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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

特段の効果

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和4(行ケ)10084  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月21日  知的財産高等裁判所

治療薬に関する発明について、進歩性無しとした審決が維持されました

(4) 相違点に係る容易想到性について
ア 相違点1について
(ア) 「心不全の患者」及び「心不全の治療薬」について
前記2(1)、(2)、(5)及び(6)のとおり、本件優先日当時、利尿薬は、心不全の症 状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬として、急性心不全(慢 性心不全の急性増悪期を含む。)と慢性心不全とを問わず、また心不全の重症度を問 わず、広く用いられていた薬剤である。また、代表的な利尿薬として用いられるフ ロセミド等のループ利尿薬は、利尿作用が強い反面、塩化ナトリウムの再吸収を抑 制するために低ナトリウム血症等の電解質異常をきたし得るとの副作用がある上、 利尿薬抵抗性の問題も認識されており、加えて、特に重症心不全患者においては、 体液貯留の管理が重要とされていた。 そして、前記(2)ア(ア)のとおり、甲2には、体液貯留のある心不全患者(NYH AクラスI)〜III))に対し、フロセミドに上乗せして、異なる部位に作用し、また、 ナトリウムを排泄せずに水のみを排泄する選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬と してのトルバプタンを投与したところ、良好な忍容性とともに、血清電解質の有害 な変化なく、体重減少、尿量増加及び浮腫改善等の効果が得られた旨が記載されて いる。 そうすると、本件優先日当時、甲2発明及び甲2の記載に接した当業者において、 前記2に認定した技術常識も考慮して、甲2発明のトルバプタンを、「急性心不全ま たは慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IV)の患者」 における体液貯留等を改善するための治療薬とすることには、十分な動機付けがあ り、容易に想到し得たということができる。
(イ) 「活性成分の投与」について
甲2発明における「安定したフロセミド用量(20〜240mg/日)」が、フロ セミドを必要に応じて投与することを制限する趣旨と読み取れないことは、前記 (2)ウ(イ)bのとおりであるから、この点は実質的な相違点とはいい難い。また、前 記(2)ウ(ウ)のとおり、対象患者の症状や投与方法等を捨象した、単に治療薬を投与 する際に患者が入院下であるか否かという点も、実質的な相違点とはいい難い。 次に、前記2(1)ウのとおり、本件優先日当時、トルバプタンは、経口投与で強力 な水利尿薬として作用する薬物として知られていたのであるから、甲2発明では経 口投与されたか不明であるトルバプタンを本件発明1の対象患者に投与するに当た り、これを経口投与とすることは、当業者が適宜なし得た事項というべきである。
(ウ) 原告の主張について
原告は、1)医薬分野における容易想到性は、「当該発明の治療及び治療効果につい て、優先日当時における科学的根拠をもって当業者がこれを容易に評価・確認でき るか」という観点から判断されるべきであるとした上で、本件優先日当時の技術常 識として、2)ADHFの重症患者と慢性心不全の慢性期の軽症〜中等症患者とは、 その症状、治療内容・態様、治療薬の適応・治療効果が大きく異なっていた、3)同 じ心不全治療薬であっても、NYHAクラスI)〜III)の患者には有効だがクラスIV)の 患者には効果がない又は悪化させる例があった上、NYHAクラスIV)の患者は利尿 薬抵抗性の問題がより深刻であって治療に限界が生じており、トルバプタンにも利 尿薬抵抗性の問題が認識されていた、4)既存の利尿薬の作用機序・薬理作用と、ト ルバプタンの作用機序・薬理作用は異なるものである、5)ADHFの重症患者に対 して、トルバプタンを含む選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬の投与実績は存在 していなかったところ、選択的バソプレシンV2受容体拮抗作用は、内因性バソプ レシンレベルの上昇を誘引し、それがバソプレシンV1a受容体を刺激することに より、心血管系や腎臓に悪影響を及ぼすことが理解されていたから、選択的バソプ レシンV2受容体拮抗作用を有するトルバプタンを、NYHAクラスIV)のような重 症患者に投与すれば、心不全の症状をさらに悪化させ、最悪の結果にもつながりか ねないと認識されていた、6)本件試験のような「最適の治療」(併用薬の用量増加、 投与経路変更を含む。)に対する上乗せ試験では、甲2試験のような併用薬の用量固 定・経口投与のみ等の制約されたデザインの試験と比して、上乗せ治療薬の治療効 果が得られにくいと理解されていたなどと主張し、これらの技術常識によると、甲 2発明から相違点1に係る本件発明1の構成に想到する動機付けはなく、又は阻害 要因があると主張する。
しかし、1)について、進歩性についての判断基準として独自の見解というほかな く、採用の限りではない。2)について、急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含 む。以下この項において同じ。)と慢性心不全とで、また重症患者と軽症〜中等症患 者とで、治療の内容が異なる点は指摘のとおりであるが、前記2のとおり、利尿薬 に関していえば、急性心不全と慢性心不全とを問わず、また重症と軽症〜中等症と を問わず、心不全の症状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬 として広く用いられていたのであるから、甲2に記載されたトルバプタンの水利尿 効果が、体液貯留等の症状を呈する急性心不全の患者や重症患者にも得られるであ ろうことを、当業者は当然に想起するというべきである。3)について、NYHAク ラスI)〜III)の患者とクラスIV)の患者とで取扱いを異にする例として原告が挙げてい る例(甲38、43、47、70〜77、88)には、利尿薬とは異なる心不全治 療薬が含まれているほか、利尿薬に関するものであっても、NYHAクラスIV)であ ることを理由に利尿薬の取扱いを異にすべき旨が記載されているとは読み取ること はできない。前記2(6)のとおり、重症心不全患者では、特に体液貯留等の管理が重 要とされており、重症度の高さや利尿薬抵抗性の問題から利尿薬が十分に効果を発 揮しない場合があるとしても、また、仮にトルバプタンにも利尿薬抵抗性の問題が あるとしても、当業者は、NYHAクラスによる重症度を問うことなく、体液貯留 等の症状を改善するために利尿薬の使用を試みるというべきである。4)について、 既存の利尿薬とトルバプタンとの作用機序・薬理作用が異なることは、上記(ア)のと おり、むしろ動機付けとなるといえる。5)について、本件優先日前に頒布された刊 行物である甲149(Florence Wongほか「A Vasopression Receptor Antagonist (VPA-985) Improves Serum Sodium Concentration in Patients With Hyponatremia: A Multicenter, Randomized, Placebo-Controlled Trial 」37 Hepatology 182 (2003))には、NYHAクラスIV)のうっ血性心不全患者に対し、ト ルバプタンと同じ選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬である「VPA−985」 を既存の利尿薬と組み合わせて投与したところ、低用量群(25mgを1日2回投 与)では、起立性血圧、血清クレアチニン値及び血清バソプレシン濃度の有意な変 化なしに、プラセボ対照群と比して有意な水利尿反応及び血清ナトリウム値の増加 が得られた旨が記載されている。同記載からすると、原告が主張するように、選択 的バソプレシンV2受容体拮抗薬につき、血中バソプレシン濃度上昇による悪影響 がある可能性を指摘する文献があったことを考慮しても、適切な用量設定等により 安全に効果を得られることが示されていたのであるから、トルバプタンをNYHA クラスIV)の重症患者に、また急性心不全の患者に適用することが禁忌であったとは いえず、阻害要因となるべきものとは認められない。6)については、前記(3)ウ(ウ) のとおり、トルバプタンと組み合わされる本件発明1の「最適の治療」と甲2発明 の「水分制限なしの標準治療」に実質的に異なるところはなく、また、前記(2)ウ(イ) bのとおり、甲2発明における「安定したフロセミド用量(20〜240mg/日)」が、治療の制限を意味するものとは読み取れない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10046  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

除くクレーム「・・全量に対して0〜10体積%であるものを除く。」について、進歩性無しとした審決が維持されました。

以上の甲5の1〜3の記載を総合すれば、角栓除去用クレンジング組成 物において、クレンジング機能(洗浄性)、ウォッシュオフ機能\(水での 洗い流し性)、角栓除去機能、皮膚への負担を考慮して、界面活性剤を1\n0〜20質量%程度、すなわち10体積%を超える量で配合することは、 本件優先日前における当業者の技術常識であったと認められる。 他方、甲5の1には「5〜10質量%」、甲5の2には「10質量%」 の界面活性剤を含むクレンジング剤等が記載されていること自体は、原 告の主張するとおりであるが、本件除く構成における「0〜10体積%\nであるものを除く」との特定は、「0体積%〜100体積%」から「0〜 10体積%であるものを除く」範囲のものであるため、結局、「10体 積%超」の範囲である(「10体積%より多く配合する」)ことを意味す るものにほかならない。そうすると、構成の容易想到性を判断するに当\nたっては、甲1発明において、界面活性剤の配合量を「10体積%超」 とする(「10体積%より多く配合する」)ことを、当業者が容易に想到 できたことの論理付けができるかを検討すれば足りる。甲5の1〜3が 「0〜10体積%」の界面活性剤を配合したものを含むとしても、その ことが本件発明と甲1発明との相違点に係る容易想到性を判断する上で、 どのような意味を有するのか、原告の主張によっても明らかでない。
ウ また、本件除く構成の数値限定が顕著な効果を有するものであれば格別、\n本件発明はそのようなものとも認められない。 すなわち、本件明細書によれば、本件発明の効果は、「タンパク質を簡 便に抽出できるため、皮膚に付着したタンパク質を抽出洗浄することが 可能な液状化粧品(「タンパク質洗浄用の液状化粧品」)として好適に使\n用できる」というものであり(【0064】)、「また、本発明のタンパク 質抽出剤は、界面活性剤等を含まなくとも、優れたタンパク質抽出効果 を奏する」ことから、「本発明のタンパク質抽出剤によれば、皮膚への負 担を低減しつつ、所望の洗浄効果が得られる」というものである(【00 65】)。
しかしながら、界面活性剤配合量に関しては、本件明細書の実施例1 6、18及び20が界面活性剤(Tween 80、Span 80)を含む組成の溶液 であるが、「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」量で配合し たものが存在しないことは前記のとおりである上、試験管内でタンパク 質抽出作用を確認しただけで、皮膚に対する洗浄効果は確認されていな い。角栓の除去については、実施例13において角栓のある皮膚に対す る洗浄効果を確認する唯一の実施例が記載されているものの、第2のタ ンパク質抽出剤Aを含むタンパク質抽出剤を使用した結果、石けんと比 較して「高い洗浄効果を示した」こと、「本発明のタンパク質抽出剤は、 クレンジング剤として好ましく使用できる」ことが示されているのみで (【0149】)、その組成は界面活性剤を含まないものである(【007 3】、【0138】〜【0141】、【0149】)。そうすると、本件発明 において界面活性剤を「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」 量で配合することにより、「角栓除去用液状クレンジング剤」が具体的に どのような顕著な効果を奏するのかは不明であるといわざるを得ない。 以上に加え、甲1には「角栓やメラニンを含む古い角質や酸化した汚 れもすっきり。」との角栓の除去機能についての記載があることからする\nと、本件発明による上記程度の効果は、当業者が予測し得たものにすぎ\nない。

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令和4(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反・サポート違反として無効審判を請求しました。審決は無効理由無し、裁判所も同様です。進歩性については、「非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを考慮すると、・・・結晶の平均粒径を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであったと認めることはできない」と判断しました。

(イ) また、甲7、9、52、61、63、71及び73並びに乙7によると、 薬物の安定性を高める方法として、結晶の結晶化度を高めること、遮光、湿気の遮 断等を目的として薬剤に保護コーティングを形成すること、遮光を目的として遮光 剤(酸化チタン)を含むコート液をコーティングすることなどは、本件優先日当時 の周知技術であったと認められる。
(ウ) しかしながら、甲5、7、52、54及び61によると、本件優先日当時、 非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在し、そのため、水難溶 性の薬物の溶解性を改善するとの目的で、かえって結晶化度を低くすることが一般 に行われていたものと認められるところ、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件優先日当 時、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術として、結晶 の粒子径を小さくすること以外の方法も存在し、また、薬物の安定性を高めるため の周知技術として、結晶の結晶化度を高めること以外の方法も存在していたのであ るから、化合物1の溶解性及び安定性を高めるとの課題を認識していた本件優先日 当時の当業者において、化合物1の溶解性を追求するとの観点から、経口投与され る水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術(結晶の粒子径を小さくすると の周知技術)を採用し、かつ、化合物1の安定性を追求するとの観点から、薬物の 溶解性を低下させる結果となり得る周知技術(結晶の結晶化度を大きくするとの周 知技術)をあえて採用することが容易に想到し得たことであったと認めることはで きない。
(エ) この点に関し、原告らは、結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持するこ とは特段の処理が不要で薬剤をそのまま使用するという最も基本的な態様を含むも のであり、他の手段よりはるかに容易な態様のものであると主張する。しかしなが ら、前記(ア)のとおり、本件優先日当時、結晶の粒子径を小さくするための主たる 手段として、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル等を利用した粉砕が考えら れていたところ、甲52によると、粉砕により結晶の結晶化度が低下し、結晶が非 晶質化することは、よく経験される事象であったものと認められるから、結晶の結 晶化度を一定の数値以上に維持することが特段の処理を要しないものであるという ことはできず、原告らの上記主張は、前提を誤るものというべきである。
また、原告らは、本件優先日の当業者であれば、薬物の安定性を向上させるとの 課題に基づいて結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持することを検討しつつ、粒 子の微細化等の手段により溶解度を向上させるなど、結晶の結晶化度や平均粒径と いったパラメータを適宜調整することを十分に動機付けられると主張するが、上記\nのとおり、非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを 考慮すると、原告らの上記主張によっても、本件優先日当時の当業者において、相 反する効果を生ずる事項同士であると認識されていた、化合物1の結晶の平均粒径 を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであっ たと認めることはできないといわざるを得ない(この点に関し、本件明細書には、 実施例(試験例2、実施例2)として、化合物1の微細結晶Aの結晶化度が84. 6%であり、粒径がD100=8.7μmである場合(後記5(4)ア(ア)のとおり、化 合物1の平均粒径が数μmである場合)においても、結晶が凝集することなく、良 好な溶解性及び分散性を示したとの記載があるが、前記(2)イ(ウ)において認定した 技術常識(非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識)並びに甲6及び 52によって認められる技術常識(特に薬物が疎水性のものである場合には、結晶 の粒子径を小さくすればするほど凝集が起こやすくなり、その有効表面積がかえっ\nて小さくなる結果、溶解性が低下することがあるとの技術常識)に照らすと、上記 実施例が示す効果は、甲1結晶発明及び本件優先日当時の技術常識から予測し得な\nかったものといえる。)。

