溶剤のみを変えた比較例4を比較しても,内部ヘイズ値は5 から3に減少するのに対して,表面ヘイズ値は25から47に増加している。上記\nの対比結果によれば,溶剤の種類が,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の双方に影響を\n与える重要なファクターであり,溶剤には,表面ヘイズ値を増加させ内部ヘイズを\n減少させる作用を有するものや表面ヘイズ値を減少させ内部ヘイズを増加させる作\n用を有するもの等,様々な種類があると認識できるが,そのような知見を超えて, いかなる種類の溶剤を用いれば表面ヘイズ値・内部ヘイズ値を所望の数値に設定で\nきるかについて,当業者において認識・理解することはできない。 さらに,実施例2と比較例1をみると,P/V比と溶剤を同一にして,P及びV の屈折率差を変化させると,内部ヘイズ値は5から0.7に減少し,表面ヘイズ値\nは25から30に増加していることが示されているが,他の比較例はなく,P及び Vの屈折率差が表面ヘイズ値・内部ヘイズ値にどのような影響を与えるかは不明で\nある。 そうすると,発明の詳細な説明の記載において示された実施例及び比較例に基づ いて,当業者は,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値が,P/V比,P及びVの屈折率差,\n 溶剤の種類の3つの要素により,何らかの影響を受けることまでは理解することが できるが,これを超えて,三つの要素と表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の間の定性的\nな関係や相関的な関係や三つの要素以外の要素(例えば,溶剤の量,光硬化開始剤 の量,硬化特性,粘性,透光性拡散剤の粒径等)によって影響を受けるか否かを認 識,理解することはできない。
ウ 以上のとおり,発明の詳細な説明には,当業者において,これらの3つの要 素をどのように設定すれば,所望の表面ヘイズ値・内部ヘイズ値が得ることができ\nるかについての開示はないというべきである(ただし,発明の詳細な説明中の実施 例に係る本件発明9ないし11を除く。)。したがって,発明の詳細な説明には,当 業者が,本件発明1ないし8,12ないし16を実施することができる程度に明確 かつ十分な記載がされているとはいえない。
・・・・
しかし,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」に おいては,透光性拡散剤が透光性樹脂によって実効的に覆われていないことが想定 され,そのような場合,透光性樹脂と同一の屈折率を有する物質を用いて凹凸を除 去すると,前記凹凸を除去するために用いた透光性樹脂と同一の屈折率の物質と, 透光性樹脂によって実効的に覆われていない透光性拡散剤との界面で新たな内部ヘ イズが生じることになり,新たに生じた内部ヘイズを補償する必要性が生じる。 なお,発明の詳細な説明には,「又,表1において,ヘイズ値は,村上色彩技術研\n究所の製品番号HR−100の測定器により測定し,反射率は,島津製作所製の分 光反射率測定機MPC−3100で測定し,波長380〜780nm光での平均反 射率をとった。」(【0131】)と記載されている。同記載によれば,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値とも,HR−100の測定器によって測定されることが説明されてい\nるが,内部ヘイズ値の測定方法に関する具体的な説明はない。また,HR−100 の取扱説明書(甲14)にも,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂 からなる防眩層」の内部ヘイズ値の測定方法に関する具体的な説明はない。また, この点についての何らかの技術常識が存在すると認めるに足りる証拠もない。 そうすると,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩 層」の内部ヘイズ値を測定する方法は,発明の詳細な説明の記載,及び本件特許の 出願当時の技術常識によって,明らかであるとはいえない。内部ヘイズ値が一義的 に定まらない以上,総ヘイズ値から内部ヘイズ値を減じた値である表面ヘイズ値も\n一義的には定まることはない。内部ヘイズ値・表面ヘイズ値を一義的に定める方法\nが明確ではないから,本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条 6項2号の「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件を充足しない というべきである。

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平成23(行ケ)10445 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月05日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反ではないとした審決が取り消されました。
 平成8年6月12日法律第68号による改正前の特許法36条4項が実施可能要件を定める趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者がその実施をすることができる程度に発明の構\成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。そして,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号),物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能\要件を満たすということができる。
(2) 本件審決は,本件明細書の方法2の実施可能性についてのみ検討した上で,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能\要件を充足するものとする。そこで検討するに,方法2は,前記1(3)ア(イ)のとおり,補助溶剤を含む水中にアトルバスタチンを懸濁するというごく一般的な結晶化方法であるものの,補助溶剤としてメタノール等を例示し,その含有率が特に好ましくは約5ないし15v/v%であることを特定するのみであり,結晶化に対して一般的に影響を及ぼすpH,スラリー濃度,温度,その他の添加物などの諸因子について具体的な特定を欠くものであるから,これらの諸因子の設定状況によっては,本件明細書において概括的に記載されている方法2に含まれる方法であっても,結晶性形態Iが得られない場合があるものと解される。そうだとすると,結晶化に対して特に強く影響を及ぼすpHやスラリー濃度を含め,温度,その他の添加物などの諸因子が一切特定されていない方法2の記載をもってしては,本件明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識を併せ考慮しても,当業者が過度な負担なしに具体的な条件を決定し,結晶性形態Iを得ることができるものということはできない。
(3) この点に関し,被告は,1)当業者であれば,撹拌により懸濁状態を維持するのに適した程度のスラリー濃度を採用することに何ら困難はなく,本件実験における懸濁物中の約15%の試料量も常識的な選択である,2)方法2において,補助溶剤を使用しないこと自体は,本件明細書に記載された範囲内であるし,好ましい条件であるメタノール濃度(5〜15%)において,より短時間で確実に結晶性形態Iが得られることも確認されている,3)方法2において,撹拌温度は明示的に特定されていないが,温度の規定がなければ,室温付近で行うのが技術常識である,4)本件明細書の実施例では,種晶を加えても17時間の撹拌が必要であったから,種晶を加えない場合,その数倍程度の時間が必要であると予測することは合理的であるなどと主張する。しかしながら,スラリー濃度は,結晶化の実現に関する重要な因子である以上,物の発明において,当該物の製造方法を開示するに当たり,具体的に記載される必要がある事項というべきところ,方法2については,補助溶剤の種類と好ましい濃度程度しか記載されていないのであるから,当該記載から,結晶性形態Iが得られるスラリー濃度(例えば,本件実験の設定である試料約10g,溶媒56m)を当業者が見いだすことは困難であるというほかない。しかも,方法2において具体的な条件として記載されている補助溶剤の種類と好ましい濃度についても,被告の依頼により行われた本件実験(甲16)においては,補助溶剤を用いずに実験が行われているものである。確かに,方法2において,補助溶剤を用いなくてもよいとされていることは,被告が主張するとおりであるが,好ましい条件であるメタノール濃度において,より短時間で確実に結晶性形態Iが得られることが確認されているのであれば,方法2が具体的に開示した好ましい条件に基づくことなく,本件実験が行われたことは不合理であるというほかない。さらに,本件審決は,方法2に対応する前記1(3)エ(イ)の方法Bにおいて,撹拌温度が約40°Cとされていることから,方法2においても,室温又はその前後において行われたものと理解されるとするが,約40°Cという温度について,これを「室温又はその前後」と理解することは困難である。本件実験においても,室温とのみ記載され,具体的な撹拌温度が明示されていないから,当業者が,撹拌の要否すら特定していない本件明細書の方法2に係る記載をもって,そのほかの諸因子との相関関係において決定されるべき最適な撹拌温度を過度の負担なしに設定することができるものということはできない。加えて,結晶化に要する撹拌時間は,pH,スラリー濃度,温度,その他の添加物などの諸因子によって異なるものであるから,本件明細書に特定の条件下における撹拌時間が開示されていたとしても,当業者が方法2における撹拌時間を合理的に予測することができるとまでいうことはできない。したがって,被告の主張はいずれも採用できない。
(4) 以上のとおり,本件明細書における方法2に係る記載は,結晶性形態Iを得るための諸因子の設定について当業者に過度の負担を強いるものというべきであって,実施可能要件を満たすものということはできない。もっとも,本件明細書には,本件審決が判断した方法2のほかにも,方法1及び3として,結晶性形態Iの具体的製造方法が開示されているところ,本件審決は,本件明細書の方法2について検討するのみで,本件明細書のその余の記載により実施可能\要件を充足するか否かについて審理を尽くしていないものというほかない。よって,実施可能要件について更に審理を尽くさせるために,本件審決を取り消すのが相当である。\n

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平成23(行ケ)10364 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年06月13日 知的財産高等裁判所 

 実施可能要件違反とした審決が取り消されました。
 本願明細書には,本願発明の巻線間には空気が充填されたキャビティが存在するとした上で,そこに「ポリマー材料」を充填する製造方法について真空状態と加圧状態とを組み合わせてドレンチングにより又はキャスティングにより適切に行われる旨の記載がある(前記1(2)カ。【0008】)。したがって,当該記載部分を前記(1)に引用の本願明細書【0025】の記載部分と併せて参照すれば,当業者は,上記製造方法で固定子コイル同士の隙間に形成されるキャビティに「ポリマー材料」が完全に充填されることで,少なくともコイルの内面がコイルと「ポリマー材料」により隙間なく充填された面となり,その上に滑らかな被覆をさらに設けることが可能となることを容易に認識することができたというべきである。したがって,当業者は,本願明細書の上記記載に基づき,コイルの内面に滑らかで絶縁性のあるコイル被覆を設け,もって本願発明6を容易に実施することができたものと認められる。以上のとおり,前記(1)の引用に係る記載部分は,それ自体,明瞭であるといえるから,法36条4項に違反するものではなく,原告の前記(1)の主張には理由がある一方,これに反する被告の主張は,いずれも前提を欠くものとして採用できない。

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平成23(行ケ)10251 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月14日 知的財産高等裁判所

 記載不備(36条違反)について、実施可能性違反とした審決が維持されました。
 以上のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明の記載には,当業者の技術常識を踏まえても,硬化層のかしめ側端部の位置を本件関係式に基づいて規定することにより,内輪と中空軸との間に普遍的に隙間が発生しないこととなる理由が明らかにされておらず,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないものといわざるを得ない。ところで,法36条4項において,明細書の発明の詳細な説明について,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならないと規定した趣旨は,発明の詳細な説明に基づいて当業者が実施できない発明に対して独占的な権利を付与することは,発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるためであるところ,本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項の記載がない以上,当業者は,出願時の技術水準に照らしても,硬化層のかしめ側端部の位置を本件関係式に基づいて規定することにより内輪と中空軸との間に普遍的に隙間が発生しないという技術上の意義を有するものとしての本願発明を実施することができないのであるから,その記載は,発明の詳細な説明に基づいて当業者が当該発明を実施できることを求めるという法36条4項の上記趣旨に適合しないものである。したがって,このような本願明細書の発明の詳細な説明の記載について,通常の知識を有する者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十\分に記載したものとはいえないとして,法36条4項の要件を満たさないと判断した本件審決に誤りがあるということはできない。

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平成22(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年12月22日 知的財産高等裁判所 

