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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

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最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和5(ワ)70022  商標権侵害行為等差止請求事件  商標権  民事訴訟 令和7年1月14日  東京地方裁判所

 一部の請求について、日本の裁判所が管轄権を有しないと判断されました。

(1) 事案に鑑み、民訴法3条の3第5号に基づく国際裁判管轄の有無に先立ち、 同第8号に基づく国際裁判管轄の有無について検討する。
ア 不法行為に基づく損害賠償請求訴訟につき、民訴法3条の3第8号の規 定に依拠して我が国の国際裁判管轄を肯定するためには、原則として、被 告が日本国内でした行為により原告の権利利益について損害が生じたか、 被告がした行為により原告の権利利益について日本国内で損害が生じたと の客観的事実関係が証明されれば足りると解するのが相当である(最高裁 平成12年(オ)第929号、同年(受)第780号同13年6月8日第 二小法廷判決・民集55巻4号727頁及び最高裁平成23年(受)第1 781号同26年4月24日第一小法廷判決・民集68巻4号329頁参 照)。
イ 民訴法3条の3第8号の「不法行為に関する訴え」は、違法行為により 権利利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者が提起する差止請求 に関する訴えをも含むものと解される。そして、このような差止請求に関 する訴えについては、違法行為により権利利益を侵害されるおそれがある にすぎない者も提起することができる以上は、同号の「不法行為があった 地」は、違法行為が行われるおそれのある地や、権利利益を侵害されるお それのある地をも含むものと解するのが相当である。 違法行為により権利利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者が提起する差止請求に関する訴えの場合において、同号の「不法行為があっ た地」が日本国内にあるというためには、被告が原告の権利利益を侵害す る行為を日本国内で行うおそれがあるか、原告の権利利益が日本国内で侵 害されるおそれがあるとの客観的事実関係が証明されれば足りるというべ きである(前記最高裁平成26年4月24日判決参照)。
ウ 以上を踏まえ、本件各請求に係る訴えについて、民訴法3条の3第8号 に基づき、日本の裁判所が管轄権を有するか否かを検討する。
(2) 本件請求1から4まで、6の1及び6の2に係る訴えについて
ア 原告は、被告が、本件被告ウェブサイトにおいて、契約書レビューサー ビスの提供に関する広告及び価格表に被告標章を付して電磁的方法により 提供すること(本件請求1、2及び6の1)、契約書レビューサービスの提 供に被告表示を使用すること(本件請求3、4及び6の2)により、原告 の権利利益が日本国内で侵害され、又は侵害されるおそれがあるとの客観 的事実関係が証明されている旨及び原告の権利利益について日本国内で損 害が生じたとの客観的事実関係が証明されている旨を主張する。
イ 前記前提事実(2)ウによれば、被告は、本件被告ウェブサイト上の「AI に基づく契約書及び電子メールアカウントのレビュー」についての広告及 び価格表に被告標章(被告表示)を表示していたことが認められるところ、 本件被告ウェブサイトは日本においても閲覧することができたものである (弁論の全趣旨)。 しかしながら、被告が、本件被告ウェブサイトにおける「AIに基づく 契約書及び電子メールアカウントのレビュー」について、日本国内の利用 者にサービスを提供していることを示す証拠は見当たらないところ、証拠 (甲2、8、乙1)によれば、1)本件被告ウェブサイトは全て英語で記載 されていること、2)本件被告ウェブサイトに掲載された価格表には、米国 ドルでの価格が表示されており、円での価格は表示されていないこと、3) 本件被告ウェブサイトには、被告に対する問合せ先として、メールアドレ ス((メールアドレス省略))とともに米国の住所及び電話番号が記載されており、日本の住所又は電話番号は記載されていないこと、4)本件被告ウェブサイトには、日本語で作 成された契約書又は日本法を準拠法とする契約書に関するレビューサービ スについての記載はないこと、5)本件被告ウェブサイトのサーバは米国に 所在すること、6)被告は、「LegalForce」の文字を含む標章を付 した役務の提供を日本において申し出る計画を有していないことが認めら れる。以上の点を考慮すれば、本件被告ウェブサイトを日本において閲覧 することができたことを踏まえても、本件被告ウェブサイトにおける被告 標章(被告表示)の表示が、日本の需要者を対象としたものであるという ことはできず、これによって、原告の権利利益が日本国内で侵害され、又 は侵害されるおそれがあり、また、原告の権利利益について日本国内で損 害が生じたということはできない。
ウ 以上に対し、原告は、被告のウェブサイトに、被告が日本において97 件の商標登録出願をした旨や、被告が日本の顧客44名について商標登録 出願をした旨が記載されているところ、商標登録出願と契約書レビューサ ービスとの間では顧客層が重複することを主張し、証拠(甲34、35、 乙2)及び弁論の全趣旨によれば、被告のウェブサイト(https:/ /以下省略。 以下「legalforcel awウェブサイト」という。)には、「LegalForce RAPCは、 世界100カ国以上のクライアントを代理しています。」「米国以外では、 LegalForce RAPC Trademarkiaの上位出願国 は以下のとおりである。/(・・・中略・・・)日本 97/」「Lega lForce RAPCは、2009年以降、世界88カ国での商標出願 を支援している/(・・・中略・・・)日本」との記載が英語でされてい ること、被告が日本の顧客44名について商標登録出願をしたことが認め られる。
しかしながら、legalforcelawウェブサイトは本件被告ウ ェブサイト(https://以下省略) とドメイン名を異にするところ、原告の指摘するlegalforcelawウェ ブサイトの記載は、被告による商標登録出願やその代理についての記載で あると理解され、これらの記載をもって、本件被告ウェブサイトにおける 「AIに基づく契約書及び電子メールアカウントのレビュー」についての 被告標章(被告表示)の表示が、日本の需要者を対象としたものであるこ との根拠とすることはできないし、本件被告ウェブサイトの表示により、 原告の権利利益が日本国内で侵害され、又は侵害されるおそれがあること、 これらの権利利益について日本国内で損害が生じたと認めることもできな い。
さらに、原告は、原告の契約書レビューサービスと、被告の契約書レビ ューサービスとは、特に知的財産権に関する契約や英文契約について競合 するのであり、本件被告ウェブサイトの外観は本件原告ウェブサイトの外 観と酷似し、被告が悪意をもってこのような外観への変更をしたことによ り、日本の顧客が、原告が提供する契約書レビューサービスと被告が提供 する契約書レビューサービスを混同するおそれが高まっていること、原告 は外資系企業の顧客を有するところ、これら顧客は英語で記載されたウェブサイトを参照することを主張する。
しかしながら、本件被告ウェブサイトにおける「AIに基づく契約書及 び電子メールアカウントのレビュー」について、日本国内の利用者にサー ビスを提供していることを認めることができないのは前述のとおりである。 そして、本件原告ウェブサイトと本件被告ウェブサイトとを対比しても、 本件原告ウェブサイトは、日本語で記載され、その冒頭部分に「見落とし を無くそう、AIと。」とのキャッチコピー及び女性タレントの画像を掲載 するとともに、原告の商号及び日本における本店所在地を記載しているの に対し、本件被告ウェブサイトは、専ら英語で記載され、日本語での記載 はなく、本件原告ウェブサイトと同様のキャッチコピー又は画像は掲載し ておらず、被告の商号及び米国における本店所在地を記載しており、原告 の商号又は本店所在地を記載していないなど、これらウェブサイトの内容 は相違し、これらのウェブサイトが酷似しているということはできず、原 告の主張は当たらない。また、以上に述べたところに照らし、原告の主張 するその余の点も、上記判断を左右するには足りない。
エ 以上によれば、本件被告ウェブサイトにおける被告標章(被告表示)の 表示により、原告各商標権又は原告表示に係る権利利益が日本国内で侵害 され、又は侵害されるおそれがあり、また、原告の権利利益について日本 国内で損害が生じたとの客観的事実関係が証明されているということはで きない。そして、本件各証拠によっても、本件請求1から4まで、6の1 及び6の2に係る訴えについて、前記(1)ア及びイの客観的事実関係が証明 されているということはできない。
したがって、本件請求1から4まで、6の1及び6の2に係る訴えにつ いて、民訴法3条の3第8号に基づき、日本の裁判所が管轄権を有すると 認めることはできない。

◆判決本文

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令和6(行ケ)10039  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年12月25日  知的財産高等裁判所

 阻害要因なしとして、審決維持です。

原告は、引用発明1において「艶消し梨地部位」は必須の課題解決 原理であり、これをストライプ状の複数の凹凸の列とすることは、引用 発明1の課題解決原理を没却するものであるから、引用発明1に引用文 献2記載事項を組み合わせることには阻害要因があるなどと主張する。 しかしながら、前記3(5)のとおり、引用発明1の「梨地部位」と引用 文献2記載事項の「複数の波の列」は、いずれも印刷工程を設けること なく、フィルム表面上に微小な凹凸を形成することで模様を表\現すると いう共通の作用、機能を有するものであるから、引用発明1の「梨地部\n位」による模様の表現に替えて、引用文献2記載事項の「複数の波の列」\nによる模様の表現を適用したとしても、引用発明1における「特別に印\n刷工程を設けなくとも、通常の製膜工程、製袋工程或いは製袋・充填工 程に組み込める簡易な図柄表現方法」という課題を解決し得るものとい\nえる。 そうすると、引用発明1の「梨地部位」が必須の課題解決原理とまで いうことはできず、引用発明1に引用文献2記載事項を組み合わせるこ とにつき、引用発明1の課題解決原理を没却するような阻害要因がある ということはできない。よって、原告の主張は前提を欠き、採用するこ とはできない。

◆判決本文

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令和6(行ケ)10058  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年12月25日  知的財産高等裁判所

立体商標について、識別力無しと判断されました。指定商品は歯科用品「作業模型用支持台」です。

商標法3条1項3号は、形状その他の特徴を普通に用いられる方法で表示\nする標章のみからなる商標は、商標登録を受けることができない旨規定して いる。商品の立体的形状も、同号の「形状」に含まれている(同法2条1項、 5条2項参照)。指定する商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標\n章のみからなる商標の登録が認められないのは、通常の場合、このような商 標は、自他商品識別力を欠くと考えられるからである。もとより、同法3条 1項3号に該当する商標であっても、使用をされた結果、自他商品識別力を 有するに至ったと認められる場合には、商標登録が認められるが(同条2 項)、その場合でも、商品が当然に備える特徴と認められる立体的形状のみ からなる商標の登録は認められない(同法4条1項18号、商標法施行令1 条の2)。商品の機能を確保するために不可欠であるような立体的形状は、\n商品が当然に備える特徴と解されるのであり、このような立体的形状を有す る商品が、存続期間の更新が可能な商標権に基づき、事実上、半永久的に独\n占販売されることは相当ではないからである。
以上によれば、立体的形状のみからなる商標の商標法3条1項3号該当性 は、当該立体的形状が指定商品の形状を「普通に用いられる方法で表示」す\nるものであり、自他商品識別力を欠くものと認められるか否かという観点か ら判断されるのであり、同法4条1項18号のように商品の当然に備える特 徴である立体的形状(商品の機能を確保するために不可欠な立体的形状)の\nみからなる標章であると認められることまでは要しない。 しかるところ、商品の形状は、多くの場合、商品に期待される機能をより\n効果的に発揮させ、又は商品の美観をより優れたものとする等の目的で選択 されるものである。また、これらの目的で選択された商品の形状は、通常、 同種の商品に関与する者であれば誰でも使用することを欲するようなもので あり、需要者からみれば、商品の形状そのものの範囲を出ないと認識される ものと考えられる。これらの点に照らすと、客観的にみて、商品の機能又は\n美観に資することを目的として採用されると認められる商品の形状は、特段 の事情のない限り、商品の形状を普通に用いられる方法で表示するものと解\nするのが相当である。すなわち、商品の形状が、当該商品の用途、性質等に 基づく制約の下で、同種の商品について、機能又は美観に資することを目的\nとする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば、当該形状が他の\n特徴を有していたとしても、商標法3条1項3号にいう「普通に用いられる 方法で表示」したものに該当するというべきである。\n
・・・
ア 以上を踏まえて検討すると、本願商標の形状のうち、1) 略楕円状の上 面を有する直方体状の形状(底面は中抜きされている。)であり、2) 上 面及び側面に規則的に孔やくぼみ、突起などを配置した形状であることは、 一般的な支持台の形状ということができる。また、本願商標の形状のうち、 3)その上面において、中央に5つの孔が一列に等間隔に並べられ、長手方 向の両側縁の内側には、傾斜のある連続した突部が設けられ、その連続し た突部の傾斜部には、半円状の切欠きが複数設けられた形状(第1特徴的 形状)であること、前記連続した突部の一方と中央の連続した孔の間には、 複数の小突起が一列に点線状に設けられた形状(第2特徴的形状)である ことは、いずれも「歯科用歯形模型用支持台」(支持台)として、ともに 「歯科用作業模型」を構成する「歯科用模型固定用プレート」(固定用プ\nレート)の下面におけるダウエルピンの挿入だけでなく、切欠け部や突部 との嵌合等により、両者が連結して固定され、又は連結強度を高めて確実 に固定されるようにするという商品の機能に資することを目的とするもの\nと認められる。さらに、支持台の上面における第1特徴的形状及び第2特 徴的形状が、両側縁内側において連続的に突部が設けられたり、その一方 と中央の連続した孔の間においても一列に点線状に小突起が設けられたり するなど、その配置は美感を高めるものと認められる。そして、同業者の 同種の商品においても、上面の孔の周辺や縁辺等を含め種々の凹凸、くぼ み、突起等が設けられているものが多く製造販売されていることや、原告 が保有する特許の明細書において、本願商標の各特徴的形状と同様の立体 的形状を備える支持台が記載され、これらの複数の突部及び凹部が、連結 補助用のものであり、支持台と固定用プレートの連結強度をより一層高め るためのものであることが開示されていることなどに照らすと、本願商標 の各特徴的形状を含む形状は、客観的にみて、当該商品の用途、性質等に 基づく制約の下で、同種の商品等について、機能又は美観に資することを\n目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものと認めるのが相当で\nある。本願商標は、商品の立体的形状以外の標章は含んでいないから、本 願商標は、その需要者からみて、指定商品である歯科用歯型模型用支持台 の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、\n自他商品識別力を有さないというべきである。したがって、本願商標は、 商標法3条1項3号に該当し、商標登録を受けることはできない。
イ この点について、原告は、本願商標の形状は、他社の支持台上面の形状 とは一見して明らかに異なる特異かつ個性的な形状であるから、本願商標 は「独占不適商標」でも「自他商品識別力欠如商標」でもないとか、本願 商標の形状は、単に機能的役割を果たす形状ではないから、支持台として\n機能上又は美観上の理由から予\測される範囲を超えた形状であるなどと主 張する。 しかしながら、前記のとおり、本願商標の各特徴的形状は、支持台の孔 に固定用プレートのダウエルピンを挿入するだけでなく、支持台と固定用 プレートの連結強度をより一層高める機能を有する連結補助のための形状\nであるとともに、支持台の美観を高めるための形状であることが認められ、 同業者の同種の商品においても、上面の孔の周辺や縁辺等を含め種々の凹 凸、くぼみ、突起等が設けられているものが多く製造販売されていること が認められるのであるから、本願商標の支持台上面の凹凸やくぼみ、突起 等が、他社のものに見られないものであるとしても、当該商品の用途、性 質等に基づく制約の下で、同種の商品等について、機能又は美観に資する\nことを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものと認めるのが\n相当である。したがって、原告の主張を採用することはできない。
ウ よって、本願商標に係る立体的形状は、支持台として、機能又は美観に\n資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものと認め\nられるから、本願商標は、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用す る標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当するというべ きである。

◆判決本文

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令和6(ネ)10038  不当利得返還等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和7年1月15日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

自動二輪車のブレーキに関する特許について、ヤマハ発動機に対して損害賠償等を求めました。原審は、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。なお、本件特許は出願時から弁理士無しの本人出願です。\n

ア 控訴人は、原判決が「構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、\n従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出された、車両の傾 斜走行状態での正確な横Gであると認められる。」と判断しているが、むしろ、本件 明細書において、「正確な横G」は、本件課題との関係で、タイヤでの荷重接地点変 化から生じる戻り角(ρ)を加味した正確な傾斜角及び加速度センサーと角速度セ ンサーの関連付けにより明らかになったロールによる速度変化の影響を加味して導 かれる、加速度センサーにおいて安定走行時に検出される横G(Gken)のこと を指すものとして説明されており、他方、「横G(Ghosei)」は、本件課題と の関係で、正確な横Gの検出が可能となったことを踏まえた、車両を安定化に導く\nブレーキシステムの構成要素の一つとして説明されていると主張する。\nそこで、控訴人が主張する「戻り角(ρ)」に着目すると、発明の詳細な説明には 「ハイブリットセンサー20 には、進行方向の加速度を検出する加速度センサー 21、 進行方向ロール速度を検出する傾斜角速度センサー22 及び ロール方 向の加速度を検出する加速度センサー23 が小型に内蔵されおり、ライダーの体 重を含めた合成重心に近いところにレイアウトされる。 ハイブリットセンサー2 0 には、傾斜時に生じる理論バンク角(Φ)及び傾斜によってタイヤでの荷重接 地点変化から生じる戻り角(ρ)が同時に存在している。 (図8も同時参照)セ ンサー20 に生じる力(ベクトルA)と 実際に生じる力(ベクトルA ’)とは ずれが生じている。 このずれ角(戻り角(ρ))によって、正確な横Gを検出する ことが解析された。」(【0060】)、「Gken = g・cosΦ・tanρ- Ψ・Rhenと変形でき、シンプルな式になる。ここで、表されるΦは 車両の理 論バンク角度であり理論傾斜角でもある、 傾斜角速度センサー22 から検出さ れる角速度Ψ(rad/sec) を時間積分して得られた角度であり、ρは傾斜 戻り角であり、RはGセンサー#23の実車取付けの高さ(図8b hsen ) をそれぞれ示している。」(【0063】)との記載が認められるが、この記載は、「横 加速度(Gken)」を解析した結果として、傾斜角Φ、傾斜戻り角ρ、傾斜角速度 Ψ等を用いた式で表すことができることを示すに尽きるのであり、他方で、特許請\n求の範囲の記載において、本件発明1の「横加速度(Gken)」は「横加速度を検 出する加速度センサー」により検出されたものとの特定がされているものの、傾斜 角Φ、傾斜戻り角ρ、傾斜角速度Ψ及びRhenに基づき、Gken=g・cos Φ・tanρ−Ψ・Rhenという演算から導き出されたことは特定されていない から、控訴人の主張はその前提を欠く。
また、仮に「横加速度を検出する加速度センサー」により検出された「横加速度 (Gken)」を正確な横Gであるとするならば、正確な横Gの検出は「横加速度を 検出する加速度センサー」が本来的に備えている機能であり、正確な傾斜角の検出\nとは無関係である。そうすると、控訴人が主張する「1)「走行時の横Gセンサーと 角速度センサーを関連付けること」及び「正確な傾斜角の検出」によって、走行状 態での「正確な横G」の検出を可能とすること」という課題とは矛盾することにも\nなるから、控訴人の主張は本件明細書の記載とは整合しない独自の見解であって採 用することはできない。
イ 「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ.」への訂正について\n(ア) 特許がされた特許請求の範囲、明細書又は図面における訂正について、特許 法126条1項ただし書2号は、「誤記又は誤訳の訂正」を目的とする場合には、願 書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることを認めているが、 ここで「誤記」というためには、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいこと が、当該明細書、特許請求の範囲若しくは図面の記載全体から客観的に明らかで、 当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという 場合でなければならないものと解され、特許法134条の2第1項ただし書2号の 「誤記又は誤訳の訂正」も同様に解される。
したがって、明細書等の記載について、物理学上意味をなさないことが客観的に 明らかであることが認識できたとしても、物理学上意味をなさないことの一事をも って、ただちに同号の「誤記」と認められるわけではなく、当該物理学上意味をな さない記載について訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければ、 同号の「誤記」とは認められないと解するのが相当である。この点、控訴人は、請 求項に記載された計算式に係る誤記の訂正に関して、それを字義通り解すると、次 元の異なる物理量同士の減算となり、その技術的意味が理解困難となること等を理 由として、誤記の訂正が認められることを主張するが、技術的意味が理解困難とな ることの一事をもって誤記の訂正が認められるものとはいえないから、控訴人の上 記主張は採用できない。
(イ) 以上を踏まえ、本件明細書等の記載について検討する。
控訴人は「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ.」に訂正することを主張する。本件特\n許権に係る特許請求の範囲及び本件明細書には、「傾斜角速度(Ψ)」、「角速度検出 値(Ψ)」、「角速度Ψ(rad/sec)」、「角速度(Ψ)」「車両のロールによる角速度」、「ロール方向の角速度」、「角速度出力(Ψ)」、「ロール角速度Ψ」、「ロール速度Ψ」、「傾斜角速度Ψ」及び「ロール角速度(Ψ)」(請求項1〜4、【0055】、【0061】、【0063】、【0066】、【0073】、【0084】、【0085】、【0090】、【0127】、【0130】、【0131】)との記載が認められ、他方で、「該傾斜角速度(Ψ)の時間微分で得られる傾斜角加速度(dΨ/dt)」(請求項2)、「傾斜し始めの傾斜速度(ロール速度Ψ)を時間微分 dΨ/dt した角加速度を検知(図中ΔΨの部位)することにより」(【0131】)との記載も認められるから、本件明細書においては、傾斜角速度を「Ψ」、傾斜角加速度を「dΨ/dt」又は「ΔΨ」と表しているものと認められる。\n
そして、本件発明1では「横加速度を検出する加速度センサーのロールによる影 響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法」と特定され、 本件発明2では「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正 後の横G(Ghosei)の導出方法として、前記横加速度から前記加速度センサ ーの車両取り付け高さと前記傾斜角速度(A)または傾斜角速度(B)のいずれか の積、との差分を求め、」と特定されているところ、請求項1を引用して記載された 請求項4には「前記信号演算として、加速度センサーのロールによる影響を取り除 く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法として、前記検出された 横加速度(Gken)から加速度センサーの車両取り付け高さ(hsen)と前記 検出された傾斜角速度(Ψ)の積、との差分を求めること、の導出方法を有する事」 と記載され、本件明細書には「実際の走行傾斜時に検出される検出横G(Gken) は、傾斜角の時間的変化である傾斜角速度(Ψ)を用いた補正が必要であることか ら 補正後の横G(Ghosei)はGhosei = Gken−(Ψ・Rhse n)として表される。」(【0073】)、「2)、 走行時に変化する実際の検出横G(Gken)を少なくとも傾斜角の時間微分(dΦ/dt)値である傾斜角速度(Ψ) を用いた補正を行い、補正後の横G(Ghosei)をGhosei= Gken −(Ψ・Rhsen)の式を用いて補正した値の算出G値」(【0085】)、「項目2)は、走行時の傾斜により検出された検出G(Gken)は車両のロールによる誤差 が重畳されるため ロール成分を取り除くために角速度の補正を行うことが必要と なる。 すなわち、センサーからの検出G(Gken)から規範G成分の部位を実 際の検出される横G(Gken)に置換え、角速度による補正を行えば 規範同様 にロールによる影響を排除した 補正後の制御で使用できるG(hosei)が導 け、Ghosei=Gken−(Ψ・Rhsen) の様に表される。ここで補正項\nとして傾斜角速度を加味している理由は、前記したように制御上無視できない要素 になっているためである。」(【0087】)などと記載されている。
以上によると、本件特許権に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載は、傾斜 角加速度は傾斜角速度の時間微分で得られるという認識の下、両者を明確に区別し た上で、「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横 G(Ghosei)の導出方法」について、加速度の次元の物理量である実際の走 行傾斜時に検出される検出横G(Gken)から、速度の次元の物理量である傾斜 角速度(Ψ)にセンサー取付け高さRhsenを乗じた値を減算することで終始一 貫していると認められる。 そうすると、本件明細書等に記載された「加速度センサーのロールによる影響を 取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法」について、当業 者は本件明細書に物理学上意味をなさない導出方法が記載されていることを理解す るにとどまり、角速度Ψを角加速度Ψ.の趣旨に理解するのが当然であるとまでは認 められない。
・・・
(エ) 以上のことから、控訴人が主張する「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ.」への\n訂正は認められず、本件各発明のいずれについても、特許請求の範囲に記載された 発明が本件明細書に記載された発明であるとはいえない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆令和5(ワ)70114

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令和6(ラ)10001  保全異議申立却下決定に対する保全抗告事件  特許権 令和6年10月22日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

薬用の化学物質(ペプチド)に関する特許の差止仮処分命令の取消を求めましたが、抗告棄却されました。

当裁判所も、基本事件における相手方の申立ては、原々決定が認容した限度\nで認容するのが相当であると判断する。その理由は、後記1のとおり補正し、 後記2のとおり当審における抗告人の補充主張に対する判断を、後記3のとお り当審における抗告人の追加主張に対する判断を、それぞれ付加するほか、原 決定「理由」第4の1から7まで(6頁18行目から33頁7行目まで)に記 載のとおりであるから、これを引用する。当裁判所は、後記1の補正及び後記 2(1)の判断のとおり、乙1発明に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点2 −3、2−5)について、原決定とは異なり、当業者が、相違点1−1に係る 本件発明1の構成を容易に想到するとは認められないことから、本件発明の進\n歩性が欠如するとは認められないと判断するものである。
・・・
乙1公報の発明の詳細な説明には、「さらに、容器2およびその中味 は必ず薬用でなければならないというわけではない。衛生的あるいは 非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体 状の化学物質を充填した他のタイプの容器も本発明の方法によって処 理できる。」との記載がある。このうち「さらに、容器2およびその中 味は必ず薬用でなければならないというわけではない。」という第1文 は、その記載に基づいて、容器2及びその中味について、薬用でもよ いが、薬用であることが必須であるわけではなく、薬用以外でもよい という意味と解され、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解さ れる。そのため、これに引き続く第2文の「衛生的あるいは非酸化性 の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学 物質」についても、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解され、 第1文によって、第2文にいう上記「化学物質」から薬用の物質が排 除されており、薬用以外の化学物質のみが含まれると解すべき根拠は 認められない。そうすると、乙1発明が、薬用の化学物質についての 非酸化性の移送を排除しているとは認められない。
しかしながら、乙1公報の発明の詳細な説明には、PTHペプチド 含有製剤の製造については何も記載されておらず、PTH類縁物質の 含量が低い高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得るとの課題 も開示されていないから、乙1発明に接した当業者が、乙1発明を、 「当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する いずれのPTH類縁物質量も1.0%以下であり、及びPTHペプチ ド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5. 0%以下」であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用 することを想起するとは認められない。
抗告人は、PTHが酸化しやすい物質であることは本件特許の優先 日前の技術常識であり、当業者は、PTHペプチドを有効成分とする 凍結乾燥注射剤を製造するに当たり、「製剤開発に関するガイドライン」 (乙20)に基づき、酸化を防止して、高純度の医薬品を製造するこ とができるよう製造工程を確立することを検討するから、乙1発明を PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造のために使用することを当然 検討すると主張する。
しかし、乙1に、抗告人の主張する上記技術常識を組み合わせ、更 に乙20の文献の記載を組み合わせたとしても、当業者が、典型的製 造過程によりPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しよう とするとPTH類縁物質を含んだ製剤が製造されてしまうという課題 を認識するとはいえず、乙1発明を「当該製剤中のPTHペプチド量 と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質量も1. 0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に 対する全PTH類縁物質量が5.0%以下」の無菌注射剤であるPT Hペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用することを想起すると も認められない。 その他、抗告人が主張する事情を考慮しても、乙1発明に本件特許の優先日前の技術常識を組み合わせることによって、当業者が、相違点1−1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n

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令和6(ネ)185等 商標権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴事件  商標権  民事訴訟 令和6年10月18日  大阪高等裁判所

被告は、ロゴ化された商標「Robot Shop」を用いてオンライン販売をしていました。商標「Robot Shop」(標準文字)の商標権者が、侵害訴訟を提起しました。1審は、差止と約1500万円の損害賠償を認めました。大阪高裁もほぼ同様です。

これに対し、一審被告は、一審原告の損害賠償額の推定の覆滅割合につ いて、一審被告の出資者の創始したカナダ法人が長年にわたり被告標章を使 い続けてきたこと、一審原告は本件商標以外にも自己の社名を用いた別の商 標を用いていること等からすると、上記の覆滅割合は90%を優に超えると いうべきである旨主張するが、一審被告の指摘する上記の事情は、上記認定 の覆滅割合の判断を左右するものであるとはいえない。 他方、一審原告は、1)ウェブサイトに「RobotShop」などと表示\nしてロボット関連商品をインターネット上で販売している会社は、一審原告 と一審被告の他には2社しかない、また、2)一審原告の販売商品である「S ota」というロボットは、日本経済新聞で取り上げられるなど著名であ り、本件商標は「Sota」の販売元のものとして知名度があるから、本件 商標の自他商品識別力は相当程度強いとして、一審原告の損害賠償額の推定 の覆滅割合は45%にとどまるなどと主張する。
しかし、上記1)の主張を踏まえても、ウェブサイトに「RobotSho p」などと表示してロボット関連商品をインターネット上で販売している会\n社は、一審原告と一審被告の他にも複数あるというのであり、また、上記2) の主張のとおり本件商標に一定の知名度があるとしても、本件商標そのもの は、「ロボットの店」などの意味で理解され得る一般的な語であることに照 らすと、それ自体の自他商品識別力が強いとはいえない。 したがって、一審原告の主張を踏まえても、一審原告の損害賠償額の推定 の覆滅割合を90%と認めるのが相当であるとの上記判断は左右されな い。
・・・
上記イ認定の限界利益額1億1306万8476円に10%(100%−90%)を乗じた額として計算された・・・

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◆令和2年(ワ)7918

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令和6(ネ)10035 著作権  民事訴訟 令和6年12月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 検定用ガイドブックは、法人著作と認定されました。

上記引用の認定事実によれば、本件検定は、被控訴人の理事長兼本件財 団法人の理事であった Dの指示により、発足に向けた検討が始まったもの であり、関係団体としては被控訴人と本件財団法人の関与が想定されていた ところ、両者の関係は、最終的に、1)本件検定の実施主体は本件財団法人と するが、2)本件検定の標準テキストというべきガイドブック(本件書籍)は、 被控訴人を「発行」主体とし、被控訴人(文化服装学院)が内容を検討し、 その職員において執筆するという役割分担が整理されたこと、実際にも、本 件書籍の執筆を担当したのは、控訴人を含む被控訴人の従業員3名であり、 この3名に対しては、被控訴人から「原稿料」が支払われていることが認め られる。
以上の事実によれば、本件書籍は、被控訴人の従業員としての控訴人が、 その職務上作成したものと認めることができる。なお、控訴人も、本件書籍 の執筆に当たり、文化服装学院内において執筆することがあり、被控訴人の 職員と打ち合わせ、被控訴人が所蔵する資料を借り出し、調査等の目的で文 化服装学院の図書館を利用したことを認めている(甲19、弁論の全趣旨)。
(2) 以上の認定・判断に反する控訴人の主張は、以下のとおり、いずれも採 用できない。
ア まず、控訴人は、本件書籍の作成指示は、本件財団法人の当時の事務局 長兼理事であった Aから受けたと主張し、本件当時の文化服装学院の 教務部長の Bの陳述書(甲20)中には、控訴人が Aとやり取りを しており、自分としては本件書籍の執筆を被控訴人の業務として行って はならないと厳命していたとの記載もある。
しかし、本件財団法人作成の本件計画案(甲18)中に、本件書籍は 被控訴人(文化服装学院)の職員に「執筆願っている」旨の記載がある ほか、被控訴人と本件財団法人間の覚書においても、本件書籍は、被控 訴人(文化服装学院)側で執筆を含む編集・出版を担当することが明記 されている。 Bの陳述書は、これら関係証拠と矛盾するものであって、 採用できない。
イ また、控訴人は、本件書籍執筆当時の嘱託業務量からして、膨大な分量 のある本件書籍を執筆することはできなかったとも主張する。しかし、 嘱託業務としての所定の勤務時間内に本件書籍の執筆をすることが困難 であったとしても、講師としての本来の報酬とは別に相応の報酬を受け 取ることを前提に、付随業務として本件書籍の執筆を新たに引き受ける ということはあり得る話であり、控訴人の上記主張は、本件書籍の執筆 が被控訴人従業員としての職務(付随業務)に含まれないと解すべき理 由にはならない。
ウ さらに、控訴人は、本件書籍執筆に関して本俸を上回る原稿料が支払わ れていることから、本件執筆が嘱託専任講師業務とは別の性質のもので あると主張する。しかし、ここで重要なのは、「原稿料」が、本件財団 法人からではなく、控訴人の使用者である被控訴人から支払われている という事実である。本件財団法人( A)に指示されて執筆した旨をい う控訴人の主張は、この事実と整合せず、原稿料の支払に関する客観的 な事実関係は、むしろ、被控訴人従業員としての職務(付随業務)に基 づいて本件書籍の執筆がされたことを推認させるものである。なお、本 来の講師としての報酬と別枠での支払になっているという点に関してい えば、当該原稿料の支払は、付随業務の負担が重いことに配慮した補償 的な現金支給であったと理解できるから、いずれにせよ上記認定判断を 左右しない。

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◆令和5年(ワ)70315

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令和5(ワ)70607  特許権  民事訴訟 令和6年10月22日  東京地方裁判所

 構成要件Jを充足しない、さらに均等侵害も第5要件を満たさないと判断されました。

ア 本件発明に係る特許請求の範囲の記載によれば、「第 1 制御装置」(構成要\n件 J)は、自動回帰発動条件1)(「前記第 1 送受信アンテナにより一定時間以 上前記遠隔操縦装置からの信号を受信しなかったと判断された場合」)、又は、 同2)(「前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合」)のうち、「少 なくともいずれか一方の判断が行われた場合」に、本件発明の遠隔操縦無人 ボートを、「前記初期位置に自動回帰させるため、前記現在位置および前記 初期位置に基づいて、前記推進動力源と前記操舵装置との動作を制御する」 ものである(いずれも構成要件 J)。
もっとも、この記載によっても、本件発明の「第 1 制御装置」は、自動回 帰発動条件1)及び2)の各場合に自動回帰のための動作制御を行い得る構成\nをいずれも備えたものである必要があるか、いずれか一方の構成を備えた装\n置であれば足りるかについては、必ずしも明らかでない。
イ そこで、本件明細書の記載を参酌すると、本件発明は、「ボートが波に乗っ て、リモコン(遠隔操縦装置)の電波が届かないような遠くまで流されてし まった場合」、「波により船体が激しく揺れて、遠隔操縦装置からの電波を受 信するアンテナが岩等に当たり破壊されてしまった場合」及び「ボートに搭 載されている電源の残量が少なくなって、駆動電力が供給され難くなった場 合」、すなわち、遠隔操縦装置との通信途絶(前 2 者)及び電源残量の不足 (後者)という事態を具体例として示しつつ、そのような事態においてもな お紛失することなく、必ず回収できる遠隔操縦無人ボートを提供することを 解決すべき課題とし(【0004】〜【0007】)、本件発明の構成を備えることに\nよって、「一定時間以上遠隔操縦装置地の間の通信が途絶えた場合、または、 電源の残量が半分以下になった場合」に、「自動的にボートを初期位置に回 帰させることができ」、「ボートを紛失してしまうことがない」として、この 課題を解決する作用効果が得られるとするものである(【0008】、【0009】)。
ここで、自動回帰発動条件1)の場合に初期位置に自動回帰させること及び 同2)の場合に初期位置に自動回帰させることは、前者が遠隔操縦装置との通 信途絶、後者が電源残量の不足という相互に原因の異なる危機的状況への対 処を想定したものである。このため、本件発明は、その作用効果を奏するた めに、いずれの危機的状況にも対処できるようにすることを要するものと理 解される。そうすると、本件発明における「第 1 制御装置」(構成要件 J) は、自動回帰発動条件1)に係る判断と同2)に係る判断のいずれもが行われ得 る機構を備えることを前提として、そのいずれかの条件が満たされた場合に\n自動回帰のための動作制御を行う装置を意味するものと解される。本件発明 の実施例としてはこのような装置のみが開示され、いずれか一方の機構のみ\nを備えるものが本件発明の技術的範囲に含まれることの明示的な記載も示 唆もない。これに加え、このように解することは、本件発明に係るボートが 電源の残量を検出する残量検出装置(構成要件 I)を備えることを発明特定 事項としていることによっても裏付けられる。仮に、自動回帰発動条件2)に 係る判断を行い得る機構がなく、同1)が満たされた場合に自動回帰のための 動作制御を行う機構のみを備えた装置も本件発明の技術的範囲に含まれる\nものと解した場合、本件発明の発明特定事項として電源の残量を検出する残 量検出装置を備える構成を採用したことの技術的意義が理解し難いものと\nなるからである。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載によ れば、本件発明の「第 1 制御装置」(構成要件 J)は、自動回帰発動条件1)に 係る判断と同2)に係る判断のいずれもが行われ得る機構を備えることを前\n提として、そのいずれかの条件が満たされた場合に自動回帰のための動作制 御を行う装置を意味するものと解される。これに反する原告の主張は採用で きない。
3 争点 1-5(均等侵害の成否)について
原告は、仮に被告製品が本件発明の構成要件 J を充足しないとしても、電源の 残量に着目した自動回帰のための動作制御の条件として、電源の残量が半分以下 となった場合とするか他の所定量以下となった場合とするかの相違は、本件発明 の本質的部分の相違ではなく、本件特許の出願経過において意識的に除外された ものでもないことなどから、被告製品につき本件発明の均等侵害が成立する旨を 主張する。
しかし、前記認定事実(前記 2(1))によれば、本件特許の出願経過において、 特許庁審査官から、拒絶理由として、補正前請求項 1 発明の「所定の条件」につ き明確性要件違反及びサポート要件違反を指摘され、また、補正前請求項 6 発明 の「所定値」につき明確性要件違反を指摘されたことを受け、原告は、本件補正 により、自動回帰のための動作制御の条件につき、本件発明の構成要件 J のとお り補正したものである。原告によれば、本件補正は出願当初の明細書の記載内容 の範囲内で行ったものであるところ(乙 4)、本件明細書には、自動回帰発動条件 につき、本件発明の実施形態の 1 つとして、「上記実施形態では、自動回帰の際 に、障害物に衝突しないように、通ってきた経路を戻っている。しかし、通って きた経路を戻らなくてもよい。この場合、ボート に障害物を検知するセンサ を設け、自動的に障害物を回避できるようにすることが好ましい。電源 12 の残 量が少ない場合にボート を自動回帰させる場合、通ってきた経路を戻るので は、少なくとも電源 12 の残量が半分以上あることを条件に戻す必要がある。障 害物センサを設けることにより、電源 12 の残量が半分以下になって、自動回帰 させても操作者の下までボート が戻って来ることができる。」との記載があり (【0061】)、他に自動回帰発動条件としての電源の残量の数値に言及する記載は 見当たらない。この点を踏まえると、本件補正は本件明細書【0061】の記載に基 づいて行われたものと理解される。
そうすると、原告は、本件補正により、電源の残量に着目した自動回帰のため の動作制御の条件につき、ボート が通ってきた経路を戻るケースにも対応し 得るものとする趣旨で、「前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合」 (自動回帰発動条件2))とする数値限定を行ったものとみるのが相当であり、「半 分以下」とするもの以外は特許請求の範囲から意識的に除外されたものというべ きである。
したがって、本件発明の構成要件 J の文言非充足との関係における均等侵害の 主張については、少なくとも均等の第 要件を欠き、自動回帰発動条件2)に係る 「半分以下」の構成を備えない被告製品について、均等侵害が成立するとは認め\nられない。この点に関する原告の主張は採用できない。

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令和4(ワ)8300 差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年10月10日  東京地方裁判所

不競法2条1項20号により、販売代理店として取得した同サービスに係る営業上の機密事項や営業手法を利用し、これと類似する事業を行うことが禁止されました。

ア 被告会社は、原告に対し、本件契約 3 条 2 項 4 号に基づき、「本サービスを …誤認されるサービスを行ってはならない」という競業避止義務を負う。また、本 件事業に関し、被告会社が原告との関係で代理商(会社法 16 条)の地位にあること は当事者間に争いがないところ、代理商は、許可なく「自己又は第三者のために会 社の事業の部類に属する取引をすること」を禁止されている(同法 17 条 1 項)。したがって、被告会社は、この観点からも、原告に対して競業避止義務を負う。
イ 前提事実及び前記各認定事実によれば、本件事業及びレキシル事業は、いず れも、広く採用活動を行う顧客から提供を受けた求職者等の履歴書や職務経歴書等 の情報を用いて、当該求職者等に係る WEB 調査及びその評価を行うサービスとい える。このため、レキシル事業は、本件事業と同種又は類似するサービスであり、 原告が事業として行う本件事業の部類に属する取引と認められる。なお、被告会社 は、レキシル事業として「レキシル」及び「レキシル+」を提供しており、それぞれ 別の商品として位置付けているとみられるものの、これらを併せた商品群を「レキ シル」と称して、一体的に宣伝広告活動等を行っていることがうかがわれることに 鑑みると、被告会社の原告に対する競業避止義務違反を考えるに当たっては、これ らの商品を区別して取り扱う必要はないというべきである。 また、本件提案書及び本件申込書とレキシル提案書及びレキシル申\込書の記載内 容の同一性又は類似性並びに本件契約締結及びその前後の経緯に鑑みると、被告会 社は、本件事業に関して原告から提供された資料に示された情報をもとにレキシル 提案書その他レキシル事業に関する資料等を作成し、レキシル事業に使用したもの と理解される。そうすると、被告会社は、原告に対する本件契約上の競業避止義務 にも違反したものといえる。
ウ これに対し、被告会社は、本件契約上の競業避止義務は代理商としての競業 避止義務よりも範囲を限定し、後者の適用を排除したものであり、また、仮に後者 が適用されるとしても、レキシル事業と本件事業とは内容や市場を異にすることな どを主張する。
しかし、上記のとおり、本件契約上の競業避止義務と代理商としての競業避止義 務とは内容を異にするところ、前者をもって後者の適用が排除されるとすべき理由 はない。また、本件事業とレキシル事業の内容や市場については、レキシル事業の うち「レキシル」は、本件事業とその内容及び市場を同じくすることは明らかとい ってよい。他方、「レキシル+」については、「第三者チェック」が実施されること もあって、「おすすめ対象」が中途採用者及び幹部社員採用候補者とされており、 その点では本件事業と異なる部分がある。もっとも、少なくとも中途採用者は「レ キシル」においても「おすすめ対象」とされており、また、幹部社員採用候補者に ついても WEB 調査が必要となる例のあることは容易に推察される。そうすると、 「レキシル+」を考慮に入れても、レキシル事業と本件事業とは、その内容及び市場 を共通にすると見るのが相当である。 その他被告会社が縷々主張する点を考慮しても、この点に関する被告会社の主張 は採用できない。
(3) 小括
以上より、被告会社は、レキシル事業の実施につき、原告に対する代理商として の競業避止義務(会社法 17 条 1 項 1 号)及び本件契約に基づく競業避止義務に違 反したものと認められる。

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令和5(行ケ)10132 特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年10月30日  知的財産高等裁判所

 特許異議申立について、訂正を認めた上、進歩性無しとして取消決定がなされました。知財高裁は、かかる審決を取り消しました。

前記(2)ウ、(3)アのとおり、甲1文献には、本件訂正発明1の地盤固結材 と同じ組成による固結体を得るための地盤注入用薬液が記載されている ものの、地盤改良工法における1次ゲル化時間の定義やその機能効果等の説明、注入の手順・条件等は一切記載されていない。そこで、当該地盤固\n結材を使用した地盤改良工法における本件訂正発明1の構成に係る当該地盤固結材の注入の条件について、各文献の記載事項等から、本件特許の\n出願当時、当業者が容易に想到し得たか否かが問題となる。
前記第4の2のとおり、本件訂正発明1及び引用発明の地盤改良工法で 使用される地盤固結材は、水ガラスと微粒子スラグを有効成分とする懸濁 液(懸濁型グラウト)であり、固結の原理は、「低モル比シリカ溶液中のア ルカリ分が微粒子スラグの潜在水硬性を刺激して固化するとともに、低モ ル比シリカ溶液のシリカ分が微粒子スラグのカルシウム分と反応してゲ ル化するため、土砂中においてスラグによる固結部分の間をシリカのゲル が連結することにより一体化した固結体が形成される」というスラグの水 硬性によるものである。他方、甲5文献、甲6文献及び甲9文献に記載さ れている地盤固結材は、「活性複合シリカコロイド」(甲5)、「溶液型活性 シリカグラウト」(甲6)又は「耐久シリカグラウト」(甲9)(溶液型グラ ウト)であり、その固結の原理は、注入液が「土粒子間浸透するにつれ、 土との接触部の pH が中性方向に移行するとともにゲル化が進行」(甲5) する、「注入された酸性の薬液は土中のアルカリ分と反応して、ほぼ中性に なると固結が始まる」(甲6)という地盤の pH によるものであり、本件訂 正発明1及び引用発明の地盤固結材とは固結の原理を異にする。
また、地盤改良工法の注入の条件について、甲5文献、甲6文献及び甲 9文献は、注入材(溶液型グラウト)について、注入された酸性の薬液は 土中のアルカリ分と反応して、ほぼ中性になると固結が始まるため、薬液 のゲル化時間は地盤中に注入された状態のものを測定し、この土中ゲル化 時間(GTso)よりも薬液の注入時間を長く設定することで、後続の注入液 が、先行する注入液のゲル化しかかった先端表面部を乗り越えて、又はゲル化しかかった注入液を外周方向に押しやりながら浸透し固結していく\nというマグマアクション法を説明している。しかし、当該マグマアクショ ン法は、あくまでも酸性の薬液が土中のアルカリ分と反応して固結する場 合の注入の条件について述べたものであって、薬液中のスラグの水硬性に より固結する本件訂正発明1及び引用発明の地盤固結材の注入の条件と して当然に妥当するものということはできない。固結の原理が異なる以上、 同じ地盤改良の技術分野であるからといって、同じ注入条件で大径の高強 度固結体を形成するという課題を実現することができるとは直ちにいう ことはできないからである。甲5文献、甲6文献及び甲9文献中にも、マ グマアクション法を、固結の原理を異にする懸濁型グラウトに適用し得る ことを示唆するような記載等は見られないから、当業者において、引用発 明及びこれらの文献から、本件訂正発明1及び引用発明の懸濁型グラウト の特性(1次ゲル化、疑塑性、2次ゲル化)に応じた注入条件を容易に想 到することはできないというべきである。

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令和5(ワ)70346 特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月10日  東京地方裁判所

特許権侵害事件です。構成要件Fを具備しないとして、非侵害と認定されました。念のため、無効理由についても判断がされています。

前記前提事実に加え、証拠(乙9)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製 品は、ユーザーが自動車のドアを開けることで磁気センサーモジュールがド アに設置された磁石の磁気を感知しなくなると、バックライトモジュールが オン状態(点灯状態)になる一方で、ユーザーが自動車のドアを閉じること で磁気センサーモジュールが磁気を感知すると、バックライトモジュールが オン状態からオフ状態(消灯状態)になること、そして、バックライトモジ ュールがオン状態(点灯状態)のまま放置されると、徐々に減光しながら消 灯するが、これは、バックライトモジュールが、接続されているコンデンサ の充電又は放電による影響を受けるからであり、発光持続時間を正確に調整 するための制御回路や制御プログラムを用いることによって消灯までの時間 が制御されているものではないこと、点灯状態と消灯状態の時間間隔は、コ ンデンサの性能(静電容量)やその劣化(静電容量の低下)の程度によって\n左右されるため、製品の使用期間が長くなりコンデンサのエイジングが進む と点灯開始から消灯までの時間間隔が短くなり、所望の時間間隔で消灯させ ることはできないこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、被告各製品の発光持続時間は、コンデンサの性能\nやその劣化の程度によって左右されることになるのであるから、被告各製品 は、発光持続時間を正確に調整することができるものとはいえない。 これに対し、原告の主張は、構成要件Fにいう「調整可能\」の文言解釈に つき、前記判断とは異なる文言解釈に立つものであり、上記文言解釈に係る 前記説示に照らし、いずれも採用の限りではない。
・・・
前記3のとおり、被告各製品は、本件発明の構成要件Fを充足しないから、\n本件発明の技術的範囲に属するとはいえず、その余の争点を判断するまでもな く、原告の請求は理由がないことになる。もっとも、本件の事案に鑑み、本件 の中核的争点の一つである争点2−1に限り、念のため、以下判断を示してお くこととする。
・・・
前記(1)の乙8公報の記載によれば、乙8発明は、外部電源が完全に不要な 自動車スカッフプレートに適用される発光モジュールを提供することを課題 とするものであり(【0004】)、この課題を解決するための発光モジュ ールは、発光素子及びリードスイッチが設けられた「ランプ板」、及び電線 を介してランプ板に接続される「電池」が、いずれも「導光板」に埋設され る構成を有し(【0005】、【0015】ないし【0017】)、この構\ 成により「導光板10の内部に発光素子20に必要な電力を供給することが できる電池40を設置するため、完全に外部電源が不要となる」(【001 9】)ことによって、上記の課題を解決するものと認められる。その他に、 乙8公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載されて\nいない。
そして、前記(1)及び前記(2)イのとおり、乙8発明の構成は、外部電源が完\n全に不要な発光モジュールである導光板10に、これに埋設されたランプ板 50、電池40等を密封するための収容溝カバー70を設け、スカッフプレ ート80の上面には凹部を設け、この凹部に発光モジュールである上記導光 板10を収容するものである。 そうすると、乙8発明においては、導光板10に係る上記構成(電池40\nを導光板10の内部に埋設して、導光板10の底面に電池40を密封する収 容溝カバー70を設け、この導光板10をスカッフプレート80の内部に収 容しているものをいう。)は、乙8発明の課題解決に直結した構成であるか\nら、乙8発明に接した当業者がこれを変更する動機付けを認めることはでき ない。
のみならず、乙8公報には、電池の交換についての記載はなく、乙8発明 に接した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点8 −1に係る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)\n導光板10に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設 け、当該電池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)当該収容孔を覆 うカバーを設け、当該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)\nスカッフプレート80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設 されているランプ板50等との電気接続を行うという、複数回の変更が必要 になり、しかも、上記の変更内容には、乙8発明の課題解決に直結した構成\nの変更も含まれていることが認められる。 これらの事情の下においては、乙8発明に接した当業者において上記のよ うに変更する動機付けはないといわざるを得ず、当業者が本件発明を容易に 想到し得たものと認めることはできない。
これに対し、被告は、乙10文献には、無線車両発光ペダルの下表面から\n電池を交換可能にするために背面に取り外し可能\な電池カバーを設けること が開示されており、乙10文献及び乙11文献によれば、電池を内蔵する機 器一般において、電池を交換可能にするために、取り外し可能\な方式で電池 の収容孔を覆うカバーを設けることは周知技術であるから、乙8発明に乙1 0文献の技術事項や周知技術を組み合わせることにより、乙8発明の収容溝 カバー70を取り外し可能とすることは、当業者にとって容易想到であると\n主張する。
しかしながら、乙8発明に接した当業者において、スカッフプレート80 には、底板が設けられるものと理解するのが相当であることは、前記(2)イに おいて説示したとおりある。そうすると、底板が設けられるため、収容溝カ バー70は、スカッフプレート80の下表面に対して露出していないのであ\nるから、被告の主張は、乙10発明や周知技術を組み合わせるための前提を 欠く。
のみならず、乙11公報によれば、表示部を有し電池を電源とする電子機\n器において、表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能\なカバ ーを設けることは技術常識であるといえるものの、当該技術常識を超えて、 乙8発明のように独立したモジュールが設けられ、底板(スカッフプレート 80)の凹部にモジュールを収容する電子機器において、底板の裏側から底 板に収容されているモジュール内部の電池を交換することまでが技術常識で あったものと認めるに足りない。 しかも、乙10文献については、乙8発明のスカッフプレート80に相当 する底板に相当する部材がないのであるから、下側から電池カバーを設ける という単純な技術常識によっては、乙8発明の電池の収容に係る構成と置換\nするなどして相違点8−1に係る構成に容易に想到することはできない。\nそうすると、被告の主張を考慮しても、乙8発明から出発して相違点8− 1の構成に至るための動機付けを認めることはできず、被告の主張は、前記\n判断を左右するものとはいえない。

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令和5(ワ)70272  特許権侵害排除等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月23日  東京地方裁判所

特許権侵害で、均等主張をしましたが、本質的要件(第1要件)を満たさないとして非侵害と認定されました。

ア 本質的部分の認定について
第1要件にいう特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許 請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分であると解すべきであり、上記本質的部分は、特許請求の 範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効 果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に 見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定す\nることによって認定されるべきである。すなわち、特許発明の実質的価値 は、その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定めら れることからすれば、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細 書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり、 そして、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される 場合には、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化した ものとして認定され、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程 大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のも のとして認定されるものと解される。 ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されてい るところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、\n明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術 に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきで\nある。そのような場合には、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及 び明細書の記載のみから認定される場合に比べ、より特許請求の範囲の記 載に近接したものとなり、均等が認められる範囲がより狭いものとなると 解される。
・・・
ウ 本件発明の本質的部分
(ア) 本件発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の各記載によれば、本 件発明は、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間が かからない、親綱支柱取付治具を提供するという課題を解決することを 目的として(【0006】及び【0007】)、矩形状の板の端部で上下 方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部を含み(構成要\n件C)、かつ、矩形状の板の第1の方向端部より逆方向の端部までの長 さが、治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長い(構成要件E)\nという構成を採用したものであり、このような構\成を採用することによ り、U字状の折り曲げ部を幅の狭いフランジ部に係合した状態で、親綱 支柱の取付具を位置決めして固定でき、その結果、フランジ幅の狭い形 鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない、親綱支柱取付治具 を提供できるとの効果を奏する(【0013】及び【0014】)もので あると認められる。そして、上記の「U字状に折り曲げられた折り曲げ 部」は、これを幅の狭いフランジ部に係合した状態で親綱支柱の取付具 を位置決めして固定できることから、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱 支柱を設置するのに手間がかからないようにするという課題解決に寄与 する構成であるということができる。\n
他方、本件明細書には、乙17発明の存在を明示ないし示唆する記載 は存在しないが、前記イのとおり、本件出願までに公知となっていた乙 17発明は、命綱取付装置を梁に簡単に取り付けるために、本体下部の U字形フック部を梁の下部と垂直方向で係合させるとともに、略L字状 本体の横片先端を下方に折り返して形成させたコ字形フック部を梁の上 部と水平方向で係合させるという構成を採用しており、このうちコ字形\nフック部(乙17文献図面目録の【第3図】2b)は、命綱支持具を梁 の長手方向に沿った任意位置に配置して命綱を建物外周壁上部に沿った 任意位置へ簡単に取付けることができるという、構成要件Cの「U字状\nに折り曲げられた折り曲げ部」と同様の効果を奏するものと認められる。 そうすると、乙17発明は、本件発明との関係で従来技術に相当する ものであり、かつ、本件明細書に従来技術が解決できなかった課題とし て記載されている部分は、本件出願時の従来技術に照らして客観的に見 て不十分であったと認められるから、本件発明の従来技術に見られない\n特有の技術的思想を構成する特徴的部分の認定に当たっては、乙17発\n明の内容も参酌して認定されるべきである。
そして、上記のとおり、設置するのに手間がかからないようにすると の課題解決に寄与する構成要件Cの「U字状に折り曲げられた折り曲げ\n部」と同様の構成については、乙17発明が既に備えていたものである\nから、本件発明と従来技術である乙17発明との主な差異は、本件発明 では、折り曲げ部の存在する端部から逆方向の端部までの長さが治具を 取り付ける形鋼のフランジ幅より長いのに対し、乙17発明では、コ字 形フック部の存在する端部から逆方向の端部までの長さが同フック部と 係合させる梁の上部の幅(フランジ幅)と同一であるという点にすぎな い。
したがって、本件発明は、従来技術と比較してその貢献の程度が大き いとはいえないから、その特許請求の範囲の記載の一部について、これ を上位概念化したものとして認定することはできず、本件発明の本質的 部分は、特許請求の範囲に近接したものとなるというべきである。 (イ) 以上によれば、本件発明における従来技術に見られない特有の技術的 思想を構成する特徴的部分については、原告が主張するように「1)U字 状に折り曲げられた折り曲げ部を有し、2)その反対方向における長さを フランジ幅よりも長くしている」という構成であると認めることはでき\nず、矩形状の板の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられ た折り曲げ部を設けた上で、この折り曲げ部の存在する端部から矩形状 の板の逆方向の端部までの長さを治具が取付けられる形鋼のフランジ幅 よりも長くするという構成、すなわち、構\成要件C及びEにより近接し た構成であると認定されるべきである。\n
エ 被告製品の第1要件の充足性
前記2で説示したとおり、被告製品は構成要件C及びEをいずれも充足\nするとは認められず、本件発明の「治具」は、「上下方向に間隔を開けて U字状に折り曲げられた折り曲げ部」が「前記矩形状の板の前記第1の方 向の端部」と連続する(構成要件C)のに対し、被告製品は、本件発明の\n「折り曲げ部」に相当するフック部が、同「矩形状の板」に相当する底板 ではなく、側板の端部と連続しており、また、本件発明の「治具」は、 「前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、 前記治具が取付けられる形鋼のフランジ幅より長い」(構成要件E)のに\n対し、被告製品は、「矩形状の板」の「第1の方向端部より逆方向の端部 までの長さ」に相当する、形鋼に取り付けられた際に形鋼のフランジの二 辺と平行になる二辺に係る底板の端部間の長さが、形鋼のフランジの幅よ り長いとはいえない。
したがって、本件発明と被告製品とは本件発明の本質的部分において異 なっているというべきであり、両者の異なる部分が本件発明の本質的部分 ではないといえないから、均等の第1要件を満たすとは認められない。

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令和3(ワ)20229  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和6年10月30日  東京地方裁判所

意匠権侵害が認められ、差止と約1000万円の損害賠償が認定されました。被告は100均の大創産業です。無効主張、2項推定の覆滅、3項の適用など論点満載です。

前記(2)のとおり、原告意匠と被告意匠に係る物品は、いずれも生活 雑貨などの家庭用品を収納する容器であるから、その需要者は個人消費 者であると認められる。 そして、需要者である個人消費者は、収納容器として物を収納する際 には、その使用のしやすさや持ち運ぶ際の便利さの観点から、物を収納 し又は収納することなく床等に収納容器を置いた際には、その見た目の 美しさ等の観点から、それぞれ、両意匠に係る物品を観察し、選択する ということができる。 そうすると、両意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様に照らし、 収納容器として物を収納する際の使用のしやすさ等観点からは、収納容 器全体の形状等である基本的構成態様1)が需要者の注意を惹く部分であ るとともに、物を収納し又は収納することなく床等に置いた際の見た目 の美しさ等の観点からは、収納容器としての外形を特徴付ける部分の形 態である具体的構成態様3)、4)及び6)が、最も強く需要者の注意を惹く 部分であるということができる反面、形状の細かな比率に係る具体的構\n成態様2)や収納容器本体底面の小さな突起に係る具体的構成態様5)は、 需要者の注意を惹く部分ということはできない。
・・・
前記aないしcのとおり、原告意匠の基本的構成態様1)の一部、具 体的構成態様3)、4)及び6)については、それぞれ類似する公知意匠が 存在するとは認められるものの、それらの構成態様を全て兼ね備えた\n公知意匠は見当たらない。
(ウ) まとめ
以上のような意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様並びに公知意 匠の内容からすれば、原告意匠の収納容器全体の形状及びその外形を特 徴付ける部分の形態である基本的構成態様1)並びに具体的構成態様3)、 4)及び6)を組み合わせた部分がその要部であると認められる。
エ 差異点についての評価
(ア) 差異点1(正面視及び背面視における収納容器本体の上辺の長さと下 辺の長さと高さの比率、両側面視における収納容器本体の上端部の幅と 下端部の幅の比率が異なっている点)は、要部ではない部分の差異にす ぎない上、その比率の差はわずかなものにすぎない。 また、差異点2(正面視、背面視及び側面視における収納容器本体の 上辺の形状が異なっている点)については、要部の一部に関する差異で はあるが、前記ウ(イ)cのとおり、正面視、背面視及び側面視において、 収納容器本体の上辺を湾曲させることは、公知意匠にも見られた部分で あって、原告意匠の効力範囲を適正に確定する上で、この部分のみをも って要部ととらえるのは相当ではない。そして、別紙原告意匠公報図面 目録記載1ないし3の斜視図、正面図、右側面図によれば、上記部分の 湾曲の程度はさほど大きいと評価できない上、前記ウ(ア)のとおり、需 要者である個人消費者が収納容器を見た目の美しさ等の観点から観察す るのは、主として、物を収納し又は収納することなく床等に置いた際で あると考えられ、その場合、収納容器の斜め上方から見下ろされること が想定されるため、上記部分の湾曲や弧状の凸状面として突設した形状 は、際立ちにくいといえる。 したがって、正面視、背面視及び側面視における収納容器本体の上辺 の形状の違いが需要者の視覚を通じて起こさせる美感に与える影響は、 限定的なものにとどまるというべきである。 なお、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、具体的構成態様3)に ついて、イ号意匠ないしハ号意匠では、収納容器本体の外側に存在する 紐縄によって構成されているU字の高さが異なることが認められるが、\n仮にこの点を原告意匠と被告意匠の差異点であると捉えたとしても、そ の差が大きいとはいえず、このような差異が美感に与える影響は小さい ものと認められる。
(イ) 以上のとおり、差異点1及び2は原告意匠が看者に起こさせる美感に 決定的な影響を与えるものではないのに対し、要部の大部分において前 記アの共通点がみられることからすれば、両意匠は、差異点が共通点を 凌駕するものではないというべきである。
(5) 小括
したがって、原告意匠と被告意匠は、全体として需要者に一致した印象を 与えるものであって美感を共通にするといえるから、被告意匠は原告意匠に 類似すると認められる。
・・・
証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば、原告意匠と乙2意匠の意匠に係 る物品は類似するものと認められる上、両意匠は、略楕円形状で小判型の底 面とこれより大きい略楕円形状で小判型の上面とからなる中空の逆略楕円錐 台形状の上面が開口された形状をなす収納容器本体と、縄紐からなる一対の 把手から構成されている点(基本的構\成態様1))、同把手は、二本の短い縄 紐からなっており、収納容器本体の外周面に対向して穿設された左右一対の 小さな透孔に収納容器本体の外側からそれぞれ挿通しており、縄紐が収納容 器本体の外側にU字状に垂下して設けられている点(具体的構成態様3))に おいて、共通することが認められる。 しかしながら、両意匠の間には、原告意匠は、収納容器本体の長手方向に 把手が設けられているのに対し、乙2意匠は、収納容器本体の短手方向に把 手が設けられている点(基本的構成態様1))、原告意匠は、太さのある縄紐 が使用されており、収納容器内側に大きな止め結びが形成されているのに対 し、乙2意匠は細い縄紐が使用されており、収納容器内側に存在する止め結 びは大きなものとはいえない点(具体的構成態様3))、原告意匠においては、 収納容器本体の上辺が、正面視及び背面視においては、両端から中央部に向 かって緩やかに下方に湾曲した緩やかな円弧を形成しており、また、側面視 においては、中央部に向かって立ち上がり、全体が弧状の凸状面として突設 した形状であるのに対し、乙2意匠は、いずれも水平な直線形状になってい る点(具体的構成態様4)及び6))において、差異点が存在するものと認めら れる。
そして、上記の把手の取付位置、紐縄の太さ、止め結びの大きさ及び正面 視、背面視及び側面視における収納容器本体の上辺の形状は、物を収納し又 は収納することなく床等に置いた際の見た目の美しさ等の観点及び収納容器 として物を収納する際の使用のしやすさ等の観点から、いずれも需要者の注 意を惹く部分であるといえる。そうすると、これらの差異点が両意匠の美観 に与える影響は大きいものがあるというべきである。 したがって、原告意匠と乙2意匠は、全体として需要者に一致した印象 を与えるものとはいえず、両意匠が類似するとはいえないから、原告意匠に 係る意匠登録に新規性欠如(意匠法3条1項3号、2号)の無効理由がある とは認められない。
・・・
前提事実(5)、証拠(甲29ないし甲31、乙46ないし48)及び 弁論の全趣旨によれば、被告商品は、被告の各店舗において販売されて おり、その価格は、イ号(2リットル)が100円、ロ号(7リットル) が300円、ハ号(19リットル)が500円であったこと、原告商品 は、株式会社東京インテリア家具(家具やインテリアの小売店)、株式 会社ファミリア(子供用品等を扱う小売店。以下「ファミリア」とい う。)、アルファロメオ、アバルト等を扱う自動車ディーラー、株式会社 アダストリア(アパレル業者)等を通じて販売されており、その価格は、 最低で1210円、最大で4950円(サイズは不明なものが多いが、 ファミリアでは、7リットルの商品が1320円、19リットルの商品 が2200円で販売されている。)であったこと、原告商品は、楽天市 場等のインターネット上のショッピングサイトでも販売されており、そ の価格は、2リットルの商品について、最低で1680円、最高で23 06円であったことが認められる。
このように、原告商品と被告商品は、その販売経路が異なることに伴 って販売価格に差が生まれており、両者の価格を比較すると、最も小さ いものでも原告商品の価格が被告商品の価格の約4倍(ファミリアで販 売されている原告商品とロ号の比較)であり、大きなものでは原告商品 の価格が被告商品の価格の20倍を超えるもの(楽天市場等のインター ネット上のショッピングサイトで販売されている原告商品とイ号の比較) も存在しており、原告商品及び被告商品の上記の価格差は小さいとはい えない。そして、原告商品や被告商品は、生活雑貨などの家庭用品を収納する 容器であり、主に自宅で使用される実用品といえ、そうだとすれば、上 記の販売価格の差異は、需要者の購買動機に相当程度影響を与えている と認めるのが相当である。
他方で、原告商品と被告商品は、インテリア商品でもあることからす ると、その需要者の中には、価格を重視せず、デザイン性や色彩を重視 して、安価な商品がない場合は、高価な商品を購入するという者も少な からず存在するものと推認できる上、原告商品と被告商品の価格は、い ずれも数百円から数千円の範囲にとどまっており、比較的購入しやすい 価格帯であることに照らすと、上記の販売価格の差異による覆滅割合が 非常に大きなものになるとは考え難い。 これらの事情を踏まえると、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違 (市場の非同一性)は推定の覆滅事由に該当すると認められる。
(イ) 市場における競合品の存在
被告は、収納容器については数えきれないほど多数の競合品が存在し ていることが推定の覆滅事由になると主張する。しかしながら、競合品の存在について、証拠(乙38)及び弁論の全趣旨によれば、インターネット上のショッピングサイトで「収納 バスケット」などのキーワードで検索すると多数の商品が表示されることが\n認められるものの、これらの商品や原告商品の市場におけるシェアは明 らかではなく、単に他の収納容器が多数販売されているという事実のみ をもって、推定の覆滅を認めることはできないというべきである。したがって、被告の上記主張は採用できない。
(ウ) 被告の営業努力
証拠(乙39、43)及び弁論の全趣旨によれば、被告はいわゆる1 00円均一ショップを展開する企業であるところ、被告の令和4年の年 間売上高は5493億円、従業員数は合計2万4605人(正社員58 5人、臨時従業員数2万4020人)、日本国内の店舗数は4092店 舗であること、株式会社日経BPコンサルティングが実施した「ブラン ド・ジャパン2023」の一般生活者編の「総合力」ランキングにおい て、被告はUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)、Google、 UNIQLO(ユニクロ)、Disney(ディズニー)に次ぐ5位と なっていることが認められ、このような被告の企業規模の大きさや知名 度の高さは被告商品の売上げに相当程度影響を与えているものというべ きである。 そうすると、上記の事情は被告の営業努力の観点から推定の覆滅事由 に該当するものと認められる。
(エ) 侵害品の性能(機能\、性能等意匠以外の特徴)及び被告商品は原告意\n匠の一部のみを用いていること
被告は、1)需要者は、収納容器を購入するに際し、外観よりもその機 能面やその色彩を考慮すること、2)被告商品は、需要者が着目する「船 のようなカタチ」に相当する構成態様である具体的構\成態様4)及び6)を 有していないことが推定の覆滅事由になると主張する。
しかしながら、上記1)について、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によ れば、被告商品は白色の商品しか存在しないことが認められ、本件全証 拠によっても、被告商品が収納容器として特別な色彩や機能を有してい\nということはできない。そうだとすれば、被告商品の色彩や機能が、そ\nの売上げに寄与したとは認められないから、侵害品の性能による推定の\n覆滅を認めることはできない。 他方、上記2)について、前記1(4)イのとおり、原告商品と被告商品 との間には、差異点1及び2が存在しており、特に差異点2(正面視、 背面視及び側面視における収納容器本体の上辺の形状が異なっている点) は、原告意匠の要部の一部に関する差異といえることを踏まえると、原 告意匠が被告商品の売上げに寄与した程度は限定的なものであったとい うべきである。 したがって、侵害品の性能(機能\、性能等意匠以外の特徴)は推定の\n覆滅事由であると認めることはできないが、被告商品は原告意匠の一部 のみを用いていることは推定の覆滅事由に該当するものと認められる。
(オ) まとめ
以上によれば、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違(市場の非同一 性)、被告の営業努力及び被告商品は原告意匠の一部のみを用いている ことは推定の覆滅事由に該当するものといえ、被告商品の購買動機の形 成に対する原告意匠の寄与割合は2割と認めるのが相当であるから、上 記の限度で推定が覆滅される。
(2) 意匠法39条3項による損害額の算定
ア 意匠法39条3項の適用の可否について
(ア) 意匠権者は、自ら意匠を実施して利益を得ることができると同時に、 第三者に対し、意匠の実施を許諾して利益を得ることができることに鑑 みると、侵害者の侵害行為により意匠権者が受けた損害は、意匠権者が 侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた実施品又は 競合品の売上げの減少による逸失利益と実施許諾の機会の喪失による得 べかりし利益とを観念し得るものと解される。 そうすると、意匠法39条2項による推定が覆滅される場合であって も、当該推定覆滅部分について、意匠権者が実施許諾をすることができ たと認められるときは、同条3項の適用が認められると解すべきである。
(イ) これを本件において見ると、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違 (市場の非同一性)及び被告の営業努力による推定覆滅部分については、 実施許諾をすることができたものと認められるが、被告商品は原告意匠 の一部のみを用いていることについては、原告意匠が売上げに寄与して いないことを理由に推定が覆滅されるものであるから、この部分につい て、実施許諾をすることができたものとは認められない。
(ウ) そうだとすれば、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違(市場の非同 一性)及び被告の営業努力に係る推定覆滅部分についてのみ、意匠法3 9条3項の適用があると解するのが相当である。
イ 登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相 当する額について
(ア) 登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に 相当する額を算定する際の基礎となる金額は、侵害行為に関する売上高 であると解されるところ、前提事実(6)のとおり、被告商品は日本国内 の売上高は5981万3900円であり、これに海外への輸出に係る売 上高を追加した金額は6358万8100円である。
そして、前記アのとおり、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違(市 場の非同一性)及び被告の営業努力に係る推定覆滅部分についてのみ、 意匠法39条3項の適用があるところ、前記(1)イ(ア)、(イ)及び(エ)で 説示した内容に加えて、原告意匠と被告意匠との差異点が美感に与える 影響は限定的なものにとどまること(前記1(4)エ)などを総合考慮す ると、上記の推定覆滅部分に相当する被告商品の売上高は、日本国内の 売上高の7割に相当する部分と認められる。 そうすると、本件において、上記の金銭の額を算定する際の基礎とな る金額は、上記の日本国内の売上高に海外での売上高を加えた4564 万3930円(=(5981万3900円×0.7)+(6358万8 100円−5981万3900円))となる。
(イ) 次に、使用料率について、証拠(乙59)及び弁論の全趣旨によれば、 株式会社帝国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許 等の活用の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及び ロイヤルティ料率に関する実態把握〜」には、特許権に関する「個人用 品または家庭用品」の使用料率(ロイヤリティ)の平均値は3.5パー セントであると記載されていることが認められる。 この点について、上記の「個人用品または家庭用品」の使用料率(ロ イヤリティ)の記載は特許権に関するものにすぎない上、そこにいう 「個人用品または家庭用品」の具体的な内容も明らかではなく、しかも、 上記の使用料率(ロイヤリティ)平均値は、収納容器とは異なる用品を 含めた数値であるものと推認される。
他方で、意匠権侵害をした者に対して事後的に定められるべき実施に 対し受けるべき使用料率は、通常の使用料率に比べて自ずと高額になる ものと解される。 以上の事情を総合考慮すると、本件において、登録意匠又はこれに類 似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を算定する際 の使用料率は、被告商品の売上高の3.5パーセントとするのが相当で ある。
(ウ) したがって、意匠法39条3項により算定される損害額は、159万 7537円(=4564万3930円×0.035)と認められる。

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令和5(ワ)8403  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月22日  大阪地方裁判所

特許権侵害訴訟にて、均等侵害を主張しましたが、第2要件(置換可能性)、第3要件(置換容易性)が否定されました。\n

事案に鑑み、まず第2要件及び第3要件について検討する。
イ 第2要件について
前記(1)で判示したとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体においては、\n傾斜部5)が、「笠木下部材」内に配置されたものに当たり得るとしても、少なくと もそれ自体が通気性能を有する「換気部材」ではないという点で、本件特許の特許\n請求の範囲に記載された構成とは異なる。\n原告は、本件発明の作用効果は、笠木下部分への取り付けが容易で、外壁下地材 の上端部の外方側に対して第1垂直部を当接させることにより笠木下部材の位置決 めが容易になることにあり、「換気部材」を傾斜部5)へと置き換えても、被告製品 が本件発明と同一の目的を達成し同一の作用効果を奏することを妨げるものではな い旨主張する。
しかし、本件発明が解決しようとする課題は、迅速な設置が困難であることに限 られるものではなく(前記(1)ア(ア)c)、本件明細書の記載からすると、本件発明 の目的ないし作用効果は、雨水や虫等の浸(侵)入を防止し、通気機能及び防水機\n能の信頼性の高い笠木下換気構\造体を提供することにもあると認められる(前記 (1)ア(ア)b(a)〜(c))。そして、別紙「図面」記載1及び2の各図面のとおり、被 告製品を部材とする笠木下換気構造体は、開口6)及び傾斜部5)と第1水平部2)との 隙間から建物内に雨水や虫等が浸(侵)入し得る構造となっているから、構\成要件 Cにおける「換気部材」を傾斜部5)に置き換えた場合、迅速な設置を可能にし、換\n気量を確保するという本件発明の目的は達成し得るとしても、雨水や虫等の浸(侵) 入を防止し、通気機能及び防水機能\の信頼性の高い笠木下換気構造体を提供すると\nいう本件発明の目的を達成することができないし、本件発明と同一の作用効果を奏 するともいえない。したがって、均等侵害の第2要件を認めることはできない。
ウ 第3要件について
本件発明は、従来技術である蛇行経路タイプの換気部材を用いた場合の課題(迅 速な設置が困難で換気量も少ないこと、蛇行経路を介して雨水や虫等が浸(侵)入 するおそれがあること等)を解決する換気部材を採用したものといえるところ(前記(1)ア(ア)b(a)、(b))、「換気部材」を従来技術である蛇行経路タイプに近い傾 斜部5)に置き換えることについては阻害要因があるものと認められる。原告は、通 気性能と防水性能\を生じさせるために、笠木下部材内に浸入する雨水を遮断する遮 蔽板を笠木下部材により蛇行型の通気通路を構成することで同様の目的を達し得る\nことは広く知られており、当業者であれば、被告製品のように雨水を遮断する遮蔽 板と笠木下部材により蛇行型の通気通路を構成する方法を用いることは容易に想到\nし得る旨主張する。しかし、そもそも本件発明の「換気部材」を被告製品の「傾斜 部」に置き換えると、第2垂直部に形成される「複数の開口」(その上下方向の位 置関係に特段の限定はない。)の「傾斜部」より上方部分において、笠木下部材内 に直通経路の通気路が形成され、防水性能を保持できなくなる可能\性がある。その ため、防水性能を保持するには「複数の開口」と「傾斜部」の位置関係や高さに創\n意工夫を要することとなるから、当業者が、被告製品の製造等の時点において上記 置換えを容易に想到することができたものとは認められない。したがって、均等侵 害の第3要件を認めることはできない。
エ 以上のことからすると、被告製品に関して、本件発明に対する均等侵害(間 接侵害)の成立を認めることはできない。
(3) 小括
以上のとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体は、本件発明の技術的範\n囲に属しないから、被告製品に関する間接侵害は認められない。

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令和6(行ケ)10054  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年12月19日  知的財産高等裁判所

35類のいわゆる「総合小売等役務」を指定した商標権の取消審決に対する審決取消訴訟です。裁判所は、不使用とした審決を維持しました。

以上の点を踏まえ、「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括し て取り扱う」という指定役務の名称の文言をも考慮すると、「衣料品・飲食料品及び 生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる 顧客に対する便益の提供」とは、衣料品・飲食料品・生活用品の各商品を一事業所 において扱っている場合であって、その取扱い規模がそれぞれ相当程度あり、かつ、 継続的に行われている場合をいうものと解するのが相当であり、典型的には、百貨 店や総合スーパーが提供する役務が挙げられるものと解される。他方で、「一括して 取り扱っている」とはいい難い場合、具体的には、「衣料品、飲食料品及び生活用品 に係る」各種商品のうちの一部の商品しか小売等の取扱いの対象にしていない場合 や、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る」各種商品に属する商品を取扱いの対象 とする業態を行っている場合であったとしても、一部の商品の取扱量が僅少であり、 全体としてみると特定の商品等を主として取り扱っているとみられる場合や一部の 商品が各種商品の小売等に付随して取り扱われているすぎない場合などは含まれな いものというべきである。
なお、国際分類を構成する類別表\\注釈において示された商品又は役務についての 説明には特段の記載はないが、特許庁の類似商品・役務審査基準においても、「衣料 品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務 において行われる顧客に対する便益の提供」は「35K01」と定められる一方、 「織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」 は「35K02」、「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する 便益の提供」は「35K03」、「家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客 に対する便益の提供」は「35K06」とそれぞれ定められ、例えば「35K03」 などの同一コード内の小売等役務同士は互いに類似するものと推定される一方、「3 5K01」と「35K02」といった同じ35類であっても異なるコードの小売等 役務同士は類似しないものと推定されているところである。
・・・
エ 上記ウの各事実によると、原告店舗はパリの日用品店をアレンジしたライフ スタイルショップであり、ファッション、ファッショション小物やキッチン用品な ど衣料品や生活用品を中心とした商品を取り扱っており、これらの商品が店舗の売 上げに占める割合が相当程度多いものと認められるのに対し、前記ウ(イ)〜(エ)による と、飲食料品の販売数や売上金額は衣料品や生活用品に比して小規模である。これ に加え、証拠(乙13の1〜16)からうかがわれる本件要証期間及びその前後の 原告店舗における商品の展示方法をも考慮すると、本件要証期間における飲食料品 の販売については、コーヒーカップやマグカップのような食器類などと合わせて販 売されているものであって、生活用品の小売等に付随して取り扱われているものに すぎず、原告店舗において、衣料品、飲食料品及び生活用品の各商品を「一括して 取り扱っている」と評価することはできず、その他これを認めるに足りる証拠はな い。
また、前記ウ(エ)及び(オ)の各事実によると、原告店舗の売上金額が1か月間で10 0万円程度あったことが認められるものの、同(オ)については、取り扱っている食品 の内容に加え、前記ウ(カ)のバレンタイン前の期間の販売であったとの事実も考慮す ると、バレンタインの贈物のために一時的に売上げが増加しているものといえるこ と、前記ウ(エ)については、正月に向けて一時的に売上げが増加したものといえる ことからすると、原告店舗につき、一事業所において、衣料品・飲食料品及び生活 用品に係る各商品の取扱い規模がそれぞれ相当程度あり、継続的に行われていると 認めることはできず、その他これを認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上によると、本件要証期間において、原告店舗は、「衣料品、飲食料品及び 生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる 顧客に対する便益の提供」を行っていたものとはいえない。 したがって、本件要証期間において、原告が、「衣料品・飲食料品及び生活用品に 係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対す る便益の提供」を行っているとは認めることができない旨を判断した本件審決に誤 りがあるとはいえない。
2 原告の主張について
(1) 原告は、本件商標を使用しそれによって業務上の使用が現に蓄積されている 以上、「飲食料品が総売上高に占める割合」によって商標法50条1項に係る商標の 使用・不使用を判断することは、同項の制度趣旨から逸脱しており、同項の不使用 取消審判において、商標登録要件の基準にすぎない「衣料品、飲食料品及び生活用 品の売上げがいずれも総売上高の10%〜70%程度の範囲内にあることが目安と される」との基準を採用し、それによって不使用取消しの審決をした本件審決は違 法であると主張する。
しかしながら、原告の上記主張のうち、原告が本件商標を使用しそれによって業 務上の信用が現に蓄積されているかは、指定役務である「衣料品・飲食料品及び生 活用品に係る各種商品を一括して取扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客 に対する便益の提供」について登録商標を使用しているかどうかの判断に直接の影 響を与えるものとはいえない上に、前記1(2)ウの原告店舗の商品販売状況等に照 らすと、本件商標の指定役務中の第35類「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る 各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便 益の提供」について本件商標の使用による信用が蓄積されているとも認め難く、こ の点に関する原告の主張は採用できない。

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令和6(行ケ)10038  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年12月19日  知的財産高等裁判所

商標「新生甘酒」(標準文字)、指定商品は、30類「甘酒、甘酒のもと、甘酒を使用した菓子及びパン、甘酒を加味した茶・・・」について、識別力無しとしては審決が維持されました。理由は、「新生」「甘酒」、「新」「生甘酒」のいずれで分けても、いずれも識別力なしとのことです。

原告は、本願商標は「新生」の文字と「甘酒」の文字を組み合わせたも のであり、需要者等もそのように理解する旨主張する。 そこで検討するに、辞書によれば、「新生」の語は「新しく生まれ出るこ と」などを意味する語であり、「新生」の語の後に別の語を組み合わせた「新 生児」、「新生代」などの語が掲載されている(広辞苑第七版。乙82)。ま た、「甘酒」の語は「米の飯を米麹で糖化した甘い飲料」を意味する語であ る(広辞苑第七版。乙3)。
他方、辞書によれば、「新」は、「あたらしいこと」、「あたらしくするこ と」、「今年の新たな収穫・製造」などを意味する語であり、「新」の語の後 に別の語を組み合わせた語の例として「新発売」が挙げられている(広辞 苑第七版。乙1)。また、「生甘酒」の語は、加熱処理せずに製造した甘酒 を示す語として用いられている取引の実情があると認められる(乙4〜2 9、後記4(1)ア)。
以上によれば、本願商標に接した需要者等は、本願商標について、「新生」 の文字と「甘酒」の文字を組み合わせた商標であると理解する場合と、「新」 の文字と「生甘酒」の文字を組み合わせた商標であると理解する場合と、 いずれもあり得るといえ、需要者等がどちらか一方の理解のみしかしない とは認められない。
イ 原告は、前記第3〔原告の主張〕1のとおり、本願の指定商品の需要者 等は、本願商標を「新」の文字と「生甘酒」の文字を結合させた商標であ ると認識することはない旨主張する。 しかし、「生甘酒」の語が「加熱処理せずに製造した甘酒」を示す語とし て用いられている取引の実情があり、かつ、「新」の後に別の語を付した語 を用いることがあって、辞書にもその例が掲載されていることからすれば、 「新生」が辞書に掲載される語として存在するとしても、本願商標が「新」 の文字と「生甘酒」の文字を組み合わせた商標であると認識されることは 否定されない。
また、「生甘酒」の語が指し示す内容が「加熱処理せずに製造した甘酒」 であることからすると、これに「あたらしいこと」、「あたらしくすること」、 「今年の新たな収穫・製造」を意味する「新」の文字を組み合わせること が考え難いとはいえない。
原告が「新生」シリーズと称する商品を販売しているとしても、本願の 指定商品の需要者等の間で、「新生」の語が、原告の販売する商品の表示として広く認識されていると認めるに足りる証拠はなく、本願の指定商品の\n需要者等が、本願商標は原告の販売する「新生」シリーズの商品の名称と して用いられているものであると当然に認識しているとは認められない から、本願商標が上記「新生」シリーズに属する商品の名称として用いら れている事実をもって、需要者等が本願商標を「新」の文字と「生甘酒」 の文字を結合させた商標であると認識しないとはいえない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 以上によれば、本願商標が商標法3条1項3号に該当するか否かを検討 するに当たっては、本願商標が「新生」の文字と「甘酒」の文字を組み合 わせた商標であると解した場合と、本願商標が「新」の文字と「生甘酒」 の文字を組み合わせた商標であると解した場合との両方について、同号該 当性を検討すべきといえる。
3 本願商標を「新生」の文字と「甘酒」の文字を組み合わせた商標であると解 した場合
(1) 本願商標及び本願の指定商品に関する取引の実情 各項末に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件審決がされた令和 6年3月14日の時点での、本願の指定商品と関連する食品業界における「新生」の語に関する取引の実情として、次の事実が認められる。
・・・
前記(1)に挙げた各事実によれば、本件審決がされた当時、飲料の名称の前 に「新生」の文字を付して、当該飲料が「生まれ変わった」ものであること、 すなわちその原材料、製法等を従前と変えて内容を新しくしたものであるこ とを示す表現として用いる取引の実情があったと認められる。そうすると、本願の指定商品の需要者等は、「新生甘酒」の語が「新生」の\n文字と「甘酒」の文字を組み合わせたものであると理解した場合、これが本 願商標の指定商品に使用されたときには、原材料、製法等を従前と変えて内 容を新しくした甘酒を一般的に指す名称であると認識すると認められる。そ して、「新生」も「甘酒」も、辞書に掲載された一般的な語であり、これらを 組み合わせた「新生甘酒」という語は、原材料、製法等を従前と変えて内容 を新しくした甘酒を表す場合に、普通に使われ得るものと認められ、使用をされた結果需要者等が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識す\nることができるものについて商標登録を受けることができる場合(商標法3 条2項)のほかは、特定人によるその独占使用を認めるのは適当でないもの と認められる。(なお、前記2(2)イで述べたとおり、本願の指定商品の需要者 等の間で、「新生」の語が、原告の販売する商品の表示として広く認識されていると認めるに足りる証拠はなく、また、「新生甘酒」という本願商標が、使\n用をされた結果、需要者が原告の業務に係る商品であることを認識すること ができるものに当たることを認めるに足りる証拠もなく、本願商標が商標法 3条2項の要件を充足するとは認められない。もっとも、仮に、「新生甘酒」 という本願商標が、使用をされた結果、需要者が原告の業務に係る商品であ ることを認識することができるものとなった場合に、本願商標が商標法3条 2項に基づいて必ず商標登録を受けることができるか否かについては、本判 決の判断するところではない。)
したがって、本願の指定商品の需要者等が、「新生甘酒」の語を「新生」の 文字と「甘酒」の文字を組み合わせたものであると理解した場合、本願商標 は、その指定商品の需要者等によって当該商品に使用された場合に、商品の 品質を表示したものと一般に認識されるものであり、使用をされた結果需要者等が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる\nものについて商標登録を受けることができる場合(商標法3条2項)のほか は、特定人によるその独占使用を認めるのは適当でないとされるものに該当 し、その指定商品について商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)であると認められる。\n
・・・・
前記(1)アに挙げた各事実によれば、本件審決がされた時点で、「生甘酒」の 語を「加熱処理をせずに製造した甘酒」を示す語として用いる取引の実情が 存在していたと認められる。 また、前記(1)イに挙げた各事実によれば、本件審決がされた時点で、飲料 又は食料品を示す語の前に「新」を付して、当該飲料又は食料品がその年に 収穫されたもの又は作られたものであることを示し、あるいは従前販売され 前記(1)アに挙げた各事実によれば、本件審決がされた時点で、「生甘酒」の 語を「加熱処理をせずに製造した甘酒」を示す語として用いる取引の実情が 存在していたと認められる。
そうすると、本願の指定商品の需要者等は、「新生甘酒」の語が「新」の文 字と「生甘酒」の文字を組み合わせたものであると理解した場合、これが本 願商標の指定商品に使用された場合には、需要者等は、その年に製造された 生甘酒、又は製造方法や特徴が従前のものと異なる新しい甘酒を一般的に指 す名称であると認識すると認められる。そして、「新」は、辞書に掲載された 一般的な用語であり、飲料又は食料品を示す語の前に「新」を付すことにつ いて上記のような取引の実情が認められ、「生甘酒」も、「加熱処理をせずに 製造した甘酒」を示す語として用いる取引の実情があったから、これらを組 み合わせた「新生甘酒」という語は、その年に製造された生甘酒、又は製造 方法や特徴が従前のものと異なる新しい甘酒を表す場合に、普通に使われ得るものと認められ、使用をされた結果需要者等が何人かの業務に係る商品又\nは役務であることを認識することができるものについて商標登録を受けるこ とができる場合(商標法3条2項)のほかは、特定人によるその独占使用を 認めるのは適当でないものと認められる。
したがって、本願の指定商品の需要者等が、「新生甘酒」の語を「新」の文 字と「生甘酒」の文字を組み合わせたものであると理解した場合も、本願商 標は、その指定商品の需要者等によって当該商品に使用された場合に、商品 の品質を表示したものと一般に認識されるものであり、使用をされた結果需要者等が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができ\nるものについて商標登録を受けることができる場合(商標法3条2項)のほ かは、特定人によるその独占使用を認めるのは適当でないとされるものに該 当し、その指定商品について商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)であると認められる\n
5 結論
上記3及び4の説示によれば、本願商標を「新生」の文字と「甘酒」の文字 を組み合わせた商標であると解した場合、及び「新」の文字と「生甘酒」の文 字を組み合わせた商標であると解した場合のいずれについても、本願商標は、 その指定商品について商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)に当たると認められる。\n

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令和6(行ケ)10034  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和6年12月19日  知的財産高等裁判所

知財高裁(3部)は、一定の形態が変化するものではないとして、発泡状態の形状は、意匠ではないと判断した審決を維持しました。

こうした特別委員会等における議論を踏まえて、上記ウにおける意匠法 改正の過程では、上記ウ2)、3)のとおり、再度上記イにおける「びっくり 箱」を想定して動的意匠についての意匠法による保護が検討されたところ、 上記ウ2)のとおり、当初、「意匠に係る物品の形状・・・が・・・変化する 場合において、その変化の前後の形状」の意匠(下線は判決で付記)を出 願する場合を想定したのに対し、上記ウ3)のとおり「びっくり箱は複数の ものが同時にとれる。複数意匠ではないか。」との法制局審査における問題 提起や上記ウ6)のとおり複数意匠であるとの指摘を受けて、上記「変化の 前後の形状」との記載では複数意匠と捉えられかねないことから、これを 修整することとした。
そして、上記ウ3)のとおり物品自身が動くことは物品そのものであると 考え、上記ウ6)のとおり、動的意匠が一意匠であることを前提とした上で、 特別の例外規定を置くことなく、上記ウ7)のとおり、意匠法6条5項(現 同条4項)を、「その変化の前後にわたるその物品の形状」について意匠登 録を受けようとする(下線は判決で付記)との文言に修正して、意匠法改 正をすることとされたものである。
このように、昭和34年意匠法改正の過程においては、動的意匠につき、 物品の形状について「その変化の前後の形状」とするのでは、一意匠であ ることに疑義が生じることから、物品自身が動くことは物品そのものであ るとの認識のもとに、「その変化の前後にわたるその物品の形状」と規定さ れたものであり、特別の例外規定が置かれなかったことからしても、物品 の形状は、その変化の前後にわたるいずれの状態においても、意匠法上の 物品に必要とされる形状についての要件を満たすことが前提とされてい たことは明らかである。
(5) 上記(3)、(4)を踏まえると、意匠法6条4項に定める動的意匠のうち物品の 形状が変化するものについて、その物品の形状は、変化の前後にわたるいず れの状態においても、意匠法上の物品としての要件、すなわち物品の属性と して一定の期間、一定の形状があり、その形状認識の資料である境界を捉え ることのできる定形性があり、その変化の態様に一定の規則性があるか変化 する形状が定常的なものであることが必要であると解される。
(6) 意匠法6条4項の解釈についての原告の主張に対する判断
原告は、前記第3〔原告の主張〕1のとおり、動的意匠は、物品の機能に\n基づいて、一定の規則性をもって変化する形態であれば、「定形性」を有する こととなるから、本件審決は意匠法6条4項の解釈を誤っている旨を主張す る。 しかし、意匠法6条4項の「意匠に係る物品の形状・・・がその物品・・・ の有する機能に基づいて変化する場合において、その変化の前後にわたるそ\nの物品等の形状等」を願書に記載しなければならない旨の出願の規定により、 意匠に必要とされる物品の形状の要件が直ちに変更されるとは解し難いとこ ろであり、上記(1)ないし(5)で検討したとおり、動的意匠について定める意匠 法6条4項の改正の経緯や、意匠一般に係る意匠法の定めにも鑑みると、上 記のとおり変化の前後にわたるいずれの状態においても、意匠法上の物品と しての要件、すなわち物品の属性として一定の期間、一定の形状があり、そ の形状認識の資料である境界を捉えることのできる定形性があり、その変化 の態様に一定の規則性があるか変化する形状が定常的なものであることが必 要であると解されるところである。
・・・
エ 本願において登録を受けようとする意匠は、容器の蓋の開栓により変化 する形状等であって、変化前である閉蓋時は、容器上面の蓋部の周囲に位 置する大径リング状縁部の形状等であり、変化後である開蓋時は、大径リ ング状縁部の形状等に加え、その内方に現れる、容器内部の一部、濃褐色 の液体及び液体の上方を順次覆うように出現する乳白色の気泡の形状等で ある。 このうち、「変化の前後にわたるその物品の形状」である発泡状態の変化 を示す開蓋後の平面図1ないし10に基づく上記10秒間の発泡状態の 経時的変化は以下のとおりであり、これらは写真1枚につき概ね1秒ごと に生じる変化である。
(ア) 発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図1によれば、上記イの開蓋後の 平面図が大径リング状縁部内の飲料上部が全面濃褐色であるのに比べて、 缶周縁部液面上に沿って乳白色の泡が生じているところ、気泡の量が少 なく細い帯状となっていたり、泡がない箇所(図内右斜め上部分、下部 分等)と、気泡の量が多く太い帯状となっている箇所(上部分、右下部 分等)とがあり、中央部にはほのかに白い部分がある。
(イ) 発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図2について、泡が略円環状の輪 郭を形成しているものの、缶周縁に帯状となった気泡の幅は一定ではな く、その輪郭形状はいびつな円形である。 前記(ア)と比べて、気泡による帯の幅が増した箇所(右上部分)がある 一方、消滅ないし減少した箇所(右下部分)がある。また、中央部には 前記平面図1の白い部分が消えて、白い気泡の小さな集合が不規則に散 在する。
(ウ) 発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図3及び同平面図4に至り、円環 形状の径が漸次的に狭まっていくものの、輪郭形状の径が狭まる進行の 度合いは場所により一定ではなく、全体として缶の中心より上方向へそ れて行き、形状も円ではなくいびつな形状である。円環形状の中央付近 には白い気泡がある。
(エ) 発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図5において、円環形状の径はす ぼまって縦長になり、同平面図5及び同平面図6において、円環形状の 径が漸次的に狭まっていくものの、輪郭形状の径が狭まる進行の度合い はところにより一定ではなく、全体として缶の中心より上方向へそれて 行き、形状も円からはかけ離れたいびつな形状である。同平面図7及び 同平面図8において、形成された泡は次第に開口部全面を覆うが、中央 部付近にくぼみがあり、同平面図7から同平面図8にかけて小さくなっ ている。
(オ) 発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図9、同平面図10及び発泡後の 状態を示す開蓋後の開口部拡大斜視図においては、泡沫面が缶口部へ向 けて盛り上がっていき、缶口面上部に概ね円錐台状の立体形状を形成す るが、発泡の状態は一様ではなく、大きな単独の気泡が見え隠れする部 分(左部分)がある上、気泡が盛り上がった立体形状は、2段の円錐台 状である。
(2) 本願意匠の要旨認定に係る原告の主張についての判断
ア 原告は、前記第3〔原告の主張〕2及び3のとおり、本願意匠の要旨は 開蓋後の濃褐色の液体及び液体の上方を順次覆うように出現する乳白色の 「泡沫」の総体が、濃褐色の液体の上方を覆うように盛り上がって変化す る形状等にあり、本件審決の本願意匠の要旨認定は誤りである旨主張する。 しかし、前記2で検討したとおり、動的意匠におけるその物品の形状は、 変化の前後にわたるいずれの状態においても、意匠法上の物品に必要とさ れる形状についての要件を満たすものであり、動的意匠として登録を受け ようとする意匠出願の要旨についても、それに沿い認定されるべきである ところ、原告の上記主張は、願書の記載及び添附された写真に基づき必要 にして十分なものとはいえない。\n
その上で、意匠の要旨は、願書に添附された説明及び写真に基づき認定 されるものであるところ、原告の上記主張は、上記(1)エ(ア)及び(イ)のとおり、 中央部付近に当初生じた泡の一部がいったん消えること(乳白色の気泡が 一旦生じた後に再度濃褐色の液体が現れる箇所)などについても記載され ているものではなく、原告の主張は、願書に基づくものとはいえない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、前記第3〔原告の主張〕4で主張するとおり、本件審決が認定 した乳白色の気泡が一旦生じた後に再度濃褐色の液体が現れる箇所などは 実際の物品を見た者において全く言及しないなど(甲28、29)、需要者 の注意を全く引かない部分であるとともに、上記「乳白色の気泡」は泡沫 と区別される気泡で液体中の気体の粒子であり、これが液面に浮上して缶 周縁部で泡沫に成長しているのであって消滅しているものではないから、 本件審決は要旨認定の手法としても技術的にみても誤りである旨を主張す る。
しかし、中央部付近に当初生じた泡の一部がいったん消えること(乳白 色の気泡が一旦生じた後に再度濃褐色の液体が現れる状況)を含め、本願 意匠の内容については、願書に添附された写真等に基づけば、前記(1)のと おり認定されるべきものである。そして、開蓋後の液面の状態は、通常、 需要者が見ているものであり、需要者の注意を全く引かないとはいえない。 一方、気泡と泡沫の区別について原告の主張する内容は、願書の記載及び 添付された写真に示された「発泡状態」からは把握できないものであって、 それらを意匠を受けようとするものの内容とすることはできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない
4 本願意匠の意匠該当性について
(1) 既に検討したとおり、動的意匠は、出願に係る意匠が、意匠法2条1項の 「意匠」である状態を保ちながらその要素である形状等を変化させる場合に、 その変化の過程であるその前後の状況を含めて全体として一つの動的な形状 等として把握し、これを一つの意匠として保護しようとするものであり、変 化の前後にわたる物品の形状である中間状態も含め、全体として一つの物品 の形状等として把握できる定形性等が必要である。 具体的には、上記2(5)のとおり、物品の形状は、その変化の前後にわたる いずれの状態においても、意匠法上の物品としての要件、すなわち物品の属 性として一定の期間、一定の形状があり、その形状認識の資料である境界を 捉えることのできる定形性があり、その変化の態様に一定の規則性があるか 変化する形状が定常的なものであることが必要である。
これを本願についてみると、前記3(1)エのとおり、発泡状態の変化を示す 開蓋後の平面図1ないし3において、缶周縁に帯状となった気泡の幅は一定 ではなく、その輪郭形状もいびつな円形であり、その過程において、気泡に よる帯の幅が増した箇所がある一方で、消滅ないし減少した箇所がある。ま た、中央部の白い部分が消えて、白い気泡の小さな集合が不規則に散在する 状態になった後、円環形状の径が漸次的に狭まっていくものの、輪郭形状の 径が狭まる進行の度合いも場所により一定ではなく、形状も円ではなくいび つな形状を示した後に、2段の円錐台形状に至る。このような気泡の発生及 び消滅の状況は、上記意匠ないし動的意匠の要件である一定の期間、一定の 形状を有し、境界を捉えることのできる定形性があるものとみられないほか、 変化の態様に一定の規則性があるか、あるいは変化の形状が定常的であると も認め難いものである。
なお、本願意匠を実施した商品とされる「生ジョッキ缶」についての公開 情報によっても、気泡の総体の形状及びその変化は、開栓ごとに異なり、缶 の周縁部に大きな泡が複数視認できる状態(甲31、15頁)、まだらに湧い た気泡が増加する状態(乙8)、泡の総体が球の一部を切り取ったようなドー ム形状に盛り上がった状態(乙9)、缶内部の液面の周縁部にかろうじて泡の 集合がみられる状態(乙10、4頁)などが認められるにとどまり、開栓の 都度、本願の願書の添付写真と同じ形状等が再現されるものとは認められず (甲1、17、31、乙7ないし10)、この点に照らしても、本願意匠に示 された気泡の発生及び消滅の状況が定形性を欠き、変化の態様に一定の規則 性はなく、変化の形状が定常的であるとも認め難いとの上記の認定は、相当 ということができる。 そうすると、本願意匠は、意匠登録を受けることのできる意匠には該当し ないものというべきである。

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令和6(ワ)70189  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年12月23日  東京地方裁判所

VBAで記載されたプログラムについて、著作物性なしと判断されました。

(1) 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであるから、思想、感\n情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でないもの又は表\ 現上の創作性がないものは、著作物に該当せず、著作権法上保護されるもの とはいえない。
これを本件についてみると、原告は、本件プログラムのソースコードのう\nち、1)製品名のドロップダウンリストを表示する機能\に関する部分(以下「1) 部分」という。)、2)顧客の名前を検索、確定する機能に関する部分(以下\n「2)部分」という。)、以上の2点を赤色でマーキングし、当該2点を創作 的表現部分として主張するものと解されるところ、原告は、裁判所からの繰\nり返しの釈明にかかわらず(第1回口頭弁論調書参照)、これらが創作的表\n現に該当する理由を具体的に主張するものではない。
この点を措き、原告の主張について精査しても、1)部分については、原告 の主張は、ActiveXコントロールのコンボボックスを使用し、フォン トやフォントサイズをカスタマイズ可能にするという、単なるアイデアをい\nうものにすぎない。念のため、1)部分の内容についてみても、証拠(甲14、 15)及び弁論の全趣旨によれば、エクセルにおいて標準仕様として用意さ れているActiveXコントロール及びActiveXコントロールのコ ンボボックスを用いて項目をドロップダウンリストとして選択可能とさせる\nものであって、これらを使用してフォント名及びフォントサイズをカスタマ イズする手法自体は、極めてありふれたものにすぎない。更に念のため、こ れらの機能に対応するソ\ースコードについてみても、使用されている指令及 びその組合せにおいて、原告の個性が表れているものといえないことは明ら\nかである。
また、2)部分についても、原告の主張は、ユーザフォーム画面のコンボボ ックスで、カタカナ行のドロップダウンリストから目的のカタカナ行をマウ スで選択して、表示されたリストボックスから目的の名前と電話番号をマウ\nスでクリックすることで顧客の名前を選択可能にするという、単なるアイデ\nアをいうものにすぎない。念のため、2)部分の内容についてみても、証拠(甲 14、16)及び弁論の全趣旨によれば、エクセルにおいて標準仕様として 用意されているユーザフォームのコンボボックスとリストボックスを用いる ものであり、コンボボックスとリストボックスを用いてマウスで値を選択さ せ、リストボックスの項目が選択されたときに実行されるChangeイベ ントを用いることにより、マウスで選択された値を取得することを可能とす\nるものであって、これらの手法自体は、いずれも極めてありふれたものにす ぎない。更に念のため、これらの機能に対応するソ\ースコードについてみて も、使用されている指令及びその組合せにおいて、原告の個性が表れている\nものといえないことは明らかである。 これらの事情の下においては、原告の主張は、アイデアをいうものに帰し、 本件プログラムに表現上の創作性を認めることはできない。\nしたがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。

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令和6(行ケ)10075  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年11月13日  知的財産高等裁判所

3条2項によって登録された商標「貴醸酒」について、3条違反、4条1項6号違反の無効理由を主張しましたが除斥期間経過済み、および理由無しと判断されました。代理人無しの本人訴訟です。

1 取消事由1(手続違背)について
原告は、特許庁の審判手続において、原告が答弁書副本を受領してから審理 終結通知の送付まで1週間もなかったとして、原告に反論の機会を与えなかっ た手続違背がある旨主張する。しかし、審判合議体には事件の審理が熟したと 判断するについて裁量権があるところ、本件の証拠を精査しても、上記の取扱 いが原告の防禦権を不当に制限することになるなどの事情は認められず、当該 裁量権の逸脱があったとは認められない。原告の主張は採用できない。
2 取消事由2(商標法4条1項6号該当性の判断の誤り)について
(1) 証拠(甲3、4、11〜13)及び弁論の全趣旨によれば、現在の独立行政 法人酒類総合研究所の前身である国税庁醸造試験所が仕込水の全部あるいは 一部に清酒を使用して発酵させることを特徴とした清酒の製法を開発し、開 発チームの故 A 博士がこれを「貴醸酒」と名付けたものであること、その 製法は、昭和49年に特許出願がされ、昭和53年に公告されたが、現在は存 続期間が満了していること、昭和51年に、貴醸酒の製造研究と普及を目的 に、被告を含む酒造会社等5社が貴醸酒協会を設立し、国税庁醸造試験所を 管轄する大蔵省(当時)と実施許諾契約を締結していたこと、特許権の存続期 間満了後は技術指導を国税局鑑定官室が行い、貴醸酒協会は商標の管理と加 盟各社に対して販売のアドバイスを行っていることが認められる。 そうすると、「貴醸酒」が、国税庁醸造試験所において開発された、水の代 わりに清酒で仕込んだ製法により醸造された清酒の名称であり、同試験所の 故A博士によって命名されたものと認めることはできるものの、当該清酒の名称が当然に事業の名称となるものではない。実際に「貴醸酒」として清 酒を製造販売してきたのは被告を含む貴醸酒協会加盟の酒造会社等であり、 「貴醸酒」の名称が国税庁醸造試験所又はその後身の独立行政法人酒類総合 研究所の団体自身やその事業で営利を目的としないものを表示するものとし\nて使用されたとはいえず、まして、そのような表示として本件商標の指定商\n品の取引者、需要者の間で著名であったことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 原告は、「貴醸酒」は、新たな醸造方法の開発による醸造技術者の指導育成 を行う公益目的の事業であって、製法に関する特許権者も国税庁長官である 旨主張するが、貴醸酒を開発したのが国税庁醸造試験所であり、国税庁長官 が製法に関する特許権を有していたとしても、直ちに「貴醸酒」がその「事業」 を「表示」する標章であったということにはならない。\n原告は、本件商標についての商標登録出願は、商標法3条1項3号を理由 に拒絶されているとか、昭和51年の甲11、13の各論文には、「いわゆる 貴醸酒」と記載されており世間に知られていることを示しているなどと主張 するが、いずれも「貴醸酒」の名称が国税庁醸造試験所又はその後身の独立行 政法人酒類総合研究所の団体自身やその事業で営利を目的としないものを表\n示するものとして使用されたことを示すものとはいえず、また、そのような 表示として「清酒」の取引者、需要者の間で著名であったことを示すものとも\nいえない(「いわゆる」との表現は、その名称を取引者、需要者の中でどの程\n度の者が認識しているかを示すものではなく、また、その事業主体について は何ら示唆するものではない。)。かえって、貴醸酒の命名者を含む共同開発 者の論文には、「貴醸酒という名称は登録商標であり、一般名ではない。」(甲 11)、「貴醸酒という名称は登録商標(貴醸酒協会の会員だけが使用できる) であって、一般名でない」(甲13)との記載があり、国税庁醸造試験所において、「貴醸酒」を同試験所自身やその事業で営利を目的としないものを表示\nするものとして認識していないことが明らかであり、本件商標の登録の経緯 に鑑みても、本件商標を実際に業務に使用し識別力を取得させたのは被告を 含む酒造会社等であったものというべきである。なお、原告の指摘するとお り、これらの論文は、本件商標が設定登録を受けた昭和62年8月19日よ り前に発行されたものであるが、そのことは上記認定を左右するものではな い。
3 それ以外の原告の主張について
原告は、1)本件商標は商標法4条1項16号に該当するにもかかわらず、同 法3条2項の適用によって商標登録を認めた登録審決は誤りである、2)本件商 標は同法29条に該当するとの主張もしているが、これらは、いずれも本件の 無効審判手続において審理・判断されていないから、最高裁昭和51年3月1 0日大法廷判決・民集30巻2号79頁の趣旨に鑑み、審決取消訴訟の対象と することはできないものというべきである。
なお、上記2)に関していえば、商標法29条は登録が有効であることを前提 に使用の制限を定めるものであって、そもそも同法46条1項の無効審判請求 の理由とはならない。

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令和6(行ケ)10028 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年11月11日  知的財産高等裁判所

 商品・役務は類似するとして、無効理由無し(4条1項11号)とした審決が取り消されました。

(1) 事業者について
ア 証拠(甲12〜21、44、52、54〜57)によれば、株式会社ア ジアス、株式会社日本メディックス、フクダ電子株式会社、アイ・エ ム・アイ株式会社、株式会社三笑堂、さくらメディカル株式会社、株式 会社セントラルメディカル、ジーエムメディカル株式会社、株式会社ナ ンブ、中嶋メディカルサプライ株式会社、コニカミノルタ株式会社、株 式会社アールエフ、オムロンヘルスケアサービス株式会社、三井温熱株 式会社、伊藤超短波株式会社といった多数の医療機器メーカー等につい て、製造・販売と貸与(レンタル・リース)の両方の事業を行っている ことが認められる。 また、キヤノンメディカルシステムズ株式会社(製造・販売)とキヤ ノンメディカルファイナンス株式会社(リース)(甲50)、パラマウ ントベッド株式会社(製造・販売)とパラマウントケアサービス株式会 社(レンタル)(甲53)についても、同一のハウスマークを用いて営 業を行う系列会社であること、これらの需要者は、そうした系列会社間 の法人格の異同にさほど関心を持たないと考えられる一般の需要者が含 まれていること(後記(4)参照)等の事情を考慮すると、「商品の製造・ 販売と役務の提供が同一事業者によって行われている場合」に準ずるも のということができる。
この点、被告は、「同一事業者」とは、狭義の混同を生じさせる同一 の事業者のことであって、親子会社や系列会社等は含まれない旨主張す る。しかし、企業の経営戦略として、同じブランド(特にハウスマーク) を使用しつつ多様な事業展開を円滑に行う等の目的で、特定の事業部門 を分社化したり、持株会社(ホールディングス)が傘下の複数の事業会 社を統括するような法人格の運用は、ごく一般的なものであり、そのよ うな場合、形式的に見れば別法人が展開する事業であっても、外部の第 三者(特に一般需要者)からみて、同一の営業主体による事業と認識さ れることも珍しくないと解される。上記1で述べた商品・役務に係る営 業主体の誤認のおそれは、取引者・需要者の認識を基準に判断すべきも のであるから、上記のような理由により「別法人が展開する事業であっ ても同一の営業主体による事業と認識されても不思議でない場合」には、 「商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われている場 合」に準ずるものとして扱うのが相当である。 この点に関する被告の上記主張は、商品・役務に係る営業主体の誤認 のおそれは取引者・需要者の認識を基準に判断すべきことを看過したも のであり、採用できない。
イ 次に、証拠(甲7〜9)によれば、医療用機械器具の製造、販売、貸与 等を行う企業を会員とする団体である商工組合日本医療機器協会におい ては、医療機器の製造販売業又は販売・貸与業の許可等を受けている企 業が77社あり、そのうち、製造販売業と販売・貸与業の両方の許可等 を受けている企業は53社(68.8%)あることも認められ、約3分 の2の割合という多数の製造・販売業を行う事業者が、貸与業も行うこ とができる状況にあるといえる。
この点、甲43によれば、令和2年度末における医療機器の製造販売業 許可数が2799件となっていることが認められるが、上記協会に加入 している企業のうちの対象企業数77社が、サンプルサイズとして小さ すぎるとまではいえない。そして、商工組合日本医療機器協会の会員か 非会員かの違いが、販売・貸与業の許可等取得割合に実質的な違いを生 じさせているといった事情もうかがわれない。そうすると、比較対象た る企業集団の母数の違いのみから、上記の傾向、すなわち、医療機器の 製造・販売業を行う事業者の多数が貸与業についても許可等を受けてい るとの事実を否定することはできない。
加えて、証拠(甲10、42)によれば、東京都が用いている「高度 管理医療機器等販売業/貸与業許可申請」(様式第87)、「管理医療\n機器販売業/貸与業届出」(様式第88)の書式では、「販売業」と 「貸与業」の許可申請・届出を1通の書類で行う様式がデフォルトと\nなっており、販売業と貸与業の「どちらか一方の時は、不要の文字を消 してください」という記載例の注意書きが示されていることが認められ る。これは、医療機器の販売業と貸与業の双方の許可申請・届出を行う\n例が現実に多い実情を示すものと理解できる。
ウ また、被告は、国内の主要な医療用機械器具メーカー(甲33)と、主 要な医療用機械器具のリースサービスを提供する事業者(甲35、36) 又はレンタルサービスを提供する事業者(甲37)が一致していない点 を指摘し、同一事業者が機械器具の製造・販売と機械器具の貸与を行う ことは一般的でないと主張する。 しかし、業界における主要な事業者とは、企業の経済活動の規模(売 上等)や商品・サービスの内容から様々な基準によって選出されるにす ぎず、仮にある事業者が製造販売業と貸与業の両者の業務を行っている としても、企業の経営戦略等によってどちらに重きを置くのかは当然異 なり得るのであるから、製造販売業における主要企業と貸与業における 主要企業が一致していないからといって、このことから直ちに両者を同 時に行う事業者が少ないとまで断言できない。
(2) 用途について
医療用機械器具の貸与は、他人の求めに応じて当該機械器具を貸与する ことであるところ(甲34)、貸与という行為は、単に貸渡し行為をするこ とのみならず、需要者に当該機械器具を使用させることを当然に予定するも\nのである(民法601条参照)。よって、その貸与の用途は、医療用機械器 具の医療目的での使用ということができ、本件指定商品・医療用機械器具の 用途と共通するといえる。
(3) 提供場所・販売場所について
上記のとおり、多数の医療用機械器具の製造・販売を行う事業者が同時 に貸与も行っている取引の実情があることや、各事業者は、ホームページを 設けて申込みや問合せを受け付けており、その際には販売と貸与を共に説明\nしていること(甲68〜71)に鑑みると、医療用機械器具の販売場所と貸 与の提供場所は、いずれも当該企業の営業所所在地やインターネット上の ホームページ(同一のサイト)等であると認められる。そうすると、本件指 定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具について は、提供場所・販売場所が同じである場合が多いということができる。 これに対し、被告は、現代社会ではあらゆる物品がインターネット上の ウェブページで貸与、販売されているから、本件においても商品の販売や役 務の提供がインターネット上のウェブページで行われていることを理由とし て提供場所が一致するというのは暴論であると主張する。しかし、商品・役\n務の類似性判断の考慮要素として、商品の製造・販売と役務の提供が同一事 業者によって行われている実情の有無・程度等とは別に、その提供場所・販 売場所の同一性を独立の考慮要素としているのは、同一事業者が扱う商品・ 役務であっても、商品と役務とで全く異なる営業形態を取るような場合も考 えられるからである。そのような場合と異なり、同一事業者が、そのホーム ページ等の同一のサイトで商品の販売と役務の提供の両方の営業を行ってい るとすれば、その商品・役務の類似性を肯定する方向で考慮すべきことは当 然である。被告の上記主張は失当である。
(4) 需要者の範囲について
本件指定商品・医療用機械器具は、医療機関で用いられるものに限らず、 一般家庭内で健康状況に応じて使用されるものも含まれること、その需要者 には、医療機関のみならず、一般の需要者等が含まれることについては、い ずれも当事者間に争いがない。そして、証拠(甲48、53、56、57) によれば、本件指定役務・医療用機械器具の貸与においても、広く一般の需 要者(消費者)が想定されている場合があることが認められるから、両者の 需要者は実質的に重なるといえる。 これに対し、被告は、医療用機械器具の貸与の対象となるものは、専ら 高額な機械器具であり、その需要者は事業者、すなわち医療機関に限られる と主張する。確かに、貸与の対象となる医療用機械器具は、販売の対象とな る医療用機械器具よりも相対的に高額なものが多いであろうことは想像に難 くなく、それに伴う需要者の範囲の相対的な違いはあり得るとしても、医療 用ベッドや家庭用治療器、リハビリテーション機器等のレンタルサービスを 一般需要者向けの広告で扱っている事例が実際にあることは紛れもない事実 である(甲53、56、57)。本件指定役務・医療用機械器具の貸与の需 要者が「医療機関に限られる」という被告の主張は、証拠に基づかない極論 といわざるを得ない。 結局、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本件指定商品・医療用機 械器具の需要者の範囲は、相対的な違いはあれ、医療機関と一般の需要者等 を含む点で実質的には重なっているというべきである。
(5) 小括
以上によれば、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商 品・医療用機械器具の製造・販売とは、同一事業者によって行われている例 が多数みられ、これらの用途は共通し、販売場所と提供場所は同一である場 合が多く、需要者の範囲は実質的に重なっているということができる。この ような取引の実情を踏まえると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本 件指定商品・医療用機械器具に同一の構成の商標(「AWG治療」)を使用\nする場合には、同一の営業主体の製造・販売又は提供する商品・役務と取引 者・需要者に誤認されるおそれがあるというべきである。 なお、本件指定商品・医療用機械器具は、「歩行補助器・松葉づえ」を 除くものとされており、このような除外のない本件指定役務・医療用機械器 具の貸与と異なっているが、この違いが商品・役務の類否に影響を及ぼすと はいえない。
3 商標権の効力の観点からの弊害について
原告は、先願に係る引用商標の商標権者であり、「AWG治療」の商標を医 療用機械器具に付した上でこれを引き渡す行為を第三者が行った場合、当該商 標権の侵害を理由に禁止権を行使することができるはずである(商標法36条、 37条1号、2条3項2号)。しかし、本件商標の登録が有効なものだとする と、「AWG治療」の商標を医療用機械器具に付した上でこれを貸与する行為 (当然に「引渡し」を包含する。)は、通常、本件商標に係る商標の使用と認 めるのが自然であり(同法2条3項3号)、商標権の及ぶ範囲の重複・抵触が 生じかねない。このような状況を招来させるのは、権利範囲の問題と登録要件 の問題が理論上は別個の問題であるにせよ、商標法全体の整合的解釈という観 点からは好ましいことでない。以上の理由からも、本件指定役務・医療用機械 器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具とは、類似するものと判断する のが適切である。

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令和6(行ケ)10006  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年10月29日  知的財産高等裁判所

商標「Air liquid」について、4条1項10号、15号違反の無効理由無しとした審決が維持されました。

ア 原告は、フランスに本社がある会社であり、我が国における原告の子会 社は日本エア・リキード社である。(甲3、4、24、42)
イ 原告及び日本エア・リキード社は、産業ガス・医療ガスに関する事業を 行う会社である。産業ガスは、鉄鋼、化学、機械・金属加工、自動車・輸 送機器、食品等の各産業における製品の製造の過程で用いられるガスの総 称であり、酸素、窒素、水素、アルゴンなどがこれに含まれる。また、医 療ガスは、病院で使用される酸素等のガスであり、「産業ガス」の語が医療 ガスを含む意味で用いられることもある。日本エア・リキード社は我が国 において、事業者に対して産業ガス・医療ガスを供給する事業を行ってい る。原告は、その子会社を含む売上げで、産業ガスの分野において、20 21年(令和3年)の世界の市場シェアで全体の2位を占めている。また、 日本エア・リキード社は、我が国における2018年(平成30年)3月 期の産業ガス事業において国内第3位のシェアを占めており、同社を含む 上位3社で産業ガスのシェアの約8割を占めている。(甲3、4、24、4 1、42、52)
ウ 日本エア・リキード社は、昭和5年(1930年)に「帝國酸素株式会 社」として設立された会社であり、その後同社の商号は、「帝国圧縮瓦斯株 式会社」(昭和18年)、「帝国酸素株式会社」(昭和21年)、「テイサン株 式会社」(昭和56年)と変更され、平成10年に「日本エア・リキード株 式会社」に変更された。また、平成5年8月頃から、別紙1「原告商標目 録」記載1ないし4の各「商標の構成」の箇所に掲げた図柄(「AIR LIQUIDE」の文字が入った図柄、以下「先代ロゴマーク」という。)が、 会社のロゴとして用いられるようになった。ただし、商号が「テイサン株 式会社」である間は、先代ロゴマークの右下に小ぶりの字で「TEISAN」 という文字を入れて使用していた(甲61、62)。その後、日本エア・リ キード社は、平成29年1月頃から、別紙1「原告商標目録」記載6及び 7の各「商標の構成」の箇所に掲げた図柄(「Air Liquide」の 文字が入った図柄、以下「現ロゴマーク」という。)を会社のロゴマークと して用いるようになり、現在も現ロゴマークを使用している。日本エア・ リキード社は、これらのロゴマーク(先代ロゴマーク、及び現ロゴマーク 採用後は現ロゴマーク)を、会社案内のパンフレット、ホームページ、設 置したタンク及び水素ステーション、使用するタンクローリー等に表示し\nている。(甲4、5、6、24、36、42、60〜68) 現ロゴマークを用いた日本エア・リキード社の広告が、日本経済新聞(甲 34、35)、日経産業新聞(甲31〜33)、雑誌「週刊エコノミスト」 (甲69、70)に掲載されたが、これらの広告には、日本エア・リキー ド社の親会社がフランス法人の原告であることは示されておらず、現ロゴ マーク又は引用商標がフランス法人である原告の業務に係る商品又は役 務を表示するものであることも示されていなかった。\n
(2) 周知性について
前記(1)の事実によれば、原告は、その子会社を含む売上げで、産業ガスの 分野において、2021年(令和3年)の世界の市場シェアで全体の2位を 占めている。そして、日本エア・リキード社が、我が国における産業ガスの 事業において大きなシェアを占めており、2018年(平成30年)3月期 においては、上位3社でシェアの約8割を占める産業ガス事業において第3 位のシェアを得ていたことが認められる。また、日本エア・リキード社は、 平成5年8月頃から「AIR LIQUIDE」の文字が入った先代ロゴマークを使 用し、平成29年1月頃からは、現在に至るまで「Air Liquide」 の文字が入った図柄の現ロゴマークを使用しており、先代ロゴマーク、及び 現ロゴマーク採用後は現ロゴマークを会社のパンフレットや設備等にも表示\nしていることが認められる。
しかし、我が国において、事業者に対して産業ガス・医療ガスを供給して いるのは、原告の子会社である日本エア・リキード社であって、原告自体が、 我が国において事業者に対して産業ガス・医療ガスを供給しているとは認め られない。また、日本エア・リキード社は、平成10年に商号が「日本エア・ リキード株式会社」となったが、それ以前は、昭和5年(1930年)の設 立以来、「帝國酸素株式会社」、「帝国圧縮瓦斯株式会社」、「帝国酸素株式会社」、 「テイサン株式会社」という商号を用いており、これらの従前の商号は、当 該商号の会社が原告の子会社であることや、外国の会社の子会社であること すら推知させないものであった。日本エア・リキード社は、平成5年8月頃 から「AIR LIQUIDE」の文字が入った先代ロゴマークの使用を開始した後 も、商号が「テイサン株式会社」である間は、先代ロゴマークの右下に小ぶ りの字で「TEISAN」という文字を入れて使用していた(甲61、62)。現 ロゴマークを用いた日本エア・リキード社の広告が、日本経済新聞(甲34、 35)、日経産業新聞(甲31〜33)、雑誌「週刊エコノミスト」(甲69、 70)に掲載されたことが認められるが、これらの広告には、日本エア・リ キード社の親会社がフランス法人の原告であることは示されておらず、現ロ ゴマーク又は引用商標がフランス法人である原告の業務に係る商品又は役務 を表示するものであることも示されていなかった。そして、日本エア・リキ\nード社がフランス法人である原告の子会社であることについて、これが広告 に記載されるなどして広く知らしめられた事実は認められない。これらのこ とを考慮すると、日本エア・リキード社がフランス法人である原告の子会社 であることは、広く認識されているとは認められない。
そうすると、我が国において産業ガス・医療ガスの供給を受ける事業者を 引用商標の需要者と解するとした場合、その中では、一定の範囲で、引用商 標が日本エア・リキード社の商標として認識されていることは認められるが、 フランス法人である原告の商標として広く認識されているとは認められない い。 また、本件商標の需要者は、一般消費者のうち喫煙者及びたばこに関心の ある者と解されるところ、産業ガス・医療ガスの供給を受ける事業者は、そ れに応じた設備等を有する者に限られることに鑑みれば、本件商標の需要者 の大半は、産業ガス・医療ガスの分野の知識をそれほど有しないと推認され、 本件商標の需要者の間では、引用商標が日本エア・リキード社の商標として 認識されているとは認められず、まして、引用商標がフランス法人である原 告の商標として広く認識されているとは認められない。
原告は、引用商標「Air Liquide」が原告の業務に係る商品又 は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていると主張するが、\nこれまで述べたところによれば、この点に関する原告の主張は、採用するこ とができない。
(3) 商品の類似性について
商品が類似のものであるかどうかは、それらの商品が通常同一営業主によ り製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の 商標を使用する場合には、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認され るおそれがあると認められる関係があるか否かによって判断するのが相当で ある(最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷 判決・民集15巻6号1730頁)。
前記(1)の認定事実によれば、引用商標が使用されている商品は、産業ガス 及び医療ガスである。原告が商標登録又は国際登録を受けている商標であっ て「Air Liquide」又は「AIR LIQUIDE」の文字が構\n成に含まれるもの(別紙1「原告商標目録」記載1ないし7の各商標)は、 その指定商品及び指定役務として、産業ガス及び医療ガス以外の多様な種類 の商品及び役務が指定されているが(甲10、12、14、16〜22)、こ れは、日本エア・リキード社の製造、販売する産業ガスの製造過程等におい て用いられている商品及びこの産業ガスが使用されている役務を指定商品及 び指定役務として登録したものであって(弁論の全趣旨(令和6年2月22 日付け原告準備書面(第1回)17頁))、日本エア・リキード社が、上記各 商標の指定商品とされた多様な種類の商品の販売や多様な役務の提供を行っ ているとは認められず、産業ガス及び医療ガス以外について引用商標が使用 されていると認めることもできない。
他方、本件商標の指定商品は、前記第2の1(1)のとおり、第34類の「喫 煙用薬草、喫煙用ライター、喫煙用具、喫煙パイプ用吸収紙、電子たばこ、 水パイプ、電子たばこ用リキッド、喫煙者用の経口吸入器、たばこ、喫煙パ イプ、代用たばこを含む紙巻きたばこ(医療用のものを除く。)、シガーライ ター用ガス容器、シガリロ」である。これらの本件商標の指定商品と、引用 商標が使用されている商品である産業ガス及び医療ガスとは、それらの性質、 目的、用途、使用方法、使用者、製造者、販売者、取引態様等が大きく異な るものと認められ、これらが通常同一営業主により製造販売されているとの 事情は存在せず、その他、これらの商品に同一又は類似の商標を使用する場 合に、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると解 すべき根拠となる事情は認められない。
別紙1「原告商標目録」記載5及び6の商標の指定商品には、第5類の「医 療用又は治療用の喫煙用剤(単独で又はたばこと混ぜて販売されるもの)、 医療用又は治療用のたばこの代用品」が含まれているが(甲17〜20)、 原告又は日本エア・リキード社がこれらの商品を我が国で製造販売している とは認められず、その他、原告又は日本エア・リキード社が、本件商標の指 定商品である「喫煙用薬草、喫煙用ライター、喫煙用具、喫煙パイプ用吸収 紙、電子たばこ、水パイプ、電子たばこ用リキッド、喫煙者用の経口吸入器、 たばこ、喫煙パイプ、代用たばこを含む紙巻きたばこ(医療用のものを除く。)、 シガーライター用ガス容器、シガリロ」を製造販売しているとも認められな い。 したがって、引用商標が使用されている商品と、本件商標の指定商品との 間には、これらの商品に同一又は類似の商標を使用する場合に、同一営業主 の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるとは認められないから、 引用商標が使用されている商品と本件商標の指定商品は、類似しているとは 認められない。

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令和5(ワ)10237 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年11月14日  大阪地方裁判所

 均等主張についても、第1、第5要件を満たさないとして非侵害と認定されました。

前記2(2)ア認定のとおり、本件発明は、非力な者であっても、危険な野生動物が 生息している場所において、簡単かつ確実に屠殺できるようにすることを解決すべ き課題とし「(【0008】ないし「【0012】)、このような課題を解決するため、竿体を伸縮自在に構成することで、対象動物との距離を調整できるようにし、例え\nば、猛禽類に対しては距離を長く取ったり、安全性を確保できる場合には距離を短 く取って確実に電極を動物の体に接触させたりすることができるという効果が得ら れるというものである。
一方、証拠(甲2、乙18)によれば、本件特許の出願時点で、野生動物を殺処 分する手段として、麻酔ガス等を用いることや電気スタナーを用いることなどが知 られていたことが認められる。これらの手段は、動物を殺害することはできるが、 即効性に欠けたり、即効性があっても動物に近づく必要があることから危険を伴っ たりするものであった。 そうすると、本件発明は、従来技術である電流を用いた屠殺手段を踏まえ、簡単 かつ安全確実な屠殺手段を提供するものであり、本件発明の構成中の本質的部分は、\nこのような屠殺手段を提供する竿体の伸縮構造(構\成要件Aの「伸縮自在の所定長 さの竿体」)、バッテリ部、電源昇圧部及びインバーター部の背負い構造(構\成要 件F)、双方の手でそれぞれ電源スイッチと竿体を把持できる通電コードの並列構\n造(構成要件G)に認められるものというべきである。\n
イ 前記2で検討したとおり、被告製品は、少なくとも、構成要件Aの「伸縮自\n在の所定長さの竿体」の部分、構成要件F及びGを充足しないのであるから、本件\n発明の構成中、被告製品と異なる部分が本件発明の本質的部分ではないとの均等侵\n害の第1要件は認められない。
(2) 第5要件について
ア 証拠(乙8ないし17)によれば、本件特許の出願経緯について、以下の事 実が認められる。
・・・
イ 以上の審査経緯に鑑みれば、原告は、当初、竿体の伸縮構造については固定\n長の竿体も含むものとし、バッテリ部、電源昇圧部及びインバーター部の背負い状 態の構成については携行可能\であるとするのみで背負い構造に限られないものと\nし、双方の手でそれぞれ電源スイッチと竿体を把持できる並列構造については双方\nの手でそれぞれ把持することが明示的に記載されていないものとし、土中の接地電 極と同電位とする回路構造については土中を閉回路に含まない回路構\造も含むもの として、特許請求の範囲を記載していたが、進歩性欠如及び明確性要件違反を指摘 されたことから、拒絶査定を回避するため、現在の特許請求の範囲の請求項1の記 載のとおりに限定したのであり、限定により除外された部分は、いずれも本件特許 の特許請求の範囲から意識的に除外したものであることが認められる。 そうすると、被告製品と本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載との相違点 は、いずれも原告が意識的に除外した部分に該当するから、均等侵害に関するその 余の原告の主張を前提としても、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特 許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときと の第5要件を満たさないというべきである。

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令和6(行ケ)10023  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年11月13日  知的財産高等裁判所

 拒絶審決が取り消されました。補正要件(減縮に該当しない)および独立特許要件を満たすと判断されました。

当裁判所は、本件補正は本願発明の特許請求の範囲を減縮するものであって、 かつ、本件補正発明が明確でないということはできないと考える。したがって、 本件補正が特許請求の範囲を減縮するものではなく、仮に減縮するものだとし ても独立特許要件を満たしていないという理由で本件補正を却下した本件審決 は誤りであり、取消事由1が認められるので、その余の取消事由について判断 するまでもなく、本件審決は取り消すべきものと判断する。
・・・・
ア 本件補正に係る補正事項のうち、「決済以外の用途において適用可能な\n情報処理端末であって、」(補正事項1)の追加は、本件補正発明の情 報処理端末を、決済用媒体と非決済用媒体の双方を処理の対象とするも の(以下「決済・非決済共用端末」という。)及び非決済用媒体のみを 処理の対象とするもの(以下「非決済専用端末」という。)に限定する もの、すなわち決済専用の端末を本件補正発明の技術的範囲から除外す るものであり、これは特許請求の範囲の減縮に当たると認められる。 また、「前記接触型の読み取り部及び前記非接触型の読み取り部は、決 済に関する情報の入力がなされていない前記情報記憶媒体から読み取り 対象の情報を読み取り可能であり、」(補正事項3)の追加は、読み取\nり部の機能として、「決済に関する情報の入力がなされていない前記情\n報記憶媒体」を読み取り可能であることを限定するものであり、特許請\n求の範囲の減縮に当たると認められる。
原告は、上記の補正により決済用媒体を処理の対象としていないことを 特定していると主張するが、これらの補正事項は、それぞれ「決済以外 の用途において適用可能」、非決済用媒体から「読み取り対象の情報を\n読み取り可能」であることを特定するにとどまり、決済用媒体を対象に\n含む決済・非決済共用端末を除外しているとは解されないから、同主張 を採用することはできない。
イ その上で、本願発明の「決済に関する情報の入力の有無に関係なく、」 を削除する補正事項4についてみると、文言上は、「前記接触型の読み取 り部及び前記非接触型の読み取り部のそれぞれを」「情報記憶媒体から情 報を読み取り可能な待ち受け状態に維持」する態様(以下「本件態様」と\nいう。)を限定していた事項を削除するものであるから、「『決済に関す る情報の入力』の有無が本件態様に関係する情報処理端末」は、本願発明 の範囲には含まれていなかったが、本件補正発明の範囲には含まれること になったと解釈する余地がある。
しかし、本願発明は、決済に関する情報(金額情報、支払方法、決済に 使用されるカードブランドの情報など)をユーザが入力してから決済に使 用されるカードの読み取り操作を促す処理及び表示を行うという従来技術\nの構成では、決済以外の用途への適用が難しいという課題を解決するため、\n決済以外の用途において適用可能な情報処理端末であって、接触型・非接\n触型の別を問わず、情報記憶媒体から短時間で必要な情報を読み取り可能\nな情報処理端末を提供するものであり(【0004】〜【0007】)、 この点は、本件補正発明においても同様である。
そして、「決済に関する情報の入力の有無が本件態様に関係する情報 処理端末」としては、「決済に関する情報の入力」によって初めて本件 態様になるような情報処理端末が考えられるが、このような情報処理端 末を利用するためには、常に「決済に関する情報」の入力が要求される ことになるから、本願発明及び本件補正発明の趣旨目的に反するもので あるのみならず、例えば、マイナンバーカードのような非決済用媒体を 処理対象とする場合には、「決済に関する情報」そのものがないのであ るから、「決済に関する情報の入力」がない限り待ち受け状態とならな いとすると、いつまでも本件態様となることができず、非決済用媒体を 読み取ることができない。そのような端末は「決済以外の用途において 適用可能な情報処理端末」とはいえない。\n逆に「決済に関する情報の入力」により本件態様が終了するような情報 処理端末も一応考えられるが、このような端末は、当該入力後は読み取り 可能ではなくなり、決済・非決済共用端末の場合において、決済に関する\n情報を入力すると決済目的で情報処理端末を利用することができなくなる、 いい換えると、決済処理を行わないのに決済に関する情報を入力する手段 を設けるという、およそ不合理なものとなる。
補正事項4を含む本件補正後の発明が、これらの「決済に関する情報 の入力の有無が本件態様に関係する情報処理端末」をその技術的範囲に 含むと解することは、合理的な解釈とはいい難い。 むしろ、本願発明及び本件補正発明の技術的範囲の内容について、本 願明細書の内容を考慮して解釈するならば、本件補正の前後を通じ、本 件態様となるために「決済に関する情報の入力」が不要であることに変 わりはなく、本願発明の「決済に関する情報の入力の有無に関係なく、」 との文言は、決済以外の用途において適用可能であることを特定してい\nたにすぎないものと解するのが相当であるから、補正事項4により、本 件補正発明に本願発明に含まれていなかった事項が含まれることにはな らない。
ウ 補正事項1及び3が特許請求の範囲の減縮に当たることは前記のとおり であり、補正事項4が新たな事項を追加するものではない以上、結局、本 件補正は、全体として特許請求の範囲を減縮するものに当たる。これに反 する被告の主張は、以上述べた理由により、採用することができない。 したがって、補正事項4を含む本件補正は特許法17条の2第5項2 号に規定する「特許請求の範囲を減縮」する場合に該当するから、同号 の補正要件を満たしていないとする本件審決の判断には、誤りがある。
(2) 独立特許要件(本件補正発明の明確性)について
進んで、本件補正が独立特許要件(特許法17条の2第6項、同法126 条7項)としての同法36条6項2号(明確性)の要件を充足するかどうか について検討する。 前記のとおり、本件補正発明の「決済以外の用途において適用可能な情報\n処理端末であって、」との記載は、非決済専用端末のみならず決済・非決済 共用端末を含むものと解される。このことは、本願明細書において、発明の課題及び効果は「決済以外の用途において適用可能な情報処理端末」の提供であるとされた上で(【0005】、【0007】)、最初の実施例として決済・非決済共用端末の例が記\n載されていること(【0011】以下)及びほかの実施例として非決済専用 端末の例が記載されていること(【0072】)を参酌すれば、さらに明ら かであり、少なくとも、本件補正後の特許請求の範囲の記載が第三者の利益 を不当に害すほどに不明確ということはできない。
これに反する被告の主張は、以上述べた理由により、いずれも採用するこ とができない。したがって、本件補正発明の「決済以外の用途において適用可能な情報処理端末であって、」との記載は明確であり、本件補正発明は明確でないから\n特許法123条1項4号、同法36条6項2号の要件を欠き、独立特許要件 (同法17条の2第6項、126条7項)を満たしていないとする本件審決 の判断には、誤りがある。

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令和6(ネ)10023 損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年11月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

控訴審も、1審と同様に技術的範囲に属しないと判断しました。

(2) 当審における控訴人の補充主張について

ア 控訴人は、被告方法において、一つの辺でも最大粒径より小さなバリがあれ ば、磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなっ ていることは原理・論理的に明らかであると主張する。 しかしながら、モールド樹脂内の磁性体粉末の具体的な粒子径の形状・分布、樹 脂の性質、隙間の形状・構造、加えられる圧力等により、隙間を通過する磁性体の\n量は変化するものと推測されるところ、被告方法においては、様々な粒子径、形状 の磁性体が使用されている(乙3,4)から、モールド樹脂内の磁性体粉末の具体 的な粒子径の形状・分布、樹脂の性質、隙間の形状・構造等がどのようなものであ\nる場合に隙間を通過する磁性体がどの程度あるのかについて、必ずしも一義的に明 らかではないといわざるを得ない。したがって、控訴人が主張する、磁性体粉末の 最大粒子径よりも小さなバリがあることをもって、当然に磁性体粉末容積比(バリ) の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなっているものとはいえない。
また、仮に被告方法における磁性体粉末の粒子径分布とバリの大きさとの関係性 から一定の事実を推認することができる余地があり、例えば、磁性体モールド樹脂 内の全磁性体粒子のうちの最小粒子径が隙間よりも大きい場合には、磁性体は隙間 を通過することができないため、樹脂のみが隙間から流出することが推測される一 方、逆に、全磁性体の粒子径が隙間よりも十分に小さい場合には、樹脂と共に磁性\n体も隙間を通過することから磁性体粉末容積比(コア)及び磁性体粉末容積比(バ リ)に変化がないものと推測される余地があるといえるとしても、被告方法におい て磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法で使用されている●●及びパンチで形 成される隙間よりも大きいことを示すなど、被告方法における粒子径分布とバリの 大きさとの関係性を示す証拠はないから、控訴人の上記主張は裏付けを欠き、採用 することができない。
イ 控訴人は、原判決は、控訴人の主張を誤解し、かつ、控訴人提出の証拠評価 を誤ったものと考えられると主張し、樹脂の流出が止まる原因については、パンチ による加圧と樹脂からの抗力(硬化や樹脂と隙間との摩擦等による抗力)が均衡す ることと主張しており、原判決のように「被告方法の加圧・加熱過程で加圧を続け ても樹脂の流出が止まるのは、磁性体粉末が隙間を埋めることが理由であるから、 被告方法においては、樹脂が隙間から優先的に排出されるといった事象が生じたこ とが示されている」という主張はしていない旨を主張する。 しかしながら、樹脂の流出が控訴人の主張する機序によるものであるとしても、 前記アのとおり、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容 積比(コア)よりも小さくなっていることを認めることはできず、上記(1)の判断を 左右するものとはいえない。 したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
ウ 控訴人は、甲27の実験結果によると、被控訴人主張の製造方法は、バリに おける磁性体粉末の容積比がキャビティ内の磁性体粉末の容積比より低くなること が明らかとなっているから、原判決の判断は妥当ではない旨主張する。 この点、甲27の第4(10頁〜)に記載されている実験方法で利用・設定され ている磁性体粉末の組成、樹脂の組成、磁性体粉末と樹脂の配合割合、予備成形し\nたコアの製造方法、加圧温度及び溶融粘度という条件が、実際の被告方法で用いら れているものと同一であると認めるに足りる証拠はなく、それらが実際の被告方法 と同じ条件であると客観的に裏付ける証拠もない。

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令和5(ネ)10042    特許権  民事訴訟 令和6年12月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 自動車の自動ブレーキの特許についてのホンダvsマツダの特許権侵害事件です。無効主張がなされ、1審と同じく権利行使不能と判断されました。\n

ア 乙9発明と乙10発明は、ともに制動保持装置(乙10においては坂道 発進補助装置)を備え、それらはブレーキがかかった状態を保持する機 能を有するものであることに照らすと、乙9発明及び乙10発明は、そ\nのような機能を用いる車両である点で共通する技術分野に属するといえ\nる。また、乙10発明と同様に、乙9発明においても、制動保持装置の 故障発生が想定され、それに対処する課題が存在することは当業者には 明らかである。
そうすると、乙9発明に触れた当業者は、上記の制動保持装置の故障 発生という課題を認識し、その課題を解決する点において、乙10発明 を乙9発明に適用する動機があるということができる。
イ これに対し、控訴人は、乙9発明は、制動保持装置26が故障している か否かを検出する技術思想を有しておらず、故障を検知する乙10発明 を適用する動機付けに欠ける旨主張する。 しかし、上記2(1)エのとおり、乙9発明は、エンジンおよび車両各部 の状態を検出するセンサ群を備えるものであり、車速零信号が出力され ているときに制動保持信号を出力し、エンジン始動後に制動解除信号を 出力する制動保持解除信号発生手段と、制動保持信号に応動して制動装 置を作動状態に保持し、制動解除信号に応動して作動状態にある制動装 置の作動を解除する制動保持手段とを具備している。そして、乙9発明 において制動保持装置の異常が検知された場合には、上記の乙9発明に おいて求められている状態、すなわち、制動保持装置の作動によりブ レーキ液圧が作用し、もってブレーキがかかった状態を保持できなくな ることは明らかである。そうすると、乙9発明に触れた当業者は、上記 の制動保持装置の故障発生という課題を認識し、その課題を解決するた め、乙10発明における制動保持装置の異常を検出する信号を付加する 動機付けがあるといえる。
ウ 以上によれば、乙9発明に乙10発明の制動保持装置の故障を検知して 運転手へ警報を発する技術を適用することは当業者が容易に想到し得る といえる。 そして、上記2(1)イ〜エのとおり、乙9発明が、エンジン自動停止に より発生する問題を、センサ群からの検出信号に基づいて制動保持装置 を作動させることにより解消する技術思想を有することに照らせば、制 動保持装置の故障を検知し、制動保持装置を作動させることができない 故障が生じた場合には、その検知結果をエンジン自動停止条件の一つと して用い、相違点1に係る「前記故障検出装置によって前記ブレーキ液 圧保持装置の故障を検出した時に前記原動機停止装置の作動を禁止する」 構成とすることは、当業者が容易になし得た事項といえる。\nよって、乙9発明に乙10発明を適用した際に、本件発明の相違点1 に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。\n

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和3年(ワ)28206

対応する審決取消訴訟はこちらです。

◆令和6(行ケ)10018

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令和6(行ケ)10066 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年12月10日  知的財産高等裁判所

商標「UNITED GOLD」が、「UNITED」と類似するかが争われました。知財高裁は非類似とした審決を維持しました。

原告は、本件商標のうち、「UNITED」の部分が要部として抽出される から、本件商標からは「ユナイテッド」の称呼も生じる旨を主張する。 この点、「UNITED」は、英語で、「結ばれた、団結した、連合した」 (甲7、30−1)などの意味を持つ形容詞、「GOLD」は、英語で、「(鉱 物)金、黄金」(甲8、30−2)などの意味を持つ名詞であり、我が国にお いても、それぞれの意味する英語の単語として、一般に知られているところ である。
本件商標は、「UNITED GOLD」の欧文字を同書体、同大で、「U NITED」と「GOLD」との間に一文字分の空白を空けるほかは等間隔 で横書きにしてなるものであり、特段「UNITED」の部分が強調されて いるものでもない。本件商標を構成する「UNITED」と「GOLD」は、\n前者はアルファベット6文字、後者はアルファベット4文字にとどまるから、 本件商標は全体として冗長なものとはいえず、それらの間に一文字分の空白 があるとしても、両者が別個独立の構成であるとの印象を受けるものではな\nく、前記のとおり、「UNITED」は「結ばれた」などの意味を有する形容 詞であるから、通常は他の語と一体となってその語を修飾するために用いら れるもので、単独では意味を取りにくい語である。そうすると、本件商標で ある「UNITED GOLD」の構成のうちの「UNITED」の部分のみが強く支配的な印象を与えるものではない。\n
加えて、本件請求商品役務の一部であり、本件商標と引用商標1の指定商 品等が重複する「被服」(類似群コード「17A01」)において、登録商標 に「UNITED」を含む商標であって原告が権利者でないものは155件 あり(乙1)、これらは、「UNITED ARROWS」、「UNITED C OLORS OF BENETTON」、「UNITED ATHLE」、「U NITEDWORKS」、「UNITED DOORS」、「UNITED A SH」、「UNITED CARR」、「UNITED RIVERS」、「UN ITED TOKYO」、「United Prime」などであるところ、 これら「UNITED」(文字列に小文字があるものを含む)を含む商標のう ちには、被服の業界でそれなりの知名度を有するものも多くある。このうち、 本件請求商品役務と関連のある指定商品又は役務に係るものとして、「UN ITED ASH」は、洋服、コートを指定商品として、「United P rime」は、運動用特殊靴、被服及び履物を指定商品として、「UNITE D TOKYO」は、靴クリーム、身飾品、貴金属製靴飾り、時計、文房具 類、被服、履物、被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する 便益の提供、おむつの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便 益の提供、履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の 提供、身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益 の提供、時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する 便益の提供等を指定商品及び指定役務として、それぞれ商標登録がされてい る(甲31の1ないし3)。
また、Amazonのサイトにおいて、「United スラックス メン ズ」の条件で検索をすると、原告に係る「UNITED」、被告に係る「UN ITED GOLD」のほか、「UNITED ARROWS」、「UNITE D DOORS」、「UNITED ARROWS green label」 等、上記「UNITED(United)」を含む商標に係る商品が数多く検 索結果に現れる(乙1、4)との取引の実情も認められる。そうすると、被 服やそれに伴う身の回り品等を取り扱うファッション業界及びそれらの小売 業界においては、「UNITED」という部分の識別力は弱いものと認められ る。 したがって、本件商標のうち、「UNITED」の部分に格別の識別力があ るものとは認められないから、本件商標は、「UNITED GOLD」との 一体不可分の構成の商標としてみるのが相当であり、「UNITED」と「G\nOLD」とに分離して観察されるものではないと認められるから、本件商標 からは「ユナイテッド」の称呼は生じないと解するのが相当である。
・・・
本件請求商品役務と、各引用商標の指定商品は、いずれもその指定商品・ 役務の内容から、需要者は一般の消費者であると認められるところ、一般の 消費者は、必ずしも商標の構成を細部にわたり記憶して取引に当たるものと\nはいえないから、そのような需要者が通常有する注意力の程度を踏まえて、 本件商標と各引用商標の外観、称呼及び観念の要素を総合勘案することとな る。 本件商標と各引用商標は、外観、称呼においていずれも異なる上に、観念 においても比較できないから、時と所を異にして離隔的に観察した場合、本 件商標と各引用商標とは互いに紛れるおそれのある類似の商標であるとは認 められない。

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令和5(ワ)70425 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年12月12日  東京地方裁判所

 CS関連特許について、被告システムは決済機構は外部のものを採用しており、構\成要件を充足していない&進歩性無しと判断されました。

前記前提事実に加え、証拠(甲5ないし10、14)及び弁論の全趣旨に よれば、被告プログラムは、GoPayというタクシー料金の決済機能を備\nえており、GoPayは、d払いと連携することによって初めてd払いを利 用することができるようになること、他方、d払いは、訴外ドコモが提供す る決済機能であり、タクシーを利用した際にその利用したタクシー料金に限\nり利用することができるにとどまり、これ以外の場面では決済手段として使 用することができないこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、被告プログラムにおけるd払いは、タクシー料金 の個別の支払ごとにその都度利用されるにとどまるものであるから、被告プ ログラム自体がd払いという決済機能そのものを提供するものとはいえない。\nしたがって、被告プログラムは、本件発明の構成要件Bにいう「前記アプ\nリケーションで提供されるサービス」を充足するものとはいえない。
(3) 原告の主張に対する判断
原告は、本件発明の特許請求の範囲の文言上「提供するサービス」という 記載にはなっていないから、「サービス」の提供主体と「アプリケーション」 の提供主体とが法的に同一主体でなければならないという限定はなく、本件 明細書等【0030】の記載によれば、各サービスが様々な主体によって提 供されるものであることは、当業者のみならず一般人にとっても技術常識に 属する事項であるから、アプリケーションと各サービスが異なる法的主体に よって提供される場合も当然に含まれるものである旨主張する。 しかしながら、本件発明の構成要件は、「アプリケーション」と「サービ\nス」の内容及び関係を一義的に規定するものではないから、本件明細書等を 参酌しない限り、その関係等が明らかにならないことは、上記において説示 したとおりである。そして、本件明細書等のうち、「アプリケーション」と 「サービス」の内容及び関係につき記載した部分(【0012】、【001 4】、【0030】)を参酌すれば、「アプリケーション」は、総合サービ スを提供するものであり、構成要件Bにいう「前記アプリケーションで提供\nされるサービス」は、アプリケーション自体がクレジット機能、クーポン機\n能その他の機能\そのものを提供するものに限られると解するのが相当である から、タクシー料金の個別の支払ごとにその都度利用されるd払いを含むも のではないと解するのが相当である。 したがって、サービスの提供主体の同一性についていう原告の上記主張は、 充足性の判断を左右するものとはいえず、採用することができない。
・・・
4 争点2−1−3(乙1−3発明に基づく新規性、進歩性の有無)について 前記2及び3のとおり、被告プログラムは、本件発明の構成要件を充足しな\nいから、本件発明の技術的範囲に属するものとはいえず、その余の争点を判断 するまでもなく、原告の請求は理由がないことになる。もっとも、本件の事案 に鑑み、本件の中核的争点の一つである争点2−1−3に限り、念のため、以 下簡潔に判断を示しておくこととする。
・・・
前記(1)に加え、証拠(乙1、5)及び弁論の全趣旨によれば、乙1−3発 明におけるクーポンを選択・設定するという画面の表示について、「コマン\nドが処理されることで生成される」旨の開示はないものの、乙1−3発明に よれば、かざすクーポンで選択・設定された「クーポン」は、携帯電話の画 面に表示されるのであるから、当該表\示データは、アプリの利用者がクーポ ンを選択する操作に基づき生成されていると認めるのが相当である。 そうすると、乙1−3発明に接した当業者は、乙1−3発明に「コマンド が処理されることで生成される」という記載がないとしても、上記操作をコ マンドに置き換えて上記画面を表示させる構\成を容易に想到することができ るといえる。
したがって、乙1−3発明に接した当業者が乙1−3発明から出発して相 違点1−3−1の構成に至ることは、容易であるといえる。\n

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令和6(行ケ)10005 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年11月27日  知的財産高等裁判所

拒絶査定不服審決に対する取消訴訟です。審決では、クレームの用語「ウェブ・サービス」、「トランザクション・ベース」が不明瞭として、明確性違反、および実施可能要件違反と判断されました。知財高裁はこれを取り消しました。\n

上記アの各刊行物(甲5、6、11、13、16、17)の各記載によ れば、「ウェブ・サービス」という用語は、「インターネット上に分散し た複数のウェブアプリケーションシステムをシステム同士で連携させる技 術であり、XML、UDDI、WSDL及びSOAPの規格に適合したも の」という意味で用いられ、本願の国際出願日の当時、技術常識となって いたと認められる。 また、この「ウェブ・サービス」との関係において、「トランザクシ ョン」という用語は、「複数の処理をひとまとまりにしたものであって、 同時にアクセスされる基礎データの一貫性を確保することができるもの」 という意味で用いられると認められ、そうすると、「トランザクショ ン・ベースのウェブ・サービス」とは、この「トランザクション」を基 礎とした「ウェブ・サービス」という意味の用語であって、これも、本 願の国際出願日(平成25年12月20日)の当時、技術常識となって いたと認められる。 したがって、出願当時における技術常識を踏まえると、本願各発明の 「ウェブ・サービス」及び「トランザクション・ベースのウェブ・サー ビス」は、それぞれ、上記の意味で用いられているといえるから、本願 明細書において、これらの用語の具体的な説明がされていなかったとし ても、特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不 明確であるとはいえない。

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令和6(行ケ)10055 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年11月25日  知的財産高等裁判所

商標「至福のギリシャ」が、識別力、品質誤認、公序良俗違反かが争われました。知財高裁は、無効理由無しとした審決を維持しました。原告はギリシャ共和国です。

原告は、本件商標が、日本国産であり、乳蛋白質が添加されていることか ら「ギリシャ国の伝統製法」ではないヨーグルトの商品、すなわち産地や製 法と関係がない製品に用いられており、需要者の信頼を裏切るものであるか ら、「指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の福祉に反し、 社会の一般的道徳観念に反する場合」に当たる旨主張する。 しかし、前記1のとおり、本件商標は、ギリシャという国あるいは地域か ら連想される抽象的なイメージを「至福の」という肯定的なイメージととも に需要者に連想させ、ギリシャと何らかの形で関連する商品であることを表\n示するに止まるものである。 また、本件指定商品における「ギリシャ国の伝統製法」とは、社会通念上、 およそ「ギリシャ国の伝統製法」という範疇に含ませることが相当なヨーグ ルトの製法を広く指すものであり、被告において、この意味における「ギリ シャ国の伝統製法によるヨーグルト」を製造販売する蓋然性はあり、本件商 標を本件指定商品に使用する意思もあったことは、前記3のとおりである。 そうすると、被告が本件商標を登録し、本件指定商品すなわち「ギリシャ 国の伝統製法によるヨーグルト」について使用することが、社会公共の福祉 に反し、社会一般の道徳に反するということはできない。
(2) 原告は、本件商標の登録を認めることは、日本の一事業者にすぎない被告 が一方的にギリシャ国に付した漠然としたイメージを、日本が国家として是 認することになり、「特定の国若しくはその国民を侮辱する場合」に当たる と主張する。
しかし、「特定の国若しくはその国民を侮辱する」かどうかは、イメージ の内容如何によるのであり、「至福の」という肯定的な修飾語を伴う本件商 標により想起される「この上もない幸せの国ギリシャ」というギリシャ国に 対する「漠然としたイメージ」がギリシャ国又はその国民を侮辱するものと いうことはできない。もとより、本件商標の登録を認めたからといって、商 標法上の保護が与えられるだけであり、ギリシャ国についての特定のイメー ジを日本が国家として承認するなどといった法的効果が発生することはない。 また、原告は、「ギリシャ国の伝統製法」なる指定商品を認めることは、 同様に、ギリシャ国における「伝統」を特許庁あるいは一事業者が一方的に これを定めることを認めることになると主張する。
しかし、本件指定商品である「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」 の「伝統製法」がいかなるものであれ、本件指定商品を指定商品とする商標 登録を認めたからといって、「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」の 具体的内容が一義的に決まるわけではないから、ギリシャ国における「伝統」 を特許庁又は一事業者が一方的に定めたことにはならない。 なお、将来、本件商標に係る不使用取消審判等の審判やその審決取消訴訟 において、具体的な商品が本件指定商品に当たるか否かについて、特許庁や 裁判所による判断がされることがあるとしても、その判断は、客観的事実を 踏まえ、社会通念に照らしなされるものであり、そのことが、直ちにギリシ ャ国又はその国民を侮辱することに当たるとは認められない。もとより、ギ リシャ国は、これに拘束されることなく、必要に応じ、自らが妥当と考える 「伝統製法」の内容を決めることは何ら妨げられない。 したがって、本件指定商品を認めたからといって、特許庁や一事業者がギ リシャ国の「伝統」を一方的に定めたなどということはできない。
(3) 原告は、地理的表示に関する国際的趨勢や動向を踏まえると、「ギリシャ\nヨーグルト」という用語ですら産地と結び付けて理解されるのであるから、 本件商標のように国家名のみが示されている場合は端的に産地を示している との考慮がなされるべきであるから、本件商標の登録は、「一般に国際信義 に反する場合」に当たると主張する。 しかし、「ギリシャヨーグルト」がTRIPs協定22条にいう地理的表\n示に当たるか否かはともかく、本件商標は国家名のみを示したものではなく、 「至福のギリシャ」という表示は、産地を示す表\現であると認めることはで きないことは前記のとおりである。すなわち、本件商標は、商品の原産地を 特定する表示であることを内容とする同条の「地理的表\示」に当たるもので はない。したがって、本件商標の登録を認めることが、一般に国際信義に反 するとは認められない。原告が引用する英国控訴院の判決(甲8、9)は、 米国の会社が米国で生産し、英国に輸入して販売していた「ギリシャヨーグ ルト(Greek yoghurt)」という商品に関し、英国内の購入者の多く(5 0%以上)が当該商品はギリシャ産の製品だと誤認しているという事実関係 のもとで、ギリシャヨーグルトの表示の差止めを認めた原審を維持したもの\nであって、客観的にみて表示自体では産地を表\示したものとは認められず、 本件商標を付した被告商品をギリシャ産であると需要者が一般的に認識する とも認め難い本件において、当然に妥当するものではない。
(4) 原告は、被告がギリシャ産のヨーグルトや本件指定商品に用いる意思がな いにもかかわらず本件商標の登録出願をしたことは、虚偽的かつギリシャ国 のイメージに積極的にフリーライドすることを企図していたとも評価し得る から、「当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を 認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場\n合」に当たると主張する。 しかし、被告において、本件商標を本件指定商品に使用する意思があった ことが認められることは前記のとおりであるから、原告の主張はその前提を 欠くものである。その他、本件商標の出願の経緯等が社会相当性を欠くもの であったことを認めるに足りる主張立証はないから、原告の主張は採用する ことができない。

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令和6(行ケ)10051  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年11月27日  知的財産高等裁判所

 9類「音楽・映像データの取り込み・再生用ディスクドライブ」と、引用商標の指定商品「第9類「ウエイトトレーニング機械器具で測定された負荷重量・マシーンの変位量・回動数・回動スピードのうちいずれか一以上の値を受信して表示するデータ処理装置、運動用トレッドミルで測定されたローラーベルトの傾斜角度・走行距離・運動経過時間・平均走行速度・消費カロリ・利用者の体重・歩数・歩幅・ピッチ・心拍数のうちいずれか一以上の値を受信して表\示するデータ処理装置」が類似するかが争われました。 知財高裁は、類似するとした審決を維持しました。

したがって、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソフ\nトウェアは、いずれも電子計算機に関連する商品として、電子計算機によ る処理を行う際に通常用いられるという商品であるという意味において、 共通性がある。
(2) 生産及び販売の実情
ア 本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソフトウェアのよ\nうなディスクドライブ、電子計算機及びソフトウェアは、いずれも製造業\nの同一事業者が生産、販売している例が多く認められる。
・・・
また、家電量販店やパソコン及び周辺機器を扱う専門店(ビックカメラ.\ncom、ヨドバシ.com、ヤマダウェブコム、エディオン公式通販、パ ソコン工房、TSUKUMO、ドスパラ、パソ\コンSHOPアーク〔乙3 7〜44〕)においても、ディスクドライブ、電子計算機及びソフトウェア\nは、同一販売店において扱われていることが認められる。 したがって、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソフ\nトウェアは、同一営業主により製造及び販売され、又は、同一販売店によ り販売される実情にある。
イ この点について、原告は、本願指定商品と引用商標データ処理装置及び 引用商標ソフトウェアは、総務省日本標準産業分類において属する産業を\n異にするなどと主張する。しかしながら、引用商標データ処理装置は、電 子計算機であるから、本願指定商品と同じ「(中分類)情報通信機械器具製 造業」(甲25)に属するというべきであり、原告の主張する「(中分類) 業務用機械器具製造業」「(細分類)その他の事務用機械器具製造業」(甲2 6)に属するものと解することはできない。
また、原告は、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソ\nフトウェアは、いずれも専門的に製造する業者が多数存在する実情がある ので生産部門は共通しないとか、本願指定商品が一般需要者向けの直販サ イト又は家電量販店等で販売されるのに対し、引用商標データ処理装置及 び引用商標ソフトウェアは、企業間取引に対応する特定の専門業者により\n販売されるから、販売部門も共通しないなどと主張する。しかしながら、 前記のとおり、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソフ\nトウェアは、いずれもディスクドライブ、電子計算機及びソフトウェアと\nいう電子計算機に関連する商品として同一営業主により開発され、製造及 び販売され、又は、同一販売店により販売される実情にあるから、営業主 の同一性を誤認させるような生産・販売形態における共通性があるものと 認めるのが相当である。よって、原告の主張を採用することはできない。
(3) 用途
ア 前記のとおり、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソ\nフトウェアは、それぞれディスクドライブ、電子計算機及びソフトウェア\nであり、いずれも電子計算機に関連する商品である。 そして、本願指定商品と引用商標データ処理装置は、いずれも電子計算 機に関連し、電子データを利用し、これを読み込み・再生し、又はこれを 処理することを目的とするものである。 また、本願指定商品と引用商標ソフトウェアは、いずれも電子計算機に\n関連し、本願指定商品は電子計算機を動作させて音楽・映像データの取り 込み・再生を行う周辺機器として、引用商標ソフトウェアは電子データを\n利用し、電子計算機の周辺機器又は電子計算機を動作させるためのプログ ラムとして、それぞれ電子計算機の機能を実現させることを目的とするも\nのである。
これらの点に照らすと、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引 用商標ソフトウェアは、それぞれ役割が異なるものの、いずれも電子計算\n機による処理又は電子データの利用を行うために用いられる商品という 意味において、その用途に共通点があるということができる。
イ この点につき、原告は、本願指定商品の用途は、光学ディスクに記録さ れた音楽・映像に関する電子データの読み取り・再生であり、引用商標デ ータ処理装置の用途は、運動に関するデータを取り込み表示するためのデ\nータ処理であって用途を異にし、また、引用商標ソフトウェアは、データ\nの読み取りという用途は、本願指定商品の用途と共通するが、ディスクド ライブとその動作のためのアプリケーションソフトは担う具体的な役割\nが異なるなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、本願指定商品、 引用商標データ処理装置及び引用商標ソフトウェアは、電子計算機による\n処理又は電子データの利用を行うために用いられる商品であるという共 通点があり、およそ営業主の同一性誤認の可能性を否定するほど用途を異\nにするものということはできないから、原告の主張を採用することはでき ない。
(4) 需要者の範囲
ア 本願指定商品は「音楽・映像データの取り込み・再生用ディスクドライ ブ」であるから、電子計算機の周辺機器として、その需要者は、電子計算 機の利用者全般である一般の消費者を含むものということができる。 他方、引用商標データ処理装置は「ウエイトトレーニング機械器具で測 定された負荷重量・マシーンの変位量・回動数・回動スピードのうちいず れか一以上の値を受信して表示するデータ処理装置、運動用トレッドミル\nで測定されたローラーベルトの傾斜角度・走行距離・運動経過時間・平均 走行速度・消費カロリ・利用者の体重・歩数・歩幅・ピッチ・心拍数のう ちいずれか一以上の値を受信して表示するデータ処理装置」であるから、\n前記の情報を受信して表示するためのデータ処理装置(電子計算機)とし\nて、その需要者は、前記のウエイトトレーニング機械器具又は運動用トレ ッドミルの利用者である。そして、これらの運動用器具は、家庭用又は自 宅利用のためにも販売され(乙45〜47)、モバイル端末とともに利用さ れる場合もあることからすると(乙17、21)、その需要者は、前記の運 動用器具を利用する施設等の取引者のほか、一般の消費者を含むものとい うことができる。
また、引用商標ソフトウェアは「ダウンロード可能\なモバイル機器用の アプリケーションソフトウェア」であるから、モバイル端末を動作させる\nためのプログラムとして、その需要者は、モバイル機器を利用する取引者 のほか、一般の消費者を含むものである。よって、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソフトウェアの各需要者は、いずれも広く一般の消費者を含むものとして需要者の範囲において共通している。\n
イ この点につき、原告は、本願指定商品の需要者の範囲は、一般家電需要 者であるのに対し、引用商標データ処理装置の需要者の範囲は、主に運動 用機械の使用施設を運営する専門的知見を持つ事業者等であるから共通 せず、引用商標ソフトウェアの需要者の範囲は、広く一般消費者のほか特\n定分野の専門家又は事業者等であるから、一部共通しても一致しないなど と主張する。 しかしながら、引用商標データ処理装置が、専門的知見を持つ事業者に より利用されている実情があるとしても、前記のとおり、一般消費者にお いても利用されている実情にあるから、需要者の範囲に係る原告の主張は、 利用態様の一部をいうにとどまる。また、引用商標ソフトウェアについて\nは、原告においても、需要者の範囲に一般消費者が含まれることを認める のであるから、本願指定商品の需要者の範囲と共通するものと認めるのが 相当である。そして、このように本願指定商品、引用商標データ処理装置 及び引用商標ソフトウェアの需要者にはいずれも一般消費者が含まれて\nいると認められる以上、これらの商品やソフトウェアには需要者の共通性\nが認められるというべきである。原告の主張を採用することはできない。
(5) 完成品と部品の関係等
本願指定商品と引用商標データ処理装置又は本願指定商品と引用商標ソフ\nトウェアは、いずれも完成品と部品の関係にはなく、需要者の範囲は共通し ている。その他、本願指定商品、引用商標データ処理装置又は引用商標ソフ\nトウェアについて、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそ れがないことを窺わせるような特段の事情も見当たらない。
(6) 小括
以上によれば、本願指定商品と引用商標データ処理装置及び引用商標ソフ\nトウェアは、その生産・販売形態、用途、需要者の範囲において共通性があ り、これらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製 造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にあると いうべきであるから、本願指定商品と引用商標の指定商品は類似の商品に該 当すると認めるのが相当である。

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令和6(ネ)10033  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月29日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

均等主張も追加しましたが、1審と同じく、技術的範囲に属しないと判断されました。

これを本件についてみるに、本件発明において、従来技術の庇は、前記 2(2)のとおり、樋板9の幅wの分だけ庇板2の前方へ余分に突き出るため 庇の全長が必要以上に長くなる、樋板9が樋溝95a、95bを備えてい るので構造が複雑化して庇がコスト高となるとの課題のほか、樋溝95a、\n95bは上面が開放されているため塵芥が堆積しやすく、頻繁な保守、点 検が必要となること、樋溝95bに塵芥が堆積して雨水の通路が塞がれる と、突出部93と庇板2の下面との隙間98より雨水が外部へ浸出し、決 められた箇所以外の随所から雨水が漏れ出て流れ落ちるという課題があ り(段落【0006】)、本件発明は上記課題を発明が解決しようとする課 題とした。そして、本件発明は、この課題を解決するための手段として、 本件発明の構成要件A3ないしC3で特定される「前縁板」が、「庇板の開\n放された前端面を塞ぐように全幅にわたって取り付けられ」(構成要件A\n3)、「庇板の開放された前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド 面となっている縦板部」(構成要件B2)を備えることで、庇板の前方への\n突出部分をなくすことができ、庇の全長が短くなり小型化が図られ、構造\nの複雑化を招かないものとした(段落【0014】)。さらに、前縁板の一 部である縦板部について、上記構成要件B2のほか、「縦板部の下部内面に\nは、全幅にわたる凹部が形成され」(構成要件C1)、「凹部は開口部分の上\n部が庇板の中空部と連通するように庇板の開放された前端面と対向し」 (構成要件C2)、「開口部分の下部が外部と連通するように庇板の下方へ\n突出して」(構成要件C3)いることで、縦板部の凹部が縦板部の内面の側\nに開口することとなり、塵芥が堆積するおそれがなく、仮に凹部に塵芥が 付着しても雨水により外部へ洗い流される構造が実現されるものであっ\nて(段落【0014】)、このことは当業者であれば容易に理解し得るとい える。
以上によれば、本件発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見 られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、従来技術の上記課題\nを解決するために、本件発明の構成要件A3ないしC3で特定される前縁\n板を備え、かつ、前縁板の一部である縦板部が構成要件B2及びC1ない\nしC3の構成を備えていることにあると認められるから、構\成要件B2は本件発明の本質的部分であると認められる。 そして、被控訴人製品が本件発明の構成要件B2を充足しないことは、\n補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第4の1(2)の説示及び前記2 のとおりであるところ、この相違点は本件発明の本質的部分であることに なる。
したがって、被控訴人製品は、本件発明の本質的部分を備えておらず、 均等の第1要件を満たさない。 控訴人は、庇板の内外の雨水をともに縦板部の下端まで導いて落下させ る構成が本件発明の本質的部分であり、構\成要件B2の被控訴人製品と異 なる部分は本件発明に特有の作用効果を生じさせるための部分でなく、本 件発明の本質的部分ではないと主張するが、前記説示に照らし採用するこ とができない。

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令和6(行ケ)1004 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年10月31日  知的財産高等裁判所

 商標「ZOOM」について、9類「電子計算機、電子計算機用プログラム、電子式卓上計算機」は不使用と認定されました。もともとはトンボ鉛筆が所有していましたが、米国法人のZOOMに分割譲渡しています。審決は、不使用と判断し、知財高裁もこれを認めました。争点は、書き換え時に「電子計算機」とした場合に、周辺機器が含まれるか否かです。

(9) 本件商標の本件書換登録後の指定商品である「電子計算機」の意味につい て上記(7)で検討した結果を本件に当てはめると、まず、使用商品2について は、その仕様は「別紙1 使用商品2」記載のとおりであるところ、上記(8) のとおり、使用商品2は静電容量式のタッチペン付きの尾栓であって、人の 指などの導電性の物に代わる入力手段に過ぎないから、上記(7)のとおり、電 子の作用をその機械器具の機能の本質的な要素としているものだけを含むと\nする「電子計算機」に含まれるものとは解しがたい。加えて、「電子計算機」 につき、上記のとおり中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させ た電子回路等の周辺機器のみを含み、補助記憶装置であるハードディスクユ ニット等の電子計算機外部の周辺機器ですら含まれないと解されることから すれば、電子計算機の中央処理装置及び電子計算機用プログラムの記憶とは 何ら関係しない、多機能ペンの尾栓である使用商品2は、電子計算機に含ま\nれる周辺機器に当たるものとは解しがたいというべきである。
次に、使用商品1は、多機能ペンであって筆記具である上、静電容量式の\nタッチペン付きの尾栓を備えていることを考慮しても、上記と同様に、人の 指などの導電性の物に代わる入力手段に過ぎないから、電子の作用をその機 械器具の機能の本質的な要素としているものだけを含むとする「電子計算機」\nに含まれるものとは解しがたく、電子計算機の中央処理装置及び電子計算機 用プログラムの記憶とは何ら関係しない多機能ペンである使用商品1は、電\n子計算機に含まれる周辺機器に当たるものとも解しがたいというべきである。 その他、本件取消対象指定商品につき、本件要証期間における本件商標の 使用の事実の立証はされていない。
そうすると、本件取消対象指定商品について、本件要証期間における本件 商標の使用の事実は立証されていないこととなるから、これと同旨の本件審 決の判断に誤りはない。したがって、原告らの主張する取消事由には理由がない。
2 原告らの主張に対する判断
(1) 原告らは、前記第3の1〔原告らの主張〕(1)及び(2)のとおり、各使用商品 は「電子計算機」ないしそこに含まれる周辺機器に当たるから、本件商標の 本件取消対象指定商品についての使用の事実の立証がされていると主張する。 しかし、既に述べたとおり、本件商標の本件書換登録後の指定商品である 「電子計算機」は、電子の作用をその機械器具の機能の本質的な要素として\nいるものだけを含み、その電子計算機に含まれる周辺機器も、中央処理装置 及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路等の周辺機器のみがこれ に当たり、ハードディスクユニット等の外部周辺機器はこれに当たらないと 解されるところ、各使用商品は、いずれもそこにいう「電子計算機」に該当 するものとは認められないというべきである。なお、原告らの主張のうち、 本件書換登録が書換登録ガイドラインに従ったものであるとする点について の判断は後記(3)のとおりである。したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(2) 原告らは、前記第3の1〔原告らの主張〕(3)のとおり、「商品及び役務の区 分解説〔国際分類第9版対応〕」(甲56)によれば、本件書換登録の申請時\nにおいても、電子計算機は周辺機器を含むものとして考えられていたとし、 「周辺機器」についての辞書等の記載によれば、スタイラスペンが入力装置 として解説されていることなどから、各使用商品は、入力装置であるスタイ ラスペン(ペン型データ入力具)の性質を有するものとして、「電子計算機」 の周辺機器に含まれる旨を主張する。しかし、上記1(3)イの「商品及び役務の区分解説〔国際分類第9版対応〕」(甲56)の記載を含め、本件書換登録後の指定商品である「電子計算機」に含まれる周辺機器については、中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路等の周辺機器のみがこれに当たるものであり、ハード ディスクユニット等の外部周辺機器がこれに当たらないと解されることにつ いては既に述べたとおりである。そして、上記1(8)のとおり、使用商品1の 外箱には「Stylus pen」とのシールが貼付されていたけれども、各使用商品\nが本件書換登録後の指定商品である「電子計算機」に含まれないことについ ては、上記1(9)で述べたとおりである。したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(3) 原告らは、前記第3の1〔原告らの主張〕(2)及び(4)のとおり、原告トンボ 鉛筆は、本件書換登録の申請に当たり、本件書換登録申\請日当時の書換ガイ ドラインに沿って書き換えを行ったに過ぎないから、本件書換登録後の指定 商品「電子計算機」は、本件書換登録前の「電子計算機〔中央処理装置及び その周辺機器(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディス ク、磁気テープを含む)〕」と同義であるところ、書換前の「その周辺機器」 には各使用商品が含まれるから、書換後の「電子計算機」についても同様に 解すべき旨を主張する。
しかし、上記1(5)エのとおり、書換ガイドラインの一覧表上に昭和34年\n法に基づく商品として記載されているのは「電子計算機」であって、本件書 換登録前の本件商標の指定商品であった「電子計算機〔中央処理装置及びそ の周辺機器(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、 磁気テープを含む)〕」と同一ではないから、原告トンボ鉛筆の行った書換は、 必ずしも書換ガイドラインの一覧表に示された通りの書換を行ったものとは\nいえない。加えて、そもそも書換ガイドラインは、上記1(5)ウにあるとおり、 基準的な性格のものに過ぎない上に、一覧表の書換表\示以外の書換表示であ\nっても、それが書換登録申請に係る商標権の指定商品の範囲内の適切な商品\n表示であれば、その書換表\示による書換も認められるのであるから、本件申\n請時の商品等区分に従い、本件書換登録前の指定商品の記載に基づいて原告 トンボ鉛筆が指定商品に含まれると考える商品について書換申請を行うこと\nも可能であったということができる(上記1(5)エ)。なお、本件書換登録申請\n日当時の「類似商品・役務審査基準」が適用される間における書換登録にお いても、書換前の第11類「電子計算機〔中央処理装置およびその周辺機器 (電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テー プを含む)〕」及びこれと類似する記載を、第9類「電子計算機〔中央処理装 置及びその周辺機器(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気 ディスク、磁気テープを含む)」などや、これと類似する記載に書き換えた例 も存するところである(乙47ないし49、51)。
さらに、上記の点を措くとしても、上記1(5)ウの書換ガイドライン利用上 の注意事項(「旧区分の1の商品に対して書換表示が複数の商品となる場合\nは、各商品の配列を五十音順とし、各商品間をカンマ(,)で区切っている。」)\nから明らかなとおり、そもそも同ガイドラインの一覧表に示された記載に沿\nって商品「電子計算機」の書換登録を行ったとする場合の書換後の商品は、 上記1(5)エのとおり「電子計算機」及び「電子計算機用プログラム」の二つ の商品であり、指定商品を実質的に超えない範囲で書換登録がなされるもの であること(上記1(5)ア、イ)に鑑みれば、二つの商品に書換えられた後の 一方の商品である「電子計算機」が、書換前の商品「電子計算機」と内容的 に全く同一とはいえないことも明らかである。 そして、商標法附則12条3項が「(書換の)申請書に記載されなかった指\n定商品に係る商標権は、登録の時に消滅する。」と規定するところから、書換 登録がなされた後にあっては、該商標の指定商品については、書換後の指定 商品の内容に従って客観的に定まるものと解される。これに沿って解した場 合の、本件書換登録後の本件商標の指定商品である「電子計算機」の意義、 及び各使用商品がこれに当たらないことについては、既に検討したとおりで ある。

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令和6(ワ)70106  特許使用料請求事件 令和6年11月15日  東京地方裁判所

 専用実施権者である原告が、通常実施権者である被告に対して実施料の支払いを求めました。原告は特許2の専用実施権者ですが、被告に対して特許1〜3の通常実施権を設定していました。被告は、特許1、3の通常実施権の設定義務があり、契約解除の申し出をしました。裁判所は被告の主張を認め、義務を果たしていないので請求棄却としました。

1 特許権者の同意を得ることなく他人に通常実施権を許諾した場合であっても、 契約締結後に特許権者から許諾を得ることは可能であるから、通常実施権を許\n諾する権限を有しない者が第三者に通常実施権を許諾した場合であっても、契 約を締結した当事者間においてその契約の効力を直ちに否定する必要はない。 しかしながら、このような実施許諾契約は、他人の権利を目的とした契約と いえるから、通常実施権を許諾する権限を有しないにもかかわらず、これを許 諾した者は、民法559条及び561条に基づき、通常実施権者のために通常 実施権を許諾する権限を取得すべき義務を負うものと解される。
2 本件においては、前提事実(2)のとおり、本件契約は、原告が、被告に対し、 本件各特許権について通常実施権を許諾することなどを約したものであるが、 証拠(乙11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許権1は国土防災技 術株式会社及び日本ソフケンの共有に係るものであり、本件特許権3は、両社\nと日本ミクニヤ株式会社の共有に係るものであることが認められる。そうする と、原告は、被告に対し、本件契約に基づく債務として、上記の共有者から被 告のために通常実施権を許諾する権限を取得すべき債務(以下「本件債務」と いう。)を負っていたものと解される。
しかしながら、前提事実(3)のとおり、原告は、本件特許権2について、そ の単独の特許権者である日本ソフケンから専用実施権の設定を受けているもの\nの、弁論の全趣旨によれば、本件特許権1及び3については、上記の共有者か ら被告のために通常実施権を設定する旨の許諾を得ていないものと認められる。 したがって、原告には本件債務の不履行があるといえる。
これに対し、原告は、1)本件各特許権はいずれも被告の事業のために不必要 な特許であり、原告が被告に対して別の特許発明の実施を許諾していることや、 2)本件契約の契約書では、本件各特許権について、原告が「特許庁への登録保 全が出来ない」ものであると明記されていること(同契約書7条)から、原告 には債務不履行がないと主張する。 しかしながら、上記1)については、本件全証拠によっても、本件各特許権は いずれも被告の事業のために不必要な特許であり、原告が被告に対して別の特許発明の実施を許諾しているという事実を認めることはできないから、原告の 主張はその前提を欠くものである。
また、上記2)についても、本件契約は、原告が、被告に対し、本件各特許権 について通常実施権を許諾することを目的にした契約であること(前提事実 (2))からすると、原告の指摘する契約書の文言のみをもって本件債務の存在 を否定することはできないというべきである。 そうすると、原告の上記主張はいずれも採用できない。
3 そして、本件債務は期間の定めのない債務に該当するものと解されるところ、 前提事実(4)アのとおり、被告は、令和5年12月20日、原告に対し、書面 到達後1週間という期間を定めてその債務の履行を催告するとともに、その履 行がない場合は本件契約を解除する旨を記載した「催告兼解除通知書」を送付 して、この書面は、同月29日に原告に到達し、上記の催告期間は既に経過し ている。
4 以上によれば、原告による本件契約に係る債務不履行、被告による相当の期 間を定めての履行の催告、その期間内に履行がされなかったこと及び解除の意 思表示という、催告による解除の要件(民法541条本文)が充たされている\nから、本件契約の解除により、被告は本件許諾料の支払義務を負わないという べきである。

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令和4(ワ)3344  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年9月26日  大阪地方裁判所

薬の製法特許の侵害として、102条1項1号の特定数量について、同項2号が適用され、計約31億円の損害賠償が認められました。

被告は、本件発明が、テリボンの製造工程のごく一部でしか用いられないもので あることや代替可能であること、テリボンが最も顧客誘引力を有するのは、これま\nで毎日自己注射をしなければならなかったが、テリボンによって週1回の医療機関 における投薬で済むようになった点であること等を指摘する。 前示のとおり、本件発明において最も重要な効果は、骨粗鬆症の治療に必要な薬 剤そのものであるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を高純度で提供することができ るというものであり、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が安定して供給されるよう になったという事実それ自体が利益に貢献している。被告は、本件発明は、他の手 段で代替可能であるとも主張するが、被告自身、そのような試みに成功していない\nし、商品化ベースに載せられるほどに代替可能な方法を具体的に指摘するものでは\nなく、採用できない。 一方、投薬の負担を軽減するための方法を顧客が選択できるようになったことに より、投薬を開始しやすくなるという意味で、被告が指摘する用法 用量や効能の\n点に、顧客誘引力がないとはいえないことから、テリボンの販売により得られる限 界利益の全額を逸失利益と認めるのは相当でなく、10パーセント程度の推定覆滅 が認められるというべきである。
・・・
原告は、テリボンを販売することができないとする事情が認められる数量(特定 数量)が存する場合、特許法102条1項2号に基づく損害額の主張として、当該 数量につき、本件発明により、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が安定供給できる ようになったこと等を指摘し、実施料率は、被告製品薬価の20パーセントを下回 らないと主張する。一方、被告は、本件発明が製造方法の一部にすぎないこと、患 者にとって負担が軽い用法 用量の注射剤であることに顧客誘引力が見いだされる ことなどを指摘し、実施料率が0.5パーセントにすぎないと主張する。 本件発明は、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の純度を向上させ、市場に安定供 給できるようにするものであり、利益に直結する効果を有するものである。患者に とって負担が軽い用法 用量の注射剤を提供できるというのも、そもそもPTHペ プチド含有凍結乾燥製剤が大量生産できることが前提であることや、上記のとおり、 現時点において被告において代替技術を開発できていないこと等を踏まえると、本 件発明の実施料率は相応に高いものというべきであり、特許法102条4項の趣旨 をも考慮して、被告製品薬価の15パーセントとすることが相当である。

◆判決本文

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令和5(ワ)70393  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年9月26日  東京地方裁判所

 技術的範囲に属しない、均等侵害も第2要件を満たさないと判断されました。

原告は、上記認定に係る本件明細書【0050】につき、「一般的に用 いられる円管又は角筒管の支柱に比べ、必要に応じて、短手方向の幅を薄 くすることができる」との一文は、「支柱」を主語とする記載であるから、 本件各発明は、短手方向の幅を薄くする必要がない場合には、円管又は角 筒管の支柱を排除するものではなく、「回動板状部材」には、角筒管も含 まれる旨主張する。
そこで検討するに、本件明細書【0050】には、「以上説明した仮設 防護柵1の効果を説明する。回動板4は板であり、短手方向に厚さを有し、 回動板4が定着板3,3の間に配置され、2つの回動軸により回動可能な\n構成であるので、ガードレール6と回動板4を倒した状態で、基礎架台2\nの上方に形成されたウェブ部22の短手方向の幅に収容することができ る。ガードレール6と回動板4を起立した状態で、ボルト、ナットにより、 定着板3により回動板4を固定できる。一般的に用いられる円管又は角筒 管の支柱に比べ、必要に応じて、短手方向の幅を薄くすることができる。 仮設防護柵1を小型化、軽量化、コンパクト化を達成でき、設置・撤去作 業の効率化を図ることができる。道路路肩、歩車道境界のみならず、上り 車線・下り車線を分離するためにも使用することができる。」と記載され ている。
上記記載によれば、「一般的に用いられる円管又は角筒管の支柱に比べ、 必要に応じて、短手方向の幅を薄くすることができる。」との一文は、板 である「回動板4」について説明する文脈に続くものであり、その直後に、 「仮設防護柵1を小型化、軽量化、コンパクト化を達成でき、設置・撤去 作業の効率化を図ることができる。」という本件各発明の効果が記載され ていることを踏まえても、上記一文の主語は、「回動板4」であると解するのが相当である。 仮に、原告の主張のように、「(円管又は角筒管を含む)支柱」を主語 にした場合には、本件各発明の効果を奏し得ない構成をも含むことになる\nから、本件明細書【0050】の効果に係る上記記載に矛盾する上、本件 各発明の課題を解決できない構成を含むことになるため、本件各発明の課\n題解決手段に照らし、相当であるとはいえない。そうすると、原告の主張 は、本件各発明の課題解決手段を正解するものといえない。
原告は、本件明細書【0032】に「回動板4の形状は矩形に限定され ず、楕円、小判等の縦長形状等、適宜の形状を取り得る。」との記載があ るほか、【0060】に「回動板4は中実板に限らず、中空板等、板から 構成される部材であれば、他の形態でもよい。」との記載があることから\nすると、中空の四角形に構成された角筒状の回動部材107も、上記「回\n動板状部材」に含まれる旨主張する。
しかしながら、原告引用に係る本件明細書【0032】には、かえって、 「回動板4は正面形状が矩形状で所定の厚さの存する薄板であり」と記載されていることからすると、上記明細書の記載は、「薄板」とはいえない 角筒状の回動部材107を含む趣旨ではないことは、明らかであるから、 原告主張は、その前提を欠く。また、【0060】についても、「中実板 に限らず、中空板等、板から構成される部材」という記載であるから、文\n字どおり、「中実板」、「中空板」その他の「板」の形状からなる部材を 意味するものと解するのが相当であり、前記認定に係る課題解決手段に照 らしても、上記記載は、「板」とはいえない角筒管を含む趣旨ではないこ とは、明らかである。そうすると、原告の主張は、本件各発明の課題解決 手段を正解するものといえない。
その他に、原告は、技術説明会においても、本件各発明の課題は、基礎 架台の短手方向の厚みを薄くするというものではなく、基礎架台に起伏す る部材が基礎架台に収納できるようにして設置・撤去の作業効率を上げる ものである旨主張するものの、本件各発明の課題は、本件明細書【000 7】等の記載を参酌すれば、文字どおり、仮設用防護柵の起伏する部材の 幅を小さくすることであって、基礎架台の短手方向の厚みを薄くすること にある。そうすると、その他の原告の主張を含め、原告の主張は、本件各発明の課題解決手段を正解するものといえない。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
ウ 以上によれば、被告製品は、本件各発明にいう「回動板状部材」(構成\n要件1Dないし1G及び2Dないし2H)を充足するものとはいえない。
(2) 争点1−2(均等侵害の成否)について
原告は、仮に被告製品の角筒状の回動部材107が、本件各発明の「回動板 状部材」を充足しないとしても、被告製品の角筒状の回動部材107は、本件 各発明の「回動板状部材」と均等なものとして、その技術的範囲に属すると主 張する。
しかしながら、本件各発明の課題解決手段は、回動部材を板状にすることに よって、基礎架台(H形鋼)の短手方向の厚みを薄くするものであることは、 上記において繰り返し説示したとおりである。そうすると、本件各発明の「回 動板状部材」は、本件各発明の課題解決手段そのものであるから、本件各発明 の本質的な部分ではないということはできず、また、これを、被告製品の角筒 状の回動部材107に置き換えると、本件各発明の課題を解決することはでき ず、本件各発明と同一の作用効果を奏するものとはいえないことは、前記説示 に照らし、明らかである。 そうすると、被告製品は、本件各発明の特許請求の範囲に記載された構成と\n均等なものとはいえない。

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平成28(ワ)23327等  商標権侵害行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和元年5月23日  東京地方裁判所

第1事件の原告・被告が、それぞれ第2事件の被告・原告となっています。
それぞれの事件の原告は商標権者です。第1事件の商標は「ブロマガ/BlogMaga」および「ブロマガ」「BlogMaga」の3件です。問題の指定役務は「サーバの記憶容量の貸与」です。第2事件は「ブロマガ」指定役務「電子出版物の提供」です。それぞれの被告の使用は、侵害と認定されました。

このサービスにおいて,ユーザーが自らのブログ記事を作成してウェブサイ トにアップロードした際には,ドワンゴが設置管理するサーバーの記憶領域に ブログ記事のデータを保存しており,ドワンゴは,サービス利用者に対し,サ ービス利用者自身のブログを開設し,ブログ記事を作成し,投稿するために必 要となるサーバーの記憶領域を提供しているといえ,ブログの開設及びブログ 記事の作成,投稿機能を含むドワンゴのブログサービスは,「インターネット\nにおけるブログのためのサーバーの記憶領域の貸与」に類似するといえる。 これに対し,ドワンゴは,本件で問題となるブログに関するサービスにおい てサーバーの記憶領域への保存の過程があることは認めつつ,役務の提供に付 随して提供される業務は商標法上の役務には含まれないと解すべきであると ころ,ニコニコのブログサービスの中心となるのは「CHブロマガ」であり, ニコニコのブログサービスは購読者に対する記事コンテンツの配信が主たる サービスであること,ブログ記事の作成やウェブサイトでの閲覧機能は独立し\nたサービスではなく,ブログ記事の配信サービスと分離して取引されていない こと,ドワンゴはサーバーの記憶領域の保存過程について対価の支払を受けて いないこと等から,ブログ開設及びブログ記事作成,投稿機能は,他の役務の\n提供などに付随して提供される業務であって商標法上の役務ではない旨主張 する。
ある業務を行うに当たり必然的に伴う役務における標章の使用に対し,その 役務と同一又は類似する役務を指定役務とする商標の商標権者が商標権の侵 害を主張することができることが適当でない場合があるとしても,本件につい てみると,一般的に,利用者がブログを開設,投稿して他人にそれを閲覧させ るためのプラットフォームを提供するサービスは独立した役務といえるとこ ろ,前記 エのとおり,ニコニコのウェブサイトでは,会費を支払ったプレミ アム会員であれば享受することができるサービスの一つとして,自らブログを 開設し,ウェブサイト上にブログを投稿することができることが明確に表示さ\nれている。また,サービスの利用にあたっても,ブログを開設することができ ることが表示され,それに従い所定の操作を行うことで,ブログが開設され,\nまた,ユーザーがそのブログを閲覧することができる。ドワンゴが「CHブロ マガ」のサービスを提供し,また,ニコニコのウェブサイトでは,「CHブロマ ガ」に関する表示があることは認められるが,「CHブロマガ」は,著名人等の\nチャンネルオーナーが電子書籍形式の記事コンテンツの配信を行うものであ って,このような「CHブロマガ」と,一般ユーザーによるブログ開設,ブロ グ記事投稿,配信機能である「ユーザーブロマガ」とでは,サービスの内容が\n大きく異なる部分がある。また,前記 によれば,ニコニコのウェブサイトのトップページから「ユーザーブロマガ」を利用することができ,「CHブロマ ガ」とは別に自らブログを開設等できる「ユーザーブロマガ」を利用する者も 想定できる。これらに照らせば,「ユーザーブロマガ」が「CHブロマガ」に付 随するサービスとはいえない。また,「ユーザーブロマガ」においては,ブログ 記事をウェブでユーザーから閲覧することができるようにするだけでなく,ブ ログ記事をメール配信することができ,それが特徴となっていることが認めら れる。
しかし,「ユーザーブロマガ」において,ユーザーは全員がメール配信す るかしないかを選択することとなっていて,ブログを開設し,ブログ記事を投 稿し,閲覧させる役務は,一般にも独立したサービスとして提供されているも のである一方,「ユーザーブロマガ」において,ブログを開設しブログ記事を投 稿する者にとって,メールを配信しないことが例外的な態様であるとまではい えず,メールの配信が不可欠の要素となっているとはいえない。さらに,ニコ ニコのウェブサイトで提供するサービスについての対価は,ブログ記事を投稿 等する機能のみに対する対価として徴収されているものではないものの,そも\nそも,その対価はニコニコのウェブサイトにおいて提供されている多様なサー ビス全ての対価であり,そこには独立して提供し得る様々なサービスが含まれ ていて,ブログ記事の配信という特定のサービスのみについての対価ではない。 このことを考慮すると,ブログを開設等する機能のみに対する対価が徴収され\nていないことが,直ちにそれに関する役務が商標法上の役務といえないことの 根拠になるとはいえない。そして,対価を支払った会員が受けられるサービス の中には,上記のように独立したサービスとして提供されるブログ開設及びブ ログ記事作成,投稿機能も含まれていることなどを考えると,本件の事実関係\nの下においては,ドワンゴが主張するように「ユーザーブロマガ」サービスに おけるブログの開設及びブログ記事の作成・投稿機能が,他のサービスなどに\n付随して提供される業務であって商標法上の役務には含まれないということ はできないというべきである。
また,ドワンゴは,インターネットを利用するほぼ全てのサービスが,サー バーの記憶領域への保存を伴うから,ドワンゴが提供するサービスが,甲商標 の指定役務である「インターネットにおけるブログのためのサーバーの記憶領 域の貸与」と同一又は類似すると解釈することは実務に混乱をきたすと主張す る。しかし,インターネットを利用するサービスにサーバーの記憶領域への保 存を伴うものが多いとしても,そのサービスには様々なものがあり,それらの サービスの全てにおいてサーバーへの記憶領域への貸与が独立した役務と認 められるとは限らず,本件においては,本件で問題となっているサービスにつ いて,ブログのためのサーバーの記憶領域の貸与が商標法上の役務と認められ たものであり,ドワンゴの主張は採用することができない。
・・・
インターネットの検索エンジンの検索結果において表示されるウェブペー\nジの説明は、ウェブサイトの概要等を示す広告であるということができる。し たがって,その説明が表示されるようにHTMLファイルにメタタグを記載す\nることは役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行 為に当たるというべきであり,これに反するドワンゴの主張は採用することが できない。 そして,ドワンゴは,乙標章を,ニコニコのウェブサイトのトップページの HTMLソースコードの記述メタタグに記載していることは当事者間に争い\nがなく,乙標章は,ニコニコのHTMLファイルにメタタグとして記載された 結果、検索エンジンの検索結果において、ウェブサイトの内容の説明文ないし 概要やホームページタイトルとして表示され、これらがニコニコのウェブサイ\nトにおける,ブログ開設及びブログ記事作成,投稿機能を含む各種サービスの\n出所等を表示し、インターネットユーザーの目に触れることにより、顧客がニ\nコニコのウェブサイトにアクセスするよう誘引するのであるから、ドワンゴに よる乙標章のメタタグとしての使用は役務の出所識別機能を果たす態様で使\n用されているといえる。 以上によれば,ドワンゴによる乙標章の使用は甲商標の商標権を侵害する態 様での使用であるといえる。
・・・
ア ドワンゴは,FC2が提供するサービスが「電子出版物の提供」に該当す ると主張するのに対し,FC2は,これを否定する。 イ FC2の「ブロマガ」のサービスにおいては,ユーザーは,検索などをす ることによって,購入したい記事を選択し,FC2に対して所定の支払をし て「オリジナル小説」や「漫画」が例に挙げられる「限定記事」を購入する ことができ,その購入後,FC2のウェブページにおいて,購入した記事を 閲覧することができるようになり,また,購入した記事について,その後, FC2からHTML形式のメールの配信を受けることなどができた。
上記サービスにおいては,利用者は,FC2のサービスを利用することに よって,上記のような態様で,第三者が作成したまとまりのある文書・図画 を閲覧等することができるようになるのであり,同サービスにおいては,電 子出版物の提供又は通信ネットワークを利用した電子書籍及び電子定期刊 行物の提供に,少なくとも類似した役務が提供されているといえる。
そして,前記 のブログ記事の購入に当たり用いられている甲標章の 使用態様によれば,電磁的方法により行う映像面を介したこの役務の提供に 当たり,映像面に乙商標と類似する甲標章が付されていたと認められる。 ウ FC2は,「電子出版物」とは,いわゆる電子書籍を意味してFC2のブログ サービスは「電子出版物の提供」に該当しないと主張し,また,ブログ記事の 配信を行う主体はユーザーであり,FC2ではなく,FC2はその媒介をして いるにすぎないから,ブログ記事の配信が「電子出版物の提供」に該当すると しても,FC2のブログサービスは「電子出版物の提供」の媒介であって,「電 子出版物の提供」には該当しないと主張する。
しかし,前記イの態様に照らせば,FC2の上記のブロマガの販売に関する サービスについては,少なくとも,前記役務に類似した役務が提供されている といえる。

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◆平成30(行ケ)10103

◆平成30(行ケ)10102

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令和4(ワ)11025等  特許権侵害差止等請求本訴事件、不当利得返還請求反訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月21日  大阪地方裁判所

 特許権侵害について、構成要件を充足しない、均等についても第1、第2要件を満たさないとして、非侵害認定されました。

上記本件明細書の記載によると、本件発明は、大きなダニ捕獲能力を発揮\nすることを目的として、その手段は、ダニ誘引物質を含浸させた織物シート からダニ誘引物質を拡散させることで広い範囲のダニを誘引した上で、マッ トの内部にダニ捕獲用の粘着テープと、これに対して千鳥状に被着させたダ ニ用食餌を入れた多孔質通気性袋を配することで、ダニ誘引物質で誘引され たダニを、マットの表裏両面からさらに内部に侵入させ、粘着テープに触れ\nさせ、そこで捕捉するようにするというものである。 そして、ダニを誘引させる物質として、「香料」を織物シートに含侵させた 上、「食餌」入りの多孔質通気性袋を配置させる位置を両面粘着テープの表\n裏両面に配置させることにより、多孔質通気性カバーの内側に誘い込み、混 ぜ物のない粘着層に触れさせて補足させる構成をとるものであるから、本件\n発明において「多孔質通気性袋」は、食餌が同位置にとどまり、粘着層の粘着 力を低減させない機能を備えるべきことが想定されているといえる。加えて、\n多孔質通気性袋の構造上、一袋でこれらが実現でき、構\成材料の数も減らす ことができるようになっている。
以上を踏まえると、構成要件A−3にいう「多孔質通気性袋」とは、辞書\n的にも、本件明細書の記載からも、少なくとも内包物を内部で保持し、拡散 を防止することができる構造を有することが必要であると解することが相当\nである。一方、販売被告製品では、ダニ誘引物質が2枚の不織布シートやガ ーゼ等で重ねて挟み込まれているのみであり、その周囲からダニ誘引物質が 零れ落ちるようなものであるから、誘引物質を内部で保持することができる 構造であるとは認められない。\n
この点、原告は、本件発明における「袋」の意義について、ダニ食餌を入れ ることができ、かつ、一つの袋のみで粘着テープの表裏両面に配置すること\nができればよく、口を閉塞している必要はないから、被告製品も、多孔質通 気性袋を有すると主張するが、上記説示に照らし、採用できない。
(5) よって、販売被告製品は、構成要件A−3を充足せず、同構\成要件を充足 することを前提とする構成要件C、D、F及びGも充足しない。\n
3 争点A3(均等侵害が成立するか)について
上記2のとおり、本件発明は、ダニ食餌を零れ落ちさせることなく保持する ことができる「多孔質通気性袋」に収納することで、粘着テープの高い粘着力 を実現するとともに、構成材料の数を減らすことを実現しており、そのために\n袋構造を有することが本質的要素となっているものと認められる。\nそうすると、多孔質通気性袋に代わり、挟み込んだ物が零れ落ち得る2枚の 不織布やガーゼでダニ誘引物質を挟み込む構造を有している販売被告製品は、\n本件発明の非本質的部分で相違点があるに過ぎないとはいえないし、これらを 置換したときの作用効果が同一であるともいえない。
よって、第1要件(非本質的部分)及び第2要件(置換可能性)がいずれも\n認められないことから、均等侵害は成立しない。
4 小括(特許権侵害について)
(1) 以上の次第であり、被告製品は、本件特許の技術的範囲に属しないので、 原告の本件特許権侵害に関する主張(争点A1ないしA6)は、その余の争 点について判断するまでもなく理由がない。
(2) なお、被告は、原告の均等侵害の主張について、時機に後れた攻撃防御方 法として却下することを求めているが、その審理のために訴訟が遅延するも のとは認められないから、採用しない。

◆判決本文

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令和6(ネ)10031  不正競争行為差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和6年10月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

日本国内のウェブサイトで、海外における「Sushi Zanmai」のお店紹介することが、日本の商標権侵害・不正競争行為に該当するかが争われました。 1審では、商標権侵害を認め、差止、損害賠償(約600万円)が認められました。知財高裁は、商標としての使用ではない、商品等表示でもない、仮に商標としての使用であると考えた場合でも、日本国内で提供される役務についての使用ではないとして、\nこれを取り消しました。

(2) 被告各表示の商標法2条3項8号該当性について\n
前記(1)の本件ウェブサイトの構成と記載内容によれば、以下に述べるとお\nり、本件ウェブサイトは、全体として、被告を含むダイショーグループが東 南アジアにおいて日本食を提供する飲食店チェーンを展開するとともに、そ こで提供するための鮮度の高い良質な食材を日本から輸出する事業を営んで いることを紹介するものであると認められるから、被告各表示を付した本件\n各ウェブページについても、本件すし店の「役務に関する広告」に当たると 認めることはできない。
ア 「事業内容」のページ(前記(1)ウ)は、説明項目の記載順が「食材・食 品の輸出/提案」、「加工・流通」、「物産展・地域振興」、最後に1 0の飲食店チェーンの一つに被告各表示を付した「店舗開発・メニュー\n開発」となっており、それぞれ相応な分量の説明と写真があり、冒頭の 「食材・食品の輸出/提案」の末尾は、食材の海外輸出を検討する日本 国内の事業者に向けた呼びかけとなっている。そうすると、これに続く 「加工・流通」、「物産展・地域振興」、「店舗開発・メニュー開発」 は、輸出先の国における流通経路の川下に関する事業内容を順次紹介す ることにより、海外輸出を検討している国内の事業者に向けて、ダイシ ョーグループを通じた輸出の利点を記載したものといえる。
イ このような食材の輸出に関連する内容は、前記(1)のとおり本件ウェブサ イトの随所にみられ、特に「海外輸出をお考えの方」のページ(前記(1) カ)は、食材の海外輸出を検討する国内事業者に向けたものであること が明らかである。
ウ これに対し、被告各表示を付した部分は、上記「事業内容」のページに\nおいては、ページの最後に被告各表示と簡潔な説明文及び英文ウェブサ\nイトへのリンクがあるにとどまり、ページ全体に占める割合は少なく、 具体的なメニューの内容、価格、店舗の所在場所といった、一般消費者 に向けて本件すし店の役務の内容を知らせる内容は乏しい(これらの情 報は、リンクされた英文ウェブサイト(乙37)に掲載されていること が推認される。)。しかも、被告各表示は、ダイショーグループが展開\nしている飲食店チェーンを紹介した部分に掲載されている10種類の飲 食店(その中には簡潔な説明文中にシンガポールやクアラルンプールの 店舗であることが明記されているものもある。)の一つにすぎない。そ して、同ページの記載内容からも、本件すし店が東南アジアに所在する ことは比較的容易に読み取ることができる。 トップページ(前記(1)ア)において被告各表示を用いた部分をみても、\n英文ウェブサイトへのリンクがないことを除いては「事業内容」のペー ジと同じであり、ページ全体に占める割合が多いとはいえず、10種類 の飲食店チェーンの一つとして店舗情報が提供されていることは、前記 「事業内容」のページと同様である。 さらに、上記の「事業内容」のページや「ダイショーグループとは」 のページ(前記(1)イ)をみれば、本件すし店が東南アジアに所在するこ と、日本法人である被告が国内からの食材の輸出の事業を営んでいるこ とは、比較的容易に読み取ることができる。
エ これに対し、原告は、本件各ウェブページの被告各表示が、ダイショー\nグループの事業内容として本件すし店の役務を「広く世間に告げ知らせる」 ことを目的として使用されていること、その役務に係る出所表示機能\、自 他商品識別機能等を果たす態様で使用されていることは明らかであるから、\n本件すし店の「役務に関する広告」に該当する旨主張する。 しかし、前記の本件ウェブサイトの構成と記載内容によれば、被告各表\ 示を用いた部分が本件すし店の役務を「広く世間に告げ知らせる」とい う一面があることを全く否定することはできないとしても、全体からみ ると、本件各ウェブページは日本からの食材の輸出という役務の広告と いうべきであって、被告各表示を用いた部分は、ダイショーグループが\n展開する他の飲食店チェーンの紹介と併せて、国内の事業者に対し、ダ イショーグループを通じて輸出した場合の食材の使用先や使用状況を明 らかにし、これにより被告との間で食材の輸出取引を行うための誘因と する目的で使用されているというべきである。 このような使用態様については、本件すし店の役務に係る出所表示機能\、 自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはで\nきない。
・・・
ク 以上によれば、被告各表示は、その態様に照らし、食材の海外輸出を検\n討する国内事業者に向けた本件各ウェブページの中で、被告の事業を紹 介するために使用されているにすぎず、本件すし店を日本国内の需要者 に対し広告する目的で使用されたものではなく、現にそのような効果が 生じている証拠もない。 したがって、本件ウェブページ掲載行為は、「本件すし店の役務に関 する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為」として商 標法2条3項8号に該当するものということはできない。
(3) 被告各表示と原告各商標権の侵害について\n
仮に、原告が主張するとおり、被告各表示の使用が本件すし店の存在を日\n本国内に広く知らしめるという点において「広告」に該当し、商標的使用に 該当すると考えた場合でも、以下のとおり、被告各表示は、日本国内におけ\nる役務の提供について使用されているものではないから、原告各商標権を侵 害するものではない。 ア すなわち、被告各表示は、日本語で記載された本件各ウェブページに掲\n載されているから、これが本件すし店の広告に該当すると考えたときは、 日本国内において商標法2条3項8号に該当する行為がされたものと一応 いうことができる。
イ しかるところ、前記のとおり、本件各ウェブページは、食材の海外輸出 を検討する国内事業者に向けたものであると認められ、被告各表示は、本\n件各ウェブページの中でダイショーグループが海外で日本の食材を用いた 飲食店チェーンを展開していることを示す際に使用されている。本件各ウ ェブページには、本件すし店の具体的なメニューの内容、価格など、一般 消費者に向けて本件すし店の役務を知らせる内容は一切記載されておらず、 「事業内容」のページの被告各表示の下のリンクから誘導されるのは英文\nのページのウェブサイトである。
ウ また、証拠(乙17、21)及び弁論の全趣旨によれば、本件すし店は、 日本国外(シンガポール、マレーシア)で飲食物の提供等の役務を提供し ていることが認められ、シンガポールやマレーシアで商標登録されている 被告各表示(甲8、乙14、15。商標権者はスーパースシである。)は、\n現地でその役務を提供するに当たり、使用されている標章である。本件す し店が、日本国内で同様の役務を提供している事実は認められない。
エ そうすると、被告各表示は、本件すし店の日本国内における役務の提供\nについて用いられているものではない。被告各表示を見た日本国内の消費\n者が被告各表示により役務の提供の出所を誤認したとしても、本件すし店\nが日本で役務を提供していない以上、その誤認の結果(原告の店であると 誤認して、本件すし店から指定役務の提供を受けること)は、常に日本の 商標権の効力の及ばない国外で発生することになるはずであり、日本国内 で原告各商標権の出所表示機能\が侵害されることはない。なお、証拠(甲 10、11)によれば、クアラルンプールの本件すし店に入店する際、こ れを原告の支店であると誤認した日本人がいた事実が認められるが、当該 出所の誤認が本件各ウェブページの被告各表示を閲覧した結果生じたもの\nであることを認める証拠はない上、出所の誤認が国外で発生していること に変わりはないから、当該事実は、前記判断を左右するに足りるものでは ない。
オ もともと、一国において登録された商標は、他の国において登録された 商標から独立したものとされており(パリ条約6条1項及び3項)、かつ、 いわゆる属地主義の原則により、商標権の効力は、その登録された国内に 限られるものと解される。外国において適法に登録された商標である被告 各表示が当該外国における指定役務の提供を表\示するため本件各ウェブペ ージ上で使用された場合において、原告各商標権に基づき被告各表示の使\n用差止等を認めることは、実質的にみて、原告各商標の国内における出所 表示機能\等が侵害されていないにもかかわらず、外国商標の当該外国にお ける指定役務表示のための適法な使用を日本の商標権により制限すること\nと同様の結果になるから、商標権独立の原則及び属地主義の原則の観点か らみても相当ではないというべきである。
・・・
以上によれば、原告の主張を考慮しても、本件各ウェブページは、日本か らの食材の輸出という役務の広告というべきであり、仮に被告各表示を本件\nすし店の役務の広告であると考えた場合でも、当該役務は国外で提供される 役務であるから、原告各商標の国内における出所保護機能を害するものでは\nない。
・・・
(1) 前記2のとおり、本件各ウェブページにおいて、被告各表示は、日本から\nの食材の輸出という被告の事業に関連する情報の一つを示すために使用され ていると認められるから、他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表\示を 使用し、出所表示機能\、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されている\nと評価することはできない。また、仮に、被告各表示が、本件すし店の提供\nする役務を表示するために使用されていると考えたとしても、当該役務は日\n本国内の役務ではなく、国外で提供される役務であるから、日本国内におい て、出所表示機能\、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評\n価することはできない。
そうすると、本件ウェブページ掲載行為は、被告各表示を商品等表\示とし て「使用」するもの(不競法2条1項1号)に当たらないから、その余の点 を判断するまでもなく、不競法2条1項1号に基づく原告の請求は、理由が ない。

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令和5(ワ)70178  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年9月26日  東京地方裁判所

 医薬品の製造方法特許について、「品温が40゜C)未満」という構成要件を備えていないとして、非侵害と判断されました。\n

(1) 「乾燥して造粒物を得る工程」の終期
本件の争点整理の経過に鑑み、主たる争点である争点1−2のうち、中核 的争点である「乾燥して造粒物を得る工程」の終期がいつであるかという点 につき、まず判断する。この点につき、原告は、「乾燥して造粒物を得る工程」 の終期とは、「打錠用粉体に適した造粒物を得るために必要な状態まで溶媒が 除去された時点」(原告はこの時点までの乾燥を「必要な乾燥」といい、これ 以降の乾燥を「余分な乾燥」として区分している。)である旨主張する(第4 回弁論準備手続(技術説明会)調書参照)。
そこで検討するに、本件明細書に係る前記認定事実によれば、本件明細書 の記載(【0010】、【0033】等)を踏まえると、本件発明の課題は、酢 酸亜鉛水和物中の結晶水が消失して無水物に転移することを防ぐことにあり、 その課題の解決手段としては、乾燥工程における品温を40゜C)未満とするも のであると認めるのが相当である。そして、「乾燥」とは、一般的に熱を与え るなどして不要の液体分を取り除くことを意味するものであり(甲9、10)、 本件明細書においても、上記と異なる意味で使用されているところはない。 そうすると、「乾燥して造粒物を得る工程」とは、乾燥させる全ての工程を 意味するものであり、その終期とは、文字どおり、全ての乾燥が終了した時 点であると解するのが相当である。 これを原告の上記主張についてみると、原告は、乾燥には「必要な乾燥」 と「余分な乾燥」に区分され、「余分な乾燥」では40゜C)を超えることが許容 される趣旨をいうものである。
しかしながら、本件発明の構成要件及び本件明細書を精査しても、原告が\n自認するように、「必要な乾燥」と「余分な乾燥」に区分されるという原告の 解釈を裏付ける記載や示唆は一切なく、上記の間にある「打錠用粉体に適し た造粒物を得るために必要な状態まで溶媒が除去された時点」という原告主 張に係る概念も、本件発明の構成要件及び本件明細書に一切記載されておら\nず、それ自体明確性を欠くことに鑑みても、原告の主張は、その根拠を欠く ものというほかない。
かえって、原告の主張によれば、「余分な乾燥」では40゜C)を超えることが 許容されることになるから、乾燥工程における品温を40゜C)未満とする本件 発明の課題解決手段に明らかに抵触するものとなり、本件明細書によれば本 件発明の課題を解決できないことになる。そうすると、原告の主張は、本件 発明の課題解決手段を正解しないものといえる。 したがって、原告の主張は、採用することができない。
(2) 被告方法への当てはめ
前記認定事実によれば、被告医薬品の医薬品製造販売承認書には「乾燥終 点における製品温度は《50゜C)》以下とする」と記載されており、被告医薬 品に係る製造指図記録書においては、いずれも、品温41.0゜C)以上で乾燥 終了との指示がされていることからすると、被告方法における「乾燥して造 粒物を得る工程」では、品温が41゜C)以上になることが認められる。そうす ると、「乾燥して造粒物を得る工程」とは、乾燥させる全ての工程を意味する ものであるから、被告方法は、「乾燥して造粒物を得る工程」における「品温 が40゜C)未満」という構成要件を充足するものとはいえない。\nしたがって、被告方法は、構成要件1−1A及びC、1−3D、2−1A\n及びC、2−3Dを充足するものと認めることはできない。
・・・
3 争点1−1(特許法104条による推定の可否)
(1) 被告方法は、「乾燥して造粒物を得る工程」における「品温が40゜C)未満」 という構成要件(構\成要件1−1A及びC、1−3D、2−1A及びC、2 −3D)を充足しないことは、前記2において説示したとおりである。 そうすると、仮に、被告医薬品が特許法104条に基づき本件発明に係る 製造方法により生産したものと推定された場合であっても、前記2において 説示したところによれば、当該推定は、覆されるものと認めるのが相当であ るから、争点1−1は、本件において結論を左右するものとはならない。 もっとも、当事者双方の主張の経過に鑑み、念のため判断するに、前提事 実及び前記認定事実によれば、本件発明の優先日前に出された本件ニュース リリースには、「NPC−02(酢酸亜鉛)ウイルソン病治療剤ノベルジン® 錠25mg及び50mgの製造販売承認(剤形追加)を取得」という記載が あるところ、本件ニュースリリース前から原告によって販売されているノベ ルジンカプセル25mg及び50mgは、ウィルソン病治療剤(銅吸収阻害\n剤)であり、酢酸亜鉛水和物を有効成分とするカプセル剤である。そして、 前記認定事実によれば、剤形追加に係る医薬品とは、既承認医薬品等と有効 成分、投与経路、効能・効果及び用法・用量は同一であるが、剤形又は含量\nが異なる医薬品をいうことからすると、本件ニュースリリースに係る医薬品は、ウィルソン病治療剤(銅吸収阻害剤)であり、酢酸亜鉛水和物を有効成\n分とする酢酸亜鉛錠であるものと認められる。 これらの事情の下においては、本件ニュースリリースに係る医薬品は、本 件発明により生産される物と同一のものといえるから、本件ニュースリリー スの掲載により同医薬品の存在が対外的に公表されているといえる。そうす\nると、本件発明により生産される「物」は、本件発明の優先日前の時点にお いて、当業者がその物を製造する手がかりが得られる程度に知られたもので あったと認めるのが相当である。 したがって、被告医薬品は、特許法104条に基づき、本件発明に係る製 造方法により生産したものと推定することはできない。

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令和6(行ケ)10029  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年9月12日  知的財産高等裁判所

商標「マーくん」(標準文字)が、引用商標「Markun.」 と類似するとした審決が維持されました。、指定商品25類「野球用ユニフォーム、野球靴、運動用特殊靴、運動用特殊衣」28類「野球用具、運動用具」です。「マーくん」は特段の観念が生ぜず、また、最後のドットも「.」を「ドット」と称呼するのが一般的であるとはいえないと判断されています。

(3) 観念
ア 「マーくん」の語は、一般の辞書等に記載のある語ではない。 「マーくん」の語の意味に関して、ウィキペディアの「マーくん」の項 には、「1.プロ野球・千葉ロッテマリーンズのマスコット。」、「2.プロ 野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの投手、田中将大の愛称。」と(甲1 2)、ニコニコ大百科の「マーくん」の項に、「本記事では、日本のプロ野 球球団である『千葉ロッテマリーンズ』のマスコットについて解説。」とし た上で、「曖昧さ回避」として、「『千葉ロッテマリーンズ』のマスコット。 本項で記述。」、「『ヘタリア』の登場キャラクターであるデンマークの愛称。 →マー君」、「兵庫県出身のプロ野球選手『田中将大』の愛称『マー君』の 表記揺れ」(甲11)とそれぞれ記載されており、「マーくん」の語は、そ\nれらのとおり多義的に理解される語として認識されていることが認めら れる。
また、「マーくん」に係る千葉ロッテマリーンズのポスターについて報じ る報道(マイナビニュース)の「編集部が選ぶ関連記事」には、上記プロ 野球選手である楽天球団の田中将大投手を指す「マー君」に関連する報道 が複数(4件のうち3件)紹介されているものもある(甲222)。そして、 原告の主張に係る千葉ロッテマリーンズのマスコットキャラクターであ る「マーくん」についても、新聞の全国紙等において、「マー君」と表記し\nて報道されている例もみられる(甲220、256〔読売新聞〕)。 これらのことは、「マーくん」といえば千葉ロッテマリーンズのキャラク ターを指すものとして広く浸透し、一般に認識されているものであれば、 容易には起こり得ないことともいえる。
これらの事情を考慮すると、「マーくん」の語は、特定の事物又は意味合 いを表すものとして一般に広く認識等されているとの事実を認めること\nはできず、本願商標からは特定の観念は生じないものというべきである。 イ 原告は、千葉ロッテマリーンズのマスコットキャラクターに係る取引の 状況からして、本願商標からは、「千葉ロッテマリーンズのマスコットキャ ラクター」の名称(「マーくん」)の観念が生じると主張し、本願商標は観 念において引用商標と異なり、両者は類似しない旨を主張する。
しかし、「マーくん」の語から、特定の観念が生じないことについては既 に述べたとおりである。加えて、原告の提出する証拠を検討しても、「マー くん」に関連する報道における「マーくん」に係る記載は、「ロッテ球団の マスコットキャラクターのマーくん」、「千葉ロッテマリーンズのマスコッ トキャラクターのマーくん」などと、千葉ロッテマリーンズやロッテ球団 などと球団を示す語を伴って使用されていたり、「マーくん」のキャラクタ ーのイラストや着ぐるみの写真などとともに使用されているものである (甲16、18〜20、61など)。これらによれば、千葉ロッテマリーン ズの球団やそのマスコットキャラクターであることを表す語、あるいは球\n団のマスコットキャラクターの容姿(イラストや着ぐるみなど)が併記さ れていることではじめて、「マーくん」の文字が「球団のマスコットキャラ クターの名称」であると認識されるものと認められる。 また、千葉ロッテマリーンズのマスコットキャラクターである「マーく ん」による、野球とは関連性が希薄な活動への参加の実績についても、千 葉県及び球団の本拠地とされる千葉マリンスタジアム(ZOZOマリンス タジアム)(乙27〜30)におけるものであって、千葉市内を中心とした 千葉県内での活動にとどまり、これらの活動を報じる各種新聞も、そのほの地域に関する記事を掲載する紙面。乙31)の記事としての掲載であり (甲38、49、52など)、ウェブサイトへの掲載も、内容のほとんどが 球団やそのマスコットキャラクターを紹介する記事であって(甲28、3 1など)、特にこれらの掲載内容が全国的に話題になったなどの事情を示 す証拠もみられないことから、千葉ロッテマリーンズに関心がない全国の 一般の消費者において、その多数がこれらの新聞記事やウェブサイトの掲 載を閲覧しているとは認め難いものである。 したがって、千葉ロッテマリーンズの公式マスコットキャラクターに関 する周知活動については、対戦相手の他球場における活動を除き、そのほ とんどは、千葉市内ないし千葉県内にとどまるものであって、その活動が 報道されている範囲についても、多くは、千葉県内ないしその周辺地域に とどまるものと認められる。
現に、千葉県佐倉市周辺等を営業エリアとする企業のブログにも、千葉 ロッテマリーンズのロゴとマスコットキャラクターの写真が掲載され、 「千葉ロッテマリーンズのマスコットに遭遇!マーくんと、リーンちゃん という名前だそうです。」(甲387の1)と記載されており、これによれ ば、千葉ロッテマリーンズのロゴとマスコット(人形)により「千葉ロッ テマリーンズのマスコット」は認識されているとしても、知っていたのは そのキャラクターであって、「マーくん」の名称であるとはいい難い上に、 そのキャラクター自体を知る主体も、千葉ロッテマリーンズに関心がある 者に限られているものと理解されるところである。 原告は、「マーくん」についての報道は、千葉県外でも広く発行される新 聞記事にも掲載されている旨を主張するが、それらも千葉県内における活 動を報じるもの(甲388)や、同県内における製品の販売を報じるもの (甲396)、キャンプでの千葉ロッテマリーンズの活動やそこに登場し たマスコットキャラクターを報道するもの(甲399)など、千葉県内関 連のニュースとして報じられているにとどまる。 したがって、本願商標から「千葉ロッテマリーンズのマスコットキャラ クター」の名称の観念が生じるとする原告の主張は採用することができない。 ウ そうすると、本件審決が本件商標から特定の観念は生じないとした認定 に誤りはない。
3 引用商標の構成等\n
(1) 外観
引用商標は、「Markun.」の文字を標準文字で表してなるものである。\n
(2) 称呼
ア 引用商標の構成中「Markun」の文字は、我が国に浸透している「M\nar」の文字を含む「マーケット」、「マーチ」、「マーブル」等の語(乙6、 7)との比較や、「kun」はローマ字読みで自然に「クン」と発音される ことからしても、「マークン」の称呼が生じるものといえる。 「Markun」の文字は、それに続く文字が省略されていることをう かがわせる事情がなく、語頭が大文字でその余は小文字であり、6文字で 構成されるその文字数や上記称呼からして完結した一語であると認めら\nれる。そして、引用商標の構成中の「.」は、その末尾に表\示されている。 これらのことから、構成中の「.」は、その位置から、アルファベットなど\nの横書の文の末尾に付する点である終止符(ピリオド)を認識させるもの(乙1)と認められる。そして、終止符(ピリオド)である「.」は、特段 の称呼を生じない。 そうすると、引用商標は、全体の構成より「マークン」の称呼が生じる\nものと認められる。
イ 原告は、引用商標の構成中の「.」を「ドット」と称呼する取引の実情が\nあるとして、これに沿う証拠を提出し、引用商標は「マークンドット」の 称呼を生ずると主張する。 しかし、既に述べたとおり、引用商標の構成からすると、構\成中の「.」 は終止符(ピリオド)を認識させ、特段の称呼を生じないものと認められ る。加えて、原告の提出する証拠は、「.」を「ドット」と読む例があると いうに止まり、「.」を「ドット」と称呼するのが一般的であることを示す ものとはいえない。むしろ、原告の提出する証拠を検討すると、「Dhya na.」ブランドについて、「メイドインジャパンのものづくりを大切にし たレディースシューズブランド『Dhyana.(ディアナドット)』」(甲342)、「R.」ブランドについて「・・・がコンセプトの『R.(アール ドット)』」(甲343)、「会社名 株式会社 be me.(ビーミードット)」(甲 356)などとわざわざ記載している例にみられるように、「ドット」を称 呼に含ませる場合には、あえてそれを表記していることからすれば、ピリ\nオドと認識される語末の「.」を、ことさら「ドット」と称呼するのは一般 的でないものと認められる。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 観念
引用商標の構成中の「Markun」の文字は、一般の辞書等に載録され\nている成語とは認められず、我が国において特定の事物又は意味合いを表す\nものとして認識され、親しまれているというべき事情は認められないから、 そこからは特定の観念は生じない。また、ピリオドと認識される語末の「.」 も特定の観念を生じない。 したがって、引用商標は、全体として、特定の観念を生じないものと認め られる。
4 本願商標と引用商標の類否について
(1) 外観の比較
本願商標と引用商標とは、外観において、本願商標は片仮名と平仮名とか らなる構成であるのに対し、引用商標は語頭の大文字及びその余の小文字の\n欧文字並びに記号からなる構成であり、文字種を異にする点で異なるととも\nに、引用商標の末尾に位置する「.」(ピリオド)の有無において相違する。 しかし、「DUMMY−KUN」と「ダミーくん」を並記する例(乙8)、「ルイザちゃん」と「RUIZAちゃん」を並記する例(乙9)などにみら れるごとく、商標の構成文字を同一の称呼の生じる範囲内で、文字種を相互\nに変換して表記することは一般的に行われており、「マークン」、「まーくん」、\n及び「マーくん」の店舗名を、それぞれ「MARKUN」、「マークン/Ma rkun」、「Markun」などと変換して表記する(乙10〜12)など\nの取引の実情もあることが認められるところである。 そうすると、本願商標と引用商標は、いずれも標準文字で表されてなるこ\nとから、両者における上記文字種の相違は、取引者、需要者に対し、出所識 別標識としての外観上の顕著な差異として、強い印象を与えるとはいい難い ものというべきである。 引用商標の構成中の「.」(ピリオド)についても、末尾に位置しており、\n他の構成文字に比べてもかなり小さく表\記されていることからすると、外観 上の顕著な差異として特に印象的なものとはいえないというべきである。

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令和5(行ケ)10148  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年9月12日  知的財産高等裁判所

CS関連発明について、動機付け無しとした審決が維持されました。

上記アないしウによれば、甲2ないし甲4には、構成要件(D)の「前\n記注文情報における、前記団体情報を特定する情報に基づいて前記注文者 の団体を特定して、複数の前記注文情報の中から前記注文者の団体が同一 の前記注文情報を抽出」することや、「抽出された前記注文情報に基づいて、 同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の担当者が閲覧できる形 式で出力する」ことについて記載されているということはできず、甲3に は、構成要件(E)の「前記注文リスト出力手段は、前記注文リストとし\nて、各注文について前記注文商品及び注文者を表示するリストを出力する」\nことも記載されていない。
そうすると、甲1発明に甲2ないし甲4に記載された事項を適用したと しても(原告の主張は、甲2ないし甲4に記載の事項をそれぞれ副引用例 として甲1発明に組み合わせるとするものなのか、それとも周知技術を記 載したものとするのかについて明確ではないが、いずれにしろ甲2ないし 甲4には構成要件(D)及び(E)に関する記載がなく、これを甲1に組\nみ合わせても本件発明1には至らないから、結論を左右しない。)本件発明 1に到達することはできないから、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3) 甲1発明との組み合わせの動機付けについて
甲1には、前記2(1)のとおり、甲1のシステムを介して、販売側(販売店、 メーカー、物流会社、金融機関)が顧客から商品の注文を受注し、注文され た商品を顧客へ配達し、決済するという取引形態の説明がされ、それにより、 発注、受注、物流及び入金管理を一括処理して販売店の業務負担を軽減する という目的を達成することが記載されている。また、実施例についても、前 記2(2)のとおり、顧客(学校)からの注文の方法に応じた、販売店の業務管 理についての記載がある。このような甲1の記載内容によれば、甲1には、 販売側と顧客という二者間の関係についての記載しかなく、学校と学生のよ うな、顧客が帰属する組織内の属性(階層関係)については想定されておら ず、そのような属性に合わせた情報処理を行うことについては記載も示唆も されていない。また、仮に甲2や甲4にみられるような、複数の顧客を共通 する属性別にリスト化する処理が周知技術であったとしても、前記第2(1)の とおり、甲1発明の目的は、販売店の業務負担を軽減するところにあるから、 そのようなリスト化を行い、それを学校の担当者が閲覧できる形式で出力するようにするのは、甲1発明の上記目的とは相容れないから、そうした動機 付けはない。
また、甲1に記載された具体的な実施形態に即して検討すると、顧客(学 校)は、学校名、住所、商品名、商品番号、注文個数を入力した後、学生の 氏名、身長、胸囲、胴囲等を個別に入力する手順で注文を行うことから(図 3及び段落【0028】)、学生の個別注文情報は学校により既に集約されて おり、学校別に抽出された注文情報は既得のものである。そうすると、販売 店の業務負担軽減を目的とする甲1発明において、学校側が個別注文情報を 集約して注文することに代えて、販売側が学生から個別に注文を受けて集約 し、学校別に抽出された注文情報を学校の担当者に閲覧可能な形式で出力す\nるように変更することは、甲1発明の上記目的に反し、そのような動機付け はない。

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令和6(行ケ)10047  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年10月30日  知的財産高等裁判所

シンゴジラのフィギュアの立体商標について、3条2項の適用なしとした審決が取り消されました。

(1) 原告は、昭和29年以来のゴジラ・キャラクターの長年にわたる使用の結 果、本願商標の形状は原告の出所を表示するものとして著名となっている旨\n主張するのに対し、被告は、映画「シン・ゴジラ」に登場するゴジラ(第4形 態)以外のゴジラ・キャラクターの立体的形状は本願商標の立体的形状と同 一視することはできない旨主張するので、商標法3条2項該当性の判断に当 たり、本願商標を使用したものと評価できる商品の対象範囲を最初に確定し ておく必要がある。
そこで検討するに、上記1(2)ウで認定したとおり、シン・ゴジラの立体的 形状は、それ以前のゴジラ・キャラクターと比較して、頭部が小さくなり、前 脚(腕)の細さが一層際立つ一方、尻尾はより太く長くなっているなど、全体 のプロポーションに違いが生じているほか、背中から尻尾にかけての部分を 中心に赤みがった色彩が加わっている等の違いがあり、被告が主張するとお り、両者を同一(実質的に同一)と認めることは相当でない。 しかし、商標法3条2項の「使用」の直接の対象はシン・ゴジラの立体的形 状に限られるとしても、その結果「需要者が何人かの業務に係る商品である ことを認識することができる」に至ったかどうかの判断に際して、「シン・ゴ ジラ」に連なる映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考 慮することは、何ら妨げられるものではなく、むしろ必要なことというべき である。
(2) 以上の枠組みに従って判断する。
ア まず、映画「シン・ゴジラ」は、平成28年7月に公開されると、日本映 画の歴代第22位にランクされる興行収入を上げる記録的な大ヒットとなり、本願商標に係る使用商品だけでも、売上数量102万個、売上額約26 億5000万円を記録する(上記1(5)ア)など、本件審決時までの約8年 間に、本願の指定商品に集中的に使用された事実が認められる。
イ 加えて、シン・ゴジラの立体的形状は、本件特徴を全て備える点を含め、 それ以前のゴジラ・キャラクターの基本的形状をほぼ踏襲しているところ、 当該基本的形状は、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、本願の指定商品 の需要者である一般消費者において、原告の提供するキャラクターの形状 として広く認識されていたことが優に認められる。
すなわち、1)昭和29年に始まった映画「ゴジラ」シリーズは、その後6 0年以上の長きにわたり全30作にわたる新作を次々と公開し、累計観客 動員数約1億2000万人を記録するなど、圧倒的な商業的成功を収めて いること、2)これらの映画の広告等には、原告の「製作・配給」であること 等が明記されていたこと、3)この間の映画「ゴジラ」シリーズのビデオグラ ム及びゴジラのフィギュア商品の売上金額は、それぞれ百億円を大きく超 えていること、4)上記フィギュア商品については、原告から商品化の許諾 を受けた第三者企業によって販売されているものも多いが、原告が商品化 の主体であることを示す本件著作権等表示が付されていたこと、5)原告の シンボル的なモニュメントとなっている巨大なゴジラ像は、繁華な商業施 設を含む都内の複数の場所に恒常的に設定されていることは、上記1で認 定したとおりである。
ウ さらに、「ゴジラ」の文字商標は、原告に係る映画のタイトル又は当該映 画に登場する怪獣の名称として著名となっているところ(上記1(6)、当裁 判所に顕著な事実)、「シン・ゴジラ」を含む「ゴジラ」シリーズでは、登 場する怪獣のキャラクターに一貫して「ゴジラ」の名称が使用されている。
エ 本願の指定商品の需要者は一般消費者であると解されるところ、そうし た需要者の認識としても、令和3年9月実施の全国の15歳〜69歳の男女を対象とするアンケート調査において、本願商標の立体的形状の写真を 示して「何をモデルにしたフィギュアだと思うか」との質問に対する自由 回答で、「ゴジラ」又は「シン・ゴジラ」と回答した者が64.4%とされ、 極めて高い認知度が示された(上記1(7))。この調査の対象者の選定、質 問方法等に特段の問題は見当たらず、その回答結果は、シン・ゴジラの立体 的形状の著名性を示すものといえる。
オ 以上を総合すれば、本願商標については、その指定商品に使用された結 果、需要者である一般消費者が原告の業務に係る商品であることを認識で きるに至ったものと認めることができる。
(3) 被告の主張について
ア 被告は、本願商標に係る使用商品の使用期間(販売期間)が「永年」とは いえない旨主張する。しかし、映画「シン・ゴジラ」が公開された平成28 年頃から本件審決時までの約8年間にわたって、原告が本願商標をその指 定商品に継続して使用した事実は認められるところ(上記1(5))、これ自 体、それなりの使用期間と評価することができる。 更にいえば、そもそも商標法3条2項の「使用」につき「永年」の要件が 課されているわけではないし、「需要者が何人かの業務に係る商品である ことを認識することができる」に至ったか否かは、使用期間だけでなく、商 品の販売数量、広告宣伝の規模、話題性等も総合して判断すべきものであ る。加えて、本件においては、本願商標の使用以前から、原告を商品化の主 体とするゴジラ・キャラクターの商品が需要者に広く深く浸透しており、 本願商標の立体的形状はこれとの連続性が認められるという特殊な事情も 存在している。 こうした点を考慮すると、本願商標について、上記使用期間が「永年」と までいえないとしても、同項該当性に係る前記判断が左右されるものでは ない。
イ 被告は、原告主張の使用商品の販売実績についてはこれを裏付ける客観 的証拠はなく、また、これが事実としても、本願の指定商品を扱う業界にお いてどの程度のものであるかの多寡を確認することはできない旨主張する。 しかし、甲53、77によれば、上記販売実績は、原告社内の信用性のある データに基づき作成されたものと認められ、不合理な点は認められない。 また、被告が、本件審決が判示したように、「玩具業界全体」における使用 商品の占有率を問題にするのであれば、極めて多様なジャンルが存在する 玩具業界の実情を無視して、大きすぎる分母に基づいた議論をするもので あり、採用できない。
また、被告は、使用商品は原告でなくライセンシーにより販売されてい るにすぎないこと、「東宝」の文字を冠した使用商品でも原告以外のメーカ ー名が表示されていること、使用商品本体への本件著作権等表\示について は、本体の足の裏側の目立たない位置に小さく表示されているにすぎず需\n要者の注目を惹かないこと等を主張する。しかし、出願人から許諾を受け た者による使用も、第三者による当該商標の使用態様が出願人によって適 切に管理されており、需要者が出願人の商品であると認識し得るような場 合には、商標法3条2項にいう「使用」に含まれると解すべきところ、原告 は前記1(3)ウのとおりライセンシーとの間に使用許諾契約を締結し、使用 商品の形態も含めて監修するとともに、フィギュア類の出所が原告である ことを示す適切な管理をしている。本件著作権等表示が、当該商品が原告\nの許諾に基づき製造されたことを示すことは特段の困難なく理解できるも のである。
ウ 以上のほか、被告は、使用商品が掲載された雑誌の種類が少ない、書籍や 展示即売会の来場者は限定されている、ゴジラ像の恒常的設置は東京都内 の4か所にとどまる、本件アンケートには本願商標の立体的形状と原告と の関連についての質問がないなど、原告の主張立証の逐一を論難するが、ゴジラ・キャラクターの圧倒的な認知度の前では些末な問題にすぎず、上 記(2)の判断を左右するものとはいえない。

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令和6(行ケ)10025 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年10月30日  知的財産高等裁判所

有名なランプシェードの立体商標について、当該商品を販売している会社が取得しました。これについて、当該商品のデザイナーの盗用であるとして、公序良俗違反、周知性違反を理由に無効主張をしました。審決・判決とも無効理由なしと判断しました。

1 取消事由1(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について
(1) 原告は、被告は特許庁を欺いて本件商標権を取得したものであり、国際信義則及び公序良俗に反し、これは商標法4条1項7号に該当する旨主張する。\n
(2) まず、原告は、被告が A 又はその相続人から本件商標に係る商 品の著作権についてライセンス契約の締結を受けていないとして、これを問 題とするところ、商標法には、他人の著作権と抵触するような商標登録を禁 じる規定はなく、むしろそのような商標登録が発生し得ることを前提に、同 法29条により先行著作権との調整を図っているのであって、他人の著作権 との抵触の一事をもってしては、同法4条1項7号に該当しないというべき である。 A の相続人と被告との間の著作権に関するライセンス契 約の成否、有効性いかんの問題は、同号該当性に影響を及ぼすものではない (蛇足ながらあえて付け加えると、乙1、2に係るライセンス契約の成立及 び有効性を疑うべき事情は見当たらない。)。
(3) また、本件商標は、出願過程において、被告の業務に係る商品であること が広く認識されていたことが認められて商標法3条2項が適用されていると ころ、被告と A 又はその相続人との間で、本件商標に係る著作権 について紛争となっている等、その出願が国際信義に反するような事情が生 じていることの主張立証はない。本件は、単に、原告において、「被告による A のデザインの盗用」という根拠のない憶測を述べているにすぎ ない事案といわざるを得ない。
(4) 以上のとおりであって、本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとし た本件審決の判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について
(1) 原告は、本件商標は、 A の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されている商標として、商標法4条1項10号に該当する旨主張\nする。 しかし、原告は、本件商標が「 A の」業務に係る商品を表示するものであることを表\示するものとして周知であることを示す具体的な立証をしない。甲25、26を含め、本件商標の形状をデザインした者が A であることを示す証拠はあるが、業務の主体が A であることを 示すものではない。
(2) 原告は、 A の相続人と被告の間で締結されたライセンス契約が 有効でないとすれば、デザイナーの有名な商品を盗用して商品化した業者が、 立体商標の登録出願をして権利を取得できるようになる旨主張するが、同主 張は商標法4条1項10号の要件とはかかわりのないものである(なお、上 記ライセンス契約の成立及び有効性を疑うべき事情がないことは上記のとお りである。)。
(3) 以上のとおりであって、本件商標が商標法4条1項10号に該当しないと した本件審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

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令和4(ワ)70058  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月18日  東京地方裁判所

特許権及び意匠権侵害事件です。原告は均等主張をしましたが、東京地裁は、本質的要件(第1要件)の判断において、明細書に公知文献を考慮して、特徴部分を認定するとともに、被告装置はかかる本質部分を満たさないとして、均等侵害を否定しました。意匠権についても非類似と判断しました。

(ウ) 前記(イ)によれば、本件特許の出願時において、グラップルバケット装 置において、グラップルした木材が長尺である場合、所定以上の長さを 有する木材をチェーンソー等の切断装置を用いて作業員が所定の長さに\n切断しなければならないとの課題については、甲27文献において開示 された従来技術によって解決することが可能であったから、本件明細書\nにおいて従来技術が解決できなかった課題として記載されているところ は、出願時の従来技術に照らして客観的に不十分であると認められる。\nそうすると、本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分を認定するに当たり、甲27文献に記載されている技術 的事項も参酌することが許されるというべきである。
(エ) 前記(ウ)において検討したところによれば、本件特許の出願前に、甲2 7文献において、一方の側部に把持部、他方の側部に切断装置が装着さ れているバケットを備えた枝切り走行装置が開示されていたと認められ るから、本件発明と従来技術との相違は、当該切断装置の構成に係る部\n分にすぎず、グラップルした被グラップル材を切断できるようにしたグ ラップルバケット装置であること自体ではないと認められる。そうする と、従来技術と比較して本件発明の貢献の程度が大きいと評価すること はできないから、本件発明の本質的部分については、これを上位概念化 したものとして認定することはできず、特許請求の範囲の記載とほぼ同 義のものとして認定されるというべきである。
したがって、前記(ア)及び(イ)に照らし、本件発明における従来技術に 見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、グラップル装置\nに設けられた切断装置について、バケットの側壁の外側あるいは内側の 一方側に位置してバケットの開口縁から離れた位置からバケットの側壁 に沿う位置にわたって側壁に沿う方向に回動し、かつバケットの開口縁 側に対向する側の側縁に切刃を有してバケットの側壁に沿う位置にわたって側壁に沿う方向に回動し、かつバケットの開口縁側に対向する側の側縁に切刃を有してバケットの開口基端部に枢支された切断刃と、上記切断刃の回動基部に連結して上記切断刃を回動させる油圧シリンダとからなり、切断刃の切刃を、切断刃の回動中心と油圧シ リンダの連結点を結ぶ線に対して切断刃の切断方向側にずれた位置に設 けるとともに、この切刃の切断方向への回動方向に対して後方へ円弧状 に反らせたとの構成、すなわち構\成要件C及びDに係る構成を採用する\nことによって、回動中心から遠い部分でも、刃先が対象物に当たる傾き 角度θの値を大きく保つことで、引き切り作用を保ちスムーズな切断効 果を発揮できるようにしたことと認めるのが相当である。
イ 前記2のとおり、被告製品は構成要件D2を充足するとは認められない\nところ、前記アのとおり、本件発明の構成要件C及びDに係る構\成を採用 することによって、回動中心から遠い部分でも、刃先が対象物に当たる傾 き角度θの値を大きく保つことで、引き切り作用を保ちスムーズな切断効 果を発揮できるようにしたことが本件発明の本質的部分であるから、被告 製品が本件発明の本質的部分を備えているとは認められず、本件発明と被 告製品とが異なる部分が本件発明の本質的部分ではないとはいえない。 したがって、被告製品は第1要件を充足しない。

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以下に、イ号図面などがあります。

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令和6(ネ)10010 損害賠償請求控訴事件(特許権侵害)  特許権  民事訴訟 令和6年8月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

女性の下着に関する特許権について、原審は102条3項に基づき、約700万円の損害賠償を認めました。1審被告は控訴しましたが、知財高裁は控訴棄却しました。控訴趣意書で新たに行った無効主張については、時機に後れた攻撃防御方法に該当すると判断したものの、判断しても無効理由なしと判断されました。

控訴人は、前記第2の4〔控訴人の主張〕のとおり、原審において主張し ていた無効理由とは異なる新たな無効理由(当審において新たに提出する乙 31文献による新規性欠如、同文献を主引用例とする進歩性欠如)を主張し、 被控訴人は、これにつき時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下を申し立てている。\n
(2) そこで、まず時機に後れた攻撃防御方法に当たるかについて検討すると、 控訴人による当審における新たな無効理由の主張は、令和6年2月6日付け 控訴理由書においてなされたものであるところ、特許権侵害訴訟において、 無効の抗弁は、特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続 内で迅速に解決するため、特許無効審判手続による無効審決の確定を待つこ となく主張することができるものとされており、特許無効審判とは別の手続 である民事訴訟手続内でのものであるから、審理の経過に鑑みて、審理を不 当に遅延させるものであるときは、時機に後れた攻撃防御方法に当たるもの として却下されるべきである。
これを基に原審における審理経過についてみると、一審被告である控訴人 は、原審において、令和3年10月27日提出の同月22日付け答弁書にお いて、被控訴人製品の本件発明の構成要件該当性を否認するとともに、乙8文献を主引用例とし、これと周知技術との組み合わせないし乙9文献を副引\n用例とする進歩性欠如の無効理由を主張した。これに対する一審原告である 被控訴人の反論等を受け、令和4年3月18日付け準備書面(3)において、乙 8文献による新規性欠如の無効理由を追加し、これに対する被控訴人の更な る反論を受けて、令和4年5月27日付け準備書面(4)において、更に乙8文 献を主引用例とし、乙10文献を副引用例とする進歩性欠如の無効理由を追 加した。これについての被控訴人の反論に対しては、更に令和4年8月29 日付け準備書面(5)において反論をした。
そして、侵害論について当事事者が主張立証を尽くしたことを前提とし、令 和4年8月31日に行われたウェブ会議の方法による書面準備手続において、 裁判所から損害論に審理を進める旨の心証開示を受けて(令和4年8月31 日の書面準備手続の経過表には、協議の結果欄に、「当事者双方 侵害論につ いての主張立証は尽くした。」「裁判長 今後、損害論についての審理を進め る。」との記載がある。)、損害論の審理が進められ、令和5年9月22日に行 われた口頭弁論期日において、控訴人は他に主張立証することはない旨を陳 述し、原審口頭弁論が終結されて原判決が言い渡されたものである。 こうした原審での審理経過に鑑みると、当審における新たな無効理由の主 張は、時機に後れて提出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたこ とについて控訴人には重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、 被控訴人から、予備的にではあるものの、当審において提出された無効理由についての反論がされており、これに対する控訴人の再反論の主張はなく当\n審の口頭弁論終結に至っていることから、この限度では訴訟の完結を遅延さ せることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとする。

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令和6(行ケ)10016  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年8月27日  知的財産高等裁判所

かなり珍しいケースです。出願人は拒絶審決に対して再審請求をしましたが、特許庁はかかる再審請求を審決却下しました。裁判所はかかる審決却下処分は間違っているとして取り消しました。理由は、再審請求の時点では審決が確定していなかったが、その後確定したので、瑕疵は治癒されたというものです。拒絶審決に対して通常は、審決取消訴訟を提起するのですが、代理人無しなので、再審請求をしてしまったのだと思われます。
なお、再審請求の審決却下が取り消されても、再審の審理がなされるだけです。 再審理由には該当しないとの審決がなされると思います。

確定審決に対しては、当事者又は参加人は、再審を請求することができる (特許法171条1項)が、拒絶査定不服審判の確定審決に対する再審は、 その再審請求が不適法であって、その補正をすることができないものについ ては、審決をもってこれを却下することができる(特許法174条2項、1 35条)とされている。そこで、本件再審請求が、不適法であって、その補 正をすることができないものであるか検討する。
ア 原審決については、原告が原審決の取消しを求める訴えを提起すること なく、原告に対する原審決の謄本の送達があった日(令和5年10月14 日)から30日、すなわち同年11月13日が経過したので、同日の経過 をもって原審決が確定したものと認められる。 原告が本件再審請求をしたのは令和5年11月9日であるから、その時 点では、原審決は確定していなかった。しかし、本件再審請求に対する判 断として本件審決がされたのは令和6年1月23日であり(前記第2の1 (6))、同日の時点では原審決は確定していたものである。そうすると、本件 再審請求については、請求の時点では原審決が確定していなかったという 瑕疵があったが、本件審決がされた時点では原審決が確定していたから、 上記瑕疵は治癒されたというべきであり、上記瑕疵を理由として本件再審 請求を却下することはできないと解するのが相当である。
イ そして、本件再審請求の再審請求書(甲4の8)によれば、原告は、同 請求書において、特許法171条2項が準用する民事訴訟法338条1項 の再審事由を主張していたと認められる。これらの再審事由が認められる か否かは別として、本件再審請求について、再審事由の主張がないという 違法性はない。 その他、本件再審請求について、補正をすることができない違法な点が あるとは認められない。
ウ 以上によれば、本件再審請求は、不適法であって、その補正をすること ができないものには当たらないというべきである。
(2) そうすると、本件再審請求が、不適法であって、その補正をすることがで きないものであるとした本件審決の判断は誤りであり、原告主張の取消事由 は理由がある。

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令和6(行ケ)10014  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年10月16日  知的財産高等裁判所

 発明該当性違反および実施可能要件違反として拒絶審決がなされました。知財高裁も同様の判断です。本人出願および本人訴訟です。\n

(1) 原告は、本願発明は、エネルギー保存の法則に反するものの、そもそも 同法則や作用・反作用の法則のような「古典力学」には欠陥があり、本願発 明はそのような古典力学以外の自然法則に従っている旨主張する。
しかし、本願発明に関して本願明細書で説明されている、リニアモーター カーを等加速度運動させた際、空気抵抗がない等の理想状態であれば、運転 開始からt秒後の消費エネルギーE1が時刻tの一次関数となること(前記 第2の2(2)イ(イ)、(ウ))は、何ら立証されていない。原告が提出する甲2 によっても、「無反動推進機の試作品」なるものが動作する(前進する)こ とが判明するのみで、その消費電力や運動エネルギーの状況は全く分からず、 上記の古典力学以外の自然法則を証明するものとは到底いえない。
(2) かえって、本願明細書によれば、本願発明は、定格運転角速度からの減 速の際に余剰エネルギーを回収することによって発電するものであり(上記 第2の2(2)イ(カ)〜(ケ))、その原理は、定格運転速度で運動エネルギーが 「損失+発電機出力分消費エネルギー」よりも大きくなるという事象に基づ くものである(上記第2の2(2)イ(オ))。この事象は、(単位時間当たり の)消費電力が一定で一方向力Fを発生させることを前提としているが(上 記第2の2(2)イ(ア))、これについては本願明細書【0003】(上記第 2の2(2)イ(イ))に記載のように、
F:リニアモーターがレールに対して発生させる力
m:リニアモーターカーの車体重量
a:リニアモーターカーの加速度
とすると
F=ma
であるから、力Fが一定であれば加速度aも一定となるため、リニアモーターカーは運転開始時刻t=0から等加速度運動を始める。この場合の変位xは
x=1/2at²
と表される(乙18の21頁)。そして、運転開始からの消費電力(消費エ\nネルギー)E1は物体がされた仕事Wに等しいから、
E1=W=Fx=(ma)×(1/2at²)=1/2ma²t²
と表され(乙18の78頁)、一定の力Fを発生させるには、運転開始から\nの消費電力(消費エネルギー)E1を時間tの二次関数に従って増加させる 必要がある。したがって、(単位時間当たりの)消費電力が一定で一方向力 Fを発生させるという前提に誤りがあることは明らかである。
以上のとおり、本願発明はエネルギー保存の法則に反するものであるから、 特許法2条1項でいう「自然法則を利用した」ものではなく、特許法29条 1項柱書に規定される「発明」に該当しない。
(3) よって、発明該当性を否定した本件審決に判断の誤りはなく、原告主張 の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(実施可能要件についての判断の誤り)について\n
上記1のとおり、本願発明は、自然法則に反するものであるから、当業者が 本願発明を実施できないことは明らかである。したがって、本願明細書の発明 の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号の実施可能要件を欠く。\n

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令和5(ネ)10111  不正競争行為差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和6年9月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 イス(TRIPP TRAPP)の類似品に対して、商品等表示も認められず、著作権の適用なしと判断された控訴審判決です。知財高裁も同様の判断をしました。\n

そこで検討すると、被告各製品の形態は、別紙「被告各製品の形態」記載 の構成aから構\成fまで(以下、単に「構成 a」などという。)のとおりで あり、これによると、被告各製品は、本件顕著な特徴を構成している特徴1) から特徴3)までとの対比において、左右一対の側木の2本脚であり、かつ、 座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されており(特 徴1))、左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木 の下端が脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面 に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の 形状を形成している(特徴2))が、側木の内側に溝は形成されておらず、側 木の後方部分に、固定部材と結合してネジ止めするための円形状の穴が多数 形成され、座面板及び足置板を側木の間で支持する支持部材、支持部材を側 木の間において掛け渡された状態で側木に固定する固定部材及びネジ部材を 備え、2本の側木後方に設けられた穴と固定部材を結合した状態でネジ部材 を閉めることで、支持部材と固定部材によって側木を前後から挟持して押圧 し、支持部材を側木に固定しており(構成f)、原告らの商品等表\示の特徴 3)を備えていないものと認められる。
なお、その他の形態上の諸要素を考慮しても、被告各製品は、側木及び脚 木からなる2本脚、背板、座面板及び足置板、横木のほかネジ部材、支持部 材、固定部材等から構成され、脚木は一直線であるが、側木は一直線ではな\nく、側木の上端部分は床面と垂直に折れ曲がっており、2本脚が、正面視で 床面に垂直で相互に平行となるように配置され、側木と脚木の結合部分から 離れた脚木中央部に横木が配置され、中央部に楕円形の穴が形成されている 背板は側木の最上部に配置され、座面板と足置板は楕円形の短辺を切り落と したような曲線的形状とされ、ネジ部材、支持部材及び固定部材等により側 木に固定されていることから、被告各製品の形態においては、曲線的な要素 とともに、座面板及び足置板の支持部分に複数の部材が利用され、その安定 性が特徴的となっており、その印象も、原告製品における、直線的な形態が 際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっている。 よって、原告製品全体の形態の特徴である本件顕著な特徴について、被告各 製品は、これを備えていないものと認められる。
(3) したがって、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、取引の 実情の下において、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づ く印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれ があるものということはできない。よって、原告らの商品等表示と被告各製\n品の形態が類似すると認めることはできない。
・・・
著作権法2条2項は、「美術の著作物」には「美術工芸品」を含むものとする旨規定しており、同項の美術工芸品は実用的な機能と切り離して独立の美的鑑賞の対象とすることができるようなものが想定されていると考えられるのであって、同項の規定は、それが例示規定であると解した場合でも、いわゆる応用美術に著作物性を認める場合の要件について前記のように解する一つの根拠となるというべきである。\n
(2) 以上を踏まえ、本件について検討すると、原告製品については、特徴1)か ら特徴3)まで及び側木と脚木をそれぞれ一直線とするデザインという本件顕 著な特徴があり、これにより原告製品の直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象を与えるものとなっていると認められることは、 前記のとおりである。しかし、本件顕著な特徴は、2本脚の間に座面板及び 足置板がある点(特徴1))、側木と脚木とが略L字型の形状を構成する点\n(特徴2))、側木の内側に形成された溝に沿って座面板等をはめ込み固定す る点(特徴3))からなるものであって、そのいずれにおいても高さの調整が 可能な子供用椅子としての実用的な機能\そのものを実現するために可能な複\n数の選択肢の中から選択された特徴である。また、これらの特徴により全体 として実現されているのも椅子としての機能である。したがって、本件顕著\nな特徴は、原告製品の椅子としての機能から分離することが困難なものであ\nる。すなわち、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現とし\nて美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて\n独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということは できない。また、原告製品は、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑 賞目的で制作されたものと認めることもできない。それのみならず、仮に、 原告製品の本件顕著な特徴について、独立の美的鑑賞の対象となり得るよう な創作性があると考えたとしても、前記のとおり、被告各製品は、本件顕著 な特徴を備えていないから、原告製品の形態が表現する、直線的な形態が際\n立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているの であって、被告各製品から原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得する\nことはできない。そうすると、結局、本件において、著作権侵害は成立しないといわざるを得ない。

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令和6(ラ)10002  発信者情報開示命令申立却下決定に対する即時抗告  その他 令和6年10月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

台湾のプロバイダーが日本国内でサービスを提供している場合に、裁判管轄が争われました。原審は「管轄があるとはいえない」と判断しましたが、知財高裁(4部)はこれを取り消しました。

プロバイダ責任制限法9条1項3号は、我が国の裁判所が発信者情報開示命 令の申立てについて管轄権を有する場合として、同項1号及び 2 号に掲げるも ののほか、日本において事業を行う者を相手方とする場合において、申立てが\n当該相手方の日本における業務に関するものであるときを定めている。
ところで、近年における情報流通の国際化の現状を考えると、インターネッ ト上の国境を越えた著作権侵害に対する司法的救済に支障が生じないよう適切 な対応が求められている。地域的・国際的にオープンな性格を有するインター ネット接続サービスの特性を踏まえると、当該サービスを提供する事業者の業 務が「日本における」ものか否かを形式的・硬直的に判断することは適切でな く、その利用の実情等に即した柔軟な解釈・適用が必要になると解される。 こうした点を踏まえて、以下具体的に検討する。
2 相手方が「日本において事業を行う者」といえるか
一件記録によれば、相手方は台湾に所在し、電気通信業を営む法人であるも のの、日本国内において、主に台湾からの旅行者のために国際ローミングサー ビスを提供しており、日本の空港等では日本から台湾への旅行者向けにSIM カードを販売していることが認められる。そうすると、相手方は、「日本におい て事業を行う者」に当たるということができる。
3 「申立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」といえるか\n一件記録によれば、本件各投稿がされたサイトである「BOOTH」は、日 本語が使用される日本向けのサイトであって、相手方が台湾で提供するインタ ーネット接続サービスが、当該サイトのサーバに接続され、その結果、本件各 投稿がされたこと、本件各投稿のうちの一部の投稿(甲4の1)には、「お初の オリジナルTL漫画です。よろしくお願いします」、「追加支援のお方ありがと うございます。今後もよろしくお願いします。」との流ちょうな日本語による記 載があることが認められ、本件各投稿は、日本人向けに提供されているSIM カードその他の相手方の日本人向けサービスを利用して行われた可能性が高い\nといえる。
そして、上記のとおり、当裁判所は、相手方に対して反論等の提出を求めた ものの、期限を過ぎても相手方からの応答はなかったのであり、本件において、 上記判断を覆すに足りる証拠もない。 以上によると、本件各投稿は、実質的に見て日本に居住する日本人向けとし か考えられないようなインターネット接続サービスを利用して行われたといえ る。そのような場合に、あえて国内のプロバイダを経由することなく、外国に 業務の本拠を置くプロバイダが利用されたからといって、当該業務が「日本に おける」ものでないとして我が国の国際裁判管轄を否定するのは相当でない。 本件申立ては、「申\立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」に当た るというべきである。
4 以上のとおり、本件申立ては、日本において事業を行う者を相手方とし、当該相手方の日本における事業に関する訴えであると認められるから、プロバイダ責任制限法9条1項3号により、日本の裁判所に国際裁判管轄があるというのが相当である。そうすると、国際裁判管轄がないことを理由に抗告人の本件申\立てを却下した原決定は相当ではなく、本件抗告は理由がある。よって、原決定を取り消し、原審において更に審理を尽くさせるため本件を東京地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

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令和6(ラ)10003  閲覧等の制限申立却下決定に対する即時抗告申\立事件 令和6年9月5日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権侵害訴訟にて口外禁止条項を含む和解が成立しました。侵害事件の被告は、本件和解条項および提出済みの準備書面及び書証の一部につき、民訴法92条1項2号に基づく閲覧等の制限の申立てをしました。1審は、準備書面及び書証については、その一部について閲覧制限を認めませんでした。侵害事件の被告は、知財高裁に抗告しました。知財高裁は、全体として営業秘密に該当するとして、準備書面及び書証について閲覧制限を認めました。原審の判決はアップされていません。

抗告人は、和解条項は一体不可分に結びついて初めて意味を持つものであり、 本件和解条項においてもその全体について営業秘密性を判断すべきであると主 張するので、この点を踏まえつつ、営業秘密が認められるための要件(不正競 争防止法2条6項所定の1)秘密管理性、2)有用性、3)非公知性)の充足の有無 につき、以下順次検討する。
(1) 秘密管理性について
一件記録によれば、抗告人は、本件和解条項について、抗告人が定める秘 密管理規程上の「秘」情報と位置づけ、抗告人の代表取締役及び常勤監査役\n並びに抗告人の法務部門に属する者のみがアクセスすることができるように 制限を付し、これらの者が第三者に開示又は漏洩することを禁止して、一体 的に管理していることが認められる。 本件和解条項の一部につき、これと異なる扱いがされているような事情は 一切うかがわれず、以上によれば、抗告人は、本件和解条項の全部を、一体 不可分の秘密として管理しているものと認められる。
(2) 有用性について
一件記録によれば、抗告人は、本件和解条項を含む特許等紛争の和解条項 については、いかなる相手といかなる条件で和解の合意をするかという事業 方針に関わる有用な情報であるとの認識の下、和解条項全体として、上記(1) のような管理を行っていることが認められる。特に特許訴訟の帰趨は、知財 戦略に大きな影響を及ぼしたり、レピュテーションリスクにつながりかねな い機微が含まれる場合もあること、そうした影響を考慮しつつ、経営体とし ての和解に係る最終的な判断をするためには、和解条項全体を通じて検討す る必要があることを考えれば、抗告人の上記認識及び取扱いは首肯できるも のである。 以上によれば、本件和解条項は、その全体が、事業活動に有用な営業上の 情報に当たるものといえる。
(3) 非公知性について
本件和解条項は、いわゆる口外禁止条項を含むものであるところ、本件の 閲覧等制限等の申立ては、和解成立日から約1か月後に申\し立てられており その間に本件和解条項の閲覧等がされた事実は記録上確認できない。以上の 事実関係の下で、本件和解条項の全部又は一部が基本事件の当事者以外の者 に公然と知られるに至ったとは考えられない。よって、本件和解条項は、そ の全体につき、非公知性の要件を満たすと認められる。 基本事件原告は、和解条項に口外禁止条項があったとしても第三者からの 記録の閲覧申請は拒否することができない以上、非公知性を獲得することは\nあり得ないとの意見を述べるが、和解成立後速やかに閲覧等制限の申立てが\nされ、現に閲覧等が行われた事実も認められない本件において、上記意見は 採用できない。
(4) 以上によれば、本件和解条項は、その全体が不可分なものとして、営業秘 密に当たるというべきである。
2 裁判の公開原則との関係について
基本事件原告の意見は、民事訴訟法91条が憲法82条の裁判の公開原則に 由来するものであることを強調しているので、この点に関する当裁判所の考え を示しておく。 まず、憲法82条1項が裁判の公開を求めているのは、裁判の「対審」と「判 決」であるところ、「対審」とは、民事訴訟における口頭弁論手続及び刑事訴訟 における公判手続を指し、本件和解の手続が行われた弁論準備手続が当然に含 まれるわけではないし、訴訟上の和解が「判決」と異なり、公開の法廷で言い 渡すような性質のものでないことはいうまでもない。 そもそも、民事訴訟においては、私的自治の原則の反映として、訴訟物たる 権利関係を当事者に委ねる処分権主義が採用されており、当事者の自律的解決 を尊重することが求められている。本件の基本事件において、基本事件原告と 基本事件被告(抗告人)は、公開の要請が働く判決の手続ではなく、訴訟上の和解という非公開の手続による終局的な解決を選択するとともに、口外禁止条 項を合意し、本件和解条項に係る情報の流出、漏洩を防止しようとしているの である。それにもかかわらず、民事訴訟法91条1項の手続によって、和解条 項が第三者に閲覧されてしまうとすれば、上記のような和解を決断した当事者 の意図・期待に反する結果となることは明らかである。このような場合に、和 解条項の全部につき閲覧等制限決定をすることは、民事訴訟の基本原則である 処分権主義、当事者の自律的解決尊重の要請に沿うものであって、裁判の公開 の原則と何ら抵触するものではない。

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平成26(ワ)12570  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成29年1月31日  大阪地方裁判所

以前の判決ですが、漏れていたのでアップします。
使用済みのトナーカートリッジに、インクを詰めたリサイクル品の製造・販売等が,不正競争防止法の品質等誤認惹起行為に該当するとともに、商標権侵害となると判断されました。被告は、販売時に、RFIDをリセットすることで、トナー交換メッセージが表示されるのを解除していましたが、これにともない「シテイノトナーガソ\ウチャクサレテイマス」との表示がなされるようになり、これが品質誤認等に該当するとの判断です。\n

ア 被告は,経済常識によれば,原告京セラDSがリサイクル品を指定,すなわ ちお墨付きを与えることはあり得ないことから,需要者は,被告商品を原告プリン ターに装着したときにディスプレイに現れる「シテイノトナー」を原告京セラDS の主張するような意味に理解することはないと主張するが,原告京セラDSがいか なる場合にも他社の安価なリサイクル品を指定トナーとすることはあり得ないと断 定する根拠はないのであるから,当該表示が「誤認させるような表\示」であること は免れないというべきである。
イ 被告は,被告商品がリサイクル品であることが明らかとなるよう純正品であ ることを否定する打ち消し表示がされていること,プリンターメーカーの純正リサ\nイクル品であればその旨の表示があるはずであるのにそのような表\示がないこと, また,そもそも需要者はリサイクル品と純正品とを区別して購入しているものであ ること等を指摘し,本件指定表示が,「誤認させるような表\示」ではない旨主張する。 上記第2の2(3)ウのとおり,被告商品の包装や外箱には,被告商品がリサイクル 品であることが理解できる記載がされているが,プリンターメーカーが新品の純正 品だけでなく,リサイクル品を販売している例もあるし(甲10の1ないし3),プ リンターメーカーが定める品質が,プリンターメーカー以外が製造するリサイクル 品においてあり得ないとまで断定できない以上,需要者が,被告商品を原告プリン ターに装着することによりディスプレイに現れる本件指定表示によって,被告商品\nの品質,内容について誤認するおそれを完全に否定することはできない。そして, この点は,被告商品を原告らとは関係のない業者が製造したリサイクル品と明確に 認識して購入した需要者であっても同様であって,被告の上記主張は採用できない。
ウ 被告は,ステータスページのトナー残量を表示させるためRFIDをリセッ\nトすると,これに連動して本件指定表示が現れるようにする原告純正品にされた設\n定は,不正競争防止法の問題を生じさせるようあえて設定されたものであって,競 争者に対する取引妨害を禁止する独占禁止法の趣旨に反するとし,被告商品による 不正競争該当性を否定すべきである旨主張する。 確かに,原告純正品についてなされた設定が,使用済み原告純正品のカートリッ ジを再利用してリサイクル品とする場合に,商品として競争力を減殺するものであ れば独占禁止法上問題とされる余地はあると考えられる。しかし,そもそも,RF IDをリセットしない原告純正品のリサイクル品であっても,トナー残量が不足し てきた場合には,プリンターのディスプレイには,「トナーガスクナクナリマシタ」, 「トナーヲコウカンシテクダサイ」との表示がされ,業務上支障がないよう配慮さ\nれているのであるから,プリントする必要があるステータスページのトナー残量が 表示できるようRFIDのリセットをしなければ,原告純正品のリサイクル品の製\n造販売が阻害されるような前提でいう被告の主張は,その点で採用し難い。 また,原告純正品のステータスページにおけるトナー残量表示は,規定量の充填\nされた新品の「シテイノトナー」を前提に,各印刷物のドット量等から使用量を計 算するなどして表示しているというのであるから(弁論の全趣旨),そもそも原告京\nセラDSにおいて規定量が充填されているか否かを確認できないトナーカートリッ ジを前提にRFIDをリセットして使用することは想定されておらず,そのリセッ トを自由にさせるよう求めることになる被告の主張はこの点でも採用できない。 したがって,原告純正品にされた,本件指定表示とステータスページを関連づけ\nた設定が独占禁止法の趣旨に反する旨の被告の主張は採用できない。
・・・
(1) 被告商品2には,トナーカートリッジの底面に本件商標が付されており,そ の表示態様は,被告商品2において,商品の出所を識別表\示させるものといえる。 そして被告商品2は,本件商標の指定商品であるトナーカートリッジであるから, 被告商品2を製造販売する行為は,本件商標権の侵害行為を構成するといえる。\n
(2) これに対し,被告は,被告商品2には,原告らが流通に置いた商品であり, かつ,リサイクル品であることが一見して明らかな表示を幾重にも施しているから,\n需要者が被告商品2の出所を原告京セラ又はそのグループ会社であると誤認するこ とはあり得ないとして,被告の行為は本件商標権侵害の違法性を欠く旨主張する。 確かに,上記第2の2(3)ウ(ア)のとおり,被告商品2の本体及び梱包した箱には, 被告商品2がリサイクル品であることが明示されていることが認められる。また, 箱の中に入れられている,「ご使用前の注意」と題する書面,「リサイクルカートリ ッジトラブル調査票」によっても,被告商品2がリサイクル品であることは明らか にされていることも認められる。 しかしながら,被告商品2の本体には,製造元等の記載は全く存在しないから, 本体に付された上記のような表示ラベルだけでは,本件商品2の本体に付された本\n件商標の出所表示機能\を打ち消す表示として十\分なものとはいえない。

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令和5(行ケ)10107  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年8月28日  知的財産高等裁判所

進歩性違反無しとした審決が取り消されました。

ウ 以上を踏まえ、相違点1について検討する。前記(2)のとおり、甲1発明 において、「加熱コイルを収容するケース」は、「コア10とソールプレ\nート26」から構成されるものと認められるところ、このうち「ソ\ールプ レート26」は、「アセンブリの底部に適用され、溶接されるべき非金属 複合アセンブリに含まれる金属サセプタに、コイルによって発生した渦電 流を印加するために設けられる」(甲1文献・訳文3頁)ものとされてい ることからすると、「ソールプレート26」は、コイルを収容するケース\nとしてコイルと加熱対象物との間に置かれ、コイルによって発生した磁束 を加熱対象物である金属サセプタに届かせるため、当該磁束を通過させる 材料で構成されているものと理解される。そして、前記の誘導加熱の原理\nからすると、電気絶縁性の非磁性材は、磁束に何ら影響を与えることなく、 磁束を通過させる性質を有するものであり、前記各文献によれば、電気絶 縁性の非磁性材の構成材料としてはセラミックや樹脂があったことが周知\nであったと認められる。 そうすると、甲1発明の「ケース」を構成する「コア10とソ\ールプレ ート26」のうち「ソールプレート26」について、磁束を通過させる性\n質を有する電気絶縁性の非磁性材として周知のセラミック又は樹脂を選択 し、「コア10と電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂」で構成され\nる「ケース」とすることは、当業者にとって容易想到であったというべき である。
エ この点に関し、被告は、本件発明1に係る特許請求の範囲の請求項1の 記載によれば「ケースの全て」や「ケースの一部」などの解釈がされる余 地はなく、本件審決は、フェライト材料又は粉末鉄で作られたコアを請求 項1のケースの構成に置き換えられるかを判断しているだけであるなどと\n主張する。 しかしながら、前記(1)のとおり、本件発明1に係る特許請求の範囲の請 求項1には「電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂で構成され前記加\n熱コイルを収容するケース」と記載されているにとどまるから、ケースの 構成が前記の要素「のみ」からなるものに限定されるものと解することは困難である。\nよって、被告の主張は前提となる本件発明1の特許請求の範囲の解釈を 異にしており、これを採用することはできない。
(5) 小括
以上によれば、本件発明1と甲1発明の相違点1については容易想到であ ったというべきであり、相違点2から4までについては、前記のとおり進歩 性は否定されるから、結局、本件発明1は、甲1発明に基づいて出願前に当 業者が容易に発明することができたとものと認めるのが相当である。

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令和6(行ケ)10030 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年9月11日  知的財産高等裁判所

商標「遠隔シャンパン」が商標法4条1項7号に該当するとした審決が維持されました。指定商品・役務は、審査段階では、35類「酒類の小売」、42類「プログラムの提供」もありましたが、審判請求時に9類「コンピュータプログラム」のみに限定しています。

(1) 原告は、「遠隔シャンパン」の語は、キャバレークラブ、ホストクラブな どの特定の店舗のキャスト(接待するスタッフ等)等に対して、ゲストが実 際に店舗に来店しなくても、シャンパン等をプレゼントとして贈る行為を意 味し、著名な「シャンパン」とは意味合いが異なると主張する。 しかし、原告提出の証拠(原告が提供するアプリケーションを紹介するウ ェブサイト(甲3)、検索エンジンにおける「遠隔シャンパン」の検索結果 (甲4))によっても、「遠隔シャンパン」が原告の主張する意味で用いら れる例があることは認められるが、一般的に認識されているとまでは認めら れないし、生産地域、製造方法や品質等が厳格に管理された発泡性ぶどう酒 のみに使用することができるものとしてフランスで組織的に管理されてきた 著名な「シャンパン」の名称を、それ以外の商品や役務を示す名称の一部と して利用していることに変わりはない。原告主張の「遠隔シャンパン」の意 味自体、著名性かつ顧客吸引力を有する「シャンパン」の存在を前提とする ものと解され、本願商標の構成からは、「エンカクシャンパン」以外に、カ\nタカナ部分に基づき「シャンパン」の称呼及び概念が生ずることを否定する ことはできない。 原告は、いわゆる夜の接客業において「シャンパン」という言葉には「祝 杯や祝福の象徴」という意味合いがあり、単に酒類の名称を意味するもので はないとも主張するが、原告が提出したインターネット記事(甲5)は、酒類である「シャンパン」が「祝杯や祝福の象徴とされ」ると説明しているに すぎない。その他、原告の主張を裏付ける証拠はない。
(2) 原告は、「シャンパン」の文字を含む登録商標がなお存在し、フランスの 関係機関等からの無効審判請求等がない時点において、国際信義に反すると 評価することは、抽象的な危険を理由に私人の事業活動を著しく制限するも のとなり、産業の発展に寄与するという商標法の法目的に反すると主張する。 しかし、前記1の認定判断は、現時点で「シャンパン」の文字を含む登録 商標がほかに存在することや、(商標登録前であるから当然であるが)本願 商標についてフランスの関係機関等から未だ登録異議の申立てや、無効審判\n請求等がなされていないことによって左右されるものではないから、原告の 主張は採用することができない。

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令和5(行ケ)10124  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年9月11日  知的財産高等裁判所

 特許異議申し立てで取り消された審決について、知財高裁は訂正後の構\成は新規事項であるとした審決を維持しました。

a 変更フラグについて
変更フラグは、動きベクトル候補を示すリストを変更するための制 御情報であり(【0203】、【0205】、【0207】)、変更フ ラグによって動きベクトル候補が変更される場合に、結果として動き ベクトル候補の数が変更される場合があること自体は認められる(図 46〜図48)。また、時間動きベクトル候補はtemporal1つ しか存在しないため、時間動きベクトル候補だけが変更されると、必ず 動きベクトル候補の数が変更されるといえる(図46、図47)。 しかし、変更フラグをオンにすることは、変更後の動きベクトル候補 を示すリストを符号化して送信することにとどまるのであり(【020 3】、【0205】)、動きベクトルの数を制御情報として送信するこ とは本件明細書等に記載されていない。また、本件明細書等においてリ スト変更の具体的態様を制限する記載はなく、空間動きベクトル候補 はMV_A、MV_B、MV_C、medianの4つがある(【01 83】、【0184】、【0193】)ため、各々が候補に加わる、又 は候補から外れることにより、空間動きベクトル候補だけが変更され る場合には、空間動きベクトル候補の数は変更される場合と変更されない場合があるから、「変更フラグ」オンは、候補ベクトル数が変わる 場合と変わらない場合を含んでいることになる。そうすると、「変更フ ラグ」に係る制御情報は、動きベクトル候補の数の変更を目的とするも のと理解することはできず、変更フラグは、「動きベクトル候補の数を 変更するための制御情報」に当たらない。
b 閾値Th及び最大ベクトル数について
閾値は、本件明細書【0111】、【0139】によれば、「この場 合、例えば、複数のベクトル候補のうち、閾値Th以下の評価値SAD になる候補の全てを使用して予測画像を生成する方法が考えられる。」\nとあることから、予測画像の生成に使用する動きベクトル候補を選定\nするための設定値である。予測に用いるベクトルの本数は、評価値SA\nDが閾値Th以下となる候補ベクトルの本数となるが、評価値は符号 化対象となるブロックの各候補ベクトルについて算出されるものであ るから(【0068】、【0076】、【0077】、【0079】〜 【0081】、【0089】)、閾値を定めても、符号化対象となるブ ロックが具体的に特定されなければ、「動きベクトル候補の数」が変更 されたか否かは特定できない。そうすると、「閾値Th」に係る制御情 報は、ベクトル数の変更に関与する情報ではあるが、変更に結果的、間 接的に寄与するものにすぎず、動きベクトル候補の数の変更を目的と するものと解することはできないから、「動きベクトル候補の数を変更 するための制御情報」に該当しない。
また、本件明細書【0111】、【0139】によれば、最大ベクト ル数についても、「閾値Th以下の候補の全てを使用するのではなく、 スライスヘッダなどに、予め使用する最大ベクトル数を定めておき、評\n価値の小さい候補から最大ベクトル数分用いて予測画像を生成するよ\nうに」するというもので、予測画像の生成に使用する動きベクトル候補\nを選定するための設定値という点で閾値Thと同様であるから、「最大 ベクトル数」を定めても、符号化対象となるブロックが具体的に特定さ れ評価値が計算されない限り「動きベクトル候補の数」が変更されたか 否かは特定できない。そうすると、「最大ベクトル数」に係る制御情報 は、ベクトル数の変更に関与する情報ではあるが、変更に結果的、間接 的に寄与するものにすぎず、動きベクトル候補の数の変更を目的とす るものと解することはできないから、「動きベクトル候補の数を変更す るための制御情報」に該当しない。
さらに、最大ベクトル数について言及する本件明細書【0111】、 【0139】は、実施の形態1における画像符号化及び復号処理の変形 例である実施の形態2、3について記載したものである。実施の形態1 における復号処理(本件明細書【0086】〜【0093】、特に【0 089】)に【0111】、【0139】の「最大ベクトル数」を定め ておく方法を適用した場合、予め定められた候補ベクトルを全て復号\nし、評価値の小さい候補から最大ベクトル数分を用いて予測画像を生\n成することになる。その場合、動きベクトルの選択のために、インデッ クス情報を用いる(【0143】)のではなく、評価値と最大ベクトル 数をもとに選択した候補ベクトルを用いることになる。他方、本件明細 書中、インデックス情報を用いる実施の形態4、その変形例である実施 の形態6、7に関し、最大ベクトル数に関する記載はない。そうすると、 最大ベクトル数の使用に関する本件明細書の記載は、「動きベクトル候 補」が「当該インデックス情報に基づき選択される」ことを発明特定事 項とする本件発明に関わるものではないというほかない。原告は、実施 の形態6、7が実施の形態2、3の上位互換の関係に当たる旨主張する が、両者は別個の技術というべきであり、採用できない。
(イ) 以上によれば、本件明細書における「変更フラグ」、「閾値Th」及び 「最大ベクトル数」は、いずれも「動きベクトル候補の数を変更するため の制御情報」に該当せず、本件明細書等において、他に上記情報に該当す る情報に関する記載は見当たらない。 したがって、「当該インデックス情報に基づき選択される動きベクト ル候補の数を変更するための制御情報」との事項は、本件明細書等に記 載された事項ではない。訂正事項2による訂正は、本件明細書等に記載 のない事項を更に限定する訂正事項を含むものであるから、本件明細書 等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

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◆令和5(行ケ)10125

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令和6(ネ)10014 投稿削除及び損害賠償の請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和6年8月8日 知的財産高等裁判所(原審・東京地裁 令和4年(ワ)13396号)

マッチングサイトにおける批判的投稿について、一審では、約50万円の損害賠償が認められましたが、知財高裁は、公共の利害に関するものであるとともに、目的の公益性が認められるとして、これを取り消しました。

3 争点4(不法行為の成否)について
(1) 被控訴人の主張 被控訴人は、控訴人による本件投稿が被控訴人に対する不法行為に当たる理由と して、不競法2条1項20号及び21号に該当する旨を主張する。これらのうち、前 者は本件投稿により控訴人の提供する役務の品質を誤認させて被控訴人の信用が毀 損された旨を、後者は本件投稿により被控訴人の信用が毀損された旨を、それぞれ 主張するものと解される。しかし、前者すなわち品質誤認を理由とする点について は、本件投稿は、控訴人の役務の質を誤認させるような表示に当たるとは認められ\nないから、これを不法行為に当たるということはできない。
(2) 信用毀損による不法行為について
本件投稿は、「被控訴人は、何度やり取りしても、控訴人担当者からの質問に明確に回答しない」、「被控訴人は、やり取りに際して、相手方の権限を確認した」、「被 控訴人は、「なんで答える必要あるの?」と、合理的な理由を示すことなく、質問へ の回答を拒否した」、「XDでモックを作成したのに、違うものが出来上がり、XD に合わせるには別料金が必要で、それが明らかに金額が高い」、「被控訴人が納品し た成果物は、仕様を満たさず、使用に耐えないものであった」等の事実を摘示し、ま た、控訴人の意見又は論評として、「引くに引けない状況で、この高額見積もりは、 守銭奴ビジネスとしては正解なのかも知れないが、人としてはどうなのかと思いま した。」、「いい勉強になりました。」と述べているものと認められる。 本件投稿のうち、事実を摘示する部分については、本件サイト(ランサーズ)を閲 覧する者の普通の注意と読み方とを基準とすると、被控訴人の社会的評価を低下さ せるものといえる。しかし、本件サイトは、社会において有用性のあるサービスとし て運営されている、インターネット上での個人間又は個人と法人との間での請負契 約に係るマッチングサイトであって、そこでされる投稿は、本件サイトを通じて契 約の申込みや締結等を行う者にとって、その相手方がどのような仕事をするか等の\n参考に供されるものであるから、そのような参考に供されるべき投稿の内容は公共 の利害に関するものであるとともに、目的の公益性が認められるというべきところ、 本件投稿につき特段これに反する事情はうかがわれない。そして、上記1で認定説 示したところに加え、控訴人は、本件サイネージ案件に関し、被控訴人に対して38 万円を支払ったのに十分な成果物を得られず(甲15、乙7、8、12)、被控訴人\nからは改修に要するとして合計40万9223円の見積りを提示され(甲21、乙 9)、結局は別業者に依頼して案件を完成させたこと(乙10の1・2)等、証拠上 認められる事実関係に照らすと、本件投稿により摘示された事実は、重要な部分に ついて真実であると認められる。
なお、被控訴人が、本件投稿部分1中の「なんで答える必要あるの?」との文言をそのまま記載し、又は発話した事実はないところ、同文言は、閲覧者において、やや 投げ遣りな感じを抱かせる言葉遣いであるといえる。しかし、前記1(1)ア(イ)のと おり、被控訴人は、控訴人担当者等からの複数回にわたる確認に対して、合理的な理 由を示すことなく、質問への回答を拒否し続けた状態であったことから、控訴人に おいて、このような被控訴人の対応を要約して同文言を使用したものであったこと に照らすと、本件投稿における同文言の記載をもって、いまだ不法行為が成立する ものと認めることはできない。 また、本件投稿のうち、意見又は論評にわたる部分については、「守銭奴ビジネ ス」との記載にやや穏当を欠く点があることは否定できないものの、既に認定説示 した事実経過等に照らし、いまだ意見又は論評としての域を逸脱したものとまでは 認められない。
(3) まとめ
以上によると、控訴人が本件投稿をしたことが、被控訴人に対する不法行為に当 たるということはできない。

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令和5(行ケ)10128等  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年8月8日  知的財産高等裁判所

 元ライセンシーが行った商標権の取得について、一部は公序良俗違反(4条1項7号)と判断されました。A〜C事件は、商標登録を無効とした審決の各取消訴訟であり、D〜G事件は、商標登録無効審判請求を不成立とした審決の各取消訴訟です。

ア 以上のとおり、被告は、平成26年頃、サクラグループに対して本件ライセ ンス契約の解除を求め、令和2年頃には、本件ライセンス契約終了後はサクラグル ープとライセンスビジネスを継続する意思がないことを示し、全ての商標権の返還 を求めるなどした。これに対し、原告は、サクラグループから本件商標D〜Gに係 る商標権の移転を受けて、本件ライセンス契約の最終盤期である令和2年頃から、 日本、韓国、中国、台湾等で、「Mark Gonzales」、「(what it isNt)」等の文字列やエンジェルのデザインを含む商標の登録出願を多数行い、本件ライセンス契約が終 了したことが明白である令和4年1月1日以降も、ライセンシーを通じて「Mark Gonzales」やエンジェルが付された商品を販売等している。しかし、上記にみたと おり、原告は、MPSA契約によってエンジェル1、2及び本件サインの著作権を 取得したとはいえないし、本件ライセンス契約は事実上MPSA契約の内容を更改 することを含むものである。仮にMPSA契約がいまだ有効であるとしても、同契 約上、原告に許容されているのは本件アルバムの宣伝目的で、かつ、Tシャツ等へ のカバーアートの複製と被告等の氏名の使用にとどまっているのに、原告が現在行 っている「(what it isNt)」ブランドの展開は、本件アルバムの宣伝目的の範囲内や、カバーアートの複製の範囲を越えるものである。しかも、原告は、本件ライセ ンス契約の終了後、被告が自ら展開する日本国内のサブライセンシーや販売店に警 告書を送付するなどして、被告のブランド展開を阻止しようとしている。
このような令和2年以降の原告の動きからすると、原告は、本件商標A〜Cを出 願した時点(令和2年12月26日及び令和3年6月30日)において、原告等と 被告との紛争が顕在化し、本件ライセンス契約が終了した後はエンジェル1、2や 被告の名称が使用できなくなることを十分了知しながら、これらの商標の登録を得\nた後は、商標権に基づき、被告が自ら日本国内で展開するエンジェルや「Mark Gonzales」の名称を用いた商品の販売等の差止めを求めるなどして、原告等以外の 者がこれらの商品を販売することを妨害、阻止する不正の目的、意図を有していた と認められる。
そうすると、このような原告の本件商標A〜Cの登録出願は、商標登録出願について先願主義を採用している我が国の法制度を前提としても、「商標を保護するこ とにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に 寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法1条)に反 し、公正な商標秩序を乱すものというべきであり、かつ、健全な法感情に照らし条 理上も許されないというべきであるから、本件商標A〜Cは、商標法4条1項7号 の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきで ある。
イ 原告は、MPSA契約により原告がエンジェル1、2及び本件サインの著作 権を取得したと主張するが、同主張が採用できないことは前記(1)イのとおりであ る。
原告は、エンジェル1、2及び本件サインには本件ライセンス契約が適用されな いと主張し、その理由として、1)本件アルバム制作時と本件ライセンス契約の先後 関係、2)原告とサクラグループが別法人であること、3)被告はエンジェル1、2及 び本件サインについて100%の著作権を有していないこと等を挙げる。しかし、 1)につき、既に制作されたデザイン等を後に契約の対象とすることはあり得ること であり、契約が遅れてされたからといって対象に含まれないということにはならな い。2)につき、サクラグループの代表者が原告代表\者の妻であること、原告代表者\nが本件ライセンス契約の締結に関与していることは原告自らが認めていること(原 告代表者の陳述書(甲156))、サクラグループと原告とは、互いに本件商標D〜\nGの移転を繰り返しており、被告に関するビジネスの関係では一体的に活動してい るとみられることから、原告が、形式的にサクラグループと別法人であることを理由に、本件ライセンス契約上の義務等を免れようとすることは、信義則上、許され ないというべきである。3)につき、MPSA契約によりエンジェル1、2及び本件 サインの著作権が原告に移転していないことは前記のとおりであり、原告が提出す る他の証拠等によっても、本件ライセンス契約時に、被告が、エンジェル1、2及 び本件サインの使用を許諾する権限がなかったとは認められない。
原告は、本件商標Aについて、有効に存続する既存の商標の組合せにすぎないか ら、商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くということはあり得ないと主張する。 しかし、構成自体は既存の商標の組合せであっても、前記のとおり、原告は、不正\nな目的、意図をもって登録出願しているといえるから、同主張は採用できない。
原告は、契約の解釈の相違や権利関係の紛争等の私的領域の問題は、商標法4条 1項7号該当性の判断に際しては考慮されるべき事項ではないと主張する。しかし、 本件商標A〜Cに関していえば、前記のとおり、原告は、原告等と被告との紛争が 顕在化してから、本件ライセンス契約の終了を間近に控えていることを了知しなが ら、契約終了後も原告等以外の者がエンジェルや「Mark Gonzales」の名称を用いた 商品を販売することを妨害、阻止する意図をもって登録出願したといえるのであっ て、このような登録出願を新たに許容することは、商標制度について無用の混乱をもたらし、社会公共の利益にも反するというべきであるから、その背後に契約上の 解釈の相違や権利関係の紛争等、私的領域の問題があるとしても、公序良俗に反す る商標と認めることは妨げられない。
ウ したがって、本件商標A〜Cは、商標法4条1項7号に該当するというべき であるから、原告が主張する本件審決A〜Cの取消事由2には理由がない。
(3) 本件商標D〜Gについて(被告の主張する取消事由について)
ア これに対し、本件商標D〜Gについては、前記(1)イのとおり、MPSA契約 には明示されていないが、同契約の実質的当事者というべき被告は、目的が限定さ れているとはいえ、Tシャツ等にアルバムカバーアート等を複製して販売する権利 や、被告の氏名を使用する権利を原告に許諾していたのであるから、当該販売が国 内で円滑に行われるべく、原告が商標登録出願をすることを少なくとも黙認してい たと推認できるし、原告による本件商標F、Gの登録出願に承諾を与えている。そ うすると、この頃(平成14〜15年)にされたエンジェル2を構成とする本件商\n標D、E及び「MARK GONZALES」の文字列からなる本件商標F、G(指定商品は、D 及びGが第18類(かばん類等)、E及びFが第25類(洋服等))の各登録出願について、原告に不正の目的、意図等を認めることはできない。
前記(1)及び(2)のとおり、その後、本件ライセンス契約が締結され、その最終盤 期においては原告等と被告との間で紛争となり、原告が、不正の目的をもって商標 登録出願するなどの事態となったが、少なくとも、平成26年頃に被告が本件ライ センス契約上のロイヤリティの受領を拒むようになるまでは、サクラグループによ る被告に関連する商品のライセンス事業は円滑に進められていたとみられ、また、 被告も、結局は令和3年12月31日までのロイヤリティ又はロイヤリティ相当額 を受領している。そうすると、原告等と被告との紛争が深刻になったのは、被告が 原告等に対して、本件ライセンス契約を更新等する意思がないとし、全ての商標権 の返還を求めるようになった令和2年頃からというべきであり、その間、本件商標 D〜Gに関しては、登録後15年以上の間、契約に沿って、安定的に使用されてき たということができる。
そして、出願時に不正の目的、意図等が認められない商標についてライセンス契 約を締結し、その利用関係等を整理するのであれば、その契約の定めにより、契約 終了時に当該商標権をどのように取り扱うか等を規律することができるのであっ て、現実に、本件ライセンス契約11条においても、登録した権利の返却に関する 条項が設けられているところである。本来、商標法4条1項7号は、商標の構成自\n体に公序良俗違反がある場合に商標登録を認めない規定であって、商標の構成自体\nに公序良俗違反がないとして登録された商標について、例えば、社会通念の変化に よって、その構成が善良の風俗を害するおそれがある商標となるなど反公益的性格\nを帯びるようになっている場合、後発的に同号に該当し、同法46条1項6号の規定により無効とすべき場合がないとはいえない。しかし、本件商標D〜Gに関して いえば、原告等と被告との間で後発的に法的紛争が生じたのは、当事者間の契約の 解釈の相違や、商標の使用態様等によるものであって、その商標の構成自体が、社\n会的妥当性を欠くことになったものではなく、また、いまだ社会通念に照らして著 しく妥当性を欠き、反公益的性格を帯びるようになったというものでもなく、これ らは本来的には民事訴訟等により解決されるべきものである。
そうすると、本件商標D〜Gの査定登録時以降の事情を考慮したとしても、本件 商標D〜Gが、商標法4条1項7号に該当するに至ったということはできない。
イ 被告は、本件商標D〜Gについて本件ライセンス契約が適用され、原告はこ れらに係る商標権を被告に返還すべき義務があるのにこれを怠っていると主張す る。確かに、上記のとおり、本件ライセンス契約は、本件商標D〜Gをも念頭にお いて締結されたものと認められるが、商標権の移転登録義務があるのであれば、そ の履行を請求すべきであって、これを拒んでいるからといって登録に係る商標が公 序良俗に反するとなるものではない。
被告は、原告等が本件ライセンス契約に伴う信義則上の義務に違反して、被告の ライセンスビジネスを妨害しているとか、原告は、被告の信用等にフリーライドする目的を有していると主張する。確かに、前記のとおり、原告は、令和2年頃以降、 原告等と被告との紛争が顕在化した後、不正の目的をもって本件商標A〜Cを出願 し、原告等以外の者がエンジェルや「Mark Gonzales」の名称を用いた商品を販売等 することを妨害、阻止しようとし、また、本件商標D〜Gに係る商標権等により、 被告のサブライセンシーや販売店に警告書を送付した事実も認められる。しかし、 前記のとおり、本件ライセンス契約を締結した時点で、本件商標D〜Gは、関係者 間において何ら問題なく存続していたのであるから、契約終了後の帰属等について は契約で規律することができたはずであるし、不当な権利行使については、別途権 利の濫用や不正競争防止法等の規律により、またパブリシティ権の問題についても、 民事訴訟等で解決されるべき筋合いのものである。本件商標A〜Cの登録出願に不 正の目的があったからといって、原告が本件商標D〜Gについて商標権を保持し続 けることまでもが、商標法の目的に反して公正な商標秩序を乱すとか、健全な法感 情に照らし条理上も許されないということはできない。
ウ したがって、本件商標D〜Gが、商標法4条1項7号に該当するに至ったと いうことはできないから、被告が主張する本件審決D〜Gの取消事由には理由がない。

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令和4(ワ)9112等  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年8月22日  大阪地方裁判所

構成要件1Cの構\成「地糸の経糸または緯糸の径がパイル糸の径よりも細くされており」を備えていないと判断されました。

ア 上記本件明細書の記載からは、経糸、緯糸、パイル糸の「径」を認識する 方法は見当たらず、また、経糸又は緯糸の径がパイル糸の径よりも細くされ ることについての技術的意義に関する記述はない以上、そこから上記の「径」 を認識する方法を推測することもできない(原告は【0043】の記載を指 摘するが、パイル糸に「多数の微細長繊維を含ませる」ことと、基布の経糸 又は緯糸の繊度(太さ・細さ)との関係は不明というほかない。)から、これ らは当業者の理解する技術常識によって決すべきこととなる。 イ この点、繊維の形態的な太さは、一般的にその断面が不規則な形状を示し ているので、正確な計測は困難であり、したがって、一定の長さ当たりの重 量で繊維の太さが示されているとされ、また断面の形状にあっては、天然繊 維の形状は、それぞれ特有の形をしており、化学繊維は、その形状も人為的 に自由につくることができ、断面は主として紡績方法によって決まり、円形・ だ円形その他複雑なものもある、とされている(乙4。三訂版「繊維」(昭和 61年刊行))。
また、繊維における細さ(繊度)にはいろいろの表し方があり、メートル\n法の番手(1グラムの糸が何メートルの長さを持つかを示すもの。番手が大 きいほど糸は細い。)や、デニール、テックス(いずれも一定長の糸の重量) が用いられ、デニールと繊維ごとの比重を用いて断面積を算出する方法もあ る(乙5。「繊維の科学」(昭和53年刊行))。撚りの強さによっても見た目 の太さが変わる(乙6。令和2年当時のウェブサイト。)。本件明細書におい ても、パイル糸の繊度に関し、デニールが用いられている部分がある。
ウ ところで、「径」の字義は、「1)さしわたし。直径。2)みち。小道。近道。」 というものである(乙7(広辞林第六版))。また、広辞苑第七版においては、 「まっすぐ結ぶ道。さしわたし。」とされており、「差渡し(さしわたし)」の 字義は、「1)さしわたすこと。一方から他方へかけ渡すこと。また、その長さ。 2)直径。わたり。けい。」とされている。これらを踏まえると、「径」とは「直 径」を意味するものと解される。「直径」の字義は、「円または球の中心を通っ て円周または球面上に両端をもつ線分。また、その長さ。さしわたし。」とい うものであるから(広辞苑第七版)、「直径」が認識されるためには、平面に おいては円又はそれに近い形状のものが想定されていると解される。 他方、前記のとおり、糸は繊維の集合体であって、繊維の断面は一般的に 不規則な形状を示すものであるから、少なくとも、「径」の大小の比較に、「断 面積」(空隙を除外するかどうかを問わない)を用いることはできないものと 解される。この点、原告は、糸の太さを断面積で表すことが当業者にとって\n一般的な手法となっていたとしてその旨の証拠(甲25から27まで)を提 出するが、それらは口輪筋線維、等方性黒鉛材料の気孔、血管について画像解析により断面積を測定した例にすぎず、技術分野が全く異なるもので、原告主張の事実は認めるに足りない。
(3) 構成要件1Cの充足の検討\n
ア 原告は、各糸の径は糸の断面積を測定することにより比較判断することが 可能であり、かつこれを製品状態で測定すべきものとした上で、かかる測定\n方法を採用した測定結果を証拠(甲19の1・2)として提出する。 この測定は、被告製品のシール材に対し、接着剤を滴下して浸み込ませ、 乾燥後、養生テープで固定し、パイル糸の配列方向に対し垂直となるように、 シール材に金尺を当てて、カット治具である剃刀刃を沿わせて一回のスライ スにより切断し、断面画像を撮像した上、該画像を解析して、緯糸とパイル 糸の断面積を求めるというものである。 イ しかし、本件訂正発明1の構成要件1Cは、糸の「径」の大小をその要素\nとしており、糸の太さの比較に断面積を用いることは文言の一義的な意味に 反し、また前述の当業者の技術常識にも合致しないものである。
また、具体的な測定手段をみても、上記測定は、被告製品を加工、破壊し た上で測定するものであって、原告が自らいう「製品状態での測定」とも前 提を異にするものである(そもそも、製品状態では糸に様々な方向から様々 な力が作用し、一定の「断面積」を得ることは困難であると考えられ、「製品 状態での測定」という前提自体、本件明細書や当業者の技術常識から導き得 るのかについて疑問なしとしない。)。加えて、上記切断方法は、繊維の方向 に垂直に正確に切断されることが保証されるものともいえず、切断角度、切 断箇所の違いによる断面積の変化が何ら考慮されていないと見受けられ、測 定の条件統制にも疑義がある。画像解析についても、糸(及びこれを構成す\nる繊維)の外郭のとらえ方や、空隙の有無等によって「断面積」が異なり得 ることが見て取れる。
これらのことからすると、甲19号証の1・2に示された測定手段は、画 像の作成過程、画像解析の双方において、測定の正確性、合理性が担保され たものとはいえないというべきである。 また、画像解析の結果報告される糸の断面(空隙を含む外郭)は、不定形 で円又はそれに近い形状を備えておらず、かかる画像から、「径」(といえる もの)を認識することも困難である。
ウ そうすると、甲19号証の1・2によって、被告製品について構成要件1\nCの充足が立証されたということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠 はない。

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令和5(行ケ)10104  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年8月28日  知的財産高等裁判所

超伝導技術の関する発明について、実施可能要件違反とした審決が維持されました。\n

ア 技術常識1
ある種の物質をある温度(臨界温度)以下に冷やしたときに、抵抗値がゼロとなることを「超伝導」又は「超電導」ということ。
イ 技術常識2
2つの超伝導体を弱く結合したときに、電子対がトンネル効果によっ てその結合部を通過する現象を「ジョセフソン効果」といい、ジョセフ\nソン効果が生じるように2つの超伝導体を薄い絶縁膜で隔てるなどして\n弱く結合するようにしたものを「ジョセフソン接合」ということ。\n
(2) 前記2のとおり、本願発明は、本願層構造をとる「第1のELR導体」と\n「第2のELR導体」の間に「バリア材料」を配置して、「ジョセフソン接\n合」又は「ジョセフソン接合を含む回路」を構\成する発明であるから、前記 (1)の技術常識を踏まえると、本願発明においては、1)「第1のELR導体」 と「第2のELR導体」がいずれも超伝導状態、すなわち抵抗値がゼロの状 態にあり、かつ2)「バリア材料」にジョセフソン効果によるトンネル電流が\n流れていることとなる。
そうすると、本願明細書等の記載が実施可能要件を満たすというためには、\n本願明細書等に前記1)及び2)の各事項が記載されている必要があるというべ きである。
そして、前記1)の事項については、本願明細書等には本願発明の様々な実 施例とその試験結果が記載されているが、それらのいずれからも各実施例に おける導体の抵抗値がゼロとなったことを読み取ることはできず、本願発明 の「第1のELR導体」と「第2のELR導体」が超伝導状態にあることを 示す試験結果等は記載されていない。前記2)の事項については、本願発明の 「第1のELR導体」と「第2のELR導体」の間に配置された「バリア材 料」にジョセフソン電流が流れる旨の段落【0223】の記載は、超伝導状\n態にない導体の間に配置されたバリア材料にジョセフソン効果が発現すると\nいう前記技術常識2に反する内容であり、このような現象が生じ得ることを 裏付ける試験結果等が記載されていなければ、当業者は本願発明を実施する ことができると認識するものではないところ、前記「バリア材料」にジョセ フソン電流が流れることを示す試験結果等は記載されていない。したがって、\n本願明細書等に前記1)及び2)の各事項が記載されているといえないことは、 本件審決が認定するとおりである。
4 原告の主張に対する判断
(1) これに対し、原告は、以下のとおり、本願発明のELR導体又はその一部 が超伝導状態となっている旨主張するので、以下検討する。 ア まず、原告は、本願発明の第1のELR導体に含まれる修飾ELR材料 の臨界温度が150Kを超える旨主張する。 しかし、当業者が実施し得る程度にその構造、組成等が明らかであっ\nて、150Kを超える温度において超伝導状態すなわち抵抗値がゼロで あるELR材料は、本願明細書等に開示されていない。
イ 次に、原告は、本願明細書等で説明される抵抗現象、平均抵抗、おおよ その抵抗率、抵抗値等の表現が抵抗率を意味することを当業者は直ちに理解する、図14A〜図14AGが示す抵抗/抵抗率の急激な変化は、\n本願発明の材料が非超伝導状態から超伝導状態に変化することを示す、本願発明において超伝導状態のELR材料は0Ω・cmから3.36×10−8Ω・cmの範囲の抵抗率を有すると特定したと主張する。
しかし、抵抗率ρは「ρ=RS/L」の式(S:物質の断面積、L:長さ、 R:抵抗値)で表され(甲16〜18)、抵抗値Rと抵抗率ρの関係は\n物質の断面積Sと長さLに応じて変化するから、抵抗値Rと抵抗率ρは区 別されるものである。確かに、断面積S及び長さLの値が一定であれば、 抵抗値Rは抵抗率ρと正比例するから、抵抗値Rが減少するときは、抵 抗率ρも減少しているという関係にあるが、抵抗値と抵抗率の定義が異 なる以上、図14A〜図14Gが示す「抵抗値」をもって、本願発明の ELR材料が3.36×10−8Ω・cm以下の範囲の「抵抗率」を有す ると当業者が理解することはできない。
また、いずれにせよ、超伝導状態とは抵抗値がゼロの状態であり(技術 常識1)、その場合は抵抗率もゼロとなるが、本願発明の材料の抵抗値 がゼロとなった試験結果等が記載されていないことは、前記のとおりで ある。
図14A〜図14Gが示す抵抗の急激な変化が本願発明の材料が非超伝 導状態から超伝導状態に変化することを示すとの点については、裏付け となる試験結果等は本願明細書等に記載されていない(なお、段落【0 057】には、前記各図の「離散ステップ 1410」とされるもの以外につ いてであるが、部分的な超伝導状態以外の要因によって生じる可能性が\n記載されている。)。
ウ 原告は、さらに、改良ELR材料のサンプルの一部が非超伝導状態から 超伝導状態へ超伝導遷移することを実証した、A博士の宣誓書(甲19) もこれを支持すると主張する。しかし、改良ELR材料のサンプルの一部が非超伝導状態から超伝導状態へ超伝導遷移することが試験結果等により裏付けられたものでないこ とは前記のとおりであり、A博士の宣誓書(甲19)の内容をみても、 原告の主張を裏付けるに足りる具体的根拠は記載されていない。
仮に「改良ELR材料のサンプルの一部が非超伝導状態から超伝導状態 へ超伝導遷移」するとしても、本願発明はそのような「超伝導状態のサ ンプルの一部」を取り出して「第1のELR導体」、「第2のELR導 体」とするものではなく(その具体的方法も本件明細書等に記載されて いない。)、ELR導体そのものは超伝導体ではない(したがって、技 術常識2に照らすと、ジョセフソン接合を実施することはできない。)。\n
エ 以上によれば、本願発明のELR導体又はその一部が超伝導状態となっ ている旨の原告の主張は、採用することができない。 (2) 原告は、本願発明の「ジョセフソン接合」は従来技術の「ジョセフソ\ン接 合」を超えるものであり、ELR導体が超伝導体でなくともジョセフソン効\n果が発生している旨主張する。
しかし、超伝導状態にない導体の間に配置されたバリア材料にジョセフソ\nン効果が発現するというのは前記技術常識2に反する内容であり、このよう な現象が生じ得ることを裏付ける試験結果等が本願明細書等に記載されてい ないことは、既に述べたとおりである。

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令和5(行ケ)10053  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年6月24日  知的財産高等裁判所

 異議申立に対する取消訴訟です。裁判所は、本件発明における「RB0.4以上事項の有無」は、相違点であるとして、進歩性有りと判断しました。\n

1 取消事由1、2(引用文献1に基づく新規性、進歩性の判断の誤り)について 原告らが取消事由1、2を通じて主張するところの眼目は、1)引用文献1に は「自立CNTペリクル膜」の発明が記載されているとはいえない、2)引用発明 1には本件発明のRB0.4以上事項の記載がないところ、これらに係る本件発 明1との相違点は実質的なものであり、かつ、引用発明1にRB0.4以上事項 を持ち込むことは容易想到ともいえないという2点に集約される。 当裁判所は、1)に係る原告らの主張は採用できないが、2)の主張は理由があ るものと判断する。以下に詳説する。
・・・
(3) RB0.4以上事項の有無は実質的相違点か
ア 本件決定が認定した本件発明1と引用発明1の相違点1A(別紙3「本 件決定の理由」1(2)アの[相違点1A])の中には「引用発明1ではRB0. 4以上事項の構成が明らかでない」点が含まれているところ、本件決定は、\nこのRB0.4以上事項の有無に係る相違点は実質的な相違点ではないと判 断した。
イ しかし、引用文献1には、RBの数値を特定する記載は一切なく、その示 唆もない。また、CNT膜の面内配向性をRBによって特定すること自体も、 引用文献1その他の出願時の文献に記載されていたと認めることはできず、 技術常識であったということもできない。
ウ 本件決定の上記アの判断は、RBの値が、0.40以上では面内配向して おり、0.40未満では面内配向していないことを表す旨の本件明細書等\nの記載(【0104】)から、本件発明1のRB0.4以上事項が、CNT のバンドルが面内配向していることを特定するものであり、引用発明1は 面内配向しているものを想定しているから、RB0.4以上事項を満たすこ とになるとの理解に基づくものと解される。 しかし、本件発明1の特許請求の範囲に照らすと、CNTバンドルが面内配向しているという定性的構成(構\成1C)と、RB0.4以上事項とい うパラメータによる定量的構成(構\成1D)は独立の構成となっており、本\n件明細書の【0104】等の記載を踏まえても、引用発明1のCNTバンド ルが面内配向の特性を有しているからといって、RB0.4以上事項を当然 に満たすと判断することはできない。
エ 被告は、通常の発想のもとで、通常の性状のSWCNT及び通常用いら れるプロセスで製造された薄膜自立無秩序SWCNTシートであれば、膜 厚、バンドル径及び自立性のいずれの観点においても、本件明細書等にお ける比較例1よりは実施例1に相当程度似通っているといえる上、比較例 1のRBの値(0.353)がRB0.4以上事項の下限である0.4に相 当程度近いこと等を考慮すれば、比較例1よりも実施例1に相当程度似通 っている薄膜自立無秩序SWCNTシートであれば、RB0.4以上事項を 満たしている旨主張する。
しかし、被告の主張する「通常の発想のもとで、通常の性状のSWCNT 及び通常用いられるプロセスで製造された」との薄膜自立無秩序SWCN Tシートの製造方法や、当該薄膜自立無秩序SWCNTシートの「膜厚、バンドル径及び自立性」について具体的に特定する主張立証はされておらず、 したがって、「比較例1よりも実施例1に相当程度似通っている薄膜自立 無秩序SWCNTシート」の内容も明らかではないというよりほかない。 かえって、原告ら提出に係る甲40によれば、原告らが引用文献2記載 の方法で作製したCNT自立膜(サンプル1、2)ではそれぞれRBが−0. 38、−0.26であったのに対し、本件発明の完成当時に製造されたCN T自立膜では1.04だったのであり、薄膜自立無秩序SWCNTシート であれば、RB0.4以上事項を満たしているともいえない。
被告は、甲40について、1)RB測定サンプルの保管が実際にどのような 条件で行われていたか確認できず、サンプルの実在も確認できない、2)本 件明細書等に記載された実施例及び比較例と実験条件が異なる、3)当該各 RB測定サンプルは、特性が位置的にみて不均一となっている、4)RB0. 4以上事項を満たさないとされるサンプル1、2は一部破損がみられるか ら自立膜とみられないなどと論難するが、1)については、サンプル1、2は 平成29年4月の開発時に作製したものと推認され、2)については、甲4 0は、「面内配向していてRBが0.4未満の膜が存在するかどうか」の点 を検証する実験であるから本件明細書等の実施例及び比較例の条件によら ねばならないものではない。また、3)については、もともとRBの測定方法 は局所的な断面に対するものであり、RB0.4以上事項は、少なくとも一 つの断面で0.4未満以上となることを意味するのであるから、被告主張 の点をもって甲40に基づく上記判断は左右されない。さらに、4)につい ては、甲40では、サンプル1、2について製造過程で一部破損があったとしても、自立膜となったものを測定しているのであるから、やはり被告の 主張は採用できない。
(4) 以上のとおりであって、本件決定には、RB0.4以上事項を含む相違点1 Aが実質的なものであることを看過し、引用発明1に基づき本件発明1、3 〜5が新規性を欠くとした誤りがあり、取消事由1は理由がある。

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令和5(行ケ)10110 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年6月27日  知的財産高等裁判所

進歩性無しと判断された拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟です。 争点の一つが「登録を通じてまたは登録を通じずに前記カラー反射率画像とOCTデータコンテンツとを結合する」の意義でした。審決では「登録を通じてまたは登録を通じずに」は、意味が無いと判断されました。知財高裁も同様です。
「登録を通じて」と「登録を通じずに」で、処理が異なる場合には技術的意義があると認定できる場合もあると思いますが、何か別の意図があったのでしょうか。 ちなみに分割出願もありません。

(1) 本願発明の認定について
ア 構成要件Dの「登録を通じてまたは登録を通じずに」の技術的意義について\n本願発明における「カラー反射率画像とOCTデータコンテンツ」の「結合」に おいて、本願明細書には、「カラー反射率画像とOCTデータコンテンツ」が同じ光 路を共有して取得され固有的登録がもたらされる形態では、「登録」するための追加 の処理が必要ではなく(【0035】、【0058】)、一方で、代替的アプローチである前記光路が共有されていない形態では「登録」を行うこと(【0059】、【0065】)が記載されているところ、前者の形態が本願発明の「登録を通じずに」に、後 者の形態が「登録を通じて」に、それぞれ該当する形態であると認められる。
そうすると、引用発明の特定事項が、少なくとも「前記カラー反射率画像とOC Tデータコンテンツとを結合すること」を満たすのであれば、そのような特定事項 は「登録を通じてまたは登録を通じずに」のいずれか一方を必ず満たすものといえ る。したがって、「登録を通じてまたは登録を通じずに」の有無により本願発明の特定 事項は実質的に何も変わらないとした本件審決の認定は、原告主張のように本願明 細書を拡張して行われたものとはいえず、誤りがあるとはいえない。

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令和3(ワ)1720 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年4月22日  大阪地方裁判所

電池の特許について、約5億3千万の損害賠償が認められました。

(2) 相当な実施料率について
ア 該当技術分野における実施料率の状況
本件において、本件発明1の実施許諾契約の実例を認めるに足りる証拠は ないところ、証拠(甲43)によれば、アンケート結果による技術分類別ロ イヤルティ料率の平均値のうち、電気の技術分類では、平均2.9%、最大 値9.5%、最小値0.5%であること、日本の司法決定によるロイヤルテ ィ料率のうち、電気分野の平成9年から平成20年の累計は、平均値3.5%、 中央値3.0%、最高値8.0%であり、平成16年から平成20年は、平 均値3.0%、最大値7.0%、最小値1.0%であることが認められる。
イ 本件発明1の技術的意義等
本件明細書1によれば、従来の非水電解質二次電池は、作製が困難である という課題があったことに対し、本件発明1は、正極側及び負極側において、 電池外装体の外方に配置されるとともに外部接続端子に接続される端子接 続部材、及び、活物質未塗工部と端子接続部材とを接続する集電接続板とを 備え、集電接続板は、発電要素の端部から中央方向に水平に延びるとともに 端子接続部材と接続される本体部と、同本体部から突設されて、活物質未塗 工部の外側面のうちの端部と活物質塗工部との間に、表面が接合される接続\n板部とを有する構成をとることにより、作製を容易にすることができる電池\nを提供することを目的とし、かかる効果を奏する発明である(【0006】、 【0008】ないし【0010】)。
また、証拠(甲37)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明1が端子接続 部材と集電接続板の本体部の構成を備えている技術的意義は、電池外装体の\n内外において、外部接続端子と集電接続板の接続板部との間の距離を長くす ることができるようになり、外部接続端子に加えられるトルクや衝撃を接続 板部と発電要素の活物質未塗工部との接合部分に伝わりにくくすることが 可能となり、当該接合部分を損傷させたり、当該接合部分での接合が外れた\nりすることを防止できることにあることが認められる。これらの事実関係に 照らすと、本件発明1は、電池製作を容易にし、電池の耐久性を高めること に資する電池に関する発明であることが認められる。
そして、被告が代替技術として指摘をする公開特許公報(乙66ないし69)は、いずれも発電要素からの集電を容易にする集電体を形成する構成を開示しているものの、本\n件発明1に係る構成要件B2及びC2(活物質未塗工部の端部と活物質塗工\n部との間に、表面が接合される接続板部とを有する構\成)や構成要件A4(電\n池外装体の外方に配置されるとともに外部接続端子に接続される端子接続 部材)に相当する構成を開示するものではないことから、本件発明1の代替\n手段であるとは認められず、その他これを認めるに足りる証拠はない(なお、 被告は、被告製品1及び3は、周知技術を用いているだけで本件発明1を用 いているわけではない旨を主張し、その証拠(乙75ないし82)を提出す るが、被告製品1及び3が本件発明1の技術的範囲に属し、本件発明1に無 効理由は存在しないことは、前判示のとおりであって、該主張は実質的に侵 害論を蒸し返すものにほかならず、かつ、約一年間をかけてされた損害論の 審理の終盤にされたものであるから、民訴法157条に基づき、時機に後れ た攻撃防御方法として却下することとする。)。
一方、本件発明1は、電池の機能に直接的に資するものではなく、また、\n被告製品1は蓄電システムであるところ、蓄電システムにおいて電池の占め る価格割合は、家庭用蓄電システムでは約65.6%であること(甲47)、 被告製品3は電池パックであり、電池はその一部を構成するものであること\nから、本件発明1が被告製品1及び3の売上げに占める貢献の程度は、その 限りにおいて限定的である。
ウ その他の事情
原告と被告は競合関係にあること、原告と被告は紛争関係にあることに加 え、本件においては、被告は、確定した文書提出命令によって提出を命じら れた文書の提出を拒み、原告は被告製品1及び3の正確な売上高の開示を受 けることができなかったことが当裁判所に顕著であるところ、この事情は、 実施許諾に当たり特許権者が実施権者の正確な販売数量、利益等を把握でき ないリスクに相当するものであって、実施料の算定にあたり考慮されるべき (上振れさせる)要因に当たるものというべきである。
エ 小括
上記アからウに述べた事情その他本件に表れた事情を総合考慮すると、本\n件発明1の実施に対して受けるべき料率としては「●(省略)●」を相当と 認める。これに沿わない原告及び被告の主張は、上記説示に照らし、いずれ も採用することができない。
(3) 実施料相当額の損害
本件特許権1の侵害による実施料相当額の損害は、(1)の金額に(2)の料率を 乗じた4億4250万円となる。 該当特許は以下です https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-5713127/15/ja https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6493463/15/ja

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令和4(ワ)19400    不正競争  民事訴訟 令和6年5月14日  東京地方裁判所

NHKvs個人の訴訟です。裁判所は、不正競争行為と認定し、約170万円の損害賠償を認めました。

少し気になるのは、この訴訟ではなく、仮処分の提訴にかかった弁護士費用を全額認めている点です(55万円)。同じ理由で、著作権侵害がなされている場合の発信者情報開示手続きの弁護士費用も認められるのでしょうか?

