知財みちしるべロゴマーク
知財みちしるべトップページへ

更新メール
購読申し込み
購読中止

知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

ピックアップ対象

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和1(ワ)11673  差止請求等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和3年9月3日  東京地方裁判所

 女性用下着の形状について、周知著名商品等表示ではないと判断されましたが、不競法2条1項3号の形態模倣であるとして、約2億円の損害賠償が認められました。

 原告は,原告商品は形態1)ないし7)を組み合わせたものであり,原告 商品全体の形態と同一又は類似の商品は見当たらないから,他の同種商 品と識別し得る特徴を有すると主張する。 しかし,原告商品の販売が開始された当時,原告商品が備える形態1) ないし7)の全てを備えるブラジャー又はナイトブラが販売されていたこ とを認めるに足りる証拠はないものの,前記(1)ウ(ア)のとおり,形態1) ないし7)のうちの3つ又は4つを備える商品AないしGが存在していた。 そうすると,原告商品の販売開始時点では,既に,原告商品の形態に似 通った商品が複数販売されていたということができる。しかも,前記(ア) のとおり,原告商品の形態1)ないし7)は,いずれも他の商品とは異なる 顕著な特徴とは認められないから,当該商品には認められないが原告商 品には認められる形態上の特徴により,需要者であるブラジャー又はナ イトブラの購入に関心がある一般消費者が出所の違いを識別することが できるとはいえない。そして,形態1)ないし7)を組み合わせることによ り上記需要者の注意を特に惹くことになる事情も見当たらないことから すると,形態1)ないし7)を組み合わせた原告商品の形態が他の同種の商 品とは異なる顕著な特徴を有していると認めることはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 周知性について
前記(1)イ(ア)のとおり,原告商品は平成28年9月12日に販売が開始 されたところ,原告商品の形態につき周知性が確立したと原告が主張する 平成29年12月までに約1年4か月,被告商品1の販売が開始された平 成30年10月まででも約2年1か月しか経過していない。そして,前記 (1)ウ(ア)のとおり,原告商品の販売が開始される前から,原告商品が備え る形態1)ないし7)のうち複数を有するブラジャー又はナイトブラが販売さ れており,原告商品の形態が原告によって長期間独占的に利用されたとは 認められない。
・・・
商品の形態を比較した場合,問題とされている商品の形態に他 人の商品の形態と相違する部分があるとしても,当該相違部分についての 改変の内容・程度,改変の着想の難易,改変が商品全体の形態に与える効 果等を総合的に判断した上で,その相違がわずかな改変に基づくものであ って,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見て些細な 相違にとどまると評価されるときには,当該商品は他人の商品と実質的に 同一の形態というべきである。
イ 被告商品1について
(ア) 前記(1)アのとおり,被告商品1は,原告商品が備える形態1)ないし7) を全て備え,別紙3比較写真目録記載の写真のとおり,全体的なデザイ ンはほぼ同一であるといえる。 被告商品1と原告商品の間には相違点1)が認められるが,別紙2原告 商品目録記載の写真のとおり,原告商品のカップ部の中央に付けられた リボンはごく小さな装飾にすぎず,そのようなリボンを取り外すという 改変については,その程度はわずかであり,着想することが困難である とはいえず,商品全体の形態に与える効果もほとんどないといえる。 また,被告商品1と原告商品の間には相違点2)が認められるが,別紙 1被告商品目録記載1の写真のとおり,左右の前身頃を構成する3枚の 生地のうち最下部にある生地が被告商品全体に占める面積はそれほど大 きいものではなく,他の部分の布地と同系色であってレース生地の存在 が際立つものではない上,別紙3比較写真目録記載の写真のとおり,原 告商品と被告商品1とで,ナイトブラとしての機能を成り立たせるパー ツの形状及び構成は同一といってよいことからすると,相違点2)は,需 要者であるブラジャー又はナイトブラの購入に関心がある一般消費者に 対し,原告商品よりもレース生地が比較的多いという印象を与えるにと どまるから,被告商品1の上記部分をレース生地とすることが商品全体 の形態に与える効果は小さいといえる。さらに,前記1(2)イのとおり, ブラジャーにレース生地を用いること自体ありふれた形態であり,上記 部分を無地の生地からレース生地に置き換える着想が困難であるともい えない。
そうすると,相違点1)及び2)は,いずれもわずかな改変に基づくもの であり,商品の全体的形態に与える変化は乏しく,商品全体から見て些 細な相違にとどまるといえるから,被告商品1は原告商品と実質的に同 一の形態であると認めるのが相当である。 (イ) 前記(ア)のとおり,被告商品1と原告商品は実質的に同一の形態であり, 前記前提事実(2)及び(3)アのとおり,被告商品1の販売が開始された平 成30年10月頃に先立つ平成28年9月12日に原告商品の販売が開 始されているところ,本件全証拠によっても,被告が被告商品1を独自 に開発したことをうかがわせる事情は認められないことからすると,被 告は原告商品の形態に依拠して被告商品1を作り出したと推認するのが 相当である。
(ウ) 以上によれば,被告商品1は,原告商品の「商品の形態」を「模倣し た商品」であると認められる。
・・・
また,被告商品2と原告商品の間には相違点5)が認められるが,別紙 1被告商品目録記載2の写真のとおり,被告商品2も,被告商品1と同 様,レース生地の色合いが他の部分の布地と同系色であって,レース生 地の存在が際立つものではなく,被告商品2では,被告商品1よりレー ス生地が多く用いられているものの,そのレース生地が肩紐部や背部と いった比較的注目することが多くないと考えられる部分に用いられてお り,一方で,同写真と別紙2原告商品目録記載の写真を見比べると,原 告商品と被告商品2とで,ナイトブラとしての機能を成り立たせるパー ツの形状及び構成はほぼ同一であるといえることからすると,この改変 が商品全体の形態に与える効果は大きくないというべきである。さらに, 前記1(2)イのとおり,ブラジャーにレース生地を用いること自体ありふ れた形態であり,被告商品2の相違点5)に係る部分を無地の生地からレ ース生地に置き換える着想が困難であるとはいえない。 被告商品2と原告商品の間には相違点6)が認められるが,ホックが4 段階であるか3段階であるかの違いにすぎず,ホックを連結する段階数 を増やすという改変を着想することは容易であり,そのような改変が商 品全体の形態に与える効果は小さいといえる。 そうすると,相違点3)ないし6)は,いずれもわずかな改変に基づくも のであり,商品の全体的形態に与える変化は大きくなく,商品全体から 見て些細な相違にとどまるといえるから,被告商品2は原告商品と実質 的に同一の形態であると認めるのが相当である。
(イ) 前記(ア)のとおり,被告商品2と原告商品は実質的に同一の形態であり, 前記前提事実(2)及び(3)イのとおり,被告商品2の販売が開始された平 成31年2月頃に先立つ平成28年9月12日に原告商品の販売が開始 されているところ,本件全証拠によっても,被告が被告商品2を独自に 開発したことをうかがわせる事情は認められないことからすると,被告 は原告商品の形態に依拠して被告商品2を作り出したと推認するのが相 当である。
・・・
不競法5条2項の侵害者が侵害行為により受けた利益の額は,侵害者の侵 害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりその製 造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額で あると解するのが相当である。 辞任前の被告訴訟代理人が作成した一覧表(甲54)によれば,被告が被 告商品1を販売したことにより,1億5794万円の売上げがあり,商品原 価として2650万円,カード決済料金として552万7900円及び送料 原価として2650万円を要したこと,被告が被告商品2を販売したことに より,1億4254万5320円の売上げがあり,商品原価として2873 万7640円,カード決済料金として498万9086円及び送料原価とし て2391万7000円を要したことが認められる。
そして,弁論の全趣旨 によれば,上記の商品原価,カード決済料金及び送料原価は,いずれも被告 各商品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と認められる。 他方で,上記一覧表(甲54)には,被告商品1につき広告費として73 20万5070円,人件費420万円及び販売システム費用789万700 0円,被告商品2につき広告費として7063万0834円,人件費630 万円及び販売システム費用712万7266円を要したかのような記載があ る。しかし,被告が上記広告費を支出してどのような内容の広告をしたのか, それが被告各商品に係るものであったかは,証拠上明らかではないし,上記 人件費及び販売システム費用がいかなる目的で支出されたかも証拠上明らか でないから,これらの費用は,被告各商品の製造販売に直接関連して追加的 に必要となった経費とは認められない。
したがって,被告が被告商品1を販売したことによる利益の額は9941 万2100円(=1億5794万円−2650万円−552万7900円− 2650万円)であると,被告商品2を販売したことによる利益の額は84 90万1594円(=1億4254万5320円−2873万7640円− 498万9086円−2391万7000円)であると,それぞれ認められ る。
(2) 本件訴訟に現れた全ての事情を勘案すると,本件訴訟の弁護士費用相当の 損害額は,被告商品1につき994万1210円,被告商品2につき849 万0159円と認めるのが相当である。
(3) したがって,被告が被告各商品を販売したことにより原告が被った損害額 は,合計2億0274万5063円である。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商品形態
 >> 著名表示(不競法)
 >> 周知表示(不競法)
 >> 不正競争(その他)
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10044  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年8月30日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が取り消されました。論点は「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」との動機付けがあるか否かです。

 原告は,相違点2に関し,本件審決が,1)刊行物5の記載及び脂質の大量 の摂取を控えることが健康上の技術常識であることを考慮すると,1回の「用 量」でω−6脂肪酸を40gを超えた脂質含有配合物として用いることは考 えられないから,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」であること(相違点 2に係る本願発明の構成)は,刊行物5に記載自体がなくとも記載されてい\nるに等しい事項であるから,相違点2は,実質的な相違点ではないか,刊行 物5発明において,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることは,「用 量」の意味が,1回の「用量」や1日の「用量」であるかにかかわらず当業 者が容易になし得る技術的事項である旨判断したのは誤りである旨主張する ので,以下において判断する。
ア(ア) 刊行物5(甲24)には,1)「従来の技術」として「最近の日本人の 食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え, 脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の 種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増 加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。これ らの疾病の原因は,脂肪酸の摂取過多と考えられていた。しかし,研究 が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和脂肪酸の種類の摂取アンバラン\nスによることが判明した。これは肉類に多く含まれるω−6脂肪酸であ るアラキドン酸から産生される2型のプロスタグランジンやロイコトリ エンなどが過剰になり,ω−3脂肪酸によって産出される3型のプロス タグランジンやロイコトリエンとのバランスがくずれる事による。」(前 記(1)エ),2)「発明が解決しようとする課題」として,「ω−6脂肪酸の 過剰摂取は,PGF2α,TXA2などの2型プロスタグランジンやロイ コトリエンの産生を促し,血小板凝集や血管収縮を起こし動脈硬化や血 栓症を誘発する。しかしω−3脂肪酸は逆に,これらの疾患を抑制した り,更に,乳癌や大腸癌の発癌率を抑えたり(・・・),癌細胞の転移能を低\n下させる(・・・)ことが報告されている。・・・気をつけなければならないの は,ω−3脂肪酸ばかりを摂取するのではなく,ω−3脂肪酸とω−6 脂肪酸をバランス良く摂取することである。しかし,前述のように現在 の日本人の食事はω−6脂肪酸の摂取に偏っている。この状態を改善す るためにω−3脂肪酸などを高濃度に濃縮して添加した食品や栄養補助 剤などが開発された。しかしこれらの製品を過度に摂取した場合,逆に ω−3脂肪酸の過剰摂取につながり新たな疾病の原因となる。そこでω −3,ω−6脂肪酸の適正な比率での摂取が必要である。」,「本発明は, ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,前述 の疾病の予防や改善に効果が期待されるように,脂質の脂肪酸組成を適\n正比率に調整した食品を提供することを目的とする。」(以上,前記(1)オ), 3)「課題を解決するための手段」として,「本発明の食品は,脂肪酸組成 をω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5になるように調 整した高度不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする。」,「本発明の食品の脂 肪酸組成は,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5にな るように調整する。この範囲よりも小さいときは,ω−3脂肪酸が過剰 になり,この範囲よりも大きいときはω−6脂肪酸が過剰になってしま い,いずれの場合もω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との摂取バランスが崩 れてしまうので好ましくない。」(以上,前記(1)カ),4)「発明の効果」 として,「本発明によれば,食品に含有される脂質のω−3,ω−6脂肪 酸の比率を適正比率である1:1〜1:5に保つように調製された食品 を提供することができるので,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバランス 良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸 癌などの疾病の予防や改善に効果が期待される。」(以上,前記(1)キ)と の記載がある。
これらの記載によれば,刊行物5には,刊行物5記載の高度不飽和脂 肪酸を含む食品(「本発明」)の技術的意義に関し,従来は,高血圧,心 臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の原因は,脂肪酸の「摂 取過多」と考えられていたが,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不\n飽和脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明したこと,現在 の日本人の食事はω−6脂肪酸の摂取に偏っており,この状態(ω−6 脂肪酸の「過剰摂取」)を改善するためにω−3脂肪酸などを高濃度に濃 縮して添加した食品や栄養補助剤などが開発されたが,これらの製品を 過度に摂取した場合,逆にω−3脂肪酸の「過剰摂取」につながり新た な疾病の原因となるため,ω−3,ω−6脂肪酸の適正な比率での摂取 が必要であることから,「本発明」は,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバ ランス良く摂取することができ,前述の疾病の予防や改善に効果が期待\nされるように,脂質の脂肪酸組成を適正比率に調整した食品を提供する ことを目的とし,その課題を解決するための手段として,脂肪酸組成を ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5になるように調整 した高度不飽和脂肪酸を含む構成を採用し,これによりω−3脂肪酸と\nω−6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循 環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の予防や改善の効果が期待される\nことについての開示があることが認められる。また,前記(1)の刊行物5 の記載によれば,刊行物5において,「過剰摂取」の用語は,ω−3脂肪 酸,ω−6脂肪酸が適正比率(1:1〜1:5)の範囲を基準として, 「この範囲よりも小さいときは,ω−3脂肪酸が過剰になり,この範囲 よりも大きいときはω−6脂肪酸が過剰にな」ると述べていること(前 記(1)カ)に照らすと,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との摂取バランス(比 率)が崩れた状態を表現するために用いており,一方で,「摂取量」が多\nい状態を表現するときは「摂取過多」の用語を用い,「摂取量」との関係\nでは,「過剰摂取」の用語を用いていないことが認められる。 以上を前提に検討すると,刊行物5における「最近の日本人の食生活 は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,脂肪の 摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の種類も 変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増加して, こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との記載は, それに引き続き「しかし,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和\n脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明した。」などの記載が あることに照らすと,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加した こと自体が問題であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆す るものではないと理解するのが自然である。 また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取 量を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」 は,1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や 示唆はない。
(イ) 次に,本件審決が述べるように「脂質の大量の摂取を控えること」 自体が健康上の技術常識であるといえるとしても,脂質の適正な摂取量 は,年齢,性別,エネルギー摂取量等の要素によって変わり得るものと 考えられるから,そのことから直ちに「脂肪の摂取量」を1日当り40 g以下とすることが技術常識であることを導出することはできないし, それが技術常識であることを前提に「ω−6脂肪酸の用量」は,1日又 は1回当たり「40g以下」とすることが技術常識であるということは できない。本件においては,他に「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」 とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。 イ(ア) 前記アの認定を総合すると,刊行物5には,本件審決のいう技術常 識を踏まえても,刊行物載5発明に含有する「ω−6脂肪酸の用量は, 40g以下であること」についての実質的な開示があるものと認めるこ とはできない。 そうすると,刊行物5発明が「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」 であるとの構成(相違点2に係る本願発明の構\成)を有することは認め られないから,相違点2は実質的な相違点であるものと認められる。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(イ) 次に,前記ア認定のとおり,刊行物5には,脂肪の摂取量を1日当 たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」は,1日又 は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆はなく, また,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であ ることを認めるに足りる証拠がないことに照らすと,刊行物5に接した 当業者が,刊行物5発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採\n用することの動機付けがあるものと認めることはできないから,上記構\n成とすることを容易に想到することができたものと認められない。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。
ウ これに対し被告は,1)刊行物5には,脂肪の摂取量については1日当た り40gと増加しているとの記載及びそれを問題であると認識している ことの記載があり,刊行物5発明は,脂質(脂肪)の取り過ぎの抑制を前 提に,ω−6脂肪酸とω−3脂肪酸をバランス良く摂取することを技術思 想とする発明であるから,脂質の一部である不飽和脂肪酸のさらに一部で あるω−6脂肪酸を一定以下に抑えることは当然であり,脂質全体として 取り過ぎであるとの認識である40gという値以下と特定することには 強い動機付けがある,2)しかも,1日の脂質摂取は,刊行物5発明のドリ ンク剤組成物以外の食品からも生じるのであるから,1日又は1回当たり ω−6脂肪酸40g以下との上限を設定することは,当業者が容易になし 得る技術的事項であるから,当業者は,刊行物5発明において,相違点2 に係る本願発明の構成とすることを容易に想到することができた旨主張\nする。
しかしながら,前記ア(ア)で説示したとおり,刊行物5における「最近の 日本人の食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に 増え,脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾 病の種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが 増加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との 記載は,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加したこと自体が問題 であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆するものではない。 また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取量 を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」は, 1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆は ない。 加えて,本件においては,他に「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」 とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,刊行物5に接した当業者が刊行物5発明において相違点2 に係る本願発明の構成を採用することの動機付けがあるものと認めるこ\nとはできないから,被告の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)4332  特許権侵害行為差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月20日  東京地方裁判所

 特許権侵害事件で無効理由無し、技術的範囲に属するとの判断がなされました。被告らは共同関係にないと主張しましたが認められませんでした。

上記認定事実のとおり,被告ジョウズ及び被告アンカーは,いずれもAn kerグループに属する法人であり,被告ジョウズの設立時の代表者と被告\nアンカーの代表者は同一である上,被告ジョウズの令和元年9月時点での従\n業員数は2名であり,そのうちの1名であるZは令和元年5月に被告アンカ ーから被告ジョウズに移籍しているとの事実が認められる。また,被告ジョ ウズの本店所在地のオフィスの利用契約上の地位は被告アンカーから譲り受 けたものであるなど,両社には密接な人的及び物的な関係があるということ ができる。
また,被告ジョウズは被告製品1及び2の販売に関する記者発表が行われ\nる約4か月前に設立されているが,その人的態勢は,代表者であるYのほか\n従業員が2名にすぎず,その2名についても,令和元年9月1日から同月3 0日までの1人当たりの勤務日数及び勤務時間は通常の事業活動をしている とは考え難いほど短い。また,被告ジョウズのオフィスはシェアオフィスで あり,平成30年10月時点において,同オフィスの入居するビル1階の受 付には被告ジョウズの表示はなかったことなどによれば,被告ジョウズが被\n告製品に関する実質的な事業活動を行っていたとは考え難い。 さらに,上記のとおり,楽天における被告製品の販売サイトにおける商品 の返送先住所は被告アンカーの所在地と同じビルであると認められるところ, 被告ジョウズが被告アンカーに対して返品された商品の取扱いを委託すると ともに,マーケティング業務などを委託していたことについては当事者間に 争いがない。被告らは,被告アンカーが受託したのは上記業務に限定される と主張するが,マーケティング業務も行いながら,商品については返品取扱 い業務のみを取り扱っていたとは考え難く,上記の被告ジョウズの物的・人 的態勢も考慮すると,被告アンカーは被告製品の販売等に関する業務を被告 ジョウズと共同して行っていたと推認することが相当である。
加えて,被告製品1及び2の記者発表に関する記事等には,「Anker\nグループが技術的にサポートしたことから,アンカー・ジャパンのY社長が ジョウズ・ジャパンの代表取締役を兼任する」などと記載されていること,\n被告製品3の記者発表は当時まだ被告アンカーの在籍していたZが行ってい\nること,被告商品に関するウェブページには,同製品がAnkerグループ ないし中国アンカー社のサポートを受けて作られたものである旨の説明がさ れていること,Ankerグループのオフィシャルストアの海外のウェブサ イトにおいて被告製品が「Anker Jouz 20」などとして販売さ れていることなどの事実によれば,被告製品に関する事業には,被告アンカ ーを含むAnkerグループや中国アンカー社が関与していることがうかが われる。 以上を総合すると,被告アンカーが被告ジョウズと共同して被告製品の販 売等をしていたと認めるのが相当である。
(3) 被告らの主張について
ア これに対し,被告らは,被告製品に関する業務の委託先の一つにすぎず, 被告製品の返品及びマーケティング業務等の委託を受けていただけであ り,業務委託の対価も固定額であり,被告製品の販売実績によって金額が 左右されるものではないと主張する。
しかし,被告らからは,被告アンカーから被告ジョウズに宛てた業務委 託料の請求書や担当者名等が黒塗りされた請求書や電子メール等が提出 されているにとどまり,被告ジョウズと被告アンカーとの間の業務委託契 約書,被告製品に関する費用や利益の帰属を示す客観的な証拠,被告アン カーが行っていた業務の実態やこれに関与した者の氏名や具体的な役割 等を客観的かつ具体的に明らかにする証拠は提出されていない。 前記判示のとおり,被告ジョウズと被告アンカーの人的・物的関係や被 告ジョウズの実態などを考慮すると,被告アンカーは被告ジョウズから一 部の業務を受託していたにとどまらず,被告製品の販売等に関する業務を 同被告と共同して行っていたと推認することが相当であり,これを覆すに 足りる的確な証拠は存在しない。したがって,被告らの上記主張は理由がない。
イ 被告らは,被告ジョウズと被告アンカーには資本関係がなく,取扱製品 も異なる上,代表取締役自らが営業等を行っている会社は多数存在し,商\n品開発において他社と協力することも通常の事業活動にすぎないので,被 告らに相互に相手方の役割等を認識し,これを利用する意思はなかったと 主張する。
しかし,両社はいずれもAnkerグループに属する法人であり,被告 ジョウズの設立時の代表者と被告アンカーの代表\者は同一である上,被告 ジョウズは本店所在地のオフィスの利用契約上の地位を被告アンカーか ら譲り受けるなど,両社には密接な人的及び物的な関係があることは前記 判示のとおりである。また,被告ジョウズの実態などを考慮すると,被告 アンカーが返品処理業務やマーケティングなど一部の業務を受託してい たにとどまらず,被告製品の販売等に関する業務を被告ジョウズと共同し て行っていたと評価し得ることも上記のとおりである。 したがって,被告らの上記主張は理由がない。
(4) 以上によれば,被告アンカーは,被告ジョウズと共同して,被告製品の販 売,輸入及び販売の申出をしてきたと認められる。\n

◆判決本文

関連事件です。

◆令和1(行ケ)10174

下記はアップされていません。 令和1年(ワ)20075特許権侵害差止請求事件

関連カテゴリー
 >> その他特許
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10132  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年8月31日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決について、裁判所は予測できない効果ではないとして、これを取り消しました。\n

 発明の効果が予測できない顕著なものであるかについては,当該発明の\n特許要件判断の基準日当時,当該発明の構成が奏するものとして当業者が\n予測することのできなかったものか否か,当該構\成から当業者が予測する\nことのできた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点か ら検討する必要がある(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年 8月27日第三小法廷判決・集民262号51頁参照)。もっとも,当該発 明の構成のみから予\測できない顕著な効果が認められるか否かを判断す ることは困難であるから,当該発明の構成に近い構\成を有するものとして 選択された引用発明の奏する効果や技術水準において達成されていた同 種の効果を参酌することは許されると解される。 前示のとおり,本件発明の構成は容易想到であるが,これに対し,被告\nは,前記第3の3(2)イのとおり,本件発明は,本件3条件を全て満たす患 者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本件条件(4) を満たす患者に対する副作用発現率と血清カルシウムに関する安全性が 腎機能が正常である患者に対する安全性と同等であるという効果(以下\n「効果2)」という。)及び3)BMD増加率が低くてもより低い骨折相対リス クが得られるとの効果(以下「効果3)」という。)を奏し,これらの効果は, 当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するものである\n旨主張する。 以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折 の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり, 骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから, 当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して いることは,当業者において容易に理解できる。 b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ ラセボの骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を指すも のであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満たす患 者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本件3条 件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対する骨 折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折 抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位 週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。
ここで,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位 週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年2月15 日付け被告第1準備書面32頁における再解析の数値による。)につい て,それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また, 椎体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1 人の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが, 症例数が不足していることによることを否定できない。このように, 低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び 椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生 率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数 を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑 制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して, 前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。 したがって,実施例 1 をみても,高リスク患者に対するPTHの骨 折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高 いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他 の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低 リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理 解することはできず,ましてや,200単位週1回投与群に関し,高 リスク患者における骨折発生抑制が,低リスク患者における骨折発生 抑制よりも優れていると結論付けることはできない。 以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい うべきである。

◆判決本文

当事者が同じ分割出願についての関連事件です。審決取り消しです。

◆令和2(行ケ)10056

こちらは審決維持です。

◆令和2(行ケ)10004

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 特段の効果
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10257  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年10月19日  知的財産高等裁判所

 漏れていたので追加します。補正は新規事項であるとした審決が維持されました。

原告は,本件発明特定事項の機能Aは,当業者によって,本件明細書の\n段落【0117】,段落【0118】,段落【0120】及び段落【0143】な どの記載を総合することにより導かれると主張する。
しかし,段落【0117】は,ウェブサーバから画像データファイル をダウンロードすることについての記載ではなく,ウェブページを閲覧する場合 についての記載であり,同段落の「ページ画像」とは,ウェブページをブラウザで 表示した画像であって,画像データをデータファイルとしてダウンロードする場合\nに関する記載ということはできない。 また,同段落には,閲覧しているウェブページがLCDパネル15Aの画面水平 解像度よりも広い固定幅レイアウトを採用する場合に,中央演算回路1_10A1 が,その固定幅と同じ水平画素数を有するページ画像の描画命令を生成し,VRA M1_10Cに書き込むとともに,グラフィックコントローラ1_10Bが,LCD パネル15Aの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータを切 り出してLCDドライバ15Bに送信することが記載されているが,「その結果と して,LCDパネル15Aにおいてページ画像がスクロール表示される。」のであ\nり,LCDドライバ15Bに送信される信号は,画像の一部分に対応するビットマ ップデータの信号であるから,この場合には,本来解像度がディスプレイパネルの 画面解像度より大きい画像から,ディスプレイパネルの画面解像度と同じ画像への 解像度の変更が行われているということはできない。 次に,段落【0118】に記載されている事項は,携帯電話機1がテレビ番組の 視聴用に使用される場合のグラフィックコントローラ1_10BやVRAM1_10 C等の機能であり,携帯電話機1により表\示される「画像」は,テレビ受信用アン テナ112Aで受信した「テレビ番組の画像」であるから,画像データをデータフ ァイルとしてダウンロードする場合とは異なるというべきである。 そして,段落【0143】には,段落【0117】,【0118】に記載されてい るような,ウェブページの閲覧やテレビ動画の表示の場合との関連性を示唆する記\n載はない上,段落【0143】の記載は前記のとおりであって,画像データファイ ルの解像度を変更することなく表示することが記載されているから,段落【014\n3】の記載に接した当業者が,その記載を段落【0117】,段落【0118】の記 載と関連付けて,ウェブサーバから画像データファイルをダウンロードして画像を 表示する場合に画像ファイルの解像度を変更することが記載されていると理解する\nとは考えられない。
(イ) 段落【0120】には,「デジタル音声信号及び/又はデジタル動画 信号をデータファイルに変換して保存したり,該保存したデータファイルを読み出 して必要な処理を行う」,「画像データファイル及び/又は音声データファイルは, ウェブサイトにアクセスし,・・・受信・変換されたデジタル信号を,バス19経由で 中央演算回路1_10A1が受信し,必要な変換を行ってフラッシュメモリ14A に書き込むことによっても保存することができる。」との記載があるが,段落【01 20】には,受信した「デジタル音声信号及び/又はデジタル動画信号」を携帯電 話1においてデータファイルに変換して保存したり,それを読み出して再生する ことが記載されているにすぎず,この記載と前記のような内容の段落【0143】 の記載を併せて見たとしても,当業者が,ウェブサーバから本来解像度が携帯電話 機のディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データファイルをダウンロー ドして画像を表示する場合に,VRAMからディスプレイパネルの画面解像度と同\nじ解像度を有する画像のビットマップデータを読み出し,読み出したビットマップ データを伝達するデジタル表示信号を生成し,これをディスプレイ制御手段に送信\nする機能を想起するとは考えられない。\n
(ウ) そうすると,原告の主張する本件明細書の各記載を総合しても,訂 正事項7に係る「前記ウェブサーバから「本来解像度がディスプレイパネルの画面 解像度より大きい画像データファイル」をダウンロードして画像を表示する場合\nに,前記VRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有す る画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出されたビットマップデータ を伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表\示信号を前記ディスプレイ 制御手段に送信する機能」が導かれるとは認められず,本件明細書には他に同機能\ の実現についての記載又は示唆は存在しない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項
 >> 新たな技術的事項の導入
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成25(行ケ)10346  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年10月9日  知的財産高等裁判所

 漏れていたので追加します。明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして、審決が取り消されました。\n

 本件特許明細書には,【0041】に,中立線 を残して,その両側に溝を形成し,音叉腕の中立線を含めた部分幅W7は 0.05mmより小さく,また,各々の溝の幅は0.04mmより小さくな るように構成する態様,及び,このような構\成により,M1をMnより大きく することができることが記載されている。また,【0043】には,溝が中 立線を挟む(含む)ように音叉腕に設けられている第1実施例〜第4実施例 の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動で の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さくなるように構成\nされていること,及び,このような構成により,同じ負荷容量CLの変化に\n対して,基本波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が2次高調波 モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きくなることが記載さ れている。 しかし,上記【0041】と【0043】の各記載に係る構成の態様は,\nそれぞれ独立したものであるから,そこに記載されているのは,各々独立し た技術的事項であって,これらの記載を併せて,本件追加事項,すなわち, 「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmよ り小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成され た場合において,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の 容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高 調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい」という事項が記載 されているということはできない。また,その他,本件特許明細書等の全て においても,本件追加事項について記載はないし,本件追加事項が自明の技 術的事項であるということもできない。 そうすると,本件追加事項の追加は,本件特許明細書等の全ての記載を総 合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項 を導入するものというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 補正・訂正
 >> 新たな技術的事項の導入
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ワ)30991 特許権侵害差止等請求事件 令和3年3月30日 東京地方裁判所

 漏れていたので追加します。特許侵害事件において、明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして権利行使不能\と判断されました。
なお、原告の査証命令申立てについては却下されました。\n 

 前記(2)に説示したとおり,前記第2の1(4)アの出願当初の請求項1及び 2の記載からすれば,本件特許に係る特許出願当初の請求項1及び2の記載 は,HFO−1234yfに対する「追加の化合物」を多数列挙し,あるい は当該「追加の化合物」に「約1重量パーセント未満」という限定を付すに とどまり,上記のとおり多数列挙された化合物の中から,特定の化合物の組 合せ(HFO−1234yfに,HFO−1243zfとHFC−245c bとを組み合わせること)を具体的に記載するものではなかったというべき である。
しかして,上記(3)の当初明細書の各記載について見ても,特許出願の当 初の請求項1と同一の内容が記載され(【0004】),新たな低地球温暖化 係数(GWP)の化合物であるHFO−1234yf等を調製する際に,H FO−1234yf又はその原料(HCFC−243db,HCFO−12 33xf,及びHCFC−244bb)に含まれる不純物や副生成物が特定 の「追加の化合物」として少量存在することが記載されており(【0003】, 【0016】,【0019】,【0022】),具体的には,HFO−1234y fを作製するプロセスにおいて,有用な組成物(原料)がHCFC−243 db,HCFO−1233xfおよび/またはHCFC−244bbである ことが記載され(【0005】),HCFC−243db,HCFO−123 3xf及びHCFC−244bbに追加的に含まれ得る化合物が多数列挙さ れてはいる(【0006】ないし【0008】)ものの,そのような記載にと どまっているものである。
そして他方,当初明細書においては,そもそもHFO−1234yfに対 する「追加の化合物」として,多数列挙された化合物の中から特に,HFO −1243zfとHFC−245cbという特定の組合せを選択することは 何ら記載されていない。この点,当初明細書においては,HFO−1234 yf,HFO−1243zf,HFC−245cbは,それぞれ個別に記載 されてはいるが,特定の3種類の化合物の組合せとして記載されているもの ではなく,当該特定の3種類の化合物の組合せが必然である根拠が記載され ているものでもない。また,表6(実施例16)については,8種類の化合\n物及び「未知」の成分が記載されているが,そのうちの「245cb」と 「1234yf」に着目する理由は,当初明細書には記載されていない。さ らに,当初明細書には,特許出願当初の請求項1に列記されているように, 表6に記載されていない化合物が多数記載されている。それにもかかわらず,\nその中から特にHFO−1243zfだけを選び出し,HFC−245cb 及びHFO−1234yfと組み合わせて,3種類の化合物を組み合わせた 構成とすることについては,当業者においてそのような構\成を導き出す動機 付けとなる記載が必要と考えられるところ,そのような記載は存するとは認 められない(なお,本件特許につき,優先権主張がされた日から特許出願時 までの間に,上記各説示と異なる趣旨の開示がされていたことを認めるに足 りる証拠はない。)。
これらに照らせば,当業者によって,当初明細書,特許請求の範囲又は図 面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項としては,低地球 温暖化係数(GWP)の化合物であるHFO−1234yfを調製する際に, HFO−1234yf又はその原料(HCFC−243db,HCFO−1 233xf,及びHCFC−244bb)に含まれる不純物や副反応物が特 定の「追加の化合物」として少量存在する,という点にとどまるものという ほかなく,その開示は,発明というよりはいわば発見に等しいような性質の ものとみざるを得ないものである。そして,当初明細書等の記載から導かれ る技術的事項が,このような性質のものにすぎない場合において,多数の化 合物が列記されている中から特定の3種類の化合物の組合せに限定した構成\nに補正(本件補正)することは,前記のとおり,そのような特定の組合せを 導き出す技術的意義を理解するに足りる記載が当初明細書等に一切見当たら ないことに鑑み,当初明細書等とは異質の新たな技術的事項を導入するもの と評価せざるを得ない。したがって,本件補正は,当初明細書等の記載から 導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したもので あるというほかない。
以上によれば,本件補正は「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範 囲又は図面に記載した事項の範囲内」においてしたものということはできず, 特許法17条の2第3項の補正要件に違反してされたものというほかなく, 本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められ(特許法 123条1項1号),同法104条の3第1項により,特許権者たる原告は, 被告に対しその権利を行使することができないこととなる。
・・・
原告は,令和2年10月19日,原告主張製品のうち,被告から原告に対 し販売された最終製品以外のものに含まれるHFO−1234yf,HFO −1243zf,HFC−245cb及びHFO1234zeの含有量を立 証すべき事項として,査証命令の申立てをした(当庁令和2年(モ)第267 4号)。
(2) しかしながら,前記のとおり,本件特許は特許無効審判により無効にされ るべきものと認められるのであって,原告主張製品であれ,被告主張製品で あれ,対象製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かを問わず,原告は被 告に対し,本件特許権を行使することができないものである。そうすると, 当裁判所としては,本件訴訟において,原告の請求に理由があるかを判断す るために,上記の立証すべき事項たる事実を判断する必要がないものといわ ざるを得ず,ひいては,同事実を判断するため,上記査証命令申立てにより\n得られる証拠を取り調べることが必要であるとも認められない。 以上によれば,上記査証命令の申立ては,必要でない証拠の収集を求める\nものであり,その必要性を欠くものというべきであるから,原告の上記査証 命令申立ては,これを却下することとする。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規事項
 >> 新たな技術的事項の導入
 >> 104条の3
 >> 裁判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10126  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年8月30日  知的財産高等裁判所

 音商標「マツモトキヨシ」について、商標法4条1項8号に該当するとした拒絶審決が取り消されました。

 本願商標の商標法4条1項8号該当性について
原告は,1)本願商標の出願当時,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」\nという言語的要素からなる音から,通常,容易に連想,想起するのは,ドラ ッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」又は企業名としての株式会社 マツモトキヨシ,株式会社マツモトキヨシホールディングス(原告)であっ て,「マツモトキヨシ」と読まれる人の氏名であるとはいえないから,本願 商標を構成する「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音は,「マツ\nモトキヨシ」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものではない, 2)したがって,本願商標は,「他人の氏名」を含む商標であるとはいえない から,本願商標が商標法4条1項8号に該当するとした本件審決の判断は誤 りである旨主張するので,以下において判断する。
(1)商標法4条1項8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称 等を含む商標は,その承諾を得ているものを除き,商標登録を受けること ができないと規定した趣旨は,人は,自らの承諾なしに,その氏名,名称 等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにある ものと解される(最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日 第三小法廷判決・裁判集民事214号373頁,最高裁平成16年(行ヒ) 第343号同17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号59 5頁参照)。 このような同号の趣旨に照らせば,音商標を構成する音が,一般に人の\n氏名を指し示すものとして認識される場合には,当該音商標は,「他人の 氏名」を含む商標として,その承諾を得ているものを除き,同号により商 標登録を受けることができないと解される。 また,同号は,出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名,名称等に 係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定であり,音商標を構成する音と同\n一の称呼の氏名の者が存在するとしても,当該音が一般に人の氏名を指し 示すものとして認識されない場合にまで,他人の氏名に係る人格的利益を 常に優先させることを規定したものと解することはできない。 そうすると,音商標を構成する音と同一の称呼の氏名の者が存在すると\nしても,取引の実情に照らし,商標登録出願時において,音商標に接した 者が,普通は,音商標を構成する音から人の氏名を連想,想起するものと\n認められないときは,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識 されるものといえないから,当該音商標は,同号の「他人の氏名」を含む 商標に当たるものと認めることはできないというべきである。
(2)ア これを本願商標についてみるに,前記2の認定事実によれば,1)株式 会社マツモトキヨシが昭和62年にドラッグストア「マツモトキヨシ」 の店舗展開を開始した後,平成29年1月30日に本願の出願がされる までの約30年以上にわたり,株式会社マツモトキヨシ,原告及び原告 のグループ会社が,「マツモトキヨシ」の表示をドラッグストアの店名\n又は自己の企業名として継続して使用したこと,2)同年3月31日現在 で,ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店舗数は,全国45都道府県 で1555店舗,原告のグループ会社のメンバーズカード(ポイントカ ード)の会員数は約2440万人に達しており,また,「マツモトキヨ シ」のブランドは,インターブランド社による2016年度及び201 7年度のブランド価値評価ランキングでドラッグストアとして日本で ナンバーワンブランドの評価を獲得したこと,3)平成8年から開始され たドラッグストア「マツモトキヨシ」のテレビコマーシャルでは,女性 又は男性の声の音色,複数の声の斉唱で本願商標と同一又は類似の音を フレーズに含むコマーシャルソングが相当数使用され,テレビコマーシ\nャルが放映された以降においても,本願商標と同一又は類似の音がドラ ッグストア「マツモトキヨシ」の各小売店の店舗内において使用されて いたことが認められる。 これらの認定事実によれば,本願商標に関する取引の実情として,「マ ツモトキヨシ」の表示は,本願商標の出願当時(出願日平成29年1月\n30日),ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店名や株式会社マツモ トキヨシ,原告又は原告のグループ会社を示すものとして全国的に著名 であったこと,「マツモトキヨシ」という言語的要素を含む本願商標と 同一又は類似の音は,テレビコマーシャル及びドラッグストア「マツモ トキヨシ」の各小売店の店舗内において使用された結果,ドラッグスト ア「マツモトキヨシ」の広告宣伝(CMソングのフレーズ)として広く\n知られていたことが認められる。
イ 前記アの取引の実情の下においては,本願商標の登録出願当時(出願 日平成29年1月30日),本願商標に接した者が,本願商標の構成中\nの「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音から,通常,容易に 連想,想起するのは,ドラッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」, 企業名としての株式会社マツモトキヨシ,原告又は原告のグループ会社 であって,普通は,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本 潔」,「松本清司」等の人の氏名を連想,想起するものと認められない から,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識されるものと はいえない。 したがって,本願商標は,商標法4条1項8号の「他人の氏名」を含 む商標に当たるものと認めることはできないというべきである。
(3)ア これに対し被告は,1)ウェブサイト(乙4ないし7)には,原告とは 他人の「松本清」,「松本潔」,「松本清司」等の氏名表示のひとつと\nして,「マツモトキヨシ」の片仮名が表記されており,かつ,これらの\n者は,現存していると推認できること,各地域のハローページ(乙8な いし19)には,「マツモトキヨシ」と読まれる人の氏名として,原告 とは他人の「松本清」,「松本潔」等が掲載されており,かつ,これら の者は,いずれも本願商標の登録出願時から現在まで存在している者で あると推認できること,氏名を片仮名表記することは,各種の商取引に\nおいて,社会一般に行われていること(乙20ないし28)からすると, 本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音は,\n「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本潔」,「松本清司」 等の人の氏名を容易に連想,想起させるものであり,「マツモトキヨシ」 と読まれる人の氏名として客観的に把握されるものである,2)原告の提 出に係るテレビコマーシャルに関する証拠からは,当該テレビコマーシ ャルの規模が明らかでなく,平成19年以降の放映も確認できないから, 当該テレビコマーシャルが本願商標の音を聞いた者の認識に与える影 響は限定的であること,当該テレビコマーシャルを視聴した者は,視覚 的要素とともに「マツモトキヨシ」の言語的要素からなる音を聴取,把 握し,記憶するものといえるので,当該テレビコマーシャルは,本願商 標に接した者が,「マツモトキヨシ」の言語的要素からなる音を,マツ モトを姓とし,キヨシを名とする人の氏名であると認識することなく, 店舗名又は企業名としてのみ認識することの根拠たり得ないこと,原告 の挙げるブランド価値ランキングは,本願商標の音を聞いた者の認識を 直接反映したものとはいい難く,このほか,「マツモトキヨシ」という 言語的要素からなる音がドラッグストアの店名又は企業名としてのみ 認識されることを裏付ける証拠はないことからすると,1)のとおり,上 記言語的要素からなる音が,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」, 「松本潔」,「松本清司」等の人の氏名として客観的に把握されること を否定することはできないとして,本願商標は,商標法4条1項8号の 「他人の氏名」を含む商標に当たる旨主張する。 しかしながら,前記(2)ア認定のとおり,「マツモトキヨシ」の表\n示は,本願商標の出願当時,ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店名 や株式会社マツモトキヨシ,原告又は原告のグループ会社を示すものと して全国的に著名であり,「マツモトキヨシ」という言語的要素を含む 本願商標と同一又は類似の音は,テレビコマーシャル及びドラッグスト ア「マツモトキヨシ」の各小売店の店舗内において使用された結果,ド ラッグストア「マツモトキヨシ」の広告宣伝(CMソングのフレーズ)\nとして広く知られていたという取引の実情を踏まえると,本願商標に接 した者が,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要素か\nらなる音から,通常,容易に連想,想起するのは,ドラッグストアの店 名としての「マツモトキヨシ」,企業名としての株式会社マツモトキヨ シ又は原告のグループ企業であって,普通は,「マツモトキヨシ」と読 まれる「松本清」,「松本潔」,「松本清司」等の人の氏名を連想,想 起するものと認められない。
また,甲43によれば,上記テレビコマーシャルの規模は首都圏を中心 にドラッグストア「マツモトキヨシ」の出店のある全国の地域に及んでい たことが認められる上,上記テレビコマーシャルの放映後も,上記テレビ コマーシャルで使用された本願商標と同一又は類似の音がドラッグスト ア「マツモトキヨシ」の各小売店の店舗内で使用されていたものと認めら れるから,当該テレビコマーシャルが本願商標を聞いた者の認識に与える 影響が限定的であるということはできないし,上記テレビコマーシャルが 視覚的要素を伴うことも,上記認定を左右するものではない。 さらに,前記(1)で説示したとおり,同号は,出願人の商標登録を受 ける利益と他人の氏名,名称等に係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定 であり,当該音が一般に人の氏名を指し示すものとして認識されない場合 にまで,他人の氏名に係る人格的利益を常に優先させることを規定したも のと解することはできないことに鑑みると,本願商標に接した者が,「マツ モトキヨシ」の言語的要素からなる音をドラッグストアの店名又は企業名 としてのみ認識することがない以上は,本願商標が同号の「他人の氏名」 を含む商標に該当するとの解釈は妥当とはいえない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イ 次に,被告は,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要\n素からなる音が,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本潔」,「松 本清司」等の人の氏名として客観的に把握され,本願商標は「他人の氏名」 を含む商標である以上,商標法4条1項8号の趣旨に照らせば,上記言語 的要素からなる音が,原告又は株式会社マツモトキヨシが経営するドラッ グストアを指し示すものとして一定程度知られていることや,特定の者の 略称として一定の著名性を有することは,本願商標の同号該当性を左右す るものではない旨主張する。 しかしながら,前記アで説示したとおり,本願商標は「他人の氏名」を 含む商標であるとはいえないから,被告の上記主張は,その前提を欠くも のであり,採用することができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10031  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年8月19日  知的財産高等裁判所

 本件商標 HIRUDOSOFT(標準文字)について、先行商標「Hirudoid」、商標「ヒルドイド」に対して、類似または混同が生ずるかが争われました(4条1項11号、同15号違反)。知財高裁(4部)は、無効理由無しとした審決を維持しました。

前記2(1)のとおり,本件商標と引用商標1及び2は,外観及び称呼にお いて明らかに相違するものであるから,引用商標と同一又は類似である原 告使用商標も,本件商標とは非類似の商標であるといえる。
もっとも,本件商標が原告商標と非類似の商標であっても,その商品の 出所について混同を生じるおそれがある商標については,商標法4条1項 15号に規定する商標に当たる余地もあり得るので,以下,念のためこの 点についても検討する。
イ 前記2(1)アのとおり,本件商標の取引者及び需要者は,先発医薬品につ いては,医師,薬剤師等の医療関係者であり,一般用医薬品及び医薬部外 品については,薬剤師等のほか,一般消費者も含まれることになる。 そして,仮に原告使用商標が周知著名であるとしても,原告使用商標は 「Hirudoid」又は「ヒルドイド」として認知されているのであっ て,「Hirudo」又は「ヒルド」として認知されているわけではなく, また,本件全証拠を精査しても,薬剤の取引の分野において,販売名の語 頭3文字に略して取引されているといった取引の実情を認めるに足りる 証拠はないことからすると,一般消費者を含む取引者及び需要者において 普通に払われる注意力を基準としても,本件商標を付した一般用医薬品又 医薬部外品について,原告が製造販売したものであり,又は原告と経済的 若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの ようにその商品の出所について混同を生じる恐れがあるものと認めるこ とはできない。 なお,前示のとおり,本件商標は先発医薬品にも使用されることもあり 得るところ,その取引者及び需要者は,医療関係従事者であり,薬効も原 告使用商標に付される原告商品と異なるものであるから,その商品の出所 について混同を生じるおそれがあるといえないことはなおさら明らかで ある。

◆判決本文

こちらは関連事件です。「ヒルドソフト」(標準文字)と仮名表\示となった商標です。

◆令和3(行ケ)10030

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10115 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年6月24日  知的財産高等裁判所

 阻害要因ありとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。

 甲1には,請求項1に「任意の形状の中央ハンドル」との記載があり,発 明の詳細な説明中に,ユーザが握る中央ハンドルは「球,あるいは他のあら ゆる任意の形状とすることが可能である。」と記載があることから,長尺状の\nハンドルを排除するものではないと理解することはできる。しかし,「球,あ るいは他のあらゆる任意の形状とすることが可能である。」との記載ぶりか\nらすれば,まずは「球」が念頭に置かれていると理解するのが自然であり, しかも甲1の添付図(FIG.1,FIG.2)は,いずれも器具の正面図 であり,実施例を表すとされているが,そこに描かれたハンドルの形状や全\n体のバランスに照らして,球状のハンドルが開示されているとしか理解でき ないものである。 また,甲1には,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握 り,これを傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を\n皮膚に当てて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転するこ とにより,球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集め て皮膚に沿って動き,引っ張る代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿っ た動きによって皮膚が引き伸ばされることが開示されているところ,こうし た2つの球がハンドルに2つの軸に固定され,2つの軸が70〜100度を なす角度で調整された甲1発明において,球が進行方向に対して非垂直な軸 で回転し,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿った動きをさ せるためには,ハンドルを進行方向に向かって倒す方向に傾けることが前提 となる。
ハンドルが球状のものであれば,後述するハンドルの周囲に軸で4個の球 を固定した場合を含めて,把持したハンドル(1)の角度を適宜調整して進行方 向に向かって倒す方向に傾けることが可能である。しかし,ハンドルを長尺\n状のものとし,その先端部に2つの球を支持する構成とすると,球状のハン\nドルと比較して傾けられる角度に制約があるために進行方向に傾けて引っ張 る際にハンドルの把持部と肌が干渉して操作性に支障が生じかねず,こうし た操作性を解消するために長尺状の形状を改良する(例えば,本件発明のよ うに,ボールの軸線をハンドルの中心軸に対して前傾させて構成させる(相\n違点3の構成)。)必要が更に生じることになる。そうすると,甲1の中央ハ\nンドルを球に限らず「任意の形状」とすることが可能であるとの開示がある\nといっても,甲1発明の中央ハンドルをあえて長尺状のものとする動機付け があるとはいえない。 また,甲1においては,「マッサージする面に適合させるために,より大き な直径を持つ1つまたは2つの追加球をハンドルが受容可能である」形態も\n開示されており,FIG.2には,小さい直径の球(2)を2つ,大きな直径球
(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された図が開示されている。 このような実施例において,ハンドル(1)を球状から長尺状とすると,前記の とおり,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握り,これを 傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を皮膚に当て\nて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転することにより, 球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿 って動き,引っ張る代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿った動きによ って皮膚が引き伸ばされるとの作用効果を生じるところ,例えば,大きい球 (3)を皮膚に当てることを想定し,長尺状のハンドルを中心軸に前傾させて構\n成させると,小さい球(2)を皮膚に当てるときには,ハンドルを進行方向に対 して傾けて小さい球(2)の球を引っ張ることができなくなる。したがって,こ うした点からすると,甲1のハンドル(1)を長尺状のものとすることには,む しろ阻害要因があるといえる。
(2) これに対し,被告は,1)甲1のFIG.1の正面図は,ハンドルが円形で 図示されているが,ハンドルが円柱状(長尺状)の形状であるとしても整合 する,2)同FIG.2においては,4つの球をハンドルに取り付けて,皮膚 が吸引される使用方法が記載されており,こうした使用方法を前提とすると, ハンドルが長尺状であればローラ(球)と接触することなくハンドルを握る ことができるから,ハンドルの形状は,球体と理解するよりも長尺状(円柱 状)のハンドルと理解するのが自然である旨主張する。 しかし,正面図であるFIG.1やFIG.2において図示されている円 形が球状ではなく円柱状(長尺状)の形状を示すものと理解することが困難 なことは,前記(1)において判示したところから明らかである。また,4つの 球をハンドルに取り付けて使用する形態であっても,FIG.2の実施例の 記載によると,使用されるのは2つの球であり,ハンドルを把持する際には 軸を避けて指でハンドルを把持すれば足り,ハンドルを長尺状(円柱状)の ハンドルと解するのが自然であるともいえず,かえって,上記のとおりハン ドルを長尺状とすることについては阻害要因があるというべきである。そう すると,甲1の実施例(FIG.1,FIG.2)には球状のものしか開示 されていないと認められ,被告の上記主張は採用し得ない。 また,被告は,甲1において,ハンドル(1)は,握って引っ張るものである という使用方法が明記され,ハンドルの形状としてあらゆる任意の形状とす ることができると記載されているのであるから,当然ながら握りやすい長尺 状の形状が想定された形状であり,甲1発明のハンドルは,握って傾けなが ら引っ張るものであるから,ハンドルの先端部に球を設けることは当業者で あれば容易に想到するものであるから,本件審決の判断に誤りはない旨主張 する。
しかし,たとえハンドルを球に限らず任意の形状とすることは可能である\nとしても,甲1発明の球状のハンドルを長尺状のものとした場合における操 作性の問題があることから,球状の実施形態しか開示されていない甲1発明 の中央ハンドルを長尺状のものとする動機付けがあるとはいえないことは前 記(1)のとおりであり,一般的に長尺状のハンドルが握りやすいものであると いえたとしても,そのことは結論を左右し得ない。また,小さい球(2)を2つ, 大きい球(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された場合に,ハン ドル(1)を長尺状とすると,甲1発明の作用効果との関係でその操作に支障が 生じることから,甲1発明のハンドル(1)を長尺状のものとすることにはむし ろ阻害要因があることも前記(1)のとおりである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3) そうすると,甲1発明のハンドルが長尺状のハンドルを排除するものでは ないとして,当業者が長尺状のハンドルを容易に想起し得るものとはいえな いし,ましてや,長尺状のハンドルが甲1に記載されたに等しい事項である と認めることはできないから,甲1発明のハンドルには長尺状のものが含ま れ,長尺状のハンドルが甲1の1に記載されたに等しい事項であることを前 提として,相違点1については,ハンドルを長尺状のものとした場合には, 一対の回転可能な球を先端部に配置することは甲1発明,又は甲1発明及び\n周知技術1に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものであり,また, 相違点3については実質的な相違点にならないとした本件審決の判断は誤り というほかない。

◆判決本文

こちらは審決の判断維持ですが無効理由なしとの審決が維持されています。 原告・被告が入れ替わってます

◆令和2(行ケ)10045

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 阻害要因
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10148  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年6月16日  知的財産高等裁判所

 図形と文字の結合商標について、同じ文字構成の先願既登録商標が存在するして、拒絶された審決の取消訴訟で、知財高裁は審決の判断を維持しました。本件商標は、カンガルーをモチーフとしたと思われる図形部分と,その下に「KANGOL」と横書きされた欧文字部分で構\成されてました。指定役務は「洋服・コート・セーター類・ワイシャツ類・・・,寝巻き類・下着・水泳着・水泳帽の小売など・・・」のファッション分野の小売りなどです。先行登録商標は、「KANGOL」の文字を標準文字で表し,指定役務が「帽子の小売等・・・」ですが、小売りサービスとしては同じ35K02の類似群コードが付与されています。

ア 本願商標
(ア) 本願商標は,カンガルーをモチーフとしたと思われる図形部分と, その下に「KANGOL」と横書きされた欧文字部分からなる。
(イ) 上記の図形は,その形状からすれば,カンガルーをモチーフとした 図形であると認識され得るものといえるが,やや抽象化された図形であ ることからすれば,同図形部分から特定の称呼や観念が生じるものとま ではいえない。また,上記の欧文字は,一般的な辞書等に掲載されてい る語ではなく,特段の図案化もされていないことからすれば,同欧文字 部分から特定の観念が生じるものとはいえない。 そうすると,上記の図形部分及び欧文字部分には観念上のつながりが あるとはいえないところ,本願商標全体の構成からすると,同各部分は,\n視覚上分離して看取されるものであって,分離して観察することが取引 上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないか ら,それぞれが要部として認識されるものといえる。
(ウ) そして,上記の欧文字部分についてみるに,同部分からは「KAN GOL」の欧文字に相応して「カンゴール」の称呼が生じるが,特定の 観念は生じないといえる。
イ 引用商標
引用商標は,「KANGOL」の欧文字を標準文字で表したものであると\nころ,本願商標の欧文字部分と同様に,引用商標からは「カンゴール」の 称呼が生じるが,特定の観念は生じないといえる。
ウ 類否判断 上記ア及びイを基に,本願商標の要部である「KANGOL」の欧文字 部分と引用商標とを比較すると,両者は,観念を比較することはできない ものの,欧文字のつづりが同じである上,本願商標の欧文字部分について 特段の図案化はされていないから,外観が極めて類似するものといえる。 また,両者からはいずれも「カンゴール」の称呼が生じるから,両者は称 呼を共通にするものといえる。 以上の事情を総合して全体的に考察すれば,本願商標の要部である「K ANGOL」の欧文字部分及び引用商標については,これらが同一又は類 似の商品又は役務に使用された場合には,その商品又は役務の出所につき 誤認混同を生ずるおそれがあるといえる。
・・・・
上記ア及びイで検討したとおり,本願指定役務及び引用指定役務は,い ずれも衣類を中心とするファッション商品を取扱商品とするものである 上,これらの取扱商品が通信販売ウェブサイトにおいて販売されるなどし ている実情があることからすれば,いずれも一般需要者を広く対象とする ものといえる。また,上記イ(ア)ないし(エ)及び(コ)によれば,特定のブ ランドが付された両役務の取扱商品を,同一の小売業者から購入する需要 者は少なくないと考えられる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務は,需要者 の範囲が一致するものといえる。
エ 類否判断
上記アないしウで検討したところによれば,本願指定役務及び引用指定 役務は,具体的な取扱商品は異なるものの,いずれも衣類を中心とするフ ァッション商品を取扱商品とする点において共通するほか,役務を提供す る手段,目的及び業種が共通するものといえる。また,両役務は,役務を 提供する場所が共通する場合があるほか,需要者の範囲が一致するものと いえる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務については, これらの役務に同一又は類似の商標を使用する場合には,同一営業主の提 供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるといえ る。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10057  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年7月8日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。

 前記(1)のとおり,相違点2は,相違点21)及び相違点23)により構成さ\nれるべきものである。本件審決は,相違点21)は容易に想到できるとして おり(当裁判所としてもその結論を是認できる。),原告は,相違点23)の 容易想到性を否定した本件審決の判断を争っている。
イ 相違点23)の容易想到性
(ア) 相違点23)は,「『フレームと床との間に介護者又は患者の足が存在 しても,挟み込みが生じないように』,下降スイッチが押し状態であって もフレームをいったん停止させ,『ブザーを鳴らして警報』すること」で ある。
原告は,前記第3の2(1)イ(イ)のとおり,「フレームと床との間に,介 護者又は患者の足が存在しても,挟み込みが生じないように」との点が 用途による限定を付すものであり発明の構成とはならないから,相違点\nを構成することもない旨主張するが,上記特定事項は,フレームが停止\nする高さを何に基づいて決定するかを特定するものであるから,発明を 構成する部分であり,その主張は失当である。したがって,本件訂正発\n明1が用途発明になることもない。 そうすると,同(2)イ(ア)の被告の主張につき判断するまでもなく,原 告の上記主張はいずれにせよ採用することができない。 (イ)a 前記第2の3(2)アのとおり,甲1発明における下方中間位置は患 者支持面が床から約14インチ(約356mm)の高さであり,同最 下位置は患者支持面が床から約8インチ(約203mm)の高さであ るところ,下方中間位置から最下位置に153mm下降できるという ことは,少なくともフレームの下端が床から153mm以上離れてい なければならないから,下方中間位置でのメインフレーム12の床か らの高さは153mmよりは高いことになる。 ここで,甲2技術事項に係る別紙3の記載によると,足が届く範囲 の可動部と床面との間に120mm以上の寸法があれば,足を挟み込 む危険がないものと理解される。 そうすると,甲1発明における下方中間位置でのメインフレーム1 2の床からの高さは,本件訂正発明1の「介護者又は患者の足が存在 しても,挟み込み等が生じないような高さ」(本件訂正明細書【002 1】)であるといえ,また,甲1発明の最下位置は「床に近接して配置 される」ものであり(甲1[0011],FIG−4),足が挟み込まれ る高さであることは明らかであるから,最下位置に向けて下降する下 方中間位置は「これ以上フレーム1が下降すると,足を挟み込んでし まうような高さ」(本件訂正明細書【0021】)である。 そして,甲1には,「磁石112のホール効果センサ118に隣接し た配置までの移動は,下方中間位置でのベッド10の位置付けに相当 し,磁石112のホール効果センサ116に隣接した配置までの移動 は,上方中間位置でのベッド10の位置付けに相当する。」([0036]) との記載があり,そして,甲1発明の管部110は,軸受部材108 に摺動接触して支持された状態でねじ式リニアアクチュータ98のね じ120に対して直線移動で駆動できるよう構成されており,磁石1\n12は,水平移動に当たり必ずホール効果センサ118及び116に 隣接した位置を通るから,甲1発明のベッドは,必ずフレームが下降 する際に上方中間位置及び下方中間位置で自動的に下降を停止するベ ッドである。
b ここで,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に,\n人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよう下降を停止させるこ とは当業者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる (甲4の【請求項1】,【0003】,甲21の【請求項1】,【0003】, 【0005】参照)。 そして,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に\n人体が挟み込まれないよう警告音で周囲に異常を知らせることも当業 者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる(甲4の 【0014】,【0010】,甲21の【0014】,【0010】参照)。 c そうすると,上記aのように,介護者又は患者の足が存在しても, 足の挟み込みが生じないような下方中間位置においてフレームの下降 は停止するが,それ以上フレームが下降すれば介護者又は患者の足が 挟み込まれてしまうことになる甲1発明に接した場合,昇降機能を有\nするベッドにおいて,人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよ うにベッドの下降を停止するとの周知技術に従い,その下降を停止す る高さを「前記フレームと床との間に,介護者又は患者の足が存在し ても,挟み込みが生じないよう」な意図で設定し,この際,警告音で フレームと床との間に人体が挟み込まれないよう知らせるとの周知技 術に従い,警告音を発するようにすることは,当業者には格別困難な ことではないといえる。
(ウ) 被告の主張について
被告は,前記第3の2(2)イ(ウ)のとおり,足を挟んでしまうことの防 止という課題は甲1発明に内在する課題とはいえない旨主張する。しか しながら,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2 002−125807号公報」(甲21)においては,各【発明の詳細な 説明】の中に,子供が入り込むことの防止に係る記載がされているとこ ろ,各請求項1には,それぞれ「床部下への人体の侵入を監視して,人 体の侵入ありとした際に」又は「人体が存在する旨の検知信号により」 と記載されているのであり,子供が入り込むことのみに限定されるもの と解すべき事情も見当たらないことに照らしても,これらの発明の技術 的思想としては,人体が挟み込まれるのを防止するということが抽出で きるのであり,人体の対象には介護者又は患者も含まれるから,当業者 であれば,甲1に介護者又は患者の足を挟んでしまうことを防止すると の課題の記載や示唆がなくとも,甲1発明のベッドを介護者又は患者の 足を挟んでしまうことを防止するとの意図の下に設定することは容易と いうほかない。したがって,上記主張は,採用することができない。 さらに,被告は,同(エ)のとおり,「ブザーを鳴らして警報」すること は容易想到ではない旨主張するが,上記(イ)cのとおり,昇降機能を有\nするベッドにおいてフレームと床との間に人体が挟み込まれないよう警 告音で周囲に異常を知らせることは周知技術であるところ,人体の挟み 込みの防止のために警報音を鳴らすということの目的は,人体の挟み込 みの防止のためにフレームの下降を停止して実際に挟み込みを防止する こととは異なり,人体が挟み込まれる前の所定の段階であらかじめ操作 者を含む周囲の者に注意確認を促すことにある(警報音を鳴らすものの フレームの下降を人体の接触を感知するまで停止しないという選択もあ り得るから,警報音を鳴らすこととフレームの下降停止とは独立に置換 可能な独立の技術的事項である。)。したがって,フレームと床との間に\n人体があって実際に挟み込みの危険があるか否かは,人体の挟み込みの 防止のために警報音を鳴らすという技術的事項を導入するに際して直接 の関係を有するものではない。そうすると,警告音を発する場面を,異 物を検出した段階とするのか,あるいは,フレームがそれより下降すれ ば人体の挟み込みの危険が生じ得る高さとするかは,設計的事項にすぎ ず,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2002 −125807号公報」(甲21)に記載の発明から認められる周知技術 と甲1発明とは,むしろ警報音を鳴らす局面,対象又は目的を共通とす るといえる。したがって,下方中間停止位置で常に自動的に下降を停止 する甲1発明において,上記周知技術に基づいて下方中間停止位置で停 止した際に「ブザーを鳴らして警報」することは容易に想到できるとい え,上記周知技術が異常を検知した際に警報音を発するものである点が 甲1発明に同技術を適用することを妨げるものではない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。。 そのほか,被告がるる主張するところも,前記イの判断を左右するも のではない。
(エ) まとめ
以上によれば,相違点21)に加えて,相違点23)についても容易に想 到できるというべきであるから,本件審決の相違点2の容易想到性判断 には,誤りがある。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 相違点認定
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)21900  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月20日  東京地方裁判所

東京地裁29部は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。

(1) 推定される損害額
ア 前記前提事実(5)のとおり,被告は,本件特許権の登録日である平成29 年6月16日から令和元年10月31日までの間,被告各製品合計●省略 ●個を販売し,これにより●省略●円の売上げがあり,少なくとも●省略 ●円の経費を要した。 したがって,法102条2項の利益の額は,5652万1465円(消 費税込み)と認めるのが相当である。 イ 被告は,被告による被告各製品の販売がなかったならば原告が利益を得 られたであろうという事情は存在しないので,法102条2項の適用はな いと主張する。
しかし,証拠(甲12,35ないし38,乙17,33,107,10 8)及び弁論の全趣旨によれば,1) 電動ファン付きウエアの市場において, 平成29年当時,原告グループ(原告,株式会社空調服等。以下同じ。) は約30%,被告グループ(被告,株式会社サンエス等。以下同じ。)は 約40%,平成30年当時,原告グループは約33%,被告グループは約 33%,令和元年当時,原告グループは約40%,被告グループは約2 0%,令和2年当時,原告グループは約35%,被告グループは約20% の各シェアを占めていたこと,2) 原告は,首後部からの空気の排出口の大 きさを調整することができるように,空調服の販売を開始した当初は調整 紐型空調服を製造販売し,その後,2段階調整型空調服を製造販売してい るが,本件各発明を実施する空調服は製造販売していないことが認められ る。 上記認定事実によれば,原告グループは電動ファン付きウエアの市場に おいて大きなシェアを占め,原告は,首後部からの空気の排出口の大きさ を調整するために,調整紐型空調服又は2段階調整型空調服を販売してい たものと認められる。他方で,被告各製品のように複数段階で調整できる 空調服が多数販売され,他の電動ファン付きウエアの市場とは異なる独自 の市場を形成していたことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,原告製品は被告各製品の競合品であると認めるのが相当で あるから,被告が被告各製品を販売して本件特許権を侵害しなければ,原 告は原告製品をさらに販売して利益を得られたであろうという事情が認め られる。 したがって,本件には法102条2項が適用されるので,被告の上記主 張は採用することができない。
ウ 被告は,商品の運用及び管理を●省略●に委託しており,平均すると商 品1点当たり●省略●円の経費を要したから,売上げから合計●省略●円 (●省略●円×●省略●個)を控除すべきであると主張する。 法102条2項の利益の額とは,侵害者の売上高から,侵害者において 侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必 要となった経費を控除した限界利益の額をいうところ,証拠(乙62)及 び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成28年6月21日以降,●省略● に対し,被告の物流センターにおける衣料用繊維製品等の入出荷業務その 他これに付随する業務全般を,製品の点数にかかわらず一律の月額委託料 (平成29年8月1日以降は●省略●円)を支払うことを約して委託した ことが認められる。 そうすると,●省略●に対する委託料は,被告が被告各製品を製造販売 することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と は認められないから,前記アの被告各製品の売上げからこれを控除するの は相当でない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(2) 推定の覆滅事由
ア 本件各発明が被告各製品の部分のみに実施されていること
(ア) 前記1(2)のとおり,空調服は,送風手段を用いて外部から服内に空気 を取り込み,当該空気が服内を流通し,その間に人体から出た汗を蒸発 させ,気化熱により体表面の温度を下げようとするものであるところ,\n本件発明1は,空調服の襟後部又はその周辺に二つの調整ベルトを設け, 一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数ある取付部のうち いずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首後部との間に形成 される開口部を広げたり,狭めたりすることを可能にし,より適切な空\n調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したものである。 しかし,本件特許の出願当時,既に,空調服の襟後部の内表面に一組\nの調整紐を設け,これらを結ぶことによって上記開口部の大きさを調整 する技術があったところ(本件明細書【0004】),本件発明1は, 一組の調整紐を任意の長さに結ぶことが難しく,上記開口部の大きさを 求める冷却効果に応じた適正なものにすることが困難であったことを解 決しようとしたものであり(同【0006】及び【0009】),上記 開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の延長線上に 位置付けられるものである。そして,本件発明1は,主として,従来技 術における調整紐を「取付部」を有する「調整ベルト」に置き換えたも のであるが,前記5(2)のとおり,本件特許の出願当時,ボタン及びボタ ンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で調整することが できる周知慣用の技術が存在したものである。 以上からすると,従来技術と比較したときの本件発明1の技術的意義 は,必ずしも大きいものではなかったといわざるを得ない。 なお,本件発明2は,本件発明1の空気排出口調整機構を備える空調\n服の服本体の発明であって,本件発明2につき本件発明1とは異なる独 自の技術的意義は認められない。
(イ) 従来技術に係る調整紐型空調服において,送風手段を作動させたとき の襟後部と首後部との間に形成される開口部の形状は,電動ファンの風 力,前部ファスナーの締め具合,着用者の姿勢や体格,服の布地や布ベ ルト,ゴムベルト等の素材,襟部の形状等の影響を受けると考えられる ところ,この点については,本件発明1を実施した空調服であっても異 なるところはない。そして,上記従来技術又は本件発明1に係る空気排 出口調整機構が,上記の諸要素と比較して,上記開口部の形状決定にど\nの程度の影響を与えるのか,ひいては当該空調服の冷却性能にどの程度\nの作用効果があるのかを確定するに足りる証拠はない。 また,調整紐型空調服の場合,結び目付近に調整紐の先端部分が集ま り,空気排出の障害となることが指摘されるが(本件明細書【000 8】),紐という形状から考えて障害の程度がさほど大きいものとはい えず,本件発明1により特に有意な作用効果が得られるとはいえない。 さらに,従来技術に係る調整紐型空調服においても,一定の技量があ れば調整紐を任意の長さに結ぶことは可能であり,本件発明はこの点に\nついて特段の技量を要しないこととしたところに発明の作用効果がある といえるものの,実際に空調服を使用するに際し,上記の調整紐の長さ につき,どれほどの頻度で,どの程度細かく調整することが必要とされ ていたのかは明らかではない。 そうすると,本件発明1は,容易に襟後部と首後部との間に空気排出 口を形成し,これを調整することができるものの,従来技術に比して大 きな作用効果があるものとは認められない。
(ウ) 証拠(乙34,35)及び弁論の全趣旨によれば,顧客が空調服を選 択する際,空調服の価格,デザイン,服の素材並びに電動ファン及びバ ッテリーの性能に着目することが多いと認められ,空調服の襟後部と人\n体の首後部との間の空気排出口を調整する機構の有無が特に着目された\nことを認めるに足りる証拠はない。 また,被告各製品のうちの本件各発明を実施する部分は,ボタン,ボ タンホール,ゴムベルト及び布ベルトで構成され,その製造がさほど困\n難であったとは認められず,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば, 被告各製品に上記部分を設けるのに要する費用は1着当たり41ないし 42円であり,被告各製品の販売価格の1ないし2%にすぎなかったと 認められる。 さらに,証拠(甲3,乙57ないし59)及び弁論の全趣旨によれば, 平成29年から令和元年までの被告の商品のパンフレット及びウェブサ イトにおいて,空調服の構造を紹介するページに,本件発明1に係るゴ\nムベルト及び布ベルトが取り付けられた部分の写真が掲載され,その機 能を紹介する記載があるが,同写真は,ファンの写真よりは小さく,フ\nァンの取り付け位置及び着脱方法並びにバッテリーの各写真と同程度の 大きさであったこと,個々の空調服を紹介するページに,空調服が備え る機能として,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット,袖口の複\n数のボタン,保冷剤用ポケット等の各写真と並んで,上記部分の写真が 掲載されていることが認められる。 そうすると,被告各製品が備える機能のうち本件発明1を実施した部\n分が占める割合は小さかったといえ,また,同部分の顧客誘引力が特に 高かったとはいえない。
(エ) 以上によれば,本件発明1の技術的意義や作用効果,被告各製品のう ち本件発明1が実施された部分の顧客誘引力等に照らすと,本件特許権 を侵害する同部分が被告各製品の販売に貢献したところは小さいといわ ざるを得ないから,この事情に基づき,法102条2項により推定され る損害額の80%について推定の覆滅を認めるのが相当である。
イ 市場における競合品の存在
(ア) 前記(1)イのとおり,平成29年から令和元年までの電動ファン付きウ エアの市場において,原告グループのシェアは約30ないし40%,被 告グループのシェアは約20ないし40%であり,原告は,襟後部と首 後部との間に形成される開口部の大きさを調整することができるように, 2段階調整型空調服を製造販売している。 また,前記ア(ウ)のとおり,被告は,その商品のパンフレット等におい て,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット等の機能と並んで本件\n発明1に係る部分を紹介しており,購入者が本件発明1が実施された部 分のみに着目して被告各製品を選択したとはいい難い。 一方で,証拠(乙39ないし45)及び弁論の全趣旨によれば,原告 及び被告以外の業者も,首後部からの空気の排出をより効率的に行うた めの機能を備えた空調服や,その他種々の機能\を備えた空調服を販売し ていることが認められる。 そうすると,空調服のうちの特定のものだけが被告各製品の競合品と なるとは認められず,競合品に係るシェアは上記の原告,被告及びその 他の競業他社のシェアのとおりと認めるのが相当であり,これを踏まえ ると,被告が被告各製品を販売することがなかったとしてもその購入者 の全てが原告製品を購入したとはいえないから,この事情に基づき,法 102条2項により推定される損害額の50%について推定の覆滅を認 めるのが相当である。
(イ) 被告は,被告各製品を製造販売しなかったとしても,被告各製品を購 入しようとしていた顧客は,本件各発明の技術的範囲に属しない被告の 代替製品を購入するはずであるから,被告各製品の販売と原告の損害と の間には因果関係は認められず,仮に法102条2項が適用されるとし ても,この点は推定の覆滅事由になると主張する。 しかし,被告が被告各製品を製造販売しなかったとして,被告が他に いかなる空調服を製造販売したかは証拠上明らかではないから,被告の 上記主張は採用することができない。
ウ 被告の営業努力
被告は,独自のブランドである「空調風神服」の名称で被告各製品を販 売しており,「空調風神服」には強い出所識別力があるから,被告各製品 の販売には上記ブランドによる力が貢献していると主張する。 しかし,前記(1)イのとおり,遅くとも平成29年以降,電動ファン付き ウエアの市場において,原告グループのシェアと被告グループのシェアは 拮抗し,むしろ原告グループのシェアの方が伸びていることからすると, 原告製品の顧客吸引力と比較して「空調風神服」の名称に特に強い顧客吸 引力があるとは認められないというべきであり,他にこれを認めるに足り る証拠はない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
エ その他
被告は,1) 原告製品は本件発明1を実施しておらず,被告が被告各製品 を販売したことにより原告が損害を受けることはない,2) 原告製品はイン ターネットショッピングサイトにおいて酷評されていると主張する。 しかし,上記1)について,前記(1)イのとおり,原告は,電動ファン付き ウエアの市場において,被告各製品の競合品を製造販売していたから,原 告製品において本件各特許が実施されていなかったからといって,被告が 被告各製品を製造販売したことにより,原告が損害を被ったことを否定す ることはできない。 また,上記2)について,原告(原告グループ)が電動ファン付きウエア の市場において相当程度のシェアを占めていることは前記(1)イのとおりで あり,インターネットショッピングサイトにおけるごく一部の評価(乙4 6)をもって,被告各製品が販売されなかったとしても原告製品が売れる ことはなかったということはできない。 したがって,被告の上記各主張はいずれも採用することができない。 (3) 小括 ア 以上によれば,本件各発明の被告各製品の売上げに対する貢献の程度に より80%(前記(1)ア),電動ファン付きウエアの市場に競合品が存在す ることにより50%(前記(1)イ)の推定の覆滅を認めるべきであるから, 被告による本件特許権の侵害により,原告が被った逸失利益に係る損害額 は,565万2147円(5652万1465円×(1−0.8)×(1 −0.5))と認められる。 イ 被告の上記不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用相当額は6 0万円と認めるのが相当である。
ウ よって,原告が被った損害額は合計625万2147円である。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10033  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年6月28日  知的財産高等裁判所

 無効審判では無効理由無しとされた請求項の一部(請求項7、10)について、知財高裁(3部)は、進歩性違反の無効理由ありとしてこれを取り消しました。

(3) 相違点10−2の容易想到性
ア 本件発明7のステップ(b)について
(ア) 相違点10−2においては,本件発明7のステップ(b)に係る構\n成の容易想到性が問題となるところ,上記1(4)のとおり,本件発明7の ステップ(b)は,原油組成物を実質的に塩基なしで水性流体処理ステ ップにかけるステップであり,かつ,相分離を改善するために無機塩を 水性流体に添加するものである。
(イ) そして,上記(2)アのとおり,本件優先日当時,油の精製において, アルカリ精製による脱酸処理の前に脱ガム処理を経ること,一般的な脱 ガム処理の方法の1つとして,水や水蒸気等の水性流体を油組成物と接 触させ,水和したガム質を含む親水性の不純物を油から分離して除去す る方法があったことは,いずれも周知の技術であったと認められる。ま た,証拠(甲3,4,6〔693,700,701頁〕)によれば,本件 優先日当時,蒸留(物理的精製)による脱酸処理の前に脱ガム処理又は 水洗の処理を経ることは,周知であったと認められる上,証拠(甲5〔4 75頁の表2〕,6〔693頁右欄の表\1〕,13〔571頁の右欄〕,1 4〔98頁の図2〕,24〔185頁〕)によれば,水や水蒸気等の水性 流体を油組成物と接触させた後に分離する処理によってタンパク質性化 合物が除去されることも,周知であったと認められる。
(ウ) そうすると,本件発明7のステップ(b)は,タンパク質性化合物 を含む親水性の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去し得る 点において,上記の水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水 洗の処理と異なるところはないというべきである。
イ 甲2文献における開示
(ア) 上記(1)のとおり,甲2文献においては,油をストリッピング工程の 前に前処理してもよいと記載されている(【0057】)。
(イ) そして,上記アのとおり,ストリッピング処理を行う前に水や水蒸 気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を経ることが周知 であったことからすれば,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や 水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性 の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去することを,当業者 は当然に動機付けられるものといえる。
ウ 解乳化剤としての無機塩の添加が周知技術であったか否か
(ア) 水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理におい ては,水相と油相との界面が十分に解乳化され,水性流体を油から容易\nに分離することが可能な状態となることが好ましいことは明らかである。\n
(イ) そして,証拠(甲30,31,44ないし46)によれば,一般科 学においては,従来から,塩化ナトリウム等の塩を解乳化剤として用い ることが広く知られていたと認められることからすれば,水や水蒸気等 の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においても,水相と油相 との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離することが可能な状\n態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,当業者は当然 に動機付けられるものといえる。
エ 容易想到性
(ア) 上記アないしウで検討したところによれば,甲2文献に接した本件 優先日当時の当業者は,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や水 蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性の 不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去すること,その際に, 水相と油相との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離すること が可能な状態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,容\n易に想到することが可能であったといえる。\n
(イ) また,本件発明7のステップ(b)に係るその他の構成について検\n討するに,証拠(甲5,24)によれば,魚油には炭素数16から22 の遊離脂肪酸が必ず含まれていることが認められる。 さらに,粗魚油の一般的な遊離脂肪酸濃度は2重量%ないし5重量% であると認められる(甲5〔475頁の表1〕)ところ,水や水蒸気等の\n水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においては,油組成物中の 遊離脂肪酸は中和されず,その量が変化しないことは明らかであるから, 上記処理後の魚油の遊離脂肪酸濃度が,0.5重量%ないし5重量%の 範囲内となることも明らかである。
(ウ) 以上によれば,甲2文献に接した本件優先日当時の当業者は,本件 発明7のステップ(b)に係る構成を,容易に想到することができたも\nのといえる。
オ 被告の主張について
(ア) 被告は,甲2文献には,ストリッピング処理前の前処理過程の一例 として脱臭工程のみが挙げられている上,脱ガム処理のほか,本件発明 7のステップ(b)に係る構成について何らの記載等もされていないか\nら,当業者は同構成を採ることを動機付けられるものではない旨主張す\nる。 しかしながら,甲2文献の段落【0057】には,ストリッピング工 程の前処理の一例として脱臭工程が挙げられているものの,これに限る 旨の記載は存しない上,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用い た脱ガム処理等が周知の技術であり,これをストリッピング処理の前に 行うこともまた周知であったことからすれば,当業者は,ストリッピン グ工程の前処理として,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理等 を行うことを動機付けられるものといえる。 したがって,被告の主張は,採用することができない。
(イ) 被告は,原告が主張する脱ガム処理には様々な方法によるものが含 まれるから,相違点10−2に係る本件発明7の構成には至らない旨主\n張する。 しかしながら,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガ ム処理が,一般的な脱ガム処理の方法の1つとして周知の技術であった と認められることからすれば,甲2文献に接した当業者は,これを甲2 発明に適用することを動機付けられるものといえるから,被告が指摘す るとおり,脱ガム処理に様々な方法によるものが存在するとしても,前 記の結論を左右するものではないというべきである。 したがって,被告の主張は,採用することができない。
(ウ) 被告は,エマルジョン形成の解消が容易ではないことは技術常識で あったこと,甲44文献に記載された有機相及び本件発明7のステップ (b)における有機相は全く異なるものであること,魚油の精製工程に おいて無機塩を解乳化剤として用いることに関する文献が本件訴訟にお いて提出されていないことから,当業者が無機塩を添加して有機相と水 相とを分離させる技術を甲2発明に適用することを動機付けられるもの ではない旨主張する。 しかしながら,欧州の特許公開公報である甲44文献に対応する日本 の公開特許公報である乙C6文献には,海産動物油等の天然源からEP A及びDHA混合物等を抽出する方法に関して,脂肪酸混合物を含む相 と水相との分離を高めるために,塩化ナトリウム等の塩類を少量加える ことが記載されている。また,甲30文献には,魚鯨油を2%程度の塩 化ナトリウム等の塩類水溶液で洗浄する方法が記載されており,脱ガム 処理として魚鯨油を塩類水溶液で洗浄する方法が行われているものと認 められる。このように,魚油の精製工程において,無機塩を添加するこ とによって相分離を図る方法が記載されている文献が存在するのに対し, 本件各証拠上,このような方法の採用を妨げるような内容の文献は見当 たらない。 そうすると,一般科学において実施されている相分離を改善するため の無機塩の添加を,魚油の精製工程において実施することが妨げられる ものではないというべきである。 したがって,被告の主張は,採用することができない。
(エ) 被告は,本件発明7は当業者には予測し得ない顕著な効果を奏する\n旨主張する。
しかしながら,これまで検討したとおり,本件発明7のステップ(b) に係る構成は,周知技術である水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム\n処理等に,同じく周知技術である相分離を改善するために無機塩を添加 する方法を組み合わせたものであることからすれば,当業者は,同構成\nが塩基を使用しないものであることや,相分離の改善によりトリグリセ リド油の回収率を高めることができることを当然に予測し得るものとい\nえるから,本件発明7は,予測し得ない顕著な効果を奏するものとは認\nめられない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)9992  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年6月24日  大阪地方裁判所

 時計の文字盤のデザインについて著作物性が否定されました。

 1 本件原画の著作物性(争点1)について
(1)前記(第2の2(1))のとおり,本件原画は,一般向けの販売を目的とする時計のデザインを記載した原画であり,それ自体の鑑賞を目的としたものではなく,現に,原告は,本件原画に基づき商品化された原告製品を量産して販売している。すなわち,本件原画は,実用に供する目的で制作されたものであり,いわゆる応用美術に当たる。
( 2 )「著作物」とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいい,このうち「美術の著作物」には美術工芸品が含まれる(同条2項)。他方,応用美術のうち,美術工芸品に当たらないものが「美術の著作物」に該当するかどうかについては,明文の規定はない。しかし,「著作物」の上記定義によれば,「美術の著作物」は,実用目的を有しない純粋美術及び美術工芸品に限定されるべきものではない。すなわち,実用目的で量産される応用美術であっても,実用目的に必要な構\成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては,純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることができる。そうである以上,当該部分は美術の著作物として保護されるべきである。他方で,実用目的の応用美術のうち,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては,純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることはできないから,美術の著作物として保護されないと解される。\n
(3)本件原画について
ア 本件原画は,別紙写真目録記載のとおりであるところ,本件形態1及び2の観点を踏まえると,これには,以下のとおりの形態の時計が表現されているものと認められる。\n
(ア)長針,短針,秒針の三種の針を有する壁掛け型アナログ時計であり,各針はいずれも白色である。各針は,いずれも黒色の円盤状部の中心にその回転軸を固定されている。
(イ)上記円盤状部の頂部上部に数字の「12」を配置し,これを起点として,上記円盤状部の外周に沿って右回りに,黒色太字ゴシック体様の算用数字「1」〜「11」を概ね均一の大きさで順に円環状に配置している。これらの数字のうち,「1」,「2」,「5」,「6」,「7」,「11」及び「12」は,上記円盤状部に接着している。また,「6」及び「7」を除く数字は,隣接する別の数字のいずれか又は両者と接着している。
(ウ)前記数字のうち「12」を構成する「2」の頂部から「1」〜「8」を経て「9」の下部まで,円環状に配置された各数字の外周側に,これらに沿うと共にそれぞれの数字に接着する形で,黒色の円弧状の枠が配置されている。
イ 本件原画のうち,本件形態1に係る部分(前記ア(ア))について,時計の針が本体の色彩との関係で視認しやすいこと自体は,針の位置により時間を表示するアナログ時計の実用目的に必要な構\成といえる。配色に係るデザイン性(本体の黒色と針の白色のコントラスト)も,このような構成を実現するために採用されているものといえるのであって,当該構\成と分離して美的鑑賞の対象となるような美的特性を備えている部分として把握することはできない。
ウ 本件形態2に係る部分(前記ア(イ),(ウ))については,まず,アナログ時計において,「1」〜「12」の各数字及びこれを「12」を頂部として配置して右回りに円環状に配置することは,時間の表示という実用目的に必要な構\成といえる。また,これらの数字により形成された円環の内側にある円盤状部及び外側に形成された円弧状の枠は,円環状に配置された数字と互いに接着することにより,全体として時計本体を構成し,その形状を維持している部分と見られるから,これらも実用目的に必要な構\成といえる。使用されている数字のフォントや円盤状部の大きさの点も,数字の見易さ及び時計としての使用に耐える一定の強度の実現という時計としての実用目的に必要な構成である。さらに,数字の字体そのものは,何ら特徴的なものではない。\n
他方,各数字の外周側に円弧状の枠が設けられていない部分は,デザインの観点から目を引く部分と見ることも可能である。もっとも,当該部分は,下部に上記枠の終端部が接する「9」を除くと,2桁の数字(「10」〜「12」)が配置された部分であるところ,全ての数字の外側を円弧上の枠により囲んだ製品においては「10」及び「11」の数字のサイズが他の数字に比して明らかに小さいこと(乙3)にも鑑みると,上記枠の設けられていない部分に他の部分と同様に枠を設けた場合,10の桁を示す「1」の部分がそれぞれ円弧状の枠と干渉して数字を読み取り難くなり,時間の把握という時計の実用目的を部分的にであれ損なうことになると考えられる。\n
そうすると,当該部分のデザインについても,時計の実用目的に必要な構成と分離して美的鑑賞の対象となるような美的特性を備えている部分として把握することはできない。エしたがって,本件原画は,実用目的に必要な構\成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものであるから,これを純粋美術の著作物と客観的に同一なものと見ることはできず,著作物とは認められない。

◆判決本文

◆原告の文字盤の写真

関連カテゴリー
 >> 著作物
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10134  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年7月29日  知的財産高等裁判所

 コンピュータ関連発明について、知財高裁(2部)は、相違点の認定誤りを理由に、拒絶審決を取り消しました。判決文は、長いです(97ページ)。

 本件審決は,引用発明の構成b1の「コンテンツ」及び構\成f1の「OTTデバイス」が,それぞれ本願発明8の「デジタル・コンテンツ・アイテム」及び「ディスプレイ装置」に相当するという判断を前提として,クライアントに対してファイルを配信する方法において配信の効率化を図ることは一般的課題であるから,引用発明に甲2技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとし,引用発明に甲2技術を適用した発明は,OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構\成を備える方法ということができ,同構成は,構\成Hの「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構\成に相当すると判断した。
(2) しかし,前記3(1)アの甲2の記載(段落【0002】,【0005】,【0012】,【0014】〜【0018】,【0072】〜【0079】,【0116】〜【0123】等。特に,品質情報を具体的に記載した段落【0073】〜【0078】)からすると,甲2技術は,ファイルの効率的な配信のための技術であって,そこで取得される品質情報は,クライアント計算機の性能や動作状態,あるいは回線状態などに関するものと認められる。なお,甲2の段落【0049】,【0050】,【0053】及び【図3】からすると,甲2において,サーバ201と同様の概略構\成であり得るクライアント211がディスプレイ装置と接続されることは示唆されているが,他方で,ディスプレイ110は,あくまで,サーバ201に備わる表示コントローラ105と接続される外部装置として取り扱われており,そのような外部装置であるディスプレイ110から何らかの情報を取得することについての記載は見当たらない。したがって,甲2技術における「受信品質の指標・・・および受信性能\の指標を含む品質情報」に,ディスプレイ装置の品質等の情報が含まれているとまでは認められず,その点に係る技術常識等を認めるべき他の証拠もない。
(3) そうすると,仮に,引用発明の構成b1の「コンテンツ」及び構\成f1の「OTTデバイス」が,それぞれ本願発明8の「デジタル・コンテンツ・アイテム」及び「ディスプレイ装置」に相当するという判断を前提とし,クライアントに対してファイルを配信する方法において配信の効率化を図ることが一般的課題であると解して,引用発明に甲2技術を適用し,OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構\成を備えるものとしたとしても,直ちに「ディスプレイ装置」の「品質情報を取得する」ことまでをも含む構成になるということはできず,本願発明8の構\成Hの「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構\成に相当するものになるとはいえない。よって,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断には,誤りがある。以上の認定判断に反する被告の主張は,採用することができない。
5 相違点2に係る構成の容易想到性について\n
(1)本件審決は,引用発明と甲3技術は,送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法である点において共通することから,引用発明に甲3技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとし,引用発明に甲3技術を適用した発明は,OTTデバイス(ピア1A)から他のOTTデバイス(ピア1B)に対して,「ピア1Bは,ピア1Aに該当のデータの送信を要求する」構成を備える方法ということができ,当該構\成は,構成Jの「外部の創作地点から,インターネットを介して,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へと,前記サービス・クラウドの外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」構\成に相当すると判断した。
(2) しかし,甲3技術がピアツーピアシステムに係るものである(構成i)のに対し,引用発明は,コンテンツの取込み,自動パブリッシング,配信及び格納並びに収益化等の複合的なタスクが実行可能\であるもので,それ自体が主体的にコンテンツの取込みや配信等を行う方法であるものと解されるから,甲3技術と引用発明とは,少なからず技術分野を異にするものというべきである。この点,「送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法」という広い技術分野に属することから直ちに,それらの関係性等を一切考慮することなく,引用発明に甲3技術を適用することを容易に想到することができるものとは認め難い。そして,甲3に,他に,甲3技術を引用発明に適用する動機付けや示唆となる記載があるとも認め難い。 よって,本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断には,誤りがある。
(3) 被告は,本願明細書(甲6)の段落【0130】の記載を踏まえて,本願発明8の構成Jにいう「外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」という文言の意味について,「デジタル・コンテンツ・アイテム」が「外部コンテンツ・ゲートウェイ」を経由するか否かにかかわらず,「外部コンテンツ・ゲートウェイ」の機能\「により転送する」ことをいうと主張するが,上記(2)の判断は,本願発明8の構成Jにいう「外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」を上記の被告が主張するように理解したとしても左右されるものではない。\n
6 相違点3に係る構成の容易想到性について\n
(1)本願発明8の構成Kの「ライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」については,構\成Kの文言によると,サービス・クラウドに備えられ,コンテンツをサービス・クラウドの外部の供給源からディスプレイ装置に提供する機能を有するものと認められ(前記1(2)ウ(ク)),また,「ライブ・データ・フィード」という用語からすると,外部の供給源から供給されるデータには「ライブ」の要素が含まれるものと解される。しかるに,甲4技術が,上記の「ライブ」の要素が含まれるデータの供給に関する構成を含むものであるかは明らかでない。したがって,引用発明に甲4技術を適用しても,直ちに本願発明8の構\成Kに至るものかは,明らかでない。
(2) 本件審決は,甲4技術の構成kの「オンラインサービスコンピューティング装置108」が,本願発明8の「ライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」に相当すると判断したが,上記(1)の点に関し,この判断の根拠が明確にされているとはいえない。また,被告は,甲4技術の「オンラインサービスコンピューティング装置108」は,コンテンツアイテムを外部供給源(「オンラインソーシャルネットワーキングサービス」)から受信してユーザ装置310に送信するから,データを一方から他方へ転送する制御機能\を有する「ゲートウェイ」に相当するとした上で,データは「多数のユーザにより投稿され共有された種々のメディアコンテンツアイテム」や「コンテンツを共有しているユーザ又は『友達』により供給されたニュースフィード」を含むから,上記ゲートウェイは「サービス・クラウドのライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」といえると主張するが,上記(1)の点に関し,その根拠が明確にされているとはいえない。
(3) 以上の点は,原告が取消事由として主張するものではないが,特許庁において更なる審理判断がされることを考慮して判示するものである。7相違点4に係る構成の容易想到性について(1) 引用発明と甲5技術は,いずれもサーバにコンテンツを取り込む方法に係るものであるという点で技術的な共通性を有するといえ,引用発明に甲5技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。そして,引用発明に甲5技術を適用した発明は,OTTデバイスに表示するための「画像データが表\す画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予め記憶された目標濃度に補正する」構\成を備える方法ということができ,この構成は,本願発明8の構\成F2の「前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」構成に相当するということができる。よって,相違点4に係る構\成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。(2)ア原告は,本願発明における解析は,ユーザが視聴するための,映画やテレビ番組等のコンテンツをディスプレイ装置に送信するために行われるものであるところ,ユーザにおいてそれらの画像の特定の部分(顔等)を調整したいという要求はないから,甲5技術に係る「画像データが表す画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予\め記憶された目標濃度に補正する」構成は,本願発明8の構\成F2には相当しないと主張する。
しかし,本願発明8の構成F2は,「ディスプレイ装置上に表\示するための」「デジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」というもので,「解析」の具体的な内容については記載されていない。そして,本願発明8の構成中に,「デジタル・コンテンツ・アイテム」について,原告の主張するような内容のものに特定する旨の記載もなく,他に本願発明8の構\成F2の「解析」を原告の主張するように限定して解釈すべき理由はない。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。イ原告は,本願明細書の段落【0119】の記載から,本願発明8の構成F2の「解析」は,ビジュアル及び音響コンテンツの両方に対して行われ得るもので,甲5技術の「解析」とは異なる旨を主張するが,本願の特許請求の範囲の請求項8には,「音」について何ら記載がなく,上記アのような記載があるのみであるから,本願発明8の構\成F2の「解析」が音響に対しても行われるものと解することはできない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ原告は,引用発明と甲5技術とを組み合わせる動機付けはなく,シーンごとに画像の特定の部分を調整するために,オペレータの好みに従って事前に手動で入力される「目標濃度」を用い,オートセットアップ機能を介して,画像を調整するという甲5技術の「解析」の特徴は,特定の装置の技術的仕様に画像をより良好に適合させるために画像の調整を行う本願発明の「解析」とは対照的であって,甲5技術の「解析」を本願発明に組み込むことは,無意味であり,逆効果であると主張するが,上記アで指摘したのと同様,本願発明8における「解析」について,特定の装置の技術的仕様に画像をより良好に適合させるために画像の調整を行うためのものと限定して解釈すべき理由はないから,原告の上記主張も,前提を欠くものであって採用することができない。\n
8まとめ
以上によると,原告主張の取消事由のうち,相違点の認定の誤り及び相違点4に係る容易想到性の判断の誤りは,いずれも理由がないが,相違点1に係る容易想到性の判断の誤り及び相違点2に係る容易想到性の判断の誤りは,いずれも理由がある。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 相違点認定
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10026  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月29日  知的財産高等裁判所

 文字「S」を図形化し文字「SANKO」と結合させた商標について、先願商標「SANCO」と類似するとして拒絶審決がなされました。知財高裁も同様に類似すると判断しました。

結合商標の類否判断の方法について
(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,各構\成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合は,一つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同一又は類似であるといえないとしても,他の称呼,観念が他人の商標のそれと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。
(2) この点について,原告は,結合商標の一部を分離,抽出して商標の類否を判断することは,「商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合」や,「それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合」などの場合に限られるべきであると主張する。しかし,原告が挙げる上記の場合以外にも,「各構\成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合」には,分離して観察することが許されると解するのが相当である。原告が引用する最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁も,このことを否定するものとは解されない。
(3) そして,以上の(2)で述べた事情などを総合的に考慮して,結合商標の一部を分離,抽出して商標の類否を判断することが許されるかどうかを判断することが相当であると解される。
2本願商標について
(1)本願商標は,朱色の半楕円と同色縞模様の半楕円を斜めに接するように組み合わせてなる図形を配した本願図形部分と,その右にやや図案化された「SANKO」の欧文字を本願図形部分と同様の朱色で横書きした本願文字部分からなるところ,図形と文字という構成要素の性質の違いや,本願図形部分の上部が本願文字部分の上部よりも少なからず上にはみ出す形となっていることのほか,本願文字部分については容易に「サンコ」又は「サンコー」という称呼を有する部分として理解されることからすると,本願図形部分と本願文字部分とは,外観上,明確に分離して看取されるものであるといえる。そうすると,本願図形部分及び本願文字部分について,それらの部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものとはいえない。
(2) 上記のとおり容易に特定の称呼を有する部分として理解される本願文字部分は,本願商標の構成の大きな部分(7割以上)を占めている。そして,「SANKO」の文字は,辞書等に載録のない語であるから,特定の観念を生じないものである。そうすると,本願文字部分は,需要者の印象に残りやすく,強い印象を与えるということができる。
(3) これに対し,本願図形部分については,その形状に照らし,称呼を有しない図形であるのか,一定の文字を図案化したものであるのか,一見して直ちに明確なものであるとはいい難いが,商標において,企業等の名称の文字の一部が図案化される例は少なからずあると解されることや,本願文字部分の冒頭の文字が「S」であることからすると,本願図形部分は,「S」を図案化したものであると理解することも可能であるといえ,その場合には本願図形部分から「エス」の称呼が生じ得る。もっとも,本願文字部分の冒頭の文字が「S」であることからすると,本願図形部分が「S」を図案化したものと理解される場合においては,本願文字部分の冒頭の「S」を取り出して特に図案化して配置したものにすぎず,本願文字部分と独立した意味を有するものではないとの理解がされることも多いものとみることができる。\n
(4)上記(1)〜(3)からすると,本願商標については,本願文字部分のみによって商標の類否を判断することも許されるということができる。したがって,本願商標は,その構成文字に相応して,「サンコー」又は「サンコ」の称呼が生じ,特定の観念を生じないものである。
3 引用商標1,2及び4について
(1) 証拠(乙3,5,6)によると,引用商標1,2及び4について,本件審決が認定した前記第2の3(2)ア(ア),(イ)及び(エ)のとおりに認められる。
(2)引用商標1は,やや図案化された「SANCO」の欧文字を横書きしてなるところ,その構成文字に相応して,「サンコー」又は「サンコ」の称呼を生じる。「SANCO」の文字は,辞書等に載録のない語であり,特定の観念を生じない。
(3)引用商標2及び4は,水色の雫を重ねたような図形を配し,その下にやや図案化された「SANCO」の欧文字を青色で横書きしてなるところ,引用商標2及び4を構成する図形部分と,「SANCO」の文字部分は,視覚上,明確に分離して看取されるものであり,それらが常に一体となって特定の観念を生じるものともいえないから,文字部分が独立して自他役務の識別標識としての機能\を果たすものといえる。したがって,引用商標2及び4は,その構成文字に相応して「サンコー」又は「サンコ」の称呼を生じる。「SANCO」の文字は,辞書等に載録のない語であり,特定の観念を生じない。4本願商標と引用商標1,2及び4の類否引用商標1,2及び4の「SANCO」の欧文字は,本願文字部分である「SANKO」と,外観の全体的な印象において近似するものであるといえる。そうすると,本願商標と引用商標1,2及び4は,文字部分の比較において,観念を比較できないとしても,その外観は近似し,いずれも「サンコー」又は「サンーコ」の称呼を共通にするものであるから,これらを総合的に勘案すると,両商標は互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
5 以上のとおり,本願商標は,引用商標1,2及び4と類似する商標であるところ,本願商標が引用商標1,2及び4の指定役務と同一又は類似する役務について使用をするものであることについては,当事者間に争いがない。よって,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の審決取消事由は認められない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10151等  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月29日  知的財産高等裁判所

 不使用であるとした審決が取り消されました。

1 取引に係る認定事実
(1) 証拠(甲6の2,甲12の2,甲20,23,24)によると,1)原告が,愛知県在住の特定人(以下「A」という。)から,令和2年1月10日,PayPalで1万7940円の支払を受けたこと及び2)同支払を原告に連絡するPayPalからのメールには,同支払金額について,「エクス:バイアージュ6個(送料無料)」,「¥17,940JPY」が,数量「1」であるとの記載があることが認められる。また,証拠(甲13の2)によると,3)問い合わせ番号「6271−4993−2452」のレターパックプラスについて,令和2年1月12日に福岡県で引受けがされ,同月13日に愛知県の届け先に届けられたことが認められる。さらに,証拠(甲7の2,甲28の3)及び弁論の全趣旨によると,4)原告が「6271−4993−2452」と記載されたレターパックプラスの追跡番号シールを所持しており,同シールは,本件納品書写し(甲7の2)と同一内容の納品書の控え(甲28の3)の裏面に貼付されていることが認められる。\n
(2) 本件チラシ(甲4)には,「送料無料」,「美容クリーム(エクスバイアージュ)¥2,990」との記載がある。また,原告が提出する別のチラシ(甲3)には,「特別販売(2,990円&送料無料)」,「感謝を込めて【1個2,990円&送料無料】の特別販売続行中」との記載がある。なお,同チラシには,「EX:biargue(エクスバイアージュ)」について「40,000円(税込)」との記載もある。さらに,本件サイト(甲5)には,「EX:biargue」との表示がされたクリームの瓶の写真及び本件使用商標1−2の表\\示(別紙3の2)の右側に,「特別販売キャンペーン」,「1個(送料無料)2,990円」,「6個(送料無料)17,940円」などの記載がある。以上の各チラシ及び本件サイトの各記載は,上記(1)2)の事実と整合するもので,上記(1)2)の事実と合わせると,上記(1)1)のAからの支払が,本件チラシに記載された「美容クリーム(エクスバイアージュ)」(本件使用商品1)6個の代金の支 払であることを推認させるものである。
(3)ア本件納品書写し(甲7の2)及びこれと同一内容で上記(1)4)のとおり裏にレターパックプラスの追跡番号シールが貼付された納品書の控え(甲28の3)の記載内容をみると,「今回の商品配送詳細【無料】」,「【商品名】日本郵便・レターパックプラス(対面でのお受取)」,「【追跡番号(商品番号)】627149932452」との記載のほか,「商品」として「美容クリーム」,「単価」として「¥2,990」,「個数」として「6」,「計」として「¥17,940」,「備考」として「送料無料」の記載があり,宛名欄にはAの氏名の記載がある。そして,本件納品書写し及び上記納品書の控えには,上部に,「DOLGES」の文字の下に「D」及び「S」を重ねるように組み合わせて円で囲んだ図形を配置した商標(以下「本件使用商標1−3」という。)が表\\示され,右下部に本件使用商標2−2が表示されている。\n
イ上記アの事実に,上記(1)1)〜4)の事実及び上記(2)のとおり推認される事実を併せ考慮すると,原告が,上記(1)1)の令和2年1月10日のAからの支払を受けて,本件チラシに記載された「美容クリーム(エクスバイアージュ)」(本件使用商品1)6個を発送し,それが同月13日に愛知県在住のAに届けられたという事実が推認され,この推認を覆す事情は認められない。
(4) 原告の本人尋問における供述及び陳述書(甲25)の記載(以下,併せて「原告供述等」という。)によると,原告が,上記(1)1)の令和2年1月10日のAからの支払を受けて,本件使用商品1(6個)に,本件納品書の写し(甲7の2)の原本及び本件チラシ(甲4)を同封したレターパックプラスを発送し,それが同月13日にAに届けられたという取引(以下「本件取引」という。)の事実が認められる。原告供述等は,上記(1)〜(3)で指摘した各事実と整合しており,本件取引について述べる部分について,その信用性を否定すべき事情は見受けられない。2本件商標1及び2の使用について(1)ア本件チラシ(甲4)には,本件使用商標1−1を紙製の外装箱に表示し\nた美容クリームである本件使用商品1の写真(別紙3の1)が掲載されているとともに,本件使用商標2−1を容器側面に表示した美容ミストである本件使用商品2の写真が掲載されている。本件チラシは,原告が作成したものである(原告供述等,弁論の全趣旨)。
イ本件納品書写し(甲7の2)には,前記1(3)アのとおり,本件使用商標1−3が表示されている。本件納品書写しの原本は,原告が作成したものである(原告供述等,弁論の全趣旨)ウ本件使用商標1−1及び1−3は,本件商標1と,本件使用商標2−1は,本件商標2と,それぞれ社会通念上同一であると認められる。\n
(2) 上記(1)の事実及び前記1(4)のとおり認められる本件取引の事実からすると,本件商標1及び2の商標権者である原告が,要証期間内である令和2年1月10日から同月13日までの間に,本件商標1の指定商品のうち「化粧品」に含まれる本件使用商品1について,本件商標1の使用(商標法2条3項2号[商品の包装に標章を付したものの譲渡],8号[広告に標章を付して頒布])をするとともに,本件商標2の指定商品のうち「化粧品」に含まれる本件使用商品2について,本件商標2の使用(同項8号[広告に標章を付して頒布])をしたものと認められる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 不使用
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10003  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月19日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、Webサイト上の使用について、使用証明が要証期間内のものかが不明として、使用ありとして審決を取り消しました。

 被告は,平成28年頃,本件サービスの有料会員のみが閲覧可能な本件ウェ\nブサイトの本件トップページ(甲15)に本件使用商標が表示された本件バナ\nーを,本件バナーのリンク先の「美少女図鑑 作品一覧」の見出しがある本件 ウェブページ(甲17)に本件バナーの画像をそれぞれアップロードして,本 件バナー及びその画像を掲載したこと,ファンプラス社が,令和2年4月1月 以降,本件トップページ及び本件ウェブページにそれぞれ本件バナー及びその 画像を継続的に掲載したことにより,被告又はファンプラス社が要証期間内に 本件使用商標を使用した旨を主張するので,以下において判断する。
(1) 甲15は,本件トップページを印刷した書証であり,甲15には,「Fの ぶらり商店街」の見出しの下に,別紙記載の本件バナーを含む複数のバナー が表示されている。また,甲17は,本件ウェブページを印刷した書証であ\nり,甲17には,「美少女図鑑 作品一覧」の見出しの下に,本件バナーの 画像が表示され,その画像の下には,複数の電子写真集のサムネイルが表\示 されている。本件バナーには,別紙記載のとおり,女性を被写体とする3枚 の写真(本件写真1ないし3)を背景に,白く縁取りされたピンク色の書体 の「美少女図鑑」の文字からなる本件使用商標が表示されている。\nそして,証拠(甲15,17,32)及び弁論の全趣旨によれば,本件ト ップページに表示された本件バナーのリンク先が本件ウェブページであるこ\nと,本件ウェブページに表示された各サムネイルの横には,例えば,「女子\n校生 先輩は僕のいいなり A 2018−09−01」,「女子校生 純 白 B 2018−09−01」等の記載があることが認められる。 しかしながら,甲15及び17は,いずれも要証期間経過後の本件審判請 求後に印刷されたものであるから,甲15及び17が存在するからといって, 要証期間(平成29年6月18日から令和2年6月17日までの間)に,本 件トップページ及び本件ウェブページに本件バナー及びその画像が表示され\nていたものと直ちに認めることはできない。 また,本件バナーのアップロード時のログ等の電子記録は提出されておら ず,平成28年頃,本件トップページ及び本件ウェブページに本件バナー及 びその画像がアップロードされて掲載されたことを客観的に裏付ける証拠は 存在しない。
もっとも,甲17には,本件ウェブページに表示された各サムネイルに係\nる「2018−09−01」等の日付の記載があるが,これらの日付は,当 該サムネイルに係る電子写真集の販売開始日等を示したものとうかがわれ, また,本件バナーのアップロード時期とサムネイルのアップロード時期が当 然に同じ時期になるものとはいえないから,これらの日付から,本件バナー が平成28年頃にアップロードされたものと認めることはできない。
(2)次に,C作成の令和3年4月14日付け陳述書(乙3)中には,1)Cが代 表取締役を務める友ミュージック社は,およそ5,6年前に,被告の依頼を\n受け,本件ウェブサイトの会員限定ページに本件バナーをアップロードした, 2)同ページの本件バナーとリンクさせる形で,美少女図鑑のコンテンツ用ペ ージをアップロードした,3)その後,本件バナーはアップロード時と同じ状 態で会員限定ページに掲載され続けており,現在に至るまで本件バナーに変 更を加えていない旨の記載部分がある。 しかし,上記記載部分によっても,本件バナーのアップロードの時期は, およそ5,6年前とあいまいであるのみならず,上記記載部分は,本件使用 商標を表示する本件トップページ及び本件ウェブページをアップロードした\n時期が「2015年3月25日」であることを証明する旨のC作成の令和2 年9月23日付け証明書(甲20)の記載部分と齟齬するものであるから, 措信することができない。
また,G(以下「G」という。)作成の令和3年6月11日付け陳述書(乙 8)には,1)Gは,被告に在籍していた,今から5,6年前,被告が保有す るコンテンツ(乙5ないし7)から女性3名の写真と本件使用商標を使用し て,本件バナーを作成し,友ミュージック社に依頼して,本件ウェブサイト の有料会員のみが閲覧できる本件トップページに本件バナーを掲載し,本件 バナーのリンク先において,年齢の若い女性を被写体とするコンテンツを一 覧化した本件ウェブページを作成した,2)本件バナーに表示された女性3名\nの写真は,直近1,2年前に出版された,女子高生シリーズの中で比較的新 しい3冊の写真集から選んだものである,3)その後,本件バナーはアップロ ード時と同じ状態で会員限定ページに掲載され続けており,現在に至るまで 本件バナーに変更を加えていない旨の記載部分がある。 しかし,上記記載部分によっても,本件バナーのアップロードの時期は, およそ5,6年前とあいまいであるのみならず,本件バナーの背景の本件写 真1ないし3は,Cが挙げる乙5ないし7(電子写真集1ないし3)記載の 写真と異なる構図の写真であるから,乙5ないし7は,本件バナーのアップ\nロードが平成28年頃にされたことを直ちに裏付けるものでないことからす ると,上記記載部分は措信することができない。 したがって,乙3及び8から,本件トップページ及び本件ウェブページに それぞれ本件バナー及びその画像が掲載されたことを認めることはできない。 他に本件使用商標が表示された本件バナー及びその画像が要証期間内に\n本件トップページ及び本件ウェブページに掲載されていたことを認めるに足 りる証拠はない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 不使用
 >> 使用証明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10044 特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年6月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁3部は、非接触式ICカードは本件発明の「記憶媒体」には非該当、また、無効主張は、時期に後れた攻撃防御でないとして、被告の敗訴部分を一部取り消しました。

(2) 非侵害論主張5)について
ア 自白の成否及び時機に後れた攻撃防御方法該当性
一審原告は,非侵害論主張5)は,原審の答弁書記載の認否によって成立 した自白の撤回に当たり,また,時機に後れた主張でもあるから,許され ない旨主張する。 たしかに,一審被告は,原審答弁書における構成要件1A等の認否に際\nし,被告給油装置の電子マネー媒体が本件発明の「記憶媒体」に当たると の対比を明確に争っていたわけではないが,従前から,被告給油装置が本 件発明の技術的思想を具現化したものでないことを主張しており,非侵害 論主張5)は,これを,使用される決済手段の差異(プリペイドカードと非 接触式ICカード)という観点から論じたものであるといえるから,一審 被告が充足論全体について単純に認めるとの認否をしていない以上,自白 を撤回して新たな主張をしているとはいえないし,この主張を時機に後れ たものとして扱うのも相当ではない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
イ 非接触式ICカードの「記憶媒体」該当性
本件明細書において,本件発明の「記憶媒体」の具体的態様としては, 磁気プリペイドカード(【0033】)のほか,「金額データを記憶する ためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」(【0070】)や 「カード以外の形態のもの,例えば,ディスク状のものやテープ状のもの や板状のもの」(【0071】)も開示されている。このように,本件発 明の「記憶媒体」は必ずしも磁気プリペイドカードには限定されない。 しかしながら,本件発明の技術的意義が上記1のとおりであることに照 らして,「媒体預かり」と「後引落し」との組合せによる決済を想定でき る記憶媒体でなければ,本件3課題が生じることはなく,したがって,本 件発明の構成によって課題を解決するという効果が発揮されたことになら\nないから,上記の組合せによる決済を想定できない記憶媒体は,本件発明 の「記憶媒体」には当たらない。 かかる見地にたって検討するに,被告給油装置で用いられる電子マネー 媒体は非接触式ICカードであるから,その性質上,これを用いた決済等 に当たっては,顧客がこれを必要に応じて瞬間的にR/Wにかざすことが あるだけで,基本的には常に顧客によって保持されることが予定されてい\nるといえる。そのため,電子マネー媒体に対応したセルフ式GSの給油装 置を開発するに当たって,物としての電子マネー媒体を給油装置が「預か る」構成は想定し難く,電子マネー媒体に対応する給油装置を開発しよう\nとする当業者が本件従来技術を採用することは,それが「媒体預かり」を 必須の構成とする以上,不可能\である。 そうすると,被告給油装置において用いられている電子マネー媒体は, 本件発明が解決の対象としている本件3課題を有するものではなく,した がって,本件発明による解決手段の対象ともならないのであるから,本件 発明にいう「記憶媒体」には当たらないというべきである。むしろ,電子 マネー媒体を用いる被告給油装置は,現金決済を行う給油装置において, 顧客が所持金の中から一定額の現金を窓口の係員に手渡すか又は給油装置 の現金受入口に投入し,その金額の範囲内で給油を行い,残額(釣銭)が あればそれを受け取る,という決済手順(これは乙4公報の【0002】 に従来技術として紹介されており,周知技術であったといえる。)をベー スにした上,これに電子マネー媒体の特質に応じた変更を加えた決済手順 としたものにすぎず,本件発明の技術的思想とは無関係に成立した技術で あるというべきである。一審被告の非侵害論主張5)は,このことを,被告 給油装置の電子マネー媒体は本件発明の「記憶媒体」に含まれないという 形で論じるものと解され,理由がある。
ウ 一審原告の主張について
(ア) 一審原告は,本件発明の「記憶媒体」は,構成要件1C及び1Fの動\n作に適した「記憶媒体」であれば足りる旨主張する。 しかしながら,発明とは課題解決の手段としての技術的思想なのであ るから,発明の構成として特許請求の範囲に記載された文言の意義を解\n釈するに当たっては,発明の解決すべき課題及び発明の奏する作用効果 に関する明細書の記載を参酌し,当該構成によって当該作用効果を奏し\n当該課題を解決し得るとされているものは何かという観点から検討すべ きである。しかるに,一審原告の上記主張は,かかる観点からの検討を せず,形式的な文言をとらえるにすぎないものであって,失当である。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 一審原告は,本件明細書の【0070】に「記憶媒体」として「金額 データを記憶するためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」を 例示する記載があり,非接触式ICカードもこれに含まれる旨主張する。 しかしながら,上記記載は,【0033】の「プリペイドカード71 は,磁気カードからなり」等の記載を受けて,カードの記憶素子が磁性 材ではなくICメモリであっても良い旨を示すにとどまり,そのカード が非接触で動作することを示す記載ではない。また,上記記載において, ICメモリは「金額データを記憶するための」ものであって,非接触式 ICカードのように演算・通信の機能を有することは開示も示唆もされ\nていないから,上記記載を根拠に非接触式ICカードが本件発明の「記 憶媒体」に当たるとはいえない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 一審原告は,非接触式ICカードが券売機に取り込まれて使用され得 ることは周知であり,本件明細書には設定器内部にカードを取り込んだ ままとしない記憶媒体を用い得ることが示されているから,非接触式I Cカードが本件発明の「記憶媒体」に当たらないとはいえない旨主張す る。 しかしながら,前掲前提事実のとおり,被告給油装置において電子マ ネー媒体を使用する際には,電子マネー媒体(非接触式ICカード)は R/Wにかざされるだけであって装置に「取り込まれ」ることはない。 非接触式ICカード一般に一審原告主張のような使用態様はあり得るも のの,被告給油装置ではそのような使用態様によらずに非接触式ICカ ードが「電子マネー媒体」として用いられているので,被告給油装置に おける「電子マネー媒体」の技術的意義は,本件発明における「記憶媒 体」のそれとは異なる。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(3) 充足論についての小括
以上によれば,一審被告の非侵害論主張4)及び5)は理由があるから,その 余の非侵害論主張の成否について判断するまでもなく,被告給油装置及び被 告プログラムは本件特許を侵害しない。
4 争点4(無効論)について
念のため,仮に,本件発明1の「先引落し」金額は顧客が指定する場合を含 み(上記3(1)イ(イ)参照),また,非接触式ICカードも本件特許の「記憶媒 体」に含まれる(上記3(2)イ参照)とした前提で,無効論につき検討する。 なお,本件において,無効論は,本件発明1及び本件発明3(本件訂正後の もの)について検討すれば足りる。このことは,上記「第3」4の冒頭に説示 したとおりである。
(1) 「時機に後れた攻撃防御方法」該当性について
無効主張A,B,Dは,原審における侵害論の心証開示後に主張されたも のであり,そのため,原審においては時機に後れたものとして取り扱われた わけであるが,既に充足論に関する項で指摘したとおり,構成要件1C1充\n足性(非侵害論主張4))及び構成要件1A,1C,1F3,1F4充足性\n(非侵害論主張5))に関する原審の主張整理には,本来は,争いがあるもの として扱うべき論点を争いのないものとして扱ったという不備があったとい わざるを得ない。そして,無効論に関する主張の要否や主張の時期等は,充 足論における主張立証の推移と切り離して考えることができないのであるか ら,充足論について,本来更に主張立証が尽くされるべきであったと考えら れる本件においては,無効主張が原審による心証開示後にされたという一事 をもって,時機に後れたものと評価するのは相当ではない。 また,上記無効事由に関する当審における無効主張は,控訴後速やかに行 われたといえる。 以上によると,一審被告による上記無効主張は,原審及び当審の手続を全 体的に見た観点からも,また,当審における手続に着目した観点からも,時 機に後れたものと評価することはできない。 したがって,いずれの無効主張も,時機に後れた攻撃防御方法として却下 すべきものではない。
・・・
ウ 相違点の容易想到性
上記の表において一致点とされていない本件発明1の構\成は,相違点と なる。 しかしながら,いずれの構成も,セルフ式GSの給油装置において,審\n判甲B1装置の現金による支払を,電子マネー媒体による支払に置き換え る際には,当然に備わる構成である。すなわち,上記の各相違点をまとめ\nると,本件発明1においては装置がR/Wを備えること,電子マネーの金 額データはR/Wにより電子的に書き換えられること,の2点となるが, いずれの構成も,現金の場合は貨幣という有体物に化体されている金銭的\n価値を,電子的情報という無体物に化体させたことによって必然的に生じ る帰結である。 また,現金による支払を電子マネー媒体による支払に置き換えること自 体は,電子「マネー」という名称自体からも容易に着想することができる し,例えば乙16の12(電子商取引推進協議会「モバイルECに関わる 決済標準モデルの研究中間報告書」平成13年3月発行)には,非接触式 ICカードが「電子マネー」として利用されること,FeliCa内蔵の携帯電 話は「電子財布」になること等が記載されており,これらの記載は,現金 による支払いを電子マネー媒体に置き換えることを動機付ける。 そうすると,当業者にとって,上記各相違点にかかる本件発明1の構成\nに想到することは,通常の創作能力の発揮にすぎず,容易であったといえ\nる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)29228