 記載不備違反、進歩性違反なしとした審決が維持されました。裁判所が実施可能要件およびサポート要件についての一般論を述べています。
 特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。そして,物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(特許法2条3項1号),物の発明については,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要があるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能\要件を満たすということができる。これを本件発明についてみると,本件発明は,いずれも物の発明であるが,その特許請求の範囲(前記第2の2)に記載のとおり,本件各化合物(ピペラジン−N−カルボジチオ酸(本件化合物1)若しくはピペラジン−N,N′−ビスカルボジチオ酸(本件化合物2)のいずれか一方若しくはこれらの混合物又はこれらの塩)が飛灰中の重金属を固定化できるということをその技術思想としている。したがって,本件発明が実施可能であるというためには,本件明細書の発明の詳細な説明に本件発明を構\成する本件各化合物を製造する方法についての具体的な記載があるか,あるいはそのような記載がなくても,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基づき当業者が本件各化合物を製造することができる必要があるというべきである。
・・・・
 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。(2) 本件明細書のサポート要件の充足性についてこれを本件発明についてみると,本件発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件出願日当時,そこに記載の本件各化合物の製造方法が当業者に周知の技術であったことは,前記1(3)に認定のとおりである。また,前記1(2)エ(エ)に認定のとおり,本件明細書には,BF灰に,水と本件化合物2の塩を0.4ないし0.8重量%加え,混練したものから重金属の溶出が抑制されていることが記載されている(重金属固定化能試験)。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件各化合物が飛灰中の重金属の固定化処理剤として使用できる旨の記載があるといえる。そして,前記1(2)ウに認定のとおり,本件発明の目的は,飛灰中に含まれる重金属を安定性の高いキレート剤を用いることにより簡便に固定化できる方法を提供することであり,上記のとおり,重金属固定化能試験に関する発明の詳細な説明の記載により,当業者は,本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。以上によれば,本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができる。
・・・・
 特許法は,発明の公開を代償として独占権を付与するものであるから,ある発明が特許出願又は優先権主張日前に頒布された刊行物に記載されているか,当時の技術常識を参酌することにより刊行物に記載されているに等しいといえる場合には,その発明については特許を受けることができない(特許法29条1項3号)。

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平成22(行ケ)10348 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年09月15日 知的財産高等裁判所 

 記載不備および進歩性違反ともに、理由無しとした審決が維持されました。
 前記2(2)エに認定のとおり,引用例4に記載の上記各化合物は,いずれも鎖状のアミンにジチオカルバミン酸が結合した化合物であり,環状アミンにジチオカルバミン酸基が結合した本件化合物1及び2とは化学構造が異なる。したがって,引用例4に上記各化合物の記載があるからといって,これと化学構\造を異にする本件化合物1及び2が飛灰中の重金属を固定化できることを示唆することにはならない。また,前記2(2)アに認定のとおり,引用例1には,ジチオカルバミン酸基を有する低分子量の化合物の中から,飛灰中の重金属固定化剤として本件各化合物を想起させるに足りる記載又は示唆があるとはいえず,前記2(2)イに認定のとおり,引用例2には,そこに記載の化合物又は本件各化合物が廃棄物等の焼却により生じる飛灰を水やpH調整剤と混練するという環境下で,そこに含まれる多様な物質の中で鉛等の重金属と錯体を形成し,これを固定化するものであることについては何らの記載も示唆もない。さらに,前記2(2)ウに認定のとおり,引用例3に記載のピペラジンジチオカルバメート(I)及びピペラジンビスジチオカルバメート(II)は,それぞれ本件発明における本件化合物1及び2に相当し,引用例3は,本件化合物1及び2のようなジチオカルバミン酸基を有するキレート剤が白金属元素と錯体を形成することを明らかにしているものの,それが廃棄物等の焼却により生じる飛灰を水やpH調整剤と混練するという環境下で,そこに含まれる多様な物質の中で鉛等の重金属と錯体を形成し,これを固定化するものであることについては何らの記載も示唆もない。したがって,引用例3には,本件化合物1及び2のキレート剤が飛灰中の重金属固定化剤として利用できることについてまで記載や示唆がなく,引用発明4と引用例3の記載を組み合わせて本件発明1の相違点3に係る構成を想起させるに足りる動機付けがないというほかない。\n

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平成22(行ケ)10252 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年04月26日 知的財産高等裁判所

 記載不備ありとした審決が維持されました。
 上記5つの具体例を照らし合わせると,ZrO2及びSrOの含有量が増えるほど減衰係数が小さくなる傾向が認められるものの,比較例1,比較例2及び参考例1は,いずれもZrO2及びSrOの含有量が共に0重量%であるが,減衰係数は様々な異なる値となっている上,参考例1はZrO2及びSrOの含有量が共に0重量%であるにもかかわらず,「低音響波損ガラス」である「0.25dB/cm以下」の条件を充たしている。また,それぞれの具体例では,その他の成分についても変更されていることから,ZrO2及びSrO以外の成分による影響が生じている可能性があり,ZrO2及びSrOの含有量と減衰係数の関係が正確に導出されているのか不明といわざるを得ない。むしろ,上記具体例からは,ZrO2及びSrOの含有量のみから音響波減衰への作用・効果を予\測することは困難であって,ZrO2及びSrOの含有量が請求項1で特定される所定の範囲であっても,他の成分等により所定の効果(音響波減衰の低減)を得られない場合があることを示唆する結果であるといえる。よって,ガラスの成分と音響波減衰係数との関係について,原告が主張する出願時の技術常識を参酌したとしても,上記の5つの具体例から,音響波減衰を低減できるという本願発明の効果が得られる範囲として,ZrO2及びSrOのうち少なくとも一方の成分を1重量%以上含むことが裏付けられているとはいえない。(6) そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明は,出願時の技術常識を参酌したとしても,ZrO2及びSrOのうち少なくとも一方の成分を1重量%以上含むのであれば音響波減衰を低減できるという効果が得られると,当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載されたものではない。

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平成22(行ケ)10247 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年04月14日 知的財産高等裁判所

 物の製造方法が記載されていないとして実施可能要件を満たさないとした審決が取り消されました。
 本件審決は,i)本願発明1で用いられる炭素膜の製造工程は,上記イの(ア)(イ)(エ)が必須の製造工程であるが,同(ウ)(オ)(カ)は選択的なものであること,ii)本願発明の製造工程は,従来の「ダイアモンド状の炭素あるいはCVDダイアモンド膜」の製造方法として甲1刊行物及び甲2刊行物に記載されている製造工程と実質的に同じものであり,その製造条件は,従来の「ダイアモンド状の炭素あるいはCVDダイアモンド膜」の製造方法として上記刊行物に記載されている製造条件を含むから,発明の詳細な説明に記載されている炭素膜の製造工程は,当該製造工程により従来のダイアモンド状の炭素あるいはCVDダイアモンド膜が製造できても,それを超える本願発明1に係る炭素膜の製造を保証するものではないこと,iii)炭素膜の製造方法における温度,圧力等の製造パラメータが多数あり,かつ,その数値範囲もCVDダイアモンド膜が製造できる数値を含んでいることから,当業者は,種々の製造パラメータにおける適正な範囲やそれらの組合せ,その他の製造パラメータについて更に特定して,所望の特性を有する炭素膜を製造する方法を見つけ出さなくてはならず,当業者が過度の試行錯誤を強いられること,iv)したがって,本願発明1の電子放出デバイスが有する「炭素膜」を実施するための製造方法に関して,発明の詳細な説明には,従来のダイアモンド膜を含む一般の「炭素膜」を製造する方法が記載されているにすぎず,請求項1に記載したUVラマンバンドに関する特性を有する特定の炭素膜を実施するための製造方法が,明確かつ十分に記載されているものとはいえないし,本願発明1の「炭素膜」を得るための具体的な製造方法が,当業者の技術常識であったともいえないと判断した。イ しかしながら,本件審決の上記i)ないしiii)の判断は,以下のとおり,誤りである。

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平成22(行ケ)10249等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年04月07日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反ありとした無効審決が取り消されました。
 審決は,「訂正明細書の実施例4はタイプIの透明ガラス製アンプルにセボフルランと水を入れてフレームシールしたものであるから,そこで問題となるルイス酸は,そのほとんどがガラス容器に由来するものであると認められ,セボフルランの製造,輸送,貯蔵工程等,セボフルランがさらされる環境下において存在し得るガラス容器に由来するルイス酸以外のルイス酸が及ぼす影響を考慮に入れたものではない。・・・訂正明細書の各実施例はガラス製の容器に関するものだけである。そうすると,本件数値範囲・・・の下限である206ppmの水が存在する場合について,・・・実施例4において,40°Cの恒温装置に200時間置くとの条件下にセボフルランの分解が抑制することができた1例があることをもって,セボフルランを含有する麻酔薬組成物中の水の量を本件数値範囲・・・とすることによって,セボフルランがルイス酸によってフッ化水素酸等の分解産物に分解されることを防止し,安定した麻酔薬組成物を実現するという所期の作用効果を奏するものと当業者が理解し得ると認めることはできない。」と説示する。確かに,訂正明細書の2頁10行ないし17行には,容器であるガラスの成分である酸化アルミニウムがルイス酸としてフルオロエーテルを分解する旨が記載されているから,訂正明細書は,ガラス由来のルイス酸を念頭に置いて記載されているとも評価し得る。しかしながら,前記のとおり,訂正明細書の実施例の記載は,各訂正発明のような麻酔薬が通常使用される方法である,ガラス製アンプルに封入して保管する方法を想定してされたものであることが明らかであって,上記の通常の方法を想定したがために実施例の態様が一定のものになっているにすぎない(なお,上記の通常の方法を当業者が選択する限り,当業者が訂正明細書の発明の詳細な説明に記載の手順を踏むことによって,各訂正発明の作用効果を奏し得ることは明らかである。)。また,訂正明細書には「本明細書で用いる『容器』という用語は,物品を保持するために使用することができる,ガラス,プラスチック,スチール,または他の材料でできた入れ物を意味している。」との記載(11頁末行ないし12頁2行)があるから,ガラス以外の材料からなる容器内にルイス酸が存在する態様が除外されていないことは明らかである(なお,訂正明細書の2頁13,14行でも,「ルイス酸のソースは・・・酸化アルミニウムであり得る。」と記載されているにすぎず,ルイス酸の源が酸化アルミニウムであるとか,容器のガラス由来の物質であると必ずしも断定されているわけではない。)。そして,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載の内容に照らせば,ガラス以外の材料から成る容器内にルイス酸が存在する場合においても,当業者において,上記記載に従って手順を踏むことによって,各訂正発明の構\成を実施することが可能であると解して差し支えない。したがって,審決の上記説示は誤りであり,実施可能\要件の充足の有無に係る前記結論が左右されるものではない。

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平成22(行ケ)10105 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年01月25日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件を満たしていないとした審決が維持されました。
 そもそも,本願明細書の「発明の詳細な説明」における「発明を実施するための最良の形態」の項において,発明を具体的に説明している段落【0016】ないし【0052】及び全8図の図面のうち,「等容積プロセス」を経た後の「定圧力プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うという本願発明に関して具体的に記載している部分は明細書の段落【0050】と図8のみであって,それ以外の部分は「等容積プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うことを前提としたものについて記載したものであり,本願発明の実施例とはできないものである。そして,本願発明のような「等容積プロセス」を経た後の「定圧力プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うものと,「等容積プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うものとでは,燃焼プロセスが異なるものであって,燃料の導入タイミング及び導入量等の条件は当然異なるものになるから,「等容積プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うものについての条件を,本願発明のような「等容積プロセス」を経た後の「定圧力プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うものに用いることはできないと考えられる。・・・原告が主張するように本願発明の燃焼サイクルの各プロセスにおける容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)が計算できたとしても,依然として,各プロセスを生じさせる燃焼噴射タイミングや,各噴射タイミングにおける燃料噴射量をどのように決定するのかが不明である。なぜならば,噴射された燃料が燃焼して熱が生じるには時間的なずれが生じており,燃料噴射タイミングと各プロセスの発生タイミングとは必ずしも一致しないことから,各プロセスにおける容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)が決まっても,各プロセスを行うための各燃料噴射タイミングと各燃料噴射タイミングにおける噴射量を決定することはできないからである。すなわち,本願発明の各プロセスでの容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)については,所望する値を算出することは窺い知ることができたとしても,そのような値となる各プロセスを実現するための各燃料噴射タイミングと各燃料噴射タイミングにおける噴射量を決定することについては,当業者に過度の試行錯誤を強いる。
 (3) 以上より,発明の詳細な説明に当業者が容易に本願発明を実施をすることができる程度に発明の構成が記載されているとはいえないとした審決の判断に誤りはない。\n