1 争点1(本件情報の営業秘密該当性)について
前提事実(2)アないしウのとおり、原告においては、権限を有しない者が本 件情報にアクセスすることが物理的に困難な態様で管理されており、かつ、本 件情報にアクセスする権限を持つ者は限定されていたものであり、また、原告 は、FF社との間で秘密保持契約を締結した上で、FF社に対し、本件情報に アクセスすることができるナビタンを貸与していたところ、FF社においても、 ナビタンを操作することにより受信契約者の情報にアクセスできる従業員の範 囲を限定し、同従業員に開示する受信契約者の情報の範囲を必要な限度に絞る ことが徹底されていた上、ナビタンの操作状況は高い頻度で保存され、従業員 による受信契約者の情報へのアクセスの状況を監視できるようにしており、ま た、業務終了後は施錠したロッカーでナビタンを保管することで、物理的にも ナビタンへの不正なアクセスを防止しており、情報の流出を防ぐ対策が十分に\n行われていたものである。さらに、前提事実(2)エのとおり、FF社において は、Biを含むFF社の従業員に対し、採用時に、情報の適切な管理に関する 研修を実施して、Biは、同社に対し、本件情報を含む営業上知り得た情報を 第三者に開示しない旨の誓約書を提出していたものである。これらの事実に照 らすと、本件情報は、客観的に秘密として管理されていると認識できる状態に あったと認められ、秘密管理性の要件を満たすといえる。加えて、弁論の全趣旨によれば、本件情報の内容は公表されていないと認められるから、非公知性の要件を満たし、また、その内容は原告との契約の種別を含む顧客情報であると認められ、客観的に有用であるといえるから、有用性の要件も満たす。したがって、本件情報は、不競法2条6項の「営業秘密」に該当する。\n
・・・
4 争点4(原告の損害の発生の有無及び損害額)について
(1) 本件取得行為による損害について
前提事実(2)オ及びカの経緯並びに前記2で認定した事実に照らせば、被 告は、Biによる営業秘密不正開示行為を知りながら、本件取得行為に及ん だものであるから、故意の不正競争行為により原告の営業上の利益を侵害し たといえる。
そして、本件取得行為がなければ、原告は、本件仮処分申立てをすること\nもなく、これに伴い弁護士費用を支出することもなかったといえ、この支出 に係る原告の損害は、通常の損害であるといえるから、原告が本件仮処分申\n立手続のために支払った弁護士費用55万円は、本件取得行為と相当因果関 係のある損害であると認められる。
これに対して、被告は、原告が本件仮処分申立てをする必要はなかったか\nら、本件仮処分申立手続のために支払った弁護士費用は本件取得行為と相当\n因果関係のある損害とはいえないと主張する。しかし、前提事実(2)キの本件動画の内容及び本件動画がアップロードされた際に本件動画に付されたタイトル並びに本件業務妨害行為における被告の言動に照らすと、少なくとも被告が本件情報を自ら又は第三者をして開示するおそれがあったと認めるのが相当であり、原告が本件仮処分申立てをす\nる必要はなかったとの被告の主張は採用できない。 また、被告は、原告が支払った着手金は高額にすぎるから、本件取得行為 と相当因果関係の認められる損害額は、(旧)日本弁護士連合会弁護士報酬 基準に沿って24万5000円とすべきであるなどと主張する。 しかし、上記報酬基準が廃止された後は弁護士や事案の性質によって着手 金の額が異なり得ることは、当裁判所に顕著な事実である上、55万円とい う着手金の金額が上記報酬基準に照らして相当性を逸脱するほどに高額であ るとまではいい難いことから、被告の指摘する事情は相当因果関係を否定す るには足りず、被告の上記主張は採用できないというべきである。

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令和5(ネ)10101  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年6月18日  知的財産高等裁判所 (原審・東京地方裁判所令和4年(ワ)24476

 本人訴訟です。1審の非侵害が維持されました。控訴審では、均等主張もしましたが、第1要件を満たさないと判断されました。

オ 上記ウ及びエによれば、本件明細書に従来技術が解決できなかった課題 として記載されている従来技術(特許文献1)は、出願時の従来技術に照 らして客観的に不十分であるから、乙3に記載されている技術的事項を参\n酌することが許されるというべきである。 そうすると、本件発明は、上記課題を解決するために「覚醒度合生体情 報取得部で取得した人の覚醒度合に関する生体情報に応じて前記三つの 発光手段の発光量の総和を略一定にしたままそれぞれの発光手段の発光 量比を変化させるための調節部」との構成を採用したものであるが、他方、\n乙3には、上記エのとおり、「覚醒度合生体情報取得部で取得した人の覚醒 度合に関する生体情報に応じて複数(二つ)の発光手段の発光量の総和を 一定としたままそれぞれの発光手段の発光量比を変化させるための調節 部」が開示されており、その相違は「三つの発光手段の発光量の総和」か 「複数(二つ)の発光手段の発光量の総和」かの差でしかない。 したがって、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいとはい えず、本件発明の本質的部分は、特許請求の範囲に近接したものとなると いうべきであり、具体的には、本件特許の課題を解決するために採用され た構成が構\成要件C/Dであることから、「覚醒度合生体情報取得部で取 得した人の覚醒度合に関する生体情報に応じて、赤色、青色及び緑色の三つの発光手段の発光量の総和を略一定としたままそれぞれの発光手段の 発光量比を変化させるための調節部」を有していることが本件発明の本質 的部分であると解するのが相当である。
これに対し、本件各照明装置は、「覚醒度合生体情報取得部で取得した人 の覚醒度合に関する生体情報に応じて、赤色、青色及び緑色の三つの発光 手段の発光量の総和を略一定としたままそれぞれの発光手段の発光量比 を変化させるための調節部」を有していないから、本件発明と本件各照明 装置とは本質的な部分において異なっているというべきである。
カ 上記アないしオによれば、本件各照明装置が本件発明の本質的部分を備 えているとはいえず、均等の第1要件を満たさない。
キ 控訴人は、前記第2の5(1)アのとおり、本件発明は、ヒト(人)の覚醒度 合に応じて照度を略一定にしつつ色温度を変化させる点がその本質的部 分であると主張する。 しかし、上記オに説示したとおり、特許発明の貢献の程度は従来技術と 比較して大きいとはいえないから、控訴人が主張するようにこれを上位概 念化することはできないというべきであり、控訴人の上記主張を採用することはできない。また、仮に、控訴人の主張するとおり、人の覚醒度合に応じて照度を略 一定にしつつ色温度を変化させる点が本件発明の本質的部分であると解 したとしても、本件各照明装置は、人の覚醒度合に応じて照度を略一定に しつつ色温度を変化させる構成を有していないから、均等の第1要件を満\nたさないとの結論を左右しない。
すなわち、本件マットレス(1)は、当該マットレスを使用する人の睡眠の 状態を計測する機能を備えており、本件発明の構\成要件B(「人の覚醒度合 に関する生体情報を取得する覚醒度合生体情報取得部と、」)を充足するも のであり、本件マットレス連携アプリは、本件マットレス(1)を使用した人 の睡眠深度、睡眠スコア、睡眠効率、寝つき時間、中途覚醒回数、目覚め の状態及び深い睡眠を表示する機能\を備えているが(原判決第2の2(6)ア 及びウ、同(7))、本件各照明装置は、本件マットレス(1)等により取得された 人の覚醒度合に関する生体情報に応じて照度を略一定にしつつ発光手段 の発光量比又は色・温度を変化させる機能を有していない。\n
本件各照明装置の使用者が、任意に本件各照明装置の発光手段の色・温 度を変化させる操作をすることが可能であるとしても、そのことをもって、\n本件各照明装置が人の覚醒度合に応じて照度を略一定にしつつ発光手段 の発光量比又は色・温度を変化させる構成を有していることにはならない。\nしたがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
ク 以上によれば、本件各照明装置は、均等の第1要件を充足しないから、 その余の要件について判断するまでもなく、本件発明と均等なものとして、 その技術的範囲に属するということはできない。

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令和5(ネ)10053  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年7月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所(原審・東京地方裁判所令和2(ワ)17104号)

マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。1審の東京地裁(40部)は、1審は、102条1項、2項の適用を認めず、損害額は約2015万円と認定しましたが、知財高裁は、同2項の適用を認め、約4400万円と認定しました。なお、推定覆滅の割合については伏せ字となっています。

(1) 特許法102条2項の適用の可否について
ア 特許法102条2項は、「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、 その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権 者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。 同項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害者による特許権侵 害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、 同項の適用が認められると解すべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日特別部判決、知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和 元年6月7日特別部判決)。
イ これを本件についてみると、1審原告の完全子会社(株式会社マネースクエア) はFX事業を提供しており、「トラリピ」という名称の原告サービスを提供している ところ、証拠(甲30)によると、トラリピとは、イフダン(新規と決済を同時に 発注する注文)に、リピート(注文を繰り返す機能)とトラップ(一度にまとめて\n発注できる仕組み)を搭載したFXの発注管理機能をいい、トラリピの専用機能\と して「決済トレール」(決済価格が値動きのトレンドを追いかけることで、利益の極 大化を狙う機能)があることが認められ、被告サービスと競合するものであるとい\nえる。そして、原告サービスを提供しているのは1審原告の完全子会社であって、 特許権者である1審原告とは別法人であるものの、1審原告は、原告子会社の株式 の100%を保有し、会社の目的や主たる業務が子会社の支配・統括管理をするこ とにあり、その利益の源泉が子会社の事業活動に依存するいわゆる純粋持株会社で ある(甲33。以下、持株会社である1審原告と原告子会社を併せて「1審原告グ ループ」ともいう。)。そうすると、原告子会社は、1審原告のグループ会社として 持株会社の保有する多数の特許権を前提として原告サービスを提供しているのであ り(甲24、27)、本件特許は原告ライセンス契約に含まれていないものの、これ は国際出願に伴う不都合を回避するためにそのような体裁とすべきであったことに よるものにとどまり、1審原告が原告子会社に本件発明の実施許諾をしていないこ とを意味するものとはいえないことも踏まえると、原告子会社が本件発明を実施し ているものといえ、1審原告グループは、本件特許権の侵害が問題とされている平 成29年7月から平成31年3月までの期間、持株会社である1審原告の管理及び 指示の下で、グループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していたと評価 することができる。 したがって、1審原告グループにおいては、本件特許権の侵害行為である被告サ ービスの提供がなかったならば利益が得られたであろう事情があるといえる。
そして、1審原告の利益の源泉が子会社の事業活動に依存していること、1審原 告は1審原告グループにおいて、同グループのために、本件特許権の管理及び権利 行使につき、独立して権利を行使することができる立場にあるものといえ、そのよ うな立場から、同グループにおける利益を追求するために本件特許権について権利 行使をしているということができ、1審原告グループにおいて1審原告のほかに本 件特許権に係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件につ いて、特許権者に侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたで あろうという事情が存在するものといえるから、特許法102条2項を適用するこ とができるというべきである。
ウ 1審被告の主張について
(ア) 1審被告は、1審原告が主張する「グループ全体として特許を保有・管理し、 グループ全体として特許を活用した事業を展開しているという実態」の内容は不明 瞭であると主張する。
しかしながら、上記イで説示するとおり、1審原告と原告子会社は、いわゆる純 粋持株会社と完全子会社の関係にあるところ、実際に持株会社制を採用する企業が 多数存在する実情にあること(甲32)、純粋持株会社と完全子会社は法人格が別で あるものの、グループ法人の一体的運営が進展している状況を踏まえ、実態に即し た課税の実現を目的としたグループ法人税制や支配従属関係にある二つ以上の企業 からなる企業集団を単一の組織体とみなして親会社が企業集団の財政状態、経営成 績、キャッシュフローの状況を総合的に報告するための連結財務諸表など、企業グ\nループを、親会社を中心とした経済的一体性に着目して捉える制度が採用されてい る実情があることも踏まえると、本件事実関係の下においては、1審原告の管理及 び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価 することができるから、1審被告の上記主張は理由がない。
(イ) 1審被告は、持株会社が特許権者であっても、事業会社も共有者として特許 権者となるか、又は専用実施権を設定したり、いわゆる独占的通常実施権を許諾することにより、当該事業会社自身が損害賠償請求の主体として、損害賠償を請求す ることによって、事業会社の損害賠償請求が認められないとする不都合は回避可能\nであるから、特許法102条2項の適用を認める必要はない旨を主張する。 しかしながら、前記のとおり、本件においては1審原告の管理及び指示の下でグ ループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価することができ る以上、1審被告の上記主張に係る事情は特許法102条2項の適用の妨げにはな るといえず、実施能力を有しないことにより得べかりし利益が存在しない等の個別\nの事情から生じるところは、推定覆滅の問題として考えるのが相当である。 そもそも1審被告の上記主張は、1審原告のほかに原告子会社が本件特許権の侵 害に係る損害賠償請求の主体として認めるべきかどうかの問題に関わる事情であっ て、本件における1審原告の本件特許権の侵害に係る損害賠償請求における特許法 102条2項の適用を否定すべきものとはいえない。
・・・
(3) 推定の覆滅について
ア 1審被告は、1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本 件発明の貢献は乏しいこと、2)1審原告はそもそも金融商品取引業者としての登録 を受けておらず、FX取引を業として行うことができなかったこと、3)本件発明と 代替性が認められる競合サービスが多数存在したこと、4)被告サービスにおいて一 定の売上げ及び利益を獲得できたのは、1審被告による格別の営業努力があったた めであることなどを、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張するので、以下におい て判断する。
イ 1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本件発明の貢献 は乏しいとの主張について 証拠(乙38)及び弁論の全趣旨によると、人気がある五大リピート系注文とし てトラリピ(原告子会社によるサービス)、ループ・イフダン、iサイクル注文(被 告サービス)、トライオートFX、オートレールが挙げられているところ、それぞれ のサービスの比較の項目として、取扱い通貨ペアの多さ、注文方法(指値・逆指値 か、成行注文か)、値幅・利益幅の設定の自由度、売買方向(同一通貨ペア・同一売 買方向・同一値幅の複数の注文ができるかなど)、ポジション数、自動損切の仕様、 手数料・スプレッドの金額、スワップ金利の多寡、トレール機能の有無、相場追尾\n機能の有無、スマホ対応の有無、独自コンテンツの有無などが挙げられており、こ\nれらがFX取引のサービスを利用する際の比較項目になるものと認められる。そし て、本件発明の内容は上記比較項目のうち「相場追尾機能」に相当するものと認め\nられるところ、「リピート系注文で最も大事なのが自動損切りの仕様です」、「サービ スの特徴が最も出るのがこの値幅と利益幅の設定方法」、「長期運用が基本となるリ ピート系注文で成績に直結するのがこの手数料とスプレッド」、「スワップ金利は長 期間ポジションを保持し続けるリピート系注文においては大きな収入源となります」 などと「自動損切りの仕様」「値幅と利益幅の設定方法」「手数料とスプレッド」「ス ワップ金利」を評価する記載がある一方、「相場追尾機能」についてはそれに類する\n記載はない。
そうすると、相場追尾機能をもってFX取引の利用者が重視する項目とまでは認\nめられず、被告サービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であ るというべきであるから、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額に は、本件発明が寄与していない部分を含むものと認められる。 以上によると、同部分が含まれることは、本件推定の覆滅事由に該当するものと 認められる。
この点に関し、1審被告は、これに加えて、仮に本件発明が被告サービスの売上 げに寄与していると解するのであれば、被告サービスにおいて実施されていた1審 被告の各発明も被告サービスの売上げに貢献しており、当該各発明の寄与率により 1審被告の利益の額を按分すべきと主張するが、1審被告が主張する1審被告の各 発明が被告サービスの利益に具体的に寄与していたと認めるに足りる証拠はないか ら、1審被告の上記主張は採用できない。
・・・
カ 以上のとおり、市場において競合するサービスが存在していたこと、被告サ ービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であるというべきであ ること、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額には、本件発明が寄 与していない部分を含むものといえることなどを総合考慮すると、1審被告の使用 動機の形成に対する本件発明の寄与割合は●割と認めるのが相当であり、上記寄与 割合を超える部分については、1審被告の限界利益額と1審原告の受けた損害額と の間に相当因果関係がないものと認められる。 したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるから、特許法 102条2項に基づく控訴人の損害額は、1審被告の限界利益額の●割に相当する 合計●●●●●●●●●円と認められる。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和2(ワ)17104

関連の侵害事件です(当事者が同じ)

◆平成29(ネ)10073

原審

◆平成28(ワ)21346

こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。

◆平成29(ワ)24174

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令和5(ネ)10112  損害賠償請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和6年7月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審では、不競法の品質誤認表示に該当するとして、約1億4000万円の損害が認定されましたが、控訴審は、5割について覆滅を認めて、約7000万円の損害を認めました。

以上の各事情を総合すれば、控訴人が、控訴人商品の製造元を被控訴人 と表示し、控訴人商品の販売実績として実際よりも多い数値を表\示した品 質誤認表示によって、控訴人商品及び被控訴人商品の売上げに影響が及び、被控訴人の営業上の利益が侵害され、損害が発生したものと認められる。\nそして、控訴人の品質誤認表示による被控訴人の損害については、不正競争防止法5条2項が適用され、令和元年5月8日から令和5年4月30\n日までの期間において控訴人が控訴人表示によって受けた利益の額が被控訴人の受けた損害の額であると推定される。\n上記期間における控訴人の限界利益の額は1億2368万8021円 であると認められる(前提事実(4)。なお、被控訴人は、損害が発生した期 間を令和元年5月10日から令和5年4月30日と主張するが、この期間 としても限界利益の額は上記金額となる。)。この限界利益の額は、乙76 に基づくものであるが、乙76に記載された控訴人商品の売上日によれば、 上記限界利益のうち、令和4年2月2日(被控訴人の請求金額のうち49 28万円に対する遅延損害金の起算日)までに発生したものは6355万 9921円、同月3日以降に発生したものは6012万8100円となる。
イ 控訴人の主張について
控訴人は、前記第2の4(3)〔控訴人の主張〕アのとおり、被控訴人は控 訴人との取引終了後における被控訴人商品の販売実績を主張立証してお らず、被控訴人に売上減少等の逸失利益が生じているのか不明であるから、 損害額が不正競争防止法5条2項によって推定されるということはない と主張する。 しかし、被控訴人と控訴人との間の販売代理店契約が終了した後の被控 訴人商品の販売台数や売上高が明らかでないとしても、本件で認められる 前記アの各事情を総合すれば、控訴人が控訴人表示をしたことによって被控訴人の営業上の利益が侵害されたものと認定することができるという\nべきであり、被控訴人が上記販売台数や売上高を主張立証しないことをも って、被控訴人の利益が侵害されたと認められないことにはならず、その 他、上記認定を左右する事情は認められない。
また、控訴人は、前記第2の4(3)〔控訴人の主張〕イのとおり、被控訴 人商品には顧客吸引力はなく、控訴人ウェブページ上の記載によって、被 控訴人の販売実績の低下は生じないとか、仮に、被控訴人商品の売上げが 減少したとしても、それは被控訴人による一方的な出荷停止の必然的な結 果であり、控訴人が控訴人表示を掲載したこととの因果関係はないと主張する。\n
しかし、前記アのとおり、被控訴人商品は、被控訴人と控訴人が販売代 理店契約を締結していた時期において、長期にわたって一定程度の台数の 販売があり、ある程度の市場占有率を獲得していたのであって、被控訴人 商品についてこのような実績が形成されていたことからすれば、控訴人商 品の製造元が被控訴人であるとの表示及び控訴人商品の販売実績を実際よりも多い数値とした表\示を控訴人ウェブページに掲載し、控訴人商品の製造元及び販売実績に関する誤認混同を需要者に生じさせたことによっ て、被控訴人商品の売上げに影響が及んだと認められるのであり、これら の間に因果関係がないとは解されない。 したがって、控訴人の上記各主張は採用することができない。
(3) 推定の覆滅及び覆滅事由について
ア 不正競争防止法5条2項が適用されるためには、被侵害者に、侵害者に よる不正競争がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存 在することが必要と解されるから、そのような事情が認められない場合に は、同項による推定が覆滅されるものと解される。そして、同法2条1項 20号による不正競争においては、市場において競業他社が複数存在する 状況において、侵害者の品質誤認表示がなかったとした場合に、特定の被侵害者の売上げのみが増加するという定型的な関係を認めることは困難\nであるから、他の類型の不正競争の場合に比較して、推定の覆滅が広く認 められるべきであり、推定覆滅の事由としては、1)侵害者と被侵害者の業 務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)、2)市場における競合品 の存在及び被侵害者の市場占有率、3)侵害者の営業努力(ブランド力、宣 伝広告等)、4)侵害品の性能(機能\、デザイン等品質誤認表示以外の性能\) など、被侵害者の現実の損害が、侵害者の得た利益よりも少ない事情を考 慮すべきである。
イ 控訴人は、本件表示による被控訴人の損害につき、不正競争防止法5条2項による損害の推定が覆滅されると主張する。これに対し、被控訴人は、前記第2の4(3)〔被控訴人の主張〕ウ(ア)のとおり、控訴人は原審において不正競争防止法5条2項の損害の推定の覆滅の主張を撤回しており、当審における推定の覆滅の主張は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして、これを却下するよう申し立てている。
そこで検討するに、控訴人は、原審及び当審を通じ、第一次的には、被 控訴人に損害が発生したことを否認するとともに、損害が発生していると しても控訴人の行為によって生じたものではないとして、因果関係を否認 しており、不正競争防止法5条2項が適用されないとの主張もしていると 解されるが、原審で提出した令和5年2月9日付け「準備書面(兼求釈明 書)」と題する書面の第1の5の末尾(同書面6頁)において、「『抗弁事由』 というも『積極否認』というも、法定要件充足の主張・立証責任分配の問 題であり、どちらにせよ被告としてはこれを積極的に主張・立証する意思 であることに変わりはない。」と記載するなど、控訴人が原審で提出した準 備書面には、同項が適用されることを前提に、推定の覆滅を主張している ものと解される記載がある。原審で令和4年12月22日に行われた書面 による準備手続の協議について作成された経過表には、控訴人(第1審被告)の述べた内容として、準備書面(4)に主張した事実は、損害発生の否認 の理由であるとともに同項の推定を覆滅する事由である旨の記載がある
(当裁判所に顕著な事実)。
他方、原審で令和5年2月6日に行われた書面による準備手続の協議に ついて作成された経過表には、控訴人の述べた内容として、損害は発生していないので、被控訴人(第1審原告)の主張に対して覆滅事由は主張し\nていない旨の記載がある(当裁判所に顕著な事実)。 被控訴人が証拠として提出した、同日の協議に関して被控訴人代理人が 作成したものであるとする「期日報告書(7)」と題する書面(甲43)には、 覆滅事由については主張しない旨控訴人代理人が述べたことを示す記載 がある。 しかし、上記経過表は、口頭弁論期日又は弁論準備手続期日の期日調書と異なり、これに記載された当事者の陳述が法的効果を有することはない。\nまた、上記経過表及び上記甲43の書面のいずれにも、控訴人代理人が、同日以前における覆滅事由の主張を撤回すると述べた旨の記載は存在し\nない。 。 そして、上記甲43の記載によれば、控訴人代理人は、損害が発生して いるとの心証が開示されたら覆滅事由について主張したい旨述べ、受命裁 判官から、裁判所の心証次第で反論することは許されないと言われたのに 対し、それであれば覆滅事由については主張しないと述べたとされている。 そうすると、控訴人代理人としては、損害が発生していると認められるの であれば覆滅事由を主張したいとの考えを有しており、そのことを明らか にしていたと認められる。
さらに、前記令和5年2月9日付け「準備書面(兼求釈明書)」は、同月 6日の上記協議の後に提出されたものである。 これらの事情を総合すれば、控訴人代理人が、令和5年2月6日に行わ れた書面による準備手続の協議において、上記甲43の書面に記載された 内容の発言をしたとしても、控訴人が、原審において、不正競争防止法5 条2項による損害の推定の覆滅を主張していないとか、推定覆滅の主張を 撤回したということはできない。 そうすると、控訴人が当審でした推定覆滅の主張が、時機に後れて提出 した攻撃防御方法であるとは認められない。 また、控訴人は、当審において、令和6年4月11日付け準備書面(控 訴審第2)及び同年5月9日付け準備書面(控訴審第3)により推定覆滅 の主張をしているが、これらの準備書面が陳述された同月16日の第2回 口頭弁論期日において弁論が終結されているから(当裁判所に顕著な事 実)、上記各準備書面における推定覆滅の主張によって訴訟の完結が遅延 したとは認められない。以上によれば、控訴人が当審でした推定覆滅の主張が時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下を求める被控訴人の申立ては、理由がないからこれを却下する。\n
ウ 控訴人が推定覆滅の事由として主張するのは、前記第2の4(3)〔控訴人 の主張〕イの1)ないし9)(主張1)ないし9))である(令和6年4月11日 付け準備書面(控訴審第2)第1)。
そこで検討するに、主張5)及び6)に関し、まず、控訴人商品及び被控訴 人商品の市場においては、前記(2)アのとおり、複数の競業他社が存在し、 被控訴人商品はある程度の市場占有率を獲得していると認められるもの の、その市場占有率は高いとはいえないから、推定覆滅事由にあたると認 められる。 また、控訴人代表者は保育園業界との人脈を有しており、控訴人は、被控訴人との間で被控訴人商品に関する販売代理店契約を締結していた時\n期において、この人脈を生かすとともに、保育関係の研修会等において被 控訴人商品を展示するなどして、保育園に被控訴人商品を販売するための 営業努力を行い、保育園に対して被控訴人商品を販売していたと認められ る(乙36、39、71、弁論の全趣旨)。そして、このような営業努力は、 被控訴人と控訴人との販売代理店契約が終了し、控訴人がテクノウェーブ 製の控訴人商品を取り扱うようになった後も行われており、控訴人が、保 育関係の研修会等において控訴人商品を展示したこともある(乙40〜4 4、71、弁論の全趣旨)。これらの事実によれば、控訴人による控訴人商 品の販売先には保育園が含まれることが推認される。 以上によれば、控訴人による控訴人商品の販売については、控訴人の営 業努力もこれに寄与したと認められるのであって、品質誤認表示(控訴人表\示)のみによってその販売が達成されたとは認められないから、推定覆滅事由にあたると認められる。
もっとも、控訴人が控訴人商品の販売についてした営業努力については、 保育関係の研修会等における控訴人商品の展示以外には、その具体的内容 の主張立証があるとはいえない。また、控訴人が営業努力を行った相手で ある保育園等において、控訴人商品を購入するか否かの判断に当たり、控 訴人ウェブページに掲載された控訴人商品に関する情報を確認し、控訴人 表示を認識した可能\性があるから、控訴人の営業努力があったからといっ て、控訴人表示が控訴人商品及び被控訴人商品の売上げに影響を与えなかったと認められることにはならない。そして、主張1)ないし4)及び7)ないし9)は、覆滅事由に当たるとは認められず、その他、不正競争防止法5条2項の損害の推定を覆滅する事由の主張立証があるとは認められない。以上の事情を総合すると、控訴人表示による損害額の算定における推定覆滅の割合は、5割と認めるのが相当である。
(4) 前記(2)アのとおり、令和元年5月8日から令和5年4月30日までの期間 における控訴人の限界利益の金額は1億2368万8021円であり、この うち令和4年2月2日までに発生した分が6355万9921円、同月3日 以降に発生した分が6012万8100円であるところ、上記(3)ウのとおり、 控訴人表示による損害額の算定における推定覆滅の割合を5割と認めるのが相当であるから、控訴人表\示による被控訴人の損害の金額は、同月2日までにつき3177万9960円(小数点以下切り捨て)、同月3日以降につき3 006万4050円となる。 また、控訴人の品質誤認表示と相当因果関係のある弁護士費用は、令和4年2月2日までの品質誤認行為に係るものとして317万円、同月3日以降\nの品質誤認行為に係るものとして300万円を認めるのが相当である。
したがって、被控訴人は、控訴人に対し、不正競争防止法4条に基づく損 害賠償請求として、6801万4010円及びうち3494万9960円に 対する令和4年2月2日から、うち3306万4050円に対する令和5年 5月27日から、各支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅 延損害金を請求することができると認められる。 4 その他、当事者が主張する内容を検討しても、当審における上記認定判断(原 判決引用部分を含む。)は左右されない。

◆判決本文

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◆令和4(ワ)2551

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令和6(行ケ)10009  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年6月18日  知的財産高等裁判所

本件商標「サプリ処方箋(標準文字)」が識別力無し(3条1項6号違反)とした拒絶審決が維持されました。指定商品・役務は、9類「コンピュータプログラム等」、35類「サプリメントの小売又等」44類「栄養の指導等」です。

前記1の認定事実によれば、本願商標の構成である「サプリ処方箋」は、サ\nプリメントの略である「サプリ」の語と「処方箋」の語とを組み合わせた語である。そして、本願商標の需要者は、一般の消費者であると認められるところ、 「サプリ処方箋」が「サプリ」の語と「処方箋」の語とを組み合わせたもので あることは、本願商標の取引者又は需要者が容易に認識できる事実であるとい うことができる。 「処方箋」は「医師が患者に与えるべき薬物の種類・量・服用法などを記した書類」を意味する語である。法令上も、医師が患者に対し治療上薬剤を調剤 して投与する必要があると認めた場合に、患者又は現にその看護に当たってい る者に対して処方箋を交付することとされ(医師法22条1項本文)、薬剤師は 医師等の処方箋によらなければ販売又は授与の目的で調剤してはならないとさ れており(薬剤師法23条1項)、「処方箋」の語は、医師が患者に与えるべき 薬物(医薬品)の種類・量・服用法等を記載した書類を指すものとして用いら れている。
しかし、一般的には、「処方箋」という語は、例えば「改革の処方箋」のよう に広く比喩的に使用される語であって(乙5)、「医師が患者に与えるべき薬物 (医薬品)の種類・量・服用法等を記載した書類」に限定して使用されるもの ではなく、現に、上記2(2)及び(3)の認定事実によれば、複数のウェブサイトや 新聞の記事において、医師又はそれ以外の者が、患者、顧客等に適切なサプリ メントの種類や量等を提示、提供することを「サプリメントを処方」、「サプリ メントの処方」あるいは「サプリを処方」と記載した例があり、医師又はそれ 以外の者がこのようなサプリメントの種類や量等の提示、提供に際して作成す る書面を「サプリメント処方箋」あるいは「サプリメントの処方箋」と記載した例があると認められる。 これらの事実によれば、本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の 語が本願商標の指定商品及び指定役務のうち第35類役務群又は第44類役務 群に使用された場合には、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を 記載した書類を一般的に指す名称であると認識するものといえ、原告が提供する役務を認識するとは認められない。 したがって、本願商標は、少なくとも本願の指定商品及び指定役務のうち第 35類役務群及び第44類役務群との関係において、自他識別力を有しておら ず、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商 標であると認められる。
4 原告の主張に対する判断
(1) 原告は、前記第3〔原告の主張〕(1)のとおり、本願商標の「サプリ処方箋」 の語は、本願商標の指定商品及び指定役務に関し、他で一般的に使用されて いるという実例はないことから、本願商標は造語であり、指定商品及び指定 役務との関係で識別性を有すると主張する。25 しかし、本願商標の「サプリ処方箋」が「サプリ」の語と「処方箋」の語 を組み合わせたものであること及び「サプリ」が「サプリメント」の略であ ることは、本願商標の取引者又は需要者が容易に認識し得る事実であるから、 本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の語句から「サプリメント 処方箋」あるいは「サプリメントの処方箋」を連想し、「サプリメント」の「処 方」に関する書面であると認識するということができる。そして、上記2(2) 及び(3)のとおり、複数のウェブサイトや新聞の記事において、医師又はそれ 以外の者が、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を提示、提供 することを「サプリメントを処方」、「サプリメントの処方」又は「サプリを 処方」と表現し、これに関して医師又はそれ以外の者が作成する書面を「サ\nプリメント処方箋」又は「サプリメントの処方箋」と表現している事実が認められることからすれば、本願商標の「サプリ処方箋」は、少なくとも本願\nの指定商品及び指定役務のうち、第35類役務群及び第44類役務群との関 係では、識別性を有するとは認められない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は、前記第3〔原告の主張〕(2)のとおり、「処方箋」はサプリメントのような健康食品で用いられる書類ではなく、「サプリ」と「処方箋」とは本来 的に結びつかない用語であり、「サプリメントの処方箋」との意味が生じたと しても、需要者はこれを造語として捉えるから、本願商標には識別性が認め られると主張する。 しかし、前記1及び3のとおり、「処方箋」の語は、本来「医師が患者に与えるべき薬物の種類・量・服用法などを記した書類」を意味する語であるが、 広く比喩的に用いられる語であって、現に医師以外の者が医薬品以外のもの に関して作成する書類についても使用されているものである。そして、栄養 補助食品であるサプリメントについては、医師又はそれ以外の者が、患者、 顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を提示、提供することが想定され るのであって、この行為について「処方」の語を用いることがあり、かつ、 このようなサプリメントの種類、量等の提示、提供に際して作成される書類 を「処方箋」と称することがあると認められるから、「サプリ」と「処方箋」 が結びつくことのない語であるとはいえず、本願商標に識別性を認めること もできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 原告は、前記第3〔原告の主張〕(3)のとおり、少なくとも、本願商標の指 定商品及び指定役務のうち、第35類役務群については、本願商標が使用さ れたとしても識別性が認められると主張する。 しかし、第35類役務群には、「サプリメントの小売又は卸売の業務におい て行われる顧客に対する便益の提供」の役務が含まれており、前記3の説示に照らせば、本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の語が上記役 務に使用された場合には、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等 を記載した書類を一般的に指す名称であると認識することは明らかであると いえ、原告が提供する役務を認識することはない。そうすると、仮に、第3 5類役務群のその余の役務の中に、「サプリ処方箋」の語が当該役務に使用された場合に、本願商標の取引者又は需要者が、患者、顧客等に適切なサプリ メントの種類や量等を記載した書類を一般的に指す名称であると認識すると はいえないものが含まれていたとしても、第35類役務群との関係において も本願商標が自他識別力を有しないとの結論は左右されない。
また、前記3のとおり、「サプリメントを処方」、「サプリメントの処方」、「サプリを処方」、「サプリメントの処方箋」及び「サプリメント処方箋」と の語句が、サプリメントという商品に関し、一般の消費者に含まれる患者や 顧客に適切なサプリメントの量などの情報を提供することに関連して使用さ れる例があると認められること、サプリメントは栄養補助食品であって、「加 工食料品」、「食餌療法用飲料」及び「食餌療法用食品」とは同一ではないものの、加工して製造される食品である点、あるいは栄養面に配慮した食品で ある点で類似した面を有していること、医師が上記情報提供に際して「サプ リメントの処方箋」と称される書類を作成することがあることが認められ、 これらの事実によれば、第35類役務群のその余の役務(前記第2の1(1)イ) についても、「サプリ処方箋」の語がこれに使用された場合には、本願商標の 取引者又は需要者は、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を記 載した書類を一般的に指す名称であると認識すると解され、原告が提供する 役務を認識するとは認められない。

◆判決本文

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令和4(ワ)11921  特許権侵害に基づく差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年7月11日  東京地方裁判所

特許権侵害事件です。原告による同意があったと判断され、差止、損害賠償請求権を有しないと判断されました。

ア 前提事実及び前記認定に係る経緯を併せ考慮すれば、本件に関する一連の経緯については、以下のように要約し得る。
すなわち、原告は、平成 21 年 1 月の本件三社契約締結後間もない時期からリタッ グ、被告その他会員企業から、原告が供給する製品の品質及び安定供給に関する問 題点等を繰り返し指摘されたものの、これを解消し得ず、むしろ平成 23 年 3 月の東日本大震災の発生や平成 24 年 6 月の原告による民事再生手続開始申立てを受けて、\nより具体的な対応を強く求められるようになった。具体的には、遅くとも平成 24 年 7 月面談において、リタッグが、原告に対し、ヤマウ及び被告を委託先とする OEM 製造による二次蓋の供給を強く求め、原告もこれに応じ、原告はヤマウとの協議を 開始し、リタッグは、被告に対する委託を検討するようになった。しかし、原告とヤマウとの OEM 製造に関する協議は価格面の問題等から契約締結には至らず、原 告自身、平成 年 月会議において、複数社による二次蓋の製造の必要性を認める 発言や、製造に伴う責任と関連付けてその場合の許諾料に関する自己の意見を述べ、 被告による二次蓋の製造販売を許容する趣旨のものと理解し得る発言をした。これ を受けて、リタッグは、本件三社契約 18 条に基づく措置として、被告との間でリタッグ許諾契約を締結し、被告は、これに基づき、被告製品の製造販売を開始した。 他方、この頃、原告とヤマウとの OEM 製造に関する協議は具体的に進展していな い状況にあった。このような状況の中で、リタッグは、原告に対し、引き続き原告 による二次蓋の安定的な供給等につき強い懸念を示し、他方、原告は、被告による 被告製品の製造販売を問題視する姿勢を示すようになっていた。ところが、令和 3 年 2 月に原告が二次蓋を製造していた中国工場の閉鎖を関係取引先に通知するとい う事態を受け、令和 3 年 3 月会議が開催されることとなった。この際、原告は、被 告による被告製品の製造販売という事情をもって、原告中国工場の閉鎖の一因と示 唆しつつも、同事情を閉鎖により取引先に対する商品の供給に支障が生じないこと を示すものと位置付けて会員企業に説明し、さらに、原告としても、その後の二次 蓋の供給は被告による被告製品の製造販売に依存せざるを得ないとの考えを明示的 に示した。また、同会議において、原告は、被告による被告製品の製造販売と本件 各特許権との関係につき、被告による本件各特許権の侵害の問題ではなく、原告と リタッグとの契約(原告・リタッグ基本契約)に関する問題であるとの認識を示し た。
イ こうした一連の経緯を踏まえると、原告は、遅くとも令和 3 年 3 月会議において、リタッグに対し、同社と被告とのリタッグ許諾契約につき、その契約締結時 に遡って同意をしたものとみるのが相当である。 なお、リタッグ許諾契約締結の契機となったとみられるのは、平成 年 月会議 での原告の発言であるが、当時リタッグ許諾契約は未だ締結されておらず、また、 その契約内容に即した検討等がされたといった事情も見当たらないことなどを踏まえると、この時点では、原告は、リタッグが被告に対し二次蓋の OEM 製造を委託 するという方向性の確認ないし承認をしたにとどまるものとみられる。
(2) 原告の主張について
これに対し、原告は、リタッグ許諾契約に係るリタッグに対する同意又は被告製 品の製造販売に係る被告に対する本件各特許権の許諾のいずれも行っていない旨を主張する。
しかし、原告は、令和 3 年 3 月会議の時点で約 年の長きにわたり、リタッグ、 被告その他会員企業から本件工法に係る二次蓋の品質や安定供給に関する問題を指 摘され続けたにもかかわらず、会員企業の納得を十分に得られる対応を実現できな\nいまま、民事再生手続開始申立てや二次蓋の製造を行っていた中国工場の閉鎖に追\nい込まれた状況にあった。このため、原告は、同会議において、本件三社契約(及 び被告以外の会員企業との同様の契約)に基づく二次蓋の供給に係る原告の責任を 免れ、又は軽減するには、当時既に約 年の実績のあるリタッグ許諾契約に基づく 被告による被告製品の製造販売を承認するほかに方法がない立場に置かれていたも のと推察される。また、被告による被告製品の製造販売につき、本件各特許権の侵 害の問題ではなく、原告・リタッグ基本契約に関する問題であるとする発言も、同 契約ではリタッグが自ら製造し、又は第三者に製造させることを想定していないと みられること(20条等)を踏まえると、合理的であり首肯し得る問題意識と考えら れる。

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令和4(ワ)22517  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年8月21日  東京地方裁判所

日本製紙クレシアVS大王製紙のトイレットペーパーの特許紛争です。東京地裁は技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害についても主張されていましたが、裁判所はこれを否定しました(第3、第5要件不具備)。

被告は、トイレットペーパーの表面、裏面の各シートをそれぞれ表\面に凹凸 をつけるエンボス処理した後、それぞれのシートの凸部同士を内側にして2プ ライにするようなダブルエンボスでは、表面と裏面のシートのエンボスが干渉\nし、これらを常に干渉しないようにすることはほぼ不可能であり、付与された\n後のエンボスの形状、深さを明確に測定することができないので、本件発明1 は、シングルエンボスのトイレットロールのみに限定されると主張する。 しかしながら、本件明細書1記載の方法でエンボス深さDを測定することが でき、そこで測定されたエンボス深さDに本件発明1の技術的意味があるもの であれば、本件発明1のトイレットロールが、シングルエンボスのトイレット ロールに限定されるとは認められない。また、トイレットロールにおけるエン ボスであるという性質上、各エンボスの形状については一定のばらつきがある ことが想定されているといえる。
もっとも、本件発明1のエンボス深さDは、X−Y平面上のエンボスの高さ プロファイルを得ることができ(【図5】(a))、エンボスの周縁frやその最 長部aがどこに位置するのかを特定できるトイレットロールについて、【図5】 (b)、【図6】のような断面曲線を得た上で、測定されたものであり、そのよう にして測定されたものであるエンボス深さDが一定の数値のトイレットロール について本件発明1の効果を奏するとしているものといえる。各被告製品は、 各シートのエンボスの凹凸の位置関係を特に調整しないまま、プライボンディ ングした通常の2プライのダブルエンボスである(弁論の全趣旨)。このような ダブルエンボスのトイレットロールにおいては、表面と裏面にそれぞれ付され\nたエンボスが重なるとは限らず、エンボスの周縁が一致することが保証されて いないことから、エンボスの周縁が明確にならず、また、エンボスの凹凸の位 置がずれることにより干渉し、その形状が明瞭でないエンボスが生じ得る。そ して、甲51報告書によれば、各被告製品については、原告がエンボスとして 特定した部分の中央に、断面曲線で上に凸の曲率極大点が認められるなど、そ のエンボスが本件発明1のエンボス深さDを測定する際に想定されていた凹部 形状のものであるかが必ずしも明らかではないほか、X−Y平面上のエンボス の高さプロファイルによって、エンボスの周縁frやその最長部aがどこに位 置するのかを確定できるものとは必ずしもいえない。そうすると、そのような エンボスが付された各被告製品のトイレットロールについてエンボスを10個 選んで測定を行い、それらの平均値として一定の深さDを求めたとしても、本 発明1におけるエンボス深さDが測定できたということはできない。
(7) 以上によれば、原告測定方法は、本件明細書1に記載されたエンボス深さの 測定方法とはいえず、原告測定方法に基づいた甲10報告書によって、各被告 製品が構成要件1Bを充足するとは認めることはできない。甲51報告書その\n他の証拠によっても、各被告製品について、本件発明1におけるエンボス深さ Dが明らかであってその数値が構成要件1Bを充足するということを認めるに\n足りない。したがって、各被告製品はいずれも構成要件1Bを充足するとはいえない。\n
・・・・
構成要件2Eは、「前記把持部には、ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほ\nぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜部を有して横方向 に沿って並ぶ二個の指掛け穴が形成されており、」というものであり、特許請求 の範囲の「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」 との文言は、その「指掛け穴」が既に「形成」されているものであることから も、その「形成」されている「指掛け穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」で あり、また、そのほぼ長円の上部輪郭が非切抜部であると理解することができ るものであるところ、本件明細書2の上記部分には、そのような理解に沿う構\n成が記載されているということができ、そのような理解を前提として、その「ス リット状のほぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの 切り抜きにより上方に折り返されるものであることが記載されているといえる。 また、【図1】に記載された指掛け穴も上記の理解に沿ったものである。そうす ると、構成要件2Eの「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット\n状の指掛け穴」とは、同構成について本件明細書2において記載されている、\n上記に述べたとおりの構成のものであると認められる。\n
(2) 被告製品1の包装袋のスリットは、写真2の左側の写真の赤破線で示された とおりのものであり、被告製品3の包装袋のスリットは、写真2の右側の写真 の赤破線で示されたとおりのものである。 前記(1)のとおり、構成要件2Eについては、その「指掛け穴」が「ほぼ長円の\n一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭の 非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きにより上方に折り返される ものであり、その非切抜部は、「スリット状」の「ほぼ長円」の一部を構成する\nものである。そして、非切抜部を固定端とする片部が上方に折り返されるため には、その非切抜部の固定端が、「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭にあ る必要がある。
被告製品1及び被告製品3の包装袋のスリットをみると、その両端部はそれ ぞれ外側に湾曲して下方に向かい、終端が内側に位置しているから、このよう なスリットの両端部の終端の位置を考慮すると、被告製品1及び被告製品3に おいては、形成されている「スリット状」の「指掛け穴」の下部輪郭が「非切抜 部」であるともいえ、その非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜き により上方に折り返されるものではない。また、原告主張の熱融着部(写真3 参照)とスリットとを見ると、スリットは、その中央が、その上方に対しては、 弧状であるとしても、その左右には、上方への折り返しとなる頂点が存在せず、 それ自体「ほぼ長円」を形成しているとはいえず、「スリット状」の「ほぼ長円」 が形成されていないから、原告主張の上記熱融着部の円弧が「スリット状」の 「ほぼ長円」の上部輪郭にあるとはいえず、そこを構成要件2Eの「非切抜部」\nであるということはできない。そうすると、被告製品1及び被告製品3には、 「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」に相当 する構成があるとはいえない。\n
(3) 原告は、被告製品1及び被告製品3のスリットが切り抜かれることで把持部 に下に凸の円弧が生じ、スリットと熱融着部などによって形成される非切抜部 によって、ほぼ長円の形状の指掛け穴が形成されると主張する。 しかし、前記(1)のとおり、構成要件2Eにおいては、形成されている「指掛\nけ穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほ ぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きによ り上方に折り返されるのであり、その非切抜部は、「スリット状」の「ほぼ長円」 の一部を構成するものである。被告製品1及び被告製品3においては、「スリッ\nト状」の「ほぼ長円」が形成されているとはいえず、被告製品1及び被告製品 3において、スリットの上方の熱融着部などによって形成される部分が構成要\n件2Eの非切抜部であるとする原告の主張は採用できない。
原告は、本件発明2では指掛け穴の有するスリットが内側に回り込んでいるの に対し、被告製品1及び被告製品3ではスリットが内側に回り込んでいない点で、 被告製品1及び被告製品3が本件発明2と文言上相違するとした上で、この点に ついて均等侵害が成立する旨主張する。
しかしながら、被告製品1及び被告製品3においては、スリットは、その中央 部分のみが上方に対して弧状であり、本件発明2の構成とは基本的な形状が異な\nるといえるものなのであって、これが直ちに被告製品1及び被告製品3の製造時 において本件発明2から容易に想到することができたとは認めるに足りず、また、 原告は、本件異議申立事件の決定の予\告後に、指掛け穴を構成要件2Eの構\成に 限定したと述べて構成要件2Eの構\成を加えて、他の構成の指掛け穴の形状を意\n識的に除外したといえる。したがって、均等侵害をいう原告の主張には理由がな い。

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令和5(ネ)10052等  特許権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴、民訴法260条2項の申立て事件  特許権  民事訴訟 令和6年4月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審では約15億円の損害賠償でしたが、知財高裁は約8億としました。 その理由は、原審と異なり、102条1項、および2項の適用は認められたが、その一方102条3項の損害賠償率が一審の30%から、15%と低く認定されました。その結果、102条2項による損害額が一番高いので、結果として約8億と認定されました。

当裁判所は、原審と異なり、本件においても特許法102条1項及び2項の 適用は否定されない一方、同条3項につき原審が適用した相当実施料率30% は過大であると思料し、これを前提に、当審における請求原因(侵害の対象取 引)の追加も踏まえて、同条2項に基づいて認められる損害8億3191万6 753円の限度で損害賠償請求を認容すべきものと判断する。その理由は、以 下のとおりである。
・・・
(3) 以上の事情を踏まえて検討する。
SDダイサーのメーカーは、国内では、控訴人と、被控訴人からSDエ ンジンの供給を受けるディスコ社に限られている。 EO社等の国外メーカーの販売実績は明らかではないが、サムスン社が 被控訴人による特許権侵害との指摘を受けてEO社との取引を中止するに至 っていることに鑑みれば、競合メーカーの参入は、不可能とまではいえないまでも、相当限定されたものと推認される。\nそうすると、ステルスダイサーの販売者は、控訴人と上記ディスコ社で 大部分を占める状況にあると認められる。
また、本件において、被控訴人製SDエンジンは、本件訂正発明1並び に本件発明2−2及び本件発明2−3の技術の中核をなすものであり、そ の侵害品である被告製品にとっても、その技術の中核的部分に相当すると いえる。そうすると、被告製品の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する\n部分であり、商品としての競争力の源泉になっているものと解される。 このように、ステルスダイサーの国内市場における販売者は、控訴人と、 被控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社にほぼ限定されてい ること、被控訴人製SDエンジン自体は、ステルスダイサー製品の部品に とどまるものではあるが、その技術の中核をなすものであって、被告製品 の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する部分であり、商品としての競争\n力の源泉になっているものと解されることからすると、本件において、侵 害者による特許権侵害行為がなかったならば特許権者に利益が得られたで あろうという事情が認められるというべきである。 これを他の表現でいえば、被控訴人が主張するとおり、特許権者が販売する部品を用いて生産された完成品と、侵害者が販売する完成品とは、同\n一の完成品市場の利益をめぐって競合しており、完成品市場における部品 相当部分の市場利益に関する限りでは、特許権者による部品の販売行為は、 当該部品を用いた完成品の生産行為又は譲渡行為を介して、侵害品(完成 品)の譲渡行為と間接的に競合する関係にあるということもできる。
(4) 控訴人は、知財高裁令和4年10月20日判決(椅子式マッサージ機事件) は、特許権者が、侵害品と「需要者を共通」にする「同種の」「競合品」で あって「市場において・・・競合関係にある製品」を輸出・販売していた場合 に初めて、特許法102条2項による推定が正当化されることを踏まえたも のである旨主張するが、同判決の事案が、控訴人の指摘する場合であったと いうにすぎず、そのような場合以外に同項が適用されないことまでは判示す るものではない。 被控訴人製SDエンジンの1個当たりの利益の額は、(1)の被控訴人製S Dエンジンの1個当たりの価額から(2)の原価を控除した●●●●円である。 その●●台分は●●●●●●●円であり、前記の特許法102条2項に基づ き算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件において 同条1項に基づく損害は、採用の限りでない。
・・・ 特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度 の損害額を法定した規定であって、同項による損害は、原則として、侵害品 の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべ きである。そして、平成10年法律第51号による改正により、「通常受け るべき金銭の額」という同項の規定のうち「通常」の部分が削除された経緯 に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも特許権につい ての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、 特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべ き料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと を考慮すべきである。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施 許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実 施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発 明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該 製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵 害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し て、合理的な料率を定めるべきである。
(2) 本件における当てはめ
ア 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らか でない場合には業界における実施料の相場等(1))、特許権者と侵害者 との競業関係や特許権者の営業方針等(4))
(ア) 前記のとおり、被控訴人は、その開発に係るステルスダイシング技術 の中核的ユニットであるSDエンジン一式の製造については、自社製造 を必須とし、一切製造ライセンスを許諾せず、SDエンジンの販売利益 により先端技術の研究開発を継続するものであり、そのため、被控訴人 は、アライアンスパートナーに対し包括ライセンスを付与するに当たっ ては、被控訴人製造に係るSDエンジンの販売を大前提として、当該販 売とSD技術関連特許に関する特許発明のロイヤリティの支払を不可分 一体の条件とするものであり、被控訴人は、アライアンスパートナーに 対しては、本件特許発明を含めたSD技術関連特許につき、SDダイサ ーの最終販売価格の●%という実施料率に基づき、包括ライセンスを行 っており、他方、被控訴人からSDエンジンを購入しないSDメーカー に対しては、SD技術関連特許を包括ライセンスすることは一切ないも のである。したがって、被控訴人と控訴人の間では、当初本件業務提携契約に よりライセンス料が●%とされ、その後、●●●%に値下げされたが (乙15)、この実施料率を相当実施料率算定の基準とするのは相当 でない。
(イ) 前述のとおり、ステルスダイサーの販売者としては、控訴人と、被 控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社が大きな割合を占 めており、両者の競合関係は明らかである。
・・・
以上のとおり、被控訴人と控訴人の間では、当初ライセンス料が●%と され、その後、●●●%に値下げされたが、これは、控訴人において被 控訴人製SDエンジンのみを使用してSDダイサーを製造販売すること が前提となっているから、この前提を欠く場合に、上記ライセンス料の みをもって受けるべき料率とするのは相当でなく、他方、被控訴人製の SDエンジンの利益そのものを特許法102条3項の料率の基準とする ことも相当でないこと、一般的なライセンス料の傾向、控訴人と被控訴 人は競合状態にあること、本件訂正発明1については本件発明2−2や 本件発明2−3により補わなければならない点があるところ、被告製品 (低追従)は本件発明2−2及び本件発明2−3の技術的範囲に属さな いこと等の事情を総合すれば、本件において被控訴人が実施に対し受け るべき料率としては、15%と認めるのが相当である。
・・・
本件において特許権の侵害が認められるNo.●●●●の販売額合計は、別紙 6認容額計算表のとおり●●●●●●●●●●●●円であり、これに15%を乗じると、●●●●●●●●●●●円となる。これは、特許法102条2\n項に基づき算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件 において、同条3項に基づく損害は、採用の限りでない。

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1審はこちらです

◆平成30(ワ)28930

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令和5(行ケ)10087  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年7月8日  知的財産高等裁判所

商標「三金工業」(標準文字)が、引用商標「三金/Sankin」と類似するか、または、出所混同生ずるか(4条1項11号、15号)について争われました。 裁判所は、一部の指定商品・役務については、類似する、出所混同生ずると判断しました。

前記(イ)の各事実によれば、デ社は、遅くとも昭和23年の設立から 平成13年末までの約53年間「三金工業株式会社」の商号を、平成1 4年から平成28年末までの約15年間「デンツプライ三金株式会社」 の商号を、それぞれ使用し、長年にわたり歯科用材料、歯科用医療機器 等を製造販売しており、その事業実績は少なくとも業界の中堅規模以上 であったと認められる。また、デ社は、歯科医療関係者を中心とする需 要者に会社名を表示する広告宣伝を継続的に行い、「三金」、「サンキ\nン」又は「SANKIN」を商品名に含む商品についても、本件商標が 出願された平成29年まで長年にわたり継続的に製造販売され、年間数 千万円程度の純売上額を恒常的に上げていたことが認められる。 デ社の事業譲渡に係る経緯をみても、被告及びギコウ社は、デ社の歯 科技工所等の事業を譲り受ける価値があるものと判断するとともに、 「三金」、「SANKIN」の知名度、ブランド力をも評価していたと みるのが相当であり、このことは、歯科医療関係者の認識の程度を裏付 ける事情の一つといえる。 そうすると、本件商標の指定商品に含まれる歯科用材料、義歯等の取 引者、需要者である歯科医療関係者の間では、「三金」の表記及びその\n称呼の表記である「サンキン」、「SANKIN」は、デ社又はその製\n造販売する商品を表すものとして、広く認識されていたと認められる。\n
(エ) 以上の事実を前提に判断すると、本件商標は、「工業」の部分が出所 識別標識としての称呼、観念が生じないのに対し、「三金」の部分は、 取引者、需要者のうち歯科医療関係者に対しては現に出所識別標識とし ての印象を強く与えているということができる。そうすると、当該部分 は、その他の取引者、需要者からみても同様に出所識別標識としての称 呼、観念が生じ得るものである。これらの点に鑑みると、本件商標の 「三金」と「工業」とは、分離して観察することが取引上不自然である と思われるほどに不可分的に結合していると認めることはできず、「三 金」の部分を抽出し、引用商標と比較して商標の類否を判断することも 許されると解するのが相当である。
・・・
ア 本件商標とデ社の表示との類似性の程度\n
前記1(1)イ、ウで述べた理由から、「三金」、「サンキン」及び「S ANKIN」の表示(以下「三金」等の表\示という。)は、歯科医療関係 者の間では、デ社又はその製造販売する商品を表すものとして広く認識さ\nれおり、「三金」等の表示と本件商標「三金工業」は類似し、その類似性\nの程度も相当程度高いといえる。
イ 「三金」等の表示の周知著名性及び独創性の程度\n
前記1(1)イのとおり、「三金」等の表示は、歯科医療関係者の間では\n周知であったと認められるが、これ以外の取引者、需要者の間では、周知 であったとまでは認められない。また、独創性が認められないことは、デ 社及び被告が関係するもの以外にも「とんかつ三金」、「サンキン」又は 「SANKIN」の文字を図案化等した商標、「株式会社三金」、「サン キン株式会社」等の例が多数存在することからも明らかである(乙1の1 〜3)。 なお、引用商標自体については、「三金」等の表示以上の周知性、独創\n性を有するとは認められない。
ウ 本件商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との関連性等
(ア) デ社は、歯科医療関係者を需要者とする歯科用材料、歯科用医療機器 等を製造販売しており(前記1(1)イ(イ))、少なくとも本件商標の指定 役務のうち「義歯の加工」については、デ社の製造販売する商品との類 似性が認められることは前記のとおりである。しかるところ、証拠(甲 116、117)及び弁論の全趣旨によれば、「金属の加工」「セラミ ックの加工」は、金属又はセラミックを材料とする歯科用材料及び歯科 用医療機器の製造と関連性が高いこと、近年、歯科用材料等を作製する ための3Dプリンターの導入が進んでおり、デ社を含む原告グループに おいても、歯科医療のために設計された3Dプリンターを利用し、自動 化した歯科治療システムを提供していることが認められるところ、この ような実情は、本件出願日である平成29年10月30日の時点でも存 在していたことが推認され、これに反する証拠はない。これを踏まえる と、本件商標の指定役務のうち後で述べる「義肢の加工」及び歯科用材 料等との類似性が認められる「義歯の加工」(前記1(2)ア)を除く各 役務(第40 「金属の加工、セラミックの加工、金属加工機械器具の 貸与、化学機械器具の貸与、3Dプリンターの貸与、材料処理情報の提 供」。以下「本件金属加工等役務」という。)は、デ社又はそのグルー プ会社の業務に係る商品又は役務と密接に関連しているものと認められ、 その取引者及び需要者も歯科医療関係者であるという共通点が認められ るというべきである。
(イ) 他方、本件商標の指定商品のうち、本件薬剤等商品以外のもの(第5 類「乳幼児用粉乳、食餌療法用飲料、食餌療法用食品、乳幼児用飲料、 乳幼児用食品」、第10類「睡眠用耳栓、防音用耳栓、業務用美容マッ サージ器、家庭用電気マッサージ器」)及び指定役務のうち「義肢の加 工(「医療材料の加工」を含む。)」の役務については、デ社又はその グループ会社の業務に係る商品又は役務との性質、用途又は目的におけ る関連性は乏しく、取引者及び需要者の共通性も認め難い。 原告は、本件薬剤等商品以外の指定商品も医療用品又は衛生用品とい う歯科用材料及び歯科用医療機器と同じ性質を有し、同一又は類似の商 品である旨主張するが、これらの指定商品が医療又は衛生の用途で通常 用いられることを裏付ける証拠はなく、デ社その他の歯科用材料及び歯 科用医療機器を製造販売する事業者がそれらの商品を通常製造販売して いる等、商品・役務の出所の混同を生じさせるような事情も認められな い。
エ 以上の事情を総合すると、本件商標は「三金」等の表示と類似しており、\n「三金」等の表示は、歯科医療関係者の間において、デ社又はその製造販\n売する商品を表すものとして広く認識されている上、デ社又はそのグルー\nプ会社の業務に係る商品又は役務は本件金属加工等役務と密接に関連して いるのであるから、本件商標を本件金属加工等役務に使用するときは、そ の取引者及び需要者である歯科医療関係者において、その役務がデ社又は 同社と緊密な関係にある事業者の業務に係る役務であると誤信されるおそ れがあるということができる。

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令和5(ワ)70654  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年7月8日  東京地方裁判所

書籍の題号が、不競法2条1項1号又は2号に定める商品等表示に該当するかが争われました。裁判所は、該当しないと判断しました。問題となった題号は「牧野日本植物圖鑑」です。

(1) 不競法2条1項1号及び2号は、「商品等表示」につき、人の業務に係る\n氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を 表示するものと定義している。そうすると、同各号にいう「商品等表\示」と は、商品又は営業を表示するものであるから、出所表\示機能を有するものに\n限られるというべきである。そして、書籍には発行者等の表示が付されるの\nが通例であり、書籍の出所は、一般に上記発行者等の表示が示すものである\nから、書籍の題号は、その書籍の内容を示すものにすぎず、出所表示機能\を 有するものとはいえない。
そうすると、書籍の題号は、特段の事情がない限り、同各号にいう「商品 等表示」に該当しないと解するのが相当である。\nこれを本件についてみると、証拠(甲2ないし10、19)及び弁論の全 趣旨によれば、「牧野日本植物圖鑑」という本件題号は、牧野執筆に係る日 本の植物図鑑という書籍の内容を端的に示すものにすぎず、牧野という執筆 者に特徴があるのは格別、書籍の題号としてはありふれたものであるから、 本件題号には出所を示すような顕著な特徴はない。 そして、証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、一般に題号を同じ くする書籍であっても、別々の発行者等により発行されているものも少なか らず存在することが認められる。当該認定に係る取引の実情に鑑みると、本 件題号に接した需要者又は取引者が、これを書籍の出所を示すものとして直 ちに理解するものとはいえない。 これらの事情を踏まえると、本件題号は、出所表示機能\を有するものとは いえず、上記特段の事情があるものと認めることはできない。
したがって、本件題号は、不競法2条1項1号又は2号にいう「商品等表\n示」に該当するものと認めることはできない。 のみならず、被告書籍についてみると、仮に「牧野日本植物圖鑑」という 牧野執筆に係る植物図鑑が全国的に知られていたという立場を採用したとし ても、本件全証拠によっても、原告が本件図鑑を出版していた事実までも全 国的に知られているものとして著名であると認めるに足りない。 他方、仮に、原告が本件図鑑を出版していた事実が、一部の専門家や研究 者の間で周知であるという立場を採用したとしても、前記前提事実及び証拠 (甲19)によれば、被告書籍の表紙には、本件題号の左下欄に「三四郎書\n館」という発行所を示す表示が付されていることからすると、被告書籍に接\nした需要者又は取引者は、被告書籍の発行所が、原告ではなく「三四郎書館」 であると理解するのは明らかである。 そうすると、被告書籍の出版は、本件図鑑との混同を生じさせる行為とは いえないことは、明らかである。

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令和5(行ケ)10019    特許権  行政訴訟 令和6年8月7日  知的財産高等裁判所

薬の特許について、進歩性・サポート要件・実施可能要件が争われました。特許庁は無効理由無しと判断しました。裁判所も「どの範囲の実施例等の裏付けをもって十\分とするかについては、当該課題解決の認識がいかなるロジックによって導かれるかという点を踏まえて検討されるべき」と、同じ判断です。

以上の本件明細書の記載及び技術常識を総合すると、本件明細書には、 1)mAb1は、抗IL−4Rアンタゴニスト抗体であって、IL−4Rに結 合し、IL−4のシグナルを遮断する作用を有するものであること、2)mA b1が投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎における臨床症状が改善 したこと、3)mAb1が投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎のバイ オマーカーであり、IL−4によって産生・分泌が誘導されることが知られ ているTARC及びIgEのレベルが低下したことが開示されていることか ら、これに接した当業者は、本件患者にmAb1を投与した際のアトピー性 皮膚炎の治療効果は、mAb1のIL−4Rに結合しIL−4を遮断する作 用、すなわち、アンタゴニストとしての作用により発揮されるものと理解す るものといえる。そうすると、IL−4Rに結合しIL−4を遮断する作用を有する抗IL −4Rアンタゴニスト抗体(本件抗体等)であれば、mAb1に限らず、本 件患者に対して治療効果を有するであろうことを合理的に認識でき、前記 (2)に記載した本件訂正発明の課題を解決できるとの認識が得られるものと 認められる。
(6) ところで、本件明細書に開示された薬理試験結果はmAb1に関するも ののみであることは、原告の指摘するとおりである。しかし、サポート要件 の適合性につき、「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明 に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課 題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」等を判断するに当 たって、どの範囲の実施例等の裏付けをもって十分とするかについては、当\n該課題解決の認識がいかなるロジックによって導かれるかという点を踏まえ て検討されるべきであり、特許の権利範囲に比して実施例が少なすぎると いった単純な議論が妥当するものではない。
これを本件についてみるに、本件においては、1)mAb1は、抗IL− 4Rアンタゴニスト抗体であって、IL−4Rに結合し、IL−4のシグナ ルを遮断する作用を有するものであること、2)mAb1が投与された本件患 者では、アトピー性皮膚炎における臨床症状が改善したこと、3)mAb1が 投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎のバイオマーカーであり、IL −4によって産生・分泌が誘導されることが知られているTARC及びIg Eのレベルが低下したことが開示されていることから演繹的に導かれる推論 として、本件患者にmAb1を投与した際のアトピー性皮膚炎の治療効果は、 mAb1のIL−4Rに結合しIL−4を遮断する作用、すなわち、アンタ ゴニストとしての作用により発揮されるものと理解されるものであって、課 題を解決できると認識できる範囲が幅広い実施例から帰納的に導かれる場合 とは異なる。上記作用機序は、本件抗体の一つであるmAb1がIL−4R に結合し、IL−4のシグナルを遮断する作用を有するものであり、mAb 1が投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎における臨床症状が改善し、 アトピー性皮膚炎のバイオマーカーも低下したのであるから、mAb1以外 の抗IL−4Rアンタゴニスト抗体である本件抗体等(mAb1以外の32 種)も同様の作用効果を有すると当業者が理解できることは明らかである。 本件明細書に開示された薬理試験結果はmAb1に関するもののみであ るとの原告の指摘は、上記認定判断を左右するものではない。

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令和6(行ケ)10007    商標権  行政訴訟 令和6年8月5日  知的財産高等裁判所

「Jimny Fan/ジムニーファン」の2段併記の商標について、 「スズキ社のオフロード車の名称」の「Jimny(ジムニー)」に対して、類似または混同生ずるとの審決(4条1項11号、15号)が維持されました。

これを本件について見るに、確かに、Jimny商標(「Jimny (ジムニー)」)がスズキ社の製造販売するオフロード車の名称を表示\nするものとして、我が国の幅広い年齢層の自動車ユーザー等の間で広く 知られていたことは上記のとおりであり、したがって、仮に、Jimn y商標が「自動車」に使用された場合を想定すれば、商品の出所識別標 識として強く支配的な印象を与えると判断することには十分な理由があ\nるといえる。しかし、本件で問題とすべきは、本願商標を本願補正商品 に使用したときに、取引者・需要者が出所識別標識としていかなる認識 を有するかということである。
このような観点から考えると、まず、客観的な事実として、スズキ社 を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、「オフ ロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」を発行して いる事実は認められない。のみならず、原告代表者によれば、スズキ社\nを含む自動車メーカーは、前述したジムニーのカスタマイズ市場(上記 2(2)ア参照)等に係る業務に対して、第三者の活動を側面から援助する ことはあっても、主体的に関わることは避けていることがうかがわれる。 このような中、本願商標を使用した本願補正商品に接した取引者・需要 者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系列ディーラー等 が発行主体となっている(可能性がある)と認識するとは考え難い(そ\nのような認識を基礎づける証拠は一切提出されていない。)。
なお、オフロード車の改造に関心を有しているであろう本願補正商品 の取引者・需要者が本願商標に接した場合、本願商標中の「Jimny」 及び「ジムニー」の部分が、改造のベースとなる車両として強く支配的 な印象を与えることは想像に難くないが(実際、本件雑誌がそれを意図 していることは明らかである。)、それは「出所識別標識」とは次元の 異なる問題であり、「Jimny」及び「ジムニー」の部分を結合商標 の要部として抽出する根拠となるものではない。 本件審決が、「本願商標は、その構成中の『Jimny』の欧文字及\nび『ジムニー』の片仮名が強く支配的な印象を与えるものであり、引用 商標との類否を判断するに当たって、当該文字を本願商標の要部として 抽出し、これを引用商標と比較して商標の類否を判断することも許され る」とした判断は、「商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を 与える場合」に結合商標の要部認定を認める前記最判の趣旨を正解しな いものといわざるを得ない。
・・・
(1) 上記1(2)の枠組みに従って判断するに、まず、Jimny商標がスズ キ社の製造販売するオフロード車の名称を表示するものとして、我が国の幅\n広い年齢層の自動車ユーザー等の間で広く知られていたことは上記のとおり であり、また、「Jimny(ジムニー)」は普通名詞に由来しない造語と 理解されるものである。したがって、Jimny商標の周知著名性及び独創 性の程度は、いずれも高いものと評価される。
(2) そこで、次に、本願商標の指定商品(本願補正商品)とスズキ社の業務 に係る商品・役務との関連性について検討する。
ア 上記1(3)でも述べたように、自動車メーカーが自ら又は系列ディー ラー等を通じて自動車の関連グッズを販売したり付随サービスを提供し たりすることは珍しくないと解され、スズキ社においても、オフロード 車(ジムニー)そのものにとどまらない一定の商品・役務につき、周知 のJimny商標に係る信用を利用して、ジムニー関連ビジネスという べき業務を展開することは十分考えられる。\n
イ しかし、本願商標の指定商品(本願補正商品)は、第16類「オフロー ド車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」という極めて ニッチな商品であるところ、取引の実情として先に認定したとおり、ス ズキ社を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、 「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」を発 行している事実はなく、また、本願商標を使用した本願補正商品に接し た取引者・需要者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系 列ディーラー等が発行主体となっている(可能性がある)と認識すると\nも考え難い。 加えて、スズキ社は、原告が本願商標の構成と同じ題名の本件雑誌を\n10年以上にわたって発行していることを知悉しながら、Jimny商 標との関係での誤認混同を生じさせるといった警告、クレームを原告に 伝えたことがないばかりか、原告に広告料を支払って本件雑誌にジム ニーの広告を掲載するなどして本件雑誌の発行を援助していることも前 述のとおりである。
ウ 以上の事実関係に原告代表者の供述を総合すると、スズキ社がJimn\ny商標の下で展開する業務としては、オフロード車(ジムニー)そのも のにとどまらない関連グッズ、付随サービスを含み得るものではあるが、 「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」に係 る業務は、スズキ社又はその系列ディーラー等とは直接関係のない第三 者によって提供されているのが実情であり、スズキ社とは抵触関係に立 たない「棲み分け」が成立していると認められる。
(3) 以上によれば、本願商標を本願補正商品に使用したとしても、スズキ社 のJimny商標に係る商品・役務との混同を生ずるおそれは認められない というべきである。よって、本願商標は、商標法4条1項15号に該当する ものではない。

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車関係の似た事件では、「スバリスト」事件がありました。

◆平成24(行ケ)10013

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令和5(ワ)70422  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年8月1日  東京地方裁判所

 契約書がなくても、著作権は譲渡を受けていると判断されました。

ア 前提事実及び上記各認定事実によれば、原告Aは、原告社団代表者との関係性を前提として、原告社団から対価(7 万円)の支払を受けて本件写真を含む写真 の撮影を行い、原告社団は、原告Aから本件写真の納品を受け、その後、原告Aか ら個別に許諾を得ることなく、本件写真を利用していたといえる。また、上記認定 事実からうかがわれる原告社団とEないし Colabo との関係性を踏まえると、E及 び Colabo による本件写真の利用は、原告社団の包括的又は個別の許諾に基づき行 われたものであることがうかがわれる。 他方、原告社団の原告Aに対する利用許諾料の支払その他原告社団による本件写 真の利用が原告社団と原告Aとの利用許諾契約に基づくものであることをうかがわ せる具体的な事情は見当たらない。
このような本件写真の利用態様に鑑みると、原告社団による本件写真の利用は、 原告Aによる本件写真の納品及び原告社団によるその対価の支払によって原告社団 が本件写真の著作権を取得したことに基づくものと理解される。このような理解は、 原告社団代表者、原告A及びCの各陳述ないし供述(甲 2〜4、14、証人C)に沿う ものでもある。また、これらの陳述ないし供述については、いずれもその信用性に 疑義を抱くべき具体的な事情はなく、また、相互に矛盾するものでもない。加えて、 原告社団及び原告Aは、前訴から一貫して、本件写真に係る著作権は原告Aから原 告社団に譲渡された旨主張している。 これらの事情を総合的に考慮すると、本件写真に係る著作権は、原告Aの原告社 団に対する本件写真の納品及び原告社団の原告Aに対するその対価の支払により、 原告Aから原告社団に譲渡されたとみるのが相当である。
イ これに対し、被告は、著作権譲渡を裏付ける契約書等がないことその他の事 情を縷々指摘して、原告Aから原告社団に対し本件写真に係る著作権の譲渡はない 旨主張する。 確かに、原告Aから原告社団に対する著作権譲渡を直接的に裏付ける契約書その 他の客観的な資料は存在しない。また、原告Aは、前訴において、本件写真につき、 原告社団に対して「写真の使用権」を譲渡したとの認識である旨や、被告の本件写 真の利用をもって「私や「のりこえねっと」の著作権を侵害していることになる」 旨陳述したところ、これらの陳述は、原告Aが本件写真の著作権を有することを前 提とする趣旨と理解し得ないものではなく、少なくとも、著作権の帰属につき判然 としない内容のものであるとはいえる。原告社団が原告Aに支払った対価の額も、 Eを含む 3 名の写真撮影に関するものであることや交通費を含むことを考えると、 原告A及び原告社団代表者も陳述するとおり、著作権譲渡の対価としては相当に低廉であると評価し得る。\n
しかし、契約書その他直接的に著作権譲渡を裏付ける客観的な資料がないことは、 もとより直ちに著作権譲渡がなかったことを意味するものではない。原告社団と原 告Aとの関係性に鑑みれば、そのような資料の不存在は必ずしも不自然ないし不合 理とはいえない。同様の理由から、支払われた対価が著作権譲渡の対価としては相 当に低廉であるとしても、これをもって著作権譲渡がなかったことをうかがわせる 事情とは必ずしもいえない。前訴における原告Aの陳述も、趣旨は判然としない部分はあるものの、「譲渡」や「原告社団の著作権の侵害」という表現を含むものである。そもそも、上記陳述は、原告社団が本件動画 33 及び 34 の著作権を主張する前 訴において原告社団により提出されたものであることや、原告社団と原告Aとの関 係性に加え、原告Aは法律の専門家ではなく、法的事項につき不正確な表現をすることも十\分にあり得ることをも考慮すると、前提として原告社団に対する著作権譲渡を含意するものと理解するのが相当である。

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令和6(行ケ)10032  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年7月31日  知的財産高等裁判所

クローバ図形と文字「アイデンタルクリニック」の結合商標について、引用商標と類似するのか(4条1項11号)が争われました。裁判所は、要部は文字部分であると判断して、類似するとした審決を維持しました。引用商標1、2は、アルファベット「I」を図形化したロゴと「「I DENTAL CLINIC」または、「アイデンタルクリック」の結合商標です。

ウ 本願文字部分について
本願文字部分中「i」の欧文字は英語アルファベットの第9字であり(乙 6、9)、「i」の欧文字部分の上に配された「アイ」の文字が、同欧文字 部分の読み仮名(ルビ)を表したものであることは明らかであるから、本願\n文字部分からは「アイデンタルクリニック」の称呼が生ずる。 そして、「デンタルクリニック」の文字が「歯科医院」の意味を有する外 来語であることは、現在の日本における英語の普及度合からみて、一般的 に理解されているものと解され(乙7、14、15)、任意の文字と合わせ て、歯科医院の名称の一部として実際に使用されている実情にある(乙8、 16)。「デンタルクリニック」の文字に関する上記使用の実情から、本願 文字部分は、歯科医院の名称を連想させるものの、本願文字部分全体とし て一般の辞書等に掲載されているものではなく、具体的な意味合いを認識 させるものであるとはいえない。また、本願商標の指定役務である「歯科医 業」等の需要者は、その役務における他のサービスと区別する目印として、 その提供者に係る歯科医院等の名称に着目してそのサービスの選択に当た ることが一般的と解され、本願商標に接する需要者は、いかなる植物を図 案化したものか自体明らかでない本願図形部分に着目するのでなく、「歯 科医院の名称」を表していると考えられる本願文字部分に、より一層着目\nし、当該文字(語句)より生ずる称呼によって、取引に当たるのが自然であ るといえる。
エ 本願商標の要部
以上に認定したところに鑑みれば、本願図形部分からは出所識別標識と しての称呼、観念が生じないと認められ、また、本願図形部分と本願文字部 分は間隔を大きく開けて配置されており、商標全体としての構成上の一体\n性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、本願文字部分 から生ずる称呼によって取引に当たる結果、本願文字部分が独立した出所 識別標識としての機能を果たすということができるから、本願文字部分が\n本願商標の要部に当たるというべきである。
オ 原告の主張について
(ア) 原告は、本願商標は、本願図形部分の中心部を頂点とし、本願文字部 分の最初の文字と最後の文字が他の2頂点となるような、正三角形状に 間隔を空けて配置されたものであり、外観における全体の配置の一体的 なバランスがあり、また、本願図形部分は、本願文字部分における「i」 を象形様に図形化したもので、本願図形部分に係る五つ葉のクローバー の花言葉の一つである「愛」・「愛情」と、本願文字部分における「i」 のフリガナ「アイ」とに称呼や観念における関連性があるから、本願商標 について分離観察するのは不適当である旨主張する。 しかし、本願商標に、本件図形部分の一番上でなく中心部が頂点であ る正三角形の存在を認識するような手がかりは何ら存在しない。
また、原告は、本願図形部分について、「iの上部点丸」が五つ葉のク ローバーの葉の部分、「iの下部棒」が五つ葉のクローバーの茎の部分を 表すというのであるが、本願図形部分の大きな葉の部分が「iの上部点\n丸」に当たり、これと接着して小さく横に伸びる茎の部分が「iの下部棒」に当たるというのは、「i」の欧文字の構造(上部点丸が下部棒に比\nべ小さく、両者は分離しており、下部棒が直立している。)に鑑み無理が あるというほかなく、本願図形部分が「i」の図形化であるとは認められ ない。また、五つ葉のクローバー自体一般に認識されていると認められ ないことは上述のとおりであるから、ましてその花言葉が一般に認識さ れているともいえない。原告の主張は採用できない。
(イ) また、原告は、本願文字部分のうちの「デンタルクリニック」は、本願 商標の指定役務との関係において単なる役務の提供の場所等を記述的に 表示するものであり、本願文字部分のうちの「i」は、アルファベット一\n文字で識別力がないから、それらをつなげた本願文字部分についても識 別力がなく、「iデンタルクリニック」(アイデンタルクリニック、I D ENTAL CLINIC)と称される歯科医院及びこれに類する歯科医 院は、国内に数多く存在する旨主張する。
たしかに、「iデンタルクリニック」は、歯科医院を意味する「デンタ ルクリニック」にアルファベット1字の「i」を結合させたにすぎないも のであり、それ自体として、高い識別力を発揮しているとまではいえな いと解される。しかし、「アイデンタルクリニック」の称呼を生ずる歯科 医院の使用例(甲9の2〔特に、番号21、22、32、34、36、3 7、43〜46、51、61、62、64、69〜71、74、80〕、 乙20〜22)を踏まえても、「i(アイ)デンタルクリニック」が出所 識別機能を有しないといえるほど一般的でありふれたものとまではいえ\nず、少なくとも、本願商標の要部認定という観点から、本願文字部分を要 部と認定するに妨げはないというべきである。

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令和5(行ケ)10146  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年7月25日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決(拒絶査定不服審判)が維持されました。

 原告は、甲1には卵パックの搬送方向を変更することにつき、記載も示唆もない と主張する。しかし、上記(2)イのとおり、引用発明に係る装置において、コンベア や関連する装置の配置を最適化することは、当業者において自明の課題といえると ころ、同一の技術分野及び作用機能に係る甲2には、パックの搬送方向を変更でき\nる旨が明記されているから、引用発明及び甲2に接した当業者が、引用発明におけ る卵パックの搬送方向につき、甲2に記載された構成を適用する動機付けが認めら\nれる。原告の主張は採用することができない。 原告は、引用発明ではラベルが空気抵抗の影響を受けて挙動が不安定になり落下 位置がずれやすいのに対し、甲2発明ではラベルが空気抵抗の影響をほとんど受け ないとして、前提の異なる甲2記載の構成を引用発明に採用することはできないと\n主張する。しかし、甲1には、従来の装置の課題として「ラベルを水平方向にしたま ま落下させるとラベルは空気抵抗でどこに落下するか予測できない」(明細書2頁1\n3〜15行目)ことを挙げ、引用発明は「ラベルを水平方向にしたまま落下させな いで、ラベルを斜めにした状態で落下させると、ラベルはその傾斜の下方延長方向 に確実に落下すると云う原理に基(づ)いている」(同3頁1〜4行目)として課題 を解決する旨が記載されている。甲1の記載を総合しても、このようにして課題を 解決することとした引用発明において、それにもかかわらず、ラベルが空気抵抗の 影響を受けて挙動が不安定になり、ラベルの落下位置がずれやすいと認められるも のではなく、少なくとも、引用発明における卵パックの搬送方向を変更することに 阻害要因があるとは認められない。原告の主張は採用することができない。
原告は、引用発明では、ラベルが落下していく傾斜の下方延長方向と、コンベア による卵パックの搬送方向とが交わるようにすることで、発明の目的を達成してい るところ、卵パックの搬送方向を変更することはその目的に反することになり、阻 害要因があると主張する。しかし、甲1には、ラベルが落下していく方向と卵パッ クの搬送方向とが交わるようにすることにより発明の目的を達成している旨の記載 はないし、甲1の記載を総合しても、卵パックの搬送方向が変更された場合に、引 用発明の目的が達成されないと認めることはできない。また、パックが輸送される タイミングに合わせてラベルを投入することは、当該技術分野における技術常識と いえ、パックの搬送方向を変更させた上で、タイミングに合わせてラベルを投入で きるようにすることは、当業者が通常採用し得る事項といえる。引用発明における 卵パックの搬送方向を変更することに阻害要因があるとはいえない。 原告の主張は採用することができない。
・・・
原告は、本件審決が引用発明につき、「ラベルLは、保持を解除された後も、上ベ ルト3と接してベルトの駆動方向に押し出されるようになる」とした点につき、ラ ベルLは、上下ベルト3、4の挟持が解除された後、再び上ベルト3に接すること はないから、本件審決の認定は誤りであると主張する。しかし、本件審決の上記認 定部分は、ラベルLが上ベルト3との接触を離れた後に再び上ベルト3に接触する 旨をいうものとは解されない。引用発明において、ラベルLは、上下ベルト3、4の 運動によって輸送されていくから、その前端部分から後端部分にかけて、徐々に上 下ベルト3、4の挟持から離脱していくこととなるが、その間も、少なくとも後端 部分は上ベルト3に接してその運動により駆動方向に押し出されていく。本件審決 の上記認定部分は、これと同旨をいうものと理解できる。原告の主張は採用するこ とができない。
原告は、卵パックにラベルを投入する直前にラベルを一旦保持する構成は技術常\n識であるから、引用発明においても、ラベルLの後端部がプーリ7、10の位置に 到達した際、上下ベルト3、4は駆動を止めてラベルLを一旦保持し、その後、上下 ベルト3、4が駆動を再開することで保持が解除され、ラベルLは、傾斜の下方延 長方向(ラベルの短辺に沿った方向)に落下すると主張する。しかし、仮に引用発明 において上下ベルト3、4が駆動を止めてラベルLを保持し、その後駆動を再開し てラベルLの保持を解除するとしても、上下ベルト3、4の駆動の再開により、ラ ベルLには上下ベルト3、4の駆動による同駆動方向への駆動力が働くのであるか ら、ラベルLがその長辺に沿った方向に押し出されることは否定できない。原告の 主張は採用することができない。

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令和5(行ケ)10145 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年7月10日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項であるとした審決が維持されました。

本件補正は、特許請求の範囲の請求項2に対する「前記開放空間は、前記 封止部材と前記レンズ部材の間において、前記レンズ部材の外縁を環状に一 周することなく前記接着剤が配されることで形成される」との請求項2補正 事項を含むものであり、この請求項2補正事項が、新規事項の追加に当たる かが問題となっている。そして、請求項2補正事項は、その文言から、開放空 間が「前記レンズ部材の外縁を環状に一周することなく前記接着剤が配され ること(本件接着剤配置)で」形成されるのであるから、本件接着剤配置が開 放空間の形成に寄与することを要すると解される。そこで、以上の趣旨が、当 初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項といえる かを、以下検討する。
ア 当初明細書等のうち、まず、実施形態3に係る【0037】〜【0039】 の記載及び図7によれば、接着剤がレンズ部材の外縁を環状に一周して配 されていることが明らかであるから、これが本件接着剤配置、ひいては請 求項2補正事項を開示するものでないことは明らかである。
イ 次に、当初明細書等のうち、実施形態4に係る記載について検討する。 実施形態4では、図8から、レンズアレイ20の外縁と、レンズアレイ2 0が接着剤により封止部材80に固定される領域との関係から、接着剤は レンズ部材の外縁を環状に一周していないことが理解できるので、本件接 着剤配置については、図8から見て取れる事項といえる。
しかし、当初明細書等の「レンズアレイ20は、平面視において、レンズ アレイ20の外縁の一部が凹部82bの内側に位置するように配置されて いるとともに(図8中の開口部Gを参照)、凹部82bの外側において接着 剤により封止部材80に固定されている。」(【0040】)との記載及び 「開口部Gの数及び配置は、レンズアレイ20の外縁の一部を凹部82b の内側に位置させるものであればよく、図8に図示した数及び配置に限定 されるものではない。」(【0041】)との記載によれば、実施形態4に 係る記載は、レンズアレイ20の外縁の一部を凹部82bの内側に位置さ せるという位置関係によって開放空間を形成するのであって、そこでは、 そもそも接着剤の配置は問題とされていない。また、当初明細書等の【0042】の記載は、発明が実施形態3、4に限定されないことを示すにすぎない。
ウ 原告は、当初明細書等の【0040】の記載から直接的に「レンズアレイ 20の外縁の一部が凹部82bの内側に位置するように配置されていると ともに、凹部82bの外側において接着剤により封止部材80に固定され ている」ことにより、レンズアレイ20と封止部材80との間の空間が開 放空間となっていると理解できる旨主張するところ、これは、「レンズアレ イ20の外縁の一部が凹部82bの内側に位置するように配置されている」 ことと、「凹部82bの外側において接着剤により封止部材80に固定さ れている」ことが相まって、レンズアレイ20と封止部材80との間の空間が開放空間となっているとするものである。しかしながら、【0040】 の当該記載は、接着剤がレンズ部材の外縁を環状に一周して配されている ものであり、本件接着剤配置を前提としない実施形態3を説明する【00 37】の「レンズアレイ20は、平面視において、凹部82bの内側に貫通 孔Fを有するとともに、凹部82bの外側において接着剤により封止部材 80に固定されている。」という記載と、「レンズアレイ20は、平面視に おいて、・・・とともに、凹部82bの外側において接着剤により封止部材 80に固定されている」という文言で一致しており、接着剤の配置が開放 空間の形成に寄与することを示すものとは認められない。
また、原告は、実施形態3において、レンズアレイ20に貫通孔Fが設けられていない構造は、封止部材80とレンズアレイ20の間の空間は開放空間とはならない構\造であることが理解できることを前提に、当業者は、請求項2補正事項を明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより、導くことができる旨主張する。しかし、実施形態3に係る当初明細書等【0037】〜【0039】及び図7、特に【0038】の「これに対して、接続部24に貫通孔Fを設ければ、レンズアレイ20と封止部材80との間の空間が開放空間となるため、接着剤から気化したガスを当該空間外へと逃がし、有機物の堆積(集塵)を抑制しやすくなる。開放空間とは開放された空間をいう。」との記載に鑑みれば、貫通孔Fを開放空間形成の手段としていることが明らかであり、貫通孔Fが設けられていない構成についての記載や示唆もなく、ほかに、実施形態3に関する記載から貫通孔Fが設けられていない構\成を当業者が理解することができることを示す証拠もないことから、上記前提自体が認められない。
エ 以上のとおり当初明細書等の全ての記載を総合しても、本件接着剤配置が開放空間の形成に寄与するという技術的事項を導くことはできない。

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令和5(行ケ)10084等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年7月17日  知的財産高等裁判所

審判では訂正要件充足、訂正後の発明について進歩性違反無しと判断されました。知財高裁は、訂正自体は有効だが、進歩性無しと判断しました。 被告(特許権者)は、「甲2発明に甲1発明を適用して、甲2発明のインナロータ型モータをアウタロータ型モータに置き換え、さらに周知技術を適用して磁石を筒缶部の内周面に貼設されるようにするという複数のステップを求めるものであり、容易の容易として認められない。」と主張していました。

甲8文献は、平成15年9月19日公開された発明の名称を「ロータおよびその製造方法」とする特許出願の公開公報(特開2003−264963)である。甲8文献に記載された技術は、ロータ軸に接着剤を用いて焼結磁石を固定したロータおよびその製造方法に関するものであり(甲8文献の段落【0001】)、甲8文献の図1(a)及び(b)には、ロータ10は、ロータ軸12の外周面上に周方向に沿って配列された複数の磁石片20と、複数の磁石片20を外周面に固定する接着剤層14とを備えていること(甲8文献の段落【0021】)が記載され、甲8文献の図1において、複数の磁石片20がロータ10に互いに隙間を空けて貼設されていることが記載されている。\n
(エ) 甲9文献(日本接着学会誌 Vol.39、No.9〔2003/9/1〕「構造接着技\n術の応用展開と最適化技術の構築」原賀康介)には、モーターの磁石接\n着について、甲9文献の図7は、モーターのロータ―の構\造を示してお り、スパイダーにセグメント状の永久磁石が接着されており、磁石の接 着には、従来から加熱硬化型エポキシ系接着剤が使用されてきたが、ネ オジウム系磁石は線膨張係数が0からマイナスであるため、加熱硬化では熱応力が大きく耐ヒートサイクル性に劣ることや加熱硬化で作業性に劣るため、最近は生産性に優れた2液室温硬化型の耐熱性アクリル系接着剤に変わりつつあることが記載されている。
(オ) 甲5文献は、平成17年6月2日公開された発明の名称を「回転電機 のロータ」とする特許出願の公開公報(特開2005−143248) である。甲5文献に記載された技術は、発電機やモータ等の回転電機に 使用されるロータに関するものであり(甲5文献の段落【0001】)、 その実施形態である甲5文献の図1及び図3のアウターロータ5は、ロ ータ本体50と、ロータ本体50に固定された複数個の磁石部7とを有 し、磁石部7は、ロータ本体50のリング部55の内周領域57におい て周方向に間隔を隔てて保持された永久磁石で形成されていること(甲 5文献の段落【0030】〜【0034】、図3)、磁石部7は接着剤 等により 方向に間隔を隔てて形成された着座溝61に接合されている (甲5文献の段落【0034】)、上記実施形態は、回転電機として働 くモータのアウターロータ、インナーロータに適用しても良いこと(甲 5文献の段落【0072】)が記載されている。そして、甲5文献の図 1には実施形態の発電機の断面図が、甲5文献の図3には発電機のアウ ターロータのうち磁石部をリング部が保持している状態の異なる方向の 部分断面図が、それぞれ記載されている(甲5文献の段落【007 8】)。
(カ) すなわち、甲5文献においては、磁石を保持する態様として、アウタ ロータ型電動モータでは、ステータの外周側(ロータの内周側)に複数 の磁石が相互に隙間を空けて配置されることが記載されている。また、 甲8、9文献においては(甲70、71文献にも同様の記載があること から、当時の技術常識と認められる。)、接着剤固定法では、通常、エ ポキシ系やアクリル系などの接着剤で固定する方法により貼設されるこ\nとが、それぞれ記載されている。
イ 以上を踏まえ、相違点II)について検討すると、アウタロータ型電動モー タにおいて、磁石を保持するために、複数の磁石をステータの外周側(ロ ータの内周側)に沿って配置し、接着剤固定法等により「貼設」すること\nは、周知技術であると認められる(甲5、8、9)。したがって、上記周知技術を適用して、相違点II)の構成とすることは当業者にとって容易想到であったというべきである。\n
ウ この点について、被告は、主引例の甲1発明と、副引例(甲5、8、9) の各技術の課題は相互間でも異なるから、組み合わせることに動機付けを 肯定する余地はないなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、これ らの副引例(甲5、8、9)に記載された磁石の配置及び固定方法は、周 知技術であると認められるから、これを適用することの動機付けを肯定す ることが困難ということはできない。

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令和5(ワ)5412  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年7月2日  大阪地方裁判所

コーヒー豆等を収納するガラス製の保存容器について、著作物性無しと判断されました。念のために依拠性についても判断されて、依拠性無しと判断しています。

原告各作品は、コーヒー豆等を収納するガラス製の保存容器(キャニスター)で あるから(争いなし)、実用目的を有する量産品であるといえる。原告各作品が、 保存容器という実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して、美術 鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているか否かについてみると、原告各作品は、 ストレートガラスカップと木製の蓋から構成されており、ストレートガラスカップ\nに装飾のある木製の蓋を組み合わせること自体はアイデアであるところ、前者(ス トレートガラスカップ部分)には、保存容器として必要な機能に係る構\成と分離し て、美術鑑賞の対象となり得る美的特性が備わっているとは認められない(原告も この部分について、創作的表現が備わっている旨の主張はしていない。)。また、\n後者(木製の蓋部分)は、先端側から順に略球形、円盤型、円錐型からなる3段か ら構成され、各段の境目はくびれの構\成となっているところ、このような構成は持\nち運びや内容物の収納、ストレートガラスカップに対する蓋の着脱を容易するため に必要な構成であるから、実用目的を達成するために必要な機能\に係る構成と分離\nして、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとはいえない。また、仮に、 保存容器(キャニスター)の実用目的を達成するために、その蓋部分の構成をフィ\nニアル状にする必然性はないとして部分的には実用目的を達成するために必要とは いえない構成が含まれると解するとしても、略球形、円盤型及び円錐型を組み合わ\nせていくつかの段を構成し、各段の境目がくびれている木製の装飾は、骨董品に用\nいられるなど、かなり前から家具等で広く用いられていたこと(乙3、4)、原告 がP10を制作する以前の平成25年時点において、略球形や円盤の形状のいくつ かの段が設けられ、各段の境目がくびれている木製の蓋が細いガラス瓶に接着され た作品(乙2・5枚目)が存在していたことなどの事情も踏まえると、原告各作品 の上記蓋部分の構成はありふれたものであって、美術鑑賞の対象となり得る美的特\n性である創作的な表現を備えているとはいえない。したがって、原告各作品は、創作性がなく、著作物であると認めることはできな\nい。
2 争点2(複製又は翻案の有無)について
なお、事案にかんがみ、依拠性についても検討する。 原告は、被告各作品は原告各作品に依拠している根拠となる事情として、被告P 2が令和2年1月に原告各作品の取扱いを求めたが原告がこれを断ったこと、令和 4年10月以降に被告店舗で被告各作品が展示、販売されていること、及び、被告 P3が原告のインスタグラムのアカウントをブロックしたことを挙げる。 しかし、上記1のとおり、原告各作品の蓋部分のフィニアル状の装飾は、従来か ら類似の装飾が広く存在するありふれたものであること、原告各作品と被告作品1 及び同2を比較しても、木製の蓋部分の形状は、先端部分や2段目の円盤部分、3 段目の円錐部分など複数の点において相違し、作品の印象にも相応の差異がもたら されていること、被告各作品の制作にあたって実施された両被告間の話合いにおい て、原告各作品に言及された事情はうかがわれないこと(乙8)などを踏まえると、 原告主張の上記各事情を前提としても、依拠性を認めることはできず、他に、依拠 性を認めるに足りる証拠はない。

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令和6(行ケ)10004  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年5月28日  知的財産高等裁判所

商標「あらごしみかん(標準文字)」について、識別力無し(3条1項3号違反)とした審決が維持されました。指定商品は33類「「清酒、日本酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、リキュール、カクテル、中国酒、薬味酒」です。3条2項の主張も否定されました。

上記(4)アによれば、本件審決がされた時点において、本願商標の指定商品 等につき、「商品の原材料が粗くこされたものであること(粗くこした原材料 を使用した商品であること)」を表現するための語として、「あらごし」の文\n字や、「あらごし」の同義語である「粗濾し」「粗ごし」等の文字が広く使用 されている実情があるものと認められる。 その中には、「粗くこしたみかん」を原材料とする商品を含め、原材料であ る果実(梅、りんご、ゆず及び桃など)をあらくこして、果実の繊維や果肉 などを残した商品の事例も存在する(上記(4)ア(ア)、(エ)、(カ)ないし(ソ)など)。 また、本願商標の指定商品中の「日本酒」に含まれる商品「にごり酒」に ついては、原材料である醪(もろみ)を「あらごしして」ないし「粗くこし て」製造するものであること(上記(4)ア(ウ)、(オ)など)からも、「あらごし」 の語が、本願商標の指定商品を取り扱う分野において、広く親しまれている ものということができる。
さらに、本願商標の指定商品と関連する、ジュース飲料を取り扱う分野に おいて、「みかん」を原材料とする飲料に「あらごしみかん」の文字が使用さ れている事例(上記(4)ア(タ))もあることが認められる。 そして、上記(4)イによれば、本願商標の指定商品中の「リキュール」等に おいて、「みかん」を原材料とする商品が多数販売されていることが認められ る。
本願商標は、「あらごし」の文字と、「みかん」の文字とを組み合わせてな るところ、上記のとおりの本願商標の指定商品等についての取引の実情によ れば、本願商標をその指定商品に使用するときは、それに接する需要者、取 引者において、「粗くこしたみかん(みかんを粗くこしたもの)」ほどの意味 合いが認識されるものということができる。 そうすると、本願商標は、その指定商品に係る需要者及び取引者をして、 単にそれが「商品の原材料であるみかんが粗くこされた商品(粗くこしたみ かんを使用した商品)」であること、すなわち、商品の品質を表してなるもの\nと理解、認識されるというべきである。
以上によれば、「あらごしみかん」の語は、本願商標の指定商品との関係で、 商品の質を表示するものとして取引に際し必要適切な表\示であり、本願商標 の需要者、取引者によって当該商品に使用された場合には、商品の質を表示\nしたものと一般に認識されるものというべきであるから、本願商標の指定商 品について商品の質を普通に用いられる方法で表示する標章であるといえる。\nしたがって、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質を 普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法\n3条1項3号に該当する。本願商標の商標法3条1項3号該当性について、 本件審決の判断に誤りはないというべきである。

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令和3(ネ)10086 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年4月25日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟の控訴審判決です。1審は技術的範囲外または新規性なしとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。該当特許は7件あり、判決文は400頁を超えます。

イ 上記各認定事実を総合的に考慮すると、402W製品は、遅くとも被控訴人 からカナデンに納品された平成24年4月17日頃には、同社に譲渡されたことに よりその構造が解析可能\な状態に至ったものと認められる。 これに対し、控訴人パナソニックは、上記アの認定事実を認めるに足りる証拠が\nないことを指摘すると共に、仮に平成24年4月17日頃に被控訴人からカナデン に対して402W製品が納品されたとしても、被控訴人とカナデンとの間に秘密を 保持することが暗黙のうちに求められていたため、公然実施されたとはいえないな どと主張する。
しかし、本件申請書は、その書面の体裁等に鑑みると、被控訴人において内部的\nに定形化された書式に基づき作成されたものと見られ、日常的な業務の一環として 作成されたものであることがうかがわれる。また、その記載内容並びに「申請者印」\n欄及び「完了印」欄の押印は、平成24年4月16日付け「見本品引取書」(乙7 8)及び同月17日付け「判取票」(乙88)の記載又は押印と一致ないし整合す ることから、本件申請書の作成日は、上記認定のとおり、同年2月10日と認めら\nれる(なお、同様の理由及び筆跡の字体そのものから、判取票の作成日付は、同年 9月17日ではなく同年4月17日であることも認められる。)。また、上記「判 取票」は、カナデン担当者(乙148)の姓と同一の印影が存在することから、平 成24年4月17日に同社に402W製品が納品されたことを裏付けるものといえ る。
また、本件申請書には、「処理方法」の「渡し切りサンプル(点灯試験・分解テ\nスト)」欄にチェックがされているものの、カナデンは、電気工事業等の建設業許 可を得ている事業会社であり(乙76)、また、被控訴人による402W製品の商 品開発に共同研究その他の形で関与していたことをうかがわせる事情も見当たらな いこと、本件チラシ及び本件カタログの記載からは、カナデンに納品された平成2 4年4月頃又はこれに極めて近接した時点で、402W製品は既に一般向けに販売 されていたことがうかがわれることによると、カナデンに対する402W製品の納 品が、その構成等につき同社に守秘義務を負わせることを前提として行われたもの\nであるとは考え難い。その他控訴人パナソニックが主張する点を考慮しても、この点に関する控訴人パナソ\ニックの主張は採用できない。
ウ 小括
以上によると、402W発明は、本件原出願日2より前に日本国内において公然 実施された発明といえる。

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原審はこちら。

◆平成29(ワ)1390

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令和3(ワ)18031等 特許権  民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日  東京地方裁判所

 特許権侵害訴訟において、サブコンビネーション発明の要旨について、”「請求項4記載の携帯電話」との記載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認めることはできない。”として、新規性無しとして権利行使不能(104条の3)と判断されました。

ウ 乙12の各構成が本件発明の構\成要件JないしMの構成にそれぞれ相当\nするか否かを検討する前提として、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電\n話との間で送受信するための」との記載の性質について検討する。 原告らは、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信す\nるための」との記載は、本件発明の受信装置の構造及び機能\を特定して いるから、請求項1ないし4の解釈を踏まえて請求項5に係る本件発明 の構成を認定すべきであると主張するものと解される。\n
そこで検討すると、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の各記 載によれば、本件発明は、受信装置が、携帯電話との間で送受信するた めのRFIDインターフェースを介して同携帯電話に対して個別情報の 発信要求をし、これに対し、同携帯電話が、要求された個別情報を送信 し、受信装置が、同携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報 であるか否かを判断し、受信した判断情報が前記要求した個別情報であ ると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行うという、二つ 以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し、それに組み合わ される受信装置の発明すなわちサブコンビネーション発明であって、本 件発明に係る特許請求の範囲の請求項5には、受信装置とは別の他の装 置すなわち他のサブコンビネーションである携帯電話に関する事項が記 載されているものと理解できる。
そして、サブコンビネーション発明においては、特許請求の範囲の請求 項中に記載された他の装置に関する事項が、形状、構造、構\成要素、組成、 作用、機能、性質、特性、行為又は動作、用途等の観点から当該請求項に\n係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握し、発明の技術的範囲 を画する必要があるところ、他の装置に関する事項が、当該他の装置のみ を特定する事項であって、当該請求項に係る発明の構造、機能\等を何ら特 定していない場合には、他の装置に関する事項は当該請求項に係る発明を 特定するために意味を有しないといえる。
本件特許の特許請求の範囲において、構成要件Jの「RFIDインター\nフェースを有し、」との記載は、受信装置が「RFIDインターフェース を有し」ていることを、構成要件Kの記載は、受信装置が「個別情報の発\n信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を有していることを、構成要\n件Lの記載は、受信装置が「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し た個別情報であるか否かを判断する判断手段」を有していることを、構成\n要件Mの記載は、受信装置が「前記判断手段で受信した判断情報が、前記 要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理 を行う」ことを、それぞれ特定していると認められるのに対し、構成要件\nJの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するための」との記載は、 上記の構造、機能\等を有する受信装置と送受信をする携帯電話の構造、機\n能等を請求項4記載の構\成に限定するものにすぎず、受信装置の構造、機\n能等自体を何ら特定していないから、「請求項4記載の携帯電話」との記\n載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認 めることはできない。
以上によれば、上記の「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するた めの」を除外して請求項5に係る本件発明の要旨を認定することが相当で あるというべきであって、原告らの上記主張を採用することはできない。
・・・
以上によれば、本件発明は、乙12発明と同一の構成を有しているから、\n新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの と認められ、原告らは被告に対してその権利を行使することができない(特 許法104条の3第1項、123条1項2号、29条1項3号)。

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令和6(行ケ)10002  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年5月23日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした無効審決が取り消されました。審決では、設計書で定まっている事項を変更することには阻害要因がありと判断されていましたが、裁判所はこれを否定しました。

本件明細書等における、白色繊維と黒色繊維の混合比率を変えた実施例 1ないし7と比較例1及び2による試験によれば、この混合比率と、繊維 の縦及び横の強度及び伸度とは、相関関係はないといえる(段落【004 8】の試験結果)。また、光の反射性は、黒色繊維の混合比率を高めるほど 眩しさを感じにくくなる(段落【0050】)。そして、本件明細書等にお いて、黒色繊維を10%未満の割合で混合した比較例との対比は行われて おらず、比較例1及び2は、全て白色繊維のもの及び全て黒色繊維のもの であるから、白色繊維と黒色繊維の混合比率を、10ないし90%の範囲 とした場合と、10%未満とした場合との効果の差異は、本件明細書等に 記載された実施例及び比較例による試験からは明らかでない。
以上によれば、本件発明2について、黒色繊維の混合比率を高めると、 1)斑が形成され、これを用いて不織布の伸び率を把握することが可能とな\nり、2)光の反射を抑えて眩しさを感じにくくなり、3)耐候性及び耐摩耗性 が高まり、他方、黒色繊維の混合比率を高くしすぎると、全体の色が濃く なって斑を識別するのが困難になるという結果が生じるが、本件発明2に おいて黒色繊維の混合比率を10ないし90%の範囲としたことに特段 の技術的意義があるとは認められない。
エ 上記ア及びイのとおり、カーボンブラックが、耐候性、耐摩耗性及び遮 光性の向上、光の反射による作業者への作業上の障害の防止、景観を損な うことの防止等を目的として、所望の効果が発揮できる量で土木工事用不 織布を含む土木工事用シートに添加されているものであること、及び、土 木工事用の防砂シート(不織布又は織布)として用いられる製品の色の濃 さが一様でなく、白色の製品、灰色の斑模様の製品とともに濃灰色ないし 黒色の製品も使用されていることが、本件出願日の時点における技術常識 であったと認められ、白色繊維と黒色繊維を混合した土木工事用不織布に おける黒色繊維の混合比率が多様なものであると当業者が認識していた ということができる。
また、上記ウのとおり、本件発明2についても、黒色繊維の混合比率を 10ないし90%の範囲としたことに特段の技術的意義があるとは認め られない。
そうすると、引用発明1の土木工事用不織布において、耐候性、耐摩耗 性及び遮光性の向上、光の反射による作業者への作業上の障害の防止、景 観を損なうことの防止、並びに不織布の伸び率測定のための斑模様の明確 さを好適なものとするために、カーボンブラックにより着色した黒色繊維 の比率を増減することは、当業者の設計事項にすぎないというべきである。 また、白色繊維と、カーボンブラックにより着色した黒色繊維を混合し た土木工事用不織布において、黒色繊維の割合を高めれば、斑模様が濃く なって、斑点の間の距離の測定に基づく不織布の伸び率の測定が容易にな るほか、耐候性、耐摩耗性及び遮光性の向上、光の反射の抑制といった効 果があることが、上記のとおり本件出願日の時点における技術常識であっ たといえるから、黒色繊維の比率を7.5%より高める動機付けがあった ということができる。
以上によれば、引用発明1について、黒色繊維の混合比率が7.5%と されているところ、これを10ないし90%の範囲とすることによって、 相違点2に係る構成を導くことは、当業者が容易に想到することができた\nものというべきである。
オ 本件審決は、800Z製品は一定の品質を保って製造されるものであり、 白色繊維と黒色繊維の比率を変えるような設計変更は通常行わないとか、 800Z製品の製品仕様書(甲22)では黒色の綿の混率が5%と記載さ れていることを指摘した上で、製品仕様における黒色繊維の比率5%を桁 の異なる10%以上にすることには阻害要因があると判断している。 しかし、800Z製品について、製品の同一性あるいはその品質を維持 するために、仕様書で定められた仕様の遵守が求められるとしても、同製 品を基に、仕様の一部を変更して、新たな仕様の土木工事用不織布の製品 を開発、製造しようとすることは当然に行われることであって、800Z 製品の仕様として黒色繊維の比率が特定の値に定められているからとい って、この値を変更することに阻害要因があると認められることにはなら ず、800Z製品の使用における黒色繊維の比率が1桁である5%とされ ていることから、この比率を2桁の10%にすることに阻害要因があると 解することもできない。
そして、前記ウ及びエのとおり、黒色繊維の比率を特定の割合又は特定 の範囲に定めることについて特段の技術的意義があるとは認められず、か つ、カーボンブラックにより着色した黒色繊維の比率を高める動機付けが あったといえることからすれば、引用発明1について、その黒色繊維の比 率を、上記仕様書に記載された数値から変更することに阻害要因があると は認められない。

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令和5(行ケ)10123  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年5月21日  知的財産高等裁判所

 原告は、被告の保有する商標「世界救世教」が公序良俗違反(4条1項7号)、公益著名商標違反(4条1項6号)、出所混同違反(4条1項15号)に該当するとの無効審判を請求しましたが、棄却されました。知財高裁に出訴しましたが,同様の判断がなされました。  原告は、宗教法人「世界救世教」で、被告は「世界救世教主之光教団」です。一時期、原告を包括宗教法人、被告を被包括宗教法人との関係でしたが、原告がこれを解消したという事情があります。

(2) 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕のとおり、本件商標が商標法4条1 項7号に該当すると主張するが、この主張の根拠の一つとして、被告が、被 告と原告との混同を生じさせる目的で本件商標の登録出願を行ったものであ り、被告が本件商標を使用することによって被告と原告との混同が生じてい ることを挙げているので(前記第3の1〔原告の主張〕(1)、(2)、(4)エ、オ)、 まずこの点について検討する。
ア 本件商標は「世界メシア教」の文字を横書きしてなるものであり、「セカ イメシアキョウ」との称呼が生じ、「教」が宗教を意味し、宗教団体の名称 の末尾に付されることがある事実は周知であるといえるから、何らかの宗 教団体との観念が生じるといえる。 これに対し、引用標章は、「世界救世教」の文字よりなり、「セカイキュ ウセイキョウ」との称呼が生じ、何らかの宗教団体との観念が生じるとい える。
本件商標と引用標章の類否について検討する。
まず、外観に関し、両者は、「世界・・・教」という点で外観が共通する 点があるものの、本件商標は6文字で構成され、引用標章は5文字で構\成 されていて、全体の構成文字数が異なる上、本件商標の3文字目から5文\n字目の「メシア」の文字と、引用標章の3文字目及び4文字目の「救世」 の文字が相違していることから、本件商標と引用標章は全体として外観が 相違する。
また、称呼に関して、両者は「セカイ・・・キョウ」という点で称呼が 共通する点があるものの、本件商標から生じる称呼である「セカイメシア キョウ」と、引用標章から生じる呼称である「セカイキュウセイキョウ」 は、その音の数が異なる上、各呼称を構成する「メシア」の音と「キュウ\nセイ」の音が相違していることから、本件商標と引用標章は、全体として 称呼が相違する。
さらに、観念に関し、本件商標と引用標章は、いずれも何らかの宗教と の観念が生じるという点で観念において共通する点があるが、どのような 宗教であるかは本件商標及び引用標章からは明らかではなく、また本件商 標の「メシア」の語は世の人々を救う「人物」を意味する語であるのに対 し、引用標章の「救世」の語は「世の人々を苦しみの中から救うこと」と いうように「行動」を意味する語であるから、観念において類似するとは いえない。したがって、本件商標と引用標章は、外観及び称呼が異なり、観念にお いて類似するとはいえないから、その類似性の程度は低い。
イ(ア) 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)及び(2)のとおり、原告を指し 示すものとしての「世界メシヤ教」、「世界メシア教」あるいは「メシヤ 教」、「メシア教」との名称が社会に浸透しており、本件商標はこれらの 名称に類似していると主張する。 しかし、原告が「世界救世教」の「救世」に「メシヤ」と振り仮名を 付して「セカイメシヤキョウ」と称していたのは、Aが宗教団体として 世界救世教を設立した昭和25年から、原告が「世界救世教」を「セカイキュウセイキョウ」と呼ぶように改めた昭和32年までであり、その 期間は約7年にすぎない上、本件商標の登録出願及び登録査定の時点か ら60年以上も前のことである。 本件商標の需要者は、その指定役務との関係から、宗教に関心のある 者のみならず、広く一般の消費者と認められるところ、上記の事情から すれば、本件商標の登録出願及び登録査定の時点において、「世界メシヤ 教」が原告を指す名称であるとの事実が本件商標の需要者に周知であっ たとは認められない。
また、同様に、本件商標の登録出願及び登録査定の時点において、「世 界メシア教」、「メシヤ教」又は「メシヤ教」が原告を指す名称であると 本件商標の需要者に周知であったとも認められない。
(イ) 原告は、原告について記載した書籍、雑誌、インターネット上の記事等 において、「世界メシア教」等の名称が原告を示すものとして表示されて\nいると主張し、複数の書籍の写し等(甲13〜17、78、80〜83、 107〜109)を証拠として提出する。 しかし、書籍、雑誌、インターネット等に宗教法人あるいは宗教団体 に関して説明した記載があったとしても、当該説明に記載された事実が 広く一般に知られた事実であると直ちに認められることにはならない。 また、原告が証拠として提出した各書籍等の内容について検討すると、 まず、甲13の添付資料とされている書籍又は印刷物は、いずれも原告 又は「世界救世教いづのめ教団」が編集したものであり、その信者を対 象として発行された書籍又は印刷物であると認められ、信者以外の者が これらの書籍又は印刷物に記載された内容を広く認識するに至ったとは 認められない。
甲14ないし16及び107ないし109の書籍等は、いずれも辞典 又は事典(インターネット上の記載を含む。)であり、「世界メシア教」、「メシヤ教」又は「メシア教」の項において、「世界救世教」の項を参照 すべき旨の記載が存在することが認められるものの、これらの記載は、 原告が過去に「世界救世教」を「セカイメシヤキョウ」と称していた事 実を踏まえたものにすぎないと考えられる。 それ以外の書籍の写し等(甲17、78、80〜83)には、「世界救 世教」が「メシア教」若しくは「世界メシヤ教」とも称されている旨の 記載、又は原告を指す名称として「メシア教」の語を用いているものと 解される記載が存在すると認められるが、これらの書籍等については、 その発行日から相当の時間が経過していると認められるか、又は書籍の 発行若しくはインターネット上の記載がされた時期が不明である。 以上を総合すると、原告が証拠として提出する上記書籍等をもって、 「世界メシヤ教」、「世界メシア教」あるいは「メシヤ教」、「メシア教」 の名称が原告を指すものであると広く一般に知られているとは認められ ない。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば、本件商標の登録出願及び登録査定の時点にお いて、「世界メシヤ教」、「世界メシア教」あるいは「メシヤ教」、「メシア 教」との名称が原告を指すものであるとの事実が、本件商標の需要者に 周知であったとは認められない。 そうすると、「世界メシヤ教」、「世界メシア教」あるいは「メシヤ教」、 「メシア教」が原告を指す名称であることが社会一般に広く知られてい るために、本件商標をその指定役務に使用することによって、その出所 が原告であるとの混同が生じるとは認められない。
ウ 上記ア及びイによれば、本件商標をその指定役務に使用することによっ て、その出所が原告であるとの混同を生じるおそれがあるとは認められな い。 熱海新聞が、被告に関する記事において、その名称を「世界救世教」と 記載した事例(甲95)をもって、本件商標をその指定役務に使用した場 合に出所の混同が生じると認められることにはならない。 そして、本件商標をその指定役務に使用することによって上記内容の混 同を生じるおそれがあると認められないことからすれば、被告が、上記内 容の混同を生じさせる目的で本件商標の登録出願をしたとも認められな い。 前記(1)の認定事実によれば、原告が被告との包括・被包括関係を廃止し、 被告がこれを争っており、現在でも原告と被告との間の訴訟が係属してい るなど、原告と被告との間に対立関係があることが認められるが、このこ とをもって、被告が被告と原告との混同を生じさせる目的で本件商標の登 録をしたと認められることにはならない。
(3) 原告は、本件商標が商標法4条1項7号に該当するとの主張の根拠の一つ として、被告が本件商標を使用すれば、取引者及び需要者をして、「世界メシ ア教」なる名称を有する宗教団体が存在し、その宗教団体が商品又は役務を 提供しているとの誤解を生じさせるとともに、被告がその規則に定めた名称 と異なる「世界メシア教」の名称を用いて活動を行うことは宗教法人法に違 反しており、本件商標の登録を認めることは被告の違法な行為を助長するも のであって、商取引の秩序を混乱させるものであることを挙げる(前記第3 の1〔原告の主張〕(3)、(4)アないしオ)。
この点について検討すると、被告が本件商標をその指定役務に使用した場 合に、本件商標の取引者及び需要者が、「世界メシア教」という名称の宗教団 体が当該役務を提供していると認識するとしても、被告とは別の「世界メシ ア教」という名称の宗教団体が存在しており、当該宗教団体が当該役務を提 供していると認識するとは認められない。仮に、被告とは別の「世界メシア 教」という名称の宗教団体が存在するとの認識を有する者がいたとしても、 そのことをもって、本件商標が公正な商標秩序に反し、著しく社会的相当性 を欠くものであると解されることにはならない。
また、宗教法人が、その規則において定める名称と異なる別称を用いて活 動することが宗教法人法に違反するか否かと、当該宗教法人が当該別称と同 一の文字からなる商標の登録を受けることが商標法上許容されるか否かとは、 関連性のない別個の問題であって、仮に前者が違法であると解されるとして も、そのことによって、当該別称と同一の文字からなる商標が商標法4条1 項7号に該当することにはならない。なお、文化庁による宗教法人の管理運 営に関する書籍(甲85、86)は、宗教法人の規則に定める運営方法と実 際の運営方法が一致することが必要である旨記載しているにすぎないのであ って、宗教法人の管理運営上、規則で定めた名称と活動名称が一致すること まで要求しているものではなく、現に、規則上の名称と異なる名称で活動す る宗教法人は、被告以外にも現実に複数存在することが認められる(乙7〜11)。 原告が挙げる商標審査便覧42.107.36「『会社』等の文字を有する 商標の取扱い」(甲96)については、そもそも商標審査便覧は何ら法規範性 を有するものではないが、この点を措くとしても、上記商標審査便覧42. 107.36は、その表題にあるとおり、「会社」等の文字を有する商標に関\nする基準であり、その(2)に「自己の商号と異なる商号を自己の商標として採 択・使用すること」とあるのは、会社の商号と異なるが「株式会社」などの 会社の種類を示す文字が含まれる標章を採択・使用することを指すと解され るところ、本件商標には会社や法人の種類を示す文字は含まれない。また、 上記商標審査便覧42.107.36は、会社がその商号とは異なる名称(会 社の種類を示す文字を含まない名称)を用いて活動をしている場合に、当該 名称と同一の文字からなる商標が商標法4条1項7号に該当すると述べてい るものではない。したがって、上記商標審査便覧42.107.36の記載 内容をもって、本件商標が公正な商標秩序に反し、著しく社会的相当性を欠 くものであると解することはできず、本件商標が商標法4条1項7号に該当 すると解すべきということにもならない。
以上によれば、被告が「世界メシア教」の名称を用いて活動することが宗 教法人法に違反するか否かを判断するまでもなく、被告が規則において定め る名称と異なる「世界メシア教」の名称を用いて活動していることは、本件 商標が商標法4条1項7号に該当すると解する根拠とならないというべきで ある

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◆令和5(行ケ)10126

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令和3(ワ)2873  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年5月30日  大阪地方裁判所

大阪地裁は、102条2項の計算のために文書提出命令をしましたが、被告は提出しませんでした。原告の主張の通りだと利益率は6割を超えるものとなって、合理的とは言い難いことから、被告の限界利益率を、約31%としました。

原告は、被告が、本件書類提出命令にもかかわらず、正当な理由なく、本件提出 対象書類を提出しなかったなどとして、民訴法224条3項により、本件証明事実 を真実であると認めるべきであって、前記被告製品10台に係る限界利益を157 3万8528円と認定すべきである旨主張する。 この点、確かに、被告が本件書類提出命令に応じて本件提出対象書類を提出した とは認められないものの、本件証明事実に係る原告の主張によると、被告製品10 台の利益率は6割を超えるものとなって、合理的とは言い難いことから、被告の限 界利益の額を前記のとおり認定するのが相当である。
(3) 損害の不存在ないし推定覆滅について
ア 被告は、佐賀県畜産公社においては、被告製品の購入に当たって競争入札が 行われたところ、原告と被告が入札して被告が落札したのであって、落札により販 売業者は1社に決定されるから、原告と被告が競合するような市場は存在せず、侵 害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情は存在しないとした上 で、ミヤチク、いわちく及びフードパッカー津軽についても同様であって、原告に 損害はなく、特許法102条2項は適用されない旨主張する。 しかしながら、そもそも、被告が主張する競争入札の存在や具体的内容が明らか ではないところ、佐賀県畜産公社においては、競争入札自体は行われたとしても、 原告も同じ競争入札に参加していたというのであるし、その他の入札についても原 告に参加資格があり、落札したとされる被告が参加していなければ(本件特許権の 侵害品である被告製品がなければ被告は参加できなかったと考えられる。)、原告 が落札した可能性もあることを考慮すると、原告において被告の侵害行為がなかっ\nたならば利益が得られたであろうという事情は存在しない旨の被告の主張は採用で きない。
イ 被告は、筒状容器の「内壁が平面視で多角形状に形成される」が本件発明の 唯一の特徴的部分であるといえるところ、仮に被告製品がこの構成要件を充足する\nとしても、利益に対して貢献しているのはその余の侵害品の性能(機能\、デザイン 等特許発明以外の特徴)であって、損害の推定覆滅事情に当たる旨主張する。しか しながら、筒状容器の「内壁が平面視で多角形状に形成される」部分以外で顧客誘 引力のある被告製品の具体的性能や、その性能\の顧客に対する訴求の程度は明らか でないから、被告の主張は採用できない。
ウ さらに、被告は、本件発明では旋回流を利用するのに対して(甲5)、被告 製品(乙15)では、突部9(別紙「被告製品写真・図面」の図2参照)が邪魔 板(バッフル)となって旋回流を阻害することで、上下循環流発生を発生させ、豚 足をランダムな動きとするものであり、また軸流においては豚足が下方へ潜り込ん でいくこと、邪魔板(バッフル)に衝突することによる脱毛、豚足同士の水平方向 及び上下方向の衝突による脱毛の効果が甚だ大きく、性能において本件発明と比較\nして顕著な相違があるから、特許法102条2項の推定は覆滅される旨主張する。 この点、原告製品の動画(甲5)と被告製品の動画(乙15)とを比較すると、 豚足の動きに一定の差があり、被告製品では豚足が下に潜り込むような動きをして いるように見え、被告が主張する上下方向の動きがあることがうかがわれる。かか る動きによる豚足の脱毛効果への影響の程度や、その性能の被告製品の売上げへの\n貢献の程度は必ずしも明らかでなく、前記の性能を理由とする推定覆滅が認められ\nるとしても、その割合は、5%を超えるものではないというべきである。

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令和6(行ケ)10011  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年7月8日  知的財産高等裁判所

商標「デジタル医療モール」が識別力なし(商3条1項6号)とした審決が維持されました。指定商品は9類、35類、44類です。

(1) 本願商標は、「デジタル医療モール」の文字を標準文字で表してなるも\nのであるところ、本願商標の構成中、「デジタル」の文字は「情報や命令を、\n0と1〔=スイッチオフとスイッチオン〕の信号の集まりで表現する<こと\n/もの>」、「コンピュータを(めいっぱい)使うようす」(以上、乙1) を、「医療」が「医師・看護師が患者の治療やせわをすること」(乙2)、 「モール」が「(屋根つきの)大きな商店街」など(乙3)を意味する平易 な語であるから、本願商標の構成を元に観察すれば、「デジタル」の語と\n「医療モール」の語からなると理解することも、あるいは「デジタル医療」 の語と「モール」の語からなると理解することも不可能ではない。\nしかしながら、証拠(甲17、18、25〜29、乙8〜15)によれ ば、「デジタル」の文字は、他の語と結合した「デジタル〇〇」の態様で 「デジタル技術を用いた〇〇」ほどの意味合いで汎用的に広く用いられてい ることが認められ、デジタル技術を利活用した医療や治療に関して、「デジ タルセラピー」(甲17)、「デジタル医療」(甲18、26〜29、乙8 〜11、14、15)、「デジタル治療」(甲25、乙8、12、13)、 「デジタルヘルス」(乙8)と称されている実情があることが認められる。 また、証拠(甲20〜22、乙16〜23)によれば、「医療モール」 の文字は、「診療科が異なるいくつかのクリニックが1カ所に集まっている 運営形態」(甲20)といった語として広く使用されていることも認められ る。
(2) 以上のような実情を踏まえると、本願商標は、「デジタル」技術を利活 用して行われる仮想的な「医療モール」、すなわち「様々な医療機関に係る サービスを、デジタル技術を用いて構築した 1 か所のプラットフォーム上で 提供又は利用できる仕組み」といった意味合いを容易に理解・認識させるも のと認められる。そして、本願商標に接し、上記意味合いを理解・認識した 需要者は、本願商標について上記の仕組みの下で提供される商品又は役務で あることを表現するための語句であると理解、認識するにとどまり、自他商\n品役務の識別標識としては認識しないといえる。
(3) これに対し、原告は、本願商標について、「デジタル医療」 と「モール」 との言葉の結合であるのか、「デジタル」と「医療モール」との言葉の結合 であるのか、需要者によって認識が異なる言葉の結合からなる商標であると する主張する。
しかし、上記(1)のとおり、「デジタル〇〇」の語が、「デジタル技術を 用いた〇〇」という意味で、汎用的に広く用いられているのに対し、「〇〇 モール」の語については、ショッピングモール、医療モールといった定型的 な用法を超えて広範囲な用い方をされているとまでは認められない。そうす ると、本願商標に接した需要者の一般的な理解としては、上記(2)のとおり、 「デジタル」技術を利活用して行われる仮想的な「医療モール」という意味 合いで認識するのが自然であると解され、これと異なる前提に立つ原告の上 記主張は採用できない。なお、原告が引用する知財高裁の裁判例は、本件と 事案を異にし適切でない。
2 次に、原告は、仮に本願商標を「デジタル」と「医療モール」の結合と理 解し、上記1(2)における意味合いが想起されるとしても、「デジタル技術」 というものは様々に活用されており、一義的な技術ではなく、本願商標もい ずれの技術を利用したのか明らかでないから、本願商標からは特定の観念が 生じないと主張する。この点、デジタル技術を用いて提供されるものには原告が指摘するようなIoT、ビッグデータ、AI、ICTなどの様々な技術が考えられるが、デジタ ル技術が様々に活用されているからといって、上記1(2)の認定判断が左右さ れるものではない。原告の上記主張は、本願商標を造語と理解すべき根拠とな るものではない。
3 さらに原告は、本願商標である「デジタル医療モール」という語が、本願 商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がない ことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有する と主張する。この点、デジタル技術を用いて提供されるものには原告が指摘するようなIoT、ビッグデータ、AI、ICTなどの様々な技術が考えられるが、デジタ ル技術が様々に活用されているからといって、上記1(2)の認定判断が左右さ れるものではない。原告の上記主張は、本願商標を造語と理解すべき根拠とな るものではない。
3 さらに原告は、本願商標である「デジタル医療モール」という語が、本願 商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がない ことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有する と主張する。 しかし、商標法3条1項6号は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務 であることを認識することができない商標につき、商標登録を受けることがで きないとしたものであり、同号の適用において当該商標が現実に使用されてい ることを要求するものではない。本願商標に関して他の使用例がないことは、 上記2の認定判断を妨げるものではない。

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令和6(行ケ)10010 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年7月8日  知的財産高等裁判所

商標「オンライン医療モール」が識別力なし(商3条1項6号)とした審決が維持されました。指定商品は9類、35類、44類です。

証拠(甲11〜13、乙10〜20)によれば、「オン ライン」の文字は、他の語と結合した「オンライン〇〇」の態様で「ネット ワーク上で提供される〇〇」、「ネットワーク上で利用できる〇〇」ほどの 意味合いで汎用的に広く用いられていることが認められ、「オンラインモー ル」(乙7)、「オンラインショッピングモール」(乙8)といった用法で 使用されていることも認められる。
特に、上記「オンラインショッピングモール」は、「様々な商品の小売 販売に係るサービスをネットワーク上の1か所のプラットフォーム上で提供 又は利用できる仕組み」といった意味で用いられているものと理解され、本 件の参考になるものといえる。
また、証拠(甲14〜16、乙21〜28)によれば、「医療モール」 の文字は、「診療科が異なるいくつかのクリニックが1カ所に集まっている 運営形態」(甲14)といった語として広く使用されていることも認められ、 「オンライン上で自由診療の医療モールを作る」、「e−メディカルモール」 (いずれも甲17)といった用法で使用されていることも認められる。
(2) 以上のような実情を踏まえると、本願商標は、「オンライン」で行われ る仮想的な「医療モール」、すなわち「様々な医療機関に係るサービスを、 ネットワーク上の 1 か所のプラットフォーム上で提供又は利用できる仕組み」 といった意味合いを容易に理解、認識させるものと認められる。そして、本 願商標に接し、上記意味合いを理解・認識した需要者は、本願商標について、 上記の仕組みの下で提供される商品又は役務であることを表現するための語\n句であると理解、認識するにとどまり、自他商品役務の識別標識としては認 識しないといえる。
(3) これに対し、原告は、本願商標について、「オンライン医療」 と「モー ル」との言葉の結合であるのか、「オンライン」と「医療モール」との言葉 の結合であるのか、需要者によって認識が異なる言葉の結合からなる商標で あると主張する。
しかし、上記(1)のとおり、「オンライン〇〇」の語が、「ネットワーク 上で提供される〇〇」という意味で、汎用的に広く用いられているのに対し、 「〇〇モール」の語については、ショッピングモール、医療モールといった 定型的な用法を超えて広範囲な用い方をされているとまでは認められない。 そうすると、本願商標に接した需要者の一般的な理解としては、上記(2)の とおり、「オンライン」で行われる仮想的な「医療モール」という意味合い で認識するのが自然であると解され、これと異なる前提に立つ原告の上記主 張は採用できない。なお、原告が引用する知財高裁の裁判例は、本件と事案 を異にし適切でない。
2 次に、原告は、仮に本願商標を「オンライン」と「医療モール」の結合と 理解し、上記1(2)における意味合いが想起されるとしても、オンライン上で どのようなサービスが提供されるのか不明であるとして、需要者は本願商標 を造語として理解すると主張する。 この点、関係証拠によれば、オンラインで提供される医療サービスとしては 「オンライン診療」(甲11〜13、18、乙4、5、9〜15、19、20。 スマートフォンなどを使って病院の予約から決裁までをインターネットで行う\nもの。)、「遠隔健康医療相談」(甲13、乙16〜18)、「オンライン服 薬指導」(乙10)、「電子処方箋」(乙10)のほか、自由診療を提供して いる医療機関を集めて、オンラインメディカル(医療)モールを提供する(検 索・予約・決済・オンライン診療を提供する)もの(甲17)など、様々なも\nのがあることが認められる。
しかし、このようにオンラインで提供される医療サービスの内容が様々なも のであることは、上記1(2)で認定した「様々な医療機関に係るサービスを ネットワーク上の 1 か所のプラットフォーム上で提供又は利用できる仕組み」 という概念と何ら矛盾するものではなく、むしろ、当該理解に沿うものである。 原告の上記主張は、本願商標を造語と理解すべき根拠となるものではない。
3 さらに原告は、本願商標である「オンライン医療モール」という語が、本 願商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がないことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有す ると主張する。
しかし、商標法3条1項6号は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務 であることを認識することができない商標につき、商標登録を受けることがで きないとしたものであり、同号の適用において当該商標が現実に使用されてい ることを要求するものではない。本願商標に関して他の使用例がないことは、 上記2の認定判断を妨げるものではない。

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令和6(ネ)10011 令和6年6月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ビットトレントのUNCHOKE通信に関する発信者情報開示請求について、1審は請求を棄却しましたが、知財高裁は、これを取消し、開示請求を認めました。

(2) 以上のとおり、本件各発信者は、本件複製ファイルのピースを保有してい たこと、これが自動公衆送信の可能な状態にあったことは認められるが、当\n該ピースが再生可能なものか、著作物としての表\現の本質的特徴を直接感得 できるものかどうかは明らかでない。被控訴人は、そのような情報を自動公 衆送信し得るようにしても送信可能化権の侵害が明白とはいえない旨主張す\nるので、以下検討する。
ア 著作物たるファイルの自動公衆送信において、元のファイル(デジタル データ)を分割したり暗号化するなどして送信するという仕組みも想定さ れるところ、そのような形で自動公衆送信の対象となったデータだけを取 り上げた場合、デジタルデータの特性もあって、映像その他のファイルと して復元・再生できないことも、十分あり得るものと考えられる。このよ\nうなもの全てについて、当然に公衆送信権の侵害が認められるものでない としても、少なくとも、送信されるデータが著作物性の認められる元のフ ァイルの一部を構成するピースであり、かつ、これらピースを集積するこ\nとで元のファイルに復元・再生することが可能なシステムの一環としてピ\nースの送受信が行われていると認められる場合には、当該ピースの送信を もって公衆送信権の侵害があったと評価すべきである。
 このような全体像を踏まえることなく、個々の公衆送信の対象となった ピースを断片的に取り上げて、著作権(公衆送信権)の侵害が認められる ためには当該ピース自体での再生が可能で、表\現の本質的特徴を直接感得 できることが必要であるとする解釈は、「木を見て森を見ない」議論とい わざるを得ず、公衆送信権の保護を形骸化させるものといわざるを得ない。 以上の議論は、送信可能化権の侵害についても妥当するものと解される。\n
イ これを本件について見るに、ビットトレントネットワークは通常一つの シーダーから始まるところ、本件動画と本件複製ファイルのハッシュ値が 一致することから、本件複製ファイルは本件動画を複製したものであるこ と、本件各発信者の保有するピースは本件複製ファイルを細分化したもの であることが認められる。本件各発信者は、ビットトレントネットワーク を形成するピアとして、本件複製ファイルの必要なピースを転送又は交換 し合うことで、最終的に本件複製ファイルを構成する全てのピースを取得\nするという目的に沿って、そのシステムの一環として、ピースの送受信を 行っているものである。 そうすると、以上のようなビットトレントネットワークの仕組みの下で 本件複製ファイルのピースの送受信が行われている本件においては、当該 ピース自体での再生が可能とはいえず、それだけでは表\現の本質的特徴を 直接感得できないとしても、公衆送信権、送信可能化権の侵害の成立を妨\nげないというべきである。
3 争点3(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)につい て
(1) 基本的な視点
ア プロバイダ責任制限法5条1項が発信者情報の開示請求を規定している 趣旨は、特定電気通信(同法2条1号)による侵害情報の流通は、これに より他人の権利の侵害が容易に行われ、ひとたび侵害があれば際限なく被 害が拡大する一方、匿名で情報の発信が行われた場合には加害者の特定す らできず被害回復も困難となるという、他の情報の流通手段とは異なる特 徴があることを踏まえ、侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、 表現の自由及び通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通\n信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に 対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、 加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解さ\nれる。
ところで、令和3年法律第27号による改正により、従前の発信者情報 開示請求に加え、「特定発信者情報」の開示請求制度が創設された。これ は、個別の書き込みごとのIPアドレス等が記録されることが多い従来型 の電子掲示板等とは異なり、サービスにログインした際のIPアドレス等 (ログイン時情報)は記録されているものの投稿した際のIPアドレス等 を記録していないタイプのSNSサービスが現れ、そのような場合のログ イン時情報の開示につき、従来の発信者情報開示請求の枠組みで対応でき るか解釈上の疑義が生じていたことを踏まえ、立法的な解決を図ったもの である。上記改正法は、ログイン時情報を含む特定発信者情報についても 開示請求の道を開く一方、その対象となる「侵害関連通信」(プロバイダ 責任制限法5条3項、同法施行規則5条)は、それ自体としては権利侵害 性のない通信であることを踏まえ、一定の補充的な要件を求めることとし たものである(プロバイダ責任制限法5条1項)。 このような改正法の趣旨も踏まえると、それ自体として権利侵害性のな い通信を「特定発信者情報以外の発信者情報の開示請求」の手続に安易に 乗せるような運用は、上記改正後のプロバイダ責任制限法5条の予定する\nところではないと解される。
イ 他方、本件においては、送信可能化権が有する特殊な性格についても、\n十分な配慮が必要となる。すなわち、著作権法は、公衆送信権を著作権の\n支分権と定めるところ(同法23条1項)、インターネットのウェブサイ ト等における公衆送信は、自動公衆送信(同法2条1項9号の4)として 行われることになる。ここでは、閲覧者(公衆)からの閲覧請求信号に応 じてサーバから情報が送信されるが、そのような自動公衆送信が実際に行 われたかどうかを著作権者が把握するのは困難である。そこで、現実の送 信の前段階における準備行為である「送信可能化」を公衆送信権の侵害行\n為類型に含めることとし(同法23条1項括弧書き)、もって権利保護の 実効化を図ったものである。送信可能化権の侵害を理由とする発信者情報開示請求の解釈適用においても、送信可能\化権の上記の意義が没却されないよう留意が必要である。
(2) 以上を踏まえて検討するに、UNCHOKE通信は、送信可能化がされた\nことを前提として、相手方ピアが保有するピースのアップロード(そのピー スを欲するピアにとってはダウンロード)が可能であることを伝えるもので\nあり、それ自体によって侵害情報の流通がされるわけでないことはもとより、 当該通信が送信可能化惹起行為(著作権法2条1項9号の5イ、ロ)に当た\nるともいえない(この点は、原判決が14頁1行目〜3行目で判断するとお りである。)。しかし、送信可能化権の侵害とは、将来に向けて想定される自動公衆送信の準備が整ったことをもって公衆送信権の侵害類型と位置付けられたもので\nあるから、自動公衆送信が可能な状態が継続している限り、その違法状態は\n継続していると解するのが相当である。著作権法2条1項9号の5イ、ロは、 上記のような違法状態を招来するいわば入口としての行為を定義したものに すぎない。
 このような送信可能化権の特性に照らすと、送信可能\化権の侵害を理由に 発信者情報の開示を求める場合において、「権利の侵害に係る発信者情報」 (プロバイダ責任制限法5条1項柱書)を、送信可能化惹起行為そのものの\n通信に係る発信者情報に限定して解釈する必要はないし、それが適切ともい えない。送信可能化が完了し、その後引き続き送信可能\な状態が継続してい る限り、そのような状態であることを直接的に示す通信であれば、当該通信 に係る発信者情報を「権利の侵害に係る発信者情報」と認めることができる というべきである。そのように解さないと、著作権法が送信可能化権の侵害\nを公衆送信権の侵害行為類型として認めた趣旨が没却されることになりかね ない。他方、開示の対象とする発信者情報を上記の限度にとどめれば、情報 の発信者のプライバシー、通信の秘密等が不当に損なわれることにはならな いと解される。
SNSでの投稿により名誉毀損等の権利侵害が生ずるような場合であれば、 侵害情報の流通そのものに係る当該投稿に係る通信以外についてまで「権利 の侵害に係る発信者情報」の範囲を安易に拡張解釈すべきではないが、本件 をこれと同列に論ずることはできない。
(3) 以上の枠組みに基づいて検討するに、上述したビットトレントネットワー クの仕組み(上記第3の1(3)ウ)、本件調査会社による調査結果(同(4)イ) に照らすと、本件におけるUNCHOKE通信は、本件複製ファイルを共有 するビットトレントネットワークに参加した本件各発信者において、その保 有するピースにつき送信可能化が完了し、引き続き自動公衆送信が可能\な状 態にあることを明らかにする通信にほかならない。そうすると、UNCHO KE通信をもって特定された本件各通信に係る発信者情報は、「権利の侵害 に係る発信者情報」に該当するというべきである。

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◆令和5(ネ)10099

◆令和5(ネ)10095

◆令和5(ネ)10102

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令和5(ネ)10105 損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和6年6月12日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 写真を自販機に使用した件について、トリミングされたので意に反する改変として、著作者人格権侵害で訴えました。控訴人(1審原告)は、使用料として800万受け取ってます。1審と同様、請求棄却です。

本件各写真(特に本件写真3)、5))が芸術作品と呼ぶにふさわしいもの であることは、当裁判所も全面的に認めるものであり、その価値が損なわれ るのは許せないとする控訴人の心情は理解できる。
しかし、当然ながら、被控訴人は、控訴人の芸術作品を紹介したくて本 件各写真の利用を申し出たのではなく、主役である本件たばこを引き立てる道具として本件各写真を利用しようとし、NDCを通じてその対価の支払を\n提案しているのである。そして、自動販売機で最も目に付きやすいガラス面 アイキャッチャー(販売商品の見本〔たばこパッケージ〕が並んでいる部分) にたばこパッケージと同じ大きさになるようにトリミングした写真を使用す るという本件各写真の利用方法は、本件販促活動の重要な柱となっていたの であるから、仮に、控訴人がこのようなトリミングを許諾しないという意思 を明確にしていたとすれば、控訴人の写真作品を本件販促活動に利用すると いう構想自体が白紙となり、800万円の許諾料の支払合意も合意解除されることが当然予\想されるところ、現実には、本件トリミング手法を使った写真の利用がされ、控訴人は許諾料800万円を受領しているのである。
さらに、控訴人がAから本件販促用写真が使用されている自動販売機の 写真の提供を受けて、自身の写真作品について意に反した改変があったと考 えるに至ったのは令和2年秋頃である(上記1(5)ウ)ところ、その時点ま でに、控訴人とBらが本件販促活動の内容の打合せを行っていた平成16年 〜17年から15年以上もの年月が経過している。この間、本件各写真の利 用方法を巡る打合せの経過及び内容につき、控訴人の記憶が変容し又はあい まいになっていたとしてもやむを得ないところである。十数年ぶりに本件販促用写真を見て、原作品とのギャップに強い違和感を抱いたという控訴人の\n心情に偽りはないとしても、これを「意に反した改変」が行われた根拠とす ることが適切とはいえない。

◆判決本文

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令和4(ワ)2058  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年5月30日  大阪地方裁判所

特許権侵害が認定され、差止と約1890万円の損害賠償が認められました。尚、102条2項の覆滅分についての同3項の適用は否定されました。

(1) 特許法102条2項に基づく主張について
ア 限界利益額 被告は、少なくとも令和2年6月1日から令和5年6月末までの間、被告各製品 を販売し、この間の限界利益額(被告各製品の全体)は合計8557万2953円 (税込)である。(争いなし) 被告は、被告各製品における本件訂正発明2−1、同2−3及び本件発明3の実 施部分は一部であるから、損害額算定における限界利益額は、上記一部に相当する 限界利益額を基準とすべきであると主張するが、被告の指摘する事情は、推定覆滅 事由として考慮すべきであるから、上記主張は採用できない。
イ 推定覆滅事由
特許法102条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得 た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠ける ことを主張立証した場合には、その限度で前記の推定は覆滅される。
(ア) 部分実施(本件特許2及び同3の寄与の程度等)
被告各製品は、外枠(床開口用枠体及び取付部材)、蓋セット、ビスセット、梱 包ケース、断熱材により構成されるところ、本件訂正発明2−1、同2−3及び本\n件発明3の実施部分は上記外枠のみである。(争いなし) 原告は、原告製品(高気密型床下点検口・収納庫)における本件訂正発明2−1、 同2−3及び本件発明3の実施部分の構成である「スライドコア」は、原告製品の\n使用において不可欠であり、容易かつ精度のよい施工を実現するといった重要かつ 優れた効果を有し、顧客誘引力の源泉となっているところ、「スライドコア」と強 い類似性を有する被告各製品の「外枠」も顧客誘引力の源泉となるから、上記部分 実施による推定覆滅は大きいものではない旨主張する。 確かに、原告製品のパンフレットには「スライドコア方式が簡単施工で高い気密 性を実現する」ことが記載されているが、他にも顧客を誘引するための特徴(例え ば、耐荷重性に優れていること、蓋枠パッキンによる気密性の確保、肌に優しい樹 脂一体成形品であること、バリアフリープラン対応であることなど)を有すること が記載されている(甲11の19)。また、被告各製品にも、外枠以外の構成にお\nいて、薄型化・軽量化設計であることやバリアフリー設計であること、抗菌仕様で あることといった顧客の誘引に影響する特徴がある(甲4)。外枠に関する施工の 容易性や高い気密性は需要者が注目する特徴であると考えられるものの、他の特徴 と比較して特に重視される事項であるとまでは認めるに足りず、原告製品の「スラ イドコア」ないしこれに相当する部材といえる被告各製品の外枠が、各々の製品に おいて強い顧客誘引力を有していると評価することはできない。 そうすると、被告各製品における発明の実施部分が外枠のみであるとの点は、相 当程度の推定覆滅事由になると解するのが相当である。
(イ) 市場の同一性及び市場における競合品
被告各製品及び原告製品は、樹脂枠を備えた床下点検口・収納庫である。本件訂 正発明2−1、同2−3及び本件発明3の効果は、施工の容易性や気密性及び断熱 性の確保、ガタ付きの防止であるところ、被告各製品のカタログ(甲4)によれば、 被告各製品は、床開口寸法が606×606mm(外形寸法622×622。高さ は67.5mm、182.5mm、463mmのものなど複数の型がある。)であ り、施工が容易でバリアフリー設計であり、気密性及び断熱性等を訴求している。 また、原告製品のカタログ(甲11、12〔枝番を含む。〕)によれば、原告製品 は、床開口寸法が606×606mmのものなどであり(幅広サイズなど複数の型 がある。)、防腐高気密型、高耐久、高断熱、バリアフリー等を訴求している。 これらによれば、被告各製品及び原告製品の需要者は、各製品において、床下点 検口・収納庫の形状、性能や操作の容易性を重視するものと解されるから、被告各\n製品と同程度の形状、性能、機能\及び操作性を実現し、同種の用途に用いられる製 品は競合品に該当するというべきである。
被告が競合品であると主張する製品(甲14ないし18〔各枝番を含む。以下同 じ〕、乙32、33)のうち、少なくとも、Panasonic製の床下収納ユニ ットの「高気密・高断熱住宅用」(甲14)と、DAIKEN製の「ホーム床点検 口」(甲15)は、被告各製品の寸法と同程度の型であるものがあり、性能や機能\、 操作性において同程度であるといえるから、被告各製品及び原告製品と性能、用途\n等において共通する競合品であると認められる(その余の製品については、形状や 訴求されている性能や機能\、操作性が一部被告各製品と合致するものの、同程度と までは認められない。)。他方で、床下収納点検口・収納庫の市場における被告各 製品や原告製品の市場占有率が明らかではなく、また、上記競合品の販売価格と乙 第35号証から推知される被告各製品の販売価格との間には一定の差があることは 否定できない。
以上によれば、市場において上記競合品が存在することは推定覆滅事由となるが、 これをもって大幅な推定覆滅を認めることは相当ではない。
(ウ) 被告の営業努力
特許法102条2項の推定を覆滅する事由として認められる被告の営業努力とは、 通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力をいう。被告は、被告各製品の売上につ いて被告の営業努力によるところが大きいと主張するが、これを認めるに足りる証 拠はないから、この点は覆滅事由として認めることはできない。
(エ) 推定覆滅の程度
被告は、上記のほかにも被告製品の機能や工夫をもって推定覆滅事由に該当する\nなどと主張するが、証拠がなく、当該主張を採用することはできない。 以上の検討した諸事情を総合考慮すると、部分実施であること及び一定数の競合 品が存在することによる推定覆滅が認められるところ、本件においては8割の限度 で損害額の推定が覆滅されると解するのが相当である。これに反する原告及び被告 の主張はいずれも採用できない。
(2) 特許法102条3項に基づく主張について
原告は、同条2項の推定覆滅が一部でも認められたとしても、推定覆滅の理由が 「特許発明が侵害品の部分のみに実施されている」という推定覆滅事由でない限り は、当該推定覆滅部分については、同条3項を適用することができると主張する。 この点、同条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、特許権者 が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の 売上げの減少による逸失利益に相当するものであるのに対し、同項による推定の推 定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、 特許権者は、売上げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による 実施料相当額の損害を受けたものと評価できるから、同条3項の適用が否定される ことにはならないと解される(知的財産高等裁判所令和2年 第10024号・令 和4年10月20日特別部判決参照)。 本件においては、上記競合品が存在することは同条2項による推定覆滅事由の一 つとなるが、当該推定覆滅部分について原告に実施許諾の機会があったと認めるに 足りる証拠はない。したがって、当該推定覆滅部分について、同条3項を適用する ことはできないというべきである。
(3) 以上によれば、上記(1)アの限界利益額8557万2953円から8割の推 定覆滅がされた1711万4590円(税込)が、被告の被告各製品の販売による 原告の損害であると認められる。 また、本件の事案の内容、経過等にかんがみ、原告の弁護士費用及び弁理士費用 171万円は、被告の特許権侵害行為と相当因果関係がある原告の損害と認める。 したがって、原告の損害額は1882万4590円となる。

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令和5(行ケ)10086  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年6月5日  知的財産高等裁判所

無効理由なし(進歩性、明確性等)とした審決が維持されました。

(2) 原告は、仮に相違点5が認められるとしても、周知技術1(皮膚に電気刺 激を与えるブラシ型の美容機器において、ブラシの櫛歯を肌の形状に合わせ て屈曲できるようにすること)を考慮して相違点5に係る構成を採用するこ\nとは容易であると主張する。
ア しかし、甲1公報の「動作する際には、通常の髪をとかすように髪をと かして、シリコンスリーブ9の底端が頭皮に接触すると、ばね8が圧縮 され、スライドスリーブ4がシリコンスリーブ9を収縮させ、シリコン スリーブ9全体の底端が頭皮に接触し」([0023])の記載などか ら明らかなように、甲1発明では、櫛としての通常の使用により櫛歯の 底端が頭皮に接触することで櫛歯がスムーズに伸縮することが前提とさ れているところ、スライドスリーブ4を径方向に屈曲する構成とすると、\nスライドスリーブ4と電流ガイドロッド3及びストッパー5との間の抵 抗・摩擦の増大等により、スライドスリーブ4が電流ガイドロッド3に 沿ってスムーズにスライドすることを妨げることは明らかである。そう すると、原告主張の周知技術1を甲1発明に適用することには阻害要因 があるというべきである。
イ これに対し、原告は、電流ガイドロッド3及びストッパー5の摺動(ス ライド)とスライドスリーブ4及びシリコンスリーブ9が径方向に屈曲す ることは両立する旨主張するが、根拠を欠くものといわざるを得ない。す なわち、原告が挙げる甲2公報は、「電極41が配設された先端部40」 が上下左右に動くことが可能な「育毛剤導入装置」に係るものであり、軸\n方向に摺動する構成を有するものとは認められない(甲2)。\nまた、原告は、スライドスリーブ4が屈曲できない部材であればストッ パー5と磁石6の位置を「固定」する必要がないと主張するが、本件審決 が認定する甲1発明のとおり「電流ガイドロッド3の底端にストッパー5 が固定して接続され」ていなければ、シリコンスリーブ9からなる櫛歯が 電流ガイドロッド3から抜けることになるし、製造時の手間を考慮しても ストッパー5を電流ガイドロッド3に、磁石6をスライドスリーブ9に固 定する方が自然といえるから、スライドスリーブ4が屈曲することの根拠 にはならない。
原告は、その他、髪をとかす動きをする際や「頭部の曲率の変化に応じ て、シリコンスリーブ9の底部が常に頭皮にフィットするように調整する」 ([0022])ためには径方向に屈曲することが必要である等主張する が、シリコンスリーブ9の屈曲により底部の放電孔が常に頭皮にフィット するとは認め難いし、いずれにせよ甲1公報の記載に基づく主張ではなく、 上記アの認定を左右するものではない。
(3) したがって、本件発明1は、甲1発明及び原告主張の周知技術1に基づい て当業者が容易に想到できるものではないから、本件発明1の発明特定事項 を全て含み、更に減縮したものである本件発明2〜10についても同様であ って、本件審決の甲1発明に基づく進歩性の判断の誤りはなく、原告が主張 する取消事由2には理由がない。

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令和3(ワ)22564等  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日  東京地方裁判所

原告は、マザーズへの上場を控えていましたが、被告は、原告の主幹事会社に対して、「被告特許を侵害するとして、原告を提訴しました。上場は慎重にすべき」という旨の通知書を送付しました。実際に提訴自体はしましたが、印紙を貼らずの提訴で、その後、提訴は取り下げています。\n
原告はかかる行為は、不正競争行為(不競法2条1項21号)に該当すると提訴しました。被告も反訴しています。 裁判所は、特許は無効だが、不正競争行為には該当しないと判断しました。
なお、サブコンピネーション発明の「〜のための」という文言も発明を限定するのかが問題となっています。

ウ 甲32発明の各構成が本件発明の構\成要件JないしNの構成にそれぞれ\n相当するかを検討する前提として、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電\n話との間で送受信するための」との記載の性質について検討する。 被告らは、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信す\nるための」との記載は、本件発明の受信装置の構造及び機能\を特定して いるから、請求項1ないし4の解釈を踏まえて請求項5に係る本件発明 の構成を認定すべきであると主張するものと解される。\n
そこで検討すると、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の各記 載によれば、本件発明は、受信装置が、携帯電話との間で送受信するた めのRFIDインターフェースを介して同携帯電話に対して個別情報の 発信要求をし、これに対し、同携帯電話が、要求された個別情報を送信 し、受信装置が、同携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報 であるか否かを判断し、受信した判断情報が前記要求した個別情報であ ると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行うという、二つ 以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し、それに組み合わ される受信装置の発明すなわちサブコンビネーション発明であって、本 件発明に係る特許請求の範囲の請求項5には、受信装置とは別の他の装 置すなわち他のサブコンビネーションである携帯電話に関する事項が記 載されているものと理解できる。
そして、サブコンビネーション発明においては、特許請求の範囲の請求 項中に記載された他の装置に関する事項が、形状、構造、構\成要素、組成、 作用、機能、性質、特性、行為又は動作、用途等の観点から当該請求項に\n係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握し、発明の技術的範囲 を画する必要があるところ、他の装置に関する事項が、当該他の装置のみ を特定する事項であって、当該請求項に係る発明の構造、機能\等を何ら特 定していない場合には、他の装置に関する事項は当該請求項に係る発明を 特定するために意味を有しないことになるから,これを除外して当該請求 項に係る発明の要旨を認定することが相当であるといえる。
本件特許の特許請求の範囲において、構成要件Jの「RFIDインター\nフェースを有し、」との記載は、受信装置が「RFIDインターフェース を有し」ていることを、構成要件Kの記載は、受信装置が「個別情報の発\n信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を有していることを、構成要\n件Lの記載は、受信装置が「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し た個別情報であるか否かを判断する判断手段」を有していることを、構成\n要件Mの記載は、受信装置が「前記判断手段で受信した判断情報が、前記 要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理 を行う」ことを、それぞれ特定していると認められるのに対し、構成要件\nJの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するための」との記載は 上記の構造、機能\等を有する受信装置と送受信をする携帯電話の構造、機\n能等を請求項4記載の構\成に限定するものにすぎず、受信装置の構造、機\n能等自体を何ら特定していないから、「請求項4記載の携帯電話」との記\n載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認 めることはできない。
以上によれば、上記の「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するた めの」を除外して請求項5に係る本件発明の要旨を認定することが相当で あるというべきであって、被告らの上記主張を採用することはできない。
・・・
(2) 小括
以上によれば、本件発明は、甲32発明と同一の構成を有しているから、\n新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの と認められ、被告モビリティは原告に対してその権利を行使することができ ない(特許法104条の3第1項、123条1項2号、29条1項3号)。
3 争点1−3(被告らによる虚偽告知の内容)について
前提事実(5)オのとおり、本件通知行為は、原告が被告モビリティの特許権 を侵害しているとの原告の営業上の信用を害する事実を告知するものであると ころ、前記2のとおり、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの であり、原告が被告モビリティの特許権を侵害しているとの事実を通知した本 件通知行為は、不正競争防止法2条1項21号の「虚偽の事実を告知」するも のといえる。
他方で、前提事実(5)オのとおり、本件通知行為により、被告モビリティは、 岡三証券に対し、被告モビリティが別件訴訟を提起した旨も通知したものであ るが、実際に、本件通知行為の前日である令和3年6月23日、東京地方裁判 所に対し、別件訴訟を提起している以上(前提事実(5)エ)、別件訴訟について の通知内容は、同条の「虚偽の事実を告知」したものとはいえない。 なお、被告らは、原告の前訴訟代理人であった弁護士Ci作成に係る令和3 年7月26日付け意見書について、文書提出命令を申し立てているところ(東\n京地方裁判所令和4年(モ)第264号)、本訴のいずれの争点との関係でも 取調べの必要性が認められるとはいえないから、上記申立てを却下する。\n4 争点2(被告らと原告との間の競争関係の有無)について 事業者間の公正な競争を確保するという不正競争防止法の目的(不正競争防 止法1条)に照らすと、同法2条1項21号の「競争関係」は、現実の市場に おける競合が存在しなくとも、市場における競合が生じるおそれがあれば認め られると解するのが相当である。
そして、前提事実(2)及び(3)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、決済 に利用される通信端末及びインターネットを利用した決済システムを開発して 販売していること、被告モビリティは、決済システムに利用され得る本件発明 に係る特許権を有し、同特許権について実施権を許諾してライセンス収入を得 ることを業としていることが認められ、被告モビリティ自身が決済端末の開発、 販売をしておらず、現実の市場における競合が存在しないとしても、市場にお ける競合が生じるおそれはあるといえる。
3 争点1−3(被告らによる虚偽告知の内容)について
前提事実(5)オのとおり、本件通知行為は、原告が被告モビリティの特許権 を侵害しているとの原告の営業上の信用を害する事実を告知するものであると ころ、前記2のとおり、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの であり、原告が被告モビリティの特許権を侵害しているとの事実を通知した本 件通知行為は、不正競争防止法2条1項21号の「虚偽の事実を告知」するも のといえる。
他方で、前提事実(5)オのとおり、本件通知行為により、被告モビリティは、 岡三証券に対し、被告モビリティが別件訴訟を提起した旨も通知したものであ るが、実際に、本件通知行為の前日である令和3年6月23日、東京地方裁判 所に対し、別件訴訟を提起している以上(前提事実(5)エ)、別件訴訟について の通知内容は、同条の「虚偽の事実を告知」したものとはいえない。
(2) 不正競争行為に係る過失について
本件全証拠によっても、被告らにおいて本件通知行為時までに本件特許が 無効となることを具体的に認識し得たことを基礎付ける事情は認められない。 他方で、前提事実(5)のとおり、被告モビリティは、原告がマザーズ市場に 上場する約2週間前に、岡三証券に対して本件通知行為をしたものであると ころ、同時点においては、原告から本件特許が無効である旨の主張は一切さ れておらず、原告が初めて具体的な引用例を示した上で本件特許の新規性又 は進歩性欠如の主張をするに至ったのは、本件訴訟係属中に前訴訟代理人弁 護士らを解任して現在の訴訟代理人弁護士に本件を委任した後であった。以 上の事情に加え、一般に、特許権は特許庁においていったん特許要件ありと して特許査定を受けた権利であることを考慮すると、本件通知行為時点にお いて、被告らに本件特許の無効理由を調査する義務まで負わせることが相当 であるとはいい難い。したがって、被告らに不正競争行為につき過失があるとの原告の主張は理由がない。

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令和1(ワ)30628等  損害賠償請求本訴・損害賠償請求反訴  著作権  民事訴訟 令和6年3月28日  東京地方裁判所

絵柄が付されたタオルについて、著作権侵害なしと判断されました。被告は元原告のライセンシーでした。

(1) 著作物性の有無(争点1−1)
著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、\n美術又は音楽の範囲に属するものであり(著作権法2条1項1号)、美術の 著作物には、美術工芸品が含まれる(同条2項)。そして、美術工芸品以外 の実用目的の美術量産品であっても、実用目的に係る機能と分離して、それ\n自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合には、美術の範 囲に属するものを創作的に表現したものとして、著作物に該当すると解する\nのが相当である。 これを本件についてみると、被告商品は、原告A制作に係る本件絵柄をタ オルに付して商品化した上、量産されたものであるから、美術工芸品以外の 実用目的の美術量産品であるといえる。そして、被告商品は、先に制作され た本件絵柄を利用し製作されたタオル商品であるから、被告商品のうち本件 絵柄と共通しその実質を同じくする部分(本件絵柄部分)は、何ら新たな創 作的要素を含むものではなく、本件絵柄とは別個の著作物として保護すべき 理由がない。
このような観点から、被告商品のうち、本件絵柄部分を除き、新たに付与 された部分(本件タオル部分)の創作性の存否につき検討するに、被告商品 は、本件タオル部分において、凹凸、陰影、配色、色合い、風合い、織り方 その他の特徴があったとしても、凹凸、陰影、配色、色合いなどは、本件絵 柄と共通しその実質を同じくする部分であると認めるのが相当であり、また、 風合い、織り方などは、タオルとしての実用目的に係る機能と密接不可分に\n関連する部分であるから、当該機能と分離してそれ自体独立して美術鑑賞の\n対象となる創作性を備えているものとはいえない。 そうすると、被告商品において、美的鑑賞の対象となるのは、飽くまで原 告A制作に係る美術的価値の高い本件絵柄部分であると認めるのが相当であ り、被告一広の製作に係る本件タオル部分には、タオルとしての実用目的に 係る機能と分離して、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備え\nているものと認めることはできない。 のみならず、仮に被告一広の製作に係る本件タオル部分に著作物性が認め られるという立場を採用したとしても、本件タオル部分は、原告らの主張を 前提としても、第三者にとって著作権侵害を構成する範囲が明らかになる程\n度に、被告商品ごとに個別具体的に明確に特定されているものとはいえず、 表現、創作活動等の自由の保障という観点からしても、本件タオル部分につ\nいては、そもそも新たに付与されたとされる創作的部分の特定を欠くものと して、著作物性を認めるための前提を欠く。加えて、原告会社が本件絵柄の 使用を許諾した基本契約の内容をみても、1条5項によれば、被告一広にお いて許諾された本件絵柄の使用は、著作物を構成するタイトル名、サブタイ\nトル名、登場キャラクター、コレクションの名称、形状、シンボル、ストー リー、プロット等を、許諾商品の使用価値を高めるために捺染、印刷、彫塑、 撮影その他の技法を用いて、許諾商品に具現化することをいうと規定されて いるのであるから、上記基本契約に係るその他の条項違反を主張するのは格 別、原告会社は、被告タオル美術館及び被告一広に対し、本件絵柄を複製及 び翻案してタオルとして商品化し、これを製造販売することにつき許諾した ものと解するのが相当である。したがって、仮に被告商品において新たに付 与された創作的部分を認める立場を採用し、かつ、仮に原告会社が当該創作 的部分を表現したという立場を採用したとしても、原告会社は、そもそも基\n本契約において、被告一広に対し当該創作的部分に係る著作物の使用を許諾 していたものと認めるのが相当である。 以上によれば、本件タオル部分に著作物性を認めることはできず、本件タ オル部分に係る著作権侵害に基づく原告らの請求は、いずれも理由がない。
(2) 著作者該当性(争点1−2)
仮に、本件絵柄部分を除いた本件タオル部分に著作物性を認める立場を採 用したとしても、証拠(甲7、甲33の2ないし5、甲35の2、3、甲3 8の2、3、甲40の2、3、乙6、乙27、乙113)及び弁論の全趣旨 によれば、原告Aは、配色指示書、配色指示図案等により、配色や糸、織り 方等を指示していることまでは認められるものの、具体的な糸の番手や本数、 密度、織り上がりの重量等を決定し、現実に被告商品のタオルを製作したの は、タオルの製造に関する専門的技術を有する被告一広であることが認めら れる。 そうすると、仮に本件タオル部分自体における上記工夫に創作性が認めら れる立場を採用したとしても、原告Aの上記指示等はアイデアの域を超える ものとはいえず、美的鑑賞の対象となる創作性を表現した著作者は、被告一\n広であると認めるのが相当である。 したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。

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令和4(行ケ)10057等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年4月25日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反・実施可能性違反(36条6項1号、同4項))の無効理由なしとした審決が維持されました。

ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲 の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、 発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆によ り当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、ま た、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するものと解す るのが相当である。
本件明細書における本件各発明の課題及び解決手段は、前記2(2)のとおりであ る。ここで、前記2(2)のとおり、本件パラメータは、直線近似式であるところ、そ の統計的な性質上、予測値にすぎないものであることは、当業者の技術常識の範ちゅ\nうであるといえる。 かかる技術常識に照らして、当業者は、本件パラメータが規定する関係を満たす 場合には、1.09≦y/x≦1.21の数値範囲において85%から90%程度 の輝度均斉度が、1.21≦y/x≦1.49の数値範囲において90%から95% 程度の輝度均斉度が、1.49≦y/xの数値範囲において95%程度の輝度均斉 度がおおよそ得られることが期待できることが本件明細書に記載されていると理解 するものであるといえる。 また、輝度均斉度が、おおむね85%程度を超えていると、粒々感は、解消でき ることも周知の技術であるといえる(甲10【0001】【0024】【0074】)。
そうすると、本件明細書に接した当業者は、上記技術常識も踏まえて、本件パラ メータが1.09<y/xであれば、粒々感を抑制するという課題を解決できると 認識するものである。 他方、本件訂正後の特許請求の範囲に特定された本件各発明における本件パラ メータについてみると、1.09<y/xの範囲で、y/xの下限や上限を適宜特 定し、さらには、x値(請求項5〜8)の範囲を特定するものであるから、本件訂 正後の特許請求の範囲に記載された発明は、輝度均斉度がおおよそ85%以上とな る範囲を特定するものであることを理解できる。
以上を踏まえて、本件訂正後の特許請求の範囲の記載と本件明細書の記載とを対 比すると、同特許請求の範囲に記載された本件各発明が、本件明細書に記載された 発明であって、発明の詳細な説明の記載により、当業者は、同特許請求の範囲に特 定された全数値範囲で、粒々感を抑制するという課題を解決できると認識できる範 囲のものであるといえるから、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法36 条6項1号のサポート要件を満たすものであるといえる。
イ この点、原告は、本件明細書の実験結果【図7A】には、y=1.09xの 段階で輝度均斉度が85%に達していない試料(上段から10番目及び13番目) が記載されていること等から、実験結果から当業者が課題を解決できると認識でき ないなどと主張するが、前記2(2)オのとおり、当業者は、直線近似式と実測データ には残差が存在するという出願時の技術常識を踏まえて、本件各発明を理解すると ころ、原告が指摘する試料番号10、13等についても、このような技術常識を踏 まえて、おおよそ所望の輝度均斉度が得られ、本件各発明の課題を解決できると理 解できるものである。よって、原告の上記主張には理由がない。 したがって、サポート要件に違反しないとした本件審決の判断に誤りはない。
(2) 実施可能要件について\n
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから (特許法2条3項1号)、物の発明について実施可能要件を充足するか否かについ\nては、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づい て、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程 度の記載があるかどうかで判断するのが相当である。 前記2(2)オのとおり、本件パラメータは、直線近似式であって、発光中心間隔x と半値幅yが、本件パラメータの数式の範囲内にあれば、おおよそ所望の輝度均斉 度が得られるとしたものである。 ここで、粒々感を解消した直管形LEDを得ることは、本願出願前に周知の技術 的課題であるし(甲1の3、甲47、甲52)、この課題を解決して粒々感を抑制す るためには、輝度均斉度がおおよそ85%程度以上であればよいことは技術常識で ある(甲10)。
さらに、直管形LEDにおいて、LED素子を選定し、コストの関係でLEDの 個数を適宜決定し(x値を変えること)、その上で、拡散カバーを適宜選択すること (y値を変えること)で、粒々感を解消することが、本件特許の出願当時の技術常 識であったこと、また、x値やy値の計測やy/x値の計算(【0080】)も格別 困難なものではないことに照らすと、当業者は、本件明細書等の記載及び技術常識 に基づいて、過度の試行錯誤を経ることなく、使用するLED素子、拡散部材、又 は素子と拡散部材の距離などにつき、粒々感を抑制し得るような組合せを適宜選択 して、本件各発明に係る本件パラメータを充足するy値及びx値を備えるランプを 実施することができるというべきである。 この点、原告は、過度な試行錯誤を経なくては、発明の課題とする所望の輝度均 斉度を得ると当業者が理解できないと主張するが、上記判断に照らし、原告の主張 は採用できない。したがって、実施可能要件に違反しないとした本件審決の判断に誤りはない。\n

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令和5(行ケ)10101 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年4月25日  知的財産高等裁判所

 実施可能性違反(36条4項)の無効理由なしとした審決が維持されました。

上記記載によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、「ユーザー4は、 アプリケーション[B]10を用いて、要鑑定製品1に付与された秘密鍵α1、 およびギャランティカード2に付与された秘密鍵β1を使用して、専用プラッ トフォーム8のブロックチェーンデータ8bに書き込まれた、要鑑定製品1 の製品情報および取引情報を読み込むことができ」ることが記載されている。 また、上記1のとおりの、「要鑑定製品1およびギャランティカード2を所 有する真のユーザーだけが、信頼性の高い鑑定証明を簡単に行うことができ る」との本件各発明の奏する効果を考慮すると、本件明細書の発明の詳細な 説明には、「ユーザー4が要鑑定製品1およびギャランティカード2を所有す る真のユーザーであるという認証を行った後に、認証されたユーザー4だけ が、専用プラットフォーム8のブロックチェーンデータ8bに書き込まれた、 要鑑定製品1の製品情報および取引情報を読み込むことができ」ることも記 載されているといえる。
(3) 本件特許の出願時の技術常識
本件特許の出願時における技術常識を示す文献である甲2(新版暗号技術 入門 秘密の国のアリス、2012年〔平成24年〕7月25日第7刷発行) には、「公開鍵信号・・・では、『暗号化の鍵』と『復号化の鍵』を分けます。 送信者は『暗号化の鍵』を使ってメッセージを暗号化し、受信者は『復号化 の鍵』を使って暗号文を復号化します。」、「『復号化の鍵』は・・・あなだだ けが使うものなのです。ですから、この鍵をプライベート鍵・・・と呼びま す。」「公開鍵で暗号化した暗号文は、その公開鍵とペアになっているプライ ベート鍵でなければ復号化できません。」、「デジタル署名では、署名の作成と 検証とで異なる鍵を使います。署名を作成できるのはプライベート鍵を持っ ている本人だけですが、署名の検証は公開鍵を使いますので、誰でも署名の 検証を行えます」との記載があり、甲1、3、乙2ないし4にもこれと同旨 の記載がある。 そうすると、本件各発明の属する暗号技術分野において、秘密鍵で暗号化 し、その秘密鍵と対の関係にある公開鍵で復号化することにより、本人認証 を行う公開鍵暗号方式によるデジタル署名技術は、本件特許の出願当時の技 術常識であったことが認められる。
(4) 判断
そうすると、上記(2)の本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業 者は、上記(3)の出願当時の技術常識に基づくと、要鑑定製品1に付与された 秘密鍵α1及びギャランティカード2に付与された秘密鍵β1は、それらと対 の関係にある公開鍵と共に、ユーザー4が要鑑定製品1及びギャランティカ ード2を所有する真のユーザーであるという本人認証に使用されることが自 然であると理解できるから、本件明細書の発明の詳細な説明には、アプリケ ーション[B]10を用いる許可を得るための本人照合の手段として、要鑑 定製品1に付与された秘密鍵α1及びギャランティカード2に付与された秘 密鍵β1で暗号化し、秘密鍵α1及び秘密鍵β1と対の関係にある公開鍵で復号 化することで本人認証を行うデジタル署名技術により、ユーザー4が要鑑定 製品1及びギャランティカード2を所有する真のユーザーであるという認証 がなされ、認証されたユーザー4だけが、専用プラットフォーム8のブロッ クチェーンデータ8bに書き込まれた、要鑑定製品1の製品情報および取引 情報を読み込むことができることが記載されていると理解できる。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が、本件明細書 の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、 過度の試行錯誤を要することなく、構成要件E、Fを含む本件発明1の鑑定\n証明システムを製造し、使用することができる程度に、明確かつ十分に記載\nされているものと認められる。 よって、本件発明1について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は実 施可能要件を満たしているといえ、本件発明2ないし7についても同様に解\nされる。 したがって、原告の主張する取消事由1は理由がない。
(5) 原告の主張に対する判断
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)のとおり、本件明細書の発明の 詳細な説明には、構成要件E及びFを具現すべき機能\等について記載され ておらず、不明瞭であり、出願時の技術常識に基づいてもその具現すべき 機能等を当業者が理解できないから実施可能\要件を欠く旨を主張する。 しかし、上記(2)ないし(4)で検討したとおり、本件明細書の発明の詳細な 説明の記載は、当業者において、技術常識に基づいて過度の試行錯誤を要 することなく特許請求の範囲に記載された本件各発明を実施できる程度 に明確かつ十分に記載されているものと認められる。\nしたがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)のとおり、本件審決の挙げる「例」 は誤りであり、秘密鍵を有するユーザーにパスワードが設定された適切な アプリケーションをダウンロードにより入手させることもできないから、 「例」について実施可能要件違反がある旨を主張する。\nしかし、本件審決は、「例」につき、ユーザーが要鑑定製品1及びギャラ ンティカード2を所有する真のユーザーであるという認証について実施 可能であることを示す例として示したにすぎず、仮にこの「例」が誤りで\nあったとしても、直ちに本件審決の結論に誤りがあることにはならないか ら、原告の主張は前提を欠くものである。 また、本件明細書の段落【0023】には、「要鑑定製品1の小型記録媒 体(a1)1aに記録された秘密鍵α1、製品情報を含む情報、および、ギ ャランティカード2の小型記録媒体(b)2aに記録された秘密鍵β1、製 品情報を含む情報の読み取りは、図2に示すように、パーソナルコンピュ\nータ5−1のリーダー5−2や、スマートフォン6−1を接触させて行う こともできるし、NFC(NearField Communicati on)、RFID(Radio Frequency IDenticif ier)等の近距離無線通信により非接触で行うこともできる。」との記載 があり、要鑑定製品1の小型記録媒体(a1)1a又はギャランティカード 2の小型記録媒体(b)2aから、秘密鍵α1及び秘密鍵β1のほかに、製 品情報も読み取られているから、この記載に接した当業者であれば、秘密 鍵α1及び秘密鍵β1ではなく、製品情報に基づいてアプリケーション[B] がダウンロードされると考えることも自然であるということができる。 る。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(3)のとおり、仮に、本件審決が想 定する上記「例」が実施可能であるとしても、本件発明1に含まれる当該\n「例」以外の部分について、本件明細書の発明の詳細な説明には記載され ておらず、暗号化/復号化をすることが、「アプリケーション[B]」、「読 み込み」及び「鑑定証明を行う」等とどのような関係にあるのかも不明で あり実施可能要件違反がある旨を主張する。\nしかし、上記(2)ないし(4)で検討したとおりであり、本件明細書の発明の 詳細な説明の記載は、当業者において、技術常識に基づいて過度の試行錯 誤を要することなく特許請求の範囲に記載された本件各発明を実施でき る程度に明確かつ十分に記載されているものと認められる。\nしたがって、原告の上記主張は採用することができない。
3 取消事由2(実施可能要件の判断の論理構\成の誤り)について
原告は、取消事由2として、本件審決の論理構成は、本件明細書とは別の書\n面である本件特許請求の範囲が理解できるとの判断に依拠する誤ったもので あり、実施可能要件の判断に当たって、本件審決の論理構\成には誤りがある旨 を主張する。
しかし、本件審決は、「第6 当審の判断」として、本件明細書の発明の詳 細な説明の記載を摘記した上で、本件各発明の技術的意義を明らかにし(第6 の1(1)及び(2))、第6の2において、「物の発明について実施可能要件を満たす\nためには、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者において、その記載及 び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明 に係る物を作り、使用することができる程度のものでなければならない。そこ で、以下、これを前提に判断する。」(本件審決13頁4行目ないし同頁8行目) との判断の基礎を示した上で、本件各発明の構成要件と本件明細書の発明の詳\n細な説明の記載の対応関係を検討し(第6の2(1))、続く第6の2(2)イにおい て、「上記(1)アのとおり、本件発明1の構成要件Eと対応する本件明細書の発\n明の詳細な説明の記載は、【0021】、【0022】及び【0036】である。」 (本件審決14頁12行目ないし同頁14行目)、「そうすると、構成要件Eに\n対応する本件明細書の発明の詳細な説明の上記【0021】、【0022】及び 【0036】は、当業者であれば、明確かつ十分に理解し得るものである。」\n(本件審決15頁9行目ないし同頁11行目)とし、これを基に、同第6の2 (2)ウにおいて、「以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者 において、本件発明1に係る物を作り、使用することができる程度に、明確か つ十分な記載があるから、本件発明1について、本件明細書の発明の詳細な説\n明は、実施可能要件を満たしている。」(本件審決15頁13行目ないし同頁1\n6行目)との結論を示したものである。そうすると、本件審決は、本件明細書 の発明の詳細な説明(特に、段落【0021】、【0022】及び【0036】) の記載に基づき、実施可能要件を満たす旨を判断する構\成を取っているもので ある。そして、上記2の検討結果によれば、その判断の内容に誤りはなく、本 件審決の実施可能要件の判断の論理構\成に誤りはない。 したがって、原告の主張する取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(実施可能要件の判断の理由不備(理由不存在)・審理不尽)につ\nいて
原告は、取消事由3として、本件審決には、結論のみがあってそれに対応す る理由が存在しないから、理由不備(理由不存在)、審理不尽又は判断遺脱など の手続上の瑕疵が存在し、本件審決は取り消されるべきである旨を主張する。 しかし、上記2のとおり、本件審決には、結論に至る過程において、対応する 理由が記載されており、本件審決には、理由不備(理由不存在)、審理不尽及び 判断遺脱の違法は存せず、上記2、3によれば、その理由付けにも誤りはない。 したがって、原告の主張する取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(本件発明1の認定・解釈の誤り)についいて
原告は、取消事由4として、本件発明1の構成要件Eについて、特許請求の\n範囲の記載の文言に従って解釈すれば足り、それ以上に限定して解釈したり、 特許請求の範囲に記載されていない事項を導入して解釈したりすることは許さ れないから、本件審決の本件発明1の認定・解釈は誤りである旨主張する。 原告の主張するところの本件審決における本件発明1の認定・解釈の誤りが、 本件審決を直ちに違法とするものであるかについて明確ではないものの、被告 が主張するとおり、本件発明1の実施可能要件を判断するに当たり、本件発明\n1に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することは、法70 条1項・2項の規定に基づき当然に行われるべきことであり、原告の主張は前 提を欠くものである。そして、前記2ないし4のとおり、本件審決の判断に技 術常識に反する点もなく誤りはない。 したがって、原告の主張する取消事由4は理由がない

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令和5(行ケ)10002  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年4月25日  知的財産高等裁判所

 審決は無効理由無しと判断しましたが、知財高裁は本件発明の認定誤りがあるとして、これを取り消しました。

ア 本件発明1について
まず、本件発明1の要旨認定につき当事者間に争いがあるため、以下検討する。
(ア) 本件発明1の特許請求の範囲の記載によると、「取付部材」は、構成要件B\n「前記LED基板が取り付けられる取付部材と」、構成要件C「拡散性を有し且つ前\n記LED基板を覆うようにして前記取付部材に取り付けられるカバー部材とを備え た」、構成要件E「前記カバー部材は、前記取付部材に取り付けられる一対の突壁部\nと」、構成要件F「を有し」、構\成要件I「前記取付部材は、前記複数のLEDが前 記収容凹部の外側を向くようにして前記LED基板を前記器具本体に取り付けるた めの部材であり」と特定されているところ、「取付(け)」とは、「1)機器・器具など をとりつけること。装置すること。」(広辞苑第六版)を意味する名詞であるから、 「取付部材」とは、機器・器具などをとりつけること、装置することに関わる部材 であると理解できる。
また、「取り付ける」とは、「1)機器などを一定の場所に設置したり他の物に装置 したりする。」(広辞苑第六版)を意味する動詞であり、構成要件Bにおいて、「られ\nる」という受け身を表す文言とともに用いられているから、構\成要件Bにより、「取 付部材」は、LED基板が装置される対象物であると理解できる。 さらに、構成要件Cにおいて、「取付部材」は、LED基板を覆うようにしてカバー\n部材が取り付けられる対象物であることが特定されており、そのための構成として、\n構成要件E及び構\成要件Fによると、カバー部材が一対の突壁部を有することが特 定されている。そして、「にして」とは状態を表すものであり、「ため」とは「目的」を意味するものである(広辞苑第六版)から、構\成要件Iによると、「取付部材」は、複数のLEDが収容凹部の外側を向いた状態でLED基板を器具本体に取り付ける ことを目的とした部材であることが特定されていると理解できる。
以上によると、本件発明1の各構成要件の特定事項から、本件発明1の「取付部\n材」は、カバー部材が装置されて一体となること、及び、LED基板が取り付けら れ、それが収容凹部の外側を向く状態で器具本体に取り付けることを目的とした部 材であると認められる。 他方、本件発明1では、カバー部材を取付部材に取り付けるための手段として、 カバー部材が一対の突壁部を有することが特定されている(構成要件E)ものの、\n「取付部材」を器具本体に取り付けるための具体的な構成、例えば、ボルトやフッ\nクなどの構成についての特定はされていないものといえる。\n
そうすると、本件発明1では、「取付部材」を器具本体に取り付けるための具体的 な構成の特定がない以上、当業者は、「取付部材」を器具本体に取り付けるための構\ 成として、技術水準を踏まえて任意のものを採用し得るものと解される。例えば、 本件出願日前に公開された甲2の図13の「係止部材4」、甲202(実用新案登録 第3126166号公報)の「取付部材4」、甲204(特開2012−18598 1号公報)の「係止部材40」及び「係止穴84」、甲205(ワイドキャッツアイ 器具ERK8775W/WEHP108Mに係る報告書)の「キックバネ3」、乙1 の「取付ばね18」及び「取付金具13」(乙2、3も同様)の取付部材と器具本体 の間に係止又は嵌合させる手段を介在させる構成を含め、カバー部材を介在するよ\nうな態様を排除するものではないと解することができる。
(イ) もっとも、特許請求の範囲の記載の意味内容が、本件明細書において、通常 の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれば、異なる解釈をする余 地があるため、以下検討する。 この点、本件明細書によると、「取付部材」については、従来技術の説明(【00 03】)、課題を解決するための手段(【0007】、【0008】、【0012】)、実施形態(【0021】、【0024】〜【0028】、【0030】、【0032】〜【0035】、【0037】、【0044】、【0046】、【0047】、【0051】など)に、それぞれ記載があるが、いずれの記載によっても、前記(ア)の特許請求の範囲の記載の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されているものとはいえない。  ここで、更に本件明細書の実施例についてみると、取付部材について以下のよう に説明されている。図1に係る実施形態における取付部材21は、複数のLED基板22が取り付けられ、LED基板22を覆うようにしてカバー部材23が取り付けられること(【0021】)、板金に曲げ加工を施すことで形成され、所定の形状、穴、LED基板を取り付けるための係止爪(図示せず)を有すること(【0024】〜【0026】)、電源装置24や端子台ブロック25を取付部材21に取り付けるための構成を有す\nること(【0030】、【0032】〜【0035】)、さらに、例示として、器具本体1と取付部材21にそれぞれ設けた嵌合構造(図示せず)により光源ユニット2を\n器具本体に取り付ける(【0037】)ものである。 また、図5に係る実施形態の別の例における取付部材21は、器具本体として構\n成された反射板5及び取付部材にそれぞれ設けた嵌合構造(図示せず)により光源\nユニット2を反射板5(器具本体)に取り付ける(【0044】)ものである。 このように実施形態では、図示はないものの取付部材21と器具本体には嵌合構\n造が設けられていることが理解でき、「嵌合」とは、「〔機〕軸が穴にかたくはまり合ったり、滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語」(甲201)である から、取付部材21と器具本体とは、はまり合うための構造を有し、これにより取\nり付けられることが記載されているものと理解できる。もっとも、かかる実施形態 における取付部材21と器具本体が、はまり合うための具体的な構造については図\n示されておらず、何ら具体的な構造が開示されていないことに照らすと、実施形態\nにおいて取付部材21と器具本体との間にカバー部材を介する態様も包含している といえる。
(ウ) 被告は、本件発明における「取付部材」は、特許請求の範囲の文言上、直接 器具本体にLED基板を取り付ける部材として特定されており、この点に関する本 件審決の認定に何ら誤りはないと主張するが、上記(ア)のとおり、かかる主張は首肯 できない。 また、被告は、実施形態において開示されているのは、カバー部材を介すること なく、取付部材と器具本体に設けられた嵌合構造により両者が取り付けられている\n構造のみであって、カバー部材を介する構\造は存在しないとも主張するが、上記(イ) のとおり、かかる実施形態における取付部材21と器具本体が、はまり合うための 具体的な構造については図示されておらず、何ら具体的な構\造が開示されていない ことに照らすと、実施形態において取付部材21と器具本体との間にカバー部材を 介する態様も包含しているといえるから、被告の上記主張も採用できない。
・・・
(ア) 本件審決は、相違点1−1−3(1)として、「LED基板を器具本体に取り付 けるための部材について、本件発明1では、これが「取付部材」であるのに対して、 甲3−1発明では、これが「蓋部3」であって、絶縁板13は基板10をこの蓋部 3に取り付ける部材である点。」を認定しているところ、原告はこの相違点の認定を 争っていることから、以下検討する。
(イ) 相違点1−1−3(1)について
本件審決は、本件発明1と甲3―1発明との対比において「後者の「絶縁板13」\nと前者の「取付部材」とは「部材」において共通する。」としながらも(本件審決8 3頁末から2行目〜末行)、相違点1―1―\3(1)の判断において「甲3−1発明で は、「絶縁板13」は、基板10を蓋部3に取り付けるためのものであって、器具本 体に取り付けるための部材(取り付ける機能を有する部材)は「蓋部3」である。」\n(同86頁4〜7行目)と認定・判断しており、本件発明1では、「器具本体」と「取 付部材」との間に取り付けに資する構造が介在することが排除されていることを前\n提としている。
しかしながら、前記(1)の本件発明1の要旨認定のとおり、「器具本体」と「取付 部材」との間に取り付けに資する構造が介在することを含むものであってこれが排\n除されていると解することはできない。 以上を前提とすると、本件発明1は、甲3−1発明のように「絶縁板13」と「取 付ベース1」との間に「蓋部3」が介在する取付構造を排除するものではないし、\n甲3−1発明の「絶縁板13」には、LED2を配設した基板10が配設されてい るのであるから、「絶縁板13」が存在しなければ、LED2は「取付ベース1」に 配設することができないことに照らしても、「絶縁板13」は、「LED基板を器具 本体に取り付けるための部材」に相当するものと認められる。 そうすると、本件発明1と甲3−1発明と対比において、相違点1−1−3(1)は、 相違点とはいえない。
(ウ) 相違点2−1−3(1)について
次に、カバー部材に関して、本件発明1では、「拡散性を有」するのに対して、甲 3−1発明では、「アクリル樹脂やガラス等の透明な絶縁材料からできて」いるもの の、拡散性を有するか否かは不明であるとの相違点2−1−3(1)についてみると、 LED照明器具のカバー部材が拡散性を備えることは周知技術であり(甲1[00 32]、甲2【0022】、甲6)、甲3−1発明において、適宜採用して相違点2− 1−3(1)に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることで\nある。
(エ) 小括
そうすると、本件発明1は、甲3−1発明に基づいて当業者が容易に発明をする ことができたものと認められるから、本件審決は、進歩性の判断において、結論に 影響を及ぼす誤りがあったものといえる。 987/092987

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令和3(ワ)15964    特許権  民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日  東京地方裁判所

本件発明の作用から、被告製品は本件特許の技術的範囲に属しないと判断されました。

3 被告ダンパは、「入力」を受けるものであるか(構成要件G)(争点1−1)\nについて ア 本件発明1の構成要件G、Hは、「前記剪断部は、入力により荷重を受けた\nときに、変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とする弾塑性履歴型ダン パ」というものであり、本件発明1の対象となる「弾塑性履歴ダンパ」につ いて「剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収 を行うことを特徴とする」ものであるとされている。したがって、本件発明 1のダンパは、上記に記載された特徴を有するダンパであるところ、その「入 力」がどのようなものであるかについて、本件発明1の特許請求の範囲では 何ら定められていない。
イ ここで、前記1 で説示したとおり、本件各発明は、上部構造物、下部構\ 造物に分離できる橋梁等の建築物において、地震のときに、その接続部にお いて橋軸方向に限らず、複数方向の水平力がかかってしまうところ、同接続 部においては、I字形ダンパでは単一方向の入力にしか対応できないという 課題について、同課題を解決するために、複数の剪断面を持ち、かつ、その 向きが異なるダンパを適用するというものであり、本件各発明は、そのよう なダンパが本件各発明の構成をとることによって、剪断部が、入力により荷\n重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うというものである。 本件明細書に記載された本件各発明の課題は、上記のとおりであり、従来 から知られていた剪断パネル型ダンパである単純なI字形ダンパに対して 単一方向からの入力しか想定されない場面においては、本件各発明における 解決すべき課題は存在しない。単一方向からの入力でなく複数方向からの入 力が想定される場合に、本件各発明が解決すべき課題が存在することとなる。 そして、本件明細書には、前記1 に記載のとおりの本件各発明の意義が記 載されているほか、本件明細書に記載された実施例は、全て、複数方向から の入力が問題となり、そのような複数方向からの入力に対し、本件発明1の 構成をとることによって対応することができるものであると認められる。本\n件明細書のその他の部分にも、単一方向からの入力に対応することに関する 記載はない。これらの本件明細書の記載及び構成要件G、Hの記載から、本\n件発明1に係るダンパは、ダンパに対して複数方向からの入力が想定される 構造物等の部位に用いられ、ダンパの剪断部に対して複数方向からの入力が\nあり、これに対して対応することができるダンパであると解するのが相当で ある。
ウ 以上によれば、本件各発明におけるダンパは、その剪断部に複数方向から の入力があり、その剪断部がそれに対する入力により荷重を受けたときに、 変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするもの(構成要件G、H)で\nあると解するのが相当であり、構成要件Gに係る「入力」は、「複数方向か\nらの入力」を意味し、本件各発明のダンパは、ダンパに対して複数方向から の入力があることを前提として、その剪断部が複数方向からの入力により荷 重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするダンパ であると認められる。 被告ダンパについて検討すると、本件において、原告は、被告ダンパ単体の 譲渡等を問題にするのではなく、被告ダンパが住宅である被告製品に用いられ て、そのような被告製品が販売されていることを特許発明の実施として、被告 製品の販売額を基礎として実施料率相当額の損害を請求する。
被告は、6種の被告ダンパを4種の耐力パネルのいずれかに組み込み、これ を住宅である被告製品の部材として用いている(前提事実 )。被告ダンパは各 平行板部及び各ウェブ部の一端又は両端が耐力パネルに溶接されているので あって、耐力パネルから取り外して使用されることはおよそ想定されておらず、 各耐力パネルも、建物の水平方向に延びる梁や土台等にはさまれるように固定 されて設置されており、住宅販売後に耐力パネルのみを取り外して別の用途に 使用するということはおよそ想定されていない(前提事実 )。すなわち、被告 ダンパは、耐力パネルに物理的にも溶接され、取り外されることはおよそ想定 されず、耐力パネルと不可分一体となっているものといえる。 そうすると、本件において問題となる被告の行為は、被告ダンパが不可分一 体の一部となった被告製品の製造、販売等であって、被告ダンパが組み込まれ た被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか否かが問題になるというべ きである。
なお、被告は、Σ型の形状の鋼材である被告ダンパを作成し、これを他の部 材に組み込むことで耐力パネルを製造していることがうかがえる。もっとも被 告ダンパ単体には「一対のプレート」は接続されておらず、耐力パネルに組み 込まれることによって初めて、「一対のプレート」の具備が問題になるのである から、耐力パネルに組み込まれる前の被告ダンパ自体が本件発明1の技術的範 囲に入ることはないと解される。 被告製品に組み込まれ、被告製品と不可分一体となった被告ダンパに対して 加わる力について検討する。
ア 被告ダンパはいずれも4種類の耐力パネルのいずれかに組み込まれてい るところ、耐力パネルは、その構造上、耐力パネルが接続している梁の方向\nの力(耐力パネルが平行四辺形に変更する方向の力)が加わると、いずれの 耐力パネルについても、被告ダンパに鉛直方向の力が加わり、所定レベル以 上の力が加わると剪断変形によって地震力を吸収する。このとき、被告ダン パに対しては、鉛直方向の力以外の力は加わらない。他方で、耐力パネルに 梁と垂直方向の力が加わっても、被告ダンパには力が加わらず、地震力を吸 収することができない。地震力のうち、これらの力の合力については、いず れも上記二つの力に分解できるから、結局、被告ダンパには鉛直方向の力の みが加わるということになる(乙33)。被告製品においては、建物の特定 の方向に複数の耐力パネルを設置するとともに、これと直交する方向にも複 数の耐力パネルを設置しており、このように複数の耐力パネルを直交方向に 設置することによって、個々のパネルの被告ダンパには鉛直方向の力のみが 加わり、その方向の力のみしか吸収できないとしても、各方向に沿って設置 された耐力パネルが、両方向に対応する地震力の分力を吸収することで建物 全体では任意の方向の地震力を吸収できるように設計されているといえる (乙3)。
イ 被告ダンパに対しては、一応、前記アのとおりの力のみが加わるといえる が、耐力パネルが設置されている上下の梁がねじれる(回転する)力が加わ った場合には、耐力パネルの構造上、被告ダンパに対し鉛直方向とは異なる\n方向の力が加わる可能性がないわけではない。そこで、被告製品において鉛\n直方向からどの程度ずれる力が加わり得るのかについて検討する。
被告は、被告ダンパを搭載した実物大の住宅サンプルに対して、過去最大 級の地震の一つである兵庫県南部地震の際にJR鷹取駅で観測された地震 波(以下「鷹取地震波」という。)を適用して地震時挙動を測定する実験を行 ったところ、その結果によれば、1階に対する2階床の最大回転角は、0. 14°(乙40)、これにより耐力壁に設置されたダンパに対して加わる力 の鉛直方向からのずれは、0.022°であったこと(乙41)が認められ る。
ウ 以上を前提に、被告ダンパの剪断部に本件発明1における複数方向から の入力があり、その剪断部が複数方向からの入力により荷重を受けたとき に変形してエネルギー吸収を行うものといえるか否かについて検討する。 特許請求の範囲にも本件明細書にも、前記の複数方向のうち1つの方 向といえる角度範囲をどの程度のものと想定しているかについての直 接的な記載はない。しかし、そもそも、本件発明1のダンパは、建築物 や橋梁等の建物、建造物で用いられるものであるところ、従来のI字型 ダンパは、想定する角度からわずかでもずれれば機能しなくなるという\nものではない。I字形ダンパは、入力方向のずれが生じている場合でも、 パネルと平行し、面内を通る方向の分力については、入力がパネルと面 内を通る方向と平行だった場合と同様に作用することになるから、実際 の入力と面内を通る方向とのずれがごくわずかであれば、実際の入力と ほとんど変わらない力が面内を通る分力として剪断パネルに作用する。 例えば、入力方向が0.1°ずれた場合には、
Cos0.1°=約0.9999985
により、約99.99985%の力が面内を通る分力として剪断パネル に作用することになり、この程度の入力方向のずれでは、I字型ダンパ に生じる効果に観測できるほどの差は生じないことは明らかである。ま た、建築の分野において橋梁や住居などの一定の大きさの建造物を建築 するに当たって、施工誤差が生じることは当然であり(原告は、後記の とおり耐力パネル設置に当たって少なくとも±0.82°の据え付け誤 差が生じると主張している。)、I字型ダンパもそのことを前提に用いら れるものとして想定されており、施工の限界を超えた小さい角度差は、 単一方向の入力として想定されているというべきである。さらに、I字 型ダンパはパネルと平行し、面内を通る方向から力が加わることによっ て、平行四辺形に剪断変形することによってその力を吸収するというも のである(前記2 )が、I字型ダンパの剪断パネルにも一定の厚さが あり、少なくとも厚さの中に納まるような入力方向の小さなズレであれ ば、パネルの面内を通る方向からの力と評価し得、少なくともこの程度 の入力方向のずれは、同一方向からの入力として想定されているともい える。
本件明細細書においても、本件各発明のダンパは、図面上、いずれも一 見して複数の剪断部の方向が異なることが明らかなもののみであり、そ の入力方向のズレが相当に小さいことを想定した場合の記載、図面はな い。そのずれが相当に小さく、例えば、0.1°程度の差を複数方向か らの入力と想定した場合、複数のパネルを連結しながらどのように配置 すれば効率的に入力を吸収できるかは、本件明細書によっても明らかで はない。上記のような差の入力の場合、厚みのある鋼板を用いて、2枚 の剪断パネルを0.1°程度の角度をつけて接合し、ダンパを作成する ことを実現することが現実的であるとはいえない。 以上に述べたところに、前記 で記載した本件発明1の意義を考慮す ると、本件発明1で対象としている複数方向からの入力は異なる方向か らの入力であるというべきところ、その異なる方向からの入力には、少 なくとも、従来のI字型ダンパにおいて同一方向からの入力として想定 されていたといえる入力を含まないものと認められる。
前記イで認定したとおり、被告製品は、少なくとも鷹取地震波を前提 にすると、これによって剪断パネルに一定のねじれが生じ、被告ダンパ に鉛直方向からずれた方向からの力も加わることが認められる。しかし、 そのずれは0.022°(なお、cos0.02°=約0.9999999 26)と極めて小さいものである。この程度のずれは、その小ささから もこれによって被告ダンパに生じる効果に観測できるほどの差が生じ るとは認めるに足りないし、このずれは、被告製品が用いられる分野の 施工の限界を超える程度であるといえる。また、そのずれは、被告ダン パのウェブ部を形成する鋼板の厚みの中に収まるような小さなもので あることがうかがえる。 これらによれば、上記実験結果によれば、本件においてねじれによっ て加わり得る入力方向の違いは、従来のI字型ダンパにおいて同一方向 からの入力として想定されていたといえる範囲のものであり、前記 で 説示した本件発明1が異なる入力方向として想定しているものではな いというべきである。 また、被告製品が鷹取地震波を超える地震波に遭遇することは想定さ れ得る。しかし、上記実験で用いられたのが過去最大級の地震の一つで ある鷹取地震波であり、その場合であっても上記のとおり入力方向の違 いが極めて小さいことからすると、現実に想定し得る鷹取地震波を超え る地震においても、被告ダンパに対して本件発明1が想定する程度の鉛 直方向からのずれが生じる剪断パネルのねじれが生じるとも認められ ない。
以上によれば、被告製品で用いられている被告ダンパの剪断パネルに 対してねじれの影響によって生じる入力方向の違いは、その小ささから、 本件発明1が想定する程度に達するような、異なる方向からの入力であ ると評価できるものではないというべきである。

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令和5(行ケ)10056  承継参加申立事件  特許権  行政訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所

 審決は無効理由無しと判断しましたが、知財高裁は、進歩性なしと判断しました。

d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判断
参加人は、1)甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階 を異にする別個の工程である、2)前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧 条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の 発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製 品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。 しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(III)) (アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲 11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性 を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨 の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、 甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな い別個の工程であるということはできないから、上記の1)の点を根拠とする参加人 の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を 第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証 拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1 の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌 保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第 1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱 についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される 膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに 足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、 第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認 識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主 張する工程(III))(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程) を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ
(イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当 時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の2)の点を根拠とす る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定) に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
(オ) 本件適用に係る阻害要因の有無
a 参加人は、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用いられる膜の孔サ イズが0.22μmであるのに対し、本件周知技術の予備濾過膜の孔サイズは0.\n45μmであるところ、甲11記載の発明における第1の濾過工程の目的(安定性 を有するエマルジョンのバルクを得るために径が1.2μmを超える大きな粒子を 十分に除去すること)に照らすと、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用\nいられる膜に代えて、孔サイズが2倍以上になる本件周知技術の予備濾過膜を適用\nすることには阻害要因があると主張する。
しかしながら、前記(イ)c(a)のとおり、甲65には、「膜の実際の孔径よりも大 きい粒子や微生物は、効果的に除去される。」との記載があり、孔サイズが0.4 5μmである本件周知技術の予備濾過膜を採用した場合であっても、径が1.2μ\nmを超える大きな粒子を十分に除去し、もって、安定性を有するエマルジョンのバ\nルクを得ることができるものと認められる。また、前記(エ)bのとおり、甲11発 明(認定)は、1)細菌を効果的に保持するとの課題のほか、2)総処理量を大きくす るとの課題及び3)流速を妥当なものにするとの課題を内在しているところ、当該2) 及び3)の課題の解決のためには、目詰まりの防止等の観点から、適当な範囲で膜の 孔サイズを大きくすることも十分に考え得ることであるから、甲11発明(認定)\nに接した本件優先日当時の当業者は、本件課題を解決するため、甲11発明(認定) において用いられる各膜の孔サイズを適当な範囲で大きくすることも小さくするこ とも検討するものと認められる。
以上のとおりであるから、本件周知技術における予備濾過膜の孔サイズが0.4\n5μmであることは、本件適用に係る阻害要因ではない。
b 参加人は、本件製品の膜につき、丙4にはこれをスクアレン含有水中油型エ マルジョンを含む水中油型エマルジョンの滅菌濾過に用い得る旨の記載がないとし て、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用いられる膜に代えて、本件周知 技術の予備濾過膜を適用することには阻害要因があるとも主張する。\nしかしながら、甲11発明(認定)と本件周知技術とが技術分野を共通にしてお り、甲11発明(認定)が本件課題を有しており、かつ、本件製品が備える膜を用 いることにより本件課題を解決することができることは、前記(エ)aからcまでに おいて説示したとおりであるから、丙4に参加人が主張する記載がないことは、本 件適用に係る阻害要因があることを根拠付けるものではない。
c なお、参加人は、本件製品が製品歩留まりの点で他の製品に劣るとして、本 件優先日当時の当業者による本件適用に阻害要因がある旨の主張をするが、丙4の 102頁及び110頁の各「Highest product yield」の記載は、高価なたんぱく 質溶液や吸着(adsorption)に敏感な医薬品を高い回収率(product recovery rates)で濾過するのに適した膜に係る記載であると解されるから、これらの記載 が、たんぱく質を含有しないMF59C.1の製造方法に係る甲11発明(認定) に本件周知技術を適用することを否定したり、その阻害要因になったりするなどと 認めることはできない。

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令和1(ワ)24736  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月15日  東京地方裁判所

 空調服の特許について、進歩性無しとして、権利行使不能と判断されました。\n

前記aないしdの各記載によると、本件出願当時、被服の技術分野 においては、二つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、 そもそも二つの紐状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容 易ではないとの周知かつ自明の課題が存在したものと認められる(な お、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、本件出願当時に存在した課 題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは 非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調整 することができないとの記載がみられるところである。)。 そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成\n(「前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第\n一の位置に取り付けられた紐1と」、「前記紐1が取り付けられた前記 第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付 けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによって、 空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、\n乙46説明書に「首と襟足の間隔を広くし」との記載及び紐が首の後 ろにある旨の図示(前記(1)イ )があることからすると、本件公然実 施発明に接した本件出願当時の当業者は、上記の課題を認識するもの と認めるのが相当である。
乙33発明’が解決する課題
前記(3)アの記載のとおり、乙33発明’は、「帯紐6a」に「ボタン 7a」を、「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタ ン7a」を複数ある「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成\nを採用することにより、「帯紐6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調 整し、もって、個人差のある腰回りの大きさに応じて介護用パンツ1を 装着することを可能にするというものであるところ、乙33公報に装着\nの容易さについての記載(【0008】、【0009】、【0011】)があ ることや、前記 eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願当時に被 服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願当 時の当業者は、乙33発明’につき、これを二つの紐状部材を結んでつ ないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手 段として認識するものと認めるのが相当である。
課題の共通性についての結論
前記 及び のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される 課題と乙33発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当であ る。
ウ 本件公然実施発明に乙33発明’を適用することについての動機付けの 有無
前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実 施発明に接した本件出願当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調 整するための手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調 整することが手間で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するた め、同じ被服の技術分野に属する乙33発明’を採用するよう動機付けら れたものと認めるのが相当である。
エ 原告の主張について
原告は、本件公然実施発明は、排出する空気の量に応じて、中に支え る物体がない、空気を排出するスペースを調整するのに対して、乙33 発明’は、体型等に応じて中に支える物体があるものの周りを調整する ものであるから、その目的や機能が異なると主張する。\nしかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の 締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし する。
しかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の 締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし機能\nにおいて異なるものではないから、本件公然実施発明が空調服の首回り の空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、乙33発 明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すな わち、両者が何を調整するのかにおいて異なることは、前記ウに係る結 論を左右するものではない。 また、原告は、1)空調服は、世の中に存在しなかった革新的技術であ ることや、2)本件発明1は従来技術に比して有利な効果を有しており、 本件公然実施発明と異なる技術的意義を有することを主張している。 しかし、上記1)について、本件発明1は、本件公然実施発明等によっ て既に実用化されている空調服における空気排出口の開口度の調節方法 に係る発明であり、従来技術の延長線上に位置付けられるものと評価で きるところ、上記の調節方法が被服の技術分野で周知といえることは前 記(3)で説示したとおりである。そうだとすれば、空調服という製品自体 が革新的技術であることは、本件発明1の進歩性を基礎付ける事情とは ならないというべきである。 上記2)について、本件全証拠によっても、本件発明1がその進歩性を 基礎付けるほどの有利な効果や技術的意義を有しているとは認められな い。

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令和5(ネ)10037  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

原審は、明細書の記載を参酌して、102条1〜3項による計算を行い、102条3項による計算の方が高いとして、約1億3000万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、102条1項の規定の計算の方が高いとして、1億3700万円の損害賠償を命じました。

(2) 特許法102条2項の適用について
ア 特許権者が特許権侵害を理由に民法709条の不法行為に基づく損害賠償を 請求する場合には、特許権者において、侵害者の故意又は過失、自己の損害の発生、 侵害行為と損害との間の因果関係及び損害額を立証する必要があるところ、特許法 102条2項は、特許権者が故意又は過失により自己の特許権を侵害した者に対し その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵 害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者が受けた損害 の額と推定すると規定している。
イ この規定の趣旨は、特許権者による損害額の立証等には困難が伴い、その結 果、妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者 が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と 推定し、これにより立証の困難性の軽減を図ったものであり、特許権者に、侵害者 による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在 する場合には、特許権者がその侵害行為により損害を受けたものとして、特許法1 02条2項の適用が認められると解すべきである(知的財産高等裁判所平成25年 2月1日特別部判決(同裁判所平成24年(ネ)第10015号)、同裁判所令和元 年6月7日特別部判決(同裁判所平成30年(ネ)第10063号)、令和4年特別 部判決参照)。
ウ これを本件について、前記(1)の認定事実を前提として検討すると、本件では、 原告のSDエンジンは、SD装置が本件各発明を含むステルスダイシング技術を用 いたレーザ加工機能を実現するために必須となる部品であって枢要な機能\を担うも のであり、被告による被告旧製品(侵害品)の製造及び輸出・販売行為がなかった ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ とにより、輸出・販売された被告旧製品に対応する利益が得られたであろうという ことはできる。しかしながら、原告はSDエンジンを販売していたものであって、 侵害品と同種の製品であるSD装置を製造・販売していたものではない。また、原 告において自らSD装置を製造する能力があり、具体的にSD装置を製造・販売す\nる予定があったことを認めるに足りる証拠もない。原告の逸失利益はあくまでもS\nDエンジンの売上喪失によるものであって、SD装置の売上喪失によるものではな い。そして、SD装置とSDエンジンとは需要者及び市場を異にし、同一市場にお いて競合しているわけではない。したがって、SD装置の売上げに係る被告の利益 全体をもって、原告の喪失したSDエンジンの売上利益(原告の損害)と推定する 合理的事情はない。
エ この点、原告は、被告旧製品の限界利益のうち、SDエンジン相当部分の限 界利益が原告の損害と推定されるべきであるとも主張する。しかし、SDエンジン は、SD装置の一部を構成する部品であって、その対価は製造原価を構\成する多数 の項目の一つにすぎない。そして、本件において、SD装置の限界利益のうちのど の程度の部分が、それぞれの部品に由来するものであるかを特定するに足りる事情 はなく、「SDエンジン」に由来する部分を特定することは困難というほかないので あって、「SDエンジン相当部分」の限界利益を一義的に特定することはできない。
仮にこれを算出する場合にも、確立した算出方法があるわけではなく、どのような 要素を考慮し、どのような論理操作を行うかによって様々な結論を導くことが可能\nであるから、このように算出された限界利益の「SDエンジン相当部分」をもって 本件における原告の損害を推定し、覆滅事由の主張立証責任を転換するための合理 的な基礎とすることはできないというべきである。したがって、原告の前記主張は 採用することができない。
オ 以上によれば、本件において、侵害者による特許権侵害行為がなかったなら ば利益が得られたであろうという事情があるとして特許法102条2項の規定の適 用が認められるとはいえるものの、SDエンジン相当部分の限界利益を特定するこ とができないから、同項の推定規定により本件における原告の損害を認定すること はできない。前記各知的財産高等裁判所特別部の判決は、いずれも特許権者等にお いて特許実施品又は侵害品と市場及び需要者を共通にする製品を販売等していたと いう事情が存在する事案について判断したものであるから、本件について、上記の ように解することと矛盾するものではない。原告は、知的財産高等裁判所令和4年 8月8日判決(同裁判所平成31年(ネ)第10007号)も引用するが、同判決 の事案は、特許権者が完成品を販売し、侵害者が間接侵害品である部品を販売して いた事案であって、本件のような完成品の限界利益中の当該部品に相当する部分の 特定が問題になった事案ではないから、同項の適用に関する前記結論を左右するに 足りるものではない。
そうすると、本件における原告の損害の認定は、特許法102条2項の推定規定 の適用以外の方法で行うのが相当である。
(3) 別件訴訟2(965特許)の考慮について
被告は、別件訴訟2の対象特許である965特許による侵害を考慮し、本件と別 件訴訟2において損害額を2分の1とするのが相当であると主張するが、各対象製 品の製造・販売等が965特許を侵害するものであるか否かという点は、本件訴訟 の審理対象となっているものではなく、仮に本件において原告に生じた損害のうち、 965特許の侵害による損害と重なる部分があるとしても、本件において965特 許の侵害が成立することを前提として損害額を算定することは相当ではないから、 損害の算定方法にかかわらず、被告の上記主張は採用することができない。
(4) 特許法102条1項(令和元年法律第3号による改正後のもの。本件は改正 法の施行日(令和2年4月1日)前の事案であるが、経過規定は設けられていない から、以下においては、改正後の条文を適用する。)による損害額の算定 ア 特許法102条1項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益 の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、侵害者の譲 渡した物の数量(譲渡数量)に特許権者がその侵害行為がなければ販売することが できた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、特許権者の実施の能力の限度で\n損害額とするが、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売するこ とができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応 じた額を控除するものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の 立証責任の転換を図ることにより、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規 定である(知的財産高等裁判所令和2年2月28日特別部判決(同裁判所平成31 年(ネ)第10003号)参照)。
特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば、特許権者が「侵害の行為が なければ販売することができた物」(同項1号)とは、侵害行為によってその販売数 量に影響を受ける特許権者の製品であれば足り、特許権者が特許実施品又は専ら特 許実施品の生産のために用いる物(部品)を販売しており、侵害行為がなければ、 特許権者は自らの製品を販売することができたという関係にある場合には、特許権 者は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品を販売していたというこ とができるから、同項の適用が是認される。
そして、本件では、前記(2)のとおり、被告の侵害行為がなければ、原告はその製 造する原告エンジンを販売することができ、これにより利益を得ることができたも のと推認され、原告は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品である 原告エンジンを販売していたということができるから、同項を適用することができ る。
イ 限界利益
原告は、原告エンジンの限界利益について●●●●●●●●●円であると主張す るが、前記認定事実のとおり、原告は被告に対し、●●●●●円で原告エンジンを 販売していたのであるから、上記の限界利益額をそのまま採用することはできない。 そして、原告従業員の陳述書(甲73)によると、被告旧製品(対象製品1(2)B) のSDエンジンの競合品である原告エンジン(800DS一式)の原価は●●●● ●円(1万円未満切り捨て)であり、これを前提とすると、原告エンジンの一台当 たりの限界利益は●●●●●円(=●●●●●円−●●●●●円)、●●台分の限界 利益は4億1280万円となる。 なお、LDモジュールは侵害行為がなければ特許権者である原告が販売できた物 であると認めるに足りないから、LDモジュールに係る部分は考慮しない。
ウ 推定の覆滅
本件各発明は、ステルスダイシング機能そのものに係るものではなく、同機能\を 用いて加工対象物をレーザ加工する際の端部の処理に関するものであること、本件 各発明に係る技術については、AF低追従を用いるという代替技術や、端部におい てはレーザ加工をしないという手法(エッジオフ)が存在し、現に、被告がAF低 追従を用い、エッジオフ機能を有する被告新製品を販売していることからすると、\n本件各発明自体の顧客吸引力が高いとは認められないこと、原告エンジンを組み込 んだ被告又はディスコ社のSD装置が被告旧製品と全く同じ性能や機能\を有するも のではないこと、被告が個々のユーザの製造プロセスや加工対象物の形状に応じて
SD装置の仕様を変更し、モジュールを開発して提供するなどして被告製品を販売 していたこと等、本件に表われた事情を総合すると、特許法102条1項1号の「特\n許権者が販売することができないとする事情」に相当する数量は、7割であると認 めるのが相当である。
エ 損害額
以上によると、特許法102条1項により算定される損害額は、1億2384万 円(=4億1280万円×(1−0.7))であり、同条3項により算定される損害 額(後記(5)イ)を上回る。
なお、原告は、同条1項による損害額の算定においては、原告エンジン一台当た りの限界利益額に侵害品の販売台数を乗じた金額に、1台当たり300万円の実施 料相当額を加算すべきであると主張し、同項2号の規定は、同項1号の実施相応数 量を超える数量又は特定数量がある場合において、一定の条件で実施料相当額の損 害を加算することを認めている。しかし、前記ウで認定した「特許権者が販売する ことができないとする事情」に相当する数量は、その性質上、特許権者が実施許諾 をし得たものとは認められないから、本件では、同項2号の規定を適用して、実施 料相当額を加算することはできない。したがって、原告の主張は採用することがで きない。

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令和5(ネ)10096  損害賠償請求控訴事件  その他  民事訴訟 令和6年3月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

知財高裁も原審と同じく、共同発明ではないと判断されました。
原審(東地判令和4年(ワ)10717)はアップされていません。

控訴人は、前記第2の3(1)のとおり、本件準備契約6条は、ステルスダイ シング技術に関する本成果については、控訴人と被控訴人の共有とする旨を 定めたものである旨を主張する。 しかし、本件準備契約6条の解釈については、補正の上で引用した原判決 第3の1(2)のとおりである。 控訴人は、補正の上で引用した原判決第3の1(1)イの控訴人による修正申\n入れにより、ステルスダイシング技術に関する「本成果」は、控訴人と被控 訴人の共有とする旨定める本件準備契約6条1項(2)に移されて本件準備契約 の締結に至ったものであるから、ステルスダイシング技術に関する「本成果」 も、控訴人と被控訴人の共有となる旨主張する。
しかし、ステルスダイシング技術に関する「本成果」についても控訴人と 被控訴人の共有とする旨の合意の下に、本件準備契約が締結されたと認める に足りる的確な証拠はない上、補正の上で引用した原判決第3の1(2)アのと おり、本件準備契約6条1項(1)及び(2)は、いずれも同条柱書に記載された「本 成果」の帰属等について定めるものであるところ、同項(2)は、もともとSD エンジンに「関しない本成果」を控訴人と被控訴人の共有とする旨定めてい たものであるから、同項(2)にステルスダイシング技術に関する定めを移すこ とが、直ちに「ステルスダイシング技術に関する本成果」を控訴人と被控訴 人の共有とする旨定めるに至ったことを意味するものともいえない。「ステル スダイシング技術」は、被控訴人が作成した契約書の第1ドラフト(甲22) においても、「乙(判決注:被控訴人)が基本特許を有するレーザを用いたダ イシング技術」と定義されており、本件準備契約作成時点において被控訴人 に帰属する固有の技術であったのであるから、これが控訴人と被控訴人の共 有になることはないというべきである。 したがって、控訴人と被控訴人の共同開発に至る経緯を考慮しても、上記 解釈を左右するものではないから、控訴人の上記主張は採用することができ ない。
(2) 控訴人は、前記第2の3(2)、(3)及び(4)アのとおり、SDエンジンに関する 本成果とは、発明・考案等の課題解決のため必須の構成全部を、SDエンジ\nンが備えるものをいうと解すべきと主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第3の1(3)のとおり、本件準備契約の 目的、趣旨や文理等に鑑みると、「SDエンジンに関する本成果」とは、発明 の特徴的部分がSDエンジンに関する発明等(本成果)をいうものと解され る。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 控訴人は、前記第2の3(4)イ(ア)のとおり、「SDエンジンに関する本成果」 に関し、仮に「発明の特徴的部分」を基準として発明の帰属を判断するもの と解したとしても、本件発明1は控訴人と被控訴人の共有とすべきものと主 張し、それに沿う証拠として甲51、52を提出する。
しかし、補正の上で引用した原判決第3の1(4)のとおり、本件発明1は、 いずれも発明の特徴的部分がSDエンジンに関するものとして、その成果は 被控訴人に属するものというべきであるところ、控訴人が当審において提出 する甲51、甲52はいずれもCPUボードないしコンピュータソフトウェ\nア設計に係る証拠であり、本件発明1の内容は補正の上で引用した原判決第 2の1(3)及び同第3の1(4)ア(ア)のとおりであって、本件発明1は、レーザ加 工方法の手順をレーザ加工装置のコンピュータに実行させるためのコンピュ ータソフトウェアに係る発明ではない。そうすると、上記の控訴人の主張及\nびこれに係る証拠は、本件発明1の特徴的部分ないし発明特定事項である特許請求の範囲の記載と関係しないものである。 その点を措いても、本件試作機は、●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」(平 成14年10月2日付け打合議事録。甲26)とされていることから、本件 試作機においては、それまでレーザエンジン側で行っていたことを装置本体 側のCPU162で行えるようにしたものであるところ、控訴人のCPU1 62に係る主張は、レーザ加工装置の制御を行うCPUの所在場所をいうも のにすぎず、そのプログラムの前提となる本件発明1の前記特徴に係るもの ではない上、本件準備契約1条(3)の「SDエンジン」の定義には、キーコン ポーネント部及びソフトウェア設計も含まれているのであるから、CPU1\n62の所在場所及びそのソフトウェアとしての機能\をもって、本件発明1を 控訴人と被控訴人の共有とすべき根拠とすることはできないというべきであ る。
また、控訴人は、本件発明1は、X軸上のステージの動作とその制御を発 明の特徴的部分に含み、加工対象物の端部というステージのX軸上の特定の 位置においてレンズのZ軸上の所定の動作を行うものであり、これはSDエ ンジンに関する発明に該当しない旨も主張する。 しかし、805特許に係る明細書(甲48)は補正の上で引用した原判決 別紙3のとおりであるところ、その明細書の段落【0045】、【0058】 及び【0075】の記載によれば(記載内容は原判決別紙3参照)、805特 許において、既にZ軸ステージをZ軸方向に移動させることにより、加工対 象物(シリコンウェハ)の内部にレーザ光の集光点を合わせることができ、 X軸ステージやY軸ステージを移動させることにより、集光点を切断予定ラ\nインに沿って移動させ、これにより、改質領域を切断予定ラインに沿うよう\nに加工対象物の内部に形成することが示されているから、これと本件発明1 の内容(補正の上で引用した原判決第2の1(3)及び第3の1(4)ア)とを対比 すると、805特許に示されたX軸ステージの移動に係る制御と特段異なる 内容は示されておらず、本件発明1の内容にはX軸ステージの移動に係る制 御に関して805特許に示されたX軸ステージの動作を超える新規の技術的 事項は何ら示されていない上、控訴人の主張するX軸上の特定の位置の検出 それ自体は、X軸ステージの制御を意味するものでもないから、これをもっ て、X軸ステージの制御に本件発明1の特徴的部分があるとはいえない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(4) 控訴人は、前記第2の3(4)イ(イ)のとおり、「SDエンジンに関する本成果」 に関し、仮に「発明の特徴的部分」を基準として発明の帰属を判断するもの と解したとしても、本件発明2は控訴人と被控訴人の共有とすべきものと主 張する。
しかし、補正の上で引用した原判決第3の1(4)イのとおり、本件発明2は、 いずれも発明の特徴的部分が「SDエンジン」に関するものとして、その成 果は被控訴人に属するものというべきである。 本件発明2に係るパルスピッチは、レーザ光の繰り返し周波数及びX軸な いしY軸ステージの移動速度との関係により決まるものであるところ(本件 明細書2の段落【0015】及び【0057】)、前記(3)のとおり、805特 許において、既にX軸ステージやY軸ステージを移動させることにより、集 光点を切断予定ラインに沿って移動させ、これにより、改質領域を切断予\定 ラインに沿うように加工対象物の内部に形成することが示されており、これ と本件発明2の内容(補正の上で引用した原判決第2の1(4)及び第3の1(4) イ)とを対比すると、805特許に示されたX軸ステージやY軸ステージの 移動に係る制御と特段異なる内容は示されておらず、本件発明2の内容には X軸ステージやY軸ステージの移動に係る制御に関して805特許に示され たX軸ステージやY軸ステージの動作を超える新規の技術的事項は何ら示さ れていない。そうすると、X軸ステージ及びY軸ステージの制御に本件発明 2の特徴的部分があるとはいえない。
また、控訴人の提出に係る証拠において、パルスピッチが明記されている ものは、甲38(「浜松ホトニクス殿・出張報告―14」と題する文書)に、\n「改質層ピッチ」として本件発明2の数値範囲内である●●●●μmとの記 載があるのみであり、その甲38においても、パルスピッチが記載されてい る箇所は、「hpk SDL_100V での最新(〜7/11)の加工状況」における「現在の 最適条件」の欄であって、パルスピッチに関し控訴人が知見を得たことを示 すものとはいえないところ、乙12ないし14、16及び18には、例えば 乙12(平成15年6月13日被控訴人作成の「スケジュール」と題する書 面)に、「●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」 などとあり、乙13(平成15年6月13日被控訴人作成の実験資料)には、 パルスピッチごとに改質領域の形成状況が示された実験結果があるように、 被控訴人において、パルスピッチ及び微小空洞に着目して実験を繰り返し、 最適なパルスピッチ等につき検証を行っていたことが認められる。そうする と、こうしたパルスピッチの最適化に関し、控訴人に具体的な貢献があった と認めるに足りる証拠はないから、控訴人の主張はその前提を欠くものというべきである。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

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令和6(行ケ)10003  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年6月3日  知的財産高等裁判所

商標「骨格診断7タイプ」 について、識別力なし(商標3条 1 項3号)とした審決が維持されました。

原告は、法3条1項柱書及び3号は条文上需要者の認識を何ら問題として いないのに、本件審決は、取引者、需要者の認識を基準として本願商標は役 務の質を表示したものと判断したとして、その誤りを主張する。\nこの点、法3条1項3号は「その役務の質を普通に用いられる方法で表示す\nる標章のみからなる商標」を商標登録できない商標として掲げているところ、 出願商標が何を表示するものであるかを客観的に把握する上では、取引者、需\n要者の認識を基準として判断せざるを得ないことは当然であり、そのような解 釈は、法1条の趣旨にも沿うものといえる。
原告は、法3条 1 項3号と、同項6号及び2項との条文の違いを上記主張の 根拠としているが、同条1項6号の「前各号に掲げるもののほか、需要者が何 人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」と の文言、同条2項の「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても、 使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識 することができるものについては」の文言に照らすと、同条1項3号の解釈上 も、需要者の認識が判断基準として想定されていると理解することができ、そ の趣旨をいう本件審決の判断に誤りはない。
2 原告は、1)法3条1項3号における「役務の質」は「『労働勤務』や『他人に利益があるようにする行為』の質」を指すとして、あるいは2)「質」に ついて「内容、中身」の意味を含むと解釈するのは古い時代の解釈であると して、本願商標は「役務の質」を表していないと主張する。\n
しかし、同号に掲げる商標が商標登録要件を欠くと規定されている趣旨は、 このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の場所、質等の特 性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表\示として何人もそ の使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公 益上適当でないなどの理由によるものである。このような趣旨に鑑みれば、 同号の「役務の質」を原告主張のように限定的に解釈すべき理由はない。 しかも、証拠によれば、本願商標「骨格診断7タイプ」がその指定役務に使 用された場合、そうした役務が労働の対価を得て有料でなされ得るもの(乙 6・骨格診断アドバイザー、乙7・骨格診断ファッションアナリスト、乙1 1・骨格診断士〔骨格診断資格〕)があることも認められ、原告の上記主張を 前提にしても、本願商標が同号にいう「役務の質」を表示するものであるとい\nえる。

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令和5(ネ)10063  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年5月15日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

特許権侵害について、原審は約4500万円の損害賠償を認めましたが、知財高裁はこれを取り消しました。争点は、主引発明に副引用発明を適用し、さらに周知技術を適用できるかです。知財高裁(2部)は、本件では相互に関連する技術ではなく、適用可能と判断しました。\n

イ 本件適用2に係る動機付けと阻害要因の有無
前記(4)イ(ア)のとおり、乙15発明は、回転駆動源に電動モータを使用したトル ク制御式パルスツール(ねじ締めツール等)の技術分野に属するものである。また、 前記アによると、本件周知技術は、電動モータに使用される磁石の固定方法に関す るものであるから、電動モータの技術分野に属するものである。そして、相違点B に係る本件発明等の構成の内容は、磁石がステータに隙間を設けて貼\設されている ことであるから、本件適用2との関係では、乙15発明(電動モータに係る部分) と本件周知技術は、その属する技術分野を共通にするものである。さらに、乙15 発明(乙6発明Aを適用したもの)に接した本件優先日当時の当業者は、磁石をど のようにして筒状のロータの内周面に保持するかという課題に直面することになる ところ、接着剤を用いて磁石をロータに隙間を設けて貼設する技術である本件周知\n技術は、当該課題を解決することのできる手段(技術)となる。したがって、本件 優先日当時の当業者において、乙15発明(乙6発明Aを適用したもの)に本件周 知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。 本件適用2をするに当たり、阻害要因があることを認めるに足りる証拠はない。
ウ 相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性についての小括\n
(ア) 以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、乙15発明に乙6 発明A及び本件周知技術を適用することにより、相違点Bに係る本件発明等の構成\nに容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(イ) この点、原告は、乙15発明に乙6文献記載の発明を適用し、その後に周 知技術を適用して相違点Bに係る本件発明等の構成を導出することは「容易の容易」\nに当たるから、本件優先日当時の当業者において、相違点Bに係る本件発明等の構\n成に容易に想到し得たとはいえないと主張する。 確かに、前記イのとおり、本件適用2は、乙6発明Aを適用した乙15発明を前 提とするものである。しかしながら、電動式衝撃締め付け工具において、電動モー タをアウタロータ型のものとすること(相違点A関係)と当該電動モータにおいて 磁石を筒状のロータの内周面に隙間を設けて貼設すること(相違点B関係)は、そ\nれらの内容に照らし、相互に関連する技術ではなく、互いに独立した別個の技術で あるといえるから、原告の主張は、相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性\nを左右するものではない。

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◆令和2年(ワ)4913

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令和3(ワ)13623  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年4月14日  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。コミュニティサイト運営者が、公衆送信権の侵害主体であると認定され、差止と7万円の損害賠償が認められました。

(2)ア 本件投稿者は、原告写真の複製物であり被告各写真を本件記事の文章と ともに被告に送信した。
イ もっとも、本件投稿者が被告に上記送信をしたことにより、直ちに、被 告各写真が公衆送信されることになったとは認められない。 本件ウェブサイトでは、会員が被告に送信した記事を被告地域パートナ ーが承認して、初めて、その記事を本件ウェブサイトの一般の閲覧者が閲 覧できるようになる(前記1(1)ウ )。本件投稿者が被告に送信した被告 各写真を含む本件記事についても、被告の地域パートナーが、その内容等 を審査して、それを承認したことにより、その承認後、被告各写真や本件 記事を本件ウェブサイトの一般の閲覧者が閲覧できるようになったと推認 することができる。
ウ 被告は、旅行に関する情報提供サービス及びそのコンサルティング業等 を目的とする株式会社であり(前記前提事実(1)イ)、本件ウェブサイトに は、「ジャパントラベルは、日本の魅力を世界に発信するメディアであり、 その他コンサルティングビジネスおよび第二種旅行業登録の訪日専門トラ ベルエージェンシーを運営」(前記1 ア)、「「インバウンド専門旅行会社 経験豊富な外国人・日本人スタッフがカスタマイズツアーを主力とした インバウンドツアーをサポートします。」(同イ )と記載されていること、 本件ウェブサイトを通じて、ホテル又は飛行機を予約したり、鉄道切符や\n施設入場券、各種パッケージツアー、体験型ツアーを購入したり、オーダ ーメイドの旅の予約をしたりすることができること(同イ )からすれ ば、本件ウェブサイトは、会員から記事の送信を受けて、その記事を表示\nすることで観光地の情報を提供しつつ、それを利用してツアーの企画など の旅行関連事業を行うことも目的としたものといえる。したがって、本件 ウェブサイトは、被告の旅行関連事業の営業のために設けられているとい う性質も有するといえる。
本件ウェブサイトでは、被告が利用者コンテンツを審査し、編集等する 旨の規定が設けられている(前記1 ウ )だけではなく、実際に、会員 が記事を被告に送信しても、被告地域パートナーの承認がない限り当該記 事は本件ウェブサイトに掲載されず、会員が被告に送信した写真は、被告 地域パートナーが承認という作業をすることによって、自動公衆送信装置 といえるサーバーに蔵置、記録され、送信可能化されるに至り、公衆送信\nされることになったといえる。また、前記 ウによれば、本件ウェブサイ トは、被告が行う旅行関連事業の営業のために設けられているという性質 も有するといえる。会員による記事の送信は、そのような被告のための記 事の提供という面も有していた。被告地域パートナーは、本件ウェブサイ トにおいて、会員から送信された記事の内容について、上記のとおりの本 件ウェブサイトの目的に沿うものであるかやその目的との関係でその質を 維持するものであるかなどを広く審査して、承認の可否を決定し、また必 要な修正を行っていたと推認でき、また、これらの作業を被告の営業のた めに被告の履行補助者として行っていたと認められる。 これらによれば、本件投稿者が被告に送信した被告各写真は、被告の履 行補助者である被告地域パートナーが被告の営業のために内容を広く審査 して承認という作業をしたことによって、サーバーに蔵置、記録され、送 信可能化されるに至り、公衆送信されたといえる。これらを考慮すると、\n被告が、被告各写真の複製、公衆送信をしたと認めることが相当である。 被告の主張について 被告は、1)記事の修正等をする被告地域パートナーはボランティアであ ること、2)被告各写真の投稿者は、被告から経済的利益を得たり、また、 指示等を受けておらず、任意に被告各写真を投稿したことを挙げて、被告 は、複製、公衆送信の主体ではないなどと主張する。
ア 上記1)について、被告地域パートナーがボランティアであったとして も、本件ウェブサイトは被告の旅行関連事業の営業のために設けられて いるという性質も有し、被告地域パートナーによる記事の承認等は、そ のような被告の営業のために行われるものと推認できることを併せて考 えれば、被告地域パートナーは、被告からの直接の報酬の支払を受けて いなかったとしても、被告の履行補助者とみるのが相当である。 したがって、被告の上記1)の主張を採用することはできない。
イ 上記2)について、本件ウェブサイトが前記のとおり被告の営業目的の ために設けられているという性質も有し、また、被告各写真についても、 他の記事と同様に、被告地域パートナーが内容を広く審査して承認し、 公衆送信されるようになったと認められることに鑑みれば、被告各写真 が被告に対して送信されたのは会員の自由な意思に基づくものであった としても、被告各写真を複製し公衆送信したのは被告とみるのが相当で ある。したがって、被告の上記2)の主張も採用することはできない。
(5)著作者人格権侵害について
前提事実 のとおり、本件ウェブサイトにおいて、原告の氏名(ペンネー ム)を表示せずに被告各写真が表\示され、また、別紙URL目録記載1のウ ェブページにおいて原告写真の左右が切除されていたと認めることができる。 これらと、本件ウェブサイトにおいて被告各写真が掲載されるに至る過程 に照らせば、前記(3)と同様の理由により、被告は、原告の氏名表示権及び同\n一性保持権を侵害したといえる。 以上によれば、被告は、原告が保有する原告写真の複製権及び公衆送信 権を侵害し、また、氏名表示権及び同一性保持権を侵害したといえる。\n

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令和4(ワ)4104  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和4年12月23日  東京地方裁判所

漏れていたのでアップします。取引の際にそもそも製品の形態自体に着目して購入しない場合には、不競法2条1項1号の商品等表示には該当しないと判断されました。\n

(1) 不競法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示(人の業務に係る氏名、\n商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示\nするものをいう。以下同じ。)と同一又は類似の商品等表示を使用等する\nことをもって、不正競争に該当する旨規定している。この規定は、周知な 商品等表示の有する出所表\示機能を保護するという観点から、周知な商品\n等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧\n客を獲得する行為を防止し、事業者間の公正な競争等を確保するものと解 される。そして、商品の形態は、特定の出所を表示する二次的意味を有す\nる場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能\ を有するものではないから、上記規定の趣旨に鑑みると、その形態が商標 等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能\を発揮するような特 段の事情がない限り、商品等表示には該当しないというべきである。そう\nすると、商品の形態は、1)客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴 (以下「特別顕著性」という。)を有しており、かつ、2)特定の事業者に よって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強 力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所 を表示するものとして周知(以下「周知性」という。)であると認められ\nる特段の事情がない限り、不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当し\nないと解するのが相当である。 そして、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のも\nのと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止するという同号の上記趣旨 目的に鑑みると、商品の形態が、取引の際に出所表示機能\を有するもので はないと認められる場合には、特定の出所を表示するものとして特別顕著\n性又は周知性があるとはいえず、上記商品の形態は、不競法2条1項1号 にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。\n
(2) これを本件についてみると、前記認定事実によれば、1)本件製品は、中 圧B供給用ガス遮断弁であるところ、その国内における需要者は、ガスボ イラーメーカーやガスバーナーメーカーの専門業者約30社に限られ、一 般消費者が店頭において商品を見比べて購入するという性質の製品ではな いこと、2)本件製品は、その性質上、高度の安全性が求められる製品であ り、不具合があると、多大な損失が生ずる可能性があるため、需要者であ\nる専門業者は、購入に当たって、製品の安全性、信頼性を重視しているこ と、3)現に、需要者は、2〜3年かけてテストを繰り返しながら慎重に製 品の採否を検討するのであり、その検討のためには、製品内部の動作や構\n造についても詳細な情報を要求するのが通例であること、4)被告製品自 体、原告製品の機能やアフターサービスに対する需要者の要望を受けて、\n原告製品の互換品として開発されるに至ったものであること、5)被告製品 の価格は、約50万円と高額であり、原告製品も同程度であると推認され ること、6)原告自身、原告製品に関する宣伝広告に当たって、原告製品の 形態上の特徴それ自体を強調しておらず、被告においても、被告製品の形 態をセールスポイントとするものではないこと、以上の事実が認められ る。
上記認定事実によれば、本件製品の需要者は、約30社の専門業者に限 られるのであり、当該専門業者は、長期間費やし製品をテストするなどし て、専ら安全性、信頼性の観点から本件製品を購入していることが認めら れることからすると、需要者である本件製品の専門業者は、取引の際にそ もそも製品の形態自体に着目して本件製品を購入するものとはいえない。 上記認定に係る本件製品の取引の実情に鑑みると、原告製品の形態は、 一定程度の周知性があるとしても、出所表示機能\を有するものではなく、 不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当であ\nる。 仮に、原告製品の形態が商品等表示に該当するという見解に立ったとし\nても、上記認定に係る本件製品の取引の実情を踏まえると、需要者である 本件製品の専門業者は、長期間費やし製品をテストするなどして、専ら安 全性、信頼性の観点から本件製品を購入しているのであるから、当該需要 者において原告製品と被告製品の誤認混同が生じないことは、明らかであ る。 したがって、被告が被告製品を製造又は販売する行為は、不競法2条1 項1号の不正競争行為に該当するものと認めることはできない。

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令和3(行ケ)10108  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年7月14日  知的財産高等裁判所

 漏れていたので、アップしました。審決は、本件商標「チロリアンホルン」が引用商標「チロリアン」と類似しないと判断しました。これに対して、知財高裁は、商標「チロリアン」は周知なので、「チロリアンホルン」から、「チロリアン」の抽出が許されるとして、類似すると判断しました。

ア 本件商標は、「チロリアンホルン」の文字をゴシック体で横書きに書して なり、「チロリアン」の文字部分と「ホルン」の文字部分とから構成される\n結合商標である。本件商標を構成する文字は、外観上、同書、同大、同間\n隔で一連表記されており、構\成文字に相応して、「チロリアンホルン」の称 呼が生じる。
次に、「チロリアン」の文字部分は、「チロルの人々。オーストリア西部 からイタリア北東部にまたがるチロルの山岳地帯に住む人々の用いる独 特の民族服」(ブリタニカ国際大百科事典)、「チロル地方の。チロル風の」 (広辞苑第七版)といった意味を有する語として、「ホルン」の文字部分は、 「角笛。金管楽器」(広辞苑第七版)といった意味を有する語として、一般 に理解されていることが認められる。このような上記各文字部分の観念及 びそれぞれの称呼に照らすと、本件商標を構成する文字は、外観上、同書、\n同大、同間隔で一連表記されていることを勘案しても、本件商標において、\n「チロリアン」の文字部分と「ホルン」の文字部分とを分離して観察する ことが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているもの とは認められない。
そして、前記1(2)認定のとおり、標章「チロリアン」は、本件商標の登 録査定日(平成29年1月10日)当時、福岡県を中心とした九州地方に おいて、菓子の取引者、需要者の間で、特定の菓子(菓子「チロリアン」) のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたこ とに照らすと、本件商標がその指定商品中の「菓子」に使用された場合に は、本件商標の構成中の「チロリアン」の文字部分は、菓子のブランド名\nを示すものとして注意を惹き、取引者、需要者に対し、相当程度強い印象 を与えるものと認められる。そうすると、本件商標の構成中「チロリアン」の文字部分は、独立して商品の出所識別標識として機能\し得るものと認められるから、本件商標か ら上記文字部分を要部として抽出し、これと引用商標1とを比較して商標 そのものの類否を判断することも、許されるというべきである。
イ これに対し、被告は、1)本件商標は、「チロリアンホルン」の文字を横書 きしてなり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔 に1行でまとまりよく表されており、その文字構\成は一連一体であること からすると、「チロリアン」の部分と「ホルン」の部分は、分離して観察す ることが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合している、2)標章 「チロリアン」、「TIROLIAN」は、本件商標の登録出願時及び登録 査定時において、原告の業務に係る商品を表すものとして、取引者、需要\n者の間に広く認識されていたとはいえないから、本件商標の構成中の「チ\nロリアン」の文字部分が、本件商標の指定商品の取引者、需要者に対し、 原告の商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとはい えない、3)菓子「チロリアン」については、発売後ほどなくして、標章「チ ロリアン」を使用して独自に販売を行う事業主体が複数生じ、平成8年以 降は、標章「チロリアン」を使用する事業主体間で多数の紛争が生じてお り、標章「チロリアン」について統一的な管理が行われていなかったこと に照らすと、取引者、需要者は、本件商標の構成中の「チロリアン」の文\n字部分が、複数の事業主体のいずれに係る表示であるかを認識することが\n困難であるから、「チロリアン」の文字部分は、原告の出所識別標識として 強く支配的な印象を与えるものに該当しない、4)菓子「チロリアン」を製 造販売する複数の事業主体について、経済的・組織的な一体性を持つグル ープといったものが形成されたことはないから、「チロリアン」の文字部分 が、上記のようなグループの識別標識として強く支配的な印象を与えると 評価する余地もない、5)「チロリアン」の文字部分に出所識別機能がない\nにもかかわらず、これがあるかのように評価して結合商標の分離観察を行 い、その結果として、標章「チロリアン」について他の事業主体に比べて 不十分な使用実績しか有しない原告に引用商標1ないし3を含む「チロリ\nアン」の登録商標を独占させるような帰結は、社会的妥当性に欠けるなど と主張して、本件商標から「チロリアン」の文字部分を要部として抽出す ることは許されない旨主張する。
しかしながら、前記(1)で説示したとおり、商標の各構成部分がそれを分\n離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結 合しているものと認められない商標においては、商標の構成部分の一部が\n取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印 象を与えるものと認められる場合などのほか、商標の構成部分の一部が取\n引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商 品の出所識別標識として機能し得るものと認められる場合においても、商\n標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較し\nて商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当であ る。
そして、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い\n印象を与えるものであり、独立して商品の出所識別標識として機能し得る\nか否かについての判断は、商標に接した取引者、需要者において、商標の どのような構成部分について注意を惹き、どのような印象を受けるかなど\nの観点から判断されるべきものであることに照らすと、その判断において は、取引者、需要者が、当該構成部分を何人かの出所識別標識として認識\nし得るものであれば、当該構成部分に係る出所自体(例えば、特定の事業\n主体の名称、事業形態、事業主体が単数か、複数か等)について正確に認 識することまでは要しないと解するのが相当である。 被告主張の1)については、前記アのとおり、「チロリアン」の文字部分の 観念及び称呼、「ホルン」の文字部分の観念及び称呼に照らすと、本件商標 を構成する文字が、外観上、同書、同大、同間隔で一連表\記されているこ とを勘案しても、本件商標において、「チロリアン」の文字部分と「ホルン」 の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほ ど不可分的に結合しているものとは認められない。
被告主張の2)ないし4)は、取引者、需要者において、本件商標の構成中\nの「チロリアン」の文字部分に係る出所自体(特定の事業主体の名称等) について正確に認識することまで必要であることを前提とし、上記文字部 分が原告の出所を示す出所識別標識として認識されることを求めるもの であるから、その前提において採用することができない。 また、被告主張の5)については、結合商標の構成部分の一部を要部とし\nて抽出することができるかどうかの判断は、上記のとおり、当該結合商標 に接した取引者、需要者の認識及び印象に係る問題であって、本件商標と の関係では、原告による標章「チロリアン」の使用実績の規模等によって その判断が左右されるものではないから、その前提において採用すること ができない。

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令和5(行ケ)10122  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年5月16日  知的財産高等裁判所

一時期、新聞で騒がれた商標です。商標「雨降」が、商標「AFIRI」から無効か(4条1項11号、同10-15号、19号、7号違反)について争われました。審決は無効理由なしと判断しました。知財高裁も同様です。

本件商標は、「雨降」の文字を筆文字風で、右上方から左斜め下へ書してなるとこ ろ、当該文字は「[あめふり]雨の降ること。雨が降っている間。」、「[うこう]雨降り。」の意味を有する語であるから、その構成文字に相応して、「アメフリ」又は「ウ\nコー」の称呼を生じ、「雨の降ること。雨が降っている間。雨降り。」の観念を生ず るものである。
別紙2引用商標目録記載の商標登録第6245408号商標(以下「引用商標」 という。)は、「AFURI」の欧文字を書してなるところ、当該文字は、辞書類に 載録された成語ではなく、特定の意味合いを想起させる語として知られているとも いい難いことから、特定の観念を生じない造語として看取、把握されるものである。 したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「アフリ」の称呼を生じ、特定\nの観念は生じない。
本件商標と引用商標との類否について、両者は、漢字と欧文字と文字種が異なる ものであるから、外観において明確に区別できる。また、称呼については、本件商 標から生ずる「アメフリ」の称呼と、引用商標から生ずる「アフリ」の称呼とは、 2音目において「メ」の音の有無に差異を有するものであるが、4音と3音という 比較的短いこれらの称呼を一連に称呼するときは、互いの語調語感が異なり聞き誤 るおそれはない。そして、本件商標から生ずる「ウコー」の称呼と、引用商標から 生ずる「アフリ」の称呼とは、音構成が相違することから、両者は、称呼上、明瞭\nに聴別し得るものである。さらに、観念については、本件商標は「雨の降ること。 雨が降っている間。雨降り。」の観念を生ずるものであるのに対し、引用商標は観念 が生じないものであるから、両者は、観念上、相紛れるおそれはない。 そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても 相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。したがって、本件商標は、 商標法4条1項11号に該当しない。
(2) 商標法4条1項10号及び15号該当性について
原告が、本件商標の登録の無効理由において、商標法4条1項7号、10号、1 5号及び19号に該当するとして引用する商標は、原告の業務に係る「ラーメンの 提供」に使用する「AFURI」の欧文字からなる商標(以下「使用商標」という。) である。
使用商標は、本件商標の登録出願時において既に、原告の役務を表示するものと\nして需要者の間に広く認識されていたとは認められず、また、使用商標は引用商標 と同じつづりからなるものであるから、本件商標と使用商標とは、前記(1)と同様の 理由により、非類似の商標である。 そうすると、被告が、原告の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして\n需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標を、その商品若しく は役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものではなく、 また、被告が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者 は、当該商品が原告又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の 業務に係る商品であるかのように連想、想起することはなく、その出所について混 同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法4条1項10号又は同項15号のいずれにも該 当しない。

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令和5(ネ)10110 発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和6年5月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

発信者情報開示請求について、主な争点は、(争点1)「権利が侵害されたことが明らかである」(プロ責法5条1項1号)か、(争点2)本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(同5条1項柱書)に当たるかでした。1審はいずれも該当しないとして請求を棄却しましたが、知財高裁は、これを取り消しました。

(1) 前提事実(訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」の第2の2)によると、 共有対象となる特定のファイルに対応して形成されたビットトレントネットワークに ピアとして参加した端末は、他のピアとの間でハンドシェイクの通信を行って稼働状 況やピース保有状況を確認した上、上記特定のファイルを構成するピースを保有する\nピアに対してその送信を要求してこれを受信し、また、他のピアからの要求に応じて 自身が保有するピースを送信して、最終的には上記特定のファイルを構成する全ての\nピースを取得する。
そして、証拠(甲5〜9、11)及び弁論の全趣旨によると、ビットトレントネッ トワークで共有されていた本件複製ファイルが本件動画の複製物であること、原判決 別紙動画目録記載の各IPアドレス及びポート番号の組合せは、本件監視ソフトウェ\nアが、本件複製ファイルを共有しているピアのリストとしてトラッカーから取得した ものであること、同目録記載の発信日時は、上記IPアドレス及びポート番号を割り 当てられていた各ピアが、本件監視ソフトウェアとの間で行ったハンドシェイクの通\n信において応答した日時であることがそれぞれ認められる。
そうすると、上記各ピアのユーザーは、その対応する各発信日時までに、本件動画 の複製物である本件複製ファイルのピースを、不特定の者の求めに応じて、これらの 者に直接受信させることを目的として送信し得るようにしたといえ、他のピアのユー ザーと互いに関連し共同して、本件動画の複製物である本件複製ファイルを、不特定 の者の求めに応じて、これらの者に直接受信させることを目的として送信し得るよう にしたといえる。これは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動 公衆送信装置である各ピアの端末の公衆送信用記録媒体に本件複製ファイルを細分化 した情報である本件複製ファイルのピースを記録し(著作権法2条1項9号の5イ)、 又はこのような自動公衆送信用記憶媒体にビットトレントネットワーク以外の他の手 段によって取得した本件複製ファイルが記録されている自動公衆送信装置である各ピ アの端末について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続を行った(同号ロ) といえるから、本件動画につき控訴人が有する送信可能化権が侵害されたことが明ら\nかである。
(2) 被控訴人は、各ピアのユーザーが送信可能化権を侵害したことが明らかという\nには、当該ピアのユーザーのピース保持率が100%又はこれに近い状態に達してい ることを要すると主張する。しかし、上記(1)のとおり、ビットトレントネットワーク に参加した各ピアは、共有対象となったファイルの一部であるピースをそれぞれ保有 してこれを互いに送受信し、最終的には当該ファイルを構成する全てのピースを取得\nすることが可能な状態を作り出しているのであるから、各ピアのユーザーは、他のピ\nアのユーザーと互いに関連し共同して、当該ファイルを自動公衆送信し得るようにす るものといえる。そして、ハンドシェイクの通信に応答したピアは、当該ファイルの 一部であるピースを保有してこれを自身の端末に記録し、他のピアの要求に応じてこ れを送信する用意があることを示したものと認められるから、その保有するピースの 多寡にかかわらず、上記送信可能化行為を他のピアと共同して担ったものと評価でき\nる。被控訴人の主張は採用することができない。
・・・・
(1) 前記1(1)のとおり、原判決別紙動画目録記載のIPアドレス、ポート番号及び 発信日時により特定される通信は、各ピアが本件監視ソフトウェアとの間で行ったハ\nンドシェイクの通信において応答した通信であって、他のピアとの間で本件複製ファ イルのピースを送受信し、又は本件複製ファイルを記録した端末をネットワークに接 続する通信そのものではない。このような通信に係る発信者情報(本件各発信者情報) も、法5条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるかが問題となる。
(2) そこで検討すると、法5条1項は、開示を請求することができる発信者情報 を「当該権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅を持たせたものとし、「当該権利の 侵害に係る発信者情報」のうちには、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害 関連通信に係るものとして総務省令で定めるもの。)を含むと規定しているところ、 特定発信者情報に対応する侵害関連通信は、侵害情報の記録又は入力に係る特定電気 通信ではない。上記の各規定の文理に照らすと、「当該権利の侵害に係る発信者情報」 は、必ずしも侵害情報の記録又は入力に係る特定電気通信に係る発信者情報に限られ ないと解するのが合理的である。
また、法5条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通には、これにより他人の権 利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情 報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他 の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通 によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信\nの秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信 設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することがで きるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るこ\nとにあると解される(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小 法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。なお、令和3年法律第27号による改正 により、特定発信者情報の開示請求権が新たに創設されるとともに、その要件は、特 定発信者情報以外の発信者情報の開示請求権と比して加重されている。その趣旨は、 SNS等へのログイン時又はログアウト時の各通信に代表される侵害関連通信は、こ\nれに係る発信者情報の開示を認める必要性が認められる一方で、それ自体には権利侵 害性がなく、発信者のプライバシー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性\nが高いことから、侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内において開示を認 めることにあると解される。 さらに、著作権法23条1項は、著作権者が専有する公衆送信を行う権利のうち、 自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含むと規定する。その趣旨は、著作権者\nにおいて、インターネット等のネットワーク上で行われる自動公衆送信の主体、時間、 内容等を逐一確認し、特定することが困難である実情に鑑み、自動公衆送信の前段階 というべき状態を捉えて送信可能化として定義し、権利行使を可能\とすることにある と解される。
ビットトレントによるファイルの共有は、対象ファイルに対応したビットトレント ネットワークを形成し、これに参加した各ピアが、細分化された対象ファイルのピー スを互いに送受信して徐々に行われるから、その送受信に係る通信の数は膨大に及ぶ ことが推認できる。しかるところ、ピースを現実に送受信した通信に係るものでなく ては「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとすると、ビットトレントネット ワークにおいて著作物を無許諾で共有された著作権者が侵害の実情に即した権利行使 をするためには、ネットワークを逐一確認する多大な負担を強いられることとなり、 前記のとおり法5条が加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることとし\nた趣旨や、著作権法23条1項が自動公衆送信の前段階というべき送信可能化につき\n権利行使を可能とした趣旨にもとることになりかねない。\n
他方、ハンドシェイクの通信は、その通信に含まれる情報自体が権利侵害を構成す\nるものではないが、専ら特定のファイルを共有する目的で形成されたビットトレント ネットワークに自ら参加したユーザーの端末がピアとなって、他のピアとの間で、自 らがピアとして稼働しピースを保有していることを確認、応答するための通信であり、 通常はその後にピースの送受信を伴うものである。そうすると、ハンドシェイクの通 信は、これが行われた日時までに、当該ピアのユーザーが特定のファイルの少なくと も一部を送信可能化したことを示すものであって、送信可能\化に係る情報の送信と同 一人物によりされた蓋然性が認められる上、当該ファイルが他人の著作物の複製物で あり権利者の許諾がないときは、ログイン時の通信に代表される侵害関連通信と比べ\nても、権利侵害行為との結びつきはより強いということができ、発信者のプライバシ ー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性を考慮しても、侵害情報そのもの\nの送信に係る特定電気通信に係る発信者情報と同等の要件によりその開示を認めるこ とが許容されると解される。
以上によると、本件各発信者情報は、法5条1項にいう「当該権利の侵害に係る発 信者情報」に当たると解するのが相当である。

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◆令和5(ワ)70029

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令和5(ネ)10090 職務発明対価相当請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

職務発明訴訟において、1審(大阪地裁)は、約400万円の損害賠償を認めましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は、本件発明2の共同発明者ではないといういうものです。

特許法2条1項は、「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想 の創作のうち高度のものをいう。」と定め、「発明」は技術的思想、すなわち、技 術に関する思想でなければならないとしているが、特許制度の趣旨に照らして考え れば、その技術内容は、当該技術が属する技術分野における当業者が反復実施して 目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして 構成されていなければならないものと解するのが相当であるから(最高裁昭和52\n年10月13日第一小法廷判決(昭和49年(行ツ)第107号)民集31巻6号 805頁)、発明者とは、自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した 者、すなわち、当業者が当該技術的思想を実施することができる程度にまで具体的 ・客観的なものとして構成するための創作に関与した者を指すというべきである。\nそして、ある者が発明者であるというためには、必ずしも発明に至る全ての過程に 一人で関与することを要するものではなく、当該過程に共同で関与することでも足 りるというべきであるが、当該者が共同発明者であるというためには、課題を解決 するための着想及びその具体化の過程において、発明の特徴的部分の完成に創作的 に寄与したことを要するものと解される。この場合において、発明の特徴的部分と は、特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち従来技術にはみられない部分、\nすなわち、当該発明に特有の課題解決手段を基礎付ける部分を指すものと解するの が相当である。以上を踏まえ、以下、本件について検討する。
(ア) 原告が本件発明2に係る発明者(又は共同発明者)であるというためには、 前記アのとおり、課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、本件 各部分の完成に創作的に寄与することを要するところ、当該着想は、具体的な発明 の完成に向けられたものである以上、単に課題を抽象的に想起するだけでは足りず、 課題及びその解決のための手段又は方法を具体的に認識することを要するものと解 するのが相当である。
・・・
(エ) 検討
a 前記(ウ)のうち、市場調査等に基づいて本件OD錠化を提案するなどした原 告の行為は、その内容に照らし、新製剤の企画や方向性に関する提案であり、経営 判断に資するものではあっても、課題及びその解決のための手段又は方法に関する 具体的提案ではないから、構成3)(塩酸アンブロキソールを含む制御放出微粒子等\nの混合物を配合し、かつ、制御放出微粒子等の平均粒子径を300μm以下とする との構成を満たした上で、OD錠が従来のカプセル剤の溶出規格に合致する溶出特\n性(シグモイド型溶出)を示すように、制御放出微粒子等及びこれらを配合したO D錠の各成分や構造を設定したこと)又は構\成4)(同様の構成を満たした上で、錠\n剤を製造する過程の加圧圧縮操作に対し割れにくいプロテクト層を形成したこと) のいずれに対する関与であるとも認めることはできない(なお、認定事実2による と、本件OD錠化は、塩酸アンブロキソールに係る医薬品の開発に関し、平成19\n年当時に知られていた手法の一つであり、特段新規の開発方針ではなかったという べきである。)。
b また、前記(ウ)のうち、本件OD錠化に関して瀬踏み実験を行った原告の行 為についてみるに、当該瀬踏み実験は、「徐放顆粒の粒子径を200μm以下とし て溶出実験を行ったところ、既存のカプセル剤の溶出に近い徐放顆粒が得られた」 というものにすぎず、原告において、制御放出微粒子等及びこれらを配合したOD 錠の各成分や構造を設定するための具体的な方法を認識するなどしたとはいえない\nから、当該瀬踏み実験の実施をもって、原告が構成3)に係る着想及びその具体化の 過程において創作的な寄与をしたものと認めることはできない。その他、当該瀬踏 み実験の内容に照らし、当該瀬踏み実験を行った原告の行為が本件各部分に対する 関与であると認めることはできない。
c さらに、前記(ウ)のうち、「今後、徐放顆粒に他の原料を混合して打錠し、 錠剤化した場合に溶出に変化が生じるかを検討する」などと発言した原告の行為も、 その発言の内容に照らし、原告において、制御放出微粒子等及びこれらを配合した OD錠の各成分や構造を設定するための具体的な方法を認識するなどしたとはいえ\nないから、当該発言をもって、原告が構成3)に係る着想及びその具体化の過程にお いて創作的な寄与をしたものと認めることはできない。その他、当該発言の内容に 照らし、当該発言を行った原告の行為が本件各部分に対する関与であると認めるこ とはできない。
d なお、本件発明2に係る特許出願をすることを考えている旨の発言をした原 告の行為(前記(ウ)f)及び当該特許出願をするよう提案した原告の行為(認定事 実2エ(オ))が本件各部分に対する原告の関与であると認められないことは明らかで あるし、当該特許出願に係る明細書の案を作成した原告の行為(認定事実2エ(オ)) についても、当該行為のみをもって直ちに、本件各部分に対する原告の関与があっ たものと認めることはできない。
e その他、原告が本件チームの行う試験・実験に関与していたことを認めるに 足りる主張立証はなく、原告が本件各部分に対して関与をしたものと認めるに足り る的確な証拠はない。

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令和5(ネ)10078  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審と同じく、「包装容器」の発明について、被告製品は技術的範囲に属さないと判断されました。控訴審では、均等侵害の主張が追加されましたが、本質的要件(第1要件)を満たさないと判断されました。

これを本件において検討するに、前記(1)イのとおり、本件発明1は、「底部 に取り付けられた安定補助板により支えられてテーブルなどの上に立たせら れる」「折畳式コップ型容器」(段落【0003】)であって「安定補助板が例 えば紙や合成樹脂などから形成され、後から容器本体に取り付けられる構成」\n(段落【0005】)を採用した従来技術を前提とし、「成形が簡便な自立型 の包装容器の提供を目的とする」(段落【0006】)ことを発明が解決しよ うとする課題とし、当該課題を解決する手段として「前記包装容器を容器と して形成した状態において、前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自 立片が載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、前記自立片によって前記載 置面に自立させられる」(本件発明1の構成要件B)という構\成を採用するこ とにより、「包装容器を自立させる自立片が底面片に連なっているため、一体 的な成形が簡便である」(段落【0013】)という効果を奏するものである。 そうすると、本件発明1において従来技術に見られない特有の技術的思想 を構成する特徴的部分は、従来技術における安定補助板が、底部に一体的に\n成形された構成である、「前記包装容器を容器として形成した状態において、\n前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って前記奥 行の方向に突出し、前記自立片によって前記載置面に自立させられる」こと にあると考えられる。
そして、本件発明1と被控訴人製品とは、包装容器を容器として形成した 状態において、本件発明1の「底面片」が筒状の底部を形成するのに対し、 被控訴人製品は、包装容器を自立させる舌状片が、包装容器の底部を形成す る六角片と同一面に連なっておらず別に構成されている点において相違する\nものと認められるところ、この相違に係る本件発明1の構成、すなわち「底\n部を形成する底面片」が「自立片」と同一面に連ねられていることは、これ までの検討によれば、本件発明1の本質的部分に当たるものということがで きる。
そうすると、上記相違点に係る本件発明1の構成については、本件発明1\nの本質的部分ではないということはできない。そして、前記(1)ウのとおり、 上記の点については、本件各発明について共通するものということができる。 したがって、被控訴人製品は均等侵害の第1要件を充足しないから、その 要件について検討するまでもなく、均等侵害は成立しない。
イ 控訴人は、前記第2の3(4)ウのとおり、本件各発明の本質的部分は、「自立 片」によって載置面に自立させられる構成を採用した点にあり、当該「自立\n片」が内容物に直接接触してこれを支える片という意味における「底面片」 と、同一面に連なることにあるのではないと主張する。 しかし、本件各発明の本質的部分については上記アのとおりと認められる から、本件各発明と被控訴人製品とは、その本質的部分において異なるもの というべきである。

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◆令和4(ワ)2049

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令和5(行ケ)10119  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月28日  知的財産高等裁判所

腕時計の外観(オーデマ・ピゲのロイヤルオーク)を表した商標について識別力無しとした審決が維持されました。\n

ア 本願商標は、前記第2の1(1)のとおりの構成からなる商標である。\n腕時計においては、文字盤に刻まれた目盛りや数字をインデックスなど というところ(乙1)、本願商標は、腕時計からベルト及び針(時針等)を 除いた、ラグ(時計本体とベルトを固定する部分、乙1)、ケース、風防、 インデックスの記載がある文字盤、リューズ及びベゼル等より構成され、\nこれらの形状を文字盤の上部方向から平面視して表した図形である。しか\nも、上記図形は、ベゼル、ラグ、リューズ、文字盤の格子状模様等の全て において陰影が施され、立体的な形状として表現されている。したがって、\n本願商標は、上記時計の構成部分を平面視した図形として表\されてはいる ものの、時計の一部の形状を出所識別標識とすべく登録出願されたものと 認められる。 これを前提に、本願商標の構成を検討すると、以下のとおりである。\n本願商標のラグには、腕時計において金属ベルトを繋ぐ位置に上下二つ の凹部がある。ラグの中央には、外側が八角形で内側が円形のベゼルがあ り、そのベゼルのそれぞれの角に六角形のマイナスネジが配置されており、 全体の色は銀色である。文字盤内のインデックスは、数字ではなく、格子 模様から隆起して見える目盛りからなり、各定時においては1本線であり、 上部中央においては2本線である。文字盤にはリューズ近くの位置に腕時 計において通常日付けが表示されている位置に空白があり、中央上部にブ\nランド名を示す部分があるほかは、文字盤の全面にわたり立体的に見える ように陰影を施した格子模様が示されている。
イ 本願商標の指定商品は「時計」であるから、腕時計のほか、置時計や掛 け時計等も含まれるものであり、その需要者は一般の消費者であると認め られる。本願商標は、腕時計からベルト、針を除いたものであるとの形状 に係る上記アの各事情は、需要者がこれを容易に認識することができると いえる。
ウ 腕時計においては、別掲2の1(1)ないし(4)、2(1)ないし(2 9)及び乙4のとおり、腕時計のバンド及び針(時針等)を除いた部分の 形状として、ラグ、ケース、風防、インデックスのある文字盤、リューズ 及びベゼル等から構成され、八角形のベゼルやビス、文字盤の格子模様な\nどを、それぞれ備えるものが相当数存することが認められる。
エ 上記アないしウの事情を総合すれば、本願商標の形状は、客観的に見て、 商品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであり、か\nつ、本願商標の需要者である一般の消費者において、同種の商品等につい て、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予\測し得 る範囲のものであると認められる。 そうすると、本願商標に係る形状は、商品等の形状を普通に用いられる 方法で使用する標章のみから成る商標として、商標法3条1項3号に該当 するというべきである。

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令和5(行ケ)10117  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年4月9日  知的財産高等裁判所

商標「ベスリ会/東京TMSクリニック」が引用商標「東京TMSクリニック」と類似するとした審決が維持されました。争点は、「東京TMSクリニック」が識別力があるか、分離抽出できるのかですが、知財高裁は識別力あり、分離抽出できると判断しました。

本願商標の構成中の「東京TMSクリニック」の文字部分は、前記(1)ア、イのと おり、我が国の首都を意味する「東京」、経頭蓋磁気刺激のアルファベット略語であ る「TMS」及び診療所を意味する「クリニック」の語を明朝体風の同書体、同じ 大きさ及び等間隔にて一連に書してなるものである。 ここで、「TMS」(経頭蓋磁気刺激)による治療(経頭蓋磁気刺激療法。以下「T MS治療」という。)は、成人の鬱病への新たな治療方法として、我が国において、 平成29年に適応が承認され、令和元年には保険適用が認められたものである(甲 1〜5、14、15、21)。もっとも、東京都保健医療局が提供する東京都医療機 関案内サービス「ひまわり」の検索結果(令和5年11月7日及び同月10日実施) によると、「精神科」の検索ワードにより該当する医療機関が2470件であったの に対し、「精神科」及び「TMS」の検索ワード(and検索)により該当する医療 機関は4件にとどまった(乙7、8)。また、原告が提出する証拠によっても、令和 5年12月頃時点において、東京都内でTMS治療を提供する医療機関は11か所 程度しか認められない(甲16。原告と被告補助参加人がそれぞれ設置する医療機 関を除く。)。そうすると、TMS治療が平成15年から令和5年にかけて合計23 本の雑誌記事で掲載、紹介されたことや、令和元年7月にNHKクローズアップ現 代で特集、紹介されたこと等、TMS治療について原告が主張する事情を考慮して も、本願商標の指定役務の取引者、需要者のうち、少なくとも精神疾患等を有する 患者やその関係者等は、本件出願日のみならず現在においても、「TMS」の語から、 直ちに「経頭蓋磁気刺激」や、鬱病の治療方法としての「TMS治療」を想起する とは認められない。むしろ、精神疾患等を有する患者やその関係者等が必ずしも医 学・医療用語に精通していないと推認されることや、「TMS」が日本語ではなく欧 文字(アルファベット)の並びであることからすると、これを何らかの造語と認識 する可能性が高いと認められる。\n
さらに、医療役務の提供に当たり、「クリニック」の語は、「中目黒○○クリニッ ク」のように、地名、医師の姓、主たる診療科目等の文字と組み合わせて使用され ることにより、一連の文字列として特定のクリニック(診療所)の名称を表すもの\nとして使用されている実情が認められる(甲12、16〜18、乙7〜10、16、 18、23〜46、丙5〜7)。
以上のとおり、本願商標の構成中の「東京TMSクリニック」の文字部分は、こ\nれを構成する文字が同書体、同じ大きさ及び等間隔で一連に書されていること、本\n願商標の指定役務の取引者、需要者の一部(精神疾患等を有する患者及びその関係 者等)は「TMS」の語から直ちに「経頭蓋磁気刺激」や「TMS治療」を想起す るとは認められず、むしろ何らかの造語と認識する可能性が高いこと、「クリニッ\nク」の語が他の語と組み合わされて特定の診療所の名称を表す取引の実情が認めら\nれること等に照らすと、単に提供される役務の場所や方法、内容等を示すにすぎな いものとはいえず、それ自体が一連となって、役務の提供主体としての診療所の名 称を表すものとして、出所識別標識としての機能\を果たすものといえる。

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令和5(ネ)10084  特許権侵害損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

個人発明家がアップルを訴えた事件の控訴審判決です。1審は約4400万円の支払いを命じましたが、知財高裁(3部)は、約1800万円に減額しました。これは実施料率が1審0.5%控訴審0.2%となったためです。

当裁判所は、第1審原告の請求のうち、1755万3642円及びうち12 69万1831円に対する平成21年9月27日から、うち25万3585円 に対する平成22年9月26日から、うち170万7608円に対する平成2 4年9月30日から、うち290万0618円に対する平成25年9月29日 から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理 由があるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきで あると判断する。その理由は、当審における当事者の主張も踏まえて原判決を 後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における第1審原告の補充主張に 対する判断を付加し、後記3のとおり当審における第1審被告の補充主張に対 する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第4(原判決45頁2行目 から94頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
・・・
原判決92頁1行目の・・・、同頁5行目の「0.5%」を「0.2%」に、それぞれ改める。

◆判決本文

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◆令和2(ワ)13317
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◆平成19(ワ)2525

◆平成25(ネ)10086

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令和4(ワ)19222  特許権移転登録手続請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年4月17日  東京地方裁判所

 民法94条2項(善意の第三者に対する虚偽表示の無効主張)の類推適用が\n特許の移転登録手続にも適用可能とは判断されましたが、要件を充足しないと判断されました。\n

(1) 特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合における民法9 4条2項類推適用の可否について
被告は、ライツフォルによる本件特許権の取得について民法94条2項が 類推適用されることにより、原告は本件発明について特許を受ける権利を有 していることを主張することができないと主張する。 これに対し、原告は、特許法74条及び79条の2第1項の趣旨からすれ ば、特許を受ける権利を有する者が同法74条1項に基づく移転登録手続請 求を行った場合において、冒認者からの譲受人等の関係で民法94条2項を 類推適用することはできないと主張する。
この点について、特許法は、同法123条1項6号等の要件に該当すると きには、特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、その特許 権者に対し、当該特許権の移転を請求することができると定めつつも(特許 法74条1項)、その特許権の移転の登録前に、同号等に規定する要件に該 当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をし ているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をして いる発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権 を有するものと定めている(同法79条の2第1項)。
他方、民法94条2項の類推適用は、権利外観法理を根拠として、虚偽の 外観が作出され、その作出について真の権利者の積極的な関与又は承認があ る場合のほか、当該権利者にこれらと同視し得るほど重い帰責性が認められ る場合に、当該権利者は、その外観が虚偽であることについて善意又は善意 無過失である第三者に対し、当該第三者が権利を取得していないと主張する ことができないとする理論構成である。\n
このように、特許法74条1項及び79条の2第1項は、真の権利者の帰 責性にかかわらず、一定の要件を満たす善意の第三者に通常実施権を認める ものであり、他方、民法94条2項の類推適用は、虚偽の外観作出に係る真 の権利者の帰責性と第三者の善意又は善意無過失とを要件として、当該権利 者が権利を失ってもやむを得ないと判断できる場合に、当該権利者から当該 第三者への権利主張を許さないとするものであって、両者の要件及び効果は 異なっている。 そして、特許法79条の2第1項は、善意の第三者が通常実施権を有する と規定するのみであり、民法の第三者保護規定を上書きするような性格であ ることはうかがわれず、また、特許法全体をみても、同法79条の2第1項 が民法の第三者保護規定に対して優先する関係に立つことを示す規定は見当 たらない。
以上によれば、特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合 においても、冒認者からの譲受人等との関係で民法94条2項を類推適用す ることは可能であると解される。\n
(2) 本件における民法94条2項類推適用の要件充足性について
・・・・
以上のように、そもそも、Aが本件譲渡契約1)を締結し、Bが本件特 許に係る特許権者であるとの虚偽の外観を作出するに至ったのは、原告 自身の内部事情や行為にその一因があるといえる上、原告の真の代表者\nとされるDが、遅くとも平成28年11月29日の段階で、上記の虚偽 の外観が存在していることを認識していたにもかかわらず、令和3年ま での約4年間、本件各株主総会決議の不存在確認の訴え等を行っておら ず、さらに、令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存在を認める 判決が確定してからも、Bからライツフォルに本件特許権が譲渡される までの約半年の間、Bに対して何らの措置もとっていないのである。 このような事情からすれば、原告には、虚偽の外観作出について、自 ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置し た場合と同視し得るほど重い帰責性が認められるというべきである。 これに対し、原告は、令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存 在を認める判決が確定してからの行動について、嘱託登記が完了したの が同年10月中旬頃であり、かつ、同判決の確定後、Bが更に本件特許 権を譲渡することは考え難かったことからすれば、F弁護士に対して資 料の引渡しを求めていた原告(D)の対応に何ら問題はないと主張する。
しかしながら、同年8月5日の段階で、本件譲渡契約1)の締結から既 に約6年が経過していたこと、Bは、Dと面識はなく、Aと協力関係に あったと考えられることからすれば、本件各株主総会決議の不存在を認 める判決が確定した段階で、Bに対して特許権移転登録手続請求等の法 的な措置を速やかにとる必要性は高かったものといえる。 また、前記 k及びlのとおり、F弁護士は、本件損害賠償請求訴訟 において、その訴えを却下する判決が確定した後も、Dからの資料の引 渡請求に応じなかったこと、本件各株主総会決議不存在確認の訴えにお いて、原告の代表清算人とされていたF弁護士は、適式な呼出しを受け\nたにもかかわらず、口頭弁論期日に出頭しなかったことが認められ、こ のようなF弁護士の対応や訴訟態度を踏まえると、本件各株主総会決議 の不存在を認める判決の確定後であっても、同弁護士がDの資料の引渡 請求に応じることは望めない状況であったものと認められる。
以上の事情に加え、原告としては、F弁護士に対して資料の引渡しを 求めつつ、それと並行してBに対して特許権移転登録手続請求等を行う ことも可能であったといえることからすると、令和3年8月5日に本件\n各株主総会決議の不存在を認める判決が確定してからの原告(D)の対 応に何ら問題はなかったという原告の主張は採用できないというべきで ある。
さらに、原告は、Bは原告を不正に乗っ取った当事者であり、その代 理人弁理士もBの意向に沿って行動することが想定され、Dに協力する ことはあり得ないから、仮にDがBやその代理人弁理士に働きかけたと しても、何ら虚偽の外観を取り除くことにはつながらず、場合によって は逆効果となる可能性すらあるとも主張する。\n
しかしながら、そもそも、B自身が原告を不正に乗っ取った当事者で あることを認めるに足りる証拠はない上、DがBに対して接触した事実 がない以上、Dからの働きかけに対してBがどのような態度に出るのか については、それを示す兆候もなく、虚偽の外観を取り除くことにつな がらないとか、逆効果となるといった結末に至ると断定するのは無理が ある。さらに、Bやその代理人弁理士がDからの働きかけに応じないと いうことであれば、それは本件特許権の帰属について、BとDとの間で 争いがあることを意味するものにほかならず、そのような場合、Dとし ては、速やかに本件各株主総会決議の不存在の確認の訴え等を行うべき 状況にあったものといえる。

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令和3(ワ)15964 特許権  民事訴訟 令和6年3月22日  東京地方裁判所

 被告ダンパが不可分一体の一部となった被告製品は、特許請求の範囲の「入力により荷重を受けた・・・」という文言に該当しないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。

3 被告ダンパは、「入力」を受けるものであるか(構成要件G)(争点1−1)\nについて
ア 本件発明1の構成要件G、Hは、「前記剪断部は、入力により荷重を受けた\nときに、変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とする弾塑性履歴型ダン パ」というものであり、本件発明1の対象となる「弾塑性履歴ダンパ」につ いて「剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収 を行うことを特徴とする」ものであるとされている。したがって、本件発明 1のダンパは、上記に記載された特徴を有するダンパであるところ、その「入 力」がどのようなものであるかについて、本件発明1の特許請求の範囲では 何ら定められていない。
イ ここで、前記1 で説示したとおり、本件各発明は、上部構造物、下部構\ 造物に分離できる橋梁等の建築物において、地震のときに、その接続部にお いて橋軸方向に限らず、複数方向の水平力がかかってしまうところ、同接続 部においては、I字形ダンパでは単一方向の入力にしか対応できないという 課題について、同課題を解決するために、複数の剪断面を持ち、かつ、その 向きが異なるダンパを適用するというものであり、本件各発明は、そのよう なダンパが本件各発明の構成をとることによって、剪断部が、入力により荷\n重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うというものである。
本件明細書に記載された本件各発明の課題は、上記のとおりであり、従来 から知られていた剪断パネル型ダンパである単純なI字形ダンパに対して 単一方向からの入力しか想定されない場面においては、本件各発明における 解決すべき課題は存在しない。単一方向からの入力でなく複数方向からの入 力が想定される場合に、本件各発明が解決すべき課題が存在することとなる。 そして、本件明細書には、前記1 に記載のとおりの本件各発明の意義が記 載されているほか、本件明細書に記載された実施例は、全て、複数方向から の入力が問題となり、そのような複数方向からの入力に対し、本件発明1の 構成をとることによって対応することができるものであると認められる。本\n件明細書のその他の部分にも、単一方向からの入力に対応することに関する 記載はない。これらの本件明細書の記載及び構成要件G、Hの記載から、本\n件発明1に係るダンパは、ダンパに対して複数方向からの入力が想定される 構造物等の部位に用いられ、ダンパの剪断部に対して複数方向からの入力が\nあり、これに対して対応することができるダンパであると解するのが相当で ある。
ウ 以上によれば、本件各発明におけるダンパは、その剪断部に複数方向から の入力があり、その剪断部がそれに対する入力により荷重を受けたときに、 変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするもの(構成要件G、H)で\nあると解するのが相当であり、構成要件Gに係る「入力」は、「複数方向か\nらの入力」を意味し、本件各発明のダンパは、ダンパに対して複数方向から の入力があることを前提として、その剪断部が複数方向からの入力により荷 重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするダンパ であると認められる。
被告ダンパについて検討すると、本件において、原告は、被告ダンパ単体の 譲渡等を問題にするのではなく、被告ダンパが住宅である被告製品に用いられ て、そのような被告製品が販売されていることを特許発明の実施として、被告 製品の販売額を基礎として実施料率相当額の損害を請求する。 被告は、6種の被告ダンパを4種の耐力パネルのいずれかに組み込み、これ を住宅である被告製品の部材として用いている(前提事実 )。被告ダンパは各 平行板部及び各ウェブ部の一端又は両端が耐力パネルに溶接されているので あって、耐力パネルから取り外して使用されることはおよそ想定されておらず、 各耐力パネルも、建物の水平方向に延びる梁や土台等にはさまれるように固定 されて設置されており、住宅販売後に耐力パネルのみを取り外して別の用途に 使用するということはおよそ想定されていない(前提事実 )。すなわち、被告 ダンパは、耐力パネルに物理的にも溶接され、取り外されることはおよそ想定 されず、耐力パネルと不可分一体となっているものといえる。
そうすると、本件において問題となる被告の行為は、被告ダンパが不可分一 体の一部となった被告製品の製造、販売等であって、被告ダンパが組み込まれ た被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか否かが問題になるというべ きである。
なお、被告は、Σ型の形状の鋼材である被告ダンパを作成し、これを他の部 材に組み込むことで耐力パネルを製造していることがうかがえる。もっとも被 告ダンパ単体には「一対のプレート」は接続されておらず、耐力パネルに組み 込まれることによって初めて、「一対のプレート」の具備が問題になるのである から、耐力パネルに組み込まれる前の被告ダンパ自体が本件発明1の技術的範 囲に入ることはないと解される。 被告製品に組み込まれ、被告製品と不可分一体となった被告ダンパに対して 加わる力について検討する。
ア 被告ダンパはいずれも4種類の耐力パネルのいずれかに組み込まれてい るところ、耐力パネルは、その構造上、耐力パネルが接続している梁の方向\nの力(耐力パネルが平行四辺形に変更する方向の力)が加わると、いずれの 耐力パネルについても、被告ダンパに鉛直方向の力が加わり、所定レベル以 上の力が加わると剪断変形によって地震力を吸収する。このとき、被告ダン パに対しては、鉛直方向の力以外の力は加わらない。他方で、耐力パネルに 梁と垂直方向の力が加わっても、被告ダンパには力が加わらず、地震力を吸 収することができない。地震力のうち、これらの力の合力については、いず れも上記二つの力に分解できるから、結局、被告ダンパには鉛直方向の力の みが加わるということになる(乙33)。被告製品においては、建物の特定 の方向に複数の耐力パネルを設置するとともに、これと直交する方向にも複 数の耐力パネルを設置しており、このように複数の耐力パネルを直交方向に 設置することによって、個々のパネルの被告ダンパには鉛直方向の力のみが 加わり、その方向の力のみしか吸収できないとしても、各方向に沿って設置 された耐力パネルが、両方向に対応する地震力の分力を吸収することで建物 全体では任意の方向の地震力を吸収できるように設計されているといえる (乙3)。
イ 被告ダンパに対しては、一応、前記アのとおりの力のみが加わるといえる が、耐力パネルが設置されている上下の梁がねじれる(回転する)力が加わ った場合には、耐力パネルの構造上、被告ダンパに対し鉛直方向とは異なる\n方向の力が加わる可能性がないわけではない。そこで、被告製品において鉛\n直方向からどの程度ずれる力が加わり得るのかについて検討する。 被告は、被告ダンパを搭載した実物大の住宅サンプルに対して、過去最大 級の地震の一つである兵庫県南部地震の際にJR鷹取駅で観測された地震 波(以下「鷹取地震波」という。)を適用して地震時挙動を測定する実験を行 ったところ、その結果によれば、1階に対する2階床の最大回転角は、0. 14°(乙40)、これにより耐力壁に設置されたダンパに対して加わる力 の鉛直方向からのずれは、0.022°であったこと(乙41)が認められ る。
以上を前提に、被告ダンパの剪断部に本件発明1における複数方向から の入力があり、その剪断部が複数方向からの入力により荷重を受けたとき に変形してエネルギー吸収を行うものといえるか否かについて検討する。
・・・
前記イで認定したとおり、被告製品は、少なくとも鷹取地震波を前提 にすると、これによって剪断パネルに一定のねじれが生じ、被告ダンパ に鉛直方向からずれた方向からの力も加わることが認められる。しかし、 そのずれは0.022°(なお、cos0.02°=約0.9999999 26)と極めて小さいものである。この程度のずれは、その小ささから もこれによって被告ダンパに生じる効果に観測できるほどの差が生じ るとは認めるに足りないし、このずれは、被告製品が用いられる分野の 施工の限界を超える程度であるといえる。また、そのずれは、被告ダン パのウェブ部を形成する鋼板の厚みの中に収まるような小さなもので あることがうかがえる。
これらによれば、上記実験結果によれば、本件においてねじれによっ て加わり得る入力方向の違いは、従来のI字型ダンパにおいて同一方向 からの入力として想定されていたといえる範囲のものであり、前記(ア)で 説示した本件発明1が異なる入力方向として想定しているものではな いというべきである。
また、被告製品が鷹取地震波を超える地震波に遭遇することは想定さ れ得る。しかし、上記実験で用いられたのが過去最大級の地震の一つで ある鷹取地震波であり、その場合であっても上記のとおり入力方向の違 いが極めて小さいことからすると、現実に想定し得る鷹取地震波を超え る地震においても、被告ダンパに対して本件発明1が想定する程度の鉛 直方向からのずれが生じる剪断パネルのねじれが生じるとも認められ ない。
以上によれば、被告製品で用いられている被告ダンパの剪断パネルに 対してねじれの影響によって生じる入力方向の違いは、その小ささから、 本件発明1が想定する程度に達するような、異なる方向からの入力であ ると評価できるものではないというべきである。

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令和5(行ケ)10141  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年4月10日  知的財産高等裁判所

商標「知財実務オンライン」(標準文字)について、識別力無しとした審決が維持されました。

(3) 本願商標の構成中の「知財実務」の文字は「知的財産に関する実務」を意\n味する一般的な用語であり、また、「オンライン」の文字は「コンピュータ ーの入出力装置などが、中央処理装置と直結している状態。また、通信回線 などによって、人手を介さず情報を転送できる状態。」を意味する用語であ り(大辞泉第2版)、英語の「online」とともに、「インターネットに接続 した状態」、「インターネットを利用した」等を意味する用語として一般的 に用いられていると認められる(乙1〜4、弁論の全趣旨)。 さらに、「〇〇オンライン」と「オンライン」の文字を末尾に配する標章 (「〇〇オンライン」標章)の一般的な実情をみると、当事者が主張におい て挙げるものに限っても、別紙2「『オンライン』を末尾に付す標章の一覧 表」に記載の用例がある。これらの用例を大別すると、1)「オンライン」の 前の文字が、提供される商品又は役務の一般的名称と理解されるもの(事例 1〜5、16,18,20〜25、27〜29)と、2)「オンライン」の前 の文字が、それ自体としても識別力を有する標章として機能すると同時に、\n「オンライン」の文字と組み合わされて全体として一つの標章ともなってい るもの(事例6〜11、14,15、26、30、34、35)に分けられ る(分類の部妙なものは例示から除いた。)。 このような標章に接した需要者の一般的な認識としては、上記1)の事例で あれば、「オンライン」の前の一般的な名称に係る商品又は役務をオンライ ンで提供するものと認識し、上記2)の事例であれば、「オンライン」の文字 の前に示される識別標識に係る商品又は役務をオンラインで提供するものと 認識するものと認めるのが相当であり、いずれにおいても、「〇〇オンライ ン」標章中の「オンライン」の文字が果たす意味合いは本質的に同じといっ てよい。
そうすると、「オンライン」の前に「知的財産に関する実務」を意味する 一般的な用語である「知財実務」を結合させた本願商標は、上記の一般的な 取引の実情からみて、「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供す るもの」、すなわち商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されると\nともに、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであ\nると認められる。そして、本願指定商品役務の取引の分野において、これと 異なる取引の実情があることを窺わせる証拠はない。
(4) 上記認定と異なる原告らの主張は、以下の理由により、いずれも採用でき ない。
ア 原告らは、本願商標が第三者に使用されていない事実を取引の実情とし て考慮すべきであると主張する。 しかし、上記のとおり、本願商標は「知財実務」と「オンライン」の文 字の意義及び「オンライン」の文字を末尾に付する標章の一般的な実情か らみて、商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されると認められ、\nこの認定は、第三者が使用する事実があれば更に裏付けられるということ はできても、第三者が使用する事実がないからといって左右されるもので はない。
イ 原告らは、本願商標は商品又は役務の特徴等を間接的に表示するもので\nある、あるいは一定の意味を有しない造語であると主張する。 しかし、本願商標は「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供 するもの」として需要者に認識され、その内容に一定の幅があるとしても、 いずれにせよ商品の品質又は役務の質を表示したものと理解されることに\n変わりはなく、一定の意味を有しない造語であるとはいえない。
ウ 原告らは、商品、役務名又はブランド名の語尾に「オンライン」の文字 を付した標章は、ウェブサイトやYouTubeのチャンネルにおいて出 所識別標識として認識される態様で使用されていると主張する。 しかし、別紙2の各事例は、「オンライン」の前の文字がそれ自体とし て出所識別標識として機能しているものを除き、「オンライン」の文字を\n付すことによって出所識別標識として認識される態様で使用されていると は認められない。事例16の「神社仏閣オンライン」に係る甲3のSNS の投稿は、この認定を左右するものではない。
エ 原告らは、本願指定商品役務の性質及び取引の実情は定期刊行物と共通 するから、本願商標については定期刊行物の題号と同様に自他商品役務識 別力を認めるべきである旨主張する。 しかし、新聞、雑誌等の定期刊行物の商品については、個人の著作物で ある書籍と異なり、主として特定の新聞社・出版社が継続的に編集・発行 するものであって、その内容は新聞社・出版社ごとに異なり(題号と関わ りの薄い記事が掲載されることも含まれる。)、その題号が品質・内容を 示すものであっても出所識別標識としての機能を果たし得るという、他の\n商品と異なる取引の実情が認められるものである(原告らの引用する大審 院昭和7年6月16日判決も、これと同旨と解される。)。 そして、このような定期刊行物を電子化した電子定期刊行物については ともかく、本願指定商品役務について、定期刊行物と同様の取引の実情が あると認めるに足りる証拠はない。
例えば、オンラインによる映像等の提供を内容とする指定役務10)、11)に ついていえば、YouTubeなどに代表されるインターネット上の動画\n投稿・共有サービスは原則として誰もが簡便に動画を投稿できるものであ るから、「知的財産に関する」、「各回異なる内容のものが定期的又は逐 次的に提供される」といった限定が付されたからといって、新聞、雑誌等 の定期刊行物と同様の取引の実情があると認めることはできない。 原告らは、商標審査基準改訂における放送番組の番組名に係る議論に言 及して、「番組」に関する商品・役務のうち「各回異なる内容のものが定 期的又は逐次的に提供されること」が明確になっているものは定期刊行物 と同様であると主張するが、そもそもオンラインによる映像等の提供につ いては、映像等の内容、性質に多様なものが含まれることからすれば、 「放送番組」の一部がオンラインでも提供されている現状を考慮しても、 放送番組そのものと同様の取引の実情があるとは認められない。
また、知的財産に関する定期的に発行される電子出版物(指定商品5)) についても、このうち個人の著作する書籍に相当するものについては、直 ちに新聞、雑誌等の定期刊行物と同視することはできない。 なお、近年の電子技術や通信技術の発達に伴い、情報コンテンツ及びそ の伝達手段が拡大・多様化しており、新聞社・出版社による「定期刊行 物」、テレビ局・ラジオ局による「放送番組」といった従来からの商品役 務とそれ以外のオンラインにより伝達される情報コンテンツとの境界も変 容しつつあることは事実であるが、そうであるからといって、従来からの 取引において長年にわたり形成された「定期刊行物」に係る取引の実情が、 オンラインによる映像等の提供について直ちに認められることにはならな い。
(5) 以上のとおり、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決 の判断に誤りはなく、原告らの取消事由1の主張は理由がない。

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令和4(ワ)70009  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年5月15日  東京地方裁判所

 神棚の形状について、周知の商品形態なので、不正競争行為であると主張しましたが、周知性無しと判断されました。

(2) 原告が主張する原告神棚板の特徴1)から7)のうち、特徴7)は、商品の機能を\nいうものであり、また、特徴6)も金具の形状を問題とするものではなく商品の 機能をいうものといえる。このような機能\自体が商品の形態による商品等表示\nとなることはないと解される。
特徴1)から5)のうち、特徴1)から3)は壁面に取り付け可能な棚としては基本\n的な形態のものであることがうかがわれ、また、特徴4)、5)も、商品の一部分 の特徴で、かつ、それぞれの形態自体は独特のものとはいえないことがうかが われる。もっとも、本件証拠上、原告神棚板の販売が開始された平成16年よ り前の同種の商品の形態についての証拠はない。しかし、仮に、特徴1)から5) の組合せが他の同種の商品と異なる顕著な特徴であったと認められるとしても、 後記(3)のとおり、原告神棚板の特徴1)から5)の組合せが原告の出所を示すもの として周知になったことはなく、遅くとも令和2年10月までに原告神棚板の 形態が原告の出所を示すものとして周知となっていたとの原告の主張には理由 がない。
(3) 原告が主張する原告神棚板の特徴が原告の出所を示すものとして周知になっ ていたか否かについて検討する。
平成27年4月には、NHKの番組で原告神棚板が取り上げられた。しかし、 他に、全国的なテレビ番組で原告神棚板が取り上げられたことがあったことを 認めるに足りず、この一回の放送によって、原告神棚板の特徴1)から5)の組合 せが原告の出所を示すものとして需要者に周知になったとはいえない。また、 原告の神棚が写っている写真が、日刊紙、雑誌等に掲載されたことが認められ るが、それらは合計数回であり、これらによって、原告神棚板の特徴1)から5) の組合せが原告の出所を示すものとして需要者に周知になったとはいえない。 さらに、原告神棚板は、ホームセンター、神具店、仏具店、神社、原告の直 営店及びオンラインショップで販売されていた。主な販売先であるホームセン ターでは、原告の商品が多く取り扱われ(原告代表者は、ホームセンターの実\n店舗での原告の神棚、神具の展示、販売のシェアは70%を下回ることはなく、 80%を超えていると推計している。甲122)、原告の商品が、まとまって 展示、販売されている店舗もあった。しかし、原告は、神棚や関係する商品と して多種類の商品を販売していて、ホームセンターでもそのような多種類の商 品が販売されていた。原告神棚板は、原告が販売する複数の種類の神棚のうち の一つであり、その展示、販売に際しても、多種類の商品の中の一つとして展 示、販売されているのであって、原告神棚板の上記特徴が他の同種の商品とは 異なることを述べる宣伝文言によって強調されて展示、販売されていることも 認めるには足りない。これらからすると、原告神棚板の展示、販売によって、 原告神棚板の特徴1)から5)の組合せが原告の出所を示すものとして需要者に周 知になったとはいえない。
また、前記1(3)によれば、原告が主張する特徴1)から5)のうちの複数の特徴 を備える神棚板も販売されていて、原告が主張する特徴のいくつかやその組合 せについては原告が長期間独占的に使用していたと認めることもできない。 以上によれば、原告神棚板について、各報道や公刊物の記載、展示、販売に よって原告神棚板の特徴1)から5)の組合せが原告の出所を示すものとして需要 者に周知になったとは認められず、また、報道等の回数の少なさや、展示、販 売の際も多種類の商品の一つとして展示、販売されているにすぎないことから も、関係する事情を総合して考慮しても、原告神棚板の特徴1)から5)の組合せ が、原告の出所を示す表示として周知になったことはないと認められる。\n

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令和5(行ケ)10109  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年4月24日  知的財産高等裁判所

商標「奇跡のラカンカ」が識別力なしとした審決が維持されました。指定商品は、「ラカンカ」ではなく、30類「ラカンカを加味した菓子等」です。なお、審査官は、3条1項3号違反で拒絶査定にしましたが、審決では拒絶理由通知なしで、同6号違反で拒絶審決としました。手続きとしては違法だが、結果に影響がないのでそれを理由には取り消さないとしています。

本件において、拒絶の原査定及びこれに先立つ拒絶理由通知の根拠条文と しては3条1項3号が掲げられていたのに対し、本件審決は同項6号を拒絶 の理由としているが、本件審決に先立って新たな拒絶理由通知は行われてい ない(以上は争いがない。)。そこで、本件審決の理由が55条の2第1項 にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由」に当たるか否かを検討する必要が ある。
(2) 商標法は、商標登録出願に対して拒絶査定をすべき場合を15条各号に おいて限定的に列挙し、法定の期間内に拒絶の理由を発見しないときは商標 登録の査定をしなければならない旨を定める(16条)。このような商標法 の構造に照らして、拒絶理由通知にいう「拒絶の理由」とは、商標法が定め\nる具体的な登録拒絶事由(根拠条文)を示して、これに該当することの説明 をするものと解すべきであり、根拠条文が異なれば、原則として、それのみ をもって「異なる拒絶の理由」に当たるというべきである。 この点、被告は、3条1項は出所表示機能\を欠く商標を列挙するところ、 例示的列挙である1号〜5号による拒絶と総括規定である6号による拒絶と では、判断内容が実質的に相違するものでないから、本件審決の理由と査定 の理由は「異なる拒絶の理由」に当たらない旨主張している。しかし、3条 1項各号の実定法上の意義としては、それぞれが独立した別個の登録拒絶事 由を定めるものであり、同項6号の「前各号に掲げるもののほか」の文言か らも明らかなように、同項6号と同項1号〜5号との間に概念上の上下関係、 包摂関係があるわけではない(参考までに、本来的な意味での例示列挙の立 法例として、著作権法30条の4、同法47条の4第1項があるが、3条1 項がこれらと異なることは明らかである。)。 被告の上記主張は、3条1項の全体としての趣旨、各号の担う実質的な 役割・機能を説明する文脈であれば、誤りとはいえないが、行政庁による公\n権力の行使(本件では商標登録出願の拒絶)は、具体的な根拠条文に基づい て行われるのが法治国家の基本であり、「拒絶の理由」の異同についても、 拒絶の根拠条文が第一義的な基準になると考えるべきである。根拠条文の異 なる拒絶について、その背景にある立法趣旨において共通性があるからと いって、「異なる拒絶の理由」に当たらないなどということはできない。
(3) 以上の原則を踏まえつつも、個別具体的な事情により、査定と審決とで 拒絶の根拠条文は異なっても、両者の判断内容が実質的に同一(大が小を兼 ねる関係を含む。)であり、改めて弁明の機会を付与する必要がないといえ る特段の事情が認められる場合には、「異なる拒絶の理由」に当たらないと 解釈する余地もあり得るので、以下、この点について検討する。
本件において、原査定を不服として本件審判を請求した原告の立場で考 えると、原査定で示された理由(上記1(3))を争うべく、「本願商標の 『奇跡の』は『栄養素が豊富な』という意味を表すものではなく、したがっ\nて品質等表示(3条1項3号)に該当するものではない」という反論に注力\nするのが自然な対応と解される。現に原告は審判請求書でその趣旨を含む主 張をしている一方、3条1項6号が適用される可能性まで視野に入れた主張\nはしていない。これに対し、本件審決の判断(上記第2の2)は、本願商標 の「奇跡の」について、「常識では考えられないような」程の意味合いで理 解されるとして、原査定と異なる前提に立って、同項6号に当たるとの判断 をしている。これらは、大きな意味において、出所表示機能\を欠く商標かど うかという議論として括れないわけではないが、議論の出発点となるべき 「奇跡の」の意味するところの認定に変更が生じているため、出願人・審判 請求人に求められる防御の対象及び範囲も大きく異なったものとなっている。 そうすると、原査定と本件審決の理由を対比する限りにおいて、その判断内 容が実質的に同一であるなどということはできず、改めて弁明の機会を付与 する必要があったと考えざるを得ない。本件において、上記特段の事情は認 められないというべきである。 なお、本件において、本件審尋書面の送付により反論の機会が事実上付 与されているという事情は認められるものの、原査定の理由と本件審決の理 由が客観的に同一といえるかという議論とは次元の異なる問題であるから、 手続上の違法が審決に結論に影響を及ぼすか否かの場面(後記3参照)で考 慮されることは格別、「拒絶の理由」の異同に関する上記判断を左右するも のではない。
(4) 被告は、本件審判の手続を正当化する理由として、3条1項の適用上、 識別力を有しない商標であること自体は明らかであっても、同項のいずれの 類型に分類することが適切か明らかでなく、複数の号に重複して分類し得る 商標もあり得る点を挙げる。
しかし、そのような問題があるとすれば、最初の拒絶理由通知・拒絶査 定において、複数の根拠条文を掲げておけば(本件に即していえば「3条1 項3号又は6号」など)足りることであり、「異なる拒絶の理由」に当たる 場合を限定的に解釈すべき根拠となるものではない。
なお、この点につき、被告はさらに、多数の拒絶理由を列挙することに なり、拒絶理由相互の関係が不明確で複雑なものとなり、出願人にとっても 防御の観点から不利益となるとも主張する。しかし、本件で問題となってい る3条1項各号の選択に関していえば、合理的に適用が考えられる複数の号 の組合せは限定的と解されるし、出願人の防御という観点からいっても、被 告が主張するように3条1項各号の拒絶理由はどれも実質的に異ならないと いう前提での運用よりも、防御の範囲はむしろ明確になるといえる。 以上のとおり、被告の上記各主張は失当である。
(5) 次に、被告は、拒絶査定に対する審判の段階においては、実際上、16 条(商標法施行令3条1項)の期間を経過しているのが大半であるから、新 たな拒絶理由通知が必要になるとすると、実体上は登録要件に適合しない商 標の登録も自動的に認めざるを得なくなり、不当である旨主張する。
仮に、被告が述べる上記のような実情が避け難いものだとすれば、拒絶理 由通知の手続(15条の2)が審判手続について準用(55条の2第1項) される際に、16条所定の期間制限がどのように作用するのかを再検討する ことを含めた吟味が必要になると解されるが、それ以前の問題として、上記 (4)で述べたように、最初の拒絶理由通知・拒絶査定において複数の根拠条 文を掲げておくという実務上の運用による対応をまずは行うべきものであり、 かつ、それで基本的に対処可能と考えられる。いずれにせよ、被告の上記主\n張は、「今更新たな拒絶理由通知ができないから異なる拒絶の理由ではない と強弁する」というに等しいものであり、採用することはできない。
(6) 以上に述べたところをまとめると、原査定の理由と本件審決の理由は、 そもそも拒絶の根拠条文が異なる上、両者の判断内容が実質的に同一で改め て弁明の機会を付与する必要がないといえる特段の事情も認められないから、 両者は「異なる拒絶の理由」に当たると認めるのが相当である。 そうすると、本来、55条の2第1項、15条の2所定の新たな拒絶理由 通知が必要であったところ、この手続を履践することなく本件審決に進んだ 本件審判の手続には瑕疵があるというべきである(仮に16条の期間制限の ために新たな拒絶理由通知をすることが許されなかったという事情があると しても、瑕疵があることに変わりはない。)。
3 審決の結論に影響すべき瑕疵といえるか
審判手続に瑕疵(違法)があっても、それが審決の結論に影響を及ぼすよう なものと認められない場合には、審決取消事由とはなり得ないと解される(手 続上の違法に限らず、実体上の違法がある場合であっても、この理に変わりは ない。)。
そこでこの点を検討するに、本件審判手続においては、本件審尋書面が原告 に送付され、本件審決の理由が事前に明らかにされ、曲がりなりにも弁明の機 会が与えられていたということができる。もちろん、本件審尋書面の送付を もって法定の手続である拒絶理由通知と同視することはできず、適式な弁明の 機会が付与されていたということはできないが、審決の理由について何らの予\n告のないまま、不意打ち的に判断が示された場合とは状況が大きく異なる。 加えて、本件審尋書面及び本件審決で示された拒絶の理由は、原告が本件意 見書中で主張していた内容(本願商標は「常識では考えられない神秘的な果 物:ラカンカ」という意味を普通に用いられる方法で表示している標章である\nとの趣旨)を逆手に取って、本願商標の意味するところについては原告の主張 を全面的に採用した上で、そのような意味に理解される本願商標は3条1項6 号に該当することになると切り返したものである。そして、当裁判所は、後記 4で判断するとおり、取引者、需要者が理解・認識するであろう本願商標の意 味内容について原告が本件意見書で主張したところを前提とすれば、やはり3 条1項6号に該当することになると判断する。そうすると、仮に、原告に適式 な弁明の機会が付与されていたとしても、本件意見書で自ら主張していた内容 を覆すのでない限り有効な反論はなし得ないし、本件意見書と矛盾する内容と なることを承知の上であえて反論をしたとしても、禁反言の原則に反する主張 又は合理的理由のない場当たり的な対応と受け止められる状況が容易に予想さ\nれたところである。
本件における以上の事情を総合すれば、本件審判の手続に上記2で述べた瑕 疵はあるものの、その手続上の違法は、審決の結論に影響を及ぼすものではな いと解するのが相当である。よって、原告主張の取消事由は採用できない。
4 本願商標の3条1項6号該当性について
念のため、本願商標の3条1項6号該当性についても検討しておく。 本願商標は、「奇跡のラカンカ」の文字を横書きしてなるところ、その構成\n中の「奇跡」や「ラカンカ」の文字の意味を一般に理解し得る意味(乙3〜5) として理解すれば、「ラカンカ」は中国に産するウリ科の植物「羅漢果」の片 仮名表記であり、本願商標は全体として「常識では考えられない神秘的な羅漢\n果」程の意味合いを認識させるものである。以上は、原告自身が本件意見書の 中で主張しているとおりである。
そして、証拠(乙6〜35)によれば、「奇跡」の文字は、「奇跡の果物」、 「奇跡の野菜」、「奇跡のブドウ」、「奇跡のイチゴ」などといったように、「常 識では考えられないような」といった程度の意味合いで広く一般に使用されて おり、飲食料品を取り扱う業界において商品ないしその原材料の宣伝広告に使 用されていることが認められる。 そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、 需要者は、商品の宣伝広告に一般に使用されるような「常識では考えられない ような羅漢果」程の意味合いを表示したものと認識するにすぎず、何人かの業\n務に係る商品であることを表示したものと認識することはないといえる。した\nがって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識する ことができない商標であるから、3条1項6号に該当する。

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令和5(行ケ)10091  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年4月22日  知的財産高等裁判所