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 104条の3
 >> コンピュータ関連発明
 >> 裁判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10013  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月20日  知的財産高等裁判所

 不使用取消を請求しましたが、棄却されました。知財高裁も同様に「動画である本件動画における商標の使用は,商標的使用とはいえないと判断をしました。

 事案の性質に鑑み,まず本件商標の使用の有無の点から検討,判断する。 商標法は,50条において,「日本国内」において「商標権者,専用使用権 者又は通常使用権者」のいずれかが「不使用取消審判請求に係る指定役務」 のいずれかについての登録商標の「使用」をしていることを商標権者が証明 しない限り,当該指定役務について当該商標の登録が取り消されると定め, また,2条において,商標とは「業として」使用するものであり,その「使 用」とは,同条3項各号に列記されているのものに限ることを定めている。 したがって,本件において,商標権者である原告は,本件サービス又は本 件チャンネルにおける本件商標の使用が,日本国内において原告又はリンガ フランカ社によって,本件指定役務について,業務に係る標章として同条3 項各号に列記されている態様で行われていることを立証することを要する。
(2)本件サービスにおける本件商標の使用について
ア 前記1(8)のとおり,本件サービスに係る会員認証ページ(甲8)には, 本件商標と同一の商標が表示されており,また,同(1)ウ及び(3)のとおり, 本件サービスは日本国内における日本人も対象としていることが明らか であるから,本件商標は,日本国内において使用されているといえる。 しかしながら,上記ページは,要証期間経過後で本件審判請求がされた 後の平成31年4月16日に印刷されたものにすぎず,要証期間に同ペー ジに本件商標が表示されていたことを直ちに明らかにするものではない\nし,自己のウェブサイトの表示を変えることは容易であるから,この証拠\nだけから要証期間に本件商標が表示されていたことを推認できるもので\nもない。 したがって,要証期間に本件サービスで本件商標が使用されていること を認めるに足りる証拠はないというべきである。
イ 仮に,要証期間に本件サービスに係る会員認証ページに本件商標が表示\nされていたとしても,本件商標は本件指定役務の範囲に含まれる役務につ いて使用されているとはいえない。 すなわち,本件指定役務のうち,「語学に関する知識の教授」,「国際文化 に関する知識の教授」又は「教育研修のための施設の提供」は,人に対す る教育又は知能を開発するための役務であるが,本件サービスは,会員が\nSNSを利用して会員同士で情報発信,情報交換をするものであり,その 際に使用できる言葉をグロービッシュの基本単語1500語又はその派 生語に限定したというにすぎず,実態としては個人間の交流の場を提供し ているだけのサービスである。したがって,本件サービスが主体的に知識 の教授や教育研修を行っているとはいえず,本件サービスを利用すること でグロービッシュについての能力が向上することがあるとしても,それは,\n単なる副次的な作用,効果にすぎない。 そうすると,本件サービスの提供は,「語学に関する知識の教授」,「国際 文化に関する知識の教授」又は「教育研修のための施設の提供」のいずれ にも該当しないというべきである。
ウ したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件サービスに おいて,要証期間に上記各指定役務について本件商標の使用がされていた とは認められない。
(3) 本件チャンネルにおける本件商標の使用について
ア 前記1(4)のとおり,本件動画1)ないし4)には,その冒頭に本件商標と同 一の商標が使用されており,また,本件サービスやグロービッシュ・ラー ニング・センターの案内を内容とするなど日本国内における日本人を対象 としていることが明らかであるから,当該商標は日本国内において使用さ れているといえる。 また,前記1(4)のとおり,本件動画1)ないし4)の投稿日は要証期間開始 前の平成25年3月9日から同年7月9日にかけてであるところ,要証期 間経過後である令和2年10月9日時点においても本件動画1)ないし4) を視聴することが可能であり,同日時点の本件動画1)の視聴回数が750 回,本件動画2)の視聴回数が1125回,本件動画3)の視聴回数が431 回,本件動画4)の視聴回数が437回となっているから(甲10),要証期 間に本件動画1)ないし4)が視聴され得る状態であったことは十分に推認\nすることができる。したがって,要証期間に本件商標が本件チャンネルに おいて使用されたことが認められる(なお,被告は,要証期間に本件チャ ンネルが閉鎖されていた可能性を否定することはできない旨主張するが,\n閉鎖されていたことを疑うに足りる事情は見当たらない。)。
イ しかしながら,本件サービスの提供は,前記(2)イで判示したとおり,「語 学に関する知識の教授」又は「国際文化に関する知識の教授」,さらには「語 学教育に携わる教師の育成のための教育又は研修」のいずれの役務にも当 たらないというべきであるから,本件動画1)ないし4)が本件サービスの案 内を内容とするとしても,それが上記各指定役務に関する「広告」(商標法 2条3項8号)に該当する余地はない。 また,本件動画1)及び2)は,専らグロービッシュそのものの紹介を内容 とするものと把握される動画であって,具体的な役務との関連性が明確に されているとはいえず,この点からも「役務に関する広告」(商標法2条3 項8号)とはいい難いものである。したがって,本件動画1)及び2)におけ る本件商標の使用が,商標法2条3項所定の「使用」に該当するとは認め られない。 さらに,本件動画3)は,専らリンガフランカ社の前記1(1)ウ2)のサービ スの紹介を,本件動画4)は,専ら前記1(1)ウ3)のサービスの紹介を内容と するとものとそれぞれ把握される動画であるところ,前記1(6)及び(7)のと おり,リンガフランカ社は,要証期間前の平成25年9月30日には上記 両サービスを終了させており,原告は,同サービスの運営を引き継いでい ないから,本件動画3)及び4)を「役務に関する広告」(商標法2条3項8号) と捉えるとしても,その内容は,事業として行われていない実態のサービ スに関するものにすぎない。そうすると,本件動画3)及び本件動画4)は, 業として行われている役務について使用されているものではないから,そ こに本件商標が表示されているとしても,その本件商標の使用を商標とし\nての使用と解することはできない。
ウ 以上によれば,本件チャンネルで公開されている動画である本件動画1) ないし4)における本件商標の使用は,いずれにしても商標法2条3項所定 の「使用」とはいえない,あるいは商標的使用とはいえないことになる。
(4) 小括
以上の次第で,本件商標が,要証期間中,本件指定役務のうち,「語学に関 する知識の教授」,「国際文化に関する知識の教授」,「教育研修のための施設 の提供」又は「語学教育に携わる教師の育成のための教育又は研修」の役務 について使用されていたと認めることはできず,また,原告は,本件指定役 務のうち,上記役務を除く役務について要証期間に本件商標が使用されてい る点について具体的に主張立証をしておらず,本件証拠からもその使用をう かがうことはできない。 したがって,要証期間に本件商標が本件指定役務について使用された旨の 立証はないというべきであるから,本件商標の使用者に係る点について判断 するまでもなく,いずれにしても本件審決の判断に誤りはない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 不使用
 >> 使用証明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10147  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年6月29日  知的財産高等裁判所

 ゲームプログラムの発明について新規事項であるとした審決が維持されました。なお本件発明は第4世代の分割出願です。

 これらによると,「アイテムボックス」は,アイテムを収納するものとしてゲーム 分野で慣用されている語であるとはいえるものの,「アイテムボックス」という記載 をもって,アイテムボックスに収納できるアイテムの数に所定の上限が設けられて いるか否か,アイテムボックスが必ずすべてのアイテムを収納するものであるか否 か,といった特定の仕様が一義的に決まるものではない。 当初明細書に記載の「アイテムボックス」の解釈に当たっては,当初明細書に記 載の「アイテムボックス」が収納上限を設けているという仕様を有していることを 前提としているものといえ,甲12〜14の記載は,当初明細書等に記載の「アイ テムボックス」が収納上限を設けているという前提に対して何らの影響を与えるも のとはいえない。
ウ 原告は,本願発明1は「アイテムボックスに特定アイテムの収納上限が 設けられ」ることを特定しているわけではないから,「アイテムボックスに特定アイ テムの収納上限が設けられている」ことが当初明細書に記載されているか否かは, 本件補正が新規事項の追加に該当するか否かとは無関係である旨主張する。 しかし,当初明細書において唯一アイテムボックスに関して記載されている段落 【0051】における「アイテムボックス」に関する記載からは,当該「アイテム ボックス」に収納上限が設けられているものであることが読み取れるのみであるか ら,「アイテムボックス」に特定アイテムを収納するとした場合には,特定アイテム の収納上限が設けられることになるとの解釈が,新たな技術的事項を導入するもの であるか否かを判断する際に考慮すべき事項である。 なお,新規事項の追加の判断は,補正により追加された事項が,当初明細書に記 載された事項から導き出される全ての技術的事項との関係から,新たな技術的事項 が導入されたものであるか否かであるから,本願発明1において「アイテムボック スに特定アイテムの収納上限が設けられ」ることを特定しているか否かは,新たな 技術的事項を導入するものであるか否かの判断に影響するものではない。
エ 原告は,令和2年4月1日付け意見書(甲8)と当初明細書等の記載が 整合するか否かは,本件補正が新規事項の追加に該当するか否かとは無関係である 旨主張する。 しかし,原告は,同意見書(甲8)において,当初明細書に記載の「アイテムボ ックス」には収納上限が設けられているということを前提とした主張をしているた め,同意見書の主張と,当初明細書との記載とが整合しているか否かは,新たな技 術的事項を導入するものであるか否かを判断する際に検討すべき事項であって,無 関係というべきではない。
(3) 「特定のアイテム」について
ア 当初明細書の段落【0051】には,「・・・具体的には,ユーザは,付 与される様々な種類の不要なアイテムを,1つの特定のアイテムに変換して所持す ることができるため,・・・」として,「付与される様々な種類の不要なアイテム」 を「1つの」「特定アイテム」に変換して所持することが記載されているところ,「1 つの」特定のアイテムが,「1個の」特定のアイテムのことを意味するのか,「1種 類の」特定のアイテムのことを意味するのかは当初明細書には記載されていない。 しかし,当初明細書の【図3】において,レアリティが「R」のカードが3個の 「特定のアイテム」に変換され,レアリティが「N」のカードが2個の「特定のア イテム」に変換されることが看取でき,すべてのカードが「『1個の』特定のアイテ ム」に変換されるものではないことを踏まえると,当初明細書の段落【0051】 に記載の「1つの」特定のアイテムは,「1種類の」特定のアイテムのことを意味す ると解することができる。 本件審決は,「1つの」特定のアイテムについて,直接的に言及していないものの, 「特定のアイテム」が「1種類」であることを当然の前提とした上で,判断してい る。
イ 当初明細書には,「特定のアイテム」が「上限なくユーザが所持可能とす\nることができる」ものであることが記載されているとともに,当初明細書には「特 定のアイテム」を上限なくユーザが所持可能とするという構\成をとることによって, ユーザは,付与される様々な種類の不要なアイテムを,一つの特定のアイテムに変 換して所持することができるため,不要なアイテムによりユーザのアイテムボック スが満杯になるのを防ぐことができることが記載されている。 これらの記載によると,本願発明における「ユーザに付与されたアイテムを特定 のアイテムに変換する」ことの技術的意義は,不要なアイテムを,上限なくユーザ が所持可能とすることができる「特定のアイテム」に変換することによって,収納\nすることができるアイテムの数に上限が設けられている「ユーザのアイテムボック ス」が満杯になることを防ぐことであると理解される。
ウ 上記イのような「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイテムに変換 する」ことの技術的意義に照らすと,当初明細書等に記載の「アイテムボックス」 は,収納上限が設けられているものであるのに対し,当初明細書に記載の「特定の アイテム」は,「上限なくユーザが所持可能とすることができる」ものであるから,\n「アイテムボックス」に収納される「アイテム」と,「特定のアイテム」とでは,所 持可能な数に上限があるかないかという点で,アイテムの性質が異なるといえる。\nまた,当初明細書には,「特定のアイテム」が「他アイテム」とは異なる種類のアイ テムであることが説明されている。 当初明細書の記載に接した当業者は,そこに記載された収納上限が設けられてい る「アイテムボックス」に,上限なくユーザが所持可能とするようにされた「特定\nのアイテム」が収納されると認識することはなく,上限なくユーザが所持可能とす\nるようにされた「特定のアイテム」は,収納上限のある「アイテムボックス」とは 別に管理するものであると認識するというべきである。 また,「特定のアイテム」と,「ユーザに付与される」「他のアイテム」とは異なる 種類のアイテムであることが説明されており,「特定のアイテム」とユーザに付与さ れるアイテムとでは,所持可能な数に上限があるかないかという点で,アイテムの\n性質が異なるものと理解されることからしても,「ユーザ」に付与される「他のアイ テム」がアイテムボックスに収納されるものであるからといって,「特定のアイテム」 がアイテムボックスに収納されるものであると当然に理解するものとはいえない。 以上によると,当初明細書の記載は,上限なくユーザが所持可能とすることがで\nきる「特定のアイテム」を収納上限のある「アイテムボックス」に所持する(アイ テムボックスに収納する)ことを排除していると評価できる。
エ 原告が主張するように,本願発明において,「特定のアイテム」が「アイ テムボックス」に収納されるものであると解した場合には,当初明細書の段落【0 051】にのみ記載されているところの「アイテムボックス」には収納上限が設け られているのであるから,不要なアイテムを「特定のアイテム」に変換したとして も,(複数個の)1種類の「特定のアイテム」が不要なアイテムとして変換されたア イテムの代わりにアイテムボックスに収納されることとなる以上,(複数個の)「特 定のアイテム」によりアイテムボックスが占有されることになるのであるから,ア イテムボックスが満杯になることを防ぐことができなくなってしまうこととなり, 不要なアイテムを「特定のアイテム」に変換することにより,ユーザのアイテムボ ックスが満杯になることを防ぐという「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイ テムに変換する」ことの技術的意義を損なうものといえる。
オ 原告は,アイテムの所持とアイテムボックスへの収納とが関連すると主 張する。 しかし,上記(2)の「アイテムボックス」に関する前提や上記イの本願発明におけ る「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイテムに変換する」ことの技術的意義 を踏まえると,当初明細書の段落【0051】の記載は,ユーザに付与された不要 なアイテムを特定のアイテムに変換して,変換した特定のアイテムをアイテムボッ クスに入れることなく上限なしに所持できるようにすることにより,ユーザのアイ テムボックスが満杯になることを防ぐという,原因と結果の関係を示しているとい うべきである。 本件審決は,「1つの特定のアイテムを所持できる」ことと「不要なアイテムによ りユーザのアイテムボックスが満杯になるのを防ぐことができる」ことを,当初明 細書の記載を踏まえて,両者を関連付けた上で判断を行っているから,「1つの特定 のアイテムを所持できる」ことと「不要なアイテムによりユーザのアイテムボック スが満杯になるのを防ぐことができる」ことを別個独立したものとして捉えている との原告の主張は誤りである。
カ 原告は,当初明細書の段落【0052】は,段落【0051】の記載に 加え,更に「上限なくユーザが特定のアイテムを所持可能とする」という構\成を付 加的に採用してもよいこと,その付加的な構成によって「特定アイテムを貯蓄する\n事が可能となり,ユーザの好きなタイミングで特定アイテムを使用する事ができる」\nという効果があることを述べたにすぎないから,新たな発明特定事項が当初明細書 に明確に記載されているか否かは,段落【0052】の記載に左右されるものでは ない旨主張する。
しかし,新規事項の追加の判断は,補正により追加された事項が,当初明細書の 全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技 術的事項を導入するものであるか否かである以上,本件審決において,当初明細書 の段落【0051】だけでなく,段落【0052】を含めた当初明細書のすべての 記載を総合的に判断して,「アイテムボックス」及び「特定のアイテム」,並びに, 本願発明における「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイテムに変換する」こ との技術的意義を解釈して,新規事項の追加の判断を行ったことに,誤りはない。 なお,本件審決は,本願発明において,「特定のアイテム」が「アイテムボックス」 に収納されるものであると解した場合には,不要なアイテムを「特定のアイテム」 に変換することにより,ユーザのアイテムボックスが満杯になることを防ぐという 「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイテムに変換する」ことの技術的意義を 損なうものであると判断しており,当該判断においては,「特定のアイテム」が「上 限なくユーザが特定のアイテムを所持可能とする」ものであるか否かに関係なく,\n「特定のアイテム」を「アイテムボックス」に対応付けて記憶する事項が新規事項 であると判断している。
(4) 以上のとおり,当初明細書には,「特定のアイテム」が「アイテムボック ス」に収納されることが記載されているとはいえず,また,当初明細書の記載から, 「特定のアイテム」が「アイテムボックス」に収納されることが自明であったとも いえないから,「特定のアイテム」を「アイテムボックス」に対応付けて記憶する事 項を追加する補正が,当業者によって当初明細書の全ての記載を総合することによ り導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであると した本件審決の判断に誤りはない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項
 >> 新たな技術的事項の導入
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ワ)11130  商標権侵害差止請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年6月17日  東京地方裁判所

 東京地裁46部は、富富富」という標章,「ふふふ」という読み仮名を付した「富富富」という標章は、登録商標「ふふふ」と非類似として、侵害を否定しました。

 被告標章2と本件商標を比較すると,これらは外観において明らかに異 なる。他方,被告標章2と本件商標は,「フフフ」の称呼を共通にする場 合がある。もっとも,被告標章2は特定の観念を生じないのに対し,本件 商標は軽く笑う声等の観念を生じ,これらは観念において異なる。
そうすると,被告標章2と本件商標は,称呼において類似する場合があ るとしても,外観,観念において相違しており,その出所について誤認混 同を生じさせるような取引の実情があるとは認められず,同一又は類似の 商品等に使用された場合に,商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれ があるとは認められない。
したがって,被告標章2は本件商標と同一又は類似のものではない。 なお,「富富富」は,被告富山県によって育成された本件米の品種名で あり(前記1(1),(6)),被告富山県は,特に,平成30年秋頃以降,本 件米について積極的に広告,宣伝しており(同(5)),「富富富」が米の 品種名であることは相当程度知られていたと認められる。被告標章2は, この品種名を普通に用いられる方法で表示したものである。\n

◆判決本文

関連事件です。

◆令和2(行ケ)10014

関連カテゴリー
 >> 誤認・混同
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(ワ)36506 損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月19日  東京地方裁判所

 LINEのフリフリ機能の特許権侵害について、約1400万円の損害賠償か認められました。広告収入については因果関係無しとして認められず、有料スタンプの売り上げのみでした。

 原告は,被告に対し,特許法102条3項に基づく損害賠償を請求していると ころ,同項は,「特許権者・・・は,故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を, 自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定してい るから,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに, 実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 そして,かかる実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許 諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の 相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内 容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場 合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や 特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定め るべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日大合 議判決参照)。
本件においては,被告アプリが無償で配信されており,被告アプリのユーザが 友だち登録をし,友だち等との間で被告システム等によるメッセージの送受信等 のサービスを享受すること自体により被告に売上げは発生しない(甲73)から, 「侵害品の売上高」をどのように確定すべきかがまず問題となり,次いで,実施 に対し受けるべき料率(相当実施料率)の算定が問題となる。 そこで,それぞれにつき,以下,検討する。
(1) 売上高について
ア 当事者の主張
原告は,被告の事業のうち,本件特許権侵害の対象となる事業は,コア事 業中の「アカウント広告」と「コミュニケーション」の売上げであり,本件 特許登録日である平成29年9月15日から被告が「ふるふる」の提供を終 了した日の前の日である令和2年5月10日までの間(以下「本件損害算定 期間」という。)の売上高(アカウント広告につき合計1519億5800 万円,コミュニケーションにつき767億2800万円)に基づいて損害額 を算定すべきであると主張する。 一方,被告は,主に被告アプリ上でアカウントを有する企業等からの売上 げであるアカウント広告の売上げは損害賠償額算定の対象とならず,仮に, コミュニケーションの売上げが損害賠償額算定の対象となり得るとしても, 対象となるのは本件機能と関係のある部分に限られると主張する。\n
イ 認定事実
そこで検討するに,前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると, 以下の事実を認めることができる。
・・・
(ウ) 企業等のアカウントとの間の「ふるふる」による友だち登録(被告シス テム等図面【図38】,甲61) LINE@等のサービスを導入している企業等が住所の位置情報をあ らかじめ登録している場合,一般ユーザが被告アプリの友だち追加画面で 「ふるふる」を選択して手元のスマートフォンを振ると,半径1km圏内 の上記企業等も友だち登録の候補として表示され,同ユーザが同企業等に\nつき友だち追加処理をすると,同企業等が同ユーザの友だちとして追加登 録される。
ウ 「ふるふる」以外の友だち登録及び海外企業への輸出に係る売上げ等につ いて
原告は,損害賠償の対象は,「ふるふる」による友だち登録及びこれによ り友だちとなったユーザとの交流等に限定されず,QRコードやID検索等 の他の友だち登録も含み,また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべき であると主張する。 (ア) しかし,原告は,本訴提起当初から,一貫して「ふるふる」による友だ ち登録及びその後の交流が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張を していたのであり(前記前提事実(5),被告システム等図面【図2】〜【図 4】,【図34】〜【図44】),その余の友だち登録手段による友だち 登録等が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張立証は侵害論の対象 とされていないので,損害賠償の対象となるのは,「ふるふる」による友 だち登録と相当因果関係のある範囲の売上高に限定されるというべきで ある。
(イ) また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべきとの点については,被 告から海外企業への実施品の輸出に係る売上高を対象とする趣旨と考え られるが,原告が侵害論において対象としていた被告の実施行為は,被告 システムの使用と,被告アプリの生産,譲渡及び譲渡の申出にとどまって\nおり,仮に被告システム等が輸出されているとしても,当該被告システム 等に本件機能が搭載されているかどうかといった点も本件の証拠上明ら\nかではないから,この点の原告の主張も採用し難い。
エ 損害賠償の対象となる売上高の範囲について そこで,前記イ(ア)〜(ウ)で認定した事実に基づき,本件において損害賠償 の対象となる売上高の範囲につき検討する。
(ア) アカウント広告の売上げについて
アカウント広告の売上げは,企業等からの売上げに関するものであると ころ,一般ユーザは,かかる企業等との間でも「ふるふる」による友だち 登録をなし得るものの,この場合は,企業等が住所の位置情報をあらかじ め登録している必要があり,また,その際,企業等はスマートフォンを操 作するとは考え難いから,そもそも,この場合に,「近くにいるユーザ同 士がスマートフォン(2)を操作して友だち登録することによりコンピュ ータ(14)を利用してコミュニケーションによる交流」(構成a等)を\n具備するとは認め難く,他にこの場合の被告システム等が本件各発明の技 術的範囲に属するという的確な主張立証はない。 また,前記イ(ア)aに記載されたアカウント広告を構成する各売上げの\n内容に照らすと,これらの売上げは,いずれも,一般のユーザ同士の本件 機能による友だち登録との関係がないか,関係があっても希薄であるとい\nうべきである。 そうすると,アカウント広告の売上げは,本件の損害賠償の対象となら ないと解するのが相当である。
・・・
b 前記aで認定した売上高は,「ふるふる」以外の友だち登録に関する 分も含まれているところ,被告の侵害行為は,「ふるふる」による友だ ち登録に関するものであるから,被告の侵害行為と相当因果関係にある 売上高は,上記売上高に,本件損害算定期間中の「ふるふる」による友 だち登録割合を乗じて算出するのが相当である。そして,前記イ(イ)の とおり,同割合は,●(省略)●であるから,被告の侵害行為と相当因果 関係にある売上高は,●(省略)●となる。 ●(省略)●
(ウ) 以上のとおり,被告の侵害行為と相当因果関係にある売上高は,●(省 略)●となる。
・・・
(2) 相当実施料率について
ア 本件各発明の実施許諾契約における実施料率やその相場等
原告は,原告代表者から専用実施権の設定を受けているが,その設定契約\nの詳細は本件の証拠上明らかでなく,また,原告が他人に本件各発明の実施 を許諾したことをうかがわせる証拠はない。 そこで,相場等につきみるに,証拠(甲157〜159,乙82)によれ ば,電子計算機に係るロイヤルティ(件数719件)は,平均値が33.2%, 最頻値が50.0%,中央値が40.0%とされている一方,「技術分類 コ ンピュータテクノロジー」,「対象となる製品・技術例 計算;係数,チェ ック装置等」におけるロイヤルティ料率の相場は,1%未満,1〜2%未満, 2〜3%未満,3〜4%未満がいずれも16.7%であり,4〜5%未満が 25.0%であるとされている。 しかし,本件においては,被告アプリは無償で配信され,被告アプリのユ ーザが「ふるふる」を使用して友だち登録をし,その後の交流を行うといっ た行為自体による被告の売上げは発生しないという特殊性があることから すれば,上記の相場等を重視することはできない。
イ 本件各発明の価値や代替可能性等\n
本件各発明は,前記1(2)に記載のとおり,初対面の人物同士が出会った 後互いにコンタクトを取ることができるようにする際に,極力個人情報を明 かすことなくコンタクトが取れるようにするためのコンピュータシステム 及びプログラムに関する発明であって,相手方に互いの個人情報を通知する ことなく後々コンタクトを取ることができ,かつ,相手方以外の他人がその 相手方に成りすましてコンタクトしてくる不都合をも防止できる理想的な 連絡可能状態を構\築する手段を提供することを目的として,現実世界で出会 ったユーザ同士がユーザ端末を操作し,コンピュータを利用して交流を行う に当たり,コンピュータ(サーバ)が各ユーザ端末の位置情報を取得し,該 位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索 されたことを必要条件として,該検索されたユーザ端末を新たな交流先とし て交流先のリストに追加して表示させ,ユーザが表\示された複数の交流先の 内からコミュニケーションを取りたい相手を選択指定し,指定された相手と の間でメッセージを送受信できるようにするという手段を採用することで, 互いにコミュニケーションによる交流に同意したユーザ同士が連絡先の個 人情報を知らせ合うことなく交流できるという効果が得られるようにした ことを特徴とする発明である。 このような発明には一定のニーズが存在するものと考えられるから,本件 各発明には相応の価値があるものと認められる。 もっとも,前提事実(6)のとおり,本件特許に関する無効審判請求におい て,特許庁は,本件特許が進歩性を欠く旨の職権審理結果通知をしていると ころ,このことは,実際に本件特許が無効となるか否かはともかく,類似の 技術が存在することを示すものということができる。
ウ 本件各発明の被告の売上げや利益への貢献等
証拠(甲41・3丁)によれば,「ふるふる」を利用する場合の最大の特 長は,複数人と一度に友だちになれることであり,サークルや部活,仕事の チーム,パーティーなど,複数の人が集まる場で活躍しそうであるとされて いることが認められ,これらの事実に加え,前記(1)イ(イ)記載の事実関係に よると,既に友人等であるユーザ同士が友だち登録する方法が多く,実際に もそのようなユーザ同士により友だち登録がされることが多いことがうか がわれることからすると,被告システム等においては「ふるふる」による友 だち登録がされる場合であっても,それ以前に相互の個人情報を交換してい る場合も少なくないものと考えられる。
●(省略)●
被告による企業努力が大きく貢献しているとうかがわれるとこ ろである。 そうすると,被告システム等に係る売上げや利益についての本件各発明の 貢献の度合いは,かなり限定的なものであると認められる。 エ 以上の諸事情,とりわけ,本件各発明には相応の価値があると認められる ものの,これと類似の技術が存在することがうかがわれることや,被告シス テム等に係る売上げや利益についての本件各発明の貢献の程度は限定的な ものであることなどを総合的に考慮すると,本件における相当実施料率は● (省略)●と認めるのが相当である。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 賠償額認定
 >> 102条3項
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10010 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年6月30日  知的財産高等裁判所

 商標「パールアパタイト」を商品1類「化学品」、3類「化粧品,せっけん類・・・」に使用することが、品質誤認(商4条1項16号違反)に該当するかが争われました。知財高裁は、該当しないとした審決の判断を維持しました。

ア 「パールアパタイト」の語が,一般の辞書等に掲載されていることを認 めるに足りる証拠はない。 一方で,本件商標を構成する「パール」の文字部分は,「真珠」の意味\nを有するものと認められる(甲3,11,12)。
イ 原告は,本件商標の登録査定時において,「アパタイト」の語が,取引 者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシア パタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意味する語\nとして,一般的に広く認識されていた旨主張するので,以下において判断 する。
(ア) 証拠(甲23ないし205(枝番のあるものは枝番を含む。特に断 りのない限り,以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認 められる。
a 株式会社サンギ(以下「サンギ」という。)は,平成5年2月,歯 を白くする美白効果のある歯磨き剤として,「薬用ハイドロキシアパ タイト」を含有する「アパガードM」を発売した。 「アパガードM」は,1995年(平成7年)に放映を開始した「芸 能人は歯が命」のキャッチコピーのテレビCMの効果等によって,ヒ\nット商品となり,1996年(平成8年)には,年間売上げが140 億円を記録した。 「アパガードM」の発売後,同年中には,歯磨き業界大手の他の事 業者(サンスター,ライオン)も,美白効果のある歯磨き剤として, 「ハイドロキシアパタイト」又は「フルオロアパタイト」を配合する 歯磨き剤を製造,販売するようになった(甲146ないし155)。 また,「アパガードM」は,FRIDAY,プレジデント,WED GE等の雑誌(甲175ないし181)において,「薬用ハイドロキ シアパタイト」配合のヒット商品として,取り上げられた。 このほか,「アパガードM」及びその後発品に関する記事が,平成 17年6月14日付けの読売新聞(甲160),平成21年9月14 日付け及び平成22年5月3日付けの日経流通新聞(甲169,17 0),同年6月5日付けの朝日新聞(甲171)や,週刊東洋経済, 日経ヘルス等の雑誌(甲182,183等)に掲載された。
b 「ハイドロキシアパタイト」の語の意義に関し,平成21年7月2 7日付けの朝日新聞(甲27)に,「ハイドロキシアパタイト」は, 「骨や歯,貝殻などの成分。人体への害が少なく,なじみやすいこと から,人工骨や人工歯根などの医用材料に使われている。」,平成2 2年5月29日付けの加藤歯科医院のウェブサイト(甲29)に,「ハ イドロキシアパタイトとはリン酸カルシウムでできた歯や骨を構成す\nる成分のことで,エナメル質は97%,象牙質の70%がハイドロキ シアパタイトで構成されています。」などと掲載された。\nまた,香粧品科学研究開発専門誌フレグランスジャーナル2008 年(平成20年)6月号(甲204)に,「ハイドロキシアパタイト (Ca10(PO4)6(OH) 2)は,リン酸カルシウムの一種であり,歯牙 や骨といった硬組織の主成分であって,化学合成品においても生体に 対する安全性の高い化合物である。・・・工業的には,・・・広範囲な用途に 利用されている。化学合成したハイドロキシアパタイトがそのような 用途に利用されるのは,生体硬組織と直接結合するといった高い生体 親和性やタンパク質,核酸および配糖体との吸着特性を有するためで ある。」(20頁右欄)などと掲載された。 さらに,日本化粧品工業連合会作成の医薬部外品の成分表示名称リ\nストにおいて,「成分名 ヒドロキシアパタイト」,「別名 ハイド ロキシアパタイト」,「本品は,主としてヒドロキシアパタイト(・・・)」 と記載されている(甲139,140)。
c 「アパタイト」の語の意義に関し,材料開発・応用専門誌「ニュー セラミックス」1990年(平成2年)7月号(甲59)に,「アパ タイトはアパタイト構造(六方晶系・・・)をもつ結晶群の総称であるか,\n単にアパタイトといった場合は最も代表的なリン酸カルシウムを意味\nすることが多い。水酸アパタイト(以下,単にアパタイトと略称する。) といえば,Ca10(PO4)6(OH)2 であり,生体アパタイトのモデル物 質である。フッ素アパタイトはCa10(PO4)6(PO4)F2 となる。」 (96頁左欄),「PHOSPHORUS LETTER 2000 年6月第38号」(甲135)に,「アパタイトはM10(ZO4)6X2 の組 成を持つ結晶鉱物の総称であり,次の各元素が単独あるいは複数M, ZO4,Xの位置に入る。M:Ca,Ba,Sr,Mg,Na・・・,ZO4: PO4,AsO4・・・,X:F,OH,Cl・・・このようにアパタイト構造に\nは多くの種類の元素が入り得るために,さまざまな固溶体が生成する。」 (8頁左欄),「PHOSPHORUS LETTER 2010年 2月第67号」(甲138)に,「アパタイトはカルシウムヒドロキ シアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2 :Hap)に代表される塩基性\n金属リン酸塩の一種である。」(22頁左欄)などと掲載されている。
d 応用化学,環境化学,触媒化学,生化学等の各種化学分野の文献等 において,「アパタイト」を含む用語が,ハイドロキシアパタイト(ヒ ドロキシアパタイト)のほかに,フッ化アパタイト二酸化チタン光触 媒(甲35),可視光応答型アパタイト被覆二酸化チタンハーフメタ ル(甲39),水酸アパタイト(甲47,58,64,71,111), フッ素アパタイト(甲50),ハロゲン固溶アパタイト(甲53), Pb2+〜Ag+交換水酸アパタイト(甲56),フッ素アパタイト結 晶(甲60),チタンアパタイト(甲86),カルシウムヒドロキシ アパタイト粒子(甲88)などと使用されている。
(イ) 前記(ア)の認定事実によれば,1)歯を白くする美白効果のある歯磨 き剤として広告宣伝された,「薬用ハイドロキシアパタイト」を含有す る「アパガードM」がヒット商品となり,新聞,雑誌等で取り上げられた 結果,「薬用ハイドロキシアパタイト」又は「ハイドロキシアパタイト」 の語は,一般消費者の間でも,歯や骨を構成する成分であることはある\n程度知られるようになったこと,2)「ハイドロキシアパタイト」は,Ca 10(PO4)6(OH)2 の化学式で表される,リン酸カルシウムの一種である\nこと,3)「アパタイト」は,M10(ZO4)6X2 の組成をもつ結晶鉱物の総称 であり,M,Z及びXには複数の種類の元素が入り得るため,特定の化 合物を指すものではなく,「ハイドロキシアパタイト」は,アパタイトの 一種(Mがカルシウム(Ca),Zがリン(P),Xが水酸基(OH)の もの)ではあるが,アパタイトそのものを意味するものではないことが 認められる。 加えて,「アパタイト」の文字は,その称呼から,英単語「appet ite」(「本能的欲望,(特に)食欲」)(甲17)又は「apati\nte」(「燐灰石。ハイドロキシアパタイト」)(甲16)に通じるもの である。
以上の認定事実に照らすと,前記(ア)の冒頭掲記の証拠(甲23ない し205)から,「アパタイト」の語が,本件商標の登録査定時におい て,取引者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイド ロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を\n意味する語として,一般的に広く認識されていたものと認めることはで きず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえって,「アパタイト」 は,M10(ZO4)6X2 の組成をもつ結晶鉱物の総称であって,具体的な特定 の物質を表するものではなく,このことからしても「アパタイト」が特\n定の意味合いを理解させるものとはいえない。 したがって,原告の前記主張は,採用することができない。
ウ 前記ア及びイによれば,本件商標は,「真珠」の意味を有する「パール」 の文字と,特定の意味合いを理解させるものとはいえない「アパタイト」 の文字とからなる結合商標であり,その構成全体から,特定の意味合いを\n認識することはできないから,特定の商品の品質を直接的に表示するもの\nと認めることはできない。 したがって,これと同旨の本件審決の認定に誤りはない。
エ これに対し原告は,本件商標の登録査定時において,「アパタイト」の 語が,取引者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイ ドロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を\n意味する語として,一般的に広く認識されており,「アパタイト」という 成分に着目して商品の購入に及ぶといった取引の実情があったことを考 慮すると,「パール」と「アパタイト」とが結合した「パールアパタイト」 の語から構成される本件商標は,「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキ\nシアパタイト)」という物質(化学物質)を想起させるものであるから, 「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキシアパタイト)」を含有するとい う商品の品質を表示する旨主張する。\nしかしながら,前記イで説示したとおり,「アパタイト」の語が,取引 者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシア パタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意味する語\nとして,一般的に広く認識されていたものと認めることはできない。 また,「パールアパタイト」の語は,一般の辞書等に掲載されていない 造語であって,具体的な特定の商品を示すことを認めるに足りる証拠はな いのみならず,「パールアパタイト」の語から,「真珠」そのものと「ア パタイト(ハイドロキシアパタイト)」とを成分に含有する具体的な商品 を一般に想起することを認めるに足りる証拠はない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ワ)8117  損害賠償等請求(商標権侵害)事件  商標権  民事訴訟 令和3年6月28日  東京地方裁判所

 「日本酒」に商標「夢」の使用が、商標権侵害としてラベルの廃棄および、売上げの2%の損害賠償が認められました。特許法105条の3(裁判所が口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づく、相当な損害額の認定)の適用は不要と判断されています。

(1) 法38条2項に基づく請求について
原告は,原告商標を自ら使用していないものの,市島酒造社らに対して原 告商標の通常使用権を許諾し,市島酒造社らが原告商標を継続して使用して いるから,法38条2項に基づく請求が認められると主張する。 この点,前記2(1)ア(ア)のとおり,原告は,原告商標を自ら使用したこと はないところ,商標権者が当該商標を使用していることは,法38条2項を 適用するための要件とはいえず,商標権者において,侵害者による商標権侵 害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合 には,同項の適用が認められると解すべきである。 しかし,前記2(1)ア(オ)のとおり,原告は,日本酒を生産等する市島酒造 社らに対して原告商標の通常使用権を許諾したにすぎず,自らは日本酒の生 産等を行っていないから,被告が被告各標章を付した被告商品を販売するこ とがなかったならば,原告が日本酒の販売等によって利益を得たであろうと は直ちには認められない。また,本件全証拠によっても,被告による被告商 品の販売が,原告が上記許諾の対価として受ける原告商標を付する商品の容 器に貼付するラベルその他の関連印刷物の注文に影響を与えるといった事情\nは認められず,他に,被告による商標権侵害行為がなければ,原告が利益を 得たであろうという事情を認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告に法38条2項に基づく請求は認められない。
(2) 法38条3項に基づく請求について
ア 法38条3項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし, そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 そして,実施に対し受けるべき料率については,当該商標の実際の実施 許諾契約における実施料率,業界における実施料の相場,当該商標を当該 製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様等訴訟に現れた 諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
イ 前記5のとおり,被告は,平成31年4月19日以降,被告標章1が印 刷されたラベルを瓶に貼付せず,被告標章2が印刷されていない外箱に入\nれた被告商品を販売するようになったから,原告が被告に対して原告商標 権侵害に基づく損害賠償を請求することができるのは,被告が設立された 平成20年5月21日から平成31年4月18日までの間のものと認める のが相当である。 そして,証拠(甲21,乙10)及び弁論の全趣旨によれば,被告は, 上記期間に,被告商品のうち,720ml瓶入りのものを1万5456本, 1800ml瓶入りのものを2171本,それぞれ販売し,これにより, 2783万0092円と905万7659円の各売上げ(合計3688万 7751円)があったと認められる。
ウ 以上を前提に,まず,原告がこれまでに原告商標の通常使用権を許諾し たことにより得られた利益について検討する。
(ア) 前記2(1)ア(オ)のとおり,原告は,市島酒造社らに対して原告商標の 通常使用権を許諾し,その対価として,市島酒造社らから原告商標を付 する商品の容器に貼付するラベルその他の関連印刷物を受注する契約を\n締結していた。 上記受注による原告の利益には,原告が印刷を受注したことそのもの による利益も含まれているといえるから,原告商標の使用の対価に相当 する金額は,上記受注による利益の額から,原告が印刷を受注したこと そのものによる利益の額を控除した額と考えるべきである。
(イ) 証拠(甲24ないし26)及び弁論の全趣旨によれば,原告の事業全 体における平成29年から令和元年までの平均の粗利率は約27.5% であり,原告の市島酒造社からの受注に係る平均の粗利率は約45. 7%,原告の大関社からの受注に係る平均の粗利率は約47.8%であ ると認められる。 そうすると,原告商標の使用の対価に相当する金額の割合は,市島酒 造社らからの受注に係る代金額の算定方法や販売費及び一般管理費の取 扱い等について更に厳密な検討をする余地はあるものの,原告の市島酒 造社らからの受注に係る平均の粗利率から原告の事業全体における平均 の粗利率を控除することによって,約18.2%ないし20.3%と一 応計算することができる。
(ウ) 被告商品の容器に貼付するラベルその他の関連印刷物の発注額につい\nては,以下のとおり認定することができる。 被告商品の容器に貼付するラベルその他の関連印刷物の発注額の単価\nについて,証拠(乙9)及び弁論の全趣旨によれば,1) 720ml瓶入 りのもの1本当たりの単価の合計は99.5円(本件ラベル:5円,商 品名等ラベル:18円,本件瓶の背面のラベル:2.5円,本件外箱: 74円),2) 1800ml瓶入りのもの1本当たりの単価の合計は36 1.5円(本件ラベル:5円,商品名等ラベル:45円,本件瓶の背面 のラベル:21.5円,本件外箱:290円)と認められる。
前記イのとおり,原告が被告に対して損害賠償を請求することができ る平成20年5月21日から平成31年4月18日までの間に販売され た被告商品のうち720ml瓶入りのものは1万5456本,1800 ml瓶入りのものは2171本であるから,被告商品の容器に貼付する\nラベルその他の関連印刷物の発注額は,720ml瓶入りのものについ て153万7872円(99.5円×1万5456本),1800ml 瓶入りのものについて78万4817円(361.5円×2171本) と認められ,合計で232万2689円となる。
(エ) 前記(イ)のとおり,原告商標の使用の対価に相当する金額の割合が受注 額の約18.2%ないし20.3%であるとすると,被告商品における 原告商標の使用の対価に相当する金額は,42万2729円(232万 2689円×0.182)ないし47万1506円(232万2689 円×0.203)と一応計算することができる。 そして,この金額は,平成20年5月21日から平成31年4月18 日までの間の被告商品の売上げの合計3688万7751円の約1.1 5%ないし1.28%に相当する。
エ 次に,原告商標を被告商品に用いた場合の売上げ等への貢献について検 討する。
原告商標は,「夢」の標準文字からなり,これ自体は,比較的頻繁に目 にする文字であるから,本来的に高い顧客吸引力があるとまではいえない。 また,前記前提事実(3)のとおり,被告商品の商品名は「夢とまぼろしの物 語」であり,被告各標章はこの商品名の一部を切り出したものであること, 本件瓶の正面には本件ラベルよりも大きい商品名等ラベルが貼付され,本\n件外箱の正面には特徴的な武者の絵が大きく描かれていることからすると, 被告各標章が独自に有する顧客吸引力は限定的というべきであり,被告商 品の売上げに対する貢献もそこまで大きなものであったとは認め難い。
オ 以上の諸事情に加え,前記ウのとおり,原告が原告商標の通常使用権を 許諾したことにより得られた利益の実績を基に,被告商品について計算し た原告商標の使用の対価に相当する金額の割合や,広告業等における商標 権のロイヤルティ料率の相場は概ね3ないし6%であり,1%未満の例も あると認められること(甲23)を考慮すると,原告商標の使用に対し受 けるべき金銭の額に相当する額は,被告商品の売上げの2%に相当する額 と認めるのが相当である。
したがって,原告の損害は,73万7755円(3688万7751円 ×0.02)と認められる。
カ 原告は,市島酒造社らから原告商標のラベルその他の印刷物を受注して おり,これによる利益が原告商標のライセンス料に相当するところ,原告 にはこの受注により1社当たり年232万2514円の売上げがあり,原 告における粗利率25%を乗ずると,年58万0628円がライセンス料 相当額となり,被告は原告商標権を11年間にわたり侵害したので,ライ センス料相当額の損害は638万円となると主張する。 しかし,前記ウ(ア)のとおり,原告商標の使用の対価に相当する金額は, 市島酒造社らからの受注による利益の額から,原告が印刷を受注したこと そのものによる利益の額を控除した額と考えるべきであるから,原告にお ける粗利率をそのまま採用することは相当ではない。 また,前記2(1)ア(オ)のとおり,原告は,原告商標の通常使用権を許諾 する対価として,原告商標を付する商品の容器に貼付するラベルその他の\n関連印刷物を受注する旨の契約を締結していたところ,このような契約内 容からすると,原告の受注額は原告商標を付する商品の数量に比例するこ とになり,その数量は市島酒造社らと被告とでは異なるものと考えられる から,市島酒造社らからの平均の受注額は直ちに被告に当てはまるもので はない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 さらに,原告は,原告商標のライセンス料率は,少なくとも5%と認め るべきであるとも主張するが,前記イないしオで説示したとおり,上記ラ イセンス料率は2%と認めるのが相当であるから,同主張も採用すること ができない。
キ なお,前記2(1)ア(ウ),(エ)のとおり,原告は,旧原告商標権を侵害する 標章を使用した酒造会社との間で,年150万円以上の印刷物の受注又は 300万円の損害賠償金の支払を合意している。 しかし,いかなる標章が付された日本酒が,どのくらいの期間に,何本 販売され,どのくらいの売上げがあったのかなど,上記酒造会社が旧原告 商標権を侵害した態様が明らかではないから,本件と比較することは困難 である。 また,上記合意は,原告商標に関するものではない上,比較的古いもの であり,原告商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を算定す るに当たっては,原告商標に関する直近の許諾契約である原告と市島酒造 社らとの間の契約(前記2(1)ア(オ))を参考にするのが相当である。 したがって,原告が上記の合意をしていたことは,前記オの認定判断を 左右するものではない。
(3) 小括
以上のとおり,原告は,被告による原告商標権の侵害により,原告商標の 使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額として,73万7755円の損 害を被ったと認められる(法38条3項)。 また,原告が本件訴訟を遂行するのに要した弁護士費用相当額の損害は, 本件に現れた一切の事情を考慮すると,10万円と認めるのが相当である。 したがって,原告は,被告に対し,83万7755円の損害賠償を請求す ることができる。 なお,原告は,法39条,特許法105条の3に基づき相当な損害額を認 定すべきであると主張するが,本件においては,原告に生じた損害額は上記 のとおり算定することができるので,「損害額を立証するために必要な事実 を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるとき」に該当せず,同 主張についての判断は要しない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10136  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和3年6月16日  知的財産高等裁判所

 意匠法における創作容易性の判断について、意匠の類似範囲が狭い分野においては,形状のわずかな相違であっても,その中に少なくとも一つの「意匠が非類似になる意匠上の要素」があれば,非類似の意匠となり,しかも創作非容易と認められるべきと主張しましたが認められませんでした。

 意匠法3条1項3号における類否の判断は,出願された意 匠と類似する意匠とが,出願意匠に係る物品と同一又は類似の物品につき一 般需要者に対して出願意匠と類似の美感を生じさせるかどうかを基準として なされるべきであるのに対し,同法3条2項は,物品との関係を離れた抽象 的なモチーフとして日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若し くは色彩又はこれらの結合(公然知られた形態)を基準として,それからそ の意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に創作 することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,上記公然知 られた形態を基準として,当業者の立場から見た意匠の着想の新しさないし 独創性を問題とするから(平成10年法律第51号による改正前の法3条2 項につき,最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号3 08頁,最高裁昭和50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号 287頁参照),意匠の類似性と創作容易性とは判断主体や判断手法を全く 異にしている。 したがって,原告の上記主張は,両者の違いを無視した独自の見解といわ ざるを得ないものであって,採用することができない。
(2) 原告は,本願分野の登録意匠について自ら作成した別掲4を用いるなどし て,原告の挙げる7要素のうち少なくとも一つの「意匠が非類似になる意匠 上の要素」があれば,形状のわずかな相違であっても創作非容易と認められ るべき旨主張する。 しかしながら,まず,別掲4の多数の登録意匠のうち,出願人及び登録日 を同じくする複数の意匠は,互いに部分意匠や関連意匠の関係にある可能性\nが高く,その場合は形状の差異がわずかであっても登録されているのは当然 のことにすぎないから,原告の分析は,その前提に問題があるといわざるを 得ない。 そして,既に述べたとおり,本願意匠は,引用意匠1の凹陥の数と位置を 引用意匠2のそれに置き換えたのにすぎず,何ら意匠としての着想の新しさ や独創性を認めることはできないのであるから,原告のいう登録済意匠の存 在を考慮したとしても,本願意匠は創作容易であるとの結論が左右されるも のではない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 創作容易性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10148  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年6月16日  知的財産高等裁判所

 本件商標:カンガルーの図形と文字「KANGOL」の結合商標で、指定役務が「織物及び寝具類、洋服の小売・・・など」です。 引用商標は「KANGOL」の文字を標準文字で表し,指定役務を第35類「帽子の小売・・など」です。知財高裁は、類似役務であるとした審決を維持しました。原告とカンゴール社との間で取扱商品及び役務に係る棲み分けがされていることも理由にならないと判断されています。\n

 ア 役務の内容及び取扱商品等
(ア) 本願指定役務及び引用指定役務は,いずれも小売等役務であるから, 商品の品揃え,陳列,接客サービス等といった役務の提供の手段や,小 売又は卸売といった役務の提供の目的が共通するものといえる。 (イ) また,本願指定役務及び引用指定役務は,本願指定役務が主に織物, 衣服,身の回り品等を取扱商品とするのに対し,引用指定役務は帽子を 取扱商品とする点において異なるものの,いずれの取扱商品も衣類を中 心とするファッション商品であるといえるから,この範囲において取扱 商品が共通するものといえる。
(ウ) さらに,本願指定役務及び引用指定役務は,いずれも衣類を中心と するファッション商品を取り扱う卸売業者又は小売業者が提供する役 務であるから,役務を提供する業種が共通するものといえる。 イ 役務の提供の場所 次の各事情によれば,本願指定役務及び引用指定役務は,それぞれの取 扱商品が,同一事業者の通信販売ウェブサイトにおいて,同一の事業者が 提供する一連の商品の一環として,あるいは同一のカテゴリーに属する一 連の商品の一環として販売されるなどしている実情があることが認めら れる。
(ア) 「ZOZOTOWN」の通信販売ウェブサイトにおいて,「NIKE」 ブランドの取扱商品として,パーカー,ティーシャツ,靴,バッグ等が, 帽子と共に掲載されている(乙1)。
・・・
(コ) 「ZOZOTOWN」の通信販売ウェブサイトにおいて,「mari mekko」ブランドの取扱商品として,クッション,靴下,ティーシ ャツ,エプロン,バッグ,財布,タオル等が,帽子と共に掲載されてい る(乙10)。
ウ 需要者の範囲
上記ア及びイで検討したとおり,本願指定役務及び引用指定役務は,い ずれも衣類を中心とするファッション商品を取扱商品とするものである 上,これらの取扱商品が通信販売ウェブサイトにおいて販売されるなどし ている実情があることからすれば,いずれも一般需要者を広く対象とする ものといえる。また,上記イ(ア)ないし(エ)及び(コ)によれば,特定のブ ランドが付された両役務の取扱商品を,同一の小売業者から購入する需要 者は少なくないと考えられる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務は,需要者 の範囲が一致するものといえる。
エ 類否判断
上記アないしウで検討したところによれば,本願指定役務及び引用指定 役務は,具体的な取扱商品は異なるものの,いずれも衣類を中心とするフ ァッション商品を取扱商品とする点において共通するほか,役務を提供す る手段,目的及び業種が共通するものといえる。また,両役務は,役務を 提供する場所が共通する場合があるほか,需要者の範囲が一致するものと いえる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務については, これらの役務に同一又は類似の商標を使用する場合には,同一営業主の提 供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるといえ る。
(3) 小括 以上によれば,本願指定役務と引用指定役務は,役務が類似するものと認 められる。
3 原告の主張について
(1) 原告は,原告とカンゴール社との間で本件契約が締結され,その後,原告 とカンゴール社との間で取扱商品及び役務に係る棲み分けがされてきたこと を,現実的かつ具体的な取引の実情として重視すべきである旨主張する。 しかしながら,本件契約それ自体は,原告とカンゴール社との間における 個別の合意にすぎないから,同契約を締結した事実や,同契約に基づいて原 告が本願商標を継続的に使用している事実は,商標の類否判断において考慮 し得る一般的,恒常的な取引の実情(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同 49年4月25日第一小法廷判決・審決取消訴訟判決集昭和49年443 頁参照)には当たらないというべきである。 また,原告が提出する証拠(甲30ないし49)は,原告が,本願商標を 用いて衣類等を提供してきたことを裏付けるものであるとはいえても,帽 子(及びそれに係る役務)とそれ以外の衣類(及びそれに係る役務)とで, 原告が主張するような棲み分けがされ,それが需要者に認識されているこ とを認めるに足りるものではなく,むしろ,原告が,本願商標を用いて帽子 を販売している例さえ存在することが認められる。 したがって,原告の主張は,採用することができない。
(2) 原告は,原告とカンゴール社との間においては,カンゴール社が所有す る複数の登録商標につき,帽子類以外の指定商品に係る商標権が原告に分 割移転された例等がある旨主張するが,たとえそうであるとしても,このよ うな個別的な事情によって商標法4条1項11号の適用が排除されるもの ではないと解するのが相当である。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> 役務
 >> 類似
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10132  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年11月5日  知的財産高等裁判所

 見過ごしていましたのでアップします。米国仮出願から実施形態を変更して優先権出願をしました。無効審判が請求され、審決は新たな技術的事項の導入ではないとして優先権を認めました。知財高裁(3部)は、結論は同じですが、パリ条約4条Fの規定により優先権が認められると判断しました。
本件発明の器具は下記に動画があります。 https://www.youtube.com/watch?v=RTerQy8M-BI

 ・・・この点に関する原告の主張を正確に記載すると,本件発明は,1)ピンが 複数の溝を有する構成を含むこと,2)ピンバーとベースが一体成型になって いる構成を含むこと,3)ピンバーをベースの溝ではなく,ベース上の凸部に 嵌め込む方式の構成を含むこと,4)ピンに,溝ではなく,ピンを貫く間隙を 有する構成を含むこと,の4点において,本件米国仮出願にはない構\成を含 むからパリ優先権が否定され,その結果,甲1動画との関係で新規性,進歩 性を欠き,無効であるというものである。
しかしながら,本件発明が,その請求項の文言に照らし,原告が新たな構\n成であると主張する1)ないし4)の点を含まない構成,すなわち,本件米国仮\n出願の明細書に記載された実施例どおりの構成を含むことは明らかであると\nころ(この点は,原告も否定していないものと考えられる。),この構成は,\n1まとまりの完成した発明を構成しているのであって,1)ないし4)の構成が\n補充されて初めて発明として完成したものになるわけではない。このような 場合,パリ条約4条Fによれば,パリ優先権を主張して行った特許出願が優 先権の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことを理由とし\nて,当該優先権を否認し,又は当該特許出願について拒絶の処分をすること はできず,ただ,基礎となる出願に含まれていなかった構成部分についてパ\nリ優先権が否定されるのにとどまるのであるから,当該特許出願に係る特許 を無効とするためには,単に,その特許が,パリ優先権の基礎となる出願に 含まれていなかった構成部分を含むことが認められるだけでは足りず,当該\n構成部分が,引用発明に照らし新規性又は進歩性を欠くことが認められる必\n要があるというべきである。このように解することがパリ条約4条Fの文言 に沿うばかりではなく,このように解しないと,例えば,特許権者がAとい う構成の発明について外国出願をし,その後,その構\成を含む発明Bが公知 となった後に,わが国において,パリ優先権を主張し,構成Aと,前記外国\n出願には含まれないが,発明Bに対して新規性,進歩性が認められる構成C\nを合わせた構成A+Cという発明について特許出願をした場合,当該発明は,\n構成Aの部分は,発明Bよりも外国出願が先行しており,優先権も主張され\nており,かつ,構成Cは,発明Bに対し新規性,進歩性が認められるにも関\nわらず,前記外国出願に含まれない構成Cを含んでいることのみを理由とし\nて構成Aについての優先権までが否定され,特許出願が拒絶されるという結\n論にならざるを得ないが,そのような結論は,パリ条約4条Fが到底容認す るものではないと考えられるからである。
なお,1)ないし4)も,それぞれ独立した発明の構成部分となり得るものであるから,引用発明に対する新規性,進歩性は,それぞれの構\成について,別個に問題とする必要がある。この観点から検討すると,甲1によれば,甲1動画に係るツールは,前記 3)の構成を有していることが認められる。そして,本件発明の請求項は,「\nベース上にサポートされた複数のピン」と定めているのみであって,前記3) の構成を含むことは明らかであるから,この点において,本件発明は,甲1\n動画との関係で新規性を欠くものといわなければならない。したがって,パ リ優先権が認められるかどうかを判断するため,さらに,構成3)が,本件米 国仮出願に含まれない構成であるかどうかを判断する必要がある。\n
これに対し,甲1動画に係るツールは,前記1),2),4)の構成を含むものとは認めら\nれないから,新規性が問題となる余地はなく,また,これらの構成が,甲1\n動画に係る発明に対して進歩性を欠くことを認めるに足りる主張立証はない。 そうであるとすると,これらの構成が,本件米国仮出願に含まれない構\成で あるかどうかを判断するまでもなく,原告の主張は失当というべきである。
(3) そこでさらに,構成3)が,本件米国仮出願に含まれない構成であるかど\nうかについて判断するに,たしかに,米国仮出願書類には,ベースに設けた 溝にピンバーを嵌め込む態様しか記載されていないが,これは実施例の記載 にすぎないし,米国仮出願書類全体を検討しても,ベースにピンバーを固定 する態様を,この実施例に係る構成に限定する旨が記載されていると理解す\nることはできない。そして,ベースに凹部を設け,その凹部にピンバーを嵌 め込む態様の構成(米国仮出願書類の実施例の記載)と,ベースに凸部を設\nけ,この凸部にピンバーを嵌め込む態様の構成(3)の構成)とは,まさに裏\n腹の関係にあるものであって,一方を想起すれば他方も当然に想起するのが 技術常識であるといえるから,たとえ明示的な記載がないとしても,ベース に凹部を設ける構成が記載されている以上,ベースに凸部を設ける構\成も, その記載の想定の内に含まれているというべきである。 そうすると,3)に係る構成が,本件米国仮出願に含まれない構\成であると はいえないから,この点に関する原告の主張も失当ということになる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> その他特許
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)25127 「オーサグラフ世界地図」の共同著作権確認請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年6月4日  東京地方裁判所

 共同著作者である確認訴訟について、裁判所は訴えの利益無しとして、訴えを却下しました。

 確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,すなわち,現に,原告の有する 権利又は法的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため,被告に対し て確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許される。したがって,そ れが許されるためには,仮に原告の権利又は法的地位に危険又は不安が存在す るとしても,その危険又は不安が被告に起因し,かつ,対象となる権利又は法 的地位について確認判決をすることでその危険又は不安が解消されなければな らないというべきである。
しかし,本件においては,Bによる講義の内容が「オーサグラフ世界地図は Bが発明したものである」というものとなったこと,上記講義と同内容の論文 が学術論文誌に掲載されたこと,本件ウェブサイト内に本件地図とともに本件 地図はBが発明したものである旨の説明文が掲載されたことについて,それら が被告に起因するものであることを認めるに足りる証拠はない。また,被告は, 本件地図に係る著作権又は著作者人格権が自らにあるとは主張しておらず,今 後,被告がこのような主張をすることをうかがわせる事情も認められない。そ うすると,原告の有する権利又は法的地位に存在する危険又は不安が被告に起 因するものであるとはいえない。
さらに,被告が,自らは本件地図の作成に関与しておらず,本件地図に関し て原告及びBのいずれかにいかなる権利が帰属するかを判断し得ないとも主張 していることに照らせば,そのような被告に対して確認判決を得ることにより, 原告の有する権利又は法的地位への危険又は不安を取り除くことができるとは 考え難い。そして,前記前提事実(3)のとおり,原告は,別件訴訟において,B に対し,本件地図と同じくオーサグラフ図法により作成された別件各地図が原 告及びBを発明者とする共同著作物であることの確認を求め(本件と同様に, 原告及びBが別件各地図に係る著作権及び著作者人格権を有することの確認を 求めるものと解される。),これに対して,Bは,別件各地図はBが単独で作 成したものであると主張して争っているが,原告と被告との間で本件地図に係 る著作権及び著作者人格権の帰属を確定したところで,原告とBとの間におい て別件各地図に係る著作権及び著作者人格権の帰属を確定することはできない。 このことは,Bが被告の設置する慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准 教授であり(前記前提事実(1)イ),被告とBは雇用関係にあると認められるこ とを考慮しても変わりはない。さらに,前記前提事実(2)のとおり,本件ウェブ サイトはBが管理運営しており,被告が本件ウェブサイトの内容を変更するこ とができるとは認められないから,被告に対して確認判決を得たとしても,本 件ウェブサイト内において,本件地図につき当該判決に従った取扱いがされる ことが期待できるとはいえない。そうすると,本件において原告の権利又は法 的地位について確認判決をすることにより,原告の権利又は法的地位に存在す る危険又は不安が解消されるとは認められないというべきである。 そのほかに,原告と被告との間で,本件地図に係る原告の権利又は法的地位 に危険又は不安が存在し,これを除去するために被告に対して確認判決を得る ことが必要かつ適切であることをうかがわせる事情は認められない。 したがって,原告と被告との間で原告及びBが本件地図に係る著作権及び著 作者人格権を有することを確認することについては即時確定の利益が認められ ないから,本件においては確認の利益が認められない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 著作者
 >> 著作権その他
 >> 裁判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10048  職務発明対価等請求控訴事件,同附帯控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年5月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 競馬ゲーム発明のうち、出願しなかった部分について、ノウハウに基づく報奨金(特35条)を求めました。知財高裁は1審と同じく否定しました。

 当裁判所も,原審と同様に,本件ノウハウに係る控訴人の被控訴人に対する 対価請求権が存するということはできないと判断する。 その理由は,次のとおりである。
(1) 本件ノウハウは,特許登録がされていない職務発明として主張されてい るものであるところ,特許性を有する発明でなければ,これを実施すること によって独占の利益が生じたものということはできず,特許法35条3項に 基づく相当の対価を請求することはできないと解される。 そこで,以下,控訴人が主張する内容に基づき,本件ノウハウが特許性を 有する発明といえるか否かについて検討する。
(2) 原審及び当審における控訴人の主張によれば,控訴人が主張する本件ノ ウハウの特徴は,次のとおり理解することができる。
ア 完全確率抽選方式の下で,何らの工夫もせずに予想ゲームと馬主ゲーム\nとを組み合わせた競馬ゲームを設計すると,馬主ゲームにおいて購入する 馬の能力値によって馬ごとのメダル獲得の期待値に不公平が生じるため,\nプレイヤーが能力値の高い馬ばかりを購入するようになり,馬主ゲームの\nゲーム性が損なわれてしまう。他方で,各馬の能力値を同一にすることに\nよってこの問題を解消しようとすると,今度は予想ゲームのゲーム性が損\nなわれてしまう。このように,上記のような競馬ゲームの設計においては, 馬主ゲームにおける馬ごとのメダル獲得の期待値の不公平さを解消して 公平性を確保しつつ,現実の競馬同様のゲーム性を持たせる工夫をする必 要があるという課題があった。
イ 本件ノウハウは,上記の課題を解決するために,1)プレイヤー馬につい て,能力値とは別に,一定の割合でメダル数と相互に換算される活力値と\n呼ばれる指標を導入した上で,2)馬主ゲームにおいて,レースに出走する ために消費する活力値(以下「消費活力値」という。)とレース結果に応じ て増加する活力値(以下「増加活力値」という。)の期待値とを等しくする ことにより,馬主ゲームにおける馬ごとのメダル獲得の期待値の不公平さ が生じないようにするものである。 また,消費活力値及び増加活力値の算出においては,3)同じレースに複 数のプレイヤー馬が出走する場合もあるところ,プレイヤー馬の能力値が\n当初は未確定であることから,各プレイヤー馬の増加活力値,消費活力値 及び能力値について,一旦暫定値を用いて計算し,必要に応じて数値を再\n調整する計算方法が採られている。 さらに,4)活力値は,メダルとして目に見える賞金や出走料とは異なり, プレイヤーに認識されない形で増減され,次回以降の競馬ゲームに影響を 与えるように導入されており,これにより,ゲーム性が醸成されている。 (以下,上記1)ないし4)の点を,順に「特徴1)」などという。) (3) 以下,控訴人が主張する本件ノウハウが特許性を有する発明といえるか 否かにつき,特徴1)ないし4)を基に検討する。
ア 特徴1)について
(ア) 予想ゲームのみの競馬ゲームを設計する場合であれば,各馬の能\力 値を定めた上で,能力値に応じた適切なオッズを定めることにより,公\n平性及びゲーム性を確保することができるといえるが,これにゲーム内 容が全く異なる馬主ゲームを組み合わせて新たな競馬ゲームを設計し ようとするのであれば,能力値とは別の指標を導入する必要が生じるこ\nとは,いわば必然のことであるといえる。
(イ) また,上記(2)アによれば,完全確率抽選方式の下で予想ゲームと馬\n主ゲームとを組み合わせた競馬ゲームを設計する場合,馬主ゲームで購 入する馬の能力値に差があることが原因となって馬ごとのメダル獲得\nの期待値に不公平さが生じることにより,馬主ゲームのゲーム性が損な わる事態が生じ得るが,他方で,馬の能力値の差をなくすことによって\nこの問題を解消しようとすると,今度は予想ゲームのゲーム性が損なわ\nれてしまうというのであるから,これらの問題を解決するためには,能\n力値を調整するのみでは足りず,能力値とは別の指標を導入する必要が\nあることは明らかである。
(ウ) 以上によれば,特徴1)における活力値の導入は,完全確率抽選方式 の下で予想ゲームと馬主ゲームとを組み合わせた競馬ゲームを設計す\nる場合において,必然的に必要となる指標を導入したものにすぎないと いうべきである。
・・・・
オ 小括
以上検討したところによれば,本件ノウハウにおける活力値の導入につ いては,必然的に導入すべき指標を用いたものにすぎないというべきであ る上,活力値を用いた期待値の算出等についても,課題解決のために当然 に採られ得る手段であるか,又は通常よく採られる方法を超えるものでは ないというべきである。
(4) なお,控訴人は,本件ノウハウにおいては,ペイアウト率90%のメイン ゲームと同100%のサブゲームとが組み合わされ,ゲームセンターと顧客 との間の利害のバランスがとられている点が画期的であるとも主張する。 しかしながら,ペイアウト率をいくらに設定するかという問題は,それ自 体としては,技術の問題ではなく,取極めの問題にすぎないから,控訴人主 張の点は,本件ノウハウの特許性を根拠付ける事情には当たらない。
(5) 以上検討したところによれば,本件ノウハウは,特許性を有する発明であ るとは認められず,これを実施することによって被控訴人に独占の利益が生 じたということはできないから,本件ノウハウが控訴人によって職務発明と して開発され,被告製品2において実施されたものであったとしても,控訴 人は,被控訴人に対し,本件ノウハウにつき,特許法35条3項に基づく相 当の対価を請求することはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 職務発明
 >> その他特許
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)27196 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年4月23日  東京地方裁判所

 写真の著作物の著作権侵害について、損害賠償額として約40万円が認められました。なお、1.5倍の主張については根拠無しと判断されています。

 前記アないしウの事情を踏まえて,著作権法114条3項の損害額を検 討すると,前記ア及びイのとおり,本件料金表における使用料を一応の参\n考としつつ,一般紙と機関紙としての性質の違いに加え,原告における有 償での使用許諾の実績や使用料規定の存在が認められないことからは,聖 教新聞の記事や写真等の使用については本件料金表よりも低額の使用料が\n想定され,他方で,前記ウのとおり,本件掲載行為については使用料の増 額要素があることも考慮すれば,前記1の自動公衆送信権侵害についての 著作権法114条3項の損害額は,それぞれ以下のとおり認定するのが相 当であり,その合計額は32万円と認められる。
・・・
 原告は,被告による著作権侵害の態様が悪質であるとして,著作権法114条3項の損害を算定にするに当たっては,本件料金表における使用料相当額のさらに1.5倍した額を基準とすべきであると主張する。\nしかし,前記エの損害額の認定は,原告に有償での使用許諾実績等がないこと,本件料金表の金額,本件各画像の使用点数や使用期間,被告による本件各画像の掲載態様等,本件訴訟に現れた一切の事情を総合考慮した上で,著作権法114条3項を適用したものであるところ,この認定を超えて,本件料金表\における使用料を1.5倍した額を基準とすべき合理的な理由は見当たらない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 著作権その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)38504  特許権侵害差止等請求事件 令和3年3月30日  東京地方裁判所

 薬の特許について、明細書に記載されていたが酸付加塩の具体的態様がクレームアップされていなかったことは均等の第5要件の「特段の事情」に該当すると判断されました。

 これらの記載によれば,本件発明の目的は,各種の痒みを伴う疾患にお ける痒みの治療のために止痒作用が極めて速くて強いオピオイドκ受容体 作動薬を有効成分とする止痒剤を提供することにあるところ,本件明細書 には,まさしくその有効成分となるオピオイドκ受容体作動薬として,本 件発明に記載された本件化合物のほかに,その薬理学的に許容される酸付 加塩が挙げられることが,「オピオイドκ受容体作動性化合物またはその 薬理学的に許容される酸付加塩」というように明記されているほか,同化 合物に対する薬理学的に好ましい酸付加塩の具体的態様(塩酸塩,硫酸塩, 硝酸塩等)も明示的に記載されている。
そうすると,出願人たる原告は,本件明細書の記載に照らし,本件特許出 願時に,その有効成分となるオピオイドκ受容体作動薬として,本件化合物 を有効成分とする構成のほかに,その薬理学的に許容される酸付加塩を有効\n成分とする構成につき容易に想到することができたものと認められ,それに\nもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったというべきである。 そして,本件発明につき,出願人たる原告の主観的意図いかんにかかわらず, 第三者たる当業者の立場から客観的にその内容を把握できる徴表である本件\n明細書においては,本件化合物の薬理学的に許容される酸付加塩という構成\nは,まさしく,各種の痒みを伴う疾患における痒みの治療のために止痒作用 が極めて速くて強いオピオイドκ受容体作動薬を有効成分とする止痒剤を提 供するという本件発明の目的を達成する構成として,当該目的と関連する文\n脈において,特許請求の範囲に記載された本件化合物と並んで,明示的,具 体的に記載されているものである。
これらによれば,出願人たる原告は,本件特許出願時に,本件化合物の薬 理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする構成を容易に想到することが\nできたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったものである といえ,しかも,客観的,外形的にみて,上記構成が本件発明に記載された\n構成(本件化合物を有効成分とする構\成)を代替すると認識しながらあえて 特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるものというべき\nである。
そうすると,本件発明については,本件化合物の酸付加塩であるナルフラ フィン塩酸塩を有効成分とする被告ら製剤が,本件特許出願の手続において 特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの,被告ら製剤と 本件発明に記載された構成(本件化合物を有効成分とする構\成)とが均等な ものといえない特段の事情が存するというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 均等
 >> 第5要件(禁反言)
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10022  商標登録維持決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年4月28日  知的財産高等裁判所

 「X」型十字の図形商標の侵害について、1審は約1300万円の支払いを命じましたが、知財高裁は約200万に減額しました。理由は「被告商品の限界利益の額に対する原告各商標の寄与割合は,8割と認め」というものです。判決分の最後に当事者の商標があります。\n

 一審原告の商品と被告商品との価格差及び限界利益額の差,需要者 層の相違,販売態様の相違について 一審被告は,1)被告商品の価格は,一審原告の商品の価格の約2倍 から4倍であり,一審原告の商品と被告商品とでは大きな価格差があ り,安価のスニーカーを求める一審原告の需要者と高級志向のスニー カーを求める被告商品の需要者とでは,需要者層が異なること,一審 原告の商品はインターネット上で販売されるのに対し,被告商品は高 級デパートの店頭で販売され,販売態様においても差があることに照 らすと,被告商品が販売されなかったとしても,被告商品の需要者が, 安価で大衆向けの一審原告の商品を購入することはあり得ないこと, 2)仮に一審被告による被告商品の販売に係る限界利益率を一審原告が 訴状で主張していた販売価格の10パーセントとすると,一審原告の 商品の1足当たりの限界利益は300円となるのに対し,被告商品の 1足当たりの限界利益は,560円から1155円となり,限界利益 の額に差があることから,これらの事情は本件推定を覆す事情に該当 する旨主張する。
(ア) そこで検討するに,証拠(甲68ないし77,183ないし18 6)及び弁論の全趣旨によれば,一審原告は,自社の商品を,主に 靴の量販店やインターネット上の通信販売サイトを通じて販売し, その小売価格は2000円から6000円程度の商品が中心であ り,一審原告が対象期間中に原告各商標と類似する商標を付したス ニーカーを販売した際の販売価格は1足当たり3000円程度で あったことが認められる。
一方で,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品は 主に百貨店等の店頭で販売されたものであり,原判決別紙3被告商 品販売一覧表記載のとおり,その小売価格は1万5000円から2\n万1000円,被告が百貨店等に販売する際の卸売価格は5600 円から1万1550円であったことが認められる。 上記認定事実によれば,一審原告の商品と被告商品の販売価格は, 1足当たりの小売価格で5倍から7倍程度の差があり,被告商品が 高額であることが認められる。
そして,商標権が,特許権等の他の工業所有権とは異なり,それ 自体に創作的価値があるものではなく,商品又は役務の出所である 事業者の営業上の信用等と結びつくことによってはじめて一定の 価値が生ずるという性質を有するため,商標権が侵害された場合に, 侵害者の得た利益が当該商標権に係る登録商標の顧客誘引力のみ によって得られたものとはいえない場合が多く,スニーカーにおい ても,価格,全体のデザイン,アッパー及びソールの素材,履き心\n地等も考慮されて購買動機が形成されることに照らすと,一審原告 の商品と被告商品との販売価格の上記違いは,原告各商標と類似す る被告各標章が購買動機の形成に寄与した程度を低く評価すべき 事情に当たるものと認めるのが相当である。 したがって,一審原告の商品と被告商品との販売価格の上記違い は,本件推定を覆す事情に該当するものと認められる。 一方で,一審被告が主張する一審原告の商品と被告商品との1足 当たりの限界利益の額の差については,一般に,需要者が限界利益 の額を認識し得るものではなく,限界利益の額の差が購買動機の形 成に直接影響するものとはいえなから,本件推定を覆す事情に該当 するものと認めることはできない。また,一審被告が主張する一審 原告の商品と被告商品との販売態様の差についても,被告商品がデ パート等でのみ限定販売されていたとする事情は認められないか ら,本件推定を覆す事情に該当するものと認めることはできない。
(イ) これに対し一審原告は,スニーカーなどのファッションアイテ ムにおいては,需要者は,価格帯が多少異なっても気に入ったもの を購入するものであり,例えば,同じブランドでも1500円〜1 万7280円という10倍以上の幅広い価格の商品が販売されて いる例(甲195)があるように,この程度の価格差をもって需要 者層が異なるとはいえないこと,一審原告が被告商品の価格帯であ る1万5000円〜2万1000円のスニーカーを現実には販売 していないとしても,このようなスニーカーを販売する潜在的な能\n力を保有していることからすると,一審原告の商品と被告商品との 販売価格の違いは,本件推定を覆滅すべき事情に該当しない旨主張 する。 しかしながら,一審原告の上記主張は,前記(ア)で説示したとこ ろに照らし,採用することができない。
イ 一審原告が原告各商標を使用しない商品を販売していたことにつ いて
一審被告は,原告が販売していた商品の多くに,原告各商標と同一 又は類似の標章が付されていなかったから,被告商品の販売によって 一審原告の売上げが減少したという関係にないことは,本件推定を覆 す事情に該当する旨主張する。 しかしながら,一審被告による被告商品の輸入販売行為がなかった ならば利益が得られたであろうという事情が一審原告に認められる ことは,前記(1)イ認定のとおりであり,一審原告が原告各商標と類似 する標章が付されていないスニーカーも販売していたことを指摘す るのみでは,本件推定を覆滅すべき事情があるものということはでき ない。 したがって,一審被告の上記主張は,採用することができない。
ウ 競合品の存在について
一審被告は,側面に「X」型十字が付された大人用スニーカーは,\n被告商品の他にも市場に多数存在していることは,本件推定を覆す事 情に該当する旨主張する。 しかしながら,乙1によれば,一審被告が他のスニーカーに付され ていると指摘する「X」型十字は,その形状が被告各標章や原告各商\n標とは大きく異なるものであり,このほか,原告各商標と同一又は類 似の標章が付された他社のスニーカーの存在及びそのシェアについて の具体的な主張立証はされていないから,一審被告の上記主張は採用 することができない。
エ 一審被告の営業努力,ブランド力の差等について
一審被告は,被告商品を販売するための営業努力,一審原告と一審 被告とのブランド力の差,原告各商標の訴求力の程度等からすれば, 原告各商標の被告商品の売上げへの寄与は著しく低いから,かかる事 情は本件推定を覆す事情に該当する旨主張する。 しかしながら,一審被告が作成した展示会の資料においてミュニッ ク社商品については「2014年日本デビュー」との記載がされ,一 審被告が広告宣伝活動を行ったこと(前記(2)イ(キ))を考慮しても, 対象期間中の日本国内におけるミュニック社商品に係るブランドの知 名度の程度を裏付ける証拠はない。 他方で,証拠(甲170ないし176,180ないし182)及び 弁論の全趣旨によれば,原告各商標に関する販売,広告宣伝状況につ いては,平成14年頃から原告各商標と類似の標章が付されたスニー カーが,原告が許諾した業者によって販売されており,歌手のBがこ れを着用した雑誌広告が掲載されたこともあったとの事情も認められ, これらの点からすれば,一審被告の主張する上記各点をもって,本件 推定を覆滅すべき事情に該当するものと認めることはできない。 したがって,一審被告の上記主張は,採用することができない。
オ まとめ
以上を前提に検討するに,1)前記ア(ア)認定の本件推定を覆す事情 の内容,2)前記ア(ア)認定のとおり,商標権が侵害された場合に,侵 害者の得た利益が当該商標権に係る登録商標の顧客誘引力のみによっ て得られたものとはいえない場合が多く,スニーカーにおいても,価 格,全体のデザイン,アッパー及びソールの素材,履き心地等も考慮\nされて購買動機が形成されること等を総合考慮すると,被告商品の限 界利益の額に対する原告各商標の寄与割合は,8割と認めるのが相当 であり,上記寄与割合を超える部分については被告商品の限界利益の 額と一審原告の受けた損害額との間に相当因果関係がないものと認め られる。
したがって,本件推定は上記限度で覆滅されるから,商標法38条 2項に基づく一審原告の損害額は,被告商品の限界利益の額(前記(2) ウ(ウ)の244万5001円)の8割に相当する195万6000円 と認められる。」

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)11462

関連カテゴリー
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ワ)21993  著作権侵害訴訟事件  著作権  民事訴訟 令和3年4月28日  東京地方裁判所

 公園に設置したタコの滑り台について著作物ではないと判断されました。

 (1) 争点1−1(本件原告滑り台が美術の著作物に該当するか)について
ア 前記前提事実(2)及び(3)によれば,本件原告滑り台は,自治体(兵庫県 赤穂市)から公園に設置する遊具の発注を受けて,小型のタコの滑り台と して製作されたものであり,その形状は,別紙1原告滑り台目録記載のと おり,上部にタコの頭部を模した部分を備え,正面に1本,右側面に2本, 左側面に1本の計4本のタコの足を有するというものである。そして,こ れらのタコの足は,いずれも,子どもたちなどの利用者が滑り降りること ができるスライダーとなっており,また,利用者がスライダーの上部に昇 るための取っ手が取り付けられているなど,遊具である滑り台として通常 有する構造を備えている。そうすると,本件原告滑り台は,利用者が滑り\n台として遊ぶなど,公園に設置され,遊具として用いられることを前提に 製作されたものであると認められる。したがって,本件原告滑り台は,一 般的な芸術作品等と同様の展示等を目的とするものではなく,遊具として の実用に供されることを目的とするものであるというべきである。 そして,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されてい\nる美的創作物(いわゆる応用美術)が,著作権法2条1項1号の「美術」 「の範囲に属するもの」として著作物性を有するかについては,同法上, 「美術工芸品」が「美術の著作物」に含まれることは明らかであるもの の(著作権法2条2項),それ以外の応用美術に関しては,明文の規定が 存在しない。
この点については,応用美術と同様に実用に供されるという性質を有す る印刷用書体に関し,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を 備えることを要件の一つとして挙げた上で,同法2条1項1号の著作物 に該当し得るとした最高裁判決(最高裁平成10年(受)第332号同 12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2481頁)の判示に 照らし,同条2項は,単なる例示規定と解すべきである。 さらに,上記の最高裁判決の判示に加え,同判決が,実用的機能の観点\nから見た美しさがあれば足りるとすると,文化の発展に寄与しようとす る著作権法の目的に反することになる旨説示していることに照らせば, 応用美術のうち,「美術工芸品」以外のものであっても,実用目的を達成 するために必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞の対象となり得 る美的特性を備えている部分を把握できるものについては,「美術」「の 範囲に属するもの」(同法2条1項1号)である「美術の著作物」(同法 10条1項4号)として,保護され得ると解するのが相当である。 以上を前提に,本件原告滑り台が「美術の著作物」として保護される応 用美術に該当するかを検討する。 イ 原告は,本件原告滑り台が,一品製作品というべきものであり,「美術 工芸品」(著作権法2条2項)に当たるから,「美術の著作物」(同法10 条1項4号)に含まれる旨主張する。 そこで検討するに,著作権法10条1項4号が「美術の著作物」の典型 例として「絵画,版画,彫刻」を掲げていることに照らすと,同法2条 2項の「美術工芸品」とは,同法10条1項4号所定の「絵画,版画, 彫刻」と同様に,主として鑑賞を目的とする工芸品を指すものと解すべ きであり,仮に一品製作的な物であったとしても,そのことをもって直 ちに「美術工芸品」に該当するものではないというべきである。
本件においてこれをみると,前記アのとおり,本件原告滑り台は,自治 体の発注に基づき,遊具として製作されたものであり,主として,遊具 として利用者である子どもたちに遊びの場を提供するという目的を有す る物品であって,「絵画,版画,彫刻」のように主として鑑賞を目的とす るものであるとまでは認められない。 したがって,本件原告滑り台が「美術工芸品」に該当すると認めること はできず,原告の上記主張は採用することができない。 ウ 原告は,本件原告滑り台が「美術工芸品」に当たらないとしても「美術 の著作物」として保護される応用美術であると主張する。そこで,本件原 告滑り台が,実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して, 美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるもので あるか否かについて,以下検討する。
(ア) タコの頭部を模した部分について
別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば,本件原告滑り台 のうちタコの頭部を模した部分の構成は,次のとおりであると認められ\nる。すなわち,タコの頭部を模した部分は,本件原告滑り台を正面から 見て,その最も高い箇所のほぼ中央部に存在しており,タコの足を模し たスライダーによって形作られるなだらかな稜線から上に突き出るよう な格好で配置されている。そして,その形状は,本件原告滑り台のうち 最も高い箇所に存在する頭頂部から,正面向かって後方にやや傾いた略 鐘形をなしており,全体として曲線的な印象を与える形状であって,そ うした形状と,上記のような配置等から,当該部位を見た者をして,タ コの頭部を連想させるような外観となっている。さらに,その構造をみ\nると,内部は空洞をなし,頭部に上った利用者が立てるような踊り場様 の床が設置されている。また,正面,左側面及び背面にそれぞれ1か所, 右側面に2か所の開口部を有しており,そのうち正面,右側面及び左側 面の開口部からは後述のタコの足を模したスライダーが延びているほか, 背面の開口部付近には,手でつかんだり,足を掛けたりして上り下りす るための取っ手が8個取り付けられている。 このように,タコの頭部を模した部分は,本件原告滑り台の中でも最 も高い箇所に設置されているのであるから,同部分に設置された上記各 開口部は,滑り降りるためのスライダー等を同部分に接続するために不 可欠な構造であって,滑り台としての実用目的に必要な構\成そのもので あるといえる。また,上記空洞は,同部分に上った利用者が,上記各開 口部及びスライダーに移動するために不可欠な構造である上,開口部を\n除く周囲が囲まれた構造であることによって,最も高い箇所にある踊り\n場様の床から利用者が落下することを防止する機能を有するといえるし,\nそれのみならず,周囲が囲まれているという構造を利用して,隠れん坊\nの要領で遊ぶことなどを可能にしているとも考えられる。\nそうすると,本件原告滑り台のうち,タコの頭部を模した部分は,総 じて,滑り台の遊具としての利用と強く結びついているものというべき であるから,実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離し て,美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できる ものとは認められない。
(イ) タコの足を模した部分について
別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば,本件原告滑り台 には,タコの頭部を模した部分から4本のスライダーが延びており,こ れらはいずれもタコの足を模したものであって,その形状は,直線状か 曲線状かの相違はあるものの,いずれについても,なだらかな斜度をな しつつ,地面に向かって延びているほか,滑らかな板状のすべり面を有 し,かつ,その左右には手すり様の構造物が付されていると認められる。\nこの点,滑り台は,高い箇所から低い箇所に滑り降りる用途の遊具で あるから,スライダーは滑り台にとって不可欠な構成要素であることは\n明らかであるところ,タコの足を模した部分は,いずれもスライダーと して利用者に用いられる部分であるから,滑り台としての機能を果たす\nに当たって欠くことのできない構成部分といえる。\nそうすると,本件原告滑り台のうち,タコの足を模した部分は,遊具 としての利用のために必要不可欠な構成であるというべきであるから,\n実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞 の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認め られない。
(ウ) 空洞(トンネル)部分について
別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば,本件原告滑り台 には,正面から見て左右に 1 か所ずつ,スライダーの下部に,通り抜け 可能なトンネル状の空洞が配置されていると認められる。\nこの構成は,滑り台としての機能\には必ずしも直結しないものではあ るが,前記アのとおり,本件原告滑り台は,公園の遊具として製作され, 設置された物であり,その公園内で遊ぶ本件原告滑り台の利用者は,こ れを滑り台として利用するのみならず,上記空洞において,隠れん坊な どの遊びをすることもできると考えられる。 そうすると,本件原告滑り台に設けられた上記各空洞部分は,遊具と しての利用と不可分に結びついた構成部分というべきであるから,実用\n目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞の対 象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められ ない。
(エ) 本件原告滑り台全体の形状等について
別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば,本件原告滑り台 は,頭部(前記(ア)),足(前記(イ))及び空洞(前記(ウ))等によって形 成されており,その全体を見ると,本件原告滑り台は,見る者をしてタ コの体を模しているとの印象を与えるものであると認められる。また, とりわけ本件原告滑り台の正面からその全体を見ると,空洞のある頭部 を頂点に,左右へ広がる緩やかな2本の足によって均整の取れた三角形 を見て取ることができ,見栄えのよい外観を有するものということがで きる。 この点,本件原告滑り台のようにタコを模した外観を有することは, 滑り台として不可欠の要素であるとまでは認められないが,そのような 外観は,子どもたちなどの本件原告滑り台の利用者に興味や関心を与え たり,親しみやすさを感じさせたりして,遊びたいという気持ちを生じ させ得る,遊具のデザインとしての性質を有することは否定できず,遊 具としての利用と関連性があるといえる。また,本件原告滑り台の正面 が均整の取れた外観を有するとしても,そうした外観は,前記(ア)及び
(イ)でみたとおり,滑り台の遊具としての利用と必要不可欠ないし強く 結びついた頭部及び足の組み合わせにより形成されているものであるか ら,遊具である滑り台としての機能と分離して把握することはできず,\n遊具のデザインとしての性質の域を出るものではないというべきである。 そうすると,本件原告滑り台の外観は,遊具のデザインとしての実用 目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞の対 象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められ ない。
(オ) 以上のとおり,本件原告滑り台は,その構成部分についてみても,\n全体の形状からみても,実用目的を達するために必要な機能に係る構\成 と分離して,美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把 握できるものとは認められないから,「美術の著作物」として保護され る応用美術とは認められない。
(カ) これに対し,原告は,本件原告滑り台の実用目的は滑り台自体とし ての機能を前提に把握すべきであり,高所に上がるための手段と,滑り\n降りるためのスライダーがあればその機能を果たすことができるので,\n表現の選択の幅は広いとした上で,本件原告滑り台のタコの頭部を模し\nた部分,タコの足を模した部分及び空洞(トンネル)部分は,滑り台の 機能から必然的に創作できるものではなく,滑り台の機能\とは独立して 存在する特徴であって,製作者であるBの個性が表われた部分といえる\nから,そのような部分を有する本件原告滑り台は「美術の著作物」に該 当する応用美術であると主張する。 しかしながら,ある製作物が「美術の著作物」たる応用美術に該当す るか否かに当たって考慮すべき実用目的及び機能は,当該製作物が現に\n実用に供されている具体的な用途を前提として把握すべきであって,製 作物の種類により形式的にその目的及び機能を把握するべきではない。\n原告の主張は,滑り台には様々な形状や用途のものがあるにもかかわら ず,本件原告滑り台が滑り台として製作されたものであるという点を過 度に重視するものであり,子どもたちなどの利用者が本件原告滑り台に おいて具体的にどのような遊び方をするかを捨象している点で相当では ない。
また,原告の上記主張は,本件原告滑り台の表現の選択の幅が広く,\n製作者であるBの個性が表われていることを根拠とするものであるが,\nその点は,著作物性(著作権法2条1項1号)の要件のうち,「思想又 は感情を創作的に表現したもの」との要件に係るものであって,「美術」\n「の範囲に属するもの」との要件に係るものではないというべきである。 したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。 エ 以上によれば,本件原告滑り台は,著作権法10条1項4号の「美術の 著作物」に該当せず,同法2条1項1号所定の著作物としての保護は認め られないというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 著作物
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10092 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月31日  知的財産高等裁判所

 知財高裁3部は、進歩性無しとした審決を取り消しました。理由は、引用文献の認定誤りです。

 上記(1)の記載によれば,引用技術2の「油性ゲル状」「粘着シート製剤」 は,上記(1)イの従来技術である「架橋アクリル系粘着剤」の組成を調整する ことによって,粘着性を維持しつつ薬剤の溶解性を高めたシートであって, 皮膚への粘着性は,従来技術と同様に,専らアクリル系粘着剤に依存してい ることが認められる。
3 相違点についての審決の判断の当否
上記1(3)のとおり,本願発明の技術的意義に照らすと,本願発明の「オイル ゲル」は,アクリル系粘着剤等の粘着性ではなく,ゲル化したオイルの粘着性 によって,皮膚に対して粘着するものである。これに対し,引用技術2の「油 性ゲル状粘着製剤」は,上記2(2)のとおり,アクリル系粘着剤の粘着性によっ て,皮膚に対して粘着するものである。 このように,引用技術2の「油性ゲル状粘着製剤」は,本願発明の「オイル ゲル」とは技術的意義を異にするから,引用発明に引用技術2を適用しても, 相違点に係る本願発明の構成には至らない。\nしたがって,容易想到性に関する審決の判断には誤りがある。
4 被告の主張について
被告は,「オイルゲル」は有機溶剤を溶媒とするゲルの総称であるとの技術 常識が存在し,本願発明の「オイルゲル」の意義や組成について本件明細書に は記載がないから上記技術常識に沿って解釈すべきであり,上記技術常識によ れば引用技術2の「油性ゲル」は「オイルゲル」に含まれる旨主張する。 たしかに,乙1(特許庁「周知・慣用技術集(香料)第I部香料一般」1999 年1月29日発行)等によれば,「ゲル」を流体(溶媒)の違いという観点から 「ヒドロゲル」「オイルゲル」「キセロゲル」の3種類に分類することが一般 的に承認されている事実は認められ,また,乙6(権英淑ほか「実効感を発現 するためのスキンケア製剤設計」FRAGRANCE JOURNAL Vol.34 No.1 pp.52-55 (2006))等には,この分類を前提として,アクリル系材料を基剤とした「オイ ルゲル」の粘着剤に言及する記載も見られる。しかしながら,他方,甲7(柴 田雅史「化粧品におけるオイルの固化技術」J.Jpn. Soc. Colour Mater., 85 [8] 339-342 (2012))では,冒頭に「有機溶剤(オイル)を少量の固化剤を用 いて固形もしくは半固形状にしたものは一般に油性ゲルと呼ばれ,・・・・・・メイク アップ化粧品を中心に幅広い製品の基剤として用いられている」と記載されて おり,化粧品の分野において,「オイルゲル」の用語をこのような意味で用い ることも一般的であったと認められるから,「オイルゲル」という用語が,当 然に被告主張のような意味に用いられると断定することはできない。
そうすると,本願発明の「オイルゲル」の技術的意義は,特許請求の範囲の 記載だけからは一義的に明確ではない。そこで,明細書の発明の詳細な説明の うち,従来技術に関する記載及び解決課題に関する記載を参酌し,上記1のと おり,「オイルゲルシート」を「アクリル系粘着剤等の粘着性ではなく,ゲル 化したオイルの粘着性によって,皮膚に対して粘着するシート」と解釈すべき である。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10010 損害賠償等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年5月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁(3部)は、1審が認めた本件アカウント1についてツイート1の直前に同アカウントにログインした際のログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を命じた部分,原判決主文第2項(2)のうち,本件アカウント6についてツイート6の直前に同アカウントにログインした際のログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を命じた部分を取り消しました。

 4 争点4(ツイート直前ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
(1) 被控訴人は,本件アカウント1及び6につき,ツイート1並びに6及び6’ の直前のログイン時IPアドレス等の開示を求めるのに対し,控訴人は,ロ グイン時のIPアドレス及びタイムスタンプは,侵害情報の発信行為とは全 く別個の行為であるアカウントへのログイン行為に関する情報であるから, 「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法4条1項柱書) に該当しないと主張する。
(2) プロバイダ責任制限法4条1項は,開示請求の対象となるべき情報につい て,「権利の侵害に係る発信者情報」と規定し,その具体的な内容を総務省 令(発信者情報省令)に委任しているところ,権利の侵害に「係る」という ように,やや幅をもって規定していることからすれば,権利の侵害そのもの から把握される発信者情報だけでなく,権利の侵害に関連して把握される発 信者情報であり,発信者情報省令により定められているものであれば,開示 請求の対象となると解すべきである。 そして,新発信者情報省令5号が「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」 と規定し,侵害情報に「係る」というように,やや幅をもって規定している ことからすれば,侵害情報の発信そのもののIPアドレスだけでなく,侵害 情報の発信と密接に関連し,同一人物のものである確度が高い情報のIPア ドレスであれば,開示請求の対象となると解すべきである。 これを本件についてみるに,上記3(2)で述べたとおり,ツイート行為1並 びに6及び6’によって送信されたテキストデータ等は本件写真1及び2に 係る被控訴人の同一性保持権の侵害を発生させた侵害情報と評価することが できる。そして,ツイッターに投稿(ツイート)するためには特定のアカウ ントにログインしなければならず,ツイート1又は6若しくは6’は直前に おける本件アカウント1又は6へのログイン行為によるログイン状態を利用 してされたと合理的に考えられる。これらのことからすれば,ツイート1並 びに6及び6’の直前のログインに係る情報は,侵害情報の送信と密接に関 連する情報であって,同一人物のものである確度が高いから,侵害情報の発 信に関連して把握される発信者情報であると認められ,したがって,被控訴 人は,控訴人に対し,新発信者情報省令5号に基づき,本件アカウント1に ついてツイート1の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの 開示を請求することができ(原判決主文第2項(1)のうちIPアドレスの開示 を認めた部分),本件アカウント6についてツイート6の直前に同アカウン トにログインした際のIPアドレスの開示を請求することができるとともに (原判決主文第2項(2)のうちIPアドレスの開示を認めた部分),ツイート 6’の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの開示を請求す ることができる(本判決主文第2項(2))ものと認められる。
他方,新発信者情報省令8号は,「第五号のアイ・ピー・アドレスを割り 当てられた電気通信設備,第六号の携帯電話端末等からのインターネット接 続サービス利用者識別符号に係る携帯電話端末等又は前号のSIMカード識 別番号(中略)に係る携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定 電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」として,開示の対象 となる「侵害情報が送信された年月日及び時刻」は,「侵害情報が送信され た」ときのものであることをと定めている。上記のとおり,ツイート1並び に6及び6’に係るテキストデータ等は侵害情報に当たると解されるところ, ツイート1並びに6及び6’自体とは異なるツイート1並びに6及び6’の 直前のログインに係る送信の年月日及び時刻は,「侵害情報が送信された年 月日及び時刻」という文言に該当するとは認められない。したがって,本件 アカウント1について,ツイート1の直前のログインに係る送信の年月日及 び時刻の開示を請求することはできず,本件アカウント6について,ツイー ト6の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示,並びにツイート 6’の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示を請求することは できない(そのため,原判決主文第2項(1)のうち,本件アカウント1につい てツイート1の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示を命じた 部分を取り消し(本判決主文第1項(1)),原判決主文第2項(2)のうち,本件 アカウント6についてツイート6の直前のログインに係る送信の年月日及び 時刻の開示を命じた部分を取り消し(本判決主文第1項(2)),当審における 追加請求のうち,本件アカウント6についてツイート6’の直前のログイン に係る送信の年月日及び時刻の開示を請求する部分を棄却する(本判決主文 第2項(3))。)。
(3) これに対し,控訴人は,ツイッターのシステム上,一つのアカウントに対 して,複数のログイン状態が競合することは頻繁に発生しており,ツイート 行為がその直前のログイン行為によるログイン状態を利用して行われたもの であるかどうかは明らかではないから,ツイート行為と直前のログイン行為 の関連性は明らかとはいえない旨主張する。 しかしながら,ツイッターのシステム上,一つのアカウントに対して複数 のログイン状態が競合することがあるとの一般的な可能性を考慮しても,ツ\nイート行為がその直前のログイン行為によるログイン状態を利用して行われ たと考えることには合理性があるものと認められ,控訴人の指摘は,ツイー ト行為1並びに6及び6’の直前のログイン時におけるIPアドレスが,侵 害情報の送信と密接に関連する情報であって,同一人物によるものである確 度が高く,侵害情報の発信に関連して把握される発信者情報であるとの上記 認定を左右しない。したがって,控訴人の上記主張には理由がない。
また,控訴人は,発信者情報の開示は,通信の秘密や表現の自由という重\n大な権利権益に関する問題である以上,ひとたび開示されてしまうと原状回 復は不可能であるという性質を有していることから,開示請求の対象となる\n発信者情報は,訴訟による権利回復を可能にするという制度の趣旨に照らし\nて必要最小限度の範囲に予め限定するのが相当であり,ログイン時IPアド\nレス等のような情報を開示の対象に含めるべきではなく,現に,ログイン時 情報を発信者情報として開示することは立法時には必ずしも想定されてい なかったと主張する。 しかし,通信の秘密や表現の自由を保護しつつ,情報の発信により著作権\n法上の権利を侵害された者の救済を図ることも必要であり,プロバイダ責任 制限法及び発信者情報省令の解釈により認められる範囲において発信者情報 を開示することは許容されるべきであるから,控訴人の上記主張を採用する ことはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)12020 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月19日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。同じ先行技術について審決は阻害要因あり、裁判所は阻害要因無しとの判断です。

(イ) 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手 段1)の採用と甲1発明の技術思想について
a 空所134への液体の集約
被告は,甲1は,甲1発明が,「改良された液体分布機構」として,ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をい\nったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個 所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており,甲1発明の「改良された液体分布機構\」においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング 30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,コ ンプレツサ内に存在しないとし,したがって,スラストピストン室6 0についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所13 4を介することなく供給するなどという構成は,甲1発明の技術思想に反するものであって,適用が排斥されていると主張する(前記第3,\n1(2)イ(イ)c(a))。
甲1には,空所134に関し,「中間ハウジング30はまた,圧力の かかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有して いる。」(9欄35〜37行),「空所134は,コンプレツサベアリン グおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形 成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70 に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働 く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152および パイプ154を介して空所134から室70に供給される。」(10欄 6〜13行)と記載され,ポンプ140によって加圧した液体の供給 について,いったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必 要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するとい う構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると,ポンプ140により加圧された液体を供給する経路の一部を,あえて空\n所134を経由しない別の経路として設けるように変更することは, 甲1の技術思想に反するものとして,その適用が排斥されているとい う余地があるとしても,ポンプにより圧力が加えられない液体をスラ ストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に,これを, ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが 排斥されていると解することはできない。したがって,被告の上記主 張を採用することはできない。
被告は,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける と,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂 回することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属く ず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不物等)がスラストピストン 室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいて はコンプレツサ10が機能不全に陥るとし,甲1発明において,スラストピストン室60に液体を供給する構\成を,ポンプ140・フイルタ146・空所134を迂回するものの他のフイルタを通過してスラ ストピストン室60に至る構成に改変しようとすると,フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体\nパイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,甲1発明がコン プレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等 に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因があると主張する(前記第3,1(2)イ(イ)d(b))。
しかし,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ14 6を迂回したとしても,圧縮機全体での液体の循環が繰り返される中 で,大部分の異物はいずれはフイルタ146を通って除去されること になるし,必要であれば,ポンプの前にフイルタを経由するように構成を変更し,ポンプにより圧力を加えられる液体も,圧力を加えられ\nない液体もフイルタを通過するようにするなどの対応を取ることもで きるから,コンプレツサ10が機能しなくなるとは認められない。また,このように構\成を変更するとしても,それによってコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数が著しく増えるとする根拠はない。したが って,被告の上記主張を採用することはできない。
・・・
。このように,甲1発明に ついても,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題を 認識できることから,そのような課題を解決するために,逆スラスト 荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるもの と認められる。そうすると,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が 発生するという技術的課題やその課題の解消について甲1に直接の言 及がないとしても,そのような課題を解決するために甲1発明に非加 圧の経路を設けるという動機付けが生じるものと認められる。したが って,被告の上記主張を採用することはできない。
3 以上によれば,本件特許発明は,甲1発明に,甲2ないし甲5に記載された 周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許 法29条2項の規定により特許を受けることができず,本件特許は特許法12 3条1項2号の規定により無効とすべきものであると認められ,取消事由1(無 効理由1に関する進歩性の判断の誤り)は理由がある。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> 阻害要因
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10062  商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和3年5月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 本件輸入行為は並行輸入の要件を満たしているとした1審判決を維持しました。

 最高裁平成15年判決について
 同判決は,いわゆる真正商品の並行輸入について,それが1)当該商標が外 国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に 付されたものであり(以下「第1要件」という。),2)当該外国における商 標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に 同一人と同視し得るような関係にあることにより,当該商標が我が国の登録 商標と同一の出所を表示するものであって(以下「第2要件」という。),\n3)我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る 立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品 とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される 場合(以下「第3要件」という。)には,商標権侵害としての実質的違法性 を欠くと判断した。
この判決は,商標権者から商標の使用許諾を受けた上で,当該商標を付し た商品を製造販売した者から,当該事件の被告が商品を輸入したという事案 に関するものであった。これに対し,本件の事案は,商標権者が自ら商品を 製造してこれを販売代理店に売却し,その販売代理店から被控訴人ブライト が商品を輸入したという事案であり,製品が商標権者自らの手によって製造 されていたかどうかという点において,重大な違いがある。このため,後述 のとおり,上記の3要件を事案の違いに応じて変容させる必要がないのかと いう点が問題になり得るものの,基本的には,上記の3要件をベースとして 被控訴人ブライトによる輸入行為が実質的に違法性を欠くものであるかどう かを判断すべきであると解されるので,以下,各要件について判断する。
(3) 第1要件について
ア 上記のとおり,第1要件は,当該商標が当該商標権者等によって適法に 付されたものであるかどうかを問題とするのに止まるから,この要件をそ のまま適用する限り,商標権者が製造した本件商品の輸入が問題になって いる本件においては(控訴人らは,本件商品の全てが,ランピョン社がM ゴルフ社に販売した商品であることは立証されていない旨主張するが,既 に認定したとおり,Mゴルフ社は,かつてはランピョン社の販売代理店で あり,同社から正規の2UNDR商品を購入し,保有していたことが認め られ,また,被控訴人ブライトがMゴルフ社から輸入した商品の点数(2 387点)は,Mゴルフ社が,ランピョン社から購入し,上記輸入直前の 時点において保有していたとしてもおかしくない商品の点数(2448 点)の範囲内であるのに対し,被控訴人ブライトが輸入した商品が,上記 とは他のルートで入手されたものであったことを疑わせるような証拠は全 くないのであるから,本件商品が真正商品であることを否定することはで きないものというべきである。),第1要件が満たされることは明らかで あるし,本件代理店契約の解除や,地域制限条項の存在などといった控訴 人ら主張の事情は,この判断に何ら影響を及ぼすものではないということ になる。そして,これが被控訴人らの主張するところでもある。
イ これに対し,控訴人らは,本件事案においては,第1要件は,単に適法 に商標が付されたことだけではなく,適法に商標が付された商品が,商標 権者の意思に基づいて流通に置かれたことまで要求するものとして理解す べきであると主張する。 たしかに,最高裁平成15年判決の事案は,商標が,商標権者自身では なく,商標権者から使用許諾を受けた者によって付された事案であったた め,使用許諾権者がその権原に基づいて商標を付したのかどうかという意 味において,商標が適法に付されたのかどうかが問題となる余地があった のに対し,本件事案のように,商標権者自身が商品を製造販売している事 案では,この要件が問題になることはほとんど考えられず,果たして,商 標が適法に付されたかどうかのみを単独の要件とする意味があるのかとい う点が問題となり得る。この点や,最高裁平成15年判決以前には,本件 事案のような事案に関し,「商標権者が当該商標を適法に付して流通に置 いたこと」を要件とする見解が有力であり,このように「適法に流通に置 いたこと」を要件とすることは,非正規のルートで入手された商品が並行 輸入された場合を排除するという意味を持ち得るものであることを併せ考 えると,最高裁平成15年判決とは事案が異なる本件においては,商標が 適法に付されたかどうかだけではなく,それが適法に流通に置かれた(あ るいは,商標権者の意思に基づいて流通に置かれた。以下,同じ。)かど うかも問題とする必要があるという見解もあり得るものと考えられる。そ の意味で,控訴人らの主張にはもっともなところがあるといえる。 しかし,仮にそのように考えるとしても,本件において,Mゴルフ社は, ランピョン社から正規に本件商品を購入したのであるから,この時点にお いて,本件商品が「適法に流通に置かれた」ことは明らかである。そして, 本件代理店契約の解除や地域制限条項の存在といった控訴人ら主張の事情 は,上記の判断を左右するに足りるものではないと考えられる。その理由 は,次のとおりである。
ウ すなわち,まず,本件代理店契約解除との関係について検討すると,前 認定のとおり,Mゴルフ社は,上記解除によって本件商品を販売してはな らない義務を負うと解する余地はある。しかし,このような条項があるか らといって,Mゴルフ社が本件商品の処分権限を失うわけではない(本件 代理店契約解除によって,直ちにMゴルフ社の本件商品に対する所有権が 失われるものではないことは控訴人ら自身が自認しているところであるし, ランピョン社が買戻権を行使した事実が存在しないことも既に指摘したと おりである。)。そうであるとすると,Mゴルフ社が,本件代理店契約解 除後に本件商品を売却したとしても,それは,ランピョン社との間で債務 不履行という問題を生じさせるだけで,本件商品が「適法に流通に置かれ た」という評価を覆すまでのものではないというべきである。実質的に見 ても,Mゴルフ社が正規に購入した商品を,本件代理店契約解除後に他に 売却したからといって,直ちに商標の出所表示機能\が害されるとはいえな いのであって,この点からしても,第1要件該当性を否定する理由はない。 この点は,地域制限条項との関係についても同様であり,地域制限条項 は,あくまでも債権的な効力を有するにすぎず,Mゴルフ社による本件商 品の処分権限を奪うものではないのであるから,これに違反した処分がさ れたからといって直ちに,本件商品が「適法に流通に置かれた」という評 価が覆るものではないというべきである。実質的にみても,Mゴルフ社が 正規に購入した商品を制限地域外で販売したからといって直ちに商標の出 所表示機能\が害されるとはいえないのであって,この点からしても,第1 要件該当性を否定する理由はない(なお,最高裁平成15年判決は,地域 制限条項違反を理由の一つとして第1要件該当性を否定しているので,こ の判断との関係についても念のため触れておく。同判決の事案は,商標の 使用許諾契約において地域制限がされていたという事案であったため,使 用権者は,そもそも,制限地域外において商品に商標を付す権限を有して いなかった。このため,制限地域外で商標を付したとしても,それは「適 法に」商標を付したことにならないとの評価を免れなかった。これに対し, 本件事案において,Mゴルフ社の商品処分権限は何ら制約されていないこ とは既に説示したとおりであり,この点において,本件と最高裁平成15 年判決の事案とは事案を異にするというべきである。)。
エ 以上の次第で,第1要件の内容を最高裁平成15年判決の判断どおりと みた場合でも,それに「適法に流通に置かれたこと」との要件を加えたも のとして理解したとしても,いずれにせよ,同要件は満たされているとい うべきである。
(4) 第2要件について
本件においては,控訴人ハリスが我が国における商標権者であると同時に 外国における商標権者でもあるから,本件商品に付された商標と我が国の登 録商標(原告商標)とが同一の出所を表示するものであることは明らかであ\nる。 なお,被控訴人ブライトは,我が国において被告各標章を利用した宣伝広 告活動を行っているが,これは本件商品の輸入後の行為であることからする と,そもそも,かかる事情が第2要件該当性の判断に影響を及ぼすものであ るのかは疑問である。また仮に,これらの事情を考慮に入れる必要があると しても,原告商標と被告各標章が類似のものであることは上記1で原判決を 引用して説示したとおりであるから,出所表示の同一性に影響を及ぼすもの\nではなく,いずれにせよ第2要件該当性は肯定されるべきである。
(5) 第3要件について
ア 最高裁平成15年判決における第3要件は,「我が国の商標権者が直接 的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当 該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保 証する品質において実質的に差異がないと評価される場合」であることと いうものである。 ところで,最高裁平成15年判決の事案は,商標権者自身ではなく,商 標の使用許諾権者が商品を製造したという事案であった。そこで,商標に 係る商品の品質保証のため,商標権者が,商標使用許諾権者(あるいは, その下請等の立場にあった者)の行為に対して,直接的に又は間接的に品 質管理を行い得る立場にあったかどうかが重要な問題になり得たものであ る。これに対し,本件のように,商標権者自身が商品を製造している場合 には,商品の品質は,商標権者自身が商品を製造したという事実によって 保証されており,後は,その品質が維持されていれば品質保持機能に欠け\nるところはないといえる。そして,本件商品は男性用下着であって,常識 的な期間内で流通している限り,その過程で経年劣化等をきたす恐れはな いし,商標権者自身が品質管理のために施した工夫(商品のパッケージ 等)がそのまま維持されていれば,商品そのものに対する汚損等が生じる おそれもないといえる。 そうであるとすると,少なくとも,本件のように商標権者自身が商品を 製造している事案であって,その商品自体の性質からして,経年劣化のお それ等,品質管理に特段の配慮をしなければ商標の品質保証機能に疑念が\n生じるおそれもないような場合には,商標権者自身が品質管理のために施 した工夫(商品のパッケージ等)がそのまま維持されていれば,商標権者 による直接的又は間接的な品質管理が及んでいると解するのが相当である。
イ そこで,以上の観点から,第3要件が満たされているかどうかを検討す るに,本件商品と2UNDR商品の日本における販売代理店が販売する商 品とが,登録商標の保証する品質において実質的に差異がないといえるこ とは,原判決「事実及び理由」第3,2⑷オ(原判決31頁24行目から 32頁17行目まで)に記載のとおりである。そして,商品のパッケージ 等はそのまま維持されていたものと推認できるから,「我が国の商標権者 が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあること」 との要件も,満たされているものといってよい。
ウ 控訴人らは,地域制限条項は,商品が最終消費者に販売されるまでの間 の品質を商標権者がコントロールするために重要な条項であるから,同条 項の違反は商標の品質保証機能を害する旨主張するが,販売地域の制限に\n係る取決めは,通常,商標権者の販売政策上の理由でされるにすぎず,商 品に対する品質を管理して品質を保持する目的と何らかの関係があるとは 解されないから,上記主張は失当である(なお,最高裁平成15年判決の 事案における地域制限条項は,商品を製造する地域を制限する条項という 意味も持っていたため,どこで商品を製造するかは品質の保持に影響する と解する余地があった。これに対し,本件事案においては,商品自体は商 標権者によって製造済みであり,それをどの地域で販売するかが問題にな るのにすぎないのであるから,両者が全く事情を異にすることは明らかで ある。)。また,本件代理店契約が解除されたという事実も,第3要件の 充足性に影響を及ぼす事情とはいい難い。
エ 控訴人らは,本件商品の包装箱にシールを剥がした跡があることや,広 告に「訳あり/パッケージ汚れ」との記載があることは,商標の品質保証 機能を害する旨主張する。\nしかし,包装箱(パッケージ)の汚れ等の不具合は,商品(男性用下 着)自体の品質とは直接の関係がなく(パッケージの汚れが,単に表面に\nとどまらず,内部にまで影響を及ぼしていたことを認めるに足りる証拠は ない。),本件商品の品質が控訴人らの扱う2UNDR商品の品質よりも 実際に劣っていたことをうかがわせる証拠もない。また,「訳あり/パッ ケージ汚れ」との記載は,商品そのものではなく,そのパッケージに汚れ があることを「訳あり」と称しているのにすぎないものと理解できるから, これによって,2UNDR商品そのものの品質に疑念が生じるおそれはな いものといえる。 したがって,この点に関する控訴人らの主張は失当である。
オ さらに,控訴人らは,控訴人ハリスは,正規代理店を経由して日本に輸 入された商品については交換に応じる等の保証をしており,品質について 独自の信用を構築しているところ,本件商品は保証の対象外であり,本件\n商品の購入者は,商品に欠陥があった場合も交換等を受けられないのであ るから,控訴人ハリスの保証を受けられないことは,品質保証機能を害す\nるとも主張する。 しかし,控訴人ハリスが,顧客からの要請に基づいて,商品の交換に応 じることがあるというだけで,独自の品質管理体制が構築されていたとま\nでいうことはできないし,そのほかに,控訴人らが,商品の品質について, 並行輸入を排除するのに足りるような独自の信用を構築していることを認\nめるに足りる証拠はない。 したがって,この点に関する控訴人らの主張も失当である。
(6)まとめ
以上の次第で,本件において,第1要件ないし第3要件は,いずれも満た されているというべきであるから,被控訴人ブライトによる本件商品の輸入 行為は,実質的な違法性を欠くというべきである。
3 並行輸入の違法性阻却と販売行為の態様との関係について
控訴人らは,被控訴人ブライトの輸入行為が違法性を阻却されるとしても, 商標権者が許容しない方法で広告宣伝及び販売をする行為は違法性を阻却され ない旨主張する。 しかしながら,その理由として控訴人らが挙げる事情は,いずれも並行輸入 の違法性阻却の場面で検討ずみのものであって,むしろ,上記2のとおり,商 標の品質保証機能が害されていないことの理由ともなり得るものである。また,\n被控訴人ブライトは,被告各標章を利用して本件商品の宣伝,広告を行ってい るところ,被告各標章の中には,本件商標と完全に同一であるとはいい難いも のも含まれているが,本件商標と類似するものであることは上記1で原判決を 引用して説示したとおりであり,このような標章を使用することによって本件 商標の機能を害しているとまではいえないから,この点も違法性阻却を否定す\nるに足りる事情であるとはいい難い。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)35053