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平成21(行ケ)10304 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年07月28日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件(旧特36条4項)、サポート要件(旧36条6項1号)違反を理由に訂正を認めなかった審決が取り消されました。\n
上記(2)アの本件詳細説明の記載によれば,本件発明の課題は優れた光沢を出すことにあり,光沢を出すためには昇温結晶化温度が非常に重要とされる一方で,固有粘度は,容器の強度,形状,成形のしやすさの観点から設けられた条件であると認められる。そして,【表2】における実施例と比較例との比較においても,光沢の有無は検討されているが,容器の強度等については触れられていないのであって,固有粘度の差による影響は必ずしも明らかではない。そうすると,フェノールとテトラクロロエタンとの混合割合が50対50,60対40,75対25(3対1)のいずれであっても,固有粘度に最大で0.02程度の差しか生じないとすれば,そのような差が生じるからといって,直ちに当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が光沢を有する容器の製造を目的とする訂正前発明2を実施することができないとまではいえないというべきである。ところで,実施可能\要件に関しては,当業者が,発明の詳細な説明の記載から,成形時の熱履歴等の諸条件を考慮して,昇温結晶化温度128度以上,結晶化熱量20mJ/mg以上のシート層を含む本件発明を実施することが可能かどうかに関する議論は尽くされていないが,少なくとも,上記の点に関する審決の判断は誤りであり,取消事由4は理由がある。イなお,被告は,本件発明の発明特定事項である固有粘度0.55以上の数値に対して,比較例1では固有粘度0.54であって,0.01の差により発明の目的を達成できなくなるのであるから,0.02は大きな差であると主張する。しかし,上記アのとおり,実施例と比較例とは光沢の有無により比較されているのに対し,固有粘度は容器の強度等に関する数値であるから,固有粘度が0.54である比較例1で発明の目的を達成していないとしても,その原因が固有粘度にあるとは断定しがたく,被告の上記主張は採用することができない。
・・・上記(1)のとおり,実施例におけるシート層と外層シートとの厚さの割合は,シート層(中間層)が8μmであるのに対し,その両面に積層された外層シートは各1μmであって(【表1】の「層構\成」欄),外層シートの厚さはシート層の厚さに比べて薄い。したがって,実施例における固有粘度等の数値が多層シートについて測定されたとしても,これらの数値は,厚いシート層の影響を大きく受けるものと解される。(ウ) また,上記(1)のとおり,実施例においては,シート層の97(実施例1),86(同2),95(同3)重量パーセントがポリエチレンテレフタレート(「RE565」)により構成され,外層シートも100重量パーセントがポリエチレンテレフタレート(「RE565」)により構\成されていることから,シート層と外層シートとは,その材料の大部分が共通することになる。加えて,実施例では,シート層と外層シートとを一つの押出機でシート成形し,また,一つの成形機で成形している(段落【0022】)。このように,シート層と外層シートとで材料の大部分が共通し,かつ,同一の機械で成形等が行われていることからすると,シート押出の際の熱履歴や,成形加工時の加熱温度,延伸の程度,冷却条件等については,シート層も外層シートもほぼ同じになるものと解される。(エ) そうすると,実施例における固有粘度,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各数値が多層シートについて測定されたものであっても,それらの数値は,シート層単独で測定された場合と近似した数値になる蓋然性が高いといえる。(オ) 以上のとおりであるから,実施例における固有粘度,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各数値が多層シートについて測定されているからといって,訂正前発明2が本件詳細説明に記載されていないとまではいえず,この点に関する審決の判断には誤りがあり,取消事由5は理由がある。

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平成21(行ケ)10244等  特許権 行政訴訟 平成22年07月20日 知的財産高等裁判所 

 記載不備について争われましたが、裁判所は無効理由無しとした審決を維持しました。この事件は進歩性違反で一旦無効審決がなされ、訂正によりこれを回避した案件です。
 本件特許発明は,いずれも平成20年1月11日付け訂正審判請求が認められたことにより,ハッチや貫通孔といった構成が加えられ,それによって,進歩性が認められたものである。上記各構\成が加えられる前の本件特許発明は,原告が本訴で問題としている,流路の有効内径の数値限定部分等を発明の本質的事項の一部としていたといえるが,上記訂正により,同部分は,それによって進歩性が認められる事項ではなく,単に望ましい構成を開示しているにすぎないといえる。ウ以上を前提として,本件特許発明につき実施可能\要件違反の有無を検討するに,本件特許発明の目的の1つと解される「溶融金属を容器内から導出するために必要な圧力を小さくすること」を達成するためには,溶融金属の重量,流路の粘性抵抗等の条件を設定する必要があり,そのうち粘性抵抗については,溶融金属の性状,ライニングの性質,表面粗さ等のパラメータによって決定され,溶融金属の重量やそれによる影響は,金属の種類や流路の長さ,流速等のパラメータによって決定されるものである。そうすると,単に「溶融金属を導出するために必要な圧力を小さくする」との目的のみを達成するためであれば,流路の有効内径以外のパラメータも設定する必要があることは自明であり,その限りにおいて,原告の主張は誤りではない。しかしながら,「導出圧力の最小化」は,本件特許発明においては付随的な目的にすぎない。この点を措くとしても,被告が主張するように,公道を介して搬送する取鍋の内径は,取鍋を搬送するトラックの車幅との関係で,一定の限度内に収まらざるを得ないのであり,また,そのトラックの車幅も,公道の幅員等により,自ずから相当の限度内になるものということができる。この点につき,原告は,公道搬送可能\な取鍋の大きさは千差万別である旨主張するが,取鍋の標準的な大きさは一定の範囲で自ずから存在するものであり,逆に,単に「望ましい」事項を記載しているにすぎない部分においても,あらゆる大きさや種類のトラックに対して有効なすべてのパラメータを提供しなければならないとするのでは,特許権者や出願人に過大な要求をするものであって,相当ではない。また,作業に慣れた当業者(本件においては,溶融金属を取鍋等を用いて運搬する者)が出湯を行う場合であれば,その出湯時間や速度に,大きな差があるとは考えられない。そして,溶融アルミニウムを流路や配管を通じて排出する場合に粘性抵抗があること自体は,当業者にとって自明であり,望ましいとされる流路の有効内径が提供されれば,それを最大限に生かすべく,他の条件を設定するよう努めるのは当然であって,ここで必要とされる試行錯誤が過度なものであるとは認められない。また,導出圧力の最小化のみを目的とする場合の数値限定と,これが単に付随的な目的にすぎない場合の数値限定では,必然的に相違が生じ,後者の場合には,他の条件との兼ね合いにより,当該目的達成の程度が変化することは明らかである。
 エ 以上からすれば,本件特許発明における,流路の有効内径に関する数値限定部分において,他のパラメータにつき記載がないことをもって,実施可能要件に違\n反するということはできず,原告の主張は理由がない。
(2) 明確性要件について 原告は,本件特許の明細書において,「溶融金属を導入する圧力を小さくする」との効果を達成する上で必要な条件がすべて記載されていないから,本件特許発明は不明確であると主張するが,前述の訂正によって「溶融金属を導入する圧力を小さくする」ことは,既に本件特許発明の主たる目的ではなくなっている上,特許請求の範囲や発明の詳細な説明に記載すべき事項については,特許出願人において適宜選択すべきものであって,本件特許発明についても,その効果が実際に存在するかどうかはともかくとして,特許請求の範囲に記載された流路の有効内径の記載自体は明確であって,他のパラメータの記載がないからといって直ちに,同発明が不明確になるとはいえない。・・・原告は,本件特許発明が,ストーク等の部品交換を行う必要のない容器を提供することを目的としながら(段落【0005】参照),他方で,配管474は「ストーク」に相当するものと解され(段落【0123】,図11参照),以上からすれば,特許を受けようとする発明が明確ではなく,特許法36条4項違反であると主張する。確かに,明細書の段落【0123】や図11において,「ストーク」に相当する配管474が記載されており,これは,段落【0005】の記載とは整合しないといえる。しかし,本件特許発明は,その特許請求の範囲の記載からすれば,いずれも流路を内在するものを指すことが一義的に明らかであって,流路を有さずストークにより溶湯を外部に供給するものは,本件特許発明の対象に含まれない。そもそも,特許出願人において,必ずしも,発明の詳細な説明に記載したものすべてにつき,特許として出願しなくてはならないものではない上,本件での特許請求の範囲の記載が,この点に関して明確であることからすれば,本件において,発明の詳細な説明の段落【0123】の記載や図11が存在することによって,実施可能要件に違反するとはいえず,原告の主張は理由がない。\n