 特許異議申立がなされて取消審決がなされましたが、知財高裁は、相違点1−2と相違点1−3は一体として検討すべきとして、これを取り消しました。

(2) 相違点の容易想到性についての判断の誤りについて
ア 原告は、本件決定が相違点1−1から同1−3までを関連付けずに判断 している点が誤りであると主張するところ、当裁判所は、相違点1−1は ともかく、少なくとも相違点1−2と相違点1−3は一体として検討する 必要があると判断する。その理由は、以下のとおりである。 本件発明の内容は前記第2の2のとおりであって、ポリプロピレンフィ ルムと蒸着膜との間に、密着性に優れた極性基を有する樹脂材料を含む表\n面コート層を備えることにより、層間の剥離を防止し、また、シランカッ プリング剤とともに用いられる場合も含め金属アルコキシドと水溶性高 分子との樹脂組成物からなるバリアコート層を蒸着膜上に設けることで、 蒸着膜のクラック発生をも防止し、さらには、ボイル又はレトルト処理が 行われる場合であってもガスバリア性の低下の抑制が図られるように、バ リアコート層表面の珪素原子と炭素原子との割合を特定の範囲にしたも\nのであって、高いガスバリア性を有するボイル又はレトルト用バリア性積 層体を提供するという技術的意義を有するといえる。そして、本件明細書 によれば、珪素原子と炭素原子の比(Si/C)の上限は、バリア性積層 体を屈曲させてもガスバリア性の低下を抑制できるという観点から定め られ、下限は、バリア性積層体を加熱してもガスバリア性の低下を抑制で きるという観点から定められているのであるから(【0076】、表5〜\n表7)、ボイル又はレトルト用であるか否かに係る相違点1−3と、珪素\n原子と炭素原子の比の数値範囲に係る相違点1−2は、一体として検討さ れるべきものである。
イ 以上を前提に、相違点1−2と相違点1−3に係る容易想到性につき一 括して判断するに、まず、本件決定が副引用例とする甲4には、別紙6の 記載があり、ここから本件決定の認定に係る甲4記載事項(別紙4の1(2)) を認定できることについては争いがない。
甲4は、電気製品等の機器の消費エネルギーを削減するための真空断熱 材用外包材等に関するもので、外包材により形成された袋体内に芯材を配 置し、上記芯材が配置された袋体の内部を減圧して真空状態とし、上記袋 体の端部を熱溶着して密封し、上記袋体内部を真空状態とすることにより、 気体の対流が遮断されるため、真空断熱材は高い断熱性能を発揮すること\nができるというものである(【0001】〜【0003】)。 甲4記載事項は、第1フィルム(金属酸化物リン酸層付きフィルム。第 1樹脂基材と金属酸化物リン酸層から成る。)、オーバーコート層付きフ ィルム(樹脂基板、無機層、オーバーコート層から成る。)、熱溶着可能\nなフィルムから構成される真空断熱材用外包材のうち、オーバーコート層\n付きフィルムの中のオーバーコート層及び無機層をもとに抽出されたも のである。
ウ 本件決定は、甲3発明に、甲4記載事項のオーバーコート層における炭 素原子に対する珪素原子の比率を適用するものである。 しかし、甲4記載事項は、前提とする積層構造が、甲3発明と異なる上、\n以下のとおり、甲4は、甲3発明とは技術分野が共通するものとはいい難 く、さらに、相違点1−3に係る構成(ボイル又はレトルト用)を開示又\nは示唆するものでもない。すなわち、甲4は、高温高湿な環境においても 長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材用外包材等の提供を\n目的とするものであるが(【0008】)、高温多湿な「環境」を想定す るにとどまり、物を入れて積極的に加熱殺菌処理をする行為であるレトル トやボイル(一例として、優先日前の公知文献である特開2007−13 7438号公報〔乙4〕では、レトルト処理について110゜C)〜130゜C) 位、圧力、1〜3Kgf/cm 2 ・G位で約20〜60分間程度の加熱加 圧殺菌処理、ボイルについて90゜C)位で30分間位の加熱殺菌処理〔【0 002】〕等が挙げられている。)を想定しているとはおよそ考えられず、 実際、甲4には、レトルトやボイルを前提とする記載はない。
その上、甲3の【0044】には、「炭素の割合が50%より多い場合、 バリア性が温度、湿度の影響を受け易く、15%より少ない場合、バリア 性が悪くなり、膜質が脆くなる。」として、炭素が少なすぎると膜質が脆 くなることが示唆されているのに対し、甲4の【0111】には、「オー バーコート層を構成する原子における、炭素原子に対する金属原子の比率\n(金属原子数/炭素原子数)は、0.1以上、2以下の範囲内であり、中 でも0.5以上、1.9以下の範囲内、特には0.8以上、1.6以下の 範囲内であることが好ましい。」という炭素原子に対する金属原子の比率 (金属原子数/炭素原子数)を示す記載に引き続いて、「比率が上記範囲 に満たないと、オーバーコート層の脆性が大きくなり、得られるオーバー コート層の耐水性および耐候性等が低下する場合がある。一方、比率が上 記範囲を超えると、得られるオーバーコート層のガスバリア性が低下する 場合がある。」として、金属原子に対して炭素原子の数が過剰に多くなる とオーバーコート層の脆性が大きくなって、ガスバリア性の低下につなが る旨の記載があるところ、これは、上記甲3の【0044】の記載と正反 対の内容である。
そうすると、当業者において、甲3発明の食品包装材料についてボイル 又はレトルト用途とすることを想起したとしても、甲4におけるオーバー コート層を構成する原子における金属原子の比率は加熱によってもガス\nバリア性が維持されるかどうかとは関わりのないものであること、甲4に は、炭素原子と金属原子の比率と、膜質の脆性について、甲3と正反対の 記載があることに鑑みても、甲3発明とは技術分野も積層構造も異なる真\n空断熱材用外包材に関する甲4の積層体の中から、オーバーコート層付き フィルムの中のオーバーコート層及び無機層に関する記載に着目した上、 オーバーコート層における炭素原子に対する金属原子の比率(金属原子数 /炭素原子数)を参酌して、甲3発明に適用する動機付けを導くには無理 があるというほかなく、本件決定の判断には誤りがある。
エ 被告は、Si/Cの数値範囲に特段の技術的意義はなく、層構成に係る\n共通の技術について「Si/C」を用いて数値範囲を検討することが甲4 にあるとおり公知であることを併せると、甲3発明において甲4記載事項 を参考にして、相違点1−2に係る本件発明の構成とすることは、当業者\nが容易に想到し得た旨主張する。 被告が、Si/Cの数値範囲に特段の技術的意義はないと主張する根拠 は、1)本件発明1の発明特定事項が「バリアコート層が、金属アルコキシ ドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜で\nあるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリ ング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜」と択一的なも\nのになっており、シランカップリング剤には珪素が含まれるにもかかわら ず、本件明細書上効果が確認されているのはシランカップリング剤を含む バリアコート層だけであるという点、2)本件発明1の数値範囲は甲3から 簡単に算出でき、甲4にも同数値範囲内のものが例示されているという点 にある。
しかし、上記1)についていえば、シランカップリング剤が珪素を含むと いうような一般論だけで、シランカップを含むものであるバリアコート層 の効果に係る【表4】〜【表\7】の結果、及びSi/Cの数値範囲の効果 に係る【表5】〜【表\7】が、シランカップ剤を含まないバリアコート層 について技術的意義がないとは直ちにいえないし、そもそも、技術的意義 が裏付けられているかどうかと、構成が容易想到といえるかどうかの問題\nは直結するものではない。 また、上記2)についていえば、甲3発明の「X線光電子分光分析法」の分 析における「炭素と酸素と珪素が、それぞれ15〜50%、30〜65%、 5〜30%の割合で存在すること」から、珪素原子と炭素原子の比(Si/ C)は、0.1以上、2以下と算出することができ、この数値範囲は、本件 発明1の数値範囲である「0.90以上1.60以下」を包含するからとい って、炭素と酸素と珪素の数値範囲で一定の技術的意義を示している甲3 の記載から、炭素と珪素だけを抽出すべき合理的な理由、技術的な必然性 は認められない。
甲4の表1には、30質量部(Si/C比率1.58)、38.5質量部\n(同比率1.25)及び50質量部(同比率1.03)という、本件発明1 の数値範囲内のものが開示されているが、同表では膜特性は示されておら\nず、このSi/C比率で、本件発明1の数値範囲外の他の質量部より優れ ていることが示されているわけでもないから、当業者が当該数値に着目す るともいえない。 そして、甲3とは「層構成に係る発明である」という程度の共通性しかな\nい甲4に「Si/C」を用いて数値範囲を検討することが記載されていた からといって、当業者において甲4記載事項を参考にして相違点1−2、 相違点1−3に係る構成とすることが容易に想到できるとはいえない。\n

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令和5(行ウ)5001 出願却下処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年5月16日  東京地方裁判所

 発明者をAIと記載した国際特許出願の国内書面が却下されました。出願人はこれを不服として裁判所に不服申し立てを行いましたが、東京地裁(40部)は、AIは発明者になれないとの判断を維持しました。最後に付言があります。

1 我が国における「発明者」という概念
知的財産基本法2条1項は、「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、 意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明 がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、\n商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘\n密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいうと規定している。 上記の規定によれば、同法に規定する「発明」とは、人間の創造的活動により 生み出されるものの例示として定義されていることからすると、知的財産基本法 は、特許その他の知的財産の創造等に関する基本となる事項として、発明とは、 自然人により生み出されるものと規定していると解するのが相当である。 そして、特許法についてみると、発明者の表示については、同法36条1項2\n号が、発明者の氏名を記載しなければならない旨規定するのに対し、特許出願人 の表示については、同項1号が、特許出願人の氏名又は名称を記載しなければな\nらない旨規定していることからすれば、上記にいう氏名とは、文字どおり、自然 人の氏名をいうものであり、上記の規定は、発明者が自然人であることを当然の 前提とするものといえる。また、特許法66条は、特許権は設定の登録により発 生する旨規定しているところ、同法29条1項は、発明をした者は、その発明に ついて特許を受けることができる旨規定している。そうすると、AIは、法人格 を有するものではないから、上記にいう「発明をした者」は、特許を受ける権利 の帰属主体にはなり得ないAIではなく、自然人をいうものと解するのが相当で ある。
他方、特許法に規定する「発明者」にAIが含まれると解した場合には、AI 発明をしたAI又はAI発明のソースコードその他のソ\フトウェアに関する権 利者、AI発明を出力等するハードウェアに関する権利者又はこれを排他的に管 理する者その他のAI発明に関係している者のうち、いずれの者を発明者とすべ きかという点につき、およそ法令上の根拠を欠くことになる。のみならず、特許 法29条2項は、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識 を有する者(以下「当業者」という。)が前項各号に掲げる発明に基いて容易に 発明をすることができたときは、進歩性を欠くものとして、その発明については 特許を受けることができない旨規定する。しかしながら、自然人の創作能力と、\n今後更に進化するAIの自律的創作能力が、直ちに同一であると判断するのは困\n難であるから、自然人が想定されていた「当業者」という概念を、直ちにAIに も適用するのは相当ではない。さらに、AIの自律的創作能力と、自然人の創作\n能力との相違に鑑みると、AI発明に係る権利の存続期間は、AIがもたらす社\n会経済構造等の変化を踏まえた産業政策上の観点から、現行特許法による存続期\n間とは異なるものと制度設計する余地も、十分にあり得るものといえる。\nこのような観点からすれば、AI発明に係る制度設計は、AIがもたらす社会 経済構造等の変化を踏まえ、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねるこ\nととし、その他のAI関連制度との調和にも照らし、体系的かつ合理的な仕組み の在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方と みるのが相当である。グローバルな観点からみても、発明概念に係る各国の法制 度及び具体的規定の相違はあるものの、各国の特許法にいう「発明者」に直ちに AIが含まれると解するに慎重な国が多いことは、当審提出に係る証拠及び弁論 の全趣旨によれば、明らかである。
これらの事情を総合考慮すれば、特許法に規定する「発明者」は、自然人に限 られるものと解するのが相当である。
したがって、特許法184条の5第1項2号の規定にかかわらず、原告が発明 者として「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載して、発明者の\n氏名を記載しなかったことにつき、原処分庁が同条の5第2項3号に基づき補正 を命じた上、同条の5第3項の規定に基づき本件処分をしたことは、適法である と認めるのが相当である。
2 原告の主張に対する判断
(1) 原告は、我が国の特許法には諸外国のように特許を受ける権利の主体を発明 者に限定するような規定がなく、特許法の制定時にAI発明が想定されていな かったことは、AI発明の保護を否定する理由にはならない旨主張する。しか しながら、自然人を想定して制度設計された現行特許法の枠組みの中で、AI 発明に係る発明者等を定めるのは困難であることは、前記において説示したと おりである。この点につき、原告は、民法205条が準用する同法189条の 規定により定められる旨主張するものの、同条によっても、果実を取得できる 者を特定するのは格別、果実を生じさせる特許権そのものの発明主体を直ちに 特定することはできないというべきである。その他に、原告の主張は、AI発 明をめぐる実務上の懸念など十分傾聴に値するところがあるものの、前記にお\nいて説示したところを踏まえると、立法論であれば格別、特許法の解釈適用と しては、その域を超えるものというほかない。
(2) 原告は、AI発明を保護しないという解釈はTRIPS協定27条1項に違 反する旨主張する。しかしながら、同項は、「特許の対象」を規律の内容とす るものであり、「権利の主体」につき、加盟国に対し、加盟国の国内特許法に いう「発明者」にAIを含めるよう義務付けるものとまでいえず、また、原告 主張に係る欧州特許庁の見解も、特許法に関する判断の国際調和という観点か ら一つの見解を示すものとして十分参考にはなるものの、属地主義の原則に照\nらし、我が国の特許法の解釈を直ちに左右するものとはいえず、本件に適切で はない。
(3) 原告は、知的財産基本法2条1項は「その他」と「その他の」の用法を混同 しており、「発明」が「人間の創造的活動により生み出されるもの」に包含さ れると規定するものではない旨主張する。しかしながら、特許法がAI発明を 想定していなかったことは、原告も認めるとおりであり、知的財産基本法2条 1項も、立法経緯に照らし、文言どおり、AI発明を想定していなかったもの と解するのが相当である。そして、当時想定していなかったAI発明について は、現行特許法の解釈のみでは、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏ま\nえた的確な結論を導き得ない派生的問題が多数生じることは、前記において繰 り返し説示したとおりである。
・・・
その他に、原告提出に係る準備書面及び提出証拠を改めて検討しても、前記に おいて説示したところを踏まえると、いずれも前記判断を左右するに至らない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
なお、被告は、当裁判所の審理計画の定め(第2回弁論準備手続調書参照)に かかわらず、原告主張に係るAI発明をめぐる実務上の懸念に対し、具体的な反 論反証(令和5年11月6日提出予定の被告の再々反論、再々反証をいう。上記\n手続調書参照)をあえて行っていないものの、特許法にいう「発明者」が自然人 に限られる旨の前記判断は、上記実務上の懸念までをも直ちに否定するものでは なく、原告の主張内容及び弁論の全趣旨に鑑みると、まずは我が国で立法論とし てAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発 明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されているものであることを、 最後に改めて付言する。

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令和5(ワ)691 商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和6年4月18日  大阪地方裁判所

大阪地裁(26部)は、本件商標「子供と母親のための歯医者さん」と、被告標章「香椎照葉/こどもとママの歯科医院」(2段併記)とは、非類似と判断しました。

被告標章1は、別紙被告標章目録記載1のとおり、「香椎照葉こどもとママ の歯科医院」の同一字体の文字を1行の横書きにて配して成るものである。こ のうち、「こどもとママの歯科医院」の部分は、母子を歯科治療の対象としてい る意味合いを伝えるにすぎないことに加え、証拠(乙10ないし17)及び弁 論の全趣旨によれば、同趣旨の商標又は歯科治療の対象となる特定の属性を表\n現した商標は、多くの歯科医院において使用されていることが認められる。そ うすると、被告標章1のうち「こどもとママの歯科医院」の部分は、自他役務 の識別力が弱いというべきであるから、同部分が、取引者又は需要者に対し、 役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできず、同 部分だけを抽出して本件各商標と比較して類否を判断することは相当でない。
そこで、本件各商標と被告標章1全体を比較して類否を判断するに、別紙商 標目録及び同被告標章目録1記載のとおり、本件各商標と被告標章1の外観は、 少なくとも「香椎照葉」の有無という明らかな相違がある。また、本件各商標 からは「子供と母親のための歯医者さん」という観念が生じるのに対し、被告 標章1からは「香椎照葉にある子供と母親のための歯科医院」という観念が生 じる。そして、本件各商標は「コドモトママノハイシャサン」又は「ママトコ ドモノハイシャサン」という称呼が生じるのに対し、被告標章1は「カシイテ リハコドモトママノシカイイン」という称呼が生じる。したがって、本件各商 標と被告標章1は、外観、観念及び称呼のいずれをみても、明確に相違をして おり、取引の実情を考慮しても、需要者がその出所につき誤認混同を生じるお それがあるとはいえない。

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令和5(ネ)10078  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審で文言侵害不成立と判断されましたので、控訴審で均等侵害の主張を追加しましたが、第1要件を満たさないと判断されました。

(4) 当審における控訴人による均等侵害の主張に対する判断
ア 控訴人は、仮に被控訴人製品が、本件各発明に文言上はその技術的範囲に 属しないものとしても、これと均等なものとして、特許権侵害に当たる旨を 主張する。
特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用い\nる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、 1)同部分が特許発明の本質的部分ではなく、2)同部分を対象製品等における ものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果 を奏するものであって、3)上記のように置き換えることに、当該発明の属す る技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製 造等の時点において容易に想到することができたものであり、4)対象製品等 が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同 出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、5)対象製品等が特許発明の 特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる などの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載さ れた構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解する\nのが相当である。
そして、上記1)の要件(第1要件)における特許発明における本質的部分 とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない 特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきであり、特許請求\nの範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効 果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見 られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定するこ\nとによって認定されるべきである(最高裁平成6年(オ)第1083号同1 0年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成28 年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号 359頁参照)。
これを本件において検討するに、前記(1)イのとおり、本件発明1は、「底部 に取り付けられた安定補助板により支えられてテーブルなどの上に立たせら れる」「折畳式コップ型容器」(段落【0003】)であって「安定補助板が例 えば紙や合成樹脂などから形成され、後から容器本体に取り付けられる構成」\n(段落【0005】)を採用した従来技術を前提とし、「成形が簡便な自立型 の包装容器の提供を目的とする」(段落【0006】)ことを発明が解決しよ うとする課題とし、当該課題を解決する手段として「前記包装容器を容器と して形成した状態において、前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自 立片が載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、前記自立片によって前記載 置面に自立させられる」(本件発明1の構成要件B)という構\成を採用するこ とにより、「包装容器を自立させる自立片が底面片に連なっているため、一体 的な成形が簡便である」(段落【0013】)という効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1において従来技術に見られない特有の技術的思想 を構成する特徴的部分は、従来技術における安定補助板が、底部に一体的に\n成形された構成である、「前記包装容器を容器として形成した状態において、\n前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って前記奥 行の方向に突出し、前記自立片によって前記載置面に自立させられる」こと にあると考えられる。
そして、本件発明1と被控訴人製品とは、包装容器を容器として形成した 状態において、本件発明1の「底面片」が筒状の底部を形成するのに対し、 被控訴人製品は、包装容器を自立させる舌状片が、包装容器の底部を形成す る六角片と同一面に連なっておらず別に構成されている点において相違する\nものと認められるところ、この相違に係る本件発明1の構成、すなわち「底\n部を形成する底面片」が「自立片」と同一面に連ねられていることは、これ までの検討によれば、本件発明1の本質的部分に当たるものということがで きる。
そうすると、上記相違点に係る本件発明1の構成については、本件発明1\nの本質的部分ではないということはできない。そして、前記(1)ウのとおり、 上記の点については、本件各発明について共通するものということができる。 したがって、被控訴人製品は均等侵害の第1要件を充足しないから、その 要件について検討するまでもなく、均等侵害は成立しない。 イ 控訴人は、前記第2の3(4)ウのとおり、本件各発明の本質的部分は、「自立 片」によって載置面に自立させられる構成を採用した点にあり、当該「自立\n片」が内容物に直接接触してこれを支える片という意味における「底面片」 と、同一面に連なることにあるのではないと主張する。 しかし、本件各発明の本質的部分については上記アのとおりと認められる から、本件各発明と被控訴人製品とは、その本質的部分において異なるもの というべきである。

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1審はこちらです。  

◆令和4(ワ)2049

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令和3(ワ)11358  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年3月19日  東京地方裁判所

被告は、魚介類及び水産加工品の輸出入等の事業を行う会社で、日本での食材の仕入れ及び東南アジアのダイショーグループ各社への輸出を行っていました。ダイショーグループは、シンガポール・マレーシア・インドネシアなどで「寿司」、「和食レストラン」などの店舗を展開していました。本件各ウェブページは、日本語によって記載された主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブページであり、被告が管理していること、本件各ウェブページには、スーパースシが展開する本件すし店に関するものとして被告各表示が掲載されていました。裁判所は、指定商品・役務が類似する、&商標も類似するとして、差止と約600万円の損害賠償を認めました。また、不正競争行為にも該当すると判断されています。
原告は「すしざんまい」です。

ア 本件各掲載行為のうち本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為について\n
前提事実(1)イ及びウ、(4)ア、証拠(甲4、23ないし25)並びに弁 論の全趣旨によれば、原告各商標の指定役務は「すしを主とする飲食物 の提供」であること、被告は、魚介類及び水産加工品の輸出入等の事業 を行う株式会社であり、日本での食材の仕入れ及び東南アジアのダイシ ョーグループ各社への輸出を行っていること、ダイショーグループは、 シンガポール・マレーシア・インドネシアなどで「寿司」、「和食レスト ラン」などの店舗を展開していること、本件各ウェブページは、日本語 によって記載された主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブペ ージであり、被告が管理していること、本件各ウェブページには、スー パースシが展開する本件すし店に関するものとして被告各表示が掲載さ\nれており、被告各表示とともに「手頃な価格で幅広い客層が楽しめる回\n転寿司。厳選した食材と豊富なメニューで、人気を集めています。」と の説明が掲載されていることが認められる。 このような事情からすれば、本件各ウェブページにおける被告各表示\nは、すしを主とする飲食物の提供を行う本件すし店を紹介するために掲 載されたものであり、「すしを主とする飲食物の提供」と類似の役務に 係るものといえるから、原告各商標の指定役務と被告各表示に係る役務\nとは類似するものといえる。 そして、被告が本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は、\n「役務に関する広告…を内容とする情報に標章を付して電磁的方法によ り提供する行為」(商標法2条3項8号)に該当するといえ、被告は原 告各商標を「使用」したものと認められる。
被告の主張について
被告は、被告各表示はスーパースシがマレーシアにおいて展開する本\n件すし店に関するものにすぎず、被告自身は「すしを主とする飲食物の 提供」を行っていないことなどから、被告各表示に係る役務は、原告各\n商標の指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」とは類似してお らず、また、被告が原告各商標を「使用」したとはいえないと主張する。
そこで検討すると、商標法は、「商標を保護することにより、商標の 使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、 あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と定めており、こ の目的を達成するため、商標は、標章をある者の商品又は役務に付する ことにより、その商品又は役務の出所を表示する機能\(出所表示機能\) や、取引者及び需要者が同一の商標の付された商品又は役務には同一の 品質を期待しており、商標がその期待に応える作用をする機能(品質保\n証機能)を有するものと解される。本件においては、前記 で説示した とおり、本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向け たウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の\n提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの\n本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各 表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表\示機能及び品\n質保証機能を害し、ひいては、上記の商標法の目的にも反するものであ\nるといえる。
そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとし\nても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行った\nものと認められ、上記のとおり、そのような被告の行為によって日本に おける原告各商標の出所表示機能\及び品質保持機能が害されている以上、\n被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。 そうだとすれば、被告の上記主張はいずれも役務の類否や使用行為の 有無を左右するものではないというべきである。
・・・・
被告は、被告各表示はスーパースシがマレーシアにおいて展開する本\n件すし店に関するものにすぎず、被告自身は「すしを主とする飲食物の 提供」を行っていないことなどから、被告各表示に係る役務は、原告各\n商標の指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」とは類似してお らず、また、被告が原告各商標を「使用」したとはいえないと主張する。
そこで検討すると、商標法は、「商標を保護することにより、商標の 使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、 あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と定めており、こ の目的を達成するため、商標は、標章をある者の商品又は役務に付する ことにより、その商品又は役務の出所を表示する機能\(出所表示機能\) や、取引者及び需要者が同一の商標の付された商品又は役務には同一の 品質を期待しており、商標がその期待に応える作用をする機能(品質保\n証機能)を有するものと解される。本件においては、前記 で説示した とおり、本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向け たウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の\n提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの\n本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各 表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表\示機能及び品\n質保証機能を害し、ひいては、上記の商標法の目的にも反するものであ\nるといえる。
そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとし\nても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行った\nものと認められ、上記のとおり、そのような被告の行為によって日本に おける原告各商標の出所表示機能\及び品質保持機能が害されている以上、\n被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。 そうだとすれば、被告の上記主張はいずれも役務の類否や使用行為の 有無を左右するものではないというべきである。
イ 本件各掲載行為のうち本件各アカウント写真として被告表示2を掲載し\nた行為について
前提事実(1)ウ、証拠(甲20、21)及び弁論の全趣旨によれば、スー パースシは、マレーシアにおいて本件すし店を展開していること、本件各 アカウントは、本件すし店に係るアカウントであることが認められるが、 本件全証拠によっても、被告が本件各アカウントを管理していると認める ことはできない。
したがって、本件各アカウント写真の掲載行為については、被告が行っ たものと認めることができないから、被告が原告各商標を「使用」したと はいえない。
なお、本件では、不競法違反に関して被告が原告各表示と類似の商品等\n表示を「使用」(不競法2条1項1号)したといえるか(争点2−3)も\n問題となっているが、上記で説示したとおり、本件各アカウント写真の掲 載行為は被告が行ったとは認められないから、被告が原告各表示と類似の\n商品等表示を「使用」したともいえない。\n
・・・
商標法38条2項による損害額の算定について
商標法38条2項は、商標権者等が侵害行為による損害の額を立証するこ とが困難であることから、その立証を容易にするために設けられたものであ ると解される。そうすると、同項の適用が認められるためには、侵害者によ る侵害行為がなかったならば商標権者等が利益を得られたであろうという事 情が存在する必要があるものと解される。
証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、原告はマレーシアにおいてすし 店を展開していないことが認められるところ、本件全証拠によっても、日本 国内における原告すし店とマレーシアにおける本件すし店の市場が競合する と認めることはできないから、被告による侵害行為(本件各ウェブページに 被告各表示を掲載した行為)がなかったならば原告(原告すし店)が利益を\n得られたであろうという事情が存在すると認めることはできない。 したがって、本件では、商標法38条2項を適用することはできない。
(2) 商標法38条3項よる損害額の算定について
ア 前提事実(5)のとおり、平成26年から令和5年までの被告の本件すし 店に対する売上げは合計1億4475万8151円である。 そして、証拠(甲44、乙3)及び弁論の全趣旨によれば、株式会社 帝国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用 の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤル ティ料率に関する実態把握〜」には、商標権における使用料率(ロイヤ ルティ料率)全体の平均値は2.6パーセント、第43類「飲食物の提 供及び宿泊施設の提供」に関する平均値は3.8パーセントであると記 載されていることが認められる。 この点について、前提事実(1)のとおり、被告は、スーパースシを含め たダイショーグループ各社に対して、日本で仕入れた食材の輸出を行っ ているところ、被告が本件各ウェブページに被告各表示を掲載すること\nによって本件すし店(スーパースシ)の売上げが増加した場合、それに 伴って被告の本件すし店に対する売上げ(輸出)も増加する関係にある ものと認められる。
他方で、前記(1)で説示したとおり、日本国内における原告すし店とマ レーシアにおける本件すし店の市場が競合すると認めることはできない ことに照らすと、本件各ウェブページへの被告各表示の掲載が被告の売\n上げに与えた影響は限定的なものであったことがうかがわれる。 このような事情に加え、本件各ウェブページにおける被告各表示は遅\nくとも平成26年12月頃から相当長期にわたって掲載されていたと認 められること(前提事実(4)及び弁論の全趣旨)及び商標権侵害があった 場合に事後的に定められるべき登録商標の使用に対し受けるべき金銭の 額は通常の使用料と比べて高額となることを考慮すると、被告による原 告各商標の使用に対し原告が受けるべき金銭の額に相当する額を算定す るための使用料率については、3.8パーセントと認めるのが相当であ る。 そうすると、上記の金銭の額は、被告の本件すし店に対する売上げで ある1億4475万8151円に使用料率3.8パーセントを乗じた5 50万0809円であると認められる。
イ これに対し、原告は、前記アの金銭の額を算定するに当たっては、被 告が被告各表示を被告各ウェブサイトに掲載することにより自己の取引\n上の信頼を高めて事業全般に及ぶメリットを享受していることから、被 告の全売上高をその基礎とすべきであると主張する。 しかしながら、上記の金銭の額を算定する際に基礎とすべきは、侵害 行為に関する売上高であると解されるところ、別紙被告ウェブページ目 録記載のとおり、本件各ウェブページに掲載された被告各表示は本件す\nし店に関するものであり(甲4及び弁論の全趣旨)、それを超えて被告の 事業全体に関するものであると認めるに足りる証拠はないから、原告の 上記主張は採用できない。

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令和4(ネ)10117  商標使用料等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和6年4月10日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

原審は、権利濫用として棄却判決でしたが、知財高裁は、権利濫用ではないとして、約3200万円の支払いを命じました。

原告商標1についての商標登録出願につき、その登録前の平成17年12月6日 に、被告から原告へと出願人名義変更がされている(甲A419、乙113〜11 5)。原告商標1の商標登録出願により生じた権利を被告から原告に移転すること は、被告の取締役でありかつ原告代表者であるDが、原告のために行った取引であ\nるから、被告からみて利益相反取引に当たるところ、同取引について被告の取締役 会における承認はされていないから、被告は、原告に対し、当該移転に係る取引の 無効を主張することができることになる。しかしながら、原告商標1は平成18年 1月27日に設定の登録がされ(甲A203、204)、既に同日から5年が経過し ていることから、これを無効審判請求により無効とすることはできない(商標法4 7条1項、46条1項4号)。そうすると、被告は、原告商標1の登録について、無 効の抗弁(同法39条、特許法104条の3第1項)を提出することはできない(最 高裁平成27年(受)第1876号同29年2月28日第三小法廷判決・民集71 巻2号221頁参照)。 そして、本件において原告が原告商標1を取得した目的は、被告に使用許諾をし て足立物件に係る事業に用いるためであり、また、被告から原告に移転をしたのは 出願当初に予定していたとおりの帰属とするためであったと認められるから、原告\n商標1の出願により生じた権利の移転について被告の取締役会決議を経ていないこ とのみをもって、原告による原告商標権1に係る権利行使を制限すべきとは認めら れない。
(3) 原告各商標権について
原告各商標権の行使が権利の濫用に当たるか検討する。
まず、前記(1)のとおり、A、B、C及びDは、Aを被相続人とする相続時の税金 対策のために、被告において不動産事業を営むこととし、被告の株式の評価額を減 少させようとしていたところ、節税等の目的で、知的財産権を含む資産を関係会社 や子会社に分配して保有させるなどして利益を関係会社等に分散させることは、企 業経営者の経営判断として一般に採用し得る手法であって、商標権を、事業主体で ある被告ではなく、その事業運営を請け負う原告が取得し、被告からその商標使用 料の支払を受けることは直ちに不自然であるとはいえない。また、原告と被告との 間の本件商標使用許諾契約において定められた商標使用料は、平成25年9月期か ら平成27年9月期までの3年間の本件各物件に係る事業の売上額(甲A421) の平均に対し、商標権の全分類平均の使用料率2.6%(甲A422)を乗じた額 と比べても相当程度に低廉であり(本判決別紙「本件各物件売上額等」参照)、原告 各商標が一般的な普通名詞から構成されるものであってそれ自体の顧客吸引力が高\nいとまではいえないことを考慮しても、不相当に高額であるとはいえない。そして、 本件商標使用許諾契約の効力が認められないのは、Dが利益相反取引についての会 社法所定の手続を経ていなかったからであって、D以外の他の取締役らが、被告の 不動産事業の経営を事実上Dに任せていたという事情が認められる本件において、 本件商標使用許諾契約書が作成された平成20年10月当時、Dが当該手続に従っ て被告の取締役会の承認を得ることが困難であったような事情は見当たらないし、 仮に取締役会の承認を得ておれば、原告は、被告に対し、本件商標使用許諾契約に 基づき原告各商標の使用料を請求することができたはずである。しかも、平成21 年8月20日から平成28年2月10日までの間、被告は原告に対し、現に本件商 標使用許諾契約に定められた原告各商標の使用料の支払を行っていたことが認めら れ(補正の上引用した原判決の第2の2(7))、取締役であるA、B及びCは上記支 払について容易に知り得たといえるところ、この間、平成25年11月に死亡した Aが生前異議を述べていた事実は認められないし、B及びCにおいても、平成28 年5月に被告が本件各業務委託契約(原告と被告との間で締結された、被告が本件 各物件の管理等の事業全般に関する業務を原告に委託する旨の契約)等を解除する 旨の意思表示をするまでの間、本件商標使用許諾契約が有効であるという前提で行\n動していたことが推認され、これに反する証拠はない。
これらの事情及び前記(2)の事情を総合すると、原告が被告に対し、原告各商標権 の侵害を主張することが権利濫用に当たり許されないものと認めることはできない。 そして、被告は、少なくとも過失により、契約上の権限を取得することなく原告各 商標の使用を開始し、継続したことになるというべきであるから、被告は、原告に 対し、不法行為に基づき、使用料相当額の損害を賠償する義務があるというべきで ある。
なお、原告が使用料相当額の損害賠償金を請求する期間は平成28年4月1日か ら令和元年9月30日までであって、原告商標3の登録後であるから、本件商標使 用許諾契約書が作成された平成20年10月1日当時に原告商標3の商標登録出願 がされていなかったことは、上記判断を左右しない。

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令和5(ワ)70001  特許専用実施権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年4月17日  東京地方裁判所

 構成要件Dを充足せず、記述的範囲に属さないと判断されました。\n

 以上のような本件明細書等から認められる本件各発明の目的、課題の解決手 段からすれば、本件各発明は、オゾンによる殺菌等を行った処理後の被処理水 に含まれる残オゾンの低減と、被処理水の生物処理の促進とを両立させること ができる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することを目的としており、そ の解決手段としては、第1の収容槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供 給するオゾン供給手段を有するとともに、第1の収容槽とは別に、被処理水の 生物処理を行う第2の収容槽を設けることとした上で、そこに第1の収容槽に おいてオゾンによって処理された被処理水を残オゾンとともに収容し、生物処 理能力を低減させる原因となる残オゾンを積極的に酸素分子に化学変化させる\nために、第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給 手段と、所定の担体を有するというものである。
したがって、本件各発明においては、オゾンによる殺菌等を行った後の被処 理水に含まれる残オゾンの低減をも目的として第2の収容槽とそれに関する構\n成を設けているのであり、残オゾンを低減させるための構成ともいえる第2の\n収容槽内に、少なくとも積極的にオゾンを供給することは、課題の解決に至ら ず、本件各発明において第2の収容槽とそれに関する構成を有することとした\nことと相容れないものといえる。
そして、オゾン発生装置で製造されるオゾンは、純度100%のオゾンガス が製造されるものでないことは技術常識である上、本件明細書【0031】に おいて、オゾン発生装置29によって発生し、このオゾン発生装置29に接続 され吸気管を介し吸気されたオゾンは、複数分岐した枝管24を通って圧縮部 22内に噴出されるようになっていて、この圧縮部22内に噴出された気泡が オゾンを含むマイクロナノバブルとされていることからしても、第1収容槽内 に供給される「オゾンを含むマイクロナノバブル」については、当然に酸素(空 気)を含むものも想定されていたといえる。
以上に照らせば、本件各発明の特許請求の範囲の「第1の収容槽内にオゾン を含むマイクロナノバブルを供給するオゾン供給手段」と、「第2の収容槽内に 酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」の記載は、特にオゾ ン供給の有無という点において上記課題の解決のための対照的なマイクロナノ バブルの供給手段として記載されているものと解するのが相当であり、「第2の 収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」は、第1 の収容槽への供給手段と異なり、そのマイクロナノバブルにはオゾンが積極的 に加えられているものではなく、その供給手段には、オゾンが積極的に加えら れたマイクロナノバブルを供給する供給手段を含まないというべきである。し たがって、第2の収容槽内にオゾンが積極的に加えられたマイクロナノバブル を供給する酸素供給手段を有する装置は、構成要件Dを充足しないと解される。\n
(3) 被告システムは、前記第2の1(6)のとおり、構成要件Dの第2の収容槽に当\nたる曝気槽内に、酸素及びオゾンを含むマイクロナノバブルを供給する被告装 置を有しており、そのマイクロナノバブルには、オゾン発生装置から得られた オゾンガス、すなわちオゾンと酸素の混合ガスが用いられていて、オゾンが意 図的、積極的に加えられていると認められるから(甲16、18、21、弁論の 全趣旨)、構成要件Dを充足しない。\n
(4) 原告は、被告装置は、オゾンよりも多くの酸素が残存して含まれている上、 当該オゾン自体も活性炭により化学変化させて酸素となることにより、好気性 微生物及び通性嫌気性微生物を活性化させており、十分効果的である旨主張す\nる。
しかし、本件明細書に記載された本件各発明の目的、課題の解決手段等から すれば、本件各発明における「酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素 供給手段」は、前記(2)のとおり解するのが相当である。 また、原告は、オゾンは微量であるが、大気中に存在するし、「オゾン発生装 置」で生成されたオゾンは自然に消滅して酸素に置き換わるものなので、「第2 収容槽内においてはオゾンの量を早期に低減」させることは、2次的な効果に すぎない旨主張するが、前記(1)及び(2)で述べたところによれば、残オゾンを早 期に低減させることが本件各発明の2次的な効果にすぎないといえない。
(5) 以上によれば、被告システムは構成要件Dを充足せず、本件発明1の技術的\n範囲に属しない。

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令和5(行ケ)10115 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年4月11日  知的財産高等裁判所

商標「Nepal Tiger」が識別力なしとした審決が取り消されました。指定商品は 第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」です。令和5(行ケ)10116では、商標「Tibet Tiger」が識別力なしとした審決は維持されています。

商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されて いるのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の産地、販売 地その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表\示と して何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を 認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、 多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される(最 高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・集 民126号507頁)。
そうすると、出願に係る商標が、その指定商品について商品の産地、販売 地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である\nというためには、審決がされた時点において、当該商標が当該商品との関係 で商品の産地、販売又は品質を表示記述するものとして取引に際し必要適切\nな表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場\n合に、将来を含め、商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認\n識されるものであるか否かによって判断すべきである。そして、当該商標の 取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に商品の産地、販売地又 は品質を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構\成やそ の指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。
(2) 本願商標の構成\n
本願商標は「Nepal Tiger」の文字を標準文字で表してなる商\n標である。 「Nepal Tiger」は「Nepal」の文字及び「Tiger」 の文字を組み合わせたものであって、「Nepal」は国家(ネパール)を示 す語であり、「Tiger」は「トラ」を意味する語である(乙1〜4)。
(3) 本願商標及び本願の指定商品に関する取引の実情
ア 以下の新聞記事及びウェブサイトには、ネパールで手織りのじゅうたん の生産がされていることや、我が国で開催された展示会等においてネパー ルで生産された、又はネパールから輸入された手織りのじゅうたん、ラグ が展示、販売されたことに関する記載が存在する。
・・・・
イ 以下の新聞記事、書籍及びウェブサイトには、チベットにおいてじゅう たんの生産が行われている旨の記載、チベットで生産されたじゅうたんを 「チベットじゅうたん」又は「チベタンじゅうたん」と称する旨の記載と ともに、ネパールで生産されるじゅうたんも「チベットじゅうたん」「チベ タンラグ」などと称する旨の記載、又は、チベットからネパールに亡命し た者あるいはネパールに居住するチベット難民がネパールにおいてじゅ うたんの生産を行っている旨の記載が存在する。
・・・・
ク 上記アないしキに掲げた新聞記事、書籍及びウェブサイトのいずれにも、 「Nepal Tiger」又は「ネパールタイガー」との記載は存在し ない。
(4) 検討
ア 上記(3)に掲げた新聞記事、雑誌、ウェブサイトの記載によれば、以下の 事実が認められる。
(ア) ネパールにおいてじゅうたんの生産が行われていること。
(イ) チベットからネパールに移住した者、あるいはチベット難民がネパー ルにおいてじゅうたんの生産に従事しているとするウェブサイト等の 記載が複数存在すること。
(ウ) ネパールで生産されたじゅうたんを「チベットじゅうたん」あるいは これに類する「チベタンじゅうたん」「チベタンラグ」などの名称で表示\nするウェブサイト等の記載が複数存在すること。
(エ) トラの図柄が描かれたじゅうたん又はトラの形状を模したじゅうた んを紹介するに当たって「タイガー」の語を用いているウェブサイトの 記載が複数存在すること。
(オ) トラの形状を模した「チベットじゅうたん」(あるいは「チベタンじゅ うたん」「チベタンラグ」)を「チベタンタイガーラグ」又は「チベタン タイガーカーペット」との名称で表示するウェブサイト等の記載が複数\n存在すること。
(カ) ネパールで生産されたもの又はネパールから輸入したものであるト ラの形状を模したじゅうたんを紹介するウェブサイト等の記載が複数 存在すること。
イ しかし、上記(3)クのとおり、上記(3)アないしキに掲げた新聞記事、書籍 及びウェブサイトのいずれにも、「Nepal Tiger」又は「ネパー ルタイガー」との記載は存在せず、その他本件の全証拠によっても、本願 の指定商品に関連するウェブサイト等の記載において「Nepal Ti ger」又は「ネパールタイガー」の文字が一体として用いられたものが あるとは認められない。
したがって、「Nepal Tiger」の語句が、一体として「ネパー ルで生産された、トラの図柄を描いた、あるいはトラの形状を模した、じ ゅうたん、ラグ」を意味するものとして、じゅうたんの取引者等によって 使用されている取引の実情が存在するとは認められず、その他の本願の指 定商品に関連して「Nepal Tiger」の語句が一体として用いら れる取引の実情が存在するとも認められない。
そして、「Nepal Tiger」は、前記(2)のとおりの意味を有する 「Nepal」の語及び「Tiger」の語を組み合わせたものであると いえるところ、「Nepal Tiger」の語句が一体のものとして辞書 等に採録されているとは認められず、トラに関する亜種の名称や通称名等 として「Nepal Tiger」、「ネパールタイガー」又は「ネパール トラ」と呼ばれるものがあるとも認められない。
そうすると、「Nepal Tiger」の語句は、通常は組み合わされ ることのない「Nepal」の語と「Tiger」の語とが組み合わされ、 まとまりよく一体的に表されたものであるといえることからすれば、これ\nを一体として組み合わされた一種の造語とみるのが相当である。
ウ 本願商標の指定商品は前記第2の1(1)のとおりであり、この指定商品の 内容からすれば、本願商標の取引者はじゅうたん類の製造業者及び販売業 者であり、需要者は一般の消費者であると認められる。 そして、前記イのとおり、「Nepal Tiger」の語句は、これが 本願の指定商品に関連して用いられる取引の実情があるとは認められず、 かつ、一体として組み合わされた一種の造語であるとみるのが相当である ことからすれば、本願商標の取引者及び需要者は、「Nepal Tige r」の語句について、指定商品に係る商品の産地、販売地又は品質を表示\nしたものであると直ちに認識するものではないというべきである。 そうすると、本願商標の取引者、需要者は、「Nepal Tiger」 の語句について「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、 あるいは、トラ形状を模したじゅうたん」、「ネパールで生産又は販売され る、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模した敷物」又は「ネ パールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形 状を模したラグ」を表示するものであると必ずしも認識するものではない\nから、本願商標は、その指定商品に使用された場合に、本願商標の取引者、 需要者によって、商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認\n識されるものであるとは認められない。
エ 以上によれば、本願商標は、取引に際し必要適切な表示として何人もそ\nの使用を欲するものとはいえず、指定商品の産地、販売地又は品質を普通 に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえないから、商\n標法3条1項3号に該当するものとは認められない。

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◆令和5(行ケ)10116

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令和4(ワ)18776  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年4月18日  東京地方裁判所

 既に新聞報道がなされていますが、判決がアップされました。漫画村に対する損害賠償について、東京地裁は、約17億円の損害賠償を認めました。

(1) 著作権法 114 条 3 項に基づく損害について
ア 原告らは、原告らが有する本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害行 為を行った被告に対し、出版権の侵害については著作権法 114 条 3 項に基づき、ま た、独占的利用権の侵害については同項の類推適用により、本件作品の出版権又は 独占的利用権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の 額として、その損害賠償を請求することができるといえる。
イ 利用料率について
(ア) 本件サイトにおいては、ユーザーは無償で本件作品の閲覧が可能であり、ユ\nーザーから閲覧可能とすることの対価を得ていないという意味では、侵害による売\n上高は観念できない。 もっとも、本件作品は、原告らが、別紙作品目録 1〜3 の各「販売価額(税込)」 欄記載の金額で、原告ら又は原告 KADOKAWA の完全子会社の電子配信サイトで電 子配信され、又は、コミック単行本等として販売されていたものである(前提事実 (2))。そうすると、原告らは、本件作品に係る出版権又は独占的利用権に基づき、これらの販売による利益を受けていたものと認められる。
また、本件サイトでは、ファイルをユーザーの端末にダウンロード(複製(いわ ゆる端末のキャッシュは除く。))することなく、いわゆるストリーミング形式によ り無償で閲覧することが想定されていた。もっとも、閲覧にあたり、ユーザーは、 広告の視聴等の制約を受けることなく閲覧することが可能であった。また、本件サ\nイトにおいては、閲覧した画像ファイルの保存操作を制限するような技術や機能は\n採用されておらず、ユーザーにおいて、各画像ファイルをユーザーの端末の記録媒 体に保存することも可能であった(以上につき、前記 1(1)イ)。これらの事情に鑑み ると、ユーザーにとっては、ストリーミング形式での閲覧が想定されているとはい え、本件サイトを通じて本件作品の閲覧が可能である限り、本件サイトにアクセス\nしさえすれば何らの制限なく本件作品を無償で閲覧可能な状態に置かれるといえる。\nこれは、実質的には、ユーザーが本件サイトにアクセスする都度、電子配信された 本件作品を購入したのと異ならない状態が実現されているものと評価することがで きる。
これらの事情その他本件に表れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件におい\nて、被告による侵害行為に対し、原告らが本件作品に係る出版権又は独占的利用権 の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法 114 条 3 項)の算定 にあたっては、別紙作品目録 1〜3 の「裁判所認定損害額」欄記載のとおり、「販売 価額(税込)」欄の金額から 10%を控除した金額に、各作品の閲覧数を乗じた額とす ることが相当である。これに反する原告らの主張は採用できない。 (イ) 被告の主張について 被告は、本件サイトと同規模の漫画閲覧サイト運営者(漫画定額読み放題サービ スサイト)と原告らとの間で締結されるべきライセンス利用契約のライセンス料を 基礎に損害額を算定すべきである旨主張する。
しかし、そもそも、本件作品のうち電子配信の対象となっていない作品(別紙作 品目録 3 の番号 174〜221)については、この主張が妥当する余地はない。 また、その他の本件作品についても、上記のとおり、原告らは、自ら又は完全子 会社が管理・運営する電子配信サイトを通じて有償でのみ電子配信しているのであ って、これらの作品が漫画定額読み放題サービスの対象とされていることを認める に足りる証拠はない。そうすると、原告らにとっては、本件作品を同サービスの対 象とする動機はなく、仮に本件作品を同サービスの対象として利用許諾契約を締結 するとすれば、本件作品の販売価格と同額ないしこれに近い額を利用料として設定 すると考えることには合理性がある。 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 閲覧数
本件調査によれば、平成 29 年 6 月〜平成 30 年 4 月の間の本件サイトへのアクセ ス総数は 億 3781 万超と推計される。また、本件サイトの平均滞在時間は約 分程度でされるところ(前記 1(3)イ)、この平均滞在時間は、漫画作品 1 巻を閲覧する のに一応十分な時間といえる。これを踏まえ、本件サイトにアクセスしたユーザー\nが 1 アクセス当たり漫画 1 巻を閲覧したとすると、上記期間中、本件サイトにおい ては、合計 億 3781 万巻の閲覧があったと推計されるとみてよい。 また、本件調査時に本件サイトに掲載されていた作品巻数は 7 万 2577 巻とされ るから、本件サイトにおける本件作品 1 巻当たりの平均閲覧数は、74回を下回ら ないものとみられる。
この点、被告は、SimilarWeb によるアクセス数の推計は不正確である旨を指摘し て、これを損害額算定の基礎とすることはできないと主張する。 確かに、本件調査の推計が依拠する SimilarWeb による調査結果の信頼性について は、これを疑問視する見解も見受けられるが(例えば乙 6)、本件において、その調 査手法ないし結果の信頼性を疑わせる具体的な事情は証拠上見当たらない。その点 を措くとしても、本件調査においては、平成 29 年 6 月〜平成 30 年 4 月の間におけ る本件サイトへの月平均サイトアクセス数は 4889 万 2057 回とされている(前記 1(3)イ)。他方、被告は本件サイトの管理・運営に関与し、利用者数の状況を把握し 得る立場にあり、現に把握していたと考えられるところ(前記 1(2)、(4))、被告によ れば、令和 4 年 7 月時点の投稿ではあるものの、月間利用者は 8500 万人とされ(前 記 1(4)ア)、また、平成 30 年 2 月時点の本件サイトの月間アクセス数は 1 億 6000 万とされている(前記 1(4)イ)。被告の本件サイト利用者数に関する上記各言及には誇 張が含まれている可能性も否めないものの、上記各数値と本件調査での推計に係る\n数値との乖離の程度等を考慮すると、その可能性を考慮してもなお、少なくとも、\n本件調査結果として推計された閲覧数が本件サイトの現実の閲覧数を上回るものと はうかがわれない。したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
エ 著作権法 114 条 3 項に基づき算定される損害額
以上によれば、本件において、原告らが「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法 114 条 3 項)は、別紙作品目録 1〜3 の「裁判所認定損害額」欄記載のと おり、「販売価額(税込)」欄記載の金額から 10%を控除した金額に、各作品の閲覧 数 74回を乗じた金額と認めるのが相当である。 このような損害額の合計額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3 億 6886 万 9059 円
・原告集英社につき 3 億 90万 9859 円
・原告小学館につき 8 億 1968 万 6790 円
(2) 弁護士費用相当損害金
原告らは、本件訴訟の提起に当たり訴訟代理人弁護士に委任せざるを得なかったものであり、本件に表れた一切の事情を考慮すると、被告の不法行為と相当因果関\n係のある弁護士費用相当損害金の額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3688 万 690円
・原告集英社につき 3902 万 098円
・原告小学館につき 8196 万 8679 円
(3) 小括
したがって、本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害の不法行為に係る原告らの損害額の合計は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 4 億 057万 5964 円
・原告集英社につき 4 億 2923 万 0844 円
・原告小学館につき 9 億 016万 5469 円
なお、原告らは、予備的に著作権法 114 条 1 項に基づき算定される損害額をも主 張する。しかし、原告らの主張を前提としても上記認定に係る損害額を上回ること はないから、この点に関して判断する必要はない。

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令和5(ネ)10010 特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月27日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

1審では、技術的範囲に属するが新規性違反の無効理由有りと判断されました。控訴人は訂正審判を請求するとともに、控訴しました。被控訴人は訂正要件違反の無効理由を主張しましたが、知財高裁は訂正要件違反なしと判断し、差止と約50万円の損害賠償を認めました。

(イ) 乙18分析及び乙24分析における分析対象物である公然実施発明
(引用発明)に基づく進歩性欠如の主張について a 公然実施発明は、公然実施品の具体的な構成又は組成等に基づいて認\n定されるため、通常、その公然実施品自体に課題が記載されていること はなく、何らかの課題があることを認識することは困難であるから、公 然実施発明に基づく容易想到性の有無を判断するにあたっては、公然実 施品から出願日(優先日)当時の技術常識を前提にして技術的思想や課 題を認識できるかどうか、その構成又は組成を変更する動機付けがある\nか否かを検討すべきである。
・・・
c 被控訴人の主張について
(a) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕イ・ウのとおり、 本件特許の優先日前に公然実施された被控訴人製品「無限七星FIS H」の重量平均分子量4.5×104との比較において、「1500 0」という上限値が技術的にいかなる意義を有するのかが不明であ り、本件優先日において、ポリアリルアミンの重量平均分子量上限値 の「15000」と、公然実施発明に係る同「45000」は、いず れもポリアリルアミンの重量平均分子量として広く知られ、一般的に 利用されている範囲内のものであるから、本件発明は、公然実施発明 に基づいて当業者が当然に予測することができたもので、進歩性を有\nしない旨を主張する。
この点につき、乙13(特開昭58−201811号公報)は、モ ノアリルアミンの重合体の製造方法について記載されたものである ところ、アリル化合物が通常のラジカル系開始剤によっては重合し難 いという問題があったことから、ラジカル系開始剤を用いて、モノア リルアミンの高重合度の重合体を製造する方法を提供することを目 的とするものであり、請求項1に記載の特定のラジカル系開始剤(分 子中にアゾ基とカチオン性の窒素原子を持つ基とを含む。)を用いれ ば、モノアリルアミンの無機酸塩が、極性溶媒中で極めて容易に重合 し、高収率で高重合度の重合体が得られることを見出したものであっ て(特許請求の範囲の記載、2頁左上欄及び3頁左下欄)、実施例に は、乙13記載の製造方法によって製造された数平均分子量(Mn) が「6500〜45000」のポリアリルアミンが記載されている。 しかし、乙13は、ポリアリルアミンを水に含有した際の機能につい\nて、また、数平均分子量の違いによる機能の差異について記載ないし\n示唆するものではないから、乙13の記載から、公然実施発明(引用 発明)の「無限七星FISH」について、含有成分であるポリアリル アミンの重量平均分子量等の物性を変更することが動機付けられる ものとはいえない。
また、乙12の1(メディカル社のウェブサイト)には、「PAA 🄬(ポリアリルアミン)」の製品紹介が記載されており、「日東紡が 世界で初めて工業的製法を確立したポリアリルアミン(PAA🄬)は、 一級アミンを主成分とする機能性カチオンポリマー」であり、「様々\nな素材のカチオン化や高機能化に最適」であることや、「お客様の使\n用目的・用途に応じてのご提案も可能」であることが記載され、「ア\nリルアミン塩酸塩重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量 平均分子量(M.W.)が「1,600」(PAA−HCL−01)、 「15,000」(PAA−HCL−3L)、「100,000」(P AA−HCL−10L)等の製品が、また、「アリルアミン(フリー) 重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量平均分子量(M. W.)が「1,600」(PAA−01)、「15,000」(PA A−15C)、「25,000」(PAA−25)等の製品が、それ ぞれ記載されている(1/3−2/3頁)。 また、乙12の2には、メディカル社の研究・開発の歴史について 記載され、「PAA🄬」に関して、「1984(昭和59)年 PA A🄬の(ポリアリルアミン)の重合方法発明および販売開始」、「1 991年(平成3)年 低分子PAA🄬を直接染料用固着剤として用 途開発・販売開始」等の記載がある。 しかし、乙12の1及び乙12の2も、ポリアリルアミンを水に含 有した際の機能や、重量平均分子量の違いによる機能\の差異について 記載ないし示唆するものではないから、乙12の1の記載から、公然 実施発明(引用発明)の「無限七星FISH」について、含有成分で あるポリアリルアミンの重量平均分子量等の物性を変更することを 動機付けられるものとはいえない。
そうすると、乙13、乙12の1及び乙12の2の各記載を考慮し ても、前記公然実施発明(公然実施品)の構成又は組成について、技\n術的思想や課題を認識できるような、本件優先日当時の技術常識があ ったとはいえないから、たとえ、重量平均分子量が「15000」又 は「45000」であるポリアリルアミンが市販されたものであり、 当業者に広く知られ、一般的に利用されているものであったとして も、そのことを根拠に、当業者が公然実施発明のポリアリルアミンの 重量平均分子量等の物性を変更することを当然に予測できるとはい\nえない。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(b) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕エのとおり、本件 明細書にはポリアリルアミンの重量平均分子量につき本件訂正に係 る数値範囲は記載されていないから、当該数値範囲に特別な技術的意 義は認められず、本件明細書には重量平均分子量と発明の効果との間 に因果関係があることも記載されていないから、市販品として容易に 入手可能な重量平均分子量のポリアリルアミンを採用することに困\n難性はなく本件発明は進歩性を有しないと主張する。
そこで本件発明の技術的意義について検討すると、前記アのとお り、本件明細書には、簡便に調製でき、且つ優れた機能を有する機能\ 水を提供することを課題とし(段落【0002】ないし【0010】)、 当該課題を解決するために、機能水に、式(3)(式(3’)を包含\nする。)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含むポリマー 等の多価アミン及び/又はその塩を機能成分として含有することを\n特徴とし、当該機能成分の機能\として、魚介類又は精肉の鮮度保持を 含む種々の機能を有することが開示されている(段落【0012】、\n【0013】、【0015】及び【0026】)。
また、式(3)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含む ポリマーとして、本件発明のポリアリルアミン又はジアリルアミン重 合体に該当するポリマーBが例示されており、その重量平均分子量が 「例えば100〜200,000、好ましくは300〜100,00 0、さらに好ましくは500〜50,000である」こと(段落【0 052】ないし【0055】)、ポリマーBの市販品として、重量平 均分子量が「1600」であるポリアリルアミン(PAA−01)、 「15,000」であるポリアリルアミン(PAA−15C)及び「5, 000」であるジアリルアミン重合体(PAS−21)が開示されて いる(段落【0065】)。
そして、実施例において、具体的に、重量平均分子量が「1600」 若しくは「15,000」であるポリアリルアミン又は重量平均分子 量が「5,000」であるジアリルアミン重合体及び精製水を配合し た試験液を用いて、魚介類又は精肉の鮮度保持を含む種々の機能を確\n認したことが開示されている(段落【0108】ないし【0237】)。 そうすると、本件明細書の記載から、「重量平均分子量500〜1 5000」のポリアリルアミン又はジアリルアミン重合体を含有する 機能水である本件発明には、前記のとおりの機能\を有する点で技術的 意義があることが認められる。
そして、前記(a)のとおり、公然実施発明(引用発明)に基づいて、 その含有成分であるポリアリルアミンの組成に着目し、重量平均分子 量等の物性をあえて変更することについて動機付けがあるとはいえ ないから、前記本件発明との相違に係る重量平均分子量の数値範囲の ものに置換することが容易に想到できたものとはいえない。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和3(ワ)4920大阪地裁

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令和5(行ケ)10095 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月11日  知的財産高等裁判所

色彩の組合せのみからなる商標について、識別力無しとした審決が維持されました。原告は、エルメスです。最後に、包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について裁判所の意見が付言されています。

2 色彩のみからなる商標と商標法3条2項等について
(1) 平成26年法律第36号による改正(以下「平成26年改正」という。) 前の商標法2条1項は、「商標」の定義として、「文字、図形、記号若しく は立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」と規定して おり、文字、図形等と結合していない色彩のみの商標は商標法の保護の対象 外であった。しかし、色彩のみや音といった「新しい商標」を保護対象とす る諸外国の状況もあり、企業のブランド戦略の多様化が進む中で、我が国に おいてもこうした「新しい商標」の保護ニーズが高まることとなり、平成2 6年改正により、色彩のみからなる商標が商標法の保護対象として認められ ることとなった。
しかし、色彩は商品等に自ずと付随する特性という一面を不可避的に有す るところ、通常はこうした商品特性にすぎない色彩が自他商品役務識別力を 有するといえるためには、使用による識別力の獲得その他の特段の事情が必 要になると解される。この点について平成26年改正は何ら触れておらず、 商標法3条1項3号、6号、同条2項等の解釈・適用に(すなわち、色彩以 外の商品特性と同じ土俵での議論に)ゆだねている。その意味で、平成26 年改正は、色彩商標に係る識別力獲得について例外的な取扱いを定めたもの ではないが、同改正の背景に、企業の多様なブランド戦略を支援しようとい う観点があったことを踏まえ、そのような立法趣旨が損なわれないような解 釈運用が求められていると解される。
(2) このような観点から、本願商標の特徴を具体的に検討するに、本願商標は、 別紙商標目録記載のとおり、橙色(RGBの組合せ:R221、G103、 B44)と茶色(RGBの組合せ:R94、G55、B45)の色彩の組合 せからなり、箱全体において橙色、上部周囲に茶色とする構成からなるもの\nである。
願書の商標の詳細な説明の記載に照らすと、本願商標は、全体が橙色の 「箱」状の物品を想定して、その「上部周囲」(上面と側面が接合するライ ンを指すものと理解される。)に沿って、輪郭を縁取るように茶色が付され ている構成からなるものと理解され、その意味で、立体的形状と色彩の結合\n商標類似の要素も含まれているといえる。もちろん、同説明中に「商標見本 における破線は、箱の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素\nではない」と明記されていることから、本来的な意味での立体的形状と色彩 の結合商標ではなく、分類としては「色彩の組合せのみからなる商標」であ ることに変わりはないと解されるが、本願商標が「『立体的形状と色彩の結 合商標』類似の要素も含まれている『色彩の組合せのみからなる』商標」と いう特徴を有することを正しく理解し、その特徴に即応した判断が求められ るというべきである。
(3) 被告は、本願商標の橙色と茶色の色彩、組合せ及び色彩の付される位置は いずれもありふれたものであり、これに近似する表示全般を本願商標と見分\nけることは困難である、本願商標に近似する色彩は、様々な商品の包装箱に おいて多数の事業者によって使用されている実情がある(包装箱等の色彩に 関する被告提示事例)、などと主張する。
確かに、橙色と茶色は同系色で、ファッションの分野でも橙色と相性がよ く合わせやすい色とされている(乙16)と認められるほか、色彩のわずか な違い程度であれば、近似色との識別が困難な場合があること等は、被告の 主張するとおりといえる。
しかし、本願商標は、より商標登録のハードルが高いと考えられる単一色 の色彩商標と異なることはもとより、単なる橙色と茶色の組合せをもって特 定されるものでもなく、上記(2)で述べたとおり、箱全体の橙色とその上部 輪郭を縁取るように付された茶色を組み合わせた特有の構成を有するもので\nある。このような構成は、RGB比率の絶妙なバランスと相まって、明るい\n橙色と落ち着いた茶色のコントラストを通じて橙色の華やかさを強調し、茶 色の縁取りが箱の輪郭のシャープさを印象付けるものであり、特に、茶色を あえて上部周囲だけに使用するにとどめたことで、シンプルな中に気品を感 じさせる構成になっているといえる。これを単純な「ありふれた色彩の組合\nせ」というのは、適切な理解とはいえない。 また、被告は、本願商標が「ありふれた色彩の組合せ」にすぎないと評価 する根拠の一つとして、包装箱等の色彩に関する被告提示事例を挙げている が、この点の被告の主張を採用できないことは、後記5(1)に詳述するとお りである。
・・・
4 本願商標の使用による自他商品役務識別力の獲得について
(1) 前記3の認定事実によれば、原告が展開する「エルメス」ブランドは、我 が国においても相当の長期間にわたる直営店等での商品の販売や公式ウェブ サイトその他のウェブサイト、全国紙、駅構内や百貨店での屋外掲示、原告\nの店舗内外のディスプレイ等における広告宣伝により、著名なものとなって いると認められる。その著名の程度は、我が国における歴史の長さ、圧倒的 な販売実績、一般消費者への露出の多い活発な広告宣伝等を通じて、あるゆ るファッションブランドの中でもトップクラスの地位にあると解される。 また、「エルメス」ブランドの商品の販売時には本願商標を付した本件包 装箱(通称オレンジボックス)が用いられ、「エルメス」ブランドの広告宣 伝においても本件包装箱やその配色をデザイン化したものが意識的・戦略的 に用いられている。
以上の認定に弁論の全趣旨を総合すれば、本件包装箱、ひいては本願商標 は、原告のブランド戦略に明確に位置づけられた「エルメス」の象徴として 用いられているものと認められる。そして、このような本件包装箱の使用及 び宣伝広告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッション ブランド商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付 した本件包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」ブラ ンドに係るものであるとの認識が広く浸透しているものと認められる。
(2) しかし、本願の指定商品及び指定役務は別紙商標目録のとおり多岐にわた り、その中には第3類の革用クリーム、第14類の時計、キーホルダー、第 16類の紙製箱等、文房具類、日記帳、写真立て、第18類のリュックサッ ク、カード入れ、傘のように、安価な日用品として取引されることが少なく ないものが含まれているから、その需要者は広く消費者一般であると解する のが相当であり、「エルメス」のような高級ファッションブランド商品の購 入者やこれに関心を有する消費者に限られないというべきである。 そのような一般消費者を基準に考えた場合、「エルメス」ブランド自体は 広く知られているにしても、これを認識させる具体的な標章としては、著名 な「HERMES」の文字商標や馬車と人を描いた図形商標である可能性も\nあり、これら文字商標や図形商標を離れて、色彩商標である本願商標それ自 体から「エルメス」ブランドを認識できるようになっているとまで、直ちに 認めることはできない。
・・・
(6) 小括
以上に述べたところを要約すると、第1に、本件包装箱の使用及び宣伝広 告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッションブランド 商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付した本件 包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」に係るもので あるとの認識が広く浸透しているものと認められるが、本願の指定商品及び 指定役務に照らすと、本願商標の需要者としては一般消費者を想定すべきで あり、そうした需要者を基準に考えた場合、本願商標それ自体から「エルメ ス」ブランドを認識できるに至っていると即断することはできない。本件各 アンケート調査の結果も、この点の認定証拠として不適当である。第2に、 本願の指定商品のうち第3類の香料及び第16類の紙製箱等並びにこれらの 商品に係る第35類の小売等役務については、本願商標の使用の事実が認め られず、これら指定商品・役務について、本願商標の使用による自他商品役 務識別力の獲得を認めることはできない。 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告主張の取消事 由は認められないことに帰する。本件審決が、指定商品との関係で商標法3 条1項3号該当性を認めた上同条2項の適用を否定した判断、指定役務との 関係で同条1項6号該当性を認めた判断に誤りはない。
5 その他の論点について
以下は、本件訴訟の帰趨に影響を及ぼすものではないが、包装箱等の色彩に 関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について、当裁判所の考えを 示しておく。
(1) 包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価について
ア 商品の包装箱等についての取引の実情として、別紙2「商品の包装箱等 についての色彩の事例」にある包装箱等が、原告以外の事業者によって製 造、販売されていることが認められる。
イ そこで、被告提示事例を個別に検討するに、事例イ(イ)(乙39)、事 例イ(ウ)(乙40)及び事例ウ(ア)(乙50、51)は、本願商標の色彩 及びその配色の特徴が比較的類似していると解されるが、このうち、事 例イ(ウ)及び事例ウ(ア)は、本願の指定商品及び指定役務と異なる洋菓子 (キャラメル、パイ)の包装箱に関するものである上、証拠(甲170、 171)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、事例イ(ウ)の商品は原告の 知的財産権を侵害するものであるとして、警告書を送付して相手方事業 者と交渉したところ、相手方事業者は、令和5年10月までに、当該商 品の展示販売を中止するとともに、「本件色彩(箱全体に橙色、上部周 囲に茶色の色彩)がエルメスの商品及び役務を示す表示として広く認識\nされていることを理解し、今後は本件商品(本件色彩と類似する色彩を 付したギフト箱)及び本件色彩と類似の色彩を付したギフト箱を展示販 売しないことを誓約いたします」との誓約書を原告に差し入れたこと、 原告は、これ以外にも、侵害品と判断した商品を発見した場合、同様の 対応をしており、警告書の送付を行うケースは年間30〜40件程度あ ること、事例イ(イ)についても、対応を検討中であることが認められる。 これに対し、被告は、事例イ(ウ)の商品につき、販売中止の理由は明ら かでなく、これを模倣品とみるべき根拠はない旨主張するが、当該商品 の形態及び上記誓約書の文言を総合すれば、相手方事業者は、当該商品 の製造販売が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たることを自 認して販売を中止したものと推認できる。
そうすると、このような侵害品が市場に存在するとの事実は、本願商 標の色彩及びその配色の特徴がありふれたものであることを根拠づける ものではなく、むしろ、本件包装箱(本願商標)の色彩及びその配色の 特徴が高い顧客吸引力を有することを示唆するものといえる。
ウ 包装箱等の色彩に関する被告提示事例のうち、上記イで触れたもの以外 の事例は、本願商標の特徴である茶色の縁取りが全くないか、その範囲 が本願商標と異なり、「上部周囲」以外にも及んでいるようなものであ って(本願商標が茶色をあえて上部周囲だけに使用していることは上述 のとおりであり、その違いは全体の印象に大きく影響する。)、本願商 標の色彩及びその配色がありふれたものであることを根拠づけるものと はいえない。
この点に関し、被告は、商標の類否は離隔的観察を前提とすべきこと からすれば、箱の大部分に橙色、縁等にわずかに茶又は近似する色が使 用されているものも、本願商標と見分けることは困難であると主張する。 しかし、この主張は、前記2(2)で述べた本願商標の特徴を的確に踏まえ たものといえない上、本願商標の使用、宣伝広告等を通じて需要者の認 識が変化することも踏まえて検討すべきものであって、一概に被告主張 のように決めつけることはできないというべきである。
(2) 独占適応性の問題について
被告は、本願商標の登録を認めた場合、多数の事業者によって広く使用さ れている色彩について、本願商標に類似すると判断され得る使用態様が事実 上制限されることになり、ファッション分野を中心に、色彩使用の自由が著 しく制限され、他の事業者に著しい委縮効果を及ぼすことになる旨主張する。
しかし、まず、本願商標は、単なる橙色と茶色の組合せをもって特定され るものではなく、箱全体の橙色とその上部輪郭を縁取るように付された茶色 を組み合わせた特有の構成を有するものであって、その商標登録を認めたか\nらといって、単純に色彩の独占がもたらされるわけではないし、このような 特有の構成を備えた色彩の組合せが多数の事業者によって広く使用されてい\nるという取引の実情が認められるわけでもない(上記(1)参照)。また、仮 に本願商標の登録が認められたとしても、これに類似すると判断される使用 態様は、実際上、不正競争防止法2条1項1号の不正競争にも当たる場合が 少なくないと解され(被告提示事例イ(ウ)の販売中止の経緯参照)、その委 縮効果を過大に評価すべきでない。

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令和5(行ケ)10034  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月27日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。知財高裁は、新規性違反、冒認出願違反であると判断しました。

(2) 甲53の1文書について
ア 甲53の1文書は、ベルベット織りの立毛シートの製造工程を示すものとし て交付されたものであり、別紙2のとおり、「「生機投入」→「スチームセット」→ 「ドライセット」→「糊抜き」→「脱水」→「染色」→「脱水」→「乾燥(ブラシ)」 →「ブラシ※ブイテック様」」との工程が記載されている。
イ 「生機投入」の部分により、製織工程と切断工程が開示されているといえる かという点について争いがあるので検討するに、「生機」とは「織り上げて織機から はずしたままの織物」を意味するところ(甲114・大辞林第四版)、ベルベット織 りの織り機は、織ると同時に切断も行うことから一度に2枚分が織り上がるもので あって、「織り機からはずしたままの織物」は、切断後の織物であると認められるか ら(甲40、112)、「生機投入」との記載から、甲53の1文書を受領した当業 者は、当然に、製織工程と切断工程を経た生機が投入されると理解すると認めるの が相当である。そして、甲53の1文書の「生機投入」の使用機器欄に記載された 「ZQ40 4mm」はパイル長4mmのポリエステル製パフ用の立毛シートの生 機の品番を意味するものと認められ(証人C〔28頁〕)、ポリエステルは熱可塑性 繊維であるから(本件明細書【0020】等)、甲53の1文書の「生機投入」工程 の記載により、本件各発明の製織工程と切断工程が開示されていると認められる。
ウ そして、甲53の1文書の「スチームセット」は本件各発明の「蒸し工程」 に、「ドライセット」は本件各発明の「プレセット工程」に、「糊抜き」は本件各発 明の「精練工程」にそれぞれ相当する(証人A〔5〕)。また、「染色」は本件各発明の「染色工程」に相当し、「染色」の次に記載された「脱水」は、真空脱水とあるか ら脱水機を用いたものであることが明らかであって、本件各発明の「脱水機により 前記染料を脱水する脱水工程」に相当する。さらに、「乾燥(ブラシ)」はドライセ ッターで150゜C)で乾燥させるものであるから、本件各発明の「前記立毛シートを 熱風で乾燥させる乾燥工程」に相当する。なお、特許請求の範囲の記載及び本件明 細書の記載を総合しても、本件発明1の乾燥工程から、ブラシを用いるものが除外 されているとは認められない。
エ そうすると、甲53の1文書に記載された工程は、本件発明1を構成する工\n程を全て含むものであるから、本件発明1を開示するものといえる。 オ この点、被告は、甲53の1文書記載の工程では、精練工程の後に脱水をし ていること、タンブラー乾燥をしていないこと、使用液剤に酸性の液剤が含まれて いないこと等から、本件各発明とは異なると主張する。しかしながら、本件発明1 の特許請求の範囲の記載に照らすと、請求項1に記載された工程を全て含む必要が あるとはいえるものの、同工程のみを含むものに限定されており、別の工程が付加 されたものが除外されているものと理解することはできない。そして、本件明細書 の記載に照らしても、本件発明1は、請求項1に記載された工程のみを含むものに 限定されていると理解することはできない。そうすると、「精練工程の後に脱水」を していることをもって本件各発明とは異なるということはできない。また、タンブ ラー乾燥は本件発明3を構成する要素ではあるものの、本件発明1を構\成するもの ではない(なお、前記2(5)(8)のとおり、タンブラーを利用した乾燥工程は、平成 18年頃から新栄染色で行われていたものと認められるが、当時、当該乾燥工程の 存在及び内容が秘密事項として管理されていたことをうがわせるような主張立証は ない。そもそも、甲12(パイル織編物の仕上げ方法に関する公開特許公報(昭6 2−191566号))中にもパイル織物の染色加工後、タンブラー乾燥機で乾燥す る旨の記載があることにも照らすと、本件各発明の出願時において、少なくとも、 熱可塑性繊維のパイル織物についてタンブラーを利用して乾燥する工程自体は公知 であったと考えられる。)。さらに、酸性の液剤を使用することは本件各発明の技術 的範囲に含まれるものではなく、その他の被告の指摘する事項はいずれも本件各発 明を構成する事項ではない。したがって、上記被告の主張はいずれも前記エの判断\nを左右するものではない。 被告は、甲53の1文書の工程は開発途中のものであって技術として確立してい なかったとも主張するが、前記2(9)のとおり、同工程は、平成23年10月頃、新 栄染色において、現に商品の製造に用いられていた工程なのであるから、これが発 明に当たるとすれば、発明として完成していたのは明白である。
(3) 甲2文書について
甲2文書は、前記2(11)のとおり、ベルベット織りによる立毛シートの製造工程 を示すものとして交付されたものであり、別紙3のとおり、「織り」→「蒸しセット」→「PS」→「精練」→「染色」→「乾燥」の各工程が記載されたものである。甲 2文書に記載された工程について前記(2)と同様に検討すると、甲53の1文書に 記載された工程と同じであり、本件発明1を開示するものであると認められる。な お、「織り」が製織工程と切断工程を含むことについては前記(2)イと同様であり、 「PS」はプレセットを意味するものと認められる(証人A〔34頁〕)。また、甲 2文書の工程には「乾燥」の前の「脱水」が記載されていないものの、乾燥する前 に脱水を行うことは当然であるから、当業者は、甲2文書により、脱水工程を含む ものが開示されているものと理解すると認められる。
(4) 小括
そうすると、本件発明1は、平成23年10月頃には公然知られていたと認めら れるから、本件発明1に係る特許は特許法29条1項1号の規定に違反してされた ものであって、特許法123条1項2号の無効理由がある。 したがって、甲2生産工程(甲2文書に記載された工程であり、かつ甲53の1 文書に記載された工程)が公然知られたものとはいえず、本件発明1が特許法29 条1項1号に該当しないとする本件審決の判断には誤りがあるから、取消しを免れ ない。
4 取消事由4(冒認出願についての判断の誤り)について
(1) 冒認出願を理由として無効審判請求をすることができるのは特許を受ける権 利を有する者に限られるから(特許法123条2項、1項6号)、原告は、自らが特 許を受ける権利を有する者であることを証明する必要がある。そして、原告が主張 する本件各発明に係る特許を受ける権利は、Bが発明者として有していた本件各発 明に係る特許を受ける権利に由来するものであるから、原告が特許を受ける権利を 有する者であるといえるためには、Bが本件各発明の発明者であると認められる必 要がある。
(2) ここで、発明者とは、発明の技術的思想の創作行為に現実に加担したもので あって、課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与した者をいう ところ、前記1(2)によると、本件各発明の特徴的部分は、蒸し工程と乾燥工程の双 方を用いることにより、高い立毛性を得ることにあり、本件発明3については、こ れに加えて、タンブラーを使用することでブラッシング付き乾燥機を要しないもの となったことにあると認められる。
(3) 前記2(9)及び前記3(2)のとおり、本件発明1は平成23年10月までに完 成していたということができる。前記2の経緯及びAが、新栄染色のAとして作成 した平成21年7月1日付け文書(甲128の3)に、「現況のB流を60点とする と80点迄は持っていける」と記載していたことからすると、新栄染色では、平成 21年7月当時、Bが指導した工程により染色加工が行われていたことが認められ、 これに反する証拠はない。そして、前記2のBの職歴や本件訴訟に提出されたBが 作成したメモ(甲132)、Bが、新栄染色設立以前にも昌和染色に対し染色工程を 指導するなどしていたこと(甲1の1、証人C〔29頁〕)に照らすと、Bは、立毛 シートの染色加工に関し、創意工夫を凝らして発明をするに足る十分な知見を有し\nていたことが推認されるのであり、Bが、その陳述書(甲1の1)において、昭和 40年代の後半、プレセットの前に蒸し工程をするという工程を開発した経緯等と して、株式会社杣長からポリエステルなど合成繊維のパフ用ベルベット織物(立毛 シートの半製品)の製造委託を受けたが、ポリエステルでは、シルクやレーヨンと は異なり、ピン式ヒートセッターでピン止めして吊るしてプレセットを行うとピン 付近とそれ以外の部分が不均質になるという問題があったことから、プレセット前 に蒸し工程を行い、ポリエステルを収縮させてからプレセットをしたところ、パイ ルが立毛になるという効果があったこと、蒸しは蒸し箱内にベルベット織物を垂下 させて高温水蒸気で蒸すものであり、Bが条件を90〜110゜C)、2時間と指示し て行ったこと、パイル長が2〜3mmであったことなど、開発の経緯及び内容を具 体的に陳述していることは、これと整合するものである。
また、Bは、昭和50年代から、京都において、日本化工有限会社の従業員とし てハセガワベルベットから委託を受けた染色加工工程に関与し、平成元年に有限会 社新栄テキスタイルを設立した後も、同社において被告から染色加工の委託を受け ていたこと、同年頃までにBが作成したとされるメモ(甲132の2)には、染色、 脱水後の乾燥をタンブラーで行う旨の記載があること、平成18年に、新栄染色が 設立された際、BはAからの誘いにより代表取締役に就任したこと、その頃、Bが\n京都からタンブラー乾燥機を新栄染色に持ち込んで設置したこと、新栄染色におい ても、Bは染色加工業務を担当し、被告代表者であったCに対し、染色加工の具体\n的内容を指導していたことは、前記2(3)から(6)までのとおりである。以上を総合 すると、Bは、遅くとも新栄染色を退職する平成21年3月よりも前に、本件各発 明をいずれも完成させていたものと推認するのが相当である。 なお、被告は、Bの陳述書(甲1の1)にパイル長が2〜3mmであったとある から、Bには短いパイル長のものに係る知見しかなかったと主張するが、本件各発 明の特許請求の範囲(請求項4)には「切断工程後のパイル糸の長さを、織物基布 から3〜10mmの範囲で突出させる」とあるから、パイル長が3mmのものは、 本件各発明の技術的範囲に含まれるものであり、上記被告の主張は、Bが本件各発 明をするに必要な知見を有していたとする上記判断を左右しない。
(4) これに対し、Aは、本件の審判手続における尋問では、本件各発明のキーポ イントは蒸し工程であり、蒸し工程の後にヒートセット(プレセット)を加えるこ とにたどり着いた、長い間、蒸し工程をいれないでやっていた(甲74の3・06 4項目、130項目、131項目、149項目)と述べ、本件訴訟においても、被 告は、令和5年11月8日付け被告準備書面(2)2頁においては、本件各発明をする 前の短いパイル糸のベルベットに関する新栄染色の染色工程には蒸し工程及びプレ セットが含まれておらず、長いパイル糸のベルベットを製造することができなかっ た旨主張し、それに沿う内容のAの陳述書(乙8)を提出した。ところが、被告は、 同年12月19日付け被告準備書面(3)5頁では、本件各発明をする前にも新栄染 色では長いパイル糸のベルベットの製造をしており、その工程には蒸し工程が含ま れていたがプレセットが含まれていなかったと主張を変更し、更に、令和6年1月 22日付け被告準備書面(4)では、短いパイル糸の染色工程にも蒸し工程が含まれ ていたと主張を変更し、変更後の主張に沿う内容のAの陳述書(乙11)を改めて 提出した。この主張内容及び陳述内容の変更は、発明の課題そのものや発明の必要 性、発明の創作過程に極めて大きな影響を与えるものであるから、真にAが発明者 であるのであれば、単なる記憶違いなどによって上記のごとくその内容を変遷させ るとはおよそ考え難い。なお、前記2(6)のとおり、新栄染色では当初は外注により、 遅くとも平成19年からは自社で蒸し工程を実施していたのであるから、新栄染色 が以前は「蒸し工程をしていなかった」との被告の従前の主張は事実とは認められ ない。
さらに、被告の主張によると、従前の新栄染色の染色工程においてはプレセット を行っていなかったことになるが、Aが述べる試行錯誤の内容は、プレセットにつ いては、それを行う順番を試行錯誤したというものであって、プレセットを入れる こととした理由については何ら説明をしていない。このことは、当時、既にプレセ ット工程自体は存在しており、Aは専らその工程の順番について試行錯誤していた ことをうかがわせるものである。また、Aが蒸し工程について試行錯誤した内容と して述べる条件は、「90゜C)の蒸気で、0分、30分、60分、120分」と試した というものであって、「95〜110゜C)で2〜3時間蒸す」(【0022】)という本 件明細書の記載と合致しない。Aは、本件の審判手続の尋問において、自ら発明ノ ートを作成したことはないことを前提とした発言をしているが(甲74の3・13 5項目)、これは試行錯誤を繰り返していたはずの発明者としておよそ不自然とい うほかない。
被告は、本件各発明においては乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いることが重要 である旨主張する。しかし、前記2(5)(8)のとおり、新栄染色には、平成18年頃 から既にタンブラー乾燥機が設置されており、平成23年頃にはその台数が3台に 増加していたことが認められる。Bらが作成し、平成21年8月20日に被告大阪 営業所からFAX送信されたものと認められるメモ(甲106)によっても、遅く とも同日までには、新栄染色では、乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いていたこと がうかがえる。前記2(10)のとおり、A自身が作成した平成24年1月10日付け メモ(甲100の3)にも、新栄染色に関し、タンブラー方式はコストが高いこと から平成24年中旬にテンター方式へ変更する旨の記載がある。これらの点に照ら すと、遅くとも、平成24年までには、ベルベット織物の製造分野において乾燥工 程にタンブラー乾燥機を利用することは普通に行われていたと認めるのが相当であ るから、本件各発明において創作されたものとは認められない。Aは、中和剤を用 いることで精練工程の後の脱水工程を省略し、ウィンス機で精練工程と染色工程が できるようになったと証言しているが(証人A〔6頁〕)、そもそも中和剤を用いる ことは本件各発明の特許請求の範囲に記載された事項ではなく、本件明細書には「ウ ィンス機を使用して、」「立毛シートを処理液(例えば、アルカリ剤、非イオン活性 剤)中に順次送り込んで洗浄する」(【0024】)との記載があるものの、中和剤を 用いることで脱水工程を省略することができる旨の記載はないから、結局、上記A の証言は、それが発明について述べたものだとしても、本件各発明とは関係のない 別の発明について述べるものにすぎない。Aは、小型、大型、中型のタンブラーで 試し、中型のタンブラーを用いることで目的を達成することができたとも証言して いるが(証人A〔9頁〕)、本件発明3の特許請求の範囲にはタンブラーの大きさに ついての言及はなく、本件明細書の記載を考慮しても、「タンブラー」の大きさは不 明であり、特許請求の範囲に記載された「タンブラー」が「中型のタンブラー」で あり、タンブラーの大きさが何らかの技術的意義を有するものであると解すること ができるような記載もない。
以上を総合すると、Aが染色工程につき様々な工夫をしたことがあったとしても、 いずれも本件各発明に係る特許請求の範囲の内容に含まれるものではないから、本 件各発明の発明者がAであるとの被告の主張を採用することはできない。他にBが 平成21年3月よりも前に本件各発明をいずれも完成させていた旨の前記認定を覆 すに足りる主張立証はない。
(5) したがって、本件各発明に係る発明者はBであると認めるのが相当であるか ら、本件の出願は冒認出願に当たり、本件特許には特許法123条1項6号の無効 理由がある。また、原告は、Bから特許を受ける権利の一部について譲渡を受け(甲 16)、残部はBの相続人の全員が相続放棄したことにより原告に帰属したから(甲 110、111)、本件各発明に係る特許を受ける権利を有する。 よって、本件特許について冒認出願の無効理由がないとした本件審決の判断には 誤りがある。

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令和5(行ケ)10131  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月27日  知的財産高等裁判所

商標「hololive Indonesia」について、「インドネシアで生産された商品」あるいは「インドネシアに関連する役務」等と認識されるとして、4条1項16号(品質誤認)違反の拒絶理由があるとして、拒絶審決となりました。知財高裁は審決を維持しました。

(1) 商標法4条1項16号について
商標法4条1項16号の趣旨は、商標を構成する文字、図形等が直接的に\n特定の商品の特性を表示したものであるため、当該商標が特定の商品以外の\n商品に使用された場合に、取引者、需要者が商品の品質を誤認して、商品を 購入することがないように取引者、需要者の保護を図ることにある。取引者 又は需要者において、本願商標の構成から将来を含め一般に認識される特性\nを有する特定の商品と指定商品とが関連し、かつ、本願商標が表示している\n特定の商品の特性と指定商品が有する特性が異なるため、本願商標を指定商 品に使用した場合に、本願商標が使用された「商品の品質の誤認を生ずるお それ」があることになる。
(2) 本願商標について
ア 本願商標は、「hololive Indonesia」の文字を標準 文字で表してなるものであり、「hololive」の文字と「Indo\nnesia」の文字との間には、1文字分の空白があり、「hololi ve」の文字と「Indonesia」の文字を組み合わせたものと理解 される。 「hololive」の文字は辞書に載っていない造語であり、自他商 品の識別力を有するものである。「Indonesia」の部分は、我が 国における英語ないしローマ字の普及度からみて、需要者において、「イ ンドネシア」と読むこと、「東南アジア群島部にある共和国」(乙1)で あるインドネシアを欧文表記したものであることが容易に理解できるも\nのと認められる。 そして、我が国において、国名としてのインドネシアは広く知られてい る(乙2〜4)。
イ 各種ウェブサイトによれば、自他商品又は自他役務の識別力を有する文 字と、「インドネシア」あるいは「Indonesia」の文字を組み合 わせたものとして、「(Zalora Indonesia ザローラ・ インドネシア)」(乙8、ファッション)、「(Reebonz Ind onesia リーボンツ・インドネシア)」(乙8、主にバッグ、靴、 ジュエリー)、「(Ree Indonesia リー・インドネシア)」 (乙8、インドネシアのデザイナーが製作した衣料ブランドを取り扱う。)、 「マクドナルドインドネシア」(乙9、ファストフード)、「丸亀インド ネシア」(乙10、うどん)がある。そして、これらは、いずれも、イン ドネシアで生産される物又はインドネシアで提供される役務に関するも のである。
ウ 本願の指定商品及び指定役務には、例えば、第3類「化粧品」「香料」、 第9類「スマートフォン用ストラップ」「コンピュータ用ゲームソフトウ\nェア(記憶されたもの)」「コンピュータ用ゲームソフトウェア(電気通\n信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)」「眼鏡の部品及び 附属品」、第14類「貴金属,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品」「キ ーホルダー」「身飾品」「時計」、第16類「文房具類」、第18類「か ばん類」「傘」、第21類「貯金箱」「お守り」、第24類「布製身の回 り品」「布団」、第25類「被服」「履物」、第26類「頭飾品」、第3 5類「織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対す る便益の提供」「おもちゃ・人形及び娯楽用具の小売又は卸売の業務にお いて行われる顧客に対する便益の提供」「楽器及びレコードの小売又は卸 売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」、第41類「電子出 版物の提供」「インターネットを利用して行う映像の提供、映画の上映・ 制作又は配給、オンラインによる映像の提供(ダウンロードできないもの に限る。)」「ビデオオンデマンドによるダウンロード不可能な映画の配\n給、映画の演出(広告用映画の演出を除く。)」「オンラインによるゲー ムの提供」及び第43類「飲食物の提供」等、一般消費者が需要者となる ものが含まれている。
各種ウェブサイトには、これらの指定商品又は指定役務に対応する商品 又は役務であって、インドネシアで生産等されたもの、あるいはインドネ シアに由来するものとして、例えば、化粧品、香水(乙31)、香油(乙 35)、携帯ストラップ(乙38)、コンピュータゲーム(乙32、36)、 眼鏡スタンド(乙37)、宝石(乙39)、キーホルダー(乙24)、宝 飾品(乙28)、時計(乙29)、ペンケース(乙27)、かごバッグ(乙 26)、傘(乙40)、貯金箱(乙43)、お守り石(乙41)、ブラン ケット、タペストリー、テーブルクロス(乙30)、布製インテリア(乙 42)、クッションカバー(乙44)、被服(乙25)、パンプス(乙4 6)、ヘアアクセサリー(乙47)、電気敷毛布(乙45)、置物(乙4 9)、楽器(乙48)、インドネシア制作の映画(乙34)、インドネシ ア料理(乙33)等が、我が国で販売ないし提供されていることが示され ている。
エ 以上のとおり、1)本願商標のうち「hololive」の部分は造語で あり自他商品又は自他役務の識別力を有するのに対し、「Indones ia」の部分は、一般に知られた東南アジアの共和国であるインドネシア を意味することは需要者において容易に理解できること、2)自他商品又は 自他役務の識別力を有する文字と、「インドネシア」あるいは「Indo nesia」の文字を組み合わせたものがインドネシアで生産される物又 はインドネシアで提供される役務に関して使用されていること、3)本願の 指定商品及び指定役務には一般消費者が需要者となるものが含まれ、これ に対応する商品又は役務でインドネシアで生産等されたもの、ないしはイ ンドネシアに由来するものが我が国で販売ないし提供されていることが 認められるのであって、そうすると、本願商標をその指定商品及び指定役 務について使用するときは、これに接する需要者は、その構成中の「In\ndonesia」の文字から、インドネシアで生産又は販売された商品や、 インドネシアに関する役務といった商品の品質又は役務の質を通常理解 するものというべきである。 一方、本願の指定商品及び指定役務は、インドネシアに関するものに限 定されていないから、インドネシアで生産又は販売された商品以外の商品 やインドネシアに関する役務以外の役務も含むことになる。 以上によると、本願商標をその指定商品及び指定役務中、インドネシア で生産又は販売された商品以外の商品や、インドネシアに関する役務以外 の役務に使用した場合には、商品又は役務の質の誤認を生じさせるおそれ があるから、本願商標は、商標法4条1項16号に該当するというべきで ある。
(3) 原告の主張について
ア 原告は、本願商標の使用に係る指定商品及び指定役務は、バーチャルア イドルであるVTuberグループ関連の商品及び役務、いわゆるキャラ クターグッズ等であり、当該グループ又はその構成員キャラクターのファ\nン以外の者が、本願商標を構成する「Indonesia」の文字が前記\nグループ及びキャラクターの活動拠点であることを知らずに、「インドネ シアで生産された商品」あるいは「インドネシアに関連する役務」等と認 識して購入することは考えられず、本願商標の使用に係る指定商品及び指 定役務は、原告のウェブサイトを中心に提供されていることからも、上記 ファン以外の者が本願商標に触れることは考えにくい旨主張する。 しかし、本願商標の指定商品及び指定役務の需要者はVTuberグ ループのファンに限られるものではなく、また、原告の主張からしても、 原告のウェブサイトのみでこれらの商品が提供されているわけではない のであって、原告の主張は採用できない。
イ 原告は、本願商標は、仮想的アイドルグループの名称として使用され、 かつ、当該仮想的アイドルグループ関連の商品及び役務に使用されるもの であるところ、地域的名称を含む芸能人グループの名称の使用に係る商品\n等において、当該地域的名称は、当該商品の生産地等とは認識され得ない 旨主張する。 しかし、一般需要者において、本願商標が芸能人グループの名称である\nと認識するような事情は認められず、原告の主張は前提を欠くものである。
ウ 原告は、YouTubeにおける「hololive」、「holol ive Indonesia」及び「hololive Indones ia」に属する個々のVTuberのチャンネルの登録者は延べ806万 人以上になるから(甲14〜24)、本願商標は原告のVTuberのア バターであるキャラクターのグループ名称を表すものとして需要者に広\nく認識されている旨主張する。
しかし、「hololive」のチャンネルの登録者は185万人である (甲14)ものの、その他の各チャンネル(甲15〜24)については、映 像等の多くが欧文字で投稿されていることから、登録者のうちどの程度が 日本の需要者であるのかの裏付けはないというべきで、「hololiv e」、「hololive Indonesia」が原告のVTuberの アバターであるキャラクターのグループ名称を表すものとして我が国の需\n要者に広く認識されていると認めることはできない。
エ 原告は、商標に国名が含まれる場合に直ちに誤認混同を生じると認定す る国は日本のみであり、不当である旨主張する。 しかし、本件審決は、商標に「Indonesia」の文字が含まれるこ との一事をもって本願商標が商標法4条1項16号に該当すると認めたわ けではなく、本願の指定商品及び指定役務に係る需要者の範囲とその認識 等について個別に検討・判断しているところ、その判断手法は相当である から、原告の主張は採用できない。

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令和5(行ケ)10068 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月27日  知的財産高等裁判所

商標「O!OiMAIN」が、マルイの商標「〇|〇|」とは非類似、混同なしと審決が、前者の非類似との判断が間違っているとして、取り消されました。

別紙登録商標目録記載のとおり、本件商標は、「O」、「!」、「O」、「i」、 「M」、「A」、「I」及び「N」の各文字又は符号を同じ書体(やや斜字のゴシ ック体様の黒の書体)、同じ大きさ及び等しい間隔で一連に横書きしてなるもので あり、これらの文字又は符号は、まとまりよく一体的に構成されている。もっとも、\nその中の「M」、「A」、「I」及び「N」の各文字は、「主要な」等の意味を有 し、我が国において日常的に広く用いられる「メイン」の語に相当する英単語であ る「MAIN」の語を構成するものであるから、この「MAIN」の語は、ひとま\nとまりの単語として強く認識されるというべきである。
(ウ) O!Oi部分
「O!Oi」が辞書等に搭載された語であり、又は一般的に用いられている語で あると認めるに足りる証拠はないから、O!Oi部分は、特定の意味合いを有しな い一種の造語であり、それゆえに、平易な英単語のみからなるMAIN部分との対 比において視覚的に目立つものである。そして、前記(ア)のとおり、被告が代表者\nを務めるファインドフォーム社は、その製品に「OIOI」、「OiOi」、 「O!Oi」等の標章を付して販売するなどしている。このような取引の実情(な お、「OIOI」又は「OiOi」の標章と「O!Oi」の標章とが変わりのない ものと理解し得ることについては、後記ウ(ア)のとおりである。)を併せ考慮する と、O!Oi部分は、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識としての印象を強 く与えるものであると認めるのが相当である。
(エ) MAIN部分
「MAIN」の語は、前記(イ)のとおり、「主要な」等という意味を有する英単 語であり、かつ、それが多くの場合、形容詞として他の語を修飾するために広く用 いられている語であることは、公知の事実である。「O!Oi」の語が特定の意味 合いを有しない一種の造語であり、視覚的に目立つものであって(前記(ウ))、前 記(ア)の取引の実情において商品の出所識別標識としての印象を強く与えるような 形で使用されているのに対し、「MAIN」の語については、そのような事情は見 当たらない。すなわち、MAIN部分は、「MAIN」の語の通常の意味に照らし ても、取引の実情においても、商品の出所識別標識としての印象は、O!Oi部分 が与えるそれと比較して、相当程度に弱いというべきである。
(オ) 本件商標の分離観察の可否についての小括
以上によると、本件商標のO!Oi部分は、取引者、需要者に対し商品の出所識 別標識として強く支配的な印象を与えるといえ、前記(イ)の本件商標の構成を考慮\nしても、本件商標の各構成部分(O!Oi部分及びMAIN部分)は、それらを分\n離して観察することが取引上不自然であると思われるほどに不可分的に結合してい ると認められないから、本件商標については、その構成部分の一部であるO!Oi\n部分を抽出し、O!Oi部分だけを各引用商標と比較して商標の類否を判断するこ とも許されると解するのが相当である。
ウ 本件商標のO!Oi部分と引用商標3の類否 事案に鑑み、本件商標との類否判断の対象として、引用商標3を取り上げる。
(ア) 外観
別紙登録商標目録記載のとおり、本件商標のO!Oi部分は、「O」、「!」、 「O」及び「i」の各文字又は符号を同じ書体(やや斜字のゴシック体様の黒の書 体)、同じ大きさ及び等しい間隔で一連に横書きしてなるものであり、これらの文 字又は符号は、まとまりよく一体的に構成されている。\n別紙引用商標目録記載3のとおり、引用商標3は、「〇」、「|」、「〇」及び 「|」の各記号を同じ書体(ゴシック体様の赤の書体)、同じ大きさ及び等しい間 隔で一連に横書きしてなるものであり、これらの記号は、まとまりよく一体的に構\n成されている。
ここで、引用商標3の「|」の記号は、「I」の文字を図案化したものとして、 両者は実質的には変わりのないものとの印象を与え得るものであり、また、「I」 の文字と「i」の文字は、互いにアルファベットの大文字・小文字の関係にあるに すぎないから、これらも、実質的には変わりのないものと理解され得るといえる。 さらに、証拠(甲65〜77)及び弁論の全趣旨によると、企業名、ブランド名、 サービス名、芸名等を表すロゴや文字列の中で、「I」の文字又は「i」の文字に\n代えて「!」の符号又は縦若しくは斜めの棒状の図形の下部に「●」、「■」、 「★」等の図形を配した記号を用いる例が多数あるものと認められ、「!」の符号 も、アルファベットの文字列の中に配されたときは、「I」の文字又は「i」の文 字と変わりのない文字であると理解され得るものである。加えて、「〇」の記号も、 「O」の文字を図案化したものとして、両者は実質的には変わりのないものとの印 象を与え得ること、前記説示したところを踏まえると、その取引者、需要者からみ れば、本件商標のO!Oi部分と引用商標3の字体の相違(色彩の相違を含む。) が類否判断に当たって大きな意味合いを有するものとは認め難いことを併せ考慮す ると、取引者、需要者は、本件商標のO!Oi部分を見た場合、これが「〇|〇|」 と実質的には変わりのないものを指すと理解し得るということができるから、本件 商標のO!Oi部分の構成と引用商標3の構\成との間に厳密には前記のような相違 があるとしても、隔離観察を前提とすると、両者は、外観上極めて相紛らわしいも のであると認めるのが相当である。 被告は、「F!T」等の文字列の場合と異なり、「O!Oi」の文字列について は、「!」の符号を「I」の文字等に置換して認識すべきことが強く示唆されてい ないなどと主張するが、迅速を貴ぶ商取引において、アルファベットの文字列の中 に配された「!」の符号は、その形状(縦棒上の図形とその下部に小さく点様の図 形を配してなるもの)に照らし、当該文字列からの示唆の大小にかかわらず、「I」 の文字等と変わりのないものと理解され得るというべきである。被告の主張を採用 することはできない。
(イ) 称呼
本件商標のO!Oi部分は、途中に感嘆符を含む一種の造語であるが、証拠(甲 37〜41、45、52〜54、56、58)及び弁論の全趣旨によると、O!O i部分からは、「オーアイオーアイ」又は「オアイオアイ」の称呼が生じるものと 一応認められる。 別紙引用商標目録記載3及び別紙ハウスマーク目録記載のとおり、引用商標3は、 原告標章と外観上同一視し得る形状のものであるところ、前記1のとおり、原告標 章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者の間に広く認識されているものであ ることからすると、引用商標3からは、「マルイ」の称呼が生ずるものと認めるの が相当である(この点は、当事者間に争いがない。)。そして、本件商標のO!O i部分と引用商標3とが、前記のとおり、外観上極めて相紛らわしいことを踏まえ ると、O!Oi部分についても「マルイ」の称呼が生じ得るというべきである。
(ウ) 観念
本件商標のO!Oi部分は、特定の意味合いを有しない一種の造語である。 別紙引用商標目録記載3及び別紙ハウスマーク目録記載のとおり、引用商標3は、 原告標章と外観上同一視し得る形状のものであるところ、前記1のとおり、原告標 章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者の間に広く認識されているものであ ることからすると、引用商標3からは、「丸井又はマルイのロゴマーク」などの観 念が生ずるものと認めるのが相当である(この点は、当事者間に争いがない。)。 そうすると、本件商標のO!Oi部分が特定の意味合いを有しないとしても、同部 分は引用商標3と外観上極めて相紛らわしいから、同部分からは、引用商標3と同 様の観念が生じ得るものということができる。
(エ) 検討
以上のとおり、本件商標のO!Oi部分と引用商標3は、外観、称呼及び観念の 点で極めて相紛らわしいものであり、加えて、前記1のとおり、引用商標3と外観 上同一視し得る形状を有する原告標章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者 の間に広く認識されていることなどを併せ考慮すると、本件商標のO!Oi部分と 引用商標3については、両者が同一の商品又は役務について使用された場合、その 商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるものと認めるのが相当で ある。したがって、本件商標のO!Oi部分と引用商標3は、取引の実情に基づき、 外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し て全体的に考察すると、互いに類似するものと認められる。

◆判決本文

関連です。
こちらは商標「5252byO!Oi」と「OIOI」の類否です。こちらも商標類似と判断されました。

◆令和5(行ケ)10067

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令和5(ワ)3375 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月21日  大阪地方裁判所

特許侵害訴訟です。大阪地裁(21部)は、発明の一部の構成について一義的に明らかではないが、当業者の技術常識、明細書の記載に基づいて、被告製品は技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害は主張されていません。

前記(ア)のとおり、構成要件B2は、「縦板部」について、「庇板の開放された\n前端面に当接され」ていることと「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている」 こととをいずれも備える旨規定している。当該当接部分と、「前面が雨水を下方へ 導くガイド面となっている」部分との位置関係については、構成要件B2の文言か\nらは一義的には明らかでないものの、本件明細書において、前記(イ)のように、本 件発明が、庇の全長が必要以上に長くなるなどの従来の庇の問題に着目して小型化 と構造の簡易化を実現し、保守、点検に手数を要さない庇を提供することを目的と\nしていること、その問題を解決するための手段として、前縁板は、「庇板の開放さ れた前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている縦板部」と、 「庇板の上面に当接され上面が雨水を縦板部のガイド面へ導くガイド面となってい る横板部」とが一体に形成されて成り、前記縦板部の下部内面には凹部が形成され るとの構成が示されていること、当該構\成において、庇板の上面に溜まった雨水は、 庇板の上面を伝って前縁板まで導かれ、横板部のガイド面を経て縦板部のガイド面 を伝って縦板部の下端より落下し、庇板と横板部との隙間より浸入した雨水は、縦 板部の内面を伝って下方へ流下して凹部内に流れ込み、凹部から溢れ出て縦板部の 下端より落下する旨が記載されていることからすれば、構成要件B2の「縦板部」\nは、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面が雨水を下方へ導くガ イド面となっている」ことを要するものと解するのが、当業者にとって合理的であ る。
そして、「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている」部分と、「庇板の開 放された前端面に当接され」た部分とがいずれも備わっているが、両部分が離間し て存在し、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面が雨水を下方へ 導くガイド面」となっていない構成が「縦板部」に含まれるとの解釈は、本件明細\n書に示される本件発明の目的(庇の小型化や構造の簡易化)や作用に整合しないし、\n本件明細書上、これを許容するような記載や示唆も見当たらない。したがって、少 なくとも、かかる構成は構\成要件B2の「縦板部」を充足しないものというべきで ある。
イ 被告製品についてみると、被告製品の構造(形状)の概要は、別紙「イ号製\n品」及び「ロ号製品」の各図面記載のとおりであるところ(前提事実(4)ア)、両 別紙の各【図7】のとおり、庇板102の開放された前端面129に、先端見切1 04(「前縁板」に相当する。)の当接部145の板部が当たって接している、す なわち当接しているものと認められる。 しかしながら、雨水を下方へ導くガイド面140aは、中間に横方向へ延びる張 出部142を介して当接部145の板部とは離間して存在しており、当接部145 の板部の「前面」が雨水を下方へ導くガイド面となっているとは到底いえない。そ うすると、被告製品には、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面 が雨水を下方へ導くガイド面となっている」構成が備わっておらず、被告製品は、\n構成要件B2の「縦板部」を充足しない。\n
ウ これに対し、原告は、被告製品の折れ板部140(別紙「図面」の【原告主 張図1】及び【原告主張図2】の橙色部分)は、前端面129に当接する当接部1 45及び前面が雨水を下方へ導くガイド面140aを備えるから、構成要件B2の\n「縦板部」に該当する、構成要件B2の「縦板部」は、雨水を縦方向に導くガイド\n面を備えているから「縦板部」との語が用いられたにすぎず、被告製品が前方へ張 り出す張出部142を有するからといって、非充足になるとはいえない旨主張する。
しかし、前記アに述べたとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項及び本件明 細書の各記載からすると、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面 が雨水を下方へ導くガイド面」となっていない構成を、構\成要件B2の「縦板部」 に含めることはできないというべきであるから、被告製品の折れ板部140が当接 部145及びガイド面140aを備えるとしても、当接部145の板部の前面が、 ガイド面140aとは離間し、雨水を下方へ導くガイド面となっていない以上、折 れ板部140が構成要件B2の「縦板部」に該当するとは認められない。\nしたがって、被告製品が構成要件B2を充足する旨の原告の主張は採用できない。\n

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令和5(行ケ)10057  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月26日  知的財産高等裁判所

訂正事項が新規事項か否かについて、知財高裁は新規事項でないとした審決を維持しました。

(4) 本件訂正発明1(害虫忌避成分が「イカリジン」である場合を含む)の要旨 となる技術的事項が、優先権出願1の明細書等に記載された技術的事項の範囲を超 えるものであるか
ア 上記(2)イで認定したとおり、優先権出願1の明細書等には、ディートに代わ る害虫忌避成分として、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン 酸エチルエステル(EBAAP)、p−メンタン−3,8−ジオール、1−メチルプ ロピル 2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシレート(イカリ ジン)に共通して、「使用者の鼻や喉等の粘膜を刺激しやすい害虫忌避成分が配合さ れているにもかかわらず、粘膜への刺激が低減された噴射製品および噴射方法を提 供する」という課題を有し、前記(2)イ(ウ)に認定した1)〜3)の特徴を有すること、 すなわち、所定量の揮発抑制成分を添加するなどして、50%平均粒子径r30と粒 子径比(r30/r15)がそれぞれ所定の値以上(粒子径比(r30/r15)が0.6以上、50%平均粒子径r30が50μm以上)となるよう調整することにより、上記課題 を解決することが記載されている。
また、前記1(2)ア〜ウ及びオのとおり、本件訂正発明1に関する背景技術、課題、 解決手段に加えて、発明の効果に関するメカニズムや各構成要件の技術的意義につ\nいては、本件明細書の【0001】、【0002】、【0004】〜【0007】、【0009】、【0012】〜【0015】、【0023】及び【0024】等に記載され ているが、ほぼ同一の記載が、前記(2)イ(ア)〜(ウ)及び(オ)のとおり、優先権出願1 の明細書の【0001】、【0002】、【0004】〜【0008】、【0012】〜【0015】、【0017】、【0018】、【0026】及び【0027】において記載されていたものといえる。
イ また、本件訂正発明1の発明特定事項は、いずれも優先権出願1の特許請求 の範囲の請求項1又は2に記載されており、害虫忌避成分としてEBAAPと同様 にイカリジンも明記されていたものといえる。
ウ 前記(2)イ(エ)及び(3)イ(イ)のとおり、優先権出願1の明細書等において、実 施例として記載されているのは、害虫忌避成分としてEBAAPを含む噴射製品の みであり、害虫忌避成分としてイカリジンを含む噴射製品に係る実施例は、優先権 出願2の明細書等(実施例5及び7)により追加されたものであるが、当該実施例 は、本件訂正発明1の実施に係る具体例であるとともに、優先権出願1の特許請求 の範囲の請求項1又は2に発明特定事項が記載されていた発明の実施に係る具体例 を確認的に記載したものと理解できるから、優先権出願1の明細書等に記載された 技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
エ したがって、本件訂正発明1の要旨となる技術的事項は、イカリジンを含む 部分も含めて優先権出願1の明細書等において記載された技術的事項の範囲を超え るものではないから、本件訂正発明1は、害虫忌避成分をイカリジンとする部分に ついても、優先権出願1に基づく国内優先権主張の効果が認められる。
(5) 原告の主張について
ア 害虫忌避成分をイカリジンとする部分は本件第1優先日時点で完成してい るかについて(前記第3の1(1)イの主張について) まず、国内優先権主張の効果が認められるかどうかは、前記2(1)の説示のとおり、 後の出願の特許請求の範囲の文言が、先の出願の当初明細書等に記載されたものと いえる場合であっても、後の出願の明細書の発明の詳細な説明に、先の出願の当初 明細書等に記載されていなかった技術的事項を記載することにより、後の出願の特 許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が、先の出願の当初明細書 等に記載された技術的事項の範囲を超えることになる場合は、その超えた部分につ いては優先権主張の効果は認められないと解するのが相当である。 この点、優先権出願1の明細書等において、実施例として記載されているのは、 害虫忌避成分としてEBAAPを含む噴射製品のみであり、害虫忌避成分としてイ カリジンを含む噴射製品に係る実施例自体は、優先権出願2の明細書等(実施例5 及び7)により追加されたものであるものの、優先権出願1の特許請求の範囲の請 求項1又は2に発明特定事項が記載されていた発明の実施に係る具体例を確認的に 記載したものと理解できるから、優先権出願1の明細書等に記載された技術的事項 との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないことは前記(4)の判 断のとおりである。
そして、前記のとおり、優先権出願1の明細書等には、本件訂正発明1に関する 背景技術、課題、解決手段に加えて、発明の効果に関するメカニズムや各構成要件\nの技術的意義が記載されており、これらはEBAAP、p−メンタン−3,8−ジ オール及びイカリジンに共通して適用されることも把握できるものといえる。すな わち、優先権出願1の明細書等には、本件訂正発明1について、害虫忌避成分をイ カリジンとする部分を含めて、その技術内容が、当該の技術分野における通常の知 識を有する者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる 程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていると認められる。\n
これに対し、原告は、EBAAPとイカリジンとは物質として害虫忌避作用があ るということのほかには類似性がないこと等により、イカリジンを害虫忌避成分と する場合にEBAAPと同様の結果となるかどうかは判断できず、優先権出願2の 出願時にイカリジンに関する実施例を追加することで、初めて実験による技術上の 裏付けがされ完成したものであることを主張する。
この点、本件訂正発明1では、害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、成分 の揮発によって小さくなることを抑制するために、蒸気圧が小さい揮発抑制成分(2 0゜C)での蒸気圧が2.5kPa以下)を配合しているところ(本件明細書の【00 14】)、一般に、物質の揮発しやすさ(揮発性、揮発度ともいう。)は、その成分の 蒸気圧によって決定されるものであり(甲64)、蒸気圧が小さいものは揮発しにく く、蒸気圧が大きいものは揮発しやすいものであるといえる。そこで、20゜C)にお けるEBAAPやイカリジンの蒸気圧についてみると、EBAAPが0.0001 5kPa(=0.15Pa、甲27)、イカリジンが0.000034kPa(=3. 4×10−4hPa、甲28)であるのに対し、揮発抑制成分の蒸気圧は、1,3− ブチレングリコールが0.008kPa(=0.08hPa、甲39)、プロピレン グリコールが0.0107kPa(=0.08mmHg、甲40)、水が2.336 6kPa(甲3の1・2)であり、溶剤の蒸気圧は、無水エタノールが5.8kP a(甲65)であって、EBAAPとイカリジンの蒸気圧は、揮発抑制成分の蒸気 圧や溶剤の蒸気圧に比べて極めて小さいものといえる。これらのことからすると、 EBAAPとイカリジンはほとんど揮発しないという点では変わりがないから、両 者の蒸気圧の違いは、粒子径比(r30/r15)や50%平均粒子径r30に対して与え る影響を無視できるものといえる。そうすると、当業者は、EBAAPとイカリジ ンの蒸気圧を考慮すると、害虫忌避成分としてEBAAPとイカリジンのいずれを 使用しても、害虫忌避成分の揮発による粒子径や粒子径比(r30/r15)への影響は 変わらないものと理解できる。
したがって、本件訂正発明1のうち害虫忌避成分をイカリジンとする部分は、少 なくとも優先権出願2におけるイカリジンに関する実施例を追加することで、初め て実験による技術上の裏付けがなされ完成したものであるとする原告の主張は採用 できない。
イ 「実施可能であるか」について(前記第3の1(1)ウの主張)
(ア) 前記(1)の「後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨とする技術 的事項が、先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項を超える」ものか否か という判断は、実施例が追加された後の出願の特許請求の範囲に記載された発明が 先の出願の当初明細書等の記載事項との関係において実施可能であるかを判断する\nものと解される。
(イ) 優先権出願1の明細書等には、EBAAP、p−メンタン−3,8−ジオー ル又はイカリジンを含む害虫忌避成分について、噴射された粒子が使用者やその周 囲の者の鼻や喉等の粘膜を刺激しやすく、その結果、使用者等は、粘膜に違和感を 感じたり、咳き込んだりしやすいという問題があることから、使用者の鼻や喉等の 粘膜を刺激しやすい害虫忌避成分が配合されているにもかかわらず、粘膜への刺激 が低減された噴射製品及び噴射方法を提供することを課題とするものであり、この 課題を解決するために、優先権出願1の明細書等に記載された発明は、前記害虫忌 避成分を含むものについて、さらに、1)噴射後の揮発を抑制するため、20゜C)での 蒸気圧が2.5kPa以下となる揮発抑制成分を、害虫忌避組成物中10質量%以 上含み、かつ、2)前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌 避組成物の50%平均粒子径rと、前記噴口から30cm離れた位置における噴 射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、 0.6以上となるよう調整され、3)前記噴口から30cm離れた位置における噴射 された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、50μm以上となるよう調 整されたという特徴を有するものであることが記載されている。そして、その効果 を発揮するメカニズムとして、噴射された害虫忌避剤の中には、皮膚や髪等の適用 箇所に付着せずに、適用距離(例えば噴口から15cmの距離)を超えて更に離れ た位置(例えば噴口から30cm離れた位置)に到達し、浮遊するものがあり、そ のような離れた位置では、粒子径が小さくなるため、粘膜刺激を起こしやすく、害 虫忌避組成物中に揮発抑制成分を添加して、適用距離における粒子径だけでなく、 それを超えた位置における粒子径にも注意を払い、当該粒子径が小さくなりすぎな いよう、50%平均粒子径r30と粒子径比(r30/r15)がそれぞれ所定の値以上(粒 子径比(r30/r15)が0.6以上、50%平均粒子径r30が50μm以上)となる よう調整したことが説明されている。
また、優先権出願1の明細書等の【0013】〜【0031】に、本件訂正発明 1に係る噴射製品の組成物の各成分の説明及びポンプの構造の説明が詳細に記載さ\nれており、【0017】及び【0018】には、揮発抑制成分を配合することで、噴 射後の揮発が抑制され、適用箇所を超えた範囲(例えば、噴口から30cm)にま で噴射された場合であっても粒子径が小さくなりにくいことや揮発抑制成分の配合 量が記載されており、また、【0027】には、粒子径比(r30/r15)を上記範囲に 調整する方法は特に限定されず、例えば、害虫忌避組成物の処方(例えばそれぞれ の成分の種類及び含有量、忌避抑制成分の有無、含有量等)、アクチュエータの形状、 寸法(例えば噴口の大きさ、形状等)、又は単位時間当たりの噴射量(噴射速度)、 噴射圧等の各種物性が調整されることにより調整できることも示されている。
さらに、優先権出願1の明細書等の【0051】の表1の実施例及び比較例を見\nると、害虫忌避成分としてEBAAPを、揮発抑制成分として、1,3−ブチレン グリコール、プロピレングリコール又は水の少なくとも1の成分を10質量%以上 配合した害虫忌避組成物が充填された噴射製品が記載されており、実施例1及び2 並びに比較例1〜3から、揮発抑制成分の含有量が増えるほど揮発による50%平 均粒子径r30の小型化が抑制され、粒子径比(r30/r15)が大きくなっていること が理解できる。
そして、実施例1〜4においては、揮発抑制成分の含有量が10質 量%以上、粒子径比(r30/r15)が0.6以上、50%平均粒子径r30が50μm 以上の害虫忌避組成物が実現されていることが理解できる。 以上のことからすると、当業者であれば、優先権出願1の明細書の実施例及び比 較例において具体的な製造方法が示されているEBAAPを配合した害虫忌避組成 物及び噴射製品と同様にして、イカリジンを配合し、粒子径比(r30/r15)が0. 6以上、50%平均粒子径r30が50μm以上を満たす噴射製品を製造することが できると解される。
この点、原告は、EBAAPとイカリジンの蒸気圧が異なることを主張している が、前記アの各成分の20゜C)における蒸気圧によると、EBAAPやイカリジンの 蒸気圧の違いは、粒子径比(r30/r15)や50%平均粒子径r30に対して与える影 響を無視できるものといえるから、当業者であれば、害虫忌避成分としてEBAA Pを含む害虫忌避組成物を充填した噴射製品の実施例と同様にして、過度の試行錯 誤を要することなく、イカリジンを含む害虫忌避組成物を作成し、これを充填し、 粒子径比(r30/r15)を0.6以上、50%平均粒子径r30を50μm以上に調整 した噴射製品を製造することができるといえ、原告の上記主張は採用できない。
また、本件訂正発明1の噴射製品は、害虫忌避組成物を含む噴射製品、いわゆる 虫よけスプレーであり、優先権出願1の明細書等の【0006】、【0025】等の 記載を見ると、使用者が、一般的な虫よけスプレーと同様にして、噴口から害虫忌 避組成物を適用箇所に向けて噴射をすることができること、噴口から噴射される害 虫忌避組成物は、所定の粒子径、より具体的には、所定の粒子径比(r30/r15)及 び50%平均粒子径r30に調整され、霧状に噴射されること、及び、所定の粒子径 に調整されているため、粘膜を刺激しやすい害虫忌避成分が配合されている場合で あっても、粘膜への刺激が低減されることが認められ、このことは、害虫忌避成分 がEBAAPであっても、イカリジンであっても変わることはないものといえるか ら、本件訂正発明1のうち害虫忌避成分としてイカリジンを含む部分が、優先権出 願1において、過度の試行錯誤を要することなく使用できるように記載されている ということができる。
この点、原告は、「使用できる」というためには、特許発明に係る物について、例 えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができるなど、技術上 の意義のある態様で使用することができることを要すると主張する。 しかし、原告の上記主張は独自の見解であって採用できない。また、仮にこれを 前提としても、優先権出願1の明細書等には、本件訂正発明1の効果を発揮するメ カニズムについて、十分な記載があり、さらに、害虫忌避成分としてEBAAPと\nイカリジンのいずれを使用しても、害虫忌避成分の揮発による粒子径や粒子径比(r 30/r15)への影響は変わらないことを理解できるから、当業者は、EBAAPとイ カリジンのいずれを使用しても、同様に「粘膜への刺激が低減された噴射製品及び 噴射方法を提供することができる」という作用効果を奏する態様で用いることがで き、技術上の意義のある態様で使用することができるものと理解することもできる。 したがって、当業者であれば、優先権出願1の明細書の実施例及び比較例におい て具体的な製造及び使用方法が示されているEBAAPを配合した害虫忌避組成物 及び噴射製品と同様にして、過度の試行錯誤を要することなく、イカリジンを配合 した害虫忌避組成物や噴射製品を製造し、粒子径比(r30/r15)を0.6以上、r30を50μm以上とすることができ、かつ、当該噴射製品を使用することができる といえる。よって、原告の上記主張は理由がない。
(ウ) 以上によると、本件訂正発明1のうち害虫忌避成分をイカリジンとする部分 が、優先権出願1の明細書等の記載事項との関係において実施可能であるといえる\nから、「実施可能であるか」についての原告の主張(前記第3の1(1)ウの主張)は 理由がない。

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令和5(ネ)10086  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

「化合物自体が公知文献に明記されており、当該化合物を初めて製造できたことに技術的意義が認められる物質特許の発明については、化合物自体は公知であるから、その発明は新規性を欠く」と無効主張しましたが、知財高裁は1審と同じく、技術的範囲に属すると判断しました。

控訴人は、化合物自体が公知文献に明記されており、当該化合物を初めて 製造できたことに技術的意義が認められる物質特許の発明については、化合 物自体は公知であるから、その発明は新規性を欠くと解すべきであり、仮に 新規性を有するのであれば、その発明の技術的意義は当該化合物を製造でき たことについて認められるものであるから、その技術的範囲は、発明者が現 実に発明した製造方法によって製造された物か、単離された高純度の化合物 に限定されるべきであると主張するが、以下に述べるとおり採用できない。
ア 発明が技術的思想の創作であること(特許法2条1項参照)にかんがみ れば、特許出願前に頒布された刊行物(同法29条1項3号)に物の発 明が記載されているというためには、同刊行物に発明の構成が開示され\nているだけでなく、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の 創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその\n技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されてい ることを要する。
特に当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製造 方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから、 刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、当 該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理解\nし得る程度の記載があることを要するというべきであり、刊行物に製造 方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業 者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時\nの技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出すことがで きることが必要であるというべきである。
そして、本件において、公知文献である本件引用例に5−アミノレブ リン酸リン酸塩の製造方法に関する記載は見当たらず、乙16〜18の 各論文によっても、特許出願時の技術常識に基づいて当業者がその製造 方法その他の入手方法を見出すことができたとは認められない(以上は 原判決「事実及び理由」第3の3(1)イ〔14頁〜〕に同じ。)。
イ 他方、本件明細書には、5−アミノレブリン酸リン酸塩の物質の構成が\n開示されている(【0009】、【0014】〜【0016】)にとど まらず、当業者がその製造方法を理解し得る程度の記載があるところ (【0007】、【0019】〜【0028】、【0034】〜【00 36】)、これは、新規の化学物質の発明である本件発明について、当 業者が実施し得る程度の発明の技術的思想を開示するものであって、単 なる製造方法としての技術的意義にとどまるものではない。
そして、特許が物の発明についてされている場合には、その特許権の 効力は、当該物と構造、特性等が同一である物であれば、その製造方法\nにかかわらず及ぶこととなる(最高裁平成24年(受)第1204号同 27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁参照)。
ウ なお、控訴人が指摘するような、本件特許の出願の際に製造等していた 者については先使用による通常実施権(特許法79条)により、本件特 許の出願後に製造方法等の発明をした者については通常実施権の設定の 裁定(同法92条)により、特許権者との利益の調整が図られることに なる。

◆判決本文
1審はこちら。

◆令和4(ワ)9716
本件特許の無効審判に関する審決取消訴訟です。
結論は本件と同じです。

◆令和4(行ケ)10091

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令和5(ネ)10103  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 実質的に前訴の蒸し返しであり、本件訴訟は信義則に反すると判断されました。控訴人(1審原告)の本人訴訟です。

前記認定のとおり、原告は、前件訴訟において、被告の代表者であったAの原告\nに対する行為(前件主張等に係るパワーハラスメント)が不法行為を構成すると主\n張し、会社法350条に基づいて、被告に対し、損害賠償金の支払を求めたところ、 前件訴訟の裁判所は、前件主張について「本件国内移行手続を執ることを中止する 旨決定したAの行為は、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであったとはいえ ず、原告に対するパワーハラスメントに当たるとはいえない」旨認定判断し、原告 の当該損害賠償請求を棄却する旨の判決をした。同判決は、最高裁判所による上告 棄却決定及び上告不受理決定により確定した。
しかるところ、本件訴えは、原告において、被告が本件国内移行手続を執らなかった行為及び本件発明の権利化の機会を原告に与えなかった行為(本件行為)が本件譲渡契約上の債務不履行を構成すると主張し、被告に対して、債務不履行に基づく損害賠償金の支払を求めるものであり、形式的にみれば前件訴訟と訴訟物を異にするものであるが、実質的にみれば、本件発明に係る本件国内移行手続が執られず、これが権利化されることがなかったという同一の社会的事実について、前件訴訟ではこれを被告の代表\者であったAの 原告に対する不法行為と構成し、本件訴えでは被告の債務不履行と構\成したものに すぎない。本件訴えにおいて原告の主張する債務不履行の成否は、結局のところ、 Aが本件発明について本件国内移行手続を執らない旨決定したことが、当時の状況 に照らし、業務上必要かつ相当な判断であったかによって決まる性質のものであり、 前件訴訟において、この点に関する原告の主張が排斥されることにより、本件訴訟 において原告が主張するような債務不履行が成立しないことについても、実質的な 判断がされているといえる。したがって、前件訴訟について原告の請求を棄却する 旨の判決が確定したにもかかわらず、同一の社会的事実について、請求の法的根拠 を債務不履行に変更して訴えを提起した本件訴えは、前件訴訟の蒸し返しといわざ るを得ない。
また、前記認定事実によると、原告は、前件訴訟において、本件訴えに係る請求 と同様の請求をすることにつき何らの支障もなかったものと認められるにもかかわ らず、更に原告が被告に対して本件訴えを提起することは、前件訴訟において全部 勝訴の確定判決を得た被告の法的地位を不当に長く不安定な状態に置くことになる。 その他、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件訴えの提起は、信義則に反 し許されないものと解するのが相当である。

◆判決本文

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令和5(ワ)893  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年3月18日  大阪地方裁判所

 商標権侵害であるとAmazonに申告することは、不正競争行為に該当すると判断されました。\n

不競法2条1項21号の「虚偽」とは、客観的事実に反する事実であるところ、 本件各申告の内容は、原告各標章を付した原告各商品の販売が被告商標権を侵害\nするというものであるから、以下、当該内容が客観的事実に反するか、すなわち、 原告各標章の使用が被告商標権を侵害しないといえるかにつき検討する。
なお、商標権侵害の判断の前提となる商標の類否は、対比される両商標が同一 又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混 同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、使用され た商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、 連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品又は役務に係る取 引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断される (最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民 集22巻2号399頁参照)。また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と\n解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は\n役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、 それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場 合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると\n思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部\n分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断する ことも許される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小 法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同 5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年 (行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号56 1頁参照)。
(1) 原告標章1ないし同10と被告商標との対比
ア 原告標章1ないし同10について
原告標章1ないし同10は、「Qbit」、「いつでも」、「簡単」、「トイレ」 の文字(同1、4、5、7、8)及びこれらの文字と丸い絵柄(円の外から 中央右下に向けて濃紺から淡い青を経て白色にグラデーションが施され、円 の内部に「Q」の字を模した白抜きがされたもの)から構成される結合商標\nである。これらの標章のうち、「いつでも」、「簡単」の文字部分は、順に、商 品の使用の時期、使用の方法又は効能を表\示するものにすぎず、「トイレ」部 分は普通名称であるから、これらが「いつでも簡単トイレ」と一体として表\n示されていることを踏まえても、これらの文字部分が商品の出所識別機能を\n有しているとはいえず、「Qbit」又は「Qbit」と上記丸い絵柄部分が 強い出所識別機能を有しているといえる。よって、被告商標との類否の判断\nにあたっては、文字部分を抽出するのは相当でなく、上記「Qbit」と丸 い絵柄の部分を抽出して対比することが相当である(なお、これらの標章の 中には、Qbitや上記絵柄部分と他の文字部分が、横並びになる構成のも\nのや上下の構成のものもあるが、これらの構\成の相違は、上記結論に影響し ないというべきである。)。 そして、「Qbit」及び丸い絵柄からは「きゅーびっと」との称呼が生 じ、特定の観念は生じない。
イ 被告商標について
被告商標は、片手で長い布様のものを所持する赤ちゃん様の絵柄と「いつ でも」、「どこでも」、「簡単」、「トイレ」との各文字部分から構成される。こ\nのうち、文字部分は、前記長い布様のものの上に「いつでもどこでも」と「簡 単トイレ」が2段に配置され、「いつ」「どこ」がロゴ化され、「トイレ」のレ の字には、用が足される様子を模式的に示す絵柄が付加されているものの、 商品の使用時期、提供の場所、使用の方法又は効能を表\示するものにすぎず、 「トイレ」部分は普通名称であるから、これらが一体として表示されている\nことをも踏まえても、これらの文字部分が商品の出所識別機能を有している\nとはいえず、赤ちゃん様の絵柄部分が強い出所識別機能を有しているという\nべきである(仮に文字部分の識別力を考慮するとしても、前記の配置やロゴ 化、絵柄の付加といった要素を捨象して考えることはできない。)。よって、 原告標章1ないし同10との類否の判断にあたっては、(標準文字としての) 文字部分を抽出するのは相当でなく、上記赤ちゃん様の絵柄を抽出して対比 することが相当である。そして、当該部分からは特定の称呼、観念は生じない。
ウ 対比
原告標章1ないし同10の「Qbit」又は「Qbit」と丸い絵柄部分 と被告標章の赤ちゃん様の絵柄部分とを比較すると、外観、称呼、観念のい ずれにおいても類似しない(双方の標章の文字部分と上記図柄の組合せを全 体として観察しても同様である。)。この点、被告商標の商標登録後に出願さ れた原告商標1及び原告商標2がいずれも商標登録されるに至ったことは、 上記判断と整合する。
(2) 原告標章11ないし同15について
これらの標章は、「いつでも」、「簡単」、「トイレ」の文字から構成されている\nが、上記のとおり、これらの文字部分は、商品の使用の方法や効能を表\示する ものや普通名称であり、出所識別機能を有しているとはいえないから、商標法\n26条1項2号の商標に該当すると認められる。よって、これらの標章に被告 商標権の効力は及ばない。
(3) 小括
したがって、原告各標章を付した商品の販売は、被告商標権を侵害する行為 に当たらないから、これに反する本件各申告の内容は「虚偽」であると認めら\nれる。
(4) 争点1のまとめ
以上に加え、前記1、2を総合すると、本件各申告は、不競法2条1項21\n号の不正競争に当たる。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10056  承継参加申立事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反および進歩性違反の無効理由無しとした審決について、知財高裁は後者の無効理由有りとして審決を取り消しました。

(エ) 本件適用に係る動機付けの有無
a 技術分野
(a) 前記アの甲11の記載によると、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュ バントのエマルジョンを製造する技術の分野に属する発明であると認められる。 他方、前記(イ)のとおり、甲65には、「導入」として、「合成ポリマーの微小 多孔性膜を使用する通常のフローフィルタ等は、多種多様なバイオ医薬液体の濾過 用途に広く使用され、これらのフィルタの主な目的は、製品中の細菌汚染の可能性\nを減らすことである」旨の記載、「濾過膜は、血液分画、血清の処理、大容量非経 口剤(LVP)等の従来の製薬用途でも日常的に使用され、ここでの目標は、バイ オ医薬品プロセスと同じであり、製品の細菌汚染の可能性を低減させることである」\n旨の記載等があり、甲65は、これらの膜を備えた具体的な製品として、本件製品 に言及している。また、前記(ア)のとおり、丙4には、本件製品が「広範囲の医薬 製品を濾過できるように設計されたものであり、広範囲の化学的適合性を備えるも のである」旨の記載がある。これらによると、本件製品は、少なくとも上記の「従 来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも 当然に適用し得るものであると認められるから(なお、前記(ア)のとおり、丙4に は、本件製品の用途の例として「バルク医薬品」が挙げられている。)、本件周知 技術は、甲11発明(認定)が属する技術分野を包む技術分野に属する技術である と認めるのが相当である。
以上のとおりであるから、甲11発明(認定)と本件周知技術とは、その属する 技術分野を共通にするといえる。
(b) 参加人は、甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用いて製造 したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであるところ、ワ クチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらない、丙4には本 件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンの滅菌フィルタに使用し得る旨の記 載がないとして、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知技術が属する技 術分野とが異なる旨主張するものと解される。 しかしながら、前記(a)のとおり、本件製品は、少なくとも甲65にいう「従来 の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも当 然に適用し得るものであるから、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知 技術が属する技術分野とが異なるとはいえない。参加人の主張は失当である。
b 甲11発明(認定)が有する課題
(a) 甲11には、前記アにおいて認定した箇所を含め、本件適用を動機付ける ような課題の記載はみられない。 しかしながら、甲20(日本ワクチン学会編「ワクチンの事典」(平成16年)) の「無菌性の保証 ワクチンは通常、…無菌製造、無菌充填が行われる。」との記 載、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「プレフィルタと最終フィルタの組合せを 正しく選択することで、流速、濾過時間及び全体的な濾過コストの最適なバランス が得られる」旨の記載、「膜濾過の主な目標である滅菌濾液の提供を評価する基準 として、1)細菌の効果的な保持がされること、2)高い総処理量を有することによる 濾過コストの削減がされること、3)許容可能な範囲の流速による妥当な時間枠にお\nけるバッチ全体の濾過がされることなどが挙げられる」旨の記載、「本件製品の製 造業者が製造する本件製品と同種の製品のプレフィルタ層は、非常に高い処理量を 実現し、10インチエレメント当たりの有効濾過面積を30%以上向上させ、0. 2μmの最終フィルタ層は、本件製品の組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を 提供する」旨の記載等)に加え、甲11発明(認定)と本件周知技術とがその属す る技術分野を共通にすること(前記a)に照らすと、ワクチンアジュバントのエマ ルジョンの製造に用いられる濾過膜については、その品質を向上させるため、1)細 菌を効果的に保持すること、2)総処理量が大きいこと及び3)流速が妥当なものであ ることが求められているものと認められる。それのみならず、そもそもワクチンア ジュバントのエマルジョンの製造に用いられる濾過膜において、上記1)から3)まで の要請が達成されることにより当該濾過膜の品質の向上につながることは、これら の要請の内容に照らし、本件優先日の当業者にとって自明であったというべきであ る。したがって、甲11発明(認定)には、これらの要請を達成するとの課題(以 下「本件課題」という。)が内在しており、甲11発明(認定)に接した本件優先 日当時の当業者は、甲11発明(認定)が本件課題を有していると認識したものと 認めるのが相当である。
(b) 参加人は、ここでも甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用 いて製造したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであり、 ワクチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらないから、甲6 5の記載をもって甲11記載の発明の課題を認定することはできないと主張する。 しかしながら、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュバントのエマルジョンを 製造する技術の分野に属する発明であり、甲65は、従来の製薬用途でも日常的に 使用され、製品の細菌汚染の可能性を低減させることを目的とする濾過膜について\n述べた文献であるから、甲65記載の事項(本件課題)は、少なくとも甲65にい う「従来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製 造にも当然に当てはまるものというべきである。それのみならず、そもそもワクチ ンアジュバントのエマルジョンの製造に用いられる膜において、本件課題が本件優 先日当時の当業者にとっての自明の課題であったことは、前記(a)のとおりである。 参加人の主張を採用することはできない。
c 本件課題の解決手段
(a) 前記(ア)のとおりの丙4の記載(「本件製品のフィルタカートリッジは、現 存する滅菌フィルタカートリッジのいずれと比較しても優れた特性を持ち、広範囲 の化学的適合性、高耐熱性、高処理量、高流速の特性を全て備えている」旨の記載、 「本件製品のカートリッジは、0.45μm膜を用いた「組み込み予備濾過」によ\nる分画濾過のため、非常に高い総処理能力を持ち合わせている。ポリエーテルスル\nホン膜の非対称的孔構造は、低い圧力下で、高い流速を提供する」旨の記載、「本\n件製品のフィルタカートリッジは、HIMAやASTM F−838−83ガイド ラインに従う滅菌グレードのフィルタエレメントとして十分検証されている」旨の\n記載、95%閉塞時における総処理量において本件製品が最も優れている旨のグラ フ等)、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「本件製品の製造業者が製造する本件 製品と同種の製品の0.2μmの最終フィルタ層は、本件製品の0.45μm/0. 2μmの組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を提供する」旨の記載等)及び弁 論の全趣旨によると、本件製品が備える親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜 をワクチンアジュバントのエマルジョンの製造(濾過)に用いることにより、本件 課題をいずれも解決することができるものと認めるのが相当である。
(b) 参加人は、丙4の記載は本件製品の特性に関する一般論を述べるものにす ぎず、丙4には本件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンを含む水中油型エ マルジョンの滅菌濾過を用途とし得るものである旨の明記がないとして、丙4記載 の本件製品の特性をもって甲11記載の発明が有する課題を解決することができる ものであると認めることはできないと主張する。 しかしながら、本件製品は、広範囲の医薬製品を濾過することができるように設 計され、広範囲の化学的適合性を備えるものであり(前記(ア))、また、ワクチン アジュバントのエマルジョンの製造にも当然に適用し得るものである(前記a)と ころ、甲65及び丙4には、本件製品をワクチンアジュバントのエマルジョンの製 造に用いた場合に、本件製品が持つ本来の性能が十\分に発揮されないものとうかが わせる記載は一切なく、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はないから、 甲65及び丙4に記載された本件製品の性能は、本件製品をワクチンアジュバント\nのエマルジョンの製造に用いた場合にも発揮されるものと認めるのが相当である。 参加人の主張を採用することはできない。
d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判 断
参加人は、1)甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階 を異にする別個の工程である、2)前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧 条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の 発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製 品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。 しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(III)) (アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲 11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性 を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨 の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、 甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな い別個の工程であるということはできないから、上記の1)の点を根拠とする参加人 の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を 第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証 拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1 の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌 保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第 1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱 についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される 膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに 足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、 第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認 識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主 張する工程(III))(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程) を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ (イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当 時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の2)の点を根拠とす る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定) に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10112  商標登録取消決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月14日  知的財産高等裁判所

審決(異議申立)は、販売代理店による商標取得行為が、公序良俗に反すると判断しました。指定商品は「動物用のハーネス」です。知財高裁も同様です。

ア 引用商標に関する原告の認識について
原告は、ハキハナ社の販売代理店として本件商品を含む同社の商品を販 売していたのであるから、同社が本件商品を含む同社の商品に引用商標を 使用していることを認識しながら、引用商標と構成文字を共通にする本件\n商標について、引用商標が用いられている商品と同種の商品である第18 類「愛玩動物用引きひも、愛玩動物用のハーネス」を指定商品として、商 標登録出願を行い、登録を受けたものと認められる。
イ 原告が本件商標の登録出願を行った意図及び目的について
(ア) 前記(1)の認定事実によれば、原告がハキハナ社との間で締結した本件 契約は原告に独占的販売権を与える内容ではなかったが、原告は、自ら が行った本件商品の広告宣伝や、本件商品の販売促進のための方策によ って、日本国内における本件商品の知名度が上がり、販売が増えたもの であって、このような貢献を行った原告にはハキハナ社の商品に係る独 占的販売権などの契約条件や待遇が同社から与えられるべきと考えて いたが、同社はそのような意向を有さず、原告以外の者が並行輸入によ り入手したハキハナ社の商品を日本において販売することを問題視し ない販売戦略を採っており、原告にもこれを伝えていたこと、その後、 アブレイズが原告よりも安価で本件商品を販売するようになり、原告は、 アブレイズの販売活動は、原告の宣伝活動や方策によって向上した知名 度にただ乗りするものであって、アブレイズへの対応が必要であると考 え、ハキハナ社に対し、一時的な独占的販売権を原告に与えるなどの手 段によって、原告がアブレイズに対応することに協力するよう求めたが、 ハキハナ社がこれを拒絶したこと、そのわずか数日後、原告は、ハキハ ナ社が引用商標又はこれに類似する商標につき国際商標登録出願をし ていたものの、我が国においては商標登録していないことを奇貨として、 同社に一切知らせることなく、秘密裏に本件商標の登録を出願したこと が認められる。
原告が本件商標の登録を得た後、ハキハナ社が原告との取引を打ち切 ると伝えてきた際、原告は、本件商品が日本の市場に出なくなることは 残念であるとハキハナ社に伝えている。これは、原告が、原告以外の者 による日本国内における本件商品の販売を認めないこと、すなわち、こ のような者による本件商品の販売を妨害、阻止する意向を有しているこ とを示したものといえる。 以上の事情に加え、原告が、本件商標の登録を取得したのと近接した 時期に、本件商標権に基づき、アブレイズに対して本件商品の販売を中 止するよう実際に求めたことも考慮すれば、原告は、本件商標の登録出 願の時点から、本件商標の登録を得た後、本件商標権に基づき、アブレ イズによる本件商品の販売を差し止めるとともに、将来的に、並行輸入 等で入手した本件商品等のハキハナ社の商品を日本国内で販売する者が 現れたときに、その販売活動を差し止めるなどして、原告以外の者が日 本国内においてハキハナ社の商品を販売することを妨害、阻止する意図 を有していたものと認めることができる。
(イ) 原告が本件商標の登録出願をする以前に伝えられていたハキハナ社 の意向の内容からすれば、原告は、ハキハナ社の意向に反して無断で本 件商標の登録を得れば、ハキハナ社が原告に対する信頼関係を喪失し、 原告との取引を打ち切る可能性があることを容易に認識することがで\nきたといえる。
そして、原告は、ハキハナ社から、本件商標権をわずかな費用でハキ ハナ社に譲渡することなどの条件を満たさない限り原告との取引を打ち 切る旨伝えられたが、これに対する原告の応答(前記(1)ス)は、ハキハ ナ社との契約あるいは取引の継続を模索するものではなく、原告の貢献 に報いる内容の条件を出すようハキハナ社に迫る内容であるといえ、ハ キハナ社が原告との取引を終了すると伝えてきたことに対しても、契約 や取引の継続のための交渉を行おうとしなかった。 また、本件商標は引用商標と同一の文字で構成されているから、原告\nは、原告が本件商標の登録を受けた場合、本件商標権をハキハナ社に譲 渡しなければ、同社が、本件商品など引用商標を用いた商品を日本国内 で販売することができなくなると認識していたものと認められる。 これらの事情を総合すれば、原告は、本件商標の登録出願を行った時 点で、原告が本件商標の登録を受ければハキハナ社が引用商標を用いた 本件商品等を日本国内で販売することができなくなる事態が生じ得るこ とを認識し、そのような事態が生じても構わないと考えていたと認めら\nれ、かつ、原告の本件商標の登録出願は、ハキハナ社との契約関係や取 引における原告の利益を守ることよりも、むしろ原告以外の者による本 件商品の販売を妨害、阻止することに主たる目的があったと認めること ができる。
ウ 上記ア及びイの事情を総合すると、原告は、ハキハナ社が本件商品を含 む同社の商品に引用商標を使用していることを認識し、かつ、原告が本件 商標の登録を受ければ、ハキハナ社が引用商標を用いた本件商品等を販売 することができなくなることも認識しつつ、そのような事態が生じても構\nわないと考えて、原告以外の者が日本国内で本件商品を販売することを許 容するハキハナ社の意図ないし販売戦略に反し、本件商標権に基づいてア ブレイズによる本件商品の販売を差し止め、将来的にも、並行輸入等で入 手したハキハナ社の商品を日本国内で販売しようとする者の販売活動を 妨害、阻止することを主たる目的として、本件商標の登録出願を行ったも のと認められる。
このような原告の本件商標の登録出願は、商標登録出願について先願主 義を採用している我が国の法制度を前提としても、「商標を保護すること により、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の 発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同 法1条)に反し、公正な商標秩序を乱すものというべきであり、かつ、健 全な法感情に照らし条理上も許されないというべきであるから、本件商標 は同法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商 標」に該当するというべきである。

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令和5(行ケ)10069  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所

無効審判の判断について争いましたが、第一次判決の拘束力により、請求理由なしと判断されました。

前記第2の1(特許庁における手続の経緯等)並びに証拠(甲39、乙22)及 び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(1) 原告は、令和元年11月12日、本件各発明に係る本件特許について特許 無効審判の請求をした。
(2) 特許庁は、令和3年10月8日、本件訂正を認めた上、本件発明1等に係 る本件特許を無効とし、本件発明4に係る本件特許に対する審判請求は成り立たな い旨の第一次審決をした。第一次審決においては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて 容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明 をすることができたものとはいえない。
(3) 被告は、令和3年11月13日、第一次審決のうち本件発明1等に係る本 件特許を無効とした部分の取消しを求める訴えを提起し、原告は、同月16日、第 一次審決のうち本件発明4に係る本件特許に対する審判請求は成り立たないとした 部分の取消しを求める訴えを提起した。
(4) 知的財産高等裁判所は、被告の訴えに係る事件及び原告の訴えに係る事件 を併合審理した上、令和4年8月31日、被告の請求を認容し、第一次審決のうち 本件発明1等に係る本件特許を無効とした部分を取り消すとともに、原告の請求を 棄却する旨の第一次判決を言い渡し、第一次判決は、その後確定した。第一次判決 においては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて 容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明 をすることができたものとはいえない。
(5) 特許庁は、令和5年5月22日、本件訂正を認めた上、本件各発明に係る 本件特許についての審判請求は成り立たない旨の本件審決をした。本件審決におい ては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて 容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明 をすることができたものとはいえない。
(6) 原告は、令和5年6月29日、本件審決のうち審判請求を不成立とした部 分の取消しを求めて本件訴えを提起した。本件訴訟における原告の主張は、前記第 3のとおりであるが、結局、次のとおり要約することができる。
ア 本件発明1等と甲1引用発明との間に本件構成に係る相違点2及び相違点4\nは存在しないというべきである。しかるところ、本件審決は、このような相違点が あることを前提に、本件発明1等に係る本件構成は、いずれも本件出願日前に当業\n者が甲1引用発明に基づいて容易に想到し得たとはいえないと判断した点において 判断を誤っている。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明 をすることができたものであるから、その進歩性を認めた判断は誤りである。
2 本件発明1等に係る本件特許について(審決取消判決の拘束力)
(1) 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が 確定したときは、審判官は、特許法181条2項の規定に従い、当該審判事件につ いて更に審理を行って審決をすることとなるが、審決取消訴訟は、行政事件訴訟法 の適用を受けるから、再度の審理又は審決には、同法33条1項の規定により、当 該取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに 必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は、取消判決の当該 認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって、再度の審判手 続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につき、こ れを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは、当該主張を裏 付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束 力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟におい てこれを違法とすることができないのは当然である。
このように、再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決の主文のよ って来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた 再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判 決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消) 事由たり得ない。
以上を特許発明の進歩性判断が問題となる特許無効審判事件の審決の取消訴訟に ついて具体的に考察すると、特許無効審判の対象とされた特許発明が、特許出願前 に当業者において特定の引用例に記載された発明に基づき容易に発明をすることが できたとはいえないとの理由により、当該特許発明に係る特許を無効とした審決の 認定判断が誤りであるとして当該審決を取り消す旨の判決がされ、これが確定した ときは、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は、同一の引用例 に記載された発明に基づく進歩性の判断に当たり、当該判決と異なる認定判断をす ることは許されない。したがって、再度の審決に係る審決取消訴訟において、関係 当事者が、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断が誤りである (当該特許発明は特許出願前に当業者において同一の引用例に記載された発明に基 づき容易に発明をすることができた)として、これを裏付けるための新たな立証を し、また、裁判所が、これを採用して取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決 を違法とすることは許されないと解するのが相当である(前掲最高裁平成4年4月 28日第三小法廷判決参照)。
(2) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、第一次審決(本件発明1 等に係る本件特許を無効とした部分。以下、この(2)及び後記(3)において同じ。) は、本件発明1等につき、これらがいずれも本件出願日前に当業者において甲1引 用発明に基づき容易に発明をすることができたものであると判断して、本件発明1 等に係る本件特許を無効としたところ、第一次判決(第一次審決を取り消した部分。
以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)は、本件発明1等につき、これらがい ずれも本件出願日前に当業者において甲1引用発明に基づき容易に発明をすること ができたものとはいえないと判断して、第一次審決を取り消したものである。また、 第一次判決の確定後にされた本件審決(本件発明1等に係る本件特許に対する審判 請求は成り立たないとした部分。以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)は、 本件発明1等に係る甲1引用発明に基づく進歩性について、第一次判決と同様の判 断をして、本件発明1等に係る本件特許に対する審判請求は成り立たないとしたも のである。
ここで、前記(1)によると、再度の審判請求において、本件発明1等が本件出願 日前に当業者において第一次判決が認定判断した同一の引用例(甲1)に記載され た発明に基づき容易に発明をすることができたか否かにつき、審判官が第一次判決 とは別異の事実を認定して異なる判断を加えることは、第一次判決の拘束力により 許されないのであるから、本件審決は、第一次判決の拘束力に従ってされた限りに おいて適法であるとされなければならない。 そして、前記(1)によると、第一次判決の拘束力に従ってされた本件審決の取消 訴訟(本件訴訟)において、第一次判決の認定判断(本件発明1等が本件出願日前 に当業者において甲1引用発明に基づき容易に発明をすることができたものとはい えないとの認定判断)を否定する関係当事者の主張立証は許されないことになるか ら、原告は、本件訴訟において、このような主張立証(本件発明1等の甲1引用発 明に基づく進歩性欠如の主張立証)をすることができないというべきである。 したがって、甲1引用発明に基づいて本件発明1等が進歩性を欠く旨原告が主張 することは許されない。
(3) 原告は、本件訴訟における原告の主張(取消事由1及び2)につき、これ は「相違点2又は4に係る本件発明1等の構成のうち本件構\成に係る部分は、本件 発明1等と甲1引用発明との相違点ではない」との第一次判決が判断していない事 項についての本件審決の判断の誤りを指摘するものであるから、本件訴訟において 取消事由1及び2を提出することは第一次判決の拘束力に反しないと主張する。 確かに、乙22によると、第一次判決においては、原告が本件訴訟において取消 事由1及び2として指摘する事項(相違点2又は4に係る本件発明1等の構成のう\nち本件構成に係る部分の実質的相違点性)についての判断がされなかったものと認\nめられる。しかしながら、本件発明1等に係る甲1引用発明に基づく進歩性の判断 は、本件発明1等及び甲1引用発明の各認定並びにこれを前提とする一致点及び相 違点の認定を踏まえて行われる法律判断である。前記のとおり、拘束力は、判決主 文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、甲1 引用発明に基づく進歩性欠如を否定した第一次判決の法律判断の前提となった本件 発明1等と甲1引用発明との間の相違点に係る事実認定についても、第一次判決の 拘束力は及ぶというべきである。したがって、本件審決の審判官が、同じ甲1引用 発明に基づく進歩性の判断に当たり、第一次判決とは別異の事実を認定して異なる 判断を加えることは、第一次判決の拘束力により許されず、第一次判決の拘束力に 従ってされた本件審決は適法なものである。原告の主張は、第一次判決の拘束力が 及ぶ事実認定及び法律判断部分について、本件審決が誤りである旨主張し、本件審 決の取消事由とするものにほかならず、前掲最高裁平成4年4月28日第三小法廷 判決に照らし、採用することはできない。
3 本件発明4に係る本件特許について(請求棄却判決の既判力)
行政処分の取消訴訟については、請求棄却判決が確定すると、処分に違法性がな いことについて既判力(行政事件訴訟法7条、民事訴訟法114条)が生じるから、 審決取消訴訟についても、請求棄却判決が確定すると、審決に違法性がないことに ついて既判力が生じる。 しかるところ、最高裁昭和51年3月10日大法廷判決(昭和42年(行ツ)第 28号)民集30巻2号79頁の趣旨を踏まえると、特許発明の進歩性判断が問題 となる特許無効審判事件の審決の取消訴訟における請求棄却判決の既判力は、審決 に違法性一般がないことではなく、特許無効審判事件において審理された特定の引 用例に記載された発明(公知技術)に基づく進歩性の有無について判断した審決に 違法性がないことに関して生じるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前記認定のとおり、第一次判決(原告の請求を棄却 した部分。以下同じ。)は、本件発明4につき、これが本件出願日前に当業者にお いて甲1引用発明に基づき容易に発明をすることができたものとはいえないと判断 して、これと同じ判断をした第一次審決を是認し、原告の請求を棄却したものであ る。そして、第一次判決は、その後確定したのであるから、甲1引用発明に基づき、 本件発明4が進歩性を欠くとはいえないとした第一次審決に違法性がないことは、 既判力をもって確定されているというべきである。
本件で問題となっているのは、本件審決の違法性であって、第一次審決の違法性 ではないが、原告が、本件訴訟において、甲1引用発明に基づき、本件発明4が進 歩性を欠く旨主張(取消事由3)し、進歩性欠如を否定した本件審決の判断部分が 違法である旨主張することは、実質的にみれば、第一次審決の違法性に関し既判力 が生じている部分(同じ引用発明に基づき進歩性がないとはいえないとの判断)に ついて、これと異なる判断を求めるものとして、許されないというべきである。 仮にこの点を措くとしても、甲1発明の半田鏝は、先端部の開口部の径が1.0 mmであり、後端部の貫通孔の径が2.5mmであり、この貫通孔内に半田片が落 下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構成され、これにより、半田片は、途\n中で引っかかって溶融してしまうことなく、そのまま先端まで落下して溶融するも のである(甲1の段落【0006】、【0031】、【0034】)。そうすると、 甲1発明の半田鏝については、甲11から13までに記載されたように半田鏝先端 部の内径を半田鏝後端部の内径より大きくすることには、阻害要因があるというべ きである。したがって、いずれにせよ、本件発明4について、甲1引用発明に基づ いて進歩性を欠くとは認められない旨の本件審決の判断に誤りはない。

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令和4(行ケ)10084  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月21日  知的財産高等裁判所

治療薬に関する発明について、進歩性無しとした審決が維持されました

(4) 相違点に係る容易想到性について
ア 相違点1について
(ア) 「心不全の患者」及び「心不全の治療薬」について
前記2(1)、(2)、(5)及び(6)のとおり、本件優先日当時、利尿薬は、心不全の症 状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬として、急性心不全(慢 性心不全の急性増悪期を含む。)と慢性心不全とを問わず、また心不全の重症度を問 わず、広く用いられていた薬剤である。また、代表的な利尿薬として用いられるフ\nロセミド等のループ利尿薬は、利尿作用が強い反面、塩化ナトリウムの再吸収を抑 制するために低ナトリウム血症等の電解質異常をきたし得るとの副作用がある上、 利尿薬抵抗性の問題も認識されており、加えて、特に重症心不全患者においては、 体液貯留の管理が重要とされていた。 そして、前記(2)ア(ア)のとおり、甲2には、体液貯留のある心不全患者(NYH AクラスI)〜III))に対し、フロセミドに上乗せして、異なる部位に作用し、また、 ナトリウムを排泄せずに水のみを排泄する選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬と\nしてのトルバプタンを投与したところ、良好な忍容性とともに、血清電解質の有害 な変化なく、体重減少、尿量増加及び浮腫改善等の効果が得られた旨が記載されて いる。 そうすると、本件優先日当時、甲2発明及び甲2の記載に接した当業者において、 前記2に認定した技術常識も考慮して、甲2発明のトルバプタンを、「急性心不全ま たは慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IV)の患者」 における体液貯留等を改善するための治療薬とすることには、十分な動機付けがあ\nり、容易に想到し得たということができる。
(イ) 「活性成分の投与」について
甲2発明における「安定したフロセミド用量(20〜240mg/日)」が、フロ セミドを必要に応じて投与することを制限する趣旨と読み取れないことは、前記 (2)ウ(イ)bのとおりであるから、この点は実質的な相違点とはいい難い。また、前 記(2)ウ(ウ)のとおり、対象患者の症状や投与方法等を捨象した、単に治療薬を投与 する際に患者が入院下であるか否かという点も、実質的な相違点とはいい難い。 次に、前記2(1)ウのとおり、本件優先日当時、トルバプタンは、経口投与で強力 な水利尿薬として作用する薬物として知られていたのであるから、甲2発明では経 口投与されたか不明であるトルバプタンを本件発明1の対象患者に投与するに当た り、これを経口投与とすることは、当業者が適宜なし得た事項というべきである。
(ウ) 原告の主張について
原告は、1)医薬分野における容易想到性は、「当該発明の治療及び治療効果につい て、優先日当時における科学的根拠をもって当業者がこれを容易に評価・確認でき るか」という観点から判断されるべきであるとした上で、本件優先日当時の技術常 識として、2)ADHFの重症患者と慢性心不全の慢性期の軽症〜中等症患者とは、 その症状、治療内容・態様、治療薬の適応・治療効果が大きく異なっていた、3)同 じ心不全治療薬であっても、NYHAクラスI)〜III)の患者には有効だがクラスIV)の 患者には効果がない又は悪化させる例があった上、NYHAクラスIV)の患者は利尿 薬抵抗性の問題がより深刻であって治療に限界が生じており、トルバプタンにも利 尿薬抵抗性の問題が認識されていた、4)既存の利尿薬の作用機序・薬理作用と、ト ルバプタンの作用機序・薬理作用は異なるものである、5)ADHFの重症患者に対 して、トルバプタンを含む選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬の投与実績は存在\nしていなかったところ、選択的バソプレシンV2受容体拮抗作用は、内因性バソ\プ レシンレベルの上昇を誘引し、それがバソプレシンV1a受容体を刺激することに\nより、心血管系や腎臓に悪影響を及ぼすことが理解されていたから、選択的バソプ\nレシンV2受容体拮抗作用を有するトルバプタンを、NYHAクラスIV)のような重 症患者に投与すれば、心不全の症状をさらに悪化させ、最悪の結果にもつながりか ねないと認識されていた、6)本件試験のような「最適の治療」(併用薬の用量増加、 投与経路変更を含む。)に対する上乗せ試験では、甲2試験のような併用薬の用量固 定・経口投与のみ等の制約されたデザインの試験と比して、上乗せ治療薬の治療効 果が得られにくいと理解されていたなどと主張し、これらの技術常識によると、甲 2発明から相違点1に係る本件発明1の構成に想到する動機付けはなく、又は阻害\n要因があると主張する。
しかし、1)について、進歩性についての判断基準として独自の見解というほかな く、採用の限りではない。2)について、急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含 む。以下この項において同じ。)と慢性心不全とで、また重症患者と軽症〜中等症患 者とで、治療の内容が異なる点は指摘のとおりであるが、前記2のとおり、利尿薬 に関していえば、急性心不全と慢性心不全とを問わず、また重症と軽症〜中等症と を問わず、心不全の症状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬 として広く用いられていたのであるから、甲2に記載されたトルバプタンの水利尿 効果が、体液貯留等の症状を呈する急性心不全の患者や重症患者にも得られるであ ろうことを、当業者は当然に想起するというべきである。3)について、NYHAク ラスI)〜III)の患者とクラスIV)の患者とで取扱いを異にする例として原告が挙げてい る例(甲38、43、47、70〜77、88)には、利尿薬とは異なる心不全治 療薬が含まれているほか、利尿薬に関するものであっても、NYHAクラスIV)であ ることを理由に利尿薬の取扱いを異にすべき旨が記載されているとは読み取ること はできない。前記2(6)のとおり、重症心不全患者では、特に体液貯留等の管理が重 要とされており、重症度の高さや利尿薬抵抗性の問題から利尿薬が十分に効果を発\n揮しない場合があるとしても、また、仮にトルバプタンにも利尿薬抵抗性の問題が あるとしても、当業者は、NYHAクラスによる重症度を問うことなく、体液貯留 等の症状を改善するために利尿薬の使用を試みるというべきである。4)について、 既存の利尿薬とトルバプタンとの作用機序・薬理作用が異なることは、上記(ア)のと おり、むしろ動機付けとなるといえる。5)について、本件優先日前に頒布された刊 行物である甲149(Florence Wongほか「A Vasopression Receptor Antagonist (VPA-985) Improves Serum Sodium Concentration in Patients With Hyponatremia: A Multicenter, Randomized, Placebo-Controlled Trial 」37 Hepatology 182 (2003))には、NYHAクラスIV)のうっ血性心不全患者に対し、ト ルバプタンと同じ選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬である「VPA−985」\nを既存の利尿薬と組み合わせて投与したところ、低用量群(25mgを1日2回投 与)では、起立性血圧、血清クレアチニン値及び血清バソプレシン濃度の有意な変\n化なしに、プラセボ対照群と比して有意な水利尿反応及び血清ナトリウム値の増加 が得られた旨が記載されている。同記載からすると、原告が主張するように、選択 的バソプレシンV2受容体拮抗薬につき、血中バソ\プレシン濃度上昇による悪影響 がある可能性を指摘する文献があったことを考慮しても、適切な用量設定等により\n安全に効果を得られることが示されていたのであるから、トルバプタンをNYHA クラスIV)の重症患者に、また急性心不全の患者に適用することが禁忌であったとは いえず、阻害要因となるべきものとは認められない。6)については、前記(3)ウ(ウ) のとおり、トルバプタンと組み合わされる本件発明1の「最適の治療」と甲2発明 の「水分制限なしの標準治療」に実質的に異なるところはなく、また、前記(2)ウ(イ) bのとおり、甲2発明における「安定したフロセミド用量(20〜240mg/日)」が、治療の制限を意味するものとは読み取れない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。

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令和5(ワ)70114  不当利得返還等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月27日  東京地方裁判所

自動二輪車のブレーキに関する特許について、ヤマハ発動機に対して損害賠償等を求めました。争点は均等侵害等多数有りますが、東京地裁46部は、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。本件特許は出願時から弁理士無しの本人出願ですが、訂正時に代理人がついてます。無効審判も同時継続しています(無効2023-800055)

2 サポート要件違反があるか(争点4−1)について
本件発明1について
ア 本件発明1の構成要件1Fは、「前記信号演算として、横加速度を検出す\nる加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横 G(Ghosei)の導出方法を少なくとも有し、」というものであり、構\n成要件1Hは、「当該車両において、前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の 横G(Ghosei)の組合せにより、車両挙動が判断され、・・・」とい うものであり、本件発明1は、算出された補正後の横G(Ghosei)を 利用するECUによって車輪を適切に制動し、これによってロール方向の挙 動の抑制を図る車両ブレーキ制御装置(構成要件1I)であるとされている。\nそして、本件発明1は、前記1のとおり、自動二輪車等の制御装置につ いて、従来は、正確な傾斜角の検出ができなかったという課題を解決して、 車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたというものである。 これらからすると、構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、\n従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出された、 車両の傾斜走行状態での正確な横Gであると認められる。 ここで、制動指令の前提となる「横G(Ghosei)」は、「横加速度を 検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った」(構\n成要件1F)ものであるとされていることから、「横G(Ghosei)」 は、横加速度を検出する加速度センサーの検出値を基に、これに補正をか けて得られる値であると理解できる。もっとも、本件発明1の特許請求の 範囲には、「横G(Ghosei)」について、単に加速度センサーの値か ら「ロールによる影響を取り除く演算を行った」(構成要件1F)と記載す\nるのみで、どのような演算をするかは明示されていない。そうすると、特 許請求の範囲には、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載さ れ、その解決のための構成は記載されていないといえる。\n
イ 本件明細書には本件発明の意義として前記1のとおりの記載があり、車両 の正確な傾斜角の検出ができず、正確な横Gを検出できなかったという課題 を解決して、車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたという ものであるとされている。
もっとも、本件明細書には、従前は検出できなかった正確な傾斜角の検出 をどのようにするかや、その傾斜角が判明した場合に正確な横Gを算出する ためにどのような補正を行うかについての記載はない。
他方、本件明細書には、センサーによる検出結果を補正して横Gを算出す る方法として、Ghosei = Gken − (Ψ・Rhsen) (式A) との記載がある(【0073】)。本件明細書の【0073】では、「Gken」 は、実際の走行傾斜時に検出される検出横Gであるとされ、「Ψ」は傾斜角 速度、「Ghosei」はΨを用いたGkenの補正後の横Gであるとされ ていて(なお、「Rhsen」について、本件明細書には定義がないものの、 「hsen」について路面とセンサとの距離であることを示唆する記載があ ったり(【0050】【0058】【0061】、図8、9)、「RはGセンサー #23の実車取付けの高さ(図8b hsen)」(【0063】)との記載、 Ψ・Rhsenについて、Rhsenに1を代入した上で「但し、センサー 取り付け高さ Rを1mとする。」との記載(【0074】)があったりする ことから、「Rhsen」車体を垂直にしたときのセンサ取り付け位置の高 さであることを一応推測できる。)、その「Ghosei」は、本件発明の課 題として言及されている「正確な横G」であると理解することができる。そ して、式Aは、その体裁から、本件発明の意義(前記1参照)として記載さ れている、「横Gセンサー」で検出されたGkenと「角速度センサー」で 検出されたΨを用いて「正確な横G」を算出する方法を記載した式であると 理解できる。
しかしながら、「Ψ・Rhsen」からは、傾斜角は算出されないし、式 Aから、傾斜角を算出することなく「正確な傾斜角の検出ができなかった諸 問題」が解決されていると理解することもできない。さらに、Ghosei 及びGkenは、加速度の次元(長さ/時間2)を有し、Ψ・Rhsenは 速度の次元(長さ/時間)の次元を有していることから、式Aは物理学上、 明らかに意味を持たない式である(弁論の全趣旨)。 そして、本件明細書には、式Aの他に、センサーによる測定値を基に「正 確な横G」を算出する方法についての記載はない。
ウ 本件明細書によれば、本件発明は、車両制御のためには「正確な横G」の 取得が必要であるところ、横加速度を検出する加速度センサーの値をその まま用いることができないこと、当該値から正確な横Gを算出するために は傾斜角度を取得することが必要だがそれができないことが課題として記 載され、本件発明はその課題に対して、車両の傾斜走行状態での正確な横 Gを算出したものであるとされており、「横加速度を検出する加速度セン サーのロールによる影響を取り除く演算を行った」という「横G(Ghos ei)」についての、当該演算が、本件発明の課題解決の根幹に当たる部分 であるといえるといえる。 しかしながら、特許請求の範囲には、その演算について、従来の課題を 解決するに足りる構成は記載されていない。また、本件明細書の発明の詳\n細な説明をみても、関係する記載は前記イのとおりである。本件明細書の 式A(【0073】)が、一応、上記の演算であると理解することはできる が、他に、関係する記載はない。そして、前記イのとおり、式Aは本件発明 の課題とされている傾斜角を算出しない上、そもそも物理学上意味をなさな い式であり、当業者はおよそ式Aを用いて車両制御に利用可能な横G(Gh\nosei)が算出できると理解できるものではない。
エ 原告は、本件明細書の記載は、別紙対比表のとおり誤記があり、正しく\nは同表の「訂正後」欄記載のとおりであると主張する。構\成要件1Fの「演 算」については、式Aのみが当たり得るところ、式Aは前記イで認定した とおり、次元の異なる物理量の差し引きをしていることから物理学上意 味をなさない式であり、当業者は、式Aに何らかの誤りがあると理解する ことができるといえる。この点について式Aについて、原告が主張すると おりGhosei=Gken−(Ψ.・Rhsen) (式A´)(ただし、「Ψ .」は傾斜角加速度)の誤記であると理解すれば、減算される物理量の次元が異なるという問題については解消される。しかし、次元を整える目的のみであれば、その訂 正の方法は式A´とすることに限られるものではないのであり、他に解消 方法を考え得るのであり、その考え得る解消方法が物理法則やそれを踏ま えた技術常識等に照らして不合理であることを認めるに足りる証拠はな い。そうすると、式Aの記載のみから、どのような誤記であるかのかが一 義的に定まるものであるとはいえない。 さらに、原告は、式Aについて「Ψ」を「Ψ.」に訂正するに当たって、 そのままでは式Aに関する説明が記載されている【0073】のその他の 記載と矛盾が生じるため、式Aのみならず、同段落における他の「Ψ」の 記載も「Ψ.」に訂正し、1か所の「傾斜角速度」との記載も「傾斜角加速 度」に訂正するものとしている。
しかし、原告が主張する訂正により、訂正後の【0073】は、「この補 正後の横G(Ghosei)は、(0063)式のGkenから傾斜角加速 度(Ψ.)を用いた補正であり、(0067)の式に対して、傾斜角が変化しない状況である。すなわち、式の「Ψ.・Rhsen」の項については、ゼロとなることから二つの式を整理し記述すると、・・・」との記載を含むことになるが、傾斜角加速度(Ψ.)がゼロであっても、傾斜角速度(Ψ)がゼロでないとき(定速傾斜時)は傾斜角が変化する状況なのだから、傾斜角加速度(Ψ.)に関する項「Ψ.・Rhsen」がゼロであることは直ちに「傾斜角が変化しない状況」を意味するものではないから、原告が主張する訂正をすると同記載部分の趣旨が理解できなくなってしまう。他方で、当該箇所について、「Ψ」を「Ψ.」に訂正しなければ、その内容は理解可能である。\n
同様に、原告が主張する訂正後の【0073】の「・・・この様に、式 の「Ψ.・Rhsen」の項について、ゼロにしたデーターは、定常円旋回 時に得られたデーターと呼ばれることがある。・・・」との記載についても、 定常円旋回時には、傾斜角が一定になるため、「傾斜角速度」が0になると ころ、「傾斜角加速度」に関する項が0になっても、「傾斜角」が変化しな いとは限らない(傾斜角加速度が0の場合には、定速傾斜の場合も含まれ る。)のであるから、訂正すると同記載部分の趣旨が理解できなくなって しまう。この点についても、当該箇所について訂正しなければその内容は 理解可能である。\n
さらに、式Aは、測定された加速度(Gken)を角速度(Ψ)の値に よって補正する式であるといえるが、これは、「走行時の横Gセンサーと 角速度センサーを関連付けることによって、従来は、正確な傾斜角の検出 ができなかった諸問題を解決」(前記1)という本件明細書に記載されて いる課題解決の基本的な方法として明示されている手法に文言上最も沿 うものである。他方、式Aを式A´に訂正すると少なくとも直接的にはこ れに文言上最も沿うものとはいえない内容になってしまう。 また、原告は、誤記を訂正した後の【0063】の記載によれば、傾斜 走行時に検出される検出横G(Gken)には、ロール速度の変化の影響 である加速度成分(Ψ.・Rhsen)が重畳されていること、重畳された 当該加速度成分は、傾斜角速度センサーの速度変化である傾斜角加速度 (Ψ.)を減算することで取り除くことができることが分かるなどと主張す る。
しかし、前記イで説示したとおり、本件明細書においてセンサーで取得 した加速度の値を修正して得られる制御に用いる加速度として言及され ているのは【0073】の横G(Ghosei)のみであり、【0063】 には、本件発明1の「横G(Ghosei)」の算出方法は記載されてい ない。仮に、【0063】に本件発明1に係る「加速度センサーのロール による影響を取り除く演算」が「Ψ.・Rhsen」を減算する趣旨であることを示唆する記載があると評価できるとしても、【0073】の方がより直接的な制御に用いる修正後の加速度を算出する方法に関する記載であると評価できるにもかかわらず、式Aについては、前記イで説示した問題がある。
また、【0063】には、Gken=g・cosΦ・tanρ−Ψ・Rhen (訂正後は「Gken=g・cosΦ・tanρ+Ψ.・Rhsen」)という式が記載されており、訂正後の式には「Ψ.・Rhsen」という項が含まれているものの、これを減算(訂正後は加算)した「g・cosΦ・tanρ」が物理学上、本件発明で算出することが課題とされている「正確な横G」に当たり、同物理量が判明すれば「正確な傾斜角の検出ができなかった諸問題」を解決できるものと理解できると認めるに足りる証拠はない。そうすると、仮に【0063】の記載が原告の主張するとおりの誤記であると認定できるとしても、当該式のみからでは、センサーによる検出値である「Gken」から「Ψ.・Rhsen」を減算することが課題解決につながり、構成要件1Fの「ロールによる影響を取り除く演算」に当たるものであると理解できるとはいえない。\n
また、原告の主張中には、【0063】より前の【0061】、【0062】の記載から【0063】の記載が誤記であることが理解できると主張する部分があるが、【0061】、【0062】にも多数の誤記があり、「Ψ」と「Ψ.」に関する誤記のみならず「−」と「+」に関する誤記まであり、どの部分が誤記であるのか容易に理解できるとは認め難い。もともと、本件明細書では、その全体にわたって、その説明の当初から基本的に一貫して加速度の次元の物理量から角速度(周速度)の次元の物理量を加算ないし減算するという式を前提とする内容で説明が記載されていて、前記エで説示したとおり、当該式に直接関連しない部分についてもこれと矛盾しない内容になっていた。そのような本件明細書について、当該式を訂正すると別の部分と矛盾が生じる内容になっている。これらからすると、当業者は、本件明細書に記載の誤りがあることを理解するとしても、本件明細 書において、本来どのようなことが記載されようとしていたのかや、どの部分がどのような誤記であるかを理解することができるとは認められない。
以上のとおり、当業者は、式Aに含まれる項の次元が異なることから何らかの誤りがあることは理解できるものの、次元の違いによる問題を解消する方法は原告が主張する訂正に限られるものではなく、また、式Aの内容等から、次元の違いによる問題を解消するためには、式A´に訂正する以外の方法はないと当業者が理解できると認めるに足りる証拠はない。さらに、式Aの訂正と整合するように、本件明細書の式Aに関する記載部分を訂正していくと、それまで問題なかった明細書の記載の趣旨が理解できなくなったり、整合しなくなってしまうことが認められる。
これらの事情からすると、本件明細書の記載から、式Aが式A´の誤記であると理解できるとはいえない。よって、式Aについて式A´の誤記であると理解できることを前提とする原告の主張はその前提を欠く。
オ 本件発明1の意義は前記1のとおりである。そして、本件発明1の構成\n要件1Fには、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載され、 その解決のための構成は記載されていないといえるところ、前記ウのと\nおり、その課題の解決のための構成について、本件明細書に記載がある\nとはいえない。また、その記載がないにも関わらず、当該課題について、 当業者がそれを解決できると認識できることを認めるに足りない。そう すると、本件発明1は、本件明細書に記載された説明で、本件明細書の発 明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認 識できる範囲のものであるとはいえないし、当業者が技術常識に照らし発 明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。よって、本 件発明1は、本件明細書に記載された発明であるとはいえない。
本件発明2について
ア 本件発明2は、算出された補正後の横G(Ghosei)を利用する、自 動二輪車の車両解析装置であるとされており、横G(Ghosei)の算出 方法については、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと傾斜 角速度の積との差分を求めるものとされている。 本件明細書においてこれに関する記載としては式Aに関する記載がある が、当該記載は本件明細書に記載された課題を解決する発明であると理解で きないものであることについては、前記 で説示したとおりである。他に本 件明細書には当該部分に係る記載があるとはいえない。よって、本件発明2 は本件明細書に記載されている発明であるとはいえない。
イ この点について、原告は、構成要件2Eの補正後の横G(Ghosei)\nの算出方法について、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと 「傾斜角速度」の積との差分との記載は、横加速度から加速度センサーの 車両取り付け高さと「傾斜角加速度」の積との差分の誤記であると主張す る。 しかし、本件明細書には、補正後の横Gに関する記載は式Aに関する記 載しかなく、ここには、「傾斜角加速度」の積との記載はない。原告は、式 Aが式A´の誤記であると主張するが、これが誤記であると理解できない ことについては前記 エで説示したとおりである。そうすると、仮に構成\n要件2Eが2E´の誤記であると理解できるとしても、本件発明2が本件 明細書に記載された発明であるとは認められない。 よって、本件発明のいずれについても、本件明細書に記載された発明であ るとはいえず、サポート要件を欠くものであると認められる。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10127等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月18日  知的財産高等裁判所

 争点は、発明特定事項「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」がPBPクレームか否か、その他、第1次判決の拘束力、不可能・非実際的事情の有無、明確性要件、サポート要件などです。知財高裁(4部)は、「不可能\・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の請求項の記載は明確性要件に違反する」と判断しました。

本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2は、「セレコキシブ粒子が、 ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事項 (以下「本件ピンミル構成」ということがある。)を含む(削除された請求\n項を除く他の請求項も、請求項1又は2を直接又は間接的に引用することで 本件ピンミル構成を含むことになっている。)ところ、本件ピンミル構\成を 巡っては、そのクレーム解釈(PBPクレームといえるか否か、「ピンミル のような」は衝撃式ミルの単なる例示か、衝撃式ミルの一部に限定する構成\nかなど)と、当該クレーム解釈を前提とした明確性要件の適合性の議論が重 層的に争われているので、以下、順次検討していく。
(3) まず、本件ピンミル構成がPBPクレームに当たるかについて検討するに、\n本件ピンミル構成に関する本件明細書の【0024】、【0190】の記載\nが、セレコキシブ粒子を粉砕する製造工程、製造方法を開示していることは 明らかであり、したがって、本件訂正によって特許請求の範囲の発明特定事 項とされるに至った本件ピンミル構成についても、「ピンミルのような衝撃\n式ミルで粉砕」するという製造方法をもって物の構造又は特性を特定しよう\nとするもの(その意図が成功しているかどうかはともかく)と理解される。 この限度では、被告が主張し、本件審決が判断を示しているとおりである。 第1事件原告は、製薬組成物の製造には複数の工程が必要であるなどとし てこれを争うが、そのような工程の全てを特定することがPBPクレームと しての必須条件とはいえない。実質的に製造方法の明確性を問題にしている とすれば、この点からの検討は後に示すこととする。
(4) 次に、本件ピンミル構成の意味するところ(例示か限定か)を検討するに、\n「ピンミルのような衝撃式ミル」との特許請求の範囲の文言自体に着目して 考えた場合、1)ピンミルは単なる例示であって衝撃式ミル全般を意味すると いう理解、2)衝撃式ミルに含まれるミルのうち、ピンミルと類似又は同等の 特性を有する衝撃式ミルを意味するという理解のいずれにも解する余地が あり、特許請求の範囲の記載のみから一義的に確定することはできない。 そこで、本件明細書の記載を参照するに、本件明細書の【0024】には、 「セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち、ピンミル(pin mil l)のような衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作 製することは、改善された生物学的利用能を提供するに際して効果的である\nだけでなく、かかる混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性 と関連する問題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミル を利用して粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネ ルギーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体には容 易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が高くなり、 このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合において、非常に 重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合する際のエアージェッ トミルのような液体エネルギーミルの有用性に予期せぬ結果をもたらす。特\n定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕により長い針状からより均一な結 晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質させ、ブレンド目的により適するよ うになるが、長い針状の結晶はエアージェットミルでは残存する傾向が高い と仮定される。」との記載が、【0135】には、「セレコキシブは先ず粉 砕される若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざまな粉砕機若し くは破砕機が利用することが可能であるが、セレコキシブのピンミリングの\nような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組成物に改善さ れたブレンド均一性がもたらせる」との記載がある。
以上の記載に上記(3)の解釈を併せて考えると、本件ピンミル構成は、被\n告が主張(第3の3(6)ア)するように、本件訂正発明に係る薬剤組成物の含 むセレコキシブ粒子が、ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子に見られる のと同様の、長い針状からより均一な結晶形へと変質されて、凝集力が低下 し、ブレンド均一性が向上した構造、特性を有するものであることを特定す\nる構成であって、したがって、「ピンミルのような衝撃式ミル」とは、ピン\nミルに限定されるものではなく、上記のような構造、特性を有するセレコキ\nシブ粒子が得られる衝撃式ミルがこれに含まれ得るものと理解するのが相 当である。
(5) 以上を前提に、本件ピンミル構成を含む本件訂正発明の特許請求の範囲の\n記載が明確性要件を満たすかどうかを検討する。
ア 衝撃式粉砕機に分類される粉砕機としては、本件審決も認定していると おり、多種多様なものがある(ハンマーミル、ケージミル、ピンミル、デ ィスインテグレータ、スクリーンミル等が知られており、ハンマーの形状 によっても、ナイフ型、アブミ型、ブレード型、ピン型等がある。甲イ1 11、112、136)ところ、上記(4)で示したクレーム解釈によると、 衝撃式粉砕機によって粉砕されたセレコキシブ粒子を含む薬剤組成物で あっても、本件特許の技術的範囲に属するものと属しないものがあること になるが、本件明細書に接した当業者において、「ピンミルで粉砕された セレコキシブ粒子に見られるのと同様の、長い針状からより均一な結晶形 へと変質されて、凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上した構造、特性\nを有するセレコキシブ粒子」を製造できる衝撃式粉砕機がいかなるものか を理解できるとは到底認められない。すなわち、一般に、明細書に製造方 法の逐一が記載されていなくても、当業者であれば、明細書の開示に技術 常識を参照して当該製造方法の意味するところを認識できる場合も少な くないと解されるが、本件の場合、本件明細書には、「ピンミルで粉砕さ れたセレコキシブ粒子」の凝集力の小ささ、改善されたというブレンド均 一性が、ピンミルのいかなる作用によって実現されるものかの記載がない ため、衝撃式ミル一般によって実現されるものなのか、衝撃式ミルのうち、 ピンミルと何らかの特性を共通にするものについてのみ達成されるもの なのかも明らかとなっていない。そのため、技術常識を適用しようとして も、いかなる特性に着目して、ある衝撃式ミルが本件ピンミル構成にいう\n「ピンミルのような衝撃式ミル」に当たるか否かを判断すればよいのかと いった手掛かりさえない状況といわざるを得ない。
イ そうすると、本件明細書等に加え本件出願日(明確性要件の判断の基準 時)当時の技術常識を考慮しても、「ピンミルのような衝撃式ミル」の範 囲が明らかでなく、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕」するというセ レコキシブ粒子の製造方法は、当業者が理解できるように本件明細書等に 記載されているとはいえないから、本件訂正発明は明確であるとはいえな い。
ウ ところで、PBPクレームは、物自体の構造又は特性を直接特定するこ\nとに代えて、物の製造方法を記載するものであり、そのような特許請求の 範囲が明確性要件を充足するためには、不可能・非実際的事情の存在が要\n求されるのであるが、本件においては、不可能・非実際的事情を検討する\n以前の問題として、前記ア、イに示したようにそもそも特許請求の範囲に 記載された製造方法自体が明確性を欠くものである。
(6) 本件審決は、「ピンミルのような衝撃式ミルは、いわゆる衝撃式粉砕機で あり、粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機と は異なる粒度分布の粉体を作製する装置であることが理解できるから明確 である」としており、これは、「ピンミルのような」について、「いわゆる 衝撃式粉砕機」のなかでも、さらに、「粉砕された粉体は、ジェットミルの ような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」こと のできる装置であるとの意味づけを与えた認定であると解される。 そして、「ピンミルによる」粉砕が、「粉砕された粉体は、ジェットミル のような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」も のであることについて、本件審決は、本件明細書の、ピンミルと、エアージ ェットミルのような他のタイプのミルとの粉砕物の凝集力の違いに関する 記載(【0024】)、及び、粉砕装置の粉砕機構が異なれば得られる粒子\nの粒度分布が異なるという技術常識を認定したことにより、導き出している ものと認められる。
しかし、本件明細書には、凝集力の違いが、粉砕装置の違いに基づく粒子 の粒度分布の違いに起因するものであるとの記載も示唆もない。粉砕装置の 違いが、粒度分布の違い以外の粒子特性を導くことも当然考えられるところ である(これを否定する技術常識があるとは認められない。)。そうすると、 「ピンミルのような」が、「衝撃式ミル」に対して、さらに「粉砕された粉 体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の 粉体を作製する装置」であるとの意味づけを与えた本件審決の解釈は、本件 明細書等の記載及び技術常識を考慮しても、無理があるものといわざるを得 ない。
(7) 以上より、不可能・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の\n請求項1、2、4、5、7〜13、15、17〜19の記載は明確性要件に 違反するものであり、取消事由3は理由がある。
3 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について
上記2のとおり、取消事由3が認められる以上、本件審決(原告らが取消しを 求めている請求項に関する部分)は既に取消しを免れないものである。しかし、 明確性要件違反の原因となった本件ピンミル構成は、前訴判決がサポート要件\n違反を肯定する判断をしたことを受けて、その瑕疵を回避するために特許請求 の範囲に加えられたという本件の経過を踏まえると、本件訂正後の特許請求の 範囲を前提としたサポート要件の適合性の問題(取消事由2)についても、併せ て判断を示すことが適切と考えられることから、以下に当裁判所の判断を示し ておくこととする。
なお、その場合、本件ピンミル構成を含む特許請求の範囲は明確性要件を欠\nくことが前提となるから、サポート要件の判断においても、本件ピンミル構成\nを発明特定事項として考慮しない前提で検討することとする。
(1) 前訴判決がサポート要件違反を認めて第1次審決を取り消したことは前 述のとおりであるところ、本件においては、前訴判決の拘束力がいかなる範 囲に及ぶかが問題となっているので、まずこの点を検討する。
ア 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判 決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判 事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は 行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法3 3条1項の規定により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束 力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる ものであるから、審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断を することは許されない(最高裁判所昭和63年(行ツ)第10号平成4年 4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
この拘束力は、行政庁が裁判所の判断に反して同一の処分を繰り返し、 同一の案件が行政庁と裁判所の間を往復することを避けるためのもので あり、原則として主文についてのみ生ずる既判力と異なり、判決理由中の 判断であっても、主文に直結する認定判断、すなわち主要事実の認定及び その法規範への当てはめの判断にも及ぶものである。他方、判決の結論と 直接関係のない傍論の説示はもとより、主要事実を確定する過程における 間接事実の認定やその評価にまで及ぶものではなく、また、結論に至る推 論過程を基礎づける論拠、反対主張を排斥する理由等の説示についても同 様である。取消判決の理由中の説示の全てが拘束力を有するとした場合、 結論に影響する意味合いや程度も様々な議論が独り歩きを始め、その解 釈・適用を巡って新たな紛争を拡大させることとなり、そのような状況は、 行政事件訴訟法33条1項の想定するところではないというべきである。
イ 以上を前提に、前訴判決(甲イ86)の判断構造をみておく。\n
(ア) 前訴判決は、まず、サポート要件適合性について、「所定の数値範囲 を発明特定事項に含む発明について、特許請求の範囲の記載が同号所定 の要件(サポート要件)に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な 説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含まれる数値範囲の 全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認識できるか 否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である」とし、「これ を本件発明1についてみると・・・『粒子の最大長において、セレコキ シブ粒子のD90が200µm未満である粒子サイズの分布を有する』こ とを特徴とするものであるから、所定の数値範囲を発明特定事項に含む 発明であるといえる。」としているので、「D90が200µm未満であ る粒子サイズの分布を有する」本件発明1について、その数値範囲の全 体にわたりその課題を解決できるものであるかどうかを検討している。
(イ) そして、前訴判決は、(a)一方で、本件明細書の【0022】、【01 24】、【0135】の記載から、未調合のセレコキシブを粉砕し、「セ レコキシブのD90粒子サイズが約200μm以下」とした場合には、セ レコキシブの生物学的利用能が改善されること、セレコキシブのピンミ\nリングのような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組 成物に改善されたブレンド均一性がもたらせることを示したものとい えるとしつつ、(b)他方で、1)本件発明1の請求項1には、セレコキシブ を微細化する具体的な方法は記載されておらず、本件発明1の「微粒子 セレコキシブ」が「ピンミリングのような衝撃粉砕」により粉砕された ものに限定する旨の記載もなく、かえって、本件明細書の【0135】 には、さまざまな粉砕機・破砕機が利用可能とされていること、2)本件 明細書の【0008】には、長く凝集した針を形成する傾向を有する結 晶形態を有する未調合のセレコシブは、錠剤成形ダイでの圧縮の際に、 融合して一枚岩の塊になり、他の物質とブレンドさせたときでも、セレ コキシブの結晶は、他の物質から分離する傾向があり、セレコキシブ同 士で凝集し、セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する、非均一なブ レンド組成物になるとの記載があること、3)本件優先日当時、粉砕によ り溶出は改善されるが、難溶性薬物は凝集して溶解速度が遅くなること があることが周知又は技術常識であったことを踏まえると、(c)難溶性 薬物であるセレコキシブについて、「『セレコキシブのD90粒子サイズが 約200μm以下(「未満」の誤記と認められる。)』の構成とするこ\nとによりセレコキシブの生物学的利用能が改善されることを直ちに理\n解することはできない」(以下「説示(c)」という。)とした。 また、本件明細書には、(d)「D90」の値を用いて粒子サイズの分布 を規定することの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係\nが説明されていないことを述べた上で、(e)難溶性薬物の原薬の粒子径 分布が化合物によって種々の形態を採ることに照らすと、「200μm 以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分布がどの ようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解するこ\nとはできない」(以下「説示(e)」という。)とした。そして、(f)本件 明細書の例11及び例11−2の実験結果の記載は、微粉化したセレコ キシブを含有する「組成物A」及び「組成物B」(これらに含まれるセ レコキシブのD90粒子サイズは約30μmと推認される。)の生物学的 利用能は、未粉砕、未調合のセレコキシブである「組成物F」の生物学\n的利用能より高いことを示しているが、「組成物A」及び「組成物B」\nに加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナトリウムが、生物学的利用能の\n実験結果に影響した可能性が高いものと認められ、この実験結果から、\n本件発明1の「セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」の数値範囲 の全体にわたり、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善\nするものと認識することはできないとした。
(ウ) 前訴判決は、以上を踏まえた結論として、本件明細書の発明の詳細な 説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が、本件発明1 に含まれる「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が200 μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると 認識できるものと認められないから、本件発明1は、サポート要件に適 合するものと認めることはできないとした。
(エ) 前訴判決の本件発明2〜4のサポート要件の適合性に関する判断は、 以下のとおりである。
本件発明2は「前記粒子の最大長において、前記セレコキシブ粒子の D90が100μm未満であること」を、本件発明3は同40µm未満で あることを、本件発明4は同25µm未満であることをそれぞれ発明特 定事項とするものであるところ、セレコキシブ粒子のD90が200µm 未満である本件発明1がサポート要件に適合するものと認めることが できないことは前記のとおりであると指摘した上で、例11及び例11 −2の実験結果も、ラウリル硫酸ナトリウムが生物学的利用能の実験結\n果に影響した可能性が高いものと認められることに照らすと、上記実験\n結果から、D90が約30µmよりも小さい値とした場合において、未調 合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するものと認識する\nことはできないとして、本件発明2〜4はサポート要件に適合するもの と認めることはできないとした。
(オ) 前訴判決は、本件発明5、7〜19については、請求項1記載の製薬 組成物を発明特定事項に含むものであるところ、「本件発明1がサポー ト要件に適合するものと認めることができないことは前記‥のとおり であるから」という理由により、サポート要件に適合するものと認める ことはできないとした。
ウ 取消判決の拘束力の範囲に関し上記アで述べたところに従って、前訴判 決の拘束力の生ずる部分を検討するに、主文に直結する認定判断(主要事 実の認定及びその法規範への当てはめの判断)は、本件訂正前の特許請求 の範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識(主要事実 の認定に当たる。)を前提に、本件訂正前の特許請求の範囲によって特定さ れる発明(本件発明)が特許法36条6項1号の要件に適合しないとした 判断(法規範への当てはめに当たる。)にほかならず、前訴判決中、拘束力 が生ずるのは当該部分であると解される。
他方、前訴判決の判断過程では、結論に至る推論過程を基礎づける論拠 として、説示(c)、(e)等の様々な理由が示されているが、その逐一について 拘束力が生ずるものではないことは、上記アで述べたとおりである。
エ そもそも、サポート要件は、明細書の記載(特許を受けようとする発明の 開示)から見て広すぎる特許請求の範囲を防ぐ役割を果たすものであると ころ、被告は、本件訂正前の本件発明につきサポート要件違反を認めた前 訴判決を受けて、特許請求の範囲の減縮を目的とする本件訂正の請求をし ており、これが訂正要件を充足することは前記1のとおりである。 その結果、本件では、本件訂正後の特許請求の範囲(ただし、本件ピンミ ル構成は発明特定事項として考慮しない。)に基づく本件訂正発明のサポ\nート要件の適合性が問題となっているのであって、同じサポート要件の適 合性の問題であっても、本件訂正前の特許請求の範囲を前提とする前訴判 決とは判断対象が異なる。それにもかかわらず、「前訴判決の説示(c)、(e) 等に照らせば、本件訂正後の本件訂正発明についても、前訴判決と同様の 判断が妥当する(はずである)」といった推論を戦わせるのは、取消判決の 拘束力の問題とは異質の議論といわざるを得ない。
オ 本件審決は、前訴判決の説示(e)(難溶性薬物の原薬の粒子径分布は・・・、 200μm以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分 布がどのようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解\nすることはできない旨の判示)について、これは、生物学的利用能の改善の\n観点では、90%の粒子の粒度分布も重要であることを述べたものである との理解を示している。そして、ピンミルのような衝撃式粉砕機(衝撃式ミ ル)により粉砕された粉体と、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕 機により粉砕された粉体は、異なる粒度分布の粉体となるという一般的な 知見をもとに、この粒度分布の差異は粉砕機構の差異に由来するものであ\nり、本件明細書に記載されたピンミルのような衝撃式ミルでの粉砕は、他 のタイプのミルとは異なる粒度分布を形成することにより、凝集性及びブ レンド均一性の改善に寄与するとして、説示(c)、(e)を本件訂正発明1が サポート要件に適合する理由の1つにしている。 これに対し、原告らは、D90を30μmにし、「セレコキシブ粒子が、 ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事 項を加えても、90%の具体的な粒度分布は明らかにならないとして、説 示(c)、(e)を本件訂正発明1がサポート要件に適合しない理由としている。 これらは、いずれも、前訴判決の説示(c)、(e)を独立して取り上げ、同判 断に拘束力が生じることを前提とするものと解されるが、失当というべき である。
拘束力の問題を離れて考えても、前訴判決の当該部分の判示は、製薬組 成物の特徴が、実質的に「D90が200µm未満である粒子サイズの分布を 有する」ことで特定されていた本件発明1について、未調合のセレコキシ ブに対して生物学的利用能が改善されるという課題を解決できるものであ\nるかどうかを検討する過程において、上記特定事項で特定しさえすれば、 課題を解決できるものと理解することはできないと判断したものであって、 前訴判決が、本件発明1がサポート要件に適合するには、90%の粒度分 布を示すことが必須の要請であると判断しているとの趣旨まで読み込むこ とには無理がある。
カ よって、前記ウのとおり、前訴判決の拘束力は、本件訂正前の特許請求の 範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識を前提に、本 件訂正前の特許請求の範囲によって特定される発明(本件発明)が特許法 36条6項1号の要件に適合しないとした判断について生じることを前提 に、サポート要件の適合性について判断する。
(2) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細 な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を 定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な 説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な 説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該 発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して 判断すべきものと解される。特に、所定の数値範囲を発明特定事項に含む発 明について、特許請求の範囲の記載が同号の要件に適合するか否かは、当業 者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含ま れる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認 識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
ア 前記第2の2(3)の本件明細書の開示事項によれば、本件訂正発明の課題 は、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経\n口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することであり、\n取り分け、水溶液に溶解しにくいセレコキシブ粒子の特質から、混合中に セレコキシブ同士で凝集し、非均一なブレンド組成物になるとの問題の解 決にあるものと認められる。
具体的には、本件明細書の【0008】では、「・・・セレコキシブは、 水溶性媒体には異常なほど溶解しない。例えば、カプセル形態で経口投与 させた場合、未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために、 容易には溶解せず、分散もしない。加えて、長く凝集した針を形成する傾 向を有する結晶形態を有する未調合のセレコシブは、通常、錠剤成形ダイ での圧縮の際に、融合して一枚岩の塊になる。・・・」として、セレコキシ ブが、水溶性媒体には異常なほど溶解しないこと、未調合のセレコシブが 長く凝集した針を形成する傾向を有することを解決すべき問題として挙げ ている。
イ 上記課題に関係する技術常識として、証拠(甲イ7、16、23、65〜 68、80、103)及び弁論の全趣旨によれば、本件出願日当時、1)粉砕 によって薬物の粒子径を小さくし、比表面積(有効表\面積)を増大させるこ とにより、薬物の溶出が改善されるが、他方で、難溶性薬物については、溶 媒による濡れ性が劣る場合には、粒子径を小さくすると凝集が起こりやす くなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速度が遅くなることがあるこ\nと、2)疎水性の難溶性物質であっても、界面活性剤が存在すると、微粒子は 凝集せずに均一に溶液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は 大きくなることは、周知又は技術常識であったものと認められる。
ウ 上記技術常識を踏まえて、本件訂正発明が上記課題を解決できると認識 できる記載が本件明細書に開示されているかどうかにつき、さらに検討す る。
(ア) 本件明細書の【0022】には「本発明の組成物は微粒子の形態のセ レコキシブを包含する。セレコキシブの一次粒子は、例えば、製粉若し くは粉砕により、又は溶液から沈殿させて生成させ、凝集して二次の集 合体粒子が形成される。本願で利用する用語「粒子サイズ」とは、特に 本願で指摘しない限り、一次粒子の最長の大きさのことをいう。粒子サ イズは、セレコキシブの臨床的効果に影響を与える重要なパラメータで あると考えられる。よって、別の実施例では、発明の組成物は、粒子の 最長の大きさで、粒子のD90が約200μm以下、好ましくは約100 μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは約40μm 以下、最も好ましくは約25μm以下であるように、セレコキシブの粒 子分布を有する。通常、本発明の上記実施例によるセレコキシブの粒子 サイズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改良される。」、\n【0124】には「カプセル及び錠剤中でのセレコキシブの粒子サイズ カプセル若しくは錠剤の形で経口投与されると、セレコキシブ粒子サイ ズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見し\nた。したがって、セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下、 好ましくは約100μm以下、より好ましくは約75μm以下、さらに 好ましくは約40μm以下、最も好ましくは25μm以下である。例え ば、例11に例示するように、出発材料のセレコキシブのD90粒子サイ ズを約60μmから約30μmに減少させると、組成物の生物学的利用 能は非常に改善される。加えて又はあるいは、セレコキシブは約1μm\nから約10μmであり、好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均 粒子サイズを有する。」としており、セレコキシブの粒子サイズを減少 させることで、セレコキシブの生物学的利用能が改善されることが記載\nされている。
(イ) また、本件明細書の【0024】の「セレコキシブと賦形剤とを混合 するに先立ち、ピンミル(pin mill)のような衝撃式ミルでセ レコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作製することは、改善され た生物学的利用能を提供するに際して効果的であるだけでなく、かかる\n混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性と関連する問 題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミルを利用し て粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネルギ ーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体に は容易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が 高くなり、このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合に おいて、非常に重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合す る際のエアージェットミルのような液体エネルギーミルの有用性に予\n期せぬ結果をもたらす。特定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕に より長い針状からより均一な結晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質 させ、ブレンド目的により適するようになるが、長い針状の結晶はエア ージェットミルでは残存する傾向が高いと仮定される。」との記載から、 粉砕により粒子サイズを減少させるについて、ピンミルのような衝撃式 ミルを使用して長い針状からより均一な結晶とし、ブレンド目的により 適するものとすることが記載されている。
(ウ) 本件明細書の【0075】には「加湿剤 セレコキシブは水溶液にか なり溶解しにくい。したがって、本発明の製薬組成物は、任意であるが、 好ましくは、キャリア材料として、一つ又はそれ以上の薬剤学的に許容 な加湿剤を含む。かかる加湿剤は、水と親和性があるようにセレコキシ ブを維持させるように選択することが好ましく、その状態が製薬組成物 の相対的生物学的利用能を改善させると考えられる。・・・」、【00\n76】には「ラウリル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在す るならば、ラウリル硫酸ナトリウムは、組成物の全重量の対して、約0. 25%から約7%、好ましくは約0.4%から約6%、より好ましくは 約0.5%から約5%の量を含む。」として、セレコキシブは水溶液に かなり溶解しにくいために、水と親和性があるようにセレコキシブを維 持させる加湿剤を含むことが好ましいこと、好ましい加湿剤はラウリル 硫酸ナトリウムであること、そのような加湿剤を添加することにより相 対的生物学的利用能を改善できることが記載されている。\n
(エ) 例11−2では、犬モデルでの調合の相対的生物学的利用能の試験\nがされている。 組成物A、Bは微粉化され、ラウリル硫酸ナトリウムが添加されてい る(【0173】、【0174】、表11−2A)。本件明細書の【0\n124】に「・・・例えば、例11に例示するように、出発材料のセレ コキシブのD90粒子サイズを約60μmから約30μmに減少させる と、組成物の生物学的利用能は非常に改善される。・・・」と記載され\nていることから、組成物A、BのD90粒子サイズは約30μmと認めら れる。他方、参考例である組成物Fは、未粉砕、未調合のセレコキシブ である(【0172】)。 生物学的利用能は、メス犬について、組成物Fが16.9%であるの\nに対し、組成物Aは31.2%、組成物Bは24.9%であり(【01 76】、(表11−2C)、オス犬について、組成物Fが16.9%で\nあるのに対し、組成物Aは49.4%、組成物Bは54.2%である(【0 177】、表11−2D)とされ、D90粒子サイズを約30μmに減少\nさせた組成物A、Bにおいて生物学的利用能が明らかに高い結果が示さ\nれている。
エ 以上を総合すると、本件訂正発明1は、粒子の最大長においてD90が3 0μmであるセレコキシブ粒子、及び加湿剤としてのラウリル硫酸ナトリ ウムを含有することを特定するものであるところ、これは、1)セレコキシ ブが長い針状の結晶形態を有することに対応するため、粉砕によって薬物 の粒子径を小さくし、比表面積を増大させることにより、薬物の溶出を改\n善させるために、セレコキシブの粒子サイズを「D90が30μm」に減少 させ、また、2)セレコキシブのような難溶性薬物については、粒子径を小さ くすると凝集が起こりやすくなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速\n度が遅くなるが、界面活性剤が存在すると、微粒子は凝集せずに均一に溶 液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は大きくなることから、 セレコキシブに、界面活性剤同様水に親和性を持たせる湿潤剤であるラウ リル硫酸ナトリウムを含有させることとしたものである。そして、3)具体 的な実験結果においても、D90粒子サイズは約30μmとし、ラウリル硫 酸ナトリウムを含有させたセレコキシブ組成物が、未粉砕、未調合のセレ コキシブに対して優れた生物学的利用能を示しているのであるから(例1\n1−2)、本件訂正発明1は、本件ピンミル構成を発明特定事項として考慮\nしなくても、本件明細書及び技術常識から、「未調合のセレコキシブに対し て生物学的利用能が改善された固体の経口運搬可能\なセレコキシブ粒子を 含む製薬組成物を提供する」という課題を解決できると当業者が認識でき る範囲の発明であるといえる。
本件訂正発明2は、D90が30μmよりも減少した数値範囲である「D 90が30μm未満」と特定されたものであるから、上記本件訂正発明1に ついて述べたところと同様、本件明細書及び技術常識から、上記課題を解 決できると当業者が認識できる範囲の発明であるといえる。 本件訂正発明4、5、7〜13、15、17〜19も、本件訂正発明1及 び本件訂正発明2を直接的又は間接的に引用してこれらをさらに限定する 発明であるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2と同様に、本件明細 書及び技術常識から、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲の 発明であるといえる。

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令和5(行ケ)10111 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月11日  知的財産高等裁判所

商標「田中箸店」、指定商品8類「スプーン、フォーク及び洋食ナイフ」及び21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」が識別力無し(3条1項6号違反)とした審決が維持されました。

(1) 「田中」と「箸店」の組合せからの一般的理解について
ア 本願商標は、「田中」の文字と「箸店」の文字を結合した結合商標である ところ、その構成中の「田中」の文字は、「全国名字大辞典」(平成23年 9月20日発行、乙1)によれば、日本を代表する地形姓で、沖縄を除く西\n日本では全て15位以内、東日本でも全て50位以内に入っていること(乙 1)、2)「名字由来net」のウェブサイト(乙2)において、全国順位が 4位であること、3)「姓名分布&姓名ランキング」のウェブサイト(乙3) によれば、平成19年10月までに発刊された全国の電話帳に掲載されて いる世帯を基準にすると、全国で4番目に多い氏であることがそれぞれ認 められ、日本国内ではありふれた氏と認められる。
イ 本願商標の構成中、「箸店」の「箸」の文字は、「中国や日本などで、食\n事などに物を挟み取るのに用いる細長く小さい二本の棒。」(乙4)の意味、 「店」の文字は、「品物を置き並べて商売するところ。その品物を商うみ せ。」(乙5)の意味をそれぞれ有する語として辞書に登載されている。そ うすると、本願商標の構成のうち「箸店」の部分は、箸を取り扱う店程度の\n意味を有するものと理解される。 各種ウェブサイトによれば、「箸店」の語が、「箸を取り扱う店」の店舗 名や商号の一部として広く採択、使用されており、「岩多箸店」(乙6、4 2)、「株式会社 伊勢屋箸店」(乙7)、「やまご箸店」(乙8)、「(有) 府中宮崎箸店」(乙9)、「有限会社せいわ箸店」(乙10)、「小山箸店」 (乙11)、「フクイチ箸店株式会社」(乙12)、「タケダ箸店」(乙1 3)、「神戸屋箸店」(乙14)、「坂田箸店」(乙15)等がある。
ウ そうすると、本願商標は、ありふれた氏である「田中」と、箸を取り扱う 店を表すものとして広く使用されている「箸店」を組み合わせた「田中箸\n店」を標準文字で表したものであり、「田中」の氏又は当該氏を含む商号を\n有する法人等が経営主体である箸を取り扱う店というほどの意味を有する 「田中箸店」というありふれた名称を、普通に用いられる方法で表示する\n標章のみからなる商標で、本願商標の指定商品のうち、第21類「台所用品 (「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」には、「箸」 が含まれる(乙43、44)ことも考慮すれば、販売実績に基づく識別力の 獲得が認められるなどの特別の事情がない限り(この点は後記(2)において 判断する。)自他商品の識別力を有しないものと解される。
エ 原告は、本願商標は、外観と称呼の一連性により、一体不可分として扱わ れるべきものである旨主張するが、一連一体の商標であっても、自他商品 の識別力を有するか否かを検討する上では、個々の構成部分の意味を検討\nするプロセスが否定されるものではなく、原告の主張は採用できない。 また、原告は、iタウンページの検索において、東京都では「田中箸店」 に該当するものがなく、原告の本社がある福井県では原告のみが該当する 旨主張するが、上記ウの判断を左右するものではない。

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令和5(ネ)10085 損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  商標権  民事訴訟 令和6年3月7日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審、知財高裁とも、は、DVDのケースの「九鬼神流」などの記載は、商標的使用ではないと判断しました。知財高裁は、消滅時効の追加主張を時期に後れたものとはいえないとして、一部の債権については時効により消滅したと判断し、損害賠償額を減額しました。

被控訴人は、控訴人に対し支払義務を負うとしても、本件訴状が原審裁判所に提 出された令和3年10月14日時点で、平成23年10月14日以前に支払われた 出演料に相当する部分6万9420円(=41万6521円÷(1−0.1)÷7% ×1.05×7%−41万6521円)は消滅時効が成立していると主張し、その 時効を援用していることは記録上明らかであるため、この点について検討する。10 控訴人は、上記主張につき、時機に後れた攻撃防御方法であることや時効援用が 信義則に反することを主張するが、被控訴人の時効主張は、原審での審理経過及び 判断内容を踏まえてされたものであるところ、その主張内容からすると、その審理 のために訴訟の完結を遅延させることとなるものとは認められず、時機に後れたも のとはいえないし、時効援用が信義則に反するものともいえない。 そして、本件訴訟提起時(令和3年10月14日)から遡って10年内に履行期 が到来した債権については、時効期間が経過していないものの、それ以前に履行期 が到来した債権については、本件訴提起時までに時効期間が経過し、かつ、権利行 使が可能であったといえ、時効中断等の事情もうかがわれないことからすると、平\n成23年10月14日以前に支払われた出演料に相当する未払部分6万9420円 (=41万6521円÷(1−0.1)÷7%×1.05×7%−41万6521 円)は消滅時効が完成し、被控訴人の時効の援用によって同額について時効により 消滅したものといえる。
(3) したがって、被控訴人は控訴人に対し、1万5177円(=8万4597円 (訂正の上引用する原判決第5の4(3))−6万9420円(上記(2)))及びこれに 対する履行期の到来後で控訴人の請求する令和3年11月16日から支払済みまで 民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
5 著作権侵害(当審における新たな請求原因の主張)について
控訴人は、当審における令和5年9月20日付け控訴理由書において、新たな請 求原因の追加的変更に当たる主張として、被控訴人の本件大会ビデオ・DVDの制 作・販売が控訴人の演武の著作権を侵害するとの主張を行ったが、被控訴人は、か かる主張は原審において提出できたことは明らかであり、控訴審において更に審理 することは訴訟の完結を遅延することなるため、却下すべきと主張する。 上記請求原因の追加的変更については、原審においてその主張ができなったとい うやむを得ない事情はうかがわれず、上記請求原因の追加的変更を許せば、控訴人 の演武の著作物性、著作権侵害の有無、仮に侵害が認められる場合においては損害 の有無等を新たに審理しなければならず、著しく訴訟手続を遅滞させることとなる から,当該請求原因の追加的変更は不当であると認められる。 したがって、控訴人の著作権侵害に係る請求原因の追加的変更の申立ては、民訴\n法297条、143条1項及び4項に基づき、許さないのが相当である。

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◆令和3(ワ)26704

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令和5(ネ)1384等  損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和6年1月26日  大阪高等裁判所

大阪高裁は、アマゾンに対してサイト上に掲載した画像等が被告の著作権を侵害する等の申告をした行為が不正競争防止法(不競法)2条1項21号の不正競争行為に該当すると判断されました。1審の判決維持です。なお、著作物性無しと判断されたのは、芸能人を被写体とする写真が印刷された平面的な表\紙及び裏表紙を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影した画像です。\n

写真集及び卓上カレンダーに係る被告画像1、2及び4ないし10は、 インターネットショッピングサイトにおいて販売する商品がどのような ものかを紹介するために、芸能人を被写体とする写真が印刷された平面\n的な表紙及び裏表\紙を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影 した画像であり、上記表紙及び裏表\紙以外に背景や余白はないのであっ て、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、背景\n等に選択の余地がなく、上記表紙及び裏表\紙ひいてはそこに印刷された 芸能人を被写体とする写真を忠実に再現する以外に、その画像の表\現自 体に何らかの形で撮影者の個性が表れているとは認められないから、上\n記各被告画像には創作性が認められない。したがって、上記各被告画像 は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)\nとはいえず、著作物とは認められないから、一審被告が上記各被告画像 について著作権を有するとは認められない。
(イ) 被告画像3について
単語帳に係る被告画像3も、インターネットショッピングサイトにお いて販売する商品がどのようなものかを紹介するための写真ではあるが、 芸能人を被写体とする写真が印刷された表\紙及び裏表紙を金具のリング\nから取り外し、各写真を表にして平面上に上下に並べ、その右側に一部\n裏表紙と重なる形で、63枚の単語カードを写真側を表\にして金具のリ ングを要として扇状に広げたものを撮影したものであり、正面から撮影 されたものではあるものの、上記単語カードを扇状に広げることによっ てその重なり合いによる陰影が表現され、また、2枚目以降の単語カー\nドの白い縁取りからわずかに各写真が垣間見えるように広げることによ って各単語カードにそれぞれ異なる写真が印刷されていることを表現し\nており、白い背景によって表紙及び裏表\紙の写真等を浮き立たせる効果 も生んでいるといえる。このような手法が商品としての単語帳を紹介す る際にまま見られるもの(乙62、63)であったとしても、その被写 体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、背景の選択には 複数の余地があり、被告画像3の表現自体に撮影者の個性が表\れている と認められる。したがって、被告画像3は、「思想又は感情を創作的に 表現したもの」といえ、著作物性が認められるから、その撮影者である\n一審被告は被告画像3について著作権を有すると認められる。
(ウ) 以上に対し、一審被告は、被告画像1、2及び4ないし10についても、 手ブレ補正、露出補正、ホワイトバランス等の細かい調整を行い、光の 入り方に気を配って撮影場所にこだわり、複数の写真を撮影してその中 の一番良い写真について彩度、色合いを編集するなどの独自の工夫を凝 らしている旨主張するが、一審被告が主張するそのような工夫は、商品 である写真集ないし卓上カレンダーの表紙及び裏表\紙、ひいてはそこに 印刷された芸能人を被写体とする写真を忠実に再現するためのものであ\nって、上記工夫の結果、それらが忠実に再現された各被告画像が得られ たとしても、その表現自体に何らかの形で撮影者である一審被告の個性\nが表れているとは認められない。したがって、上記一審被告の主張は上\n記(ア)の判断を左右しない。
・・・
ア 上記のとおり、被告サイト上の被告各画像及び商品名のうち、そもそも著 作物性が認められるのは被告画像3のみであり、その余については著作物性 自体が認められず、一審被告が著作権を有しないから、一審原告がその著作 権を侵害した事実はおよそ存在しない。そこで、原告画像3の掲載が被告画 像3についての一審被告の著作権侵害に当たるかにつき、以下検討する。
イ 被告画像3の表現上の本質的特徴は、前記(3)ア(イ)のとおり、本件商品3 を撮影する際の被写体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、 背景の選択等を総合した表現に認められるところ、画像テンプレートを利用\nして作成された原告画像3は、単語帳から取り外した一部の表紙等を並べて\nその横に単語帳を扇状に広げて置くなどの点で商品の見せ方に関する基本的 なアイデアに被告画像3との共通点はあるが、取り外して並べられたのが表\n紙や裏表紙の写真面か、単語カードの韓国語単語が記載された面か、その枚\n数、色彩及び配置、金具のリングを要として扇状に広げられた単語帳がその 右側に配置されているか左側に配置されているか等の配置、同単語帳の1枚 目のカードに印刷された写真内容、同単語帳の単語カードの枚数、色彩、扇 状の広がり方及び陰影等で異なっていることが一見して明らかであって、そ の素材の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、色彩の配合、素 材と背景のコントラスト等において被告画像3と異なるから、被告画像3の 表現上の本質的特徴を直接感得させるものとはいえない。なお、原告画像3\nで選択された素材のうち、本件商品3の表紙を正面から撮影した画像部分の\nみは被告画像3と共通するが、その画像自体は、被告画像1、2及び4ない し10について検討したと同様、平面的な上記表紙を忠実に再現したのみで\n創作性が認められない部分であるから、同画像部分が共通しているからとい って、原告画像3が被告画像3と類似しているとは到底認められない。した がって、一審原告が原告画像3を原告サイトに掲載したことが、被告画像3 に係る一審被告の著作権を侵害するものとは認められない。
以上によれば、一審被告が、本件各申告によってアマゾンに告知した、一\n審原告が被告サイト上の被告各画像及び商品名についての一審被告の著作権 を侵害しているとの本件各申告の内容は、全て虚偽の事実であったというこ\nとになる。そして、前記第2の2で原判決を補正した上で引用した前提事実 (1)によれば、一審原告と一審被告は競争関係にあるといえ、また、上記著 作権侵害の事実を申告する行為は一審原告の営業上の信用を害する虚偽の事\n実を告知する行為といえるから、本件各申告は、客観的に不競法2条1項2\n1号に該当するということになる。

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令和5(行ケ)10113  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和6年2月19日  知的財産高等裁判所

物品「鞄」について、無効理由有りとした審決が維持されました。

1 原告は、本件南京錠は本件登録意匠の要旨ではなく、意匠の要部を構成しな\nい旨主張する。
しかし、本件登録意匠は、別紙意匠公報のとおり、本件南京錠を付したもの として登録されているのであるから、他人の業務に係る物品と混同を生ずるお それ(意匠法5条2号)があるか否かについて、登録された意匠の形状等のう ち、特に他人の周知・著名な商標に類似する部分が問題となることは当然であ り、この点は、意匠同士の類否(同法3条1項3号)等の判断に当たって考慮 される意匠の「要部」であるか否かとは別問題であるから、原告の主張は失当 である。なお、本件において、添付図面等の南京錠又は南京錠の正面の態様を削除す る補正をすることは、添付図面等の要旨を変更するものに当たると解される。
2 原告は、審査段階で意匠法5条2号の拒絶理由を指摘されていない旨主張す るが、そのような事情は、本件登録意匠が同号に当たるか否かの実体判断を左 右するものでないことはもとより、無効審判手続の違法を根拠づけるものでも ない。
3 原告は、正面が無地の南京錠を付したかばんを販売しているとして、本件南 京錠を付したかばんを販売していない旨主張するが、仮にそのような事実が認 められるとしても、本件登録意匠が被告の業務に係る物品であるハンドバッグ 等と混同を生ずる意匠であるかの判断において考慮すべき取引の実情に当たる ものではない。

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令和4(ワ)16062  損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和6年1月17日  東京地方裁判所

医薬品について、旧字の商標の類似範囲が争われました。 本件登録商標「仙脩」、被告標章「仙修」「仙修六神丸」「御所 仙修」「御所仙修」です。
裁判所は、「御所仙修」は非類似、それ以外は類似すると判断しました。

(1) 被告標章1について
本件商標と被告標章1の外観についてみると、いずれも漢字二文字で一文 字目の字が「仙」の字で同一であり、二文字目の字も本件商標が「脩」、被 告標章1が「修」の字であり、右側下部のみが、本件商標が「月」と同じ形 状をしているのに対し、被告商標1が「彡」の形状をしており、異なってい るものの、それ以外の左側及び右側上部は同一形状をしており、似た形状を している。そうすると、本件商標と被告標章1の外観は類似しているといえ る。
本件商標と被告標章1の称呼についてみると、両者はいずれも「せんしゅ う」で同一である。 そして、観念についてみると、本件商標も被告標章1もいずれも「せんし ゅう」としては広辞苑(第7版)に掲載されていない。もっとも広辞苑(第 7版)によれば、「仙」の部分は「仙人」の意味とされる。「脩」は、前記 1(3)のとおり、本来の意味は干し肉を指すものであったが、現代では音が同 じ被告標章1の二文字目の「修」と同じ「おさめる」の意味をも有している とされ、「修」の簡体字ないし異字体として使用されることもあるものであ る。これらの事実に照らすと、本件商標も被告標章1も、いずれもそれ自体 で特定の観念を有するとはいえないが、それぞれを構成する漢字は、共通す\nるものと、共通する意味を有するものであり、それらの漢字から想起される 観念も類似していると評価することができる。
被告は、特に医薬品の需要者からは、「脩」の字は乾燥させた生薬や原料 を想起させる文字であり、医薬品として「虎脩六神丸」と「虎修六神丸」の 両商品名を販売している会社も存在していることなどを指摘する。しかし、 「脩」の字には「修」と同じ「おさめる」の意味も有しているとされる。ま た、原告は医薬品の小売業であり(前記第2の1(1)及び(4))、被告の卸売の 販売先が、被告各商品をインターネット上のサイトで販売していること(前 記第2の1(6))からすると、被告各商品の市場は全国に及び、かつその対象 も消費者に及ぶといえ、被告各商品の需要者には消費者も含まれ、また、医 薬品に精通する者のみが需要者であるとはいえないので、この点に関する被 告の主張は採用できない。 これらの事情を総合的にみれば、本件商標と被告標章1は類似している といえる。
(2) 被告標章2について
本件商標と被告標章2の外観についてみると、本件商標は漢字二文字であ るのに対し、被告標章2は漢字5文字であり、「仙」の字が同一であり、 「脩」と「修」の字が類似しているとしても、全体として外観が類似してい るとはいえない。また、本件商標と被告標章2の称呼についてみても、「せ んしゅう」と「せんしゅうろくしんがん」であり、一部共通するとしても、 全体として称呼が類似しているともいえない。 もっとも、被告標章2のうちの「六神丸」の部分は、前記1(1)のとおり、 古くから特定の漢方薬を指す用語であるとされ、広辞苑(第7版)において も「漢方薬の一つ」として説明されているものであり、その他想起される意 味はなく、実際にも、漢方薬として、多くの会社から六神丸という名称の商 品が販売されている。そうすると、需要者にとって、「六神丸」の部分は、 特定の内容の漢方薬を指すものといえる。 そうすると、被告標章2において、「六神丸」の部分は出所識別力を有さ ず、主に出所識別力を有するのは、「仙修」の部分であるといえる。そこで、 本件商標と被告標章2の「仙修」の部分を被告して商標の類否を検討すると、 本件商標と被告標章2の「仙修」の部分については、前記 のとおり、外観 が類似し、称呼が同一である。また、観念についても、本件商標の「仙修」 と被告標章2の「仙脩」のそれぞれの漢字から想起される観念は類似すると いえる。 これらの事情を総合的にみれば、本件商標と被告標章2は類似していると するのが相当である。
(3) 被告標章3について
本件商標と被告標章3の外観についてみると、本件商標は漢字二文字であ るのに対し、被告標章3は漢字4文字であり、「仙」の字が同一であり、 「脩」と「修」の字が類似しているとしても、全体として観察した場合は、 外観が類似しているとはいえない。 もっとも、被告標章3は、「御所」と「仙修」の間に空白があり、かつ 「御所」の文字は、四角形の枠で囲まれていて、そのような枠がない「仙修」 の部分と「御所」の部分は、外観上、明確に分離して観察することができる ものといえる。そして、本件商標と被告標章3の「仙修」部分の外観が類似 しているのは、前記アで述べたとおりである。 また、本件商標と被告標章3の称呼についてみても、「せんしゅう」と 「ごせせんしゅう」又は「ごしょせんしゅう」であり、全体の称呼は異なる ものの、分離して観察することができる「御所」部分を除いた「せんしゅう」 の部分は同一である。 本件商標と被告標章3の観念についてみると、「御所」は、前記1(2)のと おり、古くからの薬の生産地である奈良県の被告所在地の市を意味するもの であり、文献等において言及されることはあるが、本件証拠上、言及されて いる文献は奈良県に関する文献か医薬品に関する論文等の専門誌であり、 「御所」が、需要者に特に広く知られていて、需要者が当然に特定の市を想 起するとまでは認めるに足りない。そして、「御所」は、広辞苑(第7版) においても、「ごせ」と読ませる場合、「奈良県西部、大阪市に接する市」 と記載されている一方で、「ごしょ」と読ませる場合、「天皇の座所を意味 する」と記載されている。これらの事実からすると、「御所」は、「ごせ」 と読ませる場合は奈良県の市名として理解されるものの、需要者が必ずその ように理解するとまでは認めるに足りず、「ごしょ」と読む天皇の座所の意 味を想起する者もいるといえる。もっとも、被告標章3では、前記のとおり 「御所」と「仙修」は外観上明確に分離しているところ、本件商標の「仙修」 と被告標章2のうちの「仙脩」のそれぞれの漢字から想起される観念は類似 するといえる。
以上の事情をみると、被告標章3は、全体として不可分一体のものとはい えず、その構成上、被告標章3の「仙修」の部分も出所識別標識となるもの\nであり、この部分と本件商標との類否を判断することができるというべきで ある。そして、前記 に述べたのと同じ理由により、本件商標と「仙修」の 部分は類似しているといえるから、本件商標と被告標章3は類似していると いえる。
(4) 被告標章4について
本件商標と被告標章4の外観についてみると、本件商標は漢字二文字であ るのに対し、被告標章3は漢字4文字であり、「仙」の字が同一であり、 「脩」と「修」の字が類似しているとしても、全体として観察した場合は、 外観が類似しているとはいえない。そして、被告標章4は、被告標章3とは 異なり、「御所」と「仙修」の間に空白もなく、かつ「御所」の部分も四角 形の枠で囲まれるなどしていないから、外観上、「御所」の部分と「仙修」 とが分離して観察されることはない。
また、本件商標と被告標章4の称呼についてみても、「せんしゅう」と 「ごせせんしゅう」又は「ごしょせんしゅう」であり、一部重なる部分はあ るものの、全体として観察した場合、称呼は異なる。 そして、本件商標と被告標章4の観念についてみると、前記ウで述べたと おり、「御所」について、「ごせ」と読ませる場合は奈良県の市名として理 解されるものの、需要者が必ずそのように理解するとまでは認めるに足りず、 「ごしょ」と読む天皇の座所の意味を想起する者もいるといえるものであり、 「御所」の部分にも一定の観念が生ずるものといえる。 そして、被告標章4の「御所仙修」が外観上分離されない一連のものであ るところ、そのうちの「御所」の部分に出所識別標識としての機能がないと\nは直ちにはいえないし、「仙修」の部分が出所識別標識として強く支配的な 印象を与えるとはいえない。 これらの事情を総合的にみれば、本件商標と被告商標4は類似していると はいえない。

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令和4(ネ)10018  職務発明の対価請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月8日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

職務発明の報奨金請求事件です。1審と同様「特許による独占的、排他的な実施により超過して利益を得たと認めることはできない」と判断されました。

「(4) 本件発明A2の自己実施による独占の利益の有無及び額についての検討
ア 被控訴人においては、平成13年頃、CODEX5%ルールの認可や、東南ア ジアの経済発展等に伴い、国際的なCBEの需要増加が見込まれる一方、国内製造 拠点の生産能力が限界に達しているとの現状認識のもと、米国に所在する子会社で\nあるFVOにおいて、EE技術を利用してヒマワリ油からSOSパーツを製造する 設備を有する工場を新設し、被控訴人グループ内での安定供給を図る方策を立案し ていたが、当初、当該工場における油脂分別方法としては、溶剤分別法を用いること を想定していた。しかるところ、控訴人を含むNTメンバーが主導となって、本件各 発明を含む改良された乾式分別法によると、SOSパーツの品質は溶剤分別法によ るものと比して大差なく、現にパイロットレベルの試作品においては同等以上とな っていること、分別収率や生産量等の生産効率も溶剤分別法との間にさほどの差は ないこと、コスト面においては設備費及び比例・加工費ともに大幅な削減が可能で\nあること等が報告された。そこで、被控訴人は、平成14年9月頃、本件乾式分別法 を採用した(本件発明A2を実施する)本件設備を備えた本件工場を米国にてFV Oに新設、稼働させる旨を意思決定し、平成15年に着工が始まり、平成16年4月 頃から稼働が始まったものである。(前記(3)イ(ア)〜(カ)) ところが、本件設備及び本件工場に係る設備投資については、●●●●●●●● ●であったのに対し、●(省略)●を要することとなった。しかも、本件工場は、稼 働当初、稼働能力や生産効率に課題を抱えていたほか、品質低下も指摘されており、\nその原因として●●●●●●●●●●●●ことが指摘された。このため、FVOは、 平成18年頃から、品質を確保するため、●(省略)●こととし(ただし、平成27 年以降は、●●●●●●●●●●●●●●こととしたが、これが、品質の改良や生産 効率の改善によるものであるかは不明である。)、また、更に●●●●●●●●を負 担して本件増設工事を行うことを余儀なくされたものである。(前記(3)イ(キ)〜(コ )、ウ(ア)c)
イ FVOパーツ品の品質についてみると、●●●●●●●●●●●●●を予定\nしていたところ、本件増設工事が完了した平成19年3月頃には同程度と報告され ていることや(前記(3)イ(サ))、現実にFVOがFVOパーツ品を被控訴人グループ ●(省略)●世界CBE市場における被控訴人のシェア獲得にも寄与していると認 められること(前記(3)ウ(イ)e、エ)に照らすと、FVOパーツ品が、そもそも販売 に耐えないほど低品質のものであったということはできない。他方で、FVOパー ツ品やFVO品が、溶剤分別法により製造されたSOSパーツやこれらを原料とし たCBEとの比較において、品質面で上回っていることを認めるに足りる証拠もな い。そうすると、本件発明A2を実施したことにより、被控訴人がその実施品である FVOパーツ品やFVO品について、品質面で優位に立ったということはできない。
ウ 次に、本件発明A2を実施したことによりFVOが得た利益についてみると、 そもそも、本件乾式分別法を採用したFVOの●(省略)●は、直ちに分別方法によ る利益の相違を示すものではないが、その算出に際してその時々の相場と過去の実 績等が考慮され、変動費に相当する見込み額として位置付けられるものであり、分 別方法の差異による採算性を考慮する際の参考にすることは妨げられないというべ きである。
さらに進んで、FVO、FOJ及びFOSにおけるSOSパーツの加工費及び比 例費の各試算を比較すると、●(省略)●るのに対し、●(省略)●、大きな差が発 生しているのに、原料コストや収率等を考慮して試算された比例費では、●(省略) ●相対化されている(前記(3)ウ(イ)b)。しかも、この数値は、約9年間にわたり実 際には支払われていた●●●●●●●●●●●●を考慮していない上、FVOの現 実の収率よりも高い収率である●●●を収率として試算されたものであり、実数値 によると更に差は小さくなるものである。 このことに加え、前記アのとおり、被控訴人内部では、当初、本件乾式分別法を採 用することにより設備費においても大幅なコスト削減が見込まれるとの認識(溶剤 分別法による場合の投資試算額●●●●●に対し、●●●●●の投資試算額と見込 まれていた。)の下で、本件施設及び本件工場の新設に踏み切ったものの、現実には これに●●●●●●●●●を要し、加えて、本件設備につき、稼働能力、生産効率、\n品質低下等の課題が指摘されたことから、更に●●●●●●●●●を要する本件増 設工事まで余儀なくされたこと等も併せて考慮すると、FVOが本件乾式分別法を 採用したことによる効果として、当初予定していた溶剤分別法による以上に利益率\nを向上させることができたとか、現実に利益を上げることができたとは認められな い。
エ さらに、本件特許権A2を含む特許権に基づく禁止権の効果により他社を排 除することができたかについてみると、競合他社であったIOFは平成23年に、 LCは平成27年に、それぞれシア脂からSOSパーツを分別できる工場をガーナ に新設し、稼働させたが、いずれの工場においても溶剤分別法が用いられており、本 件各発明に関連する特許による禁止の効力が及ばない地域においても、競合他社は、 いまだ溶剤分別法を採用している上、本件各特許権がいずれも消滅した現在におい ても、被控訴人又は競合他社が、本件乾式分別法を採用した施設若しくは工場を新 設、稼働し、又はその準備をした等の事実は認められないのであって(前記(3)オ)、 控訴人が主張するように、溶剤分別法が危険を伴い、時に重大な事故を引き起こし 得るものであるとしても、被控訴人又は新不二製油が、本件特許権A2を含む特許 権に基づく禁止権の効果により、競合他社による本件乾式分別法の採用を排除し、 これにより使用者として有する通常実施権に基づく実施によって得られる利益を超 えた利益を得たと認めることは困難である。
なお、本件施設の稼働後、CBE市場における被控訴人のシェアが増加したのは、 被控訴人が、規制緩和や経済動向をみて国際的なCBEの需要増加を見込み、FV Oを拠点に生産施設を新設し、これが現実に稼働したことに伴う結果とみられ、本 件乾式分別法を採用したことにより特にシェアを拡大できたことをうかがわせる事 情はないというべきである。 オ 以上を総合すると、被控訴人が、本件特許権A2につき有する通常実施権に 基づいて本件発明A2を実施して得られる利益の額を超えて、特許による独占的、 排他的な実施により超過して利益を得たと認めることはできない。したがって、被 控訴人につき、本件発明A2による独占の利益は認められない。

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◆平成30年(ワ)866

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令和5(行ウ)5002  特許料納付書却下処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年2月16日  東京地方裁判所

 旧特許法112条の2第1項の「正当な理由」があったとはいえないとして、 特許庁による追納期間徒過後の納付書の却下処分に違法性無しと判断しました。

2 原告が本件追納期間を徒過したことについて、旧特許法112条の2第1項の 「正当な理由」があったか(争点2)について
旧特許法112条の2第1項所定の「正当な理由があるとき」とは、特許権者 (代理人を含む。)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的 にみて追納期間内に特許料を納付することができなかったときをいうものと解 するのが相当である。
甲11号証によれば、原告の専務取締役であるBは、遅くとも令和4年2月9 日までに、原告への出資を検討していた会社から、原告が保有している多くの特 許について特許料の不払いによって登録が抹消されているとの連絡を受け、同日、 特許料の支払も含めて原告が原告の保有する特許の管理を委任していた本件弁 理士に連絡をとったところ、本件弁理士から、うつ病等を理由に業務をすること が難しい状況にあると告げられたことが認められる。
そうすると、原告は、遅くとも令和4年2月9日には、原告が保有し、本件弁 理士がその特許料等の納付を管理していた特許権について本件弁理士において 適切な管理をしていないものがあること、そのため、当時原告が多数保有してい る特許権について特許料の納付期限が到来しているものについては特許料の納 付が滞っている可能性が高いこと、所定の期間に特許料が納付されなければ特許\n権が消滅することを認識したと認められる。そうすると、原告は、遅くとも同日 の時点で、保有している特許権を今後も維持したいというのであれば、即座に、 原告が保有している特許の特許料の納付状況等について確認すべきであること や、仮に納付されていない場合にはその対処について速やかに検討すべきである ことを認識したか、少なくともこれらを極めて容易に認識できる状況にあったと いえる。そして、本件特許についてこれらの点について検討し、必要な相談(今 後の長期的な特許関係の事務の委任ではなく、このような緊急事態への対処のみ を委任するのであれば、同日に近い時期に原告が弁理士に相談することは難しく なかったといえる。)等をしていれば、本件特許について、本件追納期間満了まで に特許料等を納付すべきことについて容易に知り得て、これを納付することがで きたといえる。そうであるにもかかわらず、原告は、上記の認識をした令和4年 2月9日から本件追納期間の満了まで1か月以上の期間があったにもかかわら ず、同期間満了までに特許料等を納付しなかったのであるから、当時、新型コロ ナウイルスによる感染症が問題になっていたことを考慮しても、その余を判断す るまでもなく、原告は、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみ て追納期間内に特許料を納付することができなかったとはいえない。よって、原 告が本件追納期間を徒過したことについて旧特許法112条の2第1項の「正当 な理由」があったとはいえない。

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◆令和5(行ウ)5005

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令和4(ワ)16072  不正競争防止法に基づく差止請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年2月21日  東京地方裁判所

非たばこ加熱式スティックに関する本件表示は、不競法2条1項20号の品質等誤認惹起行為に該当しないと判断されました。\n

(ア) 判断基準について
不競法2条1項20号は、商品や役務に、その品質や内容を誤認させ るような表示をし、又はその表\示をした商品を譲渡等することにより、 需要者の需要を不当に喚起するとともに競争上不当に優位に立とうとす ることを防止する趣旨の規定であるといえるから、本件表示が本件商品\nの品質及び内容について誤認させるような表示に当たるか否かは、本件\n表示によって、本件商品についての需要者の需要を不当に喚起し、被告\nらが不当に競争上優位に立つことになるか否かによって判断すべきと解 される。
(イ) 本件表示の目的について\n
本件商品は、一般消費者向けの茶葉を原料とする非たばこ加熱式ステ ィックであり(前提事実(2))、本件商品に係る広告においては、本件商 品はたばこであるか否か、有害な成分が入っているか否かについての質 問及び回答が掲載されている(前提事実(3))。このような事実に照らす と、本件表示の目的は、ニコチンの含有量を科学的な正確さをもって示\nすためのものではなく、本件商品が含有する成分は茶葉と同様であって、 たばこのように身体及び精神に悪影響を与えるような程度の量の成分を 含有していないことを示すためのものと認められる。
・・・・
(カ) まとめ
前記(イ)ないし(オ)のとおり、1)本件表示は、ニコチンの含有量を科学\n的な正確さをもって示す目的のものではなく、本件商品が含有する成分 は茶葉と同様であって、本件商品に身体及び精神に悪影響を与えるよう な程度の量の成分を含有していないことを示す目的のものと考えられる こと、2)本件商品が含有するニコチンは、茶葉そのものに含まれていた 内因性由来のものであって、その含有量は、人が摂取しても安全と評価 されており、生理活性がない可能性も指摘されている水準にとどまるこ\nと、3)茶葉を原料とする他の複数の非たばこ加熱式スティックに係る広 告においても、定量下限を1ppmとした分析によりニコチンが検出さ れなかったことを根拠として「ニコチン0」との記載がされているとこ ろ、これらの商品にも当該定量下限を下回る量の内因性由来のニコチン が含まれている可能性を当然に否定することはできないことを指摘する\nことができる。
以上の点に照らせば、本件表示に接した需要者は、本件商品が、ニコ\nチン含有の有無及びその量に関し、身体及び精神に与える影響との観点 から、他の非たばこ加熱式スティックと比較してより優れたものである と認識するものではないというべきである。 したがって、本件表示が、本件商品についての需要者の需要を不当に\n喚起し、被告らが不当に競争上優位に立つことになるものであるという ことはできず、よって、本件表示が本件商品の品質及び内容について誤\n認させるような表示に当たると認めることはできない。\n

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令和5(ネ)10071  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月21日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

1審は、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時機に後れた主張であるとして却下しました。知財高裁も同様です。

当裁判所は、本件請求原因の追加は攻撃方法の提出であって、民事訴訟法 143条ではなく同法157条の規律に服するものではあるが、結論的には 時機に後れたものとして却下を免れないと判断する。その理由は、以下のと おりである。
(1) 控訴人の本件請求は、特許法100条1項、3項に基づく差止請求、廃 棄請求及び不法行為に基づく損害賠償請求である。そのいずれも、被控訴人 による被控訴人製品の譲渡等が控訴人の有する「本件特許権」を侵害すると の請求原因に基づくものである。
そして、特許法は、一つの特許出願に対し一つの行政処分としての特許査 定又は特許審決がされ、これに基づいて一つの特許が付与され、一つの特許 権が発生するという基本構造を前提としており、請求項ごとに個別に特許が\n付与されるものではない。そうすると、ある特許権の侵害を理由とする請求 を法的に構成するに当たり、いずれの請求項を選択して請求原因とするかと\nいうことは、特定の請求(訴訟物)に係る攻撃方法の選択の問題と理解する のが相当である。請求項ごとに別の請求(訴訟物)を観念した場合、請求項 ごとに次々と別訴を提起される応訴負担を相手方に負わせることになりかね ず不合理である。当裁判所の上記解釈は、特許権の侵害を巡る紛争の一回的 解決に資するものであり、このように解しても、特許権者としては、最初か ら全ての請求項を攻撃方法とする選択肢を与えられているのだから、その権 利行使が不当に制約されることにはならない。
(2) 以上によれば、控訴人による本件請求原因の追加は、訴えの追加的変更に 当たるものではなく、新たな攻撃方法としての請求原因を追加するものにと どまるから、本件請求原因の追加が民事訴訟法143条1項ただし書により 許されないとした原審の判断は誤りというべきである。
(3) もっとも、被控訴人は、本件請求原因の追加が攻撃方法に該当する場合に は民事訴訟法157条1項に基づく却下を求める旨の申立てをしている(引\n用に係る原判決の第3の2「被告の主張」欄(2))から、以下この点につい て判断する。
ア まず、本件請求原因の追加に至るまでの原審における手続等の経緯とし て、別紙「本件請求原因の追加に至る経緯」記載の事実が認められる (本件記録から明らかである。)。
すなわち、被控訴人は、答弁書(令和4年2月28日付け)の段階で、 乙1公報及び乙3公報等の公知文献を具体的に示して、均等論の第4要 件の充足を争う詳細な主張を提出した。その後、控訴人と被控訴人は、 同年11月までに、当該争点に関する議論を含む主張書面を2往復させ 主張立証を尽くしてきた。この間の書面準備手続調書には、被控訴人の 「均等論の第4要件を中心に反論書面を提出する」との進行意見が記載 されるなど、均等論の第4要件の充足性は、少なくとも本件の中心的な 争点の一つと認識されていた。そうして、侵害論に関する主張立証が一 応の区切りとなった同月28日のウェブ会議による協議(書面による弁 論準備手続に係るもの。以下同じ。)において、裁判所から双方当事者 に被控訴人製品は本件発明1の技術的範囲に属さないとの心証開示があ り、双方は和解を検討することとなった。その後間もなく和解交渉は不 調に終わったところ、令和5年1月27日の協議において、控訴人は、 消弧作用についての再反論(注・均等論の第2要件関係)及びこれまで の主張の補充等を記載した準備書面を提出すると述べた。ところが、控 訴人は、同年2月27日付け準備書面をもって、本件請求原因の追加の 主張をするに至った。これに対し、被控訴人は、同年4月13日付け準 備書面をもって、時機に後れた攻撃方法としての却下又は著しく訴訟手 続を遅延させる訴えの変更としての不許決定を求める申立てをした。\n
イ 以上に基づいて、まず、本件請求原因の追加が「時機に後れた」ものと いえるかどうかを検討するに、本件において、控訴人が本件請求原因の 追加を求めた理由は、請求項1に係る本件発明1の技術的範囲の属否を 問題とする限り、被控訴人が提出した公知文献(特に乙1公報及び乙3 公報)との関係で均等論の第4要件(公知技術等の非該当)は満たさな いと判断される可能性が高いことを踏まえ、本件付加構\成を備える請求 項3に係る本件発明2を議論の俎上に載せることで、均等論の第4要件 をクリアしようとしたものと理解される。
しかし、上記アのとおり、均等論の第4要件を争う被控訴人の主張は、 既に答弁書の段階で詳細かつ具体的に提出されており、これに対する対 抗手段として、本件請求原因の追加を検討することは可能であったもの\nである。その後、約9か月にわたり双方が主張書面を2往復させてこの 点の主張立証を尽くしていたところ、その後に裁判所からの心証開示を 受けた後に、しかも、控訴人自ら、補充的な書面提出のみを予定する旨\nの進行意見を述べていたにもかかわらず、突然、本件請求原因の追加を 行ったものであって、これが時機に後れた攻撃方法の提出に当たること は明らかである。
ウ 次に、故意又は重過失の要件についてみるに、本件請求原因の追加は、 当初から本件特許の内容となっていた請求項3を攻撃方法に加えるとい う内容であるから、その提出を適時にできなかった事情があるとは考え 難い。外国文献等をサーチする必要があったケースとか、権利範囲の減 縮を甘受せざるを得なくなる訂正の再抗弁を提出する場合などとは異な る。控訴人からも、やむをえない事情等につき具体的な主張(弁解)は されていない。そうすると、時機に後れた攻撃方法の提出に至ったこと につき、控訴人には少なくとも重過失が認められるというべきである。
エ そして、本件請求原因の追加により、訴訟の完結を遅延させることとな るとの要件も優に認められる。すなわち、本件発明2の本件付加構成を\n充足するか否かについては、従前全く審理されていないから、本件請求 原因の追加を許した場合、この点について改めて審理を行う必要が生ず ることは当然である。そして、被控訴人は、仮に本件請求原因の追加が 許された場合の予備的主張として、本件発明2の本件付加構\成のクレー ム解釈及び被控訴人製品の特定に関する詳細な求釈明の申立てをする\n(控訴答弁書19頁〜)などしていることを踏まえると、この点の審理 には相当な期間を要し、訴訟の完結を遅延させることとなることは明ら かである。

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◆令和3(ワ)10032

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令和5(ネ)10097  営業侵害行為差止請求等控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和6年2月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審では、営業秘密、限定提供データのいずれではないと判断されました。知財高裁も同様です。利益分配に関する請求についても同様です。

ア 原告は、EL社が営業秘密又は限定提供データの保有者であり、被告AI及 び被告SAIはEL社から営業秘密又は限定提供データの開示を受けたと主張する が、そうであるとすれば、開示された営業秘密又は限定提供データが原告の営業秘 密又は限定提供データであるということはできないはずである。もともと、前記補 正の上引用した原判決のとおり、スマホ留学の顧客情報は各組合員に帰属するもの であり(本件組合契約5条1項)、被告AI及び被告SAIが自らに帰属する顧客 情報を使用することは、不正競争行為に当たるものではない。
イ さらに、本件組合契約は、スマホ留学以外の特定の商品又はサービスを「対 象案件」として、その紹介をするため、スマホ留学の顧客情報を用いることを予定\nしている(本件組合契約6条4項等)。したがって、被告らが、顧客情報をケンペ ネEnglishやオンライン留学の紹介に用いたことをもって、直ちに本件組合 契約に違反すると認めることはできない。
ウ 原告は、本件組合契約7条2項を文字通り解釈すると本件組合契約締結以前 に提供された情報は、同項の「機密情報」には該当しなくなるから不合理である旨 主張する。しかし、原告及び被告らとの間で平成29年3月1日に締結された業務 委託契約書(乙A102)によれば、本件組合契約締結前のスマホ留学事業に関す る機密情報については、上記業務委託契約書9条に本件組合契約7条2項と同じ内 容の機密保持に関する条項が設けられていることが認められ、本件組合契約の締結 により当該条項の効力が失われたと解すべき理由は見当たらない。したがって、当 事者の合理的意思解釈として、本件組合契約締結前の機密情報については前記業務 委託契約書9条に基づく保護の対象となると解するのが相当であるから、原告の主 張する点は、本件組合契約7条2項をその文言どおり解釈することの妨げとなるも のではない。

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◆令和2(ワ)23432

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令和4(ワ)9521  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月26日  大阪地方裁判所

熱可塑性樹脂組成物について、構成要件1B「・・・分子量700以上・・」について、第1要件充足せずとして、均等侵害が否定されました。ちなみに、被告製品「分子量699」であり、「700」という数値に臨界的意義はありません。 該当特許はこちらです。◆特許4974971


ア 本件各発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物と、当該 組成物からなる樹脂成形品ならびに樹脂成形品の具体的な一例である偏光 子保護フィルム、樹脂成形品の製造方法に関する発明である(【0001】)。 アクリル樹脂の透明度の低下を防止するためにUVAを添加する方法が 公知であったが、成形時の発泡やUVAのブリードアウト、UVAの蒸散に よる紫外線吸収能の低下との問題につき、従来技術として、アクリル樹脂に組み合わせるUVAとして、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびベンゾフェノン系化合物が用いられていた(【0003】、【00\n05】、【0006】)。しかし、これらの従来技術として例示されたアクリル 樹脂(【0006】記載の特許文献)には、いずれも分子量が700以上のU VAは開示されていなかった。
イ 本件各発明は、従来技術の化合物には、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂との相溶性に課題があり、高温成形時の発泡やブリードアウトの発生の抑制が不十\分であったことから、これらの課題を克服するため(【0007】、【0008】)、樹脂組成物を構成要件1B記載の構\成とし、その製造方法を構成要件6B記載の構\成とし(【0009】、【0010】)、これにより11 0゜C)以上という高いTgに基づく優れた耐熱性や高温成形時における発泡 及びブリードアウトの抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少との効果を 奏することとなった(【0015】)。
ウ したがって、本件各発明の本質的部分は、ヒドロキシフェニルトリアジン 骨格を有する、分子量が700以上のUVAが、主鎖に環構造を有する熱可塑性アクリル樹脂と相溶性を有することを見出したことにより、110゜C)以 上という高い優れた耐熱性や高温成形時における発泡及びブリードアウト の抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少という効果を有する樹脂組成物 を提供することを可能にした点にあると認められる。
エ 数値をもって技術的範囲を限定し(数値限定発明)、その数値に設定する ことに意義がある発明は、その数値の範囲内の技術に限定することで、その 発明に対して特許が付与されたと考えられるから、特段の事情のない限り、 その数値による技術的範囲の限定は特許発明の本質的部分に当たると解す べきである。
上記検討によれば、分子量を「700以上」とすることには技術的意義が あるといえるうえ、本件において、上記特段の事情は何らうかがえない。 オ そうすると、被告UVAの分子量が「700以上」ではないとの相違点は、 本件各発明の本質的部分に係る差異であるというべきであるから、被告製品 及び被告方法について、均等の第1要件が成立すると認めることはできず、 均等侵害は成立しない。
カ 原告は、本件各発明におけるUVAの分子量である「700」に厳格な技 術的意義はなく、本件各発明の本質的部分は、分子量が十分に大きいという上位概念であると主張する。 しかし、このような上位概念化は、前述の数値限定発明の技術的意義に関 する考え方と相容れず権利範囲を不当に拡大するものである。また、本件証 拠上、本件各発明におけるUVAの分子量が十分に大きいということが当業者にとって自明であるとも認められないし、分子量が十\分に大きいことと、被告UVAの分子量との比較における本件各発明の数値の臨界的意義との 関係は何ら明らかにされていない。

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令和4(ワ)9461 著作権 民事訴訟 令和6年2月7日  東京地方裁判所

不動産売買・賃貸の仲介にもちいる物件写真について、著作権侵害が認定されました。 ただ、損害額は1000円/枚で、約7万円です。

証拠(甲5、11、15、27、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、\n本件各写真は、賃貸物件の外観・内観及び周辺環境等を撮影したものであるこ と、本件各写真の撮影は、賃貸物件の内容を分かりやすく需要者に伝えるため、 明るさや撮影角度等を調整して行われたものであること、本件各写真の中には、 対象を広く写真に収めるため、パノラマ写真を撮影できるカメラを利用して撮 影されたものも含まれていることが認められる。 このような本件各写真の内容や撮影方法に照らすと、本件各写真は、被写体 の構図、カメラアングル、照明、撮影方法等を工夫して撮影されたものであり、\n撮影者の個性が表現されたものといえる。\nしたがって、本件各写真は、いずれも思想又は感情を創作的に表現したもの\nと認められ、「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当し、これに反する被告 らの主張は採用できない。
・・・
証拠(甲27、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、通常、管理会社\n等を通さずに物件写真を取得する際には、自社の従業員などが現地を訪問し、 賃貸物件の外観や内観等の撮影した上で、必要に応じて写真の加工等を行っ ていることが認められるところ、被告会社は、本件侵害対象写真を使用する ことによって、上記の作業に係る支出等を免れたものといえる。
そして、証拠(甲23の3、25、26、乙3、5)及び弁論の全趣旨に よれば、物件写真の撮影代行サービスの料金については、1)広角一眼レフカ メラ撮影の外観・内観セット(単発発注)については、3600円から45 00円、360度パノラマ撮影(単発発注)については、3200円から4 000円(写真の加工等には別途オプション料金が必要)とするもの、2)内 観(画像15枚程度)2750円、外観・共用部セット3300円、高品質 撮影5500円、交通費2000円程度とするもの、3)外観・エントラン ス・看板7枚以上で2750円〜5500円、外観・共用部・室内全て7枚 以上で1万3200円(いずれも一眼レフカメラ、広角カメラで撮影。1回 の撮影枚数は30枚以上。)、シータによる撮影(8枚以上)は1件4400 円(写真の加工等には別途オプション料金が必要で、徒歩15分以上の撮影 の場合は1650円が加算される。)とするもの、4)マンション一眼レフカ メラ広角レンズ撮影について、外観のみ(10枚程度)3500円、内観の み(20枚程度)4000円、外観・内観(30枚まで)4500円、オプ ションとして360度パノラマ撮影について、1枚500円、5枚まで10 00円〜2000円(ただし、駅から徒歩16分以上の場合は1000円が 加 算 さ れ る 。) とするもの、5)外観 の み (5枚 か ら 10枚程度)1 200円から1800円、外観・内観セットについて10枚から15枚程度 の場合は2200円から2500円、30枚程度の場合は2500円から2 800円とするものなどがあることが認められ、このような料金の定めから すれば、物件写真の撮影代行サービスを利用する場合、写真1枚当たりに換 算すると数百円程度の費用が必要となるほか、交通費や写真の加工等のため のオプション料金が別途発生し得ることが認められる。
上記の事情に加え、本件侵害対象写真の掲載期間は最大で2か月弱であっ てさほど長くないこと(前記3)、他方で、著作権侵害があった場合に事後 的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は通常の使 用料に比べて高額となることといった事情を併せ考慮すると、本件侵害対象 写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法11 4条3項)は、写真1枚当たり1000円の合計7万1000円と認めるの が相当である。
(2) これに対し、原告は、NHKエンタープライズ(甲19)、毎日フォトバ ンク(甲20)やアマナイメージズ(甲21)の写真使用料の定めからすれ ば、本件侵害対象写真の使用料相当額は1枚当たり2万円とすべきであると 主張する。
しかし、NHKエンタープライズや毎日フォトバンクの提供する写真は、 報道等のために撮影された写真であり、また、アマナイメージズの提供する 写真はウェブ広告や動画配信広告等に用いられるものであって、その撮影対 象や撮影方法は、賃貸物件の紹介を目的とした物件写真とは大きく異なるも のといえるから、上記各社の写真使用料の定めを本件で参考にすることは相 当ではない。

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令和5(行ケ)10108  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年2月27日  知的財産高等裁判所

 株式会社アクネスラボが、他社が保有している二段併記商標「アクネスラボ/ACNES LABO」に対して、無効審判を請求しました。審決は、「せっけん類については無効、それ以外の商品(5類 サプリメントなど)ついては理由無し」と判断しました。知財高裁は、審決を維持しました。

証拠(甲7の1〜63)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件商標が 登録出願される前から、使用商標を原告の製造、販売に係る「せっけん類」 及び「化粧品」に用いていることが認められる。 このうち、「せっけん類」については、本件審決が、本件商標の指定商品及 び指定役務のうち第3類「せっけん類」について、商標法4条1項10号に 該当すると判断している。 原告は、本件商標の指定商品及び指定役務のうち第5類「サプリメント」 についても、同号に該当すると主張するので、使用商標が用いられる商品が 上記のとおりであることを前提に、以下検討する。
(3) 特許庁商標課編「商品及び役務の区分解説〔国際分類第10版対応〕」(乙 1)は、指定商品の分類において第5類とされる「サプリメント」について、 「この商品は、人体に欠乏しやすいビタミン・ミネラル・アミノ酸・不飽和 脂肪酸などを、錠剤・カプセル・飲料などの形にしたもので、『医薬品』に該 当しない商品です。」と説明している。また、内閣府消費者委員会による「消 費者の『健康食品』の利用に関する実態調査(アンケート調査)」(甲17) では、「サプリメント」は「健康食品のうち、錠剤型、カプセル型、又は粉状 のもの」と定義され、「健康食品」は「健康の保持増進に資する食品として販 売・利用される食品(野菜、果物、菓子、調理品等その他外観、形状等から 明らかに食品と認識される物を除く。)」と定義されている。
これに対し、「商品及び役務の区分解説〔国際分類第10版対応〕」は、指 定商品の分類において第3類とされる「化粧品」について、「この商品には、 薬事法(昭和35年法律第145号)に規定する『化粧品』の大部分及び『医 薬部外品』のうち『人体に対する作用が緩和なものであって、身体を清潔に し、美化し、魅力を増し、容貌を変え又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保 つことを目的として、身体に塗擦、散布等の方法で使用するもの』が含まれ ます。『化粧品』は、女性用のみならず、男性用又は乳児用の商品も含まれま す。」と説明している。薬事法は、平成25年法律第84号によってその名称 が「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」 (薬機法)に改められたところ、薬機法2条3項は、「この法律で『化粧品』 とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若 しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似す る方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和 なものをいう。ただし、これらの使用目的のほかに、第一項第二号又は第三 号に規定する用途に使用されることも併せて目的とされている物及び医薬部 外品を除く。」と定義している。
これらの説明及び法律上の定義によれば、「サプリメント」は、人体に欠乏 しやすいビタミン・ミネラル等の栄養素を経口投与によって体内に摂取する ための食品であり、その使用の目的は健康の保持増進にあると認められる。 これに対し、「化粧品」は、身体に対して塗擦、散布等をする方法で使用する ものであり、その使用の目的は人の身体を清潔にし、美化し、容貌を変え、 又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つことにあると認められるから、「サプ リメント」と「化粧品」とはその使用方法及び使用目的の根本的部分におい て明確に異なっていると認められる。
(4) 「サプリメント」と「化粧品」については、これら双方を製造する会社及 び双方を販売する会社が複数存在することは認められるものの(甲13の1・ 2、14の1〜13、甲20の1〜72)、通常同一の営業主により製造又は 販売されているとの事情があるとは認められない。 また、前記(3)のとおり、「サプリメント」が経口投与によって体内に摂取す る方法で使用し、「化粧品」が身体に塗擦、散布等をする方法で使用するとい う違いがあることからすれば、「化粧品」には経口投与による体内への摂取に は適しない成分を使用することも可能であると認められ、「サプリメント」と\n「化粧品」について、同一の成分を含む商品が存在するとしても、その原材 料が通常一致するといった関係にあるとは認められない。 需要者については、それぞれの使用目的から、「サプリメント」の需要者は 健康の保持増進に関心のある一般消費者であり、「化粧品」の需要者は身体を 清潔にし、美化し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つこと に関心のある一般消費者であって、これらは一部において一致すると考えら れるが、完全に一致するとは認められない。
(5) 上記(3)及び(4)の事情を総合すると、本件商標の指定商品のうち第5類「サ プリメント」と、使用商標が用いられている商品のうち「化粧品」とは、こ れらの商品に同一又は類似の商標を使用する場合に、同一営業主の製造又は 販売に係る商品と誤認されるおそれがあるとは認められず、商標法4条1項 10号にいう「類似する商品」に当たるとは認められない。
・・・
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)のとおり、本件商標の指定商品 のうち「サプリメント」と原告が製造・販売する「化粧品」に同一又は類 似の商標を使用するときは、同一営業主の製造・販売又は提供に係る商品 又は役務と誤認が生じるから、本件商標の指定商品のうち第5類「サプリ メント」は商標法4条1項10号に該当すると主張する。 しかし、「サプリメント」と「化粧品」の両方を製造又は販売している企 業が複数存在しており(前記(4))、その中には、当該企業が運営する同一の ウェブサイトで「サプリメント」と「化粧品」を販売する企業や、「サプリ メント」と「化粧品」に同一のブランド名を付して販売している企業があ ることが認められるが(甲13の1・2、甲14の1〜13等)、「サプリ メント」と「化粧品」が通常同一の営業主により製造又は販売されている との事情があるとは認められないことは前記(4)のとおりであり、「サプリ メント」を販売する企業の多くが化粧品を製造又は販売している、あるい は「化粧品」を販売している企業の多くが「サプリメント」を販売してい るといった事情があるとも認められない。そうすると、「サプリメント」と 「化粧品」について、使用の目的及び方法の双方について相違があること (前記(3))からすれば、上記のとおり認められる事実の限度では、これら の商品に同一又は類似の商標を使用する場合に、同一営業主の製造又は販 売に係る商品と誤認されるおそれがあるとは認めるに足りない。
「サプリメント」と「化粧品」とにおいて、同一の成分を含む商品が販 売されているとしても、通常成分が一致するといった関係にあるとは認め られず、「サプリメント」は経口投与によって体内に摂取する食品であり、 「化粧品」は身体に塗擦、散布等をする方法で使用するという違いがある ことによって、含まれる成分にも差異があると考えられる。
「化粧品」の使用の目的は、前記(3)のとおり、人の身体を清潔にし、美 化し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つことにあるので あり、これらを達成することによって心身の健康維持の効果があると説か れることがあるとしても、そのような効果はあくまで間接的なものである といえる。これに対し、「サプリメント」は健康の保持増進が使用の直接の 目的であるといえるから、「サプリメント」と「化粧品」で使用の目的や用 途が一致するとはいえない。
「サプリメント」の需要者と「化粧品」の需要者は、その使用の目的が 異なることからすれば、一部において一致する者があるとしても、完全に 一致しているという事情は認められない(前記(4))。
以上によれば、原告が前記第3の1〔原告の主張〕(2)のとおり主張する 事情を考慮しても、「サプリメント」と「化粧品」について、同一又は類似 の商標を使用する場合には、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認 されるおそれがあると認められる関係があるとは認められない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

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令和5(ネ)10091  商標権侵害行為差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和6年3月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

雑誌「現代の理論」について、9類「電子出版物」の権利により、被告商品(印刷物(16類))に商標権侵害が認められました。判断は原審維持です。

当裁判所は、第1審原告の請求は、当審における請求の拡張を踏まえると、 第1審被告らに対し被告各標章を付した出版物の出版、販売等の差止め、第1 審被告NPOに対し被告出版物1(1)〜(5)の廃棄、第1審被告らに対し被告出 版物2(1)〜(26)の廃棄、第1審被告らに対し24万8570円及びこれに対す る被告出版物2(26)の発売日以降の遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由 があると判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 争点1〜4に関する当裁判所の判断は、原判決の第3の1〜4(18頁〜) のとおりであるから、これを引用する。
すなわち、本件各商標及び被告各標章はそれぞれ類似しており(争点1)、 被告各標章を印刷物に付して使用する行為は、本件各商標権の指定商品又はこ れに類似する商品についての使用ということができる(争点2)。そして、本 件商標2の商標登録無効の抗弁(商標法4条1項19号違反等をいうもの、争 点3)及び第1審被告NPOの先使用の抗弁(争点4)は、「現代の理論」の 標章が第1審被告NPOの業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとはいえない等の本件の事情の下では、いずれも\n理由がない。
2 争点5(権利濫用の抗弁)について
(1) 第1審被告らは、第1審原告が本件各商標を使用して雑誌を発行すること は一切なかったし、将来においてもその予定はないにもかかわらず、本件各商標権の行使をするのは、第1審被告らによる雑誌「現代の理論」の発行を\n妨害することを主たる目的としたものであることが明白であり、第1審原告 が第1審被告NPOの編集委員会に所属していたことがあり、第1審被告N POが創刊当時の精神を引き継いで設立されたことを認識していたことを併 せ考えれば、上記権利行使は権利の濫用に当たる旨主張する。
しかし、第1審被告らが被告各標章を印刷物に付して使用する行為は、少 なくとも、本件商標1の指定商品である第9類「電子印刷物」に類似する商 品についての使用ということができるから、第1審原告は、雑誌等「印刷物」 としての「現代の理論」の発行予定がないにしても,「電子印刷物」を指定商品とする商標権に基づき,第1審被告らの上記行為についての差止請求を\nなし得るものである。また、第1審原告において、競合関係となり得る被告 各出版物が販売されている状況において、本件各商標を使用した雑誌を現に 販売していないからといって、将来においても販売することがないとは直ち にいえない。
また、雑誌「現代の理論」の創刊当時の精神を誰が引き継いでいるか否か といった事項は、権利関係の帰属の問題と異なり客観的に判断することが困 難であり、本件においてこれを確定するに足りる証拠もない。第1審被告N POが明石書店に雑誌「現代の理論」の出版権を譲渡した後に発行していた 雑誌「FORUM OPINION」に「NPO現代の理論・社会フォーラ ム」という名称を付記していたとか、第1審被告NPOの名称に「現代の理 論」が含まれているといった点は、第1審被告NPO側の認識を示すものに すぎないし、購読者らからのメッセージ(乙13)は、雑誌「現代の理論」 を懐かしむ一定の者がいることを示すものとはいえても、第1審被告NPO が需要者から雑誌「現代の理論」創刊当初からの精神を引き継いでいると広 く認識されていることを意味するものではない。
(2) 第1審被告らは、第1審原告の権利行使を認めるとすれば、「現代の理論」 という雑誌名がなくなることになり、商標法1条の規定する「産業の発達」 や「需要者の利益」に反する旨主張する。しかし、商標法1条の定めるとこ ろは、一定の商標を使用した商品等が一定の出所から提供されるという取引 秩序を維持することによって、産業の発達に寄与し、需要者の利益を保護す ることにあるのであって、伝統ある名称を有する雑誌が存続するかどうかと いった事項は、これとは異なる問題である。 また、第1審被告らは、差止・廃棄請求を認めることは、経済的自由権で ある商標権によって、憲法上優越的地位を有する表現の自由を制約することになる旨主張するが、差止・廃棄請求を認めたからといって、被告各標章を\n用いない意見表明や出版の機会が制約されるわけではない。\n

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◆令和4(ワ)19876

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令和4(ワ)9100 損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月21日  東京地方裁判所

 技術的範囲に属しない(構成要件F非充足)として、特許権侵害が否定されました。\n

被告方法では、磁性体モールド樹脂で成形されているEコア及びIコア並び にコイルを合体させたコアを、●(省略)●に形成されたキャビティに配置し、 加圧しつつ加熱して樹脂を硬化させてモールドコイルを作成する(以下「加圧・ 加熱過程」という。)ところ、加圧・加熱過程で●(省略)●から磁性体モール ド樹脂が漏れ出し、これが硬化してバリが形成される(第2の2前提事実 )。 原告は、上記の被告方法において、キャビティに配置されるEコア、Iコア を形成する磁性体モールド樹脂(以下「磁性体モールド樹脂(コア)」という。) が構成要件Fの「該キャビティ内に充填した磁性体モールド樹脂」に該当し、\n加圧によって漏れ出してバリを形成する磁性体モールド樹脂(以下「磁性体モ ールド樹脂(バリ)」という。)が「該排出した磁性体モールド樹脂」に該当 し、磁性体モールド樹脂(バリ)を構成する磁性体粉末の容積比(以下「磁性\n体粉末容積比(バリ)」という。)が磁性体モールド樹脂(コア)を構成する\n磁性体粉末の容積比(以下「磁性体粉末容積比(コア)」という。)よりも小 さいと主張するものと解される。
もっとも、被告方法を用いて被告製品を製造する過程において、磁性体粉末 容積比(コア)と磁性体粉末容積比(バリ)について、これらを直接測定して 比較し、後者の容積比の方が小さいものであったことを示す証拠はない。他方、 被告からは、被告方法で作成されたモールドコイルにおいて、磁性体粉末容積 比(バリ)と磁性体粉末容積比(コア)がほぼ同じである旨の電子顕微鏡で撮 影された画像の分析結果(乙4)が提出されている。
ア 原告は、磁性体粉末容積比(コア)と磁性体粉末容積比(バリ)について、 磁性体粉末の粒子径が、磁性体モールド樹脂が漏れ出す隙間よりも大きけれ ば、樹脂が隙間から優先的に排出されるために磁性体粉末容積比(バリ)の 方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなるところ、被告方法の加圧・ 加熱過程で加圧を続けても樹脂の流出が止まるのは、磁性体粉末が隙間を埋 めることが理由であるから、被告方法においては、樹脂が隙間から優先的に 排出されるといった事象が生じたことが示されていると主張する。これに対 して、被告は、被告方法において加圧・加熱過程で加圧を続けているにもか かわらず樹脂の流出が止まる理由について、磁性体によって隙間が埋められ たためではなく、触媒等を利用した上で加熱により樹脂が硬化したためであ ると主張している。
原告は、被告が主張するような短時間で硬化は生じない旨主張するが、被 告方法における樹脂の硬化につき、この原告主張を裏付けるに足りる証拠は ない。また、樹脂の流出が止まったのが磁性体粉末が隙間を埋めたものであ ることを裏付ける証拠はない。被告が実際に使用している被告方法において、 原告が主張するのとは異なる理由により樹脂の流出が止まったことを否定 できず、被告方法において、原告が主張する事象が生じたことによって樹脂 の流出が止まると認めるには足りない。そうすると、原告の主張はその前提 を欠く。
イ(ア)原告は、加圧・加熱過程において磁性体モールド樹脂が漏れ出す隙間が 磁性体粉末の粒子径よりも小さければ、樹脂が優先的に流出するために 磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さく なるという原理を前提に、被告方法で生じている隙間は十分に小さいも\nのであると主張する。
(イ)しかし、被告方法において隙間に相当するものの幅、形状・構造等は不\n明である。原告は、バレル研磨跡に生じている被告製品の角に生じた研磨 跡に着目し、バリの幅は研磨跡を超えることはないなどとして、研磨跡か らバリの幅を推計し、バリの厚さは●(省略)●を超えるものではないな どとも主張する(甲8)。しかし、研磨跡によりバリの幅を正しく把握で きるかは明らかでなく、原告指摘の事実によっても、隙間に相当するもの の幅、形状・構造等は不明である。\n
(ウ)被告方法で用いられる磁性体粉末の大きさについても、被告が用いた磁 性体のD99は、●(省略)●D90は、●(省略)●であることは認め られる(乙3)が、被告方法においては、様々な粒子径、形状の磁性体が 使用され、具体的な粒子径の分布は不明である。そして、被告方法で作成 されたモールドコイル及びバリの電子顕微鏡で撮影された画像(乙4)に よれば、被告方法で隙間に相当するものの幅に比べて格段に小さな磁性体 粒子が多数含まれていることが認められる。
(エ)原告が前記(ア)で主張する原理について、全磁性体粒子のうちの最小粒子 径が隙間よりも大きい場合には、磁性体は隙間を通過することができない ため、樹脂のみが隙間から流出することは推測できる。逆に、全磁性体の 粒子径が隙間よりも十分に小さければ、樹脂と共に磁性体も隙間を通過す\nることから磁性体粉末容積比(コア)及び磁性体粉末容積比(バリ)に変 化がないものと推測でき、隙間より大きな磁性体粒子の割合が極めて小さ い場合にも同様である。他方で、これら以外の場合には、磁性体粉末の具 体的な粒子径の形状・分布、樹脂の性質、隙間の形状・構造、加えられる\n圧力等により、隙間を通過する磁性体の量は変化するものと推測される。 そして、それらについて、どのようなものであった場合に隙間を通過する 磁性体がどの程度あるかについて、これを認めるに足りる証拠はない。
(オ)以上によれば、被告方法においては、様々な粒子径、形状の磁性体が使 用されているところ、その全磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法 で使用されている●(省略)●よりも大きいことを認めるに足りない。ま た、そのように全磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法で使用され ている●(省略)●よりも大きいことが認められない場合、被告方法にお いて、どのような割合で磁性体と樹脂が被告方法における隙間に相当す る部分を通過するかは明らかではなく、特に本件のように隙間よりも小 さな粒子径を有する磁性体粒子が多数含まれる場合には、原告が主張す る原理によって、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性 体粉末容積比(コア)よりも小さくなっているという事実を認めるに足り ない。
ウ 以上によれば、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体 粉末容積比(コア)よりも小さくなっていることを認めるに足りる証拠はな い。かえって、前記 のとおり、被告からは、被告方法で作成されたモール ドコイルにおいて、粉末容積比(バリ)と粉末容積比(コア)が変わらない 旨の電子顕微鏡で撮影された画像の分析結果(乙4)が提出されている。
(3)よって、被告方法において粉末容積比(バリ)の方が粉末容積比(コア)よ りも小さくなっていることを認めることはできず、被告方法が構成要件Fを充\n足するとはいえない。

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令和5(ワ)70052  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年2月26日  東京地方裁判所

 囲碁将棋チャンネルは、YouTubeに、著作権侵害としてYouTuberの動画の削除申請しました。これが違法か否か争われました。争点は棋譜に著作権があるのか否かです。裁判所は約2万円の損害賠償を認めました。

原告は、本件において虚偽の事実を告知等されたことによって、経済的損害に つき不正競争防止法2条1項21号に基づく損害賠償請求権が発生するほかに、 併せて人格的利益を侵害するものとして、別途不法行為に基づく損害賠償請求権 が発生する旨主張する。そこで検討するに、人格権ないし人格的利益とは、明文上の根拠を有するものではなく、生命又は身体的価値を保護する人格権、名誉権、プライバシー権、肖像権、名誉感情、自己決定権、平穏生活権、リプロダクティブ権、パブリシティ 権その他憲法13条の法意に照らし判例法理上認められるに至った各種の権利 利益を総称するものであるから、人格的利益の侵害を主張するのみでは、特定の 被侵害利益に基づく請求を特定するものとはいえない。しかしながら、原告は、 裁判所の重ねての釈明にもかかわらず、単なる総称としての人格的利益をいうに とどまることからすると、原告の主張は、請求の特定を欠くものとして失当とい うほかない。
もっとも、原告は、原告主張に係る人格的利益とは、最高裁平成16年(受) 第930号同17年7月14日第一小法廷判決・民集59巻6号1569頁(平 成17年判決)にいう著作者の人格的利益と同趣旨のものであり、大阪高裁令和 4年(ネ)第265号、第599号同4年10月14日判決(令和4年判決)も、 その趣旨をいうものである旨主張する。
仮に、原告主張に係る人格的利益が、上記判例を引用する限度で特定されてい るものと善解したとしても、平成17年判決は、著作者の思想の自由,表現の自\n由が憲法により保障された基本的人権であることに鑑み、公立図書館において閲 覧に供された図書の著作者の思想、意見等伝達の利益を法的な利益として肯定す るものであり、その射程は、公立図書館の職員がその基本的義務に違反して独断 的評価や個人的好みに基づく不公平な取扱によって蔵書を廃棄した場合に限定 されるものである。そうすると、私立図書館その他の私企業における場合は、明 らかにその射程外というべきものであるから、平成17年判決は、私企業である YouTubeにおける投稿動画に係る伝達の利益が問題とされている本件に は、適切なものといえない。
また、原告が引用する大阪高裁令和4年(ネ)第265号、第599号同4年 10月14日判決(令和4年判決)は、人格的利益に関わるものと説示しつつも、 投稿者の営業活動を妨害するという側面をも踏まえたものであるから、精神的価 値という法益に限定して法的利益性が主張されている本件には、必ずしも適切で はない。のみならず、平成17年判決が、上記のとおり、伝達の利益を法的な利 益として肯定する場面を、公立図書館の職員による極めて不公平な取扱等の場合 に制限している趣旨に照らしても、憲法で保障されている表現の自由から、直ち\nにYouTubeにおける投稿動画に係る伝達の利益を肯定するのは相当では ない。その他に、原告は、著作権法、電気通信事業法その他の法令を縷々指摘して、 原告主張に係る人格的利益が重要性の高い法益である旨主張するものの、原告が 掲げる法令は、原告主張に係る人格的利益を保護するものとはいえず、上記にお いて説示したところに鑑みると、原告の主張は、その特定及び根拠を欠くもので あり、採用の限りではない。

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令和3(ワ)16043  損害賠償請求事件  商標権 令和6年1月26日  東京地方裁判所

商標「年賀マスク」(指定商標「衛生マスク」)の侵害として、約100万円の損害賠償が認められました。損害額の計算は、38条2項では95%の推定覆滅が認められたものの、その分については3項の適用として5%のライセンス料が認められました。

6 争点4(損害の発生及び数額)について
(1) 前記2のとおり、本件商標と被告標章は類似するから、被告による被告商 品の販売行為は、本件商標権の侵害行為を侵害したものとみなされる(商標 法37条1号)。
(2) 商標権者に、侵害者による商標権侵害行為がなかったならば利益が得られ たであろうという事情が存在する場合には、商標権者がその侵害行為により 損害を受けたものとして、商標法38条2項の適用が認められると解される。 原告は、前記第2の1(4)のとおり、原告の商品を販売するウェブサイトに おいて、本件商標を商品名の一部として付した原告商品を法人向けに販売し ていた。これに対し、被告は、同(3)のとおり、販売サイトや小売店の店頭に おいて、被告商品を販売していた。もっとも、原告商品も被告商品も新年の 挨拶における贈答品として用いられる衛生マスクであり、一般的な衛生マス クとは販売のコンセプトが異なることをも踏まえると、原告商品の顧客とな るべき法人において、被告商品を被告の販売サイトや小売店の店頭から商品 を購入するものがいなかったとはいえない。そうすると、被告の侵害行為に より原告商品の売上げが減少したものと評価でき、原告に、被告による商標 権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する。 したがって、商標法38条2項の適用がある。
(3)ア 商標法38条2項により侵害者が受けた利益の額が原告の損害と推定さ れる。もっとも、同規定は推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が 得た利益の一部又は全部について、商標権者が受けた損害との相当因果関 係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は覆滅され る。
イ 被告は、令和2年8月から令和3年1月までの間に、被告標章が付され た包装箱に入れた衛生マスク4種類を販売していた。被告商品について、 前記第2の1のとおり、その売上額は合計1596万1281円であり、 そのための経費は1215万0844円であったから、限界利益は381 万0437円である。
ウ 被告は、本件において、推定覆滅の事由に該当する事実がある旨主張す る。 被告は、原告商品は業者等の法人のみが購入でき、原告商品の想定 される利用方法は、原告商品を購入した法人の従業員や取引先への年始 の贈り物であるのに対し、被告商品は一般消費者が他の衛生マスクと比 較しながら購入するものであり、衛生マスクという物品の性質上最終的 に使用するのが個人であるとしても、当該個人が取得するまでのルート は両者において全く異なると主張する。
この点に関係し、原告は、原告の販売先が法人であるとした上で、当 該法人は、当該法人の従業員や取引先への年始の贈り物とするノベルテ ィ商品としてこれを使用するほか、個人に対して販売する旨主張する。 しかし、原告の販売先である法人が、個人に対して販売した数量等につ いては何ら主張立証されておらず、当該法人が個人に対して販売してい たことを認めるに足りない。したがって、原告商品は、法人によって、 当該法人の従業員や取引先への新年の挨拶における贈答品とするという 目的で購入されたと認められる。 被告商品は被告の販売サイトや小売店の店頭において販売されていて、 法人だけでなく、一般消費者も自由に購入できた。そうすると、原告商 品の顧客となるべき法人に、被告商品を被告の販売サイトや小売店の店 頭から商品を購入するものがいなかったとはいえないものの(前記 )、 原告商品は上記のとおり法人がそのノベルティ商品として購入するもの であるのに対し、被告商品は、基本的には、一般の消費者が購入すると いえ、その市場は異なる部分が非常に大きく、この事情は、前記推定を 覆滅させる事情であると認める。被告は、本件商標の顧客吸引力は皆無に等しく、被告商品が売れたのは、被告商品名や被告商品の品質に関わる表示によるものである旨主\n張する。
しかし、被告商品名を付した商品が一定数販売され、また、報道機関 などで取り上げられたことがあったとしても、極めて多種の製品が大量 に販売されている衛生マスクの需要者において、被告商品名が広く知ら れていたとは認められないし、また、衛生マスクにおいては品質に関す る表示がされることも多いところ、被告商品の品質に関する表\示が特に 顧客吸引力を有するものであることを認めるに足りない。他方、被告標 章は、被告商品の包装箱の正面の右上部分及び上面の2か所に目立つよ うに記載されていて、包装箱の上面においてはその中央部分に記載され ているのであり、その顧客吸引力がないとはいえない。 本件については、前記 の事情により推定が大きく覆滅すると認めら れるという事情があるところ、それに加えて被告が主張する上記推定覆 滅についての事情があるとは認められない。 以上のとおり、原告商品と被告商品は、市場が非常に大きく異なっ た。原告商品の市場は被告商品の市場に比べて小さく、被告商品の市場 のうち、ごく一部が原告商品の市場と重なっていたといえる。このよう な事情によれば、被告商品を購入した者のうち、被告商品に被告標章が 付されていることによって原告商品に代えて被告商品を購入したといえ る者の割合はかなり低いと認められ、被告が主張する事由のうち、上記 の理由により、原告は被告商品の販売数量のうちの相当多くのものにつ いて販売することができたとはいえない事情があり、商標権者が受けた 損害との相当因果関係が欠けると認める。上記の理由により、原告は被 告商品の販売数量の95%について販売することはできたとはいえず、 被告が得られた限界利益のうち、原告の損害との相当因果関係のあるも のは、5%であったと認めるのが相当である。
エ そうすると、商標法38条2項による原告の損害は次のとおり、19万 0521円である(小数点以下切り捨て)と認められる。
(計算式)381万0437円×0.05=19万0521円(小数点以下 切り捨て)
(4) 商標法38条2項による推定が覆滅される場合であっても、当該推定覆滅 部分について、商標権者が使用許諾をすることができたと認められるときは、 同条3項の適用が認められると解される。 前記(3)によれば、本件の事情の下においては、原告が販売することができ ない事情があるとされた数量に相当する被告商品については、原告が使用許 諾をすることができたと認められる。 そして、商標法38条3項の使用の対価を算定するにあたっては、当該商 標権の侵害があったことを前提として当該商標権を侵害した者との間で合意 をするとしたらならば、当該商標権者が得ることとなるその対価を考慮する ことができる(同条4項)。第10類の商標の使用料率の平均値は売上高の 3%とされるが、その最大値は5.5%とされ(乙61)、この使用料率の 平均値には、非侵害者との間の合意による使用料率も含まれており、侵害し た者との間で合意をする場合平均値より高い使用料率になり得ることを踏ま えると、原告の使用機会の喪失による得べかりし利益は、対象となる商品の 売上高の5%は下回らないものと認める。そうすると、商標法38条2項による推定が覆滅される部分についての商標法38条3項の損害は、以下のとおり、75万8160円となる。
(計算式)1596万1281円×0.95×0.05=75万8160円(小数点未満切り捨て)
(5) そうすると、原告の損害額は94万8681円となる。

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令和5(行ケ)10050 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年2月5日  知的財産高等裁判所

商標「美容医局」が周知であるとして商標法4条1項10号違反の無効理由ありとした審決が維持されました。

ア 被告は、平成24年8月29日、「biyou-ikyoku.com」のドメイン名を取得し、 その頃、「美容医局」の商標(引用商標)が表示された美容クリニック専門の医師転\n職サイトを開設して、本件サービスの事業を開始し、以後、現在に至るまで本件サ ービスの事業を継続している。(甲5、乙8、11)
イ 令和元年度における医師向けの有料職業紹介事業の総売上高が約212億円 (乙19の1中の「職業紹介事業 運営状況(令和元年度)」の16頁)であり、医 師総数に対する美容外科医及び皮膚科医の数の割合が約4.7%(=(平成30年 12月31日現在の皮膚科医数1万4244人+同日現在の美容外科数1176人 の合計1万5420人)÷同日現在の医師総数32万7210人。乙20の1の4 頁及び11頁。以下、各年の美容外科医及び皮膚科医向けの有料職業紹介事業の売 上高を推計する際の医師数は、同日現在の数字を用いる。)であることからすると、 美容外科医及び皮膚科医向けの有料職業紹介事業の売上高は10億円程度と推計さ れる。(乙19の1、乙20の1) そして、令和元年の本件サービスの売上高は●●●●●●万円(乙23の1)で あるから、美容外科医及び皮膚科医向けの有料職業紹介事業における本件サービス のシェアは●割近いものであると推認される。(乙23の1)
ウ 同様に令和2年度の医師向けの有料職業紹介事業の総売上高が約227億円 (乙19の6中の「職業紹介事業 運営状況(令和2年度)」の16頁)であること から、前記美容外科医及び皮膚科医の数の割合を乗ずると、美容外科医及び皮膚科 医向けの有料職業紹介事業の売上高は10億6700万円程度と推計されるところ、 令和2年の本件サービスの売上高は●●●●●●万円(乙23の1)であるから、 そのシェアは●割近いものと推認される。(乙19の6、乙23の1)
エ 平成27年度から平成30年度までの各年の医師向けの有料職業紹介事業の 総売上高は、約154億円、約174億円、約166億円、約197億円であるの に対し、平成27年から平成30年までの各年の本件サービスの売上高は●●●● 万円、●●●●万円、●●●●●●万円、●●●●●●万円であるから、本件サー ビスは、医師向けの有料職業紹介事業全体の総売上高の増加率よりも大きな増加率 をもって、売上げが上昇した。(乙19、23)
オ 平成25年から令和2年までの各年において、本件サービスに新規登録した 医師の数は、●●人、●●●人、●●●人、●●●人、●●●人、●●●人、●● ●人、●●●●人であった(令和2年における累計●●●●人)。なお、平成30年 12月31日現在の美容外科又は皮膚科の診療科に従事する医師の数は前記のとお り合計1万5420人である。(乙20の1、乙25)
カ 被告は、本件サービスの一環として、平成24年9月に、第1回の医師転職 支援セミナーを実施した後、たびたび転職セミナーを開催し、令和2年度には「転 科不安解消セミナー」「研修医向けノウハウセミナー」など合計30回のセミナーを 実施し、令和3年度には「初期研修医のための就活ガイダンス」など合計32回の セミナーを実施した。被告は、「美容医局」に登録した美容医療関係者のためのスキ ルアップセミナー、オペ見学・解説セミナーの提供といった役務も行っている。(甲 5の2、甲15、甲18、甲51、甲62の1、2、18及び19)
キ 被告は、Yahoo!ディスプレイアドネットワーク、Facebook、Twitter といっ たインターネットにおいて、引用商標を用いた本件サービスの広告を出稿しており、 令和2年5月から7月までの間に、●●●万回を超える表示がされ、●万を超える\nクリックがされた。(甲51)
ク 令和3年8月2日付けのインターネット上の「【転職のプロが教える】美容外 科おすすめ医師転職エージェントランキング」と題する記事において、本件サービ スが、美容外科・美容皮膚科転職エージェントおすすめ求人数ランキングで、全1 2エージェント中1位として掲載されている。同記事によれば、「美容医局」の求人 数3692件は、全12エージェントの合計求人数1万1682件の約31.6% を占めている。(甲13)。
(3) 前記(2)を総合すると、本件サービスは、遅くとも令和2年頃までには、美容 外科及び美容皮膚科に転職しようとする医師並びに医師を求める美容外科及び美容 皮膚科の医療施設にとって多く利用されているサービスとなっていたということが でき、本件サービスを表すものとして使用されている引用商標は、本件商標の出願\n時である令和2年7月31日及び登録査定時である令和3年6月2日において、本 件サービスを表すものとして、その需要者である美容外科医、美容皮膚科医及びそ\nの医療施設関係者の間で広く認識されていたと認めるのが相当である。
原告は、医師全体の有料職業紹介事業に対するシェアからすると、本件サービス に周知性があるとはいえないと主張するが、そもそも本件サービスの対象とする美 容外科又は美容皮膚科の医師の数の医師全体数に占める割合が前記のとおり約4. 7%にすぎないことからすると、本件サービスの医師全体の有料職業紹介事業に対 するシェアが少ないことをもって、本件商標の知名度が低いということはできない。 そして、「美容医局」との商標が本件商標の指定役務である「職業のあっせん、求人 情報の提供、人材派遣による職業のあっせん、人材派遣による求人情報の提供」に おいて用いられる場合には、美容外科又は美容皮膚科に関係する医療関係者以外を 対象とするものとは考え難いのであるから、美容外科又は美容皮膚科に転職する可 能性のない医師までを需要者とみるのは相当ではなく、上記原告の主張は採用する\nことができない。

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令和5(行ケ)10116  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年2月28日  知的財産高等裁判所

商標「Tibet Tiger」が識別力なしとした審決が維持されました。3条2項の適用にについても否定されました。指定商品は 第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」です。

原告は、日本における取引者・需要者にとってチベットという地名は必 ずしも著名ではなく、チベットトラという亜種(分類)も存在しないなどと して、本願商標は「Tibet Tiger」という造語として認識される 旨主張する。しかし、本願商標の構成中の「Tibet」の文字は「チベット(中国南西部の自治区)」を意味する英語であり(乙1、3)、「Tiger」の文字\nは「トラ」を意味する英語であって(乙2、4)、これらはいずれも平易な 英単語として我が国においても一般に親しまれている。これらの文字を空白 一字分間に挟んで並べた本願商標は、構成全体として「チベットのトラ」ほどの意味合いを容易に理解、認識させるものと認められ、その旨をいう本件\n審決の判断に誤りはない。日本の取引者・需要者にとってチベットという地 名が必ずしも著名でないことを認めるに足りる証拠はなく、また、チベット トラという亜種(分類)が存在しないことは上記認定を妨げるものではない。
(3) 原告は、本願商標の指定商品はトラの体等を直接的に使用した商品では ないから、本願商標は指定商品との関係で商品の特徴等を直接的に表示するものではない旨主張するので、以下検討する。\nア 証拠(甲15〜17、乙5〜16)によれば、ウェブサイト上では、本 願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラグ」との関係において、チ ベットやネパールはじゅうたんの生産地及び販売地として知られており、 じゅうたんはチベット民族の伝統的な手工芸品であるとされ、チベット 民族やネパールに在住しているチベット難民によって手織りされている じゅうたんは「チベットじゅうたん」と称され、世界4大じゅうたんの 一つに数えられ、丈夫で耐久性に優れているなどと紹介されていること が認められる。
また、同様にウェブサイト等では(甲6〜9、18〜21、23、2 4、乙23、25〜52)、本願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラ グ」との関係において、トラ柄又はトラの図柄等を表す語として「Tiger」又は「タイガー」の文字が使用されており、「チベットじゅうた\nん」の中でも、トラのモチーフは、位の高い僧侶のために作られていた ことから格の高い文様、由緒あるものといわれ、トラの図柄を描いた、 あるいは、トラの形状を模した「チベットじゅうたん」は、生産地及び 販売地の地域を表す語(チベタン〔Tibetan〕、チベット〔Tibet〕)と、トラを意味する「Tiger」とを組み合わせて「Tibe\ntan Tiger(Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チ ベットタイガー(カーペット)」などと称されて多数販売されていること も認められる。
イ 上記アのような取引の実情を踏まえると、「Tibet Tiger」 の文字よりなる本願商標をその指定商品中、トラの図柄又はトラの形状 のチベットじゅうたん、チベット製ラグ等に使用した場合、これに接す る取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地であるチベット、ある いはトラの図柄又は形状といった品質を表示したものと理解するにとどまるというべきである。\n
ウ この点につき、原告は、本件で提出されている証拠がインターネット上 の情報にすぎず、出所不明の情報であるとも主張するが、前記アの認定 証拠について、その信用性を疑わしめる事情は見当たらない。 そもそも原告が自らの販売実績を示すために提出した証拠(甲6〜9) からも、ヤフオク(ヤフーオークション)というメジャーなサイトにお いて原告の取扱商品以外のものも含め、「チベタンタイガーラグ」、「チベ タンタイガー絨毯」という用語を「商品タイトル」(商品の一般名称)に 掲げた取引が行われている事実が客観的に認められるところである。
(4) 原告は、自身の事業において「チベタンタイガー」という標章を使用し て商品を販売してきたとして、原告が本願商標に係る商標権を取得すること は公益的な観点からも許されるべきであると主張する。 しかし、後述する商標法3条2項の規定による識別力の獲得が認められる 場合は別として、公益性の観点から商標法3条1項3号該当性を否定する原 告の主張は独自の見解に基づくものであり、採用できない。
(5) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとし た本件審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。

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◆令和5(行ケ)10114

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令和5(行ケ)10054  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年2月13日  知的財産高等裁判所

一致点・相違点の認定に誤りがあるものの、動機付けなしとの審決が維持されました。

カ 甲8発明と本件発明1との相違点として本件審決が認定したもの(前記 第2の4(2)ア(イ))のうち、甲8相違点2は、前記エの説示によれば、甲8 発明と本件発明1との相違点となるとは認められない。 また、甲8相違点3は、甲8発明における台車用安全カバー及び本件発 明1における保護部材の用途を特定する物としての手押部材の違いを述 べるものであって、甲8発明における台車用安全カバーと本件発明1にお ける保護部材との相違点とはいえない。したがって、甲8発明と本件発明 1との相違点は、甲8相違点1及び取付位置に係る相違点のみであると認 められる。
キ 前記第2の2(3)のとおり、1)本件発明2は、本件発明1の構成要件1A\nないし1Fを全て含み、2)本件発明3は、本件発明1の構成要件のうち、\n1Eを「前記保護部は、円板状である。」(構成要件2E)に変更したもの\nであり、3)本件発明4ないし7は、本件発明1の構成要件1Aないし1F\nを全て含むか、又は本件発明3の構成要件1Aないし1D、2E及び1F\nを全て含むものである。
そうすると、本件発明2ないし7は、いずれも、甲8発明との関係で、 甲8相違点1及び取付位置に係る相違点があると認めることができる。
ク 以上のとおり、甲8発明と本件各発明との一致点及び相違点に係る本件 審決の判断には相当でない部分があるものの、これによって直ちに本件審 決の判断が違法となることはなく、甲8相違点1を前提に、当業者が、本 件優先日の技術水準に基づいて、これらの相違点に対応する本件各発明を 容易に想到することができたかどうかを判断すべきである。
(3) 容易想到性について
前記(1)のとおりである甲8発明の内容によれば、甲8発明の台車用安全カ バーは、その本体、すなわち甲8発明の全体が保護部を構成しており、作業\n者の手挟み事故を防止するとともに、手押部材の掌握部、すなわち台車のコ 字状のハンドルのグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつもので あるといえる。このことは、甲8商品2と同一の構成の商品を含む甲8商品\n1に係るパンフレット(甲8の2)に、「台車に取り付けることで、作業員の 手挟み事故を防止!掌握部もわかりやすくなり、安全指導がしやすくなりま す」との記載があることからも裏付けられる。 このように、甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルの水平部 分をグリップ部とすることを前提として、コ字状のハンドルのカーブ部分に 取り付ける台車用安全カバー(保護部材)であって、これによって手挟み事 故の防止を図るものであるから、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材) にグリップ部を設けることは全く想定されていないといえる。 そうすると、仮に、台車の手押部材にグリップ部を設けること、又は台車 等の保護部をグリップ部と一体化したものとすることが、本件優先日の時点 で周知技術であったとしても、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)に 接した当業者において、これらの周知技術を甲8発明に適用する動機付けが あったとは認められない。 したがって、引用発明である甲8発明に基づいて、甲8相違点1に係る本 件各発明の構成が容易に想到できたとは認められず、甲8発明を前提とする\n進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとは認められない。
(4) 前記第3の1〔原告の主張〕について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)のとおり、甲8発明の台車用安 全カバーは、直線の棒にも装着可能であり、コ字状のハンドルのカーブ部\n分に対してのみ取り付け可能な製品ではないから、本件審決における甲8\n発明の認定は誤りであると主張する。 この点、長岡産業代表取締役である甲の陳述書(甲53)には、甲8商\n品2は、甲8商品1とともに、カーブ部分に装着することに特化した形状 (特に孔の形状)となっておらず、曲がっていない直線の棒にも装着可能\nなものであった旨の陳述がある。
しかし、甲8商品2の本体及び取付穴の形状から、物理的には直線の棒 に装着することが可能であるとしても、甲8商品2のパンフレット(甲8\nの3)及び甲8商品2と同一の構成の商品が含まれる甲8商品1のパンフ\nレット(甲8の2)の各記載及び掲載された写真からすれば、甲8商品2、 すなわち甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルのカーブ部分 に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に 掛からないように規制し、これによって手挟み事故を防止するものである と認められる。
上記各パンフレットに掲載された、各商品が台車のハンドルに装着され た状態の写真は、いずれもコ字状のハンドルのカーブ部分に装着されたも のを撮影したものであって、直線の部分に装着した写真ではないと認めら れる。また、甲8の2には、「ハンドルのカーブ部分に挟み込み、テープを はがして包むだけ!」と表記されているのであって、カーブ部分に挟み込\nむことが単なる使用の一例にすぎない旨の記載はされていない。 以上のとおり、甲8発明に関する本件審決の認定に誤りがあるとは認め られない。

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令和5(ネ)10069  職務発明対価請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月1日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

職務発明に基づく対価を請求しましたが、原審(東京地裁)は時効により消滅していると判断しました。知財高裁も同じです。

2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 前記第2の3(1)の主張について
控訴人は、本件就業規則60条(3)は職務発明に関する規定であると解すべ きであり、このような規定に基づいて平成24年6月末にクオカードが交付 されている以上、この時点をもって消滅時効の起算点とすべきであると主張 する。
しかし、本件就業規則60条は、「表彰」に関する規定であると明示され、\nその表彰事由は職務発明に関するものだけでなく業務上の功績と認められる\n事情が広範に表彰の対象とされており、表\彰として経済的利益を供与すると 決められていることはなく、表彰の内容や時期についても同条その他本件就\n業規則において定められていないことからすれば、同条(3)が職務発明の対価 に関する規定であると解することができないのは、補正の上で引用した原判 決「事実及び理由」第3の1(1)ウの説示のとおりであり、被控訴人が本件発 明に基づく利益を得たこと及び被控訴人が控訴人に対して金銭的価値を有す るプリペイドカードの一つであるクオカードを支給したことをもって、同条 (3)を職務発明の対価に関する規定であると解することはできない。
勤務規則等において職務発明に係る対価の支払に関する規定が存在する 場合でも、支払時期の定めがなければ、職務発明について特許を受ける権利 を使用者に承継させた従業者は、権利の承継の時点から使用者に対して職務 発明対価請求権を行使することができるから、原則として同時点が消滅時効 の起算点となる。勤務規則等において支払時期の定めがあるときに、上記支 払請求権の消滅時効の起算点が当該支払時期となるのは、同支払時期までは 権利行使について法律上の障害があり、上記支払請求権を行使することがで きないことによる(補正後の原判決第3の1(1)ア)。これらの事情からすれば、 本件において控訴人の被控訴人に対する相当の対価の支払請求権の消滅時効 が特許を受ける権利の承継の時点から進行すると解することが、発明者に対 するインセンティブを与えるために職務発明対価請求に関する規定を定めた 使用者に比べ、発明者に対するインセンティブを与えない使用者である被控 訴人に対して消滅時効の起算点に関して手厚い保護を与える結果となって不 当であるとはいえない。
被控訴人において、本件就業規則60条に基づく表彰を毎年6月末に行う\n運用又は慣行があったとして、そのことは、同条(3)の規定が職務発明に係る 対価の支払に関する規定であると解する根拠とはならない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 前記第2の3(2)の主張について
控訴人は、本件において「権利を行使することができる時」(民法166条 1項)とは、控訴人が被控訴人を退職した時点、あるいは、どんなに早くて も、本件同意書の有効性について検討するのに必要な合理的な検討時間であ る捺印後6か月経過後であるから、本件では消滅時効は完成していないと主 張する。 しかし、「権利を行使することができる」とは、その権利の行使につき法律 上の障害がないこととともに、権利の性質上、その権利行使が現実に期待の できるものであることをも必要とすると解されるが(補正の上で引用した原 判決「事実及び理由」第3の1(1)ウ)、権利行使について事実上の障害がある 場合に常に「権利を行使することができる時」に当たらないことにはならな い。
控訴人が被控訴人の従業員であったことをもって直ちに退職前に職務発 明対価請求権の行使が現実に期待できなかったとはいえない。控訴人の陳述 書(甲13)には、被控訴人は典型的なオーナー企業であって、従業員が会 社に自由な意見を言うことができなかった旨の陳述があるが、客観的裏付け がなくこの陳述を採用することはできないことは、補正の上で引用した原判 決「事実及び理由」第3の1(3)の説示のとおりである。したがって、控訴人が主張する内容を考慮しても、控訴人が被控訴人を退職するまで、被控訴人に対して職務発明対価請求権を行使することが現実に期待できなかったと解することはできない。 また、本件同意書の有効性について検討する必要があるために、本件同意 書に控訴人が捺印した後6か月が経過するまで、職務発明対価請求権の行使 が現実に期待できなかったと解すべき根拠となる事情は認められない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 前記第2の3(3)の主張について
控訴人は、被控訴人の控訴人に対するクオカードの交付は、職務発明対価 の支払債務の一部承認であり、消滅時効が中断すると主張する。 しかし、本件就業規則60条が表彰制度について定めた規定であり、クオ\nカードはこの規定に基づき交付されたものであること、及び、このクオカー ドの交付に先立って控訴人が被控訴人に本件同意書を提出しており、控訴人 及び被控訴人のいずれも、控訴人が職務発明対価請求権を放棄したと認識し ていたのであり、その状況の下でクオカードの交付がされたことからすれば、 クオカードの交付を職務発明の対価の支払であると認めることはできず、職 務発明対価の支払債務の一部承認であると解することもできない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(4) 前記第2の3(4)の主張について
控訴人は、被控訴人が消滅時効の完成を主張することは権利濫用に当たる と主張する。
しかし、本件同意書の作成に当たり、控訴人が、被控訴人の代表者又は従\n業員から、同意書の作成を強制された事実が認められないこと、控訴人の陳 述書(甲13)には、被控訴人は典型的なオーナー企業であって、従業員が 会社に自由な意見を言うことができなかった旨の陳述があるものの、この陳 述内容について客観的な裏付けはなく、上記陳述の内容を採用することはで きないことは、補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の1(3)の説 示のとおりであり、被控訴人が従業員である控訴人が在職中に使用者に対し て自由な意思表示をすることが不可能\である等の状況を利用し、被控訴人が 控訴人に対して在職中に本件同意書に捺印させたとは認められない。 控訴人が、被控訴人の従業員であることにより、心理的・精神的に職務発 明対価請求権の行使が困難であると感じていたとしても、そのことをもって、 被控訴人による消滅時効の援用が権利濫用であるとはいえない。 まして、控訴人は、被控訴人を退職した後に被控訴人に対して内容証明郵 便により本件各発明に係る相当の対価の支払を求めており、この支払請求は 被控訴人の令和3年5月14日付け回答書により拒絶されたが(前提事実(6))、 控訴人が上記回答書を受領した時点では、遅くとも控訴人が本件各発明に係 る特許を受ける権利を被控訴人に承継したと認められる平成23年9月13 日から10年を経過していなかったから、控訴人の被控訴人に対する職務発 明対価請求権の消滅時効が完成していたとは認められない。それにもかかわ らず、控訴人は、令和4年6月1日まで本件訴訟を提起しなかった(当裁判 所に顕著な事実)。上記内容証明郵便は弁護士(本件の控訴人訴訟代理人弁護 士)が控訴人の代理人として送付しており(甲3の1)、控訴人が、上記内容 証明郵便の送付の時点までに、被控訴人に対する職務発明対価請求に関して 弁護士に相談していたと認められるのであって、これらの事情によれば、控 訴人が、弁護士にも相談した上で、自らの判断で、前記回答書の送付から約 1年後に本件訴訟を提起したものと認められる。控訴人は、陳述書(甲15) において、本件同意書が無効であるといえるのか自信をもてず、弁護士費用 を払って訴訟を提起することを躊躇していたため、令和4年6月まで訴訟を 提起することができなかったと陳述するが、仮にこの陳述どおりであったと しても、そのことをもって、被控訴人による消滅時効の援用が権利濫用に当 たるとはいえない。

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◆令和4(ワ)13408

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令和5(ワ)70454  特許権侵害等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月9日  東京地方裁判所

個人発明家によるAbemaTVを特許権侵害訴訟です。本人訴訟です。裁判所は、構成要件を充足しないと判断しました。\n

(1) 「検査分析装置」及び「検査分析」の意義について
本件発明に係る特許請求の範囲においては、構成要件A、D、F及びGに\n「検査分析装置」との記載があり、構成要件A、B、C、E及びHに「検査\n分析」との記載があるものの、それらの意義は、当該特許請求の範囲の記載 からは明らかではない。
そして、本件明細書には、技術分野に関し、「半導体集積回路装置…の開 発、製造などの検査分析工程で用いられる走査型電子顕微鏡(SEM)、共 焦点レーザ顕微鏡などの検査分析装置の利用方法に関」する(【0001】) との記載が、背景技術に関し、「半導体ウェハ、半導体チップなどの検査分 析においては、検査分析対象となる試料と検査分析装置の性能が合致しない\nと全く有効な検査分析とならない。」(【0004】)及び「半導体ウェハ、半 導体チップの検査分析においては、そのコスト増が著しく、半導体集積回路 装置の開発、製造コストの増大の要因になっている。」(【0005】)との記 載が、課題に関し、「本発明の目的は、半導体集積回路装置などの開発、製 造を効率的に行うために用いられる検査分析工程において、低コストで効率 的に検査分析が行える技術を提供することである。」(【0015】)との記載 が、課題を解決するための手段に関し、本件発明は、検査分析装置の管理者 側と検査分析を希望するユーザ側のそれぞれにセキュリティ確保手段を講じ た上、ユーザが、離れた場所にある検査分析装置を、リアルタイムでリモー ト操作する、又は、ユーザが事前に作成した操作レシピーデータに基づいて 検査分析を行う旨(【0016】ないし【0019】)の記載に加え、「本件 発明の検査分析は、細く絞ったレーザビームを試料面へ照射してその反射光、 散乱光、透過光の少なくとも一つを検出すること、または電子ビームを照射 して二次電子、散乱電子、透過電子の内の少なくとも一つを検出することに より、試料上の所望の箇所を分析するものである。」(【0024】)との記載 が、発明の効果に関し、「本件発明により、検査分析を所望する複数ユーザ に対し、ユーザは個別に検査分析装置の導入のための投資することなく、ユ ーザ試料の検査分析が効率よく行うことが可能となった。」(【0026】)と\nの記載が、それぞれある。これらの記載に照らすと、「検査分析装置」とは、 試料を装填等して、ユーザのリモート操作によりその試料を分析し、検査す る検査分析ユニットを有する装置を意味し、「検査分析」とは、試料を装填 等して、ユーザのリモート操作によりその試料を分析し、検査する工程を意 味すると理解することができる。
これに対し、原告は、「検査分析装置」について、「インターネットを介し たリモート操作が検査分析の対象となるコンピュータ装置であり、当該検査 分析に異常がないことを条件とし、リモート操作した情報を提供するコンピ ュータ装置」と、「検査分析」について、「インターネットを介した検査分析 装置に対するリモート操作に異常がないかの検査分析」と、それぞれ解すべ きである旨主張し、検査の対象が「リモート操作」であることを前提として いるものと解されるが、本件明細書には、原告が主張する解釈の根拠となる 記載はないから、同主張は理由がない。
(2) 被告方法の構成要件充足性について\n
原告の主張は明確ではないものの、被告の動画配信サービスを提供するサ ーバが、「検査分析装置」に該当し、同サービスにおいて、視聴者が動画配 信の内容についてコメントを付したり、高評価ボタンを押下したりすること が、「検査分析」であると主張するものと理解することができる。 しかし、被告の動画配信サービスを提供するサーバは、検査分析の対象と なる試料の装填等を想定したものではなく、ユーザからリモート操作される ことによりその情報等を分析し、検査する検査分析ユニットを備えているも のと認めることはできないから(弁論の全趣旨)、同サーバは、構成要件A、\nD、F及びGの「検査分析装置」に該当しない。 同様に、被告の動画配信サービスにおいて、視聴者が、動画配信の内容に ついてコメントを付したり、高評価ボタンを押下したりすることは、試料を 装填等することを前提とするものではなく、ユーザが同試料について情報等 を分析し、検査するものでもないから、構成要件A、B、C、E及びHの\n「検査分析」に該当しない。 その他、原告の主張する被告方法の内容に照らし、被告方法が「検査分析 装置」又は「検査分析」に該当する装置又は工程を備えるものとは認められ ない。以上のとおり、被告方法が構成要件AないしHを充足すると認めることは\nできない。

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令和5(ネ)10070  損害賠償等請求控訴、同附帯控訴事件  商標権  民事訴訟 令和5年12月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

商標権侵害事件です。原審は約1400万円の損害賠償を認めました。知財高裁も同様です。論点は、スイスの国旗に似ている商標として無効理由ありかどうかです。

控訴人は、本件商標はスイスの国旗に類似しており、商標法4条1項1号 違反の無効理由があると主張する。
しかし、本件商標の形状は原判決「事実及び理由」第4の1(2)のとおりで あり、やや丸みを帯びた縁(辺)を有する略四角形(略正方形)と、これに 囲まれた略相似形であるやや丸みを帯びた縁(辺)を有する略四角形と、そ の内部(中央)に位置する幅広の十字からなり、前者の略四角形の縁と後者\nの略四角形の縁とがなす部分(外縁部分)と、上記十字部分は、いずれも白\n色であり、後者の略四角形の内部は、上記十字部分を除き黒色であり、上記\n十字の幅は外縁部分の3倍程度である。
これに対し、スイスの国旗は、原判決「事実及び理由」第4の2のとおり、 正方形と、その内部(中央)に位置する幅広で白色の十字からなり、正方形\nの内部は、白色である上記十字部分を除いて赤色である。\nしたがって、スイスの国旗は、正方形であって白色の外縁部分がなく、内 部の十字部分を除いた部分が赤色である点において、本件商標と相違してお\nり、本件商標とスイスの国旗は、控訴人が指摘する共通点を考慮しても、中 心的かつ全体的構成を占める図形の形状及び色彩において明らかに相違する。\n被控訴人が、本件商標と同様の形状であるが、地色が赤色で十字部分が白\n色の標章を使用したことがあるとしても、そのことをもって、地色が赤色で 十字部分が白色のものも本件商標に含まれることにはならず、本件商標とス\nイスの国旗がその色において共通するとはいえない。

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原審はこちら。

◆令和3(ワ)13895

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◆令和2(ネ)10060

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令和5(ネ)10038  著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年12月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審と同じく、著作物に該当するが、黙示の許諾があったと判断されました。