関連カテゴリー
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)1006 不当利得返還等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年5月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審の東京地裁はプログラムの著作権侵害として20万円の支払いを認めました。控訴しましたが棄却されました。

 控訴人は,平成25年9月以降のやり取りにおいて被控訴人学園か ら提案された120万円には著作権に対する対価は含まれていなかった ものであり,控訴人と被控訴人学園との間で本件システムの開発に係る 委託費用は月額約32万円と合意されていたことからすれば,著作権侵 害行為によって生じた控訴人の損失は160万円を下らない旨主張し, また,著作権法114条1項又は同条3項に基づいて算定しても,同損 失は160万円を下らない旨主張する。 (イ) まず,控訴人と被控訴人学園との間のやり取り又は合意に関する主 張について検討するに,仮に,上記やり取りにおける被控訴人学園の提 案が,本件システムに係るプログラムの著作権を取得する対価を含む趣 旨ではなかったとしても,前記認定事実のとおり,平成24年12月か ら平成25年3月までの本件システムの開発費用は105万円であっ たこと,この支払がされた時点において,本件プログラムは本件システ ムの半分程度を完成させたものであったことに加え,上記提案のほかに 控訴人及び被控訴人学園が本件プログラムの対価について具体的な金 額を協議したと認めるに足りる証拠はないことや,本件における被控訴 人学園による本件プログラムの著作権等侵害行為の態様等,本件に現れ た一切の事情を考慮すると,被控訴人学園による著作権侵害行為につい て,本件プログラムの著作権の利用料相当額としての利益を受け,控訴 人に損失を及ぼした金額は,20万円と認めるのが相当であり,これを 超える利益及び損失が生じたものと認めるに足りる的確な証拠は存し ない。また,控訴人と被控訴人学園との間において,本件システムの開発に 係る委託費用を月額約32万円とする合意が成立したと認めるに足りる 証拠は存しない。そうすると,控訴人と被控訴人学園との間のやり取り又は合意を根拠 として,控訴人に160万円の損失が生じたと認めることはできない。
(ウ) 次に,著作権法114条に基づく控訴人の主張について検討するに, 同条1項に基づく主張については本件プログラムの譲渡等に係る控訴 人の利益の額につき,同条3項に基づく主張については本件システムと は異なるシステムであるWebClassのライセンス料を基に利用 料相当額を算定することにつき,それぞれ具体的な根拠を欠くというべ きである。 そうすると,著作権法114条1項又は同条3項を根拠として,控訴 人に160万円の損失が生じたと認めることはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)36168
被告学園は,前記4の著作権侵害行為につき,本来原告に支払うべき金 銭を支払っていないから,その金銭の額に相当する額の利益を受け,原告 に同額の損失を及ぼしたと認められる。そこで,以下,上記の額(利用料 相当額)がいくらであるのかについて検討する。 原告は,被告学園から,平成24年12月から平成25年3月までの本 件システムの開発費用として,105万円を受け取った(前記1(4))。こ れは,前記3のとおり,著作権の対価ではなく,それまでの労務の対価と して支払われたものであったが,原告が上記の金銭を受け取った時点で, 本件プログラムは,本件システムの半分程度を完成させたにとどまるもの であった(前記1(5))。Cは,同年10月頃,原告に対し,本件システム の残りの開発に係る開発費用として,120万円を支払うことを提案して おり(前記1(14)),当該提案がされた経緯や提案された金額からすれば, これは,残り半分程度の本件システム開発に係る労務の対価に加えて,被 告学園が原告から本件システムに係るプログラムの著作権を取得する対価 を含む趣旨での提案であったものと推認することができる。 以上に加え,上記提案のほかに原告と被告学園が本件プログラムの対価 の具体的な金額について協議したと認めるに足りる証拠はないこと,前記 4の被告学園の本件プログラムの著作権等侵害の態様等,本件に現れた一 切の事情を考慮すると,被告学園が前記4の著作権侵害行為について,本 件プログラムの著作権の利用料相当額としての利益を受け,原告に損失を 及ぼした金額は20万円と認めるのが相当である。 イ 原告は,平成25年4月1日から同年10月15日までの本件システム の開発に係る委託費用相当額の損失をも被ったと主張して,被告らに対し 同額の不当利得の返還を請求するので,以下検討する。 前記1(4)ないし(6),(11)ないし(14)の経緯に照らせば,被告らは上記 期間に対応する本件システムの開発の成果物を受領していないし,原告と 被告らとの間において,上記期間に係る本件システムの開発の委託費用の 支払を合意したとも認められない(むしろ原告は,被告学園に対し,Bへ の本件圧縮ファイルの送付以降の開発費用等の支払は不要であると伝えて いる。)。そうすると,被告らにおいて,原告による平成25年4月1日 から同年10月15日までの対応する本件システムの開発に係る利益を受 けたと認めることはできない。 また,前記2,3のとおり,本件プログラムの著作権は原告に帰属して おり,被告らは,本件プログラムの著作権を取得しておらず,本件全証拠 によってもこれを利用する権原を取得したとも認められないから,被告ら は原告の許諾なく本件プログラムを利用することはできない。そうすると, 被告らにおいて,原告に本件プログラムを作成させた対価を支払う必要は ないというべきであり,その支払を免れたことによる利益を受けたとは認 められない。 したがって,原告が被告らに対して委託費用相当額の不当利得返還請求 権を有しているとは認められず,原告の上記主張は理由がない。

関連カテゴリー
 >> 著作権その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)2956 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月20日  大阪地方裁判所

 均等侵害も第1要件を満たさないとして特許権侵害とはならないと判断されました。

 本件各発明に係る特許請求の範囲及び本件訂正明細書の各記載によれば,本件各 発明の本質的部分については,以下のとおりと認められる。 すなわち,従来,硬貨の表面に描かれた模様は,硬貨を製造するプレス機に設置\nされるプレス金型に予め彫り込まれ,硬貨をプレス及び打ち抜きする際,硬貨の表\ 面に金型の凹凸が反転して表現されていたところ,プレス金型に対して硬貨の表\面 に浮き出る部分は,平面彫刻機で彫り込んで行われていた。しかし,平面彫刻機の ように厚み方向のみ切削する切削工具では,切削した部分及び切削を行わなかった 部分は平面仕上げであり,金属の地肌のままの色合いであるため,放電加工機で不 規則かつ微細に地金を削り取りいわゆるナシ地仕上げを行ったり,切削した部分を 細かく研磨して鏡面仕上げを行ったりし,また,立体彫刻機で人物や動物等立体的 な図形を彫り込み,得られた硬貨の表面の凸部に人物等を立体的に表\現して,硬貨 の装飾効果を高めていた。しかし,これらの方法によっても,図形等の部分を除い た硬貨の地模様に対応する部分は,平面仕上げ,鏡面仕上げ,ナシ地仕上げのいず れかであり変化に乏しく,また,メダル遊戯機で使用される硬貨は,コスト等の兼 ね合いがあり,高価な金属の使用が難しく,表面の輝きが鈍いものが多いという課\n題があった。本件各発明は,こうした課題に対し,硬貨の表面の地模様に立体彫り\nによる変化を起こし,硬貨の輝きを増し,硬貨の装飾価値等を高めることを目的と するものである。具体的には,本件発明1は,切削深さを任意に変えられる同時三 軸制御 NC フライス機を,硬貨表面に描かれる人物や動植物等の図形に用いるので\nはなく,金型の表面に対して一定パターンで切削を繰り返すことにより硬貨の地金\n部分に立体的な幾何学的模様からなる新たな地模様を描き出し,硬貨の装飾価値を 高めるものである。本件発明2は,本件発明1と同様の方法で硬貨の地模様を描き 出すことに加え,同じく同時三軸制御 NC フライス機により地模様以外の模様に対 応する部分をV溝状に切削することで,当該模様部分の表面積の増加等により硬貨\nの表面の輝きを増加させ,硬貨の装飾価値等を高めるものである。\n以上を踏まえると,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,少なくとも 「金型の厚み方向へ切削可能な」切削工具「を用い,金型に対して一定のパターン\nで切削深さと,水平面に対する金型の切削角度と,を変えながら金型表面上を移動\nさせ,傾斜面を含む特定のパターンを金型上に描き,これを金型表面全体に繰り返\nすことにより繰り返し模様からなる地模様を形成すること」は,従来技術には見ら れない特有の技術的思想を有する本件各発明の特徴的部分すなわち本質的部分であ るといえる。さらに,本件発明2においては,これに加え,上記工具「により硬貨 の表面に浮き出る文字,図形等の模様に対応する部分をV溝状に切削すること」も,\n特徴的部分すなわち本質的部分ということができる。
(3) 前記のとおり,本件各発明における「金型」(構成要件B,C,E及びF)は\nプレス金型を意味し,また,被告製造方法の構成については当事者間に争いがある\nものの,被告製造方法が原金型に関する工程とプレス金型に関する工程という2つ の工程を含むこと,被告機械を用いて原金型の表面に地模様及び地模様以外の模様\nに対応する部分を切削加工により作製することは,当事者間に争いがない。これを 踏まえると,本件各発明においては,プレス金型の厚み方向へ切削可能な切削工具\nを用い,プレス金型に対して一定のパターンで切削深さと,水平面に対するプレス 金型の切削角度と,を変えながらプレス金型表面全体に繰り返すことにより繰り返\nし模様からなる地模様を形成し,本件発明2においては,これに加えて,上記工具 により硬貨の表面に浮き出る地模様以外の模様に対応する部分をV溝上に切削して\nプレス金型を得るのに対し,被告製造方法においては,被告機械を用いて原金型の 表面に地模様及び地模様以外の模様に対応する部分を切削加工により作製し,こう\nして得られた原金型から(特定されない加工方法(被告方法1)又は放電加工(被 告方法2)により)プレス金型を得る点で相違する。そうすると,被告製造方法は, 本件各発明の本質的部分を共通に備えているとはいえない。 したがって,本件各発明と被告製造方法の相違部分は,本件各発明の本質的部分 に当たる。
(4) 原告らの主張について
これに対し,原告らは,本件各発明の本質的部分は,金型に対して一定のパター ンで切削の深さと,水平面に対する金型の切削角度と,を変えながら金型表面上を\n移動させ,傾斜面を含む特定のパターンを金型上に描くことと,地模様以外の模様 に対応する部分をV溝状に切削することであり,原金型とプレス金型の2つの金型 を用いるか否かは本件各発明の本質的部分ではないなどと主張する。 しかし,前記のとおり,原金型からプレス金型に対する転写等の工程につき,そ の構成を特定しなくても,本件各発明の作用効果を奏し得るものが行われることが\n当業者にとって技術常識であるとは認められないことをも踏まえると,金型につき 原金型とプレス金型の2つを用いるか否かは,本件各発明の本質的部分に係る相違 部分というべきである。 したがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 均等
 >> 第1要件(本質的要件)
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10015 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月17日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が維持されました。知財高裁は、課題が公知文献に記載されていないだけでなく、解決手段も公知文献から導けないと判断しました。

 イ シリコーン誘発凝集阻害という課題の発見の容易性について 原告は,タンパク質製剤におけるシリコーン誘発凝集は知られており, タンパク質の凝集が多糖類−タンパク質コンジュゲート凝集の原動力であ ることを当業者は理解していたから,公知発明1に6種の肺炎球菌CRM コンジュゲートを追加することによりタンパク質含量が増える13価の肺 炎球菌CRMコンジュゲート製剤でシリコーン誘発凝集が生じることは予\n見可能であった旨主張する。\nしかし,原告がその主張の根拠とする公知文献(甲25,26,71) は,キャリアタンパク質がCRM又は破傷風毒素(TT)である多糖類− タンパク質コンジュゲートの構造的不安定性に関連する凝集について記載\nするのみであるから,これらの公知文献からは,多糖類−タンパク質コン ジュゲートのシリコーン誘発凝集が本件優先日当時に課題として当業者に 認識されていたとはいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 課題の解決手段の適用の容易性について
上記イで述べたとおり,当業者は本件発明の課題を認識できないから, 既にこの点において容易想到性は否定されることになるが,念のため,課 題解決手段適用の容易想到性に関する原告の主張についても検討しておく。
(ア) タンパク質製剤のシリコーン誘発凝集の解決手段に関する知見につき
原告は,当該課題の解決のために,当業者は,タンパク質製剤におけ るシリコーン誘発凝集の解決手段に関する知見を採用し得た旨主張する。 しかしながら,原告がその主張の根拠とする公知文献(甲3,69) には,タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集についての記載はあるが, 多糖類−タンパク質コンジュゲートのシリコーン誘発凝集についての記 載はない。他方,多糖類−タンパク質コンジュゲートの構造的不安定性\nや凝集は,タンパク質部分のみでなく多糖類部分の影響も受けることが 知られていたところ(甲25,50),多糖類とタンパク質は構造や性\n質が異なるから,両者の挙動は異なることが当然に予想される。そうす\nると上記公知文献(甲3,69)に記載されたタンパク質医薬品のシリ コーン誘発凝集についての知見が,多糖類−タンパク質コンジュゲート のシリコーン誘発凝集にも直ちに妥当するものとは認められない。また, 上記公知文献は,タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集の問題を解決 する手段として,それぞれ,界面活性剤の添加又はシリコーン含有量の 低減を開示するのみであって,本件発明の構成であるアルミニウム塩の\n添加には触れていないから,公知発明1にタンパク質製剤のシリコーン 誘発凝集の解決手段に関する上記公知文献記載の知見を適用しても,本 件発明の構成には至らない。\nしたがって,原告の上記主張は採用できない。
(イ) アルミニウム塩の発揮する効果に関する知見につき
原告は,凝集体の発生に関連するタンパク質の疎水性表面への吸着は\nアルミニウム粒子で防ぐことができるとの知見(甲81の3,76)が あったから,疎水性界面を示すシリコーンによるワクチンの凝集も,ア ルミニウム塩をアジュバントとすることにより防ぐことができると当業 者は理解したと主張する。
しかし,上記知見においては,容器の疎水性表面へのタンパク質の吸\n着は,液体(製剤)と固体(容器)との界面における容器表面とタンパ\nク質分子との相互作用に関連すると理解されていたのに対し(甲81の 3),タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集は,微量のシリコーンの 存在と空気−液体界面におけるタンパク質の変性や(甲3),タンパク 質結合に関与する分子間相互作用へのシリコーンの影響(甲69)に関 連すると考えられており,シリコーン誘発凝集がタンパク質のシリコー ンへの吸着によって生じると考えられていたとは認められないから,疎 水性表面へのタンパク質の吸着をアルミニウム粒子により阻害する旨の\n上記知見を,直ちに肺炎球菌CRMコンジュゲートのシリコーン誘発凝 集の阻害のために適用することは困難であったといえる。 したがって,原告の上記主張は採用できない。
エ 単なる「発見」にすぎないとの予備的主張について\n
原告は,相違点4に係る発明特定事項は,ワクチン製剤のアジュバント としてアルミニウム塩を選択するという周知慣用技術を採用したとき,ア ルミニウム塩が肺炎球菌CRMコンジュゲートワクチン製剤においてはシ リコーン凝集阻害という効果を示すという,公知発明1(7価プレベナー )でも生じていたメカニズムを「発見」したにすぎないから,相違点4を 根拠に本件発明の進歩性を認めることは,自由技術に独占権を与えること になって不当である旨主張する。 しかし,この主張は,本件発明と公知発明1とは実質的には同一である という前記の主張と本質を同じくするものであるといえるところ(すなわ ち,本件発明と公知発明1とは実質的には同一であって,発明の構成にお\nいて違いはないという前提があって初めて,本件発明の独自性は,凝集の メカニズムを「発見」したにすぎないという議論が成り立ち得ることにな るはずである。),この主張を採用することができないことは既に説示し たとおりである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 相違点認定
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ワ)784  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年4月26日  大阪地方裁判所

  商標「蛸焼工房」について先使用権を主張しましたが、認められませんでした。権利濫用の主張も認められませんでした。

 「需要者の間に広く認識されている」(商標法32条1項)といえるため には,全国的に知られている必要はないものの,商品又は役務の性質等を踏まえつ つ,取引の実情を考慮して,一定の地理的範囲において広く知られているものとい えることを要すると解される。本件においては,たこ焼きの需要者はたこ焼きを購 入しようとする一般の消費者であると見られること,たこ焼きは,通常,加熱調理 されて温かい状態で食べられる食品であることなどを考慮すると,被告標章が「需 要者の間に広く認識されている」といえるためには,被告店舗が多数存在する愛知 県及びその近隣県の需要者の多くに認識されていることを要するといえる。
(イ) 前記認定事実((1)ア)によれば,被告は,本件商標の登録出願まで15年 以上にわたって被告標章を使用し,店舗を展開してきたものであり,また,被告の 売上,愛知県内の店舗数,各店舗の総来店者数のいずれも,決して少ないとはいえ ない。 しかし,本件商標の登録出願当時における愛知県を除く隣接県の店舗数は,各県 とも数店舗にとどまる(前記(1)ア)。愛知県においても,本件商標の登録出願後 の数ではあるものの愛知県内に500店舗を超えるたこ焼き店が存在すること(前 記(1)ア)に鑑みれば,被告店舗数は,それ自体をもって被告標章が需要者の多く に認識されていることを裏付けるに足りるほど多数であるとまではいえない。しか も,基本的には SC 内,しかも多くは地域密着型の総合スーパーマーケットに出店 し,単独で又は他のファーストフード店その他の飲食店と共に,専門店として1階 に位置し,店舗出入り口付近又はフードコートに配置され,たこ焼き,お好み焼 き,たい焼き,焼きそば,フライドポテト,杵つき団子,ソフトクリーム等を主要\nな取扱商品とするという被告店舗の出店態様等(前記(1)イ)を考慮すると,その 来店客は,基本的にはスーパーマーケットを中心とする SC 内の他店での買い物を 目的とする買い物客のうち,買い物の合間の食事や持ち帰りの軽食として手軽に食 べられる飲食物を購入するために来店する者が多数を占め,被告店舗での購入を主 要な目的として来店する者は必ずしも多くないものと推察される。さらに,被告店 舗において,被告標章は来店客により容易に認識され得る態様で表示されていると\nいえるものの,こうした来店客が被告標章に払う注意の程度は必ずしも高くないと 思われる。
また,上記出店態様等に鑑みると,出店先の SC がその商圏内で配布する広告宣 伝用の折込チラシ等に被告店舗の広告も掲載される例が多いことが推察され,現に その例も認められるものの(前記(1)ウ(オ)),そのような折込チラシの性質上,被 告の店舗に関する広告は,SC 内に出店する専門店の1つとして掲載されるにとど まり,その掲載スペースも大きくはないものと推察される(乙23添付の資料3及 び4では,被告店舗に割り当てられているスペースは全体の 1/16 程度である。)。 求人広告においても被告標章が表示されていることが認められるものの,これに触\nれる者は求職中の者に自ずと限定されることに鑑みると,これをもって需要者に広 く認識されていることを裏付ける事情としては必ずしも考慮し得ない。広告宣伝費 としての支出額(前記(1)ウ(ア))も,売上及び店舗数を踏まえると,被告と同じ業 種ないし業態の事業者に比して顕著な額を投下していることが明らかとまではいい 難い。
本件商標の登録出願までに被告店舗がマスコミ等に取り上げられた状況(前記 (1)ウ(イ)〜(エ))を見ても,その回数はむしろ少なく,かつ,その影響が及ぶ範囲も 限定的である。他方,上記時期に限らず,その後も含めた被告のウェブサイトの総 閲覧者数,口コミサイトや第三者のブログ等での掲載状況(前記(1)ウ(カ),エ(ア)) を見ても,その掲載数等が多いとはいえない。 これらの事情を総合的に考慮すると,被告標章は,本件商標の登録出願の際,被 告の業務に係る商品又は役務を表示するものとして,愛知県及びその隣接県の需要\n者の多くに認識されていた,すなわち「需要者の間に広く認識されて」いたとは認 められない。これに反する被告の主張は採用できない。
・・・
被告は,本件訴訟における原告の本件商標権の行使につき,原告は,被告 に対し損害賠償請求をするという不当な目的で本件商標の登録出願を行い,本件訴 訟を提起したものであるから,原告の被告に対する本件商標権の行使は権利濫用に 当たると主張する。 確かに,本件商標の登録出願は,被告が売上額及び店舗数とも大きく伸ばした段 階でされたものであり(前記1(1)ア),また,被告による被告標章の使用を理由 として本件商標の登録出願に関する早期審査を求めながら,その商標登録後被告に 対する最初の警告書送付まで1年半近くの期間を要した(前記(1)エ,オ)といっ た経緯は認められる。
しかし,前記(1)ア〜ウのとおり,原告は,「たこ焼工房」に「43」,「Sea & Sun」等を結合させた標章をその屋号として主に使用しているところ,「たこ焼工 房」と組み合わせる表示が複数存在することに鑑みると,原告としては,「たこ焼\n工房」の表示それ自体も自己を示すものとして使用しているものとうかがわれる。\nまた,原告は,「たこ焼工房/Sea & Sun/ シーアンドサン」の商標につき登録 出願し,商標登録を得ている。原告によるこうした営業表示の使用状況等を踏まえ\nると,原告が,既に商標登録を受けた商標「たこ焼工房/Sea & Sun/シーアンド サン」の一部である「たこ焼工房」につき商標権として権利化を図ったこと自体を 不当ということはできない。このことは,原告が被告ないし被告標章の存在等を知 って本件商標権を取得したといった事情があったとしても異ならない。さらに,本 件商標の登録から最初の警告書送付までの期間,更には本件訴訟提起までの期間の 点も,原告が賠償請求し得る損害額をより多額とする意図を有していたと認めるべ き具体的な事情はない。 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても,本件における原告の被告に対する 本件商標権の行使をもって権利の濫用というべき事情があるとはいえない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)8708  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月13日  大阪地方裁判所

本件発明の「せぎり部」には該当しないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。

 本件発明の構成要件B1,B2及びB3は,「支持面」について規定するもので\nあり,その文言によれば,1)支持面は,水平支持部材の上面の略中央にある開口部 の端部にあり,2)支持面は,側溝蓋の当接部の曲面(断面凸状)と略相似の断面凹 状の曲面からなり,3)当接部の下端部とせぎり部との間に所定の隙間を形成するた め,4)支持面の下端に沿って連続的にせぎり部が形成されるというものである。 前記1のとおり,従来製品においては,側溝蓋の平面の当接部が,側溝本体の平 面の支持面によって支持されていたところ,本件発明においては,断面凸状の当接 部が,略相似の関係にある断面凹状の支持面で支持されることによって,側溝蓋に より受ける荷重が分散されるとともに密着性がよくなり,支持面に平面がないため に小石,砂利,土等が堆積しにくくなり,側溝蓋のガタツキや騒音の発生を抑制し, かつ,せぎり部により当接部の下端部と支持面の下端部との間に所定の隙間が形成 されるため,砂利,土等がその隙間に集まり,当接部と支持面との間の面接触状態 が維持され,堆積した小石,砂利,土等も除去しやすい,という効果があるとされ る。
そうすると,せぎり部は,本来であれば略相似の関係にある曲面が当接する関係 にあった当接部と支持面のうち,支持面の下端の形状を変更することによって,当 接部の下端部との間に隙間を設けるものであるから,せぎり部は,それが設けられ ていなければ支持面の一部として当接部と当接した部分に存することになるし,せ ぎり部と対応する位置には,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部が存すること になる。逆に言うと,側溝蓋と側溝本体との間に隙間が存したとしても,その隙間 が,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部に対応するのでなければ,それは本件 発明のせぎり部にはあたらないというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10102等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月20日  知的財産高等裁判所

 10日ほど前に、新聞を賑わしたユニクロのセルフレジの特許についての無効審判事件です。知財高裁は特許無効とした審決を、引用文献の認定誤りがあるとして、取り消しました。

 ウ また,甲1の「読取り/書込みデバイス102」は単独で機能するもの\nである。
 (ア) 甲1発明は,RFIDタグの読取り/書込みを行うデバイスと,この デバイスを利用する会計端末に関するものである(甲1の訳文3頁4行〜6行)が, 一般に,RFID読取りデバイスにより情報が読み取られる対象物には,液体を含 む物や水分量が多い物もあるが,そうでない物もある。こうした液体を含む物や水 分量が多い物を取り扱わない店舗も多々あるが,甲1発明の発明者は,スーパーマ ーケットのように,液体を含む物や水分量が多い物も販売する店舗に着目し,その ような店舗においては,「FR 2 966 954 A1号」として公開されてい る特許公開公報(乙30)の図に示された装置では,効率的な読取りを実施するこ とができないと考えており(甲1の訳文3頁10行〜26行),甲1発明は,「液体 を含む物や水分量の多い物についてもRFIDタグが効率的に読みとれること」, 「対象物のタイプにかかわらず,RFIDタグが効率的に読みとれること」を目的 とするものであることを,当業者は理解する。
そして,当業者は,甲1の具体的構成(甲1の訳文3頁35行〜47行)により,\n「本発明によるデバイスによって,載置キャビティ内において,端末の近傍に置か れた製品,特に端末に隣接する棚に置かれた製品に貼付されたRFIDタグが通電\nされ,したがって読み取られるリスクを伴わずに,読取り/書込み動作を実施する のに使用される電波の出力を増加させることが可能になり,またしたがって,キャ\nビティ内に載置されたタグを,液体を含む対象物に貼付されたタグであっても,よ\nり良好に読み取ることが可能になる。」という効果を有すること(甲1の訳文4頁1\n4〜19行)を理解する。
甲1の具体的構成と,乙30に記載されているRFID読取りデバイスの相違は,\n1)「前記挿入アパーチャの周りに配置され,前記挿入アパーチャから上方に延在し, 前記載置キャビティと外部との間の電波を減衰することができる,防壁と呼ばれる 少なくとも1つの壁」(「防壁」)と,2)「前記少なくとも1つの防壁を通して前記挿 入アパーチャにアクセスするための,アクセス開口部と呼ばれる少なくとも1つの 開口部」(「アクセス開口部」)のみである。 2)の「アクセス開口部」は,1)の「防壁」がある場合に,載置キャビティに物を 入れるため(「防壁を通して前記挿入アパーチャにアクセスするため」)の開口部で あるから,防壁があれば必然的に存在することになるものであり,水分を含む物で も情報が効率的に読み取れることとは関係しない。甲1の具体的構成が,乙30に\n係る発明と異なり,水分を含む物でも情報が効率的に読み取れるのは,「防壁」があ るからであると当業者は理解する。 したがって,当業者は,水分を含まない物や対象物が軽い物を読み取るのであれ ば,電波を低量にするから,「防壁」のない装置で十分であると理解する。\nそして,甲1では,「防壁」のないものとして,「読取り/書込みモジュール20 0」が,[図2]に示され,甲1の訳文10頁1〜19行に具体的な構成が記載され\nており,当業者は,「読取り/書込みモジュール200」は,「防壁」を備えるもの ではなく,よりシンプルな構成であるが,読取装置に必要な要素をすべて備えるも\nのであり,水分を含まない対象物については,問題なく動作することを理解する。 このように,甲1には[図1]に示されている読取装置と,[図2]に示されてい る読取装置の二つが開示されており,[図1]の読取装置は,水分を含む物も含まな い物も,効率よく読み取ることができるものであり,[図2]の読取装置は,水分を 含まない物に使用することができると,当業者は理解する。 甲1発明2のように,読取装置を独立した発明として把握する公知文献,公知技 術は枚挙に暇がない(甲2,乙28〜37)。
(イ) 原告らは,水分を含まない物を読み取るものとして,甲1発明2を単 体で利用することについては甲1に何ら記載がないと主張している。 しかし,被告は,読取対象物が水分の少ない場合については従来技術と同様に甲 1発明2が単体の読取装置として機能することを説明しているのであるから,これ\nに対する反論となっていない。当業者が甲1文献の記載を読めば,読取対象物が水 分の少ない物を取り扱う店舗においては,水分の多い物を読み取るために創作され た甲1発明1全体を実施するのは無駄であり,従来技術に近い甲1発明2を実施す べきであると考えるのが当然である。 また,原告らは,電波の出力を下げると金属に貼られたタグも読み取りできなく\nなると主張する。 しかし,そのような事実があるかは不明であるし,仮にそうであるとしても,読 取対象物が金属製でない場合は,従来技術と同様に,甲1発明2が単体の読取装置 として機能し,使用可能\である。本件明細書には,電波強度や金属に貼られたタグ\nを読み取る点について記載がなく,本件発明が金属に貼られたタグが読めるものと\nは解釈できないから,甲1発明2と対比できるものではない。
エ 原告らは,防壁及びアクセス開口部は,甲1に記載される目的を達成す るために必須の構成であると主張する。\nしかし,上記ウのとおり,甲1の[図2]の読取装置は,水分を含まない物につ いては読取装置として十分に使用することができると,当業者は理解する。本件審\n決は,甲1に記載されたこれらの発明のうち,水分を含まない物に使用することが できる[図2]の読取装置を「甲1発明2」と認定したものであるから,誤りはな い。
オ 原告らは,甲1の実施例に重量計が使われていることを指摘するが,読 取対象物が水分の少ない場合については,重量計が存在しても,従来技術と同様に, 甲1発明2が単体の読取装置として機能することに変わりはない。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ワ)2675  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月18日  東京地方裁判所

 吹矢に関する特許侵害の損害認定について、101条1項、2項に基づき約3600万円の請求が認められました。

 以上によれば,被告製品は,そのほとんどが吹矢協会と関係がある需要 者により購入されたと認めることが相当である。そして,被告製品は,吹 矢協会の関係者において吹矢協会の公認用具であることを理由として購 入された割合が相当に高いと認められる。原告の製造販売する吹矢用具は 令和2年12月1日以降は吹矢協会の公認用具でなかったから上記の理 由で購入された被告製品の需要の全てが原告の製造販売する吹矢の矢に 向かうとは認められない。他方,原告の製造する吹矢の矢については,吹 矢協会の公認がなくとも購入するとする者もいたことがうかがわれ,被告 製品の需要が全く原告の製造販売する吹矢用具に向かわないとはいえな い。
被告は,原告の吹矢用具が吹矢協会の公認用具でないことを理由として 令和2年12月1日以降の被告の売上げについての推定覆滅を主張する ところ,上記事情に照らせば,同日以降の利益については,65%の割合 で損害額の推定が覆滅すると認めるのが相当である。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 賠償額認定
 >> 102条1項
 >> 102条2項
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10108  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月13日  知的財産高等裁判所

 無効審判において訂正しましたが。新規事項である、実質上の拡張等に該当するとして訂正が認められませんでした。知財高裁は、新規事項については開示ありと認定したものの、実質上の拡張等については該当するとして審決が維持されました。

 上記の本件明細書の記載等からすると,本件明細書には,図4で示 された24のコントロールチャネルエレメントについて,最高レベルの 集合レベル1ではそれぞれが1つのコントロールチャネル(24個)を 形成し,比較的低いレベルである集合レベル2では2つのコントロール チャネルエレメントが1つのコントロールチャネル(12個)に,集合 レベル4では4つのコントロールチャネルエレメントが1つのコント ロールチャネル(6個)に,集合レベル8では8つのコントロールチャ ネルエレメントが1つのコントロールチャネル(3個)に,それぞれま とめられた上で,スケジュールに使用可能なコントロールチャネル候補 は,集合レベル1は4つ,集合レベル2は4つ,集合レベル4は4つ,\n集合レベル8は3つに制限され,この制限によってデコーディング試行 の数は15に低減されること,このような制限をツリー構造に課すこと により,図4の例では,集合レベル1では4つのコントロールチャネル\nを,集合レベル2では2つのコントロールチャネルを,集合レベル4で は2つのコントロールチャネルを,集合レベル8では1つのコントロー ルチャネルをスケジュールすることができることが開示されている。 また,本件明細書の上記記載に加えて,図4を総合すると,スケジュ ールに使用可能なコントロールチャネル候補の制限をツリー構\ 造によ って課される割合は,図4の実施例では,最高レベルの集合レベル1で は,24個のコントロールチャネルを4つの候補に(候補の割合6分の 1),比較的低いレベルの集合レベル2では12個のコントロールチャ ネルを4つの候補に(候補の割合3分の1),集合レベル4では6個のコ ントロールチャネルを4つの候補に(候補の割合3分の2)それぞれ制 限し,集合レベル8の3個のコントロールチャネルを制限しない(候補 の割合1分の1)ことが開示されているに等しい事項といえる。
そうすると,本件明細書及び図面には,ユーザイクイップメントに対 するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補の各レベルにおける割合に着目し,最高レベルよりも低い2,4,8の各レベル\nにおけるユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補の割合は,最高レベルにおける,ユーザイ\nクイップメントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補の割合よりも大きくして,ユーザイクイップメントに対する\nアロケーションを含むスケジュールをすることが開示され,又は開示さ れているに等しい事項であるということができる。また,【0025】の 記載からすると,最高レベルよりも低い各レベルのコントロールチャネ ルは,ツリー構造の前記最高レベルよりも低いレベルにあるノードによって表\されていることが開示されていることから,この開示事項に上記 事項と合わせると,ツリー構造における,より低いレベルほど,ユーザ イクイップメントに対するアロケーションに使用可能\なコントロール チャネル候補の割合がより大きくされることも開示され,又は開示され ているに等しい事項であるといえる。
したがって,訂正事項2に係る技術的事項及び訂正事項3に係る技術 的事項は,いずれも本件明細書の記載及び図面の全ての記載を総合する ことにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を 導入するものであるとはいえないから,訂正事項2及び3は,新規事項 の追加に当たるものとはいえない。
イ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
願書に添付した特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決が確定したとき は,訂正の効果は出願時まで遡及する(特許法128条)ところ,特許請 求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲が定められる特許権の 効力は第三者に及ぶものであることに鑑みれば,同法126条6項の「実 質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するもの」であるかは,訂正の前 後の特許請求の範囲の記載を基準として判断されるべきであり,こうした 解釈によって,特許請求の範囲の記載の訂正によって第三者に不測の不利 益を与えることを防止することができる。以下,これを前提にして判断す る。
(ア) 本件訂正前の請求項1は,「前記アロケーションは,最高レベルのコ ントロールチャネルのアロケーションを制限することによって実行され, 前記最高レベルのコントロールチャネルは,ツリー構造の最高レベルにあるツリー構\造のノードによって表 され,それにより,比較的低いレベ\nルのコントロールチャネルのアロケーションが可能となり,比較的低いレベルのコントロールチャネルは,ツリー構\造の比較的低いレベルにあ るツリー構造のノードによって表\ される,方法」との発明特定事項を含 むものであり,この発明特定事項からは,ツリー構造のノードによって表\されるコントロールチャネルのアロケーションは,最高レベルにある コントロールチャネルのアロケーションを制限することによって実行さ れ,それにより比較的低いレベルのコントロールチャネルのアロケーシ ョンが可能となることと理解される。 
これに対し,本件訂正後の請求項1は,訂正事項1ないし3によって, 「ユーザイクイップメントに対するアロケーションは,前記最高レベル における,ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補を部分的に制限して実行され,前記最高レ\nベルのコントロールチャネルは,ツリー構造の前記最高レベルにあるツ リー構\造のノードによって表 され,それにより,前記最高レベルよりも\n低い各レベルにおける,ユーザイクイップメントに対するアロケーショ ンに使用可能なコントロールチャネル候補の割合を,前記最高レベルに おける,ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能\な コントロールチャネル候補の割合よりも大きくして,ユーザイクイップ メントに対するアロケーションを実行することが可能となり,前記最高レベルよりも低い各レベルのコントロールチャネルは,ツリー構\造の前 記最高レベルよりも低いレベルにあるツリー構造のノードによって表\ さ れ,ツリー構造における,より低いレベルほど,ユーザイクイップメン トに対するアロケーションに使用可能\なコントロールチャネル候補の割 合がより大きくされる,方法」との発明特定事項を含むものであり,こ の発明特定事項からは,ユーザイクイップメントに対するアロケーショ ンは,最高レベルにおけるユーザイクイップメントに対するアロケーシ ョンに使用可能なコントロールチャネル候補を部分的に制限して実行され,それにより,最高レベルよりも低い各レベルのユーザイクイップメ\nントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補の割合を最高レベルにおけるユーザイクイップメントに対するアロケーシ\nョンに使用可能なコントロールチャネル候補の割合より大きくして,ユーザイクイップメントに対するアロケーションを実行することを可能\と し,かつ,ツリー構造におけるより低いレベルほどユーザイクイップメ ントに対するアロケーションに使用可能\なコントロールチャネル候補の 割合がより大きくされる方法が含まれるものと理解することができる。 このように,訂正後の請求項1は,訂正前の請求項にはない,「ユーザ イクイップメントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチ ャネル候補」という概念を追加した上で,「前記最高レベルよりも低い各\nレベルにおける,ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使 用可能なコントロールチャネル候補の割合を,前記最高レベルにおける, ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能\なコントロールチャネル候補の割合よりも大きくして,ユーザイクイップメントに 対するアロケーションを実行する」,「ツリー構造における,より低いレ ベルほど,ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能\ なコントロールチャネル候補の割合がより大きくされる」との事項を追 加し,これによって,訂正前の方法では,ツリー構造で表\ される比較的 低い各レベルのアロケーションについては特に規定するところがなかっ た,ツリー構造で示されるより低いレベルほどユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能\なコントロールチャネル候補の割合 を大きくすることが発明特定事項に含まれることになったといえる。 そうすると,訂正事項1ないし3は,特許請求の範囲を実質上変更す るものであるから,特許法126条5項に適合するものとはいえない。
(イ) これに対し,原告は,前記第3の1(1)ア(イ)及びイ(イ)のとおり,1) 訂正事項2及び3は,新たな技術的事項を導入するものではなく,2)訂 正事項2は,訂正前は,無条件で比較的低いレベルのコントロールチャ ネルのアロケーションを可能としていたのを,訂正後は,使用可能\ なコ ントロールチャネル候補の割合に関する条件付きでアロケーションを実 行することを可能とするものであるから,本件訂正は,特許請求の範囲 の減縮に該当する旨主張する。\n
しかし,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものであるかに ついては,特許請求の範囲の記載を基準として判断されるべきことは前 記のとおりであるところ,発明の詳細な説明に記載された事項からどの 事項を発明特定事項とし,上位概念とするかについては,出願者がその 技術的意義に鑑みて適宜選択して特許請求の範囲とするものであって, 明細書に記載された事項及び図面から導き出される技術的事項との関係 において,新たな技術的事項を導入するものではないからといって,訂 正の前後で特許請求の範囲の記載が実質的に同一の発明特定事項を有す るものとはいえない。
そして,前記(ア)のとおり,請求項1は,訂正事項2及び3によって, 訂正前の方法では,ツリー構造で表\ される比較的低い各レベルのアロケ ーションについては特に規定するところがなかった,ツリー構造で示されるより低いレベルほどユーザイクイップメントに対するアロケーショ\nンに使用可能なコントロールチャネル候補の割合を大きくするとの事項が発明特定事項に含まれることになったものであり,こうした発明特定\n事項は,「統合されたコントロールチャネルに対するツリー検索が系統的 に低減される」という課題((【0004】)を解決する発明の構成そのも のに関する事項であるから,単に条件付けをしたのにすぎないとはいえ\nず,特許請求の範囲の減縮に該当するものではない。 したがって,原告の上記主張は採用できない。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和1(行ケ)10107

関連カテゴリー
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項
 >> 新たな技術的事項の導入
 >> 実質上拡張変更
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)16422等  商標使用差止等請求事件 損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年4月23日  東京地方裁判所

 登録商標「舞豚」があり、このアルファベット表記「maiton」の使用は商標権侵害と判断されました。本件は、「舞豚」はブランド豚肉で、使用許諾契約終了後の標章の使用という特殊事情があります。損害論では38条2項による算定は地理的に離れているということで否定されましたが、飲食物の提供の通常のライセンス料の約2倍の8%が認められました。

 ア 商標法38条2項は,商標権者は,故意又は過失により自己の商標権を 侵害した者に対してその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場 合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,そ の利益の額は,商標権者が受けた損害の額と推定すると規定しているとこ ろ,同項が損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定である ことに照らせば,商標権者に,侵害者による商標権侵害行為がなかったな らば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,商標法38 条2項の適用が認められると解すべきである。
イ 本件において,被告は,本件商標1と類似する被告各使用標章を本件商 標1と同一の指定役務である飲食物の提供に使用している。しかしながら, 原告が本件商標1を用いて経営する原告店舗は長崎県島原市に所在してい るところ,しゃぶしゃぶ料理の提供という原告の業務に係る顧客は,飲食 店の一般的な顧客の範囲からすると,同市及びその周辺に在住の者である と推認され,本件において,これと異なる事実を認めるに足りる証拠はな い。他方,被告が経営していた本件店舗は東京都台東区に所在しており, 本件店舗の業務に係る顧客は,東京都内及びその周辺に在住の者であると 推認され,本件において,これと異なる事実を認めるに足りる証拠はない。 原告店舗における事業との関係で被告による商標権侵害行為がなければ原 告が利益を得られたといえるためには,それらが競合関係にある必要があ ると解されるところ,原告店舗及び本件店舗の事業の性質から,原告店舗 に対する需要者と本件店舗に対する需要者とは重ならず,原告店舗と本件 店舗が競合関係にあるとは認められない。
ウ 原告は,本件に商標法38条2項が適用されると主張するに当たり,オ ンラインショップや東京都中央区所在のアンテナショップ(以下,これら を併せて「原告オンラインショップ等」という。)において,本件各商標 を付して本件豚肉等を販売しているところ,被告が本件店舗において被告 各標章を使用して飲食物を提供しなければ,豚肉舞豚を食べたいという顧 客の需要は,原告オンラインショップ等に向かうというべきであり,これ により原告は利益を得られたなどと主張する。 ここで,被告による商標権侵害行為がなければ,原告オンラインショッ プ等において原告が利益を得られたというためには,少なくとも本件店舗 における業務と原告オンラインショップ等における業務が競合関係にある といえる必要があるとするのが相当である。そして,原告オンラインショ ップ等においては,本件豚肉等が販売されているのに対し,本件店舗では 豚肉のしゃぶしゃぶ料理が提供されており,これらの事業の形態は大きく 異なる。また,顧客についてみても,本件店舗においては,店舗において 豚肉舞豚を用いたしゃぶしゃぶ料理の提供を受けたいという顧客が主であ るのに対し,原告オンラインショップ等においては,本件豚肉等を購入し 自宅で食べたいという顧客が主である。本件店舗における業務と原告オン ラインショップ等における業務にはこのような相違があるところ,本件に おいて,店舗において豚肉舞豚を用いた料理を食べたいと考える顧客の需 要が原告オンラインショップ等に向かうことを裏付ける的確な証拠はない。 そうすると,本件店舗と原告オンラインショップ等とでは,類型的に事業 の形態が相違しており,本件でその顧客等が重なる事情も認められず,本 件店舗における業務と原告オンラインショップ等における業務が競合関係 にあるとはいえないと認めるのが相当である。原告の上記主張を採用する ことはできない。
なお,原告は,被告が本件店舗を閉店したと主張する平成30年8月を 基準に,閉店後の平成30年9月から平成31年2月までとその前年同期 (平成29年9月から平成30年2月まで)の原告オンラインショップ等 の売上げを比較し,本件店舗閉店後の前者の売上げが閉店前年同期の後者 の売上げから約125%増額しており,被告による商標権侵害行為により 原告は得られる利益を逸していたなどと主張する。しかしながら,証拠 (甲38,39)及び弁論の全趣旨によれば,原告オンラインショッピン グ等の平成30年9月から平成31年2月までの売上げが974万074 3円(内訳:ふるさと納税に係る売上げ964万6895円,それ以外の 売上げ9万3848円)であり,平成29年9月から平成30年2月まで の売上げが776万8833円(内訳:ふるさと納税に係る売上げ757 万6000円,それ以外の売上げ19万2833円)であることが認めら れ,本件店舗の閉店前と閉店後の同時期の売上げを比較すると,本件店舗 の閉店後の期間の売上げが増加しているとはいえるものの,それはふるさ と納税による売上げが増加したことに伴うものといえる。そして,ふるさ と納税制度を利用して商品を購入する動機は,ふるさとへの貢献や返礼品 を受領することなど多種多様であることに鑑みれば,上記の売上額の増加 をもって,原告の主張を裏付けるものということはできず,他に原告の上 記主張を認めるに足りる証拠もない。
エ 以上によれば,原告の業務と被告各使用標章の使用に係る被告の業務と の間で市場における競合関係があるとはいえず,被告による商標権侵害行 為がなかったならば,原告が利益を得られたであろうと認めることはでき ない。したがって,原告の本件商標権1の侵害による損害額の算定に当た って,商標法38条2項を適用する前提を欠き,同項の適用は認められな い。
(2)商標法38条3項の損害額について
ア 本件店舗は,「舞豚」というブランドの豚肉のしゃぶしゃぶ料理を提供 することを特徴とする飲食店であるところ,被告は,被告各使用標章を本 件店舗の名称,店舗の外観や料理のメニュー表などに広く用いていたこと(前記前提事実(3)アイ)からすれば,商標法38条3項による損害額の算 定に当たっては,本件店舗の売上げに対して,本件商標1の使用に対し受 けるべき料率を乗じて算定するのが相当である。
イ 次に,本件商標1の使用に対し受けるべき金銭の料率について検討する。 証拠(甲36)によれば,株式会社帝国データバンク作成の「知的財産 の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査報告書」におい て,「商標権に関する分類別ロイヤルティ料率の平均値」について全体 (205件)では2.6%であり,「商標の分類」が「第43類 飲食物 の提供及び宿泊施設の提供」については3件の例があり,最大値5.5%, 最小値1.5%,平均値3.8%であるとの記載が認められ,飲食物の提 供についての商標権のロイヤルティ料率は,全体の平均値より相当程度高 いといえる。 また,証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば,豚肉舞豚は平成7年1 0月19日の第39回長崎県種豚共進会において農林水産大臣賞を受賞し たこと(甲37),本件店舗の開店時に長崎新聞には「島原産ブランド豚 提供「舞豚」」という見出しの記事が,島原新聞には「「舞豚」が東京進出」 という見出しの記事がそれぞれ掲載されたこと(乙4)が認められる。こ れらの事実に照らせば,豚肉舞豚に対して一定の評価が与えられていたこ とがうかがえる。 そして,本件店舗は,豚肉舞豚をしゃぶしゃぶ料理として提供すること を大きな特徴とする店舗であるところ,被告は,店舗の名称や看板,メニ ュー表等に被告各使用標章を使用していた。他方,本件店舗には,他に顧客を特に引き付けるような標章等が使用されていたともいえない。そうす\nると,被告は,一定の評価が与えられていた豚肉舞豚と同じ呼称等を有す る被告各使用標章を,店舗の名称も含めて積極的に活用して本件店舗を営 業していたといえ,被告各使用標章の使用は被告の売上げにも貢献するも のであったといえる。
これらの事情に加えて,被告は,本件各商標の使用許諾契約が被告によ る信頼関係を破壊する行為により解除された後も,被告各使用標章の使用 を継続していたなど本件訴訟に現れた一切の事情を併せて考えれば,商標 権を侵害した者に対して事後的に定められるべき商標の使用に対し受ける べき料率は,8%と認めるのが相当である。
ウ 以上によれば,被告による商標権侵害について,商標法38条3項によ り算定される損害額は,本件店舗の売上高(平成29年12月から平成3 0年8月)1189万7246円(争いのない事実)に8%を乗じた金額 である95万1779円となる。
(3) 損害不発生の抗弁について
被告は,原告に使用料相当額の損害は発生しておらず,商標法38条3項 は適用されないと主張する。 しかし,被告は,店舗の名称や看板,メニュー表等に被告各使用標章を使用した一方,本件店舗において他に強く顧客を誘引する標章等が使用されて\nいたものではない。被告各使用標章の使用が被告の売上げに貢献していたと いえることは前記(2)のとおりであるから,被告が被告各使用標章を使用した ことにより原告に使用料相当額の損害が生じないとは認められない。被告の 損害不発生の抗弁についての主張は理由がない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 誤認・混同
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)38486  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年3月24日  東京地方裁判所

コンピュータプログラムの著作権侵害として約6600万円の損害賠償が認められました。著作権侵害による損害額は,本件プログラムが違法に複製されたパソコンごとに,その使用期間に応じたライセンス料相当額と認定されています。\n

イ 被告会社による著作権侵害について
本件プログラムをパソコンにインストールすることは,本件プログラムを\n有形的に再製するものとして,本件プログラムの複製に該当するところ(著 作権法2条1項15号),前記1(1)ないし(3)によれば,本件平成20年契約 においては,平成20年9月の一時期を除き,パソコン1台分についてのみ\n本件プログラムのインストールすることが許諾されていたと認められるから, 前記アのとおり,被告会社において,本件平成20年契約の締結当初から本 件旧プログラムをインストールしていた1台に加え,平成26年3月以降, 合計10台のパソコンに本件旧プログラムをインストールしたことは,本件\n旧プログラムの著作権(複製権)の侵害に該当する。なお,被告会社は,平 成20年の契約の内容として,1つのライセンスの契約で,インストールす るパソコン台数を問わずに本件プログラムが使用できるとの合意が成立して\nいたと主張するが,前記2(3)イのとおり,当該主張は採用することができな い。 また,被告会社は,自ら複製権侵害行為を行っているから,上記10台に 複製された本件旧プログラムについて,その使用する権原を取得した時に著 作権侵害の事実について知っていたものと認められ,これを使用する行為は, 著作権法113条2項により,本件旧プログラムの著作権を侵害する行為と みなされる。
(2) 争点2−2(著作権侵害による損害額)について
ア 前記(1)の著作権侵害の態様と,本件平成20年契約においてライセンス 数に応じた本件旧プログラムの複製,すなわちライセンス数に応じた台数 のパソコンへのインストールが許諾されていたことからすれば,前記(1)の 著作権侵害による損害額は,本件旧プログラムが違法に複製されたパソコ\nンごとに,その使用期間に応じたライセンス料相当額と認めるのが相当で ある。 本件旧プログラムの平成30年3月までの使用期間は,平成26年3月 にインストールされた2台につき各49か月,平成28年9月にインスト ールされた1台につき19か月,同年10月にインストールされた5台に つき各18か月,平成29年12月にインストールされた1台につき4か 月,平成30年1月にインストールされた1台につき3か月の累計214 か月となる。 そして,このうち,平成26年3月分については,当時の消費税率に基 づいた1台当たり月額4万4100円(4万2000円×1.05)とし て,平成26年4月分ないし平成30年3月分については,当時の消費税 率に基づいた1台当たり月額4万5360円(4万2000円×1.08) として,それぞれ算定すると,次のとおり,損害額合計は970万452 0円と認められる。
4万4100円×2か月+4万5360円×212か月=970万4520円
イ(ア) 原告は,著作権侵害の不法行為に基づく損害額の算定に当たっても, 債務不履行に基づく場合と同様に,本件プログラムが複製されたパソコ\nンの台数ではなく,本件プログラムを使用した医師会数を基準としてラ イセンス料相当額を算定すべきと主張する。 しかしながら,前記1(4)のとおり,被告会社は,本件旧プログラムを 使用するに当たり,医師会ごとにバックアップデータを作成し,作業し たい医師会に合わせて,その都度使用するバックアップデータを切り替 えることにより,本件旧プログラムをインストールした1台のパソコン\nで複数の医師会に係る作業を行っていたところ,このような被告会社の 行為が本件旧プログラムを有形的に再製するもの,すなわち複製とは認 められないし,違法な複製がされたことを前提とする著作権法113条 2項のみなし侵害に該当するともいえない。 そうすると,前記(1)の著作権侵害行為と相当因果関係のある損害とし て,医師会数を基準としたライセンス料相当額の損害が発生したとは認 められないから,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 被告らは,原告のホームページに記載された料金表(乙7)に基づい\nて,前記アのライセンス料相当額を算定すべきと主張する。 しかしながら,前記2(4)イで検討したとおり,本件平成20年契約に おけるライセンス料相当額を算定にするに当たって,原告のホームペー ジに記載された通常の料金表(乙7)が適用されるとは認められないから, 同料金表に基づいて算定するのは相当ではなく,被告らの上記主張は採\n用することができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 翻案
 >> 著作権その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)19441  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月28日  東京地方裁判所

 被告製品には当該構成要件が存在するとはいえないとして、技術的範囲外と認定されました。\n

 本件発明は,端部開口を含む「空気導入口」(構成要件D)から空気\nが導入されてその空気が「排出部」(構成要件E)から排出され,その\n空気の流れによってガス容器収容部,ガス容器を冷却するという空冷機 構を備え,ガス容器収容部,ガス容器に対する熱害の発生を防ぐという\nものである(前記(1))。 原告は,各被告製品の側面開口と底面穴が「空気導入口」であり,カ バー穴が「排出部」であると主張する。 原告は,原告実験1−1から1−3,2−1から2−3,3−1,3 −2,3−3(前記(2)オ,キ,ケ)を,被告は被告実験1−1,1−2, 2(同カ,ク)を行った(このうち,原告実験1−1,2−1,3−1, 被告実験1−1,2が標準ガス容器に関する実験であり,原告実験1− 2,1−3,2−2,2−3,3−2,3−3,被告実験1−2が小型 ガス容器に関する実験である。)。そして,これらの実験において,燃 焼中のガス容器上側側面,下側側面等の温度が測定されるほか,スモー ク粒子を用いて,器具周辺の空気の流れを示すことが試された。 ここで以下の(ウ)ないし(オ)のとおり本件に提出された証拠によって は,各被告製品について,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう, 側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された 空気がカバー穴から排出されていることを認めるに足りない。
被告製品1については,スモーク粒子を用いた原告実験1−3(前 記(2)オ(ウ) において,カバー穴から空気がガス容器収容部外に流出して いるように見えるときが多いものの,そうでないときがあるほか,側面 開口においては,基本的にガス容器収容部から空気が流出しているよう に見え,側面開口から空気がガス容器収容部内部に流入する動きは観察 できるとしても,少しの間しか観察できない。また,被告製品1には, 作動部とガス容器収容部の間には仕切板が一部に設けられているにすぎ ない。作動部においては,空気が取り込まれて燃焼炎等の影響を受けて 熱せられるところ,本件各証拠によっても,作動部で燃焼炎の影響を受 けて熱せられた空気がどのような動きをするかを認めるに足りず,作動 部において燃焼炎等の影響を受けて熱せられた空気がガス容器収容部側 のカバー穴,側面開口から流出することがないことを認めるに足りる証 拠はない。 他方,燃焼の際には,ガス容器内の液化石油ガスの気化に伴い,ガ ス容器は気化冷却され,ガス容器内のガスの温度は低下する(前記(2)ア(イ) そして,気化冷却により液化石油ガスの気化が妨げられることか ら,ガス器具にはガス容器の加温機構を備える必要があり(同前),被\n告製品1においても,燃焼炎の熱や輻射熱を作動部からガス容器収容部 に伝達してガス容器を加温するための加温機構が備えられている(同\nイ)。したがって,ガス容器の気化冷却の程度や,燃焼熱や輻射熱の影 響は,ガス容器収容部及びガス容器の温度に影響を与え得る要因である と認められる。このうち,気化冷却に関して,原告が行った各実験のう ちガス容器内のガスを使い切るまで燃焼したものにおいて,いずれも, ガス容器上側側面及び下側側面の温度がガスを使い切る直前から急激に 上昇しており(同オ ,(ア)(イ))帰化冷却はガス容器を用いた燃焼の最 終段階まで継続しており,かつ,ガス容器下側側面の温度は,開口等の 一部を塞ぐ作為の有無にかかわらず,概ね室温以下で推移しているので あって(同前),その燃焼中のガス容器ひいてはガス容器収容部の冷却 に及ぼす影響は相当に大きいものと認められる。
以上のとおりの原告実験1−3における側面開口付近の空気の流れ, 被告製品1の構造に照らしてカバー穴等から流出する空気と燃焼炎の影\n響を受けた作動部側の空気との関係が不明なこと,燃焼中のガス容器, ガス容器収容部に影響を与え得る諸要因を考慮すると,ガス容器収容部, ガス容器を冷却するよう,側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が 導入され,その導入された空気がカバー穴から排出されていることを認 めるに足りない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10041  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月25日  知的財産高等裁判所

 薬品の特許について、公知文献の記載は技術的な裏付けがない仮説にすぎないとして、進歩性違反なしとした審決を維持しました。

(ア) ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動に関する本件優先日当時 の知見について
前記ア(ウ),(エ),(カ),(ケ)の各記載からすると,本件優先日当時までに,Co wanらは,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みの間には関連性が あることを提唱していたものと認められる。 しかし,これらの証拠によっても,本件優先日当時,Cowanらが,ボンベシ ン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があることを実験等により実 証していたとは認められないし,また,その作用機序等も説明していない。さらに, 甲4には,「この行動,及びその行動の発生におけるボンベシンの考え得る役割に ついては,更に研究する必要がある。」と記載されており,ボンベシン誘発グルー ミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があると断定まではされていない。 加えて,前記ア(ア)のとおり,昭和35年に発表された甲25では,そもそもラッ\nトのグルーミングの実施形態,目的,又は,これを支配する状況等は,ほとんど何 も知られていないとされており,前記ア(キ)のとおり,平成4年に発表された甲27\nでも,ボンベシンにより誘発される行動が,痛み等の侵害刺激に基づく可能性があ\nるとの指摘がされており,前記(2)ア(オ)のとおり,平成7年に発表された甲9にお\nいても,信頼性のある痒みの動物モデルは存在しない,マウスは起痒剤Compo und48/80を皮下注射されても引っ掻き行動をせず,マウスがグルーミング 中に耳及び体の引っ掻き行動するのが痒みに関連した行動とは考えられないなどと されており,Cowanら以外の研究者は,ボンベシンやそれ以外の原因により誘 発されるグルーミング・引っ掻き行動が,痒み以外の要因によって生じているとの 見解を有していたと認められる。 そして,前記(2)ア(オ)のとおり,甲9は,Compound48/80やサブス タンスPを起痒剤として取り扱っており,本件明細書の実施例12でも起痒剤とし てボンベシンではなく,Compound48/80が使用されている一方,ボン ベシンは,本件優先日当時,起痒剤として当業者に広く認識されて用いられていた ものであるとは,本件における証拠上認められない。 以上からすると,本件優先日当時,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動 と痒みの間に関連性があるということは,技術的な裏付けがない,Cowanらの 提唱する一つの仮説にすぎないものであったと認められる。
(イ) オピオイドκ受容体作動性化合物とボンベシン誘発グルーミング・引 っ掻き行動との関係について
前記ア(イ)〜(カ),(ケ),(コ)の記載を総合すると,本件優先日当時までに,ベンゾモ ルファン,エチルケタゾシン,チフルアドム,U−50488,エナドリンといっ たオピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行 動を減弱すること,他方で,同じオピオイドκ受容体作動性化合物であっても,S KF10047,ナロルフィン,ICI204448といったものは,ボンベシン 誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱しないこと,さらに,オピオイドμ受容体 作動性化合物であるフェナゾシン,オピオイドκ受容体作動作用を有することにつ いて報告がされていない化合物(乙6〜11)であるメトジラジン,トリメプラジ ン,クロルプロマジン,ジアゼパムのようなものであっても,ボンベシン誘発グル ーミング行動が減弱されることが,Cowanらによって明らかにされていたとい える。
また,前記ア(エ),(カ)の記載及び弁論の全趣旨を総合すると,上記のボンベシン 誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱するオピオイドκ受容体作動性化合物の基 本構造は,それぞれ異なっており,エチルケタゾシンはベンゾモルファン骨格,チ\nフルアドムはベンゾジアゼピン骨格,U−50488及びエナドリンはアリールア セトアミド構造をそれぞれ有しており,甲1発明の化合物Aとはそれぞれ化学構\造 (骨格)を異にするものであった。そして,前記ア(ク)のとおり,化学構造の僅かな\n違いは,薬理学的特性に重大な影響を及ぼし得るものである。 以上からすると,本件優先日当時,オピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベ シン誘発グルーミング・引っ掻き行動を抑制する可能性が,Cowanらによって\n提唱されていたものの,甲1の化合物Aがボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き 行動を減弱するかどうかについては,実験によって明らかにしてみないと分からな い状態であったと認められる上,上記(ア)のとおり,ボンベシンが誘発するグルーミ ング・引っ掻き行動の作用機序が不明であったことも踏まえると,なお研究の余地 が大いに残されている状況であったと認められる。
(ウ) 上記(ア),(イ)を踏まえて判断するに,前記ア(イ)〜(カ),(ケ)のとおり, 本件優先日当時,Cowanらは,1)ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動 が,痒みによって引き起こされているものであるという前提に立った上で,2)オピ オイドκ受容体作動性化合物のうちのいくつかのものが,ボンベシン誘発グルーミ ング・引っ掻き行動を減弱することを明らかにしていた。 しかし,上記1)の点については,上記(ア)のとおり,技術的裏付けの乏しい一つの 仮説にすぎないものであった。 上記2)の点についても,上記(イ)のとおり,本件優先日当時において研究の余地が 大いに残されていた。 そうすると,本件優先日当時,当業者が,Cowanらの研究に基づいて,オピ オイドκ受容体作動性化合物が止痒剤として使用できる可能性があることから,甲\n1発明の化合物Aを止痒剤として用いることを動機付られると認めることはできな いというべきである。
(エ) 小括
以上からすると,当業者が,甲1発明に甲2〜9,12などから認定できる一連 のボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動とオピオイドκ受容体作動性化合物 に関する知見を適用し,本件発明1を想到することが容易であったということはで きないというべきであり,取消事由1は理由がない。
ウ 原告の主張について
原告は,これまで認定判断してきたところに加え,1)本件審決は,技術常識が存 在しないことから直ちに動機付けを否定してしまっており,公知文献から認められ る仮説や推論からの動機付けについて検討しておらず,裁判例に照らしても誤りで ある,2)甲63によると,ダイノルフィンAと同じオピオイドκ作動作用を持つ化 合物は,痒みや痛みを抑制することが容易に予測でき,甲1の化合物Aを使用して\n止痒剤としての効果を奏するかを確認してみようという動機付けも肯定できると主 張する。 しかし,上記1)について,仮説や推論であっても,それらが動機付けを基礎付け るものとなる場合があるといえるが,本件においては,Cowanらの研究に基づ いて,甲1発明の化合物Aを止痒剤として用いることが動機付けられるとは認めら れないことは,前記イで認定判断したとおりであり,原告が指摘する各裁判例もこ の判断を左右するものとはいえず,原告の上記1)の主張は採用することができない。 上記2)について,本件明細書には,前記1(1)イのとおり,甲63にダイノルフィ ンと共に挙げられているエンドルフィン,エンケファリン(前記ア(サ))が,痒みを 惹起することが記載されている上,前記ア(サ)のとおり,甲63が,痒みと痛みの関 係は明確ではなく,研究を更に行わなければならないと結論付けているところから すると,甲63の記載が,ダイノルフィン,エンドルフィン,エンケファリン等の 内因性オピオイドが,止痒剤の用途を有することを示唆するものであるとは認めら れず,甲63の記載から,当業者が,甲1の化合物Aについて,止痒剤としての効 果を奏するかを確認することを動機付けられるとは認められない。 そして,その他,原告が主張するところを考慮しても,前記イの認定判断は左右 されないというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10030  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月28日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反ありとした審決が取り消されました。理由は、先行技術甲1に接した当業者は,甲1の構成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識するとはいえないので、甲1に本件周知技術を適用する動機付けがないというものです。\n

 原告は,本件審決は,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥 没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具 と接続管とで挟持取付けること」(本件周知技術)は,本件出願前の周知技術 にすぎないから,取付けの強固さや水密性等を考慮して,甲1発明の「縁部 2」の構成を,本件周知技術のように,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥\n没部の底部に形成された内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取 付けることによって,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者\nが容易になし得たことである旨判断したが,甲1発明に本件周知技術を適用 する動機付けはないから,本件審決の判断は,誤りである旨主張するので, 以下において判断する。
ア 甲1発明は,「浴槽の底部1は,開口部を有し,その縁部2は,貫通する 方法で湾曲しながら徐々に下側に向かって成形され,この開口部の中には, 排水装置が挿入されており,この排水装置は,おおよそ筒状を呈した排水 ケーシング3を有しており,排水ケーシング3の上端部にはパッキン5を 保持し固定するフランジ4が配置されて,上記縁部2の下端が該パッキン 5に接しており,上側からは,排水カップ6が,排水ケーシング3の中へ ネジ固定により挿入されて,上部外側の縁部分で浴槽の底部に接しており, 排水カップ6の内側には,排水カップ6の上端の径と略同径の閉塞板7が 挿入されており,タペット8を用いることにより上昇させたり,下降させ たりすることができ,閉塞板7は,開口部に接触せず,閉鎖時には,浴槽 の底部1に概ね面一とされ,閉塞板7の裏側には,径内方向に凹んだ断面 コ字状の環状の溝部が設けられ,該溝部にパッキンが保持されている,排 水装置」(前記第2の3(2)ア)である。
甲1の図面(別紙2参照)は,排水ケーシング3の円形断面の中心線に おける断面図であること(前記2(2)イ(イ)),甲1の「ここでは,唯一の図 面が,本発明に基づく排水装置の横断面の形状を示している。ここに示さ れた一つの浴槽の底部1は,一つの開口部を有しており,その縁部2は, 貫通する方法で下側に向かって成形されている。この開口部の中には,排 水装置が挿入されており,この排水装置は,排水ケーシング3を有してい る。・・・排水カップ6の内側には,閉塞板7が挿入されており,一本のタペ ット8を用いることにより上昇させたり,下降させたりすることができる。」 (前記(1)ウ)との記載に照らすと,甲1の図面は,閉塞板7が下降し,開 口部を閉鎖した状態を示した図面であることを理解できる。 そして,甲1の図面から,甲1発明の縁部2は,断面形状が内側に湾曲 しながら徐々に下側に向かって縮径する構成を有し,縁部2の湾曲面に上\n部外側の縁部分が当接する排水カップ6と,縁部2の下端に接するパッキ ン5を保持し,固定するフランジ4を含む排水ケーシング3とで挟持取り 付けられていることを理解できる。
他方で,甲1には,縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持 取付けられていることやその作用等について明示的に述べた記載はない。 また,甲1の記載事項全体(図面を含む。)をみても,縁部2が排水カップ 6と排水ケーシング3とで挟持取付けられている構成について,取付けの\n強固さや水密性等の観点から,改良すべき課題があることを示唆する記載 もない。
イ 次に,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に 内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管と で挟持取付けること」(本件周知技術)が,本件出願当時,周知であったこ とは,前記(1)イのとおりである。 他方で,本件周知技術に係る甲3,5及び8には,円筒状陥没部の底部 に形成した内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構\n成の作用等について述べた記載はない。 また,甲3,5及び8には,取付けの強固さや水密性等の観点から,内 向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成が,甲1の図\n面記載の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられ る構成よりも優れていることを示唆する記載はない。\n
ウ 前記ア及びイによれば,甲1に接した当業者は,甲1発明の縁部2の構\n成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識 するとはいえないから,甲1発明の縁部2に本件周知技術の構成を適用す\nる動機付けがあるものと認めることはできない。 したがって,当業者は,甲1及び本件周知技術に基づいて,甲1発明に おいて,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到すること\nができたものと認めることはできない。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,1)本件発明の「内向きフランジ部」は,円筒状陥没部の底部か ら縮径するように延出させることで排水口金具と接続管とで挟持取付ける ものである必要があり,かつ,それで足りるところ,甲1発明の縁部2は, 断面形状が内側に凸となる円弧状を呈し,下方向だけでなく内側方向にも 延出することで,開口部を下側に向かって縮径しており,このように開口 部を縮径することによって「排水カップ6」と「排水ケーシング3」とで 挟持取付けられるものである点において,本件発明の「内向きフランジ部」 と甲1発明の縁部2は,構造的に共通する,2)本件明細書の【0013】 の記載に照らすと,本件発明の「内向きフランジ部」は,「円筒状陥没部」 の底部に位置することで排水口金具が「水槽の底部1」に露出しない状態 で排水口金具と接続管とで挟持取付けられるものであるところ,甲1発明 の縁部2も,「開口部」の底部に位置することで排水口金具が「浴槽の底部 1」に露出しない状態で排水口金具と接続管とで挟持取付けられる点にお いて,本件発明の「内向きフランジ部」と機能及び作用が共通するとして,\n甲1発明の縁部2は,フランジ形状を呈していないとしても,構造,機能\ 及び作用が共通しているから,本件発明の「内向きフランジ部」と実質的 に同一であり,相違点1は実質的な相違点ではない旨主張する。 しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明の「内向き フランジ部」に関し,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状 陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管と で挟持取付けられて排水口部を形成」されること,「その円筒状陥没部内 を上下動するカバーが,前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径である」 ことの記載はあるが,本件発明の「内向きフランジ部」の形状や構造を\n規定する記載はない。また,本件明細書においても,本件発明の「内向 きフランジ部」の用語を定義する記載はない。 一般に,「フランジ」とは,「管を他の管または機械部分と結合する際 に用いる鍔型の部品。」(広辞苑第七版)を意味することからすると,本 件発明の「内向きフランジ部」とは,円筒状陥没部において内側に向け て形成された鍔状の部分を意味するものと解される。そして,上記結合 の際には鍔状の形状であることに即した作用を奏するものといえる。 しかるところ,甲1発明の縁部2は,湾曲しながら徐々に下側に向か って形成され,下端部に至るまでなだらかな弧状であり,内側に向けて 形成された鍔状の部分は存在しないから,本件発明の「内向きフランジ 部」に相当するものと認めることはできない。 このように甲1発明の縁部2は,鍔状の部分を備えていない点におい て,本件発明の「内向きフランジ部」と構造が明らかに異なり,その作\n用にも差異があるといえるから,本件発明の「円筒状陥没部の底部に形 成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて」 いる構成と,甲1発明の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで\n挟持取付けられている構成とが実質的に同一であるものと認めることは\nできない。
(イ) したがって,相違点1は実質的な相違点でないとの被告の主張は, 理由がない。
イ また,被告は,水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部 の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と 接続管とで挟持取付けること(本件周知技術)は,本件出願当時,周知で あったことからすると,甲1に接した当業者は,取付けの強固さや水密性 等を考慮し,甲1発明の「縁部2」に本件周知技術を適用することによっ て,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することがで\nきた旨主張する。 しかしながら,被告の上記主張は,前記⑵で説示したとおり,採用する ことができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10060 商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和3年4月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ビクトリノックスの黒字に白十字を二重の外枠で囲った登録商標についての、商標権侵害訴訟です。侵害被疑者は赤十\字が登録できない(商標法4条)ので、十字部分は要部ではないと争いましたが、知財高裁は侵害とした東京地裁の判決を維持しました。\n

(1) 十字部分の色彩等に基づく類否の主張について\n
控訴人は,標章において色彩が類否に大きく影響すること,十字部分を有\nする標章は特に十字部分の色彩が類否に大きく影響することを前提として,\n被控訴人商標と控訴人標章1,3は外観,称呼,観念が異なり,類似しない と主張するが,控訴人の主張を採用することはできない。以下,詳述する。
ア 標章において色彩が類否に大きく影響するという控訴人の主張について 控訴人は,例えば,国旗において色彩が重要な要素であるように,標章 は,同一の文字や図形の結合等であっても,色彩の相違によって印象が異 なるものであり,現に,商標法70条1項は,色彩を登録商標と同一にす れば登録商標と同一の商標となる場合であっても,色彩が異なれば登録商 標に類似しない商標があることを前提としており,このことは,色彩以外 が同一であり色彩だけが異なっている商標が非類似になることを示して いるとし,そのため,商標の類否判断に色彩が大きく影響すると主張する。 しかし,国旗において色彩が重要な要素であるとしても,国旗の例が直 ちに商標に当てはまるものではない。また,標章において,文字や図形は 色彩に劣らず重要な要素であり,商標法70条1項が,色彩を登録商標と 同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるもの を,登録商標に類似の商標にとどまるとするのではなく,登録商標に含ま れるとしていることからすれば,文字や図形が同一であって色彩のみが異 なる商標は,登録商標と同一の商標と認められる場合が多いといえる。そ のため,控訴人の上記条項の理解は不適切であり,同条項に基づき,標章 において色彩のみが類否に大きく影響するということはできない。なお, 色彩が識別性等の観点から大きな意味を有しており,色彩のみが異なるこ とにより全く違う商標となってしまうような例外的な場合について商標 法70条1項が適用されないとする余地があるとしても,上記の認定は左 右されない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 十字部分を有する標章は特に十\字部分の色彩が類否に大きく影響すると いう控訴人の主張について 控訴人は,商標法4条1項4号は,赤十字の標章と同一又は類似の商標\nについて商標登録を受けることができないと定めており,赤十字の標章及\nび名称等の使用の制限に関する法律1条は,白地に赤十字の標章若しくは\n赤十字の名称又はこれらに類似する記章若しくは名称をみだりに用いる\nことを禁じていること,緑と白で構成された十\字の標章は,安全標識とし て定められていることから,十字部分を有する標章においては特に十\字部 分の色彩が類否に大きく影響すると主張する。 しかし,赤十字の標章や安全標識について上記の事実があるとしても,\n赤十字の標章と同一又は類似の商標でなければ,十\字部分を含む商標の登 録は認められる余地があり,十字部分を含む商標において十\字部分の色彩 が識別性等の観点からどのような意味を有するかは,その商標の具体的な 構成等に照らして判断されるべき事柄であって,一概に,十\字部分を有す る標章において特に十字部分の色彩が類否に大きく影響するということ\nはできず,控訴人の上記主張は,採用することができない。
ウ 被控訴人商標と控訴人標章1,3の類否について 控訴人は,被控訴人商標と控訴人標章1,3は,外観,称呼,観念が異 なり,類似しないと主張する。 しかし,原判決の説示するとおり(原判決9頁6行目ないし10頁10 行目),被控訴人商標と控訴人標章1は,外観が類似しており,いずれも 「ジュウジ」「クロス」などの同一の称呼及び「十字」「クロス」などの\n同一の観念が生じ,取引の実情を踏まえると,被控訴人商標と控訴人標章 1は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり,両者は類似する と認められる。また,原判決の説示するとおり(原判決11頁5行目ない し12頁14行目),被控訴人商標と控訴人標章3は,外観が類似してお り,同一の称呼及び観念が生じ,取引の実情を踏まえると,被控訴人商標 と控訴人標章3は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり,両 者は類似すると認められる。したがって,控訴人の上記主張は採用するこ とができない。
(2) 十字以外の部分等に基づく類否の主張について\n
控訴人は,商標法4条1項1号が,国旗と同一又は類似の商標は商標登録 を受けることができないと定めていることからすると,被控訴人商標が登録 されているのは,スイス国旗と類似していないからであり,そうであるとす ると,被控訴人商標のうち,スイス国旗と似ている十字部分は要部ではなく,\n円弧からなるループ状図形が要部であるとした上で,被控訴人商標の円弧か らなるループ状図形の外周と控訴人各標章の正方形部分の外周は,形状,色 彩,観念が異なるとし,被控訴人商標の指定商品と同一又は類似の商品に使 用された控訴人各標章が外観,観念等によって取引者,需要者に与える印象, 記憶,連想等は,被控訴人商標とは全く異なるものであるから,被控訴人商 標と控訴人各標章は類似しないと主張する。 しかしながら,被控訴人商標が登録されているのは,スイス国旗と類似し ていないからであるとしても,そのことから直ちに,被控訴人商標のうち, 十字部分以外の円弧からなるループ状図形が要部であるとして,その部分の\n比較に基づいて商標の類否を判断すべきであるとはいえない。商標の類否は, 外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を 総合して,その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきもの であるところ,被控訴人商標と控訴人各標章は,いずれも十字部分と外周部\n分からなり,十字部分は被控訴人商標及び控訴人各標章の中心にあって目立\nつ位置にあるから,類否判断に当たっては,十字部分も含めて被控訴人商標\nと控訴人各標章のそれぞれの全体を比較考察すべきである。そのため,十字\n部分以外の周囲の部分の比較により被控訴人商標と控訴人各標章は非類似で あるとする控訴人の上記主張を採用することはできない。

◆判決本文

1審は東京地裁ですがなぜかアップされていません。 こちらは同商標権に対する不使用審決取消訴訟です。審決は不使用と認定しましたが、知財高裁はこれを取り消しています。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> 誤認・混同
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10125 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年4月27日  知的財産高等裁判所

 商標「六本木通り特許事務所」が識別力無しとした審決が維持されました。

 本願商標は,「六本木通り特許事務所」の文字を標準文字で表してなり,指定役務を第45類「スタートアップに対する特許に関する手続の代理」と\nするものである。 本願商標の構成中の「六本木通り」の文字は,昭和59年(1984年)に,起点を東京都千代田区霞が関2丁目,終点を渋谷区渋谷2丁目とする道\n路に東京都が設定した通称名を意味する語である(乙1)。また,本願商標 の構成中の「特許事務所」の文字は,弁理士等が業務を行う事務所を意味する語であり(弁理士法76条1項参照),弁理士は,特許,実用新案,意匠,\n商標等に関する特許庁における手続等の代理又はこれらの手続に係る事項に 関する鑑定その他の事務を行うこと等をする者であり(弁理士法4条参照), 事務を行う者が所在する事務所があたかも事務を行う主体と呼ばれることは 慣用の表現であるから,「特許事務所」は,特許に関する手続の代理等を行う者の一般的名称と認識されるものである。\nそうすると,本願商標は,道路の通称名である「六本木通り」の文字と, 特許に関する手続の代理等を行う者の一般的名称である「特許事務所」の文 字とを結合したものと認識,理解されるものである。
(2) 本願商標の指定役務である「スタートアップに対する特許に関する手続の 代理」は,「特許に関する手続の代理」の範囲を「スタートアップ」に係る ものに限定したものであり,語義からして「特許に関する手続の代理」に含 まれることは明らかであるから,本願商標の構成中の「特許事務所」の文字は,本願商標の指定役務を提供する者の一般的名称を意味すると理解される。\nまた,本願商標の構成中の「六本木通り」は,本件審決時である令和2年(2020年)9月時点で35年以上の長きに渡り広く一般に慣れ親しまれてい\nる道路の通称名であるから,本願商標の指定役務の提供の場所を意味すると 理解される。
そうすると,本願商標に係る「六本木通り特許事務所」との文字は,本願 商標の指定役務との関係で,役務の提供場所と理解される「六本木通り」と の文字と,役務を提供する者の一般的な名称と理解される「特許事務所」の 文字とを結合させたものであるから,本願商標の指定役務の需要者は,これ を「通称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手 続の代理等を行う者」を意味するものと認識するというべきである。 以上からすると,「六本木通り特許事務所」との文字は,六本木通りに近 接する場所において本願商標の指定役務を提供している者を一般的に説明し ているにすぎず,本願商標の指定役務の需要者において,他人の同種役務と 識別するための標識であるとは認識し得ないものというべきであって,その 構成自体からして,本願商標の指定役務に使用されるときには,自他役務の出所識別機能\を有しないものと認められる。 したがって,本願商標は,商標法3条1項6号に該当するものというべき であり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標の指定役務の分野において「〇〇通り□□事務所」の 文字が広く採択,使用されているとの本件審決の認定は誤りである,ある いは本願商標の指定役務を取り扱う法律事務所や「〇〇通り法律事務所」 という名称の法律事務所が多数あるとしても,「〇〇通り法律事務所」と の名称に自他役務の出所識別機能がないと根拠付けることはできない旨主張する。\n
確かに,これらの主張については,当裁判所としても首肯し得る面もあ る。しかしながら,そもそも本願商標の指定役務の分野において「〇〇通 り□□事務所」の文字が広く採択,使用されているとの事実の有無や,本 願商標の指定役務を取り扱う法律事務所や「〇〇通り法律事務所」という 名称の法律事務所が多数あるとの事実の有無等が,本願商標の自他役務の 出所識別機能の有無の判断に当たって必要な前提事実となるものではないから,これらの点に関する本件審決の認定に誤りがあるとしても,その\n認定の誤りが結論を左右するものではなく,本願商標に自他役務の出所識 別機能を認めることができないことについては,前記⑵において認定判断 したとおりである。したがって,原告の上記主張は,結論を左右しない点に関する誤りを主張するにすぎず,採用し得ない。
イ 原告は,「〇〇通り□□事務所」の語は,単に各構成要素の辞書的な意味を足し合わせた意味だけを有するものではないから,本願商標も,その\n全体において造語として需要者に印象付けられる旨主張する。 一般的に,複数の語を組み合わせてなる語がそれを構成する各語の意味を結合したものを超える意味を有し得るとはいえるものの,原告は,「通\n称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手続 の代理等を行う者」と認識される本願商標が,その組合せ自体によりこれ とは異なる新たな意味を生じさせること,あるいは,使用された結果,何 人かの業務に係る役務であることを認識することができるに至っている ことを何ら具体的に主張立証していないから,原告の上記主張は,その前 提を欠くものというべきであって,採用することができない。
ウ 原告は,本願商標は,新規で意外性のある造語である旨主張する。 しかしながら,商標の構成についていえば,「○○通り」と「法律事務所」とを組み合わせた構\成をとる商標は多数の例が認められ(乙7ないし 51),法律事務所は特許事務所と同様に本願商標の指定役務を提供し得 る事務所であるから(弁護士法74条1項,3条2項参照),「法律事務 所」を「特許事務所」と言い換えて「○○通り」と「特許事務所」との組 合せとしたとしても,格別,新規なものとは認識し得ないといえ,その構成に意外性もない。また,前記のとおり,本願商標の構\成中の「六本木 通り」の文字は,35年以上の長きに渡り広く一般に慣れ親しまれている 道路の通称名であり,本願商標の構成中の「特許事務所」は,本願商標の指定役務を提供する者を意味する一般的な名称であるから,この両語の組\n合せから新規な意外性を生じるということもできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商3条1項各号
 >> 識別性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)5041  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月21日  大阪地方裁判所

 損害賠償不存在確認訴訟です。 国際裁判管轄の有無、訴えの準拠法、確認の利益の有無、など争点はたくさんです。民訴法3条の9の特別の事情があると認めるとして,訴えは却下されました。

   被告の主たる事務所は日本国内にあることから,本件各請求に係る訴えのい ずれについても,日本の裁判所が管轄権を有する(民訴法3条の2第3項)。 もっとも,その場合でも,事案の性質,応訴による被告の負担の程度,証拠の所 在地その他の事情を考慮して,日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間 の衡平を害し,又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があ ると認めるときは,裁判所は,その訴えの全部又は一部を却下することができる (同法3条の9)。そこで,本件各請求に係る訴えにおいて,それぞれ,上記「特 別の事情」があると認められるかについて,以下検討する。
(ア) 前記イ(ア)のとおり,請求1−1は,別件米国訴訟と同一の訴訟物に関するも のである。 また,本件において,本件各装置が本件米国特許に係る発明の実施品であること, 本件各装置が参加人から SKC 等に販売されたこと及び原告が本件各装置を使用し て本件各製品を製造したことについては,当事者間に争いはない。本件での主要な 争点は,本件許諾契約により参加人が許諾された本件実施権の範囲,すなわち,参 加人の販売先に関する制限の存否といった本件許諾契約の解釈である。他方,別件 米国訴訟においても,その経過(前記イ(イ))から,消尽及び黙示のライセンスの抗 弁は主要な争点として位置付けられ,本件許諾契約の解釈につき,日本法の専門家 の各意見書及び関係者の供述書並びにそれを踏まえた主張の提出,陪審公判での証 人尋問といった形で,原告等と被告とが主張立証を重ね,陪審及び加州裁判所の判 断の対象となっている。その意味で,本件と別件米国訴訟とは,争点を共通にする ものといえる。 しかも,別件米国訴訟の提起は平成22年7月であり,本件の訴え提起までの約 8年間,こうした主張立証が行われ,その結果として,別件評決及び加州裁判所の 別件米国判決に至ったものである。なお,この間,原告が日本において請求1−1 に係る訴えのような訴訟を提起することを妨げる具体的事情があったことはうかが われない。
これらの事情を総合的に考慮すると,別件米国訴訟につき加州裁判所の別件米国 判決がされるまでは,原告は,日本において請求1−1に係る訴えのような訴訟を 提起する考えはなく,別件米国判決を受けたことを契機に,その結論を覆すべく請 求1−1に係る訴えを提起したものと理解される(別件米国判決の基礎となった証 拠方法の重大な瑕疵等を度々指摘する原告の主張からも,原告のこのような意図が うかがわれる。)。他方,請求1−1に係る本件の訴えに応訴すべきものとした場 合,被告は,時期を異にして別件米国訴訟と共通する主張立証活動を重ねて強いら れることとなるのみならず,別件米国判決の結論を本件において覆そうとする以上, 原告は別件米国訴訟では行わなかった主張立証を追加的に行う蓋然性が高いと見ら れるところ,これに対する対応を強いられることで,被告にとっては,更なる応訴 の負担を新たに生じる蓋然性も高いといえる。 そうすると,本件許諾契約はいずれも日本法人である被告と参加人との間で締結 されたものであり,関連する証拠も,多くは日本語で作成されていること又は日本 語を解する者である蓋然性が高く,その所在も多くは日本国内にあると見られるこ とを考慮しても,請求1−1に係る訴えについては,日本の裁判所が審理及び裁判 をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情(民訴法3条の9)があると認め られる。
(イ) これに対し,原告は,日本の裁判所で審理をすることが必要かつ適切である こと,別件米国訴訟の重複・蒸し返しに当たらないこと,別件米国判決は日本にお いて承認されないことなどを指摘して,特別の事情があるとはいえない旨主張する。 しかし,請求1−1に係る訴えに関する限り,日本の裁判所で審理をすることが 必要かつ適切であるとは必ずしもいえないこと,別件米国訴訟の蒸し返しに当たる と見られることは,上記のとおりである。別件関連訴訟が係属しているといっても, 請求1−1に係る訴えとは当事者及び訴訟物を異にする別の事件である以上,その 主張立証の負担をもって本件における主張立証の負担を無視ないし軽視し得ること にはならない。
また,別件米国判決が日本において承認されないとする根拠として,原告は,別 件米国判決が重大な瑕疵のある証拠に依拠するものであることを指摘する。しかし, そのような誤りは本来的には米国の訴訟手続を通じて是正されるべきものであると ころ,かえって,別件米国判決は,CAFC においても承認され,確定している。こ のことと,再審事由(民訴法338条)に該当するような具体的な事情もないこと に鑑みると,日本法に照らしても,原告の上記指摘は別件評決及び別件米国判決の 依拠する証拠評価に対する不満をいうにすぎず,これをもって外国の確定判決の効 力が認められる要件である「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は 善良の風俗に反しないこと」(民訴法118条3号)を欠くとはいえない。 さらに,原告は,別件米国判決が承認された場合に,別件関連訴訟につき参加人 の被告に対する損害賠償請求等の判決が確定すると両者に矛盾が生じることなどを 指摘して,その点からも別件米国判決は承認されるべきものではないとする。しか し,別件関連訴訟が原告の主張するとおりに帰結するか否かは,請求1−1に係る 訴えの提起の時点では不明というほかない。この点を措くとしても,別件関連訴訟 は,本件とも別件米国訴訟とも当事者及び訴訟物を異にするものであるから,その 判決の効力は原告と被告との関係に及ぶものではない。 その他原告が縷々指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用で きない。
(ウ) 以上のとおり,請求1−1に係る訴えについては,日本の裁判所が審理及び 裁判をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情があると認められるから,こ れに係る訴えを却下することとする。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 裁判手続
 >> 裁判管轄
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10118  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月11日  知的財産高等裁判所

 三つのハート形を一筆書き風に表した図形の下に欧文字「SMS」と記載した商標について、別の図形の下部に欧文字「SMS」と記載した商標と類似するとして、無効とされた審決が維持されました。本件と引用商標は判決文の末尾にあります。\n

 前記2〜4のとおり,本件商標及び引用商標の類否判断においては,それぞれ, 「SMS」の文字部分を抽出し,これらを対比することになり,称呼は同一となる。 また,本件商標の「SMS」と引用商標の各「SMS」からは,特定の観念を生 じない。そして,各「SMS」の文字の外観については,本件商標と引用商標とでは,書体が異なるが,特段書体に特徴があるとはいえないから,この差異によって,両文 字の外観に異なる印象が生じるとはいえない。また,本件商標の色彩は黒色である のに対し,引用商標3の色彩は青色を基調にして白色が混入している点で差異があ るが,このような差異は些細な差異であるから,この差異によって,両文字の外観 に異なる印象が生じるとはいえない。したがって,本件商標の「SMS」と引用商 標の各「SMS」とでは,外観も類似しているといえる。
・・・・
原告は,本件商標全体と引用商標全体を対比して,それらの類否判断をす べきであると主張するが,前記2〜4のとおり,本件商標及び引用商標は,いずれ も,外観上,「SMS」の文字部分と他の部分は明確に区別され,これらを分離して 観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合していると認めら れないから,本件商標及び引用商標から「SMS」の文字部分を抽出して,類否判 断をすることは相当であり,原告の上記主張は理由がない。
(2) 原告は,「SMS」とは,携帯電話でのメッセージ送受信サービスである 「Short Message Service(ショートメッセージサービス)」の 略語であり,本件審決がされた令和2年の時点で,「ショートメッセージサービス」 の略語としての「SMS」は,通信分野に限らず,一般に周知されていると主張し, その証拠として,甲25,26を提出する。 甲25によると,「SMS」が「ショートメッセージサービス」の略語であること を説明したウェブサイトが存在することが認められるが,前記2(2)のとおり,「S MS」の語が一般的な辞書に掲載されている例があるとは認められないことからす ると,上記ウェブサイトの存在から,「SMS」が「ショートメッセージサービス」 の略語を意味することが一般的に認識されていたということはできないというべき である。 また,甲26のアンケートは,「SMSという言葉を聞いたことがありますか?」, 「SMSとは何か知っていますか?」,「いつごろからSMSについて知っています か?」の三つの質問について,それぞれ「ある,ない」,「知っている,知らない」, 「 年ごろから」との回答を求めるというアンケートであることが認められるとこ ろ,上記の質問内容からすると,同アンケートにおいて,SMSを知っているとの 回答があったとしても,その回答者が,「SMS」がどのような意味を有するものと 認識していたかは明らかではないから,同アンケートから,「SMS」が「ショート メッセージサービス」の略語を意味することが一般的に認識されていたと認めるこ とはできない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,商標の登録例を考慮すると,本件図形部分は,十分な出所識別力\nを有し,また,本件商標も十分な出所識別力を有すると主張する。\nしかし,本件図形部分や本件商標が十分な出所識別力を有することから直ちに,\n他の商標との類否判断において,本件文字部分を抽出することができないことには ならないから,原告の上記主張は理由がない。
(4) 原告は,「SMS」の文字を含む商標が商標登録された事例を挙げて,「S MS」の文字を含む商標の他の商標との類否判断においては,「SMS」の文字 と他の文字又は図形は一体不可分に判断されるべきであるなどと主張する。 しかし,前記1のとおり,商標の類否判断は,外観,観念,称呼等によって取引 者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合し,かつ,具体的な取引状況に基づ いて行うものであり,事案ごとの具体的な事実に基づく判断となるものであって, 「SMS」の文字を含む他の商標についての特許庁における類否判断の結果によっ て,本件訴訟における本件商標と引用商標の類否判断が左右されることはない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ワ)2597等  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年1月26日  東京地方裁判所

 おみくじについての著作権侵害について、114条1項に基づく損害賠償が認定されました。販売不可事情による減額もなしです。

 原告は,本件文書1を一部改変したおみくじを寺院に対して販売しており (甲10,乙7の1,2,弁論の全趣旨),その販売価格は1枚当たり120 円である(甲11の1,2)。そのおみくじについて,印刷,用紙及び折り畳 みを印刷業者に依頼した場合に要する費用が1枚当たり約41円以下であ って(甲12),その他の販売に要する経費を考慮してもその販売により追 加的に必要となった経費は1枚当たり50円を上回ることはないと認めら れるから,原告における本件文書1を一部改変したおみくじの1枚当たりの 利益額は70円を下回ることはないと認められる。
・・・
以上によれば,著作権法114条1項に基づく原告の損害額は,以下の計 算式のとおり,572万8590円となる。
(計算式)
70円(単位数量当たりの原告利益)×(81117枚+720枚+0枚)(被告の譲渡数量)=572万8590円
原告は,著作権侵害について,予備的に著作権法114条2項に基づく額\nを主張するが,原告の主張するおみくじ1枚当たりの被告の利益額が同条1 項に基づく主張における原告の利益額よりも小さいことなどから,予備的な\n主張が著作権法114条1項に基づく損害額よりも大きくなるとは認めら れない。
カ 著作者人格権侵害による損害額
本件文書1において,その内容が真逆になるような内容の改変がされるこ とは,おみくじについての表現の本質的部分についての改変であるといえる\nことに加え,その他,本件にあらわれた の著作者人格権侵害について原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は5 0万円をもって相当であると認める。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 著作権その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)5948  損害賠償請求事件  著作権 令和3年1月21日  大阪地方裁判所

 舟券購入のプログラムについて著作物性、翻案かが争われました。裁判所はこれを認め、約1.4億円の損害額を認めました。ただ請求が一部請求したため1400万の損害賠償額です。

 プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,そ\nの指令の表現の組合せ,その表\現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があ り,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表\現上の創 作性が表れていることを要するといわなければならない(知財高裁平成21年\n(ネ)第10024号同24年1月25日判決・判例時報2163号88頁)。
イ そこで検討するに,前記1(5)で認定したところによれば,原告プログラム は,市販のプログラム開発支援ソフトウェアである Microsoft Visual Studio を使用 して Microsoft Visual Basic 言語で記述されているから,ソースコードを個別の行\nについてみれば,標準的な構文やありふれた指令の表\現が多用されており,独創的 な関数等は用いられていない。 しかしながら,前記(5)イについては,一定の画面表示を得るために複数の記述\n方法が考えられるところ,一定の意図のもとに特定の指令を組み合わせ,独自のメ ソッドを作成して独自の構\成で記述しており,同ウ及びエについては,一定の処理 方式を選択すること自体はアイデアにすぎないが,やはり,一定の結果を得るため にどのように指令を組み合せ,どの範囲で構造体を設定し,配列・構\造化するかに は様々な選択肢が考えられるところ,その具体的な記述は,一定の意図のもとに特 定の指令を組み合わせ,多数の構造体を設定し,配列・構\造化した独自のものにな っている。
また,同オについては,HTML データから一定の情報を抽出する指令の記述は 選択の幅があるところ,メンテナンス性を考慮して独自の記述をしていることが認 められ,同カについても,人間が情報を入力してログインや舟券購入の操作をする ことを想定して作成されている投票サイトのサーバーに,人間の操作を介さずに必 要なデータを送信してログインや舟券の購入を完了するための指令の表現方法は複\n数考えられるところ,複数の方式を適宜使い分けて記述し,一連の舟券購入動作を 構成していることが認められる。\nそうすると,前記イないしカのソースコードには表\現上の創作性があるといえ, これらを組み合わせて構成されている原告プログラムにも,表\現上の創作性が認め られるというべきである。
ウ 被告ら(被告エーワンを除く。以下同じ。)は,原告プログラムの機能は,\n原告プログラムを利用せずに競艇公式ウェブサイト等により実行できると主張する が,競艇公式ウェブサイト等で人間の動作として情報を得たり舟券の購入をしたり することと,原告プログラムにより情報を得たり自動的に舟券を購入したりするこ とは異なるから,原告プログラムに創作性がないとする理由にはならない。 また,被告らは,原告プログラムが利用しているデータが競艇公式ウェブサイト で公知であると主張するが,プログラムに入力される変数であるレース情報等のデ ータが公知であるか否かはプログラムの著作物性とは関係がなく,失当である。 さらに,被告らは,原告プログラムのうち自動運転機能の部分は,既存のソ\ース コードを単純作業により組み合わせたものであり,「Boat Advisor」等の類似のソ\nフトウェアが多数存在すると主張する。しかしながら,前記のとおり,原告プログ ラムは,独自の指令の組合せ,構造体等の設定,構\成によって記述されており,あ りふれたものとはいえず,証拠(乙2)をみても,「Boat Advisor」はレース予\n想,データ分析を主たる機能とするソ\フトウェアであり,原告プログラムのように 舟券を自動購入するものであるとは認められず,原告プログラムがありふれたソー\nスコードによって構成されているものとはいえない。\n原告プログラムに著作物性がないとの被告らの主張は,採用できない。
(2) 争点2(被告プログラムは,原告プログラムを複製又は翻案したものか) について
ア 前記1(3)で認定したところによれば,被告プログラムは,被告P4がP7 より入手した原告プログラムについて,被告P3において逆コンパイルを行うと共 に難読化を解除し,期待値と称する機能を追加した以外は,逆コンパイルによって\n得られた原告プログラムの機能をそのまま利用したものであるから,少なくともそ\nのまま利用した部分において,被告プログラムは,原告プログラムを複製したもの ということができる。
イ また,前記1(6)で認定したところによれば,被告プログラムは,少なくと も,原告プログラムの BoatRaceCom.DLL 及び Kcommon.DLL を複製して作成され たことが明らかである。 さらに,被告プログラムは,原告プログラムと画面表示やモジュール名がほぼ同\nじであること,マニュアルに記載された機能が原告プログラムとほぼ同一であるこ\nとも,上記アの結論と合致する。
ウ 被告らは,被告プログラムは,被告プログラム独自のアルゴリズムで算出さ れた期待値(人気指数)に基づく予想をユーザーに提供するものであって,その部\n分に創作性があり,原告プログラムとは全く異なるものであると主張する。 被告らが主張する期待値の機能については,本件の証拠によっても判然とはしな\nいが,仮に,より勝率が高くなることが期待される買目を計算して推奨し,舟券を 自動購入する機能を追加した点で,被告プログラムは原告プログラムと異なる旨を\nいう趣旨であるとしても,原告プログラムが元々有する買目設定の機能を強化,発\n展させたものと理解し得るものであると共に,既に認定したとおり,被告プログラ ムは,期待値の機能を追加した以外の部分については,原告プログラムを複製した\nものをそのまま利用しているとされるのであり,全体として,被告プログラムは, 原告プログラムの本質的特徴を直接感得し得るものであるから,少なくとも翻案に あたることは明らかというべきであり,被告プログラムの作成は,原告プログラム についての原告らの著作権を侵害するものである。 なお,被告らは,被告プログラムに「買目切捨」や「保険買目」など,原告プロ グラムにはない機能があると主張するが,被告P3において,期待値の機能\以外は 原告プログラムと異なる機能はないと供述していること,前記のとおり,マニュア\nルや画面が同じであること,原告プログラムにも同一の機能があることから,当該\n主張は上記結論を左右するものではない。
・・・
前記1の(2)ないし(4)によれば,P7は1本20万円を原告らに支払って取 得した原告ソフトウェアを1本50万円から80万円で約30本販売したこと,被\n告P5は,被告エーワンの名義で,被告ソフトウェア約70本を1本60万円から\n100万円で販売し,その中に,平成28年5月2日のP8に対する100万円の 売買が含まれること,以上の事実が認められる。なお,被告ガルヒが被告ソフトウ\nェアを販売するためのセキュリティ認証キーを140個用意したことは前記1の (4)で認定したとおりであるが,これに対応する140本の被告ソフトウェアが販\n売されたと認めるに足りる証拠はない。
イ 以上によれば,被告らは,被告ソフトウェアを少なくとも70本販売し,う\nち少なくとも1本は平成28年5月2日に100万円で販売し,その余は少なくと も1本60万円で販売したと認めるのが相当であり,ここから控除すべき経費等の 主張はないから,被告ソフトウェアの販売により被告らが受けた利益は,少なくと\nも4240万円であると認められる。 そうすると,著作権法114条2項により,原告らの受けた損害額は4240万 円,著作権を共有する原告各人について2120万円ずつと推定される。 また,損害のうち100万円(各50万円)は,平成28年5月2日に被告ソフ\nトウェアが販売されたことによるものであり,被告エーワンを含む被告らは,同日 から遅滞の責を負う。その余については販売時期が不明であり,前記のとおり,被 告ソフトウェアが3から4か月間販売されていたことからすれば,遅くとも同年9\n月2日までには,その余の損害すべてに係る侵害行為が行われたと認められるか ら,原告らのその余の損害について,被告らは,同日から遅滞の責を負うものと認 められる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 著作物
 >> プログラムの著作物
 >> 複製
 >> 翻案
 >> 著作権その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)37847  共同著作権に基づく利得分配請求等事件 令和3年1月21日  東京地方裁判所

 共同著作者であるかが争われました。創作と評価されるに足りる程度の精神的活動をしたものとまで認められないと判断されました。

 2人以上の者が共同して創作した著作物であって,その各人の寄与を分離 して個別的に利用することができないものを共同著作物というところ(著作 権法2条1項12号),共同著作者に当たるというためには,当該著作物の制 作に際し,創作と評価されるに足りる程度の精神的活動をしている必要があ るというべきである。 そこで,原告において本件各作品の制作に際し,かかる創作的関与が認め られるか否かにつき見るに,上記1(1)イ及びウで認定したとおり,原告は, 本件各作品の制作を企図した被告Aから,制作への協力を依頼され,台詞を 読み上げる声優の候補者を数人紹介し,被告Aが制作したシナリオや指示に 沿う形で,効果音の収録や編集の作業を担当したにとどまっているものであ り,これらの原告の関与の性質・内容に照らせば,ボイスドラマであるとい う本件各作品の性質に照らしてもなお,原告が,本件各作品の制作に際し, 創作行為を行ったものとみることは困難というほかない。そうすると,本件 各作品の制作に際するこれらの関与について,原告が,創作と評価されるに 足りる程度の精神的活動をしたものとまで認めるに足りないというべきであ り,原告が本件各作品の共同著作者に当たるものとは認められない。
(2) これに対し,原告は,本件各作品の制作に際し,1)声優を選択した点,2) セリフや表現方法につきアドバイスをした点,3)効果音を選択・収録した点, 4)全体の長さを一定時間内におさめるよう編集した点において,創作的に関 与した旨を主張する。 しかしながら,1)の点については,上記のとおり声優の候補者を紹介した にとどまるものであり,2)の点については,その具体的内容は判然としない が,いずれにしてもアドバイスをしたにとどまるものであり,3)及び4)の点 については,具体的な作業を担当したとしても,上記のとおり,被告Aが制 作したシナリオや指示に沿う形で作業を行い,被告Aのチェックを受けてい たものである。これらからすれば,たとえ原告において上記1)ないし4)の点 において尽力した旨の認識であったとしても,そのいずれも,原告の創作的 な精神活動がなされたことを具体的に基礎付けるものとまでは言い難い。そ うすると,原告の上記主張は,原告の創作的関与を否定した上記認定を左右 するものではなく,同主張は採用することができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 著作者
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10110 決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月18日  知的財産高等裁判所

 加圧トレーニングに関する発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

 これに対して,原告は,前記第3の1(1)のとおり,甲1に引用された実 施例と本件発明3の実施例は,全く同一であり,自然締付け力を付与され ていない状態とする効果を生じさせるための新たな構成要素が付加されて\nいるわけでもないし,仮に,本件優先日当時,自然締付け力を皆無にする 施術が広く実施されていなかったとしても,加圧力の範囲は,身体に対す る負担や得られる効果を勘案しつつ適宜決定し得る程度の事項である旨主 張する。 原告の主張は,本件明細書と甲1の明細書を対比すれば,本件明細書の 図1ないし図7が甲1の明細書の図1ないし図7と同一であること,すな わち,本件発明3と甲1−3発明でそれぞれ用いられる緊締具,加除圧制 御装置及び加除圧制御システムが同一であることを指摘するものと解さ れるが,そうであるとしても,甲1−3発明には,加圧工程と除圧工程を 交互に繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに 緊締具が所定の部位に与える締付け力について,特定部分を締付ける加圧 力を付与しない状態,すなわち,自然締付け力による加圧力も付与しない 状態に制御することについての記載も示唆もないことは前記(1)のとおり である。
また,甲1−3発明は,四肢の所定の部位の締付け力の上げ下げを行い ながら,その所定の部位よりも下流側に流れる血流を阻害し,それによっ て筋肉に疲労を生じさせ,筋肉の効率的な増強を図ることを目的とするも のである(【0003】,【0004】,【0009】,【0010】)から,甲 1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に繰り返す圧力調整手段 を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締具が所定の部位に与え る締付け力について,自然締付け力による加圧力も付与しない状態にして 血流を阻害しないようにする構成とする動機付けがあるとはいえない。\nなお,原告は,甲2発明は,筋肉トレーニングの方法を応用することに よって動脈硬化,つまり,血管のメタボリック症候群状態を改善すること を目的としており,血管を強化する方法の1つを示している旨主張してい るところ,上記主張の趣旨は明らかではないが,要するに,甲2発明にお いて筋肉トレーニング方法を応用することで血管強化も実現できること が示されている以上,本件発明3と同じ緊締具,加除圧制御装置及び加除 圧制御システムが用いられている甲1−3発明において,血管強化も実現 するために,除圧工程により加圧動作によって付与された加圧力が完全に 除去された状態において特定部分を締め付ける加圧力が付与されていな い構成にすることは,設計的事項であると主張するものと解される。\nしかし,甲2の発明の詳細な説明には,「メタボリック症候群は,・・・動 脈硬化,心筋梗塞,或いは脳卒中を起こしやすい状態である」(【0005】) との記載があるのみで,メタボリック症候群が動脈硬化の状態にあると記 載されているわけではなく,また,「加圧トレーニング方法は,四肢の少な くとも1つで流れる血流を阻害することによりその効果を生じさせるも のである・・・加圧トレーニング方法を,メタボリック症候群の治療に用い ようとした場合には,・・一般的には中高年であるメタボリック症候群の患 者は血管の強度,柔軟性が低下していることが多いため,四肢の付根付近 の締付けを行うことにより四肢に与える圧力の制御に最大限の注意が必 要である」(【0007】),「加圧トレーニングは,・・・四肢の付根付近の所 定の部位を締付けて加圧することにより,四肢に血流の阻害を生じさせ, それにより運動したのと同様の効果を生じさせるものである。・・・しかし ながら,メタボリック症候群の患者のような,血管の強度,柔軟性が低下 している者の四肢を締付ける場合には,動脈まで閉じさせるような大きな 圧力を与えることは適切ではない。他方,静脈をある程度閉じさせるよう な圧力で締付けを行わなければ,メタボリック症候群の患者の治療を十分\nには行うことができない。そこで,本願発明における治療システムでは, 四肢の付け根付近の締付けを本格的に行う通常処理に先立って前処理を 行い,その前処理で,四肢の付根付近を締付ける際に与える適切な圧力と しての最大脈波圧を特定することとしている。・・・本願発明の治療システ ムは,メタボリック症候群の患者を含む血管の弱い者の治療に適したもの となる。」(【0009】)との記載がある。そうすると,甲2発明は,加圧 トレーニング方法の機序を応用した,血管の弱いメタボリック症候群の患 者に対する治療装置等に関する発明であって,血管強化方法に関するもの ではないというべきであるから,甲2に血管強化方法が開示されていると の原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,その他の点につき判断 するまでもなく,この点に関する原告の主張は理由がない。
イ また,原告は,甲6には,ベルト(あるいはカフ)を外すことにより締 付け力を皆無にする方法が記載されているところ,本件発明3においては, 「自然締付け力」を皆無にするための付加的な構成要素は示されておらず,\n具体的な方法すら示されていないから,ベルトを単に緩める,あるいは外 すという方法もその「自然締付け力」を皆無にする方法として本件発明3 に包含されている旨主張する。 上記主張の趣旨は明らかではないが,甲6に記載されたベルトを外すこ とにより締め付け力を皆無にするという技術事項を,自然締め付け力によ る加圧力を付与しない方法として甲1−3発明に適用すれば,本件発明3 の相違点2の構成に容易に想到するというものと解される。\n しかし,そもそも甲1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に 繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締 具が所定の部位に与える締付け力について,自然締付け力による加圧力も 付与しない状態として血流を阻害しない状態とする構成にする動機付け\nがあるとはいえないことは前記アのとおりである。 また,甲6には,1)「(バラコンバンドの効能)・・・2.血管内を清掃し 血管にも弾力がでる。バンドを強く締めると,そこで血流が止まる。心臓 からは絶え間なく血液は送られてくる。血液は,バンドの所で滞留し,血 量はその部で倍加される。バンドをはずすと,血は倍の速力で血管内を流 れる。その時血管壁を掃除し,動脈硬化を治し,血管そのものも弾力がで る。」(74頁7行目〜75頁5行目),2)「足裏指巻き ●まず親指と第2 指の間を通してかかとにひっかけ,次に第2指と第3指を通して,またか かとへ巻き,指の間を通した余りで足の甲をこの停止部分にバンドを巻く。 一つでも関節を越したほうがよく効くので,手の場合なら肘の下の二つの 腕にバンドを巻くといい。(肘の上から巻き込んでいてもかまわない)きつ めに巻いて我慢できなくなったらはずそう。すると,ダムの水門を開いた ように,血液がどっと流れ込み,これまで充分にいきわたっていなかった ところまで勢いよく入り込む。」(120頁上段8行目〜121頁2行目) との記載があるが,これらは,血流を一時的に止めた後にバンドを外した 場合の効果が記載されているに止まる。したがって,これらの記載に基づ き,緊締具を付けたままの状態で,「ガス袋120へ空気を送って締付け部 位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位 への加圧を行わない下ピークと,を繰り返す加除圧方法」を採用する甲1 −3発明に,下ピークにする度に緊締具(甲6でいえば「バンド」)を外し, 上ピークにする前にこれを付け直すような変更を施すことは想定できず, この点からも,甲1−3発明に甲6に記載された事項を適用する動機付け はない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10140 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月16日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

ア 本件発明1の「利用者データベース」について
(ア) 前記第2の2の特許請求の範囲の記載のとおり,構成要件1Bの「利\n用者データベース」は,管理コンピュータ側に備えられるものであり, 「監視端末側に対して付与されたIPアドレスを含む監視端末情報」が, 「利用者ID」に「対応付けられて登録」されているものと規定されて いる。 また,管理コンピュータ側は,「利用者の電話番号,ID番号,アド レスデータ,パスワード,さらには暗号などの認証データの内少なくと も一つからなる利用者IDである特定情報」を入手し(構成要件1Di),\n「この入手した特定情報が,前記利用者データベースに予め登録された\n監視端末情報に対応するか否かの検索を行」い(構成要件1Dii),「前 記特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合,…この抽出された 監視端末情報に基づいて監視端末側の制御部に働きかけていく」(構成\n要件1Diii)と規定されている。 そうすると,特許請求の範囲の記載からは,「利用者データベース」 は,記憶媒体の種類や構成等の限定は付されていないものの,入手する\n特定情報から,あらかじめ登録された監視端末情報を検索することがで き,入手した特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合に当該監 視端末情報に含まれるIPアドレスを抽出し得る程度に,IPアドレス を含む監視端末情報が利用者IDに「対応付けられて登録されている」 ものと理解することが相当である。
(イ) そこで,次に,本件明細書の記載をみると,前記1のとおり,本件発 明の実施例において,「利用者データベース」は,磁気ディスクや光磁 気ディスクからなる記憶装置35に記憶され,利用者の電話番号,ID 番号,アドレスデータ,パスワード,暗号,指紋等を基にした利用者を 識別可能な符号である利用者IDに,該利用者の暗証番号並びに該利用\n者が監視したい場所に設置されている監視端末に付与されているIPア ドレスを対応付けているものであり(【0020】,【0021】,【図 5】),利用者の認証の際に参照されるとともに,利用者がアクセス可 能な監視端末のグローバルIPアドレスを検索抽出するために参照され\nるものとされている(【0026】,【0029】,【0030】,【図 7】)。 本件明細書の記載によっても,「利用者データベース」は,利用者を 識別できる情報(「利用者ID」)に,当該利用者が監視したい場所に 設置されている監視端末に付与されたグローバルIPアドレス(「監視 端末情報」)が検索できる程度に対応付けられることを要するものと理 解される(なお,実施例における記憶媒体の種類は単なる例示であるこ とが明らかであるから,やはり,本件発明1において,「利用者データ ベース」の記憶媒体の種類や構成等に限定が付されたものと理解するこ\nとはできない。)。
(ウ) 以上からすると,本件発明1の「利用者データべース」は,利用者を 識別できる情報に監視端末側に付与されたIPアドレス等の情報が,検 索できる程度に対応付けられて登録されていることを要するものの,そ れで足り,記憶媒体の種類や構成等が具体的に限定されているものでは\nないと解されるが,利用者を識別できる情報とIPアドレスが関連性な く記憶され,両者がシステム動作中に単にあい続いて利用されているだ けの関連性しか有しない場合には,前記(ア)において説示した意味合い において,当該監視端末情報に含まれるIPアドレスを抽出し得る程度 に,IPアドレスを含む監視端末情報が利用者IDに「対応付けられて 登録されている」ものということはできないから,「利用者データベー ス」が構成されているとはいえないと解するのが相当である。\n

◆判決本文

こちらは原告被告の同じ関連事件です。

◆令和1(行ケ)10141

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10073  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月24日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

(1) 一致点及び相違点
上記1及び2によれば,本件各発明と甲1発明との一致点及び相違点は, 本件審決が認定したとおり(前記第2の3(2)イ)であると認められる(なお, 以下において,「医療情報取得情報」とは,患者の医療情報を取得するため に,端末装置から取得され,又は情報処理装置の記憶部にあらかじめ記憶さ れた情報をいう。)。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,甲1発明の「ベッドサイド端末識別子」は患者名を取得するた めの識別情報であり,本件発明1の「第1識別情報」に相当するから,相 違点1−1は存在しない旨主張する。 しかしながら,本件明細書1及び甲1公報の記載内容からすれば,本件 発明1の「第1識別情報」は,患者ごとに付された患者ID等であるのに 対し,甲1電子カルテサーバの「ベッドサイド端末識別子」は,ベッドサ イド端末ごとに付されたIPアドレス等であり,両者が識別する対象は異 なるというべきである。また,甲1電子カルテサーバの「ベッドサイド端 末識別子」は,患者IDと関連付けられて記憶されることによって初めて 患者を識別する情報として用いることが可能となるにすぎないものであ\nり,それのみによって直接に患者が識別されるものではない。 これらの事情を考慮すると,本件発明1の「第1識別情報」と甲1電子 カルテサーバの「ベッドサイド端末識別子」とは,異なる概念であるとい うべきであるから,相違点1−1を認定することができる。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ なお,原告が主張する相違点は,上記相違点1−2と実質的に同じ内容 である(原告が指摘するとおり,相違点1−2の第2段落及び第3段落は, 第1段落に伴って形式的に生じる相違点にすぎない。)。

◆判決本文

こちらは関連発明です。

◆令和2(行ケ)10074

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明
 >> 相違点認定
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月22日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。争点は相違点が設計事項か否かです。