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令和4(行ケ)10039  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年12月21日  知的財産高等裁判所

CS関連発明について、進歩性無しとした審決が維持されました。出願人はぐるなびです。

ア 前記(1)のとおり、相違点3は、施設端末に予約内容を通知した後、ユーザー\n端末に第2施設の情報を通知する処理を行うことにつき、本願補正発明では、前記 施設端末からの返信を有効に受け付ける期間として予め設定された待機期間内に前\n記施設端末からの返信がない場合であるのに対し、引用発明では、施設端末から受 信する予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合である点で相違する というものである。
イ ところで、施設の予約は、利用日又は利用日時を指定して行うものであり、\n予定される利用日又は利用日時よりも前に予\約を完了するという本来的な要請があ る。そして、引用発明は、ある特定の施設の予約を目的とするものではなく、利用\n者の希望する条件に合致した複数の施設を対象とし、一つの施設の予約ができなか\nった場合に、別の施設の予約をすることが可能\であるような施設予約システムにお\nける予約方法であるところ、前記2(1)イのとおり、引用発明における施設予約シス\nテムは、「施設予約情報サーバ30から、当該予\約情報に基づく、自動的、あるいは 宿泊施設の予約担当者により判断される予\約登録可否(OKかNG)の予約結果情\n報を受信し、」「受信した予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合」 に、次の候補となる施設の検索をしてユーザーに送信して、ユーザーが別の施設の 予約を行うものとされているから、施設端末に当たる「施設予\約情報サーバ」から の予約結果情報の受信は、宿泊施設の予\約担当者による判断の時期によっては、相 当程度に遅くなる場合も想定され、その間に、当初の検索条件に合致する別候補の 施設の予約枠が埋まってしまうこともある。\nそうすると、引用発明には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nないおそれがあるといえる。
ウ 次に、前記2(2)イの引用文献2記載技術をみると、宿泊施設の仮予約におい\nて、「ホテル端末103が宿泊可否の通知を一定時間経過(タイムアウト)しても行 わなかった場合、ホテル端末103に対して、キャンセルの通知を送信し、次のホ テルへ空き問い合わせ情報を送信する」ものであるから、甲2には、施設端末が、 一定時間を経過しても予約可否の回答をしなかった場合には、キャンセルとして扱\nい(以下「タイムアウト処理」という。)、次の施設に問い合わせるという技術が開 示されているといえる。そして、予定される利用日又は利用時間よりも前に、タイ\nムアウト処理をして、次の施設に問合せをすることで、最初に問合せをした施設か らの回答を待っていたために、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nなくなるという事態を回避するのに、一定の効果があると認められる。
エ ところで、引用発明と引用文献2記載技術とは、複数の施設を対象とした施 設予約システムにおける施設予\約方法という共通の技術分野に属するものであって、 第1施設に対して予約可否の問合せを行い、第1施設から予\約不可の返信を受けた 場合には第1施設に類似する他の施設を抽出するという手法も共通するところ、前 記イのとおり、引用発明において、第1施設から予約可否の返信が長時間送信され\nない場合には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件\nに合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあ\nるところ、上記本来的な要請を満たすために、第1施設からの予約可否の返信を長\n時間待ち続けるという事態を回避しようとすることは、当業者であれば当然に着想 するものと認められるから、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を 適用する動機付けがあるといえる。 そして、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を適用すると、引用 発明は、施設端末からの返信を有効に受け付ける期間としてあらかじめ設定された 待機期間内に前記施設端末からの返信がない場合には、予約結果情報の予\約登録可 否の結果がNGであった場合と同様に、予約内容に基づいて第1施設を除く一又は\n複数の第2施設を抽出し、前記抽出された一又は複数の前記第2施設の情報を前記 ユーザー端末に通知する処理を行うことになる。 そうすると、相違点3に係る構成は、引用発明に引用文献2記載技術を適用する\nことより、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。

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令和3(行ケ)10089  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月14日  知的財産高等裁判所

 経緯が複雑です。2つの無効審判が請求され、いったん併合すると通知されましたが、結局、分離されました。1つ目の無効審判では、訂正を認めたうえ、無効理由なしと判断されました。その後、2つ目の無効審判が開始され、特許権者は2回目の訂正をしましたが、審決は訂正を認めず、無効と判断しました。知財高裁はこの審決を維持しました。 無効理由は特段の効果なしです。

c 訂正明細書の【0075】には、基剤として使用可能な多糖類が、少\n量の水に溶解されると糊状になる「曳糸性を有する物質」であるとの記 載はあるが、その技術的意義の記載はない。また、訂正明細書の【00 93】では、引離法による経皮吸収製剤製造の初期段階で、フッ素樹脂 等からなる平板92の上に、目的物質を含有する基剤91を載せたと き、基剤として、水に溶解させると曳糸性を示す物質からなるものを用 い、糊状とすることが好ましいとの記載があるが、これは、目的物質を 含有する基剤を針状又は糸状に成形するという引離法における製造上 の便宜を示したものと解される。さらに、鋳型法による場合について は、訂正明細書の【0095】に、目的物質を含有する基剤が糊状であ れば孔から取り出した後に乾燥又は硬化させることができることが記 載されているところ、これも、粘度が低い場合には鋳型内で乾燥又は硬 化した後に取り出すことを要することと対照した製造上の利便性の記 載であると解される。
したがって、訂正明細書には、経皮吸収剤が「基剤、目的物質及び水 を含む曳糸性を示す糊状物が乾燥した物」であることと、経皮吸収剤そ れ自体の構造や特性との技術的関係についての記載は一切存在しない。\nd 甲2−1文献には、「液体溶液の粘度ならびに他の物理的および化 学的特性に依存して、さらなる力(例えば、遠心分離力または圧縮力) が、鋳型を満たすために必要とされ得る」(【0025】)と記載され、 さらに、粉末形態のマトリクス材料についての記載ではあるが、「粉末 形態がマトリクス材料のために使用される場合、この粉末は、有利に は、鋳型にわたって分離され得る。粉末の化学的および物理的特性に依 存して、次いで、粉末の適切な加熱が適用されて、鋳型内に粘稠性の材 料を融解または挿入し得る。」(【0026】)との記載もある。この ような記載に接した当業者であれば、鋳型で液体溶液を乾燥させる場 合、粘度が1つの重要な要素となり、粘度に応じた製法の調整をして対 応するほか、粘度自体も調整の対象となり得ること、粘稠性の材料であ っても鋳型に充填し得ることを理解するものといえる。
鋳型で乾燥させる液体溶液の粘度の調整については、当業者であれ ば、乾燥するという目的や、鋳型に充填する際の作業効率といった観点 から行うものであり、ヒアルロン酸水溶液が糊状であるか否かは、ヒア ルロン酸水溶液の粘度によって決定され、粘度がある程度以上高けれ ば、糊状になるといえることは前記bのとおりであるところ、上記のよ うに、甲2−1文献の記載から、粘稠性であっても鋳型に充填し得るこ とを理解することができるのであるから、乾燥するという目的も勘案 して、液体溶液の粘度を高いものとすることは容易に想到し得ること である。 そして、そのような液体溶液は粘度によって糊状にも粘稠な液体に もなり得るのであって、その差は相対的であり、いずれの状態になるよ うに調整するにしても、それは、当業者が適宜設定し得た事項にすぎな い。
ヒアルロン酸は曳糸性を有することは前記aのとおり技術常識であ る以上、当業者においてこのように適宜調整された液体溶液は、曳糸性 を示すものになるといえる。なお、甲57実験成績証明書及び乙19実 験報告書からみれば、希薄なヒアルロン酸水溶液は曳糸性を示さない が、鋳型で乾燥させてマイクロニードルを作るに当たって、乾燥させる という目的からみて、そのような希薄な溶液を使用することは想定さ れない。 以上によれば、引用発明2において、甲1−1文献に記載のヒアルロ ン酸を採用する際に、ヒアルロン酸と薬剤を含む液体溶液を、「曳糸性を 示す糊状物」とすることは、当業者が容易になし得たことというべきで ある。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10069  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年6月22日  知的財産高等裁判所

 薬について、無効審判において、訂正請求がなされ無効理由なしと判断されました。知財高裁は、予測できない効果ではないとして、これを取り消しました。\n

 本件明細書を見ると、実施例1において、高リスク患者 では、100単位週1回投与群における新規椎体骨折の発生率は、い ずれも実質的なプラセボである5単位週1回投与群における発生率に 対して有意差が認められるが、低リスク患者では、100単位週1回 投与群における新規椎体骨折の発生率は、いずれも、5単位週1回投 与群における発生率に対して有意差が認められなかったと記載されて いるのにとどまる(【0086】ないし【0096】、【表6】ないし【表\ 11】)ところ、誤記等を修正して再解析したとする数値(前記1(2)オ) に基づいても、低リスク患者の新規椎体骨折についていえば、100 単位週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人について、それ ぞれ、ただ1人の骨折例数があったというものであり、このような少 ない症例数のもとでは、上記プラセボ投与群の骨折発生率と対比した 場合の骨折発生率の低下割合(RRR)は、骨折例数が1件増減した だけでその値が大きく変動することは明らかであるし、そもそも、低 リスク患者を対象とした場合は、5単位週1回投与群であっても骨折 例数が少なく、5単位週1回投与群の骨折発生率に対する、100単 位週1回投与群の骨折発生率の低下割合であるRRRの値が、高リス ク患者に対するそれに対して小さいのは当然のことといえる。
この点、被告は、3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボ に対する関係で有意差があり、非3条件充足患者における骨折抑制効 果がプラセボに対する関係で有意差が無ければ、直ちに、本件発明1 の骨粗鬆症治療剤が3条件充足患者に対して優れた効果を有するとい える旨主張する。しかしながら、有意差が無いということは効果が優れているかどうか不明であるということにすぎず、効果が優れていないということを直ちに意味するものではないし、有意差が無かったことが症例数が不足していることによることも否定できない(甲30、35)から、上記のような結論の導出は適当でない。したがって、実施例1をみても、高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が、低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和3(行ケ)10115

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令和2(行ケ)10038  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年9月28日  知的財産高等裁判所

