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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

実施可能要件

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和4(行ケ)10109  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年11月30日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件・サポート要件違反があるとの異議理由を認め、特許を取り消す旨の審決がなされましたが、知財高裁は、かかる審決を取り消しました。

(1) 特許法36条4項1号は、特許による技術の独占が発明の詳細な説明をも って当該技術を公開したことへの代償として付与されるという仕組みを踏 まえ、発明の詳細な説明の記載につき実施可能要件を定める。このような同 号の趣旨に鑑みると、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足するた めには、当該発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、 当業者が過度の試行錯誤を要することなく、特許を受けようとする発明の実 施をすることができる程度の記載があることを要するものと解される。
(2) そこで検討するに、まず前提として、本件明細書記載の第1実施形態によ り本件3条件を満たす防眩フィルムを製造することができることは争いが ないところ、被告は、本件特許発明は第2実施形態に係る防眩フィルムであ って、第1実施形態は本件特許発明に含まれない旨主張する。 しかし、本件明細書で第1実施形態を説明する【0056】の「防眩層3 は、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子(フィラー)を含んでいて もよい。」との記載、【0058】の「微粒子の平均粒径は特に限定されず、 例えば、0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定できる。」との記載 及び【0059】の「微粒子の平均粒径が小さすぎると、防眩性が得られに くくなり、大き過ぎると、ディスプレイのギラツキが大きくなるおそれがあ るため留意する。」との記載を参酌すれば、第1実施形態には、スピノーダ ル分解による凝集と微粒子の凝集の両方により表面に凹凸の分布構造が形 成されている防眩層を備える防眩フィルムが含まれているといえる。したが って、本件特許発明においては、スピノーダル分解による凝集のみにより表 面に凹凸の分布構造が形成されている防眩層は含まないが、スピノーダル分 解による凝集と微粒子の凝集の両方により表面に凹凸の分布構造が形成さ れている防眩層は排除されていないのであり、第1実施形態に係る防眩フィ ルムが本件特許発明に含まれないとする被告の主張は採用できない。
(3) 以上を前提に実施可能要件の充足性について検討するに、第1実施形態は、 防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を 急峻化するとともに、凹凸の数を増やすことにより、ディスプレイのギラツ キを抑制しながら防眩性を向上させるものである(【0078】)。第1実 施形態と、第2実施形態とは、上記原理を共通にし、第1実施形態では、ス ピノーダル分解によって凹凸を防眩層に形成するのに対し、第2実施形態で は、複数の微粒子を使用し、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶 剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことで、微粒子の適度 な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形成 するという点において異なる(【0079】、【0080】)。 そして、本件明細書には、第1実施形態に関して本件3条件に係る防眩層 の特性は、溶液中の樹脂組成物の組み合わせや重量比、調製工程、形成工程、 硬化工程の施工条件等を変化させることで形成できるものであることが記 載されており(【0068】)、第2実施形態について、微粒子や、防眩層 を構成するマトリクス樹脂の材料(【0086】〜【0094】)、マトリ クス樹脂と微粒子との屈折率差(【0081】)、粒径(【0082】)、 防眩層におけるマトリクス樹脂と微粒子の割合(【0085】)、製造方法 (【0095】〜【0102】)、調製に使用する溶剤(【0096】)が 具体的に記載されるとともに、実施例5においては、シリカ粒子がブタノー ルに対して斥力相互作用を生じたことにより、凹凸構造が強調されること (【0188】)が、記載されているから、当業者は、第1実施形態に係る 【0186】及び【0187】の記載に加え、【0068】及び【0079】 の記載を併せ考えれば、各生産工程における条件の適切な設定や、アクリル 系紫外線硬化樹脂とアクリル系ハードコート配合物Aを共存させること等 の調整を行うことによって、第2実施形態に関して、実施例として記載され た防眩フィルムをはじめとする様々な特性の防眩フィルムを得られること を理解するものということができる。したがって、仮に本件特許発明が、微 粒子の凝集のみにより表面に凹凸の分布構造が形成された防眩層を備える 防眩フィルムであるとしても、当業者は本件特許発明に係る防眩フィルムを 製造することができるといえる。
被告は、凹凸を形成する方法(原理)が異なれば凹凸の形成に適した材料 は異なり、それに伴い斥力相互作用が生じる材料の組み合わせも異なるから、 微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選 定についての手がかりは本件明細書に開示されていないと主張する。しかし、 微粒子の凝縮によって形成される凹凸構造の形状は、スピノーダル分解の凝 集が進行したことによる上記液滴相構造の形状と同様のものであると解さ れるから、第1実施形態の凹凸構造を参考にできるものと解される。そして、 上記のとおり、本件明細書には、本件特許発明に係る特性を導く上で主要な 構造となる凹凸の急峻性を生み出す原理とその具体的方法、原材料から製造 の工程に係る記載があり(特に【0079】)、当業者は、微粒子の凝集を 用いてより急峻な凹凸を形成する場合には、微粒子の重量部を大きくし、さ らに必要に応じてブタノールの重量部を大きくし、斥力を大きくするなどし て、通常の試行錯誤の範囲内で、シリカ粒子やブタノールの量などを具体的 に決定し、その実施品を作ることができるものというべきである。
(4) 被告は、本件明細書の【0005】、【0008】の記載から、本件特許 発明の目的のうち、「高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルム を提供すること」とは、外光の映り込みを防止すること(高いヘイズ値とす ること)と、ディスプレイの表示性能を維持すること(高い透過像鮮明度と すること)とのトレードオフの相関関係に起因して、従来、透過像鮮明度の 設計自由度が制約を受けていたところ、ギラツキを所定の範囲にまで抑制さ れるとともに、前記制約を克服した領域ともいうべき領域である本件高ヘイ ズ・高鮮明度領域における透過像鮮明度を備えた防眩フィルムを提供するこ とであると当業者は理解するから、本件高ヘイズ・高鮮明度領域について製 造方法の記載が求められると主張する。 しかし、まず、本件明細書の【0005】の記載からは、外光の映り込み の防止とディスプレイの表示性能の維持の間に厳格なトレードオフの関係 があるとまで認めることはできない。本件特許発明の第1実施形態に係る実 施例1〜4、比較例2〜3、10及び11、第2実施形態に係る実施例5、 比較例1、4〜9における防眩フィルムのヘイズ値及び透過像鮮明度の数値 (本件明細書【0183】の【表1】、【0184】の【表2】)からは、 ヘイズ値が同程度であっても透過像鮮明度が異なる防眩フィルムや、透過像 鮮明度が同程度であってもヘイズ値が異なる防眩フィルムが製造できるこ とが示されている。なお、被告は、本件明細書には本件特許発明に対応する 実施例としては実施例5しか記載されていない旨主張するが、これは、第1 実施形態が本件特許発明に対応するものでないという誤った前提に基づく ものであるし、仮に被告の前提によるとしても、ここで問題となるのはヘイ ズ値と透過像鮮明度の相関関係であるから、実施例5以外の実施例を排除す る理由はない。また、被告は、比較例1に関しては、「平均粒径が0.5μ m以上5.0μm以下の範囲の値に設定された」本件特許発明の前提条件で あるμmオーダーの表面凹凸構造を備えた防眩層ではなく、nmオーダーの 表面凹凸構造を備えた防眩層を有するから、参酌すべきではない旨主張する が、仮に比較例1を参酌しなかったとしても、上記認定が左右されるもので はない。
加えて、JIS規格(K7374)(甲43)の「附属書(参考)像鮮明 度測定例」では、像鮮明度の透過測定例として「ヘーズ値によって像の鮮明 さを評価できないアンチグレアフィルムなどのフィルムの測定例」があり、 附属書表1の試料1−2「ヘーズ値14.11、像鮮明度80.0%」と試 料1−4「ヘーズ値14.67、像鮮明度5.9%」を示すとともに、ヘー ズ値は像の鮮明度とは異なり視感を反映していないのに対して、像鮮明度は 視感と一致していることが記載されていることからみて、防眩フィルムのヘ イズと透過像鮮明度の間には一定の相関関係があるものの、強い相関性まで 認められているものではなく、製造条件などで調整が可能であり、設計自由 度があるといえる。
さらに、本件明細書の【0008】には「そこで本発明は、ディスプレイ のギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しな がらディスプレイのギラツキを抑制できると共に、高い透過像鮮明度の設計 自由度を有する防眩フィルムを提供することを目的としている。」と記載さ れ、本件特許発明は、防眩性、ギラツキの抑制、高い透過像鮮明度の設計自 由度という三条件の均衡を目的とするものと理解される。そして、本件明細 書の【0011】の「また、前記標準偏差を所定値に設定すると共に、防眩 層のヘイズ値を50%以上99%以下の範囲の値に設定することにより、デ ィスプレイのギラツキを抑制しながら、良好な防眩性を得ることができる。 また、防眩フィルムの光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度を0%以上60% 以下の範囲の値に設定することで、防眩フィルムの透過像鮮明度の設計自由 度を広く確保できる。」との記載は、良好な防眩性を示すヘイズ値が50% 以上であることを示すものであり、したがって、ヘイズ値は、ギラツキの抑 制や高い透過像鮮明度という他の条件との関係で上記数値範囲内で変動し てよいものである。上記のとおり、高いヘイズ値とすることとディスプレイ の表示性能を維持することとの厳格なトレードオフの関係は認められず、甲 13添付の実験成績証明書3頁ではサンプル1(ヘイズ値96%、透過像鮮 明度65%)とサンプル2(ヘイズ値45%、透過像鮮明度2.0%)の防 眩フィルムが製造できたことが示されており、本件高ヘイズ・高鮮明度領域 の製造方法が具体的に記載されていなければ、本件特許発明が実施可能要件 を欠くなどということはできない。
(5) 以上によれば、本件明細書には、当業者がその記載及び出願当時の技術常 識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明に係る物を 製造し、使用することができる程度の記載があるものと認められ、当業者が 本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載された ものであると認められる。したがって、本件明細書につき実施可能要件を充足しないとした本件決定の判断には誤りがあり、取消事由2には理由がある。
3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)について
(1) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細 な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を 定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な 説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な 説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該 発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して 判断すべきものと解される。
(2) 本件特許発明は、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑 制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提 供することを目的とする(【0008】)。 ヘイズ値が50%以上あれば良好な防眩性は確保でき(【0011】)、 ヘイズ値と透過像鮮明度との間には一定の相関関係があるから、適宜ヘイズ 値を変動させることにより、透過像鮮明度も調整することができる。 ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させるには、 防眩 層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻 化すると共に、凹凸の数を増やせばよい(【0078】)。 そして、上記のような防眩フィルムについて、本件明細書には、凹凸の急 峻性を生み出す原理とその具体的方法、原材料から製造の工程、実施例等が 記載されていることは前記2(3)のとおりであるから、当業者は、その記載 及び技術常識に基づき、特許請求の範囲に記載された範囲において、本件特 許発明の課題を解決できると認識できるということができる。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10010 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年4月6日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁も結論は同様です。なお、審判では基礎出願2に基づく優先権は認められていましたが、知財高裁はこれを否定しました。

6 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り)について
(1) 優先権について
ア 本件出願について、被告が基礎出願1又は2に基づく優先権を主張できるか 否かについて検討する。
イ(ア) 基礎出願1及び2がされた平成22年6月ないし7月頃時点で、一定のリ ソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素の一定量をリソソ\ーム蓄積症の患者のし かるべき組織等に送達することができれば、治療効果を生ずること自体は技術常識 となっていた一方で、どのような方法で補充酵素を有効に送達することができるか について検討が重ねられており、本件出願がされた平成29年9月においても、そ のような状況がなお継続していたものと認められる(甲1〜4、16、17、55、 56、弁論の全趣旨)。
本件発明1は、リソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物 であって、脳室内投与されることを特徴とするものであるところ、上記の技術常識 及び前記1(2)の本件発明の概要を踏まえると、本件発明1の薬学的組成物につい ても、中枢神経系(CNS)への活性作用物質の送達をいかに有効に行うかという 点がその技術思想において一つの重要部分を占めているものというべきである。
(イ) この点、本件明細書の【0005】には、「髄腔内(IT)注射または脳脊髄 液(CSF)へのタンパク質の投与・・・の処置における大きな挑戦は、脳室の上 衣内張りを非常に堅く結合する活性作用物質の傾向であって、これがその後の拡散 を妨げた」、「脳の表面での拡散に対するバリア・・・は、任意の疾患に関する脳に\nおける適切な治療効果を達成するには大きすぎる障害物である、と多くの人々が考 えていた」との記載があり、【0009】には、「リソソ\ーム蓄積症のための補充酵 素が高濃度・・・での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導 入され得る、という予期せぬ発見」という記載がある。\nまた、甲17の「発明の背景」においても、高用量の治療薬を必要とする疾患に ついて髄腔内ルートの送達に大きな制限があり、濃縮された組成物の調製にも問題 がある旨が記載されていた(前記5(2)カ及びキ)。
さらに、基礎出願2がされた翌年である平成23年に発行された乙6(「Drug transport in brain via the cerebrospinal fluid」Pardridge et al., Fluids and Barriers of the CNS 2011 8:7)においても、CSFから脳実質への薬物浸透 は極めて僅かであり、脳への薬物の浸透がCSF表面からの距離とともに指数関数\n的に減少するため、高濃度の薬物を投与する必要があるが、上位表面は非常に高い\n薬物濃度にさらされており有毒な副作用を示す可能性があることなどが記載されて\nいた。その更に翌年である平成24年に発行された乙13(「CNS Penetration of Intrathecal-Lumbar Idursulfase in the Monkey, Dog and Mouse: Implications for Neurological Outcomes of Lysosomal Storage Disorder」 Calias P. et al. PLoS One, Volume 7, Issue 1, e30341)には、「本研究は、組換えリソソ\ームタン パク質の直接的なCNS投与によって、投与されたタンパク質の大多数が脳に送達 され、カニクイザル、イヌ両方の脳および脊髄のニューロンに広範囲に沈着するこ とを、初めて示した研究である。」と記載されている。
そうすると、少なくとも基礎出願2がされた平成22年7月頃においては、CN S送達のための組成物として特定の組成物の組成等が開示された場合であっても、 当該組成等から直ちにその脳への送達の程度や治療効果を推測等することは困難で あることが技術常識であったものと認められる。 このことは、甲17に、「本明細書で用いる場合、「中枢神経系への送達に適して いる」という語句は、それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、この ような組成物の安定性、耐(忍)容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例 えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのよう な組成物の能力を指す。」(前記5(5)ナ)として、「標的送達部位(例えば、CSF または脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能\n力」が「送達に適している」ということの意味内容に含まれることが明記されてい ることとも整合するものといえる。
(ウ) 他方で、本件明細書の【0085】には、「いくつかの実施形態では、本発明 による髄腔内送達は、末梢循環に進入するのに十分な量の補充酵素を生じた。その\n結果、いくつかの場合には、本発明による髄腔内送達は、肝臓、心臓および腎臓の ような末梢組織における補充酵素の送達を生じた。この発見は予期せぬものであ・・・\nる。」との記載があり、標的組織への送達について、【0132】には、「本発明の意 外な且つ重要な特徴の1つは、本発明の方法を用いて投与される治療薬、特に補充 酵素、ならびに本発明の組成物は、脳表面全体に効果的に且つ広範囲に拡散し、脳\nの種々の層または領域、例えば深部脳領域に浸透し得る、という点である。さらに、 本発明の方法および本発明の組成物は、現存するCNS送達方法、例えばICV注 射では標的化するのが困難である脊髄の出の組織、ニューロンまたは細胞、例えば 腰部領域に治療薬(例えば、補充酵素)を効果的に送達する。さらに、本発明の方 法および組成物は、血流ならびに種々の末梢器官および組織への十分量の治療薬(例\nえば、補充酵素)を送達する。」との記載があり、【0133】においては、実施形 態により、「治療用タンパク質(例えば、補充酵素)」が、対象の「中枢神経系」に 送達され、あるいは「脳、脊髄および/または末梢期間の標的組織のうちの1つ以 上」に送達され、また、「標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末 梢標的組織であり得る。」などと記載された上で、【0134】以下で特に「脳標的 組織」について説明がされ、そして、実施例においても、例えば、実施例1ではI T投与が、実施例3ではICV投与及びIP(腹腔内)投与が、実施例5、実施例 10及び実施例13ではIT投与及びICV投与が用いられるなどしている。
そして、証拠(甲2〜5。後記7(1)〜(4)参照)のほか、本件明細書の記載内容 に照らしても、CNSへの酵素の送達においては、ICV投与とIT投与とは、そ れぞれ別個の投与態様として取り扱われ、組織への酵素の送達に関する実験やその 結果の評価においても、それらは別個に取り扱われること、換言すると、ICV投 与とIT投与の相応に密接な関連性を考慮しても、ICV投与による実験データと IT投与による実験データとを直ちに同一視することはできないことが、平成22 年7月頃における技術常識であったことが認められるというべきである。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)の技術常識を踏まえると、本件発明1が甲17に記載されて いた発明であると認められるためには、甲17に、本件発明1の組成物が実質的に 記載されていたものと認められるのみならず、甲17に、本件発明1の組成物によ る送達の効果が、ICV投与した場合のものとして、実質的に記載されていたと認 められる必要があるというべきである。
ウ(ア) その上で、甲17の記載を見るに、まず、「発明の背景」の記載(前記5(2)) は、専ら背景技術について説明するものである。「発明の概要」の記載(同(3))に は、本件発明1の組成物に含まれる組成物の記載があるといえるが、当該組成物が どのように送達されて治療効果を奏するのかについては記載がない。そして、「発明 の詳細な説明」(同(5))を見ても、組成物の構成やその使用方法に関する一般的な\n記載はみられるものの、どのように送達されて治療効果を奏するのかについて具体 的な記載はない。
(イ) 甲17の実施例1(前記5(6))には、15mg/mLのタンパク質濃度のリ ソソ\ーム酵素を含む組成物で、pH6〜7であってリン酸塩を含むものが記載され ていると見ることができるが、具体的にどのような酵素が用いられたかは不明であ り、また、どのような領域まで送達されて治療効果を奏するかについても記載がな い。
(ウ) 甲17の実施例2(前記5(7))には、「酵素治療薬の使用による繰り返しI T−脊椎投与の毒性及び安全性薬理を評価」や「酵素投与群」との記載はあるが、 酵素の種類も濃度も不明であり、また、どのような領域まで送達されて治療効果を 奏するかについても記載がない(なお、対照群との差異もみられていない。)。
(エ) 甲17の実施例3(前記5(8))には、用量1.0mL中酵素14mgとして 調製された酵素と、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0. 005%のポリソルベート20をpH7.0で含むビヒクルにより作成された製剤\nが髄腔内投与されたことの記載があるが、図5を含めて見ても、主に有害な副作用 の有無等が検討されたものと解され、治療効果については記載がない。
(オ) なお、甲17の図2には、30mg用量の髄腔内投与後のリソソ\ーム酵素の ニューロンへの分布が示され、尾状核のニューロンにリソソ\ーム酵素が認められた ことが示されているが、どのような組成物が投与されたのかも不明である。
(カ) さらに、甲17には、投与の態様としてICV投与とIT投与とが選択的な ものである旨は記載されているといえる一方で、いずれの方法によっても同様に送 達され得る旨等を明らかにする記載もないから、前記(ウ)〜(オ)は、ICV投与した 場合のものとして、本件発明1の組成物による送達の効果を記載するものでもない。
エ 以上によると、甲17には、本件発明1が記載されているものとは認められ ず、本件発明2〜8及び12についてこれと異なって解すべき事情も認められない から、本件出願について、基礎出願2に基づく優先権を主張することはできない。 基礎出願1についても、基礎出願2と異なって解すべき事情はない。
これと異なる被告の主張は、いずれも採用することができない。ICV投与とI T投与において、組成物はいずれの場合でもCSFに投与されるものであり、その ためそれらの間に処方としての共通性や標的組織等への送達における相応の関連性 があるということができたとしても、そのことをもって、具体的な送達の程度や治 療効果についてまで、一方の投与態様についての実験結果等の記載をもって直ちに 他方についての記載と実質的に同視することができるとの技術常識は認められない。 被告の主張は、甲16及び17の記載内容を、本件明細書の記載内容を前提にしな がら解釈しようとするものであって相当でない。
(2) 甲6が公知文献とされなかったことが直ちに取消事由に当たるかについて
ア 原告は、取消訴訟の審理範囲を根拠として、本件審決に当たり甲6を副引用 例として考慮しなかった本件審決は、優先権に係る判断の誤りによって直ちに取り 消されるべきである旨を主張するので検討する。
イ(ア) 証拠(甲61、62)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件審判請求においては、本件発明1の進歩性に係る無効理由として、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ甲5〜10を適用すること(甲5の適用については、甲5技術と実質的に同一の内容が主張されていた。)により容易想到である旨を主張し、その中で、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を主張する一方、甲6発明(ビヒクル)については主張していなかったことが認められる。本件審決は、基礎出願2に基づく優先権の主張を認めたことから、副引用例としての甲6記載の発明の適用について検討するには至らなかったが、上記のとおり、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を副引用例とする範囲で、審判手続においても審理の対象となっていたものであって、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ上記副引用例を組み合わせることにより進歩性を欠くという無効理由自体は、審判手続において審理対象となっていたものである。
(イ) そして、本件審決は、甲2発明ないし甲4発明と本件発明の相違点について、 甲5及び7〜10を適用して容易想到であるといえるか否かについて判断した一方、 優先権主張を認めたことから甲6は除外し、それゆえ相違点に係る本件発明の構成\nについての甲6発明(製剤)の適用について具体的には判断しなかったものの、甲 2発明ないし甲4発明に甲6発明(製剤)を適用することにより本件発明は容易想 到であるという旨の原告の主張自体については、これを認めることができないとの 判断を示したものである。
(ウ) 原告は、本件訴訟において、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とした上で、 前記(ア)及び(イ)のとおり本件審決で排斥された甲5技術の適用による容易想到性の 主張のほか、甲6に基づき、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を副引用 例として主張するとともに、甲6が技術常識(エリオットB溶液の技術常識及び高 濃度化の技術常識)を補足するものである旨を主張しているところ、本件訴訟にお いて、容易想到性が争いとなっている本件発明の構成(甲2発明ないし甲4発明と\nの間の各相違点)は、本件審決で判断されたものと基本的に同じであり、甲6発明 (製剤)や甲6発明(ビヒクル)の適用に当たり、本件審決で判断されたもの以外 の相違点が問題になるなどといった事情はない。
(エ) 前記(ア)のとおり、甲6の適用については審判手続においても問題とされ、当 事者双方において攻撃防御を尽くす機会はあったといえる。この点、証拠(甲6、 16、17、乙14、24。なお、訳文として甲6の2・3、乙36)及び弁論の 全趣旨によると、甲6は、基礎出願1及び2がされて間もない平成22年7月2日 に公衆に利用可能となった雑誌「注射可能\なドラッグデリバリー2010:製剤フ ォーカス」に掲載された「CNSが関与する遺伝学的疾患を治療するためのタンパ ク質治療薬の髄腔内送達」と題する論文であるところ、同論文は、基礎出願1及び 2に関わった研究者も関与して行われた研究発表に係るものであって、本件発明と\n同様の技術分野に属するもの、すなわち、酵素補充療法において、中枢神経系(C NS)病因を有する疾患の処置に係るリソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素 を含む薬学的組成物に関連するもの(前記1(2)ア)と解されるほか、その記載内容 は、かなりの部分甲16及び17と重なり合うものである。そのような甲6の性質 や、甲16及び17と本件発明との関係についても優先権主張の可否という形では あるが各当事者において攻撃防御を尽くす機会があったというべきことを考慮する と、上記のように審判手続において各当事者に与えられていた甲6の適用について 攻撃防御を尽くす機会は、実質的な機会であったといえる。
(オ) 以上の事情の下では、本件審決においては副引用例としての甲6発明(製剤) の適用が具体的には判断されるに至らず、また、甲6発明(ビヒクル)については そもそも審判段階で問題となっていなかったこと(この点、被告は、甲6発明(ビ ヒクル)を適用しての容易想到性に係る原告の主張について、特にそれが審理範囲 外であるとして争ってはいない。)を考慮しても、本件訴訟において、審判手続にお いて審理判断されていた甲2発明ないし甲4発明との対比における無効原因の存否 の認定に当たり、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を適用することによ って容易想到性の有無を判断することが、当事者に不測の損害を与えるものではな く、違法となるものではない。最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月1 0日大法廷判決・民集30巻2号79頁は、本件のような場合について許されない とする趣旨とは解されない。
(3) 以上によると、取消事由1は、優先権の判断の誤りという限度において理由 があるが、それをもって直ちに本件審決を取り消すべきという結論において、理由 がない。そこで、以下、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とする容易想到性の主張に係る取消事由5〜7について、検討する。

◆判決本文

当事者が同じ関連事件です。

◆令和4(行ケ)10022

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令和4(行ケ)10029  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月27日  知的財産高等裁判所

特許異議申し立てにより、取り消された特許権について、知財高裁は、審判の判断を破棄しました。特許異議申\立で取り消しが成立することも珍しいですが、さらにその審決が取り消されることも珍しいです。争点は、進歩性、サポート要件・実施可能要件です。\n

発明の詳細な説明が物の発明について実施可能要件を満たすためには、当\n業者が発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の 試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の 記載があることを要するものと解される。
(2) 本件では、長細状凸部ループ構造を有し、光学三特性を有する防眩層を備\nえる第1実施形態に係る防眩フィルムにより本件各発明を実施できることは 当事者間に争いはない。しかし、本件各発明は、光学三特性を満たす防眩層 を備えることを要するものの、特許請求の範囲においては、その構造は限定\nされておらず、長細状凸部ループ構造以外の構\造のものも本件各発明に含ま れるものと解される。そこで、本件明細書等の記載に長細状凸部ループ構造\n以外の構造のものが含まれているといえるか否かを検討する。\nまず、本件明細書等の段落【0034】には、[防眩層の構造]として、「第\n1実施形態の防眩層3は、複数の樹脂成分の相分離構造を有する。防眩層3\nは、一例として、複数の樹脂成分の相分離構造により、複数の長細状(紐状\n又は線状)凸部が表面に形成されている。長細状凸部は分岐しており、密な\n状態で共連続相構造を形成している。」と記載されている。それに続く段落\n【0035】には、「防眩層3は、複数の長細状凸部と、隣接する長細状凸部 間に位置する凹部とにより防眩性を発現する。防眩フィルム1は、このよう な防眩層3を備えることで、ヘイズ値と透過像鮮明度(写像性)とのバラン スに優れたものとなっている。防眩層3の表面は、長細状凸部が略網目状に\n形成されることにより、網目状構造、言い換えると、連続し又は一部欠落し\nた不規則な複数のループ構造を有する。」として、長細状凸部ループ構\造につ いて記載されているが、この段落【0035】の記載は、第1実施形態の防 眩層として、長細状凸部ループ構造以外の相分離構\造を否定しているものと は認められない。
また、本件明細書等には、第1実施形態において、共連続相構造だけから\nなる形状のほかに、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構\造(球 状、真球状、円盤状や楕円体状等の独立相の海島構造)との中間的構\造も形 成できることが記載されているし(段落【0072】)、相分離により層表面\nに微細な凹凸を形成することで、防眩層中に微粒子を分散させなくても防眩 層のヘイズ値を調整できることが記載されており(段落【0073】)、共連 続相構造に限定しない微細な凹凸を形成することが示唆されているといえる。\nそして、本件明細書等の段落【0134】には「実施例1〜6は、相分離 構造を基本構\造として防眩層3を形成するものである。」と記載されている ものの、全ての実施例が長細状凸部ループ構造であるとは記載されていない\nし、甲47(実施例3及び6の防眩フィルムの顕微鏡写真)の実施例3の防 眩フィルムの表面形状・構\造を撮影した写真からは、長細状凸部ループ構造\nとまではいえない凹凸形状が形成されていることが認められるから、第1実 施形態の凹凸構造として、長細状凸部ループ構\造以外の凹凸構造をも製造す\nることができると認められる。さらに、長細状凸部ループ構造以外の凹凸構\ 造が形成され、かつ光学三特性を備える防眩フィルムとして、甲47の実施 例3の凹凸構造しか製造できないことを示す証拠はない。\nそうすると、第1実施形態の防眩層には、長細状凸部ループ構造以外の凹\n凸構造のものが含まれており、そのようなものも含め、当業者であれば、少\nなくとも第1実施形態により、光学三特性を満たす本件各発明に係る防眩層 を、過度の試行錯誤なく製造できるものと認められる。 したがって、本件明細書等には、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出 願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を 製造し、使用することができる程度の記載があると認められる。
(3) この点に関し、被告は、本件各発明は、第1構造防眩層を備えた防眩フィ\nルムのみならず、第2構造防眩層及び第3構\造防眩層を備えた防眩フィルム を含むにもかかわらず、本件明細書等には、実施例として第1構造防眩層に\nついて示されているにすぎず、第2構造防眩層及び第3構\造防眩層について は、具体的製造例や光学三特性の測定結果等の記載はなく、凹凸をどのよう に形成すればよいか等について何らの示唆もない旨、原告が光学三特性を得 るための構造として主張する構\造は、第1構造防眩層を上位概念化したもの\nであり、それによって直ちに光学三特性を得られるものではない旨主張し、
そのため、光学三特性のパラメータの数値範囲を満たす第2構造防眩層及び\n第3構造防眩層を製造するには過度の試行錯誤を要すると主張する(前記第\n3の2〔被告の主張〕)。
しかし、第2実施形態または第3実施形態により、第1実施形態では製造 できない防眩フィルムを製造することは、本件明細書等には記載されていな い。むしろ、本件明細書等の段落【0079】には、「第1実施形態において 前述したスピノーダル分解によって、このような凹凸を防眩層に形成できる が、その他の方法によっても、このような凹凸を防眩層に形成できる。例え ば第2実施形態のように、防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒\n子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤と の斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適 度な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形\n成できる。」と記載され、第1実施形態のような凹凸を他の方法で形成できる とした上で、その一例として第2実施形態の方法で形成することが示されて いるし、また、本件明細書等の段落【0079】には、上記の記載に続けて、 「そこで以下では、その他の実施形態の防眩層について、第1実施形態との 差異を中心に説明する。」と記載され、以下に、第2実施形態(段落【008 0】ないし【0102】)、第3実施形態(段落【0103】ないし【011 5】)の説明が続けてされているから、第3実施形態は、第1実施形態によっ て得られる凹凸を形成する「その他の方法」の一つであると解するのが自然 である。そして、本件各発明に含まれる防眩フィルムであって、第1実施形 態以外の方法により作成できない防眩フィルムの存在やその態様を裏付ける 証拠はない。そうすると、第1実施形態により作成できる防眩フィルムを、 第2実施形態や第3実施形態によっても作成できるものと認められ、仮に、 第1実施形態により作成できる防眩フィルムの中に、第2実施形態や第3実 施形態により作成できないものがあったとしても、それにより、第1実施形 態により本件各発明が実施可能であることが否定されるものではない。\n
なお、第2実施形態により製造された第2構造防眩層、第3実施形態によ\nり製造された第3構造防眩層の中に、第1構\造防眩層とは異なる形状・構造\nを有するものがあり、それらが本件各発明の光学三特性を満たさなかったと しても、それらは本件各発明を実施するものではないというにとどまり、そ れによって本件各発明の実施可能性が否定されるわけではない。\n

◆判決本文

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令和4(行ケ)10011  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年2月15日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反で拒絶審決がなされました。知財高裁は審決を維持しました。\n

原告は、本願明細書等の段落【0222】及び【0223】の記載のほ か、段落【0014】の記載によれば、本願明細書等には、本願各発明 が従来のジョセフソン効果の原則を超越する存在であることが示唆され\nており、その他の段落において発明の構成例や各実施例も開示されてい\nるから、当業者は、電子対の生成過程や巨視的波動関数の位相特定の情 報が不明であっても、本願明細書等の記載を参照して、本願各発明を容 易に実施することができる旨主張する。 そこで検討するに、上記イで検討したとおりの本願明細書等の段落 【0014】の記載からすれば、本願各発明においては、「第1導体」及 び「第2導体」の抵抗値がゼロではない場合であっても、上記のような 範囲の抵抗率であれば、ジョセフソン効果を得ることができる旨が記載\nされているとみることもできる。 しかしながら、前記(2)のとおり、ジョセフソン接合が超伝導体である\n二つの導体を用いた接合であることは、本件原出願日当時の技術常識で あったと認められることからすれば、導体の抵抗値がゼロではない場合 であっても、上記のような範囲の抵抗率であればジョセフソン効果が得\nられるというのは、技術常識に反する現象である。そうすると、本願明 細書等において、このような現象が生じ得ることを裏付ける試験結果等 が記載されていなければ、当業者は、本願各発明を実施することができ ると認識するものではないというべきである。そして、上記イで検討し たとおり、本願明細書等の段落【0051】ないし【0068】及び図 14Aないし21Bには、いずれも各実施例における導体が段落【00 14】に記載されているような範囲の抵抗率であることを示す試験結果 は記載されていないというべきである。そして、このほか、本願明細書 等において、導体の抵抗値がゼロではない場合であっても、上記のよう な範囲の抵抗率であればジョセフソン効果が得られることを裏付ける試\n験結果等は記載されていない。
以上によれば、本願明細書等において、本願各発明が従来のジョセフ ソン効果の原則を超越する存在であることが示唆されているとはいえな\nいし、当業者が、本願明細書等の記載を参照して、本願各発明を容易に 実施することができるともいえない。
・・・
(ア) 原告は、本願明細書等の図7、15ないし21から明らかなとおり、本 願各発明は、従来の技術常識としてのジョセフソン接合ではなく、抵抗\n値をゼロにしなくとも、極めて低い抵抗値の範囲内でジョセフソン接合\nを実現することを目的とする発明であるから、本願明細書等に抵抗値が ゼロの場合の記載がないことは当然の帰結であり、当業者は、本願各発 明につき、電流が非常に低い抵抗状態で流れる条件でジョセフソン接合\nを実現したものとして捉えることにより、本願各発明を実施することが 可能である旨主張する。\nしかしながら、上記ウで検討したところに照らせば、本願明細書等に おいて、本願各発明が、従来の技術常識としてのジョセフソン接合では\nなく、抵抗値をゼロにしなくとも、極めて低い抵抗値の範囲内でジョセ フソン接合を実現することは、何ら試験結果等により裏付けられていな\nいというべきである。そうすると、当業者が、本願各発明につき、電流 が非常に低い抵抗状態で流れる条件でジョセフソン接合を実現したもの\nとして捉えることにより、本願各発明を実施することが可能であると認\n識するものではないというべきである。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10072  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月12日  知的財産高等裁判所

 審決は、発明該当性違反、実施可能要件違反として拒絶しました。知財高裁も同じ判断です。

本願発明は、前記第2の2のとおりの構成を有するものであって、前記1(1)の【図 1】のような液体を入れた容器中に浮体を浮かべ、同浮体を鉛直方向に大きなもの とすることにより(同【図2】の3参照)、駆動動力が一定であっても、同浮体が上 下運動することによる発生動力を拡大させることで、「発生動力>駆動動力の関係」 が成立するというものである。 そして、本願明細書の段落【0036】によると、本願発明における駆動動力と は、液位を増減させて、浮体を上下運動に導く駆動方法を実行する装置を駆動する 動力のことをいい、電力が主体であるが、流水、圧縮空気、人力等も利用可能であり、具体的な駆動方法としては、浮体(例えば【図3】の6)を浮かべる容器中に\n物体(例えば【図3】の9)を挿入することが想定されているものと認められる。 次に発生動力についてみると、本願明細書の段落【0035】には、「浮体の上下 運動を「発生動力」とする」との記載があり、同段落【0018】〜【0020】 では、容器中への水の注入量が同一である場合の仕事(W)を、(浮体上の錘の重さ) ×(持ち上げられた距離)により計算しているところ、ここでいう仕事(W)は、 浮体の上下運動をいうものと推認されるから、本願発明における発生動力は、錘を 載せた浮体が移動する運動を指していると理解される。 ところで、本願明細書の段落【0018】〜【0020】に3つの例が記載され ているところ、同段落【0021】の記載と併せると、上記3つの例は、「発生動力 >駆動動力の関係」が成立することを説明するために記載されているものと認めら れる。そこで検討するに、上記3つの例においては、注入した水の量は一定である ものの、どのように水を注入するのか、また、その際に、水を注入するために要し た動力、すなわち本願発明における「駆動動力」に相当する液位を増減させる動力 の大きさや、それが、上記3つの例において一定であるかについては本願明細書に 記載がなく、示唆もない。さらには、【図2】の場合に浮体が浮かぶことが可能な程度に、十\分な浮力が生じているかも明らかではない。そしてその他の本願明細書の記載を総合しても、当業者が、どのようにして、本願発明の「発生動力>駆動動力 の関係」が成立する動力発生装置を製造することができるか理解できるとはいえな い。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施するこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。\n

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令和3(行ケ)10156  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年9月29日  知的財産高等裁判所

発電方法の発明について、実施可能要件を満たしていないとした審決が維持されました。個人発明です。拒絶理由通知の段階では発明該当性も指摘されていました。\n公開公報は下記です。

◆特願2015-176188

ア 「下方導水路250内の液体がその管内を落下し、その落下により揚水 路200の頂上部が真空域に保たれ、その結果、大気圧によって貯液部1 00の液体が揚水路200に揚水される」との点について
(ア) 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には、「少なくとも下部が液 体で満たされた貯液部(100)と、下部が前記貯液部(100)の前 記液体の液面下部に沈み、上部が該液面上部に出る様に設置され、上端 部近傍の前記液面より所定の高さ位置に液取り出し口が設けられた揚 水路(200)と」、「発電開始前に前記圧縮気体貯蔵タンク(600) に圧縮した気体を貯蔵するとともに、前記ゲート(300)を閉めて前 記揚水路(200)および前記下方導水路(250)内に前記液体を充 填しておき、発電時に前記ゲート(300)を開けて」との記載がある。 また、本願明細書には、「本システムの起動前に不図示の揚水ポンプで水 槽の水を揚水棟200の中全てを満たす様に揚水して揚水棟内を真空 域にしている」との記載(【0040】)がある。 これらの記載によれば、本願発明において、発電の開始前には、揚水 路200等に存在する液体(以下では、「液体」は「水」であるとする。) は、「一端」が貯液部100の水面下にあり、そこから、揚水路200、 (実施例【0038】では上部導水路210を介し)下方導水路250 を経て、「他端」はゲート300まで存在しており、揚水路200等は水 で満たされていることが理解できる。また、本願明細書の「大気圧室4 00の水面は下部導水路260の下部より低く保つ」との記載(【004 1】)から、上記水の「一端」を上流側、「他端」を下流側とすると、ゲ ート300よりも下流側の管内には水が存在しないことが理解できる。
(イ) 前記(ア)を踏まえ、ゲート300を開けたときの前記(ア)の水(「一 端」が貯液部100の水面下にあり、そこから、揚水路200、(上部導 水路210を介し)下方導水路250を経て、「他端」がゲート300ま で存在する水)の挙動を検討する。 揚水路200内にある水と下方導水路250内にある水は、その上部 が(実施例(【0038】)では、上部導水路210内の水を介して)つ ながっている。
そして、乙2に示されている考え方(被告はこれを「サイフォンの原 理」として説明し、原告もその説明を争っていない。)によれば、揚水路 200の下部が存する貯液部100の水面(図1の水槽100の水面) には、大気圧(その圧力を「A」とする。)と貯液部100の水面から揚 水路200の頂部まで存在する水の圧力(水の重さによる圧力。その圧 力を「B」とする。)がかかる。他方、下方導水路250の下端には、水 平導水路260内の平均気圧(その圧力を「C」とする。)と下方導水路 250の下端から頂部までに存在する水の圧力(水の重さによる圧力。 その圧力を「D」とする。)が働く。
ここで、本願発明では、「発電時に前記ゲート(300)を開け」た際 に、「前記圧縮気体貯蔵タンク(600)に貯蔵されている圧縮気体」が 「前記水平導水路(260)から前記集液部(400)に射出される」 ため、水平導水路260内の平均気圧(C)は大気圧(A)より大きく なる(C>A)。また、水による圧力については、貯液部100の水面か ら揚水路200の頂部までの長さの方が下方導水路250の下端から頂 部までの長さよりも長いから、貯液部100の水面から揚水路200の 頂部まで存在する水の圧力の方が大きくなる(B>D)。
そうすると、水を持ち上げる向きを正の向きとして、揚水路200の 下部が存する貯液部100の水面に働く圧力(A−B)と、下方導水路 250の下端に働く圧力(C−D)とを比較すると、後者の方が大きい から、ゲート300を開けると、下方導水路250内の水は、一旦上方 に持ち上がった後、揚水路200に流れ落ちていくものと考えられる。 なお、ゲート300を開けた際に、水平導水路260及び大気室40 0から空気が下方導水路250内に入り込むと、下方導水路250内の ゲート300付近にあった水が水平導水路260側へ落下することがあ り得るが、これは、入り込んだ上記空気と上記水が入れ替わることによ って生じる現象であって、このことによって、下方導水路250や揚水 路200に真空域が生じることはなく、貯液部100から揚水路200 に向かって水が引き揚げられるといった現象も生じないものと理解され る。したがって、本願明細書の記載から、原告が主張する「発電時に、重 力落下エネルギーの作用によって下方導水路250内の液体がその管内 を落下し、その落下により揚水路200の頂上部が真空域に保たれ、そ の結果、大気圧によって貯液部100の液体が揚水路200に揚水され る」ことが起こることを理解することはできない。
イ 「大気圧室400内において大気圧より低い低圧力空間が生成される」 との点について
原告は、本願発明では発電時、圧縮気体供給路670の出口より集液部 (大気圧室)400へ圧縮気体を射出することで、大気圧室400内にお いて、その圧縮気体の体積分の大気圧の気体が押しのけられて、大気圧よ り低い低圧力空間が生成されると主張し、更にその説明として、圧縮空気 の保有エネルギーが、大気圧の気体を押しのけるためのエネルギーよりも 大きいため、圧縮空気を大気圧室400へ連続的に供給することによって、 大気圧室400内の空気を常時押しのけることが可能となる旨主張する。しかしながら、本願明細書には、大気圧より高い圧力を有する圧縮気体\nを大気圧に維持された空間に放出することによって、当該空間に大気圧よ り低い低圧力空間が形成されることについての記載はなく、また、これを 裏付ける技術常識についての立証もない。 さらに、前記アのとおり、ゲート300を開けた場合、下方導水路25 0内の液体は、水平導水路260の方向に流れないものと考えられるとこ ろ、原告が主張する大気圧室400内の低圧力空間が、下方導水路250 内の液体を、水平導水路260を通って大気室400の方向に引き出すほ どの力を生じさせることを認めるに足りる証拠もない。 そうすると、本願明細書の記載から、原告が主張する「大気圧室400 内において大気圧より低い低圧力空間が生成される」ことを理解すること はできず、さらに、その低圧力空間の作用によって下方導水路250内の 液体がその管内を落下することが生じるものと理解することもできない。

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令和3(行ケ)10137  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月23日  知的財産高等裁判所

 先の審取で、実施可能要件違反はないと判断され、再度、実施可能\要件要件の無効を主張しましたが、「一次審決取消訴訟において行った主張と同じ」と判断されました。

(1) 審決取消訴訟の拘束力
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が 確定したときは、審判官は法181条2項の規定に従い当該審判事件につい て更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟 法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定 により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が 導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審 判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。 したがって、再度の審判手続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ 判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰 り返すこと、あるいはかかる主張を裏付けるための新たな立証をすることを 許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限 りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすること ができない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号2 45頁)。
(2)ア 一次審決取消訴訟の判断
(ア) 本件訴訟におけると同様に、一次審決取消訴訟においても、実施可能\n要件(法36条4項1号)に関して、本件明細書の発明の詳細な説明の 記載は、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加す る所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成(構\成要件G)を 当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているか否かという\nことが争点となり、原告(一次審決取消訴訟の被告)は、本件発明に係 る作業機を自ら開発した被告(一次審決取消訴訟の原告)ですら、本件 明細書等の図7のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業 機」を再現できないのであるから、構成要件Gが実施不可能\であること は明らかであると主張した(甲47〔20頁〕)。
(イ) この点について、一次判決は、特許発明が実施可能であるか否かは、\n実施例に示された例をそのまま具体的に再現することができるか否か によって判断されるものではないから、本件特許の原出願時に当業者が 本件明細書の記載に基づいて本件発明を実施することができたか否か は、本件明細書等の図7のグラフのデータを得た「当時の作業機」自体 を再現できるか否かによって判断されるものではなく、甲60(審判乙 14)、甲64(審判乙18)によれば、構成要件Gが実施可能\であるこ とが認められるから、原告の上記主張は採用することができない、と判 断した(甲47〔51〜52頁〕)。
イ 本件審決の判断
原告は、本件審決においても、前記ア(ア)と同様の主張を行ったが(本件 審決第4の3(4)カ)、本件審決は、一次審決取消訴訟のとおりの判断(前記 ア(イ))をし、そのような判断によれば、「一次審決は、図7のグラフを得た という作業機(実施品)が当時存在していたかについて審理判断していな いが、図7のグラフを得たという作業機が当時存在していたことを示す証 拠は皆無であり、架空の構成Gは当業者であっても実施不可能\である。」と いう原告の主張をもって、構成要件Gが実施可能\であるとの判断が左右さ れるものでないことは明らかであると判断した(本件審決第6の2(5)イ(イ) c〔本件審決111頁〕)。
(3) 原告は、本件訴訟において、取消事由3として、本件発明が、構成要件G\nの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角 度範囲内において徐々に減少し」という構成を備えるものとして実施可能\で あるというためには、本件明細書等の図7のグラフに示された結果を得るた めの実測に用いられた本件発明に係る当時の作業機(本件発明の実施品)が 実際に存在していたことが前提であるとし、それにもかかわらず、構成要件\nGの根拠である図7のグラフを得たという当時の作業機自体及びそれに関す る資料が現在存在しないから、図7のグラフは、一体どのような作業機を用 いた実測結果であるのか全く理解できず、構成要件Gの根拠になり得ず、そ\nのため、構成要件Gは根拠がなく、当業者であっても実施不可能\であると主 張する(前記第3の9〔原告の主張〕)。 しかし、原告の取消事由3についての上記主張は、本件明細書等の図7の グラフのデータの実測に用いられた作業機に関する資料の存否に言及するも のの、資料がないためにそのような作業機の存在が認められなければ、構成\n要件Gは実施不可能であるとの趣旨の主張であり、実施可能\要件との関係に おいては、本件明細書等の図7のグラフのデータの実測に用いられた作業機 の存在が明らかにならなければ実施可能要件は認められないとの主張であっ\nて、原告が一次審決取消訴訟において行った主張(前記(2)ア(ア))と同じ内容 の主張であると認められる。そして、原告が一次審決取消訴訟においてした 主張は(前記(2)ア(ア))、一次審決取消訴訟の判決理由中で理由がないと判断 され(前記(2)ア(イ))、その判断には行政事件訴訟法33条1項の拘束力が生 じたものと認められ、本件審決は、一次審決取消訴訟の拘束力に従って、原 告の上記主張に理由がないと判断したものと認められる。 したがって、原告は、本件審決が一次審決取消訴訟の拘束力に従ってした 判断をもはや争うことはできないものというべきであるから、原告の取消事 由3の主張は理由がない。

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令和4(ネ)10015 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年6月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 医薬品特許について、原告特許権者、被告ジェネリック医薬品メーカです。1審は36条違反(実施可能要件)として権利行使不能\と判断していました。知財高裁も同様の判断をしました。

前記1(1)オ、カ及びクのとおり、本件明細書には、薬理データ又はこれと 同視し得る程度の事項として、本件化合物がホルマリン試験、カラゲニン試験及び 術後疼痛試験において効果を奏した旨の記載がある。しかしながら、後記(5)にお いて説示するとおり、本件出願日当時、慢性疼痛は全て末梢や中枢の神経細胞の感 作という神経の機能異常により生じる痛覚過敏や接触異痛の痛みであり、原因にか\nかわらず神経細胞の感作を抑制することにより痛みを治療できるとの控訴人主張の 技術常識が存在していたとは認められないから、本件化合物がホルマリン試験、カ ラゲニン試験及び術後疼痛試験において引き起こされた各痛みの処置において効果 を奏した旨の記載があるからといって、そのことをもって、当業者において、本件 化合物が原因を異にするあらゆる「痛み」の処置においても効果を奏すると理解し たとは到底いえない。したがって、ホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛 試験の結果に係る上記記載をもって、本件明細書の発明の詳細な説明において、本 件化合物が「あらゆる全ての痛みの処置における鎮痛剤」の用途に使用できること につき薬理データ又はこれと同視し得る程度の事項が記載され、本件出願日当時の 当業者において、本件化合物が当該用途の医薬として使用できることを理解できた と認めることはできない。 その他、本件明細書の発明の詳細な説明に、本件化合物が「あらゆる全ての痛み の処置における鎮痛剤」の用途に使用できることにつき、薬理データ又はこれと同 視し得る程度の事項が記載され、本件出願日当時の当業者において、本件化合物が 当該用途の医薬として使用できることを理解できたと認めるに足りる的確な証拠は ない。

◆判決本文
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◆令和4(ネ)10017

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◆令和2(ワ)19922等

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◆令和2(ワ)19926

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令和2(ワ)19920等  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年1月19日  東京地方裁判所

 医薬品の用途発明について、請求項1,2については、実施可能要件・サポート要件違反として訂正が認められず、請求項3,4については均等侵害も否定されました。

医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されるこ\nとのみによっては,当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該\n医薬を当該用途に使用することができないから,医薬の用途発明において 実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明にその医薬の\n有用性を当業者が理解できるような薬理試験結果を記載する必要がある が,前記判示のとおり,本件明細書等には,本件化合物が神経障害性疼痛 又は心因性疼痛による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの治療に有効である と当業者が理解し得るような薬理試験結果の記載は存在しない。
(3) 本件特許出願当時の技術常識
ア 本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛による痛覚過敏又は接 触異痛に対して有効であれば,神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接 触異痛についての薬理試験を要することなく治療効果が予測されること\nを明示又は示唆する技術常識の記載は存在しない。また,侵害受容性疼痛, 神経障害性疼痛,心因性疼痛などの種類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛 などの痛みの発症原因や機序が同一であり,いずれかの種類の痛みに対し て有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても有効であることが本 件特許出願当時の当業者に知られていたなどの記載もない。
・・・・
上記各文献は,本件の技術分野に属する専門家により執筆されたもので あり,その当時の技術常識を反映した書籍であるというべきところ,上記 に摘示した各記載によれば,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性 疼痛は,その発症原因,痛みの態様・程度及び治療方法がそれぞれ異なる というのが本件特許出願当時の技術常識であり,痛みの種類を問わず,痛 覚過敏又は接触異痛などの痛みの発症原因や機序は同一であり,いずれか の種類の痛みに対して有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても 有効であるとの技術常識が存在したということはできない。
ウ 以上によれば,本件化合物が神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接 触異痛の痛みの治療に有効であることを示す薬理試験結果の記載もなく, 本件明細書等の記載に接した当業者が,本件化合物がこれらの痛みの治療 に有効であると認識し得たとは考えられない。
(4) したがって,本件明細書等の記載は訂正前発明1及び2を当業者が実施で きる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできず,実施可\n能要件を充足しない。\n
(5) 原告の主張について
これに対し,原告は,本件特許出願当時,慢性疼痛は,それが侵害受容性 疼痛,神経障害性疼痛又は心因性疼痛のいずれによるものであっても,末梢 や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛\nの痛みであるとの技術常識が存在したので,当業者は,本件明細書等の記載及 び同明細書等に記載された薬理試験から,本件化合物が同明細書等に記載さ れた各種の痛みに有用であると認識することができたと主張する。
・・・・
(オ) 以上によれば,上記(ア)ないし(ウ)の各記載から,侵害受容性疼痛,神 経障害性疼痛等で出現する痛覚過敏と,脊髄のNMDA受容体の活性化 による中枢性感作との間に関連性があるといい得るとしても,本件特許 出願当時,本件明細書等に記載された侵害受容性疼痛(炎症性疼痛,術 後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,痛風,火傷痛等)や神経障害性 疼痛(三叉神経痛,急性疱疹性神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギ ー等)により出現する痛覚過敏がすべて末梢や中枢の神経細胞の感作と いう神経の機能異常により生じるとの技術常識が存在したとは認め難\nく,まして,これらの記載から,当業者が,薬理試験結果の記載もなく, 本件化合物が神経障害性疼痛の治療に有効であると認識し得たという ことはできない。
・・・・
原告は,被告医薬品が構成要件3B及び4Bの文言を充足しない場合であっ\nても,均等侵害が成立すると主張する。 しかし,相手方が製造等をする製品(対象製品)が,特許請求の範囲に記載 された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属すると認められる\nためには,当該対象製品が特許請求の範囲に記載された構成と異なる部分が特\n許発明の本質的部分ではないことを要する(第1要件)。 本件発明3及び4と被告医薬品との相違部分は,その用途にあるところ,同 各発明は,既知の薬物である本件化合物が,侵害受容性疼痛の治療に有効であ ることを新たに見出したことにあるので,その用途が同各発明の本質的部分を 構成することは明らかである。\nしたがって,被告医薬品は,第1要件を充足しないので,均等侵害は成立し ない。
7 まとめ
以上によれば,訂正前発明1及び2に係る特許は,実施可能要件及びサポー\nト要件の各違反を理由に特許無効審判により無効にされるべきものであり,本 件訂正は訂正要件を具備せず,同訂正によっても上記各無効理由が解消されな い。また,被告医薬品は,本件発明3及び4の技術的範囲に属しない。

◆判決本文

特許権は同じく、被告が異なる事件です。

◆令和2(ワ)19932

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令和2(ワ)19931等  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月16日  東京地方裁判所

 医薬用途発明の特許権侵害訴訟です。東京地裁(29部)は、本件発明1,2については実施可能要件・サポート要件違反の無効理由ありと判断しました。また、本件発明3,4について、均等侵害も否定しました。本件発明1,2は特許庁で訂正要件を満たさないと判断されており、審決取消訴訟に係属しています。本件発明3,4は特許庁で訂正が認められています。

 いわゆる医薬用途発明においては,一般に,当業者にとって,物質名, 化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのた\nめの当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該発明に係る医薬\nを当該用途に使用することができないから,そのような発明において実施 可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの\n記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,当該用途の 有用性及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載を要するものと解 するのが相当である。 本件発明1及び2の特許請求の範囲においては,本件化合物が「痛みの 処置における」(構成要件1B)「鎮痛剤」(構\成要件1C)及び「鎮痛 剤」(構成要件2C)として作用することが記載されているところ,いず\nれも本件化合物の鎮痛効果が認められる痛みは特定されていない。しかし, 本件明細書には,本件化合物について,「痛みの処置とくに慢性の疼痛性 障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定さ れるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み, 三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザ ルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー, 線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障 害および特発性疼痛症候群が包含される。」(前記1(1)イ)と記載されて いることに照らすと,本件発明1及び2は,本件化合物が少なくとも上記 各痛みに対して鎮痛効果を有することを内容とするものと解される。 したがって,本件発明1及び2について実施可能要件を満たすというた\nめには,本件明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと 同視し得る程度の記載をすることなどにより,上記各痛みに対して鎮痛効 果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載が必要であ るというべきである。
・・・
前記(ア)の各文献の記載によれば,本件出願当時,術後疼痛試験は,ラ ットの皮膚,筋膜及び足蹠の足底側面の筋肉を切開することにより,痛 覚過敏を引き起こし,これに対する薬剤の効果を確かめる試験であるこ とが,技術常識であったと認められる。 そして,本件明細書には,「S−(+)−3−イソブチルギャバ」\n(弁論の全趣旨によれば,構成要件3Aを充足する本件化合物の一種で\nあると認められる。)が術後疼痛試験において有効であったことが記載 されており,さらに,「ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触 異痛を生じた。いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達 し,3日間維持された。実験期間中,動物はすべて良好な健康状態を維 持した。」(前記1(1)キ(キ)),「ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉 の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏および接触異痛を誘発するこ とを示している。本試験の主要な所見は,ギャバペンチンおよびS− (+)−3−イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対して\nも等しく有効なことである。」(同(コ))との記載がある。 以上によれば,本件出願当時,本件明細書の術後疼痛試験の結果に接 した当業者は,本件化合物について,侵害受容性疼痛としての熱痛覚過 敏及び接触異痛に対して有効であると理解し,その他の痛みに対して有 効であると理解することはなかったというべきである。
・・・
ア 被告医薬品が本件発明3の構成と均等なものであるかについて\n
(ア) 原告は,本件発明3は,慢性疼痛に対する画期的処方薬として,抗て んかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだ したものであり,その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用い る点にあるから,対象となる痛みが侵害受容性疼痛か,神経障害性疼痛 や線維筋痛症かは本質的部分ではなく,効能・効果を神経障害性疼痛や\n線維筋痛症に伴う疼痛とし,慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告 医薬品は,均等侵害の第1要件を満たすと主張する。
しかし,前記1(1)アのとおり,本件特許に係る発明は,てんかん,ハ ンチントン舞踏病等の中枢性神経系疾患に対する抗発作療法等に有用な 薬物である本件化合物が,痛みの治療における鎮痛作用及び抗痛覚過敏 作用を有し,反復使用により耐性を生じず,モルヒネと交叉耐性がない ことに着目した医薬用途発明であるところ,前記2(1)イのとおり,本件 出願当時,痛みには種々のものがあり,その原因や機序も様々であるこ とが技術常識であった。
そうすると,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発明 3において本質的部分というべきであり,その鎮痛効果の対象を異にす る被告医薬品は,本件発明3の本質的部分を備えているものと認めるこ とはできない。したがって,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載さ れた構成中の被告医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でない\nということはできないから,被告医薬品は均等の第1要件を満たさない。
(イ) また,前記(1)アによれば,原告は,本件訂正前発明3においては鎮痛 の対象となる痛みを限定していなかったところ,本件訂正により「炎症 を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」に限定していること からすると,本件発明3との関係においては,被告医薬品の効能・効果\nである神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を意図的に除外したと 認めるのが相当である。 したがって,被告医薬品は均等の第5要件も満たさない。
(ウ) 以上によれば,被告医薬品は,本件発明3の特許請求の範囲に記載さ れた構成と均等なものとは認められない。\n
イ 被告医薬品が本件発明4の構成と均等なものであるかについて\n
前記アと同様に,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発 明4の本質的部分というべきであり,被告医薬品は均等の第1要件を満た さず,また,本件発明4との関係においては,被告医薬品の効能・効果で\nある神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛が意図的に除外されている から,均等の第5要件も満たさない。 したがって,被告医薬品は,本件発明4の特許請求の範囲に記載された 構成と均等なものとは認められない。\n

◆判決本文

関連事件です。本件特許は同じですが、被告が異なります。なお、原告代理人はなぜか異なります。

◆令和2(ワ)19923等

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令和2(ワ)22290等  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年1月19日  東京地方裁判所

 医薬用途発明について、「各痛みに対して鎮痛効果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載がない」として、実施可能要件違反なので権利公使不能\と判断されました。