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◆関連事件です。平成21(行ケ)10024

◆関連事件です。平成21(行ケ)10245

◆関連事件です。平成21(行ケ)10246

◆関連事件です。平成19(ネ)10032

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平成21(行ケ)10170 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年05月10日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件(特36条4項)違反であるとした審決が維持されました。
 そこで,これを本願についてみると,本願請求項の構成は,前記のとおり,「(A)・(B)・(C)の定める各検出方法いずれか又はこれらを組み合わせたことによるADP受容体P2T アンタゴニスト等を検出すACる工程」と「製造化工程」と含む「抗血小板用医薬組成物の製造方法」とするものである。上記構成は,概ね,原告が前記特許第3519078号(甲13)により取得した特許権請求項1〜4の記載に「製造化工程」を付加し「抗血小板用医薬組成物の製造方法」としたものである。そして,検出方法(A)・(B)・(C)については具体的な技術内容が特定されているものの,その余の「製造化工程」・「医薬組成物の製造方法」には具体的な技術内容の記載が見当たらない。一方,本願請求項1は,その記載内容からして,末尾にある「医薬組成物の製造方法」であるから,「製造方法」の観点か,又は「物」の観点,すなわち製造原料の観点や製造された医薬組成物の観点若しくはその組み合わせに発明的な特徴があるのが通例であるが,本願請求項1には上記発明的特徴を窺わせる記載が見当たらない。上記によれば,本願請求項1は旧36条6項2号にいう「特許を受けようとする発明が明確であること」(明確性要件)の要件を満たすか問題となる余地があるが,審決は本願につき旧36条4項の実施可能\要件についてのみ判断しているので,以下その当否に限って検討する。エ(ア) 本願請求項1(本願発明)の場合,「製造される物」は有効成分である化合物と製剤化に必要な汎用の成分とからなる「抗血小板用医薬組成物」であるから,当業者がかかる医薬組成物を製造するためには,明細書の記載から有効成分たる化合物が何であるかを理解・把握する必要があり,その際は,有効成分たる化合物を化学構造の観点から化合物自体として把握する必要があるというべきである。すなわち,本願発明の製造方法において製剤化工程を行うためには,その前提として,抗血小板用医薬組成物における有効成分となるものを化合物自体として特定して把握する必要があるというべきである。そうすると,審決が「当該製造方法において,製剤化工程を行うには,当該製剤化工程に先立って,当該(A)〜(C)のいずれか1つの検出方法,又は,それらの組み合わせによるスクリーニングでもって,公知のものに限ってみても,種々の化合物,ペプチド等の,広範かつ無数に近い試験化合物の中より,抗血小板剤として有用なものを化合物自体として特定して把握する必要がある。」(5頁30行〜6頁1行)としたことに誤りはない。(イ) そこで,かかる見地から本願発明をみるに,本願明細書(甲3)には,(A)〜(C)として特定される検出方法によって抗血小板医薬となり得る化合物たるADP受容体P2T アンタゴニストをスクリーニACングすることができること,すなわち抗血小板医薬の有効成分となる可能性のある化合物を選び出すことが可能\であること,抗血小板作用を示す物質として知られている化合物(具体的には2MeSAMP又はAR−C69931MX)が,(A)〜(C)として特定される検出方法によってアンタゴニスト活性を示すことが確認できたことが記載されている(段落【0012】)。また,抗血小板剤として公知のチクロピジンやクロピドグレルの体内での代謝物がADP受容体P2T を阻害するACことで効果をもたらしていると考えられていることなどが紹介され,血小板のADP受容体P2T に対する拮抗薬は,抗血小板剤となる期待ACのあることが記載されている(段落【0007】,【0008】)。そして,実施例では,上記2つの化合物(2MeSAMP,AR−C69931MX)についての検出実験が行なわれている(段落【0114】〜【0121】)。しかし,上記2つの化合物は抗血小板作用を示すことが知られていたものであるからADP受容体P2T のアンタゴニストである蓋然性ACが高く,これらがアンタゴニスト活性を示すことが確認されたという結果は,単に(A)〜(C)として特定される検出方法が有効な検出方法であることの証左になるにすぎない。しかも,実施例は単に上記2つの化合物からADP受容体P2T アンタゴニスト活性が検出されたことACを示すのみで,検出される化合物が共通して持つ化学構造や物性など「物」の観点からの説明はなく,このような実施例の記載から他にいかなる化合物が検出されるか当業者が理解することはできない。すなわち,この2つの化合物以外にどのような化学構\造や物性の化合物が(A)〜(C)として特定される検出方法によって有効成分として検出されるか,当業者は理解することができない。そして,本願明細書(甲3)には,何ら新規な化合物からなるリガンド,アンタゴニスト,アゴニストを発見したことは記載されておらず,したがって,新規な医薬組成物を製造することも記載されていない。以上のとおり,本願明細書(甲3)は,実施例で検出が行われた個別の2つの物質に関してADP受容体P2TACアンタゴニスト活性が確認された旨の記載があるに止まるものであり,どのような化学構造や物性の化合物が有効成分となるかについての具体的な記載はない。したがって,当業者は,本願明細書の記載からある化学構\造の化合物を含む組成物が本願発明に該当するかどうかを認識・判断することはできない。そして,本願発明の特許請求の範囲全体を実施するためには,特定されていない無数の化合物を無作為に製造し,特許請求の範囲に記載された検出方法を適用して試験化合物からADP受容体P2TACリガンド,アンタゴニスト又はアゴニストが検出されるかどうかを確かめ,ADP受容体P2T アンタゴニスAC トたる化合物を見つけ出さなければならないが,このことは当業者に過度の試行錯誤を強いるものというべきである。すなわち,本願明細書の記載からは,スクリーニング工程を経てアンタゴニストとなる化合物が発見された場合に限り,その化合物を用いた抗血小板用医薬組成物を認識できるということが示唆されているのみであり,このことは特定の医薬組成物を認識しうることの単なる期待を示しているにすぎないのであるから,アンタゴニストとなる化合物を発見し,その化合物を用いた抗血小板用医薬組成物を認識するまでにはなお当業者に過度の負担を強いるものである。(ウ) これに対し,原告は,本願優先日(平成12年11月1日又は平成13年1月11日)時点での技術水準を正確に認識し,本願明細書の発明の詳細な説明の記載からHORK3タンパク質が有する特徴的な結合特性を正確に把握すれば,HORK3タンパク質をGPCRとして用いる本願発明において「特定の医薬組成物を認識しうること」には極めて高い蓋然性が認められるから,当業者はHORK3タンパク質をGPCRとして用いる本願発明方法によって「特定の医薬組成物を認識しうること」が極めて高い蓋然性を有することは自明であると主張する。しかし,前記のとおり,本願発明の場合,「製造する物」は有効成分である化合物と製剤化に必要な汎用の成分とからなる抗血小板用医薬組成物であるから,当業者は明細書の記載自体から抗血小板用医薬組成物における有効成分となるものを化合物自体として特定して把握することができること,いいかえれば,明細書の記載自体からある化学構造の化合物を含む組成物が本願発明に該当するかどうかを認識・判断することができなければならないというべきである。そうすると,当業者がスクリーニング工程を含む検出過程を経なければ有効成分となる化合物を把握することができないという点において,候補化合物の多寡,スクリーニング対象となる化合物群ないしライブラリーの入手のしやすさ,検出に要する時間の長短,スクリーニング操作が簡便であるかなどにかかわらず,本願明細書の発明の詳細な説明は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十\分に記載されているとはいえない,即ち本願における発明の詳細な説明は実施可能要件(旧36条4項)を充足していないと認めるのが相当である。\n

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平成21(行ケ)10158 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月30日 知的財産高等裁判所

 明確性違反および実施可能性違反とした審決が維持されました。
 当裁判所は,本願明細書の発明の詳細な説明には,請求項1,11に係る発明の「補助エステル」の特定に関し,当業者が,同発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載はないので,本件審決には,少なくとも,原告の主張に係る取消事由2及び5の違法はないと判断する。その理由は,以下のとおりである。・・・本願明細書には,本願発明による課題解決をするに当たり,当業者において,本願発明で規定したLogP値の範囲内の化合物群の中から,どのような補助エステルを選定すべきかについて,明確かつ十\分な記載がされていないと解される。その理由は,以下のとおりである。すなわち,エステル化合物については,原告が書証として提出する皮膚外用剤に関する文献について見ただけでも,例えば,甲4の10には,パラヒドロキシ安息香酸エステル類の例が挙げられ,アルコール残基の炭素数1ないし12のエステルとしてメチルパラベン等12種類のエステル化合物が示され,甲4の8には,皮膚軟化剤(25頁,26頁),浸透向上剤(26頁〜29頁),乳化剤(30頁〜34頁),他の化粧品用添加剤(43頁,44頁)として,多種のエステル化合物が示されているように,多種多様なものを含む。なお,本願発明の「補助エステル」について,親油性に関してLogP値がニコチン酸アルキルエステルのLogP値より小さく,その差がLogP値において0.5ないし1.5との条件を充足するエステルとの限定がされている。しかし,本願明細書の【0026】【表1】記載の,微量栄養素としてのニコチン酸アルキルエステルだけでも,LogP値1.0の幅の中に複数の炭素原子数のニコチン酸アルキルエステルが含まれることから明らかなように,本願明細書の補助エステルに関するLogP値(0.5〜1.5)を満たすエステル化合物は,膨大な種類のものを含む。ところで,発明の詳細な説明の【0020】では,「栄養素をヒトに送達する」という解決課題を達成するためには,補助エステルは,i)プロ栄養素の角質層からのフラックス(透過性)が類似するという性質と,ii)生物変換に関してプロ栄養素と効果的に競合するという性質の両者が必要であると記載されている。このうち,ii)の生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合するという性質は,請求項1,11で規定されたLogP値の範囲の補助エステルのすべてが当然に備えているものではなく,当業者が,試行錯誤を繰り返して,生物変換に関して微量栄養素と効果的に競合する補助エステルを選別しない限り,本願発明の目的を達成することができず,本願明細書には,その選別を容易にするための記載はない。この点について,原告は,補助エステルが,LogP値の範囲内であれば,すべて,前記ii)の性質を有するように主張するが,同主張は根拠を欠くものであって,採用できない。・・・・以上のとおり,本願発明1,2を実施しようとする当業者は,本願発明のLogP値を満たし,かつ生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合する補助エステルを選択するためには,過度の試行錯誤を要することになる。本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。\n

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平成21(行ケ)10281 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月24日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反、明確性違反を理由として無効とした審決が取り消されました。
 ところで被告は,本件発明1・2に関する特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない旨主張するが,特許法36条6項2号にいう「特許を受けようとする発明が明確であること」とは,特許請求の範囲における構成の記載からその構\成を一義的に知ることができれば特定の問題としては必要にして十分であると解すべきところ,上記イで認められる技術常識及び上記アの記載に照らせば,本件発明1・2における,フェライト中に体積率で3%以上20%以下のマルテンサイトおよび残留オーステナイトが混在するとの点は,加工性を担うフェライト中におけるマルテンサイトおよびマルテンサイト化せずオーステナイトのまま残った残留オーステナイトの体積率を規定したものであり,強度を担うマルテンサイトと,加工時の変形性及びマルテンサイト化した後の強度を担う残留オーステナイトについて,それらの技術的意義は明確であるから,本件発明1・2の特許請求の範囲の記載において,特許法36条6項2号にいう明確性要件違反はないというべきである。エ この点審決は,「訂正明細書には,金属組織としてフェライトに注目し,これが存在することの技術的意義が,高強度とプレス加工性の良いことの両立にあるとは,記載されていない。…」(17頁4行〜6行)とし,「してみると,訂正明細書には,高強度とプレス加工性の良いことの両立という技術的意義は,本来的に,マルテンサイト及び残留オーステナイトを体積率で3〜20%含む金属組織としたことによるものとして記載していると認められる。」(17頁16行〜19行)とした上で,「してみると,高強度とプレス加工性の良いことの両立という技術的意義は,本来的に,マルテンサイト及び残留オーステナイトを3〜20%含む金属組織としたことによるものであるとの技術的内容を認めることはできず,結局のところ,訂正明細書の記載からは,金属組織として,フェライト中に『体積率で3%以上20%以下のマルテンサイトおよび残留オーステナイトが混在する』としたことの技術的意義を見出すことができない。」(18頁23行〜28行)として,本件発明1・2は不明確であると判断した。しかし,上記ア(イ)で摘記したとおり,訂正明細書(甲41の2)には,「鋼帯は焼鈍後,引き続きめっき浴へ浸漬する過程で冷却されるが,この場合の冷却速度は…650℃までを平均0.5〜10℃/秒とするのは加工性を改善するためにフェライトの体積率を増す…」(段落【0023】),「本発明では…むしろフェライトが緩慢に成長することにより,鋼板の引張強さを安定させている。…」(段落【0027】)等の記載があり,フェライトが鋼板の加工性に寄与している旨が示されていることになる。以上の検討によれば,審決の本件発明1・2の明確性要件に関する判断は誤りというべきである。

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平成20(行ケ)10235 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月14日 知的財産高等裁判所 

 36条違反により無効であるとした審決が取り消されました。リパーゼ最高裁判決にも触れています。
 以上のとおり,当業者であれば,本件訂正明細書の記載から,本件発明に係る共沸混合物様組成物の全範囲が空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用できることが理解可能であって,実施例4として記載されていた具体例が本件訂正によって本件発明の対象外となってもなお,本件発明が実施可能\要件に欠けることはないというべきである。(5) 審決は,実施例4の記載からは,訂正後の請求項1に記載された共沸混合物様組成物について,すべての範囲に渡ってCOP 等の性能が同等又は優れているとはいえず,また他に具体的な性能\評価の記載もないから,本件訂正明細書には,本件発明について当業者が実施することができる程度に発明の目的,構成及び効果が発明の詳細な説明中に記載されているとすることはできないとしている。しかし,本件発明は,前記(1) ウ記載のとおり,その組成範囲が限定された組成物であって,本件訂正明細書において,同組成物が共沸混合物様に挙動し,かつ,同組成物が空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用可能であることが開示されている。本件発明は,共沸混合物様に挙動する組成物の組成範囲を開示した点において既に新規性があるものであって,「すべての範囲に渡ってCOP 等の性能が同等又は優れている」ことの開示が必要であるとまではいえない。(6) 被告は,本件訂正明細書には,本件発明の具体的な性能評価(温度勾配が0.3°C未満であること,難燃性を有すること,空調用又はヒートポンプ用に適した熱力学的性能\を有すること)は記載されていない旨主張する。しかし,そもそも,温度勾配については,本件発明を特定するために必要な記載事項とはいえない。・・・・・・被告は,最高裁平成3年3月8日判決(いわゆるリパーゼ事件判決)を引用して,請求項1の後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧」について,それが誤記であるとしても,それは同判決が判示するような「一見して誤記であることが明らかな場合」には当たらないと主張し,また,誤記ではないとしても,「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない」場合にも当たらないと主張するので,念のために,所論の判例との関係につき付言することとする。上記判示のとおり,本件発明の請求項1の文言は,前段では,組成物の物質の名称が特定の数値(重量パーセント)とともに記載され,後段では,特定の温度における特定の数値の蒸気圧が記載されており,それぞれの用語自体としては疑義を生じる余地のない明瞭なものであるが,組成物の発明であるから,構成としては前段の記載で必要かつ十\分であるのに,後者は,さらにこれを限定しているようにも見えるものの,真実,要件ないし権利の範囲として更に付された限定であるとすれば,その帰結するところ,権利範囲が極めて限定され,特許として有用性がほとんどない組成物となり,極限的な,いわば点でしか成立しない構成の発明であるという不可思議な理解に,当業者であれば容易に想到することが必定である。そうすると,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,前段と後段との関係,特に後段の意味内容を理解するために,明細書の関係部分の記載を直ちに参照しようとするはずである。そうであってみれば,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する」の記載に接し,その技術的な意義を一義的に明確に理解することができないため,明細書の記載を参照する必要に迫られ,これを参照した結果,その意味内容を上記判示のように理解するに至るものということができる。したがって,本件発明の請求項1の解釈に当たって明細書の記載を参照することは許され,上記の判断には,所論のような,判例の趣旨に反するところはなく,被告のこの点に関する主張は採用することができない。 (3) 以上のとおり,本件発明における請求項1の「32°Fにて約119.0 psiaの蒸気圧を有する」との記載(後段記載)は,「真の共沸混合物が有する蒸気圧」を記載したにとどまり,本件発明の対象はあくまで「約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタン」との組成範囲の記載(前段記載)によって定まると解釈すべきことになるから,本件発明の前段記載と後段記載は実質的に矛盾しないことになり,本件特許には,審決が説示したような実施可能要件違反はない。\n