「確かに、乙14の4から13、乙15ないし20、22によれば、紙 におけるにじみなどの模様は模様付きの和紙としてカタログで販売される ものにも見られるものではある。しかし、控訴人は、楮を原料とし、にじ みが良く、染め方に深みを出すことができる和紙に、膠、明礬及び水を混 合した礬砂を刷毛で和紙の片面又は両面に引いて乾かし、その際、礬砂の 配合量や引き方等を調整したり、複数の刷毛を使い分けたりすることによ り、紙上に、水のにじみにくい部分や染料の染みにくい部分を生み出し、 毛質、長さ、大小が異なり、特別に注文した複数の刷毛を使い分け、主に 柿渋、胡桃、墨、土など自然の染料で和紙を染め、刷毛のあと、にじみに より紙上に色を配置するなどの手法を用いて和紙に模様や色彩を施し、一 点ずつ異なる模様の染描紙を制作しており、創作ノートに構図のためのス\nケッチ、色、染料の選択、配置、濃淡、線や動き等を記載することもあっ た(前記1(3))こと、そして、本件染描紙15から20のうち、本件染描 紙18は約65cm×約180cm、それ以外は約74cm×約100c mという大きさを備えるものであって、控訴人は空の情景を意識して本件 染描紙15から20を制作していること(前記1(2)、(3))、それぞれの模様 は原判決別紙本件染描紙(15〜20)一覧の各写真のとおりであって、 控訴人が、特定の色彩を選択して、構図を考えた上で模様を配置し、全体\nとしてまとまりのある図柄を作り上げたものといえることを考慮すれば、 創作的表現がされていると認められる。これらの事情を総合すれば、本件\n染描紙15から20の上記創作的表現は、模様のついた和紙として通常想\n定される模様とはいえず、実用的な目的のためのものといえる特徴と分離 して、美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備える部分を把握することが できるといえる。したがって、本件染描紙15から20は、控訴人の著作 物であると認められる。」
(2) 翻案について
翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質な特徴の同一\n性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想\n又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の\n表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行\n為をいう(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法 廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
これを本件において検討すると、被控訴人Y’が制作した本件展示物15 から20は、本件染描紙15から20に依拠し、原判決別紙染描紙(15〜 20)一覧において、四角い枠を付したものとして示した写真における、四 角い枠で囲んだ部分を利用して、補正した上で引用した原判決第3の2(3)で 認定した制作過程を経て制作されたものと認められ、また、本件展示物15 から20は、作品の全体像として、「Yアートワークス/天空図屏風シリーズ」 と題する一連の作品として、屏風様式を取り入れ、上記作品より一回り大き い茶色のアルミ複合版製の下地とともに設置され、晴天の日の日中は、各展 示場の上方の天井にそれぞれ存在する天窓から日差しが差し込むように配置 され、本件展示物15から20が展示されている各壁面の正面付近の各床に は、本件展示物15から20について、本件説明とともに、それぞれ各和歌 (原典及び口語訳)が記載された説明書きが埋め込まれていて、これらの構\n成要素が組み合わされて仕立てあげられた作品であることが認められるから、 本件染描紙15から20の具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新た\nに思想又は感情を創作的に表現するものと認められるものの、本件展示物1\n5から20の屏風の部分の表現と本件染描紙15から20の上記四角い枠で\n囲んだ部分の表現とを対比すると、前者は後者と比較して、全体的に青系の\n色彩が強調され、また、刷毛のあとや染色の境目などの輪郭が鋭く明確化さ れているなど、両者は色合いや色調に多少の相違が認められるものの、刷毛 状の模様、にじみ具合及びこれらの構成や配置は極めて類似しているから、\n本件展示物15から20に接する者が本件染描紙15から20の表現上の本\n質的特徴を直接感得することが十分に可能\であるということができる。 したがって、本件展示物15から20は、本件染描紙15から20を翻案 したものであると認めるのが相当である。
・・・
6 当審における当事者の補充主張に対する判断
(1) 被控訴人Y’の前記第2の5(1)の主張について
被控訴人Y’は、本件染描紙15から20は著作物に当たらないと主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の4(2)のとおり、 本件染描紙15から20については創作的表現がされていると認められる。\n前記のとおり、本件染描紙15から20の模様は、単なる和紙の染みやに じみではなく、控訴人は、膠、明礬及び水を混合した礬砂を刷毛で和紙の片 面又は両面に引いて乾かし、その際、礬砂の配合量や引き方等を調整したり、 複数の刷毛を使い分けたりすることにより、紙上に、水のにじみにくい部分 や染料の染みにくい部分を生み出し、毛質、長さ、大小が異なり、特別に注 文した複数の刷毛を使い分け、主に柿渋、胡桃、墨、土など自然の染料で和 紙を染め、刷毛のあと、にじみにより紙上に色を配置するなどの手法を用い て模様や色彩を施すなどして、一点ごとに模様の異なる染描紙を制作してお り、本件染描紙15から20は空の情景を意識して制作したものである(補 正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の1(3))。
実際、被控訴人Y’も、控訴人店舗以外の店でも和紙を購入したが、控訴人店舗で購入した染描紙の模様が「空」や「雲」の世界観を見出しやすいと認識し、さらに、本件 染描紙15から20の中に「空」や「雲」の世界観を見出すことのできる部 分があると認め(補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の2(3)、 乙24)、その部分を選定して切り出し、染描紙の色合いや色調の変化等を調 整、刷毛のあとを際立たせるといった加工を行い、その上で、紙をスキャナ で読み込んでスキャンデータを作成し、これを拡大し、電子データ上で色付 けし、縦横比を調整するなどして「天空図屏風シリーズ」と題する一連の作 品を制作したのであって、本件染描紙15から20の模様を変えることなく、 これを強調することによって「空」をイメージさせる作品を作ったといえる。 これらの事情からすれば、本件染描紙15から20については、創作ノート その他染描紙の構成や色彩に関して控訴人が記載した資料は証拠として提出\nされていないものの、控訴人は、これらの染描紙の制作にあたり、特定の色 彩を選択して、構図を考えた上で模様を配置して図柄を作り上げ、完成した\nこれらの染描紙は、実用的な目的のためのものといえる特徴と分離して、美 的鑑賞の対象となり得る美的特性を備える部分を把握することができる。
原審で行われた控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は、染描紙を制作 する際に用いる刷毛に含まれた水が紙の上でどのように動くのかについて完 全にコントロールすることはできず、染料を紙に染み込ませた後にどのよう な模様が浮かび上がるのかを事前に完全に予想できるわけではないと認めら\nれる。しかし、上記のとおり、本件染描紙15から20については、控訴人 が空の情景を意識して制作し、実際に空の情景を見出し得る模様が作り出さ れていると認められるのであって、制作過程の中に一部控訴人のコントロー ルが及ばない部分があることや、完成した模様が控訴人の事前の想定と完全 には一致しないことがあるとしても、そのことをもって、本件染描紙15か ら20が著作物と認められないことにはならない。
・・・
控訴人は、染描紙につき、和紙と分離して無体物である「染描」部分だけ を利用することを包括的に許諾したことはなく、翻案等も含めた利用を包括 的かつ黙示に許諾してはいないと主張する。 しかし、控訴人が控訴人店舗に掲げていた本件注意書きは、「無断転用、模 倣、複写による商業行為」を禁ずるとの内容である。この「無断転用、模倣、 複写」に、控訴人がいう「無体物」としての利用、すなわち、染描紙の購入 者が染描紙の紙自体を使わずに模様をデータ化するなどして絵画等の作品制 作において利用する行為が含まれることが明らかであるとはいえない。控訴 人は、控訴人店舗で販売された染描紙にアーティストが絵を描いたものを控 訴人ウェブサイトに掲載しており(原判決「事実及び理由」第3の1(4))、染 描紙の購入者が染描紙を自らの作品に使用することが可能である旨を示して\nいたといえ、それにもかかわらず控訴人がいう「無体物」としての利用を明 示的に禁じていなかったのであるから、控訴人店舗で染描紙を購入した者が、 本件注意書きを見て、染描紙の模様をデータ化するなどして利用する行為が 禁じられていると理解することはできなかったといえ、かつ、控訴人も、こ うした行為を禁ずる意図を有していなかったと推認することができる。 また、控訴人は、被控訴人Y’が染描紙を利用して雑誌「和樂」の「源氏 物語」の挿絵を作成して掲載することを被控訴人Y’から伝えられながら、 被控訴人Y’による染描紙の利用を問題とせず(原判決「事実及び理由」第 3の1(5)ク)、被控訴人Y’が染描紙を利用して実際にどのような絵を制作し て雑誌に掲載したのかを確認しなかった(控訴人本人、弁論の全趣旨)。この 事実からも、控訴人が、染描紙の購入者が染描紙を利用して他の作品を制作 することに関し、染描紙に直接絵を描くことは許諾し、染描紙の模様をデー タ化するなどして利用することは禁じていたとの区別をしていたとは認めら れない。
控訴人のいう「無体物」としての利用であっても、それによって作品を制 作しようとする者は和紙である染描紙を購入するのであるから、控訴人が染 描紙を制作する目的が手漉き和紙の販売の促進にあるとしても、控訴人が「無 体物」としての利用も含めて黙示に許諾することと矛盾しない。 控訴人が、染描紙について「無体物」としての利用をしようとする者に対 して明示的な許諾の意思表示をしたことがあるとしても、そのことは控訴人\nが「無体物」としての利用を含めて他の作品制作への染描紙の利用を黙示に 許諾していたことと矛盾しない。控訴人が、明示的な許諾をする際に、「無体 物」としての利用を希望する者と何らかの条件交渉を行ったことがあるのか 否か、どのような条件交渉を行ったのかは不明であり、仮に何らかの条件交 渉を行った上で明示的な許諾の意思表示をしたことがあるとしても、事前に\n利用態様を認識した場合に控訴人がその者に対して一定の条件を求めること はあり得るといえ、やはり、控訴人が「無体物」としての利用を含めて他の 作品制作への染描紙の利用を黙示に許諾していたことと矛盾しない。 以上の事情に加え、原判決「事実及び理由」第3の5に挙げられた事情も 併せ考慮すれば、控訴人は、複製に当たる場合を除き、「無体物」としての利 用を含め、染描紙を用いて他の作品を制作することを黙示的に許諾していた と認められる。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)39895等

こちらに、問題となった展示物などがあります。

◆画像

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令和5(行ケ)10018  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年1月30日  知的財産高等裁判所

 不使用取消審判段階では、証拠を提出せず、知財高裁で使用証拠を提出し、不使用取消審決が取り消されました。

ア 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(1)のとおり、平成3年最高裁判決 は、本件において適用されるべきではなく、本件訴訟において、原告によ る本件訴訟の使用に関する新たな立証を許すべきではないと主張する。 しかし、商標法50条2項本文は、商標登録の不使用取消審判の請求が あった場合において、被請求人である商標権者が登録商標の使用の事実を 証明しなければ、商標登録は取消しを免れない旨規定しているが、これは、 登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件と し、その存否の判断資料の収集につき商標権者にも責任の一端を分担させ、 もって審判における審判官の職権による証拠調べの負担を軽減させたも のであり、商標権者が審決時において使用の事実を証明したことをもって、 商標登録の取消しを免れるための要件としたものではないと解される(平 成3年最高裁判決)。平成3年最高裁判決の事案も、本件と同様、審判手続 段階において、商標登録取消請求の被請求人が商標使用の事実について何 ら主張立証しなかったものであり、本件において原告が本件審判手続の中 で本件商標の使用に関する主張立証をしなかったことにより、平成3年最 高裁判決が説示した商標法50条2項本文の上記趣旨が本件に当てはま らないとは解されない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。
イ 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(2)アないしエのとおり、本件商標 の使用の事実が立証されたとはいえない旨主張する。
(ア) 前記第3の2〔被告の主張〕(2)アについて
証拠(甲13〜15)及び弁論の全趣旨によって、「Pleasure」の文字 が記載された本件眼鏡フレームを、オリエント眼鏡が原告の下請けとし て製造し、原告に納入したものであると認められることは、前記(4)のと おりであり、原告が、本件眼鏡フレームを使用した眼鏡を、原告の経営 する店舗で販売したことは、商標法50条2項にいう「登録商標の使用」 に当たると認められる。
甲1の1ないし3の写真は、本件眼鏡フレームが存在することを立証 するものであり、甲2の1ないし5等その他の証拠と併せて、要証期間 内に原告が商標を使用した事実を立証するものであるから、甲1の1な いし3の写真の撮影日が要証期間内ではないことをもって、原告が要証 期間内に商標を使用した事実が立証されていないとはいえない。 甲1の1ないし3の写真に撮影されている眼鏡が眼鏡フレームのみな らずレンズにも「Pleasure」の文字が存在している一方、原告のウェブ サイトに掲載された「オグラ眼鏡店オリジナル」の商品の中に眼鏡のレ ンズ部分に商標が刻印されているものが存在しないとしても、甲1の1 ないし3の写真に撮影されている眼鏡が実際に販売されたものであると 認められないことにはならない。
(イ) 前記第3の2〔被告の主張〕(2)イについて
甲2の1ないし5の「お客様カード」は、「Pleasure」の文字が記載さ れた本件眼鏡フレームを用いた眼鏡の販売の事実を立証する証拠である。 原告は、これらの「お客様カード」に上記商標を記載したことが商標法 2条3項8号にいう「取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し」 た行為に該当するなどとは主張立証していないから、上記「お客様カー ド」が同号にいう「取引書類」に該当しないとしても、前記(2)ないし(6) の認定及び判断は左右されない。 ジャーナル(甲7の1ないし4)及び日計表(甲8の1・2)には、\n「オグラ眼鏡店亀有店」との記載があるが、これらの書類に記載された 店舗の電話番号は、原告のウェブサイトに記載されたオグラ眼鏡店イト ーヨーカドー亀有駅前店の電話番号と同一であるから(乙4の1ないし 6)、上記資料に記載された「オグラ眼鏡店亀有店」はオグラ眼鏡店イト ーヨーカドー亀有駅前店を指すと認められ、このことからすれば、甲2 の1ないし5の「お客様カード」に記載された「亀有店」もオグラ眼鏡 店イトーヨーカドー亀有駅前店を指すと認めることができるのであって、 これらの「お客様カード」は、オグラ眼鏡店イトーヨーカドー亀有駅前 店における売上げに関する資料であると認められる。 ジャーナル(甲7の1ないし4)は、これのみをもって本件眼鏡フレ ームを用いた眼鏡の販売の事実を立証するものではなく、甲2の1ない し5の「お客様カード」等の証拠を併せて上記販売の事実が立証されて いるといえるから、甲7の1ないし4に本件商標あるいは「Pleasure」 の商標が記載されていないとしても、前記(2)ないし(6)の認定及び判断は 左右されない。
(ウ) 前記第3の2〔被告の主張〕(2)ウについて
前記(2)ないし(6)のとおり、甲4以外の証拠により、「Pleasure」の記載 のある眼鏡フレームを用いた眼鏡の販売の事実が立証されているといえ るから、甲4に関する被告の主張は前記(2)ないし(6)の判断を左右しない。 なお、被告は、甲4が「商品に関する広告、価格表若しくは取引書類」\n(商標法2条3項8号)に該当しないから、商標の使用を立証するため の証拠とならないという趣旨の主張をする。しかし、原告は、甲4を同 法2条3項8号にいう「取引書類」に該当すると主張するものではなく、 「Pleasure」の記載のある眼鏡フレームを用いた眼鏡の販売が同法50 条2項の使用に該当する旨主張しているのであり、このような使用を立 証するために証拠として提出する資料が上記「取引書類」に該当する必 要もないから、被告の主張は失当である。
(エ) 前記第3の2〔被告の主張〕(2)エについて 現在の原告のウェブサイトの「オグラ眼鏡店オリジナル」の箇所に 「Pleasure」又は「PLEASURE」という名称の商品が掲載されていない としても、そのことをもって、前記(2)ないし(6)の認定及び判断は左右さ れない。
乙3の1ないし6及び乙4の1ないし6のウェブサイトの画面が、甲 2の1ないし5において「Pleasure」の記載のある眼鏡フレームを用い た眼鏡が販売されたとされる時期(令和2年11月11日から令和3年 3月7日)の原告のウェブサイトの画面であるか否かは、乙3の1ない し6及び乙4の1ないし6の画面の内容からは明らかでない。また、仮 に上記画面が上記時期における原告のウェブサイトの画面であり、この ウェブサイトに「Pleasure」又は「PLEASURE」の名称の商品が掲載さ れていなかったとしても、このことから、上記時期において原告の店舗 で「Pleasure」の記載のある本件眼鏡フレームを用いた眼鏡が販売され たことがあり得ないということはできない。 「オグラ眼鏡店新宿サブナード店」の店員が、令和5年4月29日、 被告代理人に対し、「『Pleasure』という商品は扱っていない、在庫切れ ではなく全ての店舗において既にその商品はない、昔はあったが現在は 取り扱いがない。」という趣旨の回答をしたとの事実を裏付ける証拠は何 ら提出されていない。また、仮に、上記店舗の店員が上記発言をしたと しても、その発言の根拠は明らかでなく、前記(2)ないし(6)の認定及び判 断を左右するものではない。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10079  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年12月26日  知的財産高等裁判所

 商標「地球グミ」に対して、正式名称「Planet Gummi」が、「地球グミ」として周知であるとして、無効審判を請求しました。特許庁は理由無しと判断しましたが、知財高裁は、4条1項10号違反の無効理由有りと判断しました。

ア 前記1において認定した事実によると、引用標章1の周知性に関し、次の事 情が認められるというべきである。
すなわち、原告商品は、外国の会社が製造する菓子であり、その名称を「Tro lli Planet Gummi」、「Planet Gummi」などとする ものであって、原告商品又はその包装若しくは個包装には、日本語からなる「地球 グミ」との文字は記載されていない。しかしながら、原告商品は、平成30年頃、 動画投稿者及びその閲覧者を中心に韓国において大流行したところ、この流行が日 本にも飛び火し、原告商品は、令和2年頃からは、日本においても、動画投稿者及 びその閲覧者を中心に大流行し、遅くとも原告が原告商品の輸入販売を開始した同 年10月までには、全国に店舗を展開する小売業者の中に、原告商品を「地球グミ」 と称してこれを宣伝する者が現れるようになった。原告が原告商品の輸入販売を開 始した後についてみても、原告商品は、大人気を誇り、小売業者の店舗における販 売開始後すぐに完売となるという事態が相次ぎ、その入手が極めて困難な商品とな った。原告が原告商品の輸入販売を開始して以来、全国に店舗を展開する小売業者 らは、原告商品を「地球グミ」と称してこれを繰り返し宣伝し、また、原告商品は、 動画投稿サイトにおいても、「地球グミ」と称する商品として大人気を博していた。 そのような原告商品は、令和3年6月、「地球グミ」と称する大人気商品として、 全国紙による新聞報道及び在阪の準キー局によるテレビ報道がされるまでに至り、 同テレビ報道においては、同年上半期にはやった飲食物としてZ世代が選ぶランキ ングにランクインした。原告商品は、翌7月、同様の人気商品として、在京のキー 局によるテレビ報道がされるに至り、20代前半の若者が皆知っていることとして 紹介された(なお、原告は、遅くとも同年6月には、テレビ番組において、原告商 品を「地球グミ」と称しており、また、遅くとも同年9月には、原告商品を「地球 グミ」と称する宣伝をするようになった。)。
さらに、「地球グミ」と称する原告商品は、同年11月、動画投稿サイトへの投稿がきっかけで人気となった作品又は商品の例として、著名作家の小説、有名シンガーソングライターの楽曲等と並べて紹介されるとともに、渋谷区にある著名な商業施設の運営会社による調査(15歳から24歳までの女性545名を対象としたもの)の結果である「SHIBUYA109lab.トレンド大賞2021」なる賞においても、その「カフェ・グルメ部門」の2位に入賞した。このような「地球グミ」と称する原告商品の令和3年までの動向を踏まえ、令和4年1月に発行された「現代用語の基礎知識2022」においては、令和3年中に注目された物(食に係るヒット商品)として、原告商品の俗称たる「地球グミ」の語が取り上げられるに至った。\n
以上の事情に照らすと、「地球グミ」の語(引用標章1)は、遅くとも本件査定 日(令和4年2月22日)までには、原告又は原告商品の製造業者の業務に係る商 品(原告商品)を表示するものとして、需要者(引用標章1が使用される商品の内\n容及び性質並びに前記1の事実に照らすと、若者を始めとするグミキャンディの消 費者であると認められる。)の間に広く認識されている商標に該当していたものと 認めるのが相当である。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10015 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月11日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。甲2発明を組み合わせる動機づけ無しです。

ウ 甲1発明と甲2の技術的事項とを組み合わせる動機付けについて 前記イのとおり、甲2発明の気体吹込羽口の周囲に使用するマグネシ ア−カーボン煉瓦は、酸素吹込みによって生じるホットスポットによる 高熱や不活性ガス吹込みによる冷却作用により、激しい温度勾配や熱衝 撃が加えられるという過酷な環境下の内張煉瓦として使用される前提に おいて、目地損傷原因の目地開きを生じせしめるクリープ変形を防ぐこ とによって、損傷防止が図られるものとなっている。 これに対し、甲1発明のN2ガスを吹き込むガス吹き込み用マグネシ ア・カーボン質耐火物は、前記第2の2(3)アの[甲1発明の内容]記載の とおり、それ自体が気体を吹き込む部材となっている点において、甲2 発明の内張煉瓦とは態様が異なる上に、甲2発明の気体吹込羽口のよう にホットスポットによる高熱を生じさせる酸素を吹き込むことは想定さ れていないものということができる。 そうすると、温度勾配や熱衝撃の点において、甲2発明の煉瓦のほう が甲1発明の耐火物よりも損傷しやすい過酷な環境にさらされる蓋然性 が高いということができ、そのような甲2発明の煉瓦では目地開きを生 じせしめるクリープ変形を防ぐことが特性として重要であるとしても、 それとは使用態様や使用環境の異なる甲1発明の耐火物にも、当然同じ 特性が求められるものとはいえないというべきである。 そうすると、当業者であっても、甲1発明と甲2の技術的事項とを組 み合わせて、相違点2に係る特定事項を得る動機付けがあるとはいえな いということができる。
なお、この点につき、甲3には、前記第2の4記載のとおり、「ごく一 部の大型煉瓦などは800゜C)から1200゜C)程度の還元雰囲気下で焼成 し」、「焼成後に消化防止、低気孔率化のためピッチ含浸されることが多 い。」と記載されているのであって、その記載内容が相違点2に係る特定 事項を得る動機付けについての認定を左右しないというべきである。

◆判決本文

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令和5(ワ)70028  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年12月22日  東京地方裁判所

発信者情報開示請求が棄却されました。理由は、ファイル共有ソフトであるBitTorrentによるファイル共有行為について、”UNCHOKEの通信がされたとされる時点では公衆送信可能\となったとは認められないというものです。同様の判決は、他にもあります(令和4(ワ)23937号、令和5(ワ)70041号など)。

以上のような本件調査会社の説明を前提とし、本件調査結果について本件調 査会社の説明のとおりの事実が認められる場合、本件各通信をしたピアにおい ては、「UNCHOKE」の通信をする時点より前の時点で、既に本件動画のフ ァイルの少なくとも一部が複製されて当該ピアに記録された上で、当該ピアが インターネットに接続されビットトレントのネットワークにも接続されるな どして、本件動画のファイルのピースが他のピアに自動公衆送信(アップロー ド)し得る状態になっていたこととなる。 そして、既に述べたとおり、ある行 為により自動公衆送信し得るようにされた著作物について、別途、著作権法2 条1項9号の5のイ又はロに該当する行為がされたときに再び「送信可能化」\nに該当する行為がされたといえると解されるが、本件においては、「UNCH OKE」の通信がされたとされる時点において、本件動画について、更に、同 号のイ又はロに該当する何らかの行為が行われたことを認めるに足りない。
なお、特定電気通信による情報の流通によって権利が侵害されたことに関し、そ れ自体では権利侵害性のない通信について、プロバイダ責任制限法は、「侵害 関連通信」(プロバイダ責任制限法5条3項)を総務省令で定めるとして、その 範囲を明らかにしている。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び 発信者情報の開示に関する法律施行規則5条は、侵害関連通信として複数の通 信を定めるところ、そこに上記の「UNCHOKE」に該当する通信が規定さ れているとは認められず、また、「UNCHOKE」の通信時点において、本件 調査会社の端末に対して本件動画のファイルのピースが送信(自動公衆送信) されているともいえない。
(3) 原告は、本件各通信が「UNCHOKE」の通信であると特定した上で、本 件各通信に係る発信者情報についてプロバイダ責任制限法5条1項に基づき その開示を請求しているところ、以上に述べたところによれば、本件調査結果 に至る手法と本件調査会社の説明に基づく「UNCHOKE」の通信の内容に よると、直ちに本件各通信に係る情報の流通によって、公衆送信権が侵害され たと認めることはできない。また、その他、本件各通信に係る情報の流通によ って、公衆送信権が侵害されたことを認めるに足りる事情の主張、立証はない。

◆判決本文

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令和5(ネ)10058  特許権移転登録抹消登録請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年12月11日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権を譲渡した事実はないのに、本件特許権の移転登録手続の抹消登録手続を求めましたが、1審、控訴審とも、請求を棄却しました。

前記認定事実に基づき、控訴人が、被控訴人の取締役会決議がないこと を知り、又は知ることができたかについて、以下検討する。 本件特許権の譲渡が会社法362条4項1号に規定する「重要な財産」 として、本件特許権の譲渡当時取締役会設置会社であった被控訴人におい て取締役会決議を経る必要があったことについては当事者間に争いがな い。
前記認定事実によれば、令和2年10月5日頃に、Dは、Aに対し、本 件特許権の譲渡につき取締役会議事録の提出を要求しているところ(乙1 1)、Dの供述によれば、同日、Aから「Bも了解しているし、社内手続も 大丈夫です」との説明を受けた(原審における控訴人代表者Dの陳述記載\n書面3頁)とするが、仮にDの上記供述が事実であったとしても、Dは、 そもそも本件特許権の譲渡について取締役会の決議が必要であると十分\nに認識していたのであるから、Aの上記説明だけを聞いてそれをうのみに したというのであればあまりに軽率というほかなく、上記説明を前提とす れば同日から本件移転登録申請までの間にその提出を求めることも十\分 可能であったし、議事録の提出が得られないのであれば、B本人に確認す\nることも容易であったというべきである。にもかかわらず、そのような行 動に出ることはなく、本来、特許権譲渡の移転登録手続を急がなければな らない事情は何ら存しないのに、Aとの間で本件特許権の譲渡の話に及ん だ翌日には、弁理士に譲渡証書の作成を依頼し、その二日後にはAに対し 本件譲渡証書に改印後被控訴人代表者印を押印させ、その翌日には本件移\n転登録申請手続に及ぶというように、移転登録申\請を早急に進めたことは 極めて不自然というほかない。
この点に関して、控訴人は、被控訴人において適時適切に取締役会議事 録を作成していたかは疑わしいから、Dにおいて、本件特許権の移転登録 手続を経る前に取締役会議事録の提出を求めることは現実的ではなかった し、移転登録手続を急いだ理由は、「早急な解決を図りたい」というAの意 向を受けてそれが妥当だと考えたからにすぎないなどと主張する。 しかし、取締役会議事録が作成されていないとの疑念を抱いていたので あれば、なおさらのこと、本件特許権の譲渡につき取締役会の承認があっ たかどうかをA以外の被控訴人の取締役などに確認しなければならないは ずであるし、ましてや、控訴人はB以外の被控訴人の取締役は名目的な存 在にすぎないと主張するのであるから、Bが本件特許権の譲渡を承認して いない限り、取締役会の承認は得られないと認識していたはずであるから、 B本人に確認すべきであったというべきである。また、いかに早急な解決 を図りたいといわれたとしても、会社内の十分な意思疎通を確認すること\nなく、被控訴人の取締役会の承認が必要な本件特許権の移転登録手続を上 記のような異常な速さで実現しなければならない理由にはならないという べきであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。
また、本件特許権が被控訴人にとって重要な財産であることは控訴人も 認めるところであり、前記イ(イ)ないし(エ)に照らせば、控訴人は、被控訴 人が本件特許権を実施することにより収益を得ようと企図していたと認 識していたとするものである。これらの事情に照らすと、控訴人において、 被控訴人が競合他社である控訴人に対し本件特許権を無償で譲渡するこ とはないと考えるのが通常である。仮に、Bが控訴人に対して競業避止義 務違反となる行為又は海外医療旅行株式会社の代表取締役として本件販\n売業務委託契約違反となる行為を行った事実があるとしても、本件特許権 の特許権者は被控訴人であり、被控訴人がB又は海外医療旅行株式会社の 上記義務違反の責めを負う理由はないし、仮に被控訴人として上記Bの義 務違反に責任を感じ、謝罪の意味で何らかの対応をとるべきと認識したと しても、たとえ謝罪の意味であったとしても本件特許権を無償で譲渡しな ければならない必然性はないというべきであるから、Aにおいてこれを理 由として本件特許権を控訴人に譲渡するとDに話したのであれば、Dとし てはまずはそれが真実なのかを確認するのが当然といえ、D自身もそう思 ったからこそ、Aに対して取締役会議事録を要求したものと認められる。 そして、そのことは、前記イ(エ)のとおり、本件特許権に関し特許情報を検 索して確認していた控訴人においても、当然に認識していたものというべ きである。
この点に関して控訴人は、被控訴人の実質的な経営者はBであり、被控 訴人の株主や取締役の構成に照らしても、被控訴人の行為はBの行為と同\n視できるから、被控訴人が上記義務違反の責任を負うなどと主張する。 しかしながら、本件全証拠を精査しても、被控訴人の法人格を否認して、 被控訴人の行為をBの行為と同視することを認めるに足りる証拠は存しな いというべきであるから、被控訴人の上記主張は採用することができない。 加えて、そのような本件特許権の譲渡について、契約当事者双方が署名 し押印する譲渡契約書が作成されていないのは、会社間の契約として著し く不自然であるし、それを措くとしても、本件譲渡証書の作成に当たり、 Aが被控訴人代表者印を改印したこと自体も極めて不自然というべきであ\nる。なぜなら、当時、改印前被控訴人代表者印はBが保管していたのであ\nるから、もし、Dが、Aから「Bも了解しているし、社内手続も大丈夫で す」との説明を受けたというのが事実であるならば、本件譲渡証書の押印 に当たり、AがBから改印前被控訴人代表者印を借りるなどして押印すれ\nばよく、特許庁に本件譲渡証書を提出する前日にわざわざ代表者印を改印\nしなければならない必要性は何ら認められないからである。
以上の事実を総合考慮すると、上記のような極めて不自然な本件特許権 の移転に関し、取締役会議事録の提出を受けず、A以外の取締役に取締役 会の承認の事実を確認することもなく、あえて本件移転登録申請を早急に\n進めた控訴人代表者のDは、本件特許権の譲渡がAの単独行為であって、\nBの承諾なしにされたこと、すなわち、取締役会決議が存しないことを知 っていた(悪意)ものと認めるのが相当である。
以上によれば、控訴人は、本件特許権の控訴人への譲渡につき、被控訴 人の取締役会決議を経ていないことについて悪意であったと認められる から、本件特許権の譲渡は民法93条1項ただし書に準拠して無効となる と認めるのが相当である。

◆判決本文

原審はこちら。

◆東京地裁令和3(ワ)8940

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令和5(ネ)10026  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年1月31日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

特許権侵害訴訟の控訴審判決です。原審は、被告製品は本件発明2の技術的範囲に属さない、本件発明1は公然実施発明Bであって新規性を欠くとして請求棄却しました。控訴審も同様です。

ア 控訴人は、構成要件2Bを「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であることを要する」と解する根拠は、特許請求の範囲の文言にも本件発明2の課題にも なく、当業者の技術常識等からみても非現実的である旨主張する。
イ しかし、構成要件2Bは「前記排水溝の壁面の表\面粗さが、算術平均粗 さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする」と規定してお り、本件発明2の特許請求の範囲の文言全体をみても、排水溝壁面の表面粗さについて、一部は2.0μmを超えるが製品の一定範囲や所定の\n測定箇所が2.0μm以下であるものを含む、あるいは全体の算術平均 粗さ(Ra)の平均値が2.0μm以下であるものを含むと解すべき文 言はない。
この点は、本件明細書2の記載をみても同様である。控訴人が指摘す る本件明細書2の記載や図面は、従来技術や実施例に係る排水溝の性状 等を特に留保なく説明するものであり、控訴人が主張するように、作業 過程で異常(イレギュラー)が発生した箇所があることを前提とし、こ れを除いた「任意の箇所」を示すものであることを窺わせる記載はない。 控訴人は、1)製紙用弾性ベルトの排水溝は、作業前に設定した加工条 件に基づいて均一的に連続加工されるものであること、2)作業時の諸要 因によって加工結果にばらつきが生じることが避けられないこと、3)排 水溝の壁面を全長にわたって測定する作業は現実的に不可能であり、任意に選定された排水溝の壁面を測定する作業によって製品の性状を把握\nするという、当業者の技術常識を考慮すべき旨主張する。
しかし、上記のとおり明確な構成要件2Bの文言について、明細書にも記載がなく、その範囲も不明確な例外を含むと解することは、不当な\n拡張解釈というべきであって、特許請求の範囲の解釈に当たって当業者 の技術常識を考慮するという枠組みを超えるものといわざるを得ない。 控訴人の主張は、当業者が定める自社製品の品質基準としてはともかく、 独占権が付与される特許請求の範囲の解釈としては採り得ない。 なお、控訴人が指摘する大阪地方裁判所平成15年(ワ)第10959号 同17年2月28日判決は、控訴人の主張を裏付けるものではない。
ウ したがって、原判決判示のとおり、構成要件2Bは「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であること」を要すると解するのが相当である。
そうすると、控訴人が主張する<ステップ1>から<ステップ2の2 B>まで、すなわち「各測定結果に係る9溝ないし18溝のデータ数値 を参照し、特定の溝壁面の表面粗さ数値が他の溝の同一壁面に比して突出して高くなっている」ものを「当業者からみて明らかに溝加工作業時\nに生じた異常(イレギュラー)」として除外すること、及び「測定結果 に係る各壁面の表面粗さの平均値が算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下である結果が得られているか否か」(控訴人の他の主張と併せると、\n任意の測定箇所の算術平均粗さの「平均値」が2.0μm以下であるこ とを意味すると解される。)により充足性を判断する判断手法は、構成要件2Bを逸脱する独自の解釈に基づくものといわざるを得ず、採用で\nきない。
・・・
(2) 公然実施発明Bに基づく本件発明1の新規性欠如の有無について
イ 公然実施をされた発明に当たるかについて
(ア) 控訴人は、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面にD MTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可能な分析方法によって知ることができなかった旨主張する。\n
(イ) しかし、まず、証拠(乙37、124、128、129)によれば、 エタキュアー300は、本件特許1の出願前から実用化され、ウレタン 用の硬化剤として注目されていたことが認められる(原判決44頁〜)。 控訴人は、上記文献等はシュープレス用ベルトに使用される硬化剤に ついて言及するものでないと主張するが、上記文献等はポリウレタン全 般向けの硬化剤としてエタキュアー300を説明するものであるところ、 シュープレス用ベルトに利用される硬化剤が他の一般的なポリウレタン の硬化剤と異なるとみるべき根拠はない(上記文献等には、代表的な従来品が本件明細書1【0003】に従来のシュープレス用ベルトの硬化\n剤として記載されているMOCAである旨の記載も複数ある。)。
また、被控訴人は、遅くとも平成9年7月時点ではエタキュアー30 0を使用していたところ(原判決45頁)、上記ア(イ)の認定事実によ れば、被控訴人は硬化剤としてDMTDAを使用することを独自に見出 したのではなく、エタキュアー300を製造販売するアルベマール社の 国内関連会社との取引を契機として知ったと認められる。この事情は、 他の当業者が硬化剤の候補としてエタキュアー300に着目する蓋然性 を裏付ける事情となることは明らかである。 控訴人は、さらに、ポリウレタンの硬化剤はDMTDAの他にも約8 0種類存在し(甲43)、その全てについて標準品を準備して分析依頼 を行うことは非現実的であると主張する。
しかし、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(乙128)に「実用化 されている熱硬化PUエラストマー用芳香族ジアミン架橋剤」として記 載された5種類、あるいは特開2000−248040号公報(乙12 7)にポリウレタンプレポリマーと反応させるアミン硬化剤組成物とし て記載された芳香族ポリアミンの15種類、その中でも好ましいと記載 された4種類には、いずれもエタキュアー300又はDMTDAが含ま れており、当業者は、従来用いられているMOCA(本件明細書1【0 003】)と同類であるこれらの硬化剤を想定するとみるのが自然であ る。
(ウ) 控訴人は、ベルトの外周面に着目し、外周面のみを切り出して分析を 依頼することは、当業者が通常に利用可能な分析技術とはいえない旨主張する。\nしかし、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の 層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤と を混合してベルトの弾性材料とすることは技術常識であり(原判決44 頁)、自由に解析等をなし得る状態に置かれたベルトを解析して構造等を特定することは可能\であったと認められる(このことは甲25に記載された断面写真から明らかであり、原判決の認定に問題はない。)。 したがって、ベルトBの外周層を切り出して分析を依頼することは、 本件訴訟において控訴人(甲10の1〜4)及び被控訴人(乙1〜3) が行ったのと同様、本件特許1出願前の当業者にも可能であったと認められる。\n
なお、当業者が仮に外周層と内周層に異なる硬化剤を用いる製造方法 を認識せず、これらを区別せずに分析を依頼した場合、全体について硬 化剤としてDMTDAが使用されているという分析結果を知ることにな り、この結果はベルトBの正しい構成なのであるから(乙32)、「外周面を構\成するポリウレタンは、」「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている」との構成を含め、本件発明1の内容を知り得たといえることに変わりはない。\n
(エ) したがって、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面に DMTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可 能な分析方法によって知ることができたと認められる。ベルトBが公然実施された発明とはいえない旨をいう控訴人の主張は採用できない。\n

◆判決本文

原審はこちら。

◆大阪地裁平成29(ワ)4178
原審では、被告は、一旦、損害論に入ってから、2.0μm以下である」との構成要件を充足しないとして、非侵害の主張を行いましたが、これは「時機に後れた」とは認定されませんでした。
原告は、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわ らず、被告は、被告製品1〜3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁 面の表面粗さの測定結果(乙152〜159)を新たに証拠提出するとともに、非侵害の主張を行ったことが時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を主張する。\nしかし、被告が前記証拠等を提出したのは、原告が、訴状においてはイ号製品 が本件発明2の技術的範囲に属する旨を主張しつつも、被告製品1〜3及び5の 排水溝壁面の表面粗さに限定して立証活動をしていたが、裁判所が本件発明2については損害論に入る旨の心証開示を行ったことを受けて、被告製品1〜3及び\n5の各製品と同じシリーズの製品等についても本件発明2の技術的範囲に属する 旨を改めて主張したことに対応するものであって、必ずしも時機に後れたものと は認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。

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令和5(行ケ)10076  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年1月30日  知的財産高等裁判所

立体商標について、3条2項を主張しましたが、知財高裁はこれを否定しました。

商標法3条2項は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、 「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを 認識することができるもの」については、商標登録を受けることができる旨 を規定している。同条2項の趣旨は、同条1項3号から5号までに該当する 商標であっても、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用 した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて自他商品識別力 又は自他役務識別力をもつに至ることが経験的に認められるので、このよう な場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。 そして、立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得した かどうかは、当該商標の形状の斬新性、当該形状に類似した他の商品の存否、 当該商標の使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣 伝のされた期間・地域及び規模等の諸事情を総合考慮し、立体的形状が需要 者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上 で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを 判断するのが相当である。
・・・
ア 本願商標の立体的形状の構成は前記第2の1(1)及び前記1(2)アのとおり であり、その形状は、ラベルプリンター用テープカートリッジとしての商 品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであると認\nめられる。 しかも、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッ ジにおいても、印字用テープをロール状にして収納する部分や、印字用テ ープの巻取りや送り出しをするための輪状の部分を有し、ケースの覆いが 透明又は半透明となっている製品が複数存在し(前記1(2)ウ)、本願商標の 形状と、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッジ の形状とは、一定の差異はあるが、主要な構成要素が共通しており、本願\n商標の形状の斬新性は乏しく、本願商標の形状に類似した他の商品が存在 すると認められる。
イ 「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターは平成4年から販売さ れており(前記(2)ア)、同時期に「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ リンター用テープカートリッジである本件商品も販売が開始されたもの と推認される。本件商品の形状が販売当初において現在と異なるものであ ったと認めるに足りる証拠はなく、本件商品はその販売当初から本願商標 の形状が用いられていたと認められる。 しかし、本件商品について、原告カタログに掲載されていることは認め られるものの、本件商品のみを扱った広告宣伝がされたとは認めるに足り る証拠はない。
また、本件商品は箱に入った状態で販売されており(前記(2)ウ)、店舗に おいて本願商標の形状が顧客に示されないと認められる。箱には、原告の 社名を示す「KING JIM」の文字や、「TEPRA」、「PRO」等、 「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター用テープカートリッジで あることが分かる文字の記載、テープの幅や色等を示す記載等がされてい る。原告のウェブサイトで本件商品を紹介する画面には、箱から出された 本件商品が表示されており、本願商標の形状が示されているが、「KING\nJIM」、「TEPRA」、「PRO」等の文字が記載されたシールの貼られ\nた状態の写真であり、箱も表示されている上、ウェブサイト上の記載とし\nても「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターであることが示され ている(甲102〜104)。原告カタログも、箱から出されてシールの貼\nられた状態の本件商品とともに、箱が表示されている(前記(2)ウ)。
そして、本件商品は、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター 用のテープカートリッジであり、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ リンターを所持する者が、新たなテープカートリッジが必要となった場合 に購入する商品であるといえ、需要者は、「『テプラ』PRO」シリーズの ラベルプリンター用テープカートリッジであること及びテープの色、幅等 の情報を基に、本件商品の中から特定の商品を購入すると考えられるので あり、これらの情報は、本件商品の箱やインターネット上の記載において 表示されている。したがって、需要者である一般の消費者は、本願商標の形状からではなく、箱やシールに記載された文字、あるいはウェブサイト上に記載された\n説明の記載から、本件商品を他の商品と識別すると考えられる。
ウ 本件調査の結果は、本願商標の形状が明らかな写真を示した上で回答さ せたところ、自由回答では、写真に撮影された商品を販売する企業名及び 商品名の両方を誤った者が回答者全体の約6割を占め、選択肢に「テプラ (TEPRA)」を入れて商品名を選ばせる質問を含めても、自由回答によ る質問及び選択問題の全てを誤った者が全体の約半数にのぼった。 また、本件調査では、設問の中で、回答の理由を聴取し、その理由から 明らかにいい加減な回答(ノイズ)をしたと判別できる調査対象者を除い た集計も行ったが、ノイズを除くと、上記写真に撮影された商品を販売す る企業名又は商品名のいずれか一方を正答した者は回答者全体の31. 0%にすぎず、選択肢を示して回答させる質問でも、ノイズを除くと、上 記写真から「テプラ(TEPRA)」の商品名を選択した者は回答者全体の 35.8%にすぎないという結果となった。
エ 上記アからウまでの事情を総合すれば、本件商品が販売開始から約30 年が経過していること及び販売地域が全国であることを考慮しても、本願 商標が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったということ はできないから、本願商標が使用により自他商品識別力を有するに至った と認めることはできず、この判断を覆すに足りる事情は認められない。

◆判決本文

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令和5(ネ)10089  損害賠償等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和6年1月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、「朝の雀6mmテープ」について、無断複製して持ち出したことが、レコード製作者の権利を侵害するとして、50万円の損害賠償を認めました。知財高裁はこれを維持しました。

これに対し、一審原告は、本件合意書9条1項にいう『著作権を有する 音源又は著作権使用許諾を受けた音源』については、著作権の有無にかか わらず、一審原告が保有する全ての音源を指すものであると主張する。 しかし、一審被告はこれを否定しているところであり、B’も、本件合 意書締結に向けての2度の面談において、一審原告の上記立場を説明した とはするものの、これについて一審被告が明確に同意した旨を証言等する ものではない(原審における B’の尋問調書、甲38(B’の陳述書))。ま た、一審被告が退職に当たり一審原告のもとにおいて使用した音源データ の全てを返却したとすることについて、仮に B’と一審被告との間で、一 審原告が著作権を保有し、又は著作権使用許諾を受けた音源に限らず、一 審原告在職中に一審被告が取得した音源のデータの全てを返却する旨の 合意ができた事実に基づくものとしても、これは本件合意書3条に基づく 平成29年12月末日と8条の業務終了日のいずれか早い方までの音源 のデータの返却についてのものであり、これにより直ちに、本件合意書9 条4項の、その使用につき損害賠償義務の発生する音源の対象についても、 上記同旨の合意ができたものとすることはできない。
さらに、一審原告の主張するように、本件合意書9条についても、その 著作権との文言にかかわらず、一審原告の保有する全ての音源を指すもの として当事者間に合意が成立したのであれば、その旨を本件合意書に加筆 するか訂正をすればよく、この点、一審原告においても、音源について著 作権法上の著作権が成立するか分からないものが含まれていることを明 確に認識していたのであるから(原審における証人 B’の尋問調書)、なお さら、そのようにするのが自然であるということができる。現に、本件合 意書の作成日付けについては、手書きで訂正がされ、その上に各当事者の 押印がされているところである(甲1)。このような加筆訂正等がされてい ないことは、そのような合意が存しないことをうかがわせるものである。 そもそも一審原告においても、本件訴え提起の段階においては、本件合意 9条4項の、一審原告が『著作権を保有しまたは著作権使用許諾を受けた 音源』とは、1)一審原告がレコード製作者の権利を有するもの、2)一審原 告が著作権を有するもの、3)一審原告が音の使用につき権利を有する者か ら使用の許諾を受けたもの(当該音が著作物であればその著作権を有する 者及びレコード製作者の権利を有する者から、効果音等著作物性が明確で ないものについてはレコード製作者の権利を有する者から許諾を受ける などして使用が可能となったもの)、の『1)から3)を指していることは容易 に理解できる』(訴状2ないし4頁)と主張していたところであり、一審原 告が保有する全ての音源を指すなどとは主張していなかったものである。 したがって、一審原告の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

一審はこちら。

◆令和3(ワ)17298
被告が、原告が保有していた「朝の雀6mmテープ」について、自身の保有 する記録媒体にこれを複製し、その後、別紙主張整理表作品1記載4の場面の音響に使用するために複製したことについては当事者間に争いがない。\n原告が被告のこの行為について本件合意に違反する旨主張するのに対し、被 告は、「朝の雀6mmテープ」については、被告と原告の間で、被告が原告在籍 時から音響を担当していたアニメ「サザエさん」に使用することを目的として、 被告が原告の音源を被告が保有する記録媒体に複製し、これを音響効果に利用 することが許諾されていて、「朝の雀6mmテープ」を被告が保有する媒体に 複製することは本件合意で禁止される「持ち出し」には当たらないと主張する。 しかし、仮に被告が主張するとおり、原告が被告に対し、アニメ「サザエさ ん」に使用するために「朝の雀6mmテープ」を使用することを許諾したとし ても、その許諾は、原告からの退職後に被告がアニメ「サザエさん」を引き続 き担当することについて、当初はこれに難色を示した原告も同作品のクライア ントが同作品に関する作業を被告に委託すると決定したために最終的にこれ を了承したという状況(乙20、弁論の全趣旨)の下で、アニメ「サザエさん」 に使用する限度で「朝の雀6mmテープ」を使用することを許諾したと解する のが合理的である。その許諾が、同音源を、アニメ「サザエさん」に限らず、 自由に使用して良いという趣旨であるとするのは、上記状況に照らしても不合 理である。被告が主張する許諾は、仮にあったとしても、本件合意所定の「持 ち出し」や「音源」の意義を一般的に修正する合意などではなく、上記のとお り、「朝の雀6mmテープ」をアニメ「サザエさん」に使用する場合には被告が 本件合意で定められた債務不履行責任を問わないという限度で本件合意の内 容を修正する趣旨のものと解される。 被告は、「朝の雀6mmテープ」をアニメ「サザエさん」とは異なる作品であ る別紙主張整理表作品1記載4の場面の音響に使用した。これは、本件合意書9条1項で禁止された「持ち出し」であり、同4項所定の「音源」の「使用」\nに当たると認められ、本件合意に違反する。

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令和5(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年1月31日  知的財産高等裁判所

進歩性無しとした審決が維持されました。争点は、相違点の認定誤り、動機付け、阻害要因です。

(1) 原告は、引用例2及び引用例3に開示されたイメージファイバを介して照 明光を導く周知の方法はイメージファイバを振動させないものであるのに対 して、引用発明はイメージガイド2の接眼側の端部を振動させるものである から、イメージファイバの前提構成が異なるものであって、引用発明に上記\nの周知の手法を適用する動機付けがあるとはいえない旨主張する。
(2) しかし、引用例2及び引用例3によれば、集光レンズを介して入射した光 源からの光をイメージファイバにより伝送することは、本件審決が認定する とおり周知の手法であると認められるところ、引用例3の【0008】、及 び特開2000−121460号公報(乙2)の【0018】、【001 9】、【0029】の記載によれば、内視鏡の技術分野において挿入部を細 径化することは周知の課題であると認められるから、その課題は引用発明に も内在していると認められる。 そして、本件審決の認定する周知の手法は、引用発明にも内在する上記の 課題の解決手段となるものであるから、引用発明にこれを適用する動機付け はあるというべきである。
(3) 原告は、さらに、照明光を被観察物体に導くイメージガイド2の接眼側の 端部を振動させると、被観察物体の撮像にどのような影響を与えるのかが不 明であることを考慮すれば、上記周知の方法を引用発明に採用することには 阻害要因がある旨主張する。 しかし、イメージファイバを振動させる技術と、光源からの光をイメージ ファイバにより伝送する技術とを同時に採用できないとする技術的根拠は見 当たらず、上記(2)のとおり周知の課題を解決する手段である周知の方法を 採用することは、当業者であれば容易に着想して試みるものと認められる。
(4) したがって、引用発明に引用例2及び引用例3の周知の手法を適用するこ とによって、相違点1及び相違点2に係る構成は容易に想到し得るとした本\n件審決に誤りは認められず、原告主張の取消事由2は理由がない。

◆判決本文

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令和5(ネ)1657  実験装置使用差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和6年2月9日  大阪高等裁判所

科研費契約に付随する秘密保持義務違反かどうかについて争われました。1審は義務違反無しとし、大阪高裁は、これを維持しました。

1 争点(1)(被控訴人は本件科研費契約に付随する秘密保持義務に違反したか)に ついて
(1) 前記前提事実(4)アのとおり、本件物件は関係規定に基づき控訴人らから被 控訴人に寄付されたものであるところ、控訴人らは、上記寄付を受け入れた 研究機関である被控訴人としては、本件科研費契約上、補助事業者である研 究者に代わり本件物件を科研費の交付目的に従って適切に管理することが求 められるのであり、本件物件に化体している本件情報に関する権利について は、同契約に付随して、信義則上、上記目的外で自ら使用したり、第三者に 漏洩・開示等したりしてはならない義務(秘密保持義務)を負っている旨を 主張する。
(2) そこで検討するに、公金である補助金により購入された設備等の取り扱い については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律を始めとする\n関係各規定により詳細が定められ、本件物件もこれに従い控訴人らから被控 訴人に寄付されたものであるところ、まず寄付とは、一般的に、公共性、公 益性を有する事業や団体などに対し、財産を贈与することであり、その目的 が物であれば、その所有権の無償による譲渡を意味するものである。そして、 大学共同利用機関取扱要領22条によると、寄付を受けた設備等は、固定資 産管理規則に基づき管理するものとされているところ、同規則11条には、 「資産管理責任者は、固定資産等を寄附により取得する場合」との記載があ ること、平成18年12月26日付けで作成された文部科学省の「研究費の 不正対策検討会報告書」には、「現在の競争的資金等の制度においては、例え ば機器を購入した場合(中略)個人補助の科学研究費補助金の場合、所有権 はいったん研究者に帰属し、所属する研究機関に寄付することになっており」 との記載があること(甲63の1・2)、振興会作成の科研費ハンドブックに 掲載された「科研費FAQ」には、「直接経費により購入した設備等は、研究 代表者又は研究分担者が所属する研究機関に寄付しなければなりません。【Q\n4405】」、「科研費により購入した設備等は、購入後直ちに研究機関に寄付 することとしていますので、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別 の研究等で使用することは差し支えありません。【Q44071】」との記載 があること(甲21)がそれぞれ認められ、これらの記載はいずれも、科研 費により設備等を購入した研究者がその所属する研究機関に行う寄付が、留 保を伴わない所有権の無償譲渡を意味するものであることを前提としている と解するのが相当である。これらに加え、平成23年に締結された被控訴人、 RCNP、TRIUMF及びウィニペグ大学の4研究機関によるUCNの共 同研究に係る合意(2011年覚書)には、被控訴人が本件物件の所有権を 有している旨の定めが置かれており(原文は英文)、本件情報に関して控訴人 らが主張する権利について特段の留保は付されていないことも認められる(甲 8)。
そうすると、そもそも控訴人らによる寄付を義務付けた関係各規定にいう 寄付は一般的な寄付と同様の意味に解されるし、本件物件の寄付を受けるこ とでその所有権を取得した被控訴人が寄付を受けた本件物件の使用、収益及 び処分について制約を受けるべき根拠は関係各規定中に見当たらないから、 控訴人ら主張に係る本件科研費契約なるものが科研費の交付決定に伴い関係 者間に成立するとしても、これに付随して、信義則上、被控訴人が、その一 方的負担となる秘密保持義務を控訴人らに対して負うことになると解する余 地はないというほかない。
(3) この点に関し、控訴人らは、科研費により取得される設備等に関し、設備 等の寄付を行った研究代表者等が他の研究機関に所属することとなる場合に\nおいて、当該研究代表者等に当該設備等の継続使用の希望があるときは、当\n該設備等を研究代表者等に返還しなければならない旨の「返還ルール」が定\nめられている旨を指摘し、同ルールは設備等(本件物件)の寄付を受けた被 控訴人において負担する上記制約の顕れである旨を主張する。
確かに、機関ルール2−3及び3−28には、上記趣旨の記載が存在する が、他方、上記科研費FAQには、補助事業期間中に他の研究機関に異動す る場合は、研究機関は研究機関の定めに基づき、当該設備等を当該研究者に 返還する旨【Q4405】、令和2年度以降に購入した設備等に関しては、研 究期間終了後(補助事業を廃止した場合を含む)5年以内の場合も同様に取 り扱う旨【Q4405、44071】、令和2年度以前に購入した設備等に関 しては、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別の研究等で使用する ことも差し支えない旨【Q44071】がそれぞれ記載されている。 しかし、これらの記載からすると、少なくとも令和2年度以前において、 「返還ルール」は、補助事業期間中のルールであり、研究機関が異動する研 究者の返還請求に応じるべきであるのは、補助事業期間中に限られているこ とを前提としているものと解するのが相当であるところ、本件物件のうち、 本件物件1に係る基盤研究Aの補助事業期間は平成12年から同14年まで、 本件物件2に係る基盤研究Sの補助事業期間は平成21年から同25年まで、 本件物件3に係る基盤研究Bの補助事業期間は平成18年から同20年まで というのであって(甲4、16〜18、当審第1回口頭弁論調書)、本件物件 については、いずれも補助事業期間を経過している。
したがって、上記のような「返還ルール」の存在を斟酌しても、寄付によ り本件物件の所有権を取得した被控訴人が、その使用、収益及び処分に制約 を受けることになる秘密保持義務を、控訴人らに対して信義則上負うべきも のとは解されない。
(4) なお、本件科研費契約に付随する秘密保持義務違反にいう秘密とは、控訴 人らが本件において営業秘密と主張する本件情報と同じものと主張されてい るが(当審第1回口頭弁論調書)、後記3(2)でみるとおり、本件情報は、本 件物件の外観を見ただけでは解析が不可能であり、控訴人らの関与なしには\nこれを取得できないというのである。そうであるとすると、本件物件をトラ イアンフその他の第三者との共同研究の用に供しているとしても、控訴人ら 主張に係る秘密(本件情報)は明らかにされることはないことになる。まして や、第三者が本件物件を分解して主張に係る秘密(本件情報)を探索するこ とも想定できないから、仮に秘密保持義務を負うとしても、そもそも第三者 との共同研究の用に供されることをもって、秘密保持義務違反の状態が起き ることはあり得ないということが指摘できる。 また、控訴人らは、秘密保持義務を根拠づけるものとして、本件物件の所 有権の所在とそれに化体しているノウハウなどの技術情報の所在とは別次元 の問題であり、寄付により本件物件の所有権を被控訴人に無償譲渡したこと になるとしても、控訴人らにおいて本件情報に係る権利まで譲渡する意思は なかったから、被控訴人が本件物件に化体したノウハウを自由に使用してよ いことにはならないとも主張する。しかし、上記説示のとおり、本件物件を 研究の用に供することのみでは秘密保持義務違反の状態が起きないから、本 件物件が価値のあるノウハウを使用したものであるとしても、そのことを理 由に本件物件そのものの使用、収益及び処分に制限を及ぼすことは、結局、 設備等の寄付を無意味ならしめるものであるといわざるを得ず、控訴人らの 上記主張は採用することができない。

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◆令和2(ワ)12387

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令和5(ネ)10001等  損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  著作権 知的財産裁判例 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

各動画からキャプチャした静止画をブログ上に投稿した行為について、1審は、著作権侵害として約240万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、「上記の額をそのまま採用することが相当とはいえない」として、約190万と認定しました。

控訴人による本件各動画の利用態様は、本件各動画からキャプチャした本件 静止画を本件各記事に貼り付け、これを本件ブログ上に投稿して掲載するというも\nのである。そうすると、その使用料相当額の算定に当たっては、他に映像からキャ プチャした写真の使用料に関する証拠がない以上、前記ア(ア)のとおりのNHKエ ンタープライズの規定を参酌するのが相当である。
なお、本件記事1ないし7は、30枚ないし70枚程度の本件静止画を用い、こ れらをそれぞれ本件動画1ないし7における時系列に従って貼り付けた上、各静止\n画の間に、直後の静止画に対応する本件動画1ないし7の内容を1行ないし数行で まとめた要約を記載したものであり、本件記事1ないし7の内容を見ただけで三十\n数分ないし五十数分の本件動画1ないし7の全体をほぼ把握できるようにするもの\nであって、その実質は、映像そのものに準ずるものとも解し得るが、前記アのとお りの各使用料によると、本来であれば、静止画(写真)を使用する枚数が多くなる と、その使用料(映像からキャプチャした写真の使用料)も高額になるところ、そ の枚数が更に多くなり、静止画を利用したコンテンツの実質が映像に準ずる域に達 した場合に、映像の使用料が参酌されることになってかえって使用料が低額になる というのは不合理であるから、本件記事1ないし7の上記内容を考慮しても、本件 各記事については、上記のとおり、映像からキャプチャした写真の使用料に係るN HKエンタープライズの規定を参酌するのが相当である。
映像からキャプチャした写真の使用料に係るNHKエンタープライズの規定によ ると、使用目的が「通信(モバイル含む)」の場合の基本料金は、5000円とさ れ、また、写真素材使用料は、「カラー」、「一般写真」及び「国内撮影」の場合、 1カット当たり2万円とされ、さらに、証拠(甲7の1ないし8、甲8の1ないし 8)及び弁論の全趣旨によると、控訴人が利用した本件静止画は、合計362枚 (話数♯054は59枚、♯044は45枚、♯043は54枚、♯042は29 枚、♯041は57枚、♯040は73枚、♯039は38枚、♯037は7枚) であると認められるから、これらによると、同規定に基づく使用料は、合計724 万5000円(2万円×362枚+5000円)となる。
そして、弁論の全趣旨によって認められるNHK(甲12によりNHKエンター プライズが取り扱う映像の制作者であると認められる。)と原告チャンネルとの相 違(規模、事業内容、社会的影響等)及びNHKが制作した映像と本件各動画との 相違(コンテンツが配信される媒体、視聴者数、映像ないし動画の制作に要する費 用、労力及び時間、コンテンツとしての社会的価値等)が大きく、上記の額をその まま採用することが相当とはいえないこと等の事情に加え、著作権侵害があった場 合に事後的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」(法11 4条3項)が通常の使用料に比べておのずと高額になることを併せ考慮すると、被 控訴人が本件各動画に係る「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は、これを 150万円と認めるのが相当である。

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◆令和3年(ワ)24148

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令和4(行ケ)10081  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟__全文__知的財産裁判例 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

パラメータ特許について、異議申立があり、特許庁は、サポート要件違反として特許を取り消しまし。裁判所は、審決を維持しました。\n

クレームは、「・・・前記バイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8を満たす・・
本件明細書(【0014】)には、B/(B+S)を構成3の数値範囲(0.5\n≦B/(B+S)≦0.8)とすることにより所与の効果(技量が高いゴルファー やスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクを生み出 し、シャフトがねじれすぎること又はねじれないためにシャフトが折損してしまう ことを防止するとの効果(以下「【0014】記載の効果」という。))が得られ ると記載されているのみであって、【0014】記載の効果が得られる理由は記載 されていないし、B/(B+S)を構成3の数値範囲とすることで被告主張の課題\nを解決できるとする理由も記載されておらず、当該数値範囲のいずれの点において も被告主張の課題を解決できるとする理由も記載されていない。特に、B/(B+ S)の境界値を0.5及び0.8としたときに【0014】記載の効果が得られる 根拠並びに被告主張の課題を解決できるとする根拠については、本件明細書に何ら の記載もない。原告は、本件出願日当時の当業者はストレート層の重量の割合を2 0%以上としておけば、シャフトが曲げにより折損すること(ねじれがないために シャフトが折損すること)を防ぎ得るものと理解できると主張するが、ストレート 層の重量の割合を20%以上とする根拠はなく、本件出願日当時の当業者であって も、当該割合につき20%以上を選択することが容易であるとはいえない。また、 【0014】記載の効果と被告主張の課題との関係及びストレート層の重量の割合 を20%以上とすることと被告主張の課題との関係も不明である。さらに、実施例 1及び比較例1をみても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とする理由は理解で\nきない(なお、比較例1におけるバイアス層の重量の割合は40%であり、実施例 1におけるバイアス層の重量の割合は60%であるところ、原告は、B/(B+S) の下限値が0.5であることの根拠を示していない。)。原告が挙げる証拠(甲1 2、21、23)をみても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とする理由は理解\nできないし、これらの証拠には、当該数値範囲とすることで被告主張の課題を解決 できるとする理由及び当該数値範囲のいずれの点においても被告主張の課題を解決 できるとする理由は記載されておらず、当該数値範囲とすることで【0014】記 載の効果が得られることについても記載されていない。
以上のとおり、本件明細書の記載に加え、原告が技術常識であると主張する内容 を踏まえても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とすることで被告主張の課題を\n解決できるとは理解できず、また、当該数値範囲のいずれの点においても被告主張 の課題を解決できるものと評価することもできない。当該数値範囲により【001 4】記載の効果が得られる理由も不明である。

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令和3(ワ)31840  職務発明対価金請求事件  特許権  民事仮処分 令和5年5月26日  東京地方裁判所

職務発明の対価として約4000万円を請求しました。裁判所は、願書には記載されているが、発明者ではないとして、請求を棄却しました。

3 争点1(原告が本件発明の発明者であるか)について
本件発明は、本件構成を有するストレーナに関する発明である。被告では、平成26年5月22日までに、F向けに本件構\成を含む本件発明の構成が記載\nされた本件図面やその他の図面が作成された上で、原価についての概算見積も りがされ、平成27年2月13日にはFの甲工場において、実際に本件発明の 構成を有するストレーナの性能\実験がされ、同ストレーナは、実験対象の5件 の中で一番の性能ではないものの、一定の吹き戻し防止効果があることが確認された。そうすると、本件発明は、遅くとも同性能\実験の時点では完成していたと認められる。
ア 本件発明の特徴的部分は、本件構成であるところ(前記1 )、原告は、本 件構成の形状について、原告が発案したものであり、C等は原告の指示に基づいて図面を作成したにすぎないなどと主張する。\nしかし、原告は、前記2 で認定したとおり、本件訴訟の当初、本件発明 が着想され、完成するまでの具体的な経緯を説明せず、本件発明の特徴的部 分の完成に対する原告の具体的な関与の内容、時期が問題となったところ、 令和4年8月の準備書面で、平成25年初めころにジェットエンジンの形状 から着想したと主張したものの、原告が被告の社内において当該形状につい て言及したことについて、単にC等に図面等の製作を依頼したと主張するの みで、具体的な状況も、その時期についても明らかにしなかった。また、原 告は、本件特許の出願をした理由を記載するに当たりFに対し別の構成のストレーナの提案をしたことがあったことを述べつつ、本件構\成はDに提案したものであると主張した。しかし、前記2 ウ、エのとおり、本件構成は、Fの依頼に基づいて設計されて平成26年5月にはFに提案されたもので\nあった。また、原告が主張する平成25年初めの着想に関する証拠は何も提 出せず、それと本件図面が平成26年5月に作成されたこととの関係も不明 であった。被告はこれらの点を指摘したが、原告は、上記以上の主張をしな かった。
その後、原告は、発明者であることについての立証の最終段階として甲2 3陳述書を提出したところ、甲23陳述書には、原告が被告に初めて逆コー ン型の形状を提案したのは、平成26年8月末から同年9月初め頃にかけて であり、D向けのストレーナの開発過程において、Dの担当者に逆コーン式 のストレーナを提案したときであると記載され、また、それ以前に本件構成のストレーナの設計がされなかったと記載されていた。原告は、甲23陳述\n書をもって、本件構成を被告において明らかにした時期等について初めて本件訴訟において明示したところ、そこには、その時期は平成26年8月末か\nら同年9月初め頃にかけてであり、Dの担当者に対してであることや、それ 以前には本件構成のストレーナの設計がされなかったことが明確に記載されていた。\n
これに対し、被告が書面による準備手続に係る協議において、改めて、原 告の甲23陳述書の上記記載は本件図面が平成26年5月に作成されたこ とと矛盾することなど指摘したところ、原告は急遽陳述書を訂正したいとの 申出をし、本件図面が作成される前からもHの相談に応じて逆コーン式を提案していたなどと記載された甲25陳述書を提出した。しかし、甲25陳述\n書にもそのような提案をした具体的な時期についても状況についても記載 はなく、このことを裏付ける証拠も提出されなかった。 上記の原告の主張立証の経過及び原告が主張する原告の着想や具体的な 提案を客観的に裏付ける証拠が全くないことによれば、甲25陳述書の記載 うち、原告が、前記F向けの性能実験までの間に本件発明に実質的に関与していたと記載された部分はにわかに信用できない。\n
イ 他方、本件特許の出願に当たっては、原告がC及びBと共に発明者とされ、 前記2 キのとおり、出願を担当したIも原告を発明者として認識していた。 この点について、前記(1)で認定したとおり、本件発明はFに対するストレ ーナの開発過程で図面が作成され、実証実験を行って完成したものであると ころ、被告とFとの取引については本件構成を備えているものとは別の構\成 を備えるストレーナが採用され、本件構成を持つストレーナは採用されなかった。他方、平成26年5月の本件図面の作成後であり平成27年2月にF\nで行われた検証の直後には、被告とDとの取引では本件構成を有するストレーナが採用されたところ(前記2(1)オ)、上記開発過程やその採用の時期を 考えるとDに採用されたストレーナについては、Fとの関係で開発された本 件構成を備えたストレーナの知見が流用されたことが推認できる。なお、当時、本件図面を作成してF向けの実証実験をしていたCも、その開発過程で\nCの活動を承認等していたBも、Fのストレーナの開発を担当しており、D については担当していなかったことが認められる。また、前記2 エ、オの 原告の陳述書には、Dに本件構成を有するストレーナを採用させる経緯については試作図や3Dモデルの製作を指示したなど、やや具体的に記載されて\nおり、Dにおいて本件構成を有するストレーナが採用されたことについては、原告の指示や尽力が大きかったことがうかがえる。そして、前記2 キ の メールでのやり取りも考慮すると、被告は、本件構成を備えたストレーナについて、それを納入するDとの取引を始める前に、他人の特許出願にも対応\nすることができるように特許出願をしたことが認められる。
以上によれば、本件発明の構成を備えたストレーナは、Fの依頼に基づき平成26年5月に図面が作成されるなどしたもののFでは採用が見送られ\nた一方、原告の指示や尽力の下、Dとの取引において本件構成を有するストレーナが採用されて販売に至ったことがうかがわれること、Dとの取引の前\nに他人の特許出願にも対応することができるように本件発明が特許出願さ れたという経緯があること、被告において出願を担当していたIはFとの依 頼に基づき本件発明がされたという経緯について詳しい事情を直接見聞き したものではないことが推認できることなどから、Iは上記経緯等から原告 が本件発明に関与した者であると考えたか、又は本件構成を有するストレーナをDが採用する過程で尽力した者として発明者として取り扱うこととし、\n被告において、原告も発明者として本件特許の出願がされたことがうかがえ る。このことは、原告が、当初から、一貫してFではなくDとの関係で自身 が本件構成を提案していたと主張しながら、本件構\成が被告で具体化されて いった経緯について具体的に主張できなかったこととも整合する。 そうすると、Iが原告を発明者として扱い、被告が原告を本件発明の発明 者として出願したとしても、そのことが、前記 のとおり遅くとも平成27 年2月までに完成した本件発明の発明者が原告であることを裏付けるもの とはいえない。

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令和3(ワ)4658  損害賠償等請求事件  その他  民事訴訟知 的財産裁判例 令和5年7月10日  大阪地方裁判所

育成者権の独占的通常実施権者による損害賠償請求事件です。前訴で本件被告は、損害賠償請求義務なしの確認訴訟を提起し、これが否定されていました。裁判所は、前訴の既判力、時効を考慮し、一部の請求を認めました。

当裁判所は、争点1については、26万3368株が被告種苗1であり、被告 らは、これらの出荷について不法行為責任を負うと考えるが、争点4において判 断するとおり、前訴既判力の及ぶ部分を除く不法行為に基づく損害賠償請求権は 時効により消滅したと考える。 その上で、争点3の原告会社の不当利得返還請求権につき、これを肯定する余 地があるが、具体的に被告らが誰にどのような返還義務を負うか(争点2、3) は、本件においては育成者権者である原告P1も不当利得返還請求を行うことか ら、これとの相関において定まるものと考える。また、この検討と整合的な被告 らの不法行為に基づく原告P1に対する損害額(前訴既判力の対象となる請求権 等の内容)を算定する。 以下、上記の判断順序に沿って詳述する。 2 争点1(被告らが被告種苗1を使用した被告製品を販売した数量)について (1) 証拠(甲3、4、6、16、乙1、17、22、44。枝番のあるものは枝 番を含み、認定に沿わない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によると、次の事実 を認めることができる。 ア 平成20年4月ころ、原告会社は、取引先であった商社を介して、被告会 社に本件品種に係る種苗の販売を始め、同年6月23日付けで、被告会社、 前記商社との間で、増殖を行わない、施工現場にて生育した麒麟草をカット した補植のみ認める、当麒麟草を親とし品種改良等を行わない等の「常緑麒 麟草に関する種苗登録禁止条項を厳守する」旨が記載された覚書を交わした。
イ 被告会社は、アの覚書に従って、原告会社から前記商社を介して本件品種 に係る種苗を仕入れていたが、被告P3に指示して、平成23年5月頃から、 覚書に反する態様で被告種苗1を育成するようになった。
ウ 平成23年11月2日に原告会社から被告会社に本件品種に係る種苗が 納品された後は、覚書に基づく取引がされることはなかった。
エ 被告P3は、被告P2の指示を受け、平成24年2月頃から公知のタケシ マキリンソウ種の増殖を始め、被告会社において、同種苗をどのように被告\n製品に使うか等の検討がされるようになった。
オ 平成25年4月頃、原告会社代表者は、同業者から、被告P3が本件品種\nに係る種苗を無断で増殖している旨を聞き、同月23日に、同業者の協力を 得て、被告P3の農場を訪問し、原告会社代表者の知見において、本件品種\nに係る種苗が増殖されている実態を見分するとともに、上記同業者が被告P 3に話を聞いた。
その際、被告P3は、前記商社から買ったものを挿し木にして増やしてい る、常緑キリンソウと言ったら種苗法違反になる、タケシマキリンソ\ウと言 って売っている、被告P2はこのことを知っているとの趣旨の発言をした。 同年5月、被告会社は、被告P3に、被告種苗1を使用した被告製品を廃 棄するよう指示した。 これ以降も、被告会社は、被告製品に用いる公知のタケシマキリンソウ種\nを入手し、被告P3以外の下請先で育成をすすめ、平成26年4月には、被 告製品に被告種苗1が用いられることがなくなった。 カ 鳥取県警察において、被告P3方への原告会社からの本件品種に係る種苗 の入荷状況及び被告P3から出荷されたキリンソウの総数につき捜査がさ\nれ、それらを対比した結果は、当初「P3及び下請け農家のキリンソウ取扱\nい状況について」(甲6調書の添付書面)として把握されていたが、後にこれ を訂正する捜査報告書(乙80)が作成された。 同報告書によると、平成26年3月末時点で、出荷数は、入荷数を26万 3368株上回る状態であった。
(2) (1)を総合すると、本件において、被告製品に用いられた被告種苗1の株数 は、前訴対象行為に係る被告種苗2である1812株を含め、26万3368 株であると認められる。 原告らは、甲6調書を根拠に、被告種苗1の株数は50万7733株である と主張するが、前記認定のとおり、被告会社は、公知のタケシマキリンソウ種\nの採用を検討し、平成26年4月には被告種苗1を使用することはなかったも のと認められるから、これを採用することができない。 被告らは、公知のタケシマキリンソウ種への切替は平成24年9月頃であっ\nたとの主張をするところ、確かに、被告会社が公知のタケシマキリンソウ種の\n採用の検討を始めたのは平成24年2月頃であって、平成25年5月の原告会 社代表者の被告P3の農場への訪問以降は、出荷された被告製品中に被告種苗\n1が使用されていないものが混在する可能性も考えられるが、なお抽象的な可\n能性にとどまり客観的な証拠はなく、公知のタケシマキリンソ\ウ種への切替が 平成26年4月以前に行われたことが的確に立証されたものとは言えないも のと判断する。 よって、前記数量に反する原告ら及び被告らの主張は、採用しない。
3 争点4(消滅時効が成立するか)について
(1) 認定事実
原告会社代表者は、平成25年4月頃、被告P3の農場に赴き、被告種苗1\nが原告らの許諾なく増殖されていると考え、同年5月頃、鳥取県警察に相談す るなどした。このことから、前提事実(6)記載の刑事事件に係る捜査が行われ、 平成27年2月8日、甲6調書が作成された。原告らは、同年11月16日ま でに甲6調書の写しを入手した(弁論の全趣旨)。同供述調書には、被告P2 が、被告P3に対し、平成23年5月頃、被告種苗1を違法に増殖するよう指 示したことが記載されており、同調書に添付の「P3及び下請け農家のキリン ソウ取扱い状況について」には、納品数と出荷数の差が50万7733株であ\nることが記載されていた。 また、1)原告P1は、平成26年11月11日には、被告会社に対し、無断 で被告種苗1を増殖していることを前提に、生産中止、在庫数及び取引の具体 的内容を照会する通知を発し(乙74)、2)同年12月26日には、被告会社 は、前訴請求を含む前訴を提起し、その頃訴状が原告P1に送達された(乙6 5、弁論の全趣旨)。
(2) 検討
ア 原告P1及び原告会社の当時の代表者(P4、本件品種の育成者)は夫婦\n関係にあり、原告P1と原告会社は、独占的通常利用権の設定者と利用権者 の関係にあって、本件品種に係る種苗に係る事業そのものや、被告らの無断 増殖行為の問題には、一体として対処していたと考えられることから、原告 らの損害及び加害者の認識について差があるとは考えられない。これを前提 とすると、原告らは、甲6調書に接するまでに、被告らが原告らの承諾なく 被告種苗1の増殖をしていること(不法行為該当性は自明である。)につき 疑念を持っており、警察の捜査により、その範囲が甲6調書によっておおむ ね判明したものであるから、原告らは、遅くとも同調書を入手した時点(遅 くとも平成27年11月16日)で、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を 提起できる程度に、損害及び加害者を知ったものというべきである。
イ 原告らは、損害及び被害者を知ったのは前訴が確定したときであると主張 するが、権利行使に関し抗弁がないことの確証を得ないと時効が起算されな いとするのは時効制度の趣旨に沿わないものであって、かかる見解は取り得 ない。
原告らの主張を、前訴に応訴したことによる中断(民法147条1号)を いうものと解したとしても、前訴は、前訴対象行為に限定された不法行為に 基づく損害賠償請求権の不存在確認訴訟であることが明示されているので あって、それ以外の被告らの行為に係る損害賠償請求権の時効の進行に対し 何らかの法的効果を持つとは考えられない(仮に何らかの効果があり得ると してもせいぜい催告の効果にとどまる。)から、前訴対象行為以外の行為に 係る請求権の消滅時効に関する再抗弁にもならないと解される。
・・・
(1) 独占的通常利用権者が不当利得返還請求できるかについて
原告会社は、本件育成者権の独占的通常利用権者であり、専用利用権者では ないものの、本件育成者権を独占的に利用して利益を上げることができる点に おいて専用利用権者と実質的に異なることはないから、当該利益の得喪につい ては民法703条の「利益」及び「損失」に該当する場合があると解するのが 相当である。

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令和5(ワ)70139  著作権侵害差止請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年12月7日  東京地方裁判所

木枯し紋次郎の作者の遺族が、口に長い竹の楊枝をくわえた長脇差を携えた渡世人の図形について、木枯し紋次郎をイメージさせるとして、著作権侵害、不競法2条1項1号該当性を争いました。裁判所は、抽象的アイデアであると判断しました。

さらに念のため、本件渡世人に係る記述自体をみても、原告ら主張に係る 本件渡世人は、1)通常より大きい三度笠を目深にかぶり、2)通常よりも長い 引き回しの道中合羽で身を包み、3)口に長い竹の楊枝をくわえ、4)長脇差を 携えた渡世人というものである。そして、証拠(乙1ないし15)及び弁論 の全趣旨によれば、渡世人が、三度笠を目深にかぶり、引き回しの道中合羽 で身を包み、長脇差を携えていたというのは、江戸時代の渡世人の姿として ありふれた事実をいうものであり、口に長い竹の楊枝をくわえるという部分 を更に加えたとしても、これがアイデアとして独自性を有するかどうかは格 別、著作権法で保護されるべき創作的表現という観点からすれば、その記述\n自体は明らかにありふれたものである。仮に、本件渡世人に対しその後本件 テレビ作品で加えられた表現をもって二次的著作物とする原告らの主張に立\nって、「通常より大きい」三度笠で、「通常よりも長い」道中合羽で身を包 んでいるという記述を加えて更に検討したとしても、これらの記述も同じく 極めてありふれたものであり、原告らの上記主張の当否を判断するまでもな く、本件渡世人に係る上記記述は、全体として、ありふれた事実をありふれ た記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、これを創作的表現であると\n認めることはできない。
・・・・
不正競争防止法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」とは、人の業務\nに係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営 業を表示するものをいう。\nこれを本件についてみると、原告ら主張に係る商品等表示とは、前記1)ない し4)の特徴を備えた本件渡世人に係る表示をいうところ(第1回口頭弁論調書\n参照)、本件渡世人がありふれた江戸時代の渡世人をいうにすぎないことは、 上記において説示したとおりであり、本件渡世人に係る表示は、そもそも不正\n競争防止法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」に該当するものとはい\nえない。
仮に、原告らの主張が、本件渡世人の図柄又は写真に「紋次郎」という名称 が付された表示をいうものとしても、商品等表\示として具体的な特定を欠くの みならず、一般に「紋次郎」という名称は、本件書籍、本件漫画作品、本件テ レビ作品及び本件映画作品に登場する中心人物を示す、いわゆるキャラクター に関する識別情報であり、本来的に商品又は営業の出所表示機能\を有するもの ではない。そして、本件全証拠をもっても、原告ら主張に係る上記表示が、キ\nャラクターに関する識別情報を超えて、原告らの営業を表示する二次的意味を\n有するものと認めるに足りず、まして原告ら主張に係る上記表示が、原告らの\n営業等を表示するものとして周知著名であるものとは、本件全証拠\nを踏まえても、明らかに認めるに足りない。
のみならず、証拠(乙20ないし28)及び弁論の全趣旨によれば、被告図 柄は昭和52年に、「紋次郎いか」は昭和57年に、「げんこつ紋次郎」は平 成20年に、それぞれ商標登録を受け、被告がこれらの商標を付するなどして 被告商品を販売し、その信用を長年にわたり蓄積してきた実情及び実績を踏ま えると、仮に原告らの主張に立ったとしても、原告らの営業等と誤認混同を生 ずるおそれを直ちに認めることはできず、これを覆すに足りる証拠はない。 そうすると、仮に上記キャラクターに関する識別情報に一定の財産的価値が 化体していたとしても、実在の人物としてパブリシティ権侵害をいうなら格別、 被告が被告図柄を付して被告商品を製造販売する行為は、不正競争防止法2条 1項1号又は2号に掲げる「不正競争」に該当するものとはいえない。 したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。

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令和4(ワ)3577  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年12月4日  大阪地方裁判所

通帳ケース、長財布の形態は、商品形態模倣(不競法2条1項3号)に該当するとして、約430万円の損害賠償と差止が認められました。判決文の最後に双方の商品が掲載されています。

原告商品1と被告商品1は、通帳ケースの外側のすべての形態(通常全体 の大きさ及び形状、正面外側部に設けられたポケットの形状、大きさ及び位 置、背面部の形状)、マチ部の上面及び側面部のすべての形態(開閉可能なフ\nァスナーの配置)及び内部の形態の大部分(仕切り板の枚数及び大きさ、内 側ポケットの数)において共通しているから、各商品から受ける商品全体と しての印象が共通し、両商品の商品全体の形態が酷似しているといえる。他 方で、上記のとおり、両商品は、正面側及び背面側の各外装部裏面の裏面ポ ケットの有無、各外装部裏面の表面に設けられたカード等を収納するための\n小サイズのポケットの数(原告商品1は6個、被告商品1は4個)及び配置 位置(高さ約1ないし2センチメートルの範囲内)の点で相違するが、いず れも些細な差異であり、商品の全体的形態について需要者に与える印象に影 響するようなものではない。 したがって、原告商品1と被告商品1の形態は実質的に同一であると認め られる。
イ これに対し、被告は、原告商品1の販売前から同商品内側の特徴を備えた 商品を販売していたことや、被告の従前の販売商品や伊達衿のデザインが存 在することに照らせば、原告商品1はありふれた形態であり、不競法2条1 項3号により保護すべき形態に該当しないと主張する。 証拠(乙1、2)によれば、被告が、令和元年9月3日以降、楽天市場に おいて、1)外側の平面視で縦幅約12センチメートル、横幅約18.5セン チメートルの寸法で、厚み約2.5センチメートルの横長四角形状、2)正面 側外装部及び背面側外装部の各裏面(ケースの内部側の面)には、カード等 の小サイズの収納物を上部から挿入可能な小ポケットが4個設けられてい\nる、3)マチ部の上面及び両側面には、ファスナーにより開閉自在の開口部が 設けられており、開口することにより、底部を軸として側面視扇状に正面部 分と背面部分が展開する、4)内部には、上記小ポケットとは別に、仕切板7 枚により等間隔に8個の内側ポケットが設けられている、との原告商品1に 共通又は類似する構成を有する通帳ケースを販売していた事実、及び、令和\n2年9月29日から、外側に入口部分を斜めの形状にしたカードケースを販 売していた事実、がそれぞれ認められる。 しかしながら、原告商品1には、外側部に入口部分が斜めに交差するポケ ットが設けられており、これは商品の全体的形態について需要者に与える印 象に影響する形態であるところ、上記通帳ケースには当該構成が設けられて\nいない。また、上記カードケースの外側ポケットの入口部分は斜めに交差す る形態ではない。また、通帳ケース外装に和装の伊達衿(乙32)のデザイ ンを採用し得るとしても、態様は多様なものが考えられるのであって、その ことから直ちにそのような通帳ケース自体がありふれたものといえるわけ でもない。そして、本件記録上、原告商品1の外側ポケットの形態がありふ れた形態であると認めるに足りる証拠はない。 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
(2) 依拠性について
ア 前記前提事実第2の1(2)アのとおり、原告は、遅くとも令和3年6月2 2日から、第三者が自由に閲覧可能なECサイトである楽天市場で原告商品\n1を販売しており、被告において容易に原告商品1にアクセス可能であった\nといえ、証拠(甲22、23)によれば、実際に、被告代表者が令和3年8\n月7日に原告商品1を購入した事実が認められる。また、前記前提事実第2 の1(3)アのとおり、被告商品1の販売開始時期は原告商品1の販売開始か ら約8か月後の令和4年2月25日である。 以上によれば、被告商品1は原告商品1に依拠して製造販売されたと認め られる。
イ これに対し、被告は、原告商品1の販売前から同商品と同様の内部の形態 を有する通帳ケースを販売していたことや、原告の取締役が原告商品1の販 売前に被告の販売する通帳ケースを購入したことから、被告商品1は原告商 品1に依拠していないなどと主張する。
しかしながら、上記(1)イで検討したとおり、原告商品1と同商品の販売 前に被告が販売していた通帳ケースとは需要者に与える印象に影響を与え る形態である外装部の形態が相違しているから、両商品の内部の形態が同一 又は類似することや原告の取締役による購入履歴がある旨の被告主張の事 情を踏まえても、依拠性に係る上記判断は左右されない。

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令和5(行ケ)10016  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

 車の部品について、進歩性違反無しとした審決が維持されました。理由は動機付け無しです。

原告は、スカッフプレートにおいて電池の交換は必要不可欠であるから、 電池交換のための電池カバーを設ける動機がある、電池カバーを表示部の表\ 側に設けることはさまざまな事情から好ましなく、甲8公報の技術常識等を 適用して、裏側に電池カバーを設ける動機がある、本件審決指摘の(a)〜(d) の変更は、電池交換のため必要であれば当業者は容易に想到し得る旨主張す る。 しかし、甲1公報によれば、甲1公報の「実用新案登録請求の範囲」に記 載された考案は、外部電源が完全に不要な自動車スカッフプレートに適用さ れる発光モジュールを提供することを課題とし(【0004】)、この課題 を解決するための発光モジュールは、発光素子及びリードスイッチが設けら れた「ランプ板」、及び電線を介してランプ板に接続される「電池」が、い ずれも「導光板」に埋設される構成を有し(【0005】、【0015】〜\n【0017】)、この構成により「導光板10の内部に発光素子20に必要\nな電力を供給することができる電池40を設置するため、完全に外部電源が 不要となる」(【0019】)ことで、上記の課題を解決するものと認めら れる。 甲1公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載され\nていない。 そして、本件審決が認定した甲1発明の構成は、外部電源が完全に不要な\n発光モジュールである上記「導光板10」に、これに埋設された「ランプ板 50」、「電池40」等を密封するための「収容溝カバー70」を設け、本 件発明1の「底板」に相当する「スカッフプレート80」の上面には「凹部」 を設け、この「凹部」に発光モジュールである上記「導光板10」を収容す るものである。
そうすると、甲1発明においては、電池40が導光板10内に埋設される ことを含め、「導光板10」に係る上記構成は課題解決に直結した構\成であ ると理解するのが自然であり、本件審決のいう「甲1電池収容構成」もこれ\nと同趣旨と認められる。 加えて、甲1公報には、電池の交換についての記載はなく、甲1発明に接 した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点1に係 る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)導光板10 に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設け、当該電 池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)該収容孔を覆うカバーを設け、 該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)スカッフプレート 80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設されているランプ 板50等との電気接続を行うという変更が必要になることは、本件審決が認 定するとおりである。
甲1発明をこのように変更することは、課題解決に直結した構成である\n「甲1電池収容構成」を変更するものであることと併せると、動機付けはな\nいといわざるを得ず、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 また、甲8公報からは、表示部を有し電池を電源とする電子機器において、\n表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能\なカバーを設けるこ とは技術常識であるといえるが、甲1発明のように独立したモジュールが設 けられ、底板(スカッフプレート80)の凹部にモジュールを収容する電子 機器において、裏側からモジュール内部の電池を交換することまでが技術常 識であったとは認めるに足りない。 甲2公報については、甲1発明のスカッフプレート80、すなわち底板に 相当する部材がないから、下側から電池カバーを設けるという抽象的な点を もって「甲1電池収容構成」と置換可能\ということはできない。
(2) 原告は、甲1発明において収容溝カバー70の取外しは想定されており、 外部から電池40を交換することは当業者が想起し得る旨主張するが、甲1 発明において収容溝カバー70の取外しが可能か否かは不明であるし、仮に\n取外しが可能であれば、取り外すことにより電池交換が可能\と考えられるか ら、むしろ、電池交換のため底板(スカッフプレート80)に電池収容孔と 電池カバーを設ける構成に変更する必要性は乏しいといえる。\nそうすると、原告の上記主張を考慮しても、上記の構成変更に係る動機付\nけは否定せざるを得ない。

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令和4(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

周知技術であっても、適用する動機づけがないとした審決が維持されました。

相違点2〜4は密接に関連するものであるから、事案に鑑みこれを一括し、 甲1発明に周知の技術的事項1及び周知の技術的事項2を適用して、相違点 2〜4に係る本件発明1とすることが容易になし得るかについてまず検討 する。
ア 甲1発明への周知の技術的事項1の適用について
(ア) 周知の技術的事項1は、半導体ウェーハの表面を加工する際の焦点の\n位置を調節するものであり、甲3〜5には、半導体ウェーハの表面以外\nの部位を加工する際の課題や解決手段についての記載はない。また、周 知の技術的事項1は、加工対象物に反りがあることを課題とする解決手 段である。
一方、甲1発明は、前記(1)オのとおり、加工対象物の内部に集光点を 合わせて改質領域を形成し、切断予定ラインに沿って加工対象物を割る\nというものである。また、甲1には、加工対象物の反りについての記載 はない。加えて、甲1には、溶融処理領域を切断予定ラインに沿うよう\nに加工対象物の内部に形成する工程において、レーザ光の集光点につい てZ軸方向の制御をすることについての記載もない。 そうすると、甲1発明に周知の技術的事項1を適用すべき動機付けは 認められないというべきである。
(イ) 原告は、前記第3の1(1)ア(ア)(イ)のとおり、焦点の位置が加工対象 の表面か、内部であるかにかかわりなく、振動などの外的要因により、\n集光が不安定になることから、加工中の集光点のAF制御が必要になる のは、当業者の技術常識であり、甲1において、周知の技術的事項1(A F制御)が明示的に記載されていないとしても、当業者であれば記載さ れているに等しいと認識し、また、シリコンウェハは一般に反るもので あり、当業者は反ったシリコンウェハが加工対象となることも認識する 旨主張する。 しかし、甲1発明は、加工対象物の内部に集光点を合わせて改質領域 を形成し、切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものであり、\nその目的や機序からして、加工対象物の表面からレーザ加工する従来技\n術と本質的に異なるのであるから、甲1に半導体ウェーハの表面の加工\nの際の技術である周知の技術事項1が記載されているに等しいとはい えないし、甲1にはシリコンウェハの反りについて何らの言及もないの であって、原告の主張は採用できない。
(ウ) 原告は、前記第3の1(1)ア(ウ)のとおり、本件審決が、甲1発明にお ける集光点のZ軸方向のずれの許容幅の大きさを指摘し、これを根拠に 周知の技術的事項1の適用を否定する判断をしたのは誤りであるとし、 その理由として、1)本件出願日の時点において、厚さ30μmまでの薄 型シリコンウェハも甲1発明の加工対象となり得るところ、加工中の集 光点をウェハ内に収める必要があること、2)甲1の105頁15〜23 行に、比較的厚いウェハの場合にも、改質領域のZ方向の位置が割断精 度に影響を与える旨の記載があること、3)セミフルカットでも改質領域 の深度のばらつきによりクラック等の問題が生じることからすれば、セ ミフルカットより改質領域以外の部分が大きいステルスダイシングに おいて、改質領域の深度がばらつけば、チップ分割に支障を来すであろ うことから、当業者がAF制御の必要性を理解する旨を主張する。 しかし、1)に関し、甲38、39は、薄型シリコンウェハがステルス ダイシングの加工対象となることを示すものであるが、それが直ちに甲 1発明においてZ方向のAF制御の必要性を導くものではない。
また、原告が2)において引用する甲1の記載は、「クラック領域9と 表面3の距離が比較的長いと、表\面3側においてクラック91の成長方 向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が電子デバイス等の 形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等が損傷 する。クラック領域9を表面3付近に形成すると、クラック領域9と表\ 面3の距離が比較的短いので、クラック91の成長方向のずれを小さく できる。よって、電子デバイス等を損傷させることなく切断が可能とな\nる。但し、表面3に近すぎる箇所にクラック領域9を形成すると、クラ\nック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもの\nのランダムな形状が加工対象物の表面に現れ、表\面3のチッピングの原 因となり、割断精度が悪くなる。」というものであるが、これは、改質 領域を形成する深さ方向の位置は加工対象物の表面に近いことが望ま\nしいが、近すぎてもいけないという程度のことを述べるにすぎず、形成 位置を特定したり、それが一定でなければならないとするものではなく、 まして、AF制御の必要性を示すものでもない。また、甲1には、「図 98に示すクラック領域9は、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物 1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位\n置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工対象物1の 内部中の表面3側に形成される。」(105頁1〜4行)、「なお、パ\nルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半 分の位置より表面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成する\nこともできる。この場合、クラック領域9は加工対象物1の内部中の裏 面21側に形成される。」(105頁24行〜106頁1行)等の記載 もあり、甲1発明においては、シリコンウェハ内部の改質領域の位置は シリコンウェハの厚み方向において厚みの半分の位置より表面に近い\n位置の近くから、厚みの半分の位置より表面に遠い位置まで、ある程度\nの幅をもって設定され得ると理解できるのであり、当業者が、甲1発明 において、X、Y軸ステージの振動やウェハの反りにより、レーザ光の 集光点がずれること、すなわち改質領域の位置がずれることが、直ちに シリコンウェハの割れに影響を及ぼすと理解することはないというべ きである。
そして、3)に関し、セミフルカットとステルスダイシングは切断の原 理、機序が異なるのであり、前者で改質領域の深度のばらつきにより問 題が生じるからといって、後者においても同様であると当業者が認識す るとはいえない。
(エ) 以上のとおりであって、原告の主張するところを踏まえても、甲1発 明に周知の技術的事項1を適用することが当業者にとって容易になし 得たとはいえない。

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令和5(行ケ)10046  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

除くクレーム「・・全量に対して0〜10体積%であるものを除く。」について、進歩性無しとした審決が維持されました。

以上の甲5の1〜3の記載を総合すれば、角栓除去用クレンジング組成 物において、クレンジング機能(洗浄性)、ウォッシュオフ機能\(水での 洗い流し性)、角栓除去機能、皮膚への負担を考慮して、界面活性剤を1\n0〜20質量%程度、すなわち10体積%を超える量で配合することは、 本件優先日前における当業者の技術常識であったと認められる。 他方、甲5の1には「5〜10質量%」、甲5の2には「10質量%」 の界面活性剤を含むクレンジング剤等が記載されていること自体は、原 告の主張するとおりであるが、本件除く構成における「0〜10体積%\nであるものを除く」との特定は、「0体積%〜100体積%」から「0〜 10体積%であるものを除く」範囲のものであるため、結局、「10体 積%超」の範囲である(「10体積%より多く配合する」)ことを意味す るものにほかならない。そうすると、構成の容易想到性を判断するに当\nたっては、甲1発明において、界面活性剤の配合量を「10体積%超」 とする(「10体積%より多く配合する」)ことを、当業者が容易に想到 できたことの論理付けができるかを検討すれば足りる。甲5の1〜3が 「0〜10体積%」の界面活性剤を配合したものを含むとしても、その ことが本件発明と甲1発明との相違点に係る容易想到性を判断する上で、 どのような意味を有するのか、原告の主張によっても明らかでない。
ウ また、本件除く構成の数値限定が顕著な効果を有するものであれば格別、\n本件発明はそのようなものとも認められない。 すなわち、本件明細書によれば、本件発明の効果は、「タンパク質を簡 便に抽出できるため、皮膚に付着したタンパク質を抽出洗浄することが 可能な液状化粧品(「タンパク質洗浄用の液状化粧品」)として好適に使\n用できる」というものであり(【0064】)、「また、本発明のタンパク 質抽出剤は、界面活性剤等を含まなくとも、優れたタンパク質抽出効果 を奏する」ことから、「本発明のタンパク質抽出剤によれば、皮膚への負 担を低減しつつ、所望の洗浄効果が得られる」というものである(【00 65】)。
しかしながら、界面活性剤配合量に関しては、本件明細書の実施例1 6、18及び20が界面活性剤(Tween 80、Span 80)を含む組成の溶液 であるが、「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」量で配合し たものが存在しないことは前記のとおりである上、試験管内でタンパク 質抽出作用を確認しただけで、皮膚に対する洗浄効果は確認されていな い。角栓の除去については、実施例13において角栓のある皮膚に対す る洗浄効果を確認する唯一の実施例が記載されているものの、第2のタ ンパク質抽出剤Aを含むタンパク質抽出剤を使用した結果、石けんと比 較して「高い洗浄効果を示した」こと、「本発明のタンパク質抽出剤は、 クレンジング剤として好ましく使用できる」ことが示されているのみで (【0149】)、その組成は界面活性剤を含まないものである(【007 3】、【0138】〜【0141】、【0149】)。そうすると、本件発明 において界面活性剤を「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」 量で配合することにより、「角栓除去用液状クレンジング剤」が具体的に どのような顕著な効果を奏するのかは不明であるといわざるを得ない。 以上に加え、甲1には「角栓やメラニンを含む古い角質や酸化した汚 れもすっきり。」との角栓の除去機能についての記載があることからする\nと、本件発明による上記程度の効果は、当業者が予測し得たものにすぎ\nない。

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令和2(ワ)7918  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年12月14日  大阪地方裁判所

被告は、ロゴ化された商標「Robot Shop」を用いてオンライン販売をしていました。商標「Robot Shop」(標準文字)の商標権者が、侵害訴訟を提起しました。裁判所は、差止と約1500万円の損害賠償を認めました。争点は、被告の行為は役務「ロボットの提示」か、26条該当性、禁反言などです。判決文の最後に被告標章、原告商標などが掲載されています。

証拠(乙1〜3)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件商標の出願に当 たり、「第7類 工業用ロボット、娯楽用ロボット、研究用ロボット、その他ロボッ ト」、「第28類 ロボットおもちゃ並びにその部品」等、「第35類 工業用ロ ボットの小売」等を指定商品及び指定役務としていたが、特許庁から、本件商標は、 「ロボットの小売店」程の意味合いを容易に認識させるものであるところ、ロボッ トの販売及び修理等を取り扱う業界において、「Robot Shop」及び「ロ ボットショップ」の文字が、ロボットを取扱商品とする小売店であることを示す語 として一般的に使用されている実情があることから、本件商標を第35類の工業用 ロボットの小売等の指定役務に使用することは、商標法3条1項3号に該当するこ と等を理由とする拒絶理由通知書の送付を受け、前記商品及び役務を指定商品等か ら除外して、本件商標の登録を受けたことが認められる。
被告は、被告各サイトにおいて、被告販売商品を販売しているところ、このよう な本件商標の出願経過に照らすと、原告が、被告販売商品のうちロボットと同一又 は類似するものに対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則(民法 1条2項)により許されないと解するのが相当である。
(2) ロボットの字義は、「複雑精巧な装置によって人間のように動く自動人形。 一般に、目的とする操作・作業を自動的に行うことのできる機械又は装置」(広辞 苑第七版)であるほか、証拠(甲24、25、乙31)及び弁論の全趣旨によれば、 日本産業規格(JIS規格)は、ロボットについて、二つ以上の軸についてプログ ラムによって動作し、ある程度の自律性をもち、環境内で動作をして所期の作業を 実行する運動機構と定義し、産業用ロボットについて、産業オートメーション用途\nに用いるため、位置が固定又は移動し、3軸以上がプログラム可能で、自動制御さ\nれ、再プログラム可能な多用途マニピュレータ(互いに連結され相対的に回転又は\n直進運動する一連の部材で構成され、対象物をつかみ、動かすことを目的とした機\n械)と定義していることが認められる。これらの字義等に照らすと、所定の目的の ために自律性をもって動作等をする機械又は装置は、少なくともロボットに類似す るものであるといえる。
別紙「被告商品の指定商品該当性」の「被告サイトにおける説明」欄によれば、 非類似商品を除く被告商品のうち、「被告商品」欄の「2.無人機・ドローン」の 「(1)無人機・ドローンキット/ARF/RTF」、「(2)完成品(RTF)/半完 成品(ARF)」、「(3)無人機・ドローン 完成品(RTF)」、「(4)小型/超小 型無人機」、「(6)Vテール」、「(7)クワッドコプター」、「(8)ヘキサコプター/ オクタコプター」及び「(9)飛行機」(以下、これらを「ロボット類似品」と総称す る。)は、所定の目的のために自律飛行が可能なものが含まれるものと認められ、\n少なくともロボットに類似するものといえる。一方、ロボット類似品を除くその余の被告商品は、いずれもロボット製作に使用する部品や汎用的な部品、製作機器等であって、ロボットに類似するとはいえない。
(3) 以上から、原告が、ロボット類似品に対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則により許されない。

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令和5(ワ)70102  特許権侵害差止及び特許権侵害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年12月4日  東京地方裁判所

半発酵茶葉の発明について、構成要件を充足しないとして、侵害が否定されました。\n裁判所は明細書の記載を参酌して、「茎が取り除かれた」とは、茎を含む半発酵茶葉のポリフェノール等の重量%を測定するための条件を示すものではなく、茎を含まないことを意味すると判断しました。

ア 本件発明の構成要件BないしDは、ポリフェノールの重量、EGCGとE\nCGの合計重量又は総カテキンの重量につき、各構成要件記載の重量%以下\nに限定するものであるが、上記構成要件にいう「茎が取り除かれた」とは、\n本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを意味するのか、あるいは、茎を 含む半発酵茶葉のポリフェノール等の重量%を測定するための条件を示す ものか、文言上必ずしも明らかではない。そのため、本件明細書の記載を考 慮して、その用語の意味を解釈すると、本件明細書の記載【0079】には、 「サンプリング方法:できた各号のお茶の茎を取り除き、篩い分けて12メ ッシュパス20メッシュオンの砕茶を各800g採取する。」として、本件 発明の半発酵茶葉は、その茎が取り除かれることが明確に記載されている。 そして、本件明細書の他の実施例をみても、官能試験によって本件発明の効\n果が確認されている茶葉は、いずれもサンプリングの段階で茎が取り除かれ たものであり、本件明細書全体の記載によっても、茎が含まれた茶葉につい ては、本件発明の効果を確認するような記載が一切存在せず、本件発明の茶 葉に茎が含まれることを示唆する記載も一切認められない。 上記各構成要件及び本件明細書の記載を踏まえると、上記各構\成要件にい う「茎が取り除かれた」とは、本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを 意味するものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記認定事実及び弁論の全趣旨(被告各製品 (双方当事者持参に係るもの)に係る茎の有無の確認結果〔第3回弁論準備 手続期日及び第4回弁論準備手続期日〕を含む。)によれば、被告各製品の 茶葉には、いずれも多くの茎が含まれていることが認められる。 したがって、被告各製品は、本件発明の構成要件BないしDを充足するも\nのと認めることはできない。
のみならず、原告による本件各試験は、被告各製品において茎を除いてポ リフェノール等の重量%を測定していることまで立証するものではなく、上 記構成要件BないしDを立証する前提を欠くものといえる。しかも、原告に\nよる本件各試験は、被告らが釈明したとおり(第1回弁論準備手続調書参照)、 本件各試験に係る具体的な実施条件等が明らかにされていないため、上記構\n成要件BないしDにいう成分重量を的確に立証するものとはいえない。その 上、原告が採用した測定方法は、本件明細書【0082】に記載された測定 方法(カテキンにあってはISO14502、ポリフェノールがGB/T8 313をいう。)とは異なるものであるから、上記構成要件BないしDに各\n規定する成分重量を立証するに適切なものとはいえない。 この理は、原告が時機に後れて提出した本件試験その2(甲19、20) についても、測定に当たり茎が除かれていない点、具体的な実施条件等を欠 く点において同様に当てはまるものであり、同試験も上記認定判断を左右す るに至らない。
したがって、原告の立証は、上記各構成要件の充足性を裏付けるに的確な\nものとはいえず、このような観点からしても、被告各製品は、本件発明の構\n成要件BないしDを充足するものと認めることはできない。 イ これに対して、原告は、1)仮に茎を取り除かなければ、被告各製品には全 体の13重量%から18重量%の茎が含まれているはずであり、見た目も悪 くなるはずであるが、実際にはそうではないこと、2)仮に茎が完全には取り 除かれていなかったとしても、少々の茎は、この業界では茎が取り除かれた ものとみなされていること、3)仮に茎が取り除かれていないとしても、被告 各製品の半発酵茶という性質に何ら変わりはないことを主張する。 しかしながら、本件特許に係る茶葉は、茎が取り除かれているものである ことは、上記において説示したとおりであり、原告の主張は、本件特許の構\n成要件の用語の意義を正解しないものである。また、被告各製品には、少々 とはいえない茎が含まれていることも、上記において認定したとおりであり、 原告の主張は、その前提を欠くというほかない。

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令和4(ワ)4903    商標権  民事訴訟 令和5年11月30日  大阪地方裁判所

商標「久宝殿」について、先使用権は認められず、差止請求が認められました。

2 被告標章につき被告に先使用権が認められるか(争点1)について
(1) 被告は、葬儀会社の需要者は、主として葬儀会館の周辺地域に居住する者 であるとした上で、一般に、葬儀会社の商圏は、葬儀会館を中心として半径2km 程度といわれているから、当該地域を周知性が求められる地理的範囲として、被告 標章に係る先使用権の有無を判断すべきである旨主張する。
(2) この点、葬儀はその施行の必要が予測不可能\である一方で、一旦不幸があ れば直ちにその施行が求められるという性質を有することを踏まえて、主として葬 儀会館の周辺地域に居住する者が需要者として想定されるということについては、 一定の合理性が認められる。
しかしながら、ある標章につき先使用権が認められた場合、未登録でありながら、 登録商標が有する禁止権の効力を排除して当該標章の使用が許されることになり、 商標権の効力に対する重大な制約をもたらすことになる。かかる重大な制約に鑑み ると、法32条1項前段にいう「需要者の間に広く認識されている」の地理的範囲 につき、法4条1項10号におけるものよりも緩やかに解する余地があるとしても、 独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するウェブサイトにおける「業種別開業\nガイド」の「葬祭業」のページにおいて「斎場事業は、商圏範囲が2キロメートル、 人口3万人に1会館を1つの目安とする。」と記載されていること(乙25)をも って、葬儀会社の商圏が半径2km程度であるとして、被告標章につき本件会館を 中心として半径2km程度の範囲で周知されていれば足りると判断することは相当 ではない。 前記認定の事実によれば、本件会館における平成28年から令和2年までの葬儀 の全施行件数(567件)のうち、葬儀申込者の居住地が半径2km圏内に存在す\nる件数が約82%(464件)を占めている(認定事実(2)イ)が、上記圏外の件 数が2割弱も存在すること、みと大協が近隣地区のみならず大阪地域ないし東大阪 ・八尾の相当程度広い地域を対象とした宣伝広告活動も行っていたこと(認定事実 (5))を考慮すると、みと大協が被告標章と同一の「久宝殿」との標章をその業務 (葬儀業)に使用していた地理的範囲は、おおむね東大阪市及び八尾市の全域(本 件会館から最大で約10km圏内に相当する。乙169)と考えられるから、先使 用権が認められるための要件としての周知性についてはその範囲において検討され るべきである。
(3) そして、認定事実(2)ア及び(3)によれば、平成28年から令和2年までの みと大協の葬儀の施行実績(年順に、127件、102件、137件、124件、 77件〔令和2年8月頃まで〕)は、東大阪市及び八尾市における死亡者数の8割 (年順に、6258人〔1人未満切捨て。以下同じ。〕、6211人、6452人、 6522人、4481人〔令和2年8月までとして、年全体の3分の2〕)を基準 とした場合、そのうち約2%にすぎない上、認定事実(4)のとおり、本件会館の半 径2km圏内における他社の葬儀会館の数は、東大阪市内に4件、八尾市内に5件 であって、これらの葬儀会館における本件会館のシェアは明らかではないところ、 上記の範囲が半径3km圏内に拡大するだけでも、他社の葬儀会館の数は東大阪市 内に12件程度、八尾市内に14件程度に増加し、これらの葬儀会館における本件 会館のシェアはより縮小することになる。しかも、認定事実(1)イのとおり、みと 大協は、平成28年頃から経営状況が悪化し、福田商事に支払う本件会館の使用料 も以前より大きく減少していることから、令和2年当時の本件会館のシェアはさら に縮小していた可能性がある。\n以上のことからすると、仮に、東大阪市及び八尾市全域という地理的範囲におけ る先使用権の成立が許容され得ることを前提として、本件会館が、平成12年から 「メモリアルホール久宝殿」との名称で約20年にわたり葬儀会館として使用され てきたこと、「久宝殿」との標章(被告標章)が一定程度の識別力を有すること (前提事実(4)ア参照)を考慮しても、被告標章は、本件商標の登録出願(令和2 年9月17日出願)の際、当該範囲において、現に需要者の間に広く認識されてい たとは認められない。
(4) したがって、被告が、みと大協から「当該業務を承継した者」(法32条 1項後段)に当たるか否かを検討するまでもなく、被告標章につき被告に先使用権 が認められるとの被告の主張(抗弁)は理由がない。

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令和5(ワ)70276 不正競争行為差止請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年1月30日  東京地方裁判所

 エッセイの題号について、周知商品等表示かが争われました。裁判所は、周知性が認められないとして請求棄却しました。\n

(2) 原告表示の周知性について\n
ア 原告書籍の需要者について
原告書籍の需要者については、証拠(甲 5、9、10、15)及び弁論の全趣旨によれ ば、原告書籍が一般的な書店及び書籍販売サイトで販売されていること、電子書籍 の有料配信が行われていること、原告書籍の新聞広告が全国紙、地方紙及びスポー ツ紙に広く掲載されたこと、一般向けのウェブ記事で紹介されたことなどに鑑みる と、原告書籍は、広くノンフィクション・エッセイに関心を有する者を需要者とす るとみるのが相当である。これに反する被告の主張は採用できない。
イ 原告書籍の販売実績等について
原告書籍の販売実績に関し、原告は、シリーズとしての原告書籍の累計発行部数 は 46 万部以上である旨を主張する。これを裏付けるに足りる的確な証拠はないも のの、令和 4 年 月 31 日付け「DIAMOND online」の記事(甲 の 1)では、同 年 4 月時点での原告書籍(コミカライズ版 2 作を含む。)の発行部数は累計 40.4 万 部とされ、また、原告書籍 1(交通誘導員ヨレヨレ日記)は「7 万 6000 部のベスト セラー」と紹介されている。令和 2 年 8 月 29 日付け「幻冬舎 GOLD ONLINE」の 記事(甲 の 2)にも、原告書籍 1 につき、「昨年 7 月に発刊するや、1 年余りで 7 万 6000 部を突破した。」と紹介されている。さらに、令和 4 年 月 6 日付け「中央公論.jp」の記事(甲 の 3)では、原告書籍の累計発行部数は 4万部と紹介さ れている。なお、書籍の一般的な流通形態に鑑みると、販売実績は、発行部数以下 ではあるものの、これに比較的近い数字であることが合理的に推認される。また、 原告書籍は、インターネット上で電子書籍として販売ないし有料配信されているこ ともうかがわれる。
ウ 原告書籍の宣伝広告等について
前記のとおり、原告書籍についてはインターネット上に複数の紹介記事が掲載さ れているほか、証拠(甲 9)及び弁論の全趣旨によれば、別紙「原告書籍の広告実 績」のとおり、令和元年 7 月〜令和 年 4 月の間、毎月のように原告書籍に関する 新聞広告が全国紙、地方紙及びスポーツ紙に広く掲載されていたことが認められる。 もっとも、新聞広告につき仔細にみると、令和 2 年 1 月までは原告書籍 1 のみの 広告であり、原告書籍 2 以降は、それぞれの書籍が発売されるたびに個別に又は既 刊の原告書籍と共に広告が掲載された。その広告には「3 段 8 割」がかなりの割合 を占めるところ、「3 段 8 割」とは、新聞の 1 面下部にある文字だけの書籍広告欄を 指すものと理解される(甲 の 3)。「全 段」、「段 2 割」といった広告も少なからず見受けられるが、これらは基本的に原告書籍を含む原告の発行する複数の書籍 を一括して掲載したものとみられる。その具体的態様は必ずしも詳らかではないも のの、仮に令和 年 3 月 2 日付け読売新聞に掲載された広告(甲 8)と類似するも のであるとすると、原告書籍の各表紙と共通する一部のイラスト及びコメントは掲\n載されているものの、掲載された原告書籍の全てにつき、原告書籍の表紙(甲 3) にみられる原告表示の要素全部が掲載されてはいない。上記広告掲載の直近に発売\nされた原告書籍 12 については、原告書籍 12 の表紙(甲 3)と同一書体による題号 並びに同一内容のイラスト及びコメントが示されているものの、原告書籍 12 の表\n紙とは配置(コメントの一部につき、縦書きか、横書きか)が異なり、表紙が白色\nを基調とするものであることをうかがわせる記載等はなく、さらに、原告書籍 12 の 表紙には存在しない読者等のコメントの記載がある。すなわち、「全 段」の新聞広 告において、原告表示の表\紙における要素の全て(1)〜4))が表紙と同じ配置で掲\n載されていることを認めるに足りる証拠はない。
エ 以上の事情を総合的に考慮すると、原告書籍については、仮に原告主張のと おりシリーズ累計発行部数が 46 万部であったとしても、その需要者が広くノンフ ィクション・エッセイに関心を有する者であることをも踏まえると、原告書籍それ 自体が周知といえるほどの販売実績があるとまではいい難い。その点を措くとして も、その販売期間はシリーズを通算しても 4 年半程度に過ぎず、原告表示につき原\n告によって長期間独占的に使用されたものとは認められない。また、その宣伝広告 の実情等をみても、極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者で あるノンフィクション・エッセイに関心を有する者において、原告表示をもって、\nこれを有する原告書籍の出所が特定の事業者である原告(ないし「原告書籍の発行 者」)であることを表示するものとして周知になっていたとは認められない。\n以上より、原告表示は、一般消費者にとって、原告書籍の出所として原告を表\示 するものとして周知になっているものとはいえないから、「商品等表示」に該当する\nとはいえず、また、「需要者の間に広く認識されている」ということもできない。

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令和1(ワ)10940  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年1月29日  大阪地方裁判所

プログラムの著作物性は認められましたが、複製・翻案については同意があったと認定されました。一方、氏名表示権侵害として10万円が認められました。\n

ア 本件プログラム1は、マンロック(高圧室作業場所への作業員の出入り用 気密扉)内の気圧、二酸化炭素濃度等を記録するペーパーレスレコーダー(最 大10機)を集中管理(レコーダーで記録された情報を遠隔地のパソコンで\nリアルタイムに表示し、データを蓄積するとともに閾値を超えた場合は警告\nを発することが可能)するシステムプログラムであり、統合管理画面(メイ\nンフォーム画面)、個々のレコーダーの監視画面(レコーダーフォーム画面。 表示形式はレコーダーと同様。)、レコーダーの通信ルーチン、データベース\n(レコーダーの情報を集積する部分)などを構成要素とするものである。(甲\n28、弁論の全趣旨)
この点、画面構成や、レコーダーのデータをどのように扱うかについては、\nプログラムの目的、環境規制の態様、ハードウェアやオペレーティングシス テムなどに由来する制約等により、表現の選択の余地の乏しいものもあると\n考えられるが、データ処理の具体的態様(クラス、サブルーチンの利用等の 構造化処理を含む)、レコーダーとの通信プロトコルの選択及びそれに応じ\nた実装、データベース化の具体的処理手順などについて、各処理の効率化な ども意識してソースコードを記述する過程においては、相応の選択の幅があ\nるものと認められる。
イ 原告は、このような選択の幅の中から、データ処理の態様を設計した上、 A4用紙で約120頁分(1頁あたり60行程度。以下同様)のソースコー\nドを作成したことからすると、ソースコード(甲28)の具体的記述を全体\nとしてみると、本件プログラム1は、原告の個性が反映されたものであって、 創作性があり、著作物であるということができる。
ウ 被告は、本件プログラム1のソースコードの多くの記述が公開されたサン\nプルプログラムであり、単純な作業を行う機能の複数の記述であり、計測上\nの管理基準に対応させた記述の順序や組合せであるから、ソースコードの記\n述に創作性はない旨を主張する。しかし、ソースコードに既存のサンプルが\n含まれることについて的確な立証はない上、仮にそのような記述が含まれる としても、プログラム全体としての創作性を直ちに否定するものともいえな いから、被告の主張は採用できない。
・・・
前提事実及び認定事実によると、本件各プログラムの中には、明示的に 異なる現場で用いることを前提とする仕様が採用されたものがあること、 本件各プログラムはいずれも発注の原因となった現場と異なる現場で用 いることについてプログラムの仕様上の制限はないとうかがわれること、 原告自身、一つの現場が終了したと見込まれる後も、プログラムの修正に 応じるなどしていること、原告自らソースコードを納品したものもあるこ\nとに加え、原告が、平成2年に独立した後、多数回にわたって被告から依 頼されたプログラムを制作、納品し、平成20年12月から平成21年4 月までの間は、被告に採用されてプログラム制作業務に従事していたこと からすれば、計測業務における被告のプログラムの利用実態(プログラム を一つの現場で利用するだけでなく他の現場においても複製、変更又は改 変(カスタマイズ)して利用していたことを含む。)から、自己が制作して 納品したプログラムが被告により複数の現場で利用され得ることを認識 していたものとみられることが認められる。これらの本件においてうかが われる事情からすると、本件各プログラムの開発に係る各請負契約におい て、成果物が、少なくとも被告の内部で使用される限りにおいては、他の 現場における使用や改変を許容する旨の黙示の合意があったものという べきである。
・・・
(1) 氏名表示権が侵害されたか(争点3−3、5−2)及び被告に故意又は過失\nがあったか(争点3−4、5−3)
ア 本件プログラム3(争点3−3、3−4)
前記前提事実のとおり、本件プログラム3を複製、変更した被告プログラ ム3の起動画面やバージョン表示画面においては、被告の社名が表\示され、 原告の氏名は表示されていない(甲9)。そして、本件プログラム3と被告プ\nログラム3を比較すると、ソースコードの大部分において同一であり、被告\nプログラム3には本件プログラム3に時間率評価機能を果たす計算処理や\ndB値の時系列変数の計算処理の機能が追加された点において相違するが\n(甲8の3)、この相違点から被告プログラム3が本件プログラム3と別個 のプログラムであるということはできない。 したがって、被告による上記表記により、本件プログラム3について、原\n告の氏名表示権が侵害され、その態様から、被告に故意があったと認められ\nる。
・・・
(3)損害の有無及び額(争点3−5、5−4)
(1)の被告の行為により原告の被った損害は、本件に顕れた一切の事情を考 慮し、10万円と認め(なお、原告は、本件プログラム5についての氏名表示\n権侵害固有の損害を主張しないが、弁論の全趣旨から、相当の損害賠償を求め る趣旨と解される。)、被告は、相当因果関係のある弁護士費用1万円を加えた 11万円及びこれに対する遅延損害金を支払う義務を負う。

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令和5(行ケ)10020等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年1月23日  知的財産高等裁判所

パラメータを含む特許について、無効審決が取り消されました。

クレーム1は「・・外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.39×10−3/Dという関係を満足するものとし、・・・」でした。
(3) 相違点3Aに係る容易想到性についての検討
前記1に認定した本件各発明の概要によると、本件発明3の相違点3Aに係る構\n成は、杭の全塑性の要求性能を満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に\n伴う建設コストの増加との課題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることに\nより解決を図るべく、変形性能の指標として曲率φpを用い、少なくとも陸側に対\n面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ変形性能の\n高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において曲率φpを越えないようにした ものである。
ここで、前記(2)のとおり、甲1発明が属する鋼管杭式桟橋においては、鋼管杭に 高強度鋼管を採用することは周知技術であって、また、本件出願日当時、技術1)(直 杭式横桟橋の性能照査では、杭に発生する応力、杭の支持力、変形量を適切に設定\nして検討すること、杭の断面力は深さ方向に変化し、地中部の深いところでは小さ くなるのが一般的であるため、経済性の観点から鋼管杭の板厚又は鋼種を変更する ことがあること)、技術2)(鋼管杭に生じる軸力及び曲げモーメントに応じて杭の曲 げ剛性を低下させて解析を行うこと)、技術3)(杭の断面力は、深さ方向に変化し、 地中部の深いところで小さくなるため、経済性の観点からは鋼管杭の板厚及び材質 を地中部の発生断面力に応じて変更することが望ましいこと)、技術4)(計画水深が 深い岸壁では、強度の大きいSTK490の鋼管杭を用いている例が多くなるこ と)、技術5)(陸側の地中部において下杭よりも上杭の板厚を大きくすること)及び 技術6)(鋼管杭の部材として、一般に用いられているSKK400及びSKK49 0よりも基準降伏点の高い鋼管杭が、高支持力杭が普及し始めている建築分野にて 商品化されていること)等の技術が公知であったことが認められるが、いずれの技 術によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コストの増加を回避する\nため、甲1発明の「鋼管杭」を、変形性能の指標として曲率φpを用いた上で、少\nなくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分 にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該部分での発生曲率が曲率φ\npを越えないようにすることは導出できないといわざるを得ないし、このような構\n成を得ることが甲1発明及び上記周知技術又は各公知技術に接した当業者が通常行 うべき試行錯誤の範囲内のものということもできない。 したがって、当業者であっても、甲1発明の「鋼管杭」につき、相違点3Aに係 る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1発\n明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明することがで きたものということはできない。
(4) 相違点3Bに係る容易想到性についての検討
本件発明3の相違点3Bに係る構成は、前記(3)のとおり、杭の全塑性の要求性能\nを満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に伴う建設コストの増加との課 題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることにより解決を図るべく、変形性\n能の指標として曲率φpを用い、鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分に\nのみ変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において全塑性モーメン\nトに対応する曲率を越えないようにしたものである。 甲13発明の「鋼管杭」は、少なくとも陸側の鋼管杭の地中部は、φ1300m m×16tのSKK490からなる上杭の下方にφ1300mm×13tのSKK 400からなる下杭で構成されており、技術3)及び4)によると、上杭部分の強度は 下杭部分よりも大きいといえる。しかし、前記(3)と同様に、前記周知技術及び公知 技術(技術1)〜6))によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コスト\nの増加を回避するため、上杭と下杭とからなる甲13発明の「鋼管杭」を、変形性 能の指標として曲率φpを用いた上で、少なくとも陸側に対面して配置された鋼管\n杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭\nを用いて、当該部分での発生曲率が曲率φpを越えないようにすることは導出でき ないといわざるを得ないし、このような構成を得ることが甲13発明及び上記周知\n技術又は各公知技術に接した当業者が通常行うべき試行錯誤の範囲内のものという こともできない。 したがって、当業者であっても、甲13発明の「鋼管杭」につき、相違点3Bに 係る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1\n3発明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明すること ができたものということはできない。
(5) 被告の主張について
ア 被告は、「杭の断面力(曲げモーメントを含む概念である。)は深さ方向に変 化するため、深さや発生断面力に応じ杭の材質・鋼種を変更することがある」との 周知技術が認定でき(技術1)、3)参照)、これは典型的には降伏強度の異なる鋼管杭 を用いることである上、「強度の観点のみならず経済性の観点から鋼管杭の板厚及 び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」、「杭全体のうち、大きい曲げモ ーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を用いること」、「杭に生じ る曲げモーメントが大きい箇所において全塑性モーメントに達しないように設計す ることが望ましいこと」がいずれも技術常識であり、鋼管杭の設計に際しどのくら いの降伏強度の鋼管杭とするかは周知技術に基づき適宜設計されるものだから、相 違点3A又は3Bに係る構成は、周知技術又は技術常識から導出し得る旨主張する。\nしかし、本件審決が説示するとおり、被告は、「強度の観点のみならず経済性の観 点から鋼管杭の板厚及び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」や「杭全 体のうち、大きい曲げモーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を 用いること」が技術常識であることをいかなる証拠の記載から認定できるかを具体 的に指摘していない上、仮に、これらが技術常識であるとしても、これらを組み合 わせる動機付けや、組み合わせた結果からどのようにして相違点3A又は3Bに係 る構成が導出されるかにつき、技術的視点に基づいた具体的な主張をしていない。\nそして、前記のとおり、周知技術及び公知技術(技術1)〜6))によっても、甲1発 明の「鋼管杭」又は甲13発明の「鋼管杭」を、相違点3A又は3Bに係る構成に\nすることは導出できず、そのような構成を得ることが、当業者が通常行うべき試行\n錯誤の範囲内ということもできない。

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令和4(ワ)13396    不正競争  民事訴訟 令和6年1月17日  東京地方裁判所

発注した業務に関してインターネット上で行った投稿が、営業上の信用を害する虚偽の事実を流布するもので、不競法2条1項21号所定の不正競争に該当するかが争われました。
裁判所は、これを認めて50万円の損害賠償および投稿削除を命じました。

(イ) 前記(ア)の各事実を前提として、本件投稿部分1が摘示する「何度やり とりしても、原告は、被告担当者からの質問に明確に回答しない」との 事実が客観的真実に反するものであるか否かについて検討する。 a 前記(ア)aのとおり、本件アナライザー案件において、被告が仕様の 確定を行うべきとされていたことについては、当事者間に争いがない。 また、本件全証拠によっても、原告が、被告の作成した仕様を評価す る立場にあったと認めることはできない。
そして、前記(ア)cの原告と被告担当者とのやりとりの内容に照らせ ば、原告は、被告担当者からの質問に対し、一貫して、原告が「課題 管理表」の項番13において指摘した事項の趣旨を説明しつつ、本件アナライザー案件において原告が受注していない業務である仕様の評\n価にわたる事項については回答することができないとの趣旨を明確に 回答していると認めるのが相当である。
b また、原告が、被告担当者に対し、「なんで答える必要あるの?」と の文言どおりの回答をしていないことも当事者間に争いがない。 この点に関し、被告は、当該回答は、「今回当方へのご依頼は管理画 面の開発で、くじら IT サービス様でご用意される資料の評価は含まれ ていないという認識です。」との原告の回答を簡潔にまとめた表現であると主張する。\n
そこで検討すると、不競法2条1項21号所定の告知又は流布の内 容は、その相手方の普通の注意と読み方・聞き方を基準として判断す べきと解されるところ、本件サイトは、ソフトウェアやITシステムの開発業務を営んでいる者や、このような開発業務を依頼しようとす\nる者が専ら閲覧していると考えられる。そして、これらの者の普通の 注意と読み方を基準とすると、「なんで答える必要あるの?」との表現は、理由を一切説明することなく、回答を拒否したとの意味に理解で\nきるものである。これに対し、被告が指摘する原告の上記回答は、原 告が受注した業務の内容について説明した上、被告が用意する資料の 評価にわたる事項については回答することができないとの趣旨を回答 するものといえる。 したがって、「なんで答える必要あるの?」との表現は、原告の上記回答を要約したものとはいえず、被告の上記主張を採用することはで\nきない。
(ウ) 以上によれば、本件投稿部分1が摘示する「何度やりとりしても、原 告は、被告担当者からの質問に明確に回答しない」との事実は、客観的 真実に反するもの、すなわち虚偽のものと認められる。
・・・
(1) 無形損害について
前記1(2)のとおり、ソフトウェアやITシステムの開発において、受注者が、発注者との質疑応答に適切に対応できる資質や能\力を備えているか否かは、受注の可否にも直結する重要な事柄であると考えられるところ、本件投 稿部分1が摘示する事実は、これを閲覧した者に対し、原告がそのような資 質や能力を欠くとの印象を与えるといえるから、本件投稿は、原告の営業上の信用を大きく毀損するものと認められる。\nそして、前記1(1)イのとおり、原告の納品した成果物が、被告と合意した 仕様に合致するものであることについての立証がされているとはいえず、本 件投稿部分2及び3について不正競争及び不法行為が成立するとは認められ ないものの、被告は、成果物が仕様に合致していないことを意味する他の表現を採用することは極めて容易であると考えられるのに、「ゴミを納品され、\n捨てました。」と、原告による作業や成果物が有する価値のすべてを否定する かのような表現を敢えて用い、同業者が多数閲覧する可能\性のあるインター ネット上のマッチングサイトの評価画面に本件投稿をしたものであるところ、 不正競争に該当する本件投稿部分1と上記の表現とが一連一体のものとして本件投稿を構\成している以上、無形損害の額を算定するに当たり、この事情も考慮することができるというべきである。 以上の事情によれば、本件投稿によって原告に生じた無形損害の額につい ては、50万円と認めるのが相当である。

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令和5(ワ)6100  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年1月30日  大阪地方裁判所

X(旧Twitter)にて、アカウントのアイコンを一部変形して、第三者が使用したことが氏名権、著作権などを侵害するとして、15万円の損害賠償が認められました。

(1) 氏名権侵害について
氏名は、個人の人格の象徴であり、人格権の一内容を構成するものというべきで\nあるから、人は、その氏名を他人に冒用されない権利を有する。 前提事実(3)並びに証拠(甲5〜9)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件 アカウントを通じて本件各投稿を行っているところ、本件投稿1では、本件アカウ ントにおける名前(原告の氏名である「P1」)及びユーザー名(原告が経営する 法人グループの総称である「(省略)」)が表示されており、本件投稿2ないし4\nでは、「P1」がリツイートした旨が表示されていることに加え、所定の操作によ\nり本件アカウントにおける名前等が表示されることが認められ、本件各投稿に接し\nた閲覧者は、投稿者として原告の氏名を認識するものと認められるから、被告は本 件各投稿において原告の氏名を冒用したといえる。したがって、本件各投稿は、原 告の氏名権を侵害する。 被告は、本件アカウントのプロフィール欄には「フィクションのため実在の人物 とは一切関係がございません」と記載されているから、閲覧者は、実在の人物とは 関係がないとの結論に至り、原告本人ではないと認識をする可能性がある旨を主張\nする。しかし、閲覧者は、アカウントに表示された氏名やユーザー名によって投稿\n者を特定するものと解されるから、被告指摘の記載があったとしても、閲覧者は、 原告がその旨を記載していると理解するにすぎず、前記判示に影響を与えるもので はない。被告の前記主張は採用できない。
(2) 本件著作権の侵害について
著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美\n術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいう。 本件イラストは、P3氏が、ツイッター上の交流において原告を表すためにふさ\nわしいイラストとして制作したものであり、腹ばいになるアザラシの様子をイラス トにし、その下部に「(省略)」と記載したものであるところ、全体的に丸みを帯 びた輪郭で、頭部を大きくし、ヒレを頭部付近に小さく描くことにより、親しみや すくかわいらしい印象を与えている点、大きな頭部いっぱいに両目、鼻及び口を描 くことでアザラシの表情に存在感を与えている点、これらに「(省略)」という表\ 記を欧文字で加えることで、その性格(原告の人柄)を示しつつイラストとしての 一体感を感じさせる点において、選択の幅がある中から作成者によってあえて選ば れた表現であるということができる。したがって、本件イラストは、作成者の思想\n又は感情が創作的に表現された、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えたもの\nであると認められ、「著作物」に該当する。 証拠(甲20、21)及び弁論の全趣旨によれば、P3氏は、本件イラストを制 作し、原告に対し、本件イラストに係る著作権を譲渡したことが認められ、原告 は、本件イラストに係る著作権を有していると認められる。 本件黒塗りイラストは、本件イラストの両目部分に黒の横線が入れられ、「(省 略)」という表記が黒塗りされたものであるが、被告がかかる改変を行ったことを\n認めるに足りる証拠はない。一方、前記改変は、前記目線等を加えたことに限られ るから、本件黒塗りイラストは、本件イラストに依拠し、かつ、その表現上の本質\n的な特徴の同一性を維持しつつ、これに接する者が本件イラストの表現上の本質的\nな特徴を直接感得することができるものと認められ、本件黒塗りイラストは本件イ ラストの複製物又は翻案物であって、原告が著作権を有するものといえる。そうで あるところ、被告は、本件各投稿によって、本件黒塗りイラストに改変等を加える ことなくツイッター上に投稿して、少なくとも不特定の者に対して閲覧可能な状態\nにしたことから、本件各投稿は、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害す るといえる。
・・・
(4) 名誉感情侵害について
本件投稿1について検討するに、本件投稿1は、原告の氏名及び原告が経営する 法人グループの名称を表示するとともに、その存在はフィクションであり、実在の\n団体人物とは関係がない旨が記載されたものであるところ、一般閲覧者の普通の注 意と読み方を基準として判断した場合、本件投稿1に接した閲覧者は、原告自身が 原告や(省略)とは関係がない旨を投稿したと認識するものと認められる。したが って、本件投稿1は、閲覧者に対し、原告は趣旨不明な投稿をする人物であるとの 印象を与え、原告の名誉感情を侵害するものといえる。被告は、本件各投稿は司法 書士として品位に欠ける言動をやめさせる公益目的で行った旨主張するが、仮にそ のような目的があったとしても、原告になりすまして本件投稿1を行うことが正当 化される理由にはならない。 本件投稿2ないし4について検討するに、原告は、被告がP4アカウントを作成 したことを前提として、本件投稿2ないし4の閲覧者は、原告があたかもP4氏の 名誉権を侵害したり、プライバシー権を侵害したりする投稿を平気で行う人物であ ると受け止めることから、これらの投稿は原告の名誉感情を侵害する旨を主張す る。しかし、被告がP4アカウントを作成したことを認めるに足りる証拠はない。
また、P4アカウントによる投稿に接した閲覧者は、P4氏が自身のアカウントで 投稿していると認識するものと認められるところ、仮に被告が同氏になりすまして P4アカウントを作成し投稿していたとしても、P4アカウントによる投稿をリツ イートすること自体によって、直ちに同氏の名誉権やプライバシー権が侵害される ことにはならないから、原告の前記主張はその前提を欠く。そして、本件投稿2 は、名前を「P4」、ユーザー名を「(省略)」とするP4アカウントによる「ば ればれだよ。ことP4です。」という投稿を本件アカウントでリツイートしたもの であるところ、一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断した場合、本件 投稿2に接した閲覧者は、P4氏が自身のユーザー名及び氏名を紹介した投稿に対 して原告が注目し閲覧者に伝えようとしたと認識するものと認められる。したがっ て、本件投稿2は、原告の名誉感情を侵害するものとはいえない。また、本件投稿 3及び4は、P4アカウントによる「ネコではなくタチのP4です。」及び「バリ タチのP4です。」という投稿を本件アカウントでそれぞれリツイートしたもので あるところ、「ネコ」、「タチ」及び「バリ」が同性愛者を指す用語として用いら れることがあること(甲19)を踏まえ、一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準 として判断した場合、本件投稿3及び4に接した閲覧者は、P4氏が自身が同性愛 者であることを摘示した投稿に対して原告が注目し閲覧者に伝えようとしたと認識 するものと認められる。したがって、本件投稿3及び4は、原告の名誉感情を侵害 するものとはいえない。
(5) 以上から、本件各投稿は原告の氏名権及び本件著作権(複製権及び公衆送 信権)を侵害し、本件投稿1は原告の名誉感情を侵害するものとして、不法行為を 構成する。\n
2 争点2(損害の発生及びその額)について
前記1認定の本件各投稿による権利侵害の内容及び態様の一切を考慮すると、本 件各投稿により、原告が被った精神的苦痛を慰藉する金額は、15万円が相当と認 められる。ただし、原告は本件イラストの著作者ではなく、本件著作権(複製権及 び公衆送信権)侵害により原告に精神的苦痛が生じたとは認めるに足りない。

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令和5(ワ)73  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年12月14日  大阪地方裁判所

厚底ソールの形状について、特別顕著性なし、周知性なしとして、不競法2条1項1号の周知商品等表\示に該当しないと判断されました。具体的なソール形状などは不明です。\n

原告ソール1が、合成樹脂を用いた厚底ソ\ールであり、原告主張の特徴1な いし特徴4の形態を備えていること、一部の溝の形状が略コの字状となってい ることについては、当事者間に争いがない。そこで、これらの形態やその組み 合わせが、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴といえるか、以下検討 する。
ア 合成樹脂を用いた厚底のソールであるとの形態について\n証拠(乙20)によれば、イタリアのVibram社(ソールのメーカー)\nが、原告商品1の販売の相当前である昭和59年(1984年)にカジュア ルシューズ向けの合成樹脂(EVA)製の超軽量ソールの製造を開始したこ\nとが認められるところ、合成樹脂製のソールの厚みを厚くすることが製造技\n術上困難であるような事情は見当たらない(令和5年7月時点では、複数の 他社から合成樹脂製の厚底ソールを使用した婦人靴が販売されていた(乙2\n1、22)。)。そうすると、合成樹脂を用いた厚底ソールである形態が、従来\nの同種商品と異なる形態とはいえない。
イ 特徴1(靴底裏面に複数の縦溝1及び横溝2、3を有することで、裏面視 において全体として略格子状のイメージを奏すること)について
証拠(乙7の1、7の3ないし7の6)によれば、原告商品の販売開始前 に、複数の他社から靴底裏面に複数の縦溝と横溝が施されて全体として略格 子状の形態の靴底の意匠登録出願がされ、その後、いずれも意匠登録がされ たことが認められるから、特徴1の形態はありふれた形態というべきである。 また、ソールの溝の深さを深くすることによって排水機能\や防滑機能が実現\nされることは一般的な知見といえる(乙8)から、特徴1の形態は技術的機 能に由来する形態といえる。\n
ウ 特徴2(靴底裏面の前方部分に、i)左右一対の2本の前記縦溝1と、i i)左右端から形成され前記各縦溝1とそれぞれ交差し、先端(中央側端部) 同士が対向する左右3対の前記横溝2と、iii)前記左右3対の横溝2よ りもつま先側において左端から右端にかけて形成される横溝3とが配され ていること)について
証拠(乙7の1、7の4、7の5)によれば、原告商品の販売開始前に、 複数の他社から靴底裏面の中央より前方(つま先)部分に概ね2本の縦溝と、 左右端から形成され上記縦溝と交差し、先端同士が対向する左右3ないし5 対の横溝と、同横溝よりつま先側において左端から右端に形成される横溝と が配された靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたこと が認められる。また、上記横溝の数を原告ソール1の「横溝2」のように3\n対とすることに特別な意義があると解する理由は見当たらない。そうすると、 特徴2の形態は、ありふれた形態というべきである。また、特徴2の形態は、 上記イと同様の理由から、技術的機能に由来する形態ともいえる。\n
エ 特徴3(靴底裏面において、つま先部分から指の付け根に相当する部分に、 横方向に伸びる畝状の複数の段部4を有し、この段部4が、後方につれて裏 面側に傾斜するテーパー面4aを有すること)について 証拠(乙7の4、7の6、10の1、10の5)によれば、原告商品の販 売開始前に、複数の他社から、1)つま先から指の付け根付近に複数の横方向 の段部が配され、2)この段部が後方につれて裏面側に傾斜するテーパー面を 有する靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認 められる(ただし、乙7の4の登録意匠の靴底には、上記2)の構成は含まれ\nていない。)。そうすると、特徴3に係る形態は、ありふれた形態というべき である。
オ 特徴4(靴底裏面において、踵に相当する部分に、横方向に伸びる畝状の 複数の段部5を有し、この段部5が、後方につれて表面側に傾斜するテーパ\nー面5aを有すること)について
証拠(乙7の4、10の5)によれば、原告商品の販売開始前に、複数の 他社から、靴底裏面の踵に相当する部分に横方向に伸び、後方につれて表面\n側に傾斜するテーパー面を有する複数の段部が配された靴底の意匠登録出 願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認められる。そうすると、 特徴4に係る形態は、ありふれた形態というべきである。
カ 一部の溝の形状が略コの字状となっているとの形態について 当該形態は、原告の主張によっても、原告代表者の名字の頭文字「F」を\nなぞったデザインの一つにすぎない。また、当該形態が施された範囲は、親 指から薬指にかけた部分及び小指部分であって、原告ソール1全体の約6分\nの1程度と非常に狭く(甲5)、需要者が着目するとは解し難い。
キ 以上によれば、原告ソール1の形態は、客観的に他の同種商品とは異なる\n顕著な特徴を有するとはいえないから、原告ソール1の形態に特別顕著性が\nあると認めることはできず、原告の主張は理由がない。
(3) 周知性又は著名性について
なお、周知性について、念のため検討する。 原告は、原告商品の販売開始後、1)平成30年以降に複数の展示会に原告商 品を出展したことや、2)多数の業界雑誌や業界外雑誌に原告商品が紹介された こと、3)国内直営店舗や複数のECサイトで原告商品が販売されたこと、4)平 成28年以降の原告の靴製品の売上高が伸び、業界内で上位となったことなど から、原告ソール1が令和2年秋頃には周知になったと主張する。\n しかしながら、そもそも原告主張の原告商品の販売開始時期をその通り認定 できないことは前記のとおりであるが、原告ソール1の需要者は、婦人靴の購\n入を検討する一般消費者(及びその取引業者)であるところ、当該需要者は、 靴全体のデザイン(中でも人目を引くアッパーの部分)や着用感に着目し、仮 にソールに注意を払うとしても、その注意はおおむね機能\的な観点で向けられ るものと解され、ソールの形態や材質それ自体から出所を認識するとの一般的\nな経験則は認め難いものと解されるから、原告主張の事情は直ちに原告ソール\n1が周知であることを基礎づけるものではない。
その上で検討すると、上記1)については、各展示会に原告商品が出展された としても、原告ソール1がどのように展示されていたかは明らかではない。\n上記2)については、令和2年5月号から令和4年1月号の業界雑誌「フット ウェア・プレスFW」には原告ソール1の画像が掲載されているが(甲22の\n2ないし22の22)、同誌は一般消費者向けの媒体としての性質は薄いもの と認められるうえ、原告商品が掲載された業界外雑誌(甲26、28、30(い ずれも枝番を含む。))は、大半において通信販売の媒体としてのものであって、 商品それ自体を紹介するものとは性質を異にするうえ、原告ソール1は掲載さ\nれておらず、掲載されている場合でも掲載範囲は小さく(甲24の1ないし2 4の4、26の1ないし26の4、28の1、28の2、30の1、30の2、 32)、需要者が原告ソール1の形態に着目するとは解し難い。\n上記3)については、原告の国内直営店舗数は10店舗にとどまる(甲53)。 また、複数のECサイトに原告ソール1を用いた商品が掲載されているが、原\n告ソール1の画像が掲載されていない例も多数存在するうえ、掲載されている\n場合も、複数の商品画像中の3枚目以降に掲載されているから、需要者が原告 ソール1の形態に着目するとはいえない。また、ECサイトに掲載された原告\nソール1を用いた商品は、原告とは異なる他社ブランド名で販売されているも\nのが多く、このような掲載方法によって、掲載されたソールが原告のソ\ールで あると需要者が認識するとはいえない(甲44の1ないし47の6、弁論の全 趣旨)。
上記4)については、原告の主張を前提としても、業界内における売上高が 極めて上位にあるものとはいえない。 以上によれば、原告ソール1の形態が周知であると認めることはできず、\n他に、本件証拠上、原告ソール1の形態が周知性又は著名性を有すると認め\nるに足りる証拠はない。

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令和4(ワ)9818  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年12月19日  大阪地方裁判所

商標「熱中対策応急キ ット」(標準文字)についての侵害訴訟です。被告は識別力無しの無効理由(商3条1項3号)、効力が及ばない範囲(商26条)を主張しました。裁判所は、識別力無しとして無効と判断しました。

2 本件商標の法3条1項3号に基づく無効理由の有無(争点1)について
(1) 本件商標が、その指定商品について商品の用途を普通に用いられる方法で 表示する標章のみからなる商標であるというためには、本件査定日(令和4年2月28日)の時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の用途を表\示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の用途を表\示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。そして、当該商標の取引者、需要者に よって当該商品に使用された場合に商品の用途を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構\成やその指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。
(2)ア 本件商標は、「熱中対策応急キット」の文字を標準文字で表してなり、本件商標を構\成する文字は、同じ大きさ及び書体で、等間隔かつ横一列にまとまりのある態様で並べられている。そうすると、本件商標は、取引者及び需要者に、こ れを構成する文字の全体をもって、一連一体の語を表\すものとして理解されると考 えられる。
イ 本件商標中の「熱中」、「対策」、「応急」及び「キット」の4つの語は、 それぞれ、「物事に心を集中すること。夢中になってすること。また、熱烈に思う こと。」、「相手の態度や事件の状況に応じてとる方策。」、「急場のまにあわ せ。」、「組立て模型などの部品一式。工具・用具一式。」といった意味を一般に 有するところ(いずれも広辞苑第七版、平成30年1月発行)、これらの語を字義 どおりに捉えると、「熱中対策応急キット」の語全体から、熱中症の対策又は応急 処置に用いる物品ないしそれらをバッグに入れて一まとめにしたものといった意味 合いが直ちに導かれるものではない。 もっとも、「熱中」との語は、「熱中症」との3文字の語のうち、「症状」を示 すものと解される「症」の文字を除く2文字と一致しており、「熱中症」との語の 一部を示すものとみても不自然とはいえない。
ウ 取引の実情をみると、前記認定事実のとおり、「熱中対策応急キット」との 標章が付された商品(本件商標に係る商品の区分ごとに本件指定商品と同一又は類 似の商品を含んでいるもの)は、平成24年頃から本件査定日(令和4年2月28 日)までに、ミドリ安全を中心とする多数の法人(被告を含む。)において、熱中 症に応急的に対応するための物品一式として広告販売されている状況が認められる。 一方、前記イの「熱中」の語の意味(物事に心を集中すること。夢中になってする こと。また、熱烈に思うこと。)を踏まえて、これに対応するといった用途に用い られる商品が、「熱中対策応急キット」ないし「熱中対策」との標章を付して広告 販売されている事実を認めるに足りる証拠はない。なお、原告も、平成31年(令 和元年)から、熱中症に対応するための物品一式が収納されたポーチに「熱中対策 キット」との標章を付して広告販売している上、令和5年には、熱中症に応急的に 対応するための物品一式がポーチに収納された「熱中対策応急キット」との名称の 商品の広告販売を開始している(前記認定事実(7))。
エ 以上を総合すると、「熱中対策」の語は、本件査定日の時点で、「熱中症対 策」との意味でも一般的に理解され、「熱中対策応急キット」の語は、熱中症の対 策又は応急処置に用いる物品一式ないしそのような物品を含む商品との意味を有す ることが一般に認識されていたことが認められる。そして、本件指定商品は、熱中 症の対策又は応急処置に用いる物品ないしそれらを収納するポーチ等(それらの全 部又は一部を組み合わせたものを含む。)の商品に含まれると認められるところ、 標準文字で表される「熱中対策応急キット」との本件商標がかかる商品に使用された場合、当該商品の取引者又は需要者によって、当該商品の用途を示すものとして\n一般に認識される状態となっていたといえる。そうすると、「熱中対策応急キット」 との本件商標は、指定商品に使用された場合、商品の用途を普通に用いられる方法 で表示する標章のみからなる商標として、法3条1項3号に該当するものと解するのが相当である。\n
(3) したがって、本件商標は、法3条1項3号に違反して登録されたものであ り、無効審判により無効とされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件 商標権を行使することができない(法46条1項1号、39条、特許法104条の 3第1項)。

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令和5(行ケ)10072  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月14日  知的財産高等裁判所

ハーグ条約に基づく国際意匠出願について、拒絶査定がなされ、期間徒過後に審判請求をしました。出願人は米国在住の在外者です。

前記第2の1の事実によれば、本願は、日本国を指定締約国とする国際出願 であって、令和3年1月22日、本件国際登録について、ジュネーブ改正協定10 条(3)(a)の規定による公表がされた(乙3の1・2)ことにより、意匠法60条の6第1項の規定により、本件国際登録の日である令和元年9月9日にされた意匠登\n録出願とみなされる(なお、原告は在外者であるから、意匠法68条2項において 準用する特許法8条1項の規定により、出願に係る補正書や意見書の提出その他の 手続を行う場合には、意匠管理人を選任して行う必要があったことになる。)。
(2) ジュネーブ改正協定12条(1)本文によれば、指定締約国の官庁は、国際登録 の対象である意匠の一部又は全部が当該指定締約国の法令に基づく保護の付与のた めの条件を満たしていない場合には、当該指定締約国の領域における国際登録の一 部又は全部の効果を拒絶することができる。国際登録の効果を拒絶する場合、指定 締約国の官庁は、所定の期間内に国際事務局に対しその拒絶を通報し、国際事務局 は、名義人に拒絶の通報の写しを遅滞なく送付する(12条(1)、(2)(a)、(3)(a))。 同条(2)の「拒絶」は、拒絶の最終決定を意味するものではないと解されており、指 定締約国の官庁に要求されているのは、保護拒絶の原因となり得る理由を表示することだけである(乙5)。そして、拒絶の通報の対象となった名義人は、拒絶を通報\nした官庁に適用される法令に基づいて保護の付与のための出願をしたならば与えら れたであろう救済手段を与えられ、救済手段は、少なくとも拒絶の再審査若しくは 見直し又は拒絶に対する不服の申立ての可能\性から成るものとされている(12条 (3)(b))。指定締約国を日本とした場合、拒絶の通報は、国際登録の公表日から12か月以内にされることになる(乙4、5)。\n
ジュネーブ改正協定上、このような「拒絶の通報」をすること及びこれに対する 指定締約国の国内法令に基づく救済手段を与えるべきことを超えて、指定締約国に おける最終的な拒絶査定の告知方法や不服申立ての手続等(これらの事項は、ジュネーブ改正協定12条(1)ただし書の「国際出願の形式若しくは記載事項に関する 要件」には該当しないと解される。)について定めた規定は見当たらない。したがっ て、これらの点については、ジュネーブ改正協定上、指定締約国の国内法に委ねら れていることになる。前記のとおり、日本の意匠法によれば、本願は、日本の意匠 法に基づく意匠登録出願とみなされるのであるから、これに対する最終的な拒絶査 定の通知方法や不服申立て手続等も意匠法によるべきものと解される。
(3) しかるところ、本件において、特許庁は、本願について、令和3年10月2 2日に国際事務局に対し、「III) 拒絶の理由」の標題を付して具体的な拒絶の理由を 明らかにした本件拒絶の通報を発送しており(甲9)、国際事務局は、同年11月5 日、WIPOのウェブサイトにおいて、本件拒絶の通報を掲載した(乙3)。本件拒 絶の通報には、「国際登録の名義人は、この通報を発送した日から3か月以内に、「III)拒絶の理由」について、意見書を提出することができます。審査官は意見書の内容 を考慮し、保護を付与するかどうかについて決定いたします。なお、日本国内に住 所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない者は、日本国内に住所又は居所 を有する代理人によらなければ、日本国特許庁に対して手続をすることはできませ ん。」旨の英文の記載があり、本件拒絶の通報に付された注意書(Appendix)にもこ れと同旨の記載のほか、関連する意匠法の条文の英訳も記載されていた(甲9)。
(4) しかし、原告は、本件拒絶の通報後に意見書を提出せず、特許庁は、令和4 年4月5日付けで本件拒絶査定をした(甲10)。原告は、在外者であり、意匠管理 人を選任していなかったことから、特許庁は、意匠法68条5項において準用する 特許法192条2項の規定により、本件拒絶査定の謄本を、令和4年4月8日、航 空扱いとした書留郵便により発送した(甲10、乙6、7)。この結果、同条3項の 規定により、当該謄本は、発送の時に送達があったものとみなされた。当該書留郵 便は、同月10日には米国の国際交換局に到着していたが、同年9月21日までの 間、同局に保管され、原告に配達されたのは同月26日であった(甲1、2)。
(5) 意匠法上、拒絶査定に対する不服審判請求は、その査定の謄本の送達があっ た日から3月以内にしなければならない(意匠法46条1項)。本件拒絶査定の謄本 は、令和4年4月8日に原告に送達されたものとみなされたから、原告は、その日 から3か月以内に不服審判請求をすべきであったところ、本件審判請求期間が経過 した後である同年11月18日に本件審判請求をしたものである。
2 以下、本件審判請求期間内に原告が本件審判請求をすることができなかった ことについて、意匠法46条2項の「その責めに帰することができない理由」があ ったかどうかについて検討する。
(1) 原告は、本件拒絶査定の謄本を原告が現実に受領した令和4年9月26日に 本件拒絶査定がされているのを知ったのであり、本件審判請求期間の経過後に本件 審判請求をすることになった原因は郵便の配送遅延にあるから、原告の責めに帰す ることができない理由があると主張する。
しかし、そもそも意匠法68条5項において準用する特許法192条3項の規定 によれば、法律上、原告は現実に受領していなくても本件拒絶査定の謄本の発送の 時である令和4年4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされるのであるか ら、意匠法46条2項の原告の責めに帰することができない理由の有無は、原告が 同日に当該謄本の送達を受けたことを前提にした上で検討されるべき問題である。 原告が現実に当該謄本を受領した日が本件審判請求期間後であったことや、その理 由が郵便の配送遅延にあったこと(ただし、当該謄本に係る書留郵便が同年4月に 米国交換局に到着した後、同年9月まで原告に配達されなかった理由は、証拠上明 らかではない。)があったとしても、これらの事情が存在することをもって直ちに原 告に「その責めに帰することができない理由」があると解することはできない。な ぜなら、これらの事情は、みなし送達を定めた法の前記規定の想定範囲外の事態で あるとは考えられない上、仮に、在外者の場合にこれらの事情のみをもって「その 責めに帰することができない理由」になると解したときは、拒絶査定の謄本が現実 に審判請求期間内に配達されなかったときは、同項所定の期間内(当該理由がなく なった日から2か月以内で、同条1項の期間の経過後6か月以内)であれば、常に 拒絶査定不服審判を請求することを認めるのと実質的に同じ結果になるからである。 このような解釈は、拒絶査定の謄本等の書類の発送の時に送達を受けたものとみな し、法律関係の安定を図る法の趣旨に反するものであるから、採用することができ ない。同条2項の「その責めに帰することができない理由」とは、通常の注意力を 有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認め られる事由により審判請求期間内に請求することができなかった場合をいうのであ り、原告が令和4年4月8日に法律上、本件拒絶査定の謄本の送達を受けたことを 前提としたとき、本件審査請求期間の末日である同年7月8日までに原告が通常期 待される注意を尽くしてもなお本件審判請求をすることが困難であったことを示す ような客観的な事情は見当たらない。したがって、原告の責めに帰することができ ない理由の存在を認めることはできない。 それのみならず本件においては、前記1のとおり、本件国際登録の公表から12か月以内に拒絶の通報がされる可能\性があることは、ジュネーブ改正協定により国際出願を行った以上、原告又はその代理人において当然知り得たはずである。また、 少なくともWIPOのウェブサイトには本件拒絶の通報が掲載されていたから、原 告は、同ウェブサイトを確認することにより、本件拒絶の通報がされていることを 知り、日本国の意匠法に従って拒絶査定が行われるであろうことを容易に予測することができたはずである。それにもかかわらず、原告は、これらの点に注意を払う\nことなく、本件審判請求期間内に本件審判請求をしなかったのであるから、原告が、 意匠登録出願人として、通常の注意力を有する当事者に通常期待される注意を尽く していたと認めることはできない。
(2) 原告は、意匠法46条2項の文言から、法定の期間内(同条1項の期間内) に審判請求をする機会が与えられるに至った経緯については問われていないことが 明らかであると主張する(取消事由1)。原告の主張する「法定の期間内に審判請求 をする機会が与えられるに至った経緯」の意味は、必ずしも明らかではないが、同 条1項によれば、原告は本件拒絶査定の謄本の送達を受けた日から3か月以内に不 服審判を請求することができ、同法68条5項において準用する特許法192条3 項の規定によれば、法律上、原告は本件拒絶査定の謄本の発送の時である令和4年 4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされる。したがって、本件における 意匠法46条2項の「前項に規定する期間」は、その日から3か月以内の期間であ る。しかるところ、同項の解釈上、当該期間中に原告が本件拒絶査定を受けたとい う事実を知らなかったというだけで同項の「その責めに帰することができない理由」 に該当すると解することはできない一方、当該理由の存否の判断に当たり、原告が 本件拒絶査定のされたことを知ることができる事実的状況にあったことを考慮する ことは、何ら同項の文言及びその趣旨に反するものではない。そして、これらの点 を考慮した上で本件審判請求期間を徒過したことにつき原告の責めに帰することが できない理由の存在が認められないことは、前記(1)のとおりであるから、原告の主 張は採用することができない。
なお、原告代表者の宣誓供述書(甲1)によると、原告は、令和3年10月頃に、知的財産ポートフォリオの管理を、A氏の法律事務所からScheefに移管した\nが、その際、A氏が、本願について、数年先の更新期限まで更なるアクションをす る必要がない旨の引継ぎをしており、このことが、原告又はScheefをして、 本件拒絶査定を受ける可能性があることを認識しなかった原因であることがうかがえる。しかしながら、前記1のとおり、本願については、国際公表\後に特許庁がその登録を拒絶する可能性があり、このことはジュネーブ改正協定の規定上明らかであったのであるから、上記引継ぎ内容は誤りであったというべきである。A氏及び\nScheefには、知的財産の管理者として意匠の国際登録に係る手続に精通すべ きところ、これを怠っていたために上記誤りに気が付かなかったという過失がある。 また、日本国内の手続において、在外者に意匠管理人がいない場合には、書留郵便 等により拒絶査定の謄本が送達され、発送の時に送達があったものとみなされるこ とは、意匠法の規定上明らかであるから(意匠法68条5項において準用する特許 法192条2項、3項)、A氏及びScheefは、現実に本件拒絶査定の謄本を受 領するよりも前に、送達の効力が生じることを認識し、それに備えるべきであった ところ、これを怠ったという過失もある。そして、原告は、自らの経営判断により、 A氏及びScheefに対し、本願に係る管理を委任していたのであるから、A氏 及びScheefの過失があったことは、本件において原告の責めに帰することが できない理由の存在は認められない旨の前記判断を左右するに足りるものではない。
(3) 原告は、本件審決の判断について、意匠法68条5項において準用する特許 法192条2項の規定に基づいて拒絶査定の謄本が書留郵便等により在外者に発送 された場合には意匠法46条2項の適用は認められないと述べているのに等しく、 法的根拠を欠くとも主張する(取消事由2)。しかし、拒絶査定の謄本が書留郵便等 により在外者に発送された場合には、みなし送達により原告が現実に謄本を受領し ていなくても発送日から同条1項に定める法定の期間が開始することになるだけで、 この場合に同条2項の適用が排除されるわけではない。当該法定の期間内に拒絶査 定不服審判請求をすることができないような客観的な事情があるときなど、なお期 間の徒過につき審判請求人の責めに帰することができない理由が存在することはあ り得る。すなわち、同法68条5項において準用する特許法192条2項の規定に 基づく拒絶査定の謄本の発送がされた場合に、意匠法46条2項を適用して不変期 間の例外が認められる余地がなくなるなどということはできない。したがって、原 告の主張は採用することができない。

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令和5(行ケ)10059  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年11月22日  知的財産高等裁判所

「患者保有分項目を設けた処方 箋と患者保有の医薬品を含めた投与日数算定の一方式」について、人為的取り決めであるので発明該当性なしとした審決が維持されました。

前記(2)のとおり、本願発明は、患者が医師の診察を受ける際に、前回処方 された医薬品が患者の元に残っている場合であっても、医師がこれを考慮す ることなく、診察の日を起算日として医薬品の投与期間を定めて処方をして いたことを課題として、これを解決するため、処方箋に「患者保有分」の項 目、すなわち患者が保有している医薬品に関して記載する項目を設け、既に 患者が保有している医薬品に相当する分を除いた投与期間を算定する方法の 発明であって、これによって、重複処方を防止する効果が得られるとされる ものである。
しかしながら、本願発明のうち、「処方箋」の記載事項は、医師法施行規則 21条で規定されているから、「分量、用法、用量」の記載は法令に基づく規 定、すなわち人為的な取決めと解され、したがって、「分量、用法、用量」と して記載される「投与日数」も人為的な取決めであり、本願発明において、 処方箋に「投与日数」として「患者保有分」の項目を設けることもまた、処 方箋に医師が記載する事項を定めた人為的な取決めにすぎず、自然法則を利 用したものであるとはいえない。 また、本願発明は、患者が保有している医薬品に相当する分を除いた投与 期間を算定する方法として、パターン1及びパターン2に分け、さらにパタ ーン1についてイ、ロa・b・c、パターン2についてイa・b・c、ロa・ b・cにそれぞれ分けて、算定方法を具体化しているが、いずれの算定方法 も、医師が患者に対して医薬品を処方し、投与する際の投与期間の算定の方 法を定めた人為的取決めであって、自然法則を利用したものであるとはいえ ない。 以上によれば、本願発明は、全体として人為的な取決めであって、自然法 則を利用したものとはいえないから、特許法2条1項にいう「発明」には該 当しない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)ないし(4)のとおり、本願発明は、 人為的な取り決めではなく、自然法則を利用したものであると主張する。 しかし、原告が指摘する内容のうち、医薬品の重複なく投与日数と服用 日数が一致することが継続することで自然法則が成り立つとの点は、本願 発明による投与期間の算定を行うことによる結果を述べているにすぎず、 投与期間の算定方法自体が人為的な取決めであって自然法則を利用した ものではないとの結論を左右しない。 また、1年が365日であることについても、これが自然法則に該当す るか否かの問題を措くとしても、本願発明は1年が365日であることを 前提に医薬品の投与日数の算定方法を決めたというにすぎず、1年が36 5日であることを利用して何らかの技術的手段を示したものとはいえな いから、これによって、本願発明が自然法則を利用したものと解すること はできない。
さらに、電子処方箋の時代を想定して、本願発明の算定方法をPC用プ ログラムにして医師のパソコンに取り込んで医薬品及び受診予\約日を入 力すれば自動で処方箋が完成するとの点については、そもそも本願明細書 等には「処方箋」が「電子処方箋」であることについての記載も示唆も一 切ないし、「PC用プログラム」に関する記載も示唆も一切ないから、「電 子処方箋」及び「PC用プログラム」に関する原告の主張は本願発明と関 係がないというべきである。 最後に、本願発明の場合分けによれば医師の判断が入る余地がないとの 点についても、人為的な取決めである本願発明を結果として医師の判断部 分が減少するというにすぎず、この主張によって、本願発明が自然法則を 利用したものであると解すべき理由にはならない。
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)及び(4)のとおり、本願発明が画 期的なものであるから特許として認められるべきであると主張する。 しかし、ある発明が画期的であることによって当該発明が自然法則を利 用したものと解されることにはならず、特許法2条1項の「発明」に該当 するとの結論が導かれることはない。

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令和5(ワ)70056  差止等請求事件  その他  民事訴訟 令和5年11月30日  東京地方裁判所

パブリシティの権利に基づき、使用差止などが認められました。

被告らは、「エンリケ」という用語はスペイン語又はポルトガル語の男性名 に使用される一般用語であり、原告が著名であるとしてもキャバクラのホステ スという狭い世界で著名性を有するにすぎないため、原告の名称には顧客吸引 力がない旨主張する。
しかしながら、前記前提事実並びに証拠(甲1、16ないし18,21、2 2)及び弁論の全趣旨によれば、1)原告は、キャバクラでホステスの仕事をし ていたところ、次第に売上げを稼ぐことができるようになり、平成29年には 2日間で1億円以上、平成30年には3日間で2億5000万円以上、令和元 年には引退式4日間で5億円を、それぞれ売り上げた旨周知されたこと、2)原 告は、平成30年には「日本一売り上げるキャバ嬢の指名され続ける力」とい う書籍を、平成31年には「日本一売り上げるキャバ嬢の億稼ぐ技術」という 書籍を、令和2年には「結局、賢く生きるより素直なバカが成功する 凡人が、 14年間の実践で身につけた億稼ぐ接客術」という書籍を、次々に出版し、令 和3年には著書累計15万部を突破したこと、3)さらに、原告は、あらゆる職 業に役立つコミック実用書として、令和3年には、上記「日本一売り上げるキ ャバ嬢の億稼ぐ技術」をコミック実用書として出版し、全ての仕事に通じる稼 ぐ技術を広く紹介したこと、4)原告は、伝説のキャバクラ嬢として、テレビの バラエティ番組にも出演するようになり、平成21年から令和4年にかけて2 0本以上のテレビ番組に出演したこと、5)原告のインスタグラムでは、令和5 年2月4日時点におけるフォロワー数が66万人を超えていること、以上の事 実が認められる。
上記認定事実によれば、原告は、被告らの主張するような一キャバクラ嬢に とどまらず、書籍を多数出版しテレビにも多数出演しフォロワー数も極めて多 く、日本一稼いだ伝説のキャバクラ嬢として、世の中に広く認知されているこ とが認められる。 これらの事情を踏まえると、原告名称又は原告肖像には、商品の販売等を促 進する顧客吸引力があるものと認めるのが相当である。 したがって、被告らの主張は、いずれも採用することができない。
(2) 被告らは、当裁判所の釈明にかかわらず、ピンク・レディー判決にいう3類 型該当性につき反論しないものの、念のため、以下検討する。 前記前提事実及び前記認定事実によれば、原告名称及び原告肖像には、商品 の販売等を促進する顧客吸引力があるところ、原告名称及び原告肖像の掲載態 様等を踏まえると、被告らが提供する全てのサービスに共通してエンリケとい うブランド価値を全面に押し出していることからすれば、被告らは、エンリケ 空間にあっては内装の設計等の事業につき、エンリケスタイルにあってはエス テティックサロンの経営等の事業につき、エンリケスタッフにあっては労働者 派遣事業等の事業につき、上記顧客吸引力により他の同種事業に係るサービス との差別化を図るために、商号、標章、ウェブページ、ドメイン名において原 告名称又は原告肖像を付したものと認めるのが相当である。 したがって、被告らが原告名称又は原告肖像を使用する行為は、ピンク・レ ディー判決の第2類型に該当するものとして、パブリシティ権を侵害するもの といえる。
2 争点2(原告の同意の有無)について
被告らは、原告が被告らによる原告名称の使用に同意していた旨主張する。し かしながら、被告らは、同意があった旨抽象的に主張するにとどまり、その同意 の時期、内容等を具体的に主張していないのであるから、その主張自体失当とい うほかなく、被告らの提出に係る全証拠によっても、上記同意を裏付ける客観的 証拠はない。 仮に、少なくとも原告と訴外Bが婚姻中においては、原告名称の使用の合意を していたとしても、被告らは、原告と訴外Bが離婚し、原告が被告エンリケ空間 の代表取締役を辞任した後でも、なお原告名称に係る使用の同意が継続する事実\nを具体的に主張立証するものではない。かえって、被告らの主張によっても、訴 外Bが原告と離婚した際に、原告名称を使用しない旨述べたことがうかがわれる ことからすれば、被告らの主張を前提としても、現在まで上記同意が継続してい る事実を認めるに足りないことは明らかである。したがって、被告らの主張は、 いずれも採用することができない。

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令和5(ワ)3171  損害賠償請求事件  その他  民事訴訟 令和5年12月11日  東京地方裁判所

芸能事務所が契約解除となったタレントの写真をホームページに掲載することは、\nパブリシティ権、肖像権の侵害とはならず、不競法2条1項1号の不正競争行為にも該当しないと判断されました。

1 争点1(パブリシティ権侵害の有無)について
(1)肖像等を無断で使用する行為は、1)肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象 となる商品等として使用し、2)商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等 に付し、3)肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する 顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害する ものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成 21年(受)第2056号同24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2 号89頁)。
これを本件についてみると、前提事実並びに証拠(甲11、乙1、7)及 び弁論の全趣旨によれば、芸能プロダクションである被告は、被告に所属す\nるタレントを紹介するために、そのホームページにおいて、他の所属タレン トと併せて原告の氏名及び肖像写真(本件写真等1)をトップページに掲載 するとともに、原告のプロフィール及び肖像写真(本件写真等2)を所属タ レントのページに掲載したことが認められる。
上記認定事実によれば、被告は、所属タレントを紹介する被告のホームペ ージにおいて、原告が被告に所属する事実を示すとともに、原告に関する人 物情報を補足するために、本件写真等を使用したことが認められる。
そうすると、本件写真等は、商品等として使用されるものではなく、商品 等の差別化を図るものでもなく、商品等の広告として使用されるものともい えない。 したがって、被告が本件写真等を使用する行為は、専ら原告の肖像等の有 する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、パブリシティ権を侵害 するものと認めることはできない。
(2)これに対し、原告は、本件写真等の掲載は原告の肖像写真等を写真集等に 利用する行為と同視し得ると主張し、また、被告が取引先を介して原告の肖 像写真等を広告等に利用する行為と同視し得る旨主張する。 しかしながら、本件写真等は、被告が所属タレントを紹介するために使用 されたにすぎないことは、上記において説示したとおりである。 そうすると、本件写真等が写真集等や広告等に利用されたといえないこと は明らかである。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができ ない。
2 争点2(肖像権侵害の有無)について
(1)肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するも のとして、みだりに自己の容ぼう等を撮影等されず、又は自己の容ぼう等を 撮影等された写真等をみだりに公表されない権利を有すると解するのが相当\nである(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷 判決・刑集23巻12号1625頁、最高裁平成15年(受)第281号同 17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁、前掲最高 裁平成24年2月2日判決各参照)。他方、人の容ぼう等の撮影、公表が正\n当な表現行為、創作行為等として許されるべき場合もあるというべきである。\nそうすると、容ぼう等を無断で撮影、公表等する行為は、1)撮影等された 者(以下「被撮影者」という。)の私的領域において撮影し又は撮影された 情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではない\nとき、2)公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合におい\nて、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するもの であるとき、3)公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合\nにおいて、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を\n超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときなど、 被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、 肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当で ある。
(2)これを本件についてみると、前記認定事実によれば、被告は、所属タレン トを紹介する被告のホームページにおいて、原告が被告に所属する事実を示 すとともに、原告に関する人物情報を補足するために、本件写真を使用した ものである。そして、証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真 の内容は、白色無地の背景において、原告の容ぼうを中心として正面から美 しく原告を撮影したものであることが認められる。 そうすると、本件写真は、私的領域において撮影されたものではなく、原 告を侮辱するものでもなく、平穏に日常生活を送る原告の利益を害するもの ともいえない。 したがって、被告が本件写真を使用する行為は、原告の肖像権を侵害する ものと認めることはできない。 これに対し、原告は、自らの意思に反して芸能事務所の所属タレントとし\nて肖像が利用された場合には、精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超 える場合に当たる旨主張する。しかしながら、原告は、肖像権侵害を主張す るものの、肖像に化体しこれに紐づけられた法律上保護される利益(民法7 09条参照)を具体的に特定して主張するものではなく、主張自体失当とい うほかない。仮に、原告の主張を前提としても、前記前提事実によれば、本 件契約に係る解除が有効であるとする別件訴訟の棄却判決が、令和5年4月 18日に確定したところ、被告は、同日には、自社のホームページから、本 件写真を削除したことが認められる。そうすると、原告の主張を十分に斟酌\nしても、本件契約の解除の有効性が訴訟で争われていた事情を考慮すれば、 その間に本件写真を掲載した行為が、受忍限度を超える侮辱ということはで きず、その他に、原告主張に係る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を 超えることを裏付ける的確な証拠はない。したがって、原告の主張は、採用 することができない。
3 争点3(不正競争防止法2条1項1号該当性)について
不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」とは、人の業務に係る氏\n名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示\nするものをいう。
これを本件についてみると、原告の氏名又は肖像は、原告を示す人物識別情 報であり、本来的に商品又は営業の出所表示機能\を有するものではない。そし て、前記前提事実によれば、原告は、芸能プロダクションである被告に所属す\nる一タレントであったにすぎず、原告自身がプロダクション業務等を行ってい た事実を認めるに足りない。そして、本件全証拠をもっても、原告の氏名又は 肖像が、その人物識別情報を超えて、原告自身の営業等を表示する二次的意味\nを有するものと認めることはできず、まして、原告の氏名及び肖像が、タレン トとしての原告自身の知名度とは別に、原告自身の営業等を表示するものとし\nて周知であるものとは、明らかに認めるに足りない。 したがって、原告の氏名又は肖像が周知な商品等表示に該当するものと認め\nることはできない。
これに対し、原告は、原告の氏名又は肖像が商品の出所又は営業の主体を示 す表示である旨主張するものの、原告は、芸能\プロダクションである被告に所 属する一タレントであったにすぎず、本件全証拠によっても、原告自身が営業 等の主体である事実を認めるに足りないことは、上記において説示したとおり である。したがって、原告の主張は、不正競争防止法2条1項1号にいう「商 品等表示」を正解するものとはいえず、採用することができない。\n

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令和5(ワ)4333  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年11月29日  東京地方裁判所

使い捨ての衛生マスクについて、外箱のパッケージデザインのセットとして、不競法2条1項3号の商品形態と認定されました。ただ、発生した損害には相当因果関係がないとして損害賠償請求は棄却されました。

1 被告商品の形態は原告商品の形態と実質的に同一か(争点1)について 甲1によれば、原告商品と被告商品の形態等は次のとおりである。
ア 原告商品及び被告商品は、50枚の不織布製の使い捨てマスクが青色の紙 製の直方体のパッケージに入ったものである。原告商品及び被告商品のパッ ケージの上面(以下「上面」という。)は、いずれも縦長の長方形に構成さ\nれており、上部に商品名、中部にマスクを斜め方向から見た図(商品の説明 をするポップアップが二つ付されている。)、下部に商品の特徴が掲載されて いる。パッケージの側面のうち、略正方形の面(以下「略正方形面」という。) には、いずれも、商品名とその特徴が掲載されている。いずれのパッケージ も、パッケージの側面のうち、長方形の面は、横長に構成されており、その\nうち一方(以下「長方形面1」)については左半分に前記略正方形面とほぼ 同様の記載が、右半分にマスクを斜め方向から見た図が掲載されており、他 方の面(以下「長方形面2」という。)には、左側に商品の特徴及び基本情 報が、右側に使用上の注意事項、保管上の注意事項及び販売元が記載されて いる。
イ 原告商品と被告商品のパッケージの上面のデザインは、中部のマスクの色 合いが被告商品の方が若干青みかかっており、被告商品のみに小さく「※イ ラストはイメージです」という文言が付されている点、下部の商品の特徴を 列挙している4つのブロックを貫く青線の太さ及び濃さが多少異なる点を 除いて、基本的に同じデザイン(マスクの形状についても差異が認められな い。)になっている。上面の上部についても、上から順に、各商品のロゴ、 商品の特徴、「肌にやさしい素材」、「99%カットフィルターでブロック」、 商品の名称となっている点は共通しており、ロゴ、商品の特徴(原告商品は 「−耳にやさしい−」、被告商品は「個包装 携帯に便利」との記載)、商品 名(原告商品は「らくらくマスク」、被告商品は「不織布マスク」)に異なる 部分があるが、文字のデザインは基本的に同じである。
ウ 略正方形面については、原告商品、被告商品のいずれも、上から、前記イ 記載の各上部の記載(ただし、片面について被告商品は商品名の欄に「らく らくマスク」と記載されている。)があり、基本的に上面の下部分と同じデ ザインとなっている。
エ 長方形面1については、原告商品、被告商品のいずれも、左側が略正方形 面と基本的に同じデザインで、右側は上面の中部分と基本的に同じデザイン になっている。
オ 長方形面2については、原告商品、被告商品のいずれも、左上の商品特徴 を記載した4つのブロックを貫く線が、原告商品が白抜きで被告商品が青抜 きである点及び販売元に関する記載と商品バーコードの有無以外の点は、記 載内容が同一である(商品は、原告商品と被告商品のいずれも「らくらくマ スク」とされている。)。 不正競争防止法2条4項所定の商品の形態とは、「需要者が通常の用法に従 った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の 形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」である。 原告商品及び被告商品につき、パッケージの中の不織布製の多数枚(50枚) のマスクは、その性状からもそれぞれのマスク単体ではなくパッケージに入っ た状態で流通し、販売されて消費者がこれを購入することが予定されており、\n原告商品及び被告商品のパッケージ全体は、中に入ったマスクと一体となって 「商品」を構成し、そのパッケージのデザインは、商品の「模様、色彩」に当\nたるとするのが相当と解する。
前記 で認定したとおり、原告商品と被告商品は、そのパッケージの基本的 なデザインが同じであるほか、マスクの写真に付されたポップアップのデザイ ン及び説明文言、商品特徴の説明文言及び配置、商品の特徴を列挙している4 つのブロックを青色の線が貫くデザイン等の細かい点まで一致している。原告 商品と被告商品のパッケージは、商品名やロゴ、販売元に関する記載等につい て一部異なる点があるものの、それらの記載等が商品全体において占める部分 は非常に小さく、全体的な印象に与える影響は限定的であり、原告商品と被告 商品の形態は実質的に同一であるというべきである。 被告は、原告商品のパッケージのデザインがありふれたものである旨主張す る。
原告商品のパッケージにおける個々の模様のデザイン、説明文言等は、その それぞれに着目すると同種商品に同じデザイン、文言等が記載されているもの もある(乙4〜9)。しかし、原告商品のパッケージは多数の具体的な模様、表\n示等からなり、それらを組み合わせたデザインがありふれたものであることを 認めるに足りる証拠はなく、原告商品のパッケージのデザインが全体としてあ りふれたデザインであるとは認めるには足りない。
2 被告商品は原告商品に依拠したものか(争点2)について
被告商品は原告商品の後に発売されたものであり(前提事実 、 )、前記1で 認定したとおり、原告商品と被告商品のパッケージは細部まで一致している。ま た、原告商品のマスクの画像に付されたポップアップの誤記(「側は肌にやさし い滑らか素材」との記載について、原告は、「内側は肌にやさしい滑らか素材」と すべきであったところ誤植したと述べる。)が被告商品にもそのままあり(被告 商品の記載も「側は肌にやさしい滑らか素材」との記載である。)、被告商品では、 商品名として、上面及び長方形面1、略正方形面の一方では「不織布マスク」と 記載されているものの、略正方形面の他方及び長方形面2では「らくらくマスク」 (原告商品の商品名)と記載されていて、これらは、いずれも原告商品の記載を そのまま利用してしまい、変更することを失念したものと推認できることを考慮 すると、被告商品は原告商品に依拠して製造されたものと認められる。
3 故意、過失(争点3)について
弁論の全趣旨によれば、被告は、別会社にデザインまで含めた商品の内容につ いて指示を出し、被告商品の製造を委託したことが認められる。前記2で認定し たとおり、被告商品は原告商品に依拠してデザインされ、製造されたものである。 原告商品のデザインに依拠したパッケージデザインを具体的に発案した者は必 ずしも明らかではないが、被告商品の内容について最終的な決定権を有するのは 被告であったといえ、原告商品に依拠してこれと実質的に同一の被告商品を販売 したことについて、被告には少なくとも過失があったというべきである。
4 損害及び因果関係(争点4)について
証拠によれば次の事実が認められる。
・・・・
イ 本件取引会社は、令和2年10月16日付けで、原告に対し本件売買契約 を解除する旨記載された契約解除通知書(以下「本件通知書」という。)を 送付した。本件通知書には、「貴社と締結いたしました商品売買契約につき まして、下記の理由をもちまして、本書面をもって解除いたします。」と記 載され、下記の記載があった。当時、被告商品を999円/箱で販売してい る小売店が存在した。原告は、本件通知書の内容を了承して、本件売買契約 は履行されなかった。(甲5、6、15)

「1.雑貨店で同じ包装の商品が安く売られていることが判明しました。
2.雑貨店の定価(税別999円/箱)は貴社からご提示いただいた価格 (税込1400円/箱)よりも低いことが判明しました。
3.貴社は当該商品売買契約(判決注:本件売買契約)の第8条に違反し ました。」
以上
原告は、被告商品が販売されたことが原因で本件売買契約が解除されたので、 本件売買契約に基づく履行利益(売買代金から経費を控除した額)が損害に当 たると主張する。 前記 で認定したとおり、本件取引会社は、被告商品が、本件売買契約にお ける単価(1400円/箱)よりも安価に販売されていることを指摘して、本 件通知書を送付したことが認められる。
しかし、本件通知書には、本件売買契約8条に違反したとの記載はあるもの の、同条のいずれの項に違反したとも特定されていない。この点について、原 告は、本件売買契約は8条 で規定されている「信用状態の悪化」があったた め解除されたと主張する。しかし、一般的に取引契約における解除原因として 規定される「信用状態の悪化」は、当事者の支払能力等の経済的信用を問題と\nする趣旨で用いられるところ、原告にそのような事情があったことはうかがえ ず、また、被告商品の販売がこれに関連するとも認められない。仮に「信用状 態の悪化」を、当事者が信頼関係を損なう背信的行為をしたこと(道義的信用 が悪化したこと)を意味するとしても、その趣旨からして少なくとも原告に帰 責性のある事情があることが前提とされるところ、被告が原告商品の形態を模 倣して販売したことは、原告に何の帰責性もない。その他、原告において「信 用状態の悪化」が認められる事情が生じたことを認めるに足りる証拠はなく、 本件売買契約8条のその余の条項に当たる事情があったことを認めるに足り る証拠もない。原告は、原告代表者の配偶者の陳述書(甲15)を提出し、そ\nこには、令和2年10月、本件取引会社の販売先が原告商品と同じパッケージ のマスクを見かけ、本件取引会社は、原告は本件取引会社に1400円/箱の 卸価格で提案したのに、店で999円で売られていることがありえないことだ と怒っていて、これは本件売買契約8条に違反するので、キャンセルするなど と電話連絡をして、その後本件通知書が送付され、原告は、原告商品と被告商 品の販売価格に乖離があったためやむを得ずキャンセルを了承することとし たとの記載がある。
この陳述書によっても、本件取引会社は、本件取引会社へ の販売価格よりも低廉な価格で商品が販売されていたことを問題視している ことはうかがえるが、それにより、結局本件取引会社が何を問題としていたの かは必ずしも明らかではなく、原告が原告商品を本件取引会社以外の者に対し ては本件取引会社に対する価格よりも廉価で販売していたと誤解した可能性\nもうかがわれないではない。原告が本件取引会社以外の者に対して廉価販売し たと誤解したことについては誤解を解くべき話といえる。なお、被告商品の販 売が本件取引会社による原告商品の販売数量に影響を与えることはあり得る ものの、そもそも本件売買契約では当該商品について本件取引会社に対しての み販売することが定められてはおらず(甲4)、他社が同種の商品を販売した こと自体を本件取引会社は問題視できるものではない。これらによれば、本件売買契約については、契約において定められた解除理由は存在しなかったというべきであり、これが履行されなかったのは、原告と本件取引会社との間の合意によるものといえる。
被告商品を販売することは不正競争行為であり、被告は、これにより原告に 生じたといえる損害を賠償する義務がある。もっとも、侵害者は、侵害行為が 他社間の契約の存続に影響を与えることを当然に予見できるものではなく、ま\nた、他社間の契約の内容は当該他者間で自由に定められるもので侵害者がその 内容を通常は知ることはできず、侵害者にその契約の履行利益を前提とする損 害を負担させることは当事者間の衡平に反する場合があるといえる。少なくと も本件のように、原告と第三者との間に解除権の発生原因がないが、両者間の 合意によってこれを履行せず、また、本件売買契約における販売価格も当時の 相場に比べて高額といえるような場合(甲11は、マスクの平均価格は、令和 2年4月24日には1枚当たり78円だったが、その後急速に値下がりし、同 年8月13日には1枚当たり12円だったとする。被告の侵害行為の時点(前 記第2の2 )では、本件売買契約のマスクの単価は上記平均価格に比べて相 当に高かった。原告は本件売買契約によって相当多額の利益を得られたはずで あると主張している(前記第2の3 ))、本件で原告が主張する損害は、通常 生ずべき損害には当たらず、また、被告にはその発生が予見できなかったもの\nということが相当である。
以上の事情を考慮すると、本件において原告が主張する損害は、被告商品の 販売との間の因果関係を欠くというべきであり、被告がそれを賠償すべきであ るとは認められない。なお、原告は、本件において不正競争防止法5条に基づ く主張はしない旨述べた(令和5年9月12日付け原告第3準備書面)。

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令和2(ワ)29523  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年11月15日  東京地方裁判所

施工方法の特許について、差し止めと損害賠償約300万円が認められました。算定は102条2項ですが、判決文中に控除される経費として具体的に記載されています。一つが下請業者への支給した栄養ドリンク剤です。

(1) 特許法102条2項所定の「その利益の額」について 前記9において説示したとおり、被告とAAによる本件工事の施工に係る 本件特許権侵害について共同不法行為が成立するから、原告が受けた損害の 額と推定される特許法102条2項所定の「その利益の額」は、本件工事に よって、被告が受けた利益の額とAAが受けた利益の額との合計額となる。
(2) 被告の受けた利益の額
ア 売上高
前提事実(5)イのとおり、被告が受領した本件工事の施工についての請負 代金の額は、377万2224円(税抜代金349万2800円、消費税 相当額27万9424円)と認められる。 そして、消費税法基本通達5−2−5柱書及び(2)によると、「無体財 産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する 損害賠償金」は、資産の譲渡等の対価に該当するものとされていることか らすれば、特許法102条2項の「侵害の行為により利益を受けていると き」にいう「利益」には消費税相当分も含まれると解すべきである。 したがって、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎となる売上高 は、377万2224円(消費税込み)というべきである。
イ 控除すべき経費
(ア) 材料費 100万3320円(消費税込み)
当事者間に争いがない。
(イ) 外注費 58万2740円(消費税込み)
証拠(乙64ないし69)によれば、被告は、本件工事の一部の施工 を下請業者に発注し、日当、残業代、ガソリン代及び高速料金代並びに\n飲料水代として、合計58万2740円(消費税込み)を支払ったこと が認められる。 そして、証拠(乙80)により認められる本件工事の施工期間、施工 内容等に照らせば、上記支払のうち、日当、残業代、ガソリン代及び高\n速料金代は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たる ものと認められる。 また、証拠(乙80)によれば、上記の下請業者に対する支払のうち、 飲料水代については、暑い現場で作業している下請業者が水分補給でき るようにとの趣旨で購入されたものと認められるところ、その内容及び 金額の水準に照らせば、当該支払についても、本件工事の施工に直接関 連して必要となった経費に当たると認めるのが相当である。
(ウ) 交際費 7201円(消費税込み)
証拠(乙70、80)によれば、被告は、本件工事の施工期間中、前 記(イ)の下請業者の昼食代として合計7201円(消費税込み)を負担し たことが認められるところ、その内容及び金額の水準に照らせば、当該 負担は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たるもの と認められる。
(エ) 消耗品費 1527円(消費税込み)
証拠(乙71)によれば、被告は、ポリ袋及びコピー用紙を合計69 7円(消費税込み)で、ナチ六角軸鉄工ドリル及び「リポビタンD」と いう商品名の栄養ドリンク剤を合計830円(消費税込み)で、それぞ れ購入したことが認められる。 そして、証拠(乙80)によれば、上記ポリ袋は、現場において発生 した廃材を処理するため、上記コピー用紙は、現場においてメモをとる ため、上記ナチ六角軸鉄工ドリルは、母屋材にビス孔を空けるドリルの 交換用として、それぞれ購入したものと認められるから、これらの支払 は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たるものと認 められる。 また、証拠(乙80)によれば、上記「リポビタンD」は、暑い現場 で作業している下請業者が栄養補給できるようにとの趣旨で購入された ものと認められるところ、その内容及び金額の水準に照らせば、本件工 事の施工に直接関連して必要となった経費に当たると認めるのが相当で ある。
(オ) 旅費交通費 310円(消費税込み)
当事者間に争いがない。
(カ) 車両費 6000円(消費税込み)
証拠(乙78、80)によれば、被告代表者は、本件工事の施工期間\nである令和元年7月5日から同月9日まで、数名の作業員や様々な工具 類・装備品を同乗・積載させた車両を運転して、当時の被告所在地(省 略)と施工現場との間を往復したこと、当時の被告所在地と施工現場と の間の道のりは40キロメートル以上であることがそれぞれ認められる。 そして、弁論の全趣旨によれば、1キロメートル当たりのガソリン代\nは15円(消費税込み)を下回らないと認められるから、これらを基礎 として算定したガソリン代相当額6000円(=15円×40キロメー\nトル×2×5日)は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費 に当たるものと認められる。
(キ) 合計 160万1098円(消費税込み)
ウ 小括
前記ア及びイによれば、被告が本件工事の施工により受けた利益の額は、 217万1126円(消費税込み)と認められる。
(3) AAの受けた利益の額
ア 売上高 前提事実(5)アによれば、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎と なる売上高は、472万3920円(消費税込み)と認められる。
イ 控除すべき経費
前提事実(5)イによれば、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎と なる控除すべき経費は、377万2224円(消費税込み)と認められる。
ウ 小括
前記ア及びイによれば、AAが本件工事の施工により受けた利益の額は、 95万1696円(消費税込み)と認められる。
(4) 損害額
前記(2)及び(3)によれば、特許法102条2項により算定される原告の損 害額は、312万2822円と認められる。

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令和5(行ケ)10014  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年11月29日  知的財産高等裁判所

審決は、文言追加する訂正を実質上変更するものと判断しました。知財高裁(3部)も同様です。

そうすると、訂正前の請求項1の発明においては、地点候補がシンボルマ ークで表示がされている間は、位置情報を取得し得る地点は、このシンボル\nマークに対応した位置に限られ、それ以外の地点の位置情報は取得し得ない こととなる。これは、本件明細書の発明の詳細な説明の【発明の効果】に、 「請求項1に記載の発明によれば、候補抽出手段によって地点候補を絞り込 み、絞り込まれた地点候補を地図画面上にシンボルマークで表示するととも\nに、そのシンボルマークの表示のある間、位置情報を取得可能\な地点をシン ボルマークに対応する位置に制限するので、表示されたシンボルマークを選\n択するだけで、地図画面上から所望の位置情報を取得することができる。」 (段落【0015】)と記載され、シンボルマークが表示されている間に位\n置情報が取得可能な地点は、シンボルマークが表\示されている位置のみとさ れていることからも明らかである。さらには、前記(1)イのとおり、本件発明 はユーザーに煩雑な操作を強いることなく地図画面上から所望の位置情報 を取得することのできるナビゲーション装置を提供するものとし、そのため 「地図画面上のカーソルで地点を指定することによって対象位置の位置情\n報を取得する位置情報取得手段46を備え」(段落【0030】)、「地点候補 以外のシンボルマークが消失する大縮尺の地図表示になっても、地点候補を\n示すシンボルマークが残るように設定されており、それによって利便性の向 上が図れている」(段落【0038】)、「経由地を設定する際には、シンボル マークに対応する位置以外は位置情報の取得が制限されるため、縮尺の大き い地図画面であっても不要な地点を誤って設定してしまうことがない」(段 落【0040】)及び「地図画面上のシンボルマークに対応する地点以外の 位置情報を取得できないようにしているが、単に、取得できないだけでなく、 位置情報の選択カーソルを地点候補(シンボルマーク)以外には移動できな\nいようにしても良い」(段落【0042】)とする本件明細書の各記載の内容 にも沿うものである。
エ 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の発明の意義
これに対し、訂正後の請求項1の発明は、「前記地点候補がシンボルマー クで表示されている間は、」「地点候補の位置情報を取得し得る地点を前記シ\nンボルマークに対応する位置に制限する」とするものであるところ、前記イ のとおり、特許請求の範囲の記載によれば、候補抽出手段で抽出された後の 地点候補が地図画面上にシンボルマークで表示されているのであるから、\n「前記シンボルマークに対応する位置」とは、すなわち地図画面上にシンボ ルマークで表示されている地点候補の地球上の所在地であり、これは、地図\n画面上における「地点候補の位置情報を取得し得る地点」と同じものを意味 している。そうすると、訂正後の請求項1においては、位置情報を取得し得 る地点についての「制限」は何らなされていないこととなる。 加えて、前記イのとおり、位置情報取得手段は地点についての位置情報を 取得するものであり、地点候補についての位置情報を取得するものではない から、訂正後の請求項1においては、地点候補以外の地図画面上に表示され\nた任意の場所である地点について、地点候補がシンボルマークで表示されて\nいる間、位置情報取得手段により位置情報を取得し得るのか否かについて、 明らかにしないものとなる。
すなわち、訂正後の請求項1の発明では、「地点候補の」との文言を加え ることにより、位置情報を取得し得る「地点」についての「制限」をなくし、 位置情報を取得できる範囲を不明とするものであり、特許請求の範囲の記載 のうち、「前記表示手段の地図画面上に前記地点候補がシンボルマークで表\ 示されている間は、前記位置情報取得手段によって位置情報を取得し得る地 点を、前記シンボルマークに対応する位置に制限する」との文言(構成要件\nG)を無意味とし、発明特定事項の一部を削除するものということができる。 オ 本件訂正前の請求項1の発明と本件訂正後の請求項1の発明の対比 そうすると、訂正事項1により、請求項1に係る発明は、本件訂正前の請 求項1に記載される地点の位置情報を取得し得るのがシンボルマークに対 応した位置に限られ、それ以外の地点の位置情報は取得し得ないこととなる ものから、位置情報を取得し得る地点についての「制限」をなくし、位置情 報の取得範囲を不明として、発明特定事項の一部を削除するものに変更され ることになるから、この変更は、特許請求の範囲を変更するものであるとこ ろ、その変更は、減縮的な変更には当たらず、また、「明瞭でない記載の釈 明」を目的としたものともいえず、本件訂正前の請求項1の記載の表示を信\n頼した第三者に不測の不利益を与えることになることは明らかである。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を変更するものと認め られるから、特許法126条6項の要件に適合しないというべきである。こ れと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

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令和3(ワ)18262  損害賠償請求事件(特許権侵害)  特許権  民事訴訟 令和5年12月6日  東京地方裁判所

 特102条3項のライセンス料として、通常の5%を根拠に6%の損害が認められました。被告の公式ホームページにおいて、販売数量について「30万着突破!」と記載されていたことは、虚偽であると認定されています。

ア 証拠(乙18、29、30)及び弁論の全趣旨によれば、令和2年1月 22日から令和4年2月22日までの間の被告製品の売上高は、1億17 57万6451円であったと認められる。
イ(ア) 原告は、被告が、令和2年1月1日から同月21日までの間も被告製 品を販売したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(イ) また、原告は、被告の公式ホームページにおいて、被告製品の販売数 量について「27万着突破!」、「30万着突破!」と記載されていたこ とを指摘して、被告製品の販売数量は少なくとも27万着であり、これ に1着当たりの単価5980円を乗じると、被告製品の売上高は16億 1460万円を下らないと主張する。 そこで検討すると、確かに、証拠(甲4、14)によれば、被告の公 式ホームページにおいて上記の記載がされていたことが認められるもの の、同ホームページに記載されていた販売価格(5980円。弁論の全 趣旨によれば、この価格はブラジャーの一般的な販売価格として相当な ものと認められる。)を前提とすると、前記アにおいて認定した被告製品 の売上高は、請求書記載の被告製品の輸入数量(乙17)、被告製品に係 る販売管理データ記載の販売数量(乙18)、被告の損益計算書記載の売 上高(乙20、21)、被告における被告製品以外の売上高(乙22ない し24)と整合的であるといえる。これに対し、被告製品の販売数量が 27万着以上であることを示す資料は、被告の公式ホームページの記載 以外に存在しない。
これらの事情に照らせば、令和2年1月22日から令和4年2月22 日までの間の被告製品の売上高は前記アにおいて認定したとおりであっ て、被告の公式ホームページにおける販売数量の記載は虚偽のものであ ったと認めるのが相当である。
(ウ) したがって、原告の前記各主張を採用することはできない。
(2) 相当な実施料率について
ア 本件発明の実施に対し受けるべき料率については、1)本件発明の実際の 実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界にお ける実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)本件発明自体の価値すなわち本 件発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)本件発明を被 告製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者 である原告と侵害者である被告との競業関係や特許権者である原告の営業 方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきで ある。
イ 本件についてみると、本件発明の実際の実施許諾契約における実施料率 は、5パーセントであることが認められる(甲15ないし18)。 また、本件発明は、多種多様の女性用衣料を個々に用意することなく、 個人差を有する女性のバスト等のサイズや形、あるいはバストアップ等の 補正機能等に対応することが可能\な女性用衣料を低コストで提供すること を可能とするものであるところ(前記1(2)イ)、被告製品も、女性のバス トの補正を主たる機能としたものであるから(甲3、4、14)、本件発明\nを被告製品に用いることが被告の売上げ及び利益に大きく貢献していると 認めるのが相当であって、他のものによる代替可能性はうかがわれない。\nさらに、原告と被告は、いずれも女性用衣料を販売しているから(前提 事実(1)、(5)及び(6))、その市場において競業関係にある。 これらの事情に照らすと、特許権侵害をした者に対して事後的に定められ る本件発明の実施に対し受けるべき料率については、6パーセントと認め るのが相当である。
(3) 特許法102条3項により算定される額について
以上によれば、特許法102条3項により算定される本件発明の実施に対 し受けるべき金銭の額に相当する額は、705万4587円(1円未満四捨 五入)と認められる。

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令和4(ワ)70079  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年1月24日  東京地方裁判所

 新聞社がツイートを全文利用することは、著作権法41条の「報道の目的上正当な範囲内」に該当すると判断されました。

著作権法41条は、時事の事件の報道には、国民の知る権利に資する側面 があり、しかも、速報性が求められるため、事前に著作権者の許諾を得るこ となく、当該報道に伴う著作物利用を認める必要性があること、他方で、当 該報道に伴い利用することが避け難い著作物をその目的上正当な範囲内にお いて利用するにとどまれば、著作権者の利益を不当に害するものではないこ とに鑑み、著作権者の権利制限を認めたものと解される。 上記のような著作権法41条の趣旨に鑑みると、「時事の事件」とは、速 報性の要求される事件、すなわち、現在又は近時に起こった事件をいうと解 するのが相当である。本件において、社会活動家である原告が、社会的に注 目されたB元首相の射殺事件についてコメントをしたことは、本件記事の配 信の前日の出来事であるから、「時事の事件」に該当する。 また、上記著作権法41条の趣旨に照らすと、「当該事件を構成」する著\n作物とは、当該報道に伴い利用することが避け難い著作物、すなわち、事件 の主題となっている著作物をいうと解されるところ、「時事の事件」を社会 活動家である原告が、社会的に注目されたB元首相の射殺事件についてコメ ントをしたことと捉えると、原告のコメント内容すなわち本件各ツイートの 内容は、事件の主題となっている著作物であるといえる。 さらに、上記のとおり、著作権法41条の正当化根拠が、当該報道に伴い 利用することが避け難い著作物をその目的上正当な範囲内において利用する にとどまれば、著作権者の利益を不当に害するものではない点にあることに 照らすと、著作物の利用が「報道の目的上正当な範囲内において」行われる といえるかどうかは、著作物の利用の必要性及びその利用の態様に照らして 著作権者の利益を不当に害しないかどうかという観点から検討されるべきで ある。
本件において、被告は、本件各ツイートの内容をほぼ全文引用しているも のであるが、そもそも本件各ツイートは全体で400字前後とさほど長くな いものであり、原告がコメントした事実をその表現内容とともに正確に伝え\nるという報道の目的に鑑みると、要約や一部の切り取りをすることなく本件 各ツイートのほぼ全文を引用する必要性があったものと認められる。 他方で、本件各ツイートは、前記3のとおり原告の著作物として保護され るものであるものの、ツイッター上で公開され、誰もが無料で閲覧すること ができるものであり、原告も、自身の思想や意見をより多くの者に知っても らうために本件各ツイートを発信していると認められること(弁論の全趣旨) に照らすと、前記1のとおり、被告による本件見出しの選択に問題があった としても、本件各ツイートを全文引用すること自体が原告の利益を不当に害 しているとはいい難い。以上によれば、被告による本件各ツイートの利用は、「報道の目的上正当な範囲内」においてされたものといえる。
(2) これに対し、原告は、およそあらゆる著作物をいかなる場合でも無制限に 報道目的で利用できることになってしまい、著作権の保護が無意味となって しまうから、著作権法41条は、著作物の創作行為や公表行為そのものを\n「時事の事件」として捉え、当該著作物を「当該事件を構成し、又は当該事\n件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」として利用することは およそ想定していないと主張する。しかし、前記(1)で説示したとおり、著作権法41条は、「当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」であれば、無制限に報道目的で利用することを認めているものではなく、その中で\nも「報道の目的上正当な範囲内」における利用を想定しており、それは、当 該報道に伴い利用することが避け難い著作物をその目的上正当な範囲内にお いて利用するにとどまれば、著作権者の利益を不当に害するものではないこ とを根拠とするものである。したがって、同条によって、あらゆる著作物を いかなる場合でも無制限に報道目的で利用できるわけではないから、原告の 上記主張は、独自の見解であるといわざるを得ず、採用することができない。

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令和3(ネ)10084  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年11月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権侵害について、1審の約15億円の損害賠償判決がなされました。双方控訴しましたが、知財高裁は控訴を棄却しました。

【当審における双方の補充的主張に対する判断】
(1) 第1審原告の補充的主張について
ア 第1審原告は、計算鑑定書の別表において、1)対象期間における原反ロー ルの購入面積が第1審被告製品(1)の販売面積よりも大きかったり、2)原 反ロールの購入面積と第1審被告製品(1)の販売面積が一致するデータが 多かったりするなどといった不自然な結果が記載されていると指摘する。 しかし、1)については、加工する際の歩留まりやロス、仕損じがあること を考えれば、原反ロールの購入面積よりも販売面積が小さくなることは何 ら不自然ではない。2)についても、計算鑑定書は、第1審被告製品(1)の品 番毎の原反ロールの月毎の面積について、●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●のであ り(計算鑑定書19頁)、基準量が1であるとき(例えば、原反ロールを特 段加工することなく転売する場合)、原反ロールの購入面積と第1審被告 製品(1)の販売面積が一致したとしても何ら不自然ではない。第1審原告 は、計算鑑定の結果が、第1審被告らが提出する調査報告書(乙58)や 製品説明書(乙1)の売上高等のデータと異なることも指摘するが、計算 鑑定人が中立的な立場からその職責において計算を行ったものであり、第 1審被告らの提出する資料と一部データが異なるとしても、そのことから 信用性が失われるものでもない。 また、第1審原告は、信用調査会社による競合会社の動向調査の結果で ある甲88を提出して第1審被告らの売上高等について独自の主張をす るが、外部の調査会社による調査結果にすぎず、その調査結果の信用性が 高いことを認めるに足りる的確な証拠はない。
イ 第1審原告は、第1審原告製品の販売価格には第1審被告製品(1)の●● ●●のものがあることを指摘して、原判決の判断の前提には誤りがあり、 推定覆滅事由が認められないと主張する。しかし、そのような販売価格の 製品があることは、仮に第1審被告製品(1)が販売されなかった場合に、か えって第1審原告製品の販売の可能性を減少させるにすぎず、むしろ推定\n覆滅を肯定する事情であるにすぎない。
(2) 第1審被告らの補充的主張について
ア 第1審被告らは、限界利益の算定上、原判決別紙「売上高・経費一覧表」\nの番号6〜8、11〜14は第1審被告製品(1)の製造販売に直接関連し て追加的に必要になった経費であるから控除されるべきであると主張す る。しかし、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造 販売に直接関連して追加的に必要になった経費には当たらないというべ きであり、上記各経費を控除の対象とすることは相当でない。
イ 第1審被告らは、第1審被告らの利益額の90%又は少なくとも77% の推定覆滅を認めるべきであると主張する。しかし、その指摘する根拠と する理由(第1審被告製品(1)に耐候性等の本件発明の作用効果が確認で きないこと、設計変更が容易であること、第1審被告らの営業努力・ブラ ンド力・売上シェア等)については、本件証拠上、その事実が認められな いか、仮に認められたとしても、原判決が認定した限度を超えて特許法1 02条2項の推定を覆すに足りるものではない。

◆判決本文

1審における推定覆滅の事情は以下です

◆平成30(ワ)1130

b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張 する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当 である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の 印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品 と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし, 原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明 は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。 しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技 術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域 をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独 立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料…着色 剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措 定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製 品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実 験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって 直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の 全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の 技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当 ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度 等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き く変化していないと主張する。
しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な 証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替 えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧 製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従 前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた 可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品 の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略) ●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売 できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+● (省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競 合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨 によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性 能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告 らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認 めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売 上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの は相当ではない。
(d)さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益 率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省 略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品 のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10 2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の ●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製 品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と 同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一 定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単 価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e)以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち, 原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。

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令和5(行ケ)10024  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年1月22日  知的財産高等裁判所

審決は、数値限定が「24h」(24時間)当たりの値であるかについては記載が無いし、技術常識ではないので、「24時間当たりの水蒸気透過率」とする補正は、新規事項と判断しました。知財高裁は、審決を取り消しました。

ア(ア) 本願発明2に係る特許請求の範囲の記載は「前記封止要素が、金属箔、金属基材、酸化アルミニウム被覆ポリマー、パリレン、蒸気メタライゼーションにより適用された金属で被覆されたポリマー、二酸化ケイ素被覆ポリマー、または10グラム/100in2未満または好ましくは1グラム/100in2未満の水蒸気透過率を有する任意の材料のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のアプリケータ」というものである。当該記載からは、「10グラム/100in2未満または好ましくは1グラム/100in2未満の水蒸気透過率を有する任意の材料」が封止要素を構成する材料であると理解することができるものの、その余の特許請求の範囲の記載を踏まえても、上記の水蒸気透過率の単位が24時間単位であることをうかがわせる記載はない。\n
(イ) 次に本願明細書をみると、封止要素の水蒸気透過率については、【0008】、【0051】、【0144】、【0164】の各段落において、「水分(例えば、水蒸気)に対して不浸透性の任意の好適な材料、例えば、金属箔(例えば、アルミニウムもしくはチタン)、金属基材、酸化アルミニウム被覆ポリマー、パリレン、蒸気メタライゼーションによって適用された金属で被覆されたポリマー、二酸化ケイ素で被覆されたポリマー」等と同様の不浸透性を有する材料の例として、「10グラム/100in^2未満または好ましくは1グラム/100in^2未満の水蒸気透過率を有する任意の材料」又は「10グラム/100in2未満もしくは好ましくは1グラム/100in2未満の水蒸気透過率を有する任意の物質」との記載がされている。 しかし、これらの記載においても当該任意の材料の水蒸気透過率が24時間単位のものであるかは判然としない。したがって、本願明細書の記載からは、本願発明2の「10グラム/100in2未満または好ましくは1グラム/100in2未満」における「グラム/100in2」が、「グラム/100in2/24h」という24時間単位のものであることを直ちに読み取ることはできない。また、当該任意の材料は、封止要素に用いられるものであって、水分(水蒸気)に対して実質的に不浸透性の材料を意味するものと理解することができるものの、「実質的に不浸透性の材料」であるということから、当該任意の材料の水蒸気透過率を示す「10グラム/100in2」又は「1グラム/100in2」との記載が24時間単位であることを意味するものとは直ちに認めることはできない。
イ 本願の出願日当時の技術常識について検討するに、平成20年3月20日改正の日本工業規格「プラスチック−フィルム及びシート−水蒸気透過度の求め方(機器測定法) JIS K 7129」(甲9)には、エンボスなどのない表面が平滑な、プラスチックフィルム、プラスチックシート及びプラスチックを含む多層材料の感湿センサ法、赤外線センサ法及びガスクロマトグラフ法による水蒸気透過度の求め方について規定した規格について、「水蒸気透過度は、24時間に透過した面積1平方メートル当たりの水蒸気のグラム数〔g/(m2・24h)〕で表\す。」との記載があることが認められるが、本願発明2においては、封止要素の材料はプラスチック又はこれを含むものに限られるものではなく、また、水蒸気透過度の測定方法も特定されていないから、上記日本工業規格をそのまま本願発明2に適用することができるということはできない。
また、本願の出願日以前に公開されていた文献には、シートやフィルム等の水蒸気透過度について、「g/m2/24hr」「g/100in.2/24hr」(甲5・特表2009−503279号公報)、「g/100in2/日」(甲6・国際公開第2016/097951号、特表\2018−501127)、「g/1m2/24時間」「g/100in2/24時間」(甲7・特開2014−148361号公報)、「g/m2・day」(甲8・特開平11−43175号公報)、「g/24h/m2」(甲12・米国特許出願公開第2016/0058380号明細書)、「mg/日」(甲13・特表2012−519038号公報)などと、24時間又は一日当たりの値を示すものがある一方で、水分バリアーポリマーについて「g−mil/100in2/h」を用いるもの(乙1の1・2・米国特許第5799450号明細書)、絶縁基板について「g/m2/h」を用いつつ、樹脂封止シートについては「g/m2・day」を用いるもの(乙2・特開2014−67918号公報)、透明性樹脂シートについて「g/m2・1hr」を用いるもの(乙3・特開2010−284250号公報)、火傷創傷包帯の基材について「グラム/1h/1平方フィート」を用いるもの(乙4の1・2・米国特許第4820302号明細書)があり、1時間単位の値が用いられているものもみられるから、本願の出願日当時、水蒸気透過率について24時間単位で表\すことが通常であったということはできない。原告は、医療分野では24時間又は一日単位が一般的に使用されていると主張するが、そうであるとしても、前記の各文献における使用例に照らすと、本願の出願日当時、医療分野において、水蒸気透過率を表す場合に時間単位が用いられることはなかったということはできない。\n
そうすると、当業者が、本願発明2に係る特許請求の範囲及び本願明細書の「10グラム/100in2未満または好ましくは1グラム/100in2未満」との記載をもって、「10グラム/100in2/24h未満または好ましくは1グラム/100in2/24h未満」を意味するものと当然に理解するとは認められない(なお、本願発明2に係る本件補正は、特許請求の範囲を「10グラム/100in2/24h未満または好ましくは1グラム/100in2未満/24h」とするものであるが、「1グラム/100in2未満/24h」は「1グラム/100in2/24h未満」の誤記であることが自明である。)。
ウ もっとも、前掲各証拠上、水蒸気透過率について1時間単位又は24時間(1日)単位で表すことが通常であると認められ、これを前提とすると、本願発明2の「10グラム/100in2未満または好ましくは1グラム/100in2未満」との記載は、「10グラム/100in2/h未満または好ましくは1グラム/100in2/h未満」又は「10グラム/100in2/24h未満または好ましくは1グラム/100in2/24h未満」のいずれかを意味することが当業者にとって自明であるということはできる。そして、「10グラム/100in2/h未満または好ましくは1グラム/100in2/h未満」を24時間単位に換算すると「240グラム/100in2/24h未満または好ましくは24グラム/100in2/24h未満」となる。\n
そうすると、本願補正発明2は、本願発明2の特許請求の範囲の記載と同じか又はそれよりも狭い範囲で水蒸気透過率を定めたものであり、また、この限定により何らかの技術的意義があることはうかがえないことからすると、本件補正により、本願発明2に関し、新たな技術的事項が付加されたということはできない。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10071  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月25日  知的財産高等裁判所

 創作者が公表した意匠にて、新規性喪失の例外をうけました。特許庁は、証明書に記載された意匠と引用意匠とは同一ではないとして、新規性無しと判断しました。出願人は、スタッズの個数及び配置態様などの違いは微差と主張しましたが、知財高裁は審決を維持しました。\n

(2) 意匠法4条2項は、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して同法 3条1項1号又は2号に該当するに至った意匠に関し、その該当するに至った日か ら1年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条1項及び2項の 規定の適用については、同条1項1号又は2号に該当するに至らなかったものとみ なすとして、新規性喪失の例外を認めている。 このような新規性喪失の例外の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書 面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、意匠法3条1項1号又は2 号に該当するに至った意匠が同法4条2項の適用を受けることができる意匠である ことを証明する書面を意匠登録出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなけ ればならない(同条3項)。 したがって、原告が引用意匠について意匠法4条2項の適用を受けるためには、 原告が引用意匠について同条3項所定の証明書を提出していることがその前提とな る。
(3) この点、原告は、本件証明書に記載されている証明書記載意匠と引用意匠は 実質同一の意匠であると主張し、原告が特許庁長官に本件証明書を提出したことに より、引用意匠に係る公開行為は先の証明書記載意匠の公開に基づいてされたもの と認めるべきである旨を主張する。 そこで検討すると、証明書記載意匠は、甲1(別紙第3の添付画像1及び2)の とおりであり、これによると、その形状等は、全体としてマチのある略直方体の収 納部と、その収納部の上辺左右両側からアーチ状に持ち手を架橋し、収納部及び持 ち手はいずれも黒色の色彩が施されているものであり、収納部の正面上辺及び左右 辺の三辺を波状に形成し、上辺及び左右辺の山部が左右上角部のものを含めて各辺 三つずつあり、左右上角部には上辺及び左右辺の山部が合わさったように正面視左 右斜め上方向に突出した略半長円形状の山部、左右辺中央部には円弧状の山部、左 右下角部には下辺が直線状の略円弧状の山部と、計七つの山部を形成してなるもの であり、収納部上辺からやや離れた位置から左右辺に沿って直線状に上から下へ略 小円形状のスタッズを並べてなり、上から一つ目と二つ目の間の間隔よりも上から 二つ目と三つ目の間隔の方を長くして三つずつ配し、各スタッズは上から一つ目の スタッズが左右上角部の山部と左右辺中央部の山部との間の谷部上方寄りの位置、 上から二つ目のスタッズが左右辺中央部の山部の頂を直線で結んだ線上の位置、上 から三つ目のスタッズが左右下角部の山部の頂を直線で結んだ線上の位置に設けて なるものであると認められる。
他方、引用意匠は、甲2(別紙第2の2枚目及び3枚目)のとおりであって、上 記認定の証明書記載意匠と対比すると、両意匠の形状等についての相違点は、本件 審決が認定した前記第2の3(5)イのとおり、証明書記載意匠は、正面側のスタッズ を左右寄りに縦一列縦1列に、三つずつ設け、上から一つ目から二つ目よりも二つ 目から三つ目の間隔をやや長く配し、本体部及び把持部は黒色であるのに対し、引 用意匠は、正面側のスタッズを左右寄りに縦一列ほぼ等間隔に四つずつ設け、本体 部はアイボリーで把持部は茶色で、留め付け側に環状金具を配したものであり、両 意匠は、把持部の環状金具の有無、正面側のスタッズの個数及び配置態様並びに把 持部及び本体部の色彩が相違するものである。 そして、証明書記載意匠と引用意匠とは、以下の(4)において判断するとおり、少 なくとも正面視において、正面側のスタッズの個数及び配置態様の点で相違点を有 し、かかる相違点は、物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であると十\分 理解できる範囲内のものであると認められる場合とはいえないから、同一の意匠と はいえない。
(4) 原告は、両意匠の共通点の形状が特徴的なものであって、需要者に強い印象 を与えているため、正面側のスタッズの個数及び配置態様の相違点の印象は共通点 に比べて薄いものにならざるを得ないから、需要者は、スタッズがバッグの正面側 の態様に関わるものであっても、両意匠の相違点からスタッズの個数や配置を明確 に認識するよりも、両意匠からいずれも大雑把な「複数個のスタッズが並んでいる」 程度の印象を持つと考えるのが自然であり、両意匠の相違点から需要者が受ける印 象は異なるものではないから、両意匠は実質同一といえるものであって、同一の意 匠である旨を主張する。 しかしながら、意匠法4条3項は、同法3条1項の例外として、同法4条2項の 新規性喪失の例外の適用を受けるための特別の要件として規定されているもので あって、原則として意匠登録出願前に意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起 因して公開される意匠ごとに同意匠に係る証明書を提出すべきであり、それゆえ、 証明書に記載される意匠と引用意匠は同一でなければならないと解される。もっと も、証明書に記載される意匠と引用意匠との間に僅少な相違があるにすぎない場合 にも同一性を欠くとすることは相当ではなく、また、意匠登録出願者の手続的負担 も考慮すると、証明書に記載された意匠と引用意匠の相違点が、物品の性質や機能\nに照らして実質的にみて同一であると十分理解できる範囲内のものであると認めら\nれる場合には、証明書に記載された意匠と引用意匠はなお同一であると認められる と判断するのが相当である。
しかるところ、両意匠の相違点であるスタッズについては、スタッズを設けるこ と自体は、バッグという物品の性質上、ありふれたものであるといえるものの(甲 4〜11)、スタッズの数や配置態様は一様ではなく、その数や配置態様によっては 美観に影響を及ぼすものであるところ、両意匠の相違点であるスタッズの態様につ いては、十分肉眼で看取可能\であって、バッグの正面の意匠の装飾的な構成要素と\nして機能し、「上から一つ目から二つ目よりも二つ目から三つ目の間隔をやや長く」\n三つ配したものと「四つずつ、略等間隔に」配したものとでは、その構成が異なる\n上、両意匠の共通点である収納部の正面上辺及び左右辺の三辺の形状との関係にお いて、証明書記載意匠は、左右辺の山部三つに対して同数の三つのスタッズが配置 されており、二つ目のスタッズが左右辺中央部の山部の頂を直線で結んだ線上の位 置にあるのに対し、引用意匠は、左右辺の山部三つに対して一つ多い四つのスタッ ズが配置されており、二つ目のスタッズが左右上角部の山部と左右辺中央部の山部 との間の谷部下方寄りの位置にあり、上から三つ目のスタッズが左右辺中央部の山 部と左右下角部の山部との間の谷部中央やや上方寄りの位置にあることから、両意 匠の共通点である収納部の正面視の左右辺の山部との関係性からも、それぞれ異な る美観を有するものといえる。
そうすると、両意匠の相違点である正面側のスタッズの個数及び配置態様の点は、 物品の形状等による美観に影響を及ぼす相違点といえることから、証明書に記載さ れた意匠と引用意匠の相違点が物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であ\nると十分理解できる範囲内のものであると認められる場合とはいえない。\nしたがって、上記判断に反する原告の主張は採用できない。
(5) 以上によると、引用意匠が本件証明書に記載されている証明書記載意匠と同 一の意匠であるとは認められず、したがって、引用意匠の公開行為(甲2)は先の 証明書記載意匠の公開に基づいてされたものと認めることはできない。 そうすると、引用意匠については、意匠法4条3項所定の証明書が提出されてい ないことに帰するから、原告は引用意匠について同条2項の適用を受けることはで きない。 よって、本件審決が引用意匠について意匠法4条2項の新規性喪失の例外の適用 を認めなかった点に誤りがあるとは認められない。
2 以上によると、引用意匠は、本願出願前に公開された意匠であり、第2の3 (3)の本件審決の判断のとおり、本願意匠は、その引用意匠に類似するものであるか ら(なお、この点について原告は争っていない。)、本願意匠は意匠法3条1項3号 に掲げる意匠に該当するものであるとの本件審決の判断に誤りがあるとはいえない。 したがって、原告の主張する取消事由には理由がない。

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令和4(ワ)11394  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年1月16日  大阪地方裁判所

棋譜情報をフリーライド利用された被告が、Googleに対して著作権侵害であると申告したことが、不競法2条1項21号の不正競争に当たるとして、争われました。大阪地裁は、「虚偽の事実の告知」に該当すると認定し、約120万円の損害賠償を認めました。\n

本件動画は被告の著作権を侵害するものではない(この点について被告は争って いない。)にもかかわらず、本件削除申請は、グーグル等に対し、本件動画が被告\nの著作権を侵害する旨を摘示するものであるから、客観的な真実に反する内容を告 知するものとして、「虚偽の事実の告知」に当たると認められる。 これに対し、被告は、本件動画は被告の営業上の利益その他何らかの権利を侵害 する旨を主張するが、本件削除申請が虚偽の事実の告知に当たるかどうかの判断と\nは無関係である上、本件動画により被告の何らかの権利が侵害された事実も明らか でないから、採用できない。
2 争点2(本件削除申請は原告の「営業上の利益」を侵害するか)について\n
前提事実に加え、証拠(枝番号があるものは各枝番号を含む。以下同じ。甲4〜 13、15、16)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、ユーチューブ及びツイキ ャスにおいて、本件動画を配信して収益を得ていたところ、本件削除申請は、グー\nグル等のプラットフォーマーに対し、本件動画が被告の著作権を侵害する違法なも のであることを摘示する内容であり、これによって、原告は、ユーチューブにおい ては、別紙「原告動画目録」の「配信停止期間」欄記載の期間、動画の配信が停止 されたことが、ツイキャスにおいては、動画配信によって収益を得ることが少なく とも一定期間停止されたことがそれぞれ認められる。そうすると、本件削除申請は、\n原告が本件動画の配信という営利事業を遂行していく上での信用を害するものとし て、原告の「営業上の利益」を侵害したと認められる。
これに対し、被告は、原告による本件動画の配信は、被告が配信する棋譜情報を フリーライドで利用するという著しく不公正な手段を用いて被告ら棋戦主催者の営 業活動上の利益を侵害するものとして不法行為を構成することを指摘して、本件動\n画の配信に係る営業上の利益は法律上保護される利益に当たらない旨を主張し、こ れを裏付ける証拠として「王将戦における棋譜利用ガイドライン」(乙2)を提出 する。しかし、棋譜は、公式戦対局の指し手進行を再現した「盤面図」及び符号・ 記号による「指し手順の文字情報」を含むものと認められるところ(乙2)、本件 動画で利用された棋譜等の情報は、被告が実況中継した対局における対局者の指し 手及び挙動(考慮中かどうか)であって、有償で配信されたものとはいえ、公表さ\nれた客観的事実であり、原則として自由利用の範疇に属する情報であると解される。 同ガイドラインは、棋譜の利用権等を王将戦主催者が独占的に有する旨規定するが、 王将戦主催者が、原告を含めた被告の実況中継の閲覧者の関与なく一方的に定めた ものであり(乙2)、原告に対して法的拘束力を生じさせるものであるとはいえな い。また、前記1のとおり、本件動画は被告の著作権を侵害するものではなく、そ の他、原告が、被告の配信する棋譜情報を利用することが不法行為を構成すること\nを認めるに足りる事情はない。したがって、被告の前記主張は、その前提を欠き、 採用できない。

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令和1(ワ)17622  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月14日  東京地方裁判所

特許権侵害の損害賠償として、約11億円が認められました。102条2項の推定覆滅なしと認定されました。

被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳 管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後 の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して 製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値 分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、 被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕 入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加 価値は1対1として計算すべきであると主張する。
しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に 切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被 告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、 価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記 イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利 益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控 除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する ことやその額を認めるに足りる証拠はない。 また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅 すべき事情に当たるとはいえない。

◆判決本文

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令和1(ワ)17622  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月14日  東京地方裁判所

漏れていたのでアップします。特許権侵害訴訟で、差止と10億を超える損害賠償が認められました。特102条2項の覆滅は無しと判断されました。請求項6、9がPBPクレームでしたが、これについては明確性違反と判断されました。

本件発明6は、電鋳管についての物の発明であるところ、特許請求の範囲に おいて、当該電鋳管について、細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物 を形成する工程(メッキ工程)、細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小 さくなるよう変形させる工程(引っ張り工程)、変形させた細線材を除去する工 程(分離工程)を経て製造されることが記載されている。 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合、その発明の要旨は、当該製造方法により製造された物と構造、\n特性等が同一である物として認定される。そして、物の発明についての特許に 係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、 当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表\しているのか、又は 物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限 定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当 該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占 権を有するのかについて予測可能\性を奪うことになる。したがって、出願時に おいて当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、 又はおよそ実際的でないという事情が存在するなどの第三者の利益を不当に 害しない事情が存在するのでない限り、物の発明についての特許に係る特許請 求の範囲にその物の製造方法が記載されている特許請求の範囲の記載は、特許 法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するとは いえない(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷 判決・民集69巻4号700頁参照)。本件発明6の特許請求の範囲において は、物の製造方法が記載されているところ、出願時において製造された物をそ の構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、又はおよそ実際的 でないという事情についての主張はなく、また、同事情を認めるに足りる証拠 もない。
・・・
本件明細書には、本件発明6の電鋳管と同様の形状等を有する電鋳管につい て本件発明6の方法以外の複数の方法で製造できると記載されている【004 1】、【0042】)。そして、本件発明6の引っ張り工程及び分離工程の方法に よった場合の電鋳管の内面精度について、特許請求の範囲、本件明細書、図面 には記載はない。また、原告が主張する本件発明6の技術的範囲に属するとい う場合の電鋳管の客観的な内面精度自体が必ずしも明確ではなく、また、本件 特許の出願当時、引っ張り工程及び分離工程により製造された電鋳管の内面精 度を含む構造又は特性が、技術常識により明らかであったことを認めるに足り\nる証拠はない。
そうすると、電鋳管の発明である本件発明6について、少なくとも引っ張り 工程及び分離工程に関して電鋳管のどのような構造又は特性を表\しているの かが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明らかであるとは いえない。原告の主張は採用することができない。
・・・
被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳 管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後 の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して 製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値 分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、 被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕 入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加 価値は1対1として計算すべきであると主張する。 しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に 切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被 告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、 価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記 イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利 益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控 除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する ことやその額を認めるに足りる証拠はない。 また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅 すべき事情に当たるとはいえない。

◆判決本文
なお、本件については、控訴審判決はなさそうですが、対応する審決取消訴訟にて、請求項6は不可能・非実際的理由がなくても、PBPクレームだから自動的に明確性違反だとはならないと判断されてします(内面精度との技術的関係が不明として明確性違反と判断されています)。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時 において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁 判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集 69巻4号700頁)。 もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許 請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・ プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を 読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、 第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。 そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製 造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願 時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\ しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義 的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不 可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
・・・
そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を 加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着 物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、 3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細 線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱 又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、 これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても 一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記 3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の 内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上 記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し たとも認められない。 そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電 鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n

◆令和3(行ケ)10140

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令和5(行ケ)10066  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

瓦の意匠について、知財高裁(4部)は、無効理由無しとした審決を取り消しました。 本件審決は、別紙「本件審決が認定した形状等の共通点と相違点」の2に記載のとおり、本件登録意匠と引用意匠の構成態様の相違点1〜8を認定するので、これらが両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。\n

ア 瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない構成態様について(相違点1、2、6、7関係)\n
相違点1(背面形状)、同2(女瓦の左端部の壁)、同6(男瓦の縮 径段差部の溝の有無及び右側端部の角度)、同7(1)女瓦の上端寄りの 凸部の形状、2)左下端の角度)は、瓦を葺いた施工後の状態からは看取 できない構成態様に関するものである。そこで、本件登録意匠の意匠に係る物品である瓦における、このような相違点の位置づけ、類否判断へ\nの影響の程度について、検討しておく。 そもそも瓦は、本来的に屋根等を葺くための建築部材であって、施工 を前提としない瓦単体のコレクターといった需要者を想定するのは現実 的でない。瓦屋根の建築物を注文し、その所有者等となる施主が中心的 な需要者であり、そうした需要者の求める美観が施工後の外観に係るも のであることは多言を要しない。瓦屋根を施工する建築業者、瓦の販売 業者等も需要者ではあるものの、そうした立場の需要者であっても、最 終的には施主の満足を得させる施工後の外観が最も重視されるものと考 えられる。そうすると、瓦を葺いた施工後の状態から看取できない構成態様が意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまると\nいうべきである。
被告は、瓦の需要者である建築業者等は葺き上がった状態で見えなく なる部分についても瓦の重要な機能につながる形状に注意を払い形状全体に目を通して選定する旨主張する。しかし、意匠の類否は基本的に\n「需要者の視覚を通じて起こさせる美観」に基づいて判断されるべきも のであり、機能と造形は両立し得るものではあるが、機能\のみに着眼し た被告の主張をそのまま採用することはできない。 よって、瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない相違点1、2、 6、7が、類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまるとい うべきである。なお、相違点6、7に関しては、本葺一体瓦において採 用される公知の形状のバリエーションの範囲内の違いにすぎないもので あるから(前記1(3)ア〜ウ)、この点においても、当該相違点が類否判 断に及ぼす影響は限定的なものと解される。
・・・
ウ 男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態等について(相違点3、5 関係)
(ア)本件審決は、本件登録意匠と引用意匠の各対応図面ごとに相違点を認 定しているため、立体形状として認識・把握すれば同じ特徴を、各方 向視ごとに別々に表現するような形式になっており分かりにくいので、相違点3、5に含まれる男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態\nに係る相違点を整理・再構成すると、下記1)〜3)のとおりとなる(な お、本件審決は、相違点3、5として、下記1)〜3)以外の要素にも言 及している部分があるが、本件登録意匠と引用意匠のそれぞれの図面 における角度の違いや作図方法の違いによる見え方の違いにすぎない ものであり、実質的な相違点ということはできない。)。 1) 本件登録意匠の男瓦は上方に向かって逆ハの字状に広がる円筒形であるのに対し、引用意匠の男瓦は少なくとも真上から見る幅が均一の円筒形である。2) 本件登録意匠においては、引用意匠と比べて、本件コの字模様の両側部の幅が若干広く、本件長方形模様の幅は若干狭い。3) 本件登録意匠の本件コの字模様の部分は本件長方形部分と面一であるが、引用意匠の本件コの字模様はわずかに段差状に隆起している。
(イ)上記相違点1)〜3)は、いずれも、本件登録意匠及び引用意匠の構成態様のうち、看者の注意を強く引く部分である男瓦の連なりの形状及び\n模様に関するもの(上記(3))であるから、その相違点が、両意匠の類 否判断に一定の影響を及ぼすことは否定できない。 しかし、相違点1)は、本葺一体瓦において採用される公知の形態のバ リエーションの範囲内の違いにすぎないし(前記1(3)エ)、相違点2)、 3)は、従前の意匠には見られなかった新規な創作部分である本件コの 字模様に係る共通点を備えた上での、当該模様の些末な違いにすぎな い。もちろん、新規な形態を創作した先行意匠を下敷きとして踏襲し つつも、それにプラスして需要者の注意を一層強く引くような新しい 美観を取り入れたという評価ができれば、当該新しい美観に係る印象 が共通点に係る印象を覆し、類否判断にも相対的に強い影響を及ぼす ということもあり得るところであるが、相違点2)、3)が、両意匠の共 通点である本件コの字模様の持つ強い訴求力を覆すほどの新しい美観 を生じさせるものとは到底認められない。
よって、上記相違点1)〜3)は、類否判断に一定の影響を及ぼすもので はあるが、本件コの字模様に係る共通点4と比較して、意匠の類否判 断に及ぼす影響は相対的に小さいものと解すべきである。

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令和4(行ケ)10081  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟__全文__知的財産裁判例 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

 ゴルフシャフトの数値限定発明(バラメータ)について、サポート要件違反とした審決が維持されました。

a バイアス層の合計重量(B(g))をバイアス層の合計重量とシャフト全体 にわたって位置するストレート層(以下、単に「ストレート層」という。)の合計 重量の和(B(g)+S(g))の50%以上とすることにより得られる効果等に 関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のゴルフクラブ用シャフトは、 シャフトに使用するバイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置 するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦ 0.8・・・(1)を満たすことが重要である。(1)は、技量が高いゴルファー やスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクTq(°) を生み出す要素を示している。つまり、(1)を満たさないゴルフクラブ用シャフ トは、シャフトが捩じれすぎたり、または捩じれないがためにシャフトが折損して しまう原因につながる。」との記載(【0014】)があり、また、本件効果が得 られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1における 各B/(B+S)がそれぞれ0.6及び0.4であるとの記載(【表4】)がある。\nしかしながら、これらの記載は、本件各発明におけるB/(B+S)に係る0.5 との数値が実施例1における0.6及び比較例1における0.4の中間値であるこ とを含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重 量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切 に説明するものとはいえず、したがって、構成3のうちバイアス層の合計重量をバ\nイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とするとの点につ いては、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本 件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、バイアス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小 さくできることは自明であり本件出願日当時の技術常識であるとして、本件出願日 当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、バイアス層の合計重量をバイア ス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上としておけば、その他 の条件を技術常識の範囲内で適宜調整して決定することで、容易にTq≦4.0° の構成(構\成2)が得られるものと理解し得ると主張する。しかしながら、バイア ス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小さくできることが本件 出願日当時の技術常識であったとしても、原告の上記主張は、実施例1と比較例1 を比較する点を含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート 層の合計重量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかに ついて適切に説明するものとはいえず、その他、バイアス層の合計重量をバイアス 層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とすることにより本件課 題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、 構成3のうちバイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計\n重量の和の50%以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当 時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるという ことはできない。

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令和5(行ケ)10079  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年12月26日  知的財産高等裁判所

知財高裁(2部)は、未登録周知商標に類似する商標であると認定し、無効理由無しとした審決を取り消しました。

ア 前記1において認定した事実によると、引用標章1の周知性に関し、次の事 情が認められるというべきである。 すなわち、原告商品は、外国の会社が製造する菓子であり、その名称を「Tro lli Planet Gummi」、「Planet Gummi」などとする ものであって、原告商品又はその包装若しくは個包装には、日本語からなる「地球 グミ」との文字は記載されていない。しかしながら、原告商品は、平成30年頃、 動画投稿者及びその閲覧者を中心に韓国において大流行したところ、この流行が日 本にも飛び火し、原告商品は、令和2年頃からは、日本においても、動画投稿者及 びその閲覧者を中心に大流行し、遅くとも原告が原告商品の輸入販売を開始した同 年10月までには、全国に店舗を展開する小売業者の中に、原告商品を「地球グミ」 と称してこれを宣伝する者が現れるようになった。原告が原告商品の輸入販売を開 始した後についてみても、原告商品は、大人気を誇り、小売業者の店舗における販 売開始後すぐに完売となるという事態が相次ぎ、その入手が極めて困難な商品とな った。原告が原告商品の輸入販売を開始して以来、全国に店舗を展開する小売業者 らは、原告商品を「地球グミ」と称してこれを繰り返し宣伝し、また、原告商品は、 動画投稿サイトにおいても、「地球グミ」と称する商品として大人気を博していた。 そのような原告商品は、令和3年6月、「地球グミ」と称する大人気商品として、 全国紙による新聞報道及び在阪の準キー局によるテレビ報道がされるまでに至り、 同テレビ報道においては、同年上半期にはやった飲食物としてZ世代が選ぶランキ ングにランクインした。原告商品は、翌7月、同様の人気商品として、在京のキー 局によるテレビ報道がされるに至り、20代前半の若者が皆知っていることとして 紹介された(なお、原告は、遅くとも同年6月には、テレビ番組において、原告商 品を「地球グミ」と称しており、また、遅くとも同年9月には、原告商品を「地球 グミ」と称する宣伝をするようになった。)。さらに、「地球グミ」と称する原告 商品は、同年11月、動画投稿サイトへの投稿がきっかけで人気となった作品又は 商品の例として、著名作家の小説、有名シンガーソングライターの楽曲等と並べて\n紹介されるとともに、渋谷区にある著名な商業施設の運営会社による調査(15歳 から24歳までの女性545名を対象としたもの)の結果である「SHIBUYA 109lab.トレンド大賞2021」なる賞においても、その「カフェ・グルメ 部門」の2位に入賞した。このような「地球グミ」と称する原告商品の令和3年ま での動向を踏まえ、令和4年1月に発行された「現代用語の基礎知識2022」に おいては、令和3年中に注目された物(食に係るヒット商品)として、原告商品の 俗称たる「地球グミ」の語が取り上げられるに至った。 以上の事情に照らすと、「地球グミ」の語(引用標章1)は、遅くとも本件査定 日(令和4年2月22日)までには、原告又は原告商品の製造業者の業務に係る商 品(原告商品)を表示するものとして、需要者(引用標章1が使用される商品の内\n容及び性質並びに前記1の事実に照らすと、若者を始めとするグミキャンディの消 費者であると認められる。)の間に広く認識されている商標に該当していたものと 認めるのが相当である。
イ なお、被告は、引用標章1は商標として使用されていなかったと主張するが、 前記1(13)、(15)、(16)及び(25)によると、原告は、原告商品に関する広告を内容 とする情報に引用標章1を付して電磁的方法により提供していたと認められるから、 被告の主張を採用することはできない。
(2) 本件商標と引用標章1の類否
前記第2の1(5)のとおり、本件商標は、「地球グミ」の文字を標準文字で表し\nてなるものである。これに対し、前記第2の3(1)ア(ア)のとおり、引用標章1は、 「地球グミ」の文字を書してなるものである。 このように、本件商標と引用標章1は、その外観において、極めて相紛らわしい ものである。 また、本件商標及び引用標章1からは、いずれも「チキュウグミ」の称呼が生じ るから、両者は、称呼を同じくする。 さらに、前記(1)アにおいて説示したところに照らすと、「地球グミ」は、需要 者の間において原告商品を指す語であると認識されるといえるから、本件商標及び 引用標章1からは、いずれも、「地球のグミキャンディ」などの観念のほか、「原 告商品」(商品名を「Trolli Planet Gummi」、「Plane t Gummi」などとするグミキャンディ)の観念が生じるといえ、両者は、観 念を同じくする。 以上によると、本件商標は、引用標章1と称呼及び観念を同じくし、外観におい て極めて相紛らわしいから、引用標章1に類似する商標であると認めるのが相当で ある。

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令和5(行ケ)10083  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

 電気スイッチの図形商標について、その形状に過ぎないとして、識別力なしとした審決が維持されました。

そして、商品の形状は、本来、商品の機能をより効果的に発揮させたり、\n美観を向上させるために選択されるものであるから、商品の形状からなる商 標は、その形状が、需要者において、その機能又は美観上の理由から選択さ\nれると予測し得る範囲を超えたものである等の特段の事情のない限り、商品\n等の形状そのものの範囲を出るものでなく、商品の形状を普通に用いられる 方法で表示する標章のみからなるものとして、商標法3条1項3号に該当す\nるものと解される。
(2) 本願商標は、白色の長方形を縦長に描き、その内側の中央に、辺の長さが 外側長方形部分の約半分程度の、影様の黒色の線で縁取りされた白色の縦長 の長方形を配し、内側長方形部分の右側長辺に影様の薄い灰色の直線を配し、 その左に上端から下端までの長さよりやや短く、縦に緑色の直線を描いてな るものである。そして、本願商標同様の形状を有する原告製造に係る「電気 スイッチ」に係るカタログ(甲3の1)には、「シンプルで、明瞭な要素で 構成されること。ミニマルで、偏りのない美しさを持つこと。ひとつの空間\nを超えて、建築が持つ思想へと向かう存在になること。」との記載があり、 JIS大角連用形スイッチとの取付互換性の確保も強調されている。
一方、メーカー、施工会社、ユーザ等のウェブサイト(乙1〜8、10〜 13)によれば、本願商標の指定商品である「電気スイッチ」を取り扱う業 界において、外側の縦長の略長方形の内側に、表示灯を施した縦長の長方形\nの押しスイッチを配した構成の電気スイッチは、広く使用されていること、\n表示灯の形状、位置、点灯した際の色彩は様々なものが採用されていること\nが認められる。そして、これらの電気スイッチの形状は、「もっと美しく、 使いやすく。/これからのくらしのスタンダード」(乙2)、「インテリア と響きあう/住まいに必要なものだから“美しさ”にこだわりたい。みんな が使うものだから“使いやすさ”を求めたい。」(乙6)といった謳い文句 からも理解されるとおり、商品の機能や美観を発揮させるために選択されて\nいるものと解される。
上記のような実情に鑑みると、本願商標の形状は、指定商品である「電気 スイッチ」の用途、機能、美観から予\測できないようなものということはで きず、需要者は、本願商標から、「電気スイッチ」において採用し得る機能\n又は美感の範囲内のものであると感得し、「電気スイッチ」の形状そのもの を認識するにすぎないというべきである。
原告は、前記第3の1(1)のとおり、アイコン等としての使用が予定され\nる図形商標(平面商標)について、立体商標と同様の厳格な基準を適用する べきではない旨主張するが、前記(1)に説示したところは立体商標か図形商 標かによって左右されるものではなく、採用できない。なお、本願商標が指 定商品の形状を表すのでなく、アイコン等としてのみ使用されるものと認識\nされると認めるに足りる証拠もない。
また、原告は、前記第3の1(1)のとおり、商品の形状のみからなる図形商 標が、当該商品を指定商品に含めて商標登録されている事例は、多々存在す る旨主張するが、登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するもの であるか否かの判断は、個別具体的にされるべきものである上、原告引用に 係る事例は、ゲームコントローラやタブレット端末であって(甲1、2)、 需要者層や商品形状の有する意味合いに関し本願商標と大きく異なる点が あると考えられるものであり、採用できない。
さらに、原告は、前記第3の1(2)のとおり、原告の電気スイッチは、幅広 な操作スイッチを持たず、表示灯を操作スイッチの右端において上端から下\n端まで一直線に設けるという独自の構成を有し、数々の受賞歴を有し、こだ\nわりのあるユーザに高い評価を得ている旨主張するが、視覚を通じて美観を 起こさせる物品の形状等の創作を奨励、保護する意匠法による保護の対象と すべき根拠とはなっても、自他商品の識別標識としての商標を対象とする商 標法の保護とは次元が異なる問題である。
(3) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした 本件審決の判断に誤りはない。

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令和5(行ケ)10067  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年12月4日  知的財産高等裁判所

商標「5252byO!Oi」が、黒色の丸ゴシック体で表した商標「OIOI」と類似するかが争われました。知財高裁は、商標「OIOI」は著名であったとして分離抽出を認め、非類似とした審決を取り消しました。\n

ア 本件商標は、前記第2の1(1)のとおり、「5252byO!Oi」の数字、 欧文字及び感嘆符を黒色のゴシック体にて同じ大きさ、等しい間隔で一連に横書き してなるものである。もっとも、このうち「by」という語は、一般に「by 〇 〇〇」との用法により「商品や役務の出所が〇〇〇」であることを表す英語の前置\n詞として我が国において広く用いられ、親しまれていることや、「by」が小文字で 書されていることからすると、本件商標は、全体として、「by」の後の「O!Oi」 の部分を、独立して、見る者の注意を引くように構成されているといい得るもので\nある。また、本件商標のうち「5252」の部分は単に数字を羅列するものであっ て格別の識別力を有しないのに対し、「O!Oi」の部分は、欧文字を用いながらも 辞書等に載録される語ではない上、「オーオイ」又は「オーオーアイ」との称呼を生 じ得るものではあるが、感嘆符を用いていることからその称呼も一様に定まるもの ではなく、丸と縦線とが交互に用いられている点において視覚的に際立った印象を 与え、造語とも図形とも理解できる特徴的なものといえる。これらに加えて、上記 のとおり、「商品や役務の出所が○○〇」であることを示すものとして「by〇〇〇」 との用法が広く用いられ、親しまれていることからすると、「by」の後に配された 「O!Oi」の部分は、本件商標の構成の中でも、出所識別標識として強く支配的\nな印象を与えるというべきである。そうすると、「O!Oi」の部分は、本件商標の 一部分ではあるものの、商標全体の出所識別標識としての機能を果たしていると認\nめられるから、この部分を本件商標の要部として抽出し、この部分(以下「本件要 部」という。)だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許されると いうべきである。
被告は、前掲最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決を引用し、同じ書体、同 じ大きさで隙間なく一連に横書きしてなる本件商標の構成部分の一部である本件要\n部のみを他人の商標と比較することは許されない旨主張する。しかし、上記のとお り、本件要部は、その後に続く語が商品等の出所であることを示す英語の前置詞と して我が国で広く用いられ、親しまれている「by」の後に配されていることによ り、独立して、商品等の出所を示すものとして、見る者の注意を引くように構成さ\nれているといい得るものである上、造語とも図形とも理解できる特徴的な形状を有 し、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる一方、本件商 標の他の部分である「5252」「by」の部分は格別の識別力を有しないのである から、本件要部だけを他人の商標と比較することは許されるというべきである。被 告の主張は採用することができない。
イ 本件要部は、「O!Oi」の欧文字及び感嘆符を黒色のゴシック体にて同じ大 きさ、等しい間隔で一連に横書きしてなるものである。また、本件要部からは、そ の構成文字に相応して「オーオイ」「オーオーアイ」の称呼を生じ得る。他方、これ\nらの欧文字の配列は辞書等に載録されている語等を構成するものではなく、上記の\nとおり生じ得る称呼からも特段の意味合いを見いだせないことからすれば、本件要 部からは特定の観念を生じないものといえる。
ウ 本件商標の指定商品は前記第2の1(1)のとおりであり、被服やかばん類等 のファッション・アパレル関連商品や、携帯電話機用アクセサリー、ヘッドフォン、 眼鏡等の一般消費者が身に付ける物が中心となっている。
(3) 引用商標3について
ア 引用商標のうち、引用商標3の構成は別紙2の3の「商標の構\成」のとおり であり、赤色の丸ゴシック体にて同じ大きさ、等しい間隔で「OIOI」と書して なるものである。引用商標3からは、その構成文字に相応して「オーアイオーアイ」\n「オイオイ」の称呼を生じるほか、前記1に認定した事実関係によると、原告標章 は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、一般消費者を含むファッショ ン・アパレル関係の取引者、需要者において著名な商標であったと認められるから、 色彩のほかは原告標章と同一の構成を有する引用商標3からは、「マルイ」との称呼\nも生じ、「マルイのロゴマーク」との観念も生じるものと認められる。
イ 引用商標3の指定商品には、被服やかばん類等のファッション・アパレル関 連商品や、キーホルダーや眼鏡等の一般消費者が身に付ける物が含まれている。
(4) 本件商標と引用商標3の類否について
本件要部からは特段の観念を生じないのに対して、引用商標3からは「マルイの ロゴマーク」との観念を生じるので、両者の観念は同一とはいい難い。 次に、本件要部からは「オーオイ」「オーオーアイ」の称呼を生じ得るのに対し、 引用商標3からは「オーアイオーアイ」「オイオイ」及び「マルイ」の称呼を生じ得 るところ、本件要部に「!」が含まれていることの関係で厳密には称呼が異なるも のの、多くの音を共通にしており、相応に類似しているというべきである。 また、両者の外観についてみると、本件要部及び引用商標3は、いずれもゴシッ ク体にて四つの文字又は記号を書してなり、1字目と3字目はいずれも「O」で共 通している。2字目は「!」と「I」、4字目は「i」と「I」と異なる文字又は記 号が使用されているが、いずれも1本の縦線又は1本の縦線とその延長線上にある 点により構成される点において形状が類似している。加えて、各文字の字間を含め\nた配列も近似している。そうすると、両者の外観は、子細にみると異なる部分はあ るが、時と場所とを異にする隔離的観察の下では、互いに相紛らわしいというべき である。
以上に加え、本件商標及び引用商標の各指定商品は、いずれもファッション・ア パレル関連商品や一般消費者が身に付ける物であるから、その取引者、需要者には 一般消費者が含まれるところ、本件要部からは特段の観念を生じず、本件要部及び 引用商標3から生じ得る称呼は同一ではないが相応に類似している上、いずれも単 一の確たる称呼が生じるといい難いことから、取引者、需要者にとってみれば称呼 が出所識別標識として決め手とはなりにくいとうかがわれること、一般消費者は、 アパレル・ファッションや身に付ける物の出所につき、主として対象商品やロゴマ ークの外観等に注目するとみられること等も総合すると、上記のとおり、引用商標 3との関係で、称呼について相応に類似し、外観において互いに相紛らわしい本件 要部を持つ本件商標は、その構成全体が引用商標3と同一ではないことを考慮して\nも、両商標が本件商標の各指定商品に使用された場合には、取引者、需要者が両者 の出所を見誤る可能性は否定できず、その商品の出所において誤認混同が生じるお\nそれがあるものと認められる。 したがって、本件商標は、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、 その商品に係る取引の実情を踏まえて全体的に考察すると、引用商標3に類似する 商標と認められる。

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令和4(ワ)5553  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年12月7日  大阪地方裁判所

 特許は公然実施による新規性違反があるとして、権利行使不能と判断されました。時期に後れたとの主張は認められず、また、訂正の再抗弁も認められませんでした。

前記認定事実アによれば、本件プレイヤードの部材Aは本件発明の縦枠に、 部材Bは側面シートに、部材Cは底面シートにそれぞれ相当し、部材Gに固定され た部材Aの下端部分は、部材Cの六角形の頂点にあたる部分に部材Dを介して固定 され、外側への移動が制限されているものと認められる。そうすると、本件プレイ ヤードは、「環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材A(縦枠)と、 隣り合う部材Aを渡すように張られメッシュ部B1を有する部材B(側面シート) と、底面に位置する非伸縮性の部材C(底面シート)と、を備え、部材Cは平面視 において多角形の形状を有しており、各部材Aの下端部分は非伸縮性の部材Cの多 角形の頂点にあたる部分に(部材Dを介して)固定され外側への移動が制限されて いる、プレイヤード」との構成を有するものということができるから、本件発明の\n各構成要件を充足する。\n
そして、特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多 数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記認定事実イ のとおり、被告は、本件特許出願前の平成17年頃、カタログに本件プレイヤード を掲載して需要者に対して販売していたから、その内容を不特定多数の者が知り得 る状況で本件発明を実施したものと認められる。
(4) 原告は、本件無効審判事件の進行状況等に照らすと、被告による乙第12 号証を証拠とする無効理由の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下される べきである旨の申立て(民訴法157条1項に基づくものと理解される。)をする。\nしかし、攻撃防御方法の提出について時機に後れたかどうかは、本件訴訟の具体的 な進行状況等に即して判断されるべきである。そして、原告の訂正の再抗弁等に対 するものとして、乙第12号証及びこれに基づく無効理由を主張する被告の準備書 面(1)が令和5年2月15日に提出されたところ、その時点では、書面による準備 手続における協議が重ねられ、争点及び証拠の整理手続中(いわゆる心証開示前) であり、被告が故意又は重大な過失により当該攻撃防御方法を提出したとか、それ により訴訟の完結が遅延するなどの客観的な事情があったとは認められないから、 原告の前記申立ては理由がないものとして却下する。\n
(5) 以上のとおり、本件発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施 された発明であって、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきものである から、後記3で検討する訂正の再抗弁が成り立たない限り、原告は、被告に対し、 本件特許権を行使することができない(特許法123条1項、104条の3第1項、 29条1項2号)。
3 訂正の再抗弁の成否(争点3)について
本件訂正により、本件プレイヤードに基づく新規性欠如(前記2)の無効理由が 解消されるか否かにつき検討する。
(1) 原告は、本件訂正発明と本件プレイヤードを対比すると、1)本件訂正発明 の接続テープは各縦枠に対して取外しできるように構成されているのに対し、本件\nプレイヤードの部材Dは部材Aに対して取外しできるように構成されていない点、\n2)本件訂正発明の側面シート及び底面シートは各縦枠に対して取外し可能に構\成さ れているのに対し、本件プレイヤードの部材B及び部材Cは部材Aに対して取外し 可能に構\成されていない点の2つの相違点があるから、本件訂正により本件プレイ ヤードに基づく新規性欠如の無効理由は解消される旨主張する。
(2) しかしながら、前記2(2)ア認定のとおり、本件プレイヤードにおいては、 各部材Aの下端部分は、接地部材Gが受けて固定しているところ、部材Cに取り付 けられた部材D(テープバンド)が部材Gに挟み込まれて2か所でねじ止めされて (以下「本件ねじ止め」という。)、各部材Aの下端部分が(部材Dを介して)部 材Cに固定されている。そして、本件ねじ止めは、タッピングねじによるものであ るが、ねじの取外しをすることは可能であり、このねじを取り外せば、部材Dを部\n材Aの下端部分が固定されている部材Gから取り外すことができるから、部材Dは、 部材Aに対して取外し可能であると認められる。\nまた、前記のように部材Dを部材Aから取り外せば、部材Dが取り付けられてい る部材C及びこれと一体に形成されている部材B(前記2(2)ア)も部材Aから取 り外すことができるものと認められる。 そうすると、本件訂正発明と本件プレイヤードの対比において、原告が主張する 前記(1)の1)及び2)の相違点はいずれも認めることができない。
(3) これに対し、原告は、本件ねじ止めはタッピングねじによるものであると ころ、同ねじは、日常的に繰り返し取り外す必要がある部位には使用されないもの であるから、本件プレイヤードは、使用者が再組立できなくなる等のリスクを冒し てまで、部材Dや部材B及び部材Cの「取外し」を行うことは想定されていない旨 主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件Xは「…各縦枠に対して取外しできる\nように構成されている接続テープを備え」、構\成要件Yは「前記側面シート及び前 記底面シートが…各縦枠に対して取外し可能に構\成されている」というものである ところ、取外しの具体的な態様や頻度等について何ら限定をしていない。そうする と、タッピングねじによる本件ねじ止めは、その構造上も実際上も取外し可能\であ る以上、本件プレイヤードの構成につき、本件訂正発明の前記各構\成要件との相違 点を認めることはできず、原告の主張は採用できない。
また、原告は、本件プレイヤードは「WATERPROOF」、つまり防水性の 製品であって、洗濯機での洗濯や脱水は危険であることから、市販製品の一般的な 意味での「取外し」はできず、このような製品を「取外し可能」と評価することは\nできない旨主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件X及びYにおいて、「取外\nし」の目的が特定されているものではないし、本件明細書の段落【0013】の記載 (「この構成によれば、側面シートと底面シートを縦枠から取り外して洗うことが\nできるため、幼児用サークルを清潔に保つことができる。」)を参酌するとしても、 その洗い方が洗濯機によるものに限定されているものではないから、原告の主張は 採用できない。
(4) したがって、本件訂正によっても、本件プレイヤードに基づく新規性欠如 の無効理由は解消されないから、原告の訂正の再抗弁は成り立たない。

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令和2(ワ)25892  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年11月29日  東京地方裁判所

電子たばこの特許について、被告製品は技術的範囲に属しないと判断されました。

イ 本件明細書には、「本発明の物品は、カートリッジの嵌合端部と嵌合す る受容端部を有する制御ハウジングも含むことができる。したがって、制 御ハウジングとカートリッジ本体は、機能可能\に連結されるものとして特 徴づけることができる。このような受容端部は特に、カートリッジの嵌合 端部を受容する開口端部を有するチャンバーを含んでよい。・・・特有の 実施形態では、カートリッジの嵌合端部を制御ハウジングの受容端部と嵌 合させると(カートリッジの嵌合端部を制御ハウジングのチャンバーの中 まで所定の距離だけスライドさせるなどすると)、吸引可能な物質媒体と\n電気加熱部材が整列して、吸引可能な物質媒体の少なくとも一部分を加熱\nできるようになる。」(【0008】)、「カートリッジ本体305は、 制御ハウジング200の受容チャンバー210と嵌合する嵌合端部310 と、」(【0040】)との記載がある。また、図4、図7、図9等には、 吸引可能な物質を消費者の方に運ぶように構\成された反対側の吸い口端と、 外面および内面を有する壁とを有する実質的に筒状のカートリッジの嵌合 端部310が示されるとともに、電気加熱部材に電力を供給する電気エネ ルギー源を含む制御ハウジングの端部として、中央部の円筒状の突出部を 取り囲むように、円筒形のカートリッジの外壁の外径よりやや大きい内径 を有する円筒形の受容チャンバー壁があり、カートリッジを受容チャンバ ーに挿入することで、カートリッジの外壁であり嵌合端部の外側が、受容 チャンバーの外壁の内側に、ほとんど隙間なく接する状態が示されている。 すなわち、本件明細書には、カートリッジの嵌合端部と制御ハウジング の嵌合端部(受容端部)が嵌合すると記載され、その実施形態として、カ ートリッジが制御ハウジングの受容チャンバーに挿入されることで、相補 形状を有するといえる、円筒形の外壁という形状を有するカートリッジの 嵌合端部と、円筒形の受容チャンバー壁という形状を有する制御ハウジン グの嵌合端部(受容端部)とが、カートリッジの外壁の外側の嵌合端部が 受容チャンバーの外壁の内側に接することで、ほとんど隙間なく配置され るという状態ではまり合っていることが示されているといえる。これは、 上記の「嵌合」についての一般的な意義に沿ったものである。他方、本件 明細書には、制御ハウジングの「受容端部」あるいは「受容チャンバー」 については、【0008】、【0040】以外に、本件明細書の【001 2】、【0018】、【0027】、【0059】、【0061】、【0 102】等にも記載があるが、カートリッジの嵌合端部の端面に接触又は 近接するのみで、それを制御ハウジングの「受容端部」とする記載はない し、上記アの一般的な意義と異なる意味で「嵌合」が使われていることを 示唆する記載もない。
ウ 本件発明は、前記1 のような技術的意義を有するところ、制御ハウジ ングとカートリッジの関係として、想定し得る様々な構成のうち、構\成要 件Dにおいて「前記制御ハウジングは、前記カートリッジに機能可能\に連 結されている嵌合端部を有する」として、それぞれの嵌合端部が「嵌合」 するものであることを明確に定めている。そして、そのような構成の下で、\n制御ハウジングとカートリッジが「機能可能\に連結され」、また、「吸引 可能な物質媒体と電気加熱部材が整列して、吸引可能\な物質媒体の少なく とも一部分を加熱できるように」なることがあるとしている。 本件発明においては、制御ハウジングとカートリッジの関係が上記のと おり定められているところ、「嵌合」の語句の一般的な意義(前記ア) や本件明細書の記載(前記イ)もその一般的な意義を前提としていると 解されることからも、「前記カートリッジに機能可能\に連結されている 嵌合端部」とは、その嵌合端部自体が一定の形状を有するとともに、ハ ウジングの嵌合端部も一定の形状を有し、それら両嵌合端部の形状が、 相補形状であり、それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくは まり合うものをいうと解される。
(3) 被告製品の構成dについて\n
ア 被告製品の構成dは、「加熱式デバイスは、加熱式タバコスティックを\n受け入れるエンドキャップと、エンドキャップの底面に形成されたスリッ トを貫通してエンドキャップ内まで延びるヒータブレードのベース部上に 形成された導電トラックに電力を供給するバッテリーを含むメインボディ と、を有する加熱式喫煙デバイスであって、使用者はエンドキャップの底 面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であり、該挿入によっ\nてヒータブレードのベース部が加熱式タバコスティックに挿入され、加熱 式喫煙デバイスのスイッチが入れられると、タバコロッドを加熱するため に、ヒータブレードの導電トラックがバッテリーと通電し、」である。 そして、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり得るのは加熱式タバコ\nスティックであり、当該加熱式タバコスティックの篏合端部に当たり得る のは、加熱式タバコスティックの吸い口とは反対の先端部である。
イ 原告らは、エンドキャップに加熱式タバコスティックがぴったりとはま るから、エンドキャップの底面と、加熱式タバコスティックの先端面は、 ほぼ同径の円形であり、「形状が合った物」であり、「エンドキャップの 底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であ」ることは「は\nめ合わせる」ことである旨主張する。 しかしながら、加熱式タバコスティックの先端面の形状とエンドキャッ プの底面の形状自体はほぼ同径の円形であるとしても、エンドキャップ の底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入した状態は、加熱式 タバコスティックの先端面がエンドキャップの底面に突き当たって接し た状態になっているのみである。加熱式タバコスティックの先端面とエ ンドキャップの底面のそれぞれの形状は、相補形状ではなく、それぞれ の形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものであるとはい えない。
なお、制御ハウジングは、構成要件Dの文言上、「前記電技加熱部材に\n電力を供給する電気エネルギー源を含(む)」(構成要件D)ものであ\nるところ、被告製品における制御ハウジングはメインボディであるから、 エンドキャップそれ単独では、制御ハウジングに当たることはない。 ウ 原告らは、ヒータブレードのベース部が「篏合端部」に当たるとも主張 する。
しかしながら、前記のとおり、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり\n得るのは加熱式タバコスティックであり、当該加熱式タバコスティックの 篏合端部に当たり得るのは、円筒状の形状を有する加熱式タバコスティッ クの吸い口とは反対の先端部であるが、当該先端部は、原告らが「篏合端 部」と主張するヒータブレードのベース部の形状と、相補形状ではなく、 それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものである とはいえない、なお、このことは、ヒータブレードのベース部とエンドキャップ底面と を合わせた構成を考えても同様である。\n
エ 以上によれば、被告製品の構成dのヒータブレードのベース部とエンド\nキャップ底面は、いずれも構成要件Dの「篏合端部」に当たらず、その他、\nこれに該当する部分はないといえる。 そうすると、被告製品は、構成要件Dを充足する部分を有せず、その余\nを判断するまでもなく本件発明の技術的範囲に属さない。

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令和4(行ケ)10109  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年11月30日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件・サポート要件違反があるとの異議理由を認め、特許を取り消す旨の審決がなされましたが、知財高裁は、かかる審決を取り消しました。\n

(1) 特許法36条4項1号は、特許による技術の独占が発明の詳細な説明をも って当該技術を公開したことへの代償として付与されるという仕組みを踏 まえ、発明の詳細な説明の記載につき実施可能要件を定める。このような同\n号の趣旨に鑑みると、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足するた\nめには、当該発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、 当業者が過度の試行錯誤を要することなく、特許を受けようとする発明の実 施をすることができる程度の記載があることを要するものと解される。
(2) そこで検討するに、まず前提として、本件明細書記載の第1実施形態によ り本件3条件を満たす防眩フィルムを製造することができることは争いが ないところ、被告は、本件特許発明は第2実施形態に係る防眩フィルムであ って、第1実施形態は本件特許発明に含まれない旨主張する。 しかし、本件明細書で第1実施形態を説明する【0056】の「防眩層3 は、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子(フィラー)を含んでいて もよい。」との記載、【0058】の「微粒子の平均粒径は特に限定されず、 例えば、0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定できる。」との記載 及び【0059】の「微粒子の平均粒径が小さすぎると、防眩性が得られに くくなり、大き過ぎると、ディスプレイのギラツキが大きくなるおそれがあ るため留意する。」との記載を参酌すれば、第1実施形態には、スピノーダ ル分解による凝集と微粒子の凝集の両方により表面に凹凸の分布構\造が形 成されている防眩層を備える防眩フィルムが含まれているといえる。したが って、本件特許発明においては、スピノーダル分解による凝集のみにより表\n面に凹凸の分布構造が形成されている防眩層は含まないが、スピノーダル分\n解による凝集と微粒子の凝集の両方により表面に凹凸の分布構\造が形成さ れている防眩層は排除されていないのであり、第1実施形態に係る防眩フィ ルムが本件特許発明に含まれないとする被告の主張は採用できない。
(3) 以上を前提に実施可能要件の充足性について検討するに、第1実施形態は、\n防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を 急峻化するとともに、凹凸の数を増やすことにより、ディスプレイのギラツ キを抑制しながら防眩性を向上させるものである(【0078】)。第1実 施形態と、第2実施形態とは、上記原理を共通にし、第1実施形態では、ス ピノーダル分解によって凹凸を防眩層に形成するのに対し、第2実施形態で は、複数の微粒子を使用し、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶 剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことで、微粒子の適度 な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形成\nするという点において異なる(【0079】、【0080】)。 そして、本件明細書には、第1実施形態に関して本件3条件に係る防眩層 の特性は、溶液中の樹脂組成物の組み合わせや重量比、調製工程、形成工程、 硬化工程の施工条件等を変化させることで形成できるものであることが記 載されており(【0068】)、第2実施形態について、微粒子や、防眩層 を構成するマトリクス樹脂の材料(【0086】〜【0094】)、マトリ\nクス樹脂と微粒子との屈折率差(【0081】)、粒径(【0082】)、 防眩層におけるマトリクス樹脂と微粒子の割合(【0085】)、製造方法 (【0095】〜【0102】)、調製に使用する溶剤(【0096】)が 具体的に記載されるとともに、実施例5においては、シリカ粒子がブタノー ルに対して斥力相互作用を生じたことにより、凹凸構造が強調されること\n(【0188】)が、記載されているから、当業者は、第1実施形態に係る 【0186】及び【0187】の記載に加え、【0068】及び【0079】 の記載を併せ考えれば、各生産工程における条件の適切な設定や、アクリル 系紫外線硬化樹脂とアクリル系ハードコート配合物Aを共存させること等 の調整を行うことによって、第2実施形態に関して、実施例として記載され た防眩フィルムをはじめとする様々な特性の防眩フィルムを得られること を理解するものということができる。したがって、仮に本件特許発明が、微 粒子の凝集のみにより表面に凹凸の分布構\造が形成された防眩層を備える 防眩フィルムであるとしても、当業者は本件特許発明に係る防眩フィルムを 製造することができるといえる。
被告は、凹凸を形成する方法(原理)が異なれば凹凸の形成に適した材料 は異なり、それに伴い斥力相互作用が生じる材料の組み合わせも異なるから、 微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選 定についての手がかりは本件明細書に開示されていないと主張する。しかし、 微粒子の凝縮によって形成される凹凸構造の形状は、スピノーダル分解の凝\n集が進行したことによる上記液滴相構造の形状と同様のものであると解さ\nれるから、第1実施形態の凹凸構造を参考にできるものと解される。そして、\n上記のとおり、本件明細書には、本件特許発明に係る特性を導く上で主要な 構造となる凹凸の急峻性を生み出す原理とその具体的方法、原材料から製造\nの工程に係る記載があり(特に【0079】)、当業者は、微粒子の凝集を 用いてより急峻な凹凸を形成する場合には、微粒子の重量部を大きくし、さ らに必要に応じてブタノールの重量部を大きくし、斥力を大きくするなどし て、通常の試行錯誤の範囲内で、シリカ粒子やブタノールの量などを具体的 に決定し、その実施品を作ることができるものというべきである。
(4) 被告は、本件明細書の【0005】、【0008】の記載から、本件特許 発明の目的のうち、「高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルム を提供すること」とは、外光の映り込みを防止すること(高いヘイズ値とす ること)と、ディスプレイの表示性能\を維持すること(高い透過像鮮明度と すること)とのトレードオフの相関関係に起因して、従来、透過像鮮明度の 設計自由度が制約を受けていたところ、ギラツキを所定の範囲にまで抑制さ れるとともに、前記制約を克服した領域ともいうべき領域である本件高ヘイ ズ・高鮮明度領域における透過像鮮明度を備えた防眩フィルムを提供するこ とであると当業者は理解するから、本件高ヘイズ・高鮮明度領域について製 造方法の記載が求められると主張する。 しかし、まず、本件明細書の【0005】の記載からは、外光の映り込み の防止とディスプレイの表示性能\の維持の間に厳格なトレードオフの関係 があるとまで認めることはできない。本件特許発明の第1実施形態に係る実 施例1〜4、比較例2〜3、10及び11、第2実施形態に係る実施例5、 比較例1、4〜9における防眩フィルムのヘイズ値及び透過像鮮明度の数値 (本件明細書【0183】の【表1】、【0184】の【表\2】)からは、 ヘイズ値が同程度であっても透過像鮮明度が異なる防眩フィルムや、透過像 鮮明度が同程度であってもヘイズ値が異なる防眩フィルムが製造できるこ とが示されている。なお、被告は、本件明細書には本件特許発明に対応する 実施例としては実施例5しか記載されていない旨主張するが、これは、第1 実施形態が本件特許発明に対応するものでないという誤った前提に基づく ものであるし、仮に被告の前提によるとしても、ここで問題となるのはヘイ ズ値と透過像鮮明度の相関関係であるから、実施例5以外の実施例を排除す る理由はない。また、被告は、比較例1に関しては、「平均粒径が0.5μ m以上5.0μm以下の範囲の値に設定された」本件特許発明の前提条件で あるμmオーダーの表面凹凸構\造を備えた防眩層ではなく、nmオーダーの 表面凹凸構\造を備えた防眩層を有するから、参酌すべきではない旨主張する が、仮に比較例1を参酌しなかったとしても、上記認定が左右されるもので はない。
加えて、JIS規格(K7374)(甲43)の「附属書(参考)像鮮明 度測定例」では、像鮮明度の透過測定例として「ヘーズ値によって像の鮮明 さを評価できないアンチグレアフィルムなどのフィルムの測定例」があり、 附属書表1の試料1−2「ヘーズ値14.11、像鮮明度80.0%」と試\n料1−4「ヘーズ値14.67、像鮮明度5.9%」を示すとともに、ヘー ズ値は像の鮮明度とは異なり視感を反映していないのに対して、像鮮明度は 視感と一致していることが記載されていることからみて、防眩フィルムのヘ イズと透過像鮮明度の間には一定の相関関係があるものの、強い相関性まで 認められているものではなく、製造条件などで調整が可能であり、設計自由\n度があるといえる。
さらに、本件明細書の【0008】には「そこで本発明は、ディスプレイ のギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しな がらディスプレイのギラツキを抑制できると共に、高い透過像鮮明度の設計 自由度を有する防眩フィルムを提供することを目的としている。」と記載さ れ、本件特許発明は、防眩性、ギラツキの抑制、高い透過像鮮明度の設計自 由度という三条件の均衡を目的とするものと理解される。そして、本件明細 書の【0011】の「また、前記標準偏差を所定値に設定すると共に、防眩 層のヘイズ値を50%以上99%以下の範囲の値に設定することにより、デ ィスプレイのギラツキを抑制しながら、良好な防眩性を得ることができる。 また、防眩フィルムの光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度を0%以上60% 以下の範囲の値に設定することで、防眩フィルムの透過像鮮明度の設計自由 度を広く確保できる。」との記載は、良好な防眩性を示すヘイズ値が50% 以上であることを示すものであり、したがって、ヘイズ値は、ギラツキの抑 制や高い透過像鮮明度という他の条件との関係で上記数値範囲内で変動し てよいものである。上記のとおり、高いヘイズ値とすることとディスプレイ の表示性能\を維持することとの厳格なトレードオフの関係は認められず、甲 13添付の実験成績証明書3頁ではサンプル1(ヘイズ値96%、透過像鮮 明度65%)とサンプル2(ヘイズ値45%、透過像鮮明度2.0%)の防 眩フィルムが製造できたことが示されており、本件高ヘイズ・高鮮明度領域 の製造方法が具体的に記載されていなければ、本件特許発明が実施可能要件\nを欠くなどということはできない。
(5) 以上によれば、本件明細書には、当業者がその記載及び出願当時の技術常 識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明に係る物を 製造し、使用することができる程度の記載があるものと認められ、当業者が 本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載された\nものであると認められる。したがって、本件明細書につき実施可能要件を充足しないとした本件決定の判断には誤りがあり、取消事由2には理由がある。\n
3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)について
(1) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細 な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を 定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な 説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な 説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該 発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して 判断すべきものと解される。
(2) 本件特許発明は、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑 制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提 供することを目的とする(【0008】)。 ヘイズ値が50%以上あれば良好な防眩性は確保でき(【0011】)、 ヘイズ値と透過像鮮明度との間には一定の相関関係があるから、適宜ヘイズ 値を変動させることにより、透過像鮮明度も調整することができる。 ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させるには、 防眩 層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻 化すると共に、凹凸の数を増やせばよい(【0078】)。 そして、上記のような防眩フィルムについて、本件明細書には、凹凸の急 峻性を生み出す原理とその具体的方法、原材料から製造の工程、実施例等が 記載されていることは前記2(3)のとおりであるから、当業者は、その記載 及び技術常識に基づき、特許請求の範囲に記載された範囲において、本件特 許発明の課題を解決できると認識できるということができる。

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令和5(行ケ)10074  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年11月30日  知的財産高等裁判所

商標「ブランディングDX」(標準文字)が、識別力無しとした審決が維持されました。

本願商標は、「ブランディングDX」の文字を標準文字で表してなると\nころ、構成中の「ブランディング」の文字は、「顧客や消費者にとって価値\nのあるブランドを構築するための活動」等の意味を有する語であり(乙1〜\n7)、「DX」の文字は、「情報通信技術の浸透に伴うビジネスや社会の構造\n的変革」、「デジタル変革」を意味する「デジタルトランスフォーメーション」 を表す語である(乙8〜10)と認められる。\nそして、日本政府によって平成30年5月に「デジタルトランスフォー メーションに向けた研究会」が発足し、同年12月に同研究会によって「D X推進ガイドライン」が発表されて以降、政府による「DX推進指標」が公\n表され(令和元年7月)、閣議決定された「骨太の方針」に「民間における\nDXの加速」が盛り込まれ(令和3年6月)、その頃、総務省によって「自 治体DX推進計画」が策定されるなど、様々な業務や事業活動、業種等にお いて、デジタル技術の活用を促進することによる業務の変革(DX、デジタ ルトランスフォーメーション(化))の取組がなされている(乙11〜22、 28、47〜50)。また、そのような取組を表す際に、「○○DX」と表\す ことがしばしば行われている実情があり(乙13、14、21〜37)、ブ ランディングに関わる業務においても、こうした取組に対して、端的に「ブ ランディングDX」と称する事例がある(甲28〜40、乙43、44、4 7〜50)。
(3) そうすると、本件関連役務に関し本願商標に接した取引者・需要者は、 「ブランディング」についてのデジタル技術の活用による業務の変革である 「デジタルトランスフォーメンション」であること、すなわち「ブランディ ングのデジタルトランスフォーメーション(化)」を表したものと認識し、\n理解するものというべきである。 よって、本願商標は、役務の特徴、質(内容)を普通に用いられる方法 で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号に該当す\nると解するのが相当である。
(4) これに対し、原告は、「DX」の文字の理解が浸透していないと主張す るが、上記(2)の事実は、本件審決時までに「デジタルトランスフォーメー ション」を意味する「DX」の取組が広く啓発され、用語例として定着・普 及していたことを示すものにほかならず、上記主張は採用できない。原告は、 アンケートにおいて「DX」や「ブランディング」の理解が広がっていない 結果が出ていると主張するが(甲3〜5、18〜20、22、23)、例え ば甲3のアンケートでは、75%の回答者が少なくとも「DX」の言葉の意 味を理解しているとの結果が出ているなど、本件で証拠提出されたアンケー ト結果は必ずしも原告の主張を根拠づけるものとはいえない。 また、原告は、「ブランディングDX」の用語を使用する際、「プラン」 や「ソリューション」などの言葉で意味合いを補足している例がほとんどで\nあると主張するが、そうだとしても、「DX」の用語が本件関連役務の取引 者・需要者に理解されないと解すべき根拠になるものではない。
(5) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとし た本件審決の判断に誤りはない。

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令和5(行ケ)10063  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年11月30日  知的財産高等裁判所

本件商標は標準文字「VENTURE」です。先行商標は「遊」の漢字の下部に「VENTURE」を配した結合商標です。争点は「VENTURE」部分を要部として、類否判断ができるかです。特許庁は要部抽出可能と判断しましたが、裁判所は、分離観察については可能\としましたが、「VENTURE」の文字部分は要部ではないとして、審決を取り消しました。判決文の最後に引用商標があります。

ア 引用商標は、中央上部に筆文字風の書体による「遊」の漢字を大きく配 し、底辺部にゴシック体風の書体による「VENTURE」の欧文字を配 した構成からなる結合商標である。\n
(ア) この外観に着目して具体的に観察すると、中央上部の「遊」の文字 は、「VENTURE」を構成する各文字よりも縦横とも約5倍の大き\nさで、面積にして約25倍相当となる。「遊」の文字と「VENTUR E」文字部分(7文字分)全体の面積を比較しても、前者が後者の約3. 5倍ということになり、「遊」の文字部分が「VENTURE」の文字 部分に対して圧倒的な存在感を示している。
また、「遊」の文字の書体は、勢いのある行書の筆文字風であり、 「遊」の語義と相まって、看者に躍動感と趣味感を印象づける書体で あるのに対し、「VENTURE」は、太目の文字をわずかに右に傾け たゴシック体風の書体という以上の特徴はみられない。
そして、「遊」の文字部分は、中央上部に配置され、これが商標の全 体構成の中心部分をなすとの位置づけを否応なくアピールするのに対\nし、「VENTURE」の文字部分は、底辺部で「遊」を支える台座の ような印象を与える外観となっている。
(イ) 次に、称呼及び観念に着目して検討するに、引用商標の構成中、「V\nENTURE」の文字部分からは、 (2)で述べたところと同様、「ベン チャー」の称呼及び「冒険」の観念を生ずる。そして、「遊」の文字部 分からは、「ゆう」又は「あそ」(び、ぶ)の称呼を生じ、「あちこち 出歩いてあそぶ」等の観念を生ずる(乙5)。 したがって、これを全体として観察した場合、一応は「ユウベンチャ ー」又は「アソベンチャー」の称呼を生ずるといえるが、一義的に明確\nとはいえず、一連一体の文字商標としての読み方は定まらない(よく 分からない)という印象を取引者、需要者に与えることも否定できな い。
また、「遊」の部分から生ずる観念(あちこち出歩いてあそぶ)と 「VENTURE」の部分から生ずる観念(冒険)とを統合する単一の 観念を見出すことは困難であり、造語としての「ユウベンチャー」又は 「アソベンチャー」から特定の観念が生ずるとも認められない。\nこの点、原告は、上記各部分を通じて、「気ままに冒険する」といっ た観念上のつながりが理解される旨主張するが、連想の域を出ない希 薄なつながりにすぎず、ここに商標の出所識別機能の根拠を求めるに\nは無理がある。
イ 以上の認定を踏まえ、上記(1)の3)で例示したところを参考に、引用商 標における分離観察の可否及び要部認定について検討する。
引用商標は、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分からな る結合商標であり、原則として全体観察をすべきことは前述のとおりであ るが、上記各構成部分を比較すると、文字の大きさの違いからくる「遊」\nの文字部分の圧倒的な存在感に加え、書体の違いからくる訴求力の差、全 体構成における配置から自ずと導かれる主従関係性といった要素を指摘\nすることができ、称呼及び観念において一連一体の文字商標と理解すべき 根拠も見出せない等の事情を総合すると、引用商標に接した取引者、需要 者は、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分を分離して理解 ・把握し、中心的な構成要素として強い存在感と訴求力を発揮する「遊」\nの文字部分を略称等として認識し、これを独立した出所識別標識として理 解することもあり得ると解される。
他方、「VENTURE」の文字部分は、商標全体の構成の中で明らか\nに存在感が希薄であり、従たる構成部分という印象を拭えず、これに接し\nた取引者、需要者が、「VENTURE」の文字部分に着目し、これを引 用商標の略称等として認識するということは、常識的に考え難い。したが って、「VENTURE」の文字部分を引用商標の要部と認定することは できないというべきである。本件審決の判断中、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分との分離観察が可能という点は正当であるが、「VENTURE」の文字\n部分を要部と認めた部分は是認できない。
ウ 被告は、「遊」の文字部分が比較的大きく書されているとしても、「V ENTURE」の文字も需要者、取引者が認識するに十分な大きさで書さ\nれており、文字の大きさをもって「VENTURE」の文字部分が要部と なり得ないとはいえない旨主張する。確かに、相対的な文字の大小関係が あるにすぎない場合であれば、被告の上記立論も首肯できるものであるが、 本件における「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分との大き さの違いは、相対的な大小関係とは次元の異なるものである上、書体の違 いからくる訴求力の差、配置上の位置関係からくる主従関係性などの要素 も総合すれば、被告の立論は本件に妥当するものとはいえない。
なお、「VENTURE」という文字が引用商標の指定商品(被服)と の関係で出所識別標識としての機能を一般的に果たすかどうかという問\n題は、上記判断とは関係がない。

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令和5(行ケ)10060 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年11月15日  知的財産高等裁判所

赤色の図形内部に、「POPPO」の欧文字を白抜きした結合商標から、文字部分だけを抽出して類似判断ができるかが争われました。知財高裁は抽出できるとした審決を維持しました。

イ 本願商標の全体を観察すると、文字部分は、図形部分の内部に配置されてい るものの、図形部分の中央の目立つ位置に、白抜きの読み取りやすい書体で明瞭に 記載されているから、外観上、図形部分とは明確に区別して認識できるものであっ て、図形部分と文字部分がそれぞれ視覚的に分離、独立した印象を与えるものとい える。
ウ 本願商標の図形部分は、一見して何を表すものであるか看取することは困難\nであり、直ちに特定の観念及び称呼が生じると認めることはできない。他方、本願 商標の文字部分は、当該文字は辞書等に掲載のないものであって、特定の意味合い を認識させることのない一種の造語として認識されるものであって、特定の観念を 生じさせず、ローマ字読みした場合、「ポッポ」の称呼を生じるものといえる。 エ 以上を総合すると、本願商標は、図形部分と「POPPO」の文字部分とか らなる結合商標であるところ、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上\n不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないから、 その構成部分の一部であり、「ポッポ」の称呼を生じる文字部分である「POPPO」の部分を抽出し、当該部分(以下「本願要部」という。)だけを他人の商標と比較し\nて商標の類否を判断することも許されるというべきである。
・・・・
(3) 本願商標の指定役務は第43類「鳥から揚げを主とする飲食物の提供」を含 むものであり、引用商標1の指定役務は第42類「らーめん・お好み焼・たい焼・ フライドポテト・アイスクリーム及び清涼飲料を主とする飲食物の提供」であり、 引用商標2の指定役務は第43類「飲食物の提供」である。しかるところ、これら を提供する者はいずれも飲食サービス業者であって業種が一致する。また、飲食サー ビス業者においては、同一店舗において、ラーメンと空揚げとフライドポテト、お 好み焼きと空揚げなどを提供することも行われており(乙34〜39)、さらに、提 供する飲食物が相違する様々な店舗を同一経営者が飲食店グループとして運営する ことも一般的に行われているところである。
(4) 以上によると、本願商標と各引用商標は、それぞれの指定役務において使用 された場合、営業主体、すなわち役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあ るというべきであって、互いに類似するものであり、また、本願商標と各引用商標 は、「飲食物の提供」の役務との点で共通するから、指定役務が類似するといえる。

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令和3(ワ)26704  損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年7月26日  東京地方裁判所

 DVDのケースの「九鬼神流」などの記載は、商標的使用ではないと判断されました。

請求原因イ、ウ及び抗弁 (商標的使用)について
ア 甲18、34〜37によれば、本件大会ビデオ・DVDのケースの表紙・\n裏表紙、本件大会ビデオ・DVDの映像におけるテロップ、本件雑誌に掲載\nされた本件大会ビデオの広告、各種ウェブサイト上の店舗における商品であ る本件大会DVDのケースの表紙の画像やその説明において、「九鬼神流」、\n「九鬼神」、「高木揚心流」との記載があることが認められる。 もっとも、本件大会ビデオ・DVDのケースの表紙・裏表\紙における上記 「九鬼神流」等の記載の態様は前記1 ア 、 のとおりであり、本件大会 ビデオ・DVDの映像におけるテロップにおける「九鬼神流」等の記載の態 様は同 のとおりであり、本件雑誌に掲載された本件大会ビデオの広告にお ける上記「九鬼神流」等の記載の態様は同 のとおりである。「月刊 秘伝 WEB SHOP」における上記「九鬼神流」等の記載の態様は同 のとお りであり、甲34〜37によれば、各種ウェブサイト上の店舗における商品 である本件大会DVDの画像は前記1 ア の本件大会DVDのケースの 表紙のものであり、また、その説明文は、上記「月刊 秘伝 WEB SH OP」におけるものと同様のものであったと認められる。 そうすると、前記1と同様の理由により、それらの「九鬼神流」、「九鬼神」、 「高木揚心流」との表示は、関係する各記載やその使用態様から、日本武道\n国際連盟が主催した本件大会における演武を収録した本件大会ビデオ・DV Dに収録されている対象に関する説明をするものであり、本件大会ビデオ・ DVDの出所を示すものとはいえないから、これらの表示は需要者が何人か\nの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用され ていないものといえる。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10035 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 知的財産裁判例 令和5年7月19日  知的財産高等裁判所

「GODZILLA」は周知著名商標であるので、「GUZZILLA」は、4条1項15号違反として、無効であるとした審決が維持されました。

(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を 生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使 用したときに,当該指定商品又は指定役務が他人の業務に係る商品又は役務 であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該指定商品又は指定役 務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係 又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主\nの業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標を含むもの と解するのが相当である。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は, 当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表\示の周知著名性及び独創 性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は 役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務 の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指 定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基 準として,総合的に判断されるべきものである(平成12年最判参照)。 そして、この「同一の表示による商品化事業を営むグループ」には、表\示 を指定された商品に付し役務に用いるなどして商品の販売等の事業を営む他 の営業主のように、他人の表示に係る使用許諾(ライセンス)契約を締結し\nて事業を営む者をも含むと解すべきであるから、そこにいう「誤信されるお それがある商標」(広義の混同のおそれのある商標)には、使用許諾に係る 他人の表示と同一ないし類似の商標であって、これが商品に付され又は役務\nに用いられることにより、他人の表示に関するライセンス契約を締結して事\n業を営むグループに属する関係にある複数の営業主のうちに、この同一ない し類似の商標を用いて事業を営む者に属する関係にあると誤信されるおそれ がある商標を含むものというべきである。 以下、この観点から判断する。
(2) 商標の類似性の程度
ア 外観
本件商標は、「GUZZILLA」と、8文字の欧文字から成る。本件 商標において、「G」と「A」の字体は、やや丸みを帯び、「U」と3文 字目の「Z」の上端及び7文字目の「L」と「A」の下端は、それぞれ結 合し、3文字目及び4文字目の「Z」は、両文字の左下が前下方に鋭く突 尖しているほか、やや縦長の太文字で表されることによって、デザイン化\nされている。 引用商標は、「GODZILLA」と、8文字の欧文字から成る。被告 が引用した引用商標の文字は、標準文字であって、デザイン化されていな いが、実際には、様々な書体で使用されている。 本件商標と引用商標の外観とを対比すると、いずれも8文字の欧文字か らなり、語頭の「G」と語尾の5文字「ZILLA」を共通にする。2文 字目において、本件商標は「U」から成るのに対し、引用商標は「O」か ら成るが、本件商標において「U」と3文字目の「Z」の上端は結合し、 やや縦長の太文字で表されているから、見誤るおそれがある。もっとも、\n本件商標と引用商標は、3文字目において相違するほか、本件商標は前記 のとおりデザイン化され、全体的に外観上まとまりよく表されている。\nそうすると、本件商標と引用商標とは、外観において相紛らわしい点を 含むものということができる。
イ 称呼 本件商標の語頭の2文字「GU」は、ローマ字の表記に従って発音すれ\nば「グ」と称呼され、我が国において、なじみのある「GUM」などの英 単語と同様に発音すれば「ガ」と称呼される。したがって、本件商標は、 「グジラ」又は「ガジラ」と称呼され、語頭音は「グ」と「ガ」の中間音 としても称呼されるものである。
・・・
ウ 観念 本件商標からは特定の観念が生じず、引用商標からは怪獣映画に登場す る怪獣「ゴジラ」との観念が生じる。
エ 本件商標と引用商標の類似性
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼において相紛らわしいも のであって、外観においても相紛らわしい点を含むことから、類似性の程 度は高いものということができる。

◆判決本文

関連の審決取消訴訟事件です。

◆平成29(行ケ)10214

◆令和1(行ケ)10167


関連の不競法違反の事件です。

◆令和4(ネ)10063

1審です。

◆令和1(ワ)26105

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令和5(行ケ)10028  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年9月6日  知的財産高等裁判所

商標「梅水晶」について、識別力なしとした審決が維持されました。理由は、「鶏軟骨等を梅肉で和えた惣菜の商品として一般的名称であった」というものです。

前記(3)に挙げた各事実によれば、本件審決がされた当時、1)インターネッ ト上の商品販売サイトにおいて、原告以外の者が製造したサメ軟骨(又はそ の代替として用いられる鶏軟骨等)を梅肉で和えた惣菜商品に、「梅水晶」の 名称が付されて販売されていたこと、2)多数の飲食店において、サメ軟骨を 梅肉で和えた料理の名称として「梅水晶」の語が用いられ、客に提供されて いたこと、3)料理レシピを掲載しているウェブサイトにおいて、サメ軟骨の 代わりに鶏軟骨等を用い、これを梅肉で和えた料理が「梅水晶」の名称で複 数紹介されていたことが認められる。 これらの事実によれば、本願の指定商品の需要者は、「梅水晶」の語が本願 商標の指定商品に使用された場合には、サメ軟骨又はその代替として用いら れる鶏軟骨等を梅肉で和えた惣菜の料理名又はこのような惣菜の商品を一般 的に指す名称であると認識するものといえ、原告の製造販売する商品を認識 するとは認められない。したがって、本願商標は、本願の指定商品との関係において、自他識別力を有しておらず、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識するこ とができない商標であると認められる。
(5) 原告の主張に対する判断
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)のとおり、1)原告が原告商品の 商品名として独自に考案した「梅水晶」の名称を付し、現在まで25年以 上にわたって販売しており、原告の取引先は平成27年当時で1000社 を超え、これら多くの取引先を通じ、「梅水晶」標章を付した原告商品が全 国のホテルや飲食店に納入されていること、2)全国の原告の取引先が、「梅 水晶」の標章を付した原告商品の出所が原告であると認識できることを証 明する旨の書面に押印していること、3)原告商品を紹介した複数のテレビ 番組において、「梅水晶」の標章を付した原告商品の出所が原告であること が紹介されたこと、4)「大阪府珍味協同組合」が発行した冊子「食の都 大 阪 五十年の歩み」に掲載された年表\において、平成15年の「珍味組合 員の売筋商品」の欄に「梅水晶(サブ水産)/TVでの紹介があり人気商 品となる」との記載があること、5)原告よりも規模の大きい会社で、原告 商品と競合商品を販売する二つの会社が、「梅水晶」とは異なる標章を付し て商品を販売していることから、本願商標は、本件審決の時点で、原告の 業務に係る商品を示すものとして、原告商品を取り扱う業界の取引者、需 要者の間に広く知られるに至っていたと主張する。 しかし、原告の主張は、本願の指定商品の需要者が、ホテルや飲食店等 の事業者のみであることを前提としているところ、上記需要者には一般消 費者が含まれると解すべきことは前記(2)のとおりであり、原告の主張には その前提に誤りがある。
また、前記1)については、「梅水晶」の名称は原告が考案し、原告がサメ 軟骨に梅肉を和えた惣菜商品に本願商標を付して販売を開始した事実が 認められるが(甲93、弁論の全趣旨)、当初は特定の商品の名称として使 用されていた語が、一定期間使用され、当該商品と同種の商品等を指す一 般名称となり、自他商品を識別する標章としての機能を喪失することはあ\nり得るのであって、上記事実があることをもって、本願商標が商標法3条 1項6号に該当すると解し得ないことにはならない。前記2)については、原告が証拠として提出している「証明願」は、一般消費者を含まず、原告の取引先である業者のみの「証明願」にすぎないから、これをもって、「梅水晶」の名称が、原告の商品の出所表示として本願の指定商品の需要者の間で、全国的に認識されるに至ったことを示すもの\nとは認められない。前記3)から5)についても、本願の指定商品の需要者の一部の認識を窺わせる事情にすぎず、一般消費者を含む本願の指定商品の需要者において、 「梅水晶」の名称が原告の商品を表示するものと一般的に認識していたこ\nとを示すものとはいえない。
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(4)のとおり、「楽天市場」や「アマ ゾン」において「梅水晶」の語で検索して出てくる商品で、本願の指定商 品と関連するもののうち、原告の出所に係る商品であることが明らかなも のが、「楽天市場」については約38%、「アマゾン」については50%に 及んでおり、本件審決が別掲1として挙げた事例は少数のデータを恣意的 に抽出したものであって、これらの事例によって一般消費者の間で「梅水 晶」の名称が付された商品が原告の出所に係るものであると理解されてい るとは認められないと本件審決が判断したのは不当である旨主張する。 しかし、原告の主張を前提としても、「楽天市場」及び「アマゾン」にお いて「梅水晶」の語で検索して出てくる本願の指定商品と関連する商品の うち、原告の商品でないものが半数又はそれ以上を占めるのであって、こ のことからすれば、本件審決が少数のデータを恣意的に抽出して不当な判 断をしたとは解されない。同様に、本判決の前記(3)において挙げた事例も、 少数のデータを恣意的に抽出したものであるとはいえず、これらの事例に 照らし、本願商標が本願の指定商品との関係において自他識別力を有して いないと判断できることは、前記(4)のとおりである。
ウ 以上のとおり、原告の主張はいずれも採用することができない。 その他、原告がるる主張する事情を考慮しても、本願商標は、本願の指 定商品との関係において自他識別力を有しないとの結論は左右されない。

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令和4(ワ)2551  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年11月10日  東京地方裁判所

被告の行為は、不競法の品質誤認表示に該当するとして、約9200万円(損害額自体は約1億4000万円と認定)の損害賠償が認められました。

(1) 不正競争防止法2条1項20号の誤認惹起行為が不正競争に該当し違法と されるのは、事業者が商品等の品質、内容などを偽り、又は誤認を与えるよ うな表示を行って、需要者の需要を不当に喚起した場合、このような事業者\nは適正な表示を行う事業者より競争上優位に立つことになる一方、適正な表\ 示を行う事業者は顧客を奪われ、公正な競争秩序を阻害することになるから である。 このような趣旨に照らすと、「品質」について「誤認させるような表示」に\n該当するか否かを判断するに当たっては、需要者を基準として、商品の品質 についての誤認を生ぜしめることにより、商品を購入するか否かの合理的な 判断を誤らせる可能性の有無を検討するのが相当である。\n
(2) 被告表示が「品質」について「誤認させるような表\示」に該当するかにつ いて
ア 令和元年5月8日から令和3年8月30日までの表示について\n
前提事実(5)ア4)の「全国導入実績2,500台以上」との表示は、被告\nが販売している業務用生ごみ処理機、すなわち被告商品は、全国で250 0台以上が販売されているとの事実を、「ゴミサー/ゴミサポーターはその 処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で\n2,300台以上が稼働しています。」との表示は、被告商品は、その処理\n方法及び性能が多くの企業や施設で認められたため、全国で2300台以\n上が販売されたとの事実を、「全国・海外での導入実績は3,500台以 上。」との表示は、被告商品は、全国及び海外で3500台以上が販売され\nたとの事実を需要者に対し認識させるものであると認められる。 他方で、前提事実(5)エによれば、被告が令和元年5月8日以降販売して いる被告商品の過去の累計販売数は2300台に達するものではないこと が認められ、少なくとも、上記「全国導入実績2,500台以上」、「ゴミ サー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認めら\nれ、おかげ様で現在、全国で2,300台以上が稼働しています。」及び 「全国・海外での導入実績は3,500台以上。」の表示(以下、これらを\n併せて「本件誤認惹起表示1)」という。)は、いずれも、実際の販売実績と は異なるにもかかわらず、多数の被告商品が販売されており、このような 販売実績は、被告商品のごみ処理方法及びその性能が他の同種商品に比べ\nて優れたものであることに起因することを強調するものであって、その結 果、需要者に対し、被告商品がその品質において優れた商品であるとの権 威付けがされ、また、他の需要者も購入しているという安心感を与えるこ とになるため、需要者が商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる 可能性があるというべきである。そうすると、本件誤認惹起表\示1)は、「品 質」について「誤認させるような表示」に該当すると認められる。\n
この点について、被告は、本件誤認惹起表示1)は、原告と被告との間の 取引が終了した後、一時的かつ短期的に残存していたものにすぎず、かつ、 被告が販売した原告商品の販売実績を記載したものであるから、虚偽では なく真実そのものであると主張する。しかし、前記のとおり、需要者は、 本件誤認惹起表示1)が被告が過去に販売していた製品についての記載であ ると認識することはなく、現在(被告ウェブページ掲載時)販売している 被告商品についての記載であると認識するといえるから、その表示の残存\nが一時的かつ短期的であったとしても、需要者が購入するか否かを決断す る時点において、その合理的な判断を誤らせる可能性は否定できない。し\nたがって、被告の上記主張は採用することができない。
・・・
(3) 被告の主張について
被告は、販売実績の違いは、商品の品質の違いを推認するものにすぎず、 原告商品及び被告商品の間に、性能及び機能\における違いがない本件におい ては、原告商品と被告商品の品質の違いが推認されるものではないと主張す る。 しかし、前記(1)で説示した不正競争防止法2条1項20号の誤認惹起行為 が不正競争に該当し違法とされる趣旨に照らすと、客観的な性能及び機能\に おける違いがないとしても、前記(2)のとおり、本件誤認惹起表示1)ないし3) は、いずれも、販売実績について事実と異なる表示をするとともに、同販売\n実績が品質の優位性に起因するものであるとの表示をすることによって、そ\nのような販売実績をもたらす「品質」であるとの誤解を需要者に与え、その 結果、公正な競争秩序を阻害するものである以上、同号の「品質」について 「誤認させるような表示」に該当すると認めるのが相当である。\n

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令和5(ネ)10041  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年11月16日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 本件商品の輸入が本件特許権を侵害すると主張して税関に輸入差止の申立てをしたことが不法行為に該当するとして、約4000万円の損害賠償請求がなされました。知財高裁は1審と同じく、無効理由がないとして請求を棄却しました。

原告は、甲7公報に記載されたバー10が独立した運動器具の発明である といえるかに関し、1)甲7公報記載の発明は、従来技術であるバーベル装置(バー 部分と重り部分からなるもの)における問題(バーが長いことによってバランスを とることが困難であるとの問題)を解消するため、バー部分を短く改良した三頭筋 運動器具であるところ、バーベル装置においては、重りを着けずにバー部分のみで 運動を行うことが想定されているのであるから、バーベル装置を改良した甲7公報 記載の発明においても、バー10単独での使用が可能である、2)甲7公報には、発 明の目的及び別の目的に係る記載があるところ、前者の記載にある「中央に位置す る重り支持セクションを有する」との文言が後者の記載からあえて削除されている から、甲7公報記載の発明は、重り支持プラットフォーム及び重りを備えない状態 で使用することを当然の前提にしている、3)甲7公報記載の発明は、バー10を単 独で使用することによっても一定の作用効果を奏する、4)バー10は、三頭筋運動 において非常に重要な役割を果たしているとして、甲7公報記載の発明においては、 バー10を独立して捉えることが可能であり、それ自体が独立した運動器具の発明\nであると主張する。
そこで検討するに、1)甲7公報には、「比較的長いバーを有しバランスをとるこ とが困難であるなどの従来のバーベル装置が有していた問題を解消するため、本件 各発明は、両側にあるハンドルを備える中央の重り支持セクションを有し、各ハン ドルが複数の握持位置を有する」旨の記載があるが、補正して引用した原判決第4 の1(4)アにおいて説示したところに照らすと、仮に、従来のバーベル装置が重り を着けない状態で使用されることがあるとしても、そのことは、甲7公報記載の発 明においても、バー10のみの状態(重りのみならず支持クランプ組立体をも取り 外した状態)での使用が想定されていることの根拠となるものではない。
また、2)甲7公報には、「本発明の目的は、中央に位置する重り支持セクション を有する、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフティング装置 を提供することである。本発明の別の目的は、複数の握持位置を備える両側にある ハンドルを有する、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフティ ング装置を提供することである。本発明の別の目的は、end to endの手 の配置を可能にする、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフテ\nィング装置を提供することである。最後に、本発明の全体的な目的は、安価であり、 高い信頼性を有し、その意図される目的を達成するのに高い有効性を有する、説明 した目的のための装置内にある改善された要素及び機材を提供することである。」 との記載があるが、これらの記載は、甲7公報記載の発明の目的について述べるも のであり、その具体的な構成について詳述するものではなく、補正して引用した原\n判決第4の1(2)イ(オ)のとおりの甲7公報記載の発明の具体的な構成に係る記載に\nも照らすと、「本発明の別の目的」及び「本発明の全体的な目的」に係る各記載中 に「本発明の目的」に係る記載中の「中央に位置する重り支持セクションを有する …ウエイトリフティング装置」などの記載がないことをもって、甲7公報記載の発 明において、バー10のみの状態での使用が想定されているということはできない。 さらに、3)前記1)において説示したのと同様、補正して引用した原判決第4の1
(4)アにおいて説示したところに照らすと、仮に、重りを取り外した状態で使用す ることによっても甲7公報記載の発明の効果を奏する場合があるとしても、そのこ とは、甲7公報記載の発明において、バー10のみの状態(重りのみならず支持ク ランプ組立体をも取り外した状態)での使用が想定されていることの根拠となるも のではない。なお、4)甲7公報記載の発明においてバー10が重要な役割を果たしているとしても、そのことは、原告の主張を直ちに根拠付けるものではない。以上のとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。
(2) 原告は、相違点1)に係る本件各発明の構成の容易想到性に関し、リング状\nの器具をトレーニング器具として用いることは慣用技術であるから、リング状のバ ー10をトレーニング器具とすることは、単にスポーツ器具用部品であるバー10 に慣用技術を適用するだけのことであり、当業者にとって極めて容易な事柄である と主張する。しかしながら、これまで説示したとおり、本件においては、バー10のみ(甲7発明)が独立した引用発明であると認定することはできず、バー10のみならず重 り支持部分をも備えた甲7発明(被告)が引用発明であると認定するのが相当であ るから、甲7公報記載の発明を引用発明とする本件各発明の進歩性の判断(相違点 1)に係るもの)に当たっては、そのような甲7発明(被告)から重り支持部分を取 り除くことについての容易想到性が問題となるところ、甲7発明(被告)における バー10は、甲7発明(被告)を構成する部材の一部であり、重り支持部分と不可\n分の部材であるから、バー10のみをもって、原告が主張するリング状の器具であ るとみることはできない(なお、原告の主張も、リング状の器具として、甲8公報 記載のトレーニング用器具、甲9公報記載の体育器具のほか、ラタンリング、ピラ ティスリング、ヨガリング、フープ等を念頭に置いている。)。 以上によると、原告が慣用技術であると主張する技術の適用により当業者が相違 点1)に係る本件各発明の構成に容易に想到することができたとは認められない。\n

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1審はこちら。

◆令和4(ワ)3847

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令和4(行ケ)10112  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年10月30日  知的財産高等裁判所

争点となった無効理由の1つが新規事項か否かです。知財高裁は審決と同じく、新規事項ではないと判断しました。

特許法17条の2第3項は、特許請求の範囲等の補正については、願書に最初に 添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなけ ればならない旨規定するところ、ここでいう「最初に添付した明細書、特許請求の 範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又 は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味するものとい うべきである。そして、第三者に対する不測の損害の発生を防止し、出願当初にお ける発明の開示が十分に行われることを担保して先願主義の原則を実質的に確保し\nようとするとの見地からすれば、当該補正が、上記のようにして導かれる技術的事 項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正 は「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するもの に当たるというべきである(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563 号同20年5月30日特別部判決参照)。
・・・
上記(3)のとおり、本件補正前の「前記有料自動機の動作状態を監視し、結果を前 記管理サーバへ送信する」こと(以下「監視して送信」という。)は、本件補正後の 「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を出力」す ること(以下「情報を出力」という。)に対応し、両者はともに当初明細書等に記載 された事項である。 ここで、監視のためには監視対象の情報を取得する必要があり、情報を出力する ためには出力したい情報に関するデータの入力が必要なことは自明のことであるか ら、上記「監視して送信」及び「情報を出力」のいずれの処理においても、その前 提として、ランドリー装置の動作に関係する何らかの信号を検知すること自体は当 然に行われることであり、当初明細書等において自明の前提であるといえる。そし て、この自明の前提は、検知する信号の種類(電流値、コイン信号等)や監視の具 体的な方法(計測値に基づく判断か、推測か等)を問わないものであり、本件補正 の前後で何ら変わることのないものであるといえる。 そうすると、本件補正前の請求項1の記載は、上記自明の前提を「前記有料自動 機の動作を検知するセンサーとを含み、」及び「前記センサーの検知信号に基づいて」 との事項によって更に特定したものであり、補正事項1において当該事項を削除す ることで、センサーの検知信号以外の情報に基づくものが含まれることになったと しても、上記自明の前提に照らせば、当初明細書等に記載された事項であって、新 たな技術的事項を導入するものとはいえない。またこの点は、上記自明の前提の具 体的な態様が「電流センサー」から他の手段に変わったとしても、「監視して送信」 や「情報を出力」する処理が行われる限り、本件発明1の課題(各設置場所を巡回 することなく有料自動機の動作状態を容易に確認することが可能な有料自動機の制\n御システムを提供する(甲2の【0005】))は解決され、効果に顕著な差が生じ ることがないことからも裏付けられる。 したがって、補正事項1は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導 かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないと いえる。 そして、本件補正の内容に照らすと、上記検討した補正事項1及び2のほかにお いても、当初明細書等に記載した範囲を超えるものはないと認められる。
(5) 原告主張について
原告は、1)当初明細書等には、センサーの検知信号に基づく構成が具体的に記載\nされており、他の構成は記載されていないから、センサーの検知信号に基づく構\成 は単なる例示ではない、2)本件審決の判断と異なり、有料自動機内の有料自動機制 御部10内の動作状態を示す回路の監視結果を示す信号を送信する方法は自明とは いえない、3)補正要件違反を認めないとすれば、センサーを含まず、料金収受情報 から有料自動機が動いているかを推測する方法が含まれることになる旨を主張する。 上記1)の主張について検討すると、センサーの検知信号に基づく構成は、上記自\n明の前提を具体化した態様の一つではあるものの、本件発明1は「監視して送信」 又は「情報を出力」により巡回せずにランドリー装置の動作状態を確認するという 課題を解決するものであるから、センサーの検知信号でなければ課題を解決し得な いということはなく、「監視して送信」又は「情報を出力」するために必要な情報が 入力されていれば足りる。当初明細書等にセンサーの検知信号に基づく構成しか例\n示がないとしても、上記自明な前提に対応する構成がそれのみに限定されることに\nはならない。 上記2)の主張について検討すると、本件審決は、有料自動機制御部10内にある 回路や素子からの信号が、センサー以外の検知信号に基づくものを説明のために例 示したものであって、当該例示が自明であることを補正の根拠として評価したもの ではないから、当該例示が自明であるか否かは、本件補正の適否の判断を左右する ものではない。

◆判決本文

関連事件です(当事者が同じ)。

◆令和5(行ケ)10040

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令和4(ワ)6582  販売差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年10月31日  大阪地方裁判所

服の形状について、商品形態模倣(不競法2条1項3号)を主張しましたが、裁判所は、模倣とは認めませんでした。

イ 実質的同一性について
(ア) 原告商品4の形態と被告商品4の形態を比較すると、両者は、形態A及びE、 並びに、形態B及びGの各一部(形態Bのうちウエスト部を絞ったとの形態、形態 Gのうちパンツのセンタープレスの折り目を中心に、左右に3個ずつ、計6個のパー ルの装飾が連なって施されている形態)において共通する。他方、両者は、1)ウエ ストのゴムの有無(形態B)、2)フロントのチャックの有無(形態C)、3)フロン トのタックの有無及びウエストから臀部のシルエット(形態D)、4)臀部のポケッ\nトの個数(形態F)、5)パールの大きさ(形態G)、6)パールの止め方(形態H) において相違する。
(イ) 原告は、両商品の全体的なシルエット及び裾のパール装飾があることにおい て同一であり、パールの大きさの差異はわずかであり、両商品の形態は実質的に同 一であると主張する。 上記4)の相違点については、上記(3)イ(イ)の検討と同様の理由から、上記6)の相 違点については、上記(2)イ(イ)の検討と同様の理由から、いずれも商品全体から見 ると些細な相違点である。また、上記5)の相違点については、上記(2)イ(イ)と同様 の理由から、商品全体に対する需要者の受ける印象に強く影響するものとはいえな い。しかしながら、上記1)及び2)の相違点は、上記(3)イ(イ)と同様の理由から、ま た、上記3)の相違点は、腰回り全体のシルエットの相違であり、いずれも需要者が 判別でき着目する点であるといえるから、いずれも商品全体に対して需要者の受け る印象に大きく影響するものといえる。 以上によれば、原告商品4と被告商品4の形態が実質的に同一であると認めるこ とはできない。
ウ ありふれた形態であるかについて
仮に、原告商品4と被告商品4の形態が実質的に同一であるとしても、次の理由 から、上記イの両商品の共通点に係る形態は、いずれもありふれた形態であると認 められる。すなわち、形態A及びE、並びに、形態Bの一部(ウエスト部を絞った との形態)については、従前から多数存在する商品形態である(弁論の全趣旨)。 また、形態G(裾のパールの装飾)については、上記ア(ウ)のとおり、原告商品4の 販売以前に裾にパール装飾を施したガウチョパンツが販売されていたところ、当該 商品と原告商品4とはパンツの形状やパールの配置、大きさが異なるが、上記(1)ア
(ウ)bないしdのとおり、平成30年から平成31年当時、パール装飾のある商品が 人気となって複数の商品が販売されていたことからすれば、ストレートパンツの裾 に形態Gのパールを施すことは容易に着想し制作することができる。

◆判決本文

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令和3(ワ)4061  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年10月31日  大阪地方裁判所

 特許権侵害訴訟です。無効理由あり(進歩性無し)として権利行使不能と判断されました。

ウ 相違点1−3について
「有効スティッチ速度」及び「規定されたスティッチ速度」は、本件発明3の構\n成要件3F2の「効果的ステッチレート」及び「所望の織物ステッチレート」と、 それぞれ同義と解され(前記2(5)ウ)、構成要件1G2は、タフティングされた物\n品の模様の外観が所望の模様となるように、模様として見えるタフトよりも実際に 打ち込むタフトが多くなるようにバッキング給送ロールを制御することを特定する のであるから(前記2(5)ア(ア))、前記4(1)イと同様の理由で、乙4公報に接した 当業者は、乙4発明から相違点1−3にかかる本件発明1の構成について容易に想\n到し得ると認められる。
エ 相違点1−4について
前記2(6)アのとおり、構成要件1G3は、規定されたスティッチ速度がゲージに\n従って決定されることを特定するものである。 証拠(乙2、13)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許1の優先日前において、 ゲージは、カーペット構造を制御する必須のパラメータの一つであり、タフティン\nグ機の単位当たりのニードル本数のことでもある。また、本件明細書1(【0049】) には、一部の従来のタフティングシステムにおいては、タフティング模様に対する スティッチ速度は概してタフティングマシンのゲージと一致し、タフティングマシ ンのゲージは縦糸方向の1インチ(2.54cm)当たりの針数に相当し、縦糸方 向の1インチ当たりの針数は概して横糸方向の1インチ当たりのスティッチの数に 等しい旨が記載されている。これらによれば、本件特許1の優先日前において、ゲ ージと模様として見えるタフトの密度を一致させること、すなわち、タフティング された物品の模様の外観において、横糸方向と縦糸方向の密度を一致させるように バッキング給送速度を制御することは、従来技術として存在したものと認められる。 そして、前記4(1)イのとおり、乙4発明は、バッキング材料の給送速度を任意に 変更し得る発明であることに照らすと、乙4公報に接した当業者は、乙4発明から、 規定されたスティッチ速度が、少なくともゲージに従って決定されることを容易に 想到し得るものと認められる。
(4) 顕著な効果の有無
原告は、本件発明1は、所望の位置に所望のヤーンをスティッチすることが可能\nであり、織物の見た目がずれることなく正確なゲージ範囲の模様となるという顕著 な効果を奏する旨を主張する。しかし、前記4(1)イと同様の理由で、タフティング された物品の外観が所望の模様となるように、模様として見えるタフトよりも実際 に打ち込むタフトが多くなるようにバッキング給送ロールを制御する技術である本 件発明1は、実質的に乙4発明に含まれるものであり、その効果についても顕著な 効果があるとは認められない。
(5) 以上から、本件発明1は、乙4発明から容易に発明することができたといえ るから、本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものと認められ、原告 は被告に対してその権利を行使することができない(特許法104条の3第1項、 123条1項2項、29条2項)。

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令和5(ネ)10048  販売差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和5年11月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

ブーツ「Dr.Martens」について、原審は、商標権侵害と不競法の周知商品等表示に該当するとして、差止を認めました。1審被告は控訴しましたが、知財高裁も周知商品等表示に該当すると判断しました。