ア 実施可能要件違反の判断基準について
いわゆる医薬用途発明においては,一般に,当業者にとって,物質名, 化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予\測することは困難であり,当該発明に係る医薬を当該用途に使用することができないから,そのような発明において実施 可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載を要するものと解\nするのが相当である。 本件発明1及び2の特許請求の範囲においては,本件化合物が「痛みの 処置における」(構成要件1B)「鎮痛剤」(構\成要件1C)及び「鎮痛 剤」(構成要件2C)として作用することが記載されているところ,いずれも本件化合物の鎮痛効果が認められる痛みは特定されていない。しかし,本件明細書には,本件化合物について,「痛みの処置とくに慢性の疼痛性\n障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定さ れるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み, 三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザ ルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー, 線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障 害および特発性疼痛症候群が包含される。」(前記1(1)イ)と記載されて いることに照らすと,本件発明1及び2は,本件化合物が少なくとも上記 各痛みに対して鎮痛効果を有することを内容とするものと解される。 したがって,本件発明1及び2について実施可能要件を満たすというためには,本件明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,上記各痛みに対して鎮痛効\n果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載が必要であ るというべきである。
イ 痛みの分類及び機序について
(ア) 痛みの分類及び機序について,証拠(甲15の1,甲26,39,4 1,42,46,55,59,77ないし84,86,88)によれば, 本件出願当時,以下の文献が存在したことが認められる。
・・・
(イ) 前記(ア)aないしgの文献の記載によれば,痛みは,その機序により大 きく分けると,1)炎症や組織損傷による侵害レセプターへの刺激により 生じる侵害受容性疼痛,2)末梢神経又は中枢神経が圧迫されたり,絞扼 されたり,遮断されたりすることにより生じる神経障害性疼痛,3)直接 末梢からの侵害刺激がないにもかかわらず存在し,心因性のもので,特 発性疼痛とも呼ばれる心因性疼痛の三つに分類することができること, 線維筋痛症は,上記3)の心因性疼痛に分類されること,上記のとおりに 分類された痛みの中にも様々なものがあり,それぞれの痛みについて機 序や症状,治療方法が存在することが,本件出願当時,技術常識であっ たと認めるのが相当である。
(ウ) これに対して,原告は,痛覚過敏及び接触異痛は,通常の痛みとは異 なり,末梢性感作や中枢性感作による神経の機能異常で生じる痛みであると主張し,その根拠として,本件出願当時に前記(ア)hないしlのとお りの文献が存在したことを指摘する。 しかし,前記(ア)h,i,k及びlの各文献は,マスタードオイル,カ プサイシン及び切開による侵害刺激を与える実験の結果に基づくもので あるから,これらの実験により,痛覚過敏及び接触異痛が,その原因に かかわらず,末梢性感作や中枢性感作による神経の機能異常により生じると,直ちにいうことはできない。
また,前記(ア)jの文献では,「NメチルDアスパラギン酸(NMDA) 受容体の過剰活性は,神経障害性疼痛の発生における要因の1つである 可能性がある。」,「動物の神経障害性疼痛モデルにおいて示唆されるように…,痛覚過敏は NMDA 受容体によって介在される「ワインドアップ 現象」の提示である可能性がある。」などと記載されているところ,これらの記載は,NMDA受容体の過剰活性が神経障害性疼痛の要因となること,あるいは痛覚過敏がNMDA受容体によって介在されるワイン\nドアップ現象(神経細胞の感作)によるものであることの可能性を指摘したにすぎず,これをもって,上記文献の記載内容が本件出願当時の技術常識であったということはできない。そして,他に,本件出願当時,痛覚過敏及び接触異痛がその原因にかかわらず末梢性感作や中枢性感作による神経の機能\異常で生じる痛みであることが技術常識であったと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
・・・
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明においては,ホルマリン 試験,カラゲニン試験及び術後疼痛試験の各薬理データの記載により,本 件化合物が侵害受容性疼痛に分類される痛みに対して鎮痛効果があること 及びそのための当該医薬の有効量は裏付けられているといえる。しかし, 本件発明1及び2がその内容とする「痛み」,すなわち,少なくとも「炎 症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急性疱 疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢 捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風, 幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛 症候群」(前記1(1)イ)の各痛みに対して鎮痛効果があること及びそのた めの当該医薬の有効量を裏付ける記載はない。したがって,本件発明1及 び2は,実施可能要件に違反するものと認められる。\n

◆判決本文

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令和2(行ケ)10080等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月27日  知的財産高等裁判所

 医薬用途発明の「実施可能要件」について、患者に投与した場合に,著しい副作用又は有害事象の危険が生ずるため投与を避けるべきことが明白であるなどの特段の事由がない限り,治療効果を有することを当業者が理解できるものであれば足りると判断しました。

(3) 本件出願当時の5−HT1A 受容体部分作動薬の双極性障害のうつ病エピ ソードに対する治療効果に関する技術常識について\n
ア 前記(1)イの記載事項を総合すると,本件出願当時,1)大うつ病(単極性 うつ病)の症状の一つである「大うつ病エピソード」(うつ病エピソ\ード) と双極性障害(双極性障害I)型及びII)型)の症状の一つである「大うつ病 エピソード」(うつ病エピソ\ード)の定義及び診断基準は同一であったこと, 2)大うつ病性障害の患者に有効であることが立証されているすべての抗う つ薬は双極性障害のうつ病エピソードの患者にも有効であると考えられて\nいたこと,3)一方で,双極性障害の患者に対する抗うつ薬の投与によって, 躁病エピソードを誘発し,躁転や急速交代化を引き起こす可能\性があるが, このような可能性がある場合には,抗うつ薬の投与量の調整,気分安定薬\nとの併用等により対応していたことが認められる。 上記認定事実と5−HT1A 受容体部分作動薬が,脳内のシナプス後5− HT1A 受容体に結合することによって発現する5−HT1A 受容体部分作 動作用に基づいて抗うつ作用を有することは,本件出願当時の技術常識で あったこと(前記(2))によれば,本件出願当時,5−HT1A 受容体部分 作動薬一般がその抗うつ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対\nして治療効果を有することは技術常識であったことが認められる。
イ この点に関し本件審決は,本件出願時において,各種の抗うつ薬を双極 性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用することができることは,技\n術常識であるが,一方で,双極性障害の患者に抗うつ薬を使用した場合, 躁病エピソードの誘発,軽躁エピソ\ードの誘発,急速交代化の誘発,及び 混合状態の悪化等の様々な有害事象が生じる危険性があることを考慮する と,全ての抗うつ薬が双極性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用す\nることができるという技術常識があるとは言い難く,5−HT1A 部分作動 薬を双極性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用できることが技術常\n識であるとはいえないなどとして,5−HT1A 部分作動薬を双極性障害の 治療に使用することができることは,本件出願時の技術常識であるとはい えない旨判断した。
(ア) ところで,医薬品の開発は,基礎研究として対象疾患の治療の標的 分子(受容体等)を探索し,標的分子(受容体等)に対する薬理作用及び 当該薬理作用を有する化合物を探索する薬理試験(in vitro 試験,動物実 験)が実施され,このような薬理試験の結果として,化合物が有する薬 理作用が疾患に対する治療効果を有すること(「医薬の有効性」)につい て合理的な期待が得られた段階で医薬用途発明の特許出願がされるのが 一般的であるものと認められる。 一方で,薬機法は,医薬品の製造販売をしようとする者は,その品目 ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければなら ない旨規定し(14条1項),その承認審査においては,申請に係る医薬\n品の名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,\n有効性及び安全性に関する事項を審査し,その審査の結果,申請に係る\n医薬品又は医薬部外品が,その申請に係る効能\又は効果を有すると認め られないとき,申請に係る医薬品が,その効能\又は効果に比して著しく 有害な作用を有することにより,医薬品又は医薬部外品として使用価値 がないと認められるときは,承認を与えない旨規定し(同条2項3号), 厚生労働省令で定める医薬品の承認を受けようとする者は,申請書に,\n厚生労働省令で定める基準に従って収集され,かつ,作成された臨床試 験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければなら\nない旨規定している(同条3項)。この臨床試験は,臨床試験第1相(少 数の健常人に対する投与であり,副作用などの有無をみる。),臨床試験 第2相(少数の患者に対する投与であり,効果などが見込まれるかをみ る。),臨床試験第3相(多数の患者に対する投与であり,効果などがあ ることを確認する。)の3段階の試験で実施される。このように医薬品の 承認審査では,申請に係る化合物の薬効及び安全性(副作用,有害事象\nの有無及び程度等)を総合的に考慮し,「医薬の有用性」について審査し ている。
以上のような医薬品の開発の実情,医薬品の承認審査制度の内容,特 許法の記載要件(実施可能要件,サポート要件)の審査は,先願主義の下\nで,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業 の発達に寄与するとの特許法の目的を踏まえてされるべきものであるこ とに鑑みると,物の発明である医薬用途発明について「その物の使用す る行為」としての「実施」をすることができるというためには,当該医薬 をその医薬用途の対象疾患に罹患した患者に対して投与した場合に,著 しい副作用又は有害事象の危険が生ずるため投与を避けるべきことが明 白であるなどの特段の事由がない限り,明細書の発明の詳細な説明の記 載及び特許出願時の技術常識に基づいて,当該医薬が当該対象疾患に対 して治療効果を有することを当業者が理解できるものであれば足りるも のと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,本件審決が述べる「双極性障害の患者に 抗うつ薬を使用した場合,躁病エピソードの誘発,軽躁エピソ\ードの誘 発,急速交代化の誘発,及び混合状態の悪化等」の「様々な有害事象が生 じる危険性」については,本件出願当時,抗うつ薬と気分安定薬とを併 用することにより,躁転のリスクコントロールが可能であり,躁転発生\n時には抗うつ薬の中止又は漸減により対応可能であると考えられていた\nこと(前記ア3))に照らすと,上記特段の事由に当たるものと認められない。 そして,本件出願当時,5−HT1A 受容体部分作動薬一般がその抗う つ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対して治療効果を有する\nことが技術常識であったことは,前記ア認定のとおりである。
(イ) 以上によれば,本件審決の前記判断は誤りである。
ウ この点に関し被告らは,双極性障害については,鬱病相と躁病相があり, 双極性障害の鬱病相を治療するために抗鬱薬を投与すると,躁転の可能性\nを有意に高め,双極性障害の症状を悪化させる可能性が高いという固有の\n事情が存在し(甲A1,2,31の1,乙A98,106,),臨床上も,双 極性障害の鬱病相の治療において抗鬱薬の使用は慎重に行うべきとされて いることからすれば,全ての抗鬱薬を双極性障害の鬱病相(うつ病エピソ\nード)の治療に用いることができるなどという技術常識は存在しない旨主 張する。 しかしながら,前記イで説示したところに照らすと,被告ら主張の上記 固有の事情があるとしても,本件出願当時,5−HT1A 受容体部分作動薬 一般がその抗うつ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対して治療\n効果を有することが技術常識であったことを否定する根拠にならない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。

◆判決本文

関連事件です。 令和2(行ケ)10079等

◆判決本文
令和2(行ケ)10078等

◆判決本文
令和2(行ケ)10077

◆判決本文

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令和2(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月20日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項の追加、および実施可能要件違反であるとした審決が維持されました。

 本件補正によって,当初明細書等の段落【0002】,【0008】及び【0 010】に追加された事項並びに図3〜8には,本願発明の原理に関する事項が記 載されているところ(甲9),これらの事項は,当初明細書等には記載されておらず (甲4,16),また,自明な事項ということもできないから,新規事項を追加する ものといえる。 したがって,本件補正は,当初明細書等に記載された範囲内においてするものと はいえず,特許法17条の2第3項に違反するものである。
(2) 原告は,本件補正は,先行技術文献に記載された内容を「発明の詳細な説 明」の【背景技術】の欄に追加する補正であると主張する。 しかし,本件補正は,「高周波超伝導電磁エンジンは,磁石となるループと超伝導 磁石を重ね合わせたものである。二つの磁石は離れないように固定する。その二つ の磁石の中の一つは,常伝導の磁石である。但し,この常伝導の磁石は一回巻きで 芯が無く,高周波数かつ低電圧の脈流を流す。脈流の周波数は,その波長がループ の一周の長さと一致する程度の高周波数とする。もう一つの磁石は,超伝導磁石で あり,超伝導状態となるので永久電流が流れる。磁石と磁石を重ねたので,磁石と 磁石の間には,図3で上下方向の矢印で表した反発力もしくは吸引力(どちらも磁\n力)が生じる。しかし,この特殊な構造ゆえに生じる打消しの力により,図4のよ\nうに,超伝導磁石に働く反発力もしくは吸引力は打ち消される。従って,常伝導磁 石に働く反発力もしくは吸引力のみが残り,これを推進力として利用する」,「図8 のように,脈流の周波数は,その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周 波数としているので,高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には,各瞬間におい て,脈流により生じるローレンツ力がゼロの部分がある。これにより,電磁力の偏 りが生じる。よって,この電磁力の偏りのために,運動量秩序に従った動きを電子 対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことが できないので,重心運動の運動量に変化せずに,各超電子の散乱を通じて,最終的 には熱エネルギーとして外部に放出される。超伝導磁石の超電流を構成する電子対\nの重心運動が生じないので,超伝導磁石に働く電磁力(ローレンツ力)は磁力となら ず,超伝導磁石の磁力は打ち消された形となる。その結果,常伝導のループに働く 電磁力,即,磁力だけが残り,これを直線的運動エネルギーとして利用できる。」と の記載及び図4,8(以下「本件追加部分」という。)を加えるものであるところ, 本件追加部分は,特許文献1の記載の一部及び甲2文献の記載の一部から成るもの である。当初明細書等には,特許文献1及び甲2文献が先行技術文献として記載さ れているものの,それのどの部分を引用するかは記載されておらず,上記各文献を 見ても,それから直ちに本件追加部分を把握できないことからすると,本件補正は, 新規事項を追加するものということができる。
(3) 原告は,本願発明の原理は,甲2文献に記載されているところ,甲2文献は 出版されてから年数が経過しているため,上記原理は技術常識となっていると主張 する。 しかし,本願発明の原理が甲2文献に記載されており,甲2文献が出版されてか ら相当の年数が経過していたとしても,それだけで,本願発明の原理が技術常識と なっていたと認めることはできない。
(4) したがって,本件補正が,特許法17条の2第3項に違反するとした本件 審決の判断に誤りはない。
3 実施可能要件違反について\n
(1) 本願発明は,磁気シールドで半分程度を覆った「超伝導磁石」に対して固 定された位置にあるループに直流電流を流して,同ループに電磁力を発生させ,「超 伝導磁石」の永久電流に働く電磁力を無効とすることにより,ループに発生する電 磁力を推進力,制動力,浮力として利用するというものであるところ,当初明細書 等には,「超伝導磁石」の永久電流に働く電磁力を無効とすることにより,ループに 発生する電磁力を推進力,制動力,浮力として利用する原理についての説明が記載 されておらず,また,このような原理が技術常識であるということもできない。 なお,本件補正によって追加された事項では,上記の原理について説明されてい るが,磁石となるループと超伝導磁石を固定した場合,仮に,超伝導磁石に働く磁 力が常伝導ループに働く磁力より小さいとしても,互いに固定された超伝導磁石と ループ間の力は,作用・反作用の法則によって釣り合うことになり,結局,本願発 明の装置を動かす力は発生しないと考えるのが自然であるから,本件補正後の明細 書及び図面を前提としても,本願発明の原理について,当業者が理解し実施できる 程度に裏付けがされているとはいえない。この点について,原告は,作用・反作用 の法則が保障するのは,超伝導磁石に働く電磁力と常伝導ループに働く電磁力が釣 り合うことまでであり,発生した電磁力がそのまま磁力となって,釣り合うことま では保障しないと主張するが,上記のとおり,作用・反作用の法則により,超伝導 磁石に働く力と常伝導ループに働く力は釣り合うと解されるから,原告の上記主張 は理由がない。 また,原告は,本願発明の原理を利用して製造されたストレンジクラフトが存在 すると主張して,その証拠として写真集「ストレンジクラフトの写真」(甲3)を提 出するところ,甲3には,飛行する物体を撮影した写真が掲載されているものの, 同物体が,本願発明の原理を利用したものであると認めるに足りる証拠はないから, 原告の上記主張は理由がない。

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令和2(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所

 機械系の発明について、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」というクレームの文言が実施可能要件を満たすのかが争われました。地裁高裁3部は、実施可能要件を具備していないとした審決を取り消しました。

 本件審決は,前記2(1)イ〔本判決22頁〕のとおり,原告が主張する式及 び説明に基づいて本件発明を実施するとしても,当業者に過度の試行錯誤を 要するものと判断した。
(2) 判断の誤りの有無とその理由
ア しかし,本件審決の前記(1)の判断は誤りである。その理由は,次のイの とおりである。
イ(ア) 前記2(3)イ(エ) 〔本判決27頁〕のとおり,前記2(3)イ(ウ) 〔本判 決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項目を適宜設定し,Fsが, θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成を実\n現することにより,構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要\nする力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」 するとの構成は実現されるものと認められるところ,前記2(3)イ(ウ〔本) 判決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項は複数存在することか ら,それらについて適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作業 機を作成して本件発明を実施するために過度な試行錯誤を要するかを 検討することが必要となる。
この点に関し,原告は,【図2】に記載された各支点の基本的な位置関 係に基づき,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力」と「エ\nプロン角度」の変化曲線をシミュレーションし,甲60(審判乙14) の7頁のグラフ(別紙図4)の結果を得た。そして,同グラフによれば, 【図2】に記載された作業機の位置関係を基礎にして,第3の支点15 2の位置を,第1の支点140を中心として25°下方に移動させた「第 1の作業機」において,「第1の姿勢」(作業機が水平より33°前傾し た状態)の場合(同グラフの青色線)には,エプロンを跳ね上げるのに 要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化する間に,250N から0Nに徐々に減少したことが認められ,「第2の姿勢」(作業機が水 平より18°前傾した状態)の場合(同グラフの黄色線)には,エプロ ンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化 する間に,約230Nから約75Nまで徐々に減少したことが認められ る。また,甲64(審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)によれば, 「第1の作業機」において,「最上姿勢」(トラクタ油圧機構で作業機を\n最も持ち上げた位置,入力軸が水平より30.5°前傾した状態)の場 合,エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から6 0°に変化する間に,約230Nから約20Nまで徐々に減少したこと が認められる。そして,前記4(2)イ(ア)〔本判決43頁〕のとおり,これ らの場合は,エプロンを跳ね上げるのに要する力が,一般的な作業者が 感じることができる程度に徐々に減少したものと認められる。そうする と,これらのシミュレーションにより,構成要件Gの実施が可能\である ことが立証されたものと認められる。 これらのシミュレーションは,コンピュータを用いたものと推認され るが,その実施が特に困難であったとは認められず,上記の結果を得る ために過度の試行錯誤が必要であったことを窺わせる事情はない。 したがって,前記2(3)イ(ウ)〔本判決27頁〕の式中の各項目のうち, θ以外の項目について適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作 業機を作成して構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,\nエプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの 構成を実施するために,当業者は過度の試行錯誤を要しないものと認め\nられる。
(イ)a 被告は,本件明細書の【0028】には「上記実施例の各支点の位 置関係からこのような荷重の傾向が観察される。」と記載されており, 【図2】の作業機の支点の位置により【図7】のグラフが得られたこ とが明らかにされているとした上,原告が,力学的なシミュレーショ ンにより「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が 増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する変化曲線を得たと する「第1の作業機」(別紙図2の青色で記載された構造)は,【図2】\nの作業機とは第3の支点(152)の位置が異なり,本件明細書,本 件特許の特許出願の願書に添付された図面に記載されていないもの であるから,「第1の作業機」を用いて得た甲60(審判乙14)の7 頁のグラフ及び甲64(審判乙18)の6頁のグラフに基づいて,本 件発明の構成要件Gが実施可能\であるとする原告の主張は誤りであ ると主張する。
しかし,【図2】の作業機は,本件発明の構成を説明するための作業\n機の一例であるところ(【0016】),本件発明の特許請求の範囲にお いて,支点の位置に関しては,第2の支点及び第3の支点の位置につ いて,アシスト機構が両支点を通る同一軸上で移動可能\であること (構成要件E)が定められているのみであることからすると,その定\nめを充たしていれば,本件発明の作業機における第2の支点及び第3 の支点の位置は,【図2】に示される具体的な位置と同じである必要は ない。そして,特許出願の願書に添付される図面は,設計図のように 寸法等が正確なものが求められるものではなく,発明の技術内容を理 解できる程度の精度で表現されていれば足りるものであり,【図2】も,\n本件発明の構成を説明するために示されたものであって,設計図のよ\nうに厳密な形状や寸法等を具体的に示したものとは認められないか ら,【図2】の作業機とは第3の支点(152)の位置が異なるのみで 全体の構成が同じであり,構\成要件Eも満たしている「第1の作業機」 において,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ\nプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとい う構成が実施可能\であることが示されていれば,本件発明の構成要件\nGは実施可能であると認められる。本件明細書の【0028】には「上\n記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観察され る。」と記載されているが,本件発明の構成が特許請求の範囲により特\n定されていることからしても,上記の【0028】の記載は,本件発 明の作業機における第2の支点及び第3の支点の位置が【図2】に示 される具体的な位置と同じであることまでを要求するものとは認め られない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
b 被告は,「第1の作業機」の計算に用いたガススプリング(甲65(審 判乙19))は,直径をφ16mmにした「オールガスタイプ」のもの であり,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピストンタイプ」 のものでないところ,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピス トンタイプ」のピストンでは【図7】のグラフが得られないことは明 らかであると主張する。
しかし,本件発明におけるアシスト機構で用いるガススプリングに\nついて,本件訂正後の請求項1には,「ガススプリング」と記載されて いるのみであり,「オールガスタイプ」であるか「フリーピストンタイ プ」であるかについての特定がない。また,本件明細書の【0029】 には,「上記実施例においては,ガススプリングとして,フリーピスト ンを有するものを用いたが,フリーピストンを用いない従来型のガス スプリングを用いることも可能である。」と記載されており,本件発明\nのガススプリングが「フリーピストンタイプ」のものに限られない旨 記載されている。そうすると,「オールガスタイプ」のガススプリング (甲65(審判乙19))を計算に用いて,前記(ア)のとおり,「第1の 作業機」により構成要件Gが実施可能\であることが示されていること (甲60(審判乙14)1〜2頁,甲64(審判乙18)1頁,甲6 5(審判乙19))からすれば,構成要件Gは実施可能\であると認めら れる。そして,「オールガスタイプ」のガススプリング(甲65(審判 乙19))は,その構造に照らし,本件特許の原出願時に実施可能\であ ったものと推認され,本件特許の原出願時に実施できなかったことを 裏付ける具体的な証拠はない。したがって,被告の上記主張は,採用 することができない。
c 被告は,本件発明に係る作業機を自ら開発した原告ですら,【図7】 のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業機」を再現で きないのであるから,構成要件Gが実施不可能\であることは明らかで あると主張する。 しかし,特許発明が実施可能性であるか否かは,実施例に示された\n例をそのまま具体的に再現することができるか否かによって判断され るものではないから,本件特許の原出願時に当業者が本件明細書の記 載に基づいて本件発明を実施することができたか否かは,【図7】のグ ラフのデータを得た「当時の作業機」自体を再現できるか否かによっ て判断されるものではない。前記(ア)のとおり,甲60(審判乙14), 甲64(審判乙18)によれば,構成要件Gが実施可能\であることが 認められる。したがって,被告の上記主張は,採用することができな い。

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令和1(行ケ)10106  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月4日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明についての無効審判の取消訴訟です。知財高裁も審決同様、無効理由無しと判断しました。無効理由としては進歩性、実施可能要件、サポート要件と全て争点とされています。\n

 原告は,本件発明1において,代入用スクリプトと自ノード変数データと が,同一のノードデータに含まれるのに対し,甲1発明ではそうではないこ とが相違点に当たるとした場合であっても,甲1発明において,直系上位ノ ードに含まれている代入用スクリプトを,直系上位ノードではなく,自ノー ドに含ませることとすることは,当業者の技術常識ないし周知技術に基づく 設計事項であるから,当業者は,相違点2及び相違点3に係る構成を容易に\n想到することができると主張する。 しかし,前記2において判示したとおり,甲1には,本件発明1の構成要\n件Fの代入用スクリプトに相当する事項自体が開示されていないから,原告 が主張するように,単に代入用スクリプトを自ノードに含むか含まないかと いう点のみが相違点となるのではない。
そして,甲1には,ノードデータに当該ノードデータに含まれる変数デー タである自ノード変数データと,当該ノードの直系上位ノードのノードデー タに含まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行っ て,前記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプトが含まれるよう にする方法について記載も示唆もない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,当業者が,甲1発 明において,「スクリプトは「当該ノードデータに含まれる変数データであ る自ノード変数データと,当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含 まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行って,前 記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプト」を含む」という相違 点2に係る本件発明1の構成及び「前記代入用スクリプトの実行により,前\n記自ノード変数データの値を更新する」という相違点3に係る本件発明1の 構成を容易に想到することができたとはいえない。\n
同様に,当業者が,甲1発明において,本件発明1の発明特定事項を全て 含む本件発明14について,前記相違点2に係る本件発明14の構成及び前\n記相違点3に係る本件発明14の構成を容易に想到することができたとはい\nえない。

◆判決本文

侵害訴訟はこちらです。 1審、2審とも技術的範囲に属しないと判断しています。

◆平成31(ネ)10034

◆平成29(ワ)31706

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令和1(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月15日  知的財産高等裁判所

 新規性・進歩性違反については、一致点と相違点の認定を誤っているとして取り消しました。その他の記載要件(実施可能要件・サポート要件)については無効理由無しについても判断しています。\n

 イ 本件審決は,引用発明1を前記第2の3(2)アのとおり,低純度酸素の生成に 関し,「高純度酸素が側塔から抜き取られる位置よりも15〜25平衡段高い位置で 側塔から液体として抜き出され,液体ポンプを通過することにより高い圧力に圧送 され,主熱交換器を通過することによって気化され」るものと認定した。 原告は,上記認定を争い,引用発明1は,低純度酸素を専ら液体として抜き出す ものではないと主張し,その根拠として記載Aを指摘する。
ウ 記載Aは,「Either or both of the lower purity oxygen and the higher purity oxygen may be withdrawn from side column 11 as liquid or vapor for recovery.」というものである(甲1の1。5欄8行〜10行)。引用例1の他の箇所 (例えば,5欄11行〜22行,23行〜32行,33行〜39行)において, “recover”の用語が最終的な製品を得ることという意味で用いられていることから すると,記載A文末の“recovery”も最終製品の回収のことを意味し,他方で文中の “withdrawn”は,中間的な生成物の抜き出しのことを意味するものと解される(4 欄40行の“withdrawn”,5欄43行の“withdrawal”も同様である。)。そうすると,記載Aは,前記ア gのとおり,低純度酸素及び高純度酸素のいずれか又は両方は, 回収のために,液体又は気化ガスとして側塔11から抜き出されてもよいと訳すの が相当である。 そうだとすると,記載Aからは,引用発明1が低純度酸素を専ら液体として抜き 出すもので,気体としての抜き出しは排除されている,と理解するのは困難である。 しかも,引用例1の全体をみると,引用発明1が解決しようとする課題は,低純 度酸素及び高純度酸素の両方を高回収率で効果的に精製することができる極低温精 留システムを提供することであり ,課題を解決する手段は,空気成分の 沸点の差,すなわち低沸点の成分は気化ガス相に濃縮する傾向があり,高沸点の成 分は液相に濃縮する傾向があることを利用したものである(同 と認められ,図 1に示されたのは,あくまで,好ましい実施形態にすぎない 。図1の説明 においては,低純度酸素を液体として抜き出し,それにより大量の高純度酸素を得 られるとしても,それは,最も好ましい実施形態を示したものであって,引用例1 に側塔11から低純度酸素を気体として抜き出すことが記載されていないとはいえ ない。
エ また,証拠(甲2,3の1,4,7の1,8)によれば,本件発明1の出願当 時,空気分離装置又は方法において,高純度酸素と区別して低純度酸素を回収する ことができ,その際に,精留塔から,低純度酸素を気体として抜き出す方法も液体 として抜き出す方法もあることは,技術常識であったと認められる。上記認定の技 術常識に照らしても,引用例1には,低純度酸素を液体として抜き出すことのみな らず,気体として抜き出すことが記載されているに等しいというべきである。
オ そうすると,本件審決が,引用発明1を,低純度酸素を専ら液体として抜き 出すものと認定し,これを一致点とせずに相違点1と認定したことは,誤りといわ ざるを得ない。 本件審決は,その余の相違点及び本件発明2〜4と引用発明1との相違点につい て判断せず,原告被告ともにこれを主張立証していないから,これらの点に係る新 規性及び進歩性については,再度の審判により審理判断が尽くされるべきである。
・・・
事案に鑑み,取消事由3についても判断する。
(1) 実施可能要件適合性\n
ア 本件各発明に係る「空気分離方法」のための「空気分離装置」は,2種以上の 純度の酸素を取り出すものであり,そのうち1種を低純度のガス酸素で取り出すこ とによって,低圧精留塔内の主凝縮器に必要な酸素の純度を低減でき,その結果, 空気圧縮機の吐出圧の低減を図り,該圧縮機の消費動力を低減し,「空気分離装置」 の稼動コストを従来よりも小さくすることができるものである。 イ 本件各発明において用いられる装置は,「空気圧縮機」,「吸着器」,「主熱 交換器」,「高圧精留塔」,「低圧精留塔」,「低圧精留塔」内に設けられた「主凝 縮器」,「昇圧圧縮機」,「液酸ポンプ」,「空気凝縮器容器」及び「空気凝縮器容 器」内に設けられた「空気凝縮器」を主として備える「空気分離装置」であり,それ ぞれの意味するところは,図面をもって具体的に示されている(【0023】,図 1)。
工程についても,1)「低圧精留塔」内で精留分離された液体酸素が,「空気凝縮器 容器」内に供給され,「空気凝縮器容器」内で気化したガス酸素(低純度酸素)が, 供給ライン(ガス酸素供給ライン)により「主熱交換器」に送られて常温に戻された 後,必要に応じて空気が混合されて酸素富化燃焼用酸素として外部(酸素富化炉) に供給されること(【0027】〜【0029】),2)「空気凝縮器容器」内の液体 酸素は,供給ラインにより「液酸ポンプ」に送られて必要圧に昇圧された後,「主熱 交換器」で蒸発及び昇温されることによりガス酸素(高純度酸素)となり,酸化用酸 素として外部(酸化炉)に供給されること(【0030】),3)「空気凝縮器容器」 内の液体酸素(高純度酸素)の抜き出し量は,例えば10%〜80%の間とするこ と(【0059】,【表3〜5】),以上のことが,具体的に示されている。\nそして,以上のような「空気分離装置」によれば,必要とされる高純度酸素が全体 の酸素の一部である場合に,必要とされる高純度酸素の純度を確保しつつ,「低圧 精留塔」の「主凝縮器」から取り出す液体酸素の純度を低減し,低減分の酸素の沸点 を下げることが可能となり,また,「低圧精留塔」内で液体酸素とガス窒素との間で\n行われる熱交換の温度差を大きくすることにより,「高圧精留塔」内の必要圧力を 下げることができ,これにより,「空気圧縮機」の吐圧力を低減し,ひいては該圧縮 機の消費動力の低減が可能となるので,「空気分離装置」の稼動コストを従来より\nも抑えることができるとして,効果及びその機序の説明もされている(【0018】, 【0035】,【0036】)。
ウ 本件明細書の発明の詳細な説明には,前記ア,イのことがその具体的な実施 の形態も含めて記載されており,当業者は,これをみれば,過度の試行錯誤を要す ることなく,本件各発明を実施することができる。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合する。\n

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令和1(行ケ)10173  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月3日  知的財産高等裁判所

 記載要件(サポート要件、実施可能要件、明確性)違反として、異議理由ありとした審決が取り消されました。\n

 本件特許請求の範囲には,複数のピークが生じる場合に,特定のピークを選択す る旨の記載や,全てのピークが140゜C)以上であることの記載が存在しないところ, 上記のとおり,実施例1〜7の発泡体は,比較例2,3と同じ直鎖状低密度ポリエ チレンを20〜60重量%で含有するから,【表1】に記載された141.5〜14\n7.4゜C)(140゜C)以上)の結晶融解温度ピーク以外に,140゜C)未満の結晶融解温度ピークを含むであろうことは,当業者であれば,上記イの技術常識により,容易に理解することができる。このことは,原告による実施例2の追試結果の図(甲8) や甲10の図4とも符合する。 そうすると,本件明細書(【表1】)の実施例1〜7についての結晶融解温度ピー\nクは,複数の結晶融解温度ピークのうち,ポリプロピレン系樹脂を含有させたこと に基づく140゜C)以上のピークを1個記載したものであることが理解できるから, 「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以上」は,複数 の結晶融解温度ピークが測定される場合があることを前提として,140゜C)以上に ピークが存在することを意味するものと解され,このような解釈は,上記アの解釈 に沿うものである。
また,本件発明1は,ポリプロピレン系樹脂の含有量を規定するものではないか ら,ポリプロピレン系樹脂の含有量が,140゜C)未満のピークを示す直鎖状低密度 ポリエチレンの含有量を下回る場合を含むことは,実施例7の記載から明らかであ る。そして,このような場合に,当業者であれば,140゜C)未満に一番大きいピーク (最大ピーク)が生じ得ることを理解することができるのであり,「示差走査熱量計 により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以上である」について,複数のピ ークがある場合のピークの大小は問わないものと解するのが合理的である。
エ 以上のとおり,本件発明1の「示差走査熱量計により測定される結晶融解温 度ピークが140゜C)以上である」とは,示差走査熱量計による測定結果のグラフの ピーク(頂点)が140゜C)以上に存在することを意味し,複数のピークがある場合 のピークの大小は問わないものと解され,その記載について,第三者の利益が不当 に害されるほどに不明確であるということはできない。
(3) 被告の主張について
被告は,「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以上で あり」について,1)結晶融解温度ピークといえるものは140゜C)以上であるという 解釈,2)最も高温側の結晶融解温度ピークが140゜C)以上であるという解釈,3)最 大ピークを示す温度が140゜C)以上である,又は,最大面積の吸熱ピークの頂点温 度が140゜C)以上であるという解釈,4)最も低い結晶融解ピーク温度が140゜C)以上であるという解釈,5)わずかなピークであっても,そのピークが140゜C)以上に 存在すればよいという解釈等複数の解釈が考えられるところ,いずれを示すものか が不明であると主張する。しかし,3)4)の解釈を採るべき場合にはその旨が明記さ れているところ(乙2・【0032】,乙3・【0056】,乙4・【0024】,乙5・[0025],乙6・【0018】,甲5・【0014】,乙7・【0008】,乙8・【0091】,乙9・【0027】),本件明細書にはこのような記載はなく,複数あるピークの大小を問わず,1つのピークが140゜C)以上にあれば「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以上であり」を充足すると解すべきであることは,前記(2)において説示したとおりである。また,5)について,特許請求の範 囲の記載及び本件明細書にピークの大きさを特定する記載はないから,ピークの大 きさを問わず「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以 上であり」に該当するというべきであり,「示差走査熱量計により測定される結晶融 解温度ピークが140゜C)以上であり」との記載が不明確であるという被告の主張は 採用できない。 また,被告は,本件発明1において結晶融解温度ピークが複数ある場合は想定さ れていないと主張する。しかし,本件発明1において,結晶融解温度ピークが複数 ある場合が想定されていることは,前記(2)ウに説示したところから明らかである。
・・・
被告は,本件発明はいわゆるパラメータ発明であり,サポート要件に適合す るためには,発明の詳細な説明は,その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との\n関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理 解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該数式が 示す範囲内であれば所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程\n度に,具体例を開示して記載することを要する(知財高裁平成17年(行ケ)100 42号同年11月11日判決)と主張する。しかし,本件発明は,特性値を表す技術\n的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した 物を構成要件とする発明ではなく,被告が指摘する上記裁判例にいうパラメータ発\n明には当たらないから,被告の主張は前提を欠く。
イ 被告は,本件発明の特許請求の範囲の記載が明確ではなく,また,実施可能\n要件を欠き本件発明1は製造することができない態様を含むものであるから,本件 発明はサポート要件に適合しないと主張する。しかし,明確性要件及び実施可能要\n件についての判断は前記2及び3のとおりであり,被告の主張は採用できない。
ウ 被告は,本件明細書の記載(【0020】)から,厚さ,結晶融解温度ピーク, 発泡倍率及び気泡のアスペクト比の4つの条件のうち耐熱性と関連があるのは結晶 融解温度ピークのみであり,これが高いほど耐熱性が優れている旨説明されている と理解できると主張する。 しかし,本件明細書には,厚さ,結晶融解温度ピーク,発泡倍率及び気泡のアスペ クト比の4つの条件のうち耐熱性と関連があるのは結晶融解温度ピークのみであり, これが高いほど耐熱性が優れている旨の説明は存在しない。かえって,結晶融解温 度ピークが143.9゜C)であっても,気泡のアスペクト比が0.5と0.9〜3の範 囲外である比較例1において,耐熱性に劣る結果となっている(【表1】)ことから\nすれば,4つの条件のうち耐熱性と関連があるのが結晶融解温度ピークのみとは理 解されない。
エ また,被告は,4つの条件のうち耐反発性と関連があるのは結晶融解温度ピ ークを除く3つであり,発泡倍率が15cm3/gに近いほど,気泡のアスペクト比 が0.9あるいは3に近いほど,また,厚さが1500μmに近いほど耐反発性が 劣る旨説明されていることを前提に,実施例1及び5の構成の一部を本件発明1の\n範囲内の境界に近い数値に変更した場合に,本件発明1の課題を解決できると認識 することができないと主張する。 しかし,本件明細書には,発泡倍率が15cm3/gに近いほど,気泡のアスペク ト比が0.9あるいは3に近いほど,また,厚さが1500μmに近いほど耐反発 性が劣ることの記載はない。また,被告の主張する構成の変更により耐反発性が低\n下するとしても,所定の評価方法に基づき耐反発性が◎と評価された実施例1及び 5(【0074】,【表1】)について,本件課題を解決できないほどの耐反発性の低下をもたらすとする根拠は不明であり,被告の主張は採用できない。\nオ 被告は,実施例に記載された「AD571」以外のポリプロピレン系樹脂を 使用した場合や,実施例とは異なる条件で発泡体を製造した場合に,本件発明1の 課題を解決できることが実施例によって裏付けられていないと主張する。
 しかし,ポリプロピレン系樹脂が,耐熱性や機械的強度(耐衝撃性)に優れた樹脂 であることは,本件特許の出願時の技術常識であり(甲10の「はじめに」の項,乙 11[0002],乙12[0002],乙14[0002]),これによれば,当業者は, 「AD571」以外のポリプロピレン系樹脂を使用した場合や実施例と異なる条件 で発泡体を製造した場合についての実施例及び比較例がなくても,本件明細書の記 載や本件特許の出願時の技術常識に照らし,本件発明1の両面粘着テープが,本件 課題を解決できると認識できるというべきである。
カ 被告は,「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以 上であり」について,140゜C)以上の部分にごく小さな結晶融解温度ピークでも存 在しさえすれば良いとすると,そのような,ピークを発現する材料がごく少量の場 合に本件発明1の課題を解決できると認識することはできないと主張する。 しかし,前記ウのとおり,比較例1によれば,耐熱性には結晶融解温度ピークの みならず気泡のアスペクト比が関係していることを理解することができる。そして, 上記オのとおり,ポリプロピレン系樹脂は,耐熱性や機械的強度(耐衝撃性)に優れ た樹脂であるところ,融点が140゜C)よりも低いポリプロピレン系樹脂も本件特許 の出願時の当業者に知られていた(乙11[0008],[0009],乙12[0080],[0097],乙14[0078])。そうすると,ポリプロピレン系樹脂を含有させたこ とに基づく140゜C)以上のピークがごく小さいものであったとしても,ポリプロピ レン系樹脂の含有量を調整すること及び気泡のアスペクト比を調整することにより, 本件課題を解決することができると認識することができるというべきである。

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令和1(行ケ)10174  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年8月26日  知的財産高等裁判所

 電子たばこの特許について、新規性・進歩性、サポート要件・実施可能要件、明確性要件について無効理由があるのかが争われました。審決は理由無しと判断しました。知財高裁(2部)もかかる判断を維持しました。

 (イ) 前記ア(イ)〜(エ)の本件明細書の記載からすると,特許請求の範囲の請求 項1及び15にある第1,第2及び第3段階と第1,第2及び第3の温度の技術的 意義は,次のとおりであると認められる。
1) 第1段階として,加熱要素の温度をエアロゾル形成基材からエアロゾルが発 生する温度であるが許容温度(「エアロゾル形成基材から所望の物質の揮発が開始さ れる温度」から「エアロゾル形成基材から望ましくない物質の揮発が開始される温 度」未満又は「エアロゾル形成基材が燃焼する温度」未満)の範囲内の第1の温度 まで上昇させ,装置及び基材が温まり,凝縮が抑えられてエアロゾルの送達が増加 することに伴い,2)第2段階として,エアロゾルの送達を抑えるため,第1の温度 より低いが,エアロゾル形成基材のエアロゾル揮発温度よりは低くならない,エア ロゾルの送達を軽減する温度である第2の温度へと加熱要素の温度を低下させ,そ の後,エアロゾル形成基材の枯渇及び熱拡散の低下に起因するエアロゾル送達の減 少が生じるため,それを補償するため,3)第3段階として,加熱要素の温度を第2 の温度より高いが許容温度内にある第3の温度に上昇させる。4)これらの構成を採\n用することにより,「ユーザによる複数回の吸煙を含む期間にわたって特性がより一 貫したエアロゾルを提供するエアロゾル発生装置及びシステムを提供すること」と いう本件発明の課題が解決される。
(ウ) 以上の本件発明の課題やその解決手段の技術的意義に照らして,本件特 許の特許請求の範囲の請求項1及び15を見ると,原告が主張する特性がより一貫 したエアロゾルを提供できない態様の時間や温度のもの(前記第3の1(原告の主 張)(1)で原告が例として挙げているようなもの)までが本件特許の特許請求の範囲 に含まれるとは解されない。
(エ) そうすると,本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び15は,発明の 詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。
(2) 原告は,1)本件特許の特許請求の範囲には,第1,第2及び第3の温度の技 術的意義や持続時間又は切替タイミングについて何も規定されていないから,特許 請求の範囲を本件明細書の記載に基づいて限定解釈することは許されない,2)「第 3の温度」に関して,加熱要素の温度を上げることで,エアロゾル送達の減少を抑 制できるという技術常識が存在せず,当業者はそのことを理解できないし,「第2段 階」についても,エアロゾルの送達を抑制するために加熱要素の温度を下げるとい うことは当業者には理解できないと主張する。
ア 上記1)について
(ア) 前記のとおり,サポート要件の判断は,特許請求の範囲の記載と発明 の詳細な説明の記載とを対比して行うものであるが,対比の前提として特許請求の 範囲から発明を認定するに当たり,特許請求の範囲に記載された発明特定事項の意 味内容や技術的意義を明らかにする必要がある場合に,必要に応じて明細書や図面 の記載を斟酌することは妨げられないというべきであり,当事者が引用するリパー ゼ判決は,そのことを禁じるものと解することはできない。 そして,本件においては,本件明細書の記載に照らすと,特許請求の範囲の請求 項1及び15について,前記(1)で認定したとおりのものであると理解できるのであ り,それを基に特許請求の範囲と発明の詳細な説明を対比すると,特許請求の範囲 に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の 記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると いえる。
(イ) 原告は,この点について,サポート要件の判断に当たって,発明の詳 細な説明に基づく特許請求の範囲の限定解釈が許されるとすると,特許請求の範囲 が文言上どれだけ広くてもサポート要件違反になることがなくなり,その趣旨が没 却されるし,侵害の場面で広範な特許請求の範囲に基づき充足を主張でき,二重の 利得を得ることになるから不当であると主張する。 しかし,サポート要件の判断に当たって,発明の詳細な説明を参酌するからとい って,特許請求の範囲に発明の詳細な説明を参酌して認められる発明の内容が,発 明の詳細な説明によってサポートされていないときは,サポート要件違反になるこ と(例えば,特許請求の範囲の文言に発明の詳細な説明を参酌して認められる発明 の内容が,AとBの両方を含むものであるが,実施例等としては,Bしかないとき にAはサポートされていないと判断する場合があることなど)はあり得るのであっ て,常にサポート要件違反を免れるということにはならない。 また,特許発明の技術的範囲を定めるに当たり,明細書及び図面を考慮するとさ れていること(特許法70条2項)からすると,原告のいう二重の利得が発生する とはいえない。したがって,原告の上記主張は,前記(1)の判断を左右するものではない。
イ 上記2)について
「第3の温度」について,本件明細書では,段落【0056】において,【図4】 を示しつつ,成分の送達は,ピークを迎えた後に,「基材の枯渇」及び「熱拡散効果 が弱まること」によって,時間と共に低下すると説明しているところ,同説明は一 般的な科学法則に合致した合理的なものであり,当業者は,ここから吸い終わりに 近い頃に,より高い熱量を加えて,熱拡散効果を高めてエアロゾル形成基材全体の 温度を上げ,エアロゾルの発生量を増やすことで,エアロゾル送達の減少を抑制で きると理解することができると認められる。
また,「第2段階」について,本件明細書では,段落【0019】において,装置 及びエアロゾル形成基材が温まることによって凝縮が抑えられてエアロゾルの送達 が増加するため,第2段階で加熱要素の温度を第2の温度へと低下させると記載さ れている。【図4】は,上記段落【0019】に記載されている一定時間経過後のエ アロゾル送達の増加に沿うものとなっている。これらの本件明細書の記載も一般的 な科学法則に合致した合理的なものであり,これらの記載に接した当業者は,「第2 段階」において,加熱要素の温度を下げることにより,エアロゾル発生基材からの エアロゾルの発生を抑えることで,エアロゾルの送達の増加を抑制することができ ると理解することができると認められる。 そして,このような第3段階におけるエアロゾル送達の減少の抑制や第2段階に おけるエアロゾル送達の増加の抑制が,「特性がより一貫したエアロゾルを提供する エアロゾル発生装置及びシステムを提供する」という本件発明の課題を解決するも のであることも,本件明細書の記載から明らかである。 なお,原告は,「第3段階」の開始タイミングと「第3の温度」についても主張す るが,それらが本件発明の課題やその解決手段の技術的意義に照らして解釈される べきことは,前記(1)のとおりである。 以上のとおり,当業者は,本件明細書の記載から「第3の温度」や「第2段階」 について理解することができると認められ,これらが理解できないとする原告の主 張は採用することができない。
(3) よって,原告が主張する取消事由1は理由がない。
3 取消事由3(実施可能要件違反についての判断の誤り)について\n
(1) 本件発明は物及び方法の発明であるところ,物の発明における発明の実施と は,その物の生産,使用等をいい(特許法2条3項1号),方法の発明における発明 の実施とは,その方法の使用をする行為をいうから(同項2号),物及び方法の発明 について実施可能要件を充足するか否かについては,当業者が明細書の記載及び出\n願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を生産, 使用等することができるか,その方法の使用をすることができるか否かによるとい うべきである。
前記2で認定,判断したとおり,特許請求の範囲の請求項1及び15についての 技術的な意義は明らかであり,また,本件明細書には,設定されるべき許容温度の 範囲の例や三つの具体例を含む発明を実施するための形態が記載されている。また, 従来技術について記載した本件明細書の段落【0002】,【0003】や後述する 甲1の段落【0045】,【0046】,【0048】〜【0050】,甲2の段落[0003],[0027],[0037],[0039]などからすると,加熱式エアロゾル発生装置において,各種のエアロゾル形成基材の種類,香味などを考慮して,加熱温度や時間を適宜設 定することは,本件出願日当時における周知技術であったと認められる。 以上によると,当業者は,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基 づいて,過度の試行錯誤を経ることなく,使用するエアロゾル形成基材に応じて, 「第1の温度」・「第1段階」,「第2の温度」・「第2段階」及び「第3の温度」・「第3段階」を設定し,本件発明を実施することができるものと認められるから,実施 可能要件は充足されていると認められる。\n
(2) 原告は,任意のエアロゾル形成基材に対して最適な温度プロファイルと時 間的プロファイルを実験的に求めるのは過度の試行錯誤に当たり,エアロゾル形成 基材の材料が明らかにならないと本件明細書に開示された三つの実施例すら実施で きないと主張するが,上記(1)で判示したところに照らし,採用することはできない。
(3) よって,原告が主張する取消事由3は理由がない。
4 取消事由2(明確性要件違反についての判断の誤り)について 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみな らず,明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を 基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明 確であるか否かという観点から判断されるべきである。 原告は,本件特許の請求項1及び15の「少なくとも1つの加熱要素」が複数の 加熱要素である場合,請求項1及び15に記載された各「前記加熱要素」が1)複数 の加熱要素のうち一つの加熱要素を意味するのか,2)複数の加熱要素のうちのいく つかを意味するのか,3)全ての複数の加熱要素を意味するのかが不明であると主張 する。
しかし,前記2で認定,判断した特許請求の範囲の請求項1及び15の技術的意 義からすると,これらの発明においては,複数の加熱要素がある場合には,最終的 に複数の加熱要素が協働することにより,「第1の温度」・「第1段階」,「第2の温度」・ 「第2段階」及び「第3の温度」・「第3段階」が実現できるように各加熱要素を適 宜制御するものであることは明らかである。 そうすると,請求項1及び15の「少なくとも 1 つの加熱要素」は,加熱要素が 一つある場合には,その加熱要素を,加熱要素が複数ある場合には,適宜制御され る複数の加熱要素を意味するのであって,原告が主張する1)〜3)のいずれかが特定 されていなくても,請求項1及び15の記載は明確であるといえる。 この点について,原告は,請求項1に5回登場する「前記加熱要素」がどのよう なものを指すか不明であると主張するが,これらの「前記加熱要素」も,上記のと おり,加熱要素が複数ある場合は,適宜制御される複数の加熱要素を意味するので あって,不明確であるということはできない。 よって,原告が主張する取消事由2は理由がない。
・・・
他方,甲2発明は,前記ア,イのとおり,加熱が開始された後,天火の温度が2 40゜C)に達すると,制御部の制御により,電気加熱片による加熱が停止され,天火 の温度が180゜C)を下回ると加熱が再開されることが繰り返され,吸い始めから吸 い終わりまでの間,天火の動作温度が180゜C)〜240゜C)に維持されるように制御 されるというものであり,本件明細書の段落【0056】や【図3】,【図4】にあ るような,動作中に一定の温度をもたらすように構成され,エアロゾル成分の送達\nがピークを迎えた後,エアロゾル形成基材が枯渇して熱拡散効果が弱まるにつれ, 時間と共にエアロゾル成分の送達が低下する従来技術に相当するものといえる。甲 2には,ユーザによる複数回の喫煙を含む期間にわたって,エアロゾルの送達量を 一貫とするために,凝縮が抑えられてエアロゾルの送達量が増加することに応じて 第1の温度から第2の温度へと温度を低下させたり,逆にエアロゾル形成基材の枯 渇及び熱拡散の低下に応じて第2の温度から第3の温度へと温度を上昇させたりす るという技術思想については,記載も示唆もされていない。 以上からすると,甲2発明と本件発明1及び15では,加熱要素の制御方法やそ のための電気回路の構成が異なっているというべきであり,甲2発明と本件発明1\n及び15との間には,本件審決が認定した前記第2の3(5)エ(ア)a及び(ウ)a記載の 相違点1B及び相違点15Bが存在すると認められる。

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平成31(行ケ)10019等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所(2部)

 サポート要件・実施可能要件、さらに進歩性について無効主張をしましたが、理由無しとした審決が維持されました。

 1997年(平成9年)に執筆された甲8の共同執筆者の一人は,クラマー博士 であるところ,甲8は,上記乙39,40を引用し,後述のとおり,甲8の実験で 観察されたグルタミン酸の排出が担体によるものであるとの結論を導いている(甲 8,乙39,40,42)。 イ 上記アに関連し,原告らは,証拠(甲47〜50)からすると,本件優 先日当時,コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて,グルタミン酸が,浸透圧 に応じて浸透圧調節チャネルから排出されることが周知となっていたと主張する。 しかし,甲47には,「特別な条件下で,大腸菌がトレハロースを排出した観察結 果(StyrvoldとStrem 1991)およびコリネバクテリウム・グル タミカムがグルタミン酸を排出した観察結果(Shiioら 1962)は我々の 研究と関連している。」との記載があるにすぎず,これだけで,原告らが主張するよ うな技術常識があったと認めるには足りない。 また,甲48,49はいずれも大腸菌に関する文献であって,そこからコリネバ クテリウム・グルタミカムをはじめとするコリネ型細菌におけるグルタミン酸排出 の技術常識の存在を認めることはできない。 甲50には,その5頁の図に関して,コリネバクテリウム・グルタミカムの低浸 透圧における相溶性溶質の排出が,少なくとも3種類の機械受容チャネル(浸透圧 調節チャネル)を通じて起こる旨の記載がある。しかし,後述する甲8の記載から すると,浸透圧調節チャネルを通じた排出は全ての溶質について等しく行われるも のではなく,特定の溶質について選択的に行われるのであると認められるから,上 記排出されるべき「相溶性の溶質」の中にグルタミン酸が含まれるのかは,上記図 だけからでは必ずしも明らかになっているとはいえず,甲50から原告らの主張す る技術常識の存在を認めることはできない。 以上からすると,原告らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(2) 甲8発明の認定の誤りについて(取消事由2)
前記(1)の事実関係を踏まえて,甲8において,原告らが主張するように,グルタ ミン酸が浸透圧調節チャネルから排出されたと認定できるかについて検討する。
・・・
甲8のTable 1.には,上記のとおり,低浸透圧の状態になった際にグルタ ミン酸が排出されていることが記載されているが,beforeの値を基準にその 排出量を検討すべきとする原告らの主張を前提としても,グルタミン酸は,浸透圧 が540mOsmになるまでほとんど排出されず,540mOsmになって20% が排出されているにすぎないところ,これは,全部で11種類検討されている溶質 の中でATPに次いで小さな値である。そして,上記のようなTable 1.の 結果を受けて,クラマー博士をはじめとする甲8の執筆者らは,グリシンベタイン など多くが排出されている溶質については浸透圧調節チャネルから排出されたとし つつ,グルタミン酸の排出については,浸透圧調節チャネルではなく,担体による 排出であるとの結論を導いている。 Table 1.でグルタミン酸に次いで排出が制限されていることが観察された リジンについては,前記(1)アで認定したとおり,本件優先日当時までに,その輸 送を担う担体がクラマー博士らによって発見されており,グルタミン酸の排出につ いてもリジンなどと同様に担体によるものであるとの説がクラマー博士らによって 提唱されていた。そのクラマー博士が,自ら実験をした上でTable 1.の結果 を分析し,甲8の共同執筆者の一人として上記のような結論を導いていることから すると,甲8に接した当業者が,それと異なる結論を敢えて着想するとは通常は考 え難いところである。
以上からすると,原告らが主張するように,当業者が,Table 1.の結果を 受けて,甲8に記載された浸透圧調節チャネルをグルタミン酸の排出と関連付けて 認識すると認めることはできないというべきである。

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平成31(行ケ)10018等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月19日  知的財産高等裁判所

 無効理由として、実施可能要件、サポート要件、進歩性が争われました。裁判所は、無効理由無しとした審決を維持しました。\n

 前記(1)イのとおり,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの核酸 配列(図1)が記載されており,コリネ型細菌の染色体上の,GDH 遺伝子のプロモーター配列の−35領域に「TGGTCA」配列及び−10 領域に「CATAAT」配列を有し,CS遺伝子のプロモーター配列の−3 5領域に「TGGCTA」配列及び−10領域に「TAGCGT」配列を有するこ とが示されている。また,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの セットにおいて,最もよく保存されている配列は-35 領域の「ttGcca.a」 及び-10 領域の「ggTA.aaT」であることが記載されている(図5)。 一方,甲2には,コリネ型細菌を用いた発酵法によるグルタミン酸 の製造方法において,グルタミン酸生合成系遺伝子であり,コリネ型 細菌の染色体上の特定の遺伝子であるGDH遺伝子及びCS遺伝子の プロモーター配列について,その−35領域及び−10領域の塩基配 列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することの動機付けとな るような記載はない。 したがって,甲2発明に接した当業者は,甲2の原告ら指摘箇所を 認識していたとしても,甲2発明において,GDH遺伝子のプロモー ター配列の−35領域及び−10領域の配列と目的遺伝子の発現量の 強化の程度及びそれによるグルタミン酸生産能の向上との関係に着目\nし,グルタミン酸を高収率で生産する能力を有する変異株を得るため\nに,GDH遺伝子のプロモーター配列の−35領域及び−10領域の 配列を本件発明1−1の配列に置換する動機付けはないから,当業者 は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。\nb これに対し原告らは,(1)L−グルタミン酸の生産を増強するために は,L−グルタミン酸に至るまでの各反応に関与する酵素(CS,G DH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいことは,本件優 先日前において技術常識であったこと,(2)E.coli において,プロモー ターの−10領域及び−35領域をコンセンサス配列に変更ないし近 づけることによって,目的遺伝子の発現を強化できることも,本件優 先日前において技術常識であったこと,(3)甲2には,コリネ型細菌と E.coli のコンセンサス配列が同等であることや,コリネ型細菌のプロ モーターの−10領域のコンセンサス配列が「TA.aaT」であり,この 3番目の塩基「.」として,相対的に「T」が最も頻度が高いことが記 載されていることからすると,甲2の記載は,当業者に対し,甲2発 明のGDH遺伝子のプロモーター配列の−10領域(CATAAT)の1番 目の塩基「C」を「T」に変異して,コンセンサス配列,すなわち本件 発明1−1の構成(「TATAAT」)とし,同−35領域(「TGGTCA」) の1番目〜3番目の塩基を保存性の高い「TTG」にするために,2番目 の塩基「G」を「T」に変異して,本件発明1−1の構成(「TTGTCA」) とすることを示唆するものである旨主張する。
しかしながら,仮に,本件優先日前において,L−グルタミン酸の 生産を増強するために,L−グルタミン酸の生成反応に関与する酵素 (CS,GDH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいこと が知られていたとしても,当該酵素の遺伝子を増強する具体的な方法 は,相当多数のものが想定し得たものと考えられるのであって,かか る方法として,本件発明1のように,目的遺伝子のプロモーターの特 定の領域に変異を導入する方法が知られていたことは認められない。 また,E.coli において,プロモーターの−10領域及び−35領域 をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子 の発現を強化できる場合があることが,本件優先日前において知られ ていたとしても,コリネ型細菌について,これと同様の知見が存在し ていたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,前記(1)イのとお り,甲2には,C.グルタミカムにおけるプロモーターの活性と-35 及 び-10 のコンセンサス配列との類似性の間には,E.coliと異なり,相 関は確認できなかった旨が記載されている。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

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令和1(行ケ)10103  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月26日  知的財産高等裁判所

 大成建設の特許「コンクリート造基礎の支持構造」に、大林組が無効審判を請求しました。審決は無効理由無しとし、知財高裁2部もこれを維持しました。争点は進歩性、実施可能要件、明確性、サポート要件です。\n

 前記(1)アで認定したとおり,甲3文献は,PHC杭のフーチングへの埋 込み長さと接合部の補強方法が異なる場合における杭頭固定度,接合方法及び終局 耐力を把握することを主目的として,5種類の試験体((1)杭をフーチング内へ単に 埋込む方式で,埋込み長さを10cmとした試験体,(2)杭をフーチング内へ単に埋 込む方式で,埋込み長さを35cmとした試験体,(3)フーチング内で立ち上げ筋と スパイラルフープ筋により補強し,埋込み長さを20cmとした試験体,(4)内径3 5.4cm,長さ35cm,厚さ0.6cmの鋼管をエポキシ樹脂系接着材によっ て杭体と一体化し,定着長35cmのアンカー鉄筋(D10−8本)を鋼管に溶接 して接合部を補強し,埋込み長さを10cmとした試験体,(5)内径35.4cm, 長さ35cm,厚さ0.6cmの鋼管をエポキシ樹脂系接着材によって杭体と一体 化し,定着長35cmのアンカー鉄筋(D10−8本)を鋼管に溶接して接合部を 補強し,埋込み長さを20cmとした試験体)について曲げせん断試験実験を行っ たこと,及び同実験の条件を開示したものであるから,甲3文献は,PHC杭を用 いた剛接合構造によるコンクリート造基礎の支持構\造における杭頭固定度及び終局 耐力を把握する実験であると認められる。そして,甲3発明は,PHC杭を用いた 剛接合構造による支持構\造であることを前提とした上記の実験において,杭をフー チング内へ単に埋込む方式で,埋込み長さを10cmとした試験体について,フー チングのコンクリートの圧縮強度を228kg/cm2,杭体のコンクリートの圧 縮強度を895kg/cm2とするとの条件を設定したものである。 したがって,PHC杭を用いた剛接合構造によるコンクリート造基礎の支持構\造 における杭頭固定度及び終局耐力を把握する実験において,PHC杭を用いた剛接 合構造によるコンクリート造基礎の支持構\造という実験の前提自体を変更すること の動機付けはないというべきである。
イ 前記2(3)ウ(キ)のとおり,剛接合構造と半剛接合構\造とでは,杭の移動 に対する拘束の有無,杭頭部に生じる曲げモーメントの大きさが異なるなどの点で 差異がある。 また,甲37には,「充填コンクリートは,鋼管の拘束度に応じてその圧縮強度が 著しく増大し,プレーンコンクリートの約6〜10倍になる」との記載があること からすると,PHC杭と場所打ちコンクリート杭とでは,求められるコンクリート の強度も異なるというべきである。 このように,剛接合構造と半剛接合構\造とでは,杭頭部に生じる曲げモーメント の大きさが異なる上に,PHC杭と場所打ちコンクリート杭とでは,求められるコ ンクリートの強度も異なるのであるから,甲3発明における杭体とフーチングの圧 縮強度の関係をそのままにして,甲3発明の実験の前提となるPHC杭を用いた剛 接合構造を場所打ちコンクリート杭を用いた半剛接合構\造に置換することを,当業 者が容易に想到するとは認められない。
ウ そして,上記ア,イで判示したところは,杭に基礎を「載置」する構成\nがありふれた構成であり,PHC杭と場所打ち杭は相互に代替的な構\成であり,甲 3文献に,「地震力に対する建築物の基礎の設計指針・・・が示され,実務に供され つつあるが,杭頭接合部の固定度・・・と接合方法および構造耐力の問題が,研究\n課題の一つとして残されている。」と記載されているとしても,左右されることはな い。
また,原告は,PHC杭と場所打ちコンクリート杭の相違が重要であるとすれば, 本件明細書には,鋼管中空杭と場所打ちコンクリート杭の相違を前提としても,な お同様の作用効果が生じることにつき説明がないから,当業者が,課題を解決する ものと理解できず,この点でもサポート要件違反となると主張するが,本件明細書 には,鋼管中空杭と場所打ちコンクリート杭のそれぞれについて本件発明の作用効 果を生じることが記載されており,サポート要件に違反するものではない。
エ したがって,甲3発明に,場所打ちコンクリート杭を用いた半剛接合に よるコンクリート造基礎の支持構造という技術を適用して,本件発明2の相違点ア\n〜ウに係る構成とすることを当業者が容易に想到すると認めることはできない。\nまた,本件発明3は,本件発明2の構成に「コンクリート造基礎と前記杭頭部と\nの間に芯鋼材を配筋したこと」を付加したものであるところ,甲3発明に基づき本 件発明2を容易に発明することができない以上,甲3発明に基づき本件発明3も容 易に発明することはできない。