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平成21(行ケ)10033 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月28日 知的財産高等裁判所

 サポート要件違反とした審決が取り消されました。
 当裁判所は,審決が,法36条6項1号所定の「特許請求の範囲の記載は,・・・特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」との要件を満たすためには,医薬の用途発明では「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をする」ことが必要であると同項を解釈し,本願の特許請求の範囲は,同項1号の要件を満たさないとした点には,誤りがあると判断する。その理由は,以下のとおりである。・・・「特許請求の範囲の記載」が法36条6項1号に適合するか否か,すなわち「特許請求の範囲の記載」が「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」か否かを判断するに当たっては,その前提として「発明の詳細な説明」がどのような技術的事項を開示しているかを把握することが必要となる。そして,法36条6項1号の規定は,「特許請求の範囲」の記載に関してその要件を定めた規定であること,及び,発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除するために設けられた規定であることに照らすならば,同号の要件の適合性を判断する前提としての「発明の詳細な説明」の開示内容の理解の在り方は,上記の点を判断するのに必要かつ合理的な方法によるべきである。他方,「発明の詳細な説明」の記載に関しては,法36条4項1号が,独立して「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の・・・技術上の意義を理解するために必要な事項」及び「(発明の)実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載した」との要件を定めているので,同項所定の要件への適合性を欠く場合は,そのこと自体で,その出願は拒絶理由を有し,又は,独立の無効理由(特許法123条1項4号)となる筋合いである。そうであるところ,法36条6項1号の規定の解釈に当たり,「発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除する」という同号の趣旨から離れて,法36条4項1号の要件適合性を判断するのと全く同様の手法によって解釈,判断することは,同一事項を二重に判断することになりかねない。仮に,発明の詳細な説明の記載が法36条4項1号所定の要件を欠く場合に,常に同条6項1号の要件を欠くという関係に立つような解釈を許容するとしたならば,同条4項1号の規定を,同条6項1号のほかに別個独立の特許要件として設けた存在意義が失われることになる。したがって,法36条6項1号の規定の解釈に当たっては,特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明の記載の範囲と対比して,前者の範囲が後者の範囲を超えているか否かを必要かつ合目的的な解釈手法によって判断すれば足り,例えば,特許請求の範囲が特異な形式で記載されているため,法36条6項1号の判断の前提として,「発明の詳細な説明」を上記のような手法により解釈しない限り,特許制度の趣旨に著しく反するなど特段の事情のある場合はさておき,そのような事情がない限りは,同条4項1号の要件適合性を判断するのと全く同様の手法によって解釈,判断することは許されないというべきである。・・・・審決は,その理由中において,「医薬についての用途発明においては,一般に,有効成分の物質名,化学構\造だけからその有用性を予測することは困難であり,発明の詳細な説明に有効量,投与方法,製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても,それだけでは当業者が当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから,特許を受けようとする発明が,発明の詳細な説明に記載したものであるというためには,発明の詳細な説明において,薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることにより,その用途の有用性が裏付けられている必要があ(る)」(審決書2頁22行〜29行)と述べている。同部分は,法36条4項1号の要件充足性を判断する前提との関係では,同号の趣旨に照らし,妥当する場合があることは否定できない。すなわち,法36条4項1号は,特許を受けることによって独占権を得るためには,第三者に対し,発明が解決しようとする課題,解決手段,その他の発明の技術上の意義を理解するために必要な情報を開示し,発明を実施するための明確でかつ十\分な情報を提供することが必要であるとの観点から,これに必要と認められる事項を「発明の詳細な説明」に記載すべき旨を課した規定である。そして,一般に,医薬品の用途発明が認められる我が国の特許法の下においては,「発明の詳細な説明」の記載に,用途の有用性を客観的に検証する過程が明らかにされることが,多くの場合に妥当すると解すべきであって,検証過程を明らかにするためには,医薬品と用途との関連性を示したデータによることが,最も有効,適切かつ合理的な方法であるといえるから,そのようなデータが記載されていないときには,その発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとされる場合は多いといえるであろう。しかし,審決が,法36条6項1号の要件充足性との関係で,「発明の詳細な説明において,薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることにより,その用途の有用性が裏付けられている必要があ(る)」と述べている部分は,特段の事情のない限り,薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることが,必要不可欠な条件(要件)ということはできない。法36条6項1号は,前記のとおり,「特許請求の範囲」と「発明の詳細な説明」とを対比して,「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」に記載された技術的事項の範囲を超えるような広範な範囲にまで独占権を付与することを防止する趣旨で設けられた規定である。そうすると,「発明の詳細な説明」の記載内容に関する解釈の手法は,同規定の趣旨に照らして,「特許請求の範囲」が「発明の詳細な説明」に記載された技術的事項の範囲のものであるか否かを判断するのに,必要かつ合目的的な解釈手法によるべきであって,特段の事情のない限りは,「発明の詳細な説明」において実施例等で記載・開示された技術的事項を形式的に理解することで足りるというべきである。したがって,審決が,発明の詳細な説明に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることにより,その用途の有用性が裏付けられている」ように記載されていない限り,特許請求の範囲の記載は,法36条6項1号に規定する要件を満たさないとした部分は,常に妥当するものではなく,そのことのみを理由として,法36条6項1号に反するとした判断は,特段の事情があればさておき,このような特段の事情がない限りは,理由不備があるというべきである。イ そして,審決は,理由中において,発明の詳細な説明の具体的な記載の検討をし,「本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明の医薬としての有用性を裏付ける薬理データも薬理データと同視すべき程度の記載もなされていない。」として,本願は,法36条6項1号所定の要件を満たさないと結論付けた。しかし,審決は,発明の詳細な説明の記載によって理解される技術的事項の範囲を,特許請求の範囲との対比において,検討したのではなく,「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載」があるか否かのみを検討して,そのような記載がないことを理由として,法36条6項1号の要件充足性がないとしたものであって,本願の特許請求の範囲の記載が,どのような理由により,発明の詳細な説明で記載された技術的事項の範囲を超えているかの具体的な検討をすることなく,同条6項1号所定の要件を満たさないとした点において,理由不備の違法があるというべきである。また,本件においては,「特許請求の範囲」が特異な形式で記載され,法36条6項1号の要件を充足しないと解さない限り,産業の発展を阻害するおそれが生じるなど特段の事情は存在しない。ウ 被告は,知財高裁大合議部判決が,特性値を表\す複数の技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を含む発明に係る「特許請求の範囲の記載」に関して,平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項1号(現行法36条6項1号)の規定に適合しないとした判決の理由を,医薬用途発明に適用するならば,発明の詳細な説明に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載」をすることが,法36条6項1号の適合性を充足するための要件になると主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり,採用できない。すなわち,知財高裁大合議部判決は,前記のとおり,特性値を表す複数の技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を含む発明に係る「特許請求の範囲の記載」が,平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項1号所定(現行法36条6項1号)の要件に適合するか否かについて,同争点に対して判示した事案である。同判決は,判決理由中の第6の1(4)において,「発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比」との項目を設けて,「発明の詳細な説明の記載」で示された実施例と比較例とを検討した上で,「当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載しているとはいえ」ないと判示し,さらに,同判決理由中の第6の1(5)において,「特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに,・・・その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し,明細書のサポート要件に適合させることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されない」と判示した。以上のとおり,知財高裁大合議部判決の判示は,i)「特許請求の範囲」が,複数のパラメータで特定された記載であり,その解釈が争点となっていること,ii)「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」の記載による開示内容と対比し,「発明の詳細な説明」に記載,開示された技術内容を超えているかどうかが争点とされた事案においてされたものである。これに対し,本件は,i)「特許請求の範囲」が特異な形式で記載されたがために,その技術的範囲についての解釈に疑義があると審決において判断された事案ではなく,また,ii)「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比して,前者の範囲が後者の範囲を超えていると審決において判断された事案でもない。知財高裁大合議部判決と本件とは,上記各点において,その前提を異にする。したがって,被告が,知財高裁大合議部判決の判示内容を医薬用途発明に適用すれば,発明の詳細な説明に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載」をすることが,法36条6項1号の適合性を充足するための要件になると主張する点は,本件において,同様に適用されるための前提を欠く。したがって,知財高裁大合議部判決の判示を論拠として,医薬品の用途発明である本件について,発明の詳細の記載に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないから,法36条6項1号の要件を満たさないとすべきであるとの被告の主張は,採用の限りでない。エ 以上検討したとおり,審決は,法36条6項1号の要件を満たすためには,常に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないこと」が必要であるとの前提に立って,本願では,「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないこと」のみを理由に,同条6項1号の要件を充足しないとしたものであって,審決の判断には,理由不備の違法がある。(2) 以上のとおり,審決の判断には,法36条6項1号についての誤った前提に基づいて,その要件を満たさないとした点において理由不備の違法がある。のみならず,具体的な事案に照らしても,以下のとおり,法36条6項1号に適合しないとした審決の判断には誤りがある。

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平成21(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月20日 知的財産高等裁判所