 前記のとおり,相違点1は,切削ローラの路面に対する高さを調節する ための機構に関するものであるところ,相違点2は,切削ローラの移動方\n向を踏まえた切削ローラ及びこれを支持する切削ローラハウジングとフ レームとの支持構造に関するものであり,また,相違点3は,切削ローラ\nに一体化された切削ローラ駆動ユニットの可動方向を踏まえた同ユニッ トの支持構造に関するものである。\nそうすると,これらは相互に密接に関連するものといえるから,相違点 1ないし3の容易想到性については,併せて判断するのが相当である。
イ そこで検討するに,上記2(1)のとおり,検甲1発明においては,切削ロ ーラ及び切削ローラと一体化した駆動部がハウジング部に支持され,ハウ ジング部は,上下方向変位用の油圧シリンダが取り付けられた2つの棒状 ガイド及び4本の連結棒を介してフレーム部に支持されているところ,切 削ローラの路面に対する高さの調節に関しては,切削ローラを油圧シリン ダ等の駆動機構によって垂直方向に移動させる構\成が採られている。 これに対し,本件発明1においては,上記1(3)のとおり,切削ローラ及 び切削ローラハウジングが上下方向及び進行方向に機械フレームに強固 に支持されているところ,切削ローラの路面に対する高さの調節に関して は,切削ローラを車体の上下動によって垂直方向に移動させる構成が採ら\nれている。
そして,本件優先日時点において,これらの方法以外に,自走式道路切 削機における切削ローラの路面に対する高さを調節する方法があったこ とをうかがわせる証拠は存しないから,当業者としては,上記2つの方法 のいずれかを採るほかなかったものといえる。そうすると,これらの方法 のいずれを採るかは,当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎないという べきである(なお,切削ローラを上下させるために,油圧シリンダ等によ り切削ローラそのものを垂直方向に移動させることは誰しも思いつくと ころであるといえるし,また,上記3(1)ないし(3)によれば,甲6文献な いし甲8文献には,いずれも,自走式道路切削機における切削ローラの路 面に対する高さを調節する方法として,車体の上下動を用いる構成を採る\nことが記載されていることからすれば,本件優先日当時の自走式道路切削 機の技術分野において,同構成は,周知の技術であったといえる。したが\nって,これらの2つの方法のうちいずれかを採用することには技術的創意 を要するから設計事項には当たらないなどといった議論は成り立たな い。)。 これらの事情を考慮すると,検甲1発明において,相違点1に係る本件 発明1の構成を採ることは,容易に想到し得るものであったといえる。\n
ウ また,検甲1発明において,切削ローラの路面に対する高さを調節する 方法として,上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成に代えて,車体\nの上下動を用いる構成を採る場合には,ハウジング部を垂直方向に移動さ\nせるための機構であった同油圧シリンダが不要となるところ,同油圧シリ\nンダが設置されていた棒状ガイドとフレーム部との間に,敢えて新たな別 の部材を設置する必要はない。そうすると,当業者としては,棒状ガイド をフレーム部で直接支持するような構造を採ろうとするのが自然な技術\n的発想であるといえる。
そして,上記のように,検甲1発明において,棒状ガイドをフレーム部 で直接支持するような構造を採る場合には,切削ローラ及びハウジング部\nは,横断方向にのみ移動することができるようにすればよいのであって, 敢えてこれらを垂直方向又は進行方向にも移動することができるように する必要はない。そうすると,当業者としては,切削ローラ,ハウジング 部及び切削ローラと一体化した駆動部を,垂直方向及び進行方向に移動し ないように,垂直方向及び進行方向にフレーム部で強固に支持し,進行方 向に対して横断方向にのみ変位可能に支持する構\造を採ろうとするのが 自然な技術的発想であるといえる。
エ 以上によれば,検甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の構成\nを採った場合には,必然的に,相違点2及び3に係る本件発明1の構成を\n採ることとなるというべきである。 したがって,検甲1発明において,相違点2及び3に係る本件発明1の 構成を採ることは,相違点1と同様に,容易に想到し得るものであったと\nいえる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 相違点認定
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月20日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項の追加、および実施可能要件違反であるとした審決が維持されました。

 本件補正によって,当初明細書等の段落【0002】,【0008】及び【0 010】に追加された事項並びに図3〜8には,本願発明の原理に関する事項が記 載されているところ(甲9),これらの事項は,当初明細書等には記載されておらず (甲4,16),また,自明な事項ということもできないから,新規事項を追加する ものといえる。 したがって,本件補正は,当初明細書等に記載された範囲内においてするものと はいえず,特許法17条の2第3項に違反するものである。
(2) 原告は,本件補正は,先行技術文献に記載された内容を「発明の詳細な説 明」の【背景技術】の欄に追加する補正であると主張する。 しかし,本件補正は,「高周波超伝導電磁エンジンは,磁石となるループと超伝導 磁石を重ね合わせたものである。二つの磁石は離れないように固定する。その二つ の磁石の中の一つは,常伝導の磁石である。但し,この常伝導の磁石は一回巻きで 芯が無く,高周波数かつ低電圧の脈流を流す。脈流の周波数は,その波長がループ の一周の長さと一致する程度の高周波数とする。もう一つの磁石は,超伝導磁石で あり,超伝導状態となるので永久電流が流れる。磁石と磁石を重ねたので,磁石と 磁石の間には,図3で上下方向の矢印で表した反発力もしくは吸引力(どちらも磁\n力)が生じる。しかし,この特殊な構造ゆえに生じる打消しの力により,図4のよ\nうに,超伝導磁石に働く反発力もしくは吸引力は打ち消される。従って,常伝導磁 石に働く反発力もしくは吸引力のみが残り,これを推進力として利用する」,「図8 のように,脈流の周波数は,その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周 波数としているので,高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には,各瞬間におい て,脈流により生じるローレンツ力がゼロの部分がある。これにより,電磁力の偏 りが生じる。よって,この電磁力の偏りのために,運動量秩序に従った動きを電子 対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことが できないので,重心運動の運動量に変化せずに,各超電子の散乱を通じて,最終的 には熱エネルギーとして外部に放出される。超伝導磁石の超電流を構成する電子対\nの重心運動が生じないので,超伝導磁石に働く電磁力(ローレンツ力)は磁力となら ず,超伝導磁石の磁力は打ち消された形となる。その結果,常伝導のループに働く 電磁力,即,磁力だけが残り,これを直線的運動エネルギーとして利用できる。」と の記載及び図4,8(以下「本件追加部分」という。)を加えるものであるところ, 本件追加部分は,特許文献1の記載の一部及び甲2文献の記載の一部から成るもの である。当初明細書等には,特許文献1及び甲2文献が先行技術文献として記載さ れているものの,それのどの部分を引用するかは記載されておらず,上記各文献を 見ても,それから直ちに本件追加部分を把握できないことからすると,本件補正は, 新規事項を追加するものということができる。
(3) 原告は,本願発明の原理は,甲2文献に記載されているところ,甲2文献は 出版されてから年数が経過しているため,上記原理は技術常識となっていると主張 する。 しかし,本願発明の原理が甲2文献に記載されており,甲2文献が出版されてか ら相当の年数が経過していたとしても,それだけで,本願発明の原理が技術常識と なっていたと認めることはできない。
(4) したがって,本件補正が,特許法17条の2第3項に違反するとした本件 審決の判断に誤りはない。
3 実施可能要件違反について\n
(1) 本願発明は,磁気シールドで半分程度を覆った「超伝導磁石」に対して固 定された位置にあるループに直流電流を流して,同ループに電磁力を発生させ,「超 伝導磁石」の永久電流に働く電磁力を無効とすることにより,ループに発生する電 磁力を推進力,制動力,浮力として利用するというものであるところ,当初明細書 等には,「超伝導磁石」の永久電流に働く電磁力を無効とすることにより,ループに 発生する電磁力を推進力,制動力,浮力として利用する原理についての説明が記載 されておらず,また,このような原理が技術常識であるということもできない。 なお,本件補正によって追加された事項では,上記の原理について説明されてい るが,磁石となるループと超伝導磁石を固定した場合,仮に,超伝導磁石に働く磁 力が常伝導ループに働く磁力より小さいとしても,互いに固定された超伝導磁石と ループ間の力は,作用・反作用の法則によって釣り合うことになり,結局,本願発 明の装置を動かす力は発生しないと考えるのが自然であるから,本件補正後の明細 書及び図面を前提としても,本願発明の原理について,当業者が理解し実施できる 程度に裏付けがされているとはいえない。この点について,原告は,作用・反作用 の法則が保障するのは,超伝導磁石に働く電磁力と常伝導ループに働く電磁力が釣 り合うことまでであり,発生した電磁力がそのまま磁力となって,釣り合うことま では保障しないと主張するが,上記のとおり,作用・反作用の法則により,超伝導 磁石に働く力と常伝導ループに働く力は釣り合うと解されるから,原告の上記主張 は理由がない。 また,原告は,本願発明の原理を利用して製造されたストレンジクラフトが存在 すると主張して,その証拠として写真集「ストレンジクラフトの写真」(甲3)を提 出するところ,甲3には,飛行する物体を撮影した写真が掲載されているものの, 同物体が,本願発明の原理を利用したものであると認めるに足りる証拠はないから, 原告の上記主張は理由がない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> 実施可能要件
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10032  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所

 引用文献1との一致点の認定が誤っているとして、進歩性無しとした審決が取り消されました。

 これに対し,被告は,前記第3の1(2)ア(ア)のとおり,甲1発明におい ては,撮像装置を光軸まわりに回転させる方向が「ロール方向」の傾きで あることは技術常識であるから,表示部の回転した角度である「天地方向\nの向き」,すなわち「天地方向の情報を示す矢印の角度」が「ロール方向の 傾き」であると主張する。 しかし,「画像撮像装置1000が,右に30度傾いた状態である場合の, 報知画像600Aを示す図」である図13の「矢印512」は,「天地方向 の情報を示す」(【0112】)ものであるところ,「天地方向算出手段22 2は,傾斜測定部250が算出した重力加速度の方向と大きさに基づいて」 天地方向を判定し(【0079】,【0087】,【0088】,【0107】), 「傾斜測定部250」は,直交する2軸の重力加速度センサーが,【007 2】の式(3)で求められる,「方向D303と水平面P302とが成す角度」 (【0069】)であるθの値を算出し,平面P302の傾斜度を測定する (【0073】,【0074】)ものである。そして,前記(1)ア(イ)のとおり, こうした直交する2軸の重力加速度センサーと水平面との角度がなす傾 斜度により判定される角度は,光軸が水平面と平行である場合を除き,撮 像装置を光軸まわりに回転させる方向の傾きの角度とは異なるから,「矢 印512」で示される「天地方向の情報を示す矢印の角度」が「ロール方 向の傾き」であるということはできない。
イ また,被告は,前記第3の1(2)ア(イ)のとおり,甲1発明は,第1傾斜 度及び第2傾斜度の両方に基づいて画像撮像装置の前後方向の傾き,すな わち,ピッチ方向の傾きを検出するものといえる旨主張する。
確かに,甲1には,1)天地方向算出手段222は,第1傾斜度及び第2 傾斜度のいずれかが所定値A(例えば,30〜60の範囲の値)以上であ るか否かを判定(ステップS120)し(【0105】),所定値A以上であ れば,天地方向算出手段222が,傾斜測定部250が測定した第1傾斜 度及び第2傾斜度に基づいて画像撮像装置1000の天地方向の算出を 行い(【0107】),制御部が画像撮像装置1000の天地方向の算出結果 に基づく情報を表示した報知画像を生成し,表\示部150に表示する(【0\n108】),2)ステップS120において,所定値A未満であれば,天地方 向算出手段222が傾斜測定部250が測定した第1傾斜度及び第2傾 斜度に基づいて,画像撮像装置1000の天地方向の算出を行う(【011 8】)ところ,図14のように画像撮像装置1000が水平面に対して平行 である場合,天地方向算出手段222は,傾斜測定部250が測定した第 1傾斜度及び第2傾斜度に基づいて画像撮像装置の天地方向の判定はで きない(【0119】)が,画像撮像装置が図14の状態になる前に必ず第 1傾斜度及び第2傾斜度のいずれかが所定値A以上(ステップS120に おいてYESの場合)の状態にあり,天地方向が判定できる状態にあって (【0121】),傾斜度及び天地方向が記憶(ステップS126)する処理 が行われており(【0122】),こうした場合,天地方向算出手段222は, 記憶されている傾斜度データ及び天地方向のデータの少なくとも一方に 基づいて画像撮像装置1000の天地方向の判定を行い(【0123】),こ の算出結果に基づく情報を報知した報知画像を表示部150に表\示させ る(【0124】),3)【図16】は,画像撮像装置1000が水平面P30 2に対し平行である場合の報知画像を示す図である(【0126】)ことが それぞれ開示されている。
しかし,天地方向算出手段222は,傾斜測定部250が算出した重力 加速度の方向を大きさに基づいて天地方向を判定し(【0079】,【008 7】,【0088】,【0107】),画像撮像装置に内蔵された2軸の重力加 速度センサーである傾斜測定部250は,【0072】の式(3)により求め られる重力加速度センサーと水平面とが成す角度θ(D301,303と 同じ軸上にある重力加速度センサーと水平面P302とが成す角度)の値 を算出することによって傾斜度を測定するものであるから,甲1で測定さ れる第1傾斜度及び第2傾斜度は,撮像装置の水平軸が水平面と平行であ る場合を除き,撮像装置を水平軸周りの傾き度合いであるピッチ方向の傾 きを算出するものではないことは前記(1)イ(イ)のとおりである。また,【図16】について,画像撮像装置の水平軸が水平面と平行であることを前提として,画像撮像装置を水平軸周りに前後に回転(変位)させて画像撮像装置が水平面P302に平行になった状態であると仮定したとしても,上記の開示事項からは,「画像撮像装置が水平面に対し平行である場合」かどうかの判定に際し,第1傾斜度及び第2傾斜度が用いられる ことは読み取ることができるものの,ピッチ方向の傾きを検出し,判定に 用いることを開示しているとはいえない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)3461  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟

 分包紙ロールのロールを販売する行為は間接侵害に該当すると判断されました。実施料率は立証がなく被告が自白した3%が認定されました。

 ア これまで検討したところによれば,原告製の使用済み紙管を保有する者は, 被告製品と合わせることで一体化製品を生産できること,一体化製品は本件特許の 技術的範囲に属すること,被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いられる物であ ることが認められるから,業として被告製品を製造,販売することは,特許法10 1条1号の間接侵害に当たるというべきである。 この点について被告らは,原告製品の購入者は,紙管に分包紙を合わせて買い受 けたものであるところ,本件発明の本質は紙管部分にあるから,分包紙を費消した としても原告製品の効用は終了せず,分包紙の交換は,製品としての同一性を保っ たまま,通常の用法における消耗部材を交換することにすぎないから,原告は,原 告製品の購入者に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることができない旨を主 張する(消尽の法理)。 これに対し原告は,使用済み紙管については原告が所有権を留保しており,一体 化製品の生産は特許製品の新たな製造に当たるとして,消尽を否定し,間接侵害の 成立を主張する。
イ そこで検討するに,本件発明の実施品である原告製品を原告より取得した利 用者がこれに何らかの加工を加えて利用した場合に,当初製品の同一性の範囲内で の利用にとどまり,改めて本件特許権行使の対象にはならないとすべきか,特許製 品の新たな製造にあたり,本件特許権行使の対象となるとすべきかは,当該特許製 品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総 合考慮して判断すべきものである(最高裁判所平成19年11月8日第一小法廷判 決・民集61巻8号2989頁参照)。 本件発明は,分包紙ロールの発明であって,紙管と,紙管に巻き回される分包紙 から成るものであり,紙管についてはこれに設ける磁石の取付方法に限定があるの に対し,分包紙については,紙管に巻き回す以上の限定がないことは,既に述べた ところから明らかである。
しかしながら,証拠(甲5の1,2,甲23,乙11,12)及び弁論の全趣旨 によれば,分包紙ロールの価格は分包紙の種類によって決められていること,原告 製の使用済み紙管については,相当数が回収されていることが認められるのである から,本件特許の特徴は紙管の構造にあるとしても,原告製品を購入する利用者が\n原告に支払う対価は,基本的に分包紙に対するものであると解されるし,調剤薬局 や医院等で薬剤を分包するために使用されるという性質上,当初の分包紙を費消し た場合に,利用者自らが分包紙を巻き回すなどして使用済み紙管を繰り返し利用す るといったことは通常予定されておらず,被告製品を利用するといった特別な場合\nを除けば,原告より新たな分包紙ロールを購入するというのが,一般的な取引のあ り方であると解される。 また,一体化製品を利用するためには,利用者は,使用済み紙管の外周に輪ゴム を巻いた上で,これを被告製品の芯材内に挿入しなければならないが,これは,使 用済み紙管を一体化製品として使用し得るよう,一部改造することにほかならない。 そうすると,分包紙ロールは,分包紙を費消した時点で,製品としての効用をい ったん喪失すると解するのが相当であり,使用済み紙管を被告製品と合わせ一体化 製品を作出する行為は,当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たる というべきであり,消尽の法理を適用すべき場合には当たらない。
ウ なお, 原告は,利用者との合意により,使用済み紙管の所有権は原告に留保 されていると主張するところ,証拠(甲3,17ないし21,23,25)によっ ても,使用済み紙管を原告に返還すべきこととされている取引の実情が認めるにと どまり,利用者との間で所有権留保についての明確な合意が存在するとまでは認め られないが,前記イで検討したところによれば,使用済み紙管の所有権の所在は, 上記結論を左右するものではない。
エ 以上検討したところによれば,使用済み紙管と被告製品を合わせて一体化製 品を作出すれば,新たな特許製品の製造に当たり,一体化製品の生産にのみ用いる 被告製品を業として製造,販売することは,特許法101条1号の間接侵害に当た るというべきである。
・・・・
原告は,前記認定した被告日進の利益率が約27%であることから,被告O HUと被告セイエーの利益率も同程度と推認されること,被告日進の原価率が約7 0%(被告OHUより4203万8700円で仕入れ,5952万4536円で販 売。)であることから,被告OHUの原価率も同程度と推認されること(被告日進 に4203万8700円で売った物は,被告セイエーより2942万7090円で 仕入れた。その27%が被告セイエーの利益。)と主張する。 しかしながら,原告において共同不法行為が成立すると主張する被告らの関係に おいて,被告セイエー,被告OHU,被告日進,顧客と被告製品が流通する過程に おいて,各段階で高い利益を確保することができる場合もあれば,最終の被告日進 から顧客に至る段階で利益を確保しようとする場合もあり得るところ,本件におい て,前者の取引形態であったことを示す証拠,あるいはそれを示唆するような事実 は何ら示されていない。
原告が推認する利益率,原価率をあてはめた場合,被告日進の販売額の約6割の 金額を,グループとしての被告らは利益として確保したことになり,高額に過ぎる と解されると同時に,被告セイエーが負担した製造原価以外には,被告OHUも被 告日進も,控除すべき費用をほとんど負担していないことになる。 以上によれば,被告らの利益率がすべて27%であり,被告OHUの原価率は被 告日進と同様に70%と推認される旨の原告の主張は採用できないというべきであ る。 本件において,被告セイエーが負担した製造原価等の経費,被告OHUの被 告セイエーからの仕入額,被告OHUが負担した経費については,主張,証拠共に 開示されていないが,これは被告らが開示するよう求められつつこれを拒んだので はなく,原告が,訴状(平成30年4月20日付け)の段階では,被告セイエー及 び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%の利益を有する旨を主張し,損 害論の審理に入る際の訴えの変更申立書(令和2年1月27日付け)においても,\n被告セイエー及び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%相当の利益を有 していると主張したため,被告らにおいてこれを争わず,被告セイエーらの経費等 に関する主張,証拠を提出しないままに終わったという審理の経緯によるものであ る。
原告は,被告らが被告日進の売上及び経費に関する主張,証拠を提出した後の訴 えの変更申立書(2)(同年11月13日付け)に の推認を主張したところ,被告らは,被告セイエー及び被告OHUの利益が被告日 進の売上の3%であることについては,裁判上の自白が成立している旨を主張した ものである。
以上の経緯を前提に検討すると,原告の訴状,訴えの変更申立書の主張は,\n被告日進の売上高が確定する前になしたものであるから,具体的な金額についての ものではなく,裁判上の自白が成立するとはいい難い。 他方,被告らの利益率をいずれも27%,被告セイエーの原価率を70%と推認 することについては,具体的な根拠に乏しく,被告セイエー及び被告OHUが負担 した経費等が開示されておらず,これに基づいて被告らの利益を算定できないこと について,被告らを責めるべき事情は存しない。 以上の審理の経過を踏まえ,原告が訴状の段階から訴訟の最終の段階に至るまで, 被告セイエー及び被告OHUの利益は被告日進の売上の3%とする主張を維持し, 被告らもこれを争わずに来たこと,他に依拠すべき算定方法がないことを考慮し, 弁論の全趣旨により,被告セイエー及び被告OHUが被告製品の製造,販売によっ て得た利益は,被告OHUにつき被告日進の売上の3%である178万5736円, 被告セイエーにつき,同金額から, のとおり,返品等分の製造原価とし て11万3925円を控除した167万1811円と認めるのが相当である。
(3) 推定の覆滅
これまで検討したところによれば,薬剤分包装置を業務上使用するためには薬剤 分包紙が必須であるから,同装置の利用者は,定期的に自己の保有する薬剤分包装 置に適合した分包紙ロールを購入することとなる。そして,被告製品は,使用済み 紙管の外径とほぼ一致する内径を持つ分包紙ロールであり,被告らが一体化製品を 作出して原告装置において使用できることを明示していたこと,市場に存在する原 告製品又は被告製品以外の主な分包紙ロールがこれと異なる寸法の内径を持つもの であることは前記3(1)ウのとおりであるから,需要者は,原告製の分包紙の代替と して被告製品を購入していたものと考えられる。 原告は,本件発明の技術的範囲に属する原告製品の製造,販売を独占できる立場 にあり,被告製品が市場に存在しない場合には,需要者は値段にかかわらず原告製 品を購入したものと考えられるから,被告製品の価格がこれに比べて有利であるこ とは,特許法102条2項に基づく前記(1)の推定を覆滅するものではない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 消尽
 >> 間接侵害
 >> のみ要件
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> 102条3項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)36690  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月15日  東京地方裁判所

 実施料率0.01%の980万円の不当利得があると認定されました。損害賠償は時効と判断されて、不当利得の返還を求めました。判決に目次があり、目次だけでほぼ3ページあります。

(1) 消滅時効の成否
前記前提事実(2),(6)ないし(8)のとおり,本件特許の登録は平成22年7 月30日にされており,被告各製品の製造,販売は同年12月から平成23 年9月の期間に行われたものであったところ,原告は,平成24年1月9日 頃,被告による被告各製品の製造,販売が別件特許権の侵害に当たる等とし て,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求を求める別件訴訟を提起し, 平成25年8月2日に別件判決が言い渡された。 そして,証拠(甲4,5,乙1,5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は, 別件訴訟の審理を通じて,遅くとも別件判決の言渡日である平成25年8月 2日までには,被告各製品の具体的な構成について本件の訴状で記載した程\n度には認識していたものと認められる。 したがって,本件の主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権に ついては,原告が遅くとも同日までにその損害及び加害者を知ったものと認 められるから,改正前民法724条前段の3年の時効期間は同日から進行し, 平成28年8月2日の経過をもって,本件訴訟提起前に消滅時効が完成した ものと認められる。
・・・
ウ 実施料率の認定
(ア) 前記イ(ア)ないし(ウ)によれば,1)実際の実施許諾契約における実施料 率,業界における実施料の相場等について,次の点を指摘することがで きる。 本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また, 業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率 〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。こ のような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場 等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許 諾契約の内容を参考とするのが相当である。 そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する 標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位 での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,その うち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセン ス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成2 2年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規 格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当 たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5 「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出 した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。 なお,上記陳述書における被告従業員の説明によれば,これらのライ センス契約のうち,C社を含む一部の会社との間の契約においてはクロ スライセンスの条項が設けられていたところ,前記イ(イ)a(a)によれば, クロスライセンスの存在はライセンス料率を引き下げる要因と考えられ るから,上記の被告従業員の説明に係るライセンス料率についても,ク ロスライセンスによる減額がされていた可能性は否定されない。\n(イ) 前記(ア)の点に加え,前記イ(エ)のとおり,2)本件発明が被告各製品に とって代替不可能なものとは認められず,3)本件発明を実施することに よる被告の利益の程度も明らかではないこと,前記イ(ア)のとおり,4)原 告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での 実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針 としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約 の締結に至ったことはないことといった事情を総合考慮すれば,本件発 明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0. 01%と認めるのが相当である。
エ 被告が返還すべき利得の額
以上によれば,被告が返還すべき利得額は,別紙5「被告各製品の販売 状況」記載の被告各製品の売上高合計980億1770万4000円に実 施料率0.01%を乗じた980万1770円と認められる。

◆判決本文

別件訴訟はこちらです(請求棄却)。

◆平成24年(ワ)237

関連カテゴリー
 >> 賠償額認定
 >> 102条3項
 >> その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10063  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月25日  知的財産高等裁判所

 存続期間延長登録拒絶査定にかかる審決取消訴訟で、裁判所は、延長を認めなかった審決を取り消しました。

 前記(1)で認定した事実関係をもとにして,本件発明の実施に本件処分を受ける ことが必要であったかどうかについて検討する。 ア 特許権の存続期間の延長登録の制度は,政令処分を受けることが必要で あったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的 とするものであるから,本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったか どうかは,このような特許法の存続期間延長の制度が設けられている趣旨に照らし て判断されるべきであり,その場合における本件処分の内容の認定についても,こ のような観点から実質的に判断されるべきであって,本件承認書の「有効成分」の 記載内容のみから形式的に判断すべきではない。このように解することは,最高裁 平成26年(行ヒ)第356号同27年11月17日第三小法廷判決・民集69巻 7号1912頁の趣旨にも沿うものということができる。
イ 前記(1)エで認定した事実からすると,医薬品について,良好な物性と安 定性の観点からフリー体に酸等が付加されて,フリー体とは異なる化合物(付加塩) が医薬品とされる場合があること,そのような医薬品が人体に取り込まれたときに は,付加塩からフリー体が解離し,フリー体が薬効及び薬理作用を奏すること,ナ ルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩についても同様の関係にあり,ナルフラフィ ンとナルフラフィン塩酸塩で薬効及び薬理作用に違いがないことは,本件医薬品の 製造販売の承認申請がされた平成28年3月31日までに,当業者に広く知られて\nいたものと認められる。
ウ 上記イで述べたところに,前記(1)オ,カ,キで認定した事実や前記(1) クの専門家の意見書の内容を総合すると,医薬品分野の当業者は,医薬品の目的た る効能,効果を生ぜしめる作用に着目して,医薬品に配合される付加塩だけでなく,\nそのフリー体も「有効成分」と捉えることがあるものと認められる。
エ 前記(1)ア〜ウのとおり,本件承認書には,「有効成分」として「ナルフ ラフィン塩酸塩」と記載されており,本件添付文書にも「有効成分に関する理化学 的知見」として,「ナルフラフィン塩酸塩」と記載され,その構造式や性状などが\n記載されているが,これは,賦形剤などの製剤補助剤と区別する観点から,実際に 医薬品に配合されている原薬(付加塩)を有効成分として捉えていることに基づく 記載であると解される。これに対し,本件添付文書の「有効成分・含量(1錠中)」 の欄に,「ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)」 と記載されており,本件インタビューフォームには,和名は「ナルフラフィン塩酸 塩」と記載されているものの,洋名については「ナルフラフィン塩酸塩」と「ナル フラフィン」が併記されているし,「有効成分(活性成分)の含量」として カプ セル:1カプセル中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2. 32μg)含有 OD錠:1錠中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィ ンとして2.32μg)含有」と記載されている。そして,前記(1)アのとおり,本 件承認書における●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●同じ く,前記(1)イ,ウのとおり,本件添付文書や本件インタビューフォームにおける, 本件医薬品の「薬物動態」の血漿中濃度や薬物動態パラメータもナルフラフィン塩 酸塩ではなく,ナルフラフィンを測定して得られたものとなっている。
オ 以上のことを考え併せると,本件処分の対象となった本件医薬品の有効 成分は,本件承認書に記載された「ナルフラフィン塩酸塩」と形式的に決するので はなく,実質的には,本件医薬品の承認審査において,効能,効果を生ぜしめる成\n分として着目されていたフリー体の「ナルフラフィン」と,本件医薬品に配合され ている,その原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当 である。 したがって,「ナルフラフィン塩酸塩」のみを本件医薬品の有効成分と解し,「ナ ルフラフィン」は,本件医薬品の有効成分ではないと認定して,本件発明の実施に 本件処分を受けることが必要であったとはいえないと判断した本件審決の認定判断 は誤りであり,取消事由1は理由がある。
(3) 被告の主張について
被告は,原告が本件延長登録出願に当たって,本件医薬品の「有効成分」を「ナ ルフラフィン塩酸塩」と主張していたことや原告が作成した書類(甲83,88, 90)で有効成分をナルフラフィン塩酸塩としていたと主張する。 しかし,本件延長登録出願の経緯は,前記(1)ケ認定のとおりであって,この経緯 に照らして,原告が取消事由1の主張をすることや裁判所が同取消事由1に理由が あると判断することを妨げられる理由はなく,前記(2)の上記判断を左右するもの ではない。また,被告が主張する文書(甲83,88,90)は,本件医薬品の製 造販売の承認申請に向けて作成された文書であるところ、本件医薬品の有効成分は,\n本件医薬品の承認審査の経緯や内容等を踏まえると,実質的にはナルフラフィン塩 酸塩とナルフラフィンの双方と解するのが妥当であるから、本件承認書(甲4,9 6,148)の記載が前記(2)の認定判断を左右しないことと同様に,上記の文書も、 前記(2)の認定判断を左右するものではない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> その他特許
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ワ)2034  損害賠償請求事件  その他  民事訴訟 令和3年1月8日  東京地方裁判所

 被告会社は原告に事業譲渡をしました。原告は競業避止義務違反を理由に事業の中止を求めました。裁判所はこれを認めました。争点は問題の事業が譲渡対象であったか否かでした。

(1) 本件事業譲渡の対象について
本件事業譲渡の対象について,原告は,関東地方に所在する食品加工業者 及び食品工場向けの食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンス の事業等が包括的に含まれると主張するのに対し,被告は,本件事業譲渡の 対象は,旧関東事業部の行っていた食品用機械のメンテナンス及び付属部品, 資材の販売等の事業に限られると主張するので,以下,検討する。 ア 本件事業譲渡契約書第1条には,被告は原告に「関東事業部」を譲渡す る旨の記載があるところ,前記前提事実(第2の1(1)),証拠(甲11, 12)及び弁論の全趣旨によれば,1)被告は,平成23年11月,海外メ ーカー製の食品用機械の輸入及び販売事業等を行うことを目的として,関 東産機事業部を被告所沢事務所内に立ち上げたこと,2)その後,関東産機 事業部の責任者であるAが平成27年に被告を退社したことから,被告所 沢事務所内に同事業部の担当者が不在になり,関東産機事業部が行ってい た事業は,原告代表者を含む旧関東事業部の従業員等が引き継いで行うよ\nうになったこと,3)平成28年から平成29年頃にかけての被告の受注予\n定表は「札幌」と「関東」とで別々に作成されており,関東地方の受注予\ 定表には関東産機事業部と旧関東事業部の区別なく,受注案件の進捗状況\n等が記載されていること,の各事実が認められる。 上記各事実によれば,本件事業譲渡当時,関東産機事業部の活動は事実 上休止状態にあり,被告の関東地方における事業やその営業は,そのほと んどを旧関東事業部が行っていたものと認められ,本件事業譲渡契約書第 1条の「関東事業部」とは,同契約締結当時に旧関東事業部が行っていた 事業,すなわち,被告の関東地方における食品加工業者及び食品工場向け の食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンスの事業を包括的 に含むものと解するのが相当である。
イ また,前記前提事実(第2の1(2))のとおり,本件事業譲渡契約書には, 関東産機事業部に残される資産や契約等についての記載は存在せず,かえ って,同契約書第2条は,被告は,原告に対し,建物付属設備,機械装置, 器具備品等の全てを含む資産,旧関東事業部の敷地及び建物(工場・事務 所)の物品の全てに関する契約,並びに旧関東事業部の行う事業に関する 営業上の秘密,ノウハウ,顧客情報等を含む必要又は有益な全ての情報を 譲渡すると規定されている。 被告は,原告に譲渡した事業には関東産機事業部の事業は含まれないと 主張するが,本件事業譲渡契約書の草案を作成したのが被告であることに ついては当事者間に争いないところ,仮に被告の主張するように関東産機 事業部を事業譲渡の対象としないのであれば,本件事業譲渡契約書におい て旧関東事業部に譲渡する食品用機械や資材等の資産,契約,顧客等と被 告の関東産機事業部に残す資産,契約,顧客等とが区別して規定されてし かるべきであるが,本件事業譲渡契約書においては,関東産機事業部に一 部の資産,契約,顧客情報等を残すことを前提とする記載は存在しない。 そうすると,本件事業譲渡契約書第2条の規定は,被告が,原告に対し, 被告の関東における食品加工業者及び食品工場向けの食品用機械の開発, 製造,加工,販売又はメンテナンスの事業等に関する資産,顧客情報を包 括的に譲渡する趣旨であると解するのが相当である。
ウ さらに,平成28年10月21日に開催された役員会議の議事録(乙1 2)には,本件事業譲渡に関し,被告代表者が「(関東事業部の)事業譲\n渡を考えています。・・・関東事業部の資産価値1,000万円,営業権1,000万円 くらい。Xさんが関東事業部の頭でもあるため,Xさんが関東事業部を買 う形が望ましい。」と発言した旨の記載があると認められるが,同議事録 には,関東産機事業部の事業を譲渡対象としないことやその資産価値につ いての記載は存在しない。 このことに照らしても,本件事業譲渡契約の対象には,被告の関東にお ける食品加工業者及び食品工場向けの食品用機械の開発,製造,加工,販 売又はメンテナンスの事業等が包括的に含まれると解するのが相当であ る。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 不正競争(その他)
 >> その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10107  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年4月14日  知的財産高等裁判所

 商標「ざんまい」が「すしざんまい」と混同するかが争われました。指定商品・役務は「すし」「すしを主とする飲食物の提供」です。審決・判決とも「すしざんまい」は著名、混同する」と判断しました。

 本件商標は,別紙1記載のとおり,「ざんまい」の文字を横書きに書 してなる商標である。本件商標から「ザンマイ」の称呼が生じる。 「ざんまい」の語は,「一心不乱に事をするさま。」(広辞苑第七版)の 意味を有するから,本件商標から,このような意味合いの観念を生じる。 また,前記2(2)ア認定のとおり,「すしざんまい」の表示は,本件商標 の登録出願時及び登録査定時において,被告が店舗展開する「すしざん\nまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く認 識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示する ものとして,著名であったこと,「すし」に関連する登録商標の使用にお\nいては,「すし」又は「寿司」の表示を登録商標の前後に付加して使用す ることが普通に行われており,現に,原告においても,本件商標の「ざ\nんまい」の前に「寿司」の文字を付加した「寿司ざんまい」の商標を使 用していること(前記1(4))に鑑みると,本件商標が指定商品「すし」 に使用されたときは,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店 を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念をも生じるものと 認めるのが相当である。
(イ) 引用商標1は,別紙2記載のとおり,上段に筆文字風で記載された 「つきじ喜代村」の文字を,中段に大きく筆文字風で記載された「すし ざんまい」の文字を,下段に小さくゴシック体で記載された「SUSH IZANMAI」の文字を3段に配した構成からなる結合商標であり, このうち,「すしざんまい」の文字は,引用商標1の中央に他の文字より\nも大きく,かつ,太く記載されており,「すし」の部分は,「し」が「す」 の左下に位置し,縦書きのように記載されている。 そうすると,引用商標1を構成する「つきじ喜代村」の文字部分,「すしざんまい」の文字部分及び「SUSHIZANMAI」の文字部分は,\n外観上,それぞれが分離して観察することが取引上不自然と思われるほ ど不可分的に結合しているものとはいえない。 そして,「すしざんまい」の文字部分の上記構成態様に照らすと,引用 商標1の構\成中の「すしざんまい」の文字部分は,取引者,需要者に対 し,「すしを主とする飲食物の提供」の役務の出所識別標識として強く支 配的な印象を与えるものと認められるから,要部として抽出できるもの と認めるのが相当である。 しかるところ,引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分 及び「すしざんまい」の標準文字からなる引用商標2から,いずれも「ス シザンマイ」の称呼が生じる。 また,前記2(2)ア認定のとおり,「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及び登録査定時においては,被告が店舗展開する「すしざ\nんまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く 認識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示す るものとして,著名であったことに鑑みると, 引用商標1の要部である 「すしざんまい」の文字部分及び引用商標2から,被告が店舗展開する 「すしざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんま い」の観念を生じるものと認めるのが相当である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,本件商標と引用商標1及び2は,外観 及び称呼が異なるが,観念においては,本件商標が指定商品「すし」に 使用されたときは,本件商標から被告が店舗展開する「すしざんまい」 チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念をも生 じるのに対し,引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分及 び引用商標2からも,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店 を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念を生じる点で共通 するものと認められる。
イ 以上のとおり,1)「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及 び登録査定時において,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店\nの名称として,需要者である一般消費者の間に広く認識され,被告の業務 に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示するものとして,著名であ ったこと(前記2(2)ア),2)本件商標と引用商標1の要部である「すしざ んまい」の文字部分及び引用商標2から,いずれも被告が店舗展開する「す しざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の 観念を生じる点で共通すること(前記ア(ウ)),3)本件商標の指定商品であ る「すし」と被告の業務に係る役務である「すしを主とする飲食物の提供」 は,需要者が一般消費者である点で共通し(前記2(1)ア),販売の対象とな る商品又は提供の対象となる商品がいずれも「すし」である点で共通する ことを総合考慮すると,本件商標をその指定商品の「すし」に使用すると きは,その取引者,需要者において,被告が店舗展開する「すしざんまい」 チェーン店の名称として著名な「すしざんまい」の表示を想起し,当該商 品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表\示による商品化事業 を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのよ うに,その出所について混同を生ずるおそれがあるものと認められる。 したがって,本件商標は,引用商標1及び2との関係において,商標法 4条1項15号に該当するものと認められる。 これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(2) 原告の主張について
原告は,1)引用商標1及び2の指定役務「すしを主とする飲食物の提供」 にいう「すし」と本件商標の指定商品「すし」とは,握り寿司等3種類を除 き,「すし」の内容が一致せず,需要者が異なる,2)「すし」の販売にいう「す し」は,弁当と同じような用途であるのに対し,「すしを主とする飲食物の提 供」にいう「すし」の提供は,すし職人と会話を楽しむといった別の要素が あり,極めて人間的であり,しかも,魚の鮮度が勝負であり,鮮度が比較的 短時間で落ちる商品を鮮度の良い状態で提供していること,回転ずしや着席 スタイルのすし店等でも,テイクアウトは行われているが,全体のごく一部 であり,特に着席スタイルのすし店は鮮度にこだわり,テイクアウトは拒否 されるのは周知の事実であることからすると,「すし」と「すしを主とする飲 食物の提供」とは,その性質,用途又は目的において密接な関連性を有する とはいえない,3)原告の業態は,宅配寿司であり,ウェブサイト又は電話に よる注文を受けてから寿司を盛り,スピーディな配達をするというものであ るのに対し,被告の業態は,カウンター方式及び個室方式をとり,会食・接 待・結納などにも利用できる料亭をイメージした落ち着いた雰囲気の個室を 用意しており,テイクアウトはあくまで「お持ち帰り」としての利用であり, 原告の業態と被告の業態が相違するなどとして,本件商標の登録出願時及び 登録査定時において,本件商標をその指定商品「すし」に使用した場合,こ れに接する需要者が引用商標を想起,連想し,当該商品を被告あるいは被告 と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの ように,その出所について混同を生ずるおそれがあるとはいえないから,本 件商標が商標法4条1項15号に該当するものとはいえない旨主張する。 しかしながら,1)については,前記2(1)イで説示したとおり,本件商標の 指定商品「すし」と引用商標1及び2の指定役務「すしを主とする飲食物の 提供」とは,需要者が異なるものと認めることはできない。 2)については,「すしを主とする飲食物の提供」の提供の場所を原告が主張 するような着席スタイルのすし店に限定すべき合理性はない。 3)については,原告が主張する原告の業態と被告の業態の相違は,本件商 標をその指定商品「すし」に使用した場合,これに接する需要者が,当該商 品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を 営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのように,\nその出所について混同を生ずるおそれがあるとの前記(1)の判断を左右するも のではない。

◆判決本文

こちらは関連事件です。

◆令和2(行ケ)10108

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> 誤認・混同
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10159  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月15日  知的財産高等裁判所

 引用文献の認定誤りを理由に、進歩性無しとした審決が取り消されました。

 前記2(1)イのとおり,引用発明は,医師等が観察して診断を行う診断用 画像モニタ装置と離れて,操作者が被検者に対してX線装置のコリメータ やTVカメラの調整等を行う際の被検者及び操作者のX線被爆を避ける ために,X線曝射しない状態でコリメータやカメラの操作ができ,簡単か つ安価で操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供する\nことを目的とするものである。 そして,引用文献1は,こうした課題を解決するために,医師等が観察 する診断用画像モニタ装置とは別に,1対の平行コリメータ位置マーカ2 4,24や円形コリメータ位置マーカ25,カメラ画像正立位置マーカ2 6の画像を,制御ユニット18の制御の下で,X線照射停止直前に撮像さ れ画像メモリ19に格納されたX線透視像を画像と重ねて操作用液晶デ ィスプレイ装置21に表示し,マーカ24,25,26上を指などで触れ\nてドラッグすると,その位置情報が制御ユニット18に取り込まれて演算 されて新たな表示位置が求められ,その位置へ各マーカが動いていくよう\nな表示がされ,この入力情報に応じて制御ユニット18が指令をコリメー\nタ12及びTVカメラ15へ出し,コリメータ12の遮蔽板の位置や方向 が変更され,TVカメラ15の回転角度が調整され,現実に動いた位置・ 方向の情報が制御ユニット18に返され,これに応じて制御ユニット18 が平行コリメータ位置マーカ24,24又は円形コリメータ位置マーカ2 5の表示位置を固定するとともに,表\示されたX線透視像23及びカメラ 画像正立位置マーカ26を回転させる(【0018】,【0019】)という 構成を開示している。\nこのように,引用発明は,あくまで,医師等が観察して診断を行う診断 用画像モニタ装置とは別に,X線被爆を避けるために,X線曝射しない状 態で操作ができ,画像を操作者の手元で表示することができるX線映像装\n置を提供することを目的とするものであって,こうした技術的意義を有す る引用発明において,引用文献1には,操作者が医師等の術者が被検者を 見る方向と異なる方向から被検者を見ることにより,操作者が被検者を見 る方向と操作用画像表示装置に表\示される患部の方向とが一致しないと いう課題(課題B2)があるといった記載や示唆は一切ない。
イ この点につき,被告は,前記第3の2(1)のとおり,当業者であれば,課 題B2の存在を理解し,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置に おいて,「操作者」が異なる方向から被検者に対向する場合,各々の被検者 を見る向き(視認方向)に一致させるという周知の課題(乙3,4)を参 照し,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプ レイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致 させるという課題を当然に把握し,引用発明に技術事項2を適用する動機 づけがある旨主張する。
しかし,当業者であれば,課題B2の存在を当然に理解するという点に ついては,これを裏付けるに足りる証拠の提出はなく,むしろ,原告が主 張するように,術者と操作者との力関係や役割の違いに照らせば,操作者 は,従前は,このような課題を具体的に意識することもなく,術者の指示 に基づきその所望する方向に画像を調整することに注力していたもので あるのに対して,本願発明は,その操作者の便宜に着目して,操作者の観 点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上 げたことに意義があるとの評価も十分に可能\である。
また,乙3には,「本発明の手術用顕微鏡システムでは,前記画像表示手\n段を複数備え,少なくとも一つの画像表示手段で表\示される画像の向きが 変更可能であることが望ましい。このような構\成では,術者と助手とが向 き合って手術する時のように,撮像部分を異なる方向から見る場合におい ても,それぞれの見る方向に応じて画像の向きを変えることにより,撮像 部分を見るのと同じ向きの画像を表示することが可能\となり,より手際の よい手術が行えるようになる。」(【0007】),「本発明の手術用顕微鏡シ ステムは,・・・前記画像処理装置は,各電気光学撮像手段からの撮像信号に 基づいて,基準画像信号を生成して,基準画像を前記画像表示手段に表\示 させる基準画像生成部と,前記各撮像信号に基づいて,基準画像と上下ま たは左右が反転した反転画像信号を生成して,前記画像表示手段に表\示さ せる反転画像生成部とを備えることを特徴とする。」(【0008】)との記 載があるように,術者とそれを補助する術者が向き合って手術をするとき のように撮像部分を異なる方向から見る場合でも,画像表示手段で表\示さ れる画像の向きをそれぞれの見る方向に応じて変更する構成により,撮像\n部分を見るのと同じ向きの画像を表示することが可能\となり,より手際の よい手術が行えるようになるとの課題が示されているにとどまり,術者と X線撮影装置の操作者についてそのような課題があると開示するもので はない。
さらに,乙4には,「本実施例の装置の動作について,図を参照して説明 する。まず,図1において術者Aは第1モニタ4を見て,術者Bは第2モ ニタ7を見て手技を行っている。ここで術者Bは内視鏡2に対向している ので,内視鏡2の原画像をそのまま第2のモニタ7に表示すると,上下左\n右が逆の感覚で見えてしまう。このため,画像処理装置8にて,第2モニ タ7の画面のみを上下左右反転させた倒立像を映し出す。」(【0022】), 「本実施例では,第2モニタ7を倒立像にすることで,術者Bが上下左右 逆の感覚で手技を行うことがないので,スムーズに手技を行うことができ る。また,第1モニタ4及び第2モニタ7のいずれでも倒立像にできるの で,内視鏡2の向きや術者の位置が変わっても,容易に対応できる。」(【0 025】)との記載があるように,術者Aと術者Bがそれぞれ異なるモニタ を見て手技を行う場合において,術者Bが見ている第2のモニタ7に内視 鏡2の原画像を見てそのまま表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてし\nまうという課題が示されているにとどまり,術者とX線撮影装置の操作者 についてそのような課題があると開示するものではない。
そうすると,上記の乙3,4の各文献に記載された課題は,あくまで術 者と助手又は術者と術者がそれぞれ異なるモニタを見ることによって生 じる課題を指摘するにとどまり,術者とは異なる操作者が操作を行うとい う引用発明の場合において,操作者の便宜のために,操作者が見る患部の 向きの方向と,操作者が見る操作用液晶ディスプレイの患部の向きとを一 致させるという課題を示唆するものとはいえないから,当業者がこのよう な課題を当然に把握するともいえない。
(2) また,仮に,引用発明について,前記課題B2の存在を認識し,異なる方 向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の 向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題を 把握して,操作用液晶ディスプレイ装置21に表示されるX線画像のみを回\n転させるという相違点の構成とする動機づけがあると仮定しても,前記2(2) のとおり,技術事項2’は,HMDを装着し操作者を兼ねた術者が見るHM Dの画像表示部に表\示されるX線画像と実際の患者の患部の位置把握を容易 にするために,上記術者の床面上の位置情報に基づいて上記X線画像の回転 処理を行うものであるから,回転処理がされるX線画像はHMDの画像表示\n部であり(引用文献2の【0014】,【0020】,図14等),また,画像 回転処理の基になる位置情報は,床面に設けられた感圧センサによるもので ある(引用文献2の【0022】)。
こうした技術事項2’の構成は,キャビネット43に設置された診断用画\n像モニタ17は術者である医師が使用し,台車41に設けられた操作用液晶 ディスプレイ装置21は撮像装置のセッティング等のために操作者が状況に 応じて自由に移動し,また台車41に様々な立ち位置を取ることができる引 用発明の具体的な構成と大きく異なるものであるから,引用発明と引用文献\n2に記載されたX線装置は同一の技術分野に属し,X線画像を表示する装置\nを有する点で共通するとしても,HMDに表示されるX線画像の回転処理が\n行われるという技術事項のみを抽出して引用発明に適用する動機づけがある とはいえない。 さらに,技術事項2’は,操作者を兼ねた術者が装着したHMDに表示さ\nれるX線透視像を床面の位置情報に基づいて回転させるという構成を有する\nものであるから,こうした構成を無視して,表\示されたX線画像のみを回転 させるという技術事項のみを適用し,本願発明の相違点の構成に想到すると\nはいえない。
(3) 以上によれば,本願発明と引用発明との相違点は,本願発明は「前記X線 画像のうち,前記表示部に表\示されるX線画像のみを回転させる画像回転機 構を備え」ているのに対し,引用発明は,そのような特定がない点に尽きる\nが(本願発明における画像回転機構自体については目新しいものとはいえな\nい。),引用文献1には,「操作用液晶ディスプレイ装置21」を見て操作する 「操作者」の視認方向が「診断用画像モニタ装置17」を見る「術者」の「被 検者」の視認方向と一致しないという課題(課題B2)について記載も示唆 もなく,被告が提出した文献からは,手術中に被検者の患部を表示する画像\n表示装置において,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液\n晶ディスプレイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向) に一致させるという課題があると認めるに足りないから,こうした課題があ ることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとは\nいえず,また,本件審決の技術事項2の認定に誤りがあり,引用文献2に記 載された事項(技術事項2’)から引用発明との相違点の構成に想到するとも\nいえないから,結局のところ,本願発明は,引用発明及び引用文献2に記載 された技術事項2’に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものとはい えず,これと異なる本件審決の判断は,その余の点につき判断するまでもな く,誤りである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)3789  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和3年2月9日  東京地方裁判所

 不競法違反の損害額として覆滅97%の約1800万円の損害が認定されました。

ア 被告商品の売上高について
前記期間の被告商品の売上金額は,11億0573万1572円(消費 税相当額抜き)であった(乙34,弁論の全趣旨)。 もっとも,このうち2251万6179円は未収であり(乙35),結 局,被告商品が販売されて被告が利益を受けたものとはいえないから, 上記売上金額から控除すべきである。また,被告は被告商品の売上げに 係る消費税を納税しなければならないから,税抜金額を売上金額とする。 以上から,前記期間の被告商品の売上高は,別紙損害額の売上高欄記載 のとおり,10億8321万5393円であったと認められる。
・・・
エ 被告が受けた利益の額について
以上から,被告が前記期間に被告商品の販売により受けた利益の額は, 別紙損害額の限界利益欄記載のとおり,合計6億1192万6912円 となる。
(3) 推定覆滅事由について
ア 不正競争防止法5条2項による推定は,侵害者による侵害行為がなかっ たとしても侵害者が受けた利益を被侵害者が受けたとはいえない事情が 認められる場合には,覆滅されると解される。
イ 掲記の証拠によれば,次の各事実が認められる。 被告は,被告商品について,電子商取引サイト等において,本件品質 誤認表示によるオリゴ糖の純度に係る特徴のほか,オリゴ糖が1種類で\nはなく,複数の種類のオリゴ糖を配合していることを強調し,また,被 告商品の原材料が全て動植物に由来するものであり添加物がないことな どの特徴をも大きく取り上げ,妊婦や乳幼児等が摂取しても安全,安心 であるなどと広告宣伝していた。さらに,「実感力」などの言葉を使っ て,584人のアンケート結果によれば,「『毎日すっきり!』実感で きました!」というモニターが76.1%であるなど,多くの者が何ら かの形で便通の効果を実感しているとして,「満足率97.2%」であ るという記載をするなどしていた。(甲10〜16)
被告は,被告商品の購入者に対して,商品を使用した感想,被告の客 対応,他社との違い等を自由に記載する欄を設けたアンケートの葉書を 交付していたところ,それらを記載して被告に返送した回答者928人 のうち,被告商品が「オリゴ糖100%」であることについて言及した ものは6人であった。回答者には,多くの者が便通が改善したことを述 べていた。(乙41,42) オリゴ糖類食品は,オリゴ糖などを組み合わせ,配合することによっ て製造されており,主力製造業者及びその販売する商品としては,原告 商品及び被告商品のほか,塩水港精糖の「オリゴのおかげ」,加藤美蜂 園本舗の「北海道てんさいオリゴ」,日本オリゴの「日本オリゴのフラ クトオリゴ糖」,株式会社明治フードマテリアの「メイオリゴ」,Hプ ラスBライフサイエンスの「オリゴワン」,伊藤忠製糖の「クルルのお いしいオリゴ糖オリゴDEクッキング」,井藤漢方製薬の「乳酸菌オリ ゴ糖」,梅屋ハネーの「梅屋イソマルトオリゴ糖」,正栄の「スッキリ\nオリゴ糖」,ユウキ製薬の「活き活きオリゴ糖」,オリヒロの「オリゴ 糖シロップ」,ビオネの「ビオネ・ビートオリゴ」,日本甜菜製糖の 「ラフィノース100」などがある。これらのオリゴ糖類食品市場にお ける平成25年度から平成28年度及び平成30年度の原告商品の占有 率は,22.8%から26.9%であり,平均約24.4%であった。 上記のオリゴ糖類食品には,その内容や形態,販売態様において様々 なものがあり,例えば,塩水港精糖の販売する「オリゴのおかげ」は, 個包装された顆粒状のもの,シロップ形態のものなどがあり,加藤美蜂 園本舗の販売する「北海道てんさいオリゴ」は天然の甘味料であること をうたった商品であるが,同社は他にシロップ形態の商品も販売してお り,株式会社明治フードマテリアの販売する「メイオリゴ」には,液体, 粉末,顆粒等の各形態が存在する。もっとも,いずれについても,需要 者である一般消費者が,日常の食生活の中で健康に有用な効果作用を発 揮するオリゴ糖を簡便に摂取できる点に商品の意義が認められており, 需要者は,これらの多数の各商品の中から,各商品の上記の点以外の様 々な特徴を勘案して選択,購入しているといえる。 (本項につき,甲34,41,乙54,59,61(なお,乙59の5 によれば,平成29年度の原告商品の市場占有率42.3%であるとさ れているが,その前後の年度の市場占有率と大きな差があること,平成 29年度の市場規模が47億4000万円である一方,同年前後の原告 商品の売上高は概ね年9億7000万円から10億9000万円程度で あること等に照らすと,上記の同年度の市場占有率を直ちに信用するこ とはできない。))
ウ 被告は,被告商品について,本件品質誤認表示によるオリゴ糖の純度に\n係る特徴のほか,複数の種類のオリゴ糖を配合していること,被告商品の 原材料が全て動植物に由来するものであり添加物がないことなどの特徴を も大きく取り上げ,妊婦や乳幼児等が摂取しても安全,安心であるなど, 被告商品の魅力を掲げて広告宣伝していた。そして,被告商品の購入者が 自由に記載したアンケート結果によっても,オリゴ糖の純度に特に着目し て被告商品を購入した需要者が多かったことが直ちに認められるものとま ではいえない(前記イ )。また,オリゴ糖類食品には様々な形態のもの が存在し,原告商品と被告商品が似た形態であるのに対し,これらと異な る形態のものが多数あるのであるが,形態にかかわらず,これらの商品は, 基本的に需要者である一般消費者が,オリゴ糖を簡便に摂取できる点に商 品の意義が認められている。そうすると,需要者は,多数の各商品の中か ら,各商品の様々な特徴を勘案して選択,購入することもあるといえ原告 商品以外のオリゴ糖類商品も原告商品及び被告商品と市場において競合す るといえるものである。このようなオリゴ糖類食品市場における原告商品 )。
そして,本件では品質を誤認させるような表示が問題となっていて,被\n告商品の出所を原告と誤認するおそれが問題となっているわけではない ところ,被告商品を販売するウェブサイトには,被告が強く関与するも の(前記第2の1(2)ケ)に加えて,アマゾン,楽天,ヤフーなどが運営 するサイトもあり,これらにおいて原告商品について触れられていると は認められない(甲10,15,32)。 さらに,被告は,平成28年11月までは自社の電子商取引サイト等も 含めて本件品質誤認表示をしていたが,同月以降,自社の電子商取引サイ\nトからはその表示を削除し,平成30年2月には,アフィリエーターらに\n対し,「オリゴ糖100%使用」等の表示をしないように求めた(前記1\n(2)エ)。
これらを考慮すると,被告の本件品質誤認表示による被告商品の販売数\n量の増加と,他のオリゴ糖類食品の販売数量の低下,さらには,原告商 品の販売数量の低下との間には,それほど強い相関関係が成り立つとは いえず,上記の各事情を総合考慮すれば,被告の本件品質誤認表示がな\nかったとしても被告が受けた利益を原告が受けたとはいえない事情が相 当程度認められ,被告が受けた利益の額の97%について,原告が受け た損害の額であるとの推定が覆滅されるとするのが相当である。 以上から,上記推定覆滅後の額は,別紙損害額の推定覆滅後の金額欄記 載のとおり,1835万7803円となる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 不正競争(その他)
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10035 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月29日  知的財産高等裁判所

 パチンコ機について進歩性無しとした審決が取り消されました。

 原告は,本件審決が,相違点1ないし3について,「再変動」(本願発明の 「単位演出」に相当。)の契機となる前回の「変動(再変動)」に基づく仮停 止について,初回の変動においてチャンス目Aが仮停止し,2回目の変動(再 変動)においてチャンス目Bが仮停止するというように,仮停止させるチャ ンス目を,段階的に大当り信頼度が高いものとしていく引用発明において, 「再変動」の契機となる,前回の「変動(再変動)」に基づく所定のチャンス 目により仮停止させることを節目として,引用文献2に記載の技術である, 遊技図柄の確変図柄の割合を変化させるという演出である「図柄群変化演出」 を適用することにより,所定のチャンス目が仮停止した後の「再変動」にお いて,当該「図柄群変化演出」により遊技図柄の確変図柄の割合が変化した 後の遊技図柄を用いた変動を実行するとともに,当該「図柄群変化演出」に おいて,遊技の興趣を向上させるために,遊技図柄の確変図柄の割合を変化 させる態様として,上記周知技術の態様を採用して,非確変図柄を確変図柄 に変更することにより,相違点1ないし3に係る本願発明の構成とすること\nは,当業者が容易になし得たものである旨判断したが,引用発明から出発し て,相違点1ないし3に係る本願発明の構成に想到することは,当業者にと\nって容易であったということはできない旨主張するので,以下において判断 する。
ア(ア) 引用文献1には,所定の入賞領域(始動入賞口)に遊技媒体が入賞す る(始動条件が成立する)と識別情報を可変表示(「変動」)可能\な可変 表示装置が設けられ,識別情報の可変表\示の表示結果が特定表\示結果(大 当り図柄)となった場合に遊技者にとって有利な特定遊技状態(大当り 遊技状態)に制御可能に構\成された従来の遊技機において,可変表示が\n実行されるより前に複数回の可変表示に渡って予\告演出を実行し,連続 した予告演出の態様の組合せにより,表\示結果を予告するものも提案さ\nれているが,遊技に有利状態となる可能性が低い予\告演出が実行された 場合には,遊技者が落胆してしまい,遊技の興趣が低下してしまうおそ れがあったという問題があったため,「本発明」の課題は,上記実情に鑑 み,遊技の興趣を向上させた遊技機を提供することを目的とすることに ある旨の開示がある(【0002】,【0003】,【0005】,【0006】)。
(イ) 次に,引用発明の遊技機は,1)「特図ゲームの第1開始条件と第2開 始条件のいずれか一方が1回成立したことに対応して,飾り図柄の可変 表示が開始されてから可変表\示結果となる確定飾り図柄が導出表示さ\nれるまでに,「左」,「中」,「右」の飾り図柄表示エリア5L,5C,5R\nにおける全部にて飾り図柄を一旦仮停止表示させた後,全部の飾り図柄\n表示エリア5L,5C,5Rにて飾り図柄を再び変動させる擬似連の可\n変表示演出であって,擬似連の可変表\示演出(「再変動」)は1回の変動 において最大3回まで実行可能になっていて,再変動の回数が多ければ\n多いほど,大当り信頼度が高くなるように変動パターンが決定され,決 定された変動パターンなどに基づいて演出制御パターンとしての特図 変動時演出制御パターンをセットし,演出制御パターンに含まれる,演 出装置における演出動作の制御内容を示し,演出制御の実行を指定する 表示制御データ#1〜表\示制御データ#n(nは任意の整数)の内容に 従って,画像表示装置5の制御を進行させる演出制御用CPU120と\nを備え」(構成b),2)「可変表示結果が「リーチハズレ」,「大当り」の\nいずれであるかによって擬似連予告演出が実行される割合,擬似連予\告 パターンの決定割合が異なり,具体的には,可変表示結果が「大当り」\nである場合には,「リーチハズレ」である場合よりも,擬似連予告演出が\n実行される割合が高くなっていて,チャンス目Aが停止する擬似連予告\nパターンYP1−1の擬似連予告演出が実行された場合よりも,チャン\nス目Bが停止する擬似連予告パターンYP1−2の擬似連予\告演出が 実行された場合の方が,可変表示結果が「大当り」となる割合である大\n当り信頼度が高くなっていて,チャンス目の種別により大当り信頼度が 異なるものとされ,4回の変動及び再変動(擬似連3回の変動パターン) に渡って実行される擬似連予告演出の擬似連予\告パターンとして,初回 の変動においてチャンス目Aが仮停止し,2回目の変動(再変動)にお いてチャンス目Bが仮停止し,3回目の変動(再変動)において,背景 画像が特殊な背景画像に変化し,4回目の変動(再変動)においては継 続して特殊な背景画像において変動が実行される擬似連予告パターン\nを設けることで,大当り信頼度が段階的にステップアップしていくよう な演出を行」い(構成c),3)「所定の通常大当り組合せとなる確定飾り 図柄が停止表示されると,通常開放大当り状態に制御され,その終了後\nには,時短制御が行われる一方,所定の確変大当り組合せとなる確定飾 り図柄が停止表示されると,通常開放大当り状態に制御され,その終了\n後には,時短制御とともに確変制御が行われ,確変制御が行われると, 各回の特図ゲームにおいて可変表示結果が「大当り」となる確率は,通\n常状態に比べて高くなり,確変制御は,大当り遊技状態の終了後に可変 表示結果が「大当り」となって再び大当り遊技状態に制御されるという\n条件が成立したときに終了する」(構成e)との構\成を有している。 引用発明は,構成cのとおり,疑似連予\告演出で仮停止するチャンス 目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似連予告演出の回数と背景画像\nの変化とからなる擬似連予告パターンを設けることによって,大当り信\n頼度が段階的にステップアップしていくような演出を行う構成のもの\nであることが認められる。
そして,引用文献1には,チャンス目に関し,「チャンス目Aは,図2 1(A)に示すように,左図柄と中図柄が同じ数字であり,右図柄のみ が1つずれた数字の組合せとなっている。また,先読み予告パターンS\nYP1−2に基づく停止図柄予告では,連続演出用のチャンス目として,\n図21(B)に示すチャンス目CB1〜CB6(チャンス目B)のいず れかが停止する。チャンス目Bは,図21(B)に示すように,並び数 字の組合せとなっている。この実施の形態では,後述するように,チャ ンス目Aが停止する停止図柄予告が実行された場合よりも,チャンス目\nBが停止する停止図柄予告が実行された場合の方が,大当りとなる可能\ 性(大当り信頼度)が高くなっている。このようにすることで,停止図 柄予告が実行されるときに,いずれのチャンス目が停止したかに遊技者\nを注目させることができ,遊技の興趣が向上する。」(【0247】),「ま た,図35(B)に示す決定割合では,チャンス目Aが停止する擬似連 予告パターンYP1−1の擬似連予\告演出が実行された場合よりも,チ ャンス目Bが停止する擬似連予告パターンYP1−2の擬似連予\告演出 が実行された場合の方が,可変表示結果が「大当り」となる割合(大当\nり信頼度)が高くなっている。このように,チャンス目の種別により大 当り信頼度が異なるので,遊技者が停止図柄に注目するようになり,遊 技の興趣が向上する。」(【0370】)との記載がある。上記記載から, 「チャンス目」(チャンス目A及びB)は,「飾り図柄」を構成する個々\nの数字ではなく,「数字の組合せ」であり,「数字の組合せ」に着目して 可変表示結果が「大当り」となる割合(大当り信頼度)に差を設けてい\nることを理解できる。
・・・
イ(ア) 引用文献2には,1)複数種類の遊技図柄を変動表示装置において変\n動表示させることで変動表\示遊技を行う従来の遊技機においては,「リー チ状態」が発生した場合,例えば,遊技者の大当たり状態の発生に対す る期待感を高めて,遊技の興趣を盛り上げるために,最後に停止状態と なる変動表示部における遊技図柄の変動表\示速度を変化させたり,変動 表示部に表\示される遊技図柄の背景領域を利用してキャラクタ等による 演出表示を行ったりするのが一般的であるが,既に在り来たりのもので\nあり,それらの演出表示だけでは遊技者は遊技の興趣を得難くなってお\nり,また,未だ変動表示中の変動表\示部において変動表示される遊技図\n柄の中で特定の組合せ態様を成立し得ない遊技図柄の数を減少させて, 特定の組合せ態様が成立し易いような状態を演出表示することにより,\n遊技者の大当たり状態の発生に対する期待感を高めている遊技機もある が,遊技図柄の数を減少させた状態で行われる変動表示の速度が高速で\nあると,遊技者が遊技図柄の数が減少していることを把握できないまま 遊技を終了してしまうおそれがあるため,変動表示の速度を低速にする\nのが一般的であるが,その場合には,遊技自体にスピード感がなくなり, 変化に乏しい面白みのないものとなり,遊技の興趣を得難いという問題 点があったことから,遊技者の遊技に対する興趣を高める上で斬新な変 動表示を行う遊技機が求められており,2)「本発明」の課題は,上記実 情に鑑み,遊技者の遊技に対する興趣を高めることが可能な遊技機を提\n供することを目的とすることにある旨の開示がある(【0002】ないし 【0004】)。
・・・
ウ 以上を前提に検討するに,前記ア及びイの認定事実によれば,引用発明と 引用文献2に記載の技術は,遊技の興趣の向上という課題が共通し,1回の 変動中に複数段階で演出態様を変化させるという共通の機能を有している\nものと認められるが,一方で,引用発明と引用文献2に記載の技術は,遊技 の興趣の向上のために着目する観点が相違すること(前記イ(イ)),引用発 明の「飾り図柄」は,「基本的態様を示す基本要素部」と「第一属性および 第二属性のいずれが設定されているかを示す属性要素部」の二つの要素部 を有する「識別図柄」であるとはいえず,引用発明の「飾り図柄」のうち の「確変図柄」は,本願発明の「第一属性が設定された識別図柄」に相当 するものではなく,引用発明の「飾り図柄」のうちの「非確変図柄」は, 本願発明の「第二属性が設定された識別図柄」に相当するものではないこ と(前記(3)イ)に鑑みると,引用文献1及び2に接した当業者が,数字の 組合せからなるチャンス目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似連予告\n演出の回数と背景画像の変化に着目し,この観点から,大当り信頼度が段 階的にステップアップしていくような演出を行う引用発明において,遊技 の興趣の向上のために,「一連の遊技図柄」に含まれる確変図柄の割合の大 きさに着目する引用文献2に記載の技術を適用して遊技図柄の確変図柄の 割合を変化させる構成とする動機付けがあるものと認めることはできな\nいし,引用発明に引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用する動 機付けがあるものと認めることもできない。
また,仮に引用発明に引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用 しようとした場合に,引用発明において相違点1ないし3に係る本願発明 の各構成をそれぞれどのように備えることになるのかを具体的に想到す\nることは,当業者にとって容易であるということはできない。 そうすると,本件審決の相違点1ないし3の容易想到性に関する前記判 断のうち,「当該「図柄群変化演出」において,遊技の興趣を向上させるた めに,遊技図柄の確変図柄の割合を変化させる態様として,上記周知技術 の態様を採用して,非確変図柄を確変図柄に変更することにより,相違点 1ないし3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得た」\nとの部分は,論理付けが不十分であって,採用することができないから,\n本件審決における相違点1ないし3の容易想到性の判断には誤りがある。
エ これに対し被告は,1)引用発明と引用文献2に記載の技術は,遊技者に 段階的に有利となる期待感を高めることで興趣を向上させるという点で 課題が共通し,1回の変動中に複数段階に演出態様を変化させるという点 で作用・機能も共通すること,2)擬似連変動を行うパチンコ機において, 図柄や画像の段階的な変化を仮停止後の再変動を契機に行うことは,広く 一般に周知の技術であること,3)引用文献2の【0074】の「前記一連 の遊技図柄に含まれる確変図柄の割合を変更させることが可能であれば\n如何なる方法であっても良い。」との記載は,引用文献2に記載の技術にお いて,「図柄群変化演出」により遊技図柄(識別図柄)の確変図柄の割合を 変化させる方法について,実施例に例示した形態以外の他の周知の態様に 置換することを許容していることを示唆するものであり,当該他の周知の 方法の具体例として,本件周知技術である「通常図柄を確変図柄扱いにし ていく図柄変化演出」が存在することに鑑みると,引用文献1及び2に接 した当業者は,引用発明における「1回の変動」における「擬似連」とし てその各「仮停止」した後の「再変動」において,「図柄群変化演出」によ り遊技図柄の確変図柄の割合が変化した後の遊技図柄を用いた変動を実 行する構成とし,当該「図柄群変化演出」において,遊技の興趣を向上さ\nせるために,遊技図柄の確変図柄の割合を変化させる態様として,本件周 知技術の態様(「変化前に表示装置において変動表\示されていた識別図柄 群には含まれていなかった新規の識別図柄となるように設定された図柄 群変化演出を,変化前の非確変図柄を消して替わりに新たな確変図柄を出 現させること」)を適用して,相違点1ないし3に係る本願発明の構成とす\nることを容易になし得たものである旨主張する。
しかしながら,前記ウで説示したとおり,引用発明と引用文献2に記載の 技術は,遊技の興趣の向上のために着目する観点が,引用発明においては, 数字の組合せからなるチャンス目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似 連予告演出の回数と背景画像の変化であるのに対し,引用文献2に記載の\n技術は,「一連の遊技図柄」に含まれる「確変図柄の割合」の大きさである点 において相違すること,引用発明の「飾り図柄」は,「基本的態様を示す基 本要素部」と「第一属性および第二属性のいずれが設定されているかを示 す属性要素部」の二つの要素部を有する「識別図柄」であるとはいえず, 引用発明の「飾り図柄」のうちの「確変図柄」は,本願発明の「第一属性 が設定された識別図柄」に相当するものではなく,引用発明の「飾り図柄」 のうちの「非確変図柄」は,本願発明の「第二属性が設定された識別図柄」 に相当するものではないことに照らすと,上記1)及び2)の点を考慮しても, 引用文献1及び2に接した当業者が,引用発明において,遊技の興趣の向 上のために,引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用して遊技図柄 の確変図柄の割合を変化させる構成とする動機付けがあるものと認める\nことはできない。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和2(行ケ)10036

◆令和2(行ケ)10037

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10133  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所

 商標「Ujicha」が識別力無しとした審決が維持されました。3条2項も否定されました。出願人は、漢字「宇治茶」を地域団体商標登録している京都府茶協同組合です。

 ア 原告は,漢字表記の「宇治茶」は,「京都府宇治地方から産出する茶」\nという意味を持つほか,本件地域団体商標の存在により,商品に付された 場合,原告の業務に係る商品であることを示す出所識別機能を有すると主\n張する。 しかし,商標法7条の2は,地域名と商品名からなる商標は自他識別力 を有しないため,原則として同法3条1項3号又は6号に該当すると解さ れることから,一定の要件を備えた場合に,「第3条の規定(同条第1項 1号又は第2号に係る場合を除く。)にかかわらず,」地域団体商標の商 標登録を受けることができるとしているものであり,地域団体商標の登録 を受けたからといって,当然に同法3条1項3号に該当しない(出所識別 機能を有する)ことになるわけではないことは明らかである。\n
イ 原告は,欧文字表記の「Ujicha」は商品の産地等を「普通に用い\nられる方法で表示するもの」でないと主張する。\n しかし,前記のとおり,多数のウェブサイトにおいて,本願の指定商品 又は関連する商品に関して,「UJICHA」,「Ujicha」,「U ji cha」,「UJI−CHA」,「Uji」,「“Uji”」,「U JI」といった文字が包装に使用されていることが認められるし,さらに, 国際化の進展による外国人需要者の増加や,我が国におけるローマ字の普 及状況も考慮すれば,欧文字表記は,取引者において一般的に使用する範\n囲に属するものであって「普通に用いられる方法」に当たるというべきで あるから,原告の主張は採用することができない。
ウ 原告は,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとすれば,同法26 条1項2号により,本件地域団体商標に係る商標権の効力(同法37条1 号に規定する排他権)は,「Ujicha」の商標に及ばないこととなり, 地域団体商標制度を設けた趣旨が没却されると主張する。 しかし,地域団体商標の登録を受けたからといって,当然に当該商標が 同法3条1項3号に該当しないことになるわけではないことは前記アのと おりであるし,本件地域団体商標に係る効力がそれとは異なる「Ujic ha」の商標に及ばないからといって,地域団体商標制度を設けた趣旨が 没却されるとは到底いえないから,原告の主張は採用することができない。
ア 原告は,本願商標の使用の事実を立証するものとして,原告の組合員(甲 4)である株式会社伊藤久右衛門(以下「伊藤久右衛門」という。)の使 用に係る甲1,2と,矢野園の使用に係る甲5,6を提出する。 イ まず伊藤久右衛門の使用について判断すると,同社は,かぶせ茶,煎茶, ほうじ茶についてそれぞれティーバッグを販売しているところ(甲1), 甲2は,そのうちかぶせ茶の包装について,中央上部に大きく「かぶせ茶」 の横書きの記載があり,その下に「急須用ティーバッグ」,さらにその下 に「UJICHA TEA BAG」と横書きで記載されており,煎茶や ほうじ茶についても中央上部にそれぞれ茶の種類が記載されているもの と推認される。 そうすると,本願商標「Ujicha」と甲2の表示は,その文字数や\n記載ぶりが大きく異なるものというべきであるから,両者が実質的に同一 であると認めることはできない。 よって,伊藤久右衛門による甲2の表示については,商標法3条2項に\nいう使用がされたものとは認められない。
ウ 次に,矢野園の使用については,同社は,その商品の包装の中央部に, 煎茶については「産地直送 宇治蔵出し煎茶」の,玉露については「産地 直送 宇治蔵出し玉露」の大きな縦書きの記載をし,その下部に横書きで 「UJICHA」の記載をしているが,同包装には,原告との関連性を示 す記載はない(甲5,6)。 このような記載では,原告固有の商標として表示しているのか,単なる\n産地表示や品質表\示として表示しているのかが明らかとはいえず,当該表\ 示に接する需要者が,本願商標について,原告又はその構成員固有の出所\n識別標識であると直ちに認識,理解するとはいえない。
エ 甲7,8によれば,矢野園が包装に「UJICHA」の記載をした煎茶 について,平成20年に東京に1万本,平成21年に金沢に1万本売り上 げたことが認められるが,販売期間,累計の販売数量,売上金額,販売地 域を裏付ける証拠はなく,原告の他の組合員に関しては,本願商標を付し た指定商品の売上に関する証拠は提出されていないし,原告又はその組合 員による本願商標を付した指定商品の市場占有率を裏付ける証拠もない。 他方で,本願の指定商品又は関連する商品に関して,原告の組合員以外の ウェブサイトにおいて,「UJICHA」(乙7,8,12,13),「U jicha」(乙14),「Uji cha」(乙9),「UJI−CH A」(乙10,11)といった「宇治茶」の欧文字表記を包装に表\示した 商品が掲載されている。
オ 以上を前提に検討すると,本願商標に通じる「宇治茶」は,前記1の とおり,「京都府宇治地方で産出する茶」を指称する語として広く受け入 れられ,もともと特定の主体と結びつき難いものである一方,原告の組合 員である伊藤久右衛門による甲2の表示については,そもそも商標法3条\n2項にいう使用がされたものとは認められないし,矢野園による本願商標 の使用態様も,原告固有の商標として表示しているのか,単なる産地表\示 や品質表示として表\示しているのかが明らかとはいえない態様のもので ある。また,原告の組合員による本願商標を付した指定商品の販売期間, 販売数量,累計の売上金額,販売地域,市場占有率等については,矢野園 による平成20年及び平成21年の散発的な販売実績を除き,これを裏付 ける証拠はなく,結局,原告又はその構成員による本願商標の使用状況は\n明らかでない。さらに,原告の組合員以外の者が,「UJICHA」,「U jicha」,「Uji cha」,「UJI−CHA」といった「宇治 茶」の欧文字表記を包装に表\示した商品を販売しているという実情があ る。
これらを総合すると,本願商標が,原告又はその構成員により使用をさ\nれた結果,需要者が原告又はその構成員の業務に係る商品であると全国的\nに認識されているとはいえず,本願商標は商標法3条2項の要件を具備し ないというべきことは明らかである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商3条1項各号
 >> 識別性
 >> 使用による識別性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10085 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月9日  知的財産高等裁判所

 特許庁審査官は、PCTの国際手続きでおこなった補充の扱いについて、欠落部分を含まないようにする手段(施行規則38条の2の2第4項)をしなかったため、出願日が繰りさげて、自己公表よりあとの出願として拒絶査定としました。これについて取消を求めましたが認められませんでした。具体的には、PCT出願のあとに、米国で補充手続きをしましたが、その間に発明者による公表行為がありました。

 前記第2の4のとおり,平成24年10月1日より前の国際特許出願 である本願には,特許協力条約の「引用による補充」に関する規定は適用されない から,本願について「引用による補充」によって本件欠落部分を含んだ出願の出願 日が本願の国際出願日である平成23年8月25日になることはなく,本件欠落部 分を受理官庁に提出した同年9月29日となるが,本件欠落部分を含まない場合に は,本願の出願日が同年8月25日となる。 そして,本願に本件欠落部分を含まないようにする手段として施行規則38条の 2の2第4項の手続が定められているのであるから,同手続によることなく本件欠 落部分を含まないようにすることはできないものと解される。 前記1のとおり,原告は,施行規則38条の2の2第1項に基づいて本件通知を 受けたにもかかわらず,本件指定期間内に本件欠落部分が本願に含まれないものと する旨の同条4項の請求をしなかったのであるから,本願の出願日が平成23年9 月29日となることは明らかである。
イ 前記1のとおり,本願発明と同一の発明である引用発明が掲載された本 件学術誌が,本願の出願日の前の平成23年9月11日に公開されたのであるから, 本願発明には,新規性が認められない。
(2) 原告は,1)出願日が発明の公知日よりも後になることを知らずに,論文発 表等により発明を公知にしてしまった場合は,錯誤に陥って発明を公知にしてしまったのであるから,改正前特許法30条2項の「意に反して」に該当する,2)改正 前特許法30条2項の「意に反して」とは,権利者が発明を公開した後に,権利者 の意に反して出願日が繰り下がり,当該発明が遡及的に出願日よりも前の公知発明 となってしまった場合も含むとして,本願においては,同項が適用されるべきであ ると主張する。 しかし,本件において,原告は,引用発明が掲載された本件学術誌が公開された ことを認識していたことは明らかである。原告は,当初の出願後に「引用による補 充」を求めた行為によって出願日が繰り下がることを認識し得たのであり,また, 改正前特許法30条4項に規定する手続を,特許法184条の14に規定する期間 内に行うことも可能であったといえる。したがって,本件においては,改正前特許法30条2項の「意に反して」には当たらず,同項は適用されないというべきである。\nこの点について,原告は,出願日が繰り下がることがあることを知らなかったと 主張するが,それは日本の特許法についての知識が乏しかったということにすぎず, 上記判断を左右するものではない。
(3) 原告は,本件通知によって出願日が繰り下がる認定がされた日は平成25 年9月24日であり,この時点では既に「国内処理基準時」から30日が経過して いるから,原告が改正前特許法30条4項に規定する手続を行うことは不可能であると主張する。\nしかし,原告は,米国特許商標庁に対し,平成23年9月29日に,本件欠落部 分につき「引用により補充」を求める書面を提出しているのであるから,この時点 で,将来,施行規則38条の2の2第4項の請求をしない限り,本願の国際出願日 が平成23年9月29日となり,本件論文が本願の国際出願日前に公開されたこと になることを認識し得たものである。したがって,原告は,国内処理基準時(特許 法184条の4第6項)から30日以内(特許法184条の14,特許法施行規則 38条の6の3)に,改正前特許法30条1項の適用を受けることができる発明で あることを証明する書面を特許庁長官に提出することができたものということがで きる。 よって,原告の上記主張は理由がない。
(4) 以上より,取消事由1は認められない。
3 取消事由2(本願の出願日の認定の誤り)について
(1) 前記2(1)アのとおり,本願の国際出願日は,平成23年9月29日であ る。
(2) 原告は,特許庁長官に提出した翻訳文には,本件欠落部分が含まれていな かったから,本願の明細書には本件欠落部分が含まれていないとみなされ,また, 特許法184条の6第2項により,本件翻訳文は,願書に添付して提出した明細書 とみなされるから,本件欠落部分は本願の明細書の範囲外となっていると主張する。 しかし,前記2(1)アのとおり,本願の国際出願日は平成23年9月29日であり, このことは,特許法184条の4第1項に基づき指定官庁である特許庁長官に提出 した本件翻訳文に本件欠陥部分の翻訳が含まれていたか否かや,本件翻訳文が特許 法36条2項の明細書とみなされ(特許法184条の6第2項),外国語特許出願に 係る明細書等について補正できる範囲は,翻訳文の範囲に限定されている(特許法 184条の12第2項)ことで影響を受けるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,本件通知には,本願について「引用による補充」がなかったとする 場合には,本件指定期間内に条約規則に基づく請求書に所定の事項を記載して提出 するとともに,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提 出してほしいことが記載されているが,本件通知の発送よりも前に,手続補正によ り削除すべき本件欠落部分が明細書に存在しないことになるから,本件通知に応答 して,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提出するこ とは不可能であり,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提出することを求める本件通知は法律に基づいた処分ではなく,重大かつ明白な瑕疵があると主張する。\nしかし,本件通知の文書に上記の記載があるからといって,本願の国際出願日の 認定が左右される理由はない。
(4) 原告は,翻訳文からあえて膨大な量の本件欠落部分を除いているのである から,本件翻訳文の提出をしたことにより,本件欠落部分が本願に含まれないもの とする旨の請求をする意思を持っていることが客観的に明らかであるところ,原告 は,本件翻訳文の提出により,本願に「引用による補充」がなかったとする黙示的 な意思表示をしており,同意思表\示は,施行規則38条の2の2第4項の請求に当 たるから,本件通知には重大かつ明白な瑕疵があるとともに,本件通知に対する応 答があったとみなされるべきであると主張する。 しかし,施行規則38条の2の2第4項は,特許庁長官が,認定された国際出願 日を通知する際に指定した期間内に,条約規則20.5(c)の規定によりその国際特 許出願に含まれることとなった明細書等が当該国際特許出願に含まれないものとす る旨の請求をすることができる旨を規定しており,本件通知前にした本件翻訳文の 提出行為が,上記の請求に当たらないことは明らかである。このことは,本件欠落 部分の分量が70頁であり,一方,本願の当初の明細書の分量が22頁であること によって左右されるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> その他特許
 >> 特許庁手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10127  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月25日  知的財産高等裁判所

 商標の不使用が争われた事件で、指定商品「工楽松右衛門の創製した帆布」に使用したのかが争われました。知財高裁は指定商品の意義を検討した上、使用に該当すると判断した審決を維持しました。

(ア) 本件指定商品における「工楽松右衛門の創製した帆布」の意義につい て,まず検討する。
前記(1)エで認定した各文献の記載によると,播州高砂の船頭であった工樂松右 衛門は,江戸時代後期の天明年間に,従来使われていた刺し帆より耐久性や強度な どに優れる織り帆を発明し,それが「松右衛門帆」として全国に伝播し,明治時代 頃まで帆船の帆などとして広く利用されていたものと認められる。 もっとも,前記(1)エの各文献の記載にあるとおり,現代において帆船が用いられ なくなったことに伴い,「松右衛門帆」は急速に姿を消していったものと認められ, B論文(甲7)の表にあるとおり,現代においては,残存する「松右衛門帆」も限\nられたものとなっていたと認められる。そして,前記(1)エの各文献等の記載や前記 (1)ウ(ア)のとおり,被告による「松右衛門帆」の復元に当たって,D教授が改めて 調査を行っていることも考え併せると,被告が,平成22年頃から「松右衛門帆」 を復元したとする本件布地を用いた商品の製造販売を始めるまでの間,「松右衛門 帆」が,具体的にどのようなものであるのかについて,B教授のような一部の専門 家以外の者には,その詳細は不明なものとなっていて,本件指定商品の取引者,需 要者たる一般人が,容易に調査できる範囲の資料から得られる「松右衛門帆」につ いての情報は,前記(1)エ(ア)の各辞典に記載されていた「太い綿糸で織られた幅広 の厚手の帆布」程度のものになっていたと認められる。 このような状況において,前記(1)ウ(ア),(イ)のとおり,被告は,D教授の協力を 得て,神戸大学海事博物館に所蔵されていた,原告らの実父で,帆船について研究 をしていたCによって寄贈された「松右ヱ門帆」という資料名の布の調査に基づい て,1)現在,一般に流通している帆布と異なり,2本の単糸を引き揃えにしている 点や2)緯糸が経糸より3倍太くなっていて,極端に太い点などの特徴を有する布地 (本件布地)による,かばん等の商品の製造販売を始めた。 そして,前記(1)ウ(ウ)認定の被告や御影屋による広告宣伝活動や同エ(イ)f以降 及び同(ウ)の第三者による文献等の記載から分かるとおり,平成22年頃以降から 要証期間中にかけて,被告や御影屋が「松右衛門帆」を復元したとする本件布地を 用いた商品の製造販売を開始して広告宣伝活動を行うことで,「松右衛門帆」とは, 被告が復元した上記1),2)のような特徴を持つ本件布地を指すものであるという認 識が,取引者,需要者の間に広まっていたものと認められる。
そうすると,遅くとも,本件商標を付した本件かばん2が,一般消費者に販売さ れ,平成30年2月5日に納品された時点で,本件指定商品の取引者,需要者は, 「松右衛門帆」,すなわち,「工楽松右衛門の創製した帆布」とは,本件布地のよう な「太い木綿糸を用い,太さの違う経糸と緯糸を2本引き揃えて織った厚く丈夫な 布地」(前記(1)ウ(ア))であると認識していたものと認められる。
(イ) 原告らは,1)本件指定商品中の「工楽松右衛門の創製した帆布」とは,
「天明年間に播州高砂に実在した船頭である工樂松右衛門がはじめてつくりだした 帆布」を意味しており,「松右衛門帆」は,「工楽松右衛門の創製した帆布」の上位 概念であるから,「松右衛門帆」から「工楽松右衛門の創製した帆布」の意義を解釈・ 認定するのは誤りである,2)布の耳部(両端)1寸ほどについては縦糸1本横糸2 本で織り,それ以外の部分については縦糸2本横糸2本で織っている(特徴1)),幅 の長さは2尺5寸(約75センチ)ほどのものである(特徴2))という二つの特徴 を備えないと,「工楽松右衛門の創製した帆布」とはいえない,3)神戸大学海事博物 館所蔵の帆布はその出自が不明である上,耳部が失われているから,「工楽松右衛門 の創製した帆布」とはいえない,4)工樂松右衛門が創製した当時の「松右衛門帆」 に使われていた糸は2.2番手相当であり(甲68),神戸大学海事博物館に所蔵さ れていた帆布や本件布地とは糸の太さが異なるし,織布の密度も異なる上,本件布 地の織り方は他の織り方においても認められる構造である,5)本件指定商品の意義 は,登録事項に基づき客観的に認定判断されるべきであり,商標権者である被告自 身の広告宣伝によって定まるとするのは不当であるなどと主張する。
a 上記1)について
前記(1)エの文献の記載を見るに,各辞典(甲46〜48)では,「工楽松右衛門 の創製した帆布」と「松右衛門帆」を同じものとして扱っており,また,各文献(甲 3〜7)においても,「この松右衛門が開発した,いわゆる『松右衛門帆』」(甲4),「松右衛門帆は,高砂在住の松右衛門帆が天明(1785)に創製した」(甲7)な どと,各辞典と同様に「工楽松右衛門の創製した帆布」と「松右衛門帆」を同じも のとして扱っているから,「工楽松右衛門の創製した帆布」と「松右衛門帆」は同じ ものであると認められ,原告らが主張するように両者が異なるものであるとは認め られず,上記(ア)の認定判断は左右されない。
b 上記2)について
前記(1)エ(イ)a,dのとおり,甲3には「工楽家に現存する帆」として幅3尺の ものが存在する旨の記載がある上,B論文(甲7)の表の中にも,幅が2尺5寸と\nは大きく異なる1尺9寸5分のものが記載されているし,同論文には,「現在の工業 製品と違って,織り幅を規格化していたかどうか疑問で,また,織り手によって多 少差があったのではないだろうか。」と記載されている。そして,前記(1)エ(イ)a, eのとおり,「松右衛門帆」は,人伝いに各地に伝播していったもので,中には地方 において見様見真似で織ったものも存在していた(甲3,4)とされている。そう すると,「松右衛門帆」とされるものの幅やその他の性状といったものについては, 「松右衛門帆」が船の帆として使用されていた当時から既に相当にバラつきがあっ たものと推認できるところである。 また,前記(1)ウ(イ)で認定したように,被告の商品のかばん類に耳部が用いられ ておらず,裁断されるなどして,織り上げられた時点とは幅も異なるものとなって いることからすると,布地の耳部は,一般的に布地から製品を作る際に必ずしも使 用されるものではなく,また,布地の幅も,それぞれの製品に応じて裁断されるな どして異なったものとなると認められるところ,前記(1)エ(イ)d,e のとおり,「松 右衛門帆」は,船の帆として利用されただけでなく,前垂れや覆い,敷物などの他 の用途にも利用されていた(甲4,7)のであるから,そのような中で,「松右衛門 帆」が,幅二尺五寸以外の大きさに加工されたり,耳部がない形で利用されたりす ることもあったものと推認できる。 さらに,現代において,帆船の減少に伴い,「松右衛門帆」の意義が不明確なもの となっていたのは,上記(ア)で認定したとおりである。
以上からすると,「松右衛門帆」が船の帆として使用されていた当時から,特徴1), 2)が,「松右衛門帆」の特徴として広く認識されていたとは認められないし,まして, 「松右衛門帆」の意義が一旦不明確となった以降で,かつ,前記(1)エ(イ)aのとお り,一般に帆布が船の帆に限られず幅広く様々な製品で使われるようになった本件 査定日や要証期間の時点において,特徴1),2)が,「工楽松右衛門の創製した帆布」 の特徴として,本件指定商品の取引者,需要者に認識されていたとは認められず, 原告らの上記主張は,上記(ア)の認定判断を左右するものではない。 なお,原告らは,被告も,耳部が「松右衛門帆」の特徴であるとして宣伝してい る(甲9)から,特徴1)が「松右衛門帆」の特徴である旨主張するが,甲9にも記 載されているように,被告や御影屋が製造販売するかばんには,耳部は使われてい ないのであるから,原告らの上記主張は採用できない。
c 上記3)について
前記(1)ウ(ア)のとおり,神戸大学海事博物館所蔵の帆布は,帆船の研究をしてい た原告らの実父によって寄贈され,同博物館で「松右ヱ門帆」として保管されてき たものであるから,前記(1)ウ(イ)のとおり同帆布の調査に基づいて復元された本件 布地が「松右衛門帆」とはいえないということはできない。原告らが主張する耳部 に関する特徴1)が,現代において,「松右衛門帆」の特徴として,本件指定商品の取 引者,需要者に認識されていたとはいえないことは,上記bで認定判断したとおり であり,原告らの主張はその前提を欠いている。
d 上記4)について 上記bのとおり,「松右衛門帆」が船の帆として使われていた当時から,その規格 にはバラつきがあったものと認められるところ,神戸大学海事博物館に所蔵されて いた「松右ヱ門帆」は,上記cのとおりのものであって,これとは異なる「松右衛 門帆」が存在するからといって,神戸大学海事博物館に所蔵されていた「松右ヱ門 帆」が「松右衛門帆」であることを否定することはできない。 また,神戸大学海事博物館に所蔵されていた「松右ヱ門帆」や本件布地の織り方 が他にも認められる構造のものであったとしても,それが「松右衛門帆」であるこ\nとを否定することにはならない。
e 上記5)について
上記(ア)で認定判断したように,現代において「松右衛門帆」の意義が不確かなも のとなっていたところ,被告や御影屋による広告宣伝活動の結果として,要証期間 までの間にその意義が再度認識されるようになってきているのであり,取引の実情 として,「松右衛門帆」,すなわち,「工楽松右衛門の創製した帆布」の意義を認定す るに当たり,被告や御影屋の広告宣伝活動の結果を考慮に入れることは何ら不当で はないし,上記(ア)で認定判断した事実経過からすると,第三者の地位を著しく不安 定にするということはない。 また,前記(1)ウ(ア),(イ)のとおり,被告は,神戸大学海事博物館において「松右 ヱ門帆」として所蔵されていた,帆船の研究家である原告らの実父が寄贈した帆布 を調査し,これを復元することを試みて,本件布地を完成させている上,本件布地 の特徴が,前記(1)エ(ア)の各辞典に記載されている「松右衛門帆」の特徴と合致す るのみならず,同(イ)の文献に記載されている「松右衛門帆」の特徴とも耳部以外の 点で概ね合致するものであることからすると,被告や御影屋が,本件布地を「松右 衛門帆」,すなわち,「工楽松右衛門の創製した帆布」として販売することは,本件 指定商品の品質について誤認を生じさせて公益を害するものとはいえず,本件にお いて,被告や御影屋の広告宣伝の結果を考慮に入れることは,このような観点から も相当なものといえる。 したがって,原告らの上記5)の主張は採用することができない。
f 小括 以上から,原告らの上記1)〜5)の主張はいずれも採用することができないし,そ の他原告らが主張するところも,いずれも上記(ア)の認定判断を左右するものでは ない。
イ 本件かばんが,「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」である のかについて
前記アで認定した本件指定商品における「工楽松右衛門の創製した帆布」の意義 に基づいて,本件かばん2が,「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」に 該当するかについて検討する。 前記(1)ウ(ア),(イ)のとおり,被告は,D教授が神戸大学海事博物館において「松 右ヱ門帆」として所蔵されていた帆布についてした調査に基づき復元した本件布地 を使用して,本件かばん2を製作したところ,本件布地は,太い木綿糸を用いて, 2本の単糸を引き揃えにして平織りにし,かつ,緯糸の太さが,経糸より約3倍太 くなっていた厚手の帆布なのであるから,本件布地は,取引者,需要者が観念し得 る「工楽松右衛門の創製した帆布」としての要件を満たすものであったといえる。 したがって,本件布地を使用した本件かばん2は,「工楽松右衛門の創製した帆布 を用いたかばん類」に該当するものであったと認めるのが相当である。 以上のとおり,本件商標の通常使用権者である御影屋は,要証期間内である平成 30年2月頃に本件商標を付した「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」 に該当する本件かばん2を一般消費者に販売していたのであるから,本件商標は, 要証期間中に,日本国内において,通常使用権者により,本件指定商品中,「工楽松 右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」について使用されていた(商標法2条3 項1,2号)ということができる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 不使用
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10084  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年2月25日  知的財産高等裁判所

 空調服について、使用による顕著性(3条2項)が認められました。審決は識別力無し&使用による顕著性(3条2項)なしでした。 ア 原告らは,原告各社が生み出した「空調服」の文字構成には強い独創性\nがあり,かつ,「空調」という語と「服」という親和性の乏しい語とを結合させて 意味付けることは困難であること,「空調服」の語は,漢字3文字から構成される\n短い用語で,一連一体の語として発音され,切れ目がなく,ひとまとまりの造語と して需要者,取引者に認識されてきたことから,「空調」と「服」とを分離して検 討することはできないと主張する。
しかし,「空調」という語と「服」という語の親和性の程度が本来的には高いと いい難いことを考慮しても,「空調服」の語が特定の意味合いを有すると理解でき ることは,上記(1)のとおりである。また,上記(1)で指摘した,「服」が末尾に来 る一般的な名詞の例に照らしても,漢字3文字から構成される短い用語であること\n等から,「空調」の語と「服」の語を分離できないということはできない。そして, 「空調服」という文字構成を原告各社が生み出したという事情は,「空調服」とい\nう語を分離して解釈できるか否かを左右するものではない。 イ 原告らは,「空調服」を「空調」と「服」とに分離して解釈したとして も,「空調」の意味からすると,「空調服」が通気機能を備えた作業服の品質を表\ すものとはいえないと主張するが,「空調」の語の意義を考慮すると,「通気機能\nを備えることにより,空気の温度等を調節する機能を有する服」を認識させるもの\nと解されることは,上記(1)のとおりである。電気機械器具品質表示規程の定めは,\nこの認定を左右するものではない。
ウ 原告らは,「空調服」の語の一般的な使用例について,1)原告各社等以 外のEFウェアのメーカーによっては一切使用されておらず,「EFウェア」等の 語が定着していること,2)ネット通販サイトにおける「空調服」の使用例について は,EFウェアにおける原告商品の認知度の高さゆえに「空調服」の表記が用いら\nれたものにすぎず,同表記が原告商品以外の商品の自他商品識別表\示として用いら れているわけではないこと,3)EFウェアの取引のごく一部に係るものにすぎない ネット通販サイトにおける記載(誤用例)をもって需要者,取引者の認識を判断す ることはできないこと,4)当該「空調服」が原告商品を指しているものが含まれて いること,5)「日本経済新聞」などのメディアについては,順次,「空調服」が原 告各社の商標であることについての訂正がされていること,6)特許出願明細書や実 用新案登録出願の明細書については,出願人がファン付き作業服の需要者や取引者 であるとは限らず,需要者,取引者の認識を表すとはいえないことなどを主張する。\nしかし,他に「EFウェア」等の語が存在することから直ちに,「空調服」の語 が「EFウェア」等の語とは異なる意義を有するということはできないし,作業服 メーカーによる用語法をもって直ちに本願指定商品の需要者の認識を表すものとい\nうことはできない。また,他に原告らが主張する事情は,商標法3条2項に該当す るかどうかについて考慮することができる事情とはいえても,上記(1)の認定判断 を左右するものとはいえない。
3 商標法3条2項該当性について
(1) 特別顕著性について
ア 原告商品「空調服」は,原告ら代表者の発案により原告セフト研究所が\n開発したもので,原告空調服が「空調服」の販売を本格的に開始した平成17年当 時,「空調服」のほかにEFウェアは存在せず,「空調服」は,極めて独自性の強 いものであった(前記1(2)イ)。そして,ファンが衣服に取り付けられているとい う「空調服」は,平成17年当時,他に例のない形態で,これを目にした者に強い 印象を与えるものであったと解される。 また,前記2(1)で指摘したように,本願商標「空調服」の語の意味内容を,本来 の字義から直ちに理解することには一定の困難があり,上記のように,EFウェア という商品分野がいまだ存在しなかった当時においては,「空調服」という語の構\n成も,強い独自性を有していたということができる。 そうすると,「空調服」という商品やその「空調服」という名称は,強い訴求力 を有していたといえる。
イ 上記アの事情に加えて,EFウェアという商品分野において,平成27 年頃まで約10年間は,原告各社等によって市場は独占されていたこと(前記1(3) ア)及び前記1(2)イ〜カで認定した諸事情,特に,「空調服」が原告らの商品を指 すものとして,全国紙を含む新聞や雑誌で多数回にわたって取り上げられたこと, 全国放送の番組を含むテレビ番組でも多数回にわたって同様に取り上げられたこと, 建設会社等の企業に導入されたことなどを踏まえると,平成27年頃までには,「空 調服」は,「通気機能を備えた作業服・ワイシャツ・ブルゾン」という商品分野に\nおいて,原告らの商品として,需要者,取引者に全国的に広く知られるに至ってい たものと認めるのが相当である。
ウ その後,平成27年頃から他社がEFウェアの市場に参入するようにな り(前記1(3)ア),新聞記事やネットショッピングサイト等においてEFウェアを 示す語として「空調服」の語が用いられること(前記1(5)ア(イ))もあったが,原 告商品「空調服」が上記のとおり広く知られていたために同種の商品を「空調服」 と呼ぶ例が生じたと認められる。そして,1)前記1(3)ア〜クで認定した諸事情,特 に,平成28年以降においても,「空調服」が原告商品を指すものとして,又はE Fウェアの元祖が原告空調服の「空調服」であるとして,全国紙を含む新聞や雑誌 で多数回にわたり取り上げられ,また,全国放送を含むテレビ番組等においても同 様に取り上げられ,原告空調服による広告もいろいろな形態で行われ,企業におけ る「空調服」の導入例も拡大してきたことなどの事情,2)「空調服」以外にEFウ ェアを指す一般的な用語が用いられていること(前記1(5)ア(ア)),3)EFウェア の他のメーカーにおいては,「空調服」とは異なる商品名やブランド名で販売活動 を行っていること(前記1(5)イ),4)多くの他業者の参入があっても,なお,平成 30年及び令和元年(平成31年)の時点において,原告各社等による「空調服」 はEFウェアの3分の1程度のシェアを占めていること(前記1(4)イ)を考慮する と,「空調服」は,原告らの商品の出所を示すという機能を失うことなく,その認\n知度を高めていったものと認めることができる。
エ したがって,本件審決時である令和2年4月30日の時点において,本 願商標「空調服」は,使用をされた結果,本願指定商品の需要者,取引者が,原告 各社の業務に係る商品であることを認識することができるものであるから,商標法 3条2項に該当するというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商3条1項各号
 >> 使用による識別性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10043  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所

 特許取消審決が取り消されました。争点は動機付けです。裁判所は課題および上限値が知られていたとはいえないと判断しました。 

 引用発明c−1は,粒子径分布が好適範囲に管理されていても,平均粒 子径から大きく逸脱する粗大粒子が存在する場合には,表示品位の低下や,光学フ\nィルムに欠点が生じる(段落[0005])ため,好適な粒子径を逸脱する粗大な 粒子の含有量が低レベルに低減された微粒子,及び,このような微粒子の製造方法, 並びにこの微粒子を含む樹脂組成物を提供するものであり(段落[0006]), 湿式分級と乾式分級とを組み合わせた方法により処理することで,粒径の好適範囲 から逸脱する粗大粒子や微小粒子を一層効率よく低減するものである(段落〔00 09〕)。
本件発明は,前記(1)アのとおり,架橋アクリル酸系樹脂粒子の揮発分が塗膜表\n面にムラなどを生じさせる結果,塗膜表面の傷付き性能\の低下が生じてしまうこと を解決することを課題としているところ,甲2−3には,このような本件発明の課 題は現れていない。
また,前記(2)によると,合成樹脂粒子の製造については,水分量を低減させ, 残存モノマーを低減させることにより,その品質を向上させることが知られていた ことは認められるが,前記(2)の各証拠から,本件発明のように,粒子中の揮発分 が表面ムラの発生や,塗膜表\面の傷付き性低下などを生じさせていたこと(本件明 細書の段落【0005】)という課題や,この課題を解決するために,加熱減量を 減ずるという構成を採用することが,本件優先日当時,当業者に知られていたと認\nめることはできないし,まして,本件発明の「加熱減量のす.5%」が当業 者に知られていたと認めることはできない。
そして,他に,上記の点について動機付けとなる証拠が存するとは認められない から,甲2−3によって,相違点c−1を容易に想到することができたと認めるこ とはできず,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 被告は,合成樹脂粒子の技術分野において,粒子の残存モノマー,水分などの揮 発分が存在することに起因して,何らかの問題が発生する場合に,当該揮発分の量 を一定量以下に低減化させることは,一般的な共通課題であるから,本件発明1は, 引用発明c−1から容易想到であると主張するが,被告の上記主張を採用すること ができる証拠がないことは,既に説示したところから明らかである。
(4) 以上によると,本件発明1が,当業者が容易に発明をすることができたも のであるとする本件決定の判断に誤りがある。
そして,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものでないから, 本件発明4,8も,当業者が容易に発明をすることができたものではないし,さら に,本件発明9及び本件発明10も,当業者が容易に発明をすることができたもの ではない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ワ)3273  差止請求権不存在確認請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月25日  大阪地方裁判所

 CS関連発明について大阪地裁26部は均等侵害を認めました。問題となった構成は「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」です。この構\成は審査段階で補正で追加されたものです。私の記憶ではCS関連発明でかつ補正した要件について均等を認めたのは初事例と思います。

 イ 原告は,組画の逐次又は一斉の表示をして記憶する人の「作業」となる部分\nを削除しつつ,組画の表示を構\成要件 B2 の選択手段に限定して,明確性の欠如に 係る拒絶理由を補正すると共に,「組画を逐次又は一斉に表示して」とする構\成を 削除し,かつ,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」を付加したとい う本件補正の経緯から,被告は,特許請求の範囲につき,「一の組画の画像データ を選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限定し,これを備えない発明を本件 発明の技術的範囲から意識的に除外したなどと主張する。 しかし,本件通知書及び本件意見書の各記載を踏まえると,「それぞれの前記記 憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対象を記憶する」の\nは人間が行う作業であって,物の発明としての「学習用具」の構成をなしていない\nなどといった明確性要件に係る本件通知書の指摘に対し,被告は,本件補正におい て,作業の主体につき,画像選択手段,画像表示手段,音声選択手段,音声再生手\n段といった「手段」とし,人が行う作業を示す部分を削除することで,これらの手 段を含むコンピューターであることを明確にしたものと理解される。それと共に, 進歩性に係る本件通知書の指摘に対しては,上記のように作業の主体を明確にした ことに加え,組画記録媒体に記録される画像データを,「1又は複数種の記憶対象 から成る記憶対象群に含まれる個別の記憶対象を表現する原画及び該原画に関連す\nる関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連画から成る組画の画像」(当\n初の請求項1)から「原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭 を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に 似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在 する第二の関連画,から成る組画の画像データ」に限定すると共に,画像表示手段\nが第一の関連画,第二の関連画,及び原画をその順に表示することとし,さらに,\nその表示を,これらに対応する語句の再生と同期させることとして,情報の提示方\n法を限定したものである。
このような出願経過を客観的,外形的に見ると,被告は,本件補正により,人為 的作業を示す部分としての「逐次又は一斉に表示」という行為態様は意識的に除外\nしているものの,物及び方法の構成として,逐次又は一斉に表\示する構成を一般的\nに除外する旨を表示したとはいえない。また,「一の組画の画像データを選択する\n画像選択手段」との構成を付加した点は,本件明細書に「一の組画」の画像データ\nの選択,表示を念頭に置いた記載があることを踏まえたものと理解されるものの\n(例えば【0057】),これをもって直ちに,客観的,外形的に見て,複数の組画を 選択する構成を意識的に除外する旨を表\示したものとは見られない。 そうすると,原告指摘に係る本件補正の経緯をもって,被告は,特許請求の範囲 につき,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限 定し,これを備えない発明を本件発明の技術的範囲から意識的に除外したと見るこ とはできない。この点に関する原告の主張は採用できない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 均等
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10022  音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年3月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 やっと判決文がアップされました。音楽教室における演奏について、1審は生徒の演奏も先生の演奏も著作権侵害と判断しましたが、知財高裁は前者は公衆への演奏ではないと判断しました。2小節以内の演奏について演奏権が及ぶのか、演奏権の消尽、録音物の再生に係る実質的違法性阻却事由、権利濫用については音楽教室側の主張は認められませんでした。 双方が上告受理申立をしているとのことです。

 (ウ) 本件について
 前記(ア)及び(イ)によると,演奏権の行使となるのは,演奏者が,1) 面前にいる個人的な人的結合関係のない者に対して,又は,面前にいる 個人的な結合関係のある多数の者に対して,2)演奏が行われる外形的・ 客観的な状況に照らして演奏者に上記1)の者に演奏を聞かせる目的意思 があったと認められる状況で演奏をした場合と解される。 本件使用態様1ないし4のとおり,控訴人らの音楽教室で行われた演 奏は,教師並びに生徒及びその保護者以外の者の入室が許されない教室 か,生徒の居宅であるから,演奏を聞かせる相手方の範囲として想定さ れるのは,ある特定の演奏行為が行われた時に在室していた教師及び生 徒のみである。すなわち,本件においては,一つの教室における演奏行 為があった時点の教師又は生徒をとらえて「公衆」であるか否かを論じ なければならない。 オ 以下,前記の基本的考え方を前提に,教師による演奏行為及び生徒によ る演奏行為がそれぞれ「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」 行われたものに当たるかについて検討する。
(2) 教師による演奏行為について
ア 教師による演奏行為の本質について
引用に係る原判決の第2の3(1)アのとおり,控訴人らは,音楽を教授す る契約及び楽器の演奏技術等を教授する契約である本件受講契約を締結 した生徒に対して,音楽及び演奏技術等を教授することを目的として,雇 用契約又は準委任契約を締結した教師をして,その教授を行うレッスンを 実施している。 そうすると,音楽教室における教師の演奏行為の本質は,音楽教室事業 者との関係においては雇用契約又は準委任契約に基づく義務の履行とし て,生徒との関係においては本件受講契約に基づき音楽教室事業者が負担 する義務の履行として,生徒に聞かせるために行われるものと解するのが 相当である。
・・・
(ウ) これに対して,控訴人らは,前記第2の5(1)ア(ア)のとおり,教師 がレッスンで演奏(録音物の再生を含む。)するかどうか,どのような演 奏をどの程度するかについて教師の裁量に任されているから,控訴人ら は教師の演奏を管理・支配していないし,音楽教室における教師の楽曲 の演奏は,未完成又は不完全な演奏であり,また,1回1回全て異なる ものであるから,音楽教室事業者が管理・支配できるものではない旨主 張する。 しかしながら,教師は,控訴人らとの雇用契約又は準委任契約に基づ き,その義務の履行として演奏技術等を生徒に教授するのであって,履 行方法に選択肢を有するとしても,履行しない自由を有してはおらず, その履行に当たって一定の裁量があるとしても,本件受講契約において 控訴人らが生徒に対し負担する義務を履行するために必要なレッスンを 行う義務を負うこと自体には何ら変わりはないのであるから,教師がレ ッスンの進行について裁量を有することは,教師がした演奏の主体が控 訴人らであるとする前記判断を左右するものではない。
また,教師が未完成又は不完全な形で毎回異なるように演奏するのは, その技量が不足するためではなく,生徒への演奏技術等の教授のために 敢えてしていることであって,まさしく控訴人らとの間の雇用契約又は 準委任契約に基づく義務の履行に適ったことをしているにほかならない。 したがって,演奏内容の完成度若しくは完全度又は再現性は,教師が, 控訴人らとの雇用契約又は準委任契約に基づく義務の具体的履行方法と してどのような演奏手法を用いたかということを意味するにすぎず,教 師のした演奏の主体が控訴人らであるとする前記判断を左右するもので はない。 そのほかに控訴人らが教師の演奏行為に係る演奏主体について主張す る点は,いずれもその前提を異にする,あるいは理由がないものである から,前記判断を左右し得ない。
エ 「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」について
(ア) 前記(1)エ(ア)のとおり,演奏権の行使に当たるか否かの判断は,演 奏者と演奏を聞かせる目的の相手方との個人的な結合関係の有無又は 相手方の数において決せられるところ,この演奏者とは,著作権者の保 護と著作物利用者の便宜を調整して著作権の及ぶ範囲を合目的な領域 に設定しようとする著作権法22条の趣旨からみると,演奏権の行使に ついて責任を負うべき立場の者,すなわち演奏の主体にほかならない。 そうすると,前記ウ(イ)のとおり,音楽教室における演奏の主体は,教 師の演奏については控訴人ら音楽教室事業者であり,教師の演奏行為に ついて教師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがなく,生徒 に聞かせるために演奏していることは明らかであるから,実際の演奏者 である教師の演奏行為が「公衆」に直接聞かせることを目的として演奏 されたものであるといえるかは,規範的観点から演奏の主体とされた音 楽教室事業者からみて,その顧客である生徒が「特定かつ少数」の者に 当たらないといえるか否かにより決せられるべきこととなる。
(イ) そこで検討するに,引用に係る原判決の第2の3(1)アによると,生 徒が控訴人らに対して受講の申込みをして控訴人らとの間で受講契約を締結すれば,誰でもそのレッスンを受講することができ,このような音\n楽教室事業が反復継続して行われており,この受講契約締結に際しては, 生徒の個人的特性には何ら着目されていないから,控訴人らと当該生徒 が本件受講契約を締結する時点では,控訴人らと生徒との間に個人的な 結合関係はなく,かつ,音楽教室事業者としての立場での控訴人らと生 徒とは,音楽教室における授業に関する限り,その受講契約のみを介し て関係性を持つにすぎない。そうすると,控訴人らと生徒の当該契約か ら個人的結合関係が生じることはなく,生徒は,控訴人ら音楽事業者と の関係において,不特定の者との性質を保有し続けると理解するのが相 当である。
したがって,音楽教室事業者である控訴人らからみて,その生徒は, その人数に関わりなく,いずれも「不特定」の者に当たり,「公衆」にな るというべきである。音楽教室事業者が教師を兼ねている場合や個人教 室の場合においても,事業として音楽教室を運営している以上は,受講 契約締結の状況は上記と異ならないから,やはり,生徒は「不特定」の 者というべきである。
・・・・
オ 小活
以上によれば,教師による演奏については,その行為の本質に照らし, 本件受講契約に基づき教授義務を負う音楽行為事業者が行為主体となり, 不特定の者として「公衆」に該当する生徒に対し,「聞かせることを目的」 として行われるものというべきである。
(3) 生徒による演奏行為について
ア 生徒による演奏行為の本質について 引用に係る原判決の第2の3(1)ア及び前記(2)アに照らせば,控訴人らは, 音楽を教授する契約及び楽器の演奏技術等を教授する契約である本件受 講契約を締結した生徒に対して,音楽及び演奏技術等を教授することを目 的として,雇用契約又は準委任契約を締結した教師をして,その教授を行 うレッスンを実施している。 そうすると,音楽教室における生徒の演奏行為の本質は,本件受講契約 に基づく音楽及び演奏技術等の教授を受けるため,教師に聞かせようとし て行われるものと解するのが相当である。なお,個別具体の受講契約にお いては,充実した設備環境や,音楽教室事業者が提供する楽器等の下で演 奏することがその内容に含まれることもあり得るが,これらは音楽及び演 奏技術等の教授を受けるために必須のものとはいえず,個別の取決めに基 づく副次的な準備行為や環境整備にすぎないというべきであるから,音楽 教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教師に演奏を聞かせ,指導を 受けることにあるというべきである。 また,音楽教室においては,生徒の演奏は,教師の指導を仰ぐために専 ら教師に向けてされているのであり,他の生徒に向けてされているとはい えないから,当該演奏をする生徒は他の生徒に「聞かせる目的」で演奏し ているのではないというべきであるし,自らに「聞かせる目的」のものと もいえないことは明らかである(自らに聞かせるためであれば,ことさら 音楽教室で演奏する必要はない。)。被控訴人は,生徒の演奏技術の向上の ために生徒自身が自らの又は他の生徒の演奏を注意深く聞く必要がある とし,書証(乙57の58頁)や証言(原審証人Q15頁)を援用するが, 自らの又は他の生徒の演奏を聴くことの必要性,有用性と,誰に「聞かせ る目的」で演奏するかという点を混同するものといわざるを得ず,採用し 得ない。
・・・
ウ 演奏主体について
(ア) 前述したところによれば,生徒は,控訴人らとの間で締結した本件 受講契約に基づく給付としての楽器の演奏技術等の教授を受けるためレ ッスンに参加しているのであるから,教授を受ける権利を有し,これに 対して受講料を支払う義務はあるが,所定水準以上の演奏を行う義務や 演奏技術等を向上させる義務を教師又は控訴人らのいずれに対しても負 ってはおらず,その演奏は,専ら,自らの演奏技術等の向上を目的とし て自らのために行うものであるし,また,生徒の任意かつ自主的な姿勢 に任されているものであって,音楽教室事業者である控訴人らが,任意 の促しを超えて,その演奏を法律上も事実上も強制することはできない。 確かに,生徒の演奏する課題曲は生徒に事前に購入させた楽譜の中か ら選定され,当該楽譜に被告管理楽曲が含まれるからこそ生徒によって 被告管理楽曲が演奏されることとなり,また,生徒の演奏は,本件使用 態様4の場合を除けば,控訴人らが設営した教室で行われ,教室には, 通常は,控訴人らの費用負担の下に設置されて,控訴人らが占有管理す るピアノ,エレクトーン等の持ち運び可能ではない楽器のほかに,音響設備,録音物の再生装置等の設備がある。しかしながら,前記アにおい\nて判示したとおり,音楽教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教 師に演奏を聞かせ,指導を受けること自体にあるというべきであり,控 訴人らによる楽曲の選定,楽器,設備等の提供,設置は,個別の取決め に基づく副次的な準備行為,環境整備にすぎず,教師が控訴人らの管理 支配下にあることの考慮事情の一つにはなるとしても,控訴人らの顧客 たる生徒が控訴人らの管理支配下にあることを示すものではなく,いわ んや生徒の演奏それ自体に対する直接的な関与を示す事情とはいえない。 このことは,現に音楽教室における生徒の演奏が,本件使用態様4の場 合のように,生徒の居宅でも実施可能であることからも裏付けられるものである。以上によれば,生徒は,専ら自らの演奏技術等の向上のために任意か\nつ自主的に演奏を行っており,控訴人らは,その演奏の対象,方法につ いて一定の準備行為や環境整備をしているとはいえても,教授を受ける ための演奏行為の本質からみて,生徒がした演奏を控訴人らがした演奏 とみることは困難といわざるを得ず,生徒がした演奏の主体は,生徒で あるというべきである。
(イ) これに対して,被控訴人は,引用に係る原判決の第3の2〔被告の 主張〕(1)エ(イ)及び(ウ)並びに前記第2の5(2)ア(ウ)のとおり,音楽教 室における生徒の演奏は,1)控訴人らとの間で締結した本件受講契約に おけるレッスンの一環としてされるものであり,レッスンの受講と無関 係に演奏するものではないこと,2)教師の指導の下,教育効果の観点か ら必要と考えられる場合にその限度でされること,3)本件受講契約によ って特定されたレッスンで使用される楽譜において課題曲として指定 された音楽著作物を,教師の指導・指示の下で演奏することを原則とす るものであること,4)控訴人らが費用を負担して設営した教室において, 控訴人らの管理下にある音響設備,録音物の再生装置等,録音物,楽器 等を利用してされるものであること,5)音楽教室事業が音楽著作物を利 用せずに楽器の演奏技術を教授することは不可能であることに照らすと,本件受講契約に基づき支払う受講料の中に,音楽著作物の利用の対\n価部分が含まれていることに照らせば,生徒の演奏についても音楽教室 事業者である控訴人らによる管理・支配及び利益の帰属が認められ,演 奏の主体は控訴人らである旨主張する。
しかしながら,上記1)ないし4)において控訴人が主張する事情から直 ちに,生徒が任意にする演奏の主体を音楽教室事業者であると評価する ことができないことは,前記説示から明らかである。なお,被控訴人は, 前記第2の5(2)ア(イ)のとおり,カラオケ店における客の歌唱の場合と 同一視すべきである旨主張するが,その法的位置付けについてはさてお くにしても,カラオケ店における客の歌唱においては,同店によるカラ オケ室の設営やカラオケ設備の設置は,一般的な歌唱のための単なる準 備行為や環境整備にとどまらず,カラオケ歌唱という行為の本質からみ て,これなくしてはカラオケ店における歌唱自体が成り立ち得ないもの であるから,本件とはその性質を大きく異にするものというべきである。 さらに,上記5)において被控訴人が主張する事情については,レッス ンにおける生徒の演奏についての音楽著作物の利用対価が本件受講契 約に基づき支払われる受講料の中に含まれていることを認めるに足り る証拠はないし,また,いずれにしても音楽教室事業者が生徒を勧誘し 利益を得ているのは,専らその教授方法や内容によるものであるという べきであり,生徒による音楽著作物の演奏によって直接的に利益を得て いるとはいい難い。 したがって,被控訴人の上記主張はいずれも採用できない。
(ウ) そのほかに被控訴人らが生徒の演奏行為に係る演奏主体について 主張する点は,いずれもその前提を異にする,あるいは理由がないもの であるから,前記判断を左右し得ない。
エ 小括
以上のとおり,音楽教室における生徒の演奏の主体は当該生徒であるか ら,その余の点について判断するまでもなく,生徒の演奏によっては,控 訴人らは,被控訴人に対し,演奏権侵害に基づく損害賠償債務又は不当利 得返還債務のいずれも負わない(生徒の演奏は,本件受講契約に基づき特 定の音楽教室事業者の教師に聞かせる目的で自ら受講料を支払って行わ れるものであるから,「公衆に直接(中略)聞かせることを目的」とするも のとはいえず,生徒に演奏権侵害が成立する余地もないと解される。)。 なお,念のために付言すると,仮に,音楽教室における生徒の演奏の主 体は音楽事業者であると仮定しても,この場合には,前記アのとおり,音 楽教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教師に演奏を聞かせ,指導 を受けることにある以上,演奏行為の相手方は教師ということになり,演 奏主体である音楽事業者が自らと同視されるべき教師に聞かせることを 目的として演奏することになるから,「公衆に直接(中略)聞かせる目的」 で演奏されたものとはいえないというべきである(生徒の演奏について教 師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがない。また,他の生徒 や自らに聞かせる目的で演奏されたものといえないことについては前記 アで説示したとおりであり,同じく事業者を演奏の主体としつつも,他の 同室者や客自らに聞かせる目的で歌唱がされるカラオケ店(ボックス)に おける歌唱等とは,この点において大きく異なる。)。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)20502等