 薬について、動機付け無しとした審決が取り消されました。顕著な効果も記載が無い、実験成績証明書の参酌をしたとしても、顕著な効果とはいえないと判断されました。

 前示のとおり,本件訂正発明の構成は容易想到であるが,これに対し,\n被告は,前記第3の5(2)イのとおり,本件訂正発明は,本件3条件を全て 満たす患者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本 件条件(4)の服薬歴がある患者に投与すると,本件条件(4)の服薬歴 のない患者に対するよりも骨折抑制効果がより増強される効果(以下「効 果2)」という。)を奏し,これらの効果は,当業者が予測をすることができ\nなかった顕著な効果を奏するものである旨主張する。 以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折 の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり, 骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから, 当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して いることは,当業者において容易に理解できる。
b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ ラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を 指すものであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満 たす患者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本 件3条件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対 する骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折 抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位 週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。 そして,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位週 1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年1月15日 付け被告第1準備書面33頁における再解析の数値による。)について, それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また,椎 体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1人 の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが, 症例数が不足していることによることを否定できない。このように, 低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び 椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生 率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数 を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑 制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して, 前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。 したがって,実施例1をみても,高リスク患者に対するPTHの骨 折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高 いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他 の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低 リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理 解することはできない。 以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい うべきである。
c 被告は,効果1)を明らかにするものとして,別紙4の実験成績証明 書(甲79)を提出する。
しかしながら,本件明細書の記載から,高リスク患者に対するPT Hの骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よ りも高いということを理解することができず,また,これを推認する こともできない以上,効果1)は対外的に開示されていないものである から,上記実験成績証明書を採用して,効果1)を認めることは相当で ない。 仮に,上記実験成績証明書を参酌するにしても,本件3条件の全て を満たす患者(高リスク患者)のグループと,本件3条件の全部又は 一部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部の グループとを比較しているものにすぎないから,本件3条件の効果が 明らかになっているとはいえない。また,上記実験成績証明書には, 本件条件(1)を満たし,本件条件(2)又は本件条件(3)のいず れかを満たさない患者とされる「非3条件充足患者」につき,「非3条 件充足患者においてもPTH投与群ではコントロール群よりも骨折の 発生が抑制されたが,3条件充足患者においては,PTH投与群では コントロール群よりも骨折の発生が『有意に』抑制された。」旨が記載 されているだけである。すなわち,本件3条件を満たさない患者につ いては,PTH投与群においてコントロール群よりも骨折発生が抑制 されたものの有意差がなかったことが理解できるのみであり,それら 有意差がなかったとの結論も症例数が少ないことによるものと推認さ れることからすると,本件3条件の全てを満たす患者の骨折発生の抑 制の程度が本件3条件を満たさない患者に対する骨折発生の抑制の程 度より優れていると結論付けることはできない。そうすると,上記実 験成績証明書をみても,本件3条件を全て満たす患者に対するPTH の骨折抑制効果が,本件3条件を満たさない患者に対するPTHの骨 折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 d 以上によれば,いずれにしても効果1)を認めることはできないから, その他の点について判断するまでもなく,効果1)を予測することので\nきない顕著な効果という余地はない。
(イ) 効果2)について
前記ア(ウ)のとおり,効果2)は本件明細書からうかがうことのできな い効果である。
被告は,骨粗鬆症治療薬の服薬歴が本件3薬剤のいずれか1剤のみの 場合における新規椎体骨折発生数が記載された甲86証明書により本件 訂正発明の顕著な効果が裏付けられると主張する。仮に,上記実験成績 証明書を参酌するにしても,甲86証明書は,本件3薬剤それぞれにつ いて,服薬歴のある患者につき被験薬(PTH)を投与された場合と対 照薬(プラセボ)を投与された場合との骨密度変化率や新規椎体骨折発 生数を対比しているにすぎず,本件3薬剤のいずれかの服薬歴がある患 者と当該薬剤の服薬歴がない患者との間で,被験薬を投与された場合の 骨密度変化率や新規椎体骨折発生数を対比したものではないから,プラ セボ投与との対比による被験薬の骨粗鬆症治療に対する効果しか示され ていない。しかも,各薬剤についての評価例数があまりにも僅少で,そ のようなデータから算出される骨折相対リスク減少率は,骨折例数が1 件増減するだけで大きくその値を変えることは明らかであり,骨折相対 リスク減少率を対比してその効果を論じることも相当ではない。

◆判決本文

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令和2(行ケ)10132  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年8月31日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決について、裁判所は予測できない効果ではないとして、これを取り消しました。\n

 発明の効果が予測できない顕著なものであるかについては,当該発明の\n特許要件判断の基準日当時,当該発明の構成が奏するものとして当業者が\n予測することのできなかったものか否か,当該構\成から当業者が予測する\nことのできた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点か ら検討する必要がある(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年 8月27日第三小法廷判決・集民262号51頁参照)。もっとも,当該発 明の構成のみから予\測できない顕著な効果が認められるか否かを判断す ることは困難であるから,当該発明の構成に近い構\成を有するものとして 選択された引用発明の奏する効果や技術水準において達成されていた同 種の効果を参酌することは許されると解される。 前示のとおり,本件発明の構成は容易想到であるが,これに対し,被告\nは,前記第3の3(2)イのとおり,本件発明は,本件3条件を全て満たす患 者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本件条件(4) を満たす患者に対する副作用発現率と血清カルシウムに関する安全性が 腎機能が正常である患者に対する安全性と同等であるという効果(以下\n「効果2)」という。)及び3)BMD増加率が低くてもより低い骨折相対リス クが得られるとの効果(以下「効果3)」という。)を奏し,これらの効果は, 当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するものである\n旨主張する。 以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折 の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり, 骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから, 当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して いることは,当業者において容易に理解できる。 b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ ラセボの骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を指すも のであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満たす患 者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本件3条 件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対する骨 折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折 抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位 週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。
ここで,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位 週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年2月15 日付け被告第1準備書面32頁における再解析の数値による。)につい て,それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また, 椎体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1 人の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが, 症例数が不足していることによることを否定できない。このように, 低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び 椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生 率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数 を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑 制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して, 前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。 したがって,実施例 1 をみても,高リスク患者に対するPTHの骨 折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高 いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他 の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低 リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理 解することはできず,ましてや,200単位週1回投与群に関し,高 リスク患者における骨折発生抑制が,低リスク患者における骨折発生 抑制よりも優れていると結論付けることはできない。 以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい うべきである。

◆判決本文

当事者が同じ分割出願についての関連事件です。審決取り消しです。

◆令和2(行ケ)10056

こちらは審決維持です。

◆令和2(行ケ)10004

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平成30(行ケ)10165  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月19日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした無効審決が、動機付けあり、特段の効果無しとして取り消されました。

 (ア) 甲3には,引用発明2−2−1’(実施例4記載の用時混合型の医療 溶液)が「血液浄化用薬液」であることを明示した記載はない。 一方で,甲3には,前記(1)イ(イ)認定のとおり,「本発明」の目的の1 つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り良好な安 定性を保証する「医療溶液」(血液透析,血液透析濾過,血液濾過及び腹 膜透析用の透析液,腎疾患集中治療室内での透析用の溶液,通常は緩衝 物質を含む置換液又は輸液,並びに栄養目的のための溶液)を提供する ことにあることの開示がある。この「医療溶液」中の「腎疾患集中治療 室内での透析用の溶液」とは,救急・集中治療領域において,急性腎不 全の患者に対して行う持続的な血液浄化のための透析用の溶液を含むこ とは自明である。
また,甲3には,前記(1)イ(ア)及び(イ)認定のとおり,(1)急性腎不全に 罹患している患者に適応となる治療法は,数週間を通しての持続的腎機 能代替療法(CRRT)であり,血液濾過が用いられるが,血清リンレ\nベルが正常な患者からリンを効率的に除去してしまう結果,定期的な週 3回の血液透析治療を受けている患者よりも高い頻度で,低リン血症が 起こり得るものであること,(2)低リン血症は,リンの投与によって予防,\n治療されるが,医療溶液にリンを導入する場合,沈殿する様々なリン酸 カルシウムの形成の問題があり,生理的pHに等しいpH値を有する生 理溶液では,リン酸カルシウムの沈殿の危険性が高くなるという問題が あること,(3)「本発明」の発明者らは,特定のpH範囲等の如き一定の 条件下では,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを重炭酸塩及び リン酸塩重炭酸塩と共に保持し得ることができ,滅菌の安定なリン酸塩 含有医療溶液を提供できることを見出したことの開示があることからす ると,「本発明」の実施例である引用発明2−2−1’の「医療溶液」は, 急性腎不全に罹患している患者に適応し得るものと理解できる。 以上の点に照らすと,甲3に接した当業者においては,甲3記載の実 施例4(引用発明2−2−1’)において,当該「医療溶液」を「血液浄 化用薬液」にすることを試みる動機付けがあるものと認められる。 したがって,当業者は,引用発明2−2−1’において,相違点(甲 3−3−b”)に係る本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到す\nることができたものと認められる。 これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(イ) これに対し被告らは,引用発明2−2−1’は,単なる「医療溶液」 にすぎず,これを「血液浄化用薬液」として使用することができると解 すべき技術常識は存在しないことなどからすると,甲3に「医療溶液」 として記載された引用発明2−2−1’を「血液浄化用薬液」とするこ とは,当業者が容易に想到し得たことではない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)のとおり,甲3の記載事項に照らすと,当業 者は,引用発明2−2−1’において,相違点(甲3−3−b’’)に係る 本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到することができたもの\nと認められるから,被告らの上記主張は採用することができない。
イ 相違点(甲3−3−d”)について
(ア) 引用発明2−2−1’(実施例4記載の用時混合型の医療溶液)にお ける第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液の各成分の イオン濃度は,「K+」(カリウムイオン濃度)が「4.0mM」(4.0 mEq/L),「HPO4 2-」(リン酸イオン濃度)が「1.20mM」(無 機リン濃度3.72mg/dL),「Ca2+」(カルシウムイオン濃度) が「1.25mM」(2.50mEq/L),「Mg2+」(マグネシウムイ オン濃度)が「0.6mM」(1.2mEq/L),「HCO₃⁻」(炭酸水 素イオン濃度)が「30.0mM」(30.0mEq/L)である。 一方,前記(1)イ(イ)の認定事実によれば,甲3には,(1)「本発明」の 目的の1つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り 良好な安定性を保証する「医療溶液」を提供することにあること,(2)「本 発明」の発明者らは,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは,特 定のpH範囲等の如き一定の条件下では,重炭酸塩と共に保持し得るも のであり,一定の条件下では,リン酸塩とも一緒に保持することができ, 特定の環境,濃度,pH範囲及びパッケージングにおいて,滅菌の安定 なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したこと,(3)「本発明」 は,上記課題を解決するため,「即時使用溶液」が,1.0〜2.8mM の濃度(無機リン濃度に換算すると「3.1〜8.7mg/dL」)のリ ン酸塩を含み,滅菌され,かつ6.5〜7.6のpHを有するという構\n成を採用したことの開示があることが認められる。
加えて,甲3には,(4)「本明細書で述べる現在好ましい実施形態への 様々な変更および修正は当業者に明らかであることが理解されるべきで ある。そのような変更および修正は,本発明の精神および範囲から逸脱 することなくおよびその付随する利点を減じることなく実施することが できる。」(前記(1)ア(ケ))との記載があることに照らすと,甲3に接し た当業者は,引用発明2−2−1’における上記即時使用溶液の各成分 のイオン濃度を最適なものに変更し得るものと理解するものといえる。 しかるところ,前記(2)イ認定のとおり,本件優先日当時,「急性血液 浄化」のための血液濾過(透析)用に使用され得る,市販されている透 析液及び補充液において,カルシウムイオン濃度を「2.5〜3.5m Eq/L」,マグネシウムイオン濃度を「1.0〜1.5mEq/L」, 炭酸水素イオン濃度を「30mEq/L」前後の範囲の中で調整するこ とは,技術常識又は周知であったものである。 そして,上記技術常識又は周知技術を踏まえると,引用発明2−2− 1’における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度(「1.2mE q/L」)を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整する ことは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。 そうすると,甲3に接した当業者は,引用発明2−2−1’における 上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度を市販されている透析液及 び補充液の上記数値範囲内の「1.0mEq/L」(相違点(甲3−3− d”)に係る本件訂正発明12の構成)にすることを容易に想到すること\nができたものと認められる。 したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(イ) これに対し被告らは,(1)不溶性微粒子の形成を抑制する溶液を実現 するためには,リン酸塩の濃度のみならず,溶液に含まれる他の成分及 び各イオン濃度の組合せが調整される必要があるから,これらの組合せ が1個の不可分のまとまりのある技術事項となるところ,本件訂正発明 12は,配合及び混合液の各成分の濃度が所定の組合せであることによ って,混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性炭酸塩の生成 を抑制することができる用時混合型急性血液浄化用薬液を実現したも のであるから,混合液の各成分の濃度は,成分ごとに区々別々に対比す るのではなく,各成分の濃度の組合せを一つの単位として認定して,引 用発明2−2−1’と対比するのが相当である,(2)引用発明2−2−1’ は,「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制され る,混合時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」であり,本件 訂正発明12とは,技術的意義を異にする発明であるから,各成分の濃 度の相違は,設計事項となるものではなく,また,引用発明2−2−1’ に基づき,その各成分の濃度を変更して本件訂正発明12に到達しよう とする動機付けは,そもそも観念できない,(3)引用発明2−2−1’は, 低リン血症を防止するとともに粒子の形成を抑制する旨の課題に対し, 所定の配合及び各成分の濃度を定めるとともに,「溶液混合時のpHの 範囲を定めることにより」既に上記課題を解決しているものであるから, 引用発明2−2−1’に接した当業者が,上記課題を解決するために引 用発明2−2−1’の各成分の濃度を変更する動機付けもない,(4)一定 の濃度の範囲内で各成分の濃度を適宜に変動することができるのは,あ くまで,「一般の透析液・補充液」限りのものであって,これは,リン 酸塩を含む溶液に妥当するものではないなどとして,当業者は,引用発 明2−2−1’において,相違点(甲3−3−d”)に係る本件訂正発 明12の構成(マグネシウムイオン濃度を「1.0mEq/L」)とす\nることを容易に想到し得たものではない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)のとおり,甲3に接した当業者においては, 甲3記載の実施例4(引用発明2−2−1’)において,マグネシウム イオン濃度を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整 することは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。 そうすると,当業者は,引用発明2において,相違点(甲3−3−d”) に係る本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到することができ\nたものと認められる。このことは,混合液の各成分の濃度の組合せをひ とまとまりの相違点と認定した場合であっても同様である。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
ウ 相違点(甲3−3−a”)について
(ア) 本件訂正発明12の特許請求の範囲(請求項12)の記載中には, 本件訂正発明12の「当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不 溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」との構成の意義を規定し\nた記載はない。 次に,本件明細書(甲11)には,「時間の経過と共に補充液中のカル シウムイオンおよびマグネシウムイオンと炭酸水素イオンが反応し,不 溶性の炭酸塩の微粒子や沈殿が生じる」こと(【0007】),「当該薬液 中には,カルシウムイオンやマグネシウムイオンが存在するにも拘わら ず,リン酸イオンを含有させても不溶性のリン酸塩を生じない。また, リン酸イオンの存在により,炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグ ネシウムイオンが共存し,pHが7.5を超えるような長時間後であっ ても,不溶性炭酸塩の生成が抑制される」こと(【0023】),「不溶性 微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制される」とは,投与対象に 適用すべき最終薬液の調製後,たとえば上記A液とB液の混合後,少な くとも27時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されること, またはpHが7.5以上になっても不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制さ れること」を意味すること(【0057】)の記載がある。 また,本件明細書には,本件訂正発明12に規定するオルトリン酸の 濃度の範囲内である「リン酸イオン濃度が4.0mg/dL」の薬液と 「リン酸イオンを含有しない薬液」との対比実験を行ったところ,「7日 間でpHが7.23〜7.29から7.89〜7.94までほぼ直線的 に上昇し,その間にリン酸イオン不含有薬液では不溶性微粒子の粒径も 数も顕著に増加したが,リン酸イオン含有薬液ではpHの上昇にもかか わらず,不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった。」(【008 8】)との記載があり,この記載は,本件訂正発明12に規定するオルト リン酸の濃度の範囲内である「リン酸イオン濃度が4.0mg/dL」 の薬液では,「7日間」にわたって「リン酸イオン含有薬液ではpHの上 昇にもかかわらず,不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった」 ことを示すものである。もっとも,本件明細書には,本件訂正発明12 の「用時混合型血液浄化用薬液」が「27時間」にわたって不溶性微粒 子や沈殿の形成が実質的に抑制されたことを明示した記載はない。 以上の本件訂正発明12の特許請求の範囲(請求項12)の記載及び 本件明細書の記載を総合すると,本件訂正発明12の「そして当該薬液 調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質 的に抑制され」との構成は,本件訂正発明12のA液及びB液の成分組\n成及びそれらのイオン濃度を請求項12に記載されたものに特定するこ とによって実現されるものと理解できる。
(イ) そして,前記ア及びイのとおり,甲3に接した当業者は,引用発明 2−2−1’において,「血液浄化用薬液」として使用すること(相違点 (甲3−3−b”)に係る本件訂正発明12の構成)及びマグネシウムイ\nオン濃度を本件訂正発明12の濃度とすること(相違点(甲3−3−d”) に係る本件訂正発明12の構成)を容易に想到することができたもので\nある。 加えて,引用発明2−2−1’のカリウムイオン濃度と本件訂正発明 12のカリウムイオン濃度は「4.0mM」(4.0mEq/L),引用 発明2−2−1’の炭酸水素イオン濃度と本件訂正発明12の炭酸水素 イオン濃度は「30.0mEq/L」であって,いずれも一致する。 以上によれば,本件訂正発明12の「少なくとも27時間にわたって 不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という構成は,引用\n発明2−2−1’において,相違点(甲3−3−b”)及び(甲3−3− d”)に係る本件訂正発明12の構成とした場合に,自ずと備えるものと\n認められる。 したがって,引用発明2−2−1’において,相違点(甲3−3−a”) に係る本件訂正発明12の構成とすることは,当業者が容易に想到する\nことができたものと認められる。 したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(ウ) これに対し被告らは,引用発明2−2−1’は,「所定のリン酸塩 の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合時の即時使用 溶液のpHの範囲を特定した発明」にすぎず,24時間を超える長時間 の経過によるpHの上昇は,全く想定されていないこと,粒子の形成が 24時間抑制されれば,pHの上昇にかかわらず,少なくとも27時間 にわたって,不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されるとする技術常識は ないことからすると,引用発明2−2−1’には,同発明から,混合後 長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈澱の生成を抑制 することができる血液浄化用薬液を想到する基礎がないから,相違点(甲 3−3−a”)に係る本件訂正発明12の構成は,引用発明2−2−1’\nに基づいて容易に想到し得たものではない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)及び(イ)で説示したとおり,引用発明2−2− 1’において,相違点(甲3−3−a”)に係る本件訂正発明12の構成\nとすることは容易に想到することができたものと認められるから,被告 らの上記主張は採用することができない。
(4) 本件訂正発明12の顕著な効果について
被告らは,(1)本件訂正発明12は,「混合後長時間が経過してpHが上昇し ても,不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができる用時混合型急性血 液浄化用薬液」を実現した発明であるのに対し,引用発明2−2−1’は, 「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合 時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」にすぎず,また,用時混合 型急性血液浄化用薬液の技術分野では,本件優先日当時,所定の配合により, 混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑 制することができる旨の技術常識はなかったことからすると,本件明細書の 【0088】に係る「混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微 粒子や沈殿の生成を抑制することができる」という本件訂正発明12の効果 は,引用発明2−2−1’に比して,質的に差のある当業者が予測できない\n格別の効果である,(2)被告らが,本件明細書記載の実施例2の検体と甲3記 載の実施例4(表9)の検体について行った不溶性微粒子の形成の対比試験\nの結果(甲20の参考資料3)によると,両検体のpHは,混合後,同様の 上昇推移を経て,54時間経過後に約8.7まで上昇したところ,本件明細 書記載の実施例2の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過時 に8個,54時間経過時に12個形成されるにとどまり,25μmの微粒子 が,混合後54時間経過時でも1個形成されるにとどまったのに対し,甲3 の実施例4(表9)の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過\n時に17個,54時間経過時に78個も形成され,25μmの微粒子が,混 合後54時間経過時には5個も形成されていたことからすると,「混合後長時 間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑制すること ができる」という本件訂正発明12の効果は,甲3の記載から予測できない\n格別の効果であるのみならず,引用発明2−2−1’の配合や各成分の濃度 では実現することができない,当業者の予測を超えた顕著な効果である旨主\n張する。
そこで検討するに,被告らが主張する「混合後長時間が経過してpHが上 昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑制することができる」という本件 訂正発明12の効果は,「当該薬液調整後少なくとも27時間にわたってpH 7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」ること(【0 057】)に相当する効果であるものと認められる。一方で,本件明細書には, 本件訂正発明12の成分組成及びイオン濃度を有する用時混合型急性血液浄 化用薬液において,「混合後27時間経過時」及び「54時間経過時」のpH の推移,微粒子の形成状況について明示した記載はないから,上記対比試験 の結果(甲20の参考資料3)に基づく効果は,本件明細書に記載された本 件訂正発明12の効果であるとは認められない。 そして,上記「当該薬液調整後少なくとも27時間にわたってpH7.5 以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」るという効果は, 前記(3)ウで説示したところと同様に,引用発明2−2−1’において,相違 点(甲3−3−b”)及び(甲3−3−d”)に係る構成とした場合に,自ず\nと備えるものと認められるから,当業者の予測を超えた顕著な効果であると\nいうことはできない。