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令和1(行ケ)10122  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月4日  知的財産高等裁判所

 UFO飛行装置について、実施可能要件違反とした拒絶審決が維持されました。本人訴訟です。

 特許法36条4項1号は,発明の詳細な説明の記載は,発明の属する技術 の分野における通常の知識を有する者が,その実施をすることができる程度 に明確かつ十分に記載したものでなければならないことを規定するものであ\nる。本願発明は,物の発明(特許法2条3項1号)であるから,本願発明が実 施可能要件を充足するためには,当業者がこれを生産し,かつ使用すること\nができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならない。そして,\n実施可能要件を満たすことは,出願人が立証責任を負う。\n
(2) 本願発明は「磁石及び対をなす電極が取り付けられた物体であって,それ らの電極間で放電が可能で,放電時に於いて運動する電子が作る磁界から磁\n石が受ける力を物体の推力として利用する もの。」(【請求項1】)とあ るように,本願発明に係る「物体」ないし「もの」(以下,本願発明に係る 「物体」及び「もの」並びに本願明細書に開示された「構造体」を,「「U\nFO飛行装置」」ということがある。)は,電磁力を利用して物体に推進力 を与えることができるものとされている。推進力を与えるものであるから, その速度が変化することは明らかである。なお,段落【0006】によれば, 重力加速度gに等しい大きさの推進力を与えることが可能であるとされてい\nる。
しかるに,本願明細書中には,「UFO飛行装置」内部の電子と磁石の関 係についての記載はあるものの,「UFO飛行装置」が装置の外部の電磁場 から影響を受ける旨の記載はないし,外部の電磁場の状態を特定するような 記載もない。かえって,段落【0006】によれば,「UFO飛行装置」を 取り付けた物体は,地球から月まで行くことができ,その中間地点まで加速 しそれ以降は減速できるとされているから,「UFO飛行装置」は,宇宙空 間においても地球上でも使用可能なものであり,外部の電磁場の状態に関わ\nりなく動作可能なものであることが前提とされていると考えられる。したが\nって,本願明細書に開示された「UFO飛行装置」は,装置の外部にある電 磁場との関係で生じる電磁力により推進力を得るものではないと解される。 また,電磁力以外の力についても,本願明細書には,「UFO飛行装置」 が,外部の物体を押すことによる反作用を受けるなど,何らかの物理的な力 を外部から受けることは記載されていない。さらに,「UFO飛行装置」が, 外部に物質を噴射するなどして質量を変化させることも記載されていない。 なお,原告も,「UFO飛行装置」は,周囲の媒介物等との間に,連続的 な反作用や他の外力が作用しないだけでなく,連続的でない反作用や他の外 力も作用しないこと,質量変化も生じないことを認めている。 以上によれば,本願発明の「UFO飛行装置」は,外部からの何らかの力 を受けることも,質量を変化させることもないにも関わらず,その速度を変 化させることができるとする発明であると解するほかない。これは,外力の 作用なく「UFO飛行装置」の運動量(質量×速度)が変化するということで あるから,運動量保存の法則に反する。また,「UFO飛行装置」の推進力 に対向する反作用の力が見当たらないから,作用反作用の法則にも反する。 このように,本願発明は,当業者の技術常識に反する結果を実現するとす る発明であるが,本願明細書には,本願発明の「UFO飛行装置」が推進し た事実(実験結果)は示されていない。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者が「放電時に於 いて運動する電子が作る磁界から磁石が受ける力を物体の推力として利用す る」「UFO飛行装置」を生産し,かつ使用できる程度に明確かつ十分に記\n載されているとは認められない。
(3) 原告は,自動車の内部で燃料が燃焼を起こすことによりタイヤが回転し 車体が動くが,これが運動量保存の法則に反するとはされていない旨主張す る。 しかし,自動車の場合は,路面とタイヤとの間に摩擦力が働き,タイヤが 路面に及ぼす力と反対方向の力を,路面がタイヤに反作用として及ぼすこと で推進するのであって,自動車は路面という外部からの力を受けている。 これに対し,本願発明は,「UFO飛行装置」の外部との間に何ら力が働 かないにもかかわらず,推進することができるとするものであるから,自動 車の場合と相違することは明らかである。 その他,原告は,本願発明の原理としてるる主張するが,いずれも「UF O飛行装置」内部の現象にとどまり,「UFO飛行装置」全体が外部からの 力を受けることなく運動量を変化させられることを説明するものではないか ら,前記認定を左右しない。

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平成31(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月28日  知的財産高等裁判所(1部)

 無効理由無しとした審決が維持されました。

 原告は,本件各発明は物の発明であるから,構成要件Hは制御手段の存在に\nよって特定されるべきであり,この解釈を措くとしても,構成要件Hは空気式マッ\nサージ具による挟み動作と施療子による叩き動作という異質の2種類の施療手段を あえて同期させるものであるから,その制御手段を具体的に開示することが要請さ れるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には制御手段の具体的な説明はなく, またかかる制御手段が技術常識であった事実は存在しないから,本件明細書の発明 の詳細な説明の記載は,実施可能要件に違反していると主張する。\n
 しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記(2)アのとおり,機械式マッサ ージ器8の左右の施療子9がマッサージ用モータ10の回転を制御することで叩き 動作を行うことや,空気式のマッサージ具41が内部に備えた袋体(エアセル42) にコンプレッサー61から空気を供給し膨張させることで押圧動作を行うことが記 載されている。そして,機械式のマッサージ器による叩き動作と,空気式マッサー ジ器による押圧動作を「同時」に行うためには,両者の制御をその字義どおり時を 同じくして(甲25の1・2)行えば足り,それぞれを単独で動作させる場合の制御 と格別異なる制御を要するものではないから,このような制御手段について発明の 詳細な説明に記載がないとしても,そのことによって当業者が本件各発明の実施に 過度の試行錯誤を要するとは認められない。 イ 原告は,被告が本件出願の審査過程で主張した,左右の施療子によって使用 者の背中に対し左右交互に前後の叩き動作が繰り返されるという作用効果に関して は,制御手段としてさらに具体的な説明が必要であるのに,本件明細書の発明の詳 細な説明には何らの記載も存在しないとも主張する。 しかし,実施可能要件の適合性は,請求項に係る発明について,明細書の記載と\n出願時の技術常識とに基づいて判断され,その判断が,出願人の審査段階の主張に より左右されるとは解されない。実施可能要件の適合性の判断を,出願人が出願経\n緯において述べた事項が禁反言の法理等により技術的範囲の解釈に影響することが あるということと同様に考えることはできない。

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平成31(行ケ)10060  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月14日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が維持されました。争点は実施可能要件、サポート要件、進歩性です。

 本件明細書によれば,本件発明1に係るスクラブ石けんの製造方法について, 次の事項が記載されていることが認められる。
 微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンをアルカリ溶液に浸漬し て,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加す ることにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中 空内部にも石けんを形成するものであり(【0029】),アルカリ溶液には,界面活 性剤を添加しているため,アルカリ溶液の表面張力が弱められて,シラスバルーン\n表面の微細なクラックからシラスバルーンの内部へ,アルカリ溶液を容易に浸入さ\nせることができ,シラスバルーン内部はアルカリ溶液で満たされることとなる(【0 032】,【0033】)。
通常石けんを製造する場合には,脂肪酸(又は油脂)の溶液に,アルカリ溶液を 徐々に添加するのが一般的であるが,脂肪酸溶液とシラスバルーンとを混合し,次 いで,アルカリ溶液を添加した場合,シラスバルーンの内部にある脂肪酸溶液と, シラスバルーン内に浸入してきたアルカリ溶液とが,シラスバルーンの表面で石け\nんを形成してしまい,アルカリ溶液の更なる浸入を妨げるため,シラスバルーン中 心部の脂肪酸溶液が未反応となりやすく,内包石けんが形成されにくいため,好ま しくない(【0039】,【0040】)。また,固形状又は半固形状の基材石けんに,シラスバルーンを混入させただけでは,単にシラスバルーンの表面に基材石けんが\n付着するのみであり,粘度の高い基材石けんがシラスバルーンの中空内部に入って 内包石けんとなることはない(【0043】)。これに対し,アルカリ溶液とシラスバ ルーンとを混合してアルカリ火山灰溶液を調製し,次いで,アルカリ火山灰溶液に 加温溶融した脂肪酸を添加すると,脂肪酸もまた徐々に表面のクラックを介してシ\nラスバルーン内に浸透することとなり(【0037】),シラスバルーンの表面で石け\nんを形成しても,反応当初は高濃度のアルカリ溶液が脂肪酸溶液に比して多量にあ るため,速やかに石けん分子が分散することとなり,シラスバルーン内部に脂肪酸 溶液が入るのを妨げることがなく,シラスバルーン内部に十分な量の内包石けんを\n形成することができる(【0041】,【0042】)。 具体的な工程は,次のとおりである。すなわち,加温可能で内部を減圧可能\に形 成した調合タンク等で,アルカリ溶液調製工程を行い,27.3重量部の水に,5. 55重量部の水酸化カリウムを徐々に添加して,水酸化カリウムを十分溶解し,ア\nルカリ水溶液をできるだけ室温に近い温度で調製し(【0051】〜【0053】), 界面活性剤添加工程で,3重量部のグリセリン,5重量部の保湿剤,3重量部の増 泡剤,3重量部の界面活性剤をそれぞれアルカリ溶液中に添加して均一になるまで, できるだけ室温に近い温度撹拌を行う(【0054】〜【0056】)。シラスバルー ン添加工程では,22.74重量部の予め膨化処理を施して微細な中空球状に成形し\nた火山灰(シラス),4重量部の白色顔料,0.01重量部の糖類を,界面活性剤を 含有するアルカリ溶液に添加し,この際,まず,プラネタリーミキサー等で液中及 び液面を穏やかに撹拌し,次いで,ディスパー等により,強力な渦流を発生させて 液中に巻き込むように撹拌混合を行ってシラスバルーンや白色顔料が粉塵として宙 に舞うことを防止するとともに,当初の時点で空気を抱き込ませずに撹拌を行うこ とで,シラスバルーンの中空内部まで,効率よく界面活性剤を含有するアルカリ溶 液を浸透させ,撹拌時には,80℃に達するまで徐々に液温を昇温する(【0057】 〜【0065】)。次に,浸透工程で調製した,界面活性剤を含有するアルカリ溶液と シラスバルーンとの混合液(アルカリ火山灰溶液)に,図1に示すB−1(脂肪酸) を添加する脂肪酸添加工程では,炭素数がC12〜C18で直鎖状の飽和又は不飽 和脂肪酸を好適に用い,脂肪酸の組成は,所望する石けんの性状に併せて適宜決定 することができ,本実施形態で用いる脂肪酸(又は脂肪酸塩)は,固体であるため, 70〜90℃に加熱溶融してから添加する(【0066】,【0069】〜【0071】)。 石けん調製工程では,アルカリ火山灰溶液に脂肪酸を混合した直後より,調合タン ク内の減圧を行い,混合液中に含まれる空気を脱気(脱泡)しながら,20分間撹拌 混合し,混合液の温度を75〜85℃,より好ましくは77〜83℃とすることに より,均一で滑らかであり,しかも,白色の際だったスクラブ石けんとすることが できる(【0072】〜【0077】)。 このようにして得られたスクラブ石けんは,シラスバルーンの内部にもペースト 状の石けんを含有している(【0082】)。
イ 以上によれば,本件明細書には,微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシ ラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアル カリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記 シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを 形成するスクラブ石けんを製造する方法について,その実施をすることができる程 度に明確かつ十分に記載されていると認められる。\n
(3) 原告の主張について
原告は,中空状のシラスバルーンの中空内部に石けんが内包(形成)されている か否かを如何なる方法により観察(分析)できるのか,本件発明にかかる明細書に は何ら示されていないことから,本件明細書の記載は実施可能要件に適合しない旨\nを主張する。 しかし,本件明細書の記載から,シラスバルーンの中空内部に石けんが形成され ることが十分に理解できることは,前記(2)のとおりであり,分析方法についての説 明がないことをもって実施可能要件に適合しないとはいえないから,原告の主張は\n採用できない。

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平成31(行ケ)10027  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月25日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。争点は、補正要件、記載要件、進歩性と多くありましたが、知財高裁3部は、実施可能要件違反と判断しました。発明は機械の構\造です。機械分野で実施可能要件違反の無効理由は珍しいです。\n

 ア 本件明細書には,(1)本件発明のマッサージ機は,施療者の臀部または大\n腿部が当接する座部11a,及び施療者の背部が当接する背凭れ部12a を有する椅子本体10aと,該椅子本体10aの両側部に肘掛部14aを 有する椅子式マッサージ機1aであり,前記背凭れ部12aは,座部11 aの後側にリクライニング可能に連結されていること(段落【0022】),\n(2)肘掛部14aは,椅子本体10aに対して前後方向に移動可能に設けら\nれ,背凭れ部12aのリクライニング角度に応じた所定の移動量を保持し ながら背凭れ部12aのリクライニング動作に連動して前記肘掛部14a が椅子本体10aに対して前後方向に移動するようにされていること(段 落【0054】),(3)肘掛部14aの下部に前後方向に回動するための回 動部141aを設けること(段落【0055】),(4)肘掛部14aの後部 で回動可能に背凭れ部12aの側部と連結する連結部142aを設けるこ\nと(段落【0055】)が記載されている。 また,【図4】は,背凭れ部12aが座部に対してリクライニングする と,背凭れ部12aに連結された肘掛部14aが前後方向に回動すること を概略的に図示している(段落【0054】,【0055】)。
イ 上記アによれば,本件明細書には,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側 部とを,「肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して, リクライニングする方向に傾くように」(構成要件E)連結する連結手段\nについては連結部142aによる回動関係が,[2]肘掛部全体を座部に 対して回動させる回動手段については回動部141aによる回動関係が開 示されているが,[3]背凭れ部をリクライニングするように座部に対し 連結する連結手段の具体的な構成は記載されていない。また,本件明細書\nには,「背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身におけ る着座姿勢を保」つように(構成要件F),[1]肘掛部の後部と背凭れ\n部の側部とを,「肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライニング動作に連 動して,リクライニングする方向に傾くように」連結する連結手段(構成\n要件D,E),[2]背凭れ部のリクライニング動作の際に上記の連結手 段を介して肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段(構成要件D)\n及び[3]背凭れ部をリクライニングするように座部に対し連結する連結 手段(構成要件D)の具体的な組み合わせの記載はない。\n
ウ 審決は,本件明細書の【図4】は,背凭れ部が座部に対して回動し,背 凭れ部に連結された肘掛部が回動するという事項(段落【0054】,【0 055】)を概略的に図示したものであり,そのための「適宜の回動手段」 「適宜の連結手段」については当業者が過度の試行錯誤なく適宜に行い得 る程度のことであると認定する。 しかし,上記イのとおり,本件においては,構成要件D〜Fを充足する\nような,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部を連結する連結手段,[2] 肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段及び[3]背凭れ部を座部 に対し連結する連結手段の具体的な組み合わせが問題になっており,した がって,これらの各手段は何の制約もなく部材を連結又は回動させれば足 りるのではなく,それぞれの手段が協調して構成要件D〜Fに示された機\n能を実現する必要がある。そうすると,このような機能\を実現するための 手段の選択には,技術的創意が必要であり,単に適宜の手段を選択すれば 足りるというわけにはいかないのであるから,明細書の記載が実施可能要\n件を満たしているといえるためには,必要な機能を実現するための具体的\n構成を示すか,少なくとも当業者が技術常識に基づき具体的構\成に至るこ とができるような示唆を与える必要があると解されるところ,本件明細書 には,このような具体的構成の記載も示唆もない。\n
エ 被告は,本件明細書の記載から当業者が実施し得る本件発明1の具体的 な構成として,別紙被告主張図面目録記載のとおり動作するマッサージ機\nの具体的構成(以下「被告主張構\成」という。)を主張する。 被告主張構成は,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部とを本件明細書\nの【図4】同様の回動手段により連結し,[2]肘掛部の下部の椅子本体 に設けられた回動部から延びる円柱状部材が肘掛部内に存在する空洞部に 挿入され,[3]座部の後端に軸心を設けて背凭れ部を回動させる回動手 段を設けた構成であり,リクライニング前は,肘掛部の下部に設けられた\n回動部から延びる円柱状部材が肘掛部内に存在する空洞部の奥まで達して おり(【被告参考図(1)−2】),これをリクライニングすると,背凭れ部 のリクライニング動作に連動して肘掛部全体がリクライニングする方向に 傾くに従って,肘掛部全体が円柱状部材から上記空洞部に沿って遠ざかる ように移動する(【被告参考図(2)】から【被告参考図(3)】)というもので ある。 しかし,本件明細書には被告主張構成の記載や示唆はないから,被告主\n張構成が直ちに実施可能\要件適合性を裏付けるものではない上に,当業者 が,上記ア及びイのとおりの本件明細書の記載及び出願当時の技術常識に 基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,被告主張構成を採用し得た\nというべき技術常識ないし周知技術に関する的確な証拠もない。
オ 以上によれば,本件明細書には,当業者が,明細書の発明の詳細な説明 の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要すること なく,本件発明1を実施することができる程度に発明の構成等の記載があ\nるということはできず,この点は,本件発明1を引用する本件発明2につ いても同様である。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。\n

◆判決本文

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平成31(ネ)10014  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 少し前のですが、欠落していたのでアップします。薬品特許のクレームが作用的(?)に記載されている場合に、クレーム限定、またはサポート要件・実施可能要件違反が主張されました。知財高裁は、1審と同様に、技術的範囲に属する、無効理由無しと判断しました。

 上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク 質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結 合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使 用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は, かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって, PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより, 対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症 などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患\nのリスクを低減することにあると理解することができる。 本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用 してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体 を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体 について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合 しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること, また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含 まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。 21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21 B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗 体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細 書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個 の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同 様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体 を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認 識できると認められる。 さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免 疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や 31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業 者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって, 本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗 体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら れる。
以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル 抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成 物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できること\nを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に 適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結 合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定 される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照 抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし, 参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。\nそして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特 定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために, その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認め\nられない(甲34,35)。 前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し, 本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参 照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。\n
・・・
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が\n特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な 時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能\n要件を満たさない旨主張する。 しかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求\nめられるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程 度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰\nし,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる からである。
本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ, PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗 体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そし\nて,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す ることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離 されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度 の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発\n明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ ることまで記載されている必要はない。 また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない 抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認 識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に\n記載されているかどうかは,実施可能要件とは関係しないというべきである。\nそして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細 書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範 囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得 る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 よって,控訴人の主張は採用できない

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)16468

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平成30(行ケ)10093  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月19日  知的財産高等裁判所

 サポート要件および実施可能要件について、無効理由無しとした審決が維持されました。

前記(1)及び(2)を踏まえると,本件明細書には,本件発明に関し,次のよ うなことが開示されていると認められる。 従来,高温下の成形又は熱処理を要する鋼板においては,一般に亜鉛の融点を上 回る高い温度で熱処理が行われるため,鋼板に亜鉛被膜があると,亜鉛が溶融,流 動して熱間成形用ツールの働きを妨害し,さらに,急冷中に被膜が劣化すると考え られてきた。そのため,鋼板の被覆処理は,熱処理の前には行われず,熱間成形や 熱処理後の完成部品に対して行われていたが,そうすると,(1)部品の表面及び中空\n部分の十分な清浄化が不可欠であり,その清浄化には酸又は塩基を使用する必要が\nあるため,経済的な負担や作業員及び環境への危険があること,(2)鋼の脱炭及び酸 化を完全に防止するために,熱処理を管理雰囲気下で行う必要があること,(3)熱間 成形の場合に生じるカーボンデポジットが成形用ツールを損傷し,部品の品質を低 下させたり,ツールの頻繁な修理のためにコストが上がったりすること,(4)得られ た部品の耐食性を強化するために,当該部品の後処理が必要であるが,後処理は, 経費も高く作業も難しい上に,中空部分のある部品では不可能であることなどの問\n題があった。(【0002】,【0003】) そこで,本件発明は,熱間成形や熱処理の前に鋼板に被覆を形成することで,熱 処理における鋼板の脱炭や酸化を防止するなど,上記(1)〜(4)の従来技術の問題点を 解決することができる,極めて高い機械的特性値をもつ鋼板を製造する方法を提供 することを課題とするものであり,その解決に当たり,亜鉛又は亜鉛合金で被覆し た鋼板を熱処理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の 鋼と合金化した層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度 を持つようになるという,従来の定説とは異なる新たな知見が得られたことに基づ き,解決手段として,亜鉛又は亜鉛を50重量%以上含む亜鉛ベース合金(前記(2) のとおり,ここには金属間化合物からなる合金も含まれている。)で被覆された熱処 理用鋼板ブランクに対し,部品を得るための熱間型打ち前に,800℃〜1200℃ の高温を2〜10分間作用させる熱処理を行うことにより,腐食に対する保護及び 鋼の脱炭に対する保護を確保しかつ潤滑機能を確保する,亜鉛−鉄ベース合金化合\n物及び亜鉛−鉄−アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化 合物(金属間化合物)を熱処理用鋼板ブランクの表面に生じさせる工程を実施する\nものとしたことを特徴とするものである(【請求項1】,【0004】〜【0008】,
【0014】〜【0016】,【0021】)。 そして,本件発明は,熱処理用鋼板に上記合金化合物(金属間化合物)の被膜を 形成することにより,熱処理中又は熱間成形中の鋼の腐食防止及び脱炭防止,カー ボンデポジットの形成を阻止することによるツールの損耗防止,高温での潤滑機能\nの確保,得られた部品の酸洗い浴が不要となることによる経済的利点,成形部品の 耐疲労性,耐損耗性,耐摩耗性及び耐食性の強化などの効果を奏するものである(【0 024】〜【0027】)。
2 金属間化合物についての本件出願時の技術常識
(1) 金属間化合物とは,2種類以上の金属元素から形成される化合物であり, 本件出願時に,本件発明において熱処理後に生じるとされている(1)亜鉛−鉄ベース の金属間化合物として,亜鉛−鉄及び亜鉛−ニッケル−鉄の金属間化合物が,(2)亜 鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物として,亜鉛−鉄―アルミニウムと亜\n鉛−鉄−アルミニウム―ニッケルの金属間化合物がそれぞれ知られていた(甲3,\n7,8,14〜16,20,25,乙8,弁論の全趣旨)。 また,熱処理をして亜鉛に鉄を拡散させ,金属間化合物を形成することができる こと及び各金属間化合物について,組成の濃度に応じて複数の相が存在することが 本件出願時に知られていた(甲2,3,7,8,15,16,25,弁論の全趣旨)。
(2) 前記のとおり,本件発明においては,熱処理前の「亜鉛ベース合金」に,金 属間化合物が含まれ得るところ,本件出願時に,亜鉛と金属間化合物を形成して「亜 鉛を50重量%以上含む亜鉛ベースの金属間化合物」を構成し得る元素としては,\n鉄の他に,ニッケル,銀,金,クロム,マンガンなどが知られていた(甲2,23, 24,乙5,弁論の全趣旨)。
3 取消事由1(サポート要件についての認定判断の誤り)について
(1) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否 か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のであり,サポート要件の存在については,特許権者(被告)がその証明責任を負 うものである。 そして,前記のとおり,本件では熱処理前の「亜鉛ベース合金」が「亜鉛ベース の金属間化合物」である場合にもサポート要件が充足されているかどうかが争点と なっているところ,以下,この争点について,上記のような証明責任が果たされて いるかどうかについて判断する。
(2) ア 前記1のとおり,本件明細書には,亜鉛又は亜鉛合金で被覆した鋼板 を熱処理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の鋼と合 金化した層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度を持つ ようになるという新たな知見が得られたことに基づき,熱間成形や熱処理の前に, 鋼板を亜鉛又は亜鉛ベース合金で被覆し,その後熱処理を行うことにより,腐食に 対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保しかつ潤滑機能を確保する,亜鉛−鉄\nベース合金化合物又は亜鉛−鉄−アルミニウムベース合金化合物を生じさせ,これ によって,熱処理中または熱間成形中の鋼の腐食防止,脱炭防止,高温での潤滑機 能の確保等の効果を奏することが記載され,実施例1として,鋼板を亜鉛で被膜し\nたものを950℃で熱処理して,亜鉛−鉄合金の被膜を鋼板の表面に生じさせたと\nころ,同被膜が優れた腐食防止効果を有することが確認された旨が記載され,さら に,実施例2として,50−55%のアルミニウム,45−50%の亜鉛及び任意 に少量のケイ素を含有する被膜を熱処理したところ,極めて優れた腐食防止効果を 有する亜鉛−アルミニウム−鉄合金の被膜が得られたことが記載されている。 これらの記載及び弁論の全趣旨を総合すると,当業者は,本件明細書の記載から, 鋼板上に被覆された亜鉛又は「亜鉛ベース合金」の固溶体である亜鉛−アルミニウ ム合金を熱処理して,亜鉛−鉄ベース合金化合物(金属間化合物)又は亜鉛−鉄− アルミニウムベース合金化合物(金属間化合物)を生じさせ,高い機械的強度を持 つ鋼板を製造することができることを認識することができるものと認められる。ま た,当業者は,本件発明の合金化合物において,亜鉛が共通する主要な成分である から,本件発明の課題解決には亜鉛が重要な役割を果たしていると認識するものと 認められる。
イ 前記2で認定したとおり,亜鉛と鉄が金属間化合物を形成するものであ ること,熱処理後の「亜鉛−鉄ベース合金化合物」に亜鉛−鉄金属間化合物が含ま れること及び熱処理により鋼板から鉄の拡散が進んで金属間化合物について複数の 相が生じ得る,すなわち,異なる金属間化合物に変化し得ることが,本件出願時の 技術常識であったことからすると,本件明細書の記載に接した当業者は,熱処理前 の被膜が実施例1とは異なり,亜鉛−鉄金属間化合物であったとしても,実施例1 の記載及び上記技術常識を基礎にして,熱処理前の亜鉛−鉄の金属間化合物の組成, 熱処理の温度や時間等を適宜調節して,熱処理後に異なる亜鉛−鉄ベース合金化合 物(金属間化合物)を生じさせ,高い機械的特性を持つ鋼板を製造することができ ると認識することができると認められる。
ウ また,鋼板上に被覆された熱処理前の「亜鉛ベース合金」が金属間化合 物で,それを熱処理して亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物を生じさせ る場合についても,(1)固溶体である亜鉛−アルミニウム合金の被膜を熱処理して, 極めて優れた腐食防止効果を有する亜鉛−鉄−アルミニウム合金の被膜を生じさせ る実施例2が本件明細書に記載されていること,(2)前記2(1)のとおり,亜鉛−鉄− アルミニウムの金属間化合物の存在が,本件出願時,当業者に知られていた上,熱 処理により鋼板から鉄の拡散が進んで異なる金属間化合物が生じるという本件出願 時に知られていた基本的なメカニズムは,出発点が亜鉛−アルミニウムの固溶体で ある場合と,亜鉛−鉄−アルミニウムの金属間化合物である場合で,異なることを 示す根拠となる事情は認められず,基本的には異ならないと考えられることからす ると,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,実施例2に開示された亜鉛―アルミニウ\nムの固溶体からなる合金のみならず,亜鉛−鉄−アルミニウムの金属間化合物であ っても,熱処理前の同金属化合物の組成,熱処理の温度や時間等を適宜調節して, 亜鉛−鉄−アルミニウムベースの合金化合物(金属間化合物)を生じさせ,高い機 械的特性を持つ鋼板を製造できると認識することができると認められる。 エ 次に,その他の熱処理前の「亜鉛ベース合金」についても検討する。「亜 鉛ベース合金」には,前記2(2)で認定したとおり,多種多様な金属間化合物が該当 し得る一方で,本件明細書には,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,それらの「亜 鉛ベースの金属間化合物」である場合についての明示的な記載はない。 しかし,前記2(1)のとおり,本件出願時,本件発明にいう熱処理後に生じる3元 系以上の亜鉛−鉄ベース又は亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物に該当 するものとして,証拠上認定できるものは,(1)亜鉛−ニッケル−鉄,(2)亜鉛−鉄− アルミニウム,(3)亜鉛−鉄−アルミニウム−ニッケルの3種類のみである。 そうすると,上記のような3元系以上の「亜鉛−鉄ベース合金化合物」又は「亜 鉛−アルミニウム合金化合物」を生じさせることのできる熱処理前の「亜鉛ベース 金属間化合物」たる「亜鉛ベース合金」に含まれ得る亜鉛以外の金属元素としては, 鉄,アルミニウム以外にはニッケルが挙げられる。そして,ニッケルについては, 前記2(1)で認定したとおり,亜鉛−ニッケル−鉄や亜鉛−鉄−アルミニウム−ニ ッケルの金属間化合物の存在が本件出願時に知られていた上,本件出願時から,ニ ッケルは亜鉛と合金を形成して鋼板の被膜を形成すること及び亜鉛−ニッケル合金 メッキは優れた耐食性を有することが知られていた(甲2,乙8)から,当業者は, ニッケルがマイナー成分として加えられても本件発明の課題解決には影響はなく, 上記のように亜鉛が重要な役割を果たしていると認識するといえる。そうすると, 本件明細書の記載に接した当業者は,前記の鉄の拡散が進んで異なる金属間化合物 が生じるという技術常識も踏まえて,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,亜鉛−ニ ッケルの金属間化合物やそれに更にアルミニウムや鉄を含む金属間化合物であって も,それらの組成,熱処理の温度や時間を適宜調節して,亜鉛−鉄ベースの合金化 合物又は亜鉛−アルミニウム−鉄ベースの合金化合物を生じさせ,高い機械的特性 を持つ鋼板を製造できると認識することができると認められる。 そして,本件ではアルミニウムとニッケル以外の金属が亜鉛−鉄と3元系以上の 金属間化合物を形成するかどうかは証拠上必ずしも明らかとなっていないのである から,鉄,アルミニウム及びニッケル以外の金属元素と亜鉛からなる「亜鉛ベース の金属間化合物」の被覆が熱処理により3元系以上の亜鉛−鉄ベース金属化合物又 は亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物を生じさせて本件発明の課題を解 決することを被告が積極的に主張立証していないとしてもサポート要件が充足され なくなるものではない。
オ 以上からすると,当業者は,本件明細書の記載と本件出願時の技術常識 とに基づいて,本件明細書の実施例2で開示された亜鉛重量50%−アルミニウム 重量50%の合金以外の「亜鉛ベース合金」として,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛 −鉄−アルミニウム金属化合物,亜鉛−ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニ ウムや鉄が加わった金属間化合物等を想起し,これらからなる鋼板上の被覆を熱処 理することによって亜鉛−鉄ベース合金化合物(金属間化合物)又は亜鉛−鉄−ア ルミニウムベース合金化合物(金属間化合物)を生じさせて本件発明に係る課題を 解決できることを理解することができ,そのことを被告は証明したと認めることが できる。
(3) 原告は,(1)いかなる金属間化合物で鋼板を被覆し,それを熱処理すること で,本件発明の課題を解決できるいかなる金属間化合物が生じるかを,被告が根拠 となる本件明細書の記載と技術常識を明らかにしつつ具体的に主張立証しなければ ならないが,その主張立証が果たされていない,(2)亜鉛−鉄金属間化合物について, δ1相が鋼板用の被膜として望ましいとする従来の技術常識からすると,当業者は 本件明細書の記載及び技術常識に照らして,本件発明の課題をできるとは認識しな い,(3)亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物と亜鉛−ニッケル−鉄金属間化合物に ついて,限られた温度の3元系状態図しか知られていなかったことからすると,当 業者は,熱処理することでどのような金属間化合物を得られるかを予測することは\nできないから,熱処理前の「亜鉛ベース合金」を本件明細書に開示のない「亜鉛ベ ースの金属間化合物」にまで拡張することはできないと主張する。
ア 上記(1)について,当業者が,「亜鉛ベースの金属間化合物」の被覆とし て,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケ ル金属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等からなる被 覆を想起し,これらの被覆を熱処理することによって本件発明に係る課題を解決で きることを理解できることは,前記(2)で判断したとおりである。
イ 上記(2)について,本件発明は,亜鉛又は亜鉛合金で被覆した鋼板を熱処 理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の鋼と合金化し た層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度を持つように なるという新たな知見に基づくものであり,かつ,実施例1,2で優れた腐食防止 効果を持つ被膜が形成されていることが確認できる(実施例1,2と同じ条件で実 験した場合にこのような結果が得られないことを示す証拠はない。)以上,従来の 技術常識にかかわらず,当業者は,本件明細書の記載と本件出願時の技術常識に基 づいて「亜鉛ベース合金」が「亜鉛ベースの金属間化合物」である場合,本件発明 の課題を解決できることを認識するといえ,原告の主張は採用することができない。
ウ 上記(3)について,前記(2)で検討したとおり,当業者は,本件明細書の記 載及び本件出願時の技術常識から,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物又は亜鉛 −ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等の 被覆であっても課題を解決できると認識することができるというべきであって,こ のことは,限られた温度の3元系状態図しか知られていなかったとしても,左右さ れるものではない。
エ 以上からすると,原告の上記主張は,前記(2)の認定判断を左右するもの ではない。
(4) したがって,原告主張の審決取消事由1は理由がない。
4 取消事由2(実施可能要件についての認定判断の誤り)について\n
(1) 本件発明は方法の発明であるところ,方法の発明における発明の実施とは, その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号),方法の発明につい て実施可能要件を充足するか否かについては,当業者が明細書の記載及び出願当時\nの技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その方法の使用をする ことができる程度の記載が明細書の発明の詳細な説明にあるか否かによるというべ きである。そして,実施可能要件についても特許権者(被告)がその証明責任を負\nう。
(2) 前記3で検討したところからすると,当業者は,本件明細書の記載と本件出 願時の技術常識に基づいて,「亜鉛ベースの金属間化合物」からなる被覆として, 亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケル金 属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等からなる被覆を 想起し,これらの被覆を熱処理することによって,高い機械的特性を持つ鋼板を製 造することができると認められるから,本件明細書の詳細な説明には,本件発明の 方法を使用をすることができる程度の記載があり,実施可能要件は充足されている\nと認められる。
(3) 原告は,実施可能要件について,(1)いかなる金属間化合物で被覆して熱処理 をすると,いかなる金属間化合物が生じ,「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対す る保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得」ることについて主張立証がされていない,\n(2)鉄が被覆に拡散して鉄含有率の少ない金属間化合物が鉄含有率の高い金属間化合 物に変化することにより「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且 つ潤滑機能を確保し得る金属間化合物」となるとはいえない,(3)亜鉛−ニッケル金 属間化合物から亜鉛−ニッケル−鉄金属間化合物が形成されるとは理解できないと 主張する。
ア しかし,上記(1)について,前記3で検討したところからすると,当業者 は,「亜鉛ベースの金属間化合物」の被覆として,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛− 鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニ ウムや鉄が加わった金属化合物等からなる被覆を想起し,これらの被覆を熱処理す ることによって本件発明を実施できると認識するものと認められる。
イ 上記(2)について,前記3で検討したとおり,本件発明が新たな知見に基 づくものであることや実施例1,2で優れた腐食防止効果を持つ被膜が形成されて いることからすると,原告が主張するような事情を考慮しても,当業者は実施可能\nであると認識するものと認められる。
ウ 上記(3)について,前記3で検討したところからすると,当業者は,本件 明細書の記載や本件出願時の技術常識から,亜鉛−鉄−ニッケルの金属間化合物を 生じさせることができると認識すると認められる。

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平成30(行ケ)10092  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月30日  知的財産高等裁判所

 無効理由無し(サポート要件、実施可能要件、進歩性)とした審決が維持されました。

 上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク 質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結 合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使 用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は, かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって, PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより, 対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症 などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することにあると理解することができる。\n本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用 してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体 を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体 について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合 しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること, また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含 まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。 21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21 B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗 体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細 書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個 の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同 様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体 を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認 識できると認められる。 さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免 疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や 31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業 者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって, 本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗 体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら れる。 以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル 抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成 物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できることを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に\n適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結 合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定 される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照 抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし, 参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。そして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特\n定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために, その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない(甲34,35)。\n前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し, 本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参 照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。(4) 本件各訂正発明のサポート要件適合性 なお,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,本件各訂正発明も,いずれもサポート要件に適合するものと認められ る。
(5) 小括
以上によれば,本件各発明及び本件各訂正発明は,いずれもサポート要件に適合するというべきである。
4 争点(2)イ(実施可能要件違反)について\n
(1) 前記3(1)の認定事実によれば,本件各明細書の記載から,本件発明1−1及 び2−1の抗体及び本件発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し,使用するこ とができるものと認められるから,本件各明細書の発明の詳細な説明の記載は,当 業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができる。\nしたがって,本件各発明は,いずれも,実施可能要件に適合するものと認められる。\n
(2) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な\n時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能要件を満たさない旨主張する。\nしかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求められるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程\n度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる\nからである。 本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ, PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗 体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そして,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す\nることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離 されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度 の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ\nることまで記載されている必要はない。 また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない 抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認 識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に記載されているかどうかは,実施可能\要件とは関係しないというべきである。そして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細 書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範 囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得 る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 よって,控訴人の主張は採用できない。
(3) 本件各訂正発明の実施可能要件の適合性\n
なお,前記3(4)のとおり,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,当業者は,本件各明細書の記載から,本件訂正発明1 −1及び2−1の抗体及び本件訂正発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し, 使用することができるものと認められ,本件各訂正発明も,いずれも実施可能要件に適合するものと認められる。\n

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平成30(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月18日  知的財産高等裁判所

 特36条4項「実施可能要件」という。)の無効理由なしとした審決が維持されました。

本件各発明の方法は,1)ラテックスの第一層(請求項1)や織布又はメリヤ スの第一層(請求項2)が形成された型を,水性ラテックスエマルジョン中で浸漬 被覆することによりラテックスの第二層を形成し,2)ラテックスの第二層に離散し た多面的な塩の粒子を塗布することでラテックスの第二層をゲル化し,ラテックス の第二層の中の塩の粒子の形状を固定した上,3)ラテックスの第二層を熱硬化させ る前にラテックスの第二層から離散した多面的な塩の粒子を溶解し,4)その後,形 成した層を熱硬化させ,硬化した第二層を形成し,5)型から硬化したテクスチャー ド加工手袋を外すというものである。 そして,本件各発明の方法に用いられる「型」(【0013】),「凝固剤」(【0014】【0026】),「水性ラテックスエマルジョン」ないし「発泡体」に相当するもの(【0015】【0028】【0032】),「塩」ないし「離散粒子」に相当するもの(【0010】〜【0012】【0018】【0033】),「織布」ないし「メリヤス」(【0022】)については,いずれも本件明細書に具体的にその意義(使用目的),材料名,調合方法又は入手方法等が記載されている。 また,本件各発明の方法に係る具体的手法は,離散した塩粒子のサイズ及び塗布 方法(【0010】【0012】【0018】【0033】)や,塩の粒子の溶解がラテックスの第二層の熱硬化の前に行われること(【0009】【0018】【0034】 〜【0036】)を含めて,いずれも本件明細書に実施例を交えて詳細に記載されて いる(【0009】〜【0016】【0018】【0022】【0026】〜【003 8】)。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明には,これに接した当業者が,本件各発 明の方法の使用を可能とする具体的な記載がある。\nイ また,本件各発明により生産されるのは,テクスチャード加工表面被覆を有\nする手袋であるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,テクスチャード加工 表面被覆は,離散粒子(塩)の逆像が多面的な痕となって残ったものであり,手袋の\n外側又は内側のいずれかに取り入れられることが記載されている(【0007】【0 009】【0011】)。
ウ このように,本件明細書には,その具体的な実施の形態の記載もあることか らすれば,当業者において,発明の詳細な説明の記載内容及び出願時の技術常識に 基づき,その製造方法を使用し,かつ,その製造方法により生産した手袋を使用す ることができる程度の記載があるということができ,使用のために当業者に試行錯 誤を要するものともいえない。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合するもの\nと認められる。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件各発明に係る手袋の生産方法が,甲1,甲2及び甲7に記載さ れた手袋の生産方法よりも優れた作用効果を有する手袋の生産をすることができる ように記載されていないとし,また,本件明細書に記載されたつまみ力試験ではグ リップ力の測定はできず,そこでされている従来の被告の自社製品等との比較も適 切なものでないとして,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件各 発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないと主張す\nる。
イ 甲1,甲2及び甲7には,次の各記載がある。
・・・・
ウ しかしながら,本件各発明の方法により製造される手袋が,原告の引用する 手袋(甲1,甲2及び甲7)よりも優れたグリップ力を有するか否か,及び,つまみ 力試験でグリップ力の測定ができるか否かは,本件明細書の発明の詳細な説明の記 載が実施可能要件を満たしているか否かとは関係がない。\nなお,証拠(甲18)によれば,原告の主張は,本件各発明が,甲1,甲2及び甲 7等の従来技術よりも手袋のグリップ力を向上させることを課題とするにもかかわ らず,その課題の達成が追試可能な形で示されていないという趣旨のものと理解で\nきないわけではない。しかし,そうであれば,結局のところ,本件各発明の上記従来 技術に対する進歩性を問題とするものであり,発明の公開の程度を問題とするもの ではないから,いずれにせよ実施可能要件の充足を争う主張としては失当というほ\nかない。

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平成30(行ケ)10093  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月19日  知的財産高等裁判所

 サポート要件・実施可能要件違反の無効理由なしとした審決が維持されました。\n

 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否 か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のであり,サポート要件の存在については,特許権者(被告)がその証明責任を負 うものである。 そして,前記のとおり,本件では熱処理前の「亜鉛ベース合金」が「亜鉛ベース の金属間化合物」である場合にもサポート要件が充足されているかどうかが争点と なっているところ,以下,この争点について,上記のような証明責任が果たされて いるかどうかについて判断する。
(2) ア 前記1のとおり,本件明細書には,亜鉛又は亜鉛合金で被覆した鋼板 を熱処理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の鋼と合 金化した層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度を持つ ようになるという新たな知見が得られたことに基づき,熱間成形や熱処理の前に, 鋼板を亜鉛又は亜鉛ベース合金で被覆し,その後熱処理を行うことにより,腐食に 対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保しかつ潤滑機能を確保する,亜鉛−鉄\nベース合金化合物又は亜鉛−鉄−アルミニウムベース合金化合物を生じさせ,これ によって,熱処理中または熱間成形中の鋼の腐食防止,脱炭防止,高温での潤滑機 能の確保等の効果を奏することが記載され,実施例1として,鋼板を亜鉛で被膜し\nたものを950℃で熱処理して,亜鉛−鉄合金の被膜を鋼板の表面に生じさせたと\nころ,同被膜が優れた腐食防止効果を有することが確認された旨が記載され,さら に,実施例2として,50−55%のアルミニウム,45−50%の亜鉛及び任意 に少量のケイ素を含有する被膜を熱処理したところ,極めて優れた腐食防止効果を 有する亜鉛−アルミニウム−鉄合金の被膜が得られたことが記載されている。 これらの記載及び弁論の全趣旨を総合すると,当業者は,本件明細書の記載から, 鋼板上に被覆された亜鉛又は「亜鉛ベース合金」の固溶体である亜鉛−アルミニウ ム合金を熱処理して,亜鉛−鉄ベース合金化合物(金属間化合物)又は亜鉛−鉄− アルミニウムベース合金化合物(金属間化合物)を生じさせ,高い機械的強度を持 つ鋼板を製造することができることを認識することができるものと認められる。ま た,当業者は,本件発明の合金化合物において,亜鉛が共通する主要な成分である から,本件発明の課題解決には亜鉛が重要な役割を果たしていると認識するものと 認められる。
イ 前記2で認定したとおり,亜鉛と鉄が金属間化合物を形成するものであ ること,熱処理後の「亜鉛−鉄ベース合金化合物」に亜鉛−鉄金属間化合物が含ま れること及び熱処理により鋼板から鉄の拡散が進んで金属間化合物について複数の 相が生じ得る,すなわち,異なる金属間化合物に変化し得ることが,本件出願時の 技術常識であったことからすると,本件明細書の記載に接した当業者は,熱処理前 の被膜が実施例1とは異なり,亜鉛−鉄金属間化合物であったとしても,実施例1 の記載及び上記技術常識を基礎にして,熱処理前の亜鉛−鉄の金属間化合物の組成, 熱処理の温度や時間等を適宜調節して,熱処理後に異なる亜鉛−鉄ベース合金化合 物(金属間化合物)を生じさせ,高い機械的特性を持つ鋼板を製造することができ ると認識することができると認められる。
ウ また,鋼板上に被覆された熱処理前の「亜鉛ベース合金」が金属間化合 物で,それを熱処理して亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物を生じさせ る場合についても,1)固溶体である亜鉛−アルミニウム合金の被膜を熱処理して, 極めて優れた腐食防止効果を有する亜鉛−鉄−アルミニウム合金の被膜を生じさせ る実施例2が本件明細書に記載されていること,2)前記2(1)のとおり,亜鉛−鉄− アルミニウムの金属間化合物の存在が,本件出願時,当業者に知られていた上,熱 処理により鋼板から鉄の拡散が進んで異なる金属間化合物が生じるという本件出願 時に知られていた基本的なメカニズムは,出発点が亜鉛−アルミニウムの固溶体で ある場合と,亜鉛−鉄−アルミニウムの金属間化合物である場合で,異なることを 示す根拠となる事情は認められず,基本的には異ならないと考えられることからす ると,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,実施例2に開示された亜鉛―アルミニウ\nムの固溶体からなる合金のみならず,亜鉛−鉄−アルミニウムの金属間化合物であ っても,熱処理前の同金属化合物の組成,熱処理の温度や時間等を適宜調節して, 亜鉛−鉄−アルミニウムベースの合金化合物(金属間化合物)を生じさせ,高い機 械的特性を持つ鋼板を製造できると認識することができると認められる。
エ 次に,その他の熱処理前の「亜鉛ベース合金」についても検討する。「亜 鉛ベース合金」には,前記2(2)で認定したとおり,多種多様な金属間化合物が該当 し得る一方で,本件明細書には,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,それらの「亜 鉛ベースの金属間化合物」である場合についての明示的な記載はない。 しかし,前記2(1)のとおり,本件出願時,本件発明にいう熱処理後に生じる3元 系以上の亜鉛−鉄ベース又は亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物に該当 するものとして,証拠上認定できるものは,1)亜鉛−ニッケル−鉄,2)亜鉛−鉄− アルミニウム,3)亜鉛−鉄−アルミニウム−ニッケルの3種類のみである。 そうすると,上記のような3元系以上の「亜鉛−鉄ベース合金化合物」又は「亜 鉛−アルミニウム合金化合物」を生じさせることのできる熱処理前の「亜鉛ベース 金属間化合物」たる「亜鉛ベース合金」に含まれ得る亜鉛以外の金属元素としては, 鉄,アルミニウム以外にはニッケルが挙げられる。そして,ニッケルについては, 前記2(1)で認定したとおり,亜鉛−ニッケル−鉄や亜鉛−鉄−アルミニウム−ニ ッケルの金属間化合物の存在が本件出願時に知られていた上,本件出願時から,ニ ッケルは亜鉛と合金を形成して鋼板の被膜を形成すること及び亜鉛−ニッケル合金 メッキは優れた耐食性を有することが知られていた(甲2,乙8)から,当業者は, ニッケルがマイナー成分として加えられても本件発明の課題解決には影響はなく, 上記のように亜鉛が重要な役割を果たしていると認識するといえる。そうすると, 本件明細書の記載に接した当業者は,前記の鉄の拡散が進んで異なる金属間化合物 が生じるという技術常識も踏まえて,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,亜鉛−ニ ッケルの金属間化合物やそれに更にアルミニウムや鉄を含む金属間化合物であって も,それらの組成,熱処理の温度や時間を適宜調節して,亜鉛−鉄ベースの合金化 合物又は亜鉛−アルミニウム−鉄ベースの合金化合物を生じさせ,高い機械的特性 を持つ鋼板を製造できると認識することができると認められる。 そして,本件ではアルミニウムとニッケル以外の金属が亜鉛−鉄と3元系以上の 金属間化合物を形成するかどうかは証拠上必ずしも明らかとなっていないのである から,鉄,アルミニウム及びニッケル以外の金属元素と亜鉛からなる「亜鉛ベース の金属間化合物」の被覆が熱処理により3元系以上の亜鉛−鉄ベース金属化合物又 は亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物を生じさせて本件発明の課題を解 決することを被告が積極的に主張立証していないとしてもサポート要件が充足され なくなるものではない。
オ 以上からすると,当業者は,本件明細書の記載と本件出願時の技術常識 とに基づいて,本件明細書の実施例2で開示された亜鉛重量50%−アルミニウム 重量50%の合金以外の「亜鉛ベース合金」として,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛 −鉄−アルミニウム金属化合物,亜鉛−ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニ ウムや鉄が加わった金属間化合物等を想起し,これらからなる鋼板上の被覆を熱処 理することによって亜鉛−鉄ベース合金化合物(金属間化合物)又は亜鉛−鉄−ア ルミニウムベース合金化合物(金属間化合物)を生じさせて本件発明に係る課題を 解決できることを理解することができ,そのことを被告は証明したと認めることが できる。
(3) 原告は,1)いかなる金属間化合物で鋼板を被覆し,それを熱処理すること で,本件発明の課題を解決できるいかなる金属間化合物が生じるかを,被告が根拠 となる本件明細書の記載と技術常識を明らかにしつつ具体的に主張立証しなければ ならないが,その主張立証が果たされていない,2)亜鉛−鉄金属間化合物について, δ1相が鋼板用の被膜として望ましいとする従来の技術常識からすると,当業者は 本件明細書の記載及び技術常識に照らして,本件発明の課題をできるとは認識しな い,3)亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物と亜鉛−ニッケル−鉄金属間化合物に ついて,限られた温度の3元系状態図しか知られていなかったことからすると,当 業者は,熱処理することでどのような金属間化合物を得られるかを予測することは\nできないから,熱処理前の「亜鉛ベース合金」を本件明細書に開示のない「亜鉛ベ ースの金属間化合物」にまで拡張することはできないと主張する。
ア 上記1)について,当業者が,「亜鉛ベースの金属間化合物」の被覆とし て,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケ ル金属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等からなる被 覆を想起し,これらの被覆を熱処理することによって本件発明に係る課題を解決で きることを理解できることは,前記(2)で判断したとおりである。
イ 上記2)について,本件発明は,亜鉛又は亜鉛合金で被覆した鋼板を熱処 理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の鋼と合金化し た層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度を持つように なるという新たな知見に基づくものであり,かつ,実施例1,2で優れた腐食防止 効果を持つ被膜が形成されていることが確認できる(実施例1,2と同じ条件で実 験した場合にこのような結果が得られないことを示す証拠はない。)以上,従来の 技術常識にかかわらず,当業者は,本件明細書の記載と本件出願時の技術常識に基 づいて「亜鉛ベース合金」が「亜鉛ベースの金属間化合物」である場合,本件発明 の課題を解決できることを認識するといえ,原告の主張は採用することができない。
ウ 上記3)について,前記(2)で検討したとおり,当業者は,本件明細書の記 載及び本件出願時の技術常識から,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物又は亜鉛 −ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等の 被覆であっても課題を解決できると認識することができるというべきであって,こ のことは,限られた温度の3元系状態図しか知られていなかったとしても,左右さ れるものではない。
エ 以上からすると,原告の上記主張は,前記(2)の認定判断を左右するもの ではない。
(4) したがって,原告主張の審決取消事由1は理由がない。
4 取消事由2(実施可能要件についての認定判断の誤り)について\n
(1) 本件発明は方法の発明であるところ,方法の発明における発明の実施とは, その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号),方法の発明につい て実施可能要件を充足するか否かについては,当業者が明細書の記載及び出願当時\nの技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その方法の使用をする ことができる程度の記載が明細書の発明の詳細な説明にあるか否かによるというべ きである。そして,実施可能要件についても特許権者(被告)がその証明責任を負\nう。
(2) 前記3で検討したところからすると,当業者は,本件明細書の記載と本件出 願時の技術常識に基づいて,「亜鉛ベースの金属間化合物」からなる被覆として, 亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケル金 属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等からなる被覆を 想起し,これらの被覆を熱処理することによって,高い機械的特性を持つ鋼板を製 造することができると認められるから,本件明細書の詳細な説明には,本件発明の 方法を使用をすることができる程度の記載があり,実施可能要件は充足されている\nと認められる。
(3) 原告は,実施可能要件について,1)いかなる金属間化合物で被覆して熱処理 をすると,いかなる金属間化合物が生じ,「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対す る保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得」ることについて主張立証がされていない,\n2)鉄が被覆に拡散して鉄含有率の少ない金属間化合物が鉄含有率の高い金属間化合 物に変化することにより「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且 つ潤滑機能を確保し得る金属間化合物」となるとはいえない,3)亜鉛−ニッケル金 属間化合物から亜鉛−ニッケル−鉄金属間化合物が形成されるとは理解できないと 主張する。
ア しかし,上記1)について,前記3で検討したところからすると,当業者 は,「亜鉛ベースの金属間化合物」の被覆として,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛− 鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニ ウムや鉄が加わった金属化合物等からなる被覆を想起し,これらの被覆を熱処理す ることによって本件発明を実施できると認識するものと認められる。
イ 上記2)について,前記3で検討したとおり,本件発明が新たな知見に基 づくものであることや実施例1,2で優れた腐食防止効果を持つ被膜が形成されて いることからすると,原告が主張するような事情を考慮しても,当業者は実施可能\nであると認識するものと認められる。
ウ 上記3)について,前記3で検討したところからすると,当業者は,本件 明細書の記載や本件出願時の技術常識から,亜鉛−鉄−ニッケルの金属間化合物を 生じさせることができると認識すると認められる。
エ 以上からすると,原告の上記主張は,前記(2)の認定判断を左右するもの ではない。

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平成30(行ケ)10084  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年8月29日  知的財産高等裁判所

 進歩性・サポート要件の無効理由ありとした審決が維持されました。

 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明1は,アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法の発明であって,アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして,「35ppm未満の遊離SO2」と,「3 00ppm未満の塩化物」と,「800ppm未満のスルフェート」とを有することを特徴とするワインを意図して製造するステップを含むものであるから,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる。
次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の課題を明示 した記載はないが,【0002】ないし【0004】の記載(前記(1)イ(ア)) から,本件発明1の課題は,アルミニウム缶内にパッケージングした「ワ インの品質」が保存中に著しく劣化しないようにすることであり,ここ にいう「ワインの品質」は,「ワインの味質」を意味するものと理解で きる。 そして,本件明細書の【0038】ないし【0042】及び表1には,\n白ワインの保存評価試験の結果として,パッケージングされた白ワイン を30℃で6ヶ月間保存した後に,味覚パネルによる官能試験により,\n「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された」との記載が\nあることに照らすと,本件明細書の発明の詳細な説明には,ワインの品 質(味質)が劣化したかどうかは味覚パネルによる官能試験によって判\n断されることの開示があることが認められる。
一方,上記の「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認され\nた」ワインについて,表1には,別紙のとおり,保存期間「6ヶ月」に\n対応する「Al mg/L」欄及び「初期に対するAl含有量上昇率(%)」 欄に,アルミニウム含有量0.72mg/L,含有量上昇率44%(「直 立」状態で保存の缶),アルミニウム含有量0.68mg/L,含有量 上昇率36%(「倒立」状態で保存の缶)であったことの記載があるが, 表1を含む本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,当該ワ\nインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃度につ いての具体的な開示はない。
また,本件明細書の【0003】の「ワイン中の物質の比較的攻撃的 な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特に味質 に及ぼす悪影響にあると考えられる。」との記載及び【0034】の「良 好に架橋された不透過性膜によって,保存中に過度のレベルのアルミニ ウムがワイン中に溶解しないことを保証することが重要である。」との 記載から,アルミニウム缶からワイン中に溶出する「過度のレベルのア ルミニウム」がワインの味質に悪影響を及ぼすことは理解できるものの, 本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,アルミニウム缶に 保存されたワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいてワインの味質 が劣化したかどうかを判断できることについての記載も示唆もない。 さらに,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量 とワインの味質の劣化との具体的な相関関係に関する技術常識を示した 証拠は提出されておらず,上記の具体的な相関関係は明らかではない。 もっとも,本件優先日当時,遊離SO2とアルミニウムとの間の酸化還元 反応により硫化水素が発生し,この硫化水素によってワインのフレーバ ーを悪くするという問題があったことは技術常識であったこと(甲50, 51等)が認められるが,かかる技術常識に照らしても,遊離SO2の濃 度にかかわらず,ワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいてワイン の味質が劣化したかどうかを判断できるものとはいえない。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件発明1 の課題(「アルミニウム缶内にパッケージングしたワインの品質(味質) が保存中に著しく劣化しないようにすること」)を解決できるかどうか を確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験結果によらざるを\n得ないことを理解できる。
(イ) しかるところ,前記(ア)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に は,白ワインの保存評価試験(【0038】ないし【0042】及び表\n1)において「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された」\nワインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃度に ついての具体的な開示はなく,仮にこれらの濃度が,本件発明1で規定 するそれぞれの濃度(「300ppm未満の塩化物」及び「800pp m未満のスルフェート」)の範囲内であったとしても,それぞれの上限 値に近い数値であったものと当然には理解することはできないから,上 記保存評価試験の結果から,本件発明1の対象とするワインに含まれる 塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスルフェートの濃度範囲(8 00ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」が保存中に著しく劣 化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により確認された\nものと認識することはできないというべきである。 また,甲1及び甲43(「アルミ缶の特性ならびに腐食問題」200 2年,Zairyo-to-kankyo,51,p.293〜298)によれば,ワインを組成する 一般的な物質のうち,遊離SO2,塩化物イオン(Cl−)及びスルフェ ート(SO4 2−)以外にも,リンゴ酸,クエン酸等の有機酸がアルミニウ ムの腐食原因となることは,本件優先日当時の技術常識であったことが 認められる。このような技術常識に照らすと,本件明細書の発明の詳細 な説明には,白ワインの保存評価試験に用いられたワインの組成につい ての記載はないものの,これらのアルミニウムの腐食原因となる物質も, 当該ワインの組成に含まれており,表1記載の保存期間「6ヶ月」に対\n応するアルミニウム含有量や味覚パネルによる官能試験の試験結果に影\n響を及ぼしている可能性があるものと理解できる。\n以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日 当時の技術常識から,当業者が本件発明1に含まれる塩化物の濃度30 0ppm未満及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全 体にわたり本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められ ないから,本件発明1は,サポート要件に適合するものと認めることは できない。
(3) 原告の主張について
 原告は,本件優先日当時,1)ワイン中の塩化物及びスルフェートの濃度は, 生産国・地域,品種,収穫年,製造条件等の違いによりワイン毎に様々であ り,いずれの濃度分布も広範囲に亘っており,塩化物の濃度は3ppmから 1148ppmの範囲で,スルフェートの濃度は38.6ppmから242 0ppmの範囲で分布していること,及び,「300ppm」以上の塩化物 及び「800ppm」以上のスルフェートを含有するワインが実際に存在す ること(甲31,59ないし63,136の1),2)「淡水」とは塩分濃度 が500ppm以下,塩化物濃度が約300ppm以下の水であること(甲 137の1,2,139,140),3)塩化物イオン(Cl−)及びスルフェ ート(SO4 2−)が,アルミニウムやステンレスの局部腐食(不動態被膜の孔 食)の原因となるイオンであること(甲78,80ないし84,137の1, 2)は,技術常識であったことに加えて,本件明細書の「このような不成功 の理由は,ワイン中の物質の比較的攻撃的な性質,及び,ワインと容器との 反応生成物の,ワイン品質,特に味質に及ぼす悪影響にあると考えられる。」 (【0003】)との記載を考慮すれば,当業者であれば,アルミニウムの 腐食原因であるワイン中の物質が「低い」濃度レベルであることを規定する, 本件発明1の「35ppm未満」の遊離SO2,「300ppm未満」の塩化 物及び「800ppm未満」のスルフェートとの要件を満たすワインをパッ ケージング対象とすることによって,これらの腐食原因物質の濃度が高いワ インがアルミニウム缶にパッケージングされることを確実に防止できるとい う本件発明1の効果を容易に認識可能であり,本件発明1は,この効果によ\nって,「アルミニウム缶内にワインをパッケージングし,これによりワイン の品質が保存中に著しく劣化しないようにする」という課題(「アルミニウ ム缶の腐食によって保存中にワインの中で増加してしまうアルミニウムイオ ン及び硫化水素によって,ワイン品質(味,色,臭い)が保存中に著しく劣 化しないようにする」という課題)を解決するものであることを容易に認識 できること,そして,アルミニウム缶の腐食原因である「塩化物」の濃度を 300ppmよりも低くすればするほど,同腐食原因である「スルフェート」 の濃度を800ppmよりも低くすればするほど,アルミニウム缶の腐食防 止効果がより高まることは容易に認識できることからすると,本件発明1の 上記効果は,特許請求の範囲の全てにおいて奏する効果であることを当業者 が認識できることは明らかであり,本件明細書の【0038】ないし【00 42】記載の試験結果を参酌しなくても,本件優先日当時の技術常識に照ら し,本件明細書のその余の発明の詳細な説明の記載及び本件発明1の特許請 求の範囲の記載から,本件発明1は,当業者が本件発明1の課題を解決でき ると認識できる範囲のものであるといえるから,本件発明1は,サポート要 件に適合する旨主張する。
しかしながら,前記(2)イ(ア)認定のとおり,本件発明1の課題は,アルミ ニウム缶内にパッケージングした「ワインの味質」が保存中に著しく劣化し ないようにすることにあるものと認められるところ, 原告主張の本件優先日 当時の上記1)ないし3)の技術常識に照らしても,当業者が,本件明細書の発 明の詳細な説明の記載から,本件発明1は,「35ppm未満」の遊離SO2, 「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」のスルフェートと の要件を満たすワインをパッケージング対象とすることによる効果によっ て,本件発明1の上記課題を解決するものであることを認識できるものと認 めることはできない。 また,原告が主張するようにアルミニウム缶の腐食原因である「塩化物」 の濃度を300ppmよりも低くすればするほど,同腐食原因である「スル フェート」の濃度を800ppmよりも低くすればするほど,アルミニウム 缶の腐食防止効果がより高まるといえるとしても,前記(2)イ(ア)認定のとお り,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量とワインの 味質の劣化との具体的な相関関係は明らかではなく,本件発明1の上記課題 を解決できるかどうかを確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験\n結果によらざるを得ない。そして,本件明細書の【0038】ないし【00 42】及び表1記載の白ワインの保存評価試験の結果から,本件発明1の対\n象とするワインに含まれる塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスル フェートの濃度範囲(800ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」 が保存中に著しく劣化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果に\nより確認されたものと認識することはできないことは,前記(2)イ(イ)のとお りである。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の 技術常識から,当業者が本件発明1に含まれる塩化物の濃度300ppm未 満及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体にわたり本件 発明1の課題を解決できると認識できるものと認められないから,原告の上 記主張は採用することができない。