関連カテゴリー
 >> 著作権その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)60 不当利得返還請求事件  その他  民事訴訟 令和3年3月11日  大阪地方裁判所

 特許を譲り受けたのに特許料を不能とした特許権者に対して、無効となった期間に対応する実施権料の不当利得返還請求が認められました。\n

(1) 以上より,被告が特許料不納付により本件特許権5〜8を消滅させたこと は,本件許諾契約上の特許維持義務(本件許諾契約書8条2項)の不履行に当た る。したがって,本件許諾契約は,原告の解除の意思表示(前記第2の1(10))に より解除されたこととなるから,被告は,原告に対し,原状回復義務(民法545 条)として,本件許諾契約に基づき原告が支払った実施料の返還義務及び利息支払 義務を負う。
(2) 本件許諾契約書において,実施料の額は本件プラントの処理能力に基づき算\n定されており(5条1項。前記第2の1(4)),本件各特許権の実施料を個別に算 定し,これを合算した額をもって実施料とするといった定め方はされていない。本 件各特許権の存続期間終了に応じて実施料を減額するといった規定も存在しない。 また,本件仕様書において,本件プラントにおいて本件各発明が実施される設備な いし方法及びそこで実施される発明を特定しているわけでもない。 これらの事情に鑑みると,本件許諾契約は,本件プラントの建設,操業及びリサ イクル品の製造,販売等において,本件各発明に係る技術のどれがどのように使用 されるかを具体的に特定して実施料を算定したものではなく,本件各特許権を一体 的なものとして取り扱い,本件許諾契約書記載のとおり,本件プラントの処理能力\nに基づき実施料を算定したものと理解される。 そうすると,本件許諾契約は,出願日の最も遅い本件特許権8(出願日平成10 年4月11日)の存続期間が終了する平成30年4月11日までは,契約として意 義を有していた可能性が高く,同契約に基づく本件実施料は,平成18年4月1日\n〜平成30年4月11日の期間中,本件各特許権のいずれかの通常実施権を許諾さ れることの対価として一体的に定められたものと見られる。 もっとも,本件各特許権のうち最もその消滅が遅かったのは本件特許権6(平成 23年7月6日)であり,それまでは,原告は,本件許諾契約に基づく通常実施権 者としての地位を享受していた。このため,本件許諾契約の解除により,原告も, その間に享受した利益を返還すべき地位にある。 そこで,本件実施料として支払われた1億5750万円から,原告が実際に通常 実施権者としての地位を享受していた期間に相当する部分を控除すると,8857 万1347円となる。
\157,500,000-(\157,500,000*1923 日/4394 日)=\88,571,347
(日数は実日数,小数点以下切捨て)
(3) 被告の主張について
被告は,本件実施料はそもそも実質的には本件各特許権の実施に係る許諾料では ない,本件許諾契約の目的は本件プラントが本稼働を開始した平成18年4月時点 で既に達成されている,本件プラントにおいて本件各特許権が実施されていないこ とから,被告が本件特許5〜8を消滅させたことによって原告に損害が発生してお らず,債務不履行となるべき事実自体がないなどと主張する。 しかし,本件許諾契約に至る経緯等(前記1(1))に鑑みれば,本件実施料が実 質的に本件各特許権の実施に係る許諾料でないと見るべき事情はない。また,本件 許諾契約は,本件プラントの操業を埼玉ヤマゼンが担うことを前提としたものであ ることから(前記第2の1(2),第3の1(1)ケ,(2)),その目的が本件プラントの 本稼働開始により既に達成されたと見ることもできない。 さらに,そもそも,本件では本件許諾契約の債務不履行による解除に基づく原状 回復請求がされているのであって,損害賠償請求はされていないことから,損害の 発生の有無は問題とならない。その点は措くとしても,本件プラントにおける本件 各発明の実施の有無は必ずしも判然とせず(前記1(5)),また,本件許諾契約に より原告が認められるのは通常実施権にとどまるものの,本件許諾契約には,JRT が原告以外の者にも本件各発明の実施を許諾する場合は,事前に原告との協議を要 することが定められていること(本件許諾契約書3条。前記第2の1(4)ア)など に鑑みると,なお本件特許権5〜8が権利として維持されることには意味があった ものといえる。しかも,前記(2)のとおり,本件許諾契約においては,本件実施料 を定めるに当たり本件各特許権は個別にではなく一体的に取り扱われていることか ら,本件特許権1〜4が本件譲渡契約の時点で既に消滅していたことは,原状回復 が認められる範囲を定めるに当たり考慮すべき事情とはいえない。その他被告が 縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する被告の主張は採用できない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 実施権
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10051  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるかが争われました。東京地裁(40部)は平成11年最判の判断が本件にも該当するとして、特69条が適用されると判断しました。知財高裁(2部)も同様の判断をしました。

 (1)控訴人は,新薬の製造販売承認を得るための必要な試験は,平成11年最 判の射程外であるところ,特許法69条1項の「試験又は研究」に該当するかにつ いては特許権者の利益と第三者の利益を綿密に検討する必要があり,本件治験は, 同項の「試験又は研究」に該当しないと主張する。 しかし,新薬の製造販売承認を得るために必要な本件治験が,特許法69条1項 の「試験又は研究」に該当することは,原判決「事実及び理由」の第4の1(2)のと おりである。 控訴人は,新薬の製造販売承認のためにする試験と後発薬の製造販売承認のため の試験の内容が異なる旨主張するが,平成11年最判の趣旨が本件治験についても 該当することは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(2)のとおりであって,この ことは,製造販売承認のための試験の内容によって左右されるとは解されない。
(2) 控訴人は,特許権者ではない第三者が特許権の存続期間中に新薬の製造 販売承認を得た場合,当該第三者は,特許権の存続期間満了までは,当該新薬を製 造販売することができないから,その間,当該新薬の再審査期間中に製造販売でき ないという空白期間が生じると主張するが,実地医療での使用における安全性情報 の調査は,特許期間満了後に開始すればよいのであり,実地医療での使用における 安全性情報等の調査という目的が十分に果たされないというものではない。\n
(3) 控訴人は,特許権者でない第三者が特許発明について新薬としての治験 を行うことに特許権の効力が及ばないとすると,この第三者が特許権者に先行して 製造販売承認を得ることも可能になり,特許権者は,特許権の存続期間中であるに\nもかかわらず,事実上自らの特許発明に係る実施品について治験を実施することす らできなくなることとなるから,特許出願をするメリットがなくなり,発明の公開 というデメリットばかりが大きいことになるため,薬剤の発明者は,特許出願をた めらうことになり,医薬品産業の発達を著しく阻害することになり,特許法の目的 に反すると主張する。
しかし,特許法は,当該特許権の存続期間中に特許発明を独占的に実施し,それ により利益を得る機会を確保しているものであるが,特許権者が現実に利益を得る ことまでをも保障するものではないから,第三者が特許権者に先行して製造販売承 認を得たり,特許権者が,事実上,自らの特許発明の実施品について治験を実施す ることが難しくなることがあるとしても,これが特許法の趣旨に反すると認めるこ とはできず,控訴人の上記主張は,本件治験が特許法69条1項の試験に該当する との判断を左右するものではない。
(4) 控訴人は,再生医療等製品のうち特にバイオ医薬品については,通常の医 薬品とは異なる規制や制約があるのであり,その開発には,長期の開発期間を要す ることから,製造承認販売を得て販売されるタイミングが当該特許権の存続期間満 了間近とならざるを得ず,特許権の存続期間中に第三者が承認申請のための治験(臨\n床試験)を実施することを許容すると,特許権者の不利益は甚大なものとなる旨主 張する。 しかし,この点についての控訴人の主張を採用することができないことは,原判 決の「事実及び理由」の第4の1(3)ウのとおりである。 また,控訴人は,特許権の存続期間中に第三者が承認申請のための治験(臨床試\n験)を実施することを許容すると,革新的な医薬品の研究開発に悪影響を与えると か国内外において製薬業界に大きな混乱を与えると主張するが,控訴人の陳述書(甲 32)のみで,そのような事情を認めることはできず,他に,そのような事情を認 めるに足りる証拠はない。
(5) 控訴人は,新薬の承認申請のための治験を特許権の存続期間中に何らラ\nイセンスもなく実施可能ということにすると,諸外国の取扱いに反する旨主張する。\nしかし,我が国と諸外国では,法制度を異にしているから,我が国において諸外 国と同様の取扱いをしなければならないとはいえない。また,欧州においては,証 拠(甲41)及び弁論の全趣旨によると,欧州各国の中で,それぞれの国内法にお いて,医薬品の承認を得るための手続が特許権侵害とならないとする,いわゆるB olar条項の適用の範囲を定めており,フランス,イタリア,スペイン及び英国 は,同条項の適用を,後発医薬品の承認を得るための試験に限定していないことが 認められる。 控訴人は,Amgen が米国及び欧州で Massachusetts General Hospital の特許(本 件特許に対応する米国特許と欧州特許)についてライセンス契約を締結した上で TVEC の臨床試験を実施していることを主張するが,新薬に係る治験が特許権侵害に 該当しないとされていたとしても,新薬に係る治験を行うために特許権者とライセ ンス契約を締結することはあり得ることであるから,控訴人の上記主張から諸外国 の制度に関する認定をすることはできない。 控訴人は,陳述書(甲32)において,後発薬と異なり,新薬に係る治験につい ては,当該新薬に係る特許が存在している場合に,当該特許の所有者からライセン スを受けることなく当該治験を実施することが当該特許の侵害に該当するという考 え方が定着していると記載するが,諸外国の制度に関する上記認定によると,控訴 人の陳述書の上記記載を採用することはできない。 上記のとおり,新薬に係る治験が特許権侵害とならないとする国が複数存在する ことからすると,そうでない制度を有する国があるとしても,我が国において,本 件治験が特許法69条1項の「試験又は研究」に該当すると判断することが,諸外 国の制度と異なるものであるとはいえない。
(6) 控訴人は,本件治験は本件特許権の存続期間満了「前」の販売を目的とし たものであると主張する。 しかし,本件治験は,本件特許権の存続期間中の製造販売を目的としたものであ るといえないことは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(3)イのとおりであって, 被控訴人が,本件特許権の存続期間満了日より前に T-VEC の承認を得られる可能性\nがあるかどうかやそのような可能性がある時点で本件治験を開始したかどうかによ\nって,この判断が左右されることはない。 控訴人は,原判決が判示する論理が認められるとすると,特許権の存続期間中に 行われるすべての治験について特許権の存続期間中の製造販売を目的としていると 認定されることはおよそないこととなるから,平成11年最判が目的要件を提示し た趣旨を完全に逸脱していると主張するが,原判決の判示する論理によったからと いって,特許権の存続期間中に行われるすべての治験について特許権の存続期間中 の製造販売を目的としていると認定されることはおよそないこととなるとはいえな いことが明らかである。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成31(ワ)1409

関連カテゴリー
 >> その他特許
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10118  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月11日  知的財産高等裁判所

 「SMS」+図形商標から、「SMS」を分離観察できるかが、争われました。知財高裁(2部)は分離可能とした審決を維持しました。判決文の最後に本件および引用商標が掲載されています。\n

 (1) 本件商標は,別紙1のとおりであり(甲1),三つのハート形の図形を横に 重なるように並べた本件図形部分と,その下に配置された横書きにした「SMS」 のありふれた書体の欧文字(本件文字部分)とからなる商標である。 本件図形部分は,ハートの形を縁取った線を横に二つ描き,その二つのハートの 形の内側の二つの半円部分を用いて,中央部分に三つ目のハートの形を描いたもの で,一筆書きによって描くことができるようになっている。 本件図形部分及び本件文字部分のいずれにも色彩はなく,本件図形部分の高さは, 本件文字部分の高さの3倍弱であり,本件図形部分の横幅は,本件文字部分の横幅 の2倍弱である。
(2) 本件商標の上記(1)の外観からすると,本件商標においては,本件図形部分 と本件文字部分とを明確に区別することができ,それらの各部分を分離して観察す ることが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは認められな いから,本件商標から,本件文字部分を抽出し,同部分を他人の商標と比較して商 標の類否を判断することができるというべきである。 そして,本件文字部分からは,「エスエムエス」との称呼が生じるが,「SMS」 の語は,「広辞苑 第六版」には掲載されておらず(甲19),他に一般的な辞書に 掲載されている例があるとも認められないから,造語であると認められ,特定の観 念は生じないというべきである。
3 引用商標1及び2について
(1) 引用商標1及び2は,別紙2,3のとおりであり(甲2,3),オレンジ色 の小さな円をL字型に並べた形状と,同様の黄色のL字型の形状とを組み合わせた 正方形を45度傾けた形状の図形部分(引用1及び引用2図形部分)と,その右側 に配置された,横書きにした「SMS」の欧文字と横書きにした「Best ma tching Best value」の欧文字を上下二段に配置した部分(引用 1及び引用2文字部分)からなる商標である。 引用1及び引用2図形部分の高さは,「SMS」の文字部分の高さの2倍程度であ り,引用1及び引用2図形部分の横幅は,「SMS」の文字部分の横幅の6割程度で ある。また,「Best matching Best value」の文字部分は, 「SMS」の文字部分と同じ横幅で,「SMS」の文字部分に比較して,極めて小さ く書かれている。
(2) 引用商標1及び2の上記(1)の外観からすると,引用商標1及び2において は,引用1及び引用2図形部分と引用1及び引用2文字部分とを明確に区別するこ とができる。また,引用1及び引用2文字部分については,「SMS」の文字部分と, 「Best matching Best value」の文字部分は2段に分か れていて,大きさも顕著に異なるのであるから,両者を明確に区別することができ る。 したがって,引用商標1及び2において,「SMS」の文字部分が他の部分と分離 して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは 認められないから,「SMS」の文字部分を抽出し,同部分を他人の商標と比較して 商標の類否を判断することができるというべきである。 そして,前記2(2)のとおり,「SMS」の文字部分からは,「エスエムエス」との 称呼が生じるが,特定の観念は生じないというべきである。
・・・・
原告は,「SMS」とは,携帯電話でのメッセージ送受信サービスである 「Short Message Service(ショートメッセージサービス)」の 略語であり,本件審決がされた令和2年の時点で,「ショートメッセージサービス」 の略語としての「SMS」は,通信分野に限らず,一般に周知されていると主張し, その証拠として,甲25,26を提出する。 甲25によると,「SMS」が「ショートメッセージサービス」の略語であること を説明したウェブサイトが存在することが認められるが,前記2(2)のとおり,「S MS」の語が一般的な辞書に掲載されている例があるとは認められないことからす ると,上記ウェブサイトの存在から,「SMS」が「ショートメッセージサービス」 の略語を意味することが一般的に認識されていたということはできないというべき である。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> 誤認・混同
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ネ)1735 著作権に基づく差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年1月14日  大阪高等裁判所

 電話ボックスを金魚鉢にみたてた現代アートについて、1審は著作物性は認めましたが、 複製ではないと判断しました。控訴審は、「受話器がハンガー部から外されて水中に浮いた状態で固定され,その受話部から気泡が発生している」点について、著作物性を認めて、翻案権侵害と認定しました。

同一性又は類似性について
ア 共通点
原告作品と被告作品の共通点は次のとおり(以下「共通点1)」などと いう。)である。
1) 公衆電話ボックス様の造作水槽(側面は4面とも全面がアクリルガ ラス)に水が入れられ(ただし,後記イ6)を参照),水中に主に赤色の 金魚が50匹から150匹程度,泳いでいる。
2) 公衆電話機の受話器がハンガー部から外されて水中に浮いた状態で 固定され,その受話部から気泡が発生している。
・・・・
著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知 させるに足りるものを有形的に再製すること(著作権法2条1項15号) をいい,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上\nの本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更\n等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これ\nに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得すること\nのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁昭和53年9月7日 第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁,最高裁平成13年6月2 8日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。 依拠については後記(3)において検討することとし,ここではそれ以外 の要件について検討する。 共通点1)及び2)は,原告作品のうち表現上の創作性のある部分と重な\nる。なお,被告作品は,平成26年2月22日に展示を開始した当初は, アクリルガラスのうちの1面に,縦長の蝶番を模した部材を貼り付けて\nいた(相違点6))。しかし,前記のとおり,この蝶番は目立つものでは なく,公衆電話を利用する者にとっても,鑑賞者にとっても,注意をひ かれる部位とはいえないから,この点の相違が,共通点1)として表れて\nいる原告作品と被告作品の共通性を減殺するものではない。
一方,他の相違点はいずれも,原告作品のうち表現上の創作性のない\n部分に関係する。原告作品も被告作品も,本物の公衆電話ボックスを模 したものであり,いずれにおいても,公衆電話機の機種と色,屋根の色 (相違点1)〜3))は,本物の公衆電話ボックスにおいても見られるもの である。公衆電話機の下の棚(相違点4))は,公衆電話を利用する者に しても鑑賞者にしても,注意を向ける部位ではなく,水の量(相違点5)) についても同様であることは前記のとおりである。すなわち,これらの 相違点はいずれもありふれた表現であるか,鑑賞者が注意を向けない表\ 現にすぎないというべきである。 そうすると,被告作品は,原告作品のうち表現上の創作性のある部分\nの全てを有形的に再製しているといえる一方で,それ以外の部位や細部 の具体的な表現において相違があるものの,被告作品が新たに思想又は\n感情を創作的に表現した作品であるとはいえない。そして,後記(3)のと おり,被告作品は,原告作品に依拠していると認めるべきであり,被告 作品は原告作品を複製したものということができる。 仮に,公衆電話機の種類と色,屋根の色(相違点1)〜3))の選択に創 作性を認めることができ,被告作品が,原告作品と別の著作物というこ とができるとしても,被告作品は,上記相違点1)から3)について変更を 加えながらも,後記(3)のとおり原告作品に依拠し,かつ,上記共通点1) 及び2)に基づく表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,原告作品にお\nける表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,原告作品\nを翻案したものということができる。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30年(ワ)466

関連カテゴリー
 >> 著作物
 >> 翻案
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10052  特許権持分一部移転登録手続等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 「オプジーボ」について、原告Xは発明者であるとの確認を求める訴訟にて、知財高裁も、1審と同じく、「発明者ではない」と判断しました。原告Xは研究室にいた研究者と小野薬品です。

控訴人は,1)抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相 互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」な いし「着想」は,本件出願当時,公知であったから,本件発明の技術的 思想の特徴的部分は,上記公知の課題について具体的な免疫細胞と標的 となるがん細胞を用いて抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1 分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の賦活化の効果を実証し た点にあること,2)控訴人は,抗PD−L1抗体の作製に貢献し,指導 教官であるA教授から指導を受けながら,試行錯誤を重ねて本件発明を 構成する個々の実験系を構\\築し,主要な実験のほぼすべてを単独で行い, 特に2C細胞とP815細胞の組合せ実験に関しては,A教授から指示 を受けることなく着想して,遂行し,この点に関する控訴人の貢献の程 度は大きいこと,3)控訴人が本件発明と同内容のPNAS論文の筆頭著 者(共同第一著者)であること等からすると,控訴人は,本件発明の具 体化に創作的に関与したものといえるから,本件発明の発明者であると いうべきである旨主張する。 しかしながら,以下のとおり,控訴人の主張は,理由がない。
ア 1)について
控訴人は,抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相 互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」 ないし「着想」が,本件出願当時(原出願1の優先日平成14年7月 3日及び平成15年2月6日),公知であったことについて,JEM論 文及び1999(平成11)年9月に出願されたダナ・ファーバー癌 研究所等の特許出願の優先権主張の基礎出願に係る明細書の記載を根 拠として挙げる。 しかしながら,JEM論文(甲66)は,「新しいB7ファミリーメ ンバーによるPD−1免疫抑制性受容体の関与が,リンパ球活性化の 負の制御を導く」ことに関する論文であり,JEM論文中には,「ヒト 卵巣腫瘍から3つのESTがみられるように,PD−L1は,いくつ かの癌において発現されている。このことは,腫瘍が,抗腫瘍免疫応 答を阻害するために,PD−L1を使用している可能性を提起する。」との記載部分があるが,一方で,JEM論文には,腫瘍に発現したP\nD−L1が抗腫瘍免疫応答を阻害することを実際に実証する実験デー タやその分析結果等の記載がないことに照らすと,JEM論文の上記 記載部分は,腫瘍が抗腫瘍免疫応答を阻害するためにPD−L1を使 用している可能性があることの仮説を述べたものにとどまるというべきである。\n
次に,控訴人提出の甲60は,ダナ・ファーバー癌研究所等を出願 人,2000年(平成12年)8月23日を国際出願日,2001年 (平成13年)3月1日を国際公開日とする国際出願((PCT/US /23347)の国際公開公報,甲61は,その公表特許公報であって,本件においては,上記国際出願の優先権主張の基礎出願に係る明\n細書の提出はないし,また,控訴人の指摘する甲61の「PD−1を 介するシグナリングを阻害する作用剤を対象の免疫細胞に投与して, 免疫応答のアップレギュレーションから利益を受けるであろう症状を 治療することを特徴とする・・・1の具体例において,該症状は,腫瘍・・・ からなる群より選択される。」(段落【0009】)との記載から直ちに 抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害 することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」を導出するこ とはできない。 したがって,控訴人の1)の主張のうち,抗PD−L1抗体がPD− 1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の 賦活化の効果が,本件出願当時,公知であったとの点は,採用するこ とはできない。 そして,前記1(2)認定のとおり,本件発明の技術的思想は,PD− 1,PD−L1による抑制シグナルを阻害して,免疫賦活させる組成 物及びこの機構を介した癌治療のための組成物を提供するという課題を解決するための手段として,抗PD−L1抗体がPD−1分子とP\nD−L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもた らすことを見出した点にあるものと認められ,本件発明の発明者であ るというために,上記技術的思想を着想し,又は,その着想を具体化 することに創作的に関与したことを要するものと解されるところ(前 記(1)),控訴人が上記技術的思想の着想に関与していないことは,前 記(2)オで説示したとおりである。
・・・・
エ まとめ
以上によれば,控訴人は,A教授の指導,助言を受けながら,自ら の研究として本件発明を具体化する個々の実験を現実に行ったものと 認められるから,A教授の単なる補助者にとどまるものとはいえない が,一方で,上記実験の遂行に係る控訴人の関与は,本件発明の技術 的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認めることは できないから,控訴人は,本件発明の発明者に該当するものと認める ことはできない。 したがって,控訴人の前記主張は理由がない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)27378

関連カテゴリー
 >> 冒認(発明者認定)
 >> その他特許
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10035  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審では約3000万円の損害賠償が認定されました。1審被告が控訴しましたが、控訴棄却されました。ハンドル部分の構造に関する特許ですが、102条2項における寄与率減額なしです。

 本件発明の技術的思想(課題解決原理)は,前記2(1)ア(イ)のとおり,二 股の美容器において,ハンドルを,凹部を有するハンドル本体と,その凹部 を覆うハンドルカバーで構成することにより,ハンドルが上下又は左右に分\n割された従来の構成よりも,ハンドルの成形精度や強度を高く維持するとと\nもに,美容器の組み立て作業性が向上するようにしたというものである。そ して,本件発明に係る美容器は,美容器のハンドルを持ち,ローラを肌に押 し当ててこれを使用するから,本件発明の技術的思想(課題解決原理)によ って達成されるハンドルの成形精度や強度の維持は,美容器を使用する需要 者一般が関心を有する美容器の基本構造に関するものであり,二股美容器の\n使用やマッサージの施行に影響する事項であって,美容器全体に貢献してい るものと認められる。本件発明が需要者の商品選択に特段寄与しないとする 根拠はなく,被告各製品の販売に対する本件発明の寄与が限定的であるとす る根拠もない。したがって,本件において,本件発明の寄与率を考慮して推 定を覆滅すべき理由はない。
控訴人は,被告各製品は特許第5840320号の技術的範囲には属しな いが,同特許に係る発明の効果を有しており,そのような効果のあることが 被告各製品購入の主な動機になっていることは,本件における損害額算定に 当たっての推定覆滅事由として考慮されなければならないと主張する(前記 第2の5(4)ア(イ))。しかし,被告各製品が特許第5840320号に係る 発明の効果を有しているかどうかは明らかでなく,また,そのような効果の 存在が被告各製品購入の主な動機になっていることを認めるに足りる証拠は ない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)32839


当事者が同じ関連侵害訴訟および審決取消訴訟です。

◆平成31(ネ)10001等

◆平成30(行ケ)10049

◆平成30(行ケ)10048

◆平成29(ネ)10086

◆平成28(ワ)4356

◆平成30(行ケ)10013

◆平成29(行ケ)10201

◆平成29(行ケ)10095

◆平成28(ワ)6400

◆平成31(行ケ)10032

当事者が同じ審決取消訴訟はこちらです。

◆令和1(行ケ)10090

◆令和1(行ケ)10066

◆平成31(行ケ)10057

◆平成30(行ケ)10160

関連カテゴリー
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10075  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月11日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反有りとした異議決定が動機付け無しとして取り消されました。

 甲1発明及び甲3記載事項は,共に,弁当包装体という技術分野に属す るものであると認められる(甲1の段落【0001】,甲3の段落【0017】)。 しかし,甲1発明は,熱収縮性チューブを使用した弁当包装体について,煩雑な 加熱収縮の制御を実行することなく,包装時の容器の変形やチューブの歪みを防ぎ, また,店頭で,電子レンジによる再加熱をした際にも弁当容器の変形が生じること を防ぐことを課題とするものである(甲1の段落【0003】,【0004】)のに対 し,甲3に記載された発明は,ラベルを構成する熱収縮性フィルムについて,主収\n縮方向である長手方向への収縮性が良好で,主収縮方向と直交する幅方向における 機械的強度が高いのみならず,フィルムロールから直接ボトルの周囲に胴巻きした 後に熱収縮させた際の収縮仕上がり性が良好で,後加工時の作業性の良好なものと するとともに,引き裂き具合をよくすることを課題とするもの(甲3の段落【00 07】,【0008】)である。 そして,上記課題を解決するために,甲1発明は,非熱収縮性フィルム(21) と熱収縮性フィルム(22)とでチューブ(20)を形成し,熱収縮性フィルム(2 2)の周方向幅はチューブ全周長の1/2以下である筒状体であり,熱収縮性フィ ルム(22)の熱収縮により,弁当容器の外周長さにほぼ等しいチューブ周長に収 縮して弁当容器に締着されてなるものとしたのに対し,甲3に記載された発明の熱 収縮性フィルムは,甲3の特許請求の範囲記載のとおり,各数値を特定したもので ある。 これらのことからすると,甲1発明と甲3に記載された発明は,課題においても その解決手段においても共通性は乏しいから,甲3記載事項を甲1発明に適用する ことが動機付けられているとは認められない。
イ これに対し,被告は,甲1発明と甲3記載事項は,熱収縮という作用, 機能が共通する旨主張するが,熱収縮は,通常,弁当包装体が持つ基本的な作用,\n機能の一つにすぎないことを考慮すると,被告の上記主張は,実質的に技術分野の\n共通性のみを根拠として動機付けがあるとしているに等しく,動機付けの根拠とし ては不十分である。\nまた,被告は,甲1発明と甲3記載事項とでは,ポリエステルフィルムを用いて いる点が共通する旨主張するが,包装体用の熱収縮性フィルムを,ポリエステルと することは,本件特許の出願前の周知技術(甲1の段落【0010】,甲3の【請求 項7】,段落【0003】,甲6〔特開2008−280371号公報〕の段落【0 001】)であると認められ,ポリエステルは極めて多くの種類があること(乙5) からすると,材料としてポリエステルという共通性があるというだけでは,甲1発 明において,熱収縮性フィルムとして,甲3記載事項で示される熱収縮性フィルム を適用することに動機付けがあるということはできない。
ウ 以上によると,甲1発明において,熱収縮性フィルムとして,甲3記載 事項で示される熱収縮性フィルムを適用する動機付けがあると認めることはできな い。 したがって,甲1発明及び甲3記載事項に基づいて,相違点2に係る本件発明2 の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)1492    意匠権  民事訴訟 令和3年2月18日  大阪高等裁判所

 意匠法39条2項の推定覆滅の割合は9割、実施料率3%とすべきと主張しましたが、控訴審も1審と同様に、覆滅割合を7割実施料率5%と判断しました。

 ア 推定覆滅の割合について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決43頁 14行目から51頁13行目まで)け,本件においては,意匠法39条2 項による損害額の推定は,7割の限度で覆滅されるというべきである。 控訴人は,控訴人の製品が被控訴人の製品より安価であることを理由 に,覆滅の割合を9割とすべきであると主張する。しかし,証拠(乙1 9)によれば,ここで控訴人が比較しているのは,外付け型 HDD につい ての控訴人の製品全体の平均単価と被控訴人の製品全体の平均単価で あって,原告製品の価格と被告製品の価格がどれだけ違うのかは明らか でない。被告製品が一般に原告製品より安価であるといえるとしても, 前記の7割という推定覆滅の程度は,このことをも考慮の対象とした上 でのものである。したがって,控訴人の主張を採用することはできない。
イ 実施料率について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決52頁 5行目から53頁21行目まで),本件においては,意匠法39条3項 を適用して損害額を認定するに当たり(同条2項による損害額の推定が 覆滅される部分について同条3項を適用する場合を含む。),被控訴人 が本件意匠の実施に対し受けるべき料率(実施料率)は,5%を下らな いというべきである。 控訴人は,アンケート調査結果(乙45)を根拠として,本件におけ る実施料率は3%程度とすべきであると主張する。このアンケート調査 結果には,特許権のみの場合のロイヤルティ料率と特許権と意匠権を組 み合わせた場合のロイヤルティ料率が示されており,前者は,平均値が 約3.5%,中央値が約3.3%であり,後者は,平均値が約3.1%,中 央値が約2.9%であるから,確かに控訴人の指摘するとおり,後者の数 字の方が若干低くなっている。しかし,このアンケート調査の回答数は 必ずしも多くなく,特許権と意匠権を組み合わせた場合のロイヤルティ 料率についての回答数は全部で25にすぎないし,意匠権のみの場合の ロイヤルティ料率についての調査結果は存在しない。また,特許権,意 匠権それぞれ単独でロイヤルティ料率を設定する場合と,これを組み合 わせてロイヤルティ料率を設定する場合を比較すると,単純に,単独の 場合の料率を足したものが組み合わせた場合の料率になるとは考え難く, むしろ,組み合わせた場合の料率は,単独の場合の料率を足したものよ り低くなるのが一般的ではないかと考えられる。したがって,このアン ケート調査結果は,本件における実施料率を認定するに当たっては,あ くまでも参考資料の一つにとどまるといわざるを得ない。これに加え, 本件意匠自体の価値,被告製品の需要者がデザイン性を考慮する程度, 原告製品と被告製品とが競合品の関係にあることといった事情を総合的 に考慮すれば,本件における実施料率は5%を下らないというべきであ り,控訴人の主張を採用することはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)6029

関連カテゴリー
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> 102条3項
 >> 意匠その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(ワ)10716  特許権侵害差止等請求事件  特許権 令和3年2月18日  大阪地方裁判所

 特許法102条2項による損害認定について、2割の覆滅が認められました。 消費税については、侵害時の税率で計算すると判断されました。

 消費税は,国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものであるとこ ろ(消費税法4条1項),「例えば,次に掲げる損害賠償金のように,その実質が 資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当する ことに留意する。・・・(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財 産権の権利者が収受する損害賠償金」(消費税法基本通達 5-2-5)とされているこ とに鑑みると,特許権を侵害された者が特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金 を侵害者から受領した場合,その損害賠償金も消費税の課税対象となるものと推察 される。そうすると,特許権者が特許権侵害による損害のてん補を受けるために は,課税されるであろう消費税額相当分についても損害として受領し得る必要があ るというべきであるから,「利益」には消費税額相当分も含まれ得ると解される。 適用されるべき消費税率について,原告は,損害賠償支払時点の税率(10%) によるべきと主張する。
しかし,上記のとおり,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金に対する消費 税が課せられるのは,損害賠償金の実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認めら れることによる。ここで,資産の譲渡等に相当する行為と見られるのは,特許権侵 害行為である。また,消費税基本通達 9-1-21 では,「工業所有権等又はノウハウを 他の者に使用させたことにより支払いを受ける使用料の額を対価とする資産の譲渡 等の時期は,その額が確定した日とする。」とされている。これらのことに鑑みる と,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金は,特許権侵害行為時に直ちに損害 が発生して金額が確定するものであるから,資産の譲渡等の時期は,特許権侵害行 為時であると解される。 そうすると,本件においては,第1期間〜第4期間のいずれにおいても,本件特 許権侵害行為時の消費税率8%が適用されることとなる。
・・・・
本件明細書の記載によれば,本件発明の効果は,前記4(1)のとおりである。要 するに,本件発明の効果は,1)外観上の体裁の良さ及び室内側への風雨の進入防止 並びに2)取付強度の高さ及び風圧に対する耐久性の良さと,3)取付作業時に足場等 が不要となることによる施工コストの低減にあるといえる。もっとも,上記効果の うち1)及び2)は,手摺本体取付け後の効果であるため,取付方法に係る発明である 本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とは必ずしもいえない。
イ 本件発明の貢献の程度等について
(ア) 本件発明は,手摺の取付方法に係る発明である。手摺を選択するのは,最終 的にはこれを取り付ける建築物の施主であるものの,手摺の取付方法そのものが施 主の関心を惹くとは考え難い。その意味で,本件発明に係る手摺の取付方法を実施 することは,製品選択の直接の動機となるとはいえない。 しかし,本件発明の効果1)〜3)は,いずれも建築物に取り付けるべき手摺製品の 選択の動機となり得る事情ということはできる。
(イ) もっとも,前記アのとおり,効果1)及び2)は,いずれも手摺本体取付け後の 効果であるため,取付方法に係る発明である本件発明によるのでなければ実現し得 ない効果とは必ずしもいえない。例えば,本件特許出願後に公開されたものである ものの,特開 2009-2283号公報(乙16。平成21年10月8日公開)には,手 摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数のガラス板等のパネルが取り付けら れ,パネル間にはパネル支持枠(アルミニウム系金属で構成されるものであり\n(【0012】),アルミ製目地枠に相当する。)を用い,パネルの上下左右全ての側 部が支持固定される手摺の構成が開示されている。そうすると,効果1)及び2)につ いては,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たっては,必ずしも重視し得 るものではない。
(ウ) 他方,効果3)については,最終的な需要者(ないしこれに対して建築物に取 り付けるべき手摺を提案する手摺取付業者や建築物の開発業者等)にとって,顧客 誘引力を生じ得るものといってよく,本件発明の貢献の程度を評価するに当たって はこれを考慮に入れるべきである。 もっとも,複数階層の建築物の建築現場においては,手摺取付工事のための足場 は不要であっても,別工程のために足場の設置が必要となることは,当然あり得る (乙50〜54参照)。このため,このような場合は,結局は足場等設置に要する コストが発生し,施工コスト低減の効果がないか,あるとしても,設置期間短縮等 による限られた効果しか生じないものと合理的に推察される。 他方,このような事情は主として建築物の新築時や大規模修繕時のものであり, それ以外のメンテナンス時には,足場等を不要とすることによる施工コストの低減 という効果が発揮されることは考えられる。現に,乙42製品のカタログ(乙4 2)には,「パネルは室内側から取り付けられ,メンテナンス性に優れていま す。」と記載されている。また,原告製品のカタログ(甲15)においても,「ガ ラス嵌め込み工事における,外部足場が不要になります。」との記載があり,これ もメンテナンス性における優位性を指摘するものと理解される。ただし,建築物の 新築時及び大規模修繕時に比較すると,それ以外の機会にメンテナンスを実際に要 する例は,規模的にかなり少ないと推察される。 さらに,被告は,そのウェブサイト(甲3の1)において,被告製品の特徴とし て,ガラスの連続した意匠となること,4辺支持とすることでガラス厚を薄く設計 できるとともに,手すりの高耐風圧仕様となること,ガラスの縦枠への掛かり寸法 をガラス厚とし,安心な製品仕様としていることを挙げるものの,足場を組む必要 がないこと(その結果として施工費が安価になること)については触れていない。 加えて,本件発明に係る手摺取付方法によれば,ガラス取付業者においてガラス 板と目地枠を取り付けることができるとしても,それがどの程度施工コストの低減 に貢献する効果を有しているのかは明らかではない。
(エ) 以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを 実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同 程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について 証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数 のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認 められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について 証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付 枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる (乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4 辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的 にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付 強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係 合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲 14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等 の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得 る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について 証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ 製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程 度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって, アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺 笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関 係である。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他 原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可 能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当 である。 もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると 認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全 趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27 製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3 9製品が平成29年10月であることが認められる。 また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。
これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品 及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2 項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程 度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的 であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに 反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10042  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月25日  知的財産高等裁判所

 訂正が明細書等に記載した事項の範囲内ではないとした審決が維持されました。

 (ア) 原告は,本件明細書の段落【0111】の記載及び【図8】を指摘し, 本件決定が,訂正1イにおける「第3部材とは反対側」と本件明細書に記載された 「回転中心C3とは反対側」とは別意であると判断したことは誤りであり,訂正1 イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」は,第 1線分に対して第3部材の回転中心とは反対側をいうものと解釈すべきであると主 張する。 しかし,本件明細書の段落【0111】における「回転中心C3」は,「伝達軸8 2」の中心として特定されており(本件明細書の段落【0016】,【0056】), クランクシャフトの軸方向から見たときの径の大きさによって定義される「第3部 材」とは異なる概念であるから,「回転中心C3とは反対側」との記載を根拠として, 「前記第3部材とは反対側」の語をもって,第3部材の回転中心とは反対側と同義 ということができないことは,明らかである。 この点,原告は,訂正1イ及び訂正2イについて,誤記であることが明らかであ るとも主張するが,上記の点及び前記イで指摘した諸点に照らし,採用できない。
(イ) 原告は,本件明細書等には,上記「第3部材とは反対側」を「第3部 材の全体とは反対側」と解釈することの記載又は示唆はないと主張するが,前記イ で判示したところに照らし,原告の上記主張は採用できない。 また,原告は,そのように解釈した場合,【図8】の図示内容を始めとする本件明 細書等に記載された内容と整合しないことになるとも主張するが,そのような事情 があるからといって,前記イの判断が左右されるものでもない。
(ウ) 原告は,訂正1イ及び訂正2イの「前記第1線分に対して前記第3部 材とは反対側」からは,その技術的意義が一義的に明確にできないから,本件明細 書等を参酌して,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対して前記第3 部材とは反対側」は,第1線分に対して第3部材の回転中心とは反対側をいうもの と解釈すべきであると主張する。 しかし,前記イのとおり,「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」の意 義(意味内容)自体は,一義的に明確であって,前記イのように解することができ るというべきである。
(2) 訂正1イ及び訂正2イが本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであ るかどうか
ア 上記(1)のとおり,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対し て前記第3部材とは反対側」は,第1線分によって区切られる領域の片側に第3部 材の全体が存在することを前提とし,それが存在する側と第1線分を挟んで反対側 をいうものと解すべきところ,そのような構成は,本件明細書には,「基板」を図示\nしている【図8】,【図9】及び【図11】を含め,全く記載されていない。 そして,「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を上記のとおり解する と,訂正1イ及び訂正2イは,第3部材について,第1線分に重ならないという構\n成に限定するものとなるが,そのように限定する技術的意義については,本件明細 書等には記載がない。他方で,「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を 上記のとおり解すると,訂正1イ及び訂正2イは,同時に,本件訂正前の請求項1 及び9では,第1部材〜第3部材の各定義に照らし,モータか第1伝達歯車のいず れかという限度にまでしか特定されていなかった「第3部材」について,モータで はない(すなわち第1伝達歯車である)という限定を加える結果をもたらすもので あるが,それは,応用例に係る本件明細書の段落【0157】及び【図15】で, 「第3部材」と解される「クランクシャフト54の軸方向から見たときの径が最も 小さい部材」が「モータ60」とされていることと相容れないものである(なお, 上記段落及び図では,そもそも請求項1及び9における「第1線分」すなわち第1 部材の回転中心と第2部材の回転中心とを結ぶ線分が「線分S1」ではなく「線分 S3」 と記載されており,上記「第1線分」の定義との関係自体も必ずしも明らか でない。)。 そして,その他,本件明細書に,第1線分によって区切られる領域の片側に第3 部材の全体が存在することを前提とし,それが存在する側と第1線分を挟んで反対 側における基板の位置について記載されていないにもかかわらず,訂正1イ及び訂 正2イが本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたというべき事情は認 められない。 そうすると,訂正1イ及び訂正2イは,いずれも,本件明細書等に記載した事項 の範囲内においてしたものということはできない。
イ(ア) 仮に,原告の主張するとおり,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記 第1線分に対して前記第3部材とは反対側」について,第1線分に対して「第3部 材の回転中心」とは反対側をいうものであると解したとしても,以下のとおり,訂 正1イ及び訂正2イは,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたもの ということはできない。
a 本件明細書の段落【0111】,【0113】及び【0118】の記 載並びに【図8】,【図9】及び【図11】によると,本件明細書には,訂正1イ及 び訂正2イに含まれる「前記基板は,前記クランクシャフトの軸方向から見た場合 に,前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重な る領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重 なる領域を有する,駆動ユニット」の構成のうち,第1部材が被駆動歯車,第2部\n材がモータ,第3部材が第1伝達歯車である場合の実施例が記載されていると認め られる。 しかし,本件訂正後の請求項1及び9においては,基板の構成について,上記の\n特定がされているのみであるので,被告が主張する五つの態様のもの(前記第4の 1(2)イ(イ),(ウ)。以下,併せて「被告主張の別態様」という。)も含まれることに なるが,これらは本件明細書等には記載されていない。
b また,前記1(2)オのとおり,本件明細書には,「基板」の位置を上 記のとおり特定したこと,殊に,基板が被駆動歯車及びモータと重なる領域が第1 線分に対して「第3部材とは反対側」の領域であることについて,本件発明の課題 との関係でいかなる技術的意義を有するかの記載はなく,それを認めるに足りる技 術常識があるとも認められない。したがって,訂正1イ及び訂正2イの上記構成が\nいかなる技術的意義を有するかは不明というほかない。
c そうすると,本件訂正後の請求項1及び9は,その技術的意義が明 らかでない,本件明細書等に記載のない被告主張の別態様を含むこととなるところ, 被告主張の別態様中には,本件明細書に記載された上記aの実施例と比較して「基 板」の技術的意義が共通するものと直ちにみ難いものが含まれているといえるから, このような訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものということ はできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項
 >> 新たな技術的事項の導入
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10058  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月25日  知的財産高等裁判所

 周知技術から、特許の出願時には,小児外科においては,長さが可変の手術 台が一定程度普及していたとして、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。

ア 周知技術について (ア) 昭和53年に出願され,昭和54年に公開された実用新案登録願(甲 64)には,前記4(3)のとおり,小児用手術台は,患者の身長の長短によって,長 すぎたり,短かすぎて,医師が適切な診療処置を行うのに不便であったこと,この ことから,医師が適切な診療処置を行うためには,手術台の長さを,患者の身長に 応じたものにする必要があったこと,そのために,小児用手術台の患者受板部を, 中央受板部の前後に連結される頭受板及び足受板の他に,複数の補助受板で構成し,\n小児から中年の患者の身長に応じて各受板を適宜組み合わせ連結して手術台を形成 することが記載されていると認められる。
・・・
(ウ) 前記4(5)のとおり,昭和53年〜昭和55年に,日本において,小児 外科用手術台であるMOC−1800が販売されていたが,そのカタログ(甲76) によると,前記4(5)のとおり,同手術台は,主枠の両側に,腰板,背板,脚板,枕 板(頭部受板)及び補助板を取り付けることができ,その組合せにより,様々な長 さのテーブルトップを形成することができることが認められ,また,同カタログに は,「全長60〜187cmの間で幼少児の身長に応じて全長が選べる」,「21種類 の組合せの中より小児の身長に応じて,テーブルトップの全長を選択してください。」 などの記載がある。この事実からすると,患者の身長に応じて,長さの異なるテー ブルトップを備える手術台の需要があったこと,この需要に対応するために,主枠 の両側に,腰板,背板,脚板,枕板(頭部受板)及び補助板を組み合わせて,様々 な長さのテーブルトップを形成できる手術台が販売されていたことが認められる。
・・・
(オ) 以上の事実からすると,本件特許の出願時には,手術台のテーブルトッ プは,患者の身長に応じた長さとすることが望まれており,医療機関において,テ ーブルトップの長さを調整できる手術台の要望があったこと,その要望に応えるた めに,各種の大きさのコンポーネントを組み合わせて,適宜の長さのテーブルトッ プとする手術台が販売されており,また,小児外科においては,長さが可変の手術 台が一定程度普及していたことが認められる。
・・・
前記5(3)イのとおり,製品1発明3)においては,患者の頭部側から順に,1)背板, 座板,足板の組合せ,2)背板(短),座板,背板の組合せ,3)背板(短),座板,足 板の組合せを適宜選択し,各組合せによるテーブルトップとし,また,4)各種頭板, 背板,座板,足板の組合せ,5)各種頭板,背板(短),座板,背板の組合せ,6)各種 頭板,背板(短),座板,足板の組合せを適宜選択し,各組合せによるテーブルトッ プとすることが可能であり,上記1)の組合せを上記2)の組合せに変更することや上 記2)の組合せを上記3)の組合せに変更すること,上記4)の組合せを上記5)の組合せ に変更することや上記5)の組合せを上記6)の組合せに変更することも可能であると\nころ,甲1,2,4及び5には,これらの組合せを禁止したり,推奨しない旨の記 載もなく,かえって,前記3のとおり,甲2には,「マッケ手術台システム1120 は,モジュール方式でデザインされ」(2頁),「広く世界的に採用されている非常に フレキシブルなモジュール方式の手術台システムです。」との記載がある。
そして,前記イのとおり,製品1において,患者の背が高い場合には,足側の背 板の先に頭板を付け加える使用方法が行われていたことからすると,前記アのとお り,手術台のテーブルトップを患者の身長に応じた長さとすることが望まれており, その要望に応えるために各種のコンポーネントを組み合わせることなどが行われて いることを知る当業者は,製品1発明3)において,患者の身長に対応させるために 各種モジュールを取り換えて手術台を患者の身長に対応したものとすることを容易 に想到することができたものと認められる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,背板(短)は頭部手術という特定の用途のためにのみ頭板と 共に使用されると主張する。 しかし,甲5の20頁には,背板(短)に頭板「1002.62」と取り付けら れた写真が載っているが,同頁の表題は「眼科,ENT,一般外科,麻酔科」と表\ 記されていることから,背板(短)は,必ずしも,特定の用途のために頭板と共に 使用されるとは認められない。 また,患者の頭側に頭板を取り付けた背板(短)を配置した場合,前記5(3)イの とおり,足側は背板又は足板を配置することが可能であり,足側の背板を足板に交\n換すれば,テーブルトップの全長も変わるから,被告の主張を前提としても,使用 者の体格に対応して,床板を支えるフレームを交換したことになる。 したがって,被告の上記主張は理由がない。
(イ) 被告は,製品1の具体的な構成は,それぞれが独立した構\成であり,そ れらの構成を組み合わせることにより相違点を解消することはできないと主張する。\nしかし,製品1発明3)の構成は,前記5(2)のとおりであるところ,同構成は,背\n板,座板及び足板の各コンポーネント並びに背板(短)及び各種頭板のアクセサリ ーを含めて,一つの製品である製品1から認定できる技術的構成であるから,一つ\nの発明の構成である。そして,前記イの実施態様も製品1の実施態様であるから,\nこれを考え併せて,製品1発明3)から本件発明を容易に想到することができるとい うべきである。
(ウ) 被告は,原告の主張は,「設計事項」という名目の下,甲61以下の証 拠に基づく異なる構成(公知事実)を組み合わせることにより相違点を解消できる\nという新たな進歩性欠如の主張をするものであり,本件訴訟の審理事項から排除さ れるべきものであると主張するが,前記アの周知技術を本件発明の進歩性を判断す るに当たっての当事者の技術水準を示すものとして考慮することはできるのであり, 前記ウの判断はそのような趣旨で考慮したものであるから,本件訴訟の審理範囲外 ではない。
(3) 以上より,取消事由2は理由がある。
7 そうすると,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の主張し た無効理由は認められないとした本件審決の判断は誤りであるから,本件審決は取 り消されるべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)1004 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審と同様に、104条の3の無効理由(新規事項、サポート要件違反)があるので、権利行使不能と判断されました\n

(ア) 図105ドットパターンにおいては,情報ドットは,四隅を格子ドッ トで囲まれた領域の中心からずれた位置に置かれるところ,本件補正1 1)部分に当たる構成要件B1の情報ドットは,「縦横方向に等間隔に設\nけられた格子線の交点である格子点の中心」からずれた位置に置かれる。 図105には,水平又は垂直の格子線の中間に各格子線と平行な線が引 かれているが,当初明細書1に,「格子状に配置されたドットで構成さ\nれている。」(【0185】),「格子ブロックの四隅(格子線の交点 (格子点)上)には格子ドットLDが配置されている」(【0186】), 「4個の格子ドットLDの正中心に配置したドットである(図106(a) 参照)」(【0197】)と記載されているとおり,格子ドットは等間 隔に配置されたドットにより構成された水平ラインと垂直ラインの交点\nであり,格子線は格子ドットを結ぶラインであるから,図105に示さ れた各格子線の中間に引かれた線は格子ドットで囲まれた領域の中心を 示すために参考として引かれた補助線にすぎず,格子線とは認められな い(図106(a)のように,格子ドット同士を対角線で結べば,その 交点は「格子線の交点」となるが,その線は構成要件B1に規定する「縦\n横方向」のラインではない。)。 そうすると,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格 子点の中心」を基点として情報ドットが位置付けられることを構成要件\nとする本件補正11)部分は,図105のドットパターンとは似て非なる ものであり,そもそも図105ドットパターンに基づく補正であるとは 認められない。
(イ) 図5ドットパターンにおいては, 情報を表現するドットは,格子ド\nットから上下左右の格子線上にずらした位置に配置されるところ,構成\n要件B1の情報ドットは「格子点の中心から等距離で45°ずつずらし た方向のうちいずれかの方向」に配置されるものであるから,本件補正 11)部分は,図5ドットパターンに基づく補正であるとは認められない。
(ウ) そのほか,当初明細書1に本件補正11)部分に対応する記載は認め られないから,本件補正前発明1の本件補正11)部分に対応する部分と 構成要件B1とを対比するまでもなく,本件補正11)部分は新たな技術 的事項を導入するものというべきである。
・・・・
(ア) 本件発明3の特許請求の範囲の記載(分説後のもの)は,次のとおり である(引用に係る原判決の「事実及び理由」第2の2(5)ウ参照)。
A3 等間隔に所定個数水平方向に配置されたドットと,
B3 前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから 等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドットと,
C3 前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ライ ンと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定さ れた水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方でデータ 内容が定義された情報ドットと,からなるドットパターンであって,
D3 前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位置 からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している E3 ことを特徴とするドットパターン。
(イ) 構成要件B3の「前記水平方向に配置されたドットの端点に位置す\nる当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」と, 構成要件C3の「前記垂直方向に配置されたドット」と,構\成要件D3 の「前記垂直方向に配置されたドット」とは同じものを指すと解される から,この一つの「垂直方向に配置されたドット」は,垂直方向に「等 間隔」に配置される一方で(構成要件B3),「本来の位置からのずら\nし方」によってドットパターンの向きを意味するとされており,その「ず らし方」について特に限定はされていない。同一方向に等間隔に配置さ れながらその位置がずれているのは文言上整合していないが,これを合 理的に解釈するならば,「等間隔」はこの一つの「垂直方向に配置され たドット」以外のドットに係り,この一つの「垂直方向に配置されたド ット」は他のドットと異なり「等間隔」に配置されなくてもよいもので あり,そのずらされる方向,距離とも何ら限定はないと解するほかない。 また,本件発明3は,「ずらし方によって前記ドットパターンの向き を意味している」(構成要件D3)としているから,「ずらし方」,す\nなわち,本来の位置からずらされた別の位置に配置された一つの「垂直 方向に配置されたドット」が当該位置に配置されていることが認識され, 本来の位置とその実際の位置との間の位置関係に基づいてドットパター ンの向きが意味されることを規定していると解釈すべきものである。
イ 図105ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図103ないし106のほか,次の記載がある。
「【0239】 また,本発明のドットパターンでは,キードットのずらし方を変更す ることにより,同一のドットパターン部であっても別の意味を持たせる ことができる。つまり,キードットKDは格子点からずらすことでキー ドットKDとして機能するものであるが,このずらし方を格子点から等\n距離で45度ずつずらすことにより8パターンのキードットを定義でき る。
【0240】 ここで,ドットパターン部をC−MOS等の撮像手段で撮像した場合, 当該撮像データは当該撮像手段のフレームバッファに記録されるが,こ のときもし撮像手段の位置が紙面の鉛直軸(撮影軸)を中心に回動され た位置,すなわち撮影軸を中心にして回動した位置(ずれた位置)にあ る場合には,撮像された格子ドットとキードットKDとの位置関係から 撮像手段の撮像軸を中心にしたずれ(カメラの角度)がわかることにな る。この原理を応用すれば,カメラで同じ領域を撮影しても角度という 別次元のパラメータを持たせることができる。そのため,同じ位置の同 じ領域を読み取っても角度毎に別の情報を出力させることができる。
【0241】 いわば,同一領域に角度パラメータによって階層的な情報を配置でき ることになる。
【0242】 この原理を応用したものが図74,図76,図78に示すような例で ある。図74では,ミニフィギュア1101の底面に設けられたスキャ ナ部1105でこのミニフィギュア1101を台座上で45度ずつ回転 させることでドットパターン部の読取り情報とともに異なる角度情報を 得ることできるため,8通りの音声内容を出力させることができる。」 (図74,76及び78については本判決への添付を省略する。)
(イ) 上記(ア)の記載は,構成要件D3との関係においては,確かに,格子\nドットとキードットとの位置関係によってドットパターンの向きを意味 することを記載するものといえる。 しかしながら,構成要件C3との関係について見れば,本件発明3は,\n「格子点からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」との構成\nを有するところ,前記2(1)ウのとおり(引用に係る原判決の「事実及び 理由」第3の1(補正後のもの)のとおり,当初明細書1と本件明細書 3の関連部分の記載はいずれも同じである。),図105ドットパター ンにおいては,情報ドットを四隅を格子ドットで囲まれた領域の中心か らずらすことによってデータ内容を定義するものであって,格子ドット からのずらし方によってデータ内容を定義するものではない(構成要件\nC3は格子点を垂直ラインと水平ラインの交点と定義しているから,構\n成要件 C3が図105ドットパターンに基づくものと仮定する余地はな い。)。 そうすると,本件発明3は,図105ドットパターンに関する記載に 係るものとはいえない。
ウ 図5ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図2,5ないし8のほか,次の記載がある。 「【0069】 ・・・図5から図8は他のドットパターンの一例を示す正面図である。
【0070】 上述したようにカメラ602で取り込んだ画像データは,画像処理ア ルゴリズムで処理してドット605を抽出し,歪率補正のアルゴリズム により,カメラ602が原因する歪とカメラ602の傾きによる歪を補 正するので,ドットパターン601の画像データを取り込むときに正確 に認識することができる。
【0071】 このドットパターンの認識では,先ず連続する等間隔のドット605 により構成されたラインを抽出し,その抽出したラインが正しいライン\nかどうかを判定する。このラインが正しいラインでないときは別のライ ンを抽出する。
【0072】 次に,抽出したラインの1つを水平ラインとする。この水平ラインを 基準としてそこから垂直に延びるラインを抽出する。垂直ラインは,水 平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点\nがライン上にないことから上下方向を認識する。
【0073】 最後に,情報領域を抽出してその情報を数値化し,この数値情報を再 生する。」 (イ) また,引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の4(2)(補正後のも の)とおり,図5及び図7では,左端の垂直ラインに配置されたドット の一つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ライ ンに沿って左側に配置され,「x,y座標フラグ」とされていることが 示され,図6及び図8では,左端の垂直ラインに配置されたドットの一 つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ラインに 沿って右側に配置され,「一般コードフラグ」とされていることが示さ れている。
(ウ) 本件発明3は,「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ド ット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意 味している」(構成要件D3)ことを特徴とするドットパターンである\nところ,図5ドットパターンに関し,本件明細書3には,前記(ア)のとお り,「垂直ラインは,水平ラインを構成するドットからスタートし,次\nの点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識す る。」(【0072】)との記載がある。しかしながら,これは,垂直 ライン上の特定位置(本来の位置)にドットがないことによってドット パターンの上下方向を認識するとの意味の記載であって,「ドット本来 の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味する記載 とはいえない。 また,前記(イ)のとおり,図5ないし8には,他のドットから形成され る垂直ラインから左右にずれたドットが示され,それらドットが「x, y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」との意味を有するフラグ であることが記載されている。しかしながら,引用に係る原判決の「事 実及び理由」第3の4(2)(補正後のもの)によれば,「x,y座標フラ グ」(図5及び7)がある場合には,情報を表現する部分のドットパタ\nーンはXY平面上の特定の座標値を示し,「一般コードフラグ」(図6 及び8)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはある\n特定のコード(番号)を示すものと認められる。そうすると,「x,y 座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」とされたドットは,情報を 表現する部分のドットパターンのデータ内容の定義方法を示すというデ\nータ内容を定義するドットの一つにすぎず,フラグとしてその位置を認 識され,ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によって ドットパターンのデータの内容を定義しているが,ドットパターンの向 きを意味しているものではない。そして,そのほか,図5ないし8には, ドットパターンの向きを意味するドットは記載されていないし,データ の内容を定義しているドットがドットパターンの向きを意味するドット を兼ねるとの記載もない。
さらに,「垂直方向に配置されたドット」の一つにつき,その本来の 位置からのずらし方によってドットパターンの向きを意味することを特 徴とする本件発明3の実施形態について,上記ドットがどのような方向, 距離において配置されるのかについては,本件明細書3にはその記載は ない。 以上によると,図5ドットパターンは,「ずらし方によって前記ドッ トパターンの向きを意味している」(構成要件D3)との構\成を有しな い。 そうすると,本件発明3は,図5ドットパターンに関する記載に係る ものともいえない。
エ 控訴人は,1)図5ないし8において,「x,y座標フラグ」又は「一 般コードフラグ」はドットパターンの向きを意味するドットと兼用され ている,2)本件明細書3の段落【0239】ないし【0241】,【図 105】,【図106】の(d)の記載を参酌すれば,キードットにデータ 内容を定義する機能とドットパターンの向き(角度)を意味するという\n機能を持たせ得ることが示されている,3)本件明細書の段落【0230】 の記載から,「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」もキード ットと同様の機能が備わると理解できる,4)本件明細書3の【0072】 では格子ドットを非回転対称の配置にして上下方向も認識できるように しているし,本件明細書3の図5ないし8には「x,y座標フラグ」又 は「一般コードフラグ」が本来の位置からずれることで本来の位置と実 際に配置されたドットの位置関係に基づいてドットパターンの向きが表\n現されている,5)「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」 がキードットと同一の機能を有するものであることは当業者にとって自\n明である旨を主張する。
しかしながら,前記ウで認定したとおり,図5ないし8においては, ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によってドットパ ターンの向きを認識することについては何ら説明されておらず,控訴人 主張のドットの兼用を認めるに足りる根拠は見当たらないないから,上 記1)の主張は採用することができない。 また,【0239】ないし【0241】,【図105】,【図106】 の(d)の記載は,図105ドットパターンに関する記載であり,図105 ドットパターンと図5ドットパターンを組み合わせることは新規事項の 追加となることは前記2にて判断したとおりであるから,そのような組 み合わせをしたのであれば,それ自体からしてサポート要件を欠くこと になり,上記2)の主張は失当である。
次に,図105ドットパターンに関する記載である段落【0230】 (引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の2の【0230】III)部分 参照)には「本発明におけるドットパターンの仕様について図103〜 図106を用いて説明する。」との記載があるだけであり,これにより 「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」が図105ドット パターンのキードットと同様の機能が備わると理解することはできない\nから,上記3)の主張は採用することができない。 さらに,控訴人の上記4)及び5)の主張については,確かに,ドットパ ターンの方向を意味するドット又はドット群を設けてこれらを非回転対 称の配置にすればドットパターンの向きを認識できることは明らかであ り,また,図5ないし8に記載された「x,y座標フラグ」又は「一般 コードフラグ」は非回転対称の位置に配置されているとはいえるから, これをドットパターンの向きを意味するドットとして兼用することも可 能である。しかしながら,本件明細書3は,そのような構\成としたもの と理解すべき記載となっておらず,「本来の位置からのずらし方」とし てどのような選択に従い本件発明3を構成したのかがそもそも記載され\nているとはいえないことは,前記ウで示したとおりである。したがって, 上記4)及び5)の主張も採用することができない。
オ 以上のとおり,技術常識を踏まえても,当業者において,本件発明3 が本件明細書3の発明の詳細な説明に記載したものと理解することはで きないというべきであるから,本件発明3に係る本件特許3は,特許法 36条6項1号に違反し,特許無効審判により無効とされるべきもので ある。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成30(ワ)10126

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項
 >> 新たな技術的事項の導入
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10088  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年2月22日  知的財産高等裁判所

 文字商標「ホームズくん」が、「ホームズ君」を含む図形商標と類似するとして拒絶されました。知財高裁は審決を維持しました。

 原告は,1)原告キャラクターと本願商標との密接不可分的なつながり,2) 原告キャラクター及び原告ウェブサイトの周知著名性,3)不動産業界の取引 の実情を考慮すると,本願商標からは,原告キャラクターの観念,さらには 原告による各種不動産情報の提供の役務という観念が生じる旨主張する。こ の主張は,取引の実情を考慮すると,本願商標から,上記の各観念が生じる と主張しているものと解される。 しかしながら,証拠(甲34〜39,41)によれば,原告が,原告キャ ラクターを利用した宣伝広告活動や営業活動を展開しており,原告キャラク ターやその愛称である「ホームズくん」がそれなりの知名度を有するに至っ ていることは認められるものの,他方で,参加人も,引用商標1やそれに類 似した標章,「ホームズ君」という名称等を利用して宣伝広告活動や営業活 動を行っており,相応の知名度を得るに至っていること(丙20〜323) 等の事情に照らしてみると,本願商標の指定役務に係る取引分野において, 「ホームズくん」といえば原告キャラクター,ひいては原告の営業を表すと\n取引者,需要者の誰もが理解するといえるほどの一般的,普遍的な観念が成 立するに至っているとまで認めることはできない。そして,単に,原告が「 ホームズくん」という愛称の原告キャラクターを利用しており,それが,一 定程度の知名度を有しているという程度のことであれば,それは,せいぜい 本願商標に係る個別的な事情であるにとどまり,取引の実情として考慮する ことが許される,指定商品・役務全般についての一般的・恒常的事情(最高 裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小法廷判決・審決取消 訴訟判決集昭和49年443頁参照)には当たらない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
3 引用商標1の外観・観念・称呼について
(1) 引用商標1は,別紙審決書写しの別掲2のとおり,「ホームズ君」部分, 「耐震フォーラム」部分,引用図形部分から成る結合商標である。 ア 引用商標1は,外観上,「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分 及び引用図形部分の三つが分離されないような態様で構成されているもの\nではない。そして,「ホームズ君」部分及び「耐震フォーラム」部分と引 用図形部分とは,文字と図形との違いに加え,色彩においても大きく異な っており,外観上密接不可分な関係にないことは明らかである。他方,「 ホームズ君」部分と「耐震フォーラム」部分とは,色彩が青色で統一され ており,字体も共通するようにみられるものの,改行により二列になって いて一体性に乏しい上,前者は文字が青であるのに対し,後者は,青の背 景に白抜きで文字が表されている点でも異なり,更に文字の大きさも異な\nるため,やはり外観上密接不可分な関係にあるとはいい難い。 また,「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分,引用図形部分の 三者が,称呼,観念において密接不可分の関係性を有していると認めるだ けの根拠を見出すこともできない(なお,後のイで述べるとおり,「ホー ムズ君」部分と引用図形部分には,観念において一定の関係があると理解 することも可能であるが,そうであるとしても,「ホームズ君」部分を要\n部として抽出し得るという結論に変わりがないことは,後に述べるとおり である。)。 したがって,引用商標1は,各構成部分を分離して観察することが,取\n引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないか ら,各部分を分離して観察することも許されるものというべきである。
イ そして,「ホームズ君」の文字は,それ自体としてみれば,商品・役務 の出所識別標識としての機能を十\分に果たし得るものであるといえること, 「ホームズ君」部分は,引用商標1の他の部分に比べると小さいとはいえ, 十分に認識可能\な形で記載されており,出所識別標識としての機能を果た\nし得ないほどに他の部分に埋没してしまっているとはいえないこと等の事 情に照らしてみると,「ホームズ君」部分を,引用商標1の要部として抽 出することは十分に可能\であるということができる。 他方「耐震フォーラム」部分を構成する「耐震」及び「フォーラム」は\nいずれも普通名詞であって(乙7・8(大辞林第三版)),これらを結合 した「耐震フォーラム」の語は,建築物等の耐震性に関する講演会・討論 会を指称するためしばしば使用されていること(乙9〜19(各種の専門 新聞・一般日刊新聞))に照らすと,引用商標1が例えば「不動産に関す るセミナーの企画・運営」に用いられた場合には,「耐震フォーラム」部 分は,「建物の耐震性に関する講演会・討論会」程度の意味合いを認識さ せるにすぎず,出所識別標識としての称呼・観念を生じさせるとはいえな い。
また,引用図形部分は,全体としてみると,探偵風の装束をした人物が 家を観察している場面を描いたものと受け取れ,横にある「ホームズ君」 部分を併せ見ることにより,家を観察する名探偵ホームズといった観念を 生ずる余地があるが,仮にそうであるとしても,それは,「ホームズ君」 のイメージを視覚的に描き出したものであって,「ホームズ君」部分を補 完するものにすぎないと理解すべきであるから,独立して出所識別機能を\n果たすとまで見ることはできない。 以上によれば,本件においては,引用商標1から抽出した「ホームズ君 」部分と本願商標との比較によって類否を判断すべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> 誤認・混同
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10104  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年2月22日  知的財産高等裁判所

 商標「旬/JAPAN SHUN」について、先行商標「市場365/旬/SYUN RAKU ZEN」と類似するかが争われました。審決、知財高裁とも、分離解釈可能として類似すると判断しました。\n

 商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された 場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否か によって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称 呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべ く,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その 具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行 ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁, 最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集5 1巻3号1055頁参照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構\成部 分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分 的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,\nこの部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許さ れないが,その場合であっても,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に\n対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や, それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには, 商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判\n断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同 38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成 3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5 009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷 判決・裁判集民事228号561頁参照)。 以下,上記の判断枠組みに沿って,本願商標及び引用商標の類否について検 討する。
2 原告の主張1(分離観察の可否)について
(1) 本願商標について
ア 商標の構成\n
(ア) 本願商標は,黒色の長方形図形を背景として,左側から順に,本願 漢字部分及び本願欧文字部分が配置された結合商標であり,両部分は, ほぼ同じ高さで横一列に,重なり合うことなく配置されている。
(イ) 本願漢字部分は,「旬」の漢字1文字からなる。この文字は,赤色の 毛筆体で描かれており,本願欧文字部分の各文字の4倍程度の大きさで ある。また,本願漢字部分は,やや図案化されているものの,その程度 は低いといえる。
(ウ) 本願欧文字部分は,同じ幅で上下2段に配置された「JAPAN」 及び「SHuN」の欧文字からなり,これらの文字は,いずれも白色の 毛筆体で描かれている。また,本願欧文字部分は,本願商標のうち2分 の1程度の幅を占めている。
イ 分離観察の可否
(ア) 本願漢字部分は,漢字1文字が赤色で大きく描かれているのに対し, 本願欧文字部分は,上下2段に配置された複数の欧文字が白色で描かれ ており,両部分の文字の大きさや色彩,文字種,構成等は,明らかに異\nなるといえる。また,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,ほぼ同じ高 さで横一列に配置されてはいるものの,重なり合うことなく配置されて いる。そうすると,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,それぞれが独 立したものであるとの印象を与え,視覚上分離して認識されるものとい える。 また,本願欧文字部分は,本願商標のうち2分の1程度の幅を占めて おり,看者の目を引きやすいとはいえるものの,他方で,本願漢字部分 は,その色彩や大きさからすれば,相応に目立つ態様で表示されている\nといえるから,本願商標に接した者は,本願欧文字部分のみならず,本 願漢字部分にも注意を引かれるものといえる。なお,黒色の背景部分は, 視覚上,特段の印象を与えるようなものではない。
(イ) また,本願漢字部分は,平易な漢字である「旬」の文字を表したも\nのであるから,同部分からは,「シュン」との称呼が生じるとともに,日 常用語として「魚介・野菜・果物などがよくとれて味の最もよい時」等 (乙2)を意味する「旬」の観念が生じるものといえる。 他方で,本願欧文字部分は,上下2段に配置された「JAPAN」及 び「SHuN」の欧文字からなるものであるところ,平易な英語である 「JAPAN」の文字からは,「ジャパン」との称呼が生じるとともに, 「日本」の観念が生じるが,「SHuN」の文字は,外国語の成語である とは認められず,特定の意味合いを表す語であるとも認められないから,\n同文字からは,いわゆるローマ字読みによって「シュン」との称呼が生 じ得るとはいえるものの,特定の観念は生じないというべきである。そ うすると,本願欧文字部分からは,特定の観念が生じるものではないと いうべきである。
以上のとおり,本願漢字部分は,本願欧文字部分との間において,「S HuN」の文字部分と称呼が共通し得るのみであり,これ以外の部分と は,称呼の面からみても,観念の面からみても,共通するところはない から,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,統一性のある称呼又は観念 によって結び付けられているものではないというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)で検討したところによれば,本願漢字部分及び本 願欧文字部分は,それぞれが独立したものであるとの印象を与え,視覚 上分離して認識されるものといえる上,称呼又は観念上の関連性がある ものとはいえない。 そうすると,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,本願漢字部分のみ を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的 に結合しているものとは認められない。そして,前記のとおり,本願漢 字部分は,相応に目立つ態様で表示されているといえることからすれば,\n本件においては,本願商標から本願漢字部分を抽出し,同部分のみを他 人の商標と比較して類否を判断することが許されるというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> 誤認・混同
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所

 機械系の発明について、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」というクレームの文言が実施可能要件を満たすのかが争われました。地裁高裁3部は、実施可能要件を具備していないとした審決を取り消しました。

 本件審決は,前記2(1)イ〔本判決22頁〕のとおり,原告が主張する式及 び説明に基づいて本件発明を実施するとしても,当業者に過度の試行錯誤を 要するものと判断した。
(2) 判断の誤りの有無とその理由
ア しかし,本件審決の前記(1)の判断は誤りである。その理由は,次のイの とおりである。
イ(ア) 前記2(3)イ(エ) 〔本判決27頁〕のとおり,前記2(3)イ(ウ) 〔本判 決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項目を適宜設定し,Fsが, θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成を実\n現することにより,構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要\nする力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」 するとの構成は実現されるものと認められるところ,前記2(3)イ(ウ〔本) 判決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項は複数存在することか ら,それらについて適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作業 機を作成して本件発明を実施するために過度な試行錯誤を要するかを 検討することが必要となる。
この点に関し,原告は,【図2】に記載された各支点の基本的な位置関 係に基づき,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力」と「エ\nプロン角度」の変化曲線をシミュレーションし,甲60(審判乙14) の7頁のグラフ(別紙図4)の結果を得た。そして,同グラフによれば, 【図2】に記載された作業機の位置関係を基礎にして,第3の支点15 2の位置を,第1の支点140を中心として25°下方に移動させた「第 1の作業機」において,「第1の姿勢」(作業機が水平より33°前傾し た状態)の場合(同グラフの青色線)には,エプロンを跳ね上げるのに 要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化する間に,250N から0Nに徐々に減少したことが認められ,「第2の姿勢」(作業機が水 平より18°前傾した状態)の場合(同グラフの黄色線)には,エプロ ンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化 する間に,約230Nから約75Nまで徐々に減少したことが認められ る。また,甲64(審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)によれば, 「第1の作業機」において,「最上姿勢」(トラクタ油圧機構で作業機を\n最も持ち上げた位置,入力軸が水平より30.5°前傾した状態)の場 合,エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から6 0°に変化する間に,約230Nから約20Nまで徐々に減少したこと が認められる。そして,前記4(2)イ(ア)〔本判決43頁〕のとおり,これ らの場合は,エプロンを跳ね上げるのに要する力が,一般的な作業者が 感じることができる程度に徐々に減少したものと認められる。そうする と,これらのシミュレーションにより,構成要件Gの実施が可能\である ことが立証されたものと認められる。 これらのシミュレーションは,コンピュータを用いたものと推認され るが,その実施が特に困難であったとは認められず,上記の結果を得る ために過度の試行錯誤が必要であったことを窺わせる事情はない。 したがって,前記2(3)イ(ウ)〔本判決27頁〕の式中の各項目のうち, θ以外の項目について適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作 業機を作成して構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,\nエプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの 構成を実施するために,当業者は過度の試行錯誤を要しないものと認め\nられる。
(イ)a 被告は,本件明細書の【0028】には「上記実施例の各支点の位 置関係からこのような荷重の傾向が観察される。」と記載されており, 【図2】の作業機の支点の位置により【図7】のグラフが得られたこ とが明らかにされているとした上,原告が,力学的なシミュレーショ ンにより「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が 増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する変化曲線を得たと する「第1の作業機」(別紙図2の青色で記載された構造)は,【図2】\nの作業機とは第3の支点(152)の位置が異なり,本件明細書,本 件特許の特許出願の願書に添付された図面に記載されていないもの であるから,「第1の作業機」を用いて得た甲60(審判乙14)の7 頁のグラフ及び甲64(審判乙18)の6頁のグラフに基づいて,本 件発明の構成要件Gが実施可能\であるとする原告の主張は誤りであ ると主張する。
しかし,【図2】の作業機は,本件発明の構成を説明するための作業\n機の一例であるところ(【0016】),本件発明の特許請求の範囲にお いて,支点の位置に関しては,第2の支点及び第3の支点の位置につ いて,アシスト機構が両支点を通る同一軸上で移動可能\であること (構成要件E)が定められているのみであることからすると,その定\nめを充たしていれば,本件発明の作業機における第2の支点及び第3 の支点の位置は,【図2】に示される具体的な位置と同じである必要は ない。そして,特許出願の願書に添付される図面は,設計図のように 寸法等が正確なものが求められるものではなく,発明の技術内容を理 解できる程度の精度で表現されていれば足りるものであり,【図2】も,\n本件発明の構成を説明するために示されたものであって,設計図のよ\nうに厳密な形状や寸法等を具体的に示したものとは認められないか ら,【図2】の作業機とは第3の支点(152)の位置が異なるのみで 全体の構成が同じであり,構\成要件Eも満たしている「第1の作業機」 において,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ\nプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとい う構成が実施可能\であることが示されていれば,本件発明の構成要件\nGは実施可能であると認められる。本件明細書の【0028】には「上\n記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観察され る。」と記載されているが,本件発明の構成が特許請求の範囲により特\n定されていることからしても,上記の【0028】の記載は,本件発 明の作業機における第2の支点及び第3の支点の位置が【図2】に示 される具体的な位置と同じであることまでを要求するものとは認め られない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
b 被告は,「第1の作業機」の計算に用いたガススプリング(甲65(審 判乙19))は,直径をφ16mmにした「オールガスタイプ」のもの であり,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピストンタイプ」 のものでないところ,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピス トンタイプ」のピストンでは【図7】のグラフが得られないことは明 らかであると主張する。
しかし,本件発明におけるアシスト機構で用いるガススプリングに\nついて,本件訂正後の請求項1には,「ガススプリング」と記載されて いるのみであり,「オールガスタイプ」であるか「フリーピストンタイ プ」であるかについての特定がない。また,本件明細書の【0029】 には,「上記実施例においては,ガススプリングとして,フリーピスト ンを有するものを用いたが,フリーピストンを用いない従来型のガス スプリングを用いることも可能である。」と記載されており,本件発明\nのガススプリングが「フリーピストンタイプ」のものに限られない旨 記載されている。そうすると,「オールガスタイプ」のガススプリング (甲65(審判乙19))を計算に用いて,前記(ア)のとおり,「第1の 作業機」により構成要件Gが実施可能\であることが示されていること (甲60(審判乙14)1〜2頁,甲64(審判乙18)1頁,甲6 5(審判乙19))からすれば,構成要件Gは実施可能\であると認めら れる。そして,「オールガスタイプ」のガススプリング(甲65(審判 乙19))は,その構造に照らし,本件特許の原出願時に実施可能\であ ったものと推認され,本件特許の原出願時に実施できなかったことを 裏付ける具体的な証拠はない。したがって,被告の上記主張は,採用 することができない。
c 被告は,本件発明に係る作業機を自ら開発した原告ですら,【図7】 のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業機」を再現で きないのであるから,構成要件Gが実施不可能\であることは明らかで あると主張する。 しかし,特許発明が実施可能性であるか否かは,実施例に示された\n例をそのまま具体的に再現することができるか否かによって判断され るものではないから,本件特許の原出願時に当業者が本件明細書の記 載に基づいて本件発明を実施することができたか否かは,【図7】のグ ラフのデータを得た「当時の作業機」自体を再現できるか否かによっ て判断されるものではない。前記(ア)のとおり,甲60(審判乙14), 甲64(審判乙18)によれば,構成要件Gが実施可能\であることが 認められる。したがって,被告の上記主張は,採用することができな い。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> 実施可能要件
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10050  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について1審は技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されていました。控訴審でも同様です。なお、控訴審における乙18に基づく無効主張は1審において主張できたとして、却下されました。乙18が実質あまり強くないのか、気になります。

 なお,控訴人は,当審において,乙第18号証に記載された発明を主引例 とする無効の抗弁を新たに主張した。
しかしながら,この新たな無効の抗弁が時機に後れた攻撃防御方法に当た るかどうかは,原審及び当審における審理の経過を総合的に踏まえて検討す べきものであるところ,一件記録によれば,原審においては,平成31年3 月12日に第1回口頭弁論期日が開かれた後,審理が弁論準備手続に付され たこと,充足論及び無効論について当事者双方の主張立証が行われた後,令 和元年12月20日の第5回弁論準備手続期日において,当事者双方の主張 立証が尽くされたことが確認された上で,裁判所の心証開示が行われたこと が認められる。そして,裁判所の心証開示が行われた上記第5回弁論準備手 続期日までに,乙第18号証に記載された発明を主引例とする無効の抗弁を 主張することが困難であったことをうかがわせるに足りる証拠はない。そう であるとすれば,控訴人としては,上記第5回弁論準備手続期日までに新た な無効の抗弁を主張すること(あるいは,少なくとも,速やかにその主張を する予定である旨を告知すること)が可能\\\であったし,そうすべきものであ ったといえるから,それをしなかったことは時機に後れたものであり,また, 時機に後れたことについて重大な過失があったものといわざるを得ない。そ して,そのような評価は,控訴人が控訴をし,審級が変わったからといって 変わるものではないところ,当審において新たな無効の抗弁の成否を審理す ることになれば,訴訟の完結が遅延することは明らかである。
以上の次第で,当審としては,新たな無効の抗弁を時機に後れた攻撃防御 方法であるとして却下したものである。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成31(ワ)22

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 104条の3
 >> コンピュータ関連発明
 >> 裁判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10053  意匠権侵害行為差止請求控訴事件  意匠権  民事訴訟 令和3年2月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 タッチパネル式の自販機について、1審と同じく、被告意匠は本件意匠(部分意匠)に類似しないと判断されました。判決文の最後に両者の意匠、公知意匠が示されています。

 本件意匠の具体的構成態様は前記(2)のとおりであるところ,タッチパネ ルの縦横比や後傾角度をどのように構成するかによっては,ありふれた範\n囲内の差しか生じないのであり,また,ディスプレイの枠を等幅に構成す\nるのはありふれた手法であるから,具体的構成態様1)及び3)が美感に与え る影響は微弱である。したがって,前記(4)イの共通点に係る具体的構成態\n様1)及び2)並びに前記(5)イの差異点が類否判断に与える影響はほとんど ない。
ウ また,本件意匠の基本的構成態様に関して,次のような公知意匠がある。\n 公知意匠A(意匠に係る物品「クレジットカードのポイント照会による 商品券販売」)は,傾斜面から下方に向かって側面視「く」字状に形成さ れた基台上にディスプレイ部が筐体より一段高く形成され,薄板状のディ スプレイ部の相当程度が筐体の上端部から突出しているディスプレイ部 について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり, ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状であるものと認め られる。
また,公知意匠B(意匠に係る物品「無人発券機」)は,傾斜面から下 方に向かって側面視「く」字状に形成された基台上にディスプレイ部が筐 体より一段高く形成され,薄板状のディスプレイ部の相当程度が筐体の上 端部から突出しているディスプレイ部について,上方を後方に傾斜させた ディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケーシング が縦長略長方形状であるものと認められる。 さらに,公知意匠C(意匠に係る物品「金融自動化機器」)は,筐体上 部においてアーム状の部品で接続されて正面視で筐体の上端部から突出 しているような外観を呈するディスプレイ部について,上方を後方に傾斜 させたディスプレイが縦長略長方形状であり,ディスプレイを収容するケ ーシングが右上に突出部分があるほか縦長略長方形状であるものと認め られる。
これらによると,本件意匠登録出願前に,自動精算機又はそれに類似す る物品の分野において,筐体の上端部から一定程度突出するディスプレイ 部について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であ り,ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状である意匠が知 られていたものといえるし,より一般的に考えても,自動精算機又はそれ に類似する物品のディスプレイ部において利用者が見やすくタッチしや すい形状を得るためには,本件意匠のような基本的構成態様とすることが\n社会通念上も極めて自然かつ合理性を有するものと考えられる。
そうすると,本件意匠の基本的構成態様は,新規な創作部分ではなく,\n自動精算機又はこれに類似する物品に係る需要者にとり,特に注意を惹き やすい部分であるとはいえず,需要者は,筐体の上端部から一定程度突出 し上方を後方に傾斜させたディスプレイ部であること自体に注意を惹か れるのではなく,これを前提に,更なる細部の構成から生じる美感にこそ\n着目するものといえるから,本件意匠の基本的構成態様が美感に与える影\n響は微弱である。したがって,共通点に係る基本的構成態様が類否判断に\n与える影響はほとんどないし,また,タッチパネル部を本体正面上部の右 側に設けるか左側に設けるかによっては,ありふれた範囲内の差しか生じ ないから,前記(5)アの差異点も類否判断に与える影響はほとんどない。
エ 以上からすると,本件意匠については,前記(2)イの具体的構成態様2), 4)及び5)が需要者の注意を惹きやすい部分となるから,前記(4)イの共通点 に係る具体的構成態様3)並びに前記(5)ウ及びエの各差異点が類否判断に 与える影響が大きい。
そこで検討するに,本件意匠と被告意匠とは傾斜面部を有する点におい て共通するといっても,下側部分も含めて,被告意匠の傾斜面部の幅,あ るいはこれにその下側縁と接する周側面の幅を合わせた合計幅は極めて わずかな広さしかないのに対し,本件意匠は,傾斜面部の上側及び左右側 部分の幅(傾斜面部の上側部分の外縁上側から傾斜面部の下側部分の外縁 下側までの直線長さを仮に50cmとすると,0.75cm前後となる。) に対する傾斜面部の下側部分の幅(上記の仮定によれば,3cm前後とな る。)に極端に差を設けることによって,下側部分が顕著に目立つように 設定されており,しかも,傾斜面部の下側部分に本体側から正面側に向け た高さを確保することにより,タッチパネル部が本体の正面から前方に突 出する態様を構成させているというべきである。そして,需要者は,様々\nな離れた位置から自動精算機を確認し,これに接近していくものであり, 正面視のみならず,斜視,側面視から生じる美感がより重要であるといえ るところ,本件意匠の傾斜面部の下側部分の目立たつように突出させられ た構成は需要者に大きく着目されるといえ,この構\成態様により,本件意 匠はディスプレイ部全体が浮き出すような視覚的効果を生じさせている と認められる。他方,被告意匠は,傾斜面部と周側面がわずかな幅にすぎ ず(上記の仮定によれば,合計しても1.2cm前後にすぎない。),ディ スプレイ部がただ単に本体と一体化しているような視覚的効果しか生じ ないと認められる。したがって,差異点から生じる印象は,共通点から受 ける印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠とは,たとえディス プレイ部の位置等に共通する部分があるとしても,全体として,異なった 美感を有するものと評価できるのであり,類似しないものというべきであ る。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和元年(ワ)第16017号

関連カテゴリー
 >> 意匠認定
 >> 類似
 >> 部分意匠
 >> 意匠その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ネ)10078  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許権侵害について、東京地裁(40部)は新規性違反(発明1,3)および進歩性違反(発明2,4)の無効主張を認めました。知財高裁も同じ判断です。

 イ A邸工事が「公然」実施されたものではないとの主張について 控訴人は,A邸は塀や草木に囲まれており,容易に外部からA邸をのぞ き見ることはできないこと,山に囲まれており,近隣の住民もわずかであ ること,作業が屋根上で行われるものであり,外部から容易にその作業の 内容を確認することができないことから,A邸工事は,公然と行われたも のとはいえないと主張する。 しかし,被控訴人のために発明の内容を秘密にする義務を負わない不特 定の者によって技術的に理解されるか,そのおそれのある状況で実施され たのであれば,工事は公然と行われたと評価するのが相当であるところ, 本件においては,まず,A邸の屋根からストーブの煙突が突出している側 (煙突の正面側)の隣地は,本件工事の当時には駐車場であり(乙14の 10),同駐車場には10台を優に超える駐車スペースがあり,敷地もA邸 より高いことが認められるのであって(乙24の2),同駐車場からは煙突 についても十分視認が可能\であるし,当該工事が第三者から視認されるこ と等を拒むような態様で行われていたことはうかがえない。
また,乙12の資料4は,前記ア(イ)認定のとおり平成19年7月2日 に被告から住友林業に提出されたものであるところ,同図面にはインナー フラッシングが明記されており,これが,住友林業からニシカネにファッ クスで転送されている(乙32)。そして,前記ア(イ)において認定したと おり,住友林業の下請業者であるニシカネがA邸の煙突について不燃材の 装着を行うことになっていたが,その時点では,煙突の屋内からの引き出 し及び立ち上げ部分はまだ設置されておらず,住友林業又はニシカネにお いて煙突の屋根貫通部の構造を認識することは十\分可能であったといえ\nるところ,A邸工事の施工方法及び防水構造は,引用に係る原判決の「事\n実及び理由」第4の2(3)ア及びイ(ア)記載のとおりであって,いずれも複 雑なものではなく,当業者であれば,乙12の資料4や,II)期工事時の煙 突の屋根貫通部の構造から,これらの発明を技術的に理解できるものと認\nめられる。
以上によれば,A邸工事は,本件特許出願前に,被控訴人のために発明 の内容を秘密にする義務を負わない不特定の者(少なくとも上記住友林業 やニシカネ等の下請業者等)によって技術的に理解されるか,そのおそれ のある状況で実施されたもので,公然実施された発明に当たるというべき であるから,控訴人の主張は採用できない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)9909

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 技術的範囲
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10011  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月17日  知的財産高等裁判所

 引用文献の開示認定に誤りありとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。

 上記記載から,隔壁の遠位部に備えたスリットは,隔壁の遠位部を通る イントロデューサ針の位置決めをし,その挿入を簡単にするために設けら れたものであることを理解できる。 さらに,図1,23,25ないし27から,延長チューブの遠位端が, カテーテル・アダプタの近位端と遠位端との間で,かつ,隔壁の遠位部の 遠位端よりも更に遠位側に開口した中空部分に接続していることを看取 できるから,引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセン ブリにおいては,患者への流体の注入及び患者の循環系からの流体の除去 は,延長チューブを通じてカテーテル・アダプタの上記中空部分を介して 行うものであることを理解できる。 ウ 以上によれば,引用文献1記載の隔壁は,針の保管及び使用中に針の周 りにシールを提供し,針が引き出された場合に密閉されるように隔壁アセ ンブリ内に設けられたものであって,隔壁の遠位部に備えたスリットは, そこを通るイントロデューサ針の挿入を簡単にするために設けられたも のであるから,隔壁の遠位部は,流体の「該流入及び流出を可能とするよ\nうに開口可能なスリットを有して」いると認めることはできない。\nそうすると,引用文献1記載の「隔壁」の遠位部は,本願発明の「前記 第2弁部材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブの前記内室を 通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように\n開口可能であ」るとの構\成(本件構成)に相当するものといえず,引用文\n献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリは,本件構成を\n有しない点で本願発明と相違するから,この点において,本件審決には, 一致点の認定の誤り及び相違点の看過があるものと認められる。
(2) これに対し被告は,1)引用文献1には,カテーテル及びイントロデューサ 針アセンブリについて,従来より,流体を患者に注入することができるとと もに,患者の循環系からの流体の除去を可能にするものであることが述べら\nれていること(【0002】),2)流体の患者への注入及び患者の循環系からの 流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された,「二方弁」として機能\nする「スリットを備えた隔壁」を介してされることが技術常識であること(例 えば,甲3,乙6)からすれば,当業者は,引用文献1記載のカテーテル及 びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相当す\nると当然把握するから,本件審決における一致点の認定に誤りはない旨主張 する。
ア 1)について
引用文献1の【0002】には,「医療では,このようなカテーテル及び ントロデューサ針アセンブリは,患者の脈管系内に適切にカテーテルを配 置するのに使用される。定位置になると,静脈(すなわち,「IV」)カテ ーテルなどのカテーテルを使用して,生理食塩水,医療化合物,及び/ま たは栄養組成(完全非経口栄養,すなわち「TPN」を含む)を含む流体 をこのような治療を必要とする患者に注入することができる。カテーテル は加えて,循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視を 可能にする。」との記載がある。\n上記記載から,カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリのカテー テルは,「循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視」を 可能にすることを理解できるが,上記記載は,隔壁の遠位部又はその遠位\n部に設けられたスリットが流体の「流入及び流出を可能とするように開口\n可能」な構\成であることを示唆するものとはいえない。
イ 2)について
乙6(国際公開第2008/052791号)には,バルブ組立体の具 体的構造として,側部のポートに沿って配置され,ポートを閉じる弁であ\nって,ポート内の加圧された流体の作用により開口可能となる第1バルブ\n要素(チューブ要素5),流体が遠位方向又は近位方向のいずれかに流れる ことを可能にする二方向バルブとして形成されるスロット6aを備えたバ\nルブディスク6(原文4枚目7行〜5枚目3行(訳文5枚目),原文5枚目 17行〜20行(訳文6枚目),図1,2等)の記載がある。 引用文献3(甲3・訳文乙5)には,1)スリットを有する隔壁と隔壁作動 体とを含み,使用中は,隔壁作動体が隔壁のスリットを通って前進し,隔 壁を通る流体経路を形成する血液制御バルブと,カテーテルアセンブリ内 の流体がサイドポートから漏れることを防止できるポートバルブ(【000 2】,【0003】),2)「カテーテルアダプタは,隔壁作動体と隔壁とを含 む血液制御バルブを収容する。隔壁は,管腔の一部を封止する。1つ以上 のスリットが隔壁を貫通して延在することで,隔壁を通る選択的なアクセ スを提供できる。よって,ポートバルブは,ポートを介してカテーテルア ダプタの内部管腔に対する一方向の選択的なアクセスを提供し得る。」(【0 005】)との記載がある。 上記記載から,カテーテル組立体において,流体の患者への注入及び患 者の循環系からの流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された「二 方弁」として機能する「スリットを備えた隔壁」を介してされ得る技術が,\n本願優先日当時,一般に知られていたことが認められる。 一方で,上記記載から,カテーテルハブの中空部に配置された「スリッ トを備えた隔壁」が常に「二方弁」として機能するとまで認めることはで\nきないから,上記技術が一般に知られていたことを踏まえても,前記⑴ウ の認定を左右するものではなく,当業者は,引用文献1記載のカテーテル 及びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相\n当すると当然把握するものと認めることはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10036  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 JR東海に対するCS関連発明の侵害事件です。1審では第1要件、第2要件を満たさないとして、均等侵害は否定されました。知財高裁(2部)も同じ判断です。

(1) 控訴人は,原判決は,特許法70条1項,2項等に反し,本件特許請求の 範囲に記載のある「問題のある実施例」を本件各発明の実施例とせず,「最善の実施 例」のみを本件各発明であるとした点に誤りがある旨主張する。
ア 本件特許請求の範囲の【請求項1】には,「ホストコンピュータが,前記 券情報と前記発券情報とを入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前 記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席 のレイアウトに基づいて表示する座席表\示情報を作成する作成手段と,該作成手段 によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段によって\n記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,「券情報」\nと「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手段に記憶さ\nせることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善の実施例」 が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する「問題のあ る実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはできない。 また,本件特許請求の範囲の【請求項2】には,「ホストコンピュータが,前記券 情報と前記発券情報とを入力する手段と,該入力手段によって入力された前記券情 報と前記発券情報とを,複数の前記座席管理地又は前記端末機を識別する座席管理 地識別情報又は端末機識別情報別に集計する集計手段と,該集計手段によって集計 された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される 指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表\示情報を作成する作成手段と,該 作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段\nによって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,\n「券情報」と「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手\n段に記憶させることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善 の実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する 「問題のある実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはでき ない。
イ 上記のことは,本件明細書(甲2)の記載からも明らかである。 本件明細書の「発明の詳細な説明」は,補正して引用した原判決「事実及び理由」 の第3,1(1)のとおりであり,段落【0002】には,【従来の技術】として,「従 来,指定座席を管理する座席管理システムとしては,カードリーダで読取られた座 席指定券の券情報及び券売機等で発券された座席指定券の発券(座席予約)情報等\nを,例えば列車車内において,端末機(コンピュータ)で受けて記憶し表示して,\n指定座席の利用状況を車掌が目視できるようにして車内検札を自動化する座席指定 席利用状況監視装置(特公H5−47880号公報)が発明されている。」との記載 があり,段落【0004】において,「券情報」及び「発券情報」を地上の管理セン ターから受ける場合について,「伝送される情報は2種になるために通信回線の負 担を1種の場合と比べて2倍にするなどの問題がある。」ことが記載されている。 そして,本件明細書の段落【0005】には,【発明が解決しようとする課題】と して,「上記発明の座席指定席利用状況監視装置は上記券情報と上記発券情報とに 基づいて各座席指定席の利用状況を表示するにはこれ等の両情報を地上の管理セン\nターから受ける場合,伝送される情報量が2倍になるために,該情報を伝送する通 信回線の負担を2倍にするとともに端末機の記憶容量と処理速度をともに2倍にす るなどの点にある。」として,控訴人の主張する「問題のある実施例」の問題点が指 摘されており,段落【0006】には,【課題を解決するための手段】として「本発 明は,上記管理センターに備えられるホストコンピュータが,カードリーダで読取 られた座席指定券の券情報と券売機等で発券された座席指定券の発券情報とを入力 して,これ等の両情報に基づいて表示する座席表\示情報を作成して,作成された前 記座席表示情報を,前記ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設\n置管理する座席管理地に備えられる端末機へ伝送して,該端末機が,前記座席表示\n情報を入力して表示してするように構\成したことを主要な特徴とする。」と記載さ れており,段落【0007】に,【作用】として,「上記ホストコンピュータから上 記端末機へ伝送される情報量が上記券情報と上記発券情報との両表示情報から1つ\nの表示情報となる上記座席表\示情報にすることで半減され,これによって通信回線 の負担と端末機の記憶容量と処理速度とを半減する。」と記載され,段落【0008】 〜【0019】に,【実施例】として,控訴人が主張する「最善の実施例」(「座席表\n示情報」は,券情報と発券情報という二つの情報を一つに統合した実施例)が記載 されていることが認められる。さらに,段落【0020】に,【発明の効果】として, 「該端末機がする各指定座席の利用状況の表示を前記券情報と前記発券情報との両\n表示情報から1つの表\示情報となる前記座席表示情報で実現できるようになり,こ\nれによって前記ホストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され, 通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコ ストダウンが計られて,本発明のシステムの構築を容易にする。」と記載されている\nことが認められる。 これらの本件明細書の記載によると,本件各発明は,指定座席を管理する座席管 理システムに関して,地上の管理センターから券情報と発券情報の両情報を端末機 で受ける場合,伝送される情報が2種になることから,伝送される情報が1種の場 合と比べて,通信回線の負担が2倍となり,端末機の記憶容量と処理速度を2倍に するなどの技術的課題があることに鑑み,地上の管理センターに備えられるコンピ ュータが,カードリーダで読み取られた券情報と,券売機等で読み取られた発券情 報等を入力して,これらの情報から一つの座席表示情報を作成し,作成された座席\n表示情報を,コンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管\n理地に備えられた端末機に伝送して,端末機が座席レイアウトに基づき各指定座席 の利用状況を表示するという構\成を採用したものであって,この点に,本件各発明 の技術的意義があると認められる。 このような本件明細書の記載によると,控訴人の主張する「問題のある実施例」 は,本件各発明が解決すべき課題を示したものであり,その課題を解決したのが本 件各発明であるから,これが本件各発明の実施例であると認めることはできない。
・・・
また,控訴人は,被控訴人は,被告システム1の「OD情報」,「改札通過情報」 が,それぞれ,本件明細書の図2の「発券情報」,「券情報」に,被告システム1の 「マルスサーバ」及び「セキュリティサーバ」が,「地上の管理センター」に該当す ることを認めているから,被告システム1は,本件明細書の図2の構成を備えるも\nのであり,本件特許権を侵害するものであると主張するが,本件明細書の図2は, 控訴人の主張する「問題のある実施例」に関するものであり,被告システム1が, 上記図2の構成を備えるからといって,本件各発明の構\成を備えるということには ならない。
原判決(15頁〜24頁)が判示するとおり,被告システム 1 は,本件発明 1 の構\n成要件1−B及び1−C並びに本件発明2の構成要件2−B及び2−Cの文言を充\n足せず,被告システム2は,本件発明1の構成要件1−A,1−B及び1−C並び\nに本件発明2の構成要件2―\A,2−B及び2−Cの文言を充足しないから,被告 各システムが本件各発明の技術的範囲に属するものとは認められない。
(4) 控訴人は,被告システム1と本件各発明との間の本件相違点(被告システ ム1は,本件各発明における,ホストコンピュータにおいて券情報と発券情報から 一つの「座席表示情報」を作成し,これを,指定座席を設置管理する座席管理地に\n備えられる端末機に伝送し,端末機において「座席表示情報」を表\示するという構\n成を有していないこと)は,本件各発明の本質的部分ではないと主張するが,控訴 人のこの主張を採用することができないことは,原判決(25頁〜26頁)が判示 するとおりである。 本件相違点は,本件各発明の本質的部分に係るものであるから,被告システム1 は,均等の第1要件を充足しない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)31428

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 均等
 >> 第1要件(本質的要件)
 >> 第2要件(置換可能性)
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)597  著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年1月21日  大阪高等裁判所

 1審は請求棄却でしたが、大阪高裁は、別のレシピブックを作成することについて黙示の許諾はなかったとして、著作権侵害と判断しました。一部の写真については著作物性が否定されています。

 原告制作物1を含む原告レシピブック1に係るデザイン制作委託契約 においては,契約書は作成されておらず,成果物の著作権の帰属や利用 に関する明示的な合意は存在しない。また,原告レシピブック1の発注 から納品に至る交渉経過等の詳細は明らかでない。
控訴人代表者は,同種の夏用レシピブックにつき,次の夏まで常識的な範囲で増刷することを許諾すると伝えたことがあったとか,レシピ\nブックに掲載された素材等を別の媒体で使うときは連絡があればほぼ快 諾しており,追加料金を生じるとは限らないなどと供述している(控訴 人代表者本人)。また,控訴人は,播磨喜水の依頼を受けて,シェフコラボレシピブック等に掲載した写真及びレシピ情報等を用いてレシピ\nカードを制作するなど,一旦納品した成果物の一部を他の制作物に用い ることもあったことが認められる(甲43〜50,控訴人代表者本人)。このように,レシピブック等に掲載した写真や情報が,レシピブック\n以外の媒体において控訴人に制作を依頼せずに使用されることもありう ると解されていたことが窺われるものの,新たな制作物において使用す る場合の具体的な権利関係が明確に決められていたとは認め難く,控訴 人と播磨喜水との間の個別のデザイン制作委託契約の趣旨,内容等から, 控訴人の著作物である原告制作物1に関する利用許諾についての当事者 の合理的意思を解釈する必要がある。
原告レシピブック1は,播磨喜水の取扱商品をレシピ情報の提供と組 み合わせて紹介することによって,宣伝広告,販売促進に役立て,さら にはブランドイメージの向上を図るものとして,播磨喜水が制作を依頼 し,控訴人が制作したものと解される。そして,播磨喜水の事業遂行に おいて,原告レシピブック1の内容と整合する範囲で,その成果物の一 部をそのまま使用する場合については,播磨喜水のブランドイメージの 形成,向上を企図した宣伝広告や販売促進活動における使用として,播 磨喜水はもちろん,控訴人も想定していたとみるのが合理的である。 しかし,被告制作物1は,原告制作物1(成果物である原告レシピ ブック1の出来上がった料理の写真である。)を「2017 SUMMER」と 明記された平成29年夏期用のチラシの背景に使用したものであり,そ の制作目的は同じとはいえない。 また,控訴人のデザイナーであるP2は,被告制作物1を発見し,平 成29年6月6日,P1に対し,LINEを通じて抗議をしており(甲 19:「事前にご相談がありましたら問題になりませんでしたが,この 件は著作物の無断使用になります。困りましたね。」という内容),控 訴人は,本件提訴後,これが被控訴人による最初の著作権侵害であると 主張し,控訴人代表者もその旨供述している(甲39,控訴人代表\者本 人21頁)。 これに対し,当時,被控訴人代表者のP1は,控訴人から原告制作物1の使用について,許諾があったという反論をしておらず,むしろ,播\n磨喜水がチラシ等を作成しようとする都度,ブランディング名目で常に 事前相談を求められることについて,不満を有していたことが認められ る(甲19,乙34)。
以上によると,前述したとおり,播磨喜水において,その事業活動の 一環として,控訴人が制作した成果物又はその一部をその作成目的に 従って,そのまま別の機会に利用する場合はともかく,成果物を構成する素材である原告制作物1(写真)を,事前の許諾を得ずにこれを異な\nる目的で利用することまで許諾していたと認めることはできない。
エ 抗弁1についてのまとめ
被控訴人による被告制作物1の制作は,控訴人の利用許諾を得ずに原 告制作物1をそのまま,制作目的の異なる制作物(原判決別紙被告制作 物目録記載2のチラシ)の背景に印刷し,これを複製するものであって, 原告制作物1の著作権を侵害する行為であると認められる。
・・・・
原告制作物5−2の著作物性については,いずれも,3種類の商品(播 磨喜水の白,黒,赤)を右下角斜め上方から撮影した写真であり,その撮影 方法は,商品を紹介する写真としてありふれた表現である。
・・・・
(イ) 損害額について
証拠(甲7の8,甲44の1〜44の5,甲45の1,甲50)及び 弁論の全趣旨によれば,原告制作物1を含む原告レシピブック1(12 頁から成り,5種類の料理写真及びそのレシピ情報,表紙写真,及びその料理写真,商品写真,商品の値段その他の情報,通信販売案内等を掲\n載するもの)の制作に係るオリジナルレシピブランディング料及び撮 影・スタイリング・フードコーディネイト料が100万円であったこと, 控訴人においては,同種のレシピブックに掲載した料理の1つのレシピ 情報と写真を1枚のレシピカードとして基づいてレシピカードを制作す る費用が1枚2万5000円とされていたことが認められ,控訴人は, レシピカードの上記制作費用が複製の使用料であると主張する。 これらを踏まえ,原告制作物1(写真1枚)に対する使用料としては, 2万5000円と認めるのが相当である。 また,事案の内容,認容額その他諸般の事情を考慮し,控訴人が負担 した弁護士費用のうち2500円につき,本件による損害として相当と 認める。
(ウ) 以上によれば,原告制作物1に係る著作権侵害による損害賠償請求は, 2万7500円(及び遅延損害金)の支払を求める限度で理由があるが, その余は理由がない。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成29(ワ)12572


◆原告および被告作品

関連カテゴリー
 >> 著作物
 >> 著作権その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(行ケ)10041  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月4日  知的財産高等裁判所

 審決は進歩性違反無しとして無効請求を棄却しました。知財高裁も同じ判断です。

 本件発明6は,貫通孔に関し,開孔率が3.07%以上であって,深さが 100〜2000μmであり,50個〜400個/cm2の密度で存在し,開 口面積が直径280〜1400μmの円形であるとの発明特定事項(相違点 6B)を有するところ,前記1(2)のとおり,第1表面のシート材のこの貫通\n孔は,創傷から滲み出した滲出液を貯留し,創傷面との間や上記の貫通孔内 などに滲出液を保持して湿潤環境を良好に維持するものでありながら,その 貫通孔は上記の第1表面側から第2表\面側への液体の透過を許容して,創傷 部位に過剰の滲出液を保持することがないという技術的意義を有するものと 認められる。
これに対し,甲1の発明の詳細な説明には,「被覆層下面側の少なくとも傷 接触表面は疎水性を有する。」(【0028】), 「 次に,液体の移動について 述べる。被覆層のこの疎水性の表面は,吸収層へ体液などの液体が移動し得\nるように形成される。被覆層の下面側を液体透過性とするためには,メッシ ュ,穿孔フィルム等のプラスチックシートや,編布,織布,不織布等の液体 透過性の繊維状シートを使用することができる。被覆層に疎水性樹脂層を形 成する場合は,被覆層の液体が移動し得る孔を塞がないように疎水性樹脂層 を塗工するか,疎水性樹脂層を塗工した後に疎水性樹脂層ごと被覆層を打ち 抜けば良い。」(【0029】),「 次に,吸収層について述べる。吸収層は,セ ルロース系繊維,パルプ,高分子吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独 又は併用して使用することができ,必要とされる吸収量にあわせてこれらの 量を調整すればよい。特に,水吸収時にゲルを形成する物質を含ませること が好ましく,このようにすることで,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促 進することができる。」(【0034】)との記載がある。これらの記載によれ ば,甲1発明においては,被覆層を貫通する孔60は,傷からの体液を吸収 層へ移動させるようにする機能を有するものであり,創傷を湿潤状態に保ち,\n傷の治癒を促進することができるのは,必要とされる吸収量にあわせて材料 を調整し,特に水吸収時にゲルを形成する物質を含ませることが好ましい吸 収層によってであり,被覆層を貫通する孔の機能によるものではないと理解\nすることが相当であり,甲1の発明の詳細な説明には,被覆層20に設けら れた孔60に創傷部位からの滲出液を保持し,創傷面の湿潤状態を保つこと についての記載や示唆はない。
また,甲7には,甲1発明の被覆層に相当するところの,多数の凸部及び その周囲に形成される凹部を有し,凸部には厚さ方向に貫通する孔を有する 樹脂製のシート材からなる第1層と水を吸収保持可能な第2層の順に積層さ\nれてなる創傷被覆材が開示されており(【0010】,【0014】),この創傷 被覆材は,創傷部と第1層の凹部との間に滲出液を貯留する空間が形成され ることにより,創傷部から流出する滲出液を保持し,創傷部の湿潤状態を保 持し,滲出液が多くなると,第1層の凸部に形成された孔を通して第2層の 吸収層に吸収されることが開示されている(【0012】,【0024】)。しか し,甲7の創傷被覆材は,「 第1シート材は,創傷部と凹部(6)との間に滲 出液の貯留空間を形成する。これは,創傷面と第1層との間における前記貯 留空間に,創傷部からの滲出液を保持することにより創傷部の湿潤状態を保 持できるという点で優れている。また,第1シート材は滲出液が多くなると, 凸部(5)に形成された貫通孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させるこ とができるため,滲出液が面内方向に広がるのを防止するという点でも優れ ている。」(【0024】)との記載があるように,創傷部と凹部(6)との間 に滲出液の貯留空間を形成し,創傷部の湿潤状態を保持するものであり,貫 通孔(4)については,「滲出液が多くなると,凸部(5)に形成された貫通 孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させることができる」という機能を果\nたすものである。
そうすると,甲7の貫通孔は,そもそも創傷面からの滲出液を貯留する機 能を有しないから,甲7に記載された貫通孔の開孔率,深さ,密度,直径に\n関する技術的事項を甲1発明に適用しても,第1表面のシート材に創傷から\n滲み出した滲出液を貯留するための貫通孔を設ける本件発明6に想到するこ とができないし,また,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進することが できるのが孔の機能によるものではない甲1発明に甲7に記載された発明を\n適用する動機付けもない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10001  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月8日  知的財産高等裁判所

 異議申立で進歩性無しとして取り消されましたが、知財高裁は動機付け無しとしてこれを取り消しました。

 (ア) 相違点1は,引用例1発明の共重合体が,本件発明とは異なり,d 成分を構成モノマーとして含まないというものであるところ,上記(1) ア(イ)bのとおり,甲7文献には,第1成分(a成分)及び第2成分(b 成分)又はそのいずれか(特に第1成分)と共重合させる第3成分とし て,「架橋性の官能基(エポキシ基,水酸基,アミド基及びN−メチロー\nルアミド基の少なくとも1種)を有するもの」が挙げられている。 そこで,引用例1発明における第3成分として,エポキシ基を有する モノマー(c成分)及び水酸基を有するモノマー(d成分)の2種を併 用することを,当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
  (イ) まず,上記(1)ア(ア),(イ)a及びdのとおり,引用例1発明は,可 塑化ポリ塩化ビニルシート上に積層して使用するのに好適な接着剤組成 物に関する発明であり,共重合体中のカルボキシル基の10%以上をア ルカリ金属と反応(中和)させることにより,耐ガソリン性及び耐油性\nを向上させることを目的とするものである。 そうすると,化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用の化合物 の発明である本件発明と引用例1発明とでは,技術分野や発明が解決し ようとする課題が必ずしも一致するものではないから,もともと引用例 1発明に本件発明の課題を解決するための改良を加える動機付けが乏し いというべきである。
 (ウ) また,上記(1)ア(イ)bのとおり,甲7文献には,第3成分として選 択し得る4種のモノマーの例示として8つのモノマーが挙げられてい るほか,4種のモノマーの1種のみ又は2種以上を併用して第1成分と 共重合させることができる旨が記載されている。そうすると,引用例1 発明における第3成分は,上記の各モノマーのうち1種のみを選択する 場合のほか,2種ないし4種のモノマーを併用する場合もあり得るとい うことになるから,その組合せは,異なる官能基に属するモノマーを併\n用する場合に限ったとしても,被告が主張する6通りにとどまるもので はない。
そして,証拠(甲7)によれば,甲7文献には,エポキシ基を有する モノマー(c成分)と水酸基を有するモノマー(d成分)を組み合わせ た合成例は記載されておらず,また,d成分を構成モノマーとして含む\nことによる効果等に関する具体的な記載もされていないものと認められ る。そうすると,甲7文献には,引用例1発明の技術思想として,複数 の組合せの中からエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有するモノ マーの2種を選択すべきである旨や,水酸基を有するモノマーを選択す ることによって特定の効果が得られる旨が開示されているものとはいえ ない。 これらの事情を併せ考慮すると,甲7文献に接した当業者が,引用例 1発明の第3成分として,複数の組合せの中から敢えてエポキシ基を有 するモノマー及び水酸基を有するモノマーの2種を選択する理由に乏し いというべきである。
(エ) 以上のとおり,本件発明と引用例1発明とでは技術分野や発明が解 決しようとする課題が必ずしも一致するものではないから,もともと引 用例1発明に本件発明の課題を解決するための改良を加える動機付け が乏しいことに加え,甲7文献の記載内容からすると当業者が複数の組 合せの中から敢えてエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有する モノマーの2種を選択する理由に乏しいことからすれば,甲7文献に接 した当業者において,相違点1に係る本件発明の構成に至る動機付けが\nあったということはできない。 したがって,引用例1発明において,構成モノマーとしてd成分を含\nませることを,本件出願時における当業者が容易に想到し得たというこ とはできない。
・・・
(3) 相違点2の容易想到性 上記(2)のとおり,相違点1について容易想到であるということはできな いが,事案に鑑み,相違点2の容易想到性についても検討する。
ア 検討
(ア) 相違点2は,(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマ\nーの全量を100質量%としたときのb成分の配合量b及びc成分の配 合量cの値が,本件発明は「10≦b+40c≦26(但し0.05≦ c≦0.45)」であるのに対し,引用例1発明の共重合体においてはc が0.5,b+40cが26.8であるというものである。 そこで,引用例1発明における上記b及びcの値を変更し,本件発明 における数値範囲内に調整することを,当業者が容易に想到し得たか否 か否かについて検討する。
(イ) まず,上記(2)ア(イ)のとおり,本件発明と引用例1発明とでは技術 分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではない というべきである。
(ウ) また,上記(1)ア(イ)fのとおり,引用例1発明の実施例には,引用 例1発明における第3成分を,N−メチロールアクリルアミドからアク リルアミドに量比を変えることなく置き換えた場合に,ピール(g/2 cm)が「1025FA」から「675AF」になり(なお,「ピール」 とは,剥離に要する力をいう(甲7)。),凝集力が「ずれ0.6mm」か ら「ずれ16mm」になった例が示されている(表−8の実施例6,7)。\nこのことからすれば,架橋性官能基であるエポキシ基,水酸基,アミド\n基及びN−メチロールアミド基は,その種類に応じて異なる粘着力や凝 集力を示すものと考えられるから,各モノマーは,粘着力や凝集力の点 で等価であるとはいえないというべきである(なお,表−8の実施例7\nにおける凝集力の数値(「ずれ16mm」)については,他の実施例にお ける数値と比較すると,「ずれ1.6mm」の誤記である可能性もあると\nいえるが,誤記であったとしても,実施例6とは3倍弱の違いが生じて いるのであるから,結論を左右しない。)。 そうすると,当業者において,各モノマーを同量の別のモノマーに置 き換えたり,水酸基を有するモノマー(d成分)を導入した分だけグリ シジルメタクリレート(c成分)の配合量を減少させて第3成分全体の 配合量を維持したりすることが,自然なことであるとか,容易なことで あるなどということはできない。
(エ) さらに,上記(1)ア(ア)によれば,引用例1発明においては,第3成 分(グリシジルメタクリレートはこれに当たる。)を第1成分及び第2成 分の合計量100重量部に対して0.5〜15重量部とするとされてい るから,第1成分ないし第3成分の合計量を100質量%としたときの 第3成分の配合量は,0.5〜13.0質量%となる(0.5/(10 0+0.5)×100〜15/(100+15)×100)。 そうすると,引用例1発明において,グリシジルメタクリレートの配 合量を本件発明における数値範囲内である0.45質量%以下とするた めには,第3成分の配合量の下限値とされている値である0.5質量% を下回る量まで減少させる必要があるところ,甲7文献の記載をみても, このような調整を行うべき技術的理由を見いだすことはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10003  特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1億円の損害賠償を求めましたが、1審は無効理由あり(29-2および進歩性)として請求棄却しました。特許権者は訂正をしさらに控訴しました。知財高裁(3部)は、被告製品は本件訂正発明の「アクセス制御手段」を充足しないと判断して、控訴を棄却しました。