◆判決本文

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平成31(行ケ)10011  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月25日  知的財産高等裁判所

 ゲノム編集技術であるCrispr-Cas(クリスパー−キャス)関連特許について、29-2違反、進歩性違反の拒絶審決が取り消されました。出願人はブロードコムおよびMITです。技術説明会をやったのでしょうね。

(相違点)
本願発明は「tracr配列が,30以上のヌクレオチドの長さを有」するもの であると下限値が特定されているのに対して,引用発明1では,本願発明の「tr acr配列」に相当する部分の長さについて明確な特定はなく,「第二及び第三領域」 の合わせた長さが「約30から約120ヌクレオチド長の範囲」である点。
(5)相違点の検討
ア 特許法29条の2は,特許出願に係る発明が,当該特許出願の日前の他の特 許出願又は実用新案登録出願であって,当該特許出願後に特許掲載公報,実用新案 掲載公報の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願 明細書等」という。)に記載された発明又は考案と同一であるときは,その発明につ いて特許を受けることができないと規定する。 同条の趣旨は,先願明細書等に記載されている発明は,特許請求の範囲以外の記 載であっても,出願公開等により一般にその内容は公表されるので,たとえ先願が\n出願公開等をされる前に出願された後願であっても,その内容が先願と同一内容の 発明である以上,さらに出願公開等をしても,新しい技術をなんら公開するもので はなく,このような発明に特許権を与えることは,新しい発明の公表の代償として\n発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でない,というものである。 同条にいう先願明細書等に記載された「発明」とは,先願明細書等に記載されて いる事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明をいい,記載されて いるに等しい事項とは,出願時における技術常識を参酌することにより,記載され ている事項から導き出せるものをいうものと解される。
イ 本願明細書の【0162】には,tracr配列の長さとゲノム改変効率の 関係について,「EMX1およびPVALB遺伝子座中の5つ全ての標的について, tracr配列長さの増加に伴うゲノム改変効率の一貫した増加が観察された」と の一般的な説明がなされ,特に,ゲノム改変効率の増加が優れるものとして,nが 67,85,すなわちtracr配列の長さが45,63のキメラRNAをとりあ げて,「野生型tracrRNAのより長い断片を含有するキメラRNA(chiR NA(+67)及びchiRNA(+85))は,3つ全てのEMX1標的部位にお けるDNA開裂を媒介し,特にchiRNA(+85)は,ガイド及びtracr配 列を別個の転写物中で発現する対応するcrRNA/tracrRNAハイブリッ ドよりも顕著に高いレベルのDNA開裂を実証した(図16b及び17a)。ハイブ リッド系(別個の転写物として発現されるガイド配列及びtracr配列)を検出 可能な開裂を生じなかったPVALB遺伝子座中の2つの部位も,chiRNAを\n使用してターゲティングした。chiRNA(+67)及びchiRNA(+85) は,2つのPVALBプロトスペーサーにおける顕著な開裂を媒介し得た(図16 c及び17b)。」との説明が加えられている。 そして,本願明細書の図16や図17を参照すると,プロトスペーサー1やプロ トスペーサー3を標的とした場合については,nが+67,+85である場合のみ ならず,nが+54,すなわちtracr配列の長さが32のキメラRNAである 場合も,nが+48,すなわちtracr配列の長さが26のキメラRNAを上回 る改変効率が得られていることを見て取ることができ,本願発明がtracr配列 につき30以上のヌクレオチドの長さに設定したことによって引用発明1とは異な る新たな効果を奏していることも理解できる。 このように,本願発明は,「tracr配列の長さ」に着目し,「tracr配列 が,30以上のヌクレオチドの長さを有」するものという構成を採用したことによ\nって,ゲノム改変効率が増加することを特徴とするものである。 他方,引用例1には,ガイドRNAが第一領域から第三領域までの3つの領域を 含むこと(【0067】),ステムの長さは約6から約20塩基対長であってよいこと (【0069】),一般的に,第三の領域は,約4ヌクレオチド長以上であり,例えば,第三の領域の長さは,約5から約60ヌクレオチド長の範囲であるとすること(【0 070】),ガイドRNAの第二及び第三領域の合わせた長さは,約30から約12 0ヌクレオチド長の範囲であり得ること(【0071】)が記載されているにすぎな い。
ウ また,本願明細書【0063】の「ループの3’側の配列の部分は,trac r配列に対応する」の記載によれば,本願発明のtracr配列は,引用発明1の 第二領域の片方のステムと第三領域を合わせたものに相当すると認められる。しか し,引用例1には,tracr配列(第二領域の片方のステムと第三領域を合わせ たもの)の長さそれ自体を規定するという技術思想が表れてはいない。\nさらに,本願優先日当時,tracr配列の長さを30以上のヌクレオチドの長 さとするとの当業者の技術常識が存在したことを認めるに足りる証拠はない。 エ よって,引用例1に「tracr配列が,30以上のヌクレオチドの長さを 有」するものという構成を採用したことが記載されているといえないし,技術常識\nを参酌することにより記載されているに等しいともいえない。
(6) 被告の主張について
 被告は,26ヌクレオチド長のtracr配列を有するガイドRNA(+48) と,32ヌクレオチド長のtracr配列を有するガイドRNA(+54)とで,プ ロトスペーサー2,4及び5を標的としたものでは差異を見出せない(図16,図 17)とした上,30以上のヌクレオチド長と特定する本願発明においては,標的 配列に依存することなく,改変効率が向上するとの効果を有しているとはいえない として,本願発明は,引用発明1と異なる新たな効果を奏すると認めることはでき ないと主張する。 しかし,前記のとおり,本願明細書によれば,プロトスペーサー1やプロトスペ ーサー3という異なる標的配列に対して,32ヌクレオチド長のtracr配列を 有するキメラRNAが,26ヌクレオチド長のtracr配列を有するキメラRN Aよりも,ゲノム改変効率が増加していることが記載されており,tracr配列 について30以上のヌクレオチド長であることを特定する本願発明は,プロトスペ ーサー1やプロトスペーサー3以外においても真核細胞のゲノム改変効率が向上す る可能性がないということはできない。\nしたがって,被告の主張は,理由がない。
(7) 小括
以上のとおり,本件審決において本願発明と引用発明1との一応の相違点として 挙げられた「tracr配列が,30以上のヌクレオチドの長さを有」することは, 実質的な相違点であり,本願発明と引用発明1とが同一の発明であるとは認められ ないから,本願発明につき特許法29条の2の規定により特許を受けることができ ないとした本件審決の判断には誤りがある。
・・・
(4)相違点4の判断について ア 引用例2には,全長成熟(42ヌクレオチド)crRNAと,5’又は3’末 端で配列が欠如した様々な切断型のtracrRNAを組み合わせて再構成された\n二本鎖のCas9−tracrRNA:crRNA複合体を用いた試験において, 天然配列のヌクレオチド23〜48(tracr配列のヌクレオチド長は26)を 保持しているtracrRNAがCas9によるDNA切断に有効であることが示 されている(前記(1)ウ,ク,図3A)。 また,tracrRNA:crRNAは一本鎖のキメラRNAに設計でき(前記 (1)ア),ヌクレオチド23〜48を保持した長いキメラA(tracr配列のヌクレ オチド長は26)が,二本鎖のtracrRNA:crRNA複合体を用いた場合 と同じような挙動でCas9によるDNA切断を誘導したこと,他方,短いキメラ B(tracr配列のヌクレオチド長は18)の場合には,DNA切断を誘導でき なかったこと(前記(1)エ,オ,図5B)が示されている。 以上の引用例2の実験結果に接した本願優先日の当業者は,26ヌクレオチド長 よりも短いtracr配列は,Cas9の開裂効果が劣ることから,Cas9タン パク質による標的配列の開裂には,少なくとも,天然配列の23〜48を保持した 26ヌクレオチド長のtracr配列を含む必要があることを理解する。 ところが,tracr配列の長さについては,26ヌクレオチドより短い場合と の比較では,長い26ヌクレオチドの方が好ましいことは理解できるものの,引用 例2には,26ヌクレオチドより長い場合で比較した場合に,より長さの大きいt racr配列の方が好ましいことを示す記載は,見当たらない。 加えて,本件全証拠によっても,本願優先日当時,tracr配列の長さが大き ければ大きいほど好ましいことを示す技術常識が存在したことを認めるに足りない。
(イ) 一方,本願明細書の【0162】によると,tracr配列の長さとゲノム 改変効率の関係について,「EMX1およびPVALB遺伝子座中の5つ全ての標的 について,tracr配列長さの増加に伴うゲノム改変効率の一貫した増加が観察 された」との一般的な説明がされ,本願明細書の図16や図17から,プロトスペ ーサー1やプロトスペーサー3を標的とした場合に,tracr配列の長さが32 のキメラRNAの方が,tracr配列の長さが26のキメラRNAよりも,ゲノ ム改変効率に優れていると理解することができる。 そうすると,引用例2の記載や本願優先日の技術常識を勘案しても,ゲノムの改 変効率を向上させる観点で,引用発明2のtracrRNAの長さについて,引用 例2に具体的に開示されている26から30以上に変更することを,当業者が動機 付けられていたということはできない。
(ウ) また,本願優先日当時,引用例2の要約に記載された細菌や古細菌の獲得免 疫に由来するCRISPR/Cas系(前記(1)ア)を,緩衝液中での混合(試験管レ ベル)でなく,真核細胞に適用することができた旨を報告する技術論文や特許文献 は存在しておらず,tracr配列の長さを30以上に設定するという技術手段を 採用することで,真核細胞におけるゲノム改変効率が向上するという効果は,当業 者の期待や予測を超える効果と評価することができる。\n
(エ) したがって,相違点4として挙げた本願発明の発明特定事項,すなわち「t racr配列」について,「30以上のヌクレオチドの長さ」とすることは,引用例 2の記載や本願優先日の技術常識を参酌しても,当業者が容易に想到し得たとはい えないものである。
イ 被告の主張について
被告は,引用例2の記載から,23〜48の26ヌクレオチド長を含むtrac rRNAであれば,その5’末端側や3’末端側にさらにヌクレオチドが存在して も,Cas9によるDNA切断を誘導できると理解することができるとした上,引 用例2には5’末端側や3’末端側にヌクレオチドを付加してさらに長くすること を妨げる記載はなく,図3Aには,上記最小領域のほか,「15−53」,「23− 89」,「15−89」の領域からなるさらに長いtracrRNAも,crRNA と共に用いることでCas9によるDNA切断を誘導できることが示されていると して,引用発明2のうち「tracrRNA」を多少長くして30ヌクレオチド長 程度のものとすることは,当業者が適宜なし得たことであると主張する。 しかし,図3Aには,長いtracrRNAをcrRNAと組み合わせて二本鎖 として用いた実験結果が示されるものの,特に長いtracrRNAの方が標的配 列の開裂に優れることは開示されていない。また,引用発明2のtracr配列の 長さを26から30にするには,15%以上長くする必要があるから,これが多少 長くした程度のものであるとはいえない。さらに,上記のとおり,本願優先日当 時,tracr配列の長さが大きければ大きいほど,好ましいことを示す技術常識 は存在せず,真核細胞にCRISPR/Cas系を適用したことを報告する技術論 文,特許文献も存在しなかったことからすれば,tracr配列の長さを30以上 に設定することに伴い真核細胞におけるゲノム改変効率が向上するという効果は, 当業者の期待や予測を超えるものと評価されるというべきである。\n