これに対し、控訴人は、黒を含む暗色系のウェルトと明るい色合いの縫 合糸との組合せによって明暗のコントラストを演出する靴製品にさしたる個 性や特異性はない旨主張する。確かに「黒色のウェルトと明るい黄色の糸の ステッチ」という形態だけを単独で取り上げれば、靴製品のパーツ(ウェル ト、ステッチ糸)において普通に使用されることが想定される、ありふれた 色彩のうちの任意の組合せにとどまるものであり、それだけから特別顕著性 を認めることは、過剰な独占を認める結果になり相当でない。黒と明るい黄 色とのコントラストによってウェルトステッチが明瞭に視認できるという効 果があるにしても、控訴人の主張するとおり、これに類する明暗のコントラ ストが採用されている靴製品は他にも普通に見受けられるところ(乙32、 33)である。
しかし、本件において、被控訴人は、被控訴人商品を「被控訴人主張形態 (ア)ないし(ク)の形態的特徴を全て有するもの」として定義し(原判決別紙 「原告商品目録」)、これらの「形態上の特徴を全て備える被控訴人商品の 全体の形態」が被控訴人の周知の商品等表示であるとして、不競法2条1項\n1号の不正競争に係る請求を組み立てているところである(原判決15頁2 3行目〜24行目)。
当裁判所は、被控訴人のこの主張を前提に、黄色のウェルトステッチ(形 態(ア))だけでなく、形態(ア)〜(ク)を全て備える被控訴人商品の全体の形態 が商品等表示に該当するかどうかを検討し、そのような観点から、被控訴人\n商品の特別顕著性を肯定したものである。控訴人の主張は、黄色のウェルト ステッチ(形態(ア))だけに着目した議論としては首肯できるにしても、当裁判所の上記判断を左右するものではない。
(4) なお、これに関連して、原審の判断について付言しておく。
原審は、被控訴人商品が備える形態のうち、黄色のウェルトステッチ(形 態(ア))だけを取り上げて、これが周知の商品等表示に当たると判断してい\nるところ、この判断は、控訴人が控訴理由で批判しているとおり、弁論主義 に反するものであったといわざるを得ない。もっとも、被控訴人は、当審に おいて、原審の判断は被控訴人の主張と異なるものではないとの趣旨を述べ ているから、その瑕疵は治癒されていると解されるが、実体判断として採用 できないことは上述のとおりである。
3 被控訴人商品の形態の周知の商品等表示該当性その2(周知性の有無)に\nついて
(1) 上記1の認定事実のとおり、被控訴人商品を含む「1460 8ホール ブーツ」は、昭和60年以降現在に至るまで、被控訴人の日本子会社である ドクターマーチンジャパンを通じて我が国において販売されていること、そ の販売チャンネルは、同社の運営する実店舗72店舗及び公式オンラインス トアのほか、靴小売りチェーン、セレクトショップ等の正規取扱店が含まれ ること、「1460」シリーズの売上げは、令和3年度だけで10万足近く、 販売額で14億円余りに上ること、ドクターマーチンジャパンは、ファッ ション雑誌を中心に「ドクターマーチン」の広告を継続的に掲出しており、 被控訴人商品の写真が掲載されたものもあること、被控訴人商品は、雑誌等 メディアにも再三取り上げられており、その中には、「一目でドクターマー チンだとわかる黄色のウェルトステッチやロゴ入りのヒールループなど…も 特徴」、「ドクターマーチンのトレードマークともいえるイエローステッチ」 など、特に形態(ア)に具体的に言及し、これがドクターマーチンのブーツの 最大の特徴であるとの趣旨のコメントをするものが多いことが認められる。
さらに、被控訴人の依頼により行われたアンケート調査(本件被控訴人 調査)では、「店舗、通信販売サイト、雑誌等で革靴やブーツを見たり、過 去1年以内に革靴やブーツを購入した15歳から59歳までの全国の男女」 を対象に(1019人から回答)、被控訴人商品の写真を示した上で、当該 写真のように靴の外周に沿って黄色のステッチのある革靴やブーツはどこの ブランドの商品だと思うかと質問したところ、「ドクターマーチン」を想起 できた者は、30.7%(自由回答式)〜37.6%(選択式)であったと いうのである(前記引用に係る認定事実)。 以上によれば、形態(ア)〜(ウ)の特徴を備える被控訴人商品の形態は、需 要者の間に広く認識されており、周知の商品等表示に該当するものと優に認\nめられる。
(2) これに対し、アンケートの対象者を「15歳から69歳までの全国の男 女」とする本件控訴人調査の結果では、アンケートで示された写真から「ド クターマーチン」を想起できた者は全回答者の5.47%などとされている (乙15〜18)ところ、控訴人は、これは周知性を否定するものであり、 アンケートの対象者として、控訴人各商品及び被控訴人商品の需要者である 一般消費者を広く対象とする本件控訴人調査の結果を採用すべきであると主 張する。
しかし、本件控訴人調査は、被控訴人商品の全体の形態を示すことなく、 ウェルト、黄色のウェルトステッチ及びアウトソールが写っている部分のみ\nを切り取った写真を示して質問が行われている(乙15の2〔2頁〕)とこ ろ、被控訴人商品全体の形態の周知性が問題となっている本件において、適 切な質問方法とはいえない。また、需要者の範囲に関しても、革靴又はブー ツに関心のある消費者という属性を求めるのが適切というべきであり、この 点、本件被控訴人調査の対象者はやや絞りすぎ(特に「過去 1 年以内」の要 件)のきらいはあるものの、本件控訴人調査よりは、実際の需要者に近い対 象者の選定になっていると評価できる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆令和2(ワ)31524
#知財 #訴訟 #不競法 #不正競争行為 #周知

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平成27(ネ)10069  売買代金請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成27年12月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

かなり前の判決ですが、漏れていたのでアップします。
部品メーカが完成品メーカに対してした特許保証条項について、どのような義務があったのかが争われました。1審では、そもそも特許権侵害ではなかったのだから、払ったライセンス料相当額の損害との間に相当因果関係が認められないと判断しました。知財高裁は、侵害判断については同様ですが、相当因果関係ありとして、一定の範囲の損害賠償を認めました。ただ、過失相殺7割としました。

確かに,前記1のとおり,本件口頭弁論終結時においても,本件チップセットが 本件各特許権を侵害するものであると認めるに足りる証拠がない以上,結果的に見 れば,本件ライセンス契約が締結された時点において,控訴人がWi−LAN社と の間でライセンス契約を締結し,ライセンス料として2億円を支払う必要性があっ たということはできない。
イ しかし,以下の事情を総合すれば,被控訴人による本件基本契約18条2項 違反と,控訴人のライセンス料相当額の損害との間には,相当因果関係を認めるこ とができる。
(ア) 控訴人は,Wi−LAN社から本件各特許のライセンスの申出を受けたこ\nとから,被控訴人に対し協力を依頼した平成22年12月9日以後,継続して,被 控訴人又はイカノス社に対して,本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否 かについての回答を求めていたところ(前記2(1)ア,ウ,エ,サ),イカノス社か らは,平成23年3月22日には,コネクサント社等が詳細な技術分析の結果とし て,Wi−LAN社とライセンス契約を締結していることから,Wi−LAN社の 主張が妥当なものである可能性が高く,イカノス社において,多くの時間とリソ\ー スを費やして技術的分析を行うことは望んでおらず,コネクサント社製のチップ セットに比べてイカノス社製のチップセットの供給量は少ないことから,控訴人と Wi−LAN社とのライセンス契約が最良の解決であると考えていることが述べら れ(前記2(1)セ),同年8月には,技術分析の結果(乙20)に基づき,別件特許 については,これらの技術を使用していないとの報告がされたものの,本件特許1, 2,4,6及び9については,これらの特許がDSLAMに関連する特許であり, イカノス社が提供したCPEの機能に必要な技術とは無関係であるとの報告がされ\nたのみで,これらの技術を使用しているのか否かについての報告がなく,本件特許 3,5,7及び8については何らの報告もなく,かえって,Wi−LAN社に対し て支払うロイヤルティを3社で分担することが提案され(前記2(1)ト),同年10 月には,イカノス社の技術は,コネクサント社の技術と基本的に同じであって,コ ネクサント社が取得したライセンスでカバーされていない技術が残っているのか疑 問があり,Wi−LAN社の主張が妥当である部分については,掘り下げるつもり はないことが述べられ(前記2(1)ヌ),同年11月には,再度の技術分析の結果(乙 21)に基づき,別件特許については,これらの技術を使用していないとの報告が されたものの,本件各特許については,DSLAM送信機の請求項である,CPE の請求項と思われる,DSLAMの実装に固有の要素であり,CPEの実装には見 られない要素であるなどと,本件各特許の請求項についての簡単な報告がされたの みで,本件チップセットが本件各特許発明を充足しているのか否かについての報告 がされていない(前記2(1)ノ)。チップ・ベンダーであるイカノス社が,本件チッ プセットが本件各特許権を侵害するか否かについての調査依頼に対して,上記のよ うな対応をしたことから,控訴人は,同年12月には,ADSL Annex.C については明らかに本件各特許権を侵害するもので,技術的にこれが非侵害である ことを立証することはできない旨の認識を有するに至ったものである(前記2(1) ハ)。
(イ) また,同年4月には,被控訴人,控訴人及びイカノス社の間において,W i−LAN社とのライセンス契約締結に当たっては,ライセンス料,算定根拠等の 観点からの検討が必要であることが確認された。その際,控訴人からイカノス社に 対してロイヤルティ率の提示を要請し,イカノス社は,本件各特許のような特許権 に対する標準的な料率に関する情報を準備し,提示する旨述べたものの(前記2(1) タ,チ),同年7月13日には,合理的なロイヤルティ率については,具体的な数 字を提示することは困難であるとして,提示することができなかった(前記2(1) ツ,テ)。次に,イカノス社は,コネクサント社製のチップセットに適用されるロ イヤルティ率に基づく検討を提案し,同ロイヤルティ率を突き止めるよう努力して 結果を報告する旨述べたものの,これについても新たな情報を発見することができ なかったと報告するにとどまり(前記2(1)テ),結局,被控訴人又はイカノス社か ら,控訴人に対し,ライセンス料の算定に関する情報は何ら提供されなかった。
(ウ) そして,控訴人は,同年2月24日,Wi−LAN社に対し,チップ・ベ ンダーの一社であるコネクサント社がWi−LAN社との間でライセンス契約を締 結しているのであれば,ライセンス交渉の前提が変わるとしてその確認をしたい旨 通知したところ,同年3月1日には,Wi−LAN社から,コネクサント社にライ センス済みのものは控訴人とのライセンス交渉の対象外であること,控訴人に対す るライセンス料の提案額480万USドルは既に大幅に減額したものであって,コ ネクサント社とのライセンス契約の事実が影響するものではない旨の回答を受けた (前記2(1)コ)。さらに,控訴人は,同年3月13日,Wi−LAN社に対し,控 訴人のイカノス社からの購入数量に見合ったライセンス条件の再提示を求めたとこ ろ,同月23日には,Wi−LAN社から,コネクサント社に対するライセンス済 みの製品があることについては控訴人に対するライセンス料の提示において大幅減 額をした際に織り込み済みであること,控訴人が妥当であると考える数字を提案さ れたい旨の回答を受けた(前記2(1)ス,ソ)。控訴人は,同年4月頃に,Wi−L\nAN社に対し,コネクサント社とイカノス社から購入した各製品の数量を開示し(後 者は前者に比べて非常に小さい。),これらの数値を検討して新たな提案をするよ う求めたところ,その後,Wi−LAN社からは請求額を430万USドルに引き 下げる旨の回答を受け(前記2(1)タ,チ),さらに,同年7月ないし8月頃に,W i−LAN社に対し,ロイヤルティはチップセット数量に基づいて算出されるべき であり,現実的ロイヤルティ額は,例えば11万USドルから12万USドルの範 囲内にあるべきことを主張したところ,同年10月6日には,Wi−LAN社から, 控訴人とWi−LAN社の本件紛争の解決に対する見解には大きな隔たりがあると して,早期の解決をする場合にはどの程度の金額の提示が可能かを2週間以内に連\n絡するよう,Wi−LAN社は,控訴人からの提案を受け取った時点で,現在提示 している早期ライセンスのオファーを取り下げるか否かを決定し,2週間以内に回 答がない場合には,自動的に早期ライセンス交渉は終了することなどの回答を受け た(前記2(1)ナ)。さらに,控訴人は,同月7日には,Wi−LAN社に対し,W i−LAN社の要求する300万ないし400万USドルのロイヤルティは非ライ センス製品であるイカノス社からの控訴人の実際の購入量が小さいため適切でない 旨を説明したところ,同年12月には,Wi−LAN社からの提示額は290万U Sドルまで減額され(前記2(1)ハ),その後,本件ライセンス契約締結時には2億 円に減額されている。 このように,控訴人は,イカノス社からの購入数量は,コネクサント社からの購 入数量と比較して非常に小さいことから,イカノス社からの実際の購入数量に応じ てライセンス料も大幅に減額すべきであることを継続して主張していたが,Wi− LAN社からは,控訴人に対するライセンス料の提示に当たり考慮済みであるとさ れ,Wi−LAN社による提示額も漸減していたとはいえ,被控訴人及びイカノス 社からは,ライセンス料の算定に関する情報は何ら提供されなかったことから,こ れ以上は,減額交渉の材料が他に見当たらない状況であった。
(エ) 他方において,控訴人は,平成22年12月27日,Wi−LAN社から, 1)早期ライセンス,2)交渉された又は遅延したライセンス及び3)訴訟後のライセン スの3段階のライセンシングがあることを示され,平成23年3月15日までにラ イセンス契約を締結しない限り,早期ライセンスのオファーは撤回され,その後, 交渉された又は遅延したライセンス(第2ラウンド)(早期ライセンスが拒否され た場合又は遅延作戦が行われた場合,オファーは撤回され,ポートフォリオ全体に つき詳細な違反調査が行われ,ロイヤルティ率が著しく増加し,条件及び賠償金の 過去分について柔軟な対応を行いにくくなる。),さらには,訴訟後のライセンス (訴訟終了後,全ての既存のオファーは撤回され,交渉は振出しに戻り,ライセン スのオファーは裁判所により課された料率等でされ,全額賠償,増額賠償等の全て の費用を含み,裁判所により課された料率と係争中の条件を変更する柔軟性はほと んどない。)に進む可能性がある旨の申\出を受けた(前記2(1)イ)。控訴人は,同 年3月13日には,Wi−LAN社に対して,期限の猶予を求めたが(前記2(1) ス),同年10月6日には,Wi−LAN社から,控訴人とWi−LAN社の見解 には大きな隔たりがあり,早期解決のための金額提示が2週間以内になければ早期 ライセンス交渉は終了し,その後,特許権者としてのあらゆるオプションを留保す る旨の通知を受ける(前記2(1)ニ)などして,平成22年12月27日のライセン ス交渉以来,継続して,早期ライセンスのオファーが終了すれば,次のステージに 移行する可能性を告げられていた。そして,Wi−LAN社は,自らは保有する特\n許を実施しないNPE(Non Practicing Entity)として, それまで大手企業等を相手に差止請求を含めた多数の訴訟を提起し,結果としてラ イセンス料を得るなどの実績を有していたことから(甲8,9,乙2,5),早期 ライセンス交渉が決裂すれば,差止請求訴訟が提起される可能性があり,もし侵害\nの事実が認定された場合には,設計変更等を行うに当たっての損害額は2億円をは るかに超える可能性があった(前記2(1)ヘ)。
(オ) 以上のとおり,前記(ア)のとおりのチップ・ベンダーであるイカノス社に よる技術分析への対応等に照らせば,控訴人が,本件チップセットは,ADSL A nnex.Cに準拠し,Annex.Cに用いるものとしてFRAND宣言がされ ている本件各特許権を侵害する又は侵害する可能性が高いと考えたこともある程度\nやむを得ないところであって,前記(イ)のとおり,被控訴人又はイカノス社からラ イセンス料の算定に関する情報も提供されないことから,前記(ウ)のとおり,これ 以上,減額交渉の材料がない状況の下で,他方,前記(エ)のとおり,Wi−LAN 社からは,早期ライセンスのオファーが終了すれば,次のステージに移行する可能\n性を継続して告げられるなどして,差止請求訴訟を提起されるリスクを負っており, 侵害が認定された場合に被る損害は2億円をはるかに超えることが予想されたこと\nを総合的に鑑みれば,平成24年2月23日の時点において,控訴人が,本件ライ センス契約を締結し,ライセンス料2億円を支払うことも,社会通念上やむを得な いところであり,不相当な行為ということはできないのであって,被控訴人による 本件基本契約18条2項違反と,控訴人のライセンス料2億円相当額の損害との間 には,相当因果関係を認めることができる。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成24(ワ)21128

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令和5(ネ)10044  商標権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和5年11月1日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

破産管財人が提起した差止請求不存在確認訴訟の控訴審です。破産会社は被控訴人(1審被告)から通常使用権を有していましたが、契約は解除されてました。1審は、差止請求権有りと判断していました。知財高裁も同じ判断です。争点は、商標法上の真正品であるので権利濫用となるか否かです。

本件使用許諾契約は既に効力を失っており、在庫商品について例外的に本件商標の使用が許諾された期間も経過しているから、本件使用許諾契約が有効である間に製造され本件商標が付された商品であっても、これを販売することは、前記1のとおり、商標法2条3項2号の「商品に標章を付したものを譲渡し」たとして「使用」に当たり、本件使用許諾契約及び本件解約合意に違反するものである。
上記事実によると、破産会社は本件在庫商品を販売できる期間を自ら合意していながら、その期間内に本件在庫商品を販売せずに、販売可能な期間を徒過したものであり、控訴人はその地位を承継したものであるから、控訴人が主張する各事実をもって、信義則違反又は権利濫用に当たるものとはいえない。\n

◆判決本文

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◆令和4(ワ)18610

しかし、商標法31条2項は、「通常使用権者は、設定行為で定めた範囲内 において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を有す る。」と規定しており、通常使用権の範囲、期間、条件等は使用許諾契約によ り定められることになるが、前記1のとおり、本件使用許諾契約は既に効力を 失っており、在庫商品について例外的に本件商標の使用が許諾された期間も既 に経過しているから、本件使用許諾契約が有効である間に本件商標が付された 商品であっても、今後、これを販売することは、本件使用許諾契約及び本件解 約合意に違反するものである。そうすると、現時点において、通常使用権者で あった破産会社の地位を承継した原告が、商標権者である被告に対し、本件商 標を付した本件在庫商品を販売することは実質的違法性を欠くなどと主張し得 ないことは明らかである。
また、商標法は、商標を使用する者の業務上の信用及び需要者の利益を確保 することを目的とするところ(商標法1条参照)、需要者である一般消費者は、 登録商標が付された商品を商標権者から直接購入する場合ではなくとも、商標 権者の許諾に基づいて登録商標が付された商品を購入しようとする際には、商 標権者による技術指導や品質検査等を前提とする商品であると理解し、商標権 者が登録商標を付して流通に置いた正規の流通経路によった商品と出所及び品 質が同一の商品を購入することができる旨信頼するのが通常であり、その信頼 を裏切らないことにより、商標権者の業務上の信用が確保されるというべきで ある。ところが、前記1のとおり、本件商標を付した本件在庫商品が市場に出 回ることは、商標権者である被告の許諾がないことから、正規の流通経路によ らないものであるといえるし、本件商標を使用するに当たっての遵守事項を定 めた本件使用許諾契約が解約されたことにより、破産会社又は原告がこれに従 う法的根拠が失われ、被告は本件在庫商品の品質管理を行い得る立場にないこ とになる。そうすると、原告が本件商標を付した本件在庫商品を販売すること は、本件商標の出所表示機能\及び品質保証機能を害するものといえる。
さらに、平成15年最判は、商標権者から商標の使用を許諾された者が使用 許諾契約で定める条件に違反して当該商標を付した商品を製造したところ、別 の業者が当該商品を海外で仕入れて日本に輸入する行為、いわゆる並行輸入の 違法性が争われた事件に関する判断であるのに対して、本件は、かつて商標の 使用を許諾されていた者自身の行為の違法性が問われているから、事案を異に する。原告が指摘する他の裁判例についても、同様である。
したがって、原告が本件商標を付した本件在庫商品を販売することについて、 商標権侵害の実質的違法性を欠くとはいえない。

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令和4(ネ)10113  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年10月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審の東京地裁は、構成要件Biiを充足しない、無効理由あり(サポート要件)と判断しました。控訴人は、控訴審で均等主張を追加しましたが、知財高裁は、均等侵害にも該当しないと判断しました。

イ 本件明細書に記載された従来技術、発明の課題及び課題を解決するため の手段は、以下のとおりである(前記引用に係る補正後の原判決「事実 及び理由」第4の1(2)のとおりであるが、再掲する。)。
(ア) 従来技術では、サポーター本体に織り込まれているゴムの収縮力や 織り方を変えることで患部に対する圧迫、押圧の強度を変化させてい たが、膝関節の任意の箇所に必要な押圧を加えることができないとい う問題があった(【0002】)。先行特許文献に記載された逆U字 型のパッドを備える構成では、膝蓋骨を吊り上げて大腿四頭筋の機能\ を補助することができず、縦方向と横方向の伸長率を変化させてずれ にくくする構成はサポーター本来の機能\とは関係がないという問題が あった(【0003】)。
(イ) 本件発明は、膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を保持して、膝関節 を良好に固定するコンプレッションサポーターを提供することを発明 の課題とし(【0005】)、この課題を解決するための手段として、 本件発明の構成要件A〜Cの構\成を採用した(【0006】)。
(ウ) これにより、本件発明は、適切に膝蓋靱帯を圧迫し、膝蓋骨を保持 して、膝関節を良好に固定し得るコンプレッションサポーターを提供 するという効果を奏する(【0020】)。
ウ 控訴人は、本件明細書の記載に基づき、本件発明の課題は「膝蓋靭帯を 圧迫し、かつ、膝蓋骨を保持して、膝関節を良好に固定するコンプレッ ションサポーターを提供すること」であり、当該課題は、低伸縮領域で あるほぼU字型の「正面吊り領域」が「膝蓋靭帯を圧迫」すると共に 「膝蓋骨を吊り上げ」て「大腿四頭筋の機能を補助」することで解決さ\nれるものであり(【0010】、【0011】)、このことから、本件 発明の本質的部分は、「低伸縮領域として、膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、 膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋の機能を補助するために、膝蓋骨の下部\nを取り囲むほぼU字型に、本体正面に設けた正面吊り領域」を備えると いう構成(構\成要件Bi)であると主張する。
エ しかし、本件特許の出願前に頒布された乙4文献には、別紙4「乙4文 献の記載」の事項が記載されている(乙4及びその訳文)。 これらの記載から、乙4文献には、伸縮性材料からなり着脱容易な膝サ ポータ(第1の1)であって、シリコーン材料、ゴムなどの弾性材料か ら形成され、膝蓋骨用開口部の横及び下から膝蓋骨の下部を取り囲み、 下部膝蓋靭帯の上に位置するU字形状パッドを備え付けることにより (第1の1、2、第2の1、3)、下部膝蓋靭帯の領域に押圧力を生じ させ、膝蓋骨の負荷を軽減するもの(第2の2、4)が開示されている と認められる。 なお、上記「パッド」は、伸縮性材料からなり着脱容易な膝サポータに おいて、シリコーン材料、ゴムが例示される弾性材料から形成され、こ れが位置する領域に押圧力を生じさせるものであるから、上記伸縮性材 料より伸縮性が低いと認められる。
また、乙4文献には、膝蓋骨を保持又は「吊り上げ」ることは明記され ていないが、本件発明においても「膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋を補 助する」のは「膝蓋骨の下部を取り囲むほぼU字型に、本体正面に設け た正面吊り領域」であり(構成要件Bi、本件明細書【0006】)、 この「正面吊り領域」は、「本発明においては、低伸縮領域として、膝 蓋靭帯を圧迫するために、膝蓋骨17の下部を取り囲むほぼU字型…に、 本体正面に設けた正面吊り領域を具備している。低伸縮領域である正面 吊り領域を、ほぼU字型に形成することにより、膝蓋骨を吊り上げ、大 腿四頭筋を補助するものである。」(【0010】)、「膝蓋靭帯15 を圧迫するために本体正面に設けた正面吊り領域22を具備する。正面 吊り領域22は、膝蓋骨17の下部を取り囲む湾曲部を有するほぼU字 型…に設けられており、膝蓋骨17の下部を取り囲む湾曲部を有するこ とにより、前述のように膝蓋骨17を吊り上げ、大腿四頭筋に好適な作 用を及ぼすものである。」(【0023】)というものである。
オ 以上の乙4文献の開示事項を考慮すると、本件明細書に従来技術が解決 できなかった課題として記載されているところは、出願時の従来技術に 照らし客観的にみて不十分というべきである。\nそして、乙4文献記載の従来技術をも参酌すると、従来技術に「膝関 節の任意の箇所に必要な押圧を加える」ことができないという問題があ り、「膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を保持して、膝関節を良好に固 定するコンプレッションサポーターを提供する」という課題が未解決で あったということはできず、少なくとも、従来技術と比較した本件発明 の貢献の程度は大きいものではないと評価せざるを得ない。以上によれば、本件発明の本質的部分は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものと認めるのが相当であり、少なくとも、樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着した低伸縮領域の構成を定める構\成要件Cは本件発明の作用効果に直結する部分であって、その本質的部分に含まれるというべきである。

◆判決本文

原審はこちら。

◆令和3(ワ)11507

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令和3(ワ)33526  商標権侵害行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和4年12月22日  東京地方裁判所

被告は、標章「バレナイ二重」を被告商品「二重瞼形成用化粧品」包装の前面中央部に大きな文字で表示していました。登録商標「バレないふたえ」を保有していた原告は、商標権侵害と主張しました。東京地裁47部は、「何人かの業務に係る商品…であることを認識することができる態様により使用」ではないとして、商標権の効力が及ばない(商26条1項6号該当)と判断しました。 本件商標はこれです。

◆登録5607340
本件の対象にはなっていませんが、少し表記が異なる「バレない\ふたえ」という別商標もあります。\n

◆登録5648844


1 争点 2-3(商標法 26 条 1 項 6 号該当性)について
事案に鑑み、まず、争点 2-3(商標法 26 条 1 項 6 号該当性)について検討する。
(1) 証拠(掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 「ばれない」、「バレない」、「バレナイ」の用例等
・・・
(イ) インターネット検索の結果によれば、二重瞼を形成する美容施術や二重瞼形 成用化粧品等の宣伝広告として、「作った二重だなんてバレない」、「バレにくい二 重」、「バレない自然な二重まぶたに!?」、「絶対バレない!自然な二重まぶたの作 り方」、「バレないコツ」、「本気でバレない二重の作り方」、「バレないふたえまぶた」「バレない・腫れない二重整形」といった表現が使用されていることが認められる\n(甲 16、乙 2〜5)。また、「【専門家監修】アイプチのおすすめ人気ランキング 選 【学生向けやバレないものも!】」と題して二重瞼形成用化粧品等をランキング形 式で紹介するウェブページ(丙 3)においても、「アイプチでは周りの人にバレてし まうのが心配な方も多いはずです。」、「使っていることがバレないようにしたいで すよね!バレにくさを重視するなら、ファイバーや皮膜式のアイプチがおすすめで す。」といった記載がされている。さらに、原告商品及び被告商品以外の二重瞼整形 用化粧品等において、商品の説明として、「バレない整形級ふたえ」(丙 1-1)、「バレない!テカらない!」(丙 1-2・3)、「目をつぶってもバレない!」(丙 1-4)、「閉じてもバレにくい!」(丙 1-5)、「極細繊維ファイバーでバレないふたえ成形」(丙 1-6)、「バレない!!整形メイク」(丙 1-7)といった表現が見受けられる。加えて、二重瞼形成用化粧品等以外にも、鼻筋整形用の化粧品の説明として「バレない!カンタ\nン!自然な仕上がり!」との表現が(丙 2-1)、つけ爪(ネイルチップ)の説明とし て「バレないつけ爪」との表現が(丙 2-2・3)、頬の美容整形施術の説明として「バ レないリフト」との表現(丙 2-4)が、それぞれ使用されていることが認められる。
イ 被告商品における被告標章の使用態様等
証拠(甲 5)によれば、被告商品 1 の包装には、その表面の上部半分程度を占め\nる大きさの黒色ハート形の図形が配置され、その図形内の最上段には下線付きの「長 時間キープ」の文字が、中段には被告標章 1 が、いずれも包装のベース色であるピ ンク色で表示されている。また、その最下段には緑色の帯状の図形上に黒色で「リ\nキッドタイプ」の文字が記載されると共に、当該帯状の図形の左端に接着した黒色 丸形の図形内に緑色で「細筆」の文字及び筆先の形状のイラストが記載されている。 さらに、同包装の下部左上側には、上下二段からなる「Eye Catching」、「Beauty」(なお、「Beauty」の「t」は、2 画の交点の左側及び下側が右側及び上側に比して長い十\n文字状にデザインされている。)との記載が、下部左中央には同じく上下二段からな る「FUTAE」、「LIQUID」との記載が、下部右側には「♯目元サギメイク」との記載 が、それぞれ置かれている。加えて、下部のこれらの記載の間に存在する透明な窓 部からは被告商品 1 の本体を視認し得るところ、これには、下部左上側と同様の構\n成からなる「Eye Catching」、「Beauty」との表示が存在する(ただし、全ての被告商\n品 1 において上記窓部から上記表示が看取し得ることを認めるに足りる証拠はな\nい。)。他方、裏面には、表面と同様の構\成からなる「Eye Catching」、「Beauty」の記載と、一連一体に並べられた「FUTAE LIQUID」の記載のほか、「アイキャッチング ビューティ ふたえリキッド(二重まぶた化粧品)」の記載等があるが、被告標章 1 の記載はない。
イ 上記(1)イ認定に係る被告商品の包装の表面及び裏面の各記載等を総合的に\n考慮すると、一般消費者からみて、被告商品の名称は、「Eye Catching Beauty FUTAE LIQUID」及び「アイキャッチングビューティ ふたえリキッド」(被告商品 1)、「Eye Catching Beauty FUTAE MESH TAPE」及び「アイキャッチングビューティ ふたえ メッシュテープ」(被告商品 2)と認識されることがうかがわれる。
他方、被告標章については、上記(1)認定を踏まえると、以下のとおり理解される。 すなわち、「ばれない」、「バレない」、「バレナイ」は、その表記いかんにかかわらず、秘密等が露顕しないという意味である。また、被告商品が属する二重瞼形成用化粧\n品等や二重瞼形成のための美容施術の宣伝広告においては、化粧品や美容施術によ り一重瞼を二重瞼に整えたことが他人に容易には露顕しないという当該化粧品ない し美容施術の効能や役務の内容の説明又はそのような効能\等をうたうキャッチフレ ーズと理解される表現として、「ばれない」等に「二重」を組み合わせたものが多数\nみられる。また、二重瞼形成用化粧品等以外の化粧品や美容整形施術等美容関係の 商品及び役務においても、「ばれない」等の語が、他人から当該化粧品や当該施術を 使用していることが露顕しないという説明ないしそのような効能等のキャッチフレ\nーズとして少なからず用いられていることがうかがわれる。これは、美容関係の商 品等の需要者の多くが、当該商品等を使用して人工的・意図的にその状態を形成し ていることが他人には容易に明らかにならず、当該商品等を使用した結果が自然の 状態として見られることを欲することを踏まえ、当該商品等の提供者において、そ の欲求にこたえる効果を訴求することを狙ったものと理解される。
「ばれない」等の語が美容関係の商品等においてこのように多く使用されている 実情を踏まえると、二重瞼形成用化粧品等の需要者である一般消費者は、「バレナイ」 に「二重」が組み合わされた被告標章につき、二重瞼を形成していることが他人に 容易に露顕しない化粧品等であるという被告商品の効能等の説明ないしそのような\n効能等のキャッチフレーズと認識・理解するのがむしろ通常といえる。被告商品の\n包装において、被告標章は、「長時間キープ」、「リキッドタイプ」(被告商品 1)又は「テープタイプ」(被告商品 2)という文字等の記載に挟まれるように配置されてい ること、被告標章のほかに被告商品の名称と認識し得る記載が存在することなどを 考慮すると、なおさらである。このことは、被告標章をなす「二重」の「二」の文 字の下部が、その左端に二条の跳ねがあるかのように図案化されていることを考慮 しても異ならない。
以上より、被告標章は、被告商品の需要者である一般消費者にとって、被告商品 の効能等の説明ないしキャッチフレーズとして理解されるものであり、自他商品識\n別又は出所識別標識としての機能を有するものとは認められない。\n

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令和4(ワ)19876    商標権  民事訴訟 令和5年8月24日  東京地方裁判所

 商標権侵害訴訟にて、9類「電子印刷物」と16類「印刷物」は類似商品と認定されました。

2 商品の類否(争点 2)について
(1) 本件商標 1 と被告各標章について
本件商標 1 の指定商品は、第 16 類「印刷物」(ただし、別件審判に係る予告登録の日までに限る。)のほか、第 9 類「電子印刷物」であるのに対し、被告各標章は紙媒体である雑誌すなわち印刷物に付して使用されるものである。
指定商品「電子印刷物」と商品「印刷物」とは、媒体を異にすることなどから、同一とはいえない。しかし、本件商標 1 の商標登録出願がされた平成28 年当時において既に、雑誌その他の出版物につき、同一人が同一内容の出版物を紙媒体及び電子版として出版することが広く行われていたことは、顕著な事実である。こうした事情等に鑑みると、被告各標章を印刷物に付して使用する行為は、少なくとも、本件商標 1 の指定商品である第 9 類「電子印刷物」に類似する商品についての使用ということができる。これに反する被告らの主張は採用できない。
(2) 本件商標 2 と被告各標章について
本件商標 2 の指定商品は第 16 類「印刷物」であることから、被告各標章を印刷物に付して使用する行為は、本件商標 2 の指定商品についての使用ということができる。
(3) 小括
以上より、被告各出版物に被告各標章を付して使用する被告らの行為は、指定商品に類似する商品についての登録商標に類似する商標の使用(本件商標1との関係)及び指定商品についての登録商標に類似する商標の使用(本件商標2との関係)に該当し、本件各商標権の侵害と見なされる(商標法37条1号)。

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令和4(ワ)7920 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年8月25日  東京地方裁判所

 動画タイトルに被告Aの氏名を用いたYouTube動画が、被告AのGoogleへの申し立てで削除されました。原告は、著作権侵害ではないのに、著作権侵害申\し立てフォームで申し立てを行い、かつ原告への通知をしなかったとして、損害賠償を求めました。裁判所は、顧客吸引力等を利用するパブリシティ権侵害であることは明確として、請求を棄却しました。

他方、作成した動画をユーチューブに投稿し、これを公開して広くその内容 を伝える行為は、投稿者が行う表現活動や事業活動に関わり得るものであって、\nその動画が削除されることで表現活動や事業活動が制限され、投稿者の法律上\n保護される利益が害される場合があるといえる。ユーチューブの利用について は、上記の規約があり、また、グーグルには著作権侵害についての前記のポリ シーがあるところ、権利侵害の通知を行う者が著作権侵害がないにもかかわら ず侵害がされているという情報をグーグルに通知して、それによってグーグル が動画を削除した場合、権利侵害がないにもかかわらず動画を削除されるに至 った者は、本来動画を削除される理由がなくそれが削除され法律上保護される 利益を害されたといえる場合があるといえる。これらによれば、グーグルに対 して権利侵害の通知を行うことは、その内容や態様により、投稿者の法律上保 護される利益を害する違法な行為となる場合があるといえる。
本件通知は、著作権侵害を通知するためのフォームであり、フォームで用意 されていた文言である「私は侵害された著作権の所有者、または当該所有者の 正式な代理人です。」「私は、申し立てが行われたコンテンツの使用が、著作権\nの所有者、代理人、法律によって許可されていないことを確信しています。」と いう記載があり、また、フォームで用意された「著作権者名」、「著作権対象物 のタイトル」についてもそれぞれ記載している。
もっとも、「権利を侵害された作品についての説明」について「その他」とし た上で、「公演の種類」を「氏名」とし、「著作権対象物のタイトル」を「A(ひ らがな併記)」としている。そして、「補足情報」として、権利侵害の内容とし て「パブリシティ権侵害」と明記した上で、「顧客吸引力、宣伝、広告収益目的 のためにタイトルに無断で氏名を使用し、経済的利益を害している。」と記載 している。これらの記載のうち「著作権対象物のタイトル」が人の氏名そのも のであることは明らかであり、「公演の種類」が「氏名」であることや「補足情 報」の記載内容から、これらの記載は、「著作権者名」とされる、Aの氏名その ものを、対象動画のタイトルに用いることで、同人のパブリシティ権を侵害し たと通知していると理解できるものである。
被告Aは、著作権侵害の通知のフォームを利用して本件通知をしたところ、 そのフォームでは、「著作権者名」や「著作権対象物のタイトル」に記入する欄 があり、また、通知をする者が著作権者やその代理人であることなどを表明す\nる定型の文言があるため、上記各欄の記載やその定型の文言が本件通知に含ま れることとなっている。しかし、「著作権対象物のタイトル」や「補足情報」の 上記のような記載からすれば、被告Aは、ユーチューブにおいてパブリシティ 権侵害の通知をする専用のフォームがあったとは認められない状況において、 本件動画のタイトルに被告Aの氏名を用いたことがパブリシティ権侵害である ことを通知する意図で、本件通知をグーグルに送付したと認められる。
本件で、原告は、本件通知は本件動画が通知者の著作権を侵害されている旨 の通知をするものであり、通知者である被告Aには、著作権侵害の有無を事前 に確認する義務があったにもかかわらず、被告Aは、これを怠って原告が著作 権を侵害している旨の虚偽の通知をしたことを請求の原因として主張する。 しかし、ユーチューブにおいてパブリシティ権侵害の通知をするフォームが あったとは認められない状況において、前記 のとおり、被告Aは、本件動画 のタイトルに被告Aの氏名を用いたことが被告Aの顧客吸引力等を利用する パブリシティ権侵害であることを通知する意図で、その旨の記載をするなどし て、本件通知をグーグルに送付したと認められる。そして、本件通知は、著作 権侵害の通知をするフォームを利用したことに伴う記載はあるが、著作権対象 物のタイトルとして氏名のみが記載され、その補足情報の記載が上記のような ものであることからすると、通知者が自らの氏名が対象動画のタイトルに利用 されていることによるパブリシティ権侵害があると通知するものであると理 解できるものである。
前記のとおり、ユーチューブにおいて、グーグルに対し権利侵害の通知を行 うことは、その内容や態様により、投稿者の法律上保護される利益を害する違 法な行為となる場合があるといえる。原告は、本件の請求の原因を上記のとお り主張して被告Aが著作権侵害の有無を調査すべき義務があったと主張する ところ、本件通知の内容や態様が上記のようなものであったことに照らせば、 通知者である被告Aに原告が主張するような著作権侵害の有無を事前に確認 する義務があったとは認められず、同義務違反により原告の法律上保護された 利益が侵害されたことを理由とする原告の請求には理由がない。 なお、グーグルは、本件通知に基づき本件動画を再生できないようにしたが、 被告Aに原告が主張する義務があったとはいえず、被告Aに原告が主張する義 務違反行為があったとは認められないから、同事実は、上記判断を左右するも のではない。

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令和5(ネ)10059  損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年10月12日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

Yahoo!地図が原告地図の複製・翻案に該当するか争われました。知財高裁は、1審の東京地裁(29部)と同様に、翻案には該当しないと判断しました。

イ 判断手法(検討手順)について
ところで、控訴人と被控訴人は、複製又は翻案の有無を検討する手法 としての2段階テストと濾過テストの採否についてそれぞれの立場で主 張しているが、要は、創作性のある表現部分について同一性があるとい\nえるかどうかの判断がされれば足りるのであって、その判断に至る過程 で、最初に両著作物の共通部分の抽出を行うか、創作性の認められる表\n現上の特徴にまず着目するかという検討手順に関しては、合理的・効率 的な判断に資するための合目的的な観点から、事案に応じて適切に使い 分ければ足りる。本件では、控訴人の主張する手法(控訴人のいう2段階テスト)に沿 って(部分的に濾過テストの手法を併用する。)、以下、検討すること とする。
(2) 控訴人地図1の表現上の本質的特徴について\n
ア 控訴人は、控訴人地図1の表現上の本質的特徴として、別紙2記載の本\n質的特徴1)〜7)を主張するところ、別紙の各控訴人地図1(甲1)に照 らして、控訴人地図1がその主張する特徴を備えていると認めることは できる。そして、上記(1)アで述べたところに照らすと、上記本質的特徴1)〜7) は、それぞれを個別に取り上げれば、地理情報の取捨選択、その配置等 の具体的な表現につき、上記のような制約の下での狭い幅での選択が示\nされているにとどまるものであり、従来の地図に比して顕著な特徴を有 するといった独創性が含まれているとまでは認められない。
イ この点、控訴人は、特に本質的特徴1)、同3)、同4)、5)について、従来 の常識にとらわれない素材の取捨選択を行うなどしたものであって、そ の一部の組み合わせだけでも独創性のある表現が認められる旨主張する。\nしかし、まず、本質的特徴1)に関していえば、後述するとおり、そもそ も被控訴人各地図と共通するとは認められないものである(この点は濾 過テストの手法を用いた。)。そして、本質的特徴3)については、控訴 人地図1の作成当時、建物及び住宅の真上から見た形状を影なしのポリ ゴンで記載した地図は複数存在したと認められ(乙6,7,11,14, 15、25、32〜38)、本質的特徴4)、5)については、控訴人地図 1の作成当時、建物の名称及び住宅の番地が、建物及び住宅のポリゴン の中央付近に、(番地についてはアラビア数字で)折り返すことなく横 書きされた記載を含む地図は複数存在したと認められ(乙7,14、1 5、25、32〜38)、いずれもありふれた特徴にすぎない。
なお、控訴人は、上記証拠の地図は、新旧番地を対照するという特殊な 背景の下で作成されたものが含まれているなどと主張するところ、確か に、「番地」の取捨選択において、控訴人の主張する事情は重要な意味 を有するといえるが、上記の証拠の中には、住居表示新旧対照図以外の\nものも含まれているし(乙25、32〜34)、「番地」の取捨選択以 外の要素に関しては、従来のありふれた表現を示す証拠としての適格性\nを失うものではない。控訴人の上記主張は採用できない。
ウ 以上に述べたところを踏まえると、控訴人地図1は、別紙2の本質的特 ・徴1)〜7)を備える総体として表現上の創作性を認めることができるもの\nであり、その表現上の本質的部分の特徴を被控訴人各地図から直接感得\nできるかどうかも、これを断片的、部分的に捉えるのではなく、相違点 も含めた総体としての全体的な考察により検討する必要があるというべ きである。
(3) プロアトラス地図との比較検討
ア 各別紙のプロアトラス地図と控訴人地図1とを、控訴人主張の本質的特 徴の項目ごとに比較すると、以下のとおり認められる。
(ア) 控訴人主張の本質的特徴1)(共通要素a)について
まず、地理情報の取捨選択という観点からみるに、プロアトラス地 図では、控訴人地図1と同じく、「道路・河川」、「検索の目安とな る公共施設や著名ビル等の個別建物形」、「一般住宅及び建物の個別 建物形」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」、及び 「建物番地」を記載することを選択し、一般住宅及び建物に関する 「居住人氏名」、「地類界」(宅地の境等)、「等高線」を記載して いないことは認められる。しかし、その実際の適用(当てはめ)として、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」等の選択は必ずしも一致していない。 また、プロアトラス地図では、控訴人地図1には記載されていない交 差点名の記載がある(別紙プロアトラス地図・Aの「潮平」等)ほか、 「一般住宅及び建物」に関する「建物名称」を記載している点(プロ アトラス地図・Aの「シャトレ喜鶴」「あけぼの」、プロアトラス地 図・Cの「タウン・ハウス」等)でも相違する。
次に、具体的な表現形式という観点からみても、プロアトラス地図\nは、1)ガソリンスタンドであれば「G」、飲食店であれば「R」、駐\n車場であれば「P」、学校であれば「文に〇の記号」など建物の種類 を示す記号が用いられている点、2)緑地部分が緑色、公共性の高い建 物は濃い灰色、商業施設等はオレンジ色、その他の建物及び住宅は薄 い灰色に塗り分けられ、道路が3色に塗り分けられている点で控訴人 地図1と相違しており、これらの点は、地理情報を表現する際の創作\n性に強く影響を及ぼす有意な相違と評価すべきものである。
控訴人は、これら相違点は、いずれも軽微な相違であり、表現の本\n質的特徴の同一性を失わせるものではないと主張する。しかし、地図 の著作物における地理情報の取捨選択、その配置等の具体的な表現方\n法には一定の制約があり、選択の幅が狭いと解されること(前記(1)ア) を踏まえると、上記のような相違点を軽微なものと評価するのは相当 といえない。控訴人の主張は採用できない。
・・・・
(4) ヤフー地図との比較検討
ヤフー地図は、プロアトラス地図と多くの点で共通する特徴を有するもの であり、したがって、控訴人地図1とプロアトラス地図との対比検討の項目 で述べたところは、ほぼそのままヤフー地図との対比検討に関しても妥当す る。なお、プロアトラス地図になく、ヤフー地図に認められる特徴として、 ガソリンスタンド、コンビニエンスストア及びファーストフードショップの\nチェーン店について、名称ではなく各チェーン店の標章が記載されている点、 名称を折り返して表示する例がある点(ヤフー地図・Aの「健孝クリニック\n南部整形外科」等)が挙げられるが、これは、プロアトラス地図以上に控訴 人地図との表現上の違いが大きいことを示すものである。以上によれば、ヤフー地図についても、控訴人地図1の表\現上の本質的部分の特徴を直接感得できるとは認められないというべきである。
(5) 小括
したがって、被控訴人各地図は、いずれも控訴人地図1を複製又は翻案 したものとは認められないから、その余の点を判断するまでもなく、控訴人 地図1に関する著作権侵害は認められない。

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1審はこちら

◆令和3(ワ)17636

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平成25(ワ)7478  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟__全文__ 平成28年10月14日  東京地方裁判所

 随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。東京地裁(40部)は、半導体基板の製造方法について、「第二の割り溝」を有しないとして、文言侵害は否定しましたが、均等と認めました。

また,本件明細書等には,「第二の割り溝」を形成する方法について, 手法は特に問わないとしており,エッチング,ダイシング,スクライブ 等の手法を用いることが可能であるとされ,このうち,線幅を狭くする\nことが可能であるなどの理由から,スクライブが特に好ましいとするに\nとどまっており(段落【0009】),「第二の割り溝」に関して,そ の形成の方法は特に限定されていない。 そして,本件においては,本件明細書等に従来技術が解決できなかっ た課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客 観的に見て不十分であるという事情は認められない。\n
以上のような,本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明 細書記載の従来技術との比較から導かれる本件発明の課題,解決方法, その効果に照らすと,本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思 想を構成する特徴的部分は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物\n半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり,半導体層 側にエッチングにより第一の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部 分を形成し,サファイア基板側にも何らかの方法により第二の割り溝, すなわち,切断に資する線状の部分を形成するとともに,それらの位置 関係を一致させ,サファイア基板側の線幅を狭くした点にあると認める のが相当であり,サファイア基板側に形成される第二の割り溝,すなわ ち,切断に資する線状の部分が,空洞として溝になっているかどうか, また,線状の部分の形成方法としていかなる方法を採用するかは上記特 徴的部分に当たらないというべきである。
ウ 被告方法は,前記2で認定したように,サファイア基板上に窒化ガリ ウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当た り,半導体層側にエッチングにより切断に資する線状の部分を形成し, サファイア基板側にもLMA法のレーザースクライブによって切断に資 する線状の変質部を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ, サファイア基板側の線幅を狭くしているのである。 そして,前記2(1)イで説示したとおり,LMA法でサファイア基板 を加工した場合,溶融領域が発生し急激な冷却で多結晶化し,この多結 晶領域は多数のブロックに分かれるが,加工領域中央に実質の幅が極端 に狭い境界が発生し,この表面に垂直な境界線の先端に応力集中するの\nで割れやすくなることが認められる。 そうすると,被告方法は本件発明の従来技術に見られない特有の技術 的思想を構成する特徴的部分を共通に備えているものと認められる。\nしたがって,本件発明と被告方法との相違部分は本質的部分ではない というべきである。
エ 被告らの主張に対する判断
この点に関して被告らは,LMA法のレーザースクライブについて, 対象と「非接触」であるため,クラック等が発生せず,かつ,ほぼ垂直 に分割されることから,本件発明の課題自体が存在しないことになり, そのような方法を用いたとしても,本件発明の本質的部分に当たらない 旨主張する。
そして,乙14(再公表特許第2006/062017号。以下「乙\n14文献」という。)の段落【0039】には,【図9】,【図10】 に関して,LMA法により形成された変質領域に隣接する正常領域のブ レイク面が略垂直である旨の記載がある。 しかしながら,他方で,乙14文献の段落【0043】等には,同じ 【図9】,【図10】に関して,デフォーカス値によっては,正常領域 のブレイク面の垂直方向につき多少の傾斜や段差が存在する旨の記載も あるのであって,LMA法のレーザースクライブであるからといって, 切断面が斜めになることで不良品が生じるという本件発明の課題が発生 しないと認めることはできない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
オ 以上のとおりで,被告方法は,均等の第1要件を充足すると認められ る。

◆判決本文

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 >> 第1要件(本質的要件)
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平成28(ワ)21762等  特許権侵害差止等請求事件,特許権侵害差止請求事件,特許権侵害に基づく損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成31年3月28日  東京地方裁判所

随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。東京地裁(47部)は、文言侵害については「サーボバンドを特定するためのデータをエンコードする」との構成を欠くとしたものの、均等と認めて合計約2億円の損害賠償を認めました。

ウ 以上からすれば,前記アのとおり,構成要件Bの「サーボバンドを特定\nするためのデータをエンコードする」とは,「サーボバンドを特定するた めのデータ」を「0」又は「1」の形式に変換することと解すべきところ, 被告製造方法において,上記の形式の変更を行っていることを示す証拠は 何ら存在しない
・・・
第1要件について
本件明細書に記載された従来技術は,隣接するサーボバンドのサーボパ ターンをテープ長手方向にオフセットさせ,それらのサーボバンドの信号 を同時に読み取って比較することで,サーボバンドの特定を行うものであ り(段落【0002】),片側のサーボ信号の読み取りが一時的又は恒久 的にできなくなった場合,サーボバンドの特定を行うことができなかった という課題があった(段落【0004】)。
そこで,請求項1発明は,隣接するサーボバンドに書かれたサーボ信号 を比較せずに,サーボバンドを特定するために,各サーボバンド内に書き 込まれた各サーボ信号に,そのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定 するためのデータがそれぞれ埋め込まれ,前記各サーボ信号は,一つのパ ターンが非平行な縞からなり,各データは,前記縞を構成する線の位置を,\nサーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中 に埋め込まれているようにした磁気テープであり(段落【0007】), 本件発明は,その製造方法である(段落【0017】)。
そうすると,本件発明の本質的部分は,構成要件A−3「前記各サーボ信号は,一つのパターンが非平行な縞からなり,各データは,前記縞を構\成する線の位置を,サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれていることを特徴とする磁気テープ」にあるといえ,構成要件B「サーボバンドを特定するためのデータをエンコードする第一工程と,」は本質的部分には当たらないというべきである(被\n告らも特に争っていない。)。よって,被告製造方法は,均等の第1要件を充足する。

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平成28(ワ)25436  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年9月24日  東京地方裁判所

 随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。争点はたくさんあります。裁判所は、均等の主張を認め、差止と約10億円の損害賠償を認めました。判決文は別紙を入れると400頁ありますので、目次付きです。

前記(2)ウのとおり,本件明細書2記載の従来技術と比較して,本件発明2 における従来技術に見られない特有の技術的思想(課題解決原理)とは,従来,グ ルタミン酸生産に及ぼす影響について知られていなかったコリネ型細菌のyggB 遺伝子に着目し,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子 を用いてメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変する ことによって,グルタミン酸の生産能力を上げるための,新規な技術を提供するこ\nとにあったというべきである。また,前記(2)エで検討したとおり,本件明細書2に おける従来技術の記載が客観的に見て不十分であるとは認められない。\n
(ウ) 前記(3)アのとおり,19型変異使用構成は,本件発明2−5に含まれる,\n本件特許2の請求項1又は4を引用する請求項6のうち(e)の変異型yggB遺 伝子が導入されたコリネ型細菌を使用する構成であり,前記(イ)の本件発明2にお ける特有の技術的思想ないし課題解決原理に照らせば,19型変異使用構成の本質\n的部分は,「コリネ型細菌由来のyggB遺伝子に,コリネバクテリウム・グルタ ミカム由来のyggB遺伝子におけるA100T変異に相当する変異を導入し,当 該変異型yggB遺伝子を用いてコリネ型細菌を改変し,ビオチンが過剰量存在す る条件下においてもグルタミン酸の生産能力を上げる点」にあると認められる。\n
(エ) 被告は,出願経過,本件優先日2当時の技術水準,19型変異使用構成の効\n果から,19型変異使用構成の本質的部分の認定に当たっては,特許請求の範囲の\n記載の上位概念化をすべきでなく,特許請求の範囲に記載された「変異後のygg B遺伝子の配列である配列番号22という特定のアミノ酸配列におけるA100T 変異」に限定して認定されるべきであると主張する。
しかしながら,前記(2)ア及びイの本件明細書2の記載内容によれば,本件発明2 は,特定の配列のyggB遺伝子を有するコリネ型細菌にのみ存在する課題を対象 とするものではなく,また,その解決原理としても,グルタミン酸生産能力を上げ\nるために,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子を用い てメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変するという 新規な技術を導入するというものであったから,本件発明2の請求項1や請求項4 において変異を導入する前のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙され,請求項6 において変異後のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙されていることを考慮して も,本件発明2及びそれに含まれる19型変異使用構成の本質的部分を認定するに\n当たっては,yggB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体 の変異前の具体的配列,あるいは,A100T変異に相当する変異を導入した後の yggB遺伝子の具体的配列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当で ある。これは,被告が指摘するように,本件特許2の出願当初の請求項1にはyg gB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種や変異前後のyggB遺伝子のアミノ酸 配列が特定されていなかったところ,補正によって,現在の請求項1のようにyg gB遺伝子のアミノ酸配列の配列番号が,コリネバクテリウム・グルタミカム(ブ レビバクテリウム・フラバムを含む。)又はコリネバクテリウム・メラセコーラに 由来する配列番号6,62,68,84及び85に特定されるようになったこと(【0 033】,乙80〜84),請求項1に記載された配列番号6,62,68,84 及び85のアミノ酸配列が相互に相同性が高いこと(乙85)を考慮しても同様で ある。また,被告は,出願経過に関連して,本件特許2の再訂正後の請求項の記載 も考慮すべきとも主張するが,当該訂正の内容は,少なくとも訂正前の本件発明2 の本質的部分の認定には影響しないというべきである。 そのほか,本件優先日2当時の技術水準や19型変異使用構成の効果についての\n被告の主張が採用できないことは,前記(2)エ及び(3)イのとおりであり,これらを 理由として,19型変異使用構成の本質的部分を特許請求の範囲に記載された変異\n前後のyggB遺伝子の具体的配列に限定すべきともいえないから,この点の被告 の主張も,前記(ウ)の判断を左右するものではない。
イ 相違点1について
前記ア(エ)のとおり,19型変異使用構成の本質的部分については,yggB遺伝\n子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体の変異前の具体的配列,あ るいは,A100T変異に相当する変異を導入した後のyggB遺伝子の具体的配 列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当であることに加え,以下の(ア) 及び(イ)の点を考慮すれば,相違点1に係る違い,すなわち,導入されている変異型 yggB遺伝子が由来する細菌の種類の違い及びそれによるyggB遺伝子の具体 的な配列の違いは,19型変異使用構成の本質的部分とはいえない。\n
・・・
(エ) これらの点からすれば,相違点3に係る違い,すなわち相違点2に係るA9 8T変異に加えて,被告製法4の菌株ではV241I変異が導入されているという 点は,本件明細書2で開示された本件発明2の課題解決原理である膜貫通領域の変 異ないしC末端側変異と関連しない部位の1つのアミノ酸に保存的置換を加えるも のであり,A98T変異に加えることで課題解決に影響するものではないから,1 9型変異使用構成の本質的な部分における相違点ではない。\nオ したがって,19型変異使用構成と被告製法4との相違点1ないし3は,い\nずれも,特許発明の本質的部分ではないから,(12)及び(13)の菌株を使用する被告製法 4は均等の第1要件を充足すると認められる。

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令和3(ワ)31529  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年9月28日  東京地方裁判所

イス「TRIPP TRAPP」について、デッドコピーではない場合に、商品等表示に該当するのか、著作権侵害かが争われました。東京地裁(40部)は、前者については、原告らの主張する本件形態的特徴は、そもそもその外延が極めて曖昧であり、原告製品のうち出所表示機能\を発揮する商品等表示部分を明確に特定するものとはいえないと判断しました。また、後者については、著作権侵害についても翻案ではないと判断されました。
最後に、原告製品と被告製品の写真があります。

ア 商品の形態に係る「商品等表示」の特定について\n
不競法2条1項1号又は2号は、他人の周知又は著名な商品等表示(人の\n業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品 又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)と同一又は類似の商品等表\示 を使用等することをもって、不正競争に該当する旨規定している。この規定 は、周知著名な商品等表示の有する出所表\示機能を保護するという観点から、\n周知著名な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤\n認混同させて顧客を獲得する行為を防止し、事業者間の公正な競争等を確保 するものと解される。そして、商品の形態は、特定の出所を表示する二次的\n意味を有する場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所 表示機能\を有するものではないから、上記規定の趣旨に鑑みると、その形態 が商標等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能\を発揮するよ うな特段の事情がない限り、商品等表示には該当せず、仮にこれに該当した\n場合であっても、商品の形態は本来的には商品の出所表示機能\を有するもの ではないのであるから、商品の形態のうち出所表示機能\を発揮する商品等表\n示部分は、取引の実情等によって時間的にも場所的にも変わり得るものとい える。
そうすると、原告らが商品の形態の商品等表示該当性を主張する場合には、\n商品等表示として権利範囲を画する部分がそれ自体不明確であることに鑑\nみると、商品の形態のうち出所表示機能\を発揮する商品等表示部分を明確に\n特定する必要があるものと解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成 17年(ネ)第10068号同17年7月20日判決参照)。
これを本件についてみると、原告らは、主位的に、原告製品全体の形態が 商品等表示に該当する旨主張して、商品の形態のうち出所表\示機能を発揮す\nるという部分を明確に特定していないことからすると、原告らの主位的主張 は、上記において説示したところに照らし、主張自体失当というほかない。 他方、原告らは、予備的に、原告製品の形態のうち、出所表\示機能を発揮す\nるという部分が本件形態的特徴であるという限度で特定して主張している ため、本件形態的特徴が商品等表示に該当するかどうか、以下検討する。\n
イ 本件形態的特徴の「商品等表示」該当性について\n
前記アのとおり、商品の形態は、特定の出所を表示する二次的意味を有す\nる場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能\を 有するものではないから、不競法2条1項1号又は2号の規定の趣旨に鑑み ると、その形態が商標等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能\ を発揮するような特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないという\nべきである。 そうすると、商品の形態は、1)客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特 徴(以下「特別顕著性」という。)を有しており、かつ、2)特定の事業者に よって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力 な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表\n示するものとして周知であると認められる特段の事情がない限り、不競法2 条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当であ\nる。
そして、不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当すると主張\nされた表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品の形態が\n商品等表示に該当しないときであっても、上記表\示が全体として商品等表示\nに該当するとして、上記一部の商品を販売等する行為まで不正競争に該当す るとすれば、出所表示機能\を発揮しない商品形態までをも保護することにな るから、上記規定の趣旨に照らし、かえって事業者間の公正な競争を阻害す るというべきである。のみならず、不競法2条1項1号又は2号により使用 等が禁止される商品等表示は、登録商標とは異なり、公報等によって公開さ\nれるものではないから、その要件の該当性が不明確なものとなれば、表現、\n創作活動等の自由を大きく萎縮させるなど、社会経済の健全な発展を損なう おそれがあるというべきである。
そうすると、不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当すると\n主張された表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態\nが商品等表示に該当しないときは、上記表\示は、全体として不競法2条1項 1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。\nこれを本件についてみると、前記認定事実、検証の結果(検証調書参照) 及び前記認定に係る子供用椅子の販売状況によれば、原告製品は、1)左右一 対の側木の2本脚であり、かつ、座面板及び足置板が左右一対の側木の間に 床面と平行に固定されている点(特徴1))、2)左右方向から見て、側木が床 面から斜めに立ち上がっており、側木の下端が、脚木の前方先端の斜めに切 断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と 脚木が約66度の鋭角による略L字型の形状を形成している点(特徴2))と いう本件形態的特徴のほか、3)座面板と足置板を側木内側にはめ込んで固定 することによって、これらの部材を直接固定し、その余の固定部材を省いた 点(特徴3))、4)前後方向からみて、座面板、足置板、横木及び背板と、側 木が垂直に交わっており、側木内側の小さな略半円形状の溝部分を除き、直 線的要素が強調されている点(特徴4))、5)左右方向からみて、側木につい ては、これを一直線とし、その上端の2隅を直角とし、脚木についても、こ れを一直線とし、その先端側と後端側の各2隅の角度を略左右対称とした点 (特徴5))、6)上下方向からみて、身体に接触する曲線状の背板並びにこれ に対応する座面板及び足置板の後部波状部分を除き、座面板と足置板の前部 を直線状の形状とし、その2隅を直角とした点(特徴6))に特徴があるもの と認められる。
そうすると、原告製品は、これらの各特徴を全て組み合わせることによっ て、身体に接触する背板部分及びこれに対応する座面板及び足置板の後部波 状部分を除き、側木、脚木、横木、座面板、足置板及び背板という椅子を構\n成すべき最小限の要素を直線的に配置し、究極的にシンプルでシャープな印 象を与える直線的構成美を空間上に形成したという限度において、形態とし\nての特徴があるものと認められる。
他方、本件形態的特徴は、図面又は写真で特定されるものではなく(意匠 法6条、24条、意匠法施行規則3条各参照)、上記にいう特徴1)及び特徴 2)を文字で特定されるにとどまるものである。そのため、本件形態的特徴は、 それ自体複数の商品形態を含むところ、本件形態的特徴には、原告らが主張 するとおり被告各製品が含まれるほか、側木が曲線を含む形態、座面板や足 置板が曲線の形態その他の直線的構成美を欠く多種多様な形態を含むもの\nであるから、原告製品が形成する直線的構成美を欠く非類似の商品形態を広\n範かつ多数含むものである。しかも、原告らの主張によれば、本件形態的特 徴(特徴1)及び特徴2))は、本件形態的特徴のみに限るというのではなく、 例えば特徴3)が付加された形態も、本件形態的特徴に含むというものである から、本件形態的特徴は、座面板と足置板を固定するための複雑な部材を採 用する形態その他の究極的にシンプルな構成美を欠く多種多様な形態を含\nむものである。
したがって、本件形態的特徴は、そもそもその外延が極めて曖昧であり、 商品形態が商品等表示として認められる場合を限定する不競法2条1項1\n号又は2号の上記趣旨目的に鑑みると、原告らは、原告製品のうち出所表示\n機能を発揮する商品等表\示部分を明確に特定するものとはいえない。 のみならず、原告らにおいて本件形態的特徴をそのまま具備すると主張す る被告各製品についてみても、被告各製品は、座面板及び足置板を固定する ために、支持部材、丸みを帯びた固定部材及び略円形のネジ部材を設ける構\n成を採用し、特徴3)を有するものではない。そのため、被告各製品は、需要 者に対し、椅子全体として安定して使いやすい印象を与えるものの、複雑な 上記構成によって、究極的にシンプルな印象を与える直線的構\成美を欠くも のといえる。しかも、被告各製品は、前後方向からみると、背板中央に楕円 形の大きな穴が形成されており、かつ、固定部材を側木にネジ止めするため、 側木には円形状の穴が多数形成されていることからすると、被告各製品は、 直線的でシャープな印象を明らかに損なうものである。さらに、被告各製品 は、左右方向からみても、側木上部が床面と略垂直方向に折れ曲がっており、 一直線の側木で構成される原告製品の直線的でシャープな印象とは、全体と\nして大きく異なる印象を与えている。加えて、被告各製品は、上下方向から みても、座面板及び足置板の前部及び後部が端部から緩やかな曲線状に形成 されており、椅子全体として柔らかい印象を与えるものであるから、座面板 及び足置板の前部が直線で構成される原告製品の直線的でシャープな印象\nとは明らかに異なるものである。
これらの印象の相違を踏まえると、被告各製品は、座面板及び足置板の固 定において複数の部材を利用する点において、原告製品のような究極的にシ ンプルな印象を与えるものではなく、かつ、曲線的形状を数多く含む点にお いて、原告製品のような直線的でシャープな印象を与えるものではない。 したがって、直線的構成美を造形表\現する原告製品の高いデザイン性に鑑 みると、少なくとも被告各製品の形態は、究極的にシンプルでシャープな印 象を与える直線的構成美を欠くものであるから、原告らの出所を表\示するも のであると認めることができないことは明らかである。 以上によれば、本件形態的特徴に含まれる被告各製品の形態は、明らかに 原告製品の商品等表示に該当しないことからすると、本件形態的特徴は、全\n体として不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと認\nめるのが相当である。

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令和3(ワ)10991  損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年9月29日  東京地方裁判所

 Tシャツに、本件商標の図形を胸元に大きく表示することが商標的使用となるかが1つの争点でした。東京地裁(29部)は、該当すると認め、差止および約90万円の損害賠償を認めました。判決文の最後に、本件商標と被告製品の写真があります。

(1) 証拠(甲10、12の2、12の4、12の5、12の6、13の3、1 4の2、14の3)によれば、原告は、原告ブランドの店舗開店当初から、 原告商標を、同店舗のポスター、看板、Tシャツ、パーカー、アクセサリー 等に印刷して使用していたこと、令和元年頃には、横浜、東京、千葉、名古 屋等に常設又は臨時店舗を開設し、同店舗及びオンラインショップで、原告 商標が印刷された商品を販売していたことが認められる。 また、前提事実(4)イのとおり、原告は、他のアパレル会社等とコラボレ ーションをし、原告商標を改変したり、同イラストの下部又は右下部にコラ ボレーションをしたアパレル会社のブランド名を記載したりしたものをTシ ャツ等の胸元に印刷して、販売することがあった。
これらの事実に照らせば、原告商標は、これを付した製品の出所を示す ものとして、一定の知名度を有していたと認められる。 そして、被告は、前記4のとおり、原告商標と誤認混同のおそれがある 被告標章を、前提事実(5)のとおり、被告製品に付して使用していたのである から、被告標章の使用は、自他識別機能を果たす態様での使用であるといえ、\n商標的使用に該当するというべきである。
(2) これに対し、被告は、被告製品は被告標章が胸部の中央に大きく印刷され たものであるところ、需要者は、通常、Tシャツの首後ろ部に印刷された被 告シリーズの名称や、被告製品販売時に付された紙製のタグにより被告製品 の出所を認識するから、被告標章により出所を認識するものではなく、被告 標章は自他商品識別機能を果たさない態様で使用されていたと主張する。\nしかし、商標がTシャツの首後ろ部の表示やタグだけではなく、胸元に\n大きく付された商品も多く存在すると認められること(当裁判所に顕著な事 実)に照らすと、需要者がTシャツの首後ろ部に印刷された名称や紙製のタ グにより被告製品の出所を認識するとの事実を直ちに認めることはできない というべきであり、本件全証拠によっても、被告主張の事実を認めることは できない。

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令和5(行ケ)10038  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年10月12日  知的財産高等裁判所

 43類「飲食物の提供等」について、商標「athlete Chiffon」は識別力なしとした審決が維持されました。理由は、本件商標は「運動選手向けのシフォンケーキ」程度の意味合いを認識、理解させるので、役務の質(内容)を表示したものに過ぎないというものです。\n

  本願商標は、「athlete Chiffon」の文字を標準文字で表\nしてなるところ、その構成中の「athlete」の文字は、各種英和辞典\n(乙1〜4)により、「運動選手。スポーツ選手。アスリート。」等の意味 を有するものとして掲載され、その表音を片仮名で表\した「アスリート」の 文字は、国語辞典(乙5)に、「運動選手」を意味するものとして掲載され ている。また、その構成中の「Chiffon」の文字は、各種英和辞典(乙\n1,6)に「シフォン(絹、ナイロンの透けるような布)」「絹またはナイ ロンの軽くて柔らかい織物」を示す名詞や、「軽くてふんわりした。」「〔ケ ーキなどが〕軽くてフワフワした」等の意味を有する形容詞として挙げられ る「chiffon」に由来するものであり、また、その表音を片仮名で表\ した「シフォン」の文字は、国語辞典(乙7)に、「うすくやわらかい絹織 物」との意味の他、複合語として「シフォンケーキ(chiffon ca ke)」(たまごの白身をよく泡立てて加えた、ふんわりして口どけのいい スポンジケーキ。(用例)「紅茶―」)」が掲載されている。これらは、い\nずれも、平易な単語として一般に親しまれているものである。
(3) 各種ウェブサイトや新聞記事(甲4〜9、乙8〜59)によれば、菓子や パン類を含む飲食物や、各種の商品又は役務について、運動選手向けである という商品又は役務の種類を表すものとして「アスリート」「athlet\ne」(欧文字は語頭もしくは全体が大文字のものを含む。以下同じ。)の文 字を語頭に配した「アスリートケーキ」「アスリートパンケーキ」等の語が、 広く使用されている実情が認められる。そうすると、当該「アスリート」の 部分は、後半に続く商品又は役務が「運動選手向け」であることを示すもの として取引者、需要者に認識されるものといえる。 この点、原告は、「athlete」の語からは、「元気」「頑丈」「健 康」等の優れたイメージが想起され、「アスリート」の文字を語頭に配した 商品において、需要者として、運動選手以外の人も想定される旨主張する。
しかし、標章中の「アスリート」「athlete」が取引者・需要者に 「運動選手向け」の商品又は役務を示すものとして認識されるからといって、 その実際の需要者として運動選手のみが想定されることになるものではな く、両者は次元の異なる問題である。 また、原告が援用する「アスリート」「athlete」を含む商標登録 例又は使用例(甲22、30〜54、65〜69)も、上記の認定(語頭の 「アスリート」「athlete」の語は後半に続く商品又は役務が「運動 選手向け」であることを示すものとして取引者、需要者に認識されること) を妨げるものではない。
(4) 各種ウェブサイトや新聞記事(甲10〜12、14、75、乙60〜10 0)において、「シフォン」「chiffon」が「シフォンケーキ」の略 であることを前提に、語頭に、その提供対象を表す語を配した例(「お子様\nシフォン」「お一人さまシフォン」等)、原材料、味を表す語を配した例(「バ\nナナシフォン」「チョコシフォン」等)、行事等の名称を表す語を配した例\n(「バレンタインシフォン」「ひなまつりシフォン」等)が広く使用されて いることが認められる。なお、前掲乙8では、パンと菓子の教室のメニュー で、「アスリートシフォン」というシフォンケーキが提供されている。また、 各種ウェブサイトや新聞記事(甲75,79,80、乙101〜130)に よれば、シフォンケーキ専門の飲食店や店舗の店名に「シフォン」「chi ffon」が用いられていることが認められる。 そうすると、「シフォン」「chiffon」の語頭に、提供対象や原材 料、味を表す語が配された場合、語頭の部分は、後半に続く「シフォン(シ\nフォンケーキの略称)」の種類、内容を表すものであると容易に理解される\nとみるのが相当である。 この点、原告は、多数の商標登録例やグーグルで検索された実例から、飲 食物を販売又は提供する業界でも「Chiffon」がシフォンケーキを意 味しない例が多数存在する旨主張する。 しかし、「chiffon」を含む商標又は店名を使用してシフォンケー キ以外の飲食物を提供している実例があるからといって、飲食物の提供に係 る取引者、需要者の多くが、「chiffon」をシフォンケーキと認識す ることに変わりはないのであって(この認定を覆す反証としては不十分であ\nる。)、原告の主張は上記認定判断を左右するものではない。
(5) 以上によれば、前半に「athlete」の文字と、後半に「Chiff on」の文字とを表し組み合わせた「athlete Chiffon」と の文字からなる本願商標は、これに接する取引者、需要者に、「運動選手向 けのシフォンケーキ」程度の意味合いを認識、理解させるものであるから、 これをその指定役務中、「運動選手向けのシフォンケーキの提供」に使用し ても、これに接する取引者、需要者に、当該役務において提供される飲食物 が運動選手向けのシフォンケーキであること、すなわち、役務の質(内容) を表示したものとして認識させるにとどまり、役務の質(内容)を普通に用\nいられる方法で表示する標章のみからなる商標といえるから、商標法3条1\n項3号に該当するといわざるを得ず、これと同旨の本件審決の判断に誤りは ない。
なお、原告の前記第3の1(1)ウの主張(「athlete Chiffo n」という名の実際の店でシフォンケーキ以外のスイーツも取り扱われ、ア スリートの顧客は4分の1程度であるなど)は、上記判断を左右するもので はない。

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令和5(ネ)10047  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年10月3日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審は、進歩性無しとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。\n◆本件特許6865989号 については、無効審判で無効判断がなされてますが、確定前に取り下げられています。無効審判請求人は、被告ではありません。

控訴人は、授乳室は最適の場所に設置されるものであり、通常は移動が考 えられないから、乙6発明に授乳室の移動を容易にするという動機付けが内 在しているとはいえない旨主張する。 しかし、乙6文献の記載によれば、乙6発明に係る授乳室は設置場所の 壁と床から独立した部材からなる筐体であり、これを既存の建物内に搬入す る形で設置したものと認められるから、設置場所の変更や一時的な退避等の 理由による移動を行うことも十分想定されるものである。乙6発明は移動を\n容易にするという動機付けを内在しているというべきであり、控訴人の主張 は採用できない。
(2) 控訴人は、乙6発明と本件各引用文献記載の技術事項は技術分野が異なり、 乙6発明の属する「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」 技術分野においては、筐体にキャスターを付けることが周知技術であるとは いえない旨主張する。 しかし、本件発明と乙6発明の相違点である「筐体を移動させるキャス ターを備えること」(本件発明の構成要件E)の技術的意義についてみると、\n本件明細書の記載(【0009】「キャスターを利用して授乳用ユニットを 適切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成された 授乳エリアを設置することができる。」、「キャスターを利用して授乳用ユ ニットを移動させるだけで…授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ とができる。」、【0032】「…このように筐体4の底面7にキャスター 36が設けられているため、キャスター36を利用して、地面上で授乳用ユ ニット1を簡易に移動させることができる。」、【0033】「このように、 本実施形態に係る授乳用ユニット1は、キャスター36を利用して地面上を 移動させることができると共に、固定部材37により任意の位置に固定する ことができる。この構成のため、以下の効果を奏する。…本実施形態によれ\nば、所定の空間に、授乳用ユニット1を持ち込み、キャスター36を利用し て、適切な位置に授乳用ユニット1を移動させて、固定部材37で位置を固 定するという簡単な作業を行うのみで、授乳者がプライバシーが完全に保護 された状態で授乳を行うことが可能な授乳用空間3を設けることができ\nる。」、【0034】「さらに、本実施形態によれば、授乳用ユニット1は、 キャスター36を利用して地面上を移動させることができるため、授乳エリ アのレイアウトの変更も容易である。」)によれば、本件発明においても、 授乳中に筐体を移動させることまで想定しているとは認められず、単に内部 の空間に利用者が入ることが可能な筐体を簡易に移動させることができるよ\nうにすることにあると認められる。
このような構成要件Eの技術的意義からみると、本件各文献記載の技術\n事項において、筐体に人を収容する目的が異なるからといって本件発明と技 術分野が異なるなどということはできない。 さらに、本件各引用文献のうち、乙5公報に記載された発明の内容は、 「少なくとも周囲の人の視線を遮ると共に、内部に保育空間を画成する遮蔽 体からなる本体」と「扉」が取り付けられたものであるから(乙5)、「プ ライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」ものと認められるし、 その他の本件各引用文献の記載内容も、筐体に人を収容する目的はそれぞれ 異なるものの(乙13公報は感染性疾患を有する患者の治療、乙14文献は 内部で仕事や読書をするためのパーソナル空間、乙15文献は高気圧酸素環\n境での有酸素運動、乙16公報は浴室、乙17公報は居室内の個室)、いず れも外部の視線を遮り、プライバシーを守る目的又は効果を有する筐体に関 するものである。控訴人の上記主張は、いずれにせよ採用できない。
(3) 控訴人は、乙6発明には、授乳室を当初設置した場所から移動することに よる利用者の利便性の低下、スペースが十分に確保されていない場所への移\n動による人の動線の悪化、人目の届かない場所等への設置による利用者の安 全性の低下又は巡回のための町役場職員の業務増加等、移動による支障が非 常に大きいという阻害要因がある旨主張する。 しかし、控訴人の主張する内容は不適切な場所に移動した場合の弊害に すぎないから、乙6発明に適切な場所への移動を容易にするための移動手段 を設けることについての阻害要因があるとはいえない。
(4) 控訴人は、本件発明は予測できない顕著な効果を有する旨主張する。\n しかし、1)簡易迅速な授乳室の移動を可能・容易にすること、2)授乳用空 間の増設やレイアウト変更を実現することは、いずれもキャスターを付ける ことによる通常の効果であり、3)利用者による授乳室周辺への回遊の促進を 実現すること(例えば、フードコート付近に設置することによるフードコー トの利用者の増加〔甲33〕)は、適切な場所に授乳室を設置することによ る効果であり、いずれも予測できない顕著な効果ということはできない。\n
(5) 以上のとおり、控訴人の当審における補充的主張はいずれも採用できず、 原審が判断するとおり、本件発明は、当業者が乙6発明に周知技術を組み合 わせることにより容易に発明をすることができたものと認められ、本件発明 は特許無効審判により無効にされるべきものである。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和4(ワ)16934

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平成27(ワ)25780等  特許権を受ける権利を有することの確認等請求,真の発明者ではない旨の宣誓手続請求反訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年1月22日  東京地方裁判所

随分前の判決ですが、漏れていたのでアップします。
納入業者がした発明について、納入先が特許出願をしました。発明者には当該納入業者は記載されていませんでした。東京地裁29部は、原告らは共同発明者であると認定しました。また人格的利益を侵害の慰謝料として33万円を認めました。

◆本件特許
原告らは、本件特許から遅れて、10ヶ月後、自ら別の出願していました。

◆原告ら特許

エ 被告は,Fが原告Aに対して,本件攪拌混合機ないし本件角堀掘削ヘッドに ついて特許出願したい旨を伝えたところ,原告Aが「うちはいいから,会社で出し て。」と述べた,また,原告Aは,平成25年12月21日,被告従業員らに対し, 本件特許出願の発明者について「私は年だから息子のほうをお願いします。」と述 べたなどと主張し,被告従業員らの各陳述書(乙30ないし32)があるほか,証 人Fも証人尋問において同旨の証言をする。 しかし,前者(原告Aが「うちはいいから,会社で出して。」と述べたとの事実) については,それがいつ,どのような場面において原告Aからされた発言であるか が主張上も,証人Fの証言上も明確でないから,同事実を認定するには至らない。 後者(原告Aが「私は年だから息子のほうをお願いします。」と述べたとの事実) については,Fは,証人尋問において,「A社長と相談したら,自分じゃなくて若 い者にしてもらったらいいかなというふうに聞いた」,「ありがとうございますと 言われたような気がします。」,「島根に来られたときなんで,ちょっとはっきり, 日付までおぼえてないですけれども。」などと証言するにとどまり,原告Aがいか なる文脈で,どのような趣旨で発言したのかについて明確に証言しないから,発言 した日時,場所等はもとより,原告Aが,本件各発明について,被告による本件特 許出願に際し,自らを発明者として記載せず,原告Bを発明者として記載すること を了承する趣旨で上記のような発言をしたとまで認定することは困難である。
(3) 本件各発明の発明者について
ア 発明者の意義について
「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうか ら(特許法2条1項),「発明者」というためには,当該発明における技術的思想 の創作行為に現実に関与することを要する。 そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する 者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度まで具 体的,客観的なものとして構成されていなければならず(最高裁昭和49年(行\nツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参 照),また,特許法が保護すべき発明の実質的価値は,従来の技術では達成し得な かった技術的課題を解決する手段を,具体的構成をもって社会に開示した点に求め\nられる。これらのことからして,「発明者」というためには,特許請求の範囲の記 載により画される技術的思想たる発明のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎 付ける部分(特徴的部分)につき,これを当業者が実施できる程度にまで具体的, 客観的なものとして構成する創作活動に現実的に関与した者であることを要すると\nいうべきである。
イ 本件発明1について
本件発明1は,「地盤を攪拌しセメントミルクを混合し硬化させて基礎杭を構成\nするためのものであって,先端部に該セメントミルクを噴射するノズル,進行方向 に掘削するための先端掘削翼,及び該先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横 掘削翼を,該先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ 設けたことを特徴とする地盤改良装置。」との特許請求の範囲により画される発明 である。 本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0 006】ないし同【0009】の記載によれば,本件発明1は,従来技術が有する 課題(地盤を攪拌し,セメントミルクを注入して杭を生成する地盤改良装置におい て,先端の攪拌翼〔掘削翼〕が回転するタイプであるため,重複して掘削する必要 があり,また,部分によりセメントの強度が異なるとの問題)を解決するため,従 来技術の構成(進行方向に掘削するための先端掘削翼)に加えて,先端部にセメン\nトミルクを噴射するノズル及び先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横掘削翼 を,先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ設けたと の構成を採用することにより,簡単に矩形状に杭を構\築できるとの作用効果を生じ, 上記課題を解決するものであり,これらの構成が本件発明1の特徴的部分というこ\nとができる。
しかるところ,前記認定事実((1)エ,なお(2)イも参照。)によれば,被告は,平 成22年1月10日,原告らに対して被告が新たに調達するリーダレス型のベース マシンに取り付けるオーガモーターや掘削ヘッドの製作を依頼するに際して,市場 に一般に流通していたツインブレード型の地盤改良装置を参考に,現在1号機や2 号機で使用されている先端掘削翼を有する掘削装置に,デファレンシャルギアなど を用いて回転軸と直角の回転軸を持たせこれに2枚の横掘削翼を設ける構成として\nはどうかなどと提案し,指示していることが認められるから,被告従業員らは,同 日に先立ち,水平掘削翼と,これと直角に回転する回転軸に設置された横掘削翼と から構成されるという,本件発明1の特徴的部分に通じる着想を有していたものと\n認められる。
なお,この点に関連して,原告らは,被告が原告らに製造を依頼したのは,「水 平方向に地盤を広範囲に連続攪拌する機能を備えた地盤改良装置」であって,角柱\n杭を形成することは予定されておらず,原告らが平成25年8月10日に行った試\n掘により覚知したと主張する。前記認定事実((1)エ,オ,ク)によれば,被告は, 浅層ないし中層の地盤改良装置を原告らの参考とさせ,原告らに交付した注文書に は「浅層改良機」との記載があり,また,平成26年に至ってから本格的に本件角 堀掘削ヘッドを深層まで杭を打ち込むことが可能な2号機において稼動させること\nを前提とした種々の発注等を行っていることなどが認められるから,被告は,当初, 角堀掘削ヘッドを浅層ないし中層の地盤改良用途を中心に用いることを構想してい\nた可能性が相応に認められる。しかし,浅層ないし中層の地盤改良であっても,杭\nを並べて打つことにより広範囲を改良する工法は一般的に行われているから(本件 明細書の段落【0007】の記載や,甲第45号証にもかかる工法をうかがわせる 記載がある。),被告が当初有していた着想が,角柱杭を形成することを予定して\nいなかったということはできない。
もっとも,被告は,原告らに対し,上記の基本的な構成のアイデアを示し,参考\n資料としてパワーブレンダー型地盤改良装置とツインブレード型地盤改良装置のパ ンフレットを交付したにとどまり,これを超えて,簡易な模型や図面等を提供した との事実は何ら認められないところ,前記認定事実((1)エ,オ)のとおり,原告ら は,これら基本的な着想を基に使用するべきギアを決めるなどして仕様を定め,本 件見積書やCAD図を作成して本件角堀掘削ヘッドの構成を具体的に決定し,また\n製作においては地盤改良装置等の重機の製造等に長年従事してきた原告Aをもって も半年以上の期間を要し,さらに,現実に動作する製品を製作するにはギアの調整 等に試行錯誤を要したことなどからしても,被告が平成25年1月10日に原告ら にした着想の開示さえあれば,これを具体的,客観的なものとして構成し,反復し\nて実施することが,当事者にとって自明程度のものにすぎないということはできな い。そうすると,被告従業員らにより示された本件発明1の特徴的部分の着想を当 業者が実施可能な程度に具体化する過程において,原告らが相応に創作的な貢献を\nしたものと認めるのが相当である。 したがって,本件発明1は,その特徴的部分の着想から具体化に至る過程におい て,被告従業員ら及び原告らがそれぞれ創作的に貢献したものと認められるから, その発明者は,被告従業員ら及び原告らの5名である。
ウ 本件発明2ないし同4について
本件発明2は,本件発明1に「該横掘削翼は,該先端掘削翼より根本側で,且つ 該先端掘削翼近傍に設けたものである」との発明特定事項を加え,本件発明3は, 本件発明1又は同2に「全横掘削翼の回転面と直角の攪拌面積が,該先端掘削翼が 掘削する面積の1/6以上である」との発明特定事項を加え,本件発明4は,本件 発明1ないし同3に「全横掘削翼は2つである」との発明特定事項を加えた発明で ある。これらの発明の特徴的部分は,前記イに述べた本件発明1の特徴的部分のほ か,上記発明特定事項にあるものと認められる。 そして,前記イに認定説示したところによれば,これらの特徴的部分の各着想か ら具体化に至る過程においては,被告従業員ら及び原告らが相応に創作的な貢献を したというべきであるから,本件発明2ないし同4の発明者も,被告従業員ら及び 原告らの5名である。
エ 共同発明者各自の貢献度について
これまで認定説示してきたとおり,本件各発明は,被告従業員ら及び原告らの共 同発明と認められるところ,各自の貢献度については,前記認定事実に認定したと おりの本件各発明に至る経緯を総合し,本件各発明の特徴的部分に係る着想と,そ の具体化の各過程の価値を等価なものとして,被告従業員らが2分の1,原告らが 2分の1として,さらに,被告従業員ら側内部における各人の貢献度,原告ら側内 部における各人の貢献度も,それぞれ等価なものと認めるのが相当である(なお, 仮に,本件各発明との関係で原告Bを原告Aの単なる補助者とみる余地があるとし ても,弁論の全趣旨によれば,原告らは本件各発明についての特許を受ける権利の 共有持分につき,各2分の1とする旨合意したことが認められるから,上記認定が 判断左右されるものではない。)。
したがって,本件各発明についての共同発明者間の各貢献度は,原告A及び原告 Bが各4分の1,F,D及びEが各6分の1ということになる。なお,前記1の認 定事実によれば,被告従業員らは,本件特許出願に先立ち,本件各発明についての 特許を受ける権利の共有持分を,少なくとも黙示的に,被告に承継させたものと認 められるが,原告らが本件各発明についての特許を受ける権利の共有持分を被告に 承継させたと認めることは困難であり,ほかに被告が原告らから本件各発明につい ての特許を受ける権利の共有持分を承継したと認めるに足りる証拠はない。
(4) 争点2の結論
以上によれば,原告A及び原告Bは,それぞれ,本件各発明について特許を受け る権利の各4分の1の共有持分を有しているものと認められる一方,被告は,本件 各発明について特許を受ける権利の各2分の1の共有持分を有しているものと認め られる。
2 争点2(発明者名誉権の侵害により原告Aが受けた損害の額)について
上記1のとおり,原告Aは本件各発明の共同発明者であるところ,前記前提事実 (第2,2(3))のとおり,被告は,本件特許出願に際して,本件各発明の発明者と して原告Aの氏名を記載していない。この点に関して,原告Aが,本件特許出願に 関し,本件各発明の発明者として自らの氏名を記載しないことを了承したと認める ことが困難であることは,前記(2)エのとおりであり,被告には,原告Aの氏名を記 載しなかったことにつき,少なくとも過失が認められる。 被告の上記行為は,原告Aが本件各発明について発明者として記載されるべき人 格的利益を侵害するものとして不法行為を構成するというべきであり,これにより\n原告Aが受けた損害を賠償する責任を負う。 そこで,原告Aが受けた損害につき検討すると,原告Aが本件各発明の共同発明 者と認定する本判決が確定すれば,原告Aは本件特許出願書類中の発明者の表記を\n訂正できる可能性があること,本件特許出願が公開されたのは平成27年8月3日\nであること,原告らは本件特許出願が公開される前に自ら本件角堀掘削ヘッドを基 にした発明について特許出願しており,原告らを発明者とする同特許出願は,平成 28年5月30日には公開されていることなどなどの事情によれば,発明者として 記載されるべき人格的利益を侵害されたことによる原告Aの損害としては,慰謝料 30万円,弁護士費用相当額3万円の合計33万円を認めるのが相当である。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10023  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年10月3日  知的財産高等裁判所

特許異議申立で取消審決がなされましたが、特許権者は知財高裁に取消訴訟を提起しました。知財高裁は、請求項の「内接」の意義を定義した上、審決を維持しました。出願人は「ドクター中松」で、本人訴訟です。
本件特許はこれです。多数の分割出願があります。

◆本件特許

(1) 本件発明は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複数の翼に内接させるこ とでプロペラガードとして兼用するとの構成を備えるものであるところ、個別の取消事由の検討に入る前に、ここでいう「内接」及び「プロペラガード\nとして兼用」の意義を明らかにしておく。
(2) 「内接」とは、国語辞典に「多角形の各辺がその内部にある一つの円に 接する時、その円は多角形に内接する…」との用例が挙げられているとおり (甲11)、図形の各辺とその内部の円などが接していることを表す用語である。\n
本件明細書の【0013】には、「図8は本発明第5の実施例で、上下用 プロペラ4つの回転軌跡39を全部内接させ、プロペラガードを設けずに4 枚の主翼24と先尾翼28と尾翼29をプロペラガードに兼用させたもので ある」との説明が記載され、図8には、上昇下降用の4つのプロペラが示さ れ、うち翼の間に配置された左右2つのプロペラの回転軌跡がそれぞれ前後 の主翼24と接するように示されている。 同様に、図7、9においても、翼の間に配置された上昇下降用の複数のプ ロペラの回転軌跡が前後の翼に接するように示されており、これに本件明細 書の【0012】〜【0014】(前記第2の2(2)イ)の記載を総合すれ ば、図7〜9に係る第4〜6実施例は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複 数の翼に内接させることでプロペラガードとして兼用するとの構成を示すものと解される。\nもっとも、プロペラの回転軌跡と翼が文字通り接する(接触する)場合、 プロペラの回転が妨げられることが明らかであるから、本件発明の「内接」 とは、プロペラの回転軌跡が翼と接触するには至らない限度で十分に近接していることを意味するものと解される。\n
(3) そして、本件発明の「プロペラガードとして兼用」とは、特許請求の範 囲の記載に示されているとおり、複数の翼の間に配置された上昇下降用プロ ペラの回転をガードする機能をいうものであり、この機能\は、複数の翼の間 に配置された上昇下降用プロペラの回転軌跡を前方又は後方の複数の翼に内 接させることによって生じるものであると認められる。また、本件発明の上記第4〜6実施例(図7〜9)では、複数の翼の間に配置された上昇下降用プロペラの回転軌跡の一部のみが翼に内接する構成が示されていることから、上昇下降用プロペラの回転軌跡の少なくとも一部が翼に内接していれば、翼がプロペラガードとして機能\するものと解される。
(4) 原告は、「内接」とは「プロペラ軌跡が両翼に挟まれ、かつ両翼端部を結んだ線を出ないことを意味する」とも主張するが(上記第3の1(2)ア)、図7〜9の実施例がそのような構成を有するものだとしても、特許請求の範囲に当該構\成を加える訂正(減縮)をしたわけでもないのに、「内接」という文言自体をそのような限定的な意味で解釈することは許されないというべきである。

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令和5(行ケ)1004 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年9月28日  知的財産高等裁判所

指定商品・役務「産業用ロボット並びにその部品及び付属品」、「荷役用ロボットの貸与など」の商標「ラース/RaaS」は識別力がない(商3条1項3号)、または品質誤認が生ずる(商4条1項16号)とした審決が維持されました。

そして、証拠(乙1〜21)及び弁論の全趣旨によれば、下段の「RaaS」 の欧文字は、ロボット・アズ・ア・サービス(「Robot as a S ervice」又は「Robotics as a Service」)の 略で、「ロボットをサービスとして提供・利用することができるサービスで あり、ロボット本体やロボットを制御するシステムを自社でつくり運用する のではなく、ロボット本体をレンタルし、クラウド上にある制御システムを 利用するしくみ」を意味するものとして、上段の「ラース」の文字はその読 み方として一般に用いられていること、このような意味における「ロボッ ト・アズ・ア・サービス(RaaS)」の概念は、本願の指定商品及び指定 役務に係る物流業界、製造業界、金属加工業界、食品加工業界を含む産業界 において注目を集め、実際に、一部の業界において、「RaaS(ラース)」 と称されてロボットが提供(貸与)されていることが認められる。 そして、本願商標は、上段に「ラース」の片仮名を、下段に「RaaS」 の欧文字を二段に表してなるものであるが、特に図案化がされているもので\nもなく、普通に用いられる方法で表示されたものである。\n
(3) そうすると、「RaaS」の欧文字及びその読み方を表した「ラース」\nの片仮名を二段に表したにすぎない本願商標に接した取引者、需要者は、\n「ロボットをサービスとして提供・利用することができるサービスのための ロボット並びにその部品及び附属品」及び「ロボットをサービスとして提 供・利用することができるサービスのためのロボットの貸与」を意味するも のと理解し、本願の指定商品及び指定役務との関係においては、本願商標は、 商品の品質、用途及び役務の質、提供の用に供する物、提供の方法を表した\nものと認識するにとどまるというべきである。 よって、本願商標は、商品の品質、用途及び役務の質、提供の用に供す る物、提供の方法を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標\nであるから、商標法3条1項3号に該当する。
(4) これに対し、原告は、「RaaS」自体に特定の意味がなく、「RaaS」 から商品又は役務の特徴等を認識できないと主張する。 しかしながら、前記のとおり、本願商標を構成する「RaaS」、「ラー\nス」の文字は、ロボット・アズ・ア・サービス(ロボットをサービスとして 提供・利用することができるサービス)を意味するものとして用いられてい ること、このような意味における「RaaS(ロボット・アズ・ア・サービ ス)」の概念は、本願の指定商品及び指定役務に係る物流業界、製造業界、 金属加工業界、食品加工業界においても注目を集めていることが認められる のであって、「RaaS」が頭文字の集合体であるからといって、それ自体 から特定の意味を認識させないとはいえない。

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令和4(ネ)10094  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年10月5日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

原審は、分割の遡及効が認められず、親出願から新規性違反の無効理由有りと判断していましたが、知財高裁はサポート要件違反ありとして権利行使不能と判断しました。

当裁判所は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載には、分割出願が適法である か否かにかかわらず、サポート要件違反があり、本件訂正が有効であったとしても、 サポート要件違反があることが認められるから、結局、本件特許は特許法36条6 項1号違反により無効にされるべきものであり、同法104条の3第1項により、 原告は被告に対し、本件特許権を行使することはできないと判断する。その理由は、 以下のとおりである。
(2) 本件についてみると、本件明細書(以下、原出願当初明細書も同じ。)には、 「発明が解決しようとする課題」として、「出願人は、1234yf等の新たな低地 球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在すること を見出した。」(【0003】)との記載がある。また、「本発明によれば、HFO−1234yfと、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HCFC−243 db、・・・caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化 合物とを含む組成物が提供される。組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約 1重量パーセント未満を含有する。」(【0004】)、「HFO−1234yfには、いくつかある用途の中で特に、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤 としての用途が示唆されてきた。また、HFO−1234yfは、V.C.Pap adimitriouらにより、Physical Chemistry Che mical Physics、2007、9巻、1−13頁に記録されているとお り、低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である。このよ うに、HFO−1234yfは、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補である。」 (【0010】)といった記載に、【0013】、【0016】、【0019】、【0022】、【0030】、【図1】の記載を総合すると、本件明細書には、HFO−1234yfが低地球温暖化係数(GWP)を有することが知られており、高GWP飽和HF C冷媒に替わる良い候補であること、HFO−1234yfを調製する際に特定の 追加の化合物が少量存在すること、本件発明の組成物に含まれる追加の化合物の一 つとして約1重量パーセント未満のHFC−143aがあること、HFO−123 4yfを調製する過程において生じる副生成物や、HFO−1234yf又はその 原料(HCFC−243db、HCFO−1233xf、HCFC−244bb) に含まれる不純物が、追加の化合物に該当することが記載されているということが できる。
しかるところ、HFO−1234yfは、原出願日前において、既に低地球温暖 化係数(GWP)を有する化合物として有用であることが知られていたことは、【0 010】の記載自体からも明らかである。したがって、HFO−1234yfを調 製する際に追加の化合物が少量存在することにより、どのような技術的意義がある のか、いかなる作用効果があり、これによりどのような課題が解決されることにな るのかといった点が記載されていなければ、本件発明が解決しようとした課題が記 載されていることにはならない。しかし、本件明細書には、これらの点について何 ら記載がなく、その余の記載をみても、本件明細書には、本件発明が解決しようと した課題をうかがわせる部分はない。本件明細書には、「技術分野」として、「本開 示内容は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニ ング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよ びポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にあ る消火剤として有用な組成物の分野に関する。特に、本開示内容は、2,3,3, 3,−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)また は2,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243db または243db)、2−クロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO− 1233xfまたは1233xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフ ルオロプロパン(HCFC−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有 用な組成物に関する。」(【0001】)との記載があるが、同記載は、本件発明が属 する技術分野の説明にすぎないから、この記載から本件発明が解決しようとする課 題を理解することはできない。
そうすると、本件明細書に形式的に記載された「発明が解決しようとする課題」 は、本件発明の課題の記載としては不十分であり、本件明細書には本件発明の課題が記載されていないというほかない。そうである以上、当業者が、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することができるというこ\nともできない。
(3) 仮に、上記【0001】の記載をもって本件発明の課題を説明したものと理 解したとしても、次に述べるとおり、本件明細書の記載をもって、当業者が当該課 題を解決することができると認識することができるとは認められない。
すなわち、この場合の本件発明の課題は、「2,3,3,3,−テトラフルオロプ ロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)または2,3−ジクロロ−1, 1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243dbまたは243db)、2−ク ロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xfまたは123 3xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC −244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物を提供すること」 と理解されることとなるはずである。
そして、本件発明は、1)HFO−1234yf、2)0.2重量パーセント以下の HFC−143a、3)1.9重量パーセント以下のHFC−254ebを含む組成 物によって、当該課題を解決するものということになる。 しかるところ、本件明細書には、上記1)〜3)を含む組成物についての記載がされ ているとはいえない。すなわち、【0121】〜【0123】(表5(【表\6】))には、実施例15として、HCFC−244bbからHFO−1234yfへ、触媒無しで変換したところ生じた、HFO−1234yf、HFC−143a及びHFC− 254ebを含む組成物が4例記載されており(加熱された温度(゜C))がそれぞれ 550、574、603、626)、当該組成物に含まれるHFC−143aの量が それぞれ、0.1、0.1、0.2、0.2モルパーセントであること、及び同H FC−254ebの量がそれぞれ1.7、1.9、1.4、0.7モルパーセント であることが記載されている。しかしながら、表5(【表\6】)に記載された組成物 には「未知」のものが含まれており、その分子量を知ることができないから、同表において、モルパーセントの単位をもって記載されたHFC−143a及びHFC−254ebの含有量を、重量パーセントの含有量へと換算することはできない。\nそうすると、本件明細書には、上記1)〜3)の構成を有する組成物についての記載がされていないというほかない。それのみならず、本件明細書には、このような構\成を有する組成物が、HFO−1234yfの前記有用性にとどまらず、いかなる意 味において「有用」な組成物になるのか、という点について何ら記載されておらず、 示唆した部分もない。したがって、当業者が、本件明細書の記載から、上記1)〜3) の構成を有する組成物が、熱伝達組成物として「有用な」組成物であるものと理解することもできない。したがって、当業者は、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することはない。
(4) 以上のとおり、分割出願が有効であり、出願日が原出願日(平成21年5月 7日)となると考えたとしても、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、サポー ト要件に適合するということができないから、本件発明に係る特許は、無効審判請 求により無効とされるべきものである(特許法123条1項4号、36条6項1号)。 そして、このことは、分割出願が無効であり、出願日が分割出願の日(令和元年9 月4日)となる場合でも同様である。
3 争点3(訂正の再抗弁の成否)について
本件訂正発明についても、本件発明に係る請求項1のHFO−1234yfにつ いて「77.0モルパーセント以上」という下限が設定されただけで、本件訂正後 の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合しても、当該下限にどのような技術 的意義があり、これによりどのような課題を解決することができるのかは明らかに されていない。また、前記2(2)及び(3)と同様、本件訂正発明に係る組成物の構成により解決しようとしている課題や、その解決方法が本件明細書に記載されていないことには変わりはない。したがって、訂正が有効だとしても、本件訂正発明に係\nる特許請求の範囲の記載には、前記2(2)及び(3)と同じ理由により、サポート要件 違反の無効理由が存在することとなるので、訂正の再抗弁によりサポート要件違反 の無効理由を解消することはできない。 そうすると、本件訂正の適法性及びその余の争点につき判断するまでもなく、特 許法104条の3第1項により、原告は被告に対し、本件特許権を行使することが できない。
本件特許の無効審決審決取消訴訟です。

◆令和4(行ケ)10126

◆令和4(行ケ)10125
侵害訴訟の1審はこちらです。 1審は、新規性違反を理由として、権利行使不能と判断していました(特104-3)。

◆令和3(ワ)29388

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令和5(行コ)10001 特許分割出願却下処分取消請求控訴事件 特許権 行政訴訟 令和5年9月28日 知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許料納付後、設定登録されてからした分割出願の却下処分について、不服申し立てを行いましたが、1審の東京地裁は却下処分は妥当と判断しました。知財高裁も同様です。
経過としては、7月7日特許査定謄本送達、同月20日特許料納付、同月29日設定登録、同月8月5日分割出願です。時期としては、分割出願日が設定登録の後となってます。査定謄本の送達日から30日以内(特44条1項2号)という要件は満たしていると争いましたが、設定登録後は「特許出願人」ではないと判断されました。
法解釈的には裁判所の解釈は正しいです。ただ、条文の規定も、ユーザフレンドリーからすると、同2号に「ただし、設定登録後は除く」と確認的に明記しておけば、このような問題は生じないと感じました。

特許出願の分割は、もとの特許出願の一部について行うものであるから、 分割の際にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要であり、法4 4条1項の「特許出願人」及び「特許出願」との文言は、このことを示すも のである。同項1号から3号は、これを前提に、分割の時的要件を定めるも のであり、これに反する控訴人の主張は、同項所定の「特許出願」、「特許出 願人」との文言を無視する独自の議論といわざるを得ず、採用できない。な お、控訴人は、法65条1項を「特許出願人」と記載されていても「特許権 者」と解釈すべき例として挙げるが、同項の「特許出願人」は「警告をした」 の主語でもあるところ、これが出願公開後、設定登録前の特許出願人を指す ことは明らかである。
また、控訴人は、設定登録後は分割出願できないとの処分行政庁の解釈は 法44条1項に関する改正法の立法趣旨に反する旨主張する。しかし、同項 2号が、特許料納付期限(法108条1項)と平仄を合わせる形で、特許査 定の謄本送達日から「30日以内」を分割出願の期限と定めたのは、同期限 内であれば、特許査定を受けた特許出願人の意思によって「特許出願人」た る地位を継続することが可能であることを踏まえて、当該特許出願人が、特\n許査定を受け入れてそのまま特許料の納付に進むのか、分割出願という選択 肢を行使するのかという表裏一体の判断を検討するための猶予\期間を付与 したものと理解することができる。したがって、改正法の内容は、特許出願 が特許庁に係属していることを分割出願の要件とするとの解釈と何ら矛盾 するものではなく、むしろこれと整合するものといえる。
また、中国、台湾における取扱いを述べる控訴人の主張は、各国工業所有 権独立の原則、工業所有権の保護に関するパリ条約4条G(2)第3文に照 らして、本件の判断に影響を及ぼすものとはいえない。
(2) 取消事由2について
控訴人は、特許登録について独占権発生という効果のほかに分割不可化という効果が生じるのであれば、当該効果の部分については特許出願人に通知されて初めて効果が生じる旨主張する。しかし、設定登録は分割不可化という効果を目的とする行政処分ではなく、設定登録によりもとの出願が特許庁に係属しなくなることの派生的効果として、結果的に適法な分割ができなくなるというにすぎないのであって、控訴人の主張は、前提を欠くというべきである。

◆判決本文

原審はこちら

◆令和4(行ウ)382

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令和3(行ケ)10152  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年9月20日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しした審決について、知財高裁は、サポート要件違反ありと認定し、審決を取り消しました。

(4) 本件発明についてのサポート要件の検討
ア 従来技術の問題2を解決するための手段として、本件発明1は、前記2(2)ア のとおり、回転子積層鉄心を押圧する際の上型及び下型に対する回転子積層鉄心の 配置及び上型と下型との位置関係又は状態を特定する発明であるのに対し、本件明 細書の発明の詳細な説明に記載された発明は、前記2(3)ウのとおり「回転子積層鉄 心12の下面25が当接する矩形板状のトレイ部26と、トレイ部26の中心部に 立設され、回転子積層鉄心12の軸孔11に嵌入する直径固定型で棒状のガイド部 材27とを有している搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を下型1 7上に搬送し」、「搬送トレイ16を回転子積層鉄心12と共に、下型17から取り 外し、回転子積層鉄心12が搬送トレイ16から取り外される」ものであるから、 本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると、搬送トレイを不可欠の構成として\nいるものと解される。そうすると、本件発明1には、回転子積層鉄心を搭載する搬 送トレイを含む構成の発明だけでなく、この搬送トレイを含まない構\成の発明も含 まれており、搬送トレイを構成に含まない特許請求の範囲の記載を前提にした場合、\n上記発明の詳細な説明の記載から、当業者が、積層鉄心を下型の有底穴部に嵌挿し、 加熱後、積層鉄心を下型の有底穴部から取り出す作業は、人手又は機械によっても、 時間を要するもので、作業性が極めて悪いこと(従来技術の問題2)を解決して、 生産性及び作業性に優れており、安価に作業ができる永久磁石の樹脂封止方法を提 供するという本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。 そして、この点は本件発明2及び本件発明3も搬送トレイを構成に含まない発明を\n含むため、同様であるといえる。
イ また、段落【0010】には、「本発明に係る永久磁石の樹脂封止方法におい て、前記回転子積層鉄心は中央に軸孔を有し、前記回転子積層鉄心を前記軸孔に嵌 入するガイド部材を備えた搬送トレイに載せて、前記上型及び前記下型の間に配置 してもよい。」との記載があり、搬送トレイを不可欠の構成とはしていないことを前\n提とした発明の詳細な説明の記載があるが、前記2(4)アのとおり、本件明細書の発 明の詳細な説明の記載によると、従来技術の問題2を解決するために搬送トレイを 不可欠の構成としているから、搬送トレイを用いずに本件発明の課題を解決するた\nめには搬送トレイに代わる構成が必要となるものと解されるところ、本件明細書の\n記載によっても搬送トレイの具体的構造に関する記載(【0047】【0048】)は\nあるものの搬送トレイに代わる構成を具体的に示唆する記載はなく、これに代わる\n構成が当業者にとって明らかであることを認めるに足りる証拠もないから、当業者\nが出願時の技術常識に照らしてみたとしても、発明の詳細な説明に具体的な記載が ないまま、回転子積層鉄心を下型上に固定し、また下型から取り外す工程に係る課 題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。この点、本件発明2 及び本件発明3も同様である。
ウ そうすると、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていな い発明を含むから、特許法36条6項1号の要件を満たさない。
エ この点、本件審決は、本件発明の課題は、本件発明1に係る特許請求の範囲 に記載された「前記回転子積層鉄心を、上型及び下型の間に配置して、前記上型及 び前記下型同士が当接することなく、前記下型及び前記上型で前記回転子積層鉄心 を押圧し・・・前記永久磁石を樹脂封止する」ことにより、解決すると認識できる から、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであると判断し、 被告も、搬送トレイを備えなくとも、サポート要件を満たすとした本件審決の認定 に誤りはないと主張する。 しかしながら、上記判断の前提は、本件明細書において、「このような課題を解決 する発明の実施の形態として、「(a)前工程から送られてきた、永久磁石14が磁 石挿入孔13に挿入され搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を別途 搬送手段等を用いて下型17上に搬送し、上型21(以下、キャビティブロック7 4も含む)に対して位置決めして固定」(【0039】)し、「(b)下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下型17を少し上昇し、回転子積層鉄心12とキャ ビティブロック74とを密着させ・・・」(【0040】)、「(c)原料18が加熱されて粘度が下がると、更に、下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下 型17を上昇して、搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を上型21 に押し付け」(【0041】、熱硬化性樹脂によって永久磁石を磁石挿入口に固定させ た上で、「下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下型17を下降させ」 (【0044】)、「その後、搬送トレイ16を回転子積層鉄心12と共に、下型17 から取り外し、回転子積層鉄心12が搬送トレイ16から取り外され、搬送トレイ 16は別途搬送手段により後工程に送」(【0044】)ることが記載されており、こ れにより、「複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心に形成された複数の磁石挿入 孔に挿入された永久磁石を、樹脂部材を磁石挿入孔に注入して固定する際、上型及 び下型により回転子積層鉄心を押圧し、樹脂部材を磁石挿入孔に充填することによっ て、・・・簡単な工程で、短時間に行うことができ、生産性及び作業性に優れており、安価に作業ができる」(【0011】)との効果を奏する発明が記載されている。」といえるものであるから、本件審決は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された 上記工程からなる本件発明の実施の形態が課題を解決できることを判断しているも のと認められる。
そうすると、本件審決は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された本件発明 の実施の形態について、当業者が課題を解決できると認識できることをいうにとど まり、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範 囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当 業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、 その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解 決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断したものとはいえな い。したがって、本件審決は、特許法36条6項1号に規定される「特許を受けよう とする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を判断したものとはい えない。

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令和2(ワ)12107  職務発明対価相当請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年8月29日  大阪地方裁判所

 大阪地裁(21部)は、薬の職務発明の報奨金として、超過売上高、仮想実施料率、寄与度、使用者貢献度、発明者間における原告の貢献割合から、約400万円を認めました。

イ 超過売上高(超過売上率)
前記前提事実のとおり、被告は、自ら又は本件受託3社に販売委託をして本件製 品2を販売し、本件特許2を実施している。 本件製品2は、先発医薬品Lカプセルの後発医薬品であるが、1回の投与で長時 間シグモイド型の薬物放出を続けるアンブロキソール塩酸塩の徐放OD錠化の技術\nを用いた製品は、本件製品2以外には上市されていない。被告もアンブロキソール\n塩酸塩の徐放カプセル剤及び錠剤(普通錠)を販売し、本件製品2の販売開始後の 平成27年7月に先発医薬品メーカーからアンブロキソール塩酸塩の錠剤(徐放小\n型錠)が販売されたが(乙115)、本件製品2以外にアンブロキソール塩酸塩の\n徐放OD錠の製品が製造販売されている事情は見当たらない。 また、本件製品2は、市場占有率が平成30年に1位となった。 これらの事情を勘案すると、超過売上高(超過売上率)は40%と認めるのが相 当である。
ウ 仮想実施料率
実施料率の判断にあたっては、被告(特許権者)の実施許諾例があればまず検討 し、それがなければ業界相場等や発明の内容等を検討することになるが、被告にお ける実施許諾例がある事情は見当たらない。 医薬品の自己実施に係る実施料率に関する資料によれば、「医薬品では6%前後 の率に…上下1〜2%程度増減した率が大方の相場」とされるもの(乙116)、 「医薬品・その他の化学製品(イニシャル有)」では3〜5%が最も多いとするも の(乙117【図2−5−1】)、3〜5%未満が最も多いとするもの(乙118) が見られる。そして、本件発明2は、1回の投与で長時間シグモイド型の薬物放出 を続けるアンブロキソール塩酸塩の徐放OD錠に関する発明であるが、剤形が異な\nるものの治療学的に同等の有効性、安全性を有する医薬品は他にも存在する。 このような事情を総合考慮すると、本件における仮想実施料率は5%と認めるの が相当である。
エ 本件発明2の貢献度(寄与度)
本件発明2は剤形に関するものであり、服用の利便性から本件製品2の売上げに 貢献しているものと認められる。 他方で、本件製品2は後発医薬品であり、有効成分は先発医薬品(Lカプセル) と同じである。また、本件製品2には、本件発明2に開示されていない製剤化技術 も用いられているものと考えられる。加えて、本件製品2の売上げが好調である要 因は、国のジェネリック医薬品販売促進施策がとられており(乙119、120)、 薬価も先発医薬品に比して格段に安くなっている(乙121、122)ところが大 きい。 これらの諸事情を勘案すると、本件発明2の貢献度は、多くとも60%と認める のが相当である。
オ 共同発明者間における原告の貢献割合
原告は、口腔内崩壊錠の着想をしたのみならず、その具体化の過程である製 造開発の場面においても、自身の知見に基づき、結合剤や徐放被膜のコーティング に用いる添加剤、可塑剤等のあらゆる場面における技術の選定について、本件チー ムのP2らに指示ないし助言し、これを基に本件発明2が完成したことからすれば、 原告の貢献割合は100%に近いなどと主張する。 発明の着想は、課題とその解決手段ないし方法が具体的に認識され、技術に関す る思想として概念化されたものである必要があると解される。また、医薬品の開発 においては、発明を完成させるまでに、試行錯誤を経ながら、添加成分の種類や配 合比率、配合条件等について多数の試作、試験・実験を行い、これから見出される 問題点を改善し、その効能や安全性、利便性等を確立していくことが必要不可欠で\nあると認められる(証人P2、証人P5)。 これらの点を踏まえ、原告の上記主張について、以下検討する。 上記(1)の認定事実によれば、原告が、平成18年頃、アンブロキソール塩酸\n塩の徐放カプセルをOD錠とすれば医療現場から歓迎されると考え、平成19年か らは新製品創出の専属メンバーの一人として、他社製品の調査や技術的検討を行っ た上、OD錠化の発想を一定程度具体化して提案し、瀬踏み実験に関与して、本件 製品2の開発承認決定(平成20年2月)に貢献したことは認められる。 しかしながら、本件発明2は平成23年11月頃に完成したものと認められ るところ(上記(1)ウ m)、添加成分の選定や処方等に関する検討を実際に行った のは、上記(1)のとおり、P2をリーダーとする本件チームであった。すなわち、本 件チームは、本件発明2の特徴的部分の構成を実施可能\な程度に具体化するために 多数の試作、試験・実験を行うなど試行錯誤を繰り返し、その過程において、複数 回にわたって報告(中間報告及び技術説明会)を行い、報告時点における試作実験 の結果及び今後の課題を検討し、課題の解決を目指して3年余りにわたり検討を行 っている。 他方、原告は、本件チームに所属しておらず、開発月例会議等の会議には出席し ていたことが認められるものの、本件チームの行う試験・実験に関与していたとは 認められない。また、原告は、本件チームの発足後、製剤技術部の顧問の地位にあ り、本件チームの職員と接する機会はあったことから、本件チームのメンバーに対 し、その知識及び経験を生かして助言できることがあれば概括的に助言していたも のと認められるが(原告本人、証人P5)、以下のとおり、本件製品2の開発過程 において、具体的な指示に関する客観的な証拠はない。
a 原告は、徐放性微粒子の核粒子として、ハルナールD錠に使用されているセ ルフィアCP−102を用いるよう指示した、他に検討の余地はなかった旨を主張 する。 上記(1)ウ によれば、開発当初は核粒子として用いる添加剤はセルフィア(結晶 セルロース粒)で進めていたが、溶出性に影響する可能性があり、他の添加剤も試\nしてみたが期待した効果は得られなかったことが平成20年11月に報告され、そ の後、結晶セルロース粒の2種のグレードで試作検討した結果、平成21年3月に セルフィアCP−102が選定されたことが認められる。原告が、上記の検討過程 でセルフィアCP−102の使用を指示したことを明らかにする客観的証拠はない。 仮に原告がセルフィアCP−102の検討につき何らかの助言をしたことがあった としても、その選定には上記のような試行錯誤を経て数か月を要していることから すると、原告が他に検討の余地はないものとして選定を具体的に指示したとは認め られない。
b 原告は、薬物レイヤリング工程に関し、溶解法から懸濁法に変更になった際、 文献(甲19、20、22、66〜68等)からの知見に基づき、溶出改善のため 薬物レイヤリング層に崩壊剤を添加すべきこと、また、崩壊剤としてはクロスポビ ドンを検討することを指示した旨主張する。 上記(1)ウ によれば、懸濁法への変更後、平成22年11月から薬物レイヤリン グ層に崩壊剤を添加して、徐放性微粒子の溶出改善を検討し、同年12月には崩壊 剤としてクロスポビドンを添加することが有用と判明したことが認められる。上記 の検討過程において、原告が崩壊剤の添加やクロスポビドンの検討を指示したこと を明らかにする客観的証拠はない。同月の技術検討会の資料(乙55)では、レイ ヤリング層の改良検討の中で、シグモイド曲線を改善する工夫として、クロスポビ ドン等の崩壊剤添加を含むいくつかの工夫案が実験され、その結果としてクロスポ ビドン添加の有用性が報告されている。このような経過の中で、原告が行ったと主 張する指示は内容や経緯が不明確であって、具体的指示の存在を認めることができ ない。
c 原告は、薬物レイヤリングに用いる結合剤として、文献(甲18)を参考に してPVPを用いるよう指示した、他に選択の余地はなかった旨主張する。 上記(1)ウ 及び によれば、平成20年9月の段階では、結合剤としてPVPを 含む4種類が検討されたが、●(省略)●再検討の結果、PVPが選定されたこと が認められる。原告が上記の検討過程でPVPの使用を指示したことを明らかにす る客観的証拠はない。原告は、pH依存性のある化合物が先発製剤(Lカプセル) の中に含まれる場合、これと同じものを使用しなければ同等の溶出率を確保できな いというが、本件チームにおいて、平成20年11月には「結合剤についても先発 の溶出挙動にあわせる組み合わせに目処を得た」、同年12月には「pH依存性の 異なる結合剤を組み合わせることにより、溶出挙動をコントロールすることができ、 標準製剤と合致した溶出性を示す徐放性顆粒を得ることが確認できた」との報告が あり(甲61の1)、原告もそれを知っていたと認められる(甲90)。そうする と、仮に原告がPVPの使用に関する何らかの助言を行ったことがあったとしても、 他の選択の余地がないとして選定を具体的に指示したとは認められない。
d 原告は、平成22年12月頃、徐放性被膜の被覆(放出制御層)に関し、E CとTC−5に類似のグレードの混合被膜を用い、エタノールと水の8:2程度の 混合溶液に溶解して被覆する方法とすることを指示した旨主張する。 上記(1)ウ によれば、懸濁法に変更された後、徐放性被膜のコーティングに関し、 徐放カプセルに用いられている配合を参考にEC及びTC−5のグレードで試作し て溶出性を検討していたところ、平成23年2月の中間報告において、EC(ST D10)とTC−5Rを8:2.5の比率でコーティングすればシグモイド型の溶 出となる旨報告されたことが認められる。上記の検討過程において、原告が被覆の 方法を指示したことを明らかにする客観的証拠はない。また、コーティング剤の処 方につき、AQCを主成分とするものに問題があるとすれば、被告が既に製造販売 していた徐放カプセルの処方を参考としてECを主成分とする試行を行うこと自体 に困難性は認められないし、実際の混合比率は多くの試作,実験を経なければ選択 できないことは明らかである(本件では約50ロットの試作が行われた。)。この ような状況で、原告の主張する指示の内容や経緯は不明確であり、原告が具体的な 指示を行った事実を認めることができない。
e 原告は、文献(甲20)により導かれた知見に基づき、本件製品2の開発当 初から、加圧圧縮により徐放性被膜にひび割れなどの損傷が生じることを防止する ため、ある種の可塑剤が有用であることを認識し、文献(甲23)から得た知見に 基づき、PEG6000(マクロゴール)と薬物を混合して用いることで徐放性被 膜の耐圧性向上が図れると判断して、マクロゴールの添加を指示したと主張する。 しかし、上記(1)ウ によれば、平成21年9月には、プロテクト層(オーバーコ ート第1層)にECとTC−5RにTween80を添加した処方により顆粒の割 れ防止が可能と報告されており、また、上記(1)ウ によれば、平成22年12月か ら徐放層(放出制御層)の主成分をAQCからECに変更することが検討されたの に伴い、プロテクト層の処方も再検討されたことが認められるところ、原告が処方 について提案したことを示す客観的証拠はない。仮に原告もその検討に参加してP EG6000の使用について何らかの言及をしたことがあったとしても、結局は実 験による試行錯誤を経てプロテクト層に配合する薬剤の有効性や処方が明らかにな ったのであるから、原告が具体的な指示をしたとか、それによってマクロゴールの 添加が選定されたとの事実を認めることはできない(原告は「可塑剤」としてPE G6000を用いるというのは誤りであると指摘するが、「可塑剤」の意味合いは ともかく、ここではプロテクト層に配合される薬剤を検討していることに変わりは なく、原告の指摘の点は結論を左右するものではない。)。
f 原告は、崩壊促進層の被覆(粘着防止層)に関し、徐放性被膜に類似のEC を主体とする疎水性被膜を、溶出特性に影響しない程度に薄く被覆して、速崩壊性 を担保するよう指示した旨主張する。 上記(1)ウ によれば、徐放層の主成分がAQCからからECに変更され、オーバ ーコート層にPEG6000(マクロゴール)を用いることとされたところ、PE G6000が露出したままの微粒子を配合して錠剤化すると、水による粘性が生じ、 また崩壊にも悪影響を与えることから、検討の結果、平成23年4月の技術検討会 で、苦味マスキング層と同一処方で薄いコーティング(オーバーコート層第2層) を施すことになったことが認められる。上記の検討過程において、原告が被覆の必 要性や処方について具体的に指示したことを明らかにする客観的証拠はない。また、 原告の主張する指示は、内容が概括的である上、指示が行われた経緯も不明確であ るから、具体的な指示が行われた事実や当該指示の方法で実験が進められた事実を 認めることができない。
g 原告は,他にも本件製品2の開発過程で種々の指示をしたことにより本件発 明2の完成に多大な貢献をした旨主張する。しかし、いずれも原告が具体的に指示 したことを認めるに足りる証拠がなく、原告の上記主張は採用できない。 上記(1)の認定事実、並びに、上記 及び の事情に照らせば、原告のほか、 P2、P3ら本件チームにおいて本件発明2の完成に向けて実験、分析等に主体的 に関与した者も本件発明2の共同発明者というべきである。そして、原告は、アン ブロキソール塩酸塩のOD錠を製することを発想し、それを一定程度具体化して瀬\n踏み実験にも関与し、開発承認を得た点で、本件発明2の特徴的部分の一部につい て着想・具体化し、本件発明2の完成に貢献したといえる。しかし、原告は、その 後は概括的な助言を与えることがあるのみで、発明の具体化に直接的に関与したと は認められないから、本件発明2の特徴的部分の多くについては、着想もその具体 化もしていないといわざるを得ない。 これらの事情を総合すると、原告の共同発明者間における貢献割合は、20%と 認めるのが相当である。
カ 使用者貢献度
被告は、本件製品2の開発設備や費用、製造承認申請に要する費用をすべて負担\nし、本件特許2の出願及びその維持に係る費用もすべて負担している。また、本件 製品2の売上げの拡大に関する営業努力もすべて被告が行っている。さらに、本件 製品2は後発医薬品であり、先発医薬品とは異なって、獲得すべき有効成分や効能\n効果がすでに明らかとなっているところ、後発医薬品は、一般に、先発医薬品に比 べて開発期間は短く、開発費も相対的に少ない反面、薬価も先発医薬品に比べて安 価であって、先発医薬品ほどの利益は必ずしも期待できない。そして、先発医薬品 と治療学的に同等の有効性、安全性を有し、法定の厚生労働大臣の製造販売の承認 を得なければならず、かつ、先発医薬品に求められている改善点にも配慮した競争 力のある医薬品を開発することになる点においては、後発医薬品であっても大きな 開発リスクが生じるというべきであるところ、被告は、このような開発リスクをす べて負担している。 これらの事情に照らせば、使用者貢献度は90%を下ることはないと認めるべき である。
キ 小括
以上の検討によれば、本件発明2に係る相当の対価の額は、次の計算式により算 出された388万8000円となる。
【計算式】 162億円×40%×5%×60%×10%×20%

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令和3(ワ)33996  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年7月7日  東京地方裁判所

特許権侵害訴訟です。第1要件を満たさないとして、均等侵害も否定されました。

(1) 均等の第1要件にいう特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の 特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を 構成する特徴的部分であると解すべきである。\nそして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、 特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許 請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきであ る。 また、第1要件の判断、すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分 であるかどうかを判断する際には、上記のとおり確定される特許発明の本 質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し、これを備え ていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべ きである。
・・・
これらの記載に照らすと、本件発明は、把持部を水平方向に軸回転させ て負荷付与部の負荷を引き上げ、把持部にかかる上方向に付勢する負荷を 軽くすることを可能にする構\成を採用することにより、使用者が、「弛緩」 と「伸張」の動作を加えながら適切な「短縮」のタイミングを出現させる ことができ、各筋肉群が「弛緩−伸張−短縮」のタイミングを得て、連動 性よく動作を行うことができることを可能にするとともに、両腕を屈曲さ\nせて把持部を引き下げることに伴い、両腕を外側に広げることに対する抗 力が減少する構成を採用することにより、筋の「共縮」を防ぐことを可能\ にし、もって、筋肉の硬化を伴うことなく、筋肉痛や疲労など身体への負 担が少なく、柔軟で弾力性の富んだ肩部や背部の筋肉等を得ることができ るトレーニング器具を提供し、従来技術の課題を解決するものといえる。 そうすると、これらの各構成については、従来技術に見られない特有の技\n術的思想を構成する特徴的部分であると認めることができる。\n
そして、本件明細書においては、上記の各構成のうち、上記把持部を軸\n回転させて負荷付与部の負荷を引き上げ、把持部にかかる上方向に付勢す る負荷を軽くすることを可能にする構\成について、「把持部60を昇降揺動 部材50に対して軸回転することにより、回転伝達部91及びクランク機 構部92を介して摺動軸57が上下動することに伴い、クランプにより連\n結されたウェイト31が上下動する。」(【0026】)、「把持部60を昇降 揺動部材50に対して初期状態である略正面方向から外側水平方向へ回転 付勢力に抗して軸回転することにより、摺動軸57が昇降揺動部材50に 対して下方向に摺動し、前記クランプにより連結されたウェイト31が引 き上げられる。」(【0027】)との記載がある。
これらの記載に照らすと、本件発明の特許請求の範囲において、上記把 持部を軸回転させて負荷付与部の負荷を引き上げ、把持部にかかる上方向 に付勢する負荷を軽くすることを可能にする構\成に対応する構成は、把持\n部の回転運動を伝達し、同伝達された回転運動を摺動軸の上下動に変換す るクランク機構部を具備する負荷伝達部であり、構\成要件Gの構成である\nと認められる。 本件においては、被告製品が構成要件Gに相当する構\成を備えていない こと(相違点B)に争いがなく、本件発明の本質的部分を被告製品が共通 に備えているとは認められないから、本件発明と被告製品の相違点Bが本 質的部分ではないということはできず、被告製品は、均等の第1要件を満 たさない。
その他にも原告はるる主張するが、いずれも上記結論を左右しない。 以上によれば、被告製品は、その余の要件を検討するまでもなく、本件 発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとはいえないから、\n本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない。

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令和3(ワ)11286等  損害賠償請求事件(第1事件)、債務不存在確認請求事件(第2事件)  特許権  民事訴訟 令和5年7月13日  大阪地方裁判所

 特許製品の未購入行為について争われました。争点は、購入契約自体が錯誤により無効か否かでした。裁判所は錯誤による契約無効を認めず本件補償条項にもとづいて、約1億7千万円の支払いを認めました。

(1) 腸内のpH値及び本件物質の効能に関する要素の錯誤について\n
ア 甲1契約、乙3契約の内容
前記前提事実及び認定事実、乙1によると、●(省略)●であるところ、 本件特許Aの特許請求の範囲請求項1は、「結晶子径が1nm以上100n m以下のシリコン微細粒子又は該シリコン微細粒子の凝集体を含み、且つ水 素発生能を有する経口固形製剤。」というものであり、本件特許発明Bは本\n件製品のいわゆる用途発明である(なお、本件特許発明Aに係る明細書にお いては、pH7以上の領域において、シリコン微細粒子が水素を発生させる ことが記載されている。)。
そして、具体的な用途や製品は、●(省略)●
イ 甲2契約、乙4契約の内容
●(省略)●契約当事者に明らかにされている。
ウ 検討
前記ア、イのとおりの契約内容に照らすと、被告の主張に係る腸内のpH 値や本件物質の効能、生体内での作用機序等は、何ら契約書上明記されてお\nらず、また契約交渉過程において規範として形成されたとも言えないのであ って、そもそも契約の内容となっていないと言わざるを得ない。すなわち、前記前提事実のとおりの本件各特許発明の内容及び上記認定事実に係る甲1契約等に至る過程によれば、被告は、平成30年3月に、第2事件被告代表者から、生体内で水素を発生させてヒドロキシルラジカルを除去するシリコン製剤の研究につき説明を受け、これを用いたペット用及び人用サプリメントの商品化の検討を始め、原告ら(第2事件被告代表\者)から 提供を受けたサンプルを自ら動物への投与等を行ってその効能に関する被\n告なりの具体的検証を実施し、その結果甲1契約を締結するに至ったもので あるが、その過程を通じ、第2事件被告代表者は、乙9資料(マウスによる\n動物実験の結果)の内容をベースに、シリコン製剤が体内で水素を発生させ てヒドロキシルラジカルを除去し、各種疾病に対する効能が確認されたこと\nから、動物や人にもその効果が期待されると説明していたにとどまり、乙9 資料の内容を超えて、効能・効果それ自体を保証したことがないことはもと\nより、腸内環境として想定すべきpH値の妥当性が問題となったり(なお、 本件特許Aの明細書においては、pH7以上で水素発生能を発揮することが\n示唆されていることは前記のとおり。)、前記被告による具体的検証の内容が 問題となったりしたことはないのであって、本件製剤の用途が基本的に健康 食品(サプリメント)であることや本件物質の性能を生かした製品化を行う\nのは被告であることも考慮すると、被告主張の腸内のpH値や本件物質の効 能に関してそもそも誤信があったとはいえないし、仮に何等かの思い違いが\nあったとしても、その実質は、専ら被告の希望的観測との齟齬をいうものに すぎず、甲1契約等の締結にあたって、被告に要素又は契約の効力に影響を 及ぼす動機の錯誤があったとは認められない。
(2) 海外販売に関する要素の錯誤について
ア 前記第2の2(3)(前提事実)のとおり、●(省略)●と規定され、文言上、 明確に国内における通常実施権に関する契約であることが明記されている。 この点については、被告の契約交渉担当であったP1すらも、契約書どおり 国内の通常実施権に関する合意であるとの認識であったと供述する(P1証 人)。 また、甲1契約締結に至る過程では、専ら国内市場における予測需要につ\nいて検討がされており、海外市場における予測需要を具体的に検討した事情\nは見当たらない。 以上に加えて、被告が甲1契約の締結後に初めて具体的な海外販売に向け た行動を講じていること、またその過程で第2事件被告代表者から甲1契約\nにおいて海外販売を承諾していないとの説明があった上でそれについて特 段契約当時の認識との齟齬を表明していないことをも考慮すると、被告自身\nも甲1契約が海外販売を前提としていたと認識していたとは認められず、被 告主張の海外販売に関する錯誤があったと認めることはできない。
イ これに対し、被告は、第2事件被告代表者が、甲1契約締結前に被告によ\nる海外販売を容認する発言をしており、国内販売のみならず海外販売を前提 とすると合計100トンのシリコン製剤を消化することができると判断し たからこそ、合計100トンを最低計画購入量とする原告らの提案に応じた とか、甲1契約締結後に第2事件被告代表者が海外販売を支持する発言をし\nていたことなどをもって、甲1契約において、シリコン製剤を用いた製品の 海外販売が前提となっていたなどと主張する。
しかしながら、第2事件被告代表者が甲1契約前に海外販売を容認する発\n言をしたことを認めるに足りる証拠はなく、また仮にそのような発言や、甲 1契約後に海外販売を支持する発言があったとしても、前記の甲1契約の文 言から認められる実施権の範囲が左右されるとも解されない。被告の主張は、 採用の限りでない。

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令和4(ワ)9090 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年6月12日  東京地方裁判所

YouTube動画におけるテロップについて、著作物と認定され、約24万円の支払いを認めました。

(1) 前提事実(第 2 の 1)、証拠(甲 8〜10)及び弁論の全趣旨によれば、本件動 画は、動物等のイメージ画像等を繋ぎ合わせたスライドショー、BGM、本件テロッ プ及びこれを朗読したナレーションによって構成されるところ、スライドショー及\nび BGM のみではストーリー性が乏しく、本件動画の内容を正しく把握することは 困難であると認められる。その意味で、本件テロップ及びこれを朗読したナレーシ ョンは、その余の構成部分に比して、本件動画の中で重要な役割を担うものといえ\nる。また、このような役割を担う本件テロップの内容は、男性 2 人が群れを離れた 野生のライオンを保護し育てた後、野生動物の保護地区に戻したことや、後に男性 らの 1 名がこの保護地区を訪れた際の当該ライオンとの再会の模様等の一連の出来 事に関し、推察される各主体の心情等を交えて叙述したものである。表現方法につ\nいても、本件テロップは、動画視聴者の興味を引くことを意図してエピソード自体\nや表現の手法等を選択すると共に、構\成や分量等を工夫して作成されたものといえ る。 したがって、本件テロップは、その作成者である原告の思想及び感情を創作的に 表現したものであり、言語の著作物と認められる。\n
(2) 被告は、本件テロップと同様の文章の構成により本件テロップと同じエピソ\ ードを紹介するインターネット上の記事は本件テロップの公開前から散見されるな どとして、本件テロップの著作物性は認められない旨主張する。 証拠(乙 1〜4)によれば、本件テロップの公開前から、男性 2 人が野生のライオ ンを育て、保護地区に戻したことや、後に男性が保護地区を訪れた際の当該ライオ ンとの再会の模様等の一連の流れに関して、本件テロップと共通性を有する少なく とも 4 つの記事がインターネット上で公開されていることが認められる。そのうち の 1 つの内容は、おおむね別紙「既公開記事の内容」記載のとおりであり、本件テ ロップとその公開前から存在する記事とでは、アイデアないし事実を共通にする部 分があると認められる。しかし、その具体的な表現を比較したとき、各主体の心情\nその他の表現の内容及び方法においてこれらは表\現を異にし、本件テロップにおい ては、上記既存の記事には見られない創作性が発揮されているといってよい。した がって、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 争点 1-2(複製権、翻案権及び公衆送信権侵害の有無)
本件テロップと本件記事の各内容を比較すると、本件記事には、本件テロップと 完全に一致する表現が多数含まれる。他方、相違する部分は、句読点の有無や助詞\nの違い、文言の一部省略等の僅かな相違のほか、例えば、本件テロップには、「ドイ ツ出身のCさんは幼い頃からずっと動物を大切に思ってきました。」とあるのに対 し、本件記事には、「この感動のストーリーは 2 人の人間から始まります。その 1 人 がCさん。Cさんはドイツ出身。幼い頃よりずっと動物を大切に思ってきました。」 とあるなどの相違部分が存在する。これらの相違部分は、表現の手法等に若干の違\nいが見られるものの、内容的には、本件テロップの表現を若干修正したり、要約又\nは省略したり、前後の表現を入れ替えるなどしているにとどまり、実質的にほぼ同\n一の内容を表現したものといえる。\n複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製する ことをいうところ(著作権法 2 条 1 項 号)、著作物の再製とは、既存の著作物に 依拠し、これと同一のものを作成し、又は、具体的表現に修正、増減、変更等を加\nえても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表\現上の本質的な 特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を\n直接感得できるものを作成する行為をいうものと解される。また、翻案とは、既存 の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体\n的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表\現するこ とにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得でき\nる別の著作物を創作する行為をいうものと解される(最高裁平成 11 年(受)第 922 号同 13 年 6 月 28 日第一小法廷判決・民集 5巻 4 号 837 頁参照)。
本件記事は、記事中に本件動画が埋め込まれていること(甲 4)や、上記のとおり、本件テロップと完全に一致する表現を多数含み、相違する部分も、句読点の有無等の僅かな形式的な相違や本件テロップの表\現の僅かな修正、要約、前後の入れ替え等にとどまり、実質的にほぼ同一の内容を表現したものであることに鑑みると、本件テロップに依拠したものと認められると共に、著作物である本件テロップの表\現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者がその特徴を直接感得できるものと認められる。したがって、被告が本件記事を被告サイト上に投稿する行為は、原告の本件テロップに係る複製権又は翻案権を侵害するものであると共に、本件記事を送信可能化するものとして公衆送信権を侵害するものと認められる。また、本件記事が本件テロップに依拠していることから、上記著作権侵害行為につき、被告には少なくとも過失が認められる。これに反する被告の主張は採用できない。以上より、原告は、被告に対し、著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)侵害の不法行為に基づき、損害賠償請求権を有することが認められる。\n
3 争点 1-3(原告が本件テロップの著作権を主張することの信義則違反の有無)
被告は、原告が第三者の著作権を侵害して作成した動画による収益が減少したと して損賠賠償を請求し、また、本件動画全体としては請求が認められない可能性が\nあるため、本件テロップのみを対象として権利侵害を主張しているとして、原告の 請求が信義則に反する旨主張する。 しかし、そもそも、本件動画につき第三者の著作権を侵害して作成されたもので あることを認めるに足りる的確な証拠はない。その点を措くとしても、本件テロッ プは独立した表現物として把握し得るものであること、本件記事もそのような本件\nテロップに依拠して作成されたものとみられることに鑑みると、原告が本件テロッ プの著作権侵害を主張することをもって信義則に反するということはできない。こ の点に関する被告の主張は採用できない。
・・・
4 争点 2(原告の損害)
(1) 認定事実
前提事実、証拠(甲 14〜19(17 については枝番を含む。)、乙 11〜14)及び弁論 の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、令和 2 年 6 月 日に本件動画を投稿した。YouTube では動画の再生 回数等に応じて動画投稿者に収益が支払われるところ、上記投稿日から同年 月 日までの本件動画の再生回数は約 680 万 5000 回、推定収益は 309 万 6740 円で あった。また、推定収益の推移は別紙「推定収益の推移データ」のとおりであり、 上記投稿日から同年 11 月 30 日までの推定収益は 379 万 4863 円であった。
イ 令和 2 年 7 月 27 日、被告は本件記事を投稿して公開したが、同年 9 月 30 日 まで閲覧者はおらず、その後、原告の申入れを受けて本件記事を削除した同年 11 月 までの本件記事の閲覧回数は 154 回であった。
ウ 作家等文芸を職業とする者の職能団体であり、著作権管理事業を行う日本文\n藝家協会は、その著作物使用料規程である本件規程により、著作物を書籍として複 製し、公衆に譲渡する場合の使用料につき、本体価格の 15%に発行部数を乗じた額 を上限として利用者と協会が協議して定める額としている。
エ 原告は、本件訴訟に先立ち、本件記事につき発信者情報開示請求訴訟を提起 して発信者情報の開示を受けたところ、その際、原告は、弁護士に訴訟追行を委任 し、弁護士費用 44 万円(消費税込)、実費 1 万 4194 円を支払った。
(2) 逸失利益について
ア 主位的主張について
上記認定のとおり、本件記事の閲覧回数は、同年 月 1 日以降本件記事が削除 されるまでの間の 154 回にとどまる。このことと、本件動画の再生回数及び推定収 益、とりわけ推定収益の推移の状況に鑑みると、このような本件記事の投稿と本件 動画の再生回数ないし収益の減少との間に因果関係を認めることはできない。した がって、この点に関する原告の主張は採用できない。
イ 予備的主張について\n
原告は、本件記事により被告が得た収益の額ではなく、本件動画の経済的価値に 本件規程を参考にした仮想使用料率を乗じて、一回的な給付としての「著作権の行 使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法 114 条 3 項)を算出すべき 旨主張するものと理解される。他方、被告は、このような原告の主張を前提としつ つ、本件記事により被告が得た収益の額を本件動画の経済的価値(ただし、その算 定対象期間は原告の主張と異なる。)に加算したものに仮想使用料率を乗じて「著作 権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を算出すべき旨を主張する。そ こで、本件においては、本件動画の経済的価値を基礎とし、これに仮想使用料率を 乗ずることによって、一回的な給付としての「著作権の行使につき受けるべき金銭 の額に相当する額」を算出することとする。 まず、本件動画の経済的価値は、本件記事の投稿期間とは直接の関わりがないと 思われることから、原告の主張のとおり、本件動画の投稿日から本件記事の削除日 までの収益額 379 万 4863 円をもって本件動画の経済的価値とするのが相当である。 他方、上記本件動画の経済的価値及び本件規程の内容を参酌すると共に、本件テロ ップは、本件動画の中で重要な役割を担うものではあるものの、画像等と一体とな って本件動画を構成するものであること、ここでの仮想使用料率は著作権侵害をし\nた者との関係で事後的に定められるものであることその他本件に現れた一切の事情 を考慮すれば、仮想使用料率については 3%程度とみるのが相当である。そうする と、本件テロップに係る「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」(著作権法 114 条3項)は、12 万円をもって相当とすべきである。これに反する原告及び被告の主 張はいずれも採用できない。
(3) 発信者情報の取得に要した費用
ウェブサイトに匿名で投稿された記事が不法行為を構成し、被侵害者が損害賠償\n請求等の手段を取ろうとする場合、被侵害者は、侵害者である投稿者を特定する必 要がある。このための手段として、非侵害者には、特定電気通信役務提供者の損害 賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律により発信者情報の開示を請求 する権利が認められているものの、これを行使するためには、多くの場合、訴訟手 続等の法的手続を利用することが必要となる。その際、手続遂行のために、一定の 手続費用を要するほか、事案によっては弁護士費用を要することも当然あり得る。 そうすると、これらの発信者情報開示手続に要した費用は、当該不法行為による損 害賠償請求の遂行に必要な費用という意味で、不法行為との間で相当因果関係のあ る損害となり得るといってよい。 本件では、上記認定のとおり、原告は、発信者情報開示請求訴訟に係る弁護士費 用 44 万円(消費税込)及び実費 1 万 4194 円の合計 4万 4194 円を支出した。発 信者情報開示手続の性質・内容等を考慮すると、このうち 万円をもって被告の 不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

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令和2(ワ)13317  特許権侵害損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年7月13日  東京地方裁判所

個人発明家がアップルを訴えた事件です。下記別訴の後の販売分に製品に関する不当利得返還請求事件です。製品の一部に関する特許ですが、東京地裁は実施料として「0.5%をくだらない」として、約4400万円の支払いを命じました。関連訴訟と同じ特許ですが、被告は104条の3の主張をして、有効性を争っています。

特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者又は専用実施権者(以 下「特許権者等」という。)が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定 であって、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そ こに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして、特許 法102条4項は、上記料率を認定するに当たって、特許権者等が当該特許 権又は専用実施権(以下「特許権等」という。)の侵害があったことを前提 としてこれを侵害した者との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得 ることとなるその対価を考慮することができる旨規定している。 したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施 許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実 施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発 明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該 製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵 害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を踏まえ、特 許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提としてこれを侵害した者 との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得ることとなるその対価を 考慮して、合理的な料率を定めるべきである。
なお、被告は、本件各発明は被告各製品を構成する部品の一つであるクリ\nックホイールに関するものにすぎないから、実施料率を乗ずる売上高は、被 告各製品ではなく、クリックホイールの売上高とすべきである旨主張するも のの、その原価が証拠上必ずしも明らかではない上、本件各発明が被告各製 品を構成する部品の一つであるという事情は、上記において説示した判断基\n準のとおり、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢 献という上記3)に係る考慮事情において、これを十分に斟酌するのが相当で\nある。 したがって、被告の主張は、採用することができない。
(2) 当てはめ
前記認定事実、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、上記1)ないし4) に係る考慮事情として、次の事実を認めることができる。
ア 業界における実施料の相場
証拠(甲35、36)によれば、「ラジオ・テレビ・その他の通信音響 機器」に含まれる「電気音響機械器具」の平成4年度ないし平成10年度 の実施料率(イニシャルなし)の平均値は、5.7%であること、平成1 6年ないし平成20年の電気産業における司法決定ロイヤルティ料率の平 均値は3.0%、最大値は7.0%、最小値は1.0%であることが認め られる。そして、被告が提出した意見書(乙27)においても、本件各発 明に係るロイヤルティ料率を定めるに当たり比較対象となる契約のロイヤ ルティ料率は、中央値が2.65%、最小値が1.5%、最大値が4. 0%であることが認められることからすれば、本件各発明に係る電気産業 における近年のロイヤルティ料率は、3%程度と解するのが相当である。
イ 本件各発明の技術内容や重要性
上記1によれば、従来技術においては、接触操作するタッチパネル等の 電子部品と、プッシュ操作するスイッチ等を各々別個の部品として配置し ていたため、機器の小型化に対して不利であり、かつ、2つの別個の部品 を操作することになり使い勝手も極めて不便であるという課題があった。 このような課題を解決するために、本件各発明は、1)リング状に予め特\n定された軌跡上にタッチ位置検出センサーを配置して軌跡に沿って移動す る接触点を一次元座標上の位置データとして検出し、2)上記軌跡に沿って タッチ位置検出センサーとは別個にプッシュスイッチ手段の接点を設ける ものである。このように、本件各発明は、上記検出とは独立してプッシュ スイッチ手段の接点のオン又はオフを行うことによって、操作性良く薄型 かつ小型でしかも少ない部品点数で電子機器を構成することができるよう\nにし、もって1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接 触操作型電子部品を提供するものであり、この点において重要性を有する ものである。
これに対し、被告は、本件各発明には、iPod Shuffleに採 用された操作ボタン、iPod Touchに採用されたタッチスクリー ン等の代替手段が存在する旨主張する。 しかしながら、証拠(乙30、31)及び弁論の全趣旨によれば、iP od Shuffleの操作ボタンにおいては、音量調節等はボタンを押 すことでしかできないものであって、リング状に指を動かして連続的に音 量調節等をすることができず、iPod Touchについては、タッチ スクリーンを用いるものであって操作の形態が大きく異なり、コストも高 くなるといえるから、これらが直ちに代替手段となるものと認めることは できない。 したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害 の態様
本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献 証拠(甲5、24)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品1について は、「新しいiPod classicではポケットに40,000曲 を入れることができます。より薄型の総金属製のボディと、さらに洗練 されたユーザインターフェイスにより、iPod classicは、 全てをiPodに入れて持ち歩きたい人に最適です。」と宣伝されてい ることが認められ、被告製品2についても、「さらにiPodが小さく なりました。鉛筆ほどの薄さのiPod nanoは、(中略)信じら れないくらい小さなボディ」、「手の中にすっぽりと収まるミニサイズ。 あざやかなカラー液晶ディスプレイ、親指で操作できるクリックホイー ルも自慢です。ヘッドフォンをつけたら、さっそくボリュームを上げて みましょう。iPod nanoが、小さくてもまさにiPodだとす ぐにわかるはず。」と宣伝されていることが認められる。 その上、証拠(甲21)及び弁論の全趣旨によれば、iPodに搭載 されたクリックホイール自体についても、被告は、「親指ひとつでコン トロール」、「いつでも完全主義を貫くアップルのエンジニアたちは、 iPodの操作ボタンをホイールの下に移動して『究極のシンプルさ』 を目指しました。それが大好評のクリックホイールです。(中略)耐久 性と感度の良さ、ホイール下側に組み込まれた操作ボタンの使いやすさ はこれまでどおり。この最小限のスペースを最大限に利用したクリック ホイールで、iTunesのミュージックコレクションから選んだ最大 1,500曲を親指だけで楽々とスクロールできます。このようによく 考えられた仕組みは、アップル製品ならでは。競合メーカーがどんなに 追いつこうとしても追いつけない部分です。」などとして、特に宣伝し ていることが認められる。
上記認定事実によれば、本件各発明は、操作性良く薄型でしかも少な い部品点数で電子機器を構成することができるように、1つの部品で複\n数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供す るものであるところ、被告は、本件各発明の構成の中核であるクリック\nホイールにつき、競合他社の製品と差別化するために特に利用していた ことが認められる。そうすると、本件各発明を被告各製品に用いた場合 の売上げ及び利益への貢献の程度は、被告各製品の薄型化及び小型化並 びに操作性の向上に寄与するものとして、被告各製品の顧客吸引力の向 上という観点からすれば、少なくないものと認めるのが相当である。 他方、証拠(甲32、乙27)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製 品の人気の理由は、上記において説示したとおり、クリックホイールと いう指先だけで操作できるインターフェイスを搭載し、携帯音楽プレー ヤの操作性を向上させたことにあるほか、音楽配信サービスであるiT unes Music Storeに対応するiTunesを、そのま ま持ち歩くような環境を備えたことや、デザイン、カラーバリエーショ ン、大容量のハードディスク及び長時間持続するバッテリーという被告 各製品の特長にもあり、これらのほか、「Apple」という極めて高 いブランド価値、被告の宣伝広告等が、被告各製品の売上げに相当程度 貢献したことが認められる。また、操作性については、上記のとおり、 被告自身がクリックホイールによる操作性の向上を宣伝していることか ら、クリックホイールの貢献は明らかであるものの、クリックホイール の機能の割当てや本件各発明とは無関係のセンターボタンの果たす役割\nも少なくないものと解される。 そうすると、被告各製品の本体(ハードウェア)の一部であるクリッ クホイールに係る本件各発明が、被告各製品の売上げに寄与した程度は、 主要なものとはいえない。
侵害の態様
前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、別件訴訟において、 別件被告各製品の輸入及び販売を行うことが本件特許権の侵害に当たる 旨の第1審判決及び控訴審判決が言い渡された後も、なお別紙別件被告 製品目録記載3の被告製品(本件における被告製品1)を販売し続けた ことが認められる。したがって、その侵害態様は看過し得ないところが ある。
エ 特許権者の営業方針等
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各発明を実施するものではなく、 被告に対し、本件各発明の許諾をする旨の申出をし、被告との間で、その\n交渉をしていたことが認められる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る業界における実施料の相場、本件各発明の技術内容や重 要性、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や 侵害の態様、特許権者の営業方針等その他の本件に現れた諸事情を踏まえ、 特許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提として、これを侵害 した者との間で合意をするとしたならば特許権者等が得ることとなるその 対価を考慮すれば、実施に対し受けるべき料率は、少なく見積もっても、 0.5%を下らないというべきである。

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令和4(行ケ)10080 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月26日  知的財産高等裁判所

審決取消を求めた理由の一つが手続き違背です。裁判所は、理由無しと判断しました。

1 取消事由1(手続違背)について
(1) 原告は、本件審決では、審査過程とは実質的に異なる論理によって進歩 性の判断を行っており、その上で審判請求人に意見を述べる機会を与える ことなく審決をしているから、本件審決は、特許法159条2項の規定に違 反する違法なものである旨を主張する。
(2) 前記第2の1のとおり、本件拒絶理由通知には、本願は新規性欠如(拒絶 理由1)及び進歩性欠如(拒絶理由2)により拒絶すべきものとし、1)本願 の請求項1ないし8の発明につき、引用文献1に記載された発明であるか、 その記載に基づき当業者が容易に発明をすることができた、2)本願の請求 項1ないし4の発明につき、引用文献2に記載された発明であるか、その記 載に基づき当業者が容易に発明をすることができた、3)本願の請求項1な いし4の発明につき、引用文献3に記載された発明であるか、その記載に基 づき当業者が容易に発明をすることができた、4)本願の請求項1、2、4の 発明につき、引用文献4に記載された発明であるか、その記載に基づき当業 者が容易に発明をすることができた、5)本願の請求項1、5の発明につき、 引用文献5に記載された発明であるか、その記載に基づき当業者が容易に 発明をすることができた、6)本願の請求項1ないし4の発明につき、引用文 献6に記載された発明であるか、その記載に基づき当業者が容易に発明を することができた、7)本願の請求項3の発明につき、引用文献4に記載され た発明に引用文献1ないし3、6に記載された周知の構成を適用すること\nにより容易に発明をすることができた、8)本願の請求項4の発明につき、引 用文献1ないし6に記載された発明に周知の構成を適用することは設計的\n事項に過ぎないから容易に発明をすることができた、9)本願の請求項5の 発明につき、引用文献2ないし4、6に記載された発明に引用文献1、5に 記載された周知の構成を適用することにより容易に発明をすることができ\nた、10)本願の請求項6ないし8の発明につき、引用文献2に記載された発明 に引用文献1に記載された発明の構成を採用することにより容易に発明を\nすることができた、11)本願の請求項8の発明につき、引用文献1、2に記載 された発明に周知の構成を適用することは設計的事項に過ぎないから容易\nに発明をすることができた、との理由が示され、引用文献1のほか、引用文 献2ないし6及びそれらに記載された発明の内容が示されている。 これに対し原告は、第1次補正を行うとともに本件意見書を提出している ところ、原告は、本件意見書において、引用文献1ないし6に開示された内 容を踏まえても、いずれも第1次補正後の本願発明に係る内容については記 載も示唆もされていないと主張した。
その上で、本件拒絶査定には、本件拒絶理由通知に記載した理由1(新規 性欠如)、同2(進歩性欠如)により本件出願を拒絶すべきものとし、備考 として、1)本願の請求項1ないし3の発明につき、引用文献1に記載された 発明であるか、その記載に基づき当業者が容易に発明をすることができた、 2)本願の請求項1ないし3の発明につき、引用文献2、1の記載に基づき当 業者が容易に発明をすることができた、3)本願の請求項3の発明につき、引 用文献1、2の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたとし、 本件拒絶査定を構成するものではないが、現在存在している拒絶理由として、\n請求項5の発明につき引用文献1に記載された発明に基づく新規性、進歩性 欠如、請求項4、5の発明につき、引用文献1、7に基づく進歩性欠如、請 求項4、5の発明につき、引用文献2、1、7に基づく進歩性欠如、請求項 5の発明につき明確性要件違反がある旨が記載されている。 これらによれば、本件拒絶査定は、本件拒絶理由通知に記載した新規性欠 如(理由1)及び進歩性欠如(同2)の各理由により本件出願を拒絶すべき としたものであり、本願発明は引用文献1に記載された発明であるか、その 記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたとする本件拒絶理由 通知記載の新規性欠如及び進歩性欠如の拒絶理由を維持するものである。 本件審決が示した新たな刊行物等(甲5ないし7)も、同審決において、 「加飾とは、クッション性等の機能性を付与したものも含むものであるこ\nとは技術常識である。このことは、・・・ の各資料からも確認できる。」 (9頁30行目ないし10頁2行目)とし、その「各資料」として甲5ない し7が示されているところから明らかなとおり、本件出願当時において、加 飾加工分野の当業者であれば当然知っている技術常識の裏付けとして示さ れたものであって、引用文献1から主引用発明を認定する場合における、本 件拒絶理由通知及び本件拒絶査定の拒絶理由の内容を変更するものではな い。 したがって、これらは特許法159条2項に規定する査定の理由と異なる 拒絶の理由を発見した場合に当たるものではないから、拒絶査定不服審判 の手続において、審判請求人である原告に意見を述べる機会を与えること が必要とされるものではない。 よって、本件審判に手続違背はなく、審判の手続に誤りはない。
(3) 原告の主張に対する判断
ア 原告は、本件拒絶理由通知と本件拒絶査定とでは主引用発明としている 引用文献が同一ではなく、新規性及び進歩性についての判断も異なると主 張する。 しかし、本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定には、引用文献1による新 規性欠如及び進歩性欠如の理由が示されており、本件審決においても、引 用文献1による新規性欠如と進歩性欠如の判断理由が示されているから、 本件審決が、本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定と異なる理由でされたと いうことはない。また、原告が本件拒絶査定で新たに引用されたとする引 用文献(甲14)は、前記第2の1(3)のとおり、本件出願当時の周知技術 を示す文献として引用されたものであり、本件拒絶査定において拒絶理由 を構成するものとされているものではない。\n したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、6個若しくは2個の引用発明から最も適した一つの引用発明を 選択するという認定手順を行わない進歩性の判断手法は、後知恵の判断に よる進歩性の否定につながると主張する。 しかし、進歩性判断に当たり複数の論理付けが可能な場合にそれぞれの\n論理付けを行うことについて問題があるものとは認めらないほか、前記 (2)のとおり、審決の判断には法に定める手続の違背もない。また、いわゆ る後知恵の問題とは、主引用発明から出発して当業者が発明に容易に想到 し得る論理付けができるか否かの判断を行う際には、請求項に係る発明の 知識を得た上で行うことから、当業者が請求項に係る発明に容易に想到し 得たかのように見えてしまう問題をいうところ、主引用例が一つであるか 否かの問題と、いわゆる後知恵の問題とは直接には関係がない。加えて、 本件審決の判断は、本願補正発明が新規性を欠如する旨も含むものである から、進歩性の判断手法に関する原告の主張は、直ちに審決の取消事由と なり得るものではない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、本件出願に対する進歩性の判断手法への対応によって本来対応 に注力すべき新規性及び進歩性の論点が曖昧かつ分散され、その結果とし て出願人である原告が不利益を受けた旨を主張する。 しかし、前記第2の1(1)及び(3)のとおり、本件拒絶理由通知及び本件 拒絶査定では複数の主引用例に基づいた拒絶の理由に対し、主引用例ごと に各発明の技術内容が記載されるとともに、引用文献1による新規性及び 進歩性を欠如する旨の理由が示されているから、原告の主張はそもそもそ の前提を欠くばかりか、原告は、これらを踏まえて本件意見書及び審判請 求書において反論しているのであるから、本来対応に注力すべき新規性及 び進歩性の論点が曖昧かつ分散されて、その結果として原告が不利益を受 けたとの事実は認められないというべきである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
エ 原告は、審判請求書で指摘したように、本件拒絶査定においては相違点 の認定と評価に関して重大な誤りがあったとする。 しかし、原告の上記に係る「6.原査定における相違点の認定と評価に 関する誤り」(甲20の13頁以下)の主張は、もっぱら引用文献2に記 載された発明を主引用発明とした場合の進歩性の判断における相違点の認 定と評価についての主張であり、審決の理由付けは、引用文献1を主引用 例としたものであって、引用文献2を主引用例としたものではないから、 本件拒絶査定につき原告の主張するところは、審決の結論に影響を与える ものではない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
オ 原告は、審決は、本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定では引用されなか った引用刊行物(甲5ないし7)を更に引用して、本件拒絶理由通知及び 本件拒絶査定と異なる理由によって新規性及び進歩性の判断を行ったと 主張する。 しかし、これらの引用刊行物(甲5ないし7)は、前記(2)のとおり、本 願補正発明の「加飾」について技術用語の意味を明らかにすることで、本 件出願時の当業者の技術常識によれば、引用発明の「成形品の製造方法」 が、本願補正発明の「凸部加飾加工方法」に該当すると理解することを示 す資料として提示された文献であって、審決は、本件拒絶理由通知及び本 件拒絶査定と異なる理由によって本願補正発明の新規性及び進歩性の判断 を行ったものではない。

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令和5(ネ)10025 損害賠償請求控訴事件  その他  民事訴訟 令和5年9月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 パブリシティの権利侵害で1審では、各人、数万円の損害賠償でしたが、20万円程度に変更されました。

ウ 以上によると、控訴人らは、本件グループのファンクラブの関係者やファン の混乱を招いたり、迷惑をかけたりすることを防ぐため、被控訴人に対し、同ファ ンクラブの閉鎖時期を、課金システム上の理由から同ファンクラブの会員サービス の課金を停止して同会員サービスの提供を終了することができる時期まで延期する ことについて黙示の許諾をしたと認められ、また、同ファンクラブが存続する限り は、会費を支払った会員に対し、本件グループのメンバーや活動内容等を紹介する 記事を閲覧させるために、本件ファンクラブサイト及び本件ファンクラブサイトに リンクする本件被告サイトにも控訴人らの肖像等を掲載する必要があったといえる ことからすると、控訴人らは、本件ファンクラブサイトの閉鎖が可能となる時期まで、本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトに控訴人らの肖像等が掲載されることについても黙示の許諾をしていたと認められる。\n
他方、前記イ2)のとおり、控訴人らは、平成31年4月24日付けの書面におい て、被控訴人に対し、被告が管理するウェブサイトから控訴人らの肖像等を削除す るように求め、また、訂正して引用する原判決第3の1(7)のとおり、控訴人らが、 令和元年8月1日頃、東京地方裁判所に対して被控訴人を相手方として申し立てた仮処分申\立書において、「令和元年8月1日現在も、債務者管理の債権者らグループの旧ホームページが存在しており、契約終了以降も債権者らの肖像権が侵害され続 けている。…そのため、現在も債務者管理の旧ホームページが存在していること自 体も、債権者らの活動の妨害となるといえる。」と記載しており、本件専属契約が終 了したにもかかわらず、被控訴人がホームページ等で控訴人らの肖像等を使用し続 けることに負担を感じていたことなどに照らすと、前記イ4)の控訴人らから被控訴 人に対するファンクラブを閉鎖する旨の告知を延期する旨の通知は、控訴人らが、 課金システムにおける課金停止時期との兼ね合いで、関係者やファンたちのことを 考え、控訴人らにおいて、本件ファンクラブサイトの閉鎖が可能となる時期まで、やむなくファンクラブの閉鎖の時期を延期し、それに伴い本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトに控訴人らの肖像等が掲載されることとの限りにおいて黙示の\n許諾をしたものと認められるが、そのようなやむを得ない事情を超えて、控訴人ら において、本件専属契約終了後も、被控訴人が、本件グッズ販売サイトにおいて、 本件グループの公式ショップとして、控訴人らの肖像写真を表示した上で、控訴人らの肖像写真及び控訴人らの肖像等が転写されたグッズを撮影した写真を掲載するとともに当該グッズを販売し続けることを許諾していたと認めるに足りる合理的な\n理由はなく、また、同許諾をうかがわせる事情の存在も認められず、同許諾を認め るに足りる証拠は存在しない。
エ 控訴人らは、被控訴人が、本件専属契約終了後において、控訴人らの肖像等 を利用した目的は、控訴人らの活動を妨害することにあったものであり、被控訴人 による控訴人らの肖像等の利用態様及び目的は不当なものであって、被控訴人が控 訴人らの肖像等を使用する必要性や相当性があったとはいえない旨を主張する。し かしながら、前記ウのとおり、控訴人らも、本件専属契約終了後において、本件フ ァンクラブサイトの突然の閉鎖に伴う混乱を回避する必要があると考えていたこと、 また、少なくともファンクラブが存続する限りはその会費を支払った会員に対し、 本件グループのメンバーや活動内容等を紹介する記事を閲覧させるため、本件ファ ンクラブサイトのみならず、当該サイトに導く機能を有する本件被告サイトにも控訴人らの肖像等を掲載する必要があったことが認められることからすると、被控訴人による令和元年11月30日までの本件被告サイト及び本件ファンクラブサイト\nにおける控訴人らの肖像等の使用につき、控訴人らの黙示の許諾の下で行われたも のといえるから、これらのサイトにおいては、被控訴人が控訴人らの肖像等を使用 する必要性や相当性があったとはいえないとの控訴人らの上記主張は採用できない。 また、控訴人らは、控訴人らが被控訴人を相手方として申し立てた地位保全仮処分命令申\立事件の申立書において、控訴人らの活動が妨害されるおそれがあるとして、「令和元年8月1日現在も、債務者管理の債権者らグループの旧ホームページが\n存在しており、契約終了以降も債権者らの肖像権が侵害され続けている。」などとの 記載をしていたことをもって、控訴人らの肖像等の掲載を黙示に許諾していたとは いえない旨を主張する。しかしながら、同記載は、本件専属契約の6条及び9条(5) に係る約定が無効であることなどの仮の確認を求める地位保全等仮処分の申立ての主張の一環として記載されているにとどまり、このような事実をもって、同年11月30日までの間、会員向けサービスの提供及び本件被告サイトにおける情報提供\nがされる旨が告知されていたことに対して、控訴人らが、被控訴人に対し、本件被 告サイト及び本件ファンクラブサイトの閉鎖時期に関して特段の異議を述べたとま では評価できず、控訴人らの上記主張は採用できない。
オ 被控訴人は、本件専属契約終了後に、本件グッズ販売サイトにおいて控訴人 らの肖像等を利用したことについても、飽くまで会費を支払ったファンクラブ会員 に対してグッズの在庫を販売するためのものであり、控訴人らの肖像権等の侵害に ならないと主張する。しかしながら、前記アのとおり、控訴人らの肖像権等の使用 に関する約定がされた本件専属契約が終了し、かつ、本件専属契約には契約終了後 の同使用の取扱いに関する約定がないのであるから、控訴人らから被控訴人に対し て別に同使用についての許諾がない場合には、被控訴人による控訴人らの肖像等の 使用は無権原者による使用となるものであって、たとえ本件専属契約中に製造され たグッズを販売するものであり、被控訴人が在庫をさばくために製造済みの同グッ ズを販売して投下資金を回収しようとしたものであったとしても、本件専属契約終 了後には、控訴人らと被控訴人間において何らの取決めがない以上、本件グッズ販 売サイトにおいて控訴人らの肖像等を利用し、控訴人らの肖像等が転写されたグッ ズを販売できるものではない。
カ そして、控訴人らは本件グループのメンバーとして、訂正して引用する原判 決第2の2(2)ウのとおり、アーティスト活動を行っていること、被控訴人において グッズ販売による利益を得ることを目的としていたこと、被控訴人は、本件グッズ 販売サイトにおいて、本件グループの公式ショップとして、控訴人らの肖像写真を 表示した上で、控訴人らの肖像写真及び控訴人らの肖像をイラスト化した画像を転写したグッズを撮影した写真を掲載して、当該グッズを販売していたこと、被控訴人は、控訴人らからの肖像等の使用停止を求める要求があることを知りながら、本\n件専属契約終了後から令和3年12月31日までの相当長期間、控訴人らの許諾な く利用し続けたものであることなどを総合考慮すると、これらは控訴人らの肖像権 等の侵害となるものであって、被控訴人による控訴人らの肖像権等の侵害が社会生 活上受忍の限度を超えるものではないとすることはできない。
(3) 小括
したがって、本件専属契約終了後から令和元年11月30日までの間、被控訴人 が本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトにおいて控訴人らの肖像等を掲載し た行為は、不法行為法上違法と評価すべきものとはいえない。他方、本件専属契約 終了後から令和3年12月31日までの間、被控訴人が本件グッズ販売サイトにお いて控訴人らの肖像等を掲載し、控訴人らの肖像等が転写されたグッズを販売した 行為は、不法行為上違法と評価すべきものといえる。
・・・
6 争点4(損害の有無及びその額)について
(1) 控訴人らの肖像権等の侵害による損害について
前記2(2)のとおり、令和元年7月14日以降令和3年12月31日までの2年 5か月18日間という相当の長期間、継続して、被控訴人が本件グッズ販売サイト において本件グループの公式ショップとして控訴人らの肖像等を掲載した行為によ り、控訴人らの意思に反して、控訴人らの肖像等が利用されていたものであり、控 訴人らは精神的な苦痛を受けたものと推認されるところ、その慰謝料は、控訴人ら の本件専属契約終了までの活動内容(訂正して引用する原判決第2の1(2)ウ)、控 訴人らの肖像等の使用が本件グッズ販売サイト及び販売グッズにおける利用という 営利目的によるものであったこと、上記の侵害態様や侵害期間などを考慮すると、 控訴人らそれぞれについて15万円を下らないと認めるのが相当である。

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◆令和元年(ワ)30204

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令和4(ワ)15678 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年8月30日  東京地方裁判所

技術的範囲に属するものの、無効理由あり(新規性違反)として、権利行使不能と判断されました。この特許は、本件裁判の被告より、「技術的範囲に属さない旨」の判定請求があり、判定では技術的範囲に属すると判断されていました。判定には直リンクができないので、特許5595570とリンクしておきます。

(1) 「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く」の意義について
構成要件Bの「4枚の略矩形状壁面の内、相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能\に順次連続して連結されるとともに、」との記載から、本件発明の折り畳み式テントには、「4枚 の略矩形状壁面」が設けられていること、その内の「相隣る2枚の略矩形状 壁面」において「互いに対応する側縁」が存在すること、この「互いに対応 する側縁」を「除く」「他の側縁」が存在し、この「他の側縁」が「相互に 折り畳み可能に順次連続して連結され」ていることが理解できる。
また、構成要件Cの「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁は、着脱可能\な接合手段を介して接合されることにより、前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成され、」との記載からは、構\成要件B の「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「着脱可能な接合手段」を備えていること、この「接合手段を介して接合されることによ\nり」、「前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成される」ことが理解できる。また、このような解釈は、本件明細書の、「また、この筒状周壁\n部1における正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bには、接合・分 離が可能な面ファスナーのような接合手段23が設けられている。図7に図示されるように、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとは前記接\n合手段23により、一体に接合され、または分離される。前記分離された接 合手段23によって、図8に示されるように、両壁面開口部24が構成される。」(【0022】)との記載及び「筒状周壁部1では、図7に図示されるよ\nうに、4枚の壁面2、3、4、5の各両側縁2a、2b、3a、3b、4a、 4b、5a、5bの内、側縁3aと4b、4aと5b、5aと2bとを相互 に折畳み可能に連結し、側縁2aと3bとを後述する接合手段23で接合することで筒状周壁部1が構\成されている」(【0021】)との記載とも整合する。 そして、構成要件Bの「除く」の通常の語義は、「加えない。除外する。別にする。」(広辞苑第七版)であると認められる。\n加えて、上記「除く」は、その直前の「他の側縁」に限定を付す趣旨で あると理解するのが自然であることを踏まえると、構成要件Bは、「4枚の略矩形状壁面」が有する「側縁」から、「着脱可能\な接合手段を介して接合される」ことになる「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」を 除外又は別にした「他の側縁」が、「相互に折り畳み可能に順次連続して連結される」ことを規定するものであると解するのが相当である。\n
(2) 被告各製品が構成要件Bを充足するか否かについて
前記(1)のとおり、構成要件Bの、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」とは、構\成要件Cにおいて規定された、「着脱可能な接合手段\nを介して接合される」「側縁」であると解するのが相当である。 前提事実(3)イのとおり、被告各製品には、第1板状体10ないし第4板 状体40の4枚の板状体が形成されているところ、本件において、各板状体 が構成要件Bの「略矩形状壁面」に該当する。 また、前提事実(3)イのとおり、被告各製品の第1板状体10と第4板状 体40は、その対向部15a及び45bが、着脱可能な接合部60を介して接合されるから、対向部15a及び45bは、構\成要件Bにおいて除外又は別にするとされ、かつ、構成要件Cにおいて「着脱可能\な接合手段を介して 接合され」ると規定される、「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応 する側縁」に該当する。 そうすると、構成要件Bにおいて、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁」は、被告製品の第1板状体10と第4板状体\n40の対向部15a及び45bを除外した他の側縁、すなわち、第1板状体 10の左右の側縁を構成する対向部15b、第2板状体20の左右の側縁を構\成する対向部25a及び25b、第3板状体30の左右の側縁を構成する\n対向部35a及び35b、第4板状体40の左右の側縁を構成する45aがこれに該当するものと解される。\n そして、証拠(甲6、乙1)によれば、これらの側縁は、相互に折り畳み 可能に順次連続して連結される構\成を有していると認められ、構成要件Bの「他の側縁が相互に折り畳み可能\に順次連続して連結される」に該当する。
(3) 被告の主張について
被告は、「除く」の「別にする」との語義に着目して、「別にする」もの と「別にされない」ものとでは、異なる性質・構成を有していることに照らすと、構\成要件Bは、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「相互に折り畳み可能」ではなく、「順次連続して」おらず、「連結され」てもいないことを規定するものと解すべきであり、被告各製品は、互いに対\n応する側縁が相互に折り畳み可能に順次連続して連結されるから、構\成要件 Bを充足しない旨主張する。
しかし、仮に、「除く」を「別にする」との意味であると解釈したとして も、「別」とは、「1)わけること。…2)異なること。そのものではないこと」 (広辞苑第七版)の意味を有するにすぎないから、別にされた「相隣る2枚 の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」とが、一部でも同じ 性質・構成を有していてはならないということにはならない。そして、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の構\成は、構成要件Cによ\nり要件が付加されているのであるから、これにより、「相隣る2枚の略矩形 状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」は、異なる構成を有しているといえる。\n
・・・
(ア) 構成要件Bについて
a 前記2(1)で説示したとおり、構成要件Bは、「着脱可能\な接合手 段を介して接合される」ことにより、「前記4枚の略矩形状壁面でも って筒状周壁部」を構成する「側縁」を除外した「他の側縁」が、「相互に折畳み可能\に」「順次連続して」「連結」されることを規定している。 そして、乙2発明においては、エンドパネルとサイドパネルの着脱 部となる側縁は、ジッパーや紐等の取付手段を介して取り付けられ (乙2c)ていることから、構成要件Bの「他の側縁」に相当する側縁は、上記「エンドパネルとサイドパネルの着脱部となる側縁」を除\n外した側縁(乙2c)であるところ、乙2発明においては、この側縁 が、相互に折畳み可能に順次連続して連結されている(乙2b)。したがって、乙2発明と本件発明は、構\成要件Bの構成の点におい\nて一致するものと認められる。
b これに対し、原告は、本件発明の「着脱可能な接合手段を介して接合される」「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が一\n組のみであるのに対し、乙2発明では、テントを容易に折り畳めたり することができるよう、対向する2枚のエンドパネルが2枚とも取外 し可能な構\成又は2枚とも一端がサイドパネルにヒンジ結合された構成のみが開示されているから、本件発明と乙2発明は、構\成要件Bの点で一致しないと主張する。しかし、本件特許の特許請求の範囲において、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の組数を限定する記載はない上、本 件明細書において、【0022】及び図8には「相隣る2枚の略矩形 状壁面の互いに対応する側縁」が一組である構成についての記載があるものの、これは一実施例にすぎず、そのような構\成に限定する旨の記載は存在しないから、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応す る側縁」が、一組に限定されると解釈することはできない。 また、原告は、本件発明に係る折り畳み式テントは、災害時に体育 館等の避難所に設置されて利用されることを想定していることなどか ら、設置の利便性や強度を考慮し、あえて一組のみを分離可能としたと主張する。しかし、本件明細書には、原告の主張する課題や作用効果について\nの記載はない。以上によれば、原告の主張はいずれも採用することができない。
(イ) 構成要件Eについて
a 本件発明は、「前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚 の略矩形状壁面により開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特 徴とする」との構成(構\成要件E)を有しており、乙2発明は、「前 記手段を介して取り付けられる側縁を有する2枚の略矩形状のサイド パネル及びエンドパネルにより開閉自在な両壁面開口部が設けられた ことを特徴とする」との構成(乙2e)を有している。そして、本件特許の特許請求の範囲の記載において、「接合手段」\nにつき特段の限定は付されていないことから、壁面と壁面を接合する 手段であれば足りると解されるところ、前記(1)ア(オ)のとおり、乙2 文献においては、乙2発明の「取付手段」は、ジッパーが好ましい手 段であるが、単純な紐や布などの他の取付手段を使用してもよいとさ れており、それらはいずれも壁面と壁面を接合する手段であるといえ る。したがって、本件発明と乙2発明は、構成要件Eの構\成の点で一致 するものと認められる。
b 原告は、本件明細書の【0014】や【0028】には、壁面の開 放部分にテントのフレーム等が存在しないために、車椅子等がテント 内外に出入する際にフレームやファスナー等の変形・破れ・土砂の付 着等を阻止できる旨が記載されており、これらの記載に照らすと、構成要件Eの「開閉自在な両壁面開口部」は、壁面の開放部分にフレー\nムやファスナー等が存在しない構成であると解されると主張する。
しかし、本件特許の特許請求の範囲の記載において、4枚の略矩形 状壁面と床面との間の連結手段の有無を含め、「開閉自在な両壁面開 口部」が、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成に限定される旨の記載はない。\n また、本件明細書の【0014】は、本件発明の効果に関する記載 であり、同【0028】は、本件発明の実施例の効果に関する記載で あって、本件発明の両壁面開口部の構成を限定するものとは認められないから、構\成要件Eの文言を原告主張のとおり限定解釈する根拠とはならない。
また、仮に、構成要件Eが、底面にフレームやファスナー等が存在しない構\成に限定されるとしても、乙2文献には、ファスナーを紐に変更することも可能である旨が記載されているから(前記(1)ア(オ))、 乙2発明は、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成を含むものであるといえる。よって、原告の主張は理由がない。\n
c 原告は、本件明細書の【0022】及び図8の記載を考慮すると、 構成要件Eは、壁面開口部に設けられている接合手段を外すことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外方に向か\nって開放することができるという構成を示したものであると主張する。 しかし、本件明細書には、本件発明の実施例について「壁面2、3、 4、5の側縁上下端部は、…三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉 塞面19でもってこの上下の空隙部は閉塞されるようになっている。 なお、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとの上下端部を 塞ぐ二等辺三角形状の分割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、 三角形の頂角を通る中心線を境に2分割される。左右に分割された分 割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、前記接合手段23と同様 な上閉塞面接合手段22、下閉塞面接合手段21によって、接合また は分離可能に接合される。」(【0023】)との記載があるところ、この記載に照らすと、同実施例は、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の\n左側縁3bに設けられた接合手段に加え、上閉塞面接合手段22、下 閉塞面接合手段21を外すことによって初めて、壁面を外方に向かっ て解放することができる構成を有しているといえる。したがって、上記【0022】及び図8の実施例の記載を根拠として、構\成要件Eが、両壁面開口部について、壁面開口部に設けられている接合手段を外す ことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外 方に向かって開放することができるという構成を規定していると解釈することはできない。\n また、上記【0023】の記載によれば、「壁面2、3、4、5」 と、「三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉塞面19」は別部材で あることは明らかであるから、構成要件Eが、接合手段について、「2枚の略矩形状壁面」のみに設けられていることにより、「両壁面\n開口部」が「開閉自在」となることを規定したと解釈することもでき ない。 以上によれば、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 小括
その他、原告が種々主張するところを検討しても、前記(1)の結論を左右 するものとはいえず、本件発明は、乙2発明と同一の構成を有しているから、新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの\nと認められ、原告は被告に対してその権利を行使することができない(特許 法104条の3第1項、123条1項2項、29条1項)。

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令和4(ワ)9660 債務不存在確認請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年8月31日  大阪地方裁判所

ファイル共有ソフト「BitTorrent」の使用で被告動画が拡散したとして、20万円を超える賠償請求がなされました。原告は3万円を超える賠償債務は存在しないとする確認訴訟を提起しました。裁判所は3万7675円を超えては存在しないと判断しました。\n

(1) 被告は、ビットトレントを通じてアップロード等をすることは社会的にも 実質的にも密接な関連をもつ一体行為に参加するものであるなどとして、原告は、 本件ファイルが最初にビットトレントにアップロードされて以降の全ての権利侵害 についての責任を負う旨を主張し、仮に、原告がビットトレントを通じて自ら本件 ファイルを他のユーザーに送信することができた期間に限り不法行為が継続してい たと解されるとしても、原告は、遅くとも令和3年10月25日に本件ファイルを アップロードし、早くとも令和4年4月8日以降に本件ファイルにつきアップロー ド可能な状態を終了した旨を主張する。\nしかし、共同不法行為(民法719条1項前段)が成立するためには、少なくと も行為者各自の行為が客観的に関連して共同していることを要する(最三小判昭和 43年4月23日民集22巻4号964頁参照)から、原告が自らビットトレント を通じて本件ファイルのデータのダウンロードを開始する前や、ダウンロードした 本件ファイルを削除したりビットトレントのクライアントソフトを削除するなどし\nてビットトレントを通じた本件ファイルのデータの送信ができなくなった後に発生 した本件著作権の侵害については、他の行為者の行為との客観的な関連共同性のあ る行為が存在せず、共同不法行為責任を負うと解すべき理由がない。すなわち、本 件において、原告と他の氏名不詳者との間で共同不法行為が成立するのは、原告が ビットトレントを通じて本件ファイルのデータを他のユーザーに送信可能な状態に\nある場合に限られるというべきである。
証拠(甲1、2の1、2の2、6)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、令和3 年当時、自宅の私用パソコンを、平日は2時間から3時間程度、休日前及び休日は\n3時間から5時間程度、インターネットに接続してネット情報の閲覧等(いわゆる ネットサーフィン)をするが、常時接続はせず、使用時以外はシャットダウンする という使用態様であったところ、同年10月25日、ビットトレントのネットワー ク及びビットトレントを利用するためのクライアントソフト「μTORRENT」\nを使用して、約3時間かけて本件ファイルのダウンロードを完了させた後、原告の パソコンからトレントファイルを削除し、翌日、本件ファイルを視聴したが、途中\nで原告のパソコンから本件ファイルを削除したこと、令和4年4月6日、原告が原\n告プロバイダから発信者情報開示請求に係る意見照会書の送付を受け、その頃、原 告のパソコンからビットトレントのクライアントソ\フト自体を削除したことが認め られる。以上の事実及び前提事実(3)記載のビットトレントの仕組みに照らすと、 原告がビットトレントを通じて本件ファイルを他のユーザーに送信可能な状態にあ\nったというためには、少なくとも、原告が原告のパソコンをインターネットに接続\nしてビットトレントのクライアントソフトを起動した状態で、ビットトレントを通\nじて本件ファイルをダウンロードしているか又はダウンロードを完了した本件ファ イルを原告のパソコンの送信可能\な領域に蔵置していることが必要と考えられる。 そうであるところ、原告が、原告のパソコンをインターネットに接続してビットト\nレントを通じて本件ファイルをダウンロードしていたのは約3時間に限られ、ダウ ンロード完了後の原告のパソコンのインターネットへの接続状況やビットトレント\nのクライアントファイルの起動状況は不明であり、その翌日、原告のパソコンに保\n存した本件ファイルを視聴したものの(このときのインターネットへの接続状態や ビットトレントのクライアントファイルの起動状況が不明であることは同様であ る。)、途中で原告のパソコンから本件ファイルを削除したのであるから、原告が\nビットトレントを通じて本件ファイルを他のユーザーに送信可能な状態にあったと\n認められるのは、本件ファイルをダウンロードしていた3時間に限られるというべ きである(なお、本件ファイルをパソコンから削除しても、キャッシュのデータ等\nが残存する可能性がないとはいえないが、そもそも原告のパソ\コンの送信可能な領\n域に本件ファイルのキャッシュのデータ等が自動的に保存されるものかは不明であ る上、原告が敢えてデータをパソコンに残存させる必要性は乏しく、その後、原告\nの端末から本件ファイルに係るデータがビットトレントを通じてアップロードされ た事実もうかがえないことから、原告は本件ファイルに係るデータをパソコンから\n全部削除したものと認められる。)。
したがって、原告が、本件著作物に係る著作権侵害について賠償責任を負う範囲 は、令和3年10月25日の3時間に発生した侵害行為による損害に限られるもの というべきであり、被告の前記主張は、いずれも採用することができない。
(2) 以上を踏まえて本件著作物に係る著作権侵害による損害額について検討す るに、前提事実(2)並びに証拠(乙3、4)及び弁論の全趣旨によれば、本件著作 物の「HD版ダウンロード及びHD版ストリーミング無制限」のダウンロード価格 (販売価格)は1450円であること、本件著作物の利益率は38%であること、 ビットトレントを通じた本件ファイルのダウンロード回数は、令和3年10月25 日時点で1206回、同月26日時点で1753回であり、同月25日の前記ダウ ンロード回数は547回であることが認められる。そうすると、原告が本件の共同 不法行為により負うべき損害の範囲は、3万7675円(≒547 回×1450 円×38% ÷24×3。1円未満四捨五入)となる。
(3) 原告は、被告が、令和3年10月25日から令和4年4月8日までの間、 原告による共同不法行為が継続していたことを前提として178万9097円の損 害賠償額を主張することは損害拡大防止義務違反がある、不誠実な対応であるなど 述べて、過失相殺及び権利濫用の主張をするが、かかる被告の主張は採用すること ができないことは前記(1)のとおりであって、原告の前記主張はその前提を欠く。 また、原告は、原告が、積極的に複製物を作成しようとする意思は希薄で、他者 のダウンロード行為による金銭的な利益を得てもいないことを指摘して、損害額に ついて減免責されるべきである旨を主張するが、原告が指摘する事情をもって、前 記認定の損害額を減免責すべき事情に当たるとはいえない。
(4) 以上から、原告の被告に対する本件著作物に係る著作権侵害に基づく損害 賠償債務は3万7675円を超えて存在しないものと認められる。

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令和3(ワ)11898  保証金返還請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年8月24日  大阪地方裁判所

秘密管理性が否定されて、営業秘密とは認められませんでした。

(1) 被告は、原告が、代理店としての業務の中で被告の営業秘密である本件各情 報を取得し、不正の利益を得る目的で、又は、被告に損害を加える目的で、これを 使用している旨主張する。 そこで、まず、本件各情報が営業秘密に当たるかを検討する。
(2) 本件各情報が被告の営業秘密であるというためには、本件各情報が、秘密と して管理され(秘密管理性)、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって (有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)が必要である(不正競争防止 法2条6項)。そして、秘密管理性が認められるためには、秘密としての合理的な 管理方法が採られており、管理の意思が客観的に認識可能であることを要すると解\nされる。
そこでまず、秘密管理性について検討すると、本件各情報が記載された文書には、 いずれも被告の秘密情報であることを明らかにする表示はなく、むしろ株式会社ワ\nンワールドの資料であるかのような表示がある(乙12〜14)。また、前記1の\nとおり、本件秘密保持契約の定めに従った秘密情報としての特定が行われた事実や、 原告と被告との間で本件各情報が秘密情報であることが前提とされていた事実は認 められない。加えて、本件情報1)は、原告が被告から直接取得したものではなく第 三者から入手したものであるが(争いがない。)、P1の証言からしても図面のど の部分が秘密情報かがあいまいであり、また、本件情報2)及び本件情報3)は、被告 の主張によっても、被告製品の納入先や販売代理店には提供され、被告の営業スタッ フもアクセスすることができたというのであって、本件各情報は、それ自体、秘密 情報としての認識可能性が低いと考えられる。その一方、原告が被告の秘密情報で\nある旨を認識可能であったことを根拠付ける具体的事情は見当たらない。そうする\nと、本件各情報につき、被告による管理の意思が客観的に認識可能であったとは認\nめられない。
また、管理方法につき、被告は、平成30年頃に本件規定を定め、本件各情報を 本件規定の「機密情報」として管理していた旨主張し、これを裏付けるものとする 証拠(乙15、16、19、証人P1)がある。しかし、本件規定には、作成日や 施行日の記載がなく、同年当時の代表取締役はP3であったと考えられる(甲2、\n証人P1)にもかかわらず、「代表取締役社長」として令和3年2月に就任したP\n4氏が記載されているなど、作成時期に関し不自然な点がある。仮に本件規定が平 成30年頃に作成されたとしても、本件各情報が本件規定に沿って管理されていた 旨のP1の証言は、その内容が抽象的である上、客観的な裏付けを欠くから、本件 各情報の具体的管理状況は明らかとはいえず、本件規定に従って「機密情報」とし て管理されていたことを認定することはできないし、他に被告の前記主張を裏付け る証拠はない。したがって、本件各情報が秘密として合理的な管理方法が採られて いたともいえない。
(3) 以上のとおり、本件各情報は、秘密として管理されていたとはいえず、被告 の営業秘密とは認められないから、原告が被告の営業秘密を使用して不正競争行為 を行った旨の被告の主張は理由がない。

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令和4(行ケ)10133  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年9月6日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、無効理由無しとした審決を取り消しました。追加の補助証拠である甲4、5について、先行製品が本件出願日前に販売された事実を裏付ける証拠であって、同事実は審判により審理判断されている事実にほかならないとして、証拠として認めました。

1 認定事実
(1) 各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
・・・
カ ユーアイの代表者が令和3年9月7日付けで作成した確認書(以下「本件確\n認書」という。)には、ユーアイが原告に対しトヨタハイエース用3Dマット(UI vehicle 「3D MAT」ワイドボディ用フロントマット、ワイドボディ 用リアマット)のOEM製造を委託していること、ユーアイが平成24年2月頃か ら令和元年7月23日までの間にワイドボディ用フロントマット(品番:UI−0 239、製品コード:OMUIR0239K)を6200セット、ワイドボディ用 リアマット(品番:UI−0103、製品コード:OMUIR0103K)を16 00セットずつ、顧客に販売するために原告から購入したことが記載されている。 また、本件確認書には、・・・有限公司が作成した「toyota-hiace-wide右駕 專用型踏塾」の設計図面が添付されており、同設計図面は、甲1の2の製品図面に おける「Clazzio」と書してなるロゴマークがなく、「UI vehicle」 と書してなるロゴマークが付されているほかは、上記アの設計図面と酷似している。 (甲2)
(2) 被告の主張について
ア 被告は、審決取消訴訟においては、審判で審理判断されなかった新たな証拠 により登録されている権利の有効性を判断することは許されないから、原告が本件 訴訟で提出をした甲4及び5は、いずれも採用されるべきではない旨主張する。 意匠登録無効審判の審決に対する取消訴訟においては、審判で審理判断されなか った公知事実との対比における無効原因を主張することは許されないと解される (最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻 2号79頁参照)。これを本件についてみるに、原告は、審判において、本件出願 日前に先行製品が一般に販売されたことにより先行製品の意匠である先行意匠1が 公然知られるに至った旨を主張しているところ、甲4及び5は、いずれも、先行製 品が本件出願日前に販売された事実を裏付ける証拠であって、同事実は審判により 審理判断されている事実にほかならないから、原告が甲4及び5を提出して同事実 を立証し、これらに基づき本件審決の誤りを主張することは許されるというべきで ある。被告の主張は採用することができない。
イ 被告は、甲4及び5が採用されるとしても、これらの証拠はウェブサイトと しての性質上、修正や改ざんの可能性が否定できず、信用性に乏しい旨主張する。\nしかし、上記証拠はいずれも公開されたウェブサイト及びそのアーカイブである から、その記載が修正又は改ざんされたというのであれば、被告において実際に公 開されているウェブサイトや信頼できるアーカイブを示した上、これと異なる点を 具体的に指摘できるはずであるが、被告はそのような指摘をしない。他に、甲4及 び5に、修正や改ざんをうかがわせるような点は見当たらない。被告の主張は採用 することができない。
2 先行意匠の認定に誤りがあること及び先行意匠1が本件出願日前に公知であ ったこととの点について
(1) 原告は、本件審決が、甲1の2〜4に表された意匠をまとめて先行意匠1の\n形状等として認定することはできないとした上で甲1の4のみから先行意匠を認定 した点に誤りがある旨主張する。 原告が主張する先行意匠1は、ユーアイが顧客に相当数量販売したという先行製 品(トヨタハイエースワイドボディ用3Dマット)の意匠である。 前記1(1)の認定事実によると、ユーアイは、遅くとも平成28年3月4日時点で、 そのウェブサイト(甲4の2)において、「ワイドボディ用 フロント3ピース」 「ワイドボディ用 リア1ピース」等のハイエースワイドボディ用フロアマットを 「3Dラバーマット」との商品名にて販売している旨を掲載しているところ、同ウ ェブサイトに用いられている「3Dラバーマット」の写真5枚のうち4枚は、本件 カタログで用いられている写真5枚のうち4枚と酷似しており、ユーアイは、本件 カタログ(甲1の1)に掲載された商品を一般に向けて現実に販売していたものと 認められる。
また、原告は、平成27年5月から同年6月にかけて、外注先から「UI ve hicle」のロゴマークが付されたハイエースWIDE用自動車フロアマットの 納品を受けたところ(甲1の4)、同フロアマットには「3Dラバーマット取扱説 明書」と題する文書が添付されていたほか、梱包箱に記載された品番及び製品コー ドが本件確認書に記載の品番及び製品コード並びに本件売上明細表に記載の品番と\nいずれも符合していることからすると、原告が納品を受けた上記フロアマットは、 上記のとおりユーアイが販売していた「3Dラバーマット」と同一の製品であると 認められる。
そして、本件確認書には、ユーアイが販売する「3D MAT」の設計が、本件 確認書添付の・・・有限公司作成に係る「toyota-hiace-wide 右駕專用型踏 塾」と題する設計図面のとおりである旨が記載され、その設計図面に記載されたフ ロアマットの形状等は、上記のとおりユーアイが販売していた「3Dラバーマット」 の形状等として矛盾のないものであり、かつ、原告がかつて所持していた・・・有限公司が作成した「HIACE WIDE右駕專用踏塾」及び「TOYOT A−HIACE−S−GL−WIDE右駕專用脚踏塾」の設計図面(甲1の2・3) と酷似していることが認められる。
以上の事実を総合すると、ユーアイが販売していた先行製品(「3Dラバーマッ ト」及び「3Dマット」)の形状等は、甲1の1〜4に表されているということが\nできる。これらの証拠から先行製品の意匠すなわち先行意匠1を認定すると、別紙 5のとおりとなる。したがって、本件審決が、甲1の2〜4に表された意匠をまとめて先行意匠1の形状等として認定できないとし、甲1の4のみから先行意匠を認定した点には誤りがある。\n

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◆令和4(行ケ)10132

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令和5(行ケ)10031  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年9月7日  知的財産高等裁判所

知財高裁(2部)、商標「池上製麺所」(標準文字)が識別力無しとした審決を維持しました。

1 商標法3条は商標登録の要件を規定するものであり、同条1項柱書及び同項 4号によると、「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章の\nみからなる商標」は、商標登録を受けることができないものとされている。これは、 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章は、特定人によるそ\nの独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、多くの場合、自 他商品・役務識別力を欠くと考えられることから、このような標章のみからなる商 標については、登録を許さないとしたものと解される。 そして、ありふれた氏に業種名や会社の種別、屋号に慣用的に用いられる文字等 を結合し、普通に用いられる方法で表示したものは、当該ありふれた氏を称する者\n等が取引をするに際して、商標として使用することを欲するものと考えられ、同様 に特定人による独占的使用になじまず、かつ、その表示だけでは自他識別力を欠く\nものというべきであるから、特段の事情のない限り、「ありふれた名称」に当たると 解するのが相当である。
2 本願商標は、「池上」の文字と「製麺所」の文字からなる結合商標である。以 下、各構成部分について検討する。\n
(1) 「池上」について
「池上」は、我が国において氏として約4万4100人に用いられている文字で あり(甲16、39、乙4)、商標法3条1項4号所定の「ありふれた氏」に当たる。 原告は、「池上」は様々な意味を有する語であり、姓氏を表すと即座に認識されな\nいから「ありふれた氏」に当たらないと主張するが、前記のとおり、「池上」が我が 国において4万人以上の者に用いられている氏であることが認められる以上、「池 上」の文字が姓氏以外の意味を有することがあるからといって、それが「ありふれ た氏」に該当しなくなるわけではない。したがって、原告の前記主張は採用するこ とができない。
(2) 「製麺所」について
ア 後掲各証拠によると次の事実が認められる。 (ア) 「製麺所」は、「麺類を製造すること」を意味する「製麺」(乙6)に、場所を 意味する「所」が付されたもので、麺類を製造する所を意味する。
(イ) 香川県では、卸売りをする讃岐うどんの製麺所において、昼時に、セルフサー ビスで客がうどんを湯掻いて食べるという業態のうどん店が多く存在する。これら のうどん店は「製麺所タイプ」、「製麺所スタイル」などと呼ばれ、香川県内には、 原告が運営する「池上製麺所」の他に、「松下製麺所」、「多田製麺所」、「穴吹製麺所」、「藤村製麺所」、「日の出製麺所」、「讃岐製麺所」、「三嶋製麺所」(2か所)、「大川製麺所」、「宮川製麺所」、「上田製麺所」、「岡製麺所」、「上野製麺所」といった店名の製麺所タイプ(製麺所スタイル)のうどん店がある。(甲12、50、69、乙7、8、10、12、33〜35、45〜47、51)
(ウ) さらに、日本全国において、うどんやラーメン等の麺類を提供する飲食店にお いて、「○○製麺所」という名称が用いられていることが認められる。香川県内で「〇 〇製麺所」の名称を用いてうどんを提供している前記うどん店以外のこれらの飲食 店の具体的な所在地及び店名は別紙「製麺所」の使用状況記載のとおりである。(甲 12、41〜47、49〜54、乙9、11、13〜32、36〜42)
イ 前記アの各事実に照らすと、「製麺所」の名称は、もともとは、麺工場などの 麺類を製造する所を指していたものであるが、製麺所において飲食物であるうどん 等を提供するという業態が一般化するなどし、さらには、少なくとも本件審決時ま でに、全国的に、「○○製麺所」という名称のうどんやラーメン等の麺類を提供する 飲食店が少なくない数において存在するに至っているということができる。このよ うな実態に照らすと、本件審決時においては、本願商標の指定役務である「飲食物 の提供」の取引者、需要者は、「製麺所」の名称について、麺類を製造する所を意味 するものと認識、理解するのみならず、麺類を提供する飲食店を指す店名の一部と して慣用的に用いられているものと認識、理解すると認めるのが相当である。
ウ この点、原告は、全国のうどん店・ラーメン店の数からすると「〇〇製麺所」 の名称を用いた店舗数はごくわずかであり、「製麺所」の文字からうどんの麺やラー メンの麺等の商品を取り扱う業種が連想されるとしても、飲食物の提供という業種 は連想されないと主張する。しかしながら、前記ア(イ)(ウ)からすると、「○○製麺所」 という名称を用いた飲食店の数がごく僅かであるとはいい難い。また、前記ア(イ)(ウ) の各店舗のほかに、「〇〇製麺所」と近似した名称である「○○製麺」との名称を用 いるうどん店が存在することは公知の事実であり、食品の製造をする場所において、 製造した食品を用いた飲食物を提供することはよく行われることであるから、需要 者である一般消費者にとって、「製麺所」との文字から、製麺所で製造された麺を用 いた飲食店を連想することは容易であるということができる。これらの点に照らす と、本願商標の指定役務である「飲食店の提供」の取引者及び需要者は、「製麺所」 の文字から「麺類を提供する飲食店」すなわち「飲食物の提供」の役務を想起する というべきである。したがって、原告の前記主張を採用することはできない。
3 本願商標について
本願商標は、ありふれた氏である「池上」と、麺類を提供する飲食店を表すもの\nとして慣用的に用いられている「製麺所」を組み合わせた「池上製麺所」を標準文 字で表したものであり、「池上」氏又は「池上」の名を有する法人等が運営する麺類\nを提供する飲食店というほどの意味を有する「池上製麺所」というありふれた名称 を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であると認められるから、\n商標法3条1項4号に該当するというべきである。
原告は、過去の審決(甲55〜58)において示されたように、名称全体として 多数存在するものでなければ「ありふれた名称」に当たらないと主張するが、商標 法3条1項4号の文言上、「ありふれた名称」であると認めるために当該名称が現に 多数存在することは要件とはされておらず、ありふれた氏である「池上」と、麺類 を提供する飲食店を示すものとして慣用的に用いられている「製麺所」とを結合し、 普通に用いられる方法で表示した本願商標は、本件全証拠によっても、我が国にお\nける飲食店の取引者、需要者が、特定人の運営する飲食店(原告店舗)を意味する ものであることを認識することができるほどの自他識別力を有するに至ったことを 認めるに足りない。したがって、本願商標は、特定人の独占にはなじまず、自他識 別力を欠くものとして、同条1項4号の「ありふれた名称を普通に用いられる方法 で表示する標章のみからなる商標」と認めるほかはない。原告の指摘する各審決は、\nいずれも本件とは指定商品及び指定役務等を異にする事案である上、当該各審決に 係る商標登録の有効性(同法46条1項1号)について裁判所の判断がされたこと を認めるに足りる証拠はないから、本願商標が同法3条1項4号に該当する旨の前 記判断を左右するに足りるものではない。

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令和5(行ケ)10029  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年8月31日  知的財産高等裁判所

知財高裁(4部)は、商標「熟成鰻」は識別力無し(3条1項3号)とした審決を維持しました。

本願商標は、別紙のとおり、縦長長方形風の枠の中に「熟成鰻」の文字を 筆文字風書体で縦書きしてなるものである。その構成中の「熟成」の文字は、広辞苑第7版(乙1)によれば、「1)十分に熟してできあがること。2)[化]物質を適当な温度に長時間放置して化学変化を行わせること。発酵の調節、コロイド粒子や沈殿の粒径の調節などにいう。時効。3)蛋白質・脂肪・炭水化物などが、酵素や微生物の作用によ り、腐敗することなく適度に分解され、特殊な香味を発すること。なれ。」 を、デジタル大辞泉(審査手続における手続補足書〔甲5〕で引用)によれ ば、「1 成熟して十分なころあいに達すること。「機運が熟成する」 2 魚肉・獣肉などが酵素の作用により分解され、特殊な風味・うまみが出るこ と。・・・3 物質を適当な温度などの条件のもとに長時間おいて、ゆっく りと化学変化を起こさせること。」を意味する。また、広辞苑第7版(乙2) によれば、「鰻」の文字は、「ウナギ科の硬骨魚の総称、またその一種。」 を意味するものであり、一般に親しまれた語であり、各文字の語義自体から 「熟成させた鰻」を意味するものということができる。
(3) 各種ウェブサイトによれば、「熟成」の語は、食品又はこれに関する役務 の分野では、化学変化や酵素等の作用により、風味やうまみをだすとの意味 において、魚一般について用いられているほか(乙3〜12。「熟成魚」と の表現もある。)、この意味における「熟成」を用いた、「熟成鰻」又は「熟\n成うなぎ」との端的な表現もある(乙23〜28、30、32。そのうち、\n乙23〔クラウドファンディング情報。令和3年10月26日募集開始〕、 25〔オークション結果。令和2年7月4日開始、同月5日終了〕、28〔「旨 味熟成うなぎ」を商品化したとの平成26年5月の記事が引用されている。〕 は、本件審決の日である令和5年1月30日より前に使用されたことが明ら かである。)。さらに、「熟成鮭」、「熟成鯛」、「熟成マグロ」、「熟成鰹」など、上記意味における「熟成」と魚の名前を組み合わせた用例は枚挙に暇がない(乙 33〜42)。
(4) 以上からすると,本願商標の「熟成鰻」からは,熟成させた鰻という意味 合いが生じ,本願商標に接した取引者,需要者は,通常,本願商標は,その 指定役務の質を示すものと認識するにとどまるものと解される。 これに対し、原告は、「熟成うなぎ」の「熟成」は、鰻が十分に熟してで\nきあがった状態、すなわち大きく成長した状態であること、あるいは、タレ が熟成したこととの意味も含みうる多義的な表現である旨主張する。\nしかし、原告の主張を前提としても、「熟成鰻」が識別力を有さない記述 的表示と解さざるを得ないことに変わりはないし、これを措くとしても、「大\nきく成長した状態」を示すのであれば、「成熟」を用いることがむしろ自然 であり、また、「熟成うなぎ」の語から、そこに何ら表示されないタレの熟\n成を想起するとはいえない。原告の提出する甲15〜17その他の証拠は以 上の認定判断を覆すものではない。原告の上記主張は採用できない。
(5) 次に、「普通に用いられる方法で表示」の要件についてみるに、各種ウェ\nブサイトによれば、飲食店一般において、提供される料理の質(内容)を筆 文字風の書体をもって四角囲みで表示することが普通に行われている(乙4\n3〜50)上、鰻を提供する飲食店のロゴ、看板、のれん等に限ってみても、 筆文字風の書体を四角囲みで表示することが普通に行われているものと認\nめられる(乙51〜60)。 原告は、本願商標は書家の手になるもので唯一無二のものであり、「熟成 鰻」の文字を囲む長方形も角が丸くかすれた部分があるなど独自の部分があ るなどと主張するが、「普通に用いられる方法で表示」の域を出るものでは\nない。

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令和5(行ケ)10030  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年9月7日  知的財産高等裁判所

知財高裁は、商標「くるんっと前髪カーラー」(標準文字)は識別力有りとした審決を、取り消しました。

前記ア(イ)及び(ウ)のとおり、「前髪」及び「カーラー」の各語は、本件査定日当 時、それぞれ前記ア(イ)及び(ウ)の意味を有するものとして、我が国において高い信 頼性を有すると認められる国語辞典に掲載されていたものであるところ、弁論の全 趣旨によると、当該各語がそのような意味を有する語であることは、本件査定日当 時、本件商品に係る取引者又は需要者(以下、本件商品に係る本件査定日当時の取 引者又は需要者を「本件需要者等」という。)にとって極めて明確であったものと 認められる(以下、本件商標に接した本件需要者等の認識を検討するに当たり、 「前髪」及び「カーラー」の各語については、「額に垂れ下がる髪」、「頭髪を巻 き付けてカールさせるための円筒形の用具」などと敷えんすることはせず、これら の語をそのまま用いることとする。)。
他方、辞典に記載された「くるん」の語の意味及び用例(前記ア(ア))、本件査 定日前のウェブサイト及び新聞記事における「くるんと」等の語の使用例(前記イ 及びウ)並びに日本語の文法に照らすと、「くるんと」の語は、前髪を含む毛髪に ついて用いられるときは、通常、「(毛髪が)丸く曲がった様子」を示す語として 用いられている。また、ウェブサイトにおける「くるんと」等の語の使用例(前記 イ)に照らすと、「くるんと」の語と「くるんっと」の語は、促音の有無により互 いに意味を異にするものとは認められない。そうすると、「前髪」の語の直前に置 かれた本件商標の構成中の「くるんっと」の語は、それが副詞として修飾すること\nになる用言(動詞、形容詞等)が明示されていなくても、その内容は自明であって、 通常、「(前髪が)丸く曲がった様子」を示すものとして、本件需要者等に認識さ れるものと認めるのが相当である。
なお、ウェブサイトにおける「くるんと」等の語の使用例の中には、「くるんと」 等の語が、毛髪が丸く曲がった様子を示すというよりも、商品であるカーラーを回 転させる動作の様子を示す副詞として用いられていると認められるもの(1)「くる んと巻きます」(前記イ(セ))、2)「はさんでクルンとする」(前記イ(ソ))、3) 「はさんでくるっの超簡単ステップ」(前記イ(チ))、4)「挟んでくるっとするだ け」(前記イ(ツ)))がある。しかし、仮に、本件商標の構成中の「くるんっと」\nの語がカーラーを回転させる動作の様子を示す語として用いられていたとしても、 当該語は、カーラーを使用する者の当たり前の動作を表現するものにすぎないから、\n商標法3条1項3号該当性との関係では、商品の用途や使用の方法を普通に用いら れる方法で表示したことになるだけであり、かつ、当該動作によりカーラーを使用\nした結果は、前髪が丸く曲がった状態のはずであるから、本件商標に接した本件需 要者等の認識が前記したもの(「くるんっと」という語は、前髪が丸く曲がった様 子を示すものであるとの認識)と異なるものになるとは思われない。
以上によると、本件査定日当時、被告商品(甲14、15の1及び2、甲42、 44)及び商品名を「前髪くるんとカーラー」とする原告の商品(乙2)を除くほ か、「くるんっと前髪カーラー」の語句又はこれに準ずる語句を本件商品について 用いる例があったと認めるに足りる証拠がないことを考慮しても、「くるんっと前 髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、通常、当該語句が「丸く曲がった前 髪を作るカーラー」を意味するものと認識することになると認めるのが相当である。 なお、証拠(甲14、15の1及び2、甲42、44)及び弁論の全趣旨によると、 被告は、本件査定日当時、被告商品の品質、効能等をうたう宣伝文句として、「く\nるんっとカールした前髪ができちゃう!」及び「くるんっと内側にカールした前髪 をセットするためのカーラーを考えました」との文言を用いていたとの事実が認め られるが、これは、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等にお いて、当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」などを意味するものと認識 したとの上記認定に符合するものである。
オ 被告の主張について
被告は、本件商標の構成中の「くるんっと」の語は副詞であるのに、本件商標の\n構成中にはこれを明確に受ける動詞が存在せず、本件商標が意味するところは一義\n的に特定することができるものではないと主張する。
確かに、「くるんっと」という擬態語は、文法上、用言(動詞、形容詞等)を修 飾する副詞であると考えられるにもかかわらず、本件商標の構成中の「前髪」及び\n「カーラー」の各語は、いずれも名詞であるから、「くるんっと」の語が修飾すべ き語が本件商標の構成中には見られないことになる。しかしながら、本件需要者等\nにおいて、「くるんっと」、「前髪」及び「カーラー」の各語の相互の修飾関係が 文法的に正確なものでなければ、これらの語を順番に並べた語句の意味を一義的に 把握することができないということはできない。実際、ウェブサイトにおける「く るんと」等の語の使用例の中にも、「前髪くるんっの仕方」との語句を用いた例 (前記イ(ケ))、「くるん前髪」との語句を用いた例(前記イ(シ))、「くるんがキ マる」との語句を用いた例(前記イ(チ))、「くるん前髪」との語句を用いた例 (前記イ(ツ))等がみられるところ、これらは、いずれも文法的に正しい表現では\nないが、そのことをもって、その意味するところが不明確になるということはでき ない。
被告は、「くるんっと前髪カーラー」の語句からは、1)「「くるんっと丸まった 弾力のある表面」を有する前髪用のカーラー」、2)「「くるんっと振り向いても」 キープされるカールを作る前髪用のカーラー」、3)「「くるんっと寝返りを打って も」前髪のカールを作ることができるカーラー」、4)「前髪を挟んで「くるんっと 回す」カーラー」などの様々な意味合いが想起されるとも主張する。 しかしながら、このうち、前記1)から3)までのような意味合いは、理論的にはあ り得るとしても、前記ウェブサイトの使用例その他本件に提出された全証拠によっ ても、「前髪」や「カーラー」と一緒に使用される場合の「くるんっと」という語 は、もっぱら「(前髪が)丸く曲がった様子」を示すために用いられていることが 認められ、被告が主張するような意味合いで用いられている例は見当たらない。ま た、前記4)の意味合いについては、そのような意味合いが生じる使用例(前記イ (セ)、(ソ)、(チ)及び(ツ))は存在するものの、前記エにおいて説示したところに照ら すと、商標法3条1項3号該当性に関する判断を左右するに足りるものではない。 以上のとおりであるから、被告の前記各主張を採用することはできない。
(3) 本件商標の商標法3条1項3号該当性について
前記(2)のとおり、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、 当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を意味すると認識することになる ところ、「カーラー」は、「頭髪を巻き付けてカールさせるための円筒形の用具」 であるから(前記(2)ア(ウ))、「くるんっと前髪カーラー」の語句は、単に本件商 品(電気式のものを除くヘアカーラー)の効能等を述べたものにすぎない。また、\n本件商標は、「くるんっと前髪カーラー」の語句のみからなり、当該語句を標準文 字で表すものであって、本件商品の効能\等を普通に用いられる方法で表示するもの\nである(「くるんと」の語に促音を付加した「くるんっと」の語を用いた表現が特\n殊なものであるということはできない。)。したがって、本件商標は、本件商品の 品質、効能等を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標であるとい うことができるから、商標法3条1項3号に掲げる商標に該当する。 被告は、本件商標は本件商品の品質等を直接的かつ具体的に表示するものとはい\nえないから、同号に掲げる商標に該当しないと主張する。しかしながら、前記(2) において説示したところに照らすと、本件商標は、本件商品の品質、効能等を間接\n的に暗示するにとどまるものではなく、これを直接的かつ具体的に表示するもので\nあると認められるから、同主張は採用することができない。 また、被告は、「くるんっと前髪カーラー」の標章につき特定の者による独占使 用を認めても何ら弊害はないと主張する。しかしながら、「くるんっと前髪カーラ ー」が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」などを意味するものとして、本件商品 の品質、効能等を普通に用いられる方法で表\示する標章である以上、他の事業者に おいて、本件商品に該当する商品の製造、販売等をするに当たり、「くるんっと前 髪カーラー」と同一又は類似の標章を用いようとすることは当然に想定されるとこ ろであるから、「くるんっと前髪カーラー」の標章につき独占使用を認めても何ら 弊害はないとの被告の主張を採用することはできない。

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令和5(行ケ)10032  商標登録取消決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年8月31日  知的財産高等裁判所

 図形商標について異議申立で類似と判断されました。知財高裁もこれを支持しました。引用商標は、著名なニコちゃんマークです。判決文中に本件商標が提示されています。\n

3 本件商標と引用商標の対比
本件商標と引用商標の外観は、いずれも、黄色の円の中央上部に、黒色の縦 長な楕円形の点を上下左右2個ずつ合計4個配置して、人の目のように描き、 その下方に両端を上向きにした黒色の円弧を人の口のように描いた図柄であり、 4つ目の人の顔を、鼻、耳、髪等を捨象した黄色一色のシンプルな円形と点状 の目及び円弧状の口だけで表現したものである点において外観上共通している。\nなお、観念及び称呼を比較することはできない。 細部をみると、原告の主張する(前記第3の1(1)ア〜ウ)ように、目の形、 位置、口の線の曲がり具合、位置、線の太さ、口元のえくぼを想起させる線の 有無が異なるが、これらの相違は、本件商標と引用商標を並べて対比的に観察 してようやく認識できる程度のものにすぎない。現実の取引の場面においては、 取引者・需要者は、自己の記憶にある商標に基づいて商品・役務を選択するの であるから、時と場所を異にする離隔的観察を基本とすべきであり、このよう な観点からみる限り、本件取消指定商品の取引者・需要者が、その出所を識別 できるほどの相違とはいえない。 なお、引用商標の顔の表情はほほえんでいるように見えるのに対し、本件商\n標の顔の表情はわずかにほほえんでいるようにも、とり澄ましているようにも\n見える点で異なる印象を与える可能性はあるが、相対的、主観的な相違にすぎ\nず、上記の判断を左右するものではない。 そうすると、本件商標は、引用商標と類似するものと認められる。
4 原告のその他の主張に対する判断
(1) 原告は、本件商標及び引用商標は世界的に著名なスマイルマークをベース とするものであり、1)その基本構成は出所識別力・独占適応性を欠く表\示で あるから、原告主張の相違点をもって類似しないというべきである、2)スマ イルマークは数多くのバリエーションが生まれているから、需要者及び取引 者はわずかな差違であっても違いを認識し、出所混同を生ずるおそれはない 旨主張する。 しかし、本件商標と引用商標がいわゆるスマイルマークをベースとする ものだとすると、むしろ、これに接した取引者・需要者は、「4つ目のスマ イル」という本件商標と引用商標の共通点をより強く認識すると考えるのが 自然であり、それ以外のわずかな違いが注意をひくなどと解すべき根拠はな い。原告の主張は採用できない。
(2) 原告は、異議申立人との交渉経緯や本件商標及び引用商標の登録出願の経\n緯等を主張して、本件商標の取消は商標法の目的に反する旨主張する。 しかし、原告主張の経緯があるとしても、引用商標が商標法4条1項1 1号所定の先願に係る他人の登録商標としての適格を失うものではなく、現 在も商標として登録されている以上、これと類似している商標であれば同号 に該当し得るのであって、原告の主張は採用できない。

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令和2(ワ)17104  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月16日  東京地方裁判所

 漏れていたので、アップします。マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。東京地裁(40部)は、102条1項、2項の適用を排除し、同3項に基づき、約2015万円の損害賠償を認めました。

ア 上記にいう「侵害品の売上高」につき、原告は、被告サーバを使用したF X取引の取引高(3項損害主張1))、被告サーバを使用したFX取引の取引 回数(3項損害主張2))、被告サーバを使用したFX取引による手数料収入 及びトレーディング損益(3項損害主張3))であると主張する。 そこで検討すると、前提事実、証拠(甲27、乙66、67)及び弁論の 全趣旨によれば、1)FX取引は、証拠金を預託し、差金決済(元本に相当す る金銭の受渡しを行わず、買い付けの対価と売り付けの対価の差額の授受に より決済することをいう。)により外国通貨の売買を行う金融取引であるた め、総取引額の金銭の受渡しは必要とされず、売買の損益の受渡しのみで取 引が完結すること、2)被告は、被告サーバを介してFX取引管理方法に係る 被告サービスを提供し、これによって顧客から手数料収入を得ていたこと、
3)顧客とFX業者が直接取引を行うFX取引では、FX取引による顧客の利 益は、FX取引におけるFX業者の損失となるため、そのリスクをヘッジす るために、FX業者は、顧客の注文に応じて、他の金融機関に対し同様の注 文を行う取引(以下「カバー取引」という。)を行っており、被告は、FX 取引を行う際に、被告サービスを含めた多数の顧客の注文を一定数量や一定 時間で合算し、売り注文と買い注文を相殺した後、差分数量について他の金 融機関とカバー取引を行うことによりトレーディング損益を得ていたこと、
4)原告ライセンス契約においては、●(省略)●と定められていたこと、以 上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、差金決済その他のFX取引の内容及び実施料率に 係る取引の実情等を踏まえると、特許法102条3項に基づく実施料相当額 算定の前提となる「侵害品の売上高」は、FX取引に関する手数料収入及び トレーディング損益であると認めるのが相当である。 これに対し、被告は、トレーディング損益については、被告サーバを用い た顧客との取引とは別個独立の取引によって得られるものであるから、「侵 害品の売上高」には含まれない旨主張する。しかしながら、カバー取引は、 当該FX取引のリスクヘッジのために行われるものであるから、被告がカバ ー取引により得ているトレーディング損益は、被告サーバを使用した顧客と の当該FX取引と密接不可分の関係にあり、●(省略)●トレーディング損 益も、上記にいう「侵害品の売上高」に含めるものとするのが相当である。 そして、この場合に、トレーディング損益は、被告の全取引数量に占める被 告サービスを用いた取引数量を按分することにより、算定するのが相当であ る。したがって、原告及び被告の各主張は、上記認定に抵触する限度で、いず れも採用することができない。
イ 本件発明の構成要件を充足しない取引を除外すべきとの被告の主張につ\nいて
被告は、1)買い注文を決済注文とする取引(以下「取引1)」という。) 2)取引開始時点において2個以下の新規買い注文しか生成されない取引 (以下「取引2)」という。)、3)売り注文が相場価格の上昇に追従する取 引(最も高い売り注文価格よりも更に高い売り注文価格の売り注文情報を 生成した取引をいう。)以外の取引(以下「取引3)」という。)は、いず れも本件発明の技術的範囲に含まれないから、これらの各取引は、損害額 算定の基礎から除外する必要があると主張する。
取引1)について
a 本件特許において、特許請求の範囲の請求項3は、次のとおり記載さ れていることが認められる。
・・・
b 取引1)の除外の可否
上記認定事実によれば、本件特許においては、売り注文を決済注文と する本件発明と、買い注文を決済注文とする取引1)とは、表裏の関係と\nして明確に区分して規定されていることを踏まえると、本件発明に係る 実施料を算定するに当たっては、取引1)に係る収入は、損害額算定の基 礎から除外するのが相当である。 なお、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば、原告は、被 告サーバが本件特許の請求項3を侵害すると主張し、本件訴訟係属中、 取引1)に係る損害賠償の支払を求めて別訴を提起していることが認め られる。
取引2)及び取引3)について
証拠(甲7ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、被告サーバを用いた 取引は、顧客が「想定変動幅、ポジション方向、対象資産」を設定した上、 被告サーバは、複数の買い注文情報を前提とした買い注文情報を生成し、 相場価格が上昇した場合には、売り注文の価格を変更するものであること が認められる。そうすると、上記取引は、被告サーバにおいて、複数の買 い注文情報を生成させ、相場価格が上昇すれば売り注文の価格を変更させ ることを意図するのといえる。 これを被告サーバを用いた取引2)及び取引3)についてみると、当該各取 引は、結果としては、その内容が本件発明による取引に係るものとは異な るものの、いずれの取引においても、複数の買い注文情報が生成されて相 場価格が上昇したときは、本来売り注文の価格を変動させることを意図し たものであったことが認められる。 これらの事情を踏まえると、取引2)及び取引3)は、特許法102条3項 に基づく実施料相当額算定の前提となる「侵害品の売上高」に含まれると するのが相当である。もっとも、被告サーバを使用した取引のうち、結果 としてその内容が本件発明による取引に至らなかったもの(取引2)及び取 引3))については、実施料率の算定において考慮するのが相当である。 したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件における侵害品の売上高について
証拠(乙63の2、73の2)及び弁論の全趣旨によれば、本件期間から、 消滅時効に係る期間を除いた平成29年7月9日から平成31年3月2日 までの期間における被告サービスの手数料収入の合計額は、●(省略)●で あり、また、同期間におけるトレーディング損益の合計額は、被告の全取引 数量に占める被告サーバを使用した取引数量で按分すると、●(省略)●で あることが認められる。 そうすると、特許法102条3項に基づく実施料相当額算定の前提となる 「侵害品の売上高」は、上記手数料収入及びトレーディング損益の合計額で ある●(省略)●と認められる。
(3) 実施料率について
ア 実施許諾契約における実施料率等
証拠(甲27)及び弁論の全趣旨によれば、原告ライセンス契約において は、●(省略)●ことが認められる。 しかしながら、●(省略)●ことは、上記において説示したとおりである。 そして、原告ライセンス契約は、本件特許が登録された平成29年6月9日 より前の平成26年10月1日に締結されており、しかも、原告と原告の完 全子会社である原告子会社との間で締結されたものである。 これらの事情を踏まえると、本件特許の実施料率の算定に当たっては、上 記●(省略)●の実施料率を直ちに斟酌するのは相当とはいえない。 他方、証拠(甲26、乙74)によれば、株式会社帝国データバンクによ る平成22年3月付けの「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在 り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率 に関する実態把握〜本編」においては、コンピュータテクノロジーの実施料 率の平均値は、正味販売高の3.1%とされていることが認められる。
イ 本件発明の技術内容や重要性
本件発明は、複数の売り注文価格がそれぞれ等しい値幅で異なるように した上で、複数の売り注文価格の情報を含む売り注文情報を一の注文手続 で生成し、その後相場価格が変動して、複数の売り注文のうち最も高い売 り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると、当該検知の情報を 受けて、複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも更に所定価格 だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成することによっ て、元の売り注文価格よりも相場価格が変動した高値側に新たな売り注文 価格の売り注文情報を生成する構成を採用するものである。このような構\ 成により、本件発明は、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取 引において、相場価格の変動に合わせて注文価格を追従させることにより 多くの利益を得る機会を提供するという点において、相応の技術的価値を 有するものと認められる。
証拠(甲7の1、8の1)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告サ ービスの広告宣伝において、被告サービスについて、予め指定した変動幅\nの中で、一定間隔の値幅で複数のイフダン+OCO注文を一度に同時発注 し、決済注文成立後、相場の変動に合わせて変動幅を追従させ、相場変動 に追従した新たな条件の注文をシステムが自動的に繰返し発注する連続 注文機能であって、トラップリピートイフダン注文に係る被告の別のサー\nビスでは、想定した変動幅から相場が外れた場合、利益を逸失する場合が あるのに対して、相場の上昇又は下落の変動に合わせて、自動追従して注 文を繰り返すため、利益を追求することが期待できる注文方法であること を説明していることが認められる。そうすると、被告は、相場価格の変動に合わせて注文価格を追従させるという本件発明の技術内容を被告サービスの特徴の一つとして広告宣伝していたことが認められる。 弁論の全趣旨によれば、本件期間から消滅時効に係る期間を除いた期間 (平成29年7月9日から平成31年3月2日まで)において、被告と顧 客との間で行われた被告サービスに係るFX取引のうちの、新規注文を買 い注文、決済注文を売り注文とし、売り注文が相場価格の上昇に追従する 取引(最も高い売り注文価格よりも更に高い売り注文価格の売り注文情報 の生成)に対応する新規買い注文に係る手数料収入は、●(省略)●であ ることが認められる。そうすると、上記手数料収入は、上記期間における被告サービスにおける手数料収入の合計額●(省略)●にとどまり、被告サービスによる取引 のうち売り注文が相場価格の上昇に追従する取引(本件発明の構成要件を\n充足する態様での取引)の割合は、実際には●(省略)●にも満たないも のと認められる。したがって、本件発明による被告サービスの売上げへの 貢献は、上記割合をも斟酌するのが相当である。上記のとおりの本件発明の技術内容や重要性に照らせば、これを実施することは、被告にとって、相応に売上げや利益に貢献するものであるといえる。
ウ 侵害の態様
前提事実によれば、被告は、業として、平成26年10月1日から平成3 1年3月2日まで、被告サーバを使用していたこと、原告が、平成26年5 月1日を原出願とする出願につき分割出願をして本件特許が平成29年6 月9日に登録されたため、被告サーバが本件発明の技術的範囲に属すること になったこと、以上の事実が認められる。当該認定事実を踏まえると、被告 による本件発明に係る侵害の態様が、極めて悪質であるとまで認めることは できない。
エ その他の事情
前提事実によれば、原告は、本件期間を通じて、金融商品取引業者として の登録を受けておらず、FX取引業を営んでいなかったこと、原告の完全子 会社である原告子会社は、FX取引等を事業内容とする株式会社であること が認められる。 そうすると、原告自身は被告との間で競合関係がないとしても、原告の完 全子会社である原告子会社と被告との間では潜在的な競合関係が認められ るから、仮に、原告が、被告に対し、本件発明の実施を許諾するとすれば、 その実施料は相応に高額になったものといえる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る本件発明の技術内容や重要性、侵害の態様その他の本件に 現れた諸事情を総合考慮して、特許法102条4項の趣旨に鑑み、合理的な 料率を定めると、実施に対し受けるべき料率は、●(省略)●であると認め るのが相当である。
(4) 損害額
ア 特許法102条3項に基づく損害額
したがって、特許法102条3項に基づく損害額は、次の計算式のとおり、 ●(省略)●となる(小数点第一位で四捨五入)。
(計算式)
●(省略)●
イ 弁護士費用及び弁理士費用
本件事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に鑑みると、これと相当因果関係があると認められる弁理士費用及び弁理士費用相当損害額は、●(省略)●の限度で認めるのが相当である。
ウ 合計額
以上によれば、本件の損害額は、2014万9093円●(省略)●となる。

◆判決本文
当事者が同じ侵害事件です。

◆平成29(ネ)10073

原審はこちらです。

◆平成28(ワ)21346
こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。

◆平成29(ワ)24174

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令和5(行ケ)10007 審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年8月10日  知的財産高等裁判所

瓦の意匠登録無効審判の審取です。無効理由ありとした審決が維持されました。 争点は、引用意匠が公知であったか否かです。

掲記の証拠、A作成の報告書(甲62、68、乙3)、B作成の陳述書(甲41 の3、甲43の4)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。 (1) 石垣市は、同市の新庁舎を建設するに当たり、公募によるプロポーザル方 式により建設工事に係る設計者を選定することとし、平成28年7月14日、一次 審査により選定された5つの業者(被告隈研吾事務所を含む。)を対象に、二次審 査として公開プレゼンテーション・ヒアリングを実施した。Dは、同日の公開プレ ゼンテーション・ヒアリングに参加し、被告隈研吾事務所の提案の内容等について のプレゼンテーションを行った。石垣市は、同日、業者によるプレゼンテーション の結果も踏まえて審査し、特に優れた提案を行い新庁舎の建設工事に係る設計を委 ねるにふさわしい業者として、被告隈研吾事務所を選定した。なお、Dが上記のプ レゼンテーションにおいて使用した資料には、新庁舎の屋根につき赤瓦を使用する ことが記載されていた。(甲9、10、12)
・・・・
2 原告らの主張2(引用意匠が本件送付により意匠法3条1項1号に掲げる意 匠(公然知られた意匠)に該当するに至ったものではないこと)について
原告らの主張1(引用意匠について意匠法4条2項が適用されること)は、原告 らの主張2(引用意匠が本件送付により意匠法3条1項1号に掲げる意匠に該当す るに至ったものではないこと)に理由がないこと(引用意匠が本件送付により意匠 法3条1項1号に掲げる意匠に該当するに至ったものであること)を前提とするも のであるから、原告らの主張1に先立ち、原告らの主張2について検討する。
(1) ある意匠が他の者に知られた場合であっても、当該者が当該意匠について 秘密保持義務を負うと認められるときは、当該意匠は、いまだ意匠法3条1項1号 にいう「公然知られた意匠」に該当するものではない。もっとも、当該者が当該意 匠について秘密保持義務を負うといえるためには、必ずしも秘密保持義務の発生の 根拠となる契約が存在することまでは必要とされず、当該者とその相手方との関係、 当該者において知るに至った事項の性質及び内容等に照らし、当該者が当該意匠に ついて秘密にすることを社会通念上求められる状況にあり、当該者がそのことを認 識することができれば、当該者は、当該意匠について秘密保持義務を負うものと解 するのが相当である。
(2) 以上を前提に、本件について検討する。
ア 前記認定のとおり、引用意匠は、本件パンフレット等に掲載されているもの であるところ、AがB及びCに対して平成29年2月16日に本件パンフレット等 を送付したことから(本件送付)、引用意匠は、遅くとも同日、被告隈研吾事務所 の知るところとなったものである。
イ 原告らは、本件送付に係る本件パンフレット等に掲載された引用意匠につい て、原告らと被告隈研吾事務所との間で秘密保持契約が締結されたと主張するもの ではない。
ウ 前記認定のとおり、原告らの各代表者は、本件送付に先立つ平成29年2月\n1日、Dに対し、引用意匠を含む本件発明について、これを同月19日に行われる 予定の本件説明会(石垣市長及び石垣市民が参加するもの)において公開するよう\n依頼し、Dは、同日、当該依頼にも応じる形で、本件説明会において、石垣市の新 庁舎に使用する瓦として本件発明に係る瓦(引用意匠を含むもの)を発表したもの\nである。また、Aは、同月13日、Bから「Dは、同月19日の本件説明会におい てプレゼンテーションをする予定であり、当該プレゼンテーションにおいてちゅら\n瓦(引用意匠を含むもの)について説明したいので、石垣市役所に対してちゅら瓦 のサンプルを送付してほしい」との趣旨のメールを受信した際も、Dが本件説明会 において引用意匠を含むちゅら瓦について説明することに異議を述べるのではなく、 同月16日、Bの上記依頼に応じてちゅら瓦のサンプル及び本件パンフレットを石 垣市役所に送付した上、同日、本件パンフレット等をB及びCにも送付したもので ある(本件送付)。さらに、Aは、本件説明会が開催された日の翌日である同月2 0日、Bから本件説明会(本件発表)の様子等を知らせるメールを受信した際にも、\n特にこれに異議を述べるなどしなかったものである。加えて、Aにおいて、本件パ ンフレット等を添付ファイルの形式で送付したメールである本件メールに、引用意 匠や本件パンフレット等を秘密扱いにするよう求めるなどする記載をせず、かえっ て、被告隈研吾事務所が本件説明会において引用意匠を含むちゅら瓦を石垣市の新 庁舎に使用する瓦として提案することを前提とする記載をしたこと、Aにおいて、 本件パンフレット等に、引用意匠が開発中のものであるなどの記載や本件パンフレ ット等が秘密情報を含むものであることを示す「部外秘」などの記載をしなったこ となどの事情も併せ考慮すると、Aは、Dが同月19日に開催される本件説明会に おいて引用意匠を含む瓦(本件発明に係る瓦)を公開することを十分に知りながら、\nこれを容認し、被告隈研吾事務所の従業員であるB及びCに対して、そのように公 開を予定している引用意匠が掲載された本件パンフレット等を送付したものと認め\nられるところ、本件送付から本件発表までの僅かな期間においてのみ引用意匠を秘\n密にすべきとする事情はうかがわれないから、本件発表がされた同月19日の時点\nにおいてはもちろんのこと、本件送付がされた同月16日の時点においても、被告 隈研吾事務所が引用意匠について秘密にすることを社会通念上求められる状況にあ ったものと認めることはできない。
エ 前記認定のとおりの本件パンフレットの体裁によると、本件パンフレットは、 宣伝、広告等のための一般的なパンフレットであるといえ、加えて、本件写真が本 件パンフレットと同時にB及びCに送付されたものであること、本件パンフレット 等には、引用意匠が開発中のものであるなどの記載や本件パンフレット等が秘密情 報を含むものであることを示す「部外秘」などの記載がないこと、本件メールにも、 引用意匠や本件パンフレット等を秘密扱いにするよう求めるなどする記載がないこ と、Dは、原告らの各代表者から、本件送付に先立つ平成29年2月1日、引用意\n匠を含む本件発明について、これを同月19日に行われる予定の本件説明会におい\nて公開するよう依頼されていたこと、本件パンフレットは、Bが同月13日にした 引用意匠の公開を前提とする依頼(「Dは、同月19日の本件説明会においてプレ ゼンテーションをする予定であり、当該プレゼンテーションにおいてちゅら瓦(引\n用意匠を含むもの)について説明したいので、石垣市役所に対してちゅら瓦のサン プルを送付してほしい」との趣旨の依頼)に応じたAにおいて、ちゅら瓦のサンプ ルと共に石垣市役所に送付したパンフレットと同じパンフレットであること、原告 らにおいて、被告隈研吾事務所に対し、本件発明に係る本件原出願(特許出願)が された同年6月16日に先立って、引用意匠を含む発明、引用意匠等について特許 出願、意匠登録出願等をする予定がある旨を伝えたことがなかったこと、本件送付\nから本件発表までの僅かな期間においてのみ引用意匠を秘密にすべきとする事情は\nうかがわれないことなどを併せ考慮すると、本件パンフレット等を受領した被告隈 研吾事務所において、本件発表がされた同年2月19日の時点においてはもちろん\nのこと、本件送付がされた同月16日の時点においても、本件パンフレット等に掲 載された引用意匠を秘密にすることが求められる状況にあると認識し得たものと認 めることはできない。
オ 以上によると、被告隈研吾事務所が本件送付により知るところとなった引用 意匠について、被告隈研吾事務所が秘密保持義務を負うということはできないから、 引用意匠は、平成29年2月16日にされた本件送付により、意匠法3条1項1号 にいう「公然知られた意匠」に該当するに至ったものと認めるのが相当である。

◆判決本文

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◆令和4(行ケ)10108

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令和5(行ケ)10003  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年8月10日  知的財産高等裁判所

位置商標について、識別力無しとした審決が維持されました。本件商標は、靴の上部と靴底の境界部分の外周に沿った位置に、配置されたステッチ状の黄色の破線です。3条2項の主張も認められませんでした。原告は、「Dr.Martens」(ドクターマーチン)です。

前記(2)を総合すると、本願商標の用いられた原告商品は、昭和60年頃以 降、日本全国において広く販売されており、本願商標の査定時までの販売期間は約 35年と相当程度に長く、販売数量や売上高も相当程度に大きいものと認められる。 また、本願商標は、全体が黒色の革靴又はブーツに用いられた場合には、視認性が 高く目を引く部分であるといえ、需要者及び取引者が、黒等の暗い色の革靴又はブ ーツに施された黄色のステッチから原告ブランドを想起する例があることが認めら れる。他方で、黒色の革靴又はブーツであって本願商標と同じ特徴を有する商品に ついては、原告の模倣品対策により、日本国内において流通する量が極めて少ない 状況にあるから、本願商標と同じ特徴を有する黒色の革靴及びブーツが多数市場に 存在するとはいえない。 本願商標の指定商品である革靴、ブーツは、広く一般の需要者を対象とする商品 であるにもかかわらず、本件アンケート調査は、本調査としてその対象者を「店舗、 通販サイト、雑誌等で革靴やブーツを見ることがある方」であり、かつ、「1年以内 に革靴やブーツを購入した方」と限定し、これによって革靴やブーツに関心のない 層が除外されることになるが、そのような層も必要に応じて生活必需品等として革 靴やブーツを買うことが予想されることに照らすと、本件アンケート調査における\n本調査の対象者の限定については相当性の有無との問題があるものの、本件アンケ ート調査の結果によると、本願商標の特徴を有する黒い革靴の黄色ステッチ部分の 写真を見た需要者(店舗等で靴やブーツを見ることがある者及び1年以内に革靴や ブーツを購入した者)のうち、30.7%が原告ブランド名を想起することができ、 選択肢を示された場合には37.6%が原告ブランドを選択することができており、 これらの割合は、原告ブランド以外のブランド名を回答した者と比べても有意に多 く、最も多く回答された他のブランド名であるティンバーランド(Timberland)を回 答した者の割合(7.9%)の4倍以上である。この点につき、ブランドの数が多 く、かつ、購入する頻度の低いファッション製品の場合は、一般消費者が、商品の 形状に触れ、その形状からブランド名を想起する機会が多いとはいえないことから すると、15%を超える認知度があれば、十分識別力があるといえるのと見解もあ\nること(甲59)を踏まえると、本件アンケート調査の結果からは、需要者(ただ し、上記のとおり、本調査としてその対象を限定された需要者層である。)のうち相 当程度の者が、黒い革靴に本願商標が用いられた場合に、本願商標から原告ブラン ド名を想起できる程度に、黒い革靴に用いられた場合の本願商標は、認知度が高い ものと認めることができる。
しかしながら、本願商標が黄色やベージュのアウトソール及びウェルトとともに\n用いられた場合には、必ずしも視認性に優れるものではなく、需要者の目を引くと はいえない。また、前記(2)アのとおり、原告商品の多くは、アウトソール及びウェ\nルトが黒又は茶系統の色であって、黄色のステッチの視認性が高くなる態様で本願 商標が用いられており、黒又は茶系統の暗い色のウェルトとのコントラストにより、 本願商標が強く印象付けられることで、需要者の認知度を得ているものと推認され るところ、雑誌やブログ等の記事においても「黄色のステッチは、暗い色の革と魅 力的なコントラストを生む」(前記(2)オ(イ))、「ツヤのあるブラックレザーにマーチ ンの象徴、イエローステッチが引き立ちます。」(同(エ))などと地の色とのコントラ ストにより黄色のステッチが目を引くものであることを指摘するものがあることか らして、地の色を問うことなく、本願商標が需要者の認知度を得ていると認めるこ とはできない。更に、本件アンケート調査は、黒色の革靴(アウトソール及びウェ\nルトも黒である。)に本願商標を用いたものについて、側面から撮影した写真の下部 分(黄色のステッチ部分)を示して質問がされたものであるから、本願商標が黒以 外の色のアウトソール及びウェルトとともに用いられた場合についての認知度を示\nすものとはいえない。そして、現に、令和5年2月頃、黒以外の色のアウトソール\n及びウェルトとともに本願商標と同じ特徴を有する第三者の商品が市場に流通して いたことが認められるところ(別紙「被告の主張する取引の実情」の(タ)及び(ツ))これらの商品の流通については原告も模倣品としては扱わず、通知書を送付するな どもしていないことから、同種の商品が、本件審決以前にも流通していた可能性が\n十分にある。\nそうすると、少なくとも黒い革靴に用いる場合には、本願商標は相当程度の認知 度を得ているということができるとしても、それ以外の色の革靴及びブーツに用い られる場合の本願商標の認知度が高いと認めるに足りる証拠はないというほかない。 なお、前記1(4)のとおり、商標権の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定め られるものであるところ(商標法27条)、本願商標の願書の記載によると、下地が 黒色であることは本願商標の範囲に含まれるものではないから、アウトソール及び\nウェルトが黒色である場合の本願商標の認知度をもって、本願商標自体の認知度を 評価することは相当ではない。
(4) 原告の主張について
原告は、本願商標について、1)視認性が低い態様で用いられた場合には、商標法 上の「使用」に当たらず、2)黄色の破線状の図形が需要者に特に強く識別されない ような態様で使用する場合には商標法26条1項2号又は6号により商標権が及ば ないから、他事業者の自由使用が殊更に制限されることはなく、むしろ、3)本願商 標の周知性からすると本願商標と類似する標章を使用した商品を販売等する行為は 不正競争防止法2条1条1号の不正競争に該当するから、本願商標を登録すること は公正な競争秩序に資すると主張する。 しかしながら、前記(3)で説示したとおり、本願商標の範囲を、黄色の破線状の図 形が需要者に特に強く識別される態様、すなわち、黒色のアウトソール及びウェル\nトとともに用いられる場合に限定して解釈することはできないのであって、本願商 標が、黄色やベージュ色のアウトソール及びウェルトとともに用いられる場合もそ\nの商標権の範囲に含まれるというほかない。また、商標法は、商標を保護すること により商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、産業の発展に寄与し、あ わせて需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ(同法1条)、商 標の本質は自他識別機能にあるから、これを欠くような商標については登録が認め\nられず(同法3条1項)、自他識別機能を有していないにもかかわらず過誤等により\n登録された場合や、登録後に自他識別機能を失った場合には、その権利が制限され\nるものである(同法26条 1 項等)。本件では、商標登録出願の登録の可否が問題と なっているところ、登録商標の範囲は願書の記載により画されるものであるから(同 法27条)、登録後に、本願商標又はそれと類似する商標を使用したとしても、商標 法上の「使用」に当たらないと解したり、同法26条1項各号に該当することなど を理由として、商標権の権利範囲が制限され得ることをもって、登録時において商 標権の範囲を狭く解釈して登録の可否を検討するなどということは、商標の本質で ある自他識別機能の有無を問わずに登録を認めることにもなりかねず、相当ではな\nい。
また、本願商標の周知性については前記(3)のとおりであり、アウトソール及びウ\nェルトの色を問わず、本願商標について周知性が高いとまでいうことはできない。 不競法地裁判決は、原告商品の形状のうち、「靴の外周に沿って、アッパーとウェル トを縫合している糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出\nし、かつ、ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウェルト とのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認できるという原告 商品の形態」が、令和2年時点で不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」と\nして周知であると判断したものであって(甲113)、本願商標には含まれない特徴 である「黒色のウェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭 に視認できるという形態」を含めて商品等表示に当たるものとしている。そうする\nと、仮に上記形態について商品等表示性が認められたとしても、これをもって、本\n願商標について、使用により識別力を獲得したとして、商標法3条2項に該当する と認めることはできない。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10108  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年8月10日  知的財産高等裁判所

 出願人ディズニーの拒絶査定不服審判の審取です。審決維持です。争点は周知技術への置換の動機づけがあるかです。

(2) 本件周知技術の甲1発明への適用に係る動機付けについて
甲1の記載及び弁論の全趣旨によると、甲1発明は、HDRビデオにおけるトー ンマッピングの方法に関する発明であると認められる。これに対し、甲2ないし4 の記載及び弁論の全趣旨によると、本件周知技術も、HDRビデオにおけるトーン マッピングの方法に関する技術であると認められるから、甲1発明と本件周知技術 は、その属する技術分野を同一にするといえる。
また、甲1の記載及び弁論の全趣旨によると、甲1発明は、トーンマッピングさ れたビデオの各フレームの間の輝度の差を小さくし、受信画像をより自然なものに するため、トーンマッピング関数を徐々にしか変化させないものとするとの課題を 有すると認められる。これに対し、本件周知技術は、その内容に照らし、トーンマ ッピングするビデオの各フレームに適用されるトーンマッピング関数を徐々に変化 させるための技術であると認められるから、本件周知技術は、甲1発明の上記課題 を解決するための技術であるといえる。 加えて、甲3の記載によると、本件周知技術(甲3にいうトーンカーブ補正部1 42の第2の構成例に係るもの)は、甲1発明のようにあらかじめ用意されている\nルックアップテーブル(LUT)により時間的な変化が小さいトーンマッピング関 数を使用するとの構成(甲3にいうトーンカーブ補正部142の第1の構\成例に係 るもの)に代えて採用し得るものと認められる。 以上によると、本件周知技術を甲1発明に適用することについては、十分な動機\n付けがあるものと認められる。 そして、本件全証拠によっても、本件周知技術を甲1発明に適用することについ て、これを阻害する要因があるものと認めることはできないから、当業者は、甲1 発明に本件周知技術を適用することができたものと認めるのが相当である。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10118  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年8月10日  知的財産高等裁判所

 進歩無しとした審決が維持されました。原告は、技術分野が異なるので組み合わせ困難と主張しましたが、裁判所は「無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術に係るものであり、その属する技術分野を共通にする」と判断しました。

(1) 技術分野
ア 前記3(5)イにおいて説示したところは、甲4に記載された技術のみならず、 リモートコントローラ3(制御端末装置)が無線通信を利用して再生装置1等の制 御を行うことを内容とする引用発明(前記2)についても同様に当てはまるといえ るから、引用発明及び本件技術は、いずれも無線通信を利用して電子機器の制御を 行うとの技術に係るものであり、その属する技術分野を共通にするものと認めるの が相当である。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は、「甲1に記載された発明と甲4に記載された技術は、制御主体、 操作場所、制御対象機器及び制御内容を異にするものであるところ、甲1に記載さ れた発明及び甲4に記載された技術が共に無線通信を利用して電子機器の制御を行 うとの技術分野に属するとすることは、技術分野を極めて抽象的なレベルで捉える ものであって相当でないから、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記 載された技術が属する技術分野との間に関連性又は共通性はない」と主張する。 しかしながら、前記3(5)イにおいて説示したとおり、無線を利用して電子機器 の制御を行うとの技術においては、制御主体、操作場所、制御対象機器及び無効な ものとされる操作の内容が具体的に何であるかにつき特段の技術的意義はないとい うべきであるから、当該技術において、制御主体、操作場所、制御対象機器又は無 効なものとされる操作の内容が異なれば、当該技術が属する技術分野が異なること になるということはできない。 原告は、無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術において、制御主体、 操作場所、制御対象機器又は制御内容が異なれば、当該技術に係る当業者が異なる とも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない(かえって、前記3 (2)ないし(4)のとおりの乙1ないし3の記載(特に、前記(2)エ、前記(3)ア及びイ、 乙3の段落[0080]等)によると、無線通信を利用して電子機器の制御を行う との技術においては、制御主体又は制御対象機器が異なっても、当該技術に係る当 業者を異にしないことがうかがわれる。)。
(イ) 原告は、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記載された技術 が属する技術分野の関係を検討するに当たり、甲1及び4とは別の文献である乙1 ないし3の記載を参酌するのは相当でないと主張する。 しかしながら、ある発明ないし技術が属する技術分野が何であるかを認定するに 当たり、当該発明ないし技術の意義を検討するのは当然であるところ、当該意義に 係る証拠として、当該発明ないし技術が記載された文献以外の文献の記載を参酌す るのが相当でないということはできない。
(ウ) 原告は、特許庁における担当技術分野によると、スピーカとテレビは異な る技術分野に属すると主張するが、仮に、特許庁における担当技術分野が原告主張 のとおりであったとしても、そのことをもって、引用発明及び本件技術につき、無 線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術に係るものとして、その属する技 術分野を共通にするとの前記判断を左右するものではない。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10115 特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年8月10日  知的財産高等裁判所

 誤記訂正をしましたが「本件訂正による訂正後の記載として正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかであると認めることはできない」として、本件訂正が訂正要件を満たしていないと判断されました。

(ア) 本件訂正後の記載
前記第2の3のとおり、本件訂正後の記載は、「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれるもので軟化点を低くても70゜C)とする非アミドワックス成分(B)と、」というものである。
(イ) 本件訂正による訂正後の記載としての他の選択肢の存在
前記イ(イ)及び(ウ)のとおり、本件訂正前の記載に接した当業者は、本件訂正前の 構成にいう非アミドワックス成分(B)の中に「重量平均分子量をポリスチレン換\n算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70゜C)とする」との条件を 満たすポリオレフィンワックスが含まれるものと理解し、他方で、「重量平均分子 量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」との条件を満たすマイ クロクリスタリンワックス等が存在しないものと理解することにより、本件訂正前 の構成にいう非アミドワックス成分(B)の中にマイクロクリスタリンワックス等\nがおよそ含まれないものと理解し得るのであるから、仮に、当該当業者において、 本件訂正前の記載に誤りがあると理解するとしても、当該当業者にとっては、本件 訂正前の記載のうちポリオレフィンワックスに係る部分を全部削除した上、マイク ロクリスタリンワックス等に係る部分について重量平均分子量に係る条件(本件記 載)のみを削除するとの選択肢(本件訂正後の記載を採用するとの選択肢)のみな らず、本件訂正前の記載のうちマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部 削除した上、ポリオレフィンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満 たすもの)に係る部分のみを維持するとの選択肢(本件訂正による訂正後の記載を 「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を 低くても70゜C)とするポリオレフィンワックスからなる非アミドワックス成分(B) と、」などとする選択肢)も存在し得るものと理解すると認めるのが相当である。 そして、上記のとおり、当該当業者は、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス\n成分(B)の中に重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすポリオレフィンワ ックスは含まれるが、マイクロクリスタリンワックス等はおよそ含まれないものと 理解し得るのであるから、当該当業者において、非アミドワックス成分(B)に含 まれていた物質を維持し、およそ含まれていなかった物質を除外する趣旨の記載が 正しいと理解する蓋然性は、決して小さくないものと認めるのが相当である。
(ウ) 本件訂正後の記載が正しいことが当業者にとって明らかであるといえるか 否かについて
前記(イ)のとおり、本件訂正前の記載に接した当業者は、本件訂正前の記載から マイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィンワ ックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維 持する趣旨の記載が正しいとも理解することができるものであって、当該当業者に おいてこのような記載が正しいと理解する蓋然性は、決して小さくないのであるか ら、仮に、当該当業者において、本件訂正前の記載に誤りがあると理解するとして も、本件訂正後の記載については、当該当業者にとって、これが本件訂正による訂 正後の記載として正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の 記載、当業者の技術常識等から明らかであると認めることはできないというべきで ある。
エ 原告の主張について
(ア) 原告は、1)本件訂正により構成III)’(原告主張に係るもの。以下同じ。ま た、以下、構成I)’、II)’及びIV)’についても同じ。)が削除された結果、残った 構成I)’及びII)’に係る記載には誤記がある、2)本件訂正により構成III)’が削除さ れたのであるから、構成III)’に該当する物質が存在するとしても、そのことは、構\n成I)’及びII)’に係る記載に誤記が存在することと無関係である、3)本件決定は、 構成III)’が明確であることをもって構成I)’及びII)’も明確であるとすり替えるも のであるとして、構成I)’及びII)’に係る記載には誤記があると主張する。 確かに、構成I)’及びII)’をそれぞれ他の各構成と切り離し、これらをそれぞれ\n独立したものであるとみれば、前記イ(ウ)のとおり、マイクロクリスタリンワック ス等の分子量ないし重量平均分子量(ポリスチレン換算によるもの)がいずれも1 000未満であることは周知の技術的事項であるから、本件記載を含む構成I)’及 びII)’に係る記載のみに接した当業者は、本件記載が誤りであると理解するものと 認められる。しかしながら、前記イ(エ)のとおり、本件訂正前の構成にいう非アミ\nドワックス成分(B)に含まれ得る物質は、マイクロクリスタリンワックス、水素 添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの全部又は一部であると解される のであるから、構成III)’に該当する物質(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を 満たすポリオレフィンワックス)が存在する以上、本件訂正前の記載の全体をみれ ば、当業者にとって、これが誤りを含むことが明らかであると認めることはできな い。本件訂正前の構成を構\成I)’ないしIV)’に分け、これらの各構成に係る記載を\n一つずつ分析的に検討することを前提とする原告の上記主張は、本件訂正前の構成\nが非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質について「マイクロクリスタリン ワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので」 と規定し、当該物質がマイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリ オレフィンワックスのうちの一部であってもよいと解されること(これらの物質の 全てについて重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たす必要はないと解される こと)を看過するものであるし、また、本件訂正が構成I)’ないしIII)’についての 訂正(構成III)’の削除並びに構成I)’及びII)’に係る本件記載の削除)を同時に含 むものであるにもかかわらず、本件訂正によって構成III)’だけが論理的に先に削除 され、その結果、本件訂正前の構成に当初から構\成III)’が含まれていなかったかの ようにみなした上、構成I)’及びII)’のみをみて、これらに係る記載が誤記を含む か否かについて検討するものであるから、失当であるといわざるを得ない。 この点に関し、原告は、本件訂正前の構成が構\成I)’に該当する物質、構成II)’ に該当する物質及び構成III)’に該当する物質のいずれもが必ず存在することを規定 するものではないと解することは特許法36条5項前段に定める特許請求の範囲の 記載要件に反すると主張する。
特許法36条5項前段は、「第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、 各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認 める事項のすべてを記載しなければならない。」と規定するところ、上記のとおり、 本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質がマイクロ\nクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの一 部であってもよいと解されることに照らすと、本件訂正前の構成が非アミドワック\nス成分(B)に含まれ得る物質としてマイクロクリスタリンワックス、水素添加ひ まし油及びポリオレフィンワックスの三つを挙げているにもかかわらず、本件訂正 前の構成にいう重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすマイクロクリスタリ\nンワックス等が存在せず、その結果、本件訂正前の構成が当該条件を満たすポリオ\nレフィンワックスについてのみ規定していることになるとしても、本件訂正前の記 載につき、特許出願人(原告)が特許を受けようとする発明を特定するために必要 と認める事項の全てを記載していないということはできない。なお、仮に、本件訂 正前の記載が同条5項前段に規定する要件を満たしていないものであったとしても、 そのことをもって、本件訂正前の構成につき、これが重量平均分子量及び軟化点に\n係る条件を満たすマイクロクリスタリンワックス、当該条件を満たす水素添加ひま し油並びに当該条件を満たすポリオレフィンワックスの全てが必ず存在すると規定 するものではないとの上記解釈を妨げるものではない。
(イ) 原告は、本件訂正前の構成には非アミドワックス成分(B)に含まれる物\n質としてマイクロクリスタリンワックス等が明示され、また、マイクロクリスタリ ンワックス等は非アミドワックス成分(B)の構成成分として必須の事項であるか\nら、当業者において非アミドワックス成分(B)にマイクロクリスタリンワックス 等が含まれないと理解するはずがないと主張する。 しかしながら、前記イ(エ)のとおり、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス\n成分(B)に含まれ得る物質は、マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし 油及びポリオレフィンワックスのうちの全部又は一部であると解され、マイクロク リスタリンワックス等が非アミドワックス成分(B)の必須の構成成分であるとい\nうことはできないから、本件訂正前の構成において、マイクロクリスタリンワック\nス等が非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質として明示されているとして も、そのことをもって、本件訂正前の記載に接した当業者において、非アミドワッ クス成分(B)の中にマイクロクリスタリンワックス等がおよそ含まれないものと 理解し得るとの前記認定を左右するものではない。
(ウ) 原告は、当業者は本件記載が誤記であること及びマイクロクリスタリンワ ックス等につき誤記のない正しい物質(重量平均分子量による特定のないマイクロ クリスタリンワックス等)を認識することができ、また、本件訂正前の構成はこの\n世に存在しないものをあえて含むものであるから、当業者は構成I)’及びII)’に該 当する物質が存在しないとなると、そのことに論理的な矛盾や不自然さを必ず感じ ると主張する。 確かに、前記(ア)のとおり、構成I)’及びII)’をそれぞれ他の各構成と切り離し、\nこれらをそれぞれ独立したものであるとみれば、本件記載を含む構成I)’及びII)’ に係る記載のみに接した当業者は、本件記載に誤りがあると理解することになるし、 また、前記イ(ウ)のとおりの周知の技術的事項に照らすと、重量平均分子量に係る 特定がないマイクロクリスタリンワックス等が正しい記載であると理解し得るもの である(もっとも、当該当業者において、分子量ないし重量平均分子量(ポリスチ レン換算によるもの)につき、これを「1,000未満とする」などと特定された マイクロクリスタリンワックス等が正しい記載であると理解する可能性もある。)。\nしかしながら、構成I)’及びII)’に係る記載を一つずつ分析的に検討することを前 提とする原告の主張が失当であることは、前記(ア)のとおりであるから、本件記載 を含む構成I)’及びII)’に係る記載のみに接した当業者において、本件記載が誤り であると理解するとしても、そのことをもって、本件訂正前の記載に接した当業者 において、本件訂正前の記載に誤りがあると理解するものと認めることはできない。 また、仮に、当該当業者において、本件訂正前の記載に誤りがあると理解するとし ても、前記ウ(イ)のとおり、当該当業者は、当該誤りを訂正する正しい記載として、 本件訂正後の記載を採用するとの選択肢のみならず、本件訂正前の記載のうちマイ クロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィンワック ス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維持す るとの選択肢も存在し得るものと理解し、当該当業者において後者の選択肢に係る 記載が正しいと理解する蓋然性は、決して小さくないのであるから、当該当業者に おいて、ポリオレフィンワックスに係る記載及びマイクロクリスタリンワックス等 に係る本件記載を削除した記載(本件訂正後の記載)のみが正しいものと理解する と認めることはできない。さらに、前記イ(エ)のとおり、本件訂正前の構成にいう\n非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質は、マイクロクリスタリンワックス、 水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの全部又は一部であると解さ れるのであるから、本件訂正前の構成が非アミドワックス成分(B)に含まれ得る\n物質として重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすマイクロクリスタリンワ ックス等(原告が主張する「この世に存在しないもの」)を挙げているとしても、 そのことは、上記解釈に反するものではない。以上のとおりであるから、構成I)’ 及びII)’に該当する物質が存在しないことについて、当業者が必ず論理的な矛盾や 不自然さを感じるとの原告の上記主張を採用することはできない。
(エ) 原告は、マイクロクリスタリンワックス等は分子量が特定された物質であ り、誤記(本件記載)を削除した後のマイクロクリスタリンワックス等は正規の意 味のマイクロクリスタリンワックス等を表示するものであると客観的に認められる\nから、当業者(特に本件記載は誤りではないかとの疑念を抱いた当業者)において、 本件記載を含む本件訂正前の記載を本件訂正後の記載の趣旨(本件記載がないもの) に理解するのは当然であると主張する。 しかしながら、仮に、本件訂正前の記載に接した当業者において、本件記載は誤 りではないかとの疑念を抱いたとしても、前記イ(エ)のとおり、本件訂正前の構成\nにいう非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質は、マイクロクリスタリンワ ックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの一部であってもよ いと解され、また、前記イ(イ)のとおり、当該当業者において、非アミドワックス 成分(B)の中に重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすポリオレフィンワ ックスが含まれるものと理解する以上、本件訂正前の記載の全体をみれば、当該当 業者において、本件訂正前の記載が誤りを含むものと理解すると認めることはでき ないから、当該当業者が本件記載は誤りではないかとの疑念を抱いたことをもって、 当該当業者が本件訂正前の記載の全体についても、これが誤りを含むのではないか との疑念を抱いたと認めることはできない。さらに、仮に、当該当業者において、 本件訂正前の記載が誤りを含むのではないかとの疑念を抱いたとしても、前記ウ (イ)のとおり、当該当業者は、当該誤りを訂正する正しい記載として、本件訂正後 の記載を採用するとの選択肢のみならず、本件訂正前の記載のうちマイクロクリス タリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィンワックス(重量平 均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維持するとの選択 肢も存在し得るものと理解し、当該当業者において後者の選択肢に係る記載が正し いと理解する蓋然性は、決して小さくないのであるから、当該当業者において、ポ リオレフィンワックスに係る記載及びマイクロクリスタリンワックス等に係る本件 記載を削除した記載(本件訂正後の記載)のみが正しいものと理解すると認めるこ とはできない。以上のとおりであるから、原告の上記主張を採用することはできな い。
この点に関し、原告は、構成I)’ないしIII)’が択一的な関係に立つものであるこ と及びマイクロクリスタリンワックス等の分子量がいずれも1000未満であると の技術常識が存在することに照らすと、本件記載を削除するとの訂正をする必要が あることは当業者にとって直ちに明らかであり、また、構成III)’ではなく構成I)’ 及びII)’を削除するとの選択肢が存在することは構成I)’及びII)’に係る本件記載 が誤りであることと無関係であるから、本件訂正後の記載が訂正後の正しい記載で あることは直ちに明らかであると主張する。 しかしながら、構成I)’ないしIII)’が択一的な関係に立つとの原告の主張(これ は、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質はマイ\nクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうち の全部又は一部であるとの前記イ(エ)の解釈を否定するものでないと解される。) 及び原告が指摘する技術常識を考慮しても、前記ウ(イ)のとおりの認定(本件訂正 前の記載に接した当業者において、本件訂正後の記載を採用するとの選択肢のみな らず、これと異なる選択肢(マイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削 除した上、ポリオレフィンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満た すもの)に係る部分のみを維持するとの選択肢)も存在し得るものと理解し、当該 当業者において後者の選択肢に係る記載が正しいと理解する蓋然性は、決して小さ くないとの認定)を左右するものではない。そして、当該当業者において、本件訂 正後の記載を採用するとの選択肢と異なる選択肢が存在し得るものと理解する蓋然 性が小さくないのであれば、本件訂正後の記載については、当業者にとって、これ が本件訂正による訂正後の記載として正しいことが願書に添付した明細書、特許請 求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかであるということはでき ない。
また、原告は、本件訂正前の記載に接した当業者において、本件訂正前の記載の うちマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィ ンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみ を維持するとの選択肢が存在するものと理解し得るとの被告の主張は本件決定にお いて触れられていない理由に係るものであり、当該主張を本件訴訟において提出す ることは適切でないと主張する。 しかしながら、前記第2の4(1)ア(イ)bのとおり、本件決定は、本件訂正前の記 載から、構成I)’及びII)’を削除するとの訂正(本件訂正の後の記載を「重量平均 分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても7 0゜C)とするポリオレフィンワックスからなる非アミドワックス成分(B)と、」と するもの)が選択肢として存在すると認めた上、これを理由に、当業者にとって、 本件訂正後の記載が訂正後の正しい記載として直ちに明らかであるとまではいえな いと説示しているのであるから、原告の上記主張は、前提を誤るものとして失当で ある。
さらに、原告は、本件訂正後の記載を採用するとの選択肢と異なる選択肢の内容 に関し、要するに、マイクロクリスタリンワックス等は本件訂正前の構成において\nも明示されていたのであり、誤りは本件記載にのみ存在するのであるから、削除さ れるべきであるのは本件記載のみであり、本件訂正前の記載のうちマイクロクリス タリンワックス等に係る部分を全部削除するとの選択肢に係る記載は訂正後の記載 として相当でないと主張する。 しかしながら、仮に、本件訂正前の記載に接した当業者において、本件訂正前の 記載のうちマイクロクリスタリンワックス等について「重量平均分子量をポリスチ レン換算で1,000〜100,000とし」との特定をする部分が誤りであり、 これにより、本件訂正前の記載に誤りがあると理解するとしても、本件訂正前の記 載からマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除し、ポリオレフィン ワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを 維持するとの訂正によっても、上記の誤りを解消することができるのであるから、 本件訂正前の記載のうちマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除す るなどする選択肢に係る記載が訂正後の記載として相当でないということはできな い。
オ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正前の記載が誤りで本件訂正後の記載が正しい ことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識 等から明らかで、本件訂正前の記載に接した当業者であれば、そのことに気付いて 本件訂正前の記載を本件訂正後の記載の趣旨に理解するのが当然であるということ はできない。 よって、本件訂正前の記載から本件記載を削除する本件訂正が特許法120条の 5第2項ただし書2号に掲げる「誤記…の訂正」を目的とするものに該当するとい うことはできない。 なお、原告は、本件記載は手続補正において原告の過誤により追加されたもので あるから、本件記載を削除する本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書2号 に掲げる「誤記…の訂正」を目的とするものであると主張するが、仮に、原告が主 張するような事情が存在するとしても、少なくとも本件においては、そのような事 情が存在することをもって、本件記載を削除する本件訂正が同項ただし書2号に掲 げる「誤記…の訂正」を目的とするものであると認めるには不十分である。\n
(2) 本件訂正前の記載から本件記載を削除する本件訂正が特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項(「誤記…の訂正」を除く。)のいずれかを目的 とするものに該当するか否かについて
原告は、本件記載は手続補正において原告の過誤により追加されたものであるか ら、本件記載を削除する本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げ る事項(「誤記…の訂正」を除く。)のいずれかを目的とするものであると主張す るが、前記(1)オのとおり、少なくとも本件においては、原告が主張するような事 情が存在することをもって、本件記載を削除する本件訂正が同項ただし書各号に掲 げる事項(「誤記…の訂正」を除く。)のいずれかを目的とするものであると認め ることはできない。 その他、本件訂正前の記載から本件記載を削除する本件訂正が特許法120条の 5第2項ただし書各号に掲げる事項(「誤記…の訂正」を除く。)のいずれかを目 的とするものに該当するとの主張立証はない。

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令和3(ワ)4658  損害賠償等請求事件  その他  民事訴訟 令和5年7月10日  大阪地方裁判所

キリンソウに関する育成者権(第15866号、名称:トットリフジタ1号)に基づき、約400万円の損害賠償が認められました。

(1) 独占的通常利用権者が不当利得返還請求できるかについて 原告会社は、本件育成者権の独占的通常利用権者であり、専用利用権者では ないものの、本件育成者権を独占的に利用して利益を上げることができる点に おいて専用利用権者と実質的に異なることはないから、当該利益の得喪につい ては民法703条の「利益」及び「損失」に該当する場合があると解するのが 相当である。とりわけ、本件育成者権については、再通常利用権(サブライセ ンス)の設定をすることができる(原告P1と原告会社間の設定契約において は、この点は明示されていない(甲2)が、原告らがこのように主張する以上、 別異に解する理由はない。)とされていることにも照らすと、原告会社のかか る利用権設定機会の喪失に対応する被告らの利得を観念し得る。排他的独占権 を持つ育成者権者ではなく、独占的通常利用権者であることのみをもって不当 利得返還請求が否定される理由はなく、これと異なる被告らの見解は、採用す ることができない。
もっとも、独占的通常利用権者から利用権の設定を受けた者(サブライセン シー)は、重ねて育成者権者から利用権の設定を受けることはないし、再通常 利用権の設定によって再通常利用権者が通常利用権者に支払う利用料は、通常 利用権者が育成者権者に支払うべき利用料を含んでいるのが通常であると考 えられるから、本件において原告らがそれぞれ不当利得返還請求をしているの は、結局のところ被告らが返還すべき総体としての被告らの利用料相当の利得 の原告間における分配の問題に帰着するものというべきであり、本件育成権者 である原告P1と原告会社の各不当利得返還請求権がいずれも成立するよう な場合の各請求の関係は、いわゆる「不真正連帯債権」の関係に立つものと解 される。
(2) 相当利用料率等について
本件において、本件品種の利用料率について、原告P1が5パーセントの利 用料率を主張し、原告会社がこれを超える25パーセントの利用料率を主張し ていること、原告P1が本件育成者権の権利者となっているのは、育成者であ ったP4のある種の情誼によるもの(乙20)であって、本件育成者権の対象 品種を利用しているのは専ら原告会社であり、仮に被告らが利用権の設定を受 けるとすればその相手方は原告会社となると想定されることから、原告会社が 利用許諾するとすれば想定される料率を乗じる対象及び相当利用料率を検討 する。
ア 被告製品の概要(ただし、被告種苗1が使用されたもの) 被告製品1は、50センチメートル四方のトレイにメキシコマンネングサ を4株、被告種苗1を5株植えたものであり、このトレイを建物の屋上等に 必要数を並べて配置することにより、屋上緑化の用に供されるものであり、 被告製品2は、同じトレイに被告種苗1を5株又は9株植えたものである (甲3、7、乙67)。 被告が扱う製品には、同じトレイにメキシコマンネングサのみを植えた 「てまいらず」というものもあるが、メキシコマンネングサは、冬には枯れ るのに対し、本件品種に係る種苗は常緑性である(甲1、8、乙67)。
イ 一般に、知的財産権の利用許諾において、利用料率の算定方法につき、基 準の明確性や利用権者の開示する情報の性質等から、製品の販売金額を基礎 に、所定の料率を乗じる方法が取られることが相応に存することは公知の事 実に属し、上記被告製品の性質や、本件品種に係る種苗の用いられ方等を勘 案すると、本件においてもこのような方法によって利用料率を算定すること が相当である。これと異なる被告らの主張は、採用しない。
なお、被告製品の設置には工事が必要であり、そのための外注費は被告製 品の販売金額そのものではないと解されるから、売上から同費用を除いた部 分を販売金額と把握すべきである。他方、販売金額に設置に要する物品等が 含まれる(乙67)としても、それらは被告製品を構成するものであるから、\n販売金額から控除することはしない。もっとも、利用料率の設定においてか かる事情を考慮することはできると解する。 これによると、1株当たりの被告製品の販売金額は、外注費込みの1株当 たり販売金額である862円(甲7。なお、前記のとおり、「みずいらずスー パー」(被告製品2)には、被告種苗1を5株又は9株使用されているが、甲 7においては、一律に5株として計算されており、その意味で控えめな算定 となっている。)に外注工事費を除く割合58.6パーセント(乙69)を乗 じた505円と認められる。
ウ 製品の販売金額を基礎とする相当な利用料率については、本件品種に係る 種苗の特性、販売金額を料率算定の基礎としたこと、前記アのとおりの被告 製品における本件品種に係る種苗の用いられ方(前記イのとおり、設置には 別途物品が必要である。)、種苗の育成等を含む生産工程に要する費用、自然 環境の影響による生育不良等の危険等も勘案すると、利用料率については、 これを3パーセントと推認するのが相当である。なお、原告会社はこれを2 5パーセントと主張するが、そのような取引が成立する蓋然性について的確 な立証はなく、これを採用することはできない。また、仮に原告P1が利用 権を設定するとしても、原告会社が設定するとすれば想定される上記料率を 超えることはないと考えられるから、これも採用の限りでない。もっとも、 不当利得返還請求と異なり、原告P1が種苗法34条3項の適用を求める不 法行為に基づく損害賠償請求においては、利用に対し受けるべき金銭を算定 するに当たり用いるべき利用料相当額は、令和元年法律第3号による特許法 の改正の趣旨を参酌し、これを5パーセントとするのが相当である。
(3) 原告らの具体的な損害・損失額
ア 原告P1の損害賠償請求(主位的請求)
前訴対象行為である1812株に、単価505円と相当利用料率5パーセ ントを乗じた4万5753円及びこれに弁護士費用4575円を加えた5 万0328円を、種苗法34条3項により推定される損害と認め、被告らは、 連帯してこれを賠償する義務を負う(なお、前訴対象行為に関し、被告P3 も共同不法行為者として責任を負うことについては、甲3、4、乙1及び弁 論の全趣旨によりこれを認める。)。
イ 原告らの不当利得返還請求(予備的請求)\n
前記2(2)の26万3368株からアの1812株を除いた26万155 6株に、単価505円と相当利用料率3パーセントを乗じた396万257 3円を利得と認め、これを上限として、被告会社が不真正連帯債権として原 告らの請求に応じて支払うべきものと判断する。 他方、侵害行為は被告会社として行われ、その利得も被告会社に帰属して いるのであって、代表者である被告P2に利得が帰属するとの事情は認めら\nれないから、被告P2に対する請求は理由がない。また、本件において、被 告P3は被告会社の下請けとして関与したものであるところ、原告らは、被 告会社の出荷行為に基づく利得のみを主張し、被告P3に固有の利得や、そ れと被告会社の利得との関係は何ら主張していないから、被告P3に対する 請求も理由がない。
ウ なお、本件において、原告P1は5パーセントの、原告会社は25パーセ ントの利用料率に基づく不当利得返還請求するものであるが、前記のとおり、 本件において、相当な利用料率は相対的に低廉な料率を主張する原告P1の 主張を下回るものであるから、認容されるべき返還請求権の全額について不 真正連帯債権関係に立つものと解される。

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令和5(行ケ)10008  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年6月12日  知的財産高等裁判所

意匠の審取事件です。無効審判で理由無しと判断されましたが、審決取消訴訟にて無効と判断されています。

◆本件意匠はこれです。

無効審決には先行意匠図面は省略されています。
興味深いのは、本件意匠は、特許からの出願変更ということです。意匠にかかる物品は「瓦」ですが、特許出願時は斜視図しかありませんが、意匠出願時は6面図を提出し、遡及効が認められています。

(ア) 基本的構成態様\n
A 正面視において、左端部に壁が設けられ右側に連続する女瓦の凹み部 から他方部に向けて上がり勾配に連続して形成された半円筒形の男瓦を 一体化し、底面図において略S字型を270度回転させた瓦形状として いる。
B 男瓦の上側隅角部には、他の瓦を直上に重ねて瓦葺きし面一状に重ね 合わせられるよう、径を縮小した段差(縮径段差部)が形成されている。
C 女瓦の中央部近傍に左右に横切る段差が設けられている。
D Cの段差は、瓦上辺から下辺の間におよそ6対4の割合の位置で形成 されている。
(イ)具体的構成態様\n
a 男瓦の両側部と上部に、コ字状のラインを270度回転して下方開口 とした縦長の模様が形成されている。
b 男瓦に形成されたコ字状のラインの模様において、コ字状のラインの 内側線が、男瓦の外側線と略平行に形成されている。また、左右と上側の ラインの幅は、男瓦の横幅の約6分の1である。
c コ字状のラインの模様の部分が男瓦表面の他の部分と面一である。\n
d 右上端に位置する一段低く形成された円弧部分の表面は平坦に形成さ\nれている。また、円弧部分の右側端はやや左側に傾斜し、男瓦の右側端は やや右側に傾斜している。
e 女瓦の上端に略小矩形状の凹部が五つ形成されている。
f 女瓦の左下端が直角に形成されている。
g 裏面に上側端と、下側端と、中央部に三つの凸部が横方向に形成され ているか否かは本件パンレット及び本件写真からは不明である。
h 右側面から見ると、男瓦の外側線のほぼ中間位置に、クランク状の段 差が形成されている。
i 女瓦の左端部の壁には、瓦のほぼ中央に斜めの段差が現わされている。
エ 本件意匠と本件模様瓦の基本的構成態様は一致しており、具体的構\成態様 のうちのc、dのうちの一部、e、g及びiを除く、「男瓦の両側部と上部 に、コ字状のラインを270度回転して下方開口とした縦長の模様が形成さ れている。」(a)、「男瓦に形成されたコ字状のラインの模様において、 コ字状のラインの内側線が、男瓦の外側線と略平行に形成されている。また、 左右と上側のラインの幅は、男瓦の横幅の約6分の1である。」(b)、「右 上端に位置する一段低く形成された円弧部分の表面は平坦に形成されてい\nる。」(d)、「女瓦の左下端が直角に形成されている。」(f)、「右側面 から見ると、男瓦の外側線のほぼ中間位置に、クランク状の段差が形成され ている。」(h)との部分においても、一致している。
そして、具体的構成態様dのうちの一部である、右上端に位置する一段低\nく形成された円弧部分のうち、「右側端は、男瓦の右側端と略平行に形成さ れている。」(本件意匠の具体的構成態様d)か、「右側端はやや左側に傾\n斜し、男瓦の右側端はやや右側に傾斜している。」(本件模様瓦の具体的構\n成態様d)との点、具体的構成態様eの「女瓦の上端に波線状の凸部が一本\n形成されている。」(本件意匠の具体的構成態様e)か、「女瓦の上端に略\n小矩形状の凹部が五つ形成されている。」(本件模様瓦の具体的構成態様e)\nとの点、及び、「裏面に上側端と、下側端と、中央部に三つの凸部が横方向 に形成されている。」(本件意匠の具体的構成態様g)か、「裏面に上側端\nと、下側端と、中央部に三つの凸部が横方向に形成されているか否かは本件 パンレット及び本件写真からは不明である。」(本件模様瓦の具体的構成態\n様g)との点は、いずれも、瓦の施工後は完全に隠れてしまう部分である(甲 5)ことに加え、瓦全体からすると小さくその差異も直ちには認識し難いこ と(各具体的構成態様d及びe)、本件意匠公報の【A−A断面図】に示さ\nれた平置き時の状況と本件写真に示された本件模様瓦の平置き時の状況に変 わりがなく、裏面の凸部自体が瓦の美観に影響を与えるものとも認め難いこ と(具体的構成態様g)から、需要者に異なる印象をもたらすものとは認め\nられない。
また、具体的構成態様iのうち、「左側面から見ると、女瓦の左端部の壁\nは、瓦のほぼ中央に斜めクランク状に現わされている。」(本件意匠の具体 的構成態様i)か、「女瓦の左端部の壁には、瓦のほぼ中央に斜めの段差が\n現わされている。」(本件模様瓦の具体的構成態様i)との点についても、\n左側面から見た女瓦の左端部の壁は、瓦の施工後は隠れてしまう部分である (甲5)うえに、正面から見た場合に、女瓦のほぼ中央に斜めの段差が現わ されていることから、本件意匠と本件模様瓦とで異なる点はなく、需要者に 異なる印象をもたらすものとは認められないというべきである。 その上で、本件意匠と本件模様瓦の意匠とで最も異なるのは、具体的構成\nのcに係る部分であり、本件意匠では、「コ字状のラインの模様の部分が男 瓦表面の他の部分から僅かに段差状に隆起している。」とされているのに対\nし、本件模様瓦の意匠では、「コ字状のラインの模様の部分が男瓦表面の他\nの部分と面一である。」とされているところである。
オ 本件意匠の具体的構成態様のうち、「男瓦の両側部と上部に、コ字状のラ\nインを270度回転して下方開口とした縦長の模様が形成されている」(具 体的構成態様a)、「男瓦に形成されたコ字状のラインの模様において、コ\n字状のラインの内側線が、男瓦の外側線と略平行に形成されている。また、 左右と上側のラインの幅は、男瓦の横幅の約6分の1である」(同b)との 部分は、いずれも男瓦の全面にわたる模様であり、施工後は特に施主を中心 とした需要者にとり最も目に付くものであり、下方開口構成に係るこうした\n瓦は知られていない。 本件意匠のその余の具体的構成のうち、「右上端に位置する一段低く形成\nされた円弧部分の表面は平坦に形成されている。また、円弧部分の右側端は、\n男瓦の右側端と略平行に形成されている。」(具体的構成d)、「女瓦の上\n端に波線状の凸部が一本形成されている。」(同e)、「女瓦の左下端が直 角に形成されている。」(同f)、「裏面に上側端と、下側端と、中央部に 三つの凸部が横方向に形成されている。」(同g)との部分は、前記エのと おり、いずれも、施工後には完全に見えなくなる部分であることに加え、瓦 全体に比して小さいか、美観に影響を与えるものとは認め難い部分であり、 需要者が特に注目する部分とはいえない。
カ そうすると、本件意匠と本件模様瓦の意匠とで最も異なる具体的構成のc\nに係る、コ字状のラインの模様の部分が男瓦表面の他の部分から僅かに段差\n状に隆起している(本件意匠)との部分については、瓦全体からみると隆起 による差異はごくわずかであり、特に瓦屋根の施工後においては、その隆起 の程度も屋根全体からみて相対的に小さいことから、コ字状のラインの模様 には需要者の注意がいくものの、その隆起の程度にまでは注意がいくものと は認め難い。
そうすると、前記需要者の観点からみた場合、本件意匠と本件模様瓦の意 匠は類似するというべきである。 そして、前記1 で認定した事実によれば、本件模様瓦(試作品B)は、平 成28年11月頃に、被告小林瓦が原告事務所に持ち込んで提供した後、同事 務所に保管され、平成29年2月16日に原告事務所に本件パンフレット及び 本件写真が送付されたところ、本件写真及び本件パンフレットには、本件模様 瓦の意匠が開発中のものであることや開発者に対する内部的なものであること の記載はなく、また、「秘」、「部外秘」、「非公開資料」などの記載がないば かりか、本件写真や本件パンフレットを添付した電子メールにおいても、その 本文などに、添付された本件写真や本件パンフレットの電子データが営業秘密 であるとか内部的なものであるなどの記載もなく、原告事務所及びその従業員 について、被告らとの間で、本件模様瓦の意匠に関し守秘義務を結んでいるな どの事実は認められないから、遅くとも、同日には原告事務所の従業員らに対 して知られるところとなり、公然知られたものと認められる。 そうすると、本件意匠は、本件意匠の出願前に公然知られた意匠と類似する から、意匠法3条1項3号に該当し、意匠登録を受けることができないもので あり、同法48条1項1号により無効とされるべきものである。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10035 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年7月19日  知的財産高等裁判所

 ニュースで取り上げられた「GUZZILLA」vs「GODZILLA」の商標登録無効事件について判決文がアップされました。  本件は、下記のうち、新規出願をして登録となった商標(6143667号)の無効審判(無効2019−890064)に関する審決取消訴訟事件です。詳細はnoteにて記載しているので参照してください。

◆令4(行ケ)10035号(GUZZILLA)事件まとめ


以上によれば、引用商標は周知著名であって、「ゴジラ」を欧文字表記したにとどまらない点を含め、その独創性の程度も高いというべきであ\nる。
(4) 商品の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性
ア 商品の関連性の程度
本件商標の指定商品は、第7類「パワーショベル用の破砕機・切断機・ 掴み機・穿孔機等のアタッチメント」であり、土木機械の一種である動力 ショベル用の附属装置(アッタッチメント)であって、示された破砕、切 断、掴み、穿孔等の土木作業の用途によって交換される動力ショベル専 用の装置であり、土木に関する専門的・職業的な分野において使用され る機械器具である。
これに対し、被告の主な業務は、映画の制作・配給、演劇の制作・興行、 不動産経営等のほか、キャラクター商品等の企画・制作・販売・賃貸、著 作権・商品化権・商標権その他の知的財産権の取得・使用・利用許諾その 他の管理であり(甲159)、多角化している。被告は、百社近くの企業 に対し、引用商標の使用を許諾しているところ、その対象商品は、人形や ぬいぐるみなどの玩具、文房具、衣料品、食料品、雑貨、遊戯具等、多岐 にわたるほか、宣伝広告等にも使用を許諾している(甲12、83、85 〜102、169〜181(枝番を含む。))。 また、被告は、平成17年以降、複数の大手ゼネコンから、工事現場や 工事中の壁面に引用商標を含むゴジラの表示やロゴ等を使用することにつき許諾を求められたり、あるいは実際にその許諾をするなど、本件商\n標の指定商品である作業現場で使用される動力ショベルのアタッチメン トと同じか、あるいはこれに近い分野である、産廃業、解体業及び建築業 等について引用商標の使用許諾を行うなどしてきた(甲195〜212、 乙1、2、6〜17(枝番を含む。))。 その中には、住宅やビルの解体を手掛ける業者において、「ゴジラvs コング(GODZILLA vs KONG)」として、「GODZIL LA」を「破壊神」としてタイアップCMを放送したり、クレーン車が建 築物を運搬する場面が映画「ゴジラvsコング(GODZILLA v s KONG)」の映像とともにCMとして放送するなどの企画もあった(乙6〜9、12、13)。
被告が引用商標の使用を許諾した商品等のうち、玩具、文房具、衣料 品、食料品、雑貨等については、日常生活で、一般消費者によって使用さ れる物であるから、性質、用途及び目的における関連性の程度は高くは ないものの、被告は、産廃業、解体業及び建築業等の業種にも引用商標の 使用を許諾するなどしているところ、これらは、本件商標の指定商品の 取引者・需要者と同じかこれと近い分野ないし業態であり、本件商標の 指定商品と共通する取引者・需要者も一定数存するものというべきであ る。 よって、本件商標の指定商品は、被告の業務に係る商品等と比較した場 合、性質、用途又は目的において一定の関連性を有するものが含まれて いるというべきである。
イ 取引者及び需要者の共通性
本件商標の指定商品は、第7類「パワーショベル用の破砕機・切断機・ 掴み機・穿孔機等のアタッチメント」であり、土木機械の一種である動力 ショベル用の附属装置(アタッチメント)であって、示された破砕、切 断、掴み、穿孔等の土木作業の用途によって交換される動力ショベル専 用の装置であり、土木に関する専門的・職業的な分野において使用され る機械器具である。なお、土木に関する機械器具においても、レンタルが 行われているものであるから(乙33、34、41〜49)、その取引者 は、これらの器具の製造販売や小売り、レンタル等を行う者である。 また、被告が引用商標の使用を許諾した玩具、雑貨、遊戯具等について は、その需要者は一般消費者であり、その取引者は、これらの商品の製造 販売や小売り等を行う者であるが、被告が引用商標の使用を許諾した産 廃業、解体業及び建築業等については、本件商標の指定商品の取引者・需 要者と同じかこれと近い分野ないし業態であり、本件商標の指定商品の 取引者及び需要者の中には、被告から使用許諾を受けて事業を営む者の 業務に係る商品等の取引者及び需要者と共通する者が含まれる。そして、 商品の性質、用途又は目的を考慮しても、これら共通する取引者及び需 要者は、商品の性能や品質のみを重視するとまでいうことはできず、使用許諾関係も含む商品等に付された商標に表\れる業務上の信用をも考慮して取引を行うというべきである。
(5) 出所混同のおそれ
以上のとおり、「混同を生ずるおそれ」の有無を判断するに当たっての 各事情について、取引の実情などに照らして考慮すれば、本件商標の指定 商品に含まれる専門的・職業的な分野において使用される機械器具と、被 告の業務にかかる商品等との関連性の程度が非常に高いとはいえない。 しかし、本件商標と引用商標とは、称呼において相紛らわしいものであ って、外観においても相紛らわしい点を含むものであることから、その類 似性の程度は高く、引用商標は周知著名であって、その独創性の程度も高 い。さらに、被告の業務は多角化しており、本件商標の指定商品に含まれ る商品の中には、被告の使用許諾に係る商品及び業務等と比較した場合、 性質、用途又は目的において一定の関連性を有するものが含まれる。加え て、これらの商品の取引者及び需要者と、被告の業務に係る商品の取引者 及び需要者とは共通し、これらの取引者及び需要者は、取引の際に、商品 の性能や品質のみではなく、商品等に付された商標に表\れる業務上の信用 をも考慮して取引を行うものということができる。 そうすると、本件商標の指定商品についても、本件商標を使用したとき に、当該商品が被告又は被告との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊 密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあ\nるものが含まれるというべきである。 よって、本件商標は、法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」 のある商標として、法46条1項の規定により無効とされるべきである。
(6) 原告の主張に対する補足的判断
ア 取消事由1(引用商標が周知著名な商標に当たるとした認定及びこれ に基づく判断の誤り)について
原告は、本件商標の指定商品は「第7類 パワーショベル用の破砕機・ 切断機・掴み機・穿孔機等のアタッチメント」であるから、その取引者及 び需要者は、土木機械の一種である動力ショベル用の附属装置(アタッ チメント)を使用する土木関連分野の業務に従事する専門業者及び当該 機械器具の製造販売やリースを行う者であり、特殊特定分野の業務に従 事する専門業者であるところ、被告及びそのライセンシーは、引用商標 を使用して本件商標の指定商品である「第7類 パワーショベル用の破 砕機・切断機・掴み機・穿孔機等のアタッチメント」を製造販売しておら ず、引用商標が日本国内の広範囲にわたって本件商標の指定商品を使用 する土木関連分野の業務に従事する専門業者及び当該機械器具の製造販 売やリースを行う者の間に知られるようになったということはできない から、本件審決の判断は誤りである旨を主張する。 しかし、引用商標の周知著名性についての認定及び判断は前記(3)のと おりであり、これが本件商標の指定商品の取引者及び需要者について変 わるところがあるものとは認められず、引用商標は周知著名であるとい うことができる。

◆判決本文

関連事件です。
別訴

◆令和1(行ケ)10167

不競法の侵害訴訟事件 1審

◆令和1(ワ)26105
控訴審

◆令和4(ネ)10063

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令和2(ワ)4272等  商標権侵害差止等請求事件、不正競争行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和4年12月5日  大阪地方裁判所

 漏れていたのでアップします。大阪地裁26部は、5年の除斥期間経過後は、11号違反については特段の理由が無い限り、無効の抗弁ができないとして、一部請求1000万円を認めました。

しかも、証拠(甲4、35〜44)によれば、被告は、平成27年頃か ら、被告が独自に海外工場に製造させて輸入販売する「LEADER BIKE」が旧 リーダー社製であるかのように装うばかりでなく、「正規代理店」を称して 旧リーダー社との本件販売店契約が存続しているかのように装っていたこと が認められ、原告が製造した旧リーダー社の正規品と酷似した類似商品を旧 リーダー社や原告ないし新リーダー社の許諾なく製造し無断で被告標章を付 して販売し続けた結果、そのような情を知らない需要者において被告標章が 旧リーダー社の商品を表示するものと認識され続けているにすぎないから、到底、被告が本件商標を含む「LEADER」ブランドに関する権利が正当に帰属 すべき者であるとはいえない。
(2) また、被告は、原告が旧リーダー社の破産に乗じて本件商標権を獲得し たことを奇貨として、被告を排除して被告が確立した日本国内の「LEADER」 ブランドを独占的に使用し類似商品を販売することによって利益を得ようと する不当な目的で本件商標権を行使していると主張する。 しかしながら、前記前提事実のとおり、原告は、旧リーダー社の商品の製 造元であったのであり、本件商標権や旧リーダー社の商品のブランド力を利 用して自己の製造する商品の販売を継続するために、旧リーダー社等の破産 手続において管財人を通じて米国の裁判所の許可を受けて本件商標権等を取 得することは、何ら不当であるとはいえない。また、前記(1)のとおり、被 告は、原告が本件商標権を取得する以前から、旧リーダー社の商品ではな く、旧リーダー社に無断で被告標章を付した類似商品を販売し続けており、 証拠(甲25)によれば、原告が本件商標権の移転登録を受けた後も、第2 事件被告の取引先に対し、被告が「LEADER BIKES」製品の輸入総代理店であ ると称して通知書を送付しており、需要者をして被告の販売する被告標章を 付した商品が商標権者の許諾を受けた商品であるかのように誤認させる行動 をしているとの状況のもとでは、原告が被告に対し、本件商標権を行使する ことは、むしろ商標法の趣旨に即した正当な目的に基づくものといえる。
(3) 以上によれば、原告の被告に対する本件商標権の行使が、権利が正当に 帰属すべき者に対する不当な目的による権利行使として権利濫用に当たると はいえない。
  ・・・
商標法47条1項は、商標登録が同法4条1項11号の規定に違反してさ れたときは、商標権の設定登録の日から5年の除斥期間を経過した後はその 商標登録についての無効審判を請求することができない旨を定めており、そ の趣旨は、同号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものである が、商標登録の無効審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは、 商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために、 商標登録の有効性を争い得ないものとしたことにあると解される(最高裁平 成15年(行ヒ)第353号同17年7月11日第二小法廷判決・裁判集民 事217号317頁参照)。そして、商標法39条において準用される特許 法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば、商標 権侵害訴訟において、商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認 められるときは、商標権者は相手方に対しその権利を行使することができな いとされているところ、上記のとおり商標権の設定登録の日から5年を経過 した後は商標法47条1項の規定により同法4条1項11号該当を理由とす る商標登録の無効審判を請求することができないのであるから、この無効審 判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が 商標登録の無効理由の存在を主張しても、同訴訟において商標登録が無効審 判により無効にされるべきものと認める余地はない。また、上記の期間経過 後であっても商標権侵害訴訟において商標法4条1項11号該当を理由とし て本件規定に係る抗弁を主張し得ることとすると、商標権者は、商標権侵害 訴訟を提起しても、相手方からそのような抗弁を主張されることによって自 らの権利を行使することができなくなり、商標登録がされたことによる既存 の継続的な状態を保護するものとした同法47条1項の上記趣旨が没却され ることとなる。
そうすると、商標法4条1項11号該当を理由とする商標登録の無効審判 が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後において は、商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が同号に該当することによる 商標登録の無効理由の存在をもって、本件規定に係る抗弁を主張することが 許されないと解するのが相当である(最高裁平成27年(受)第1876号 同29年2月28日第三小法廷判決・民集71巻2号221頁参照)。 同様に、上記の期間経過後であっても商標権侵害訴訟において、登録商標 が同号に該当するものとして何人に対しても商標の使用の差止め等を求める ことが権利の濫用に当たり許されないものと解すると、同法47条1項の趣 旨が没却されることになるから、同法4条1項11号該当を理由とする商標 登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過し た後においては、商標権侵害訴訟の相手方が同項11号該当性に係る「他人 の登録商標」の商標権者であるなどの特段の事情がない限り、その登録商標 が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって、権利濫用 に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。

◆判決本文

なお本件商標、および類似すると主張した商標は、いずれも図形商標(以下参照)です。 仮に無効抗弁が認められたとしても、類似するとの判断になったかは、また別です。

◆本件商標

◆4558386号商標

◆2387164号商標

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令和4(ワ)9716  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年7月28日  東京地方裁判所

 特許侵害訴訟で差止請求が認められました(損害賠償請求なし)。無効主張についても「新規化合物については引用例にその製造方法に関する記載がない」として、無効ではなぽしと判断しています。並行進行している無効審判および審決取消訴訟でも、同様です。

(ア) 特許法29条1項は、同項3号の「特許出願前に」「頒布された刊 行物」については特許を受けることができない旨規定する。当該規定の 「刊行物」に物の発明が記載されているというためには、同刊行物に発 明の構成が開示されているだけでなく、発明が技術的思想の創作である\nこと(同法2条1項参照)にかんがみれば、当該刊行物に接した当業者 が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の\n技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技 術的思想が開示されていることを要するというべきである。 特に、当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製 造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないか ら、刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、 当該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理\n解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして、刊 行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に 接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、\n特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出 すことができることが必要であるというべきである。
ここで、5−ALAホスフェートは、新規の化合物であり、上記アの とおり、本件引用例には、列挙された化合物の中に5−ALAホスフェ ートが含まれているものの、本件引用例にその製造方法に関する記載は 見当たらない(乙2)。 したがって、5−ALAホスフェートを引用発明として認定するため には、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思考や試行錯誤 等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技術常識に基づ\nいて、5−ALAホスフェートの製造方法その他の入手方法を見出すこ とができたといえることが必要である。
(イ) 被告は、乙16文献から乙18文献の記載からすれば、本件優先日 当時、5−アミノレブリン酸単体の製造方法は周知であった上、5−ア ミノレブリン酸をリン酸溶液に溶解すれば、弱塩基と強酸の組合せとな り、5−アミノレブリン酸リン酸塩を得ることができることは技術常識 であり、このことからすれば、本件優先日当時の当業者は、5−ALA ホスフェートの製造を容易になし得た旨主張する。 確かに、上記第2の1(5)イ及びエのとおり、乙16文献及び乙18文 献には、甲13の1文献を引用しつつ、「ALA生産が確立されてい る」、「ALAの産生に成功した」、「発酵の下流では、イオン交換樹 脂を使用するALA精製プロセスも確立されて」いるなどと記載されて いる。しかしながら、甲13の1文献には、同オのとおり、「発酵液か らのALAの精製」の項において、ALAが塩基性水溶液中では非常に 不安定であり、種々の検討の結果、5−アミノレブリン酸塩酸塩結晶を 得るプロセスを確立することに成功した旨が記載されているにすぎない。 そうすると、乙16文献及び乙18文献においては、細菌を培養して発 酵液中にALA(5−アミノレブリン酸)を産生させる技術は開示され ているものの、5−アミノレブリン酸単体を得る技術は開示されていな いといえる。 また、上記第2の1(5)ウのとおり、乙17文献には、発酵液中に培地 成分と混合した状態で存在するALAの濃度が開示されているにすぎな い。そうすると、乙17文献においても、5−アミノレブリン酸単体を 得る技術は開示されていないといえる。 以上のとおり、乙16文献から乙18文献までにおいて、5−アミノ レブリン酸単体を得る技術が開示されているとはいえない。これに加え、 上記第2の1(5)アのとおり、本件引用例においても「5−ALAは・・ ・化学的にきわめて不安定な物質である」、「5−ALAHClの酸性 水溶液のみが充分に安定であると示される」と記載されていて(【00 07】)、これらの事項が本件優先日当時の技術常識であったと認めら れることも考慮すると、本件優先日当時において、5−アミノレブリン 酸単体を得る技術が周知であったとは認められない。
この点に関し、原告は、5−アミノレブリン酸リン酸塩を製造する上 で、5−ALAが物質として取り出されている必要はなく、発酵液中に 培地成分等と混合した状態であってもよい旨主張する。 しかしながら、本件優先日当時、種々の成分を含む混合液に酸又は塩 基を添加するという方法が、化合物である塩の製造方法として技術常識 であったとは認められないことからすれば、本件引用例に接した本件優 先日当時の当業者が、化合物である5−アミノレブリン酸リン酸塩を製 造する方法として、培地成分等と混合した状態で5−アミノレブリン酸 が存在する発酵液にリン酸を添加する方法(又はこの発酵液をリン酸溶 液に添加する方法)を、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮することな\nく見出すことができたとはいえない。 また、上記第2の1(5)ウのとおり、乙17文献において、培地に酵母 抽出物やトリプトン等が含まれることが記載されていることからも明ら かなように、培地成分等と混合した状態にある発酵液には種々のイオン が夾雑物として含まれているのであるから、このような発酵液にリン酸 を添加したとしても、等しい物質量の酸及び塩基の中和反応によって5 −アミノレブリン酸リン酸塩という化合物が製造されたと評価すること はできないというべきである。したがって、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。そして、このほか、本件優先日当時の当業者が、5−ALAホスフェー トの製造方法その他の入手方法を見出すことができたというべき事情は 存しない。
(ウ) 以上によれば、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思 考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技\n術常識に基づいて、5−ALAホスフェートの製造方法その他の入手方 法を見出すことができたとはいえない。したがって、本件引用例から5−ALAホスフェートを引用発明として認定することはできない。

◆判決本文

本件特許についての審決取消訴訟です。

◆令和4(行ケ)10091

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令和4(ワ)2049 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年7月6日  東京地方裁判所

 特許侵害訴訟で、技術的範囲に属さないとして非侵害と判断されました。

(ウ) 小括
このような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、本件発明 1 の「底部」 は、「包装容器」の筒状部分が開口部と共に有するものであり、「容器」として機能\nする筒状の構造部分の底に当たる部分であって、筒状の包装容器の下側を塞いでい\nる部分を指すものと理解される。また、「底面片」は、このような「底部」を形成す るものであり、包装容器を容器として形成した状態において、筒状の包装容器の下 側を塞ぐ部材を意味するものと理解される。さらに、「自立片」は、このような「底 面片」と同一面に連なるものであり、かつ、載置面に沿って前記奥行の方向に突出 し、包装容器を前記載置面に自立させる機能を有するものということになる。\n
イ 被告製品の構成要件充足性\n
(ア) 被告製品においては、背面片が片(A)側に折られて筒状に形成される(構成 e1、e’-1)。その際、背面片の下端に連ねられた六角片(構成 d-3、d’-3)は、筒状部 分下端から内側に折り込まれ、この折り込まれた六角片は、筒状部分内部に収めら れる内容物の下部に位置し、筒状部分の下端から内容物が落下するのを防止してい る(構成 e-2、e’-2)。このため、被告製品の六角片は、本件発明 1 の「底部を形成 する底面片」に相当するものといえる。
(イ) 被告製品の舌状片は、片(A)の下端に連ねられた部材であり(構成 d-4、d’-4)、 筒状部分の下端(六角片の接続箇所の反対側)から内側に折り込まれ(構成 e-3、e’- 3)、容器として形成した状態において、六角片と共に、略弧状に湾曲した状態とな り、片(A)に連なって、載置面に沿って背面側に突出し、載置面に置くと、舌状片に よって、被告製品は、載置面に背面方向に斜めに自立する(同 b、b’)。このため、 被告製品の舌状片は、本件発明 1 の「自立片」に相当するものといえる。 他方、筒状部分の下端から内側に折り込まれた六角片と舌状片とは接触しておら ず、両者の間には隙間がある(同 e-4、e’-4)。このことと、被告製品の筒状部分の下端から内容物が落下するのを防止する機能を果たしているのは六角片であることを\n併せ考えると、舌状片は、筒状部分の下側を塞いでいるとはいえず、「底部を形成す る底面片」に相当するものとはいえない。
(ウ) 六角片と舌状片とは、六角片は背面片の下端に連ねられているのに対し、舌 状片は片(A)の下端に連ねられており、同一面に連なるものとはいえない。 したがって、被告製品は、「底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片」(構\n成要件 B)を充足しないから、本件発明 1 の技術的範囲に属しない。

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令和4(行ケ)10111  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月25日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(二部)は、「ほぼ水平に・・・」について、何らかの技術的意義があるとは認められないとして、進歩性なしと判断しました。
審判では、被請求人(特許権者)は、「ほぼ水平に延びる段差部(13c)はモールをアウタパネルの上縁部に組み込む際に引掛けフランジ部(13)とモール本体部(11)との間隔(挟持力)を維持するのに重要となります。」と主張して、先行技術から容易ではないと判断されていました。

ア 相違点1
(ア) 相違点1は、「縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部」が、本件発 明1においては、縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部 であるのに対して、甲1発明1においては、縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス 側方向に「やや下方に」延びる段差部であるというものである。甲1発明1のモー ルディングが取り付けられるドアパネルが、アウタパネルであることについては当 事者間に争いがなく、甲1発明1の「昇降窓ガラス側方向」は、本件発明1の「内 側方向」(車内側を指す。)と同じ方向を意味するものと認められるから、相違点1 においては、段差部が「ほぼ水平」に延びるか「やや下方」に延びるかという点の みが問題となる。
(イ) そこで検討するに、本件明細書には、段差部が縦フランジ部の下部から内側 方向に「ほぼ水平に」延びることの技術的意義についての記載はない。また、前記 1(2)のとおり、本件発明は、端末の剛性に優れるベルトラインモールを提供するた めに、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して、水切りリップ\nや引掛けフランジ部を切除できるようにし、モール本体部と縦フランジ部とで略C 断面形状を形成しつつ断面剛性を確保したというものであり、ベルトラインモール の端末では、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して切除され\nるものであって、段差部も切除されるのであるから、段差部が「ほぼ水平に」に延 びても「やや下方」に延びても、本件発明の作用効果に何ら影響するものではない。 そうすると、段差部が「ほぼ水平に」延びるものとすることについて何らかの技術 的意義があるとは認められない。 そして、甲1発明1においても、段差部が縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス 側方向(内側方向)に「やや下方に」延びることに何らかの技術的意義があるとは 認められず、甲1発明1において「やや下方に」延びる段差部を「ほぼ水平に」延 びるように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべ\nきである。 そうすると、甲2記載事項について検討するまでもなく、甲1発明1において段 差部に設計的変更を加え、これを「ほぼ水平に」することは、当業者が容易に想到 できたものと認めるのが相当である。
(ウ) したがって、本件審決には、相違点1に係る容易想到性の判断に誤りがある。

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令和5(行ケ)10005 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年7月12日  知的財産高等裁判所

標準文字「KAZE」と、Aを図案化した「KAZE」が類似するかについて、知財高裁は類似するとした審決を維持しました。判決の最後に本件商標が掲載されています。

(3) 本願商標の中段の緑色の図形部分は、別紙1記載のとおり、頂点から左右 斜め下方向に同じ長さの二本の直線が二等辺三角形状に伸びるという欧文字 「A」の形状の特徴を備えており、両隣の「K」及び「ZE」の欧文字と、 同じような大きさ、同じような間隔で一連に表されていることからも、「A」\nの文字をデザイン化したものと認識されるから、本願商標に接した取引者、 需要者は、中段の構成部分は、全体として「KAZE」の欧文字を表\したも のと認識するといえる。
しかるところ、我が国においては、欧文字表記をローマ字読み又は英語風\nの読みで称呼するのが一般的であり、「KAZE」の欧文字は、既成の親しま れた英単語でもなく、ローマ字読みで容易に称呼できるものであり、「カゼ」 と読むのが最も自然というべきであるから、当該文字部分からは、「カゼ」の 称呼が生じる。そして、日本語において「カゼ」と称呼する成語から「空気 の流れ」を意味する「風」又は「感冒」を意味する「風邪」(広辞苑 第七版) が一般に想起されるから、「KAZE」の欧文字からは「風(空気の流れ)」 及び「風邪(感冒)」の観念が生じるものというべきである。 加えて、本願商標の構成態様においては、「KAZE」の欧文字部分は、他\nの構成文字に比して大きく顕著に表\され、平行線の間に配されることにより、 視覚的に際立った印象を与えるものであるから、看者の目をひく部分であり、 取引者、需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与え るものと認められる。 そうすると、本願商標から「KAZE」の欧文字部分を要部として抽出し、 これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断することは許される というべきである。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(4) これに対し、原告は、1)本願商標の中段部分の「緑色の麻葉文様図形」は、 格別特異な態様で書されており、また、当該図形が欧文字「A」をデザイン 化したものと容易に看取されることはなく、本願商標の中段部分の表示から\n「KAZE」なる欧文字をそもそも認識することはできない、2)仮に本願商 標の中段部分の表示から「KAZE」なる欧文字を認識することはできると\nしても、本願商標の上段部分の「−PRINTABLE HEMP WEA R−」なる表示は、本願の指定商品「被服」との関係において、原告のブラ\nンドである「PRINTABLE HEMP WEAR」シリーズの商品で あることを認識させるものであって、強い識別機能を有し、また、本願商標\nの構成中、最も強く支配的な印象を与える部分は、中段部分のうちの「緑色\nの麻葉文様図形」であることからすると、「KAZE」なる欧文字(中段部分) が、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与 えるものとはいえないとして、本願商標から「KAZE」を要部として抽出 することはできない旨主張する。
しかしながら、1)については、前記(3)で説示したとおり、本願商標の中段 の緑色の図形部分は「A」の文字をデザイン化したものと認識されるから、 取引者、需要者は、中段の構成部分を全体として「KAZE」の欧文字を表\ したものと認識するといえる。
2)については、「−PRINTABLE HEMP WEAR−」の構成部\n分は、別紙1記載のとおり、外観上、上下2本の平行線の間に配された「K AZE」の欧文字部分よりも小さく表示されており、取引者、需要者に与え\nる印象は、「KAZE」の欧文字部分よりも強いとはいえない。 また、本願の指定商品「被服」の需要者である一般消費者において、上記 構成部分が原告のブランドである「PRINTABLE HEMP WEA R」を示すものとして広く認識されていることを認めるに足りる証拠はない し、仮にこれが認められるとしても、本願商標の構成態様に照らすと、「KA\nZE」の欧文字部分が取引者、需要者に対して商品の出所識別機能として強\nく支配的な印象を与えるとの上記認定を左右するものではない。 さらに、「KAZE」の欧文字中の「A」の文字をデザイン化した部分のみ が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということもできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

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令和4(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反・サポート違反として無効審判を請求しました。審決は無効理由無し、裁判所も同様です。進歩性については、「非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを考慮すると、・・・結晶の平均粒径を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであったと認めることはできない」と判断しました。

(イ) また、甲7、9、52、61、63、71及び73並びに乙7によると、 薬物の安定性を高める方法として、結晶の結晶化度を高めること、遮光、湿気の遮 断等を目的として薬剤に保護コーティングを形成すること、遮光を目的として遮光 剤(酸化チタン)を含むコート液をコーティングすることなどは、本件優先日当時 の周知技術であったと認められる。
(ウ) しかしながら、甲5、7、52、54及び61によると、本件優先日当時、 非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在し、そのため、水難溶 性の薬物の溶解性を改善するとの目的で、かえって結晶化度を低くすることが一般 に行われていたものと認められるところ、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件優先日当 時、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術として、結晶 の粒子径を小さくすること以外の方法も存在し、また、薬物の安定性を高めるため の周知技術として、結晶の結晶化度を高めること以外の方法も存在していたのであ るから、化合物1の溶解性及び安定性を高めるとの課題を認識していた本件優先日 当時の当業者において、化合物1の溶解性を追求するとの観点から、経口投与され る水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術(結晶の粒子径を小さくすると の周知技術)を採用し、かつ、化合物1の安定性を追求するとの観点から、薬物の 溶解性を低下させる結果となり得る周知技術(結晶の結晶化度を大きくするとの周 知技術)をあえて採用することが容易に想到し得たことであったと認めることはで きない。
(エ) この点に関し、原告らは、結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持するこ とは特段の処理が不要で薬剤をそのまま使用するという最も基本的な態様を含むも のであり、他の手段よりはるかに容易な態様のものであると主張する。しかしなが ら、前記(ア)のとおり、本件優先日当時、結晶の粒子径を小さくするための主たる 手段として、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル等を利用した粉砕が考えら れていたところ、甲52によると、粉砕により結晶の結晶化度が低下し、結晶が非 晶質化することは、よく経験される事象であったものと認められるから、結晶の結 晶化度を一定の数値以上に維持することが特段の処理を要しないものであるという ことはできず、原告らの上記主張は、前提を誤るものというべきである。
また、原告らは、本件優先日の当業者であれば、薬物の安定性を向上させるとの 課題に基づいて結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持することを検討しつつ、粒 子の微細化等の手段により溶解度を向上させるなど、結晶の結晶化度や平均粒径と いったパラメータを適宜調整することを十分に動機付けられると主張するが、上記\nのとおり、非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを 考慮すると、原告らの上記主張によっても、本件優先日当時の当業者において、相 反する効果を生ずる事項同士であると認識されていた、化合物1の結晶の平均粒径 を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであっ たと認めることはできないといわざるを得ない(この点に関し、本件明細書には、 実施例(試験例2、実施例2)として、化合物1の微細結晶Aの結晶化度が84. 6%であり、粒径がD100=8.7μmである場合(後記5(4)ア(ア)のとおり、化 合物1の平均粒径が数μmである場合)においても、結晶が凝集することなく、良 好な溶解性及び分散性を示したとの記載があるが、前記(2)イ(ウ)において認定した 技術常識(非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識)並びに甲6及び 52によって認められる技術常識(特に薬物が疎水性のものである場合には、結晶 の粒子径を小さくすればするほど凝集が起こやすくなり、その有効表面積がかえっ\nて小さくなる結果、溶解性が低下することがあるとの技術常識)に照らすと、上記 実施例が示す効果は、甲1結晶発明及び本件優先日当時の技術常識から予測し得な\nかったものといえる。)。

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令和4(行ケ)10081  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

 特許異議申立にて、サポート要件違反として取り消された特許の取消を求めました。知財高裁はサポート要件違反とした審決を維持しました。発明はゴルフクラブのシャフトで、\n「・・・シャフトのトルクをTq(°)とした場合に、1.6≦Tq≦4.0を満たし、前記バイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8を満たす」 というパラメータ発明です。