  特許請求の範囲の記載によれば,本件訂正発明の「アクセス制御手段」は, 携帯電話の所有者が第三者による閲覧や使用を制限し,保護することを希望 する被保護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段であって, RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別できる識別情報を 受け取って,該受け取った識別情報と当該携帯電話に予め記録してある識別\n情報との比較を行う比較手段で,前記アクセス要求を許可するという比較結 果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過す るまでは前記被保護情報へのアクセスを許可するものである。
一方,被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,上記1のとおり,画面 ロックを解除し,または画面ロックを継続する手段であって,背面にかざさ れたICカードの固有IDを受信し,その固有IDを用いて,当該ICカー ドが登録済ICカードであるか否かの比較を行う比較手段で,画面ロックを 解除するという比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定さ れた場合)は,画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しな い限り,画面を介して操作することができるものである。
ここで,被告製品の「背面にかざされたICカードの固有ID」が,本件 訂正発明の「RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別でき る識別情報」に相当することに争いはないから,被告製品の「画面ロック解 除制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に係る構成要件を充\n足するというためには,1)被告製品の「画面ロックを解除し,または画面ロ ックを継続する手段」が,本件訂正発明の「携帯電話の所有者が第三者によ る閲覧や使用を制限し,保護することを希望する被保護情報(以下,単に 「被保護情報」という。)に対するアクセス要求を許可または禁止する手 段」に当たるとともに,2)被告製品において「画面ロックを解除するという 比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定された場合)は, 画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しない限り,画面を 介して操作することができる」ことが,本件訂正発明の「アクセス要求を許 可するという比較結果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてか ら所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」こと に当たることを要するといえる。
(2) そこで,上記1)及び2)の2点に分けて,被告製品の「画面ロック解除制御 手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するか否かについて 検討する。
ア 上記1)の点につき
(ア) 証拠(甲4など)によれば,被告製品の「画面ロック機能」とは,ス\nマートフォンの画面をロックすることによって画面を介した操作が行え ないようにするためのものであり,画面ロックの解除とは,スマートフ ォンの操作(画面を介した操作)が可能な状態にするためのものであっ\nて,これらは被保護情報へのアクセスを許可するとか禁止するといった ことそのものを意味するわけではないし,それと同視すべき事柄である ということもできない。このことは,画面を介した操作が可能となった\nからといって,常に被保護情報へのアクセスが行われるわけではなく, 公開された地図の検索等,被保護情報には当たらない情報へのアクセス に終始する場合もあり得ることや,逆に,被保護情報そのものにパスワ ードが付されている場合等を想定すると,画面ロックを解除したからと いって直ちに当該被保護情報にアクセスできるようになるわけではない ことなどからも明らかである。 もちろん,被保護情報そのものにパスワード等が付されていない場合 には,画面ロックを解除した後,ユーザが画面を介して所定の操作を行 うことにより,スマートフォンに格納された被保護情報へのアクセスが 可能になるし,壁紙として,第三者に見られたくない写真を設定してい\nるような状況の下では,画面ロックの解除と同時に,被保護情報へのア クセスが起こり得ることとなる。しかしながら,これらは,画面が開か れたことそのものや,それによって画面を介した操作が可能になったこ\nとに付随して生じた結果というべきものであって,画面ロックやその解 除の直接の目的や効果といえるものではない(なお,1)の構成における\n違いが,2)の構成における違いにも反映していると考えられることにつ\nいては,後述のイ参照。)。
(イ) また,証拠(乙2)によれば,被告製品は,「画面ロック」状態にお いても,画面を介した操作によらないアクセス要求(例えば,自動改札 機の通過のために乗車券の情報にアクセスすること,電話着信があった ときに発信者の名前を画面に表示するために電話帳の情報にアクセスす\nること等)に対しては,アクセスを禁止していないことが認められ,こ の場合には,画面ロックの解除を経ないで被保護情報へのアクセスが可 能になることとなる。このことも,画面ロックやその解除が,被保護情\n報へのアクセスの禁止や許可そのものではないことを裏付ける一事情と いうべきである。なお,控訴人は,上記の例は,被告製品の構成を認定\nするための対象にはなっていない事例であるから考慮すべきではないと いう趣旨の主張をするが,画面ロックやその解除の意義を認定するため の事情として考慮することには何ら妨げはないものというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)に検討したところによれば,被告製品の「画面ロックを 解除し,または画面ロックを継続する手段」が,本件訂正発明の「被保 護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段」に当たるとい うことはできない。
イ 上記2)の点につき
本件訂正発明の「アクセス制御手段」の「前記アクセス要求が許可され てから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可す る」構成は,その記載のみからは,所定期間が経過した後の状態が明らか\nでない。しかしながら,本件明細書の【0009】に,本件訂正発明の目 的は,「個人情報や金銭的価値のある情報を統合して管理する場合に当該 情報の第三者による不正使用を確実に防止するための情報保護システムを 提供することにある。」と記載されていることや,【0039】に,「タ イマを設けて一定のタイムラグを許容することで,ICアセンブリ130 とICアセンブリ140とを実際に使用するときの距離が比較的長い場合 であっても,通信可能距離の短い通信方式を採用することが可能\にな る。」と記載されていることからすると,上記の構成の意義は,所定時間\nに限ってアクセスを許容する構成を付加することで,第三者による被保護\n情報の不正使用を確実に防止しつつ,Rバッジと携帯電話とが離間してい ても,自動改札機等による被保護情報に対するアクセス要求を適切に処理 できるようにしたことにあると解される。そうすると,所定時間経過後に は,被保護情報の保護のために,再度アクセスを禁止することが必須とさ れているというべきであり,「前記アクセス要求が許可され」たときを起 点とし,それから所定の時間が経過した後は,たとえ被保護情報へのアク セスが継続している最中であっても,被保護情報へのアクセスは禁止され ることになるものと解される。
これに対し,被告製品の構成は,前述のとおり,「画面ロックを解除す\nるという比較結果が得られた場合は,画面ロックが解除された後,無操作 状態が一定期間継続しない限り,画面を介して操作をすることができる」 というものである。その一定期間の起点は,画面ロックが解除された後, 何の操作もしないという例外的な場合には,画面ロックが解除されたとき となるが,何らかの操作がされる多くの場合には,その操作が終了したと きとなるのであって,常にアクセス許可がされたときが一定期間の起点と なる本件訂正発明とは異なる。また,本件訂正発明においては,アクセス 許可がされた後,一定期間が経過すれば,被保護情報へのアクセスが継続 してDいたとしてもアクセスが禁止されることになるのに対し,被告製品に おいては,画面を介した操作が継続している限り,一定期間がカウントさ れることはなく,したがって,画面がロックされることはあり得ないので あり,この点においても違いが存するものというべきである。 そして,両者にこのような違いが生じているのは,本件訂正発明におい ては,アクセス許可が被保護情報へのアクセスという意味を有するため, 被保護情報の保護という観点から時間制限が設けられているのに対し,被 告製品の画面ロック解除は,単に,画面を介した操作を可能にするという\n意味しか持たないため,被保護情報の保護という観点から時間制限をする 必要はなく,無駄な電力消費を防ぐという観点から時間制限が設けられて いるのにすぎないからであり,両者の時間制限が持つ技術的意義が全く異 なるからであると解される(このように本件訂正発明におけるアクセス許 可と被告製品における画面ロック解除が持つ技術的意義に違いがあること は,被告製品が1)の構成要件をも充足しないことをも裏付けるものである\nといえる。)。
ウ 上記ア及びイに検討したところによれば,被告製品の「画面ロック解除 制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するとはいえ ない。
(3) 控訴人は,本件訂正発明の「アクセス」とは,携帯電話の正当なユーザと して被保護情報を閲覧・利用・更新することを意味しており,被告製品にお いては,画面ロック状態では,正当なユーザであることを確認できていない ため,被保護情報(電子マネー,電話帳,写真などのデータ)の閲覧・使 用・更新は禁止されているとして,被告製品が,本件訂正発明の構成要件を\n充足する旨主張する。 しかしながら,被告製品の画面ロック状態においては,被保護情報の閲 覧・利用・更新に制限があるとはいえ,それが全面的に禁止されているもの ではなく(上記(2)ア(イ)),画面ロック状態の解除後においても,それだけで 被保護情報へのアクセスが全面的に可能になるものでもない(上記・・・(2)ア(ア))。 被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,まさに文字どおり,画面ロック 解除を制御しているにとどまり,被保護情報へのアクセスの制御との関連は 限定的なものにとどまる。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成30(ワ)39914

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10007  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年1月25日  知的財産高等裁判所

 無効審判請求に対して訂正請求がなされ、特許庁は無効理由なしと判断しました。知財高裁はかかる審決を維持しました。

 上記の甲11,甲22,甲24,甲25の記載によれば,これらの文 献には,チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するよ うな深い位置で耕耘すると,前記チェーンケースによって前記耕耘地面 にチェーンケース跡の溝が形成されてしまい,次工程の播種作業の障害 になることから,飛散土を一部遮蔽しないようにして前記チェーンケー ス跡の溝に土を供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻すという技 術事項が記載されていたことが認められる。
(ウ) そこで,甲14発明に,飛散土を一部遮蔽しないようにしてチェー ンケース跡の溝に土を供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻すという 甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項を適用して,相 違点d(開口部について,本件発明1は,耕耘された土砂を外側方に流 し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝 を埋め戻すためのものであるのに対し,甲14発明は,そのような特定 がない点。)に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかが\n問題となる。しかし,前記(ア)のとおり,甲14の補助側板は,耕耘具 により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接する既耕地の境界部分 の均平性を高めるものであり,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐも のであるのに対し,甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術 事項は,一部といえども泥土の飛散を遮断せずに,かえって泥土の飛散 によって溝に土を供給するというものであり,両者は,泥土の飛散を防 ぐのかそれともそれを利用するのかという点で対極の技術思想に基づく ものであり,したがって,甲14の補助側板に,甲11,甲22,甲2 4,甲25に記載された技術事項を適用することについては阻害事由が あるものと認められる。そうすると,甲14発明に甲11,甲22,甲 24,甲25に記載された技術事項を適用して相違点dに係る本件発明 1の構成を容易に想到することはできなかったものと認められる。\nウ(ア) 原告は,本件審決は,補助側板の「新たな取付位置」を設定してい るが(判断1)),「新たな取付位置」は不要であると主張する(前記第3 の1(4)イ)。
しかし,前記イ(ア)のとおり,甲14の補助側板は,どのような耕耘 深さで作業するかにかかわらず,畑で作業する場合には畑用の取付け位 置に,水田で作業する場合には水田用の取付け位置に取り付けて作業す るものであり,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接 する既耕地の境界部分の均平性を高めるものであるから,チェーンケー ス跡の溝を埋め戻すための開口部を設置するためには,耕耘深さに応じ て補助側板の取付位置を設定する必要があり,本件審決の上記判断(判 断1))に誤りがあるとは認められない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)11672  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年1月12日  大阪地方裁判所

 被告標章「リシュ活」が商標「Re 就活」の侵害となるかが争われました。大阪地裁(21部)は、称呼から類似すると判断しました。ドメインの差止も認められました。

 前記のとおり,本件商標は,欧文字2文字と漢字2文字からなっており, カタカナ3文字と漢字1文字からなる被告標章1とは,語尾の「活」の一文字のみ が共通しているに過ぎず,欧文字とカタカナから受ける印象も相応に異なるから, 外観は同一ではなく,類似するものとも認め難い。 また,被告標章1からは特定の観念を生じないため,観念の点において,両者が 同一又は類似ということはできない。 しかしながら,称呼においては,両者は長音の有無が異なるに過ぎず,長音は他 の明確な発音と比べて比較的印象に残りにくいことから,離隔的に観察した場合, 同一のものと誤認しやすく,極めて類似しているといえる。被告は,アクセントが 異なると主張するが,本件商標も被告標章1も造語であるため,固定したアクセン トがあるわけではなく,時と場所を異にしてもアクセントの違いで区別できるほ ど,印象が異なるものとは認め難い。
(イ) 取引の実情を踏まえて検討するに,需要者である求人企業においては,前 記認定のとおり,本件商標に係る役務についても,被告役務についても,役務利用 に当たっては文書による申込みを要し,役務のプランを選択し,相応の料金を支払\nうものであり,新規に正社員を採用するという企業にとって日常の営業活動とは異 なる重要な活動の一環として行われる取引であるから,求人に係る媒体の事業者が 多数ある中で(乙17,33),どの程度の経費を投じていかなる媒体でいかなる 広告や勧誘を行うかは,各事業者の役務内容等を考慮して慎重に検討するものと考 えられ,外観や観念が類似しない本件商標と被告標章1について,需要者である求 人企業が,称呼の類似性により誤認混同するおそれがあるとは認め難い。 しかしながら,求職者についてみると,前記認定のとおり,本件商標に係る役務 も被告役務も,利用のための会員登録は簡易であり,無料で利用できる上,証拠 (乙13,18ないし27,34。各枝番を含む。)によれば,多数の他の求人情 報ウェブサイトでも会員登録無料をうたっており,気軽に利用できるように簡単に 会員登録ができることを宣伝しているところ,情報を得て就職先の選択肢を広げる 意味で複数のサイトに会員登録する動機がある一方で,複数のサイトに会員登録す ることに何らの制約もなく,現実に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録し ていることが認められる。そうすると,求職者については,必ずしも役務内容を事 前に精査して比較検討するのではなく,会員登録が無料で簡易であるため,役務の 名称を見てとりあえず会員登録してみることがあるものと考えられる。 そして,本件商標も被告標章1も短く平易な文字列であり,発音も容易であるこ と,本件商標に係る役務や被告役務はインターネット上で提供されているところ, インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法として は,検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり,正確な表記では\nなく,称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており,ウェブサ イトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるように\nしていることが広く知られていることからすれば,需要者である求職者は,外観よ りも称呼をより強く記憶し,称呼によって役務の利用に至ることが多いものという べきである。
そうすると,求職者が需要者に含まれるという取引の実情にかんがみれば,需要 者に与える印象や記憶においては,本件商標と被告標章1とでは,前記外観の差異 よりも,称呼の類似性の影響が大きく,被告標章1は特定の観念を生じず,観念の 点から称呼の類似性の影響を覆すほどの印象を受けるものではないから,前述のと おり必ずしも事前に精査の上会員登録するわけではない学生等の求職者において, 被告標章1を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり,本件商標に係る役務と 被告役務とが,同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがあると認めら れる。
(ウ) 被告は,ウェブサイトでの役務の提供においては,役務主体の識別はウェ ブサイトの上部等の目立つところに付されたロゴにより行われるのが通常であると 主張するが,前記のとおり,インターネット上においても,文字列で構成された商\n標については,称呼で記憶してアクセスすることが多いのであり,称呼の重要性が 低いものとはいえない。また,被告は,求職者がサービス内容を確認して会員規約 に同意し,所定の情報を入力して会員登録するまでの過程で多くの画面に接するこ とにより視覚で役務の内容や運営主体を理解すると主張するが,証拠(乙3,36 の1,2)によれば,被告は,ウェブサイト上で,被告役務につき「まずは会員登 録してください。メールアドレスと属性の登録のみで約1分で完了します。」など と記載し,会員登録フォームのページには被告役務の内容を説明する特段の記載は なく,メールアドレスや学校名等の登録のみで会員登録が完了し,会員規約はスク ロールしなければ内容を確認できないものであることが認められる。他方,被告役 務の会員登録に当たって,学生に役務の内容や運営主体を理解させ,本件商標に係 る役務との誤認混同を生じさせないようにする識別表示については,存するとは認\nめられない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 誤認・混同
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10144  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年1月21日  知的財産高等裁判所

 「地熱発電促進方法」について、新規性なしとした拒絶審決が維持されました。出願人はドクター中松氏です。特許庁への出願時は代理人がついてましたが、拒絶査定以降は代理人なしです。

 本件クレーム1は下記です。
 我国地熱エネルギ活用の地熱発電を促進するため,地熱発電発電反対を抑止 する目的のため,第一に地熱発電用の井戸を掘らないこと,第二に既存のd温泉 の源泉からのお湯で発電すること,第三に発電により源泉の温度を下げ,第四 に入浴に適する温度に下げた温泉を温泉業者に提供し,第五に温泉業者の源泉 低温化のコストを不用にしてメリットを与えるという五つの組み合わせの方法 により温泉業界の地熱発電反対を抑止し,地熱発電を促進し,我国地熱エネル ギ活用を増大し得ることを特徴とする我国地熱発電促進方法。
 引用発明は下記です。
 地熱発電の普及が実現されるため,源泉の権利者への不具合を生じさせず 熱水蒸気発電装置1を設置するモチベーションを高くするため,温泉利用設 備30用の源泉を吸い上げる機構に熱水蒸気発電装置1を接続するだけで,\n自らが使用する電力をまかなうことができ,発電に使用した熱水を,本来の 温泉水としても利用でき,温泉利用設備30の所有者にとっても利益になり, 源泉の権利者への不具合を生じさせず温泉利用設備30の所有者にとって熱 水蒸気発電装置1を設置するモチベーションを高くし,熱水蒸気発電装置1 の普及を進みやすくする,地熱発電の普及が実現される方法。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10065 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月21日  知的財産高等裁判所

 商標「モンスターストライク」(標準文字)について、先行商標「MONSTER」(標準文字)、および「MONSTER ENERGY」(標準文字)から、無効主張をしました。審決・知財高裁とも無効理由なし(15号、7号)と判断しました。

 原告は,本件商標の登録出願時及び登録査定時までに,原告使用商標1が付された,別紙4の「モンスターエナジー」及び「モンスターエナジーアブソリュートリーゼロ」,原告使用商標4が付された「モンスターカオス」の3商品(原告商品)を発\n売したこと,原告から独占販売権を得たアサヒ飲料は,原告商品について 「モンスターエナジー」ブランドとニュースリリースで紹介していたこと, 原告商品は好調な売上げを記録し,本件商標の登録出願時までに先に我が 国においてエナジードリンクとして認知を得ていたレッドブルに次いで2 位の認知度を獲得したこと,原告及びアサヒ飲料は,新商品の発売,イベン ト等の開催に合わせて原告使用商標を付し,「モンスターエナジー」又は 「MONSTER ENERGY」の名称を付した賞品が当たる様々なキ ャンペーン活動を行ったほか,著名なアスリートを支援して,原告使用商 標が付された競技用スーツを着たアスリートが原告使用商標を付した競技 道具や車両で競技する姿を見てもらい,また,これらの動画をソーシャルメディアにアップするなどしたほか,イベントのスポンサーとなり,会場\n内に原告使用商標を付したブースを設けて,原告使用商標を付したスタッ フ等が来場者に原告使用商標を付した「モンスターエナジー」ドリンクを 無償で配布し,原告使用商標を付した車両を展示し,原告使用商標を付し た車両等を走行させるなどすることを通じて,キャンペーンの応募者,視 聴者や来場者に原告使用商標の浸透を図ったことが認められ,原告使用商 標は,原告商品を愛飲し,また,原告が支援する特定のアスリートに関心を 持ち,あるいは原告がスポンサーとなったイベント会場等に来場した一定 の需用者層には知られていたということはできる。
しかしながら,そもそも上記の認識の対象となったのは,あくまで原告 使用商標である。原告は,「MONSTER」及びその音訳「モンスター」 は,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,原告の業務に係る商品を 表示するものとして需要者の間で広く認識されていた旨主張するが,原告及び原告から我が国において独占販売権を得たアサヒ飲料が本件商標の登\n録出願時及び登録査定時までに販売した「エナジードリンク」に付した商 標,エナジードリンクの販売のための広告及び販売促進活動において使用 した商標は,いずれも原告使用商標であり,少なくとも,「MONSTER」 の標準文字からなる引用商標1のみをその業務において使用したと認める に足りる証拠はない。また,前記認定事実によれば,原告(モンスターエナ ジージャパン合同会社)及びアサヒ飲料は,「MONSTER」あるいはそ の音訳「モンスター」ではなく,原告使用商標と「モンスターエナジー」又 は「MONSTER ENERGY」の名称を用いて,新商品の発売,販売 のための広告及び販売促進活動等を行っているのであり(なお,モンスタ ーエナジージャパン合同会社のウェブページには,一部「モンスターガー ル」,「モンスターファミリー」といった表記も見られるが,「モンスターエナジー ガール」,「モンスターエナジー ファミリー」の略称であると 容易に理解されるものでもあるし,いずれにしても「モンスター」ないし 「MONSTER」の文字を用いてこれらの活動を行ってきたとは認めら れない。),この点からも,「MONSTER」及びその音訳「モンスター」 が本件商標の登録出願時及び登録査定時には,原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間で広く認識されていたといえないことが裏付\nけられる。したがって,この点に関する原告の主張は採用し得ない。 また,前記認定事実(1(4))によれば,エナジードリンクの主要な需要 者層は,30代から50代の男性が中心であり,10代から20代の男女 にも広がりつつあるが,1)エナジードリンクが何か分からないと回答した 人が16.1%,57.0%の人がエナジードリンクを購入して飲んだこと がないと回答し,2)エナジードリンクは,「飲んでいる人と飲んでいない人 と飲んでいない者の二極分化」しており,月に1日以上飲んでいる人で6 割を占め,「好調なエナジードリンクを支えているのは強烈なロイヤルカ スタマーに依るもの」と分析され,3)「61.9%がエナジードリンクの飲 用経験があり,5人に1人は「それを月に1回以上」飲用していることが分 かった」との調査結果があるように,エナジードリンクは,通常の清涼飲料 水のような幅広い需要者層が購入するものではないから,原告商品が,エ ナジードリンクとしてレッドブルに次いで2位の認知度を獲得し,当初の 目標を超える売上げを記録しているとしても,限られた需要者層が繰り返 し愛飲していることがうかがわれる。したがって,原告使用商標は,無効請 求商品の需要者である一般消費者に周知著名であったということはできな い。
以上によれば,「MONSTER」及びその音訳「モンスター」は,上記 のいずれの点においても周知著名性を認めることはできないし,原告使用 商標も,一般消費者に周知著名であったと認めることはできない。
・・・・
原告は,前記第3の2(1)のとおり,本件商標と引用商標の類似性の程度は高 く,本件商標に接した取引者及び需要者が原告及びその「MONSTER」ブラ ンドを直ちに想起,連想することは明らかであり,本件商標の使用は,原告が 「MONSTER」ブランドについて獲得した信用力,顧客吸引力にフリーラ イドするものといわざるを得ず,その経済的な価値を低下させるものであると して,本件商標は,公正な取引秩序の維持を目指す商標法の目的,国際信義の精 神に反するものであり,社会一般の道徳観念に反するものであるから,本件商 標は公の秩序を害するおそれがある商標というべきであり,商標法4条1項7 号に該当する旨主張する。
しかし,1)本件商標と原告使用商標は,外観,称呼及び観念のいずれにおいて も類似するものではないこと,2)原告使用商標はいずれも一般消費者に周知著 名とはいい難いこと,3)無効請求商品に本件商標が使用されたとしても,需要 者において,本件商標から原告使用商標を連想し,原告の業務に係る商品,原告 と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると,そ の商品の出所の混同を生ずるおそれがあるものと認めることはできないことは, 前記2のとおりであるから,原告の上記主張は,その前提を欠くものというほ かない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10062  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月21日  知的財産高等裁判所

 商標「久保田メソッド(AKANON)」が、商標「久保田メソ\ッド」を含む結合商標から無効(4条1項11号違反)との審決が維持されました。

 本件商標は,前記第2の1(1)のとおり,「久保田メソッド(AKANON)」\nの文字を標準文字で表してなるところ,その構\成中前半部の「久保田メソッ\nド」の文字部分中,「久保田」については,ありふれた姓氏である久保田が まず想起され,「メソッド」が「方法,方式」の意味を有する英語「met\nhod」の片仮名表記であることはよく知られたことであるから,「久保田\nメソッド」の文字部分からは,「(ありふれた姓氏である)久保田という者\nによる方法,方式」といった意味合いを想起させる。また,構成中後半部の\n「(AKANON)」中の欧文字部分の「AKANON」は,辞書等に載録 されていない造語と認められ,ローマ字読みで「アカノン」と称呼されるも のの,これに類する語は想起されず,特定の観念を生じさせないものであり, 「久保田メソッド」の語と括弧内の「AKANON」の語との間に観念上の\n結び付きはない。また,文法上,「( )」(括弧)は,他の部分と区別し その中に他の部分の補充,注釈等を記入するための記号であり,通常,括弧 外の文字が主として,括弧内の文字が従として扱われることに照らせば,本 願商標が,「久保田メソッド」と括弧内の「AKANON」の語とに分離さ\nれて観察され,「久保田メソッド」が主として認識されることは明らかであ\nる。これに加えて,「久保田メソッド」が日本語表\記で先に配置されていて より目立ち,構成文字全体から生ずる「クボタメソ\ッドアカノン」の称呼が やや冗長であって,本件商標は「クボタメソッド」と略して称呼され得るこ\nと,「久保田メソッド」が明確な意味を有するのに対し,「AKANON」\nは造語であって特定の意味を有するものではないことから一般人にはなじみ にくいことも併せて考慮すると,本件商標中,「久保田メソッド」の部分が\n役務の出所識別標識として支配的な印象を与えていることは否定し難いとい うべきである。
そうすると,本件商標の構成中,その前半部に位置する「久保田メソ\ッド」 の部分は独立して自他役務の出所識別機能を果たし得るものと認められ,こ\nの部分を要部として抽出でき,本件商標は,その要部である「久保田メソッ\nド」の文字部分に相応して,「クボタメソッド」の称呼を生じ,「(ありふ\nれた姓氏である)久保田という者による方法,方式」といった観念を生ずる ものである。
・・・・
(3) 対比
本件商標と引用商標とをそれぞれ対比すると,本件商標の要部である「久 保田メソッド」の文字部分と引用商標1の要部である「久保田メソ\ード」及 び「KUBOTA METHOD」並びに引用商標2の要部である「クボタ メソッド」の文字部分とは,表\記方法が異なるのみであり,当該文字部分か ら生じる「クボタメソッド」又は「クボタメソ\ード」との称呼が共通し,又 は聞き誤りのおそれがあり,「(ありふれた姓氏である)久保田(クボタ) という者による方法,方式」の観念をいずれも共通にするものであるから, 本件商標と引用商標とは,互いに相紛れるおそれのある類似の商標であると 認められる。
そうすると,本件商標と引用商標1が本件商標の指定役務中,引用商標1 の指定役務とも類似する「乳幼児のための技芸・スポーツ又は知識の教授, 電子出版物の提供」に使用された場合には,その役務の出所について混同が 生ずるおそれがあり,本件商標と引用商標2が本件商標の指定役務中,引用 商標2の指定役務とも類似する「乳幼児のためのセミナーの企画・運営又は 開催」に使用された場合には,その役務の出所について誤認混同が生じるお それがあるから,本件商標は,「乳幼児のための技芸・スポーツ又は知識の 教授,乳幼児のためのセミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供」 (本件指定役務)ついて,商標法4条1項11号に該当する。
2 原告の主張について
原告は,1)姓氏と方法,方式を意味する「メソッド」又は「メソ\ード」の文 字とを結び付けた商標は「役務の質」を表示するものであるから,「久保田」\nが「(ありふれた姓氏である)久保田」を示すものであろうと幼児教育の分野 における「A」を示すものであろうと,本件商標中の「久保田メソッド」の文\n字部分は,その指定役務との関係において独立して自他役務の出所識別機能を\n有しない,2)同様に引用商標1中の「久保田メソード」及び「KUBOTA M ETHOD」並びに引用商標2中の「クボタメソッド」の部分も,それら指定\n役務との関係において独立して自他役務の出所識別機能を有しない,3)本件商 標も,引用商標1及び引用商標2も,全体が不可分一体のものであるから要部 抽出はできない,仮に要部抽出をするとしても,要部は「久保田メソッド」,\n「久保田メソード」,「KUBOTA METHOD」又は「クボタメソッド」\nのいずれの文字部分でもない,4)そうすると,上記各部分を要部として抽出し て商標を対比し,本件商標と引用商標とが類似すると判断した本件審決の判断 は誤りである旨主張する。
しかしながら,姓氏と「メソッド」とを結び付けた商標が「ある者が発案し\nた方法,方式」の意味をも含む場合があるとしても,当該商標が「ある者によ る(実施される)方法,方式」の意味をも有すること自体は否定し難いから, 当該商標を直ちに「役務の質」のみを表示する商標であるなどということはで\nきない。そして,姓氏又は名称と「メソッド」の文字を繋げた構\成を有する相 当数の商標登録例が現に認められていること(甲97)からも明らかなとおり, たとえありふれた姓氏であるとしても,姓氏と「メソッド」とを結合した商標\nは,その構成から直ちに出所識別機能\を有さない商標といえるものでもない。 そして,本件において,「久保田メソッド」が,その姓氏を有する発案者及び\nその関係者以外の者にも広く用いられるなどした結果,需要者,取引者に,特 定の幼児教育方法としての役務の質を表示するものとのみ認識されるようにな\nっており,特定の役務の出所先を表示するものではないことをうかがわせる証\n拠もない。
したがって,「久保田メソッド」に自他役務の出所識別機能\がないとはいえ ないから,原告の上記主張は,前提を欠くものであって,その余の点について 論じるまでもなく採用することができないものである。 なお,原告は,Aが自らの育児法を幼児教育現場の指導者の間で積極的に採 用させ,これを幼児教育の現場において広く実践させているから,「久保田メ ソッド」の商標的使用を制限することは不当であり,「久保田メソ\ッド」は独 占適応性に乏しい商標であるなど,るる主張する。しかしながら,その主張を 裏付けるに足りる証拠は提出されていない上,そもそも仮に,「久保田メソッ\nド」がAの考案に係る久保田メソッドの名称であるとすれば,原告に本件商標\nの商標権者の地位を保有させ,その名称の独占を認めることは,かえって不当 というべきであるから,いずれにせよ,上記主張を採用する余地はない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10095 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月26日  知的財産高等裁判所

 商標法50条にて登録を取り消された審決取消訴訟です。知財高裁は、不使用とした審決を維持しました。指定商品は新聞で、使用していたのは電子新聞でした。

ア 原告は,新聞や書籍といった情報伝達媒体に属する商品において,取 引の対象となっているのは,その物理的な性状である紙ではなく,実質的には,そ の内容(コンテンツ)であり,この種の商品の流通とは,情報の流通のことを指し, インターネットを通じて流通できるため,新聞等は紙である必要性はなくなったし, 電子版も含まなければならないから,「紙媒体」に限定した本件審決の判断には誤り がある旨主張する。
商標法における商品に,電子情報財等の無体物が含まれることを否定するもので はないが,たとえ,新聞や書籍などの情報伝達媒体に属する商品が,原告がいうと ころの「その内容(コンテンツ)」に価値を見いだして購入する需要者がいるとして も,いわゆる収集家の如く,紙媒体としての新聞や書籍について,「その内容(コン テンツ)」以外の点に価値を見いだす需要者も存在する。また,インターネットが普 及し,「内容(コンテンツ)」がインターネットを通じて流通することが可能であるとしても,これにより紙媒体としての「新聞」の存在自体が完全に否定されるもの\nではないし,実際に,紙媒体としての「新聞」は依然として流通している。そうす ると,紙媒体としての「新聞」の流通とは,紙媒体としての「新聞」という物品そ のものの流通として捉えられるべきものである。
イ 原告は,本件アンケート(甲28)の結果をもとに,本件商標が指定商 品である「新聞」に実質的に使用されていると主張する。 しかし,本件アンケート調査は,その対象者がどのような条件・方法により抽出 されたものであり,どのような方法によりインターネットを通じて実施されたもの であるかは明らかでなく,本件アンケート調査によって得られた結果が,「電子版の 新聞及び本件ウェブサイトを一般購読者がどのように捉えているか」を示すものと して参酌することはできない。
また,本件アンケートは,ウェブサイト上におけるアーカイブの提供が,「電子化 された新聞の内容を提供(供覧)する役務」に該当するものであるか否かに関する ものであるから,これによって得られた結果を,本件商標が指定商品である紙媒体 である新聞に使用されているか否かを検討するに当たり,参酌することはできない。 さらに,本件アンケートの回答について,原告は,「どちらとも言えない,わから ない」という回答を,「新聞かもしれない,と消極的に感じている」と恣意的に認定 しているから,本件アンケート調査が,「需要者の約75%が本件ウェブサイトを 『新聞』と認識している。」ことを示すものでもない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 不使用
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10066  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年1月14日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(2部)は,進歩性なしとした審決について,請求項2,3については動機付けがないとして,取り消しました。

 本件審決は,甲1文献には甲1文献記載技術的事項2,すなわち,「2軸式ヒンジ において,第1回転軸11と第2回転軸12とを平行状態で互いに回転可能となる\nように連結する,一対の支持片511,512の間に,第1位置制限カム521, 第2位置制限カム522及び一対の支持片511,512に対し,両側の短軸53 4により揺動可能である切換片53を設けることにより,第1回転軸11と第2回\n転軸12を交互に回転させるようにする」という技術事項が記載されているところ, 甲2発明において,「接続部材3」を一対とすれば,第1回転軸11及び第2回転軸 21をより安定して平行状態で互いに回転可能に支持できることになるとして,甲\n2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用して,甲2発明の相違点Aに係る構成を\n本件発明1の構成とすることは容易であると判断し,被告も同様の主張をする。\n
しかし,前記2(2)のとおり,甲2文献には,「本考案で開示されている開閉が安定 した2軸ヒンジは,軸スリーブ4及び当該軸スリーブ4を収容するハウジング5を 更に含む。当該軸スリーブ4は,当該接続部材3に接続される接続板41と,当該 接続板41に設置され,それぞれ当該第1回転軸11と当該第2回転軸21とが設 置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する。当該ハウジング5は,収 容空間51及び当該収容空間51に連通する開口52が設けられ,当該軸スリーブ 4と当該接続部材3とを収容し,当該接続板41と当該ハウジング5とに,相互に 対応してガイド凸条411とガイド凹溝53とが設けられ,当該ハウジング5の収 容空間51に配置されるように当該軸スリーブ4をガイドする。」(段落【0016】)との記載があり,同記載と甲2文献の【図2】からすると,甲2発明に係るヒンジ は,接続部材3に接続される接続板41と,同接続板41に設置され,それぞれ第 1回転軸11及び第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部4 3とを有する軸スリーブ4並びに同軸スリーブ4を収容するハウジング5を備えて いることが認められ,同部材により,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定し て平行状態で回転可能に支持できるから,甲2発明においては,甲1文献記載技術\n的事項2を適用する必要はない。
また,前記3(1)のとおり,甲1発明における支持片512は,第1自動閉合輪2 13・第2自動閉合輪223と共に自動閉合機能を発揮する部材を構\成すること, 第1位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイ ドブロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝512c を備えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していること,第1トルク装\n置21及び第2トルク装置22は,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223 に接して設けられ,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223を圧迫しており, この作用により,上記の自動閉合機能が発揮されることが認められるから,これら\nの部材(第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512,切換片5 3)は,機能的に連動しており,一体的に構\成されているといえる。また,甲1発 明における支持片511は,第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412と一 体となってストッパ機構を構\成すること,第1ストッパ輪411と第1ストッパ凸 点511aとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第1位置制限ブロック 531が第1位置制限口521a内に嵌入して,第1回転軸11が回動不能となり,\n第2回転軸12のみが回動可能となるように制限し,第2ストッパ輪412と当該\n第2ストッパ凸点511bとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第2位 置制限ブロック532が第2位置制限口522a内に嵌入して,第2回転軸12が 回動不能となり,第1回転軸11のみが回動可能\となるように制限すること,第1 位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイドブ ロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝511cを備 えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していることが認められるから,\nこれらの部材(切換片53,第1位置制限カム521・第2位置制限カム522, 支持片511,第1ストッパ輪412・第2ストッパ輪411)も,機能的に連動\nしており,一体的に構成されているといえ,さらに,これらの部材と上記の第1自\n動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512も一体的に構成されている\nといえる。そして,上記のとおり,甲2発明は,軸スリーブ4及びハウジング5を 備えることにより,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転 可能に支持できる構\成を有しており,甲1文献記載技術事項2を適用する必要がな いことを考慮すると,上記の一体的に構成された部材から,支持片511及び支持\n片512のみを取り出して,一対の支持片を有するという構成を甲2発明に適用す\nる動機付けはないというべきである。
また,前記(1)のとおり,甲2発明の接続部材3は,第1位置制限部113に当接 して第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35と,第2位置制限部21 3に当接して第2回転軸21の回転を制限する第2位置決め部36とを有するので あるから,甲2発明は,甲1発明のストッパ機構に相当する部材を備えていると認\nめられ,また,前記(2)のとおり,甲2発明は,選択的回転規制手段を有していると ころ,甲1発明の上記の一体的に構成された部材は,ストッパ機構\と選択的回転規 制手段を含むものであるから,甲1発明の上記の一体的に構成された部材を甲2発\n明に適用しようする動機付けもないというべきである。 したがって,甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用する動機付けはないと いうべきであり,甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明2の構\成とすることが 甲1文献により動機付けられているということはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10047  特許実費等請求控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年1月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 独占的権利(特許または専用実施権)については,特許の取得費用についても支払うとの契約があり,その一部について非独占的権利への変更通知をした場合に,その取得費用について支払う必要があるのかが争われました。知財高裁は1審と同じく,支払い義務ありと判断しました。

「(1)ア 特許実費の支払義務を負う対象となる権利の範囲について,本件契約 書5条1項は,「専用実施権又は独占的通常実施権を有している本件特許権等」と 規定していることから,控訴人は,専用実施権の設定登録がされた特許権について のみ,それらの特許実費を負担することになるのかが問題となる。
(ア) 出願中の特許について
本件契約書1条1号は,「本件特許権等」について,出願中の特許も含まれるも のと定義していること,本件契約書5条1項は,「当該特許権又は出願中の特許に 係る出願,登録及び維持に要する実費(以下「特許実費」という。)を負担する」 と規定していること,本件契約書5条2項は「2条3項に基づく非独占的通常実施 権への変更通知をしたときは,当該変更通知がなされた対象特許権及び/又は出願 中の特許については,前項の費用負担義務を免れるものとし」と規定していること からすると,本件契約書5条1項により控訴人が負担することになる特許実費には, 出願中の特許についての特許実費も含まれることは明らかである。 そして,出願中の特許については,専用実施権の設定や独占的通常実施権の許諾 はできないから,それが特許権の設定登録がされた後に本件契約上専用実施権や独 占的通常実施権の対象となるのであれば,特許実費の支払義務を負う対象となると いうべきである。なお,出願中の特許については,仮専用実施権の設定や仮通常実 施権の許諾をすることができる(特許法34条の2,34条の3)が,本件契約書 には,仮専用実施権の設定や独占的仮通常実施権の許諾がされたものに限り,控訴 人がその特許実費を負担する旨の規定はないから,控訴人がその特許実費を支払う 義務がある出願中の特許がこれらのものに限られると解することはできない。 したがって,出願中の特許についても,本件契約書2条3項に基づく非独占的通 常実施権への変更がされていないものであれば,控訴人がその特許実費を支払う義 務があるというべきである。
(イ) 特許権の設定登録がされた特許権について
本件契約書2条1項,2項は,本件特許権等につき,当初は,専用実施権の設定 合意をするが,本件契約締結日から3年経過したときに,その専用実施権が独占的 通常実施権に変更される旨規定しており,本件契約においては,専用実施権の設定 合意がされ,その設定登録がされていなくても,その専用実施権は,3年経過後に 独占的通常実施権に変更されるものとされているのであるから,本件特許権等のう ち特許権の設定登録がされた特許権については,「専用実施権又は独占的通常実施 権を有している本件特許権等」とは,本件契約書2条1項により専用実施権の設定 の合意がされた特許権及び本件契約書2条2項により同専用実施権が独占的通常実 施権に変更された特許権を意味し,控訴人は,そのような特許権であり,本件契約 書2条3項に基づく非独占的通常実施権への変更をしていないものであれば,専用 実施権の設定登録がされているかどうかにかかわらず,それらの特許実費を支払う 義務があるというべきである。
イ 次に,本件契約書1条1号において,「本件特許権等」が「本件製品を 技術的範囲に含む」ものと定義されていることから,その意味が問題となる。 本件契約書1条3号は,「本件製品」について,「(1)圧電型加速度センサ(L字 タイプ),(2)触覚センサ(薄型力覚センサ),(3)トルクセンサ,(4)マイクロ発電 機,及び(5)MEMSミラーを意味する。」と定めており,そこに控訴人が製造,販 売するあるいは製造,販売する予定の製品といった限定はないから,本件契約上,\n「本件製品」とは,これらの技術分野の製品一般を意味するものである。 したがって,「本件製品を技術的範囲に含む」とは,これらの技術分野を技術的 範囲に含むことを意味し,「本件特許権等」は,これらの技術分野に関する特許権 又は出願中の特許を意味すると解するのが相当である。
ウ そして,本件契約についての以上の解釈は,前記1(2)で認定した本件 契約締結に至る経緯,前記1(3)で認定した本件契約締結後の当事者のやり取りの 状況等及び前記1(5)アで認定した控訴人による本件契約に基づく特許実費の支払 状況とも矛盾なく整合するものであって,これ以外の解釈をすることはできない。
(2) 以上のとおり,控訴人は,被控訴人に対して,本件製品(圧電型加速度セ ンサ(L字タイプ),触覚センサ(薄型力覚センサ),トルクセンサ,マイクロ発電 機,及びMEMSミラーの技術分野)に関する出願中の特許,専用実施権の設定の 合意がされた特許権及び同特許権から独占的通常実施権の許諾のある特許権に変更 された特許権のうち,上記の専用実施権又は独占的通常実施権が非独占的通常実施 権に変更されていないものについての特許実費を支払う義務を負うが,前記1(7) アのとおり,平成29年度第2半期における上記範囲の特許実費は,4512万6 043円である。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成31(ワ)3197
被告は,本件変更通知以降は,被告が本件特許権等につき何らの専用実施権を 有しないことが明確となった以上,それ以降に発生した本件変更通知後特許実費につ いては,本件契約上,被告が負担すべきものと解釈されるべきではないし,仮にその ように解釈されたとしても,本件変更通知後特許実費の発生原因となった原告による 特許出願等が被告にとって必要性がなく,また,早期に行われる必要もないものであ ったことも踏まえると,原告の本件変更通知後特許実費の請求は権利の濫用に該当す る旨主張する。 しかしながら,前記(1)のとおり,本件契約上,原,被告間に本件特許権等について の専用実施権の設定合意が存在する間は,被告が本件特許権等の特許実費を負担すべ きであると解されるところ,前記1(6)のとおり,本件変更通知によって上記の合意 が解消されるのは平成30年3月31日である上に,本件変更通知の対象には本件特 許権等に含まれる出願中の特許は含まれておらず,前記(1)アの本件特許権等の文言の解釈を前提とすると,本件変更通知の対象とされたのは本件契約の対象となる本件特 許権等のうちの一部にとどまることとなるから,本件変更通知により被告が本件特許 権等につき何らの専用実施権を有しないことが明確になったともいえない。 また,証拠(甲2,43)及び弁論の全趣旨によれば,原告の請求に係る平成29 年度第2半期における特許実費のうち,原告において平成29年11月10日以前に 特許事務所に対して出願等の依頼をしたにもかかわらず,特許事務所からの実際の請 求が平成30年2月23日以降にされたにすぎないものも相当額含まれていること が認められるし,また,これに当たらないものに関し,原告において,同日以降に殊 更同年3月31日までに特許出願等の特許実費を発生させる行為をしたと認めるに 足りる証拠もないこと,本件契約上,被告における実施の必要性がないこと等を理由 として被告において特許実費の負担を免れることができる旨の定めも存在しないこ とに照らすと,原告の本件変更通知後特許実費の請求が権利の濫用に該当するともい えない。
エ 被告は,過去に原告の有する本件製品に関する特許権及び出願中の特許を対象 としてその特許実費全額を支払っていた点について,後に精算することを前提に仮払 したにすぎない旨主張する。 しかしながら,本件契約書上,支払対象とならない特許実費に関する仮払やその精 算に関する定めは存在しない上に,証拠(甲6〜15,24〜28)及び弁論の全趣 旨によれば,被告が,原告の特許実費の請求に応じてその支払をするに当たり,仮払 であることや後に精算する必要があることを示すことなく支払をしたことが認めら れるほか,前記1(7)カのとおり,Bは,過去の特許実費の支払につき,仮払という説 明ではなく,支払当時将来的に独占的な実施権を得られるであろうとの期待から自発 的に支払ったなどと説明していたのであって,他に被告が原告に対して仮払であるこ とや精算の必要性があることを支払の際に示していたことをうかがわせる証拠もな いことに照らすと,被告の上記主張は採用することができない。

関連カテゴリー
 >> その他特許
 >> 実施権
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10101  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月19日  知的財産高等裁判所

 商標「庵治石工衆」は,地域団体商標「庵治石」と出所混同する(15号)とした審決が維持されました。

 前記1に認定した事実によると,「庵治石」との文字は,「香川県高松市 庵治町・牟礼町産の花崗岩」を意味するものであり,これを用いた石材又は この石材を加工した石製品は,「庵治石(あじいし)」と呼ばれ,古くから 我が国において品質の高い石製品として広く知られており,香川県の伝統工 芸品となっていることが認められる。 一方,引用商標権者及びその構成員を含む高松市庵治町及び牟礼町内の採\n掘業者や石材業者らは,昭和20年から40年代にかけて組合を結成し,昭 和45年(1970)からは毎年,庵治石を用いた石製品の展示即売会を行 ってきており,平成19年3月9日には,地域団体商標として引用商標の設 定登録を受け,庵治石を用いた石製品に「庵治石(R)登録証」や「庵治石(R)プ レート」を発行したり,「庵治石(R)」のシールを付したりして,ブランドの 維持に努め,さらに,庵治石の知名度向上や庵治石を用いた石製品の販路拡 大等を目的とした様々な展示会やイベントを開催し,引用商標の普及活動の ための各種事業を長年継続して現在まで実施しているところ,その模様が相 当数の来場者や新聞,雑誌等への記事掲載を通じて,相応の程度に広告され ている。加えて,引用商標は,地域団体商標の登録を受けていることから, 経済産業省特許庁が年1回発行する冊子及び同庁のホームページに毎回掲載 され,地域団体商標の普及事業において紹介されている。 これらの事情を考慮すると,引用商標は,本願商標の登録出願時及び本件 審判時において,「香川県高松市庵治町・牟礼町で採掘され加工された製品 に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし地域ブランド」との引用商標権者 又はその構成員の業務を示すものとして,需要者の間に広く認識されており,\n相当程度高い周知性を有していたものと認めるのが相当である。
(2) 原告の主張について
原告は,「庵治石」の文字は「香川県庵治町産の石」及び「香川県庵治町 産の石を加工して製作された石塔・墓石等」を表示するものとして我が国に\nおいて広く知られていたものであり,全体として石材の一種を示す普通名称 であって石材関連の商品及び役務との関係において自他商品役務識別機能及\nび出所表示機能\を有しない語であり,そうであれば,「庵治石」を標準文字 で表してなる引用商標が引用商標権者の業務を想起させるものとして周知性\nを有することはない旨を主張する。 しかしながら,「庵治石」の文字が「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花 崗岩」を意味すると認められることは,前記のとおりであり,原告も自認し ているところ,「庵治石」がその本来の産地以外の産地から産出される同種 同等の石材の呼称にも用いられるなど,石材の種類を示す普通名称になった ことを示す証拠はなく,また,庵治地方以外の業者が「庵治石」を産地を示 すためではなく自己の商標として使用していたことを認めるに足りる証拠も ない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3 出所の混同のおそれに係る判断の誤りの存否について
(1) 検討
前記2(1)のとおり,「庵治石」の文字は,「香川県高松市庵治町・牟礼町 産の花崗岩」を意味するが,同時に,広く知られた「香川県高松市庵治町・ 牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし 地域ブランド」をも意味し,その文字部分のみで特定の意味合いを有するよ く知られた語であるから,本願商標の「庵治石工衆」は,「庵治石」の文字 部分と「工衆」の文字部分とを分離して観察することが取引上不自然である と思われるほど両者が不可分的に結合しているものとはいい難いといえる。 そして,本願商標の構成から「庵治石」の文字を除いた「工衆」の文字部分\nは,辞書等に載録された成語ではなく,「ものを作ることを職とする人々」 程の意味合いを連想させるにとどまるから,本願商標の指定役務との関係で は出所識別標識としての機能は必ずしも強くなく,本願商標の構\成中の「庵 治石」の文字部分が出所識別標識を果たし得る要部として看取されるという べきである。
本願商標の要部である「庵治石」の文字部分と引用商標とを対比すると, いずれも標準文字で「庵治石」の文字を書してなる点で外観が同一であり, また,「アジイシ」の称呼が生じる点で,称呼が同一である。そして,本願 商標をその指定役務に使用した場合は,本願商標の要部から「香川県高松市 庵治町・牟礼町産の花崗岩」という観念だけでなく,「香川県高松市庵治町・ 牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし 地域ブランド」という観念も生じるものであり,本願商標の観念は,引用商 標から生じる観念と同一である。そうすると,本願商標と引用商標の類似性 は極めて高いというべきである。
また,本願商標の指定役務は,その加工又は情報提供の対象物を,引用商 標の指定商品を含む墓用石材や墓石等とするものであるから,本願商標の指 定役務と引用商標の指定商品とは,密接な関連性を有するとともに,取引 者,需要者も相当程度で共通にするものといえる。そして,本願商標の指定 役務の需要者に含まれる一般需要者は,必ずしも石材等について専門的な知 識や経験を有するものではない者も含まれており,高度の注意力をもって役 務の提供を受けるとは限らない。
以上を考慮すると,本願商標をその指定役務に使用した場合には,これに 接する取引者,需要者は,出所識別標識としての機能を果たし得る要部であ\nる「庵治石」の文字部分に着目して,地域ブランド名として周知である引用 商標を連想,想起し,当該役務が引用商標権者又はその構成員との間に緊密\nな営業上の関係又は同一の表示による商品役務化事業を営むグループに属す\nる関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信し,役務の出所につき誤 認を生じさせるおそれがあるものというべきである。 そうすると,本願商標は,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずる おそれがある商標であるから,商標法4条1項15号に該当する。
(2)原告の主張について
原告は,1)取引者,需要者は,本願商標を「庵治石」の産地である庵治地 域を表す「庵治」と「石工」及び「衆」からなるものであると認識し,取引\n者,需要者に対して「香川県庵治地域において,石を切り出したり,それを 細工したりする職人の集団」ほどの観念を想起させ「アジイシクシュウ」又 は「アジセッコウシュウ」の称呼を生じさせるから,引用商標と混同のおそ れはない,2)仮に,取引者,需要者が本願商標を「庵治石」と「工衆」とか らなる商標であると認識するとしても,「庵治石」の文字には自他商品役務 識別機能及び出所表\示機能がないから,本願商標は,引用商標と識別力のな\nい部分で共通するにすぎず,引用商標権者の業務と何らかの関係性があると 認識させるものでない旨主張する。 しかしながら,上記1)の主張については,本願商標を「庵治」と「石工」 及び「衆」からなるものであると認識するのが通常であるとはいい難く,ま た,仮に,そのような認識が生じるとしても,それと並んで,庵治石を要部 とした前記(1)記載の観念が生じることは明らかであるし,上記2)の主張の 前提が成り立たないことは,前記(1)に認定判断したとおりであるから,原 告の上記主張は,採用することができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> 誤認・混同
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10047  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月20日  知的財産高等裁判所

 商標「KOREKARADA」(標準文字)が「ココカラダ」(標準文字)とは非類似,(11号)出所混同生じない(15号)とした審決が維持されました。

 以上のとおり,本件商標と引用商標は,外観及び称呼において明らかに 相違することに照らすならば,本件商標から「今からだ」ほどの意味合い を連想,想起させ,引用商標から「ここ(この時点)からだ」ほどの意味 合いを連想,想起させる点で観念において類似する面があることを勘案し ても,本件商標と引用商標を本件商標の指定商品「サプリメント」に使用 したときに,その出所について誤認混同を生じるおそれがあるものと認め ることはできないから,本件商標は,引用商標に類似する商標であるとい うことはできない。 したがって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当するものとは認 められない。
エ これに対し,原告は,本件商標と引用商標は,外観は相違するが,称呼 が類似し,観念が同一であること,引用商標は,原告の業務に係る商品を 表示するものとして,需要者であるスポーツ愛好家の間に広く認識されて\nいるという取引の実情があることをも考慮して全体的に考察すれば,本件 商標と引用商標が本件商標の指定商品「サプリメント」に使用された場合f には,その商品の出所について誤認混同が生ずるおそれがあるから,本件 商標と引用商標は全体として類似している旨主張する。 しかしながら,前記(1)認定のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願 時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとして,\n需要者の間に広く認識されていたものとは認められない。 また,前記ウ認定のとおり,本件商標と引用商標は,外観及び称呼にお いて明らかに相違することに照らすならば,観念において類似する面があ ることを勘案しても,本件商標と引用商標を本件商標の指定商品「サプリ メント」に使用したときに,その出所について誤認混同を生じるおそれが あるものと認めることはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することはできない。
・・・・
2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について
(1) 本件商標の商標法4条1項15号該当性について
原告は,1)引用商標は,「ここからだ」,「まだまだ諦めない」という意味 も含有した造語であり,独創性があること,2)引用商標は,本件商標の登録 出願時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとし\nて,需要者であるスポーツ愛好家の間に周知であったこと,3)本件商標と引 用商標は,少なくとも称呼や観念において類似する面があること,4)引用商 標を付した原告の商品と本件商標を付した被告の商品は,商品の用途や目的, 成分,用法,販売方法等において共通し,同一又は密接な関連性を有するも のであり,需要者が共通すること,5)本件商標を付した被告の商品のパッケ ージは,原告の商品のパッケージと比べて,形状,図柄,キャッチコピーな どその外観において類似点が多く,広報プロモーション活動の方法も似通っ ていること,6)本件商標の指定商品「サプリメント」は,スポーツ愛好家が 日常的に摂取する性質の商品であり,その需要者が特別の専門的知識経験を 有する者ではないから,これを購入するに際して払われる注意力は,さほど 高いものではないことを総合的に考慮すると,本件商標を上記指定商品に使 用したときは,その商品が原告の商品と誤認混同する可能性があり,本件商\n標は,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であり,商標 法4条1項15号に該当するから,これを否定した本件審決の判断は誤りで ある旨主張する。
しかしながら,前記1(1)認定のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願 時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとして,\n需要者の間に広く認識されていたものとは認められず,また,前記1(2)ウ認 定のとおり,本件商標と引用商標は,観念において類似する面があるといえ るものの,外観及び称呼において明らかに相違する。 そうすると,その余の点について判断するまでもなく,本件商標をその指 定商品「サプリメント」について使用したときに,これに接する需要者がそ の商品が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の 業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生ずるお それがあるものと認めることはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10050 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月23日  知的財産高等裁判所

 めずらしい商51条の取消訴訟(登録商標の類似範囲の使用による混同)です。被告は商標「農口」を有する商標権者で、原告は商標「農口尚彦研究所」を有しています。被告は標準文字の商標を書体を草書体に変更して日本酒のラベルに使用していました。知財高裁は不成立の審決維持です。
原告は被告の下で杜氏として2年働き、その後、袂を分かったんですね。原告の目的は、被告の商標の使用禁止なのでしょう。51条で取り消しができれば、混同するとしてやめさせるつもりだったのかもしれませんね。

 原告は,「農口尚彦研究所」の日本酒は,日本酒評価サイトである「S AKETIME」の石川の日本酒ランキング2020において,第1位を 獲得したこと,ANAの国際線ファーストクラスにおいて,2018年(平 成30年)から継続して「農口尚彦研究所」の日本酒が提供されているこ と,このほか,様々な著名雑誌や全国放送のテレビ等においても,原告の みでなく,「農口尚彦研究所」も,北陸を代表する酒蔵として紹介されて\nいることなどからすると,原告自身の名はもちろん,原告の手による「農 口尚彦研究所」の日本酒及びその日本酒を販売する「農口尚彦研究所」の 名称も,需要者の間で広く認識されており,引用商標は,本件審決時にお いて,原告の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして,周知又は\n著名であったといえるから,これを否定した本件審決の認定は誤りである 旨主張するので,以下において判断する。
(ア) 引用商標は,別紙2に示すとおり,「農口尚彦研究所」の文字を縦 書きの楷書体で書してなるものである。 商品「日本酒」は,嗜好品であり,その需要者は,一般消費者である から,引用商標が周知であるというためには,需要者である一般消費者 の間で,引用商標が原告の業務に係る「日本酒」を表示するものとして\n広く認識されている必要がある。
(イ) そこで検討するに,前記アの認定事実によれば,原告が杜氏を務め る株式会社農口尚彦研究所は,平成29年12月頃から,引用商標を付 した日本酒(「農口尚彦研究所」の日本酒)を継続して販売し,本件審 決時(審決日令和2年3月27日)までの販売期間は約1年5か月であ ることが認められる。一方で,引用商標を付した日本酒の販売数量,売 上金額,市場占有率等についての立証はなく,引用商標を付した日本酒 の販売実績を認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 次に,前記ア(エ)の雑誌,新聞,ウェブサイト等には,原告について, 「酒造りの神様・X杜氏の復活!」,「酒造りの神,Xの酒が復活!」, 「日本酒の神様,ふたたび始動!」,「「酒造りの神様」「伝説の杜氏」 と称されるX氏」などと掲載され,原告が平成29年から酒蔵「農口尚 彦研究所」で杜氏として酒造りを再開したことが紹介されていること, 引用商標を付した日本酒が,2018年(平成30年)から,ANAの 国際線ファーストクラスの機内で提供される「日本酒セレクション」に 採用されていること,令和2年にもANAのウェブサイトで人気の銘柄 として紹介されていることが認められる。 もっとも,上記雑誌,新聞,ウェブサイト等においては,「農口尚彦 研究所」は,原告が杜氏を務める酒蔵として紹介されており,上記AN Aのウェブサイトを除き,日本酒の銘柄又はブランド名として,「農口 尚彦研究所」が用いられることを明確に示す記載はない。また,日本酒 が掲載された写真についても,当該写真から「農口尚彦研究所」と表示\nされていることを判読することは困難である。 加えて,前記ア(エ)の雑誌,新聞,ウェブサイト等における原告の紹 介記事等によれば,原告の氏名である「X」は,日本酒の銘柄等に関心 の高い日本酒愛好家の間では知名度が高かったものといえるが,嗜好や こだわり等も様々な一般消費者の間において,広く知られていたとまで 認めることはできない。 以上によれば,前記ア(エ)の雑誌,新聞,ウェブサイト等の掲載状況 から,本件審決時において,酒蔵「農口尚彦研究所」及び「農口尚彦研 究所」の日本酒は,日本酒の銘柄等に関心の高い日本酒愛好家の間では, 相当程度認識されていたものと認められるものの,一般消費者の間で広 く認識されていたものと認めることはできず,ましてや,引用商標が原 告の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして,広く認識されて\nいたものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はな い。
(エ) 以上によれば,引用商標は,本件審決時において,原告の業務に係 る商品「日本酒」を表示するものとして,需要者の間で広く認識されて\nいたものと認めることはできないから,原告の前記主張は採用すること ができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 不正使用
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)2403 著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年12月23日  東京地方裁判所

 写真の著作物の複製・公衆送信があったとして、約30万円の損害賠償が認められました。損害の算定根拠は、「fotoQuote」というサイトにおける料金表です。\n

 本件写真は,原告が,天候の良好な平成23年3月2日の日中に,インドの世界遺産であるエローラ石窟群のカイラーサ寺院を被写体として選択し,日陰となる箇所が極力少なくなるように配慮しつつ,同寺院の正面を斜め上方から,同寺院の主要な建物を 中心に据え,その全体がおおむね収まるように撮影したものであることが認め られる。 そうすると,本件写真は,原告が撮影時期及び時間帯,撮影時の天候,撮影 場所等の条件を選択し,被写体の選択及び配置,構図並びに撮影方法を工夫し,\nシャッターチャンスを捉えて撮影したものであるから,原告の個性が表現され\nたものということができる。したがって,本件写真は原告の思想又は感情を創 作的に表現した「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当し,本件写真を創\n作した原告は「著作者」(同項2号)に該当するので,本件写真に係る著作権 及び著作者人格権を有する。
・・・
前記2(3),3のとおり,本件画像は,飲食店業等を目的とする会社である 被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり,本件画像の掲載 期間は,約5年に及ぶ。また,証拠(甲6ないし8)によれば,原告は,自 身の写真のライセンスに当たっては,通常,「fotoQuote」の料金 表(甲7)を使用していること,同料金表\によれば,世界市場のウェブ広告 にハーフページ(300×600ピクセル)の大きさの写真を5年間使用さ せる内容のライセンス料は,地域をアジアに限定しても,1989米ドルを 下らないこと,令和2年8月20日(本件の訴え提起の前日)時点における 米ドル・円相場の仲値が1ドル106.10円であることが認められる。さ らに,証拠(甲3の1)によれば,本件画像は,400×300ピクセルの 大きさで使用されていたことが認められる。そうすると,本件写真を営利目 的で使用する場合,原告は,21万1032円でその利用を許諾することと していたものと認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 以上に加え,本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件写真に係る原告 の著作権(複製権,自動公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額に相 当する額(著作権法114条3項)は,21万1032円と認めるのが相当 である。 また,上記の諸事情に鑑みれば,本件写真に係る原告の著作者人格権(氏 名表示権)が侵害されたことにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料\nは5万円,弁護士費用相当額の損害は5万円とそれぞれ認めるのが相当であ る。
(2) これに対し,被告は,原告が損害の算定根拠とする「fotoQuote」 の料金表は,あくまで営利目的の広告等として写真が使用された場合に適用\nされるものであり,被告は非営利公益目的で本件写真を使用したものである から,これを算定根拠とすることはできないと主張する。 しかし,前記2(3)のとおり,本件画像は,飲食店業等を目的とする会社で ある被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり,被告が本件 画像を利用したのは営利目的であったというべきであるから,被告の上記主 張は前提を欠く。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 複製
 >> 翻案
 >> 著作権その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10086  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月23日  知的財産高等裁判所

 商標「AZURE」は,「AZULE」と類似するとした拒絶査定不服審判の審決取消訴訟です。争点は、「AZURE」から「アズレ」という称呼が生ずるか否かです。知財高裁は、審決と同様に、生ずるので類似すると判断しました。

(1) 本願商標は,「AZURE」の欧文字を表してなる。「azure」は,\n「空色,青空」の意味を有し,「アジュア」と発音される英単語として辞書 (乙2。ジーニアス英和辞典 第5版,2014年12月25日発行。)に掲 載されているが,中学生向け(乙2ないし6)や高校生向け(乙7)の学習書 で覚えておくべき単語として挙げられていないことはもちろん,TOEIC の制作機関が提供するボキャブラリーブック(乙8。国際的なビジネスの場 で一般的に使われる語彙を集めている。)でも取り扱われておらず,我が国に おいてその意味が広く一般に知られている語とは認められず,また,本願商 標の指定商品・指定役務の分野において,特定の意味合いを有する語として 知られているとの事情も見いだせない。そうすると,需要者から,一種の造語 として看取されることもあるものといえる。 それ自体あまり知られていない欧文字からなる商標は,一般的には,我が 国において広く親しまれている英語風又はローマ字風の読み方に倣って称呼 されるとみるのが自然であるから,本願商標は,英語風の読み方に倣って「ア ジュア」の称呼を生ずるほか,ローマ字風の読み方に倣って「アズレ」の称呼 をも生ずると認めるのが相当である。
(2) 原告は,本願商標は,「pure」,「cure」,「secure」等 の語尾に「ure」を有する英単語と同様に,英語として自然な文字の並びで あることに加え,広く知られているマイクロソフト社のクラウドプラットフ\nォーム「Microsoft Azure」に使用されているように,我が国 において認知されている語といえるため,英語の読み方に倣って称呼される とみるのが自然であると主張する。 しかし,前記(1)で判断したところに照らせば,「azure」は,「pu re」,「cure」,「secure」等の英単語のように一般に知られて いるとは認められない。そして,マイクロソフト社のクラウドプラットフォ\nーム「Microsoft Azure」については,一般のビジネスにおい て幅広く使われていると認めるに足りる証拠はない上,「Azure」の称呼 も,「アジュア」のほか「アズレ」とされる場合,「アズール」とされる場合 もあり(乙9ないし14,26),大手企業が上記クラウドプラットフォーム を採用する場合に「アズール」と呼んでいる場合もある(乙10,11)。 また,イギリスの自動車のブランド「AZURE」も「アズール」と称呼さ れ(乙15ないし19),ステッドマン医学大辞典第5版(乙21,2002 年2月20日)では一群の異染性塩基性青色メチルチオニン又はフェノチア ジン色素を示す用語「azure」を「アズール」と称呼し,南山堂医学大辞 典第20版(乙22,2015年4月1日)は,「アズール」の語を,英語a zureに由来し,アズール顆粒やギムザ染色を示すものとして挙げている。 したがって,引用商標から「アジュア」の称呼のみが生じるとはいえず,原 告の主張は採用できない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10055 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年11月4日  知的財産高等裁判所

 商標「織部流」は周知であったとして、10号違反などが理由なしとした審決が取り消されました。

 以上によると,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標は,本 件不成立役務のうち「図書及び記録の供覧」,「図書の貸与」及び「書籍の制作」 についての原告の業務に係る役務を表示するものとして周知であり,また,「セミ\nナーの企画・運営又は開催」は,引用商標に係る原告の「茶道の教授」の役務と類 似の役務,「興行の企画・運営又は開催」は,引用商標に係る原告の「茶会の企画・ 運営又は開催」の役務と同一又は類似の役務,「電子出版物の提供」は,引用商標 に係る原告の「図書及び記録の供覧」及び「図書の貸与」の役務と類似の役務であ ると認められるから,本件商標の本件不成立役務のうち上記各役務についても,商 標法4条1項10号に該当するものとして,登録を無効とすべきである。 なお,被告は,類似群コードについて主張するが,類似群コードは,それ自体類 似との推定に係るものにすぎない上,審査官の審査の基準であって,裁判所がこれ に拘束されることはないから,上記判断を左右するものではない。
3 商標法4条1項7号該当性について
(1) 商標法4条1項各号は,商標登録を受けることができない商標として,相 当数の類型を規定しているのであって,同項7号において,「公の秩序又は善良の 風俗を害するおそれがある商標」がその一類型として規定されているのは,他の号 に当てはまらなくてもなお商標登録を受けることができないとすべき商標が存在し 得ることを前提に,一般条項をもって,そのような商標の商標登録を認めないこと としたものであると解されるから,同号の適用は,その商標の登録を社会が許容す べきではないといえるだけの反社会性が認められる場合に限られるべきである。
(2) 既に認定判断したとおり,本件商標は,多くの指定役務について,商標法 4条1項10号に該当するものである。また,証拠(甲7,27,28)及び弁論 の全趣旨によると,被告代表者Bは,原告が家元である織部流に入門したことがあ\nると認められるから,被告代表者Bは,本件商標について商標法4条1項10号に\n該当する事由があることを認識していたものと認められる。 しかし,本件商標は,これら商標法4条1項10号に該当するものについては, そのことを理由に無効とされるのであり,その余の指定役務である「美術品の展示」 について,本件商標の登録を許容すべきでないといえるだけの反社会性があるとい うべき事情を認めるに足りる証拠はない。
(3) これに対し,原告は,被告及び被告代表者Bが,古田家や古田織部と何の\n関係もないにもかかわらず,茶道織部流の何百年にもわたる伝統を承継する正当な 根拠も理由もなく,あたかも自己が創設した茶道の流派であるかのように,これを 独占しようとしているなどと主張するが,上記のとおり,「美術品の展示」を除く 役務について本件商標は無効であるので,被告が茶道について織部流を独占するこ とにはならない。 上記に関し,原告は,Lが織部流の茶会を開催しようとした際に織部流の名称の 使用の中止を求める平成30年10月26日付け「お知らせ」と題する書面(甲2 1)が届いたと主張するが,同書面の差出名義人である「A13」が被告又は被告 の意を受けた者であるとは直ちには認め難い。 また,原告は,被告代表者Bが関係した展示会や催し,同人の講演,同人の経歴\nや「織部賞」について主張するが,これらの主張は上記(2)の判断を左右するもので はない。さらに,本件審判請求の際の被告代表者Bの陳述書(甲28)についても,\n審判において被告代表者Bが自己の言い分を記載したものにすぎず,上記(2)の判 断を左右するものではないし,原告が提出する被告代表者Bにだまされていた旨の\n記載のあるKの陳述書(甲40)や,本件審判請求において提出された同人名義の 陳述書(甲29)のほか,被告代表者Bを発行者とする「茶湯手帳」の記載(前記\n1(1)エ)も,上記(2)の判断を左右するに足りるものではなく,その他,本件商標 の登録を許容すべきでないといえるだけの反社会性があるというべき事情を認める に足りる証拠はない。
4 小括
以上によると,本件審決のうち,「セミナーの企画・運営及び開催」,「電子出 版物の提供」,「図書及び記録の供覧」,「図書の貸与」,「書籍の制作」及び「興 行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競 馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」の役務について 商標法4条1項10号に該当しないとした範囲で,原告の主張する取消事由には理 由があると認められる。その余の原告の主張は理由がない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ワ)26106  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年10月14日  東京地方裁判所

 キャラクターの複製・翻案であるとの主張は認められませんでした。

(2) 原告作品全体の創作性及び被告作品全体との対比について
ア 証拠(甲1,2,5〜7)によれば,原告の原著作物(別紙2)に描かれ た原告キャラクターは,頭部は髪がなく半楕円形であり,目は小さい黒点で 顔の外側に広く離して配され,上下に分かれたくちばし部分はいずれも厚く オレンジ色であり,上下のくちばしから構成される口は横に大きく広がり,\n体は黄色く,顔部分と下半身部分との明確な区別はなく寸胴であり,手足は 先細の棒状であるとの特徴を有しており,原告作品においては,原告キャラ クターのこれらの特徴の全部又は一部が表現されているものと認められる。\n
イ 証拠(乙1)及び別紙6「対比キャラクター」を含む弁論の全趣旨によれ ば,原告作品に描かれた原告キャラクターの上記特徴のうち,キャラクター の髪を描かず,頭部を半楕円形で描く点は同別紙の「エリザベス」及び「タ キシードサム」と,目を小さい黒点のみで描く点は同別紙の「タキシードサ ム」,「アフロ犬」,「ハローキティ」,「にゃんにゃんにゃんこ」及び「ラ イトン」と,口唇部分を全体的に厚く,口を横に大きく描く点は同別紙の「お ばけのQ太郎」と,顔部分と下半身部分とを明確に区別をせずに寸胴に描き, 手足は手首・足首を描かずに先細の棒状に描く点は同別紙の「おばけのQ太 郎」及び「エリザベス」(ただし,いずれも手の部分)と共通し,いずれも, 擬人化したキャラクターの漫画・イラスト等においては,ありふれた表現で\nあると認められる。
ウ そうすると,原告作品は,上記の特徴を組み合わせて表現した点にその創\n作性があるものと認められるものの,原告作品に描かれているような単純化 されたキャラクターが,人が日常的にする表情をし,又はポーズをとる様子\nを描く場合,その表現の幅が限定されることからすると,原告作品が著作物\nとして保護される範囲も,このような原告作品の内容・性質等に照らし,狭 い範囲にとどまるものというべきである。
(3) 被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるか否かについて 上記(2)を踏まえ,被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるか否かにつ いて,作品ごとに以下検討する。
ア 被告作品1について
(ア) 被告作品1−1について
a 原告作品1−1と被告作品1−1との対比
原告作品1−1と被告作品1−1とを対比すると,両作品は,ほぼ正 面を向いて立つキャラクターにつき,目を黒点のみで描いている点,く ちばしと肌の色を明確に区別できるように描いている点,顔部分と下半 身部分とを明確に区別せずに描いている点,胴体部分に比して手足を短 く描いている点のほか,黒色パーマ様の髪が描かれている点において共 通するが,黒色パーマ様の髪型を描くこと自体はアイデアにすぎない上, その余の共通点は,いずれも擬人化されたキャラクターにおいてはあり ふれた表現であると認められる。\n 他方,両作品については,原告作品1−1では,キャラクターの体色 が黄色で,両目が小さめの黒点のみで顔の外側付近に広く離して描かれ, 上下のくちばしはオレンジ色で,たらこのように厚く描かれているのに 対し,被告作品1−1では,キャラクターの体色は白色で,両目がより 顔の中心に近い位置に,多少大きめの黒点で描かれ,上下のくちばしは 黄色で原告キャラクターに比べると厚みが薄く,横幅も狭く描かれてい るなどの相違点がある(以下,これを「作品に共通する相違点」という。)。 加えて,原告作品1−1では,キャラクターが,いわゆるおばさんパ ーマ状の髪型(毛量は体の約5分の1程度で,への字型の形状をし,眉 毛も見えている。)をして,口を開け,左手を上下に大きく振りながら, 表情豊かに相手に話しかけているかのような様子が表\現されているの に対し,被告作品1−1では,いわゆるアフロヘアー風のこんもりとし た髪がキャラクターの体全体の半分程度を占めるなど,その髪型が強調 され,キャラクターの表情や手足の描写にはさしたる特徴がないなどの\n相違点があり,その具体的な表現は大きく異なっている。\n 以上のとおり,両作品は,アイデア又はありふれた表現において共通\nするにすぎず,具体的な表現においても上記のとおりの相違点があるこ\nとにも照らすと,被告作品1−1から原告作品1−1の本質的特徴を感 得することはできないというべきである。 したがって,被告作品1−1は,原告作品1−1の複製にも翻案にも 当たらない。

◆判決本文

原告作品、被告作品、参考著作物はこちらです。

◆判決本文

◆判決本文

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 複製
 >> 翻案
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(ワ)40337  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年7月22日  東京地方裁判所

 カートリッジを再生利用できないようにした場合や,ICチップにカートリッジのトナーがなくなったなどのデータを記録し,再生品が装着されたときにレーザープリンタの機能の一部が作動しないようにすることが権利濫用と判断されました。\n

 独占禁止法21条は,「この法律の規定は,・・・特許法・・・による権利の行使 と認められる行為にはこれを適用しない。」と規定しているが,特許権の行 使が,その目的,態様,競争に与える影響の大きさなどに照らし,「発明を 奨励し,産業の発達に寄与する」との特許法の目的(特許法1条)に反し, 又は特許制度の趣旨を逸脱する場合については,独占禁止法21条の「権利 の行使と認められる行為」には該当しないものとして,同法が適用されると 解される
。 同法21条の上記趣旨などにも照らすと,特許権に基づく侵害訴訟におい ても,特許権者の権利行使その他の行為の目的,必要性及び合理性,態様, 当該行為による競争制限の程度などの諸事情に照らし,特許権者による特許 権の行使が,特許権者の他の行為とあいまって,競争関係にある他の事業者 とその相手方との取引を不当に妨害する行為(一般指定14項)に該当する など,公正な競争を阻害するおそれがある場合には,当該事案に現れた諸事 情を総合して,その権利行使が,特許法の目的である「産業の発達」を阻害 し又は特許制度の趣旨を逸脱するものとして,権利の濫用(民法1条3項) に当たる場合があり得るというべきである。 ところで,一般指定14項(競争者に対する取引妨害)は,「自己・・・と国 内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について, 契約の成立の阻止,契約の不履行の誘因その他いかなる方法をもってするか を問わず,その取引を不当に妨害すること」を不公正な取引方法に当たると 規定しているところ,乙3先例において,公正取引委員会が,プリンタのメ ーカーが,技術上の必要性等の合理的理由がなく又はその必要性等の範囲を 超えてICチップの書換えを困難にし,カートリッジを再生利用できないよ うにした場合や,ICチップにカートリッジのトナーがなくなったなどのデ ータを記録し,再生品が装着されたときにレーザープリンタの機能の一部が\n作動しないようにした場合には同項に違反するおそれがあるとの見解を示し ていることは,上記(1)コ(イ)のとおりである。
以上を踏まえると,本件において,本件各特許権の権利者である原告が, 使用済みの原告製品についてトナー残量が「?」と表示されるように設定し\nた上で,その実施品である原告電子部品のメモリについて,十分な必要性及\nび合理性が存在しないにもかかわらず本件書換制限措置を講じることにより, リサイクル事業者が原告電子部品のメモリの書換えにより同各特許の侵害を 回避しつつトナー残量の表示される再生品を製造,販売等することを制限し,\nその結果,当該リサイクル事業者が同各特許権を侵害する行為に及ばない限 りトナーカートリッジ市場において競争上著しく不利益を受ける状況を作出 した上で,同各特許権に基づき権利行使に及んだと認められる場合には,当 該権利行使は権利の濫用として許容されないものと解すべきである。 以下,本件各特許権の行使が権利の濫用に該当するかどうかについて,検 討する。
(3) トナーの残量表示を「?」とすることによる競争制限の程度について\n
ア 原告プリンタにおいては,前記第2の2(7)のとおり,純正品であるトナ ーカートリッジが装着された場合には,トナー残量が段階的に表示される\nのに対し,使用済みの原告製品にトナーを補充した再生品が装着された場 合には,印刷動作には支障がないものの,トナーの残量表示が「?」と表\ 示されるとともに,トナーがもうすぐなくなる旨の予告表\示はされず,ト ナーを使い切ると,トナーがなくなった旨のメッセージが出て,赤色ラン プが点灯するとの事実が認められる。
イ 原告は,トナーの残量の表示が「?」であるトナーカートリッジであっ\nても印刷は可能であり,ユーザーは価格を重視するので,純正品に比較し\nて廉価な再生品が競争上の不利益を被ることはないと主張する。
(ア) しかし,市場で競合する他の製品の場合と異なり,トナーカートリッ ジの再生品の場合には,再生品の価格の方が純正品の価格よりある程度 安いことはそのユーザーにとって当然の前提であり,再生品がユーザー に対して訴求力を有するのは,再生品と純正品の価格差のみならず,当 該再生品が純正品との価格差にもかかわらず,純正品と同等の品質を備 えているという点にあると考えられる。
(イ) このことは,被告DSジャパンのウェブサイト(甲7の2)において, 被告製品が「高品質で低価格」,「高品質で安全なリサイクルトナーを 安価で販売」などと記載され,その品質が優れていることが強調され, 更に「当社リサイクルトナーの品質」として,E&Qマークを取得して いる旨が記載されていることからもうかがわれるところである。 また,原告のウェブサイトには,前記(1)オ記載のとおり,「プリンタ の性能を安定した状態でご使用いただくために,リコー純正品のご使用\nをおすすめします。リコー純正品以外のご使用は,印字品質の低下やプ リンタ本体の故障など,製品に悪影響を及ぼすことがあります。」と記 載されており,同記載に接したユーザーは,プリンタメーカーは品質上 の理由から純正品の使用を勧めており,廉価な再生品の購入に当たって は,その品質に十分に留意する必要があることを容易に理解し得るもの\nと考えられる。
(ウ) さらに,再生品トナーカートリッジの市場シェアをみると,前記(1)ク のとおり,トナーカートリッジにおける平成21年から平成29年まで のリユース率は,モノクロ・カラー合計で23.1〜26.4%で推移 しているものと認められる。再生品の価格が純正品に比べて廉価であり, 価格面においては競争上優位に立っているにもかかわらず,その市場シ ェアが上記の程度にとどまっているとの事実は,ユーザーにとってトナ ーカートリッジ再生品の品質が非常に重要であり,再生品がユーザーの 信頼を得ることが難しいことを示しているものということができる。
(エ) 以上のとおり,ユーザーは,再生品を購入するかどうかを決めるに当 たり,純正品との価格差に勝るとも劣らず,その品質が純正品と同等か どうかを重視しているということができる。
ウ 本件において,原告プリンタに純正品であるトナーカートリッジを装着 した場合には,トナー残量が段階的に表示されるのに対し,再生品を装着\nした場合には,トナーの残量表示が「?」と表\示され,予告表\示もされな いことは,上記アのとおりである。 プリンタにとってトナー残量表示は一般的に備わっている機能\であると 認められるところ(弁論の全趣旨),トナー残量が「?」と表示されると,\nユーザーとしてはいつトナーが切れるかの予測がつかないことから,トナ\nーが切れたときに備えて予備のトナーカートリッジを常時用意しておか\nなければならず,トナー残量の表示がされる場合に比べ,本来不必要な保\n守・管理上の負担をユーザーに課すこととなる。 また,プリンタに純正トナーカートリッジを装着した場合にトナー残量 が「?」と表示されることは通常あり得ないことから,同表\示に接したユ ーザーは,トナーカートリッジの再生品の品質にはやはり問題があって, プリンタのトナー残量表示機能\が正常に作動していないのではないか,あ るいは,トナーカートリッジが純正品ではないことからプリンタがトナー カートリッジに記録された情報を適正に読み取ることができないのではな いかなどの不安感を抱き,再生品の使用を躊躇すると考えられる。 前記のとおり,プリンタメーカーである原告自身が品質上の理由から純 正品の使用を勧奨していることや,価格差にもかかわらず再生品の市場占 有率が一定にとどまっていることなどに照らすと,我が国において再生品 の品質に対するユーザーの信頼を獲得するのは容易ではないものと考えら れる。このような状況下において,トナーの残量が「?」と表示される再\n生品を販売しても,その品質に対する不安や保守・管理上の負担等から, 我が国のトナーカートリッジ市場においてユーザーに広く受け入れられる とは考え難い。
エ 実際のところ,我が国のトナーカートリッジ市場において,トナー残量 を「?」と表示する再生品が製造,販売等されていることを示す証拠は存\n在しない。このことは,原告製のプリンタのうち,対応するトナーカット リッジの電子部品のメモリの書換えが可能な機種はもとより,本件書換制\n限措置がされている機種(C830及びC840シリーズ)についても同 様である。被告らを含むリサイクル事業者が,わざわざ費用を費やして原 告電子部品のメモリの書換え又は同部品の取替えを行い,トナー残量が表\n示されるようにした上で再生品を販売しているとの事実も,トナー残量を 「?」と表示するトナーカートリッジを市場で販売したとしても,ユーザ\nーから広く受け入れられる可能性が低いことを示しているというべきであ\nる。
オ 加えて,前記(1)ケのとおり,公的機関によるカラーレーザープリンタ用 トナーカートリッジ等の入札においては,メーカーによる再生品以外の再 生品について,トナーカートリッジに装着するチップの情報を,リサイク ルの都度確実に書き換えることや,純正品と同等の機能を有することなど\nが条件とされているものがあるとの事実が認められる。これによれば,本 件書換制限措置がされている原告電子部品について,被告電子部品と取り 替えることなく,トナー残量が「?」と表示される再生品を製造,販売等\nした場合,このような条件を課す公的機関による入札において当該再生品 が入札条件を満たす可能性は低いというべきである。\n この点について,原告は,上記の入札条件は,あらゆる点で純正品と同 等の機能を有することまで求める趣旨ではなく,又は定型的な条件にすぎ\nずメモリの書換えが制限されていることを想定したものではないと主張 する。しかし,トナー残量が正確に表示されない再生品が「純正品と同等\nの機能」を有するということはできず,また,電子部品のメモリの情報を\n確実に書き換えるという条件が定型的なものであるとしても,他の手段に より電子部品のメモリの情報を書き換えた場合と同様のトナー残量表示\nをすることが求められる可能性が高いと考えるのが自然である。\n したがって,本件書換制限措置により,被告らが官公庁等との取引を継 続し得なくなることはあり得ないとの原告の主張は採用し得ない。
カ 以上のとおり,本件書換制限措置により,被告らがトナーの残量の表示\nが「?」であるトナーカートリッジを市場で販売した場合,被告らは,競 争上著しく不利益を被ることとなるというべきである。
(4) 本件各特許権の侵害を回避しつつ,競争上の不利益を被らない方策の存否 について
ア 上記(3)のとおり,被告らは,原告製プリンタのうち,本件書換制限措置 がされていない機種に適合するトナーカートリッジについて,トナー残量 が「?」と表示される製品を販売するのではなく,電子部品のメモリを書\nき換え,トナー残量の表示をすることができるようにした上で販売してお\nり,本件書換制限措置がされているC830及びC840シリーズ機種に ついても,同措置がとられていなければ,同様にメモリを書き換えること により再生品を製造,販売していたものと推認される。 本件書換制限措置は,原告製プリンタのうち,同各シリーズについて, 被告らによるこうした従前の対応を採り得なくするものであるが,被告ら は,これにより競争上の不利益を被ることなく特許権侵害を回避すること が困難な状況に置かれたと主張するのに対し,原告は,被告電子部品の構\n造を工夫するなどして,本件各特許権の侵害を回避することは可能である\nと主張する。
イ そこで,まず,前提として,被告らが従来行っていた原告電子部品のメ モリの書換行為が本件各特許権を侵害するかどうかについて検討する。
(ア) インクタンク事件最高裁判決は,譲渡済みの特許製品について加工等 がされた場合の特許権侵害の成否について,「特許権の消尽により特許 権の行使が制限される対象となるのは,飽くまで特許権者等が我が国に おいて譲渡した特許製品そのものに限られるものであるから,特許権者 等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ, それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造された ものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権 を行使することが許されるというべきである。そして,上記にいう特許 製品の新たな製造に当たるかどうかについては,当該特許製品の属性, 特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総 合考慮して判断するのが相当であり,当該特許製品の属性としては,製 品の機能,構\造及び材質,用途,耐用期間,使用態様が,加工及び部材 の交換の態様としては,加工等がされた際の当該特許製品の状態,加工 の内容及び程度,交換された部材の耐用期間,当該部材の特許製品中に おける技術的機能及び経済的価値が考慮の対象となるというべきであ\nる。」と判示する。
(イ) これを本件についてみると,本件各発明のうち,例えば,本件各発明 1は,前記第4の1のとおり,情報記憶装置の基板に形成された穴部に, 画像形成装置本体の突起部に形成された設置用の本体側端子に係合す るアース端子を形成した上,当該穴部を複数の金属板のうち2つの金属 板の間に挟まれる位置に配設することにより,情報記憶装置に電気的な 破損が生じにくくなるとともに,端子の本体側端子に対する平行度のず れを最低限に抑えるようにするものであり,画像形成装置本体(プリン タ)に対して着脱可能に構\成された着脱可能装置(トナーカートリッジ)\nに設置される情報記憶装置(電子部品)の物理的な構造や部品の配置に\n関する発明であるということができる。また,本件各発明2及び3も, 同様に情報記憶装置の物理的構造や部品の配置に関する発明である。\n
これに対し,被告らが行っている原告電子部品のメモリの書換えは, 情報記憶装置の物理的構造等に改変を加え,又は部材の交換等をするも\nのではなく,情報記憶装置の物理的な構造はそのまま利用した上で,同\n装置に記録された情報の書換えを行うにすぎないので,当該書換えによ り原告電子部品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと評 価することはできない。
(ウ) そうすると,原告電子部品のメモリを書き換える行為は本件各特許権 を侵害するものではないというべきである。 ウ 原告は,原告プリンタに使用可能な電子部品の製造等に当たっては,原\n告プリンタ側の形状に合う構造であれば足りるので,被告電子部品の構\成 を工夫するなどの他の手段により本件各特許権への抵触を回避することが 可能であると主張する。\n
しかし,本件各発明に係る情報記憶装置は,画像形成装置本体(プリン タ)に対して着脱可能に構\成された着脱可能装置(トナーカートリッジ)\nに搭載されるものであり,当該情報記憶装置に形成された穴部を介して, 画像形成装置本体の突起部と係合するものであるから,被告製品の構成や\n形状は,適合させる原告プリンタの構成や形状に合わさざるを得ず,その\n設計上の自由度は相当程度制限されると考えられる。 実際のところ,原告プリンタに関し,リサイクル事業者によって販売さ れている再生品は,いずれも電子部品を交換しており(乙2,37),そ の構造自体を本件各特許権の侵害を回避するような態様で変更している製\n品が存在することを示す証拠は存在しない。被告らは,本件各特許権の侵 害を回避するため,被告電子部品の設計を変更したが,設計変更後の被告 電子部品がなお本件各発明の技術的範囲に属することは前記判示のとおり であり,その他の方法により本件各特許の侵害を回避することが可能であ\nることをうかがわせる証拠は存在しない。
エ 以上によれば,被告らをはじめとするリサイクル事業者が,現状におい て,本件書換制限措置のされた原告製プリンタについて,トナー残量表示\nがされるトナーカートリッジを製造,販売するには,原告電子部品を被告 電子部品に取り替えるほかに手段はないと認められる。そして,本件各特 許権に基づき電子部品を取り替えた被告製品の販売等が差し止められるこ とになると,被告らはトナー残量が「?」と表示される再生品を製造,販\n売するほかないが,そうすると,前記(3)のとおり,被告らはトナーカート リッジ市場において競争上著しく不利益を受けることとなるというべきで ある。
(5) 本件書換制限措置の必要性及び合理性について
原告は,本件書換制限措置について,1)トナーの残量表示の正確性の担保,\n2)電子部品のメモリに書き込まれたデータの製品開発及び品質管理・改善へ の活用,3)●(省略)●の観点から行っており,このような措置を行うこと は必要かつ合理的であると主張するので,以下,検討する。 ア 本件書換制限措置の必要性及び合理性全般について 原告の主張する上記1)〜3)の各点について検討するに当たり,本件書換 制限措置の必要性及び合理性全般に関し,以下の点を指摘することができ る。 (ア) 本件書換制限措置がされた原告製プリンタ(C830及びC840シ リーズ)のうち,先行して販売されたのはC830シリーズであるが, その開発時点においては,既に原告製プリンタの他機種に適合するトナ ーカートリッジの電子部品のメモリを書き換えた再生品が市場に流通 していたものと推認される。 ところが,上記C830シリーズの原告製プリンタの開発時点におい て,メモリの書換えをした再生品による具体的な弊害が生じており,そ の対応が必要とされていたことや,この点が同プリンタの開発に当たっ て考慮されていたことをうかがわせる証拠は存在しない。原告の主張す る上記1)〜3)の各点については後に検討するが,これらの点とC830 シリーズの開発を具体的に結びつける証拠は本件において提出されてい ない。
(イ) また,本件書換制限措置が,本件各特許権に係る技術の保護やその侵 害防止等と関連性を有しないことは当事者間に積極的な争いはない。そ うすると,本件書換制限措置を講じる必要性及び合理性は,本件各特許 の実施品であるC830及びC840シリーズ用トナーカートリッジ にとどまらず,C830及びC840シリーズ以外の機種用トナーカー トリッジについても同様に妥当すると考えられるが,同各シリーズ以外 の機種については同様の措置は講じられていない。 原告は,その理由について,●(省略)●と主張するが,その説明は 抽象的であり,本件各特許の権利行使の可能性を考慮して上記各シリー\nズの機種についてのみ本件書換制限措置がされたのではないかとの疑 念を払拭することはできない。
なお,この点に関し,原告は,C830及びC840シリーズ以外の 原告製プリンタ用カートリッジのメモリについても書換えに一定の制約 を付してきたと主張するが,本件書換制限措置と同様の措置がされ,ト ナー残量表示が制限されている他の原告製プリンタが存在すると認める\nに足りる証拠はない。
(ウ) 加えて,本件書換制限措置は,純正トナーカートリッジを原告製プリ ンタに装着して印刷をする上で直接的に必要となる措置ではなく,使用 済みとなったトナーカートリッジについて,リサイクル事業者が再生品 を製造,販売するために電子部品のメモリを書き換える段階でその効果 を奏するものである。すなわち,本件書換制限措置は,特許実施品であ る電子部品が組み込まれたトナーカートリッジについて,譲渡等により 対価をひとたび回収した後の自由な流通や利用を制限するものである ということができる。
この点に関し,被告らは,トナーカートリッジの譲渡後の流通を妨げ ることはできないとして,本件各特許権について消尽が成立すると主張 するが,「特許権の消尽により特許権の行使が制限される対象となるの は,飽くまで特許権者等が我が国において譲渡した特許製品そのものに 限られる」(インクタンク事件最高裁判決)と解されるので,特許製品 である「情報記憶装置」そのものを取り替える行為については,消尽は 成立しないと解される。 しかし,譲渡等により対価をひとたび回収した特許製品が市場におい て円滑に流通することを保護する必要性があることに照らすと,特許製 品を搭載した使用済みのトナーカートリッジの円滑な流通や利用を特 許権者自身が制限する措置については,その必要性及び合理性の程度が, 当該措置により発生する競争制限の程度や製品の自由な流通等の制限 を肯認するに足りるものであることを要するというべきである。 以上を踏まえ,原告が本件書換制限措置の必要性及び合理性の根拠と して挙げる上記1)〜3)の各点について,順次検討する。
イ トナーの残量表示の正確性担保について\n
原告は,本件書換制限措置をした理由として,●(省略)●からである と主張する。
(ア) しかし,●(省略)●であることから,使用済みの原告製品にトナー を再充填して原告製プリンタにそのまま装着した場合に,そのトナー残 量を「?」と表示することに合理性があるとしても,そのことは,その\nメモリの書換えを制限する措置を講じることにより,当該第三者が自ら の責任でトナーの残量を表示するのを妨げることまでも正当化するもの\nではない。 本件書換制限措置は,リサイクル事業者がメモリの書換えにより,自 らの責任でトナー残量を表示することを制限するものであるから,その\n必要性及び合理性を是認するには,そのような措置をとらないと,トナ ー残量が不正確なトナーカートリッジが市場に流通してユーザーの利益 を害し,ひいては,原告製品への信頼が損なわれる具体的なおそれが存 在することを要するというべきである。
(イ) 原告は,再生品を含む第三者のトナーカートリッジには,製品ごとに 印刷枚数に大きなばらつきがあるので,再生事業者が「?」以外のトナ ー残量表示をできないようにしないと,トナー残量が不正確なトナーカ\nートリッジが市場に流通してユーザーの利益を害すると主張し,再生品 の印刷可能枚数が純正品と大きく違うことを示す具体例として,1)同一 顧客から回収した特定の第三者メーカー(E&Qマーク付きのもの)の 同一種類の再生品2つを分析したところ,一方の製品は純正品の73. 9%しか印刷できなかったのに対し,他方の製品は純正品の141.8% も印刷できたこと(甲39の添付資料1),2)同一メーカーのカラート ナーカートリッジの印刷枚数は,純正品の約75%〜88%しか印刷で きなかったこと(同添付資料2),3)他のメーカー(E&Qマークのな いもの)の再生品の中には,純正品の60%しか印刷できないものもあ ったこと(同添付資料3)などを指摘する。
a しかし,上記1)〜3)の調査は,対象となるメーカーの数は2つにす ぎず,調査の対象となった再生品の数も少数であるので,その分析結 果から,当該メーカーの再生品のトナー充填量が純正品と大きく異な り,その残量表示が一般的に不正確であると推認することはできず,\nまして,市場に流通する他のメーカーも含めた再生品のトナーカート リッジ全般について,そのトナーの充填量が純正品の充填量と大きく 異なり,その残量表示が不正確であると推認することはできない。\n
b また,トナーカートリッジの再生品については,E&Qマーク等の 認証基準が設定され,このうち,E&Qマークについては,前記(1)キ のとおり,第三者審査機関が再生品の製造工場に出向き,所定の環境 管理基準及び品質管理基準に基づく審査を行い,これに適合すると判 定された製品に付されるものであり,品質関連基準には,印刷枚数が 純正比90%以上であるという項目が含まれると認められる(乙28)。 このように,トナーカートリッジの再生品については,認証基準の 設定により品質の確保が図られているところ,本件証拠を総合しても, かかる認証を得たトナーカートリッジの再生品について,トナー残量 表示が不正確な製品が多く流通しており,メモリの書換制限により同\n表示を行うことができないようにしないと原告製品に対する信頼を維\n持することが困難であるなどの事情が存在するとは認められない。
c さらに,E&Qマーク等を得ている再生品については,同マークが 製品に貼付されているので(乙28),当該再生品を使用するユーザ\nーは,通常,それが再生品であることを認識して購入,使用するもの と考えられる。このため,仮に,E&Qマーク等を得ている再生品の トナー残量表示が不正確であるとしても,それによりユーザーの信頼\nを失うのは,当該再生品を製造,販売したリサイクル事業者自身であ って,それによって,本件書換制限措置を必要とするほどに原告製品 の信頼が損なわれるとは認め難い。
d もとより,市場で流通しているトナーカートリッジの再生品の中に は,認証を得たもののみならず,認証マークを貼付していないものも\n存在し,こうした製品については,ユーザーが純正品と誤認すること も考えられなくはない。しかし,こうした認証を得ていない再生品に ついて,トナー残量表示が不適切なトナーカートリッジが現に市場に\nおいて多数流通するなどして,原告製品の信頼性に対して影響を及ぼ していると認めるに足りる証拠は存在しない。
e なお,前記(1)イのとおり,●(省略)●ところ,純正品である原告 製品においても,印刷可能枚数と実際の印刷枚数に一定の乖離が生じ\nることは,前記(1)ウのとおりである。このようなトナー残量の算出方 法等に照らすと,リサイクル事業者が,原告製品に充填されるトナー の規定量と同量のトナーを再充填すれば,印刷可能枚数の残量を純正\n品と同程度の正確性をもって表示することは可能\であると認められる。
(ウ) 以上によれば,本件書換制限措置がされた当時はもとより,本訴提起 時点においても,トナーカートリッジの再生品市場にトナー残量表示が\n不正確な製品が多く流通しており,そのメモリの書換えを制限すること により「?」以外の残量表示を行うことができないようにしないと原告\n製品に対する信頼を維持することが困難であるなど,本件書換制限措置 を行うことを正当化するに足りる具体的な必要性があったと認めるこ とはできない。 したがって,本件書換制限措置は,トナーの残量表示の正確性担保の\nための装置としては,その必要性の範囲を超え,合理性を欠くものであ るというべきである。
・・・
ア 差止請求について
上記(1)ないし(5)によれば,本件各特許権の権利者である原告は,使用 済みの原告製品についてトナー残量が「?」と表示されるように設定した\n上で,本件各特許の実施品である原告電子部品のメモリについて,十分な\n必要性及び合理性が存在しないにもかかわらず本件書換制限措置を講じ ることにより,リサイクル事業者である被告らが原告電子部品のメモリの 書換えにより本件各特許の侵害を回避しつつ,トナー残量の表示される再\n生品を製造,販売等することを制限し,その結果,被告らが当該特許権を 侵害する行為に及ばない限り,トナーカートリッジ市場において競争上著 しく不利益を受ける状況を作出した上で,当該各特許権の権利侵害行為に 対して権利行使に及んだものと認められる。 このような原告の一連の行為は,これを全体としてみれば,トナーカー トリッジのリサイクル事業者である被告らが自らトナーの残量表示をし\nた製品をユーザー等に販売することを妨げるものであり,トナーカートリ ッジ市場において原告と競争関係にあるリサイクル事業者である被告ら とそのユーザーの取引を不当に妨害し,公正な競争を阻害するものとして, 独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)と抵触 するものというべきである。 そして,本件書換制限措置による競争制限の程度が大きいこと,同措置 を行う必要性や合理性の程度が低いこと,同措置は使用済みの製品の自由 な流通や利用等を制限するものであることなどの点も併せて考慮すると, 本件各特許権に基づき被告製品の販売等の差止めを求めることは,特許法 の目的である「産業の発達」を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するもの として,権利の濫用(民法1条3項)に当たるというべきである。
イ 損害賠償請求について
差止請求が権利の濫用として許されないとしても,損害賠償請求につい ては別異に検討することが必要となるが,上記ア記載の事情に加え,原告 は,本件各特許の実施品である電子部品が組み込まれたトナーカートリッ ジを譲渡等することにより既に対価を回収していることや,本件書換制限 措置がなければ,被告らは,本件各特許を侵害することなく,トナーカー トリッジの電子部品のメモリを書き換えることにより再生品を販売して いたと推認されることなども考慮すると,本件においては,差止請求と同 様,損害賠償請求についても権利の濫用に当たると解するのが相当である。 ウ したがって,本訴において,原告が,被告らに対して,本件各特許権に 基づき,被告製品の製造,販売等の差止め及び損害賠償等の請求をするこ とは,いずれも権利の濫用に当たり許されないものというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 消尽
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ワ)5462  損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和2年12月3日  大阪地方裁判所

 不競法2条1項3号の商品形態模倣について、原告は自ら開発・商品化して市場に置いた者ではないとして請求が棄却されました。

不競法2条1項3号が,他人の商品形態を模倣した商品の販売行為等を不正 競争とする趣旨は,先行者の商品形態を模倣した後行者は,先行者が商品開発に要 した時間,費用及び労力等を節約できる上,商品開発に伴うリスクを回避ないし軽 減することができる一方で,先行者の市場先行のメリットが著しく損なわれること により,後行者と先行者との間に競業上著しい不公平が生じると共に,個性的な商 品開発や市場開拓への意欲が阻害されることになるため,このような行為を競争上 不正な行為として位置付け,先行者の開発利益を模倣者から保護することにあると 解される。 そうすると,同号所定の不正競争につき差止ないし損害賠償を請求することがで きる者は,模倣されたとされる形態に係る商品を先行的に自ら開発・商品化して市 場に置いた者に限られるというべきである。 また,原告商品及び被告商品のような女性向け衣類は,欧米での新作商品や流行 等の影響を受けると共に,中国及び韓国の製造業者ないし仲介業者と日本の販売業 者等との間で多くの取引が行われていると認められる(甲18,19,弁論の全趣 旨)。これらの事情に鑑みると,上記「市場」は,本件の場合,日本国内に限定さ れず,少なくとも欧米,中国及び韓国の市場を含むものと解される。
(2) 検討
ア 本件カタログ商品は,原告商品と同様の特徴(原告商品特徴)を有する(当 事者間に争いのない事実)。
また,本件カタログ(乙12)は,表裏の各表\紙のほか21頁からなる商品カタ ログとして製本されたものであるところ,その表紙右下部に「2015年春季新\n品」との記載があるとともに,本件カタログ商品がその14頁に掲載されている。 さらに,本件カタログ1頁には,その作成者である「广州琼林服饰」(本件中国メ ーカー)が例年韓国,日本,欧米等に輸出していることも記載されている。これら の記載によれば,本件カタログは,本件中国メーカーが,遅くとも平成27年春頃 までに,韓国,日本,欧米等を市場とする2015年(平成27年)春季向けの新 製品として,本件カタログ商品を含む本件カタログ掲載商品を紹介する趣旨で作成 され,頒布されたものであることがうかがわれる。 そうすると,原告商品と同様に原告商品特徴の全てを備えるものである本件カタ ログ商品は,平成27年春頃,本件中国メーカーにより市場に置かれたものといえ るから,原告は,模倣されたとされる形態に係る商品を先行的に自ら開発・商品化 して市場に置いた者ということはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商品形態
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)3594  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年12月17日  東京地方裁判所

 プログラムの著作物について、複製、公衆送信されたとして損害賠償が認められました。損害額の認定について、本件プログラムは単独では販売されておらず、コニュニティの入会費用として約25万円がプログラムの価値で、被告は、約25万*7名分が損害と主張しました。東京地裁(46部)はそのうちの1人については、コミュニティへの入会の機会を失ったと認定して、約25万円の損害額が認定されました。

 (1) 前記1(1)のとおり,原告は,本件ソフトの配布を原告コミュニティへの入\n会の特典とし,原告コミュニティに入会した者から入会費用を受け取ること によって,本件ソフトを独占的に利用することができる地位による利益を享\n受していた。ここで,被告が本件各行為により本件ソフトを配布した本件各\n参加者は,いずれも原告コミュニティの紹介,勧誘を受けたが入会しなかっ たこと(前記1(2))を踏まえると,被告の本件各行為がなかったならば本件 各参加者全員が入会費用を支払って原告コミュニティに入会したことを認め ることはできない。もっとも,本件各参加者のうちAは,原告コミュニティ に参加した被告と情報交換をして,被告から本件ソフトの交付を受け,また,\n本件ソフトの配布のために必要な処理等を率先して行うなどしていて,本件\nソフトの価値に強く着目していた者であり,被告の行為がなければ,本件ソ\ フトを入手するために本件ソフトが入会特典である原告コミュニティに参加\nしたと認めることが相当である。そうすると,被告の本件各行為により,原 告は少なくとも本件ソフトが入会特典である原告コミュニティに参加した者\nを1名失ったと認められる。
そして,本件ソフトが入会特典であり本件ソ\フトの再許諾料を含むといえ る原告コミュニティの入会費用は24万9900円であり,また,本件契約 において,原告がBANANAに対して支払う1回の利用許諾代金が同額で あり,再利用許諾の代金を含む原告コミュニティの参加費用はその利用許諾 代金を下回らない範囲で設定するとされていたこと(前記第2の1(2)イ)等 に照らすと,原告は,少なくとも同額の損害を被ったものと認められる。
また,原告は,BANANAに対して本件各参加者7人分の利用許諾代金 174万9300円を支払う義務を負っているなどとも主張する。しかし, 被告の本件各行為によって原告に上記の支払義務が発生したことを認めるに は足りず,原告が被告の本件各行為により同額の損害を被ったとは認められ ない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 複製
 >> 公衆送信
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10040  損害賠償請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和2年12月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 バーキンタイプのバッグ販売について、不競法2条1項1,2号違反とした1審判断が維持されました。

c 取引の実情
控訴人は,被控訴人商標が付された被控訴人商品と,控訴人商品等 は,価格,品質,商品名及びロゴ等の点で異なるので,取引の実情に 照らして,控訴人商品等と被控訴人商標は誤認混同を生ずることはな く,類似しない旨主張する。 しかし,被控訴人商標が付された被控訴人商品と,控訴人商品等が, 価格,品質,商品名及びロゴ等の点で異なるとしても,そのことから 直ちに,取引の実情に照らして,控訴人商品等の形状と被控訴人商標 が誤認混同を生ずることがないとはいえないし,類似性が否定される ことはない。被控訴人商品の新品は,被控訴人の直営店舗や専門店等 を通じて店舗又はインターネット上で販売されており,それらの販路 の数は比較的限定されているものの(弁論の全趣旨),高級ブランド バッグである被控訴人商品の中古品については,中古市場が成立して おり,店舗及びインターネット上で活発に取引がされている一方で(公 知の事実),控訴人商品等も新品は店舗(甲1,2,弁論の全趣旨) 及びインターネット上で販売され(原判決第2の2(1)イ(原判決3頁 14行目ないし19行目)),中古品もインターネット上で取引され ており(甲51〜61),このように,被控訴人商品と控訴人商品等 は,新品及び中古品のいずれについても市場に共通性があると認めら れる。また,中古品については,被控訴人商品であっても品質は新品 に比べて劣化しており,価格も新品よりは低廉である上,一般に中古 品は,ある期間使用された後に譲渡されるため,出所や商品名が新品 のように明確にされていない場合や,品質,商品名及びロゴの有無等 を十分に確認することなく取引が行われている場合(特にインターネ\nット上の取引の場合)が少なくないから(弁論の全趣旨),価格,品 質,商品名及びロゴによって被控訴人商品と控訴人商品等が明確に区 別されるとはいい難く,被控訴人商品の中古品が市場において活発に 取引されていることからすると,被控訴人商品と控訴人商品等の混同 の可能性が具体的に存在すると認められる。そうすると,前記a,b\nのとおり,控訴人商品等(控訴人商品及びバーキンタイプのバッグ) は被控訴人商標と外観上類似するから,価格,品質,商品名及びロゴ に相違があることを考慮しても,被控訴人商標を付した被控訴人商品 と控訴人商品等は具体的な取引において誤認混同のおそれがあるもの と認められる。したがって,取引の実情に照らして,控訴人商品等の 形状は被控訴人商標と誤認混同を生ずるおそれがあり,類似するもの と認められる。
・・・
(4) 争点4(被控訴人の損害)について
ア 控訴人商品等の販売個数について
(ア) 控訴人は,遅くとも平成22年8月11日以降,バーキンタイプの バッグを販売しており(甲41,弁論の全趣旨),平成30年2月14 日には,控訴人の店舗を訪問した被控訴人関係者に対して,控訴人商品 を販売した(甲1,乙34)ことからすると,控訴人は,対象期間(平 成22年8月11日から平成30年2月14日までの期間)において控 訴人商品等を販売していたものと認められる。そして,控訴人は,バー キンタイプのバッグを平成22年夏か秋頃に中国の業者から100個仕 入れ,それがバーキンタイプのバッグの最後の仕入れであったこと,そ の100個のバーキンタイプのバッグについて,被控訴人商標権の登録 がされた直後の平成23年10月頃の在庫は30個程度であったが,控 訴人はその頃からバザーに出品するなどして在庫処分を開始しており, 平成25年4月には在庫処分をほぼ終了し,平成26年1月か2月頃に, 最後の1点を販売したことを主張しており(本判決による補正後の原判 決第2の4(4)【被告の主張】ア(イ)(原判決13頁6行目ないし12行 目)),これらの控訴人の主張は,バーキンタイプのバッグの販売及び その前提としての仕入れという,控訴人に不利益な事実に関する主張で あるから,その主張に係る事実があったものと認めることができる。そ うすると,控訴人は,対象期間中に,少なくとも100個の控訴人商品 等を販売したものと認めるのが相当である。
(イ) これに対し,控訴人は,平成22年8月11日の時点においてバー キンタイプのハンドバッグが100個存在したという証拠はなく,平成 30年2月14日に誤って被控訴人関係者に有償譲渡したバッグは平 成22年頃に仕入れたバッグではなく,控訴人商品等をチャリティーバ ザーで販売したのは販売利益を寄付するためであったから,対象期間中 に少なくとも100個の控訴人商品等を販売したことはないと主張す る。 しかし,前記(ア)のとおり,控訴人は,バーキンタイプのバッグを平 成22年夏か秋頃に100個仕入れたことが認められ,仮に平成30年 2月14日に被控訴人関係者に有償譲渡した控訴人商品が平成22年 頃に仕入れたバッグではないとしても,控訴人が平成30年2月14日 時点において被控訴人商品に形態の類似した控訴人商品を譲渡してい たことからすると,控訴人が対象期間(平成22年8月11日から平成 30年2月14日までの期間)において,平成22年に仕入れたバーキ ンタイプのバッグや控訴人商品を含めて,控訴人商品等を,実際には1 00個を超えて販売した可能性があるとしても,少なくとも100個販\n売したことは,これを認めることができる。また,控訴人が控訴人商品 等の一部をチャリティーバザーで販売し,その利益の一部を寄付したと しても,それは控訴人が利益を得たことを否定する事情にはならず(寄 付は,利益の処分と評価すべきものであって,利益そのものを否定する 事情には当たらない。),控訴人が販売利益を寄付したことを裏付ける 客観的な証拠もないから,いずれにせよ,控訴人は控訴人商品等を10 0個販売したことにより利益を得たものと推認される。
イ 控訴人商品等の販売に係る限界利益率について
控訴人は,控訴人商品はサンプル品であって仕入処理が行われておらず, 購入した際の領収証等の資料はないと主張し,また,バーキンタイプのバ ッグの仕入れに関する資料は保管期間経過によって全て廃棄処分済みで あると主張して,これを提出しない。さらに,控訴人は,バーキンタイプ と同程度の販売価格のハンドバッグの仕入価格は販売価格の55%程度 であったから,バーキンタイプのバッグの仕入価格も販売価格の55%程 度であったと主張し,販売価格の55%の価格でハンドバッグの仕入れを 行ったことを裏付ける証拠として乙31(平成29年1月の取引の納品書) を提出する。しかし,乙31は,どのような態様の商品の仕入れに係るも のか明らかでなく,平成22年に中国の業者から100個仕入れたと認め られるバーキンタイプのバッグとは,仕入の時期,取引先,仕入数が異な るから,乙31により,バーキンタイプのバッグの仕入価格が販売価格の 55%程度であったことは認められず,その他に,これを裏付ける証拠は ない。控訴人がその他の経費として主張する梱包費用,送料については, 具体的な支出の有無や額を裏付ける的確な証拠はない。
そこで限界利益率について検討すると,上記のとおり,控訴人の主張に よっても,仕入価格が販売価格の55%を上回ることはない。また,控訴 人は,バッグ等の販売を業として行っており,控訴人商品等の仕入れ,販 売,経費等に関する資料を所持し,その内容を把握しているのが自然であ ると解されるにもかかわらず,これらを提出せず,その内容を明らかにせ ず,そのため,経費等も具体的に立証されていない。このように,控訴人 が,被控訴人主張の利益率(60%)を否認しながら,関連性の乏しい証 拠のほかは,本来提出されてもおかしくない証拠を含め,何ら証拠を提出 していないことからすると,控訴人は控訴人商品等の販売により相当高率 の利益を得たと疑われてもやむを得ない側面があること,及び60%とい う利益率が有名ブランドを模したバッグの販売による利益率として不当 に高いとは考えられないことなどの事情を併せ考えると,控訴人商品等の 販売による限界利益率を60%と認定することについて,これが高率に過 ぎるとして不当とする根拠はない。これらの事情を考慮すると,控訴人商 品等の販売による控訴人の限界利益は,平均して販売価格の60%であっ たものと認めるのが相当である。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成31(ワ)9997

関連カテゴリー
 >> 周知表示(不競法)
 >> 著名表示(不競法)
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10096  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年12月2日  知的財産高等裁判所

 特許権の延長登録無効審決の取消訴訟です。本案前に当事者参加適格があるのかが争われました。裁判所は155条1項の参加資格ありと判断しました。

 審判便覧(丙1)によると,1項参加人も3項参加人と同様,被参加人が審判請 求を取り下げない限り,被請求人が答弁書を提出した後でも,被請求人の同意なく 参加を取り下げることができるとされている。また,1項参加の申請に際して,特\n許法施行規則様式第65によると,参加申請書に「請求」を記載することは求めら\nれていない。
しかし,審判便覧の上記取扱いについては,被参加人が取下げをしない限り,特 許法155条2項が保護しようとしている被請求人の利益,すなわち,審決を得て, 審判請求の理由がないことを確定するという利益の保護は図られているのであるか ら,その段階で1項参加人の取下げについて被請求人の同意を要する実益は乏しい ことから,上記のように取り扱われていると解され,上記の取扱いが,1項参加人 が「請求」を定立していないことに基づくものとはいえず,1項参加人が特許法1 79条1項の「請求人」に当たらないことの理由とはならない。 また,特許法施行規則様式65についても,1項参加人の請求は,被参加人の請 求と同一のものであるとの理解の下に上記のような様式が定められていると解され, そのことから1項参加人が「請求」を定立していないということはできず,1項参 加人が,特許法179条の「請求人」に当たらないことの理由とはならない。
(3) 上記4),5)について
特許法148条1項は,被参加人が請求を取り下げた場合に限り,1項参加人が 「請求人」となるとは規定しておらず,1項参加人が同項に基づいて「請求人」と なるのは,被参加人が審判請求を取り下げ,1項参加人が審判手続を続行した場合 に限られると解することはできない。 また,1項参加人に審決取消訴訟の被告適格を認めることが1項参加人の意思に 反する事態を招来するとは認められない。1項参加人が多数いるからといって,そ のことにより,訴訟手続がいたずらに煩雑化したり,遅延を招いたりして,訴訟経 済に反するとは認められない。 さらに,被告ニプロは,審決取消訴訟の係属中に被参加人が無効審判請求を取り 下げた場合,「請求人」として1項参加人が審決取消訴訟を受継することができると 主張するが,いかなる法的根拠に基づいてそのような「受継」ができるのか明らか ではない。また,仮に,このような「受継」をすることができたとしても,1項参 加人が受継した時点での訴訟の進行状況によっては,主張立証が制限されることも あり得るといえ,1項参加人の手続保障に欠けるところがないとはいえない。

◆判決本文

こちらは関連事件です。

◆令和2(行ケ)10097

◆令和2(行ケ)10098

関連カテゴリー
 >> 裁判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)22338  特許法74条1項を原因とする特許権移転登録請求事件  民事訴訟 令和2年12月1日  東京地方裁判所