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平成30(ネ)10040  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年8月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審では、サポート要件、実施可能要件違反で権利行使不能\と判断されていました。 控訴審は、サポート要件違反と判断しました。

 所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明について,特許 請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に適合するか否かは, 当業者が,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から,当該発明 に含まれる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決できると認識で きるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。 イ(ア) これを本件についてみるに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1) の記載によれば,本件発明は,アルミニウム缶内にワインをパッケージ ングする方法の発明であって,「35ppm未満の遊離SO2」と,「3 00ppm未満の塩化物」と,「800ppm未満のスルフェート」と を有することを特徴とするワインを製造するステップを含むものである から,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる。
次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の課題を明示し た記載はないが,【0002】ないし【0004】の記載(前記(1)イ(ア)) から,本件発明の課題は,アルミニウム缶内にパッケージングした「ワ インの品質」が保存中に著しく劣化しないようにすること,ここにいう 「ワインの品質」は,「ワインの味質」を意味するものと理解できる。 そして,本件明細書の【0038】ないし【0042】及び表1には,\n白ワインの保存評価試験の結果として,パッケージングされた白ワイン を30℃で6ヶ月間保存した後に,味覚パネルによる官能試験により,\n「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された」との記載が\nあることに照らすと,本件明細書の発明の詳細な説明には,ワインの品 質(味質)が劣化したかどうかは味覚パネルによる官能試験によって判\n断されることの開示があることが認められる。
一方,上記の「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認され\nた」ワインについて,表1には,別紙のとおり,保存期間「6ヶ月」に\n対応する「Al mg/L」欄及び「初期に対するAl含有量上昇率(%)」 欄に,アルミニウム含有量0.72mg/L,含有量上昇率44%(「直 立」状態で保存の缶),アルミニウム含有量0.68mg/L,含有量 上昇率36%(「倒立」状態で保存の缶)であったことの記載があるが, 表1を含む本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,当該ワ\nインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃度につ いての具体的な開示はない。
また,本件明細書の【0003】の「ワイン中の物質の比較的攻撃的 な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特に味質 に及ぼす悪影響にあると考えられる。」との記載及び【0034】の「良 好に架橋された不透過性膜によって,保存中に過度のレベルのアルミニ ウムがワイン中に溶解しないことを保証することが重要である。」との 記載から,アルミニウム缶からワイン中に溶出する「過度のレベルのア ルミニウム」がワインの味質に悪影響を及ぼすことは理解できるものの, 本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,アルミニウム缶に 保存されたワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいてワインの味質 が劣化したかどうかを判断できることについての記載も示唆もない。 さらに,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量 とワインの味質の劣化との具体的な相関関係に関する技術常識を示した 証拠は提出されておらず,上記の具体的な相関関係は明らかではない。 もっとも,本件優先日当時,遊離SO2とアルミニウムとの間の酸化還 元反応により硫化水素が発生し,この硫化水素によってワインのフレー バーを悪くするという問題があったことは技術常識であったこと(甲3 9,40等)が認められるが,かかる技術常識に照らしても,遊離SO 2の濃度にかかわらず,ワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいて ワインの味質が劣化したかどうかを判断できるものとはいえない。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件発明の 課題(「アルミニウム缶内にパッケージングしたワインの品質(味質) が保存中に著しく劣化しないようにすること」)を解決できるかどうか を確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験結果によらざるを\n得ないことを理解できる。
(イ) しかるところ,前記(ア)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明 には,白ワインの保存評価試験(【0038】ないし【0042】及び 表1)において「許容可能\なワイン品質が味覚パネルによって確認され た」ワインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃 度についての具体的な開示はなく,仮にこれらの濃度が,本件発明で規 定するそれぞれの濃度(「300ppm未満の塩化物」及び「800p pm未満のスルフェート」)の範囲内であったとしても,それぞれの上 限値に近い数値であったものと当然には理解することはできないから, 上記保存評価試験の結果から,本件発明の対象とするワインに含まれる 塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスルフェートの濃度範囲(8 00ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」が保存中に著しく劣 化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により確認された\nものと認識することはできないというべきである。 また,乙29及び甲175(「アルミ缶の特性ならびに腐食問題」2 002年,Zairyo-to-kankyo,51,p.293〜298)によれば,ワインを組成 する一般的な物質のうち,遊離SO2,塩化物イオン(Cl−)及びスル フェート(SO4 2−)以外にも,リンゴ酸,クエン酸等の有機酸がアル ミニウムの腐食原因となることは,本件優先日当時の技術常識であった ことが認められる。このような技術常識に照らすと,本件明細書の発明 の詳細な説明には,白ワインの保存評価試験に用いられたワインの組成 についての記載はないものの,これらのアルミニウムの腐食原因となる 物質も,当該ワインの組成に含まれており,表1記載の保存期間「6ヶ\n月」に対応するアルミニウム含有量や味覚パネルによる官能試験の試験\n結果に影響を及ぼしている可能性があるものと理解できる。\n以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日 当時の技術常識から,当業者が本件発明に含まれる塩化物の濃度300 ppm未満及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体 にわたり本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められない から,本件発明は,サポート要件に適合するものと認めることはできな い。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件優先日当時,1)ワイン中の塩化物及びスルフェートの濃度 は,生産国・地域,品種,収穫年,製造条件等の違いによりワイン毎に様々 であり,いずれの濃度分布も広範囲に亘っており,塩化物の濃度は3ppm から1148ppmの範囲で,スルフェートの濃度は38.6ppmから2 420ppmの範囲で分布していること,及び,「300ppm」以上の塩 化物及び「800ppm」以上のスルフェートを含有するワインが実際に存 在すること(甲24,41,42,51,57,58,101,乙67), 2)「淡水」とは塩分濃度が500ppm以下,塩化物濃度が約300ppm 以下の水であること(甲167,168,169の1,2),3)塩化物イオ ン(Cl−)及びスルフェート(SO4 2−)が,アルミニウムやステンレスの 局部腐食(不動態被膜の孔食)の原因となるイオンであること(甲88ない し90,115ないし117,169の1,2)は,技術常識であったこと に加えて,本件明細書の「このような不成功の理由は,ワイン中の物質の比 較的攻撃的な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特 に味質に及ぼす悪影響にあると考えられる。」(【0003】)との記載を 考慮すれば,当業者であれば,アルミニウムの腐食原因であるワイン中の物 質が「低い」濃度レベルであることを規定する,本件発明の「35ppm未 満」の遊離SO2,「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」 のスルフェートとの要件を満たすワインをパッケージング対象とすることに よって,これらの腐食原因物質の濃度が高いワインがアルミニウム缶にパッ ケージングされることを確実に防止できるという本件発明の効果を容易に認 識可能であり,本件発明は,この効果によって,「アルミニウム缶内にワイ\nンをパッケージングし,これによりワインの品質が保存中に著しく劣化しな いようにする」という課題(「アルミニウム缶の腐食によって保存中にワイ ンの中で増加してしまうアルミニウムイオン及び硫化水素によって,ワイン 品質(味,色,臭い)が保存中に著しく劣化しないようにする」という課題) を解決するものであることを容易に認識できること,そして,アルミニウム 缶の腐食原因である「塩化物」の濃度を300ppmよりも低くすればする ほど,同腐食原因である「スルフェート」の濃度を800ppmよりも低く すればするほど,アルミニウム缶の腐食防止効果がより高まることは容易に 認識できることからすると,本件発明の上記効果は,特許請求の範囲の全て において奏する効果であることを当業者が認識できることは明らかであり, 本件明細書の【0038】ないし【0042】記載の試験結果を参酌しなく ても,本件優先日当時の技術常識に照らし,本件明細書のその余の発明の詳 細な説明の記載及び本件発明の特許請求の範囲の記載から,本件発明は,当 業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる から,本件発明は,サポート要件に適合する旨主張する。 しかしながら,前記(2)イ(ア)認定のとおり,本件発明の課題は,アルミニ ウム缶内にパッケージングした「ワインの味質」が保存中に著しく劣化しな いようにすることにあるものと認められるところ,控訴人主張の本件優先日 当時の上記1)ないし3)の技術常識に照らしても,当業者が,本件明細書の発 明の詳細な説明の記載から,本件発明は,「35ppm未満」の遊離SO2, 「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」のスルフェートと の要件を満たすワインをパッケージング対象とすることによる効果によって, 本件発明の上記課題を解決するものであることを認識できるものと認めるこ とはできない。
また,控訴人が主張するようにアルミニウム缶の腐食原因である「塩化物」 の濃度を300ppmよりも低くすればするほど,同腐食原因である「スル フェート」の濃度を800ppmよりも低くすればするほど,アルミニウム 缶の腐食防止効果がより高まるといえるとしても,前記(2)イ(ア)認定のとお り,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量とワインの 味質の劣化との具体的な相関関係は明らかではなく,本件発明の上記課題を 解決できるかどうかを確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験結\n果によらざるを得ない。そして,本件明細書の【0038】ないし【004 2】及び表1記載の白ワインの保存評価試験の結果から,本件発明の対象と\nするワインに含まれる塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスルフェ ートの濃度範囲(800ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」が保 存中に著しく劣化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により\n確認されたものと認識することはできないことは,前記(2)イ(イ)のとおりで ある。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の 技術常識から,当業者が本件発明に含まれる塩化物の濃度300ppm未満 及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体にわたり本件発 明の課題を解決できると認識できるものと認められないから,控訴人の上記 主張は採用することができない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成27(ワ)21684

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平成30(行ケ)10043  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年6月26日  知的財産高等裁判所(3部)

 医薬品の発明について、実施可能要件を満たしていないとして、無効理由なしとした審決が取り消されました。\n

 被告は,【0029】及び【0116】を含む本件明細書の記載並びに 技術常識からすれば,当業者は,1) ヒスチジンの置換箇所を特定するた めに,抗体の可変部位のアミノ酸残基220個について1つずつ網羅的に ヒスチジン置換した抗体を作製し,そのKD値を測定して置換位置を特定 する試験(以下「前半の試験」という。),及び2) 上記1)により所望のp H依存性を示す(有望であることないしpH依存的結合特性がもたらされ たことが判明した)場合に血中動態の試験(以下「後半の試験」という。) を行うことにより,本件発明1を実施することができると主張する(被告 主張ヒスチジンスキャニング)。 そこで検討するに,本件明細書の【0029】にはアラニンスキャニン グに関する記載があり,本件出願日当時,アミノ酸配列の各残基を1つず つアラニンに置換して各残基の役割を解析する手法としてアラニンスキャ ニングは技術常識であったと認められる(乙19〜23)。したがって, 本件明細書に接した当業者は技術常識に基づき,抗体の可変部位のアミノ 酸残基220個について1つずつ網羅的にヒスチジン置換をした抗体を作 製することは可能であるということができる。\n被告は,抗体を作製した後のヒスチジン置換位置の特定について,「所 望のpH依存性を示す(有望であること,ないし,pH依存的結合特性が もたらされたことが判明した)箇所」という基準により行うことを主張し ているが,本件明細書にはこのような記載はないし,本件明細書や証拠上 現れた技術常識によってもどのような基準に基づいてヒスチジン置換位置 を特定すれば,本件発明1に含まれる医薬組成物全体について実施するこ とができるのかが明らかではない。 このように,本件明細書には,被告主張ヒスチジンスキャニングによっ て,どのようにヒスチジン置換位置を特定するかの情報が不足しており, 本件明細書の発明の詳細な説明に,当業者が,明細書の発明の詳細な説明 の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要すること なく,本件発明1を実施することができる程度に発明の構成等の記載があ\nるということはできない。
イ 仮に,被告主張ヒスチジンスキャニングの前半の試験におけるヒスチジ ン置換位置の特定について,1)本件明細書の【0029】に記載された「変 異前と比較してKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が大きくなった」箇所,あるいは, 2)特許請求の範囲に記載された「所定のpH依存的結合特性を有する」箇 所を意味すると理解するとしても,次のとおり,このような被告主張ヒス チジンスキャニングにより本件発明1に係る医薬組成物全体を実施できる とはいえない。
(ア) 本件発明1の「少なくとも可変領域の1つのアミノ酸がヒスチジンで 置換され又は少なくとも可変領域に1つのヒスチジンが挿入されている ことを特徴とする」「抗体」は,複数のヒスチジン置換がされた抗体を含 むものであるところ,被告は,複数のヒスチジン置換がされた抗体のヒ スチジン置換位置の特定については,前半の試験により特定された単独 のヒスチジン置換位置を組み合わせれば足りると主張する。
(イ) そこで,被告の主張する単独の置換位置を組み合わせる方法により, 本件発明1の複数のヒスチジン置換がされた抗体における,ヒスチジン 置換位置を常に特定することができるかを検討する。 a 本件明細書には,本件発明1の,複数のヒスチジン置換がされたこ とを特徴とする,所定のpH依存的結合特性を有する抗体におけるヒ スチジン置換箇所について,必ず被告主張ヒスチジンスキャニングの 前半の試験により特定できることを示す記載は見当たらない。また, このことについての本件出願日当時の技術常識を示す的確な証拠もな い。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明に,複数のヒスチジン 置換がされた場合について実施することができる程度に発明の構成等\nの記載があるということはできない。

◆判決本文

関連事件です。いずれも同じように実施可能要件を満たしていないと判断されています。

◆平成30(行ケ)10044

◆平成30(行ケ)10045

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平成30(行ケ)10104  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年1月31日  知的財産高等裁判所

 記載不備(実施可能要件、サポート要件)、新規事項違反などの無効主張をしましたが、知財高裁は、無効理由なしとした審決を維持しました。\n
 ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明が,「断熱性に優れた発泡 積層シートを成形してなる容器において,端縁部での怪我を防止しつつ蓋体を強固 に止着させうる容器の提供」(【0009】)を「発明が解決しようとする課題」とし ていることが,当該課題に直面するに至った背景(【0002】〜【0007】)と ともに記載され,当該課題を解決するために容器に係る本件発明が備えている「解 決手段」が,【0010】に記載され,これにより,本件発明の容器が,「断熱性に 優れ,上面側に凹凸形状を形成させて熱可塑性樹脂フィルムの端縁を上下にジグザ グとなるように形成させることにより利用者の怪我などを抑制させ,下面側が平坦 に形成されていることから蓋体を外嵌させる際に強固な係合状態を形成できる」 (【0012】)という効果を奏し,上記課題を解決することが記載されているから, 本件明細書の発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題及びその解決手 段が記載されており,当業者は,その技術上の意義を理解することができる。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法施行規則24条の 2で定めるところにより,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十\n分に記載したものということができ,特許法36条4項1号に規定する要件を満た している。
イ(ア) 原告は,断熱性に優れた発泡積層シートを成形してなる容器におい て,その端縁部で指等を裂傷するといった怪我が生じること自体,本件明細書の発 明の詳細な説明には,客観的・科学的な証明や事実が一切記載されていないし,仮 に怪我が生じ得るとしても,本件発明における凹凸形状によればその怪我を防止で きることが,発明の詳細な説明において,何ら客観的・科学的な証明はされていな い旨主張する。 しかし,「断熱性に優れた発泡積層シートを成形してなる容器において,その端縁 部で指等を裂傷するといった怪我が生じること」については,発泡積層シートの熱 可塑性樹脂発泡シートや熱可塑性樹脂フィルムとしてどのような材料を用いたのか, 発泡積層シートが圧縮前はどの程度の厚みがあり圧縮後にどのような厚みとなった か(圧縮の程度),発泡積層シートの切断面の状態,発泡積層シートに対して指先等 がどのように接触するか(指を押し当てる強さ,指を移動させる方向・早さ等)に 応じて,怪我が生じる可能性があることは,当業者において,客観的・科学的な証明がなくとも容易に理解でき,「凹凸形状によればその怪我を防止できること」も,\n端縁部の上面側に形成する凹凸形状の形状に応じて指と端縁部の端面との接触面積 が異なる結果,怪我を防止することができることも,当業者において,客観的・科 学的な証明がなくとも容易に理解できるから,原告の上記主張には理由がない。
(イ) 原告は,1)「熱可塑性樹脂発泡シートと熱可塑性樹脂フィルムとの硬 さの差により,切断面(外側端面)に於いて硬い熱可塑性樹脂フィルムが柔らかい 熱可塑性樹脂発泡シートよりも外側に突き出た状態となり,且つ熱可塑性樹脂フィ ルムの切断面の形状が鋭利になりやすく,容器に触れた際に,硬いフィルムで指等 を裂傷する虞があり」(【0005】)との記載には根拠がない,2)「フィルム端縁で 指等を裂傷するという課題を解決するために,突出部の上下面にジグザグとなる凹 凸を形成させる」(【0007】)との記載は,特許文献3(甲21)に記載されてい る,それ自体で形状を維持できる程度の厚さ・硬さを有する薄手シートのみで構成\nされた容器に関するもので,本件発明が対象とする積層発泡シートの薄い樹脂フィ ルムとは異なると主張する。 しかし,上記1),2)については,前記(ア)のとおりであって,特許文献3(甲21) に記載されているのが薄手のシートの成形品で,本件発明が熱可塑性樹脂発泡シー トに非発泡の熱可塑性樹脂フィルムを積層した発泡積層シートの成形品であることをもって,前記(ア)の認定は左右されない。

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平成30(ワ)3018  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年11月29日  東京地方裁判所(46部)

 サポート要件などの無効理由なし、技術的範囲に属すると判断されました。
 前記(2)のとおり、本件各名作書には、本件参照抗体と競合する,PCSK 9−LDLR結合中和抗体を同定,取得するための,免疫プログラムの手順 及びスケジュールに従った免疫化マウスの作製方法,ハイブリドーマの作製 方法,スクリーニング方法及びエピトープビニングアッセイの方法等が記載 されている。そして,当該方法によれば,本件各明細書で具体的に開示され た以外の本件参照抗体と競合する抗体も得ることができるといえる。 そうすると,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範囲が,本件各\n明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1 若しくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限られる とはいえない。したがって,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範\n囲が本権各明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定のアミノ酸 の1もしくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限ら れることを前提として,本件各発明の技術的範囲が本件各明細書記載の具体 的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは数個のア ミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限定されるとの被告の主張 は採用することができない。
(4)また,被告は,1)本件各明細書では,本件参照抗体と競合する抗体であれ ば,PCSK9とLDLRの結合を中和することができるという技術思想を 読み取ることはできない,2)本件各明細書の実施例に記載された3グループ ないし2グループの抗体のみによって,本件参照抗体と競合する膨大な数の 抗体全てがPCSK9−LDLR結合中和抗体であるとはいえず,本件各明 細書には,本件参照抗体と競合する膨大な数の抗体がPCSK9−LDLR 結合中和抗体であることの根拠は全く示されていないと主張する。 しかしながら,前記 のとおり,本件各明細書には,本件参照抗体がP CSK9−LDLR結合中和抗体であること,本件参照抗体がPCSK9に 結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体,又は,本件参照抗体 とPCSK9との結合を立体的に妨害するような上記エピトープに隣接する エピトープに結合する抗体である,本件参照抗体と競合する抗体は,本件参 照抗体と類似した機能的特性を有すると予\想されることが記載されている。 そして,前記 のとおりのスクリーニング等によって得られた本件各明細書の表2記載の30の抗体(21B12参照抗体と31H4参照抗体を除く。)\nのうち,24の抗体はPCSK9−LDLR結合中和抗体であり,かつ,本 件参照抗体と競合する抗体であること,表37.1.のビン1(21B12\n参照抗体と競合し,31H4参照抗体と競合しない抗体)に属する19の抗 体のうち16個,ビン2(21B12参照抗体とも,31H4参照抗体とも 競合する抗体)に属する抗体のうち2個及びビン3(31H4参照抗体と競 合し,21B12参照抗体と競合しない抗体)に属する10の抗体のうちの 7個は,表2に記載された抗体であり,これら16個と2個と7個の抗体の\nうち,27B2抗体並びに21B12参照抗体及び31H4参照抗体を除く 少なくとも20個はPCSK9−LDLR結合中和抗体であることが記載さ れている。そうすると,本件各明細書には,特定のスクリーニング等を経て 得られた抗体のうち,本件参照抗体と競合する複数の抗体がPCSK9−LDLR結合中和抗体であることが示されているといえる。 なお,この点に関係し,被告は,本件参照抗体と競合する膨大な数の抗体 がPCSK9−LDLR結合中和抗体であることの根拠は全く示されていな いと主張するが,本件各明細書に記載された抗体以外に,本件参照抗体と競 合するがPCSK9−LDLR結合中和抗体ではない具体的な抗体が示され ているものではなく,また,本件参照抗体と競合する抗体中,PCSK9− LDLR結合中和抗体でないものの割合が大きいことも明らかではない。 さらに,被告は,本件参照抗体と競合する抗体は,PCSK9−LDLR 結合中和抗体であるとは限らないとも主張する。しかし,本件各発明は,P CSK9−LDLR結合中和抗体であることを構成要件とするものであるか\nら(構成要件1A,2A),上記のような例外的な抗体は本件各発明の技術\n的範囲に含まれない。
(5)証拠(甲5,7の1,2,甲8〜10)及び弁論の全趣旨によれば,本件 各発明について,被告が主張する限定的な解釈を採らない限り,被告モノク ローナル抗体は,本件発明1−1及び本件発明2−1の各構成要件を全て充\n足し,被告製品は,本件発明1−2及び本件発明2−2の各構成要件を全て\n充足すると認められるから,被告モノクローナル抗体は,本件発明1−1及 び本件発明2−1の技術的範囲に属し,被告製品は,本件発明1−2及び本 件発明2−2の技術的範囲に属すると認められる。なお,被告モノクローナ ル抗体は,本件訂正発明1-1及び本件訂正発明2−1の技術的範囲にも属 し,被告製品は,本件訂正発明1−2及び本件訂正発明2−2の技術的範囲 にも属すると認められる。

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平成30(行ケ)10080  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年1月24日  知的財産高等裁判所

 無効理由なしとした審決が維持されました。争点は、明確性、実施可能要件です。経緯が少しややこしいです。被告は本件特許の訂正を求めましたが、特許庁はこれを拒絶しました。被告が知財高裁へ取消を求めたところ、知財高裁はこの審決を取り消し、特許庁は訂正を認める審決をしました。訂正後の発明について、原告が別途無効審判を請求し、請求棄却審決の取消訴訟が本件です。
 イ 前記アの記載事項を総合すると,2次元コード読取装置の技術分野にお いては,本件出願当時(出願日平成9年10月27日),1)「周波数成分 比」とは,2次元コードマトリックスに配置された「位置決め用シンボル」 (パターン)の中心を横切る(通る)走査線における「白(明)」が連続 する長さと「黒(暗)」が連続する長さの比を意味すること,2)「位置決 め用シンボル」は,同心状に相似形の図形が重なり合う形に形成されてお り,その中心をあらゆる角度で通る走査線において同じ比率が得られるた め,「周波数成分比」は「所定」の比率であること,3)「所定の周波数成 分比」の「検出」とは,2次元コード読取装置の2次元画像検出手段から 出力される画像信号(走査線信号)を2値化した後の走査線信号中から, 周波数成分比検出回路によって「所定の周波数成分比」の信号の存在の有 無を検出する処理を意味することは,技術常識であったものと認められる。 ウ これに対し原告は,同一出願人が出願した発明に係る2件の公開特許公 報(甲5,18)のみから,本件出願当時の技術常識を認定することはで きない旨主張する。 しかしながら,甲5(公開日平成8年7月12日)及び甲18(公開日 平成7年10月3日)は,マトリックス型2次元コード(いわゆるQRコ ード)の構成及び読取装置の基本的技術に係る技術文献であるものと認め\nられるから,甲5及び18から,前記イの本件出願当時の技術常識を認定 することは妥当である。したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 明確性要件の適合性について
ア 構成Dの「所定の周波数成分比」について
(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の文言によれば,構成Dの\n「所定の周波数成分比」は,カメラ部制御装置において,読み取り対象 の画像を受光する光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づ いて2値化し,2値化された信号の中から検出され,その検出結果が出 力されるものであるが,請求項1には,「所定の周波数成分比」の値を 具体的に規定した記載はない。 次に,本件明細書(甲6,8,乙2の2)には,「所定の周波数成分 比」の語を定義した記載はない。一方で,本件明細書の記載事項(【0 029】ないし【0031】,図4)によれば,本件明細書には,実施 例として,2次元コード読取装置のCCDエリアセンサ41が撮像した 2次元画像を水平方向の走査線信号として出力し,カメラ部制御装置5 0において,これをAGCアンプ52及び補助アンプ56によって増幅 し,増幅された走査線信号は2値化回路57によって閾値に基づいて2 値化され,周波数分析器58は2値化された走査線信号の内から「所定 の周波数成分比」を検出し,その検出結果を画像メモリコントローラ6 1に出力することの開示があることが認められる。 以上の本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の文言,本件明細書の 開示事項及び2次元コード読取装置の技術分野における本件出願当時の技術常識(前記(2)イ)に鑑みると,本件発明の構成Dの「所定の周波数\n成分比」は,上記技術常識における用語と同義であるものと認められる から,読み取り対象の画像(2次元コードマトリックス)に配置された 「位置決め用シンボル」(パターン)の中心を横切る(通る)走査線に おける「白(明)」が連続する長さと「黒(暗)」が連続する長さの比 (「位置決め用シンボル」の中心を通るあらゆる走査線における同一の 比率)を意味するものと解される。 したがって,本件発明の構成Dの「所定の周波数成分比」の内容は明\n確である。
(イ) これに対し原告は,構成Dの「周波数成分比」との文言は一般的な\n用語ではなく,本件明細書にも,「周波数分析器58は,2値化された 走査線信号の内から所定の周波数成分比を検出し」との記載(【003 1】)があるのみで,いかなるものが「所定の周波数成分比」であるの か何ら説明がないから,構成Dの「所定の周波数成分比」の記載は,明\n確であるとはいえない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)認定のとおり,本件出願当時の技術常識を踏 まえると,構成Dの「所定の周波数成分比」の内容は明確であるといえ\nるから,原告の上記主張は理由がない。
イ 構成Fの「相対的に長く設定し」に(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の構成Fの記載は,「前記\n読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズ に入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサ から射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」というものである。 上記記載から,「光学的センサから射出瞳位置までの距離」を「相対的 に長く設定」することは,「読み取り対象からの反射光が絞りを通過し た後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置すること」の結果として 得られるものであることを理解することができる。 また,本件明細書には,光学的センサから射出瞳までの距離(射出瞳 距離)は,光学的センサから絞りまでの光学的距離が長くなれば,それ に伴って長くなるところ,従来の光学情報読取装置では,複数の結像レ ンズ間に絞りが配置されていたものを,「本発明」では,読取り対象か らの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう絞りを配置 する構成を採用したことにより,光学的センサから射出瞳位置までの距離(射出瞳距離)を相対的に長く設定することができること(【000\n9】,【0040】,【0041】,図6)の開示があることが認めら れる。 以上の本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の文言及び本件明細書 の開示事項に鑑みると,本件発明の構成Fの「相対的に長く設定し」と\nは,絞りの配置が「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過し た後で前記結像レンズに入射するよう」配置されたものではないものと 比較して,光学的センサから「射出瞳位置までの距離」を「長く設定」 することを意味するものと解される。 したがって,本件発明の構成Fの「相対的に長く設定し」の内容は明\n確である。
(イ) これに対し原告は,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)におい て,「相対的に」の基準が明確でないため,「相対的に長く設定し」の 記載からは,射出瞳位置までの距離がどのように設定されていることを 意味するのか,どのようなものが本件発明の技術的範囲に含まれるのか を理解することができないから,構成Fの「相対的に長く設定し」の記\n載は,明確であるとはいえない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)の認定事実によれば,「相対的に」の基準と なる比較の対象は,絞りの配置が「前記読み取り対象からの反射光が前 記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう」配置されたもの ではない構成のものにおける射出瞳距離を意味することは明らかである\nから,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
ウ 構成Gの「所定値」について
(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,構成Gの「前記光学\n的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的 センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上」にお ける「所定値」の値について具体的に規定した記載はない。 一方で,請求項1における「前記読み取り対象からの反射光が前記絞 りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置する ことによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に 長く設定し,」(構成F),「前記光学的センサの中心部に位置する受\n光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素 子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定し て,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が 可能となるようにしたこと」(構\成G)の記載によれば,本件発明にお いては,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前 記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置すること」によって「射 出瞳位置を設定」することが前提とされていることを理解することがで きる。 また,本件明細書には,構成Gの「所定値」に関し,「最終的には適\n切な読み取りを実現することが目的であるので,本発明の光学情報読取 装置においては,光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力 に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所 定値以上となるように,射出瞳位置を設定している。このようにしてお けば,中央部と周辺部の出力差を考慮しながら,例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても周辺部に おいても適切に読取が可能となる。」(【0011】),「適切な読み\n取りを実現するためには,センサ周辺部にある受光素子41aからの出 力レベルが所定レベル以上になる必要がある。そのため,例えば,セン サ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対するセンサ周辺部に 位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上となるよう射出瞳 位置を設定することが考えられる。つまり,このような射出瞳位置とな るように絞り34aの位置を設定するのである。このようにしておけば, 中央部と周辺部の出力差を考慮しながら,例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても周辺部において も適切に読取が可能となる。」(【0042】)との記載がある。\n以上の本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の文言及び本件明細書 の記載に鑑みると,構成Gは,「前記読み取り対象からの反射光が前記\n絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置す ること」によって「射出瞳位置を設定」することを前提とした上で,「露 光時間などの調整」により,「光学的センサの中心部においても周辺部 においても読取が可能となるように」すること,すなわち,光学的セン\nサの中心部に位置する受光素子から得られた信号を2値化するために用 いられる閾値に基づいて,光学的センサの周辺部に位置する受光素子か ら得られた信号を2値化することが可能であるような強さの光を,周辺\n部に位置する受光素子が受光できるように,射出瞳位置を設定すること を特定したものであることが認められる。 そうすると,構成Gの「所定値」とは,「露光時間」の「調整」など\n読取りに際して所与の調整を行うことにより,「光学的センサの中心部 においても周辺部においても適切に読取が可能となる」位置に射出瞳位\n置を設定することによって特定される「前記光学的センサの中心部に位 置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比」の値を意味するものと解される。 したがって,本件発明の構成Gの「所定値」の内容は明確である。
(イ) これに対し原告は,構成Gの「所定値」については,本件発明の特\n許請求の範囲(請求項1)に規定がなく,本件明細書にも,それがいか なる値を意味するのかの手掛かりとなる記載がないため,本件明細書に 接した当業者は,「所定値」がいかなる値であれば本件発明の課題が解 決されるのかを理解することができないし,また,中心部に位置する受 光素子からの出力信号を2値化するために用いられる「閾値」は明らか にされておらず,「所定値」の値は,特許請求の範囲の記載から一義的 に定まるものではないから,構成Gの「所定値」の記載は,明確であるとはいえない旨主張する。\nしかしながら,構成Gの「所定値」とは,あらかじめ一律に定められ\nた特定の数値をいうものではなく,「露光時間」の「調整」など読取り に際して所与の調整を行うことにより,「光学的センサの中心部におい ても周辺部においても適切に読取が可能となる」位置に射出瞳位置を設\n定することによって特定される「前記光学的センサの中心部に位置する 受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光 素子からの出力の比」の値を意味するものであることは,前記(ア)認定 のとおりである。 また,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前 記結像レンズに入射するよう」絞りの配置をする際に,「露光時間」の 「調整」など読取りに際して所与の調整を行うことにより,「光学的セ ンサの中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる」位\n置に射出瞳位置を設定することは,当業者が適宜考慮して定める設計的 事項であるというべきであるから,請求項1に「所定値」の具体的な値が記載されていないからといって,構成Gの「所定値」の内容が明確で\nないとはいえない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
・・・
(1) 実施可能要件の適合性について
ア 「所定の周波数成分比」の記載を含む構成Dについて
原告は,構成Dの「所定の周波数成分比」の記載が明確でなく,また,\n本件明細書には,「所定の周波数成分比」の「検出」の実現方法について も何ら記載されていないから,当業者は,本件明細書に基づいて,本件発 明を実施することができない旨主張する。 しかしながら,構成Dの「所定の周波数成分比」の内容が明確であるこ\nと,本件明細書には,実施例として,2次元コード読取装置のCCDエリ アセンサ41が撮像した2次元画像を水平方向の走査線信号として出力し, カメラ部制御装置50において,これをAGCアンプ52及び補助アンプ 56によって増幅し,増幅された走査線信号は2値化回路57によって閾 値に基づいて2値化され,周波数分析器58は2値化された走査線信号の 内から「所定の周波数成分比」を検出し,その検出結果を画像メモリコン トローラ61に出力することの開示があることは,前記1(3)ア(ア)認定の とおりである。 また,2次元コード読取装置の技術分野において,「所定の周波数成分 比」の「検出」とは,2次元コード読取装置の2次元画像検出手段から出 力される画像信号(走査線信号)を2値化した後の走査線信号中から,周 波数成分比検出回路によって「所定の周波数成分比」の信号の存在の有無を検出する処理を意味することが,本件出願当時,技術常識であったこと は,前記1(2)イ認定のとおりである。 そうすると,当業者は,本件明細書の記載及び本件出願当時の技術常識 に基づいて,「所定の周波数成分比」の記載を含む構成Dを実施できたも\nのと認められるから,原告の上記主張は理由がない。
イ 「相対的に長く設定し」の記載を含む構成Fについて
原告は,構成Fの「相対的に長く設定し」との記載が明確でなく,また,\n当業者は,本件明細書から,射出瞳位置をどのように設定すれば「相対的 に長く設定」することができるのかを理解することができないから,本件 明細書に基づいて,本件発明を実施することができない旨主張する。 しかしながら,構成Fの「相対的に長く設定し」の内容が明確であるこ\nと,本件明細書には,光学的センサから射出瞳までの距離(射出瞳距離) は,光学的センサから絞りまでの光学的距離が長くなれば,それに伴って 長くなるところ,従来の光学情報読取装置では,複数の結像レンズ間に絞 りが配置されていたものを,「本発明」では,読取り対象からの反射光が 絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう絞りを配置する構成を採用\nしたことにより,光学的センサから射出瞳位置までの距離(射出瞳距離) を相対的に長く設定することができることの開示があることは,前記1(3) イ(ア)認定のとおりである。 そうすると,当業者は,本件明細書の記載に基づいて,「相対的に長く 設定し」の記載を含む構成Fを実施できたものと認められるから,原告の\n上記主張は理由がない。
ウ 「所定値」の記載を含む構成Gについて
原告は,構成Gの「所定値」の記載が明確でなく,また,当業者は,「所\n定値」がどのようなものであるかを理解することができない以上,構成G\nの「所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定」することもできな いから,本件明細書に基づいて,本件発明を実施することができない旨主 張する。しかしながら,構成Gの「所定値」の内容が明確であることは,前記1\n(3)ウ(ア)認定のとおりである。 そして,本件明細書の【0011】及び【0042】の記載に加えて, 「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レン ズに入射するよう」絞りの配置をする際に,「露光時間」の「調整」など 読取りに際して所与の調整を行うことにより,「光学的センサの中心部に おいても周辺部においても適切に読取が可能となる」位置に射出瞳位置を\n設定することは,当業者が適宜考慮して定める設計的事項であること(前 記1(3)ウ(イ))からすると,当業者は,本件明細書の記載に基づいて,「所 定値」の記載を含む構成Gを実施できたものと認められるから,原告の上\n記主張は理由がない。

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元の訂正審決の取消訴訟はこちらです。

◆平成25(行ケ)10115

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平成29(行ケ)10191  審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成30年10月29日  知的財産高等裁判所

 審決は、記載不備(明確性、サポート要件、実施可能要件)と判断しましたが、知財高裁(2部)は、これを取り消しました。
 イ(ア) 本願明細書には,前記(1)イのとおり,中間水について,少なくとも− 40度付近の温度において,規則化(コールドクリスタリゼーション)する傾向を 強く有するものと推察されること,規則化する強い傾向の存在により,不規則な状 態で凝固した状態からの加熱において,−40度付近で規則化に伴う発熱がみられ ること,規則化に伴う発熱量は,規則化を生じている水の量,すなわち,中間水の 量に比例するものと推察されることが記載されている。 (イ) 前記(1)ウの甲1〜5の記載によると,中間水の量(Wfb)は,次の式 のとおり,低温結晶化した水におけるエンタルピー変化量(ΔHcc)と,水の融解熱 (Cp)から得ることができることが理解される。
Wfb=ΔHcc/Cp
この式を変形すると,ΔHcc=Cp×Wfb となり,低温結晶化した水におけるエン タルピー変化量(ΔHcc),すなわち,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量 は,比例定数を Cp として,中間水の量(Wfb)に比例するといえる。 このことも,前記アと同様の理由により,日本バイオマテリアル学会の構成員や\n関係者には,平成21年の時点において,知られていたと認められるのであって, 本願明細書に記載された内容の「中間水」の量の計算方法は,本願出願時において, 当業者の技術常識になっていたと認められることができるというべきである。 そして,Cp は,純水の融解熱と等しいと考えられ,純水の融解熱が 334J / g であ ることも,前記ウの甲2及び甲4の記載並びに証拠(甲11)及び弁論の全趣旨に よると,当業者の技術常識であったと認められる。 したがって,当業者は,中間水の量の算出方法については,本願明細書の記載及 び本願出願時の技術常識に基づいて明確に理解することができたというべきである。
(3)ア 被告は,本願明細書から,「コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量 は,中間水の量に比例するものと推察される。」という認定aだけではなく,「中間 水の量は,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱ピークの挙動(コールドクリ スタリゼーションに伴う発熱量は含水量の増加に伴って増加するが,ある含水量以 上では変化しなくなること)と,全含水量とから求めることができる。」という認定 b及び「中間水の量は,各含水量におけるコールドクリスタリゼーションに伴う発 熱量と0度付近の吸熱量の関係から中間水の最大量を求めてW0(試料の乾燥重量) で除することにより求められる。」という認定cも認定できるところ,これらの認定 が共存するため,本願明細書から,当業者が中間水の量をどのように算出したらよ いのか明確に理解することはできない旨主張する。 認定bは,前記(1)イ(イ)b(b)の本願明細書の記載に基づくものであり,認定cは, 前記(1)イ(イ)b(c)の本願明細書の記載に基づくものであるが,いずれも,中間水の量 を求める方法についての具体的な内容の説明はされていない。 一方,認定aは,前記(1)イ(イ)b(a)の本願明細書の記載に基づくものであるが,前 記(2)イのとおり,上記記載を含む本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から, 中間水の量の算出方法を明確に理解することができる。 そうすると,当業者は,本願明細書に前記(1)イ(イ)b(b)及び(c)の記載があるからと いって,本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から明確に理解できる中間水 の算出方法を理解できなくなるというものではないというべきである。 イ 被告は,当業者は,発明の詳細な説明の記載に基づき,中間水のコール ドクリスタリゼーションは通常の水の凍結とは異なる相転移であると理解されるか ら,中間水のコールドクリスタリゼーションの単位潜熱(中間水の量を算出するた めの比例定数)は,通常の水の凍結の場合の単位凝固潜熱334J/gとは異なる 値であると考えるのが自然である旨主張する。 しかし,前記(2)イのとおり,比例定数(Cp)は,純水の融解熱に等しいと考えら れている。本願明細書に記載されたPMEAのコールドクリスタリゼーションに伴 う発熱量の最大値を中間水量で除した値が313J/gであるとしても,純水の融 解熱が334J/gであることは,当業者の技術常識である以上,当業者は,31 3J/gの方が誤差を含む数値であると考えるのか通常であると解されるのであっ て,このことにより,当業者が,中間水のコールドクリスタリゼーションの単位潜 熱(中間水の量を算出するための比例定数)が,純水の単位凝固潜熱334J/g とは異なる値であると考えるとはいい難い。 ウ 被告は,甲1〜5は,本願発明者やその共同研究者による文献であり, 中間水の概念は,本願発明者らの研究グループが独自に提唱したもので,本願発明 者らの研究グループ以外の当業者に,本願出願時までに広く知れ渡り,技術常識に なっていたことを示す証拠はない旨主張する。 「中間水」の概念が本願発明者であるAにより構築されたことは,前記(2)アのと おりであるが,前記(2)ア,イのとおり,「中間水」の概念及びその量の算出方法は当 業者の技術常識となったことが認められる。
エ 被告は,甲5は本願明細書で引用したものではなく,仮に当業者が甲5 を本願明細書の記載から探し当てることができたとしても,その記載内容が実質的 に発明の詳細な説明に記載されたに等しいものであるということはできない旨主張 する。
しかし,本願明細書の【0007】には【先行技術文献】として,「【非特許文献 1】バイオマテリアル 28−1,2010」と記載されているから,当業者であれ ば,これは,バイオマテリアルという雑誌の28巻1号(出版年2010年)とい うものであると理解する。そして,甲5は,その雑誌のその号に掲載されている。 しかも,上記の「非特許文献1」は,本願明細書の【0013】においても,「所定 量の水を含水した水和性組成物を一旦十分に冷却し,その後に比較的ゆっくりした\n速度で加熱した場合に,0℃以下の特定の温度域において所定の発熱を生じると共 に,−10度近辺から0度までの広い温度範囲において吸熱が観察されることが明 らかにされている(例えば,非特許文献1等を参照)。」という形で引用されている。 そうすると,当業者は,本願明細書の記載から,容易に甲5に行き着くものと考え られるから,甲5は本願の発明の詳細な説明【0007】で引用されたものである と認められる。
そして,甲5が,「中間水」の概念及びその量の算出方法が当業者の技術常識とな ったことを裏付け得るものであることは,前記(2)ア,イのとおりである。 オ 被告は,本願発明の「中間水の量が1wt%以上,且つ30wt%以下」 がどの時点の中間水の量を意味するかについて,発明の詳細な説明に,発熱量が最 大値になる含水量の場合と飽和含水になった時点での含水量の場合という,相異な る二通りの記載があるから,本願発明の技術的範囲が定まらない旨主張する。 しかし,前記(2)イのとおり,当業者は,本願明細書の記載及び出願当時の技術常 識に基づいて,中間水の量は,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量と水の 融解熱から得ることができることが理解されるから,当業者が本願補正発明を実施 するに当たり,水和性組成物について,発熱量が最大値の中間水の量と,飽和含水 になった時点の中間水の量の二通りが記載されているとしても,水和性組成物の中 間水の量は,含水量にかかわらず,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量と 水の融解熱から一義的に決まるものであって,本願補正発明の技術的範囲が定まら ないということはできない。
・・・
本件審決は,当業者が本願出願時の技術常識に照らしても本願明細書の記載から 中間水の量の算出方法を理解することができないから,表2に中間水量が記載され\nた具体的な組成物以外のものについては課題が解決できると認識することはできな い旨判断したが,当業者が本願出願時の技術常識に照らして本願明細書の記載から 中間水の量の算出方法を理解することができることは,前記2のとおりであるから, 本件審決のサポート要件の有無の判断は,前提を欠き,誤りがある。
4 取消事由3(実施可能要件違反)について
本件審決は,当業者が本願出願時の技術常識に照らしても本願明細書の記載から 中間水の量の算出方法を理解することができないから,本願補正発明1及び4を当

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平成29(行ケ)10113  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年10月25日  知的財産高等裁判所

 記載不備(明確性、サポート要件、実施可能要件)の無効理由無しとした審決が維持されました。
 特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確 でない場合に,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となることによ り生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで,特許を受 けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず, 願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時にお ける技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不 利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものと解 される。
(3)ア そこで検討するに,本件明細書には,泡に関し,「本明細書で用いられ る「泡」は,混合されて,可変長の時間持続する構造を有する小さい気泡\nのマスを形成する液体及び気体を意味する。」(【0036】),「気泡 は,液体のフィルムで取り囲まれた気体のセルである。」(【0037】) との定義が記載されている。また,本件発明の発泡性組成物の作用効果に 関し,本件発明の組成物は,発泡性であるために,適用された部分に留ま ることができ(【0015】),表面上に容易に広がる泡として分配でき\nる(【0018】)ものであって,空気と混合されるときに安定な泡を与 え,この泡は,個人的洗浄用又は消毒目的のために使用でき,例えばユー ザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れること(【0\n041】),本発明の重要かつ驚くべき成果は,消毒に適する組成物が40% v/vより多量のアルコールを含有すること,そして低圧容器及びエアゾール 包装容器の両者から化粧品として魅力的な泡として分配され得ること(【0 044】)がそれぞれ記載されている。
イ この点に関連して,泡に関する技術常識についてみると,「入門講座 泡 の化学」と題する論文(オレオサイエンス第1巻第8号。2001年発行。 甲12)には,「深い井戸からくみ上げた水に生ずる泡はきわめて微小な 気泡が多数水中に分散している。このように気体が液体または固体に包ま れた状態を気泡(Bubble)という。泡は各種界面活性物質,または界面活 性剤の気・液界面への吸着によって起こる現象であって,洗濯時の洗濯機 の中の液やビールの泡のようにこれが多数集まって薄膜を隔てて密接に存 在するものを泡沫(Foam)と呼ぶ。気泡と泡沫の区別は形態的であるが前 者はただ一つの界面を有するのに対し,後者は2つの界面を有する。」(8 63頁左欄)との記載がある。 この論文の公開時期に鑑みれば,泡には,形態的に区別される気泡と泡 沫とがあり,気泡(Bubble)は,気体が液体又は固体に包まれた状態を指 し,ただ1つの界面を有するのに対し,泡沫(Foam)は,気泡が多数集ま って薄膜を隔てて密接に存在し,2つの界面を有するものであることは, 親出願の出願日当時における当業者の技術常識であったと認められる。
ウ 以上のとおり,上記アに摘示した本件明細書に記載された定義と,本件 発明における泡の作用効果に関する記載からすると,本件発明における「泡」 との語は,上記イ記載の泡沫を意味するものであることは明らかである。 そして,本件明細書の記載及び親出願の出願日当時における当業者の技 術的常識を基礎とすると,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載が,第 三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(4) 原告の主張について
原告は,本件明細書の段落【0036】における1)「可変長の時間持続す る構造」が表\す時間の長さ,2)「構造」とは,気泡と気泡のマスのいずれを\n指すのか,3)「小さい気泡」とは,何と比較して小さいのか,がいずれも不 明であるから,請求項1の記載が不明確であると主張する。 しかし,上記(3)において説示したとおり,当業者は,本件発明における「泡」 との語が泡沫を意味すること,泡沫とは,気泡が多数集まって薄膜を隔てて 密接に存在するものであるから,これはすなわち気泡のマスであること,そ して,本件明細書の段落【0036】における「構造」とは気泡のマスであ\nることをそれぞれ理解できるというべきである。 また,当該段落の「可変長の時間持続する」との語については,本件発明 の組成物が発泡性組成物であることによる作用効果に関する本件明細書の記 載からすると,本件発明の組成物は,適用された部分に留まることができ, かつ,表面上に容易に広がる泡として分配できるものであって,例えばユー\nザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れる程度の安定\n性を有するほどに,泡の持続時間が様々であることと理解できる。 さらに,「小さい」との語についても,上記本件明細書における本件発明 の作用効果に関する記載に照らせば,化粧品として魅力的な泡といえる程度 の大きさをいうものと解するのが相当である。 したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。

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平成29(行ケ)10045  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月18日  知的財産高等裁判所

 異議申立について応答せずに取消決定がなされました。これに対する取消訴訟です。\n知財高裁は、実施可能要件違反、サポート要件違反として異議決定を維持しました。なお、審決書に理由が記載されていなかったことは、取消理由通知に対する応答がなかったという特殊性もあり、実質問題なしと判断されました。\n
ア 実施可能要件適合性について
(ア) 原告は,「当業者が,エピトープについて具体的に特定する記載がな い本件明細書の記載に基づいて,エピトープを決定してLRP6結合分 子を得るためには,過剰な実験を行う必要がある。」との本件異議申立\n書記載の主張に対し,本件明細書には,LRP6に関連するエピトープ が示されており,当業者であれば,本件特許の優先日当時に利用可能な\n技術を用いることにより,インビトロで,エピトープを含む特定のペプ チド(すなわち,プロペラ1領域又はプロペラ3領域のアミノ酸配列) に結合する本件発明の候補となるLRP6抗体を十分な数で特定するこ\nとができ,また,本件明細書の記載及び本件特許の優先日当時の周知技 術を用いることにより,製造された結合分子の結合性及び活性を調べ, その有用性を確認することができたと主張する。 (イ) 検討 a 物の発明について,明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要\n件に適合するというためには,当業者が,明細書及び図面の記載並び に出願時の技術常識に基づいて,その物を生産でき,かつ,使用する ことができるように具体的に記載されていることが必要であると解す るのが相当である。
b 本件明細書の記載について
上記1(2)において認定したとおり,本件明細書には,本件発明に係 るLRP6結合分子のLRP6上の結合部分や結合によるWntリガ ンドの結合阻害についての説明(【0015】,【0033】等)と ともに,実施例1には,優先的にWnt1又はWnt3a誘導Wnt シグナル伝達を阻害する抗LRP6アンタゴニストFabs(実験時 のプライベートネームであるFab003,Fab004,Fab0 15など7つのFabで記載)が同定された旨が記載されている(【0 226】〜【0228】)。 しかし,本件明細書には,上記各Fabがいかなる抗原結合部分を 含んでいるのか,すなわち,抗原結合部分やそれが認識するエピトー プがいかなるアミノ酸配列等によって特定されるのかについて,これ を具体的に示す記載はなく,その手掛かりとなる記載も見当たらない。 また,実験結果が記載されていたと推測される図は,全て欠落してい る。
c 本件発明1〜22,31〜33は特定のアミノ酸配列の抗原結合部 分を含むLRP6結合分子,すなわち化学物質の発明である。そして, 上記bにおいて説示したとおり,本件明細書の記載から,実施例で得 られた各Fabのアミノ酸配列等の化学構造や認識するエピトープを\n把握することはできない。また,本件明細書には,Wnt1特異的等 の機能的な限定に対応する具体的な化学構\造等に関する技術情報も記 載されていない。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明におけ る他の記載及び本件特許の出願時の技術常識を考慮しても,特許請求 の範囲に規定されている300程度のアミノ酸の配列に基づき,Wn t1に特異的である等の機能を有するLRP6結合分子を得るために\nは,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要があると認 めるのが相当である。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,本件明 細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,本件発明に 係る物を生産でき,かつ,使用することができるように具体的に記載 されているとはいえない。
(ウ) 原告の主張について
a 原告は,特定のエピトープに対応する抗原結合部分を有する抗体は, 汎用のファージディスプレイ法により取得することができるから,本 件発明に係る結合分子を得るために,当業者が期待し得る程度を超え る試行錯誤は要しないし,本件明細書記載の機能アッセイにより得ら\nれた抗体の機能(Wnt特異性)についても,当業者は容易に確認す\nることができると主張する。 確かに,原告が主張する技術は,いずれも本件発明が属する技術分 野における一般的な技術である,抗体類の製造方法やリガンド・受容 体の結合アッセイ法であって,例えば,抗原又はエピトープが特定さ れている場合に,ファージディスプレイ法等の周知の技術を適用する ことによって,それに対応する抗体が得られることは技術常識である といえる(この点,当事者間に争いはない)。しかし,本件発明に係 る「モノクローナル抗体の抗原結合部分がWnt1特異的であり,優 先的にWnt1誘導シグナル伝達経路を阻害するが,Wnt3a誘導 シグナル伝達経路を阻害しない」「LRP6結合分子」を生産するた めには,まず,本件発明に係るLRP6の第1又は第3プロペラに相 当するそれぞれ300程度のアミノ酸の配列から,本件発明に係る特 異性を満たすエピトープになり得ると予想される特定の塩基配列を選\n定した上で,ファージディスプレイ法などの周知の手法によってそれ らに対応する化学構造(アミノ酸配列)を有するペプチド(すなわち\nFab)を取得し,得られた多数のFabの中から,「Wnt1特異 的であり,優先的にWnt1誘導シグナル伝達経路を阻害するが,W nt3a誘導シグナル伝達経路を阻害しない」との機能を有するFa\nbを特定することが必要である。 これに対し,本件明細書には,本件発明に係る特異性を満たすエピ トープとなり得ると予想される特定の塩基配列の具体的な選定方法に\nついて何ら記載がないから,本件明細書に基づいて本件発明のLRP 6結合分子を得ようとする当業者は,結局,発明者が本件発明を発明 した際に行ったのと同程度の試行錯誤をしなければならないところ, これは当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を強いるものという べきである。
すなわち,エピトープを特定すれば,それに対応する抗体は周知の 手法により得ることができるとはいえるものの,本件明細書には,そ のエピトープについて,具体的なアミノ酸配列等のその構造に関する\n技術的特徴が実施例として開示されておらず,また,本件明細書にお ける他の記載及び出願時の技術常識に基づいても,エピトープ又はそ れに対応する抗体結合部分の具体的構造等を特定することができない\n以上,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて本 件発明に係る結合分子を容易に生産することができるとはいえない。
・・・
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請 求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範 囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明 の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認 識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも 当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認 識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解する のが相当である。
b これを本件についてみると,本件発明1の技術的特徴は,原告が主 張するとおり,特定のWntとLRP6におけるその特定の結合部位 との関係(例えば,Wnt1の結合部位はプロペラ1の領域であるこ と等)を有し,具体的な抗原結合部分(Fab)を備える「Wnt1 アンタゴニスト抗体」及び「Wnt3aアンタゴニスト抗体」にある と認められる。そして,特許請求の範囲に記載されているとおり,「抗 原結合部分が,配列番号:1のアミノ酸20−326;または…のい ずれかに含まれるか,またはいずれかと重複しているヒトLRP6(配 列番号:1)のエピトープに結合し」,「モノクローナル抗体の抗原 結合部分がWnt1特異的であり,優先的にWnt1誘導シグナル伝 達経路を阻害するが,Wnt3a誘導シグナル伝達経路を阻害しない」 等の主として機能によって特定される広範な化学物質の発明について\n特許を受けようとするものである。
一方,上記ア(イ)bにおいて説示したとおり,本件明細書には,具 体的な抗体の抗原結合断片Fabを得たことをうかがわせるプライベ ート番号(Fab003,Fab015など)が記載されているもの の,それらの具体的なFabの構造(アミノ酸配列)も,当該抗原結\n合断片が認識するエピトープ(LRP6中の数個のアミノ酸配列)も 記載されていない(なお,上記のとおり,実験結果が記載されていた と推測される図が全て欠落しているため,これらのFabが有する詳 細な機能・特性の検証自体が事実上不可能\である。)。そして,特許 請求の範囲には,「モノクローナル抗体の抗原結合部分がWnt1特 異的であり,優先的にWnt1誘導シグナル伝達経路を阻害するが, Wnt3a誘導シグナル伝達経路を阻害しない」という機能的な特徴\nを有することが記載されているものの,これらの機能と得られたFa\nbの構造上の特徴等を関連づける情報も何ら記載されていない。\n
そうすると,本件発明1について,特許請求の範囲に記載された発 明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記 載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のも のであるとも,また,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の 課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。 このことは,本件発明2〜22,31〜33についても同様である。
・・・
そこで検討するに,特許異議の申立てについての決定には,決定の結論及\nび理由を記載しなければならない(特許法120条の6第1項4号)。 この点に関連して,特許法157条2項4号は,審決をする場合には審決 書に理由を記載しなければならないと定めている。この趣旨は,審判官の判 断の慎重,合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること, 当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与 えること及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることにあ るというべきであり,したがって,審決書に記載すべき理由としては,当該 発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術上の常識又は 技術水準とされる事実などこれらの者にとって顕著な事実について判断を示 す場合であるなど特段の事由がない限り,前示のような審判における最終的 な判断として,その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示 することを要するものと解するのが相当である(最高裁昭和59年3月13 日第三小法廷判決・集民141号339頁)ところ,このことは特許異議の 申立てに係る決定についても同様と解される。\n
(3) 本件についてみると,上記第2の5において認定したとおり,本件取消決 定に係る決定書そのものには,結論に至った具体的な判断過程も,その根拠 となるべき証拠による認定事実も何ら記載されていない。 しかし,当該決定書には,「平成28年5月13日付けで取消理由を通知 し」,「上記の取消理由は妥当なものと認められる」との記載がされており, 本件取消理由通知書には,取消理由の要旨と,詳細については本件異議申立\n書を参照のこととの記載がされ,本件異議申立書には,本件特許が取り消さ\nれるべきであることについての理由が,証拠を具体的に摘示して,詳細に記 載されているのであるから,本件異議申立書,本件取消理由通知書及び本件\n取消決定に係る決定書の全体をみれば,当該決定書の記載が,審決の公正を 保障し,当事者が決定に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに 便宜を与え,決定の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にするという趣 旨に反するものとはいえない。また,本件異議申立手続において,被告が本\n件取消理由通知をしたのに対し,原告が応答をしなかったという経緯も踏ま えれば,本件取消決定に係る決定書そのものに,結論に至った具体的な判断 過程や,その根拠となるべき証拠による認定事実が何ら記載されていないと しても,上記の結論に変わりはないものというべきである。