前記(2)アによると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件各発明について、 次のとおりの記載がされているということができる。すなわち、本件各発明は、繊 維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト(以下、単に「シャフト」ということがあ る。)に関するものである。ゴルフのスコアを良くするためには、打球の飛距離の 安定性及び左右への方向安定性を得ることが非常に重要であり、そのためには、三 つの要素(ボールの初速、打ち出し角度及びスピン量)のばらつきを減少させてこ れらを安定させる必要があるところ、ボールを打撃する瞬間のシャフトの変形(特 にシャフトの細径部の変形)がこれらの要素の安定性に大きな影響を及ぼすため、 シャフトの細径部のねじり剛性を上げることによりこれらの要素を安定させ得るこ とが従来から知られていた。しかしながら、単にシャフトの細径部のねじり剛性を 上げると、フィーリングが硬くなったり、ヘッドの返りが極端に悪くなったり、ヘ ッドのトゥダウンが抑制されすぎて飛距離が小さくなったりするなどのデメリット が生じるほか、弾性率の高い炭素繊維の使用量を多くしすぎることによるシャフト の強度の低下を招き、シャフトの折損が生じやすくなるという問題があった。本件 各発明は、このような問題を解決し、特にねじり剛性が高いシャフトにおいても、 スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されること なく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたシャフト(ねじり剛性の高いシャ フト(ロートルクのシャフト))を提供することを目的とするものである。本件各 発明は、前記第2の2のとおりの構成とすることにより、プレーヤーの力量に左右\nされることなく、飛距離の安定性及び左右へのばらつきの少ない方向安定性の双方 に優れたシャフトが得られるとの効果を奏する。
以上によると、本件各発明の課題は、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴル フクラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)で あって、スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右さ れることなく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたものを提供すること」 (以下「本件課題」という。)であると認めるのが相当である。
(4) 決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)について\n
ア 構成2について\n
(ア) Tq≦4.0°について
a シャフトのトルク(Tq)を4.0°以下とすることにより得られる効果等 に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「トルク(Tq)を4.0°以下と することによって、ゴルファーの力量が飛距離の安定性や左右への方向安定性に与 える影響を低減させることができ、これらの両立を達成できる傾向にある。」との 記載(【0021】)があり、また、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴルフ クラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)であ って、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されることなく飛距離の安定性 と方向安定性の双方に優れたものが得られる」との効果(以下「本件効果」とい う。)が得られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例 1の各トルク(°)がそれぞれ2.4及び4.8であるとの記載(【表4】)があ\nる。しかしながら、これらの記載は、シャフトのトルクを4.0°以下とすること によりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、し たがって、構成2のうちシャフトのトルクを4.0°以下とするとの点については、\n本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を 解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安定 性及び方向安定性において優れていることは本件出願日当時の技術常識であり、本 件出願日当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、シャフトのトルクを4. 0°以下とすることにより飛距離の安定性及び方向安定性(比較例1よりも優れた 飛距離の安定性及び方向安定性)が得られるものと理解し得ると主張する。しかし ながら、原告の上記主張並びに原告が上記技術常識に係る証拠として提出する甲1 2及び21ないし23は、シャフトのトルクを4.0°以下とすることによりなぜ 本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、シャ フトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願 日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成2のうちシャフトのトル\nクを4.0°以下とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の 技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということ はできない。
c なお、原告は、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明であって、発\n明の実施方法や作用機序等を理解することが比較的困難な技術分野(薬学、化学等) に属する発明ではないとして、構成2の境界値の厳密な根拠が本件明細書に記載さ\nれている必要はないと主張するが、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明\nであることをもって、シャフトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題 が解決される理由を本件明細書の発明の詳細な説明において適切に説明する必要が ないということはできないから、原告の上記主張を採用することはできない(この 点については、以下の構成2のうちシャフトのトルクを1.6°以上とするとの点\n及び構成3ないし5についても同じである。)。\n
・・・
b 原告は、本件各発明は細径部のトルクを小さくすることが飛距離の安定性及 び方向安定性を高めるとした甲6発明の効果を前提としつつ、更に非熟練ゴルファ ーにとってのデメリット(フィーリングが硬くなったりヘッドの返り(トゥダウン) が悪くなったりすること)を克服するとの課題を解決するものであり、加えて、本 件各発明におけるA/Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1 におけるA/B(0.08)をほぼ中央値とするものであることも併せ考慮すると、 本件出願日当時の当業者は細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5% 以上とすることで、上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方向安定 性を高め得るものと理解し得ると主張する。しかしながら、甲6によっても、本件 出願日当時の当業者において、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の 5%以上とすることにより上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方 向安定性を高め得るものと理解し得たとの事実を認めることはできず、その他、そ のような事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件各発明におけるA/ Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1におけるA/B(0. 08)をほぼ中央値とするものであることを考慮しても、原告の上記主張は、細径 側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることによりなぜ本件 課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、細径側バ イアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることにより本件課題が解 決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成4\nのうち細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とするとの点に ついては、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決 できると認識できる範囲のものであるということはできない。
オ 原告のその余の主張(決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)に関\n連するもの)について
(ア) 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安 定性及び方向安定性において優れているとの技術常識並びにバイアス層を増やすこ とにより低トルクのシャフトが得られるとの技術常識を有する本件出願日当時の当 業者が本件明細書を読めば、実施例1及び比較例1における各トルクから、トルク を比較例1のそれよりも有意に小さい4.0°以下とし、実施例1及び比較例1に おける各バイアス層の割合(B/(B+S))から、バイアス層の割合(B/(B +S))を比較例1のそれよりも有意に大きい0.5以上とすることにより、比較 例1よりも良好な飛距離の安定性及び方向安定性が得られるであろうことを当然に 理解し得ると主張する。しかしながら、実施例1及び比較例1の記載から、本件出 願日当時の当業者において、トルクを比較例1のそれ(4.8°)よりも有意に小 さい角度とすること及びバイアス層の割合(B/(B+S))を比較例1のそれ (0.4)よりも有意に大きい値とすることにより、比較例1よりも良好な飛距離 の安定性及び方向安定性を示すであろうと推測し得るとしても、当該当業者におい て、トルクを具体的に(1.6°以上)4.0°以下とすること及びバイアス層の 割合(B/(B+S))を具体的に0.5以上(0.8以下)とすることにより、 本件課題を解決できると認識できるとは認められない。
(イ) 原告は、本件出願日当時の当業者は本件明細書の記載により、本件各発明 の構成要件を充足し、その他の条件につき当該当業者が技術常識の範囲内で決定し\nたシャフトであれば、その飛距離及び方向が比較例1のシャフトにおける飛距離及 び方向と比較してより安定したものとなることを容易に理解し得ると主張する。し かしながら、前記アないしエにおいて説示したところに照らすと、仮に本件各発明 の課題が飛距離及び方向において比較例1のシャフトよりも安定したシャフトを得 ることであるとしても、実施例1及び比較例1を含む本件明細書の発明の詳細な説 明の記載により、本件出願日当時の当業者において、本件各発明の構成要件を充足\nするシャフトであれば当該課題を解決できると認識できると認めることはできない というべきである。

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令和5(行ケ)10010 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年7月6日  知的財産高等裁判所

「リフナビ大阪」が「リフナビ」(リを図案化)と類似するとした審決が維持されました。

以上のとおり、本願商標の構成中の「リフナビ」の文字部分は、役務の出所識別\n標識として強く支配的な印象を与えるものであると認められる一方、本願商標の構\n成中の「大阪」の文字部分からは、出所識別標識としての称呼及び観念が生じない から、本願商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取\n引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。 したがって、本願商標については、その構成中の「リフナビ」の文字部分を抽出し、\n当該文字部分だけを他の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるとい うべきであり、本願商標の要部は、「リフナビ」の文字部分であると認めるのが相 当である。
・・・
 また、引用商標の上側先頭左側部分が原告主張に係るピンマーク(甲25)のよ うな形状(白抜きの円を内包した水滴状の形状)に図案化されたものであり、上側 先頭右側部分が文字(これが文字の全部(片仮名の「ノ」)であると認識されるか、 一部(片仮名の「ソ」又は「リ」の各右側部分)であると認識されるかについては、\n当事者間に争いがある。)を構成する部分であると認識されることも、当事者間に\n争いがない。
そこで、引用商標の上側先頭左側部分が文字(片仮名の「ソ」又は「リ」)を構\ 成する部分であると認識されるか否かにつき検討するに、1)証拠(乙8、24ない し48)及び弁論の全趣旨によると、商取引においては、文字の全部又は一部を図 案化して表示することが広く行われ、その中でも、片仮名の「リ」又は平仮名の\n「り」の各左側部分が図案化されている例や引用商標の上側先頭左側部分に類似す る形状の図形(原告主張に係るピンマークのような形状の図形)が文字の全部又は 一部として使用されている例が多数存在するものと認められること、2)引用商標の 上側先頭部分が一つの文字を表しているものと認識すると、上側部分において、片\n仮名の「ソ」(原告主張に係るもの)又は「リ」(被告主張に係るもの)、「フ」、\n「ナ」及び「ビ」の4文字が同じような高さ及び幅をもって均等に配置されている ように見え、自然であるのに対し、上側先頭左側部分が文字の一部でなく、上側先 頭右側部分のみが文字(片仮名の「ノ」)を表しているものと認識すると、上側先\n頭左側部分と上側先頭右側部分とが接近しているため、上側その余の部分のうち上 側先頭右側部分のみが縦長(細幅)で窮屈に配置されているように見え、上側その 余の部分において、片仮名の「ノ」、「フ」、「ナ」及び「ビ」の4文字の配置が 全体として不自然に見えることからすると、引用商標の上側部分については、上側 先頭右側部分と原告主張に係るピンマークのように図案化された上側先頭左側部分 とが一つの文字を構成し、「フナビ」の文字部分と併せ、全体として4つの文字か\nらなるものと認識されると認めるのが相当である。 そして、引用商標の上側先頭左側部分は、そのうちのとがった部分が略鉛直方向 を向き、真上から真下に向かって縦に下ろしたように配されており、片仮名の「ソ」\nの文字の左側部分(通常は左上方向から右下方向に配されるもの)ではなく、片仮 名の「リ」の文字の左側部分に近い形状をしていると認められることからすると、 大学でノートを取る観点から片仮名の「ソ」と「リ」を形がよく似た字の例として\n挙げるウェブサイト(甲34)及び校正の観点から片仮名の「ソ」と「リ」を字形\nの似た文字の例として挙げるウェブサイト(甲35)が存在することを考慮しても、 引用商標の上側先頭部分は、片仮名の「リ」の文字を表すものと認識されると認め\nるのが相当である。したがって、引用商標の上側部分は、「リフナビ」の文字を表\nすものと認識されるところ、当該部分は、引用商標において出所識別標識としての 機能を強く発揮するものと認められるから、前記(2)にも照らすと、引用商標の要 部は、「リフナビ」の文字部分であるといえる。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は、1)文字の一部を図案化して表すことが商取引の実際において行わ\nれているとの事実は、一般的に知られているものではない、2)文字の一部の図案化 が行われていることと図案化された部分が実際に文字の一部であると認識できるこ ととは、次元を異にする問題である、3)文字の一部を図案化したものであることが 分かるのは、当該部分を含む部分の読み方をあらかじめ知っているか、又は前後の 文字を基にした推測が可能であるからであるところ、引用商標においてはそのよう\nにいうことはできないとして、引用商標の上側部分につき、全体として文字を表し\nたものと認識されるとみるのが自然であるとはいえないと主張する。
しかしながら、上記1)については、前記ア(1))において挙示した証拠及び弁論 の全趣旨によると、文字の一部を図案化して表すことが商取引において広く行われ\nているなどの事実は、一般的によく知られているものと優に認めることができる。 また、上記2)及び3)についても、前記アにおいて説示したところに照らすと、具体 的な商標である引用商標の上側部分について、これに接した取引者、需用者は、そ の読み方をあらかじめ知らなくても、これが「リフナビ」の文字を表すものと認識\nすると認めるのが相当である(なお、この点は、引用商標において図案化された部 分(上側先頭左側部分)が文字部分(上側部分)の途中(文字と文字の間)ではな く先頭に配置されていること(当該図案化された部分の前後双方の文字による推測 が働かないこと)により、結論が左右されるものではない。)。 (イ) 原告は、ピンマークは記号として取引者、需用者に広く認識されているご く一般的なものであり、需用者が一見すれば、地図上の位置を示す記号であると認 識できるものであるから、取引者、需用者において、引用商標の上側先頭左側部分 を文字の一部と認識するのは極めて例外的な場合であると主張する。 確かに、前記アのとおり、引用商標の上側先頭左側部分は、原告主張に係るピン マークのような形状に図案化されたものであるが、当該部分は、地図上に描かれた ものではないし、また、前記アにおいて説示したところにも照らすと、引用商標に 接した取引者、需用者が上側先頭左側部分を文字の一部を図案化したものであると 認識するのは普通のことであるといえ、そのように認識するのが極めて例外的な場 合に限られると認めることはできない。 また、原告は、引用商標の上側先頭左側部分(ピンマーク)は線でない形状のも のであるから、上側先頭部分が一つの文字を表すものであるとすると、当該文字は\n線ですらない形状の部分を含むことになるとも主張するが、上記説示したとおり、 引用商標に接した取引者、需用者は、上側先頭左側部分につき、これが文字の一部 を図案化したものであると普通に認識するといえるから、上側先頭左側部分が原告 主張に係るピンマークのような形状に図案化されていることをもって、上側先頭部 分が線ですらない部分を含むことになるということはできない。
(ウ) 原告は、引用商標の上側先頭左側部分の色は上側その余の部分の色よりも 薄くなっており、引用商標に接した需用者は上側先頭左側部分と上側その余の部分 とが別々の構成のものであるとして両者を分離し、上側その余の部分だけが文字を\n表すものと認識するのであり、そのことは引用商標の実際の使用形態によっても裏\n付けられていると主張する。 しかしながら、引用商標を子細に観察しても、上側先頭左側部分の色は、上側そ の余の部分の色と比較して、ほぼ同じ濃さであるか(乙2)、かすかに薄い(甲1 2)としか見て取ることはできず、迅速を尊ぶ商取引において、引用商標に接した 取引者、需用者が上側先頭左側部分と上側その余の部分とを別々の構成のものであ\nるとしてこれらを分離し、上側その余の部分だけが文字を表すものと認識するほど\nに両者の色の濃さに有意な相違があるということはできない。なお、原告は、甲2 6に見られる引用商標の実際の使用形態(上側先頭左側部分及び下側部分並びに上 側部分の右肩に付された「○R 」のマークが緑色で表され、上側その余の部分が黒色\nで表されたもの)も上記主張を裏付けると主張するが、登録商標の範囲は、願書に\n記載した商標に基づいて定めなければならないところ(商標法27条1項)、願書 に記載された引用商標(甲12、乙2)においては、甲26に見られる色分けはさ れていないのであるから、引用商標の実際の使用の場面において当該色分けがされ ていることを根拠に、引用商標に接した取引者、需用者が上側先頭左側部分と上側 その余の部分とを別々の構成のものであるとしてこれらを分離し、上側その余の部\n分だけが文字を表すものと認識すると認めることはできない。\n
(エ) 原告は、引用商標の上側先頭右側部分とほとんど同じ角度及び長さで表記\nされたものが片仮名の「ノ」の文字を示すと認識させる登録商標(甲27)が存在 すると主張する。 しかしながら、原告が主張する事実は、本件における引用商標の上側先頭右側部 分がどのように認識されるかについての判断を左右するものではない。なお、甲2 7に記載された登録商標のうち仮名文字部分の最右端の部分(商標公報に記載され た称呼によると「ノ」と読まれる部分)と引用商標の上側先頭右側部分とを比較し ても、両者がほとんど同じ角度及び長さで表記されていると見て取ることはできな\nい。
(オ) 原告は、1)片仮名の「ソ」の文字は、片仮名の「リ」の文字と似ていると\n認識されていること、2)引用商標の指定役務の中に第35類「電子計算機・タイプ ライター又はこれらに準ずる事務用機器の操作」があること、3)「ソフ」で始まる\n語が多数存在し、これらは、「リフレーション」、「リフレーン」等よりも一般的 な語であることを根拠に、仮に引用商標の上側先頭左側部分が文字の一部を表すも\nのと認識されるとしても、引用商標を見た需用者は、その上側部分から「ソフトウ\nェア」と「ナビゲーション」の略語である「ソフナビ」の語を想起するとみるのが\n自然であると主張する。
しかしながら、上記1)については、前記アのとおり、引用商標の上側先頭左側部 分は、そのうちのとがった部分が略鉛直方向を向き、真上から真下に向かって縦に 下ろしたように配されており、片仮名の「ソ」の文字の左側部分(通常は左上方向\nから右下方向に配されるもの)ではなく、片仮名の「リ」の文字の左側部分に近い 形状をしていると認められることに照らして、当該主張が引用商標に該当するとは いえない。また、上記2)については、引用商標の指定役務には、「ソフトウェア」\nの語とは余り親和性がないと認められる役務(「リラクゼーションマッサージ」等) も含まれており、引用商標の上側部分のうち先頭の2文字を見た取引者、需用者が 普通に「ソフトウェア」の略語としての「ソ\フ」の語を想起すると認めることはで きない。さらに、上記3)についても、確かに、証拠(甲36)及び弁論の全趣旨に よると、「ソフ」で始まる語(「ソ\フトウェア」、「ソフトカバー」等)が複数存\n在することは認められるが、前記アにおいて説示したところに照らすと、これらの 語が存在することをもって、引用商標の上側部分のうち先頭の2文字を見た取引者、 需用者が普通に「ソフトウェア」の略語としての「ソ\フ」の語を想起すると認める ことはできない。そうすると、大学でノートを取る観点から片仮名の「ソ」と「リ」\nを形がよく似た字の例として挙げるウェブサイト(甲34)及び校正の観点から片 仮名の「ソ」と「リ」を字形の似た文字の例として挙げるウェブサイト(甲35)\nが存在するとしても、引用商標を見た取引者、需用者において、その上側部分から 「ソフトウェア」と「ナビゲーション」の略語である「ソ\フナビ」の語を想起する とみるのが自然であると認めることはできない。

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令和4(行ケ)10099  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月6日  知的財産高等裁判所

 審決は、周知技術であっても主引例にはそのような動機付けがないとして、進歩性違反の無効理由なしと判断しました。知財高裁も同様です。

イ 前記(1)イの相違点に係る構成を甲1発明において採用することが容易想到といえるか検討するに、甲1には、加工対象物の反りや、X、Y軸ステージの振動等\nにより、レーザ光の焦点ずれが生じ得ることについての記載はなく、加えて、前記 2(1)エのとおり、甲1(105頁)には「図98に示すクラック領域9は、パルス レーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工\n対象物1の内部中の表面3側に形成される。」「パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表\面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成することもできる。」といった記載があり、甲1発明においては、 シリコンウエハ内部の改質領域の位置は、シリコンウエハの厚み方向において厚み の半分の位置よりも表面に近い位置から、同半分の位置よりも表\面に遠い位置まで の、ある程度の幅をもった範囲に設定され得るものであると理解されることからす ると、甲1の記載に触れた当業者が、直ちに、X、Y軸ステージの振動等の外的要 因や加工対象物であるシリコンウエハの反りのために、レーザ光の集光点のZ軸方 向の位置がずれ、改質領域の位置がずれることによって、シリコンウエハの割れに 大きな影響を及ぼして品質低下を生じさせると理解するとはいえない。
そうすると、甲1発明において、AF制御をする動機付けがあると認めることは できない。また、周知の技術的事項1は半導体ウエハの表面の加工についてのAF制御をいうものであるところ、これが周知であるからといって、動機付けがないに\nもかかわらず、甲1発明のようなステルスダイシングに適用できるとはいえない。 したがって、甲1発明において「前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿 って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する」構成を採用することについて、当業者が容易に想到できたと認めることはできない。\n
ウ(ア) 原告は、レーザ加工の技術分野において、加工時におけるレーザビームの 振動やテーブルの振動などの外的要因や加工対象物の凹凸や反りが、レーザ光の焦 点ずれの原因となることが知られており、高さ方向(Z軸方向)の集光点をAF制 御することは当然のことであり技術常識であったから、Z軸方向のAF制御をする ことは甲1に記載されているに等しく、少なくとも容易想到であると主張する。 しかしながら、甲1には、加工時に、レーザ光Lの集光点Pについて、Z軸方向 の制御をすることについての記載はない。また、前記2(1)ウのとおり、甲1(2頁) には「本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせ てレーザ光を照射しかつ多光子吸収という現象を利用することにより、加工対象物 の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があ ると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係る レーザ加工方法によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小さ\nな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予\定ライ ンから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。」との記載があり、同記載に照らすと、甲1発明は、加工対象物であるシリコンウエ\nハの内部に改質領域を形成して、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものである。そして、前記アのとおり、周知の技術的事項1\nは、半導体ウエハの表面を加工する際に、半導体ウエハに反りがあると加工位置に対して加工用レーザ光の焦点がずれることから、表\面の変位に基づいてAF制御をして表面を加工するというものであるところ、シリコンウエハの内部に改質領域を形成する際に、このような半導体ウエハの表\面加工に係る周知の技術的事項1をそのまま適用できるとはいえない。
(イ) 当業者が、甲1の記載から、甲1発明において、加工中の集光点AF制御が 当然に採用されるものと理解するといえるには、甲1発明において、シリコンウエ ハの反りやX、Y軸ステージの振動により、集光点のZ軸方向の位置がずれ、その 結果、改質領域が形成される位置がずれることとなり、その改質領域の位置のZ軸 方向のずれに起因して割断精度が悪くなる等の品質低下の問題を生じることが明ら かであり、そのために、AF制御が必要であることまでを当業者が認識することを 要するものと考えられる。ところが、当業者にとって、上記のような問題が生じる ことが明らかであると認識できたと認めるに足りる証拠はなく、そのような技術常 識は認められないところ、前記のとおり、甲1には、改質領域が形成される位置が、 ある程度の幅をもった範囲に設定され得ることを示唆する記載があるから、周知の 技術的事項1を考慮しても、また、甲1発明の加工対象物として、30㎛程度まで の薄いシリコンウェアが対象となり得ることを考慮しても、当業者が、甲1の記載 から、甲1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解する とはいえない。
(ウ) 原告は甲1の「クラック領域9と表面3の距離が比較的長いと、表\面3側に おいてクラック91の成長方向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が 電子デバイス等の形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等 が損傷する。クラック領域9を表面3付近に形成すると、クラック領域9と表\面3 の距離が比較的短いので、クラック91の成長方向のずれを小さくできる。よって、 電子デバイス等を損傷させることなく切断が可能となる。但し、表\面3に近すぎる 箇所にクラック領域9を形成するとクラック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもののランダムな形状が表\面3に現れ、表面3のチッビン\nグの原因となり、割断精度が悪くなる。」との記載(105頁15〜23行)をもっ て、比較的厚いウエハの場合には、改質領域のZ軸方向の位置が割断精度に影響を 与えるものであることが甲1に明記されていると主張するが、同記載をもって、シ リコンウエハの反りやX、Y軸ステージの振動に起因する改質領域の形成される位 置のZ軸方向のずれが、品質低下の問題を生じる程度のものであることが明らかと なるものではないから、上記記載部分を踏まえても、当業者が、甲1の記載から甲 1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解するとはいえ ない。
(エ) 原告は、本件明細書(【0004】)に、従来技術に加工対象物の端部におい てレーザ光の集光点がずれる場合があるとの課題があると記載されていることから も、一般的なレーザ加工技術の課題として、甲1発明においても、加工中の集光点 のAF制御が必要であると主張するが、本件明細書の上記記載を踏まえても、前記 (イ)のとおり、当業者が、甲1発明において、加工対象物の内部に改質領域を形成す るために、加工時におけるAF制御としての加工中のZ軸方向の位置の制御が必要 であるとの課題を認識するとはいえない。また、原告が指摘する証拠はいずれも、 加工対象物の内部に改質領域を形成する甲1発明において、加工中のZ軸方向の位 置の制御が必要であることが技術常識であることを裏付けるものとはいえない。 そして、原告主張に係る被告の本件以外の出願の状況が、本件発明の進歩性の判 断を左右するものではない。

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令和4(ネ)10070  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明についての特許権侵害事件です。1審の東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。控訴人は、請求項17に基づく侵害主張、および訂正の再抗弁を追加しました。知財高裁は、時機に後れた攻撃防御方法には該当しないとして判断自体はおこないましたが、最終的には無効として、控訴棄却しました。

事案に鑑み、争点7(乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の当否)について、まず判断する。
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)イ のとおり、乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁は、時機に後れた攻撃防御方法であるとしてその却下を求めるが、この防御方法の提出が訴訟の完結を遅延させるものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討する。
(2) 無効理由の解消の有無等について
事案に鑑み、仮に、本件訂正が適法であり、本件訂正により本件訂正発明と乙22発明との間に当事者の主張に係る相違点が全て生じるとした場合、乙22発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消されるかをまず検討する。
ア 本件訂正発明1
相違点22−6ないし相違点22−8の容易想到性
相違点22−6ないし相違点22−8は、前記第2の4(1)イ aのと おり、本件訂正発明1において、1)閲覧者がWebブラウザに対して閲 覧指示を行った段階においては、Webブラウザは閲覧指示に対応する HTMLをサーバに要求するだけであること(相違点22−6)、2)サー バはWebブラウザからの要求に従い、画像表示に必要な演算を実行す\nる、HTMLに記述されたJavaScriptをWebブラウザに送信すること (相違点22−7)、3)WebブラウザがHTMLに記述されたJavaScr iptを受信する前に表示領域内に表\示する分割画像を特定する演算を行 わないこと(相違点22−8)というものであるのに対し、乙22発明 は、地図データの要求をサーバに送信するまでの間に、ディスプレイに 表示する地図データ(メッシュ地図)を特定する演算を行っているとい\nうものである。 Webブラウザを用いた表示では、閲覧者がWebブラウザに対して\n閲覧指示を行うと、Webブラウザが閲覧指示に対応するHTMLをサ ーバに要求し、サーバが要求に対応するHTMLをWebブラウザに送 信し、Webブラウザが受信したHTMLに基づいて表示を行うという\n表示ステップを経るというようなプログラム上の取決めがあることは顕\n著な事実であるところ、このようなHTMLを用いるWebブラウザの 処理におけるプログラム上の取決めがある以上、閲覧者がWebブラウ ザに対して閲覧指示を行った段階では、Webブラウザは閲覧指示に対 応するHTMLをサーバに要求するだけであり、WebブラウザがHT MLを受信する前の段階では、Webブラウザによって当該HTMLに 基づくいかなる処理も実行されることがないことは、上記取決めから生 じる当然の帰結にすぎない。 そして、JavaScriptは、HTMLに直接記述されるか、あるいはHT MLによって読み出される外部ファイルに記述されるかのいずれでもよ いものであることは、本件特許出願時の技術常識と認められるから(甲 46、48、49)、当業者は適宜それを使い分ければよく、Webブラ ウザにおいてJavaScriptを用いたときにJavaScriptがHTMLに直接記述されることは当業者の自然な選択の一つにすぎず、その選択をした場 合、WebブラウザがHTMLを受信する前に当該HTMLに直接記述 されたJavaScriptを実行しないことはいうまでもない。 そうすると、Webブラウザを採用して動的表示をJavaScriptを用い\nて実行しようとするならば、当業者が適宜になす自然な選択の結果、ほ ぼ必然的に相違点22−6ないし相違点22−8に係る本件訂正発明1 の構成をとることになるのであって、当該構\成についてとりたてて創意 を発揮する余地はない。そうであるところ、前記2(1)のとおり、本件特 許出願当時において、Webクライアントによる動的表示を行う処理を\nWebブラウザでJavaScriptを用いて行うことは周知慣用技術であり、 そして、この周知慣用技術を適用すればそれに起因して相違点22−6 ないし22−8の本件訂正発明1の構成となるというのであれば、上記\n相違点に係る本件訂正発明1の構成は容易に想到し得るものというほか\nない。
・・・
時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)ア のとおり、被告地図表示方法の本件\n発明17の充足性に関する主張は、時機に後れた攻撃防御方法であると してその却下を求めるが、この攻撃方法の提出が訴訟の完結を遅延させ るものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討 する。
相違点22−17−1の容易想到性について
a 本件訂正発明17は、本件訂正発明1について、1)同じ内容の画像 データを2)複数の倍率で有すること、3)各倍率の画像を構成する分割\n画像の画素数は表示倍率に関わらず一定であること、4)分割画像の分 割数は倍率が低い画像ほど少なく、倍率が高い画像ほど多いこととの 限定を付したものであるところ、乙22発明は、上記のような構成を\n有するとは特定されていない。
b 乙10文献には別紙9のとおりの記載がある。これによると、乙10技術として、次のような技術が記載されているものと認められる。 クライアントから要求される画像の指定、表示範囲の指定の変化に\n関わらず、高速かつ一定時間内に高精細画像を表示するためのデータ\n構造を備える高精細画像表\示装置を提供することを目的とするもので あって(【0006】)、 サーバに格納される画像データのデータ構造が、複数段階の解像度\nの画像を有するものであり(【0024】ないし【0026】、【図2】)、 それぞれ解像度の画像はそれぞれpピクセル×pピクセルのブロッ クに分割されて保持され、個々のブロックを単位としてアクセスされ るものであって、個々のブロックを構成する画素数は解像度に関わら\nず同じであり(【0028】、【0029】、【図3】)、 ブロックの分割数は解像度が少ない画像ほど少なく、解像度が高い 画像ほぼ多い状態であり(【図3】)、 クライアント側の表示装置において表\示される表示枠に関連する各\nブロックの画像データを、サーバからクライアントに伝送して表示す\nる技術(【0031】、【0032】)。
c 本件訂正発明1が乙22発明により容易に想到できるものであるこ とは、前記アにおいて判示したとおりであるところ、乙10技術は、 相違点22−17−1の構成に係る分割画像の格納形態を開示するも\nのであり、本件訂正発明17と乙10技術は、分野を同一とするもの であって表示領域より大きい画像データを領域分割し、表\示装置に対 応する分割画像を送信して表示することにより表\示を高速化するとい う機能も共通するものであるから、乙22発明の分割画像の格納形態\nとして、乙10文献記載の分割画像の格納形態を採用して、相違点2 2−17−1に係る本件訂正発明17の構成とすることは容易に想到\nできる。
控訴人らの主張について
控訴人らは、前記第2の4(1)イ e(g)のとおり、乙10技術は、個々 の分割画像(ブロック)を送信しているわけでもないし、同じ画像を複 数の倍率でかつ倍率ごとにそれぞれ複数の領域で分割してサーバから送 信しているわけではないから、乙22発明に乙10技術を適用して本件 訂正発明17の構成とすることは容易に想到できない旨主張するが、乙\n10技術の分割画像の送信手法と分割画像の格納形態とは、特に必須に 結合しているわけではなく、それぞれ独立した技術事項であるから、乙 10技術の送信手法までを乙22発明に適用する必要はなく、乙10の 分割画像の格納形態のみを採用することに阻害要因も見当たらない。 したがって、上記主張を採用することはできない。

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1審はこちら。

◆令和1(ワ)21901

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令和3(ワ)14272  登録ドメイン名使用権確認請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年4月28日  東京地方裁判所

JPドメイン紛争処理手続において登録が取り消された裁定の取り消しを求めましたが、東京地裁は、裁定を維持しました。

2 争点2(紛争処理方針4条a項(iii)号の要件を満たすか)について
当事者の主張に沿って、紛争処理方針4条b項(iv)号所定の事情の有無につ いて検討する。
商業上の利得を得る目的の有無について
原告が「商業上の利得を得る目的」で本件ドメイン名を使用していること は当事者間に争いがない。 商品の出所について誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネッ ト上のユーザーを本件サイト等に誘引するために、本件ドメイン名を使用し ているか否かについて
ア 証拠(乙1ないし5)によれば、本件販売契約2の終了後である令和3 年2月8日当時、本件サイトにおいて、「VENOSAN」ブランドの被告 の商品が販売されていたことが認められる。 そして、本件サイトには、当該商品の商品名として「VENOSAN5 000」、「VENOSAN6000」、「VENOSAN7000」などと 記載されるとともに(乙1・1頁、乙2・6頁、乙3・1頁)、当該商品に 関連して、「スイス医療ブランド」(乙3・4頁)、「スイスのデザイン力」 (乙3・4頁)、「区分スイス製・一般医療機器(医療機器届出番号13B 3X10094000001)」(乙3・6頁)、「最新の弾性ストッキング がスイスから上陸しました。」(乙4・2頁)と記載されていたことが認め られる。
イ(ア) 加えて、令和3年2月8日当時、本件サイトにおいて、次の記載がさ れていたことが認められる(乙5)。 「2020年、ベノサンから新しくFOOTNURSEが誕生しま す!」「FOOTNURSEは、医療用着圧ソックスとして大ブレイクし\nた『ベノサン』から新しく誕生したブランドです。もともと『医療用』 に開発されていたベノサンの着圧ソックスが、このたび『健康な女性用』\nに新たなブランドを立ち上げました。」
(イ) また、令和3年9月22日当時、ベノサンジャパンが開設していたウ ェブサイトには、次の記載がされていたことが認められる(乙13)。 「FOOTNURSEは、…一般医療機器としてもしっかり認定され ています(医療機器届出番号13B3X10094000001)。」(同 3枚目)、「その点FOOTNURSEは、創業1883年の医療用弾性 ストッキングを50年以上にわたって製造している着圧ソックスの本場\n『SWISSLASTIC社』と、『ベノサン・ジャパン』が企画力・技 術力を結集させて、丁寧に編み込まれていますので…」(同4枚目)。
(ウ) そして、原告は、令和3年9月3日当時、被告と関係のない「FOO TNURSE」ブランドの商品をインターネット上のオンラインストア で販売していたことが認められる(乙7)。
ウ 前記アにおいて認定した本件サイトの記載を見た需要者は、「VENOS AN」という標章は、本件サイトで販売されている医療用弾性ストッキン グについてのスイス所在の製造元又は同製造元が使用するブランド名を示 すものと理解するのが通常と考えられる。また、「ベノサン」は「VENO SAN」の日本語読みに相当することからすると、前記イ(ア)の記載を見た 需要者は、「FOOTNURSE」ブランドの商品についても、「VENO SAN」ブランドの医療用弾性ストッキングと同じ製造元の商品であると 理解するといえる。また、前記1(3)アにおいて認定したとおり、本件サイ トのヘッダー部分に本件サイトを運営する会社又は店舗の名称と解し得る 態様で「ベノサン」との標章が付されていたことも考慮すると、上記記載 を見た需要者は、「FOOTNURSE」ブランドの商品も、「VENOS AN」ブランドの医療用弾性ストッキングと同じ製造元の商品であると誤 信したり、本件サイトが当該製造元、当該製造元の正規販売代理店又は当 該製造元と提携する者などによって運営されていると誤信するおそれがあ ると認められる。 そして、前記イ(イ)のとおり、「FOOTNURSE」ブランドの商品は 被告と何ら関係がないにもかかわらず、ベノサンジャパンが開設していた ウェブサイトに、「FOOTNURSE」ブランドの商品に被告が関与して いると理解できる程度の記載がされていることからすると、本件サイトの 前記イ(ア)の記載は、原告が、「FOOTNURSE」ブランドの商品の出 所について誤認混同を生ぜしめることを意図して掲載したものと認めるの が相当である。
エ 以上によれば、原告は、「FOOTNURSE」ブランドの商品の出所に ついて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザ ーを本件サイト又はベノサンジャパンが開設していたウェブサイトに誘引 するために、本件ドメイン名を使用していると認められる。
原告の主張について
ア 原告は、令和3年2月当時、本件サイトにおいて「ベノサン」と「ベノ サンジャパン」との使い分けが適切にできていなかったにすぎないと主張 する。 しかし、前記イ(イ)のとおり、「FOOTNURSE」ブランドの商品は 被告と何ら関係がないにもかかわらず、ベノサンジャパンが開設していた ウェブサイトに、「FOOTNURSE」ブランドの商品に被告が関与して いると理解できる程度の記載がされていることからすると、本件サイトの 前記イ(ア)の記載が単なる使い分けに関する過誤によるものであるとは考え 難い。
イ また、原告は、「VENOSAN」という名称が被告のブランドとして日 本国内で認知されていないから、原告が日本国内で認知されていない被告 の商品との誤認混同を生ぜしめることを意図すること自体あり得ないなど と主張する。 しかし、本件サイトを見た需要者が、「FOOTNURSE」ブランドの 商品の出所は被告であると具体的に認識しなくとも、「VENOSAN」ブ ランドの医療用弾性ストッキングと同じ製造元の商品であると理解するこ とになれば、商品の出所について誤認混同が生ずることになるから、「VE NOSAN」との名称が被告のブランドとして日本国内で認知されている 必要があるとはいえない。
ウ したがって、原告の前記各主張を採用することはできない。
小括 以上によれば、紛争処理方針4条b項(iv)号所定の事情があると認められ るから、その余の点について判断するまでもなく、紛争処理方針4条a項 (iii)号の要件を満たす。

◆判決本文
関連事件です。

◆令和3(ワ)18318

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令和3(ワ)13895 損害賠償等請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年4月27日  東京地方裁判所

ビクトリノックスの黒字に白十字を二重の外枠で囲った登録商標についての、商標権侵害訴訟です。東京地裁は約1400万円の支払い(3項侵害で使用料4%)を命じました。

2 争点2(商標法4条1項1号該当事由の有無)について
被告は、本件商標はスイスの国旗と類似するから、商標法4条1項1号に該当 する事由があると主張する。 しかしながら、本件商標は、前記1(2)認定のとおりであるのに対し、スイスの 国旗は、正方形と、その内部(中央)に位置する幅広で白色の十字から成り、正\n方形の内部は、白色である上記十字部分を除いて赤色である。そうすると、本件\n商標及びスイスの国旗は、幅広の十字を内部に有するという点において共通する\nものの、スイスの国旗は、正方形であって白色の外縁部分がなく、内部の十字部\n分を除いた部分が鮮やかな赤色である点において相違するものと認められる。 上記共通点及び相違点の形状及び色彩を踏まえると、本件商標とスイスの国旗 は、中心的かつ全体的構成を占める図形の形状及び色彩において明らかに相違す\nるものであることが認められる。そうすると、本件商標は、スイスの国旗と同一 又は類似の商標に該当するものと認めることはできない。
・・・
(3) 使用料率について
本件商標の実施に対し受けるべき料率を検討するに、前提事実、後掲各証拠 及び弁論の全趣旨によれば、1)経済産業省知的財産政策室「ロイヤルティ料率 データハンドブック」(平成22年)において、商標権におけるロイヤルティ 料率の平均値は2.6%であること(なお、商標分類の18類については、サ ンプル数は0とされている。)(乙32)、2)原告は、長年の間、「WENG ER」ブランドとして世界的に著名なアーミーナイフを製造販売していたが、 現在は同ブランドとして時計やバッグを製造販売し、本件商標を付したかばん 製品を販売していること(甲24ないし27)、3)インターネット上のショッ ピングサイトにおいて、本件商標が付された原告商品(かばん製品)が販売さ れており、原告商品と被告商品とは競合すること(甲16)、以上の事実が認 められる。
そして、商標法38条3項による「受けるべき利益」の算定の基礎となる相 当使用料率は、侵害があったことを前提として合意されるべきものであるから、 通常の料率よりも自ずと高くなることに鑑み、上記認定事実を含め本件に現れ た一切の事情を総合考慮すると、その料率は売上高の4%であると認めるのが 相当である。 なお、被告は、損害不発生の抗弁も主張するが、上記において説示したとこ ろによれば、その主張は、採用の限りではない。
(4) 損害額について
ア 商標法38条3項に基づく損害額
したがって、商標法38条3項に基づく損害額は、次の計算式のとおり、 1254万7659円となる(小数点第一位で四捨五入)。 (計算式) 3億1369万1471円×4%≒1254万7659円
イ 弁護士費用
本件事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に鑑みると、これと相当 因果関係があると認められる弁護士費用相当損害額は、1254万7659 円の1割(小数点第一位で四捨五入)である125万4766円の限度で認 めるのが相当である。
ウ 合計額
以上によれば、本件の損害額は、1380万2425円となる。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和2(ネ)10060

本件商標の不使用取消審判の審取です。

◆平成29年(行ケ)10033

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令和5(ネ)10030  特許権移転登録手続請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年6月22日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 在職中の職務発明であって原告が特許を受ける権利を有しているとして、移転登録を求めましたが、大阪地裁・知財高裁とも、これを認めませんでした。

ところで、控訴人の主張を前提とすると、本件各発明が完成したのは平成3 0年5月頃ということになるが、証拠(乙1)によると、同年5月時点において、 控訴人には就業規則(平成25年4月1日施行)が存在しており、職務発明につい て次のとおり規定されていた。
「(特許、発明、考案等の取扱い)
第84条 社員が自己の現在又は過去における職務に関連して発明、考案をした 場合、会社の要求があれば、特許法、実用新案法、意匠法等により特許、登録を受 ける権利又はその他の権利は、発明者及び会社が協議のうえ定めた額を会社が発明 者である社員に支払うことにより、会社に譲渡又は継承されるものとする。」 上記規定からすると、平成30年5月頃、控訴人とその従業員との間には、職務 発明について、控訴人の要求があるときに、控訴人が発明者である従業員に対し、 協議して定めた額の金員を支払うことにより、特許を受ける権利が発明者から控訴 人に移転する旨の合意があったものと認めるのが相当であり、控訴人とその従業員 の間に、職務発明についての特許を受ける権利を、控訴人が原始取得する旨の合意 があったと認めることはできない。
(3) 控訴人は、前記(2)の就業規則の規定は空文化されており、控訴人と従業員 との間で、職務発明について控訴人に原始取得する旨の黙示の合意があり、そのこ とは、1)控訴人において、就業規則の規定にのっとった手続が行われたことがなか ったこと、2)被控訴人代表者が、平成29年7〜8月に控訴人を出願人として職務\n発明について特許出願をしたが、控訴人は特許を受ける権利の移転を要求しておら ず、また、承継対価の額についての協議や対価の支払を行わなかったこと、3)従前 からの取扱いを確認する形で平成30年9月3日に甲12規程が制定されたこと、 4)本件各発明の共同発明者が、本件各発明についての特許を受ける権利が控訴人に 原始的に帰属する旨認めていること、5)被控訴人代表者が大王製紙と控訴人との間\nの取引を奪うことを目的として、控訴人において本件各発明についての特許出願を したことから、明らかであると主張する。
ア しかしながら、控訴人の就業規則の附則(4)により、同就業規則の改廃は 社員(従業員)の代表者の意見を聴いて行うものとされているところ(乙1)、控\n訴人において、就業規則の規定を変更するための手続が執られたことはなく、控訴 人とその従業員との間で、職務発明について就業規則の規定にかかわらず、特許を 受ける権利を控訴人に原始取得させることについての協議がされた等の事情もうか がえないのであるから、控訴人と従業員との間で上記黙示の合意が成立していたも のと認めることはできず、控訴人と被控訴人代表者との間でも、控訴人の主張する\n黙示の合意がされたことを認めるに足りる証拠はないというほかない。職務発明に 係る特許を受ける権利を使用者である控訴人に原始取得させることは、従業員にと って、就業規則を不利益に変更するものであるところ、控訴人において、職務発明 の出願に関して、就業規則の規定にのっとった手続が行われたことがなかったこと をもって、何らの協議を経ることもなく、直ちに、就業規則が変更されたとか、控 訴人と従業員らとの間で、就業規則とは異なる内容の合意が成立したなどと認める ことはできない(上記1))。
イ また、被控訴人代表者が、職務発明について、特許事務所に対して、控訴人\nを出願人とする特許出願手続を依頼したことがあったという事実については、控訴 人を出願人とする特許出願手続を依頼することにより、被控訴人代表者が、控訴人\nに対して、特許を受ける権利を移転する旨の意思表示をしたとみることもできるの\nであって、上記事実をもって、控訴人と被控訴人代表者との間に、職務発明につい\nての特許を受ける権利を控訴人が原始取得する旨の黙示の合意があったと認めるこ とはできない(上記2))。
ウ そして、甲12規程には、「職務発明については、その発明が完成した時に、 会社が特許を受ける権利を取得する。」との規定があり(第4条)、職務発明につい ての特許を受ける権利が控訴人に原始的に帰属する旨定められているものの、甲1 2規程が適法に制定されたものであったとしても、控訴人の主張する本件各発明の 完成日(平成30年5月頃)よりも後の同年9月3日に制定されたものであるとい うのであるから(甲12)、同日までに既に発生している特許を受ける権利の帰属 を原始的に変更することができるものではなく、このことは、甲12規程において、 平成26年1月1日以降に完成した発明に適用する旨規定されていることを考慮し ても変わりはない(上記3))。
エ さらに、共同発明者であるとされる控訴人従業員の現時点における認識や、 被控訴人代表者の本件各発明の特許出願時の意図について、仮に控訴人の主張する\nとおりであったとしても、これらの事項は、本件各発明の特許を受ける権利の帰属 に影響しない(上記4)及び5))。 そうすると、控訴人の主張はいずれも採用できない。

◆判決本文
1審はこちら。

◆令和4(ワ)1848

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令和5(行ケ)10017  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年6月22日  知的財産高等裁判所

「REIGN」の欧文字及び小さく「TOTAL BODY FUEL」の欧文字を二段表記した商標から、「REIGN」だけを抽出できるのか?、およびデザイン化「I」の違いによる類似性について争われました。知財高裁は、特許庁の抽出できる・類似するとした審決を維持しました。\n

ウ 「I」又は「i」と「!」は、外観が類似していることから、日本国民にとって、「!」の文字から「I」又は「i」を連想して「アイ」又は「イ」と読むことが難しいとはいえないことに加え、前記イの各使用例においては、「!」又は「!」の文字をデザイン化(ただし、「!」の文字であることが容易に読み取れる限度におけるデザイン化である。以下同じ。)したものをもって、「I」又は「i」と読ませることを意図しているものであることが明らかであり、名称等を表すロゴや文字列において、「I」又は「i」に代えて「!」又は「!」の文字をデザイン化したものを用いる手法が一般的に用いられていることからすると、このようなロゴや文字列を見た取引者、需要者は、「!」又は「!」の文字をデザイン化したものをもって、「I」又は「i」と読むものと認識、理解すると認めるのが相当である。
エ そうすると、引用商標である「RE!GN」は、取引者、需要者をして「R EIGN」を意味するものと認識、理解されると認めるのが相当である。
・・
3 本願商標と引用商標の類否
(1) 本願要部(「REIGN」の文字部分)と引用商標とを比較すると、その外観はフォントがやや異なっており本願商標の方が太い文字であること及び3文字目が本願要部では欧文字の「I」であるのに対し、引用商標では「I」の下に「★」を配したもので、「!」の文字をデザイン化したものである点において異なるものの、本願要部と引用商標は、それが表す文字列が同一であること、引用商標の3文字目のデザイン化の程度が著しいとはいえず、欧文字の「I」に近いものであることを考慮すると、そのデザインの差異により見る者に与える印象の差異が大きいということはできず、外観において近似しているというべきである。そして、文字列が同一であって、称呼及び観念が共通することからすると、本願要部と引用商標は、外観において近似しており、また、称呼及び観念を共通にし、同一又は類似の商品又は役務について使用するときは、その商品又は役務の出所について誤認混同が生じるおそれがあるというべきであるから、互いに類似する。\n

◆判決本文
#知財 #訴訟 #商標 #結合商標 #抽出 #分離 #類似 #デザイン化

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令和4(ネ)10046  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

知財高裁(大合議)は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」と判断しました。
 損害額については、ほぼ伏せ字になっています。102条3項の侵害は料率2%で計算し、それよりも2項侵害の額の方が大きくて最終的に約1100万円の損害賠償が認定さられています。
 なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。概要だけはすぐにアップされていましたが、全文アップは約1ヶ月かかりました。

ア 被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行為が本件発 明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に該当するか否 かについて
(ア) はじめに
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末 装置を備えるコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の 発明であるところ、その実施行為としての物の「生産」(特許法2条3 項1号)とは、発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為をい うものと解される。 そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介 して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(以下「ネットワーク型システム」という。)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構\成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有す るようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいう ものと解される。 そこで、被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行 為が本件発明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に 該当するか否かを判断するに当たり、まず、被告サービス1のFLAS H版において、被告システム1を新たに作り出す行為が何かを検討し、 その上で、当該行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか及び 当該行為の主体について順次検討することとする。
(イ) 被告サービス1のFLASH版における被告システム1を新たに 作り出す行為について
a 被告サービス1のFLASH版においては、訂正して引用した原判 決の第4の5(1)ウ(ア)のとおり、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定する(2))と、それに伴い、被控訴人FC2のウェブ サーバが上記ウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを ユーザ端末に送信し(3))、ユーザ端末が受信した、これらのファイ ルはブラウザのキャッシュに保存され、ユーザ端末のFLASHが、 ブラウザのキャッシュにあるSWFファイルを読み込み(4))、その 後、ユーザが、ユーザ端末において、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押す(5))と、上記SWFフ ァイルに格納された命令に従って、FLASHが、ブラウザに対し動 画ファイル及びコメントファイルを取得するよう指示し、ブラウザが、 その指示に従って、被控訴人FC2の動画配信用サーバに対し動画フ ァイルのリクエストを行うとともに、被控訴人FC2のコメント配信 用サーバに対しコメントファイルのリクエストを行い(6))、上記リ クエストに応じて、被控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイ ルを、被控訴人FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、 それぞれユーザ端末に送信し(7))、ユーザ端末が、上記動画ファイ ル及びコメントファイルを受信する(8))ことにより、ユーザ端末が、 受信した上記動画ファイル及びコメントファイルに基づいて、ブラウ ザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\と なる。このように、ユーザ端末が上記動画ファイル及びコメントファ イルを受信した時点(8))において、被控訴人FC2の動画配信用サ ーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末はインターネットを利用 したネットワークを介して接続されており、ユーザ端末のブラウザに おいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる から、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の 全ての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り 出されたものということができる(以下、被告システム1を新たに作 り出す上記行為を「本件生産1の1」という。)。
b これに対し、被控訴人らは、1)被告各システムの「生産」に関連す る被控訴人FC2の行為は、被告各システムに対応するプログラムを 製作すること及びサーバに当該プログラムをアップロードすることに 尽き、いずれも米国内で完結しており、その後、ユーザ端末にコメン トや動画が表示されるまでは、ユーザらによるコメントや動画のアップロードを含む利用行為が存在するが、ユーザ端末の表\示装置は汎用ブラウザであって、当該利用行為は、本件各発明の特徴部分とは関係 がない、2)被告システム1において、ユーザ端末は、被控訴人FC2 がサーバにアップロードしたプログラムの記述並びに第三者が被控訴 人FC2のサーバにアップロードしたコメント及び被控訴人FC2の サーバにアップロードした動画(被告システム2及び3においては第 三者のサーバにアップロードした動画)の内容に従って、動画及びコ メントを受動的に表示するだけものにすぎず、ユーザ端末に動画やコメントが表\示されるのは、既に生産された装置(被告各システム)をユーザがユーザ端末の汎用ブラウザを用いて利用した結果にすぎず、 そこに「物」を「新たに」「作り出す行為」は存在しない、3)乙31 1記載の「一般に、通信に係るシステムはデータの送受を伴うもので あるため、データの送受のタイミングで毎回、通信に係るシステムの 生産、廃棄が一台目、二台目、三台目、n台目と繰り返されることま で「生産」に含める解釈は、当該システムの中でのデータの授受の各 タイミングで当該システムが再生産されることになり、採用しがたい」 との指摘によれば、被控訴人FC2の行為は本件発明1の「生産」に 該当しないというべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、被控訴人FC2が被告システム1に 対応するプログラムを製作すること及びサーバに当該プログラムをア ップロードすることのみでは、前記aのとおり、本件発明1の全ての 構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が完成していないと いうべきである。
2)については、前記aのとおり、被控訴人FC2の動画配信用サー バ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインターネットを利用し たネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必要なファイルを受 信することによって、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能\を 備えた被告システム1が新たに作り出されるのであって、ユーザ端末 が上記ファイルを受信しなければ、被告システム1は、その機能を果たすことができないものである。
3)については、上記のとおり、被告システム1は、被控訴人FC2 の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインタ ーネットを利用したネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必 要なファイルを受信することによって新たに作り出されるものであり、 ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存されたファイルが廃棄され るまでは存在するものである。また、上記ファイルを受信するごとに 被告システム1が作り出されることが繰り返されるとしても、そのこ とを理由に「生産」に該当しないということはできない。 よって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(ウ) 本件生産1の1が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否か について
a 特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、 移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が 当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものであると ころ(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷 判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12年(受)第580 号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参 照)、我が国の特許法においても、上記原則が妥当するものと解され る。 前記(イ)aのとおり、本件生産1の1は、被控訴人FC2のウェブ サーバが、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを国内のユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、また、被控訴人FC2の動画配\n信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2のコメント配信用サー バがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信し、ユーザ端末 がこれらを受信することによって行われているところ、上記ウェブサ ーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバは、いずれも米国 に存在するものであり、他方、ユーザ端末は日本国内に存在する。す なわち、本件生産1の1において、上記各ファイルが米国に存在する サーバから国内のユーザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信 することは、米国と我が国にまたがって行われるものであり、また、 新たに作り出される被告システム1は、米国と我が国にわたって存在 するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生産1の1が、 我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題とな る。
b ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(以下、単に 「国外」という。)に設置されることは、現在、一般的に行われてお り、また、サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システム の利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵害物件であ るネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構\成する端末が日本国内(以下「国内」という。)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用するこ とは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義\nの原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえす\nれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る 特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。他方で、当該システムを構\成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を 生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。 これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許 権を適切に保護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り 出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについ ては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構\成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考\n慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができる ときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当 である。
これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的 態様は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが 送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われ るものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、 国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム 1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観 念することができる。 次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人FC2のサー バと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明1の主要な機能\である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表\示されるように するために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能\と構成要件1Gの表\示位置制御部の機能を果たしている。
さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利 用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケー ションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現し ており、また、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係る システムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るもので ある。
以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内 で行われたものとみることができるから、本件発明1との関係で、特 許法2条3項1号の「生産」に該当するものと認められる。
c これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の 効力が当該国の領域においてのみ認められる」のであるから、海外 (国外)で作り出された行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当 しないのは当然の帰結であること、権利一体の原則によれば、特許発 明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施することをいうことからすると、一部であっても海外で作り出されたものがある場合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきであ\nる、2)特許回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要 件を満たす物の一部さえ、国内において作り出されていれば、「生産」 に該当するというのは論理の飛躍があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判例においては、 カードリーダー事件の最高裁判決(前掲平成14年9月26日第一小 法廷判決)等により属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、そ の例外を設けることの悪影響が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは立法によってされるべきである旨主張する。\n
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に 関し、被疑侵害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法 2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システム を構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、前記bに説示した事情を総合考慮して、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生\n産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することがで きない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否か の上記判断は、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすというものではないから、2) の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特 許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定めら れ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意 味することに照らすと、上記のとおり当該行為が我が国の領域内で行 われたものとみることができるときに特許法2条3項1号の「生産」 に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しないというべ きである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁 判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たる ためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内において完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、また、我が国が締結した条約及び特\n許法その他の法令においても、属地主義の原則の内容として、「生産」 に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要であることを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用する ことができない。 したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(エ) 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)を 「生産」した主体について
a 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)は、 前記(イ)aのとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが、所望の動画 を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存された上記SWF\nファイルによる命令に従ったブラウザからのリクエストに応じて、被 控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2 のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末 に送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって、新たに作り 出されたものである。そして、被控訴人FC2が、上記ウェブサーバ、 動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設置及び管理しており、 これらのサーバが、HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファ イル並びにコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末によ る各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介することなく、 被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、 自動的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生 産」した主体は、被控訴人FC2であるというべきである。
この点に関し、被告システム1が「生産」されるに当たっては、 前記(イ)aのとおり、ユーザが、ユーザ端末のブラウザにおいて、所 望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定すること(2))と、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すこと(5))が必要とされるところ、上記のユ ーザの各行為は、被控訴人FC2が設置及び管理するウェブサーバに 格納されたHTMLファイルに基づいて表示されるウェブページにおいて、ユーザが当該ページを閲覧し、動画を視聴するに伴って行われる行為にとどまるものである。すなわち、当該ページがブラウザに表\示されるに当たっては、前記のとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが当該ページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末 に送信し、ユーザ端末が受信したこれらのファイルがブラウザのキャ ッシュに保存されること(4))、また、動画ファイル及びコメントフ ァイルのリクエストについては、上記SWFファイルによる命令に従 って行われており(6))、上記動画ファイル及びコメントファイルの 取得に当たってユーザによる別段の行為は必要とされないことからす れば、上記のユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブペ ージの閲覧を通じて行われるものにとどまり、ユーザ自身が被告シス テム1を「生産」する行為を主体的に行っていると評価することはで きない。
b これに対し、被控訴人らは、1)米国に存在するサーバが、ウェブペ ージのデータ、JSファイル(FLASH版においてはSWFファイ ル)、動画ファイル及びコメントファイルを送信することは、被控訴 人FC2が行っているのではなく、インターネットに接続されたサー バにプログラムを蔵置したことから、リクエストに応じて自動的に行 われるものであり、因果の流れにすぎない、2)日本(国内)に存在す るユーザ端末が、上記ウェブページのデータ、JSファイル(SWF ファイル)、動画ファイル及びコメントファイルを受信することは、 ユーザによるウェブページの指定やウェブページに表示された再生ボタンをユーザがクリックすることにより行われ、ユーザの操作が介在しており、また、仮に被控訴人FC2が1)の送信行為を行っていると しても、特許法は、「譲渡」と「譲受」、「輸入」と「輸出」、「提供」 と「受領」を明確に区分して規定している以上、被控訴人FC2が上 記受信行為を行っていると解すべきではない旨主張する。
しかしながら、1)については、前記aのとおり、被控訴人FC2 が、ウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設 置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファイル及びSW Fファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送 信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操 作を介することなく、被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプ ログラムの記述に従い、自動的に行われるものであることからすれば、 被告システム1を「生産」した主体は、被控訴人FC2であるという べきである。
また、2)については、前記aのとおり、ウェブページの指定やウ ェブページに表示された再生ボタンをクリックするといったユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブページの閲覧を通じて行われるにとどまるものであり、ユーザ端末による上記各ファイルの受\n信は、上記のとおりユーザによる別途の操作を介することなく自動的 に行われるものであることからすれば、上記各ファイルをユーザ端末 に受信させた主体は被控訴人FC2であるというべきである。 したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(オ) 小括
以上によれば、被控訴人FC2は、本件生産1の1により、被告シス テム1を「生産」(特許法2条3項1号)したものと認められる。
・・・
8 争点8(控訴人の損害額)について
(1) 特許法102条2項に基づく損害額について
ア 主位的請求関係について 控訴人は、被控訴人らが、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月 17日から令和4年8月31日までの間、被告各システムを生産し、被 告各サービスを提供することによって、●●●●●●●●●●円を売り 上げ、これにより被控訴人らが得た利益(限界利益)の額は、●●●● ●●●●●●円を下らず、このうち令和元年5月17日から同月31日 までの分(5月分)の売上高は●●●●●●●●円、限界利益額は●● ●●●●●●円を下らないと主張する。 しかしながら、控訴人が上記主張の根拠として提出する甲24によって、 上記の売上高及び限界利益額を認めることはできず、他にこれを認める に足りる証拠はない。 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
イ 予備的請求関係について
(ア) 本件生産1ないし3により「生産」された被告システム1ないし3 で提供された被告各サービスの割合 前記4のとおり、被控訴人FC2は、本件生産1により被告システム 1を、本件生産2により被告システム2を、本件生産3により被告シス テム3を「生産」し、本件特許権を侵害したものであり、本件生産1な いし3は、いずれも、サーバがユーザ端末に動画ファイル及びコメント ファイルを送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって行われ るものである。 しかるところ、被告各サービスで配信される動画でコメントが付され ているものの数は限られており、令和3年1月11日の時点において、 被告サービス1で公開された●●●●●●●●個の動画のうち、コメン トが付された動画は●●●●●●●個であり(乙85)、その割合は● ●●●パーセントであったこと、被告各サービスは、日本語以外の言語 でもサービスが提供されているものの、そのユーザの大部分は国内に存 在すること(甲9、弁論の全趣旨)からすれば、被告各サービスのうち、 本件生産1ないし3で「生産」された被告システム1ないし3によって 提供されたものの割合は、本件特許権が侵害された全期間にわたって● ●●パーセントと認めるのが相当である。
(イ) 被控訴人FC2の利益額(限界利益額)
a 被告サービス1関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和4年8月31日まで の期間の被告サービス1の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等\n一覧表の「限界利益額」欄の「被告サービス1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●●円であることが認められる。このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産1により「生産」\nされた被告システム1によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産1による売上高は、 ●●●●●●●●●●●円(●●●●●●●●●●●●円×●●●● ●)と認められ、被控訴人FC2が本件生産1により得た限界利益額 は、別紙7−2限界利益額算定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●円と認められる。
b 被告サービス2関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和2年10月31日 までの期間の被告サービス2の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス2」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等一\n覧表の「限界利益額」欄の「被告サービス2」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●円であることが認められる。このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産2により「生産」\nされた被告システム2によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産2による売上高は、 ●●●●●●円(●●●●●●●●円×●●●●●)と認められ、被 控訴人FC2が本件生産2により得た限界利益額は、別紙7−2限界 利益額算定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産2」欄記載のとおり、合計●●●●●●円と認められる。
c 被告サービス3関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和2年10月31日 までの期間の被告サービス3の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス3」欄記載のとおり、合計●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等一覧表\の「限界利益額」欄の「被告サービス3」欄記載のとおり、合計●●●●●●円であることが認められる。 このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産3により「生産」 された被告システム3によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産3による売上高は、 ●●●●円(●●●●●●円×●●●●●)と認められ、被控訴人F C2が本件生産3により得た限界利益額は、別紙7−2限界利益額算 定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産3」欄記載のとおり、合計●●●●円と認められる。
d まとめ
(a) 前記aないしcによれば、被控訴人FC2が本件生産1ないし 3により得た限界利益額は、別紙7−2限界利益額算定表の「限界利益額(消費税相当分(10%)を含む)」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●円と認められる。\n なお、被控訴人FC2は、仮に、本件において被控訴人FC2に 対する損害賠償の支払が命ぜられるとしても、消費税上輸出免税 の対象になる旨主張するが、被控訴人FC2による被告各サービ スの提供が輸出取引に当たることを認めるに足りる証拠はないか ら、被控訴人FC2の上記主張は理由がない。
(b) 以上のとおり、被控訴人FC2が本件生産1ないし3により得 た限界利益額は、合計●●●●●●●●●●●円であり、この限 界利益額は、特許法102条2項により、控訴人が受けた損害額 と推定される(以下、この推定を「本件推定」という。)。
(ウ) 推定の覆滅について
被控訴人らは、被告各サービスにおいて、本件各発明のコメント表示機能\が、システム全体の機能の一部であり、顧客誘引力を有していないことは、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張する。\n そこで検討するに、被告各サービスで配信されている動画で、その売 上高に貢献しているものの多くはアダルト動画であり(甲4の1及び2、 9、11、弁論の全趣旨)、動画上にコメントが表示されることが視聴の妨げになることは否定できないこと、令和3年1月11日の時点において、被告サービス1で公開された●●●●●●●●個の動画のうち、\nコメントが付された動画は●●●●●●●個であり(乙85)、その割 合は●●●●パーセントにとどまっていることに照らすと、被告各サー ビスにおいて、コメント表示機能\が果たす役割は限定的なものであって、 被告各サービスの多くのユーザは、コメント表示機能\よりも動画それ自 体を視聴する目的で利用していたものと認められる。そして、本件各発 明の技術的な特徴部分は、コメント付き動画配信システムにおいて、動 画上にオーバーレイ表示される複数のコメントが重なって表\示されるこ とを防ぐというものであり(前記1(2)イ)、その技術的意義自体も、上 記システムにおいて限られたものであると認められる。
以上の事情を総合考慮すると、被告各サービスの利用に対する本件各 発明の寄与割合は●●と認めるのが相当であり、上記寄与割合を超える 部分については、前記(イ)d(b)の限界利益額と控訴人の受けた損害額 との間に相当因果関係がないものと認められる。 したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるか ら、特許法102条2項に基づく控訴人の損害額は、上記限界利益額の ●割に相当するものであり、別紙4−2認容額内訳表の「特許法102条2項に基づく損害額」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●円と認められる。\n
(2) 特許法102条3項に基づく損害額について(予備的請求関係)
ア 特許法102条3項に基づく控訴人の損害額については、1)株式会社帝 国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の 在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルテ ィ料率に関する実態把握〜」(本件報告書)の「II).我が国のロイヤルテ ィ料率」の「1.技術分類別ロイヤルティ料率(国内アンケート調査)」 の「(2) アンケート調査結果」には、「特許権のロイヤルティ料率の平均 値」について、「全体」が「3.7%」、「電気」が「2.9%」、「コンピ ュータテクノロジー」が「3.1%」であり、「III).各国のロイヤルティ 料率」の「1.ロイヤルティ料率の動向」には、国内企業のロイヤルテ ィ料率アンケート調査の結果として、産業分野のうち「ソフトウェア」については「6.3%」であり、「2.司法決定によるロイヤルティ料率調査結果」の「(i)日本」の「産業別司法決定ロイヤルティ料率(20 04〜2008年)」には、「電気」の産業についての司法決定によるロ イヤルティ料率は、平均値「3.0%」、最大値「7.0%」、最小値 「1.0%」(件数「6」)であるとの記載があること、2)前記(1)イ(ウ) のとおり、本件各発明の技術的な特徴部分は、コメント付き動画配信シ ステムにおいて、動画上に複数のコメントが重なって表示されることを防ぐというものであり、その技術的意義は高いとはいえず、被告各サービスの購買動機の形成に対する本件各発明の寄与は限定的であること、\nその他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、本件生産1ないし3 による売上高に実施料率2パーセントを乗じた額と認めるのが相当であ る。
そして、本件生産1ないし3による売上高(消費税相当分(10パー セント)を含む。)の合計額は、●●●●●●●●●●●円(●●●●● ●●●●●●円+●●●●●●円+●●●●円(前記(1)イ(イ)aないし c記載の本件生産1ないし3の各売上高に消費税相当分(10パーセン ト)を加えた額の合計額))と認められるから、●●●●●●●●円(● ●●●●●●●●●●円×0.02)となる。 これに反する控訴人及び被控訴人らの主張はいずれも採用することが できない。
イ そして、控訴人の特許法102条2項に基づく損害額の主張と同条3項 に基づく損害額の主張は、選択的なものと認められるから、より高額な 前記(1)イ(ウ)の同条2項に基づく損害額合計●●●●●●●●●円が本 件の控訴人の損害額と認められる。

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令和3(ワ)10032    特許権  民事訴訟 令和5年6月15日  大阪地方裁判所

 特許権侵害訴訟にて、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時期に後れた主張であるので却下されました。

そして、対象製品等が特許発明の構成要件の一部を欠く場合であっても、当該\n一部が特許発明の本質的部分ではなく、かつ前記均等の他の要件を充足するとき は、均等侵害が成立し得るものと解される。 これに対し、被告は、対象製品等が構成要件の一部を欠く場合に均等論を適用\nすることは、特許請求の範囲の拡張の主張であって許されない旨を主張するが、 構成要件の一部を他の構\成に置換した場合と構成要件の一部を欠く場合とで区\n別すべき合理的理由はないし、本件において、原告は、被告製品には構成要件 C の「消弧材部」に対応する消弧作用を有する部分が存在し、置換構成を有する旨\n主張していると解されるから、被告の前記主張を採用することはできない。
イ 第1要件ないし第3要件
原告は、別紙「均等侵害の成否等」の「原告の主張」欄記載のとおり、本件発 明の本質的な構成部分は構\成要件のうち A-1 ないし A-3、B-3 及び B-4 であり、 構成要件 C は本件発明の課題解決方法に資するものではないとして、第1要件は 満たす旨主張するところ、被告もこれを積極的に争っていない。
一方、第2要件及び第3要件に関し、原告は、被告製品の構成 c の「接着剤で 接着することにより形成された密閉された空間26」が本件発明の構成要件 C の 「消弧材部」と同一の作用効果(消弧作用)を有することを示す実験報告書等(甲 13、14、32)を証拠提出する。これらは、被告製品と同じ構造を有する製\n品につき、ヒューズエレメント部が密閉構造である場合と、非密閉構\造である場 合又は端子一体型ヒューズ素子を取り出して遮断試験用基板に実装して遮断試 験を行った場合の、各アーク放電の持続時間を対比した結果、密閉構造のものは、\n非密閉構造等のものに比べ、同持続時間が2分の1ないし3分の1になったとい\nうものである。しかし、これらは、被告製品の「密閉された空間」と本件発明の 「消弧材部」の各作用効果の対比自体を行うものではないことに加え、被告が証 拠提出する試験報告書(乙16)によれば、被告製品、被告製品に消弧材部を設 けたヒューズ及び被告製品のヒューズ素子のみを対象として、アーク放電の持続 時間を記録したところ、被告製品が最も同時間が長かったという結果であったこ とが認められ、被告製品とヒューズ素子の各アーク放電の持続時間について、原 告が提出する実験報告書(甲14)と相反する結果となっている。そうすると、 原告が提出する前記証拠その他の事情等から、被告製品の構成 c が本件発明の構\n成要件 C と同様の作用効果を有するとまでは認め難いから、少なくとも第2要件 が満たされるとはいえない。
ウ 第4要件
前記イの点は措くとしても、以下のとおり、第4要件も満たさない。 被告は、被告製品の構成は、本件発明の特許出願時における公知技術(乙1発\n明)と同一又は当業者が乙1発明から出願時に容易に推考可能であった旨を主張\nする。
(ア) 乙1公報は、発明の名称を「表面実装超小型電流ヒューズ」とする公開特\n許公報であり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙1)。
・・・・
(イ) 乙1発明の構成\n
乙1発明がα-1、β-1 ないしβ-4 及びδの構成を有することは当事者間に争\nいがなく(別紙「均等侵害の成否等」の「第4要件」欄)、乙1公報の段落【0008】 【0016】【0018】【0020】及び【図2】(A)の記載内容に照らすと、α-2 及び γの構成を有するものと認められる。\nまた、被告主張のα-3 の構成(金属電極2の可溶線挟持部22に挟み込まれる\nことにより一体形成されている電極一体型ヒューズ)に関し、原告は、電極とヒ ューズが同一の金属によって一体的に形成されているとの趣旨であれば否認す ると述べるところ、乙1公報には、可溶線5は、両端部を金属電極2に挟持され 本体1の空間6に架張された可溶線を示す旨(同【0016】)、可溶線5の端部は 第1板部221と第2板部222とにより挟み込まれ、金属電極2に固定される 旨(同【0018】)の記載があることから、可溶線5と金属電極2は異なる部材で 構成され、可溶線5は、可溶線挟持部22において挟持されることによって金属\n電極2に接続されているものと認められる(α-3’)。 以上から、乙1発明の構成は、別紙「裁判所の認定」の「乙1発明の構\成」欄 記載のとおりとなる。
(ウ) 被告製品の構成\n
被告製品が a-1 ないし b-4 及び d の構成を有することは当事者間に争いがな\nく、構成 c を有することも実質的に争いがないから、被告製品の構成は、別紙「裁\n判所の認定」の「被告製品の構成」欄記載のとおりとなる。\n
(エ) 被告製品と乙1発明の対比
被告製品の a-1、a-2 及び b-1 ないし d の各構成は、それぞれ、乙1発明のα1、α-2 及びβ-1 ないしδの各構成と同一であるものと認められる。\nそこで、被告製品の構成 a-3 と乙1発明の構成α-3'が一致するかを検討する。 「一体」の字義は、「一つになって分けられない関係にあること」であるところ (広辞苑第七版)、被告製品は、別紙「被告製品写真」の3及び4に示されるよ うに、ヒューズ本体4と2つの平板状部10の部材が連続し、一つになって分け られないように形成されていることが明らかである。一方、乙1発明の可溶線5 と金属電極2は、異なる部材で構成され、また、可溶線5は、可溶線挟持部22\nにおいて挟持されることによって金属電極2に接続されていることから、可溶線 5と金属電極2は、同一材料で形成されておらず、一つになって分けられないよ うに形成されてもいない。 したがって、可溶線5と可溶線挟持部22は一体に形成されているとは認めら れず、乙1発明は構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しており、被告製 品は、公知技術と同一であるとはいえない。
(オ) 乙1発明と乙3発明に基づく容易推考性
被告は、乙1発明が構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しても、被告 製品の構成 a-3 は、乙1発明の構成α-3’を乙3発明の構成に置換することによ\nり、当業者にとって容易に推考可能である旨を主張する。\n
a 乙3公報は、発明の名称を「面実装型電流ヒューズ」とする公開特許公報で あり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙3)。
(a) 技術分野
「本発明は、過電流が流れると溶断して各種電子機器を保護する面実装型電流 ヒューズに関するものである。」
・・・・
(b) 背景技術
「従来のこの種の面実装型電流ヒューズは、図7に示すように、セラミックか らなるケース1と、このケース1の内部に形成された空間部2と、前記ケース1 の両端部に形成された外部電極3と、この外部電極3と電気的に接続された断面 が円形のヒューズエレメント部4とを備え、前記ヒューズエレメント部4の溶断 部5を前記ケース1の内部に形成された空間部2内に配設した構成としていた。」\n(【0002】)
(c) 発明が解決しようとする課題
「上記した従来の面実装型電流ヒューズにおいては、ヒューズエレメント部3 として同じ線径のものや同じ材料のものを使用しているため、線径や材料によっ て決まる溶断電流等の溶断特性を調整することができないという課題を有して いた。」(【0004】) 「本発明は上記従来の課題を解決するもので、溶断特性の調整ができる面実装 型電流ヒューズを提供することを目的とするものである。」(【0005】)
(d) 課題を解決するための手段
「本発明の請求項1に記載の発明は、絶縁性を有するケースと、このケースの 内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部電極と、この 外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設したヒューズエ レメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一部を切削する ことによって設けたもので、この構成によれば、ヒューズエレメント部の切削に\nよって溶断部の線径を調整できるため、溶断特性を調整することができるという 作用効果が得られるものである。」(【0007】) 「本発明の請求項3に記載の発明は、特に、ヒューズエレメント部と外部電極 とを一体の金属で構成したもので、この構\成によれば、ヒューズエレメント部と 外部電極とを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができると いう作用効果が得られるものである。」(【0009】)
(e) 発明の効果
「以上のように本発明の面実装型電流ヒューズは、絶縁性を有するケースと、 このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部 電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設し たヒューズエレメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一 部を切削することによって設けているため、この切削によって溶断部の線径を調 整でき、これにより、溶断特性を調整することができるという優れた効果を奏す るものである。」(【0016】)
(f) 発明を実施するための最良の形態
「図4、図5において、本発明の実施の形態2が上記した本発明の実施の形態 1と相違する点は、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の金属で 構成した点である。この場合、外部電極13はケース11の底部11aの端面お\nよび裏面に沿うように折り曲げている。」(【0035】) 「上記構成においては、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の\n金属で構成しているため、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを接続す\nる必要はなくなり、これにより、生産性を向上させることができるという効果が 得られるものである。」(【0036】) 【図4】 【図5】
b 容易推考性
(a) 乙3公報の発明の詳細な説明によれば、乙3発明は面実装型電流ヒュー ズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の面実装型電流ヒューズにおいて は、ヒューズエレメント部4として同じ線径のものや同じ材料のものを使用して いるため、線径や材料によって決まる溶断電流等の溶断特性を調整することがで きないという課題を有していたこと(同【0004】)に対し、絶縁性を有するケー スと、このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成され た外部電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を 配設したヒューズエレメント部とを備え、ヒューズエレメント部の切削によって 溶断部の線径を調整でき、溶断特性を調整することを可能としたものである(同\n【0007】【0016】)。そして、特に、ヒューズエレメント部と外部電極とを一体 の金属で形成する構成をとることによって、ヒューズエレメント部と外部電極と\nを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができるという効果を 奏すること(同【0009】【0036】)や、発明の実施の形態として、外部電極13 がケース11の底部11a の端面及び裏面に沿うように折り曲げられた形態が記 載されている(同【0035】【図4】【図5】)。 以上によれば、乙3公報には、面実装可能な小型ヒューズにおいて、生産性の\n向上を目的として、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外部電極を一体の 金属で形成するという乙3発明が開示されているといえる。
一方、乙1公報の発明の詳細な説明によれば、乙1発明は表面実装超小型電流\nヒューズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の表面実装小型電流ヒュー\nズは、可溶部あるいは可溶線が合成樹脂や低融点ガラス等の絶縁物に直接接触し た構造である場合、可溶部等が熱的中立性を保てず本来のヒューズとしての溶断\n性能がおろそかにされている問題(同【0002】〜【0004】)や、電極をケース内 に配置固定した後、電極間に可溶線を架張して半田付けする方式は、半田が固ま る際に生じる盛り上がりの差により電極間の長さ、すなわち、可溶線の長さにば らつきが生じるという問題があったこと(同【0005】)に加え、従来の小型ある いは超小型電流ヒューズは、各部品を一つ一つバッチ工程で加工組立てを行う必 要があり、部品が小さいためその作業は困難を極め、製造し難く、その結果、低 コスト化にも限界があるという問題があった(同【0006】)。これに対し、乙1 発明は、可溶線5を挟持した一対の金属電極2が箱型形状を有する本体1の両端 に取り付けられ、蓋部3を本体1の上面より僅かに沈む位置まで押し込み接着剤 を塗布して蓋部3を本体1に固定して内部を密閉し、可溶線は本体1の内部空間 に浮いた状態で架張されている構成をとることで(同【0008】)、溶断特性のば らつきを最小限に抑えることや従来型と比べて2倍以上大きい遮断能力を有す\nることを可能としたこと(同【0028】〜【0030】)に加え、連続工程で製作組立 を行うこと、特に、可溶線5を挟持した一対の金属電極2を組み立てた後に鞍部 21を本体1の双方の短側壁11に嵌合させて固定することにより、製造が容易 になって、大幅なコスト削減が可能となるという効果を奏するものである(同\n【0020】【0027】)。 そうすると、乙1発明と乙3発明は、いずれも表面実装型ヒューズに関する発\n明であり、その技術分野は同一である。また、乙1発明と乙3発明は、いずれも 生産性の向上という同一の課題に対し、予めヒューズと電極とを組み合わせた後\nに本体に固定するという技術思想に基づく課題解決手段を提供する発明である ことに加え、乙1発明の溶断時間のばらつきを抑えるという課題と乙3発明の溶 断特性を調整するという課題は、所望の溶断特性を実現するという点で関連して いるといえる。 したがって、乙1発明と乙3発明は、技術分野、課題及び解決手段を共通にす るから、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在するものと認められる。
(b) 原告の主張
原告は、乙1発明と乙3発明とは、その課題等が相違することのほか、乙3発 明において、ヒューズエレメント部の切削を容易にするためには、乙1発明のケ ース11は上下方向の中央で分割される必要があること、乙1発明の本体1の空 間部6内に乙3発明のヒューズエレメント部15を配置する場合、ヒューズエレ メント部15を切削する必要があるが、所望の抵抗値が得られるように切削する ことは実質的に不可能であることから、乙1発明に乙3発明を組み合わせること\nはその構成上不可能\であることなどの阻害要因があるとして、被告製品と乙1発 明の相違部分は、乙3発明から容易に推考できたとはいえない旨を主張する。 しかし、前記(a)のとおり、乙1発明と乙3発明の課題は同一又は関連してい る。また、乙3公報の発明の詳細な説明によれば、ヒューズエレメント部の切削 は、スクライブやパンチング等の機械的方法によって行うが、予めヒューズエレ\nメント部の切削をした後にケースに固定をしてもよい旨が記載されていること から(段落【0022】【0027】【0028】)、ヒューズエレメント部を切削するため に、ケースを上下方向の中央で分割する必要があることにはならない。また、乙 3発明を乙1発明に適用するに当たり、乙1発明の空間部6内に、外部電極と一 体の金属で形成され、溶断部を配設したヒューズエレメント部を配置することと なるが、空間部6内にヒューズエレメント部を配置する場合に、当該ヒューズエ レメント部を切削する必要が必ずしもあるともいえない(ヒューズエレメント部 の一部の切削は本体への配置前に行うことができる。)。その他、乙1発明に乙 3発明を組み合わせることについて阻害要因があることをうかがわせる事情は ない。 したがって、原告の前記主張は採用することができない。
(c) 以上から、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在し、これを阻害 する要因は認められないから、乙1発明の可溶線と金属電極は異なる部材で構成\nされる構成に代えて、乙3発明の、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外\n部電極部を一体の金属で形成する構成を採用して被告製品の構\成とすることは、 当業者が本件特許の出願時に容易に推考し得たものと認められ、被告製品は、均 等の第4要件を満たさない。
・・・
2 争点2(本件追加の可否)について
本件追加は、被告製品が、本件発明に係る請求項とは別の請求項記載の本件発 明2の技術的範囲に属するとして請求原因を主張し、本件特許権の侵害に基づく 各請求を追加するものであるから、訴えの追加的変更に当たると解するのが相当 であるところ、当裁判所は、本件追加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させ ることとなると認め、これを許さないこととする(民訴法143条1項ただし書、 同条4項)。
すなわち、本件追加に係る請求原因は、原告において、審理の当初から主張す ることが可能であったところ、令和4年11月28日の書面による準備手続中の\n協議において、当裁判所は、当事者双方に対し、被告製品は本件発明の技術的範 囲に属さないとの心証を開示して、話合いによる解決を検討するよう促し、その 後、和解協議を行ったものの、令和5年1月27日の同協議において、これ以上 の和解協議は行わないこととなり、口頭弁論の終結に向けて、原告は、これまで の主張の補充及び反論を記載した書面を提出する旨述べたが、同年2月27日付 けの準備書面5において、本件追加を行ったものである(当裁判所に顕著な事実)。 このように、本件追加が行われた時点で、本件訴訟は、被告製品が本件発明の技 術的範囲に属さないとの当裁判所の心証開示を踏まえた和解協議を終え、審理を 終結する直前の段階に至っていた。仮に、本件追加を許した場合、被告製品が本 件発明2の技術的範囲に属するか否かや、本件特許に係る無効理由の有無につい ても改めて審理を行う必要があり、そのために相当な期間を要することになるこ とは明らかである。そうすると、本件発明2が本件発明1の従属項であり、構成\n要件の一部が同一であること、その他原告が指摘する事情を考慮しても、本件追 加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることになると認められる。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10074  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年5月31日  知的財産高等裁判所

商標「UNBRAKO」について、4条1項7号、10号及び19号を理由とする無効審判請求がなされました。審判、知財高裁とも無効理由なしと判断しました。被告は「UNBRAKO」の商品を扱っていましたが、代理店ではありませんでした。原告は、2008年にSPS社から商標権の譲渡を受けたものの、移転登録申請の手続を怠っていました。また、更新手続も怠っていました。\n

(2) 日本国内における引用商標の周知性の有無について
ア 原告主張の引用商標が付された「使用商品」は、「ボルト」であるから、 「使用商品」の需要者は、機械部品メーカー等を含む、工業製品を扱う業 者であると認められる。
イ 前記(1)の認定事実によれば、平成17年から平成19年までの間、「U nbrako」の「六角穴付きボルト」の広告が一定程度、業界誌に掲載 されており、その当時、「Unbrako」の欧文字が工業製品を扱う業者 間でPCCジャパン(当時の商号は「エス・ピー・エスアンブラコ株式会 社」(通称「SPSアンブラコ」))の商標として、一定程度認識されていた ことが認められる。他方で、前記(1)の認定事実によれば、平成20年以降、 本件商標の登録査定時(平成31年4月12日)までの間、「Unbrak o」又は「アンブラコ」が原告又はPCCジャパンの「ボルト」等の商品 を表示するものとして使用されていたことが証拠上認められるのは、「金\n属産業新聞」のあいさつ広告(前記(1)イ(シ)、(ス))にとどまり、他に引 用商標が原告又はPCCジャパンの業務に係る商品「ボルト」を表示する\nものとして使用された事実を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、引用商標は、本件商標の登録出願時(平成30年10月 20日)及び登録査定時(平成31年4月12日)において、日本国内に おいて、原告の業務に係る商品「ボルト」を表示するものとして、需要者\nの間に広く認識されていたものと認めることはできない。 これに反する原告の主張は採用することができない。
(3) 小括
したがって、本件商標が商標法4条1項10号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはないから、原告主張の取消事由1は理由がない。

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令和4(行ケ)10059  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年6月15日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(4部)は、サポート要件違反の無効理由なしとした審決を維持しました。

前記1(2)に下線を付したように、本件発明1の各構成要件の数値範囲は、いずれも発明の詳細な説明に記載されたものである。ただし、構\成要件A7) の上限値である「0.828」は、本件明細書【0026】の【表2】に記載された最も好ましい上限である「0.85」を下回るものであるから、や\nはり好ましい上限値といえ(【0020】参照)、構成要件A(12)の上限値であ る「0.50」は、本件明細書【0063】の【表22】に記載された最も好ましい上限である「0.6」を下回るものであるから、やはり好ましい上限値といえる(【0020】参照)。\n なお、本件発明は本件明細書に記載の数値範囲から望ましい数値範囲を請 求項に記載したにすぎないと認められるから、数値範囲の上限及び下限が本 件明細書に記載の上限及び下限と一致しなければサポート要件に適合しない とはいい得ず、上限値及び下限値として、本件明細書に記載の数値範囲に含 まれる数値が記載されていれば足りると解される。
(3) 前記 2)について
ア 本件発明の課題について
前記1(1)の本件明細書の記載によれば、本件発明の課題は、次のとおり のものと理解できる。色収差の補正、光学系の高機能化、コンパクト化のために有用な光学素子用の材料となる、屈折率ndが1.800ないし1.850の範囲であり、 かつアッベ数 νdが41.5ないし44の範囲にあり(【0004】、【00 05】)、安定供給可能とするため、希少価値の高いGd、Taのガラス組成に占める割合が低減されており(【0006】)、近赤外域に吸収を有し、\nガラスの比重を増大させる成分であるYbのガラス組成において占める 割合が低減されており(【0007】)、熱的安定性に優れていてガラスを製 造する過程での失透が抑制され(【0008】)、機械加工に適するガラスを 提供すること(【0012】)。
イ 本件発明1の課題解決手段について
本件明細書には、Gd、Taがガラス組成に占める割合を低減させるた め、Ta2O5の含有量を5%以下とすること(【0034】)、La2O3、 Y2O3、Gd2O3及びYb2O3の合計含有量に対するGd2O3含有量 の質量比を0ないし0.05の範囲とすること(【0042】)を定め、Yb のガラス組成において占める割合を低減させるため、上記の、Yb2O3含 有量を3%以下とすること(【0038】)、熱的安定性に優れたガラスを提 供するため、液相温度が1150°C)以下であることがより一層好ましいと すること(【0206】)、機械加工に適するガラスを提供するため、ガラス 転移温度が640°C)以上であることが好ましいこと(【0198】)が記載 されており、これら本件明細書に記載からみて、本件組成要件及び本件物 性要件を満たすガラスは本件発明の課題を解決し得るものと認められる。 ところで、本件明細書には、本件組成要件及び本件物性要件の全部を満 たす実施例がそもそも記載されていない。さらに、本件発明の光学ガラス は多数の成分で構成されており、その相互作用の結果として特定の物性が実現されるものであるから、個々の成分の含有量と物性との間に直接の因\n果関係を措定するのが困難であることは顕著な事実である。そうすると、 前記(2)の好ましい数値範囲等の開示事項から直ちに、本件組成要件と本件 物性要件とを満たすガラスが製造可能であると当業者が認識できるものではなく、具体例により示される試験結果による裏付けを要するものとい\nうべきである。 そこで、そのような裏付けがされているといえるのかとの観点から、具 体例として掲記されている参考例1ないし33について検討を加える。
ウ 参考例について
本件明細書に記載された参考例1ないし33のうち、参考例1、5、1 6、21ないし24、27、28、30ないし32の12例は、本件組成 要件の全てと、本件物性要件のうち、構成要件C(ガラス転移温度)以外の3つの構\成要件を満たす具体例である。ここで、本件出願当時、光学ガラス分野においては、ターゲットとなる 物性を有する光学ガラスを製造する通常の手順として、既知の光学ガラス の配合組成を基本にして、その成分の一部を当該物性に寄与することが知 られている成分に置き換える作業を行い、ターゲットではない他の物性に 支障が出ないよう複数の成分の混合比を変更するなどして試行錯誤を繰 り返すことで、求める配合組成を見出すという手順を行うことは技術常識 であったと認められ(乙3ないし6)、また、この手順を行うに当たって、 当業者が、なるべく変更の少ないものから選択を開始することは、技術分 野を問わず該当する効率性の観点からみて自明な事項である。そして、前 記1(2)のとおり、本件明細書には、本件発明1の各組成要件に係る成分の 物性要件に対する作用について記載されており、当業者であれば、本件明 細書には本件発明1の物性要件を満たすような成分調整の方法が説明さ れていると理解できる。そうすると、当業者において、本件明細書で説明 された成分調整の方法に基づいて、参考例を起点として光学ガラス分野の 当業者が通常行う試行錯誤を加えることにより本件発明1の各構成要件を満たす具体的組成に到達可能\であると理解できるときには、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし 課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
そこで、次に、参考例の成分調整について具体的にみてみる。
エ 参考例の成分調整について
そうすると、本件明細書には、各成分と作用についての説明を基に、A 1)及びA7)のSiO2を増量し、又はA(12)のZnOを減量する成分調整す ることにより、上記各参考例のガラス転移温度を本件物性要件を充足する 範囲内に調整できることが説明されているといえ、光学ガラス分野の当業 者であれば、上記いずれかの方法に沿って技術常識である通常の試行錯誤 手順を行うことで本件組成要件及び本件物性要件を満たすガラスが得ら れ、それにより本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。 なお、実際に、甲11実験成績証明書には、(i)参考例5のガラスについ て、ZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb2O5に置換する改変例 (5改α)又はB2O3とSiO2に0.5質量%ずつ置換する改変例(5 改β)、(ii)参考例16のZnO(3.8質量%)の1質量%分を、Nb2 O5に置換する改変例(16改α)又はB2O3とSiO2に0.5質量% ずつ置換する改変例(16改β)、(iii)、参考例24のZnO(3.6質量%) の1質量%分を、Nb2O5に置換する改変例(24改α)又はB2O3と SiO2に0.5質量%ずつ置換する改変例(24改β)が、乙1実験成績 証明書には、(iv)参考例22のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、N b2O5に置換する改変例(22改α)又はB2O3とSiO2に0.5質 量%ずつ置換する改変例(22改β)、(v)参考例30のZnO(3.5質 量%)の1質量%分を、Nb2O5に置換する改変例(30改α)又はB2 O3とSiO2に0.5質量%ずつ置換する改変例(30改β)、(vi)参考例 31のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb2O5に置換する改変 例(31改α)又はB2O3とSiO2に0.5質量%ずつ置換する改変例 (30改β)、(vii)参考例32のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、 Nb2O5に置換する改変例(32改α)又はB2O3とSiO2に0.5 質量%ずつ置換する改変例(32改β)のように、いずれもZnOを減量 してSiO2を増量する改変において、本件組成要件と本件物性要件を全 て満たすガラスが得られたことが示されている。
・・・
原告の上記主張は当を得たものとはいえず、採用することができない(な お、原告は、知的財産高等裁判所がした別件判決(甲7)で示された「組 成要件で特定される光学ガラスが高い蓋然性をもって当該物性要件を満 たし得るものであることを、発明の詳細な説明の記載や示唆又はその出願 時の技術常識から当業者が認識できること」を本件におけるサポート要件 充足の判断基準とすべき旨を指摘するが、サポート要件の充足の有無は、 発明の課題との関係において認定されるべきものであるところ、同判決で は発明の課題を「所定の光学定数を有し、高屈折率高分散であって、かつ、 部分分散比が小さい光学ガラスを提供すること」としているのであり、こ のような、異なる発明における異なる課題において事例判断として示され た別件の理由中の判断を、そのまま本件に適用することは相当ではない。)。
エ 原告は、前記第3の1(4)イ及びウのとおり、本件明細書には、ガラス転 移温度や液相温度の測定条件等が十分には開示されておらず、本件明細書\nにおける試験の結果と甲11実験成績証明書又は乙1実験成績証明書に おける試験の結果とを単純に比較することはできない旨主張する。確かに、本件明細書には、ガラス転移温度の測定については、「示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、昇温速度を10°C)/分にして測定した。」(【0224】)と、液相温度については、「ガラスを所定温度に加熱された炉内に入れて2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無から液相温度を決定した。」(【0224】)と記載されており、その余の測定条件、判定条件等についての記載をうかがうことはできない。
しかしながら、本件明細書において、測定条件、判定条件等に特に記載 がなければ、それは技術常識に従い標準的な測定方法によってされたもの と理解されるべきものであるといえる。他方、甲11実験成績証明書及び 乙1実験成績証明書におけるガラス転移温度の測定は、ネッチ・ジャパン 株式会社製の示差走査熱量計「DSC3300SA」を用い、昇温速度を 10°C)/分にし、その他の測定条件については同熱量計の取扱説明書に記 載された条件において測定し、液相温度については、光学ガラスを5cc ずつ白金製坩堝に入れ、1140°C)に加熱された炉内に入れて2時間保持 し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無を 確認して測定したものと認められる(甲11、乙1、2)から、標準的な 機器を用いて標準的な手法を用いたものということができる。そうすると、 本件明細書における試験と甲11実験成績証明書及び乙1実験成績証明 書における試験とは当業者が自然において選択する同一の測定条件・判定 条件の下に行われたと推認することができるのであり、これと異なる認定 をすべき事情もうかがわれない。したがって、本件明細書に試験条件、判 定条件の詳細の記載がないからといって甲11実験成績証明書又は乙1 実験成績証明書と対比ができないものではないし、本件明細書の記載から 課題が解決できる範囲と認められる当業者の認識を左右するものでもな い。よって、原告の上記主張を採用することはできない(なお、1140°C) で結晶が析出したにせよ、その後の冷却過程で結晶が析出したにせよ、い ずれにせよ、少なくとも1140°C)を超える温度では結晶が析出したとは 判定できない以上、液相温度を1140°C)以下と判定することの支障にな るとはいい難い。)。
・・・
(5) 小括
以上のとおり、本件明細書で説明された成分調整の方法をもとに、光学ガ ラス分野の当業者が通常行う試行錯誤により参考例を起点として本件発明1 の各構成要件を満たす具体的組成に到達可能\であると理解できるといえるか ら、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術 常識に照らし課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
4 本件発明2、3、6、7、9、10、12ないし14について
上記各発明は、本件発明 1 の従属項に係る発明であるところ、原告は、これ ら発明について、引用に係る本件発明1についてサポート要件違反がある旨主 張し、これら各発明が本件発明 1 を限定した固有の部分に対する別個のサポー ト要件違反の主張はしていないから、本件発明 1 にサポート要件違反がないの であれば、これら発明についてもサポート要件違反は認められない。

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令和1(行ケ)10114 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月24日  知的財産高等裁判所

 漏れていたのでアップします。動画配信における視聴者からのギフトの処理(CS関連発明)について、審判で進歩性無しと判断されました。知財高裁も同様です。

「・・・(D1)前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中に前記動画へ の装飾オブジェクトの表示を要求する第1表\示要求がなされ,(D2)前記動画の配信中に前記動画の配信をサポートするサポーター又は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択された場合に,(D3)前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて、(D4)前記装飾オブジェクトを前記動画に表示させる,(A)動画配信システム。」というクレームです。\n 原告は,甲2には,視聴者から配信者へギフトを贈ること(ユーザーギ フティング)が動画配信中に行われるとの記載はないので,引用発明に甲 2記載の技術を追加したとしても「動画配信中に行われた表示要求に応じ\nて,装飾オブジェクトを表示する」という本願発明の構\成には至らない旨 主張する。しかしながら,甲2には,CGキャラクターへのユーザーギフティング を動画配信中に行うことについての記載はないものの,これを排除する旨 の記載もなく,この点は,配信時間の長さ,ギフト装着のための準備,予\n想されるギフトの数等を踏まえて,配信者が適宜決定し得る運用上の取り 決め事項といえるから,甲2のユーザーギフティング機能において,CG\nキャラクターが装着するための作品を贈る時期は,配信開始前に限定され ているとはいえない。したがって,引用発明に上記ユーザーギフティング 機能を追加することによって,相違点1に係る「前記動画を視聴する視聴\nユーザから前記動画の配信中に前記動画への装飾オブジェクトの表示を要\n求する第1表示要求がなされ」るという構\成を得ることができる。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ なお,原告は,甲2記載のCGキャラクター「東雲めぐ」が登場する実 際の番組において,ユーザーギフティングが配信開始前に締め切られてい ること(甲9の2,甲10)を指摘する。しかしながら,そのことは,当 該番組における運用上の取り決め事項として,ユーザーギフティングの時 期を配信開始前と定めたことを示すにとどまり,上記アの判断を左右しな い。 (3) 動機付けについて ア 甲2には,配信も可能なVRアニメ作成ツール「AniCast」にユーザー ギフティング機能を追加することが記載されている。一方,引用発明は,\n声優の動作に応じて動くキャラクタ動画を生成してユーザ端末に配信する ものであるから,引用発明も「配信も可能なVRアニメ作成ツール」とい\nえる。また,ユーザーギフティング機能のような新たな機能\を追加することに よって,動画配信システムの興趣が増すことは明らかである。 そうすると,当業者にとって,「配信も可能なVRアニメ作成ツール」\nである引用発明に対して,甲2記載の技術であるユーザーギフティング機 能を追加することの動機付けがあるといえる。\n イ 原告は,甲1には創作したギフトを配信者に贈ることの開示はないから, 引用発明に甲2記載のユーザーギフティング機能を組み合わせる動機付け\nはない旨主張する。しかしながら,動画配信システムの興趣を増すことは当該技術分野において一般的な課題であると考えられるから,甲1自体にユーザーギフティ ング機能又はこれに類する技術の開示又は示唆がないとしても,引用発明\nを知った上で甲2の記載に接した当業者は,興趣を増す一手段として甲2 記載のユーザーギフティング機能を引用発明に適用することを動機付けら\nれるといえる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

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令和5(行ケ)10001  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年5月31日  知的財産高等裁判所

先行意匠と類似又は、創作容易として無効審判が請求されました。特許庁、裁判所とも、非類似・創作非容易と判断しました。

◆本件意匠はこれです。


ア 本件意匠と甲1意匠とで、意匠に係る物品は、共に生活雑貨などの 家庭用品を収納する容器であって共通するところ、いずれも使用者が 家庭において日常的に使用することを主目的とするものであるから、 その需要者は、個人消費者であると認められる。 そして需要者である個人消費者は、意匠に係る物品の性質、用途及 び使用態様の観点からは、収納容器として物を収納した際の使用のし やすさや持ち運ぶ際の便利さから、物を収納して置いた際と物を収納 せず、単体であるいは複数個を重ねて置いた際には、その美観等の観 点から、両意匠に係る物品を観察し、選択するものということができ る。
そうすると、収納容器として物を収納した際の使用のしやすさや持 ち運ぶ際の便利さの観点からは、収納容器全体の形状等(基本的構成態様)が需要者の注意を惹く部分であるとともに、物を収納して置い\nた際や物を収納せず重ね置いた際の美観等の観点からは、収納容器と しての外形を特徴付ける部分の形態が、最も強く需要者の注意を惹く 部分であるということができる。 そこで、これらを前提に、両意匠が需要者である個人消費者の視覚 を通じて起こさせる美観が類似するか否かについて検討する。
イ 収納容器全体の形状等について、需要者である個人消費者の観点から みると、両意匠は、いずれも上部が開口して下端が水平面状の略逆円 錐台形状である本体部と、一対の紐状の把手部から成るものであって、 本体部の径が下方にいくにつれてしだいに小さくなっており、本体部 の上部に把手部が設けられているとの点(全体の形状、共通点1)、正 面から見て、本体部の左右両端は上部にいくにつれて逆ハ字状に広が っており、最小横幅と縦幅は、ほぼ同じ長さであるとの点(全体の形 状、共通点2)、及び、右側面から見て、本体部の左右両端は上部にい くにつれて逆ハ字状に広がっており、底面となす角度は約95°であ り、最大横幅及び最小横幅の長さは、縦幅よりも小さいとの点(全体 の形状、共通点3)につきいずれも共通するところ、その態様自体は ありふれたものであり、需要者の注意を強く惹くものとはいえない。
しかし、全体の形状のうち、把手部が本体部の長手方向の両側面に設 けられているか(本件意匠の態様c(前記(1)イ(ア)))、把手部が本体部 の短手方向の正面及び背面に設けられているか(甲1意匠の態様c(前 記(1)エ(ア)))の相違(相違点1)については、需要者である個人消費 者が収納容器を持ち運ぶ際の使いやすさや、置いた際の美観の観点か ら、強く注意を惹く部分であって、視覚を通じて起こさせる美観に大 きな影響を与えるものである。
また、各部の形状のうち、正面から見て、本件意匠では、本体部の上 端は倒弓状に形成されて、中央部は略平坦状に現わされており、左端 寄り及び右端寄りの曲率が次第に大きくなって、本体部の左右両端の 上端付近との間が先尖り状に現わされている(本件意匠の態様d及び e(前記(1)イ(イ)))のと、本体部の上端は水平状に現されている(甲 1意匠の態様d(前記(1)エ(イ)))との相違、及び、右側面から見て、 本体部の上端はなだらかな略山状に形成されている(本件意匠の態様 e(前記(1)イ(イ)))のと、本体部の上端は水平状に現されている(甲 1意匠の態様e(前記(1)エ(イ)))との相違(相違点3)は、物を収納 して置いた際や、物を収納せず単体で、あるいは複数個重ね置いた際 の美観等の観点からは、収納容器としての外形を特徴付ける部分の形 態であり、強く需要者の注意を惹く部分であるということができると ころ、この相違点が両意匠の美観に与える影響にも大きいものがある ということができる。
さらに、把手部の態様について、本件意匠では、右側面視略U字状に 現わされており、かつ、太めの荒縄状で、軸方向に注連縄状に現わされ ている(本件意匠の態様f(前記(1)イ(イ)))のに対し、甲1意匠では、 正面視略放物線状に現されており、かつ細い紐状で、軸方向に注連縄 状に現されている(甲1意匠の態様g(前記(1)エ(イ)))との相違(相 違点4)は、収納容器を持ち運ぶ際の使いやすさや、置いた際の美観の 観点から、本体部と把手部との視覚的なバランスにおいて、強く注意 を惹く部分であって、この相違点が両意匠の美観に与える影響にも大 きいものがあるということができる。
ウ 本件意匠と甲1意匠では、需要者の注意を惹く基本的構成態様のその余の相違点や、具体的構\成たる各部の形状においてその他にも異なる点があり、これらが美観に与える影響があるところではあるが、少なくと も前記イの相違が両意匠の類否判断に及ぼす影響には大きなものがあ るということができる。 そうすると、本件意匠と甲1意匠は、意匠に係る物品が共通するもの の、その形態においては、需要者に与える美感の観点から、本件意匠と 甲1意匠とは別異のものと印象付けるものであるから、本件意匠は、甲 1意匠に類似するものではない。
・・・・
(2) 本件意匠の当業者については、収納容器に係る分野における通常の知識を 有する者であると認められるところ、本件意匠と甲1意匠及び甲各意匠とを 比較すると、以下のとおりである。 なお、被告は、本件訴訟において提出された甲76号証ないし78号証は、 審決で認定された相違点に関する新たな公知意匠を追加するものであって、 それに基づく主張は直ちに排斥されるべきである旨主張する。 しかし、原告は、これらの書証に係る主張を、いずれも本件意匠の出願当 時の当業者の常識等を認定するための周知例を示す証拠に係る主張として行 っているものと解され、これらの記載内容との対比において新たな無効理由 が存することを主張するものではない。よって、これら証拠に基づく主張は、 審決取消訴訟において認められないものには当たらず、被告の主張は採用で きない(最高裁昭和54年(行ツ)第2号同55年1月24日第一小法廷判 決・民集34巻1号80頁参照)。
ア 甲各意匠の物品等の用途及び機能並びに形態について、以下のとおり認められる。\n
(ア) 甲15(特許庁意匠課平成22年受入れの公知資料番号第HJ22 079731号)の意匠に係る物品は「収納かご」であり、写真中にタ オルを入れている事例が示されていることから、家庭用品を収納する容 器であると認められる。甲15意匠は、全体につき、上部が開口して下 端が水平面状の略逆円錐台形状であって、長手方向の両側面上部に一対 の把手部が設けられており、正面及び左側面から見て左右両端は上部に いくにつれて逆ハ字状に広がっている。
(イ) 甲20(平成20年9月10日公告(公開)の中国発行の公報(CN 300826894D))の意匠に係る物品は「氷はち」であるから、氷 のほか家庭用品を入れる容器であるものと認められる。甲20意匠は、 全体につき、上部が開口して下端が水平面状の略逆円錐台形状である本 体部と、一対の線材の把手部から成るものであり、正面及び左側面から 見て、本体部の左右両端は上部にいくにつれて逆ハ字状に広がっており、 底面となす角度は約104°である。
イ 前記1(1)エ(ア)及び(イ)及び前記ア(ア)及び(イ)によれば、家庭用品等を 入れる収納容器の物品分野において、本件意匠の全体の形状のうち、上部 が開口して下端が水平面状の略逆円錐台形状として、径を下方にいくにつ れて次第に小さくし、長手方向の両側面上部に一対の把手部を設けること (本件意匠の態様a及びc(前記1(1)イ(ア)))については、本件意匠の出 願前に公然知られていたものと認められる。
ウ 一方、正面から見た本体部の上端の形状につきみると、甲各意匠につき、 以下のとおり認められる(正面については、本件意匠と同じく本体部の長 手方向を正面とする。)。
・・・
エ 前記ウ(ア)ないし(オ)によれば、これらはいずれも本体部(甲18意匠に ついては左右側面から見た状態も含む)の上端の形状が、略ないし緩やか な凹弧状(甲18については若干非対称)に形成されている。これらは、 本件意匠の正面から見た本体部の上端の形状のうち、上端が倒弓状に形成 され、中央部は略平坦状に現わされて、左端寄り及び右端寄りの曲率が次 第に大きくなり本体部の左右両端の上端付近との間が先尖り状になって いる形状(本件意匠の態様d(前記1(1)イ(イ)))とは異なるものであり、 こうした形状については原告の提出する甲1意匠、甲各意匠及び甲76号 証ないし78号証に示された意匠には認められないところである。 そして、前記1(4)イのとおり、この上端の形状は、収納容器としての外 観を特徴付ける部分の形態であり、最も需要者の注意を強く惹く部分であ る。
オ 本体部開口端部及び本体部底面の外周形状につきみると、甲各意匠につ き、以下のとおり認められる(正面については、本件意匠と同じく本体部 の長手方向を正面とする。)。
・・・
カ 前記オ(ア)ないし(エ)によれば、これらの本体部開口端部及び本体部底面 の外周形状は、不明である(甲15)か、いずれも略円形状(甲17)ない し略楕円形状(甲21)であるか、一方が略楕円形状(甲20)であり、本 件意匠の、本体部開口端部と本体部底面の外周形状が共に略横長トラック形 状である(本件意匠の態様a(前記1(1)イ(ア)))のとは異なるものであり、 これについては、甲1意匠、甲各意匠及び甲76号証ないし78号証に示さ れた意匠には見られないものである。
キ 把手部の形状につきみると、甲各意匠につき、以下のとおり認められる(い ずれも把手部が現れている面を正面とする。)。
・・・
ク 前記キ(ア)ないし(エ)によれば、これらの把手部の紐は軸方向に注連縄状 に現されているが、これらはいずれも本体部開口端部及び本体部底面の外 周形状は略長方形状で、全体に箱状である(甲8ないし10)か、略円形 状で、全体に円筒形状(甲11)であり、本件意匠の、全体に水平面状の 略逆円錐台形状であり、一対の紐状の把手部(本件意匠の態様a(前記1 (1)イ(ア)))が本体部の長手方向の両側面上部に設けられ(同c)、右側面 から見て、本体部の左右両端は上部にいくにつれて逆ハ字状に広がり、底 面となす角度は約95°で(同e(前記1(1)イ(イ)))、把手部は右側面視 略U字状に現わされており、かつ、太めの荒縄状で、軸方向に注連縄状に 現わされ(同f)、把手部は、本体部の最大縦幅を上から約1:2:2に、 最大横幅を左から約4:5:4に内分した中央の位置にある(同g)のと は異なるものであり、これについては、甲1意匠、甲各意匠及び甲76号 証ないし78号証に示された意匠には見られないものである。 ケ そして、前記エ、カ及びクの、上端が倒弓状に形成され、中央部は略平 坦状に現わされて、左端寄り及び右端寄りの曲率が次第に大きくなり本体 部の左右両端の上端付近との間が先尖り状になっているとの点、本件意匠 の、本体部開口端部と本体部底面の外周形状が共に略横長トラック形状で あるとの点、及び、把手部が、右側面視略U字状に現わされており、かつ、 太めの荒縄状で、軸方向に注連縄状に現わされているとの点は、公知の意 匠にはみられない独自のものであり、本件意匠に独特の美観をもたらすも のということができる。
コ 以上の検討によれば、本件意匠の本体部の上端の形状、本体部開口端部 及び本体部底面の形状並びに把手部の形状は、甲1意匠、甲各意匠及び甲 76号証ないし78号証に示された意匠とは異なるものであり、これらが ありふれた手法により変更可能なものあるいは軽微な改変又は単なる寄せ集めではなく、略逆円錐台形状で、正面及び側面から見た本体部の左右\n両端が上部にいくにつれて逆ハ字状に広がっている全体の形状とまとま り感のある一体の美観を形成している点に、着想の新しさないし独創性が 認められないものではないから、本件意匠は前記意匠から創作容易である とはいえず、審決の判断に誤りはない。

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令和4(ネ)10106 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和5年6月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所

鉄道会社が、新聞記事をスキャンして、社内イントラネットにて閲覧できるようにしていた行為について、複製権侵害・公衆送信権侵害が争われました。1審は約200万円の損害賠償を認めました。知財高裁も同様ですが、損害額が上がっています。

1審被告は平成30年度掲載記事が「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(著作権法10条2項)であり、著作物に該当しない旨主張する。
しかしながら、上記認定のとおり、平成30年度掲載記事(甲9、10、乙14)は、事故に関する記事や、新しい機器やシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベントや企画の紹介事業等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に関する記事であるところ、そのうち、事故に関する記事については、相当量の情報について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなど表現上の工夫をし、それ以外の記事については、いずれも、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、関係者のインタビューや供述等を、適宜、取捨選択したり要約するなどの表\現上の工夫をして記事を作成していることが認められ、各記事の作成者の個性が表れており、いずれも作成者の思想又は感情が創作的に表\現されたものと認められるものであり、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」であるということはできない。
また、著作物といえるための創作性の程度については、高度な芸術性や独創性まで要するものではなく、作成者の何らかの個性が発揮されていれば足り、報道を目的とする新聞記事であるからといって、そのような意味での創作性を有し得ないということにはならない。
したがって、1審被告の上記主張は採用することができない。その他1審被告は、平成30年度掲載記事が著作物に該当しない理由を縷々指摘するが、いずれも採用することができない。

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◆令和2(ワ)3931

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◆令和5(ネ)10008

原審はこちら。

◆令和2(ワ)12348

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令和4(ネ)10107  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年6月1日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権侵害訴訟の控訴審です。1審は文言侵害に当たらないと判断していました。特許権者は、均等侵害も主張しましたが、第1要件を満たしていないと判断されました。

ア 前記(2)のとおり、被控訴人製品は「摺動導通部」を有しない点において、 本件発明と異なる。
ところで、訂正の上引用した原判決の第3の1(2)のとおり、本件発明は、一対 のプランジャをコイルばねの密巻き部分に接触させて導通を確保するという本件先 行発明における、2つの摺動導通部が形成されることによる抵抗の分散が検査の精 度を狭めるという課題を解決するために、摺動導通部の数を減らし、検査精度を向 上可能とするというものであり、プランジャと接触して導通を確保する摺動導通部\nを有することは、本件発明の本質的部分である。 そうすると、被控訴人製品と本件発明の構成中の異なる部分(摺動導通部の存否)\nは、本件発明の本質的部分に当たる。
イ 控訴人は、「密巻き部」に関する本件発明と被控訴人製品の相違点は、「本件 発明では「フリー状態で密巻きであった部分」が導通経路となっているところ、被 控訴人製品では「フリー状態で密巻きであった部分」が導通経路となっているかが 定かではなく、「ストローク開始後検査前に密巻きになった部分」が導通経路とな っている可能性がある点」であり、被控訴人製品について均等侵害が成立すると主\n張する。しかしながら、訂正の上引用した原判決の第3の2(4)のとおり、被控訴 人製品において、ストローク開始後検査前に密巻きになった部分が導通経路となっ ていることを認めるに足りる証拠がなく、このことは、当審において提出された動 画(甲86)を踏まえても変わらない。そうすると、控訴人の「密巻き部」に関す る均等の主張はその前提を欠く。
ウ したがって、その余の点につき検討するまでもなく、被控訴人製品について、 本件発明の均等侵害は成立しない。

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◆令和2(ワ)12013
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令和4(行ケ)10065 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年5月22日  知的財産高等裁判所

IOCが保有している商標「五輪」(標準文字)について、3条、4条6、7、10号違反とする無効審判が請求されました。審判請求は棄却されました。知財高裁も、審決の判断をそのまま維持しました。原告は個人です。審決によると、請求人らは、ブログ及びYouTubeチャンネルを通じて、オリンピック関連商標について多くの情報発信と意見交換をする個人とのことです。

取消事由2(商標法3条1項柱書きの要件の判断の誤り)について
原告らは、被告は、本件商標の全指定商品・役務について、「五輪」が創作・ 使用されて以来現在に至る80年以上という長期間にわたり、本件商標を全く 使用していないこと、当該期間中、被告は、ほぼ間断なくオリンピック競技大 会を開催していたことを考慮すれば、被告が、本件商標の査定・審決時に事業 (オリンピック競技大会)を現に行っていることだけを根拠に、被告が当該事 業の表示として本件商標を使用する意思を有していたことを推認することがで\nきないから、本件商標が商標法3条1項柱書きの要件を具備するとした本件審 決の判断に誤りがある旨主張する。
そこで検討するに、1)被告(IOC)は、国際的な非政府の非営利団体であ って、オリンピック競技大会を運営・統括しており、平和でよりよい世界の実 現に貢献するというオリンピックの理念であるオリンピック憲章に従い、オリ ンピズムを普及させる役割を担っていること(甲5の4、6)、2)オリンピッ ク競技大会は、被告によって、開催都市と開催地の国内オリンピック委員会の 協力の下で開催されている国際的スポーツ競技大会であって、スポーツを通じ た社会一般の利益に資することを目的としていること(甲5の1、6の1)、 3)2019年2月21日付け日本経済新聞ネット版(甲10の4)には、「国 際オリンピック委員会(IOC)が、オリンピックを意味する日本語の「五輪」 について特許庁に商標登録を出願し、認められたことが21日までに分かった。 2020年東京五輪・パラリンピックを控え、公式スポンサー以外の便乗商法 を防ぐのが狙い」、「IOCは東京大会の組織委員会を通じて「日本で『五輪』 はIOCが開催するオリンピックを意味するものとして周知、著名だ。既に不 正競争防止法の保護対象となっているが商標登録で権利の所在をより明確にし、 ブランド保護を確実にしたい」、「今後、組織委はスポンサー以外の企業や団 体などが商品名やサービスとして五輪を使った場合、権利が侵害されているか どうかを判断し、使用中止を求めるという。」との記載があることを総合する と、被告は、「五輪」の俗称でも親しまれているオリンピック競技大会の主催 者であって、本件商標の登録査定時において、オリンピック競技大会を指称す る「五輪」の語を使用する意思を有していたものと認められるから、「五輪」 の標準文字を書してなる本件商標は、被告との関係において、「自己の業務に 係る役務について使用をする商標」(商標法3条1項柱書き)に該当すること が認められる。

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平成29(ネ)10043  特許権侵害差止等請求承継参加申立控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年1月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

かなり前の事件ですが、漏れていたのでアップします。コンピュータ関連発明について、被告製品には構成要件C「格納手段」がないとして、非侵害と判断されました。間接侵害も否定されました。
問題の請求項は以下です。
A ユーザテレビ機器(22)上で動作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって,
B 該システムは,複数の番組を格納するためのユーザ指示を受信したことに応答して,デジタル格納デバイス(31)に格納されるべき該複数の番組をスケジューリングする手段と,
C 双方向テレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,
D 該複数の番組をデジタル的に格納したことに応答して,該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該デジタル格納デバイス(31)に複数の番組データをデジタル的に格納する手段であって,該複数の番組データのそれぞれは,該複数の番組のうちの1つに関連付けられている,手段と,
E 該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストをディスプレイに表示する手段と,
F 該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストから,該デジタル格納デバイス(31)に格納された番組のユーザ選択を受信する手段と,
・・・
J 該双方向テレビ番組ガイドを用いて,現在スケジューリングされている該複数の番組のうちの該選択された番組に対して,選択された番組リスト項目情報画面を該ユーザテレビ機器(22)に表示する手段であって,該選択された番組リスト項目情報画面は,該選択された番組に関連付けられた番組データの1つ以上のフィールドと,1つ以上のユーザフィールドとを含む,手段と,
K 該1つ以上のユーザフィールドにユーザ情報を入力する機会をユーザに提供する手段と
L を備えた,システム。

2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 控訴人は,構成要件Cは,「双方向テレビ番組ガイド」を用いて,「デジタ\nル格納デバイス」に複数の番組をデジタル的に格納する「手段」を備えていれば, 充足することになるものであって,「デジタル格納デバイス」自体を必須の構成要素\nとして規定するものではないと主張するが,本件発明は,デジタル格納部を含むユ ーザテレビ機器を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに係る発明であるから, 被告物件(液晶テレビ製品)が本件発明の技術的範囲に属するというためには,被 告物件が「番組をデジタル的に格納可能な部分」を含むことが必要であることは,\n
前記1のとおり補正して引用する原判決が認定説示するとおりである。 すなわち,本件発明に係る特許請求の範囲は,「ユーザテレビ機器(22)上で動 作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって」(構成要件A),・・・「双方向テ\nレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納 デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,」(構成要件C)・・・「を備えた,システム」(構\成要件L)と記載されているから,本件発明の双方向テ レビ番組ガイドシステムは,ユーザテレビ機器に含まれるデジタル格納デバイスに 番組をデジタル的に格納(録画)する手段という構成を含むものである。\nそして,本件明細書には,「本発明は・・・番組および番組に関連する情報用のデ ジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに関する。」(【0001】) として,双方向テレビ番組ガイドシステムが「デジタル格納部を備えた」ものであ る旨が記載されている。また,従来技術として,「番組ガイド内で選択された番組を 独立型の格納デバイス(典型的にはビデオカセットレコーダ)に格納することを可 能にする双方向番組ガイド」(【0004】)が指摘され,その操作に関し,「ビデオ\nカセットレコーダの操作には通常は,ビデオカセットレコーダ内の赤外線受信器に 結合される赤外線送信器を含む操作経路が用いられる。」(【0004】)と記載され ており,「独立型の格納デバイス」を用いる従来技術について記載されている。その 上で,従来技術の課題として「独立型のアナログ格納デバイスを用いると,デジタ ル格納デバイスが番組ガイドと関連付けられる場合に実施され得るようなより高度 な機能が不可能\になる。」(【0004】)と記載され,これを受けて,本発明の目的 を「デジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドを提供すること」(【0005】)と記載している。以上に加え,「番組ガイドと関連付けられたデジタル格納デバイス の使用は,独立型のアナログ格納デバイスを用いて行われ得る機能よりも,より高\n度な機能をユーザに提供する。」(【0009】)という記載を併せ考慮すると,本件\n発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能であった高度な機能\をユーザに 提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備え ることを目的としたものと認められる。
以上によると,被告物件が構成要件Cを充足するというためには,「番組をデジタ\nル的に格納可能な部分」を含むこと(内蔵すること)が必要というべきである。\nこれに対し,控訴人は,本件明細書の【図2】及び【0016】によると,本件 発明には,「デジタル格納デバイス」が「ユーザテレビ機器」に外部インターフェー スを介して接続されるような構成も当然に含むように説明されていると主張するが,\n控訴人指摘の「デジタル格納デバイス31は,セットトップボックス28内に内蔵 されるか,または出力ポートおよび適切なインターフェースを介してセットトップ ボックス28に接続された外部デバイスであり得る。」(【0016】)との記載は, 「ユーザテレビ機器22の例示的構成を示す」【図2】からも明らかなとおり,「ユ\nーザテレビ機器」の一部を構成する「セットトップボックス」内に内蔵するか,「セ\nットトップボックス」に外付けするかを記載するにとどまり,「ユーザテレビ機器」 に外付けする構成を当然に含むものということはできない。かえって,「ユーザテレ\nビ機器22の例示的構成」において,「オプション」とされている「第2の格納デバ\nイス32」(【0014】)については,「第2の格納デバイス32がユーザテレビ機 器22に内蔵されていない場合」(【0017】)との記載が認められるところ,「デ ジタル格納デバイス」については,これと同旨の記載は見当たらない。
また,控訴人は,本件明細書の【図3】及び【0080】には,デジタル格納デ バイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッピーディスク又は録画可能な\n光ディスク)である場合が説明されていると主張するところ,控訴人指摘の【00 80】には,「デジタル格納デバイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッ ピーディスクまたは録画可能な光ディスク)である場合」との記載がある。しかし,\n本件明細書には,「デジタル格納デバイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フ ロッピーディスクまたは録画可能な光ディスク)を用いる場合」(【0085】)との\n記載もあるほか,「デジタル格納デバイスは,光格納デバイスまたは磁気格納デバイ ス(例えば,書き込み可能なデジタル映像ディスク,磁気ディスク,もしくはハー\nドドライブまたはランダムアクセスメモリ(RAM)等を用いたデバイス)であり 得る。」(【0008】),「第2の格納デバイス32は,任意の適切な種類のアナログまたはデジタル番組格納デバイス(例えば,ビデオカセットレコーダ,DVDディ スクに録画する能力を有するデジタル映像ディスク(DVD)プレーヤ等)であり\n得る。」(【0014】),「デジタル格納デバイス31は,書き込み可能な光格納デバイス(例えば,記録可能\なDVDディスクの処理が可能なDVDプレーヤ),磁気格\n納デバイス(例えば,ディスクドライブまたはデジタルテープ),または他の任意の デジタル格納デバイスであり得る。」(【0015】),「デジタル格納デバイス49において用いられるリムーバブル格納媒体」(【0082】),「例えばデジタル格納デバイス49がフロッピーディスクドライブであり,選択された番組を有するディスク がドライブ内に無い場合」(【0084】),「デジタル格納デバイス49内のリムーバブルデジタル格納媒体上に格納する」(【0104】)との記載もあり,これらの記載 によると,本件明細書においては,「デジタル格納デバイス」は,「リムーバブル格 納媒体」(フロッピーディスク,DVDディスク等)と区別されるものであり,「リ ムーバブル格納媒体」を処理することが可能な機器(フロッピーディスクドライブ,\nDVDプレーヤ等)を指すことが多いものと認められる。そうすると,控訴人指摘 の【0080】の上記記載から,直ちに本件発明にはデジタル格納デバイスがリム ーバブル録画媒体である場合が含まれるということはできない。
(2) 控訴人は,間接侵害を主張するところ,被告物件である液晶テレビ製品は, 単に放送を受信するだけで,いずれもそれ自体に録画できるメモリー部分(デジタ ル格納部)を備えておらず,録画先としては,外付けのUSBハードディスクやレ グザリンク対応の東芝レコーダーとされており,これらを被告物件に接続すること によって初めて,被告物件で受信した番組を上記ハードディスク等に録画すること が可能であるから,デジタル格納部を被告物件に内蔵させる余地はない。そうする\nと,被告物件は,デジタル格納デバイスを含むユーザテレビ機器を備えた双方向テ レビガイドシステムの「生産に用いる物」ということができない。
また,前記(1)のとおり,本件発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能\nであった高度な機能をユーザに提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステム\nがデジタル格納デバイスを備えることを目的としたものであり,従来技術に見られ ない特徴的技術手段は,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイス を備えること,すなわち,これを内蔵することにあるというべきである。そうする と,被告物件は,デジタル格納デバイスを内蔵するものではないから,本件発明に よる「課題の解決に不可欠なもの」であるとはいえない。
したがって,被控訴人による被告物件の製造,輸入,販売及び販売の申出は特許\n法101条2号所定の間接侵害に当たらない。これに対する控訴人の主張が理由のないものであることは,既に説示したところ から明らかである。
なお,被控訴人は,控訴人の間接侵害の主張が時機に後れた攻撃防御方法に当た る旨を主張するが,控訴理由書において,既に提出済みの証拠に基づき判断可能な\n主張をしたものであるから,訴訟の完結を遅延させるものとまではいえず,上記主 張を時機に後れた攻撃防御方法として却下することはしない。

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◆平成28(ワ)37954

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令和5年5月26日 知財高裁特別部判決 令和4(ネ)10046号

知財高裁は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」というものです。  なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。\n

ア ネットワーク型システムの「生産」の意義
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備え るコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の発明であるところ、そ の実施行為としての物の「生産」(特許法2条3項1号)とは、発明の技術的範囲に 属する物を新たに作り出す行為をいうものと解される。 そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介して、サー バと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(ネットワー\nク型システム)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件\nを充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有 機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有する ようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解され る。
イ 被告サービス1に係るシステム(被告システム1)を「新たに作り出す行為」 被告サービス1のFLASH版においては、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指\n定すると、被控訴人Y1のウェブサーバが上記ウェブページのHTMLファイル及 びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末が受信した、これらのファイ ルはブラウザのキャッシュに保存され、その後、ユーザが、ユーザ端末において、 ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すと、上\n記SWFファイルに格納された命令に従い、ブラウザが、被控訴人Y1の動画配信 用サーバ及びコメント配信用サーバに対しリクエストを行い、上記リクエストに応 じて、上記各サーバが、それぞれ動画ファイル及びコメントファイルをユーザ端末 に送信し、ユーザ端末が、上記各ファイルを受信することにより、ブラウザにおい て動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる。このように、ユ ーザ端末が上記各ファイルを受信した時点において、被控訴人Y1の上記各サーバ とユーザ端末はインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、 ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが\n可能となるから、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の全\nての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り出されたものと いうことができる(以下、被告システム1を新たに作り出す上記行為を「本件生産 1の1」という。)。
ウ 被告システム1を「新たに作り出す行為」(本件生産1の1)の特許法2条3項 1 号所定の「生産」該当性
特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、移転、効 力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内にお いてのみ認められることを意味するものであるところ、我が国の特許法において も、上記原則が妥当するものと解される。 本件生産1の1において、各ファイルが米国に存在するサーバから国内のユー ザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信することは、米国と我が国にまた がって行われるものであり、また、新たに作り出される被告システム1は、米国 と我が国にわたって存在するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生 産1の1が、我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題と なる。 ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(国外)に設置されるこ とは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネ ットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵 害物件であるネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたと\nしても、当該システムを構成する端末が日本国内(国内)に存在すれば、これを\n用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者\nが当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るも のである。
そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格 に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在するこ\nとを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解するこ とは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該 システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととな\nって、妥当ではない。他方で、当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、\nこれも妥当ではない。
これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保 護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条 3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素\nの一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、 当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果\nたす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、\nその利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該 行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3 項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。 これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的態様は、米国 に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ 端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信 (送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信すること によって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われ たものと観念することができる。
次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人Y1のサーバと国内に存在 するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ\n端末は、本件発明1の主要な機能である動画上に表\示されるコメント同士が重な らない位置に表示されるようにするために必要とされる構\成要件1Fの判定部の 機能と構\成要件1Gの表示位置制御部の機能\を果たしている。 さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することが できるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の 向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、また、その国内における利 用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影 響を及ぼし得るものである。 以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内で行われた ものとみることができるから、本件発明1との関係で、特許法2条3項1号の「生 産」に該当するものと認められる。
これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の効力が当該国 の領域においてのみ認められる」のであるから、国外で作り出された行為が特許 法2条3項1号の「生産」に該当しないのは当然の帰結であること、権利一体の 原則によれば、特許発明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施す\nることをいうことからすると、一部であっても国外で作り出されたものがある場 合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきである、2)特許 回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要件を満たす物の一部さ え、国内において作り出されていれば、「生産」に該当するというのは論理の飛躍 があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、\n我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判 例においては、カードリーダー事件の最高裁判決(最高裁平成12年(受)第5 80号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)等によ り属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、その例外を設けることの悪影響 が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは\n立法によってされるべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に関し、被疑侵 害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」 に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバ\nが国外に存在する場合であっても、前記 に説示した事情を総合考慮して、当該 行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3 項1号の「生産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することが できない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かの上記判断は、 構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の\n効力を及ぼすというものではないから、2)の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その 成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該 国の領域内においてのみ認められることを意味することに照らすと、上記のとお り当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときに特許法2 条3項1号の「生産」に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しな いというべきである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁 判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たるためには、特 許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内に\nおいて完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、ま た、我が国が締結した条約及び特許法その他の法令においても、属地主義の原則 の内容として、「生産」に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物\nを新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要である ことを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用することができ ない。したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
エ 被告システム1の「生産」の主体
被告システム1は、前記イのプロセスを経て新たに作り出されたものであるとこ ろ、被控訴人Y1が、被告システム1に係るウェブサーバ、動画配信用サーバ及び コメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファ イル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送 信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介するこ となく、被控訴人Y1がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、自動 的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生産」した主体は、 被控訴人Y1であるというべきである。
オ まとめ
以上によれば、被控訴人Y1は、本件生産1の1により、被告システム1を「生 産」(特許法2条3項1号)し、本件特許権を侵害したものと認められる。

◆判決要旨
1審はこちら。

◆令和元年(ワ)25152

関連事件はこちら

◆平成30(ネ)10077
1審です。

◆平成28(ワ)38565

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令和4(ワ)14148  不正競争行為差止請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年4月27日  東京地方裁判所

比較広告が品質誤認表示(不競法2条1項20号)かが争われました。原告はダイソン、被告はパナソ\ニックです。裁判所は該当しないと判断しました。

1 被告表示 2 の品質誤認表示該当性について\n
(1) 被告表示 2 について
被告表示 2 は、別紙被告表示目録記載のとおり、「水分発生量従来の 18 倍」とす る表示(被告表\示 2-1)及び被告表示 2-2 のとおりのものである。被告表示 2-2 中に は、「高浸透ナノイーとは、髪への浸透性を高めたナノイーのことです。発生方式を 変えることで、ナノイーの水分発生量が従来の 18 倍になりました。」との記載があ る。「18 倍」とは、「ナノイーと高浸透ナノイーとの比較(当社調べ)」とされている (甲 2)。 これらの記載から、被告表示 2 においては、「高浸透ナノイー」と従来の「ナノイ ー」の各「水分発生量」が比較対象とされていることが理解される。
(2) 原告実験 2 について
原告実験 2 に係る報告書「水分量測定試験に関する報告」(甲 4。以下「原告実験 2 報告書」という。)によれば、その測定試験は、「送風口とイオン口を備えるドラ イヤーA 及び B について、イオン口から発せられる水分量を比較すること」を目的 として、ドライヤーA と B について、イオン口から放出される水分子による絶乾シ リカゲルの吸水変化を閉鎖系において測定し、その測定結果を比較したものである。 ドライヤーA 及び B は原告代理人から提供されたものであるが、その製品名等は原 告実験 2 報告書では特定されていない。 実験の具体的な方法は、「105゜C)で一晩静置した乾燥シリカゲルをデシケータに入 れ、閉鎖系でドライヤーA および B のイオン口から送風し(HOT モード、TURBO。 ナノイーのランプが付いている状態)、シリカゲルの吸水量の変化を観察した。」、 「チャンバー内の風速は 2.6±0.3m/s に統一した。各時間(0〜4 時間)にイオン口か らの風を吹かせた後、シリカゲルの重量変化を測定し、シリカゲル中に給水された 水分量変化として換算した。」とされている。また、「Fig.1」では、原告実験 2 で使 用した実験装置の構成及び配置等が示されている。\n原告実験 2 報告書では、原告実験 2 の結論として、「ドライヤーA 及び B のイオ ン口からの水粒子によるシリカゲルの吸水率は、コントロールと比較して明確な違 いが見られた。また、ドライヤーA とドライヤーB を比較すると、その吸水率の差 は 1.21〜1.36 倍であることが判明した。つまり、ドライヤーA のイオン口から発せ られる水分量は、ドライヤーB のイオン口から発せられる水分量の約 1.21 倍〜1.36 倍であると推察される。」(裁判所注:「コントロール」とは、「デシケータ内に風を 送り込んでいないシリカゲル」である。)とされている。
(3) 原告実験 2 報告書について
原告実験 2 報告書において、閉鎖系を実現する構成については、Fig.1 に画像とし て示されるにとどまり、具体的かつ詳細な説明はない。もっとも、同図を子細に見 ると、ドライヤーA 及び B のいずれについても、その送風口を除き、その上部にあ るイオン口が包まれるようにラップフィルム状のものでドライヤーの中央部外周を 覆い、かつ、そのラップフィルム状のものにより当該部分からデシケーター入り口 までを覆い、覆った上記ラップフィルム状のものの端部を固定・固着して塞いでい ることが看取される。
しかし、この方法による場合、各ドライヤーのイオン口から放出される水分の全 てが、ラップフィルム状のもの等に吸着されることなくデシケーター内に送られ、 デシケーター内のシリカゲルに吸着するといえるのかは不明である。また、各ドラ イヤーのイオン口から放出される水分の系外への流出及び空気中の水分の系内への 流入が防止されているのか、又は、上記吸着ないし流出・流入がいずれの系におい ても一定に保たれているのかも、不明である。このため、原告実験 2 において測定 されたシリカゲルの吸水量が、各ドライヤーのイオン口から発せられる水分量すな わち水分発生量を正しく反映していると見ることについては疑義がある。 さらに、シリカゲルを用いる方法によることについて、原告実験 2 報告書によれ ば、懸念材料として「秤量時の大気中水分の影響です。シリカゲルをデシケーター から取り出して精密天秤で測定する場合…、大気中水分の吸着の影響を最小限に抑 える工夫が必要となります。」との指摘がされたのに対し、同報告書作成者は、「確 かに厳密に数値を計測する場合には当該指摘のとおりであるが、本測定はドライヤ ーA におけるシリカゲルの重量変化とドライヤーB におけるシリカゲルの重量変化 を比較する目的で実施されたもので、いずれも秤量中に大気中の水蒸気の影響を受 けること、また秤量時間は 30 秒程度と送風時間と比べて短時間であることから、本 測定においては、秤量中の水蒸気が結果に影響を与えることはないといってよいだ ろう。」との見解を示している。しかし、いずれのシリカゲルも秤量中に大気中の水 蒸気の影響を受けるといっても、その影響が同じであるとは必ずしもいえないので あって(そもそも、使用されたシリカゲルの状態及び性能等が同一ないし同等であ\nったかも、同報告書上明らかでない。)、秤量時間が 30 秒程度と短時間であるとして も、原告実験 2 の精度が問題ないといえる程度に高いといえるのかについては疑問 を抱かざるを得ない。 「高浸透ナノイー」と従来の「ナノイー」との「水分発生量」の比較に当たって は、各ドライヤーのイオン口から発せられる水分量の正確な測定値が必要とされる ところ、原告実験 2 は、上記の各点で、その正確性が担保されていることにつき疑 義がある。
(4) 原告の主張について
原告は、その主張に係る本件規範を前提としつつ、原告実験 2 に基づき、被告表\n示 2 が被告商品の品質につき誤認を生じさせるものである旨を主張する。 しかし、品質等誤認表示の不正競争に関しては、法 2 条 1 項 号の趣旨に鑑み、 広告等の表示内容の解釈に当たっては一般消費者の視点に基づき判断するのが相当\nであるとしても、その表示中に示されたデータ等については、客観的かつ科学的に\n実証されたものであることを要し、かつ、それで足りると考えられる。そのデータ 等の取得に当たって設定されるべき試験条件等についても、法 2 条 1 項 号の解 釈として何らかの規律が設けられているとは考えられない。 また、原告実験 2 の結果について、「コントロール」の存在を考慮しても、なお上 記(3)の疑義はいずれも解消されない。 その他原告が縷々指摘する点を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用で きない。
(5) 小括
以上のとおり、原告実験 2 報告書は、被告表示 2 が被告商品の品質につき誤認を 生じさせるものであることを裏付けるに足りるものとはいえない。その他被告表示\n2 が被告商品の品質につき誤認を生じさせるものであることを裏付けるに足りる証 拠もない。 したがって、被告表示 2 は、被告商品の品質につき誤認を生じさせるものとは認 められない。
・・・
ウ 原告実験 1-1 においては、実験に使用した二組の 束の髪の毛につき、同一 の毛束の、水道水浸漬・乾燥処理前後の水分量が測定されている。その点では、原 告実験 1-1 においては、被告表示 1 の検証・確認実験として適切な対象の測定が行 われたものといえる。また、その結果、被告商品の場合には、水道水に浸漬・乾燥 後の毛束の水分量は未処理の毛束の水分量よりも増加しているのに対し、EH-NA9E の場合、処理の前後で髪の水分含有量に著しい変化がない可能性があるとされてい\nる。 他方、原告実験 1-2 においては、「濡らし/乾し処理前後の髪の水分含有量を定量 する」とされているものの、具体的には、同じ毛束から採取された別の毛髪を水道 水浸漬・乾燥処理前に水分量を測定する毛髪と処理後に測定する毛髪として使用し ている。しかし、同じ毛束に属していたといっても、毛髪が異なればその水分量は 当然異なるといえることから、原告実験 1-2 においては、同一の毛束(毛髪)にお ける髪を乾かした際の水分増加量に関する被告表示 1 の検証・確認実験として適切 な対象が測定されているとはいえない。 また、原告実験 1 報告書においては、FT-NIR 法は定性的、又はせいぜい半定量的 な測定方法であるなどとされている。しかし、証拠(乙 7、8)によれば、FT-NIR 法 は、定性分析や定量分析に利用されるものであること、従来の分析法に匹敵する正 確さと精度で多成分分析を行うことができる素早くシンプルな非破壊の分析手法で あり、初期より、農業から食品業界まで幅広い測定に応用できる非破壊の迅速な分 析手法として広く用いられるようになったものとの評価を受けているものであるこ とが認められる。 これらの事情を踏まえると、被告表示 1 の検証・確認実験における測定法として は、非破壊的に毛髪中の水分を定量でき、同一の毛髪につき、水道水浸漬・乾燥処 理前後の水分量を測定し得る FT-NIR 法の方が、KF 法よりも適切な方法と考えられ る。にもかかわらず、原告実験 1 においては、FT-NIR 法については定量的な測定方 法とは位置付けられておらず、また、KF 法の結果は同一の毛髪で水道水浸漬・乾燥 処理前後の水分量を測定していないこと、そのような不適切な方法を被告表示 1 の 検証・確認実験として採用したことから、原告実験 1 の結果が十分に信頼し得るも\nのであるかについては疑義があるというべきである。これに反する原告の主張は採 用できない。
(3) 小括
以上のとおり、原告実験 1 報告書は、被告表示 1 が被告商品の品質につき誤認を 生じさせるものであることを裏付けるに足りるものとはいえない。その他被告表示\n1 が被告商品の品質につき誤認を生じさせるものであることを裏付けるに足りる証 拠もない。
・・・
以上より、被告各表示は、いずれも被告商品の品質につき誤認を生じさせるもの\nとは認められない。したがって、原告は、被告に対し、法 3 条に基づき、被告各表\n示の差止請求権(同条 1 項)及び抹消請求権(同条 2 項)をいずれも有しない。
なお、事案に鑑み付言すると、原告は、被告各表示に関する裏付けとなるデータ\n等を被告が開示しないことにつき、具体的態様の明示義務(法 6 条)及び積極否認 の際の理由明示義務(民訴規則 79 条)に違反するものと指摘する。 しかし、「具体的態様」とは、侵害判断のための対比検討が可能な程度に具体的に\n記載された物の構成又は方法の内容等を意味すると解されるところ、本件において\nは、被告商品の品質につき誤認を生じさせるものとされる被告各表示に記載された\n表示内容は、その記載から明確であるといってよく、その基礎となる被告が保有す\nるはずのデータそれ自体及びこれを導く試験条件等につき、被告各表示において開\n示されたもののほかは開示されていないというに過ぎない。 このため、現に原告が各実験により試みているように、本件において主張立証すべき対象は、侵害判断のための対比検討が可能な程度に、被告各表\示において既に具体的に示されているといえる。そうすると、本件においては、「侵害の行為を組成したものとして主張する物又は方法の具体的態様」(法 6 条)が明らかでないとは必ずしもいえない。また、その点を措くとしても、具体的態様の明示義務に基づき相手方に対して具体的態様 の明示を求め得るためには、濫用的・探索的な提訴等を抑止する観点から、当該事 案の性質・内容等を踏まえつつ、提訴等を一応合理的といい得る程度の裏付けを要 すると解される。しかるに、本件においては、上記のとおり対比検討すべき表示内\n容は明確である上、原告実験 1〜は、その実験方法が被告各表示の検証・確認実験\nとして不適切であり、また、その結果にはそれぞれ疑義があることを踏まえると、 上記の程度の裏付けがされているとはいいがたい。そうである以上、被告の対応を もって具体的態様の明示義務等に違反するものとまではいえない。

◆判決本文

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令和3(ワ)20472  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年5月18日  東京地方裁判所

 写真の著作物について、許諾料460万円には、プロジェクト期間終了後の使用を含んでいないと判断されました。460万という高額の契約なのに、契約書無しでした。

・・上記小冊子に本件各写真を掲載することを許可した。なお、当該許可に当たり、原告と被告会社との間で契約書は作成され被告らは、本件各写真の高額な許諾料に鑑みれば、原告が被告会社に対し本件各写真の利用を許諾する契約(以下「本件契約」という。)には、実績紹介等のための利用を許諾する旨の合意(以下「本件合意」という。)が含まれていたと主張する。
そこで検討するに、原告が被告会社との間で本件契約を締結するに当たり、 契約書を作成しなかったことは、当事者間に争いがない。そして、原告は、 本件合意があったことを否定しているところ、本件契約に関して、原告と被 告会社間のやり取りなど本件合意がうかがわれるような書面等は存在せず、 被告らの主張を前提としても、上記合意がされた経緯、時期、場所その他の 事情は、具体的には明らかにされていない。のみならず、証拠(甲17、1 8)及び弁論の全趣旨によれば、別の会社に対して本件写真1の利用を許諾 した際は、これに関する契約書が作成されているところ、当該契約書におけ る本件写真1の許諾料は、本件契約における許諾料と同等のものであるのに、 実績紹介等のための利用を許諾する旨の合意は存在しなかったことが認めら れる。 これらの事情の下においては、本件合意があったことを裏付けるに的確な 証拠はなく、本件契約と同種の別件契約の内容に照らしても、本件合意があ ったものと認めるのは相当ではない。したがって、被告らの主張は、採用す ることができない。
これに対し、被告らは、写真家等のクリエイターにとっても、実績紹介と して写真等が使用されることにはメリットがあることなどから、広告デザイ ン業界においては、このような実績紹介として写真等を使用する場合には、 クリエイターに利用許諾を求めない慣行が存在する旨主張する。 そこで検討するに、証拠(甲11、12、34ないし38)及び弁論の全 趣旨によれば、被告会社は、本件各写真のデジタルデータに「透かし」を入 れ又は写真家の名前を浮き彫りにするなどの無断複製防止措置をせずに、本 件ウェブページに上記デジタルデータを掲載したものと認められるところ、 同デジタルデータは、グーグルの検索サイトの画像欄その他のインターネッ ト上に、原告の名前が付されずに広く複製等されるに至ったことが認められ る。そして、証拠(乙5、6)及び弁論の全趣旨によれば、実績紹介での利 用につき、デザインも含めての掲載であれば格別、画像を抜き出して利用す ることは許容されず、また、ウェブページにおいて、PDFを閲覧できたり ダウンロードできたりする場合はライセンス料金が発生する旨注意喚起する フォトエージェンシーが存在することが認められる。 これらの事情を踏まえると、少なくとも、被告会社が無断複製防止措置な く本件各写真のデジタルデータを掲載するような態様についてまで、クリエ イターに利用許諾を求めない慣行が存在するものと認めることはできない。 したがって、被告らの主張は、採用することができない。

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令和5(ネ)10009  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審は「本件発明の技術的範囲に属さない」と判断しましたが、知財高裁は、そもそも別事件(東京地判令和2年(ワ)第15464号)と重複するとして、訴えを却下しました。

1 本件訴えの適法性(本案前の抗弁)について
(1) 後訴の請求又は後訴における主張が前訴のそれの蒸し返しにすぎない場合に は、後訴の請求又は後訴における主張は、信義則に照らして許されないものと解す るのが相当である(最高裁昭和49年(オ)第331号同51年9月30日第一小 法廷判決・民集30巻8号799頁、最高裁昭49年(オ)第163号、164号 同52年3月24日第一小法廷判決・裁判集民事120号299頁参照)。
(2) 令和2年事件について(乙1、2)
ア 令和2年事件は、控訴人が、スマートフォン(型番SHV39、SHV40、 SHV41、SHV42及びSHV43。以下併せて「前訴被告製品」という。) の被控訴人シャープによる製造、被控訴人KDDIによる販売が、本件特許権を侵 害すると主張して、被控訴人らに対し、特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請 求をした事案である。 令和2年事件においては、前訴被告製品が本件特許の特許請求の範囲の請求項1、 3及び4の各発明の技術的範囲に含まれるかが問題となり、具体的には前訴被告製 品にインストールされた「AQUOS Home」と呼ばれるアプリケーション (以下「前訴アプリ」という。)における「操作メニュー情報」の有無が争点とな った(令和2年事件における争点1−3)。 この争点について、控訴人は、「・・・できるように」という言葉は、目標・目 的・基準等を示すものであるから、「操作メニュー情報」は実行される命令の内容 の全部を利用者において理解することができるものである必要はなく、実行される 命令の内容を利用者が理解できることを目標・目的としている程度の表現があれば\n足りるなどとして、前訴被告製品における前訴アプリによるページ一部表示(本件\nにおける「一部表示画像」に相当する。)が「操作メニュー情報」に当たると主張\nした。
イ 令和2年事件の第一審である東京地方裁判所は、前訴被告製品における前訴 アプリの動作について、「1)利用者が前訴アプリの画面上に表示されたアイコン画\n面に指で触れて一定時間待つ操作(ロングタッチ)をすると、当該アイコンを移動 できる状態に遷移し、2)当該アイコンが指に追随して移動し、アイコンが指に追随 して右又は左に移動した距離が一定距離を超えると、縮小モードとなって、表示中\nの当該ページの画面が90%の大きさに縮小され、画面の左端又は右端に隣接する ページの画面の一部(ページ一部表示)が表\示され、3)更に当該アイコンをその方 向に移動させると、移動方向に隣接するページの画面がスクロールされて表示され\nる」ものであると認定し、ページ一部表示である直方形部分を見た利用者は、それ\nがどのような命令を実行する表示であるのかを理解することができないから、前訴\n被告製品のページ一部表示の画像は、本件発明1及び3の構\成要件Bの「操作メニ ュー情報」を有するとは認められないと判断した(乙2。東京地裁令和2年(ワ) 第15464号同3年7月14日判決)。そして、上記判断は、控訴審である知財 高裁令和4年2月8日判決(乙1)においても維持され、同判決は、上訴されるこ となく確定している(弁論の全趣旨)。
(3) 本件について
ア 本件は、控訴人が、スマートフォン(型番SHV44、SHV45及びSH V46。被告製品)の被控訴人シャープによる製造、被控訴人KDDIによる販売 が、本件特許権を侵害すると主張して、被控訴人らに対し、特許権侵害の不法行為 に基づく損害賠償請求をした事案である。 本件においては、被告製品が本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び3の各発 明(本件発明)の技術的範囲に含まれるかが問題となり、具体的には被告製品にイ ンストールされた「AQUOS Home」と呼ばれるアプリケーション(本件ホ ームアプリ)における「操作メニュー情報」の有無が争点となった。 本件における争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)についての 控訴人の主張は、原判決別紙「技術的範囲に関する当事者の主張」及び前記第2の 3に記載するとおりである。
イ 被告製品における本件ホームアプリの動作は、概要次のとおりである(前提 事実(6)ウ)。
「1)利用者が本件ホームアプリの画面上に表示されたショートカットアイコンを\n長押しすると、当該ショートカットアイコンはタッチパネル上の指等の動きに追随 して移動できる状態になり、2)当該ショートカットアイコンの移動距離が一定距離 になった場合に、縮小モードとなって、表示中の中央ページ画面が縮小表\示され、 画面の左端又は右端に隣接するページの画面の一部(一部表示画像)が表\示され、 3)更に当該ショートカットアイコンを一部表示画像の範囲に入れると、隣のページ\nの画面が表示される。」\nなお、原判決は、一部表示画像を見た利用者は、それが左右のページの一部を表\ 示していることを理解できるとはいえず、仮に理解できたとしても、当該画像の領 域までショートカットアイコンをドラッグすることによって対応するページにスク ロールするという命令が表示されていると理解できるように構\成されているとはい えないから、被告製品の一部表示画像は「操作メニュー情報」に当たらず、被告製\n品が本件発明の構成要件B、E、F、Gの「操作メニュー情報」を有するとは認め\nられないと判断した。
(4) 令和2年事件と本件の比較
令和2年事件と本件は、当事者を同一とし、侵害されたとされる特許権が同一で あり、その特許請求の範囲の請求項1及び3の各発明の技術的範囲への被疑侵害品 の属否が問題となっている点も共通する。 本件の対象製品である被告製品は、令和2年事件の対象製品である前訴被告製品 と同一シリーズの製品であって、前訴被告製品よりも後に発売されたものと推認さ れるものの、前訴被告製品から大きな仕様変更がされたことはうかがえず、特に、 問題とされているアプリケーションは同一(いずれもAQUOS Home)であ って、そのバージョンが異なる可能性はあるとしても、大きな仕様変更がされたこ\nともうかがえず、また、問題となる動作(前記(2)イ及び(3)イ)は同一又は少なく とも実質的に同一である。 そして、令和2年事件と本件における争点は、対象製品(前訴被告製品又は被告 製品)にインストールされた「AQUOS Home」と呼ばれるアプリケーショ ン(前訴アプリ又は本件ホームアプリ)における「操作メニュー情報」の有無であ るから、争点も同一又は少なくとも実質的に同一であり、そればかりか、当該争点 についての控訴人の主張も実質的に同一である。 そうすると、本件における控訴人の主張は、対象製品に「操作メニュー情報」が 存在しないことを理由として、控訴人の被控訴人らに対する本件特許権侵害の不法 行為に基づく損害賠償請求に理由がないとの判断が確定した令和2年事件における 控訴人の主張の蒸し返しにすぎないというほかない。控訴人は、令和2年事件判決 が、「操作メニュー情報」が存在しないと判断した根拠となる前訴被告製品の構成\n(前訴アプリの動作)と、被告製品の構成(本件ホームアプリの動作)が実質的に\n同一であり、そのために、被告製品が、前訴被告製品におけるものと同一の理由に より、本件特許権を侵害しないものであることを十分認識しながら、本件訴えを提\n起したものと推認されるのであって、本件において控訴人の請求を審理することは、 被控訴人らの令和2年事件判決の確定による紛争解決に対する合理的な期待を著し く損なうものであり、訴訟上の正義に反するといわざるを得ない。
(5) 控訴人の主張に対する判断
この点、控訴人は、令和2年事件における対象製品である前訴被告製品の構成\na1 と、本件訴訟における被告製品の構成 a1、a1’、a1”が異なり、また、構成 a3、 a3’、a3”、p1〜p3 が追加されているから、新たな判断が必要であると主張する。 しかしながら、控訴人の主張する被告製品の構成 a1、a1’、a1”及び p1〜p3 は 「一部表示画像」に関するものではなく、構\成 a3、a3’、a3”は、「一部表示画像」\nの画面上の領域(座標)をより具体的に特定したにすぎないものであって、前記 (2)イの前訴アプリの動作を変更するものではないから、控訴人の主張する構成は、\nいずれも、「一部表示画像」が構\成要件B、E、F、Gの「操作メニュー情報」に 該当するかを検討するに当たり、その判断に影響を与え得るものとはいえない。 また、上記控訴人の主張する構成の差異が、前訴被告製品の前訴アプリと被告製\n品の本件ホームアプリにおける実質的な差異であると認めるに足りる証拠はない上、 仮に、当該構成部分において、前訴被告製品の前訴アプリと被告製品の本件ホーム\nアプリに差異があるものと認められたとしても、その差異は、被告製品の本件ホー ムアプリにおける「操作メニュー情報」の有無に係る判断を左右するものとはいえ ず、さらに、控訴人が、控訴審において追加した構成も、上記判断を左右するもの\nではない。 したがって、上記控訴人の主張は採用できない。
(6) 小括
したがって、控訴人が本件において本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償 請求をし、これに係る主張をすることは、令和2年事件における紛争の蒸し返しに すぎないというべきであり、同事件の当事者である控訴人と被控訴人らとの間で、 控訴人の請求について審理をすることは、訴訟上の信義則に反し、許されない。

◆判決本文
原審は令和4年(ワ)第11889号ですが、アップされていません。

上記別事件はこちらです。

◆令和2年(ワ)第15464号

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令和4(行ケ)10119  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年5月18日  知的財産高等裁判所

 図形+「GINZA」+「CLEAR」の3段併記商標について、「CLEAR」の文字部分を抽出して類否判断ができるかが争われました。知財高裁は、抽出できるとした審決を維持しました。

(1) 本願商標
別紙商標目録記載1のとおり、本願商標は、上段に、楕円形の二重線の枠の中に 曲線で構成された欧文字風の2つのモノグラム図形を配するロゴ風の図形(本件図\n形)を表し、中段に、「GINZA」の欧文字をサンセリフ体様の書体で小さく表\ し、下段に、「CLEAR」の欧文字をセリフ体様の書体で大きく表してなるもの\nであり、本件図形及び上記各文字は、いずれも薄い茶色で表されている。\n
(2) 本件図形部分
本願商標の構成中の本件図形部分は、そのうちの欧文字風の2つのモノグラム図\n形を含め、図案化の程度が顕著であり、それ自体、出所識別標識としての称呼及び 観念を生じないものである。
この点に関し、原告は、本願商標の構成中の本件図形部分はカメオを彷彿とさせ\nるものであり、トレードマークとして極めて強い印象を与え、また、面積にして本 願商標全体の70%以上を占めるから、本願商標が全体として与える影響のうち本 件図形部分によるそれが占める割合は大きいと主張する。確かに、別紙商標目録記 載1のとおり、本願商標のうち本件図形部分は、面積にして全体の大きな部分を占 めており、また、ロゴ風の図形として取引者及び需要者の注意を引く面があること は否めない(この点は、被告も争うものではない。)。しかしながら、上記のとお り、本件図形部分は、その図案化の程度が顕著であり、そのうちの2つのモノグラ ム図形についても、取引者及び需要者においてこれが何の文字を図案化したもので あるかを一見して理解することはできないものといわざるを得ないから、本願商標 の構成中の本件図形部分が取引者及び需要者の注意を引く面があるとの点は、本件\n図形部分が出所識別標識としての称呼及び観念を生じないものであるとの判断を左 右しない。
(3) 「GINZA」の文字部分
ア 本願商標の構成中の「GINZA」の文字部分が東京都中央区南西部にある\n地名である「銀座」をローマ字で表記したものであることは、当事者間に争いがな\nい。
イ 証拠(乙24)及び公知の事実によると、「銀座」は、日本を代表する繁華\n街であると認められるところ、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると、「銀座」に 所在する店舗等については、以下のとおり、「GINZA」の文字が商品の販売地、 役務の提供場所、ブランドの発祥地等に相当する表示として使用されている例が多\n数あるものと認められる。
・・・
ウ 以上によると、本願商標の構成中の「GINZA」の文字部分は、商品の販\n売地、役務の提供場所、ブランドの発祥地等に相当するとの印象を与えるものにす ぎず、当該文字部分からは、出所識別標識としての称呼及び観念が生じないという べきである。
エ この点に関し、原告は、本願商標の構成中の「GINZA」の文字部分から\nは「銀座の地に関連があり、高級感のある事業」の観念が生じると主張する。しか しながら、仮に当該文字部分から「銀座の地に関連がある事業」の観念が生じると しても、それは、商品の販売地、役務の提供場所、ブランドの発祥地等をいうもの にすぎず、出所識別標識としての観念であるということはできない。また、当該文 字部分から「高級感のある事業」の観念が生じるものと認めるに足りる証拠はない。 なお、原告は、その運営するエステティックサロンにおいて本願商標を使用する 際には「CLEAR」の文字部分のみを使用することは決してなく、必ず本件図形 部分を含む本願商標の全体又は「GINZA CLEAR」の文字部分を使用して いると主張するが、仮に、本願商標について原告が主張するような使用実態がある としても、上記ア及びイにおいて認定説示したところに照らすと、そのような使用 実態は、本願商標の構成中の「GINZA」の文字部分から出所識別標識としての\n称呼及び観念が生じないとの判断を左右するものではない。
(4) 「CLEAR」の文字部分
ア 証拠(乙22、23)及び弁論の全趣旨によると、本願商標の構成中の「C\nLEAR」の文字部分を構成する「CLEAR」の語は、「明快な」、「明晰な」、\n「澄んだ」などを意味する形容詞等であり、我が国においてよく親しまれた平易な 英単語であると認められる。そして、「CLEAR」の語は、本願商標の指定商品 又は指定役務との関係で、商品の産地、販売地、品質等や役務の提供の場所、質等 を具体的に表示するものではないから、本願商標の構\成中の「CLEAR」の文字 部分は、取引者及び需要者に対して強い訴求力を有するということができる。以上 に加え、前記(1)のとおり当該文字部分が「GINZA」の文字部分より大きく表\nされていることも併せ考慮すると、「CLEAR」の文字部分は、商品又は役務の 出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであると認められる。
イ この点に関し、原告は、「CLEAR」の語は造語でなく、特別印象的な意 味を有する語でもなく、特徴的な振る舞いをする文字からなる語でもなく、また、 本願商標の指定商品及び指定役務と親和性のある形容詞であるから、本願商標の構\n成中の「CLEAR」の文字部分は商品又は役務の出所識別標識として強く支配的 な印象を与えるものではないと主張する。しかしながら、商標において商品又は役 務の出所識別標識として機能する文字部分は、必ずしも造語、特別印象的な意味を\n有する語、特徴的な振る舞いをする文字からなる語等でなければならないというこ とはない。また、仮に本願商標の指定商品及び指定役務の中に「明快な」、「明晰 な」、「澄んだ」などを意味する「CLEAR」の語によって抽象的に形容され得 るものがあるとしても、そのことは、本願商標の構成中の「CLEAR」の文字部\n分が商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとの判断を左右 するものではない。
なお、原告は、本願商標を付して行っている現在の事業(エステティックサロン) 及び本願商標を付して行う予定である将来の事業(セルフケアを目的としたビュー\nティー系コンテンツの配信及び健康食品や健康グッズの小売等に関するECサイト の運営事業)に係る商品又は役務の需用者は当該商品又は役務の出所を注意深く確 認して取引関係に入るのが一般的であるから、本願商標の構成中の「CLEAR」\nの文字部分は出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではないと主張す るが、原告の現在及び将来の事業に係る商品又は役務の需用者が原告の主張するよ うな者であると認めるに足りる証拠はないし、仮に、当該商品又は役務の需用者が 原告の主張するような者であるとしても、前記(2)及び(3)並びに上記アにおいて認 定説示したところに照らすと、当該商品又は役務の需用者に係るそのような属性も、 本願商標の構成中の「CLEAR」の文字部分が商品又は役務の出所識別標識とし\nて強く支配的な印象を与えるとの判断を左右するものではない。
(5) 小括
以上のとおり、本願商標の構成中の「CLEAR」の文字部分は、商品又は役務\nの出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであると認められる一方、本 願商標の構成中の本件図形部分及び「GINZA」の文字部分からは、出所識別標\n識としての称呼及び観念が生じず、また、本願商標の構成中の本件図形部分は、欧\n文字風の2つのモノグラム図形を含めて図案化の程度が顕著であり、その余の部分 (「GINZA」の欧文字をサンセリフ体様の書体で表してなる「GINZA」の\n文字部分及び「CLEAR」の欧文字をセリフ体様の書体で表してなる「CLEA\nR」の文字部分)と形態を異にするものであって、本件図形部分と上記その余の部 分は、それぞれが視覚上分離、独立した印象を与えるところ、両者を不可分一体に 観察すべきとする取引の実情があるものと認めるに足りる証拠はないから、本願商 標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然で\nあると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。したがって、 本願商標については、その構成中の「CLEAR」の文字部分を抽出し、当該文字\n部分だけを他の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきで ある。

◆判決本文

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令和4(ネ)2081  不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和5年4月27日  大阪高等裁判所

 釣り具(浮き)の形について、不正競争行為(周知商品等表示の使用)かが争われました。大阪地裁(21部)は、特別顕著性無しとして、請求を棄却しました。大阪高裁も同様です。

控訴人は、需要者は、うきの選択に際してその形状の微細な差に着目して 商品選択をするから、特別顕著であるといえるためには、かけ離れた特異な 形態を備えている必要はなく、他のうきにはない形態を備えていれば足りる と主張する。
しかし、証拠(甲155、156、乙26、証人P2(原審)、控訴人代 表者(原審)、被控訴人代表\者(原審))及び弁論の全趣旨によると、釣り 具のうきの形態は、時代によって変化してきているが、その変化は、他の商 品一般に見られるような需要喚起のための装飾的観点からのものではなく、 より良い釣果を上げるための技術的工夫がうきの形態に反映され、徐々に改 良されていった結果であると認められるところ、より良い釣果を求めてうき に対して加えられる技術的工夫は、機能及び効用の側面等から自ずと一定の\n範囲に収れんすることになるため、商品ごとの形態の差は細部に及ぶ上、そ の差は微細なものになることが認められる。 そうすると、需要者が、より多くの釣果を求めて釣り具の選択をする際、 その形状や色彩を釣り具の性能を推知する資料として観察するとしても、も\nともと形態の差が細部に及ぶ微細なものである上、そもそも外観から観察し てうきの性能の優劣自体を判断することには自ずと限度があることから(控\n訴人が自立うきの性能を決する上で重要である旨主張する錘の量及び錘の位\n置は、うきの形態からは分からないはずのものである。)、結局、需要者は、 棒うき、円錐うき等といったうきの種類を商品形態によって見分けるとして も、その中で、さらに微細な商品形態の差に依拠して商品選択をするとは考 えられず、それよりも、釣り仲間や雑誌等の情報から得られる商品やその製 造者の評判ないし評価を主に参考にして商品を選択しているものと考えられ る。そうすると、上記のような商品群の中における商品選択の在り方を前提 にして、商品形態に特別顕著性があるといえるためには、他のうきとはかけ 離れた特異な形態であることが必要であって、これに反する前提に立つ控訴 人の主張は採用できない。そして、原告商品が他社のうきとはかけ離れた特 異な形態であるとも認められないから、その商品形態に特別顕著性があると いうことは到底できない。
また、控訴人は、原告商品に用いられた色彩にも特徴があるように主張す るが、その付された色彩は、明らかに釣り人が遠方から見て判別が容易な色 が選択されており、その色彩は、そのような目的において採用され得る色彩 の中でありふれたものにすぎないから、その彩色部分が他のうきと少し異な っていたからといって原告商品の色彩が出所表示機能\を有するようになった とは到底認められない。
(2) なお、補正の上引用した原判決「事実及び理由」欄の第3の2(3)エ(原判 決21頁10行目から同頁26行目まで)の記載に係る認定事実及び甲16 3の1ないし121、甲165の1ないし27によれば、原告商品の製作者 である控訴人の前代表者のP1は、クロダイ(チヌ)釣りの世界で「名人」\nと称され、多くの雑誌で特集が組まれる程度に同業界で著名な人物であり、 原告商品がそのP1が製作したうきであるという事実も多くの雑誌で紹介さ れている事実が認められるから、原告商品は、P1が製作したうきとして釣 り愛好家の間で知られている商品であること自体は認められる。しかし、前 記のとおり、需要者は、主に商品やその製造者の評判ないし評価を参考にし て商品を選択すると考えられることからすると、需要者は、原告商品を、そ の商品名を手掛かりとして、有名なP1が製作したうきであると認識した上 で他の商品から識別して認識するものと考えられる(現に原告商品自体のみ ならず、そのパッケージには、P1が製作したうきであることが一目で分か るよう行書体からなる「遠矢」の文字が記載されており、これによって他社 の商品であるうきと識別されていると認められる。)。 そうすると、周知性という点では、原告商品について、これを認める余地 があるが、それはあくまで「遠矢」ないし「遠矢うき」という商品名と結び ついて知られているものと認めるのが合理的であって、その商品形態の周知 性を裏付けるものではないというべきである。
(3) したがって、原告商品1ないし11の形態は不競法2条1項1号に規定す る「商品等表示」に該当するとは認められないから、不競法2条1項1号該\n当を前提とする控訴人の被控訴人に対する請求は理由がないというほかない。

◆判決本文

一審はこちら。

◆令和2(ワ)4530

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令和4(ネ)74 損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年4月27日  大阪高等裁判所

布団の花柄模様について、大阪高裁は著作物ではないと判断しました。1審はアップされていません。判決文の最後に、原告商品があります。

控訴人は、P1から本件絵柄の著作権を譲り受けたことを前提に、被控訴 人らの布団製造販売行為が、控訴人が取得した著作権の侵害行為であると主張 して本件各請求をしている。しかしながら、以下に述べるとおり、本件絵柄は 著作権法上の著作物ということができないから、控訴人は著作権を譲り受けた といえず、したがって主張に係る著作権の侵害を前提とする控訴人の被控訴人 らに対する各請求はいずれも理由がないというべきである。
(2) 本件絵柄は、テキスタイルデザイナーであるP1によって販売目的で量産 衣料品の生地に用いるデザイン案として制作され、現にその目的に沿って控訴 人に対して販売され、実用品である原告商品の絵柄として用いられたものであ り(前記第2の2(2))、いわゆる応用美術に当たる。控訴人は、本件絵柄が、 いわゆる応用美術であるとしても、布団の絵柄は実用的機能とは全く無関係な\n部分であるし、またP1が本件絵柄を完成させた時点では、本件絵柄と布団は 分離されているから、本件絵柄は、他の著作物同様の創作性の判断基準で著作 物性が認められるべき旨主張する。
そこで検討するに、著作権法2条1項1号は、「著作物」とは「思想又は感情 を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する\nものをいう」と規定し、同法10条1項4号は、同法にいう著作物の例示とし て、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」を規定し、同法2条2項は、「こ の法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする」と規定し ている。ここにいう「美術工芸品」は例示と解され、美術工芸品以外のいわゆ る応用美術が、著作物として保護されるか否かは著作権法の文言上明らかでな いが、同法が、「文化の発展に寄与すること」を目的とし(同法1条)、著作権 につき審査も登録も要することなく長期間の保護を与えているのに対し(同法 51条)、産業上利用することができる意匠については、「産業の発達に寄与す ること」を目的とする意匠法(同法1条)において、出願、審査を経て登録を 受けることで、意匠権として著作権に比して短期間の保護が与えられるにとど まること(同法6条、16条、20条1項、21条)からすると、産業上利用 することができる意匠、すなわち、実用品に用いられるデザインについては、 その創作的表現が、実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の\n対象となる美的特性を備えていない限り、著作権法が保護を予定している対象\nではなく、同法2条1項1号の「美術の著作物」に当たらないというべきであ る。そして、ここで実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の 対象となる美的特性を備えているといえるためには、当該実用品における創作 的表現が、少なくとも実用目的のために制約されていることが明らかなもので\nあってはならないというべきである。
これに対し、控訴人は、著作権法と意匠法による保護が重複することについ て何ら調整の必要がないとする前提で著作権法による保護を求めていると解 されるが、両法制度の相違に鑑みれば、両法制度で重複的に保護される範囲に は自ずと限界があり、美術の著作物として保護されるためには、上記のとおり の要件が必要であるというべきである。実用品における創作的表現につき、無\n限定に著作権法上の保護を及ぼそうとする控訴人の主張は、現行の法体系に照 らし、著作権法が想定しているところを超えてまで保護の対象を広げようとす るものであって採用することはできない。
(3) 以上の観点から、本件絵柄についてみると、本件絵柄それ自体は、テキスタ イルデザイナーであるP1によってパソコン上で制作された絵柄データであ\nり、また、実用品である布団の生地など、量産衣料品の生地にプリントされて 用いられることを目的として制作された絵柄であるが、その絵柄自体は二次的 平面物であり、生地にプリントされた状態になったとしても、プリントされた 物品である生地から分離して観念することも容易である。そして、本件絵柄の 細部の表現を区々に見ていくと、控訴人が縷々主張するようにテキスタイルデ\nザイナーであるP1が細部に及んで美的表現を追求して技術、技能\を盛り込ん だ美的創作物であるということができ、その限りで作者であるP1の個性が表\nれていることも否定できない。
しかし、本件絵柄は、その上辺と下辺、左辺と右辺が、これを並べた場合に 模様が連続するように構成要素が配置され描かれており、これは、本件絵柄を\n基本単位として、上下左右に繰り返し展開して衣料製品(工業製品)に用いる 大きな絵柄模様とするための工夫であると認められる(本件絵柄は、原告商品 であるシングルサイズの敷布団では上下左右に連続して約6枚分、掛布団では 同様に約9枚分プリントされて全体に一体となった大きな絵柄模様を作り出 すよう用いられている(弁論の全趣旨)。)から、この点において、その創作的 表現が、実用目的によって制約されているといわなければならない。\nまた、本件絵柄に描かれている構成は、平面上に一方向に連続している花の\n絵柄とアラベスク模様を交互につなぎ、背景にダマスク模様を淡く描いたもの であるが(本件絵柄に用いられている模様が、このように称される絵柄である ことは訴訟当初から当事者間に争いがない 。)、証拠(乙2、丙3ないし13) 及び弁論の全趣旨によれば、アラベスク模様はイスラムに由来する幾何学的な 連続模様であり、またダマスク模様は中東のダマスク織に使用される植物等の 有機的モチーフの連続模様であって、いずれも衣料製品等の絵柄として古来か ら親しまれている典型的な絵柄であり、これら典型的な絵柄を平面上に一方向 に連続している花の絵柄と組み合わせ、布団生地や布団カバーを含む、カーテ ン、絨毯等の工業製品としての衣料製品の絵柄模様として用いるという構成は、\n日本国内のみならず海外の同様の衣料製品についても周知慣用されているこ とが認められる。そして、本件絵柄における創作的表現は、このような衣料製\n品(工業製品)に付すための一般的な絵柄模様の方式に従ったものであって、 その域を超えるものではないということができ、また、販売用に本件絵柄を制 作したP1においても、そのことを意図して、創作に当たって上記構成を採用\nしたものと考えられるから、この点においても、その創作的表現は、実用目的\nによって制約されていることが、むしろ明らかであるといえる。 そうすると、本件絵柄における創作的表現は、その細部を区々に見る限りに\nおいて、美的表現を追求した作者の個性が表\れていることを否定できないが、 全体的に見れば、衣料製品(工業製品)の絵柄に用いるという実用目的によっ て制約されていることがむしろ明らかであるといえるから、実用品である衣料 製品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を 備えているとはいえない。したがって、本件絵柄は、「美術の著作物」に当たるとはいえず、著作物性を認めることはできないというべきである。
(4) 以上によれば、控訴人が譲り受けたとする本件絵柄は著作物ではなく著作 権そのものが認められないから、控訴人が本件絵柄について著作権を有してい るとは認められず、その結果、被告製品に付された絵柄が、本件絵柄に依拠し て作成されたものであり、また同一性が認められる範囲内にあるとしても、被 控訴人らの被告製品の製造販売行為をもって著作権侵害であることを前提と する控訴人の被控訴人らに対する請求は、その余の争点について判断するまで もなく理由がないというべきである。なお、控訴人が、控訴人において本件絵 柄の背景のダマスク模様の一部を改変して制作した原告絵柄4及び同5の著 作権侵害をいう部分があるが、その主張が認められないことは上記と同様であ る。

◆判決本文

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令和3(ワ)11472  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年5月11日  大阪地方裁判所

被告がAmazonに対して、著作権侵害申告をした行為が不競法2条1項21号の不正競争行為に該当すると判断されました。裁判所は、正面から商品を撮影した画像について、そもそも著作物ではないと判断しました。\n

前記(1)アのとおり、被告各画像のうち、写真集又は卓上カレンダーに 係る画像である被告画像1、2及び4ないし10は、販売する商品がどの ようなものかを紹介するために、平面的な商品を、できるだけ忠実に再現 することを目的として正面から撮影された商品全体の画像である。被告は、 商品の状態が視覚的に伝わるようほぼ真上から撮影し、商品の状態を的確 に伝え、需要者の購買意欲を促進するという観点から被告が独自に工夫を 凝らしているなどと主張するが、具体的なその工夫の痕跡は看取できない 上、撮影の結果として当該各画像に表現されているものは、写真集等とい\nう本件各商品の性質や、正確に商品の態様を購入希望者に伝達するという 役割に照らして、商品の写真自体(ないしそれ自体は別途著作物である写 真集のコンテンツとしての写真)をより忠実に反映・再現したものにすぎ ない。
(イ) 単語帳に係る画像である被告画像3は、前記同様に商品をできるだけ 忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体を撮影し た平面的な画像2点と、扇型に広げた商品の画像1点を配置したものであ り、当該配置・構図・カメラアングル等は同種の商品を紹介する画像とし\nてありふれたものであるといえ、被告独自のものとはいえない。
(ウ) 以上より、被告各画像は、被告自身の思想又は感情を創作的に表現し\nたものとはいえず、著作物とは認められない。 (エ) また、商品名については、前記(1)イのとおり、いずれも商品自体に付 された商品名をそのまま使用するか、欧文字をカタカナ表記に変更したり、\n大文字表記を小文字表\記にしたり、単に商品の内容を一般的に説明したに とどまるありふれたものであって、著作物とは認められない。 そのほか、被告は、本件各申告には被告サイト上の商品の説明文に関す\nる著作権侵害も含まれるかのように主張するが、具体性を欠く上、その説 明が創作性を有するとは想定できず、失当である。

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令和4(行ケ)10003  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年4月27日  知的財産高等裁判所

進歩性違反なしとした審決が維持されました。

(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換 する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間 に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数 値範囲を容易に想到することができるかについて 甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工 業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた 後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg /l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以 下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0. 8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水 に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、 かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲 1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5 発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩 素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1 のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。 原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度 を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃 度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素 の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に 甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記 のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張 はいずれにしても採用し得ない。 甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生 剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別 紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙 3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用 いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0. 40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以 下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次 亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0 3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、 実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2 0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本 件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は 同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違 点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15mg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが\n開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提 とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施 例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度 の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。 かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水 し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試 験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18 では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5 mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、 比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、 甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載 の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得 られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸 化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易 想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき 本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発 明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと は後記3のとおりである。

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令和2(ワ)4913  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年4月20日  大阪地方裁判所

約4500万円の損害賠償が認められました。なお、本件では、102条2項の覆滅部分について、3項の重畳適用は否定されました。

(c) 原告は、前記の各製品について、アウタロータ型電動モータを採用しておら ず、被告製品及び原告製品と構造が根本的に異なること、被告製品及び原告製品は、\n主として車輌工場において重要保安部位向けに使用されるのに対し、瓜生製作のU BX−AFシリーズ以外は主にそれよりも重要度の低い部位に用いられること、デ ソータやエスティックの製品は電動式衝撃締め付け工具ではなくナットランナーと\n思われること等を理由に、いずれも競合品に該当しないと主張する。 しかし、被告カタログ及び前記競合品の各カタログ(乙52の4、54の3、5 6の1・2、58、73、74)には、工具に採用されているモータの型がアウタ ロータかインナロータかといった点に関する記載がないことや、モータの構造は製\n品の外部から確認できるものではないこと等を踏まえると、モータの構造それ自体\nが需要者の購入動機の形成に寄与する場合が多いとは認められず、アウタロータ型 電動モータを採用していないことをもって直ちに競合品から排除されるとするのは 相当でない。また、被告製品及び原告製品の各カタログを見ても、締め付け工具で あること以上に各製品の用途を限定する旨の記載はなく(甲35、36、乙58)、 これらの製品が主に車輌工場において重要保安部位向けに使用される一方、他の製 品が異なることについて的確に裏付ける証拠はない。また、証拠(乙1、4、34) によれば、一般に、ナットランナーは、インパクトレンチやパルスツールとはモー タの回転を締付力に変換する方式が異なることから、高精度である一方でトルクが 低く抑えられ、反力受けが必要であるという特徴を有し、パルスツールとは性能・\n用途が異なる場合があるといえるが、デソータ及びエスティックの前記各製品は、\n低反力で反力受けを要さず、作業者が直接手に持って締め付け操作を行うことが可 能な製品であり、かつトルク範囲も被告製品のものと重複するものであることから、\n被告製品及び原告製品と性能・用途等において共通する競合品であると認められる。\nしたがってこの点の原告の主張は採用できない。
(d) 以上によれば、被告製品及び原告製品と共通する電動式締め付け工具の市 場において競合品が一定数存在することが認められる。もっとも、当該市場におけ る被告製品や原告製品の市場占有率等が明らかではないことや、競合品と認められ る製品の中には、被告製品との価格差が比較的大きいものもあると考えられること 等を踏まえると、競合品の存在を理由とする大幅な覆滅を認めることはできないと いうべきである。
c 侵害品の性能\n
(a) 被告カタログ(乙58)によれば、被告製品は、その「主な特徴」として、 「バッテリーツール、高い生産性、高トルク、高精度、低反力、メンテナンス軽減、 多様な使用環境に対応」と記載されている。また、より具体的な特徴として、被告 製品は、バッテリー残量等を作業者から容易に確認できるLEDインジケータが表\n示されること、作業者の手になじむバランスのとれたツールであること、オイル漏 れの影響を軽減してメンテナンス周期を延ばす新型のパルスユニットを採用してい ること、効率的な冷却システムを搭載していること、予備バッテリーを内蔵し通信\nを維持したままバッテリー交換が可能であること、回転速度が6000rpmまで\n設定可能であること、独自のコントローラ「Power Focus 6000」及びソフトウェア\nにより容易に作業内容等を設定可能であること、内蔵されたブザーからの音でも締\nめ付けが可能であること、デュアルアンテナにより無線環境に対応しツールの接続\n性を向上していること、高速バックアップユニット機能を搭載していること等が記\n載されている。一方で、モータの構造や、被告製品がアウタロータ型電動モータを\n採用していることについての記載はない。 また、被告カタログでは、前記のメンテナンス軽減・周期の改善に関して、新し い特許技術と設計により、従来品よりもメンテナンス周期が長くなっていること、 オイル漏れ対策やエアセパレータの採用及び優れた冷却性能がパフォーマンスと稼\n働時間の向上に寄与していることの記載があるほか、「高いトルク性能」として、\n「TorqueBoost」、「優れた冷却システム」、「高度なモーター制御」により締付け 時間が早くなり生産性が向上する旨が記載されている。 そして、証拠(乙58、59)及び弁論の全趣旨によれば、ABは、次のとおり の技術(発明)について、特許を出願し、その多くが日本国内を含めて登録されて おり、これらの技術が被告製品に採用されていると認められる。
1) オイルパルスユニット内のオイルと空気を分離する機構を備え、オイルチャ\nンバから分離された空気が再びオイルチャンバに戻ることを防止する技術(乙 59の1)
2) 遠心作用によりオイルから空気を取り出すための分離手段を備え、パルスユ ニット内の空気の割合を低くすることにより、高いパルス発生効率を実現する 技術(乙59の10)
3) 作動流体を利用したヒートパイプにより、電動モータの熱を効率的に放散し て冷却する技術(乙59の2)
4) ステータ要素とロータ要素との間の相対変位を感知するセンサーに係る技術 でありモータ制御の精度に資する技術(乙59の3)
5) モータとパルスユニットとの接続を改良し、高い生産性、低反力、高トルク 及びメンテナンス周期を改善させる技術(乙59の4)
6) 電圧供給源の遮断時に、動作制御ユニット及び無線通信装置への電圧供給を 連続して維持することによりバッテリーユニットの交換立ち上げにおける遅 れを実質的に減少する技術(乙59の5)
7) 油圧パルスユニット内のオイルレベルが低すぎる場合に、警告信号を出す方 法及びシステムに関する技術(乙59の6)
8) トルク限度及び角度回転限度を超えて締結具が更に締め付けられることを防 止するため、締付具が事前に締め付けられていたか否かを検出する方法に係る 技術(乙59の7)
9) オイルパルスユニットについて機構及び各種部材の形状を工夫し、トルク衝\n撃が与えられた直後に高圧室の圧力を迅速に除去し、次のトルク発生のための 迅速な加速を可能とし、トルクの増大及びトルクの間隔の短縮を実現し、衝撃\n率の増加を実現する技術(乙59の8)
10) パルスユニットの部品の摩耗により生じた粒子を除去するための磁石を備え、 さらなる摩耗等を防ぎ、メンテナンス軽減を実現する技術(乙59の9) そのほか、コントローラである Power Focus 6000 及びソフトウェアにより多種\n類のツールを接続し、作業内容に合わせたコントロールが容易であるという特徴は、 被告カタログ等において、前記記載以外にもページを費やして強く訴求されている (乙58、85)。
(b) 衝撃発生部が油圧パルス発生部である電動式衝撃締め付け工具において、 アウタロータ型電動モータを採用するという本件訂正発明は、電動式衝撃締め付け 工具の基幹部分であるモータに関する発明であり、インナロータ型電動モータが採 用される場合と比較して、小型、軽量、低反力、耐久性実現の作用効果を有する点 で、相当の技術的価値があるといえる。実際に、被告製品のモータを本件訂正発明 の技術に属しない構造に変更するにはモータの構\造等を変更する必要があり、その 場合には製品全体の構造や技術を見直す必要があり、この点からの代替技術が採用\nされる可能性が高いとはいえない。\nもっとも、本件訂正発明の作用効果である「小型、軽量、低反力、耐久性」を実 現する技術及び被告製品で訴求される各特徴を実現する技術は、アウタロータ型電 動モータ以外にも存在する。被告製品においてアウタロータ型電動モータを採用し たことによる作用効果は、被告カタログにおいて訴求されている「高トルク」、「低 反力」及び「メンテナンス軽減」に関連し得るが、前記(a)のとおり、被告カタログ では、「高トルク」を実現する技術として「TorqueBoost」、「優れた冷却システム」、 「高度なモーター制御」が記載されており、実際に、被告が保有し被告製品で採用 されている技術においても実現されていると認められる。 そのほか、前記(a)のとおり、被告製品には、本件訂正発明以外にも多数の技術が 使用され、当該技術による作用効果が被告カタログにおいて被告製品の特徴として 記載されており、需要者に強く訴求されていることが認められる。
(c) したがって、被告製品は、本件訂正発明及びその作用効果以外にも、種々の 技術とこれに基づく特徴・性能を備えており、これらの要素が、需要者の購入動機\nの形成に相当程度寄与していると認められる。被告製品が多彩な機能を有し、これ\nが顧客誘引力に寄与していることは、被告製品が、対応する原告製品よりも総じて ●(省略)●であるという価格差にも裏付けられているといえる。 (d) 以上より、被告製品の性能に係るこれらの事情は、特許法102条2項に基\nづく推定を、相当程度覆滅する事由であると認められる。
d 本件訂正発明は被告製品の一部のみに使用されていること
前記1(2)のとおり、本件訂正発明は、インナロータ型電動モータを搭載した従来 の電動式衝撃締め付け工具の有する課題を解決するため、出力トルクが大きいアウ タロータ型電動モータを採用し、小型及び軽量で、低反力かつ耐久性を有する電動 式衝撃締め付け工具を提供するというものであり、被告製品の特徴とされる「高ト ルク、低反力、メンテナンス軽減」(前記c(a))の作用効果の実現に使用されてい るといえるが、前記cで検討した諸事情からすれば、それらの作用効果は、本件訂 正発明のみによって実現されているとはいえない上、被告製品が備える種々の性能\nの一部にすぎないことが認められる。したがって、本件訂正発明が被告製品の一部 のみに使用されていることは覆滅事由に該当する。ただし、覆滅の基礎となる事情 は前記cの事情と重複することから、推定覆滅の程度の検討に当たっては被告製品 の性能を理由とする推定覆滅と実質的に重なるものとして評価するのが相当と解さ\nれる。
e 本件訂正について
本件訂正は、衝撃発生部について、油圧パルス発生部に限定するものであり、被 告製品における発明の作用効果やその実施に影響を与えるものではないこと等を踏 まえると、本件訂正の事実を覆滅事由として認めることは相当でない。
(ウ) 推定覆滅の程度
以上のとおり、本件においては、一定数の競合品の存在、被告製品の性能及び本\n件訂正発明が被告製品の一部のみに使用されていることを理由とする推定覆滅が認 められ、前記(イ)のとおりの事情を総合的に考慮すると、6割の限度で損害額の推定 が覆滅されるものと解するのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はい ずれも採用できない。
(エ) 以上から、特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は、被告製 品ごとに、別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1及び表2の各「2項損害額」欄記\n載のとおりとなる。
イ 特許法102条3項の重畳適用について
(ア) 特許権者は、自ら特許発明を実施して利益を得ることができると同時に、第 三者に対し、特許発明の実施を許諾して利益を得ることができることに鑑みると、 侵害者の侵害行為により特許権者が受けた損害は、特許権者が侵害者の侵害行為が なければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の売上げの減少による逸 失利益と実施許諾の機会の喪失による得べかりし利益とを観念し得るものと解され る。 そうすると、特許法102条2項による推定が覆滅される場合であっても、当該 推定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるとき は、同条3項の適用が認められると解すべきである。そして、同項による推定の覆 滅事由が、侵害品の販売等の数量について特許権者の販売等の実施の能力を超える\nこと以外の理由によって特許権者が販売等をすることができないとする事情がある ことを理由とする場合の推定覆滅部分については、当該事情の事実関係の下におい て、特許権者が実施許諾をすることができたかどうかを個別的に判断すべきものと 解される(知的財産高等裁判所令和4年10月20日特別部判決参照)。
(イ) これを本件について見ると、本件において覆滅事由として認められるのは 競合品の存在、被告製品の本件訂正発明以外の性能及び本件訂正発明が被告製品の\n一部のみに使用されていることに係る事情であり、いずれも特許権者の実施の能力\nを超えること以外の理由により特許権者が販売等をすることができないとする事情 があることを理由とするものである。
市場における競合品の存在を理由とする覆滅事由に係る覆滅部分については、侵 害品が販売されなかったとしても、侵害者及び特許権者以外の競合品が販売された 蓋然性があることに基づくものであるところ、競合品が販売された蓋然性があるこ とにより推定が覆滅される部分については、特許権者である原告が被告に対して実 施許諾をするという関係に立たないことから、原告が被告に実施許諾をすることが できたとは認められないし、本件における競合品をみると、いずれも本件訂正発明 の効果と同様の性能等を有するものの、アウタロータ型電動モータを採用している\nと認められるものはなく、本件訂正発明の構成とは異なる機構\を有していると認め られるから、この点からも、原告が、当該覆滅部分について、実施許諾の機会を喪 失したとはいえない。
また、被告製品が本件訂正発明以外の性能を有すること及び本件訂正発明は被告\n製品の一部のみに使用されていることを理由とする覆滅部分については、被告製品 の売上に対し本件訂正発明が寄与していないことを理由に推定が覆滅されるもので あり、このような特許発明が寄与していない部分について、原告が実施許諾をする ことができたとは認められない。 したがって、本件においては、特許法102条2項による推定の覆滅部分につい て、同条3項の適用は認められない。
ウ 特許法102条3項に基づく損害額
(ア) 実施料率
本件訂正発明について実施許諾契約がされた事実はない(弁論の全趣旨)。 また、証拠(甲32、33)及び弁論の全趣旨によれば、平成15年9月20日 に社団法人発明協会が発行した「実施料率〔第5版〕」において、「金属加工機械」 の技術分野における平成4年度〜平成10年度の実施料率の平均値についてイニシ ャル有りが4.4%、イニシャル無しが3.3%であること、同様の最頻値が5%、 3%、中央値が4%、3%であること、平成22年8月31日に発行された経済産 業調査会が発行した「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プ ログラム著作権・技術ノウハウ〜」において、「成形」の技術分野における実施料 率の平均値が3.4%であることが認められる。これらに、原告と被告とが競業関 係にあること、本件訂正発明の内容、重要性、代替可能性、被告製品の売上に対す\nる貢献の程度のほか、本件訂正により特許請求の範囲が減縮されていること等本件 に現れた諸事情を総合的に考慮すると、本件における実施に対して受けるべき料率 としては、4%が相当であると認める。これに反する原告及び被告の主張はいずれ も採用できない。
(イ) 以上から、特許法102条3項に基づき推定される損害額は、被告製品ごと に、別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1及び表2の各「3項損害額」欄記載のと\nおりである。
エ 原告の損害額
(ア) 原告は、被告製品の型番ごとに、平成29年7月から令和3年10月の期間 につき、特許法102条2項に基づく損害額と、同条3項に基づく損害額のうち高 い方を選択的に請求していることから、被告製品の型番ごとに認められる損害額は、 別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1の「損害額」欄記載のとおりであり、合計す ると4078万9003円(平成29年7月から令和2年3月31日分までが28 12万1254円、同年4月1日から令和3年10月31日分までが1266万7 749円)となる。

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令和4(ネ)10093 特許権侵害差止請求権及び損害賠償請求権不存在確認請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月10日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

後発薬品の販売者が、販売の承認申請に必要として、不存在確認訴訟の訴えの利益があるのかが争われました。1審は訴えの利益無し、知財高裁も同様です。

なお、仮に二課長通知等に基づく運用によれば、本件各特許が存在するために原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされないことが控訴人にとって問題であるとしても、そのことは、厚生労働大臣が医薬品医療機器等法14条3項に基づく原告医薬品の製造販売についての控訴人の承認申請を認めるかどうかという控訴人と厚生労働大臣(国)との間の公法上の紛争であって、そもそも控訴人と被控訴人らとの私人間の法律上の紛争であるということはできないし、かかる公法上の紛争については承認申\請に対して不作為の違法確認の訴えの提起や厚生労働大臣等に対する不服申立て等の法的手段によって救済を求めるべきであるから、控訴人の有する権利又は法律的地位の危険又は不安を除去するため控訴人と被控訴人らとの間で本件訴訟において確認判決を得ることが必要かつ適切であると解することもできない。\n
(5) 控訴人は、当審において、1)パテントリンケージのシステムが発動するということ自体が、控訴人において、特許権の侵害の有無という法律的地位が問題になっている状況にあることを意味し、現に、「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という「控訴人の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在」している状況にあり、このような状況自体が現在の法的紛争であり、また、パテントリンケージは、あくまでも先発医薬品メーカの特許権が有効で、かつ、後発医薬品がその技術的範囲に含まれることを前提とする制度であり、被控訴人らに対し、裁判所による侵害の有無の判断(確認判決)さえ示されたならば、「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という、控訴人の法律的地位に対する危険は除去されるのであるから、確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に該当する、2)控訴人は承認申請のため原告医薬品を製造しており、承認後に行う製造行為も事実行為としては同じであって、さらに、控訴人は、原告医薬品が承認され薬価収載さえされれば、すぐに原告医薬品の製造販売を行う意思を有しており、他方、被控訴人らは、現状において権利行使をする意思がないとは述べているが、実際に権利行使を行い得る状況にあり、また、確認の利益は客観的な状況によって判断されるべきであって、被控訴人らの主観によって左右されるべきではないから、侵害の有無を判断すべき客観的な状況が存在する以上、本件における確認の利益は認められるべきである、3)二課長通知に基づく実務がTPP11協定(第18・53条2項)に根拠を有するものとして許容されるためには、特許抵触の有無に疑義がある本件のような確認訴訟が提起された場合については、確認の利益を認めて裁判所が実体的な判断を示すことが必要であるなどとして、本件においては確認の利益が認められるべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、前記(4)のとおり、控訴人が主張する「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という「控訴人の有する権利又は法律的地位」の「危険又は不安」とは、控訴人と厚生労働大臣との間で問題となる事柄であり、控訴人と被控訴人らとの間の「請求権の存否に係る法律上の紛争」に係るものではないし、また、かかる危険又は不安を除去するため控訴人と被控訴人らとの間で本件訴訟において確認判決を得ることが必要かつ適切であると解することもできない。
2)については、前記(4)で述べた事情を考慮すると、控訴人と被控訴人らとの間の本件差止請求権及び本件損害賠償請求権の存否について、現に当事者間に紛争が存在し、控訴人の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存しているとは認められないから、本件差止請求権及び本件損害賠償請求権の不存在確認請求に係る本件各訴えについて確認の利益があると認められないと判断したものであって、被控訴人らの主観のみによってこのような結論を導いているわけではない。
3)については、TPP11協定の第18・53条2項は、医薬品の販売承認に当たって、特許抵触の有無に疑義があるとして本件のような特許権侵害に係る確認訴訟が提起された場合に、裁判所が確認の利益を認めて実体的な判断を示さなければならない旨を規定するものではない。したがって、控訴人の上記主張は理由がない。

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原審はこちら。

◆令和3年(ワ)13905

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令和4(ネ)10111 不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和5年4月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特殊形状の靴紐について、1審は「通知人らが保有する本件特許権を侵害していると考えております」と取引先に流布した行為が、不競法2条1項21号の不正競争行為にあたると判断しました。知財高裁も同様です。

控訴人らは、本件通知書に記載されたキャタピラン+等が本件特許権を侵 害していると考えている旨の見解に関し、仮にこれが不正競争防止法2条1項21 号にいう「虚偽の事実」に該当するのであれば、特許権者としては、特許権の被疑 侵害者を発見した場合であっても、後日裁判所により特許権の侵害はない旨の判断 がされ、損害賠償を命じられるとのリスクを回避するため、被疑侵害者に対し訴訟 提起前に警告書を送付することがおよそできなくなるから、上記の見解が同号にい う「虚偽の事実」に該当するとの判断は誤りであると主張する。
しかしながら、特許権者が特許権の被疑侵害者を発見し、訴訟提起に先立って当 該被疑侵害者に対し警告書を送付したが、後日裁判所により特許権の侵害がない旨 の判断がされた場合であっても、当該警告書の送付が特許権者の正当な権利行使の 範囲内の行為であると評価されるときは、同送付は違法性を欠き、当該特許権者が 同送付を理由として損害賠償責任を負うことはないのであるから、特許権者が被疑 侵害者に対し訴訟提起前に警告書を送付することがおよそできなくなることを前提 とする控訴人らの上記主張は、前提を誤るものとして採用することができない。
(5) 控訴人らは、本件告知行為の違法性の有無に関し、1)控訴人らと被控訴人 との間の紛争の発端は、被控訴人が控訴人Xらとの間で締結した共同出願契約(乙 30の1及び2)における約定(事前の協議・承諾なく本件特許権に関わる製品を 販売した場合には、本件特許権を剥奪できるとするもの)に違反し、単独でキャタ ピラン等の製造・販売を開始したことであること、2)控訴人Xは、本件通知書にお いて、キャタピラン等とキャタピラン+等が別の商品であり、これらが異なる状況 にあることを分かりやすく明記していること、3)本件通知書の記載は、キャタピラ ン+等がキャタピラン等と同様に本件特許権を侵害するおそれがあるとの強い印象 を与えるものではないことを根拠に、本件告知行為の目的は被控訴人の取引先が過 去に販売したキャタピラン等について損害賠償請求をすることであり、同目的が 「裁判所によって本件特許権を侵害する旨の判断が確定したキャタピラン等の存在 を奇貨として、本件特許権を侵害しないように改良されたキャタピラン+等につい ても、裁判所による判断がされる前に、本件特許権を侵害する趣旨を告知し、被控 訴人の取引先に対する信用を毀損することによってキャタピラン+等を早期に「結 ばない靴紐」の市場から排斥し、競業する事業者間の競争において控訴人会社が優 位に立つこと」であるとの認定は誤りであると主張する。
しかしながら、控訴人Xは、本件告知行為をした時点において、被控訴人がその 製造・販売する商品をキャタピラン等からキャタピラン+等に入れ替え、「結ばな い靴紐」の市場においてキャタピラン等の販売が縮小していることを十分に認識し\nていたこと(補正して引用する原判決第4の4(2)イ)、被控訴人は、令和2年1 2月22日、前訴の控訴審判決において命じられたキャタピラン等に係る損害賠償 金(平成28年4月1日から平成30年8月31日までに生じたもの)を支払った ものと認められること(乙7の3、弁論の全趣旨)、キャタピラン等に係る損害賠 償金(平成30年9月1日から令和3年4月30日までに生じたもの)についても、 遅くとも本件告知行為の前までには、その額の確定等の手続が終了し、被控訴人か らその支払がされるのを待つ状況となっていたものと認められること(甲60、7 7、弁論の全趣旨)、控訴人Xは、本件包括協議において、直接又は間接に、被控 訴人が「結ばない靴紐」の市場から撤退することを一貫して求めていたと認められ ること(甲59ないし67、70ないし74)、本件通知書の送付を受けた被控訴 人の取引先は、キャタピラン等と同様にキャタピラン+等についても本件特許権を 侵害するおそれがあるとの強い印象を受けたこと(補正して引用する原判決第4の 4(2)イ及びウ)、その他、補正して引用する原判決第4の4(1)において認定した 各事実に照らすと、控訴人らが主張する上記1)の事情や本件通知書の記載内容を考 慮してもなお、本件通知書においてされたキャタピラン等に係る本件特許権の行使 等についての言及は、あくまで名目的なものであったといわざるを得ず、本件告知 行為の真の目的は、補正して引用する原判決第4の4(2)イのとおり、キャタピラ ン等と同様にキャタピラン+等も本件特許権を侵害する趣旨を告知し、被控訴人の 取引先に対する信用を毀損することによってキャタピラン+等を早期に「結ばない 靴紐」の市場から排斥し、競業する事業者間の競争において控訴人会社が優位に立 つことであったと認めるのが相当である。
この点に関し、控訴人らは、キャタピラン+等の取扱いを停止した4社のうち2 社(株式会社シューマート及び株式会社チヨダ)は当初本件通知書に対して反論を したのであるから、両社は本件告知行為によりキャタピラン+等が本件特許権を侵 害するおそれがあるとの強い印象を受けたものではないと主張する。確かに、本件 通知書の送付を受けた株式会社シューマートは、「キャタピラン+等が本件発明の 技術的範囲に属するというのであれば、その説明をしていただきたい」旨の回答 (乙A2)をし、本件通知書の送付を受けた株式会社チヨダも、「株式会社チヨダ は、入手済みの弁理士の見解書を踏まえ、キャタピラン+等については本件発明の 技術的範囲に属しないと判断している」旨の回答(乙A6)をしたものと認められ るが、結局、両社は、本件告知行為の約4か月後に、それぞれ本件通知書において 求められたとおりにキャタピラン+等の取扱いを停止したものと認められるのであ り(弁論の全趣旨)、加えて、本件通知書の記載内容も併せ考慮すると、両社が本 件通知書の送付を受けた際に上記のような回答をしたことは、両社において本件告 知行為によりキャタピラン+等が本件特許権を侵害するおそれがあるとの強い印象 を受けたとの認定を左右するものではない。
また、控訴人らは、キャタピラン+等の取扱いを停止した4社のうちその余の2 社(朝日ゴルフ株式会社及び株式会社Olympicグループ)は控訴人らと被控 訴人との間に紛争が生じていることを理由に、紛争が解決するまでキャタピラン+ 等の取扱いを一時的に停止したにすぎず、キャタピラン+等が本件特許権を侵害す ると認識してその取扱いを中止したものではないと主張するが、本件通知書の記載 内容及び両社が本件通知書の送付を受けた後速やかにキャタピラン+等の取扱いを 停止したものと認められること(弁論の全趣旨)に照らすと、株式会社Olymp icグループの回答書(乙A12)に「キャタピラン等及びキャタピラン+等に関 する控訴人Xと被控訴人との間の紛争が解決するまで、これらの商品の販売をしな い方針である」旨の記載があることを考慮しても、両社は、本件告知行為によりキ ャタピラン+等が本件特許権を侵害するおそれがあるとの強い印象を受けたものと 認めるのが相当である。 以上のとおりであるから、控訴人らの主張を採用することはできない。
(6) 控訴人らは、本件告知行為に係る過失の有無に関し、被控訴人の第1主張 書面(本件仮処分の手続において提出されたもの)に記載された本件発明の構成要\n件B1)の「非伸縮性素材からなり」に係るクレーム解釈は特許請求の範囲及び本件 明細書等の記載から大きく外れた荒唐無稽なものであり、同主張書面を見てもキャ タピラン+等が本件特許権を侵害していないと判断することはできなかったから、 本件告知行為について控訴人らに過失はない旨の主張をする。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の2及び前記(1)ないし(3)において 説示したところに照らすと、被控訴人が上記第1主張書面においてした主張(本件 発明の「非伸縮性素材からな(る)中心ひも」は「伸縮性素材からなるひも本体と 比較して伸縮性が乏しいもの」をいうところ、キャタピラン+等のひも本体(外層) と中心ひも(芯材)の伸縮性を比較した試験結果によると、キャタピラン+等は本 件特許権を侵害しない旨の主張(補正して引用する原判決第4の4(2)イ))は、 十分な説得性を有する相当なものであるといえ、加えて、補正して引用する原判決\n第4の4(2)イにおいて指摘した各事情も併せ考慮すると、控訴人らは、遅くとも 同主張書面を受領した時点で、キャタピラン+等の製造・販売が本件特許権を侵害 しない可能性が相当程度にあることを容易に認識し得たと認められるから、そのよ\nうな認識可能性があったにもかかわらず本件告知行為に及んだ控訴人らには、過失\nがあると認めるのが相当である。

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◆令和3(ワ)22940

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令和4(ネ)10062  職務発明の対価請求控訴事件、仮執行の原状回復及び損害賠償申立事件  特許権  民事訴訟 令和5年1月23日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

職務発明の対価として、知財高裁にて、約200万円の請求が認められました。額は一審と同じです。

ところで、旧特許法35条4項の「発明により使用者等が受けるべ き利益」は、使用者等が「受けた利益」そのものではなく、「受ける べき利益」であるから、使用者等が職務発明についての特許を受ける 権利を承継した時に客観的に見込まれる利益をいうものと解されると ころ、使用者等は、特許を受ける権利を承継せずに、従業者等が特許 を受けた場合であっても、その特許権について同条1項に基づく無償 の通常実施権を有することに照らすと、「発明により使用者等が受け るべき利益」には、このような法定通常実施権を行使し得ることによ り受けられる利益は含まれず、使用者等が従業者等から特許を受ける 権利を承継し、当該発明の実施を排他的に独占し得る地位を取得する ことによって受けることが客観的に見込まれる利益、すなわち「独占 の利益」をいうものと解される。また、特許を受ける権利の承継の時 点では、将来特許を受けることができるかどうか自体が不確実であり、 その発明により将来いかなる利益を得ることができるのかを具体的に 予測することは困難であることなどに照らすと、発明の実施又は実施\n許諾による使用者等の利益の有無やその額など、特許を受ける権利の 承継後の事情についても、その承継の時点において客観的に見込まれ る利益の額を認定する資料とすることができるものと解される。 そして、使用者等が職務発明についての特許を受ける権利の承継後 に第三者との間のライセンス契約に基づいて当該発明の実施を許諾し ている場合には、その実施料収入が「独占の利益」に該当し、また、 使用者等が、第三者に当該発明を実施許諾することなく、自ら実施 (自己実施)している場合には、特許権が存在することにより、第三 者に当該発明の実施を禁止したことに基づいて使用者が得ることがで きた利益、すなわち、特許権に基づく第三者に対する禁止権の効果と して、使用者等の自己実施による売上高のうち、当該特許権を使用者 等に承継させずに、自ら特許を受けた従業者等が第三者に当該発明を 実施許諾していたと想定した場合に予想される使用者等の売上高を超\nえる分(超過売上高)について得ることができたものと見込まれる利 益(超過利益)が「独占の利益」に該当するものというべきである。 この「超過利益」の額は、従業者等が第三者に当該発明の実施許諾を していたと想定した場合に得られる実施料相当額を下回るものではな いと考えられるので、「超過利益」を「超過売上高」に上記想定に係 る実施料率(仮想実施料率)を乗じて算定する方法にも合理性がある ものと解される。
したがって、かかる「独占の利益」をもって、「その発明により 使用者等が受けるべき利益」とし、これと1審被告の貢献の程度 (「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」)を考慮し て相当の対価の額を認定することは許されるものと解される。また、 特許法35条3項及び5項に基づく相当の対価請求権、同項の「その 発明により使用者等が受けるべき利益」についても、上記説示したと ころと同様に解すべきである。 以上を前提に、1審原告の本件発明1に係る相当の対価請求権の 存否について判断する。
・・・
「a 本件発明2−1は、空気調和機(ルームエアコン)の室内ユニットに 搭載される熱交換器の配置について、前面熱交換器の設置角度α及びク ロスフローファンの翼の出口角β2を、それぞれ所定の範囲に特定する ことで、室内ユニットから所定風量を得るのに必要なファンモータ入力 や回転数を低減することができ、省エネを図ることができる点にその技 術的意義がある。また、前面熱交換器の設置角度αを65°以上とする ことで、熱交換器からの水滴がファンへ流入して室内ユニットの外部へ 吹き出されること等を防止し、室内ユニットの奥行きをコンパクトにで きるという効果もある(【0024】)。 もっとも、省エネ、ドレン水の確実な処理及び室内ユニットのコンパ クト化という課題自体は、本件発明2−1の特許出願以前から存在する ものであり、上記課題に対して、熱交換器を逆V字状にすること、前面 熱交換器と背面熱交換器との連結部を送風ファンの中心軸よりも前面側 に位置させ、かつ前面熱交換器の傾斜を急な配置にすること、熱交換器 を通過した空気がファンの翼に当たる際の空気の流れ方向の変化を滑ら かにし、空気流の剥離等を防ぐために、翼形状を変更することといった 着想や技術自体は、従来から存在していた(前記(2)ウ)。 したがって、本件発明2−1は、ルームエアコンに備えられる基本的 な構成要素である熱交換器及びクロスフローファンについて、前面熱交\n換器の配置及びクロスフローファンの翼形状(出口角)を、同時に、具 体的な数値範囲をもって特定したところに技術的な意義があるものと認 められる。
b 他方で、ルームエアコンの省エネ性能の向上を図る技術には、室内\n機及び室外機それぞれを見ても、熱交換器、圧縮機、モータ、送風機 等に係る種々の技術が存在する。しかも、1審被告のほか、国内の競 合他社であるパナソニック、ダイキン、東芝、日立等は、それぞれ、\n省エネのための独自の基本的な技術を有しており、●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●1審被告以上又は同等 の市場占有率を保持していたと認められる(上記(2)イ、キ(ウ)、ク (イ)及び(ウ))。 また、本件発明2−1は、前面熱交換器の配置及びクロスフローフ ァンの翼形状(出口角)を特定することによって送風の効率を高める ものであるところ、競合他社が、それぞれ独自に、ユニットの構造、\n熱交換器の配置、ファンの形状等を工夫して製品化をしていることか らすれば、競合他社の製品に本件発明2−1をそのまま実施すること により直ちにその性能が向上するものとは認められない。\n したがって、本件特許権2の存在により第三者に本件発明2−1の 実施を禁止したことに基づいて得ることができた利益は、限られた範 囲内のものと認められる。
c 加えて、1審被告は、対象製品群2の販売に当たり、被告カタログ 2)において、ムーブアイを大々的に取り上げるとともに、そのほかに も脱臭機能、換気機能\、サプリメントエアー機能といった付加価値的\nな機能をも顧客に対し強く訴求していること、対象製品群2が販売さ\nれた当時、既にルームエアコンは家庭に広く普及し、省エネ等に係る 技術は、競合他社の製品においても採用されていたと考えられること を踏まえると、付加価値的なものとはいえ、このような他社製品との 差別化を図る技術は消費者に対する訴求力を高め、対象製品群2の売 上げに大きく貢献したものとみるのが相当である。
(ウ) 小括
以上の事情を総合考慮すると、本件発明2−1に係る超過売上高は、 前記ウの売上高の0.5%と認めるのが相当である。

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◆平成29(ワ)7391等

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令和3(ワ)6908  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年1月30日  大阪地方裁判所

 特許権侵害が認定され、特102条2項による推定覆滅として3割を認定されました。

前記本件明細書の記載によれば、本件特許発明は、落下物受取装置の基端部 の縁と足場構築体の作業空間の外側面の間に隙間が生じ小さい物品が落下し\n人体を負傷する危険があり、当該隙間を単純な板材で塞いだ場合には落下物受 取装置を格納する際に板材を取外す必要がある等姿勢変更の作業が困難であ るといった課題に対し(【0008】【0009】)、当該隙間を覆うことができ、 かつ落下物受取装置の姿勢変更等によって隙間が変化する場合でもそれに追 従し確実に隙間を塞ぐことができる隙間遮蔽装置を提供するものである(【0 014】【0038】)。本件明細書には、本件特許発明の実施例として、隙間遮 蔽装置は、固定部材を落下物受取装置の基端部に取付一体化した構成とする場\n合と、落下物受取装置に後付けされるユニットを構成する場合とを挙げており\n(【0016】)、後付け可能かつ着脱自在の隙間遮蔽装置の実施例の一つ(ユ\nニット20a)として、固定部材に枢結手段を介して遮蔽部材を回動自在に連 結するものが記載されている(【0039】【0040】【0043】)。 このような固定部材に枢結手段22を用いて遮蔽部材を回動可能に枢結す\nる方法は、本件明細書上、「図4に示す1実施形態において」(【0039】)、 「図示のようにユニット20aを構成する場合は」(【0043】)と記載され\nているとおり、後付けユニットタイプの隙間遮蔽装置の一実施例という位置付 けで記載されているに過ぎない。また、本件明細書には、固定部材の大きさ及 び形状並びに落下物受取装置への固定方法については適宜の方法を採用する ことができることが示唆されており(【0040】)、その余の本件明細書の記 載を見ても、「固定部材(21)」が、特定の構成を備えるべきものであるとか、\n枢結手段が、固定部材(21)と別途独立のもの(部材)であることが前提で あることをうかがわせるとかの旨の記載はない。 したがって、本件特許発明における「固定部材(22)」とは、実施例のよう に固定部材とは別の枢結手段が存在する場合に限らず、固定部材が枢結手段と 一体のもの、一つの部材が固定部材と枢結手段を兼ねるものなどもこれに当た ると解される。
むしろ、枢結手段が固定部材から独立して存在すること(独立した部材であ ること)等が要求されていないとの解釈は、上記のとおり実施例の一つとして 挙げられた固定部材に遮蔽部材を枢結する「蝶番」について、「枢結部材」では なく「枢結手段」と記載されていることと整合するといえる(【0039】【0 043】)。 なお、構成要件Cないし同Fには「固定部材(21)」として符号が記載され\nているものの、これは請求項の記載内容を理解するために補助的に付されたも のであると解され(特許法施行規則24条の4及び様式29の2の〔備考〕1 4のロ)、それ以上に本件特許発明における固定部材の構成を符号により特定\nされる実施形態に限定するものであると解すべき事情も見当たらない。 したがって、本件明細書の記載を参酌しても、本件特許発明において、上記 (1)のとおり、1)落下物受取装置の基端部に固定され、隙間遮蔽装置を構成す\nる部材であること(構成要件C)、2)(隙間遮蔽装置使用時に)固定部材から足 場構築体に向けて遮蔽部材が延びていること(構\成要件D)、3)遮蔽部材が回 動自在に枢結されていること(構成要件E)、4)(隙間遮蔽装置不使用時に)遮 蔽部材が固定部材に向けて回動することにより固定部材の上に重ねられるこ と(構成要件F)という要素を充たせば「固定部材」(構\成要件C〜F)に相当 する部材であるといえ、これに加え、枢結手段とは独立して存在することを要 するものではないと解すべきである。
(4) 被告製品における「蝶番(の第1翼片)」が本件特許発明の「固定部材」に 相当するか(あてはめ)
別紙被告製品説明書のとおり、被告製品における蝶番は、第1翼片、第2翼 片及び回転軸から成り、第1翼片(図3右側のもの)が落下物受取装置の基端 部にリベット等で固着され、第2翼片(図3左側のもの)が遮蔽部材に固着さ れている。これにより、被告製品の蝶番の第1翼片は、1)落下物受取装置の基 端部に固定され、隙間遮蔽装置を構成する部材であること(構\成要件C)、2) (隙間遮蔽装置使用時に)固定部材(第1翼片)から足場構築体に向けて遮蔽\n部材が延びていること(構成要件D)、3)遮蔽部材が回動自在に枢結されてい ること(構成要件E)、4)(隙間遮蔽装置不使用時に)遮蔽部材が固定部材に向 けて回動することにより固定部材の上に重ねられること(構成要件F)という\n要素を全て充たしているといえ、本件特許発明の「固定部材」に相当する部材 であるということができる。
被告は、このように解すると構成要件Fの構\成及びその構成の作用効果の説\n明と矛盾する旨主張するが、保管・運搬に便利となるとの作用効果は、遮蔽部 材を回動自在に枢結することによりもたらさせるものであって、固定部材の構\n成に由来するものではないから、その主張は失当である。 したがって、被告製品は、構成要件Cないし同Fを充足しており、構\成要件 A、同B、同Gを充足することは争いがないから、本件特許発明の技術的範囲 に属する。
・・・
(2) 推定覆滅事情
被告は、本件特許発明は、製品の一部のみに実施されるものであること、被 告製品には他の顧客誘引力がある一方、本件特許発明に顧客誘引力が乏しいこ と、本件特許発明以外の特許発明の実施や被告商品に付された商標が顧客誘引 力を持つことから、上記損害額の8割は推定が及ばないものと主張する。
ア 本件特許発明の意義
前判示のとおり、本件特許発明は、建設現場等で高所からの工具等の落下 による負傷等を防止するために設置される落下物防止装置(朝顔)において、 「落下物受取装置は、…該落下物受取装置の基端部の縁と、足場構築体の作\n業空間の外側面の間には、狭小な隙間を生じることが不可避である。このた め、…小さい物品が落下すると、前記隙間を通過することにより地上に向け て落下するおそれがあり、金属製等の落下物の場合、微小な物品であっても 人体を負傷する危険がある。」等の課題に対して、隙間(S)を覆う隙間遮蔽装 置を設け、前記隙間遮蔽装置は、前記落下物受取装置の基端部に固定される 固定部材と、該固定部材から足場構築体に向けて延びる遮蔽部材を備え、前\n記固定部材に対して前記遮蔽部材を回動自在に枢結しており、前記遮蔽部材 は、不使用時に前記固定部材に向けて回動することにより、該固定部材の上 に重ねられるように構成することにより該課題を解決するものである。\n この点、証拠(甲3、4(枝番を含む))及び弁論の全趣旨によると、被告 製品における遮断板によって遮蔽される隙間は、足場の設置態様によっては 相応に幅が広いものも想定され(少なくとも被告主張のような傷害結果が生 じることが極めて稀な小さなもののみが通過する隙間に限られないと認め られる。)、被告製品においても、朝顔において隙間を塞ぐことが重要な意義 を有するものと扱われていることが認められるのであって、本件特許発明は、 これを効果的に行うものとしての技術的意義を有し、実施品の顧客誘引力を 高めるものであると認められる。
イ 他方、朝顔の性能としては、被告主張のとおり、上部から外方への落下物\nを直接受け止める部分であるパネル部分(本件特許発明でいう落下物受取装 置)の性能が重要であろうことは商品の性質上当然であり、被告が、本件特\n許発明以外の特許を実施している点を指摘するのも、この趣旨をいうものと 理解することができる。また、作業効率性、美観性といった被告製品の他の 要素も顧客誘引力に相応に寄与することも理解できるところである。もっと も、被告商品2に付された被告商標については、これについて特段の顧客誘 引力があることをうかがわせる証拠はないため、本件において考慮すること は困難である。また、本件特許発明が製品の一部に実施されているという主 張は、落下物受取装置が遮断板に向かって傾斜を持った態様で運用されるこ とからすると、同装置で受け取られた落下物は遮断板に至り、遮断板によっ て更に下方への落下が阻止されることになるのであって、このように、遮断 板と一体となって落下物の下方への落下が防止されるという被告製品の構\n成からすると、本来的な意味で特許技術が製品の一部にのみ実施されたもの であるということはできない。なお、被告は、本件特許発明は、遮蔽部材を落下物受取装置の基底部に回動可能に固定することのみを特徴としている旨主張するが、抽象的には遮蔽部材を設置して隙間を塞ぐ構\成は他に考え得る趣旨をいうものと解したとしても、その具体的な競合品等に関する主張立証はされていないから、これを推定の覆滅に当たって考慮することは困難である。
ウ 本件において、イに述べた事情はあるものの、被告が指摘する事情はなお 同種の商品一般の顧客誘引力の重点の置き方を指摘するものにとどまって おり、これらの事情を特許法102条2項による推定を覆滅させる事情とし て重く見るのは相当でなく、総合的にみると、(1)で推定される原告の損害 のうち、3割の限度ではその推定の覆滅の立証があったものというべきであ る。

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令和3(ワ)11118  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年1月26日  東京地方裁判所

ゲーム内のキャラクターを性玩具に見立てた内容等の記載された同人誌を頒布したことなどが、原告らの名誉を毀損すると共に、原告らのパブリシティ権、肖像権及び名誉感情を侵害するかが争われました。裁判所は、合わせて440万円の損害賠償およびマスクの廃棄などを認めました。

本件同人誌は、本件ゲームの愛好者向け同人誌即売会である本件即売会に おいて販売された同人誌である。その内容も、本件ゲームそれ自体とは異な り、本件キャラクターを性玩具として扱うなどの本件キャラクター描写のよ うな卑猥なイラストやストーリーを含む漫画を主な内容とし、全体としては、 本件ゲームないし本件キャラクターを揶揄する趣旨も含むものと理解される。 しかも、本件同人誌は、随所に原告A個人を揶揄する趣旨のものと理解され るイラストや文言による描写をも含む。本件クレジット表記に「TwiFemis」 として 3 つのツイッターアカウントが挙げられているところ、この語がツイ ッター上でフェミニズムに関する言動を展開する人々又はその現象を指すイ ンターネットスラングであることに鑑みても、本件同人誌は、本件クレジッ ト表記に表\記された者を揶揄する趣旨を強く含むものであることがうかがわ れる。
このような本件同人誌の性質及び内容に鑑みると、一般的な読者の注意と 読み方を基準とした場合に、本件ゲームの制作者である原告らが本件同人誌 の制作に協力したと理解されるとは考え難く、また、本件ゲームの設定が本 件同人誌の内容に沿うものと理解されるともいい難い。 しかし、他方で、本件ガイドラインの内容がやや抽象的なものであり、本 件ゲームに係る二次創作作品が本件ガイドラインにより許容される範囲が必 ずしも明確でないことを併せ考慮すると、上記基準によっても、本件同人誌 の頒布という行為それ自体をもって、このような内容の二次創作作品が本件 ガイドラインにより許容される範囲内に含まれ、許容されるものであるとい う判断を原告会社が行ったという事実を摘示するものと理解されることは合 理的にあり得る。しかも、「SPECIAL THANKS」として本件クレジット表記\nに原告らの名称が明記され、原作として本件ゲームの名称が記されているこ とは、このような理解を強めるものといえる。 この場合、原告会社は、自ら管理するコンテンツである本件キャラクター に対する愛着や敬意の乏しい企業として、その社会的評価が低下すると見る のが相当である。また、原告Aについても、本件ゲームのプロデューサーと して本件ゲームのユーザーの間では著名な人物であることなどに鑑みると、 原告会社とは別に個人としての社会的評価が同様に低下すると見られる。 このことは、本件店舗描写に関しても同様である。
(3) 小括
以上の事情に鑑みると、一般的な読者の普通の注意と読み方を基準とすれ ば、本件キャラクターに対する卑猥な描写をその内容とすると共に、クレジ ット表記に「SPECIAL THANKS」と付して原告らの名称等を記載した本件同 人誌を頒布する行為及び本件店舗描写は、原告らそれぞれの名誉を毀損する ものといえる。これに反する被告の主張は採用できない。
2 本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aのパブリシティ権侵害 の成否(争点 1-2)について
原告Aは、被告が本件マスクを着用しながら本件同人誌を頒布した行為及び 本件同人誌に本件マスクの写真を掲載した行為につき、原告Aのパブリシティ 権侵害を主張する。肖像等を無断で使用する行為については,1)肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,2)商品等の差別化を図る目的で肖像等を商 品等に付し,3)肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有す る顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害する ものとして,不法行為法上違法となる(最高裁判所平成 24 年 2 月 2 日第一小 法廷判決・民集 66 巻 2 号 89 頁参照)。
本件の場合、そもそも、原告Aが本件ゲームの愛好者等の間で著名であると しても、そのことから直ちに同原告の肖像等に顧客吸引力があることにはなら ないところ、この点について、同原告は何ら具体的な主張立証をしない。 この点を措くとしても、本件マスクは、原告Aの写真を顔面に着用できるよ うに山型に湾曲させただけの粗雑な作りのものにすぎない。そのため、本件マ スクやこれを撮影した写真は、同原告の肖像の写真(甲 10)とは相応に異なる 印象を与えるものであり、同原告の肖像それ自体を独立して鑑賞の対象とする 目的で作成されたものとはいい難い。また、本件同人誌における本件マスクの 写真は全 頁程度のうちの 8 頁目にのみ掲載されている(甲 5)。しかも、同 頁の本件マスクの写真は、「本邦初公開!これが【神】のリアルマスクだ――\―\nッ!」との宣伝文句と共に、「古来より人は儀式や祭礼に際し、自らに神格を宿 すために仮面をまとったという・だとすれば神である(省略)のマスクが作ら れるのは人間心理の必然的帰結であろう。」との説明文の記載と共に掲載され ており、これらは、本件同人誌の本編である漫画の内容と直接的には無関係に、 主に原告Aを揶揄する文脈で掲載されているものと理解される。これを踏まえ ると、本件即売会での本件同人誌の頒布にあたり被告が本件マスクを着用して いた点についても、同様に原告Aを揶揄する趣旨で行われたものと理解するの が相当である。
また、本件 3 コマ漫画における原告Aの氏名は、その素材となった別作品の 宣伝用画像(甲 148)の構図に擬して作成した最終コマに表\示されたものであ り、著作者として表示されたものとは理解し得ないと共に、当該コマの上部に\n小さく配置されているに過ぎないこともあって、原告Aの氏名の顧客吸引力の 利用を目的としたものとはいい難い。 そうすると、本件マスクの写真の掲載及び本件即売会での本件同人誌頒布時 における着用並びに本件 3 コマ漫画の氏名の記載は、上記1)〜3)のいずれにも 当たらず、その他専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる 場合に当たるとは認めるに足りない。 したがって、これらの行為は原告Aのパブリシティ権を侵害する違法なもの とはいえない。この点に関する原告Aの主張は採用できない。
3 本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aの肖像権及び名誉感情 の侵害の成否(争点 1-3)について
(1) 肖像権侵害の成否
人はみだりに自己の容貌,姿態を撮影されないことについて法律上保護さ れるべき人格的利益を有するところ,ある者の容貌,姿態をその承諾なく撮 影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位, 撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮 影の必要性等を総合的に考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会 生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決せられる (最高裁平成 17 年 11 月 日第一小法廷判決・民集 59 巻 9 号 2428 頁参照)。 撮影された写真が雑誌等に掲載されるなどして公開された場合も,同様の判 断枠組みが妥当すると考えられる。 前記 2 のとおり、本件マスクは、原告Aの写真を粗雑な方法で加工したも のであり、原告Aの肖像の写真(甲 10)とは相応に異なる印象を与えるもの ではある。しかし、本件同人誌では本件マスクが原告Aの「リアルマスク」 と紹介されていること、原告Aが本件ゲームの愛好者等の間で著名であるこ と等の事情に照らすと、被告が本件マスクの写真が掲載された本件同人誌を 本件マスクを着用しながら頒布した行為は、原告Aの写真を無断で公開した 場合と同様に理解することができる。また、本件同人誌の内容、とりわけ本 件マスクの紹介の仕方等に照らすと、被告は、専ら原告Aを揶揄する目的で 本件マスクを作成し、これを着用の上、その写真を掲載した本件同人誌を頒 布したといえる。
以上のような写真の使用目的及び使用態様等に照らすと、本件マスクに係 る被告の各行為は、自己の容貌等の写真をみだりに公開されないことについ ての原告Aの人格的利益を侵害し、その侵害が社会生活上受忍すべき限度を 超えるものというべきであり、不法行為法上違法と認めるのが相当である。 これに反する被告の主張は採用できない。
(2) 名誉感情の侵害
前記のとおり、被告は、専ら原告Aを揶揄する目的で本件マスクを作成し、 これを着用の上、本件即売会にて本件同人誌を頒布した。加えて、本件同人 誌には、原告Aと同定される男性イラストに係る本件男性イラスト描写が掲 載されている(前提事実(3))。また、本件店舗描写についても、本件同人誌の 他の記載と合わせると、「(省略)」などの記載は原告Aを指すことが明確に理 解される。このような被告の行為は、原告Aに対する社会通念上許される限度を超える 侮辱行為であり、原告Aの人格的利益(名誉感情)を侵害する違法なものとし て、不法行為に当たるとするのが相当である。これに反する被告の主張は採用 できない。
4 本件ツイートによる原告らの名誉毀損の成否(争点 2)について
(1) 本件店舗に関する投稿について
被告は、別紙 4 投稿目録(4)のとおり、原告会社の運営する本件店舗を「キ ャバカレー」、「派遣型風俗キャバカ〇ー機関」などと呼んだ上、「キャバカレ ー」が違法風俗店として摘発され、セクキャバ「キャバカレー」経営者であ る「(省略)」が風営法違反の疑いで逮捕されたという内容の画像を、実在す るニュース映像風の画像のように表現して投稿した(前提事実(2)ア)。 一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、被告の上記各投稿は、 原告会社の経営する本件店舗が「違法風俗店」として捜査機関により摘発さ れ、原告Aと同定される者が風営法違反の疑いで逮捕されたという事実を摘 示したものと理解される。これにより、上記各投稿は、これを閲覧した者に おいて、原告らが違法な風俗店を経営し、その代表者である原告Aが逮捕さ\nれたという印象を与えるものであって、原告らの社会的評価をいずれも低下 させるものといえる。 したがって、被告の上記各投稿は、原告らそれぞれの名誉を毀損するもの であり、原告らに対する不法行為に当たると認められる。これに反する被告 の主張は採用できない。
・・・
以上のとおり、被告による本件同人誌の頒布等による原告Aの名誉毀損並 びに本件マスクを着用して本件同人誌を頒布等した行為による同原告の肖像 に係る人格的利益及び名誉感情の侵害は、いずれも同原告に対する不法行為 を構成するものと認められる。また、被告のツイッターにおける本件店舗に\n関する投稿による原告Aの名誉毀損並びに同原告の顔写真等の投稿による同 原告の肖像に係る人格的利益及び名誉感情の侵害は、いずれも原告Aに対す る不法行為を構成するものと認められる。\n他方、本件同人誌の頒布等による原告Aのパブリシティ権の侵害及び被告 のツイッターにおける被差別部落に関する投稿による同原告の名誉権の侵害 は認められない。
(2) 原告会社の請求について
以上のとおり、被告による本件同人誌の頒布等及び被告のツイッターにお ける本件店舗に係る投稿による原告会社の名誉毀損は、いずれも原告会社に 対する不法行為を構成するものと認められる。\n他方、被告のツイッターにおける本件キャラクターの人権等に言及する投 稿、本件キャラクターに関する卑猥な投稿及び被差別部落に関する投稿につ いては、いずれも原告会社の名誉を毀損するものとはいえず、原告会社に対 する不法行為を構成するものとは認められない。\n

◆判決本文

こちちに争点となった表記があります。\n

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令和2(ワ)8168  損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年1月26日  大阪地方裁判所

 漏れていたので追加します。つけまつげの装着方法について、秘密管理性無しと判断されました。なお、原告は本件「まつ毛エクステンション人工毛の装着方法」に特許を取得していました。

ア 「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)といえるためには、客観的に秘密 として管理していると認識できる状態にあることが必要であり、管理方法が 適切であって、管理の事実が認識可能であることを要すると解される。\nイ 前記(1)によると、本件では、本件秘密保持等契約書以外に営業秘密を具 体的に明示した文書はなく、原告が被告らに対し「ロングキープラッシュ」 の施術方法を教示するに際して本件特許出願の願書や明細書その他の添付 書類等を示しておらず、まつ毛エクステンションの装着方法に関して具体的 にいかなる範囲が秘密とされるのかを明らかにした書面もない。しかも、「ロ ングキープラッシュ」は、被告らの原告在職当時、原告の各店舗において、 不特定多数人に対して何らの制限もなく公然と施術されていた。また、まつ 毛エクステンションの業界においては、まつ毛エクステンションの装着方法 が全て秘密にされるわけではなく、新規の装着方法であっても、公開され、 他のアイリストに教授されることもあり、装着方法を秘密とするか否かや装 着方法のうち具体的にどこまで秘密にするかは、自明なものではない。 そうすると、本件秘密保持等契約書に規定された「特許技術」以外の本件 特許情報及び本件手技情報は、原告において適切に秘密として管理されてい たとはいえず、秘密として管理されているとは認識できない状態であったと いわざるを得ない。また、原告は、被告らに対し、「ロングキープラッシュ」 を教示したのであって、本件特許出願に係る願書等を示したわけではないか ら、本件秘密保持等契約書の「特許技術」は、その文言どおり、「ロングキー プラッシュ」についての本件特許情報、すなわち、本件特許情報のうち、地 まつ毛の上部に2本又は3本のフラットラッシュを装着し、地まつ毛の下部 に1本のフラットラッシュを装着する実施例に係る情報を意味するものと 解される。
そして、当該情報は、不特定多数の顧客に対して公然と施術される装着方 法であり、施術を受ければ視覚的に認識できるものであるから、やはり秘密 として管理されていたとはいえず、秘密として管理されているとは認識でき ない状態であったということになり、結局、本件秘密保持等契約書上の「特 許技術」も、不正競争防止法上の営業秘密とはいえない。 ウ 原告は、「ロングキープラッシュ」の技術は本件特許情報だけではなく、文 書化されていない非公開の手技があり、それを含めて営業秘密と指定し、秘 密保持契約を締結したので秘密管理性があると主張する。 しかしながら、原告の主張する文書化されていない非公開の手技について は何ら具体的な主張立証がなく、前記イのとおり、本件秘密保持等契約書の 対象は、本件特許情報のうち、地まつ毛の上部に2本又は3本のフラットラ ッシュを装着し、地まつ毛の下部に1本のフラットラッシュを装着する実施 例に係る情報であって、文書化されていない非公開の手技や本件付加情報は 含まれないから、採用できない。

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令和3(ワ)8940 特許権移転登録抹消登録請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年4月12日  東京地方裁判所

 被告は、実印が押印された譲渡証により、特許庁に対して移転手続きをしました、裁判所は、本件特許権を無償譲渡することはないと考えるのが通常なので、被告には、取締役会決議等の社内決裁手続の確認義務があったとして、原告の移転登録の抹消を認めました。

(1) 前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を 認定することができる。
ア Aは、海外医療旅行株式会社の代表取締役として、平成28年7月11\n日、被告との間で、委託期間を2年間とする本件販売業務委託契約を締結 し、被告装置の販売業務を遂行していたが、被告装置を販売する上で、A に、被告における役員の肩書を付与する必要があるとの理由から、平成2 9年11月30日、被告の取締役に就任した。
イ Aは、令和元年10月31日、本件特許に係る発明の開発並びに同発明 を実施して製品を製造及び販売するため、原告を設立して取締役に就任し、 遅くとも令和2年9月1日までには、被告に辞任届を提出して被告の取締 役を辞任した(甲16、25、26、乙4)。
ウ Aは、令和2年4月17日、発明の名称を「亜臨界水処理装置」とする 特許出願をし(特願2020―73937)、同年7月20日、本件特許権\nの設定登録を受けた。
エ 被告の取締役であるEは、令和2年9月下旬から10月初旬にかけて、 複数の第三者から、Aが被告製品とは異なる有機廃棄物処理装置を販売し ようとしているとの情報を得て、原告の代表取締役であるCに対し、事実\n関係の確認をするとともに、抗議をした(乙11)。
オ Cは、令和2年10月5日頃、被告の代表取締役であるDに電話をし、\n原告の代表取締役として、Aが原告に本件特許権を取得させて被告製品の\n競合品である原告製品を第三者に販売しようとしたことについて謝罪し、 事態を収拾するため、本件特許権を譲渡したい旨申し入れた。Dは、同申\ 入れを受け入れることとし、Cに対し、「取締役会決議等の社内決裁手続は 取れているんでしょうね?」と尋ねたところ、Cは、「Aも了解しているし、 社内手続も大丈夫だ。」と述べた。しかし、実際には、原告の取締役会にお いて本件特許権譲渡の承認決議はされていなかった。(乙11、被告本人、 弁論の全趣旨)
カ 被告は、令和2年10月8日頃、弁理士に本件譲渡証書の原案を作成さ せて、これをCに交付し、Cは、Cの記名の横に改印後原告代表者印によ\nり押印し、本件譲渡証書を作成した(甲5、7、8、乙11)。
キ 被告は、令和2年10月9日、特許権移転登録申請書に本件譲渡証書を\n添付した上で、本件特許権の移転登録を被告単独で申請し、本件特許権の\n移転登録手続をした。なお、同手続がされた時点において、原告は、取締 役会設置会社であった。
(2) 前記認定事実に基づき、被告が、原告の取締役会決議がないことを知り、 又は知ることができたかについて、以下検討する。 ア 前記(1)エによれば、Dは、本件特許権の譲渡時までには、Aが、原告を 設立して原告に本件特許権を取得させ、被告製品と競合する有機物廃棄処 理装置を販売しようとしていたことについて、認識していたものと認めら れる。そして、本件特許権が原告にとって重要な財産であることは被告も認め るところであり、前記(1)イないしエに照らせば、被告は、原告が本件特許 権を実施することにより収益を得ようと企図していたことについても認識 していたものと認められる。これらの事情に照らすと、被告において、原 告が競合他社である被告に対し本件特許権を無償で譲渡することはないと 考えるのが通常であるといえる。それにもかかわらず、前記(1)オのとおり、 Dは、Cに対し、「取締役会決議等の社内決裁手続は取れているんでしょう ね?」と尋ね、Cが「Aも了解しているし、社内手続も大丈夫だ。」と述べ たことのみをもって、承認決議が存在すると考え、本件特許権の移転登録 手続を経たというのである。
このような本件特許権の譲渡の経緯に照らすと、Dにおいて、本件特許 権の移転登録手続を経る前に、Cに対し、原告の承認決議があったことを 裏付ける取締役会議事録を提出させるか、又は、原告の実質的経営者であ るAに対し、真実本件特許権を譲渡することに承諾しているのかどうかを 確認しておけば、本件特許権の譲渡につき、原告の取締役会による承認決 議がされていないことを認識できたというべきである。そして、本件特許 権の移転登録手続を経ることが、被告にとって急を要するものであったと はうかがわれないこと、また、Aが被告の取締役であり、被告とAは既知 の関係にあったこと(前記(1)ア)に照らすと、本件特許権の移転登録手続 を経る前に、上記の確認をとることは容易であったといえる。したがって、Dは、少なくとも本件特許権譲渡について原告の取締役会における承認決議がなかったことを知ることができたといえるから、本件においては、民法93条ただし書の規定を類推して、原告はCによる本件特許権の譲渡は無効と解するのが相当である。
イ 被告は、本件特許権の譲渡は、Aが被告に対し、競業避止義務違反及び本件販売業務委託契約違反となる行為を行ったことから、それに対する謝罪の意味でされたものであるなどと主張して、被告が原告の当時の代表取締役であったCが述べたことを信じたのは正当である旨主張する。しかし、前記アのとおり、原告が被告に本件特許権を無償で譲渡することを承諾することは通常考え難い上、仮に、Aが被告に対して競業避止義務違反となる行為又は海外医療旅行株式会社の代表\取締役として本件販売業務委託契約違反となる行為を行った事実があるとしても、本件特許権の特許権者は原告であり、原告がA又は海外医療旅行株式会社の上記義務違反の責めを負う理由はないというべきである。したがって、そのような事実は、被告が承認決議の不存在を認識していなかったことを正当化し得るものではない。

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令和4(行ケ)10120 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年4月25日  知的財産高等裁判所

 商標の類似判断において、結合商標を分離して判断すべきについて争われました。「JULIUS TART OPTICAL」と「TART」です。一部である「TART」が周知とはいえないと判断されて、一体認識で非類似と判断されました。

 前記1の認定事実によれば、【A】氏及び原タート社が販売する眼鏡フレーム等は、米国の著名な俳優等に愛用されてきたが、同社は1990年代には事業を停止していたところ、原告及び原告事業会社は、米国において「TART」の商標を付した眼鏡フレームの販売を開始し、その製造及び販売する眼鏡フレームは、2009年頃から我が国に輸出され、一部の雑誌には、米国の著名人に愛用されてきた【A】氏の事業を承継したブランドに係る眼鏡フレームであると紹介する記事等が掲載されていることが認められる。しかし、我が国に輸出された数量は、証拠上裏付けられる期間(2009年から2016年までの間)で合計約750個程度であって、我が国の眼鏡フレームの市場において主要な割合を占めているとは到底いえず、また、一部の雑誌媒体や眼鏡販売店等のウェブページ等において、原告らが製造販売する眼鏡フレームがかつて著名な俳優が愛用したブランドであり、復活したなどと取り上げられたり、原告らが開設するフェイスブック(ただし、英語版)において米国の著名な俳優や歌手等が愛用していることが取り上げられたりしているものの、頻繁に我が国のファッション関係の雑誌等で原告商品が取り上げられているといった事実や、「TART」ブランドに係る眼鏡フレームが原告らによる商品であるとの効果的な広告宣伝を行っており、これにより我が国の需要者等の認知度が高まっているといった事実を認めるに足りる証拠もない。したがって、少なくとも我が国においては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「TART」の商標を付した眼鏡フレーム(原告商品)が原告らの業務に係る商品を表示するものとして取引者及び需要者の間において広く認識されているものと認めることはできない。\n
本件商標の要部について
ア 複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構\成部分全体によって他人の商標と識別されるから、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することは原則として許されないが、取引の実際においては、商標の各構\成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼、観念されるとは限らず、その構\成部分の一部だけによって称呼、観念されることがあることに鑑みると、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構\成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である(最高裁昭和37年 第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
これを前提として本件商標についてみると、本件商標の構成中「JULIUS」、「TART」、「OPTICAL」の単語の間には、それぞれ空白部分があるが、それぞれの文字は同書同大で、「TART」の文字部分は強調されていないのみならず、前記 のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「TART」(引用商標)は、本件商標の指定商品である「眼鏡フレーム」等との関係で周知な商標であるとはいえないから、本件商標の構成のうち「TART」が取引者及び需要者に商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない。また、「OPTICAL」は、「目の」、「光学上の」と訳される(甲8、9)が、一般になじみのある英語であるとまではいえないから、指定商品との関係で識別力がないとまではいえない。むしろ、本件商標は、「JULIUSTART OPTICAL」の欧文字(標準文字)を同書同大でまとまりよく一体的に構成されているものであり、「ジュリアス タート オプティカル」とよどみなく称呼することが可能である。したがって、「TART」を要部として抽出することはできず、本件商標は一体不可分の構\成の商標としてみるのが相当である。
イ 原告は、前記第3の1 イのとおり、被告が本件商標中の「TART」の部分を強調して被告商品の広告及び宣伝をしている事実(甲4、51ないし55)を挙げて、「TART」が要部であることを示している旨主張するが、そもそも被告のウェブページ(乙3ないし5)では「TART」の文字部分を強調した構成で表\記されていないし、この点を措くとしても、商標の構成を離れて実際の商品の宣伝広告の方法から要部を認定すべきとする原告の主張は当を得たものではなく、本件において、仮に被告が「TART」の文字部分を強調した宣伝等を行っていたとしても、前記認定を左右するものではない。\n

◆判決本文

関連事件です。 令和4(行ケ)10121 こちらは商標が「JULIUS TART」と「TART」です。結論は非類似です。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10098  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年4月20日  知的財産高等裁判所

 無効理由なしとした審決が維持されました。なお、別訴の本特許に基づく特許権侵害については技術的範囲に属しないと判断されています。

(1) 本件審決が前記第2の3(1)アのとおり甲1発明を認定し、同(2)アのとおり 本件発明1と甲1発明における茶葉の移送方法を対比して一致点及び相違点1を認 定したのに対し、原告は、本件審決は、本件発明1と甲1発明が、「負圧吸引作用を 奏する背面風(W)を前記刈刃(22)の直後方から移送ダクト(6)に送り込む こと」で一致していることを看過したと主張する。原告の上記主張は、甲1発明の内容として、1)送風ダクト52からの吹出口が刈刃34の「直後方」から風を送り込むものであることと、2)送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風が「負圧吸引作用を有すること」が認められるべき旨をいうものと解されるが、次のとおり、甲1発明の内容として、上記1)及び2)のいずれも認めることができない。
ア(ア) まず、原告は、甲1の「なお刈刃34は、摘採機フレーム基板32の前方 ほぼ延長上に設けられるものである。そしてこの摘採機体3における摘採機フレー ムパイプ31と摘採機フレーム基板32とにより区画され、摘採された茶葉Aが中 継移送装置5によって上昇移送されるまでの部分を摘採作用部36とする。」との 記載(【0013】)及び「送風ダクト52は、摘採した茶葉Aを摘採作用部36た る刈刃34後方部から収容部4まで風送するものであり、具体的には吹き上げファ ン51から送り出された風が、茶葉摘採機1の側部を回り込むようにして摘採作用 部36に達し、この部分で茶葉Aと合流し、合流後この茶葉Aを茶葉移送路52a を経由させて収容部4まで風送するものである。」との記載(【0016】)を指摘し て、「刈刃34」で刈り取られた茶葉が直接「摘採作用部36」に送り込まれること から、「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位置することは明らかであると 主張する。
(イ) しかし、甲1の【0013】の上記記載は、「摘採作用部36」を区画するも のの一つである「摘採機フレーム基盤32」と「刈刃34」との位置関係について、 刈刃34が摘採機フレーム基盤32の「前方ほぼ延長上に設けられる」と示すにと どまり、摘採作用部36と刈刃34の位置関係について具体的に特定するものとは みられない。 また、同【0016】の上記記載も、「摘採作用部36たる刈刃34後方部」とい う部分において、摘採作用部36が刈刃34の後方に位置することを示しているも のの、摘採作用部36が刈刃34の後方のどの程度の距離にあるものか等について、 具体的に示すものとはみられない。 その他、甲1において、「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位置するこ とを認めるべき記載は見当たらない。
(ウ) また、仮に、甲1において、「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位 置することが認められるとした場合に、そのことから直ちに、「送風ダクト52風」 が「刈刃34」の直後方から送り込まれることが認められるものでもない。 この点、甲1に、吹き上げファン51から送り出された風が、送風ダクト52を 介して、刈刃34の後方に位置する摘採作用部36のどの部分に達するのかを具体 的に特定する記載は見当たらない。 むしろ、甲1の【図1】の左下部の丸枠内及び【図5】によると、送風ダクト5 2は、刈刃34の後方に位置するとされる摘採作用部36の後端部に位置付けられ ているところである。そして、【図4】によると、刈刃34と送風ダクト52との間 に少なからず距離が存することは、明らかである。
(エ) したがって、甲1発明について、送風ダクト52からの吹出口が刈刃34の 「直後方」から風を送り込むものであることが認められるべき旨をいう原告の主張 は、採用することができない。
イ(ア) 次に、原告は、「送風ダクト52からの吹出口は、摘採機フレーム基板32 後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」しており(甲1の【図5】等)、 この吹出口から送り込まれた「送風ダクト52風」が、「摘採作用部36」に達し、 「この部分で茶葉Aと合流し、合流後にこの茶葉Aを茶葉移送路52aを経由させ て収容部4まで風送する」(同【0016】)ところ、「摘採作用部36」において「送風ダクト52風」に負圧吸引作用がなければ、このような事象を説明することはで きない、甲1の【0016】の上記記載は、「摘採作用部36」が密閉又は半密閉状 態のダクトでなければ説明できない内容であるなどと主張する。
(イ) しかし、甲1の【0019】及び【図5】によると、摘採された茶葉は、ま ず、送風ダクト35から排出される風によって摘採作用部36の後方に送られ、次 いで、送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風により茶葉 移送路52a内を上昇移送されるのであって、送風ダクト52を介して吹き上げフ ァン51から吹き出された風に負圧吸引作用がなくとも、送風ダクト35から排出 される風により、上昇移送が可能となる位置まで茶葉が送られることは容易に理解される。\n
この点、同【0013】には、摘採作用部36について、摘採機フレームパイプ 31と摘採機フレーム基盤32とにより「区画」される旨が記載されているのみで、 それが密閉構造を有することはもとより、閉鎖的な構\造を有することも明記されて おらず、他に、甲1に、摘採作用部36の構造について特定する記載も見られない。そうすると、摘採作用部36は、送風ダクト35から排出される風によって茶葉\nを摘採作用部36の後方に送ることが可能な構\造となっていれば足り、原告の主張 するように、密閉又は半密閉状態にあることを要するものではないと解される。
(ウ) 上記に関し、原告は、摘採作用部36が密閉又は半密閉状態でないとすると、 送風ダクト35から排出される風によって周辺に分散して回収不能になってしまう茶葉が生じ、甲1発明における茶葉の中継移送機能\が低下することになるなどと主張するが、茶葉の分散を避けるためには、茶葉が通過しない程度の空隙を有する部 材で摘採作用部36を構成することで足りるといえるし、茶葉の損傷を避けるためという観点を更に考慮したとしても、直ちに摘採作用部36が密閉又は半密閉状態\nであることまで要するものとは解されない。
(エ) したがって、甲1発明について、送風ダクト52を介して吹き上げファン5 1から吹き出された風が「負圧吸引作用を有すること」が認められるべき旨をいう 原告の主張は、採用することができない。
(2) 前記2の甲1の記載事項によると、甲1には、前記第2の3(1)アのとおり本 件審決が認定した甲1発明が記載されていると認められる。その上で、本件発明1と甲1発明における茶葉の移送方法を対比すると、それらの間には、前記第2の3(2)アのとおり本件審決が認定した一致点及び次の相違点1が認められるというべきである
・・・・
(2) 前記3(3)で認定説示した点に照らし、新規性及び進歩性の判断の誤りをいう原告の主張は、採用することができない。

◆判決本文

同特許についての侵害訴訟です。
1審
「圧力風の作用のみによって」を備えず、構成要件Aを充足しない

◆令和2(ワ)17423
控訴審
均等主張もしましたが、第1要件を満たさないとして、控訴棄却。

◆令和4(ネ)10071

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令和4(ネ)10125 損害賠償金請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年4月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ウェブページのフライパンの説明画像についての損害賠償請求事件です。1審は著作権侵害を認め、5万円の賠償を認めました。原告は、残りの約15万円の支払いを求めて控訴しましたが、控訴棄却です。関連事件がたくさんあります。

(1) 控訴人は、前記第2の4のとおり、1)本件各画像がウェブページごとに独立して利用されている以上、損害額はウェブページ数を基本に算定すべきである(同(1)及び(2))、2)第三者に許諾することを想定していない著作物にも相場の利用料を参酌して利用料を算出するべきである(同(3))旨主張する。上記主張に対して、引用に係る原判決の第4の3(補正後のもの)において説示するところを改めて敷衍すると、次のとおりである。
(2) 著作権法114条3項によって、著作権者が著作権侵害によって受けた損害の額とすることのできる「受けるべき金銭の額に相当する額」の算定に当たっては、当該著作物の利用回数あるいは当該利用から生じた利益等の、当該著作物の直接の侵害行為の物理的な分量に従うのみならず、当該著作物の利用期間、利用態様、当該著作物から享受できる内容又は価値、侵害者の内心の態様(同条5項参照)、当該著作物を利用する市場の状況、他の者への利用許諾の状況等の諸般の事情を総合考慮して定めるべきものである。
本件についてみると、ウェブサイトの閲覧上、本件各画像は、見かけ上、本件商品の数に相当するウェブページで閲覧されるものではあるが、それらは一定の目的をもって一体化された画像の一部が使い回されているとみることも可能なものであり、一体の利用とみることができるから、本件各画像又はウェブページごとに複製又は送信可能\化について損害額を算定することは妥当とはいい難い。そして、本件各画像の利用期間も短期間であって、たとえ通販サイトであろうとも、閲覧に供された回数は限定的なものと考えるのが自然である。さらに、本件画像2)中のフライパンで調理中の食材を写した写真と本件画像3)中のフライパンを製造している職人の写真は、スキャンパン社から提供を受けたものであることを控訴人は自認しており(スキャンパン社がこれら写真に係る著作権を控訴人に譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人が著作権を有するものではないし、本件各画像は商業的実用用途を目的とする著作物であって、むしろ、本件各商品をありのままに表現することを主目的とするものと理解され、その表\現される思想又は感情は限定的なものであるといえる。このことは、本件各画像が文字、写真等の素材を組み合わせたものであったとしても変わるものではない。また、被控訴人に過失があることは免れないとしても、それは重大なものではなく、その利用目的も、控訴人の営業を殊更に妨害するためであったり、本件各画像に表現されたところから享受できる価値を損なうためであったりなどの、専ら害意に基づくものとは認められず、単純なる自己の営業のための商業的利用にすぎない。n
(3) 次に、写真又は画像についての利用許諾状況をみてみると、日本美術著作権協会の利用申請方法は、画像の利用許諾を原則として1用途1目的につき毎回申\請を要するものと定めていること(甲26)、株式会社東京美術倶楽部の使用料規程は、コンピューター・ネットワークにおける美術の著作物の利用料の額を、著作物1点あたり1回につき1か月当たり1万円(美術関係業態以外)、2か月目以降は5000円と定めていること(甲27)、朝日新聞社が運営するデータベースの利用規約は、収録された写真、動画等を提供するサービスにおける法人の利用条件を、1媒体につき1用途1回限りの非独占的使用に限り、重版、再放送その他の用途で再利用する場合には別料金が発生すると定めていること(甲28)、Imagenaviの利用ガイドは、画像素材について、使用になる用途、期間によって料金設定が決まり、複数媒体に使用する場合には1使用ごとに料金が発生すると定めていること(甲29)が認められるが、これらの規定が念頭に置く「目的」、「用途」、「回数」又は「使用」は何を基準とするかは一義的には明らかでなく、ましてや上記各証拠がウェブサイトという1媒体の中における利用料をウェブページを基準にして決めていると理解することも困難であるから、これら利用料の算定方法を直ちに本件における損害額の算定方法の参考とすることはできない(なお、控訴人から音楽又は音源の利用に関する利用許諾に関する証拠も提出されているが、著作物としての性質が大きく異なるものであり、その参酌は相当でない。)。
(4) さらに、写真又は画像についての利用料についてみると、毎日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で商業利用する者に対し、2万2000円から4万4000円の利用料の支払を求めることがあり(甲5)、朝日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で利用する者に対し、使用期間6か月までの場合に2万2000円、使用期間1年までの場合に3万3000円、使用期間3年までの場合に5万5000円の使用料の支払を求めることがあり(甲6)、株式会社アフロは、同社が権利を有する様々な種類の静止画像をインターネット上の広告やホームページなどに利用する者に対し、同一ウェブサイト内においては利用箇所を問わず、利用期間1年までの場合に2万2000円、利用期間3年までの場合に2万8600円、利用期間5年までの場合に3万3000円の利用料の支払を求めることがある(甲7)との事実が認められるものの、利用許諾される写真のサイズ、質等や、媒体の数、掲載場所等の利用許諾の際の利用条件の詳細が不明であり、これら利用料をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることはできず、ましてや、上記利用料を参考として算定した額をウェブページ1ページ当たりの損害として損害額を算定すべきとする根拠ともならない。また、ペイレスイメージズは、印刷物又はウェブ用との用途における画像素材単品での購入価格を、解像度、大きさに応じて440円から5500円に設定しているとの事実は認められるものの(乙3)、どのような画像が想定されているのか不明であり、やはり、この購入代金をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることができない。
(5) 以上のとおりであり、本件記録に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件における損害額は、被告サイト全体における利用について5万円とするのが相当であると認められ、控訴人の前記(1)1)の主張を採用することはできず、同2)に主張するところを参酌しても、上記結論は左右されない。
3 当審における控訴人の追加主張に対する判断
控訴人は、前記第2の5のとおり、原審及び当審において生じた訴訟費用を不法行為に基づく損害として追加する旨を主張する。民事訴訟手続の遂行により要した費用のうち、民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものについては、専ら訴訟裁判所の裁判所書記官の処分を経て取り立てることが予定されているというべきであるから、当該訴訟における不法行為に基づく損害賠償請求において、民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されないと解される(最高裁判所平成31年(受)第606号令和2年4月7日第三小法廷判決参照)。控訴人は、訴え提起及び控訴提起の手数料や書類の送付に要した郵便費用を不法行為に基づく損害として主張するが、これらは民事訴訟費用等に関する法律2条1号、2号に定めるものであるから、これら費目を本件において損害賠償として請求することはできない。n

◆判決本文
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◆令和3(ワ)28410


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令和3(ワ)17636  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年4月14日  東京地方裁判所

Yahoo!地図が原告地図の複製・翻案に該当するか争われました。東京地裁(29部)は、「記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して判断すべき」との判断基準を示しました。結論は請求棄却です。原告は個人です。

(1) 複製及び翻案の判断方法
ア 著作物の複製(著作権法2条1項15号)とは、印刷、写真、複写、録 音、録画その他の方法により有形的に再製することをいう。また、著作物 の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表\現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表\現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして、著作権法は、思想又は感情の 創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、\n事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表\現上の創作性がない 部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製 又は翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受) 第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁 参照)。
そうすると、プロアトラスSV及びYahoo!地図が原告地図1を複 製又は翻案したものに当たるというためには、原告地図1とプロアトラス SV及びYahoo!地図が、創作的表現において同一性を有することが必要であるものと解される。したがって、原告地図1とプロアトラスSV\n及びYahoo!地図との間で、アイデアなど表現それ自体でない部分でのみ同一性が認められる場合には、プロアトラスSV及びYahoo!地\n図は原告地図1を複製又は翻案したものに当たらない。また、原告地図1 とプロアトラスSV及びYahoo!地図との間に、表現において同一性が認められる場合であっても、同一性を有する表\現がありふれたものであるなど、その表現に創作性が認められない場合も、プロアトラスSV及びYahoo!地図は原告地図1を複製又は翻案したものに当たらないと解\nすべきである。
ところで、複製又は翻案の成否を判断するに当たっては、著作権を主張 する者が作成したものに着目して創作性を判断し、その上で、被疑侵害者 が作成したものを観察して、著作権の創作的表現と認められる部分が再製されているか否かを判断するとしても、原告地図1における創作的表\現がプロアトラスSV及びYahoo!地図に再製されていると認められるか 否かを検討する必要があるから、原告地図1とプロアトラスSV及びYa hoo!地図の共通部分が創作的表現であるか否かを検討した場合と結論を異にするものではないというべきである。\n
イ この点、地図は、地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号 によって客観的に表現するものであるから、個性的表\現の余地が少なく、 文学、音楽、造形美術上の著作物等に比して、著作権法上の保護を受ける 範囲が狭いのが通例である。しかし、地図において記載すべき情報の取捨 選択及び表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表\れ得るということができる。そこで、地図の著作物性は、記載すべき情報の取捨選択及 びその表示の方法を総合して判断すべきものであり、前記アの創作的表\現 の同一性についても、このような観点から検討すべきである。
(2) プロアトラスSVが原告地図1を複製又は翻案したものであるか
ア 証拠(甲1、4、63)及び弁論の全趣旨によれば、原告地図1は、沖 縄県糸満市周辺の地図であること、原告地図1及びプロアトラスSVにお ける同市潮平及び阿波根周辺の各記載は、別紙原告地図1・A及びプロア トラスSV・Aのとおりであること、同市照屋周辺の各記載は、別紙原告 地図1・B及びプロアトラスSV・Bのとおりであること、同市兼城周辺 の各記載は、別紙原告地図1・C及びプロアトラスSV・Cのとおりであ ることが認められる。そこで、別紙原告地図1・AないしC及びプロアトラスSV・AないしCを対比し、原告が主張する原告地図1とプロアトラスSVの共通部分 (前記第3の1(原告の主張)(1)ア(ア)a(a)1)ないし5)並びに(b)6)及び 7)。以下、この第4の1(2)アの検討においては、当該(原告の主張)で付 した頭書の番号に従って、「共通部分1)」などという。)が創作的表現と認められるかについて検討する。\n
(ア) 共通部分1)について
a 原告は、原告地図1とプロアトラスSVには住宅地図であるという 共通部分1)が存在すると主張するところ、別紙原告地図1・Aないし C及びプロアトラスSV・AないしCを対比すると、建物や住宅、道 路、河川等が記載されている点で一致するとは認められるものの、こ れらの具体的な記載が一致しているとは認められない。
b 前記aの一致点について検討すると、地図に建物や住宅、道路、河 川等を記載すること自体はアイデアにすぎず、共通部分1)は、表現それ自体でない部分で同一性を有するにすぎないというべきである。\n したがって、共通部分1)について、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。\n
(イ) 共通部分2)について
a 原告は、原告地図1とプロアトラスSVが、いずれも、検索の目安 となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物について、居住 人氏名や建物名称の記載を省略し、住宅及び建物のポリゴン並びに番 地のみを記載し、当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は当 該ポリゴンのほぼ中央に、紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで、 折り返すことなく、必ずしも当該ポリゴンの内部に収まらずに、アラ ビア数字で記載されている点を、共通部分2)として主張する。しかし、別紙原告地図1・AないしC及びプロアトラスSV・Aな いしCを対比すると、原告地図1とプロアトラスSVで、同じ建物に ついて名称が記載されているものもあれば、一方の地図では名称が記 載されているが、他方の地図では記載されていないものもあり、公共 施設やビル等のうち検索の目安となるものや著名なものが異なるとい える。また、原告地図1とプロアトラスSVで、住宅及び建物のポリ ゴンの具体的な記載が全て一致するとは認められない。さらに、原告 地図1では、ほぼ全てのポリゴンにつき番地が記載されているのに対 し、プロアトラスSVでは、番地が記載されていないポリゴンが相当 数ある。
したがって、原告地図1とプロアトラスSVは、一部の住宅及び建 物のポリゴンの具体的な記載の点、一部の建物について建物名称が記 載され、住宅の居住人氏名やその他の建物の建物名称の記載は省略さ れている点、住宅及び建物がポリゴンで表現されており、当該ポリゴンには影が記載されていない点、一部の住宅及び建物の番地が、当該\nポリゴンのほぼ中央に、紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで、 折り返すことなく、必ずしも当該ポリゴンの内部に収まらずに、アラ ビア数字で記載されている点でのみ一致すると認めるのが相当である。
b 前記aのとおり、原告地図1とプロアトラスSVで、一部の住宅及 び建物のポリゴンの具体的な記載が一致したとしても、それは、同じ 住宅又は建物を真上から見たときの外枠を記載したことによるもので あるから、住宅及び建物の形状という事実において同一性が認められ るにすぎない。また、原告地図1では、ポリゴンが淡い黄色であるの に対し、プロアトラスSVでは、ポリゴンは薄い灰色、濃い灰色又は オレンジ色であること、原告地図1では、番地は、黒色で、各数字が 鉛直方向に記載されているのに対し、プロアトラスSVでは、番地は、 薄茶色で、各数字が斜体で記載されていることを考慮すると、その他 の一致点は、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図の記載方法というアイデアにおいて同一性が認められるにす\nぎないといわざるを得ない。
さらに、共通部分2)が表現において同一性を有するものであるとしても、証拠(乙6、7、11、14、15、25、32ないし38)\nによれば、原告地図1の作成当時、建物及び住宅の真上から見た形状 を影なしのポリゴンで記載した地図は複数存在したと認められる。そ うすると、このような記載方法については、ありふれていたといえる 上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、建物及び住宅の形状をこのようなポリゴンで記載するとしても、ポリ\nゴンは建物及び住宅の形状に従って記載するものであるため、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないとい\nうべきである。
その上、証拠(乙7、14、15、25、32ないし38)によれ ば、原告地図1の作成当時、建物及び住宅の番地が、建物及び住宅の ポリゴンの中央付近に、アラビア数字で折り返すことなく横書きされ た記載を含む地図は複数存在したと認められる。そうすると、このよ うな記載方法についても、ありふれていたといえる上、原告地図1の 表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、建物及び住宅の番地をこのように記載するとしても、番地はあらかじめ指定されている\nものであるため、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。したがって、共通部分2)は、表現それ自体でない事実又はアイデアにおける同一性を有するにすぎないか、表\現において同一性を有する としても、その表現に創作性は認められないから、共通部分2)につき、 創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
c これに対して、原告は、乙第6及び32ないし34号証の各地図は 一般住宅の居住人名が記載された箇所があること、乙第7、14、1 5及び36ないし38号証の各地図は極めて特殊な状況の下で、一部 地域についてのみ作成されたものであること、乙第10号証の地図は そもそもポリゴンの記載がないこと、乙第18号証の地図はポリゴン を記載し、一般住宅の居住人名を記載せず、一部の建物の名称を記載 するという特徴を有しないこと、乙第24及び25号証の各地図は主 に自動車での移動等のために広域の道路情報や地理情報を得ることを 目的としたものであり、そもそも居住人名や番地を記載する必要はな いことからすると、原告地図1の記載がありふれていたことの証拠と ならないと主張する。
しかし、上記各地図は、いずれも、建物及び住宅の真上から見た形 状を影なしのポリゴンで記載したり、建物及び住宅の番地が、建物及 び住宅のポリゴンの中央付近に、アラビア数字で折り返すことなく横 書きされたりする部分を含んでいると認められ、他方で、本件全証拠 によっても、上記各地図が特殊な目的のために作成されたものである といった、ありふれていることを否定するような事情を認めることは できない。そうすると、上記の記載方法はありふれていたものといわ ざるを得ない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10104  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年4月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 発信者情報開示請求事件です。スクリーンショットを添付したツイートについて、原審・知財高裁いずれも、著32条の引用にあたると判断しました。

控訴人は、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイート をした場合には、引用リツイートによる場合とは異なり、引用元に引 用の事実が通知されないため、ツイートを引用された者は自分が知ら ないところで議論がされてしまい、また、ブロックした人物からツイ ートを引用されてしまうことがある旨主張する。 しかしながら、ツイッターにおける上記の通知機能は、ユーザーの\n利便性を高めるための付加的な機能にすぎないというべきである。ま\nた、証拠(甲18)及び弁論の全趣旨によれば、ツイッターにおける ブロック機能は、ブロック対象のアカウントがツイッターにログイン\nした状態においてのみ、ツイートの閲覧を制限するなどの効果をもた らすものにすぎず、例えば、ブロック対象者がツイッターにログイン せずに、又はブロックされた者とは異なるアカウントでアクセスした 場合には、ブロックした者が公開しているツイートを閲覧することが なお可能である。さらに、ツイッターにおいては、投稿されたツイー\nトがインターネット上で広く共有されて批評の対象となることも当然 に予定されており、ツイートを投稿した者も、自らのツイートが批評\nされることや、その過程においてツイートが引用されることを当然に 想定しているものといえる。
以上の事情を考慮すると、他のツイートのスクリーンショットを添 付したツイートがされた場合に上記の通知機能やブロック機能\が働か なくなるからといって、控訴人の著作者としての権利が、引用リツイ ートの場合と比較して殊更に害されるものということはできない。そ うすると、控訴人が指摘する上記の各事情をもって、本件ツイートに おいて原告ツイートが引用されたことにつき、公正な慣行に合致しな いものであるということはできない。

◆判決本文

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◆令和4(ワ)14375

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令和4(ネ)10060  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年4月13日  知的財産高等裁判所

元ツイートをスクリーンショットで引用するやり方について、原審では著作権侵害と判断されましたが、知財高裁は正当な引用と判断しました。

 しかし、そもそも本件規約は本来的にはツイッター社とユーザーとの間の約定であって、その内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではない。また、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が本件規約違反に当たることも認めるに足りない。 他方で、批評に当たり、その対象とするツイートを示す手段として、引用リツイート機能を利用することはできるが、当該機能\を用いた場合、元のツイートが変更されたり削除されたりすると、当該機能を用いたツイートにおいて表\示される内容にも変更等が生じ、当該批評の趣旨を正しく把握したりその妥当性等を検討したりすることができなくなるおそれがあるのに対し、元のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする場合には、そのようなおそれを避けることができるものと解される。そして、弁論の全趣旨によると、現にそのように他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートするという行為は、ツイッター上で多数行われているものと認められる。以上の諸点を踏まえると、スクリーンショットの添付という引用の方法も、著作権法32条1項にいう公正な慣行に当たり得るというべきである。
(イ)これに対し、被控訴人は、引用ツイートによるべきことは、ツイッターの利用者において常識である旨を主張するが、当該主張を裏付けるに足りる証拠はない(なお、前記のとおり、本件規約の内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではないことからすると、ツイッターのユーザーにおいて本件規約の前記の定めを認識しているというべきことから直ちに、引用ツイートによるべきことがユーザーの共通の理解として前記公正な慣行の内容となるということもできない。)。また、被控訴人は、スクリーンショットの添付という方法による場合、著作権者の意思にかかわらず著作物が永遠にネット上に残ることとなり、著作権者のコントロールが及ばなくなるという不都合がある旨を主張するが、そのような不都合があることから直ちに上記方法が一律に前記公正な慣行に当たらないとまでみることは、相当でないというべきである。
(ウ)その上で、訂正して引用した原判決の第4の2(1)アで認定判断した原告投稿1の内容、同(2)アで認定した本件投稿1の内容や原告投稿1との関係等によると、本件投稿1は、Yが、本件投稿者1及び本件投稿者1と交流のあるネット関係者間で知られている人物(「A」なる人物)を訴えている者であることを前提として、更に多数の者に関する発信者情報開示請求をしていることを知らせ、このような行動をしているYを紹介して批評する目的で行われたもので、それに当たり、批判に関係する原告投稿1のスクリーンショットが添付されたものであると認める余地があるところ、その添付の態様に照らし、引用をする本文と引用される部分(スクリーンショット)は明確に区分されており、また、その引用の趣旨に照らし、引用された原告投稿1の範囲は、相当な範囲内にあるということができる。また、訂正して引用した原判決の第4の2(1)イ〜エで認定判断した原告投稿2〜4の内容及びその性質並びに同(2)アで認定した本件投稿2〜4の内容や原告投稿2〜4との関係等によると、本件投稿2〜4は、本件投稿者2を含むツイッターのユーザーを高圧的な表現で罵倒する原告投稿2、他のツイッターのユーザーを嘲笑する原告投稿3及び他のツイッターのユーザーを嘲笑する原告投稿4を受けて、これらに対する批評の目的で行われたものと認められ、それに当たり、批評の対象とする原稿投稿2〜4のスクリーンショットが添付されたものであるところ、その添付の態様に照らし、引用をする本文と引用される部分(スクリーンショット)は明確に区別されており、また、それらの引用の趣旨に照らし、引用された原告投稿2〜4の範囲は、それぞれ相当な範囲内にあるということができる。以上の点を考慮すると、本件各投稿における原告各投稿のスクリーンショットの添付は、いずれも著作権法32条1項の引用に当たるか、又は引用に当たる可能\性があり、原告各投稿に係るYの著作権を侵害することが明らかであると認めるに十分とはいえないというべきである。」\n

◆判決本文
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◆令和3(ワ)15819

令和4(ネ)10044も同趣旨です。

◆令和4(ネ)10044

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令和4(行ケ)10010 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年4月6日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁も結論は同様です。なお、審判では基礎出願2に基づく優先権は認められていましたが、知財高裁はこれを否定しました。

6 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り)について
(1) 優先権について
ア 本件出願について、被告が基礎出願1又は2に基づく優先権を主張できるか 否かについて検討する。
イ(ア) 基礎出願1及び2がされた平成22年6月ないし7月頃時点で、一定のリ ソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素の一定量をリソソ\ーム蓄積症の患者のし かるべき組織等に送達することができれば、治療効果を生ずること自体は技術常識 となっていた一方で、どのような方法で補充酵素を有効に送達することができるか について検討が重ねられており、本件出願がされた平成29年9月においても、そ のような状況がなお継続していたものと認められる(甲1〜4、16、17、55、 56、弁論の全趣旨)。
本件発明1は、リソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物 であって、脳室内投与されることを特徴とするものであるところ、上記の技術常識 及び前記1(2)の本件発明の概要を踏まえると、本件発明1の薬学的組成物につい ても、中枢神経系(CNS)への活性作用物質の送達をいかに有効に行うかという 点がその技術思想において一つの重要部分を占めているものというべきである。
(イ) この点、本件明細書の【0005】には、「髄腔内(IT)注射または脳脊髄 液(CSF)へのタンパク質の投与・・・の処置における大きな挑戦は、脳室の上 衣内張りを非常に堅く結合する活性作用物質の傾向であって、これがその後の拡散 を妨げた」、「脳の表面での拡散に対するバリア・・・は、任意の疾患に関する脳に\nおける適切な治療効果を達成するには大きすぎる障害物である、と多くの人々が考 えていた」との記載があり、【0009】には、「リソソ\ーム蓄積症のための補充酵 素が高濃度・・・での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導 入され得る、という予期せぬ発見」という記載がある。\nまた、甲17の「発明の背景」においても、高用量の治療薬を必要とする疾患に ついて髄腔内ルートの送達に大きな制限があり、濃縮された組成物の調製にも問題 がある旨が記載されていた(前記5(2)カ及びキ)。
さらに、基礎出願2がされた翌年である平成23年に発行された乙6(「Drug transport in brain via the cerebrospinal fluid」Pardridge et al., Fluids and Barriers of the CNS 2011 8:7)においても、CSFから脳実質への薬物浸透 は極めて僅かであり、脳への薬物の浸透がCSF表面からの距離とともに指数関数\n的に減少するため、高濃度の薬物を投与する必要があるが、上位表面は非常に高い\n薬物濃度にさらされており有毒な副作用を示す可能性があることなどが記載されて\nいた。その更に翌年である平成24年に発行された乙13(「CNS Penetration of Intrathecal-Lumbar Idursulfase in the Monkey, Dog and Mouse: Implications for Neurological Outcomes of Lysosomal Storage Disorder」 Calias P. et al. PLoS One, Volume 7, Issue 1, e30341)には、「本研究は、組換えリソソ\ームタン パク質の直接的なCNS投与によって、投与されたタンパク質の大多数が脳に送達 され、カニクイザル、イヌ両方の脳および脊髄のニューロンに広範囲に沈着するこ とを、初めて示した研究である。」と記載されている。
そうすると、少なくとも基礎出願2がされた平成22年7月頃においては、CN S送達のための組成物として特定の組成物の組成等が開示された場合であっても、 当該組成等から直ちにその脳への送達の程度や治療効果を推測等することは困難で あることが技術常識であったものと認められる。 このことは、甲17に、「本明細書で用いる場合、「中枢神経系への送達に適して いる」という語句は、それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、この ような組成物の安定性、耐(忍)容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例 えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのよう な組成物の能力を指す。」(前記5(5)ナ)として、「標的送達部位(例えば、CSF または脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能\n力」が「送達に適している」ということの意味内容に含まれることが明記されてい ることとも整合するものといえる。
(ウ) 他方で、本件明細書の【0085】には、「いくつかの実施形態では、本発明 による髄腔内送達は、末梢循環に進入するのに十分な量の補充酵素を生じた。その\n結果、いくつかの場合には、本発明による髄腔内送達は、肝臓、心臓および腎臓の ような末梢組織における補充酵素の送達を生じた。この発見は予期せぬものであ・・・\nる。」との記載があり、標的組織への送達について、【0132】には、「本発明の意 外な且つ重要な特徴の1つは、本発明の方法を用いて投与される治療薬、特に補充 酵素、ならびに本発明の組成物は、脳表面全体に効果的に且つ広範囲に拡散し、脳\nの種々の層または領域、例えば深部脳領域に浸透し得る、という点である。さらに、 本発明の方法および本発明の組成物は、現存するCNS送達方法、例えばICV注 射では標的化するのが困難である脊髄の出の組織、ニューロンまたは細胞、例えば 腰部領域に治療薬(例えば、補充酵素)を効果的に送達する。さらに、本発明の方 法および組成物は、血流ならびに種々の末梢器官および組織への十分量の治療薬(例\nえば、補充酵素)を送達する。」との記載があり、【0133】においては、実施形 態により、「治療用タンパク質(例えば、補充酵素)」が、対象の「中枢神経系」に 送達され、あるいは「脳、脊髄および/または末梢期間の標的組織のうちの1つ以 上」に送達され、また、「標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末 梢標的組織であり得る。」などと記載された上で、【0134】以下で特に「脳標的 組織」について説明がされ、そして、実施例においても、例えば、実施例1ではI T投与が、実施例3ではICV投与及びIP(腹腔内)投与が、実施例5、実施例 10及び実施例13ではIT投与及びICV投与が用いられるなどしている。
そして、証拠(甲2〜5。後記7(1)〜(4)参照)のほか、本件明細書の記載内容 に照らしても、CNSへの酵素の送達においては、ICV投与とIT投与とは、そ れぞれ別個の投与態様として取り扱われ、組織への酵素の送達に関する実験やその 結果の評価においても、それらは別個に取り扱われること、換言すると、ICV投 与とIT投与の相応に密接な関連性を考慮しても、ICV投与による実験データと IT投与による実験データとを直ちに同一視することはできないことが、平成22 年7月頃における技術常識であったことが認められるというべきである。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)の技術常識を踏まえると、本件発明1が甲17に記載されて いた発明であると認められるためには、甲17に、本件発明1の組成物が実質的に 記載されていたものと認められるのみならず、甲17に、本件発明1の組成物によ る送達の効果が、ICV投与した場合のものとして、実質的に記載されていたと認 められる必要があるというべきである。
ウ(ア) その上で、甲17の記載を見るに、まず、「発明の背景」の記載(前記5(2)) は、専ら背景技術について説明するものである。「発明の概要」の記載(同(3))に は、本件発明1の組成物に含まれる組成物の記載があるといえるが、当該組成物が どのように送達されて治療効果を奏するのかについては記載がない。そして、「発明 の詳細な説明」(同(5))を見ても、組成物の構成やその使用方法に関する一般的な\n記載はみられるものの、どのように送達されて治療効果を奏するのかについて具体 的な記載はない。
(イ) 甲17の実施例1(前記5(6))には、15mg/mLのタンパク質濃度のリ ソソ\ーム酵素を含む組成物で、pH6〜7であってリン酸塩を含むものが記載され ていると見ることができるが、具体的にどのような酵素が用いられたかは不明であ り、また、どのような領域まで送達されて治療効果を奏するかについても記載がな い。
(ウ) 甲17の実施例2(前記5(7))には、「酵素治療薬の使用による繰り返しI T−脊椎投与の毒性及び安全性薬理を評価」や「酵素投与群」との記載はあるが、 酵素の種類も濃度も不明であり、また、どのような領域まで送達されて治療効果を 奏するかについても記載がない(なお、対照群との差異もみられていない。)。
(エ) 甲17の実施例3(前記5(8))には、用量1.0mL中酵素14mgとして 調製された酵素と、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0. 005%のポリソルベート20をpH7.0で含むビヒクルにより作成された製剤\nが髄腔内投与されたことの記載があるが、図5を含めて見ても、主に有害な副作用 の有無等が検討されたものと解され、治療効果については記載がない。
(オ) なお、甲17の図2には、30mg用量の髄腔内投与後のリソソ\ーム酵素の ニューロンへの分布が示され、尾状核のニューロンにリソソ\ーム酵素が認められた ことが示されているが、どのような組成物が投与されたのかも不明である。
(カ) さらに、甲17には、投与の態様としてICV投与とIT投与とが選択的な ものである旨は記載されているといえる一方で、いずれの方法によっても同様に送 達され得る旨等を明らかにする記載もないから、前記(ウ)〜(オ)は、ICV投与した 場合のものとして、本件発明1の組成物による送達の効果を記載するものでもない。
エ 以上によると、甲17には、本件発明1が記載されているものとは認められ ず、本件発明2〜8及び12についてこれと異なって解すべき事情も認められない から、本件出願について、基礎出願2に基づく優先権を主張することはできない。 基礎出願1についても、基礎出願2と異なって解すべき事情はない。
これと異なる被告の主張は、いずれも採用することができない。ICV投与とI T投与において、組成物はいずれの場合でもCSFに投与されるものであり、その ためそれらの間に処方としての共通性や標的組織等への送達における相応の関連性 があるということができたとしても、そのことをもって、具体的な送達の程度や治 療効果についてまで、一方の投与態様についての実験結果等の記載をもって直ちに 他方についての記載と実質的に同視することができるとの技術常識は認められない。 被告の主張は、甲16及び17の記載内容を、本件明細書の記載内容を前提にしな がら解釈しようとするものであって相当でない。
(2) 甲6が公知文献とされなかったことが直ちに取消事由に当たるかについて
ア 原告は、取消訴訟の審理範囲を根拠として、本件審決に当たり甲6を副引用 例として考慮しなかった本件審決は、優先権に係る判断の誤りによって直ちに取り 消されるべきである旨を主張するので検討する。
イ(ア) 証拠(甲61、62)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件審判請求においては、本件発明1の進歩性に係る無効理由として、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ甲5〜10を適用すること(甲5の適用については、甲5技術と実質的に同一の内容が主張されていた。)により容易想到である旨を主張し、その中で、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を主張する一方、甲6発明(ビヒクル)については主張していなかったことが認められる。本件審決は、基礎出願2に基づく優先権の主張を認めたことから、副引用例としての甲6記載の発明の適用について検討するには至らなかったが、上記のとおり、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を副引用例とする範囲で、審判手続においても審理の対象となっていたものであって、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ上記副引用例を組み合わせることにより進歩性を欠くという無効理由自体は、審判手続において審理対象となっていたものである。
(イ) そして、本件審決は、甲2発明ないし甲4発明と本件発明の相違点について、 甲5及び7〜10を適用して容易想到であるといえるか否かについて判断した一方、 優先権主張を認めたことから甲6は除外し、それゆえ相違点に係る本件発明の構成\nについての甲6発明(製剤)の適用について具体的には判断しなかったものの、甲 2発明ないし甲4発明に甲6発明(製剤)を適用することにより本件発明は容易想 到であるという旨の原告の主張自体については、これを認めることができないとの 判断を示したものである。
(ウ) 原告は、本件訴訟において、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とした上で、 前記(ア)及び(イ)のとおり本件審決で排斥された甲5技術の適用による容易想到性の 主張のほか、甲6に基づき、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を副引用 例として主張するとともに、甲6が技術常識(エリオットB溶液の技術常識及び高 濃度化の技術常識)を補足するものである旨を主張しているところ、本件訴訟にお いて、容易想到性が争いとなっている本件発明の構成(甲2発明ないし甲4発明と\nの間の各相違点)は、本件審決で判断されたものと基本的に同じであり、甲6発明 (製剤)や甲6発明(ビヒクル)の適用に当たり、本件審決で判断されたもの以外 の相違点が問題になるなどといった事情はない。
(エ) 前記(ア)のとおり、甲6の適用については審判手続においても問題とされ、当 事者双方において攻撃防御を尽くす機会はあったといえる。この点、証拠(甲6、 16、17、乙14、24。なお、訳文として甲6の2・3、乙36)及び弁論の 全趣旨によると、甲6は、基礎出願1及び2がされて間もない平成22年7月2日 に公衆に利用可能となった雑誌「注射可能\なドラッグデリバリー2010:製剤フ ォーカス」に掲載された「CNSが関与する遺伝学的疾患を治療するためのタンパ ク質治療薬の髄腔内送達」と題する論文であるところ、同論文は、基礎出願1及び 2に関わった研究者も関与して行われた研究発表に係るものであって、本件発明と\n同様の技術分野に属するもの、すなわち、酵素補充療法において、中枢神経系(C NS)病因を有する疾患の処置に係るリソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素 を含む薬学的組成物に関連するもの(前記1(2)ア)と解されるほか、その記載内容 は、かなりの部分甲16及び17と重なり合うものである。そのような甲6の性質 や、甲16及び17と本件発明との関係についても優先権主張の可否という形では あるが各当事者において攻撃防御を尽くす機会があったというべきことを考慮する と、上記のように審判手続において各当事者に与えられていた甲6の適用について 攻撃防御を尽くす機会は、実質的な機会であったといえる。
(オ) 以上の事情の下では、本件審決においては副引用例としての甲6発明(製剤) の適用が具体的には判断されるに至らず、また、甲6発明(ビヒクル)については そもそも審判段階で問題となっていなかったこと(この点、被告は、甲6発明(ビ ヒクル)を適用しての容易想到性に係る原告の主張について、特にそれが審理範囲 外であるとして争ってはいない。)を考慮しても、本件訴訟において、審判手続にお いて審理判断されていた甲2発明ないし甲4発明との対比における無効原因の存否 の認定に当たり、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を適用することによ って容易想到性の有無を判断することが、当事者に不測の損害を与えるものではな く、違法となるものではない。最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月1 0日大法廷判決・民集30巻2号79頁は、本件のような場合について許されない とする趣旨とは解されない。
(3) 以上によると、取消事由1は、優先権の判断の誤りという限度において理由 があるが、それをもって直ちに本件審決を取り消すべきという結論において、理由 がない。そこで、以下、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とする容易想到性の主張に係る取消事由5〜7について、検討する。

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◆令和4(行ケ)10022

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令和4(ワ)2237 発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年3月30日  東京地方裁判所

 著作権侵害に基づく発信者情報開示請求が棄却されました。著作権法41条の「時事の報道」に該当するというものです。

1 争点1(著作権法41条の適用の可否)について
(1) 本件投稿1について
ア 証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿1は、「『まとめサイ ト』でのインラインリンクに著作権侵害幇助の判決!:プロ写真家・A公式 ブログ…」との表題及び「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたると\nいう判決が出たそうです。」とのコメントと共に、本件写真が投稿されたも のであり、本件写真は、上記にいう著作権侵害幇助の判決(以下「別件訴訟 判決」という。)において、著作権侵害の成否が問題とされた写真そのもの であることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿1は、別件訴訟判決の要旨を伝える目的 で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件訴訟判決という時事の 事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件の主 題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、著作 権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。\nそして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題 性等を踏まえると、本件投稿1において、本件写真は、同条にいう報道の目 的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。
イ これに対し、原告は、「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたると いう判決が出たそうです。」との記載は、抽象的に、インラインリンクが著 作権の幇助侵害に当たり得るという規範の問題を伝えるにすぎないもので あるから、本件投稿1は「報道」に当たらないと主張する。しかしながら、 前記認定事実によれば、本件投稿1は、著作物の利用に関して社会に影響を 与える別件訴訟判決の要旨を伝えるものであって、社会的な意義のある時事 の事件を客観的かつ正確に伝えるものであることからすると、これが「報道」 に当たることは明らかである。したがって、原告の主張は、採用することが できない。
また、原告は、本件元投稿においては本件写真がすぐに削除されたことや、 規範の問題を伝達するに当たり写真の掲載は不要であることからすれば、本 件投稿1における本件写真の掲載は、著作権法41条に規定する「報道の目 的上正当な範囲内」に含まれないと主張する。しかしながら、上記において 説示したとおり、本件写真は、別件訴訟判決という時事の事件の主題となっ た著作物であることからすれば、原告主張に係る事情を十分に考慮しても、\n原告の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の 主張は、採用することができない。
ウ 以上によれば、本件投稿1における本件写真の掲載は、著作権法41条に より適法であるものと認められる。
(2) 本件投稿2について
ア 証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿2は、「まとめサイト 発信者情報裁判Line上告棄却 敗訴確定ニュース プロ写真家 A公 式ブログ 北海道に恋して」との記載と共に、本件写真が投稿されたもので あり、本件写真は、上記にいう発信者情報裁判の上告棄却判決(以下「別件 最高裁判決」という。)において、著作権侵害の成否が問題とされた写真そ のものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿2は、別件最高裁判決の要旨を伝える目 的で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件最高裁判決という時 事の事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件 の主題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、 著作権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。\nそして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題 性等を踏まえると、本件投稿2において、本件写真は、同条にいう報道の目 的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。
イ これに対し、原告は、本件投稿2は、悪質なスパムブログにユーザーを誘 導するために本件写真を利用するものであるから、「報道」に当たる余地は ないと主張する。しかしながら、証拠(甲14、15)及び弁論の全趣旨に よっても、Bloggerがスパムブログに悪用され得ることや、広告収入 を得る目的等でスパムブログが存在することなどが一般的に認められるこ とが立証され得るにとどまり、本件投稿2自体が悪質なスパムブログにユー ザーを現に誘導している事実を具体的に認めるに足りないものといえる。そ の他に、上記 イにおいて説示したところと同様に、上記認定に係る本件写 真の利用目的、利用態様のほか、本件写真が、著作物の利用に関して社会に 影響を与える別件最高裁判決という時事の事件の主題となった著作物であ ることを踏まえると、原告主張に係る事情を十分に考慮しても、原告の主張\nは、上記判断を左右するものとはいえない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
ウ 以上によれば、本件投稿2における本件写真の掲載は、著作権法41条に より適法であるものと認められる。

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令和4(ネ)10073等  特許権侵害損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年3月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審では、3項侵害の損害額の方が高いとして、2200万円弱の損害賠償を認めましたが、知財高裁は2項侵害の損害額の方が高いとして、約2250万円の支払いを命じました。

本件は、発明の名称を「加熱式エアロゾル発生装置、及び一貫した特性のエ アロゾルを発生させる方法」とする発明に係る本件特許権を有する控訴人が、被控 訴人らに対し、被控訴人らが共同で加熱式タバコ用デバイスである原判決別紙物件 目録記載の被告製品(被告製品1〜3)の販売、輸出、輸入及び販売の申出をする\nことが本件特許権の侵害に当たると主張して、不法行為(民法709条)に基づき、 選択的に、1)特許法102条2項の損害額●●●●●●●●●円(同項の推定の覆 滅が認められた場合に当該覆滅部分について予備的に同条3項に基づく売上額の2\n0%相当の損害額)又は2)同条3項の損害額●●●●●●●●●円を請求するとと もに、3)弁護士・弁理士費用相当額●●●●●●●●円(上記1)の同条2項の損害 額の1割に相当する額)を請求するものとして、●●●●●●●●●円及びこれに 対する不法行為の後であり被控訴人らへの各訴状送達の日の翌日である令和2年3 月10日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の連帯支払を原審で求めた事案である。
(2) 原審は、1)特許法102条2項による被控訴人らが受けている利益の額は3 706万0935円と推定されるが、被告製品の売上げにはそれらが別件発明の実 施品であることも貢献しているため5割の推定覆滅を認めるのが相当であり、同項 の損害額は1853万0467円となる(また、上記の覆滅の理由からして上記覆 滅部分についての同条3項の適用は認められない。)とする一方で、2)実施料率は 10%を下らないものと認めるのが相当であり、同条3項の損害額は1975万2 707円となるところ、より高額である上記2)の損害額をもって控訴人の損害額と 認め、これに弁護士・弁理士費用としてその1割である197万5270円を加え た2172万7977円及びこれに対する前記遅延損害金の連帯支払を被控訴人ら に求める限度で控訴人の請求を一部認容し、その余の控訴人の請求をいずれも棄却 した。
・・・・
(c) 同じくAmazon seller centralに係る手数料等について、控訴人は、令和元 年7月のFBA運搬費は異常に高額であり、少なくとも本件FBA配送代行手数料 ●●●●●●●●円は控除されるべきものではないなどと主張する。
そこで検討するに、証拠(甲10、甲A38、44、甲46、47、51、52、 53の1〜4、54の1〜5、甲55、62、乙25、26)及び弁論の全趣旨に よると、1)令和元年7月分のAmazonのFBA手数料(Amazon FBA/handling charge) は●●●●●●●円、FBA運搬手数料(Amazon FBA/haulage express)は●●● ●●●●●円であったこと、2)平成30年7月から令和元年12月までの期間中、 FBA運搬手数料又はこれに相当し得るとみられる費用は、平成30年11月から 令和元年9月までの間において計上されているところ(ただし、平成30年11月 及び12月においては「Amazon /FBA haulage handling charge」である。)、同年 11月分及び12月分は●●●●円程度、平成31年1月分は●●●●円余りであ ったものの、同年2月分から同年(令和元年)6月分まではいずれも●●●●円に 満たない額となっていたにもかかわらず、同年7月分として上記のとおり急激にそ の額が増大し、その後、同年8月分として●●●円余り、同年9月分として●●● 円余りが計上された後、同年10月分以降は、FBA手数料とともにゼロ円となっ たこと、3)同年4月において、「商品評価損」●●●●●●●●●円の計上と「期 末商品棚卸高」の●●●●●●●●円の減少の計上により、「商品」が●●●●● ●●●●円減少し、同年5月において、「商品評価損」●●●●●●●円の計上と 「期末商品棚卸高」●●●●●●●●円の計上により、「商品」が●●●●●●● ●円増加し、同年6月において、「商品評価損」●●●●●●●●●円の計上と「期 末商品棚卸高」の●●●●●●●●円の減少の計上により、「商品」が●●●●● ●●●●円減少したこと、4)同年7月30日及び同月31日の2日間に、「Fjp20190724PATENT-14」などの符号(末尾の数字のみ、3〜17の範囲で異なっている。) のある一律●●●円のFBA配送代行手数料(FBA Per Unit Fulfillment Fee)が ●●●●件計上され、その合計額は●●●●●●●●円に上ったこと(本件FBA 配送代行手数料)、5)同月におけるFBA配送代行手数料の支出において、そのよ うに同一の符号をもって一律の金額で同時期に多数のものが計上されている例は、 他に認め難いこと、6)控訴人は、別件仮処分決定に係る特許権侵害差止仮処分申立\n事件(東京地裁民事第29部にて審理)において、令和元年7月11日付けで、被 控訴人アンカーに対する申立てを取り下げ、その後、同月25日、別件仮処分決定\nがされたこと、7)控訴人は、別途、被控訴人らを債務者として、特許権侵害差止仮 処分命令の申立て(東京地裁平成30年(ヨ)第22123号(東京地裁民事第4\n0部にて審理))をしていたところ、当該事件で、被控訴人らは、令和元年9月3 0日付けの準備書面をもって、被控訴人ジョウズにおいては同月末までに被告製品 全ての在庫がなくなる予定であることから、保全の必要性がない旨を主張し、その\n後、それを疎明する資料として、被控訴人ジョウズが同月にAmazonに対し被告製品 の所有権放棄の依頼をしたことを示す書面を提出した上、同年11月5日付けの準 備書面をもって、保全の必要性がない旨を改めて主張したことが認められる。
前記1)〜7)の事情(なお、前記4)について、「20190724PATENT」の符号は、令和 元年7月24日付けのもので、特許に関連するものであることを強くうかがわせる ものである。)のほか、AmazonのFBAサービスに係る証拠(甲53の1〜4。余 剰在庫の管理等のために、Amazonフルフィルメントセンターに保管されている在庫 について、出品者、出品者の倉庫、仕入れ先又は販売業者に返送したり、その所有 権を放棄したりする旨を依頼するサービスがあることなどが記載されている。)や、 配送手数料等についてはその対象となる行為が行われた後に請求がされるのも合理 的であると解され、本件FBA配送代行手数料が平成31年(令和元年)4月ない し6月の在庫に係る会計上の処理と関連している可能性があることなども考慮する\nと、本件FBA配送代行手数料●●●●●●●●円については、別件仮処分決定の 発令に関連して、また、前記7)の仮処分命令申立事件に対する対応やその準備等の\nために、大量の被告製品について一律に、通常の販売とは異なる特別の取扱いがさ れたことから発生したものであることが強く推認され、この推認を覆すに足りる事 情は見当たらない。
したがって、Amazon seller centralに係る手数料等のうち、本件FBA配送代行 手数料●●●●●●●●円については、被告製品の販売に直接必要となった経費と して控除すべきものではなく、控除が認められる支払手数料額は●●●●●●●● ●円となる。
上記に反する被控訴人らの主張は、いずれも採用することができない。なお、被 控訴人らは、当審で追加された特許法102条3項の損害に係る控訴人の主張に対 し、前記3)の商品評価損については、令和元年の期末の商品評価損調整でゼロとす る仕訳を行ったなどと主張するところ、そのような事実を認めるに足りる証拠はな いものの、仮に、そのような事後的な調整の事実があったとすれば、そのことは、 本件FBA配送代行手数料の支出が被告製品の販売とは直接関係なくされたもので あるとの前記推認を裏付けるものであるとみることができる。

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◆令和2(ワ)4332

関連事件(1)です。 特許権、当事者同じ 特許権者勝訴 差止のみ請求

◆令和2(ワ)4332
関連事件(2)です。 当事者同じ、対象特許違い 特許権者勝訴 損害額約5200万円

◆令和1(ワ)20074
関連事件(2)の控訴審です 控訴棄却

◆令和3(ネ)10072

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令和3(ワ)28206  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年3月16日  東京地方裁判所

 原告「ホンダ」VS被告「マツダ」の特許権侵害訴訟です。裁判所は進歩性無しの無効理由があるとして、権利行使不能と判断しました(特104-3)

 当裁判所は、本件発明は、進歩性を欠くものとして無効であると判断するものであり(争点2−1−2)、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。以下、進歩性については、争点2−1−2(後記7)を先に判断することとし、構成要件充足性については、当事者双方の主張立証の経緯及び内容を踏まえ、次のとおり、念のため必要な限度で判断の理由を示すこととする。なお、原告は、予\備的に訂正の再抗弁を主張するものの、弁論の全趣旨によれば、現実に訂正請求をするものではなくその予定もないというのであるから、その要件を欠くものであり、後記7において説示するところによれば、上記進歩性に係る判断を左右しないことは明らかである。\n
・・・
上記認定事実によれば、乙9発明と乙10発明は、共に安全性の観点から、 原動機付車両における車両停止時にブレーキがかかった状態を保持すると いう技術思想が共通するものといえる。そして、乙9発明は、安全性の観点 から、エンジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不可分性を 必須の特徴とするものであるところ、乙9(11頁2〜18行)によれば、 「ステツプS24では、ブレーキペダル信号の有無によりブレーキペダルが 踏込まれているか否かが判断される。・・・運転者が車両を停止させる意思 があると判断するためである。」、「更にステツプS25では、エンジンを 自動停止させるための他の停止条件、例えばターンシグナルが出されていな いこと、ヘツドランプが点灯していないこと、エアコンデイシヨナが作動し ていないこと、水温が所定以上であること、等が、ターン信号、ライト信号、 エアコン信号、水温信号等により判断される。」、「これらのステツプS2 1〜S25がすべて肯定判断されれば、エンジン自動停止条件が満足された こととなる・・・」が記載されていることからすると、乙9発明は、エンジ ン自動停止始動装置を安全な状態で作動させる観点から、各種検出信号を用 いていることが認められる。
そうすると、エンジン自動停止始動装置を安全な状態で作動させるために、 各種検出信号の一つとして、乙9発明に対し、制動保持装置の異常を検出す る乙10を適用する動機付けを認めるのが相当である。 したがって、エンジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不 可分性を必須の特徴とする乙9発明の技術的思想に鑑みると、制動保持装置 の異常を検出した場合には、安全性を欠くことは自明であるから、安全性の 観点から各作動の一体不可分性を確保するために、エンジン自動停止始動装 置を安全な状態で作動させるための判断用各種検出信号の一つとして制動 保持装置異常検出信号を加えた場合において、制動保持装置の異常が検出さ れたときは、乙9発明にいうステップS21〜S25が肯定判断されず、エ ンジン自動停止条件が満足されなくなる。
そのため、上記場合には、制動保持装置異常検出信号が、エンジン自動停 止始動装置を作動させないことになり、もってその作動を禁止することにな る。したがって、乙9発明に乙10発明を適用してエンジン自動停止始動装置 の作動を禁止することが、当業者の適宜なし得る設計事項の範疇であること は、上記一体不可分性に照らし、明らかである。 以上によれば、制動保持装置の異常を検出した場合には、エンジン自動停 止始動装置の作動を禁止する構成(相違点1に係る構\成)を容易に想到でき るものと認めるのが相当である。
実質的にみても、本件発明は、原動機停止装置の実行を判断するための各 種検出信号の一つとしてブレーキ液圧保持装置の故障検出信号を備えるも のであり、乙9発明に乙10発明を適用した構成との間に、技術思想におい\nて異なるところはない。

◆判決本文

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令和2(ワ)27972  特許権侵害損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月22日  東京地方裁判所

 特許権侵害訴訟において、本件発明は、「拡散レンズにおいてそのような各レンズ部を有する発明について、前記1(2)のような効果を奏するという技術的意義を有する」とし、被告製品は、かかるレンズ部を把握できないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。

本件各発明の「複数のレンズ部」、「各レンズ部」(構成要件1D、1E\n等)について
本件各発明の特許請求の範囲には、「前記拡散レンズを複数のレンズ部か ら形成し、各レンズ部を、各LEDの並設方向への曲率半径が各LEDの並 設方向と直交する方向への曲率半径よりも小さい曲面状に形成するとともに、 光の経路と交差する所定の面上に並ぶように配置し、前記各レンズ部を、互 いに近傍に配置されたレンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が異 なるように形成したことを特徴とする」(構成要件1D〜F)と記載されて\nいる。
これらによれば、本件各発明の照明装置の拡散レンズは、複数のレンズ部 から形成されていて、各レンズ部の各LEDの並設方向への曲率半径と、各 LEDの並設方向と直行する方向への曲率半径を比較することができるので あり、また、各レンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が異なると いうというのであるから、本件発明のレンズ部は、拡散レンズにおいて、そ こに形成されているという複数のレンズ部のそれぞれのレンズ部について、 その位置、形状が特定された上で、それぞれのレンズ部(各レンズ部)につ いてのLEDの並設方向への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向 への曲率半径を把握することができるものであると理解するのが自然なもの である。
・・・
これら本件明細書の記載をみても、本件各発明の実施形態として記載され ているものは、本件発明の拡散レンズにあるという複数のレンズ部(各レン ズ部)のそれぞれのレンズ部について、その位置、形状を特定した上で、そ れらのレンズ部についてのLEDの並設方向への曲率半径及びLEDの並設 方向と直交する方向への曲率半径を把握することができるものであるといえ る。それぞれのレンズ部については、一方向に異なる曲率を有する複合曲面 を有するものも含まれるものの、その場合でも、そのレンズ部が特定された 上で、そのレンズ部に求められる機能を考慮し、そのレンズ部についてある\n方向において曲率半径(RY)を有するものとしている。そして、本件明細 書において、それぞれのレンズ部の位置、形状等が特定されないことを前提 とする記載はない。
このような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、本件各発明の 拡散レンズは、それぞれについてその位置、形状が特定される複数のレンズ 部を有するものであり、そのそれぞれのレンズ部についてのLEDの並設方 向への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向への曲率半径を把握す ることができるものであるといえる。そして、特許請求の範囲及び本件明細 書の記載からも、本件各発明は、拡散レンズにおいてそのような各レンズ部 を有する発明について、前記1(2)のような効果を奏するという技術的意義を 有するものと認められる。
(2) 各被告製品において使用されているLSD(もっとも、各被告製品に実際 に使用されている各LSDの種類や具体的構成は明らかではない(前記2(2)、 (4))。)について検討する。各被告製品におけるLSDは、拡散レンズの機能を有するフィルム表\面の 構造体である数十\μm程度の微細な凹凸が、シームレスかつランダムに、す なわち継ぎ目なく不規則に配置されたものであり、かつ、凹凸の部分の個々 の大きさや形状を規定して作成されているものではなく、統計的に評価して フィルム全体として入射光を所定の角度で拡散する性能を有するように設計\nされているものである(同(1)〜(3))。
すなわち、各被告製品におけるLSDは、フィルムの表面に微細な凹凸の\n構造体を有し、それらが凸レンズと凹レンズがシームレスかつランダムに配\n置されたマイクロレンズアレイとして機能し、それぞれの微細な凹凸の構\造 体によって光がランダムに広げられるが、それらが重なり合うことによって、 統計的に評価して、フィルム表面全体が所定の性能\を有する拡散レンズとし ての機能を有するものである。そして、各被告製品におけるLSDがこのよ\nうなものであるところ、そこにおいて、前記(1)のとおりの本件各発明におけ るそれぞれの「レンズ部」を把握することは困難なものといえる。そして、 原告は、各被告製品について、その断面図の例を示すところ、その各例にお いても、別紙原告の示す例のとおり、LSDの表面は境目なく不規則に様々\nな形状の凹凸が連続しており、本件各発明におけるそれぞれの「レンズ部」 を把握することができない。 原告は、原告の示す各例において、LSDの表面の部分的に突出した複数\nの部分等はそれぞれレンズとして作用するから、それぞれが1つの「レンズ 部」であり、「複数のレンズ部」を備えることを主張する。しかし、前記(1) のとおり、本件各発明の「レンズ部」は、それぞれのレンズ部の位置、形状 が特定されるものであって、本件各発明は拡散レンズにそのような「レンズ 部」を有するものにより前記1(2)のような効果を奏するといえるものである ところ、原告の示す各例においても、上記のようなそれぞれのレンズ部(各 レンズ部)について、その位置、形状を具体的に特定するものではない(前 記第2の2(1)(原告の主張)イ、別紙原告の主張する凸部の例)。
以上によれば、各被告製品に使用されているLSDの形状によれば、各被 告製品において、本件各発明の「複数のレンズ部」、「各レンズ部」(構成\n要件1D、1E等)にいうそれぞれの「レンズ部」の範囲を特定することが できないものであって、各被告製品は本件各発明にいう「各レンズ部」を有 するということはできず、それぞれのレンズ部についてのLEDの並設方向 への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向への曲率半径を把握する ことができず、各被告製品は、本件各発明の曲率半径についての構成(構\成 要件1E、1F)を充足するともいえない。

◆判決本文

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平成30(ワ)10590 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月20日  大阪地方裁判所

 102条1項の覆滅として15%と判断されました。覆滅分については6%の実施料と判断されました。興味深いのは、特許権は共有でしたが、原告が100%持ち分で、102条1項の適用がされている点です。なお、本件特許については、無効審判も3件あります。無効審判では証人喚問もされています。

◆本件特許


(7) 原告が販売することができないとする事情
ア 競合品の存在
被告が競合品であると主張する製品のうち、アツギが販売する「大人のス ポパン」(乙60の2の1)、イーゲートが販売するショーツ(乙60の4の 1)、ワコールが販売する「すそピタショーツ」(乙61の1)、千趣会が販売 するショーツ(乙61の2、61の3)及びグンゼが発売する「超立体ぴっ たりフィットショーツ」(乙61の5)は、脚口(裾口)ないし臀部部分が立\n体的な構造であり、脚口(裾口)部分のずりあがりが防止されることなど本\n件各特徴に相当する作用効果を有することを特徴とする商品であるといえ、 価格帯も、ワコールが販売する製品を除き、概ね同一であり、競合品である と認められる。ワコールが販売する製品は、3000円前後と原告製品より も高額であるものの、同社が女性用下着メーカーとして有名でありその商品 に高いブランド力があると認められること等を踏まえると、なお競合品に含 まれるといえる。 したがって、原告製品と被告製品とが販売される市場において、原告製品 と競合する製品が複数存在することが認められ、かかる競合品の存在は、原 告が販売することができない事情に該当するといえる。 もっとも、原告製品のうち、220番製品及び420番製品は、楽天市場 内の「ボックスショーツ」で区分される製品のランキングにおいて、平成2 5年5月15日から令和元年7月7日までの長期間にわたり連続1位を獲 得している(甲50、73)等、原告のブランドは需要者に相応に知られて おり、かつ需要があると認められることを踏まえると、競合品の存在を理由 とする覆滅の程度が大きいとまではいえない。
イ 被告製品固有の特徴
証拠(甲3〜8、23、24、)によれば、被告製品は、本件各特徴に加え て被告各特徴(1)ウエスト・脚口にはゴムを使用せず、2)綿の中でも、繊維 長が長く、吸湿性が高く、やわらかい風合い等の特徴を持つスーピマコット ンを使用し、3)各パーツの縫い目の縫い糸が肌側に当たらない仕様であり、 4)品質表示を記載するタグをタグから製品本体に転写してプリントする方\n法に変更していること)を備えており、かつ当該被告特徴について、本件各 特徴に次いで、需要者に訴求されていることが認められる。 また、証拠(甲48〜50)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品は、1) 少なくともウエスト部分にゴムを使用し、2)スーピマコットンは使用されて おらず、3)パーツの縫い目の縫い糸が肌側に当たる仕様であり、4)品質表示\nを記載するタグが付けられていることが認められる。 原告商品及び被告商品は、余多ある女性用ショーツの中で、装飾的な意味 でのデザイン性よりも、履き心地、肌触り等の機能面、実質面を重視した商\n品を購入しようとする需要者を販売対象とした商品であると認められ、その ような需要者にとって、被告各特徴は、購入動機の形成にそれなりに寄与す るものであるといえる(乙67)。よって、被告製品が原告製品とは異なる被告各特徴を備えることは、原告 が販売することができない事情に該当すると言い得る。
ただし、被告各特徴に基づく顧客誘引力は、商品の形状・機能に直接かか\nわる本件各特徴と比較すると限定的であると考えられること、被告特徴2)に ついて、素材それ自体で見れば、被告製品と原告製品のうち220番製品及 び420番製品は綿95%、ポリウレタン5%と同一であり、その余の原告 製品も綿92%、ポリウレタン8%と大差がないこと、被告特徴4)について、 本件対象期間中に販売された被告製品の一部はタグ付きである可能性があ\nること(甲40)等をふまえると、その覆滅の程度は限定的に解すべきであ る。
ウ ハイウエストタイプの存在
被告製品には、原告製品にない、ウエスト丈がハイウエストのもの(被告 製品3−1及び3−2。ハイウエストタイプ)が存在し、当該ハイウエスト タイプの存在が、原告が販売することができないとする事情に該当すること は争いがない。被告製品のうちハイウエストタイプは、被告製品の販売数量合計●(省略) ●のうち、●(省略)●であり、約26.8%である(計算鑑定の結果)。 被告製品においてハイウエストタイプを好む需要者が一定程度存在する と認められることを踏まえると、被告製品にのみハイウエストタイプが存在 するという事情は、特許法102条1項1号に基づく推定を一定程度覆滅す るものと認められる。
エ 販売価格
証拠(甲3〜8、48〜50、75)によれば、原告のウェブサイトで販 売される107番製品(ローライズ丈)及び407番製品(普通丈)の販売 価格は2500円(税込)、楽天市場で販売される220番製品(セミ丈)及 び420番製品(普通丈)の販売価格は1500円〜1520円(税込)で あるのに対し、被告製品の一般向けの販売価格はレギュラー丈(被告製品1 −1及び1−2)が1080円(税抜)、ショート丈(被告製品2−1及び2 −2)が平均980円(税抜)、ハイウエストタイプ(被告製品3−1及び3 −2)が平均1280円(税抜)であると認められる。なお、原告製品のロ ーライズ丈及びセミ丈と被告製品のショート丈、原告製品の普通丈と被告製 品のレギュラー丈が、それぞれ対応関係にある。 同種かつ同程度の機能等の製品相互間で価格が顧客誘引力に影響を与え\nること、これが女性用下着一般及びその中でも原告商品及び被告商品の想定 需要者層に妥当することは明らかである(乙67)。原告商品の販売数量を 見ても、価格以外の要素があり得るといえるものの、高額(2500円)の 407番製品及び107番製品の販売数量が●(省略)●枚、●(省略)● 枚であるのに対し、低価格(約1500円)の220番製品及び420番製 品が●(省略)●枚、●(省略)●枚と非常に高い比率を占める(計算鑑定 の結果)。
もっとも、販売量の多い220番製品及び420番製品と、被告製品(ハ イウエストタイプを除く)の価格差は、420円〜540円であり、両製品 の価格帯自体が1000円〜1500円程度の範囲であること等を踏まえ ても、その差が大きいとはいえず、顧客誘引力に大きな影響を及ぼすとまで はいえない。したがって、被告製品が原告製品よりも低価格であることは、原告が販売 することができないとする事情に該当するといえるものの、当該事情を理由 として推定された損害が覆滅される程度は高いとは言えない。
オ 被告の営業努力
特許権者等が販売することができない事情として認められる侵害者の営 業努力とは、通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力を行い、製品の購買 動機の形成に寄与したと認められるものをいうところ、被告指摘の事情を勘 案しても、このような事情には該当しない。 カ 本件発明の技術的意義が被告製品の利益に貢献する程度 被告は、構成要件Dの「腸骨棘点付近」について、上前腸骨棘を中心とし\nつつ下前腸骨棘付近を含むものと解釈した場合、仮に被告製品が構成要件D\nを充足するとしても、本件発明の作用効果を奏さないため、被告製品に対す る本件発明の寄与度が零であると主張する。 しかし、「腸骨棘点付近」に下前腸骨棘付近を含む場合でも本件発明の作 用効果を奏するものであることは前記2(1)のとおりであるから、被告の主 張は採用できない。
キ 実際の着用状態からみた本件発明の貢献度
被告は、一定以上の割合の被告製品については、需要者が着用した場合に 身体的個体差等の影響により着用状態において本件発明の技術的範囲に属 しない場合があり得、当該事情をもって原告が販売することができないとす る事情に該当と主張する。 しかし、被告製品は、その設計時に想定された着用状態において、本件発 明の技術的範囲に属するものであり、実際の個別具体的な着用状況において、 被告製品の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置しない場合 があることをもって販売することができない事情が存すると解することは 相当でない。
ク 推定覆滅の割合(まとめ)
以上によれば、本件においては、競合品の存在、被告製品が被告各特徴を 有すること、ハイウエストタイプが存在すること及び原告製品よりも低価格 であることについて原告が販売することができない事情に該当すると認め られ、前記イで認定した事情を踏まえると、当該事情に相当する数量は、全 体の15パーセントであると認めるのが相当である。
・・・
証拠(甲11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の実施に対し 受けるべき実施料率は6パーセントと認めるのが相当である。 なお、被告は、原告がそのウェブサイトにおいて本件特許権侵害に基づく 訴訟を被告に提起し、徹底的に争う旨の意思表明をしていることから、ライ\nセンスの機会を自ら放棄したとして、特許法102条1項2号が規定する 「特許権者…が、当該特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しく は通常実施権の許諾…をし得たと認められない場合を除く」に該当し、同号 に基づく実施料相当額の損害は認められない旨主張する。 しかし、被告が主張する事情は、原告の被告に対するライセンスの機会の 喪失を否定する事情に該当するとはいえず、同号の括弧書に該当する場合で あるとは認められない。

◆判決本文

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令和4(ワ)15136  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年2月28日  東京地方裁判所

 発信者情報開示事件です。原告がインスタグラムに限定公開した動画が、投稿者により公開されてしまい、発信者情報の開示を求めました。原告の動画は、「原告の夫である歯医者」が麻酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってるというものでした。被告であるGoogleは、医療現場の実態を報道するもので、著41条に該当すると反論しましたが、認められませんでした。