 特許を受ける権利ありと主張しましたが、裁判所はこれを否定しました。

(1) 本件発明1及び本件発明11の特徴的部分について
ア 原告は,本件発明1及び本件発明11の特徴的部分の完成への関与につ いて,その大部分を担ったのは,原告代表者及びAiであると主張する。
イ 前記1(16)によれば,従前の技術的課題を解決する,本件発明1の特徴的 部分は,ラップネットにおいて従前,技術的課題であるとされていた作 業性,家畜の安全性を確保するために,ラップネットの経糸及び緯糸の いずれにもセルロース系繊維を用いたというものであると認められる。 この特徴的部分は,本件出願において優先権の主張がされた先の出願2 (平成25年7月22日出願)の請求項1に含まれるものであった。そ して,本件明細書の発明の実施の形態における,本件発明1のラップネ ットに関する経糸及び緯糸に使用する糸の種類や引張強度等の数値を含 めた記載は,先の出願2の明細書の記載とほぼ同様のものである。 これらによれば,本件発明1の特徴的部分は,平成25年7月22日ま でには完成されていた。
ウ 前記1(16)によれば,本件発明1のように,ラップネットの経糸及び緯糸 のいずれにもセルロース系繊維を用いると,特に緯糸に比べて強度が要求 される経糸が太くなり,それによって1本のロールに巻き取れるラップネ ットの長さが短くなるという課題があった。本件発明11は,その課題を 解決するため,本件発明1等のラップネットの製造方法において,巻上げ ローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振 り機構を適用したものであり,本件発明11の特徴的部分は,本件発明1\nから10に係るラップネットの製造方法において上記のようなあや振り機 構を適用した部分であると認められる。\n
この特徴的部分は,本件出願において優先権の主張がされた先の出願2 (平成25年7月22日出願)の請求項6に含まれるものであった。そ して,本件明細書の実施の形態における,巻上げローラを回転軸方向に 所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振り機構を用いた場合\nの往復運動の振幅,その場合の巻き取ったラップトップの長さや直径の 数値を含めた記載は,先の出願2の明細書の記載と同じものである。 これらによれば,本件発明11の特徴的部分は,平成25年7月22日 までには完成されていた。
(2) 本件発明1の特徴的部分の完成に対する原告代表者及びAiの現実の関与 について
ア 被告は,平成25年3月中旬頃,原告に対し,糸を提供して,緯糸に綿糸 を使用したラップネットの編布を依頼し,同年5月にタカキタ,原告,被告 の関係者が集まった場において,Biが全部を綿糸で製造した方が安全でな いかとの発言をして,その後,被告は,他の業者に対して依頼して製造して いた複数の種類の綿糸を原告に提供して,経糸及び緯糸に綿糸を使用するラ ップネットの編布を依頼し,原告は経糸にこれらの綿糸を使用してラップネ ットを試作した。 ここで,ラップネットの緯糸,経糸に綿糸を用いることについて,原告代 表者又はAiが着想して,これを被告に提案したと認めることはできない (前記1(19)ア,イ)。
イ 原告は,平成25年5月,被告から提供を受けた複数の種類の綿糸を経糸 及び緯糸に使用して,ラップネットの試作を行い,タカキタは,その試作品 の強度が十分であることを確認した。\nもっとも,経糸に使用した綿糸は,被告が平成25年3月頃からラップネ ットの経糸に使用することを想定して他社に依頼して製造していたものであ り,それを原告に提供したものであった。また,ラップネットの編組織は一 般的なものであり,その製造には一般的なラッシェル編機を用いることが可 能であり(前記1(2)),原告は,従前から保有していたラッシェル編機を用 いて編布をした。
ウ 原告は,平成25年7月22日,先の出願2をした。その請求項1に記載 された発明は,ラップネットにおける経糸及び緯糸がセルロース系繊維であ るというものであったところ,その明細書の実施例には,経糸,緯糸に用い る具体的な綿糸の種類や,それを用いて,ラッシェル編機を使用してラップ ネットを製造した場合の編地の長さ方向に連なるチェーンステッチ1本当た りの具体的な強度(引っ張り強さ)が記載されていた。この強度等の数値は, 被告代表者が,その知識,経験に基づき計算したもので,原告から提供され\nたものはなかった。 また,原告は,先の出願2等を優先権の基礎として,平成26年4月23 日に本件出願をしたところ,その明細書の実施例には,先の出願2とほぼ同 様の,経糸,緯糸に用いる具体的な綿糸の種類や,それを用いて,ラッシェ ル編機を使用してラップネットを製造した場合の編地の長さ方向に連なるチ ェーンステッチ1本当たりの具体的な強度(引っ張り強さ)が記載されてい た。この強度等の数値は,被告代表者が,その知識,経験に基づき計算した\nもので,原告から提供されたものはなかった。また,上記の計算や本件明細 書の記載に当たり,原告から提供を受けた試験結果等が参考等されたことを 認めるに足りる証拠はない。
エ 前記アによれば,本件発明1の特徴的部分について,原告代表者又はAi が着想したと認めることはできない。また,前記イのとおり,原告が綿糸を 使用したラップネットの編布を行ったことは認められるものの,それは被告 が製造して原告に提供した綿糸を使用してされたものであって,ラップネッ トの編組織が一般的なものであり,上記編布において一般的な編布に必要な 技術以外の技術が用いられたことを認めるに足りる証拠はないことなどから すると,そのような編布をしたことのみをもって,原告代表者及びAiが直 ちに本件発明1の特徴的部分の完成に現実に関与したと認めるには足りない。 そして,前記ウのとおりの明細書の記載やその記載に至る経緯に照らせば, 原告が編布を行ったり,その後,その試作品の強度試験を行ったりしたこと があったとしても,原告代表者及びAiが,本件発明1の特徴的部分の完成 に現実に関与したと認めるには足りない。 したがって,本件発明1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが具体 的に関与したとはいえず,原告代表者又はAiが本件発明1を発明したとい うことはできない。
オ 原告,被告及びタカキタは,平成25年12月,本件開発契約を締結した (前記1(14))。しかし,本件開発契約において,有効期間は同年9月からと 定められているのに対し,本件発明1の特徴的部分が同年7月22日までに 完成されていたことから,そもそも,本件発明1は,本件開発契約に基づい て開発,発明されたものとはいえない。また,原告もその当事者である本件 開発契約においては,その有効期間前の被告の活動等として,被告が,平成 25年5月に綿ベールネットの編布を原告に依頼したこと,原告に複数の綿 糸を納入したこと,タカキタに綿ネットの試験巻きを依頼したことが特に記 載されており,「綿ベールネット」自体は被告が開発したことが前提とされ ていたともいえる。 また,被告が平成24年に原告に対しラップネットの編布を依頼した後, 被告及び原告は,共同で特許出願をしたり,畜産試験場を訪れたり,試作品 についての評価をタカキタで受けたり,どのような試作品を製造するかを確 認したり,補助金の交付の申請をしたりした(前記1(3),(5),(7)ないし(9))。 また,原告は,新たに編機を購入するなどした上でラップネットの製造につ いての開発を行った(同(15))。
しかし,上記各事実は,それ自体は本件発明1の特徴的部分の完成に直接 関係するとはいえないものであって,それらの事実をもって直ちに本件発明 1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが現実に関与したと認めるに足 りるものではない。上記各事実は,前記アないしウに記載した事実に照らす と,本件発明1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが具体的に関与し たとはいえないという上記認定を左右するものではない。
なお,被告が,ラップネットに関し,平成25年1月に原告と共同で別件 出願1をしたことや,同年12月に原告及びタカキタと本件開発契約を締結 したことについて,被告代表者は,別件出願1は,原告からラップネットを\n量産化するに当たり,生分解性ポリエチレンフィルムのスリット加工等も原 告において行った上で編布をしたい旨の申出を受けたことから,経編機の改\n良における原告の役割を期待して,共同で行うこととしたものであり,また, 本件開発契約は,被告において綿製ラップネットの基本的な開発が完了した 段階で量産化や生産効率化を図るに当たり,原告及びタカキタにおいて積極 的な役割を果たすことが期待されたことから締結したものである等と陳述す る(乙34)。この説明は,原告が平成26年1月頃から新しく購入したラ ッシェル編機を用いてラップネットの製造を行う(前記1(15))など,ラップ ネットの量産化,生産効率化における役割を果たしたことや,原告と被告は 被告が原告に糸代及び加工賃を支払うという態様で継続的に取引を行うよう になっていて(同(18)),ラップネットの生産効率化等は被告の利益でもあっ たことなどを含めた前記認定に係る事実経過にも矛盾せず,相応の合理性が あるものである。
カ 以上によれば,本件発明1について,原告代表者及びAiが発明者である ことを認めるに足りず,同人らが本件発明1に係る特許を受ける権利を有し ていたとはいえない。
(3) 本件発明11の特徴的部分の完成に対する原告代表者及びAiの現実の関 与について
ア 原告代表者,Ai及び被告代表者は,平成25年5月31日,タカキタ\nにおいてラップネットの試作品の評価を受け,以後の予定として,巻取り\nの際にあや振りをするなどの仕様で試作品を製造することが確認された (前記1(8))。 ここで,原告代表者又はAiが,綿糸を用いるラップネットの編布におい てあや振りの技術を適用することを着想し,被告に提案したとは認められな い(前記1(19)エ)。
イ 原告は,平成25年6月以降,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で 往復運動させるのではなく,巻上げローラの前にあや振り装置を設置すると いう方法により,あや振りを施すことを試みていた(前記1(10))。なお,そ れ以前,原告は,巻上げローラを左右に往復運動させる方法を試みたが,所 望の結果が得られず,また,上記方法について,被告にその機械の動作等を 見せたことはなく(同(2)),同動作等に関する情報を被告に対して提供した ことを認めるに足りる証拠はない。
ウ 巻取りに際してあや振りをすること自体は,繊維業界において広く用いら れている基本的な技術であり,被告が昭和60年頃に導入した整経機にもあ や振り機構が備わっており,被告代表\者は,従前からあや振りの技術を認識 し,日常的に用いていた。 被告は,平成25年7月22日,先の出願2をした。その請求項6に記載 された発明は,経糸及び緯糸がセルロース系繊維からなるラップネットの製 造方法において,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させる というものであった。そして,明細書の実施例には,巻上げローラを回転軸 方向に往復運動させる振幅の数値や,1本のロールに巻き取ったラップネッ トの長さ,その直径の数値が記載されているところ,この数値等は被告代表\n者が知識と経験に基づいて計算したものであり,原告から提供されたもので はなかった。そして,原告は,先の出願2等を優先権の基礎として,平成2 6年4月23日に本件出願をしたところ,本件明細書の実施例には,あや振 りに関して,先の出願2の実施例と同じ記載がされていて,この数値等は被 告代表者が知識と経験に基づき計算したものであった。上記の計算や本件明\n細書の記載に当たり,原告から提供を受けた何らかの情報が参考等されたこ とを認めるに足りる証拠はない。
エ 上記アによれば,本件発明11の特徴的部分について,原告代表者又はA\niが着想したと認めることはできない。また,原告が巻上げローラの前にあ や振り装置を設置するという方法によりあや振りを施すことを試みていたこ とは認められるが,本件発明11は,巻上げローラを回転軸方向に所定の振 幅で往復運動させるというものである。そして,前記ウのとおりの明細書の 記載やその記載に至る経緯に照らしても,原告代表者やAiが本件発明11 の特徴的部分の完成に現実に関与したと認めるには足りない。 したがって,本件発明11の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが現 実に関与したとはいえない以上,原告代表者又はAiが本件発明11を発明 したということはできない。
オ 原告は,ラップネットの試作を行い,平成25年6月以降は,巻上げロー ラの前にあや振り装置を設置する方法によりあや振りを施すことを試みるよ うになり(前記1(10)),平成30年7月には,ネット生地を鎖編組織の間隔 の範囲内で幅方向に一定の大きさで振りながら巻き取ることなどの構成を有\nする製造方法についての特許出願をする(同(18))など,ラップネットの製造 においてあや振りに関する開発を行っていたことはうかがえる。しかし,上 記各事実は,その内容及び時期から,平成25年7月22日までに完成され ていた,本件発明1等のラップネットの製造方法において巻上げローラを回 転軸方向に所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振り機構を適用\nするという,本件発明11の特徴的部分の完成に対し,原告代表者及びAi が具体的に関与したことの根拠となるものではない。
(4) 以上によれば,原告代表者又はAiが本件発明1及び本件発明11を発明し, ひいては本件各発明の大部分を担ったとの原告の主張には理由がない。 なお,本件各発明のうち,本件発明1及び本件発明11以外の発明について, その特徴的部分の完成に対する,原告代表者又はAiの具体的な関与を認める に足りる証拠もない。原告の主張中には,本件各発明の中には本件開発契約の 期間中の発明がある旨述べる部分もあるが,その期間中にされた発明であるこ とによって,直ちに特定の発明の特徴的部分の完成に原告代表者及びAiが具 体的に寄与したと認められることになるものではない(本件開発契約でも発明 に係る権利は発明をした当事者に帰属することが定められていた。)。 したがって,原告代表者及びAiが被告代表者と共同で本件各発明をしたと\nは認めるに足りない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 冒認(発明者認定)
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10076  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月15日  知的財産高等裁判所

 焼く肉のタレ用のビンの一部の形状について、位置+形状を特定した本件商標は識別力無し(3条1項3号)と特許庁は判断しました。知財高裁も同じ判断をしました。

 同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,その反面として,商品・役務の出所を表\示し自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少なく,需要者としても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能\や美観を際立たせるために選択されたものと認識するものであり,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能\又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを必要とし,その使用を欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。したがって,商品等の形状は,同種の商品が,そ の機能又は美観上の理由から採用すると予\測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,3条1項3号に該当すると解するのが相当である。
(2) 包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形形状\n
ア 液体状の商品の包装容器に付された形状
飲食料品を取り扱う業界において,液体状の商品を封入する包装容器は, 持ちやすさ,注ぎやすさ,飲みやすさ等の観点から,細口で縦長のものが 採択,使用されることが多い。しかし,このような商品の性質から要求さ れる一定の制約の下においても,様々な形状の包装容器が存在し(乙1〜 乙5),これらの包装容器の表面に立体的形状による装飾を付したもの,中\nでも連続する菱形形状(ダイヤカット)を付したものが,次のとおり認め られる。
・・・・
そうすると,液体状の商品の包装容器の上部又は下部に,連続する菱形 形状を付すことは,取引上普通に採択,使用されているものと認められる。 そして,そのいずれの場合においても,その包装容器の連続する菱形形状 の上又は下に,商品名等を目立つ態様で表示したラベルが貼\付され又は商 品名が目立つ態様で表示されているものと認められることや,1),2)の各 記載等に照らしてみると,菱形形状は,持ちやすさなどの機能や美観の観\n点から採用されているものと考えられる。
・・・
(イ) 焼肉のたれに係る包装容器に付された菱形形状
焼肉のたれの包装容器の表面に付す立体的装飾の一類型として連続す\nる立体的な菱形形状を用いるものが,次のとおり認められる。
1) 「コスモ食品株式会社」のウェブサイト(乙17)において,「北の 方から 焼肉のたれ 中辛350g」(1枚目),「北の方から 焼肉の たれ 薬膳 中辛350g」(3枚目)の見出しの下,連続する縦長の 菱形の立体的形状が下部に付され,その上に商品名等を目立つ態様で 表示したラベルが貼\付された容器の写真が掲載されている。
2) 「フードレーベル」のウェブサイト(乙18)において,「焼肉トラ ジ 焼肉のたれ 240g」の見出しの下,連続する縦長の菱形の立 体的形状が下部に付され,その上に商品名等を目立つ態様で表示した\nラベルが貼付された容器の写真が掲載されている。\n
3) 「Amazon」のウェブサイト(乙19)において,「成城石井 焼 肉のたれ 350g」(1枚目)の見出しの下,連続する縦長の菱形の 立体的形状が包装容器の下部に付され,その上に商品名等を目立つ態 様で表示したラベルが貼\付された容器の写真が掲載されている。
4) 「Amazon」のウェブサイト(乙20)において,「焼肉チャン ピオン 焼肉のたれ 240g」(1枚目)の見出しの下,連続する縦 長の菱形の立体的形状が蓋部及び下部に付され,その間の中央部分に 商品名等を目立つ態様で表示したラベルが貼\付された容器の写真が掲 載されている。 そうすると,焼肉のたれの包装容器の上部又は下部の表面に,連続す\nる縦長の菱形形状を付すことは,取引上普通に採択,使用されているも のと認められる。そして,そのいずれの場合においても,その包装容器 の表面の連続する縦長の菱形形状の上又は下に,商品名等を目立つ態様\nで表示したラベルが貼\付されているものと認められること等からすれば, これらの菱形形状も,機能や美観の観点から採用されているものと推認\nされる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商3条1項各号
 >> 識別性
 >> 立体商標
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10039  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年12月1日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許侵害事件で、1審ではサポート要件違反として無効と判断されました。知財高裁も同じ判断をしました。発明はアンテナなのでサポート要件違反は珍しいですね。原審(東京地裁平成30年(ワ)5506号)はアップされていません。

 前記(ア)の発明の詳細な説明の記載によれば,発明の詳細な説明に記 載された実施例(第1実施例,第2実施例)は,いずれもアンテナ素子 の下に平面アンテナユニットを配置し,アンテナ素子の下縁と平面アン テナユニットの上面の間隔を約0.25λ 以上としたものであり,それ により,アンテナ素子と平面アンテナユニットについて,相互に影響を 及ぼすことが低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同 等の電気的特性を示すことを具体的に示すものである。発明の詳細な説 明には,第1実施例のアンテナ装置を用いた実験結果が記載されている ところ(【0018】〜【0026】,図7〜図12,図15〜図19), これらは,アンテナ素子と平面アンテナユニットの相互干渉がアンテナ の電気的特性に及ぼす影響を検証したものであると認められ,実施例が, 発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するという効果を生ず るかどうかを確かめるものと認められる。 そうすると,発明の詳細な説明に記載された実施例は,前記認定の発 明の詳細な説明に記載された発明(前記イ(イ))の実施の形態を具体的 に示し,その発明の課題(前記ア(イ))を解決するという効果を生ずる ことを示すものであると認められる。
(3) 請求1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明か ア 請求項1に記載された発明は,前記第2,3(2)のとおりであり,1)アン テナ素子に加えて別のアンテナである平面アンテナユニットを組み込むこ とは構成要件とされてはおらず,また,2)仮にアンテナ素子に加えて平面 アンテナユニットを組み込んだ場合に,アンテナ素子の下縁と平面アンテ ナユニットの上面との間隔が約0.25λ以上であることも構成要件とさ\nれていない。そのため,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加 えて平面アンテナユニットを組み込み,アンテナ素子の下縁と平面アンテ ナユニットの上面との間隔を約0.25λ以上とするアンテナ装置以外に も,1)そもそもアンテナ素子以外に平面アンテナユニットが組み込まれて いないアンテナ装置の発明を含み,また,2)アンテナ素子に加えて平面ア ンテナユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面 アンテナユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置 の発明を含むものである。
イ これに対し,発明の詳細な説明に記載された発明は,前記(2)イ(イ)のと おりであり,アンテナ素子と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテ ナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを 備えるアンテナにおいて,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の 下端との間隔を約0.25λ以上とするものであると認められる。
ウ そうすると,請求項1に記載された発明のうち,1)アンテナ素子以外に 平面アンテナユニットが組み込まれていないアンテナ装置の発明,及び2) アンテナ素子に加えて平面アンテナユニットが組み込まれてはいるもの の,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔が約0. 25λ未満であるアンテナ装置の発明は,発明の詳細な説明に記載された 発明ではない。 したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載さ れた発明以外の発明を含むものであり,発明の詳細な説明に記載された発 明であるとは認められない。
(4)請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は 出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲の ものであるか発明の詳細な説明に記載された発明の課題は,限られた空間しか有してい ないアンテナケースを備えるアンテナ装置に既設の立設されたアンテナ素子 に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込むと相互に他のアンテナの影 響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという課題であり(前記 (2)ア(イ)),このような課題を当業者が認識するためには,限られた空間し か有しないアンテナ装置において,既設の立設されたアンテナ素子に加えて 新たに平面アンテナユニットを組み込むことが前提となる。しかし,請求項 1に記載された発明は,そもそもアンテナ素子以外に平面アンテナユニット が組み込まれていないアンテナ装置の発明を含み(前記(3)ア),そのような 構成の発明の課題は,発明の詳細な説明には記載されていない。そのため,\n請求項1に記載された発明は,当業者が発明の詳細な説明の記載によって課 題を認識できない発明を含むものであり,当業者が課題を解決できると認識 できる範囲を超えたものである。
また,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加えて平面アンテナ ユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面アンテナ ユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置の発明を含 むが(前記(3)ア),発明の詳細な説明には,課題を解決する方法として,平 面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔を約0.25λ 以 上とすることが記載されており,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニッ トの上面との間隔を約0.25λ未満とするならば,発明の詳細な説明に記 載された課題を解決することはできない。そのため,請求項1に記載された 発明は,この点においても当業者が発明の詳細な説明に記載された解決手段 によって課題を解決できると認識できない発明を含むものであり,当業者が 課題を解決できると認識できる範囲を超えたものである。 その他,請求項1に記載された発明が,発明の詳細な説明の記載若しくは 示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識でき る範囲のものであることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若し くは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識 できる範囲のものであるとは認められない。

◆判決本文

関連訴訟(原告被告が同じ)はこちらです。

◆平成27(ワ)22060

◆平成26(ワ)28449

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10136  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年12月15日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反として無効審決がなされ、知財高裁もこれを維持しました。本件発明の課題である24ケ月の貯蔵安定性を有することの具体的裏付けが記載されていないとの判断です。

 上記(1)イ(イ)・(ウ)のとおり,本件明細書においては,パロノセトロン又はそ の塩を含む溶液は,pH及び/又は賦形剤濃度の調整並びにマンニトール及び キレート剤の適切な濃度での添加によって,安定性が向上することが記載さ れ,実施例1〜3において,製剤が最も安定するpHの値,クエン酸緩衝液及 びEDTAの好適な濃度範囲,マンニトールの最適レベルが示され,実施例 4,5に代表的な医薬製剤が示されているが,実施例4,5においては,実\n際に安定性試験が行われていないため,そこに記載された医薬製剤が少なく とも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されているとはいえない。ま た,その他の箇所をみても,安定化に資する要素は挙げられてはいるものの, それらが24ケ月の貯蔵安定性を実現するものであることについての直接的 な言及はないし,どのような要素があればどの程度の貯蔵安定性を実現する ことができるのかを推論する根拠となるような具体的な指摘もなく,結局, 具体的な裏付けをもって,具体的な医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安 定性を有することが記載されているとはいえない。
なお,上記(1)イ(イ)のとおり,本件明細書の一連の実施例は,薬剤の安定化 のための合理的な条件を見出すための要因を探求するものであって,特に, 実施例1〜3は,個々の要因を探求するプレフォーミュレーション(予備処\n方設計,前処方化)に該当し,実施例4,5の代表的な医薬製剤は処方化研\n究(製剤設計)に該当するといえるとしても,上記のとおり,本件明細書に は,pH,賦形剤,マンニトール及びキレート剤の濃度を調整することで,安 定性向上に関し,どのような作用・機序があるのか,どの程度の安定性の向 上,安定性への貢献が見込めるのかが記載されていないため,実施例4,5 の医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されてい るとはいえないし,その他の箇所をみても,合理的な説明をもって,具体的 な医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されてい るとはいえない。 そうすると,本件明細書には,24ケ月要件を備えたパロノセトロン製剤 が記載されているとはいえないし,本件出願時の技術常識に照らしても,当 業者が,本件各発明につき,医薬安定性が向上し,24ケ月以上の保存を可 能にするパロノセトロン製剤とその製剤を安定化する許容される濃度範囲を\n提供するという本件各発明の課題(上記(1)ア)を解決できると認識できる範 囲のものであるとはいえない。 なお,実施例6,7の記載は,(1)イ(エ)のとおり,パロノセトロン塩酸塩以 外の成分(賦形剤,等張剤など)の有無及び濃度についての記載や,pHの 値についての記載を欠くため,本件各発明に該当する製剤に関する実施例で あるとはいえないし,これによって安定性が確認されたのは,最長でも16 日間にすぎないのであるから,上記(2)イの技術常識に照らしてみても,24 ケ月要件を備えたパロノセトロン製剤を提供する等の本件各発明の課題(上 記(1)ア)を解決し得ることの根拠にはなり得ない。
(4) 原告の主張について
ア 上記第4の1(1)及び(2)の主張について
上記(3)のとおり,本件明細書には,pH,賦形剤,マンニトール及びキレ ート剤の濃度を調整することで,安定性向上に関し,どのような作用・機 序があるのか,どの程度の安定性の向上,安定性への貢献が見込めるのか が記載されていないため,本件出願時の技術常識を踏まえても,実施例4, 5の医薬製剤が24ケ月要件を備えたものであることが記載されていると はいえないし,その他の箇所をみても,具体的な医薬製剤が少なくとも2 4ケ月の貯蔵安定性を有することを,具体的な根拠に基づいて合理的に説 明しているとはいえない。そして,24ケ月という期間に直接言及する【 0017】【0037】の記載も,上記(1)イ(ア)のとおり,当該製剤ないし 容器を24ケ月以上保存できることをいかなる方法で確認したか等につい ての具体的な言及を欠くから,これらの段落の記載をもって,24ケ月要 件が本件明細書に実質的に記載されているということもできない。 したがって,原告の上記第4の1(1)及び(2)の主張は採用することができ ない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10028  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月9日  知的財産高等裁判所

 キューピー人形の図形と、文字「キューピー」が結合した商標について、無効請求がなされ、特許庁・裁判所とも無効理由無しと判断しました。出願が大正11年なので、旧商標法(大正10年法律第99号)の無効理由です。判決文の中に、関係法令として条文が記述されています。

 上記認定事実によれば,ローズ・オニールが創作したキューピー人形及び その名称の「キューピー」が大正2年(1913年)に我が国に紹介された 後,「キューピー人形」及びその名称の「キューピー」は,本件出願前(出 願日大正11年4月1日)に,日本国内の全国にわたり,広く知られるよう になったことが認められる。原告の挙げる甲6,9ないし14,18ないし 21の記述(前記第3の1(1)ア(イ))は,これを裏付けるものといえる。 しかしながら,一方で,上記認定のとおり,大正5年(1916年)以降, ローズ・オニールが創作に関与したキューピー人形とは異なる「日本なりの キューピー」人形や,日本文化と関わりを持たせて描かれた絵葉書,年賀状 などが発売され,また,日本的な,日本でデザインされたキューピーは,様々 な商品のブランド名,広告類のイラスト等や商品の容器等に広く使用されて きたこと,加えて,甲6には,「その代表たるキューピーちゃんも,最初は\nドイツで作られたものだそうだが,それが日本でも作られるようになり,い つの間にか日本的キューピーとして生れかわった。そのルーツもあまり知ら れずに,そのくせ,最近まで,子供の頃に一度もキューピーを手にしていな い人はなかったというぐらい大衆性が続いたのは,キューピーが子供ばかり でなく大人にも可愛がられる何かを,強力にもっていたからだろう。」,「遠 く太平洋をへだてた島国の日本のこと,生みの親のローズさんのことも,オ リジナルの可愛らしいイラストのキューピーもあまり知られないまま,どん どん日本なりのキューピーが作られ,ますます広く愛されたのである。」(前 記1(3)ア(イ))との記載があることに鑑みると,キューピー人形は,本件出 願当時,キューピー人形の創作者がローズ・オニールであることが認識され ることなく,西洋文化に由来する幼児姿のキャラクターとして誰もが自由に 使用できるものと理解され,全国において,キューピー人形やそれを模した 絵柄や図形等が多数作成され,商品のブランド名や広告宣伝等に広く使用さ れる状況にあったものと認められる。
以上によれば,原告の挙げる甲6,9ないし14,18ないし21の記述 から,キューピー人形及びその名称の「キューピー」が,本件出願前に自他 商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得するに至っていたものと認めるこ\nとはできず,他人の業務に係る商品を表示するものとして,日本国内におけ\nる需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。他にこれ を認めるに足りる証拠はない。
・・・
(2) 不正の目的について
原告は,被告の創業者のAは,本件出願前の1915年(大正4年)3月 から同年12月9日までの間米国に滞在中に,米国においてキューピー人形 及びその名称「キューピー」が広く知られていたことを了知したところ,1) 本件商標は,ローズ・オニール創作に係る人形の絵図及び人形の題号「KE WPIE」,「キューピー」のみからなること,2)本件出願以前において, ローズ・オニールの創作したキューピー人形の特徴を備えたキューピー人形 とその名称は,日本国内において,老若男女を問わず,全国津々浦々まで人 気があり,周知著名であったこと,3)被告は,本件商標を指定商品に使用し た実績がないこと(甲65,66),4)被告のウェブページ(甲27の1, 2)には,Aが他人の著名標章を自己のものとして商標登録した経緯が記載 されていること,5)被告は,本件出願後に,本件商標と同様のローズ・オニ ール創作に係る人形の絵図とローズ・オニール創作に係る人形の題号「KE WPIE」,「キューピー」から構成されるキューピー関連商標470件に\nついて広範な指定商品において出願及び登録し,あるいは商標を譲り受けて, 他人の知的創作である「キューピー人形の絵図」,「キューピーの名称」か らなる商標の独占を図ったことからすると,Aは,他人の標章の著名性にた だ乗りし,あるいは他人の知的財産を自己のものとして,権利化を図るとい う「不正の目的」をもって,本件出願を行ったものである旨主張する。
そこで検討するに,本件商標の出願時及び商標登録時において,ローズ・ オニールの創作に由来するキューピー人形及びその名称の「キューピー」は, 日本国内の全国にわたり,広く知られるようになったことは認められるもの の,キューピー人形及びその名称の「キューピー」が自他商品識別機能ない\nし自他商品識別力を獲得するに至っていたものと認めることはできず,他人 の業務に係る商品を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広\nく認識されていたものと認めることはできないことは,前記(1)で説示したと おりである。
こうした状況のもとで,Aは,大正11年4月1日,本件商標の出願をし, 商標登録を受けたものであるから,その余の点について判断するまでもなく, Aが本件出願に当たり,他人の標章の著名性にただ乗りし,あるいは他人の 知的財産を自己のものとして,権利化を図るという「不正の目的」を有して いたものと認めることはできない。
・・・・
(3) 国際信義違反について
原告は,1)被告の創業者のAによる本件商標の出願及び登録は,外国の著 名標章を自己のものとすることを目的とするものであり,不正の目的をもっ てされたものである,2)A及び本件商標を承継した被告は,ローズ・オニー ルの創作に係る人形の絵図と類似し,かつ,その創作に係る人形の名称「キ ューピー」の創作者の母国であり,「キューピー人形」の著作物の第1発表\n国であり,意匠登録された米国において,多数のキューピー関連商標を出願, 登録し(甲36),「KEWPIE DOLL」なる商標に対して権利行使 をした(甲37),3)のみならず,被告は,米国を含めた全世界において, 本件商標と同じく,キューピー人形の絵図,「KEWPIE」,「キューピ ー」等の文字商標を多数出願及び登録し,他人の知的創作であるキューピー 人形及びその名称の権利化を図っており,A及び被告による他人の知的創作 の剽窃行為は全世界に及んでいる,4)したがって,本件商標の出願及び登録 は,国際信義に反する旨主張する。 そこで検討するに,証拠(甲30,37,38)によれば,本件商標を承 継した被告は,「KEWPIE(kewpie)」の文字からなり,又は当 該文字を構成中に含む登録商標を米国において合計7件(2018年10月\n13日時点)保有しているほか,既に消滅したもの又は保留中のものを含め て,「KEWPIE(kewpie)」の文字やキューピーの絵図等を含む 商標について,ドイツ,シンガポール,カナダ,フィリピン,オーストラリ ア,マレーシア,フランス,デンマーク,ベトナム,インドネシア,ブルネ イ,メキシコ,カンボジア,モンゴル,イスラエル,ラオス,チリ,アイス ランド,ニュージーランド,欧州連合に出願等をしたこと,被告は,201 6年(平成28年)5月26日,「KEWPIE DOLL」の商標に係る 出願に対して異議の申立てをしたことが認められる。\n
しかしながら,一方で,前記(2)認定のとおり,Aが本件出願に当たり,他 人の標章の著名性にただ乗りし,あるいは他人の知的財産を自己のものとし て,権利化を図るという「不正の目的」を有していたものと認めることはで きないのみならず,被告が「KEWPIE(kewpie)」の文字からな り,当該文字等を含む商標を米国のみならず多数の国に出願し,登録を受け たことは,被告が我が国のみならず世界中で様々な事業を展開する上で,本 件商標と類似する商標の出願及び登録が必要であったことによるものと認め られ,また,被告が「KEWPIE DOLL」の商標に係る出願に対して 異議の申立てをしたことも,米国で保有する「KEWPIE」の文字からな\nる商標と類似する文字が含まれているために権利行使をしたものであり,い ずれも国際信義に照らし,不当であるということはできない。 したがって,本件商標の出願及び登録が国際信義に反するとの原告の上記 主張は理由がない。
(4) 本件商標の「秩序又ハ風俗ヲ紊ルノ虞アルモノ」該当性について
以上によれば,Aが,他人の標章の著名性にただ乗りし,あるいは他人の 知的財産を自己のものとして,権利化を図るという「不正の目的」をもって, 本件出願を行ったものと認めることはできず,また,本件商標の出願及び登 録が国際信義に反するものと認めることはできないから,本件商標権をAか ら承継した被告が保有することが,社会公共の利益に反し,又は社会の一般 道徳観念に反するものと認めることはできない。 したがって,本件商標が旧商標法2条1項4号の「秩序又ハ風俗ヲ紊ルノ 虞アルモノ」に該当するとの原告の主張は採用することができない。 これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は 理由がない。
3 取消事由2(本件商標の旧商標法2条1項11号該当性の判断の誤り)につ いて
(1) 原告は,本件商標は,ローズ・オニールが創作したキューピー人形の絵図 と「KEWPIE」の欧文字とその片仮名から構成されるものであって,本\n件商標を付した商品について,需要者は,著名な「キューピー人形」,「K EWPIE」の名称と関係があるという特定の出所を認識することにより混 同を生じさせるものであるから,旧商標法2条1項11号の「商品ノ混同ヲ 生セシムルノ虞アルモノ」に該当する旨主張する。
しかしながら,前記1(1)で説示したとおり,キューピー人形は,本件出 願当時,キューピー人形の創作者がローズ・オニールであることが認識され ることなく,西洋文化に由来する幼児姿のキャラクターとして誰もが自由に 使用できるものと理解され,全国において,キューピー人形やそれを模した 絵柄や図形等が多数作成され,商品のブランド名や広告宣伝等に広く使用さ れる状況にあったものであり,本件商標の出願時及び商標登録時において, ローズ・オニールの創作に由来するキューピー人形及びその名称の「キュー ピー」が自他商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得するに至っていたも\nのと認めることはできず,他人の業務に係る商品を表示するものとして,日\n本国内における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできな いことに照らすと,本件商標をその指定商品に使用しても,これに接する需 要者において,特定の他人(当該他人と緊密な営業上の関係等にある営業主 を含む。)の商品の出所との同一性の誤認を生じるおそれがあったものと認 めることはできない。 したがって,本件商標は,旧商標法2条1項11号の「商品ノ混同ヲ生セ シムルノ虞アルモノ」に該当するものと認められないから,原告の上記主張 は採用することができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商4条1項各号
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ワ)21183  損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和2年12月3日  東京地方裁判所

 仮差押申立事件において仮差し押さえられた部分について,商標権者に過失があるとして、その分の返還を認めました。前件訴訟では、種々の事情を考慮した上で商標法39条において準用する特許法105条の3を適用して,相当な損害額を認定していました。\n

 以上によれば,前件仮差押申立事件において500万円を超えて仮に差し\n押さえられた部分について,被告米国法人には過失が推定される。 これに対し,被告米国法人は,前件仮差押申立事件において,商標法38\n条1項において被告米国法人が販売することができた商品には,規範的に被 告米国法人と同視できる者が販売することができた商品も含むという理解を 前提として被保全債権額の主張をしたところ,事実関係や裁判例等から,そ のような主張をしたことには相当な理由があるから被告米国法人には過失が ない旨主張し,上記の事由から過失の推定が覆滅する旨主張する。 前件仮差押申立事件の申\立書において,被告米国法人は,被告米国法人が 被告商品を直販しているから,日本における推定小売価格の全額が被告米国 法人の利益となる旨主張していた(前記1(3))。
被告商品は,実際には,被告米国法人から,順に,MSオペレーション, MSリージョナルセイルズ,被告日本法人に販売され,日本国内において, 被告日本法人により販売されていたのであるが,前件仮差押申立事件の申\立 書において,被告米国法人は,前記のとおりの主張をしており,被告商品を 日本において販売しているのが被告日本法人であることや,被告日本法人が 被告米国法人と同視することができることなどの主張はしていなかった。そ して,取引の流れについて上記の主張をしていないだけでなく,被告米国法 人の販売後日本における販売までの間に独立の法人格を有する複数の法人が 介在している以上,前件仮差押申立事件の申\立人である被告米国法人の利益 はMSオペレーションに販売することによる利益であるのが原則であるのに, 特段の説明も一切なく,「直販」していることを挙げて日本における推定小 売価格の全額が被告米国法人の利益であるとの主張をしていた。この主張は, 被告米国法人が自ら日本国内で販売していることを前提として主張していた と解するほかはない。
これらからすると,前件仮差押申立事件の仮差押申\立書における被告米国 法人の主張は,実際の取引の流れを踏まえつつ,商標法38条1項において 被告米国法人が販売することができた商品には,規範的に被告米国法人と同 視できる者が販売することができた商品も含むという理解を前提にしてされ たものとは認められない(なお,仮に,実際の取引の流れを踏まえて,上記 のような理解から仮差押申立書を記載したとすると,被告日本法人と被告米\n国法人の関係や被告日本法人が被告米国法人と同視できるなどの主張を明示 的にせずに仮差押申立書において上記のように主張することが適切であるか\nは疑問の余地があるほか,特に,被告米国法人の利益について,特段の説明 もなく,直販を理由として日本国内の推定小売価格の全額が被告米国法人の 利益となるとの主張をすることは不適切といえる。債務者の審尋等を経ない 仮差押えの申立てにおける主張については,特にこのことがいえる。)。\n被告米国法人は,本件において,過失の推定を覆す事情として上記理解を していたことを前提とする主張をするのであるが,その主張は前提を欠くと いえる。被告らの主張中には,前件訴訟等における被告米国法人の原告に対する損 害賠償額が前記の額となったことに関係して,原告が前件訴訟等において侵 害行為の詳細を明らかにしなかったことを指摘する部分がある。
しかし,上記が本件における過失の推定を覆す事情になるかは措くとして も,原告が販売した原告商品に対応する被告商品の種類等が明らかにならな かったことによって前件訴訟等における損害賠償額が本来の損害賠償額より も少額となったことを認めるに足りる証拠はない。前件訴訟等の裁判所は, 上記詳細が明らかにならなかったことから証拠がないことを理由に損害が認 められないとしたりはせず,同状況も含み得る種々の事情を考慮した上で商 標法39条において準用する特許法105条の3を適用して,相当な損害額 を認定したものである。なお,被告米国法人は,前件仮差押申立事件の申\立 書において,商標法38条2項に基づき損害が算定され,直販を理由として 日本の推定小売価格の全額が被告米国法人の利益であるとの主張をしていた が,被告米国法人から独立した法人格を有する複数の企業を介して日本国内 において被告商品が販売される以上,仮に介在する企業が完全子会社であっ たとしても,被告米国法人の利益は,被告米国法人がMSオペレーションに 販売したことによって得られた利益であり,その額は,通常は,日本におけ る推定小売価格の全額とはならないといえる。また,被告米国法人は,前件 仮差押申立事件の申\立書において,上記のとおり,日本の推定小売価格の全 額が被告米国法人の利益であるとの主張をしていたが,その後の前件訴訟等 においては,利益率は42%であると主張し,前件訴訟等の裁判所は,原告 主張の利益率を逸失利益の算定の根拠とすることは相当でないとしてその利 益率を採用しなかった。
以上によれば,前件仮差押申立事件において500万円を超えて仮に差し\n押さえられた部分について,被告米国法人に過失が推定され,被告米国法人 は,その推定が覆ると主張するが,本件において,被告米国法人が過失の推 定が覆るとしている事由はその前提を欠くといえる 。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 賠償額認定
 >> 102条1項
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10117  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年12月3日  知的財産高等裁判所

 異議申立において取り消し審決がなされましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は補正が新規事項であるとの判断が間違いというものです。\n

 1 取消事由1(新規事項の追加についての判断の誤り)について
本件決定が,本件訂正は新規事項の追加に当たるとする理由は,本件明細書 等においては,駐車装置の利用者(以下「確認者」という。)が乗降室内の安 全等を確認する位置(訂正後請求項1の「安全確認実施位置」)及びその近傍 に位置する安全確認終了入力手段は,原則として乗降室内にあるものとされ, 例外的に,確認者がカメラとモニタを介して安全確認を行う場合にのみ,乗降 室外とすることができるものとされているにもかかわらず,訂正後請求項1に おいては,確認者が直接の目視によって安全確認を行う場合にも,安全確認実 施位置と安全確認終了入力手段を乗降室外とする(以下,これを「乗降室外目 視構成」という。)ことができることとなり,この点において,本件明細書等\nには記載のない事項を導入することになるというものであり,本訴における被 告の主張もこれと同旨である。
ところで,訂正後請求項1の構成Bは,「前記車両の運転席側の領域の安全\nを人が確認する安全確認実施位置の近辺及び前記運転席側に対して前記車両の 反対側の領域の安全を人が確認する安全確認実施位置の近辺のそれぞれに配置 され,人による安全確認の終了が入力される複数の入力手段と,」と定めるの みであって,安全確認実施位置や安全確認終了入力手段の位置を乗降室の内と するか外とするかについては何ら定めていないから,乗降室外目視構成も含み\n得ることは明らかである。
そこで,本件明細書等の記載を検討してみると,たしかに,確認者が目視で 安全確認を行う場合に関する実施例1,2,4においては,安全確認終了入力 手段は乗降室内に設けるものとされ,確認者がカメラとモニタによって安全確 認を行う実施例3においてのみ,安全確認終了入力手段を乗降室の内,外に複 数設けてもよいと記載されている(【0090】)のであって,乗降室外目視 構成を前提とした実施例の記載はない。しかしながら,これらはあくまでも実\n施例の記載であるから,一般的にいえば,発明の構成を実施例記載の構\成に限 定するものとはいえないし,本件明細書等全体を見ても,発明の構成を,実施\n例1〜4記載の構成に限定する旨を定めたと解し得るような記載は存在しない。\n他方,発明の目的・意義という観点から検討すると,安全確認実施位置や安 全確認終了入力手段は,乗降室内の安全等を確認できる位置にあれば,安全確 認をより確実に行うという発明の目的・意義は達成されるはずであり,その位 置を乗降室の内又は外に限定すべき理由はない(被告は,このような解釈は, 本件明細書【0055】【0064】を不当に拡大解釈するものであるという 趣旨の主張をするが,この解釈は,本件明細書等全体を考慮することによって 導き得るものである。)。
この点につき,被告は,乗降室の外から目視で乗降室内の安全を確認するこ とは極めて困難ないし不可能であると考えるのが技術常識であるから,本件明\n細書等において,乗降室外目視構成は想定されていないという趣旨の主張をす\nる。しかしながら,乗降室に壁のない駐車装置や,壁が透明のパネル等によっ て構成されている駐車装置等であれば,乗降室の外からでも自由に安全確認が\nできるはずであるし(その1つの例が,別紙2の駐車装置である。なお,被告 は,本発明は,「格納庫」へ車両が搬送される機械式駐車装置の発明であるこ とや,本件明細書等の図1の記載から,乗降室の外から乗降室内を目視するこ とはできないと主張するが,「格納庫」が外からの目視が不可能な壁によって\n構成されていなければならない理由はないし,上記図1は,実施例1の構\成を 示したものにすぎず,駐車装置の構成が図1の構\成に限定されるものではな い。),仮に乗降室が外からの目視が不可能な壁によって構\成されている場合 でも,出入口付近の適切な位置に立てば(したがって,そのような位置やその 近傍を安全確認実施位置として安全確認終了入力手段を配置すれば),乗降室 外からであっても,目視により乗降室内の安全確認が可能であることは,甲1\n9の報告書が示すとおりであり,いずれにせよ被告の主張は失当である。また, 仮に被告の主張が,訂正後請求項1は,安全確認実施位置や安全確認終了入力 手段が,目視による安全確認が不可能な位置にある場合までも含むものである\nという意味において,本件明細書等に記載のない事項を導入するものであると いうものであるとしても,「安全確認実施位置」とは,安全確認の実施が可能\nな位置を指すのであって,およそ安全確認の実施が不可能な位置まで含むもの\nではないと解されるから,やはり,その主張は失当である。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項
 >> 新たな技術的事項の導入
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10072  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月2日  知的財産高等裁判所

 使用証明として「奥西木工」の文字部分が記載されていない証明書を提出しました。審決は当該部分が出所表示機能\を有する要部であるとして登録を取り消しました。知財高裁(2部)も同じく使用証明として認めませんでした。登録商標は判決本文内に参照されています。

 1 本件商標のうち,「奥西木工」の文字部分が,出所表示機能\を有する要部に当 たるかについて
本件商標は,前記第2の1のとおり,全体が一様に朱色の家具の催事についての 広告チラシを縮小した構成からなり,その上部には,上が欠けた円図形の内側に大\nきな赤い文字で「大処分」と記載され,その右側に「キズ物 半ぱ物 山積」と記 載された白抜きの将棋の駒様の図形を配し,さらに,上記円図形の右内側に大きく 「家具」の文字が記載され,内側に家具の絵が配されており,上記円図形の左上に 「京都最大の家具専門店奥西木工の魅力あるキズもの」と大きく記載され,同図形 の上に「キズ物市」とより大きく記載され,同図形の左には「大放出」と大きく記 載されており,その下部には,矢印と共に「うら面へつづく」と記載され,最下部 には赤色の長方形の中に白抜き文字で「奥西木工」等の文字が記載されているもの である。
上記のような本件商標の構成からすると,本件商標に接した需要者,取引者は,\n本件商標が,「キズ物市」という家具の催事についてのチラシであると認識すると認 められるところ,「大処分」,「家具」,「キズ物市」,「大放出」といった記載や家具の絵は,販売される商品や催事の内容などを表すものと認識されるのであって,本件\n商標には,「奥西木工」の文字部分以外に,本件商標に記載された各商品(家具)の 出所を示すような表示はない。そうすると,本件商標に接した需要者,取引者は,\n「奥西木工」の記載をもって,指定商品である家具の出所を表示するものとして認\n識するものと認められ,「奥西木工」の文字部分は,要部であるというべきである。
・・・
そうすると,本件チラシ1は,その全体のレイアウトは,本件商標と共通する部 分があるものの,本件チラシ1のいずれにも本件商標の要部である「奥西木工」と いう文字部分がなく,「タキソウパルクス刈谷店」,「タキソ\ウ家具」,「タキソウ家具本店」,「タキソ\ウパルクス吉原店」などとの記載があるのみであるから,本件チラ シ1に記載された本件使用商標1は,本件商標とは外観が大きく異なる上,本件商 標から生じる「オクニシモッコウ」などの称呼や「奥西木工の主催するキズ物市」 といった観念も本件使用商標1からは生じない。以上からすると,本件使用商標1が,本件商標と社会通念上同一ということはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 不使用
 >> 社会通念上の同一
 >> 使用証明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ネ)10081  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年11月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について、知財高裁(4部)も技術的範囲に属しないと判断しました。

 以上の本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載及び本件明細書 の記載によれば,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,「ポインタの座\n標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力 手段に表示するため」の「画像データ」であり,出力手段に表\示され,利 用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるよう\nに構成されていることを要するものと解される。\n
イ これに対し控訴人は,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,命令の「対\n象」や「内容」のいずれかを,小さな絵で表現したものが,「実行される\n命令結果を利用者が理解できるという動作・作用を目的・目標として構成\nされている画像データ」であって,「画面上のどの座標位置・範囲に表示\nするかという表示位置・範囲に関する情報」を含むものである旨主張する。\n しかしながら,本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載中には, 「操作メニュー情報」が「実行される命令結果を利用者が理解できるとい う動作・作用を目的・目標として構成されている画像データ」であること\nの根拠となる記載は存在せず,控訴人の上記主張は,特許請求の範囲の記 載に基づかないものであるから,採用することができない。
 (3) 被告製品における「操作メニュー情報」(構成要件B)の具備の有無につ\nいて
控訴人は,1)被告製品の本件ホームアプリにおける「上ページ一部表示」\n及び「下ページ一部表示」は,その内容や表\示位置からすれば,これを見た 利用者は上ページ又は下ページにスクロールする結果を理解できるといえる から,利用者が,その表示の有無を視覚的に認識でき,その表\示内容から, 所望の命令を実行した結果についても理解できるような,画像データに当た り,「操作メニュー情報」に該当する,2)被告製品における「左上領域」(別 紙参考図の図1記載の左側の赤色の点線枠内),「右上領域」(同図1記載 の右側の赤色の点線枠内),「左下領域」(同図2記載の左側の赤色の点線 枠内,同図3のB記載の左側の画像)及び「右下領域」(同図2記載の右側 の赤色の点線枠内,同図3のB記載の右側の画像)は,「操作メニュー情報」 に該当する旨主張する。
ア そこで検討するに,被告製品の構成エ(ウ),(エ),オ(ウ)及び(エ)及び 別紙「乙2の2の説明図」によれば,被告製品においては,1)利用者が, 移動させたいショートカットアイコンをロングタッチし,ドラッグ操作を することにより当該ショートカットアイコンを移動させ,ロングタッチし た位置と当該ショートカットアイコンをドラッグしている指等のタッチパ ネル上の位置が約110ピクセル離れた場合に,その際のページ画面が縮 小表示されるとともに,そのページ画面のページ番号に応じて,当該ペー\nジが上端ページであれば1つ下のページの一部の画像である「下ページ一 部表示」のみが,下端ページであれば1つ上のページの一部の画像である\n「上ページ一部表示」のみが,それ以外のページであればこれらがいずれ\nもIGZO液晶ディスプレイに表示される「縮小モード」となること,2) 「縮小モード」の状態で,「上ページ一部表示」が表\示されているとき, 利用者が当該ショートカットアイコンをドラッグしている指等及びマウス カーソルの先端の座標位置を「左上領域」又は「右上領域」のいずれかの\n範囲に入れたときは,上ページスクロール1又は上ページスクロール2を 生じさせる命令が実行され,また,「縮小モード」の状態で,「下ページ 一部表示」が表\示されているとき,利用者が当該ショートカットアイコン をドラッグしている指等及びマウスカーソルの先端の座標位置を「左下領\n域」又は「右下領域」のいずれかの範囲に入れたときは,下ページスクロ ール1又は下ページスクロール2を生じさせる命令が実行されることが認 められる。
イ しかるところ,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表\ 示」は,別紙「乙2の2の説明図」の図6等に示すように,「縮小モード」 の状態で,IGZO液晶表示ディスプレイの画面上に表\示される長方形状 上の画像データであるが,その表示には「実行される命令結果」の内容を\n表現し,又は連想させる文字や記号等は存在せず,利用者がその表\示自体 から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構成されているも\nのと認めることはできない。
また,利用者が,縮小モードの状態で,1つ上のページ又は1つ下のペ ージの一部を表示した画像である「上ページ一部表\示」又は「下ページ一 部表示」を見て,「上ページ一部表\示」又は「下ページ一部表示」までド\nラッグすれば,上ページ又は下ページに画面をスクロールさせることがで きるものと考え,実際にそのように画面をスクロールさせる操作をしたと しても,それは,「上ページ一部表示」又は「下ページ一部表\示」の表示\n自体から「実行される命令結果」の内容を理解するのではなく,操作の経 験を通じて,画面をスクロールさせることができることを認識するにすぎ ないものといえる。 したがって,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表\示」 は,利用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解でき\nるように構成された画像データであるものと認めることはできないから,\n構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当しない。\n
ウ 次に,前記アの認定事実によれば,被告製品における「左上領域」,「右 上領域」,「左下領域」及び「右下領域」は,いずれも,被告製品の出力 手段であるIGZO液晶表示ディスプレイの画面上の特定の座標位置で囲\nまれた領域であり,その領域は,画面上に画像データとして表示されてい\nるものではなく,利用者が画面上で認識できるものではない。 したがって,被告製品における「左上領域」,「右上領域」,「左下領 域」及び「右下領域」は,出力手段に表示され,利用者が「実行される命\n令結果」を理解できるように構成されている「画像データ」であるものと\n認めることはできないから,構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当し\nない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)8302

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ワ)10672等  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和2年11月17日  東京地方裁判所

 秘密管理性がないとして、本件顧客名簿は営業秘密ではないと判断されました。  

 原告は,被告Aが原告で勤務していた平成28年頃から,顧客カルテをファ イリングしているバインダーの背面下部にマル秘シールが貼られていたと主\n張し,その主張の根拠として甲6号証を提出し,証人Gは上記主張に沿う供述 をする。これに対し,被告らは,マル秘シールは被告Aが原告を退職した後に 貼られたものであると主張し,被告Aはそれに沿う供述をする。\n甲6号証のマル秘シールの写真は,本件訴訟の準備のために平成31年3月 27日に撮影されたものであり,これによって,いつからマル秘シールが貼ら\nれていたかが客観的に明らかになるものではない。また,証人Gの供述と整合 する客観的証拠は存在しない。かえって,甲6号証には顧客カルテがファイリ ングされているバインダーが10冊以上写っているところ,そのバインダーの 形や顧客番号を示すと考えられる番号の記載方法などは相互に異なっている ものも多いのに対し,マル秘シールは大きさが同じで,最後の一冊を除き文字 も同じであり,写真撮影時に比較的近接した時期に一斉に貼付されたことと矛\n盾しないことを窺わせるものである。
以上によれば,被告Aが原告で勤務していた平成28年頃から顧客カルテを ファイリングしているバインダーの背面下部にマル秘シールが貼られていた\nという事実を認めるには足りず,被告Aが原告で勤務していた平成28年頃か ら顧客カルテをファイリングしているバインダーの背面下部にマル秘シール が貼られていたという事実は認定できない。\n
顧客カルテとその管理について
ア イのとおり,原告店舗において,施術履歴等を記載した紙である顧 客カルテは,バインダーにつづられ,バックルームに設置された棚にバイン ダーが並べて保管されていた。バックルームは,原告の従業員であれば自由 に入退室することができ,従業員が一人で休憩することもあり,従業員であ れば,顧客カルテは,バックルームで自由に見ることができたものであった。 顧客カルテは,ファスナーがついたファイルに入れて他の店舗に持ち運び することがあった。また,顧客カルテを共有する目的で,原告従業員全員を メンバーとするLINEのカルテ共有用グループが作成されていて,カルテ 共有用グループを使用して顧客カルテを従業員が共有する場合,原告従業員 が私用のスマートフォン等で顧客カルテを撮影し,それをカルテ共有用グル ープの全メンバーに送信していて,撮影した従業員の私用のスマートフォン にその画像が保存されるほか,全従業員のスマートフォン等にも,その画像 が送信され,保存されることとなっていた。このような送信は,原告代表者\nや店長の許可などの特別な手続は必要なく,通常業務として行われていた。 すなわち,原告の従業員は,全ての顧客カルテを少なくとも就業時間中は 誰でも自由に見ることができ,また,その画像は,通常業務の中で,特に上 司の決裁等もなく,私用のスマートフォン等で撮影され,当該カルテを必要 としない者を含む全従業員の私用のスマートフォン等に送信され,保存され ていたといえる。
イ ここで,顧客カルテ自体には,秘密であることを示す記載はなく,また, 本件送信行為の当時,顧客カルテをつづったバインダーに秘密であることを 示す記載等があったとは認められない。
他方,原告は,顧客情報の管理については注意喚起を行っているなどと主 張し,証人Gは,原告店舗では,店長が月に1,2回の頻度で全ての原告従 業員に対して顧客カルテの画像を削除するように口頭で伝え,店長は原告従 業員が私用のスマートフォンを操作して顧客カルテの画像を削除している 姿を見たこともあった旨供述する(甲39,証人G)。しかし,その供述を裏 付ける客観的証拠はないほか,同供述によっても,口頭で削除の指示を述べ ただけであり,前記アのとおり全従業員の私用のスマートフォン等に画像が 送信,保存されているとの状況にもかかわらず,口頭の指示を超えて,同グ ループ上で顧客カルテの画像を削除するようメッセージを送信したりする ことなどもなかった。
原告の顧客カルテの管理マニュアル(前記 )は,顧客カルテについ ての一定の取扱いを定めているが,これは顧客カルテ等の一般的な取扱い等 を定めるものであり,カルテ共有用グループの扱いなど顧客カルテに関する 重要な事項に触れるものでもなかった。また,就業規則や入社時合意では, 職務上知り得た情報の取扱いなどが定められていたが,その対象となる情報 の定義は一般的なものであって,これらによって顧客カルテやその施術利益 が秘密であることが示されているとはいえないものであった。 その他,監視カメラはレジや店舗の入口付近を映すものであって,それが バックルームの棚付近も映していたとしても,一般的な防犯対策や不審者に 対する対策を超えて,それによって,顧客カルテそのものを直ちに秘密とし て管理していたことになるものとはいえない。
ウ 上記のとおりの,顧客カルテの客観的な利用,保存等を含めた管理の状況, 顧客カルテが秘密であることを直接示す記載の欠如やそれが秘密であると 認識させる事情の少なさ等の事情を総合的に考慮すると,原告店舗の顧客カ ルテの施術履歴は,「秘密として管理されている」(不競法2条6項)という ことはできない。
エ 原告は,原告の顧客カルテの管理状況,就業規則や入社時合意の存在等を 挙げて,顧客カルテが秘密として管理されている旨主張するが,上記に照ら し,理由がない。
また,原告は,被告Aが,Dに対し,平成29年12月9日日にLINE で,「Eっていう私の友達のカルテ,もらえたりしないかな?誰にもバレず に」などと送信し,平成30年1月20日日に,LINEで「私に友達のカ ルテ送ったことだけは内緒でお願いします!」「それがバレるかどうかで左 右されるっぽい!」などと送信したことを挙げて,被告Aも顧客カルテを秘 密として認識していた旨主張する。
しかし,平成29年12月9日のLINEは,被告Aが原告を退職する時 点で原告代表者と被告Aの関係が相当悪化していたこと(乙21,弁論の全\n趣旨)や被告Aが原告との間で作成した入社時誓約書などの文言に抵触し得 る形で原告の店舗の近くの被告ら店舗での就業を退職後早々に開始したこ となどから,本件施術履歴が秘密情報であるか否かにかかわらず,被告Aが, 自身のための行為を原告代表者等に知られたくないと思う背景があった状\n況でされたものであり,かえって,Dがそれに対して逡巡する形跡なく程な く本件送信行為を行っていることからも,同日のやり取りは,直ちに,被告 AやDを含む原告の従業員において,顧客カルテを秘密として認識していた ことの根拠となるものではない。また,平成30年1月20日のLINEは, 前日に原告から顧客情報の不正使用等を指摘する通告書が送付され,これに ついて被告Bから顧客情報を持ち出していなければ大丈夫であるとアドバ イスされたものの,被告Bや被告Cには本件送信行為についての報告をして いなかったために本件送信行為を隠そうとしたものとも解され,また,顧客 カルテが当時言及されていた「顧客情報」に含まれることが明らかな一方, それが「営業秘密」など「秘密」であるか否かが当時話題とされていたかは 明らかでなく,上記のLINEにより,被告Aにおいて顧客カルテの情報が 秘密として管理されている情報であるとの認識を有していたことが直ちに 裏付けられるものではない。
以上によれば,顧客カルテの情報の一部である本件施術履歴も秘密管理性を 欠くから,その余を判断するまでもなく,本件施術履歴が営業秘密であるとは 認められない。したがって,本件送信行為は不正競争に該当しないから,本件 送信行為についての原告の被告Aに対する請求は認められない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 営業秘密
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ネ)2739 意匠権  民事訴訟 令和2年10月30日  大阪高等裁判所

 食品包装用容器の底部に関する部分意匠の侵害事件です。1審(大阪地裁)は、約6000万円の損害賠償請求を認めました。1審被告が控訴、1審原告が附帯控訴をしました。控訴審は、原告が支払い済みの分を除いた約3000万円の支払いを命じました。

 当裁判所も,控訴人及び一審被告静岡産業社の共同不法行為により被控訴人が受けた損害につき,意匠法39条1項により推定される損害額は5348万7589円であって,上記共同不法行為と相当因果関係にある弁護士費用及び弁理士費用は540万円とするのが相当であり,その合計額は5888万7589円であるが,他方で,値下げによる損害についての賠償は認められないと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記4(3)及び5のとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」第4の8(ただし,一審被告静岡産業社のみの主張に対する判断部分を除く。)に記載のとおりであるから,これを引用する。
そして,被控訴人は,原判決言渡しの後,一審被告静岡産業社との間で任意の和解をし,これに基づき,一審被告静岡産業社から,2944万3795円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を受けたので,上記損害賠償残金は2944万3794円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員となった。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成30(ワ)2439

イ号および本件意匠は以下です。

関連カテゴリー
 >>
意匠その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10025 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年11月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審は、約1800万円の損害賠償を認めましたが、知財高裁(2部)は原告の請求額を100%認めました。損害認定額は約1億3700万円で、請求額は1億3200万円でした。

 4 損害発生の有無及びその額(争点8)について(当審における当事者の補充主張に対する判断を含む。)
(1)特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」について
特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして,同項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については,技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定される特許発明の実施許諾契約の場合と異なり,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わないことや,平成10年法律第51号による同項の改正の経緯に照らし,同項に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はない。特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきであり,1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な実施料率を定めるべきである。
(2) 実施料率の算定に当たり考慮すべき事情括弧内に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる。ア実施料率に関する数値等(ア)社団法人発明協会発行の「実施料率〔第5版〕」(平成15年9月30日発行。甲79)には,「電子・通信用部品」分野の実施料率について,次の旨の記載がある。aイニシャル・ペイメント条件がない場合の実施料率の平均値は,昭和63年度〜平成3年度は4.9%,平成4年度〜10年度は3.3%である。平均値が下降した結果,全技術分野中実施料が最も低い技術分野の一つとなった。
bこの技術分野は,契約件数が全技術分野の中でも多い方であるが,他の契約件数上位の技術分野と比較して,実施料率が低く抑えられている。その理由としては,1)この技術分野では,高額のライセンス収入を得ることとともに,技術を普及させ,対象技術の標準化を目指すことが重要視されるケースが他の技術分野と比較して多いことや,2)半導体産業は設備投資が大きく,ライセンシーの危険負担が大きいことが考えられる。c平成4年度〜10年度の実施料率8%以上の契約(イニシャル・ペイメント条件の有無を問わない。)合計21件を技術内容的に細分すると,電子管が1件,半導体が18件,その他の電子・通信用部品が2件であり,半導体が大半を占めている。
(イ)平成22年8月31日に発行された「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」によると,本件発明1〜3に関連する「電気」の分野の実施料率について,平均値は2.9%,最大値は9.5%,最小値は0.5%であった(乙89)。
(ウ)一審原告が訴訟等で相手方と和解をする際には,相手方において侵害品から一審原告の製造するLEDへの置換えが可能な場合には,当該LEDを相手方が購入することを条件として,侵害品の売上高に5%前後の実施料率を乗じた損害賠償額で和解をすることがあるが,そのような置換えが難しい場合には,製品の製造販売の中止を条件に,侵害品の売上高に上記より高い実施料率を乗じた損害賠償額で和解をすることがある(甲84の1)。一審原告は,平成28年5月,本件特許1を含む二つの特許を侵害するLED電球の販売に係る事案に関し,相手方と,総売上高に10%の実施料率を乗じた額に8%の消費税相当額を加算した金額で裁判上の和解を成立させた(甲84の1・3)。\n
(エ)一審原告の競合メーカーであるフィリップス社は,平成28年6月21日,LED照明及びLEDレトロフィット電球のライセンスプログラムを公表したが,そこでは,LED照明の総収入に基づく実施料率は,単色照明(白色又は有色の固定色)については3%であることが示されている(乙102)。\n
イ本件発明1〜3の価値・重要性等に関する事情
(ア)一審原告による青色LEDの開発後,赤,緑,青の三種類のLEDを用いるのではなく,青色LEDと蛍光体を用いて一審原告が白色LEDの開発を実現したことは,非常に重要な産業上の意味を持つもので,その後のLED市場の急速な拡大に大きく寄与し(甲24,26),一審原告による白色LEDの開発については,文部科学省発行の「令和元年版科学技術白書」(甲86)においても取り上げられている。
(イ)白色LEDを構成するために青色LEDチップと組み合わせる蛍光体の材料としては,YAG系のほか,TAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)系,サイアロン系,BOS(バリウム・オルソ\シリケート)系などがある(乙105)。この点,ドイツのOSRAM Opto社は,平成15年〜平成16年頃に,複数の会社に対し,TAG蛍光体による白色LEDのライセンスを供与しており(乙108),平成20年には,アメリカのVishayIntertechnology社は,カメラのフラッシュ・ライト,自動車のブレーキ・ランプや方向指示器やインスツルメント・パネルのバックライトや非常灯などに向けたものとして,TAG蛍光体を用いた白色LEDを発売した(乙109の1・2)。平成18年には,TAG系蛍光体材料などを用いた白色LEDが続々登場しているとの報道があり(乙106),平成24年には,YAG,TAG及びシリケートが,世界三大の蛍光体であると評価されていた(乙107)。
(ウ)平成27年に発表された「LED製品開発の現状と最新動向」と題する論文(豊田合成技報57号。乙91)には,次の旨の記載がある。\n
a青色LEDを光源とし蛍光体を励起させる方式の白色LEDの開発により,小型・省電力の白色光源が実用化され,更なる用途拡大が進んだ。代表例としては,液晶ディスプレイが挙げられる。白色LEDの高効率化により,急速にバックライト用光源の置き換えが進んだ。LED化によるメリットは,主に,発光効率が高いことと,薄型化ができることである。LEDは光源自体のエネルギー効率が高いことに加え,配光指向性によりバックライトへの入射効率が高くなるため,機器としての省エネが図りやすいことも大きなメリットとなっている。LEDが当たり前になった現在においても,パネル画質向上(高精細化・広色域化)に伴うパネル透過率低下(画面が暗くなること)を補うため,LEDへの効率向上への期待・ニーズは依然として高い。\n
b最近,従来の青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせから,光の三原色である青色LEDと緑色蛍光体・赤色蛍光体の組み合わせによる色品質の向上が図られている。従来の青色LEDに黄色蛍光体を加えた疑似白色光は,液晶に用いられる場合,色の純度が低く,液晶パネル上の色域が狭いのが一般的である。色域を拡げるためには,液晶パネルのカラーフィルタの濃度を上げる方法があるが,光の損失が大きくなるため望ましくない。そこで,色域を向上させるため,青色LEDに緑色蛍光体と赤色蛍光体を組み合わせた,新規白色光が開発されている。
ウ一審被告製品の売上げ及び本件LEDの位置付け等
(ア)一審被告製品の売上げ(乙87)
a一審被告製品1一審被告製品1の販売期間は平成26年1月から平成28年3月までであり,総販売台数は43万3971台で,1台当たりの平均販売価格は3万3902円,総売上高は147億1230万5518円であった。売上高の内訳は,平成26年1月から平成27年9月までが147億0404万7272円,同年10月が293万6815円,同年11月から平成28年3月までが532万1431円であった。
b一審被告製品2一審被告製品2の販売期間は平成27年5月から平成28年12月までであり,総販売台数は29万6608台,1台当たりの平均販売価格は3万4461円,総売上高は102億2138万1519円であった。売上高の内訳は,平成27年5月から平成27年9月までが24億1436万1080円,同年10月が9億3268万0350円,同年11月から平成28年11月までが68億4922万2715円,同年12月が2511万7374円であった。
(イ)一審被告製品における本件LEDの位置付け等
a一審被告製品は,いずれもデジタルハイビジョン液晶テレビであり,一審被告製品1及び2のバックライトには,いずれも1台につき24個のイ号LED又はロ号LEDが搭載されていた。液晶テレビの方式は,バックライトの種類によって,直下型とエッジ型とに区分されるところ,一審被告製品は,直下型である(甲85)。
bテレビに用いられるLEDについては,テレビ一台に複数のLEDが用いられることから安価であることが望ましい一方で,テレビ内部に設けられたLEDを交換することはできないから,耐久性が極めて重要な特性として求められる。
c東芝のテレビ事業部の担当者は,平成21年4月に,液晶テレビのバックライトは白色LEDがトレンドになると主張し,RGB三色のLED光源よりも白色LEDの方がより高画質を実現できるという認識を明らかにしていた(甲32)。そして,一審被告は,一審被告製品を含む液晶テレビのシリーズ商品を販売するに当たり,映像美を一つのセールスポイントとしており,また,一審被告製品は,「おまかせオートピクチャー」という,周囲の明るさに適した画質に自動で調整するとの機能を有していたところ,それは,リニアに発光するというLEDの特性を利用したものであった(甲77,78,92)。一審被告製品1を購入したユーザーのレビューには,画質の良さやコストパフォーマンスの良さを指摘するものがある(甲93)。\n
d一審被告製品は,平成27年7月から11月までの売れ筋ランキングの上位(第3位)を占めていた(甲94)。
e直下型バックライトが採用される液晶テレビ用の一般的なサイズのLEDにおいては,本件発明2及び3に関連した技術を用いたLEDが多用されている(甲87〜89)。
f一審被告製品はOEM製品であり,一審被告は,本件LEDの単価も知らず,本件LEDがどこのメーカーの製品であるのかも知らなかった。
エLEDに関する市場等
(ア)テレビのバックライト用の白色LEDの世界的な平均価格は,平成26年は0.1ドル,平成27年は0.08ドル,平成28年は0.068ドルであった(乙85の1〜3,乙104)。なお,年間平均為替レート(TTS)は,平成26年は106.85円/1ドル,平成27年は122.05円/1ドル,平成28年は109.84円/1ドルであった(乙90)。(イ)株式会社富士キメラ総研発行の「2017LED関連市場総調査」(平成29年1月25日発行。甲84の2)には,次の旨の記載がある。
aテレビ用バックライトユニットについてテレビ用バックライトユニットでは,直下型の白色LEDパッケージが採用されている。テレビ向けのLEDは,高出力かつ広色域,長寿命が要求されるケースが多く,他のバックライトユニット向けLEDと比較してハイエンドな商品となる。平成28年第4四半期時点において,32型テレビ用の直下型バックライトユニットの主要な価格帯は,1台当たり1400円〜1700円である。ただし,光学シート構成やLEDパッケージの仕様,搭載個数によって大きく価格が変動する。また,テレビメーカー各社が独自設計を行うハイエンドテレビ用バックライトユニットは,より高価格になる。\nなお,光学シートの機能複合による搭載枚数削減,LEDパッケージの性能\向上による搭載数量削減により,今後も低価格化が続く見通しである。b白色LEDパッケージについて白色LEDパッケージとは,疑似白色に発光するLEDパッケージである。主に可視光(GaN系)LEDチップに蛍光体を使用することで,疑似的に白色光を実現している。白色LEDパッケージについて,日本では発光効率を高める開発が続けられている。一方で,演色性(色再現性)も必要であるが,演色性と発光効率はトレードオフの関係にある。なお,中国では,コストの圧縮を目的として,LEDパッケージメーカーによるリードフレームを始めとする各種部材の内製化が進んでいる。世界的にみると,白色LEDパッケージ市場は,数量ベースで引き続き好調な伸びとなっている。ただし,従来大きなウェイトを占めてきたバックライト向けは,出荷数量が大きく減少している。セット機器の減少に加え,中小型バックライト向けでは搭載工数の減少やOLEDへの移行,テレビ用バックライト向けではパッケージ当たりの光束量の増加に伴う搭載個数の減少が主な市場縮小の要因となっている。白色LEDパッケージについて平成28年第4四半期時点で,バックライト向けの直下型の白色LEDパッケージの価格は,1個当たり,18円〜24円である。
c白色LEDパッケージに採用される蛍光体について高発光効率・低価格が要求される製品には,黄色の蛍光体が単体で採用されるケースが多い。演色性や広い色域が要求される場合には,黄色と赤色や,赤色と緑色の組み合わせが採用されている。LED用蛍光体については,中国において,地域別生産数量に占めるウェイトが高まっている。平成27年の出荷数量実績では,黄色の蛍光体について,YAG蛍光体が83.5%を占めており,シリケート系が10.2%,その他が6.3%を占めている。この点,シリケート系は,近年減少傾向にある。YAGなどに比べ高温高湿条件下での信頼性に劣るためである。平成29年に一審原告のYAG主要保有特許が失効するのを受けて,特に電球など色温度3000K程度の照明向けLEDパッケージでは,効率の良さを背景にYAGへの移行が進む可能性がある。\n
(ウ)総合技研株式会社発行の「2017年度白色LED・応用市場の現状と将来性」(乙86)には,次の旨の記載がある。a白色LEDメーカーシェア動向について,メーカーは一審原告のほかに合計10社以上あるところ,平成24年〜平成28年において,一審原告は継続してシェア第1位を占めている。この点,シェアは,平成24年は23.7%,平成25年は24.2%,平成26年度は25.4%,平成27年度は19.6%,平成28年度は19.1%である。b分野別・用途別白色LED応用市場分析に関し,分野別市場規模について,平成24年〜平成29年で,液晶バックライトを用途とするものは,61.2%から44.4%に減少し,一般照明を用途とするものが34.5%から50.8%に増加してきた。他方,液晶バックライトの数量ベースでみると,平成24〜平成28年で,液晶テレビを用途とするものは,40%前後で推移しており,他の用途(ノートパソコン,液晶モニター,タブレット端末,スマートフォン等)を大きく引き離している。\n
(エ)直下型バックライトについては,商流として,LEDメーカーとは別に直下型バックライトを製造するバックライトメーカーが存在し,テレビの製造メーカーに対しては,当該バックライトメーカーが直下型バックライトを部材として供給している。オ一審原告のライセンス方針等(ア)一審原告は,平成28年においても,バックライト用LED(テレビ,モニター,ノートパソコン及びタブレットを含む。)収入で,世界第2位,14.1%のシュアを占めている(乙84)。(イ)一審原告は,後発メーカーとの間で,平成8年頃から,各国で特許訴訟の提起や交渉を繰り返してきたところ,平成14年には,後発メーカーのLEDの技術水準も向上したため,互いに補完し合える技術を保有しているメーカーとはクロスライセンス契約を結んで和解をするようになったが,その際,クロスライセンス以外の形態でLEDメーカーにライセンスを供与することは,一部の例外を除いてなかった。それは,ライセンス収入には頼らず,特許はあくまでも自社の技術を保護する手段と考え,自社製品の販売によって利益を得るという経営方針によるものである(甲84の1)。
(3) 実施料率の算定
訂正して引用した原判決第3で判示した本件発明1〜3の意義等に加え,上記(2)で認定した諸事情を踏まえ,以下,実施料相当額について検討する。
ア実施料率を乗じる基礎(ロイヤルティベース)について
(ア)前記(1)で特許法102条3項について指摘した点に加え,1)本件LEDは直下型バックライトに搭載されて一審被告製品に使用されていたところ,直下型バックライトは,液晶テレビである一審被告製品の内部に搭載された基幹的な部品の一つというべきであり,一審被告製品から容易に分離することが可能なものとはいえないこと,2)LEDの性能は,液晶テレビの画質に大きく影響するとともに,どのようなLEDを用い,どのようにして製造するかは製造コストにも影響するものであること,3)一審被告は,後記イのとおり,本件LEDの特性を活かした完成品として一審被告製品を販売していたもので,一審被告製品の販売によって収益を得ていたこと等に照らすと,一審被告製品の売上げを基礎として,特許法102条3項の実施料相当額を算定するのが相当である。
(イ)これに対し,一審被告は,本件特許1〜3の貢献が,LEDチップに限定される旨を主張するが,採用することができない。また,一審被告は,LEDチップが独立して客観的な市場価値を有して流通していると主張するが,そうであるとしても,上記(ア)1)〜3)の事情からすると,本件においてLEDの価格をロイヤリティのベースとすることは相当ではない。なお,直下型バックライトについても,独立の市場価値を有するものと認められるが,上記(ア)1)〜3)の事情からすると,直下型バックライトの価格をロイヤリティのベースとすることも相当ではない。
さらに,一審被告は,最終製品を実施料算定の基礎とすると,本件LEDがより高価な最終製品に搭載されるほど実施料が高額になると主張するが,本件LEDがより高額な製品に搭載されてより高額な収入をもたらしたのであれば,その製品の売上げに対する本件LEDの貢献度に応じて実施料を請求することができるとしても不合理ではない。
イ実施料率について
(ア)a一審原告は,クロスライセンス以外の形態でLEDメーカーにライセンスを供与することは,一部の例外を除いてはなく(前記(2)オ(イ)),特許権が侵害された場合,一審原告の製造するLEDへの置換えが可能な場合にはそれを前提に5%前後の実施料率を用いて,置換えが難しい場合にはより高い実施料率を用いて和解をしており,平成28年に,本件特許1を含む二つの特許権を侵害するLED電球の販売に係る事案において,10%の実施料率を想定し,それに8%の消費税相当額を付加して,裁判上の和解をした(前記(2)ア(ウ))。 b平成10年度までにおいて,電子・通信用部品分野のうち,半導体については,実施料率8%以上の契約が少なからず存する(前記2ア(ア)c)。
c本件特許1は,長時間の使用に対する特性劣化が少なく,色ずれや輝度低下の極めて少ない発光装置に係る特許であり,本件特許2及び3は,ダイシングの際の剥離の防止や廃棄される樹脂の低減を図るとともに,生産効率を大幅に向上させ,安価な発光装置を提供する方法及び当該装置に係る特許である。これらの特性は,液晶テレビのバックモニタ用の白色LEDとして,大きく活かされるものであったといえ,殊に,本件特許1は,非常に重要な産業上の意味を持つものとして,その後のLED市場の急速な拡大に大きく寄与した(前記(2)イ(ア),(ウ)a,同ウ(イ)b,c,e,同エ(イ)a)。この点,YAG系の蛍光体以外の蛍光体を用いた白色LEDも存在していたことが認められる(同イ(イ),(ウ))が,一審原告は,白色LEDメーカーとして,平成24年〜平成28年において継続してシェア第1位を占めており,平成28年にバックライト用LED収入でも世界第2位のシェアを占めていること(同エ(ウ)a,同オ(ア))や,平成27年の出荷数量実績において黄色の蛍光体につきYAG系の蛍光体が大部分を占めていること(同エ(イ)c)に照らすと,一審被告製品の販売期間である平成26年1月から平成28年12月までの期間において,液晶テレビのバックライト用の白色LEDについて,一審原告の製品は他の製品に比べてかなり優位な地位にあったものと認められる。
d以上のa〜cで述べたところに,前記(1)で特許法102条3項の実施料率について述べたところや,前記(2)で認定した関連技術分野における実施料率の特徴や幅,YAG系蛍光体を用いた白色LEDの価値等に係る他の事情を総合すると,平成26年1月から平成28年12月までの期間(ただし,本件特許3については平成27年10月23日以後,本件特許2については平成28年12月16日以後)における本件発明1〜3の実施料率は,10%を下回ることのない相当に高い数値となるものと認められる。なお,1)フィリップス社は平成28年に単色のLED照明の実施料率について3%と公表しており(前記(2)ア(エ)),2)LEDの属する技術分野における実施料率の平均値は,3.3%,2.9%といった数値である(同ア(ア)a,(イ))。しかし,上記1)の数値は,フィリップス社の特許についてこれからライセンスする場合の数値であり,また,上記2)は,広汎な分野における実施料率の平均値であり,いずれも上記認定を左右するものではない。
(イ)液晶テレビである一審被告製品は,本件LED以外の多数の部品から成り立っており,上記(ア)の実施料率をそのまま適用することは相当ではないが,前記(ア)cのとおり,本件発明1〜3の技術は,液晶テレビのバックモニタ用の白色LEDとして,大きく活かされるものであったということができる上,一審被告製品は,映像美を一つのセールスポイントとするなどして,売れ行きは好調であった(前記(2)ウ(イ)c,d)のであるから,一審被告製品の売上げに対する本件発明1〜3の技術の貢献は相当に大きいものであり,前記(2)で認定した白色LEDの価格等に係る事情を考慮しても,平成26年1月から平成28年1月までの間(ただし,本件特許3については平成27年10月23日以後,本件特許2については平成28年12月16日以後)において,一審被告製品の売上げを基礎とした場合の実施料率は,0.5%を下回るものではないと認めるのが相当である。
ウ一審被告の主張について一審被告は,一審被告製品2には一審原告が主張立証するLEDチップとは異なるチップが使用されているため,一審原告が主張立証するロ号LEDが使用されている一審被告製品2の販売数量は不明であるから一審被告製品2に係る損害賠償請求は認められないと主張するが,訂正して引用した原判決第3の1(5)(原判決93頁)で判示したことからすると,一審被告製品2には,その販売期間を通じて,本件特許1〜3を侵害するロ号LEDが使用されていたと推認されるというべきであり,一審被告の上記主張やその裏付けとしての証拠(乙66,70)は,この推認を覆すに足りるものではない。その他,一審被告の主張は,前記イの認定を左右するに足りるものではない。
(4) 一審原告が一審被告に請求し得る額の算定以上を踏まえると,一審原告が一審被告に請求し得る額は,次のとおりとなる。ア実施料相当額について,一審被告製品の総売上高は,一審被告製品1が147億1230万5518円,一審被告製品2が102億2138万1519円で,合計249億3368万7037円であり,同額に,上記(3)の実施料率0.5%を乗じると,1億2466万8435円(1円未満四捨五入)となる。
イ弁護士費用相当額については,原告の主張額である1200万円を認めるのが相当である。
ウしたがって,一審原告は,一審被告に対し,少なくとも損害賠償として,合計1億3666万8435円を請求することができるところ,この金額は,一審原告の請求額を超えているので,消費税相当額の加算について判断するまでもなく,一審原告の損害賠償請求は,全部について理由がある。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)27238

関連カテゴリー
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> 102条3項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10004  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年9月30日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 原審の特102条2項による推定について「売上げに対する本件再訂正発明の寄与ないし貢献の程度が相当低い」として覆滅が認められました。

 ウ 推定覆滅事由について
一審被告は,1)本件期間1ないし4に係る販売分につき,一審被告が販 売した被告各製品中,順方向電圧の異なるLEDを搭載した製品の販売実 績が乏しいこと等,被告各製品の競合品の存在,2)本件期間1及び2に係 る販売分につき,本件特許権が一審原告と三菱化学との共有であったこと は,いずれも本件推定を覆す事情に該当し,かかる事情を考慮すると,本 件推定は覆滅される旨主張するので,以下において判断する。 (ア) 本件期間1ないし4に係る販売分につき,一審被告が販売した被告 各製品中,順方向電圧の異なるLEDを搭載した製品の販売実績が乏し いこと等,被告各製品の競合品の存在 a 一審被告は,1)LED基板のサイズを同一にして,部品点数及び製 造コストを削減できるとともに,LED基板の大きさを可及的に小さ くして,汎用性を向上させることができるという本件再訂正発明の作 用効果は,順方向電圧の異なるLED搭載製品を作製することを前提 とするものであり,被告各製品において,白色LEDと青色LEDと は,いずれも順方向電圧は同じであり,順方向電圧が異なるのは赤色 LEDであるから,本件再訂正発明の作用効果を奏するのは赤色LE Dを搭載する製品であるところ,本件期間1ないし4の期間中に一審 被告が販売した被告各製品中,赤色LED搭載製品(被告製品2及び 5)の販売実績が乏しいこと,2)需要者の立場からは,LED基板の 設計において,本件再訂正発明の実施品であるLED単位数の「最小 公倍数」の単位基板が長さ方向に連設されている製品と最小公倍数で はない「公倍数」の単位基板が連設されている製品とでは,購入意欲 に有意な差異を生じるものではなく,また,本件再訂正発明において 複数のLED基板が直列させてある点は,基板の接続箇所で不具合が 起こる可能性が高いとして,製品としての評価を低下させ得る事情で\nあることは,被告各製品に実施された本件再訂正発明に顧客吸引力が ないことなどを示すものといえるから,本件推定を覆す事情に該当す る旨主張する。
(a) 1)について
本件再訂正により,本件再訂正前の第1次訂正発明(請求項1) の「LED基板」の枚数及び配置が「複数の前記LED基板を前記 ライン方向に沿って直列させてある」構成に特定されたこと,第1\n次訂正発明の技術的意義は,前記2(1)ア,イ(イ)及びウで説示した とおりである。また,本件明細書の【0009】及び【0041】 の記載から,順方向電圧の異なるLED毎に定まるLEDの個数を LED単位数の「最小公倍数」にすることにより可及的に小さくし たLED基板の直列させる数を変えることで,このLED基板を 様々な長さの光照射装置に用いることができるようになることを理 解できる。
これらを総合考慮すると,本件再訂正発明の技術的意義は,順方 向電圧の異なる種類のLEDを用いたライン状の光を照射する光照 射装置において,LED基板の大きさを同一にして,部品の共通化 により部品点数の削減,製造コストの削減を実現することを主たる 課題とし,電源電圧とLEDを直列に接続したときの順方向電圧の 合計との差が所定の許容範囲となるLEDの個数をLED単位数と し,LED基板に搭載するLEDの個数を順方向電圧の異なるLE D毎に定まるLED単位数の「最小公倍数」とする構成を採用した\nことにより,順方向電圧の異なるLED同士でLED基板に搭載さ れるLEDの個数を同一にし,順方向電圧の異なるLEDが搭載さ れるLED基板同士の大きさを同じにすることができ,また,LE D基板を収容する筐体として同一のものを用いることができること から,LED基板及び筐体などの部品を共通化し,部品点数を削減 することができるとともに,製造コストを削減するという効果を奏 し,さらに,LED基板の大きさを可及的に小さくして,汎用性を 向上させるという効果を奏し,加えて,「複数の前記LED基板を 前記ライン方向に沿って直列させてある」構成を採用したことによ\nり,可及的に小さくしたLED基板の直列させる数を変えることで, このLED基板を様々な長さの光照射装置に用いることができると いう効果を奏することにあるものと認められる。
そして,被告各製品のうち,白色LED搭載製品と青色LED搭 載製品は,順方向電圧が同じであり(白色LED搭載製品である被 告製品1と青色LED搭載製品である被告製品3,白色LED搭載 製品である被告製品4と青色LED搭載製品である被告製品6は, 順方向電圧が同じであることは,争いがない。),LED基板は共 通のサイズのものを利用することができるので,被告各製品におい ては,本件再訂正発明は,白色LED搭載製品及び青色LED搭載 製品と順方向電圧が異なる赤色LED搭載製品(被告製品2及び5) 及び赤外LED搭載製品(被告製品7)について,専用のLED基 板及びこれを収容する筐体を用意する必要はなく,白色LED搭載 製品及び青色LED搭載製品と共通のサイズのLED基板及び同一 の筐体を用いることができる点において主たる効果を発揮するもの と認められる。
しかるところ,本件期間1ないし4における被告各製品の販売個 数は,合計●●●個であり,このうち,被告製品2及び5は●個, 被告製品7は●個であるから(前記イ(ア)),被告製品2,5及び 9の販売個数(合計●●個)が占める割合は,全体の約●●●●で ある。
一方で,被告各製品のうち,白色LED搭載製品又は青色LED 搭載製品を購入した者においても,その購入時に赤色LED搭載製 品一緒に購入している場合や,既に赤色LED搭載製品を有し,又 は将来赤色LED搭載製品を購入する予定である場合もあり得るか\nら,白色LED搭載製品及び青色LED搭載製品においては本件再 訂正発明の主たる効果が発揮されていないとまではいえないが,こ のような点を考慮してもなお,被告製品2,5及び7の販売個数(合 計●●個)が全体の約●●●●であることは,本件期間1ないし4 における被告各製品の売上げに対する本件再訂正発明の寄与ないし 貢献の程度が相当低いことを示すものといえる。
したがって,被告製品2,5及び7の販売個数(合計●●個)が 全体の約●●●●であることは,本件推定を覆す事情に該当するも のと認められる。これに反する一審原告の主張は採用することができない。
(b) 2)について
一審被告は,需要者の立場からは,LED基板の設計において, 本件再訂正発明の実施品であるLED単位数の「最小公倍数」の単 位基板が長さ方向に連設されている製品と最小公倍数ではない「公 倍数」の単位基板が連設されている製品とでは,購入意欲に有意な 差異を生じるものではなく,また,本件再訂正発明において複数の LED基板が直列させてある点は,基板の接続箇所で不具合が起こ る可能性が高いとして,製品としての評価を低下させ得る事情であ\nることは,被告各製品に実施された本件再訂正発明に顧客吸引力が ないことを示すものといえるから,これらの事情は,本件推定を覆 す事情に該当する旨主張する。 しかしながら,一審被告の上記主張の根拠とする事情を裏付ける に足りる証拠はないから,一審被告の上記主張は採用することがで きない。
b 次に,一審被告は,本件再訂正発明の実施品であるライン光照射装 置と実施品ではないライン光照射装置とは,照明器具としての性能に\n変わりがなく,ライン光照射装置であれば全て被告各製品及び原告が 販売する原告各製品の競合品となることに鑑みると,仮に被告各製品 が販売されなかったとしても,被告各製品の販売数量に対応する需要 が,原判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の他社のライン光照射\n装置にも向かったであろうといえるから,このような被告各製品の競 合品の存在は,本件推定を覆す事情に該当する旨主張する。 そこで検討するに,原判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の原\n判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の他社のライン光照射装置は,\n被告各製品の競合品に該当し,このような被告各製品の競合品の存在 は,本件推定を覆す事情に該当するものと認められる。その理由は, 次のとおり訂正するほか,原判決60頁2行目から61頁8行目まで に記載のとおりであるから,これを引用する。
・・・・
(c) 原判決61頁8行目末尾に次のとおり加える。
「また,被告各製品のカタログ(甲3)及びウェブページ(甲4, 13)には,被告各製品において本件再訂正発明を実施している ことやその実施により光照射装置としての性能が向上し,部品点\n数及び製造コストの削減を図ることができることなどをうかがわ せる記載は見当たらず,他方で,「業界最高クラスの光量を実現」, 「驚異の明るさを実現」など被告各製品の光量の大きさに関する 機能を宣伝文言としていることに照らすと,被告各製品において\n本件再訂正発明が実施されていることが大きな顧客吸引力となっ ていたということはできない。」
c 以上を前提に検討するに,前記a(a)及びbの本件推定を覆す事情の 内容,本件再訂正発明の技術的意義等を総合的に考慮すると,被告各 製品の限界利益の形成に対する本件再訂正発明の寄与は●●と認め るのが相当であり,前記寄与割合を超える部分については被告各製品 の限界利益の額と控訴人の受けた損害額との間に相当因果関係がな いものと認められる。したがって,本件推定は上記a(a)及びbの本件推定を覆す事情により上記限度で覆滅されるものと認められる。 そうすると,上記推定覆滅後の被告各製品の限界利益の額は,別紙 認容額算定表の3)欄記載の562万2270円となる。
d これに対し一審原告は,1)被告各製品のうち,白色LED搭載製品 及び青色LED搭載製品においても,本件再訂正発明は大きな顧客吸 引力を有すること,2)画像処理LED照明の国内シェア(数量ベース) については,平成26年から平成30年まで一貫して,一審原告が1 位,一審被告が2位であり,一審原告のシェアは2割を超えており(甲 18ないし22),このように画像処理LED照明のシェアを2割以 上一審原告が有している以上,被告各製品の販売がなかった場合には, そのうちの少なくとも2割は原告各製品に向かうことは明らかである し,シェア上位の会社の信頼性という面からは,2位のシェアを占め る被告各製品を購入した需要者は,被告各製品の販売がなかった場合 には1位のシェアを占める原告各製品を購入する蓋然性が高いこと, 3)原判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の各製品のうち,原告各\n製品の種類の多さを考えても,被告各製品の販売がなかった場合には これに対応する需要は原告各製品に向かう割合は極めて高いことを勘 案すると,本件推定は5割を超えては覆滅しない旨主張する。 しかしながら,1)については,前記bで説示したとおり(原判決引 用部分),本件再訂正発明の顧客吸引力は大きいとはいえない。 また,2)については,原告各製品及び被告各製品は,ライン状の光 を照射する光照射装置(ライン光照射装置)であるところ,仮に画像 処理LED照明一般という,ライン光照射装置よりも広いカテゴリの シェアで一審原告が1位であり,そのシェアが2割を超えていたとし ても,被告各製品の販売がなかった場合に,これに対応する2割の需 要が原告各製品に向かい,原告各製品を購入する蓋然性が高いという ことはできない。 さらに,3)については,原告各製品の種類が多いからといって,被 告各製品の販売がなかった場合にはこれに対応する需要は原告各製品 に向かう割合は極めて高いということはできない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
・・・
b 原判決61頁16行目から62頁12行目までを次のとおり改める。 「b(a) 特許法73条2項は,特許権が共有に係るときは,各共有者 は,契約で別段の定めをした場合を除き,他の共有者の同意を 得ないでその特許発明の実施をすることができる旨規定してい るから,各共有者は,上記の場合を除き,自己の持分割合にか かわらず,無制限に特許発明を実施することができる。 そうすると,特許権の共有者は,自己の共有持分権の侵害に よる損害を被った場合には,侵害者に対し,特許発明の実施の 程度に応じて特許法102条2項に基づく損害額の損害賠償を 請求できるものと解される。また,同条3項は特許権侵害の際 に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であ ると解されることに鑑みると,特許権の共有者に侵害者による 侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情 が存在しないため,同条2項の適用が認められない場合であっ ても,自己の共有持分割合に応じて,同条3項に基づく実施料 相当額の損害額の損害賠償を請求できるものと解される。 しかるところ,例えば,2名の共有者の一方が単独で同条2 項に基づく損害額の損害賠償請求をする場合,侵害者が侵害行 為により受けた利益は,一方の共有者の共有持分権の侵害のみ ならず,他方の共有者の共有者持分権の侵害によるものである といえるから,上記利益の額のうち,他方の共有者の共有持分 権の侵害に係る損害額に相当する部分については,一方の共有 者の受けた損害額との間に相当因果関係はないものと認められ, この限度で同条2項による推定は覆滅されるものと解するのが 相当である。
以上を総合すると,特許権が他の共有者との共有であること 及び他の共有者が特許発明の実施により利益を受けていること は,同項による推定の覆滅事由となり得るものであり,侵害者 が,特許権が他の共有者との共有であることを主張立証したと きは,同項による推定は他の共有者の共有持分割合による同条 3項に基づく実施料相当額の損害額の限度で覆滅され,また, 侵害者が,他の共有者が特許発明を実施していることを主張立 証したときは,同条2項による推定は他の共有者の実施の程度 (共有者間の実施による利益額の比)に応じて按分した損害額 の限度で覆滅されるものと解するのが相当である。 これを本件についてみるに,一審原告と三菱化学は,本件期 間1及び2において,本件特許権を持分2分の1の割合で共有 していたことは,前記aのとおりであるが,一方で,その期間 中に,三菱化学が本件再訂正発明を実施したことについての立 証はない。 そうすると,本件期間1及び2に係る販売分についての本件 推定は,三菱化学の共有持分割合による同条3項に基づく実施 料相当額の損害額の限度で覆滅されるというべきある。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)7532

関連カテゴリー
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> 102条3項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(ワ)4029  不正競争行為に基づく損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和2年10月1日  大阪地方裁判所

 標準構成明細が営業秘密に該当するか?が争われました。大阪地裁(26部)は一部について、営業秘密であると判断しました。

 (ア) 前記(1)ウ(エ)のとおり,被告P1は,被告会社において,パッケージリフォー ム商品の商品開発や仕入交渉等を単独で担当するとともに,原告の標準構成明細を\n使用して本件比較表及びこれに添付された標準構\成明細を作成し,これをP4等に 示した。また,被告P1は,原告の標準構成明細の書式を使用して被告会社の標準\n構成明細のテンプレート(別紙2「営業秘密目録」資料1−1−2)を作成した\n(前記ウ(オ))。当該テンプレートは,原告の標準構成明細の書式とかなりの程度類\n似する上,その備考欄上部の記載は,これが原告の標準構成明細の書式をもとに作\n成されたことをうかがわせる。 被告P1も,当該テンプレート作成に当たり表としては原告の標準構\成明細を使 用したことを認めている(被告P1本人)。 これらの事情に加え,被告P1がP1HDD に原告の標準構成明細のデータを保\n存していること(前記ア(イ))に鑑みると,被告P1は,被告会社のパッケージリフ ォーム商品の開発に当たり,その仕入価格,粗利率,粗利金額の設定のため原告の 標準構成明細記載の原告の仕入価格等の情報を参考にしていたことが合理的に推認\nされる。また,被告P1は,被告会社の標準構成明細の書式作成に当たり,原告の\n標準構成明細の書式を使用したことが認められる。\nしたがって,被告P1による上記原告の標準構成明細の使用は,別紙2「営業秘\n密目録」資料1−1の情報の使用といえる。
また,資料1−1の情報は,被告P1が原告在職中に取得したものであるところ, その当時被告P1がこれにアクセスすることは原告においても許容されていたこと から,その取得に不正の手段は使用されていない。もっとも,被告P1が,被告会 社への転職に向けた就職活動と時期を同じくして,複雑な手順を経て原告データサ ーバの情報をP1私物パソコンやP1HDD に保存したこと,被告会社で現に上記 のとおりその情報を使用したことに鑑みると,被告P1による原告データサーバ上 の情報の取得は,転職後に転職先でリフォーム事業に使用する意図を少なくとも含 んでいたことがうかがわれる。そうすると,被告P1による上記使用行為は,被告 会社のリフォーム事業にこれを使用することで被告会社の利益を増大させ,ひいて は自己の評価を高める等の目的があったものと見られるのであって,不正の利益を 得る目的での使用といえる。 以上より,被告P1による資料1−1の情報の使用及び同情報に基づき作成され た資料1−1−2の情報の使用は,不正競争(不競法2条1項7号)に当たる。
(イ) 前記(1)ウ(エ)及び(1)エのとおり,被告会社共有フォルダ内に原告の標準構成\n明細のデータが保存されており,同フォルダを通じてP4及びP8がこれに含まれ るデータを業務上使用する USB メモリに保存している。しかも,そのフォルダ名 から,当該データが,本来は被告会社にあるはずのない原告のデータであることは 容易に理解し得る。 これらの事情を総合的に考慮すると,被告会社は,資料1−1の情報につき,営 業秘密不正開示行為があることを知り又は少なくとも重大な過失によって知らずに, これを取得したものと認められる。すなわち,被告会社による資料1−1の情報の 取得は,不正競争(不競法2条1項8号)に当たる。 他方,被告P1は,被告会社において,その在籍中は被告会社のパッケージリフ ォーム商品の開発等を単独で担当していたものであり,その際に使用する標準構成\n明細も,原告の標準構成明細のデータ及び原告在籍中の被告P1の経験に基づき,\n他の被告会社従業員の関与のないままに作成されたものとうかがわれる。そうする と,被告会社における標準構成明細(甲86,87)について,被告会社が,被告\nP1の営業秘密不正開示行為により作成されたものと知っていたこと又は知らない ことにつき重大な過失があると認めるに足りる証拠はない。 したがって,資料1−1−2の情報については,被告会社の行為は,不正競争 (2条1項8号)に当たらない。これに反する原告の主張は採用できない。
(ウ) 被告らの主張について 被告らは,被告会社共有フォルダに保存されていた情報であっても,それをもっ て被告P1の被告会社に対する開示行為とはいえない,被告P1が自ら作成又は取 得した情報については,同人による不正取得ではなく,また,原告又はサンキュー から示された情報ともいえない,資料1−1の情報につき,被告P1のそれまでの 知識や経験に鑑みれば原告の標準構成明細やそこに記載された仕入価格等の具体的\n数値に係る情報を使用する必要がないなどと主張する。 しかし,被告P1の被告会社に対する開示が認められることは前記認定のとおり である。また,被告P1が自ら作成した情報が仮にあるとしても,原告及びサンキ ューの企業規模をも考えた場合,被告P1がその作成及び改訂を全て単独で行って いたとは考え難く,これを裏付けるに足りる証拠もない(被告会社の標準構成明細\nの作成等被告会社における商品開発等に関するものは除く。)。被告P1がサンキ ュー在籍時に取得した情報についても,サンキュー等が原告の完全子会社となりそ のグループに属するに至ったことにより原告の情報管理体制の下に置かれた以上, 被告P1もこれに基づく情報管理を行わなければならないことになる。さらに,被 告P1の経験等を考慮するとしても,原告の標準構成明細と被告会社の標準構\成明 細テンプレート(甲86)の類似性は相当に高い。加えて,本件比較表の作成に当\nたっては,そもそも被告P1による原告データサーバからの各種情報の取得は転職 後に被告会社で使用する意図の下に行われたと見られる上,いかに被告P1の経験 等を考慮しても,対応する原告の標準構成明細を実際に確認しなければ正確な数値\nまでは再現できないと思われることから,被告P1は,これを確認したものとうか がわれる。そのような被告P1が,被告会社の標準構成明細の書式作成に当たり原\n告の標準構成明細を敢えて参考にしないと考えることは不合理である。\nその他被告らが縷々主張する点を踏まえても,この点に関する被告らの主張は採 用できない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 営業秘密
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ワ)2210 特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年8月11日  東京地方裁判所

 東京地裁(46部)は、コンピュータ関連発明について、技術的範囲に属すると判断しました。なお、被告は無効理由を主張しましたが、該当しないと判断しています。

 本件発明1−1の特許請求の範囲の記載をみると,本件発明1−1は, 「患者を識別するための第1患者識別情報を端末装置より取得する第1 取得部と」(構成要件1−1A),「前記第1患者識別情報と,患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否\nかを判定する第1判定部と」(構成要件1−1B)を有するものであり,第1判定部において第1判定をする。また,「前記第1判定部で一致すると\n判定された場合に,看護師または医師を識別するための第1医師等識別情 報を前記端末装置から取得する第2取得部と」(構成要件1−1D),「前記第1医師等識別情報と,看護師または医師を識別する情報としてあらか\nじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判 定部と」(構成要件1−1E)を有するものであり,第2判定部において第2判定をする。\n
ここで,第1判定と第2判定の関係について,特許請求の範囲には,「前 記第1判定部で一致すると判定された場合に」(構成要件1−1D),第1医師等識別情報が取得されて第2判定がされることが記載されている。こ\nのことから,第1判定で一致すると判定されることが,第2判定がされる ことの前提であることが記載されているといえる。もっとも,第1判定と 第2判定との時間的な接着性の有無等についての記載はない。 そこで,本件明細書1をみると,本件明細書1には,実施の形態1ない し4が記載されている。実施の形態1では,第1判定や,第1判定で一致 するとの判定がされて患者の医療情報を出力することについての実施の 形態(構成要件1−1Aないし1−1C)が記載されているが,第1判定で一致するとの判定がされた直後に第2判定がされるとか,第1判定は,\n第2判定がされる都度にされるものであるなど,第1判定と第2判定の時 間的関係やその機会についての記載はない。そして,実施の形態1では, 患者が,患者の手に巻いており識別情報を含むリストバンドのバーコード を端末装置の撮像部で撮像することによって第1判定がされる(段落【0 045】)。そして,第1判定で一致するとの判定がされた場合には,「患者 用画面」が生成,表示され(段落【0047】ないし【0050】),患者用画面には検査の予\定や患者への注意事項が表示されるなどし(【004\n3】【図7】,患者はその画面を確認することで患者に対して行われる医療 行為等を知ることができ(段落【0019】),その患者用画面に対し,患 者が,例えば,検査ボタンをタッチすると検査名欄や検査説明欄が表示された検査表\示画面が生成,表示されることが記載されている(段落【00\n51】等)。また,第1判定で一致するとの判定がされて患者用画面が表示(ステップS21)されると検査ボタンや手術ボタンの入力を受け付ける\nようになり,その入力がされた場合には対応する画面の表示処理がされるが,入力がされなかったり,上記対応する画面の表\示処理がされたりした後には,患者用画面の表示に戻ることが記載されている(段落【0065】ないし【0068】,【図12】)。\n
実施の形態2は,看護師が患者の医療情報を確認するための看護師専用 画面を表示部に表\示する実施の形態であり,主に構成要件1−1Dないし1−1Fに対応する実施の形態が記載され,特に説明する構\成等以外は実施の形態1と同じであることが記載されている(段落【0088】)。そこ では,患者用画面が表示部に表\示された後,看護師が,自身のリストバン ドに記載されたバーコードを撮像部で撮像し,第2判定がされることが記 載されている(段落【0091】)。また,第2判定が一致した場合には医 療スタッフ用画面が表示されるところ,医療スタッフ用画面である看護師専用画面,バイタル画面等の表\示後に終了処理(ステップS120)がされると,患者用画面の処理(ステップS23)に移ることが記載されてい る(段落【0122】【図26】【図12】)。そこには,上記の他に,第1 判定と第2判定との関係についての記載はない。 また,実施の形態3は主に第1判定に関係する記載であり(ただし,請 求項2に関する形態),実施の形態4は,第2判定に関係する記載である が,それらの記載も含めて,本件明細書1に,第1判定と第2判定との時 間的接着性についての記載はない。 本件明細書1における背景技術や発明が解決しようとする課題の記載 によれば,医療情報を医療用サーバから取得し,取得した医療情報に基づ いてピクトグラムを表示する端末装置という従来技術ではセキュリティを確保することが難しかったところ,本件発明1−1は,セキュリティを\n従来技術より向上させることができるというものである(段落【0003】 ないし【0006】)。本件明細書1には,本件発明1−1について,上記 のとおり,従来技術よりセキュリティを向上させることが記載されている が,その記載のほかには従来技術と比較した優れた効果についての記載は ない。
以上の特許請求の範囲の記載や本件明細書1の記載に照らせば,第2判 定は,第1判定で一致すると判定された場合にされるものである。しかし, 本件明細書1には,実施の形態として,患者がその手に巻いているリスト バンドのバーコードを端末装置の撮像部で撮像することによって第1判 定がされ,一致すると判定された場合に患者用画面が表示され,それに対して患者が一定の操作をする形態が記載されている。そして,患者用画面\nの表示後に,医療スタッフがそのリストバンドのバーコードを撮像部で撮像することで第2判定がされ,そこで一致すると判定されると医療スタッ\nフ用画面が表示されるが,その終了処理後は,患者の医療情報を表\示する 患者用画面の表示に戻ることも記載されている。これらに照らすと,本件発明1−1において,第2判定がされるのは,第1判定で一致すると判定\nされた場合ではあるが,第1判定で一致するとされた後に患者による一定 の操作がされ,その後に第2判定がされることや,第1判定で一致すると 判定されて第2判定がされて第2判定で一致するとされて看護師等が必 要とする医療情報を含む表示画面が出力された後に,第1判定で一致すると判定された後と同じ,患者の医療情報を表\示する患者用画面に戻り,その状態から再び第2判定がされることがあり得ることが記載されている といい得る。
以上によれば,本件発明1−1において,第2判定がされるのは第1判 定で一致すると判定された場合であるが,第1判定がされるのは第2判定 がされる直前に限られるとか,第2判定がされる前にその都度第1判定が されるとは限られないと解するのが相当である。このように解したとして も,第1判定がされてそこで一致すると判定されない限り第2判定はされ ず,第2判定において一致すると判定されない限り看護師等が必要とする 医療情報を含む表示画面が表\示されることはないから,本件明細書1に記 載されたセキュリティの向上という効果を奏するといえる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 104条の3
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ウ)527  手続却下処分取消等  その他  行政訴訟 令和2年8月20日  東京地方裁判所  棄却

 期間徒過後に提出した国内書面について、特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるかが争われました。東京地裁(47部)は正当理由には該当しないと判断しました。

2 争点1(原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出できなかったこ とにつき,特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるか否か)に ついて
(1) 法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるときとは,特段の事情 のない限り,国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。以下同じ。)として, 相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間 内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうものと解する のが相当である(知財高裁平成28年(行コ)第10002号同29年3月7 日判決・判例タイムズ1445号135頁参照。)。
(2) これを本件について見るに,本件事務員は,本件日本事務所に対し,本件 メールを送信後,数分後に送信の不奏功を告知する本件送信エラー通知を受 けていたにもかかわらず,また,ほぼ同時刻に送信した他の5箇所の代理人 事務所からは送信と同日中に受信確認メールの送信を受けた一方で,本件日 本事務所からは受信確認メールの送信を受けていなかったにもかかわらず, 国内提出期間が徒過するまで,本件日本事務所に対して,本件指示メールの 受信確認等を一切行わなかったものである。さらに,本件事務員を監督する 立場にあった本件現地事務所代理人は,本件指示メールのカーボンコピーの 送信先となっており,同メールを受信できなかった事情が特段見当たらない 以上は同メールを受信していたものと認められるが,その後,国内書面提出 期間の徒過を回避するための具体的な役割を果たした形跡が見当たらない。 これらによれば,本件事務員及び本件現地事務所代理人が相当な注意を尽く していたとは認められないし,本件において「正当な理由」の有無の判断を 左右するに足りる特段の事情があったとも認められない。
(3) これに対し,原告は,法184条の4第4項の「正当な理由」の有無は, 当事者の規範意識を基準とすべきであり,本件においては米国の基準ないし 実務に基づいて判断すべきであるとした上で,本件事務員が,長年の経験を 有し,これまで一度も同様の問題を起こしたことのない者であったこと,本 件現地事務所の期限管理システムの下,本件現地事務所代理人が業務規則に 従い,本件事務員に対し的確な指導及び指示をしていたこと,国内書面提出 期間の終期の徒過を知った直後から,最善を尽くしたことなどを縷々主張す る。
しかしながら,法184条の4第4項の適用の有無は,国内移行手続にお いて判断されるものであるから,同項の「正当な理由」の有無については, 日本における規範・社会通念等を基準に判断されるべきである。また,本件 現地事務所が期限管理システムや業務規則により期限徒過を防止する態勢を 企図していたとしても,本件の事実経過のとおり,本件事務員が本件送信エ ラー通知を受信していたにもかかわらず,本件日本事務所に対して本件指示 メールの受信確認等を一切行わず,期限徒過を生じさせたことからすれば, 結局のところ,本件事務員が業務を適切に行っている限りは問題が生じない が,見落としや錯誤など何らかの過誤を発生させた場合,何らの監督機能や\n是正機能が働くこともなく,問題の発生を抑止できない態勢にとどまってい\nたと言わざるを得ない。また,その余の主張について慎重に検討しても,本 件において,正当な理由の有無の判断に影響を与えるものとはいえない。 以上からすれば,原告の前記主張は,いずれも前記判断を左右するもので はない。
(4) したがって,本件において,原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文 を提出することができなかったことについて,法184条の4第4項所定の 「正当な理由」があるということはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 特許庁手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ワ)1409  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年7月22日  東京地方裁判所

 治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるかが争われました。東京地裁(40部)は平成11年最判の判断が本件にも該当するとして、特69条が適用されると判断しました。

1 争点1(本件治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明 の実施」に当たるか)について
(1) 特許法69条1項は「試験又は研究のためにする特許発明の実施」について 特許権の効力が及ばないと規定しているが,その趣旨は,特許法1条に規定さ れた「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発 達に寄与する」ためには,当該発明をした特許権者の利益を保護することが必 要である一方,特許権の効力を試験又は研究のためにする特許発明の実施にま で及ぼすと,かえって産業の発達を損なう結果となることから,産業政策上の 見地から,試験又は研究のためにする特許発明の実施には特許権の効力が及ば ないこととし,もって,特許権者と一般公共の利益との調和を図ったものと解 される。
本件治験が同項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当た るかどうかは,特許法1条の目的,同法69条1項の上記立法趣旨,医薬品医 療機器等法上の目的及び規律,本件治験の目的・内容,治験に係る医薬品等の 性質,特許権の存続期間の延長制度との整合性なども考慮しつつ,保護すべき 特許権者の利益と一般公共の利益との調整を図るという観点から決すること が相当である。
(2) 前記第2の2(8)のとおり,平成11年最判は,後発医薬品について,第三 者が,特許権の存続期間終了後に特許発明に係る医薬品と有効成分等を同じく する後発医薬品を製造して販売することを目的として,その製造につき薬事法 (当時)14条所定の承認申請をするため,特許権の存続期間中に,特許発明\nの技術的範囲に属する化学物質又は医薬品を生産し,これを使用して同申請書\nに添付すべき資料を得るのに必要な試験を行うことは,特許法69条1項にい う「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たり,特許権の侵害とは ならないと判示している。 本件治験の対象とされているT-VECは,前記第2の2(5)のとおり,外国の医 薬品規制当局の製造承認を受け,我が国でブリッジング試験を行っている先発 医薬品であるが,以下のとおり,本件治験についても,平成11年最判の趣旨 が妥当するものと解される。
ア 平成11年最判は,後発医薬品が特許法69条1項にいう「試験又は研究 のためにする特許発明の実施」に当たる理由として,後発医薬品についても, 他の医薬品と同様,その製造の承認を申請するためには,あらかじめ一定の\n期間をかけて所定の試験を行うことを要し,その試験のためには,特許権者 の特許発明の技術的範囲に属する化学物質ないし医薬品を生産し,使用する 必要がある点を指摘する。 本件治験は,外国の医薬品規制当局の製造承認を受け,我が国でブリッジ ング試験を行うものであるが,証拠(乙15)によれば,ブリッジング試験 とは,外国臨床データを新地域の住民集団に外挿するために新地域で実施さ れる臨床試験であり,新地域における有効性,安全性及び用法・用量に関す る臨床データ又は薬力学的データを得ることを目的として行われるもので あって,同試験に当たり,一定の条件に適合する外国臨床データは医薬品の 製造等承認申請書に添付される資料として受け入れられるものの,日本人に\nおける当該医薬品の有効性及び安全性の評価を行うため,原則として,国内 で実施された臨床試験成績に関する資料を併せて提出することが必要であ ると認められる。
そして,本件治験は,T-VECの「日本人被験者における安全性及び有効性を 評価するための試験」(甲8の1・2頁「Official Title」欄)であり,修 正版WHO応答基準を用いたDRR(持続性奏効率)によって評価されるT-VECの 抗腫瘍活性が主要評価項目となっているものと認められる(甲8の1・4頁 「Primary Outcome Measures」欄の2)。このDRRとは,乙14の論文によれ ば,最初の12か月以内に開始する完全奏功(CR:腫瘍が完全に消失するこ と)及び部分奏功(PR:腫瘍が一定の割合以上小さくなること)が6か月連 続して継続した割合として定義されるものであるから,T-VECの製造販売の 承認申請には,日本人被験者にT-VECを投与して,一定の期間をかけて臨床 試験を行うことが必要となる。
そうすると,先発医薬品等に当たるT-VECについても,後発医薬品と同様, その製造販売の承認を申請するためには,あらかじめ一定の期間をかけて所\n定の試験を行うことを要し,その試験のためには,本件発明の技術的範囲に 属する医薬品等を生産し,使用する必要があるということができる。
イ 平成11年最判は,特許権存続期間中に,特許発明の技術的範囲に属する 化学物質ないし医薬品の生産等を行えないとすると,特許権の存続期間が終 了した後も,なお相当の期間,第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果 となるが,この結果は,特許権の存続期間が終了した後は,何人でも自由に その発明を利用することができ,それによって社会一般が広く益されるよう にするという特許制度の根幹に反するとしている。
T-VECについても,前記判示のとおり,その製造販売の承認を申請するた\nめには,あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要するので, 本件特許権の存続期間中に,本件発明の技術的範囲に属する医薬品の生産等 を行えないとすると,特許権の存続期間が終了した後も,なお相当の期間, 本件発明を自由に利用し得ない結果となるが,この結果が特許制度の根幹に 反するものであることは,平成11年最判の判示するとおりである。
ウ 平成11年最判は,第三者が,特許権存続期間中に,薬事法(当時)に基 づく製造承認申請のための試験に必要な範囲を超えて,同期間終了後に譲渡\nする後発医薬品を生産し,又はその成分とするため特許発明に係る化学物質 を生産・使用することは,特許権を侵害するものとして許されないと判示す る。本件治験については,前記のとおり,医薬品医療機器等法の規定に基づい て第I)相臨床試験を行っているところであり,被告が,本件特許権の存続期 間中に,本件特許権の存続期間満了後の譲渡等を見据え,同法に基づく製造 販売承認のための試験に必要な範囲を超えてT-VECを生産等し,又はそのお それがあることをうかがわせる証拠は存在しない。
そうすると,特許権者である原告が本件特許権の存続期間中にその独占的 実施により利益を得る機会は確保されるのであって,それにもかかわらず, 本件特許権の存続期間中にT-VECの製造承認申請に必要な試験のための生産\n等をも排除し得るものと解すると,本件特許権の存続期間を相当期間延長す るのと同様の結果となるが,それは,平成11年最判も判示するとおり,特 許権者に付与すべき利益として特許法が想定するところを超えるものとい うべきである。
エ 以上のとおり,平成11年最判の趣旨は本件治験についても妥当するので, 本件治験は,特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実 施」に当たる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> その他特許
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)21448  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年7月9日  東京地方裁判所