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平成29(行ケ)10143  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年7月5日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件およびサポート要件に違反するとした無効審決が維持されました。\n
 ところで,本件訂正発明のような有機アンモニウム化合物を含有するレジ スト除去・洗浄剤では,レジスト除去は塩基の作用によるものであって,塩 基の濃度が高い,あるいは,pHが高いほど,その除去作用が強いという傾向 にあることは当業者における技術常識である(弁論の全趣旨)。また,回路 に用いられる代表的な導電性金属である銅やアルミニウムの腐食性が,接触\nする組成物・溶液の種類とそのpHに依存することも,当業者における技術常 識であり,例えば,アルミニウムは,接触する溶液の種類によるものの, pH が12以上で不安定化する傾向にあることは周知の技術常識である(甲48)。
これらの技術常識に照らせば,当業者は,一般論として,塩基の濃度とpH を調整することにより,レジスト除去に代表されるポリマー,エッチング・\nアッシング残渣の除去作用の強弱と,回路材料である金属の腐食作用の強弱 とを変化させることが可能であると一応理解できるというべきである。さら\nに,当業者は,本件明細書の段落【0089】の記載から,レジスト除去を より高温で,より長時間行うと,より完全となる傾向があることも理解する ことができる。 しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,実際のpHが明らかにされた 具体的な組成物の記載は一切存在しないし(例えば,W3,W11〜W13 はpH<7,W5及びW6はpH>12であることが記載されているものの,具体的に pHがいかなる値であったのかは明らかでない。),上記(3)において説示した とおり,訂正後発明1に係る成分を含有し,基板からのポリマー,エッチン グ・アッシング残渣除去と金属で形成された回路の損傷量を許容し得る範囲 に抑えることが両立している具体的な組成物の例も記載されていない。 また,本件明細書に記載されているその余の組成物についても,基板から のポリマー,エッチング・アッシング残渣の除去作用と回路材料である金属 の腐食作用の各程度を,同一の組成物について具体的に評価した例は発明の 詳細な説明に記載されておらず,実際のpHの値が具体的に明らかにされた組 成物すら記載されていない。
(5) 以上検討したところによれば,本件明細書に接した当業者は,塩基の濃度 及びpHと,基板からのポリマー,エッチング・アッシング残渣の除去作用, 及び回路材料である金属の腐食作用との間に関係性があるとの技術常識を考 慮して,pHを調整することにより,ポリマー,エッチング・アッシング残渣 の除去と金属で形成された回路の損傷量を許容し得る範囲に抑えることの両 立が可能であることを一応理解できるとはいえるものの,反面,本件明細書\nの発明の詳細な説明においては,当該調整の出発点となるべき具体的組成物 の実際のpHの値が一切明らかにされていない上,基板からのポリマー,エッ チング・アッシング残渣の除去作用と回路材料である金属の腐食作用との関 係において,どの程度のpHの調整が必要であるのかについての具体的な情報 が余りにも不足しているといわざるを得ない。そのため,当業者が,本件明 細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,本件訂正発明に係る組成物を生 産しようとする場合,具体的に使用するレジストや回路材料等を念頭に置い て,基板からのポリマー,エッチング・アッシング残渣の除去と回路の損傷 量を許容し得る範囲に抑えることとが両立した適切な組成物を得るためには, 的確な手掛かりもないまま,試行錯誤によって各成分の配合量を探索せざる を得ないところ,このような試行錯誤は過度の負担を強いるものというべき である。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,訂正後発明1〜7 の組成物を生産でき,かつ,使用することができるように具体的に記載され ているものとはいえない。
・・・
しかし,上記2において説示したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明 には,上記2つの性質が両立していると具体的に評価された実施例に関する 記載はなく,技術常識を併せ考慮したとしても,当業者が本件訂正発明に係 る組成物を生産しようとする場合,過度の試行錯誤によって各成分の配合量 を探索せざるを得ない。 したがって,本件訂正発明1〜7に係る特許請求の範囲の記載は,技術常 識を考慮しても,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,集 積回路基板等から,ポリマー,エッチング残渣,アッシング残渣,又はそれ らの組合せの除去と回路の損傷量を許容し得る範囲に抑えることとを両立さ せることのできる組成物と認識できる範囲内のものであるとはいえない。

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平成29(行ケ)10153  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年6月19日  知的財産高等裁判所

 「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の明確性、本件発明の課題が解決できるのかについてサポート要件違反が争われました。
 上記記載事項によれば,めっき処理を行った亜鉛又は亜鉛系め っき鋼板において,酸化性雰囲気中で加熱を行うことによって,亜鉛の蒸 発を阻止するバリア層として酸化皮膜層が形成されるが,亜鉛又は亜鉛系 めっきの共通成分は亜鉛であり,亜鉛又は亜鉛系めっき鋼板がいずれも均 一な酸化皮膜を形成し,塗膜密着性,耐食性が良好という共通の性質を有 することが理解できる。そうだとすれば,当業者であれば,当然,本件発 明1の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「亜鉛の酸化皮膜」 であると理解すると認められる。 してみると,本件発明1の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」 が,亜鉛系めっきに由来する亜鉛の酸化皮膜を意味することは明確である といえる。このことは,本件発明1を引用する本件発明2ないし6及び(同 様の文言を有する)本件発明7についても同様である。
ウ 原告の主張について
原告は,本件訂正によって,特許請求の範囲の記載にあった「亜鉛また は亜鉛系合金のめっき層」に代えて,「スズ−亜鉛合金めっき層」などの 具体的な合金めっき層が記載されたこと,本件明細書においては,「スズ −亜鉛合金めっき」の具体例としては,「スズ−8%亜鉛合金めっき」の みが記載されている(【0038】)こと,「スズ−8%亜鉛合金めっき」 を加熱した場合に生ずる変化については本件明細書に全く記載がないこと などを挙げて,「亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」が亜鉛の酸化皮膜でな ければならないと当然に解釈できるとはいえないから,金属酸化物の種類 が不明確であると主張する。 しかしながら,本件明細書の記載から,亜鉛又は亜鉛系めっき鋼板がい ずれも均一な酸化皮膜を形成し,塗膜密着性,耐食性が良好という共通の 性質を有することが理解でき,当業者であれば,本件発明1の「加熱時の 亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「亜鉛の酸化皮膜」であると理解する と認められることは,前記ア,イのとおりである。他方,「スズ−8%亜 鉛合金めっき」についてのみ,これと異なる理解をすると認めるべき合理 的事情はない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(2) 酸化皮膜の形成時期について
ア 原告は,本件訴訟におけるのと同様に,先行事件訴訟においても,「亜 鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期が明らかでないと主張して明確 性要件を争っており,その結果,原告の主張を排斥する先行事件判決がな され,同判決は既に確定しているものである(当裁判所に顕著な事実)。 そうすると,原告が本件訴訟において再びこの点を争うことは,実質的 に前訴の蒸し返しに当たり,訴訟上の信義則に反するものとして許されな いというべきである。
よって,この点に関する原告の主張も採用できない。
イ 念のため,中身について検討してみても,この点に関しては,先行事件 判決が示すとおり,本件明細書の【0018】には,酸化皮膜は熱間プレ スに先立つ加熱前にある程度形成されることが必要で,その後熱間プレス 加工のための700〜1000℃の加熱によっても形成が進むと推測され ることが記載され,【0042】及び【0043】には,酸化皮膜は,熱 間プレス加工のため700〜1000℃に加熱する前に,予め形成されて\nいる場合と形成されていない場合があることを前提として,予め酸化皮膜\nが形成されている材料の場合には,酸化皮膜の維持に悪影響がない限り熱 間プレスのための加熱方法については特に制限がないことが記載され,さ らに,【0064】及び【表5】には,実施例No.2,3として,電気\nめっきを施した後,熱間プレスに先立つ加熱を大気炉で850℃,3分間 行ったものについて均一な酸化皮膜が形成されたことが記載されていると ころ,電気めっきにおいては,めっき層は加熱されないことから,上記実 施例はいずれも熱間プレスに先立つ加熱前に予め酸化皮膜が形成されてい\nない場合であって,この場合の酸化皮膜は,熱間プレスのための加熱(大 気炉で850℃,3分間)により形成されたものと理解することができる。 そうすると,本件発明の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は, 熱間プレスの加熱前に,予め形成されている場合,ある程度形成されてい\nてその後熱間プレスの加熱時に形成が進む場合,予め形成されていないが\n熱間プレスの加熱により形成される場合のいずれでもよいことから,その 形成時期は熱間プレスの直前までであればよいと解するのが相当である。 したがって,本件発明1及びこれを引用する本件発明2ないし6並びに 本件発明7の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期は, 本件明細書の発明の詳細な説明を参照すれば明確というべきであるから, 原告の主張はいずれにしても失当である。
(3) 「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス 用」について
ア 本件明細書の【0016】ないし【0018】,【0029】,【00 34】,【0042】,【0044】,【0048】,【0050】及び 【0064】には,熱間プレスは700〜1000℃という温度で加熱す ることを意味すること,熱間プレス成形の特徴として成形と同時に焼き入 れを行うことから,そのような焼き入れを可能とする鋼種を用いること,\n熱間成形後に急冷して高強度,高硬度となる焼き入れ鋼,例えば表1にあ\nるような鋼化学成分(鋼種A等)の高張力鋼板が実用上は特に好ましいこ と,700〜1000℃の温度で加熱してから熱間プレスを行い,めっき 層表面に亜鉛の酸化皮膜が,下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層\nとして全面的に形成されていること,具体的には,表1に示す鋼種Aを,\n大気雰囲気の加熱炉内で950℃×5分加熱して,加熱炉より取り出し, このままの高温状態で円筒絞りの熱間プレス成形を行うこと,また,熱間 プレスに先立つ加熱を,大気炉で850℃,3分間行うことが記載されて いる。 そして,これらの記載によれば,本件発明1の「700〜1000℃に 加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用」という文言において, 1)「700〜1000℃に加熱されて」は,熱間プレスの加熱条件であり, 2)「プレスされ焼き入れされる」は,成形と同時に焼き入れを行う熱間プ レス成形の特徴であり,3)「用」という文言の意味は,「(接尾語的に) …に使うためのものの意を表す」(広辞苑第六版)であることからすると,\n「熱間プレス用」は,後に続く,本件発明1の「鋼板」を修飾し,鋼板が 熱間プレスに使うためのものであることを意味するものと理解できる。 してみれば,「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れさ れる」は,「熱間プレス」の加熱条件及び特徴を表現するものと理解でき\nるから,本件発明1の「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き 入れされる熱間プレス用」という文言は明確である。このことは,本件発 明1を引用する本件発明2〜6及び(同様の文言を有する)本件発明7に ついても同様である。
イ 原告の主張について
原告は,本件発明は用途発明であるとした上で,種々理由を述べて,「7 00〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用」 という記載の意味が不明確であると主張する。 しかしながら,前記アのとおり,「700〜1000℃に加熱されてプ レスされ焼き入れされる」は,「熱間プレス」の加熱条件及び特徴を表現\nするものと認められるから,その余の点について判断するまでもなく,本 件発明1の「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる 熱間プレス用」という文言の意味は明確である。 また,本件発明1が用途発明であるか否かは,その結論を左右するもの ではない。

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◆平成26(行ケ)10201

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平成27(ワ)21684  特許権  民事訴訟 平成30年4月20日  東京地方裁判所(40部)

 特許権侵害事件です。争点は、本件発明「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法」は製造方法の発明か、サポート要件違反、実施可能要件違反などです。製造会社だけでなく、商社、コンビニが被告とされています。裁判所は、製造方法の発明かについては判断することなく、サポート要件違反・実施可能\要件違反として無効と判断しました。
 ところで,耐食コーティングに用いる材料の種類や成分の違いにより, 缶内の飲料に与える影響に大きな差があることは,本件特許の出願日当時, 当業者に周知であるということができる(乙34〜36)。例えば,特開平 7−232737号公開特許公報(乙36)には,「エポキシ系樹脂組成物 を被覆した場合,ワイン系飲料に含まれる亜硫酸ガス(SO2)をはじめと するガスに対するガスバリヤー性が劣っており,かつフレーバー成分の収 着性が高い。例えば,ワイン系飲料等を充填した場合,含有する亜硫酸ガ ス(SO2)が塗膜を通過して下地の金属面を腐食する虞があり,場合によ っては内容物が漏洩することもある。この亜硫酸ガスは下地の金属と反応 して硫化水素(H2S)を発生させるが,この硫化水素(H2S)は悪臭の 主要因となるばかりでなく,飲料の品質保持のため必要な亜硫酸ガス(S O2)を消費するため飲料の品質を劣化させフレーバーを損なうこととな る。また,この樹脂組成物は飲料中のフレーバーを特徴付ける成分を収着 しやすく,飲料用金属容器の内面に被覆するには官能的に充分満足のでき\nるものではない。」(段落【0004】),「一方,ビニル系樹脂組成物を被覆 した場合,…エポキシ系樹脂組成物と同様に亜硫酸ガス(SO2)等に対す るガスバリヤー性に乏しく,やはり腐食や漏洩の危険性及び官能的な問題\nがある。」(段落【0005】)との記載がある。これによれば,耐食コーテ ィングに用いる材料や成分が,ワイン中の成分と反応してワインの味質等 に大きな影響を及ぼすことは,本件特許の出願日当時の技術常識であった ということができる。
上記のとおり,耐食コーティングに用いる材料の成分が,ワイン中の成 分と反応してワインの味質等に大きな影響を及ぼし得ることに照らすと, 本件明細書に記載された「エポキシ樹脂」以外の組成の耐食コーティング についても本件発明の効果を実現できることを具体例等に基づいて当業 者が認識し得るように記載することを要するというべきである。 この点,原告は,本件発明の課題は,ワイン中の遊離SO2,塩化物及び スルフェートの含有量を所定値以下にすることにより達成されるのであ り,耐食コーティングの種類によりその効果は左右されない旨主張する。 しかし,塗膜組成物の組成を変えることにより塗膜の物性が大きく変動し, 缶内の飲料に大きな影響を及ぼすことは周知であり(乙34の第1表,乙\n35の第2,3表等),ワイン中の遊離SO2,塩化物及びスルフェートの\n含有量を所定値以下にすれば,コーティングの種類にかかわらず同様の効 果を奏すると認めるに足りる証拠はない。
(4) 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,具体例の開示がなく とも当業者が本件発明の課題が解決できると認識するに十分な記載があると\nいうことはできない。そこで,本件明細書に記載された具体例(試験)によ り当業者が本件発明の課題を解決できると認識し得たかについて,以下検討 する。
ア 本件明細書には,「パッケージングされたワインを,周囲条件下で6ヶ 月間,30℃で6ヶ月間保存する。50%の缶を直立状態で,50%の缶 を倒立状態で保存する。」(段落【0038】)との方法で試験が行われ た旨の記載がある。しかし,本件明細書には,当該「パッケージングされ たワイン」の「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度,そ の他の成分の濃度,耐食コーティングに用いる材料や成分等については何 ら記載がなく,その記載からは,当該「パッケージングされたワイン」が 本件発明に係るワインであることも確認できない。
イ また,本件明細書には,試験方法について,「製品を2ヶ月の間隔を置 いて,Al,pH,°ブリックス(Brix),頭隙酸素及び缶の目視検査に関 してチェックする。…目視検査は,ラッカー状態,ラッカーの汚染,シー ム状態を含む。…官能試験は,味覚パネルによる認識客観システムを用い\nる。」(段落【0039】)との記載がある。「頭隙酸素」については, 乙29文献(4頁下から2行〜末行)に「ヘッドスペースの酸素は,アル ミニウムの放出に関して非常に重大である」との記載があるとおり,ワイ ンの品質に大きな影響を与え得る因子であり,「官能試験」はワインの味\n質の検査であるから,いずれもその方法や結果は効果の有無を認識する上 で重要である。しかし,本件明細書には,「頭隙酸素」のチェック結果や 「目視検査」の結果についての記載はなく,「官能試験」についても「味\n覚パネルによる認識客観システム」についての説明や試験結果についての 記載は存在しない。
ウ さらに,本件発明に係る特許請求の範囲はワイン中の三つの成分を特定 した上でその濃度の範囲を規定するものであるから,比較試験を行わない と本件発明に係る方法により所望の効果が生じることが確認できないが, 本件明細書の発明の詳細な説明には比較試験についての記載は存在しな い。このため,当業者は,本件発明で特定されている「遊離SO2」,「塩 化物」及び「スルフェート」以外の成分や条件を同程度としつつ,「遊離 SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度を特許請求の範囲に記載 された数値の範囲外とした場合には所望の効果を得ることができないか どうかを認識することができない。 加えて,耐食コーティングについては,試験で用いられたものが本件明 細書に記載されている「エポキシ樹脂」かどうかも明らかではなく,まし て,エポキシ樹脂以外の材料や成分においても同様の効果を奏することを 具体的に示す試験結果は開示されていない。
エ 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された「試験」は, ワインの組成や耐食コーティングの種類や成分など,基本的な数値,条件 等が開示されていないなど不十分のものであり,比較試験に関する記載も\n一切存在しない。また,当該試験の結果,所定の効果が得られるとしても, それが本件発明に係る「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の 濃度によるのか,それ以外の成分の影響によるのか,耐食コーティングの 成分の影響によるのかなどの点について,当業者が認識することはできな い。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明に実施例として記載された 「試験」に関する記載は,本件発明の課題を解決できると認識するに足り る具体性,客観性を有するものではなく,その記載を参酌したとしても, 当業者は本件発明の課題を解決できるとは認識し得ないというべきであ る。
オ この点,原告は,本件発明の特徴的な部分は,従来存在しなかった技術 思想であり,「塩化物」等の濃度には臨界的な意義もないので,その裏付 けとなる実験結果等の記載がないとしてもサポート要件には違反しない と主張する。 しかし,前記判示のとおり,特許請求の範囲に記載された構成の技術的\nな意義に関する本件明細書の記載は不十分であり,具体例の開示がなくて\nも技術常識から所望の効果が生じることが当業者に明らかであるという ことはできない。また,「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」 に係る濃度については,その範囲が数値により限定されている以上,その 範囲内において所望の効果が生じ,その範囲外の場合には同様の効果が得 られないことを比較試験等に基づいて具体的に示す必要があるというべ きである。
・・・
(5) 以上のとおり,本件発明に係るワインを製造することは困難ではないが, 本件発明の効果に影響を及ぼし得る耐食コーティングの種類やワインの組成 成分について,本件明細書の発明の詳細な説明には十分な開示がされている\nとはいい難いことに照らすと,本件明細書の発明の詳細の記載は,当業者が 実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできず,特許\n法36条4項1号に違反するというべきである。

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平成29(行ケ)10138  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年4月18日  知的財産高等裁判所

 サポート要件、実施可能要件について、無効理由なしとした審決が維持されました。\n
 原告は,図1に示された気体溶解装置は,加圧型気体溶解手段3によって生成さ れ,溶存槽4に貯留された水素水を気体溶解装置の内部で循環させるようには構成\nされておらず,図3に示された気体溶解装置は,その内部に,「溶存槽4(41,4 2)」に貯留された水素水を「加圧型気体溶解手段3」に送出する「加圧送水通路」 を備えてはいないから,本件発明1は,図1に示された気体溶解装置,図3に示さ れた気体溶解装置のいずれによってもサポートされていない旨主張する。 しかし,本件明細書には,図1に示された気体溶解装置について,「溶存槽4に保 存された液体は,降圧移送手段5である細管5a内で層流状態を維持して流れるこ とで降圧され(S6),水素水吐出口10から外部へ吐出される(S7)。」(【003 4】)との記載がある一方で,「本発明の気体溶解装置1は,加圧型気体溶解手段3 で加圧して気体を溶解した液体を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段3に送 り,循環した後に,降圧移送手段5に送る」(【0037】)との記載がある。したが って,図1に示された気体溶解装置は,加圧型気体溶解手段3によって生成され, 溶存槽4に貯留された水素水を気体溶解装置の内部で循環させるように構成されて\nいると認められる。 また,本件明細書には,前記イのとおり,本件発明1の「溶存槽」と「加圧型気体 溶解手段」との間に水素水を循環させる経路として,ウォーターサーバーを用いる 場合,水槽を用いる場合,加圧型気体溶解手段で加圧して気体を溶解した液体を, 排出せずに循環して加圧型気体溶解手段に送る経路を用いる場合の開示がある一方, これらの場合に循環の経路が限定されるとの記載や示唆はない。したがって,当業 者であれば,本件発明1においては,水素水が,これらの場合を含む何らかの経路 で循環すればよく,図3に示された気体溶解装置は,水素水を「送出し加圧送水し て循環させ」る経路の例示にすぎないことを理解できる。 よって,原告の主張は採用することができない。
・・・
原告は,請求項1及び8はウォーターサーバーを発明特定事項としていないが, 実施例1,3ないし13には,図3に示すウォーターサーバーに気体溶解装置を接 続した場合の実験条件しか記載されていない,また,実施例2は,図1に示す気体 溶解装置を用いたものであるが,どのように水素水を生成,循環させたのか不明で あるから,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1及び8を実施できる程度 に明確かつ十分に記載されているとはいえない旨主張する。\nしかしながら,本件発明1及び8は,本件明細書に例示された,ウォーターサー バーを用いる場合,水槽を用いる場合,加圧型気体溶解手段で加圧して気体を溶解 した液体を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段に送る場合を含む,何らかの 経路により水素水を循環させるものであることは,前記2(3),(4)で検討したとおり である。そして,本件明細書には,ウォーターサーバーを用いた実施例1,3ないし 13の実験条件が,他の経路により循環させる構成について当てはまらないと解す\nべき根拠となる記載はない。 また,実施例2についても,加圧型気体溶解手段で加圧して気体を溶解した液体 を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段に送る場合を含む,何らかの経路によ り水素水を循環させるものであると理解することができる。 そうすると,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明を参考にして,本件発明 1及び8を実施することができるといえるから,原告の主張は採用できない。

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平成29(行ケ)10051  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年4月12日  知的財産高等裁判所(3部)

 暗号化回路について、実施可能要件違反とした審決が維持されました。\n
 そうすると,本願発明の目的である「サイドチャネルを利用した攻撃 から回路を保護すること」は,段落【0009】,【0010】及び 【0041】で言及されているサイドチャネルを利用した攻撃から関数 鍵 kc を保護することを意味し,この保護は関数鍵 kc を第2の鍵(又は 非機能の鍵)ki でマスクする,すなわち kc と ki を XOR 演算することに よって達成されるものと理解される。換言すれば,本願発明の暗号回路 においてサイドチャネルを利用した攻撃の目標として想定されているの は関数鍵 kc であり,この関数鍵 kc をそのような攻撃から保護するため に第2の鍵 ki を必要とし,関数鍵 kc を第2の鍵 ki と XOR 演算すること によってマスクする(マスク鍵 kc(+)ki とする)という方法によって,関 数鍵 kc の保護が達成されるものと把握される。 さらに,本願明細書等には,サイドチャネルを利用した攻撃の具体的 な目標として関数鍵 kc 以外のものは記載されていない。 このように,本願発明が想定している攻撃目標は関数鍵 kc であり, それ以外の攻撃目標を想定しない以上,本願発明の暗号回路が出力する 暗号文 y の秘密性は関数鍵 kcに依拠し,暗号文の計算手順(すなわち本 願発明の「暗号化アルゴリズム」)に依拠するものではないと認められ る。そうであれば,関数鍵 kc が判明すれば,本願発明により出力され る暗号文 y を解読し得ることになる。これは,本願発明の暗号回路が出 力する暗号文 y の暗号鍵が関数鍵 kcであることを意味する。すなわち, 本願発明は,秘密情報である関数鍵 kcを用いて平文 x から暗号文 y を計 算する関数を F で表したとき,y=F(x,kc)を満たす暗号文 y を出力す る暗号回路であると認められる(以下,この技術思想を「本願技術思想 1)」という。)。 このように理解することは,本願明細書等の「関数鍵 kc が回路21 の暗号化を実施する役割を果たす。この暗号化は例えばレジスタ22の 内部で入力変数 x を暗号化された変数 y=DES(x,kc)に変換する DES アルゴリズム23である。」(【0040】)との記載とも整合する。
・・・
上記本願技術思想1)及び2)によれば,本願発明の暗号回路を具現化 するためには,暗号回路によって実際に計算された暗号文と,暗号化ア ルゴリズム F に基づいて計算された暗号文とが等しいこと,すなわち G(x,kc(+)ki)=F(x,kc) を満たすことが要求される(以下,この要求を「本願発明の技術的要求」 という。)。 しかし,本願発明の技術的要求を満たす関数 G を構成する計算方法\nが,当業者の技術常識に鑑みて自明であると認めるに足りる証拠はない。 そこで,G(x,kc(+)ki)の具体的な計算方法が本願明細書等に示されて いるかについて,以下検討する。
・・・
以上のとおり,本願明細書等の図1及び2に示される回路において は,そもそもマスク鍵 kc(+)ki が計算されているとは認められないこと から,両図の回路をもって関数 G(x,kc(+)ki)の具体的態様を開示し たものということはできない。 d また,段落【0028】記載の「【数2】K(+)M」は,2つの値が XOR 演算されているという点で本願発明のマスク鍵と共通するもの の,記号が異なることから,本願発明を説明したものとは認められな い。

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平成29(行ケ)10127  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月29日  知的財産高等裁判所

 明確性違反および実施可能要件違反の無効を主張しましたが、審決、知財高裁とも無効理由無しと判断しました。
 原告は,平成13年(2001年)以降でさえ,先行技術(甲20)と 技術常識に基づいて,外部から侵入した水分による劣化を防止しているとはいえ ない程度に蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布の実現は不可能であったのであり,\n本件明細書の「フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材,形成温度,粘度やフ ォトルミネセンス蛍光体の形状,粒度分布などを調整することによって種々の分 布を実現することができ」(【0047】)との記載は,本件構成に対応する技\n術的手段が単に抽象的に記載されているだけで,当業者が発明の実施をすること ができない記載にすぎないことを意味するものに他ならないから,実施可能要件\nを欠くというべきであって,審決の結論には明らかな違法がある旨主張する。 明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができ る程度に明確かつ十分に記載したものであることを要する(特許法36条4項1号)。\n本件発明は,「発光装置と表示装置」(発光ダイオード)という物の発明であるとこ\nろ,物の発明における発明の「実施」とは,その物の生産,使用等をする行為をい うから(特許法2条3項1号),物の発明について実施をすることができるとは,そ の物を生産することができ,かつ,その物を使用することができることであると解 される。 本件明細書には,「蛍光体の分布は,フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材, 形成温度,粘度やフォトルミネセンス蛍光体の形状,粒度分布などを調整すること によって種々の分布を実現することができ,発光ダイオードの使用条件などを考慮 して分布状態が設定される。」(【0047】)との記載があることから,蛍光体の濃 度分布を適宜調整することにより,本件発明の「コーティング樹脂中のガーネット 系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高く\nなっている」発光ダイオードを生産することができ,かつ,使用することができる ことは,本件明細書に接した当業者にとって明らかであると認められる。 したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明を実施することがで きる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められるから,その旨の審決の\n判断に誤りはない。 これに対し,原告が主張する,外部から侵入した水分による劣化を防止している とはいえない程度に蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布とは,本件構成に係る「コ\nーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側から\nLEDチップ側に向かって高くなっている」ものではない状態を示すものである。 そうすると,仮に,このような濃度分布について,発明の詳細な説明や出願時の 技術常識を考慮しても実現することができない,又は,その実現に過度の試行錯誤 を要するとしても,このことは,本件明細書の発明の詳細な説明が,当業者が本件 発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとの前記認定を左右するも\nのではない(発光ダイオードの製造工程において,蛍光体がコーティング樹脂中を 沈降することによって,本件構成を満足するものを製造することができることにつ\nいては,当事者間に争いがないものと解される。)

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平成28(行ケ)10218  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年1月30日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件、サポート要件違反とした拒絶審決が取り消されました。なお、意見を述べる機会を与えなかった点について、手続違背もありと認定されています。
 本願明細書の上記記載によれば,同配列アンタゴニスト化合物は, アゴニスト作用を示していたIMOについて,「GACG」部分に化学修飾を導入し て同部分をN2N1CGモチーフにすることにより,アンタゴニスト作用を示すに至 ったことが認められる(以下,当該作用変化を「本件反転作用」という。)。 このような記載に接した当業者は,本件反転作用を生じさせた原因となる部分は, その他の配列が同一である以上,化学修飾を導入したN2N1CGモチーフに存在す るものと理解するのが自然である。のみならず,本願明細書の前記a(c)の記載に接 した当業者は,細菌性及び合成DNAの塩基配列には様々なものがあるにもかかわ らず,TLR9がそれらに存在する非メチル化CpGモチーフを認識するのである から,IMOの「GACG」部分にある非メチル化CpGモチーフがTLR9に結 合するものと理解するといえる。そのため,本件反転作用の原因は,TLR9に結 合する「GACG」部分に化学修飾を導入し,これをN2N1CGモチーフとするこ とによって,上記の結合部分に何らかの変化が生じたことによるものと理解するの が自然である。 そうすると,12種類化合物の配列は,N2N1CGモチーフの5’末端側に隣接 するオリゴヌクレオチド部分配列(以下「5’末端側隣接配列」という。)が全て「C TATCT」という一つの配列のみであり,かつ,N2N1CGモチーフの3’末端 側に隣接するオリゴヌクレオチド部分配列(以下「3’末端側隣接配列」という。) が「TTCTCTGT」又は「TTCTCUGU」という類似する二つの配列のみ であるものの,当業者は,本件反転作用を生じさせた部分は,N2N1CGモチーフ 自体であって,5’末端側隣接配列又は3’末端側隣接配列ではないと理解するの であるから,N2N1CGモチーフを有する本願IRO化合物も,12種類化合物と 同様に,アンタゴニスト作用を奏する蓋然性が高いものと論理的に理解するのが自 然である。そして,当業者は,TLR9のアンタゴニストとして作用し得る本願I RO化合物が,少なくともTLR9のアゴニスト作用が原因となる癌,自己免疫疾 患,気道炎症,炎症性疾患,感染症,皮膚疾患,アレルギー,ぜんそく又は病原体 により引き起こされる疾患を有する脊椎動物を治療的に処置し得ることを十分に理\n解することができるといえる。 したがって,本願明細書に接した当業者は,本願IRO化合物が高い蓋然性をも ってTLR9のアンタゴニスト作用を奏し,かつ,TLR9のアンタゴニストとし て作用し得る本願IRO化合物がTLR9のアゴニスト作用を原因とする上記各疾 患を治療的に処置し得ることを理解することができるのであるから,本願明細書中 の発明の詳細な説明の記載は,当業者によって本願出願当時に通常有する技術常識 に基づき本願発明の実施をすることができる程度の記載であると認めるのが相当で ある。
以上によれば,本願明細書の記載により,本願IRO化合物が全て,TLR9の アンタゴニスト作用を有するものであることを当業者が認識できるとはいえないな どとして,本願発明が実施可能要件に適合するものではないとした審決の判断には\n誤りがあり,TLR9についての原告の取消事由3は,理由がある。
c これに対し,被告は,実施例11に示されている同配列アンタゴニス ト化合物につき,5’末端側隣接配列が「CTATCT」であり,かつ,「N1N2N 3−Nm」が「TTCTCTGT」である化合物が示されるのみであって,それ以外 の本願IRO化合物は示されていないことからすると,アンタゴニスト作用が「C pGジヌクレオチド」に結合した結果であるのか,あるいは,それ以外の共通する 部分に結合した結果であるのかは定かでなく,また,本願明細書の発明の詳細な説 明には,本願IRO化合物のうち,実施例11に示された化合物以外のものが,実 施例11に示された化合物と同様にアンタゴニスト作用を有することを示唆する記 載もなく,この点が技術常識であるともいえないなどと主張する。 しかしながら,同配列アンタゴニスト化合物は,上記bにおいて説示するとおり, アゴニスト作用を示していたIMOについて,「GACG」部分についてのみ化学修 飾を導入して同部分をN2N1CGモチーフにすることにより,本件反転作用を奏す るに至ったのであるから,このような記載に接した当業者は,本件反転作用を生じ させた部分は,化学修飾を導入したN2N1CGモチーフに存在するものと論理的に 理解するのが自然であるといえる。そうすると,当業者は,実施例11に示された 化合物以外のものであっても,少なくともTLR9については,N2N1CGモチー フが存在すれば,高い蓋然性をもってアンタゴニスト作用を示すものと理解すると 認めるのが相当である。 したがって,被告の主張は,その他の主張を含め,本件反転作用の技術的意義を 正解しないものに帰し,採用することができない。
このような適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,複数の発明が同時に 出願されている場合の拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定の理由が解消さ れている一方,複数の発明に対する上記拒絶査定の理由とは異なる拒絶理由につい て,一方の発明に対してはこれを通知したものの,他方の発明に対しては実質的に これを通知しなかったため,審判請求人が補正により特許要件を欠く上記他方の発 明を削除する可能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充\n足する上記一方の発明についてまで拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れ る機会を失ったといえるときにも,当然妥当するものであって,このようなときに は,当該審決に,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手続違背の 違法があるというべきである。 イ これを本件についてみると,前提となる事実に後掲各証拠及び弁論の全 趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
・・・
(ウ) 原告は,本件拒絶査定不服審判において,平成27年9月16日付け の拒絶理由通知(甲16)を受けた(以下,当該拒絶理由通知を「本件拒絶理由通 知」といい,本件拒絶理由通知に係る拒絶理由を「本件拒絶理由」という。)。請求 項1,請求項8及び請求項13に対する本件拒絶理由は,大要次のとおりである。 a 請求項1,3,4及び7ないし17(請求項3を追加する前のもの) 証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,本件拒絶理由通知では,実施例にお いてアンタゴニスト作用を有することが証明された化合物のうち,本願IRO化合 物に含まれるものは,IRO5,10,17,25,26,33,34,37,3 9,41,43及び98であるとして,これらの12種類化合物に限定して検討を 加えていること,12種類化合物は,いずれもTLR9に対してアンタゴニスト作 用を有するものであるが,IRO5に限り,TLR9のほか,TLR7及び8に対 してもアンタゴニスト作用を有するものであること,本件拒絶理由通知では,12 種類化合物を全体として比較して,N2N1CGモチーフの5’末端側に隣接する部分 の塩基配列及びN2N1CGモチーフの3’末端側に隣接する部分の塩基配列が,それ ぞれ類似の二通りのみであることを根拠として,請求項1,3,4及び7ないし1 7に係る各発明の実施可能要件及びサポート要件違反を示していること,そのため,\n本件拒絶理由通知では,IRO5に固有の問題を検討するものではなく,TLR9 に対するアンタゴニスト作用を有する12種類化合物のみの問題を検討しているこ と,以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば,本件拒絶理由通知は,TLR9に対してアンタゴニスト 作用を有する12種類化合物のみの問題を検討するにとどまり,TLR7及び8に 対してもアンタゴニスト作用を有するIRO5に固有の問題を検討した上で拒絶理 由を通知するものではないから,実質的にはTLR7及び8に対する拒絶理由を示 すものではないと認めるのが相当である。
b 請求項8,13,16及び17(請求項3を追加する前のもの) 証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,本件拒絶理由通知は,請求項8に係 る発明につき,「本願明細書ではTLRとして「TLR7」,「TLR8」及び「TL R9」に対する各種IROのアンタゴニスト作用を確認しただけであって,他のT LRに対してもアンタゴニスト作用を有することは確認されていない。」,「請求項 8の「TLR媒介免疫反応」のうち,「TLR7」,「TLR8」又は「TLR9」の 媒介免疫反応以外の免疫反応については,本願発明のIRO化合物が阻害効果を示 すことが確認できない。」と記載し,また,請求項13に係る発明につき,「請求項 13の「TLRにより媒介される疾患」のうち,「TLR7」,「TLR8」又は「T LR9」によって媒介される疾患以外の疾患については,本願発明のIRO化合物 が治療効果を示すことが確認できない。」と,それぞれ記載していることが認められ る。 上記認定事実によれば,本件拒絶理由通知は,文言上,少なくとも,TLR7な いし9については,アンタゴニスト作用及びその治療効果を有することが確認され たことをいうものと理解するのが自然である。
・・・
(オ) その後,特許庁は,原告に対し,改めて拒絶理由を通知することなく, 平成28年5月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。 ウ 前記イ(ウ)aによれば,本件拒絶理由通知は,TLR9に対してアンタゴ ニスト作用を有する12種類化合物のみの問題を検討するにとどまり,TLR7及 び8に対してアンタゴニスト作用を有するIRO5に固有の問題を検討した上で拒 絶理由を通知するものではないから,実質的にはTLR7及び8に対する拒絶理由 を示すものではないことが認められる。のみならず,TLR7及び8については, 本件反転作用を裏付ける実施例はない上,そもそも認識するアゴニストの対象が, TLR9とは異なり,一本鎖RNAウイルスであると認められるのであるから,T LR7及び8の拒絶理由には,TLR9の拒絶理由とは異なる固有の理由が存在す ることは明らかであるにもかかわらず,本件拒絶理由通知は,これを通知していな いことが認められる。
そして,前記イ(エ)によれば,原告は,本件拒絶理由を受けて,その理由を解消す るために,TLR1ないし6に係る発明部分を削除しているのであり,このような 経緯に鑑みると,原告は,TLR7及び8についても拒絶理由を実質的に通知され ていた場合には,TLR7及び8に係る発明部分についても,TLR1ないし6に 係る発明部分と併せて補正によって削除した可能性が高いものと認められる。\nのみならず,前記イ(ウ)bによれば,請求項8,13,16及び17に係る各発明 に対する本件拒絶理由通知は,文言上,少なくとも,TLR7ないし9については, アンタゴニスト作用及びその治療効果を有することが確認されたことをいうものと 理解するのが自然であるから,このような記載に接した原告が,少なくともTLR 7ないし9については,アンタゴニスト作用を有することが確認されたため,実施 可能要件及びサポート要件違反はないものと理解したのもやむを得ないところであ\nる。現に,原告は,前記イ(エ)によれば,本件拒絶理由通知を踏まえ,請求項9及び 14においては,TLR1ないし6を削除して,TLR7ないし9に限定する補正 をしている事実が認められるのであるから,このような事実からも,上記の原告の 理解が十分に裏付けられるといえる。そうすると,TLR7ないし9についてもア\nンタゴニスト作用を有するものであるとすることはできないとして,本願発明が実 施可能要件及びサポート要件に適合しないとした審決の判断は,実質的にみれば,\n上記の経過に照らし,原告にとっては,不意打ちというほかなく,不当であるとい うほかない。
これらの事情の下においては,本件拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定 の理由とは異なる拒絶理由について,TLR9に係る発明に対してはこれを通知し たものの,TLR7及び8に係る各発明に対しては実質的にこれを通知しなかった ため,原告が補正により特許要件を欠くTLR7及び8に係る各発明を削除する可 能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充足するTLR9\nに係る発明についてまで本件拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れる機会 を失ったものと認められる。 したがって,審決には,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手 続違背の違法があるというべきであり,当該手続違背の違法は,審決の結論に影響 を及ぼすというべきであるから,取消事由1は,理由があるものと認められる。
エ これに対し,被告は,前記イ(ウ)aのとおり,サポート要件違反と実施可能\n要件違反をいう請求項1に係る本件拒絶理由は,旧請求項3及び4,7なしい17 についても存在する旨通知されているのであるから,審決が本件拒絶理由とは異な る新たな拒絶理由に基づき実施可能要件及びサポート要件に適合しないと判断した\nとする原告の主張は,前提を欠くものであるなどと主張する。 しかしながら,上記ウで説示したとおり,本件拒絶査定不服審判において,本件 拒絶理由通知では,TLR9に関する拒絶理由のみを通知し,実質的にはTLR7 及び8に関する拒絶理由を通知しなかったため,原告はTLR7及び8に係る各発 明を削除するなどの補正をする機会を失うことになり,実施可能要件及びサポート\n要件をいずれも充足するTLR9に係る発明まで最終的に特許を受けることができ ないことになったものと認められる。このような結果は,原告にとって,不意打ち となるため,原告に過酷というほかなく,審判請求人の手続保障を規定する特許法 159条2項の趣旨に照らし,相当ではないというべきである。 かえって,被告は,本件訴訟に至っては,そもそもTLR7及び8が認識するも のと,TLR9が認識するものが異なるという技術常識に基づけば,TLR9に対 して本願IRO化合物がアンタゴニスト作用を奏するとする原告の作用機序の説明 が,TLR7及び8には妥当し得ないことは明らかであるなどとして,現にTLR 7及び8に固有の拒絶理由を具体的に主張しているのであるから(準備書面(第1 回)13頁),実質的にみても,上記のように,本件拒絶査定不服審判においてTL R7及び8に固有の拒絶理由を通知することが,審判合議体にとって困難なもので あったとは認められない。 したがって,被告の主張は,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2 項の意義を正解しないものに帰し,採用することができない。
なお付言するに,本願IRO化合物が治療効果を有するかどうかの点につき,本 件拒絶理由では,TLR7ないし9によって媒介される疾患以外の疾患については 治療効果を示すことが確認できないとしているところ,原告は,本件拒絶査定不服 審判においては,TLR7ないし9によって媒介される疾患については治療効果を 示すことが確認されたものと理解した上,本件拒絶理由を踏まえてTLR1ないし 6を削除する補正をし,さらに,その後の意見書において,この点に係る拒絶理由 が解消されたとまで述べているのであるから,審決においてTLR7ないし9によ って媒介される疾患についても治療的に処置することができるといえる根拠がない と判断するのであれば,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の法 意に照らすと,本件拒絶査定不服審判において,この点についても改めて拒絶理由 を通知することが相当であったものと認められる。

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平成28(行ケ)10278  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年1月15日  知的財産高等裁判所(4部)

 異議理由ありとした審決が取り消されました。理由は、新規事項か、サポート要件違反か、実施可能要件違反かです。知財高裁は、当初明細書の範囲内と判断しました。\n
ア 本件出願当初明細書等の記載
結晶多形Aについて,本件出願当初明細書等には,おおむね,次のとおり記載が ある。
・・・・
イ 本件出願当初明細書等に開示された結晶多形Aに関する技術的事項
(ア) 本件出願当初明細書等にいう結晶多形Aは,本件出願当初明細書等におい て名付けられたものである(【0007】)。
(イ) そして,本件出願当初明細書等【0008】には,結晶多形Aに該当する具体的な結晶多形として,【0008】(1)は,本件出願時の特許請求の範囲【請求 項1】で特定される結晶多形を挙げるほか,【0008】(5)は,2θで表して,構\ 成要件Eで特定されるのと同様の26個の角度において,ピークを有する特徴的な X線回析図形を示し,FT−IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量 が3〜15%であるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を挙げており,後者の結 晶多形は,構成要件Eで特定される結晶多形を含むものである。このように,本件\n出願当初明細書等【0008】の記載は,結晶多形Aには,構成要件Eで特定され\nる結晶多形だけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定される 結晶多形も,該当する旨説明するものである。
(ウ) また,本件出願当初明細書等【0009】は,「結晶多形Aの一つの具体 的形態」として,2θで表して,構\成要件Eで特定されるのと同様の26個無偏差 相対強度図形を示す結晶多形を例示しており,この結晶多形は,構成要件Eで特定\nされる結晶多形を含むものである。そうすると,本件出願当初明細書等【0009】 の記載は,構成要件Eで特定される結晶多形は,結晶多形Aの具体的な態様の一つ\nである旨説明するものである。
(エ) さらに,本願出願当初明細書等【0047】には,【0047】に記載さ れた製造方法によって,結晶多形Aが得られること,当該結晶多形AのX線粉末回 析図形は,構成要件Eと同様の26個無偏差相対強度図形を示したことが記載され\nている。本件出願当初明細書等【0047】の記載は,特定の製造方法によって生 成された結晶多形AのX線粉末回析図形を説明するにとどまり,構成要件Eで特定\nされる結晶多形のみが結晶多形Aである旨説明するものではない。
(オ) したがって,本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,構成要件Eで特\n定される結晶多形Aだけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特 定される結晶多形Aも,導くことができる。
(4) 新規事項の追加の有無
本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,構成要件Eで特定される結晶多形A\nだけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定される結晶多形A も,導くことができるから,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定され る結晶多形Aから,構成要件Eで特定される結晶多形Aを除くものを,本件出願当\n初明細書等の全ての記載を総合することにより導くことができるというべきである。 したがって,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】に,構成要件Eを追加す\nる本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件出願当初明細書等 に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
(5) 被告の主張について
被告は,本件出願当初明細書等に記載された結晶多形Aを,26個のピークの回 折角2θ及びその相対強度で特定しなくても,6個のピークの回析角2θ等によっ て特定し得るということは技術常識ではないと主張する。 しかし,本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,26個のピークの回折角2 θ及びその相対強度で特定される結晶多形Aだけではなく,6個のピークの回析角 2θ等によって特定される結晶多形Aも導くことができる。本件補正は,26個の ピークの回折角2θ及びその相対強度で特定される結晶多形を,6個のピークの回 析角2θ等によって特定することを前提としてなされたものではないから,被告の 上記主張は,前提を欠く。
(6) 小括
以上のとおり,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】に,構成要件Eを追加\nする本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではない。そして,本件補正の その余の部分について,被告は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件 出願当初明細書等に記載した範囲内においてしたものであることを争わない。した がって,本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たす。

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平成29(行ケ)10029  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年12月26日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。理由は、サポート要件違反・委任省令違反、進歩性違反です。委任省令違反である以上、サポート要件違反でもあるという理由です。
   前記アのとおり,本件明細書には,「EVOH層の界面での乱れに起因す るゲル」は,ロングラン成形により発生するゲルとは異なる原因で発生するゲルで あると記載されているものの,本件明細書には,「EVOH層の界面での乱れに起因 するゲル」が,乙15における「ゲル状ブツ」の原因となるゲルと,その形状,構\n造等がどのように異なるのかを明らかにする記載は見当たらない。 また,本件明細書においては,前記イのとおり,「EVOH層の界面での乱れに起 因するゲル」は,目視観察できるものであるとされ,乙15における「ゲル状ブツ」 は,前記ウのとおり,肉眼で見ることができるものとされているところ,本件明細 書には,「目視観察」の定義は見当たらず,後者は肉眼で見分けられ,前者は肉眼で 見分けられないものを含む旨の特段の記載はないから,本件発明における「EVO H層の界面での乱れに起因するゲル」と背景技術(乙15)における「ゲル」を, 観察方法において区別することができるとは,理解できない。 このように,本件明細書には,本件発明における「EVOH層の界面での乱れに 起因するゲル」は,本件特許出願前の技術により抑制することができるとされてい るロングラン成形により発生するゲルとは異なる原因で発生する旨の記載があるも のの,その記載のみでは,ロングラン成形により発生するゲルと区別できるかどう かは,明らかでないというほかない。 この点について,被告は,「不完全溶融EVOH」が発生する機序について主張し, これは,従来から知られていた「熱架橋ゲル」とは異なる旨主張する。しかし,本 件明細書には,被告が本訴において主張するようなことは何ら記載されておらず, 被告が本訴において主張するような技術常識が存したとも認められないから,本件 発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」が被告が本訴において 主張するようなものと認めることはできない。 そうすると,本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」の 意義は明らかでないというほかなく,本件特許出願時の技術常識を考慮しても,「成 形物に溶融成形したときにEVOH層の界面での乱れに起因するゲルの発生がなく, 良好な成形物が得られ」るという本件発明の課題は,理解できないというほかない。 オ したがって,本件明細書の記載には,本件発明の課題について,当業者 が理解できるように記載されていないから,「特許法第三十六条第四項第一号の経\n済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解 決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明 の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければなら ない。」と定める特許法施行規則24条の2の規定に適合するものではない。
(2) 以上のとおり,本件発明についての本件明細書の発明の詳細の説明の記 載は,特許法36条4項1号の規定に適合しないから,審決のこの点に係る判断に は誤りがあり,取消事由3には理由がある。
・・・
前記2(1)オのとおり,本件明細書には,本件発明の課題について,当業者が理解 できるように記載されていないから,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の 詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲の ものであると認めることはできないし,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも, 当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲 のものであるとも認められない。 この点について,被告は,「本件発明は,粒径500μm(0.5mm)未満の微 粉の含有量を0.1重量%以下に制御すること(新規な解決手段)により,『不完全 溶融EVOH』に起因する界面での乱れによるゲル(点状に分布する透明な粒状の 不完全溶融ゲルであり,EVOHの一部が極端な場合には他の樹脂層に突出するよ うな形態)の発生(斬新な課題)を抑制することができる(新規課題解決効果の奏 効)という特別な効果を得る」ものであると主張するが,前記2(1)のとおり,この 課題は,本件明細書及び技術常識から理解することができない。

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平成27(ワ)23087  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年12月6日  東京地方裁判所

 医薬品について、薬理データが記載されていないとして、実施可能性違反、サポート要件違反で無効と判断されました。\n
 特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は「その発明 の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることが できる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めると\nころ,この規定にいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明にかか る物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,\n明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が当該発明に係る物を生産し, 使用することができる程度のものでなければならない。 そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示さ\nれることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効 量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができ\nないから,医薬の用途発明において実施可能要件を満たすためには,明細書\nの発明の詳細な説明は,その医薬を製造することができるだけでなく,出願 時の技術常識に照らして,医薬としての有用性を当業者が理解できるように 記載される必要がある。
(2) 本件の検討
本件についてこれをみるに,本件発明1では,式(I)のRAが−NHC O−(アミド結合)を有する構成(構\成要件B)を有するものであるところ, そのようなRAを有する化合物で本件明細書に記載されているものは,「化 合物C−71」(本件明細書214頁)のみである。そして,本件発明1は インテグラーゼ阻害剤(構成要件H)としてインテグラーゼ阻害活性を有す\nるものとされているところ,「化合物C−71」がインテグラーゼ阻害活性 を有することを示す具体的な薬理データ等は本件明細書に存在しないことに ついては,当事者間に争いがない。 したがって,本件明細書の記載は,医薬としての有用性を当業者が理解で きるように記載されたものではなく,その実施をすることができる程度に明 確かつ十分に記載されたものではないというべきであり,以下に判示すると\nおり,本件出願(平成14年(2002年)8月8日。なお,特許法41条 2項は同法36条を引用していない。)当時の技術常識及び本件明細書の記 載を参酌しても,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業 者が理解し得たということもできない。
・・・
すなわち,上記各文献からうかがわれる本件優先日当時の技術常識と しては,ある種の化合物(ヒドロキシル化芳香族化合物等)がインテグ ラーゼ阻害活性を示すのは,同化合物がキレーター構造を有しているこ\nとが理由となっている可能性があるという程度の認識にとどまり,具体\n的にどのようなキレーター構造を備えた化合物がインテグラーゼ阻害活\n性を有するのか,また当該化合物がどのように作用してインテグラーゼ 活性が阻害されるのかについての技術常識が存在したと認めるに足りる 証拠はない。
・・・
以上の認定は本件優先日当時の技術常識に係るものであるが,その ほぼ1年後の本件出願時にこれと異なる技術常識が存在したことを認め るに足りる証拠はなく,本件出願当時における技術常識はこれと同様と 認められる。このことに加え,そもそも本件明細書には,本件特許化合 物を含めた本件発明化合物がインテグラーゼの活性部位に存在する二つ の金属イオンに配位結合することによりインテグラーゼ活性を阻害する 2核架橋型3座配位子(2メタルキレーター)タイプの阻害剤であると の記載はないことや,本件特許化合物がキレート構造を有していたとし\nても,本件出願当時インテグラーゼ阻害活性を有するとされていたヒド ロキシル化芳香族化合物等とは異なる化合物であることなどに照らすと, 本件明細書に接した当業者が,本件明細書に開示された種々の本件発明 化合物が,背面の環状構造により配位原子が同方向に連立した2核架橋\n型3座配位子構造(2メタルキレーター構\造)と末端に環構造を有する\n置換基とを特徴として,インテグラーゼの活性中心に存在する二つの金 属イオンに配位結合する化合物であると認識したと認めることはできな い。 以上によれば,本件出願当時の技術常識及び本件明細書の記載を参酌して も,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業者が理解し得 たということもできない。 したがって,本件明細書の記載は本件発明1を当業者が実施できる程度に 明確かつ十分に記載したものではなく,本件発明1に係る特許は特許法36\n条4項1号の規定に違反してされたものであるので,本件発明1に係る特許 は特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきも のである。
3 争点(1)イ(イ)(サポート要件違反)について
上記2で説示したところに照らせば,本件明細書の発明の詳細な説明に本件 発明1が記載されているとはいえず,本件発明1に係る特許は特許法36条6 項1号の規定に違反してされたものというべきである。

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平成28(行ケ)10205  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年6月14日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件を満たしていないとして、異議理由ありとした審決が維持されました。
 明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度 に明確かつ十分に記載したものであることを要する(特許法36条4項1号)。本件\n発明は,「加工飲食品」という物の発明であるところ,物の発明における発明の「実 施」とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号),物 の発明について実施をすることができるとは,その物を生産することができ,かつ, その物を使用することができることであると解される。 したがって,本件において,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及 び出願当時の技術常識に基づいて,本件発明に係る加工飲食品を生産し,使用する ことができるのであれば,特許法36条4項1号に規定する要件を満たすというこ とができるところ,本件発明に係る加工飲食品は,不溶性固形分の割合が本件条件 (6.5メッシュの篩を通過し,かつ16メッシュの篩を通過しない前記不溶性固 形分の割合が10重量%以上であり,16メッシュの篩を通過し,かつ35メッシ ュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下である) を満たす加工飲食品であるから,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載 及び出願当時の技術常識に基づいて,このような加工飲食品を生産することができ るか否かが問題となる。
前記認定のとおり,本件明細書には,不溶性固形分の割合が本件条件を満たすか どうかを判断する際の測定について,「日本農林規格のえのきたけ缶詰又はえのきた け瓶詰の固形分の測定方法に準じて,サンプル100グラムを水200グラムで希 釈し,16メッシュの篩等の各メッシュサイズの篩に均等に広げて,10分間放置 後の各篩上の残分重量」を測定すること(段落【0036】。以下「本件測定方法」 ということがある。)が記載されている。さらに,「篩上の残存物は,基本的には不 溶性固形分であるが,サンプルを上述のように水で3倍希釈してもなお粘度を有し ている場合は,たとえメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩上に 残存する場合があり,その場合は適宜水洗しメッシュ目開きに相当する大きさの不 溶性固形分を正しく測定する必要がある。」(段落【0038】)とも記載されている。
本件明細書の上記記載によれば,本件明細書には,測定対象のサンプルが水で3 倍希釈しても「なお粘度を有している場合」であって,メッシュ目開きよりも細か い不溶性固形分が篩上に塊となって残存している場合には,適宜,水洗することに よって塊をほぐし,メッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分の重量,すな わち「日本農林規格のえのきたけ缶詰又はえのきたけ瓶詰の固形分の測定方法に準 じて,サンプル100グラムを水200グラムで希釈し,各メッシュサイズの篩に 均等に広げて,10分間放置後の篩上の残分重量」(段落【0036】)に相当する 重量を正しく測定する必要があることが開示されているものと解される。 そして,本件明細書の「より一層,粗ごしした野菜感,果実感,または濃厚な食 感を呈する。」(段落【0009】),「加工飲食品は,ペースト状の食品,又は飲料の形態を有する。」(段落【0030】)との記載によれば,本件発明に係る加工飲食品 は一定程度の粘度を有するものと認められるから,段落【0036】に記載された 本件測定方法によると,実際に,各篩のメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分 により形成される塊が篩上に残存する場合も想定されるところである。 しかしながら,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に塊となって残 存している場合に追加的に水洗をすると(段落【0038】),本件明細書の段落【0 036】に記載された本件測定方法(測定対象サンプル100グラムを水200グ ラムで希釈し,各メッシュサイズの篩に均等に広げて,10分間放置するという測 定手順のもの)とは全く異なる手順が追加されることになるのであるから,このよ うな水洗を追加的に行った場合の測定結果は,本件測定方法による測定結果と有意 に異なるものになることは容易に推認される。このように,本件明細書に記載され た各測定方法によって測定結果が異なることなどに照らすと,少なくとも,水洗を 要する「なお粘度を有する場合」であって,「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固 形分が篩上に塊となって残存している場合」であるか否か,すなわち,仮に,篩上 に何らかの固形分が残存する場合に,その固形物にメッシュ目開きよりも細かい不 溶性固形分が含まれているのか,メッシュ目開きよりも大きな不溶性固形分である のかについて,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて判別 することができる必要があるといえる(本件条件を満たす本件発明に係る加工飲食 品を生産することができるといえるためには,各篩のメッシュ目開きよりも細かい 不溶性固形分により形成される塊が篩上に残存する場合であるか否かを判別するこ とができることを要する。)。 しかしながら,本件測定方法によって不溶性固形分を測定した際に,篩上に残存 しているものについて,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が含まれている のか否かを判別する方法は,本件明細書には開示されておらず,また,当業者であ っても,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に照らし,特定の方法 によって判別することが理解できるともいえない(篩上に残存しているものが,メ ッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分を含むものであるのか否かについて,一般 的な判別方法があるわけではなく,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,測定 に使用される篩は,目開きが16メッシュ(1.00mm)又は35メッシュ(0. 425mm)のものと認められるから,篩上に残った微小な不溶性固形分について, 単に目視しただけでは明らかではないといわざるを得ない。)。 そうすると,当業者であっても,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術 常識に基づいて,その後の水洗の要否を判断することができないことになる。 したがって,本件発明の態様として想定される,「測定したいサンプル100グラ ムを水200グラムで希釈」しても「なお粘度を有している場合」(段落【0038】)も含めて,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願時 の技術常識に基づいて,本件条件を満たす本件発明に係る加工飲食品を生産するこ とができると認めることはできない。 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明を当業者が実施でき るように明確かつ十分に記載されているものと認めることはできない。\n

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平成28(行ケ)10249  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月23日  知的財産高等裁判所

 永久機関について、発明の成立性違反、実施可能要件違反とした審決が維持されました。本人訴訟です。
 本願明細書を参酌すると,本願発明は,バッテリの電力をDCモータに給電し, 起電コイルから生じた電力の一部をバッテリに充電しながらDCモータに再給電し てDCモータを永久に稼働させ,起電コイルから生じた電力の残りを外部に永久に 供給するとしたものであり,入力した以上の電力(エネルギー)を出力するとした ものであって,明らかに永久機関とみられるものである(なお,本願発明に係る特 許請求の範囲には,トルク脈動レス発電機を「連続的」に稼働させ続ける,電力を 「連続的」に給電し続けるとの記載があるが,この「連続的」が「永久」を意味す ることは,前記1に認定の本願明細書の記載から明らかである。)。 したがって,原告が自認するとおり,本願発明は,エネルギー保存の法則という 物理法則に反するものであるから,自然法則を利用したものではなく,特許法29 条1項柱書の「発明」ではない。
(イ) 原告の主張について
原告は,本願発明がエネルギー保存の法則を破るものであると主張するが,DC モータの銅損若しくは鉄損等の損失又は起動コイルの銅損の損失,あるいは,ネオ ジム磁石と起電コイルとの間で作用する力などを全く考慮しておらず,その主張は 失当である。 また,原告は,DCモータに給電した直流電圧よりも高い交流電圧が起電コイル に発生していると主張し,本願明細書の図4の記載を援用するが,起電コイルから の出力電圧が上がったからといって,DCモータに供給される電力(消費電力)よ りも起電コイルから出力される電力が上回るということはできないから,その主張 は失当である。
(ウ) 小括
以上から,本願発明は,特許法29条1項柱書の「発明」に該当しないから,発 明該当性を欠くとした審決の判断には,誤りはない。
ウ 実施可能要件について
本願発明は,自然法則に反するものであるから,本願明細書の発明の詳細な説明 のいかなる記載をもってしても,当業者が本願発明を実施できないことは明らかで ある。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号の実 施可能要件を欠くとした審決の判断には,誤りはない。\n