 審決は、補正が新規事項、サポート要件違反、進歩性なしとしました。これに対して裁判所は、いずれも否定して上記審決を取り消しました。
 以上によると,当初明細書に記載される抗酸化作用を有する組成物は,単なる焼酎蒸留廃液からなる抗酸化物質と比べて,優れたヒドロキシラジカル消去活性を有するものであること,同組成物は,それ故,老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて良好であることが記載されているものであって,そうすると,本件補正による新請求項1に係る組成物が,補正事項(b)「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ものであって,また,同(c)「ヒドロキシラジカル消去剤」との用途に用い得るものであることは,当初明細書に記載された事項の範囲内のものというべきである。エもっとも,被告は,当初明細書には,「ヒドロキシラジカル消去剤」との文言は存在せず,単に「抗酸化剤」又は「抗酸化作用」と「活性酸素によって誘発される生活習慣病」との関係に係る従来技術が示されたものにすぎないから,当初明細書の記載では,本願補正発明に係る「組成物」からなる「ヒドロキシラジカル消去剤」について実体的に記載されたものではないと主張する。しかしながら,上記イのとおり,当初明細書の【0040】には,ヒドロキシラジカル消去活性を有する抗酸化作用を有する組成物及びこれが活性酸素によって誘発される種々の生活習慣病の予防に有効であることが記載されているのであって,被告の主張は採用することができない。また,被告は,当初明細書の記載においては,本願補正発明に係る「組成物」の「活性酸素によって誘発される生活習慣病」に対する有効性についても全く確認されておらず,有効性が不明であるとして,新請求項1には新規事項の追加があると主張するが,これは,記載不備や進歩性の判断における発明の効果の問題であって,新規事項の追加の有無の問題ではないから,被告の主張は採用し得ない。オしたがって,新請求項1に係る本件補正について,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということができないとした本件審決の判断は誤りである。\n・・・,特許請求の範囲が,特許法36条6項1号に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。・・・オ 以上によると,上記ウのとおり,当業者が,ヒドロキシラジカル消去活性の大小や本願発明の抗酸化作用を有する組成物が強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有して種々の生活習慣病の予防に好適であること等を記載する本願明細書に接し,上記エの公知の知見をも加味すると,本件補正発明の組成物が,活性酸素によって誘発される生活習慣病の予\防に対して効果を有することを認識することができるものであって,本件補正発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,その記載によって,生活習慣病などの疾患に対して有効である抗酸化物質を提供しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。カ この点に関し,本件審決は,本願明細書の発明の詳細な説明には,(活性酸素によって誘発される)生活習慣病(の予防)に対する効果の有無及び当該効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係(例えば,どの程度の抗酸化作用を有していれば,生活習慣病(の予\防)に対する効果を有するとするのかなど)に係る記載又はそれらを示唆する記載はないと説示する。しかしながら,本願明細書には,本件補正発明の組成物が活性酸素によって誘発される生活習慣病の予防に対して効果を有することを当業者が認識することができる記載があることは上記のとおりであり,また,新請求項1には,どの程度の抗酸化作用を有していれば生活習慣病(の予\防)に対する効果を有するかなどの生活習慣病の予防に対する効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係についてまで記載されておらず,このような対応関係について発明の詳細な説明中に記載されている必要があると解されるものでもない。\n

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平成20(行ケ)10235 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月14日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反ありとした審決が取り消されました。
 本件発明は,「約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,32°Fにて約119.0psia の蒸気圧を有する,空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物。」と特定されており,「空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物」が「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する」ことが明確に特定されているため,これが訂正前の請求項1の発明と全く同一内容の発明であるということはできず,訂正に伴う相応の変更があったものといわざるを得ない。しかしながら,本件発明は,訂正前と同様,共沸混合物様組成物に関するものであって,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の技術的意義についても,訂正前と実質的な変更はないものというべきであるが,本件訂正による特許請求の範囲の減縮は,発明の用途を限定するとともに,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンからなる組成物の組成範囲を減縮することを目的としてされているものの,後段記載の部分がそのまま維持されたこともあって,前段記載と後段記載の矛盾関係が発生したものといえる。そうであれば,本件訂正後の本件発明は,発明の用途や組成範囲が限定された点を除けば,本件訂正前の発明と基本的に同一であるが,本件訂正明細書の発明の詳細な説明を参照しつつ,上記のような矛盾が生じないように解釈すべきであるから,「空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての組成物であり,約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタンからなり,32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する共沸混合物のような組成物」(ここで「共沸混合物のような組成物」とは「共沸混合物のように挙動する組成物」であるという意義)であると解するのが相当である。すなわち,本件発明の後段における蒸気圧の記載は,「真の共沸混合物」が有する属性を記載したものにすぎないと解すべきであって,本件訂正明細書の発明の詳細な説明を参照した当業者であれば,本件発明が上記認定どおりの組成物であると理解することができるものと認められる。そして,前記アで検討したとおり,本件訂正明細書には,本件発明の特徴について記載されており,当業者がこれらの記載を見れば,本件発明が「空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての組成物であって,約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,『32°Fにて約119.0 psia という真の共沸混合物の蒸気圧を有する,共沸混合物』のように挙動する組成物」であるものと理解し,その旨実施することができるものと認められる。したがって,本件発明の前段記載と後段記載とは実質的に矛盾するものではなく,両者が矛盾するものであると解釈し,これを根拠に本件発明につき実施可能要件違反があるとした審決の認定判断には誤りがある。・・・エ 被告は,最高裁平成3年3月8日判決(いわゆるリパーゼ事件判決)を引用して,請求項1の後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧」について,それが誤記であるとしても,それは同判決が判示するような「一見して誤記であることが明らかな場合」には当たらないと主張し,また,誤記ではないとしても,「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない」場合にも当たらないと主張するので,念のために,所論の判例との関係につき付言することとする。上記判示のとおり,本件発明の請求項1の文言は,前段では,組成物の物質の名称が特定の数値(重量パーセント)とともに記載され,後段では,特定の温度における特定の数値の蒸気圧が記載されており,それぞれの用語自体としては疑義を生じる余地のない明瞭なものであるが,組成物の発明であるから,構成としては前段の記載で必要かつ十\分であるのに,後者は,さらにこれを限定しているようにも見えるものの,真実,要件ないし権利の範囲として更に付された限定であるとすれば,その帰結するところ,権利範囲が極めて限定され,特許として有用性がほとんどない組成物となり,極限的な,いわば点でしか成立しない構成の発明であるという不可思議な理解に,当業者であれば容易に想到することが必定である。そうすると,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,前段と後段との関係,特に後段の意味内容を理解するために,明細書の関係部分の記載を直ちに参照しようとするはずである。そうであってみれば,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する」の記載に接し,その技術的な意義を一義的に明確に理解することができないため,明細書の記載を参照する必要に迫られ,これを参照した結果,その意味内容を上記判示のように理解するに至るものということができる。したがって,本件発明の請求項1の解釈に当たって明細書の記載を参照することは許され,上記の判断には,所論のような,判例の趣旨に反するところはなく,被告のこの点に関する主張は採用することができない。(3) 以上のとおり,本件発明における請求項1の「32°Fにて約119.0 psiaの蒸気圧を有する」との記載(後段記載)は,「真の共沸混合物が有する蒸気圧」を記載したにとどまり,本件発明の対象はあくまで「約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタン」との組成範囲の記載(前段記載)によって定まると解釈すべきことになるから,本件発明の前段記載と後段記載は実質的に矛盾しないことになり,本件特許には,審決が説示したような実施可能要件違反はない。\n

◆判決本文

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平成20(行ケ)10423 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月17日 知的財産高等裁判所

 36条4項(実施可能性違反)を理由に拒絶審決が維持されました。
 「上記第4項は特許出願における実施可能要件と称されているものであるが,特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的権利を付与するものであるから,明細書に記載される発明の詳細な説明は,当業者(その発明の属する分野における通常の知識を有する者)が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成が記載されていることを要するとしたものであるところ,上記のような法の趣旨に鑑みると,明細書の発明の詳細な説明の欄に当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十\分に記載されていること,ひいては当該発明が実施可能であることは,出願人が特許庁長官に対し立証する責任があると解される。」\n

◆平成20(行ケ)10423 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月17日 知的財産高等裁判所

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平成20(行ケ)10304 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年08月18日 知的財産高等裁判所

実施可能性違反ではないとした無効審決が取り消されました。
 「特許法36条4項は,「前項第三号の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と定めるところ,本件発明のように,特定の用途(樹脂配合用)に使用される組成物であって,一定の組成割合を有する公知の物質から成るものに係る発明においては,一般に,当該組成物を構\成する物質の名称及びその組成割合が示されたとしても,それのみによっては,当業者が当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該組成物を当該用途に容易に実施することができないから,そのような発明について実施可能\要件を満たすといい得るには,発明の詳細な説明に,当該用途の有用性を裏付ける程度に当該発明の目的,構成及び効果が記載されていることを要すると解するのが相当である。さらに,本件発明は,その用途として,単に「樹脂配合用」と規定するのみであるから,本件発明について実施可能\要件を満たす記載がされるべきである以上,発明の詳細な説明に,酸素吸収剤を適用する樹脂一般について,本件発明の酸素吸収剤を適用することが有用であること,すなわち,当該樹脂一般について,本件発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされていることを要すると解すべきである。そこで,以下,上記観点に立ち,発明の詳細な説明に,本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂一般について,本件発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載があるか否かについて検討する。・・・しかしながら,i),iii)及びvi)の各記載の実質は,単に結論(相違点に係る構成を採用した本件発明が本件作用効果を奏する旨)を述べるものすぎない。また,ii)iv)及びv)の各記載をみても,これを,酸素吸収剤を適用する樹脂の特性(化学構造等)を念頭に置いたものとみることはできないから,当業者において,これらの記載の内容が,エチレン−ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般についても,そのまま妥当するものと容易に理解することができるとみることはできない。さらに,発明の詳細な説明には,当業者において,銅及び硫黄が過大に存在することによる樹脂のゲル化及び分解並びに異味・異臭成分の発生を考える上で,エチレン−ビニルアルコール共重合体とそれ以外の樹脂一般とを同視し得るものと容易に理解することができるような記載は全くない。以上からすると,発明の詳細な説明に,エチレン−ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般について,本件発明が本件作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされているものと認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はない。」

◆平成20(行ケ)10304 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年08月18日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年07月29日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした無効審決に対して、i)手続き違背、ii)新規事項ではない、iii)実施可能要件違反なし等を理由として審決が取り消されました。
  「審判手続等の経緯のアないしウによれば,請求項2に係る特許発明について,請求人(被告)から,甲1を引用例とした進歩性欠如を理由による無効審判が請求され,その後,請求人(被告)により,口頭審理手続において甲6を主引用例とした無効理由が主張された。これに対して,審決は,甲1及び甲6に基づいて進歩性を欠くとの理由により無効とすべきであると判断した。そうすると,審決の判断の基礎となった無効理由について,被請求人である原告には,意見を申し述べる機会(特許法134条2項,153条2項)及び訂正請求をする機会(同法134条の2第1項)が付与されていなかったものというべきである。」
「上記によれば,メインCPU31が実行した内部抽選処理の結果に基づいて内部抽選データISDの当選フラグがセットされ,また,サブCPU55に開始情報Aが入力されてから停止操作情報Bが入力されるまでの期間T1(すなわち,メインリールの回転中の期間)において,第1処理を選択するか第2処理を選択するかを,サブCPU55が制御プログラムに従って決定することが記載されているということができる。また,このサブCPU55が第1処理を選択するか第2処理を選択するかを決定する処理の例示として,メインCPU31から送信される内部抽選データISDに含まれる所定の当選フラグがセットされている場合に第2処理を選択して実行してもよいことが記載されているということができる。イそして,「メインCPU31が実行した内部抽選処理の結果に基づいて当選フラグがセットされた内部抽選データISD」が「抽選手段の抽選結果」に相当するといえることに照らせば,本件特許明細書(甲18,段落【0216】)の「内部抽選データISDに含まれる所定の当選フラグがセットされている場合に第2処理を選択して実行してもよい」との記載部分に,「抽選手段の抽選結果に基づいて第2処理を選択的に実行する」との事項が明確に示されていると解される。そして,本件特許明細書(甲18)には,第1処理を選択して実行することを妨げる記載はないのであるから,「第2処理を選択して実行してもよい」との記載部分を見た当業者は,第1処理の選択と第2処理の選択を決定する処理に関して,「第1処理を選択して実行してもよい」と理解するのが自然である。そうすると,「抽選手段の抽選結果基づいて第1処理を選択的に実行する」ことが,本件特許明細書(甲18)に,実質的に記載されているということができる。」
「特許法36条4項は,「発明の詳細な説明の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と定め,同条同項1号において,「一経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。そして,上記の「経済産業省令」に当たる特許法施行規則24条の2は,「特許法第三十\六条第四項第一号の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と定めている。特許法36条4項1号において,「通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる「実施可能\要件」)を規定した趣旨は,通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したといえない発明に対して,独占権を付与することになるならば,発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるからである。ところで,そのような,いわゆる実施可能\要件を定めた特許法36条4項1号の下において,特許法施行規則24条の2が,(明細書には)「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきとしたのは,特許法が,いわゆる実施可能要件を設けた前記の趣旨の実効性を,実質的に確保するためであるということができる。そのような趣旨に照らすならば,特許法施行規則24条の2の規定した「技術上の意義を理解するために必要な事項」は,実施可能\要件の有無を判断するに当たっての間接的な判断要素として活用されるよう解釈適用されるべきであって,実施可能要件と別個の独立した要件として,形式的に解釈適用されるべきではない。」