◆判決本文

下記は出願人の一部が一致するCrispr-Casの関連事件ですが、こちらは拒絶審決が維持されています。

◆平成31(行ケ)10010

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平成30(行ケ)10157  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月30日  知的財産高等裁判所

 第1次審決は,個別の効果しか認定をしていないとして審理不尽の違法があるとして,取り消されました。第2次審決は進歩性違反無しとの審決がなされました。知財高裁3部は、特段の効果無しとして、審決を取り消しました。

 特許に係る発明が,先行の公知文献に記載された発明にその下位概念と して包含されるときは,当該発明は,先行の公知となった文献に具体的に 開示されておらず,かつ,先行の公知文献に記載された発明と比較して顕 著な特有の効果,すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏さ れる効果とは異質の効果,又は同質の効果であるが際立って優れた効果を 奏する場合を除き,特許性を有しないものと解するのが相当である。 したがって,本件発明1は,甲1に具体的に開示されておらず,かつ, 甲1に記載された発明すなわち甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果 を奏する場合を除き,特許性を有しないところ,甲1には,本件発明1に 該当する態様が具体的に開示されていることは認められない。 そこで,本件発明1が甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する ものであるかについて,以下検討する。
・・・
前記(イ)のとおり,甲1発明Aは,(1)広い温度範囲において析出する ことがない,(2)高速応答に対応した低い粘度である,(3)表示不良を生じ\nない,という効果を同時に奏する液晶組成物であることから,本件発明 1と甲1発明Aは,上記三つの特性を備えた液晶組成物であるという点 において,共通するものである。 そこで,本件発明1に特許性が認められるためには,上記三つの特性 において,本件発明1が,甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏 することを要する。
a 効果(1)(低温保存性の向上)について
・・・
(b) 前記(a)の記載に関し本件審決は,甲1の実施例1〜52及び比較 例1の「下限温度」は,−40度及び−30度のいずれでも(ただ し,実施例21は「−40度では」)10日以内に結晶又はスメク チック相に変化したものと理解できるのに対し,本件明細書の実施 例1〜4は,−25度及び−40度で2週間又は3週間ネマチック 状態を維持したと記載されているから,甲1に記載された実験結果 より低い温度でより長い期間に渡り安定性が維持されるものと解す ることができ,本件発明1の低温保存性は,甲1に記載されていな い有利な効果である旨判断した。 しかしながら,そもそも,本件明細書に記載された低温保存試験 は,具体的な測定方法,測定条件について記載されていないため, 甲1に記載された低温保存試験と同じ測定方法,測定条件で実施さ れたものであるかについて,本件明細書の記載からは明らかでない。 また,液晶組成物の低温保存試験は,液晶組成物のその他の物性 値である粘度,光学異方性値,誘電率異方性値等と異なり,確立さ れた標準的な手法は存在しないところ(弁論の全趣旨),甲32(原 告従業員による平成30年7月12日付けの試験成績証明書)にお いては,試験管(P−12M)を用いた場合とクリーンバイアル瓶 (A−No.3)を用いた場合という容器の形状等の違いで実験結 果に差異が生じ,甲1の実施例20と甲82(株式会社UKCシス テムエンジニアリングによる平成31年4月17日付け試験報告 書)の実験結果の間でも,低温保存試験の条件によって実験結果が 異なることからすると,液晶組成物の低温保存試験においては,試 験方法や試験条件が異なることで過冷却の状態が生じることを否 定できず(甲40),試験結果に著しい差異が生じる可能性がある\nものと認められる。 加えて,甲1の低温保存試験においては,化合物(1)ないし(3) の組合せやその配合量が顕著に異なる液晶組成物であっても,実施 例21(「Tc≦−30度」)を除いて,「Tc≦−20度」とい う同じ結果となっているのに対し,本件明細書の実施例1〜4と比 較例1は,フッ素原子を有する重合性化合物又はフッ素原子を有し ない重合性化合物という配合成分の差異のみで,−25度及び−4 0度におけるネマチック状態の維持期間が顕著に異なる結果とな っている。
(c) 以上の事情に照らすと,低温保存試験に関する甲1の実験と本件 明細書の実験が,同じ配合組成(配合成分及び配合量)の液晶組成 物を試験した場合に同様の試験結果が得られるような,共通の試験 方法,試験条件において実施されたものとは,にわかに考え難いと いうべきである。 さらに,本件明細書において,実施例1〜4と対比されたのは, 重合性化合物にフッ素原子を有しない構造を有するというほかは,\n実施例1〜4と同様の配合組成を有する比較例1であって,その配 合組成は,甲1の実施例(1〜52)とは顕著に異なるものである。 そして,この点は,被告において本件明細書の試験の再現実験であ る旨主張する乙14についても同様であることから,本件明細書及 び乙14の実験結果のみから,本件発明1の効果と甲1発明Aの効 果を比較することは困難である。 したがって,本件明細書に記載された実施例1〜4の下限温度と, 甲1に記載された実施例及び比較例の下限温度とを単純に比較す るだけで,低温保存に係る本件発明1の効果が,甲1発明Aの効果 よりも顕著に有利なものであると認めることはできない。
b 効果(2)(低粘度)について
前記(イ)のとおり,甲1発明Aの具体例である実施例の液晶組成物 は,いずれも高速応答に対応した低い粘度のものであることが認めら れるところ,液晶組成物の粘度について,本件発明1が甲1発明Aと 比較して顕著な特有の効果を奏するものであることを認めるに足りる 証拠はない。 したがって,本件発明1が,甲1発明Aと比較して,低粘度に係る 有利な効果を奏するものとは認められない。
c 効果(3)(焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないこと)につ\nいて
(a) 本件発明1に関し,本件明細書には,実施例1〜6の液晶組成物, 及びフッ素原子を有しない重合性化合物を用い,かつ一般式(II −A)及び(II−B)で表される化合物を含まない比較例2の液\n晶組成物において,重合性化合物の液晶化合物に対する配向規制力 をプレチルト角の測定により確認した旨が記載されている(前記(1) イ(エ)c)。
一方,甲1発明Aに関し,甲1には,第三成分の好ましい割合は, 表示不良を防ぐために,第三成分を除いた液晶組成物100重量部\nに対して10重量部以下であり,さらに好ましい割合は,0.1重 量部から2重量部の範囲である旨が記載されている(前記(2)イ (エ))。
(b) 前記(a)の記載に関し本件審決は,本件明細書には,実施例1〜4 が,焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないという効果(効果(3))\nを奏することは具体的に記載されていないが,実施例1〜4におい ては,「環構造と重合性官能\基のみを持つ1,4−フェニレン基等 の構造を有する重合性化合物」に相当する重合性化合物(I−11)\nが用いられ,かつ,当該重合性化合物が添加された液晶組成物は, いずれも「アルケニル基や塩素原子を含む液晶化合物を使用」して いないから,従来から公知の技術的事項に照らして,焼き付きや表\n示ムラ等が少ないか全くないものである蓋然性が高いといえる旨判 断した。 しかしながら,前記(a)のとおり,本件明細書には,実施例1〜6 及び比較例2に関し,「重合性化合物の液晶化合物に対する配向規 制力をプレチルト角の測定により確認した」旨が記載されているに 過ぎず,本件明細書及び被告の提出する実験報告書(甲46〜48) を参照しても,焼き付き等の表示不良の有無や程度についての評価\nが可能な,プレチルト角の経時変化及び安定性に関する実験結果は\n記載されておらず,VHR(電圧保持率)についても,いかなる条 件で得られた数値が,この評価の対象とされ,どの程度の数値を示 せば,焼き付き等の表示不良を生じないと評価できるのか等の詳細\nについて,何ら具体的な説明はされていない。 したがって,仮に,焼き付き等の表示不良とプレチルト角の経時\n変化及び安定性又はVHRとの間に一定の相関関係があったとし ても,本件明細書及び甲46〜48に示された実験結果に基づいて, 本件発明1が達成している焼き付き等の表示不良抑制の程度を評\n価することはできないというべきである。
(C)また,本件明細書には,式(I−1)ないし(I−4)の重合性 化合物を用いることにより,表示ムラが抑制されるか,又は全く発\n生しないこと,また,焼き付きや表示ムラ等の表\示不良を抑制する ため,又は全く発生させないためには,塩素原子で置換される液晶 化合物を含有することは好ましくないことが記載されているとこ ろ(前記(1)イ(イ)),甲1の実施例の半数以上(実施例5,7,1 1,13,26〜27,29〜52 )が,本件発明1の重合性化合 物(I−1)〜(I−4)のいずれかに相当する重合性液晶化合物 (化合物(3−3−1),(3−4−1),(3−7−1),(3 −8−1))を含有し,また,甲1の実施例の7割以上(実施例2 〜8,11〜16,19,21〜24,28〜30,35〜52) が,塩素原子で置換された液晶化合物を含有していない。 さらに,本件明細書において,実施例1〜6と対比されたのは, フッ素原子を有しない重合性化合物を用い,かつ一般式(II−A) 及び(II−B)で表される化合物を含まない比較例2であって,\nその配合組成は,甲1の実施例(1〜52)とは顕著に異なるもの であり,この点は,被告において本件明細書の試験の再現実験であ る旨主張する甲46〜48についても同様であるから,仮に本件発 明1の実施例が比較例よりも有利な結果を示したとしても,甲1の 実施例に対しても同様に有利な結果を示すとは限らない。
(d) 以上の事情に照らすと,焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くな\nいことに係る本件発明1の効果が,甲1発明Aの表示不良が生じな\nい効果よりも顕著に有利なものであると認めることはできない。
d 小括
以上によると,本件発明1は,甲1の実施例で示された液晶組成物 では到底得られないような効果(低温保存性の向上,低粘度及び焼き 付きや表示ムラ等が少ないか全くないこと)を示すものとは認められ\nないので,本件発明1が,甲1発明Aと比較して,格別顕著な効果を 奏するものとは認められない。