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平成27(行ケ)10201  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年1月31日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反なしとした審決が取り消されました。
 このような技術常識を有する当業者が,本件明細書の記載に接した際には,【00 07】に記載された「顕在化した色調変化」,すなわち,比較例において観察された b*値の変化(Δb*)は,L−アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化を含む可 能性があると理解し,イソ\クエルシトリン及びその糖付加物の色調変化のみを反映 したものであると理解することはできないと解される。 そうすると,実施例において,アルコール類を特定量添加しpHを調整すること により,比較例に比べて飲料の色調変化が抑制されていることに接しても,当業者 は,比較例の飲料の色調変化がL−アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化を含 む可能性がある以上,イソ\クエルシトリン及びその糖付加物の色調変化が抑制され ていることを直ちには認識することはできないというべきである。 そして,本件明細書の実施例のb*値の変化(Δb*)は,0.9〜2.0であっ て,0ではないことから,L−アスコルビン酸に起因するb*値の変化(Δb*)は アルコール類の添加によってもマイナスに転じること(製造直後よりも黄色方向の 彩度が減じて青色方向に傾くこと)がないものと仮定しても,当業者は,実施例に おける飲料全体の色調変化の抑制という結果から,イソクエルシトリン及びその糖\n付加物の色調変化の抑制を認識することはできないというほかない。 また,前記(1)イ(オ),(カ)bのとおり,本件出願日当時,イソクエルシトリン及びそ\nの糖付加物が水溶液中のL−アスコルビン酸の分解を抑制することが知られていた ものと認められる。しかし,乙18によれば,イソクエルシトリン及びその糖付加\n物に相当するフラボノイド配糖体A又はBの配合によるアスコルビン酸を含む3 0%エタノール水溶液のL値の減少率の抑制の程度は,これらを配合しない場合を 100%として41.5%又は39.5%に止まり,L値の減少率を0%としたも のではない(すなわち,L値の減少が解消していない。)し,明度を示すL値(L* 値)の変化を示すものであって,本件明細書で測定している黄色方向の彩度を示す b*値の変化を示すものでもなく,また,エタノールの含有量も本件明細書の実施 例・比較例(0.01〜0.50質量%)とは大きく異なるから,当業者において, 本件明細書の実施例・比較例の条件において,L−アスコルビン酸に加え,イソク\nエルシトリン及びその糖付加物が配合されていることから,L−アスコルビン酸の 褐変が生じない(したがって,本件明細書の実施例・比較例の飲料の色調変化には, L−アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化は含まれない。)と理解するものとは いえない。
ウ 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願日当 時の技術常識に照らして,本件訂正発明9〜16は,容器詰飲料に含まれるイソク\nエルシトリン及びその糖付加物の色調変化を抑制することにより,当該容器詰飲料 の色調変化を抑制する方法を提供するという課題を解決できるものと,当業者が認 識することができるとはいえない。
エ 被告は,甲40及び甲69は,審判手続において審理判断されなかった 事実に関する新たな証拠であるから,本件訴訟において,これらの証拠に基づく審 決の違法性を主張することは許されず,取消事由3−4は,本件訴訟の審理の対象 にはならないと主張する。 しかしながら,被告も自認するとおり(前記第4の1(1)),原告は,審判事件弁 駁書(乙8)において「アスコルビン酸が酸化により黄色となることは周知の技術 的事項である」ことを指摘して本件訂正発明9〜16がサポート要件及び実施可能\n要件を欠くと主張しているから(20〜21頁),「アスコルビン酸が酸化により黄色 となることは周知の技術的事項である」ことを根拠として,本件訂正発明9〜16 がサポート要件及び実施可能要件を満たす旨の審決の判断が誤りであることを主張\nすることは当然に認められ,取消事由3−4は,そのような主張を含むものと認め られる。 そして,本件訂正発明9〜16は,被告も自認する「L−アスコルビン酸を含有 する飲料が経時変化により褐変すること」という事実(被告第2準備書面3頁,被 告第3準備書面16頁)を考慮すると,甲40及び甲69を検討するまでもなく, 被告が立証責任を負担するサポート要件の充足を認めることができないことは,前 示のとおりである。なお,被告は,「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有す\nる容器詰飲料が,L−アスコルビン酸の非存在下においても色調変化を生じ,その 色調変化がアルコールによって抑制されること」を立証趣旨として,乙14の実験 成績証明書を提出するが,乙15(技術説明資料)及び本件訴訟の経過に照らすと, 乙2の実験成績証明書と同様に,甲69の信用性を弾劾する趣旨であり,本件明細 書において開示が不十分な発明の効果を実験結果によって補充しようというもので\nはないと解される(仮に,乙14が,甲69の信用性を弾劾するにとどまらず,こ れによりイソクエルシトリン及びその糖付加物を含有し,L−アスコルビン酸を含\n有しない容器詰飲料の色調変化を立証する趣旨であったとしても,そのような立証 は,本件明細書の記載から当業者が認識できない事項を明細書の記載外で補足する ものとして許されない。)。被告の主張は,理由がない。
オ 被告は,「アスコルビン酸を含む」という条件において実施例と比較例は 同一であることを理由として,サポート要件の充足を認めた審決の趣旨は,アスコ ルビン酸を除けば,実施例と比較例のb*値やΔb*値の絶対値は変わるかもしれな いけれども,アスコルビン酸の有無にかかわらず,アルコールの添加によってイソ\nクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化が抑制されるという傾向自体は不変で あることを当業者が理解できると判断したものであり,その判断に誤りはないと主 張する。 この点について,審決は,アルコールを添加した実施例と,アルコールを添加し ない比較例の双方に,L−アスコルビン酸が含まれているとしても,このような実 施例と比較例の色調変化によって,L−アスコルビン酸の非存在下におけるイソク\nエルシトリン及びその糖付加物の色調変化に対するアルコール添加の影響を理解す ることができると判断するところ,L−アスコルビン酸が褐変し,容器詰飲料の色 調変化に影響を与え得るという本件出願日当時の技術常識を踏まえると,このよう に判断するためには,少なくともL−アスコルビン酸の褐変(色調変化)はアルコ ール添加の影響を受けないという前提が成り立つ場合に限られることは明らかであ るが,そのような前提が本件出願日当時の当業者の技術常識となっていたことを示 す証拠はない。したがって,本件明細書の実施例と比較例の実験結果をまとめた【表\n1】により,イソクエルシトリン及びその糖付加物に起因する色調変化の抑制とい\nう本件訂正発明9〜16の効果を確認することはできない。なお,念のため付言す れば,以上の検討は,特許権者である被告が,本件明細書において,イソクエルシ\nトリン及びその糖付加物の色調変化がアルコールにより抑制されることを示す実験 結果を開示するに当たり,同様に経時的な色調変化を示すことが知られていたL− アスコルビン酸という不純物が含まれる実験系による実験結果のみを開示したこと に起因するものであり,そのような不十分な実験結果の開示により,本件明細書に\nイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化がアルコールにより抑制されるこ\nとが開示されているというためには,容器詰飲料の色調変化に影響を与える可能性\nがあるL−アスコルビン酸の褐変(色調変化)はアルコール添加の影響を受けない ということが,本件明細書において別途開示されているか,その記載や示唆がなく ても本件出願日当時の当業者が前提とすることができる技術常識になっている必要 がある。したがって,特許権者である被告において,本件明細書にこれらの開示を しておらず,また,当該技術常識の存在が立証できない以上,本件明細書にL−ア スコルビン酸という不純物を含む実験系による実験結果のみを開示したことによる 不利益を負うことは,やむを得ないものというべきである。
カ 以上によれば,取消事由3−4のうち,サポート要件の判断の誤りをい う点は,理由がある(実施可能要件の判断の誤りをいう点は,必要がないから,判\n断しない。)。

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平成28(行ケ)10001等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月2日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反および実施可能要件違反はないとした審決が維持されました。裁判所は、実施可能\要件とは、物を作れるかどうかが判断基準であるとも判断しました。
 本件発明1から10は,物の発明であり,本件発明11から17は,方法の発明 であるところ,物の発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為であり(特 許法2条3項1号),方法の発明の実施とは,その方法の使用をする行為であるか ら(同項2号),上記実施可能要件を充足するためには,明細書の発明の詳細な説明において,当業者が,明細書の発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき,\n過度の試行錯誤を要することなく,物の発明については,その物を生産し,かつ, 使用することができる程度の記載があること,方法の発明については,その方法を 使用することができる程度の記載があることを要する。
イ 本件特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりであるところ,前記3(1)イ (ア)のとおり,当業者は,葉酸の補充によってMTA等の葉酸代謝拮抗薬の抗腫瘍 活性を維持しながら投与に関連する毒性を低下させることができるという技術常識 の下,MTA等の葉酸代謝拮抗薬の投与に関連する毒性の低下及び抗腫瘍活性の維 持のために,患者の年齢,体重等の属性や身体状態等に応じて適宜の用量・時期・ 方法により葉酸を投与していた。また,ビタミンB12自体は,出願時において既知 の物質であり,筋肉内注射等の投与の方法も,技術常識として確立していた(甲7, 36等)。これらの技術常識に加え,前記3(1)イ(イ)のとおり,本件明細書の発明 の詳細な説明には,葉酸及びビタミンB12の投与の具体的内容についての記載があ ることから(【0028】【0034】【0039】),当業者は,上記記載及び出願 時の技術常識に基づき,過度の試行錯誤を要することなく,本件特許請求の範囲に 記載された投与の量・時期・方法に係る葉酸とビタミンB12をMTAと組み合わせ て投与することを特徴とする医薬を生産することができ,また,方法を使用するこ とができるものというべきである。 そして,1)葉酸代謝拮抗薬の抗腫瘍活性を維持しながら投与に関連する毒性を低 下させるために必要な葉酸の用量は広範囲にわたること及び2)葉酸は,葉酸代謝拮 抗薬と並行して投与すればよく,葉酸代謝拮抗薬よりも先に投与することは必須で はないことは,出願時における技術常識であったことに加え(前記3(2)ア (ア)(イ)),本件明細書の発明の詳細な説明に,乳腺がん腫のC3H菌株に感染さ せたマウスに対し,ビタミンB12を用いて前処置し,次いで葉酸代謝拮抗薬を投与 する前に葉酸を投与することにより,毒性の著しい低下が見られ,葉酸代謝拮抗薬 の毒性をほとんど完全に除くとの記載があり(【0049】【0052】),ヒトにお ける臨床トライアルに関し,ALIMTA(MTA)ないしシスプラチンと併用す る葉酸及びビタミンB12の投与の用量・時期・方法並びに葉酸とビタミンB12の 組合せが薬物関連毒性を低下させたことが具体的に記載されていること(【005 5】〜【0060】【0064】【0065】【表1】)に鑑みれば,本件特許請求の\n範囲に記載された投与の量・時期・方法に係る葉酸とビタミンB12をMTAと組み 合わせて投与することを特徴とする上記医薬ないし方法は,MTA毒性の低下及び 抗腫瘍活性維持のためのものということができる。 以上によれば,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識 に基づいて,本件発明1から10に係る医薬を生産し,使用することができ,また, 本件発明11から17に係る方法を使用することができる。
(2)甲事件原告及び丙事件原告の主張について
ア 甲事件原告は,本件明細書の【0039】記載の葉酸の投与によってMTA 毒性及び抗腫瘍活性がどのようなものになるかについては言及されていない,実施 例においても,MTA毒性の低下と抗腫瘍活性の維持を両立し得るような葉酸の投 与の時期及び方法は示されていない旨主張する。 しかし,前記(1)のとおり,当業者は,出願時の技術常識及び本件明細書の発明の 詳細な説明の記載から,過度の試行錯誤を要することなく,本件特許請求の範囲に 記載された投与の量・時期・方法に係る葉酸とビタミンB12をMTAと組み合わせ て投与することを特徴とする医薬を生産し,また,方法を使用することができ,そ の医薬ないし方法は,葉酸を本件明細書の【0039】記載の方法で投与するもの も含め,MTA毒性の低下及び抗腫瘍活性維持のためのものということができる。 イ 甲事件原告は,本件明細書の【0039】において葉酸の投与時期とされる MTA投与の約1時間前から約24時間前という短時間のうちにベースラインのホ モシステインレベルが低下することは,当業者一般に知られていなかった旨主張す る。 しかし,証拠上,出願時において,ホモシステインレベルを低下させること自体 によって葉酸代謝拮抗薬の投与に関連する毒性ないしそのリスクが軽減するという 技術常識が存在したことは認めるに足りないこと(前記2(2)ウ(オ)参照)から,短 時間のうちにベースラインのホモシステインレベルが低下することが当業者一般に 知られていなかったとしても,それは,実施可能要件違反の有無を左右するものではない。\nウ 丙事件原告は,サポート要件違反と同じ理由により,本件明細書の記載は実 施可能要件に反する旨主張するが,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能\要件を充足するか否かは,当業者が,同記載及び出願時の技術常識に基づき,過度の試行錯誤を要することなく,その物を生産し,かつ,使用することができる程 度の記載があるか否かの問題である。他方,サポート要件は,特許請求の範囲の記 載要件であり,本件特許請求の範囲の記載がサポート要件を充足するか否かは,本 件特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された説明であり, 同記載及び出願時の技術常識により当業者が本件発明の課題を解決できると認識し 得るか否かの問題であり,実施可能要件とは異なる。よって,丙事件原告の上記主張は,それ自体失当である。\n

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平成27(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年12月6日  知的財産高等裁判所

 数値限定発明について、実施可能性違反なしとした審決が維持されました(知財高裁3部)。
特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発 明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすること ができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。\nその趣旨は,特許制度が,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当 該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであることに鑑み,その制 度趣旨が損なわれることがないよう,発明の詳細な説明に当該請求項に係る 発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載を求めるとした\n点にある。 そして,特許法上の実施とは,1)物の発明にあっては,その物の生産,使 用等をする行為であり,2)物を生産する方法の発明にあっては,その方法に より生産した物の使用等をする行為であるから(特許法2条3項1号,3号), 実施可能要件を満たすためには,それぞれ,明細書及び図面の記載並びに出\n願当時の技術常識に基づき,当業者が,1)当該物を生産できかつ使用できる ように具体的に記載すること,2)当該方法により物を生産できかつ使用でき るように具体的に記載することが必要である。 本件訂正発明は,同1,3,5,7,8が炭酸飲料という物の発明であり, 同9が炭酸飲料の製造方法という物の生産方法に関する発明であるから,こ れらの発明が実施可能要件を満たすためには,それぞれ,上記1)又は2)を満 たす必要がある。
(2) かかる実施可能要件に関し,原告は,「可溶性固形分」,「高甘味度甘味\n料によって付与される甘味の全量」及び「甘味量」の技術的意義が本件訂正 明細書の記載から把握できず,また,甘味の相対比が不明確であるため,甘 味の相対比に基づいた本件訂正発明における「全甘味量」,「高甘味度甘味 料によって付与される甘味の全量」及び「スクラロースによって付与される 甘味量」の数値範囲も不明確であって,そのような不明確な数値範囲の技術 的意義も理解できないため,実施例で用いられている甘味料以外の甘味料を 使用して,植物成分を10〜80重量%,及び炭酸ガスを2ガスボリューム より多く含む炭酸飲料を調製する場合に,甘味料をどの程度の量添加すれば, 「植物成分由来の重い口当たりと炭酸ガスに起因する苦味や刺激を軽減」し た炭酸飲料が得られるのか不明であるから,本件訂正発明を実施する際に, 本件訂正明細書の記載及び本件出願時の技術常識を考慮しても,当業者に期 待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものであり, 実施可能要件が満たされていないと主張する。\n(3) そこで検討するに,まず,本件訂正発明の「砂糖甘味換算」及び「砂糖甘 味換算量」という文言の意味が不明確であるとはいえず,本件訂正発明にお ける砂糖甘味換算量は,必要に応じて,換算又は測定可能なものといえるこ\nとは,前記1(取消事由5)で検討したとおりである。 また,植物成分,炭酸ガス及び可溶性固形分の含量,甘味量,並びに高甘 味度甘味料によって付与される甘味の全量については,それぞれの数値範囲 を逸脱した場合に,本件訂正発明の課題が解決できない旨が本件訂正明細書 に十分記載されており,換言すれば,それらの数値範囲内であれば,当業者\nは,本件訂正発明の課題が解決できると理解するものといえ,また,そのよ うな理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があったとは認められない こと,他方で,スクラロースによって付与される甘味量については,その数 値範囲を逸脱した場合に,本件訂正発明の課題が解決できないことまでが本 件訂正明細書に記載されているわけではなく,単に,その数値範囲が好まし い旨が本件訂正明細書に記載されているのみであるが,この記載に接した当 業者は,その数値範囲を少々逸脱した場合でも本件訂正発明の課題が解決で きるであろうと理解するといえること,換言すれば,その数値範囲内であれ ば,当業者は,本件訂正発明の課題が当然解決できると理解するといえ,ま た,そのような理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があったともい えないことは,前記4(取消事由3)で検討したとおりである。 そして,本件出願時の技術常識からみて,本件訂正発明の炭酸飲料を調製 するに当たり,果物又は野菜の搾汁を10〜80重量%の割合とすること(請 求項1の構成要件(1)),炭酸ガスを2ガスボリュームより多くすること(同 (2)),全甘味量を砂糖甘味換算で8〜14重量%とすること(同(4)),高 甘味度甘味料によって付与される甘味の全量を,砂糖甘味換算で全甘味量の 25重量%以上とすること(同(6)),全ての高甘味度甘味料によって付与さ れる甘味の全量100重量%のうち,スクラロースによって付与される甘味 量を,砂糖甘味換算量で50重量%以上とすること(同(7))自体が,当業者 にとって困難なことであるとは認められず,可溶性固形分含量を屈折糖度計 で測定して4〜8度のものとすること(同(3))も,当業者にとって困難な操 作であるとは認められない。 さらに,前記のとおり,本件訂正明細書には,実施例1として,ぶどう果 汁含有量50重量%,炭酸ガス3.0ガスボリューム,スクラロース0.0 065重量%,可溶性固形分含量5.1度の「グレープ炭酸飲料」を,実施 例2として,りんご果汁,レモン果汁及び人参の搾汁を合わせて31重量%, 炭酸ガス2.5ガスボリューム,スクラロース0.0075重量%及びアセ スルファムカリウム0.0035重量%,可溶性固形分含量4.5度の「果 汁入り炭酸飲料」を,実施例4として,リンゴ果汁33重量%,炭酸ガス2. 6ガスボリューム,スクラロース0.0067重量%,可溶性固形分含量6. 0度の「アップル炭酸アルコール飲料」を,それぞれ調製したことが,具体 的に記載されている(前記1(1)ス〜ソ)。また,本件訂正明細書には,甘味\n料について多数の例示があるとはいえ(同ケ),スクラロースと組み合わせ る高甘味度甘味料について具体的に例示されており(同)コ),搾汁とすべき 果物や野菜についても具体的に例示されている(同カ)。 以上を考慮すれば,本件訂正発明の(方法で)炭酸飲料を調製するに当た り,当業者が特段の困難な操作を要するとは認められず,また,その調製に 当業者の過度の試行錯誤を要するとも認められない。 よって,当業者は,本件訂正発明の(方法で)炭酸飲料を作ることができ るというべきであり,「(当該方法により)物を生産でき…る」の要件を満 たすといえる。
(4) また,そのようにして作られた本件訂正発明の数値範囲を満たす炭酸飲料 は,本件訂正発明の課題を解決する,すなわち,果汁等の植物成分と炭酸ガ スの両者を含有する飲料であって,植物成分の豊かな味わいと炭酸ガスの爽 やかな刺激感(爽快感)をバランス良く備えた植物成分含有炭酸飲料である といえる一方,そのような理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があ ったとも認められない。 よって,本件訂正発明の数値範囲を満たす炭酸飲料は,技術上の意義のあ る態様で使用することができるというべきであり,「物を…使用できる」の 要件も満たすといえる。

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平成28(行ケ)10036  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月28日  知的財産高等裁判所(2部)

 無効理由なしとした審決が維持されました。分割要件、訂正要件、サポート要件など各種争われていますが、中心争点は明細書における発明の開示です。
 前記(1)によれば,本件明細書には,1)技術分野につき,【0002】に は,「この開示は全体的に,リンクされたアイテムを作成するための方法とデバイス に関する。より特定には,この開示は,リンクされた装着可能なアイテムを弾性バ\nンドから作成するための方法とデバイスに関する。」と記載され,2)背景技術につき, 【0003】には,「独自に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るため の材料を含むキットは,常にいくらかの人気を博してきた。しかしながら,そのよ うなキットは通常,異なる色に色付けされた糸およびビーズのような原材料を含む だけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人の技量と才能に依存す\n る。従って,独自の装着可能なアイテムを作成するための材料を提供するのみでな\nく,望ましく耐久性のある装着可能なアイテムを成功裡に作成することを多くの技\n量および芸術的レベルの人々にとって容易するする(原文ママ)ように構築を簡略化\nもするキットについての必要と願望がある。」と記載され,そして,これに対応して, 3)発明の概要として,【0004】には,「ブルニアンリンク(Brunnian link)とは,チ ェインを形成するために,別の閉じたループを捕捉するようにそれ自体上で二重化 された閉じたループから形成されたリンクである。そのようなリンクを望ましいや り方で形成するのに,弾性バンドが利用されることができる。例示的キットおよび デバイスは,複雑な構成のブルニアンリンク物品の作成を提供する。しかも,例示\n的キットは,ブルニアンリンク組み立て技術を使って独自の装着可能な物品の成功\nする作成を提供する。」と記載されるとともに,4)発明を実施するための形態の説明 の総括として,【0027】には,「従って,例示的キットおよび方法は,ブレスレ ット,ネックレスおよびその他の装着可能なアイテムの作成のためにブルニアンリ\nンクの多くの異なる組み合わせおよび構成の作成を提供する。しかも,例示的キッ\nトは,潜在的なブルニアンリンク作成の能力を更に作り出して拡張するために拡張\n可能である。更には,例示的キットは,そのようなリンクおよびアイテムの簡単な\nやり方での作成を提供して,様々な技量レベルの人々に独自の装着可能なアイテム\nを成功裡に作成することを許容する。」と記載されている。 これらの記載によれば,本件明細書には,ブレスレットやネックレスなどの「独 自の装着可能なアイテム」を作成するキットは,通常,異なる色に色付けされた糸\n及びビーズのような原材料を含むだけであり,アイテムを構築することは個人の技\n量と才能に依存するため,このように材料を提供するのみでなく,アイテムを成功\n裡に作成することを多くの技量及び芸術的レベルの人々にとって容易にするように 構築を簡略化もするキットについての必要と願望があったことに鑑み,アイテムを\nブルニアンリンクアイテムとし,ブルニアンリンク組み立て技術を使ってブルニア ンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レベルの人々にブルニアンリ ンクアイテムを成功裡に作成することを許容するキットを提供することが記載され ていると認められる。
イ また,本件明細書において,発明を実施するための形態として,次の(ア) 〜(エ)といった複数のキットが記載されているととともに,前記アのとおり,いずれ のキットによっても,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技 量レベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成することを許容するこ とが記載されている(【0027】)
(ア) 単一の列に規定された複数のピン26を有し,各ピン26に,リンク の作成中にゴムバンドの誤った開放を防止するために外向きにフレアー状になった フランジ状上部38と,ピン26の間でゴムバンドの端部を動かすために利用され るフックツール16の挿入のための間隙を提供する前方アクセス溝40が形成され たピンバー14を,3つ横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造と\nしたキット(【0009】〜【0015】,【0020】〜【0022】)
(イ) (ア)のキットに対しピンバー14を追加して,例えば5つのピンバー1 4を横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造としたキット(【001\n9】)
(ウ) 6つのピンバー14を横並びに揃えてベーステンプレート66上にサ ポートさせて一体構造としたキット(【0024】)
(エ) ベーステンプレート66のサイドに形成されたジョイント80,82 を用いて,例えば2つの(ウ)のキットを縦方向あるいは横方向に連結させて一体構造\nとしたキット(【0025】及び【0026】)
ウ そして,いずれのキットも,複数のピンバー14をベース12ないしベ ーステンプレート66上にサポートさせて一体構造としたものは,ピンバー14及\nびベース12ないしベーステンプレート66が一体をなして複数のピン26をサポ ートする構造にほかならず,このことは,段落【0011】に,「ピン26を望まし\nい揃えでサポートするために,・・・1つまたはいくつかのピンバー14がいくつか のベース12に載置されている。」との記載,すなわち,「ピン26」をサポート対 象とする旨の記載があることからも明らかである。そして,ベーステンプレート6 6も「ベース」の概念であると認められることから,いずれのキットも,複数のピ ンバー14をベース12ないしベーステンプレート66上にサポートさせて一体構\n造としたものは,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レ ベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成するための,複数のピンが (ピンバーの本体部を介して)ベースに(間接的に)サポートされた構造のもので\nあると理解できる。 そうすると,いずれのキットも,特に「ピンバー」の限定がない,本件発明1の 「一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって,/ベースと,/ ベース上にサポートされた複数のピンと,を備え,/前記複数のピンの各々は,リ ンクを望ましい向きに保持するための上部部分と,当該複数のピンの各々の前面側 の開口部とを有し,複数のピンは,複数の列に配置され,相互に離間され,且つ, 前記ベースから上方に伸びている/装置。」,又は,本件発明6の「一連のリンクか らなるアイテムを作成するためのキットであって,/リンクを望ましい向きに保持 するための上部部分と,複数のピンの各々の前面側の開口部を含み,ベースにより お互いに対してサポートされた複数のピンを備え,/前記複数のピンは,複数の列 に配置され,相互に離間され,且つ,前記ベースから上方に伸びている,/キット。」 の構成を充足するものであり,いずれのキットも本件発明の実施形態であると認め\nられる。
エ 以上によれば,本件発明の課題は,審決が認定するとおり,個人の技量 に依存することなく,様々な技量レベルの人々に,「ブルニアンリンクアイテム」を 簡単に作成するキットを提供することにあると認められる。
オ そして,本件訂正により,本件明細書は訂正されておらず,前記ア〜エ に記載の点は,本件訂正発明についても該当するものと認められる。 したがって,本件訂正によって本件発明の課題が変更されたとは認められないか ら,これを根拠とする原告の主張は理由がない。
カ これに対し,原告は,本件訂正の前後を問わず,本件発明及び本件訂正 発明〔全部〕の本質は,「ベースとピンバーを様々な向きに組み合わせることにより, 無尽のバリエーションの編み物製品を容易に作成することができる編み機を提供す ること」にあるが,仮に,本件訂正後の発明の本質が審決認定のとおり「個人の技 量に依存することのない『ブルニアンリンク』作成方法を『提供』する」ことに発 明の本質があるのであれば,本件訂正により発明の本質が変更され,特許請求の範 囲を実質的に変更するものであると主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件明細書の背景技術(【0003】)には,「独自 に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るための材料を含むキット は,・・・原材料を含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人 の技量と才能に依存する」という課題があり,「望ましく耐久性のある装着可能\\なア イテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容 易」となるように,「構築を簡略化もするキットについての必要と願望がある」こと\nのみが記載されており,原告主張の編み物製品のバリエーションに関する課題(バ リエーションに乏しいこと)は記載されていない。また,発明の概要についてみて も,その冒頭(【0004】)には,ブルニアンリンクの説明や,その作成に弾性バ ンドが利用可能であることに続けて,「例示的キットは,ブルニアンリンク組み立て\n技術を使って独自の装着可能な物品の成功する作成を提供する。」として,「原材料\nを含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人の技量と才能に\n依存する」という前記課題を解決したことが記載され,原告主張の編み物製品のバ リエーションについて記載されているものではない。 そうすると,本件明細書には,発明の概要に「ベースとピンバーは,完成された リンクの向きの無尽のバリエーションを提供するように,様々な組み合わせおよび 向きに組み立てられ得る。」と記載され(【0005】),また,ベース12ないしベ ーステンプレート66とピンバー14との組合せにより,前記イ(ア)〜(エ)のいず れのキットをも構成し得ることが記載されていることを考慮しても,これらは拡張\n的な機能であって,ベース12とピンバー14を様々な向きに組み合わせることに\nより,無尽のバリエーションを提供することは,本件明細書において必須の技術事 項であるとは認められない。

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平成27(行ケ)10226  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月24日  知的財産高等裁判所

 発明未完成、明確性違反、実施可能性違反として拒絶された出願について、審決取消訴訟が提起されました。知財高裁(第1部)は、実施可能要件違反として審決を維持しました。
 ア 前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例1)では,本願マトリ ックスを通過した白昼光に対し蒸留水を24時間常温で暴露する実験を行ったとこ\nろ,水が同期化したことが認められ,この点については当事者間に争いがないとこ ろである。しかしながら,上記実験は,実験条件の詳細が明らかではなく,本願明 細書の表1における「基準」に関する実験条件も具体的に記載されていないことか\nらすると,本願マトリックスを使用した場合とこれを使用しなかった場合における 比較実験を行ったものと認めることはできない。のみならず,水の同期化の理論的 なメカニズムは十分に解明されていない上,特開2004−2514985)公報(乙 2の【要約】,【0006】,【0011】)によれば,かえって,マイクロウェーブ,超音波,マイクロ波超音波,赤外線(遠赤外線,中間赤外線,近赤外線を含む。)な どを使用することによって,水分子の回転運動を促進し,本願水特性のように,凝 固点における水温をマイナス10度以下に降下させることが可能になるとされてお\nり,しかも,上記近赤外線(780nm〜2500nm)は,本願発明にいう入射光の 範囲(360nm〜3600nm)に含まれるのであるから,本願マトリックスを通過 しない入射光であっても水を一定程度同期化し得ることが認められ,水の同期化が 本願マトリックス以外の実験条件によって生じた可能性も残るといわざるを得ない。\nそうすると,本願明細書にいう上記実験は,水が同期化された原因が,その他の実 験条件によるものではなく,専ら入射光が本願マトリックスを通過したことによる ことまでを立証するものとはいえない。 したがって,立証事項Aが立証されたということはできない。
イ また,前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例14)では,男 性2名及び女性2名に対し,本願マトリックスを耳鳴り症状を示す耳の後部の頭蓋 基底部に,皮膚に穏やかな接着剤で局所的に配置する実験を行ったところ,このう ち3名の耳鳴り症状が24時間以内に消失し,1名の耳鳴り症状が1週間以内に消 失したことが認められる。しかしながら,上記実験における被験者は僅か4名にと どまり,しかも本願マトリックスを使用しない場合との比較試験を行うものではな いことからすれば,耳鳴り症状が自然治癒又はいわゆるプラセボ効果(乙11)に より消失した可能性も残るというほかない。のみならず,証拠(乙6ないし9)及\nび弁論の全趣旨によれば,キセノンが発する光のうち近赤外線を利用した耳鳴り治 療法(いわゆるキセノン光線療法)が現に実施されていることが認められることか らすれば,上記実施例における実験においても,被験者の耳の後部に照らされた光 が耳鳴り治療に一定程度有効に作用した可能性も残ることが認められる。したがっ\nて,本願明細書にいう上記実験は,耳鳴り症状が本願マトリックス自体によって消 失したものであることまでを立証するものとはいえない。 したがって,立証事項Bが立証されたものとはいえない。
ウ 以上によれば,本件立証事項が立証されたものと認めることはできず,本願 明細書は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載\nたものとはいえない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,本願明細書にいう上記各実験結果はA宣誓書によって裏付けられて いる旨主張する。しかしながら,本願マトリックスを使用した実験がA教授の研究 室で行われたことはうかがわれないことからすれば,A宣誓書は,本願明細書にい う実験によって同期化された水の性質が,A教授の研究室での実験結果と同一であ るというにとどまり,水を同期化するとされる入射電磁エネルギーが本願マトリッ クスによって形成されることまでを裏付けるものとはいえない。したがって,原告 の上記主張は,A宣誓書を正解しないものであって,採用することができない。
イ 原告は,人に対する治療を目的とする発明に対し,特許出願前のごく僅かな 期間に厳格な実験を行うことを求めるのは困難を強いるものであって現実的ではな く,また,本願明細書の耳鳴り治療に関する実験はA宣誓書によっても裏付けられ ている旨主張する。しかしながら,比較実験の被験者となる耳鳴り患者の人数が少 ないことを認めるに足りる証拠はなく,耳鳴り症状の比較実験の方法についても, 例えば耳鳴り症状を示す両耳のうち片耳に限り本願マトリックスを配置すれば足り るのであるから,格別困難を強いるものとはいえず,原告の主張は,その前提を欠 く。また,A宣誓書は,「例14は,パイロット臨床実験におけるTGMの適用が4 人のヒト被験者における耳鳴り症状に対して有利な効果を有したことを実証してい る」(甲11〔53頁4行目ないし5行目〕参照)として,単に実験結果を追認する ものにすぎず,A教授の研究室で本願マトリックスによる耳鳴り症状の改善に関す る実験が行われていない以上,A宣誓書によっても本願マトリックスによって耳鳴 り症状の改善効果があることを認めることはできない。さらに,原告主張に係る報 告書(甲22)における実験も,上記(3)イで説示するところと同様に,比較試験を 行うものではなく,本件立証事項を裏付けるものとして適切ではない。したがって, 原告の主張は,その裏付けを欠くというほかなく,採用することができない。 (5) まとめ
上記によれば,本願明細書は当業者が本願発明の実施をすることができる程度に 明確かつ十分に記載したものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張\nする取消事由3(特許法36条4項15)〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)は\n理由がない。

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平成27(行ケ)10176  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月12日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、請求項1,2及び4の数値範囲について、実施可能要件を満たしていないと判断しました。また、請求項3について、審判では主張していなかったサポート要件は、本来審理の対象とはならないが、念のため判断するとして、最終的にはサポート要件を満たしていると判断しました。\n
 (カ) 以上によれば,本件出願日当時,パルスレーザー蒸着法により,アモ ルファスのInGaO3(ZnO)m(m=1〜4)を形成することが可能であるこ\nとは確認できるものの(甲3,4,6,7),mが5以上の場合は開示されておらず, mが5以上のZnOに近い組成ではアモルファス相は得られないとの指摘もされて いた(甲3)から,当業者は,mが5以上の薄膜の作成は極めて困難と認識してい たものと認められる。
エ そして,本件明細書には,かかる当業者の認識にもかかわらず,mが5 以上50未満であるアモルファスの本件化合物薄膜を作成する方法についての記載 はない。
(3) したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,mが5以上50未 満の整数である場合を含む本件発明1,2及び4について,当業者が,アモルファ スの本件化合物薄膜を形成することができる程度に明確かつ十分に記載されたもの\nであるということはできないから,実施可能要件を欠くものと認められる。\nそうすると,その余の点について検討するまでもなく,取消事由3には,理由が ある。
(4) これに対して,被告は,本件発明は,InGaO3(ZnO)m膜につい て電界効果トランジスタの活性層に適するという未知の属性を発見し,その属性は アモルファスでも奏されることを見出したものであり,mの値の数値限定にのみ意 義のある発明ではないから,透明薄膜電界効果型トランジスタという物品の活性層 を構成する材料についてmの値の全範囲にわたって物品を作製する実施例の記載が\n必要であるということにはならない,と主張する。 しかし,被告の主張するとおり,本件発明がmの値の数値限定にのみ意義がある のではないとしても,本件発明の請求項の記載には,mが5以上のアモルファス薄 膜も含まれているから,かかるアモルファス薄膜を形成することができる程度の記 載が,本件明細書に求められるというべきである。しかも,上記(2)のとおり,本 件出願日当時には,mが5以上の組成ではアモルファス相は得ることが極めて困難 であるという当業者の認識があったにもかかわらず,本件明細書にはmが5以上5 0未満であるアモルファスの本件化合物薄膜の作成方法についての記載がない以上, 本件発明1,2及び4について,当業者が,アモルファスの本件化合物薄膜を形成 することができる程度に,その作成方法が明確かつ十分に記載されたものであると\nいうことはできない。
・・・・
(2) 原告は,本件発明3に関しては,本件明細書の発明の詳細な説明に記載さ れている実施例は,単結晶のInGaO3(ZnO)5に関するものたった 1 つであ り,本件明細書の発明の詳細な説明には,MがIn,Fe,Alの場合の本件化合 物も,m=5以外の場合の本件化合物も開示されていないから,サポート要件を欠 く,と主張する。これに対し,被告は,原告は上記主張を無効審判請求時にしていなかったから,本件訴訟において主張するのは不適法である,と反論する。
(3)ア 特許法は,特許無効の審判について,そこで争われる特許無効の原因が 特定されて当事者らに明確にされることを要求し,審判手続においては,上記特定 された無効原因をめぐって攻防が行われ,かつ,審判官による審理判断もこの争点 に限定してされるという手続構造を採用していることが明らかである。したがって,\n特許無効審判の審決に対する取消しの訴えにおいて,その判断の違法が争われる場 合には,専ら審判手続において現実に争われ,かつ,審理判断された特定の無効原 因に関するもののみが審理の対象とされるべきである(最大判昭和51年3月10 日,民集30巻2号79頁参照)。
イ 本件において,審判段階では,原告が主張していた本件発明3に関する 無効理由6の概要は,以下のとおりである(甲40)。 本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載に接した当業者は,高温で反応性 固相エピタキシャル成長させて形成した本件化合物単結晶薄膜を,活性層に用いる と,ノーマリーオフの透明薄膜電界効果型トランジスタを得ることができると認識 する。一方,本件発明3には,YSZなどの酸化物単結晶基板上のZnOエピタキ シャル薄膜上に,高温である800℃以上,1600℃以下で反応性固相エピタキ シャル成長して形成した本件化合物単結晶薄膜を,活性層に用いたことが規定され ていない。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は, 本件発明3がノーマリーオフになると認識できないというべきである。
ウ そうすると,原告が本件訴訟において取消事由4と主張する,本件明細 書の発明の詳細な説明には,MがIn,Fe,Alの場合の本件化合物も,m=5 以外の場合の本件化合物も開示されていないことが,サポート要件を欠くというべ きか否かについては,審判においては現実に争われたものではなく,審理判断され たものではないといわざるを得ない。
(4) これに対して,原告は,サポート要件があることの立証責任は特許権者で ある被告にあるから,審判請求人である原告はサポート要件違反があるという争点 を指摘すれば足り,取消事由4に係る主張は不適法ではない,と主張する。 しかし,上記(3)アのとおり,審決取消訴訟における審理範囲は,立証責任の所在 ではなく,実際に審理判断された特定の無効原因といえるか否かによって画される のである。原告の主張には,理由がない。
(5) 以上のとおり,原告の取消事由4の主張は,主張自体失当であるが,念の ため,原告主張の理由により,本件発明3はサポート要件を欠くかについて判断す る。
ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,単結晶の本件化合物薄膜を形成す る方法について,「YSZ(イットリア安定化ジルコニア)基板上に育成したZnO 単結晶極薄膜上に,アモルファスのホモロガス化合物薄膜を堆積し,得られた多層 膜を高温で加熱拡散処理する「反応性固相エピタキシャル法」により,ホモロガス 単結晶薄膜を育成する」(【0007】),「上記のホモロガス単結晶薄膜の製造方法と 同様に,ZnO薄膜上にエピタキシャル成長した複合酸化物薄膜を加熱拡散する手 段を用いる」(【0008】)と記載され,ZnO薄膜上に形成する本件化合物薄膜に ついては,「MBE法,パルスレーザー蒸着法(PLD法)等により成長させる。」 (【0019】),「得られた薄膜は,単結晶膜である必要はなく,多結晶膜でも,ア モルファス膜でも良い。」(【0020】)との記載がある。 そして,実施例1として,単結晶InGaO3(ZnO)5薄膜(m=5の場合) を活性層としたトップゲート型MISFET素子の作製方法が記載されている(【0 028】〜【0031】,図1〜4)。 エ したがって,本件発明3は,サポート要件を満たしているものと認めら れ,いずれにしても,取消事由4には,理由がない。

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平成27(行ケ)10148  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年8月3日  知的財産高等裁判所

 コンピュータにおける処理について、実施可能性違反とした審決が維持されました。最後に審判手続きについて付言がなされています。
 本願明細書には,「複数のプロセッサコア」という分散された環境に備えられた 「プレディケート予測器」において行われる「プレディケート命令の出力」の「予\ 測」処理の内容に関し,【0026】ないし【0029】の記載があり,ここには, 「概略プレディケート経路情報」を用いて,2つの履歴レジスタ,すなわち,コア ローカル履歴レジスタとグローバル分岐履歴レジスタを生成し,それを用いて「プ レディケート命令の出力」の予測を行うこと(【0026】,【0027】),並\nびに,上記グローバル分岐履歴レジスタに対応するグローバル履歴レジスタとして, 「コアローカルプレディケート履歴レジスタ」を用いる実施例(【0028】,図 6A)及び「グローバルブロック履歴レジスタ」を用いる実施例(【0029】, 図6B)が記載されている。 しかし,上記記載からは,「概略プレディケート経路情報」からコアローカル履 歴レジスタとグローバル分岐履歴レジスタという二つの履歴レジスタをどのような 処理により分けて生成するのか,また,当該二つの履歴レジスタをどのような処理 により「プレディケート命令の出力」の「予測」において使い分けるのか,さらに,\n上記二つの履歴レジスタを用いた「プレディケート命令の出力」の「予測」を信頼\n性の高く正確なものとするために「概略プレディケート経路情報」として具体的に どのような内容が必要とされるのか,把握することはできない。 したがって,本願明細書の上記記載から,「複数のプロセッサコア」という分散 された環境に備えられた「プレディケート予測器」において,信頼性の高いプレデ\nィケートの正確な予測に役立ち得るプレディケート履歴を生成し,コア間の通信を\n最小にするために,「概略プレディケート経路を表す情報」に基づく「予\測」の処 理が具体的にどのように行われているのか明らかであるということはできない。 そして,当業者にとって,本願の優先日当時の技術常識に基づき,「複数のプロ セッサコア」という分散された環境に備えられた「プレディケート予測器」におい\nて,信頼性の高いプレディケートの正確な予測に役立ち得るプレディケート履歴を\n生成し,コア間の通信を最小にするために,「概略プレディケート経路を表す情\n報」に基づいて行われる「予測」の処理内容が自明であることを認めるに足りる証\n拠はない。 そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,「複数のプロセッサ コア」という分散された環境に備えられた「プレディケート予測器」において,信\n頼性の高いプレディケートの正確な予測に役立ち得るプレディケート履歴を生成し,\nコア間の通信を最小にするために,「概略プレディケート経路を表す情報」に基づ\nいて行われる「予測」の処理内容を理解することができるように記載されていると\nいうことはできない。 エ 以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は,「複数のプロセッサコ ア」という分散された環境において,「プレディケート予測器」が「概略プレディ\nケート経路を表す情報」に基づいて「プレディケート命令の出力を予\測する」とい う処理を行うことにより,信頼性の高いプレディケートの正確な予測に役立ち得る\nプレディケート履歴を生成することができ,同時にコア間の通信を最小にするとい う作用効果を奏するコンピューティングシステムを製造し,使用することができる 程度に記載されていない。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1の実施をす ることができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。\n
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願明細書には,1)対象のアーキテクチャは,EDGEアーキテク チャのようなハイブリッドなデータフローのアーキテクチャであること,2)コンパ イラが,各ブロックの分岐命令に,プログラム内での分岐命令の順序にしたがって, 3ビットの「終了コード」(「出口コード」ともいう。)を割り当てること,3) 「概略プレディケート経路情報」は,コンパイラによって,分岐命令に符号化され, 特定のブロックの具体的な分岐を識別可能であること,4)予測器が,分岐命令に符\n号化された「概略プレディケート経路情報」を用いてプレディケート予測を行うこ\nとが記載されているところ,EDGEアーキテクチャにおいて,分岐命令に出口を 識別する例えば3ビットの識別子を割り当て,それを分岐命令に符号化することは, 本願の優先日前に技術常識であったから,当業者であれば,本願の「概略プレディ ケート経路情報」は,出口を識別する例えば3ビットの「終了コード」として分岐 命令に符号化された情報であると理解し,コンパイルのタイミングでコンパイラに よって,分岐命令の分岐先を,例えば3ビットの終了コードで表した形式で,分岐\n命令に符号化された情報であり,予測器によってプレディケート予\測に用いられる 情報であると理解する旨主張する。 イ しかし,原告が挙げる甲9(「Analysis of the TRIP S Prototype Block Predictor」平成21年4月)及 び甲10(「Distributed Microarchitectural Protocols in the TRIPS Prototype Proc essor」平成18年12月)は,EDGEアーキテクチャの一例である「TR IPS」という特定のアーキテクチャについて,「分岐命令に出口を識別する例え ば3ビットの識別子を割り当て,それを分岐命令に符号化すること」を記載したも のにすぎず,EDGEアーキテクチャ一般について記載したものではない。したが って,上記証拠(甲9,10)から,本願の優先日前に「EDGEアーキテクチャ において,分岐命令に出口を識別する例えば3ビットの識別子を割り当て,それを 分岐命令に符号化すること」が技術常識であったと認めるに足りず,他にこれを認 めるに足りる証拠はない。 ウ また,前記イの点を措き,仮に当業者において,本願明細書の「概略プレデ ィケート経路情報」は,出口を識別する例えば3ビットの「終了コード」として分 岐命令に符号化された情報であると理解し,コンパイルのタイミングでコンパイラ によって,分岐命令の分岐先を,例えば3ビットの終了コードで表した形式で,分\n岐命令に符号化された情報であり,予測器によってプレディケート予\測に用いられ る情報であると理解したとしても,本願発明1の「概略プレディケート経路を表す\n情報」に相当する「概略プレディケート経路情報」について,1)そのデータ形式, 2)その形式に「終了コード(出口コード)」という,本願明細書全体の記載から見 ても内容が不明なコードが関連していること,3)分岐命令への符号化という処理が コンパイラによってされること,4)予測器によるプレディケート予\測に用いられる ことが把握できるにすぎず,「出口を識別する例えば3ビットの「終了コード」と して分岐命令に符号化された情報」が,「プレディケート命令の出力」の「予測」\nを信頼性が高く,正確なものとする上で,具体的にどのような内容のものであるの かを把握することはできない。 したがって,「複数のプロセッサコア」という分散された環境に備えられた「プ レディケート予測器」において,信頼性の高いプレディケートの正確な予\測に役立 ち得るプレディケート履歴を生成し,コア間の通信を最小にするために,「概略プ レディケート経路を表す情報」に基づく「予\測」の処理が具体的にどのように行わ れているのかが,明らかであるということはできない。
(4) 小括
以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1の実施を することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできないから,\n本願発明1を特許請求の範囲に含む本願は,拒絶すべきものである。
・・・・
以上によれば,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,理 由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 本件審決は,最終的な結論において誤りはなかったことから,取り消すべきもの とはされなかったが,以下の問題があるから,事案に鑑み,本件審決書について付 言する。まず,本件審決は,その判断において,平成25年9月6日付けで通知し た拒絶理由及び同年12月27日付けでした拒絶査定の内容を引用した上で,本願 発明が,拒絶査定で示された理由を解消しているか否かを判断するという体裁で, しかも,前記第2の3のとおり,本件補正前の請求項と本件補正後の請求項が混在 したまま,審決の理由を示している。しかし,本件審決における判断対象は,本件 補正後の請求項であり,本件補正後の本願発明に拒絶理由が存在するか否かを判断 すべきである。また,本件審決におけるサポート要件に係る判断は,その結論部分 において,本件補正後の請求項の全てについてサポート要件を満たさない旨判断し ていながら,本件補正後の請求項1についてしかその具体的理由が言及されておら ず,実施態様の異なる他の請求項についても,サポート要件を満たさないことにな る理由は,何ら具体的に述べられていない。以上のとおり,本件審決書は,適切と はいい難いものであって,判断対象を明確にして,結論を導くに足りる理由を示す ことが望まれる。

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平成27(行ケ)10017  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年11月24日  知的財産高等裁判所

 審決は36条違反(実施可能要件、サポート要件)としましたが、知財高裁はこの判断については取り消しました。ただ、審決が進歩性なしとした判断については維持され、結局審決は維持されました。
 審決は,本願発明のうち,間隔保持部材を有さない構成において,各分\n離ディスク間に精度よく間隔を形成する方法が,発明の詳細な説明に,当業者が実 施可能な程度に記載されていない,とする。\nイ しかしながら,複数の部材を相互にはんだ付け又は溶接により接合する 場合に,当該複数の部材は,一定の時間相互に近接保持される必要があるが,様々 な治具等によって空間内の特定の位置に固定されることは,技術常識といえる。例 えば,従来,・・・が開示されており,このことは,本件発明のように,多数の分離ディスクが含 まれる場合も同様である。そして,当業者にとって,各分離ディスクの間隔をどの 程度とするか,また,その間隔の精度をどの程度とするかは,各分離ディスクの固 定手段により適宜調整可能なことである。\nしたがって,審決の特許法36条4項1号に関する判断には,誤りがある。 ウ これに対して,被告は,本願発明において,間隔保持部材を設けること なしに,はんだ付け又は溶接するだけで,遠心分離機の分離ディスクとして回転す る場合でも回転に関して動的に安定したものとすること,及び,適切に遠心分離を 行うために必要な薄い流動空間を正確に形成できることまでは,明細書の記載から 明らかではなく,技術常識でもない,と主張する。しかしながら,本願発明のよう な遠心分離機において,間隔保持部材を設けることが必須であるといった技術的知 見の存在を裏付けるに足る適切な証拠は提出されていない。 ・・・ ア 審決は,本願発明のうち,間隔保持部材を有さない構成が発明の詳細な\n説明に記載されていない,とする。 イ 確かに,発明の詳細な説明中,実施例においては,間隔保持部材を有さ ない構成は挙げられておらず,かかる構\成が含まれることは明示されてはいない。 しかしながら,本願発明は,分離ディスクの凹部内に配置されている封止部材によ る摩耗などに起因するディスク強度の問題や(【0003】),これを回避するためね じ接続を採用し,さらに,分離ディスクを圧縮する構成によった場合の各分離ディ\nスクの対称性や相互の位置合わせへの悪影響といった問題(【0004】)を解消す るために,金属製のディスクをはんだ付け又は溶接によって接合するという構成を\n採用したものであるところ,間隔保持部材の有無は,上記各課題の解決には関連し ないのであるから,間隔保持部材がない構成が記載されていないと解することはで\nきない。 よって,審決の特許法36条6項1号に関する判断には,誤りがある。 ウ 被告は,遠心分離機においては遠心分離を受ける液体用に分離室を多く の薄い流動空間に分け,分離ディスク間の隔離部材(間隔保持部材)を配置するこ とが一般的であり,適切に遠心分離を行うために分離ディスク間の薄い流動空間を 正確に形成する必要があることは明らかである,と主張する。 しかしながら,被告の摘示する特表平11−506385号公報(甲2)には,\n間隔保持部材を機能させる場合,すなわち,間隔保持部材が必要な場合には,分離\nディスクに固定するとの記載しかなく,間隔保持部材が必須ということは読み取れ ないし,他にこの点を認めるに足る証拠もない。

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平成26(行ケ)10238  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年8月5日  知的財産高等裁判所

 薬剤投与に用いる活性発泡体について、実施可能要件違反であるとした審決が取り消されました。
 特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発 明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすること ができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。\n特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実 施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の 技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法36条 4項1号が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当 業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されて\nいない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許 法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことにあると解される。 そして,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする 行為をいうから(特許法2条3項1号),同法36条4項1号の「その実施 をすることができる」とは,その物を作ることができ,かつ,その物を使用 できることであり,物の発明については,明細書にその物を生産する方法及 び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載が なくても,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき,当業 者がその物を作ることができ,かつ,その物を使用できるのであれば,上記 の実施可能要件を満たすということができる。\n さらに,ここにいう「使用できる」といえるためには,特許発明に係る物 について,例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることが できるなど,少なくとも何らかの技術上の意義のある態様で使用することが できることを要するというべきである。 これを本願発明についてみると,本願発明は,前記第2の2に記載のとお りの活性発泡体であるから,本願発明は物の発明であり,本願発明が実施可 能であるというためには,本願明細書及び図面の記載並びに本願出願当時の\n技術常識に基づき,当業者が,本願発明に係る活性発泡体を作ることができ, かつ,当該活性発泡体を使用できる必要があるとともに,それで足りるとい うべきである。
(2) 活性発泡体を作ることができるかについて
まず,当業者において,本願明細書の記載に基づいて,本願発明に係る活 性発泡体を作ることができるかどうかを検討する。 前記1によれば,
・・・・
これらの記載に接した当業者であれば,本願明細書に記載された各種 のゴム又は合成樹脂と,各種のジルコニウム化合物及び/又はゲルマニ ウム化合物とを組み合わせ,実施例に記載された製造方法に従って,本 願発明の「天然若しくは合成ゴム又は合成樹脂製で独立気泡構造の気泡シ\nートを備えた活性発泡体であって,前記気泡シートは,ジルコニウム化合物 及び/又はゲルマニウム化合物を含有」する活性発泡体を製造することがで きるというべきであり,また,当該活性発泡体を,例えば,敷きマットのよ うな,「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことが できる形態とすることもできるというべきである。
(3) 活性発泡体を使用できるかについて
次に,当業者において,本願明細書の記載及び本願出願当時の技術常識に 基づいて,本願発明に係る活性発泡体を使用できるかどうかについては,活 性発泡体を前記(2)のとおりの形態とすることができる以上,当該活性発泡 体を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」こと自体 は当然にできると考えられることから,かかる用い方にどのような技術上の 意義があるのかについて検討する。
ア 本願明細書には,本願発明が解決しようとする課題として,「血行を促 進し,体質改善や,癌等の病気の治癒を促進することができる活性発泡体 を提供すること」との記載がある([0007])。しかしながら,これ らの効果については「そのメカニズムは解明されていない」とあり([0 009]),その作用機序に関しても,ジルコニウム化合物及びゲルマニ ウム化合物によって活性発泡体外へ発生させた特定波長の赤外線と人体の 波長とが共振する結果,人間の自然の治癒力が増進される旨の記載はある ([0010])ものの,これも本願明細書自体が認めるとおり,推測の 域を出るものではない。
イ そして,本願明細書では,<試験1>として,被験者1名が活性発泡体 を敷いた椅子の上に30分間静止状態で座った後の血流量,血液量,血流 速度及び体圧を,活性発泡体を敷いていない椅子の上に30分間静止状態 で座った後のそれらと比較した結果を踏まえ,「本活性発泡体を使用すれ ば,血行がよくなり,体圧が下がることが分かる。」と結論付けている ([0035]ないし[0040])。 しかしながら,この試験は,活性発泡体を「人体に直接又は間接的に接 触させて用いる」態様で行われた試験ではあるものの,この試験において 用いられた活性発泡体がどのようなものであるのか(特に,ジルコニウム 化合物及びゲルマニウム化合物のどちらを,あるいはその両方を,どの程 度含有するのか)については,本願明細書に記載がなく定かではない。ま た,本願出願当時の当業者の技術常識に照らしても,被験者は50代の女 性1名のみであるから,その試験結果を人体一般に妥当する客観的なもの として評価することが可能であるともいい難いし,試験条件の詳細も明ら\nかではないから,この試験における血流量や体圧の計測結果から導かれる とされる「本活性発泡体を使用すれば,血行がよくなり,体圧が下がる」 との効果が,活性発泡体を使用したことによるものであるのか,それ以外 の要因に基づくものであるのかどうかについても,直ちに検証することは できない。 そうすると,<試験1>の結果のみから,活性発泡体を「人体に直接又 は間接的に接触させて用いる」ことに,人体の血行を促進することが期待 できるという技術上の意義があるというのには疑問がある。とはいえ,例 えば,<試験1>に係る諸条件の説明や,他の試験結果の存否及びその内 容次第では,本願発明に係る活性発泡体の使用に,かかる技術上の意義が あることが裏付けられたということのできる余地もあるというべきである。
ウ また,本願明細書は,<試験2>に基づき,「活性発泡体は,ガン細胞 のアポトーシス回路を立ち上げ,ガン細胞の働きを弱体化する作用を促進 する。」とする([0051])。 しかしながら,<試験2>は,前立腺癌細胞を培養した培養皿を上下か ら活性発泡体で挟んだ状態で培養し,活性発泡体なしの状態で培養したも のとの比較を行ったというものであり,活性発泡体を,「人体に直接又は 間接的に接触させて用いる」場合として想定されるような態様とはおよそ 異なる態様で用いているから,本願出願当時の当業者の技術常識を踏まえ ても,かかる試験結果から,活性発泡体を「人体に直接又は間接的に接触 させて用いる」ことに,癌細胞の弱体化を期待できるという技術上の意義 があるということはできない。
エ さらに,本願明細書には,本願発明の効果や産業上の利用可能性に関し\nて,「本活性発泡体は,薬剤投与の際に,人体に直接又は間接的に接触さ せて用いれば,その薬剤の効果を上げることができる。また,大量に使え ば副作用のある薬剤であっても,本活性発泡体を併用すれば少量ですむの で,副作用を抑えることができる。」との記載がある([0024], [0061])。そして,これらの効果に関して,<試験3>に基づき, 「活性発泡体とHDACIとを同時に用いることにより,活性発泡体は, HDACIのヒト前立腺癌細胞の増殖抑制効果を促進することができる。 原理的には,この方法は全ての癌に有効な治療法と考えられる。」とする ([0059])。 しかるに,<試験3>についても,前立腺癌細胞を培養したマイクロプ レートにSB(酪酸ナトリウム)を添加し,プレートを活性発泡体で上下 から挟んだものと,活性発泡体を用いずに前立腺癌細胞を培養し,SBを 添加したものとの比較を行ったというものであり,活性発泡体を,「人体 に直接又は間接的に接触させて用いる」場合として想定されるような態様 とはおよそ異なる態様で用いているから,本願出願当時の当業者の技術常 識を踏まえても,これらの試験結果から,活性発泡体を「人体に直接又は 間接的に接触させて用いる」ことに,薬剤の効果を増強させることが期待 できるという技術上の意義があるということはできない。
(4) 審決の判断について
以上を踏まえて,審決の判断の適否を検討する。 審決は,活性発泡体の薬剤との併用効果について当業者が理解し認識でき るような記載がないことを理由に,本願明細書が特許法36条4項1号所定 の要件を満たしていないと結論付けている。 しかしながら,本願発明の請求項における「薬剤投与の際に」とは,その 文言からして,活性発泡体を用いる時期を特定するものにすぎず,その請求 項において,薬剤の効果を高めるとか,病気の治癒を促進するなどの目的な いし用途が特定されているものではない。よって,本願明細書に,活性発泡 体の薬剤との併用効果についての開示が十分にされていないとしても,活性\n発泡体を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」こと に,それ以外の技術上の意義があるということができるのであれば,少なく とも実施可能要件に関する限り,本願明細書の記載及び本願出願当時の技術\n常識に基づき,本願発明に係る活性発泡体を「使用できる」というべきであ る。そして,検討次第では,少なくとも,本願発明に係る活性発泡体を,血 行促進効果を発揮させることができるような形で「使用できる」と認める余 地があり得ることは,前記(3)イにおいて説示したとおりである。 よって,審決には,かかる点についての検討を十分に行うことなく,上記\nのような理由により本願明細書が特許法36条4項1号所定の要件を満たし ていないと結論付けた点で,誤りがあるといわざるを得ず,審決は,取消し を免れない。

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平成25(行ケ)10250  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年4月28日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件を満たしていない範囲について、サポート要件違反が成立すると判断されました。
 一般に,膜厚を薄くすると熱膨張係数が小さくなることが知られているから(甲9。訳文1頁),甲8及び甲10のような熱イミド化によるポリイミドフィルムにおいて,膜厚を薄くすることでさらに熱膨張係数を下げることが可能であるとはいえるものの,どの程度まで下げることができるのかについて,本件明細書には具体的な指摘がされていない。\nまた,熱イミド化によるポリイミドフィルムの場合には,固形分量が多くなり延伸することが困難とされている(甲13の段落【0018】)。そして,甲29の実施例5のように,約1.04倍程度の延伸が可能であるとしても,45.6ppm/°Cの熱膨張係数を3〜7ppm/°Cという低い数値まで下げることが可能であるとする根拠はなく,本件明細書にも何ら具体的な指摘がない。\nさらに,4,4’−ODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムを化学イミド化により製造して,膜厚や延伸倍率等を調節したとしても,3〜7ppm/°Cという低い数値まで下げることが可能であるとする根拠はなく,本件明細書にも何ら具体的な指摘がない。\n被告は,この点について,ポリイミドフィルムについて最終的に得られる熱膨張係数は,延伸倍率に大きく影響されるほかに,延伸に際しての,溶媒含量,温度条件,延伸速度等多くの条件に影響され,またフィルムの厚さにも影響されることが甲9に記載されているから,ODA/BPDAの2成分系について,甲8のデータのみに基づいて,本件発明9の熱膨張係数の数値範囲を実現することができないと断定することはできない旨主張する。しかし,本件明細書は,具体的に溶媒含量,温度条件,延伸速度等をどのように制御すれば熱膨張係数が本件発明9の程度まで小さくできるのかについて具体的な指針を何ら示していない。本来,実施可能要件の主張立証責任は出願人である被告にあるにもかかわらず,被告は,本件発明9の熱膨張係数の範囲を充足するODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムの製造が可能\であることについて何ら具体的な主張立証をしない。 したがって,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識を考慮しても,4,4’−ODA/BPDAの2成分系フィルムについては,本件発明9の熱膨張係数の範囲とすることは,当業者が実施可能であったということはできない。\n
・・・・
しかし,前記2(5)のとおり,少なくともODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムについては,当業者が,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づき,これを実施することができない。そ うすると,上記2成分系のポリイミドフィルムの構成に係る本件発明9は,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識によっては,当業者が本件発明9の上記課題を解決できると認識できる範囲のものということはできず,サポート要件を充足しないというべきである。\n

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平成24(ワ)15612  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成26年10月9日  東京地方裁判所

 特許権侵害訴訟です。開示不十分として、特104条3により権利行使不能と判断されました。
 証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「ここで本発明において「介在物」とは,鋳造時の凝固過程に生じる一般に粗大である晶出物並びに溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物,硫化物等,更には,鋳造時の凝固過程以降,すなわち凝固後の冷却過程,熱間圧延後,溶体化処理後の冷却過程及び時効処理時に固相のマトリックス中に析出反応で生じる析出物であり,本銅合金のSEM観察によりマトリックス中に観察される粒子を包括するものである。」(段落【0009】),介在物のうち晶出物及び析出物について,「時効処理は所望の強度及び電気伝導性を得るために行うが,時効処理温度は300〜650℃にする必要がある。300℃未満では時効処理に時間がかかり経済的でなく,650℃を越えるとNi−Si粒子は粗大化し,更に700℃を超えるとNi及びSiが固溶してしまい,強度及び電気伝導性が向上しないためである。300〜650℃の範囲で時効処理する際,時効処理時間は,1〜10時間であれば十分な強度,電気伝導性が得られる。」(段落【0019】)との記載があることが認められ,これによれば,時効処理温度及び時間につき,粗大な晶出物及び析出物の個数を低減させる方法についての一定の開示があるということができる。\nしかしながら,溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物,硫化物等については,本件明細書の発明の詳細な説明に,直径4μm以上の介在物個数を低減させる方法の開示は全くない。
(3) そして,本件明細書の記載内容及び弁論の全趣旨からすれば,原告が本件特許出願時において直径4μm以上の全ての介在物個数を0個/mm2とするCu−Ni−Si系合金部材を製造することができたと認めるに足りず,技術的な説明がなくても,当業者が出願時の技術常識に基づいてその物を製造できたと認めることもできない。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明には,特許請求の範囲に記載された数値範囲全体についての実施例の開示がなく,かつ,実施例のない部 分について実施可能であることが理解できる程度の技術的な説明もないものといわざるを得ない。
(4) したがって,本件発明は,特許請求の範囲で,粗大な介在物が存在しないものも含めて特定しながら,明細書の発明の詳細の説明では,粗大な介在物の個数が最小で25個/mm2である発明例を記載するのみで0個/mm2の発明例を記載せず,かつ,全ての粗大な介在物の個数を低減する方法について記載されていないことなどからすれば,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明の少なくとも一部につき,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。\n3 以上のとおりであって,被告製品のうち亜鉛の含有量が1.5%以下のものは本件発明の技術的範囲に属するが,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,特許法104条の3第1項により,本件特許権を行使することができない。そうすると,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。