◆平成20(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年07月29日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10489 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年04月23日 知的財産高等裁判所

 実施可能性要件を満たしているとした審決が取り消されました。
    「旧特許法36条4項は,「・・・発明の詳細な説明は,経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」と定めるところ,この規定にいう「実施」とは,物(麻酔薬組成物)の発明である本件発明1にあっては当該物の生産,使用等を,物を生産する方法(麻酔薬組成物の調製法)の発明である本件発明2及び3にあっては当該方法の使用,当該方法により生産した物の使用等を,方法(一定量のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法)の発明である本件発明4にあっては当該方法の使用をそれぞれいうものであるから,本件各発明について実施可能\要件を満たすというためには,発明の詳細な説明の記載が,本件発明1については当業者が同発明に係る麻酔薬組成物を,本件発明2及び3については当業者が同各発明に係る麻酔薬組成物の調製法を,本件発明4については当業者が同発明に係る一定量のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法をそれぞれ使用することができる程度のものでなければならない。そして,本件発明1のような組成物の発明においては,当業者にとって,当該組成物を構成する各物質名及びその組成割合が示されたとしても,それのみによっては,当該組成物がその所期する作用効果を奏するか否かを予\測することが困難であるため,当該組成物を容易に使用することができないから,そのような発明において実施可能要件を満たすためには,発明の詳細な説明に,当該組成物がその所期する作用効果を奏することを裏付ける記載を要するものと解するのが相当である。また,上述したところは,本件発明2及び3のような組成物の調製法の発明並びに本件発明4のような物質間の化学反応を防止する方法の発明においても,同様に妥当するものというべきである。・・・以上によれば,発明の詳細な説明には,本件各発明について,本件数値の水を含有させることにより所期の作用効果を奏することを裏付ける記載があるものと認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はないから,発明の詳細な説明には,本件各発明の少なくとも各一部につき,当業者がその実施をすることができる程度の記載があるとはいえないというべきである。」

◆平成18(行ケ)10489 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年04月23日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10171 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年04月07日 知的財産高等裁判所 

  実施可能要件違反(36条4項)として拒絶した審決が維持されました。
  「本願明細書(甲2,5)における開示事項が,本願発明の実施可能要件を満たすといえるためには,上記比Hdd/Hdeが4以上を呈する優れた磁気損失特性を有する複合磁性体を得るための手段としての,各製造方法において扁平状の形状を有する軟磁性体粉末をできる限り同じ方向に並べるようにしてその配向度を改善するために設定する条件等についての技術的事項が,本願明細書(甲2,5)において,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていることを要するというべきである・・・そうすると,本願発明を実施するためには,比Hdd/Hdeが4以上を呈する優れた磁気損失特性を有する複合磁性体を得るため,出発粗原料粉末の平均粒径の特定に加えて,本願発明の効果に密接にかかわる延伸・引裂加工により生じる残留歪みの大きさを考慮し,同加工等により扁平化する際の加工手段及び加工条件の設定が必要であることになるところ,この点については,本願明細書(甲2,5)には,「アトライタ及びピンミルを用い様々な条件下にて粉砕,延伸・引裂加工を行い」との記載(段落【0033】)が存するにすぎず,実施例にも「磁歪の大きさ」の記載が存するにすぎないから,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に上記加工手段及び加工条件が記載されているものとは認められない。」

◆平成19(行ケ)10171 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年04月07日 知的財産高等裁判所 

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◆平成19(行ケ)10181 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月27日 知的財産高等裁判所

  実施可能性要件違反か否かが争われました。裁判所は要件を満たしていないとした審決を取り消しました。
    「被告は,刷紙区分装置8,刷紙区分部材9,支持要素10は動作のための具体的な装置が図示されておらず,その記載もないため,当業者が本願発明を容易に実施することができる程度に記載されているものであるとはいえないと主張する。しかし,前記(3)ウのとおり,本願発明における刷紙区分部材9,支持要素10の動作は,堆積体の形成速度に従い堆積体に沿って前後に移動することと,堆積体を分離・支持するために上昇し,又は終端板と入れ替わるために降下するという上下動に尽きるのであって,それ自体決して複雑なものとはいい難い。 イ 被告は,マガジン13が具体的構造や動作について記載がないため不明である旨,また,その点について本願明細書の図1と他の図面(【図2】〜【図6】)との整合性がないなどと主張する。しかし,本願発明において,マガジン13は,その内に堆積体7の端部を形成する終端板5,12が支承されており,担持機構\4,11がその終端板を収容するように形成されているものとして規定されているにすぎず(本願発明10),担持機構4,11がマガジン13の終端板取り出し位置において,マガジン13から終端板を取り出すことが可能\であればその具体的構造を問うものではないし,可動性のものであることさえ必要でないことは容易に理解できる。したがって,当業者が本願発明を実施できないとまでは認めることができない。」

◆平成19(行ケ)10181 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月27日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10511 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年09月27日 知的財産高等裁判所

  CS関連発明について、実施可能要件違反として拒絶された審決が維持されました。
   「しかるところ,1個の発明は,通常,まとまりのある複数の部分に区分することができ,この場合には,区分されたそれぞれのまとまりのある部分を構成する各構\成要件が,それぞれの部分を特定する発明特定事項となるところ,そのようにして特定された各部分は,必ずしも,特許出願人又は特許権者が,当該発明において重要と考える構成要件を含むものとは限らないが,そのような構\成要件を含むと否とに関わらず,一つでも実施可能ではない部分があれば,当該発明は,全体として実施可能\でないことになる。本件についていえば,審決が特定した発明特定事項は,「複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムとを一つの時間帯に一斉に配信すること,制御プログラムの実行環境を形成して実行することにより,複数種類のデジタルコンテンツのいずれかを選択して再生すること」というものであり,これに,原告の挙げる「デジタルコンテンツを,・・・コンテンツ提供者が望む再生内容を表す再生ルールに従って関連付けて編集する」との要件が含まれていないとしても,この発明特定事項によって特定される部分が実施可能\でなければ,本願発明全体が実施可能でないことになることは明らかである。そして,審決は,上記発明特定事項によって特定される部分が実施可能\でないと判断するものであるところ,そうであれば,他の発明特定事項(例えば,原告の挙げる要件を含む発明特定事項)によって特定される部分が実施可能であるか否かは,審決の結論に影響を及ぼすものではないから,当該他の発明特定事項によって特定される部分を摘示し,これについて,実施可能\であるか否かを判断する必要がないことも明白である。」 

◆平成18(行ケ)10511 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年09月27日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10487 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年07月19日 知的財産高等裁判所

 36条4項(実施可能性要件)に違反するとした審決が維持されました。
  「訂正発明1は,上記のとおり,水性接着剤を構成する酢酸ビニル樹脂系エマルジョンとしてはシード重合により得られるものであれば特に制限はないとされているところ,上記ウの請求項3,4の限定的構\成の説明についての記載から明らかなとおり,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを形成する際に用いうるモノマーには多種多様なものがあり,実施例1ないし3で用いられているn−ブチルアクリレートはその1つにすぎない(下線部参照。)。しかし,訂正明細書には,訂正発明1の接着剤を製造する方法につき,実施例1ないし3の製造方法以外に,貯蔵弾性率G′とずり応力τを所定の値に調整した酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを製造する具体的な方法の記載は全くない。そうすると,シード重合により得られるものであれば特に制限はないとされる訂正発明1の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンについて,酢酸ビニルのみを用いて製造されるエマルジョンの場合及びn−ブチルアクリレート以外のモノマーを酢酸ビニルに併用する場合に,貯蔵弾性率G′及びずり応力τについて所定の値を満たす水性接着剤を製造する方法についての記載はないということになる。」

◆平成18(行ケ)10487 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年07月19日 知的財産高等裁判所

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◆平成17(行ケ)10661 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成19年02月21日 知的財産高等裁判所

  測定方法が開示されていないとして記載不備とした審決が取り消されました。
   決定は,「本件発明1〜4の特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項として,触媒担体及びグラニュラー状物の平均粒径を特定の範囲に限定している。しかしながら,特許明細書において,この平均粒径については,数値は記載されてはいるものの,その測定法についてはなんらの記載もない。」(決定謄本3頁第1ないし第2段落)とするが,本件明細書において,この平均粒径の測定法についての記載があるか否かのみを問題にしており,平均粒径の測定の前提となる原理,試料の性質,測定の目的,必要な測定精度等の検討は,全くしておらず,それにもかかわらず,短絡的に,「平均粒径には・・・長さ平均径,面積長さ平均径,体面積平均径,重量平均径,面積平均径,体積平均径と様々な種類があり,同一の分布の粉体の系でもその数値は異なるものとなる。さらに,その平均粒径の計算の基礎となる,粒度の測定法にも・・・顕微鏡法,コールカウンター,ふるい分け法,沈降法,沈降分級法,遠心沈降法,慣性力法,電磁波散乱法,その他,多数のものが知られている。・・・単に平均粒径と記載しただけでは,いずれの粒度の測定法によるもので,いずれの意味の平均粒径かは不明であり一義的に決まるものではない。」(同頁第3ないし第5段落)と結論付けているのみであるから,判断手法において,そもそも失当であるというほかない。

◆平成17(行ケ)10661 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成19年02月21日 知的財産高等裁判所

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◆平成17(ワ)2649 特許権侵害差止等請求事件 平成18年07月20日 大阪地方裁判所

  改正前特許法36条4項に規定する実施可能要件を満たしていないとして、権利行使不可と判断されました。
「本件明細書は,重合の初期に重合開始剤(過酸化水素水)を多量に添加する場合はともかく,それ以外の方法によって製造された水性接着剤も本件発明に包含される以上,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。したがって,本件特許は,改正前特許法36条4項に規定する実施可能\要件を満たしていないから,同法123条1項4号に該当し,特許無効審判により無効とすべきものと認められるから,特許法104条の3第1項により,原告は,被告に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることはできないというべきである。」

◆平成17(ワ)2649 特許権侵害差止等請求事件 平成18年07月20日 大阪地方裁判所

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◆平成18(行ケ)10035 審決取消請求事件 平成18年07月19日 知的財産高等裁判所

  「明細書全体の記載をみても,訂正後の発明である「織物上の油剤量を織物重量に対し0.06重量%以上5重量%以下」の範囲が結局は不明であり,特許法36条5項及び6項に規定する要件を満たしていないから,独立特許要件を欠くとして、訂正は認められない」とした審決が維持されました。
  36条違反で訂正が認められないとの判断は珍しいと思います。

◆平成18(行ケ)10035 審決取消請求事件 平成18年07月19日 知的財産高等裁判所

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◆H18. 2.27 知財高裁 平成17(行ケ)10067 特許権 行政訴訟事件

  36条4項、6項違反に関して無効であるとした審決が取り消されました。
  「出願が平成12年6月5日である本件特許に適用される平成11年法律第160号による改正前の特許法36条4項は,「前項第3号の発明の詳細な説明は,通商産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」と規定し,同法36条6項は,「第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」とし,1号は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」,2号は「特許を受けようとする発明が明確であること。」,3号は「請求項ごとの記載が簡潔であること。」,4号は「その他通商産業省令で定めるところにより記載されていること。」と規定している。そして,特許法36条4項の趣旨は,発明の詳細な説明が発明を公開する機能\を有することから,発明の詳細な説明の記載は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分なものでなければならないとしたことにあり,また,同法36条6項の趣旨は,特許請求の範囲は対世的な絶対権たる特許請求の効力範囲を明確にするためのもので,その記載は正確なものでなければならないことから,特許請求の範囲は,発明の詳細な説明に記載して公開した発明の範囲を超えた部分について記載したものであってはならず(1号),特許を受けようとする発明が明確でなければならない(2号)としたことにあるものと解される。そうすると,明細書の発明の詳細な説明に,当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十\分に記載されているのであれば,特許法36条4項所定の発明の詳細な説明の記載要件を充足するものであり,明細書に「発明における課題を解決すべき手段をその作用効果が関連づけて記載されてい」ないからといって直ちに発明の詳細な説明の記載要件に適合しないものとなるものではなく,これによって特許を受けようとする発明が不明確となり特許請求の範囲の記載要件(特許法36条6項2号)に適合しないことになるものということもできないから,本件審決の前記判断は,この点において是認することができない。」