 被告は、本件投稿画像につき、医療関係者の男性が患者の麻酔中に当該患者 の下を離れて外出している様子を収めたものであり、その様子を投稿すること は、医療現場の実態や、医療事故につながりかねない様子を捉えたものとして ニュース性があるから、「時事の事件」を構成するものである旨主張する。\nしかしながら、前記前提事実、証拠(甲6及び10)及び弁論の全趣旨によ れば、本件投稿画像は、ある男性が住宅地の道路上を走っている画像に、「麻 酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑」というテロ ップが付されるにとどまり、いつの出来事であるかどうか一切明らかではなく、 しかも、本件投稿画像は、Googleマップという地図アプリにおいて、本 件歯科医院の上にカーソルを動かし、クリックした場合に表\示されるものにす ぎないものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿画像で表示された出来事は、これが生じた\n時期すら明らかではなく、地図アプリにおいて本件歯科医院の上にカーソルを\n動かし、クリックした場合に限り表示されるにすぎないことが認められる。\nそうすると、本件投稿画像の出来事は、著作権法41条にいう「時事の事件」 とはいえず、その投稿も、上記認定に係る表示態様に照らし、同条にいう「報\n道」というに足りないものと認めるが相当である。
これに対し、被告は、本件投稿画像で表示された出来事が医療現場の実態や、\n医療事故につながりかねない様子をとらえたものである旨主張するものの、一 般の利用者の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、「麻酔待ちの間 にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑」というテロップの内容 及び上記認定に係る本件投稿画像の内容を踏まえると、本件投稿画像は、医療 現場の実態や、医療事故につながりかねない様子であると理解されるものと認 めることはできず、上記各内容に照らしても、被告が主張するようなニュース 性を認めることもできない。したがって、被告の主張は、その前提を欠くもの であり、いずれも採用することができない。

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令和2(ワ)31524  販売差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年3月24日  東京地方裁判所

ブーツ「Dr.Martens」について、商標権侵害と不競法の周知商品等表示に該当するとして、差止が認められました。商標は「AirWair WITH Bouncing SOLES」(ロゴ化)「WITH BOUNCING SOLES」(標準文字)です。商標はブーツの足入れ口にタグのようにつけられてました。

2 争点1−1(原告商標1と被告標章が同一又は類似であるか)について
(1) 原告商標1について
原告商標1の外観は、別紙商標権目録1の登録商標欄記載のとおりであり、 黒地に、左半分部分に手書き風の字体で「AirWair」と、右半分部分の上部に 約4文字分の間隔を空けてゴシック体で「WITH」及び「SOLES」と、右半分部 分の下部に下向きの弧を描くように丸みを帯びた字体で「Bouncing」と、い ずれもオレンジ色がかった黄色の英文字が配されて構成されるものである。\n原告商標1の上記記載から、「エアウェアウィズバウンシングソールズ」と\nの称呼が生じると認められる。 また、「AirWair」は原告の社名であるものの造語と解されるから、原告の 社名を知っている者においては当該部分から原告の社名である「AirWair」と の観念が生じるものの、原告の社名を知らない者においては当該部分から特 定の観念が生じない。そして、「Bouncing」及び「SOLES」は、それぞれ英語 で「弾む」及び「靴底(ソール)」との意味を有することからすると、原告商\n標1の上記記載から、「弾む履き心地のソールを持つ AirWair」又は「弾む履 き心地のソールを持つ」との観念が生じると認められる。\n
(2) 被告標章について
被告標章は、別紙被告標章目録記載のとおり、黒地に、左半分部分に手書 き風の字体で「AirWair」と、右半分部分の上部に約1ないし2文字分の間隔 を空けてゴシック体風の字体で「WITH」及び「SOLES」と、右半分部分の下部 に概ね水平に「Bouncing」と、いずれも黄色の英文字が配されて構成される\nものである。もっとも、被告標章は、被告商品1のヒールループに付されて いるものであるところ、当該ヒールループが履き口の踵部分に深く縫い付け られているため、需要者が通常の使用状況において視認できるのは、 「AirWair」の「Ai」を除いた部分に限られる(甲44・1、5頁)。したが って、原告商標1との類否を判断するに当たっては、被告標章のうち「Ai」 を除いた部分(以下「被告標章対比部分」という。)を対象として対比するの が相当である。被告標章対比部分の記載から「アールウェアウィズバウンシングソールズ」との称呼が生じると認められる。\n
また、「rWair」のうち、「Wair」は「用いる」や「費やす」との意味を有す る英単語であるが、我が国の一般人にとってなじみのある語ではない上、冒 頭に「r」が付されているため、「rWair」が何かしらの意味を有する語である と理解できないと解されるから、当該部分から特定の観念が生じない。そし て、前記(1)のとおり、「Bouncing」及び「SOLES」は、それぞれ英語で「弾む」 及び「靴底(ソール)」との意味を有することからすると、被告標章対比部分\nの記載から、「弾む履き心地のソールを持つ」との観念が生じると認められる。\n
(3) 原告商標1と被告標章対比部分との対比
原告商標1と被告標章対比部分の外観を比較すると、文字の色味に違いが あるほか、「Ai」の有無、「WITH」と「SOLES」との間隔の幅、「Bouncing」の 字体と配置に差異があるものの、いずれも黒地に黄色味の文字で「rWair」、 「WITH Bouncing SOLES」と記載されている点において共通しており、両者 の外観は類似していると認められる。
また、原告商標1と被告標章対比部分の称呼を比較すると、両者は、「ウェ アウィズバウンシングソールズ」の点において共通しているものの、原告商\n標1の冒頭が「エア」であるのに対し、被告標章対比部分の冒頭が「アール」 である点に差異がある。もっとも、原告商標1及び被告標章対比部分の文字 部分はいずれも英語で表記されており、「エア」も「アール」も英語風に発音\nするものと理解できるから、「エア」と「アール」の称呼上の違いは実質的に 「エ」の有無にとどまり、両者の差異はほとんどないといえる。したがって、 原告商標1と被告標章対比部分の称呼は類似していると認められる。 さらに、原告商標1と被告標章対比部分の観念を比較すると、前者は「弾 む履き心地のソールを持つ AirWair」との観念も生じるものの、両者とも「弾 む履き心地のソールを持つ」との観念が生じる点で共通している。したがっ\nて、原告商標1と被告標章対比部分の観念は類似していると認められる。
(4) 小括
以上のとおり、原告商標1と被告標章対比部分は、外観、称呼及び観念に おいて類似するものと認められ、原告商標1と被告標章対比部分を含む被告 標章とが同一又は類似の商品に使用された場合には、商品の出所について混 同を生じるおそれがあるといえるから、両者は類似しているものと認められ る。また、前提事実(5)のとおり、被告商品1は、ブーツであることから、原告 商標権1の指定商品に含まれる第25類「履物」と同一であると認められる。したがって、被告標章が付された被告商品1を販売等した被告の行為は、原告商標権1を侵害するというべきである。
3 争点2−1(原告商品の形態が原告の周知な商品等表示であるか)について\n
(1) 商品の形態と商品等表示該当性\n
・・・
以上によれば、靴の外周に沿って、アッパーとウェルトを縫合してい る糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出し、\nかつ、ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウ ェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認 できるという原告商品の形態(ア)は、少なくとも被告が被告商品2を販売 した令和2年の時点において、原告の商品等表示として周知となってい\nたと認められる。

◆判決本文

原告被告商品、本件商標は下記へ。

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令和4(ワ)16934  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年3月28日  東京地方裁判所

 実案を基礎としてした特許出願について登録となりました。権利者が権利行使しましたが、無効主張がなされ、進歩性無しと判断されました(特104-3)。 本件特許はこれです。

◆本件特許

「本発明」は、前記アの課題を解決するため、授乳者のプライバシーが 保護された状態で授乳を行うことができる授乳用空間が形成された授乳 エリアを簡易に設置できるようにすると共に、授乳用空間のレイアウト の変更を容易にできるようにすることを目的とするものであり、「本発明」 の授乳用ユニットは、内部に空間が形成された箱状の筐体と、筐体に形 成された開口状の出入口と、出入口に設けられ、閉状態のときに出入口 を塞ぎ、筐体の内部の空間を遮蔽するドアと、筐体の内部の空間に設け られ、授乳者が着座可能な1つの一人着座用の椅子と、筐体を移動させるキャスターと、を備えることにより、ドアを閉状態とすれば、筐体の内部の空間が遮蔽され、外部から筐体の内部が視認できない状態となる\nため、授乳者は、筐体の内部で、他人に見られることなく、プライバシ ーが保護された状態で授乳を行うことができ、授乳エリアとなる空間に 授乳用ユニットを持ち込み、キャスターを利用して授乳用ユニットを適 切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成され た授乳エリアを設置することができることから、授乳エリアの設置に際 し、綿密な設計の下、各設備を適切な位置に固定的に設ける必要がなく、 授乳エリアの設置が簡易化し、キャスターを利用して授乳用ユニットを 移動させるだけで、授乳エリアにおける授乳空間のレイアウトの変更を 行うことができるため、授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ とができるとの効果を奏する(【0007】ないし【0009】)。
・・・
a 原告は、乙6発明の技術分野は、「プライバシーに配慮した筐体内 部に保育空間を形成する技術」に関するものであり、前記(ア)の公報 及び文献に記載の発明の技術分野とは異なっているから、筐体の移動 を容易ならしめるため、筐体にキャスターをつけることは、乙6発明 の技術分野における周知技術であるとは認められないと主張する。 しかし、前記(ア)において認定したとおり、少なくとも利用者と機 器等を収納する筐体に係る技術分野においては、当該筐体の具体的な 用途にかかわらず、広く当該筐体の移動を容易ならしめる手段として のキャスターが利用されている。そのような利用状況からすると、移 動対象が授乳室という「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間 を形成する」用途の筐体であるからといって、当業者において、当該 技術分野における周知慣用技術である筐体にキャスターを設けるとい う構成を乙6発明に係る授乳室に適用することが困難であるとはいえない。
b 原告は、1)乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付けると、 設置面と授乳室の床面との間に段差が生じ、授乳室の安全な利用を図 るという目的に反する、2)乙6発明に係る授乳室においては、授乳用 チェア等の室内装備が固定・固着されていないから、乙6発明に係る 授乳室にキャスターを取り付けて移動可能にすると、授乳等を安全に行うことができなくなる、3)乙6発明に係る授乳室の安全性を保ちつ つ、キャスターを取り付けることには技術的ハードルがあるとして、 乙6発明に係る授乳室に、キャスターを適用することを妨げる特段の 事情があると主張する。
しかし、1)については、乙6文献の記載から、乙6発明に係る授乳 室は、ロビーの床面と授乳室の床面との間の段差があり、これによる 弊害を解消するため、乙6発明に係る授乳室の出入口付近の床面から、 ロビーの床面に延びるスロープを備えているものと認められ、段差に よる弊害は、同スロープの設置により解消することができるといえる。 また、技術常識に照らし、取り付けるキャスターのサイズや取付方法 を工夫することにより、上記のような段差が生じることを抑制するこ とが困難であるとは考え難い。したがって、段差が生じることが乙6 発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因になるとは認め られない。
次に、2)については、授乳者を授乳室に収容したまま授乳室を移動 させない限り、乙6発明に係る授乳室内の設備が固定されていない ことによる授乳者の安全性への影響が生じるとは考え難く、実際に そのような影響が生じると認めるに足りる証拠もない。むしろ、授 乳者を乙6発明に係る授乳室に収容したまま授乳室を移動させるこ とは通常の使用方法ではないというべきである。したがって、室内 装備が固定・固着されていないことが乙6発明に係る授乳室にキャ スターを取り付ける阻害要因になるとは認められない。 さらに、3)については、筐体にキャスターを取り付けることによ って、不意に筐体が動き出すとの事象が生じ得ることは、容易に想定 できるところ、これによる弊害は、キャスターにストッパーを取り付 けることにより回避することができる。そして、筐体にキャスターを 取り付け、同キャスターにストッパーを取り付ける構成は、前記(ア) e及び同fのとおり、乙16公報及び17公報において開示されてお り、周知技術であると認められるから、当業者であれば、筐体にスト ッパー付きのキャスターを取り付けるという周知技術を適用し、容易 に克服できる弊害であるといえる。したがって、安全性を保つ必要が あることが乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因 になるとは認められない。

◆判決本文

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令和4(ワ)3847  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年3月23日  大阪地方裁判所

本件特許には無効原因があるにもかかわらず、被告が税関に輸入禁止の申立てを行った行為が不法行為に該当するとして、不法行為に基づく損害賠償が請求されました。大阪地裁は「理由無し」と判断しました。税関で、特許権に基づく輸入禁止認定がなされる例があるんですね。該当特許は、形状がユニークなトレーニング機器です。無効審判も理由無しと判断されています。

◆該当特許

原告は、甲7公報の記載からバー10を抽出し、別紙「主張一覧表」の「無効理由1」の「原告の主張」欄記載の構\成a〜gを有するとして、これを引用発明(甲7発明)とし、本件各発明は甲7発明の構成を全て備える、本件各発明の構\成要件Fが甲7発明の構成fと相違するとしても、バー10を用いてトレーニングすることは可能\であるから相違点は軽微である旨主張する。しかし、甲7公報の記載から、バー10のみを分離して独立の運動器具としての発明と理解することは相当でない。すなわち、前記(2)イ認定のとおり、甲7 公報には、従来のバーベル機材およびダンベル機材において、比較的長いバーを 有する装置はバランスをとることが困難であり、重りを使用しない装置は本格的 なボディビルダーに対しては限定的な有効性しか有さないとの欠点や、三頭筋を 働かせるのに使用されるほとんどの器具が手のひらを上に向けることを必要とす るが、このようなタイプのハンド・ポジションは、特に重い重りを持ち上げなが ら肘を内側で維持することを困難にするとの欠点があったこと、甲7公報記載の 発明は、三頭筋をエクササイズするためのウエイトリフティング装置を提供する ことにより従来技術の短所を解消するものであり、バランスをとることの問題を 有意に低減する中央に位置する重りプレート固定手段を有し、複数のハンド・ポ ジションおよび間隔を可能にする三頭筋伸展装置を開示すること、装置は、バー・ハンドル組立体および支持クランプ組立体である2つの主要構\成要素を有すること、重り支持プラットフォーム26および解除可能なクランプ手段28が支持クランプ組立体を形成し、バー10が、中央に位置する重り支持プラットフォーム26に固定されること、プラットフォーム26をバー10に取り付けることが、\n好適には、故障を引き起こす可能性を排除するために、溶接によって達成されること、重り又は重りプレート40をプラットフォーム26上で位置決めするのに直立ポスト38が使用され、クランプ部材28がポスト38の周りで固定的に留\nめられ、それにより重りをプラットフォーム26上に固着することが記載される。 これらの記載からすると、甲7公報記載の発明において、重り支持プラットフォー ム26を含む支持クランプ組立体はバー10とともに装置の主要構成要素であり、バー10は溶接等の方法によりプラットフォーム26に固定され、バー10は重り支持プラットフォーム26等と物理的に一体であることが前提となっていると\nいえる。また、甲7公報記載の発明は、従来のバーベル機材等における、比較的 長いバーを有する装置はバランスをとることが困難であり、重りを使用しない装 置は本格的なボディビルダーに対しては限定的な有効性しか有さないとの欠点を 解消するため、バランスをとることの問題を有意に低減する中央に位置する重り プレート固定手段を有し、複数のハンド・ポジションおよび間隔を可能にする三頭筋伸展装置を提供するものであり、バー10は支持クランプ組立体と一体となって作用効果を奏するといえる。そして、バー10のみが独立してウエイトリフティ\nング・エクササイズにおける運動器具としての作用効果を発揮することは、甲7 公報には記載も示唆もされていない。
以上によれば、三頭筋運動器具の発明に関する甲7公報の記載から、その部材 の一つにすぎないバー10のみを抽出して独立の運動器具としての引用発明(甲 7発明)と理解することはできず、本件各発明の構成要件Fと甲7発明の構\成f は明らかに相違する。
・・・
原告は、甲7公報の記載からバー10を抽出した甲7発明を主引用発明と して、公知技術(甲8、9)を適用することにより、本件各発明は、当業者が容 易に発明することができる旨主張する。 しかし、前記(3)アのとおり、甲7公報の記載から、部材の一つにすぎないバー 10のみを分離して独立の運動器具の発明と理解することは相当でなく、トレー ニング器具の発明である本件各発明とは技術的内容・性質の異なる甲7発明を主 引用発明として、本件各発明が進歩性を欠如する旨の原告の主張は認められない。
イ 前記(3)ウのとおり、被告は、本件各発明と甲7発明(被告)を対比する と、少なくとも、相違点1)及び2)が相違する旨主張するところ、原告は、被告主 張の相違点を前提としても、相違点に係る本件各発明の構成は、公知技術(甲8、9)から容易想到である旨主張するので、以下、検討する。
ウ 容易想到性の検討
(ア) 相違点1)(本件各発明は、重り支持部分を備えないのに対し、甲7発明 (被告)は、重り支持部分を備える点)について
前記(3)アのとおり、甲7公報記載の発明は、ウエイトリフティング装置とし て、バー10に重り支持部分(重り支持プラットフォーム26、クランプ部材2 8、直立ポスト38)を固定し、重り又は重りプレート40を重り支持プラット フォーム26に固着して使用することを前提とした発明である。すなわち、バー 10は、重り支持プラットフォーム26等により形成される支持クランプ組立体 と物理的に一体となって作用効果を奏するものであるし、バー10が独立して運 動器具としての作用効果を発揮することは、甲7公報に記載も示唆もされていな いから、甲7公報に接した当業者に、甲7公報記載の発明から重り支持部分を取 り外す動機付けがあるとは考え難い。したがって、相違点1)に係る本件各発明の 構成は甲7発明(被告)から容易想到であるとはいえない。
これに対し、原告は、甲7公報の明細書に溶接前の単独のバー10が記載され ていること、甲7発明(被告)は重りのついた状態でも本件各発明と同様の作用 効果を奏すること、バー10の状態でも一定の三頭筋エクササイズの効果は得ら れるところ、よりエクササイズの幅を広げる目的で甲7発明(被告)から重り支 持部分を取り外す動機付けはあることを根拠として、甲7発明(被告)から重り 支持部分を取り外すことは容易想到である旨主張する。しかし、前示のとおり、 甲7公報には、バー10が単独で運動器具としての作用効果を奏することは何ら 開示されていない。仮に甲7発明(被告)が本件各発明と同様の作用効果を奏す るとして、甲7発明(被告)は、ウエイトリフティング装置として、バー10に 固定された重り支持部分を構成する重り支持プラットフォーム26に重り又は重りプレート40を固着して使用することを前提とした発明であるから、よりエクササイズの幅を広げる目的で重りを取り外して使用する可能\性はあるとしても、重り支持部分全体を取り外す動機付けがあるとはいえない。したがって、原告の主張は採用できない。
・・・
以上より、原告が主張する無効理由1〜3はいずれも認められず、本件各発明 について無効原因があるとはいえない。したがって、被告が本件特許権に基づい て行った本件申立てが違法なものであるとは認められず、本件申\立てについて、 不法行為は成立しない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10098  不正競争防止法による差止請求、損害賠償請求と書類提出命令請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和5年3月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 シーリングライトの形状について、周知商品等表示または商品形態模倣に該当するかが争われました。東京地裁(29部)は、いずれも否定しました。知財高裁も同様です。

商品の形態は、本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等の見地\nから選択されるものであり、商品の出所を表示するものではないが、特定の\n商品の形態が、他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、その 形態が長期間継続的、独占的に使用され、又は短期間でも効果的な宣伝広告 等がされた結果、特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機 能を獲得するとともに、需要者の間に広く認識されるに至ることがあり得る\nところであって、こうした商品の形態は、不競法2条1項1号によって保護 される他人の周知な商品等表示に該当するものと解される。\n
前記認定事実によれば、控訴人が日本国内で販売してきた原告各製品は、 平成22年以降発売されているところ、原告各製品を構成するもののうち、\n本体部分(発光部分、台座等)は、世代製品ごとに構成が異なるものである\nが、シェード部分の形状は、各世代製品間で共通しており、控訴人が開設し たオンラインショップのウェブページ上でも、原告各製品の構成のうち、シ\nェード部分の形状が他社製品と違う点を強調している(前記1 イ)ように、 その外観であるシェード部分に特徴的な商品の形態があるといえる。
他方で、原告各製品の第1世代製品を開始した平成22年から遅くとも被 控訴人が被告各製品を日本国内で発売を開始した平成30年10月までの間 における原告各製品の販売数量は明らかではなく、また、原告各製品の特徴 的部分であるシェード部分のうち、少なくとも、原告製品2は、レ・クリン ト社が製造及び発売するモデル30と類似のプリーツ状のシェードであって、 独占的にその形状が使用されてきたものとはいい難い。
これらの点を措くにしても、周知な商品等表示というためには、前記 の とおり、原告各製品が原告の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲\n得するとともに、需要者の間に広く認識されるに至ることが必要であるとこ ろ、これらの点を認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。控訴人は、長 期間にわたり原告各製品に係る広告宣伝を行った旨主張し、Faceboo kで行ったとする広告に関する資料(甲46)を提出するが、そのとおりで あるとしても、そもそも宣伝をすれば足りるというものではなく、宣伝等の 結果、遅くとも被告各製品が発売された平成30年10月の時点で、需要者 において原告各製品のシェードの形状が控訴人の商品であることを認識する に至ったことを証明する必要があるのであるから、控訴人の主張、立証は当 を得ないものというほかない。したがって、その他の点について判断するま でもなく、原告各製品の商品の形態が不競法2条1項1号に規定する「商品 等表示」に該当するとは認められない。\n
以上によれば、原告各製品の形態が不競法2条1項1号の周知な商品等表\n示に該当するものとして、被控訴人による被告各製品の販売が同号の不正競 争行為に当たることを前提とした控訴人の請求は、いずれも理由がない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和3(ワ)3418

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令和4(行ケ)10092  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月27日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、ゲームプログラムについて、新規事項である&進歩性なしとした判断は誤りであるとして、拒絶審決を取り消しました。

当初明細書等及び第2次補正後の明細書等に記載の発明の技術的意義は、前 記2(1)イ及び(2)記載のとおり、ユーザの強さの段階を基準として所定範囲内の 強さの段階にある対戦相手を抽出することにより、従来のように対戦相手をラ ンダムに抽出する場合に比べて、対戦相手間の強さに大差が出て勝敗がすぐに ついてしまう戦いの数を低減することができ、また、対戦相手の強さに一定の ばらつきを含ませて対戦ゲームの難度を変化させ、ユーザのゲームに対する興 味を増大させることにある。 そして、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユーザ」の「強さ」に、 攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが 本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間に争いがない(本件審決第 2の2(2)イ(ウ)〔本件審決12頁〕参照)。
上記のような、対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユー ザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細 書等記載の「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当で\nあり、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」とすることは、発明の一実施形態 としてあり得るとしても、技術常識上「強さ」に含まれる要素の中から、あえ て体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力と防御力の合 計値」に限定しなければならない理由は見出すことができない。言い換えれば、 「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的 意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付 加的な事項にすぎないと認められる。 そうすると、当初明細書等には、「強さ」の実施形態として、文言上は「攻撃 力及び防御力の合計値」としか記載されていないとしても、発明の意義及び技 術常識に鑑みると、第2次補正により、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」 に限定せずに、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータ」と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたも\nのとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認め られない。そうすると、第2次補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内 においてされたものであると認められ、特許法17条の2第3項の規定に違反 するものではないというべきである。 したがって、本件審決が、第1次補正発明の「強さ」について、第2次補正 により「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」と補正したことは新たな技術的事項を導入するものである\nとして、第2次補正は特許法17条の2第3項の規定に違反すると判断して第 2次補正を却下した(本件審決第2)のは誤りであると認められ、本件審決に は、原告主張の取消事由が認められる。
4 被告の主張に対する判断
(1) 被告は、当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の合計値」 に限定されるものであることは明らかである旨主張する(前記第3〔被告の 主張〕2(1)ア)。
しかし、前記3のとおり、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユ ーザ」の「強さ」に、攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテ ム数等が含まれることが本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間 に争いがない。そして、当初明細書等に、「強さ」について「攻撃力及び防御 力の合計値」と記載された箇所があるとしても、発明の技術的意義に鑑みれ ば、「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りるものと解され、「強さ」から\n「攻撃力及び防御力の合計値」以外の要素を除外する理由は見出されない。 対戦ゲームには様々な形態があり得るものであり、技術常識に照らすと、ゲ ームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパラメータが 想定されるものと認められ、段落【0028】に記載の「攻撃力及び防御力 等」における「等」や図2(b)における「…」が、「強さ」の要素のうち、 攻撃力及び防御力以外の体力、俊敏さ、所持アイテム数等の要素を示すと解 することは十分に可能\である。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(2) また、被告は、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の\n文言によっては、「強さ」にどのようなパラメータが包含されるのかが具体的 に特定できず、第三者に不測の不利益を生じると主張する(前記第3〔被告 の主張〕2(1)イ)。
確かに、対戦ゲームには様々の形態があり得るものであり、技術常識に照 らすと、ゲームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパ ラメータが想定されるものと認められる。 しかし、各形態のゲームにおいてどのような「強さ」のパラメータを設定 するのが適当かは、当業者であれば適宜判断し得るものと推認され、ユーザ の強さを基準として所定範囲内の強さを有する他のユーザを対戦相手として 選択することにより、ユーザのゲームに対する興味の低下を防ぐという発明 の技術的意義に照らせば、ある形態の対戦ゲームにおいて「強さ」にどのよ うなパラメータが含まれるかは、当業者であれば想定し得るものと推認され る。そうすると、「強さ」が「攻撃力と防御力の合計値」に限定されていない としても、第三者に不測の不利益をもたらすものとは認められない。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(3) 被告は、第2次補正によって「強さ」が広範な概念へと拡張され、新たな 技術的事項を追加するものとなったこと、「数値が高い程前記対戦ゲームを 有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の文言には、どのようなパラメータが包含されるの\nかが具体的に特定できず、第三者に不測の不利益をもたらすことから、第2 次補正は認めるべきでない旨主張する(前記第3〔被告の主張〕3)。 しかし、前記(1)及び(2)において述べたとおり、被告の上記主張は採用する ことができない。
(4) また、被告は、当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の 合計値」に限定されるものであることは明らかであると主張するが(前記第 3〔被告の主張〕4)、前記(1)のとおり、このような被告の主張は採用するこ とができない。

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令和4(行ケ)10009  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月27日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、異議申立の特許取り消し決定について、判断を誤っているとして取り消しました。

本件決定は、相違点1に関し、1)甲2技術的事項に接した当業者であれば、 「複数本数の容器弁付き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1 発明において、「窒素ガス」が、過剰圧力がかかった状態で防護区画へ放出さ れ得ることを防ぐために、窒素ガスが、過剰圧力がかからないように制御さ れた速度で、防護区画に順次放出されるようにすればよいことを容易に認識 するといえる、2)甲2技術的事項では、「メインバルブ22」と、「ラプチャ ーディスク16a」と、「ラプチャーディスク16b」の開放時間をずらすこ とで、「過剰圧力がかからないように制御された速度で、保護された部屋14 に順次放出されるようにする」ことを実現しているが、「複数本数の容器弁付 き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1発明において、窒素ガ スの過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出す るには、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこ とによって実現でき、ラプチャーディスク等を用いるまでもないことは、当 業者であれば普通に予測し得たことである、3)本件明細書の【0025】の 記載を参酌すると、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイ ミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであって前記第一 の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止す る前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」とは、制御部か らの信号により開弁のタイミングが決定づけられているということ以上を意 味していないと解さざるを得ず、そのタイミングを「前記一つの容器の容器 弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミン グであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が 重なることを防止する前記第二の開弁タイミング」とすることは、窒素ガス の過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出する ことを、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこ とによって実現するための必然的なタイミングでしかないから、「前記一つ の容器の容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の 開弁タイミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスの ピーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、 前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える」ことも当業者が容易に想 到し得たことである、4)甲7及び8の記載事項からみて、「複数の消火ガス容 器を備え、防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消火設 備において、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の容器の 容器弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容器弁の開 弁時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備の技術分野 において、本件出願前、周知技術であったといえる、5)甲2技術的事項に接 した当業者であれば、甲1発明において、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた 「容器弁」の開弁時期をずらすことで、相違点1に係る本件発明の発明特定 事項(構成)とすることは、当業者が容易に想到し得たというべきである旨\n判断した。 しかしながら、本件決定の判断は、以下のとおり誤りである。
ア 1)及び2)について
・・・
(ウ) 以上のとおり、甲1記載の「容器弁」付き窒素ガス貯蔵容器の「容器 弁」と甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」は、動作及び機能が異\nなること、甲1及び2のいずれにおいても貯蔵容器の容器弁又はガスシ リンダーのバルブの開閉時期をずらして複数のガスシリンダーからそ れぞれ順次ガスを放出することによって保護区域又は保護された部屋 の加圧を防止することについての記載や示唆はないことに照らすと、甲 1及び2に接した当業者は、甲1発明において、保護区域又は保護され た部屋の加圧を防止するために甲2記載のラプチャーディスクを適用 することに思い至ることがあり得るとしても、ラプチャーディスクを用 いることなく、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期 をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出するこ とよって加圧を防止することが実現できると容易に想到することがで きたものと認めることはできない。 したがって、本件決定の1)及び2)の判断は誤りである。
イ 3)について
本件決定の2)の判断は、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の 開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであっ て前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重な ることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」 とは、制御部からの信号により開弁のタイミングが決定づけられていると いうこと以上を意味していないと解さざるを得ないことを根拠として、容 器弁に接続される制御部を備える甲1発明において、「前記一つの容器の 容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タ イミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピ ーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、 前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える」こと(相違点1に係る 本件発明1の構成の一部)も当業者が容易に想到し得たことをいうものと\n解されるところ、本件発明1の「決定し」の用語のクレーム解釈から直ち にそのような結論を導き出すことには論理的に無理があり、論理付けが不 十分である。\n
ウ 4)について
仮に本件決定が述べるように甲7及び8の記載から、「複数の消火ガス 容器を備え、防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消 火設備において、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の 容器の容器弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容 器弁の開弁時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備 の技術分野において、本件出願前、周知であったことが認められるとして も、当業者が、甲1発明において、上記周知技術を適用することについて の動機付けがあることを認めるに足りる証拠や論理付けがない。
エ まとめ
以上によれば、当業者は、甲1、甲2技術的事項及び前記周知技術に基 づいて、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることを\n容易に想到することができたものと認めることはできないから、これと異 なる本件決定の判断は誤りである。

◆判決本文

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令和4(ネ)10095等  損害賠償請求控訴事件,同附帯控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和5年3月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

不競法2条1項1号の不正競争について、販売経路が異なるので混同生じないと主張しましたが、知財高裁も認めませんでした。

なお、控訴人は、控訴人による控訴人商品の販売行為のうち、需要者が、特定 の販売チャネル(医療機器カタログやオンラインショップに掲載された商品画像等 を通じて被控訴人商品の形態と極めて酷似する控訴人商品の形態に接した場合)を 経由したときに限り、不正競争行為に該当する旨主張する。
そこで検討するに、不競法2条1項1号が他人の周知の商品等表示と同一又は類似の商品等表\示を使用することを不正競争と定めた趣旨は、周知な商品等表示の主\n体である他人の商品又は営業との混同を生じさせる具体的な危険性がある行為を禁 止することにより、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得することを防止し、もって周知な商品等表\示が有する営業上の信用を保護し、事業者間の公正な競争を確保することにある。そして、 同号の「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」に当たると解されるために、 現実に混同が生じたことを要するものではなく、混同のおそれがあれば足り(最高 裁昭和44年(オ)第912号同年11月13日第一小法廷判決・裁判集民事97 号273頁参照)、また、同行為は、他人の周知の商品等表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と上記他人とを同一の商品又は営業の主体として誤信させる\n行為のみならず、両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な 営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為をも包含するものと解される(最高裁昭和57年(オ)第658号\n同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁、最高裁平成7年 (オ)第637号同10年9月10日第一小法廷判決・裁判集民事189号857 頁参照)。
本件についてみると、被控訴人商品の形態は、約34年間の長期間にわたり継続 的かつ独占的に使用されてきたことにより、需要者である医療従事者にとって、被 控訴人商品の出所を表示するものとして認識されるに至り、控訴人商品の販売が開始された平成30年1月頃の時点において、不競法2条1項1号所定の周知の商品\n等表示に該当するものであったと認められるところ、控訴人は、周知の商品等表\示 である被控訴人商品の形態と酷似した形態を有し、かつ、被控訴人商品と同一目的 において、同一の使用方法により使用される控訴人商品を、被控訴人商品と同一の 需要者に対し販売しており、需要者は、控訴人又はその販売代理店から控訴人商品 の実物を伴う説明を受けたり、カタログやオンラインショップに掲載された控訴人 商品の写真等を見たりすることによって、控訴人商品が被控訴人商品と同一又はほ ぼ同一の形態であると認識し、被控訴人商品の形態に化体された被控訴人の営業上 の信用により購入動機を形成し、控訴人商品を購入していたものと推認される。こ れらの事情を総合すると、控訴人商品の形態を認識した需要者をして、被控訴人商 品と混同させるおそれや、被控訴人商品の主体である被控訴人と、控訴人との間に 何らかの緊密な営業上の関係が存すると誤信させるおそれが具体的に存していたと いうべきである。そして、控訴人商品の販売がいかなる販売経路によるものであっ たとしても、需要者は、控訴人商品を購入するに当たり、周知の商品等表示である被控訴人商品の形態と酷似した控訴人商品の形態を認識することができるから、混\n同のおそれが存することは、販売経路によって異なるとはいえない。 また、差止請求がされる場合と損害賠償請求がされる場合において、不正競争行 為の成立する範囲を別異に理解すべき理由はない。

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令和4(ネ)10092  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年3月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

発信者情報開示請求について、改正法が適用されて、原審の判断が取り消されました。 なお、本件は回答者から控訴人に連絡があり、投稿者と本件ログインをした者が同一であるのは明らかという特殊事情がありました。

1 事案に鑑み、争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」 (プロバイダ責任制限法4条1項)又は「特定発信者情報」(改正法5条1項柱 書)に該当するか)から判断する。
(1) 改正法5条が発信者情報の開示請求を規定している趣旨は、特定電気通信 (改正法2条1号)による侵害情報の流通は、これにより他人の権利の侵害 が容易に行われ、ひとたび侵害があれば際限なく被害が拡大する一方、匿名 で情報の発信が行われた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難と なるという、他の情報の流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、侵害 を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密に\n配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信 設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求する ことができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権\n利の救済を図ることにあると解される。
そして、改正法5条1項柱書は、権利の侵害に係る発信者情報のうち、特 定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務 省令で定めるもの)も開示の対象とし、同条3項は、「「侵害関連通信」とは、 侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、 又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符 号・・・その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信 者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものを いう。」と規定し、同項の委任を受けた改正規則は、「法第5条第3項の総務 省令で定める識別符号その他の符号の電気通信による送信は、次に掲げる識 別符号その他の符号の電気通信による送信であって、それぞれ同項に規定す る侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」(5条柱書)とした上で、同 条2号で「あらかじめ定められた当該特定電気通信役務を利用し得る状態に するための手順に従って行った・・・識別符号その他の符号の電気通信によ る送信」(改正規則5条2号)と規定する。その趣旨は、法4条1項に規定さ れた「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、侵害情報の送信についての発 信者情報に限られると解するのが文理に忠実であったが、海外法人が運営す るSNSなどについては、侵害情報の送信について特定電気通信役務提供者 が通信記録を保有しない場合があることから、ログイン情報の送信について の発信者情報を開示の対象として明記することで、救済の実効性を確保する 一方、ログイン情報の送信は、侵害情報の送信そのものではなく、侵害情報 の発信者以外のログイン情報が開示される可能性があり、また、開示を可能\ とする情報を無限定とすれば、発信者のプライバシーや表現の自由及び通信\nの秘密が侵害されるおそれがあることから、ログイン情報の発信者情報の開 示を、侵害情報の発信者を特定するために必要最小限な範囲であるもの、す なわち当該権利侵害と相当の関連性を有するものに限定したものと解される。 そして、改正規則案5条1項では、発信者情報の開示が認められるログイ ン情報の送信については、侵害情報の送信より前で(2号)、侵害情報の送信 の直近に行われたものとする(柱書)旨規定されていたのに対し、改正規則 5条1項柱書が侵害情報の送信との「相当の関連性」を有するものとして、 幅のある文言としていることからすれば、「相当の関連性」の有無は、当該ロ グイン情報に係る送信と当該侵害情報に係る送信とが同一の発信者によるも のである高度の蓋然性があることを前提として、開示請求を受けた特定電気 通信役務提供者が保有する通信記録の保存状況を踏まえ、侵害情報に係る送 信と保存されているログイン情報との時間的近接性の程度等の諸事情を総合 勘案して判断されるべきであり、侵害情報の送信とログイン情報の送信との 間に時間的に一定の間隔があることや、ログイン情報の送信が侵害情報の送 信の直近になされたものではないことをもって、直ちに関連性が否定される ものではないというべきである。
(2) これを前提として本件についてみると、本件IPアドレス等に係る情報の ログイン日時(令和4年2月10日)と、本件ツイートが投稿された時点(令 和3年10月10日)との間には一定の間隔があることは明らかであるが、 本件のような事案において、控訴人が開示可能なより間近な時点でのIPア\nドレス等に係る情報が存在するかについては、控訴人本人において判断する ことは困難であるところ、原審において被控訴人や原審裁判所からこの点に 関する指摘があったことをうかがわせる事情も見当たらないことに照らせば、 本件においてこの点を重視することは相当でない。
他方、本件においては、前記第2の2(4)のとおり、被控訴人の意見照会に 対し、本件ログインに係る回線契約者とは別人であるとしつつも、回答者が、 本件ツイートをしたことを認めた上で、本件ツイートが控訴人の著作権や著 作者人格権を侵害するものであることを否定する回答をしているし(甲11)、 本件IPアドレス等に係る情報のログイン日時(令和4年2月10日)の後 の日である令和4年3月には、本件アカウントが削除された上に、同月23 日には、「タピオカちゃんを動かして」いたとする者が、ツイッター内のダイ レクトメッセージ(以下「本件メッセージ」という。)で控訴人に連絡をとり、 本件ツイートをしたことを前提として謝罪をしている(甲14)ことが認め られるのであるから、本件投稿者と本件ログインをした者が同一であること は明らかであるという事情がある。なお、本件回答書にいうように、本件投 稿者が本件ログインに係る回線契約者と別人であるとしても、本件投稿でも 【代/行】と記載され(甲2)、本件メッセージでも本件ツイートは「代行」 したものであることを前提としており、情報の送信は本件ログインに係る回 線契約者によってされたものと認められるから、本件ツイートや、本件ログ イン自体は、本件ログインに係る回線契約者によってされたものというべき である。 これらの本件特有の事情を総合勘案するとともに、本件事案のこれまでの 経緯に鑑みれば、本件ログインの通信は、本件ツイートと相当の関連性を有 し、侵害関連通信(改正法5条3項)に当たるものと解するのが相当である。

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令和4(行ケ)10029  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月27日  知的財産高等裁判所

特許異議申し立てにより、取り消された特許権について、知財高裁は、審判の判断を破棄しました。特許異議申\立で取り消しが成立することも珍しいですが、さらにその審決が取り消されることも珍しいです。争点は、進歩性、サポート要件・実施可能要件です。\n

発明の詳細な説明が物の発明について実施可能要件を満たすためには、当\n業者が発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の 試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の 記載があることを要するものと解される。
(2) 本件では、長細状凸部ループ構造を有し、光学三特性を有する防眩層を備\nえる第1実施形態に係る防眩フィルムにより本件各発明を実施できることは 当事者間に争いはない。しかし、本件各発明は、光学三特性を満たす防眩層 を備えることを要するものの、特許請求の範囲においては、その構造は限定\nされておらず、長細状凸部ループ構造以外の構\造のものも本件各発明に含ま れるものと解される。そこで、本件明細書等の記載に長細状凸部ループ構造\n以外の構造のものが含まれているといえるか否かを検討する。\nまず、本件明細書等の段落【0034】には、[防眩層の構造]として、「第\n1実施形態の防眩層3は、複数の樹脂成分の相分離構造を有する。防眩層3\nは、一例として、複数の樹脂成分の相分離構造により、複数の長細状(紐状\n又は線状)凸部が表面に形成されている。長細状凸部は分岐しており、密な\n状態で共連続相構造を形成している。」と記載されている。それに続く段落\n【0035】には、「防眩層3は、複数の長細状凸部と、隣接する長細状凸部 間に位置する凹部とにより防眩性を発現する。防眩フィルム1は、このよう な防眩層3を備えることで、ヘイズ値と透過像鮮明度(写像性)とのバラン スに優れたものとなっている。防眩層3の表面は、長細状凸部が略網目状に\n形成されることにより、網目状構造、言い換えると、連続し又は一部欠落し\nた不規則な複数のループ構造を有する。」として、長細状凸部ループ構\造につ いて記載されているが、この段落【0035】の記載は、第1実施形態の防 眩層として、長細状凸部ループ構造以外の相分離構\造を否定しているものと は認められない。
また、本件明細書等には、第1実施形態において、共連続相構造だけから\nなる形状のほかに、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構\造(球 状、真球状、円盤状や楕円体状等の独立相の海島構造)との中間的構\造も形 成できることが記載されているし(段落【0072】)、相分離により層表面\nに微細な凹凸を形成することで、防眩層中に微粒子を分散させなくても防眩 層のヘイズ値を調整できることが記載されており(段落【0073】)、共連 続相構造に限定しない微細な凹凸を形成することが示唆されているといえる。\nそして、本件明細書等の段落【0134】には「実施例1〜6は、相分離 構造を基本構\造として防眩層3を形成するものである。」と記載されている ものの、全ての実施例が長細状凸部ループ構造であるとは記載されていない\nし、甲47(実施例3及び6の防眩フィルムの顕微鏡写真)の実施例3の防 眩フィルムの表面形状・構\造を撮影した写真からは、長細状凸部ループ構造\nとまではいえない凹凸形状が形成されていることが認められるから、第1実 施形態の凹凸構造として、長細状凸部ループ構\造以外の凹凸構造をも製造す\nることができると認められる。さらに、長細状凸部ループ構造以外の凹凸構\ 造が形成され、かつ光学三特性を備える防眩フィルムとして、甲47の実施 例3の凹凸構造しか製造できないことを示す証拠はない。\nそうすると、第1実施形態の防眩層には、長細状凸部ループ構造以外の凹\n凸構造のものが含まれており、そのようなものも含め、当業者であれば、少\nなくとも第1実施形態により、光学三特性を満たす本件各発明に係る防眩層 を、過度の試行錯誤なく製造できるものと認められる。 したがって、本件明細書等には、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出 願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を 製造し、使用することができる程度の記載があると認められる。
(3) この点に関し、被告は、本件各発明は、第1構造防眩層を備えた防眩フィ\nルムのみならず、第2構造防眩層及び第3構\造防眩層を備えた防眩フィルム を含むにもかかわらず、本件明細書等には、実施例として第1構造防眩層に\nついて示されているにすぎず、第2構造防眩層及び第3構\造防眩層について は、具体的製造例や光学三特性の測定結果等の記載はなく、凹凸をどのよう に形成すればよいか等について何らの示唆もない旨、原告が光学三特性を得 るための構造として主張する構\造は、第1構造防眩層を上位概念化したもの\nであり、それによって直ちに光学三特性を得られるものではない旨主張し、
そのため、光学三特性のパラメータの数値範囲を満たす第2構造防眩層及び\n第3構造防眩層を製造するには過度の試行錯誤を要すると主張する(前記第\n3の2〔被告の主張〕)。
しかし、第2実施形態または第3実施形態により、第1実施形態では製造 できない防眩フィルムを製造することは、本件明細書等には記載されていな い。むしろ、本件明細書等の段落【0079】には、「第1実施形態において 前述したスピノーダル分解によって、このような凹凸を防眩層に形成できる が、その他の方法によっても、このような凹凸を防眩層に形成できる。例え ば第2実施形態のように、防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒\n子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤と の斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適 度な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形\n成できる。」と記載され、第1実施形態のような凹凸を他の方法で形成できる とした上で、その一例として第2実施形態の方法で形成することが示されて いるし、また、本件明細書等の段落【0079】には、上記の記載に続けて、 「そこで以下では、その他の実施形態の防眩層について、第1実施形態との 差異を中心に説明する。」と記載され、以下に、第2実施形態(段落【008 0】ないし【0102】)、第3実施形態(段落【0103】ないし【011 5】)の説明が続けてされているから、第3実施形態は、第1実施形態によっ て得られる凹凸を形成する「その他の方法」の一つであると解するのが自然 である。そして、本件各発明に含まれる防眩フィルムであって、第1実施形 態以外の方法により作成できない防眩フィルムの存在やその態様を裏付ける 証拠はない。そうすると、第1実施形態により作成できる防眩フィルムを、 第2実施形態や第3実施形態によっても作成できるものと認められ、仮に、 第1実施形態により作成できる防眩フィルムの中に、第2実施形態や第3実 施形態により作成できないものがあったとしても、それにより、第1実施形 態により本件各発明が実施可能であることが否定されるものではない。\n
なお、第2実施形態により製造された第2構造防眩層、第3実施形態によ\nり製造された第3構造防眩層の中に、第1構\造防眩層とは異なる形状・構造\nを有するものがあり、それらが本件各発明の光学三特性を満たさなかったと しても、それらは本件各発明を実施するものではないというにとどまり、そ れによって本件各発明の実施可能性が否定されるわけではない。\n

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令和3(ワ)22287  損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年3月9日  東京地方裁判所

バーキン、ケリーバッグの立体商標について、権利侵害が認定されました。損害額は被告の利益のうち2割覆滅されました。 商標権の一つがこれです。

◆登録5438059

ア 前提事実(6)のとおり、被告は、被告商品の販売によって合計515万0140円の利益 を得たことから、同金額が被告の商標権侵害によって原告が受けた損害の額と推定される (商標法 38 条 2 項)。
イ もっとも、原告商品は、その販売価格がバーキンにおいては 100 万円を、ケリーに おいては 50 万円を超えるものが大半という高級ハンドバッグである(前提事実(2))。他方、被告商品の販売価格はいずれも 1 万 5180 円であり(前提事実(6))、その価格差が大きいことは多言を要しない。また、証拠(甲 23、乙 1)及び弁論の全趣旨によれば、バーキンには複数のサイズのものがあるものの、最も小さいサイズのものの横幅は 25cm であるのに対し、被告商品 1 の横幅は 20cm であることが認められる(なお、ケリーも、横幅が cmのものを最小として複数のサイズのものが販売されており、他方、被告商品 2 の横幅は20cm である。甲 1、52)。
商標権は、特許権等の他の工業所有権とは異なり、それ自体に創作的価値があるもので はなく、商品又は役務の出所である事業者の営業上の信用等と結びつくことによってはじめて一定の価値が生じるという性質を有する。このため、商標権が侵害された場合に、侵害者の得た利益が当該商標権に係る登録商標の顧客吸引力のみによって得られたものとは必ずしもいえない場合が多い。本件のようなハンドバッグの場合、需要者の購買動機の形成に当たっては、当該商品の属するブランドはもとより、その販売価格も考慮され、また全体のデザイン及びサイズといった要素も、デザイン性ないしファッション性の側面のみならず機能面からも考慮されると考えられる。これらの点を踏まえると、原告商標ないし原告商品の周知著名性からそのブランド及び全体のデザインが需要者の購買動機形成に及ぼす影響は相当に大きいとみられるものの、販売価格並びにデザイン及びサイズにおける相違が及ぼす影響もなお無視し得ず、上記推定を覆滅すべき事情として考慮するのが相当である。また、被告商品と同じ価格帯で「バーキン風」、「ケリー風」などと称するハンバッグが市場において取引されている事実が認められるところ(乙 17〜20、28、29)、これらの全てが原告商標権の侵害品であるとは必ずしも考えられず、侵害品でないものが含まれる可能性も少なからずうかがわれる。このうち原告商標権の侵害に当たるものがどの程度存在するかは必ずしも判然としないところ、他に原告商標権の侵害品が存在することを推定覆滅事由として考慮することは相当でないものの、上記事情は推定覆滅事由として一応考慮するのが相当である。さらに、バーキンの内側には、被告商品 1 にはないファスナーポケットが設けられていることが認められるところ(弁論の全趣旨)、その有無は、デザイン性という点では需要者の購買動機の形成に必ずしも寄与しないとしても、収納性という機能面の一要素としては考慮し得るものといえる。他方、被告は、ファッションショーへの出展、独自ブランドの商品販売、全国の主要都\n市への出店、SNS での宣伝活動等の営業努力をしていることが認められる(乙 21〜27)。 もっとも、これらの営業努力は、通常の営業努力の範囲を超える特別なものとまではいえないことから、この点を推定覆滅事由として考慮するのは相当でない。
ウ 以上の事情を総合的に考慮すると、被告商品の利益の額に対する原告商標の貢献割 合については、いずれも8 割と認めるのが相当である。これに反する原告の主張は採用できない。 したがって、本件における上記損害額の推定は 2 割の限度で覆滅されるから、被告の原 告商標権侵害による原告の損害額は、被告商品 1 及び 2 の各販売利益の額(276 万 2740 円及び 238 万 7400 円)のそれぞれ 8 割に相当する 221 万 0192 円及び 190 万 99円の合計412万0112 円と認められる。
エ これに対し、被告は、原告商品と被告商品との価格差、被告商品と同じ価格帯の原 告商品を模した商品の存在、被告商品の販売利益に対する被告の営業努力の貢献、原告商品と被告商品とのサイズやファスナーポケットの有無といった機能性の違い等を指摘し、被告商品の販売によって原告に損害が発生することはなく、仮に損害が発生したとしても少なくとも 95%の推定覆滅が認められる旨主張する。 しかし、原告商品と被告商品は、いずれも主に女性を需要者とするハンドバッグであり、販売方法には共通点があり、かつ、需要者にとってその形状(全体のデザイン)は購買動機を形成する主な要素の 1 つであるところ、原告商品と被告商品は形状が類似している いった事情を踏まえると、被告が主張する上記各事情を踏まえても、原告商品と被告商品の顧客層には一定の重なり合いが認められるのであって、被告商品の販売によって原告に損害が発生すると認められる。また、これらの事情が商標法 38 条 2 項による推定を覆滅する程度については、上記のとおりである。 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(2) 信用毀損による無形損害の額
原告は、高級ハンドバッグである原告商品の大半を、バーキンについては 100 万円以上、ケリーについては 50 万円以上という価格で販売している(前提事実(2))。他方、被告は、原告商品と形状において類似するものの、原告商品には使用されない安価な合成皮革等を用いて製作された被告商品を、1 個 1 万 5180 円で、百貨店の店舗や自社の運営する EC サイト等を通じて、令和元年 12 月 日から令和 3 年 2 月 13 日までの 1 年余りの間に、合計398 個(被告商品 1 が 214 個、被告商品 2 が 184 個)販売した(前提事実(6))。このような被告の行為は、高級ハンドバッグとしての原告商品及びこれを製造販売する原告のブランド価値すなわち信用を毀損するものであり、これによる原告の無形損害の額は 100 万円を下らない。無形損害の額に関する原告の主張は採用できない。 また、被告は、原告商品と被告商品との購買層の違いや、原告商品を模したハンドバッ グが全国各地で廉価で販売されているのは周知の事実であることなどを指摘して、原告の信用毀損はない旨を主張する。しかし、仮にこれらの事情があるとしても、原告商標及び原告商品の周知著名性を考慮すると、その違いゆえに原告の信用が毀損されないという関係にはない。この点に関する被告の主張は採用できない。

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令和4(行ケ)10061  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月16日  知的財産高等裁判所

不明瞭とされた拒絶理由に対してした補正について、不明瞭記載の釈明ではない、および新規事項であるとした審決が維持されました。

また、本件補正は、「前記検知手段の出力と前記油圧アクチュエータの 動作とに対応させて危険である場合」との記載を削除し、「前記検知手段 が人を検知している場合」との記載を追加する補正を含むところ、「前記 検知手段の出力と前記油圧アクチュエータの動作とに対応させて危険であ る場合」であっても警報を行わない場合を含むことになるから、同5項2 号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものでない。
イ 原告は、前記第3の1(1)アのとおり、本件補正は、本件拒絶理由通知書 の指摘に応じ、「警報を行う」条件を「前記検知手段が人を検知している 場合」に特定することにより、「前記検知手段の出力と前記油圧アクチュ エータの動作とに対応させて危険である場合」の意味内容を明確にしたも のであるから、特許法17条の2第5項4号の明りょうでない記載の釈明 に当たる旨主張する。
しかし、本件補正後の「前記検知手段が人を検知している場合」との記 載は、本件補正前の「前記検知手段の出力と前記油圧アクチュエータの動 作とに対応させて危険である場合」との記載の本来の意味内容に含まれる べき「前記油圧アクチュエータの動作」との対応関係を明らかにするもの と理解することはできず、本来の意味内容において「警報」を行う対象が オペレーターであったと理解することもできない。 そうすると、本件補正後の記載は本件補正前の記載本来の意味内容とは 異なるものになっているから、本件補正は、本件補正前の記載本来の意味 内容を明らかにするものにはなっておらず、明りょうでない記載の釈明に 当たるとは認められない。
(2) 小括
以上によれば、本件補正は、特許法17条の2第5項各号に掲げるいずれ の事項を目的とするものにも該当しないとした本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由2(本件補正における新規事項の追加に対する判断の誤り)につい て
(1) 前記2において説示したとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項各 号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、認められないもの であるから、この点で既に却下されるべきものであるが、なお念のため、本 件補正が新規事項を追加するものであるかについても検討する。 本件補正では、「前記検知手段が人を検知している場合に」警報を行うこ と及び「オペレーターに対して」警報を行うことを発明特定事項として新た に導入するものであるが、当初明細書等には、そもそも、コントローラが何 らかの条件で警報を行う構成すら記載されていない。\n当初明細書における【0002】の「機械と周囲の作業員等の障害物との 接触を防止するため、障害物との距離や建設機械の切削や旋回などの動作に 対応させて危険である場合に警報を行う」との記載は、その前の「この技術 においては、」という主語からみれば、特許文献1に記載された従来技術に ついての説明であり、このような従来技術の構成を【発明を実施するための\n形態】に記載の構成が備えることを開示するものではないし、このような構\ 成を前提としなければ【発明を実施するための形態】に記載の構成が成立し\nないという事情もなく、その他【発明を実施するための形態】に記載の構成\nが従来技術の構成を前提とするものであることをうかがわせる記載もない。\nそして、上記記載の本件補正による新たな発明特定事項は、当初明細書にお ける【発明を実施するための形態】に記載されていないことはもちろん、背 景技術に関する【0002】にも記載されていない。よって、本件補正は、新規事項を導入するものであるといえる。
(2) 原告は、前記第3の2(1)のとおり、補正前発明は従来技術が開示している 技術と関連している旨主張するが、仮に、補正前発明が従来技術が開示する 技術と関連性を有するとしても、当初明細書等に、補正前発明に関する構成\nとして、従来技術の構成が開示されているとはいえないことは明らかである\nから、いずれにしても、本件補正は、新規事項を導入するものというべきで ある。

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令和4(行ウ)382  特許分割出願却下処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月23日  東京地方裁判所

 特許権の登録後の分割出願の可否について争いましたが、認められませんでした。料金納付後9日で登録されていました。

法 44 条 1 項柱書きは、特許出願人は、一の特許出願中に二以上の発明が 含まれている場合、その特許出願の一部を新たな出願(分割出願)とするこ とができる旨規定する。ここで、「特許出願人」及び「特許出願」とされて いることに鑑みると、同項の規定は分割出願のもととなる特許出願が特許庁 に係属していることを前提とするものと理解される。他方、同項は、分割出 願の時期的要件につき、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面 について補正をすることができる時又は期間内にするとき」(1 号)や「拒 絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があった日から三月以内にするとき」 (3 号)と定めるほか、「特許をすべき旨の査定…の謄本の送達があった日 から三十日以内にするとき」(2 号)と定めているところ、上記のとおり、 法 44 条 1 項はもととなる特許出願が特許庁に係属していることを前提とす るものと理解されることを踏まえると、特許査定の謄本の送達があった日か ら 30 日以内であっても、特許権の設定登録がされればその特許出願は特許 庁に係属しなくなる以上、これをもとに分割出願をすることはできないと解 される。 本件については、前提事実(1)のとおり、本件特許査定の謄本が原告に送 達されたのは令和 2 年 7 月 7 日であるから、原告は、同日から 30 日以内で ある同年 8 月 日に本件親出願をもとの特許出願とする分割出願(本件出願) をしたといえる。しかし、本件出願に先立つ令和 2 年 7 月 29 日に本件設定 登録がされたことにより、本件親出願は特許庁に係属しないものとなったこ とから、それ以降は本件親出願をもとの特許出願として分割出願をすること はできなくなっていたものである。
したがって、本件出願は、法 44 条 1 項所定の分割可能期間を経過した後\nにされたものであり、同項所定の要件を満たさないものと認められる。 以上のとおり、本件出願は、法 44 条 1 項所定の要件を満たさない不適法 なものであり、その補正をすることができないものといえるから、同法 18 条の 2 第 1 項本文に基づいて本件出願を却下した本件却下処分は適法と認め られる。
(2) 原告の主張について
ア 取消事由 1 について
原告は,法 44 条 1 項の定める分割出願について、特許査定謄本の送達 の日から 30 日以内であっても特許権の設定登録がされた後はすることが できないとの解釈は,明文の規定のない被告による解釈にすぎず,十分な\n合理性を有しないなどと主張する。 しかし,「二以上の発明を包含する特許出願の一部」(法 44 条 1 項柱 書き)のうちの「特許出願」及び「特許出願人」(前同)が、特許庁に係 属している特許出願及び同出願における特許出願人をそれぞれ意味するも のであることは文理上明らかである。 また、法 46 条の 2 第 1 項は実用新案制度に特有の事情を考慮して設け られたものであることなどに鑑みると、同条項の存在は、分割出願の時期 的要件に係る解釈に結び付くものでは必ずしもない。

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令和4(ネ)10049  不当利得返還、同反訴、損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年3月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

アニメ作品の音響データの元となるセッションデータについて、退職時の合意書に基づき、引き渡し義務があるのかが争われました。

しかしながら、証拠(乙14、15、22、24、25、31、32、 原審証人B)及び弁論の全趣旨によると、1)被告音源データは、爆発音だ けでも約2000種類のものを含み、一審被告取締役Bが音響効果業務で 使用するハードディスクでは作業の効率化のため被告音源データの一部 を厳選して保存しているが、そのハードディスクに保管されている被告音 源データのデータ量でも約194ギガバイト、ファイル数3万1000個 超となるなど、膨大な数の音源データで構成されていると認められ、この\nように多種多様な音で構成されていることからみて、個々の音源の中には\n個性的な特徴を有するものが多数含まれるとうかがわれること、2)被告音 源データは、生音(人の手で音を作り出して収録した音)、シンセサイザー で合成した音等の効果音、環境音等からなるものであるが、シンセサイザ ーで制作される音については優に100を超える設定項目を設定しなけ ればならないこと、生音で制作される音については制作の際の個人差が想 定されること、屋外で録音した音については音の録音をするに適した場所、 環境、時間帯等を探し出して選択し、録音した部分から不要となる部分を 省く編集をしなければならないこと、同種の方法で制作された音同士を、 あるいは、異種の方法で制作された音同士を掛け合わせて融合するなどし て複雑な混成をさせていること、以上のことからして、単に発生している 音を録音するという機械的作業により制作され音が保存されているでは なく、その制作に当たって創造性を発揮させる余地が十分にある音が保存\nされていること、3)上記のような単純とはいい難い作業に基づいて制作さ れるほか、アナログ機材で様々な融合や設定をしてできた音であるのにそ の設定等が不明で、現在どのようにして制作するかも分からない再現不能\nな音源も多いことから、偶然に同一の音が再現される可能性は低く、世上\n耳にすることのある、ありふれた音そのものとは構成が異なること、4)被 告音源データのうち、少なくとも半分は上記のような制作過程によって一 審被告が制作したものであること、5)1音源の長さは、数秒程度のものあ れば、1分以上に及ぶものもあって、制作作業の過程で思想又は感情の表\n現を込め得る程度の長さのものも含むことが認められる。
以上によれば、被告音源データの中の個々の音のみであっても、幅のあ る表現の中から選択され、その表\現に個性の発露を認め得る音も決して少 なくないものと認められ、そのようにして制作された音には創作性を認め る余地があるといえ、一律に効果音の著作物性を否定できるものではない し、著作物性のある音がごくわずかであるともいい得ない。 そして、一審原告は、一審被告在職中に被告音源データを用いて音響効 果業務を行っていたのであるから、被告音源データに含まれる音と同一の 音あるいは類似の音を制作した場合には、明らかに依拠性が認められ、あ るいは容易に依拠性を認め得るのであるから、被告音源データに含まれる いずれかの音と同一の音を利用し、あるいは類似の音を制作して利用した 場合でも、一審被告の被告音源データについて一審原告による少なくとも 複製権又は翻案権の侵害が成立する可能性は否定できないといえる。\n
・・・
4 第1事件反訴に係る本件セッションデータの引渡請求について
一審原告は、一審被告から、本件再委託業務の再委託を受けて同業務 を履行したところ(前提事実(4)イ及びエ)、一審被告は、本件セッション データは本件合意書第14条の「成果物」に該当するとして、本件合意 に基づき一審原告に対して本件セッションデータの一審被告への引渡し を求めている。
(1) 本件合意の内容
本件合意書第14条は、一審原告に対し、一審被告から受託した業 務の「成果物」を特に区分けなく顧客及び一審被告に納入すべき義務 を定めるから(別紙「本件合意書(抜粋)」参照。以下本件合意書の条 項につき同じ。)、一審被告に納入すべき「成果物」は、顧客に納入す べきものと同じものと理解される。また、同第9条は、一審原告が一 審被告から音響効果業務を受託した場合の「成果物」の所有権及び音 源の著作権が一審被告に帰属することを定め、同第8条2項は、再委 託業務の対価には音響効果制作の過程で発生するいわゆる中間生成物 のものも含めて著作権譲渡の対価が含まれると定めるから、一審原告 が「成果物」を一審被告に納入すると、一審原告は、当該「成果物」 の所有権及び音源の著作権を失うものと理解される。
(2) プロツールスセッションデータについて
「プロツールス」は、音編集ソフトであり、作品の映像に合わせて\n音源データを編集して放映用の音源データを制作する手法が用いられ ており、一審原告もプロツールスを用いて一審被告から再委託を受け た業務を行った(前提事実(2)ア)。 証拠(甲12、乙15、22、34、原審証人B)によると、1)「プ ロツールスセッションデータ」とは、音響効果業務の作業の際にプロ ツールスが作成する「セッション」というファイルの中に記録された 音源データを含む各種データのことであり、効果音等が記録された放 映用の音源データや、台詞、音楽等が含まれる放映用の音声データと は別のファイルであること、2)音響効果業務の作業に当たっては、ま ず、映像に合うような音源データを選択し、セッションデータの中に これら音源データをコピーして取り込み、それら音源データの一又は 複数をそのままに、あるいはピッチを変えるなどして、作品の映像と 音との間のタイミング等を調整しながら各音源データを組み込んでい くこと、3)そのため、セッションデータの中には放映用の音源データ の制作に利用した音源データの全てが保存されていること、4)顧客に 納入される台詞、音楽等が含まれる放映用の音声データは、放映用の 音源データを調整しながら、放映用の音源データと台詞、音楽等の音 声データとをダビングしたミックスデータとして納入されること、5) セッションデータには音響効果業務を行う事業者のノウハウが詰まっ ているため、第三者や競業者にその内容が開示されることはないし、 顧客にもセッションデータが納入されることはなく、効果音等のみを 必要とする顧客からの要望については、セッションデータから音源デ ータをまとめて一つのファイルとして出力されるデータが納入される ことが認められる。
(3) 西田弁護士の発言
前記1(3)ウ(本判決第3の2(3)において補正されている。)のとおり、 Aらも立ち会っていた本件面談において、西田弁護士は、一審原告か ら本件再委託業務に関する質問があった際に、一審原告が一審被告に 対して渡さなければいけないものは、「一本化」しているものでよく、 「パーツは渡さなくていい」旨の回答をしており、これは、「一本化」 とは素材となる音源データをまとめあげた放映用の音源データのこと を指し、「パーツ」とは、上記音源データの制作に要した素材となる音 源データのことを指すと理解できるから、結局、本件セッションデー タの引渡しを不要であると回答したものと認められる。 これに対して、西田弁護士は、「パーツで渡さなくてよいと答えてい ます・・・X氏が自身で購入した音源一つ一つを、・・・渡さなくてよ い(権利譲渡しなくてよい)という意味合いです。」、「一本化して渡し てほしい・・・というのは、プロツールスのセッションデータとして 一本化して渡してほしいという意味です」旨を陳述するが(乙28)、 上記のとおりセッションデータはもともと一つであるし、前記(2)のと おり、セッションデータを引き渡せば個々の音源データも引き渡され ることになるから、関係証拠と整合しない陳述であり、採用すること はできない。
(4) 報酬の支払
本件合意書第8条1項は、同第6条2項の音響効果業務の再委託業 務について、一審原告に対する報酬の支払を「成果物」の納品月の末 締め当該締日の3か月後の月の5日限りとして、一審原告の先履行と 定めているところ、一審原告は、本件再委託業務に係る各作品に係る、 台詞、音楽等の音声データとを音源データとをダビングしたミックス データを顧客に納品しており(甲8、弁論の全趣旨)、これに対し、一 審被告は、前提事実(4)エのとおり、本件セッションデータの引渡しを 求めることなく、本件再委託業務に係る報酬を全額支払っている。本 件セッションデータの引渡しは、令和元年12月24日受理の第1事 件反訴状の一審原告に対する送達によって初めて求められた(弁論の 全趣旨、顕著な事実)。
(5) 本件セッションデータの引渡義務
前記(2)のセッションデータの性質を前提とする限り、セッションデ ータそれ自体は放映に用いる音源データではなく、顧客に納品される ものではない。そして、本件合意は一審原告が一審被告を退職した後 の法律関係を規律するものであるところ、前記(1)の本件合意の内容や 本件合意書第14条の「成果物」の解釈を前提とした場合、本件セッ ションデータも同「成果物」に含まれるとすると、一審原告は、本件 再委託業務の履行に際して利用した素材である各音源データについて、 たとえそれが自らの負担において新たに取得したものであっても、そ の権利一切を喪失することになり、その後自らこれらを利用すること ができなくなって業務遂行が困難となり、極めて不合理な結論に至る し、一般的な取引慣行にもそぐわないことになる。また、本件面談時 や本件再委託業務の履行過程における一審被告の言動も、本件セッシ ョンデータが本件合意書14条の「成果物」には該当しないことを前 提とするものと理解するのが自然かつ相当である。
以上によれば、本件合意書を合理的に理解しようとする限り、本件 合意によって本件セッションデータの引渡義務を根拠付けることはで きないというべきである。なお、一審被告は、一審原告が一審被告を退職する前に担当したものも含めて、過去に音響効果業務を受注して制作した作品のセッショ ンデータを保存、管理しているが(乙22、原審証人B)、それは自ら が制作したセッションデータを自らが保有していることを意味するに すぎない。一審原告は独立した事業者の立場においてセッションデー タを制作する者であってそのセッションデータを保有する者であるか ら、一審被告が過去に制作した作品のセッションデータを保存、管理 していることは、一審被告に対する一審原告の本件セッションデータ の引渡義務を何ら基礎付けない。

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令和4(ネ)10087  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権侵害として、1審で約800万円の損害賠償が認められました。双方控訴しましたが、控訴棄却されました。原告(控訴人)は代理人なしの本人訴訟です。

(1) 業界における実施料等の相場について
ア 一審原告は、前記第2の4(4)ア aのとおり、原判決が、甲55報告書 の例外的事象における実施料率を理由に、電気等の分野の実施料率の平均 値を採用しなかったのは不当である旨主張する。 しかし、原判決は、一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となると いう甲55報告書の指摘に着目して、電気等の分野の実施料率の平均値を 採用しないとしたのであり、その判断は首肯できるものである。 イ 一審原告は、前記第2の4(4)ア bのとおり、乙13陳述書における実 施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。 しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙13陳述書は、具体 的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示したものと 理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を吟味する必要 があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や分割出願制度等を 利用した出願を全てまとめて1パテントファミリーとして、パテントファ ミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、1件当たりのライセンス 料率が過少にならない工夫をしていること等に鑑みると、その信用性が否 定されるべきものとはいえない上、そもそも原判決は、乙13陳述書にお ける料率をそのまま採用しているのではなく、その他の各種事情を総合勘 案した上で、料率を決定しているのであるから、一審原告の主張は採用で きない。
(2) 代替品の不存在について
一審原告は、前記第2の4(4)ア のとおり、本件訂正発明によらずに、 本件訂正発明の効果を奏することは経済的に現実的ではなかった旨主張す る。 しかし、これを的確に裏付けるに足りる証拠はないし、その他の各種事 情を総合考慮すると、そもそもこの点のみをもって本件結論が左右すると はいい難いから、一審原告の上記主張は採用できない。
・・・
一審被告は、「本来解像度」の用語の意義について、本件明細書等【00 32】に「「本来解像度」とは「本来画像」の解像度をする。」と定義され ているので、「本来画像」の意義が問題となるところ、「本来画像」の用語 の意義、内容は不明確であるから、本件特許明細書には、構成要件G’にお\nける「本来解像度」の意義を理解するための記載がなく、サポート要件に反 する旨、当審において新たに主張するが、本件明細書等の「本来画像」及び 「本来解像度」に関する関係記載(【0006】、【0032】、【007 9】、【0115】、【0118】、【0119】、【0124】ないし 【0126】、【0128】ないし【0130】等)を総合すれば、当業者 は、「本来画像」及び「本来解像度」が何を意味するかにつき十分に理解で\nきるというべきであるから、本件訂正発明は本件明細書等の発明の詳細な説 明に記載したものといえる。 その他にも、両当事者はるる主張するが、いずれも本件結論を左右し得な い。
第4 結論
以上によれば、一審原告の請求は、主位的請求である不法行為に基づく損害 賠償請求権に基づき819万9458円及びこれに対する令和元年12月13 日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を 求める限度で理由があり、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由\nがないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、一審原告及 び一審被告の控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとお り判決する。

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1審はこちらです。

◆令和1(ワ)32239

関連審決取消訴訟事件です。

◆令和3(行ケ)10139

◆平成28(行ケ)10257
同一特許についての別侵害訴訟の控訴審と1審です

◆令和4(ネ)10031

◆令和2(ワ)5616


◆令和3(ネ)10023

◆平成30(ワ)36690

◆令和4(ネ)10056

◆令和2(ワ)29604
この事件では、知財高裁は、損害額の算定について以下のように言及されています。
一審原告は、前記第2の3(4)ア aのとおり、甲26報告書の79頁 は、デバイスに関して、クロスライセンスの方式による場合において、 実施料率の相場が1%未満すなわち0.数%であることを示すにすぎ ないから、原判決のこの点に係る認定には誤りがある旨主張する。 しかし、甲26報告書の79頁によれば、デバイス等においては、製 品が数百ないし数千の要素技術で成り立っていること、互いの代表特\n許をライセンスし合い、実施料率の相場は1%未満であることといっ た一般的な事情が認められところ、これに加えて、引用に係る原判決 第4の11(3)イ 及び のとおり、一審被告が被告製品の製造販売の ためにした複数のライセンス契約におけるアプリ特許(標準必須特許 以外の特許)に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率 は平均●●●●●●●%であり、これを画像処理に関連する発明に限 定すると1件当たりのライセンス料率は、平均●●●●●●●●%と なること等、本件特有の事情も考慮すれば、原判決の相当実施料率の 認定に誤りがあるとはいえない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア bのとおり、ライセンス料は、主 として「代表特許」の価値によって決まるので、乙14陳述書の計算\nにおける標準必須特許を除く「全ての特許の件数で除した1件当たり のライセンス料率」は不当にディスカウントされたものである旨主張 する。
しかし、乙14陳述書は、代表特許(甲26の79頁にいう「相互\nの代表的な特許」)ではなく、標準必須特許(携帯電話事業分野の標\n準規格の実施に不可欠な特許)と、アプリ特許(通信規格に適合する ために不可欠とはいえない特許)を分けて扱っているのであり、それ 自体は合理的なことであって、このような方式を採ることが不当なデ ィスカウントに当たるともいえないから、一審原告の主張は採用でき ない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア cのとおり、乙14陳述書におけ る実施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。 しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙14陳述書は、 具体的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示し たものと理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を 吟味する必要があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や 分割出願制度等を利用した出願を全てまとめて1パテントファミリー として、パテントファミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、 1件当たりのライセンス料率が過少にならない工夫をしていること等 に鑑みると、その信用性が否定されるべきものとはいえない上、そも そも原判決は、乙14陳述書における料率をそのまま採用しているの ではなく、その他の各種事情を総合勘案した上で、料率を決定してい るのであるから、一審原告の主張は採用できない。

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令和3(ワ)11152  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年3月16日  大阪地方裁判所

 被告は、「口コミ掲示板」に、「匿名さん」として、「アイメシアとか名乗る会社の超迷惑営業電話下調べもなしにかけてくるとはぬるい営業ですね」との内容の投稿しました。かかる行為が、不競法2条1項21号の不正競争行為に該当するとして、約50万円の損害賠償が認められました。

ア 競争関係の有無(争点1−ア)
(ア) 前記前提事実(1)及び認定事実(1)によれば、原告と被告会社は、いずれも ウェブサイトの作成(企画・開発)、運営及び保守業務、並びにインターネット上 の検索エンジンの最適化サービス(SEO対策)等の同種の事業を行っている。し たがって、両社は営業活動上需要者や取引先を共通にする可能性があるといえるこ\nとから、競争関係にあると認められる。また、被告P1は、被告会社の代表取締役\nであるから、その職務に関して原告と競争関係にあるといえる。
(イ) 被告らは、原告の事業と被告会社の事業が全く異なり競争関係に立たない 旨主張する。しかし、不競法2条1項21号における競争関係は、需要者又は供給 者を共通にする可能性があるなど、将来現実化し得る潜在的な競争関係であれば足\nりると解されるところ、前記(ア)のとおり、被告会社の登記事項証明書及びウェブ サイトに記載された被告会社の事業内容(甲5)と原告の事業内容とが重複してい ることから、当該主張は採用できない。
イ 摘示事実の虚偽性(争点1−イ)
(ア) 本件投稿1の内容は、「アイメシア 特定商取引法に関する知識はなく、 コンプライアンス担当者はおらず…何度も何度も電話してくる…さらに電話の人間 は嘘丸出し営業トーク」と記載し、原告について、特商法に関する知識がなく、コ ンプライアンス担当者がおらず、営業対象先に対し何度も電話をかけ、電話をした 従業員が事実に反した話をするという事実を指摘するものである。当該記載を閲覧 した本件ページの閲覧者は、原告が、法令を遵守せず営業対象先に何度も電話をか け、かつ営業担当者が事実に反する話をする営業活動を行う会社であると読み取る ものといえる。
被告P1による令和3年1月14日の投稿、本件各投稿及び本件書面等の各内容 等(前記前提事実(2)(3)及び認定事実(3)(4))を踏まえると、原告が、営業対象先 に係るインターネット上の口コミサイトの記事を印刷し、SEO対策の重要性や原 告の業務を紹介する文書と共に営業対象先に送付し、同じ頃に営業対象先に電話を した上で当該文書等に言及して原告への依頼を促す等の営業活動を行っていること、 被告会社に対し、同月及び7月に営業目的で2回電話をし、本件書面等を送付した ことが認められるものの、原告が法令を遵守せずに営業の電話をし、また原告の従 業員が事実に反する話をして営業活動を行ったとはいえず、本件投稿1の前記記載 は事実に反するといえることから、その虚偽性が認められる。
(イ) 本件投稿2の内容は、「自分でネットに企業の誹謗中傷を書いて、それをネ タにネットの誹謗中傷対策しますというマッチポンプ詐欺の会社」と記載し、原告\nについて、営業対象先を誹謗中傷する内容の記事を予めインターネット上に書き込\nむ等した上で、当該企業に対し、当該書き込みを契機としてその対策業務を行う原 告への依頼を促す旨の営業活動を行っているという事実を指摘するものである。当 該記載を閲覧した本件ページの閲覧者は、原告がこのような詐欺的な営業活動を行\nう会社であると読み取るものといえる。 しかし、本件証拠に照らし、原告が、自ら営業対象先を誹謗中傷する書き込み等 をし、その対策等を理由に営業活動を行ったとはいえず、本件投稿2の前記記載は 事実に反するといえるから、その虚偽性が認められる。
(ウ) 本件投稿3の内容は、「自前で悪評判を立てた上で対策しますという…営 業を行う詐欺会社」と記載し、原告について、自ら相手方の悪評判を立てた上で、\n当該評判を契機としてその対策業務を行う原告への依頼を促す旨の営業活動を行う という事実を指摘するものであり、本件投稿2と同様に当該記載は事実に反する。
(エ) したがって、本件各投稿に記載された事実は、いずれも事実に反し虚偽で あると認められる。
(オ) 被告らの主張について
被告らは、被告P1が本件各投稿をした目的は、原告の営業が悪質であることか ら、原告に警告を発したり、他の業者が原告の営業に引っかからないようにするた めであるなどと主張する。 しかし、本件資料に係る口コミサイトの記載について、書き込みの時期(平成2 8年及び平成29年)と、原告の被告会社に対する架電の時期(令和3年1月及び 7月)が相当程度離れていること(前記認定事実(3)(4)及び(6)ウ)等を踏まえる と、原告が営業手段として自ら当該口コミサイトの記載を行ったとは認められない。 前記(ア)の原告の営業手法及び被告会社に対する営業行為を前提としても、本件各 投稿の前記内容が全体として事実に反することに変わりはなく、被告らが主張する 目的により本件各投稿行為が正当化されるものではない。このことは、被告会社が そのウェブサイトにおいて営業目的の電話を固く断り、迷惑であると判断した場合 には本件サイト等にその旨を登録すること等を記載していた(前記認定事実(6) ア)としても、同様である。
・・・
(3) 損害の発生及びその額(争点3)
ア 無形損害
前記2(1)イのとおり、本件各投稿は、原告が法令を遵守せず営業対象先に架電 し、かつ営業担当者が事実に反する話をする営業活動を行う会社であるとの印象や、 営業対象先を誹謗中傷する内容の記事を予めインターネット上に書き込む等した上\nで、当該企業に対し、当該書き込みを契機としてその対策業務を行う原告への依頼 を促す旨の営業活動を行う会社であるとの印象を与えるものであり、原告の社会的 評価が一定程度低下したと認められること、本件各投稿が、一定数の不特定多数の 者に閲覧されたと推認されること、一方で、本件各投稿が掲載された期間は令和3 年7月2日又は3日から同年8月7日までの一か月余りであり比較的短期間である といえること、本件サイトの口コミの投稿は、氏名やメールアドレスの記載が任意 とされ、投稿者が特定されない形で書き込むことが可能であることから、本件サイ\nトの口コミ掲示板に記載された情報に接した閲覧者が当該情報について信頼性が高 い情報として受け取るとまではいえないこと等を考慮すると、被告P1の本件各投 稿行為による原告の無形損害は50万円と認めるのが相当である。 なお、本件ページにおいて、被告P1による投稿以外の投稿がされたことが認め られないことは前記認定事実(4)ウのとおりである。

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令和4(ネ)10100 発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年3月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、発信者情報開示を認めませんでしたが、知財高裁は、法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断しました。

前記第1のとおり、控訴人は、本件ログインがされた日時である令和3年 6月26日7時47分54秒(時刻の表記は、24時間制による。以下同じ。また、\n令和3年中の日付については、以下、年の記載を省略する。)頃に被控訴人から本 件IPアドレス(省略)が割り当てられていた契約者に係る発信者情報(本件発信 者情報)の開示を求めているところ、前記前提事実(補正して引用する原判決第2 の1(2))のとおり、本件ツイートが投稿されたのは、同月20日20時39分で あるから、本件ツイートは、上記のとおり控訴人が発信者情報の開示を求める本件 ログインがされた時期にされたものではなく、本件発信者情報は、本件ツイートの 投稿時に利用されたログインに係る発信者情報ではない。そこで、侵害情報である 本件ツイートの投稿時に利用されたログイン以外のログインに係るIPアドレスか ら把握される発信者情報が法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」 に該当するかが問題となる。
(2) そこで検討するに、法4条の趣旨は、特定電気通信(法2条1号)による 情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性 ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定す らできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異なる特徴があるこ とを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情 報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、\n当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供 者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害 者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される(最高裁平\n成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号6 76頁参照)。そうすると、「当該権利の侵害に係る発信者情報」の範囲をむやみ に拡大することは相当とはいえないものの、これを侵害情報の投稿時に利用された ログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報に限定するとなると、複数 のログインが同時にされているなどして投稿時に利用されたログインが特定できな い場合などには、被害者の権利の救済を図ることができないこととなり、上記の法 の趣旨に反する結果となる。そして、法4条1項の文言は、「侵害情報の発信者情 報」などではなく、「当該権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅をもたせたもの とされていること、証拠(甲33、38)及び弁論の全趣旨によると、令和3年法 律第27号(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示 に関する法律の一部を改正する法律)による改正は、法4条1項の「当該権利の侵 害に係る発信者情報」に侵害情報を送信した後に割り当てられたIPアドレスから 把握される発信者情報が含まれ得ることを前提として行われたものと認められ、上 記の改正の前後を通じ、「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、侵害情報を送信 した際のログインに係る発信者情報のみに限定されるものではないと解されること、 また、このように解したとしても、当該発信者が侵害情報を流通させた者と同一人 物であると認められるのであれば、発信者情報の開示により、侵害情報を流通させ た者の発信者情報が開示されることになるのであるから、開示請求者にとって開示 を受ける理由があるということができる一方、発信者にとって不当であるとはいえ ないことなどに照らすと、「当該権利の侵害に係る発信者情報」を侵害情報の投稿 時に利用されたログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報に限定して 解釈するのは相当でなく、それが当該侵害情報を送信した者の発信者情報であると 認められる限り、当該侵害情報を送信した後のログインに係るIPアドレスから把 握される発信者情報や、当該侵害情報の送信の直前のログインよりも前のログイン に係るIPアドレスから把握される発信者情報も、法4条1項の「当該権利の侵害 に係る発信者情報」に該当すると解するのが相当である。
(3) これを本件についてみるに、本件アカウントのプロフィール欄(アカウン ト名の下部に表示される自己紹介の文章部分。甲11)には、「感謝するぜ、お前\nと出会えたこれまでの全てに」、「俺の手持ち」、「誕生日:1月8日」などの記 載があり、また、本件アカウントにおいてされた投稿(甲11)の内容は、単にY ouTubeの動画を引用するもののほか、「泣いてる」、「俺のグラグラの能力\nが発現してモーター」、「愛知県に地震きた」、「エドモンド本田美央」、「エド モンド本田たのし〜」、「スーパー頭突きじゃあ!!笑笑」、「ガチンコでごわ す!!笑笑」、「本田やばい」、「アイシールド21は神龍寺戦までね」、「やま ゆり園真実の名言集 ライフラインはいるだけで士気が下がる」、「これ使うなら 5cで良くね?」などといったものであり、上記プロフィール欄の記載内容や上記 投稿内容に照らすと、本件アカウントが複数の者によって管理されていたことはう かがわれず、むしろ、本件アカウントは、1名の個人によって管理されていたもの と推認するのが相当である。また、証拠(甲23、33)及び弁論の全趣旨による と、ツイッターは、いわゆるログイン型サービスであり、ツイートの投稿を行おう とする者は、アカウント名及びパスワード(8文字以上)を入力してログインをし なければならないものと認められるところ、通常、アカウント名やパスワードを第 三者と共有するという事態は余り考えられない。さらに、証拠(甲5、26、27、 35)及び弁論の全趣旨によると、本件アカウントについては、6月26日から9 月21日までの間、合計467回のログインがされているところ、そのうち本件I Pアドレスからは、毎日のようにログインがされており、ログインの回数(合計1 47回)においても、他の各IPアドレスからのログインの回数(例えば、被控訴 人が携帯電話回線に割り当てた各IPアドレスのうち本件アカウントへのログイン に使用された回数が最も多かったのは、「IPアドレス省略」及び「IPアドレス 省略」の各10回にとどまる。)を圧倒していたものと認められるから、本件IP アドレスは、本件アカウントへのログインに使用される最も主要なIPアドレスで あったと評価することができる。以上に加え、本件ログインが本件ツイートの投稿 の約5日半後にされたものであることも併せ考慮すると、本件発信者情報は、本件 ツイートの投稿の後のログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報では あるが、本件ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められ、した がって、法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると認め るのが相当である。
(4)ア この点に関し、被控訴人は、本件IPアドレスは固定回線に割り当てら れたものであるのに対し、本件ツイートはiPhoneにより投稿されたものであ るところ、本件アカウントへのログインに際しては固定回線に割り当てられたIP アドレスと携帯電話回線に割り当てられたIPアドレスとが別々に使用されている から、本件IPアドレスに係る契約者と本件ツイートの投稿の際に使用されたIP アドレスに係る契約者とは異なると主張する。
確かに、証拠(甲1、27、36)及び弁論の全趣旨によると、本件IPアドレ スは、固定回線に割り当てられたものであるのに対し、本件ツイートには、「Tw itter for iPhone」との表示がされ、本件ツイートは、iPho\nne向けのアプリケーションである「Twitter for iOS」を利用し てされたものであると認められる。しかしながら、証拠(甲36)及び弁論の全趣 旨によると、携帯電話を用いてツイッターのアカウントにツイートを投稿する場合、 当該携帯電話が5G回線等の携帯電話回線に接続されているとき又は固定回線を利 用した自宅等のWi−Fiに接続されているときのいずれであっても、当該ツイー トには「Twitter for iPhone」との表示がされるものと認めら\nれるから、本件IPアドレスが固定回線に割り当てられたものであるのに対し、本 件ツイートに「Twitter for iPhone」との表示がされていると\nの事実は、本件IPアドレスから把握される発信者情報(本件発信者情報)が本件 ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められるとの前記結論を左 右するものではない。 なお、証拠(甲28、29)及び弁論の全趣旨によると、携帯電話を用いてイン ターネットに接続する場合、携帯電話回線を利用するときには携帯電話回線に割り 当てられたIPアドレスが使用され、自宅等におけるWi−Fi接続によるときに は固定回線に割り当てられたIPアドレスが使用されるものと認められるから、証 拠(甲5、26、35)によって認められる本件アカウントへのログインの状況に よっても、本件アカウントへのログインに関し、固定回線に割り当てられたIPア ドレス(本件IPアドレス)と携帯電話回線に割り当てられたIPアドレス(「省 略」等)とが別人によって使用されていたものと認めることはできない。

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令和4(ネ)10091  商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和5年3月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 相続において、一部の相続人が商標を出願し、他の相続人に対して、権利行使をしました。1審裁判所は、権利濫用として商標権の行使を認めませんでした。知財高裁も同様です。

控訴人の本件各商標権に基づく各請求が権利の濫用に当たるか否かにつ いて、前記1の認定事実に基づいて検討する。
イ 被控訴人は、E及び同人の子らによって運営されていた山田石材店に係 る個人事業を法人化するために、Eの子ら全員が出資して設立された法人 であり、その後50年以上にわたって継続的に、多磨霊園正門の近隣に所 在する店舗において、墓石の販売等の事業を行ってきた。また、この間、 被控訴人は、法人化する以前と同様に、「丸忠」とも表記され得る漢字の「忠」\nを丸で囲んだ標章や「山田石材店」及び「つなぎ館」の標章等、各被告標 章と同様の標章を、被控訴人及びその事業を表示するものとして使用して\nきた。 これらの事情によれば、各被告標章には、多磨霊園正門の近隣における 墓石の販売等の事業に関する被控訴人の信用が化体しているものといえ る。
ウ 被控訴人は、控訴人代表者(A)の父であるC、被控訴人代表\者(B) の父であるF及びGの3名が設立時の代表取締役となるなど、いわゆる親\n族経営の法人であるといえる。また、控訴人及び被控訴人の各店舗は近隣 に所在する上、控訴人は、平成17年7月頃から被控訴人と同様に墓石等 の販売の事業を行うようになった。 これらの事情によれば、控訴人及び被控訴人は、山田石材店の事業に関 して密接な関係にあるというべきである。
エ 上記ウで挙げた事情を考慮すると、控訴人は、上記イのとおりの被控訴 人の事業内容及び標章の使用状況等を当然に知っていたものといえる。他 方で、控訴人は、平成18年に本件商標2及び3の登録出願をするなどし た後も、被控訴人による各被告標章と同様の標章の使用について、被控訴 人に対して本件各商標権を侵害する行為である旨の指摘をしたことはな く、AがBに対して平成31年1月に乙7の書面を送付した際に初めてそ のような指摘をしたものである上、BがE名義の土地に係る遺産分割協議 への協力を拒んだ後間もなく、被告商標1に係る商標登録無効審判を請求 し、また、本件訴えを提起したものである。
これらの事情を考慮すると、控訴人は、被控訴人が各被告標章と同様の 標章を長年にわたって使用してきたことを知りながら、これを殊更に問題 視することなく互いの事業を行ってきたにもかかわらず、本件各商標権の 登録出願がされてから10年以上が経過した後になって、E名義の土地に 係る遺産分割協議という本件各商標権とは何ら関係のない事柄をきっか けとして、被控訴人に対し、本件各商標権に基づく権利行使に及んだもの とみるのが相当である。
オ 以上のとおりの被控訴人による各被告標章の使用状況、控訴人及び被控 訴人の関係、控訴人が権利行使をするに至った経緯等を総合して考慮する と、控訴人の被控訴人に対する本件各商標権に基づく権利行使は、権利の 濫用として許されないというべきである。

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1審はこちらです。

◆令和3(ワ)2722

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令和4(行ケ)10030 特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月9日  知的財産高等裁判所

異議申立の決定が取り消されました。審判部は、審判は補正は新規事項追加であると判断しました。知財高裁は、新規事項ではないと判断し、これを取り消しました。\n

訂正事項2は、請求項1を引用する請求項4を新たな独立項である請求 項15とし、かつ、「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、 その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く。)」との 事項を追加するものである。
訂正前の請求項1においては、「積層体」について、「少なくとも2層を 有する積層体」と特定しているのにすぎないのであるから、ここにいう積 層体には、「第1の層」、「第2の層」及びその他の任意の層からなる積層 体が含まれることになるところ、「無機酸化物の蒸着膜」及び「蒸着膜上に 設けられたガスバリア性塗布膜」も層を形成するものである以上、この任 意の層に該当するといえる。したがって、訂正前の請求項1における積層 体は、「第1の層」、「第2の層」並びに「無機酸化物の蒸着膜」及び「蒸 着膜上に設けられたガスバリア性塗布膜」からなる積層体(以下「積層体 A」という。)を含んでいたものである。
そうすると、訂正事項2は、「積層体A」を含む訂正前の請求項1におけ る積層体から積層体Aを除くものといえ、このように積層体を特定したこ とにより、訂正前の請求項4に係る発明の技術的発明が狭まることになる のであるから、訂正事項2が特許法120条の5第2項ただし書1号に規 定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかである。
イ 被告は、前記第3の1(2)ア のとおり、訂正事項2は、「積層体」から、 「無機酸化物の蒸着膜」及びその上の「ガスバリア性塗布膜」を「積層体」 内の構成としたものを除く記載とはなっておらず、「積層体」の外に該当す\nる「積層体」の「上」に、新たに「無機酸化物の蒸着膜」を設け、さらにそ の上に「ガスバリア性塗布膜」を設けたものを除くとする記載となってい るから、「積層体」の範囲自体を減縮していない旨主張する。しかし、本件 発明は、「第1の層」及び「第2の層」で完結した積層体を特定事項とする ものではなく、特許を受けようとする発明を、「第1の層」及び「第2の層」 を有する全ての積層体とするいわゆるオープンクレームに該当するもので あるから、権利範囲に含まれる具体的層構成を特定するに当たり、積層体\nの内外を形式的に区別しても意味がない(「第1の層」及び「第2の層」の 外部の層も全て、本件発明における積層体の構成要素となる。)。そして、\n前記アのとおり、訂正事項2における「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜 が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるもの」 の具体的な内容は、「第1の層」、「第2の層」並びに「無機酸化物の蒸着 膜」及び「蒸着膜上に設けられたガスバリア性塗布膜」を備えた積層体であ るから、結局、積層体Aと区別できないものである。したがって、訂正事項 2は訂正前の積層体から積層体Aを除く訂正であり、「積層体」の範囲を減 縮していることになる。
また、被告は、本件訂正事項2のような「除くクレーム」とする訂正は、 第三者に明細書等の記載に関して誤解を与える可能性があり、不測の不利\n益を及ぼす蓋然性が高いものというべきである旨主張する。しかし、被告 主張のような懸念が仮にあったとしても、それは、訂正後の請求項につき、 明確性要件やサポート要件等の適合性を巡って検討されるべき問題という べきであるから、いずれにしても、本件事案において、この点をもって直ち に訂正を認めない理由とすることは相当でない。
ウ 以上のとおりであるから、訂正事項2が特許請求の範囲の減縮を目的と するものに当たらないとした本件取消決定の判断には誤りがある。 また、訂正事項3ないし9が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに 当たらないとした本件取消決定の判断にも誤りがある。
(2) 新規事項の追加の有無について
ア 仮に、本件において、異議手続で審理・判断されていない新規事項の追加 の有無について審理・判断することができるとしても、訂正事項2は、新規 事項を追加するものとは認められない。 すなわち、訂正が、当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合 することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項 を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した 事項の範囲内において」するものと解すべきところ、訂正事項2によって 「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリ ア性塗布膜が設けられてなるもの」を除外することにより、新たな技術的 事項が導入されるわけではなく、新規事項が追加されるものではない。 本件発明の課題は、バイオマスエチレングリコールを用いたカーボンニ ュートラルなポリエステルを含む樹脂組成物からなる層を有する積層体を 提供することであって、従来の化石燃料から得られる原料から製造された 積層体と機械的特性等の物性面で遜色ないポリエステル樹脂フィルムの積 層体を提供すること(【0008】)であるが、上記除外によってこの技術 的課題に何らかの影響が及ぶものではない。
イ 被告は、前記第3の1(2)ア のとおり、訂正事項2は、本件発明の課題 に、引用文献の課題解決手段である「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が 設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜」を追加することで新たな 技術的事項を追加し、その追加した事項を前提に、それを除くとするので あるから、新たな技術的事項を導入するものである旨主張する。 しかし、訂正事項2による除外がされて残った技術的事項には、本件訂 正前と比較して何ら新しい技術的要素はないから、被告の主張は採用でき ない。

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令和4(ネ)10103 損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年3月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

著作者人格権の侵害として、5.5万円の損害賠償が認められました。なお控訴人は、1審では、著作者人格権の侵害を主張していませんでした。

(3) 原告文章2について
ア 原告文章2は、将棋の駒の準備や片付けに関して説明するものであるところ、 その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって(乙19〜24、27、 弁論の全趣旨)、当該内容自体から創作性を認めることはできない。 もっとも、「「雑用は喜んで!」とばかりに下位者が手を出さないようにしまし ょう。」という部分については、控訴人自身の経験に基づき、初心者等が陥りがち な誤りを指摘するため、広く一般に目下の者が「雑用」を率先して行うに当たって の心構えを示したものといい得る表\現を選択し、これを簡潔な形で用いた上で、し かし、逆に、将棋の駒の準備や片付けに関してはこれが当てはまらないことを述べ ることで、将棋の初心者にも分かりやすく、かつ、印象に残りやすい形で伝えるも のといえる。この点、本件番組の制作時に参考にした書籍やウェブサイトである被 控訴人が当審において提出した証拠(乙15〜37。以下「当審提出証拠」という。) のうち駒の準備や片付けについて記載されたもの(乙20〜24、27)にも、類 似の表現は見受けられない。したがって、上記部分は、特徴的な言い回しとして、\n控訴人の個性が表現として現れた創作性のあるものということができ、著作物性を\n有するというべきである。これに対し、原告文章2のうちその他の部分における表\n現は、ありふれたものといえ、控訴人の何らかの個性が表現として現れているもの\nとは認められない。
そして、本件ナレーション等のうち原告文章2に対応する部分においては、正に 上記のとおり創作性のある部分が、感嘆符の有無と「下位者が」を「下位の者は」 と変更する点を除くと一言一句そのままの形で使用されている。 したがって、被控訴人は、原告文章2のうち創作性のある部分について、控訴人 の許諾を得ることなく、また、その著作者名を表示することもなく、これを含む本\n件ナレーション等を本件番組で放送したことにより、控訴人の著作権(公衆送信権) 及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと認められる。\nイ 被控訴人は、「雑用は喜んで!」という表現は、一般社会においても一般的\nに用いられるありふれたものであるなどと主張するが、駒の準備や片付けは上位者 が行うという将棋のルールを踏まえると、それらは将棋の対局において「雑用」と はいえないものである。そのようなものについて、あえて「雑用は喜んで!」との 表現を用いた上で、かつ、逆説的に説明するという特徴的な言い回しをしたという\n点に、控訴人の個性が現れているということができる。前記アの認定判断に反する 被控訴人の主張は採用できない。
・・・
原告文章5は、将棋の「待った」について説明するものであるところ、その 記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって(乙19、21、24、2 6、31〜32、34〜37、弁論の全趣旨)、当該内容自体から創作性を認める ことはできない。 もっとも、「着手した後に「あっ、間違えた!」「ちょっと待てよ・・・」など と思っても、勝手に駒を戻してはいけません。」という部分については、将棋を指 す者が抱き得る感情を分かりやすく簡潔に表現することで、将棋の初心者にも印象\nに残りやすい形で伝えるものといえる。この点、当審提出証拠のうち「待った」に ついて記載されたもの(乙19、21、24、26、32、34〜37)の中に、 類似の表現はほとんど見受けられず、唯一、「仮に駒から手を離した瞬間に「あ、\n間違っている」と気づいたとしても」という類似の表現が用いられているもの(乙\n32)はあるが、原告文章5は、控訴人自身の経験に基づき、感嘆符等の記号を用 いるほか、「あっ、間違えた!」という語と「ちょっと待てよ・・・」という語を 続けてたたみかけることで、将棋を指す者が抱き得る感情とルール又はマナーとし ての将棋の「待った」をより生き生きと分かりやすく、かつ、印象深く表現するも\nのといえる。したがって、上記部分は、控訴人の個性が表現として現れた創作性の\nあるものということができ、著作物性を有するというべきである。これに対し、原 告文章5のうちその他の部分における表現は、ありふれたものといえ、控訴人の何\nらかの個性が表現として現れているものとは認められない。\nそして、本件ナレーション等のうち原告文章5に対応する部分においては、正に 上記のとおり創作性のある部分が、感嘆符及び「・・・」の有無等の点を除き、ほ ぼそのままの形で使用されている。 したがって、被控訴人は、原告文章5のうち創作性のある部分について、控訴人 の許諾を得ることなく、また、その著作者名を表示することもなく、これを含む本\n件ナレーション等を本件番組で放送したことにより、控訴人の著作権(公衆送信権) 及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと認められる。\n

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令和4(行ケ)10037 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年2月7日  知的財産高等裁判所

 空調服に関する特許について、公然実施発明との組み合わせる動機づけありとして、無効理由なしとした審決を取り消しました。

前記aないしdの各記載によると、本件出願日当時、被服の技術分野におい ては、2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、そもそも2つの紐 状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容易ではないとの周知かつ自明の 課題が存在したものと認められる(なお、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、 本件出願日当時に存在した課題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるよ うにすることは非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調 整することができないとの記載がみられるところである。)。 そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成(「前記空調服の\n服地の内表面であって前記襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた紐1と」、\n「前記紐1が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第二 の位置に取り付けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによっ て、空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、甲41\nに「首と襟足の間隔を広くし」との記載(前記(1)イ(イ))及び紐が首の後ろにあ る旨の図示(同)があることからすると、本件公然実施発明に接した本件出願日当 時の当業者は、上記の課題を認識するものと認めるのが相当である。
(イ) 甲30発明’が解決する課題
前記(3)アの記載のとおり、甲30発明’は、「帯紐6a」に「ボタン7a」を、 「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタン7a」を複数ある 「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成を採用することにより、「帯紐\n6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調整し、もって、個人差のある腰回りの大き さに応じて介護用パンツ1を装着することを可能にするというものであるところ、\n甲30に装着の容易さについての記載(段落【0008】、【0009】、【00 11】)があることや、前記(ア)eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願日当 時に被服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願日当時 の当業者は、甲30発明’につき、これを2つの紐状部材を結んでつないで長さを 調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として認識するものと 認めるのが相当である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される 課題と甲30発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当である。
(エ)a この点に関し、被告は、本件公然実施発明の課題は空気排出口の開口部 を形成することであり、甲30に記載された技術事項とは異質のものであり、かつ、 異なると主張する。
しかしながら、前記(1)ア及びイの各記載のとおり、本件公然実施発明は、空調 服の服地の内表面であって襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた「紐1」\nと、「紐1」が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第 二の位置に取り付けられた「紐2」とを備え、「紐1」及び「紐2」を結ぶことに よって、首と襟足との間に形成される空気排出スペースの大きさを調整するもので あるところ、前記(ア)eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願日当時に被服の 技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件公然実施発明に接した 本件出願日当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するための手段であ る「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間で容易ではな いことが本件公然実施発明の課題であると認識するのに対し、前記(イ)のとおり、 本件出願日当時の当業者は、甲30発明’につき、これを2つの紐状部材を結んで つないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として 認識するものと認められるから、本件公然実施発明から認識される課題と甲30発 明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当である。本件公然実施発明が空 調服の首回りの空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、甲30 発明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すなわち、両 者が何を調整するのかにおいて異なることは、課題の共通性に係る上記結論を左右 するものではない(両者は、紐状の部材の締結により被服が形成する空間の大きさ を調整するとの目的ないし効果において異なるものではない。)。 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
b 被告は、本件発明3の課題は斬新であり、これは本件公然実施発明の課題と 甲30に記載された技術事項の課題との共通性を否定する事情となると主張する。 しかしながら、仮に、本件発明3の課題が斬新であったとしても、そのことによ り、本件公然実施発明から認識される課題や甲30発明’が解決する課題に影響を 及ぼすものではないから、被告の上記主張を採用することはできない。
ウ 本件公然実施発明に甲30発明’を適用することについての動機付けの有無
(ア) 前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実施 発明に接した本件出願日当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するた めの手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間 で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するため、同じ被服の技術分野に 属する甲30発明’を採用するよう動機付けられたものと認めるのが相当である。
(イ) この点に関し、被告は、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を 調整できるとの技術常識は存在しなかったから、本件公然実施発明に甲30に記載 された技術事項を組み合わせることはできなかったと主張し、その根拠として、本 件明細書の段落【0006】の記載を挙げる。 しかしながら、前記1(1)のとおり、本件明細書の段落【0006】には、一組 の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは非常に難しく、ほとんどの着 用者は空気排出口の開口度を適正に調整することができなかったことなどが記載さ れているにすぎず、この記載から、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度 を調整することはおよそできないとの技術常識が存在したものと認めることはでき ない。その他、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を調整することはお よそできないとの技術常識が存在したものと認めるに足りる証拠はない。

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令和3(行ケ)10094 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月26日  知的財産高等裁判所

無効理由無し(サポート要件)とした審決が取り消されました。なお、別訴と結論が異なる点については付言で、鑑定書等の新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたので問題ないと説明されています。

これらの開示事項を踏まえると、本件明細書の発明の詳細な説明には、 31H4抗体と競合するものであり、かつ、PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和する抗体として、31H4抗体とアミノ酸配列が異 なる互いにアミノ酸配列の同一性が高いグループの抗体が開示されてい ることが認められる。
ア 以上を前提に検討すると、前記 において説示したとおり、サポート要 件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載 とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記 載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示 唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決で きると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ ると解するのが相当であるところ、前記1 において示したとおり、本件 発明は、LDLRタンパク質の量を増加させることにより、対象中のLD Lの量を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を 奏し、また、この効果により、高コレステロール血症などの上昇したコレ ステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを\n低減すること、そのために、LDLRタンパク質と結合することにより、 対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるP CSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医 薬組成物を提供することを課題とするものであり、PCSK9とLDLR タンパク質との結合を強く遮断する中和抗体である参照抗体と競合する抗 体は、PCSK9への参照抗体の結合を妨げ、又は阻害する単離されたモ ノクローナル抗体であることを明らかにするものであると理解される。
そして、前記 によれば、本件発明における「中和」とは、タンパク質 結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作 用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節する以外に、間接的な手段(リ ガンド中の構造的又はエネルギー変化等)を通じてLDLRタンパク質に\n対するPCSK9の結合能を変化させる態様を含むものであるが、前記1\nのとおり、参照抗体自体が、結晶構造上、LDLRのEGFaドメイン\n(PCSK9の触媒ドメインに結合するものであり、その領域内に存在す るPCSK9残基のいずれかと相互作用し、又は遮断する抗体は、PCS K9とLDLRとの間の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る とされるもの)の位置と部分的に重複する位置でPCSK9とLDLRタ ンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体であ ると認められることを踏まえると、本件発明における「PCSK9との結 合に関して、31H4抗体と競合する」との発明特定事項も、31H4抗 体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、L DLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して(具体的には、抗体が結晶構\n造上、LDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置でPCSK9に 結合して)、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮 断し、低下させ、又は調節することを明らかにする点に技術的意義がある ものというべきであり、逆に言えば、参照抗体と競合する抗体は、このよ うな位置で結合するからこそ、中和が可能になるということもできる。こ\nの点は、被告自身が、前記第3の3 ウにおいて、本件明細書の発明の詳 細な説明によれば、当業者は、出願時の技術常識に照らし、参照抗体との 競合によってPCSK9上の複数の結合面のうち特定の領域内の特定の 位置(LDLRのEGFaドメインと結合する部位と重複する位置(又は 同様の位置))に結合する抗体は、PCSK9とLRLRタンパク質の結合 を中和することができると理解するものであり、発明の技術的範囲の全体 にわたって発明の課題を解決できると認識することができたといえる旨 主張していることからも裏付けられるところである。
また、前記1 において認定した甲1文献の開示事項によれば、家族性 高コレステロール血症は、血漿中のLDLコレステロールレベルの上昇に 起因するものであるところ、PCSK9は、細胞表面に存在するLDLR\nタンパク質の存在量を低下させるものであるため、PCSK9が治療のた めの魅力的な標的であり、血漿中のPCSK9に結合し、そのLDLRタ ンパク質との結合を阻害する抗体等が効果的な阻害剤となり得ることが 既に示されていたものと認められるのであるから、このような観点から見 ても、本件発明の技術的意義は、31H4抗体と競合する抗体であれば、 31H4抗体と同様のメカニズムにより、上記のようなLDLRタンパク 質との結合を阻害する抗体、すなわち結合中和抗体としての機能的特性を\n有することを特定した点にあるということもできる。そもそも本件発明の 課題は、前記1 イにおいて認定したとおり、LDLRタンパク質と結合 することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの 量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗 体又はこれを含む医薬組成物を提供することであり、このような課題の解 決との関係では、参照抗体と競合すること自体に独自の意味を見出すこと はできないから、このような観点からも、上記のとおり、本件発明の技術 的意義は、31H4抗体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同様の メカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有することを特定\nした点にあるというべきである。
イ さらに検討すると、前記 イ のとおり、本件明細書の発明の詳細な説 明には、エピトープビニングを行った結果、31H4抗体と同一性が高い とはいえないアミノ酸配列を有するグループの抗体が31H4抗体と競 合するものとして同定されたことが開示されている。本件明細書には、上 記競合する抗体として同定された抗体の中で中和活性を有すると記載さ れる抗体がPCSK9上へ結合する位置についての具体的な記載はなさ れておらず、31H4抗体とアミノ酸配列が異なるグループの抗体につい ては、エピトープビニングのようなアッセイで競合すると評価されたこと をもって、抗体がPCSK9上に結合する位置が明らかになるといった技 術常識は認められない以上、PCSK9上で結合する位置が明らかとはい えない。
また、本件発明の「PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する」 との性質を有する抗体には、上記本件明細書の発明の詳細な説明に具体的 に記載される数グループの抗体以外に非常に多種、多様な抗体が包含され ることは自明であり、また、前記2 イのとおり、このような抗体には、 被告が主張するように、31H4抗体がPCSK9と結合するPCSK9 上の部位と重複する部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻 害する(例えば、低下させる)抗体にとどまらず、参照抗体とPCSK9 との結合を立体的に妨害する態様でPCSK9に結合し、様々な程度で参 照抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下 させる)抗体をも包含するものである。そうすると、その中には、例えば、 31H4抗体がPCSK9と結合する部位と異なり、かつ、結晶構造上、\n抗体がLDLRのEGFaドメインの位置とも異なる部位に結合し、31 H4抗体に軽微な立体的障害をもたらして、31H4抗体のPCSK9へ の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)もの等も含ま れ得るところ、このような抗体がPCSK9に結合する部位は、抗体が結 晶構造上、LDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置ではないの\nであるから、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して、PCSK9 とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は 調節するものとはいえない。
なお、本件明細書には「例示された抗原結合タンパク質と同じエピトー プと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質及び断片は、類似の機能的\n特性を示すと予想される。」(【0269】)との記載があるが、上記のとお\nり、「PCSK9との結合に関して31H4抗体と競合する」とは、31H 4抗体と同じ位置でPCSK9と結合することを特定するものではない から、31H4抗体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同じエピト ープと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質(抗体)であるとはいえ ず、このような抗体全般が31H4抗体と類似の機能的特性を示すことを\n裏付けるメカニズムにつき特段の説明が見当たらない以上、本件発明の 「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する抗体」が31H 4抗体と「類似の機能的特性を示す」ということはできない。\n前述のとおり、本件発明の技術的意義は、31H4抗体と競合する抗体 であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とLDL Rタンパク質との結合を中和する抗体としての特性を有することを特定 する点にあるというべきところ、前記のとおり、31H4抗体と競合する 抗体であれば、LDLRのEGFaドメインと相互作用する部位(本件明 細書の記載からは、EGFaドメインの5オングストローム以内に存在す るPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相 互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残基(コア残基)、EGFaド メインの5オングストロームから8オングストロームに存在するPCS K9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相互作用界 面の境界PCSK9アミノ酸残基と理解され得る。)に結合してPCSK 9とLDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖するとはいえず、他には、 31H4抗体と競合する抗体であれば、どのようなものであっても、PC SK9とLDLRのEGFaドメイン(及び/又はLDLR一般)との間 の相互作用(結合)を阻害する抗体となるメカニズムについての開示がな い以上、当業者において、31H4抗体と競合する抗体が結合中和抗体で あるとの理解に至ることは困難というほかない。
ウ 以上のとおり、「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する 抗体」であれば、31H4抗体と同様に、LDLRタンパク質の結合部位 を直接封鎖して(具体的には、抗体が結晶構造上、LDLRのEGFaド\nメインの位置と重複する位置でPCSK9に結合して)、PCSK9とL DLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節 するものであるとはいえないから、「PCSK9との結合に関して、31H 4抗体と競合する抗体」であれば、結合中和抗体としての機能的特性を有\nすると認めることもできない。なお、前記 アのとおり、本件発明におけ る「中和」とは、PCSK9とLDLRタンパク質結合部位を直接封鎖す るものに限らず、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー変化\n等)を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させ\nる態様を含むものではあるが、「PCSK9との結合に関して、31H4抗 体と競合する抗体」であれば、上記間接的な手段を通じてLDLRタンパ ク質に対するPCSK9の結合能を変化させる抗体となることが、本件出\n願時の技術常識であったとはいえないし、本件明細書の発明の詳細な説明 に開示されていたということもできない。
エ こうした点は、前記1 においてその信頼性を認定した【A】博士の実 証実験の結果及び同実証実験を踏まえた【B】博士の供述書 からも裏付 けられる。すなわち、この実証実験は、リジェネロンの63の抗体につい て参照抗体との競合及び結合中和性を実験したものであるが、競合に関し て50%の閾値を用いた結果、34の抗体が参照抗体と競合するが、うち 28の抗体(80%よりも多く)は結合中和性を有しないことが確認され ており(別紙3の資料B1及び前記1 ア b)、参照抗体と競合する抗体 であれば結合中和性を有するものとはいえないことが具体的な実験結果 として示されている。さらに、この実験結果に加え、「本件特許によれば、 31H4抗体の結合部位はhPCSK9上のLDLRの結合部位と部分 的にしか重複しないから・・別の抗体の結合部位は、LDLRの結合部位 と重複することなく31H4結合部位と重複し得るのであり、このように して、別の抗体は、hPCSK9−LDLRの結合部位と重複することな く31H4結合部位と重複し得」る(前記1 ア b)として、【B】博士 が、「31H4抗体と競合する抗体・・・の全てが結合を中和する効果を有 するだろうというのは確実に誤りである。」旨の意見を述べているところ である(前記1 ア c)。
オ 被告は、前記第3の3 ウにおいて、31H4抗体(参照抗体)と競合 するが、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和できない抗体が 仮に存在したとしても、そのような抗体は、本件発明1の技術的範囲から 文言上除外されているなどとして、本件発明がサポート要件に反する理由 とはならない旨主張する。しかし、既に説示したとおり、31H4抗体と 競合する抗体であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、PCS K9とLDLRタンパク質との結合中和抗体としての機能的特性を有す\nることを特定した点に本件発明の技術的意義があるというべきであって、 31H4抗体と競合する抗体に結合中和性がないものが含まれるとする と、その技術的意義の前提が崩れることは明らかである(本件のような事 例において、結合中和性のないものを文言上除けば足りると解すれば、抗 体がPCSK9と結合する位置について、例えば、PCSK9の大部分な どといった極めて広範な指定を行うことも許されることになり、特許請求 の範囲を正当な根拠なく広範なものとすることを認めることになるから、 相当でない。)。なお、被告が主張するように、本件発明1の特許請求の範 囲は、PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する抗体のうち、「P CSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」る抗体のみ を対象としたものであると解したとしても、前示のとおり、本件発明のP CSK9との競合に関して、参照抗体と競合するとの発明特定事項は、被 告が主張するような、参照抗体が結合する位置と同一又は重複する位置に 結合する抗体にとどまるものではなく、PCSK9とLDLRタンパク質 の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体をも含 むものであるから、このような抗体についても結合中和抗体であることが サポートされる必要があるところ、参照抗体が結合する位置と同一又は重 複する位置に結合する抗体の場合とは異なり、PCSK9とLDLRタン パク質の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体 が結合を中和するメカニズムについては本件明細書には何らの記載はな く、また、ビニングによる実験結果(前記 イ )に基づく結合中和抗体 は、いずれも結合中和に係るメカニズムが開示されている、参照抗体が結 合する位置と同一又は重複する位置に結合する抗体である可能性が高く、\nその点を措くとしても、少なくともこれらが立体的に妨害する抗体である ことを示唆する記載はない。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明 には、参照抗体と競合する抗体のうちPCSK9とLDLRタンパク質と の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体が結合 中和活性を有することについて何らの開示がないというほかなく、この点 からも、本件発明はサポート要件を満たさない。
また、前記第2の3 のとおり、本件審決は、本件明細書には、本件明 細書記載の免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウ スの作製及び選択、選択された免疫化マウスを使用したハイブリドーマの 作製、本件明細書記載のPCSK9とLDLRとの結合相互作用を強く遮 断する抗体を同定するためのスクリーニング及びエピトープビニングア ッセイを最初から繰り返し行うことによって、十分に高い確率で本件発明\nの抗体をいくつも繰り返し同定することが具体的に示される旨判断する が、【F】(【F】)教授(【F】教授という。)の第2鑑定書(甲230)に 「特定のマウスが特定の抗体を生成するかどうかは運に支配されるため、 候補となり得る抗体を全て生成しスクリーニングすることは不可能であ\nる」と記載されているように、本件明細書に記載された抗体の作製過程を 経たとしても、免疫化されたマウスの中でPCSK9上のどのような位置 に結合する抗体が得られるかは「運に支配される」ものであって、抗体の 抗原タンパク質への結合を立体的に妨害する態様で抗原タンパク質に結 合する抗体を製造する方法が本件出願時における技術常識であったとも いえないことからすると、本件明細書に記載された抗体の作製方法に関す る記載をもって、本件発明に含まれる多様な抗体が本件明細書の発明の詳 細な説明に記載されていたとはいえない。
カ そして、本件発明1のモノクローナル抗体を含む医薬組成物に係る発明 である本件発明5も、上記同様の理由から、サポート要件を満たすもので はない。
以上によれば、本件発明1及び5は、いずれもサポート要件に適合するも のと認められないから、これと異なる本件審決の判断は誤りである(なお、 原告の主張のうち前記第3の3 イ の「EGFaミミック抗体」に係る点 は首肯するに値するものを含み、サポート要件が満たされているとする被告 の主張に疑義を生じさせるものと考えるが、この点に関する判断をするまで もなく、上記のとおり、本件発明1及び5は、いずれもサポート要件に適合 するものとは認められないから、更なる判断を加えることは差し控えること とする。)。
以下、念のために付言する。
ア 本件発明を巡る国際的状況について、原告は、欧州では、異議申立抗告\n審において、令和2年に、本件発明と実質的に同じ対応欧州特許について、 進歩性欠如により無効であると判断されており、また、米国では、合衆国 連邦巡回区控訴裁判所において、令和3年2月11日に、本件発明より限 定された対応米国特許につき、実施可能要件違反により無効であると判断\nされており、現在、我が国は、本件特許の有効性が裁判所により維持され ている世界で唯一の国である旨主張し、他方、被告は、上記連邦巡回区控 訴裁判所の判断につき、連邦最高裁判所は、令和4年11月4日に、裁量 上告受理申立てを認めたので、上記判断が覆される可能\性が極めて高い旨 主張するが、もとより、他国における判断が本件判断に直ちに影響を与え るものではないことは明らかである(なお、米国については、仮に、連邦 巡回区控訴裁判所の無効判断が覆されたとしても、対応米国特許は、参照 抗体との「競合」を発明特定事項とするものではないと認められるから(例 えば、米国特許8829165特許の請求項1は、「PCSK9に結合する とき、次の残基:配列番号3のS153、I154、P155、R194、 D238、A239、I369、S372、D374、C375、T37 7、C378、F379、V380、又はS381の少なくとも1つに結 合し、PCSK9がLDLRに結合するのを阻害する、単離されたモノク ローナル抗体」との発明特定事項である(甲19)。)、いずれにしても本件 発明に係る判断に直接関係しない。)。
イ 本件発明に係る別件審決取消訴訟においては、前記第2の1 のとおり、 サノフィによるサポート要件違反に関する主張は退けられている。しかし、 これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、31H4抗体と競合する抗体は、 31H4抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し31H4抗体と 同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによるもの\nと理解することも可能である。これに対し、本訴においては、【A】博士や\n【B】博士の各供述書、【F】教授の鑑定書等(甲18、230)による構\n造解析、「EGFaミミック抗体」に係る関係書証(甲4の1及び2)等の 新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたにもかかわらず、 この前提を支える判断材料が見当たらないのであるから、別件判決の結論 と本件判断が異なることには相応の理由があるというべきである。

◆判決本文

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令和4(ネ)10061  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月9日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審は29-2違反の無効理由有りとして、権利行使不能と判断しました。本件特許1を再訂正しましたが、知財高裁も再訂正後の発明について29-2違反の無効理由有りと判断しました。なお、再訂正発明については、審判では先願との同一性なしと判断されています。

(3) 争点3−1(引用発明1−1に基づく本件再訂正後発明1の拡大先願要件違 反の有無)について
ア 構成要件1D−1及び1D−4−1について\n
(ア) 控訴人は、引用発明1−1の押さえ部は可動であり、仮に可動ではない場合 を含むとしても、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体を巻き出 す又は巻き取る構成は乙10公報に開示されていないと主張する。\n
(イ) しかしながら、乙10公報には、押さえ部を固定する場合を排除するような 記載はない。そして、「スクリーン本体4が被磁着体90に近接した位置にあると、 スクリーン本体4が被磁着体90に磁着しやすくて引き出し操作をスムーズに行い 難いし、スクリーン本体4の表面に傷が付くことがあることから、引き出しを開始\nする前に、図4に示すように、ベース板11に可動片12を重ね合わせた状態(ロ ック状態)にして、押さえ部5を被磁着体90から離した態様(第1配置態様)に 固定する。」(【0043】)との記載は、特許請求の範囲の請求項3に係る発明の実 施例に係るものと認められる。また、上記記載からすると、スクリーン本体4の引 き出し操作をスムーズに行うことができ、スクリーン本体4の表面に傷が付くおそ\nれがない場合には、引き出し時に、押さえ部を非磁着体(本件再訂正後発明1にお ける「設置面」)から離す必要がないものと読み取ることができる。さらに、乙1 0公報には、請求項3に係る発明の実施例についての説明として、「前記押さえ部 5を被磁着体90から離した第1配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着 体90との離間間隔(距離)は、20mm〜70mmに設定されるのが好ましい (図4参照)。」(【0049】)、「前記押さえ部5を被磁着体90に近接させた第2配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着体90との離間間隔(距離)は、 1mm〜15mmに設定されるのが好ましく、中でも2mm〜8mmに設定される のが特に好ましい(図3、5参照)。」(【0050】)との記載があることからして、引用発明1−1においても、押さえ部と被磁着体との位置関係にはある程度の幅が あることが想定されているといえるところ、押さえ部と被磁着体との間の距離を調 整することによって、スクリーン本体の引き出し操作をスムーズに行うことができ、 かつ、スクリーン本体の表面に傷が付くおそれがないようにすることが可能\である ことは、当業者にとって明らかであるといえる。 そうすると、乙10公報には、押さえ部を固定した構成が開示されていると認め\nるのが相当である。
(ウ) 上記を前提とすると、乙10公報の【図5】のような構成で押さえ部を固定\nすることも当然に想定されるから、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリ ーン本体を巻き出す又は巻き取る構成も、乙10公報に開示されていると認められ\nる。乙10公報の【図1】〜【図6】は、いずれも押さえ部を可動とした場合(す なわち請求項3に係る発明)の実施例であると認められるのであって、これらの図 をもって、乙10公報に、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体 を巻き出す又は巻き取る構成が開示されていないということはできない。\n
(エ) したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
イ 構成要件1D−4−2について\n
・・・
(ウ) ところで、乙10公報には、「前記可動体24の先端部26の横断面視での 外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面に形成さ れているので(図10参照)、引き出し操作の際のスクリーン本体4の傷付きを十\n分に防止することができる。」(【0062】)、「前記可動体24の先端部26の横断面視での外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面 に形成されているので(図10参照)、巻き取り操作の際のスクリーン本体4の傷 付きを十分に防止することができる。」(【0066】)との記載があり、これらの記\n載における「稼働体24の先端部26」は引用発明1−1の「押さえ部」に相当す る部分であることから、引用発明1−1において、押さえ部の横断面視の形状を円 弧面としているのは、引き出し操作及び巻き取り操作の際に、スクリーン本体が傷 付くことを防止するためであるものと認められる。そうすると、乙10公報には、 押さえ部の構成を工夫することによって、引き出し操作及び巻き取り操作の際にス\nクリーン本体が傷付くことを防止することが開示されているといえる。
(エ) そして、シートと接触する部分を回転可能とすることによる効果も、シート\nの移動時にシートが傷付くことを防止するというものである。 そうすると、引用発明1−1において、横断面視の形状が円弧面である押さえ部 を回転可能とし、その結果、押さえ部に接触しながら巻き出され又は巻き取られる\nスクリーンの摺動接触に起因して押さえ部が回転するものとすることは、当業者が 押さえ部の構成の工夫として適宜選択する範囲のものにすぎないと認めるのが相当\nである。
・・・・
ウ 構成要件1D−4−3について\n
・・・
(イ) 乙31(平成24年12月18日付けの株式会社ケイアイシーの商品カタロ グ)、乙32(特開2006−178916号公報)及び乙33公報には、ケース から巻き出す形態のスクリーン装置において、ケースに取手が設けられているもの が開示されており、本件特許1の出願当時、本件再訂正後発明1のようなマグネッ トスクリーン装置の技術分野において、ケースに取手を設けることは周知・慣用手 段であったと認められる。そして、引用発明1−1において収納ケースに取手を設 けることは、当業者が、運搬の便宜等のため、必要に応じて適宜選択できることで あると認められる。
(ウ) 控訴人は、本件再訂正後発明1においては、ケーシングを移動させてシート を巻き出す使用態様のために「取手部」が必須であるのに対し、引用発明1−1で は収納ケースを移動させてシートを巻き出すような使用形態は想定されていないか ら、収納ケースに「取手部」に相当する部材を設けることについては開示も示唆も ないと主張するが、本件再訂正後発明1においても、ケーシングではなく「操作バ ー」側を移動させてスクリーンを巻き出す態様も想定されているし(本件明細書1 の【0051】、【図12】)、また、取手部ではなく、ケーシング自体を保持して移 動させることが可能であることは明らかであるから、ケーシングを移動させてシー\nトを巻き出すために「取手部」が必須であるという上記控訴人の主張は採用できな い。
(エ) したがって、引用発明1−1は、構成要件1D−4−3に相当する構\成を含 むものと認めるのが相当である。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和2年(ワ)3297号

本件特許1は以下です。

第6422800号

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令和4(ネ)10079  著作権侵害による損害賠償、損害賠償反訴請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年1月31日  知的財産高等裁判所  横浜地方裁判所

 知財高裁(4部)は、1審と同じく、原告設計図の著作物性を否定しました。なお、原審はアップされていません。

 控訴人は、前記第2の3(1)アのとおり、設計図は、工事に携わる者の間の 共通言語であり、特に、設計者と施工者が異なる場合は、設計図面以外での 詳細な情報伝達手段はないから、原告設計図全体では創作性があると認めら れるべきである旨主張する。しかし、設計図が工事に携わる者に共通して利 用されるものであることは、むしろ、多くの場合、様々な関係者が施工内容 を理解することができるよう、作図上の表現方法や内装の具体的な表\現は実 用的、機能的でありふれたものにならざるを得ないことを示すものというべきであり、現に、原告設計図や原告設計図の具体的な表\現内容が実用的、機能的でありふれたものであることは、引用に係る原判決第4の2(3)における 説示のとおりである。 また、控訴人は、前記第2の3(1)イのとおり、原告設計図作成時点におい て被控訴人運営に係る既存店は、第三者が経営する店舗を譲り受けたものに すぎず、デザイン構築上準備段階のものであり、本件店舗が、被控訴人の経営する系列店舗で初の旗艦店であるから、原告設計図は創作性を有する旨主\n張する。しかし、ここで問題となっているのは、被控訴人運営に係る各店舗 に統一感を持たせる観点から、内装のデザインには一定の制約があったとい うことであり、各店舗の具体的な内装の先後関係ではないから、上記主張は 採用できない。
(2) 前記(1)によれば、原告設計図や原告内装について著作物性が認められない 以上は、その他の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない というほかないが、念のために、控訴人の前記第2の3(2)記載の主張につい ても触れると、建物やその内装の完成のための手段であり、通常それ自体が 鑑賞の対象となるものではない設計図の性質からして、設計に係る契約にお いては、特段の合意がない限り、設計報酬とは別に設計図ないし内装の著作 権についての使用料請求権が設計者に留保されるとは認め難く、本件で特段 の合意がされたと認めるべき証拠もない。これを裏返して言えば、控訴人は、 本件設計等契約において、被控訴人に対し、原告設計図に基づき、自ら又は 第三者をして本件店舗の内装工事を施工し、工事完了後は本件店舗で親子カ フェの営業を行うこと等を当然に了承していたもので、著作権ないし著作者 人格権を行使しないことが契約締結の前提となっていたものというべきであ る。 なお、原告設計図に基づき本件店舗の内装が施工されたことは事実であり、 また、補正の上引用した原判決第2の2(2)オのとおり、一審被告キャピタラ ンドと訴外アイ・イーエスとの間の本件店舗の内装工事に係る請負契約では、 デザイン・設計料は別途とされたものであるところ、それにもかかわらず控 訴人が誰からも設計図に係る報酬を得られないことについては同情すべき面 もあるが、報酬請求権が時効消滅した以上、やむを得ないというほかない。

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令和2(ワ)19221  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月28日  東京地方裁判所

 特101条1項2号の間接侵害について、本件各発明の実施にのみ用いる場合を含んでおり、単なる規格品や普及品であるということはできないとして、汎用品ではないと判断されました。

以上によれば、洗濯に用いるために洗濯ネットに被告製品を封入して 製造された物品は、本件各発明の技術的範囲に属する。
ウ 「その物の生産に用いる物」について 前記イのとおり、洗濯に用いるために洗濯ネットに被告製品に係る金属 マグネシウムの粒子を封入して製造された物品は、本件各発明の技術的 範囲に属するから、被告製品は、本件各発明に係る物の生産に用いる物 であるといえる。
(2) 「課題の解決に不可欠なもの」について
本件明細書の記載によれば、本件各発明の課題は、洗濯後の繊維製品に残 存する汚れ自体を、金属マグネシウム(Mg)単体の作用により減少させる ことによって、生乾き臭の発生を防止しようとするものであり(【000 6】)、かかる課題を解決するために、金属マグネシウム(Mg)単体と水と の反応により発生する水素が、界面活性剤による汚れを落とす作用を促進さ せることを見出し(【0007】)、構成要件1Aの「金属マグネシウム(M\ng)単体を50重量%以上含有する粒子」を洗濯用洗浄補助用品として用い る構成を採用したものであると認められる。\n
そして、被告製品は、前記(1)イ(ア)のとおり、構成要件1Aを充足するも\nのであり、本件ウェブページには、被告製品を洗濯に用いることで、金属マ グネシウム(Mg)単体の作用により洗濯後の繊維製品に残存する汚れ自体 を減少させ、生乾き臭の発生を防止することができることが示唆されている から、本件ウェブページの記載を前提とすると、被告製品は、本件各発明の 課題の解決に不可欠なものに該当するというべきである。
(3) 「日本国内において広く一般に流通しているもの」について ア 特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般に流通している もの」とは、典型的には、ねじ、釘、電球、トランジスター等の、日本 国内において広く普及している一般的な製品、すなわち、特注品ではな く、他の用途にも用いることができ、市場において一般に入手可能な状\n態にある規格品、普及品を意味するものと解するのが相当である。 本件においては、前記(1)アのとおり、被告製品には、購入後に洗濯ネ ットに入れて洗濯用洗浄補助用品を手作りし、洗濯物と一緒に洗濯をす る旨の使用方法が付されている。そして、本件明細書には、洗濯用洗浄 補助用品として用いられる金属マグネシウムの粒子の組成は、金属マグ ネシウム(Mg)単体を実質的に100重量%含有するものがより好ま しく(【0020】)、洗濯洗浄補助用品として用いられる金属マグネシウ ムの粒子の平均粒径は、4.0〜6.0mmであることが最も好ましい (【0022】)と記載されているところ、前記(1)イのとおり、被告製品 は、これらの点をいずれも満たしている。そうすると、被告製品を洗濯 ネットに封入することにより、必ず本件各発明の構成要件を充足する洗\n濯用洗浄補助用品が完成するといえるから、被告製品は、本件各発明の 実施にのみ用いる場合を含んでいると認められ、上記のような単なる規 格品や普及品であるということはできない。 以上によれば、被告製品は、「日本国内において広く一般に流通してい るもの」に該当するとは認められない。
イ これに対し、被告は、被告製品に係る金属マグネシウムの粒子と同じ構\n成を備える金属マグネシウムの粒子が市場に多数流通しており、遅くと も口頭弁論終結時までには、日本国内において広く一般に流通している ものになったといえると主張する。 しかし、「日本国内において広く一般に流通しているもの」の要件は、 市場において一般に入手可能な状態にある規格品、普及品の生産、譲渡\n等まで間接侵害行為に含めることは取引の安定性の確保の観点から好ま しくないため、間接侵害規定の対象外としたものであり、このような立 法趣旨に照らすと、被告製品が市場において多数流通していたとしても、 これのみをもって、「日本国内において広く一般に流通しているもの」に 該当するということはできない。 したがって、被告の主張は採用することができない。
(4) 主観的要件について
間接侵害の主観的要件を具備すべき時点は、差止請求の関係では、差止請 求訴訟の事実審の口頭弁論終結時である。 そして、前記前提事実(4)のとおり、原告製品は、令和2年1月頃までに は、全国的に周知された商品となっていたこと、本件ウェブページには、被 告製品の購入者によるレビューが記載されているところ、令和2年4月から 同年7月にかけてレビューを記載した購入者45人のうち、20人の購入者 が、被告製品をネットに封入して洗濯に使用した旨を記載しており、7人の 購入者が「まぐちゃん」、「マグちゃん」、「洗濯マグちゃん」、「洗濯〇〇ちゃ ん」などと、洗濯用洗浄補助用品である原告製品の名称に言及したと解され る記載をしていることを認めるに足る証拠(甲111)が提出されているこ とからすると、被告は、遅くとも口頭弁論終結時までには、被告製品に係る 金属マグネシウムの粒子が、本件各発明が特許発明であること及び被告製品 が本件各発明の実施に用いられることを知ったと認められる(当裁判所に顕 著な事実)。
これに対し、被告は、被告製品については、構成要件1Aの「網体」に\nは含まれない、布地の巾着袋等に被告製品を入れて洗濯機に投入して洗濯 を行う使用方法などが想定されていたのであり、被告には被告製品が本件 各発明の実施に用いられることの認識はない旨主張する。 しかし、「網」は、被告が主張する意味のほかにも、「鳥獣や魚などをと るために、糸や針金を編んで造った道具。また、一般に、糸や針金を編ん で造ったもの。」(広辞苑第7版)の意味もあると認められること、本件明 細書においては、「網体」の意義について、「本発明の洗濯用洗浄補助用品 は、複数個の、マグネシウム粒子を、水を透過する網体で封入したもので あるので、使用時には洗濯槽に入れやすく、使用後には洗濯槽から取り出 しやすいものとなっている。」(【0023】)、「この網体の素材は、耐水性 があるものであれば、各種天然繊維、合成繊維を用いることができるが、 強度が高く、使用後の乾燥が容易で、洗濯時に着色傾向の小さいポリエス テル繊維を用いることが好ましい。」(【0024】)、「この網体自体の織り 方としては、水を透過するものであれば各種の織り方が採用できる。」(【0 025】)と記載されているのみで、網目の細かさについては言及されてい ないことからすると、被告が主張する使用方法も、本件各発明を実施する 態様による使用方法であることに変わりはないといえる。 したがって、被告が、購入者が構成要件1Aの「網体」には含まれない、\n布地の巾着袋等に被告製品を入れて洗濯機に投入して洗濯を行う使用方法 が想定されていたとしても、被告において被告製品が本件各発明の実施に 用いられることの認識があったことを否定する事情とはならなない。

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令和4(ワ)1848  特許権移転登録手続  特許権  民事訴訟 令和5年2月6日  大阪地方裁判所

 在職中の職務発明であって原告が特許を受ける権利を有しているとして、移転登録を求めましたが、裁判所はこれを認めませんでした。

原告は、訴状とともに提出した令和4年3月4日付証拠説明書において、甲 12規程の作成年月日を平成26年1月1日としていたこと、被告は、令和4 年8月9日付準備書面において、甲12規程の存在を否認し、その根拠として、 甲12規程に用いられる「取得」「相当の利益」との文言は、平成27年7月に 公布され、平成28年4月1日に施行された特許法等の一部を改正する法律 (平成27年法律第55号)で初めて採用されたものであって、平成26年1 月1日時点でこのような文言が使われた規程が存したのは極めて不自然であ ると指摘したこと、原告は、平成4年9月20日付け原告第1準備書面におい て、前記第3「2」【原告の主張】のとおり主張したこと、はいずれも当裁判所 に顕著である。
(2) 本件において、甲12規程は、原告が本件各発明に係る特許を受ける権利 を原始取得する根拠として不可欠のものであって、訴え提起の段階で、甲12 規程が適用されるかどうかについては、その制定過程及び本件各発明の完成時 期や被告代表者の退職時期との関係で慎重に検討されるはずのものである。し\nかも、この経緯は、専ら原告の領域内の事情であり、かかる検討を阻むものは ない。 しかるところ、原告は、当初甲12規程の作成日時を平成26年1月1日と 特定したにもかかわらず、被告から文言の不自然さを指摘されるや、その制定 日は平成30年9月3日であって、平成26年1月1日にさかのぼって適用さ れると主張したものであって、このように主張が変遷した経緯自体、被告代表\n者が原告に在職中に甲12規程が制定されたことを疑わしめるに十分である。\nまた、そのように作成されたのであれば、甲12規程は、制定日を明らかにし た上、同規程の適用を定めた10条は「さかのぼって適用する」と表現するの\nが自然と思われるが、同条にはそのような遡及適用の趣旨は記載されていない し、制定日も書かれていない。遡及の限度が平成26年1月1日である根拠も 何ら示されていない。
加えて、甲12規程が、被告代表者の原告退職時期に近接した平成30年9\n月3日に真実制定されたというのであれば、原告と被告代表者間で当然に退職\n時に本件各発明に係る特許を受ける権利の帰属について協議ないし確認がさ れるものと考えられる。しかし、原告は、被告代表者が原告を退職した後本件\n各発明について特許出願がされたことを知った後も、本件各特許権に係る発明 の実施品と思料されるボックス容器に関する大王製紙、原告、被告の取引に継 続して関与していたことを自認しているのであって、かかる協議や確認がされ たこともうかがえないどころか、被告が権利者であることを前提とした行動を とっているものというべきである。
(3) その他原告の提出する証拠等も、前記認定の経緯に照らすと採用の限りで なく、結局、平成30年9月3日当時を含め、被告代表者が原告に在職する期\n間中に、甲12規程が適法に制定されたと認めるに足りる証拠はないといわざ るをえない。
2 前記1によると、争点1に関わらず、原告が甲12規程により本件各発明に係 る特許を受ける権利を取得したとは認められない。本件各発明に適用される就業 規則(乙1)によっても、原告が特許を受ける権利を承継したとは認められない し、また当該承継の事実を被告に対抗できない(特許法34条1項)。 なお、原告は、当裁判所が口頭弁論を終結する予定の期日として指定した令和\n4年12月16日の期日の直前に、同年11月29日付け準備書面により本件各 発明を原始取得させる旨の黙示の合意が存した旨の主張をした。同主張はそもそ も時機に遅れた攻撃防御方法というべきであるが、前判示のとおり、本件各発明 において適用されるべき就業規則(乙1)が存するところ、かかる明示の合意の ほかに、原告主張の従業員が原告名義の特許出願に異を唱えなかった等の事情か ら特許を受ける権利の移転等に関する黙示の合意が成立する余地はないという べきであって、原告の主張は、それ自体失当である

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令和4(行ケ)10089  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年1月31日  知的財産高等裁判所

赤い靴底のハイヒールで有名なルブタンの色商標が、識別力無しとして拒絶されました。3条2項の適用も認められませんでした。裁判所も同じです。

2 単一の色彩のみからなる商標の商標法3条2項の該当性について 本願商標は、別紙1 及び の記載から特定される色彩のみからなるもの であり、女性用ハイヒールの靴底部分に赤色(PANTONE 18-1663TP)とす る構成からなるものである。\nこのように本願商標は、単一の色彩のみからなり、その色彩を付する位置 を上記部分に特定した商標である。 商標法3条1項は、自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商 標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる旨を 規定し、同項3号において、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、\n用途、形状(包装の形状を含む。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期そ の他の特徴、数量若しくは価格」を「普通に用いられる方法で表示する標章\nのみからなる商標」を掲げる。 同号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされる趣旨は、このような商 標は、商品の産地、販売地、品質その他の特性を表示記述する標章であって、\n取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、\n特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとと もに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、 商標としての機能を果たし得ないことによるものと解される(最高裁昭和5\n3年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事1 26号507頁参照)。
そして、商品の色彩は、商品の特性であるといえるから、同号所定の「そ の商品の・・・その他の特徴」に該当するものと解される。そして、商品の 色彩は、古来存在し、通常は商品のイメージや美観を高めるために適宜選択 されるものであり、また、商品の色彩には自然発生的なものや商品の機能を\n確保するために必要とされるものもあることからすると、取引に際し必要適 切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、原則として何人も\n自由に選択して使用できるものとすべきであり、特に、単一の色彩のみから なる商標については、同号の上記趣旨が強く妥当するものと解される。 他方で、商標法3条2項は、同条1項3号に該当する商標であっても、「使 用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識 することができるもの」については、同項の規定にかかわらず、商標登録を 受けることができる旨規定する。 商標法3条2項の趣旨は、同条1項3号に該当する商標であっても、特定 の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した結果、その商標が その商品又は役務と密接に結びついて出所表示機能\を持つに至り、公益上の 見地から不適当とされていた特定人による当該商標の独占的使用を例外的に 認めるということにある。
こうした商標法3条2項の趣旨に照らせば、自由選択の必要性等に基づく 公益性の要請が特に強いと認められる、単一の色彩のみからなる商標が同条 同項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務である ことを認識することができるもの」に当たるというためには、当該商標が使 用をされた結果、特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益性の 例外として認められる程度の高度の自他商品識別力等を獲得していること (独占適応性)を要するものと解するべきである。
なお、色彩のみからなる商標等を商標登録の保護の対象とした平成26年 法律第36号改正附則5条3項には、不正競争の目的なく登録商標又はこれ に類似する商標を使用していた者に継続的使用権を認める旨の規定があるが、 これはあくまで「法律の施行の際に現にその商標の使用をしてその商品・・・ に係る業務を行っている範囲内において」その商品等に関する商標を使用す る権利を認めるにすぎず、こうした改正附則の規定があるからといって、色 彩のみからなる商標登録において特定人による色彩の独占適応性を考慮する ことを否定する理由にならないというべきである。

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不競法についての関連事件です。

◆令和4(ネ)10051

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令和4(行ケ)10095 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年2月22日  知的財産高等裁判所

 特許庁は、図形「X」と文字「GAME」の結合商標が、図形「X」と類似するとして拒絶しました。知財高裁も同様です。

(イ) 本願商標は、外観においては、全体として、輪郭線のほとんどが鋸歯 状になった、右下に伸びる帯が左上に伸びる帯より長い「X」型の十字形状といった印象を与えるものということができ、そのような漠然とし\nた印象によって需要者に記憶されるものといえる。そして、本願商標は、 「X」型の十字形状ではあるが、特定の文字又は事物を表\しているとは 直ちに認識できないから、これより特定の称呼及び観念は生じない。 他方、前記1(1)イ及び(2)イのとおり、引用商標1及び引用商標2は、 いずれも「X」型の十字形状ではあるが、特定の文字又は事物を表\して いるとは直ちに認識できないから、これより特定の称呼及び観念が生じ るとは認められない。
そうすると、本願商標と各引用商標は、いずれも特定の称呼及び観念 を生じないため、称呼及び観念において相互に比較することはできない。
(ウ) このように、本願商標と各引用商標は、称呼及び観念において比較で きないが、外観において類似しているから、それによって需要者、取引 者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本願商 標と各引用商標は、これらを同一又は類似の商品について使用するとき は、その商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあり、類似する 商標であると認められる。 したがって、本件審決が、本願商標と各引用商標が類似である(本件 審決3(1)ア(ウ)〔本件審決3頁〕)とした判断に誤りはない。
(エ) なお、前記1(1)イ(ア)及び(2)イ(ア)のとおり、各引用商標は、その外観か ら、全体として、輪郭線のほとんどが鋸歯状になった、右下に伸びる帯 が左上に伸びる帯より長い「X」型の十字形状といった印象を与えるものであるところ、仮に、このような印象のみにより、各引用商標が「エ\nックス」の称呼及び観念を生じるとするならば、本願商標も、全体とし てそのような印象を与える点で共通するといえるから(前記(2)ア)、本願 商標も「エックス」の称呼及び観念を生じるということになる。 したがって、本願商標と各引用商標は、外観において類似し、称呼及 び観念において同一ということになるから、類似するといえる。
イ この点に関して、原告は、「X」をデザインする図形商標は多数存在し、 外観上識別し得るポイントが一つでもあれば、非類似とされている(甲1 4の1〜19、甲15、甲16)と主張するが(前記第3の2〔原告の主 張〕(3))、原告の挙げる証拠によっても、外観上識別し得るポイントが一つ でもあれば、非類似とされているとは認められず、原告の上記主張は採用 することができない。
また、原告は、本願商標と各引用商標を比較すると、本願商標が、組み 合わされた2本の帯状の図形を重ね合わせた幾何学的図形であり、重なり 合った部分に奥行き感があり立体風であるのに対して、各引用商標は、「X」 型十字の白抜きの図形であり平らな印象を与える点、「X」型の十\字の交点 から右下に伸びる部分と左上に伸びる部分の長さの比が大きく異なる点、 本願商標が図形内部に破線を有するのに対し各引用商標は図形内部を空白 で表している点等、外観上識別し得るポイントにおいて多々異なる点がある旨主張する(前記第3の2〔原告の主張〕(3))。 しかし、前記(2)ア及びイで述べたところによれば、本願商標と各引用商 標は、いずれも「X」型の十字が左側(反時計回り方向)に傾いた形で組み合わされた2本の帯の図形からなり、帯の輪郭線のうち、短辺が直線、\n長辺が鋸歯状に表されている点、及び「X」型の十\字の交点から右下に伸 びる部分が左上に伸びる部分よりも長くなっている点において共通して おり、全体として、輪郭線のほとんどが鋸歯状になった、右下に伸びる帯 が左上に伸びる帯より長い「X」型の十字形状といった印象を与え、そのような漠然とした印象によって需要者に記憶されるという点において共\n通するものであり、原告の上記主張に係る相違点は、上記の共通点に比較 してささいな部分であり、殊更強い印象を与えるものではなく、それらの 相違点があることから、本願商標と各引用商標が非類似であるとはいえな い。
さらに、原告は、取引の実情を考慮すると、需要者は商品のデザインに 細部まで注意を払って確認するから、原告主張の外観上の差異は、顕著な 差異として看者に強い印象を与えるものであり、そのため、本願商標と各 引用商標を判然と区別することができ、これらが相紛れるおそれはないと 主張する(前記第3の2〔原告の主張〕(3))。 しかし、前記(3)のとおり、原告の主張する取引の実情は、商品デザイン (意匠)に関するものであり、商標の類否判断に直接影響するものとはい えないし、指定商品全般についての一般的、恒常的な取引の実情ではなく、 商標の類否判断に当たり考慮することのできる取引の実情に該当すると はいえないから、原告の上記主張は採用することができない。 加えて、原告は、関連商標の登録異議決定(甲6)において、関連商標 が各引用商標と非類似とされていることを指摘し、関連商標と各引用商標 との間の相違点は、本願商標と各引用商標との間にも存在するから、統一 的な解釈の観点からも、本願商標と各引用商標は類似しないと判断すべき であると主張する(前記第3の2〔原告の主張〕(3))。しかし、本願商標と各引用商標が類似することは前記アのとおりであり、関連商標の登録異議決定があるとしても、それにより、この結論が左右されることはない。

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令和2(ワ)3473  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年1月23日  大阪地方裁判所

 照明器具について技術的範囲に属するとして、約2億円の損害賠償が認められました。102条2項の推定覆滅8割と判断されました。

ア 本件各発明の技術的意義
本件明細書上、本件発明1には、ブラケットを放熱部に取り付けることに より外装部の変形及び破損を防止すること(本件意義1)及び放熱部製造時 の不良率の低減(本件意義3)があるものと読み取れる。原告はこれに加え、 外装部が放熱部におけるブラケットの接続部分よりも後方に延びている構\n造により、ユーザーが、ブラケットが取り付けられている位置よりも後方の 外装部を掴み、自らの手が照明器具の照射する光を遮らずに、照射範囲を正 確に把握しながら照射方向を変更することを可能とする技術的意義(本件意\n義2)がある旨主張するが、本件明細書に記載はなく、構成要件Hとして追\n加された経緯等をふまえると(甲11の1、14の1)、後付けの感をぬぐえ ず、本件各発明の直接の作用効果としての意義は乏しい。
イ 本件各発明の技術的意義が被告製品の売り上げに貢献する程度等
(ア) 本件意義1について
スポットライト製品一般は、本件特許発明より相当前から市場に存在 し、既に成熟した市場が形成されており(乙5、弁論の全趣旨)、市場動向 調査によれば、スポットライト製品は、演色性や色温度などにおいて高い 付加価値を有する製品の開発が期待されている状況にあり(乙30、3 1)、原告、被告、競合他社のカタログ等において、配光制御・特性、光色、 レンズ設計、省エネ、製品の大きさ、軽さ、デザイン等が訴求されている こともうかがえる(甲5、6、乙15、16、25ないし29) これに対し、外装部の変形及び破損防止という本件意義1は、いわば製 品として当然に担保されるべき機能及び要素であるといえ、また、材質、\nブラケットの取付方法及び取付部分の構造の工夫等、本件各発明以外の技\n術によっても実現可能であり、現に各照明器具メーカーにおいて一般に実\n現している効果であると考えられる。 また、原告は、平成26年以降、原告実施品と同じシリーズ名・製品名 で、ブラケットを放熱部ではなく外装部に取り付け、外装部を厚肉とする ことで外装部の変形及び破損の防止を実現した原告後継品を販売してい る(弁論の全趣旨)。すなわち、本件意義1は、これを欠いても、同一シリ ーズ・製品として顧客に販売することが可能な程度の顧客誘引力しか有し\nないと評価し得る。このことは、カタログに文言上本件意義1が明示され てないとしても、商品の写真から本件意義1に係る特徴を看取できること を考慮しても同様である。
(イ) 本件意義3
本件意義3は、不良率低減という製造コスト削減に寄与するものである といえるが、本件意義3によるコスト削減(製品価格への反映)の程度が 不明であること等を踏まえると、被告製品の利益に対する寄与度が大きい とは認められない。
(ウ) 以上のような事情を踏まえると、本件意義1及び3の顧客誘引力は限 定的であり、本件意義1及び3が被告製品の売り上げに貢献する程度は低 いと言わざるを得ない。
ウ 原告実施品の販売実績等
原告は、本件期間前に原告実施品の販売を開始した後、本件登録日(平成 28年8月5日)以降は在庫品限りとして原告実施品を販売するにとどまっ ており、平成28年以降の原告実施品の販売数は16個である(甲17、1 8)。 このように、原告が本件登録日以降原告実施品を製造しておらず、その販 売方法(販路)等が相当程度限定され、その規模も極めて小さいことや、原 告が原告後継品を販売しているものの、当該製品が本件各発明とは異なる技 術により本件各発明と同様の作用効果を奏していることは、前記(1)で説示 した特許法102条2項の推定の前提事実を欠くとまでいうことはできな いものの、本件推定を大きな割合で覆滅させる事情というべきである。
エ 競合品の存在
本件期間中、ブラケットが外装部ではなく、放熱部を含む別の部分に取り 付けられているという特徴を有する製品は、パナソニックのTOLSOシリ\nーズ(乙25)、オーデリックのC1000シリーズ(乙27の2ないし27 の4)、三菱電機のAKシリーズ、彩明シリーズ、鮮明シリーズ及びLEDス ポットライトシリーズ(乙29)をはじめ、複数存在する。これらの製品は、 原告実施品及び被告製品と価格帯も概ね同程度である。 以上の事情に鑑みると、被告製品には、競合品が存すると認められ、かか る競合品の存在も推定を覆滅させる事情に当たる。
オ 原告の市場占有率
被告は、スポットライト市場又は店舗用照明市場における原告の市場占有 率が低いとして、被告製品が存在しない場合、その需要の多くが競合他社の 製品へ流れ、原告実施品を販売できたはずであるとはいえない旨主張する。 しかし、被告が主張する原告を含む照明器具メーカーの市場占有率は、ス ポットライトを含む店舗用照明器具市場における機器全般ついてのもので あって、スポットライト以外の幅広い商品群を含むものと解されるから、原 告実施品等との関連が乏しく、推定を覆滅させる事情に当たるとはいえな い。
カ 覆滅の程度
以上の事情、とりわけ本件特許発明の技術的意義や実施品の販売状況を重 視した上総合的に考慮すると、本件においては、被告製品の販売がなかった 場合に、これに対応する需要が原告実施品ないし原告後継品に向かう蓋然性 はむしろ低いとみるべきであって、特許法102条2項により推定された損 害の8割について覆滅されるというべきである。これに反する原告及び被告 の各主張はいずれも採用できない。

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令和4(ワ)70046    商標権  民事訴訟 令和5年1月31日  東京地方裁判所

 登録商標「MG996R」(標準文字)の侵害として、約5万円の損害賠償が認められました。損害額として、権利取得のための出願時印紙代および登録料が認めされました。

関係法令の定めに照らせば、本件商標権の取得に通常要する費 用は1万2000円(特許法等関係手数料令4条2項の一)、維持に通常要 する費用は3万2900円(商標法40条1項、商標法施行令4条1項) と認められる。 したがって、商標法38条5項に基づく損害額は合計4万4900円と なる。
(2) 侵害行為差止めのための通知に要した費用
証拠(甲7、8、10)によれば、原告は、令和4年6月11日、被告に 対し、特定記録郵便により、本件ウェブページの削除のほか、本件商品の輸 入及び販売の停止並びに回収を求める内容の本件文書を発送したこと、被告 は、その頃、本件文書を受領したこと、その郵便料金が244円であったこ とがそれぞれ認められる。これらの認定事実に照らせば、本件文書の送付は、被告による違法な行為を排除するためのものといえるから、その送付に要した費用は、被告の不法 行為と相当因果関係がある損害というべきである。

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令和4(ネ)10078  不当利得返還請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟の控訴審判決です。1審の東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n控訴審において、控訴人(1審原告)は訂正の再抗弁をしました。知財高裁(4部)は、「本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加える」として、訂正の再抗弁について、判断がなされています。

ア 時機に後れた攻撃防御方法に当たるかについて
控訴人は、第4次訂正に係る訂正の再抗弁は、特許庁による令和4年4 月21日付けの審決の予告を受けてした第4次訂正請求に係るものであ\nって、本件特許に係る特許権侵害訴訟における手続においても当然に主張 できるものと考えるようである(同主張によって第3次訂正に係る訂正の 再抗弁が取下げ擬制されたとも主張している。)が、特許権侵害訴訟におい て無効の抗弁とその対抗主張ともいうべき訂正の再抗弁は、特許権の侵害 に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決するため、 特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことなく主張することが できるものとされたにすぎず、特許無効審判とは別の手続である民事訴訟 手続内でのものであるから、審理の経過に鑑みて、審理を不当に遅延させ るものであるときは、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下 されるべきである。
そこで、原審における審理経過についてみると、控訴人は、原審におい て、第1回弁論準備手続期日(令和元年11月18日)における本件特許 が新規性及び進歩性を欠く旨の無効の抗弁の主張(被告第1準備書面)を 受けて、第3回弁論準備手続期日(令和2年7月27日)までに、第2次 訂正に係る訂正の再抗弁に係る原告第2準備書面を提出したが、本件無効 審判の手続における訂正請求に合わせて、第3次訂正に係る訂正の再抗弁 を記載した令和3年3月3日付け原告第5準備書面及び同年5月27日 付け原告第6準備書面を提出した(これらの準備書面は、第4回弁論準備 手続期日(令和3年12月16日)において、訂正書面を含めて陳述され た。)。原判決は、第2次訂正及び第3次訂正に係る訂正の再抗弁はいずれ も訂正要件を充足せず、本件特許は特許無効審判により無効とすべきもの と判断したところ、控訴人は、控訴理由書で、第4次訂正に係る訂正の再 抗弁の主張を追加したものである。 こうした原審での審理経過に鑑みると、第4次訂正は、時機に後れて提 出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたことについて控訴人に は重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4 次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る 訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅 延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとす る。

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令和3(ワ)4439  損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年2月21日  大阪地方裁判所

不競法2条1項7号の不正開示行為として、損害賠償を求めましたが、秘密管理性なしとして、請求棄却されました。

原告は、本件早見表及び本件情報につき、被告P1が小堀鐸二研究所との契\n約上、本件早見表の利用許諾の対象を原告のみとしようとしたこと、原告が小堀鐸\n二研究所との契約上、秘密保持義務を負っていること、本件早見表のデータを保有\nしていたのは限られた人間だけであったこと、外部への持出しが禁止されていたこ と、被告P1が原告代表者として、原告内部で本件情報を共有するにあたり、取扱\nいを十分注意するよう呼び掛けていたこと、個別の現場において本件早見表\を用い るにあたって必要箇所以外はマスキングしていたこと、富士ネット工業において秘 密として管理されていたことから、原告において秘密として管理されていたと主張 する。
しかしながら、証拠(甲9、10)によれば、原告と小堀鐸二研究所との契約は 非独占的利用許諾の形式がとられている上、本件早見表の利用許諾の対象が、当初\n「原告及び原告の登録会員」であったものが、「原告及び原告の協力会社」と修正 されたにすぎないから、この変更が何ら原告や被告P1が本件情報を秘密として管 理していたことを示すものとはいえない。また、小堀鐸二研究所との契約上、原告 が秘密保持義務を負っているとしても、原告が現実に本件情報を秘密として管理し ていたかどうかには直接の関連性がない。前記(1)ア及びエ認定のとおり、本件早 見表を保有していたのは13名ないし14名の原告の従業員のうち、主に営業を行\nう5名ほどの者であったことが認められるものの、業務上必要のある者が保有して いたというにすぎず、他の従業員のアクセスが制限されていたとは認められない。 また、本件早見表の外部への持出しが禁じられていたこと、被告P1が原告におい\nて本件情報の取扱いを十分注意するよう呼び掛けていたことについては、いずれも\n被告P1が否定しているところ、原告の主張を裏付ける客観的な証拠は全くない。
さらに、個別の現場において本件早見表を取引先等に示す場合に必要箇所以外がマ\nスキングされていたからといって、本件情報の一部を担当者の判断で第三者に自由 に開示していることに変わりはなく、これをもって原告が本件情報を秘密として管 理していたとはいえない。加えて、富士ネット工業における本件早見表や本件情報\nの管理体制は、原告において秘密として管理されていたかどうかとは関連性がな く、被告P1が富士ネット工業在籍時に、本件情報の取扱いを注意するよう求める メールを他の従業員に送信していたとしても、富士ネット工業退職後、原告を設立 してからも同様の行動をしたことが推認されるわけではないし、前記(1)エ認定の とおり、被告P1が富士工業ネット工業在籍中に、本件早見表のデータにつき、そ\nの取扱いや電磁的記録媒体の紛失に注意を促す以外に、アクセス制限や拡散防止の 措置を講じていたものとも認められない。 本件情報の内容についても、天井部材落下防止ネットを張る際のいくつかの仕様 の組合せにより各支持部にかかる想定荷重について構造計算をした結果が一覧でき\nるため、便利ではあるが、仕様が異なればそのまま利用することはできないもので あるし、第三者が一級建築士等に依頼して独自に同種の早見表を作成することが困\n難とまではいえないから、本件情報を営業秘密として管理すべき必要性が客観的に 高いとは解されない。 そして、前記認定のとおり、本件早見表のデータは、営業秘密であることの表\示 等の措置のないままに、原告の従業員らの使用するコンピュータや持ち運び可能な\n電磁的記録媒体に保存されていたものであり、その使用後も、情報漏洩を防止する 何らの措置も採られなかったことなどに鑑みると、これらの情報は、いずれも秘密 として適切に管理されているとはいえず、秘密として管理されていると客観的に認 識可能な状態であったともいえない。\nその他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用 できない。
ウ そうすると、その余の点について検討するまでもなく、本件情報は、秘密管 理性が認められず、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当しない。

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令和4(行ケ)10093  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年2月22日  知的財産高等裁判所

商標「ハートデンキサポート」と「HEART」が類似すると判断されました。

前記イのとおり、本願商標の構成中の「デンキサポート」という部分は、\nその言葉の意味のみからしても、取引者、需要者に、電気器具や電力を使 って運転する機械を含む電気に関する事柄を支え、支持し、支援し、助け ることを意味すると理解される場合が少なくないものと認められ、前記ウ のとおり、実際に、電気及び電気工事に関する業界においては、「でんきサ ポート」又は「電気サポート」の語は、電気に関する工事、修理及びトラ ブル対応といったサービスを表す語として使用されており、それらの語は、\n電力会社、ガス会社などを含めた複数の会社のウェブサイトに掲載されて いることから、一般人を含む取引者、需要者にも、上記サービスを表す語\nとして認識し得る状態で使用されているものといえる。そうすると、本願 商標の構成中の「デンキサポート」という部分は、取引者、需要者により、\n電気に関する工事、修理及びトラブル対応といったサービスを表す語とし\nて認識されるものと認められる。
他方、本願商標の指定役務(前記第2の1(1)イ及び(3))のうち、電気設 備設置工事、家庭用電熱用品類の設置工事、ポンプの修理又は保守、業務 用冷凍機械器具の修理又は保守、電子応用機械器具の修理又は保守、電気 通信機械器具の修理又は保守、民生用電気機械器具の修理又は保守、照明 用器具の修理又は保守、電動機の修理又は保守、配電用又は制御用の機械 器具の修理又は保守、発電機の修理又は保守、業務用食器洗浄機の修理又 は保守、業務用電気洗濯機の修理又は保守は、いずれも電気に関する工事、 修理及びトラブル対応といったサービスに該当するものと認められる。
そうすると、本願商標の構成中の「デンキサポート」という部分は、取\n引者、需要者により、本願商標の役務の内容、質を表しているものとして\n認識されるものと認められ、自他役務識別標識としての機能がないか、又\nは希薄な部分と認識されるものと認められる。 したがって、本件審決の同旨の判断(本件審決3(1))に誤りはない。
オ 原告の主張に対する判断
原告は、「デンキ」からは「電気」、「電器」及び「電機」が想起されると ころ、それらの内容は明確に異なり、「デンキ」の文字からは、その内容を 特定できないし、工事の対象であるとしても、工事の対象物が特定できな いから、本願商標の構成中の「デンキサポート」の部分が役務の内容を示\nしているということはできず、むしろ、その部分は一種の造語として認識 されるとし、したがって、本件審決が、本願商標の構成中の「デンキサポ\nート」の部分は、役務の質を表したものとして、自他役務識別標識として\nの機能がないか、あるいは希薄な部分と理解されるにとどまるというのが\n相当であると判断したのは誤りである旨主張する(前記第3〔原告の主張〕 1(1))。 しかし、「デンキ」は、「電気」、「電器」及び「電機」のいずれにしても、 電気に関する事柄を意味すると理解され(前記イ)、電気及び電気工事に関 する業界における実際の用例(前記ウ)も考慮すると、本願商標の構成中\nの「デンキサポート」の部分は、取引者、需要者により、電気に関する工 事、修理及びトラブル対応といったサービスを表す語として認識され、本\n願の指定役務と照らし合わせると、取引者、需要者により、本願商標の役 務の内容、質を表しているものとして認識され、自他役務識別標識として\nの機能がないか、又は希薄な部分と認識されるものと認められるから(前\n記エ)、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 「ハート」の部分の自他識別標識としての機能について\n
ア 本願商標の構成中の「ハート」の部分は、本願の指定役務の内容、質等\nとは関係がないから、本願の指定役務との関係で、自他役務識別標識とし ての機能を発揮するものと認められる。他方、前記(2)エのとおり、本願商 標の構成中の「デンキサポート」という部分は、取引者、需要者により、\n本願商標の役務の内容、質を表しているものとして認識されるものといえ、\n自他役務識別標識としての機能がないか、又は希薄な部分と認識されるも\nのと認められる。そして、本願商標が標準文字からなり、その全体が一連 に表記されていること(前記(1))を考慮しても、本願商標の構成中の「ハ\nート」の部分と「デンキサポート」の部分は、それらを分離して観察する ことが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと は認められず、より強く自他識別標識として認識される「ハート」の部分 に着目し、その部分より生ずる称呼及び観念をもって取引に当たる場合も 少なくないものと認められる。 したがって、本件審決の同旨の判断(本件審決3(1))に誤りはない。
イ 原告は、結合商標について、商標の構成部分の一部を抽出して類否を判\n断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別 標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外 の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合 などを除き、許されないというべきであるとした上で、本願商標は、全体 としてまとまりのある一体的な構成からなることに加えて、「ハー卜」の部\n分は、我が国において親しまれた片仮名語であり、広く使用されているこ とからも、その部分が強く支配的な印象を与えるものとはいい難く、殊更 に「ハート」の部分に着目するというのは不自然でもあり、本願商標は構\n成全体をもって、特定の観念を生じない一体の造語を表したものと認識し、\n把握するというのが自然であるといえるとし、したがって、本件審決が、 本願商標の構成中の「ハート」の部分は、自他役務識別標識としての機能\ を発揮する部分であるから、より強く自他識別標識として認識される「ハ ート」の部分に着目し、この部分より生ずる称呼及び観念をもって取引に 当たる場合も少なくないというのが相当であると判断したのは誤りである 旨主張する(前記第3〔原告の主張〕1(2))。 しかし、仮に本願商標が結合商標であるとしても、前記(2)エのとおり、 本願商標の構成中の「デンキサポート」という部分は、取引者、需要者に\nより、本願商標の役務の内容、質を表しているものとして認識されるもの\nと認められ、自他役務識別標識としての機能がないか、又は希薄な部分と\n認識されるから、本願商標の構成中、「ハート」という部分を抽出し、この\n部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは 許されるというべきである。そして、「ハート」という語が、我が国におい て親しまれた片仮名語であり、広く使用されているとしても、本願商標の 構成中の「ハート」の部分は、本願商標の指定役務の内容、質等とは関係\nがなく、本願の指定役務との関係で、自他役務識別標識としての機能を発\n揮するものと認められるから、原告の上記主張は採用することができない。

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令和4(行ケ)10101  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年3月7日  知的財産高等裁判所

特許庁は、商標法4条1項5号(紋章の保護)違反として拒絶しました。原告はパリ条約6条の3(1)(a)の国内法実施の義務を履行していないと主張しましたが、知財高裁はこれを認めませんでした。パリ条約の改正の経緯などにも触れてます(フランス語の表記は表\示できないため、一部アルファベットに変換しました)

原告は、前記1 のとおり、パリ条約の解釈に相違があるときはフランス文 によるとの条項(29条(1)(c))を前提に、パリ条約6条の3(1)(a) の「a defaut d'autorisation des pouvoirs competents,」(所管官庁の許可 がない場合)が「, par des mesures appropriees,」(適当なる方法に依り禁止 する)だけに係るのではなく、「de refuser ou d'invalider l'enregistrement et d'interdire,」(登録を拒絶し又は無効とし)にまで係るものと解釈される べきであり、同条項の公定訳(「同盟国は、同盟国の国の紋章、旗章その他の 記章、同盟国が採用する監督用及び証明用の公の記号及び印章並びに紋章学上 それらの模倣と認められるものの商標又はその構成部分としての登録を拒絶し\n又は無効とし、また、権限のある官庁の許可を受けずにこれらを商標又はその 構成部分として使用することを適当な方法によつて禁止する。」)は、誤訳で\nあって、これを前提とした商標法4条1項5号は、パリ条約6条の3(1)(a) の国内法実施の義務を履行していない旨主張する。
し か し 、 原 告 が 指 摘 す る 「 a defaut d'autorisation des pouvoirs competents,」(権限のある官庁の許可を受けずに)は、原文上、「l'utilisation,」 と「,」で続けて副詞句として挿入されており、文言において、この「a defaut d'autorisation des pouvoirs competents, 」 が 「 d'interdire ・ ・ ・ l'utilisation」(使用を禁止する)のみに係るものであるのか、「de refuser ou d'invalider l'enregistrement et d'interdire,」(登録を拒絶し又は無効 とする)にも係るものであるのか、文法的には、どちらと読むことも可能であ\nることや、「権限のある官庁の許可を得ていない」という文言が、当初は 「d'interdire・・・l'utilisation」のみに係るものとして起草されていたと ころ、起草委員会が総会に示した条約案では、上記原文に書き換えられ、その まま確定したことにより、文法的には2通りの解釈が可能になったことは、【A】\n意見書も指摘するとおりであるから、日本語公定訳のとおり、「a defaut d'autorisation des pouvoirs competents, 」 が 、 「 d'interdire ・ ・ ・ l'utilisation」のみに係ることを前提としても、パリ条約6条の3(1)(a) の誤訳であると断じることはできない。
また、仮に、原告が指摘するような解釈、すなわち、「権限のある官庁の許 可を受けない」同盟国の紋章等の商標又はその構成部分としての登録を拒絶し、\n又は無効とするとの解釈を採用するとしても、同規定は、「権限のある官庁の 許可」を受けた登録出願をどのように取り扱うについてまで規定するものでは ない(これらの紋章等の「商標又はその構成部分としての登録を拒絶し又は無\n効とし」とされていることの反対解釈として、それ以外の場合は当然に登録を しなければならない義務を本条約が締結国に課したと解することはできない。) から、そもそも同条に基づき、我が国が「権限のある官庁の許可」を受けた登 録出願を拒絶してはならない義務を負うものではないし、同条を根拠として商 標法4条1項5号の適用範囲を狭めて「登録をしなければならない」ものと解 釈されるべきものでもない。
3 その他に原告が種々主張する点を精査しても、権限のある官庁やその許可を 得た者がパリ条約6条の3(1)(a)に規定する監督用・証明用の記号や印 章について登録出願をした場合において、その登録をしなければならないこと を根拠付けるものは見当たらない。したがって、同条に基づく義務の不履行を 理由とする原告の主張は、いずれにしても失当というほかない。

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令和4(行ケ)10122  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年3月9日  知的財産高等裁判所

 「朔北カレー」が「サクホク」と類似するした審決が取り消されました。興味深いのは「朔北カレー」という一体認識で非類似ではなくく、分離自体は認めた上、「朔北」と「サクホク」は非類似と判断したことです。

本願商標は「朔北」と「カレー」からなる結合商標であるところ、前記のとおり、 「カレー」の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じるということはでき ない一方で、「朔北」については、需要者、取引者をして、「北の方角」又は「北方 の地」を表す単語として理解されるにすぎず、具体的な地域を表\すものと理解され るものではないから、指定商品との関係において、出所識別標識としての称呼、観 念が生じ得るといえる。そして、需要者、取引者をして、「朔北カレー」を一連一体 のものとしてのみ使用しているというような取引の実情は認められない。 そうすると、本願商標について、各構成部分がそれを分離して観察することが取\n引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないから、 「朔北」の部分のみを抽出して他人の商標と比較して商標の類否を判断することも 許されるというべきである。
(3) 本願商標と引用商標の類否 以上を踏まえ、本願商標における「朔北」の部分(本願要部)と引用商標を比較 して、類否を検討する。
ア 外観
本願要部は「朔北」という2文字の漢字からなるのに対し、引用商標は「サクホ ク」の4文字の片仮名からなり、外観が明らかに異なる。
イ 称呼 本願要部の称呼は「さくほく」であり、引用商標の称呼も「さくほく」であるか ら、同一である。
ウ 観念
本願要部からは「北の方角」「北方の地」の観念を生じるものであるのに対し、「サ クホク」は、辞書等に掲載されていない造語であって、特定の観念を生じないもの であるから、観念が明らかに異なる。
エ 以上のとおり、本願要部と引用商標は、称呼が共通するものの、外観及び観 念は明確に異なっているところ、需要者、取引者が「朔北」から引用商標である「サ クホク」や引用商標の権利者を想起するというような取引の実情はなく、また、本 願商標及び引用商標の指定商品において、需要者、取引者が、専ら商品の称呼のみ によって商品を識別し、商品の出所を判別するような実情があるものとは認められ ず、称呼による識別性が、外観及び観念による識別性を上回るとはいえないから、 本願商標及び引用商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につ き誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。

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令和4(行ケ)10012等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年2月16日  知的財産高等裁判所

齋藤創造研究所の特許についてAppleが無効審判を請求し、特許庁は無効理由なしと判断しました。知財高裁は、審決を維持しました。被告は、IPOD関連のクリックホイールの発明について特許権を有しており、別訴でAppleから不存在確認訴訟を提起され、反訴請求し、約3億円の損害が認められています(平成19(ワ)2525)。

甲1発明は、前記(1)のとおり、従来の制御信号供給装置では、制御信号 を継統的に発生させることができず、 磁気テープに対する連続的な走行 制御が行えないという課題を解決するため、接触操作面を有するととも にこれに関連して円環状に配列された複数の接触操作検出区分が設けら れ、各接触操作検出区分から出力されるタッチパネルとの構成を採用し、\nテープ駆動系に供給される制御信号を、特殊変速再生モード状態におい て磁気テープを所望の一方向に、所望の速度で走行させる制御を任意の 時間だけ連続的に行えるようにしたものである。 一方、周知技術1は、タッチ位置検知手段(タッチパネル)により一次 元又は二次元座標上の位置データを検出することで画面上のカーソル等\nの位置データが設定され、プッシュスイッチ手段により当該設定された 位置データが確定されて入力情報となるものと理解できる。そうすると、 周知技術1は、位置データを入力する装置に関する技術であって、タッ チパネルとプッシュスイッチが協働して位置データを入力する機能を果\nたすものであるといえる。
磁気テープの走行方向や走行速度を制御するための甲1発明のタッチ パネルと、走行方向や走行速度という要素を含まない位置データを入力 する装置に関する周知技術1とは、制御する対象が異なるし、たとえ両 者がタッチパネルという共通の構成を有するとしても、磁気テープの制\n御信号供給装置である甲1発明において、位置データを入力する装置に 関するものである周知技術1を適用することが容易であるとはいえない。 結局のところ、甲1発明に、周知技術1を適用できるとする原告らの 主張は、実質的に異なる技術を上位概念化して適用しようとするもので あり、相当でない。 仮に、周知技術1を、タッチパネルによる選択をプッシュスイッチで 確定して何らかの入力情報を生成する技術であると上位概念化して理解 したとしても、甲1発明は、プッシュスイッチに割り当てるべき機能(選\n択を確定する機能)をそもそも有さないし、甲1文献には、タッチパネル\nにより磁気テープの走行方向や走行速度を連続制御することは記載され ているが、タッチパネルにより選択された走行方向や走行速度を確定す る操作や、当該操作に対応するボタン等の構成は記載も示唆もないから、\n甲1発明に、周知技術1を適用する動機付けがない。
原告らは、前記第3の1(1)ア のとおり、甲1発明のタッチパネル1 1も接触点を一次元座標上の位置データDpとして検出するものである し、本件特許発明であれ周知技術1であれ、タッチパネルの下にプッシ ュスイッチを設けることの作用効果は、タッチパネルの下にプッシュス イッチを設けること自体に由来するものであって、プッシュスイッチの 上にあるタッチパネルの形状等や操作態様等にも依存しないから、周知 技術1は、上位概念化するまでもなく甲1発明に適用可能であり、当該\n適用は、先行技術の単なる寄せ集め又は設計変更である旨主張する。
しかし、原告らの主張は、前記 において説示した、甲1発明において 選択を確定する機能がない点等を看過しているものであるし、周知技術\n1において、位置データを入力する機能はタッチパネルの形状や操作態\n様等には依存しないとしても、そのことが同周知技術におけるタッチパ ネルとプッシュスイッチの機能的又は作用的関連を否定する根拠とはな\nらないし、機能的又は作用的関連が否定できない以上、周知技術1を甲\n1発明に適用することが単なる寄せ集め又は設計変更とはいえない。し たがって、原告らの上記主張は採用できない。

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令和4(行ケ)10011  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年2月15日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反で拒絶審決がなされました。知財高裁は審決を維持しました。\n

原告は、本願明細書等の段落【0222】及び【0223】の記載のほ か、段落【0014】の記載によれば、本願明細書等には、本願各発明 が従来のジョセフソン効果の原則を超越する存在であることが示唆され\nており、その他の段落において発明の構成例や各実施例も開示されてい\nるから、当業者は、電子対の生成過程や巨視的波動関数の位相特定の情 報が不明であっても、本願明細書等の記載を参照して、本願各発明を容 易に実施することができる旨主張する。 そこで検討するに、上記イで検討したとおりの本願明細書等の段落 【0014】の記載からすれば、本願各発明においては、「第1導体」及 び「第2導体」の抵抗値がゼロではない場合であっても、上記のような 範囲の抵抗率であれば、ジョセフソン効果を得ることができる旨が記載\nされているとみることもできる。 しかしながら、前記(2)のとおり、ジョセフソン接合が超伝導体である\n二つの導体を用いた接合であることは、本件原出願日当時の技術常識で あったと認められることからすれば、導体の抵抗値がゼロではない場合 であっても、上記のような範囲の抵抗率であればジョセフソン効果が得\nられるというのは、技術常識に反する現象である。そうすると、本願明 細書等において、このような現象が生じ得ることを裏付ける試験結果等 が記載されていなければ、当業者は、本願各発明を実施することができ ると認識するものではないというべきである。そして、上記イで検討し たとおり、本願明細書等の段落【0051】ないし【0068】及び図 14Aないし21Bには、いずれも各実施例における導体が段落【00 14】に記載されているような範囲の抵抗率であることを示す試験結果 は記載されていないというべきである。そして、このほか、本願明細書 等において、導体の抵抗値がゼロではない場合であっても、上記のよう な範囲の抵抗率であればジョセフソン効果が得られることを裏付ける試\n験結果等は記載されていない。
以上によれば、本願明細書等において、本願各発明が従来のジョセフ ソン効果の原則を超越する存在であることが示唆されているとはいえな\nいし、当業者が、本願明細書等の記載を参照して、本願各発明を容易に 実施することができるともいえない。
・・・
(ア) 原告は、本願明細書等の図7、15ないし21から明らかなとおり、本 願各発明は、従来の技術常識としてのジョセフソン接合ではなく、抵抗\n値をゼロにしなくとも、極めて低い抵抗値の範囲内でジョセフソン接合\nを実現することを目的とする発明であるから、本願明細書等に抵抗値が ゼロの場合の記載がないことは当然の帰結であり、当業者は、本願各発 明につき、電流が非常に低い抵抗状態で流れる条件でジョセフソン接合\nを実現したものとして捉えることにより、本願各発明を実施することが 可能である旨主張する。\nしかしながら、上記ウで検討したところに照らせば、本願明細書等に おいて、本願各発明が、従来の技術常識としてのジョセフソン接合では\nなく、抵抗値をゼロにしなくとも、極めて低い抵抗値の範囲内でジョセ フソン接合を実現することは、何ら試験結果等により裏付けられていな\nいというべきである。そうすると、当業者が、本願各発明につき、電流 が非常に低い抵抗状態で流れる条件でジョセフソン接合を実現したもの\nとして捉えることにより、本願各発明を実施することが可能であると認\n識するものではないというべきである。

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令和2(ワ)13626  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月17日  東京地方裁判所

 特許権侵害事件について、明細書の記載および異議申立における主張に基づき、被告製品は技術的範囲に属しないと判断されました。\n

原告は、1) 本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には、浄化され たスクラバー流体を更に処理することなく、海に放出することを要する との記載はない、2) 本件訂正により、本件特許の【請求項1】の従属項 である【請求項10】を訂正するに当たり、浄化されたスクラバー流体 の品質が所定レベルより低い場合、浄化されたスクラバー流体を分離機 入口に戻す構成を維持しているから、本件発明は、分離機での浄化処理\n後、環境への放出前に、更に浄化処理を行う態様を予定している、3) 本 件明細書の「ディスクスタック遠心分離機をスクラバー流体に適用する ことによって、汚染物質相の大部分が濃縮形態で取り除かれ得る」 (【0014】)との記載によれば、ディスクスタック遠心分離機によ っても分離し得ない汚染物質相が残存し得る以上、補助的にフィルタ等 による分離を行うことは排除されないと主張する。
しかし、上記1)については、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細 書において、浄化されたスクラバー流体を更に処理することなく、海に 放出することを要することを明示した記載は見当たらないものの、前記 (ア)のとおり、本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の各記載並びに 原告の本件異議申立事件における主張、さらには、本件明細書には、\n「ディスクスタック遠心分離機」により「浄化されたスクラバー流体」 を更に浄化するための装置を設けることを示唆する記載が見当たらない ことは、いずれも、「浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機出 口から環境に放出するための手段」(構成要件F)とは、「分離機」に\nより「浄化されたスクラバー流体」が、「分離機」とは別に設けられた 浄化設備により浄化処理されることなく、船の外側に放出されるなどす るものをいうとの理解をもたらすものであるから、その点を明示する記 載が存在しないからといって、前記(ア)の解釈が左右されるものではない。
上記2)については、前記(ア)bのとおり、本件明細書の記載(【000 8】、【0009】及び【0014】)によれば、本件発明に係る浄化 設備について、「スクラバー流体」の浄化能力を向上させ、また、点検\n修理の必要性を最小とするために、「ディスクスタック遠心分離機」を 使用し、この「分離機」の動作により、「浄化されたスクラバー流体」 が規制を満たすことになり、環境への影響を最小にして環境に解放する ことができ、他の処理をするための設備を設ける必要がなく、機器の点 検修理や交換の必要性を最小にすることができるものであると理解する ことができる。そうすると、本件発明は、「分離機」の動作によって上 記の作用効果を実現するものであるから、「浄化されたスクラバー流体」 を再び「分離機」入口に戻すことを排除するものではないが、「分離機」 により「浄化されたスクラバー流体」が、「分離機」とは別に設けられ た浄化設備により浄化処理されて、船の外側に放出されるなどすること を予定したものではないというべきである。したがって、本件訂正後の\n【請求項10】の記載をもって、本件発明が、「分離機」での浄化処理 後、環境への放出前に、別に設けられた浄化設備により更に浄化処理を 行う態様を予定しているということはできない。\n
上記3)については、本件明細書の記載からは、「ディスクスタック遠 心分離機をスクラバー流体に適用することによって、汚染物質相の大部 分が濃縮形態で取り除かれ」(【0014】)た「浄化されたスクラバ ー流体」について、「汚染物質相」が残存するため規制を満たさず、環 境に放出することができないとは直ちには読み取れない。そうすると、 本件明細書の【0014】の記載をもって、「分離機」により「浄化さ れたスクラバー流体」を補助的にフィルタ等により浄化処理することが 示唆されているということはできない。 したがって、原告の上記各主張は、いずれも採用することができない。
イ 小括
以上のとおり、被告製品1(主位的主張)及び被告製品2は、構成要件\nFを充足しないから、その余の点を判断するまでもなく、本件発明の技術 的範囲に属するとは認められない。

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令和4(行ケ)10072  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月12日  知的財産高等裁判所

 審決は、発明該当性違反、実施可能要件違反として拒絶しました。知財高裁も同じ判断です。

本願発明は、前記第2の2のとおりの構成を有するものであって、前記1(1)の【図 1】のような液体を入れた容器中に浮体を浮かべ、同浮体を鉛直方向に大きなもの とすることにより(同【図2】の3参照)、駆動動力が一定であっても、同浮体が上 下運動することによる発生動力を拡大させることで、「発生動力>駆動動力の関係」 が成立するというものである。 そして、本願明細書の段落【0036】によると、本願発明における駆動動力と は、液位を増減させて、浮体を上下運動に導く駆動方法を実行する装置を駆動する 動力のことをいい、電力が主体であるが、流水、圧縮空気、人力等も利用可能であり、具体的な駆動方法としては、浮体(例えば【図3】の6)を浮かべる容器中に\n物体(例えば【図3】の9)を挿入することが想定されているものと認められる。 次に発生動力についてみると、本願明細書の段落【0035】には、「浮体の上下 運動を「発生動力」とする」との記載があり、同段落【0018】〜【0020】 では、容器中への水の注入量が同一である場合の仕事(W)を、(浮体上の錘の重さ) ×(持ち上げられた距離)により計算しているところ、ここでいう仕事(W)は、 浮体の上下運動をいうものと推認されるから、本願発明における発生動力は、錘を 載せた浮体が移動する運動を指していると理解される。 ところで、本願明細書の段落【0018】〜【0020】に3つの例が記載され ているところ、同段落【0021】の記載と併せると、上記3つの例は、「発生動力 >駆動動力の関係」が成立することを説明するために記載されているものと認めら れる。そこで検討するに、上記3つの例においては、注入した水の量は一定である ものの、どのように水を注入するのか、また、その際に、水を注入するために要し た動力、すなわち本願発明における「駆動動力」に相当する液位を増減させる動力 の大きさや、それが、上記3つの例において一定であるかについては本願明細書に 記載がなく、示唆もない。さらには、【図2】の場合に浮体が浮かぶことが可能な程度に、十\分な浮力が生じているかも明らかではない。そしてその他の本願明細書の記載を総合しても、当業者が、どのようにして、本願発明の「発生動力>駆動動力 の関係」が成立する動力発生装置を製造することができるか理解できるとはいえな い。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施するこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。\n

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令和4(行ケ)10007  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月18日  知的財産高等裁判所

 容易想到性の判断に当たり、主引用例の選択の場面では、請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決すべき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している必要はないとして、進歩性なしとした審決が維持されました。

原告らは、本願発明は、多数の作用効果を有機的に組み合わせた統合 システムの発明であるのに対し、引用発明は、圧縮機の吸込容積を可変 とするものにすぎず、その具体的な課題や作用・機能は全く異なってお\nり、この観点からも、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想 到するための動機付けはないと主張するので(前記第3の3〔原告らの 主張〕(2)ウ)、この点について検討する。 原告らの上記主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、容易想到性の判 断に当たり、請求項に係る発明と主引用発明との間に具体的な課題や作 用・効果の共通性を要するという主張であるとすれば、主引用例の選択 の場面では、そもそも請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決す べき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している 必要はないというべきである。これを本件についてみるに、本願発明の 課題は、「冷媒が循環する冷媒回路と水(熱搬送媒体)が循環する水回路 (媒体回路)とを有しており、熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させて 室内の空調を行うチラーシステム(熱搬送システム)において、媒体循 環を構成する配管を小径化するとともに、環境負荷の低減及び安全性の\n向上を図ること」(段落【0005】)であって、格別新規でもなく、い わば自明の課題というべきものであり、二酸化炭素を熱搬送媒体として 採用した引用発明においては解決されているといえるものである。
また、原告らは、本願発明が奏する効果についても主張するので、こ の点について検討すると、本願発明の、冷房と暖房が可能であるという\n効果(段落【0007】及び【0061】)、及び複数の室内の冷房及び 暖房をまとめて切換可能であるという効果(段落【0062】)は、本願\n発明が、冷媒流路切換機及び第1媒体流路切換機を備えることによる効 果であるところ、引用発明においても、第1四方弁150と第2四方弁 250を備えるから、冷房と暖房が可能であるし、複数の室内空気熱交\n換器(相違点2に係る本願発明の構成)を備える場合には、第2四方弁\n250と連結された室内熱交換機の数が増えるのみであると考えられる から、複数の室内の冷房及び暖房をまとめて切換可能であるという効果\nも当然に奏されることになる。そして、1次側にR32冷媒(相違点1 に係る本願発明の構成)を採用した場合でも、そのような効果を奏する\nことに変わりはない。配管小径化、省スペース化・配管施工及びメンテ ナンス省力化、媒体使用量削減を図ることができるという本願発明の効 果(段落【0008】、【0063】)は、本願発明が熱搬送媒体として二 酸化炭素を採用したことによって奏するものであり、これは、引用発明 も、熱搬送媒体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏する ものである。着火事故を防止できるという本願発明の効果(段落【00 09】及び【0064】)は、室内側に配置される媒体回路に二酸化炭素 を用いていることによるものであるが、これは、引用発明も、熱搬送媒 体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏するものである(甲 11の段落【0062】)。また、本願明細書等には、HFC−32(R 32)を冷媒として採用する冷媒回路を構成する配管を室内側まで設置\nする必要がないとの記載もある(段落【0009】及び【0064】)が、 本願の特許請求の範囲の請求項1の記載及びその記載により認定される 本願発明では、冷媒回路が室内側に設置されていないことは特定されて いないので、上記の効果は、本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記 載に基づくものとは認められない。さらに、技術常識D及びFに照らせ ば、引用発明のプロパンは強燃性であるのに対し、本願発明のR32は 微燃性であることから、着火事故を防止できるという効果は、引用発明 に比べると本願発明が優れていると解されるが、引用発明において相違 点1に係る本願発明の構成を採用することにより、自ずと奏するように\nなる効果である。環境負荷を低減するという本願発明の効果(段落【0 010】及び【0065】)は、R32と二酸化炭素を採用したことによ るものであるところ、引用発明において相違点1に係る本願発明の構成\nを採用することにより自ずと奏されるものである。そうすると、原告ら が本願発明の効果として主張するものは、引用発明も奏するものである か、又は相違点1に係る本願発明の構成を採用することにより自ずと奏\nするものであり、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想到す るための動機付けを否定するに足りるような顕著なものではない。 したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 組み合わせの阻害要因について
原告らは、プロパンは、冷媒の能力として、寒冷地での使用が困難であ\nるから、これをR32に代替することには阻害要因があると主張する(前 記第3の3〔原告らの主張〕(3))。 しかし、本願発明においては、寒冷地での使用の可否など冷房又は暖房 の能力に関連する特定はなく、引用文献1にも、引用発明において、特に\n寒冷地での使用が困難なプロパンのような冷媒を採用することに技術的 意味があることをうかがわせるような記載はないから、引用発明のプロパ ンをR32に代替することに阻害事由があるとは認められない。 また、原告らは、着火事故の防止というビル用マルチの決定的課題に反 する選択となるので、引用発明をビル用マルチに使用することには阻害要 因があると主張する(前記第3の3〔原告らの主張〕(3))。
しかし、本願発明がビル用マルチに限定されたものでないことは前記3 (1)イのとおりであるし、仮に本願発明がビル用マルチに適用されるとして も、引用発明で採用されている強燃性のプロパンを微燃性のR32に置き 換えることは、ビル用マルチに要請される性能に必ずしも反するものでは\nなく、むしろそれにそう面もあるから、原告らの上記主張は採用すること ができない。

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令和3(行ケ)10093  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月26日  知的財産高等裁判所

無効理由なしとした審決を、サポート要件違反の無効理由ありとして取り消しました。最後に、別件判決の結論と本件判断が異なることには相応の理由ありと付言されています。

以上を前提に検討すると、前記 において説示したとおり、サポート要 件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載 とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記 載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示 唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決で きると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ ると解するのが相当であるところ、前記1 において示したとおり、本件 発明は、LDLRタンパク質の量を増加させることにより、対象中のLD Lの量を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を 奏し、また、この効果により、高コレステロール血症などの上昇したコレ ステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを\n低減すること、そのために、LDLRタンパク質と結合することにより、 対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるP CSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医 薬組成物を提供することを課題とするものであり、PCSK9とLDLR タンパク質との結合を強く遮断する中和抗体である参照抗体と競合する抗 体は、PCSK9への参照抗体の結合を妨げ、又は阻害する単離されたモ ノクローナル抗体であることを明らかにするものであると理解される。
そして、前記 によれば、本件発明における「中和」とは、タンパク質 結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作 用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節する以外に、間接的な手段(リ ガンド中の構造的又はエネルギー変化等)を通じてLDLRタンパク質に\n対するPCSK9の結合能を変化させる態様を含むものであるが、前記1\nのとおり、参照抗体自体が、結晶構造上、LDLRのEGFaドメイン\n(PCSK9の触媒ドメインに結合するものであり、その領域内に存在す るPCSK9残基のいずれかと相互作用し、又は遮断する抗体は、PCS K9とLDLRとの間の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る とされるもの)の位置と部分的に重複する位置でPCSK9とLDLRタ ンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体であ ると認められることを踏まえると、本件発明における「PCSK9との結 合に関して、21B12抗体と競合する」との発明特定事項も、21B1 2抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムによ り、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して(具体的には、結晶構\n造上、抗体がLDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置でPCS K9に結合して)、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨 害し、遮断し、低下させ、又は調節することを明らかにする点に技術的意 義があるものというべきであり、逆に言えば、参照抗体と競合する抗体は、 このような位置で結合するからこそ、中和が可能になるということもでき\nる。この点は、被告自身が、前記第3の3 ウにおいて、本件明細書の発 明の詳細な説明によれば、当業者は、出願時の技術常識に照らし、参照抗 体との競合によってPCSK9上の複数の結合面のうち特定の領域内の 特定の位置(LDLRのEGFaドメインと結合する部位と重複する位置 (又は同様の位置))に結合する抗体は、PCSK9とLRLRタンパク質 の結合を中和することができると理解するものであり、発明の技術的範囲 の全体にわたって発明の課題を解決できると認識することができたとい える旨主張していることからも裏付けられるところである。
また、前記1 において認定した甲1文献の開示事項によれば、家族性 高コレステロール血症は、血漿中のLDLコレステロールレベルの上昇に 起因するものであるところ、PCSK9は、細胞表面に存在するLDLR\nタンパク質の存在量を低下させるものであるため、PCSK9が治療のた めの魅力的な標的であり、血漿中のPCSK9に結合し、そのLDLRタ ンパク質との結合を阻害する抗体等が効果的な阻害剤となり得ることが 既に示されていたものと認められるのであるから、このような観点から見 ても、本件発明の技術的意義は、21B12抗体と競合する抗体であれば、 21B12抗体と同様のメカニズムにより、上記のようなLDLRタンパ ク質との結合を阻害する抗体、すなわち結合中和抗体としての機能的特性\nを有することを特定した点にあるということもできる。そもそも本件発明 の課題は、前記1 イにおいて認定したとおり、LDLRタンパク質と結 合することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDL の量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する 抗体又はこれを含む医薬組成物を提供することであり、このような課題の 解決との関係では、参照抗体と競合すること自体に独自の意味を見出すこ とはできないから、このような観点からも、上記のとおり、本件発明の技 術的意義は、21B12抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と 同様のメカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有すること\nを特定した点にあるというべきである。
イ さらに検討すると、前記 イ のとおり、本件明細書の発明の詳細な説 明には、エピトープビニングを行った結果、21B12抗体と同一性が高 いとはいえないアミノ酸配列を有する数グループの抗体のみならず、21 B12抗体と同一性が高いアミノ酸配列を有する抗体群が21B12抗 体と競合するものとして同定されたことが開示されている。本件明細書に は、上記競合する抗体として同定された抗体の中で中和活性を有すると記 載される抗体がPCSK9上へ結合する位置についての具体的な記載は なされていないものの、21B12抗体と同一性の高いアミノ酸配列を有 する抗体群については、21B12抗体と同様の位置でPCSK9に結合 する蓋然性が高いといえるとしても、それ以外のアミノ酸配列を有する数 グループの抗体については、エピトープビニングのようなアッセイで競合 すると評価されたことをもって、抗体がPCSK9上に結合する位置が明 らかになるといった技術常識は認められない以上、PCSK9上で結合す る位置が明らかとはいえない。
また、本件発明の「PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する」 との性質を有する抗体には、上記本件明細書の発明の詳細な説明に具体的 に記載される数グループの抗体以外に非常に多種、多様な抗体が包含され ることは自明であり、また、前記2 イのとおり、このような抗体には、 被告が主張するように、21B12抗体がPCSK9と結合するPCSK 9上の部位と重複する部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は 阻害する(例えば、低下させる)抗体にとどまらず、参照抗体とPCSK 9との結合を立体的に妨害する態様でPCSK9に結合し、様々な程度で 参照抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低 下させる)抗体をも包含するものである。そうすると、その中には、例え ば、21B12抗体がPCSK9と結合する部位と異なり、かつ、結晶構\n造上、抗体がLDLRのEGFaドメインの位置とも異なる部位に結合し、 21B12抗体に軽微な立体的障害をもたらして、21B12抗体のPC SK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)もの 等も含まれ得るところ、このような抗体がPCSK9に結合する部位は、 結晶構造上、抗体がLDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置で\nはないのであるから、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して、P CSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下さ せ、又は調節するものとはいえない。
なお、本件明細書には「例示された抗原結合タンパク質と同じエピトー プと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質及び断片は、類似の機能的\n特性を示すと予想される。」(【0269】)との記載があるが、上記のとお\nり、「PCSK9との結合に関して21B12抗体と競合する」とは、21 B12抗体と同じ位置でPCSK9と結合することを特定するものでは ないから、21B12抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同 じエピトープと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質(抗体)である とはいえず、このような抗体全般が21B12抗体と類似の機能的特性を\n示すことを裏付けるメカニズムにつき特段の説明が見当たらない以上、本 件発明の「PCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合する抗体」 が21B12抗体と「類似の機能的特性を示す」ということはできない。\n前述のとおり、本件発明の技術的意義は、21B12抗体と競合する抗 体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とL DLRタンパク質との結合を中和する抗体としての特性を有することを 特定する点にあるというべきところ、前記のとおり、21B12抗体と競 合する抗体であれば、LDLRのEGFaドメインと相互作用する部位 (本件明細書の記載からは、EGFaドメインの5オングストローム以内 に存在するPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメイ ンとの相互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残基(コア残基)、E GFaドメインの5オングストロームから8オングストロームに存在す るPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相 互作用界面の境界PCSK9アミノ酸残基と理解され得る。)に結合して PCSK9とLDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖するとはいえず、 他には、21B12抗体と競合する抗体であれば、どのようなものであっ ても、PCSK9とLDLRのEGFaドメイン(及び/又はLDLR一 般)との間の相互作用(結合)を阻害する抗体となるメカニズムについて の開示がない以上、当業者において、21B12抗体と競合する抗体が結 合中和抗体であるとの理解に至ることは困難というほかない。
ウ 以上のとおり、「PCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合す る抗体」であれば、21B12抗体と同様に、LDLRタンパク質の結合 部位を直接封鎖して(具体的には、結晶構造上、抗体がLDLRのEGF\naドメインの位置と重複する位置でPCSK9に結合して)、PCSK9 とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は 調節するものであるとはいえないから、「PCSK9との結合に関して、2 1B12抗体と競合する抗体」であれば、結合中和抗体としての機能的特\n性を有すると認めることもできない。なお、前記 アのとおり、本件発明 における「中和」とは、PCSK9とLDLRタンパク質結合部位を直接 封鎖するものに限らず、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギ\nー変化等)を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変\n化させる態様を含むものではあるが、「PCSK9との結合に関して、21 B12抗体と競合する抗体」であれば、上記間接的な手段を通じてLDL Rタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させる抗体となること\nが、本件出願時の技術常識であったとはいえないし、本件明細書の発明の 詳細な説明に開示されていたということもできない。
エ こうした点は、前記1 においてその信頼性を認定した【A】博士の実 証実験の結果及び同実証実験を踏まえた【B】博士の供述書 からも裏付 けられる。すなわち、この実証実験は、リジェネロンの63の抗体につい て参照抗体との競合及び結合中和性を実験したものであるが、競合に関し て50%の閾値を用いた結果、13の抗体が参照抗体と競合するが、うち 10の抗体(約80%)は結合中和性を有しないことが確認されており(別 紙3の資料B1及び前記1 ア b)、参照抗体と競合する抗体であれば 結合中和性を有するものとはいえないことが具体的な実験結果として示 されている。さらに、この実験結果に加え、「本件特許によれば、21B1 2抗体の結合部位はhPCSK9上のLDLRの結合部位と部分的にし か重複しないから・・別の抗体の結合部位は、LDLRの結合部位と重複 することなく21B12結合部位と重複し得るのであり、このようにして、 別の抗体は、hPCSK9−LDLRの結合部位と重複することなく21 B12結合部位と重複し得」る(前記1 ア b)として、【B】博士が、 「21B12抗体と競合する抗体がLDLRに対する結合を中和」するだ ろうと言うのは、科学的に誤りである旨の意見を述べているところである (前記1 ア c)。
オ 被告は、前記第3の3 ウにおいて、21B12抗体(参照抗体)と競 合するが、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和できない抗体 が仮に存在したとしても、そのような抗体は、本件発明1の技術的範囲か ら文言上除外されているなどとして、本件発明がサポート要件に反する理 由とはならない旨主張する。しかし、既に説示したとおり、21B12抗 体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムにより、 PCSK9とLDLRタンパク質との結合中和抗体としての機能的特性\nを有することを特定した点に本件発明の技術的意義があるというべきで あって、21B12抗体と競合する抗体に結合中和性がないものが含まれ るとすると、その技術的意義の前提が崩れることは明らかである(本件の ような事例において、結合中和性のないものを文言上除けば足りると解す れば、抗体がPCSK9と結合する位置について、例えば、PCSK9の 大部分などといった極めて広範な指定を行うことも許されることになり、 特許請求の範囲を正当な根拠なく広範なものとすることを認めることに なるから、相当でない。)。なお、被告が主張するように、本件発明1の特 許請求の範囲は、PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する抗体 のうち、「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」 る抗体のみを対象としたものであると解したとしても、前示のとおり、本 件発明のPCSK9との競合に関して、参照抗体と競合するとの発明特定 事項は、被告が主張するような、参照抗体が結合する位置と同一又は重複 する位置に結合する抗体にとどまるものではなく、PCSK9とLDLR タンパク質の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する 抗体をも含むものであるから、このような抗体についても結合中和抗体で あることがサポートされる必要があるところ、参照抗体が結合する位置と 同一又は重複する位置に結合する抗体の場合とは異なり、PCSK9とL DLRタンパク質との結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で 競合する抗体が結合を中和するメカニズムについては本件明細書には何 らの記載はなく、また、ビニングによる実験結果(前記 イ )に基づく 結合中和抗体は、いずれも結合中和に係るメカニズムが開示されている、 参照抗体が結合する位置と同一又は重複する位置に結合する抗体である 可能性が高く、その点を措くとしても、少なくともこれらが立体的に妨害\nする抗体であることを示唆する記載はない。そうすると、本件明細書の発 明の詳細な説明には、参照抗体と競合する抗体のうちPCSK9とLDL Rタンパク質との結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合 する抗体が結合中和活性を有することについて何らの開示がないという ほかなく、この点からも、本件発明はサポート要件を満たさない。
また、前記第2の3 のとおり、本件審決は、本件明細書には、本件明 細書記載の免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウ スの作製及び選択、選択された免疫化マウスを使用したハイブリドーマの 作製、本件明細書記載のPCSK9とLDLRとの結合相互作用を強く遮 断する抗体を同定するためのスクリーニング及びエピトープビニングア ッセイを最初から繰り返し行うことによって、十分に高い確率で本件発明\nの抗体をいくつも繰り返し同定することが具体的に示される旨判断する が、【F】教授(【F】教授という。)の第2鑑定書(甲230)に「特定の マウスが特定の抗体を生成するかどうかは運に支配されるため、候補とな り得る抗体を全て生成しスクリーニングすることは不可能である」と記載\nされているように、本件明細書に記載された抗体の作製過程を経たとして も、免疫化されたマウスの中でPCSK9上のどのような位置に結合する 抗体が得られるかは「運に支配される」ものであって、抗体の抗原タンパ ク質への結合を立体的に妨害する態様で抗原タンパク質に結合する抗体 を製造する方法が本件出願時における技術常識であったともいえないこ とからすると、本件明細書に記載された抗体の作製方法に関する記載をも って、本件発明に含まれる多様な抗体が本件明細書の発明の詳細な説明に 記載されていたとはいえない。
カ そして、本件発明1のモノクローナル抗体を含む医薬組成物に係る発明 である本件発明9も、上記同様の理由から、サポート要件を満たすもので はない。
以上によれば、本件発明1及び9は、いずれもサポート要件に適合するも のと認められないから、これと異なる本件審決の判断は誤りである(なお、 原告の主張のうち前記第3の3 イ の「EGFaミミック抗体」に係る点 は首肯するに値するものを含み、サポート要件が満たされているとする被告 の主張に疑義を生じさせるものと考えるが、この点に関する判断をするまで もなく、上記のとおり、本件発明1及び9は、いずれもサポート要件に適合 するものとは認められないから、更なる判断を加えることは差し控えること とする。)。
以下、念のために付言する。
ア 本件発明を巡る国際的状況について、原告は、欧州では、異議申立抗告\n審において、令和2年に、本件発明と実質的に同じ対応欧州特許について、 進歩性欠如により無効であると判断されており、また、米国では、合衆国 連邦巡回区控訴裁判所において、令和3年2月11日に、本件発明より限 定された対応米国特許につき、実施可能要件違反により無効であると判断\nされており、現在、我が国は、本件特許の有効性が裁判所により維持され ている世界で唯一の国である旨主張し、他方、被告は、上記連邦巡回区控 訴裁判所の判断につき、連邦最高裁判所は、令和4年11月4日に、裁量 上告受理申立てを認めたので、上記判断が覆される可能\性が極めて高い旨 主張するが、もとより、他国における判断が本件判断に直ちに影響を与え るものではないことは明らかである(なお、米国については、仮に、連邦 巡回区控訴裁判所の無効判断が覆されたとしても、対応米国特許は、参照 抗体との「競合」を発明特定事項とするものではないと認められるから(例 えば、米国特許8829165特許の請求項1は、「PCSK9に結合する とき、次の残基:配列番号3のS153、I154、P155、R194、 D238、A239、I369、S372、D374、C375、T37 7、C378、F379、V380、又はS381の少なくとも1つに結 合し、PCSK9がLDLRに結合するのを阻害する、単離されたモノク ローナル抗体」との発明特定事項である(甲19)。)、いずれにしても本件 発明に係る判断に直接関係しない。)。 イ 本件発明に係る別件審決取消訴訟においては、前記第2の1 のとおり、 サノフィによるサポート要件違反に関する主張は退けられている。しかし、 これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、21B12抗体と競合する抗体 は、21B12抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し21B12 抗体と同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによ\nるものと理解することも可能である。これに対し、本訴においては、【A】\n博士や【B】博士の各供述書、【F】教授の鑑定書等(甲18、230)に よる構造解析、「EGFaミミック抗体」に係る関係書証(甲4の1及び2)\n等の新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたにもかかわら ず、この前提を支える判断材料が見当たらないのであるから、別件判決の 結論と本件判断が異なることには相応の理由があるというべきである。

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令和4(行ケ)10028  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月23日  知的財産高等裁判所

分割出願について、親出願に開示があったが争われました。知財高裁は多少の用語の変更(帯状→「長尺状」)は新たな技術的事項を追加するものでないと判断しました。

本件においては、本件特許出願の明細書及び図面の記載が、親出願、子出 願、孫出願の当初の明細書及び図面の記載、並びに子出願及び孫出願の分割 時の明細書及び図面の記載に対して新たな技術的事項を追加したものではな いということについて、当事者間に争いはない(本件審決第6の1(2)〔本件 審決25頁〕)。そこで、本件特許出願により請求項1に追加された「着脱可 能に」、「透光カバー」という事項、請求項2に追加された「弾性部材」とい\nう事項、請求項1に追加された「長尺状の基板」、「長尺状の透光カバー」及 び「長尺状の底板部」における「長尺状」という事項につき、親出願の当初 明細書等に対して新たな技術的事項を追加するものであるか否かについて判 断する。
(3) 本件特許の請求項1に記載の「着脱可能に」との事項について\n
ア 新規事項の追加の有無
(ア) まず、親出願の当初明細書等に開示されていた課題について検討する と、親出願の当初明細書等には、【発明が解決しようとする課題】に、「室 内がスマートであるとの印象を与えうるLED照明装置を提供する」 (段落【0010】)という課題が記載されており、また、【背景技術】 に関しては、「LED照明装置Xからの光は輝度むらを生じやす」く、「こ の輝度むらが顕著であると」、「個々のLEDチップ92が視認できてし まう場合があ」り、「見る者が見栄えがよくないと感じてしまう」(段落 【0004】)という課題が示され、第9実施形態に関して、「光のムラ を抑える」(段落【0151】〜【0155】)という課題が開示されて いる。
しかし、親出願の当初明細書等には、多数の実施形態(第1ないし第 24実施形態)が開示されており、そこで開示されている課題は、上記 の課題に限られるものではない。すなわち、親出願の当初明細書等には、 第1実施形態に関する「このようにLEDユニット2を容易に取り付け ることができる。」(段落【0044】)、「このように、LED照明装置A 1は、マウント1からLEDユニット2を容易に取り外すことができ る。」(段落【0046】)という記載、第7実施形態に関する「このよう に、LED照明装置A7は、ウイング部120からLEDユニット2を 容易に取り外すことができる。」(段落【0131】)という記載、第11 実施形態に関する「したがって、LED照明装置A11では、適切な時 期にLEDユニット2を交換可能となっており、常時見栄えのよい照明\nを提供することができる。」(段落【0177】)という記載、第12実施 形態に関する「このため、LED照明装置A12では、LEDユニット 2の交換を容易にかつ速やかに行うことが可能となっている。」(段落\n【0186】)という記載、第23実施形態に関する「また、解除レバー 161を用いれば、比較的接近して並列に配置された2つのLEDユニ ット21を個別に容易に取り外すことができる。」(段落【0261】)と いう記載があり、これらの記載に鑑みれば、親出願の当初明細書等には、 「LEDユニットを交換可能とする」ことが発明の課題として記載され\nていると認められる。
(イ) 前記(ア)のとおり、親出願の当初明細書等には、「LEDユニットを交 換可能とする」という課題が記載されており、この課題は、LEDユニ\nットが「着脱可能に」取り付けられていれば解決可能\なものであって、 着脱可能とする構\成について、特定の構成を採用しなければならないと\nする特別の要請があるとは認められず、具体的な構成まで特定しなけれ\nば解決できないということはなく、当業者であれば、技術常識に照らし、 着脱可能とする適宜の方法を選択して解決することができるものと認め\nられる。
そして、親出願の当初明細書等の段落【0025】、【0026】、【0 044】及び【0046】並びに図2、図10及び図11等には、LE Dユニット2をマウント1の凹部10aにホルダ11の可撓部11bの 弾性変形を用いて取り付け、取り外すことが記載されており、段落【0 250】及び【0251】並びに図103、図104及び図106には、 LEDユニット2をマウント1の凹部に、ワイヤホルダ161を介して 取り付け、取り外す構成が記載されている。そうすると、親出願の当初\n明細書等は、ホルダ11の可撓部11bの弾性変形を用いて取り付け、 取り外す構成と、LEDユニット2をマウント1の凹部10aにワイヤ\nホルダ161を介して取り付け、取り外す構成という複数の態様を開示\nしているということができ、これらの複数の取り付け、取り外す構成を\n包含する発明特定事項について、「着脱可能に」と特定することは、親出\n願の出願当初の明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技 術的事項であるといえ、親出願の当初明細書等に記載された事項の範囲 内であるものといえるから、新たな技術的事項を導入するものとは認め られない。
・・・・
親出願の当初明細書等の段落【0030】には基板31が帯状である ことが記載され、段落【0034】にはカバー4が帯状であることが記 載されている。帯状とは、「ある幅をもって長くのびているさま。」(広辞 苑第6版、甲10)、「帯のようなほそながい形・状態。」(大辞林第4版) を意味するから、親出願の当初明細書等には、基板及びカバーが、ほそ ながい形であることが記載されていると認められる。 他方、「長尺」とは、「長さがあること。長いこと。」(大辞林第4版) を意味するから、「長尺状」とは、長さがある状態であること、長い状 態であることを意味するものと認められる。しかるところ、上記のとお り、親出願の当初明細書等には、基板及びカバーが、ほそながい形であ ること(帯状)が記載されているから、基板及びカバーは、また、長さ がある状態であり、長い状態である(長尺状)ともいうことができる。 そのため、親出願の当初明細書等には、長尺状の基板、長尺状の透光カ バー(前記(4)のとおり、「透光カバー」は、親出願の当初明細書等に記 載された技術的事項の範囲内にあるものと認められる。)が記載されて いたものと認められる。したがって、本件特許の請求項1に記載の「長 尺状の基板」、「長尺状の透光カバー」における「長尺状」との事項は、 親出願の当初明細書等に記載されていた技術的事項の範囲内にあるもの と認められ、新規事項を追加するものとは認められない。

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令和4(行ケ)10073  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年1月19日  知的財産高等裁判所

審決は、標準文字「zhiyun」について、使用意思(3条1項柱書)、公序良俗違反(4条1項7号)で無効としました。知財高裁も同じ判断です。

原告は、本件商標についても使用許諾する旨、知的財産権の取引サイト に出品している(乙1)。 上記114件の商標登録出願中、7件について、商標法3条1項柱書き 違反、同法4条1項7号、10号、15号又は19号該当等を理由として、 第三者から刊行物提出書による情報提供がされ(甲26)、本件商標を含 む12件について、無効審判請求や登録異議の申立てがされている(甲2\n7)。(4条1項7号)
・・・
前記 ア及びイによれば、本件商標の登録出願日である平成30年9月 24日以前に、被告は、引用商標ないしそれに類似する商標を付したスタ ビライザー等の商品について、海外において相当な売上げを得ており、我 が国においても、遅くとも平成28年7月13日以降、引用商標ないしそ れに類似する商標を付したジンバル雲台やスタビライザーがAmazo nジャパンで販売され、平成29年には見本市に参加し、平成30年には 日本市場に本格参入している。
また、同ウによれば、本件商標の登録出願は、平成29年9月25日か ら令和3年5月11日までの間に原告によりされた大量の商標登録出願 の一部であるところ、これらの出願のうち22件については、登録後1、 2年で移転され、そのうち少なくとも18件については原告による登録出 願が、類似する他人の商標の使用に後れるものであり、原告出願に係るこ れらの商標の多くが特徴的な造語で、先行する他人の商標と偶然に一致し たものとは考えられず、また、原告は本件商標についても使用料を得よう としていたことが認められる。
これらの事情によれば、原告は、先願主義に名を借りて、先行して使用 されてきた他人の商標と類似する商標を出願した上、金銭的利益を得るこ とを業とする者と認めざるを得ない。また、本件商標についても、日本語 とも英語とも考えられない造語であり、およそ原告が独自に考え出したも のとは認められないもので、原告は、被告が海外において、引用商標を付 したスタビライザーやジンバル雲台で相当の販売実績を有していること を知りながら、これらの商品と同じ商品を指定商品として、我が国で先に 商標登録を得ることで、金銭的利益を得ようとしていたものと推認し得る ものである。このような本件商標の登録出願に至る経緯等に照らせば、登 録を認めることは、商標法の予定する公正な取引秩序に著しく反するもの\nというべきであるから、本件商標の商標登録は、公序良俗に反するものと いうほかない。
イ 原告は、前記第3の2(1)イのとおり、出所混同のおそれのある商標や、 フリーライド等の不正の目的をもって使用する商標も商標法4条1項7 号に該当するとすれば、同項10号ないし15号や、同項19号の存在意 義がなくなる、あるいは、他人が使用する周知・著名でない商標が、我が 国で出願・登録されていないことを奇貨として、これと同一又は類似の商 標を先取り的に商標登録出願することが、同項7号に該当するとすれば、 先願主義に反する旨主張する。 しかし、公序良俗の維持は法の原則であり、社会秩序や道徳秩序に反す る商標を登録して助長すべきではないところ、剽窃的な商標登録出願が公 正な取引秩序を害するものとなれば、公序良俗を害すると評価されるに至 る場合があり、同項7号はこのような場合も想定しているものというべき である。
本件は、原告が、先願主義に名を借りて、商標権が本来持つべき出所識 別機能とは関係なく、剽窃的な商標出願を大量にした上、金銭的利益を得\nることを業とするという事案であって、単なる特定の当事者間の私的な問 題に止まるものではなく、公正な取引秩序そのものに関わる重大な違反が あると認められるものであるから、商標法が先願主義を採り、また、冒認 者による出願が登録拒絶理由として定められていないことを考慮しても、 その登録が公序良俗に反することは明らかといわざるを得ない。 なお、原告は、前記第3の1(1)ウのとおり、本件商標は、その指定商品 について使用実績がある旨主張する。 しかし、これらは単発的なAmazonジャパンへの出品や、売上げを 示すものにすぎない。また、例えば、原告が使用実績として挙げる甲47 の1には、1頁目に「ブランド:Muzili」、2頁目に「ブランド名 Muzili」及び「メーカー zhiyu」との記載があるが、「Mu zili」はオーディオ製品の専業メーカーの商標であり(乙5,6)、 しかも、前記(1)ウのとおり原告が平成29年9月25日から令和3年5月 11日までの間に大量に出願した商標の1つであって(甲13、商願20 18−122372)、極めて不自然である。 そうすると、原告の挙げる使用実績は、早期審査の認定を受けるためか、 商標登録異議や無効審判の請求に対応する名目的なものというべきで、前 記認定判断を覆すに足りる事情に当たるとは到底いえない。その他に原告 がるる主張する点も本件結論を左右し得ない。

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令和4(ワ)2188等  不正競争行為差止等請求  不正競争  民事訴訟 令和5年1月23日  大阪地方裁判所

不競法2条1項1号の周知商品等表示ではないとして、逆に、被告商品が原告商品を模造した違法なものであることを摘示する部分は「虚偽の事実」に該当する(不競法2条1項21号)に該当すると判断されました。

原告形態A、同B及び同Cは、いずれもその形態を特定するのに必要とさ れるスピーカー・アンプ内蔵型マイクの全体形状及びこれを構成する各パー\nツの具体的な形状、寸法、位置関係といった構成要素を何ら具体的に特定す\nるものではなく、その構成要素の一部についてのみ抽象的、断片的に指摘す\nるにとどまるものである。加えて、スピーカー部がマイク下部の竿体内に組 み込まれた形態(原告形態A)は、抽象的な位置関係のみをいうのであれば、 そのような配置をしようとすれば避けられない形態であるし(そのように配 置すること自体はアイディアであって、商品等表示とは性質を異にする。)、\nストラップを通すリングがあること(原告形態B)や、端子カバーを開閉可 能につけること(原告形態C)は、いずれも落下防止や端子の汚損等の防止\nのために行われるありふれた工夫であって、出所表示として機能\するものと は到底考えられない。
原告は、原告形態Aないし同Cを組み合わせた全体的な形状が一般的なワ イヤレスマイク(ハンド型)と同様の円筒状様の形態であることを指摘して いるにとどまり、円筒形状であることを超えて、その全体形状及び各構成要\n素について何ら具体的に特定するものではない。したがって、原告形態Aな いし同C及びその組み合わせが、商品等表示として機能\するものとして特定 されているとはいい難い。 この点を措くとしても、原告商品はスピーカー・アンプ内蔵型のマイクで あり、原告は、原告商品をマイクとして広告宣伝していること(甲9の1〜 9の13)に照らすと、スピーカーが内蔵されているか否かにかかわらず、 マイク全般が原告商品の同種商品に該当するものと認められる。そうである ところ、マイク自体が、実用品であって、需要者がその形態等を鑑賞するた めのものではないことに加え、原告が主張するとおり、原告商品は、全体的 な形状が一般的なワイヤレスマイク(ハンド型)と同様の形態とするもので あるから、原告商品が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(特別顕 著性)を有さないことは明らかである。 以上から、原告形態Aないし同C及びこれらを組み合わせた形態が原告の 「商品等表示」に該当するものとは認められない。\n
(2) したがって、本訴請求に係るその余の点を判断するまでもなく、原告の本 訴請求は理由がない。
2 反訴請求について
(1) 争点2−1(本件表示の内容が「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実」\n(不競法2条1項21号)に該当するか)について 本件表示は、原告が、原告商品を模造した被告商品を販売している被告に\n対して販売の中止と損害賠償を求める訴えを提起した旨を摘示するものであ る。この点、「模造」とは、「実物に似せて造ること」を意味し(乙3)、 その言葉自体、本物でない、まがいものを作出するといった否定的に捉え得 るものであることに加え、訴えを提起したという表現は、本件表\示の全体の 文意からすれば、相手方が違法行為に及んでいることを摘示するものと解さ れるから、これに接した閲覧者は、被告が、原告商品を違法に模造した被告 商品を販売していると認識するものと認められる。また、本件表示が掲載さ\nれた時期や記載内容に加え、本訴請求のほか、原告が被告に対して原告商品 に関する訴えを提起したことをうかがわせる証拠はないことに照らすと、本 件表示中の訴えの提起は、本訴請求を指していると解される。\n そうであるところ、前記1のとおり、本訴請求には理由がなく、その他、 被告商品が原告商品を違法に模造したことを裏付ける証拠はないから、本件 表示のうち、被告商品が原告商品を模造した違法なものであることを摘示す\nる部分は「虚偽の事実」に該当するものと認めるのが相当である。そして、 本件表示を閲覧した者は、被告商品が違法な模造商品であると認識し、本件\n表示は、被告商品の市場価値を明らかに低下させるものといえるから、被告\nの「営業上の信用を害する」ものと認めるのが相当である。 以上から、本件表示は「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実」に該当\nする。これに反する原告の主張は採用できない。

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令和4(ワ)10443  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年1月12日  東京地方裁判所

P-Pソフト「BitTorrent」をインストールしたコンピュータの発信者情報開示請求事件です。裁判所は、本件発信者によるHandshakeに係る情報は、\n「特定電気通信」に該当すると、開示を認めました。

ア 本件調査会社は、原告から指定されたコンテンツの品番を含むファイルを トラッカーサイトで検索し、著作権侵害が疑われるファイルのハッシュ値 (データ〔ファイル〕を特定の関数で計算して得られる値のこと。ファイル からハッシュ値は一意に定まるので、ファイルの同一性確認のために用いら れる。)を取得し、本件検知システムに登録した。
イ 本件検知システムは、上記経緯により同システムの監視対象となった上記 ファイルのハッシュ値について、BitTorrentネットワーク上で監 視を行った。具体的には、本件検知システムは、トラッカーサーバーに対し、 上記ファイル(全部又は一部をいう。以下1において同じ。)のダウンロー ドを要求し、当該ファイルをダウンロードできる(所持している)ピアのI Pアドレス、ポート番号等のリストをトラッカーサーバーから受け取って、 本件検知システムのデータベースに記録した(別紙動画目録記載の「IPア ドレス」及び「ポート番号」欄は、当該IPアドレス及びポート番号である。)。 そして、本件検知システムは、上記リストを受け取った後、同リストに載 っていたユーザーに接続をして、同ユーザーが応答することの確認(Han dshake)を行っており、別紙動画目録記載の「発信時刻」欄の日時は、 当該Handshake完了時のものである。
もっとも、本件検知システムは、上記Handshakeの時点において、 上記ユーザーが保有している上記ファイルを実際にダウンロードしていな いものの、上記時点において上記ユーザーから返信された上記ファイルのハ ッシュ値によって、実際に上記ユーザーが上記ファイルを所持していること の確認を行っている。そのため、本件検知システムは、上記時点において直 ちに上記ユーザーから上記ファイルのダウンロードができる状態にあった ことになる。
ウ なお、BitTorrentにおいて、ファイルをダウンロードするよう になったユーザーは、BitTorrentクライアントソフトを停止させ\nるまで、トラッカーサーバーに対し、当該ファイルが送信可能であることを\n継続的に通知し、他のユーザーからの要求があれば、当該ファイルを送信し 得る状態になっている。
(2) 権利侵害の明白性
前記前提事実記載のBitTorrentの仕組み及び上記認定事実記載 の本件検知システムの仕組み等によれば、本件発信者は、本件動画をその端末 にダウンロードして、本件動画を不特定多数の者からの求めに応じ自動的に送 信し得るようにした上、別紙動画目録記載のIPアドレス及びポート番号の割 当てを受けてインターネットに接続し、Handshakeの時点である別紙 動画目録記載の「発信時刻」欄記載の日時において、不特定の者に対し、Bi tTorrentのネットワークを介して本件動画に係る送信可能化権が侵\n害されその状態が継続していることを通知したものと認めるのが相当である。 そして、当事者双方提出に係る証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の 違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはで きない。
これらの事情を踏まえると、本件発信者は、Handshakeの時点にお いて、不特定の者に対し、BitTorrentのネットワークを介して本件 動画に係る送信可能化権が侵害されその状態が継続していることを通知して\nいるのであるから、本件発信者によるHandshakeに係る情報は、プロ バイダ責任制限法5条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に該当する ものと解するのが相当である。また、本件発信者によるHandshakeに 係る情報は、上記のとおり、不特定の者において、本件動画に係る送信可能化\n権が侵害されその状態が継続していることを確認する上で、必要な電気通信の 送信であるといえるから、「特定電気通信」にも該当するものと解するのが相 当である。
(3) 被告の主張
ア 被告は、Handshakeは応答確認にすぎず、本件動画のアップロー ド又はダウンロードではないから、Handshakeに係る情報は、送信 可能化権の侵害に係る発信者情報には当たらないと主張する。しかしながら、\n本件発信者が、Handshakeの時点において、不特定の者に対し、本 件動画に係る送信可能化権が侵害されその状態が継続していることを通知\nしていることは、上記において説示したとおりであり、当該事実関係を前提 とすれば、Handshakeに係る情報が「権利の侵害に係る発信者情報」 に該当するものと認めるのが相当である。したがって、被告の主張は、採用 することができない。
また、被告は、本件発信者は、Handshake時までに、本件動画の ファイルのピースさえ保有していない可能性があると主張する。しかしなが\nら、前記認定事実によれば、確かに、本件検知システムは、Handsha keの時点において、ユーザーが保有しているファイルを実際にダウンロー ドしていないものの、本件検知システムは、上記時点において上記ユーザー から返信された上記ファイルのハッシュ値によって、実際に上記ユーザーが 上記ファイルを所持していることの確認を行っていることが認められる。そ うすると、本件発信者は、Handshakeの時点までに、少なくとも当 該ファイルのピースを所持しているものと推認するのが相当であり、これを 覆すに足りる証拠はない。したがって、被告の主張は採用することができな い。
イ その他に、被告提出に係る準備書面を改めて検討しても、上記認定に係る 本件検知システムの仕組み等を踏まえると、被告の主張は、上記判断を左右 するに至らない。したがって、被告の主張は、いずれも採用することができ ない。
(4) 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求を予定し\nていることが認められることからすると、原告には本件発信者情報の開示を受 けるべき正当な理由があるものといえる。
(5) したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、 本件発信者情報の開示を求めることができる。

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令和3(ワ)13720 著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年1月20日  東京地方裁判所

出版権に基づく著作権侵害を主張しましたが、裁判所は、「相違部分には、被告の思想又は感情を創作的に表現した部分が含まれる」として、原作のまま複製には該当しないと判断しました。\n

1 争点1(被告表紙等が原告表\紙を「原作のまま…複製」(著作権法80条1項 1号)したものであるか)について (1) 前記前提事実(2)イのとおり、原告は、Bとの間で、本件出版契約を締結し、 原告漫画について、紙媒体出版物(オンデマンド出版を含む。)として複製 し、頒布することなどを内容とする「出版権」の設定を受けることを合意し たところ、この合意内容によれば、原告は、原告漫画を目的とする出版権と して、「頒布の目的をもつて、原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方 法により文書又は図画として複製する権利」(著作権法80条1項1号)を 取得したものと認められる。 そして、上記出版権は、著作物を「原作のまま…複製する権利」であるこ とからすると、出版権の目的である著作物を有形的に再製する行為には及ぶ が、上記著作物のうち創作的表現とは認められない部分と同一性のあるもの\nを作成する行為には及ばないし、翻案、すなわち、上記著作物の表現上の本\n質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加え\nて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が\n上記著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物\nを創作する行為(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第1 小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)にも及ばないと解される。 (2) 証拠(甲4、5)によれば、被告が作成した被告表紙等は、少なくとも以\n下の部分において、原告表紙と相違すると認められる(以下、これらの相違\n部分を「本件相違部分」という。)。
ア 原告人物1の髪は目及び耳にかかる程度の長さで描かれているのに対し、 被告人物1の後髪は肩にかかり、横髪は耳を隠し、前髪は頬にかかるほど の長さで描かれている部分
イ 原告人物1の右耳は飾りが付いていないように描かれているのに対し、 被告人物1の右耳はピアスのように見える飾りが付いているように描かれ ている部分
ウ 原告人物2の髪は自然に流れるようにウェーブした状態に描かれている のに対し、被告人物2の髪は、複数の束となっており、束ごとに髪先が直 線的に切りそろえられた状態に描かれている部分
エ 原告人物2の瞳は略楕円形で、眉毛は細い線のように描かれているのに 対し、被告人物2の瞳は略円形で、眉毛は太く描かれている部分
オ 原告人物2は口をほとんど開けていないように描かれているのに対し、 被告人物2は、口を開き、歯が覗くように描かれている部分 カ 原告人物1及び2は学生服及びワイシャツを着ているように描かれてい るのに対し、被告人物1及び2は学生服及びワイシャツとは異なる服を着 ているように描かれている部分
(3) 前記前提事実(1)イ及び(3)並びに前記(2)の認定事実によれば、二次創作同 人誌を発行していた被告は、自らの知識や経験に基づき、被告漫画のストー リーや登場人物の設定等を念頭に置きつつ、被告漫画の表紙及び中表\紙とし てふさわしいものとなるように考えながら、原告表紙との本件相違部分を含\nむ被告表紙等を作成したということができる。そして、本件相違部分は、人\n物の髪型、目及び衣服といった当該人物の外見を特徴付ける部分に関する表\n現であり、別紙対比表からも明らかなとおり、被告表\紙等における被告人物 1及び2の外見の描写のうち本件相違部分が占める割合は小さくない。さら に、本件相違部分に係る表現がありふれたものであることを認めるに足りる\n証拠はない。したがって、本件相違部分には、被告の思想又は感情を創作的 に表現した部分が含まれると認めるのが相当である。\n
そうすると、原告表紙と被告表\紙等との共通部分に創作的表現が認められ\nない場合には、被告表紙等は、原告表\紙のうち創作的表現とは認められない\n部分と同一性があるにすぎず、被告は、創作的表現を含む本件相違部分を備\nえた、原告表紙とは別の新たな著作物である被告表\紙等を創作したといえる。 また、上記共通部分に創作的表現が認められる場合には、被告は、新たに創\n作的表現を含む本件相違部分を加えることにより、原告表\紙の表現上の本質\n的な特徴を直接感得することのできる別の著作物である被告表紙等を創作し\nたものであるから、原告表紙を翻案したものといえる。\n
以上によれば、被告表紙等は、いずれにしても、原告表\紙を「原作のまま …複製」(著作権法80条1項1号)したものとは認められないから、被告 が被告表紙等を作成したことにより原告漫画に係る原告の出版権が侵害され\nたとは認められない。

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令和4(行ケ)10087  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年1月17日  知的財産高等裁判所

知財高裁4部は、図形と分離したうえ、文字部分について分離解釈をして、類似すると判断し、拒絶審決が維持されました。引用商標は、「EMPIRE」(標準文字)、本件商標は牛の図形の下に「EMPIRE STEAK HOUSE」です。

ア 本願商標は、左向きの牛の全身を表した図形と、同図形の下側に、「EM\nPIRE STEAK HOUSE」の文字を表してなる結合商標である。\n そして、上記文字部分は同図形部分に比してかなり小さく表されてはい\nるものの、両者は、相互に重なり合うこともなく配置され、文字部分が図 形部分に埋没した印象を与えることもなく、文字として明瞭に認識できる ものであるから、文字の持つ本来的な訴求力の強さに鑑みて、同図形部分 と同文字部分は、それぞれが独立した構成部分として、視覚上十\分に分離 して認識され得るものである。
イ 前記アのように分離して認識される本願商標の構成中、左向きの牛の全\n身を表した図形部分は、何らかの行動をとる前の牛の全身を表\したものと は認識できるが、その様子が象徴的な態様又は具体的行動を表現したもの\nとは看取できず、また、この牛が特定のキャラクター等の主体を表したも\nのとは見受けられず、さらに、比較的写実的に牛を描いていることからそ の色合や形に印象的といえる部分も見受けられず、結局、「牛」の称呼及び 観念を生じさせるにとどまる。
そうすると、本願商標の構成中の牛の図形部分は、本願商標の指定役務\n中「ステーキ料理の提供」との関係においては、提供される料理の食材が 牛であるという印象を与えるにすぎないといえ、実際の取引においても、 ステーキハウスを含む牛肉等に関連した料理を提供する店舗において、食 材である牛の全身又は一部をモチーフとした図形を用いる例が見受けら れ(乙33ないし41)、このようなことは広く一般的に行われていること といえる。したがって、前記牛の図形部分は、本願商標の指定役務中、「ステーキ料 理の提供」との関係において、自他役務識別機能を有しないか又は同機能\ が極めて弱いものである。
ウ 前記アのように分離して認識される本願商標の構成中、「EMPIRE ST EAK HOUSE」の文字部分については、「EMPIRESTEAKHOUSE」な る1語が存在することはうかがわれない一方、「EMPIRE」、「STEAK」及 び「HOUSE」の文字の間に間隔が置かれていることからみて、「EMPIR E」、「STEAK」及び「HOUSE」の3語からなるものと認識されるところ、 「EMPIRE」の文字は、「帝国」を意味する英単語であるが、英和辞典にお いて高校学習単語とされる英単語であり、国語辞典においても「エンパイ ア」の見出し語の下に「帝国」の意味を有する語として掲載されており(乙 2ないし4)、我が国においても容易に意味が理解される親しまれた語と いえる。そして、「EMPIRE」の語から生じる「帝国」の観念や「エンパイ ア」の称呼が、本願商標に係る指定役務について、これら役務の提供の場 所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法又は時期そ\nの他の特徴、数量又は価格と関連性を有することは想定できないから、「E MPIRE」の文字は、「ステーキ料理の提供」を含む本願商標の指定役務と の関係において、自他役務識別機能が強いといえる。\n
他方、「EMPIRE STEAK HOUSE」の文字部分のうち「STEAK」と 「HOUSE」についてみると、「STEAK HOUSE」の文字が「ステーキ専 門店」の意味を有する英語であること(乙5)、この語が飲食物の提供の一 業態を示すものとして一般に用いられていることは当事者間に争いがな いことや、実際の取引においても、本願商標の指定役務のうち、「ステーキ 料理の提供」を行う業界においてこの語が普通に用いられている例が見受 けられこと(乙6ないし16)からみて、広く一般に定着した語と認めら れ、「STEAK」と「HOUSE」の語は、ステーキ専門店を意味する「STE AK HOUSE」を表すると認識されるものと認められる。\n そして、「STEAK HOUSE」の語が本願商標の指定役務中、「ステーキ 料理の提供」に使用される場合には、役務の提供の場所、質を意味するも のといえるから、本願商標の構成中「STEAK HOUSE」の文字部分は、 自他役務識別機能を有しないか又は同機能\が極めて弱いというべきであ る。このような場合、自他役務の識別のためにはそれ以外の部分が重視さ れ、自他役務識別機能を有しないか又は同機能\が極めて弱い部分は省略さ れることがあり得べきところ、実際の取引においても、「STEAK HOUS E」又は「ステーキハウス」を含むステーキ料理の提供を行う店舗名が、「S TEAK HOUSE」又は「ステーキハウス」の文字部分を除いて略称される 例が見受けられるから(乙17ないし31)、我が国において、「STEAK HOUSE」又は「ステーキハウス」の語は、ステーキ専門店を区別して指 示する際には省略されることが普通にあり得ることと認められる。
エ 前記イ及びウを踏まえると、取引者及び需要者の認識に対する影響力と いう点から見れば、本願商標は、「EMPIRE」の文字部分が外観上目立つも のではないにしても、取引者及び需要者に対して自他役務の識別標識とし て強く支配的な印象を与えるといえるから、本願商標より「EMPIRE」の 文字部分を商標の要部として抽出し、これと引用商標とを比較して商標の 類否を判断することが相当であるというべきである。そうすると、本願商標は、その要部の「EMPIRE」に相応して、「エンパ イア」の称呼及び「帝国」の観念が生じるものというべきである。
(2) 引用商標について
引用商標は、「EMPIRE」の文字を標準文字で表してなるものであるから、\nこれより「エンパイア」の称呼及び「帝国」の観念が生じるものである。
(3) 本願商標と引用商標の類否について
本願商標の要部である「EMPIRE」の文字部分と引用商標とを比較すると、 両者は、いずれも普通に用いられる書体で、「EMPIRE」と表してなるもの\nで、外観において紛らわしく、称呼(「エンパイア」)及び観念(「帝国」)は 同一であることから、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛らわしく、 互いに類似するというべきである。 したがって、本願商標全体の外観と引用商標の外観が相違することを考慮 しても、両商標は、同一又は類似の役務に使用された場合には、当該役務の 出所について混同を生じるおそれがある類似の商標と判断すべきである。
(4) 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務の類否について 本願商標の指定役務中、第43類「ステーキ料理の提供」は、引用商標の 指定役務中、第43類「焼肉料理・海鮮料理およびその他の飲食物の提供」 と、役務の提供の場所や質(内容、業種)を共通にすることから、両者は同 一又は類似のものである。
・・・
2 原告の主張について
(1) 原告は、前記第3の1 のとおり、需要者、取引者は飲食店の選別に当た り屋号や店名の全体を注意深く観察するものであるところ、本願商標中の「E MPIRE STEAK HOUSE」の文字は、外観上まとまりよく一体的に配され ており、各語の間隔も同一であり、そこから生じる「エンパイアステーキハ ウス」の称呼もよどみなく一連に称呼され得るものであるから、上記文字部 分は、一連一体のものとして称呼、認識される旨主張する。 しかしながら、ステーキ料理の需要者がどの料理店を選択するかに当たっ ては、「STEAK HOUSE」の部分は当該選択に当たって何ら必要な情報を 与えるものではないから、「EMPIRE STEAK HOUSE」に外観上まとまり があって一体的であろうと、称呼がよどみなく一連に称呼できものであろう と、需要者が着目しているのは「EMPIRE」の部分といえる。 したがって、原告の主張は当を得たものとはいい難く、これを採用するこ とはできない。また、原告は、前記第3の1 のとおり、「EMPIRE」から一義的に「帝国」の観念が生じるとすることは誤りである旨主張するが、前記1(1)ウのとおり、 「EMPIRE」から「帝国」の観念が生じることは明らかであり、「帝国」に加 えて「帝国」以外の観念が生じる可能性があるからといって、「帝国」の観念\nが生じていないとはいえないから、原告の上記主張を採用することはできな い。
以上によれば、上記各主張を前提とする原告の主張(前記第3の1(3))に ついては、その前提に誤りがあるから、採用できないというほかない。 原告は、前記第3の1(3)のとおり、1)「EMPIRE BURGER HOUSE」 との商標の登録例、2)ある文字に「STEAK HOUSE」等が結合された商標 の登録例、3)ある文字からなる商標と当該文字に店名を表示する際の接尾語\nを結合した商標を非類似とする審決等の例からみて、本願商標の登録を認め ない本件審決は不合理である旨を主張するが、商標の類否判断は、商標の構\n成、指定役務、取引の実情等を踏まえて、商標ごとに個別に判断すべきもの であって、原告が指摘するような他の商標登録事例等があるからといって、 本願商標と引用商標の類否判断が影響を受けるものではないから、上記主張 は結論を左右しないものであり、採用することができない。
なお、あえて付言すれば、「EMPIRE BURGER HOUSE」との商標は、 「EMPIRE STEAK HOUSE」との本願商標とは、「BURGER」との語の部分が異なるほかは構成を共通にするものであるが、「BURGER HOUSE」 の語は、「STEAK HOUSE」の語と比してわが国での親和度は低いものと も考えられ、その場合、「EMPIRE」に対する「BURGER HOUSE」との語 の自他役務の識別能力は、「STEAK HOUSE」の場合と比すれば相対的に 高いとみることも可能であるから、語の構\成だけをみて「EMPIRE BURG ER HOUSE」と「EMPIRE STEAK HOUSE」とを同列に論ずることは妥当ではなく、「EMPIRE BURGER HOUSE」との商標が登録され「EM PIRE STEAK HOUSE」との本願商標の登録が拒絶されているからといっ て、これを直ちに不合理な取扱いであるとすることはできない。

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平成29(ワ)4178  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年1月31日  大阪地方裁判所

出願前に納品されたことにより、公然実施されたとして、特104条3に基づき、権利行使不能と判断されました。\n

被告は、平成11年5月から平成12年4月までの間に、日本製紙八代工場に ベルト4反(ベルトB)を納品し、ベルトBが同工場において平成11年6月1 1日から平成12年5月9日までの間に使用開始されており、ベルトBの構成は\n本件発明1の構成要件と一致し、納品によってその構\成が日本製紙に知り得る状 態となり、また、当業者はDMTDAの同定が可能であったとして、本件特許1\nの出願前にベルトBに係る発明が公然実施された旨主張するので、以下検討する。 (1)ア 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(なお、 原告は乙32が真に平成11年に作成されたのか不明である旨を主張するが、そ の体裁等に照らすと、作成日等に関する疑義は認められない。)。 (ア) 被告は、昭和63年からベルトを製造していたところ、平成8年4月に新 工場を新設して、ベルトの製造を集約することとなった。それに伴い、被告では、 品質を一定の水準以上に維持するために、製造工程の一連の流れ、各ステップの 管理項目、品質特性(品質保証項目)及び管理方法を明確にしたルールを作成す ることとなり、平成11年2月26日、QC工程図が作成された。(以上につき、 乙32、83) QC工程図には、樹脂コーティング工程に関し、1)ビス(メチルチオ)−2, 4−トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン及びメ チルチオトルエンジアミンの混合物であるエタキュアー300(硬化剤)のほか、 イソシアネート基を末端に有するプレポリマーである、タケネートL2390及\nびタケネートL2395を受け入れ、10)1)の樹脂を調合し、11)基布(ベース)の シュー側(内周面側)にコートしてキュアし、その後、15)反転して、18)1)で受け 入れた樹脂を調合し、19)基布(ベース)のフェルト側(外周面側)にもコートし てキュアする旨の記載がある(乙32〜36、130〜132。なお、数字は工 程番号を指す。)。
(イ) 被告は、QC工程図に従って、平成11年3月1日から同月4日の間に反 番51+01349のベルト、同年8月5日から同月10日の間に反番51+0 4750のベルト、同年10月1日から同月5日の間に反番51+06801の ベルト及び平成12年2月15日から同月22日の間に反番52+00481の ベルトの各樹脂コーティング工程作業を行い、その頃、基布面を完全に被覆する 両面樹脂構造であり、かつ、排水溝を有するベルトBの製造を完了させ、日本製\n紙に対し、平成11年5月14日、同年9月3日、同年10月21日及び平成1 2年4月27日、それぞれ納品した(乙25、27〜31、83)。
イ 前記ア(ア)及び(イ)によれば、ベルトBは、ポリウレタンにより基布が完全 に被覆されており、内周面及び外周面のポリウレタンは、末端にイソシアネート\n基を有するウレタンプレポリマーとDMTDAを含有する硬化剤とを含んでおり、 熱硬化性であることが認められる。そうすると、公然実施発明Bは、基布を熱硬 化性ポリウレタンが完全に被覆してなり、前記基布が前記ポリウレタン中に埋設 され(構成B−a)、フェルト側およびシュー側が前記ポリウレタンで構\成され たシュープレス用ベルトにおいて(構成B−b)、フェルト側を構\成するポリウ レタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ビス(メ\nチルチオ)−2,4−トルエンジアミンおよびビス(メチルチオ)−2,6−トル エンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている(構成B−\nc)、シュープレス用ベルト(構成B−d)という構\成を有していることが認め られ、本件発明1の各構成要件を充足する。\n(2) 特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数 の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)ア(イ)の とおり、被告は、本件特許1出願前の平成11年5月14日から平成12年4月 27日までの間、日本製紙に対し、ベルトBを納品し、その内容を不特定多数の 者が知り得る状況で公然実施発明Bを実施したものと認められる。
(3) 原告の主張について
原告は、ベルトの現物自体からは当該ベルトが幾つの層によって構成されてい\nるか等を把握することは不可能であること、ベルトを構\成するポリウレタンは様々 な化学物質で構成されているから、外周面を構\成するポリウレタンに含有される 硬化剤に着目した分析が行われたとはいえないこと、当時、硬化剤として考え得 る候補物質は極めて多数存在していた上に、エタキュアー300を用いることで クラックの発生を抑制できることは当業者においてすら知られていなかったから、 硬化剤としてDMTDAに着目し、これをわざわざ入手してサンプルとして分析 機関に送付し、分析を依頼したとは到底いえないことを指摘して、ベルトBを日 本製紙に納品したとしても、ベルトBの外周面に硬化剤としてDMTDAが含有 されていたことが特定できたとはいえない旨を主張する。
しかし、前記(1)アのとおり、ベルトBは、日本製紙に納品され、自由に解析等 をなされ得る状態におかれたものであり、解析等によりベルトの構造等を特定す\nることは可能であるほか(甲25等参照)、本件特許1の出願日前において、外\n周層、内周層等の複数の層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリ マーと硬化剤とを混合してポリウレタンとし、ベルトの弾性材料とすることは、 技術常識に属する事項であった(甲2、乙26、27)。これに加え、証拠(乙 37、124、127〜133)及び弁論の全趣旨によれば、1)昭和62年に発 行された書籍において、実用化されている硬化剤として、MOCAのほかにエタ キュアー300が紹介されていたこと、2)米国の会社が平成2年に発行したエタ キュアー300のカタログにおいて、エタキュアー300は、新しいウレタン用 硬化剤であり、TDI(トルエンジイソシアナート。主にポリウレタンの原料と\nして使用される化学物質)系プレポリマーに使用した場合、MBCA(MOCA と同義。乙140、141)の代替品として、現在最も優れたものであると確信 している旨が記載されていたこと、3)米国の別の会社は、平成10年に日本向け のエタキュアー300のカタログを発行したこと、4)平成11年に日本国内で発 行された雑誌には、MOCAには発がん性があることが指摘されており、より安 全性の高い材料が求められていたが、1980年代後半には、既にMOCAに代 わる新しい硬化剤としてエタキュアー300が開発された旨の記事が掲載されて いたこと、5)被告は、平成3年頃からエタキュアー300の研究を開始し、遅く とも平成9年7月時点では、製紙用ポリウレタンベルトの硬化剤としてエタキュ アー300を使用していたこと、6)本件特許1の出願前に、エタキュアー300 と同様にウレタン用に使用された主要な硬化剤は、10種類前後であったことが 認められる。これらの事実関係に照らすと、本件特許1の出願前に、エタキュアー 300は、ウレタン用の硬化剤として注目され、実用化されていたものと認めら れ、分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが登録されていなかっ たとしても(平成29年時点において、ライブラリにDMTDAのマススペクト ルを登録している分析機関と登録していない分析機関がある(甲11、24)。)、 エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼した蓋然性 があったといえ、当業者は、公然実施発明Bの内容を知り得たものと認められる。 証拠(甲39、40)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、平成30年6月、 分析機関に対し、組成を明らかにすることなく被告製品3及び4のサンプルを送 付し、ポリウレタンの定性分析を依頼したところ、硬化剤について特定すること ができなかったことが認められる。しかし、同分析機関が硬化剤を特定すること ができなかったのは、同分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが 登録されていなかったこと(甲24の3)によるものと認められるところ、前記 のとおり、エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼 した蓋然性があったといえることに照らすと、前記結果(甲39、40)は、当 業者が公然実施発明Bの内容を知り得たという結論に影響を与えるものではない。 したがって、原告の前記主張は採用できない。
(4) 以上から、本件発明1は、本件特許1の出願前に日本国内において公然実 施された発明であるから、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきもの であって、原告は、被告に対し、本件特許権1を行使することができない(特許 法123条1項、104条の3第1項、29条1項2号)。

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令和4(ネ)10071  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年1月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許侵害事件です。1審(東京地裁29部)は、圧力風以外も用いて移送をするイ号は、「圧力風の作用のみによって、・・茶枝葉(A)を・・所定の位置まで移送する」という発明特定事項について、「圧力風の作用のみによって」を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。控訴審では均等侵害も主張しましたが、否定されました。

控訴人は、仮に本件発明7の構成要件Aの「圧力風の作用のみによって」\nの構成は、刈り取られた「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移\n送が「圧力風」の「作用」だけで実現されることをいい、「圧力風」の「作 用」以外の作用が加わって上記移送が実現されるものは、「圧力風の作用の みによって」を備えるとは認められないと解した場合には、被告各製品にお いては、「圧力風」の「作用」にブラシの回転作用が加わることによって茶 枝葉が移送ダクト内に送り込まれている点で、「圧力風の作用のみによって」 の構成を備えるとはいえず、本件発明7と相違することとなるとしても、被\n告各製品は、均等の第1要件ないし第5要件を充足するから、本件発明7の 特許請求の範囲(請求項7)に記載された構成と均等なものとして、本件発\n明7の技術的範囲に属する旨主張する。
そこで、まず、均等論の第1要件について検討するに、本件発明7の特 許請求の範囲(請求項7)の記載及び前記1(2)認定の本件明細書の開示事 項を総合すれば、従来の茶葉の摘採を行う摘採機は、「刈刃前方側に茶葉移 送のための分岐ノズル付き送風管を配し、分岐ノズルからの送風によって、 刈刃から収容部まで茶葉を移送するのが一般的であり、その移送路は、刈刃 のほぼ後方に延びる水平移送部と、その後に収容部の上部に臨むように接続 された上昇移送部を具えていたが、このような移送形態(送風形態)では、 水平移送部を要する分、移送装置、ひいては摘採機の前後長が長くなり、摘 採機の取り回し性を低下させてしまうという問題があったことから、本件発 明7は、上記問題を解決し、水平移送部を設けることなく、刈取直後、即、 茶葉を上昇移送できるようにし、摘採機の前後寸法の短縮化を図り、摘採機 をコンパクトに構成できるようにした茶枝葉の移送装置を開発することを課\n題とし、この課題を解決するための手段として、水平移送部を設けることな く、刈刃の後方から移送ダクト内に背面風を送り込む吹出口が設けられ、こ の吹出口から移送ダクト内に背面風を送り込むことによって、刈取後の茶枝 葉を刈刃から所定の位置まで移送する構成を採用し、具体的には、刈刃後方\nからの背面風によって、その吹出口付近に負圧を生じさせ、この移送ダクト 内に流す圧力風の作用のみにより、負圧吸引作用によって刈り取り直後の茶 枝葉を刈刃後方側に引き寄せ、その後は茶枝葉を背面風に乗せて、収容部な ど適宜の部位に移送する構成とし、これにより刈り取り直後、水平移送部を\n設けることなく、そのまま茶枝葉を上昇移送することができ、前後長の短縮 化が図れ、コンパクトな茶刈機が実現できるという効果を奏することに技術 的意義があり、水平移送部を設けることなく、刈刃の後方側から送風される 「圧力風の作用のみ」によって、その吹出口付近に負圧を生じさせ、この負 圧吸引作用によって刈り取り直後の茶枝葉を刈刃後方側に引き寄せ、その後 は茶枝葉を背面風に乗せて、収容部4など適宜の部位に移送するようにした ことが、本件発明7の本質的部分であるものと認められる。
しかるところ、前記2(2)で説示したとおり、被告各製品においては、 「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移送が「圧力風」の作用に 「圧力風」以外の作用である回転ブラシの回転作用が加わることによって実 現されているといえるから、被告各製品は、「圧力風の作用のみによって」 の構成を備えるものとは認められない。\nしたがって、被告各製品は、本件発明7の本質的部分を備えているもの と認めることはできず、本件相違部分は、本件発明7の本質的部分でないと いうことはできないから、均等論の第1要件を充足しない。

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◆令和2(ワ)17423

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令和2(ネ)10009等  商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟__全文__ 令和5年1月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

「2ちゃんねる」の商標権に基づき約2億円の損害賠償を認めました。1審は、被告の先使用権を認めていましたが、控訴審はこれを否定しました。

ア 控訴人が平成11年5月頃に自らプログラムやレンタルサーバを準備した上 で本件電子掲示板を開設したこと(前記2(2)ア)、その後、利用者の増加に伴い、 ボランティアの協力によって本件電子掲示板の維持や機能向上等が図られるように\nなり、控訴人は不要なデータの削除作業等を行うようになっていったものの、本件 電子掲示板のプログラムの修正等に参加する技術的ボランティアは、控訴人から、 又は、NTテクノロジー社のサーバの使用を控訴人に申し出て控訴人の了承を得る\nなどして平成12年頃から本件電子掲示板の運営に関与していたBから、技術的ボ ランティアとして参加することの許諾を得るなどしていたこと(同(2)イ(ア)・(ウ))、 平成14年頃から平成26年2月に至るまで、本件電子掲示板の広告料収入は控訴 人が代表取締役を務める東京プラス社が取得し、その中から控訴人名義でNTテク\nノロジー社に送金がされるなどしていたこと(同(1)ウ、(2)エ(ア))、平成16年及 び平成17年に控訴人が対外的にも本件電子掲示板の管理人として活動し、平成1 8年5月12日発行の「2ちゃんねる公式ガイド2006」にも控訴人が本件電子 掲示板の生みの親であることなどが記載されていたこと(同(2)カ、キ)のほか、そ の後も控訴人が平成18年当時本件電子掲示板の管理人であったことに沿う事実が 認められること(同(2)ク〜シ・セ・ト)を考慮すると、前記(1)で原判決の第3の 4(3)を訂正の上で引用して認定したように「2ちゃんねる」の標章及び「2ch.net」 の標章が周知性を獲得したというべき平成18年の時点において、その役務の提供 の主体は、控訴人であったというべきである。
イ(ア) 他方で、本件全証拠をもってしても、平成18年の時点及びそれ以降平成 26年3月27日(原告商標2の出願日)までのいずれかの時点において、「2ち ゃんねる」の標章及び「2ch.net」の標章が、NTテクノロジー社又は被控訴人の業 務に係る役務を表示するものとなったとみるべき事情は認められない。\n
(イ) この点、NTテクノロジー社については、本件電子掲示板のサーバを提供し たこと(前記2(2)イ(ア))や、PINKちゃんねるを開設し、2ちゃんねるビュー アの販売及び運営を行うようになったこと(同(2)ウ)、平成14年頃以降、本件電 子掲示板の広告料の売上げからの送金を受けていたほか、2ちゃんねるビューア「●」 の売上げを取得していたこと(同(2)ウ・エ)、本件ドメイン名について平成17年 5月10日時点でAが運営面に関する連絡先として登録されたりNTテクノロジー 社が登録サービス提供者として登録されたりしていたこと(同(3)イ〜カ)が認めら れる。
しかし、サーバの提供者が直ちに当該サーバを用いた事業の運営者となるもので はないことは明らかである。また、PINKちゃんねるは、あくまで本件電子掲示 板とは別個のアダルト版の掲示板として運営されていたことがうかがわれるから (弁論の全趣旨)、それを開設等したことからNTテクノロジー社が本件電子掲示 板の運営者となったということはできない。2ちゃんねるビューアの販売及び運営 についても、本件電子掲示板の古いスレッドを閲覧できるなどといったその利点か らして、2ちゃんねるビューアは、掲示板の中核的な機能というべき文書等の掲示、\nすなわち、本件電子掲示板における書込みや直近の掲示板の閲覧という機能と比べ\nると補足的な機能に係るものにすぎないといえ、その販売及び運営が直ちに本件電\n子掲示板本体の運営者であることを基礎付けるものとはいえない(この点、被控訴 人は、NTテクノロジー社が2ちゃんねるビューアを開発したと主張するが、当該 事実を認めるに足りる証拠もない。)。本件電子掲示板の広告料の売上げからの送 金についても、NTテクノロジー社が本件サーバ(NT)を本件電子掲示板のため に提供していたことからすると、控訴人が主張するように同提供の対価とみること もでき、本件電子掲示板の運営者であることを基礎付けない(なお、平成26年2 月の段階でも、NTテクノロジー社は、東京プラス社に対し、「Internet Services」 名目で金員を請求していたところである(前記2(2)タ)。)。本件ドメイン名の登 録に係る前記事情についても、そもそもドメイン名の登録名義と当該ドメインを用 いた事業の主体が同一であるという経験則が確固として存在するとは解し難いこと に加え、NTテクノロジー社が本件サーバ(NT)の提供者であったことや、本件 電子掲示板の事業形態等に変動があったことが他の証拠から特段うかがわれない時 期においても本件ドメイン名の登録情報が頻繁に変更され、かつ、それには単に名 義のみの変更であったことがうかがわれる複数の会社が含まれていること(同(1) エ、同(2)コ・サ(ウ)・セ、同(3)ア〜カ)を踏まえると、NTテクノロジー社が本件 電子掲示板の運営者であったことを裏付けるものとはいえない。
上記に関し、Aの陳述報告書(乙10、11)及び尋問調書の写し(乙12)に は、NTテクノロジー社が本件電子掲示板のプログラミング等に関与していた旨の 陳述ないし供述の記載があるが、そのような関与をするに至る経緯や具体的な関与 態様について何ら触れるものでなく、上記記載からそのような関与の事実を認める には足りず、他に当該事実を認めるに足りる証拠はない。
また、被控訴人は、B及びその他のゼロ社の関係者が本件電子掲示板のプログラ ムの修正等に深く関わっていたことを主張するが、BがNTテクノロジー社の代理 人等として当該修正等を行っていたと認めるに足りる証拠はなく、また、ゼロ社と NTテクノロジー社を一体的なものとみるべき事情等も認められないから、被控訴 人の上記主張は、NTテクノロジー社が本件電子掲示板の運営者であったことを根 拠付けるものとはいえない(なお、一般に、ウェブサイトのプログラムの作成や修 正等は、当該ウェブサイトに係る事業の運営者によって行われる場合もあれば、当 該運営者から委託を受けた第三者によって行われる場合等もあるのであって、単に 本件電子掲示板のプログラムの修正等に深く関与したという事実から、本件電子掲 示板の運営者であることが直ちに基礎付けられるものでもない。この点、本件電子 掲示板のボランティアについては、その関与態様のほか、少なくとも平成26年1 月25日当時、ボランティアには一切の義務も責任もない旨が本件電子掲示板に明 記されていたこと(前記2(2)イ(ウ))も考慮すると、ボランティアにおいて、自ら が控訴人とともに本件電子掲示板の運営者の一人であるとして本件電子掲示板のプ ログラムの修正等の作業に参加していたものとは解し難く、Bにおいては特に本件 電子掲示板への関与が深かったことがうかがわれることを考慮しても、なお、Bに ついても他のボランティアと異なるものとは直ちに認め難いところである。)。 付言するに、東京プラス社がNTテクノロジー社を被告として提起した訴訟の控 訴審判決において、NTテクノロジー社が共同事業と称するのも理解できる旨など が述べられているが(前記2(2)テ)、それは、2ちゃんねるビューアの販売収益等 も含めた評価であって、本件電子掲示板の運営に限らず、より広く本件電子掲示板 及びそれに関連する事業における東京プラス社とNTテクノロジー社の関係性につ いていうものとみることができ、NTテクノロジー社が本件電子掲示板の運営者で あったとは認められないとの前記判断と矛盾するものではない。
(ウ) 被控訴人については、NTテクノロジー社が本件電子掲示板に関連して行っ ていた業務を引き継いだこと(前記2(2)オ)や、平成24年5月3日までに本件ド メイン名の登録者となったこと(同(3)カ)、世界知的所有機関の調停仲裁センター により被控訴人による本件ドメイン名の使用が正当なものと認められたこと(同(3) キ)が認められるが、前記(イ)のとおりNTテクノロジー社が本件電子掲示板の運営 者であったとは認められない以上、被控訴人が引き継いだ業務(その内容は明確で はないが、少なくとも本件関与期間の開始時点前日である平成26年2月18日ま では、PINKちゃんねるに関する業務や、2ちゃんねるビューアに関する業務で あったとみられる。)をもって、被控訴人が本件電子掲示板の運営者であることを 基礎付けるものとはいえず(なお、Bやゼロ社の作業ないし業務をもって被控訴人 によるものとみるべき事情も見当たらない。)、本件ドメイン名の登録者となった ことについても、前記(イ)で指摘した点に照らし、被控訴人が本件電子掲示板の運営 者であったことを裏付けるものではない。また、上記調停仲裁センターの判断につ いても、あくまで当該事件について適用されるべき手続規則に基づく立証責任と当 該事件において提出された証拠に基づく判断であると解され、本件の判断を左右す るものではない。

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◆平成29年(ワ)第3428号

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令和4(行ケ)10090  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年1月31日  知的財産高等裁判所

 「heaven」と「インドカレーheaven」とが類似するとした審決が維持されました(4部)。指定役務は、「ホストクラブにおける飲食物の提供又はこれに関する助言・相談若しくは情報の提供」vs「インドカレー・インド料理の提供」ですが、これも類似すると判断されました。

以上によれば、商標法施行規則別表において定められた商品又は役務\nの意義は、商標法施行令別表の区分に付された名称、商標法施行規則別\n表において当該区分に属するものとされた商品又は役務の内容や性質、\n国際分類を構成する類別表\注釈において示された商品又は役務について の説明、類似商品・役務審査基準における類似群の同一性等を参酌して 解釈するのが相当である(最高裁判所平成21年(行ヒ)第217号同2 3年12月20日第三小法廷判決・民集65巻9号3568頁)。 そうすると、商標法6条2項の商品及び役務の区分は、商品又は役務 の類似の範囲を定めるものではないが(同条3項)、上記のような観点に 照らして各区分に属する商品又は役務の意義を確定しておくことは、商 品又は役務の類否の判断の前提として必要である。 商標法施行令別表は、第41類として「教育、訓練、娯楽、スポーツ及\nび文化活動」を、第43類として「飲食物の提供及び宿泊施設の提供」を 規定している。
商標法施行規則別表によれば、第41類の中に「十\三 娯楽施設の提 供 囲碁所又は将棋所の提供 カラオケ施設の提供 スロットマシン場 の提供 ダンスホールの提供 ぱちんこホールの提供 ビリヤード場の 提供 マージャン荘の提供 遊園地の提供」が挙げられ、第43類の中 に「二 飲食物の提供 ・・・ (三) 中華料理その他の東洋料理を主と する飲食物の提供 インド料理の提供 広東料理の提供 四川料理の提 供 上海料理の提供 北京料理の提供 (四) アルコール飲料を主とす る飲食物の提供」が挙げられている。 類別表注釈の「第11−2019版」の第43類の項(乙6)によれば、\n同類に属する「飲食物の提供」の役務は、「主として消費のための飲食物 を用意することを目的とする人又事業所が提供するサービス」とされる 一方、国際分類の「第11−2019版」(乙8)には、第41類として 「ナイトクラブの提供」が例示されている。また、類別表注釈の「第11\n−2022版」の第43類の項(乙9)には、「この類には、特に、次の サービスを含まない:」として、「例えば・・・ディスコ及びナイトクラ ブにより提供される、宿泊又は飲食物の提供が付随しうるものを含む、 知識の教授及び指導並びに娯楽の提供(第41類);」が挙げられ、第4 1類の項(乙7)には「娯楽又はレクリエーションを基本的な目的とする サービス」が挙げられている。 以上の点を参酌しつつ、「ホストクラブ」は、「ホスト(クラブなどの 接客係の男性)が主に女性客をもてなす酒場。」(広辞苑第7版、平成3 0年1月12日発行、甲5)であり、飲食物の提供が付随する娯楽を提供 するものとしてナイトクラブと同様であることに鑑みると、本願商標の 指定役務の「ホストクラブにおける飲食物の提供又はこれに関する助言 ・相談若しくは情報の提供」は、娯楽サービスの提供(接待等)の面でな く、飲食物の提供の面から検討するのが相当である。
イ 提供の手段、目的又は場所
本願商標の指定役務と引用商標の指定役務は、いずれも飲食物を提供す る役務であるから、注文により直ちにその場所で料理や飲料を作ったり、 調理済みの料理を用意したりするといった提供手段及び料理や飲料を飲食 させるという目的において一致する。 提供の場所に関しては、引用商標の指定役務では通常インド料理店であ るが、それに限定されるものではない。ホストクラブで、インド料理店勤務 の経験もあるシェフが料理を提供している事例があり(乙13)、また、ホ ストクラブのオープン前の時間帯にカフェを営業する事例もある(乙22) ことからすると、引用商標の指定役務と本願商標の指定役務で提供の場所 が一致することがあることは否定し得ない。
ウ 提供に関連する物品
本願商標の指定役務と引用商標の指定役務に関連する物品は、飲食物の 提供という観点からすると、食材、各種食品、飲料、例えば、おしぼり等の 消耗品や、食器、スプーン、グラス等であり、共通する。
エ 需要者、取引者の範囲
本願商標の指定役務の需要者は、ホストクラブにおいて飲食の提供を受 けようとする女性であり、引用商標の需要者は飲食の提供を受ける者であ って、そこには女性も含まれるから、飲食の提供を受けようとする女性と いう点で共通する。また、前記ウのとおり、本願商標の指定役務及び引用商標の指定役務に関連する物品は共通するので、これらについての業者すなわち取引者も共 通する。
オ 業種
本願商標の指定役務と引用商標の指定役務に係る飲食店は、飲食の提供 という点で共通し、その提供者は食品衛生法3条にいう食品等事業者や、 食品リサイクル法2条4項2号にいう食品関連事業者に当たり、また、日 本標準産業分類において同じ大分類「飲食サービス業」であり、中分類「飲 食店」でも一致するから(乙18)、業種が共通する。
カ 当該役務に関する業務や事業者を規制する法律
本願商標の指定役務と引用商標の指定役務に係る飲食店は、食品衛生法 54条、55条、食品衛生法施行令35条1号により営業許可を受けなけ ればならず、また、食品リサイクル法2条4項2号、8条により、主務大臣 の指導及び助言の対象等となる。 また、本願商標の指定役務の提供は、風営法2条1項1号、3条より公安 委員会の営業許可を受けていることが前提となるが、引用商標の指定役務 も、営業所内の照度や構造によっては風俗営業に当たり得る(同法2条1\n項2号、3号)。
キ 営業主体について
飲食業界においては、提供する飲食物が相違する様々な店舗を同じ経営 者が運営することは珍しくない(乙27、28)。 また、本願商標の指定役務に係るホストクラブの経営者においても、カ フェ、炉端焼き、レストラン、タピオカ店、ピザレストラン、寿司屋、さら にインドカレー店等の飲食店を運営している場合もある(乙22、30な いし33)。
(2) 前記(1)によれば、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務とは、飲食物 を提供するという点で共通し、当該役務に関する業務や事業者を規制する法 律も共通し、役務を提供する業種、役務の提供の手段、目的又は場所、役務の 提供に関連する物品、需要者等の範囲が共通し、かつ、同一の事業者が提供す る場合もあるから、これらを総合的に考慮すると、本願商標の指定役務と引 用商標の指定役務に同一又は類似の商標が使用されたときには、同一営業主 の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるといえる。原告は、前記第3の1(1)のとおり、本願商標の指定役務と、引用商標の指定 役務は、需要者、宣伝広告、価格帯、店舗の外観及び内装、提供に関連する物 品等において異なる旨主張するが、同主張は、本願商標の指定役務でないホ ストクラブにおける「接待の提供」に着目したものであり、直ちに採用できな い。
(3) そうすると、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務は、商標法4条1 項11号にいう類似の役務に当たるというべきである。原告がるる主張する 事情は、いずれも上記結論を左右するものにはなり得ない。
2 本願商標と引用商標の類似性について
(1) 本願商標について
本願商標は、「HEAVEN」の文字を標準文字で表してなるものであり、\n「HEAVEN」は、「天国」を意味する英語である(ベーシックジーニアス 英和辞典第2版。平成29年11月20日発行。乙3)。また、国語辞典(広 辞苑第7版。乙4)においても「ヘブン」(heaven)の語が「天。天国。」 の意味を有する語として掲載されているから、我が国の需要者においても容 易に意味が理解される親しまれた英語といえる。 そうすると、本願商標は、「ヘブン」の称呼及び「天国」の観念を生じるも のである。
(2) 引用商標について
ア 引用商標は、上段に、図形部分すなわち右手に器に入ったカレーを、左手 にナンを持っているインド人らしき人物の図形を配し、中段には、赤茶色 の二本の線の間を黄色で着色した円弧状の帯状図形中に同じ赤茶色で「イ ンドカレーヘブン」の片仮名を配し、下段に、大きく顕著に、黄色の太字を 赤茶色の線で縁取りして「Heaven」を配してなる、図形と文字との結 合商標である。
引用商標は、図形部分、中段及び下段の各文字部分からなるところ、各構\n成部分は重なることなく配置され、商標全体において占める大きさ、態様 が異なっている上に、中段の「インドカレーヘブン」及び下段の「Heav en」の各文字部分においても、書体や文字の大きさ、円弧状の帯状図形の 有無等の態様が異なっており、直ちに、三つの構成部分からなるものと認\n識し得るものであるから、三つの構成部分のそれぞれが、視覚的に分離し\nて把握されるものといえる。
イ 引用商標の構成中、下段の「Heaven」の文字部分は、黄色の太字を\n赤茶色の線で各文字を縁取りし強調するように、大きく表されていること\nに鑑みると、視覚的に、「Heaven」の文字部分を強く印象づける特徴 を備えているといえ、さらに、前記(1)のとおり、「Heaven」の文字は、 我が国においても容易に意味が理解される親しまれた英語である。そして、 「Heaven」の語から生じる「ヘブン」の称呼や「天国」の観念は、本 願商標と引用商標に共通する「飲食物の提供」という役務との関係で、役務 の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法又\nは時期その他の特徴、数量又は価格と関連性を有することは想定できない から、「Heaven」の文字は、自他役務を識別する標識としての機能が\n強いといえる。
これに対し、引用商標の構成中、上段の図形部分は、インドカレーとナン\nを持ったインド人らしき人物を示すものであるであるところ、これは、提 供の対象となる飲食物を示すにとどまり、それを超えて特別な印象を与え るものとはいえないし、また、中段の「インドカレーヘブン」の文字部分は、 下段の「Heaven」の文字部分に比べて小さく、また、「インドカレー」 の部分は提供の対象となる飲食物を示すものであって、自他商品の識別機 能を有するものではなく、現に、引用商標の商標権者のホームページ(甲6\n3)では、「ヘブンで宴会いかがですか」との広告をしたり、店舗を「ヘブ ン深作店」と表示するなどしている。\n
ウ そうすると、引用商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取\n引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものといえず、 下段の「Heaven」の文字部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の 出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものといえるから、引用商 標の構成から「Heaven」の文字部分を要部として抽出し、他人の商標\nと比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきであ る。

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令和4(行ケ)10078  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年1月17日  知的財産高等裁判所

「AROUSE」が先行商標「Arouge」と類似するかが争われました。知財高裁は類似するとして、無効理由なしとした審決を取り消しました。

(1) 本件商標について
本件商標は、別紙1のとおり「AROUSE」の文字をスクリプト書体風 に表してなるところ(本件審決は「U」が小文字である旨認定するが、「U」\nは大文字と小文字が同一であるところ、本件商標においては他の大文字と等 しい大きさで表されているから、大文字の「U」とみるのが自然である。)、\n同文字は、「アラウズ」と称呼され、「目覚めさせる、刺激する」等を意味す る英単語として英和辞典に載録されているものの、この語が我が国において 一般に広く親しまれた語であるとまではいい難いものであるから、広く一般 には特定の意味を有しない一種の造語として理解、認識されるというのが相 当である。そして、特定の意味を有しない造語にあっては、我が国において 広く親しまれているローマ字読み又は類似の英単語の読みに倣って称呼され るとみるのが自然であるところ、ローマ字読みに倣えば「アロウゼ」と称呼 され、また、「AROU」については、我が国において「around」(〜 の周囲、およそ〜)との語が非常に馴染み深い英単語として定着しているこ とを考慮すると、この英単語の読み「アラウンド」に倣えば「アラウゼ」と 称呼されると認められ、「アラウズ」との称呼は、前示のとおり、一般に広く 親しまれたものとはいい難い。 そうすると、本件商標は、一般には「アロウゼ」又は「アラウゼ」の称呼 を生じ、特定の観念を生じないものである。
(2) 引用商標2ないし4について
引用商標2ないし4は、別紙2の2ないし4のとおり、いずれも、長方形 の図形の中に、上段に「Arouge」の文字を、下段にリング形状の図形 を配したものであるが、長方形の図形は背景図形として看取され、リング形 状図形部分は、一見して特定の事物を表したものと認識することは困難であ\nり、指定商品との関係においても特定の意味合いを想起させるものではない から、それ自体から直ちに特定の称呼及び観念を生じるものとはいい難い。 そうすると、これらの図形部分からは出所識別標識としての称呼及び観念は 生じないと認められる。
一方で「Arouge」の文字部分については、上段に目立つ態様で配さ れており、文字が本来的に強い訴求力を有することに鑑みると、需要者又は 取引者は、引用商標2ないし4のうち「Arouge」の文字部分に着目す るといえ、この部分が要部と認められるが、この文字は、辞書等に載録され た成語とは認められず、また、特定の意味合いを想起させるものとして一般 に知られているということもできない。もっとも、特定の意味を有しない造 語にあっては、我が国において広く親しまれているローマ字読み又は類似の 英単語の読みに倣って称呼されるとみるのが自然であるところ、ローマ字読 みに倣えば「アロウジェ」又「アロウゲ」と称呼され、また、前記 のとお り、我が国においては「around」(〜の周囲、およそ〜)との語が非常 に馴染み深い英単語として定着していることを考慮すると、「アラウジェ」又 は「アラウゲ」と称呼されると認められ、フランス語風に「アルージュ」と いう称呼が生じ得ないではないとしても、一般的なものとはいい難く、「アル ージェ」という称呼が生じることは、更に想定し難い。 なお、本件審決は、引用商標2ないし4の称呼を「アルージェ」と認定す るが、その理由は審決文からは必ずしも明らかではないものの、同2ないし 5を一体として捉え、同5の上段にカナ文字で併記された「アルージェ」の 文字をもって、同2ないし4についても「アルージェ」の称呼を生じると解 しているかのようにも読める。しかしながら、別個独立の商標についての称 呼等の判断はそれぞれ個別に行われるべきであるし、商標法は、商標のみの 移転を可能とし、同一の範囲のみならず類似の範囲まで商標権に排他的効力\nを付すなど、当該商標の商標権者の本来的使用範囲よりも広い範囲の効力を 付しているから、その認定は需要者又は取引者を基準として客観的にされる べきものであり、同一商標権者が有する他の商標(甲第29号証ないし33 号証によると、引用商標1及び5と引用商標2ないし4の商標権者はいずれ も原告である。)を参酌して、当該商標権者の意図にのみ従ってその認定をす ることは相当ではない。したがって、カナ文字が併記されている引用商標1 及び5が「アルージェ」と称呼されることは明らかであるが、そうであるか らといって、別個独立の商標である引用商標2ないし4の称呼を「アルージ ェ」と認定できるものではない。
そうすると、引用商標2ないし4は、「アロウジェ」若しくは「アロウゲ」 又は「アラウジェ」若しくは「アラウゲ」の称呼を生じ、特定の観念を生じ ないものである。
(3) 商標の類否について
前記(1)及び(2)のとおり、本件商標と引用商標2ないし4の要部の称呼を対 比すると、本件商標が「アロウゼ」と、引用商標2ないし4が「アロウジェ」 と称呼される場合や、本件商標が「アラウゼ」と、引用商標2ないし4が「ア ラウジェ」と称呼される場合があり得る。「ゼ」と「ジェ」はいずれもサ行濁 音で母音「e」を共通にするため、両商標を時と所を異にして全体として一 連に称呼するときは、相似た語韻・語調となり、明確には聴別することがで きず、称呼において酷似するといえる。
また、本件商標と引用商標2ないし4の要部の外観とを対比すると、それ ぞれの書体を異にし、本件商標はその構成文字中の5字が大文字で表\されて いるのに対し、引用商標2ないし4は語頭の文字以外は小文字で表されてい\nるとの差異はあるが、商標の使用に当たっては、書体の相違やアルファベッ トの大文字・小文字の相違があっても同一の称呼を生じる場合は社会通念上 同一の商標とみなされるのであるから(商標法38条5項かっこ書、50条 参照)、上記のとおり両商標が酷似する称呼を生じる場合がある以上、このよ うな相違を殊更に重視すべきものではない。一方で、本件商標及び引用商標 はいずれも6文字と同じ文字数で構成されており、文字数が僅少とはいい難\nいところ、文字の相違は語中の5文字目のみが相違するというのであるから、 5文字目が全体に埋没して、外観上、両商標を見誤ることも多いとみるのが 相当である。
そして、本件商標と引用商標2ないし4の要部は、いずれも特定の観念を 生じないものであるから、観念上、比較することはできない。
・・・
以上からすると、本件商標と引用商標2ないし4の要部は、観念において 比較することができず、外観において見誤ることも少なくないと想定され、 さらに、称呼において酷似するものであるところ、引用商標2ないし4は、 それら要部に出所識別機能を有しない図形部分が加わっているにすぎないも\nのであるから、全体としても要部が与える印象を覆すものではない。そうす ると、本件商標を引用商標2ないし4の指定商品に使用した場合には出所を 混同させるおそれがあり、両商標は、相紛れるおそれのある類似の商標とい うべきである。
したがって、本件商標が商標法4条1項11号に該当しないとした本件審 決の判断には、誤りがある。

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令和4(行ケ)10062 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年1月24日  知的財産高等裁判所

 三菱鉛筆が「ユニ色」について色彩のみからなる商標を出願しましたが、知財高裁(2部)は識別力無しとした審決を維持しました。

前記認定事実によると、原告商品は、相当の長きにわたり新聞等の記事において 取り上げられ、また、様々な媒体において広告がされてきたのであるから、原告商 品(ユニ、ハイユニ又はユニスターと称する鉛筆)は、需用者の間において、相当 程度の認知度を有しているものと認められる。 しかしながら、前記認定のとおり、原告商品には、本願商標のみならず他の色彩 及び文字も付されているところ、前記1(2)のとおり、本件指定商品である鉛筆を 含む筆記用具について、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の近似色が広 く使用されている実情も併せ考慮すると、原告商品に触れた需用者は、本願商標の みから当該原告商品が原告の業務に係るものであることを認識するのではなく、本 願商標と組み合わされた黒色又は黒色及び金色や、当該原告商品が三菱鉛筆のユニ シリーズであることを端的に示す「MITSU−BISHI」、「uni」、「H i−uni」、「uni☆star」等の金色様の文字と併せて、当該原告商品が 原告の業務に係るものと認識すると認めるのが相当である。 加えて、前記認定のとおり、鉛筆の市場においては、原告及び株式会社トンボ鉛 筆が合計で80%を超える市場占有率を有しており、比較的鉛筆に親しんでいる需 用者としては、本件アンケート調査における質問をされた場合、回答の選択の幅は 比較的狭いと考えられるにもかかわらず、本願商標のみを見てどのような鉛筆のブ ランドを思い浮かべたかとの質問に対し、原告の名称やそのブランド名(三菱鉛筆、 uni等)を想起して回答した者が全体の半分にも満たなかったことからすると、 本願商標のみから原告やユニシリーズを想起する需用者は、比較的鉛筆に親しんで いる者に限ってみても、それほど多くないといわざるを得ない。 以上によると、本件指定商品に係る需用者の間において、単一の色彩のみからな る本願商標のみをもって、これを原告に係る出所識別標識として認識するに至って いると認めることはできない。
(3) 小括
以上のとおり、本願商標については、これが使用された結果、原告の業務に係る 商品であることを表示するものとして需用者の間に広く認識されるに至り、その使\n用により自他商品識別力を獲得しているといえないから、原告による本願商標の独 占使用を認めることが公益上の見地からみて許容される事情があるか否かについて 判断するまでもなく、本願商標が商標法3条2項に規定する商標(「使用をされた 結果需用者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識するもの」)に該 当するということはできない。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
3 原告の主張について
(1) 原告は、本願商標は原告が採択した独自の色彩であって、原告以外の善意 の取引者が偶然に使用することはあり得ないものであるから、自他商品識別標識と して機能すると主張する。\nしかしながら、原告が単一の色彩のみからなる商標(色彩)を採択した経緯や、 当該商標と同一の商標を一定の指定商品及び指定役務について使用する者がないこ とは、当該商標が自他商品識別標識又は自他役務識別標識として機能するか否かと\nは直接の関係がないことであるから、原告の上記主張を採用することはできない (原告は、本願商標が自他商品識別力を欠くというためには、本件指定商品につい て、本願商標と同一の商標が既に第三者によって当該商品の色彩として使用されて いることが必要であるとも主張するが、独自の見解であり、採用できない。)。
(2) 原告は、1)これまで数多くの新聞、雑誌等において、本願商標に係る記事 が掲載されてきたこと、2)これまで長年にわたり、新聞、テレビ等において、本願 商標が使用された原告商品の広告が行われてきたこと、3)原告は、鉛筆の市場にお いて極めて高い市場占有率を誇り、また、本願商標を使用した多数の原告商品が全 国の多数の店舗において販売されていること、4)別件商標1及び2について商標登 録がされていることからすると、本願商標は、著名な商標として、自他商品識別標 識として機能してきたと主張する。\nしかしながら、上記1)ないし3)の点については、前記2(2)のとおり、原告商品 が需要者の間において相当の認知度を有していることの根拠となるものではあるも のの、原告商品に付された本願商標以外の色彩及び文字の存在や、本件指定商品で ある鉛筆を含む筆記用具について、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の 近似色が広く使用されている実情を考慮すると、上記1)ないし3)の事実が存在する としても、原告商品に触れた需用者は、本願商標のみから当該原告商品が原告の業 務に係るものであると認識するということはできない。また、上記4)の点について は、別件商標1及び2は、いずれも本願商標に係る色彩とそれ以外の色彩との組合 せからなるものであり、その色彩及び配色を特定してなるものであって(甲137、 138)、輪郭のない単一の色彩のみからなる本願商標とは相当に異なるものであ るから、別件商標1及び2について商標登録がされていることは、本願商標がそれ のみで自他商品識別力を有することの根拠になるものではない。 以上のとおりであるから、原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 原告は、本願商標は「ユニ色」として、商品が原告の業務に係るものであ ることを直接表示するものとなっており、特別顕著なものであるから、自他商品識\n別標識として機能するものであると主張する。\n確かに、前記1(1)イのとおり、「DICカラーガイドPARTII)(第4版)第 5巻」に収録された「DIC−2251」(本願商標)については、色名が「un i色」とされており、また、「文具のこが屋」のウェブサイトにおいても、「ユニ ペンシルホルダー」なる商品の説明として、「本体軸部分には実際の木材を使用し、 ユニのイメージカラーである、…アレンジしたオリジナルカラー(通称「ユニ色」) と「黒」、「金」をあしらいました。」との記載があるが(甲29)、本願商標に 係る色彩を「ユニ色」と呼称する場合があるとしても、前記2(2)において説示し たところに照らすと、需用者において、この「ユニ色」のみで、本件指定商品であ る鉛筆が原告の業務に係るものであると認識するとはいえないといわざるを得ない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 原告は、本願商標が使用された商品(鉛筆)に接した需用者は商品のうち の狭い部分に付された文字商標のみによって商品の出所を認識するのではなく、商 品の大部分を占める本願商標をもって商品の出所を認識するのであるから、このよ うな本願商標の重要性に照らすと、本願商標は自他商品識別力を有すると主張する。 しかしながら、原告商品に付された本願商標以外の色彩及び文字(なお、当該文 字は、当該原告商品が三菱鉛筆のユニシリーズであることを端的に示すものであ る。)の存在や、本件指定商品である鉛筆を含む筆記用具について、ボルドー及び バーガンディーを含む本願商標の近似色が広く使用されている実情を考慮すると、 原告商品に触れた需用者が本願商標のみから当該原告商品が原告の業務に係るもの であると認識することができないことは、これまで説示してきたところであって、 このことは、原告商品(鉛筆)の表面において本願商標に係る色彩が付された面積\nが他の色彩が付された面積に比して大きいことにより左右されるものではない(な お、証拠(甲47、48、148〜150)によると、原告商品に付された文字が 需用者の目を引くものでないということはできない。)。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(5) 原告は、原告商品の模倣品が存在することは本願商標が自他商品識別標識 として機能してきたことを意味すると主張する。\nしかしながら、原告が主張する模倣品(甲109、110)も、鉛筆の表面に本\n願商標に係る色彩又はその近似色のみを付したものではなく、帯状の黒色を配した り、金色様の文字を付したりしたものであるから、これらの模倣品の存在をもって、 本願商標に係る色彩のみで自他商品識別力を有するということはできない。したが って、原告の上記主張は、採用できない。
(6) 原告は、特許庁が別件商標1の見本として、別件商標1の見本に該当しな い鉛筆(ユニスター)を展示したことをもって、特許庁も専ら本願商標によって鉛 筆が原告の業務に係る商品であると認識している旨の主張をするが、仮に特許庁が 原告の主張するような取り違えをしたからといって、本願商標に係る色彩のみで自 他商品識別力を有するということはできない。したがって、原告の主張を採用する ことはできない。

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令和3(ネ)10099  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年12月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

知財高裁は、均等侵害の第1、第2要件は充足するものの第3要件(置換容易性)は充足していないと判断し均等侵害を否定しました。1審では均等主張はしていませんでした。

被告製品1は第3要件を充足するか(争点1−2−3)
ア 被告製品1の製造開始時において、本件訂正発明6における「前記電解 室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」という構成を、被告製品1\nにおける「1)内タンク6の側壁の一部、2)流出孔3を有する内タンク6の 底部、3)4つの高分子膜10」との構成に置換することは、当業者が容易\nに想到し得たかについて検討する。
イ 前記2のとおり、本件訂正発明6においては、構成要件11Aの隔膜に\nよる区画は、隔膜によって電解室の内部と外部とが完全に区画されるもの であり、電解室の内部と外部とは、水が連通することがない独立した構造\nとなっている。また、本件明細書1においては、電解室の内部と外部を分 ける隔膜は、縦に設置されたもののみが開示され、陽極で発生する水素と 陰極で発生する水素は、別空間に排出されると理解される。 これに対し、被告製品1は、内タンク空間と外タンク空間の間を水が連 通する構成の下で高分子膜10を水平に配置し、高分子膜10の上側に保\n持された陰極電極板11で発生する水素ガスと、高分子膜10の下側に保 持された陽極電極板12で発生する酸素ガスの混合が起こり得る状態を 許容した上で、陽極電極板12で発生した酸素ガスは、枠体5内に集めて 大きな気泡を形成し、流出孔3から内タンク6内に進入するのを防止した 上、内タンク6と外タンク2の隙間内の水内を通って外部に排出するとい うものである(乙29の1・2)。そうすると、本件訂正発明6と被告製品 1は、その基本的発想を異にするものというべきであって、被告製品1に おける「1)内タンク6の側壁の一部、2)流出孔3を有する内タンク6の底 部、3)4つの高分子膜10」との構成への置換が本件訂正発明6の単なる\n設計変更とはいえない。
また、本件明細書1においては、「前記電解室の内部と外部とを区画する 一つ以上の隔膜」との構成を、被告製品1のような「1)内タンク6の側壁 の一部、2)流出孔3を有する内タンク6の底部、3)4つの高分子膜10」 との構成に置換した場合に生じ得る事項についての示唆もないから、本件\n明細書1において、上記のような置換をする動機付けとなるものも認めら れない。
ウ 控訴人は、前記第2の3(7)アのとおり、陽イオン交換膜を用いた固体高 分子水電解において、陰極室と陽極室を貫通孔により水を連通する構成は、\n被控訴人が製造販売を開始した平成29年11月以前から周知の技術で あるとして、甲36文献、甲37文献、甲40文献を提示するので、以下、 検討する。 甲37文献は、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び 廃水・廃液処理方法に関するものであり(【0001】)、電解反応を利用 した化学物質の製造において、多くの電解セルでは、陽極側と陰極側に 存在する溶液あるいはガスが物理的に互いに分離された構造を採るが、\n一部の電解プロセスにおいては、陽極液と陰極液が互いに混じり合うこ とを必要とするか、あるいは、混じり合うことが許容されることを前提 として(【0002】)、陽極側と陰極側が固体高分子電解質隔膜により物 理的に隔離され、陽極液と陰極液は互いに隔てられ、混合することなく 電解が行われる従来のオゾン水電解(【0005】)では、電解反応の進 行に伴い液組成が変化し、入側と出側で反応条件が異なるなどの問題点 があったことを踏まえ(【0006】)、電解セルの流入口より流入した原 料水がその流れの方向を変えることなく、直ちに電解反応サイトである 両電極面に到達し、オゾン水を高効率で製造できる等の作用を有するオ ゾン水製造装置等を提供することを目的としたものである(【001 6】)。
その技術分野(オゾン水製造装置)及び目的(オゾン水を高効率で製 造すること等)のいずれも本件訂正発明6と異なるし、その具体的構成\nも、貫通孔11が設けられた電解セル8(陽極1、陰極2及び固体高分 子電解質隔膜3)に直交して原料水(オゾン水)の流路が設けられると いうものであって(【0034】及び【0035】)、電極室の内部に被電 解原水が貯留され、電気分解が行われる本件訂正発明6とは異なる。し たがって、甲37文献に開示された事項を本件訂正発明6に適用する動 機付けは見い出せない。
甲40文献は、電源のない場所に持ち運び、水素の吸入や水素水の飲 用に使用することのできるポータブル型電解装置に係る技術分野に属す るものであり(【0001】)、電解ユニット3は、ケーシング31、高分 子膜32、電極板33、34、スプリング35からなること(【0028】)、 ケーシング31は、内部に反応室311となる容積が確保されており、 側部に外部と反応室311とを連通するように穿孔された連通孔314 が設けられていること(【0029】)、電解ユニット3の高分子膜32は、 イオンの通過を規制するイオン交換機能を有する薄膜からなるもの(例\nえば、ナフィオン)で、ケーシング31の窓孔311を閉塞する大きさ の方形に形成されていること(【0030】)が記載され、使用形態とし て、内部に原水Wが収容されたタンク1にキャップ2、ガイド筒4、水 素吐出管5を一体的に取付けられること(【0034】)、スイッチ9が入 れられると、原水Wが電気分解され、ケーシング31の反応室311の 内部にあるプラス極の電極板34で水素イオンと電子とが生成されて高 分子膜32を通過し、ケーシング31の窓孔312に露出しているマイ ナス極の電極板33で水素(ガス)が生成され、水素は、微細な気泡H を形成してタンク1の内部で水素水からなる電解水を生成すること、プ ラス極の電極板34で生成されたオゾン(ガス)は、高分子膜32を通 過することなくケーシング31の反応室311の内部に滞留され、ケー シング31の反応室311の内部の滞留圧力が大きくなると連通孔31 4から吐出されること(【0041】)が記載されている。 しかし、甲40文献には、陰極室及び陽極室についての記載はないか ら、これを見ても、陰極室と陽極室とを貫通孔により水を連通する構成\nが記載されているとはいえない。別紙2の図2において、マイナス極の 電極板33より上側部分を陰極室と、プラス極の電極板34より下側の 反応室を陽極室であると解釈すると、連通孔314は、陽極室とその外 部を貫通するものであって、陽極室と陰極室を貫通するものではない。 マイナス極の電極板33より上側部分と、ケーシング31側面の外側部 分はつながった空間であることから、ケーシング31側面の外側部分も 陰極室であるとみた場合には、連通孔314は、陽極室(反応室)と陰 極室(ケーシング31側面の外側部分)を貫通するものであるといえる が、酸素と水素が同じ陰極室内に排出されることになり、被告製品1の 構成に至らない。\n甲36文献に係る発明の公開日は平成30年11月22日であり、甲 36文献自体の発行日は令和2年3月11日であるから、その内容や位 置付けについて検討するまでもなく、甲36文献は、被控訴人が被告製 品1の製造販売を開始した平成29年11月時点における周知文献とは いえない。
エ 以上によれば、控訴人主張の周知技術は、いずれも、本件訂正発明6に おける「前記電解室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」という構\n成を、被告製品1における「1)内タンク6の側壁の一部、2)流出孔3を有 する内タンク6の底部、3)4つの高分子膜10」との構成に置換する動機\n付けになるものとはいえない。
これらの事実関係によれば、このような置換が容易であったとはいえな いから、被告製品1は、均等の第3要件を充足しない。 前記(1)ないし(3)によれば、被告製品1は、均等の第1要件及び第2要件を 充足するものの、第3要件を充足しないから、第5要件について判断するま でもなく、本件訂正発明6の技術的範囲に属しない。

◆判決本文
1審はこちら。
1審では、構成要件を具備せず、また実施可能\要件違反の無効理由有りと判断されていました。

◆令和2(ワ)22768

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令和4(行ケ)10067  商標登録取消決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年12月26日  知的財産高等裁判所

OLYMBEER」の欧文字と「オリンビアー」の片仮名を2段表記の商標が、異議申\し立てで、「オリンピアード」および「OLYMPIAD」から、4条1項6号違反として取り消されました。知財高裁は、同号が規定する著名性ありとは認められない、非類似商標であるとして、審決を取り消しました。

ア 商標法4条1項6号は、同号に掲げる団体等の公共性に鑑み、その信用 を尊重するとともに、出所の混同を防いで取引者、需要者の利益を保護す ることに趣旨があり、そこでいう著名性は、同号所定の標章が、指定商品 の取引者、需要者の間に広く認識されていることを要するものというべき である。なお、被告は、前記第3の2 アのとおり、ここにいう著名性は、 一商圏以上の取引者、需要者に広く認識されていれば足りる旨主張するが、 引用標章のように地域性が問題とならず、また、指定商品特有の事情が主 張・立証されているわけでもない標章も含めて被告主張のように解すべき 理由はなく、この点が本件において結論に影響を与える事柄であるとも思 えない。
イ 引用標章は、前記(1)アのとおり、1991年には、オリンピック憲章上 独立した項が設けられ、付属細則上各NOCにその名称を保護すべき努力 義務が課され、2004年には、「OLYMPIC」、「オリンピック」 の文字及び五輪の図形と同様に、「オリンピック資産」とされている。 また、前記(1)イのとおり、平成25年1月7日に、招致委員会が、異議 申立人へ提出した立候補ファイルには、我が国において、引用標章が、オ\nリンピック・シンボル、「オリンピック」と並んで、オリンピック競技大 会、異議申立人及びJOCを表\示する著名な標章である旨記載されている。 しかし、前者は、あくまでオリンピック憲章上の規定にすぎず、その邦 訳が出版されるようになったとしても、広く本件商標の指定商品の取引 者・需要者の目に触れる性質のものとは認められない。また、後者につい ても、招致委員会の認識を示すものにすぎず、オリンピック大会を誘致す るために日本の法制度上引用標章が保護されることをアピールするとい う性質のものでもあるから、それが取引者・需要者の認識を反映したもの とは直ちにいえない。
ウ 次に、前記(1)ウのとおり、「Games of the XXXII Ol ympiad」の表示に関し、第32回オリンピック競技大会に関するウ\nェブサイトの記事や、組織委員会の資料に当該表示がされており、昭和3\n9年の東京オリンピックの記念映画のタイトルとして「東京オリンピック」 (Tokyo Olympiad)と併記されているとしても、日本語表記\nと同時にされているもの(乙4、22、28)や、「TOKYO2020」 の大きな表示と共にされているもの(乙20、21、23)であり、看者\nの注意を惹くものとはいい難い。また、同表示が、公式商品で用いられたとしても、英文表\記の必要に伴ってされたものとも考えられ、これにより引用標章が著名となったことを裏付けるに足りるものとまではいい難い。
エ また、前記(1)エのとおり、平成24年以降、「オリンピアード」が、オ リンピック大会が開催される4年毎の暦年であることを解説する趣旨の 新聞記事がみられるものの、そのような解説が必要なこと自体、「オリン ピアード」の意味はもちろん、「オリンピアード」という語そのものが一 般には知られていなかったことを示すものともいえる。昭和39年及び令 和3年に東京で開催されたオリンピック競技大会で、各時点の天皇が、開 会宣言において「オリンピアード」に言及したという記事等についても、 事実を客観的に報道するにとどまる。被告は、前記第3の2(1)キのとおり、日本の家庭の新聞購読率を挙げて、国民一般がこれらの記事により引用標章の意味を広く知るに至った旨主張するが、これらの記事を読む機会があったからといって、需要者の多く が「オリンピアード」に関心を持ち、さらに、これがオリンピック大会と 同義であると認識するに至ると直ちにいえるものではない。また、文化オ リンピアードについても新聞記事とされているところ、これらの記事は、 オリンピック大会に関連した文化行事として「文化オリンピアード」が存 在することを報道するものではあるが、需要者の間で記事の掲載以前から 引用標章が知られていたことを示すものでないことはもちろん、このよう な記事によって、需要者の多くが「文化オリンピアード」に関心を持つと まではいい難く、「オリンピアード」がオリンピック大会と同義と認識す るに至るともいい難い。
オ 前記1(2)の各種辞書における「OLYMPIAD」(「Olympia d」を含む。)及び「オリンピアード」の項では、古代ギリシアのオリュ ンピア紀あるいはこれに類する意味が冒頭に掲載されるものが多数であ り、「オリンピック競技大会」の意味だけが掲載されている英和辞典(乙 9)でも、「Olympic」の語が大きく表示されているのに対し、「O\nlympiad」の語は通常の大きさにとどまっている。 カ 以上の事情を総合すれば、引用標章は、関係者や識者等の間では著名な ものであると認められるが、それを超えて、本件商標の設定登録日におい て、商標法4条1項6号が規定する著名性を有する、すなわち本件商標の 指定商品の取引者、需要者の間で広く認識されているものであると認める ことについては、疑義も残るといわざるを得ず、少なくとも他の商標との 類似性の判断において、著名性が高いことを前提にすることは相当でない というべきである。
3 本件商標と引用標章の類似性について
(1) 検討
ア 本件商標は、「OLYMBEER」の欧文字と「オリンビアー」の片仮 名を2段に表示してなるものである。引用標章は、「OLYMPIAD」の欧文字又は「オリンピアード」の片仮名である。本件商標と引用標章は、2段か1段かという点において異なる。また、欧文字同士、片仮名部分同士を比較しても、欧文字部分では8文字中冒頭の4文字が共通するのみであり、片仮名部分では本件商標が6文字、引用\n標章が7文字であり、冒頭の「オリン」と、5文字目・6文字目の「アー」 が共通するが、これらの文字の間に、本件商標では濁点を付した「ビ」が、 引用標章では半濁点を付した「ピ」がある上、引用商標では語末に濁点を 付した「ド」があるという点で相違する。 以上によれば、本件商標と引用標章は、外観において相紛れるおそれは ない。
イ 本件商標は、欧文字と片仮名が2段となっており、片仮名部分が欧文字 部分の読み仮名となっていると理解されることから、「オリンビアー」の 称呼を生じる。引用標章からは「オリンピアード」の称呼を生じる。 両者は、「オリン」の部分と「アー」の部分を共通にするものの、両者 の間に本件商標では濁音「ビ」が、引用標章では半濁音「ピ」があり、さ らに、語末が、本件商標が長く伸びる母音で終わるのに対し、引用標章が 濁音の「ド」で終わるという点で相違する。 以上によれば、本件商標と引用標章は、称呼において相紛れるおそれは ない。
ウ 本件商標は、辞書に記載されておらず、造語と認められ、特定の観念を 生じない。 引用標章は、前記1(2)のとおり、辞書に記載されている「オリュンピア 紀」、「国際オリンピック競技大会」の観念を生じる。そうすると、両者は観念において比較できない。
エ 本件商標の指定商品の需要者と、引用標章が使用されるオリンピック競 技大会に関心を有する者とは、一般的な消費者ないし国民であるという意 味で共通性を有するが、前記アないしウのとおり、本件商標と引用標章は 外観及び称呼において相紛れるおそれがなく、観念において比較できない のであるから、両者は類似しないものというべきである。

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令和4(ネ)10051 不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和4年12月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

赤い靴底のハイヒールで有名なルブタンが赤い靴底の販売差止、損害賠償を求めました。1審は請求棄却、知財高裁も同じく、混同なし、です。

このように、被告商品と原告商品は、価格帯が大きく異なるものであ って市場種別が異なる。また、女性用ハイヒールの需要者の多くは、実 店舗で靴を手に取り、試着の上で購入しているところ、路面店又は直営 店はいうまでもなく、百貨店内や靴の小売店等でも、その区画の商品の ブランドを示すプレート等が置かれていることが多いので、ブランド名 が明確に表示されているといえ、しかも、それぞれの靴の中敷きにはブ\nランドロゴが付されていることから、仮に、被告商品の靴底に付されて いる赤色が原告表示と類似するものであるとしても、こうした価格差や\n女性用ハイヒールの取引の実情に鑑みれば、被告商品を「ルブタン」ブ ランドの商品であると誤認混同するおそれがあるといえないことは明 らかというべきである。
また、普段は被告商品のような手ごろな価格帯の女性用ハイヒールを 履く需要者の中には、場面に応じて原告商品のような高級ブランド品を 購入することもあると考えられるが、こうした需要者は、原告商品が高 級ブランド(控訴人らが主張するように「ルブタン」がラグジュアリー ブランドであり、日本だけではなく世界中の著名人や芸能人が履くとい\nうイメージがあればなおさらである。)であることに着目し、試着の上で 慎重に購入するものと考えられるから、被告商品が原告商品とその商品 の出所を誤認混同されるおそれがあるとはいえない。
なお、原告商品及び被告商品ともに、公式オンラインショップだけで はなく、二次流通品を含め、ECサイトで販売されていることもあり、 原告商品の二次流通品の中には価格帯が大きく下げられて販売される こともあるが、公式オンラインショップでの売上げ実績は全体の売上げ 規模からして僅少であって(そのことは、需用者の多くが実際に商品を 試着して購入していることを示すものである。)、それぞれのブランド専 用のサイトであるし、また、公式オンラインショップ以外のサイトでは、 商品の画像だけではなく、商品の詳細な説明において、ブランドや靴の 状態が説明されているから、こうした流通形態があり、仮に、被告商品 の靴底に付されている赤色が原告表示と類似するものであるとしても、\n被告商品が原告商品と誤認混同のおそれがあるとはいえない。
エ 加えて、近時では、高価格帯のブランドが価格帯の異なるブランドとコ ラボレーションした商品が販売されることもあるが、その商品にはそれぞ れのブランドのロゴが付されており(前記1 エ)、その商品がコラボレー ション商品であることが需用者にとって一目で分かるようになっている (そうでなければ、コラボレーション商品として企画し、販売する意味は ないともいえよう。)。そうすると、仮に、被告商品の靴底に付された赤色 が原告表示に類似するとしても、被告商品にはそうしたコラボレーション\n商品であることを示すようなロゴはないから、需要者が、被告商品が控訴 人らのライセンス商品又は控訴人らとの間で何らかの提携関係を有する 商品であると誤認混同するおそれがあるともいえない。
これに対して、控訴人らは、前記第2の3 ウ aのとおり、被告商品も 原告商品と同じ高価格帯の商品であることを前提として、店舗又はオンライ ンショップで原告商品と被告商品の双方が販売されていることがあり得ると し、ブランド毎に区別して展示されていない場合等では、需要者が販売され ているブランド名を意識しないまま購入することがあり得る旨主張する。 しかし、原告商品は最低でも8万円、10万円を超えるものも少なくない のに対して、被告商品は、1万6000円から1万7000円の価格帯であ るから、これだけの価格差がある商品形態において、仮に店舗又はオンライ ンショップで原告商品と被告商品が並べて陳列されており、一部店舗でブラ ンド毎に区別して展示されていないことがあるとしても、実店舗では、靴の デザイン性だけではなく、実際に手に取って試着することが多く、ECサイ トでは、ブランド名や商品の状態が詳細に説明されているといった取引の実 情に鑑みれば、需要者が、被告商品の靴底に原告赤色と類似する色を使用し ているからといって、被告商品の出所が「ルブタン」のブランドであると誤 認混同するとはいえない。したがって、控訴人らの主張は理由がない。 以上のとおり、仮に、被告商品の靴底に付された赤色が原告表示に類似す\nるとしても、原告表示を付した原告商品であると誤認混同するおそれ(広義\nの混同を含む。)があるとはいえないから、原告表示が不競法2条1項1号に\n規定する「他人の商品等表示」に該当するか否かについて判断するまでもな\nく、被告商品の販売等が同号の「不正競争」に当たるとはいえない。 そうすると、被告商品の販売等が不競法2条1項1号の「不正競争」に当 たることを前提とした控訴人らの請求は、その前提を欠くものであるから、 その他の争点について判断するまでもなく理由がない。
3 争点2(原告表示の周知著名性)について\n
前記1の認定事実によれば、控訴人Xは、会社を設立以後、全世界に店舗 を展開して、原告表示を付した高価格帯の女性用ハイヒール(原告商品)を\n販売し、数多くの著名人や芸能人に愛用され、また、日本でも、平成10年\n以降は路面店等のショップで販売が開始されて、年間30億円を超える売り 上げを誇り、数多くの雑誌、メディア等で原告表示は「レッドソ\ール」とし て取り上げられ、一定の需要者には「靴底が赤い」女性用ハイヒールは「ル ブタン」のブランドを指すものと認識されているといえる。 しかし他方で、靴底が赤色の女性用ハイヒールは、原告商品以外にも少な からず我が国においては流通しており(前記1 )、女性用ハイヒールの靴底 に赤色を付した商品形態を控訴人らが独占的に使用してきたものとはいえな い。
また、本件アンケートは、東京都、大阪府、愛知県に居住し、特定のショ ッピングエリアでファッションテム又はグッズを購入し、ハイヒール靴を履 く習慣のある20歳から50歳までの女性を対象としたものであるが、本件 アンケート結果によると、靴底が赤いハイヒール靴を見たことがないものを 含め、原告表示を「ルブタン」ブランドであると想起した回答者は、自由回\n答と選択式回答を補正した結果で51.6%程度にとどまる(なお、本件ア ンケート調査結果では、赤いハイヒール靴を見たことがある人に限定して認 識率を評価するのが適切であるとするが、本件アンケート調査は、主要都市 で、しかも、ファッション関係にそれなりに関心のあるハイヒール靴を履く 習慣のある女性を対象としたものであり、その当否についても疑義がある上、 そこから更にこうした限定を付すことは明らかに相当でない。)。この結果に よれば、原告表示は、一定程度の需要者に商品出所を認識されているとはい\nえるが、それが著名なものに至っているとまでは評価することができない。 そうすると、原告表示が不正競争防止法2条1項2号に規定する「他人の\n著名な商品等表示」であるとはいえないから、そうであることを前提とした\n

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◆平成31(ワ)11108

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令和1(ワ)14320 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年10月7日  東京地方裁判所

 特許侵害訴訟です。文言侵害が否定され、また、均等侵害も第1要件(本質的特徴)を具備しないとして否定されました。

前記(1)で検討したところによると、本件発明1の技術的意義は、固定プレ ートの孔自体が、橈骨遠位端骨折に対して、軟骨下骨を背側面側及び手掌側 面側という2箇所で支持する方向に突起を向かせて固定することができる構\n成となっているため、高度な医学的判断を要せずに、確実に軟骨下骨を背側 面側及び手掌側面側という2箇所で支持することを可能にすることにあると\n認められる。
そうすると、本件発明1の構成のうち、本質的部分であるといえるのは、\n橈骨遠位端骨折に対して、軟骨下骨を背側面側及び手掌側面側という2箇所 で支持する方向に突起を向かせて固定することができる孔が設置されている ことを定めた構成要件1E、1J及び1Kであると解するのが相当である。\nそして、これまで検討したところによると、被告製品4は構成要件1J及\nび1Kを充足せず、これらの本件発明1の構成と異なる部分は、本件発明1\nの本質的部分ではないとはいえないから、第1要件を充足せず、均等侵害は 成立しない。
(3)原告の主張の検討
原告は、本件報告書(甲26)によれば、被告製品4は、ガイドブロック を用いて被告製品4の孔にロッキングスクリューを固定すれば、一組の平行 ピンを用いた従来の平板固定によっては達成できなかった遠位橈骨の軟骨下 骨及びその遠位側の関節表面の位置の安定化という課題を解決することがで\nきるから、本件発明1と技術的思想を共通にしているといえ、孔の軸線が遠 位橈骨内で交差するか遠位橈骨外で交差するかは本件発明の本質的部分では ないと主張する。
しかし、本件報告書の検証結果の信用性を肯定することができないことは 前記4(2)のとおりであるし、その信用性を肯定できたとしても、前記(1)の とおり、遠位橈骨の骨折を固定するための骨プレートであり、ネジを固定す るための固定プレートを貫通する複数のネジ孔が、固定プレート頭部の遠位 側と近位側の2列に概ね平行に並んで設置されている固定プレートは、先行 技術として存在していたのであるから、従来プレートが一組の貫通孔のみを 設けていたことを前提に、二組の貫通孔を設けていることが本質的特徴であ ると評価することはできない。 また、本件発明1は固定プレートの発明であるから、固定プレート自体の 構成、すなわち、固定プレートに設置された孔の構\成を比較すべきであり、 被告製品4にガイドブロックを用いることを前提に、被告製品4が軟骨下骨 を背側面側及び手掌側面側という2箇所で支持する方向にロッキングスクリ ューを向かせることができるかどうかという観点から比較することは相当で はない。
さらに、孔の軸線が遠位橈骨内で交差しないのであれば、孔に突起を挿入 しても、突起が当然に軟骨下骨を背側面側及び手掌側面側という2箇所で支 持することはなく、遠位橈骨の軟骨下骨及びその遠位側の関節表面の位置の\n安定化という課題を解決することはできないから、孔の軸線が遠位橈骨内で 交差する方向に突起を向かせる構成となっていることは、本件発明1の本質\n的特徴であるといえ、そのような孔の構成を有していない被告製品4に均等\n侵害が成立することはない。

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令和2(ワ)32931  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和4年10月25日  東京地方裁判所

 空気圧制御機器において、被告製品の流量特性を表す有効断面積及び Cv 値についての不正確な表示が、被告製品の品質を誤認させるような表\示に当たるかが争われました。裁判所は、該当するとしたものの、損害額としては因果関係のある弁護士費用15万円を認めました。 。