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平成25(行ケ)10117 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年03月10日 知的財産高等裁判所

 明確性要件及び実施可能要件違反とした審決が取り消されました。\n
 ア 本願発明は,一般式(1)における各原子の組成比が,不定比となる場合を含むものであり,その組成比は変数y,z,u,wを用いて特定されているが,これらの各変数が相互にどのように連関するかは特定されていない。しかし,無機化合物において,格子欠陥等のため,その組成比が不定比となる(自然数でない)ものが存在することは,技術常識であって(甲21),このことは,無機化合物からなる蛍光体についても同様である(乙1,2)。そして,無機化合物は,定常状態では,その全体の電荷バランスが中性であり,無機化合物を構成する各原子の原子価と組成比との積の総和が,実質的にゼロとなっていることは,技術常識である(乙2【0015】,【0016】)。このような技術常識を踏まえると,組成比が不定比となる場合には,各原子の原子価が自然数とはならないことは明らかである。また,不定比を具体的な状況に応じて確定するのは困難である上,一定の数値をとるかどうかも不明である。そうすると,一般式(1)における各原子の組成比が不定比となる場合を含む本願発明においては,上記の各変数が相互にどのように連関するかを特定することは,相当程度困難である。本願明細書(甲1)の段落【0039】,【0040】,【0047】,【0049】,【0059】によると,実施例1,5,7(表\\2)で,実際に不定比組成である蛍光体が合成されている。これらの蛍光体は不定比組成であり,各原子の原子価は自然数ではなく,その具体的な数値は不明であるが,蛍光体の電荷バランスが中性となるように組成比が選択され,化学量論的に成立したものとなっていると解される。以上によれば,本願発明においては,上記の各変数が相互にどのように連関するか特定されていないとしても,一般式(1)における各原子の組成比は,一般式(1)に示される各原子の組成範囲内において,蛍光体の電荷バランスが中性となるように選択され,化学量論的に成立したものとなると認められるから,審決が認定するように,一般式(1)における各原子の組成比が化学量論的に成立するためには,上記の各変数が連関することが必要であるとはいえない。また,一般式(1)が,いかなる化合物を意味するのか不明であるともいえない。

◆判決本文

◆関連事件です。平成25(行ケ)10118

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平成25(行ケ)10061 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月12日 知的財産高等裁判所

 切り餅事件とは別の特許です。こちらは無効理由無しとした審決が維持されました。
 相対的に強度が低い部分(切り込みが存在する部分)は,一定程度の圧力がかかると,変形して伸びやすいともいえる。切餅の内部空間の圧力は,切り込みが存在する部分に限らず,全方向,例えば上下方向にもかかるから,切り込みが存在する部分が変形して伸びることにより,切り込みの上側が下側に対して持ち上がることになる。その持ち上がりにより,最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態(上下の焼板状部が平行に近い対称な状態で持ち上がる場合もあるが,非平行な片持ち状態に持ち上がる場合も多い。)に自動的に膨化変形する。このような膨化変形によれば,切餅の内部空間の体積は大きくなり,その分だけ圧力が高くなるのを抑えられること,また,それにより,膨化による噴出力(噴出圧)が大きくなるのも抑えられることは明らかであるから,上記のように膨化変形することでも,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを一定程度抑制できることは,当業者にとって明らかといえる。 ウ 以上によれば,本件発明における「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制する」について,以下のとおり認めることができる。側周表面に所定の切り込みを設けた切餅をオーブントースターで焼くと,切餅の内部が軟化するとともに,切餅の内部に含まれる水分が蒸発して水蒸気となる等により,切餅の内部空間の圧力が高くなり,膨化するが,その圧力によって切り込みが存在する部分が変形して伸びることにより,切り込みの上側が下側に対して持ち上がる。その持ち上がりにより,最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い。以下同じ。)に自動的に膨化変形する。切餅の側周表\面に所定の切り込みを設けたことにより,膨化による噴出力(噴出圧)を小さくすることができるため,上記切り込みを設けない場合と比べて,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを抑制できるが,上記のように膨化変形することでも,膨化による噴出力(噴出圧)が大きくなるのを抑えられるため,上記切り込みを設けない場合と比べて,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを一定程度抑制できる。

◆判決本文

◆関連事件です。平成25(行ケ)10062

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平成24(行ケ)10178 審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成25年07月23日 知的財産高等裁判所

 36条違反(実施可能要件)とした審決が維持されました。\n
 そこで,本願明細書の発明の詳細な説明がかかる要件を満たすかにつき検討するに,まず,本願発明の優先日当時の技術常識は上記3のとおりである。しかるに,本願発明におけるサファイア基板の上部表面は,「光を散乱または回折するための突出部及び/または陥凹部が含まれるように」「粗面にされ,突出部及び/または陥凹部はLEDによって生じる光の前記第1の層における波長より大きいか,あるいは,その程度の大きさ」というものであるところ,本願明細書に記載の上記突出部又は陥凹部の形成方法(【0018】〜【0020】),及び公知の可視光線に相当する電磁波の波長(下界が360〜400nm,上界が760〜830nm)に照らすと,本願発明におけるサファイア基板の上部表\面は,突出部又は陥凹部が不規則に存在し,かつ,研磨により表面粗さが1nm程度の極めて平滑な状態にされたサファイア基板に比して極めて高い表\面粗さを有することになる。そうすると,半導体の技術分野における上記の技術常識に照らせば,本願発明におけるサファイア基板の上部表面にエピタキシャル成長により半導体材料の第1の層を堆積しようとしても,サファイア基板の不規則な凹凸を結晶核生成の元とした島状結晶の形成や不規則な凹凸の斜面による異種結晶粒の生成が著しく増大するために,半導体材料の結晶を一定の方位関係をもって成長(エピタキシャル成長)させることは技術常識からは困難と理解される。しかるに,上記2に認定のとおり,本願発明の発明の詳細な説明には,実質的には,『サファイア基板の上部表\面上に陥凹部又は突出部を被うように半導体材料の層をエピタキシャル成長させる。』との記載があるだけであり,半導体材料の層をエピタキシャル成長させる際の手順及び条件を示した具体的な説明が記載されていない。したがって,本願発明の優先日当時の技術常識に照らして,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から本願発明を実施し(本願発明のLEDの生産),本願発明にいう「改善されたLED」を得ることは,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ない。以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は実施可能要件を満たさないというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。\n

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平成24(行ケ)10365 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年06月06日 知的財産高等裁判所

 実施可能性違反およびサポート要件違反を主張しましたが、無効理由無しと判断した審決が維持されました。
 なお,仮に原告の主張の趣旨が,本件各具体例の個々の構成について本件明細書の発明の詳細な説明に記載がないことのみを問題とするのではなく,請求項2及び3の記載が本件各具体例の構\成を全て備えた特定の発明を含むものであることを前提として,発明の詳細な説明には当該発明の記載がない上,本件具体例6の構成(「完全には溶着されていないものの部分的に又は工程進行的に溶着されつつある状態」で切除するもの(「溶着ヘッドが素線を台座とで挟んで密着した位置にあるときに,溶着機による溶着部分の中心部を台座の下側から切除するもの」))を有する当該発明においては本件各発明の課題を解決することができないことを理由に,本件各発明はサポート要件に違反する旨を主張するものであるとしても,以下に述べるとおり,原告の主張は理由がない。\n・・・・
ところで,本件明細書の上記各段落が示す実施例は,回転ブラシに回転軸を挿入するためのブラシ単体の孔を形成するために,溶着機6による溶着の動作が終了した後に,ノズル4の先端に形成した切除手段7が下動し,台座に固定された開かれた素線群1の溶着部の中心部分を台座の上側から切除する構成のものであるのに対し,本件具体例6は,ブラシ単体の孔を形成するために,台座に固定された開かれた素線群に対する溶着機による溶着動作の進行中に台座の下側から切除の動作を開始し,溶着部分の中心部を台座の下側から切除する構\成のものであり,本件明細書には,本件具体例6の構成に関する記載はないのみならず,本件各発明において台座の下側から切除することができることを明示した記載もない。しかしながら,回転ブラシに回転軸を挿入するためのブラシ単体の孔を形成するために,開かれた素線群を台座に固定した状態でその素線群の中央部分を切除する場合における切除の方向は,通常は,台座の上側から下側に向けて切除するか,台座の下側から上側に向けて切除するかのいずれかであるから,本件明細書に接した当業者であれば,本件各発明の「切除する第4の工程」(請求項2)及び「切除する切除手段」(請求項3)における切除の方向は,本件明細書の実施例の構\成のほかに,台座の下側から上側に向けて切除する構成をも含むことを容易に理解するものといえる。加えて,当業者であれば,ブラシ単体の孔を形成するために溶着された部分を切除する切除手段として先端が円形又は円筒状の切除刃,治具等を用いることができ,この切除手段を挿通孔を介して上下にスライドすることでブラシ単体の孔を形成することができることを容易に理解するものといえるから,本件各発明において,本件具体例6のような台座の下側から切除する切除手段を設けることには格別の困難はないものと認められる。そして,前記のとおり,本件各発明において溶着による固化がされた状態で切除が行われるのはブラシ単体の孔を均一の形状に保つ必要があることからすると,本件明細書に接した当業者であれば,開かれた素線群の中央部分を溶着する工程を開始し,溶着による固化がある程度の範囲で進行し,切除後に中心部分に形成される孔(本件審決にいう「環状部」)が維持される程度に固化している段階であれば,当該固化している部分を切除することができることを理解し,固化の進行状況,切除手段の動作速度,切除手段を構\成する部材の強度等を考慮し,切除のタイミングを適宜設定することにより,切除により形成される孔を一定の形状(均一の形状)に保つように当該固化している部分を切除することに格別の困難はないものと認識するものと認められる(原告が指摘するように溶着機の振動構造と切除刃との接触による切除刃の摩耗等が生じ得るとしても,それは切除刃の寿命等の問題であって,切除刃の部材の強度を高めること等によって対処し得るものであり,当該固化している部分を切除すること自体ができなくなるものではない。)。以上によれば,本件明細書に接した当業者は,請求項2及び3の記載に含まれる本件具体例6の構\成を有する上記発明においても,従来のブラシ単体の製造方法のようにブラシ単体の厚みを均一とするのに熟練を要することなく,均一な厚さのブラシ単体の量産化を可能とし,しかも素線の重なりを少なくしたブラシ単体を高速度で効率良く製造することができるという本件各発明の課題を解決できると認識できるものと認められるから,原告の上記主張は,理由がない。\n

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平成24(行ケ)10321 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月16日 知的財産高等裁判所 

 実施可能性を満たしていないとした審決が取り消されました。\n
 このとおり,訂正明細書では,吸湿による中間膜の白化の原因となるアルカリ(土類)金属塩の「粒子径」を一定値以下に保つことや(段落【0024】,【0042】),この「粒子径」をTOF−SIMS(Time of flight secondary ion mass spectrometry,飛行時間型二次イオン質量分析装置)の二次イオン像イメージングで計測することが記載されているだけで,測定条件等の詳細は開示されていない。しかしながら,A大学理工学部物質生命理工学科教授B作成の意見書(甲1)によれば,TOF−SIMSは,超真空下に試料を置き,この試料に対してガリウムイオン等の一次イオンのパルス化されたビームを照射し,一次イオンが試料表面の原子等と衝突した結果,試料表\面から空間に向けて発生,放出される二次イオン(試料表面の原子によるイオン)を質量分析計にかけ,二次イオンが検出器に到達するまでの飛行時間に応じて,二次イオンの質量を測定した上で,一次イオンビームの被照射位置の情報に照らして二次イオンの質量分布(質量スペクトル)を画像処理し,地図状の画像データを得る装置であると認められるところ,0.1μm(原告主張によると,本件優先日当時でも0.2μm)の面的解像度を有しているものであって,本件発明の「粒子径」の上限3μmに比して十\分に細かな分析ができるものである。そして,訂正明細書の段落【0093】には,炭素数6ないし10のカルボン酸等のマグネシウム塩は,中間膜中で電離せず塩の形で存在し,かつ凝集することなく膜表面に高濃度で分布していることが記載されている。そうすると,訂正明細書に接した当業者において,TOF−SIMSを用いて中間膜表\面のアルカリ(土類)金属塩の粒子の大きさを測定すること,より具体的には二次イオン像のイメージングにより粒子の最大径を測定することが可能であったことは明らかである。\n
(2)
審決は,TOF−SIMSでアルカリ(土類)金属塩ばかりでなくアルカリ(土類)金属イオンをも検出していることを実施可能要件違反の根拠の1つとするが,まず,前記のとおり,訂正明細書の段落【0093】では,例えばアルカリ土類金属塩の1種であるマグネシウム塩が中間膜中で電離せず塩の形で存在することが示されているから,本件発明において,アルカリ(土類)金属塩が相当程度(相当割合)電離してイオンを生成することが予\定されているものではない。そして,原告のグローバルテクニカルセンターのC作成の実験成績証明書(甲64)によれば,中間膜表面の赤外線分光法測定で,本件発明の技術的範囲に属する中間膜(実験例3)では,遊離している酢酸(イオン)に特有の吸収スペクトルが確認されなかったから,添加された酢酸マグネシウムの電離(解離)の度合いはごく低水準であったものと認めることができる(なお,添加された酢酸マグネシウムの量が多かったとしても,解離する酢酸マグネシウムの絶対量が少なくなるわけではないから,検出すべき吸収スペクトルの観点では問題がない。)。そして,上記Cが作成した別の実験成績証明書(甲28)によれば,中間膜をFE−TEM(電界放射型透過電子顕微鏡)で撮影した写真でみられる凝集物の像とEDS(エネルギー分散型X線分析)で撮影した写真でみられるマグネシウム,酸素の像とが位置的に符合するから,酢酸マグネシウムは中間膜表\面で凝集していることが認められる。これらのとおり,本件発明の中間膜,とりわけその表面では,ポリビニルアセタール樹脂を製造するときに中和工程に用いる薬剤あるいは接着力調整剤に起因する残留アルカリ(土類)金属塩の大部分が電離せず塩の形で残っており,電離してアルカリ(土類)金属イオンとなる割合はごく小さい。そうすると,TOF−SIMSの二次イオン像のイメージングの分析において,アルカリ(土類)金属イオンの存在を考慮外としても差し支えないというべきである。したがって,TOF−SIMSがアルカリ(土類)金属イオンをも検出していること,ないしその可能\性があることを根拠に,当業者において本件発明を実施可能でないとはいえない。\n
この点,被告は,本件発明の中間膜の含水率がナトリウム等の含有率に比して十分大きいことから,アルカリ(土類)金属塩は溶解,電離(解離)してイオンの形で高濃度に存在し得ると主張する。しかしながら,本件発明のような合わせガラス用中間膜は,吸湿による白化の問題を解決するために,耐湿性を確保することが課題とされており(段落【0003】〜【0019】),含水率を小さくすることが予\定されている。本件発明の中間膜も,その水分の含有率(含水率)は,ナトリウムやカリウムの含有率よりは相当大きいが,0.5重量%以下にすぎないのであって,ごく微量のものと評価することができる。したがって,製造時の含水率で考えれば,中間膜中の水分がアルカリ(土類)金属塩の電離に与える影響は必ずしも大きいものとはいえない。また,上記Cが作成した実験成績証明書(甲82)では,酢酸マグネシウムを添加した中間膜と酢酸マグネシウムを添加していない中間膜とで,電気伝導度に差がみられないことが示されているが,この実験結果は,中間膜中のアルカリ(土類)金属塩が電離する割合がごく小さいことを裏付けるものである。なお,アルカリ(土類)金属イオンがTOF−SIMSの二次イオンイメージング画像上の連続した領域にまたがるように存在するときに,この連続した領域分の大きさの輝点として検出されることが原理的にあり得るとしても,本件発明の中間膜のアルカリ(土類)金属塩の含有率程度の含有率でも,本件発明で特定される「3μm」との最大径の基準に比して,上記イオンが有意な大きさを占める輝点の像を実際に示すことを認めるに足りる証拠はない。アルカリ(土類)金属塩とそのイオンとが,2次イオンイメージング画像の連続した領域にわたって接続して存在し,両者があたかも1つの粒子のようにみえる可能性に関しても,実際にかかる事態が生じ,凝集物の大きさが相当の規模において過大に大きくみえる事態が生ずる蓋然性(なお,小さな輝点が塩粒子の周囲に付着してみえる程度であれば,粒子の最大径の測定に影響を与えない。)があることを証拠上認めることができない。結局,TOF−SIMSがアルカリ(土類)金属イオンをも検出していることを根拠に,本件発明に実施可能\要件違反があるとした審決の判断は誤りである。
(3)審決は,輝点として検出される二次イオンとサンプル中の金属量とが一般には比例せず,中間膜のTOF−SIMSによる粒子径の測定には定量性がないことを実施可能要件違反の根拠の1つとするが(17,18頁),本件発明の特許請求の範囲上,アルカリ(土類)金属(塩)の量(金属量)が特定事項となっているわけではなく,アルカリ(土類)金属塩の粒子の大きさが特定されているにすぎないから,上記の定量性をもって本件発明に係る実施可能\要件違反の裏付けとすることはできない。
(4)審決は,閾値の設定により測定値が変化すること等を根拠に,本件発明には実施可能要件違反があると判断するが,前記甲第1号証の資料1や,甲第35ないし第43,第76号証によれば,TOF−SIMSを用いた測定は,一般にバックグラウンド(1次イオンビームを照射しないときに検出される値)が低く,絶対感度がごく高いため,通常,2次イオンビームの測定結果(カウント数)を輝点と評価するかに関する設定値である閾値をゼロにして測定することは,当業者に広く行われている取扱いであると認められる(技術常識。審決も19頁でこの旨認定する。)。そして,本件発明の中間膜のTOF−SIMSを用いた測定では,かかる通常の取扱いと異なる取扱いを採用する理由は存しない。そうすると,訂正明細書にTOF−SIMSの閾値に関する記載がないからといって,当業者が本件発明を実施することができないとすることはできず,閾値を変化させたときに2次イオンのイメージング画像が異なり得る可能\性をもって実施可能要件違反があるということはできない。なお,TOF−SIMSの2次イオンの検出には,2次イオンの個数をカウントする上限である飽和点があるところ,TOF−SIMSでは試料の損傷を抑えるために,単位時間当たりに照射する1次イオンビームの強度を大きくしないのが通常であるから,かような飽和点は問題となりにくい(乙4)。仮に飽和点が問題となるとしても,当業者であれば,可能\な限り飽和点に近いが,飽和点を超えない積算回数を採用して試験を実施することが容易であり,かつかような手法で試験することが当業者に一般的である(甲79)。したがって,訂正明細書にTOF−SIMSの1次イオンビームの照射回数ないし積算回数に関する記載がないからといって,当業者が本件発明を実施することができないものではない。また,被告のPVB研究開発グループのD作成に係る実験報告書(甲18)は,2次イオンイメージングのドット(輝点)の大きさが1μmと大きすぎ,積算回数等に係る発明の実施の困難性の論拠として採用し難い。結局,「ポリマーのTOF−SIMS分析では閾値をゼロにすることが当業者の技術常識であるとしても,合わせガラス用中間膜中のアルカリ(土類)金属塩の粒子径の測定において,閾値をゼロとすることが当業者にとって技術常識であるとすることはできない。」との審決の認定,判断は誤りであり,測定条件の詳細が訂正明細書に明示的に記載されていないことを根拠に,本件発明に実施可能要件違反があるとした審決の判断は誤りである。\n

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平成24(行ケ)10299 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月11日 知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が、サポート要件違反ありとして取り消されました。
 被告は,本件明細書には液体調味料に対するACE阻害ペプチドの配合量について,「血圧降下作用及び風味の点から液体調味料中0.5〜20%,更に1〜10%,特に2〜5%が好ましい。」との具体的な数値の記載があり(【0030】),これがACE阻害ペプチドを配合した場合に風味変化が改善されることを確認した結果に基づくものであると主張する。しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明によれば,前記1オに記載のとおり,本件発明1ないし5及び9に利用可能なACE阻害ペプチドは,乳,穀物又は魚肉等の食品原料由来のものであり,かつ,その種類も多岐にわたるところ,これらの多種類の原料に由来するACE阻害ペプチドの風味が共通し,かつ,加熱処理によって同等の風味変化を生じ,あるいは生じないという技術常識が存在することを認めるに足りる証拠はない。しかも,ACE阻害ペプチドの配合量の数値に関する上記記載も,概括的なものであるから,仮にこれがACE阻害ペプチドを配合した場合の風味変化の改善を確認した結果に基づくものであるとしても,上記多種類の原料に由来するACE阻害ペプチドのいずれについて風味がどの程度改善されたのかを明らかにするものとは到底いえない。したがって,上記配合量の数値の記載があるからといって,本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者は,血圧降下作用を有する物質としてACE阻害ペプチドを液体調味料に混合して加熱処理した場合に,風味変化の改善という本件発明の課題を解決できると認識することはできず,サポート要件を満たすことになるものではない。\n
・・・・
以上によれば,血圧降下作用を有する物質として専らコーヒー豆抽出物を使用した本件発明6ないし8は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものであるから,サポート要件を満たすものといえる一方,血圧降下作用を有する物質として,コーヒー豆抽出物に加えてACE阻害ペプチドを使用する場合を包含する本件発明1ないし5及び9は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるが,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものではなく,また,当業者が本件出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるともいえないから,サポート要件を満たすものとはいえない。

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平成24(行ケ)10200 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月27日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反とした審決が取り消されました。\n
 審決は,1)本願明細書の発明の詳細な説明(段落【0031】)に記載された「表面が黒く処理された」金属は,例えば,顔料の素材のように導電性を持たないものを含むところ,そのような物質では,「電磁波遮断機能\を効率的に具現することができる」との効果を発揮することができない,2)本願明細書の発明の詳細な説明には,「表面が黒く処理された」金属を金属粉末として樹脂に添加した後も,「黒色の金属」という物理的性質を保持するための具体的手段が開示されていないとして,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十\分に記載されたものではなく,特許法36条4項1号に違反すると判断する。しかし,審決の上記判断には,以下のとおり,誤りがある。すなわち,上記のとおり,本願発明は,特許請求の範囲において,「前記金属粉末は,黒色の金属である」とし,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「表面が黒く処理された」金属と「黒色の金属」のうち,「黒色の金属」に特定したものと解される。そして,上記のとおり,金属粉末として黒色のものが存在することは,技術常識というべきであり,当業者は,黒色の金属粉末が具体的にどのようなものであるか理解することができるものと認められる。そうすると,「金属粉末の表\面が黒く処理された」金属について実施可能要件を満たすか否かにかかわらず,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「黒色の金属」については,特許法36条4項1号に違反しないものと認められる。
イ 被告の主張についてこれに対し,被告は,1)鉄やコバルト,ニッケル,クロム等の白い光沢を持つ金属の金属粉末は,外光遮断機能を具現化することができない,2)本願明細書の発明11の詳細な説明に記載された「金属粉末の表面が黒く処理された」金属について,「12〜20μm」よりはるかに小さな微粒子とした場合にも,依然として電磁波遮断機能\及び外光遮断機能を備えた「黒色の金属」として存在し得るのかが明らかでなく,その表\面処理の方法も明らかでないと主張する。しかし,上記のとおり,本願発明は,樹脂に添加される金属粉末が,黒色の金属粉末であるとするものにすぎず,金属の種類(鉄など)を特定するものではない。また,本願発明は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「表面が黒く処理された」金属と「黒色の金属」のうち,「黒色の金属」に特定したものと解される。したがって,被告の上記主張は,その前提に誤りがあり,採用することができない。\n

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平成24(行ケ)10071 審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成25年02月12日 知的財産高等裁判所

 実施可能性要件を満たしていないと判断されました。出願人は、MITです。
 請求項7に係る本願発明は,(a)ウリジン,ウリジン塩,リン酸ウリジン又はアシル化ウリジン化合物,及び,(b)コリン又はコリン塩,の2成分を組み合わせた組成物が人の脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用を示す経口投与用医薬についての発明である。そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したといえるためには,薬理試験の結果等により,当該有効成分がその属性を有していることを実証するか,又は合理的に説明する必要がある。本願明細書には,例2として,アレチネズミに前記(a)成分であるウリジンを単独で経口投与した場合に,脳におけるシチジンのレベルが上昇したことが記載されているものの,(a)成分と(b)成分を組み合わせて使用した場合に,脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験の結果は示されておらず,(b)成分単独で脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験結果も示されていない。また,(b)成分であるコリン又はコリン塩を(a)成分と併用して投与した場合,又は(b)成分単独で投与した場合に,脳のシチジンレベルを上昇させるという技術常識が本願発明の優先日前に存在したと推認できるような記載は本願明細書にはない。そうすると,詳細な説明には,本願発明の有効成分である(a)及び(b)の2成分の組合せが脳シチジンレベルを上昇させるという属性が記載されていないので,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十\分に記載したということはできない。したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に規定する要件を満たさない。この趣旨を説示する審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,取消事由1において,本願明細書の記載を援用するが,いずれも上記判断を左右するものではない。取消事由1における原告のその余の主張も,脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用に関して裏付けるものではない。

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平成24(行ケ)10020 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月31日 知的財産高等裁判所

 開示不十分とした審決が取り消されました。
 確かに,前記2(2)アのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,赤色蛍光体及び緑色蛍光体として使用できる具体的な物質が,内部量子効率を含む各特性を含めて記載されているところ,本件明細書に開示されている緑色蛍光体の内部量子効率は80%以上であるが,赤色蛍光体の内部量子効率は80%未満であり,したがって,本件明細書には,内部量子効率が80%以上の緑色蛍光体については記載されているが,内部量子効率が80%以上の赤色蛍光体については,直接記載されていないというほかない。しかしながら,前記1(8)のとおり,本件明細書には,赤色蛍光体及び緑色蛍光体の製造方法について,その原料,反応促進剤の有無,焼成条件(温度,時間)なども含めて具体的に記載されているのみならず,赤色蛍光体の製造方法については,本件出願時には製造条件が未だ最適化されていないため,内部量子効率が低いものしか得られていないが,製造条件の最適化により改善されることまで記載されているものである。そうすると,研究段階においても,赤色蛍光体について60ないし70%の内部量子効率が実現されているのであるから,今後,製造条件が十分最適化されることにより,内部量子効率が高いものを得ることができることが記載されている以上,当業者は,今後,製造条件が十\分最適化されることにより,内部量子効率が80%以上の高い赤色蛍光体が得られると理解するものというべきである。
イ 証拠(甲5,12〜17)によれば,蛍光体の製造方法において,製造条件の最適化として,結晶中の不純物を除去すること,結晶格子の欠陥を減らすこと,結晶粒径を制御すること,発光中心となる付活剤の濃度を最適化すること等により,蛍光体の効率を低下させる要因を除去することは,本件出願時において当業者に周知の事項であったと認められる。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に内部量子効率が80%未満の赤色蛍光体が記載されているにすぎなかったとしても,当業者は,蛍光体の製造方法において,製造条件の最適化を行うことにより,赤色蛍光体についても,その内部量子効率が80%以上のものを容易に製造することができるものと解される。実際,証拠(甲18)によれば,本件出願後ではあるが,平成18年3月22日,内部量子効率が86ないし87%のCaAlSiN3:Euの赤色蛍光体が製造された旨が発表されたことが認められる。
 ウ 以上によると,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が内部量子効率80%以上の赤色蛍光体を製造することができる程度の開示が存在するものというべきである。 

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平成23(行ケ)10418 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月25日 知的財産高等裁判所

 実施可能性要件および明確性要件違反とした審決が維持されました。
まず,実施例1(P/V比:10/100)と比較例2(P/V比:2.6/1 00)をみると,P及びVの屈折率差と溶剤を同一にして,P/V比を減少させる と,内部ヘイズ値は7から1に,表面ヘイズ値は19から14にそれぞれ減少して\nいることが示されているので,P/V比を減少させると,内部ヘイズ値及び表面ヘ\nイズ値の双方が減少する関係にあると推認される。 しかし,実施例1と2をみると,P及びVの屈折率差を同一にして,P/V比を 減少させ,溶剤を変化させると,内部ヘイズ値は7から5に減少し,表面ヘイズ値\nは19から25に増加している。他方,実施例2と比較例2をみると,P及びVの 屈折率差を同一にして,P/V比を減少させ,溶剤を変化させると,内部ヘイズ値 は5から1に,表面ヘイズ値は25から14に減少している。前記の実施例1と比\n較例2での変化の傾向に加えて,これらの比較からは,表面ヘイズ値と内部ヘイズ\n値は溶剤の種類による影響が大きいことが推認されるが,溶剤の種類とP/V比が, 協働して表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の値に影響を与えているのか,それぞれ独立\nして影響を与えているのかは,全く不明である。 また,実施例1とこれに対して溶剤のみを変えた比較例5を比較すると,内部ヘ イズ値は7から9に増加するのに対して,表面ヘイズ値は19から3に減少し,実\n施例2とこれに対して溶剤のみを変えた比較例4を比較しても,内部ヘイズ値は5 から3に減少するのに対して,表面ヘイズ値は25から47に増加している。上記\nの対比結果によれば,溶剤の種類が,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の双方に影響を\n与える重要なファクターであり,溶剤には,表面ヘイズ値を増加させ内部ヘイズを\n減少させる作用を有するものや表面ヘイズ値を減少させ内部ヘイズを増加させる作\n用を有するもの等,様々な種類があると認識できるが,そのような知見を超えて, いかなる種類の溶剤を用いれば表面ヘイズ値・内部ヘイズ値を所望の数値に設定で\nきるかについて,当業者において認識・理解することはできない。 さらに,実施例2と比較例1をみると,P/V比と溶剤を同一にして,P及びV の屈折率差を変化させると,内部ヘイズ値は5から0.7に減少し,表面ヘイズ値\nは25から30に増加していることが示されているが,他の比較例はなく,P及び Vの屈折率差が表面ヘイズ値・内部ヘイズ値にどのような影響を与えるかは不明で\nある。 そうすると,発明の詳細な説明の記載において示された実施例及び比較例に基づ いて,当業者は,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値が,P/V比,P及びVの屈折率差,\n 溶剤の種類の3つの要素により,何らかの影響を受けることまでは理解することが できるが,これを超えて,三つの要素と表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の間の定性的\nな関係や相関的な関係や三つの要素以外の要素(例えば,溶剤の量,光硬化開始剤 の量,硬化特性,粘性,透光性拡散剤の粒径等)によって影響を受けるか否かを認 識,理解することはできない。
ウ 以上のとおり,発明の詳細な説明には,当業者において,これらの3つの要 素をどのように設定すれば,所望の表面ヘイズ値・内部ヘイズ値が得ることができ\nるかについての開示はないというべきである(ただし,発明の詳細な説明中の実施 例に係る本件発明9ないし11を除く。)。したがって,発明の詳細な説明には,当 業者が,本件発明1ないし8,12ないし16を実施することができる程度に明確 かつ十分な記載がされているとはいえない。
・・・・
しかし,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」に おいては,透光性拡散剤が透光性樹脂によって実効的に覆われていないことが想定 され,そのような場合,透光性樹脂と同一の屈折率を有する物質を用いて凹凸を除 去すると,前記凹凸を除去するために用いた透光性樹脂と同一の屈折率の物質と, 透光性樹脂によって実効的に覆われていない透光性拡散剤との界面で新たな内部ヘ イズが生じることになり,新たに生じた内部ヘイズを補償する必要性が生じる。 なお,発明の詳細な説明には,「又,表1において,ヘイズ値は,村上色彩技術研\n究所の製品番号HR−100の測定器により測定し,反射率は,島津製作所製の分 光反射率測定機MPC−3100で測定し,波長380〜780nm光での平均反 射率をとった。」(【0131】)と記載されている。同記載によれば,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値とも,HR−100の測定器によって測定されることが説明されてい\nるが,内部ヘイズ値の測定方法に関する具体的な説明はない。また,HR−100 の取扱説明書(甲14)にも,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂 からなる防眩層」の内部ヘイズ値の測定方法に関する具体的な説明はない。また, この点についての何らかの技術常識が存在すると認めるに足りる証拠もない。 そうすると,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩 層」の内部ヘイズ値を測定する方法は,発明の詳細な説明の記載,及び本件特許の 出願当時の技術常識によって,明らかであるとはいえない。内部ヘイズ値が一義的 に定まらない以上,総ヘイズ値から内部ヘイズ値を減じた値である表面ヘイズ値も\n一義的には定まることはない。内部ヘイズ値・表面ヘイズ値を一義的に定める方法\nが明確ではないから,本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条 6項2号の「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件を充足しない というべきである。

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平成23(行ケ)10445 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月05日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反ではないとした審決が取り消されました。
 平成8年6月12日法律第68号による改正前の特許法36条4項が実施可能要件を定める趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者がその実施をすることができる程度に発明の構\成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。そして,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号),物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能\要件を満たすということができる。
(2) 本件審決は,本件明細書の方法2の実施可能性についてのみ検討した上で,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能\要件を充足するものとする。そこで検討するに,方法2は,前記1(3)ア(イ)のとおり,補助溶剤を含む水中にアトルバスタチンを懸濁するというごく一般的な結晶化方法であるものの,補助溶剤としてメタノール等を例示し,その含有率が特に好ましくは約5ないし15v/v%であることを特定するのみであり,結晶化に対して一般的に影響を及ぼすpH,スラリー濃度,温度,その他の添加物などの諸因子について具体的な特定を欠くものであるから,これらの諸因子の設定状況によっては,本件明細書において概括的に記載されている方法2に含まれる方法であっても,結晶性形態Iが得られない場合があるものと解される。そうだとすると,結晶化に対して特に強く影響を及ぼすpHやスラリー濃度を含め,温度,その他の添加物などの諸因子が一切特定されていない方法2の記載をもってしては,本件明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識を併せ考慮しても,当業者が過度な負担なしに具体的な条件を決定し,結晶性形態Iを得ることができるものということはできない。
(3) この点に関し,被告は,1)当業者であれば,撹拌により懸濁状態を維持するのに適した程度のスラリー濃度を採用することに何ら困難はなく,本件実験における懸濁物中の約15%の試料量も常識的な選択である,2)方法2において,補助溶剤を使用しないこと自体は,本件明細書に記載された範囲内であるし,好ましい条件であるメタノール濃度(5〜15%)において,より短時間で確実に結晶性形態Iが得られることも確認されている,3)方法2において,撹拌温度は明示的に特定されていないが,温度の規定がなければ,室温付近で行うのが技術常識である,4)本件明細書の実施例では,種晶を加えても17時間の撹拌が必要であったから,種晶を加えない場合,その数倍程度の時間が必要であると予測することは合理的であるなどと主張する。しかしながら,スラリー濃度は,結晶化の実現に関する重要な因子である以上,物の発明において,当該物の製造方法を開示するに当たり,具体的に記載される必要がある事項というべきところ,方法2については,補助溶剤の種類と好ましい濃度程度しか記載されていないのであるから,当該記載から,結晶性形態Iが得られるスラリー濃度(例えば,本件実験の設定である試料約10g,溶媒56m)を当業者が見いだすことは困難であるというほかない。しかも,方法2において具体的な条件として記載されている補助溶剤の種類と好ましい濃度についても,被告の依頼により行われた本件実験(甲16)においては,補助溶剤を用いずに実験が行われているものである。確かに,方法2において,補助溶剤を用いなくてもよいとされていることは,被告が主張するとおりであるが,好ましい条件であるメタノール濃度において,より短時間で確実に結晶性形態Iが得られることが確認されているのであれば,方法2が具体的に開示した好ましい条件に基づくことなく,本件実験が行われたことは不合理であるというほかない。さらに,本件審決は,方法2に対応する前記1(3)エ(イ)の方法Bにおいて,撹拌温度が約40°Cとされていることから,方法2においても,室温又はその前後において行われたものと理解されるとするが,約40°Cという温度について,これを「室温又はその前後」と理解することは困難である。本件実験においても,室温とのみ記載され,具体的な撹拌温度が明示されていないから,当業者が,撹拌の要否すら特定していない本件明細書の方法2に係る記載をもって,そのほかの諸因子との相関関係において決定されるべき最適な撹拌温度を過度の負担なしに設定することができるものということはできない。加えて,結晶化に要する撹拌時間は,pH,スラリー濃度,温度,その他の添加物などの諸因子によって異なるものであるから,本件明細書に特定の条件下における撹拌時間が開示されていたとしても,当業者が方法2における撹拌時間を合理的に予測することができるとまでいうことはできない。したがって,被告の主張はいずれも採用できない。
(4) 以上のとおり,本件明細書における方法2に係る記載は,結晶性形態Iを得るための諸因子の設定について当業者に過度の負担を強いるものというべきであって,実施可能要件を満たすものということはできない。もっとも,本件明細書には,本件審決が判断した方法2のほかにも,方法1及び3として,結晶性形態Iの具体的製造方法が開示されているところ,本件審決は,本件明細書の方法2について検討するのみで,本件明細書のその余の記載により実施可能\要件を充足するか否かについて審理を尽くしていないものというほかない。よって,実施可能要件について更に審理を尽くさせるために,本件審決を取り消すのが相当である。\n

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平成23(行ケ)10364 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年06月13日 知的財産高等裁判所 

 実施可能要件違反とした審決が取り消されました。
 本願明細書には,本願発明の巻線間には空気が充填されたキャビティが存在するとした上で,そこに「ポリマー材料」を充填する製造方法について真空状態と加圧状態とを組み合わせてドレンチングにより又はキャスティングにより適切に行われる旨の記載がある(前記1(2)カ。【0008】)。したがって,当該記載部分を前記(1)に引用の本願明細書【0025】の記載部分と併せて参照すれば,当業者は,上記製造方法で固定子コイル同士の隙間に形成されるキャビティに「ポリマー材料」が完全に充填されることで,少なくともコイルの内面がコイルと「ポリマー材料」により隙間なく充填された面となり,その上に滑らかな被覆をさらに設けることが可能となることを容易に認識することができたというべきである。したがって,当業者は,本願明細書の上記記載に基づき,コイルの内面に滑らかで絶縁性のあるコイル被覆を設け,もって本願発明6を容易に実施することができたものと認められる。以上のとおり,前記(1)の引用に係る記載部分は,それ自体,明瞭であるといえるから,法36条4項に違反するものではなく,原告の前記(1)の主張には理由がある一方,これに反する被告の主張は,いずれも前提を欠くものとして採用できない。

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平成23(行ケ)10251 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月14日 知的財産高等裁判所

 記載不備(36条違反)について、実施可能性違反とした審決が維持されました。
 以上のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明の記載には,当業者の技術常識を踏まえても,硬化層のかしめ側端部の位置を本件関係式に基づいて規定することにより,内輪と中空軸との間に普遍的に隙間が発生しないこととなる理由が明らかにされておらず,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないものといわざるを得ない。ところで,法36条4項において,明細書の発明の詳細な説明について,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならないと規定した趣旨は,発明の詳細な説明に基づいて当業者が実施できない発明に対して独占的な権利を付与することは,発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるためであるところ,本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項の記載がない以上,当業者は,出願時の技術水準に照らしても,硬化層のかしめ側端部の位置を本件関係式に基づいて規定することにより内輪と中空軸との間に普遍的に隙間が発生しないという技術上の意義を有するものとしての本願発明を実施することができないのであるから,その記載は,発明の詳細な説明に基づいて当業者が当該発明を実施できることを求めるという法36条4項の上記趣旨に適合しないものである。したがって,このような本願明細書の発明の詳細な説明の記載について,通常の知識を有する者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十\分に記載したものとはいえないとして,法36条4項の要件を満たさないと判断した本件審決に誤りがあるということはできない。

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平成22(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年12月22日 知的財産高等裁判所 

 記載不備違反、進歩性違反なしとした審決が維持されました。裁判所が実施可能要件およびサポート要件についての一般論を述べています。
 特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。そして,物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(特許法2条3項1号),物の発明については,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要があるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能\要件を満たすということができる。これを本件発明についてみると,本件発明は,いずれも物の発明であるが,その特許請求の範囲(前記第2の2)に記載のとおり,本件各化合物(ピペラジン−N−カルボジチオ酸(本件化合物1)若しくはピペラジン−N,N′−ビスカルボジチオ酸(本件化合物2)のいずれか一方若しくはこれらの混合物又はこれらの塩)が飛灰中の重金属を固定化できるということをその技術思想としている。したがって,本件発明が実施可能であるというためには,本件明細書の発明の詳細な説明に本件発明を構\成する本件各化合物を製造する方法についての具体的な記載があるか,あるいはそのような記載がなくても,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基づき当業者が本件各化合物を製造することができる必要があるというべきである。
・・・・
 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。(2) 本件明細書のサポート要件の充足性についてこれを本件発明についてみると,本件発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件出願日当時,そこに記載の本件各化合物の製造方法が当業者に周知の技術であったことは,前記1(3)に認定のとおりである。また,前記1(2)エ(エ)に認定のとおり,本件明細書には,BF灰に,水と本件化合物2の塩を0.4ないし0.8重量%加え,混練したものから重金属の溶出が抑制されていることが記載されている(重金属固定化能試験)。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件各化合物が飛灰中の重金属の固定化処理剤として使用できる旨の記載があるといえる。そして,前記1(2)ウに認定のとおり,本件発明の目的は,飛灰中に含まれる重金属を安定性の高いキレート剤を用いることにより簡便に固定化できる方法を提供することであり,上記のとおり,重金属固定化能試験に関する発明の詳細な説明の記載により,当業者は,本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。以上によれば,本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができる。
・・・・
 特許法は,発明の公開を代償として独占権を付与するものであるから,ある発明が特許出願又は優先権主張日前に頒布された刊行物に記載されているか,当時の技術常識を参酌することにより刊行物に記載されているに等しいといえる場合には,その発明については特許を受けることができない(特許法29条1項3号)。

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平成22(行ケ)10348 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年09月15日 知的財産高等裁判所 

 記載不備および進歩性違反ともに、理由無しとした審決が維持されました。
 前記2(2)エに認定のとおり,引用例4に記載の上記各化合物は,いずれも鎖状のアミンにジチオカルバミン酸が結合した化合物であり,環状アミンにジチオカルバミン酸基が結合した本件化合物1及び2とは化学構造が異なる。したがって,引用例4に上記各化合物の記載があるからといって,これと化学構\造を異にする本件化合物1及び2が飛灰中の重金属を固定化できることを示唆することにはならない。また,前記2(2)アに認定のとおり,引用例1には,ジチオカルバミン酸基を有する低分子量の化合物の中から,飛灰中の重金属固定化剤として本件各化合物を想起させるに足りる記載又は示唆があるとはいえず,前記2(2)イに認定のとおり,引用例2には,そこに記載の化合物又は本件各化合物が廃棄物等の焼却により生じる飛灰を水やpH調整剤と混練するという環境下で,そこに含まれる多様な物質の中で鉛等の重金属と錯体を形成し,これを固定化するものであることについては何らの記載も示唆もない。さらに,前記2(2)ウに認定のとおり,引用例3に記載のピペラジンジチオカルバメート(I)及びピペラジンビスジチオカルバメート(II)は,それぞれ本件発明における本件化合物1及び2に相当し,引用例3は,本件化合物1及び2のようなジチオカルバミン酸基を有するキレート剤が白金属元素と錯体を形成することを明らかにしているものの,それが廃棄物等の焼却により生じる飛灰を水やpH調整剤と混練するという環境下で,そこに含まれる多様な物質の中で鉛等の重金属と錯体を形成し,これを固定化するものであることについては何らの記載も示唆もない。したがって,引用例3には,本件化合物1及び2のキレート剤が飛灰中の重金属固定化剤として利用できることについてまで記載や示唆がなく,引用発明4と引用例3の記載を組み合わせて本件発明1の相違点3に係る構成を想起させるに足りる動機付けがないというほかない。\n

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平成22(行ケ)10252 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年04月26日 知的財産高等裁判所

 記載不備ありとした審決が維持されました。
 上記5つの具体例を照らし合わせると,ZrO2及びSrOの含有量が増えるほど減衰係数が小さくなる傾向が認められるものの,比較例1,比較例2及び参考例1は,いずれもZrO2及びSrOの含有量が共に0重量%であるが,減衰係数は様々な異なる値となっている上,参考例1はZrO2及びSrOの含有量が共に0重量%であるにもかかわらず,「低音響波損ガラス」である「0.25dB/cm以下」の条件を充たしている。また,それぞれの具体例では,その他の成分についても変更されていることから,ZrO2及びSrO以外の成分による影響が生じている可能性があり,ZrO2及びSrOの含有量と減衰係数の関係が正確に導出されているのか不明といわざるを得ない。むしろ,上記具体例からは,ZrO2及びSrOの含有量のみから音響波減衰への作用・効果を予\測することは困難であって,ZrO2及びSrOの含有量が請求項1で特定される所定の範囲であっても,他の成分等により所定の効果(音響波減衰の低減)を得られない場合があることを示唆する結果であるといえる。よって,ガラスの成分と音響波減衰係数との関係について,原告が主張する出願時の技術常識を参酌したとしても,上記の5つの具体例から,音響波減衰を低減できるという本願発明の効果が得られる範囲として,ZrO2及びSrOのうち少なくとも一方の成分を1重量%以上含むことが裏付けられているとはいえない。(6) そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明は,出願時の技術常識を参酌したとしても,ZrO2及びSrOのうち少なくとも一方の成分を1重量%以上含むのであれば音響波減衰を低減できるという効果が得られると,当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載されたものではない。

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平成22(行ケ)10247 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年04月14日 知的財産高等裁判所

 物の製造方法が記載されていないとして実施可能要件を満たさないとした審決が取り消されました。
 本件審決は,i)本願発明1で用いられる炭素膜の製造工程は,上記イの(ア)(イ)(エ)が必須の製造工程であるが,同(ウ)(オ)(カ)は選択的なものであること,ii)本願発明の製造工程は,従来の「ダイアモンド状の炭素あるいはCVDダイアモンド膜」の製造方法として甲1刊行物及び甲2刊行物に記載されている製造工程と実質的に同じものであり,その製造条件は,従来の「ダイアモンド状の炭素あるいはCVDダイアモンド膜」の製造方法として上記刊行物に記載されている製造条件を含むから,発明の詳細な説明に記載されている炭素膜の製造工程は,当該製造工程により従来のダイアモンド状の炭素あるいはCVDダイアモンド膜が製造できても,それを超える本願発明1に係る炭素膜の製造を保証するものではないこと,iii)炭素膜の製造方法における温度,圧力等の製造パラメータが多数あり,かつ,その数値範囲もCVDダイアモンド膜が製造できる数値を含んでいることから,当業者は,種々の製造パラメータにおける適正な範囲やそれらの組合せ,その他の製造パラメータについて更に特定して,所望の特性を有する炭素膜を製造する方法を見つけ出さなくてはならず,当業者が過度の試行錯誤を強いられること,iv)したがって,本願発明1の電子放出デバイスが有する「炭素膜」を実施するための製造方法に関して,発明の詳細な説明には,従来のダイアモンド膜を含む一般の「炭素膜」を製造する方法が記載されているにすぎず,請求項1に記載したUVラマンバンドに関する特性を有する特定の炭素膜を実施するための製造方法が,明確かつ十分に記載されているものとはいえないし,本願発明1の「炭素膜」を得るための具体的な製造方法が,当業者の技術常識であったともいえないと判断した。イ しかしながら,本件審決の上記i)ないしiii)の判断は,以下のとおり,誤りである。

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平成22(行ケ)10249等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年04月07日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反ありとした無効審決が取り消されました。
 審決は,「訂正明細書の実施例4はタイプIの透明ガラス製アンプルにセボフルランと水を入れてフレームシールしたものであるから,そこで問題となるルイス酸は,そのほとんどがガラス容器に由来するものであると認められ,セボフルランの製造,輸送,貯蔵工程等,セボフルランがさらされる環境下において存在し得るガラス容器に由来するルイス酸以外のルイス酸が及ぼす影響を考慮に入れたものではない。・・・訂正明細書の各実施例はガラス製の容器に関するものだけである。そうすると,本件数値範囲・・・の下限である206ppmの水が存在する場合について,・・・実施例4において,40°Cの恒温装置に200時間置くとの条件下にセボフルランの分解が抑制することができた1例があることをもって,セボフルランを含有する麻酔薬組成物中の水の量を本件数値範囲・・・とすることによって,セボフルランがルイス酸によってフッ化水素酸等の分解産物に分解されることを防止し,安定した麻酔薬組成物を実現するという所期の作用効果を奏するものと当業者が理解し得ると認めることはできない。」と説示する。確かに,訂正明細書の2頁10行ないし17行には,容器であるガラスの成分である酸化アルミニウムがルイス酸としてフルオロエーテルを分解する旨が記載されているから,訂正明細書は,ガラス由来のルイス酸を念頭に置いて記載されているとも評価し得る。しかしながら,前記のとおり,訂正明細書の実施例の記載は,各訂正発明のような麻酔薬が通常使用される方法である,ガラス製アンプルに封入して保管する方法を想定してされたものであることが明らかであって,上記の通常の方法を想定したがために実施例の態様が一定のものになっているにすぎない(なお,上記の通常の方法を当業者が選択する限り,当業者が訂正明細書の発明の詳細な説明に記載の手順を踏むことによって,各訂正発明の作用効果を奏し得ることは明らかである。)。また,訂正明細書には「本明細書で用いる『容器』という用語は,物品を保持するために使用することができる,ガラス,プラスチック,スチール,または他の材料でできた入れ物を意味している。」との記載(11頁末行ないし12頁2行)があるから,ガラス以外の材料からなる容器内にルイス酸が存在する態様が除外されていないことは明らかである(なお,訂正明細書の2頁13,14行でも,「ルイス酸のソースは・・・酸化アルミニウムであり得る。」と記載されているにすぎず,ルイス酸の源が酸化アルミニウムであるとか,容器のガラス由来の物質であると必ずしも断定されているわけではない。)。そして,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載の内容に照らせば,ガラス以外の材料から成る容器内にルイス酸が存在する場合においても,当業者において,上記記載に従って手順を踏むことによって,各訂正発明の構\成を実施することが可能であると解して差し支えない。したがって,審決の上記説示は誤りであり,実施可能\要件の充足の有無に係る前記結論が左右されるものではない。

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平成22(行ケ)10105 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年01月25日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件を満たしていないとした審決が維持されました。
 そもそも,本願明細書の「発明の詳細な説明」における「発明を実施するための最良の形態」の項において,発明を具体的に説明している段落【0016】ないし【0052】及び全8図の図面のうち,「等容積プロセス」を経た後の「定圧力プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うという本願発明に関して具体的に記載している部分は明細書の段落【0050】と図8のみであって,それ以外の部分は「等容積プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うことを前提としたものについて記載したものであり,本願発明の実施例とはできないものである。そして,本願発明のような「等容積プロセス」を経た後の「定圧力プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うものと,「等容積プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うものとでは,燃焼プロセスが異なるものであって,燃料の導入タイミング及び導入量等の条件は当然異なるものになるから,「等容積プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うものについての条件を,本願発明のような「等容積プロセス」を経た後の「定圧力プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うものに用いることはできないと考えられる。・・・原告が主張するように本願発明の燃焼サイクルの各プロセスにおける容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)が計算できたとしても,依然として,各プロセスを生じさせる燃焼噴射タイミングや,各噴射タイミングにおける燃料噴射量をどのように決定するのかが不明である。なぜならば,噴射された燃料が燃焼して熱が生じるには時間的なずれが生じており,燃料噴射タイミングと各プロセスの発生タイミングとは必ずしも一致しないことから,各プロセスにおける容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)が決まっても,各プロセスを行うための各燃料噴射タイミングと各燃料噴射タイミングにおける噴射量を決定することはできないからである。すなわち,本願発明の各プロセスでの容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)については,所望する値を算出することは窺い知ることができたとしても,そのような値となる各プロセスを実現するための各燃料噴射タイミングと各燃料噴射タイミングにおける噴射量を決定することについては,当業者に過度の試行錯誤を強いる。
 (3) 以上より,発明の詳細な説明に当業者が容易に本願発明を実施をすることができる程度に発明の構成が記載されているとはいえないとした審決の判断に誤りはない。\n

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平成21(行ケ)10304 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年07月28日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件(旧特36条4項)、サポート要件(旧36条6項1号)違反を理由に訂正を認めなかった審決が取り消されました。\n
上記(2)アの本件詳細説明の記載によれば,本件発明の課題は優れた光沢を出すことにあり,光沢を出すためには昇温結晶化温度が非常に重要とされる一方で,固有粘度は,容器の強度,形状,成形のしやすさの観点から設けられた条件であると認められる。そして,【表2】における実施例と比較例との比較においても,光沢の有無は検討されているが,容器の強度等については触れられていないのであって,固有粘度の差による影響は必ずしも明らかではない。そうすると,フェノールとテトラクロロエタンとの混合割合が50対50,60対40,75対25(3対1)のいずれであっても,固有粘度に最大で0.02程度の差しか生じないとすれば,そのような差が生じるからといって,直ちに当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が光沢を有する容器の製造を目的とする訂正前発明2を実施することができないとまではいえないというべきである。ところで,実施可能\要件に関しては,当業者が,発明の詳細な説明の記載から,成形時の熱履歴等の諸条件を考慮して,昇温結晶化温度128度以上,結晶化熱量20mJ/mg以上のシート層を含む本件発明を実施することが可能かどうかに関する議論は尽くされていないが,少なくとも,上記の点に関する審決の判断は誤りであり,取消事由4は理由がある。イなお,被告は,本件発明の発明特定事項である固有粘度0.55以上の数値に対して,比較例1では固有粘度0.54であって,0.01の差により発明の目的を達成できなくなるのであるから,0.02は大きな差であると主張する。しかし,上記アのとおり,実施例と比較例とは光沢の有無により比較されているのに対し,固有粘度は容器の強度等に関する数値であるから,固有粘度が0.54である比較例1で発明の目的を達成していないとしても,その原因が固有粘度にあるとは断定しがたく,被告の上記主張は採用することができない。
・・・上記(1)のとおり,実施例におけるシート層と外層シートとの厚さの割合は,シート層(中間層)が8μmであるのに対し,その両面に積層された外層シートは各1μmであって(【表1】の「層構\成」欄),外層シートの厚さはシート層の厚さに比べて薄い。したがって,実施例における固有粘度等の数値が多層シートについて測定されたとしても,これらの数値は,厚いシート層の影響を大きく受けるものと解される。(ウ) また,上記(1)のとおり,実施例においては,シート層の97(実施例1),86(同2),95(同3)重量パーセントがポリエチレンテレフタレート(「RE565」)により構成され,外層シートも100重量パーセントがポリエチレンテレフタレート(「RE565」)により構\成されていることから,シート層と外層シートとは,その材料の大部分が共通することになる。加えて,実施例では,シート層と外層シートとを一つの押出機でシート成形し,また,一つの成形機で成形している(段落【0022】)。このように,シート層と外層シートとで材料の大部分が共通し,かつ,同一の機械で成形等が行われていることからすると,シート押出の際の熱履歴や,成形加工時の加熱温度,延伸の程度,冷却条件等については,シート層も外層シートもほぼ同じになるものと解される。(エ) そうすると,実施例における固有粘度,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各数値が多層シートについて測定されたものであっても,それらの数値は,シート層単独で測定された場合と近似した数値になる蓋然性が高いといえる。(オ) 以上のとおりであるから,実施例における固有粘度,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各数値が多層シートについて測定されているからといって,訂正前発明2が本件詳細説明に記載されていないとまではいえず,この点に関する審決の判断には誤りがあり,取消事由5は理由がある。

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平成21(行ケ)10244等  特許権 行政訴訟 平成22年07月20日 知的財産高等裁判所 

 記載不備について争われましたが、裁判所は無効理由無しとした審決を維持しました。この事件は進歩性違反で一旦無効審決がなされ、訂正によりこれを回避した案件です。
 本件特許発明は,いずれも平成20年1月11日付け訂正審判請求が認められたことにより,ハッチや貫通孔といった構成が加えられ,それによって,進歩性が認められたものである。上記各構\成が加えられる前の本件特許発明は,原告が本訴で問題としている,流路の有効内径の数値限定部分等を発明の本質的事項の一部としていたといえるが,上記訂正により,同部分は,それによって進歩性が認められる事項ではなく,単に望ましい構成を開示しているにすぎないといえる。ウ以上を前提として,本件特許発明につき実施可能\要件違反の有無を検討するに,本件特許発明の目的の1つと解される「溶融金属を容器内から導出するために必要な圧力を小さくすること」を達成するためには,溶融金属の重量,流路の粘性抵抗等の条件を設定する必要があり,そのうち粘性抵抗については,溶融金属の性状,ライニングの性質,表面粗さ等のパラメータによって決定され,溶融金属の重量やそれによる影響は,金属の種類や流路の長さ,流速等のパラメータによって決定されるものである。そうすると,単に「溶融金属を導出するために必要な圧力を小さくする」との目的のみを達成するためであれば,流路の有効内径以外のパラメータも設定する必要があることは自明であり,その限りにおいて,原告の主張は誤りではない。しかしながら,「導出圧力の最小化」は,本件特許発明においては付随的な目的にすぎない。この点を措くとしても,被告が主張するように,公道を介して搬送する取鍋の内径は,取鍋を搬送するトラックの車幅との関係で,一定の限度内に収まらざるを得ないのであり,また,そのトラックの車幅も,公道の幅員等により,自ずから相当の限度内になるものということができる。この点につき,原告は,公道搬送可能\な取鍋の大きさは千差万別である旨主張するが,取鍋の標準的な大きさは一定の範囲で自ずから存在するものであり,逆に,単に「望ましい」事項を記載しているにすぎない部分においても,あらゆる大きさや種類のトラックに対して有効なすべてのパラメータを提供しなければならないとするのでは,特許権者や出願人に過大な要求をするものであって,相当ではない。また,作業に慣れた当業者(本件においては,溶融金属を取鍋等を用いて運搬する者)が出湯を行う場合であれば,その出湯時間や速度に,大きな差があるとは考えられない。そして,溶融アルミニウムを流路や配管を通じて排出する場合に粘性抵抗があること自体は,当業者にとって自明であり,望ましいとされる流路の有効内径が提供されれば,それを最大限に生かすべく,他の条件を設定するよう努めるのは当然であって,ここで必要とされる試行錯誤が過度なものであるとは認められない。また,導出圧力の最小化のみを目的とする場合の数値限定と,これが単に付随的な目的にすぎない場合の数値限定では,必然的に相違が生じ,後者の場合には,他の条件との兼ね合いにより,当該目的達成の程度が変化することは明らかである。
 エ 以上からすれば,本件特許発明における,流路の有効内径に関する数値限定部分において,他のパラメータにつき記載がないことをもって,実施可能要件に違\n反するということはできず,原告の主張は理由がない。
(2) 明確性要件について 原告は,本件特許の明細書において,「溶融金属を導入する圧力を小さくする」との効果を達成する上で必要な条件がすべて記載されていないから,本件特許発明は不明確であると主張するが,前述の訂正によって「溶融金属を導入する圧力を小さくする」ことは,既に本件特許発明の主たる目的ではなくなっている上,特許請求の範囲や発明の詳細な説明に記載すべき事項については,特許出願人において適宜選択すべきものであって,本件特許発明についても,その効果が実際に存在するかどうかはともかくとして,特許請求の範囲に記載された流路の有効内径の記載自体は明確であって,他のパラメータの記載がないからといって直ちに,同発明が不明確になるとはいえない。・・・原告は,本件特許発明が,ストーク等の部品交換を行う必要のない容器を提供することを目的としながら(段落【0005】参照),他方で,配管474は「ストーク」に相当するものと解され(段落【0123】,図11参照),以上からすれば,特許を受けようとする発明が明確ではなく,特許法36条4項違反であると主張する。確かに,明細書の段落【0123】や図11において,「ストーク」に相当する配管474が記載されており,これは,段落【0005】の記載とは整合しないといえる。しかし,本件特許発明は,その特許請求の範囲の記載からすれば,いずれも流路を内在するものを指すことが一義的に明らかであって,流路を有さずストークにより溶湯を外部に供給するものは,本件特許発明の対象に含まれない。そもそも,特許出願人において,必ずしも,発明の詳細な説明に記載したものすべてにつき,特許として出願しなくてはならないものではない上,本件での特許請求の範囲の記載が,この点に関して明確であることからすれば,本件において,発明の詳細な説明の段落【0123】の記載や図11が存在することによって,実施可能要件に違反するとはいえず,原告の主張は理由がない。\n