◆H18. 2.27 知財高裁 平成17(行ケ)10067 特許権 行政訴訟事件

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◆H17.10.19 知財高裁 平成17(行ケ)10013 特許権 行政訴訟事件

 DNA関連発明について記載不備が争われました。
 裁判所は、「本件明細書の発明の詳細な説明には,特許請求の範囲記載の構成を満たす,すべての「核酸分子」について,その有用性,すなわち,プローブやプライマーとして利用して本件OB遺伝子を特異的に検出,増幅することができることが明らかであるように記載されていなければならないところ,上記(2)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明において,上記50余りの実施例の結果から,当業者にその有用性,すなわち,明白な識別性が認識できる程度のものとなっているものと認めるに足りず,また,上記(3)のとおり,一部の核酸分子について,本件OB遺伝子との特異的なハイブリダイズを期待することができない,すなわち,有用性を有しないという客観的な事情が存在するのであるから,本件明細書の発明の詳細な説明が,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえないことは明らかであって,特許法旧36条4項の記載要件を満たしていない。」として、36条違反とした審決を維持しました。

◆H17.10.19 知財高裁 平成17(行ケ)10013 特許権 行政訴訟事件

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◆H17. 3.30 東京高裁 平成15(行ケ)272 特許権 行政訴訟事件

 化関係の発明について、記載不備を理由に取消決定された特許につき、裁判所は審決を維持しました。
 「1で述べたとおり,本件明細書には,平均粒径の意義,測定方法の特定がなく,また,メーカー名・商品名を明示することにより用いる不活性微粒子を特定してもいない。そうすると,当業者は,どのような不活性微粒子を用いればよいか分からないのであるから,本件明細書は,当業者が発明を実施できるように明確に記載されていないことになる。原告は,市販品を入手して追試ができると主張する。しかし,この追試をするためには,当業者は,すべての平均粒径の意義・測定方法について,これらを網羅して,平均粒径を測定して本件発明の数値範囲に当てはまるものを用い,本件発明の効果を奏するものかを検証する必要がある。特許は,産業上意義ある技術の開示に対して与えられるものであるから,当業者にそのような過度の追試を強いる本件明細書の開示をもって,特許に値するものということはできない」

◆H17. 3.30 東京高裁 平成15(行ケ)272 特許権 行政訴訟事件

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◆H17. 1.18 東京高裁 平成15(行ケ)166 特許権 行政訴訟事件

 薬品に関する発明について、特許庁では無効理由無しと判断されましたが、裁判所はこれを取り消しました。
  「本件発明の技術内容(技術手段)によってその目的とする技術効果を挙げることができるものであることを推認することはできないのであるから,本件発明とされるものは,発明として未完成であり,特許法29条1項柱書きにいう「発明」に当たらず,特許を受けることができないものというべきである。」と判断しました。

◆H17. 1.18 東京高裁 平成15(行ケ)166 特許権 行政訴訟事件

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◆H16.12.27 東京高裁 平成16(行ケ)209 特許権 行政訴訟事件

  CS関連発明についての記載不備が争われました。争点は、「一括変換して再登録する再登録手段」について技術的な矛盾があるかでした。裁判所は、36条4項及び6項違反とした審決を取り消しました。
 

◆H16.12.27 東京高裁 平成16(行ケ)209 特許権 行政訴訟事件

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◆H16. 9.30 東京高裁 平成16(行ケ)37 特許権 行政訴訟事件

 「暗号モード」という文言が不明瞭として36条4項、6項違反として拒絶した審決が維持されました。その他、新規事項に該当するかも争点となっていましたが、こちらについては判断することなく、請求が棄却されました。
  裁判所は「本願明細書の特許請求の範囲に記載される「暗号モード」は、その意味・内容をそれ独自で規定することができないばかりでなく、「暗号」や「暗号等」を手がかりとしても規定することができないことから、不明瞭な記載であると解さざるを得ないところ、本願発明は、この「暗号モード」が適正と判断されると、「監視手段で捕捉したデータを中継側である前記管理コンピュータへセンシング情報として送信するステップ」へと進むものであるから、この「暗号モード」が不明瞭なままでは、該ステップも不明確であって、結局、本願発明の要旨を特定することはできないというべきである」と述べました。

◆H16. 9.30 東京高裁 平成16(行ケ)37 特許権 行政訴訟事件

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◆H15.12.22 東京高裁 平成13(行ケ)99 特許権 行政訴訟事件

 改正前の特許法36条3項違反として拒絶した審決に対する審決取消訴訟です。特許庁は、「本件明細書に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,本願発明の目的,構成及び効果が記載されているとはいえない」として、拒絶審決をしました。裁判所は、記載不備との審決を維持しました。訴訟では、専門家による鑑定書が複数提出されましたが、本件出願前に容易に実施できるとはいえないとされました。 

     

◆H15.12.22 東京高裁 平成13(行ケ)99 特許権 行政訴訟事件

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◆H15.11. 5 東京高裁 平成14(行ケ)513 特許権 行政訴訟事件

 特許庁、裁判所とも、実施可能要件を満たしていないと認定しました。
「審決は,「消費資源要素と生産資源要素との間の製造関係を示すデジタル信号」についての本件明細書の記載を摘記(審決謄本3頁4行目〜30行目)した上,「これらの記載からは,具体的に,消費資源と生産資源との間の製造関係を示すデジタル信号が,どのような構成の信号として入力され,その結果,どのようにして,消費資源及び生産資源を表\すデジタル信号とそれらの製造関係を表すデジタル信号とが処理されて,生産モデルが作成されるのか,理解できない」(同頁30行目〜34行目)と判断したものであり,本件明細書には,審決が指摘するとおり,製造関係を示すデジタル信号がどのような構\成の信号として入力されるのか,また,どのようにして生産モデルが作成されるのか,その記載のみにより当業者が理解可能な程度に明りょうに記載されていない。そうであれば,特許出願人である原告としては,本件特許出願当時の技術水準を示すなどして本件明細書の記載から当業者が理解可能\であることを証明すべき必要があるところ,本件説明書は上記技術水準を示すものではなく,また,その記載から審決が不明であるとした点を明らかにするものでもないし,他に,上記技術水準を示すこともなく,審決が摘記した記載と同一の記載を引用して単に当業者が理解し得ると主張するにとどまるのであるから,その主張は理由がないものといわざるを得ない。なお,原告は,審決の判断脱漏の違法も主張するが,その理由のないことは,以上の説示に照らして明らかである。(6) したがって,本願発明に係る本件明細書の詳細な説明には,「消費資源要素と生産資源要素との間の製造関係を表すデジタル信号を入力すること」に関して,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その構\成が記載されているということはできないから,旧法36条3項に規定する要件を満たしていないとした審決の判断に誤りはないというべきである。」 

◆H15.11. 5 東京高裁 平成14(行ケ)513 特許権 行政訴訟事件

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◆H15. 4. 8 東京高裁 平成13(行ケ)332 実用新案権 行政訴訟事件

 明細書における実施可能要件が争われました。
無効審判では実施可能要件を満たしていると判断されましたが、裁判所は、”ドアの端面に露出する側板からボルトを出し入れしてドアロックを開閉するアクチュエータ”との構\成について,当業者がこれを容易に実施することができる程度に,その構成についての記載がないと判断しました。 当業者が実施できる程度について、裁判所は「本件考案は,上記のようなものである以上,単に,乙1文献及び乙2文献等から,ドア用電気錠において,ドアの内部に収容することができる往復の駆動力を発生するソ\レノイド,及び,ソレノイドの駆動力をボルトに伝達してボルトを出し入れする伝達機構\が周知であることを示すだけでは足りないのであり,これらのソレノイド及びソ\レノイドの駆動力をボルトに伝達してボルトを出し入れする伝達機構が,ドアの内部に収納することができる程度の数量の電池による小さな電力によって,ドア用電気錠のボルトの出し入れに必要な力を発揮することができるものである必要があり,かつ,このような小電力用のソ\レノイド及び伝達機構が,本件出願時において,当業者にとって,本件明細書の考案の詳細な説明に記載するまでもなく明らかな技術常識となっている事項であることが少なくとも必要なのである(このような場合でも,考案の詳細な説明に十\分な記載がなければ旧実用新案法5条4項に反するとの考え方もあり得る。この考え方は採用しないとしても,少なくとも,上記のような小電力用のソレノイドとその伝達機構\が本件出願時において当業者にとって技術常識となっているといえるものでなければ,本件明細書の考案の詳細な説明の記載は,同条項に反することが明らかである。)。」

◆H15. 4. 8 東京高裁 平成13(行ケ)332 実用新案権 行政訴訟事件

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◆H15. 3.13 東京高裁 平成13(行ケ)346 特許権 行政訴訟事件

  請求項1で用いた文言「所定の筬打ち角」および「筬打ち角」が、発明の詳細な説明で定義されているにもかかわらず、不明瞭とした審決が維持されました。
 裁判所は、「特許発明の構成に欠くことができない事項を明確に記載することが容易にできるにもかかわらず,殊更に不明確あるいは不明りょうな用語を使用して特許請求の範囲を記載し,特許発明に欠くことができない構\成を不明確なものとするようなことが許されないのは,当然のことというべきである。」と判断しました。
 問題となった請求項
「織機停止信号により,緯入れを阻止しながら制動停止した織機を再起動するに際し,筬が所定の筬打ち角以上となるようなクランク角に織機を停止し,開口装置を主軸から切り離し,主軸の1回転相当だけ開口装置を逆転し,開口装置を主軸に連結することを特徴とする織機の再起動準備方法」というものです。
 審決では以下のように表示するべきであったと述べ、裁判所の上記理由からすると、これを維持したこととなります。
「織機停止信号により,緯入れを阻止しながら制動停止した織機を再起動するに際し,筬が,スレイ上に搭載するサブノズルまたはエアガイドが経糸開口から抜け出るときの筬打ち角以上となるようなクランク角に織機を停止し,開口装置を主軸から切り離し,主軸の1回転相当だけ開口装置を逆転し,開口装置を主軸に連結することを特徴とする織機の再起動準備方法。」

 

◆H15. 3.13 東京高裁 平成13(行ケ)346 特許権 行政訴訟事件

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◆H15. 3.10 東京高裁 平成13(行ケ)140 特許権 行政訴訟事件

  実施可能要件を満たしているか否かが争われました。無効審判では審判請求理由無しと判断されましたが、裁判所は「請求項1発明が特許されたのは,構\成要件Aが,従来の畳縫着機にない新規な構成であり,かつ,当業者が容易に想到することができないことによると解される。このように,構\成要件Aが請求項1発明の進歩性を基礎付ける本質的な構成である以上,本件明細書の発明の詳細な説明において,その実施を可能\とすべき記載がない限り,当業者が容易にこれを実施することは不可能なはずであり,逆に,このような記載がないにもかかわらず,当業者の技術常識を参酌することのみにより構\成要件Aの容易な実施が可能となるならば,請求項1発明の進歩性は否定されざるを得ないこととなる。」と、審決を取消しました。

 

◆H15. 3.10 東京高裁 平成13(行ケ)140 特許権 行政訴訟事件

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