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平成30(行ヒ)69  審決取消請求事件 令和元年8月27日  最高裁判所第三小法廷  判決  破棄差戻  知的財産高等裁判所

 最高裁は、知財高裁の判決を破棄し、知財高裁に差戻しました。争点は、進歩性判断です。審決は予測し難い顕著な効果ありとして、進歩性ありと判断。、知財高裁は、顕著な効果無しとして審決を取り消していました。\n

 上記事実関係等によれば,本件他の各化合物は,本件化合物と同種の効果であるヒスタミン遊離抑制効果を有するものの,いずれも本件化合物とは構造の異なる化合物であって,引用発明1に係るものではなく,引用例2との関連もうかがわれない。そして,引用例1及び引用例2には,本件化合物がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用を有するか否か及び同作用を有する場合にどの程度の効果を示すのかについての記載はない。このような事情の下では,本件化合物と同等の効果を有する本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということから直ちに,当業者が本件各発明の効果の程度を予\測することができたということはできず,また,本件各発明の効果が化合物の医薬用途に係るものであることをも考慮すると,本件化合物と同等の効果を有する化合物ではあるが構造を異にする本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということのみをもって,本件各発明の効果の程度が,本件各発明の構\成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであることを否定することもできないというべきである。しかるに,原審は,本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということ以外に考慮すべきとする諸事情の具体的な内容を明らかにしておらず,その他,本件他の各化合物の効果の程度をもって本件化合物の効果の程度を推認できるとする事情等は何ら認定していない。\n そうすると,原審は,結局のところ,本件各発明の効果,取り分けその程度が,予測できない顕著なものであるかについて,優先日当時本件各発明の構\成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か,当該構\成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から十\分に検討することなく,本件化合物を本件各発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提として,本件化合物と同等の効果を有する本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということのみから直ちに,本件各発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定して本件審決を取り消したものとみるほかなく,このような原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。\n
5 以上によれば,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法 令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を 免れない。そして,本件各発明についての予測できない顕著な効果の有無等につき\n更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

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原審はこちらです。

◆平成29(行ケ)10003

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平成30(行ケ)101 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年6月13日  知的財産高等裁判所

 動機付けありとして進歩性なしとした審決が維持されました。顕著な効果があるとの主張も否定されました。

 そして,引用発明及び引用文献8に記載された技術は,いずれも,Aβ 結合剤をアルツハイマー病等の患者の血液中のAβに結合させることによって,A βを除去し,アルツハイマー病等の疾患を治療するというものであり,技術分野は 同一であること,引用文献8には,四量体ペプチドA及びポリエチレングリコール 架橋キャリアゲルを含む組成物は,Aβに効果的かつ不可逆的に結合し,Aβと最 大の結合能力を示したとの記載があること,前記2(1)のとおり,引用文献1には, 「アミロイドβ結合化合物」の第2部分として,ポリエチレングリコールのような 高分子を用いてもよいことが記載されている(段落[0056])ことからすると, 引用発明に引用文献8に記載された技術を適用する動機付けがあると認められる。 この点について,原告は,引用文献1の段落[0056]は,「全身投与」に関す る記載であり,透析とは無関係であると主張するが,引用文献1の同部分の記載は, 血液中のAβに結合するAβ結合化合物の第2部分がポリエチレングリコールでも よいというものであるところ,このことが,体内への投与の場合と透析の場合で異 なると認めるに足りる証拠はなく,少なくとも,引用文献1の上記部分に接した当 業者は,透析の場合においても,Aβ結合化合物の第2部分としてポリエチレング リコールを用いることも適しているものと認識するというべきである。
ウ したがって,引用発明に引用文献8に記載された技術を適用して,引用 発明におけるアミロイドβ結合化合物を四量体ペプチドA及びポリエチレングリコ ール架橋キャリアゲルを含む組成物とし,かつ,同組成物を調整する工程を含ませ ることは,当業者にとって,容易に想到できると認められる。
(2) 顕著な効果について
原告は,本願発明は,1)β-アミロイドへの特定の結合作用を提供する,2)β-ア ミロイドの除去の物理的特性に依存せず,代わりに,血液の構成要素からβ-アミロ イドを捕捉する結合剤を用いるだけである,3)組織的に高い結合能力を形成するプ\nロセスを提供する,4)体内に外的物質を導入することを含まず,それにより逆のリ スク事象に移行し得る潜在的免疫システム反応を除去したプロセスを提供するとい う顕著な効果を有する旨主張する。 しかし,上記4)については,血液透析によりAβの除去を行う引用発明が当然備 える効果であり,上記1)〜3)については,引用発明において,「Aβ結合化合物」と して,結合能の高い化合物を採用することよって獲得される効果にすぎないから,\n原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,引用文献1に記載されたAβ結合化合物は,すべて天然由来の ものであるから,合成物である四量体ペプチドAを用いる動機付けはないなどと主 張する。 しかし,前記のとおり,引用文献8には,四量体ペプチドAはAβと効果的に結 合する旨の記載がある以上,引用発明において,Aβ結合化合物として四量体ペプ チドAを用いる動機付けはあるというべきであり,このことは,引用文献1に記載 されたAβ結合化合物が天然由来であるか否かに左右されない。
イ 原告は,引用文献1に膨大な数のアミロイドβ結合化合物が記載されて いる中で,引用文献1に記載のない,四量体ペプチドAをわざわざ適用することに は阻害要因があると主張するが,引用文献1に記載されたAβ結合化合物の数が膨 大であることによって,Aβ結合化合物として,引用文献8に明記されている四量 体ペプチドAを用いることが阻害されるということはできない。
ウ 原告は,引用発明は,一般的な透析法によりアミロイドβを除去する発 明であるのに対して,引用文献8に記載された技術は,アミロイドβ化合物と結合 し得る物質(医薬製剤)を生体内に存置するものであるから,技術分野が異なり, また,阻害要因もあると主張する。 しかし,前記のとおり,引用発明及び引用文献8に記載された技術は,いずれも, Aβ結合剤をアルツハイマー病の患者等の血液中のAβに結合させることによって, Aβを除去するというものであり,技術分野は同一である。そして,生体内での使 用が想定されているAβ結合化合物を血液透析で使用することができない理由があ るとは認められないから,阻害要因も認められない。 この点について,原告は,体内で使用する物質を血液透析で使用することに阻害 要因があることの理由について,透析法は,体内使用における患者の負担の軽減の ために採用するものである旨の主張をするが,体内使用における患者の負担の軽減 のために透析法を採用するということが,体内での使用が想定されているAβ結合 化合物を血液透析で使用することの阻害事由となるとは認められず,むしろ,体内 での使用について安全性が確認されている物質であれば,血液透析でも使用しよう と考えるのが通常であるといえる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
エ 原告は,引用文献8に記載された発明は,生体内で使用するデポ剤であ るため,その不活性及び安全性のためにRIペプチドを集めるためのプラットホー ムとして,ポリエチレングリコールが採用されているが,引用発明は,透析法によ りアミロイドβを除去する発明であり,生体内における不活性及び安全性という必 要性がないから,生体内での不活性及び安定性のためのものとして開示されている ポリエチレングリコールを,捕捉結合剤と結合したアミロイドβが透析装置の透析 膜から戻ることを防止して透析法においてアミロイドβを効率よく除去するために キャリアゲルとして使用する動機付けはないと主張する。 しかし,引用発明において,Aβ結合化合物として,四量体ペプチドA及びポリ エチレングリコール架橋キャリアゲルを含む組成物を用いる動機付けが認められる ことは既に判示したとおりである。そして,前記2(2)のとおり,引用文献8には, ポリエチレングリコール(PEG担体)は,RIペプチドの複数のコピーを付着さ せ,Aβとの結合能を向上させると記載されているから,当業者は,引用文献8に\n記載された発明を引用発明に適用するに際し,ポリエチレングリコールを共に用い る動機付けがあるというべきである。引用発明においては,生体内で使用するため の安定性や安全性を考慮する必要がないとしても,上記認定が左右されることはな い。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
オ 原告は,引用発明から出発して,アミロイドβ除去能を向上しようとす\nれば,引用文献1に多数列挙されているアミロイドβ結合化合物からアミロイドβ 結合能力の少しでも高いものを選択するのが通常であって,わざわざキャリアゲル\nで修飾することの動機付けはないと主張する。 しかし,引用発明において,Aβ結合化合物として,四量体ペプチドA及びポリ エチレングリコール架橋キャリアゲルを含む組成物を用いる動機付けが認められる ことは,既に判示したとおりであって,キャリアゲルで修飾することの動機付けも あるというべきである。
カ 原告は,透析液は正常な血液に近い成分・濃度の電解質溶液に調製する のが当業者の常識であるから,引用発明にキャリアゲルを添加することには阻害事 由があると主張する。 しかし,透析液にキャリアゲルを添加することによって,正常な血液に近い成分・ 濃度の電解質溶液に調製することが妨げられることを認めるに足りる証拠はないか ら,透析液(透析緩衝液)にキャリアゲルを添加することに阻害事由があるとは認 められない。
キ 原告は,引用文献1の段落[0080]には,「半透膜は10,000ダ ルトンの分子量カットオフを有する」と記載されているところ,二量体を超える高 分子量種(四量体,八量体,それ以上の高分子量種)のAβの分子量は,10,0 00ダルトンを超えるため,引用文献1記載の透析方法では,半透膜を通ることが できず,透析槽側に拡散し得ないから,二量体を超える高分子量種のAβも含めて 除去する本願発明とは,技術思想が全く異なると主張する。 しかし,本願発明の特許請求の範囲には,除去すべきAβの分子量や半透膜を通 過する分子の大きさについては何ら記載されていないから,本願発明も,半透膜の 仕様によっては,二量体を超える高分子量種のAβは半透膜を通ることができず, これを除去することはできないものである。したがって,二量体を超える高分子量 種のAβも含めて除去できるか否かによって,本願発明と引用発明の技術思想が異 なるということはできない。
ク 原告は,引用文献1のapoE3は極めて高価あるから,引用発明に引 用文献8記載の技術を適用することには阻害要因があると主張する。 しかし,製剤の製造コストを可能な限り削減することは当業者にとって重要な課\n題であるから,apoE3が高価であるということは,これに代えて引用文献8に 記載された四量体ペプチドA及びポリエチレングリコール架橋キャリアゲルを含む 組成物を用いることの阻害事由とはならず,むしろ,動機付けとなるというべきで ある。

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平成30(行ケ)10076  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月13日  知的財産高等裁判所

 審決は訂正を認めた上、進歩性なしと判断しました。知財高裁は審決を維持しました。争点は、特有の効果を訂正後発明が奏するかです。知財高裁は、特有の効果は認められないと判断しました。