 被告製品は構成要件を有していない、さらに、進歩性違反の無効理由ありとの判断されました。同時期に継続していた審取の判断については「証拠が異なる」として、審理再開の 必要なしと判断されました。

イ 本件発明の技術思想(課題解決手段)について
前記(1)によれば,本件発明は,鋼管等を回転して圧入する立坑構築機に\n関し,輸送する際に幅を狭くする必要があったところ,従来技術において は,円弧状歯車片同士の端部が当接されず,その隙間から内部の転動体が こぼれ落ちてしまうため,標準的なベアリングを使用することができない という課題が生じていたので,これを解決するため,構成要件Eに係る構\ 成を採用し,円弧状ベアリング片が隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ ングを構成し,もって,分割して幅方向の寸法を狭くすることができると\n共に,転動体がこぼれ落ちなくなり回転を安定させることができ,標準的 なベアリングを使用して装置を安価に構成することができるようにした\nという技術的思想であるものと認められる。すなわち,本件発明において, 円弧状ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付 ベアリングを構成するという技術的意義を有しているものというべきで\nあり,このことは,前記のとおり,課題解決手段の欄(段落【0011】) において,「円弧状ベアリングは隙間なく接続して環状の歯車付ベアリン グを構成し,内輪及び外輪の間に配置された球やころ等の転動体がこぼれ\n落ちない構造になっている。かかる構\成によって,分割して幅方向の寸法 を狭くすることができると共に,標準的なベアリングを使用して回転を安 定させることができる。」と記載されていることからも根拠付けられるも のである。
ウ 構成要件Eへの被告製品の充足性について\n
しかして,構成要件Eには,円弧状ベアリング片が「それぞれの両端部\nを各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する」との文言が記載され\nているところ,「接続」とは「つなぐこと。つながること。続けること。続 くこと。」を意味するものである(広辞苑第7版)。そうすると,その文言 の一般的意義,上記の本件発明の技術的思想(本件発明において,円弧状 ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ ングを構成するという技術的意義を有しているものであること)に照らせ\nば,環状の歯車付ベアリングを構成するために隙間なく接続する部品,す\nなわち,つなぐ部品が円弧状ベアリング片であって初めて,円弧状ベアリ ング片が「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構\n成する」といえるものであると解するのが相当である。そうすると,環状 の歯車付ベアリングを構成した際に,円弧状ベアリング片の両端部に隙間\nが有るならば,「接続」とは評価し難いものというべきである。 しかるに,前記アによれば,被告製品においては,環状の歯車付ベアリ ングは,2つある分割フレーム14に設けられた内外輪部ケースそれぞ れの両端部及び回転リング部材51−3,51−4それぞれの両端部を 隙間なく接続して構成するものであって,分割内輪部23や分割外輪部\n24それぞれの両端部を隙間なく接続するものでも,つなぐものでもな く,円弧状ベアリング片である円弧状部材36,37それぞれの両端部 には,客観的に隙間があるから,被告製品の円弧状部材36,37は 「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成す\nる」ものであるとはいえず,被告製品は,構成要件Eを充足しないもの\nというほかない。
・・・
以上によれば,本件特許は当業者が乙2発明に基づいて容易に発明するこ とができたもの(特許法29条2項)であるから,特許無効審判により無効 にされるべきもの(同法123条1項2号)である。 なお,本件特許については,知的財産高等裁判所令和2年(行ケ)第10 102号事件同2年3月24日判決(裁判所ホームページ)が,特許無効審 判請求の不成立審決に対する取消請求を棄却しているところ,原告は,これ を理由として,口頭弁論再開の申立てをしているが,同判決は,乙2発明を\n主引用発明とし,乙20発明を副引用発明として適用することに基づく進歩 性の欠如については判断しておらず,上記判断は同判決と矛盾するものでは ないから,再開の必要性は認められない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 104条の3
 >> 裁判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10165 特許権  行政訴訟 令和2年11月5日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項か否か争われました。知財高裁(3部)は、新規事項であるとした審決を取り消しました。クレームに追加した「透光性を有する」との記載について、明細書に明示的な記載がありませんでしたが、裁判所は自明事項である認めました。

2 本件補正の適否について
(1) 前記第2の2のとおり,本願発明に係る特許請求の範囲については,本件 出願時には「通気性が確保された不織布又は織布からなるカバー体」と記載 されていたものが,本件補正後には「通気性及び通水性が確保され且つ透光 性を有する不織布又は織布からなるカバー体」へと記載が変更されたもので あり,本件カバー体につき,「通水性」及び「透光性」を有する旨の記載が追 加されたものといえる。 そして,上記1のとおり,本件当初明細書等には,本件カバー体が通水性 を有する旨の記載(【0035】)は存するものの,「透光性を有する」との事 項に対応する明示的な記載は存しない。 そこで,本件カバー体が「透光性を有する」との事項が,本件当初明細書 等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて,以下,検討する。
(2) 工業分野一般において,透光性とは,物質を光が透過して他面から出るこ とをいう(JIS工業用語大辞典第5版(乙1))ところ,本願発明の技術分 野における「透光性」の用語が,これと異なる意味を有するものとみるべき 事情は存しない。 そうすると,本件カバー体が「透光性を有する」とは,本件カバー体が光 を透過させて他面から出す性質を有することを意味するものといえる。
(3) 次に,上記1のとおり,本件カバー体は織布又は不織布から構成されると\nころ,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する技術常識につい て検討する。 証拠(甲23,24)及び弁論の全趣旨によれば,本件出願よりも前の時 点において,遮光カーテンの生地に遮光性能を付与するために,有彩色の生\n地に黒色の生地を重ねて二重にする,有彩色の糸と共に黒色の糸を使用して 生地を製造する,黒色顔料を配合した塗料を生地に塗布積層する,黒色顔料 を配合したプラスチックフイルムを生地に張り合わせるなどの方法が採られ ていたことが認められる。また,証拠(乙4,10)及び弁論の全趣旨によ れば,本件出願よりも前の時点において,織布である樹木の萌芽抑制シート の遮光性を高めるために,糸材にカーボン粉末が練り込まれた黒色糸を使用 する方法が採られたり,織布又は不織布である野生動物侵入防止用資材の遮 光率を高めるために,繊維間又は糸条間の間隔を小さくして光を通しにくく する方法が採られたりしていたことが認められる。 このように,本件出願よりも前の時点において,織布又は不織布に遮光性 能を付与するために,特殊な製法又は素材を用いたり,特殊な加工を施した\nりするなどの方法が採られていたことからすれば,本件出願時において,織 布又は不織布に遮光性を付与するためにはこのような特別な方法を採る必要 があるということは技術常識であったといえる。そうすると,このような特 別な方法が採られていない織布又は不織布は遮光性能を有しないということ\nもまた,技術常識であったとみるのが相当である。 そして,繊維分野において,遮光性能とは,入射する光を遮る性能\をいう (「JISハンドブック 31 繊維」(乙8))から,遮光性能を有しないと\nいうことは,入射する光を遮らずに透過させること,すなわち上記(2)の意味 における「透光性」を有することを意味することとなる。 以上検討したところによれば,織布又は不織布について遮光性能を付与す\nるための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は不織布は透光性を 有するということが,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する 技術常識であったとみるのが相当である。
(4) 以上を前提として,本件カバー体が「透光性を有する」との事項が,本件 当初明細書等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて検討する。 上記(3)によれば,本件出願時における当業者は,織布又は不織布について 遮光性能を付与するための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は\n不織布は透光性を有するものであると当然に理解するものといえる。 そして,上記1のとおり,本件当初明細書等には,織布又は不織布から構\n成される本件カバー体につき,遮光性能を有する旨や遮光性能\を付与するた めの特別な方法が採られている旨の明示的な記載は存せず,かえって,本件 カバー体が通気性や通水性を有する旨の記載(【0035】)や,本件カバー 体の表面の少なくとも一部は本件カバー体を構\成する材料がそのまま露出し, 通気性や通水性を妨げる顔料やその他の層が形成されていない旨の記載(【0 036】)が存するところである。 このような本件当初明細書等の記載内容からすれば,当業者は,本件カバ ー体を構成する織布又は不織布について,特殊な製法又は素材を用いたり,\n特殊な加工が施されたりするなど,遮光性能を付与するための特別な方法は\n採られていないと理解するのが通常であるというべきである。 そうすると,本件当初明細書等に接した当業者は,本件カバー体は透光性 を有するものであると当然に理解するものといえるから,本件カバー体が「透 光性を有する」という事項は,本件当初明細書等の記載内容から自明な事項 であるというべきである。
(5) 以上によれば,本件補正は,本件当初明細書等の全ての記載を総合するこ とにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入す るものではなく,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたも のといえるから,特許法17条の2第3項の要件を満たすものと認められる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項
 >> 当業者自明
 >> 新たな技術的事項の導入
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10005 特許権  行政訴訟 令和2年11月10日  知的財産高等裁判所

 特29−2違反に対して、先願は未完成発明と主張しましたが、知財高裁(1部)はこれを退けて、拒絶審決を維持しました。

 ア 原告は,当業者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度に まで具体的・客観的なものとして構成されていないいわゆる「未完成発明」は,特\n許法29条の2における「他の特許出願‥の発明」に当たらず,後願排除効を有さ ないとし,甲1明細書に記載された発明は発明として未完成であると主張する。
イ そこで判断するに,特許法184条の13により読み替える同法29条の2 は,特許出願に係る発明が,当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録 出願であって,当該特許出願後に特許掲載公報,実用新案掲載公報の発行がされた ものの願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書等」という。)に記 載された発明又は考案と同一であるときは,その発明について特許を受けることが できないと規定する。 同条の趣旨は,先願明細書等に記載されている発明は,特許請求の範囲以外の記 載であっても,出願公開等により一般にその内容は公表されるので,たとえ先願が\n出願公開等をされる前に出願された後願であっても,その内容が先願と同一内容の 発明である以上,さらに出願公開等をしても,新しい技術をなんら公開するもので はなく,このような発明に特許権を与えることは,新しい発明の公表の代償として\n発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でない,というものである。 このような趣旨からすれば,同条にいう先願明細書等に記載された「発明」とは, 先願明細書等に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握され る発明をいい,記載されているに等しい事項とは,出願時における技術常識を参酌 することにより,記載されている事項から導き出せるものをいうものと解される。 したがって,特に先願明細書等に記載がなくても,先願発明を理解するに当たっ て,当業者の有する技術常識を参酌して先願の発明を認定することができる一方, 抽象的であり,あるいは当業者の有する技術常識を参酌してもなお技術内容の開示 が不十分であるような発明は,ここでいう「発明」には該当せず,同条の定める後願\nを排除する効果を有しない。また,創作された技術内容がその技術分野における通 常の知識・経験を持つ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術 効果をあげることができる程度に構成されていないものは,「発明」としては未完成\nであり,特許法29条の2にいう「発明」に該当しないものというべきである。
ウ これを本件についてみると,・・・・
エ 以上によれば,ガラス合紙の,シリコーンのポリジメチルシロキサンであ る有機ケイ素化合物の含有量を3ppm以下,好ましくは1ppm以下で,0. 05ppm以上とした先願発明は,ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケ イ素化合物に起因する配線の不良等を大幅に低減でき,特にポリジメチルシロキ サンがガラス板に転写され,より配線や電極の不良等が発生し易くなることを抑 制できるものであって,先願発明の目的とする効果を奏するものであること,そ のようなガラス合紙は,ポリジメチルシロキサンを含有する消泡剤を使用しない で製造したパルプを原料として用い,ガラス合紙の製造工程において,パルプの 洗浄,紙のシャワー洗浄,水槽を用いる洗浄や,これらを2種以上行う方法によ り製造できること,以上のことが理解できる。
そうすると,先願発明は,創作された技術内容がその技術分野における通常の知 識・経験を持つ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果を あげることができる程度に構成されたものというべきである。\nよって,先願発明は,特許法29条の2にいう「発明」に該当し,未完成とは いえないから,同条により,これと同一の後願を排除する効果を有する。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 発明該当性
 >> 新規性・進歩性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10153  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年11月11日  知的財産高等裁判所

用語「臀部の頂上部よりも上側」とはいかなる位置かが争われました。裁判所は、拒絶審決を維持しました。

 1) 以上によれば,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)及び本願 明細書には,本願発明1の「臀部の頂上部よりも上側」は,「下方窄ま\nり」の状態の設定の開始位置(起点)を規定したものであることの開示 はあるが,その用語の意義や技術的意義について述べた記載はない。 しかるところ,「頂上」の用語は,一般に,「いただき,てっぺん」 などを意味すること(広辞苑(第七版)),ヒップサイズの寸法は,人 体を側方から見て臀部が最も後方に突き出している位置(最も高い位置)\nをメジャーで測定するのが一般的であることに鑑みると,本願発明1の 「臀部の頂上部よりも上側」にいう「臀\部の頂上部」の用語は,臀部が\n最も後方に突き出している位置(最も高い位置)を意味するものと理解 することができ,身頃の展開状態(展開平面図)においては,その位置 は,「臀部における点」として観念できるものと解される。\n
そうすると,本願発明1の「臀部の頂上部よりも上側」は,臀\部が最 も後方に突き出している位置(最も高い位置)よりも,上方であれば, それが多少の上方であっても,「臀部の頂上部よりも上側」に含まれる\nものと解される。
イ これに対し原告は,本願明細書の記載(【0010】,【0013】等) によれば,相違点1に係る本願発明1の構成は,下方窄まりにする領域の\n開始位置(臀部の形状と不整合にする領域の開始位置)を「臀\部の頂上部 よりも上側」に設定(相違点1に係る本願発明1の構成)し,この設定に\nより,生地が「臀部の頂上部」に対して「下方窄まり」の形状で接するこ\nとになるため,「臀部の頂上部」を押圧する力には上向きの成分(上向き\nのベクトル)が含まれることになり,これが臀部の頂上部をも上方に持ち\n上げる作用を果たすので,「ショーツ等衣料のヒップ下部該当部位周りを ヒップ下部体形にフィットすべく絞ることができ」,「背面覆い部分の下 部がヒップ下部の膨らみ体形にぴったり合って該下半分を絞り込むように 深く包み込むことができる」という作用効果を奏する旨主張する。 しかしながら,前記ア認定のとおり,本願明細書の【0010】及び【0 013】の記載は,「下方窄まり」の状態に設定した構成によれば,ヒッ\nプ下部体形の半球形状の下半分を深く立体的に包み込むことができるので, ヒップ下部へのフィット性に優れ,ヒップ裾ラインのずり上がりを確実に 防止できるとともに,直立姿勢時にショーツ等衣料のヒップ下部や臀溝部\nに相当する個所に弛み皺やだぶつきが発生することが無くなり,美しいヒ ップ裾ラインを出すことことができるという効果を奏する旨を開示するも のであるが,本願明細書には,この効果が「下方窄まり」の状態の設定の 開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」としたことによるもので\nあることについての記載はない。
また,前記ア認定のとおり,本願明細書には,本願発明1の「臀部の頂\n上部よりも上側」の具体的な位置を示した記載はないし,「下方窄まり」 の状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とするこ\nとの技術的意義について述べた記載もない。ましてや,「下方窄まり」の 状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とすること\nによって,生地が「臀部の頂上部」に対して「下方窄まり」の形状で接す\nることになるため,「臀部の頂上部」を押圧する力には上向きの成分(上\n向きのベクトル)が含まれることになり,これが臀部の頂上部をも上方に\n持ち上げる作用を果たすことについては,記載も示唆もない。 したがって,原告の上記主張は,本願明細書の記載に基づかないもので あるから,採用することができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(ワ)11462  商標権侵害行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和2年7月29日  東京地方裁判所

 スニーカーの側面に付与されている「X」について商標権侵害が認められました。販売時における38条2項損害について、約460万円が認められました。商標的使用も論点となっています。

◆イ号および本件商標


 原告各商標と被告各標章の外観を比較すると,上記のとおり,それぞれ1)英 文字の「X」型十字が左側(反時計回り方向)に傾いた形で組み合わされた2本の帯からなり,2)帯状線の輪郭が鋸歯状であるという点において共通しており,被告 各標章の外観は,原告各商標の外観と,その識別力の強い部分において共通する特 徴を有しているといえる。 他方で,被告各標章は,3)右上から左下に伸びる帯が左上から右下に伸びる帯の 上に重なっており,4)各帯の輪郭線に沿って,その内側にステッチがそれぞれ2本 施されているとの点で原告各商標とは異なる特徴を有しているが,同色の帯の重な りであって,ステッチも輪郭線の近くに施されているものであるから,いずれも一 見して目立つ特徴であるとまではいえない。また,被告各標章の色彩についても, 商品識別力の強い点とはいえない。 被告は,その他に別紙4被告が主張する原告各商標と被告各標章の外観相違点の とおり,原告各商標と被告各標章との間に,中心点から右下及び左下に伸びる部分 の長さの比,2つの帯のなす角度,帯の端部の形状,帯の太さ等において,相違点 があると主張するが,いずれも,上記1),2)の共通点を前提にすれば,需要者に対 して原告各商標と異なる印象を与えるようなものであるとまではいえない。 これらの争点について,被告は,靴という商品の性質や,被告商品の価格帯・販 売場所からすれば,需要者はそのデザインを細部まで入念に検討する等として,「X」 型十字の標章の細部に相違点がある場合には外観上類似性がないと判断されるべきと主張するが,上記に説示した内容に照らせば,この主張は採用することができな\nい。 したがって,被告各標章は,いずれも,原告各商標とその外観において類似する というべきである。
イ 前記(2)及び(3)のとおり,原告各商標と被告各標章は,いずれも特定の称 呼・観念が生じるものではなく,これらが著しく相違するとは認められない。 また,本件証拠上,原告各商標と被告各標章につき,上記の外観の類似性にかか わらず,商品の出所を誤認混同するおそれがないとするような取引の実情等がある とも認められない。被告商品の価格帯・販売場所などの被告の指摘する前記事情に ついて,商品の出所の誤認混同の有無を判断する上で考慮すべき取引の実情として 検討しても,本件について,上記判断を左右するとはいえない。
ウ したがって,被告各標章は,いずれも,原告各商標とそれぞれ類似するとい うべきである。
2 争点2(非商標的使用(商標法26条1項6号)該当性)について
(1) 被告各標章は,別紙2被告標章目録のとおりであり,前記第2の2(3)イで 示したとおり,いずれも靴の甲の側面において,側方から見て概ね中央の位置に付 されている。 上記の位置は,靴の外観において特に目立つ部分ということができ,証拠(乙1, 2,4,5,6,7,12)によれば,靴において,当該部分に商標を付すことは 一般的に行われていることが認められる。また,証拠(甲26,27)及び弁論の 全趣旨によれば,被告商品を製造したミュニック社においては,スニーカー様の靴 の側面の中央の位置に傾いた「X」型十字を表\\示した平面図状の標章について国際 商標登録をしていたことも認められる。 そうすると,上記の位置に目立つ大きさで付されている被告各標章については, 商品識別機能を果たすものとして使用されていると認めるのが相当である。
(2) 被告は,被告商品においては,被告各標章の他にも,ミュニック社が商標登 録した別の標章の一部が,商品そのもの,包装箱及びタグに記されており,被告各 標章は単なるデザインとして使用されているにすぎない等と主張するが,他の登録 商標が付されていることによって,当然に被告各標章が商品識別機能を有しないということはできない上,証拠(乙13)によっても,被告商品に付されている他の\n登録商標(乙14)は,その位置や大きさからして被告各標章よりも際だって目立 つものであるとは認められず,そうであれば,被告商品に付されている他の登録商 標の使用は,被告各標章が商品識別機能を果たすものとして使用されている旨の前記判断を左右するものではなく,被告の上記主張は採用することができない。また,\nミュニック社商品において,被告各標章を使用していないスニーカーがあること (乙15,16)によっても,被告商品に付された被告各標章に出所識別機能がないということはできない。\n被告は,ミュニック社以外の靴について,「X」型十字が単なるデザインとして付されているものがあると主張するが,証拠(乙1)によれば,被告が他の靴に付さ\nれていると指摘する「X」型十字は,その形状や位置において,被告各標章とは大きく異なるものであり,この点の指摘も上記(1)の結論を左右するものとはいえない。
(3) 以上によれば,被告商品に付された被告各標章が,需要者が何人かの業務に 係る商品である認識することができる態様により使用されていない商標(商 標法26条1項6号)に該当するとはいえない。
3 商標権侵害の有無についてのまとめ
以上によれば,被告商品は原告各商標権の指定商品に含まれるところ,被告各標 章はいずれも原告各商標とそれぞれ類似し,被告各標章の使用について商標法26 条1項6号によって原告各商標権の効力が及ばないとはいえないから,被告が,被 告各標章を付した被告商品を輸入し,販売することは,原告各商標権を侵害するも のとみなされる(商標法37条1項1号)。
4 争点3(原告の損害)について
(1) 商標法38条2項の適用の有無について
被告は,原告は対象期間のうち,少なくとも平成27年10月25日までの期間 については,原告各商標を使用したスニーカーを販売していなかったとして,同期 間の損害については,商標法38条2項は適用されないと主張する。 しかしながら,証拠(甲183)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,対象期間 を通じて,英文字の「X」型十字が左側(反時計回り方向)に傾いた形で組み合わされた2本の帯状線からなり,帯状線の輪郭が鋸歯状であるという特徴を持つ,原\n告各商標と同一又は類似する標章を甲の側面部分に付したスニーカーを販売してい たものと認められる。 このように対象期間において原告が被告商品と競合する商品を販売していたこと からすれば,原告には,被告による被告商品の輸入販売行為がなかったならば利益 が得られたであろうという事情が存在すると認められ,対象期間中の原告の損害額 の算定については商標法38条2項の適用があるというべきである。
(2) 被告が侵害の行為により受けた利益について
ア 利益の意義
被告商品の輸入販売について,商標法38条2項所定の侵害行為により被告が受 けた利益の額は,被告商品の売上高から,被告において被告商品を輸入販売するこ とによりその輸入販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利 益の額である。
イ 事実認定
前記の前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告商品の輸入販売状 況及び売上高,経費等について,以下の事実が認められる。
(ア) 被告商品を含むミュニック社商品の輸入及び販売
被告は,遅くとも平成26年2月3日以降,被告商品を含むミュニック社商品を, ベルネダ社から輸入し,靴流通問屋や百貨店等に卸売していた(乙19,25,2 6)。 被告における対象期間中のミュニック社商品全体の販売額は,総額●(省略)● 円であった(乙20,21)。
(イ) 被告によるミュニック社商品の費用に関する管理
被告は,平成26年11月1日にミュニック社商品のみを扱うミュニック事業部 を設立し,同日以降はミュニック事業部において輸入販売の管理を行っていた。被 告は,ミュニック社商品について,同事業部の設立の前後を通じて商品別又は品番 別の経費の管理はしていなかった(乙19)。
(ウ) 被告商品の販売数量
被告商品については,別紙3被告商品販売一覧表記載のとおり,被告各標章のうち「標章番号」欄記載の番号の標章が付された「商品名」,「品番」欄記載の商品名,品番を有するスニーカーを,それぞれ同別紙記載の数量輸入していた(弁論の全趣\n旨)。 また,平成29年4月7日時点の被告商品の在庫は別紙3被告商品販売一覧表の「在庫数量(4/7)」欄の記載のとおりであり(合計●(省略)●足),この在庫\nとは別に,被告は,同年9月ころに,輸入した被告商品のうち同別紙の「2017 /9/15返品」との記載の下に記載された数量(合計●(省略)●足)を仕入先 に返品した。 そうすると,対象期間中の被告商品の販売数は,輸入数量から上記の在庫数量及 び返品数量を控除した同別紙の「販売数量」欄記載の数量(その合計は●(省略) ●足)である(弁論の全趣旨)。
(エ) 被告商品の販売価格
被告商品それぞれの消費者への販売価格については,別紙3被告商品販売一覧表の「上代」価格のとおりである(被告商品の消費者への販売価格が1万5000円\nないし2万1000円程度であったとの当事者間に争いのない事実,弁論の全趣旨)。 そして,被告は,被告商品を靴流通卸問屋や百貨店に,上記の「上代」価格に別 紙3被告商品販売一覧表の「掛率」欄記載の割合を乗じた「販売価格」欄記載の価格で販売していた(乙19,25,26,弁論の全趣旨)。\n
(オ) 被告商品の仕入額
被告商品の1個当たりの仕入価格は別紙3被告商品販売一覧表の「輸入平均単価」欄に記載の金額であり,前記(ウ)の被告商品の販売数に対応する仕入額は同別紙の 「仕入額」欄記載のとおりとなり,合計額は●(省略)●円である(弁論の全趣旨)。 (カ) 諸掛(外注費)について 被告は,対象期間中に,ミュニック社商品の輸入販売に関して,被告での会計処 理において「諸掛(外注費)」の勘定科目において,「加工料」,「運賃」,「付属代」, 「関税」と「雑費」に分類した費用を次のとおり支出し,その合計は●(省略)● 円である(乙19,53,93,弁論の全趣旨)。
a 加工料について
加工料に分類された費用は●(省略)●円であり,これは主に輸入したミュニッ ク社商品を販売するための納品,入出庫,梱包等の作業のために被告が支払った費 用である(乙53,79,93,弁論の全趣旨)。このうち,商品値引き費用につい ては,ミュニック社商品を百貨店が値引販売した際に,被告が値引額を負担したも のである(乙19,弁論の全趣旨)。
b 運賃について
運賃に分類された費用の合計額は●(省略)●円であり,これは主に輸入の際の 運送費,海上運賃,航空運賃等として被告が支払った費用である(乙53,81〜 85,93,弁論の全趣旨)。 また,このうちTQ使用料については,革製品の輸入の際にその数量に応じて必 要となるものである(乙85,弁論の全趣旨)。
c 付属代について
付属代に分類された費用の合計額は●(省略)●円であり,これはミュニック社 商品の販売に当たって被告が付していたタグや袋等の購入費用である(乙53,8 0,93,弁論の全趣旨)。
d 関税について
関税に分類された費用の合計額は●(省略)●円であり,これはミュニック社商 品の輸入の際に支払った関税である(乙53,81〜83,86,87,93,弁 論の全趣旨)。
e 雑費について
雑費に分類された費用の合計額は●(省略)●円であり,これは,主にミュニッ ク社商品の輸入手続を依頼した業者に支払った通関料や手数料(取扱料)等の費用, 前記c及びdに計上されなかったTQ使用料や袋代,ミュニック社商品に付した輸 入保険料である(乙53,81,86〜88,93,弁論の全趣旨)。
(キ) 広告費について
被告は,対象期間中に,「広告費」の勘定科目において,ミュニック社商品の宣伝 のためのダイレクトメール作成費用,展示会や百貨店での催事に要した費用として 合計●(省略)●円を支出した(乙19,22〜24,54,63〜72,94, 弁論の全趣旨)。このうち,被告商品の写真のみを大きく扱ったダイレクトメールが 作成されていたことがある(乙22)。
(ク) 運賃について
被告は,対象期間中に,ミュニック社商品に関し,「運賃」の勘定科目において, 運送費,倉庫における入庫・梱包等に係る倉庫費用・出荷作業料,検品検査代その 他の国内での運送及び保管の費用として●(省略)●円の出費をした(乙19,5 5,89〜92,95,弁論の全趣旨)。
(ケ) 販売手数料について
被告は,対象期間中に,「販売手数料」の勘定科目において,ミュニック社商品の 販売に関して販売業務及び営業業務を委託した業務委託費用として,合計●(省略) ●円を支出した(乙56,96,弁論の全趣旨)。また,被告はミュニック社商品の 販売活動等に関してAとの間で業務委託契約を締結していた(乙27,弁論の全趣 旨)。
(コ) 荷造包装費について
被告は,対象期間中に,「荷造包装費」の勘定科目において,段ボール代,梱包テ ープ等のミュニック社商品の梱包資材費用として●(省略)●円の上記支出をした (乙57,97,弁論の全趣旨)。
(サ) 保険料について
被告は,対象期間中に,「保険料」の勘定科目において,ミュニック社商品の販売 に関して,火災保険料,損害保険料及び輸入保険料(ただし前記(カ)eで計上されな かったもの)として合計●(省略)●円を支出し,また,海外出張の際の傷害保険 料として●(省略)●円を支出した(乙19,58,98,弁論の全趣旨)。 このうち,火災保険料,損害保険料,輸入保険料として支出された合計●(省略) ●円については,毎回の保険料が定額でなく,補助元帳上,摘要欄に対象となる商 品数が記載されているものがある(乙58)。
(シ) 旅費交通費について
被告は,対象期間中に,「旅費交通費」の勘定科目において,ミュニック社商品の 営業等に要した交通費,国内出張費及び海外出張費として合計●(省略)●円を支 出した(乙59,99,弁論の全趣旨)。
(ス) 見本費について
被告は,対象期間中に,「見本費」の勘定科目において,ミュニック社商品販売の ためのサンプル購入費用や,スニーカーに関する書籍の購入費用として合計●(省 略)●円を支出した(乙60,100,弁論の全趣旨)。
(セ) 雑損失について
被告は,対象期間中に,「雑損失」の勘定科目において,為替予約を解約した際に発生した費用として,「為替予\約解約損」●(省略)●円を計上している(乙61,弁論の全趣旨)。
(ソ) 特別損失について
被告は,対象期間中に,「特別損失」の勘定科目において,ミュニック社商品を販 売していた恵比寿三越伊勢丹に支払った費用(広告費用,撤退費用,撤退違約金, B氏特別退職金)合計●(省略)●円を「恵比寿店舗撤退違約金」,「恵比寿店舗費 用等」,「恵比寿店舗撤退費用」及び「特別退職金」として計上している(乙32, 弁論の全趣旨)。
ウ 事実認定の補足
(ア) 輸入数量について,原告は,被告から,被告各標章が付された商品のインボ イスとして,被告商品の品番についてマスキングをした上で開示を受けたものの, 開示資料に裏付けられる前記イ(ウ)認定の数量以外にも,被告商品の輸入数量がある 旨を主張するが,原告が被告商品に関するインボイス等を対象として行った文書提 出命令の申立ては,後記5のとおり必要性がなく,その他,原告の主張を認めるに足りる証拠はない。\nまた,被告標章19を付した商品については,原告がその商品の商品名及び品番 として特定する「MASSANA」及び「862015」と,被告標章3の2を付 した商品の商品名及び品番とが同一であり,外観も,被告標章3の2を付した商品 とソールの色を除いて類似していると認められる(甲11,198,弁論の全趣旨)踏まえると,被告標章3の2を付した商品の輸入に関して被告から原告に開\n示され,それに沿うものとして認められる前記イ(ウ)の数量とは別に,輸入された事 実やその数量はないと考えることが自然であって,これを認めるに足りる証拠はな い。
(イ) 前記イ(カ)ないし(ソ)認定の費用を超えて,ミュニック社商品に関する費用を 認めるに足りる証拠はない。
エ 検討
前記イの認定事実を基に,限界利益の額を検討する。
(ア) 被告商品の売上高
前記イ(ウ)及び(エ)によれば,対象期間における被告商品の売上高は,別紙3被告 商品販売一覧表の「売上高」欄のとおりであり,合計●(省略)●円である。
(イ) 売上高から控除すべき経費
a 売上高から控除すべき経費として,まず,被告商品の仕入額があり,前記イ (オ)のとおり,●(省略)●円である。
b その他,売上高から控除すべき経費としては,前記イ(カ)の外注費,前記イ (キ)の広告費,前記イ(ク)の運賃,前記イ(コ)の荷造包装費及び前記イ(サ)の保険料 (傷害保険料を除く。)のうち,それぞれ被告商品に係る部分が,前記認定した各費 用の性質上,被告商品の輸入販売に直接関連して追加的に必要となったものとして, 該当すると認められる。そして,前記イ(イ)のとおり,被告は,ミュニック社商品の 経費について商品別又は品番別に管理しておらず,上記各費用の被告商品に係る部 分を直接的に示す資料はないことから,ミュニック社商品の販売総額に占める被告 商品の割合,被告商品の輸入数量に占める販売数量の割合などを考慮して,被告商 品に係る費用の額を算出するのが相当であり,これは,次のとおり,合計●(省略) ●円であると認められる。
(a) 外注費については,対象期間中の被告におけるミュニック社商品全体の販売 総額●(省略)●円に占める被告商品の販売総額●(省略)●円の割合(以下,こ の割合を「被告商品の販売総額の割合」ともいう。)が約●(省略)●%であること, 被告商品の輸入数量●(省略)●足のうち対象期間中に販売された数量●(省略) ●足の占める割合が約●(省略)●%である踏まえ,被告商品に係る費用の 額は,全体の●(省略)●円の15%に当たる●(省略)●円と認められる。
(b) 広告費については,上記の被告商品の販売総額の割合が約●(省略)●%で あることに加え,ミュニック社商品の広告宣伝活動の中で,被告商品が取り上げら れた程度や被告商品の広告宣伝のみに要した額を確定し得る証拠はない考慮 し,被告商品に係る費用の額は,全体の●(省略)●円の15%に当たる●(省略) ●円と認められる。
(c) 運賃については,前記(a)において考慮したものと同様の事情のほか,輸入 に要した費用の場合と比較して,国内の運送保管費の場合には,販売されなかった 商品に係る費用の占める割合が少ないと考えられることも考慮し,被告商品に係る 費用の額は,全体の●(省略)●円の20%に当たる●(省略)●円と認められる。
(d) 荷造包装費については,前記(c)において考慮したものと同様の事情を考慮 し,全体の●(省略)●円の20%に当たる●(省略)●円と認められる。
(e) 保険料のうち,火災保険料,損害保険料,輸入保険料として支出された● (省略)●円については,前記イ(サ)において認定した,毎回の保険料が定額でない ことや対象となる商品数の記載が帳簿に示されていることなどの事情を踏まえれば, 輸入販売数量によって変動するものとして控除すべき経費と考えられ,被告商品に 係る費用の額は,前記(a)において考慮したものと同様の事情を考慮し,上記金額の 15%に当たる●(省略)●円と認められる。
c その他の費用については,次のとおり,被告商品の輸入販売に直接関連して 追加的に必要となった経費とはいえず,売上高から控除すべき経費には当たらない。
(a) 前記イ(ケ)の販売手数料は,百貨店のミュニック社商品の売り場へのミュニ ック社商品販売員派遣に関する人件費や交通費といった費用(乙78,弁論の全趣 旨),ミュニック社商品の販売活動等に関する業務委託先への報酬額(乙27,弁論 の全趣旨)であるが,これらの費用と被告商品の販売との関連性などは明らかでは なく,いずれも,被告商品の輸入販売に直接関連する経費とはいえない。
(b) 前記イ(サ)の保険料のうち,前記b(e)でその一部を控除すべき経費と認めた 火災保険料等を除くもの,すなわち傷害保険料は,海外出張費に付随する費用であ り,後記(c)のとおり,海外出張費は控除すべき経費に該当しないことからすれば, 同様に控除すべき経費には該当しないものというべきである。 (c) 前記イ(シ)の旅費交通費のうち,交通費及び国内出張費は,その支出と被告 商品の販売との関連性について具体的な主張立証はなく,控除すべき経費には該当 しない。海外出張費については,被告が提出する出張報告書等(乙28)によって も,これらの海外出張が特に被告商品の輸入販売のために必要となった認め るに足りず,被告商品の輸入販売に直接関連して追加的に必要となった経費とはい えない。
(d) 前記イ(ス)の見本費については,サンプル商品や書籍の購入が被告商品に関 するものであることの具体的な主張立証はなく,被告商品の輸入販売に直接関連す る経費とはいえない。
(e) 前記イ(セ)の雑損失は,為替予約を解約した際に発生した費用であり,その性質からしても,被告商品の輸入販売に直接関連する経費とはいえない。\n
(f) 前記イ(ソ)の特別損失のうち,恵比寿三越伊勢丹に支払った撤退違約金,撤 退費用,営業担当者の特別退職金については,販売不振からミュニック社商品の恵 比寿三越伊勢丹での販売を終了したことによって発生したものにすぎないし,恵比 寿店舗費用等についてはこの発生原因や被告商品との関連性について具体的な裏付 けはないのであって,いずれも,被告商品の輸入販売に直接関連する経費とはいえ ない。
(ウ) 限界利益の額
以上によれば,対象期間における被告商品の輸入販売により,被告が受けた限界 利益の額は,前記(ア)の被告商品の売上高●(省略)●円から,前記(イ)aの被告商 品の仕入額●(省略)●円及び同bのその他の控除すべき経費●(省略)●円を控 除した583万0211円である。
(3) 推定覆滅事由について
ア 証拠(甲68〜77,183〜186)及び弁論の全趣旨によれば,原告は, 自社の商品を,主に靴の量販店やインターネット上の通信販売サイトを通じて販売 し,その小売価格は2000円から6000円程度の商品が中心であり,原告が, 対象期間中に原告各商標と同一ないし類似する商標を付したスニーカー(甲183) を販売した際の売上げは一足当たり3000円程度であったと認められる。 他方で,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品は主に百貨店等の 店頭で販売されたものであり,別紙3被告商品販売一覧表記載のとおり,その小売価格は1万5000円から2万1000円,被告が百貨店等に販売する際の卸売価\n格は●(省略)●円から●(省略)●円であったと認められる。 被告商品の販売による一足平均の限界利益は前記(2)エ(ウ)で認定した583万0 211円を,前記(2)イ(ウ)で認定した販売数量である●(省略)●足で除した● (省略)●円であり,原告が販売した競合品の一足当たりの限界利益を裏付ける証 拠はないが,上記の原告が販売した競合品の価格自体や,被告商品における一足当 たりの売上額が原告による競合品よりも大幅に高かったことからすれば,販売され た商品一足当たりの限界利益についても,被告商品の方が原告の商品よりも大きか ったものと推認される。 このような販売態様や販売価格の違い及び一足当たりの限界利益の違いは,被告 の限界利益額の一部について,商標法38条2項の推定を覆滅すべき事情として考 慮すべきである。
イ 他方で,被告が主張するその他の事情については,以下のとおり,いずれも 商標法38条2項の推定覆滅事情として考慮すべき事情とはいえない。
(ア) 原告が原告各商標を使用しない商品を販売していたことについて 被告は,原告が販売していた商品の多くには,原告各商標と同一又は類似の標章 が付されておらず,被告商品の販売によって,原告の売上げが減少したという関係 にないと主張する。 原告は,原告各商標と同一又は類似する標章を使用したスニーカーを販売してお り,被告による被告商品の輸入販売行為がなかったならば利益が得られたであろう という事情が原告に認められることは前記(1)のとおりであり,原告が上記のスニー カー以外に原告各商標と類似する標章が付されていない靴を販売していたとの事情 は,損害額の推定を覆滅すべき事情に当たるとも認められない。
(イ) 競合品の存在について
被告は,側面に「X」型十字が付された大人用スニーカーは,被告商品の他にも市場に多数存在していると主張するが,証拠(乙1)によれば,被告が他のスニー\nカーに付されていると指摘する「X」型十字は,その形状が被告各標章や原告各商標とは大きく異なるものであり,その他,原告各商標と同一又は類似の標章が付さ\nれた原告又は被告以外によるスニーカーの存在とそのシェアについての具体的な主 張立証はないから,この点も損害額の推定を覆滅すべき事情には当たらない。
(ウ) 被告の営業努力,ブランド力の差等について
被告は,被告商品を販売するための営業努力,原告と被告とのブランド力の差, 原告各商標の訴求力の程度等からすれば,原告各商標の被告商品の売上げへの寄与 率は著しく低いとも主張するが,被告が作成した展示会の資料においてもミュニッ ク社商品については「2014年日本デビュー」との記載がされており,被告が前 記(2)イ(キ)のように被告が広告宣伝活動を行った考慮しても,対象期間中に おける日本においてのブランドの知名度の程度を裏付ける証拠はなく,他方で,証 拠(甲170〜176,180〜182)及び弁論の全趣旨によれば,原告各商標 に関する販売,広告宣伝状況については,平成14年頃から原告各商標と同一又は 類似の標章が付されたスニーカーが原告が許諾した業者によって販売されており, 有名歌手がこれを着用した雑誌広告が掲載されたこともあったとの事情も認められ, これらの点からすれば,上記の被告の主張する各点をもって,推定覆滅事情に当た るとは認められない。
ウ 前記ア及びイで検討した事情によれば,被告商品の輸入販売による原告の損 害については,商標法38条2項の推定を覆滅すべき事情が認められ,その覆滅割 合は2割と認めるのが相当である。
(4) 損害額についてのまとめ 以上によれば,被告商品の輸入販売による原告各商標権侵害について,商標法3 8条2項に基づく原告の損害額は,被告の限界利益である583万0211円の8 割に相当する466万4168円であると認められる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 商標の使用
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(ワ)35157  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月24日  東京地方裁判所

 少し前の事件です。 損害額の算定について、2件の特許侵害があり、102条2項による額はいずれかの特許の侵害による損害額であると判断されました。

 しかして,前記第2のとおり,原告は,特許第5177317号(本件特 許権1)に基づく請求と,同第5610056号(本件特許権2)に基づく 請求をするところ,両請求の関係は,選択的併合の関係にあるものと解され る。そして,原告は,いずれの請求についても,損害額として,特許法10 2条2項により算定される損害額,弁護士費用相当額及びこれらに対する遅 延損害金を主張するものであるから,仮に本件特許権2の侵害が認められる 場合であっても,本件特許権1の侵害により算定される損害額と,本件特許 権2の侵害により算定される損害額とは,同一の額となるというべきである。 そうすると,本件特許権1の侵害による損害額の算定を行ったものが,原 告の請求の一部認容となる場合も,上記損害額が,仮に被告らの輸入販売等 の行為が本件特許権2を侵害するものであった場合の同侵害による損害額を 下回るものとは認められないものと考えられるから,本件特許権2の侵害や 損害額について判断するまでもなく,本件特許権1の侵害による損害額を, 原告の被った損害としてそのまま認容すべきこととなる。 そこで,原告の損害額として,本件特許権1の侵害による損害額について 検討する。
特許法102条2項により算定される損害額
ア 前記前提条件(4)(5)のとおり ,被告LEDは被告製品に搭載されて販 売されたものであるところ,被告LEDの主な用途は写真撮影時のフラッ シュライトであるが,被告らが販売している被告製品以外の機種にはかか るフラッシュライトの性能を特長にしたスマートフォンもあること(甲5),被告製品はデザインを重視し,機能\をシンプルなものにした製品として紹介・宣伝されており,被告製品の紹介や宣伝の中ではLEDライト の性能等について一切触れられておらず,被告製品の基本スペックとしてもLEDライトは挙げられていないこと(甲5,6の1,7)などの各事\n実がそれぞれ認められる。これらによれば,被告LEDについては,被告 製品の主要な特長として位置付けられているとは認められず,このような 被告LEDにつき被告製品の主要部として特に強い顧客吸引力があるとい うことは困難というべきである。 そして,前記前提条件(4)のとおり被告製品の販売による利益額は、被 告HTCについては●(省略)●円,被告兼松については●(省略)●円 であるところ,被告製品の市場想定価格は●(省略)●円(税別)である こと(甲7),被告製品自体の製造コストは明らかでないものの,被告製 品が発売された平成27年10月時点で既に販売されていた他のメーカー のスマートフォンについては,利益率は60%前後であるとされているこ と(乙52),他方,HTC台湾に被告製品を納入したメーカーが被告L EDを仕入れた価格は1個●(省略)●米ドルであったこと(乙47)が それぞれ認められる。
これらの事実からすれば,被告製品の製造コストは約●(省略)●円 (≒●(省略)●円×〔1−0.6〕)となり,これを被告製品が発売さ れた平成27年10月の平均の為替レート120.16円/米ドルで換算 すると,約●(省略)●米ドル(≒●(省略)●円÷120.16円/米 ドル)となるから,被告製品の製造コストに占める被告LEDの仕入価格 の割合は,約●(省略)●%(≒●(省略)●×100)となる。なお, 証拠(甲50)によると,50種類の単色LEDが1個約700円ないし 900円でインターネット販売されていることが認められるが,これらの 単色LEDは,砲弾型のものや複数のLEDチップが実装されたものであ るなど,被告LEDと同じ構成のものであるか明らかでないから,損害額を算定するに当たって事情として考慮するのは相当とはいえない。\n以上を総合すれば,被告LEDの販売による利益額は,被告HTCにつ いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%),被告兼松につ いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%)と認めるのが相 当である。
イ これに対し,原告は,被告製品1台当たりにおける被告LEDによる利 益額は100円を下回らない旨主張する。 しかしながら,前記前提条件(4)によれば 被告製品の販売による利益額 は,被告HTCについては1台当たり約●(省略)●円(≒●(省略)● 円÷●(省略)●台),被告兼松については1台当たり約●(省略)●円 (≒●(省略)●円÷●(省略)●台)となるところ,被告LEDによる 利益額を1台当たり100円とすれば,その割合は,前者との関係では約 ●(省略)●%,後者との関係では約●(省略)●%となるのであって, 上記アに説示した被告製品における被告LEDの位置付けや顧客誘引力に 照らすと,いずれの割合も相当とは認め難いから,原告の上記主張は採用 できない。
ウ 以上によれば,被告HTCに対する特許法102条2項による損害金の 額は,●(省略)●円と,被告兼松に対する特許法102条2項による損 害金の額は,●(省略)●円とそれぞれ認められる。
・・・
(3) 推定覆滅事由について
ア 証拠(甲68〜77,183〜186)及び弁論の全趣旨によれば,原告は, 自社の商品を,主に靴の量販店やインターネット上の通信販売サイトを通じて販売 し,その小売価格は2000円から6000円程度の商品が中心であり,原告が, 対象期間中に原告各商標と同一ないし類似する商標を付したスニーカー(甲183) を販売した際の売上げは一足当たり3000円程度であったと認められる。 他方で,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品は主に百貨店等の 店頭で販売されたものであり,別紙3被告商品販売一覧表記載のとおり,その小売\n価格は1万5000円から2万1000円,被告が百貨店等に販売する際の卸売価 格は●(省略)●円から●(省略)●円であったと認められる。 被告商品の販売による一足平均の限界利益は前記(2)エ(ウ)で認定した583万0 211円を,前記(2)イ(ウ)で認定した販売数量である●(省略)●足で除した● (省略)●円であり,原告が販売した競合品の一足当たりの限界利益を裏付ける証 拠はないが,上記の原告が販売した競合品の価格自体や,被告商品における一足当 たりの売上額が原告による競合品よりも大幅に高かったことからすれば,販売され た商品一足当たりの限界利益についても,被告商品の方が原告の商品よりも大きか ったものと推認される。 このような販売態様や販売価格の違い及び一足当たりの限界利益の違いは,被告 の限界利益額の一部について,商標法38条2項の推定を覆滅すべき事情として考 慮すべきである。
イ 他方で,被告が主張するその他の事情については,以下のとおり,いずれも 商標法38条2項の推定覆滅事情として考慮すべき事情とはいえない。 (ア) 原告が原告各商標を使用しない商品を販売していたことについて 被告は,原告が販売していた商品の多くには,原告各商標と同一又は類似の標章 が付されておらず,被告商品の販売によって,原告の売上げが減少したという関係 にないと主張する。
原告は,原告各商標と同一又は類似する標章を使用したスニーカーを販売してお り,被告による被告商品の輸入販売行為がなかったならば利益が得られたであろう という事情が原告に認められることは前記(1)のとおりであり,原告が上記のスニー カー以外に原告各商標と類似する標章が付されていない靴を販売していたとの事情 は,損害額の推定を覆滅すべき事情に当たるとも認められない。

◆判決本文

◆イ号および本件商標

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10034  不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和2年11月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 「協同組合ビジネスサポート」に対して、「ビジネスサポート協同組合」が不競法2条1項1号による差止を求めました。知財高裁(2部)は、1審と同様に、周知要件を満たさないと判断しました。

2 争点1(控訴人表示が,控訴人の商品等表\示として需要者の間に広く認識 されているか)について
(1)ア 前記1のとおり,控訴人は,中小企業等協同組合法に基づいて設立さ れた事業協同組合であり,その組合員の資格は,前記1(1)アで認定した控訴人の 地区内の中小規模の事業者に限られ,一方,被控訴人も中小企業等協同組合法に基 づいて設立された事業協同組合であり,その組合員の資格は,前記1(2)で認定し た被控訴人の地区内の中小規模の事業者に限られる。 また,控訴人の事業内容は,前記1(1)アのとおり,高速道路割引ETCカード 事業,各種備品や消耗品,車両燃料等の共同購買事業,外国人実習生受入事業等で あるから,控訴人に加入する可能性のある事業者は,これらの事業に関心のある事\n業者であると認められ,一方,被控訴人の事業は,前記1(2)のとおり,高速道路 割引ETCカード事業,車両燃料等の共同購買事業,情報提供事業等であるから, 被控訴人に加入する可能性のある事業者は,これらの事業に関心のある事業者であ\nると認められる。 したがって,控訴人に加入する可能性のある事業者のうち被控訴人のそれと重な\nる事業者は,前記1(1)アで認定した控訴人の地区のうち北海道を除く25の都府 県内の中小規模の事業者であると認められる。
イ 不正競争防止法2条1項1号にいう「営業」は,取引社会における事 業活動と評価できるものを指す(最高裁平成17年(受)第575号同18年1月 20日第二小法廷判決・民集60巻1号137頁)ところ,本件においては,控訴 人及び被控訴人が行う上記1(1),(2)の各事業は,上記「営業」ということができ るものである。そして,控訴人の事業の需要者には,控訴人の組合員となって控訴 人の上記1(1)アの事業を行う可能性のある上記アの事業者及び同事業の取引の相\n手方となる可能性のある者を含むというべきであり,その範囲は,かなり広く,被\n控訴人の事業者と重なる範囲もかなり広いということができる。
ウ 前記1(1)アのとおり,控訴人の組合員数は342事業者あるいは2 94事業者であるが,この数は,上記の需要者の範囲からすると極めて僅かなもの であるといえる。また,控訴人の事業に関する取引高等の控訴人の事業規模を示す 証拠は提出されていないが,控訴人の上記の組合員数からすると,その規模も小さ いものと推認される。
また,前記1(1)イのとおり,控訴人が行っている宣伝,広告は,ホームページ の開設,パンフレットの交付によっており,上記の方法のほか,千葉信用金庫及び 商工中金に紹介してもらう方法も用いているが,これら以外の方法で宣伝,広告を していることを認めるに足る的確な証拠はないことからすると,控訴人の宣伝,広 告の規模,程度は極めて小さなものであり,また,その効果も極めて小さいもので あるというべきである。 以上からすると,控訴人が,平成6年3月から,自己の名称として,控訴人表示\n又は「関東ビジネスサポート」の表示を使用していることを考慮しても,控訴人表\ 示が控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されていると認めることはで\nきない。
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,組合員が多種多様な業種で構成されていることから,控訴人\n表示は多様な業界で周知となっていると主張するが,前記1(1)アのとおり,控訴 人の組合員数は342事業者あるいは294事業者であり,この数は多種多様な業 種の事業者の数からすると極めて僅かな数であるから,控訴人表示が多様な業界で\n周知となっているとは認められない。
イ 控訴人は,同業の事業協同組合で構成された互助団体に加入し,中心的\nな活動を行っていること(甲20)から,控訴人表示は周知となっていると主張す\nる。 しかし,控訴人が上記の互助団体においていかなる活動を行っているのか,また, どのような成果を挙げたか等についての証拠はないことを考慮すると,控訴人の上 記主張事実から,控訴人表示が周知となったと認めることはできない。\n
ウ 控訴人は,控訴人表示の需要者は,高速道路を業に伴って頻繁に利用し,\n長距離移動を日常的に行い,利用料金の割引を受けようとする事業者に限定される と主張する。 しかし,控訴人の事業の需要者は,前記(1)イ認定のとおりであって,高速道路 割引ETCカード事業にのみ関心のある事業者だけであると認めることはできない。
エ 控訴人は,商工中金等の金融機関がその顧客に控訴人を紹介していると ころ,このことは,控訴人の信用度が高く,控訴人の名称が浸透していることを示 していると主張する。 しかし,仮に,控訴人の商工中金等に対する信用度が高いとしても,そのことか ら直ちに控訴人表示が周知であると認めることはできず,控訴人の上記主張は理由\nがない。
オ 控訴人は,控訴人と被控訴人との間で混同が生じていると主張し,その 具体例として,1)控訴人の顧客会社に被控訴人から電話勧誘があり,同顧客会社は, 被控訴人を控訴人と勘違いしたこと,2)控訴人の同業の事業協同組合から,その組 合員に控訴人から執拗な電話勧誘があったとの苦情が申し立てられたが,上記の電\n話勧誘は被控訴人によるものであるのに控訴人によるものと勘違いをしていたこと, 3)被控訴人に対する苦情を控訴人に申し立ててきた事業者がいたこと,4)控訴人を 被控訴人であると間違えて,控訴人に電話がかかってきたこと(以上につき,甲 8),5)被控訴人にすべき振込みを間違えて控訴人にしてきたこと(甲32),6)被 控訴人の組合員から,控訴人を被控訴人と間違えて,問合せの電話がかかってきた こと,7)控訴人が依頼している業者が,被控訴人のホームページを控訴人のものと 混同したこと(甲33)などを指摘する。 しかし,5),6)については,被控訴人の取引先や組合員が相手を間違えたという にすぎず,また,1),7)については,控訴人の取引先が相手を間違えたというにす ぎず,いずれも,控訴人表示が周知であることの根拠になるものということはでき\nない。 また,2)〜4)については,これらの事実があるとしても,そのことから,直ちに 控訴人表示の周知性を推認させるということはできない。\nしたがって,控訴人の上記主張は理由がない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和1(ワ)14303
1審は下記のように前置きをして、判断しています。 「法人の名称は,法人の事業又は営業全体を表す点で,個別の商品\nや役務を表す商標と区別されるものであって,当該事業又は営業との関係で\nみて一般的名称といえる性質を有するものもあり得るところ,そのような法 人の名称は,自他識別力を欠くか,自他識別力が極めて弱いものというべき 20 であるから,当該名称の使用の時期が相当程度に長くその浸透度も極めて大 きいことなどから商品等表示該当性を獲得したといえるなどの事情がない限\nり,それが法人の営業等を表示するものとして需要者の間に広く認識される\nに至っているものと認めて周知性を肯定することは,極めて困難といわなけ ればならない。

関連カテゴリー
 >> 周知表示(不競法)
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10137  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月28日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が支持されました。争点は進歩性違反、記載不備、手続き違背です。手続き違反について裁量の範囲を逸脱してないと判断しました。

 原告らは,本件審判において,主引用例である甲1に記載された発明と して「シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤としてヒトに経口投与される,3 00mgのセレコキシブを含む経口投与用カプセル」の発明を主張し,当 事者双方は,発明の目的を発明特定事項に含めることについて議論してい なかったが,審判合議体は,本件審決において,審理の過程で当事者が一 切主張しなかった目的を発明特定事項に含む甲1発明を認定し,この認定 について原告らに反論の機会を与えることなく,本件発明1と甲1発明と の相違点に係る容易想到性の判断をし,甲1発明を主引用例とする進歩性 欠如の無効理由は理由がないと判断したものであり,このような審理は, 原告らにとって不意打ちであり,原告らの手続保障を著しく欠くものであ るから,本件審決には審理不尽の手続違背がある旨主張する。
しかしながら,審判合議体が審決で認定する主引用例記載の引用発明の 内容と請求人の主張する引用発明の内容とが異なる場合において,当事者 対し,事前に審決で認定する引用発明の内容を通知し,これに対する意見 を申し立てる機会を与えるかどうかは,審判合議体の審判指揮の裁量に委\nねられていると解されるから,このような機会を与えなかったからといっ て直ちに審判手続に手続違背の違法があるということはできない。 また,原告らの主張する甲1に記載された発明と本件発明1との相違点 は,本件審決が認定した甲1発明と本件発明1との相違点1−1及び1− 2と異なるものではないから,審判合議体が本件審決認定の甲1発明を引 用発明として認定した上で,本件発明1の進歩性について判断をしたこと が,原告らにとって不意打ちであるとはいえず,上記裁量の範囲を逸脱し たということはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 記載要件
 >> 審判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10126  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月22日  知的財産高等裁判所

 本件特許についての第三次取消訴訟で無効理由無しの審決が取り消されました。第一次、第二次はいずれも、「無効理由無し、審決維持」でした。

 正規状態での施工の利点(上記(2)ア)及び2枚目クランプ状態での施工の 問題点(同イ)にかんがみると,甲1発明において,400mmの場合に2 枚目クランプ状態で施工すると,地盤が硬い場合や鋼矢板が長い場合には施 工不能となるおそれがあるから,正規状態での施工が可能\になるように構成\nすることを当業者は動機付けられるといえる。 ここで,600mm用のチャック装置のままで400mmの鋼矢板を正規 状態で施工すると,チャック装置が大きすぎるために干渉問題が生じる(上 記(2)ウ)。この干渉問題を解決するために,上記(3)の周知事項を適用して, 必要に応じて圧入機に仕様変更を加えつつ,600mm用のチャック装置よ りも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用のチャック装置を備え\nる一体型チャックフレームに交換することにより,あるいは,600mm用 の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm\n用の着脱式チャック装置に交換することにより,400mmの場合でも正規 状態での施工が可能になるように構\成することは,当業者が容易に想到し得 たことといえる。
なお,本件特許の明細書の【0027】には,従来技術の説明として,溶 接事項記載に相当する記載があるが,溶接の工程にはそれなりの手間や費用 を要する上に,溶接した鋼矢板は,その再利用にも支障が生じ得ることなど を踏まえると,鋼矢板の溶接は,あくまでも次善の策にすぎず,当業者とし ては,より抜本的な解決策の採用に向けて動機付けられるであろうことは否 定できない。そうすると,溶接事項記載の存在により,相違点に係る本件発 明1の構成を採用することが阻害されるとはいえない。\n
2 第2次審決(甲7−1)との関係について
なお,甲7の1,2によれば,本件審判手続と第2次審決に係る無効審判手 続とでは,類似の無効理由が主張されていたことが認められるので,第2次審 決との抵触等が問題にならないではないが,同証拠によれば,両者で主張され た無効理由は,主引例が異なる上に,その根拠として提出された証拠にも違い があることが認められるから,本件において,原告が,甲1発明に基づく進歩 性欠如を主張することが,第2次審決の効力に違反するものではないし,また, その主張が既に決着済みの問題を蒸し返すものであって信義則に違反するとま で認めるに足りる証拠もない。

◆判決本文

1次判決はこちら

◆平成28(行ケ)10161

2次判決はこちら

◆平成30(行ケ)10030

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> 裁判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月22日  知的財産高等裁判所(3部)

 無効審判の審理で訂正し、無効理由無しとされましたが、これについては、審決取消訴訟(前訴)で取り消されました。再開した審理で、訂正がなされ、無効理由無しと判断されました。知財高裁は審決を維持しました。争点は新規性・進歩性、サポート要件です。概要は、先行公報に記載された事項については前訴の拘束力化あり、また阻害要因ありと判断されました。

   本件訂正発明1と甲1発明の相違点の認定の誤りについて
 ア 甲1の【0016】には,「図1にホットプレスにより作製したターゲッ トの断面組織写真を示す。これによれば,微細な黒い点(SiO2)が均質 に分布しているのが観察され,・・・以上の結果より,このターゲット組織は SiO2がCo−Cr−Ta合金中に分散した微細混合相からなっている ことがわかった。」との記載があるから,甲1の図1の黒い点はSiO2と 認められる。そして,甲1の図1によれば,SiO2の黒い点は粒子状をな しており,いずれも半径2µmの仮想円よりも小さいと認められる。したが って,甲1の図1のSiO2粒子はいずれも,SiO2粒子内の任意の点を 中心に形成した半径2µmの全ての仮想円よりも小さいと認められ,形状2 の粒子の存在を確認することはできないから,本件訂正発明1が必ず形状 2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否かが 一見して明らかではないと認められる。
前訴判決は,審決を取り消す前提として,甲1発明の図1の全ての粒子 は形状1であると認定しており(甲30,61頁),この点について拘束力 が生じているものと認められ,この点からしても,本件訂正発明1が必ず 形状2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否 かが一見して明らかではないということができる。 そうすると,本件訂正発明1が形状2の粒子を含むのに対し甲1発明に おいて形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでないとの本件審 決の相違点(相違点2)の認定に誤りはないものと認められる。 イ(ア) この点につき,原告は,甲3に記載された再現実験は,甲1の実施 例1の再現実験であり,甲3で確認される非磁性材料粒子の組織は,甲 1の実施例1の組織と同じであるとして,甲3の断面組織写真である図 6の画面右下には形状2の粒子が存在するから(甲47),本件訂正発明 1と同じく,甲1発明にも形状2の粒子が存在するということができ, 形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでない点をもって,本件 訂正発明1と甲1発明の相違点ということはできないと主張する。
(イ) 前記2(2)アのとおり,メカニカルアロイングは,高エネルギー型ボ ールミルを用いて,異種粉末混合物と硬質ボールを密閉容器に挿入し, 機械的エネルギーを与えて,金属,セラミックス,ポリマー中に金属や, セラミックスなどを超微細分散化,混合化,合金化,アモルファス化さ せる手法で,セラミックス粒子を金属マトリクス内に微細に分散させる ことを可能とするものであり,このようなメカニカルアロイングの仕組\nみに照らすと,メカニカルアロイングにおいては,ボールミルのボール の衝突により異種粉末混合物にどのような力が加えられるかにより,生 成物の組織が異なってくるものと認められる。また,甲52に「一般に 粉末のミリング時には衝撃,剪断,摩擦,圧縮あるいはそれらの混合し たきわめて多様な力が作用するがメカニカルアロイングにおいて最も重 要なものはミリング媒体の硬質球の衝突における衝撃力とされている。 衝撃圧縮により粉末粒子は鍛造変形を受け加工硬化し,破砕され薄片化 する。・・・薄片化および新生金属面の形成に加え,新生面の冷間圧接およ びたたみ込みが重なるいわゆる Kneading 効果により,次第に微細に混 じり合い,ついには光学顕微鏡程度では成分の見分けがつかないほどに なってしまう。」(前記2(1)オ)との記載があることからすると,メカニ カルアロイングにおいて最も重要なものはミリング媒体の硬質球の衝突 における衝撃力であると認められる。そうすると,ボールミルのボール の材質や大きさ,ボールミルの回転速度等の条件が異なれば,メカニカ ルアロイングによって得られる粉末の物性は異なり,そのような粉末か ら得られるスパッタリングターゲットの研磨面で観察される組織の形態 も異なると認められる。 そうであるとすれば,少なくともボールミルのボールの材質や大きさ, ボールミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件が明らかにされな ければ,どのような組織の生成物ができるかが明らかにならないものと いうべきである。 そこで本件についてみると,甲1には,甲1発明のスパッタリングタ ーゲットを製造する際の,ボールミルのボールの材質や大きさ,ボール ミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件についての記載はなく, 甲3のメカニカルアロイングの条件が,甲1発明のスパッタリングター ゲットを製造する際のメカニカルアロイングの条件と同じであったとい う根拠はない。そうすると,甲3に記載されたスパッタリングターゲッ トが形状2の粒子を含んでいたとしても,このことのみから,甲1発明 のスパッタリングターゲットも形状2の粒子を含むということはできな い。そして,その他に,甲1発明のスパッタリングターゲットが形状2 の粒子を含むことを認めるに足りる証拠はない。
・・・
(2) 本件訂正発明1〜6の進歩性についての判断の誤りについて
ア 本件訂正発明1と甲1発明の相違点2,本件訂正発明2と甲1発明の相 違点2’の容易想到性について検討する。 甲1発明は,ハードディスク用の酸化物分散型 Co 系合金スパッタリン グターゲット及びその製造方法に関する発明であり(【0001】【産業上 の利用分野】),発明の目的は,保磁力に優れ,媒体ノイズの少ない Co 系合 金磁性膜をスパッタリング法によって形成するために,結晶組織が合金相 とセラミックス相が均質に分散した微細混合相であるスパッタリングタ ーゲット及びその製造方法を提供することにある(【0009】【発明が解 決しようとする課題】)。そして,発明者らは,Co 系合金磁性膜の結晶粒界 に非磁性相を均質に分散させれば,保磁力の向上とノイズの低減が改善さ れた Co 系合金磁性膜が得られることから,そのような磁性膜を得るため には,使用されるスパッタリングターゲットの結晶組織が合金相とセラミ ックス相が均質に分散した微細混合相であればよいことに着目し,セラミ ックス相として酸化物が均質に分散した Co 系合金磁性膜を製造する方法 について研究し,甲1記載の発明を発明した(【0010】【課題を解決す るための手段】)。そして,甲1には,急冷凝固法で作製した Co 系合金粉末 と酸化物とをメカニカルアロイングすると,酸化物が Co 系合金粉末中に 均質に分散した組織を有する複合合金粉末が得られ,この粉末をモールド に入れてホットプレスすると非常に均質な酸化物分散型 Co 系合金ターゲ ットが製造できる(【0013】(課題を解決するための手段))と記載され ており,甲1発明のスパッタリングターゲットは,アトマイズ粉末とSi O2粉末を混合した後メカニカルアロイングを行い,その後のホットプレ スにより製造されたものであり,SiO2が Co−Cr−Ta 合金中に分散した 微細混合相からなる組織を有する(【0015】,【0016】(実施例1))。 他方,メカニカルアロイングについては,本件特許の優先日当時,前記 2(2)記載の技術常識が存在したと認められ,当業者は,甲1発明のスパッ タリングターゲットを製造する際も,原料粉末粒子が圧縮,圧延により扁 平化する段階(第一段階),ニーディングが繰り返され,ラメラ組織が発達 する段階(第二段階),結晶粒が微細化され,酸化物などの分散粒子を含む 場合は,酸化物粒子が取り込まれ,均一微細分散が達成される段階(第三 段階)の三段階で,メカニカルアロイングが進行すること自体は理解して いたものと解される。
そして,メカニカルアロイングが上記第一ないし第三の段階を踏んで進 行することからすると,メカニカルアロイングが途中の段階,例えば,第 二段階では,ラメラ組織が発達し,形状2の粒子も存在するものと考えら れ,甲49(実験成績報告書「甲3の混合過程で形状2の非磁性材料粒子 が存在すること(1)」)及び甲50(実験成績報告書「甲3の混合過程で 形状2の非磁性材料粒子が存在すること(2)」)も,メカニカルアロイン グの途中の段階においては,形状2の粒子が存在することを示している。 しかし,甲1には,形状2のSiO2粒子について,記載も示唆もされて いない。むしろ,本件特許の優先日当時のメカニカルアロイングについて の前記技術常識(前記2(2))に照らすと,メカニカルアロイングは,セラ ミックス粒子等を金属マトリクス内に微細に分散させるための技術であ り,第二段階は進行の過程にとどまり,均一微細分散が達成される第三段 階に至ってメカニカルアロイングが完了すると認識されていたものと推 認されるところであり,前記2(1)の技術文献の記載に照らして,メカニカ ルアロイングをその途中の第二段階で止めることが想定されていたとは 認められない。メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階までで終 了することについて,甲1には何ら記載も示唆もされておらず,その他に, これを示唆するものは認められない。むしろ,甲1には,合金相とセラミ ックス相が均質に分散した微細混合相である結晶組織を得ることが,課題 を解決するための手段として書かれており,セラミックス相が均質に分散 した微細混合相を得るためには,均一微細分散が達成される第三段階まで メカニカルアロイングを進めることが必要であるから,甲1は,メカニカ ルアロイングをその途中の第二段階で止めることを阻害するものと認め られる。
そうすると,当業者は,メカニカルアロイングについて前記2(2)記載の 技術常識を有していたものではあるが,甲1発明のスパッタリングターゲ ットを製造する際に,メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階ま でで終了することにより,SiO2粒子の形状を形状2(形状2’)の粒子 を含むようにすることを動機付けられることはなかったというべきであ る。 したがって,相違点2及び相違点2’に係る事項は,当業者が容易に想 到し得たものとは認められない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> 動機付け
 >> 阻害要因
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)1667  著作権侵害損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年10月23日  東京地方裁判所

 訴外Bからサーバの運営権を購入した会社に対して、カメラマンが写真の著作物の著作権侵害を理由に114万円の損害賠償を求めました。裁判所は、過失は認めたものの、ライセンス料の算定基準に根拠がないとして、14万円の損害賠償を認めました。

 証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,本件サイトには本件各写真を含 め多数の写真が掲載されており,これらの写真は,「写真の著作物」(著作権 法10条1項8号)又はそれに該当し得るものであったと認めることができ る。そして,被告は,本件各写真を含めた写真をインターネット上で公開す る以上,その著作権又は著作者人格権を侵害していないことについて調査, 確認する義務があったといえる。ところが被告は,本件各写真が著作権,著 作者人格権を侵害していないかについて調査,確認をせずに本件各写真をイ ンターネット上に公開して公衆送信等しており,被告には,少なくとも過失 があったといえる。
(2) 被告は,本件サイト売買を行ったウェブサイトには,「買い手は基本的に 著作権に触れているかどうか把握することは難しい」,「一般的には損害賠償 請求等は,サイトを売った人と著作権違反の警告を出した人の間で行われる」 との記載があり,サイト売買の通例では買い手である被告には損害賠償の支 払義務がなく,また,被告が本件サイトを購入した平成28年2月1日時点 で,掲載されている画像は3万8000点以上にも及び,これらの著作権の 有無を確認するのは実質的に不可能であり,被告には調査義務はないと主張\nする。 しかし,他人の写真を利用する場合にはその著作権又は著作者人格権を侵 害する可能性があるから,被告は,本件各写真を公衆送信等する以上,前記\nの調査,確認をする義務があったといえる。被告が指摘する記載等がウェブ サイトにあったことや本件サイトに多数の写真が掲載されていたことなど被 告が指摘する事情によってこのことは左右されず,被告の上記主張は採用す ることはできない。なお,被告が本件サイト売買を行ったウェブサイトには, 「サイト購入時,著作権には注意すること」,「サイトを購入する時あるいは 売却する時もそうですが,著作権が問題となってトラブルになることがあり ます。使用されている文章や画像,イラスト,アイディアが他の人のマネを していることがあります。」などと記載され(乙1),サイト売買の対象とな るウェブサイトには著作権法上の問題があるものが含まれ得ることが明記さ れていた。
3 争点(5)(損害額)について
(1) 公衆送信権侵害について
ア 証拠(甲7)によれば,協同組合日本写真家ユニオン作成の使用料規程 である本件規程は,同組合が管理の委託を受けた写真の著作物の利用にか かわる使用料を定めるものであり,一般利用目的(宣伝広告を目的とせず, 記事と共に,事柄を説明するために写真の著作物を利用する場合)でウェ ブページの最初のページ以降のページに写真を掲載する使用料は,12か 月以内で2万5000円,1年を超える場合の次年度以降の使用料は1年 当たり1万円とされている。 原告は結婚式における写真撮影を業とするカメラマンであり,本件各写 真は,原告が,依頼を受けて結婚式場において撮影したものであり(前記 前提事実(1)ア,同(2)),カメラマンである原告が業務により作成したもの といえる。そうすると,原告が本件各写真の著作権の行使につき受けるべ き金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)の算定に当たっては, 本件規程の内容を参酌するのが相当である。そして,本件規程の内容に加 えて,被告が遅くとも平成30年12月5日頃までには本件各写真の原告 の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害したこと,本件各写真は令和 2年2月17日に本件各ページから削除されたことその他の本件各写真の 使用態様等に鑑みれば,原告が本件各写真の公衆送信につき受けるべき金 銭の額(著作権法114条3項)は,本件各写真1枚当たり4万円と認め るのが相当である。
イ この点について,原告は,1)撮影した写真1枚当たり8万円で売却して おり(甲6),本件のような長期間の無断使用はその4倍が相当であるこ と,2)本件規程の商用広告目的の写真の使用料が12か月以内で5万円で あることを考慮して損害額を算定すべきであるなどと主張する。 しかしながら,「ご請求書」と題する甲6号証には,「広告写真使用料」 として8万円と記載されているが,当該写真がどのような写真か明らかで はない上に,この1件の利用許諾例の外に原告の写真の使用料を裏付ける 証拠は見当たらないことなどからすれば,本件各写真の使用料が1枚当た り8万円であると認めることはできず,他に原告の上記1)の主張を認める に足りる証拠はない。
また,本件規程の「商用広告目的」とは,「写真に写された物品等を宣 伝するために広告として利用する場合」をいうとされている(本件規程の 第3条)ところ,本件各写真は,結婚式に関係する文章が記載されるなど した本件各ページに掲載されたものであり(前記前提事実 ア,イ),い ずれも本件各写真に写された物品等を宣伝するために広告として本件各ペ ージに掲載されたものとはいえず,本件各写真の使用は,上記「商用広告 目的」には当たらず,原告の上記2)の主張も採用することはできない。したがって,原告の上記主張はいずれも採用することはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 公衆送信
 >> 著作権その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(行ケ)10161  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月21日  知的財産高等裁判所

 本件発明の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。

 本件審決は,相違点の認定において,本件補正発明が,「ダンパを囲繞す る空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連である」点と,「想定される入力方向に 対して機能する向きに設置され」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され」る点とを分けて認定して\nいる。 しかし,本件補正発明は物の発明であること及び前記1で認定した本件明細書の 記載からすると,本件補正発明の,「想定される入力方向に対して機能する向きに設置され」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜す\nるように上記剪断部が設置され」との構成は,「端部の連結部を介して一連に設けられ」,「ダンパを囲繞する空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連である」二つの\n剪断部の形状について,いずれの剪断部も,想定される方向からの入力に対して機 能し,想定される入力方向に対し面内方向に傾斜するように設置できる形状であることを特定したものと解するのが相当であるから,本件補正発明の,「二つの剪断部\nが,当該ダンパの端部を成す連結部を介して一連に設けられ」との構成,弾塑性履歴型ダンパが「想定される入力方向に対して機能\する向きに設置され」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部 が設置され」との構成及び「ダンパを囲繞する空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連である」との構\成は,いずれも,ダンパの形状を特定するものである。そして,これらの形状の構成は相互に関連して,ダンパが振動エネルギーを吸収する機序に影響を与えるものであるから,上記の各構\成を別個の相違点として,それぞれ独立に容易想到性の判断をするのは相当ではないというべきである。これに反する 被告の主張は理由がない。
(2) 相違点4’の容易想到性について
ア 前記2(1)で認定した引用文献1の記載からすると,引用発明1は,水平 方向の全方向からの震動エネルギを,X)成分とY成分に分担して極低降伏点鋼製パ ネルが塑性変形して吸収する制震パネルダンパであること,従来は,水平方向の全 方向からの震動エネルギを吸収するために,極低降伏点鋼製パネルの向きが直角と なるように二つのダンパをL字状やT字状に並べて配置していたところ,そのよう なダンパの配置方法では,それぞれのパネル毎に一対のエンドプレートを設置する ため,取り付けのためのスペースが大きくなり,また,取り付けのための手間がか かるという課題があり,同課題を解決するために,引用発明1−2は,ダンパの形 状を,平面視した場合に断面が中空の矩形になる四角柱状とし,これを一対のエン ドプレートの間に設置する構成にしたもの,引用発明1−1は,ダンパの形状を,平面視した場合に断面が互いに直交する十\字状としたものであり,それぞれこれを一対のエンドプレートの間に設置する構成にしたものであることが認められる。一方,本件補正発明の特許請求の範囲の「想定される入力方向に対して機能\する向きに設置される弾塑性履歴型ダンパであって」,「上記想定される入力方向に対し, 二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され」との記載及 び前記1で認定した本件明細書の記載によると,本件補正発明は,振動エネルギー の入力方向を想定し,特定の入力方向からの振動に対応するダンパであること,本 件補正発明の従来技術であるダンパは,剪断部を一つしか有していないために,地 震の際にいずれの方向から水平力の入力があるかは予測困難であるのに,一方向からの水平力に対してしか機能\せず,また,想定される入力方向に対して高精度にダンパの剪断変形方向を合わせる設置角度設定が必要であるという課題があったこと, 本件補正発明は,剪断部を二つ設け,これらを端部で連結させたことにより大きな 振動エネルギーを吸収できるようにし,また,向きの異なる二つの剪断部を想定さ れる入力方向に対し面内方向に傾斜するように設置できる形状とすることにより, 入力の許容範囲及び許容角度が広くなり,据付誤差を吸収することができるように したことが認められる。 このように,引用発明1は,水平方向の全方向からの震動エネルギーを吸収する ためのダンパであるのに対し,本件補正発明は,振動エネルギーの入力方向を想定 し,その想定される方向及びその方向に近い一定の範囲の方向からの振動エネルギ ーを吸収するためのダンパであり,両発明の技術的思想は大きく異なる。これに反 する被告の主張は理由がない。 そして,相違点4’に係る本件補正発明の構成は,上記のような技術的思想に基づくものであるから,引用発明1−2との実質的な相違点であり,それが設計事項\nにすぎないということはできない。
イ(ア) 前記2(2)で認定した引用文献2の記載からすると,引用文献2には, 本件審決が認定した引用発明2(前記第2の3(1)イ)が記載されているが,引用発 明2の略L字状に配置された二つの剪断パネル型ダンパー90の各パネル部は,端 部で連結されていないことが認められる。 引用発明1−2においては,各側面のパネルはすべて端部で隣接するパネルと連 結されているが,引用発明1−2のこの構成に代えて,引用発明1−2に,二つの剪断パネル型ダンパー90のパネル部を,端部を連結することなく,略L字状に配\n置するという引用発明2の上記構成を適用して,ダンパの断面形状をL字状とするなど2枚のパネルを端部で連結する構\成とすることの動機付けは認められない。
(イ) 前記2(3),(4)で認定した引用文献3,4の記載によると,塑性変形す る部材を用いて震動を吸収するダンパー部材において,塑性変形する部材の降伏強 度を調整するなどの目的で,穴又はスリットを設けることは,周知技術であること が認められるが,引用発明1−2にこの周知技術を適用したとしても,ダンパを囲 繞する空間と一連とはなるが,ダンパの断面形状をL字状とするなど2枚のパネル を端部で連結する構成となるものではない。
(ウ) その他,相違点4’に係る本件補正発明の構成を引用発明1−2に基づいて容易に想到することができたというべき事情は認められない。\n
(エ) 以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,引用発明 1−2に基づいて本件補正発明を容易に発明することができたとは認められない。
(オ) なお,本件審決は,引用文献1には,断面が十字状や中空の矩形の形状の引用発明1のほか,断面が円状のダンパも記載されていることから,引用文献1\nにおける極低降伏点鋼パネルの数や配置及び交点の接合形態については,異なる方 向成分の震動を分担して塑性変形により吸収する機能が維持される範囲で,自由度がある,引用文献1は,断面が略L字状となるダンパを排除していないと判断する。\nしかし,本件補正発明を引用発明1−2に基づいて容易に発明することができた ということができないことは,既に判示したとおりであって,引用文献1において, 極低降伏点鋼パネルの数や配置及び交点の接合形態については自由度があり,また, 断面が略L字状となるダンパを排除していないとしても,そのことから直ちに本件 補正発明を発明する動機付けがあるということができないことは明らかである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)35053  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和2年10月22日  東京地方裁判所

 真性商品の並行輸入かが争われました。商標「2UNDR」(標準文字)です。

(3)事実認定の補足説明
原告らは,被告らがMゴルフ社から本件商品を購入した当時,本件代理店契 約は解除されていてMゴルフ社は2UNDR商品の販売代理店ではなかった と主張するのに対し,被告らはそのような事実はないと主張する。
 上記(2)イ(ウ)のとおり,原告ハリス及びランピョン社の代表者は平成28年5\n月上旬にMゴルフ社に本件代理店契約を解除する旨のメールを送信した。そし て同ウのとおり,同月6日を最後に,各国の販売代理店に送信されていた原告 ハリスの商品に関する一斉送信メールがMゴルフ社に送信されなくなってお り,その後,令和元年5月3日まで両社の間で連絡が取られた形跡がないこと に照らせば,本件代理店契約は平成28年5月上旬に解除され,被告ブライト がMゴルフ社から初めて本件商品を購入した同月27日には,本件代理店契約 は解除されていたと認めるのが相当である(上記(2)イ(ウ)) 。
(4) 本件輸入行為の違法性について
ア 商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につ き,その登録商標と同一又は類似の商標を付したものを輸入する行為は,許 諾を受けない限り,商標権を侵害する。しかし,そのような商品の輸入であ っても,1)当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾 を受けた者により適法に付されたものであり(以下「第1要件」という。), 2)当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は 法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより, 当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって(以下\n「第2要件」という。),3)我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商 品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者 が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的 に差異がないと評価される場合(以下「第3要件」という。)には,いわゆる 真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠く(最高 裁平成14年(受)第1100号同15年2月27日第一小法廷判決・民集 57巻2号125頁)。
イ 本件商品は,ランピョン社から2UNDR商品の販売代理店であったMゴ ルフ社に販売されたものであった。 上記(2)イ、ウによれば、本件代理店契約 において,代理店契約の解除後の販売代理店における販売や在庫の処分等に ついての定めはなく,また,本件代理店契約の解除後,ランピョン社又は原 告ハリスがMゴルフ社に対して在庫の処分等について指示をしたことはな かった。他方,各国の販売代理店に対して同じ2UNDR商品のカタログや 注文のための商品のリストが送付されていたこと(同ウ)から,我が国で販 売される2UNDR商品が他国で販売される2UNDR商品と比べて格別 の品質等を有していたとは認められず,2UNDR商品の販売代理店の販売 地域の制限が,販売政策上の合意を超えて,2UNDR商品の品質の維持や 管理等と関係することをうかがわせる事情は見当たらない。また,本件商品 は箱型のパッケージに包装された男性用下着であり,通常は流通の過程でパ ッケージ内の商品自体の品質が劣化するものではなく,また,本件で,流通 の過程で商品の品質を変化させるおそれが存在したことを認めるに足りる 証拠はない。 そして前提事実(1)、上記(2)イ(ア)および弁論の全趣旨によれば、ランピョン 社と原告ハリスとは実質的には一体であるともいえる。
ウ 第1要件について
本件標章が付されていた本件商品は,ランピョン社が代理店契約に基づい てMゴルフ社に販売したものであった。 本件商品を被告ブライトがMゴルフ社から購入したのは,上記(2)、(3)のと おり本件代理店契約の解除後であるが,ランピョン社がMゴルフ社に販売し た2UNDR商品に対する上記イのとおりのランピョン社の管理内容等に 照らし,このことによって,原告商標の出所表示機能\が害されることになる とはいえない。また,本件代理店契約では,Mゴルフ社の販売地域はシンガ ポールに限定されていたが,上記イのとおり,そもそも我が国で販売される 2UNDR商品が他国で販売される2UNDR商品と比べて格別の品質等 を有していたとは認められず,販売地域の制限が本件商品の品質の維持や管 理等と関係していたとも認められないから,Mゴルフ社の販売地域が限定さ れていたことによって原告商標の出所表示機能\が害されることになるとは いえない。 これらによれば,本件商品に付された本件標章は,外国における商標権者 である原告ハリスから使用許諾を受けたランピョン社又はランピョン社と 実質的には一体ともいえる原告ハリスによって,適法に付されたものである ということが相当である。 したがって,本件輸入行為は第1要件を具備するものと認められる。
エ 第2要件について
前提事実(1)のとおり、原告商標についてのカナダなどの海外における商標権者と日本における商標権者はいずれも原告ハリスであり,本件標章は原告 商標と同一又は類似のものであるから(上記1),それらは同一の出所を表\n示するものであるといえる。 したがって,本件輸入行為は第2要件を具備するものと認められる。
オ 第3要件について
本件標章が付された本件商品は,本件代理店契約に基づきランピョン社に よってMゴルフ社に販売されたものである。そして,ランピョン社と原告ハ リスは実質的には一体ともいえた。 本件商品が被告ブライトによりMゴルフ社から購入されたのは,本件代理 店契約の解除後であるが,ランピョン社がMゴルフ社に販売した2UNDR 商品に対する上記イのとおりのランピョン社の管理内容等に照らし,このこ とによって,原告商標の品質保証機能が害されることになるとはいえない。\nまた,本件代理店契約では,Mゴルフ社の販売地域はシンガポールに限定さ れていたが,上記イのとおり,そもそも我が国で販売される2UNDR商品 が他国で販売される2UNDR商品と比べて格別の品質等を有していたと は認められないこと,Mゴルフ社の販売地域の制限が本件商品の品質の維持 や管理等と関係するとも認められないこと,本件商品が運送中に品質が直ち に劣化するものではない男性用下着であることなどから,そのことによって 原告商標の品質保証機能が害されることになるとはいえない。\nこれらによれば,我が国の商標権者である原告ハリスは,直接的に又は少 なくともランピョン社を通じて本件商品の品質管理を行い得る立場にあっ て,本件商品と2UNDR商品の日本における販売代理店が販売する商品と は登録商標の保証する品質において実質的に差異がないといえる。 したがって,本件輸入行為は,第3要件を具備するものと認められる。
カ 原告らは,被告ブライトが本件商品を購入したのが本件代理店契約の解除 後であること,本件代理店契約には販売地をシンガポールとする販売地制限 条項があることを挙げて,本件輸入行為が違法性を欠くことにはならない旨 主張するが,上記ウ,オに照らし理由がない。 また,原告らは,被告ブライトの広告に「訳あり/パッケージ汚れ」など という表示があり,本件商品の包装が汚れており,シールをはがしたような\n跡があり,本件商品は原告アイインザスカイが販売する2UNDR商品に比 して著しく安価であることから,本件輸入行為は原告商標や本件標章の出所 表示機能\及び品質保証機能を害すると主張する。しかし,本件商品の需要者\nは,本件標章が付されることによる通常期待される品質を前提として,安価 になっているのは上記事情によるものであると認識すると考えられ,上記事 情によって原告商標の出所表示機能\や品質保証機能が害されるとはいえず,\n上記主張は採用できない。
さらに,原告らは,Mゴルフ社は本件代理店契約の解除により正規の販売 代理店ではなくなったため,本件商品は欠陥等があっても原告ハリスから保 証を受けられないから,原告商標の出所表示機能\や品質保証機能が害される\nと主張する。しかし,商標権者から保証を受けられるか否かが並行輸入の場 面における商標の出所表示機能\や品質保証機能に直ちに影響するとはいえ\nないし,本件において,特定の商品について欠陥等の保証をすることについ て原告ハリスが日本国内で独自の信用を構築していたと認めるに足りる証\n拠もない。原告ら主張の事情によって原告商標の出所表示機能\や品質保証機 能が害されるとはいえず,原告らの主張は採用できない。\n
キ 小括
以上によれば,被告ブライトの本件輸入行為は,いわゆる真正商品の並行 輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠く適法なものであると認 められる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 誤認・混同
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10017  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年10月13日  知的財産高等裁判所

 商標「空調風神服」について「空調風神服」の風神部分の書体および太さを変更した使用行為について、商標「空調服」と混同するとして51条の取消審判の請求がされました。知財高裁(1部)は、取り消し理由無しとした審決を維持しました。

オ 引用商標の周知著名性及び独創性
原告のカタログにおいて,「空調服」の文字は多くが記述的に用いられている上, その頒布部数を認めるに足りる的確な証拠はない(前記ア(ア))。また,原告のウェブ サイト(同(イ))の閲覧者数も不明であるし,原告商品のシェアや売上げを認めるに 足りる的確な証拠はない。 前記イのとおり,原告商品は,平成14年から本件使用時点までの間に,暑さ対 策に有効な作業服等として,「空調服」との語と共に複数のメディアで取り上げられ, そのメディアに全国紙や全国ネットの著名なテレビ番組が含まれてはいるものの, 大部分は全国紙,全国ネットではなく,頒布部数や視聴者数が不明のものであり(同 イに掲記した証拠参照),その回数もその期間に比して多いとまではいえない。 加えて,「空調服」との語は,ファンを備えた作業服等一般を示すものとして記述 的に用いられ(前記エ(ア),(イ)),あるいは,原告を出所とするものと解し得ない商品 に関するカタログでも用いられている(前記ウ)。 以上によれば,原告の親会社であるセフト研究所の登録商標が表示されたCMが\nウェブサイト上で多数回閲覧されたこと(前記ア(ウ))を考慮しても,引用商標が, 原告の出所に係る商品を示すものとして周知著名であったと認めることはできない。 また,引用商標は,「空調」と「服」という日常的に用いられる平易な言葉を組み 合わせ,同一の書体及び大きさで等間隔に配置した構成であり,独創性の程度が高\nいとまではいえない。
カ 原告の主張について
(ア) 原告は,前記ア(ウ)のCMに関し,152件のウェブサイト上の記事が掲載 されたと主張するが,原告の提出した証拠(甲156)からは,記事において引用商 標に言及されているか否か不明であり,当該記事の閲覧者数も不明であるから,引 用商標の周知性を裏付けるものではない。 原告は,原告がこれまでに支払った原告商品の広告宣伝費用の総額が,少なくと も5211万円であること並びに原告商品の売上高及び原告商品のシェアについて 主張するが,原告の主張を裏付ける的確な証拠はない。
(イ) 原告は,法人等の需要者や取引者の間で,「空調服」との語は原告の会社名 又は商品名と認識されていることや,原告商品についての記事や番組においても, ファンを備えた被服一般を表す用語として「電動ファン付きウェア」とか,「ファン\n付き作業服」とか,「EFウェア」等の用語が区別して用いられている例があり,引 用商標には自他識別機能が認められると主張するが,このことから直ちに,引用商\n標が原告商品の出所を示すものとして周知であったということにはならないから, 上記認定を左右するものではない。
(ウ) 原告は,ウェブサイト上の「テレビ紹介情報」における「空調服」の検索結 果299件(甲164)を提出するが,本件使用時点後のものも多く含まれる上に, 検索結果からは原告商品の出所を示すものとして「空調服」が紹介されたのかが必 ずしも明らかではないものも多いから,上記認定を左右するものではない。
(4) 被告商品と原告商品との間の関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者 の共通性その他取引の実情等
ア 商品の関連性並びに取引者及び需要者の共通性
前記1のとおり,被告が本件使用商標を使用する被告商品と,原告が引用商標を 使用する原告商品は,いずれも電動のファンを備えた作業服であり,取引者及び需 要者は共通するものと推認される。
イ 取引の実情等
原告商品の包装には,「空調服」の文字が付されており(甲71),原告商品が掲載 されたカタログには「空調服」の文字が付されている(甲7の13)。 これに対し,被告商品のタグ及び包装には,「THE」の文字と組み合わせて本件 使用商標が付され(甲17の3・4。ただし,包装においては色彩が反転している。),被告商品が掲載されたカタログ(甲17の2)及び被告のウェブサイト(甲17の 1・14)には本件使用商標が表示されている。これらには,本件使用商標の末尾に\n「(R)」が組み合わされたものもあり,取引者及び需要者において,本件使用商標が全 体として商品の出所を示すことを理解するということができる。
(5)出所の混同の有無
ア 上記(4)アのとおり,本件使用行為に係る商標が使用された被告商品と引用商 標が使用された原告商品は,ファンを備えた作業服等であって同一の商品であるも のの,本件使用商標と引用商標は類似せず,かえって,前記(2)のとおり相違するも のである。そして,前記(3)のとおり引用商標は原告を示すものとして周知著名とは いえず,独創性の程度が高いといえない上,証拠からは,本件使用商標が使用され た被告商品と引用商標が使用された原告商品について,混同を生ずるおそれがある ような取引の実情は認められない。 そうすると,両商標を同一の商品に使用した場合に,取引者及び需要者において 普通に払われる注意力を基準として,出所の混同を生ずるとはいい難い。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は,本件使用商標が使用された被告商品と引用商標が使用された原告商 品の形態等が酷似し,両商品について需要者の間で取り違えが生じるほどである旨 を主張する。
本件使用商標が使用された被告商品と,引用商標が使用された原告商品の一部に おいて,基本的構成(襟付きの長袖であり,服胴部の前方中央に縦に帯状の袷部を\n形成し,その内側にファスナーを取り付け,両脇腹部,両胸部及び左腕部にポケッ トを設け,背面左右両腰部に開口部を形成し,その使用態様において,需要者が当 該開口部にファンを設置して使用できる態様のものである)が同一であるほか,具 体的構成(比翼仕立ての正面部分,前面のポケットの数及び位置,左袖のペン差し\nの構成,電池ボックスポケット及びバッテリー用ポケットの位置,袖口のマジック\nテープ等)の点からみても類似し,カラーラインナップも類似する3色のものがあ ることは認められる(甲8,甲17の14及び弁論の全趣旨)。しかし,前記(4)イの とおり,それぞれの商品やその包装及び広告ないし価格表には異なる商標が付され\nていることが認められ,その商標は前記(2)のとおり相違しているのであるから,上 記のとおり商品の形態が類似しているからといって,取引者及び需要者において普 通に払われる注意力を基準として,出所の混同を生ずるとはいい難いし,また,需 要者の間で頻繁に取り違えが生じていることを認めるに足りる証拠もない。
(イ) 原告は,被告は,ファンを備えた作業服の販売について原告に10年以上後 れる後行者でありながら,原告の周知の商標を組み込んだ本件使用商標を使用し, 商品の形態等も酷似させ,原告の商品の名声にフリーライドして自らの商品を販売 するものであるから,これを取引の実情として考慮すべきであると主張する。 しかし,引用商標と本件使用商標が相違することは前記(2)のとおりであるし,形 態が類似しているからといって,出所の混同を生ずるとはいえないのは上記(ア)のと おりである。また,証拠(甲8,12,13,甲17の14,乙16の1〜11及び 弁論の全趣旨)によれば,1)セフト研究所と被告が,平成15年頃,ファンを備えた 被服に関係するセフト研究所の出願中の特許について,セフト研究所が被告に実施 許諾(非独占的通常実施権)することなどを内容とする契約を締結したこと(甲1 2),2)セフト研究所と被告が,平成24年11月20日,i)セフト研究所が保有 する特許権に係る特許を用いたファン付き作業服等の被服の部分を被告が製造し, これにファン部材を組み付けた製品を被告が販売することを許諾し,ii)セフト研 究所が販売する製品の被服の部分の製造を優先的に被告に委託し,被告は優先的に 受託することなどを内容とする契約を締結したこと(甲13),3)平成27年頃に両 者の関係が悪化してほどなく上記契約関係が終了したことは認められるものの,原 告ないしセフト研究所が,その保有する特許権の技術的範囲を超える,ファンを備 えた作業服全体の独占権を有するものでもないことは明らかである。以上によれば, 被告が,ファンを備えた作業服の販売について,原告の後行者であるのに,原告の 名声にフリーライドしたものと評価することはできず,原告の主張は前提を欠く。
(ウ) 原告は,被告が,平成29年のカタログ(甲160)に虚偽の記載をし,意 図的に混同を生じさせていることを取引の実情として主張する。しかし,株式会社 中電工が平成17年から使用している「空調服」の出所が原告であることを裏付け るに足りる証拠はなく,原告の主張は前提を欠く。

◆判決本文
 

関連カテゴリー
 >> 不正使用
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)910 発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年9月25日  東京地方裁判所

 屋外に恒常的に設置された建物の写真について、著作物性ありと判断され、発信者情報開示が認められました。

 前記前提事実,証拠(甲1,6,8,乙1)及び弁論の全趣旨によれば, 本件写真は,原告が,空気の透明度が高い冬季において,天候が良好な日 の夜間に,約180度の眺望を有する本件展望台から見ることができる夜 景のうち,大阪府内所在のりんくうゲートタワー及びその周辺の建造物の 組合せを被写体として選択し,中でも目を引く建造物であるりんくうゲー トタワーを構図のほぼ中心に据え,その左右に複数の建造物がそれぞれ配\n置されるようにして,カメラについては,「70−200mm」のレンズを 選択し,レンズ焦点距離を「200.00mm」,シャッター速度を「16. 0秒」,絞り値を「f/9」とするなどの設定をした上で,ストロボ発光な しで撮影したものと認められる。 そうすると,本件写真は,原告において,撮影時期及び時間帯,撮影時 の天候,撮影場所等の条件を選択し,被写体の組合せ,選択及び配置,構\n図並びに撮影方法を工夫し,シャッターチャンスを捉えて撮影したもので あり,原告の個性が表現されているものと認められる。\nしたがって,原告が撮影した本件写真及びこれに本件文字を付加して作 成した本件写真画像は,いずれも,原告の思想又は感情を創作的に表現し\nたものということができるから,「著作物」(著作権法2条1項1号)に該 当する。
イ 被告は,本件写真の被写体であるりんくうゲートタワー及びその周辺の 建造物は,屋外に恒常的に設置されているものであるから,これを被写体 として撮影しようとすれば,焦点距離や撮影位置,構図等の表\現の選択の 幅は必然的に限定され,本件写真の構図自体ありふれたものであるから,\n撮影者の個性が現れたものとはいえず,本件写真には創作性がない旨主張 する。
しかしながら,別紙4写真画像目録記載の本件写真画像から明らかなよ うに,本件展望台からの眺望は広く,撮影することができる建造物は多数 あり,それらから発せられる光も様々であるから,どのような位置から, どのような構図で撮影するか,どの建物に焦点を合わせるかといった選択\nの幅が限定的であるということはできない。 そして,前記アのとおり,原告は,上記の幅の中から1つの撮影位置, 構図及び焦点距離を選択した上,さらに,撮影時期及び時間帯,撮影時の\n天候等の条件についても選択して,撮影方法を工夫し,シャッターチャン スを捉えて撮影したものであるから,本件写真には,原告の個性が現れて いるものと認められる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 著作物
 >> 発信者情報開示
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ネ)10062  商標権移転登録手続等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和2年10月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁も1審と同じく、商標の移転契約合意は成立していないと判断しました。

 甲と乙は,業務提携について合意し,その際,乙は,甲に対し,諸外 国で乙が保有し登録された「ROCCA」商標(本件商標)の使用を認め, 甲は,本件商標権を,日本において登録した。乙は,本件商標について・・・ 無効審判を請求したが,特許庁は,請求が成り立たない旨の審決(本件審 決)を下し,本件審決は確定した。甲と乙は,本件審決の解釈に関して見 解の相違を生じたことなどから,業務提携が事実上中断し,かつ,本件商 標権の帰属について,長年にわたり,合意に至らなかった。そこで,甲と 乙は,上記法解釈に係る見解の相違があることを認めつつ,本件を将来に 向けて解決し,業務提携を再開・発展させることにより,相互に共存共栄 することとした。」(前文),2)「甲は,乙に対し,本契約書別紙商標権目録 1記載の本件商標権について,移転登録手続を執ることを合意し,乙は, 甲に対し,「ROCCA SINCE 1947」商標を,日本において, 乙の使用に係る同商標と異なる字体で使用することにつき,通常使用権を 許諾する。上記移転登録手続に要する費用は,乙が負担し,上記許諾は無 償とする。」(1条3項)などの記載があることが認められる。本件和解契 約書案の上記1)中の「甲と乙は,本件審決の解釈に関して見解の相違を生 じたことなどから,業務提携が事実上中断し,かつ,本件商標権の帰属に ついて,長年にわたり,合意に至らなかった。」との記載は,2017年(平 成29年)2月25日付け書面の添付書面として本件和解契約書案を送付 した時点では,控訴人と被控訴人間で被控訴人が控訴人に対し本件各商標 権を移転することの合意が成立していないことを示すものであり,平成2 6年4月23日に控訴人と被控訴人間で本件合意が成立していたことと矛 盾する記載であり,また,本件和解契約書案の上記2)の内容は,本件合意 の内容と必ずしも一致するものではない。
・・・
そこで検討するに,上記1)の記載部分は,控訴人代表者のAが,2\n014年(平成26年)4月23日,レストランの席上で,被控訴人 代表者のCに対し,控訴人が使用し管理する「ROCCA」が国際著\n名商標であることは,Cもよく知っているはずであり,鈴屋(被控訴 人)は「ROCCA」商標を返還すべきであると明確に述べ,最終的 に,Cも,これを認めるに至った,Cは,控訴人との商標を巡る紛争 を直ちに解決するため,「ROCCA」商標を控訴人に移転する代わり に,控訴人との取引を継続し,ダミアーニ・グループに支援を要請し たいと述べ,Aの提案に同意した旨を供述するものであるところ,A がレストランの席上で「ROCCA」商標の返還を求める旨の提案を してから,Cが「最終的にこれを認めるに至った」具体的な経緯につ いての説明がない上,当時,被控訴人がダミアーニ・グループに支援 を要請すべき事情があったことを認めるに足りる証拠はなく,さらに は,ダミアーニ・グループのダミアーニB.V.社が請求した本件商 標1の商標登録無効審判(別件無効審判)を不成立とする別件審決が 既に確定している状況下において,CがAの提案に応じるべき合理的 な理由はないことに照らすと,Aの上記供述内容はそれ自体不自然で あって,説得力を欠くものである。 かえって,前記(1)アのとおり,控訴人が被控訴人に送付した201 7年(平成29年)2月25日付け書面(甲8の1)添付の本件和解 契約書案中には,被控訴人と「Damiani Internati onal S.A.」は,「業務提携が事実上中断し,かつ,本件商標 権の帰属について,長年にわたり,合意に至らなかった。」との記載部 分があり,この記載部分は,AとCが平成26年4月23日に面談し た後の本件和解契約書案が送付された時点において,控訴人と被控訴 人間で被控訴人が控訴人に対し本件各商標権を移転することについて の合意が成立していないことを示すものであり,上記1)の記載部分と 矛盾するものである。 次に,上記2)及び3)の記載部分は,A個人の内心の思いや考えを述 べたものであり,Aが,Cに対し,言葉として発して,その内容を確 認したというものではないから,控訴人主張の本件合意の成立を裏付 けるものではない。 以上によれば,甲22の上記1)ないし3)の記載部分は措信すること はできず,甲22の他の記載を勘案しても,甲22から控訴人主張の 本件合意が成立したことを認めることはできない。

◆判決本文

1審はこちら

◆平成30(ワ)11399

関連カテゴリー
 >> 商標その他
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ワ)19889  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和2年3月18日  東京地方裁判所

 fashionブランドのセレクトショップ「SHIPS」と同じマッチングサイトの名称を使用していた被告に対して、差止と20万円の損害賠償が認められました。

原告ブランドに係る商品の需要者は,衣料品を中心とするファッション全 般に関心を有する一般消費者であると解されるところ,前記認定のとおり, 1)原告の店舗数及びその展開地域,2)オンラインショップも運営しているこ となど,その販売態様,3)原告の商品の売上高及び来店者数,4)セレクトシ ョップ分野における原告の地位(三大ブランドの一つ),5)雑誌,カタログ, フリーペーパー等における宣伝・広告の状況,6)フェイスブック,ツイッタ ー,インスタグラムにおけるフォロワー数などの事情を総合すると,原告表\n示は,被告表示の使用が開始された平成31年4月時点において,需要者等\nの間において,原告の商品等表示に当たるものとして,周知であったと認め\nられる。
(2) これに対し,被告は,原告商品の売上高や店舗数,UNITED ARR OWS,BEAMS,ユニクロ,しまむらなどの同業他社に比して少ないこ とを指摘する。 しかし,原告商品の売上高や店舗数が,原告より更に規模が大きい同業他 社と比較して小さいとしても,そのことは原告ブランドが需要者等の間で周 知であるとの認定を妨げるものではない。前記認定のとおり,原告は,アパ レルの一つの分野として確立しているセレクトショップ分野において,BE AMS及びUNITED ARROWSとともに,三大セレクトショップの 一つと評価されており,その店舗は,著名百貨店,主要ターミナル駅の駅ビ ル,大型路面店などを中心に,全国に展開され,売上高(平成31年2月期) も245億7502万円に上ることなどを考慮すると,原告表示が周知であ\nると認められることは前記判示のとおりである。
(3) 被告は,「知恵蔵」の出版が10年以上前であることなどを指摘し,原告 が挙げる書籍は周知性を基礎付けるものではないと主張するが,前記1(2) のとおり,アパレル業界に関する書籍及び「知恵蔵」などの一般書籍は,出 版時期を問わず,いずれも,原告がセレクトショップの大手であるとの認識 を示している上,上記1で認定した原告ブランドの宣伝・広告状況などにも 照らすと,原告がセレクトショップとして需要者等によく知られているとい う「知恵蔵」に記載された状況は,平成31年4月時点においても変わりが ないというべきである。
(4) 被告は,原告による広告宣伝について,他社の広告費との比較や実際の広 告効果の定量的な主張・立証がないと主張するが,前記1(3)(4)記載のとお り,原告ブランドの雑誌等における紹介の状況,SNSにおけるフォロワー の数,創業40周年の際の宣伝・広告状況(全国主要駅におけるポスター広 告,新聞における全面広告等),プロサッカーにおけるスポンサー企業とし ての宣伝・広告状況など,原告による広告・宣伝の内容,量等に照らすと, 他企業の広告費との比較を要することなく,原告表示は需要者等の間で周知\nであると認めることができる。
(5) 被告は,被告サイトの利用者向けに実施したアンケート調査の結果によれ ば,回答者341名のうち,原告表示を知らなかった者は297名に及ぶこ\nとを理由として,原告表示が周知ということはできないと主張する。\n しかし,被告の行ったアンケート調査調査は,その対象者が被告サイトの 利用者であり,被告サイトにより提供されるサービスの性質,内容等に照ら すと,その利用者層は一定の限定された範囲にとどまるものと考えられ,そ の調査結果が必ずしも原告ブランドに係る商品の需要者の認識を反映してい るとはいい難い。そうすると,上記調査結果は,原告表示が需要者等の間で\n周知であるとの結論を左右しないというべきである。
(6) 以上のとおり,原告表示は,少なくとも周知性を有するものであって,不\n正競争防止法2条1項1号の「需要者の間に広く認識されているもの」に当 たるというべきである。
3 争点2(混同のおそれの有無)について
(1) 不正競争防止法2条1項1号の「混同を生じさせる行為」には,他人の周 知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と当該他人とを同一\n営業主体として誤信させる行為のみならず,両者間にいわゆる親会社,子会 社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業\nを営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為をも包含すると解さ れる(最高裁平成7年(オ)第637号同10年9月10日第一小法廷判 決・集民189号857頁,最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年 5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。
(2) これを本件についてみるに,前記認定(5)及び(6)のとおり,1)原告は,原 告表示を含むブランド名を用いて,アパレル分野に限らず,自動車のメンテ\nナンスやカスタム,生活雑貨の販売などの事業も手掛けていること,2)原告 は,原告表示を用いて,異業種の他企業との間で,多数のコラボレーション\n企画を実施しており,そのことは需要者等に相応に認識されていたものと推 認されること,3)原告は,原告表示を用いて,福祉分野を始めとする社会的\nな活動にも参加しており,公式サイトにおいて,「コンプライアンス,LG BT,ダイバーシティなどについての啓蒙」に取り組んでいる旨を表明して\nいることが認められる。 これによれば,被告サイトに原告表示と類似する被告表\示を使用すること は,原告と被告との間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの緊 密な営業上の関係があり,又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属\nする関係が存すると需要者等に誤信させる行為であって,原告の商品又は営 業と「混同を生じさせる行為」というべきである。
(3) これに対し,被告は,原告の属するアパレル分野と被告の属するマッチン グサイトの分野とは,全くの異業種であり,業種の隔たりが大きいと主張す るが,原告自身が,障害者を始めとするマイノリティや福祉に対する支援活 動を積極的に行っていることは前記判示のとおりであり,また,アパレルメ ーカーがマッチングアプリとの協業プロジェクトを実施した事例や,セクシ ャルマイノリティの間で人気の出会い系アプリがアパレルラインを発表した\n事例があると認められること(甲65)に照らすと,アパレル分野とマッチ ングサイトの分野とが全くの異業種であるということはできない。
(4) また,被告は,原告は他の企業の知名度を借りたコラボレーションをして いるにすぎないと主張するが,原告が他の分野で事業自体を展開していない としても,他業種の企業とコラボレーションをし,原告表示の付された商品\n等を提供することとなれば,需要者等は,原告と被告との間に子会社等の関 係があるなどの誤信をするおそれがあることに変わりはないというべきであ る。
(5) 被告は,被告の実施したアンケート調査結果も根拠として,被告サイトが 原告によって運営されていると誤信することはないと主張するが,前記判示 のとおり,被告の行ったアンケート調査結果が原告ブランドの需要者等の認 識を反映しているとは必ずしもいうことはできないので,同アンケート調査 結果を根拠にして混同のおそれがないということはできないが,同調査結果 によっても,セレクトショップ「SHIPS」を知っている者の2割以上に 混同が生じていることによれば,被告表示に接した需要者等が上記の混同を\nする可能性は高いというべきである。\n
(6) したがって,被告の行為は,原告の商品又は営業と「混同を生じさせる行 為」に当たる。
4 争点3(営業上の利益の侵害の有無)について
原告は,昭和52年に「SHIPS 銀座店」を開設して以来,その店舗を 拡大し,平成31年3月頃までに,全国19都道府県に約70店舗を展開する に至っており,原告ブランドには長年にわたる使用により信用力が形成されて いると解されるところ,被告による被告表示の使用は,原告ブランドの信用力\nに依拠し,その意に反してこれと類似の被告表示を使用するものであり,原告\nブランドの信用力を希釈化若しくは毀損するものであるということができる。 したがって,被告の行為は,原告の営業上の利益を侵害し,これを侵害する おそれのある行為であると認められる。
5 争点4(故意・過失の有無及び損害額)について
(1) 被告は,被告以外にも「シップス」又は「SHIPS」の名称を用いる事 業者が存在することなどを理由として,被告には過失がなかったと主張する が,「SHIP」等の名称を用いる業者が他に存在するとしても,そのこと をもって過失の存在が否定されるものではない。被告は,原告表示の存在を\n知りつつ,被告サイトに被告表示を使用したものであり,原告表\示の周知性 や原告表示との類似性を容易に認識し得たものと認められるので,被告には\n少なくとも過失が存在したものというべきである。
(2) そして,本件訴訟の難易度,審理の経過,認容する請求の内容その他本件 において認められる諸般の事情を考慮すると,被告による不正競争行為と相 当因果関係にある弁護士費用相当額は20万円とするのが相当である。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 周知表示(不競法)
 >> 著名表示(不競法)
 >> 不正競争(その他)
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ネ)10016  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年5月27日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 知財高裁(4部)は、侵害しないとした1審判決を変更して、約2000万円の損害賠償を認めました。原審は,噴霧流同士が衝突する前に「粒子径10μm以下の液滴」を噴射するものではなく,クレームの「液体を微粒子に噴射する」を充足するものと認められないと判断していました。

(イ) これに対し被控訴人は,1)イ号製品においては,供給口(5)から 供給された液体は,空気口(10)から噴出された外部傾斜領域(7A ')に平行な方向に沿って流動する空気流の強い剪断応力と液体の自重で 下流側へ引っ張られて傾斜面(外部傾斜領域(7A'))に沿って流れ, 空気流によって傾斜面に液体を押し付ける力は作用しておらず,乙23 の鑑定書記載のとおり,流体力学の一般原理においては,傾斜面に対し て平行な高速気流によっては,傾斜面に供給された液体に対し,傾斜面 に押し付ける力は生じないから,イ号製品は,構成要件オの「液体を,\n高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」の構成を備えていない,2) 構成要件オの「薄膜流を空気流で空気中に微粒子として噴射する」とは,\n「高速流動空気によって押しつけられた液体の薄膜流が平滑面ないし傾 斜面から離れるとき」に「10μm以下の液滴の微粒子」になることを いうが,イ号製品は,気液体が混じった高速噴流が衝突することによっ て,微粒子を得られるものであり,この衝突前に微粒子を得られるもの ではないとして,イ号製品は,構成要件オを充足しない旨主張する。\n しかしながら,被控訴人の主張は,以下のとおり理由がない。
a 上記1)について
乙23の鑑定書には,1)液体が傾斜面に供給された場合,液体を傾 斜面側に押す力がなくても,液体は,その粘性による剪断応力と自重 とで傾斜面に沿って流れること,2)気体が傾斜面に平行に流れる場合, 気体は,傾斜面を押す力を発揮し得ないこと,3)液体には,高速の気 流との速度差によって傾斜面に平行な方向の剪断応力が作用し,液滴 の飛散を伴う流れとなるが,このような傾斜面に平行な気流では,該 傾斜面に液体を押し付けるような力は作用しないことは,流体力学の 一般原理である旨の記載がある。 しかしながら,乙23は,空気の直線流れの方向と平行に平板を設 置した場合における流体力学の一般原理について述べるものであって, イ号製品においては,「供給口(5)」から供給されたノズルの軸方 向(垂直方向)に直進する液体流が,空気口(10)から噴射する高 速流動する空気流によって,空気流と合流する時点で,外側傾斜領域 (7A')に沿って平行に進むように進行方向が曲げられており(前記 (ア)a),傾斜面(外側傾斜領域(7A'))に液体流を押し付ける力 が作用しているものといえるから,イ号製品には妥当しない。 したがって,被控訴人の上記1)の主張は理由がない。
b 上記2)について
本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,「微粒子」の粒子 径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。 次に,本件明細書には,微粒子の粒子径に関し,「図1に示すノズ ル」について「この構造のノズルは,液体を10μm以下の微細な粒\n子に噴射できる。」(【0003】),「図3に示すノズル」につい て「粒子径を5μmとする微粒子を得ることに成功した。しかしなが ら,この構造のノズルは,液体を噴射する供給口5の調整が極めて難\nしく,調整がずれると微粒子の粒子径は20〜30μm以上に急激に 大きくなった。」(【0011】),「図4に示すノズル」について 「この構造のノズルは,アトマイズエアーとスプレッディングエアー\nの衝突角を25度に設計すると,10μm以下の微粒子が得られる。」 (【0012】),「図11の拡大図に示すノズル」について「この 構造のノズルは,液体を極めて微細な,たとえば1〜5μmの微粒子\nとして噴射できる特長がある。」(【0052】),「ちなみに,本 発明者が試作したノズルは,1分間に1000gの液体を噴射して, 粒子径を10μm以下の微粒子の液滴を噴射することに成功した」(【0 072】)との記載があるが,これらの記載から,本件発明4の「微 粒子」の粒子径を「10μm以下」に限定する趣旨を読み取ることは できず,また,本件明細書には,本件発明4の「微粒子」の粒子径を 「微粒子」の粒子径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。 さらに,本件意見書には,「内部混合タイプのノズルは,閉鎖され た空間内で液体の微粒子として噴霧します。このため,ノズルの内部 で極めて目詰まりしやすい欠点があります。・・・にもかかわらず,内部 混合タイプの噴霧ノズルが多用されますのは,外部混合タイプでは, 安定して液体を極めて小さい微粒子に噴霧できないからです。外部混 合タイプの噴霧ノズルであって,液体を微粒子として安定して噴霧で きます優れたノズルは実用化が困難です。」,「本願発明は,外部混 合タイプのノズルを改良したものです。本願発明の噴射方法とノズル は,前述の独特の構成で,液体を極めて小さい微粒子に安定して噴射\nできる特長があります。本発明の噴射方法とノズルは,液体を,10 μm以下の極めて小さい微粒子として,安定して噴射することが可能\nです。・・・それは,本発明の噴射ノズルが,液体を極めて小さい孔や, 極めて小さいスリットから噴射して微粒子に噴射するのではなく,平 滑面を極めて速い速度で高速流動する空気流で,液体を薄く引き伸ば して微粒子にして噴射するからです。」(以上,6頁16行〜7頁2 行)との記載がある。上記記載中には,「液体を,10μm以下の極 めて小さい微粒子として,安定して噴射することが可能です。」との\n記載があるが,上記記載全体として読めば,「本発明」は,「平滑面 を極めて速い速度で高速流動する空気流で,液体を薄く引き伸ばして 微粒子にして噴射する」構成により,液体を微粒子として安定して噴\n霧でることを説明したものであって,「本発明」が「10μm以下」 の粒子径の微粒子を噴射できることに格別の作用効果があることを述 べたものではない。
以上によれば,構成要件オの「微粒子」とは,小さな粒子径の粒子\nを意味するものであって,粒子径の数値範囲に限定はなく,「10μ m以下」の粒子径のものに限定されるものでもない。そして,イ号製品においては,外側傾斜領域(7A')に沿って進む,液滴を含む薄膜流は,外側傾斜領域(7A')から離れるときに小さな粒子径の液滴(微粒子)となっていることは,前記(ア)b認定のとお りである。

◆判決本文

原審はこちら

◆平成27(ワ)12965

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(ワ)19073  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年3月4日  東京地方裁判所

 本件コンピュータプログラムは著作物性なしと判断されました。

イ そこで検討すると,前記1(1),(3)イ認定のとおり,本件プログラムは,ED INETにおける取扱いに変更があったことを踏まえ,ユーザーが作成した会計に 関するエクセルファイル等をX−Smartに取り込み,会計科目を開示科目に組 み替え,編集作業等を経て,宝XBRLの形式に変換することを簡易に行うことな どを目的として開発されたものであり,相応の分量のソースコードから成るもので\nある。 しかしながら,前記1(2)に照らすと,DI社が原告に本件プログラムの開発を委託した際に提供された本件各資料のうち,少なくとも本件資料4ないし6には,本 件プログラムに要求される