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◆関連事件です。平成21(行ケ)10024

◆関連事件です。平成21(行ケ)10245

◆関連事件です。平成21(行ケ)10246

◆関連事件です。平成19(ネ)10032

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平成21(行ケ)10170 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年05月10日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件(特36条4項)違反であるとした審決が維持されました。
 そこで,これを本願についてみると,本願請求項の構成は,前記のとおり,「(A)・(B)・(C)の定める各検出方法いずれか又はこれらを組み合わせたことによるADP受容体P2T アンタゴニスト等を検出すACる工程」と「製造化工程」と含む「抗血小板用医薬組成物の製造方法」とするものである。上記構成は,概ね,原告が前記特許第3519078号(甲13)により取得した特許権請求項1〜4の記載に「製造化工程」を付加し「抗血小板用医薬組成物の製造方法」としたものである。そして,検出方法(A)・(B)・(C)については具体的な技術内容が特定されているものの,その余の「製造化工程」・「医薬組成物の製造方法」には具体的な技術内容の記載が見当たらない。一方,本願請求項1は,その記載内容からして,末尾にある「医薬組成物の製造方法」であるから,「製造方法」の観点か,又は「物」の観点,すなわち製造原料の観点や製造された医薬組成物の観点若しくはその組み合わせに発明的な特徴があるのが通例であるが,本願請求項1には上記発明的特徴を窺わせる記載が見当たらない。上記によれば,本願請求項1は旧36条6項2号にいう「特許を受けようとする発明が明確であること」(明確性要件)の要件を満たすか問題となる余地があるが,審決は本願につき旧36条4項の実施可能\要件についてのみ判断しているので,以下その当否に限って検討する。エ(ア) 本願請求項1(本願発明)の場合,「製造される物」は有効成分である化合物と製剤化に必要な汎用の成分とからなる「抗血小板用医薬組成物」であるから,当業者がかかる医薬組成物を製造するためには,明細書の記載から有効成分たる化合物が何であるかを理解・把握する必要があり,その際は,有効成分たる化合物を化学構造の観点から化合物自体として把握する必要があるというべきである。すなわち,本願発明の製造方法において製剤化工程を行うためには,その前提として,抗血小板用医薬組成物における有効成分となるものを化合物自体として特定して把握する必要があるというべきである。そうすると,審決が「当該製造方法において,製剤化工程を行うには,当該製剤化工程に先立って,当該(A)〜(C)のいずれか1つの検出方法,又は,それらの組み合わせによるスクリーニングでもって,公知のものに限ってみても,種々の化合物,ペプチド等の,広範かつ無数に近い試験化合物の中より,抗血小板剤として有用なものを化合物自体として特定して把握する必要がある。」(5頁30行〜6頁1行)としたことに誤りはない。(イ) そこで,かかる見地から本願発明をみるに,本願明細書(甲3)には,(A)〜(C)として特定される検出方法によって抗血小板医薬となり得る化合物たるADP受容体P2T アンタゴニストをスクリーニACングすることができること,すなわち抗血小板医薬の有効成分となる可能性のある化合物を選び出すことが可能\であること,抗血小板作用を示す物質として知られている化合物(具体的には2MeSAMP又はAR−C69931MX)が,(A)〜(C)として特定される検出方法によってアンタゴニスト活性を示すことが確認できたことが記載されている(段落【0012】)。また,抗血小板剤として公知のチクロピジンやクロピドグレルの体内での代謝物がADP受容体P2T を阻害するACことで効果をもたらしていると考えられていることなどが紹介され,血小板のADP受容体P2T に対する拮抗薬は,抗血小板剤となる期待ACのあることが記載されている(段落【0007】,【0008】)。そして,実施例では,上記2つの化合物(2MeSAMP,AR−C69931MX)についての検出実験が行なわれている(段落【0114】〜【0121】)。しかし,上記2つの化合物は抗血小板作用を示すことが知られていたものであるからADP受容体P2T のアンタゴニストである蓋然性ACが高く,これらがアンタゴニスト活性を示すことが確認されたという結果は,単に(A)〜(C)として特定される検出方法が有効な検出方法であることの証左になるにすぎない。しかも,実施例は単に上記2つの化合物からADP受容体P2T アンタゴニスト活性が検出されたことACを示すのみで,検出される化合物が共通して持つ化学構造や物性など「物」の観点からの説明はなく,このような実施例の記載から他にいかなる化合物が検出されるか当業者が理解することはできない。すなわち,この2つの化合物以外にどのような化学構\造や物性の化合物が(A)〜(C)として特定される検出方法によって有効成分として検出されるか,当業者は理解することができない。そして,本願明細書(甲3)には,何ら新規な化合物からなるリガンド,アンタゴニスト,アゴニストを発見したことは記載されておらず,したがって,新規な医薬組成物を製造することも記載されていない。以上のとおり,本願明細書(甲3)は,実施例で検出が行われた個別の2つの物質に関してADP受容体P2TACアンタゴニスト活性が確認された旨の記載があるに止まるものであり,どのような化学構造や物性の化合物が有効成分となるかについての具体的な記載はない。したがって,当業者は,本願明細書の記載からある化学構\造の化合物を含む組成物が本願発明に該当するかどうかを認識・判断することはできない。そして,本願発明の特許請求の範囲全体を実施するためには,特定されていない無数の化合物を無作為に製造し,特許請求の範囲に記載された検出方法を適用して試験化合物からADP受容体P2TACリガンド,アンタゴニスト又はアゴニストが検出されるかどうかを確かめ,ADP受容体P2T アンタゴニスAC トたる化合物を見つけ出さなければならないが,このことは当業者に過度の試行錯誤を強いるものというべきである。すなわち,本願明細書の記載からは,スクリーニング工程を経てアンタゴニストとなる化合物が発見された場合に限り,その化合物を用いた抗血小板用医薬組成物を認識できるということが示唆されているのみであり,このことは特定の医薬組成物を認識しうることの単なる期待を示しているにすぎないのであるから,アンタゴニストとなる化合物を発見し,その化合物を用いた抗血小板用医薬組成物を認識するまでにはなお当業者に過度の負担を強いるものである。(ウ) これに対し,原告は,本願優先日(平成12年11月1日又は平成13年1月11日)時点での技術水準を正確に認識し,本願明細書の発明の詳細な説明の記載からHORK3タンパク質が有する特徴的な結合特性を正確に把握すれば,HORK3タンパク質をGPCRとして用いる本願発明において「特定の医薬組成物を認識しうること」には極めて高い蓋然性が認められるから,当業者はHORK3タンパク質をGPCRとして用いる本願発明方法によって「特定の医薬組成物を認識しうること」が極めて高い蓋然性を有することは自明であると主張する。しかし,前記のとおり,本願発明の場合,「製造する物」は有効成分である化合物と製剤化に必要な汎用の成分とからなる抗血小板用医薬組成物であるから,当業者は明細書の記載自体から抗血小板用医薬組成物における有効成分となるものを化合物自体として特定して把握することができること,いいかえれば,明細書の記載自体からある化学構造の化合物を含む組成物が本願発明に該当するかどうかを認識・判断することができなければならないというべきである。そうすると,当業者がスクリーニング工程を含む検出過程を経なければ有効成分となる化合物を把握することができないという点において,候補化合物の多寡,スクリーニング対象となる化合物群ないしライブラリーの入手のしやすさ,検出に要する時間の長短,スクリーニング操作が簡便であるかなどにかかわらず,本願明細書の発明の詳細な説明は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十\分に記載されているとはいえない,即ち本願における発明の詳細な説明は実施可能要件(旧36条4項)を充足していないと認めるのが相当である。\n

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平成21(行ケ)10158 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月30日 知的財産高等裁判所

 明確性違反および実施可能性違反とした審決が維持されました。
 当裁判所は,本願明細書の発明の詳細な説明には,請求項1,11に係る発明の「補助エステル」の特定に関し,当業者が,同発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載はないので,本件審決には,少なくとも,原告の主張に係る取消事由2及び5の違法はないと判断する。その理由は,以下のとおりである。・・・本願明細書には,本願発明による課題解決をするに当たり,当業者において,本願発明で規定したLogP値の範囲内の化合物群の中から,どのような補助エステルを選定すべきかについて,明確かつ十\分な記載がされていないと解される。その理由は,以下のとおりである。すなわち,エステル化合物については,原告が書証として提出する皮膚外用剤に関する文献について見ただけでも,例えば,甲4の10には,パラヒドロキシ安息香酸エステル類の例が挙げられ,アルコール残基の炭素数1ないし12のエステルとしてメチルパラベン等12種類のエステル化合物が示され,甲4の8には,皮膚軟化剤(25頁,26頁),浸透向上剤(26頁〜29頁),乳化剤(30頁〜34頁),他の化粧品用添加剤(43頁,44頁)として,多種のエステル化合物が示されているように,多種多様なものを含む。なお,本願発明の「補助エステル」について,親油性に関してLogP値がニコチン酸アルキルエステルのLogP値より小さく,その差がLogP値において0.5ないし1.5との条件を充足するエステルとの限定がされている。しかし,本願明細書の【0026】【表1】記載の,微量栄養素としてのニコチン酸アルキルエステルだけでも,LogP値1.0の幅の中に複数の炭素原子数のニコチン酸アルキルエステルが含まれることから明らかなように,本願明細書の補助エステルに関するLogP値(0.5〜1.5)を満たすエステル化合物は,膨大な種類のものを含む。ところで,発明の詳細な説明の【0020】では,「栄養素をヒトに送達する」という解決課題を達成するためには,補助エステルは,i)プロ栄養素の角質層からのフラックス(透過性)が類似するという性質と,ii)生物変換に関してプロ栄養素と効果的に競合するという性質の両者が必要であると記載されている。このうち,ii)の生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合するという性質は,請求項1,11で規定されたLogP値の範囲の補助エステルのすべてが当然に備えているものではなく,当業者が,試行錯誤を繰り返して,生物変換に関して微量栄養素と効果的に競合する補助エステルを選別しない限り,本願発明の目的を達成することができず,本願明細書には,その選別を容易にするための記載はない。この点について,原告は,補助エステルが,LogP値の範囲内であれば,すべて,前記ii)の性質を有するように主張するが,同主張は根拠を欠くものであって,採用できない。・・・・以上のとおり,本願発明1,2を実施しようとする当業者は,本願発明のLogP値を満たし,かつ生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合する補助エステルを選択するためには,過度の試行錯誤を要することになる。本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。\n

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平成21(行ケ)10281 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月24日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反、明確性違反を理由として無効とした審決が取り消されました。
 ところで被告は,本件発明1・2に関する特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない旨主張するが,特許法36条6項2号にいう「特許を受けようとする発明が明確であること」とは,特許請求の範囲における構成の記載からその構\成を一義的に知ることができれば特定の問題としては必要にして十分であると解すべきところ,上記イで認められる技術常識及び上記アの記載に照らせば,本件発明1・2における,フェライト中に体積率で3%以上20%以下のマルテンサイトおよび残留オーステナイトが混在するとの点は,加工性を担うフェライト中におけるマルテンサイトおよびマルテンサイト化せずオーステナイトのまま残った残留オーステナイトの体積率を規定したものであり,強度を担うマルテンサイトと,加工時の変形性及びマルテンサイト化した後の強度を担う残留オーステナイトについて,それらの技術的意義は明確であるから,本件発明1・2の特許請求の範囲の記載において,特許法36条6項2号にいう明確性要件違反はないというべきである。エ この点審決は,「訂正明細書には,金属組織としてフェライトに注目し,これが存在することの技術的意義が,高強度とプレス加工性の良いことの両立にあるとは,記載されていない。…」(17頁4行〜6行)とし,「してみると,訂正明細書には,高強度とプレス加工性の良いことの両立という技術的意義は,本来的に,マルテンサイト及び残留オーステナイトを体積率で3〜20%含む金属組織としたことによるものとして記載していると認められる。」(17頁16行〜19行)とした上で,「してみると,高強度とプレス加工性の良いことの両立という技術的意義は,本来的に,マルテンサイト及び残留オーステナイトを3〜20%含む金属組織としたことによるものであるとの技術的内容を認めることはできず,結局のところ,訂正明細書の記載からは,金属組織として,フェライト中に『体積率で3%以上20%以下のマルテンサイトおよび残留オーステナイトが混在する』としたことの技術的意義を見出すことができない。」(18頁23行〜28行)として,本件発明1・2は不明確であると判断した。しかし,上記ア(イ)で摘記したとおり,訂正明細書(甲41の2)には,「鋼帯は焼鈍後,引き続きめっき浴へ浸漬する過程で冷却されるが,この場合の冷却速度は…650℃までを平均0.5〜10℃/秒とするのは加工性を改善するためにフェライトの体積率を増す…」(段落【0023】),「本発明では…むしろフェライトが緩慢に成長することにより,鋼板の引張強さを安定させている。…」(段落【0027】)等の記載があり,フェライトが鋼板の加工性に寄与している旨が示されていることになる。以上の検討によれば,審決の本件発明1・2の明確性要件に関する判断は誤りというべきである。

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平成20(行ケ)10235 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月14日 知的財産高等裁判所 

 36条違反により無効であるとした審決が取り消されました。リパーゼ最高裁判決にも触れています。
 以上のとおり,当業者であれば,本件訂正明細書の記載から,本件発明に係る共沸混合物様組成物の全範囲が空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用できることが理解可能であって,実施例4として記載されていた具体例が本件訂正によって本件発明の対象外となってもなお,本件発明が実施可能\要件に欠けることはないというべきである。(5) 審決は,実施例4の記載からは,訂正後の請求項1に記載された共沸混合物様組成物について,すべての範囲に渡ってCOP 等の性能が同等又は優れているとはいえず,また他に具体的な性能\評価の記載もないから,本件訂正明細書には,本件発明について当業者が実施することができる程度に発明の目的,構成及び効果が発明の詳細な説明中に記載されているとすることはできないとしている。しかし,本件発明は,前記(1) ウ記載のとおり,その組成範囲が限定された組成物であって,本件訂正明細書において,同組成物が共沸混合物様に挙動し,かつ,同組成物が空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用可能であることが開示されている。本件発明は,共沸混合物様に挙動する組成物の組成範囲を開示した点において既に新規性があるものであって,「すべての範囲に渡ってCOP 等の性能が同等又は優れている」ことの開示が必要であるとまではいえない。(6) 被告は,本件訂正明細書には,本件発明の具体的な性能評価(温度勾配が0.3°C未満であること,難燃性を有すること,空調用又はヒートポンプ用に適した熱力学的性能\を有すること)は記載されていない旨主張する。しかし,そもそも,温度勾配については,本件発明を特定するために必要な記載事項とはいえない。・・・・・・被告は,最高裁平成3年3月8日判決(いわゆるリパーゼ事件判決)を引用して,請求項1の後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧」について,それが誤記であるとしても,それは同判決が判示するような「一見して誤記であることが明らかな場合」には当たらないと主張し,また,誤記ではないとしても,「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない」場合にも当たらないと主張するので,念のために,所論の判例との関係につき付言することとする。上記判示のとおり,本件発明の請求項1の文言は,前段では,組成物の物質の名称が特定の数値(重量パーセント)とともに記載され,後段では,特定の温度における特定の数値の蒸気圧が記載されており,それぞれの用語自体としては疑義を生じる余地のない明瞭なものであるが,組成物の発明であるから,構成としては前段の記載で必要かつ十\分であるのに,後者は,さらにこれを限定しているようにも見えるものの,真実,要件ないし権利の範囲として更に付された限定であるとすれば,その帰結するところ,権利範囲が極めて限定され,特許として有用性がほとんどない組成物となり,極限的な,いわば点でしか成立しない構成の発明であるという不可思議な理解に,当業者であれば容易に想到することが必定である。そうすると,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,前段と後段との関係,特に後段の意味内容を理解するために,明細書の関係部分の記載を直ちに参照しようとするはずである。そうであってみれば,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する」の記載に接し,その技術的な意義を一義的に明確に理解することができないため,明細書の記載を参照する必要に迫られ,これを参照した結果,その意味内容を上記判示のように理解するに至るものということができる。したがって,本件発明の請求項1の解釈に当たって明細書の記載を参照することは許され,上記の判断には,所論のような,判例の趣旨に反するところはなく,被告のこの点に関する主張は採用することができない。 (3) 以上のとおり,本件発明における請求項1の「32°Fにて約119.0 psiaの蒸気圧を有する」との記載(後段記載)は,「真の共沸混合物が有する蒸気圧」を記載したにとどまり,本件発明の対象はあくまで「約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタン」との組成範囲の記載(前段記載)によって定まると解釈すべきことになるから,本件発明の前段記載と後段記載は実質的に矛盾しないことになり,本件特許には,審決が説示したような実施可能要件違反はない。\n

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平成21(行ケ)10033 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月28日 知的財産高等裁判所

 サポート要件違反とした審決が取り消されました。
 当裁判所は,審決が,法36条6項1号所定の「特許請求の範囲の記載は,・・・特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」との要件を満たすためには,医薬の用途発明では「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をする」ことが必要であると同項を解釈し,本願の特許請求の範囲は,同項1号の要件を満たさないとした点には,誤りがあると判断する。その理由は,以下のとおりである。・・・「特許請求の範囲の記載」が法36条6項1号に適合するか否か,すなわち「特許請求の範囲の記載」が「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」か否かを判断するに当たっては,その前提として「発明の詳細な説明」がどのような技術的事項を開示しているかを把握することが必要となる。そして,法36条6項1号の規定は,「特許請求の範囲」の記載に関してその要件を定めた規定であること,及び,発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除するために設けられた規定であることに照らすならば,同号の要件の適合性を判断する前提としての「発明の詳細な説明」の開示内容の理解の在り方は,上記の点を判断するのに必要かつ合理的な方法によるべきである。他方,「発明の詳細な説明」の記載に関しては,法36条4項1号が,独立して「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の・・・技術上の意義を理解するために必要な事項」及び「(発明の)実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載した」との要件を定めているので,同項所定の要件への適合性を欠く場合は,そのこと自体で,その出願は拒絶理由を有し,又は,独立の無効理由(特許法123条1項4号)となる筋合いである。そうであるところ,法36条6項1号の規定の解釈に当たり,「発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除する」という同号の趣旨から離れて,法36条4項1号の要件適合性を判断するのと全く同様の手法によって解釈,判断することは,同一事項を二重に判断することになりかねない。仮に,発明の詳細な説明の記載が法36条4項1号所定の要件を欠く場合に,常に同条6項1号の要件を欠くという関係に立つような解釈を許容するとしたならば,同条4項1号の規定を,同条6項1号のほかに別個独立の特許要件として設けた存在意義が失われることになる。したがって,法36条6項1号の規定の解釈に当たっては,特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明の記載の範囲と対比して,前者の範囲が後者の範囲を超えているか否かを必要かつ合目的的な解釈手法によって判断すれば足り,例えば,特許請求の範囲が特異な形式で記載されているため,法36条6項1号の判断の前提として,「発明の詳細な説明」を上記のような手法により解釈しない限り,特許制度の趣旨に著しく反するなど特段の事情のある場合はさておき,そのような事情がない限りは,同条4項1号の要件適合性を判断するのと全く同様の手法によって解釈,判断することは許されないというべきである。・・・・審決は,その理由中において,「医薬についての用途発明においては,一般に,有効成分の物質名,化学構\造だけからその有用性を予測することは困難であり,発明の詳細な説明に有効量,投与方法,製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても,それだけでは当業者が当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから,特許を受けようとする発明が,発明の詳細な説明に記載したものであるというためには,発明の詳細な説明において,薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることにより,その用途の有用性が裏付けられている必要があ(る)」(審決書2頁22行〜29行)と述べている。同部分は,法36条4項1号の要件充足性を判断する前提との関係では,同号の趣旨に照らし,妥当する場合があることは否定できない。すなわち,法36条4項1号は,特許を受けることによって独占権を得るためには,第三者に対し,発明が解決しようとする課題,解決手段,その他の発明の技術上の意義を理解するために必要な情報を開示し,発明を実施するための明確でかつ十\分な情報を提供することが必要であるとの観点から,これに必要と認められる事項を「発明の詳細な説明」に記載すべき旨を課した規定である。そして,一般に,医薬品の用途発明が認められる我が国の特許法の下においては,「発明の詳細な説明」の記載に,用途の有用性を客観的に検証する過程が明らかにされることが,多くの場合に妥当すると解すべきであって,検証過程を明らかにするためには,医薬品と用途との関連性を示したデータによることが,最も有効,適切かつ合理的な方法であるといえるから,そのようなデータが記載されていないときには,その発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとされる場合は多いといえるであろう。しかし,審決が,法36条6項1号の要件充足性との関係で,「発明の詳細な説明において,薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることにより,その用途の有用性が裏付けられている必要があ(る)」と述べている部分は,特段の事情のない限り,薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることが,必要不可欠な条件(要件)ということはできない。法36条6項1号は,前記のとおり,「特許請求の範囲」と「発明の詳細な説明」とを対比して,「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」に記載された技術的事項の範囲を超えるような広範な範囲にまで独占権を付与することを防止する趣旨で設けられた規定である。そうすると,「発明の詳細な説明」の記載内容に関する解釈の手法は,同規定の趣旨に照らして,「特許請求の範囲」が「発明の詳細な説明」に記載された技術的事項の範囲のものであるか否かを判断するのに,必要かつ合目的的な解釈手法によるべきであって,特段の事情のない限りは,「発明の詳細な説明」において実施例等で記載・開示された技術的事項を形式的に理解することで足りるというべきである。したがって,審決が,発明の詳細な説明に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることにより,その用途の有用性が裏付けられている」ように記載されていない限り,特許請求の範囲の記載は,法36条6項1号に規定する要件を満たさないとした部分は,常に妥当するものではなく,そのことのみを理由として,法36条6項1号に反するとした判断は,特段の事情があればさておき,このような特段の事情がない限りは,理由不備があるというべきである。イ そして,審決は,理由中において,発明の詳細な説明の具体的な記載の検討をし,「本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明の医薬としての有用性を裏付ける薬理データも薬理データと同視すべき程度の記載もなされていない。」として,本願は,法36条6項1号所定の要件を満たさないと結論付けた。しかし,審決は,発明の詳細な説明の記載によって理解される技術的事項の範囲を,特許請求の範囲との対比において,検討したのではなく,「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載」があるか否かのみを検討して,そのような記載がないことを理由として,法36条6項1号の要件充足性がないとしたものであって,本願の特許請求の範囲の記載が,どのような理由により,発明の詳細な説明で記載された技術的事項の範囲を超えているかの具体的な検討をすることなく,同条6項1号所定の要件を満たさないとした点において,理由不備の違法があるというべきである。また,本件においては,「特許請求の範囲」が特異な形式で記載され,法36条6項1号の要件を充足しないと解さない限り,産業の発展を阻害するおそれが生じるなど特段の事情は存在しない。ウ 被告は,知財高裁大合議部判決が,特性値を表\す複数の技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を含む発明に係る「特許請求の範囲の記載」に関して,平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項1号(現行法36条6項1号)の規定に適合しないとした判決の理由を,医薬用途発明に適用するならば,発明の詳細な説明に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載」をすることが,法36条6項1号の適合性を充足するための要件になると主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり,採用できない。すなわち,知財高裁大合議部判決は,前記のとおり,特性値を表す複数の技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を含む発明に係る「特許請求の範囲の記載」が,平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項1号所定(現行法36条6項1号)の要件に適合するか否かについて,同争点に対して判示した事案である。同判決は,判決理由中の第6の1(4)において,「発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比」との項目を設けて,「発明の詳細な説明の記載」で示された実施例と比較例とを検討した上で,「当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載しているとはいえ」ないと判示し,さらに,同判決理由中の第6の1(5)において,「特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに,・・・その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し,明細書のサポート要件に適合させることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されない」と判示した。以上のとおり,知財高裁大合議部判決の判示は,i)「特許請求の範囲」が,複数のパラメータで特定された記載であり,その解釈が争点となっていること,ii)「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」の記載による開示内容と対比し,「発明の詳細な説明」に記載,開示された技術内容を超えているかどうかが争点とされた事案においてされたものである。これに対し,本件は,i)「特許請求の範囲」が特異な形式で記載されたがために,その技術的範囲についての解釈に疑義があると審決において判断された事案ではなく,また,ii)「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比して,前者の範囲が後者の範囲を超えていると審決において判断された事案でもない。知財高裁大合議部判決と本件とは,上記各点において,その前提を異にする。したがって,被告が,知財高裁大合議部判決の判示内容を医薬用途発明に適用すれば,発明の詳細な説明に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載」をすることが,法36条6項1号の適合性を充足するための要件になると主張する点は,本件において,同様に適用されるための前提を欠く。したがって,知財高裁大合議部判決の判示を論拠として,医薬品の用途発明である本件について,発明の詳細の記載に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないから,法36条6項1号の要件を満たさないとすべきであるとの被告の主張は,採用の限りでない。エ 以上検討したとおり,審決は,法36条6項1号の要件を満たすためには,常に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないこと」が必要であるとの前提に立って,本願では,「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないこと」のみを理由に,同条6項1号の要件を充足しないとしたものであって,審決の判断には,理由不備の違法がある。(2) 以上のとおり,審決の判断には,法36条6項1号についての誤った前提に基づいて,その要件を満たさないとした点において理由不備の違法がある。のみならず,具体的な事案に照らしても,以下のとおり,法36条6項1号に適合しないとした審決の判断には誤りがある。

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平成21(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月20日 知的財産高等裁判所

 審決は、補正が新規事項、サポート要件違反、進歩性なしとしました。これに対して裁判所は、いずれも否定して上記審決を取り消しました。
 以上によると,当初明細書に記載される抗酸化作用を有する組成物は,単なる焼酎蒸留廃液からなる抗酸化物質と比べて,優れたヒドロキシラジカル消去活性を有するものであること,同組成物は,それ故,老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて良好であることが記載されているものであって,そうすると,本件補正による新請求項1に係る組成物が,補正事項(b)「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ものであって,また,同(c)「ヒドロキシラジカル消去剤」との用途に用い得るものであることは,当初明細書に記載された事項の範囲内のものというべきである。エもっとも,被告は,当初明細書には,「ヒドロキシラジカル消去剤」との文言は存在せず,単に「抗酸化剤」又は「抗酸化作用」と「活性酸素によって誘発される生活習慣病」との関係に係る従来技術が示されたものにすぎないから,当初明細書の記載では,本願補正発明に係る「組成物」からなる「ヒドロキシラジカル消去剤」について実体的に記載されたものではないと主張する。しかしながら,上記イのとおり,当初明細書の【0040】には,ヒドロキシラジカル消去活性を有する抗酸化作用を有する組成物及びこれが活性酸素によって誘発される種々の生活習慣病の予防に有効であることが記載されているのであって,被告の主張は採用することができない。また,被告は,当初明細書の記載においては,本願補正発明に係る「組成物」の「活性酸素によって誘発される生活習慣病」に対する有効性についても全く確認されておらず,有効性が不明であるとして,新請求項1には新規事項の追加があると主張するが,これは,記載不備や進歩性の判断における発明の効果の問題であって,新規事項の追加の有無の問題ではないから,被告の主張は採用し得ない。オしたがって,新請求項1に係る本件補正について,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということができないとした本件審決の判断は誤りである。\n・・・,特許請求の範囲が,特許法36条6項1号に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。・・・オ 以上によると,上記ウのとおり,当業者が,ヒドロキシラジカル消去活性の大小や本願発明の抗酸化作用を有する組成物が強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有して種々の生活習慣病の予防に好適であること等を記載する本願明細書に接し,上記エの公知の知見をも加味すると,本件補正発明の組成物が,活性酸素によって誘発される生活習慣病の予\防に対して効果を有することを認識することができるものであって,本件補正発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,その記載によって,生活習慣病などの疾患に対して有効である抗酸化物質を提供しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。カ この点に関し,本件審決は,本願明細書の発明の詳細な説明には,(活性酸素によって誘発される)生活習慣病(の予防)に対する効果の有無及び当該効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係(例えば,どの程度の抗酸化作用を有していれば,生活習慣病(の予\防)に対する効果を有するとするのかなど)に係る記載又はそれらを示唆する記載はないと説示する。しかしながら,本願明細書には,本件補正発明の組成物が活性酸素によって誘発される生活習慣病の予防に対して効果を有することを当業者が認識することができる記載があることは上記のとおりであり,また,新請求項1には,どの程度の抗酸化作用を有していれば生活習慣病(の予\防)に対する効果を有するかなどの生活習慣病の予防に対する効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係についてまで記載されておらず,このような対応関係について発明の詳細な説明中に記載されている必要があると解されるものでもない。\n

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平成20(行ケ)10235 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月14日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反ありとした審決が取り消されました。
 本件発明は,「約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,32°Fにて約119.0psia の蒸気圧を有する,空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物。」と特定されており,「空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物」が「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する」ことが明確に特定されているため,これが訂正前の請求項1の発明と全く同一内容の発明であるということはできず,訂正に伴う相応の変更があったものといわざるを得ない。しかしながら,本件発明は,訂正前と同様,共沸混合物様組成物に関するものであって,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の技術的意義についても,訂正前と実質的な変更はないものというべきであるが,本件訂正による特許請求の範囲の減縮は,発明の用途を限定するとともに,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンからなる組成物の組成範囲を減縮することを目的としてされているものの,後段記載の部分がそのまま維持されたこともあって,前段記載と後段記載の矛盾関係が発生したものといえる。そうであれば,本件訂正後の本件発明は,発明の用途や組成範囲が限定された点を除けば,本件訂正前の発明と基本的に同一であるが,本件訂正明細書の発明の詳細な説明を参照しつつ,上記のような矛盾が生じないように解釈すべきであるから,「空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての組成物であり,約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタンからなり,32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する共沸混合物のような組成物」(ここで「共沸混合物のような組成物」とは「共沸混合物のように挙動する組成物」であるという意義)であると解するのが相当である。すなわち,本件発明の後段における蒸気圧の記載は,「真の共沸混合物」が有する属性を記載したものにすぎないと解すべきであって,本件訂正明細書の発明の詳細な説明を参照した当業者であれば,本件発明が上記認定どおりの組成物であると理解することができるものと認められる。そして,前記アで検討したとおり,本件訂正明細書には,本件発明の特徴について記載されており,当業者がこれらの記載を見れば,本件発明が「空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての組成物であって,約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,『32°Fにて約119.0 psia という真の共沸混合物の蒸気圧を有する,共沸混合物』のように挙動する組成物」であるものと理解し,その旨実施することができるものと認められる。したがって,本件発明の前段記載と後段記載とは実質的に矛盾するものではなく,両者が矛盾するものであると解釈し,これを根拠に本件発明につき実施可能要件違反があるとした審決の認定判断には誤りがある。・・・エ 被告は,最高裁平成3年3月8日判決(いわゆるリパーゼ事件判決)を引用して,請求項1の後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧」について,それが誤記であるとしても,それは同判決が判示するような「一見して誤記であることが明らかな場合」には当たらないと主張し,また,誤記ではないとしても,「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない」場合にも当たらないと主張するので,念のために,所論の判例との関係につき付言することとする。上記判示のとおり,本件発明の請求項1の文言は,前段では,組成物の物質の名称が特定の数値(重量パーセント)とともに記載され,後段では,特定の温度における特定の数値の蒸気圧が記載されており,それぞれの用語自体としては疑義を生じる余地のない明瞭なものであるが,組成物の発明であるから,構成としては前段の記載で必要かつ十\分であるのに,後者は,さらにこれを限定しているようにも見えるものの,真実,要件ないし権利の範囲として更に付された限定であるとすれば,その帰結するところ,権利範囲が極めて限定され,特許として有用性がほとんどない組成物となり,極限的な,いわば点でしか成立しない構成の発明であるという不可思議な理解に,当業者であれば容易に想到することが必定である。そうすると,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,前段と後段との関係,特に後段の意味内容を理解するために,明細書の関係部分の記載を直ちに参照しようとするはずである。そうであってみれば,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する」の記載に接し,その技術的な意義を一義的に明確に理解することができないため,明細書の記載を参照する必要に迫られ,これを参照した結果,その意味内容を上記判示のように理解するに至るものということができる。したがって,本件発明の請求項1の解釈に当たって明細書の記載を参照することは許され,上記の判断には,所論のような,判例の趣旨に反するところはなく,被告のこの点に関する主張は採用することができない。(3) 以上のとおり,本件発明における請求項1の「32°Fにて約119.0 psiaの蒸気圧を有する」との記載(後段記載)は,「真の共沸混合物が有する蒸気圧」を記載したにとどまり,本件発明の対象はあくまで「約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタン」との組成範囲の記載(前段記載)によって定まると解釈すべきことになるから,本件発明の前段記載と後段記載は実質的に矛盾しないことになり,本件特許には,審決が説示したような実施可能要件違反はない。\n

◆判決本文

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平成20(行ケ)10423 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月17日 知的財産高等裁判所

 36条4項(実施可能性違反)を理由に拒絶審決が維持されました。
 「上記第4項は特許出願における実施可能要件と称されているものであるが,特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的権利を付与するものであるから,明細書に記載される発明の詳細な説明は,当業者(その発明の属する分野における通常の知識を有する者)が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成が記載されていることを要するとしたものであるところ,上記のような法の趣旨に鑑みると,明細書の発明の詳細な説明の欄に当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十\分に記載されていること,ひいては当該発明が実施可能であることは,出願人が特許庁長官に対し立証する責任があると解される。」\n

◆平成20(行ケ)10423 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月17日 知的財産高等裁判所

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平成20(行ケ)10304 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年08月18日 知的財産高等裁判所

実施可能性違反ではないとした無効審決が取り消されました。
 「特許法36条4項は,「前項第三号の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と定めるところ,本件発明のように,特定の用途(樹脂配合用)に使用される組成物であって,一定の組成割合を有する公知の物質から成るものに係る発明においては,一般に,当該組成物を構\成する物質の名称及びその組成割合が示されたとしても,それのみによっては,当業者が当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該組成物を当該用途に容易に実施することができないから,そのような発明について実施可能\要件を満たすといい得るには,発明の詳細な説明に,当該用途の有用性を裏付ける程度に当該発明の目的,構成及び効果が記載されていることを要すると解するのが相当である。さらに,本件発明は,その用途として,単に「樹脂配合用」と規定するのみであるから,本件発明について実施可能\要件を満たす記載がされるべきである以上,発明の詳細な説明に,酸素吸収剤を適用する樹脂一般について,本件発明の酸素吸収剤を適用することが有用であること,すなわち,当該樹脂一般について,本件発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされていることを要すると解すべきである。そこで,以下,上記観点に立ち,発明の詳細な説明に,本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂一般について,本件発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載があるか否かについて検討する。・・・しかしながら,i),iii)及びvi)の各記載の実質は,単に結論(相違点に係る構成を採用した本件発明が本件作用効果を奏する旨)を述べるものすぎない。また,ii)iv)及びv)の各記載をみても,これを,酸素吸収剤を適用する樹脂の特性(化学構造等)を念頭に置いたものとみることはできないから,当業者において,これらの記載の内容が,エチレン−ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般についても,そのまま妥当するものと容易に理解することができるとみることはできない。さらに,発明の詳細な説明には,当業者において,銅及び硫黄が過大に存在することによる樹脂のゲル化及び分解並びに異味・異臭成分の発生を考える上で,エチレン−ビニルアルコール共重合体とそれ以外の樹脂一般とを同視し得るものと容易に理解することができるような記載は全くない。以上からすると,発明の詳細な説明に,エチレン−ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般について,本件発明が本件作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされているものと認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はない。」

◆平成20(行ケ)10304 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年08月18日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年07月29日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした無効審決に対して、i)手続き違背、ii)新規事項ではない、iii)実施可能要件違反なし等を理由として審決が取り消されました。
  「審判手続等の経緯のアないしウによれば,請求項2に係る特許発明について,請求人(被告)から,甲1を引用例とした進歩性欠如を理由による無効審判が請求され,その後,請求人(被告)により,口頭審理手続において甲6を主引用例とした無効理由が主張された。これに対して,審決は,甲1及び甲6に基づいて進歩性を欠くとの理由により無効とすべきであると判断した。そうすると,審決の判断の基礎となった無効理由について,被請求人である原告には,意見を申し述べる機会(特許法134条2項,153条2項)及び訂正請求をする機会(同法134条の2第1項)が付与されていなかったものというべきである。」
「上記によれば,メインCPU31が実行した内部抽選処理の結果に基づいて内部抽選データISDの当選フラグがセットされ,また,サブCPU55に開始情報Aが入力されてから停止操作情報Bが入力されるまでの期間T1(すなわち,メインリールの回転中の期間)において,第1処理を選択するか第2処理を選択するかを,サブCPU55が制御プログラムに従って決定することが記載されているということができる。また,このサブCPU55が第1処理を選択するか第2処理を選択するかを決定する処理の例示として,メインCPU31から送信される内部抽選データISDに含まれる所定の当選フラグがセットされている場合に第2処理を選択して実行してもよいことが記載されているということができる。イそして,「メインCPU31が実行した内部抽選処理の結果に基づいて当選フラグがセットされた内部抽選データISD」が「抽選手段の抽選結果」に相当するといえることに照らせば,本件特許明細書(甲18,段落【0216】)の「内部抽選データISDに含まれる所定の当選フラグがセットされている場合に第2処理を選択して実行してもよい」との記載部分に,「抽選手段の抽選結果に基づいて第2処理を選択的に実行する」との事項が明確に示されていると解される。そして,本件特許明細書(甲18)には,第1処理を選択して実行することを妨げる記載はないのであるから,「第2処理を選択して実行してもよい」との記載部分を見た当業者は,第1処理の選択と第2処理の選択を決定する処理に関して,「第1処理を選択して実行してもよい」と理解するのが自然である。そうすると,「抽選手段の抽選結果基づいて第1処理を選択的に実行する」ことが,本件特許明細書(甲18)に,実質的に記載されているということができる。」
「特許法36条4項は,「発明の詳細な説明の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と定め,同条同項1号において,「一経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。そして,上記の「経済産業省令」に当たる特許法施行規則24条の2は,「特許法第三十\六条第四項第一号の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と定めている。特許法36条4項1号において,「通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる「実施可能\要件」)を規定した趣旨は,通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したといえない発明に対して,独占権を付与することになるならば,発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるからである。ところで,そのような,いわゆる実施可能\要件を定めた特許法36条4項1号の下において,特許法施行規則24条の2が,(明細書には)「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきとしたのは,特許法が,いわゆる実施可能要件を設けた前記の趣旨の実効性を,実質的に確保するためであるということができる。そのような趣旨に照らすならば,特許法施行規則24条の2の規定した「技術上の意義を理解するために必要な事項」は,実施可能\要件の有無を判断するに当たっての間接的な判断要素として活用されるよう解釈適用されるべきであって,実施可能要件と別個の独立した要件として,形式的に解釈適用されるべきではない。」

◆平成20(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年07月29日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10489 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年04月23日 知的財産高等裁判所

 実施可能性要件を満たしているとした審決が取り消されました。
    「旧特許法36条4項は,「・・・発明の詳細な説明は,経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」と定めるところ,この規定にいう「実施」とは,物(麻酔薬組成物)の発明である本件発明1にあっては当該物の生産,使用等を,物を生産する方法(麻酔薬組成物の調製法)の発明である本件発明2及び3にあっては当該方法の使用,当該方法により生産した物の使用等を,方法(一定量のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法)の発明である本件発明4にあっては当該方法の使用をそれぞれいうものであるから,本件各発明について実施可能\要件を満たすというためには,発明の詳細な説明の記載が,本件発明1については当業者が同発明に係る麻酔薬組成物を,本件発明2及び3については当業者が同各発明に係る麻酔薬組成物の調製法を,本件発明4については当業者が同発明に係る一定量のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法をそれぞれ使用することができる程度のものでなければならない。そして,本件発明1のような組成物の発明においては,当業者にとって,当該組成物を構成する各物質名及びその組成割合が示されたとしても,それのみによっては,当該組成物がその所期する作用効果を奏するか否かを予\測することが困難であるため,当該組成物を容易に使用することができないから,そのような発明において実施可能要件を満たすためには,発明の詳細な説明に,当該組成物がその所期する作用効果を奏することを裏付ける記載を要するものと解するのが相当である。また,上述したところは,本件発明2及び3のような組成物の調製法の発明並びに本件発明4のような物質間の化学反応を防止する方法の発明においても,同様に妥当するものというべきである。・・・以上によれば,発明の詳細な説明には,本件各発明について,本件数値の水を含有させることにより所期の作用効果を奏することを裏付ける記載があるものと認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はないから,発明の詳細な説明には,本件各発明の少なくとも各一部につき,当業者がその実施をすることができる程度の記載があるとはいえないというべきである。」

◆平成18(行ケ)10489 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年04月23日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10171 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年04月07日 知的財産高等裁判所 

  実施可能要件違反(36条4項)として拒絶した審決が維持されました。
  「本願明細書(甲2,5)における開示事項が,本願発明の実施可能要件を満たすといえるためには,上記比Hdd/Hdeが4以上を呈する優れた磁気損失特性を有する複合磁性体を得るための手段としての,各製造方法において扁平状の形状を有する軟磁性体粉末をできる限り同じ方向に並べるようにしてその配向度を改善するために設定する条件等についての技術的事項が,本願明細書(甲2,5)において,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていることを要するというべきである・・・そうすると,本願発明を実施するためには,比Hdd/Hdeが4以上を呈する優れた磁気損失特性を有する複合磁性体を得るため,出発粗原料粉末の平均粒径の特定に加えて,本願発明の効果に密接にかかわる延伸・引裂加工により生じる残留歪みの大きさを考慮し,同加工等により扁平化する際の加工手段及び加工条件の設定が必要であることになるところ,この点については,本願明細書(甲2,5)には,「アトライタ及びピンミルを用い様々な条件下にて粉砕,延伸・引裂加工を行い」との記載(段落【0033】)が存するにすぎず,実施例にも「磁歪の大きさ」の記載が存するにすぎないから,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に上記加工手段及び加工条件が記載されているものとは認められない。」

◆平成19(行ケ)10171 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年04月07日 知的財産高等裁判所 

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◆平成19(行ケ)10181 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月27日 知的財産高等裁判所

  実施可能性要件違反か否かが争われました。裁判所は要件を満たしていないとした審決を取り消しました。
    「被告は,刷紙区分装置8,刷紙区分部材9,支持要素10は動作のための具体的な装置が図示されておらず,その記載もないため,当業者が本願発明を容易に実施することができる程度に記載されているものであるとはいえないと主張する。しかし,前記(3)ウのとおり,本願発明における刷紙区分部材9,支持要素10の動作は,堆積体の形成速度に従い堆積体に沿って前後に移動することと,堆積体を分離・支持するために上昇し,又は終端板と入れ替わるために降下するという上下動に尽きるのであって,それ自体決して複雑なものとはいい難い。 イ 被告は,マガジン13が具体的構造や動作について記載がないため不明である旨,また,その点について本願明細書の図1と他の図面(【図2】〜【図6】)との整合性がないなどと主張する。しかし,本願発明において,マガジン13は,その内に堆積体7の端部を形成する終端板5,12が支承されており,担持機構\4,11がその終端板を収容するように形成されているものとして規定されているにすぎず(本願発明10),担持機構4,11がマガジン13の終端板取り出し位置において,マガジン13から終端板を取り出すことが可能\であればその具体的構造を問うものではないし,可動性のものであることさえ必要でないことは容易に理解できる。したがって,当業者が本願発明を実施できないとまでは認めることができない。」

◆平成19(行ケ)10181 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月27日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10511 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年09月27日 知的財産高等裁判所

  CS関連発明について、実施可能要件違反として拒絶された審決が維持されました。
   「しかるところ,1個の発明は,通常,まとまりのある複数の部分に区分することができ,この場合には,区分されたそれぞれのまとまりのある部分を構成する各構\成要件が,それぞれの部分を特定する発明特定事項となるところ,そのようにして特定された各部分は,必ずしも,特許出願人又は特許権者が,当該発明において重要と考える構成要件を含むものとは限らないが,そのような構\成要件を含むと否とに関わらず,一つでも実施可能ではない部分があれば,当該発明は,全体として実施可能\でないことになる。本件についていえば,審決が特定した発明特定事項は,「複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムとを一つの時間帯に一斉に配信すること,制御プログラムの実行環境を形成して実行することにより,複数種類のデジタルコンテンツのいずれかを選択して再生すること」というものであり,これに,原告の挙げる「デジタルコンテンツを,・・・コンテンツ提供者が望む再生内容を表す再生ルールに従って関連付けて編集する」との要件が含まれていないとしても,この発明特定事項によって特定される部分が実施可能\でなければ,本願発明全体が実施可能でないことになることは明らかである。そして,審決は,上記発明特定事項によって特定される部分が実施可能\でないと判断するものであるところ,そうであれば,他の発明特定事項(例えば,原告の挙げる要件を含む発明特定事項)によって特定される部分が実施可能であるか否かは,審決の結論に影響を及ぼすものではないから,当該他の発明特定事項によって特定される部分を摘示し,これについて,実施可能\であるか否かを判断する必要がないことも明白である。」 

◆平成18(行ケ)10511 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年09月27日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10487 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年07月19日 知的財産高等裁判所

 36条4項(実施可能性要件)に違反するとした審決が維持されました。
  「訂正発明1は,上記のとおり,水性接着剤を構成する酢酸ビニル樹脂系エマルジョンとしてはシード重合により得られるものであれば特に制限はないとされているところ,上記ウの請求項3,4の限定的構\成の説明についての記載から明らかなとおり,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを形成する際に用いうるモノマーには多種多様なものがあり,実施例1ないし3で用いられているn−ブチルアクリレートはその1つにすぎない(下線部参照。)。しかし,訂正明細書には,訂正発明1の接着剤を製造する方法につき,実施例1ないし3の製造方法以外に,貯蔵弾性率G′とずり応力τを所定の値に調整した酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを製造する具体的な方法の記載は全くない。そうすると,シード重合により得られるものであれば特に制限はないとされる訂正発明1の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンについて,酢酸ビニルのみを用いて製造されるエマルジョンの場合及びn−ブチルアクリレート以外のモノマーを酢酸ビニルに併用する場合に,貯蔵弾性率G′及びずり応力τについて所定の値を満たす水性接着剤を製造する方法についての記載はないということになる。」

◆平成18(行ケ)10487 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年07月19日 知的財産高等裁判所

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◆平成17(行ケ)10661 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成19年02月21日 知的財産高等裁判所

  測定方法が開示されていないとして記載不備とした審決が取り消されました。
   決定は,「本件発明1〜4の特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項として,触媒担体及びグラニュラー状物の平均粒径を特定の範囲に限定している。しかしながら,特許明細書において,この平均粒径については,数値は記載されてはいるものの,その測定法についてはなんらの記載もない。」(決定謄本3頁第1ないし第2段落)とするが,本件明細書において,この平均粒径の測定法についての記載があるか否かのみを問題にしており,平均粒径の測定の前提となる原理,試料の性質,測定の目的,必要な測定精度等の検討は,全くしておらず,それにもかかわらず,短絡的に,「平均粒径には・・・長さ平均径,面積長さ平均径,体面積平均径,重量平均径,面積平均径,体積平均径と様々な種類があり,同一の分布の粉体の系でもその数値は異なるものとなる。さらに,その平均粒径の計算の基礎となる,粒度の測定法にも・・・顕微鏡法,コールカウンター,ふるい分け法,沈降法,沈降分級法,遠心沈降法,慣性力法,電磁波散乱法,その他,多数のものが知られている。・・・単に平均粒径と記載しただけでは,いずれの粒度の測定法によるもので,いずれの意味の平均粒径かは不明であり一義的に決まるものではない。」(同頁第3ないし第5段落)と結論付けているのみであるから,判断手法において,そもそも失当であるというほかない。

◆平成17(行ケ)10661 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成19年02月21日 知的財産高等裁判所

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◆平成17(ワ)2649 特許権侵害差止等請求事件 平成18年07月20日 大阪地方裁判所

  改正前特許法36条4項に規定する実施可能要件を満たしていないとして、権利行使不可と判断されました。
「本件明細書は,重合の初期に重合開始剤(過酸化水素水)を多量に添加する場合はともかく,それ以外の方法によって製造された水性接着剤も本件発明に包含される以上,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。したがって,本件特許は,改正前特許法36条4項に規定する実施可能\要件を満たしていないから,同法123条1項4号に該当し,特許無効審判により無効とすべきものと認められるから,特許法104条の3第1項により,原告は,被告に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることはできないというべきである。」

◆平成17(ワ)2649 特許権侵害差止等請求事件 平成18年07月20日 大阪地方裁判所

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◆平成18(行ケ)10035 審決取消請求事件 平成18年07月19日 知的財産高等裁判所

  「明細書全体の記載をみても,訂正後の発明である「織物上の油剤量を織物重量に対し0.06重量%以上5重量%以下」の範囲が結局は不明であり,特許法36条5項及び6項に規定する要件を満たしていないから,独立特許要件を欠くとして、訂正は認められない」とした審決が維持されました。
  36条違反で訂正が認められないとの判断は珍しいと思います。

◆平成18(行ケ)10035 審決取消請求事件 平成18年07月19日 知的財産高等裁判所

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◆H18. 2.27 知財高裁 平成17(行ケ)10067 特許権 行政訴訟事件

  36条4項、6項違反に関して無効であるとした審決が取り消されました。
  「出願が平成12年6月5日である本件特許に適用される平成11年法律第160号による改正前の特許法36条4項は,「前項第3号の発明の詳細な説明は,通商産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」と規定し,同法36条6項は,「第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」とし,1号は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」,2号は「特許を受けようとする発明が明確であること。」,3号は「請求項ごとの記載が簡潔であること。」,4号は「その他通商産業省令で定めるところにより記載されていること。」と規定している。そして,特許法36条4項の趣旨は,発明の詳細な説明が発明を公開する機能\を有することから,発明の詳細な説明の記載は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分なものでなければならないとしたことにあり,また,同法36条6項の趣旨は,特許請求の範囲は対世的な絶対権たる特許請求の効力範囲を明確にするためのもので,その記載は正確なものでなければならないことから,特許請求の範囲は,発明の詳細な説明に記載して公開した発明の範囲を超えた部分について記載したものであってはならず(1号),特許を受けようとする発明が明確でなければならない(2号)としたことにあるものと解される。そうすると,明細書の発明の詳細な説明に,当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十\分に記載されているのであれば,特許法36条4項所定の発明の詳細な説明の記載要件を充足するものであり,明細書に「発明における課題を解決すべき手段をその作用効果が関連づけて記載されてい」ないからといって直ちに発明の詳細な説明の記載要件に適合しないものとなるものではなく,これによって特許を受けようとする発明が不明確となり特許請求の範囲の記載要件(特許法36条6項2号)に適合しないことになるものということもできないから,本件審決の前記判断は,この点において是認することができない。」

◆H18. 2.27 知財高裁 平成17(行ケ)10067 特許権 行政訴訟事件

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◆H17.10.19 知財高裁 平成17(行ケ)10013 特許権 行政訴訟事件

 DNA関連発明について記載不備が争われました。
 裁判所は、「本件明細書の発明の詳細な説明には,特許請求の範囲記載の構成を満たす,すべての「核酸分子」について,その有用性,すなわち,プローブやプライマーとして利用して本件OB遺伝子を特異的に検出,増幅することができることが明らかであるように記載されていなければならないところ,上記(2)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明において,上記50余りの実施例の結果から,当業者にその有用性,すなわち,明白な識別性が認識できる程度のものとなっているものと認めるに足りず,また,上記(3)のとおり,一部の核酸分子について,本件OB遺伝子との特異的なハイブリダイズを期待することができない,すなわち,有用性を有しないという客観的な事情が存在するのであるから,本件明細書の発明の詳細な説明が,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえないことは明らかであって,特許法旧36条4項の記載要件を満たしていない。」として、36条違反とした審決を維持しました。

◆H17.10.19 知財高裁 平成17(行ケ)10013 特許権 行政訴訟事件

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◆H17. 3.30 東京高裁 平成15(行ケ)272 特許権 行政訴訟事件

 化関係の発明について、記載不備を理由に取消決定された特許につき、裁判所は審決を維持しました。
 「1で述べたとおり,本件明細書には,平均粒径の意義,測定方法の特定がなく,また,メーカー名・商品名を明示することにより用いる不活性微粒子を特定してもいない。そうすると,当業者は,どのような不活性微粒子を用いればよいか分からないのであるから,本件明細書は,当業者が発明を実施できるように明確に記載されていないことになる。原告は,市販品を入手して追試ができると主張する。しかし,この追試をするためには,当業者は,すべての平均粒径の意義・測定方法について,これらを網羅して,平均粒径を測定して本件発明の数値範囲に当てはまるものを用い,本件発明の効果を奏するものかを検証する必要がある。特許は,産業上意義ある技術の開示に対して与えられるものであるから,当業者にそのような過度の追試を強いる本件明細書の開示をもって,特許に値するものということはできない」

◆H17. 3.30 東京高裁 平成15(行ケ)272 特許権 行政訴訟事件

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◆H17. 1.18 東京高裁 平成15(行ケ)166 特許権 行政訴訟事件

 薬品に関する発明について、特許庁では無効理由無しと判断されましたが、裁判所はこれを取り消しました。
  「本件発明の技術内容(技術手段)によってその目的とする技術効果を挙げることができるものであることを推認することはできないのであるから,本件発明とされるものは,発明として未完成であり,特許法29条1項柱書きにいう「発明」に当たらず,特許を受けることができないものというべきである。」と判断しました。

◆H17. 1.18 東京高裁 平成15(行ケ)166 特許権 行政訴訟事件

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◆H16.12.27 東京高裁 平成16(行ケ)209 特許権 行政訴訟事件

  CS関連発明についての記載不備が争われました。争点は、「一括変換して再登録する再登録手段」について技術的な矛盾があるかでした。裁判所は、36条4項及び6項違反とした審決を取り消しました。
 

◆H16.12.27 東京高裁 平成16(行ケ)209 特許権 行政訴訟事件

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◆H16. 9.30 東京高裁 平成16(行ケ)37 特許権 行政訴訟事件

 「暗号モード」という文言が不明瞭として36条4項、6項違反として拒絶した審決が維持されました。その他、新規事項に該当するかも争点となっていましたが、こちらについては判断することなく、請求が棄却されました。
  裁判所は「本願明細書の特許請求の範囲に記載される「暗号モード」は、その意味・内容をそれ独自で規定することができないばかりでなく、「暗号」や「暗号等」を手がかりとしても規定することができないことから、不明瞭な記載であると解さざるを得ないところ、本願発明は、この「暗号モード」が適正と判断されると、「監視手段で捕捉したデータを中継側である前記管理コンピュータへセンシング情報として送信するステップ」へと進むものであるから、この「暗号モード」が不明瞭なままでは、該ステップも不明確であって、結局、本願発明の要旨を特定することはできないというべきである」と述べました。

◆H16. 9.30 東京高裁 平成16(行ケ)37 特許権 行政訴訟事件

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◆H15.12.22 東京高裁 平成13(行ケ)99 特許権 行政訴訟事件

 改正前の特許法36条3項違反として拒絶した審決に対する審決取消訴訟です。特許庁は、「本件明細書に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,本願発明の目的,構成及び効果が記載されているとはいえない」として、拒絶審決をしました。裁判所は、記載不備との審決を維持しました。訴訟では、専門家による鑑定書が複数提出されましたが、本件出願前に容易に実施できるとはいえないとされました。 

     

◆H15.12.22 東京高裁 平成13(行ケ)99 特許権 行政訴訟事件

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◆H15.11. 5 東京高裁 平成14(行ケ)513 特許権 行政訴訟事件

 特許庁、裁判所とも、実施可能要件を満たしていないと認定しました。
「審決は,「消費資源要素と生産資源要素との間の製造関係を示すデジタル信号」についての本件明細書の記載を摘記(審決謄本3頁4行目〜30行目)した上,「これらの記載からは,具体的に,消費資源と生産資源との間の製造関係を示すデジタル信号が,どのような構成の信号として入力され,その結果,どのようにして,消費資源及び生産資源を表\すデジタル信号とそれらの製造関係を表すデジタル信号とが処理されて,生産モデルが作成されるのか,理解できない」(同頁30行目〜34行目)と判断したものであり,本件明細書には,審決が指摘するとおり,製造関係を示すデジタル信号がどのような構\成の信号として入力されるのか,また,どのようにして生産モデルが作成されるのか,その記載のみにより当業者が理解可能な程度に明りょうに記載されていない。そうであれば,特許出願人である原告としては,本件特許出願当時の技術水準を示すなどして本件明細書の記載から当業者が理解可能\であることを証明すべき必要があるところ,本件説明書は上記技術水準を示すものではなく,また,その記載から審決が不明であるとした点を明らかにするものでもないし,他に,上記技術水準を示すこともなく,審決が摘記した記載と同一の記載を引用して単に当業者が理解し得ると主張するにとどまるのであるから,その主張は理由がないものといわざるを得ない。なお,原告は,審決の判断脱漏の違法も主張するが,その理由のないことは,以上の説示に照らして明らかである。(6) したがって,本願発明に係る本件明細書の詳細な説明には,「消費資源要素と生産資源要素との間の製造関係を表すデジタル信号を入力すること」に関して,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その構\成が記載されているということはできないから,旧法36条3項に規定する要件を満たしていないとした審決の判断に誤りはないというべきである。」 

◆H15.11. 5 東京高裁 平成14(行ケ)513 特許権 行政訴訟事件

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◆H15. 4. 8 東京高裁 平成13(行ケ)332 実用新案権 行政訴訟事件

 明細書における実施可能要件が争われました。
無効審判では実施可能要件を満たしていると判断されましたが、裁判所は、”ドアの端面に露出する側板からボルトを出し入れしてドアロックを開閉するアクチュエータ”との構\成について,当業者がこれを容易に実施することができる程度に,その構成についての記載がないと判断しました。 当業者が実施できる程度について、裁判所は「本件考案は,上記のようなものである以上,単に,乙1文献及び乙2文献等から,ドア用電気錠において,ドアの内部に収容することができる往復の駆動力を発生するソ\レノイド,及び,ソレノイドの駆動力をボルトに伝達してボルトを出し入れする伝達機構\が周知であることを示すだけでは足りないのであり,これらのソレノイド及びソ\レノイドの駆動力をボルトに伝達してボルトを出し入れする伝達機構が,ドアの内部に収納することができる程度の数量の電池による小さな電力によって,ドア用電気錠のボルトの出し入れに必要な力を発揮することができるものである必要があり,かつ,このような小電力用のソ\レノイド及び伝達機構が,本件出願時において,当業者にとって,本件明細書の考案の詳細な説明に記載するまでもなく明らかな技術常識となっている事項であることが少なくとも必要なのである(このような場合でも,考案の詳細な説明に十\分な記載がなければ旧実用新案法5条4項に反するとの考え方もあり得る。この考え方は採用しないとしても,少なくとも,上記のような小電力用のソレノイドとその伝達機構\が本件出願時において当業者にとって技術常識となっているといえるものでなければ,本件明細書の考案の詳細な説明の記載は,同条項に反することが明らかである。)。」

◆H15. 4. 8 東京高裁 平成13(行ケ)332 実用新案権 行政訴訟事件

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◆H15. 3.13 東京高裁 平成13(行ケ)346 特許権 行政訴訟事件

  請求項1で用いた文言「所定の筬打ち角」および「筬打ち角」が、発明の詳細な説明で定義されているにもかかわらず、不明瞭とした審決が維持されました。
 裁判所は、「特許発明の構成に欠くことができない事項を明確に記載することが容易にできるにもかかわらず,殊更に不明確あるいは不明りょうな用語を使用して特許請求の範囲を記載し,特許発明に欠くことができない構\成を不明確なものとするようなことが許されないのは,当然のことというべきである。」と判断しました。
 問題となった請求項
「織機停止信号により,緯入れを阻止しながら制動停止した織機を再起動するに際し,筬が所定の筬打ち角以上となるようなクランク角に織機を停止し,開口装置を主軸から切り離し,主軸の1回転相当だけ開口装置を逆転し,開口装置を主軸に連結することを特徴とする織機の再起動準備方法」というものです。
 審決では以下のように表示するべきであったと述べ、裁判所の上記理由からすると、これを維持したこととなります。
「織機停止信号により,緯入れを阻止しながら制動停止した織機を再起動するに際し,筬が,スレイ上に搭載するサブノズルまたはエアガイドが経糸開口から抜け出るときの筬打ち角以上となるようなクランク角に織機を停止し,開口装置を主軸から切り離し,主軸の1回転相当だけ開口装置を逆転し,開口装置を主軸に連結することを特徴とする織機の再起動準備方法。」

 

◆H15. 3.13 東京高裁 平成13(行ケ)346 特許権 行政訴訟事件

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◆H15. 3.10 東京高裁 平成13(行ケ)140 特許権 行政訴訟事件

  実施可能要件を満たしているか否かが争われました。無効審判では審判請求理由無しと判断されましたが、裁判所は「請求項1発明が特許されたのは,構\成要件Aが,従来の畳縫着機にない新規な構成であり,かつ,当業者が容易に想到することができないことによると解される。このように,構\成要件Aが請求項1発明の進歩性を基礎付ける本質的な構成である以上,本件明細書の発明の詳細な説明において,その実施を可能\とすべき記載がない限り,当業者が容易にこれを実施することは不可能なはずであり,逆に,このような記載がないにもかかわらず,当業者の技術常識を参酌することのみにより構\成要件Aの容易な実施が可能となるならば,請求項1発明の進歩性は否定されざるを得ないこととなる。」と、審決を取消しました。

 

◆H15. 3.10 東京高裁 平成13(行ケ)140 特許権 行政訴訟事件

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