 被告は,原告の主位的主張につき,審判段階で審理の対象とされたものではなく 本件審決の違法事由として主張できない旨主張する。 特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,審判で審理判断されなかった 公知事実を主張することは許されないが(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同5 1年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁),審判において審理判断され た公知事実に関する限り,審判の対象とされた発明との一致点・相違点について審 決と異なる主張をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実と の対比の枠を超えるということはできないから,取消訴訟においてこれらを主張す ることが許されないとすることはできない。 本件特許の特許権者である原告は,もとより審判で審理判断されなかった公知事 実を無効原因として主張するものではなく,審判において審理判断された公知事実 と審判の対象とされた発明との相違点について本件審決と異なる主張をするにすぎ ないものであって,これを許されないものとすべき事情はない。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ) 原告の主位的主張について
a 原告は,本件各発明の本質は,豆乳発酵飲料について,pHが4.5未満であり,ペクチンの添加量の割合がペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質 量%に対して20〜60質量%の範囲にあり,かつ,粘度が5.4〜9.0mP a・sの範囲にあるという構成を採用する場合に,タンパク質成分等の凝集の抑制\nと共に,酸味が抑制され,後に残る酸味が少なく後味が優れるという効果が得られ るところにあるから,相違点1−1〜1−4に相当する構成は互いに技術的に関連\nしており,これらを1つの相違点1−Aとして認定すべきであるなどと主張する。 b しかし,本件明細書によれば,本件各発明は,タンパク質成分等の凝集を抑 制するという効果を奏する点では共通するものの,ペクチンの添加量の割合が30 〜60質量%の場合(本件発明6)はこれに加えて「後に残る酸味が低減され,か つ口当たりが滑らかな」ものとなるとの効果を奏し(【0019】),30〜50 質量%とされた場合(本件発明7)は「後に残る酸味が低減されるとともに,酸っ ぱい風味が抑制され,また口当たりがより一層滑らかになる」との効果を奏するこ と(【0020】)が記載されている。また,こうした記載が先行するにもかかわ らず,【発明の効果】としては,「タンパク質成分等の凝集が抑制された豆乳発酵 飲料の提供が可能」,「タンパク質等の凝集が抑制された豆乳発酵飲料の製造が可\n能」といった点が挙げられるにとどまる(【0024】)。これらの記載に照らす\nと,酸味が抑制され,後に残る酸味が少なく後味が優れるという効果は,本件各発 明に共通する効果とは必ずしも位置付けられていないものということができる。 他方,官能評価試験の結果,「ペクチン及び大豆多糖類の混合物中のペクチンの\n割合が60質量%〜0質量%」の範囲では,「酸っぱい風味」及び「後に残る酸味」 の評点がいずれも低く,「酸味が抑制されていた。」,「後味がより優れていた。」 との評価がされている(【0080】,【0081】)。これらの記載によれば, 上記各効果は本件各発明に共通し,そのうち特に優れた効果を奏するものを本件発 明6及び7として取り上げたと理解する余地はあり得る。もっとも,試験結果に係 る上記分析は,本件明細書の記載上,本件各発明の効果の記載(【0024】)に は反映されていない。そして,本件明細書において各評価項目の評価基準,評価手 法等が明らかにされていないことや,試験結果の数値のばらつきを考慮すると,前 記のような理解の合理性ないし客観性には疑問がある。 このように,本件各発明の効果に関しては,本件明細書の内部において不整合が あるといわざるを得ず,原告の上記主張はその前提自体に疑問がある。
c その点を措くとしても,タンパク質成分等の凝集抑制の効果について,本件 明細書によれば,請求項2,【0011】及び【0072】に記載された試験方法 により沈殿量を評価した場合の沈殿量が0cm超かつ11cm未満にある場合,タ ンパク質成分等の凝集がより抑制されると説明されている(【0011】,【00 12】)。また,表4及び図3には,pH4.3及び4.5それぞれの場合におい\nてペクチン添加量の割合を変化させた豆乳発酵飲料の沈殿量を示す実験結果が記載 されているところ,沈殿量が0cm超かつ11cm未満を満たさないものはペクチ ン及び大豆多糖類を共に含まないサンプルNo.1(pH4.3及び4.5),大 豆多糖類のみを含むNo.12(pH4.3及び4.5),ペクチンを10質量% で含むNo.11(pH4.3及び4.5)に止まり,ペクチンを20〜100質 量%で含むNo.2〜No.10は,pHの高低に依拠することなくタンパク質成 分等の凝集の抑制効果を奏することが示されている。 この点に鑑みると,タンパク質成分等の凝集の抑制効果につき,ペクチン添加量 の割合が20〜60質量%の範囲内にあることやpHの高低との関連性を見出すこ とは,必ずしもできない。 また,本件明細書によれば,pH4.5の場合でも,No.2〜No.10ではペクチン及び大豆多糖類の混合物を添加することによりタンパク質成分等の凝集の 抑制効果があるとされているところ(【0076】),このうちペクチンを50〜 20質量%含むNo.7〜No.10は,7℃における粘度が5.4mPa・s未 満である(表3及び図2)。この点に鑑みると,タンパク質成分等の凝集の抑制効\n果と5.4〜9.0mPa・sの粘度範囲との間に何らかの関連性を見出すことは できない。 以上によれば,タンパク質成分等の凝集の抑制効果は,ペクチン添加量,pH及 び粘度の全てが請求項に規定された範囲にある場合に初めて奏する効果であるとは 認められない。
d 酸っぱい風味,後に残る酸味及び口当たりの滑らかさの効果について,pH を4.3で固定した場合である表5及び図4の実験結果によると,酸っぱい風味は,\nペクチンと大豆多糖類を併用したサンプルのうち,おおむね,ペクチンのみを含むNo.2で酸っぱい風味が強く,大豆多糖類の量が増えるに従いこれが低減される 傾向がうかがわれ,No.6〜No.12(ペクチンの割合が60〜0質量%)に つき「酸味が抑制されていた」との評価がされ,中でもNo.7〜No.10(ペ クチンの量が50〜20質量%)で特に抑制されているとの評価がされている (【0080】,図4)。他方,ペクチンを60質量%含むNo.6は,大豆多糖 類のみを含むNo.12やペクチンを10質量%含むNo.11よりも酸っぱい風 味が強いとの評価がされている(【0080】)。 また,後に残る酸味の点では,ペクチンを60〜0質量%で含むNo.6〜No. 12がより優れていると評価され(【0081】,表5,図5),口当たりの滑ら\nかさの点では,ペクチンを60〜30質量%で含むNo.6〜No.9が優れてい ると評価されている(【0082】,表5,図6)。もっとも,ペクチンのみを含\nむNo.2も,後に残る酸味及び口当たりの滑らかさの両面でこれらの範囲内にあ る評点を得ている。また,口当たりの滑らかさの点では,ペクチンを20質量%含 むNo.10は口当たりの滑らかさの評点が低く,逆に,大豆多糖類のみを含むN o.12は口当たりの滑らかさで優れているとされる上記サンプルの数値の範囲内 に含まれる。 このように,pH4.3の場合の官能評価の結果からも,酸味の抑制,後に残る\n酸味の低減,口当たりの滑らかさに係る効果は,ペクチンと大豆多糖類を併用しな い場合やペクチンの添加量が20〜60質量%から外れる場合でも得られることが示されているから,これらの効果は,pH,粘度及びペクチン添加量の全てが請求 項に規定された範囲にある場合に初めて奏する効果であるとは認められない。
e このほか,本件明細書には豆乳発酵飲料以外の豆乳飲料や酸性乳飲料を比較 対象とした実験結果が記載されていないことも考慮すると,本件明細書からは,本 件各発明につき,相違点1−1〜1−4に係る構成を組み合わせ,一体のものとし\nて採用したことで,タンパク質成分等の凝集の抑制と共に,酸味が抑制され,後に 残る酸味が少なく後味が優れるという効果を奏するものと把握することはできない。

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平成30(行ケ)10023  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月14日  知的財産高等裁判所

 異議申立によって取り消された請求項3,4について、取消を求めました。知財高裁は、「本件明細書の記載のとおりの物性値を有していることを確認することができない」として、審決を取り消しました。\n

 被告は,本件決定は,本件出願前に販売されていた日本発条製の商品「ニ ッパレイEXT」と,甲5のカタログ記載のニッパレイEXTの物性値,甲 4及び甲5のカタログ記載のニッパレイEXGの物性値及び日本発条に対す るニッパレイEXTに関する問合せの回答結果に基づいて本件公知発明を認 定したものであり,その認定に誤りはない旨主張するので,以下において判 断する。
ア ニッパレイEXTの構造について\n
被告は,本件決定は,本件明細書の「実施例2」記載のニッパレイEX Tが「非発泡のポリエチレンテレフタレート(PET)シート(厚さ50 μm)上にポリウレタン系樹脂発泡シートが積層一体化されてなる積層シ ート」(【0106】)という構造を有していることを,甲5のカタログ\nを参照し,日本発条に問い合わせて確認して認定したものであり,本件決 定の認定に誤りはない旨主張する。 しかしながら,当業者は,本件出願前に,本件出願後に公開された本件 明細書に接することはできないから,ニッパレイEXTが本件明細書の記 載のとおりの構造を有しているかどうかを確認することはできない。\nまた,本件においては,本件決定の合議体が,本件決定をするに当たり, 日本発条に対してどのような方法で問合せをし,どのような回答が得られ たのか,その問合せ方法が,行政庁等の公的機関とは異なる一般の第三者 でも採り得る通常の方法であることを認めるに足りる証拠はない。もっと も,被告が本件訴訟提起後に日本発条にした問合せに対する同社の回答を 記載した本件回答書(乙2の1)には,ニッパレイEXTは,「PETの 上にEXGを一体発泡させたものがEXTです。(厚さは違いますが)」 との記載がある。この記載によれば,ニッパレイEXTは,上記構造を有\nしているものと認められるが,本件回答書の記載事項は被告が本件出願後 に取得した情報であって,一般の第三者が本件出願前に知り得た情報であ るとは直ちにはいえない。 加えて,前記(1)ウ認定のとおり,甲5のカタログには,ニッパレイEX Tや貼付されたサンプルの具体的な構\造についての記載がないのみならず, 当業者が,貼付されたサンプルを視認し,又は自ら測定することにより,\nニッパレイEXTの上記構造を知り得たことを認めるに足りる証拠はなく,\nましてやニッパレイEXTが,PETフィルム上にニッパレイEXGが積 層一体化されてなる積層シートであることを知り得たことを認めるに足り る証拠はない。 以上によれば,被告主張の本件決定における上記認定手法は相当とはい えず,本件においては,ニッパレイEXTが「非発泡のポリエチレンテレ フタレート(PET)シート(厚さ50μm)上にポリウレタン系樹脂発 泡シートが積層一体化されてなる積層シート」という構造を有しているこ\nとが本件出願前に公然知られ得る状態にあったことを認めるに足りる証拠 はない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イ ニッパレイEXTの物性値について
(ア) 被告は,本件決定は,ニッパレイEXTの物性値のうち,「引張強 さ」,「伸び」及び「ショアA硬度」については,甲5のカタログに記 載がないが,ニッパレイEXTは,ニッパレイEXGの片面に50μm 厚のPETフィルムを沿わせて構成しただけのものと認められるので,\n甲5のカタログ記載のニッパレイEXGの「引張強さ」,「伸び」及び 「ショアA硬度」と同じであるとみて差し支えないと考え,ニッパレイ EXGの各数値に基づいて,本件明細書の「表1」記載のとおりである\nことを確認して認定したものであり,本件決定の認定に誤りはない旨主張する。 しかしながら,前記ア認定のとおり,当業者が,本件出願前にニッパ レイEXTが,PETフィルム上にニッパレイEXGが積層一体化され てなる積層シートであることを知り得たことを認めるに足りる証拠は ない。 また,仮に被告が主張するように当業者がニッパレイEXTの上記構\n造を知り得たとしても,前記アのとおり,当業者は,本件出願前に,本 件出願後に公開された本件明細書に接することはできないから,ニッパ レイEXTが本件明細書の記載のとおりの物性値を有していることを 確認することはできない。 かえって,甲5のカタログに接した当業者においては,ニッパレイE XGについては6項目の物性値の全てについて記載があるのに,ニッパ レイEXTについては,6項目のうち,「引張強さ」,「伸び」及び「A 硬度 Shore−A」が空欄となっているのは,これらの物性値は測 定できないか,あるいはニッパレイEXGの物性値とは異なるものであ ると認識するというべきである。また,ニッパレイEXGのようなポリ ウレタン系樹脂発泡シートはスポンジ状で柔軟な性質を有するのに対し,PETフィルムは結晶性樹脂であるため強靭性を有し,各種ベース フィルムとして用いられること,異なる物性の材料を積層した積層体は, その構成部材の性質や状態によって全体としての物性が変化し得るも\nのであることは,本件出願当時の技術常識であったものと認められる (甲26)。かかる技術常識を踏まえると,甲5のカタログに接した当 業者においては,ニッパレイEXTの「引張強さ」,「伸び」及び「シ ョアA硬度」については,ポリウレタン系樹脂発泡シートであるニッパ レイEXGの各数値と同じ値であることを理解するものとはいえない。 以上によれば,本件決定におけるニッパレイEXTの物性値の「引張 強さ」,「伸び」及び「ショアA硬度」の各数値の上記認定手法は相当 とはいえず,これらの各数値が,甲5のカタログ記載のニッパレイEX Gの値と同じ値であることが,本件出願時に公然知られ得る事項であっ たと認めることはできない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(イ) 被告は,ニッパレイEXTの物性値のうち,甲5のカタログに記載 のない「引張強さ」,「伸び」及び「ショアA硬度」については,当業 者が,日本発条に問い合わせること,カタログに貼付されたサンプルを\nJIS規格等に従って測定すること,日本発条が顧客に製品の納品の際 に提供する「製品検査成績表」を同社から取得することなどにより,極\nめて容易に確認することができるから,公然知られ得る状態にある事項 であり,現に被告は日本発条に対して再度の問合せを行い,日本発条から本件回答書(乙2の1)及び本件データシート(乙3)を得た旨主張 する。 しかしながら,前記アで説示したとおり,本件回答書の記載事項は被 告が本件出願後に取得した情報であって,一般の第三者が本件出願前に 知り得た情報であるとは直ちにはいえないし,また,その問合せ方法が, 行政庁等の公的機関とは異なる一般の第三者でも採り得る通常の方法 であることについての立証はない。 また,本件回答書(乙2の1)は,甲5のカタログの「引張強さ」, 「伸び」及び「ショアA硬度」の3項目に値が記載されていない理由と して,「PETが一体であるため測定できないからです。」と回答して いること,本件データシート(乙3)には「EXTはペットサポートタ イプの為,引張強さ,伸びの物性は測定不能となります。」との記載があることに鑑みれば,当業者が日本発条に問い合わせたとしても,ニッ\nパレイEXTの「引張強さ」,「伸び」及び「ショアA硬度」を容易に 確認することができたものと認めることはできない。 さらに,甲5のカタログに貼付されたサンプルをJIS規格等に従っ\nて測定した場合に,ニッパレイEXTとニッパレイEXGの「引張強さ」, 「伸び」及び「ショアA硬度」が同じ値となることを認めるに足りる証 拠はない。同様に,日本発条が顧客に製品の納品の際に提供する「製品 検査成績表」(ニッパレイEXGについては,甲38の別紙4))を同社 から取得できたとしても,ニッパレイEXTの物性値の「引張強さ」, 「伸び」及び「ショアA硬度」が,甲5のカタログ記載のニッパレイE XGの値と同じ値であることが本件出願時に公然知られ得る事項であ ったことを認めることはできない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
ウ まとめ
以上のとおり,ニッパレイEXTが「非発泡のポリエチレンテレフタレ ート(PET)シート(厚さ50μm)上にポリウレタン系樹脂発泡シー トが積層一体化されてなる積層シート」という構造を有していることが本\n件出願前に公然知られ得る状態にあったことを認めることはできない。ま た,仮にニッパレイEXTの上記構造が公然知られ得る状態にあったとし\nても,ニッパレイEXTの物性値のうち,「引張強さ」,「伸び」及び「シ ョアA硬度」が,甲5のカタログ記載のニッパレイEXGの値と同じ値で あることが,本件出願前に公然知られ得る状態にあったものと認めること はできない。 したがって,本件決定認定の本件公知発明のうち,少なくとも「引張強 さ」,「伸び」及び「ショアA硬度」の認定に誤りがあるというべきであるから,本件決定における本件公知発明の認定は誤りである。
(3) 小括
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件決定は,公 知発明の認定を誤り,その結果本件発明3と本件公知発明との一致点の認定 を誤り,相違点を看過したことが認められる。 したがって,本件発明3は,本件公知発明及び甲7(本件決定・引用文献 1)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた とした本件決定の進歩性の判断は誤りである。同様に,本件決定における本 件発明3の特定事項を全て含む本件発明4の進歩性の判断も誤りである。

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平成29(行ケ)10106  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年10月22日  知的財産高等裁判所

 知財高裁2部は、進歩性違反無しとした審決を取り消しました。審決は予測できない効果があると認定しましたが、裁判所は、比較対象や有効性の程度を当業者が推論できないと判断しました。\n
 甲1発明の医薬は,治療的有効量の抗HER2抗体を含有する医薬で あるが,前記2(1)オによると,本件優先日当時,1)抗HER2抗体は,HER2蛋 白の細胞外領域に対し結合することにより,HER2蛋白を過剰発現する乳がん細 胞の増殖を抑制するとともに,抗体依存性細胞障害(ADCC)を示すこと,2)H ER2蛋白の過剰発現は,転移性乳がんに限らず,初期乳がんの25%〜30%で 観察されること,3)HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有する転移性乳がん患者の 臨床試験では,パクリタキセルを含む特定の化学療法剤の単独投与群に比べて,そ の化学療法剤と抗HER2抗体の併用投与群の方が病勢進行の期間(無増悪期間) が長期化し,全奏効率(ORR)が向上し,反応期間の中央値が長期化し,1年間 の生存率が高まるなど,抗腫瘍効果が増強されることが観察されたこと,4)抗HE R2抗体の臨床試験では,単剤投与においても,化学療法剤との併用投与において も,HER2蛋白をより強く発現している症例の方が抗腫瘍効果,無増悪期間とも に優れている傾向にあったことは,いずれも技術常識であったものと認められる。 また,前記2(3)エによると,本件優先日当時,乳がんの治療薬の開発においては, 転移性乳がんの患者に対する抗がん効果を踏まえて,手術可能乳がんの患者に対す\nる抗がん効果を確認することになることは,技術常識であったものと認められる。 そして,これらに,本件優先日前に頒布された刊行物であり,「乳がんのための術 前補助療法の将来的方向」を表題とする甲2には,抗HER2抗体とドキソ\ルビシ ン,シクロホスファミドを転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介し た直後に,「一次化学療法と組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がん の患者で評価されるべきものである」と記載されている(前記2(1)イ(ア)(カ))ことを 総合すると,甲1に接した当業者は,HER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がん\nの治療のために,治療的有効量の抗HER2抗体を含有する医薬である甲1発明の 医薬を適用することを容易に想到するものと認められる。
(イ) 前記2(1)オ,(2)エによると,本件優先日当時,1)乳がんにおいて,乳 房温存の成否は一般に女性のQOL(生活の質)に大きな影響を与えるところ,術 前補助療法は,手術をより容易とし,乳房温存も高率に可能とすることが示されて\nいたこと,2)手術可能乳がんにおいて,術前化学療法,次いで外科的に腫瘍を除去\nし,更に術後補助化学療法を行うことは,一般的治療法として行われていること, 3)HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有する転移性乳がん患者の臨床試験では,パ クリタキセルを含む特定の化学療法剤の単独投与群に比べて,その化学療法剤と抗 HER2抗体の併用投与群の方が病勢進行の期間(無増悪期間)が長期化し,全奏 効率(ORR)が向上し,反応期間の中央値が長期化し,1年間の生存率が高まる など,抗腫瘍効果が増強されることが観察されたことは,技術常識であったと認め られる。また,本件優先日前に頒布された刊行物である甲3には,HER2過剰発 現の転移性乳がん患者に対する抗HER2抗体とパクリタキセルなどの化学療法剤 の併用投与が化学療法剤の単独投与に比べて全寛解率,進行までの中央値時間とも 優れた効果を発揮したことを紹介した上で,「転移性状況や術後補助状況で成功す ることが分かっている新規の化学療法戦略はまた,術前処置においても潜在的に適 用されうる」と記載されている(前記2(1)ウ(オ)(カ))。 そして,これらに,本件優先日前に頒布された刊行物であり,「乳がんのための術 前補助療法の将来的方向」を表題とする甲2には,抗HER2抗体とドキソ\ルビシ ン,シクロホスファミドを転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介し た直後に,「一次化学療法と組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がん の患者で評価されるべきものである」と記載されている(前記2(1)イ(ア)(カ))ことを 総合すると,甲1に接した当業者が,HER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がん\nの治療のために,手術前に甲1発明の医薬を化学療法剤と併用投与し,手術を行い, 更に手術後に甲1発明の医薬を化学療法剤と併用投与することは,容易に想到し得 たものと認められる。
イ(ア) 被告は,本件優先日当時,トラスツズマブの生体内における作用機序は 未だ研究対象であり,化学療法についても投与計画について検討が続けられており, いずれの文献にも,乳がんの治療において,抗体を術前投与するという記載は全く 存在していなかったから,未だ承認されたばかりの新規の抗体を,その奏効が確認 されつつあった化学療法剤の術前投与に代えて,又は加えて,投与してみることは, 当業者であればこそ考えないなどと主張する。 しかし,前記アのとおり,抗HER2抗体である甲1発明の医薬を手術前に化学 療法剤と併用投与することは,当業者が容易に想到し得たものである。 また,前記2(1)オのとおり,抗HER2抗体には心毒性があり,投与により心室 機能不全及びうっ血性心不全が起こり得るものと認められるが,甲1発明の医薬は\n転移性乳がんの患者を対象とした医薬製剤として承認されているものであり,手術 可能乳がんの患者に対する適用をためらわせるほどに安全性に問題があるものとは\n認められない。
(イ) 被告は,甲2について,論文全体を通じて,最適な治療レジメンにおい ては,まず化学療法が行われ,他の治療法は時間的に後で実施されると明確に述べ ているなどと主張するが,甲2は,「乳がんのための術前補助療法の将来的方向」と いう表題の論文であり,抗HER2抗体とドキソ\ルビシン,シクロホスファミドを 転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介した直後に「一次化学療法と 組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がんの患者で評価されるべきも のである」と記載されているのであるから,早期乳がんの患者に対して抗HER2 抗体と化学療法を組み合わせて術前に処方することが示唆されているということが でき,前記アのとおり,甲2の記載は抗HER2抗体である甲1発明の医薬を手術 前に化学療法剤と併用投与することを動機付けるものということができる。
(ウ) 被告は,転移リスクの高いがん(既に転移したがん)の細胞は,原発部 位に留まるがんの細胞とは性質が異なるなどと主張する。 しかし,前記2(3)ウのとおり,本件優先日当時,がんにおいて,転移巣の組織像 は基本的には原発巣と同一であると考えられていたところ,被告は,HER2蛋白 を過剰発現した転移性乳がんの細胞とHER2蛋白を過剰発現した手術可能乳がん\nの細胞とのいかなる性質の違いが,どのような理由によりHER2蛋白の細胞外領 域に対し結合する抗HER2抗体(標的化治療薬)をHER2蛋白を過剰発現した 手術可能乳がんの細胞に適用することの支障となり得るのかを具体的に主張してお\nらず,HER2蛋白を過剰発現した転移性乳がんの細胞とHER2蛋白を過剰発現 した手術可能乳がんの細胞との性質の違いが,HER2蛋白の細胞外領域に対し結\n合する抗HER2抗体(標的化治療薬)をHER2蛋白を過剰発現した手術可能乳\nがんの細胞に適用することの支障となることを示す証拠も見当たらない。 したがって,被告の上記主張は,前記アの判断を左右するものとは認められない。
(4) 本件特許発明1の効果について
ア 前記1のとおり,本件訂正明細書には,本件特許発明1の効果として, 臨床試験の結果などは示されておらず,「上記の治療方法に従って治療された患者 は,全体的に改善された生存者,及び/又は腫瘍の進行時間(TTP)の延長を示 すであろう。」(【0119】)との記載があるにとどまる。 ところで,前記2(1)(2)の各刊行物の記載からすると,乳がんにおいて,生存率及 び腫瘍の進行時間(TTP)は,抗がん剤の効果を図る一般的な指標であると認め られるところ,上記の本件訂正明細書の記載は,生存率の改善及び腫瘍の進行時間 (TTP)の延長がいかなる対象(例えば,手術のみを行った場合か,手術と術後 化学療法を行った場合か,術前化学療法と手術と術後化学療法を行った場合か,術 前化学療法と手術と抗HER2抗体の術後投与を行った場合か,手術可能乳がんに\n対し抗HER2抗体投与のみを行った場合か)と比較して達成されるものであるの かという比較対象や,生存率の改善や腫瘍の進行時間(TTP)の延長がいかなる 程度達成されるのかという有効性の程度については,何ら記載されていない。また, 本件訂正明細書の記載から,その比較対象や有効性の程度を当業者が推論できるも のとも認められない。 そうすると,本件特許発明1の効果は,本件特許発明1の医薬がこれを投与しな い場合と比較して生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的 効果を有することにとどまるものとするのが相当である。 そして,前記2(1)アのとおり,甲1には,HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有 する転移性乳がん患者に対し,甲1発明の医薬を特定の化学療法剤(1)パクリタキ セル,2)アントラサイクリン〔ドキソルビシン又はエピルビシン〕及びシクロホス\nファミド)と併用投与すると,その化学療法剤を単独投与された患者に比べ,病勢 進行の期間が著しく長期化し,1年間の生存率が高まることが記載されているから, 当業者は,甲1発明の医薬が,HER2蛋白を過剰発現する転移性乳がん患者に対 し,生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果を有する ことを理解することができ,この甲1発明の医薬を本件特許発明1の工程によりH ER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がんに適用した場合に,これを投与しない場\n合と比較して生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果 を有することは,当業者が予測可能\なものである。
イ 被告は,本件訂正明細書の発明の効果の定性的な記載に基づき,具体的 な実験データを参照することは妥当であるから,甲17,19〔審判乙1,3〕に 基づき本件特許発明1には顕著な効果があるなどと主張する。 しかし,前記アのとおり,本件訂正明細書の記載及びこれから推論できる本件特 許発明1の効果は,本件特許発明1の医薬がこれを投与しない場合と比較して生存 率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果を有することにと どまる。そこで,本件優先日後の刊行物である甲17,19〔審判乙1,3〕の実 験データを,本件訂正明細書の記載の範囲で,上記定性的効果を示すという限度に おいて参酌するとしても,前記アのとおり,上記定性的効果は当業者が予測可能\な ものであるから,顕著な効果を示すものということはできない。他方,甲17,1 9〔審判乙1,3〕の実験データを,上記定性的効果を超えて参酌することは,本 件訂正明細書の記載の範囲を超えるものであるから,これを本件特許発明1の効果 として参酌することはできない。その余の本件優先日後の刊行物である甲18,2 0,21〔審判乙2,4,5〕についても,同様である。 したがって,本件優先日後の刊行物である甲17〜21〔審判乙1〜5〕につい ては,その具体的内容を検討するまでもなく,本件特許発明1に顕著な効果がある ことを示すものということはできない。

◆判決本文

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