ア 被告は、被告サイトに掲載された被告製品に係るカタログの記載を訂正前数 値から訂正後数値に訂正するなどしたところ、訂正前数値が誤りであり、訂正後数 値が正確な数値であった。(争いのない事実)
イ 被告製品は空気圧制御機器の一種であり、その主な用途は、生産工場等の空 気圧システムを用いたオートメーション設備で使用されるエアシリンダに組み合わ せてエアシリンダの空気の流れを制御することにある。このため、被告製品の一般 的な需要者としては、上記オートメーション設備の製造者や同設備を導入する工場 経営者等(以下「工場経営者等」という。)が想定される。(争いのない事実)
ウ 空気圧制御機器は、それ自体が空気圧システムの回路を通過する空気の流れに対する抵抗となり、空気の流れに影響を与える。もっとも、空気の圧力条件が同じであっても、空気圧制御機器によって、機器を通過できる空気の流量は異なる。このような圧力条件と流量の関係は、空気圧制御機器の性質という観点から、空気圧制御機器の流量特性として把握される。空気圧システムに用いる空気圧制御機器を選定するにあたり、当該空気圧制御機器の流量特性を適切に把握することは必要かつ重要である。流量特性が適合しない空気圧制御機器を誤って選定すると、所定の出力が得られず、さらに、空気圧制御系が不安定になることも起こり得る。(以上につき、甲 12、13、18)
(2) 前提事実及び前記各認定事実によれば、被告製品は、空気圧システムを用い たオートメーション設備で使用されるエアシリンダの空気の流れを制御することを 主な用途とする空気圧制御機器であるところ、空気圧制御機器にとって、流量特性 とは、それを適切に把握しなければ空気圧システムにおいて所定の出力が得られな くなるなどの不具合を生じかねない重要な意味を持つ要素である。そうすると、空 気圧制御機器において、その流量特性は、機器の品質に関係する要素の 1 つといえ る。 したがって、被告製品の流量特性を表す有効断面積及び Cv 値についての不正確 な表示は、被告製品の品質を誤認させるような表\示に当たる。 本件では、被告は、被告製品の流量特性を表す有効断面積及び Cv 値について不 正確な数値を記載した本件カタログを配布すると共に、これを被告サイト上に掲載 したのであるから、被告製品の品質について誤認させるような表示をしたと認めら\nれる。
(3) これに対し、被告は、工場経営者等が電磁弁を購入する際に重視するのはシ リンダとの適合性や価格等であって、有効断面積や Cv 値ではないなどとして、本 件表示は品質誤認表\示に当たらない旨を主張する。 しかし、前記のとおり、空気圧制御機器の流量特性は、それを適切に把握しなけ れば空気圧システムにおいて所定の出力が得られなくなるなどの不具合を生じさせ かねない重要な要素であり、シリンダとの適合性もこれに基づいて定まるものとい える。そうである以上、空気圧制御機器の一般的な需要者である工場経営者等は、 当該機器の選定にあたり、流量特性を空気圧制御機器の品質に関係する要素と認識 し、評価要素の 1 つとしていることが強く推認される。このことは、本件カタログ で、少なくとも一部の被告製品について「優れたバルブの内部構造により、有効断\n面積を増大させ、流量をアップさせることができます」と記載し、被告自身が有効 断面積の増大をアピールしていること(甲 1)からもうかがわれる(なお、被告の カタログでは、有効断面積等の数値訂正後も同じ記載が維持されている。乙 3)。ま た、流量特性を評価要素の 1 つとすることは、工場経営者等が機器の価格等を重視 することと矛盾するものではなく、これと両立し得る。被告製品の通販サイト上の レビューで有効断面積について言及したものがないとしても、被告指摘に係るレビ ューはわずか 4 件に過ぎず、これらが言及した要素をもって被告製品の品質を網羅 したものとはいえないし、これらのレビューが有効断面積を空気圧制御機器の品質 に関係する数値と考えていないことをうかがわせるものともいえない。 エアシリンダの機種選定手順に関する原告の資料(乙 15)が有効断面積に言及し ていない点も、電磁弁はエアシリンダに組み合わせて用いる機器であってエアシリ ンダそのものではないこと、原告の自社製品カタログ(甲 3)には電磁弁の Cv 値及 び有効断面積に換算可能な C 値が掲載されていることなどに鑑みると、上記判断を 左右する事情とはいえない。
・・・
ア 本件カタログは、AirTAC グループの中国における拠点の一つである寧波エ アタックが作成したものであり、本件カタログに掲載された各製品の性能等に関す\nる数値は全て、寧波エアタックが運営する研究開発センターにおいて測定・算出さ れたものである。(乙 13、弁論の全趣旨)
イ 被告は、AirTAC グループの唯一の日本における拠点であり、同グループにお いて製造した被告製品を日本国内で自社製品又は自社グループ製品として販売して いる。(甲 1)
ウ 被告は、寧波エアタックから本件カタログの提供を受け、これを顧客に配布 すると共に被告サイトに掲載したが、その際、本件カタログに記載された数値の正 確性につき、改めて自ら測定し、又は研究開発センターに照会するなどして確認す ることはしなかった。(弁論の全趣旨)
(2) 前記各認定事実によれば、被告は、その取扱製品である被告製品を掲載した カタログ等の宣伝広告物を配布等するに当たり、被告製品の品質に係る数値として 正確な数値をカタログ等に記載すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠 り、本件表示に係る数値の正確性を確認することなく本件カタログを配布等したと\nいうのである。したがって、被告には、被告製品の品質を誤認させるような表示を\nしたことについて少なくとも過失が認められる。
(3) これに対し、被告は、本件カタログに掲載された数値の正確性を検証できる設備を有していないため研究開発センターの測定結果を信頼するしかないなどと指摘して、自己に過失はない旨を主張する。しかし、販売業者が自己の取扱製品の宣伝広告物としてカタログ等を配布等する場合、取引先に対して示すカタログ等の記載内容の正確性を確保すべき義務を販売業者が負うのはむしろ当然とも思われる。まして、被告製品は被告も属する AirTACグループ内で製造され、本件カタログ等に記載されたデータも同グループ内の企業による計測結果に基づくものである。これらの事情を踏まえると、少なくとも本件において、被告は、取引先等に対し本件カタログ等の記載内容の正確性を確保すべき義務を負うというべきである。被告自身は当該数値の正確性を検証できる自社設備を有しておらず、また、訂正前数値に特段不審な点がなかったとしても、それらの事情は、上記義務を免れることを基礎付けるものではなく、また、これを履行したことを示すものでもない。その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用できない。
4 損害の有無及び損害額について
(1) 本件は、被告の不正競争に係る訴訟であり、専門的・技術的側面を有するこ と、被告が本件の訴状副本の送達を受けて間もなく訂正前数値の不正確さを認め、 その訂正及び本件カタログの廃棄等を実施したこと(前記第 2 の 1(5)、第 3 の 2(1))、本件カタログは被告製品全てを掲載したものであること(前記第 2 の 1(2))、原告が弁護士費用相当額以外の損害について一切主張立証していないこと、その他諸般の 事情を総合的に考慮すると、被告の不正競争と相当因果関係のある弁護士費用に相 当する損害額は、15万円とするのが相当である。

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令和4(行ケ)10039  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年12月21日  知的財産高等裁判所

CS関連発明について、進歩性無しとした審決が維持されました。出願人はぐるなびです。

ア 前記(1)のとおり、相違点3は、施設端末に予約内容を通知した後、ユーザー\n端末に第2施設の情報を通知する処理を行うことにつき、本願補正発明では、前記 施設端末からの返信を有効に受け付ける期間として予め設定された待機期間内に前\n記施設端末からの返信がない場合であるのに対し、引用発明では、施設端末から受 信する予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合である点で相違する というものである。
イ ところで、施設の予約は、利用日又は利用日時を指定して行うものであり、\n予定される利用日又は利用日時よりも前に予\約を完了するという本来的な要請があ る。そして、引用発明は、ある特定の施設の予約を目的とするものではなく、利用\n者の希望する条件に合致した複数の施設を対象とし、一つの施設の予約ができなか\nった場合に、別の施設の予約をすることが可能\であるような施設予約システムにお\nける予約方法であるところ、前記2(1)イのとおり、引用発明における施設予約シス\nテムは、「施設予約情報サーバ30から、当該予\約情報に基づく、自動的、あるいは 宿泊施設の予約担当者により判断される予\約登録可否(OKかNG)の予約結果情\n報を受信し、」「受信した予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合」 に、次の候補となる施設の検索をしてユーザーに送信して、ユーザーが別の施設の 予約を行うものとされているから、施設端末に当たる「施設予\約情報サーバ」から の予約結果情報の受信は、宿泊施設の予\約担当者による判断の時期によっては、相 当程度に遅くなる場合も想定され、その間に、当初の検索条件に合致する別候補の 施設の予約枠が埋まってしまうこともある。\nそうすると、引用発明には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nないおそれがあるといえる。
ウ 次に、前記2(2)イの引用文献2記載技術をみると、宿泊施設の仮予約におい\nて、「ホテル端末103が宿泊可否の通知を一定時間経過(タイムアウト)しても行 わなかった場合、ホテル端末103に対して、キャンセルの通知を送信し、次のホ テルへ空き問い合わせ情報を送信する」ものであるから、甲2には、施設端末が、 一定時間を経過しても予約可否の回答をしなかった場合には、キャンセルとして扱\nい(以下「タイムアウト処理」という。)、次の施設に問い合わせるという技術が開 示されているといえる。そして、予定される利用日又は利用時間よりも前に、タイ\nムアウト処理をして、次の施設に問合せをすることで、最初に問合せをした施設か らの回答を待っていたために、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nなくなるという事態を回避するのに、一定の効果があると認められる。
エ ところで、引用発明と引用文献2記載技術とは、複数の施設を対象とした施 設予約システムにおける施設予\約方法という共通の技術分野に属するものであって、 第1施設に対して予約可否の問合せを行い、第1施設から予\約不可の返信を受けた 場合には第1施設に類似する他の施設を抽出するという手法も共通するところ、前 記イのとおり、引用発明において、第1施設から予約可否の返信が長時間送信され\nない場合には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件\nに合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあ\nるところ、上記本来的な要請を満たすために、第1施設からの予約可否の返信を長\n時間待ち続けるという事態を回避しようとすることは、当業者であれば当然に着想 するものと認められるから、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を 適用する動機付けがあるといえる。 そして、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を適用すると、引用 発明は、施設端末からの返信を有効に受け付ける期間としてあらかじめ設定された 待機期間内に前記施設端末からの返信がない場合には、予約結果情報の予\約登録可 否の結果がNGであった場合と同様に、予約内容に基づいて第1施設を除く一又は\n複数の第2施設を抽出し、前記抽出された一又は複数の前記第2施設の情報を前記 ユーザー端末に通知する処理を行うことになる。 そうすると、相違点3に係る構成は、引用発明に引用文献2記載技術を適用する\nことより、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。

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令和4(行ケ)10068  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年12月14日  知的財産高等裁判所

 商標「次世代3Dプリンタ展」(指定商品・役務は、35類、41類)が識別力あるかが争われました。知財高裁は、識別力無しとした審決を維持しました。

ア 前記1(1)からすると、本願商標である「次世代3Dプリンタ展」は、「次の段階」等を意味する「次世代」の語、「三次元印刷機」等を意味する「3Dプリンタ」の語及び「展覧会」ないし「展示会」の略語である「展」の語から構成されるといえる。そして、「ピカソ\展」の用例からもうかがえるように、「展」の語が、当該展示会等で取り扱われる内容やそれに係る共通の特徴を示す語を冠して「○○展」という形で使用されることがあることは、公知の事実である。
イ 前記1(1)イによると、「次世代」の語は、「次の段階」等をいう場合に特に 「技術」等に関して用いられることが多いとの事情もうかがわれるところ、同(2)ア のように、「次世代」の語が、「3Dプリンタ」に対し、「次の段階」といった意 味を示す趣旨で付されて用いられている例があることも考慮すると、本願商標であ る「次世代3Dプリンタ展」に接した者は、本願商標が「次世代3Dプリンタ」の 語と「展」の語とから成るものと理解するというのが自然である。
ウ 前記ア及びイの点に加え、前記1(2)イ(ア)のように、「〇〇展」の語が、「〇 〇」の部分に当該展示会の主たる展示内容(製品、技術等)やそれに係る共通の特 徴を示す語を置く形で用いられている例があり、同(イ)のように、そのような「〇〇 展」の語の使用例の中に「3Dプリンタ」と「展」から成る例があることも考慮す ると、本願商標である「次世代3Dプリンタ展」の語については、「次の段階の3 Dプリンタを内容又はそれに係る共通の特徴とする展示会」という意味合いを容易 に認識させるものであるということができる。 そうすると、本件審決時である令和4年5月19日の時点において、本願商標で ある「次世代3Dプリンタ展」は、展示会等に係る本件役務について使用されると きは、これに接する需要者等において、「次の段階の3Dプリンタを内容又はそれ に係る共通の特徴とする展示会」を表したものと認識されるというべきであるから、\n役務の内容を認識させるものとして、役務の質を表示する標章に当たるということ\nができる。
エ そして、本願商標は、「次世代3Dプリンタ展」のみからなり、「次世代3 Dプリンタ展」の語を標準文字で記すという、普通に用いられる方法で表示する商\n標であるから、商標法3条1項3号に該当するというべきである。 なお、以上に関し、仮に、本願商標に接した需要者等において、本願商標が「次 世代」の語と「3Dプリンタ展」の語とから成るものと理解することがあったとし ても、その場合、「次世代3Dプリンタ展」は、本件役務について使用されるとき は、「3Dプリンタを内容又はそれに係る共通の特徴とする次の段階の展示会」を 表したものと認識され、役務の質を表\示するとともに、役務の提供の態様、提供の 方法又は時期その他の特徴を表示する標章に当たるというべきであるから、本願商\n標が商標法3条1項3号に該当するとの前記判断は左右されない。
(2) 原告の主張について
ア 原告は、本件役務の分野において、「○○展」の語が、一般に、「特定人が 開催等する展示会等の固有の名称」として採択され、使用されていることが明らか であると主張する。 しかし、原告の主張する使用例(別紙2)全てを前提としても、前記(1)の判断は 左右されない。前記1(1)及び(2)イ(ア)の認定事実等を踏まえると、原告が主張する 使用例についても、「○○」展という展示会等の名称のうち「○○」の部分が展示 会等の内容又はそれに係る共通の特徴を示すものである場合には、当該名称に接し た者においては、当該展示会等の固有の名称という意味合いと同時に、当該展示会 の内容等を「○○」が示すものと認識するというべきであり、「○○展」が特定人 が開催等する展示会等の固有の名称を示すものであるということから、直ちに、当 該「○○展」が当該展示会等の内容等を示すものであるということが否定されるも のではない。
この点、原告は、JETROのウェブサイト(甲48、59)において「○○展」 の表示が固有の展示会名称として掲載されている旨を主張するが、展示会等の内容\n等を示す語であっても個々の展示会等の名称とされている以上は上記ウェブサイト に当該名称をもって掲載されることは当然であるといえ、上記ウェブサイトに「○ ○」の部分が直ちに展示会等の内容等を十分に示す語ではない「○○展」の使用例\nとみ得るものが掲載されているとしても、そこに掲載されている他の「○○展」に ついて「○○」の部分が展示会等の内容等を示すものであることを否定すべきもの とはならない。したがって、原告の前記主張は、前記(1)の判断に影響しない。
イ 原告は、需要者等の認識に係る使用例(別紙3)について主張するが、前記 アで述べたところに照らし、需要者等が「○○展」の文字を特定人の展示会等を指 称する語として用いている例があるとしても、そのことは、前記(1)の判断に影響し ない。
ウ 原告は、独占適応性に関し、展示会の業界において、本件役務の取引の実情 の下で、個別具体的な「○○展」の文字は、同種の展示会を開催等する取引者にと って、事前の調査検討の対象として容易に使用を回避できるものであり、また実際 に他者との重複使用が回避されており、取引に際し必要適切な表示として必ずその\n使用を欲するものとはいえないと主張する。
しかし、そもそも、商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと 規定されているのは、このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の 場所、質、提供の用に供する物、効能、用途その他の特性を表\示記述する標章であ って、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、\n特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないという理由も有するもの であって(前掲最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決参照)、単に、同種の展 示会を開催等する取引者の事前の調査検討によって他者との重複使用が回避されれ ば足りるというものではない。加えて、展示会等の内容等を示す語を冠して「○○ 展」の名称が用いられる場合、当該名称を使用する者において、複数の一般的な語 から成る名称であるため特に問題を生じないであろうと考えることは相応に合理的 であるといえ、そのような場合に、その者に、当該名称の使用例が他に存在するか どうかについて、登録商標の有無を調査する場合と同程度の法的な調査義務を課す ことは合理性を欠くというべきである。本件全証拠によっても、展示会に係る業界 において、一般に、「○○展」の文字の使用に当たり標章の使用と同程度の注意が 払われていると認めるには足りず、展示会等を開催等する者が同種の展示会の名称 を調査するなどしているという実態が仮にあるとしても、それは、基本的に、集客 力や独自性の発揮といった観点や、商標法3条2項により保護され得る標章の使用 を避けるといった観点から、事実上行われているとみるのが相当である。 したがって、原告の前記主張も、前記(1)の判断を左右するものではない。
エ 原告は、他に「○○展」という商標の登録例があることからして、「○○展」 との構成の商標が一律に識別性を欠くものとは解されないと主張するが、同主張は、\n前記1(1)の「次世代」や「3Dプリンタ」の語の意義や、同(2)の使用例を踏まえ た本願商標についての前記(1)の判断に影響するものではない。
オ その余の原告の主張は、いずれも、既に認定判断したところに反するか、前 提とする事情を欠くか、あるいはそもそも前記(1)の判断に影響しないものであっ て、いずれも同判断を左右するものではない。

◆判決本文

商標違いの関連事件です。いずれも識別力無しです。 商標「関西 次世代3Dプリンタ展」

◆令和4(行ケ)10069
商標「名古屋 次世代3Dプリンタ展」

◆令和4(行ケ)10070
商標「計測・検査・センサ展」(

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令和3(ワ)4920 特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年12月22日  大阪地方裁判所

 技術的範囲に属すると認定されたものの、特許権者自らが販売していたとして、新規性違反の無効理由有りと判断されました。

ア 前記(1)アによれば、リベラル社は、平成30年7月5日時点において、別 件特許(「活量調質水溶液及び活量調質媒体の製造方法」)により、水酸化物イ オン活量調質水溶液を製造し、これを希釈して、旧ATWのほか「ATW−1、 ATW−001」を製造していたことが認められるところ、前記(1)イのとおり、 被告は、当初、リベラル社から購入した旧ATWをそのままボトルに詰め、又は、 ラベルを貼り替える方法により、旧被告製品や無限七星FISHを製造し、販売\nしていたのであるから、これらの製品は、前記水溶液を希釈したものであると認 められる。一方、前記(1)エ及びオのとおり、被告は、原告の本件特許出願の後か らは、リベラル社から購入した本件特許に規定される組成を有する現ATWを1 0倍希釈して被告製品や無限七星FISHを製造、販売するようになったところ、 本件代理店契約においては、現ATWを含めたATW水溶液は、別件特許の製造 方法による旨の合意がなされている。 また、原告が代表取締役を務めるATW社は、別件訴訟において、旧ATWと\n現ATWは、いずれもアミノ基という原子団を含んだ水溶液で、現ATWを10 倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した準備書面を提出しているところ、リ ベラル社が発行した請求書では、現ATWの1リットル当たりの単価は旧ATW の同単価の10倍になっていること、本件代理店契約においてATW水溶液の品 質として標準仕様と10倍濃縮仕様がある旨の記載があることのほか、原告も、 本件訴訟において、現ATWは旧ATWの10倍の濃度である旨を主張している (原告準備書面(4)第2の2(3)イ)。これらの事実関係に照らすと、旧ATW及び現ATWは、一貫して、同様の製造方法により製造された、アミノ基を含む成分が水溶、濃縮された水酸化物イオン活量調質水溶液を希釈したものであり、本件特許に規定される組成を有する現ATWを10倍希釈したものが旧ATWであると認められる。
イ また、証拠(乙2、18、24、25、33、36、37)及び弁論の全 趣旨によれば、次の事実が認められる。 すなわち、被告が平成30年11月10日にリベラル社に対して発注し同月1 2日に納品された旧ATWのボトル20本のうち、開封せずに保管していたもの (以下「保管ボトル」という。)について、被告がそのうち1本を開封し、10 0ml分(以下「分析対象物」という。)を小分けにして、愛媛大学のP2名誉 教授に提供した。同教授は、令和3年9月30日、分析対象物について、乙18 分析をした結果、分析対象物の含有成分はポリアリルアミンであることが判明し た。また、被告は、保管ボトルのうち1本(被告が「無限七星FISH」のラベ ルを貼付したもの)を、株式会社東ソ\ー分析センターに提供し、前記センターは、 同年10月19日、保管ボトルの内容物について乙24分析をした結果、その重 量平均分子量は、4.5×10⁴であった。
ウ 前記(1)イ及びウのとおり、無限七星FISHは、鮮魚の鮮度を保持する機 能があり、魚の鮮度保持を主な用途として販売されており、また、証拠(乙19)\n及び弁論の全趣旨によれば、リベラル社が被告に販売した旧ATWの成分表記に\nは「重合アミン、水」との記載があったことが認められる。
エ 前記ア〜ウの事実関係に照らすと、現ATWが10倍に希釈化された旧A TWと同一成分である無限七星FISHに係る引用発明は、ポリアリルアミン又 はその塩を機能成分として含有し、水、ポリアリルアミンの総含有量が95重量%\n以上である水であって(a’)、ポリアリルアミンの重量平均分子量が500〜 50000であって(b’)、魚介類の鮮度保持の機能を有する(c’)、機能\ 水(d’)という構成を有するものと認められるから、被告製品のみならず、旧\n被告製品や無限七星FISHも本件発明の各構成要件を充足するものと認められ\nる。したがって、引用発明は、本件発明の各構成要件を充足する。\n
(3) 公然実施について
特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者 が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)イのとおり、 被告は、本件特許の優先日前の平成30年10月から、無限七星FISHを製造 及び販売して、引用発明を実施した。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、旧ATWは、別件特許に基づく方法により製造されているのに対 し、現ATWは、ポリアリルアミンを使用して製造されているから、両者の成分 は異なる旨を主張する。 しかし、両者の成分の違いを明らかにする証拠はなく、前記(1)オ及びキのとお り、被告は、本件代理店契約において、リベラル社及びATW社との間で、AT W水溶液の仕様は、別件特許の製造方法によることを合意したことや、ATW社 が、別件訴訟において、旧ATWと現ATWは、いずれもアミノ基という原子団 を含んだ水溶液で、現ATWを10倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した 準備書面を提出したのであるから、旧ATWと現ATWの製造方法が異なる旨や 両者の成分が異なる旨の原告の主張は直ちに採用することはできず、その他、原 告の主張事実を裏付ける証拠はない。
イ また、原告は、乙18分析及び乙24分析は、いずれも、測定対象の水溶 液がどの時期に製造、販売され、どういう形で試験に供されたのか全く不明であ ることを指摘し、さらに、乙18分析の内容については、1)乙18のFig.1の スペクトルの面積比を理由に高分子化合物の繰り返し構造をCH₂−CH−CH₂ と推定することが困難なこと、2)3ppm付近のシグナルの変化を理由に当該シ グナルがアミン(CH₂−NH₂)であると推定できる根拠が不明であること、3) Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なることといった疑問点があるから、 いずれも信用性がない旨を主張する。
しかし、前記(1)認定の事実からすれば、乙18にいう「2018年10月に販 売が始まった初代無限七星」とは、旧ATWと成分を同じくする旧被告製品又は 無限七星FISHであると理解できるし、乙24は保管ボトルのうち1本を分析 した結果であることが明らかであり、これに反する証拠はない。そして、乙18 分析は、核磁気共鳴分光法及び質量分析法により、分析対象物の含有成分がポリ アリルアミンであることを推定した上で、それを踏まえて、分析対象物と市販の ポリアリルアミンの水溶液について核磁気共鳴分光法のスペクトルを比較して、 分析対象物の含有成分がポリアリルアミンであると結論づけているところ、原告 の主張1)について、原告主張のように、ポリマーのNMRはピーク(スペクトル) がブロードになりやすく、面積比を算出する切断箇所の設定によって面積比の値 が異なり得ることから、Fig.1のスペクトルの面積比「1.00:0.55: 0.80」が完全に「2:1:2」に一致しなくとも、同一環境の水素の数の比 を「2:1:2」とみなし、CH₂−CH−CH₂の部分構造が考えられるとする\nことは不合理ではない。また、原告の主張2)について、3ppm近辺のCH₂に対 応するシグナルの位置は、隣に窒素原子が繋がっていることを示唆するところ、 トリフルオロ酢酸を加えると、2.7〜3.3ppmのシグナルが3.0ppm のシグナルに変化したというのであるから、分析対象物にトリフルオロ酢酸によ り塩を形成するアミン(CH₂−NH₂)が存在すると考えて矛盾はないというべ きである。さらに、原告の主張3)については、確かに、Fig.1とFig.4a) のスペクトルは一致していないが、一方で、トリフルオロ酢酸塩のスペクトルで あるFig.2a)とFig.4b)は、ほぼ一致している(乙18、25)。こ の点について、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、ポリアリルアミンは、 共存物の影響でアミン部位が塩の状態になっている場合、スペクトルのピーク位 置の出現がシフトする可能性があり、ポリアリルアミンの塩の形成状況によって\nスペクトルの形状が変化し、複雑になるものと認められ、一方で、強い酸である トリフルオロ酢酸を加えて、全てのアミノ基をアンモニウムに変換し、均一な状 況にすることにより、一定の分析結果を得ることができたものと認められるから、 Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なるからといって、乙18分析の信 用性に疑義を生じさせることにはならない。

◆判決本文

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令和3(ワ)5086  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年12月12日  大阪地方裁判所

原告の「桜のイラスト」の複製・翻案かが争われました。大阪地裁は、著作物性は認めたものの、創作性ある部分が共通しないとして、請求棄却しました。

3 争点2(被告各イラストが、原告各イラストを複製ないし翻案したものであり、 かつ同一性保持権を侵害するものであるかどうか)について(被告イラスト2に 関する判断)
前記2の認定によると、原告イラスト1は、現実の桜にみられる要素を原告な りの手法により適宜デフォルメして表現し、それらを組み合わせた上、認定に係\nる背景を付した所定の用紙上に配置するなどして1個のデザインとして完成さ せたものであって、認定した表現を含む表\現の総体としては原告の個性が現れた ものであって創作性があるといえ、著作物性を一応肯定できる(争点1)。 よって、進んで争点2について判断する。
この点、原告は、原告特徴1)〜9)が原告イラスト1の表現上の本質的な特徴で\nあり、そのうち原告特徴1)及び3)〜9)が被告各イラストと共通し、被告各イラス トに接した者が原告イラスト1の表現上の本質的な特徴を直接感得することが\nできると主張するところ、原告は、主に被告イラスト2との対比において複製な いし翻案を主張したので、まず被告イラスト2について検討する。
(1) 原告特徴1)について
原告主張の原告特徴1)は、前記第3の2(1)に主張のとおりであるところ、 ここでいう「背景全体」とは、花の白いスタンピング(かすれ要素A)が原告 特徴2)として特定されてこれが除かれていることから、原告イラスト1から、 正面視花要素A、側面視花要素A、つぼみ要素A、かすれ要素Aを除いた部分 をいうものと解される。
そして、前記認定によると、同部分の具体的態様は、「色調の異なるピンク色 や一部オレンジ色が、不明瞭にぼかし味をもちながら配色された」ものであっ て、これと対応する被告イラスト2の要素としては、「赤みのある紫、青みのあ る紫、オレンジ色などがグラデーション、ぼかしを伴って全体としてはマーブ ル状に彩色され、前記すかしを伴ったスタンピング要素Bがランダムに散りば められている」背景部分が該当する。
この点、原告イラスト1と被告イラスト2の背景部分は、そもそもの枠の大 きさが異なることに伴う広がりの規模や、背景として認識される部分の形状が 大きく異なって特段の共通点を見出し難い上、被告イラスト2における、赤み のある紫、青みのある紫、オレンジ色などがマーブル状に彩色されている点は、 原告イラスト1にはみられない被告イラスト2の特徴というべきであって、こ れらの相違点の与える影響は大きなものがある。したがって、原告特徴1)で指摘する内容は、被告イラスト2との共通点を構成しないというべきである。\n
(2) 原告特徴3)ないし同4)について
原告は、原告特徴3)及び同4)が被告イラスト2にもみられると主張するとこ ろ、前記認定によると、原告イラスト1には、5または6個の正面視花要素A 等で構成されるまとまりが台紙の略左中央上、略右上及び略右下の3か所にあ\nることが認められる。また、原告特徴4)中の「空きスペース」に描かれた「適 宜桜の花」が具体的に何を指すかは必ずしも明らかではないが、右上上端及び 左中下端に見切れた正面視花要素Aが各1個、台紙略左下のおおむね中央に正 面視花要素A1個をいうものと解され、これらが同位置に配されている。
一方、被告イラスト2においては、3個の正面視花要素B等で構成されるま\nとまり(別紙被告イラスト2分析図でいうγ及びεのまとまり)、4個の正面 視花要素B等で構成されるまとまり(同分析図でいうδのまとまり)、5個の\n正面視花要素B等で構成されるまとまり(同分析図でいうα及びβのまとまり)\nが、袋体正面では15から20個、前記αからεまでのまとまりが回転を加え たうえでやや不規則に被告イラスト2の枠を埋めるように配されている。また、 これらのまとまりが不整形な形状のためにできたまとまりのない部分に正面 視花要素Bが単独で配されている。 そして、原告イラスト1にみられるまとまりと、被告イラスト2におけるま とまりを、それ自体で相互に比較しても、各構成要素(正面視花要素、側面視\n花要素、つぼみ要素)の構成や形態において同一のものは認められない上、被\n告イラスト2においては、まとまりの数自体や、まとまりの繰り返しによって 与えられる印象が強く、後述の各構成要素の相違点と相まって、「5ないし6\n個の桜の花をまとまって描く」というアイデアのレベルを超えた具体的な表現\n上の共通性を認めることはできない。また、桜の花を数個まとめて描くこと自 体は、自然の桜を描写する際に自然に着想することであって、他の桜のイラス トにもみられるありふれたものといわざるを得ない。また、原告特徴4)につい ても、原告イラスト1においては、被告イラスト2との対比において、まとま りとまとまりの間隔というものは観念しづらく、むしろまとまりの配置のない 略左下部に1個の正面視花要素Aを配したとの印象が強く、具体的表現におけ\nる共通性を感得できない。 以上によると、原告特徴3)及び同4)で指摘される内容は、被告イラスト2に みられる特徴とはいえず、共通点は認められない。
(3) 原告特徴5)、同6)及び同7)について
原告は、正面視花要素Aに関して、原告特徴5)、同6)及び同7)が特徴であり、 同特徴が被告イラスト2にも存すると主張する。 この点、まず、正面視花要素Aと同Bの花弁についてみると、前記認定のと おり、原告イラスト1における花弁は、「白色で基部付近はピンクないし淡い ピンク色が不均一の色調でぼかしたように配されている」のであり、花弁の白 と背景のコントラストが強く意識される一方、被告イラスト2における花弁は 「ごく薄い赤みないし青みのかかった紫色の下地に透明感のある白の小さな おおむね丸いドットが重なるように多数配されて前記薄紫の下地が透けて看 取できる」態様で描かれており、花弁それ自体も淡く着色されている上、背景 とのコントラストは弱く、全体として正面視花要素Bは同Aと相当に異なった 印象を受けるものである。したがって、原告特徴5)が被告デザイン2にも備わ っているとは認められない。また、原告特徴6)及び同7)についてみると、完全 に開花した桜を正面視で「5枚の花弁を放射線状に一体に、花弁ごとに区切ら ずに描き、花弁の中央部に略放射線状にランダムな長さ及び角度で8本又は9 本描く」ことや、同様にやや斜方視で、「5枚の花弁を略扇形に一体に、花弁ご とに区切らずに描いた上で、弧の部分にランダムに山を複数描き、花弁の下寄 りの部分に茶色の細い線でおしべ等を略扇形状にランダムな長さ及び角度で 6本又は7本描き、その先端を茶色の小さい丸で描いている点」は、前記認定 に係る自然の桜の態様及び他のイラストの表現に照らすと、桜のイラストにみ\nられるごく一般的な表現であり、ありふれたものであって、そもそもかかる特\n徴は、原告イラスト1の本質的特徴に当たらない。
(4) 原告特徴8)及び同9)について
原告主張の「先端に白色のつぼみがついた茶色の花柄及びがく片を、花から 適宜飛び出して描いている点」(原告特徴8))及び「つぼみには完全に閉じた状 態のものと、半開き状態のものがあり、前者はふっくらとした雫形状で、先端 がやや尖っていて、がく片は3本であり、後者は略扇形で弧の部分にランダム に山を複数描き、がく片は基本的に4本となっている点」についても、前記認 定に係る自然の桜の態様及び他のイラストの表現に照らすと、桜のイラストに\nみられるごく一般的な表現であり、ありふれたものといわざるをえず、原告イ\nラスト1の本質的特徴に当たらない。
・・・
(6) まとめ
以上のとおり、被告イラスト2は、アイデアなど表現それ自体でない部分又\nは表現上創作性がない部分において原告イラスト1と同一性を有するにとど\nまり、これに接する者が、原告イラスト1の表現上の本質的な特徴を感得する\nことはできないから、依拠性を判断するまでもなく、原告イラスト1の複製及 び翻案に当たらない。よって、被告イラスト2を用いた被告製品2を被告が販 売した行為は、原告の原告各イラストに係る複製権及び翻案権を侵害するもの とはいえず、同様に、同一性保持権を侵害するということもない。

◆判決本文

◆当事者のイラストです

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令和4(ネ)10083  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年12月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

本文、ユーザー名のほかアイコンまでをリツートした行為について、引用と認められると判断されました。 ア 控訴人は、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が利用規約に反することは明らかであり、それゆえ利用規約に基づいて本件ツイートによる公衆送信権侵害等について適法となることはないなどと主張する。 しかし、控訴人の上記主張は、利用規約の内容によって直ちに著作権法32条1項にいう公正な慣行の内容が規定されることを前提にするものであって、相当でない。この点、控訴人は、利用規約が遵守されることがツイッターの全ユーザー間の共通認識となっているとも主張するが、当該主張も、結局は利用規約の内容によって直ちに著作権法32条1項にいう公正な慣行の内容が規定されることをいうものに帰し、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。特に、本件ツイート及びそこにおける原告ツイートの引用が批評という表現行為に係るものであることに照らしても、利用規約によってその態様ゆえにその引用としての適法性が直ちに左右されるとみることはできない。\n
イ 控訴人は、ユーザーにおいては、ツイートを削除していなくともプロフィール画像を変更すれば過去のツイートについても変更後のプロフィール画像が表示されること等を前提としてツイッターを利用していることや、プロフィール画像がツイート本文の内容とは独立して自身の個性を表\現するものであるなどと主張する。しかし、訂正して引用した原判決の第4の2(3)で説示したとおり、ユーザーは、自らのツイートの内容が当該ツイートをした時点におけるアイコンと一体的に表現主体及び表\現内容を示すものとして取り扱われ得ることについても、相応の範囲で受忍すべきものであり、控訴人の上記主張も、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。
ウ 控訴人は、本文やユーザー名のほかアイコンまで掲載する必要があるのかには疑問があり、また、現在もツイッター上で閲覧可能な原告ツイートについて、これをあえてスクリーンショットで掲載する必要はないなどと主張する。\nしかし、控訴人においては原告アイコンが原告ツイートの内容と一体的に取り扱われ得ることを相応の範囲で受忍すべきことは既に説示したとおりであり、また、原告ツイートが現在も閲覧可能であるとしても、仮に本件投稿者が引用リツイート機能\を用いていた場合には、原告ツイートを削除等するという専ら控訴人の意思に係る行為によって引用に係る原告ツイートが削除等され、本件ツイートの趣旨等が不明確となるような事態が生じ得ることに照らして、原告ツイートが現在も閲覧可能であるか否かは、本件ツイートにおける引用の適否に直ちに影響すべきものではない。この点、原告ツイートが投稿されてから本件ツイートが投稿されるまでには約7年半という相応の長期間が経過しているところ、原告ツイートが現在も閲覧可能\であり(甲20)、その間に特に控訴人がプロフィール画像を変更したといったことも認められないものであるが、一般的に、引用元ツイートが投稿後変更されることなく相応の長期間が経過した後であっても、引用リツイートの投稿を契機として引用元のツイートが変更や削除等されたりする可能性もあるから、上記相応の長期間の経過をもって直ちに本件ツイートにおける引用の必要性や相当性が否定されるものではなく、また、閲覧可能\性や画像の変更の有無に係る上記各事情は、他方で、原告ツイートの投稿時から本件ツイートの投稿時までの間に、原告において原告アイコンを含む原告ツイートの変更や削除等をしなければならないような事情が他には生じておらず、本件ツイートにおける引用の必要性や相当性を判断するに当たり他に考慮すべき特段の事情がないことをうかがわせるものである。

◆判決本文

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令和3(ワ)6974  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和4年9月12日  大阪地方裁判所

 情報サイトによける標章の使用は、商標的使用ではない(商26条1項6号)として、商標権の効力が及ばないと判断されました。

(1) 本件サービスサイトの性質及び本件ウェブページの位置づけについて 後掲各証拠及び弁論の全趣旨に前提事実を総合すると、次の各事実を認めること ができる。
ア 被告は、平成30年、葬儀に関する困りごとの解決へ向け、葬儀サービスを 探している人々と葬儀社をマッチングする事業として葬儀社紹介サービスを提供す る本件サービスサイトの運営を開始した(甲3、4)。 本件サービスサイトは、被告との提携の有無にかかわらず、全国の葬儀社の情報 を掲載することとしており、被告と提携していない葬儀社のページには、葬儀社の 電話番号やウェブサイトのリンクを記載し、被告の提供するサービスを介さず直接 連絡できる設計としており、本サービスサイトのユーザー(葬儀希望者)が、提携 していない葬儀社を指定して被告に問合せをした場合は、当該葬儀社の電話番号を 案内する方針としている。なお、提携先の葬儀社については、見積り取得の手配や 代行を行っている(甲10、20)。
イ 本件サービスサイトにおいて、ユーザーが一定の地域を選択すると、被告が 把握するその地域に所在の葬儀社や斎場が一覧表示され(その他、費用・形式別の\nプランの紹介、葬儀の依頼や相談、一括見積を行うサイトへの遷移ボタン、当該地 域の葬儀に関するQ&Aや事例なども表示される)、その一覧の中から、個別の葬\n儀社等を選択すると、当該個別の葬儀社等に関する被告が把握した情報を提供する ページが表示され、本件葬儀場(セレモニートーリン)を選択した場合、本件ウェ\nブページが表示される(甲22の1・2、乙1)。\n
ウ 本件ウェブページは、その固定ヘッダーに「安心葬儀 葬儀のご依頼/ご相 談 一括見積なら|安心葬儀」「安心葬儀/葬儀相談コールセンター(無料)通話 無料<省略>」といった記載があるほか、ページの上部に「安心葬儀TOP」「葬 儀の種類」「宗教・宗派別葬儀」「葬儀の知識」という記載(リンク)や「安心葬儀 TOP>大阪府の葬儀社/斎場一覧>大阪市<以下略>>セレモニートーリン」と いう各ウェブページの階層を示す記載があり、また、「セレモニートーリン」と太 字で書かれた下部には、本件葬儀場の外観を撮影した写真が掲載され、「セレモニー トーリンとは」「セレモニートーリンの特徴」「セレモニートーリンの住所・地図・ アクセス」「セレモニートーリンの情報」「セレモニートーリンの口コミ・レビュー」 「セレモニートーリンの葬儀式場・休憩室情報」の各欄にはそれぞれ見出しに対応 した情報が記載されているほか、「当サイトは「セレモニートーリン」と提携して おりません。掲載している情報は、葬儀社様の公式サイトの情報など、一般に公開 されている情報をもとに、当サイトの方で収集、編集を加えまとめたものになりま す(中略)。斎場に関する詳細・最新の情報につきましては公式の Web サイトや電 話で直接ご確認ください。」との記載がある。 これより下部には、「セレモニートーリンの近くにある他の斎場」「大阪府で経 験・実績の多い葬儀社」「大阪府の家族葬の葬儀事例」の欄には、それぞれ複数の 葬儀社や葬儀事例が記載されており、さらに、「葬儀社/斎場を地域を指定して検 索する」「葬儀社/斎場を大阪府の市町村から選ぶ」の欄においては、それぞれ選 択した対象エリアや地域に所在する葬儀社等を検索することが可能である(甲22\nの1・2。なお、以上の記載内容は、口頭弁論終結時のものである。)。
エ 検索サイトYahoo!において、「セレモニートーリン」とキーワード検 索すると、検索結果を表示するウェブページにおいて、広告であることが明記され\nた他の葬儀社等のリンクが表示された後、広告表\示のないものとしては一番目に原 告のウェブサイトへのリンクが「公式/セレモニートーリン・大阪市<以下略>、 東大阪のお葬式」等の見出しのもとに何件か表示される。それに引き続き、被告の\n本件ウェブページについての案内(その詳細は、「https<以下略>>大阪府の葬儀 社/斎場一覧>大阪市<以下略>」とドメイン部分等が小さく表示され、その下に\n見出し(リンク)部分として、「セレモニートーリン(大阪府)の斎場詳細|安心 葬儀」が表示され、「評価:4.3 1件のレビュー」との情報及び本件ウェブペー ジの説明文として、「セレモニートーリン(大阪府大阪市<以下略>)の口コミ、 写真、施設情報、アクセス・地図など詳しい情報をご紹介します。【安心葬儀】は お客様のご予算やご要望に合わせて、...」が表示され、「セレモニートーリンの特\n徴・セレモニートーリンの住所・地図...」との表示もされる。)が表\示される。な お、その下には、詳細は不明であるが、被告以外の他のサービスサイトと思われる サイトへのリンクも表示される(甲21の1・2)。\n
(2) 前記認定によると、本件サービスサイトは、その構成において、需要者であ\nる葬儀希望者に対し、その条件に見合った葬儀社等の情報提供を行い、また希望者 には葬儀の依頼や相談、一括見積を行うことなどを通して、葬儀希望者と葬儀社等 とのマッチング支援を行うサービス(被告役務)を提供するものであることが容易 に看取できる。
そして、本件ウェブページは、これを単独でみても、そのドメインや本件ウェブ ページのタイトル部分や末尾の「安心葬儀」等の表示、競合し得る近隣の斎場等の\n情報も表示されることに加え、本件葬儀場の情報については、ホールの外観、特徴\nや所在地、アクセス方法、設備情報等の客観的な情報が記載されているにとどまり、 これを超えて本件葬儀場の利用を誘引するような記載はみられないこと等の事情か らすると、本件ウェブページに接した需要者は、「セレモニートーリン」を、葬儀 場を紹介するという本件サービスサイトにおいて紹介される一葬儀社(場)として 認識するものであり、原告が本件葬儀場において提供する商品ないし役務に関し、 被告がその主体であると認識することはないものというべきである(本件ウェブペー ジを含め、本件サービスサイトの運営者が原告であると認識することがないことも 同様である。)。
さらに、原告が問題とする本件ウェブページの html ファイル中のタイトルタグ及 び記述メタタグに記載された内容は、検索サイトYahoo!において「セレモニー トーリン」をキーワードとして検索した際の検索結果において基本的に各タグに記 載されたとおり表示されると認めることができるが、その内容は、いずれも本件サー\nビスサイトの名称が明記された見出し及び説明文と相まって、原告の運営するウェ ブサイトとは異なることが容易に分かるものと評価できる上、一般に、検索サイト の利用者、とりわけ現に葬儀の依頼を検討するような需要者は、検索結果だけを参 照するのではなく、検索結果の見出しに貼られたリンクを辿って目的の情報に到達\nするのが通常であると考えられるところ、需要者がそのように本件ウェブページに 遷移した場合には、前記のとおり、被告が運営する本件サービスサイトの一部とし て本件ウェブページを理解するのであって、やはり、被告標章を本件ウェブページ の各タグ内で使用することによって、原告と被告の提供する商品または役務に関し 出所の混同が生じることはないというべきである。 したがって、被告による被告標章の使用は、商標法26条1項6号の規定により、 本件商標権の効力が及ばないというべきである。
(3) 原告は、被告は、本件ウェブページの見出しやその説明文において被告標章 を表示させ、需要者をして本件ウェブページにアクセスするよう誘引し、本件ウェ\nブページにおいて本件葬儀場の建物の写真や情報を表示させることで、需要者をし\nて、本件ウェブページが原告(セレモニートーリン)のウェブページであると誤認 させ、出所の混同を生じさせている旨を主張する。 しかし、本件ウェブページの見出し、説明文及び本件ウェブページ自体の表示内\n容を踏まえると、見出し及び説明文に被告標章の表示があるからといって、出所の\n混同を生じさせることにはならないことは前述したとおりである。原告の主張は、 要するに、原告を紹介する本件ウェブページに被告の電話番号等が表示されること\nにより、原告が、その潜在的需要を失う不利益を被っていることをいうものと解さ れるが、そのような結果が仮に生じているとしても、前記認定に係る本件サービス サイトの性質及び本件ウェブページの記載(なお、反対にこれを参照して原告に依 頼する需要者も在り得ると考えられる。)からすると、自由競争の範囲内のものと いうべきである。原告の前記主張は採用の限りでない。

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令和3(ワ)21224  損害賠償金請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年11月21日  東京地方裁判所

ウェブページのフライパンの説明画像について、著作権侵害を認め、5万円の賠償を認めました。

本件において、原告が、本件各画像を含め、自己が著作権を有する著作 物を第三者に有償で利用許諾していたと認めるに足りる証拠はないから、 実際の利用許諾例に準じて使用料相当額を算定することはできない。 イ この点、原告は、新聞社や写真提供会社が提供する画像レンタルサービ スにおける使用料を根拠として、本件各画像の1ページ当たりの使用料相 当額は6万6666円を下らず、これに本件各画像が掲載されたウェブペ ージのページ数を乗じて使用料相当額を算定すべきであると主張する。 (ア) まず、ページ数を単純に乗ずることの当否について検討すると、原告 商品は、特長、材質、製造方法、メーカーなどが同一である複数のフラ イパンの一群からなる商品であるところ(甲12)、被告ストアにおける 本件各画像の利用態様も、複数の商品販売ページにわたって、原告商品 が等しく備える特長等を紹介する本件画像1)ないし7)の各画像の複製物 を共通して複製及び送信可能化し、本件商品画像については、当該ペー\nジで販売している商品に相当する画像1点を複製及び送信可能化したと\nいうものであることが認められる(前提事実(2)ア、イ、甲2)。このよ うな利用態様にかんがみれば、特に、全てのページにわたって原告商品 に共通する特長等を紹介する同一の画像7点については、異なる態様で 複数回利用された場合と同視することはできず、本件において、単純に ページ数(すなわち販売している商品の種類の数)を乗じて使用料相当 額を算定することが相当であるとはいえない。
そこで、更に検討すると、本件各画像は、商品群からなる原告商品の ネット通販用広告画像、すなわち販売促進資料として作成されたものと 認められることから(甲12)、原告商品の販売と無関係に本件各画像を 使用することは通常考え難く、仮に原告が第三者に本件各画像の利用を 許諾するとすれば、原告も主張するとおり、原告商品の日本国内の正規 代理店として、原告商品の再販売契約をするに当たり、その販売促進資 料として本件各画像全体を利用許諾するような場合が想定される。そし て、同一のオンラインショッピングモール上に出店しているとしても、 オンラインストア名が異なれば、商品の販売経路を複数有することにな るから、販売促進資料としての画像の利用許諾契約に当たっても、原告 商品を取り扱うオンラインストア数の多寡を考慮するのが合理的といえ る。アフロ社が提供している画像レンタルサービスにおいて、同一サイ トである限り、使用箇所を問わず同じ使用料が設定されている(甲7の 「ウェブ広告・ホームページ」欄の注記)ことも、オンラインストア数 に応じて使用料相当額を算定する方法の合理性を裏付けるものである。 以上のとおり、原告商品が一つの商品群からなるものであること、被 告ストアにおける本件各画像の実際の利用態様及び想定される本件各画 像の利用許諾の態様にかんがみれば、本件各画像の使用料相当額を算定 するに当たっては、本件各画像の複製物が掲載されたページ数(すなわ ち販売している商品の種類の数)ではなく、オンラインストア数を基準 とすべきであって、本件においては、被告ストアが一つであることから、 被告ストア全体にわたって本件各画像を1回利用したものとして算定す るのが相当というべきである。
(イ) 次に、本件各画像の具体的な使用料相当額について検討する。
a 原告が指摘する新聞社の画像レンタルサービスにおいて、具体的に どのような写真や画像が提供されているのかを認めるに足りる証拠は ない。しかし、新聞社が提供する写真は、いわゆる報道写真にみられ るように、ある事件や事象の一瞬を捉えているなど、構図やシャッタ\nーチャンス等に高度な工夫を凝らした創作性の高いものや、他の手段 では入手が困難な希少性の高いものである可能性があると考えられる。\nまた、アフロ社が提供する画像レンタルサービスについては、上記 のような報道写真とは異なる性格の画像も提供されていることがうか がわれるものの(甲7)、やはり、実際にどのような写真や画像が提供 されているのかは、本件証拠上認めるに足りない。
b その一方で、被告が指摘するシャッターストック社やピクスタ社の 画像レンタルサービスについてみると、証拠からうかがわれる具体的 な画像の内容(乙3、4)のほか、ピクスタ社では6200万点以上 の写真、イラストなどの素材について、料金が1か月間に利用できる 画像の点数に基づいて設定されていたり、未利用画像数を翌月以降に 繰り越せるといった条件で提供されていたりすること(乙2、4)に かんがみれば、これらのサービスにおいて低額な使用料で提供されて いるのは、汎用性のあるウェブサイト用の素材である可能性が高い。\n もっとも、商業的利用の可否など、その余の使用条件については、 本件証拠上判然としない。
c これに対し、前提事実(2)ア及び前記(ア)のとおり、本件各画像は、 商品販売ページを見た顧客の購買意欲を高めるように、原告商品を用 いて調理している様子を撮影した写真や特長等を述べた文言、画像な どを配置した原告商品に特化した販売促進目的の画像であって、報道 写真とも、シャッターストック社やピクスタ社が提供する汎用性のあ るウェブサイト用の素材とも、性格及び目的が大きく異なる。また、 前記(ア)において説示したとおり、原告が第三者に本件各画像を利用許 諾することが想定されるのは、原告商品の正規代理店として、原告商 品の再販売契約に当たって販売促進資料として利用されるような場合 であるから、専ら写真、画像等の利用許諾に伴う使用料をもって収益 を上げるというビジネスモデルに基づき設定された使用料の水準が妥 当するともいい難い。これらの事情に照らせば、原告及び被告の双方 がそれぞれ指摘する画像レンタルサービスにおいて規定されている使 用料の水準が本件においてそのまま妥当するとはいえない。
その一方で、前記(ア)のとおり、本件各画像は、原告商品の再販売契 約に伴う販売促進資料との位置付けで利用許諾されることが想定でき るから、本件各画像の使用料のみによって本件各画像の取得費用を回 収したり、原告商品の再販売によって得られる利益を超えたりするよ うな高額な使用料が設定されるとは考え難い。
このほか、本件各画像は、報道写真のように高度の創作性を有して おり代替可能性が小さいとまではいえないものの、原告商品に特化し\nた販売促進資料として工夫して作成されたものであり(前記(ア))、相 応に創作性を有する著作物であること(前記1)、被告ストアにおける 販売商品数は11点であり、本件各画像の利用期間が約3か月間であ ったこと(前記(1))、本件各画像の利用に当たっての将来の使用料額 を定める場面ではなく、原告の許諾を何ら得ることなく本件各画像を 利用した被告に対する損害賠償を請求する場面での金額の算定である ことなどを総合考慮すると、本件各画像の使用料相当額は合計5万円 と認められる。
ウ 当事者の主張について
(ア) 原告は、本件各画像の使用料相当額を算定するに当たり、いつも社に 本件各画像のデザイン制作料等として約700万円を支払ったことを考 慮すべきであると主張する。 しかし、原告がいつも社に委託したのは、ウェブサイト関連業務及び 検索エンジン最適化サービスであり、本件各画像の制作業務はその一部 を構成するにすぎないと認められるところ(甲12)、本件各画像のデザ\nイン制作のみに要した費用を認めるに足りる的確な証拠はない。 したがって、本件各画像の使用料相当額の算定に当たって、原告が主 張する金額を考慮することはできない。

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平成30(ワ)33583  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 知的財産裁判例 令和4年1月28日  東京地方裁判所

 秘密保持契約に違反して、営業秘密を用いて製品を製造したとして、約610万円の損害賠償が認められました。損害額の計算には、競合する原告商品が存在する商品は5条2項が、そうでない商品は同3項が採用されています。

イ 不競法5条2項の利益の意義
不競法5条2項所定の不正競争行為により侵害者が受けた利益の額は, 侵害者が不正競争行為によって製造販売した製品の売上高から,侵害者に おいて同製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加 的に必要となった経費を控除した限界利益の額であると解すべきである。
ウ 売上高(限界利益の算定の対象とすべき製品の範囲)
(ア) 1)の製品について
1)の製品の売上高は,前記(1)アのとおりであり,合計4272万36 27円が限界利益の算定の対象とすべき売上高となる。
(イ) 2)の製品及び3)の製品について
a 被告は,1)の製品の売上高のみを対象として限界利益の算定をする のは相当でなく,2)の製品及び3)の製品に関する事情も考慮して,被 告製品の販売による限界利益の計算をすべきであると主張するので, 以下検討する。
b 3)の製品は,製造したが販売されなかった製品であり,前記(1)ウ (イ)のとおり,被告製品の販売を終了する直前の令和2年3月の無償提 供も1)の製品の販売と一体として行われたものとはいえないから,3) の製品の存在やその無償提供に関する事情を被告製品の販売による被 告の限界利益の算定に当たって考慮するのは相当でない。
c 2)の製品は,原価(原材料費)未満の額で販売した製品であるとこ ろ,被告は,このような廉価販売がされた事情について,前記第3の 4(被告の主張)(2)イ(イ)のとおり,新製品のプロモーション等のた めの値引き,レンタル事業者に販売する際の値引き,代理店又は販売 店を通じた販売の際の値引き,無料お試しキャンペーンの際の値引き, 被告製品販売中止の検討時期の在庫処分のための値引きなど,各種の 事情により,被告製品の販売開始当初から販売中止時期までにかけて 廉価販売を行ったと主張する。
しかしながら,上記の各事情によって,いつどの程度の値引きでど の程度の個数を廉価販売したのかについて,具体的な主張立証はなく, 2)の製品の値引きのうち,本件訴訟において原告が差止及び廃棄を請 求したこととは関係なく,1)の製品の販売に伴って不可避的に生じた といえるものがどの程度あったのかは,明らかでない。さらに,前記 (1)アのとおり,1)の製品は,被告製品1が1個当たり平均1万265 9円,被告製品2が1個当たり平均1万2653円で販売されたとこ ろ,前記(1)イのとおり,2)の製品については,被告製品1が4分の1 程度の平均3236円,被告製品2が6分の1程度の平均2020円 で販売されており,1)の製品との販売価格の乖離が大きいこと,被告 製品は廃棄請求の対象となるべきものであるところ,被告の主張を前 提としても,上記のとおり,2)の製品の販売には,本件訴訟が提起さ れた平成30年10月以降の時期に,在庫処分の趣旨で行われたもの があること,証拠(乙42,43)によれば,令和2年2月以降の被 告製品の販売のほとんどは廉価販売であり,同月及び同年3月には被 告製品が合計1640個販売されていると認められ,廉価販売された 被告製品2163個の中で,上記の販売終了に伴う在庫処分の趣旨で 行われたものが大部分であったと考えるのが自然であることも考慮す れば,2)の製品の販売について,1)の製品の販売と一体とみることは できないというべきである。したがって,被告製品の販売による不競 法5条2項の損害の算定に当たっては,2)の製品の販売を考慮せず, 1)の製品の販売のみを対象として被告の限界利益を算定するのが相当 である。
エ 限界利益の算定に当たって売上高から控除すべき経費について
(ア) 原材料費について
1)の製品についての原材料費が以下の金額であることは当事者間に争 いがなく,これは1)の製品の販売による限界利益の算定に当たり控除す べき経費である。
被告製品1 2512万4308円
被告製品2 504万3521円
(イ) 保管費について
証拠(乙61)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品の製造 後から出荷までの保管費用として,平成30年7月から令和2年3月末 日までの間に合計979万6000円を支出したものと認められる。こ のうち1)の製品に係る保管費用が,1)の製品の製造販売に直接関連して 追加的に必要となったものとして,限界利益の算定に当たり控除すべき 経費に該当する。
前記(1)ウのとおり,被告製品の総製造数は7553個であるから,1) の製品に係る費用の額は437万7267円(979万6000円×3 375個/7553個)と認められる。
(ウ) 販売サイト関連費,お問い合わせ窓口に係る費用及びインターネット広告費について
被告は,被告製品のネット販売のサイトに係る費用として合計115 8万5000円を,お問い合わせ窓口に係る費用として合計454万3 375円を,インターネット広告に係る費用として合計1676万79 26円をそれぞれ支出したと主張し,これらの額の請求に係る見積書 (乙62)及び請求書ないし買掛票(乙64)を提出する。 しかしながら,上記の見積書等に係る費用と被告製品の販売との具体 的な関連を示す証拠はなく,また,被告の主張を前提としても,上記の ような費用は,通常,製造販売される製品の個数の影響を受けて変動す ることが想定されないというべきであり,実際にそのような変動が生じ たと認めるに足りる証拠もない。したがって,被告の主張する上記の各 費用は,1)の製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったもの とは認められず,限界利益の算定に当たり控除すべき経費に該当すると はいえない。
(エ) 運搬費について
証拠(乙61)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品の出荷 に係る被告製品の運搬費として,平成30年7月から令和2年3月末日 までの間に合計911万7059円を支出し,そのうち,購入者が送料 を負担した分が78万0610円であったものと認められるから,これ を控除すると,被告が運搬費として実質的に負担した額は833万64 49円と認められる。このうち1)の製品に係る費用は,1)の製品の製造 販売に直接関連して追加的に必要となったものとして,限界利益の算定 に当たり控除すべき経費に該当する。 前記(1)のとおり,1)の製品の販売数は3375個,2)の製品の販売数 は2163個であるほか,3)の製品のうち無償で提供されたものが10 00個あり,証拠(乙68)によれば,その送料は被告が負担したもの と認められるから,上記の運搬費合計のうち,1)の製品に係る費用の額 は430万3382円(833万6449円×3375個/6538個) と認めるのが相当である。
被告は,運搬費として支出した総額は963万9427円であると主 張し,被告作成の「スマポ発送運賃」等の項目や金額が記載された書面 (乙57)には,被告製品に係る運賃の合計額につき同主張に沿う記載 があるが,同書面記載の運賃のうち,請求書(乙61)が提出されてい るものの額は合計911万7059円にとどまる。また,被告は,1)の 製品に係る運搬費の額について,1)の製品の販売数と2)の製品の販売数 のみを考慮して算定すべきと主張するが,3)の製品のうち無償で提供し たものの送料を上記請求書(乙61)とは別途支出したことを認めるに 足りる証拠はないから,1)の製品に係る費用の額は上記認定の限度で認 めるのが相当である。
原告は,上記請求書(乙61)には,被告製品以外のものに係る請求 が含まれているから,その点も考慮すべきであると指摘するが,当該請 求書の件名としてはいずれも「スマポ 保管発送」と被告製品の名称の みが記載されていること,項目として「南京錠 開梱 同梱」等の記載 があるのは被告製品の付属品の取り扱いに関する記載と考えられること からすれば,上記請求書に係る運搬費はその全体が被告製品に係る費用 と認めるのが相当であり,原告の指摘は上記認定を覆すに足りるもので はない。
(オ) 金型費について
証拠(乙46,65)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品 の製造のために新規に金型を製作し,その製作費用及び被告製品の製造 を開始するための改造費用として,被告製品1について金型製作費47 81万円及び金型改造費717万2000円の合計5498万2000 円を,被告製品2について金型製作費5181万8000円及び金型改 造費671万6000円の合計5853万4000円を,それぞれ支出 したことが認められる(総合計1億1351万6000円)。 被告は,上記の金型費が,被告製品の製造・販売のために直接必要と なった直接固定費であり,全額が経費として控除されるべきであると主 張する。
確かに,被告製品の金型は被告製品の製造のために新規に必要 となったものではあるが,証拠(甲33,53,乙30)及び弁論の全 趣旨によれば,被告製品のような樹脂製品の製造に用いる金型には30 万ないし40万回程度使用可能なものがあると認められ,これに対して,1)の製品の製造数は,被告製品1について2813個,被告製品2につ いて562個にすぎないから,金型費の全額が1)の製品の製造販売に直 接関連して追加的に必要となったものということはできない。被告は金 型を廃棄済みであり,今後の使用予定がないことからも金型費の全額を経費と認めるべきと主張するところ,証拠(乙52ないし54)によれ\nば,被告は令和2年2月に被告製品の金型を廃棄していると認められる ものの,本件訴訟における被告製品の生産の差止請求を受けて廃棄され たものと考えられ,本件全証拠によっても,上記の金型の製作当時から 被告製品が少数のみ生産される予定であったとの事情は認められないか\nら,被告製品の金型が廃棄されていることを考慮しても,金型費の全額 が1)の製品の限界利益の算定に当たり控除すべき経費に当たるというこ とはできない。
そして,上記の金型の使用可能回数(少ない方の数値を採用)に対して,1)の製品の製造数が,被告製品1では0.9%程度(2813個÷ 30万回),被告製品2では0.2%程度(562個÷30万回)である ことからすれば,上記の金型の一部は共通部品の金型として被告製品1 と被告製品2の双方に使用されるものであったこと(乙52)を考慮し ても,上記金型費のうち,1)の製品の製造販売に直接関連して追加的に 必要な費用として限界利益の算定に当たり控除すべき経費に該当するの は,その1%に相当する113万5160円(1億1351万6000 円×1%)と認めるのが相当である。
(カ) 経費控除後の限界利益の額
以上によれば,1)の製品の製造販売により,被告が受けた限界利益の 額は,前記ウ(ア)の1)の製品の売上高合計4272万3627円から,前 記(ア)の原材料費合計3016万7829円,前記(イ)の保管費のうち4 37万7267円,前記(エ)の運搬費のうち430万3382円及び前記 (オ)の金型費のうち113万5160円を控除した273万9989円で ある。
オ 推定覆滅事由について
(ア) 不競法5条2項における推定の覆滅については,不正競争行為に及ん だ侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と被侵害 者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解さ れる。そこで,以下,被告が主張する事情について,上記の推定覆滅事 由に該当するか否かを検討する。
(イ) 原告が原告製品を販売していないことについて
被告は,原告製品は(省略)が販売する製品であって,原告は(省略) から請負契約に基づき製造の対価としての報酬を支払われる関係にある にすぎず,被告製品の販売による原告の逸失利益とは,(省略)から支払 われる報酬が喪失したというものであり,被告製品の販売による被告の 限界利益とは性質を大きく異にするものであるから,不競法5条2項の 推定は全部覆滅されると主張する。 しかしながら,原告において,被告による被告製品の製造販売がなか ったならば利益が得られたであろうという事情が存在することは,前記 アのとおりであり,原告製品を販売しているのが(省略)であって,原 告製品の販売による原告の利益が,その本体部分の製造について(省略) から受ける報酬であるとしても,そのような原告の利益の額が被告製品 の販売による被告の限界利益の額と乖離していることについて,具体的 な主張立証はない。したがって,被告の主張する上記の事情をもって, 推定覆滅事由に当たるとは認められない。
(ウ) 広告宣伝の効果について
被告は,GoogleやYahooといった検索サイト等にバナー広 告やリスティング広告を設置しており,被告製品の販売による限界利益 のうち,最低でも28.8%は広告宣伝が寄与したものであるから,不 競法5条2項の推定は28.8%覆滅されると主張する。 しかしながら,本件証拠上,被告が行った上記の広告の具体的な内容 は明らかではなく,競合品の販売における広告と比較して,被告製品の 販売を特に促進するような広告宣伝がなされたといった事情も認められ ないから,被告が主張する被告製品に係る広告宣伝の効果をもって,推 定覆滅事由に当たるとは認められない。
(エ) 原告製品以外の競合品の存在について
被告は,被告製品には原告製品以外の競合品が存在しており,被告製 品が販売されなかったとしても,被告製品の購入者は,原告製品よりも 安い他の競合品を購入し,あえて原告製品を購入する者は現実的にはほ とんどいないと予想されるから,不競法5条2項の損害の推定は少なくとも9割が覆滅されると主張する。\n原告製品と被告製品とが,自宅の玄関前等に設置可能な後付け型の荷\n物受取用樹脂製宅配ボックスという点で同種の製品であり,価格の違い にかかわらず,市場において競合する製品といえることは,前記アのと おりであるところ,被告製品が販売されていた平成30年7月から令和 2年3月までの間において原告製品以外の同種商品が販売されていた状 況やそのシェアについて,具体的な主張立証はない。したがって,被告 が主張する原告製品以外の競合品の存在についても,推定覆滅事由に該 当するとは認められない。
(オ) 以上によれば,1)の製品の製造販売による原告の損害について,不競 法5条2項の推定を覆滅すべき事情が存在するとは認められない。
カ 小括
よって,不競法5条2項によって算定される原告の損害額は,被告製品 のうち1)の製品の販売のみを対象とした被告の限界利益である273万9 989円と認められる。
(3) 不競法5条3項による損害額について
ア 不競法5条3項による損害額は,原則として,営業秘密を使用した侵害 品の売上高を基準とし,そこに営業秘密の使用に対し受けるべき料率を乗 じて算定するのが相当であるが,2)の製品については廉価販売がされ,3) の製品については無償提供又は廃棄がされており,同項の適用の可否及び 算定方法に争いがあることから,以下,まず,1)の製品についての同項に よる損害額を検討し,さらに,2)の製品及び3)の製品について,同項の適 用の可否及び適用される場合の算定方法について検討する。
イ 1)の製品についての不競法5条3項による損害額
(ア) 侵害品の売上高
1)の製品についての売上高は,前記(1)アのとおり,被告製品1につい て3561万2239円(販売数2813個),被告製品2について71 1万1388円(販売数562個)の合計4272万3627円である。
(イ) 使用料率について
a 使用料率の認定方法
不競法2条1項7号及び10号に係る営業秘密の使用及びこれによ って生じた侵害品の譲渡に対して受けるべき料率は,1)当該営業秘密 の実際の使用許諾契約における使用料率や,それが明らかでない場合 には業界における使用料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該営業秘密 自体の価値すなわち営業秘密の内容や重要性,他のものによる代替可 能性,3)当該営業秘密を製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献 や侵害の態様,4)営業秘密保有者と侵害者との競業関係や営業秘密保 有者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率 を定めるべきである。
b 使用料率の認定
(a) 原告による使用許諾の実績について
前記2(1)のとおり,本件データは本件新製品の最終試作品の製作 のための3Dデータであるところ,弁論の全趣旨によれば,原告が 本件データについて他社に使用許諾をしたことはないものと認めら れる。 また,原告が,他社に対して同種の3Dデータの使用を有償で許 諾した事例の有無や,その際の許諾の対価についての主張立証はな い。
(b) 原告による「設計費」等の請求について
証拠(乙1,2,30ないし35)及び弁論の全趣旨によれば, 原告は,通常,他社から受注を受けて樹脂製品を製作する場合に, CADの図面の製作費用を独立に請求することはなく,受注する製 品価格や製造のための金型価格を含めた全体で利益を確保するとの 方針を取っていること,本件新製品の製造については,当初原告に 製品と金型の発注がされる予定であったところ,本件新製品の開発協議の中で,金型を被告が調達することが検討され,その場合には\n原告に設計費を支払うことが協議されたこと,その後,原告におい て金型を調達する場合にも設計費を支払うよう原告が求めたこと, 原告は,前記1(14)のとおり,本件プロジェクトの終了後の平成2 9年10月に,本件新製品の「設計費」として203万2800円 のほか,「機会損失額」として1496万円の合計1699万280 0円を請求したが,当該支払について原告と被告間で合意に至らな かったこと,原告は,上記の「設計費」及び「機会損失額」の請求 に当たり,「設計費」については「設計工数:6,500円/H×2 96H=1,924,000円」,「モックアップ作成費:54,4 00円×2個=108,800円」と記載し,296時間分の設計 工数とモックアップ作成に要した費用の合計として合計203万2 800円を請求する旨を説明しており,「機会損失額」の算定根拠と して「製品:1,600セット/月×12カ月×2,600円× 5%×5年=12,480,000円」,「金型:49,600,0 00×5%=2,480,000円」の合計1496万円を請求す る旨を説明していたことが認められる。
上記の「設計費」及び「機会損失額」の請求は,その経緯からす れば,本件新製品について原告に製品と金型の発注がされる予定であり,原告はそれによる収益を見込んでいたところ,被告から原告\nへの発注がなくなったため,原告が作成した本件データを被告が使 用することの対価も含めて,原告への発注によって原告が得られた 利益に相当する額を算定し,その額を請求したものと認められる。 原告の上記請求内容は,被告との間で最終的な合意には至らなかっ たものの,本件訴訟前における原告の提案内容という限度で,本件 データの使用についての使用料率の算定の参考とすることができる というべきである。
被告は,本件データの使用料相当額について,上記の「設計費」 である203万2800円が上限である旨主張するが,上記のとお り,「設計費」のほか,併せて請求された「機会損失額」にも本件デ ータの使用の対価は含まれていたというべきであるから,原告の提 案内容として「設計費」の額のみを考慮するのは相当でなく,被告 の上記主張は採用することができない。 また,被告は,「機会損失額」の算定に当たり,上記のとおり「1, 600セット/月×12ヶ月×2,600円×5%×5年=12, 480,000円」との計算が示されていたことから,本件データ の使用料相当額について,被告製品1及び被告製品2の1セット当 たり130円(2600円×5%)が使用料相当額の最大値となる 旨も主張する。しかしながら,原告の「機会損失額」の提案は,本 件新製品について,原告が被告から受注する数を合計9万6000 個(1600個×12か月×5年)と想定した上で,1個当たりの 原告の損失を130円(2600円×5%)として算定しているも のであるが,被告製品の製造販売個数に応じて1個当たり130円 を支払うよう請求していたものではなく,また,「機会損失額」とし ては更に金型の受注についての機会損失額248万円を請求し,「設 計費」も併せて請求していたものである。そうすると,「機会損失額」 の算定根拠についての原告の説明内容から,被告製品の製造販売に ついての使用料相当額が1台当たり130円に限られるということ にはならず,被告の上記主張は採用することができない。
(c) 業界における使用料の相場等について
前記(a)及び(b)のとおり,本件データの使用許諾については,こ れを含む趣旨の原告から被告に対する訴訟前の提案があるにとどま り,原告の使用許諾の実績はないため,本件データの使用料率の算 定に当たっては,業界における使用料の相場等を考慮すべきである。 そして,本件報告書には,「技術ノウハウ」についてのロイヤルテ ィ料率の相場等について,アンケート調査結果として,技術分類の うち「成形」の分野においては,ロイヤルティ料率の平均値が3. 8%(最大値14.5%,最小値0.5%,標準偏差3.2%)で あることが記載されており,本件報告書以外に,本件データのよう なCADシステムのデータの使用許諾についての一般的な相場を示 す証拠は双方から提出されていないから,本件報告書に記載された 上記のロイヤルティ料率を本件データの使用料率の算定に当たって 考慮するのが相当である。
・・・
(f) 使用料率の認定
以上によれば,合理的な使用料率の算定に当たっては,前記(c)の 本件報告書に記載されたロイヤルティ料率の相場(平均値3.8%, 最大値14.5%,最小値0.5%,標準偏差3.2%)を考慮す べきであり,さらに,前記(d)の本件データの被告製品による利益へ の貢献や本件データの代替可能性,前記(e)の原告と被告とが競業関 係にあること,前記(b)の本件訴訟前の原告の提案内容といった事情 を総合考慮すれば,不正競争行為をした者に対して事後的に定めら れる,本件データの使用に対して受けるべき使用料率については, 6%と認めるのが相当である。
原告は,本件報告書について最大でロイヤルティ料率を14. 5%とする例があったことを指摘するが,本件報告書における平均 値は3.8%であり,前記(d)のとおり,本件データが同種製品の製 造に必須で代替不可能なほど重要なものであるとまではいえないことからすれば,本件報告書における最大値を基準とすべきとはいえ\nない。
(ウ) 使用料相当額
a 1)の製品についての使用料相当額を算定すると,前記(ア)の売上高合 計4272万3627円の6%に相当する256万3417円と認め られ,これが不競法5条3条による損害額となる。
b 前記aの使用料相当額の内訳は,被告製品1について213万67 34円(3561万2239円×6%),被告製品2について42万6 683円(711万1388円×6%)となり,被告製品1の販売数 が2813個,被告製品2の販売数が562個であるから,製品1個 当たりの使用料相当額を算定すると,次のとおり,被告製品1と被告 製品2のいずれについても759円となる。
213万6734÷2813個≒759円
42万6683円÷562個≒759円
ウ 2)の製品についての不競法5条3項による損害額
(ア) 1)の製品を対象として不競法5条2項による損害を算定する場合に, 2)の製品に同条3項を適用できるかについて
被告は,1)の製品を対象として不競法5条2項による損害を算定する 場合に,別途2)の製品について不競法5条3項による損害を算定して, これらを合算することは,填補賠償の原則に反して許されないと主張す る。 しかしながら,前記(2)ウのとおり,2)の製品の販売は,1)の製品の販 売と一体のものとして行われたものとはいえず,1)の製品の販売のみに 基づいて不競法5条2項による損害額を算定することは認められるとい うべきであるから,同項による損害の算定において対象となっていない 2)の製品について同条3項によって損害額を算定し,これと1)の製品に ついて同条2項により算定した損害額を合算しても,算定の対象とされ た製品が異なっている以上,損害を二重に評価していることにはならず, 填補賠償の原則に反するということにはならない。したがって,そのよ うな算定方法を採用することも認められるというべきである。
(イ) 2)の製品についての損害の算定方法について
2)の製品についての実際の売上高は,前記(1)イのとおりであるが,前 記(2)ウ(イ)cのとおり,2)の製品は平均すると1)の製品の販売価格の5 分の1程度の大幅に値引きされた額で販売されており,また,2)の製品 の販売については,被告製品の販売終了に近い時期に,在庫処分の趣旨 で行われたものが大部分であったと考えられる。さらに,このような在 庫処分の趣旨での廉価販売が,当裁判所により被告の行為が不正競争に 該当する旨の心証が開示された後に行われたことは当裁判所に顕著であ るから,2)の製品の販売の大部分については,本件訴訟における差止め 及び廃棄請求の対象となることを免れる意図に基づいて不相当な廉価に よってされたものと疑われてもやむを得ないというべきである。 しかも,2)の製品の販売は,営業秘密である本件データを使用して被 告製品を製造し,一般消費者向けに譲渡するものであり,その結果,被 告製品が原告製品と競合する市場に出回ってしまうことから,原告が相 当な使用料の支払なくそのような行為を許諾することはないという点に おいて,1)の製品の販売と共通している。 以上の事情を考慮すれば,2)の製品の販売について,原告が受けるべ き金銭の額を事後的に定めるに当たっては,前記(1)イの大幅に値引きさ れた実際の売上高に前記イ(イ)の使用料率を乗じて算定するのは相当では なく,被告製品1個の販売につき,1)の製品を1個販売した場合と同額 の使用料(前記イ(ウ)bのとおり,被告製品1と被告製品2のいずれにつ いても759円)をもって使用料相当額を算定するのが相当というべき である。なお,原告が主張する,2)の製品の売上高について,2)の製品 の1個当たりの販売価格を1)の製品の1個当たりの販売価格と同額とし て算定すべきとの算定方法も,これと同趣旨をいうものと解される。
(ウ) 使用料相当額
2)の製品についての使用料相当額を算定すると,1個当たりの使用料 相当額759円に,前記(1)イの2)の製品の販売個数(被告製品1につき 774個,被告製品2につき1389個の合計2163個)を乗じた1 64万1717円と認められ,これが不競法5条3条による損害額とな る。
エ 3)の製品についての不競法5条3項による損害額
(ア) 1)の製品を対象として不競法5条2項による損害を算定する場合に, 3)の製品に同条3項を適用できるかについて
被告は,1)の製品を対象として不競法5条2項による損害を算定する 場合に,別途3)の製品について不競法5条3項による損害を算定して, これらを合算することは,填補賠償の原則に反して許されないと主張す るが,しかしながら,前記(2)ウのとおり,3)の製品については,無償譲 渡された分を含めて1)の製品の販売と一体のものとはいえないから,前 記ウ(ア)と同様に,1)の製品の販売のみに基づいて不競法5条2項による 損害額を算定する場合に,同項による損害の算定において対象となって いない3)の製品について同条3項によって損害額を算定することも認め られるというべきである。 (イ) 3)の製品についての損害の算定方法について 前記アのとおり,不競法5条3項による損害は,原則として,侵害品 の売上高を基準とし,そこに営業秘密等の使用に対し受けるべき料率を 乗じて算定すべきところ,3)の製品については,販売されていないから, 売上高は存在しない。 しかしながら,被告は,前記(1)ウのとおり,被告製品の販売を終了す る直前の令和2年3月の時期に,3)の製品について,少なくとも,被告 製品1を1000個無償提供したことが認められるところ,当該無償提 供は,営業秘密である本件データを使用して被告製品を製造し,一般消 費者向けに譲渡することにより,被告製品が原告製品と競合する市場に 出回ることから,原告において相当な使用料の支払なく許諾することは ないという点において,1)の製品の販売と共通している。 しかも,その無償提供がされた時期が当裁判所により被告の行為が不 正競争に該当する旨の心証が開示された後であることは当裁判所に顕著 であり,本件訴訟における差止め及び廃棄請求の対象となることを免れ る意図によるものと疑われてもやむを得ないというべきである。 以上の事情に照らすと,被告による上記の行為に対し原告が受けるべ き金銭の額を事後的に定める場合には,3)の製品1個の無償提供につき, 1)の製品(被告製品1)を1個販売した場合と同額の使用料759円 (前記イ(ウ)b)をもって使用料相当額を算定するのが相当というべきで ある。
原告は,3)の製品全体が無償提供されたとして,3)の製品全体につい て不競法5条3項の損害の算定の対象とすべきと主張するが,無償提供 されたと認められるのが被告製品1の1000個に限られることは前記 (1)ウ(イ)のとおりであり,3)の製品のうちそれ以外のものについては, 既に廃棄済みであるか,本件訴訟における廃棄請求の対象となるものと 考えられるから,これを不競法5条3項の損害の算定の対象とするのは 相当ではなく,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 使用料相当額
3)の製品についての使用料相当額を算定すると,被告製品1の1個当 たりの使用料相当額759円に,前記(1)ウ(イ)の無償譲渡された3)の製 品の個数1000個を乗じた75万9000円と認められ,これが不競 法5条3条による損害額となる。
(4) 弁護士費用等を含めた損害のまとめ
ア 1)の製品について不競法5条2項,2)の製品及び3)の製品について不競 法5条3項を適用した損害額(原告の主位的主張)について 1)の製品についての不競法5条2項による損害額は前記(2)カの273万 9989円,2)の製品及び3)の製品についての不競法5条3項による損害 額は前記(3)ウ(ウ)及び同エ(ウ)を合算した240万0717円であり,被告 製品全体についての損害額は514万0706円である。
イ 被告製品全体について不競法5条3項を適用した損害額(原告の予備的主張)について\n
被告製品全体について不競法5条3項による損害額は,前記(3)イ(ウ)a, 同ウ(ウ)及び同エ(ウ)を合算した496万4134円である。 これは前記アの額を下回るから,被告が賠償すべき額は前記アの額に基 づいて算定する。

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令和2(ワ)1129 債務不存在確認等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年8月31日  東京地方裁判所

特許権侵害をしているとの告知メールが不競法2条1項21号の不正競争行為に該当するとして、約35万円の損害賠償が認められました。

原告シプソルが、原告機械の製造、販売や、原告製品の製造等について\n被告の特許権ないし本件特許権を侵害しているとの内容は、原告シプソル\nの営業上の信用を害するものであることは明らかであるから、被告が送付 ないし送信した甲3通知及び甲21メールは、原告シプソルの営業上の信\n用を害する虚偽の事実の告知に当たる。 そして、原告シプソルと被告とは改正前不競法2条1項15号所定の\n「競争関係」にある(前提事実(1)ウ)。 したがって、被告による甲3通知及び甲21メールの送付ないし送信は、 いずれも同号所定の不正競争行為に当たる。
イ 原告シプソルの被告に対する差止請求について\n
前記アによれば、原告機械又は原告機械の製造する梱包体が本件特許権 を侵害する又は侵害するおそれがあるとの事実の告知又は流布の差止めを 求める原告シプソルの請求は理由がある。\n
ウ 原告シプソルの被告に対する損害賠償請求について\n
被告は、包装機器の設計、開発、製造及び販売等を目的とする株式会社 であるから(前提事実(1)イ)、この目的からうかがわれる業務内容に照ら せば、原告機械ないし原告シプソルの販売する自動梱包ラインが被告の保\n有する特許権を侵害するか否かを調査することは必ずしも困難とはいえな いから、被告には、甲3通知及び甲21メールを送付ないし送信したこと について、少なくとも過失があったというべきである。
争点5(原告シプソルに生じた損害の有無及びその額)について\n
無形損害について
前記4(1)及び(2)のとおり、甲3通知及び甲21メールの内容は、原告シ プソルが本件特許権を侵害している旨及びMYTHが原告シプソ\ルから購入 することを予定している自動梱包ラインが被告の保有する特許権を侵害する\n旨を告知するものである。そして、原告シプソルは、自動梱包ラインの専門\n会社であると認められるから(甲20、23)、主力商品ともいえる自動梱包 ラインが他社の保有する特許権を侵害するとの事実が告知されたことにより、 原告シプソルの信用が毀損されたことは明らかであり、その程度も必ずしも\n小さいとはいえない。
しかし、被告から原告シプソルの取引先に対して虚偽事実の告知がされた\n回数は、本件全証拠によっても、甲3通知及び甲21メールの送付ないし送 信の合計2回を超えて認められない。また、これらの通知等がされたことに より、原告M・Kロジ及びMYTHが原告シプソルとの取引を取り止めたと\n認めるに足りる的確な証拠はない(原告らは、原告M・Kロジが、甲3通知 を受領した後、自動梱包ラインを他社に発注したと主張し、この点に関連し て福岡パッケージ株式会社が発行した自動制函機、シュリンク包装装置等に 係る見積書を証拠(甲26)として提出するが、原告M・Kロジが、これに 相当する機械を原告シプソルに発注する予\定であったことを認めるに足りる 証拠はないから、原告シプソルが甲3通知を契機として原告M・Kロジから\nの受注を失ったとまで認めることはできない。)。 これらの事情を含む本件に現れた諸事情を総合考慮すると、原告シプソル\nに生じた無形損害の額は30万円と認めるのが相当である。
弁護士費用について
被告の不正競争行為と相当因果関係にある弁護士費用の額は5万円と認められる。

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平成29(ワ)7384  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年9月15日  大阪地方裁判所

 ファミリーイナダVS富士医療器のマッサージ器の特許権侵害事件です。東京地裁は、富士医療器がファミリーイナダの特許を侵害してるとして、約28億円の損害を認めました。102条2項と3項の重畳適用を認めています。 原告・被告が逆の侵害訴訟(令和2年(ネ)第10024号)では、知財高裁は、逆転判決で、ファミリーイナダが富士医療器の特許を侵害しているとして、約4億円の損害を認めてます。

ウ 覆滅割合
(ア) 市場の同一性
原告と被告は、マッサージチェアの分野でシェアを競い合う企業でマッサージチ ェアという需要者を共通にする同種製品を取り扱う同一の市場で競業している。 被告の主張は、具体的な被告の製品と原告の製品とを比較し、個別の販売相手先 や販売ルートを細かく分断して、これらが異なるから「市場の非同一性」があるな どと主張している。しかし、このような立論が成り立つのであれば、個別の販売相 手先や販売ルートが共通の場合でない限り、市場は無意味に細分化されてしまう。 同種製品で共通する需要者層を対象にして潜在的に影響を受ける競争の場が想定で きるのであれば、市場が同一性を有しているといえる。 また、本件特許II)及びIII)の実施品である原告の製品(以下「原告製品」という。) には対象被告製品と同じような価格帯の製品も複数存在するから、この点からも市 場の同一性は否定されない。
(イ) 市場における競合品の不存在
侵害訴訟の損害論においては、特許権を侵害する製品が販売されることによって、 特許権者の特許実施製品の販売が減少するという関係があるか否かを問題とすべき であるから、侵害関係のない製品についての適法な同種製品のシェア自体は、推定 覆滅事由としては関係がない。 また、競合品の範囲は、本件特許II)及びIII)の特許権の技術的構成を踏えて、その\n目的・作用効果を把握した上で、当該目的・作用効果が同じで原告製品の販売数量 に影響を与える製品という前提に立脚して考察されるべきであって、「背メカで被 施療者の首元から背中、腰にかけてマッサージを行うマッサージチェア」であるか 否かによって範囲を画し、これを前提とすると、殊更に本件特許II)及びIII)の具体的 な構成や解決手段をその考慮対象から一切捨象することになる。\n
(ウ) 侵害者の努力(ブランド力、宣伝広告)
原告は、古くから一貫してマッサージチェアを製造販売している老舗であり、被 告ともシェアを常に争う信用力のある会社である。また、原告は、世界で各種の受 賞実績のある国際的にも認知された会社であり、被告に劣らずグッドデザイン賞を 受賞するデザイン性を備える複数の原告製品を販売している。 したがって、原告企業より被告企業の方が格別に信用力を有し、原告のブランド 力に比して侵害品が利用者にとって購買動機となるなどということはない。 また、開発段階において開発に携わる従業員を配することは、ごく通常のことで あり、原告においても日々機械によるマッサージを人間の揉み心地に近づけるべく 開発努力を重ねている。営業段階において、マッサージチェアの魅力を伝える為の 営業活動は、原告においても常時行っており、被告だけに特別の活動ではない。
(エ) 侵害品の性能\n
対象被告製品のカタログ等には、対象被告製品の仕様(発明の構成)が明記され\nており、本件発明II)及びIII)の作用の発現が示唆されていることから、需要者に一切 訴求されていない本件特許II)及びIII)の作用効果に関連する仕様、機能は、対象被告\n製品の購入動機になり得ない旨の被告の主張は失当である。 被疑侵害品である対象被告製品の具体的な実施態様に関するパンフレット等には、 利用者へ訴求する記載が多数ある。本件特許II)及びIII)の技術的構成を採用するから\nこそ、各種コースのマッサージや腕を含む人体全体のマッサージ効果を高めるマッ サージチェアを提供できるのであり、これらの技術的構成を回避してマッサージチ\nェアを提供することは製品の性能に大きな影響を及ぼし、仮に回避し得たと考えて\nも、その代替的構成を採用するには無視できない費用がかかる。\n
(オ) 特許発明が侵害品の部分のみに実施されているものではないこと
本件特許II)及びIII)は、椅子式のマッサージチェアにあって身体のマッサージに関 する構成、構\造に係る基本的な技術である。被疑侵害品である対象被告製品の一部 に本件特許II)又は本件特許III)の発明が実施されていたとしても、対象被告製品は、 この実施部分を除いてしまえば、全体としての製品構成が成り立たない。すなわち、\n本件特許II)は、椅子式マッサージ機にあって肩を側方からマッサージする「肩また は上腕の側部」の技術的構成に関する重要な特許であり、本件特許III)は、「腕部」 をマッサージする技術的構成に関する重要な特許であって、この実施部分があるか\nらこそ利用者の需要が喚起されているといえる。 本件特許II)に関し、被疑侵害品である被告製品II)を利用する利用者は、様々な自 動コースを自由に判断して設定するのであり、その際に、「肩または上腕の側部」 に効果的なマッサージを行うことができる構成を有している製品か否かが製品選択\nには重要である。本件特許II)の構成の内容は、取扱説明書の中でもこれを織り込ん\nでしばしば説明されており、それが被疑侵害品である被告製品II)の全般に亘ること も明らかで、本件特許II)の構成を抜きにしては、被告製品II)の多くの自動コースも 成り立たないことも一見して明らかである。 本件特許III)に関して、開口の向きを考慮しつつ、腕のエアマッサージを行う本件 特許III)の技術的構成の具体的な実施態様は、これを採用する製品の外観にもマッサ\nージ効果にも大きな影響を及ぼす。
(カ) まとめ
以上を総合的に考慮すると、推定覆滅される割合は、少なくとも55%以上には ならない。
エ 損害額
(ア) 特許法102条2項に基づく損害額の算出ができる対象被告製品について 不当利得期間及び損害賠償期間を通じた限界利益の額(前記イ(ウ))について、前 記ウのとおり、推定覆滅される割合は、55%以上にはならないから、被告が開示 した限界利益率を前提とした場合は、●(省略)●を下らず、原告が主張する限界 利益額を前提とした場合は、●(省略)●を下らない。
(イ) 特許法102条2項に基づく算出ができない対象被告製品について 被告の開示によれば、被告製品12、30及び32の限界利益はマイナスであっ て、赤字が計上される製品であるので、これには特許法102条2項に基づく算出 ができない。前記3製品について、●(省略)●そして、前記3製品について、こ の限度で特許法102条3項の主張を行う。
・・・
(ウ) まとめ
前記(ア)及び(イ)を総合すると、被告の開示した限界利益額による場合、特許法102条3項の併用適用の算出額の加算を除いても合計●(省略)●となり、原告が主張する修正限界利益額による場合、同条3項の併用適用の算出額の加算を除いても合計●(省略)●となり、少なく見積もっても50億円を下らない。
(3) 特許法102条2項及び3項に基づく主張
ア 特許法102条1項と同条3項の関係と同条2項 特許法102条1項と3項の併用に関する令和元年法律第3号による改正(以下 「令和元年改正」という。)後の特許法に関する考え方として、産業構造審議会知\n的財産分科会特許制度小委員会の報告書(「実効的な権利保護に向けた知財紛争処 理システムの在り方」)において、わざわざ2項との関係でも「同様の扱いが認め られることと解釈されることが考えられる」と記載されており、その解釈可能性が\nあることへの言及があるから、2項と3項の併用については、条文に明示されなか ったとはいえ、全面的に併用適用が否定されたわけではなく、解釈に任されること を明らかにしている。 したがって、特許法102条2項に基づき主張された損害のうち推定が覆滅され た部分について、同条3項の重畳適用が認められるべきである。

◆判決本文(損害論)

◆判決本文(侵害論)

関連事件1です。 同じく富士医療器による特許権侵害を認定ししてるとして、約4800万円の損害を認めました。

◆平成30(ワ)1391

原告・被告が逆の侵害訴訟はこちら。

◆令和2年(ネ)10024

この1審はこちら。

◆平成30(ワ)3226

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令和3(行ケ)10156  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年9月29日  知的財産高等裁判所

発電方法の発明について、実施可能要件を満たしていないとした審決が維持されました。個人発明です。拒絶理由通知の段階では発明該当性も指摘されていました。\n公開公報は下記です。

◆特願2015-176188

ア 「下方導水路250内の液体がその管内を落下し、その落下により揚水 路200の頂上部が真空域に保たれ、その結果、大気圧によって貯液部1 00の液体が揚水路200に揚水される」との点について
(ア) 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には、「少なくとも下部が液 体で満たされた貯液部(100)と、下部が前記貯液部(100)の前 記液体の液面下部に沈み、上部が該液面上部に出る様に設置され、上端 部近傍の前記液面より所定の高さ位置に液取り出し口が設けられた揚 水路(200)と」、「発電開始前に前記圧縮気体貯蔵タンク(600) に圧縮した気体を貯蔵するとともに、前記ゲート(300)を閉めて前 記揚水路(200)および前記下方導水路(250)内に前記液体を充 填しておき、発電時に前記ゲート(300)を開けて」との記載がある。 また、本願明細書には、「本システムの起動前に不図示の揚水ポンプで水 槽の水を揚水棟200の中全てを満たす様に揚水して揚水棟内を真空 域にしている」との記載(【0040】)がある。 これらの記載によれば、本願発明において、発電の開始前には、揚水 路200等に存在する液体(以下では、「液体」は「水」であるとする。) は、「一端」が貯液部100の水面下にあり、そこから、揚水路200、 (実施例【0038】では上部導水路210を介し)下方導水路250 を経て、「他端」はゲート300まで存在しており、揚水路200等は水 で満たされていることが理解できる。また、本願明細書の「大気圧室4 00の水面は下部導水路260の下部より低く保つ」との記載(【004 1】)から、上記水の「一端」を上流側、「他端」を下流側とすると、ゲ ート300よりも下流側の管内には水が存在しないことが理解できる。
(イ) 前記(ア)を踏まえ、ゲート300を開けたときの前記(ア)の水(「一 端」が貯液部100の水面下にあり、そこから、揚水路200、(上部導 水路210を介し)下方導水路250を経て、「他端」がゲート300ま で存在する水)の挙動を検討する。 揚水路200内にある水と下方導水路250内にある水は、その上部 が(実施例(【0038】)では、上部導水路210内の水を介して)つ ながっている。
そして、乙2に示されている考え方(被告はこれを「サイフォンの原 理」として説明し、原告もその説明を争っていない。)によれば、揚水路 200の下部が存する貯液部100の水面(図1の水槽100の水面) には、大気圧(その圧力を「A」とする。)と貯液部100の水面から揚 水路200の頂部まで存在する水の圧力(水の重さによる圧力。その圧 力を「B」とする。)がかかる。他方、下方導水路250の下端には、水 平導水路260内の平均気圧(その圧力を「C」とする。)と下方導水路 250の下端から頂部までに存在する水の圧力(水の重さによる圧力。 その圧力を「D」とする。)が働く。
ここで、本願発明では、「発電時に前記ゲート(300)を開け」た際 に、「前記圧縮気体貯蔵タンク(600)に貯蔵されている圧縮気体」が 「前記水平導水路(260)から前記集液部(400)に射出される」 ため、水平導水路260内の平均気圧(C)は大気圧(A)より大きく なる(C>A)。また、水による圧力については、貯液部100の水面か ら揚水路200の頂部までの長さの方が下方導水路250の下端から頂 部までの長さよりも長いから、貯液部100の水面から揚水路200の 頂部まで存在する水の圧力の方が大きくなる(B>D)。
そうすると、水を持ち上げる向きを正の向きとして、揚水路200の 下部が存する貯液部100の水面に働く圧力(A−B)と、下方導水路 250の下端に働く圧力(C−D)とを比較すると、後者の方が大きい から、ゲート300を開けると、下方導水路250内の水は、一旦上方 に持ち上がった後、揚水路200に流れ落ちていくものと考えられる。 なお、ゲート300を開けた際に、水平導水路260及び大気室40 0から空気が下方導水路250内に入り込むと、下方導水路250内の ゲート300付近にあった水が水平導水路260側へ落下することがあ り得るが、これは、入り込んだ上記空気と上記水が入れ替わることによ って生じる現象であって、このことによって、下方導水路250や揚水 路200に真空域が生じることはなく、貯液部100から揚水路200 に向かって水が引き揚げられるといった現象も生じないものと理解され る。したがって、本願明細書の記載から、原告が主張する「発電時に、重 力落下エネルギーの作用によって下方導水路250内の液体がその管内 を落下し、その落下により揚水路200の頂上部が真空域に保たれ、そ の結果、大気圧によって貯液部100の液体が揚水路200に揚水され る」ことが起こることを理解することはできない。
イ 「大気圧室400内において大気圧より低い低圧力空間が生成される」 との点について
原告は、本願発明では発電時、圧縮気体供給路670の出口より集液部 (大気圧室)400へ圧縮気体を射出することで、大気圧室400内にお いて、その圧縮気体の体積分の大気圧の気体が押しのけられて、大気圧よ り低い低圧力空間が生成されると主張し、更にその説明として、圧縮空気 の保有エネルギーが、大気圧の気体を押しのけるためのエネルギーよりも 大きいため、圧縮空気を大気圧室400へ連続的に供給することによって、 大気圧室400内の空気を常時押しのけることが可能となる旨主張する。しかしながら、本願明細書には、大気圧より高い圧力を有する圧縮気体\nを大気圧に維持された空間に放出することによって、当該空間に大気圧よ り低い低圧力空間が形成されることについての記載はなく、また、これを 裏付ける技術常識についての立証もない。 さらに、前記アのとおり、ゲート300を開けた場合、下方導水路25 0内の液体は、水平導水路260の方向に流れないものと考えられるとこ ろ、原告が主張する大気圧室400内の低圧力空間が、下方導水路250 内の液体を、水平導水路260を通って大気室400の方向に引き出すほ どの力を生じさせることを認めるに足りる証拠もない。 そうすると、本願明細書の記載から、原告が主張する「大気圧室400 内において大気圧より低い低圧力空間が生成される」ことを理解すること はできず、さらに、その低圧力空間の作用によって下方導水路250内の 液体がその管内を落下することが生じるものと理解することもできない。

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令和3(行ケ)10114  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和4年9月29日  知的財産高等裁判所

登録意匠について、無効理由なしとした審決の取消訴訟です。争点は、証拠が出願日前に存在したのか否かです。知財高裁は存在を立証できていないとした審決を維持しました。

甲1カタログの成立の真正について
ア 前記1の認定事実(1)によれば、甲1カタログは、新輝行を作成名義人と する文書であると認められるところ、本件においては、被告が甲1カタロ グの成立の真正を争っていることから、原告において、甲1カタログが新 輝行によって作成されたものであることを立証しなければならない。 イ そこで検討するに、前記1の認定事実(1)のとおり、本件各カタログの会 社紹介ページには、新輝行が、平成15年に設立された企業であり、自社 工場を有する上、ファスナー等の様々な製品を国内市場のみならず海外市 場においても販売している旨が記載されている。また、本件各カタログに は、新輝行の看板を掲げた3階建ての建物の外観の写真等や、工程ごとに 多数の機械類が並べられた工場内の様子を撮影した合計12枚の写真が 掲載されている。さらに、Eは、陳述書において、平成15年から平成1 6年末まで新輝行に勤務していたこと、当時の工場は3階建てであったこ と、新輝行には数十名程度の従業員がいたことを述べている(甲11、3\n0)。これらの事情によれば、新輝行は、平成16年当時、相当程度の規模 の企業であり、広く海外への輸出も行っていた企業であったと考えられる。 しかしながら、前記1の認定事実(2)のとおり、被告が令和2年に行った 調査によれば、公的機関においても新輝行に係る法人登録に関する情報は 全く得られなかったものである上、インターネット上においても新輝行に 関する情報は何ら存在しなかったものと認められるところ、新輝行が上記 のとおりの規模や事業内容であったとすれば、公的機関に法人としての新 輝行に係る記録が何ら存在せず、また、様々な情報が蓄積されるインター ネット上にも新輝行の企業活動に関する情報が全く残存していないとい うのは、極めて不自然である。
また、原告が、本件訴訟の係属後である令和4年に、Eに依頼して実施 した現地調査においても、Eが勤務していたとされる新輝行の工場兼事務 所の所在地が特定されなかったものであるところ(甲11、45、46)、 新輝行が上記のとおりの規模の企業であったにもかかわらず、しかも自ら が1年以上勤務していたにもかかわらず、Eが、その所在地を特定するこ とすらできなかったというのも、極めて不自然である。 以上のとおり、本件においては、新輝行が実在したことを強く疑わせる 事情が存するというべきである。
ウ 加えて、甲1カタログの体裁及び内容等についてみると、前記1の認定 事実(1)のとおり、表紙には、会社名と発行年度のみが記載され、会社紹介\nページには、「会社紹介」として会社の沿革や事業内容等について記載され ている上、1頁ないし2頁には、多数の機械類が並べられた工場内の写真 が工程ごとに分けられて複数掲載されていることからすれば、甲1カタロ グは、新輝行の企業全体を紹介することを目的とした冊子であるとみるの が自然である(なお、原告は、甲1カタログに係る証拠説明書において、 証拠の標目を「製品カタログ」等とするが、甲1カタログの表紙等には、\nかかる記載は存しない。)。しかしながら、他方で、前記1の認定事実(1)の とおり、甲1カタログの3頁には、「製品構造」として、スライダー胴体の\n拡大写真が掲載されるなどし、また、4頁ないし9頁には、様々な色及び 形状のスライダーの写真が多数掲載されており、これらは専らスライダー の製品紹介を目的とする内容であるといえる。このように、甲1カタログ は、表紙や会社紹介ページの内容とそれ以降のページの内容とが、その目\n的において合致しておらず、不自然な体裁及び内容であるといえる。 このほか、前記1の認定事実(1)のとおり、甲1カタログの会社紹介ペー ジには、新輝行がファスナー等の様々な製品を製造、販売している旨が記 載されているにもかかわらず、3頁以下においてはスライダーのみが紹介 されている点や、甲1意匠がそれ自体顕著な特徴を有する意匠であるとは いえないにもかかわらず、3頁において甲1意匠が殊更に採り上げられ、 その構造が詳細に紹介されている点も、不自然であるといえる。\n
以上によれば、甲1カタログには、様々な点において不自然な部分があ るといえる。
エ 以上のとおり、本件においては、新輝行が実在したことを強く疑わせる 事情が存するというべきである上、甲1カタログには様々な点において不 自然な部分があるといえることからすれば、甲1カタログにつき、新輝行 によって作成されたものであると認めるに足りる立証はされていないと いうべきである。

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令和3(行ケ)10132  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年9月7日  知的財産高等裁判所

親出願における「抜きかしめ等」との記載から他の固定方法についての開示があったのかが争われまし。知財高裁は、分割要件違反なしとした審決を維持しました。

(1) 最初の親出願の出願時における積層された回転子の固定方法に関する技術常 識について
ア 前記2(1)〜(8)の各イの甲20、22、27、28、乙3〜6の各記載事項 を踏まえると、最初の親出願の出願日である平成17年1月12日当時の技術常識 として、磁石が挿入される回転子積層鉄心における積層の固定方法は、かしめを用 いるものに限られておらず、溶接や接着も選択肢として存在していたことが認めら れる。なお、本件全証拠をもってしても、上記技術常識について、それが本件特許 の実際の出願日である平成23年7月4日までの間に変更されたものとも認められ ない。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は、甲20の段落【0015】等における「抜きかしめ等」という記載 は、「かしめ」以外の固定方法を含むという趣旨ではなく、「抜きかしめ」以外の「か しめ」による固定方法を含むという趣旨であると主張するが、同段落の文言や、甲 20に係る発明の出願日である平成12年7月13日より前に公開されていた前記 2(1)〜(3)の甲22並びに乙3及び5の記載事項に照らし、上記「抜きかしめ等」 という記載を原告の主張するように限定的に解することは相当でない。 また、原告は、甲22について、永久磁石片の挿入後に回転子3を樹脂21を収 納した容器20内に浸漬していることを指摘して、甲22に開示された技術を最初 の親出願の明細書等に記載されている発明に適用することはできないと主張する が、上記主張は、前記アの技術常識の認定を妨げるものではない。 さらに、原告が甲27及び28について主張する点も、同じく前記アの技術常識 の認定を妨げるものではない。
(イ) 原告は、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の積層された鉄心片の固 定手段としては、かしめが技術常識となっていたと主張するが、原告がその根拠と する証拠(甲64〜69)を含め、本件全証拠をもってしても、最初の親出願の出 願当時、上記固定手段として、かしめが広く一般的に用いられていたという事情を 超えて、かしめ以外の溶接や接着といった固定方法がもはや選択肢となっていなか ったといった事情までは認められないから、原告の上記主張は、前記アの技術常識 の認定を左右するものではない。
上記に関し、原告は、積層鉄心を溶接すると溶接部で短絡することで渦電流が発 生し、効率が低下することが技術常識であり、接着にも問題があったから、溶接や 接着による固定方法は実用化されていなかった旨を主張する。しかし、溶接により 溶接部で短絡することを踏まえた上で、なお溶接が選択肢として検討されていたこ とは、甲27の段落【0068】(前記2(5))、乙6の段落【0031】(同(6))及び乙4の段落【0007】(同(7))の記載からも認められるところであり、接着につい ても選択肢として検討されていたことは、甲22(同(2))及び乙3(同(3))のとお りである。さらに、そもそも、仮に、実用化にまで至っていなかったとしても、そ のことをもって、直ちに技術としての選択肢から除外されるものでもない。
(ウ) 原告のその余の主張は、いずれも前記アの技術常識の認定を左右するもので はない。
(2) 最初の親出願の明細書等に記載された発明について
ア 前記1(1)の最初の親出願の明細書等の記載を踏まえると、次のとおり(な お、便宜のため、最初の親出願の明細書等及び原出願の明細書等の記載の共通部分 を基礎として検討する。)、本件発明は、最初の親出願の明細書等に記載されていた ものと認められる。
(ア) 少なくとも、段落【0005】、【0012】、【0014】及び【0017】 から、最初の親出願の明細書等には、「複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心の 複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、樹脂を前記磁石挿入孔にのみ注入して固 定する回転子積層鉄心の製造方法」に係る発明であることが記載されていると認め られる。
(イ) 少なくとも、段落【0004】、【0011】〜【0013】及び【0017】 〜【0019】並びに図1及び図2から、最初の親出願の明細書等には、「前記回転 子積層鉄心の上下に、いずれか一方には前記磁石挿入孔に前記樹脂を注入する複数 の樹脂ポットと該樹脂ポットにそれぞれ対応するプランジャとを備えた上板部材及 び下板部材を配置し、前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上 下から押圧して、前記永久磁石の樹脂封止を行うことを特徴とする」発明が記載さ れていると認められる。
(ウ) そして、最初の親出願の明細書等に、他に前記(ア)及び(イ)の認定を左右する ような記載はない。
(エ) したがって、本件発明は、最初の親出願の明細書等に記載されていたものと 認められる。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は、最初の親出願の明細書等について、発明が解決しようとする課題、
課題を解決するための手段、発明の効果及び実施形態に係る明細書の記載からする と、あくまで、かしめ部・逃げ空間あり構成に係る技術的事項が導かれるのであっ\nて、特に、発明が解決しようとする課題に照らし、かしめ以外の固定手段を用いる ことは同明細書等には記載されておらず、明細書の段落【0018】に、かしめ部 あり構成を前提とした逃げ空間あり構\成を必須とする旨の記載があることも考慮す ると、同明細書等に記載された発明は、逃げ空間あり構成を必須とするものである\nなどと主張する。しかし、最初の親出願の明細書中、発明が解決しようとする課題等において、かしめ部・逃げ空間あり構成に係る事項が特に取り上げられて深く検討されているとしても、そのことから直ちに、最初の親出願の明細書等に記載された発明が上記構\ 成を含むものに限定されるものではない。
前記(1)アのとおり、最初の親出願の出願当時、固定手段として溶接や接着も選択 肢として存在していたことが認められるのであるから、同明細書等における記載も それを前提に理解すべきものである。そして、前記ア(ア)及び(イ)のように最初の親 出願の明細書に記載されていたといえる本件発明に係る構成や、当該構\成における 複数の樹脂ポットとそのそれぞれに対応するプランジャとを備えた上板部材及び下 板部材による回転子積層鉄心の上下からの押圧並びに樹脂ポット内の樹脂を磁石挿 入孔へ注入しての永久磁石の樹脂封止といった機序自体が、かしめ部あり構成であ\nるか、かしめ部なし構成であるかによって影響を受けるものともみられない。そう\nすると、最初の親出願の明細書等には、1)本件発明を含む発明が記載された上で、 2)かしめ部あり構成の場合に当該発明を用いる際の問題点等について、逃げ空間あ\nり構成などが更に記載されているというべきであって、上記2)の記載の存在によっ て上記1)の記載が存在しないものとはいえないところである。
(イ) 上記に関し、原告は、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の積層され た鉄心片の固定手段として、かしめが技術常識となっていたことから、最初の親出 願の明細書等の記載について固定手段を特定の手段に限定するものではないとはい えない旨を主張するが、原告が主張する上記技術常識が認められないことは、前記 (1)イのとおりである。
(ウ) また、原告は、「かしめ積層されていても回転子積層鉄心の鉄心片の板厚が0. 5mm以下でないもの」(鉄心片の板厚が0.5mm超のもの)について、当業者は 通常想定しないなどと主張するところ、かしめ積層された回転子積層鉄心の鉄心片 の板厚が0.5mm以下でないものは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下い ずれかの面から少しの範囲で突出してしまうことをもって、同板厚が0.5mmを 超える全てにおいて、直ちに、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの 面から少しの範囲で突出するとはいえないと理解できるものではないとしても、本 件全証拠をもってしても、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の鉄心片につ いて、板厚0.5mm以下のものが用られる場合が多かったという事情を超えて、 板厚0.5mm超のものが選択肢となっていなかったといった事情は認められない。 この点、板厚0.5mm超のものを用いる例があったことは、乙5の記載(前記2 (1))やその他の証拠(乙7〜10、17、18)からも認められるところである。 さらに、最初の親出願の明細書の段落【0004】には、「この特許文献1記載の 技術においては、回転子積層鉄心を形成する各鉄心片がかしめ積層された特に鉄心 片の板厚が0.5mm以下の薄いものでは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上 下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう」と記載されており、「鉄心片の板 厚が0.5mm以下の薄いもの」が全体の中から特に取り上げられた例であること が明記され、それ以外の場合(鉄心片の板厚が0.5mmを超えるもの)の存在が 示唆されているから、仮に、通常は板厚0.5mm以下のものを想定している当業 者においても、同段落の記載に接した場合には板厚0.5mm超のものを選択肢と して考慮し得るといえる。 したがって、原告の上記主張も、前記アの認定を左右するものではない。
(エ) 原告のその余の主張は、いずれも前記アの認定を左右するものではない。
(3) 原出願の明細書等に記載された発明について
前記1(2)のとおり、原出願の明細書等には、前記(2)ア(ア)及び(イ)で指摘した各 段落の記載がある。そして、同明細書等に、他に同(ア)及び(イ)の認定を左右するよ うな記載はない。 したがって、本件発明は、原出願の明細書等に記載されていたものと認められる。

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令和3(ネ)10006  職務発明対価請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年5月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

CD・DVD装置に関する職務発明に基づく対価請求として、1審は約1227万を認めました。双方控訴し、知財高裁はこれを約2557万に増額しました。

(25) 原判決143頁15行目の「あって、ほかに本件各発明の実施品が存在する と認めるに足る証拠はない。」を「ある。なお、本件発明7の実施品の売上げについ ては、後記3「その余の当審における当事者の補足主張等に対する判断」(3)で検討 する。」と、144頁19行目の「別紙10(判決注:「原判決別紙10」である。) 相当対価計算表(自己実施1)」を「別紙10「相当対価計算表\(自己実施1)」」と、145頁2〜3行目の「本件各発明」を「本件発明1及び2」と、146頁7行目 の「被告保有の特許」を「一審被告を含む同プログラムに参加する特許権者の保有 する特許」とそれぞれ改め、同頁7〜8行目の「ライセンスを求める者に対して、」 の次に「その選択に応じ、フィリップス社の保有する特許又はフィリップス社及び 本件ジョイント・ライセンス・プログラムに参加する特許権者の保有する特許につ いて、」を挿入し、同頁12行目の「本件特許1及び2は」を「本件各特許は」と、 同頁14行目の「被告は、」から同頁18行目末尾までを「一審被告は、上記各製品 カテゴリに属する製品を製造、販売しようとする者が、フィリップス社に対し、ラ イセンスを求めた場合には、フィリップス社における上記ライセンスポリシーに従 って、フィリップス社を通じ、当該製品カテゴリに属する製品を製造、販売するた めに必要とされた他の特許と一括して実施許諾をしていたものと認められる。」と それぞれ改め、同頁20行目冒頭から147頁9行目までを次のとおり改める。 「以上のとおり、本件発明1、2については、CD−R/RW等の規格必須特許 として扱われており、かつ、一審被告も現に実施していたことからすると、CD− R/RWレコーダー及び同機能を有するDVD・BD関連製品並びにCD−R/R\nWディスクを製造・販売していた者に広く実施されていたと考えられ、CD−R/ RW規格に準拠した製品に競合するものとして、CD−R/RWレコーダー機能を\n有しないDVD関連製品等が存在していたとはいえるものの、CD−R/RW規格 に準拠した製品を製造・販売する者にとっては、規格必須特許である本件特許1、 2の代替技術は存在していなかったということができること、一審被告は、本件ジ ョイント・ライセンス・プログラムにより、フィリップス社を通じ、本件特許1及 び2を必須特許として他の特許と一括して実施許諾しており、フィリップス社は、 本件ジョイント・ライセンス・プログラムについて、ライセンスを求める全ての企 業にライセンスを認めることを原則とするライセンスポリシーをとっていたものの、 全ての規格準拠製品を製造・販売する者が、フィリップス社を通じ又は一審被告と 直接、本件特許1、2についてライセンス契約を締結していたものではないこと、 そもそも、一審被告が、CD−R等の規格の策定に関与し、また、本件ジョイント・ ライセンス・プログラムに参加することができたのは、本件各特許を含む規格必須 特許を有していたからであると推認されること、一審被告が、例えば平成12年度 にはCD−R/RWドライブの世界出荷台数について21.3%と高いシェアを有 しており(甲25)、これについては本件各特許を含む規格必須特許を有していたこ とが一審被告の売上げに有利に働いていたものと推認されること等に照らせば、本 件特許1、2について、独占の利益がなかったということはできない。
そして、平成12年にDVD関連製品の販売が開始されるまで、CD−R/RW ディスク以外の光ディスクが広く販売されていたことはうかがわれず、また、フィ リップス社が採用していたライセンスポリシーにおけるライセンス料やライセンス 条件等の内容が明らかでないことなどにも照らせば、一審被告製品1及び2の売上 げの一部は本件発明1及び2を含む特許発明による独占的地位に起因する超過売上 げであったと認めるのが相当であり、本件に顕れた事情を総合的に考慮すると、そ の割合は一審被告製品1及び2の売上げの20%であったと認めるのが相当である。
もっとも、出願公開の後、特許権の設定登録がされる前においては、一定の条件 下での補償金支払請求権が認められ、特許法上の保護が与えられていることから、 独占的地位に起因する超過売上げが存在しないとはいえないものの、設定登録の可 否やその技術的範囲も確定していない上、独占的効力が制限的であることに照らす と、出願公開後登録までの間は、登録後の2分の1の割合で独占の利益を認めるの が相当であるから、当該期間については超過売上割合を10%とする。そうすると、 一審被告のCD−R/RWドライブ及びCD−Rディスクの売上げのうち、本件特 許1が登録された平成12年4月28日までの間の日本国内での売上げについては、 超過売上割合を10%とみることになる。」
(26) 原判決147頁25行目の「被告は、」の次に「本件ジョイント・ライセン ス・プログラムに参加し、フィリップス社を通じて、」を挿入し、148頁1〜2行 目の「フィリップス社が採用していたライセンスポリシー」を「同ライセンスポリ シー」と、同頁26行目〜149頁1行目の「国内同業他社のロイヤルティ料率に 関するアンケート結果に係る特許権のロイヤルティ率の平均値として」を「国内同 業他社に対してライセンスすることを想定するものとして行われたアンケートの結 果として、特許権のロイヤルティ料率の平均値が」とそれぞれ改め、同頁20行目 冒頭から26行目末尾までを削り、150頁8行目の「フィリップス社」を「フィ リップス社ら」と、151頁16行目の「そして、」から同頁20行目末尾までを「そ して、ライセンス対象特許リスト5)ないし7)の各パートに掲載された特許の数は、 58件、67件、144件、144件、119件、121件であるところ(なお、 ライセンス対象特許リスト6)については、前記(3)ウ(ア)bで述べたとおり、各19 件を控除した。)、その平均は108.83件であり、その9割に相当する97.9 4件であったと推認するのが相当である。」と、153頁2行目の「その実施特許は」 を「その実施特許の数は」とそれぞれ改め、同頁11〜12行目の「ことについて は」から同頁12行目の「とおりである」までを削り、同頁15行目の「上記の検 索に係る」から同頁16行目末尾までを「平成8年から平成14年までの間、毎年 同等の数の特許権の存続期間が満了したと仮定した場合の平均特許件数よりも相当 程度に少ないものと考えられ、上記の検索に係る2509件の3割に相当する75 2.7件であったと推認するのが相当である。」と、同頁26行目及び156頁17 行目の「別紙10(判決注:「原判決別紙10」である。)相当対価計算表(自己実\n施1)」を「別紙10「相当対価計算表(自己実施1)」と、155頁9行目の「1\n505.4」を「752.7」と、同頁11行目の「501.8」を「250.9」 と、同頁12行目の「586.86」を「335.96」と、同頁13行目の「6 05.44」を「354.54」と、同頁15行目の「689」を「438.1」 と、同頁16行目の「532.16」を「281.26」と、同頁17行目の「5 16.65」を「265.75」と、156頁9行目の「前記(3)エ(イ)のとおりであ る。」を「前記(3)エ(イ)(aを除く。)のとおりであり、また、音楽用CDに係る特許 については、いずれも平成14年までに存続期間が満了していたものと推認される から、平成15年以降について、それらの特許の貢献があったと認めることはでき ない。」とそれぞれ改め、同頁19行目冒頭から157頁22行目末尾までを次のと おり改める。
「オ 争点2−2についての小括
ところで、後記2「争点1−4(本件発明7の実施の有無)に対する判断」(5)の とおり、一審被告は、本件発明7についても実施している。これを考慮に入れた一 審被告が受けるべき利益の額については、別紙10「相当対価計算表(自己実施1)」\nのとおりと推定され、本件発明1、2及び7の実施により一審被告が受けるべき利 益の額は、同別紙の対象製品欄記載の製品の日本、米国及びオーストラリアでの売 上額に、日本における本件特許1の登録前の売上げについては、超過売上割合を1 0%、その他については超過売上割合を20%とし、仮想実施料率を2.5%とし て、同別紙【B】’欄記載のとおり超過利益が算出され、これを、同別紙【D】欄記 載の補正後の実施特許件数で除して、対象特許1件当たりの利益の額を算出し(同 別紙【E】欄)、これに、同別紙【F】欄記載の本件各特許の数を乗じると、同別紙 【G】欄及び【G】’欄記載のとおり算出され、合計●●●●●●●●●●円である。
なお、同別紙【F】欄記載の本件各特許の数は、ドライブについては本件特許1、 2及び7の3件、ディスクについては本件特許1及び7の2件であるところ、CD −R/RWドライブについては、別紙8「相当対価計算書(ライセンス1)」の【E】 欄と同様に、本件各特許の数を倍とした。また、本件発明7についてはDVDディ スクについても実施品に当たるが、これについては、一審原告がその売上げを相当 対価の算出対象に含めない旨主張するから、上記算定に含めないものとした。 そして、前記(3)オと同様に、別紙10「相当対価計算表(自己実施1)」の対象製\n品欄記載の製品についての全世界の市場に占める日本、米国及びオーストラリアの 市場の割合は、日本が10%、米国が25%、オーストラリアが2%であったと認 めるのが相当であるから、CD−R/RWドライブ、追記書換型DVDドライブ、 CD−R/RWドライブとDVD−ROMドライブの複合ドライブ、BDドライブ について、一審被告が受けるべき利益の合計額における本件発明1、2及び7の内 訳は、上記の市場の割合を踏まえて算定することができ、具体的には、別紙11「相 当対価計算表(自己実施2)」に記載するとおりである。\n

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◆平成28(ワ)29490

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令和4(ネ)10010 商標権侵害行為差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和4年8月22日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

商標権者は、商標「小野派一刀流」指定役務41類「剣道を主とする古武道の教授」を保有しています。被控訴人(1審被告)は「小野派一刀流剣術」を使用していました。1審(は、商標的使用には当たらないと判断しました。また不競法についても、「商品等表示」の「使用」に当たらず、控訴人の周知な商品等表\示を認めることはできないと判断しました。知財高裁は原審維持しました。

ア 控訴人は、日本の伝統芸能や古武道における流派の意義、そして「小野派一\n刀流」の流派名の意義等を主張して、「小野派一刀流」は、流派の教え・系統を指す とともに、宗家を長とし門人によって構成される本流流派を継承する集団(団体)を\n指し、両者は密接不可分の関係にあるから、流派名としての「小野派一刀流」の使用 は、同時に集団(団体)としての「小野派一刀流」を想起させるもので、需要者が提 供される役務の出所を認識し得るような態様での使用に当たる旨を主張する。 しかし、本件全証拠によっても、日本の伝統芸能一般又はそのうち古武道一般に\nおいて、一つの流派について一つの集団(団体)しか存在しないという事情は認めら れない。この点、例えば、古武道振興会の「加盟流派」のページ(本件ウェブページ。 甲3の1)には、「荒木流拳法(K)」(代表はK)及び「荒木流拳法(L)」(代\n表はL)として、「荒木流拳法」という流派名を冠する加盟流派が代表\を異にして二 つ掲載されており、同様に「神道夢想流杖術」、「夢想神伝流居合術」及び「柳生心 眼流兵法」についても、同一の流派名を冠する加盟流派が代表を異にして複数掲載\nされている。また、古武道協会のウェブサイトにおける「各流派の紹介」のページ (甲33の1)にも、「天神真揚流柔術(新座市)」と「天神真揚流柔術(川越市)」 とが掲載されている。
そうすると、控訴人の主張するように、流派名と当該流派を継承する集団(団体) との間に密接な関係があることを前提としても、当該密接な関係により流派名が想 起させる集団(団体)が、直ちに特定の役務の提供等の一主体となるような特定の団 体であるということはできず、それは、当該流派を継承する複数の団体を含み得る より抽象的な集団にすぎないとみるのが相当である。 そして、本件全証拠をもってしても、「小野派一刀流」が古武道の流派の名称であ るということを前提にしてもなお、それが特定の役務の提供等の一主体となるよう な当該流派を継承する特定の団体を指すものであると認めるに足りず、「小野派一 刀流」について上記と異なって解すべき事情は認められない。 したがって、流派名としての「小野派一刀流」の使用が同時に集団(団体)として の「小野派一刀流」を想起させるものであるとの控訴人の前記主張は、訂正して引用 した原判決の第4の1における、本件標章使用が被控訴人らによる商標的使用であ るとは認められないという判断を左右するものではないというべきである。
イ 控訴人は、本件標章使用1)について、本件常識(小野派一刀流の教え・系統と これを継承してきた集団(団体)とが密接不可分であり、本流が宗家を長とし門人に よって構成される集団(団体)において継承されてきたこと、中でも正統は広範かつ\n強大な権限を有する宗家一人に継承されること)のほか、「小野派一刀流剣術」の名 称と共に「代表」等として被控訴人Y1が掲載されているという態様を特に指摘し\nて、本件標章使用1)が商標的使用に当たる旨を主張する。 しかし、訂正して引用した原判決の第4の1(2)(本件標章使用1)について)で認 定説示したとおり、「加盟流派」について掲載した本件ウェブページの記載の形式や 内容からすると、そこにおける「小野派一刀流剣術」の名称やその「代表」等の記載\nに接した者においては、その名称は古武道振興会において加盟を認められている古 武道の流派の一つの名称であって、併記された代表者の氏名及び連絡先もあくまで\nそのような流派の代表者及び連絡先として古武道振興会が把握しているものの記載\nであると理解するとみるのが合理的である(なお、前記アで指摘したとおり、本件 ウェブページには、同一の流派名を冠する加盟流派が代表を異にして複数掲載され\nている例があるところ、「小野派一刀流剣術」については代表を異にする同名とみら\nれる加盟流派が他に記載されていないことから、その記載に接した者においては、 加盟流派としては単一のものと理解することにはなるが、他方で、上記の例がある ことが同時に容易に看取できることからすると、「小野派一刀流剣術」に係る「代表」\n等の記載が、古武道振興会の加盟流派、換言すると古武道振興会の認識を離れて、客 観的に、流派としての「小野派一刀流剣術」の唯一の宗家や当該宗家から代表と称す\nることを許諾された者を示すものであると直ちに認識するとまではいえない。)。 また、訂正して引用した原判決の第4の1(1)(認定事実)からすると、本件ウェ ブページの記載に当たり、古武道振興会は、自律的に定めた「日本古武道振興会規 約」における会員に関する定めに基づき、会員資格や代表会員の資格の受継につい\nて判断しているもので、Bの死去後の受継の問題についても、平成30年度第1回 常任理事会において、自律的に判断がされたものとみられる(なお、その判断の前提 とされた事実関係について、本件証拠に照らし、明白な誤認があったというべき事 情や被控訴人らから古武道振興会を欺罔するような説明がされたといった事情も認\nめられない。)。そのような判断に基づいてされたとみられる本件ウェブページにお ける「小野派一刀流剣術」に係る記載(なお、古武道振興会規約は、古武道振興会 のウェブサイトにも掲載されていることが窺われる(甲3の1〜3)。)をもって、 当該流派に係る特定の団体が提供する何らかの役務の出所を認識し得るような態様 で被控訴人らが表示をしたものと認めることもできない。\n
したがって、「小野派一刀流剣術」の名称と共に「代表」等として被控訴人Y1が\n掲載されているという態様を特に指摘しての控訴人の前記主張は、訂正して引用し た原判決の第4の1(2)(本件標章使用1)について)の判断に影響を与えるものでは ない。控訴人が主張する本件常識も、前記アで説示した点に照らし、同判断を左右し ない。
ウ 控訴人は、本件標章使用2)について、「小野派一刀流剣術(G) Y1(東京 都)」との記載が太字でされていることや演武者名とは別に記載されていること、並 んで記載された流派について記載されている者が当該流派の宗家であることが需要 者に周知であること、本件常識や本件標章使用2)に係る武道大会等は古武道振興会 が主催等するものであること等を特に指摘して、本件標章使用2)が商標的使用に当 たる旨を主張するが、本件標章使用2)が被控訴人らによる被告商標の商標的使用と 認められないことは、訂正して引用した原判決の第4の1(3)(本件標章使用2)につ いて)で認定説示したとおりである。
前記アで説示した点に照らし、本件常識は、本件標章使用2)が被控訴人らによる 被告商標の商標的使用と認められないとの判断を左右するものではない。 また、訂正して引用した原判決の第4の1(1)(認定事実)のとおり、本件標章使 用2)がされた武道大会等は古武道振興会が主催等したものであること、古武道振興 会が主催する大会において使用されるパンフレットやめくりは、本件ウェブページ に掲載されている加盟流派の情報と同様に、古武道振興会に既に登録されている情 報に基づき、古武道振興会が主体となって作成、掲示、配布等するものであること (これは、古武道振興会が主催以外の態様で関与した武道大会等についても同様と 推認され、この推認を覆す事情はない。)や、本件標章使用2)に係るパンフレット の記載内容等を踏まえると、前記イで説示したのと同様、控訴人が指摘するその余 の点も、本件標章使用2)が被控訴人らによる被告商標の商標的使用と認められない との判断に影響を与えるものではないというべきである(なお、控訴人が指摘する 点のうち、本件標章使用2)に係る武道大会等は古武道振興会が主催等するものであ るという点は、むしろ、同判断の根拠となり得るものといえる。この点、本件全証拠 をもってしても、古武道振興会が、古武道の各流派の正当性について有権的に判断 する団体であるといった事情や、古武道の流派が加盟し得る唯一の団体であるとい った事情は見受けられない。控訴人の主張は、ひっきょう、被控訴人Y1について受 継を認めたという古武道振興会の判断を論難するものにすぎないというべきであ る。)。

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令和2(ワ)21047 不正競争  民事訴訟 令和4年10月5日  東京地方裁判所

営業秘密として保護されると認定しつつも、適法にそれを取得し、それを格納したUSBメモリを所持しているだけであれば、不正競争行為に該当しないと判断されました。一部の請求は却下、残りは棄却です。

以上を踏まえて検討するに、原告においては、就業規則により、従業 員に対し、原告の許可なく原告の機密、ノウハウ等に関する書類等を私 的に使用したり、複製したり、原告の施設外に持ち出してはならない義 務を課し、行動規範にも同様の定めがあり、被告が原告を退職するに当 たっては、被告から本件誓約書を徴求しており、原告が情報の管理を徹 底しようとしていたものであり、そのことを従業員も認識可能であった\nということができる。そして、本件ファイル1ないし6には、原告又は 原告を含むグループ会社の販売数量、売上げ、単価、利益率、顧客名等 の、原告の事業遂行に関わる情報が詳細かつ網羅的に記載されていると ころ、これらの情報が他社に知られれば、原告の市場における競争力に 大きな影響を与えかねないことは明らかであるから、上記の各情報が就 業規則等による管理の対象となっていたことも、従業員に認識可能であ\nったといえる。その上で、原告の従業員は、ネットワーク管理システム により管理されたID及びパスワードを入力しなければ、貸与されたパ ソコンにログインすることができず、SharePointを含む原告\nの社内ネットワークにもログインすることもできなかったものであり、 このSharePoint上の電子データは、これを取り扱う部門に属 する従業員のみがアクセスすることができるように設定されており、本 件ファイル1ないし6は、このようなSharePoint上に管理さ れていたものである。
そうすると、原告は、パソコンを貸与し、ID及びパスワードを付与\nした従業員で、かつ、本件ファイル1ないし6を取り扱う部門に属する 者のみに、これらのファイルに対するアクセスを許可し、原告の従業員 は、就業規則等や本件ファイル1ないし6の内容からして、これらのフ ァイルを原告の外部に持ち出すことが禁止されていることを認識するこ とができたといえるから、本件ファイル1ないし6は秘密として管理さ れていたと認めるのが相当である。
(イ) これに対して、被告は、1) 同じビジネスユニット内での異動であれば、 従前所属していた部署のフォルダに継続してアクセスすることができ、 原告はSharePointのアクセス権限を適切に管理していなかっ たこと、2) SharePoint上で管理されていた情報も、その性質 や機密性の程度等は様々であり、「秘密」や「Confidentia l」等の秘密情報であることを示す記載のないものも多数あった上、S harePoint上で管理されている電子データをプリントアウトし たり、貸与されたパソコンに保存したりすることは禁止されていなかっ\nたことから、本件ファイル1ないし6が秘密として管理されていたとは 認められないと主張する。しかし、上記1)については、別の部署に異動した後も、業務上、従前所属していた部署のフォルダにアクセスする必要があることも十分考え\nられ、これをもって、直ちに、原告がSharePointのアクセス 権限を適切に管理していなかったということはできない。また、上記2)については、そのような事情があったとしても、前記(ア)で説示した原告における秘密管理に関する体制並びに本件ファイル1ないし6の内容及びこれらに対して施されていた具体的措置に照らせば、本件ファイル1ないし6について、秘密として管理されていたことが否 定されるものではないというべきである。
・・・
(1) 原告は、被告が、営業秘密である本件ファイル1にアクセスすることがで きなかったにもかかわらず、転職先であるSUDARSHAN社で利用する ことを想定して、本件ファイル1を取得するために、本件プロジェクトを手 伝うと説明するなどの不正の手段によって、Cからこれを取得したものであ るから、不競法2条1項4号の不正競争に該当すると主張する。
しかし、前記1(2)、(3)、(5)及び(6)のとおり、被告がCから本件ファイ ル1を受領したのは令和元年9月2日であり、被告が本件プロジェクトに参 加することになったのは同日頃と考えられるところ、被告がBからSUDA RSHAN社への転職を勧誘された同年8月頃から間もない時期であるし、 実際に被告がSUDARSHAN社と雇用契約を締結したのは、被告が本件 ファイル1を受領してから約1か月半が経過した同年10月15日であるこ とからすると、被告が本件プロジェクトに参加することになった同年9月2 日頃の時点において、被告がSUDARSHAN社に転職することが決まっ ていたとは認められない。このことは、被告が、同月頃、原告の一部の従業 員に対し、SUDARSHAN社への転職を勧誘していたこと(前記1(4)) を考慮しても、同様である。
また、被告が原告から本件プロジェクトに参加するよう指示されたことを 認めるに足りる証拠はないものの、前記1(1)及び(2)のとおり、本件プロジ ェクトは、プラスチックに係る売上げを拡大するために市場の調査分析を行 うものであり、被告が属するマーケティング部門は、顔料事業部門全体の活 動を強化するために設けられた部署で、市場情報を網羅的に収集すること等 の業務を担っていたことからすると、被告が本件プロジェクトに関わること は不自然であるとはいえない。原告代表者(当時は、顔料ビジネスユニット\nの統括責任者)も、被告が本件プロジェクトに多少なりとも関わっているこ とを知りながら、特段注意をしていなかったものと認められる(原告代表者\n本人)。
以上の事情に照らして検討すれば、被告が、原告のプラスチック部門に係 る営業秘密を持ち出し、転職先であるSUDARSHAN社にて使用するな どするために、Cに対して本件プロジェクトを手伝う旨を申し出たと認める\nことはできないというべきであり、他に、被告が不正の手段により本件ファ イル1を取得したことを基礎付ける事情を認めるに足りる証拠はない。したがって、被告が不正の手段により本件ファイル1を取得したとは認められない。
(2) なお、前記1(7)のとおり、被告は、令和元年10月28日、Cから送信さ れた本件ファイル1を、更に自らの私的なメールアドレスに送信している。 しかし、上記のとおり、被告がCから本件ファイル1を受領したことは、 不当な手段によるものとは認められないこと、被告は、本件ファイル1を自 らの私的なメールアドレスに送信したにすぎず、被告の支配下にあるという 状況を変更したものではないこと、被告がいかなる目的で当該送信を行った のかは明らかでないが、本件ファイル1の内容(前記2(1)ア(ア))からする と、マーケティング部門に所属し、同年11月18日までは原告に出勤して いた被告(前記1(1)及び(10))において、本件ファイル1を使用することが 業務上必要でなかったとまではいえないことからすると、上記送信行為も不 正の手段に該当するとは認められないというべきである。
(3) したがって、原告の本件ファイル1に係る不競法2条1項4号並びに3条 1項及び2項に基づく請求は理由がない
・・・
(2) そして、前記前提事実(3)のとおり、本件誓約書の「秘密情報」とは、「会 社又はその関連会社が所有又は使用している経済的に価値のあるすべての専 有情報で、公に知られていないもの」をいうところ、本件ファイル1ないし 6は、前記2(1)のとおり、「営業秘密」(不競法2条6項)に該当すること に鑑みると、本件誓約書の「秘密情報」にも該当すると認めるのが相当であ る。他方で、本件情報7ないし13については、具体的にいかなる内容である かが明らかでなく、また、電子データ、書類等のいかなる形で記録されてい たかも明らかでないから、本件誓約書の「秘密情報」に該当するとは認めら れない。したがって、被告は、原告に対し、本件秘密保持契約に基づき、原告の許 可なく、本件ファイル1ないし6を開示し、又は使用しない義務を負う。
(3) ところで、被告が、現時点までに、本件ファイル1ないし6を開示し、又 は使用したことを認めるに足りる証拠はないことからすると、原告の本件秘 密保持契約に基づき本件ファイル1ないし6の使用等の差止めを求める請求 は、将来における被告の不作為を求める訴えと解すべきであるから、「あら かじめその請求をする必要がある場合」(民事訴訟法135条)に該当する と認められなければならない。
まず、本件ファイル1については、前記1(7)のとおり、被告は、これを自 らの私的なメールアドレスに送信しているが、被告は、同メールアドレスの 利用に係る契約を既に解約し、本件ファイル1を含む電子データにアクセス することはできないと供述しており、これに反する証拠は見当たらない。そ うすると、被告に対して、あらかじめ本件ファイル1の開示又は使用の差止 めを請求する必要があるとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠は ない。
また、本件ファイル2ないし6については、前記4のとおり、被告がこれ らを取得したとは認められず、使用し又は開示したとも認められないから、 やはり、被告に対してあらかじめ開示又は使用の差止めを請求する必要があ るとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(4) 原告は、本件秘密保持契約に基づき、本件ファイル1ないし6が記録され た文書及び電磁的記録媒体(別紙物件目録記載1及び2の各USBメモリを 除く。)の廃棄を求めている。
しかし、本件誓約書の記載を精査しても、これによって締結された本件秘 密保持契約上、被告が原告に対してこのような廃棄義務を負うと解すること はできないし、他に、被告が原告に対して廃棄義務を負う旨の合意が成立し たことを認めるに足りる証拠はない。
(5) 以上によれば、本件秘密保持契約に基づき被告に対して本件ファイル1な いし6を使用し、又は、第三者に開示若しくは使用させてはならないことを 求める部分は、訴えの利益を欠くから不適法である。そして、原告の本件秘 密保持契約に基づくその余の請求は、いずれも理由がない。
6 争点6(被告に本件USBメモリが譲渡されたか)について
(1) 証拠(乙2、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、1) 原告は、販売促進 のために顧客に配布するグッズとして、ボールペン、付箋、傘、水筒等を用 意しており、その中に、販促用USBメモリがあったこと、2) 原告は、これ らの販促用品について、配布した数量や配布先等の管理をしていなかったこ と、3) 原告の従業員はこれらの販促用品のうち余ったものを自由に使用して おり、原告が当該従業員に対して当該販促用品を返還するよう求めたことは 一度もなかったこと、4) 被告は、平成30年頃から、本件USBメモリを使 用していることが認められる。
上記認定事実のとおり、本件USBメモリを含む販促用USBメモリは、 顧客に無償で譲渡する販促用品の一つであるから、さほど高価なものとは考 えられず、原告の従業員は、余った販促用品を自由に使用しており、原告は これに異議を述べていなかったこと、被告は、SUDARSHAN社への転 職を決意したときより前から、本件USBメモリを使用しており、原告は、 他の従業員に対するのと同様に、原告において勤務する被告に対して本件U SBメモリの使用に異議を述べていないことからすると、被告が本件USB メモリの使用を開始したときに、原告と被告との間で、被告に対して本件U SBメモリを無償で譲渡する合意が成立したと認めるのが相当である。 (2) これに対して、原告は、販促用USBメモリは、あくまで販売促進のため に顧客に配布して利用することが前提となっており、従業員が私物として利 用することは予定されておらず、原告の就業規則上、従業員は会社の施設及\nび物品を会社の許可なく私的に使用してはならないとされていると主張する。 しかし、前記(1)の原告における販促用USBメモリの管理や使用の実態か らすると、原告が指摘する上記各事情は、前記(1)の認定の妨げになるものと はいえない。

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令和4(ネ)265等  損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年10月14日  大阪高等裁判所

 共謀して、「YouTube」に投稿した動画を著作権侵害と通知して動画削除させた行為が、共同不法行為に当たるかが争われました。1審は、原告に約7万円支払えと、認定しました。被告が控訴し、原告も附帯控訴をしました。大阪高裁は、被控訴人(1審被告)に対して、約26万円の支払いを命じました。本件編み方動画については著作物性がないという判断は、共通ですが、損害賠償額が変わりました。1審は停止期間中の広告収入のみを認めたようです。

前記(2)のとおり、本件侵害通知は、いずれも法的根拠に基づかないもの であるが、前記(2)で述べたところに加え、上記(3)認定の各事実からすると、 以下に詳述するとおり、控訴人Bは、前記注意義務を怠った過失があるとい えるばかりか、著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできるの であって、これにより、本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控訴人の 法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵害通知 を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害したもの として不法行為を構成するというべきである。
イ すなわち、控訴人Bの提出した本件侵害通知の記載内容をみるに、本件侵 害通知1は、前記(2)アのとおり、被控訴人メランジ動画につき「編み目(ス ティッチ)の著作権侵害」があるというものであって、編み目の著作物性を いう点において、その通知内容自体から著作権侵害が認められないことが明 らかなものである。
また、本件侵害通知2は、前記(2)イのとおり、被控訴人トリニティ動画の 「動画全体」につき「著作権、翻訳権の侵害」があるというものであって、 控訴人Bは、被控訴人トリニティ動画の口頭説明部分が控訴人動画1)〜3)の 口頭説明部分の著作権を侵害すると考えて本件侵害通知2を提出した旨陳述 しており(乙10、控訴人B本人)、本件訴訟においては、その旨主張する ようであるが(これ自体が法的に失当であることは前記(2)イのとおりであ る。)、被控訴人トリニティ動画が控訴人動画のうちいずれの動画のいかなる 部分の著作権を侵害したかにつき、明確かつ具体的な主張をしているもので はないこと、控訴人Bの陳述も、要は、被控訴人動画において控訴人動画に おける編み目の作り方が同じであることを中心に著作権侵害があった旨を述 べるものであること、本件侵害通知2が本件侵害通知1と同日にされている ことに加え、前記(3)の各事実にも照らすと、むしろ控訴人Bは、本件侵害通 知2においても本件侵害通知1と同様、本来、著作権侵害が認められない被 控訴人トリニティ動画が編み目の著作権を侵害したことを根拠として、著作 権侵害通知をYouTubeに提出したものと認めるのが相当である(この ことは、控訴人Bの陳述(乙10)によれば、被控訴人トリニティ動画の2 5分47秒間のうち、著作権侵害に該当する部分は3分43秒間にすぎない にもかかわらず、控訴人Bが、削除依頼ウェブフォーム(甲18)において、 タイムスタンプで該当箇所を特定することもなく、被控訴人トリニティ動画 の「動画全体」が著作権侵害部分に該当するとして本件侵害通知2を行って いることからも裏付けられる。)。したがって、本件侵害通知2も、その内 容において著作権侵害が認められないことが明らかなものというべきである。
ウ しかし、そもそも編み物の編み目に著作物性が認められないことは前記(2) アで説示したとおりであるし、前記(3)アによれば、控訴人Bは、むしろ動画 の著作物性の有無の判断には困難が伴うことをかねてから認識していたこと が認められる。また、著作権侵害が肯認されるには依拠性が必要であるが、 前記(3)エによれば、控訴人Bが本件侵害通知を提出するに当たって依拠性を 検討した様子は全くうかがえない。 そればかりか、控訴人Bが本件侵害通知を提出するに当たり、著作権侵害 の有無を予め検討していたのであれば、それが法的に失当であろうとも、本件侵害通知後の被控訴人からの問い合わせに対して著作権侵害と考える理由\nを端的に回答できるはずであるが、被控訴人に対する回答ぶりは専ら困惑さ せることに終始するものであるし((3)エ)、本件訴訟を提起された後におい てすら、控訴人らは著作権侵害を理由に裁判手続をとろうとしていないこと、 その他前記(3)で認定した本件侵害通知提出前後の状況をも考慮すると、控訴 人Bは、本件侵害通知を提出するに当たり、編み目の著作物性が肯定される には困難を伴うことを十分認識していたと認められるにもかかわらず、控訴人動画で紹介した編み目と同一の編み目を説明する動画であれば、それが控\n訴人動画に依拠したものか否かを問わず、先行して動画を投稿した控訴人B の著作権を侵害するとの独自の見解を有し、この見解が法的に成り立つか否 かを検討することなく、すなわち、控訴人Bが著作権者等であることはもと より、著作権侵害通知の内容が正確であることについて検討することなく、 必要な注意義務を怠って漫然と本件侵害通知を提出したものと認めるのが相 当である。
エ なお、控訴人らは、専門家であるJ弁理士及びK弁護士にも相談した上で、 本件侵害通知を行った旨主張するが、控訴人らが本件侵害通知当時に上記専 門家に著作権侵害に関する相談をしていたことを認めるに足りる的確な証拠 はなく、また、仮に何らかの相談をしていたとしても、前記の本件侵害通知 の内容及び本件訴訟における応訴の内容に照らし、真摯な相談がされたもの ともおよそ考えられないから 、これによって控訴人Bが本件侵害通知を提出 するに当たって必要な検討をしたとは認められない。
オ そして、控訴人Bは、被控訴人に対する以外にも、本件侵害通知に相前後 して、他の複数のチャンネル開設者に対し、その投稿した編み物動画やアプ リケーション上での編み物作品の販売に対し、動画のコメント欄等に抗議を 書き込んだり、被控訴人に対すると同様に、編み目を含む編み方の模倣を理 由に一斉に複数の著作権侵害通知を提出したりすること((3)イ、ウ、オ)によ って、これらの者が、控訴人Bが動画で紹介している編み方と同じ編み方を 動画で投稿することを事実上抑止しようとしていたことがうかがわれる。 さらに、弁護士への依頼や著作権侵害警告に対する異議申立てを考えるようなチャンネル開設者に対しては、控訴人Bに加担する控訴人D又は控訴人\nB自身において、「一度痛い目見ないといけない」「詐欺で警察にも行けるお話」などと強迫的ともいえるメッセージを送信したり、独自の見解を一方\n的に押し付けるようなコメントを公表したりして((3)イ、オ、カ)、裁判手続 で著作権侵害の有無を明らかにするより、示談するよう強く求めていたこと も認められ、以上のような諸事情を総合すると、控訴人Bは、著作権侵害通 知制度を利用して、競業者であるといえる同種の編み物動画を投稿する者の 動画を削除することで不当な圧力をかけようとしていたとさえ認められる。
カ 以上によれば、控訴人Bは、本件侵害通知をYouTubeに提出するに 当たって、単に自らが著作権者であることや、著作権侵害通知の内容が正確 であることについて何ら検討することなく漫然と法的根拠に基づかない本件 侵害通知を提出したという点で必要な注意義務を怠った過失があるといえる ばかりか、前記のとおり著作権侵害通知制度を濫用したものということさえ できるのであって、これにより本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控 訴人の法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵 害通知を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害し たものとして不法行為を構成するというべきである
・・・
ア 前記2(1)アで説示したとおり、YouTubeは、インターネットを介 して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で広く世界中に自己の表\現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYouTubeに投稿する自由は、投稿者の表\現の自由という人格的利益に関わるものであるといえ、控訴人Bによる違法な本件侵害通知により被控訴人動画が一方的に削除された ことにより、被控訴人はその人格的利益を侵害されたものと認められる。
イ そして、その削除期間が、令和2年2月6日から同年8月29日までの2 06日間に及ぶこと、被控訴人トリニティ動画の動画時間が25分47秒間、 被控訴人メランジ動画の動画時間が19分24秒間であって、テロップ挿入 や音声等の編集作業にも相応の労力、時間を要して作成されたものであるこ とがうかがわれること(甲56〜58)、被控訴人動画が投稿されたAのチ ャンネルには少なくとも1000人を超える登録者がいたことに加え、被控 訴人が、削除当日に、控訴人Bに対し、控訴人Bのどの動画の著作権を侵害 したことになるのか教えてほしい旨問い合わせたのに対して、控訴人Bは、 これに対する回答をしないばかりか(前記2(3)エ)、同年6月頃、Cのチャ ンネルにおいて、被控訴人に向け、本件侵害通知のことを取り上げて「2度 あることは3度ある、3度目は命取りです」などとのコメントを記載して、 控訴人Bが3回目となる著作権侵害通知をすることで、被控訴人のチャンネ ル停止・全動画の削除という事態が起きかねないことをほのめかすなど、被 控訴人をして専ら畏怖、困惑させるばかりで、事後的にも誠意ある対応をせ ず、原判決において控訴人らの指摘する被控訴人動画による著作権侵害が認 められない旨判断された後も、被控訴人動画が控訴人動画の盗作であるかの ような独自の見解に基づくコメントをYouTubeのチャンネルに記載し ていること(甲13、14、20、69〜77)など、本件に現れた一切の 事情を考慮すると、被控訴人が上記の人格的利益の侵害により受けた精神的 苦痛を慰藉する金額は20万円を下らないというべきである。
ウ なお、被控訴人は、前記第3の5(被控訴人の主張)(2)イ、ウに記載す る、本件侵害通知による被控訴人チャンネル全体の収益性の低下及び視聴者 に対する信頼毀損による視聴数低下について、慰謝料算定に当たっての根拠 としても主張するが、被控訴人は、上記各事情によって被控訴人チャンネル の収益性の低下による経済的損害が生じたことをいうものであって、その損 害賠償の可否は、そのような経済的損害の発生が認められるか否かの立証に 係るものであり、損害の発生が不明な場合に前記イで認定したところを超え て慰謝料として損害賠償を認めることはできないというべきである。したが って、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 広告収益に関する経済的損害について
ア 被控訴人動画の広告収益の低下
被控訴人動画がYouTubeにおいて削除されていた期間は、前記のと おり令和2年2月6日から同年8月29日までの206日間であるところ、 証拠(甲31、32)によれば、被控訴人メランジ動画(投稿日は同年2月 3日)についての広告収益は、同年2月3日から同月6日までの4日間で合 計1463円(1日当たり365.75円)であったこと、被控訴人トリニ ティ動画(投稿日は令和元年8月1日)についての広告収益は、令和元年1 1月6日から令和2年2月6日までの93日間で合計1766円(1日当た り18.98円)であったことが認められる。
被控訴人トリニティ動画の削除により被控訴人が失った広告収益は、上記 のとおり1日当たり18.98円として算出するのが相当と認めるが、被控 訴人メランジ動画の上記収益単価は、投稿直後の4日間の広告収益に基づく ものである。広告収益は動画の視聴数等によって変動し得るところ、一般的 に、新たに投稿された動画の方が視聴者の耳目を集めやすく、投稿直後は視 聴数が多く、その後時間が経過するにつれて逓減する傾向があること自体は 否定し難いこと、編み物の編み方に関する動画の視聴は、季節柄、夏場には 視聴数が低くなる傾向がうかがわれ、通年で一定しているとはいい難いこと (甲83の1〜5)からすると、被控訴人メランジ動画の広告収益は、削除 後の当初30日間は1日当たり350円、その後は、被控訴人トリニティ動 画との対比を考慮して、1日当たり20円として被控訴人の損害を算定する のが相当と認める。
そうすると、本件侵害通知による被控訴人動画の削除により被控訴人が被 った広告収益に関する損害は、1万7929円(〔350円+18.98 円〕×30日+〔20円+18.98円〕×〔206日−30日〕)。端数 切捨て。)に限り、これを認めるのが相当である(なお、被控訴人動画の削 除又は復元の当日分については、一定程度の広告収益が得られている可能性がないではないが、特に上記認定を左右すべき事情ではない。)。\n
イ 被控訴人チャンネル全体の収益性の低下等 被控訴人は、被控訴人動画が本件侵害通知によって削除されたことは、被 控訴人チャンネルのステータスに影響を与え、被控訴人チャンネルの動画が 視聴者の画面に表示されにくくなったり、広告単価が低下したりするなどの不利益を生じさせ、被控訴人チャンネル全体の収益性を低下させている旨主\n張し、また、被控訴人チャンネルに対する視聴者の信頼が著しく低下し、視 聴数が減少して収益性が低下した旨主張する。
しかし、「YouTubeヘルプ」(甲8)において、著作権侵害の「警 告を複数回受けると収益化に影響を及ぼすおそれがあります。」との記載が されているものの、どのような場合にいかなる仕組みによって収益化に影響 を及ぼすかについては必ずしも明確になっているとは認められない。また、 被控訴人が影響を受けたとする被控訴人チャンネル全体の収益について、本 件侵害通知がされる前後、さらに被控訴人動画の復元後といった各時点の収 益が具体的にいかなるものであったかを認めるに足りる証拠は何ら提出され ておらず、被控訴人から数値を示すなどした具体的主張もされていない。Y ouTubeにおいては、各動画の収益に関する分析情報は期間を区切って 画面上に表示させることが可能\である(甲31、32、83の1〜5)から、 本件侵害通知がされる前後、被控訴人動画の復元後といった各時点で動画の 視聴数、収益等にいかなる変動があるかを立証することは容易であると認め られるにもかかわらず、被控訴人動画ないしチャンネルについてそうした立 証が全くされていないことに照らすと、本件侵害通知による被控訴人動画の 削除により被控訴人のチャンネル全体の収益性が低下するなどして被控訴人 が経済的損害を被ったとは認めるに至らないというべきである。

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令和4(ネ)10024  映画上映禁止及び損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年9月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

インタビュー形式の映画「主戦場」について、著作権侵害(人格権を含む)に基づいて差止などを求めました。1審は、原告の請求棄却、知財高裁も同じ判断です。

ア 控訴人らは、同一性保持権侵害の被侵害利益は、著作者の名誉感情であ るとし、被控訴人Yが、慰安婦問題というデリケートな問題を扱った本件 利用映像等5の一部を切り出し、音声を削除し、ナレーションを加えるこ とは、控訴人X2が客観的証拠もなく偏った主張を述べているにすぎない かのような印象を与えかねないし、また、本件利用映像等6は、控訴人X 2が著作者である本件外部映像等6のうち、日本における人種差別につい てことさらに騒ぎ立てる者がいることを述べた部分のみが利用されてい て、控訴人X2が、日本に人種差別が存在すると指摘すること自体を批判し ているかのような印象を与えかねないから、いずれも通常の著作者であれ ば名誉感情を害されるものであり、控訴人X2の同一性保持権を侵害する 旨主張する。
イ しかしながら、仮に同一性保持権侵害の被侵害利益に著作者の名誉感情 が含まれるとしても、それによっておよそ一切の改変が著作者の名誉感情 を侵害し、同一性保持権の侵害となると解すべき根拠はなく、著作物の性 質や利用行為の態様等を考慮して、同一性保持権侵害の有無を考慮すべき である。
本件利用映像等5、6は、ユーチューブ上の映像である本件外部映像等 5、6の一部である。ユーチューブ上の映像は、無料でいつでもだれでも 閲覧することができ、どの映像を見るかはもとより、映像の全部を見るの か一部を見るのか、映像のどの部分を見るのかを、閲覧者が自由に選択し て見ることができるという性質を有する。 本件利用映像等5、6は、本件利用映像等2、3の後、本件利用映像等 4が3秒間表示された後に表\示されるものであるところ、本件利用映像等 2、3には、左上部に「YouTube」という表示があり、「X2´」という著作 者名が表示されており、被控訴人Yは、本件利用映像等5に先立って、イ\nンターネット上の投稿でビデオを見つけた旨のナレーションを入れてお り、本件映画1のエンドクレジットの「利用した映像及び写真の出所」に、 控訴人X2の氏名、本件外部映像等5、6の題名、ユーチューブに投稿され た動画であることの記載があるから、本件映画1を見る者にとって、本件 外部映像等5、6がユーチューブ上の映像の一部であることは明らかであ り、著作者名や題名から本件外部映像等5、6を検索することは容易に可 能である(乙38)。\n
本件利用映像等5、6は、被控訴人Yが慰安婦問題に関心を有するよう になったきっかけとなった動画を作成した人物であり、本件映画1中のイ ンタビューの対象ともなっている控訴人X2がどのような人物であるかを 紹介することを目的とするものであり、控訴人X2の主張を誤って伝えるも のであるとは認められない。 その他、原判決第3の9(1)イないしエ(原判決68頁19行目から70 頁14行目まで)、同(2)イないしエ(原判決70頁23行目から72頁9行 目まで)に記載された事情も考慮すると、被控訴人らが本件利用映像等5、 6を利用して本件映画1を製作、上映することは、控訴人X2の名誉感情を 害するとは認められず、本件利用映像等5、6の作成は、いずれも「やむ を得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)であり、控訴人X 2の著作者人格権を侵害するものとは認められない。

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◆令和1(ワ)16040

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令和3(行ケ)10090 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月4日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、訂正要件違反として、無効理由無しとした審決を取り消しました。

原告は、本件審決は、本件訂正について、1)訂正事項1は、本件訂正前 の請求項1の「噴射製品」を「粘膜への刺激が低減された、噴射製品」と 訂正するものであるが、当該噴射製品は、害虫忌避組成物を充填した物の 発明であり、その害虫忌避組成物が有している粘膜への刺激という作用に 対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、実質的に害虫忌避組成物を充 填した物の発明の作用・用途が、発明の構成として限定されたものと理解\nすることができるから、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法 134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものということができる、 2)訂正事項2は、本件訂正前の請求項3の「噴射方法」を「粘膜への刺激 を低減する、噴射方法」とするものであるが、当該噴射方法は、「害虫忌避 組成物を噴射する噴射方法」の発明であり、その害虫忌避組成物が有して いる粘膜への刺激という作用に対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、 実質的に害虫忌避組成物を噴射する方法の発明の作用・用途が、発明の構\n成として限定されたものと理解することができるから、訂正事項2は、「特 許請求の範囲の減縮」を目的とするものということができる旨判断したが、 かかる本件審決の判断は誤りである旨主張するので、以下において判断す る。
(ア) 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「噴射製品」を「粘膜への刺 激が低減された、噴射製品」と訂正し、訂正事項2は、本件訂正前の請 求項3の「噴射方法」を「粘膜への刺激を低減する、噴射方法」と訂正 するものであり(甲46)、本件訂正前の請求項1の「噴射製品」及び本 件訂正前の請求項3の「噴射方法」の各記載事項に、それぞれ「粘膜へ の刺激が低減された」又は「粘膜への刺激を低減する」という作用に係 る記載事項を加えたものと認められる。
しかるところ、本件明細書には、「粘膜への刺激の低減」に関し、「本 発明者らは、適用距離における粒子径だけでなく、適用箇所を超えた位 置における粒子径も考慮し、それぞれの位置における粒子径の比が所定 の値以上となるよう調整された噴射製品であれば、粘膜を刺激しやすい 害虫忌避成分が配合されている場合であっても、粘膜への刺激が低減さ れ、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。」(【00 06】)、「本実施形態の噴射製品は、噴口から15cm離れた位置におけ る噴射された害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、噴口から30 cm離れた位置における噴射された害虫忌避組成物の50%平均粒子径 r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整されて いる。なお、本実施形態の噴射製品は、噴射された際の粒子径比が特定 の範囲となるよう調整されていることを特徴とする。そのため、その他 の構成(たとえば噴射製品の形状、他の成分および配合、容器内圧等の\n各種物性等)は、上記粒子径比の範囲を満たすものであればよく、特に 限定されない。」(【0010】)、「本実施形態の噴射製品は、粒子径比(r 30/r15)が0.6以上となるよう調整されている。そのため、噴射さ れた害虫忌避組成物は、噴口から30cm離れた位置であっても粒子径 が維持されたままである。その結果、噴射製品は、粘膜を刺激しやすい 上記特定の害虫忌避成分が配合されているにもかかわらず、粘膜への刺 激が低減され得る。」(【0023】)、「このように、本実施形態の噴射製 品は、噴射された害虫忌避組成物の粒子径比(r30/r15)が0.6以 上に調整されていればよく、このような粒子径比を上記範囲に調整する 方法は特に限定されない。」(【0024】)、「以上、本実施形態の噴射製 品(ポンプ製品)によれば、粘膜を刺激しやすい上記特定の害虫忌避成 分が配合されているにもかかわらず、噴射された害虫忌避組成物は、噴 射後に粒子径比(r30/r15)が0.6以上に維持されているため、粘 膜への刺激が低減され得る。」(【0028】)、「本実施形態の噴射方法に よれば、粘膜を刺激しやすい上記特定の害虫忌避成分が配合されている にもかかわらず、噴射された害虫忌避組成物は、噴射後に粒子径比(r 30/r15)が0.6以上に維持されるよう噴射される。その結果、本実 施形態の噴射方法によって噴射された害虫忌避組成物は、使用者等の粘 膜を刺激しにくい。」(【0044】)、「表1に示されるように、粒子径比\n(r30/r15)が0.6以上となるよう調整された実施例1〜14の噴 射製品は、N,N−ジエチル−m−トルアミド(ディート)を配合した 噴射製品(たとえば表2に示される参考例1)と同程度まで粘膜刺激が\n低減された。また、たとえば実施例1〜3と実施例11〜13との比較 から分かるように、本発明の噴射製品は、使用するポンプ製品(アクチ ュエータ)の寸法等(噴射方式、噴口径、1回吐出量等の諸条件)が異 なる場合であっても、粒子径比(r30/r15)が0.6以上となるよう 調整されていることにより、粘膜刺激低減効果が得られることがわかっ た。」(【0052】)との記載がある。これらの記載によれば、本件明細 書には、「粘膜への刺激の低減」の作用効果は、本件訂正前の請求項1の 「前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組 成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置にお ける噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子 径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され」との構成又は\n本件訂正前の請求項3の「前記噴口から15cm離れた位置における5 0%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における5 0%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となり」 との構成によって奏することの開示があることが認められる。一方で、\n本件明細書には、本件訂正前の請求項1及び3の上記各構成にした場合\nであっても、「粘膜への刺激の低減」の作用効果を奏しない場合があるこ とについての記載も示唆もない。
そうすると、訂正事項1及び2により加えられた「粘膜への刺激が低 減された」又は「粘膜への刺激を低減する」という作用に係る記載事項 は、本件訂正前の請求項1及び3の上記各構成によって奏される作用効\n果を記載したにすぎないものであるから、訂正事項1及び2は、本件訂 正前の請求項1及び3の各発明に係る特許請求の範囲を狭くしたものと 認めることはできない。
(イ) したがって、訂正事項1及び2は、「特許請求の範囲の減縮」(特許 法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものと認めることは できないから、原告の前記主張は理由がある。
イ 被告の主張について
被告は、訂正事項1は、害虫忌避組成物を充填した物の発明(本件訂正 前の請求項1)において、その害虫忌避組成物が有している粘膜への刺激 という作用に対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、実質的に害虫忌 避組成物を充填した物の発明の用途又は作用が、発明の構成として限定さ\nれたものと理解することができ、また、訂正事項2は、害虫忌避組成物を 噴射する噴射方法の発明(本件訂正前の請求項3)において、その害虫忌 避組成物が有している粘膜への刺激という作用に対し、当該粘膜への刺激 を低減したものと、実質的に害虫忌避組成物を噴射する方法の発明の用途 又は作用が、発明の構成として限定されたものと理解することができると\nして、訂正事項1及び2は、本件訂正前の請求項1及び3の各発明の特許 請求の範囲について、少なくとも用途又は作用を限定しているから、「特許 請求の範囲の減縮」を目的とするものである旨主張する。 しかしながら、被告の上記主張は、本件審決と同旨の理由を述べるもの であるから、前記アで説示したとおり、採用することができない。

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令和4(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年12月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。知財高裁は、新規性無しとして、権利行使不能とした1審の判断を維持しました。

(ア) 前記(2)のとおり、本件発明と乙1発明との相違点は、「医薬組成物につ いて、本件発明では、『非外傷性である前腕部骨折を抑制するため』のも のであると特定されているのに対して、乙1発明では、『骨粗鬆症治療薬』 であると特定されている点。」にある(相違点1)ところ、控訴人は、本 件発明につき、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者群において予測されていなかった顕著な効果を奏するものであり、エルデカルシトール\nの新たな属性を発見し、それに基づく新たな用途への使用に適すること を見出した医薬用途発明であるから、相違点1に係る本件発明の用途 (「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」)は乙1発明の「骨粗 鬆症治療薬」の用途とは区別される旨主張する。
(イ) そこで検討するに、公知の物は、原則として、特許法29条1項各号 により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、 その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した 発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公 知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解さ れる。 そして、前記1(2)のとおり、本件発明の医薬組成物は、高齢者や骨粗 鬆症患者等の骨がもろくなっている者が転倒等した際に、前腕部である 橈骨又は尺骨に軽微な外力がかかって生じる骨折のリスク、すなわち前 腕部における非外傷性骨折のリスクに着目して、その用途が「非外傷性 である前腕部骨折を抑制するため」と特定されている(相違点1)もの である。
(ウ) しかしながら、前記(3)イの技術常識によれば、当業者は、乙1発明の 「骨粗鬆症治療薬」につき、椎体、前腕部、大腿部及び上腕部を含む全 身の骨について骨量の減少及び骨の微細構造の劣化による骨強度の低下が生じている患者に対し、各部位における骨折リスクを減少させるた\nめに投与される薬剤であると認識するものといえる。また、前記(3)ア、 エ及びオの各技術常識によれば、当業者は、エルデカルシトールの効果 は海綿骨及び皮質骨のいずれに対しても及ぶと期待するものであり、海 綿骨及び皮質骨からなる前腕部の骨に対してもその効果が及ぶと認識 するものといえる。さらに、前記(3)イ及びウの技術常識によれば、当業 者は、骨粗鬆症においては身体のいずれの部位も外力によって骨折が生 じるものであり、また、前腕部における骨折リスクは、骨強度が低下す ることによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他 の部位における骨折リスクと共通するものであると認識するものとい える。
以上の事情を考慮すると、当業者は、骨粗鬆症患者における前腕部の 骨の病態及びこれに起因する骨折リスクについて、他の部位の骨の病態 及び骨折リスクと異なると認識するものではなく、また、乙1発明の「骨 粗鬆症治療薬」としてのエルデカルシトールを投与する目的及びその効 果についても、前腕部と他の部位とで異なると認識するものではないと いうべきである。
(エ) さらに、本件優先日前に公開された乙12の文献には、エルデカルシ トールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑制す ることが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されているこ とに加え、前記(3)エ及びオの技術常識によれば、エルデカルシトールに よる前腕部を含む全身の骨折リスクの減少作用は、経口投与されて体内 に吸収されたエルデカルシトールが、骨に対して直接的又は間接的に何 らかの作用を及ぼすことによって達成されるものであるといえるとこ ろ、本件明細書には、骨折リスクを減少させようとする部位が前腕部で ある場合と他の部位である場合とで、エルデカルシトールが及ぼす作用 に相違があることを示す記載は存しない。そして、前記(3)ウ及びオの技 術常識を考慮しても、本件明細書の記載から、エルデカルシトールの作 用に関して上記の相違があると把握することはできない。 そうすると、当業者は、前腕部の骨折リスクを減少させるために投与 する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデカルシトールの作 用が相違すると認識するものではないというべきである。
(オ) 以上によれば、エルデカルシトールの用途が「非外傷性である前腕部 骨折を抑制するため」と特定されることにより、当業者が、エルデカル シトールについて未知の作用・効果が発現するとか、骨粗鬆症治療薬と して投与されたエルデカルシトールによって処置される病態とは異な る病態を処置し得るなどと認識するものではないというべきである。 そうすると、本件発明については、公知の物であるエルデカルシトー ルの未知の属性を発見し、その属性により、エルデカルシトールが新た な用途への使用に適することを見出した用途発明であると認めることは できないから、相違点1に係る用途は乙1発明の「骨粗鬆症治療薬」の 用途と区別されるものではない。
(カ) したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 控訴人の原審における主張(原判決「事実及び理由」の第2の4(2)及び
(3))及び当審における補充主張に対する判断
(ア) 前記第2の3(1)〔控訴人の主張〕アの主張について
a 控訴人は、前腕部骨折は他の部位の骨折とは異なる特徴を有するこ と、乙1文献には前腕部骨折を抑制する骨粗鬆症治療薬が開示されて いるものではないことなどを理由に、本件発明の用途は乙1発明の用 途と客観的に区別することができる旨主張する。 しかしながら、前記(3)ウの技術常識によれば、前腕部骨折は、身体 的活動性が比較的高い前期高齢者等において好発する特徴があるとい えるものの、上記アで検討したとおり、前腕部の骨と他の部位の骨と で病態が異なるものとはいえず、また、前腕部の骨折リスクを減少さ せるために投与する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデ カルシトールの作用が相違するともいえないことからすれば、前腕部 骨折に上記の特徴があるからといって、本件発明の用途は乙1発明の 用途と客観的に区別することができるものとはいえない。
また、前記(1)のとおり、乙1文献には、エルデカルシトールにつき、 動物実験において、骨密度増加効果がアルファカルシドールよりも強 力であるところ、骨密度の増加は骨強度の増加を伴っていると考えら れること、第II)相臨床試験において、腰椎骨及び大腿骨の骨密度の増 加が認められ、ビタミンD補充効果に依存せずに強力に骨密度を増加 させたものと考えられること、新規椎体骨折発生頻度を主要評価項目 としてアルファカルシドールの効果と比較する更なる臨床試験が進行 中であることが記載されているところ、前記(3)ウないしオのとおり、 エルデカルシトールがアルファカルシドールに比して有意に優れた骨 強度改善効果等を有していることや、前腕部の骨折リスクは他の部位 と同様に骨強度が低下することによって増加するものであることが技 術常識であったこと、上記ア(エ)のとおり、本件優先日当時、エルデカ ルシトールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑 制することが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されてい る文献(乙12)が存在したことを併せ考慮すれば、当業者は、乙1 文献の記載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前 腕部についても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制 するものであることを、合理的に予測し得たものといえる。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 同イの主張について
a 控訴人は、一般に患者群の特徴に応じて薬剤が選択されており、骨 粗鬆症においても個々の患者の状態に応じて様々な薬剤が使い分けら れているところ、本件発明は、前腕部骨折の抑制が特に求められる患 者という限定された患者群に対して顕著な効果を奏するものとして、 従来技術とは区別された新規性を有する旨主張する。しかしながら、上記アで検討したとおり、前腕部の骨折リスクは、骨強度が低下することによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他の部位における骨折リスクと共通するものであるか ら、骨粗鬆症患者のうち、全身の骨折の抑制が必要とされる者と前腕 部の骨折の抑制が特に必要とされる者とを客観的に区別することはで きないというべきである。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 同ウの主張について
a 控訴人は、本件試験に係る結果において、エルデカルシトールが、 既存薬剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制 が特に求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されている旨主張する。\n
そこで検討するに、本件明細書には、アルファカルシドールを比較 薬とした無作為割付二重盲検群間比較試験である本件試験において、 非外傷性の前腕部骨折の3年間の発生頻度が、アルファカルシドール 投与群においては523例中17例(骨折確率3.63%)であり、 エルデカルシトール投与群においては526例中5例(骨折確率1. 07%)であったこと、これらの骨折発生頻度を層化ログランク検定 及び層化コックス回帰により比較した結果、アルファカルシドール投 与群の骨折確率を1とした際のエルデカルシトール投与群の骨折確率、 すなわちハザード比は0.29であったこと、これにより、エルデカ ルシトール投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したことが 判明したこと、これらの試験結果の結論として、アルファカルシドー ル投与群に対するエルデカルシトール投与群の明らかな優越性が認め られたことが記載されている。
しかしながら、上記アで検討したとおり、当業者は、乙1文献の記 載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前腕部につ いても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制するもの であることを、合理的に予測し得たものといえることからすれば、エルデカルシトール投与群における前腕部骨折危険率が減少することも\n予測し得たというべきである。また、ハザード比を用いた解析においては、対照群におけるイベントの発生率が小さい場合には、臨床上の\nわずかな差が大きな数値に置き換えられてしまうことがあることが知 られているところ(乙20、22)、本件試験においては、対照群であ るアルファカルシドール投与群における骨折確率が3.63%と小さ かったことからすれば、ハザード比の値に基づいてエルデカルシトー ル投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したと算定されたこ とについては、臨床上のわずかな差が大きな数値に置き換えられてし まった結果である可能性を否定することができない。また、本件試験において、アルファカルシドール投与群における骨\n折確率とエルデカルシトール投与群における骨折確率との差(絶対リ スク減少率)は、前腕部骨折については2.56%、椎体骨折につい ては4.1%であり、椎体骨折の方が前腕部骨折よりも大きな値とな る。
以上の事情を考慮すると、上記のハザード比の値のみに基づいて、 エルデカルシトールの前腕部骨折の抑制効果が、アルファカルシドー ルに比して格別顕著であり、当業者の予測し得る範囲を超えるものであると直ちに評価することはできないというべきである。\nb 以上によれば、このほかに控訴人が本件試験に関して縷々主張する 点を考慮しても、本件試験において、エルデカルシトールが、既存薬 剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制が特に 求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されたものということはできない。\n

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◆令和2(ワ)13326

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令和3(ワ)24148  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年11月24日  東京地方裁判所

 著作権侵害として、発信者情報の特定のための裁判費用も含めて242万円の損害賠償が認められました。引用であるとの主張は否定されました。

被告は、本件各記事による本件各動画の利用は適法な引用(法 32条 1項)に当たる旨を主張する。しかし、証拠(甲 7)及び弁論の全趣旨によれば、本件各記事は、いずれも、約 30 枚〜60 枚程度の本件各動画からキャプチャした静止画を当該動画の時系列に沿ってそれぞれ貼り付けた上で、各静止画の間に、直後に続く静止画に対応する本件各動画の内容を 1 行〜数行程度で簡単に要約して記載し、最後に、本件各動画の閲覧者のコメントの抜粋や被告の感想を記載するという構成を基本的なパターンとして採用している。各静止画の間には、上記要約のほか、被告による補足説明やコメント等が挟まれることもあるが、これらは、関連する動画(URL のみのものも含まれる。)やスクリーンショットを 1 個〜数個張り付けたり、1 行〜数行程度のコメントを付加したりしたものであり、概ね、各静止画及びこれに対応する本件各動画の内容の要約部分による本件各動画全体の内容のスムーズな把握を妨げない程度のものにとどまる。また、本件各記事の最後に記載された被告の感想は、いずれも十数行〜二十\数行程度であり、本件各動画それぞれについての概括的な感想といえるものである。
以上のとおり、本件各記事は、いずれも、キャプチャした静止画を使用 して本件各動画の内容を紹介しつつそれを批評する面を有するものではあ る。しかし、本件各記事においてそれぞれ使用されている静止画の数は約 30 枚〜60 枚程度という多数に上り、量的に本件各記事のそれぞれにおい て最も多くの割合を占める。また、本件各記事は、いずれも、静止画と要 約等とが相まって、4分程度という本件各動画それぞれの内容全体の概略 を記事の閲覧者が把握し得る構成となっているのに対し、本件各記事の最\n後に記載された投稿者の感想は概括的なものにとどまる。 以上の事情を総合的に考慮すると、本件各記事における本件各動画の利 用は、引用の目的との関係で社会通念上必要とみられる範囲を超えるもの であり、正当な範囲内で行われたものとはいえない。 したがって、本件各記事による本件各動画の利用は、適法な「引用」(法 32条1項)とはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 争点(2)(時事の事件の報道の抗弁の成否)について
被告は、本件各記事における本件各動画の利用は、社会において有用で 公衆の関心事となりそうな新しい事業を計画している一般企業家が存在す る事実及びその事業計画に対する投資家の判断・評価という近時の出来事 を公衆に伝達することを主目的とするものであり、時事の事件の報道(法 41 条)に当たる旨を主張する。 しかし、そもそも、本件各動画は、その内容に鑑みると、一般企業家が 投資家に対して事業計画のプレゼンテーションを行い、質疑応答等を経て、 最終的に投資家が出資の可否を決定するプロセス等をエンタテインメント として視聴に供する企画として制作されたものというべきであって、それ 自体、「時事の事件」すなわち現時又は近時に生起した出来事を内容とする ものではない。本件各記事は、前記認定のとおり、このような本件各動画 の内容全体の概略を把握し得るものであると共に、これを視聴した被告の 概括的な感想をブログで披歴したものに過ぎず、その投稿をもって「報道」 ということもできない。 したがって、本件各記事は、そもそも「時事の事件の報道」とは認めら れないから、適法な「時事の事件の報道のための利用」(法 41 条)とはい えない。この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 争点(3)(権利濫用の抗弁の成否)について
被告は、原告が「切り抜き動画」制作者による本件各動画の拡散を積極 的に利用して原告チャンネルの登録者数の増加を図り、実際にその恩恵を 享受しているにも関わらず、被告に対して本件各動画の著作権を行使する ことは権利の濫用に当たる旨を主張する。 しかし、証拠(甲 29)及び弁論の全趣旨によれば、原告が利用する「切 り抜き動画」とは、原告が、特定のウェブサイトで提供されるサービスを 通じて、原告チャンネル上の動画をより個性的に編集して自己のチャンネ ルに投稿することを希望するクリエイターに対し、その収益を原告に分配 すること等を条件に、当該動画の利用を許諾し、その許諾のもとに、クリ エイターにおいて編集が行われた動画であると認められる。他方、弁論の 全趣旨によれば、被告は、本件各動画の利用につき、原告の許諾を何ら受 けていないことが認められる。
そうすると、原告が「切り抜き動画」の恩恵を受けているからといって、 被告に対する本件各動画に係る原告の著作権行使をもって権利の濫用に当 たるなどと評価することはできない。他に原告の権利濫用を基礎付けるに 足りる事情はない。したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 争点(4)(原告の損害及びその額)
(1) 「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」
ア 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、映像の使用料又は映像からキャ プチャした写真の使用料に関し、以下の事実が認められる。
(ア) 映像からキャプチャした写真の使用料
NHK エンタープライズが持つ映像・写真等に係る写真使用の場合の素 材提供料金は、基本的には、メディア別基本料金及び写真素材使用料に より定められるところ(更にこの合計額に特別料率が乗じられる場合も ある。)、使用目的が「通信(モバイル含む)」の場合の基本料金は 5000 円(ライセンス期間 3 年)、写真素材使用料は、「カラー」、「一般写真」、 「国内撮影」の場合、1 カットあたり 2 万円とされている(甲 12)。 なお、共同通信イメージズも写真の利用料金に関する規定を公表して\nいるが(乙 12)、ウェブサイト利用についてはニュースサイトでの使用 に限ることとされていることなどに鑑みると、本件においてこれを参照 対象とすることは相当でない。
(イ) 映像の使用料
・・・・
イ 本件各動画については、前記「切り抜き動画」に係る利用許諾と原告へ の収益の分配がされていることがうかがわれるものの、その分配状況その 他の詳細は証拠上具体的に明らかでない。その他過去に第三者に対する本 件各動画の利用許諾の実績はない(弁論の全趣旨)。そこで、原告が本件各 動画の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(法 114 条 3 項)を算定するに当たっては、本件各動画の利用許諾契約に基づく利用料 に類するといえる上記認定の各使用料の額を斟酌するのが相当である。 被告による本件各動画の使用態様は、本件各動画をキャプチャした本件 静止画を本件各記事に掲載したというものである。そうすると、その使用 料相当額の算定に当たっては、映像からキャプチャした写真の使用料を定 める NHK エンタープライズの規定(上記ア(ア))を参照するのが相当とも 思われる。もっとも、当該規定がこのような場合の一般的な水準を定めた ものとみるべき具体的な事情はない。また、本件各記事は、いずれも、相 秒以上の部分について 500 円(いずれも 1 秒当たりの単価)である(甲 21)。
・・・
当数の静止画を時系列に並べて掲載すると共に、各静止画に補足説明を付 すなどして、閲覧者が本件各動画の内容全体を概略把握し得るように構成\nされたものである。このような使用態様に鑑みると、本件静止画の使用は、 映像(動画)としての使用ではないものの、これに準ずるものと見るのが むしろ実態に即したものといえる。
そうである以上、原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべき金 銭の額に相当する額(法 114 条 3 項)の算定に当たっては、映像の使用料 に係る各規定(上記ア(イ))を主に参照しつつ、上記各規定を定める主体の 業務や対象となる映像等の性質及び内容等並びに本件各動画ないし原告チ ャンネルの性質及び内容等をも考慮するのが相当である。加えて、著作権 侵害をした者に対して事後的に定められるべき、使用に対し受けるべき額 は、通常の使用料に比べて自ずと高額になるであろうことを踏まえると、 原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額 (法 114 条 3 項)は、合計 200 万円とするのが相当である。
ウ これに対し、被告は、原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべ き金銭の額に相当する額は著作権の買取価格を上回ることはないことを前 提とし、本件各動画の著作権の買取価格(3 万円)のうち本件各記事にお いて静止画として利用された割合(2%)を乗じたものをもって、原告の受 けるべき金銭の額である旨を主張する。 もとより、著作物使用料の額ないし使用料率は、当該著作物の市場にお ける評価(又はその見込み)を反映して定められるものである。しかし、 その際に、当該著作物の制作代金や当該著作物に係る著作権の譲渡価格が その上限を画するものとみるべき理由はない。すなわち、被告の上記主張 は、そもそもその前提を欠く。 したがって、その余の点につき論ずるまでもなく、この点に関する被告 の主張は採用できない。
(2) 発信者情報開示手続費用
本件のように、ウェブサイトに匿名で投稿された記事の内容が著作権侵害の不法行為を構成し、被侵害者が損害賠償請求等の手段を取ろうとする場合、権利侵害者である投稿者を特定する必要がある。このための手段として、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律により、発信者情報の開示を請求する権利が認められているものの、これを行使して投稿者を特定するためには、多くの場合、訴訟手続等の法的手続を利用することが必要となる。この場合、手続遂行のために、一定の手続費用を要するほか、事案によっては弁護士費用を要することも当然あり得る。そうすると、これらの発信者情報開示手続に要した費用は、当該不法行為による損害賠償請求をするために必要な費用という意味で、不法行為との間で相当因果関係のある損害となり得るといえる。本件においては、前提事実(5)のとおり、原告は、弁護士費用を含め発信者情報開示手続に係る費用として 167 万 440円を要したが、発信者情報開示手続の性質・内容等を考慮すると、このうち20万円をもって被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。

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令和3(ワ)22940  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和4年10月28日  東京地方裁判所

特殊形状の靴紐について、「通知人らが保有する本件特許権を侵害していると考えております」と取引先に流布した行為が、不競法2条1項21号の不正競争行為にあたると判断されました。

これを本件についてみると、前記前提事実によれば、キャタピラン+等は、 裁判所が本件特許権を侵害すると判断したキャタピラン等を設計変更したも のであり、前記2のとおり、少なくともキャタピラン+等については裁判所 が本件特許権を侵害するものではないと判断するにもかかわらず、本件通知 書には、キャタピラン+等は本件特許権を侵害していると考えているなどと 記載されていることが認められる。そうすると、本件通知書の内容は、裁判 所においてキャタピラン+等が本件特許権を侵害しない旨の判断を示す前に 当該判断とは異なる法的な見解を事前に告知するものとして、不正競争防止 法2条1項21号にいう「虚偽の事実」を含むものと認めるのが相当である。
これに対し、被告らは、本件通知書は、「通知人らが保有する本件特許権 を侵害していると考えております。」として単に被告Aの主観的見解を述べ たものにすぎないから、不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」 を含まないと主張する。しかしながら、法的な見解を述べるものであっても、 公正な競争を阻害するものであり、上記にいう「虚偽の事実」に含まれると 解すべきことは、上記において説示したとおりである。そもそも、本件通知 書では、キャタピラン+等についても販売の即時停止及び損害賠償額の算定 に関する資料の開示まで求めているのであるから、単に主観的見解を述べた という被告らの主張は、当を得ないものである。そうすると、被告らの主張 は、後記4において違法性判断の考慮事情とされるのは格別、上記判断を左 右するに至らない。

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令和2(行ケ)10120 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年11月9日  知的財産高等裁判所

 不使用取り消しとなった商標について、知財高裁は、「使用権者による使用とは認められない」とした審決の判断を維持しました。

(1) 原告は,前記1(4)の本件ウェブページの記載を基に,本件商標が本件要証 期間中に,原告の商品である「Packard Bell Easy Note TK37 シリーズ」の本件液晶パ ネルを販売するために使用されていると主張する。 また,前記1(4)によると,本件ウェブページには,「Amazon.co.jpで の取り扱い開始日」が,本件要証期間中の平成29年8月8日と記載されているこ と,原告が販売する商品には,「Packard Bell Easy Note TK37 シリーズ」があること (甲23)が認められる。
(2) しかし,本件証拠上,CHIKAZOが本件商標権について,「商標権者, 専用使用権者,通用使用権者」(本件商標権者等)に当たると認めることはできない のはもとより,本件商標権者等といかなる関係にある者であるかは全く明らかでは ない。
また,CHIKAZOは,自らを米国からの直輸入品を扱う輸入業者であるとし ている(前記1(4))ところ,原告は,米国において,製品を販売しているとは認め られないこと(前記1(1),(2)),原告からCHIKAZOに原告の商品が流通した経 路が本件において全く明らかになっていないことを考慮すると,本件ウェブページ には,「Packard Bell Easy Note tk37 シリーズ 15.6」等の表示があるものの,本件ウェブページを用いてCHIKAZOが販売していた「Packard Bell Easy Note TK37 シ リーズ」が,原告の製品であるかどうかは本件の証拠上,明らかでないというほか ない。このことは,Amazonサイトにおいては,販売業者に,詐欺行為がないようにする制度を構\築し,ブランド名を使用する際のポリシーを定めていること(前記1(4))など前記1認定の事実によっても左右されない。 そうすると,仮に,本件ウェブページにおいて,本件商標が使用されているとし ても,上記のとおり,本件商標権者等との関係が全く不明であり,しかも,販売し ている商品も不明である商標の使用をもって,本件商標権者等による本件商標の使 用を認めることはできない。
(3) 以上によると,原告は,本件要証期間内に,日本国内において,商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,本件指定商品について,本件商標の 使用をしていることを証明したとは認められないから,本件指定商品に係る本件商 標登録は,取り消されるべきである。 なお,原告の主張するFashion Walker事件判決は,流通業者が, ウェブサイトなどを通じて,商標の通常使用権者の商品を販売していたことが認定 された事案であり,本件とは,事案を異にする。 3 原告は,被告の本件審判請求が信義則に反し権利の濫用であると主張する。 前記2のとおり,商標法50条は,一定期間使用されていない商標については, 商標権者等の業務上の信用の維持を図る必要はない上,かえって国民一般の利益を 害することになるため,第三者による商標登録の取消請求を認めたものであると解 される。
そうすると,一定期間使用していない商標について,第三者が,それと同一又は 類似する商標を商標登録することを目的として,商標法50条により,商標登録の 取消しを求めたとしても,商標権者等の商標登録を維持する必要性が認められない 以上,当該第三者が,商標権者等の登録商標の使用をあえて妨害するなどの特段の 事情がない限り,その商標登録の取消請求が信義則に反するとか権利濫用になると 認めることはできない。 本件において,前記1のような事実関係が認められるとしても,被告が,原告の 登録商標の使用をあえて妨害するなどの特段の事情があるとは認められないから, 被告の本件審判請求が信義則に反するとか権利濫用になると認めることはできない。

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令和1(ワ)11484  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和4年12月8日  大阪地方裁判所

着圧式の下着について、不競法2条1項3号の商品形態模倣であるとして、約500万円の損害賠償が認められました。なお、原告よりも廉価であったとして、1項の販売不可事情として25%の推定覆滅がなされています。

(3) 原告商品の形態がありふれた商品形態であるかについて
原告商品の形態と前記(2)の各商品の形態とを対比すると、モアプレッシャー及 びパワーズドクターは、男性用下着であって、そもそも需要者が異なる別種の商品 であり、特に構成態様 A に係る胸部及びアンダーバストの形状が大きく異なる。 また、エクスレンダー、MONOVO マッスルプレス、エーユードリーム、パワー ズドクターは、いずれも、構成態様 B に係る腹部の形状について縦に3本の着圧部 ないし線を設けており、縦に1本のみ着圧部を設ける原告商品とは大きく外観が異 なる。 そして、これらの相違は、商品の正面視において一見して明らかであり、需要者 の注意を惹く特徴的な部分といえ、商品全体としての印象が異なるから、原告商品 は、同種の商品とは異なる形態を有しているものであり、原告商品の形態はありふ れたものとはいえない。
被告は、「腹筋の割れを看者に感得せしめるようにした形態」が同種の商品にあ りふれており、腹直筋をモチーフにして腹筋の割れを6つにするか8つにするかを 選ぶ程度であれば改変の着想はたやすく、改変の程度は小さく、改変によって形態 上の特徴がもたらされないと主張する。 しかしながら、腹筋の割れを表現する形態は多様であり、被告の主張する同種の\n商品は、前記のとおりいずれも原告商品とは大きく異なる形状を採用しているか ら、原告商品の形態と同種の商品の形態との相違の程度が小さく、形態上の特徴が もたらされていないとはいえない。 そうすると、原告商品の形態はありふれたものではなく、不正競争防止法2条1 項3号において保護される商品形態に当たるというべきである。
・・・
4 損害額(争点3)について
(1) 不正競争防止法5条1項により推定される損害額
ア 原告商品の単位数量当たりの利益の額
証拠(甲27〜29)によれば、原告が平成30年4月に輸入した原告商品(商 品コード 0-24325-001 のシックスパックシェイプインナーM 及び商品コード 0-2432 5-002 のシックスパックシェイプインナーL)の仕入れ値は、1万1088枚で37 2万7997円であり、輸入に係る通関手数料、運搬料等は、11万9620円、 関税、消費税、地方消費税は、61万4428円であるから、経費の合計は446 万2045円であると認められる。また、証拠(甲24の7)によれば、当該原告 商品と同種商品11万6914枚の売上総額は、9543万2759円であると認 められる。そうすると、原告商品の単位数量当たりの利益の額は、413円(≒ (9543万2759円/11万6914枚×1万1088枚−446万2045 円)/1万1088枚)と認められる。
原告は、平成30年4月に輸入した原告商品と異なる商品コード、商品名の商品 も含めた売上から単位数量当たりの利益の額を算出しているが、原告が明らかにし ている経費は、前記輸入した原告商品に係るもののみであり、その余の商品の経費 は明らかではないから、採用できない。 また、被告は、原告主張の売上額から商品原価のほか、輸送、配送費等の一切の 変動費を控除すべきと主張するが、前記のとおり、通関手数料のほか、運搬料等も 経費として算入されており、これらのほかに具体的に計上すべき変動経費があると は認められないから、前記認定を妨げるものではない。
イ 被告商品の譲渡数量
証拠(乙33)によれば、被告商品の譲渡数量は1万6096枚であると認めら れる。 原告は、被告商品の譲渡数量が5万4000枚であると主張するが、証拠(乙2 8〜32)によれば、被告が輸入した被告商品は1万7700枚であったことが認 められるから、被告商品の販売数量がこれを上回ることは考え難く、うち、令和2 年2月3日に納品された1500枚は、本件訴状送達日より後に納品されたもので あるから、被告が販売していないと主張しているものであって、これを差し引いた 1万6200枚は、前記譲渡数量と整合するものである。原告が被告商品を多数販 売した卸売先として20社を挙げて調査嘱託をした結果においても、およそ原告の 主張するような多数の譲渡数量を窺わせる販売数の回答はなく、むしろ、被告主張 の譲渡数量に沿う少数の販売数の回答にとどまっていることからすれば、被告商品 の譲渡数量が1万6096枚を超えるものとは認められない。
ウ 販売することができないとする事情
(ア) 市場の非同一性
証拠(甲1〜9)によれば、原告商品は、通販カタログや広告チラシに掲載され て販売されているのに対し、被告商品は、通販カタログにも掲載されているが、主 にインターネット上の通販サイトで販売されていたことが認められる。 被告は、インターネットの通販サイトで被告商品を購入しようとする者は、被告 商品がない場合でも、カタログ販売の原告商品を購入したとはいえないと主張する が、インターネットの通販サイトで被告商品を購入しようとする者のうち、通販カ タログを見ない者がどの程度存在するのかは明らかではなく、部分的に販売するこ とができないとする事情に当たり得るとしても、この点から市場が完全に異なると まではいえないというべきである。 他方で、証拠(甲1〜9)によれば、原告商品の小売価格は1980円である が、被告商品の小売価格は1280円であり、明らかな価格差がある。 原告は、原告商品の模倣である被告商品には商品開発の費用を要しないから、価 格差を販売することができないとする事情に含めるのは公平を害すると主張する が、販売することができないとする事情は、被告の不正競争と原告商品の販売減少 との因果関係を阻害する事情であるから、被告商品が廉価であることが当該事情に 当たることは明らかである。
(イ) 競合品の存在
前記1(2)のとおり、原告商品及び被告商品と同様に腹直筋(シックスパック) をイメージした商品が複数存在しており、エクスレンダー、MONOVO マッスルプ レス及びエーユードリームは、女性用下着として、原告商品及び被告商品と同種の 競合品ということができる。 原告は、これらの他社商品は、いずれも全体として原告商品や被告商品と形態が 異なっており、競合品に当たらないと主張するが、原告商品や被告商品と当該他社 商品は、商品としての形態の相違が需要者に認識できる程度に異なっているにすぎ ず、構成態様 B の具体的な形状以外はおおむね共通する類似商品であって、証拠 (甲1〜9、乙18)によれば、いずれもトレーニング効果や腹部の引き締め効果 を謳っている商品であって、市場において競合する商品であることは明らかであ る。
また、競合品は、証拠(乙18)によれば、エクスレンダーだけで販売枚数が7 0万枚を超えているとされているのであって、原告商品の累計販売枚数が12万0 628枚(甲24の7)であることと比較すると、原告商品の市場におけるシェア は低く、市場における競合品は、原告商品よりもはるかに多いものといえる。 そうすると、被告商品が存在しなかったとすれば、相当数の需要者が原告商品で はなく競合品を購入したものと考えられるから、競合品の存在は、原告が譲渡数量 の一部を販売することができないとする事情に当たるというべきである。
(ウ) 被告の営業努力
被告は、営業交渉により広く販路を拡大し、人気のダイエット整体師を広告等に 用い、展示会に出展するなどの販売努力をしたと主張する。 しかしながら、営業交渉や展示会の具体的な内容は明らかではなく、通常行われ る営業活動と異なるものとは認められず、ダイエット整体師の広告がどの程度販売 に結び付いているのかも不明であるから、これらの営業努力を販売することができ ないとする事情に当たるということはできない。
(エ) 以上によれば、本件においては、原告が譲渡数量の一部を販売することが できない事情があり、25%の推定覆滅を認めるのが相当である。
エ 損害額 以上によれば、被告の不正競争行為による原告の損害額は、498万5736円 (=413円×1万6096枚×0.75)と認められる。

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令和2(ネ)10017  商標権侵害差止等本訴,虚偽事実告知・流布行為差止反訴請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和4年11月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 本件商標は「守半」です。被告は「守半總本舗」などを使用していました。原審は、差止などは権利濫用と判断しましたが、知財高裁は、一部の使用形態についての使用は、黙認したものと同一ではないとして、それらに関する権利行使を認めました。

(2) 前記(1)の事実を前提として検討するに、当裁判所は、控訴人が、被控訴人 標章2、5、9、10、12の使用に対して、本件商標権を行使することは権利の 濫用に当たるものの、「守半總本舗」の文字からなる被控訴人標章1、3、4、6 〜8、11の使用に対して本件商標権を行使することについては、権利濫用に当た らないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
・・・
イ 被控訴人標章1、3、4、6〜8、11の使用について
(ア) 前記(1)エ(エ)のとおり、被控訴人は、平成18年から新たに「守半總本舗」 という商号及び標章を使用するようになったものであるが、「總本舗」とは、「ある 特定の商品を製造・販売するおおもとの店」を意味する語であり(甲73)、その ような語を「守半」に結合させた「守半總本舗」は、従前、Eや被控訴人がしてい た「守半」の商号や標章の使用とはその意味合いを異にする。 すなわち、前記(1)ア、ウ〜オからすると、従前、控訴人ら及び被控訴人の三者 間では、守半本店(補助参加人)が「本店」という中心的な地位を占める屋号、商 号を一貫して用いており、控訴人及び被控訴人もそれを是認してきたということが できる。しかし、被控訴人が上記のような意味合いを持つ「總本舗」を「守半」に 結合させた「守半總本舗」の商号や標章を用いた場合、取引者、需要者に対し、あ たかも被控訴人が三者の中で新たに「本店」としての地位を獲得したかのような印 象を与えることとなり、平成18年以前に長年にわたって構築されていた三者の関係性を変質させるものといえる。\nそうすると、被控訴人によって平成18年以降、開始された「守半總本舗」の商 号・標章の使用は、本件商標権の取得以前から、長年にわたってEや被控訴人によ って行われてきた「守半」標章の使用とは、社会通念上、同一に考えることはでき ない。
(イ) 被控訴人は、「守半總本舗」という商号や標章の使用について、「本店」であ る補助参加人の当時の代表者であるAから承諾を得たと主張するが、Aはその事実を否定しており、また、被控訴人代表\者は、原審において上記主張に沿う供述をしたものの、Aから承諾を得た時期という重要な点について供述内で変遷しており、 直ちに信用することができない。また、補助参加人が異議を述べなかったというこ とから直ちに承諾があったと認めることはできない。そうすると、被控訴人の上記 主張は採用できない。 そして、仮に「守半總本舗」の使用について補助参加人の承諾があったとしても、 そのことから直ちに、被控訴人による「守半總本舗」の使用に対する本件商標権の 行使が権利濫用になるということはできない。
すなわち、「守半」の標章は守屋半助の開業した守半本店の事業に起源を持つも のであり、補助参加人は、守半本店の事業を承継したものであるが、「守半」標章 の知名度や信用が、需要者や取引者から見て、守屋半助の開業以来、三者の中で終 始、守半本店(補助参加人)にのみ集中的に帰属するような状況にあったのかは証 拠上必ずしも明らかではない。むしろ、前記(1)ク及び前記ア(ア)のとおり、控訴人 や被控訴人が、独自の立場で営業を行い、それによっても「守半」標章の知名度や 信用が蓄積されてきたと考えられることからすると、補助参加人が、控訴人ら及び 被控訴人の三者内において「守半」標章の使用許諾をする法的権限を、守半本店の 事業を承継したとか、代表者と守屋半助との間に血縁関係があるといった理由のみによって永続的に保持すると解するのは相当ではなく、平成18年当時、三者の中\nで補助参加人がそのような特別な権限を持っていたというためには、その時点にお いて、「守半」標章の知名度や信用が、需要者や取引者から見て、補助参加人にの み集中的に帰属するような状況にあったか、三者間で補助参加人がそのような権限 を持つことが明示又は黙示に合意されていたか、控訴人及び被控訴人が、補助参加 人が「守半」標章の使用を第三者に許諾することに同意していたなどの事情を要す るものと解されるところ、上記当時、これらの事情があったと認めるに足りる証拠 はない。
そして、前記(1)エ、オ、ク及び前記ア(ア)のとおり、三者がそれぞれの立場から 営業活動を行って「守半」標章の知名度と信用の獲得に貢献しているという客観的 状況があり、かつ、控訴人が昭和55年に本件商標権を取得しており、被控訴人が 遅くとも平成18年11月頃までには控訴人が本件商標権を取得していることを認 識していたこと、その頃、控訴人が被控訴人に対し、「守半總本舗」の使用に関し て異議を述べていたことからすると、被控訴人が「守半總本舗」の使用について、 本件請求における不法行為期間(対象期間)の始期である平成20年以降も継続す るためには、補助参加人の承諾のみでは足りず、商標権者たる控訴人の承諾も得る べきであったと解すべきである。しかし、前記(1)エ(エ)のとおり、被控訴人は、控 訴人の承諾を得ることなく、「守半總本舗」の使用を継続したものであった。

◆判決本文

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令和3(ワ)9530  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年11月28日  大阪地方裁判所

 構成要件Dの文言を明細書の記載および出願経過から解釈して、技術的範囲に属しないと判断されました。本件特許は被告から無効審判が請求されていますが、2022/10に無効理由なしと判断されています。本件特許は以下です。 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4147314/9DA3CF246CABBD54ECA004CE5C9280CC8FA3C996CFE302513456B34A2B98AF46/15/ja

(2) 「中央部が突出する概略円錐状」の意義について
ア 構成要件Dは、「該複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に形成されている」と規定しているところ、「該複数のコニカルビット群」とは、3条の螺旋翼の先端部に固着された複数のホルダに取り付けられたコニカルビットを指す(構\成要件C)から、構成要件Dは、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビットのみにより、中央部が突出した概略円錐状に形成されていることを要すると解される。その他、本件発明に係る請求項において、「中央部が突出する概略円錐状」に関する記載はない。\n
イ 本件明細書には以下の内容が示される。
従来の掘削ヘッドは、複数の小形ビットが台金に固着されていたので、掘削中 に岩石等に当たった際、刃先が逃げることができず、損傷を受けやすいという問 題点や掘削によって生じた繰粉が穴底からうまく排出されにくいという問題点 があった(【0003】)。このような問題点を解決するものとして、直径方向に対 向するように設けられた2条の螺旋翼を有する掘削刃の螺旋翼の周縁部及び下 端に多数の小形ビットを取り付けたスクリューオーガ用掘削刃がある。これには、 軸回りに回転自在な小形のビット(コーン刃)が設けられていて、岩石等に当た った時に当該コーン刃が回転して逃げることができるため、損傷しにくいという 利点があるが、2条の螺旋翼が直径方向に対向するように設けられ、これら2条 の螺旋翼にそれぞれ設けた小型ビットで掘削を行うものであるから、掘削中に岩 石等に遭遇したときは、2条の螺旋翼に設けたビットが当該岩石に当たるたびに 断続的な衝撃を受け、スクリューオーガ装置全体が上下に振動して、円滑な掘削 ができなくなるおそれがあるほか、螺旋翼自体が先端側の外径が小さくなるよう に全体として円錐状の尖った形状となっているので、芯ぶれにより、掘削される 穴が曲がりやすいというおそれもある(【0004】)。本件発明は、掘削中に岩石 等に当たってもビットの刃先が損傷しにくく、断続的な衝撃をうけにくく、しか も穴曲がりが生じにくい掘削ヘッドを提供することを目的とし、基部がスクリュ ーオーガロッドに取り付けられる基軸の外周部に、外径の等しい3条の螺旋翼が 設けられ、これら3条の螺旋翼の先端部に固着された複数のホルダに、円錐状の 尖った刃先部を有する複数のコニカルビットが軸回りに回転自在にそれぞれ取 り付けられ、該複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に 形成されていることを特徴とする構成をとるものである(【0005】【0006】)。 3条の螺旋翼が並列に設けられていることにより、掘削中に岩石等の掘削しにく い物体に当たっても、断続的な衝撃が比較的小さくてすむようになるとともに、 胴部における3条の螺旋翼の外径をほぼ一定にしておくことにより芯ぶれが生 じにくくなる結果、穴曲がりが少なくなるという効果を奏するものである(【0006】 【0007】【0020】)。これらの本件明細書の記載内容に加え、図面(【図1】〜 【図4】)に照らすと、外径の等しい3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複 数のコニカルビット群により、「中央部が突出する概略円錐状に形成されている こと」の技術的意義は、胴部における3条の螺旋翼の外径を変えることなく、該 複数のコニカルビット群により、基軸先端方向に向かって径が小さくなる円錐状 の形状にすることで、穴曲がりが生じることを防ぎつつ、掘削効率を高めること にあるものと認められる。 また、本件明細書には、発明の実施形態に関して、「小型ビット20,…は、 それぞれが取り付けられている螺旋翼10の傾斜方向にほぼ沿うように傾けて 設けられている。また、前記ヘッド15には複数(図示例では3個)の小型ビッ ト20,…が設けられていて、掘削ビットの先端部は、これら小型ビット群によ って側面視概略円錐状を呈している。」(【0011】)、「掘削ヘッド1の先端部 には、全体形状が概略円錐状となるように多数のコニカルビット20,…が設け られているので、これらビットにより効率よく掘削が行われる。」(【0016】) との記載もある。
ウ 証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成19年7月3 日付けの拒絶理由通知書(乙1)により、特許庁から、本件発明は、引用発明1 及び2に基づき進歩性を欠くとの拒絶理由を通知されたことに対し、構成要件D\nに該当する部分を付加して補正した上で、意見書(乙2)において、引用発明1 は、螺旋翼が2条で、円周方向における螺旋翼同士の間隔が大きく、ヘッド先端 部のビットの密度が低くなり、しかもヘッド先端部のビットの先端はほぼ同一平 面状に位置していて、仮想先端面が平板状を呈しているのに対し、本件発明は、 3条の螺旋翼の先端部に複数のコニカルビットが取り付けられ、ヘッド先端部が、 全体として中央部が突出する概略円錐状の外形に形成されているから、引用発明 1と本件発明とは構成が大きく相違している旨を主張したことが認められる。\nこのような出願経過に照らすと、原告は、構成要件Dに該当する部分を付加し\nて補正することで、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビッ トにより、ヘッド先端部が全体として中央部が突出する概略円錐状の外形である ことを特定したものと解される。
エ 前記アないしウのとおり、構成要件C及びDの文言、本件明細書の内容、\n「中央部が突出する概略円錐状に形成されていること」の技術的意義、出願経過 に照らすと、「中央部が突出する概略円錐状」とは、3条の螺旋翼の先端部に取 り付けられたコニカルビットのみにより、側面視を含む全体形状において基軸先 端方向に向かって径が小さくなる円錐状をしていることを意味しているものと 解するのが相当である。本件明細書には、発明の実施形態として、3条の螺旋翼 の先端側に、概略円錐状のヘッド15が、基部を基軸2に固定されており、ヘッ ド15に取り付けられた小型ビットを含む小型ビット群が側面視概略円錐状を 呈しているものが示される(【0011】)ことから、発明の実施形態には、3条の 螺旋翼の先端部に取り付けられたコニカルビットが側面視を含む全体形状にお いて基軸先端方向に向かって径が小さくなる円錐状をしており、かつ、ヘッド1 5に取り付けられた小型ビットを含む小型ビット群が側面視概略円錐状を呈す る形態を含むものと解する余地があるが、前記アの構成要件C及びDの文言に照\nらすと、「中央部が突出する概略円錐状」の上記解釈は左右されない。
(3) 被告各製品について
ア 被告製品1
争いのない事実、証拠(甲5、乙10の1〜3)及び弁論の全趣旨によれば、 被告製品1は、その3条の螺旋翼20の先端部に設けられた3〜4基のコニカル ビット30により、側面視(基軸10先端方向を上に向けた場合。以下同じ。) において、中央部が平坦又は間隙のある、浅いハ字状に線が描かれていること、 全体形状として、基軸10から放射状に3本の緩やかな曲線(ほぼ直線)が描か れていることが認められる。
・・・
カ 以上のとおり、被告各製品の3条の螺旋翼の先端部に取り付けられたコニ カルビットは、いずれも、側面視を含む全体形状において、直線、緩やかな曲線 又は点を形成するにすぎず、同コニカルビットのみにより、基軸先端方向に向か って径が小さくなる円錐状を形成しているとはいえず、構成要件Dを充足すると\nは認められない。
(4) 原告の主張について
原告は、「中央部が突出する概略円錐状」とは、効率よく安定した掘削を行う という本件発明の技術的意義を有するか、これと同一の作用効果を奏するもの、 すなわち、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビットが「概 略錐面状」に並んで配置されることを意味し、当業者は、本件明細書の記載から そのように理解する旨を主張し、当業者の認識や技術常識を裏付ける証拠として、 公開特許公報(甲23の1〜12)、パンフレット等(甲24の1〜3)、アン ケート結果(甲25の1〜8)、大学教授の意見書(甲28の1、29の1)を 提出する。
しかし、前記(2)のとおり、構成要件Dは「該複数のコニカルビット群により、\n中央部が突出する概略円錐状を形成」と規定しており、本件明細書や出願経過等 をみても、コニカルビットが概略錐面状に並んで配置していることと解すべき記 載等はないから、同構成要件を充足するには、コニカルビット群のみにより、(中\n央部が突出する)概略円錐状を形成する必要がある。 原告は、前記各証拠は、回転式の土木用掘削ヘッドにおいて、コニカルビット、 掘削刃などの掘削ビット類の配列、又は複数の掘削ビット類の全体形状を、当業 者は「概略円錐状」と表現することを示すものである旨述べる。しかし、原告が\n提出する公開特許公報(甲23の1〜12)に係る特許の中には、本件特許の出 願後に出願又は公開されたものが含まれており、それらは本件特許出願時の当業 者の認識を裏付けることにはならない。この点は措くとしても、これらの公報の 内容は、掘削爪等の配置、スクリュー刃全体、ヘッドの先端やヘッド部分全体、 掘削面や地盤改良体等の形状が、それぞれ円錐状であるなどと個別に特定するも のであり、これらの公報全体をみても、回転式の掘削ヘッドにおいて掘削ビット 類の配列や全体形状が一般的に「概略円錐状」と表現されているとは認められな\nい。そして、少なくとも、これらの公報の中に、被告各製品のようにコニカルビ ット(3条の螺旋翼の先端部に取り付けられたもの)が並んでいる形状を指して (中央部が突出する)概略円錐状と表現することを示すものはない。また、パン\nフレット等(甲24の1〜3)には、「円錐ヘッド」や「円錐型ヘッド」として、 螺旋翼の外周部から中心軸に近づくにつれてビットが先端に向かって高い位置 に取り付けられている掘削ヘッドの写真が掲載されているものの、どの部分を指 して円錐形状と表現しているかについては明らかでないし、被告各製品のように\nコニカルビットが並んでいる形状そのものを指して概略円錐状と表現するもの\nとも認められない。さらに、アンケート結果(甲25の1〜8)については、8 名の回答者の中に本件特許の発明者や同発明者の出身会社の代表者、原告と何ら\nかの取引関係があると考えられる者が含まれている(甲25の1、2、8、弁論 の全趣旨)など、アンケート対象者の中立性等に疑義があることに加え、質問の 形式も、被告各製品の螺旋翼先端部のコニカルビット群の形状をどう表現するか\nと問うのではなく、「「螺旋翼先端部のコニカルビット群」を見て「(概略)円 錐状」と認識できますか?」と一定の結論を示唆するものであって、適切とは言 い難い。回答者は、当該質問に対して、いずれも「できる」と回答しているもの の、その理由として、「ビットの高さが違う」「外側より先端部の方が飛び出し ている」「掘削後円錐に断面がなる」「写真より(中略)円錐形状を推定・想像 が行える」「日本テクノ製のコニカルヘッドと認識した」などとコメントしてお り、コニカルビットが並んでいる形状を概略円錐状と表現した趣旨か否かが不明\nである回答が含まれているほか、理由の説明内容が区々であり、このアンケート 結果から、当業者が一般的に被告各製品のようにコニカルビットが並んでいる形 状を(中央部が突出する)概略円錐状と認識するものと理解することは困難であ る。そして、大学教授の意見書のうち、甲第28号証の1には、ヘッドが回転し たときにどのような軌跡を描いているかを立体的にイメージすれば、ビットの軌 跡でトレースされる立体的形状が円錐状に近い形になることが指摘されている が、「複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に形成され ている」(構成要件D)ことに、「回転する複数のコニカルビット群の軌跡によ\nり、中央部が突出する概略円錐状に形成されている」ことを含むと解釈すること は文理に沿わないし、当業者が一般的に、掘削ヘッドの「複数のコニカルビット 群」との文言から、その形状(配置)をヘッドが回転したときの軌跡でイメージ することを裏付ける資料もない。甲第29号証の1には、「概略円錐状」とは、 数学的(幾何学)な意味での円錐ではなく、中央が尖った錐状立体に近い概形を 意味していることが指摘されているが、その根拠は不明である。
以上から、原告が提出する証拠は、いずれも回転式の土木用掘削ヘッドにおい て、掘削ビット類の配列又は全体形状を、当業者が「概略円錐状」と表現するこ\nとを示すものとはいえず、被告各製品のようにコニカルビット(3条の螺旋翼の 先端部に取り付けられたもの)が並んでいる形状を、当業者が一般的に(中央部 が突出する)概略円錐状と理解することを裏付けるものでもないから、原告の前 記主張は採用できない。

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令和4(ネ)10067等  損害賠償請求控訴事件,同附帯控訴事件  商標権  民事訴訟 令和4年11月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は 商標権移転手続につて、元代表取締役の被告がかってに行った手続によって生じた損害として、百貨店のカタログに掲載ができなかったことによる売上減少が相当因果関係ありと認定され、約960万円の損害を認めました。知財高裁は、約590万円に変更しました。

「ウ もっとも、前記1(3)オ並びに証拠(甲69、原審証人B・5頁及び6頁) 及び弁論の全趣旨を総合すると、櫻山及び被控訴人は、平成29年1月15日に代 表取締役を退任した控訴人からの引継ぎが十\分でなかったことなど、「商標登録の 問題」とは別の理由で、同年の御歳暮に係る商品を始め平成30年の御中元の前の 時期までの商品につき、これらをカタログ等に掲載してもらうことができず、「商 標登録の問題」を理由としてカタログ等への掲載が拒否された商品は、同年の御中 元以降のものであると認められる。そうすると、三越伊勢丹が被控訴人の商品をカ タログ等に掲載しなかったことによる被控訴人の逸失利益の計算上の始期は、同年 5月1日とするのが相当である。 被控訴人は、上記逸失利益の計算上の始期は平成30年1月1日であると主張す るが、上記のとおりであるから、これを採用することはできない。
エ 以上のとおりであるから、控訴人及びAが共同して本件申請をした結果として三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載しなかったことにより被控訴人\nに生じた損害(逸失利益)の額は、合計448万円(平成30年5月1日から令和 元年8月31日まで月額28万円)であると認められる。」
・・・
また、控訴人は、上記2)のとおり主張するが、上記のとおり、一般に、百貨店の カタログを利用した販売や百貨店のインターネット販売サイトを利用した販売にお いては、販売費及び一般管理費が低廉なものに抑えられると考えられ、また、証拠 (甲67、乙イ44)及び弁論の全趣旨によると、櫻山の売上げのうちの9割以上 が三越伊勢丹に係る売上げによって占められるところ、三越伊勢丹に係る櫻山の売 上げのうちカタログ等に掲載された商品に係る売上げが占める割合は、わずか数% であると認められ、これらの事情に照らすと、仮に、カタログ等に掲載された商品 に係る櫻山の営業利益率が決算報告書(乙イ33)から算定される櫻山の全体の営 業利益率を上回るとしても、直ちに不合理であるとはいえない。 以上のとおりであるから、カタログ等に掲載される商品について被控訴人に生じ た営業上の損害(逸失利益)の額を算定するに当たっては、その基礎収入の額を甲 65に記載された額に基づいて算定するのが相当である。
(6) 控訴人は、前掲最高裁令和2年4月7日第三小法廷判決は本件の控訴人の ような立場の者にも当てはまるとして、本件訴訟において、被控訴人が別件訴訟に おける費用(印紙、郵券及び仮処分登録免許税に係る費用。以下「別件費用」とい う。)を損害として主張することは許されないと主張する。 しかしながら、控訴人は、Aと連帯して、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)により被控訴人に生じた損害を賠償する責任を負うところ、補正して引用する\n原判決第4の3(2)イにおいて説示したとおり、被控訴人は、別件訴訟の当事者で ない控訴人を相手方として、別件費用を訴訟費用等の確定処分を経て取り立てるこ とができないのであるから、上記最高裁判決が別件訴訟の当事者でない控訴人にも 当てはまると解するのは相当でない。
控訴人は、控訴人があずかり知らない別件訴訟において発生した別件費用を控訴 人が負担するとなると、控訴人に予測できない負担が発生するとも主張するが、控訴人は、Aと共同して本件申\請をし、これにより、本件各商標権について櫻山からAに対する商標権移転登録がされたのであるから、その結果、被控訴人が、本件各 商標権に係る処分禁止の仮処分命令の申立て及び執行や、本件各商標権に係る商標権移転登録抹消登録手続請求訴訟の提起等を余儀なくされるのは当然のことである。\nしたがって、別件費用に係る被控訴人の損害は、控訴人及びAの共同不法行為(本 件申請)と相当因果関係のある損害であって、控訴人に別件費用の支払義務を負担させることは、控訴人に予\測できない負担を負わせるものではない。また、控訴人は、控訴人が本件訴訟において別件費用を負担するとなると、Aも 本件訴訟において別件費用を負担することになり、上記最高裁判決を潜脱すること になると主張するが、控訴人が本件訴訟において別件費用を負担することは、Aも 本件訴訟において別件費用を負担することを意味しない。 さらに、控訴人は、被控訴人はAにつき別件訴訟に係る訴訟費用等の確定処分を 経て別件費用に係る債務名義を取得することができるのであるから、控訴人につい てまで別件費用に係る債務名義を取得できるとなると、被控訴人が債務名義を二重 に取得することになって不当であるとも主張するが、共同不法行為に基づいて不真 正連帯債務を負う複数の者について、同一の損害に係る複数の債務名義が存在する ことは、何ら不当なことではない。

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◆令和2(ワ)14627

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令和4(ネ)10008  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年11月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明の侵害訴訟の控訴審判断です。1審は技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断しました。知財高裁も同じです。なお、二審第1回口頭弁論期日においてした訂正の再抗弁は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下されました。

(4) 控訴人らによる訂正の再抗弁の主張について
当裁判所は、令和4年9月22日の当審第1回口頭弁論期日において、控訴人らが同月5日付け控訴人ら第4準備書面に基づいて提出した訂正の再抗弁の主張について、被控訴人の申立てにより、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが、その理由は、以下のとおりである。\n
ア 一件記録によれば、1)被控訴人は、令和元年12月19日の原審第1回弁論準備手続期日において、本件発明5に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点4−1及び4−3)等が存在するとして無効の抗弁を主張し、令和3年7月20日の原審第3回弁論準備手続期日において、本件発明1に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由が存在するとして無効の抗弁を追加して主張したこと、2)その上で、控訴人らが、同年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述した後、同日、原審が、口頭弁論を終結し、同年12月9日、被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めて控訴人らの請求を棄却する原判決を言い渡したこと、3)その後、控訴人らは、当審において、令和4年7月21日に書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったことが認められる。
イ 以上を前提に検討するに、本件特許権の侵害論に関する抗弁の主張は、本来、原審において適時に行うべきものであるところ、控訴人らは、原審において、令和3年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述するまでの間に、当審で主張する訂正の再抗弁の主張をしなかったものである。加えて、控訴人らは、原審が原判決において被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めた判断をしたにもかかわらず、当審における争点整理手続においても、書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったものであることからすると、当審における上記訂正の再抗弁の主張は、控訴人らの少なくとも重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるというべきである。そして、当審において、控訴人らに訂正の再抗弁の主張を許すことは、被控訴人に対し、上記主張に対する更なる反論の機会を与える必要が生じ、これに対する控訴人らの再反論等も想定し得ることから、これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。そこで、当審は、民事訴訟法297条において準用する同法157条1項に基づき、控訴人らの訂正の再抗弁の主張を却下したものである。

◆判決本文

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◆令和1(ワ)25121

本件特許の審決取消訴訟です。

◆令和3(行ケ)10027

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令和4(行ケ)10041  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年10月31日  知的財産高等裁判所

 御守りと記載された御守りの図形商標について、文字商標「おまもり」などの先願有りといして拒絶された審決の取消を求めました。知財高裁は、審決の判断を維持しました。ぐるなびが出願人で、指定商品・役務は35類小売など、39類輸送、41類娯楽情報の提供などです。

原告は、前記第3の 1 のとおり、本願商標の構成中の「御守」の文字は\n御守の内容・種類を表しているにすぎず、全体的なデザインとともに一体的\nに把握されるものであるから、本願商標がその指定役務に使用される場合、 本願商標からは役務の出所識別標識としての「オマモリ」の称呼及び「御守」 の観念は生じない旨主張する。 しかしながら、前記1(1)のとおり、御守袋の上に「御守」と表示されてい\nる本願商標は、御守袋の形状の図案それ自体からして、「御守」の観念を生じ、 「オマモリ」の称呼が生じるものといえるところ、その表面の「御守」の文\n字は、その表面中央にあって文字として記載され、かつ、文字としてはその\n記載しかない以上は、当然のこととして、当該御守袋が何であるかを示すも のというべきであり、そこからも「御守」の観念を生じ、「オマモリ」の称呼 が生じることは明らかである。そして、本願商標に係る指定役務のうち、少 なくとも、おむつ、食品、化粧品、ペット用品、ベビーオイル等を含む第3 5類の商品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 (以下「小売等役務」という。)について、御守が、これら商品の小売等役務 の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法又\nは時期その他の特徴、数量又は価格と関連性を有することは想定できないか ら、上記のように本願商標から生じる「御守」の観念や「オマモリ」の称呼 が本願商標の当該指定役務の内容、対象そのものを示すものとは理解されな い。 このように本願商標から生じる「御守」の観念や「オマモリ」の称呼が本 願商標の当該指定役務の内容、対象を示すものとはいえない以上は、これら の観念や称呼が役務の出所識別標識として生じる可能性を否定することはで\nきないから、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 商標の類否判断の誤りの主張について
本願商標の構成全体から格別の称呼、観念が生ずることはないことを前提\nとする原告の主張(前記第3の 1 ア)については、その前提に誤りがある ことは前記のとおりであるから、採用することができない。 次に、原告は、前記第3の 1 イのとおり、仮に、本願商標から「オマモ リ」の称呼、護符(御守)の観念が生じたとしても、本願商標は、全体とし て「白色の二重叶結びの紐を有し、ピンク色の桜の花弁模様を配し、『御守』 の文字を御守袋の表面に表\した赤色の御守」との印象を強く抱かせるもので あるから、本願商標と引用商標の外観上の顕著な相違から看取できる印象は、 称呼及び観念から看取できる印象を凌駕している旨主張する。
しかしながら、本願図形部分である、「白色の二重叶結びの紐、ピンク色の 花弁模様及び赤色の色彩」のうち、「白色の二重叶結びの紐」は御守袋の特徴 にほかならず、また、「ピンク色の花弁模様及び赤色の色彩」は御守袋として は格別印象に残るような形状・色彩を有するものではないから御守袋を構成\nする地模様と認識されるのがせいぜいのところであり、それらが単独で看者 に強い印象を与えるものではない。 そうすると、本願商標から生じる「オマモリ」の称呼及び護符(御守)の 観念が本願図形部分から看取できる印象に凌駕されることはない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 指定商品・指定役務の類否判断の誤りの主張について
原告は、引用商標1の指定商品の製造・販売と小売等役務の提供が同一事 業者によって行われていることは通常とまではいえないから、引用商標1の 指定商品を同指定商品に係る小売等役務を提供する事業者が製造又は販売す る商品であると誤認するおそれがあるとはいえない旨主張する。 しかしながら、ある製品の製造業者が当該製品の販売場を持つなどして、 当該販売場を置くとともに、同時に、顧客に対する当該製品の品揃え・陳列、 接客等のサービスを提供するなどして小売等役務の提供場所とし、当該製品 の販売行為を促進して最終的には当該製品の販売行為により収益を上げよう とすることは、自然な商業的取引の在り様といえ、これと異なる特殊な事情 がない限りは、通常行われることと推認されるものというべきである。
そして、引用商標1の指定商品について、その製造・販売と小売等役務の 提供が別事業者によって行われていることが通常であるとするような特殊な 事情は本件証拠からは認められず、かえって、本願商標の指定役務である「菓 子、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、ホットド ッグ、ミートパイ」の小売等役務に係る商品と、これに類似する引用商標1 の指定商品である「菓子(甘栗・甘酒・氷砂糖・みつまめ・ゆであずきを除 く。)、パン」について、自社工場を持つ営業主がそれら製品を自社店舗で販 売するなど、その製造販売と小売等役務が同一営業主によって行われること がよくあるとの実情は公知の事実ともいえ、被告からも、その一例の指摘が ある(乙11ないし17)。

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令和3(行ケ)10163  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月29日  知的財産高等裁判所

 新規事項違反、進歩性違反の無効理由無しとした審決が維持されました。

一方で、本件明細書には、加工対象物の「シリコンウェハ」の表面又は\n裏面に溝が形成されていることについての記載や示唆はない。また、図1、 3、14及び15には、「切断予定ライン5」が示されているが、切断予\定 ライン5に沿った溝の記載はない。 そして、1)甲36(SEMI規格「鏡面単結晶シリコンウェハの仕様」) には、「6.1 標準ウェーハの分類」に「6.1.1.それぞれ標準化さ れたウェーハの寸法、許容寸法及びフラット・ノッチの特性は表3から表\ 9にて分類されている。」との記載があり、「6.1.2」には寸法等の特 性の異なる「鏡面研磨単結晶シリコンウェーハ」及び「鏡面単結晶シリコ ンウェーハ」(分類1.1ないし1.16.3)が掲載され(18頁)、「6. 9 表裏面目視特性」に「ウェーハは、発注仕様に規定された測定可能\な (目視または他の方法による)ウェーハの表裏面の品質要求をみたさなけ\nればならない。」、「表12 鏡面ウェーハ欠陥限度」の「2.8.11 く ぼみ」の項目の「最大欠陥限度」欄には「なし」との記載があること(4 1頁〜42頁)、2)「LSIに用いられるウェーハ表面は無ひずみで凹凸の\nない鏡面であることが必要であり…このような鏡面ウェーハは…鏡面研 磨することによって得られる」こと(「半導体用語大辞典」360頁))か らすると、本件優先日当時、半導体材料に用いられる標準仕様のシリコン ウェハは、単結晶構造であり、その表\面及び裏面に凹凸のない平坦な形状 であることが、技術常識であったことが認められる。 以上の本件明細書の記載(図1、3、14及び15を含む。)及び本件優 先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物: シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準\n仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凹凸のない平坦な形\n状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラ インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明で ある。
そうすると、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合すること により導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入す るものといえないから、本件明細書に記載した事項の範囲内にしたものと 認められる。 したがって、本件訂正事項は、新規事項を追加するものではなく、特許 法134条の2第9項で準用する同法126条5項に適合するとした本 件審決の判断に誤りはない。
イ これに対し、原告は、1)本件明細書には、「シリコン単結晶構造部分に前\n記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の明示\n的な記載がなく、その示唆もないのみならず、溝を形成するかしないか、 形成するとしてどこに、どのように形成するかといった観点からの記載も 示唆もないし、本件明細書を補完するものとして、図面を見ても、「シリコ ン単結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿った溝が形成されていない シリコンウェハ」が記載されているのと同視できるとする根拠も見当たら ない、2)本件明細書の【0027】には、「加工対象物がシリコン単結晶構\n造の場合」との記載があるだけであり、「シリコン単結晶構造部分に前記切\n断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の記載はな\nく、また、図1ないし4に示す「加工対象物1」が「シリコンウェハ」で あるとしても、どの部分が「シリコン単結晶構造部分」にあたるのか不明\nであり、「シリコン単結晶構造部分」が切断予\定ライン5に沿って存在する のかも不明である、3)【0033】は、「シリコンウェハは、溶融処理領域 を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコン ウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。」と記載\nしているだけであり、シリコンウェハの切断部位の形状(溝の有無)に関 係なく、溶融処理領域(改質領域)を起点としてシリコンウェハが切断で きるものであることの記載はないとして、本件訂正事項は新規事項を追加 するものでないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、前記アで説示したとおり、本件明細書の記載及び本件優 先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物: シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準\n仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凸凹のない平坦な形\n状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラ インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明で あり、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合することにより導 かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものと いえない。原告の挙げる1)ないし3)は、いずれも、上記判断を左右するも のではない。

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令和4(ネ)10033  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年11月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 著作権侵害に関する発信者情報開示請求事件です。1審は、ツイート時のログイン時のIPアドレスに加えてそれ以外のツイート時のIPアドレスも、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断しました。これに対して、知財高裁は、「本件各投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのIPアドレスを使用して情報の送信がされた年月日及び時刻の情報を求める限度で理由有り」と、変更しました。

法4条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通によって権利の 侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密\nに配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通 信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求す ることができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の\n権利の救済を図ることにあると解されること(最高裁平成21年(受)第1 049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照) に鑑みると、法4条1項の委任を受けた省令1号ないし8号の規定は、開示 の対象となる「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を限定的に列挙した ものと解される。以上を前提に、本件ログイン時IPアドレス等が省令5号及び8号に該当するかどうかについて判断する。
(2) 認定事実
前記前提事実と証拠(甲32、58ないし63)及び弁論の全趣旨によれ ば、以下の事実が認められる。
ア 本件各投稿の日時
本件投稿1は、令和2年11月12日午前7時52分にアカウント1を 利用して、本件投稿2は、同月7日午前4時57分にアカウント2を利用 して、本件投稿3は、同年12月18日午後7時3分にアカウント3を利 用して、本件投稿4は、同日午前10時35分にアカウント4を利用して、 本件投稿5は、令和3年3月7日午後5時52分にアカウント5を利用し て、ツイッターのウェブサイトにそれぞれ投稿された。
イ 本件訴訟に至る経緯等
(ア) 被控訴人は、令和2年11月17日、アカウント1について、控訴 人を債務者とする発信者情報開示仮処分の申立て(東京地方裁判所令和\n2年(ヨ)第22121号)をし、令和3年2月17日、アカウント1 にログインした際のIPアドレスのうち、本件投稿1の直前のログイン 時以降、控訴人が保有するIPアドレス及びそのタイムスタンプの全て の開示を命じる仮処分決定(以下「本件仮処分決定1」という。)がされ た。その後、控訴人は、本件仮処分決定1につき本案の起訴命令の申立\nてをし、同月25日、起訴命令が発せられた。 また、被控訴人は、アカウント2ないし4について、控訴人を債務者 とする発信者情報開示仮処分の申立て(令和2年(ヨ)第22125号)\nをし、同年3月2日、控訴人が保有するログイン情報のうち、侵害情報 の投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのタイムスタンプの開示 を命じる旨の仮処分決定(以下「本件仮処分決定2」という。)がされた。 その後、控訴人は、本件仮処分決定2につき本案の起訴命令の申立てを\nし、同月29日、起訴命令が発せられた。
(イ) 被控訴人は、前記(ア)の各起訴命令を受けて、令和3年3月3日、 原審に本件訴訟を提起した。その後、被控訴人は、同年10月12日、 アカウント5について、発信者情報の開示を求める訴えの追加的変更を した。
(ウ) 被控訴人は、本件仮処分決定1に基づき、間接強制決定を求める申\n立てをし、同月19日、間接強制決定がされた。 また、被控訴人は、本件仮処分決定2に基づき、間接強制決定を求め る申立てをし、同月24日、間接強制決定がされた。\n
(エ) 原審は、令和3年11月9日、口頭弁論を終結し、令和4年1月2 0日、原判決を言い渡した。 その後、控訴人は、同年3月4日、本件控訴を提起した。
(オ) 控訴人は、令和4年5月26日、被控訴人に対し、アカウント1に ついて、本件投稿1の直前のログイン時(日本時間令和2年11月12 日午前7時44分49秒)以降、令和4年5月24日午後3時49分5 0秒までのログイン情報に係るIPアドレス及びタイムスタンプを、ア カウント2ないし4について、本件投稿2ないし4のそれぞれ直前のロ グイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(アカウント2につき令和 2年11月7日午前4時46分29秒時、アカウント3につき令和2年 12月18日午前8時54分54秒時、アカウント4につき令和2年1 2月18日午前8時54分9秒時の各IPアドレス)を開示した。
(3) 本件ログイン時IPアドレス等の省令5号及び8号該当性について ア 省令5号及び8号の意義について (ア) 1)前記(1)のとおり、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アド レス」は、「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を類型化したもの であること、2)前記(1)の法4条の趣旨に照らすと、被害者の権利行使 の観点から、開示される情報の幅は広くすることが望ましいが、一方で、 発信者情報は個人のプライバシーに深く関わる情報であって、通信の秘 密として保護されるものであることに鑑みると、被害者の権利行使にと って有益であるが不可欠ではない情報や開示することが相当とはいえ ない情報まで開示することは許容すべきではないと考えられ、このこと は、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報であっても同様 であること、3)省令5号の「侵害情報に係る」との文言を総合考慮する と、同号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」とは、侵害情報の 送信に使用されたIPアドレス又は侵害情報の送信に関連する送信に 使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために 必要かつ合理的な範囲のものをいうと解するのが相当である。
次に、省令8号の「第5号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた 電気通信設備、…携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定 電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」との文言に鑑み ると、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とは、「省令 5号」の「アイ・ピー・アドレス」を使用して侵害情報の送信又はその 送信に関連する送信がされた年月日及び時刻をいうものと解するのが相 当である。
(イ) これに対し、被控訴人は、1)ツイッターにおいては、そのセキュリ ティの高さからログインした者が発信者であるという蓋然性が極めて高 い状況であり、特定のアカウントにログインしている以上、当該ログイ ンをした者は、発信者と同一人物であることが強く推認されるところ、 法4条の趣旨・規定ぶり、控訴人の提供するサービスの仕組みやセキュ リティの状況からすれば、ログイン情報等の開示において、発信者と投 稿者との主観的同一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求 められていないというべきであるから、ツイッターへのログイン時のI Pアドレス等は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に 該当する、2)本件ログイン時IPアドレス等の全面開示を認めないこと は、被控訴人の知る権利(憲法21条1項、13条、32条)を侵害し 違憲であり、「権利行使を確保するための手続を国内法において確保」し なければならないとするWIPO著作権条約14条2項の要請にも反す るから、憲法適合解釈のもと、法及び総務省令を憲法21条1項、13 条、32条に適合的に解釈し、本件ログイン時IPアドレス等を全面的 に開示すべきである、3)令和4年10月1日に施行される規則において は、投稿前のログアウト情報や投稿後のログイン情報など論理的に投稿 そのものに供された可能性がない通信情報も含めてアカウント開設から\n閉鎖までの全ての情報が理論上開示され得ることが定められ、開示対象 の発信者情報について、侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求め ておらず、通信情報が侵害情報の発信者のものと認められる場合には開 示を肯定する立場をとっていることからすると、規則施行前の省令にお いても、ログイン情報等の開示において、発信者と投稿者との主観的同 一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求められていないと いうべきである旨主張する。
しかしながら、1)及び2)については、法4条1項の委任を受けた省令 1号ないし8号の規定は、開示の対象となる「侵害情報の発信者の特定 に資する情報」を限定的に列挙したものと解されるところ、前記(ア)で 説示したとおり、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」 とは、侵害情報の送信に使用されたIPアドレス又は侵害情報の送信に 関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を 特定するために必要かつ合理的な範囲のものをいうと解するのが相当で あり、また、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とは、 「省令5号」の「アイ・ピー・アドレス」を使用して侵害情報の送信又 はその送信に関連する送信がされた年月日及び時刻をいうものと解する のが相当であるから、ツイッターへのログイン時のIPアドレス等であ れば、省令5号及び8号に該当しないものであっても、法4条1項の「当 該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するということはできない。 そして、前記(ア)のとおり、前記(1)の法4条の趣旨に照らすと、被害 者の権利行使にとって有益であるが不可欠ではない情報や開示すること が相当とはいえない情報まで開示することは許容すべきではないと考え られ、このことは、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報 であっても同様である。
また、控訴人が挙げる憲法の規定やそれらの趣旨を考慮したとしても、 被控訴人に、法律に定められていない発信者情報の開示を求める権利が あると解することもできない。 次に、3)については、ログイン情報に相当する「侵害関連通信」につ いて規定する規則5条柱書によれば、「法第五条第三項の総務省令で定め る識別符号その他の符号の電気通信による送信は、次に掲げる識別符号 その他の符号の電気通信による送信であって、それぞれ同項に規定する 侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」と規定し、ログイン情報 の開示において「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に限定 しており、被控訴人が述べるように、開示対象の発信者情報について、 侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求めておらず、通信情報が侵 害情報の発信者のものと認められる場合には開示を肯定する立場をとっ ているとまでいうことはできない。

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令和4(行ケ)10033  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年11月21日  知的財産高等裁判所

 商標「MIRAI」(指定商品12類「車」など)が、4条1項15号違反かかが争われました。知財高裁は、分割要件を満たさず、出願日遡及無しとした審決を維持しました。出願人は、印紙代無しの大量出願で業界を騒がせた例の人です。商標は最後にあります。デザイン化されており、そもそもMIRAIと読めるのか?等はあります。同項15号は、出願日に該当しなければ適用がないので、分割要件を満たすのか?も争われています。

商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と 他人の表示との類似性の程度、他人の表\示の周知著名性及び独創性の程度、 当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目 的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取 引の実情等に照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普 通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである。 商標法4条1項15号に該当する商標であっても、商標登録出願の時にこ れに該当しなければ、同号は適用されないので(同条3項)、本件において商 標登録出願がいつであるかが問題となる。
この点につき、原告は、前記第3の1(1)のとおり、商標法施行規則22条2 項は違憲違法であり、その結果、本願は商標法10条1項による商標登録出 願の要件を満たすものとなり、同条2項が規定する出願日遡及の効果が生ず るから、本件における出願日は、原々商標登録出願がされた平成26年9月 8日になる旨主張するので、以下検討する。
商標法10条1項は、「商標登録出願人は、商標登録出願が審査、審判若し くは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の 審決に対する訴えが裁判所に係属している場合であって、かつ、当該商標登 録出願について第76条第2項の規定により納付すべき手数料を納付してい る場合に限り、2以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登 録出願の一部を1又は2以上の新たな商標登録出願とすることができる。」 と定めている。
このように、分割出願においては、もとの商標登録出願の指定商品等を2 以上に分けることが当然の前提となっているから、もとの商標登録出願と分 割出願で指定商品等が重複するのを避けるため、もとの商標登録出願から分 割出願に係る指定商品等を削除する必要がある。 この点につき、平成17年最高裁判決は、「商標法10条は、「商標登録出 願の分割」について、新たな商標登録出願をすることができることやその商 標登録出願がもとの商標登録出願の時にしたものとみなされることを規定し ているが、新たな商標登録出願がされた後におけるもとの商標登録出願につ いては何ら規定していないこと、商標法施行規則22条4項は、商標法10 条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合においては、新 たな商標登録出願と同時に、もとの商標登録出願の願書を補正しなければな らない旨を規定していることからすると、もとの商標登録出願については、 その願書を補正することによって、新たな商標登録出願がされた指定商品等 が削除される効果が生ずると解するのが相当である。」旨説示して、新たな商 標登録出願がされたことにより、当然にもとの商標登録出願が補正されるも のとはいえないことを明らかにしている。そうすると、上記のように、もとの 商標登録出願と分割出願で指定商品等が重複するのを避けるためには、もと の商標登録出願から分割出願に係る指定商品等を削除する補正が必要となる ことは、商標法10条1項自体が想定しているものということができる。 そして、商標法施行規則22条2項は、特許法施行規則30条を準用し、商 標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合におい て、もとの商標登録出願の願書を補正する必要があるときは、その補正は、新 たな商標登録出願と同時にしなければならないとしているところ、これは、 もとの商標登録出願から分割出願に係る指定商品等を削除する必要が生ずる という、同項が想定する事態に対処するものであるというべきであり、上記 最高裁判決も、このような意味で、商標法施行規則22条4項(現2項)が商 標法10条1項に適合することを明らかにしていると理解される。 本件においては、そもそも、本願の商標登録出願時はもとより現在に至る まで、原商標登録出願について、本願に係る指定商品を削除する補正がされ たとは認められず、商標法施行規則22条2項の要件を欠くばかりか、もと の商標登録出願の指定商品等を2以上に分けるという前記 の分割の前提を も欠くものである。そうすると、本願の商標登録出願は、商標法10条1項の 規定による商標登録出願の要件を満たすものではないから、分割出願として 不適法であり、同条2項が規定する出願日遡及の効果は生じないものであり、 これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく、出願時は平成27年9月24日 となる。
2 本願商標の商標法4条1項15号該当性について
(1) 引用商標の周知著名性について
トヨタ社は、平成25年11月20日から同年12月1日に開催された第 43回東京モーターショー2013にトヨタ燃料電池車を出展し(乙98)、 平成26年9月6日付けの日本経済新聞(乙34)では、トヨタ社がトヨタ燃 料電池車の名称を「ミライ」とし、米国の特許商標庁に「TOYOTA MI RAI」を商標登録する手続を進めていることが報じられている。 そして、トヨタ社は、同年11月18日、トヨタ燃料電池車を同年12月1 5日に販売し、その名称は「MIRAI(ミライ)」となる旨発表し、新聞各\n紙やウェブサイトで報じられ(乙4ないし6、35、36等)、これらの記事 のうち、写真が掲載されているものについては、モデル車両のボディやナン バープレートに引用商標が表示されている。\nまた、平成27年1月15日には、自動車関係のウェブサイトでトヨタ燃 料電池車が同年の受注目標400台に対し1500台を受注したことが報じ られ(乙9)、同月23日には、産経新聞で、トヨタ燃料電池車の生産能力を\n平成29年に増強することが報じられており(乙10、91)、その他、本件 出願前に、水素と空気中の酸素が反応して走る環境負荷の低い自動車として、 トヨタ燃料電池車が官邸や地方公共団体に納入されたことが報じられている (乙38、87、89、90)。これらの記事のうち、写真が掲載されている ものについては、モデル車両のナンバープレートに引用商標が表示され、そ\nれ以外のものについては、本文で「MIRAI(ミライ)」の表示があること\nが確認できる。
以上によれば、引用商標は、本願商標の商標登録出願時には、自動車の取引 者及び需要者の間で、トヨタ社の取扱に係るトヨタ燃料電池車を表示するも\nのとして周知著名だったものというべきである。 また、本願商標の指定商品「航空機、航空機の部品及び附属品、鉄道車両、 鉄道車両の部品及び附属品」と引用商標が使用される「燃料電池車」は、人や 物品の輸送を目的とするもので、商品の用途や取引者及び需要者に共通性が あるし、大手企業において多角経営が行われることは一般的であり、トヨタ 社の燃料電池車(MIRAI)の技術を応用した水素で走るハイブリッド鉄 道車両開発をトヨタ社、JR東日本及び日立製作所が進めていること(乙6 3、96)も考慮すると、本願商標の指定商品と引用商標が使用される「燃料 電池車」とは、密接な関連性を有しているといえる。このように、本願商標の 指定商品と引用商標が使用される商品の関連性並びに取引者及び需要者の共 通性が認められるから、本願商標の指定商品の取引者、需要者の間において も、引用商標は、トヨタ社の取扱に係るトヨタ燃料電池車を表示するものと\nして周知著名だったものというべきである。 そして、証拠(乙1ないし3、19ないし22、25ないし33、42ない し87等)によれば、本願商標の商標登録出願日以降も、トヨタ社はトヨタ燃 料電池車に引用商標や「MIRAI」の欧文字等を使用し、「MIRAI」や 「ミライ」の文字は、トヨタ社の取扱に係るトヨタ燃料電池車の名称を表示\nする商標として、新聞やウェブサイトに取り上げられており、上記周知著名 性は、現在に至るまで維持されているといえる。 なお、原告は、前記第3の1(2)のとおり、別件商標が平成25年12月25 日に出願され、その後商標登録されていることからすると、引用商標が、トヨ タ燃料電池車を表示するものとして、平成26年9月7日以前より、需要者\nの間においても広く知られていたとの本件審決の認定は疑わしいなどと主張 する。 しかし、別件商標の存在は、トヨタ燃料電池車が上記出願日及びそれ以降 に周知著名性を有するとの判断を左右するものではないから、原告の主張は、 当を得ないものというほかない。
(2) 本願商標と引用商標の類似性の程度について
ア 本願商標
本願商標は標準文字・ローマ字の「MIRAI」からなり、「ミライ」の 称呼を生じる。 また、本願商標は、日本語の「未来」に由来することが容易に理解でき、 同観念を生じるほか、前記(1)のとおり、引用商標がトヨタ燃料電池車を表\n示するものとして、本願商標の指定商品の取引者及び需要者並びに自動車 の取引者及び需要者の間で周知著名であることから、「トヨタ燃料電池車 のブランド名」の観念も生じる。
イ 引用商標
引用商標は「MIRAI」の文字をデザイン化したものと認識すること ができ、引用商標からは「ミライ」の称呼を生じる。 また、引用商標及び「MIRAI」の文字は、引用商標がトヨタ燃料電池 車を表示するものとして、自動車の取引者及び需要者並びに本願商標の指\n定商品の取引者及び需要者の間で周知著名であることから、「未来」の観念 と共に、「トヨタ燃料電池車のブランド名」の観念も生じる。
ウ 類否
引用商標は「MIRAI」の欧文字をデザイン化したものであるから、本 願商標と引用商標は外観上相紛れるものである。本願商標と引用商標は「ミライ」の称呼を共通にする。本願商標と引用商標は、「未来」及び「トヨタ燃料電池車のブランド名」という観念においても共通する。そうすると、本願商標と引用商標は類似し、その類似性の程度は高いものというべきである。
(3) 混同のおそれについて
以上(1)及び(2)において認定したとおり、引用商標は、本願商標の商標登録 出願日である平成27年9月24日には、本願商標の指定商品の取引者及び 需要者並びに自動車の取引者及び需要者の間で、トヨタ社の取扱に係る燃料 電池車を表示するものとして周知著名であり、現在に至っていること、本願\n商標と引用商標は類似し、その類似性の程度は高いことからすると、本願商 標は、原告がこれをその指定商品について使用した場合、取引者、需要者をし て、引用商標を連想又は想起させ、その商品がトヨタ社あるいは同社と経済 的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのよ うに、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきで ある。

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令和4(ネ)10019  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年10月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、同一性保持権侵害と判断しましたが、知財高裁(2部)は「引用」に該当し、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に該当すると判断しました。リツイート最高裁判決(最判令和2年7月21日)とは結論、逆ですが、あの事件はリツートの元自体の侵害があったので、その意味では、事案が異なります。

イ 控訴人は、前記アの本件被控訴人イラスト1の利用について、「引用」に当 たり適法であると主張するので検討するに、適法な「引用」に当たるには、1)公正 な慣行に合致し、2)報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われ るものでなければならない(著作権法32条1項)。
ウ(ア) 本件ツイート1−1をみると、前記(2)のとおり、乙1の2イラストと本件 被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚とともに、「これどうだろう ww」「ゆ るーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」と の文言が投稿されており、これは、被控訴人作成の本件被控訴人イラスト1が、乙 1の2イラストをトレースして作成されたものである旨を主張するものであって、 本件被控訴人イラスト1を検証し、批評しようとするものであると認められるから、 本件投稿者1が本件被控訴人イラスト1を用いた目的は、批評にあるといえる。
(イ)a 次に、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用方法をみ ると、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせて表示しているも\nの(本件投稿画像1−1−2、1−1−3)と、本件被控訴人イラスト1を含む複 数の被控訴人作成イラストを並べて表示しているもの(本件投稿画像1−1−4)\nがあり、これらの画像が、乙1の2イラストの画像(本件投稿画像1−1−1)と ともに前記(ア)の文言に添付されている。タイムライン上においては、原判決別紙タ イムライン表示目録記載1のとおり表\示されるなどしており、上記4枚の画像デー タは、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様に応じ\nて、その一部のみが表示されているが、各画像をクリックすると、本件投稿画像1\n−1−1〜1−1−4のとおりの画像が表示される。\n
b 本件投稿画像1−1−4は、被控訴人が作成した女性の横顔のイラストを2 枚含むものであるが、この2枚のイラストのうち1枚は本件被控訴人イラスト1で あり、もう一枚は本件被控訴人イラストと複製又は翻案の関係にあるものと認めら れるから、本件投稿画像1−1−4をそのまま、本件投稿画像1−1−1(乙1の 2イラスト)とともに利用することは、イラストの類似性を検証するために必要で あり、かつ、文章のみで表現するよりも客観性を担保できる態様で利用されている\nということができる。
c 本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、乙1の2イラストと本件被控訴 人イラスト1を重ね合わせた画像であるが、2枚のイラストないし画像の類似性を 検討するに当たり、2枚のイラストを、それぞれのイラストが判別可能な態様で重\nね合わせ表示するのは検証のために便宜でかつ客観性を担保できる態様で利用され\nているということができ、加えて、当該画像には下部分に各イラストの色の濃さを 操作したことを示唆するアプリケーションの画面部分が記載されており、閲覧者を して、これらの画像が、2枚のイラストを重ね合わせたものであることや、色の濃 さが操作されていることが分かるような態様で示されている。本件では、本件投稿 画像1−1−2では乙1の2イラストの方を濃く表示し、本件投稿画像1−1−3\nでは本件被控訴人イラスト2の方を濃く表示しているが、このような表\示方法は、 2枚のイラストを重ね合わせた画像において、それぞれのイラストを判別して比較 するために資するといえる。
d そうすると、本件ツイート1−1の一般の読者にとって、本件ツイート1− 1における被控訴人のイラストの利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜で かつ客観性を担保することができるものであるということができる。 そして、上記利用態様からすると、本件ツイート1−1において、被控訴人が作 成したイラストが、独立した鑑賞目的等で利用されているというような事情はなく、 本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを比較検証する目的を超えて利用がさ れているとはいえない。
e したがって、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用方法は、 前記(ア)の引用の目的である批評のために正当な範囲内で行われていると認めるの が相当である。
(ウ) 証拠(乙5の1〜5、60、63、89、110の1、120の4・5)に よると、第三者が著作権を有するイラストや写真をトレースすることにより、イラ スト等を作成した可能性がある旨の事実を主張する場合に、記事中に、1)問題とな るイラスト等とトレース元と考えられるイラスト等を、比較するためにそのまま又 は比較に必要な部分において示すことや、2)2枚のイラストを重ね合わせて示すこ とは広く行われていることであり、また、前記(イ)のとおり、このように示すことは、 本件ツイート1−1の一般の読者にとって記事の内容を吟味するために便宜でかつ 客観性を担保することができる手法であるということができる。 上記に加え、後記(5)のとおり同一性保持権侵害の観点からも本件ツイート1− 1における被控訴人のイラストの利用が違法ということはできないことに照らすと、 本件ツイート1−1において、被控訴人作成のイラストを添付したことは、公正な 慣行に合致しているということができる。
(エ) そうすると、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用は「引 用」として適法である。
エ 以上によると、本件ツイート1−1の投稿による著作権侵害について、「権 利侵害の明白性」は認められない。
(5) 著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について
ア 前記(2)のとおり、1)本件ツイート1−1に添付された画像のうち、本件投稿 画像1−1−2及び1−1−3は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを 重ね合わせたものであり、また、2)ツイッターのタイムライン上に表示された本件\nツイート1−1における本件投稿画像1−1−2〜1−1−4は、被控訴人作成の イラストの一部のみが表示されているから、それぞれ、被控訴人のイラストの改変\n又は切除に当たると解する余地がある。
イ しかしながら、1)については、著作物がイラストであって重ね合わせて用い ることで、引用の目的である批評のために便宜でありかつ客観性が担保できること に加え、その利用の目的及び態様に照らすと、著作権法20条2項4号の「やむを 得ないと認められる改変」に当たるといえる。
ウ 次に、2)についてみると、証拠(甲49、乙113〜119、120の1・ 2、121の1・2)によると、ツイッターのタイムライン上の表示は、ツイッタ\nーの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様により決定されるもの\nであって、投稿者が自由に設定できるものではなく、投稿者自身も投稿時点では、 どのような表示がされるか認識し得ないこと、投稿後も、ツイッターの仕様又はツ\nイートを表示するクライアントアプリの仕様が変更されると、タイムライン上の表\ 示が変更されること、ツイートに添付された画像データ自体は当該ツイートを閲覧 したユーザーの端末にダウンロードされており、タイムライン上の画像をクリック すると、画像の全体が表示されることが認められることに照らすと、投稿者が改変\n主体に当たるかという点を措くとしても、タイムライン上の表示が画像の一部のみ\nとなることは、ツイッターを利用するに当たり「やむを得ないと認められる改変」 に当たるというべきである。
エ そうすると、本件ツイート1−1の投稿による著作者人格権侵害(同一性保 持権侵害)について、「権利侵害の明白性」は認められない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和2年(ワ)24492号

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令和3(行ケ)10140  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

 製法を含む物の発明について、知財高裁は、請求項6、9については、明確性(特36条6項2号)違反で無効と判断しました。
審判における経緯ですが、請求項1、5、6及び9について、無効審判が請求され、無効の予告がなされたので、権利者は、請求項5及び9を訂正しました。かかる訂正が認められ、請求項1、5、6及び9について、無効理由なしとの審決がなされました。知財高裁は、PBP最高裁判決における「不可能\・非実際的事情」については、本件には適用されないが、「内面精度が一義的ではない」として明確性違反と判断しました。

(1) 判断基準
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時 において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁 判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集 69巻4号700頁)。
もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許 請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・ プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を 読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、 第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。 そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製 造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願 時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\ しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義 的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不 可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
ア 本件発明6及び訂正発明9は、「電鋳管」に係る発明であるところ、本件 発明6は、「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層 を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細 線材の一方または両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前 記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた 細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を 残したまま細線材を除去して製造される」という製造方法による特定が、 訂正発明9は、「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導 電層を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成する と共に、前記細線材の両端側に前記電着物または前記囲繞物が形成されて いない部分を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小 さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を 形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞 物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造される」という 製造方法による特定を含む。
イ そこで、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管 の構造又は特性、具体的には被告が主張する電鋳管の内面精度が、一義的\nに明らかであるか否かについて検討する。
まず、特許請求の範囲の記載から本件発明6及び訂正発明9の製造方法 により製造された電鋳管の内面精度が明らかでないことはいうまでもな く、また、本件明細書には、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により 製造された電鋳管の内面精度について、何ら記載も示唆もされていない。 そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を 加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着 物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、 3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細 線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱 又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、 これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても 一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記 3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の 内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上 記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し たとも認められない。そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n
ウ 以上のとおりであるから、本件発明6及び訂正発明9が明確であるとい えるためには、本件出願時において、本件発明6及び訂正発明9の電鋳管 をその構造又は特性により直接特定することについて不可能\・非実際的事 情が存在するときに限られるところ、被告はこのような事情が存在しない ことは認めている。
(3) 被告の主張について
被告は、前記第3の5(2)イのとおり、本件発明6及び9の製造方法により 製造された電鋳管の構造又は特性は、本件明細書の「細線材と電着物または\n囲繞物の間に、細線材を除去するのに十分な隙間が形成できるので、細線材\nが電着物または囲繞物から支障なく除去できる」(【0044】)との記載から 理解できるものであり、文献(甲1、2)の記載や試作分析報告書(甲29) の内容も参酌すれば、良好な内面精度を有するという構造又は特性を表\して いることが、特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかであ る旨主張する。
しかしながら、被告が指摘する本件明細書【0044】の記載からは、細 線材と電着物等の間に、細線材を除去するのに十分な隙間が形成できると細\n線材を支障なく除去できる可能性が高いということが理解できるにすぎず、\n本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管が、良好な内 面精度の電鋳管という構造又は特性を表\していることまでを理解することは できない。また、被告が主張する甲1文献や甲2文献の記載は製造の難易さ を記述するにすぎないものであって内面精度については記載されておらず、 試作分析報告書(甲29)の分析結果は、本件出願時の技術常識それ自体を 示すものではないところ、同報告書に記載された内容が本件出願時の技術常 識であることは何ら明らかにされていない。
以上によれば、本件発明6及び9の製造方法により製造された電鋳管が良 好な内面精度の電鋳管という構造又は特性を表\していることが、特許請求の 範囲、本件明細書の記載及び技術常識から一義的に明らかであるとはいえな い。

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令和3(行ケ)10081  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年10月18日  知的財産高等裁判所

 原告はもともと「ゴミサー」という登録商標を保有するメーカで、被告は原告の代理店でした。代理店契約消滅後、原告は、商標権の更新をしなかったために、当該商標権は消滅しました。被告は、これを知って、同じ商標を出願しました。原告は周知性違反などを主張しましたが、無効理由なしとした審決が、知財高裁でも維持されました。

(ウ) 上記(イ)のとおり、平成12年度ないし平成18年度の業務用生ごみ 処理機全体の市場における原告商品の占有率は、概ね10%前後で推移 していたといえるところ、弁論の全趣旨によれば、平成19年度ないし 平成26年度も同程度の市場占有率であったと認められる。
(エ) 以上のとおり、平成12年度から平成26年度までの間、原告商品の 市場占有率は、概ね10%前後にとどまっていたことからすれば、本件 商標の出願時以前において、原告商品が高い市場占有率を有していたも のとはいえない。
ウ 原告商品の販売台数について
(ア) 前記1(1)エのとおり、原告商品は、販売を開始した平成4年から本件 商標が出願された前年である平成26年までの間に累計で2514台が 販売されたものの、年間の販売台数は、平成11年の284台をピーク に年々減少し、平成16年に100台を下回って以降は毎年70台前後 で推移していたものである。
(イ) 以上のとおり、原告商品の販売台数は、最も多かった年でも284台 にとどまる上、本件商標の出願時以前の約10年間は毎年70台前後で 推移してきたことからすれば、本件商標の出願時以前において、原告商 品の販売台数が多かったとはいえない。
エ 原告商品に関する報道、広告宣伝等について
(ア) 前記1(2)のとおり、原告は平成6年、平成8年及び平成12年に各種 の賞を受賞し、原告商品は平成9年、平成15年及び平成17年に新聞 報道において取り上げられたことがあったものの、これらはほとんどが 山形県内又は酒田市内における受賞歴又は報道歴である上、その後、本 件商標の出願時までの約10年間において、原告又は原告商品に関する 報道がされたなどの事情は存しない。
(イ) また、原告商品に係る広告宣伝活動についてみても、原告商品につい ては、販売代理店であった被告において通常の営業活動を超える広告宣 伝活動がされていたなどの事情は存せず、また、原告において多額の広 告宣伝費を支出していたなどの事情も存しない。
オ 引用商標の周知性について
(ア) 上記イ及びウのとおり、本件商標の出願時以前において、原告商品が 高い市場占有率を有していたものとはいえず、また、原告商品の販売台 数が多かったとはいえない。これに加え、上記エのとおり、原告の受賞 歴や原告商品に係る報道歴は、ほとんどが山形県内又は酒田市内におけ るものであった上、原告商品に関し、本件商標の出願時以前の約10年 間における報道歴はないこと、原告商品について特別な広告宣伝活動が されていたなどの事情は存しないことも考慮すると、原告商品が平成4 年から20年以上にわたって販売されてきた商品であることや、一般に 業務用生ごみ処理機が相当程度高額な商品であるとうかがわれること (甲7)などを考慮しても、本件商標の出願時及び登録査定時において、 原告商品が高い知名度を有する商品であり、原告商品の名称である引用 商標が周知であったと認めることはできない。

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令和3(行ケ)10089  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月14日  知的財産高等裁判所

 経緯が複雑です。2つの無効審判が請求され、いったん併合すると通知されましたが、結局、分離されました。1つ目の無効審判では、訂正を認めたうえ、無効理由なしと判断されました。その後、2つ目の無効審判が開始され、特許権者は2回目の訂正をしましたが、審決は訂正を認めず、無効と判断しました。知財高裁はこの審決を維持しました。 無効理由は特段の効果なしです。

c 訂正明細書の【0075】には、基剤として使用可能な多糖類が、少\n量の水に溶解されると糊状になる「曳糸性を有する物質」であるとの記 載はあるが、その技術的意義の記載はない。また、訂正明細書の【00 93】では、引離法による経皮吸収製剤製造の初期段階で、フッ素樹脂 等からなる平板92の上に、目的物質を含有する基剤91を載せたと き、基剤として、水に溶解させると曳糸性を示す物質からなるものを用 い、糊状とすることが好ましいとの記載があるが、これは、目的物質を 含有する基剤を針状又は糸状に成形するという引離法における製造上 の便宜を示したものと解される。さらに、鋳型法による場合について は、訂正明細書の【0095】に、目的物質を含有する基剤が糊状であ れば孔から取り出した後に乾燥又は硬化させることができることが記 載されているところ、これも、粘度が低い場合には鋳型内で乾燥又は硬 化した後に取り出すことを要することと対照した製造上の利便性の記 載であると解される。
したがって、訂正明細書には、経皮吸収剤が「基剤、目的物質及び水 を含む曳糸性を示す糊状物が乾燥した物」であることと、経皮吸収剤そ れ自体の構造や特性との技術的関係についての記載は一切存在しない。\nd 甲2−1文献には、「液体溶液の粘度ならびに他の物理的および化 学的特性に依存して、さらなる力(例えば、遠心分離力または圧縮力) が、鋳型を満たすために必要とされ得る」(【0025】)と記載され、 さらに、粉末形態のマトリクス材料についての記載ではあるが、「粉末 形態がマトリクス材料のために使用される場合、この粉末は、有利に は、鋳型にわたって分離され得る。粉末の化学的および物理的特性に依 存して、次いで、粉末の適切な加熱が適用されて、鋳型内に粘稠性の材 料を融解または挿入し得る。」(【0026】)との記載もある。この ような記載に接した当業者であれば、鋳型で液体溶液を乾燥させる場 合、粘度が1つの重要な要素となり、粘度に応じた製法の調整をして対 応するほか、粘度自体も調整の対象となり得ること、粘稠性の材料であ っても鋳型に充填し得ることを理解するものといえる。
鋳型で乾燥させる液体溶液の粘度の調整については、当業者であれ ば、乾燥するという目的や、鋳型に充填する際の作業効率といった観点 から行うものであり、ヒアルロン酸水溶液が糊状であるか否かは、ヒア ルロン酸水溶液の粘度によって決定され、粘度がある程度以上高けれ ば、糊状になるといえることは前記bのとおりであるところ、上記のよ うに、甲2−1文献の記載から、粘稠性であっても鋳型に充填し得るこ とを理解することができるのであるから、乾燥するという目的も勘案 して、液体溶液の粘度を高いものとすることは容易に想到し得ること である。 そして、そのような液体溶液は粘度によって糊状にも粘稠な液体に もなり得るのであって、その差は相対的であり、いずれの状態になるよ うに調整するにしても、それは、当業者が適宜設定し得た事項にすぎな い。
ヒアルロン酸は曳糸性を有することは前記aのとおり技術常識であ る以上、当業者においてこのように適宜調整された液体溶液は、曳糸性 を示すものになるといえる。なお、甲57実験成績証明書及び乙19実 験報告書からみれば、希薄なヒアルロン酸水溶液は曳糸性を示さない が、鋳型で乾燥させてマイクロニードルを作るに当たって、乾燥させる という目的からみて、そのような希薄な溶液を使用することは想定さ れない。 以上によれば、引用発明2において、甲1−1文献に記載のヒアルロ ン酸を採用する際に、ヒアルロン酸と薬剤を含む液体溶液を、「曳糸性を 示す糊状物」とすることは、当業者が容易になし得たことというべきで ある。

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令和4(行ケ)10016 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月21日  知的財産高等裁判所

 「紙破現象を起こし得るように構成している」という発明特定事項が明確性違反かが争われました。知財高裁は、無効理由なしとした審決を維持しました。\n分割出願2件についても同様に判断されています。

ア 本件発明1は、「紙破現象を起こし得るように構成している」との発明特\n定事項を有しているところ、「紙破」又は「紙破現象」とは一般的な用語で はなく、その意義を特定するためには、本件明細書の記載を参照すること になる。 そこで、本件明細書の記載についてみると、本件明細書には、「・・・例 えば被着体を紙類とした場合、粘着製品或いは粘着剤を紙類から剥がそう とする剥離動作を行った際に、紙の表層を確実に損傷させることが要求さ\nれる場合がある。」(【0009】)、「以下本明細書において、このような紙 類の表面を損傷した状態を紙破と記載する。また、粘着製品の粘着剤層を\n剥離させた際に紙類の表層が粘着剤に付着し紙類が厚み方向に破断する\nことを紙破現象と記載することとする。」(【0011】)、「・・・「紙破」: 粘着剤層の表面に紙片の表\層部分を付着させて剥離(図12(a))、「界面 剥離」:粘着剤層と紙片との界面において剥離(同図(b))、「凝集剥離」: 粘着剤が紙類とステンレス板との両方に付着した状態で剥離(同図(c))、 「ナキワカレ」粘着剤層が紙類とステンレス板との両方に付着した状態で 剥離(同図(d))、の何れかに分類して行った。」(【0092】)との記載 があり、【0092】で引用されている図12は、以下のとおりであり、図 12の(a)には、ステンレス板上の粘着剤層の表面に紙類が厚み方向に\n破断した紙片の一部が付着した状態が描かれている。
上記で指摘した本件明細書の記載及び図面を総合すると、本件発明1に おける「紙破現象」とは、粘着製品の粘着剤層を剥離させた際に紙類の表\n層が粘着剤に付着し、紙類が厚み方向に破断する現象をいうものであると 理解することができる。そして、本件発明1の「紙破現象を起こし得るよ うに構成している」との発明特定事項は、その他の構\成要件を充足する「感 圧転写式粘着テープ」のうち、「紙破現象を起こし得る」ように構成されて\nいるものと解することができ、「紙破現象を起こし得ない」構成は、本件発\n明1の技術的範囲に含まれないものと理解することができる。 そうすると、「紙破現象」の発生割合や発生条件について本件発明1に係 る請求項1には特定されていないとしても、特許請求の範囲の記載が第三 者に不測の損害を被らせるほど不明確な記載であるとはいえない。 イ これに対して、原告は、前記第3の1 のとおり、1)「紙破」は、通常 の利用者が視認可能な態様で紙が破れることを指すものであり、「紙破現\n象」とはこうした「紙破」が起こる現象を指すべきものである、2)本件明 細書の記載及び技術常識からすると、「紙破現象を起こし得る」とは、ほぼ 確実に「紙破現象を起こすもの」でなければならないが、いかなる条件の 下で起こるのか不明確であり、同一の接着剤を同一の被着剤に用いた剥離 試験に関する技術常識に照らせば、「紙破現象が起こし得るように構成し\nている」かどうかは条件が特定されなければ不明確である、3)原告による 追実験(甲14)及び被告による「事実実験公正証書」(甲29)の各試験 結果からすると、本件明細書の試験結果は信用することができない旨主張 する。
しかし、前記アのとおり、本件明細書には、「以下本明細書において、こ のような紙類の表面を損傷した状態を紙破と記載する。また、粘着製品の\n粘着剤層を剥離させた際に紙類の表層が粘着剤に付着し紙類が厚み方向\nに破断することを紙破現象と記載することとする。」(【0011】)とあり、 粘着製品の粘着剤層を剥離させたときに紙類の表層が粘着剤に付着し、厚\nみ方向に紙類が破断していることを示す図(図12(a))があることから、 「紙破現象」とは、上記段落で記載されたとおりに解釈されるべきであり、 「通常利用者が視認可能な状態」で紙が破れることという条件を付加して\n解釈する必要はない。また、原告による追実験(甲14)は、紙類の表層\nが粘着剤に付着したかどうかの確認作業について言及がない(むしろ、視 認によって判断している可能性が高い。)ため、この追実験で本件明細書の\n実物剥離試験の結果が信用できないものであると判断することはできな いし、被告による「事実実験公正証書」(甲29)の試験結果において、「目 視では十分に確認できなかった」との記載があるとしても、そのことが「紙\n破現象」が起きていないことを意味するものではないことについては前示 のとおりであるから、上記1)及び3)の各主張は理由がない。
次に、上記2)について検討するに、本件発明1においては、粘着剤層を 介して紙類同士を止着させた後、粘着剤層を剥離させたときの条件及び方 法は発明特定事項には含まれておらず、他の構成要件を充足する「感圧転\n写式粘着テープ」のうち、「紙破現象を起こし得る」ように構成されている\nものが本件発明1として特定されているのであるから、任意の条件及び方 法で「紙破現象」が生じ得る構成であれば、本件発明1の技術的範囲に属\nするものといえ、他方、「紙破現象を起こし得ない」構成は技術的範囲に属\nさないことが明らかにされている。したがって、少なくとも上記 記載の 明確性要件との関係においては、剥離試験における条件や方法等について の特定がないとしても、第三者に不測の不利益を及ぼすものとはいえない から、上記2)の主張も理由がない。

◆判決本文

分割願についての判断です。

◆令和4(行ケ)10017

◆令和4(行ケ)10018

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令和4(ワ)12062 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年11月17日 東京地方裁判所

 ファスト映画の配信について総額5億円の損害賠償が認められました。計算は、ライセンス相当額(著作権法114条3項)です。賠償額を含めて被告は原告の主張を全て認めてます。原告は13名であり、合計するとちょうど5億円というのは偶然なのでしょうね。

弁論の全趣旨によれば、YouTubeの利用者がYouTube上でストリーミング形式により映画を視聴するためには所定のレンタル料を支払う必要があることが認められる。再生対象の映画の著作権者は、当該レンタル料から著作権の行使につき受けるべき対価を得ることを予定しているものと理解されることから、本件において、原告らが本件各映画作品に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、YouTube上で視聴する場合の本件各映画作品それぞれのレンタル価格等を考慮して定める金額に、本件各動画のYouTube上での再生数を乗じて算定するのが相当である。
(2)YouTubeにおける本件各映画作品の各レンタル価格(HD画質のもの)は、1作品当たり400〜500円程度であり、400円を下らないこと、うち30%がYouTubeに対するプラットフォーム手数料に充当されること、本件各動画は、それぞれ、約2時間の本件各映画作品を10〜15分程度に編集したものであるものの、本件各映画作品全体の内容を把握し得るように編集されたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。これらの事情を総合的に考慮すると、被告らが本件侵害行為によって得た広告収益が700万円程度であること(当事者間に争いがない)を併せ考慮しても、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(法114条3項)は、原告らの主張のとおり、本件各動画の再生数1回当たり200円とするのが相当である。

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令和4(行ケ)10041  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年10月31日  知的財産高等裁判所

 審決では、図形商標内にある「御守」の文字について、図形と一体と認識すべきとして、4条1項11号に該当すると判断されました。知財高裁もこれを維持しまし。判決文の最後に本件商標があります。

原告は、前記第3の 1 のとおり、本願商標の構成中の「御守」の文字は\n御守の内容・種類を表しているにすぎず、全体的なデザインとともに一体的\nに把握されるものであるから、本願商標がその指定役務に使用される場合、 本願商標からは役務の出所識別標識としての「オマモリ」の称呼及び「御守」 の観念は生じない旨主張する。
しかしながら、前記1(1)のとおり、御守袋の上に「御守」と表示されてい\nる本願商標は、御守袋の形状の図案それ自体からして、「御守」の観念を生じ、 「オマモリ」の称呼が生じるものといえるところ、その表面の「御守」の文\n字は、その表面中央にあって文字として記載され、かつ、文字としてはその\n記載しかない以上は、当然のこととして、当該御守袋が何であるかを示すも のというべきであり、そこからも「御守」の観念を生じ、「オマモリ」の称呼 が生じることは明らかである。そして、本願商標に係る指定役務のうち、少 なくとも、おむつ、食品、化粧品、ペット用品、ベビーオイル等を含む第3 5類の商品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 (以下「小売等役務」という。)について、御守が、これら商品の小売等役務 の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法又\nは時期その他の特徴、数量又は価格と関連性を有することは想定できないか ら、上記のように本願商標から生じる「御守」の観念や「オマモリ」の称呼 が本願商標の当該指定役務の内容、対象そのものを示すものとは理解されな い。 このように本願商標から生じる「御守」の観念や「オマモリ」の称呼が本 願商標の当該指定役務の内容、対象を示すものとはいえない以上は、これら の観念や称呼が役務の出所識別標識として生じる可能性を否定することはで\nきないから、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 商標の類否判断の誤りの主張について
本願商標の構成全体から格別の称呼、観念が生ずることはないことを前提\nとする原告の主張(前記第3の 1 ア)については、その前提に誤りがある ことは前記のとおりであるから、採用することができない。 次に、原告は、前記第3の 1 イのとおり、仮に、本願商標から「オマモ リ」の称呼、護符(御守)の観念が生じたとしても、本願商標は、全体とし て「白色の二重叶結びの紐を有し、ピンク色の桜の花弁模様を配し、『御守』 の文字を御守袋の表面に表\した赤色の御守」との印象を強く抱かせるもので あるから、本願商標と引用商標の外観上の顕著な相違から看取できる印象は、 称呼及び観念から看取できる印象を凌駕している旨主張する。 しかしながら、本願図形部分である、「白色の二重叶結びの紐、ピンク色の 花弁模様及び赤色の色彩」のうち、「白色の二重叶結びの紐」は御守袋の特徴 にほかならず、また、「ピンク色の花弁模様及び赤色の色彩」は御守袋として は格別印象に残るような形状・色彩を有するものではないから御守袋を構成\nする地模様と認識されるのがせいぜいのところであり、それらが単独で看者 に強い印象を与えるものではない。 そうすると、本願商標から生じる「オマモリ」の称呼及び護符(御守)の 観念が本願図形部分から看取できる印象に凌駕されることはない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 指定商品・指定役務の類否判断の誤りの主張について
原告は、引用商標1の指定商品の製造・販売と小売等役務の提供が同一事 業者によって行われていることは通常とまではいえないから、引用商標1の 指定商品を同指定商品に係る小売等役務を提供する事業者が製造又は販売す る商品であると誤認するおそれがあるとはいえない旨主張する。
しかしながら、ある製品の製造業者が当該製品の販売場を持つなどして、 当該販売場を置くとともに、同時に、顧客に対する当該製品の品揃え・陳列、 接客等のサービスを提供するなどして小売等役務の提供場所とし、当該製品 の販売行為を促進して最終的には当該製品の販売行為により収益を上げよう とすることは、自然な商業的取引の在り様といえ、これと異なる特殊な事情 がない限りは、通常行われることと推認されるものというべきである。 そして、引用商標1の指定商品について、その製造・販売と小売等役務の 提供が別事業者によって行われていることが通常であるとするような特殊な 事情は本件証拠からは認められず、かえって、本願商標の指定役務である「菓 子、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、ホットド ッグ、ミートパイ」の小売等役務に係る商品と、これに類似する引用商標1 の指定商品である「菓子(甘栗・甘酒・氷砂糖・みつまめ・ゆであずきを除 く。)、パン」について、自社工場を持つ営業主がそれら製品を自社店舗で販 売するなど、その製造販売と小売等役務が同一営業主によって行われること がよくあるとの実情は公知の事実ともいえ、被告からも、その一例の指摘が ある(乙11ないし17)。

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令和3(ワ)11507  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年10月28日  東京地方裁判所

 構成要件Biiを充足しない、無効理由ありと判断しました。

ア 「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために・・・本体両側面に設けた側面圧 迫領域を具備し」の意義について
本件特許の特許請求の範囲には、「低伸縮領域として」、「大腿骨及び周 囲筋腱を圧迫するために、上記ほぼU字型の正面吊り領域の左右両端から上 方へ連続して伸びる方向に、本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」(構\n成要件Bii)と記載されている。上記記載によれば、「側面圧迫領域」は「大 腿骨及び周囲筋腱」自体を圧迫するものであると解される。 そして、本件明細書等には、「膝部に着用する従来の筒状の伸縮性サポー ターは、サポーター本体に織り込まれているゴムのパワー(ゴムの収縮力、 即ち筋肉に対する圧迫強度)を変え、或いは織り方を変えることで患部に対 する圧迫力、押圧力変化させる方式を取っている。しかしそれでは、膝関節 の任意の箇所に必要な押圧力を加えることができないという問題があった。」 (段落【0002】)、「・・・また、本発明によれば、上記に加え大腿骨、 脛骨及び周囲筋腱を圧迫することにより関節裂隙部に作用して、痛みを軽減 し得るコンプレッションサポーターを提供することができる。」(段落【0 020】)と記載されている。上記各記載によれば、本件発明は、膝関節の 任意の箇所に必要な押圧力を加えることができない従来のサポーターの課 題を解決するために、大腿骨、脛骨及び周囲筋腱を圧迫するサポーターを提 供するものであることが認められる。 そうすると、上記の構成要件Bii及び本件明細書等の各記載内容によれば、 構成要件Biiの「側面圧迫領域」は、大腿骨自体及び周囲筋腱自体を圧迫す るものと解するのが相当である。
イ 被告製品17の構成要件充足性について\n
これを被告製品17についてみると、前提事実及び証拠(甲6)によれ ば、被告製品部分2は、被告製品部分2と接触する部分や大腿骨の周囲筋 腱を圧迫することまでは一応認められるものの、これを超えて、本件全証 拠によっても、被告製品部分2が大腿骨自体までをも圧迫することまで認 めることはできない。 したがって、被告製品17は、構成要件Biiを充足するものとはいえな い。
・・・
「固着」について 本件特許の特許請求の範囲には、「上記低伸縮領域は、樹脂より成る低 伸縮性材料を本体に固着した構成を有している」(構\成要件C)と記載さ れている。上記記載によれば、低伸縮性材料を本体に「固着」させる方法 を格別限定するものではない。 そして、証拠(甲11)によれば、「固着」という用語について、一般 的に「かたくしっかりとつくこと」という意味を有することが認められる。 また、本件明細書等には、「本発明において、上記低伸縮領域は低伸縮 性材料を本体に固着一体化することによって構成されている。・・・低伸\n縮性材料を本体に固着一体化する方法としては、例えば接着、貼着或いは\n印刷等の方法を取ることができる。また、低伸縮性材料の固着方法として、 あらかじめ樹脂を用いて低伸縮領域の形状に作りそれを本体に転写する ような方法も取り得る。・・・」(段落【0012】)、「正面吊り領域 22を始めとして上記のように説明した各低伸縮領域は、樹脂より成る低 伸縮性材料34を本体20に固着した構成を有している。より詳細に図示\nした図4を参照して説明すると、図4において、35、36は縦糸と横糸 などから成る編織構造を示しており、37は固着手段を示している。樹脂\nより成る低伸縮性材料34は、本体20に固着すると固着手段37が上記 編織構造35、36の組織内に入り込んで密着状態になり、一体化するこ\nとにより、本体本来の伸縮性を制限して、低伸縮性を備えた領域に変える ことになる。」(段落【0031】)、「低伸縮性材料34は、例えば上 記正面吊り領域22の形状にあらかじめ形成され、それを本体20の表面\nに固着手段37を用いて固着する。図4Aに示す例では、低伸縮性材料3 4の下面に固着手段37があらかじめ固着されている。そして、図示の例 の場合、本体20は綿糸及び合成繊維糸を周方向に伸縮性を持つように編 織したもので、低伸縮性材料34はウレタン系樹脂材料のフィルムより成 る多層構造を有し、固着手段37には上記ウレタンフィルムより成る多層\n構造の内の一部を用いて本体20に固着させている。しかしこれは一例で\nあり、固着手段37として接着剤を本体20の表面に塗布すること、また、\nシート状の接着剤を用いることは普通に行われる。さらに、本体20の材 質と低伸縮性材料34の材質に親和性があり、かつ熱溶着性樹脂を用いる 場合には直接本体20に低伸縮性材料34を熱溶着する手段も選択し得 る周知の事項である。このように本発明においては何れの固着手段を採用 しても良い。」(段落【0032】)と記載されている。そうすると、本 件明細書等の上記記載においても、低伸縮性材料を本体に「固着」させる 方法が例示されているものの、何らかの限定をしているものと解すること はできない。 上記の構成要件C及び本件明細書等の各記載内容に加えて、「固着」と\nいう用語の一般的な意味内容を踏まえると、本件発明における「固着」の 方法について、固くしっかりと付くこと以上に、何らかの限定がされてい るものと解することはできない。
・・・
「樹脂より成る」について
本件特許の特許請求の範囲には、上記 のとおり記載されている。そし て、証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば、樹脂の一種である「合成 樹脂」は、「合成高分子化合物」とほぼ同義で用いられることがあり、「合 成繊維」とは合成高分子化合物を紡いで繊維としたものをいうことが認め られる。そうすると、「合成樹脂」は、常に繊維状のもの(合成繊維)を 除く意味で用いられるものではなく、むしろ、合成繊維は、その材料が合 成樹脂であるから、「樹脂より成る」ということができる。 これに対して、被告は、証拠(乙1、2、7)によれば、「合成樹脂」 に「合成繊維」が含まれないと主張する。しかしながら、上記において説 示したとおり、「合成樹脂」が、常に「合成繊維」を除く意味で用いられ るものとは認められず、被告の主張は、採用することができない。 また、被告は、本件明細書等において、本体に用いる合成繊維(段落【0 032】)と低伸縮性材料に用いる樹脂材料(段落【0012】)が明確 に書き分けられていることからすれば、「合成繊維」は構成要件Cの「樹\n脂」に含まれないと主張する。しかしながら、上記の記載をもって「樹脂」 に「合成繊維」が含まれないとまで解することはできず、被告の主張は、 採用することができない。
・・・
これを本件発明についてみると、本件特許の特許請求の範囲の記載は、前提 事実(2)イのとおりであり、本件発明の意義は、前記1(2)のとおり、従来技術で は、サポーター本体に織り込まれているゴムの収縮力や織り方を変えることで 患部に対する圧迫、押圧の強度を変化させていたものの、それでは、膝関節の 任意の箇所に必要な押圧を加えることができないという技術的課題を解決す るために、伸縮性素材より成り膝部に着用し得る形態の本体に、本体よりも伸 縮性の低い低伸縮領域を設け、低伸縮領域として、1)本体の正面に、膝蓋靱帯 を圧迫し、かつ、膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋の機能を補助するために、膝\n蓋骨の下部を取り囲むほぼU字型の領域と、2)上記ほぼU字型の領域の左右両 端から上方へ連続して伸びる方向に、大腿骨及び周囲筋腱を圧迫する領域を具 備し、低伸縮領域について樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着するという 構成を採用することにより、膝蓋靱帯を圧迫し、膝蓋骨を保持して、膝関節を\n良好に固定するとともに、大腿骨及び周囲筋腱を圧迫することにより、関節裂 隙部に作用して、痛みを抑制することを可能にするという効果を実現し、もっ\nて上記技術的課題を解決するものであることが認められる。
(3) 他方、本件発明において、「低伸縮性材料を本体に固着」(構成要件C)す\nる方法が、いわゆる別材料固着構造(膝を筒状に覆うサポーター本体の表\面の 一部に、本体とは別の低伸縮性材料を熱溶着、接着、縫着等によって固着し、 伸縮性等の異なる部位を配置した構造)以外に、被告製品17が採用する一体\n編成・織成構造(サポーターを織り上げ、又は、編み上げるに当たり、部分に\nよって折り方や編み方を変化させることにより、伸縮性等の異なる部位を配置 した構造(本件明細書等の段落【0002】記載の「サポーター本体に織り込\nまれているゴムのパワー(ゴムの収縮力、即ち筋肉に対する圧迫強度)を変え、 或いは織り方を変えることで患部に対する圧迫力、押圧力変化させる方式」を 含む。))をも含むと解されることは、前記2(4)ア において説示したとおり である。
しかしながら、本件明細書等によれば、当業者が一体編成・織成構造のサポ\nーターによって本件発明の課題を解決できるとする記載は一切なく、かえって、 本件明細書の段落【0002】によれば、一体編成・織成構造のサポーターに\nよっては、膝関節の任意の箇所に必要な押圧を加えることができず、本件発明 の課題を解決することができない旨明記されていることが認められる。 そうすると、本件明細書等の記載内容を踏まえると、一体編成・織成構造の\nサポーターが、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし 本件発明の課題を解決できると認識できるものと認めることはできない。 これに対して、原告は、本件発明の課題は本件発明の構成を備えることで解\n決することができるから、本件発明は、サポート要件に違反しない旨主張する。 しかしながら、本件明細書等によれば、本件発明は、一体編成・織成構造の\nサポーターが必要な押圧を欠くという課題を解決するものであるから、当該サ ポーターが本件発明の課題を解決し得ないことは、本件明細書等の記載自体か らも自明であって、原告の主張は、採用することができない。

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令和2(ネ)10024  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年10月20日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 大合議(特別部)の判断です。1審は技術的範囲に属さないと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消して、約4億円の損害賠償を認めました。102条2項と3項の重畳適用の要件を示しています。本件では一部認められています。

原判決は、本件発明C−1の特許請求の範囲(請求項1)の記載 に基づく解釈として、1)構成要件Cの記載によれば、「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」の3要素により形成された部分をもって成るものが「空洞部」であり、「空洞部」に「外側立上り\n壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」が存在しない部分が許容され ると解されず、「空洞部」全体にわたって「内側立上り壁」が存在す ることを要する、2)構成要件Dの記載によれば、「空洞部の先端部」に「内側立上り壁の…前端部」が存在することは明らかであるところ、「内側立上り壁の…前端部」という記載は、更に「空洞部の先端\n部」以外にその後方部分にも「内側立上り壁」が存在することを示 唆するものと理解される、3)構成要件Bの記載によれば、「前腕挿入開口部」は、「空洞部」の一部ではなく、「空洞部」とは別の「肘掛部」の構\成部分でありつつ、「空洞部」に連続して設けられた部分であると解され、また、「前腕挿入開口部」と「空洞部」から成る「肘掛部」中における「前腕挿入開口部」と「空洞部」の相対的な位置 関係は、「空洞部」が前部に、「前腕挿入開口部」が後部に位置する と解され、さらに、「前腕部を挿入保持する」ように「空洞部」が構成される、4)構成要件E、E−1、E−2の記載によれば、「前腕挿入開口部」が「内側後方から施療者の前腕部を挿入するための」部分であるところ、そこに位置する施療部は「底面部」と「外側立上\nり壁」によりL型に形成されていることから、当該施療部には「内 側立上り壁」が存在しないと解されること、「前腕挿入開口部から延 設して…設けられ」ている「空洞部」が、「肘掛部」中の別の構成部分であることに鑑みると、「内側立上り壁」の有無が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画するものであるとの示唆を看取することもで\nき、そもそも、「前腕挿入開口部」につき、「内側後方から施療者の 前腕部を挿入するための」ものと特定されていること自体、「前腕挿 入開口部から延設して…設けられ」た「空洞部」の内側側方からは、 「空洞部」に「施療者の前腕部を挿入する」ことができないことを 示唆するものと解される、5)他方、請求項1の記載から、「空洞部」 中に「内側立上り壁」が存在しない部分があるとの示唆を読み取る ことはできないとして、本件発明C−1の「空洞部」(構成要件B、C)とは、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものをいうと解される旨判断した。\n
しかしながら、1)及び5)については、構成要件B及びCから読み取れる事項は、「該前腕挿入開口部から延設して肘掛部の内部に施療者の手部を含む前腕部を挿入保持するための空洞部」が「外側立\n上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」という3要素から形成さ れていることであり、他方で、「空洞部」のどの部分に、「外側立上 り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」を設けるべきかについては、 請求項1には何ら記載がない。「空洞部」が上記3要素から成ること と、上記3要素をどのように形成するかは別問題であるから、「空洞 部」に「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」が存在し ない部分が許容されると解されないとの原判決の判断には、論理の 飛躍がある。
2)については、構成要件Dには、「空洞部の先端部」以外の後方部分における「内側立上り壁」の範囲については記載も示唆もなく、また、構\成要件Dの記載は、「空洞部の先端部」とその後方部分の一部に形成されている構成も、本件発明C−1の「空洞部」に該当すると解釈することと矛盾しないから、構\成要件Dから「内側立上り壁」が「空洞部」全体に及ぶべきことを読み取ることはできない。
3)については、構成要件Bの記載によれば、「前腕挿入開口部」は「肘掛部」の「内側後方から施療者の前腕部を挿入するため」の部材であり、「空洞部」は「肘掛部の内部に施療者の手部を含む前腕部\nを挿入保持するため」の部材であると定義されるところ、いずれも 「前腕」を「挿入」する機能を実現する部材であることで共通することからすると、「前腕挿入開口部」と「空洞部」は、「前腕部を挿入する部分」において重なることが示唆されているから、両者に厳\n密な線引きをすべき理由はない。また、仮に構成要件Bの記載について原判決の解釈を前提としても、「内側立上り壁」が「空洞部」の一部に形成されている構\成であっても、「肘掛部」に「空洞部」と「前腕挿入開口部」とが別構成として設けられ、「肘掛部」において「空洞部」が前部に、「前腕挿入開口部」が後部に位置する構\成とすることもできるから、本件発明C−1の「空洞部」は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものでなければならないという結論 が論理必然的に導き出されるわけではない。
4)については、構成要件E、E−1、E−2は、「肘掛部」中における「前腕挿入開口部」と「空洞部」の位置関係等を直接規定したものではなく、また、構\成要件E−2から読み取れる事項は、「前腕挿入開口部」に位置する施療部が底面部と外側立上り壁によりL型に形成されているということだけであり、そのことから直ちに、「内 側立上り壁」の有無が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画する ことを看取できるものではない。 したがって、原判決の挙げる1)ないし5)は、本件発明C−1の「空 洞部」(構成要件B、C)は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものと解釈することの根拠となるものではないから、原判決の上記判断は誤りである。\n
(b) 次に、原判決は、本件発明C−1の「空洞部」(構成要件B、C)とは、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものをいうと解されることは、本件明細書Cの記載及び本件特許Cの出願経過か\nらも裏付けられると述べ、具体的には、1)本件明細書C記載の本件 発明C−1の技術的意義に鑑みると、本件発明C−1は、肘掛部の 長さ方向全域に「外側立上り壁」と「内側立上り壁」が形成された 椅子式マッサージ機を前提として、肘掛部の内側後方から施療者の 前腕部を挿入可能となるように「内側立上り壁」を廃した「前腕挿入開口部」を設けたと認められるから、そのような肘掛部の「内側後方から施療者の前腕部を挿入するための前腕挿入開口部」と、そ\nこから「延設して肘掛部の内部に…設けられ」ている「空洞部」と は、「内側立上り壁」の有無により画されるものと理解されるし、「手 掛け部」を設けたのは手部及び前腕部の広範を同時にマッサージす るために肘掛部の前端部にまで「内側立上り壁」が形成されている ことを踏まえたものである以上、本件発明C−1における「肘掛部 の幅方向左右に夫々設けた外側立上り壁及び内側立上り壁と底面 部とから形成され」た「空洞部」の「内側立上り壁」は、手部及び 前腕部の広範を同時にマッサージすることができるように、「空洞 部」全体にわたって存在することが想定されているといえる、2)本 件親出願の明細書(乙C8)の【0046】、【0047】及び図1 4は、本件明細書Cの【0046】、【0047】及び図14と同様 に、前腕部施療機構の中部に「内側立上り壁」が形成されていない実施例に関する記載であるところ、これらは、本件出願Cの出願に当たり、本件親出願の請求項からの変更の根拠として挙げられてい\nない、本件補正時に提出された平成23年5月9日付け意見書(以 下「本件意見書」という。乙C12)において、控訴人は、本件各 発明Cが、「肘掛部の長さ方向全域に前腕部施療機構として左右一対の立上り壁を設けた椅子式マッサージ機」に関する発明であり、「施療者の肘関節付近にまで左右一対の立上り壁が存在すること\nによる施療者の肘関節付近の圧迫による不快感を解消し、更に前腕 部施療機構を有していても施療者が起立及び着座を快適に行う事ができるようにした施療機を提供するもので」あるとした上で、「空洞部の先端部」に設けた「手掛け部」に関しては、そこに「内側立\n上り壁」が存在することを前提とした説明をしつつ、「前腕挿入開口 部」に関しては、そこには「内側立上り壁」がない形状にしたとす る説明をしている、他方、請求項2、すなわち肘掛部の中部に「前 記底面部と前記外側立上り壁と手掛け部によりコ型に形成された 施療部」を設けることについても説明しているが、そこで言及され ている本件明細書Cの記載のうち、関係するのは【0046】のみ である、本件拒絶理由通知に示された「引用文献2」(乙C19)と 本件補正後の発明(本件発明C−1及びC−2)との相違について、 「引用文献2」に開示された前腕部施療部は「肘挿入用凹溝」であ り、その断面形状は略横向き「凹」字状であるのに対し、本件補正 後の発明においては、前腕挿入開口部に位置する施療部は「底面部」 及び「外側立上り壁」により形成された断面略「L型」であり、ま た、手掛け部が形成される空洞部に位置する施療部は、「底面部」、 「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「手掛け部」に囲われた形 状(実施の形態では「ロ型」)であるため、その構成が相違する旨説明している、断面が略「コ」字状の前腕部施療部の問題点として、前腕挿入開口部においては、上面に位置する部分が腕部の載脱をス\nムーズに行う上で障害となり、手掛け部においては「内側立上り壁」 が存在しないため、施療者の体重を掛ける上で不安が残ることを指 摘している、こうした説明内容に加え、本件補正により「前記底面 部と前記外側立上り壁と手掛け部によりコ型に形成された施療部 を備え」る請求項2(本件発明C−2)を請求項1の従属項として 追加したにもかかわらず、当該発明における上記略「コ」字状の前 腕部施療部の問題点の有無等に関する説明が見当たらないことに 鑑みると、本件補正における控訴人の説明は、請求項2の追加にか かわらず、本件発明C−1の「空洞部」につき、その全体にわたっ て「内側立上り壁」が存在する構成を前提としていたと理解される、3)本件明細書Cの【0046】及び図14の記載が本件親出願から の分割出願(本件出願C)や補正(本件補正)にもかかわらず一貫 して存在する点については、本件発明C−1に係る特許請求の範囲 の請求項1の記載自体から「空洞部」につき、その全体にわたって 「内側立上り壁」が存在する構成と理解されることに鑑みると、分割出願や補正による本件特許Cの発明の内容の変化に応じてこれらの記載が補正等されなかった結果にすぎないと見るべきである\n旨判断した。
しかしながら、1)については、本件明細書Cには、本件発明C− 1の一実施形態(本件発明C−2の実施例)として、肘掛部の中部 に外側立上り壁、手掛け部、底面部よりコ型に形成された施療部を 設けたマッサージ機の記載があり(【0046】、図14)、図14で は、コ型に形成された施療部、すなわち、内側立上り壁が存在しな い部分が空洞部(62a)と図示されており、また、別の実施形態 を示す図8においても、内側立上り壁が存在しない部分が空洞部 (62a)と図示されている。これらの記載を参酌すれば、本件発 明C−1の「空洞部」は、肘掛部中の内側立上り壁が存在する部分 に限られるわけではなく、その全体にわたって「内側立上り壁」を 備えることを要しないことは明らかである。 また、本件発明C−1は、肘掛部の長さ方向全域に立上り壁を設 けることによる不都合(ア)上腕部内側の肘関節付近を圧迫し不快感 を与える、 腕部の載脱行為を妨げる、 快適な起立及び着座を妨 げるという不都合)を解決することを課題とし(【0005】ないし 【0008】)、(ア)及び の課題は、前腕挿入開口部の内側立上り壁 を廃したことにより、 の課題は、肘掛部に手掛け部を設けたこと により解決したものであり、それを超えて、「内側立上り壁」の有無 が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画し、空洞部はその全体に わたって内側立上り壁を備えるものであるという「空洞部」が備え るべき構成を導くことはできない。さらに、本件明細書Cの【0016】には、底面部及び外側立上り壁の二面において膨縮袋を備えることで前腕部に対するマッサ\nージを実施することができる旨が記載されていることに照らすと、 手部及び前腕部の広範を同時にマッサージするためには、「底面部」 及び「外側立上り壁」の二面が存在すれば足り、「内側立上り壁」が 「空洞部」の全体にわたって存在することは想定されていない。 次に、2)及び3)については、本件親出願の分割出願として本件出 願Cを出願するに際し、本件親出願の明細書(乙C8)の【004 6】、【0047】及び図14を分割要件を満たすことの根拠として 挙げられていないからといって、本件特許Cの出願経過において、 本件発明C−1の「空洞部」をその全体にわたって「内側立上り壁」 が存在する構成に限定したという控訴人の意思が客観的に表\され ているとはいえない。むしろ、控訴人は、本件意見書において、請 求項1及び2に係る本件補正の根拠として、本件出願Cの願書に最 初に添付した明細書(以下「本件出願Cの当初明細書」という。乙 C9)の【0046】を明確に挙げていること、当該段落は本件明 細書Cの【0046】と同じであり、「内側立上り壁」が備えられて いない部分を「空洞部(62a)」として指し示した「図14」の構成を説明していることからすると、「空洞部」についてその全体にわたって「内側立上り壁」が存在することを要しないことを前提とし\nていたことは明らかであり、本件明細書Cの【0046】及び図1 4の記載が存在することは本件特許Cの発明の内容の変化に応じ てこれらの記載が補正等されなかった結果にすぎないとの原判決 の3)の判断は誤りである。
また、被控訴人が2)で指摘する本件意見書における説明は、「空洞 部」と「内側立上り壁」の関係については何ら言及されておらず、 控訴人が、空洞部をその全体にわたって「内側立上り壁」が存在す る構成に限定する意思を客観的に表\明しているということはでき ない。 したがって、原判決の挙げる1)ないし3)は、本件発明C−1の「空 洞部」(構成要件B、C)は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものと解釈することを裏付けとなるものではないから、原判決の上記判断は誤りである。\n
・・・
これを本件についてみるに、前記ウ認定の本件推定の覆滅事由は、特 許発明が被告製品1の部分のみに実施されていること及び市場の非同 一性であり、いずれも特許権者の実施の能力を超えることを理由とするものではない。\nしかるところ、市場の非同一性を理由とする覆滅事由に係る推定覆滅 部分については、被控訴人による被告製品1の各仕向国への輸出があっ た時期において、控訴人製品1は当該仕向国への輸出があったものと認 められないことから、当該仕向国のそれぞれの市場において、控訴人製 品1は、被告製品1の輸出がなければ輸出することができたという競合 関係があるとは認められないことによるものであり(前記ウ c)、控訴 人は、当該推定覆滅部分に係る輸出台数について、自ら輸出をすること ができない事情があるといえるものの、実施許諾をすることができたも のと認められる。 一方で、本件各発明Cが侵害品の部分のみに実施されていることを理 由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分については、その推定覆滅部分に 係る輸出台数全体にわたって個々の被告製品1に対し本件各発明Cが寄 与していないことを理由に本件推定が覆滅されるものであり、このよう な本件各発明Cが寄与していない部分について、控訴人が実施許諾をす ることができたものと認められない。 そうすると、本件においては、市場の非同一性を理由とする覆滅事由 に係る推定覆滅部分についてのみ、特許法102条3項の適用を認める のが相当である。
(ウ)a これに対し、控訴人は、特許発明が侵害品の一部のみに実施されて いることを理由とする覆滅事由は、需要を形成する一要因にすぎず、 侵害品に向かっていた事情が全て特許権者の製品に向かうかどうかを 判断する一要素であるから、市場の非同一性等を理由とする覆滅事由 と区別する理由はないこと、覆滅事由ごとに特許法102条3項の適 用の有無を区別することは、実施料率の算定が煩雑になり妥当でなく、 そもそも製品の需要形成には様々な要因が複合的に絡み合っており、 覆滅事由ごとに覆滅割合を認定して当該覆滅部分にライセンス機会の 喪失による逸失利益が認められるか否かを認定判断することは実際上 困難であることからすると、本件各発明Cが侵害品の部分のみに実施 されていることを理由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分についても、 特許法102条3項の適用を認めるべきである旨主張する。
しかしながら、前記 で説示したとおり、上記推定覆滅部分は、個々 の被告製品1に対し本件各発明Cが寄与していないことを理由に本件 推定が覆滅されるものであり、このような本件各発明Cが寄与してい ない部分について、控訴人が実施許諾をすることができたものとは認 められないから、控訴人の上記主張は採用することができない。 b また、被控訴人は、1)特許法102条1項において、特許権者が自 己実施できたと推定される部分(1号)とは別にライセンスをし得た 部分(2号)とを区別し観念できるのは、同項が、侵害者の販売する 「数量」に基づいて、権利者の逸失利益に係る損害額を算定する方法 を採用しているからであり、他方で、同条2項は、侵害者の「利益」 を権利者の逸失利益と推定する損害額算定方法をとっており、同項の 推定が覆滅されるのは、最終計算の結果としての損害額であり、計算 過程の途中数値である侵害品の数量の一部が計算の基礎から除かれる わけではなく、同項の推定を覆滅する過程において、権利者のライセ ンスの機会の喪失による逸失利益をも含む全ての逸失利益が評価し尽 されているというべきであるから、推定覆滅部分に対して同条3項を 適用することは、権利者の損害の二重評価となり、許されない、2)同 条1項2号が新設された令和元年改正特許法において、同条2項につ いて実施料相当額の損害が明文において規定されなかったのは、この ような趣旨によるものと解される、3)仮に推定覆滅部分について同条 3項の重畳適用が認められる場合が理論的にあり得るとしても、被告 製品1について、「市場の非同一性」を理由とする覆滅事由に係る推定 覆滅部分につき、輸出に際して海外市場の事業者から受け取る対価は、 あくまで海外市場に基づく利益であり、このような海外市場における 利益まで特許法102条2項の推定が及ぶものと解し、日本国内の特 許権に基づいて独占することは、特許権の保護範囲を逸脱しており、 法が予定していないものであり、また、日本国の特許権に基づいて仕向国への輸出行為のみを切り取り、ライセンスする場合は現実に考え\n難く、ライセンスによる実施料相当額の得べかりし利益を得られなか ったとは言い難いとして、本件推定の推定覆滅部分については、同条 3項を適用することはできない旨主張する。
しかしながら、1)及び2)については、前記 で説示したとおり、特 許権者は、自ら特許発明を実施して利益を得ることができると同時に、 第三者に対し、特許発明の実施を許諾して利益を得ることができるこ とに鑑みると、侵害者の侵害行為により特許権者が受けた損害は、特 許権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた 実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益と実施許諾の機会の 喪失による得べかりし利益とを観念し得るものと解されるところ、特 許法102条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、 特許権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができ た実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益に相当するもので あるのに対し、同項による推定の推定覆滅部分について、特許権者が 実施許諾をすることができたと認められるときは、特許権者は、売上 げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による実施 料相当額の損害を受けたものと評価できるから、特許権者の損害を二 重に評価することにはならない。また、同条1項2号が新設された令 和元年改正特許法において、同条2項について、同条1項2号と同様 の法改正がされなかったからといって直ちに同条2項による推定の推 定覆滅部分について同条3項の適用を否定すべき理由にはならないと いうべきである。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆平成30(ワ)3226

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令和4(行ケ)10019  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、明確性違反の無効理由なし、とした審決を取り消しました。

前記(3)によると、本件各発明が属する技術分野(線材の引抜加工機及びこれに 用いるダイス)においては、従来、多角形の断面を有する線材の製造に際し、ダイ スのベアリング部の開口部(以下「開口部」という。)の角部に潤滑剤がたまって 塊が発生し、その除去のために作業を一旦止める必要があるため、生産量が低下し て製造原価が下がらない一因となっていたところ、本件各発明は、潤滑剤の塊の発 生を極力防ぎ、また、ダイスのメンテナンスに要する時間を極力削減し、その結果、 多角形の断面を有する線材の製造コストの低減を図ることを目的として、当該角部 の全部又は一部につき、これを円弧とし、鈍角の集合とし、又は自由曲線とするこ とにより、当該角部に潤滑剤がたまりにくくなるようにしたものであるといえる。 加えて、本件明細書における「略多角形」の定義(段落【0057】)にも照らす と、本件各発明の「略多角形」とは、本件各発明の効果(開口部の角部に潤滑剤が たまりにくくなること)を得るため、「基礎となる多角形断面」の角部の全部又は 一部を円弧、鈍角の集合又は自由曲線に置き換えた図形(以下、角部を円弧、鈍角 の集合又は自由曲線に置き換えることを「角部を丸める」などといい、角部に生じ た円弧、鈍角の集合又は自由曲線を「角部の丸み」などということがある。)をい うものと解することができる。そして、前記(3)によると、「基礎となる多角形断 面」とは、従来技術における開口部(角部を丸める積極的な処理をしていないもの) の断面を指すものと解されるから、結局、本件各発明の「略多角形」とは、本件各 発明の上記効果を得るため、その角部を丸める積極的な処理をしていない開口部に つき、その角部の全部又は一部を丸める積極的な処理をした図形をいうものと一応 解することができる。なお、これは、前記(2)の字義からみた「略多角形」の意義 とも矛盾するものではない。
(5) 「略多角形」と「基礎となる多角形断面」との区別
前記(4)のとおり、本件各発明の「略多角形」は、「基礎となる多角形断面」の 角部の全部又は一部を丸めた図形をいうものと一応解されるから、両者の意義に従 うと、両者は、明確に区別されるべきものである。 しかしながら、証拠(甲31、32、36、37)及び弁論の全趣旨によると、 ワイヤー放電により、その断面形状が多角形である開口部を形成するくり抜き加工 をした場合、開口部の角部には、不可避的に丸みが生じるものと認められる。そう すると、「基礎となる多角形断面」も、くり抜き加工をした後の開口部の断面であ る以上、角部が丸まった多角形の断面であることがあり、その場合、客観的な形状 からは、「略多角形」の断面と区別がつかないことになる。 この点に関し、本件審決は、本件各発明の「略多角形」には、上記のように加工 に際して角部に不可避的に生じる丸み(例えば、曲率半径が0.3mm程度以下の 小さなもの)を有するにすぎない「基礎となる多角形断面」を含まないと判断し、 被告も、これに沿う主張をする。しかしながら、開口部の角部の丸みの曲率半径が 0.3mm程度以下であれば、当該角部に潤滑剤がたまりにくくなるとの本件各発 明の効果が得られないものと認めるに足りる証拠はなく、当該曲率半径が0.3m m程度以下の場合であっても、本件各発明の上記効果が得られる可能性があるから、\n当該曲率半径がどの程度を超えれば本件各発明の上記効果が得られるようになるの かは、客観的に明らかとはいえない。また、証拠(甲31、32、36、37)及 び弁論の全趣旨によると、上記のようにワイヤー放電加工に際して開口部の角部に 丸みが不可避的に生じるのは、加工に用いるワイヤーの断面形状が一定の直径を有 する円形であるからであると認められ、ワイヤーの断面の直径が小さくなれば、そ の分だけ、不可避的に生じる丸みの曲率半径は小さくなるといえるから、開口部の 角部の丸みについては、その曲率半径がどの程度まで小さければ不可避的に生じる 丸みであるといえ、どの程度より大きければ不可避的に生じる丸みを超えて積極的 に角部を丸める処理をしたものであるといえるのかを客観的に判断する基準はない というほかない。そうすると、客観的な形状からは、「基礎となる多角形断面」と 「略多角形」とを区別するのは困難であるといわざるを得ない。 以上のとおり、本件各発明の「略多角形」は、「基礎となる多角形断面」と区別 するのが困難であり、本件各発明の技術的範囲は、明らかでない。
(6) 「略多角形」の角部の形状
前記(5)のとおり、ワイヤー放電により、その断面形状が多角形である開口部を 形成するくり抜き加工をした場合、開口部の角部には不可避的に丸みが生じるから、 「基礎となる多角形断面」の角部を丸めるための積極的な処理をしようとしまいと、 開口部がくり抜き加工のされた後のものである以上、開口部の角部には、全て丸み があり得ることになる。 そして、前記(5)のとおり、開口部の角部の丸みについては、その曲率半径がど の程度まで小さければ不可避的に生じる丸みであるといえ、どの程度より大きけれ ば不可避的に生じる丸みを超えて積極的に角部を丸める処理をしたものであるとい えるのかを客観的に判断する基準はないし、また、当該曲率半径がどの程度を超え れば本件各発明の効果(開口部の角部に潤滑剤がたまりにくくなること)が得られ るようになるのかは、客観的に明らかとはいえない。 この点に関し、本件審決は、本件各発明の「略多角形」は「基礎となる多角形断 面」に対して潤滑剤がたまる角部がなくなるように更に積極的な処理をした状態の もの(例えば、少なくとも角部の円弧の曲率半径が0.8mm程度のもの)と解さ れると判断し、被告も、これに沿う主張をする。しかしながら、本件明細書には、 開口部の角部に潤滑剤がたまりにくくなるとの本件各発明の上記効果を奏する条件 について、1辺4mmの四角形断面の棒材を作成する場合に、開口部の1つの角部 を曲率半径0.8mm程度の円弧(曲線)で結ぶと、角部にたまっていた潤滑剤の 塊が1か所に固まりづらくなる旨の記載(段落【0055】)があるのみであると ころ、1辺4mmの四角形断面の開口部の角部を曲率半径が0.8mm程度より小 さい円弧とした場合に本件各発明の上記効果が得られないものと認めるに足りる証 拠はないし、その断面形状が1辺4mmの四角形以外の多角形である開口部も含め ると、開口部の角部にどの程度の丸みを帯びさせれば本件各発明の上記効果が得ら れるのかを客観的に明らかにするのは困難であるといわざるを得ない(なお、被告 は、開口部の角部における潤滑剤のたまりやすさは、作成すべき棒材の断面の大き さにかかわらず、当該角部の丸みの曲率半径によって決せられ、当該曲率半径が0. 3mm程度以下であれば、本件各発明の上記効果が得られないと主張する。しかし ながら、開口部の角部における潤滑剤のたまりやすさは、当該角部の丸みの曲率半 径の大きさのみならず、線材の種類、潤滑剤の種類、加工発熱の度合い等の様々な 要素によって左右されるものであると解され、当該曲率半径が0.3mm程度以下 であれば、一律に本件各発明の上記効果が得られないと認めることはできないから、 被告の主張を採用することはできない。)。 以上によると、本件各発明の「略多角形」については、特許請求の範囲の記載、 本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識を踏まえても、「基礎となる多角 形断面」の角部にどの程度の大きさの丸みを帯びさせたものがこれに該当するのか が明らかでなく、この点でも、本件各発明の技術的範囲は、明らかでないというべ きである。
(7) 小括
以上のとおり、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に よると、本件各発明の「略多角形」とは、本件各発明の効果(開口部の角部に潤滑 剤がたまりにくくなること)を得るため、その角部を丸める積極的な処理をしてい ない開口部につき、その角部の全部又は一部を丸める積極的な処理をした図形をい うものと一応解することができるものの、客観的な形状からは、本件各発明の「略 多角形」と「基礎となる多角形断面」とを区別することができず、また、「基礎と なる多角形断面」の角部にどの程度の大きさの丸みを帯びさせたものが本件各発明 の「略多角形」に該当するのかも明らかでなく、本件各発明の技術的範囲は明らか でないというほかないから、本件各発明の「略多角形」は、第三者の利益が不当に 害されるほどに不明確であると評価せざるを得ず、その他、本件各発明の「略多角 形」が明確であると評価すべき事情を認めるに足りる証拠はない。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10021  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

「吹矢の矢」の特許についての審決取消請求事件です。特許庁が無効理由無しとした審決が維持されました。侵害訴訟については1審は侵害と認定しましたが、知財高裁は技術的範囲に属しないと判断しています。

ア 事案の内容に鑑み、まず、相違点2−1−cに関する容易想到性について検 討する。
イ 前記4(1)及び(2)によると、甲2及び3には、前記第2の3(3)ア(ア)aのよ うに本件審決が認定する「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方 に延びる円柱部とからなるピンを備えた吹矢に使用する矢」(甲2・3技術事項) が記載されていると認められるが、それら甲2及び3に記載された矢は、いずれも、 (円錐形の)フィルムを備えたものではない。 また、前記4(3)によると、甲4において、重りの釘2)は頭部を矢の後方(プラス ティックフィルム1)が巻かれた側)に位置しており、フィルムに釘の円柱部全てが 差し込まれているものではなく、フィルムの先端部に重りの釘2)の頭部が接続され ているものでもない。 したがって、仮に、甲1発明に甲2〜4を適用しても、相違点2−1−cに係る 本件発明の構成には至らないから、甲2〜4は相違点2−1−cについての容易想\n到性を基礎付けるものではない。
ウ(ア) これに対し、甲5発明の矢については、釘4の円柱状部分全てがスカート 部6に差し込まれて固着されるとともに、スカート部6の先端部に連続して釘4の 丸い頭部4aが接続されているといえる。
(イ) しかし、甲1発明の矢は、矢軸5の後方に中空円錐状の羽根部6が篏合固着 されており、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着することについて、甲1に これを示唆し、又は動機付ける記載があるとは認められない。 この点、甲1において、矢じりは金属製とされ、標的台は台板と紙とクッション ボードから成るものとされ、クッションボードについては所定厚さ(約20mm)が 明記され、全長約10cmの吹矢の約5分の1程度を矢じり4及び矢軸5が占める第 3図が掲載され、吹矢の当たった状態を示すとされる第6図においては矢じり4の 先端が台板8に接している状態が示されていることを考慮すると、甲1において吹 矢が標的面に当たり「小気味の良い音」を発するについては、矢じり4の先端が台 板に到達することが少なからず寄与していることが窺われる。それにもかかわらず、 仮に矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着した場合、第6図のように矢じり4 の先端が台板に到達するかには疑問を差し挟む余地がある。このことは、甲1発明 の矢について、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採用す\nることを阻害する事情となり得るところである。
(ウ) そうすると、甲1発明に甲5発明を適用することについては、示唆も動機付 けもなく、むしろ阻害要因があるともいえるから、甲1及び5に基づいて、当業者 において相違点2−1―cに係る本件発明の構\成とすることが容易になし得たもの とはいえない。
エ したがって、相違点2−1のうちその余の点について判断するまでもなく、 相違点2−1に係る本件発明の構成が容易想到であるとはいえない。\n
オ 原告の主張について
(ア) 原告は、羽根部分がピンから外れ、又は前側(円頭形部分側)にフィルムが ずれてしまうことから、甲1に接した当業者であれば、甲5に開示のようにフィル ムに円柱部を全て差し込む構成とする必要があり、動機付けがある旨を主張する。\n原告の上記主張は、動機付けとして、甲1や甲5の記載を根拠とするものではな く、物理法則ないし技術常識を指摘するものと解されるところ、原告が上記主張の 根拠として提出する実験結果報告書(甲12)については、実験に用いられた吹矢 の矢の素材や寸法等も明らかでなく(なお、甲1においては、羽根は、紙又は合成 樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより形成された最大外径10〜12mmの軽量 なものとされ、矢の全長は約10cmであるとされている。)、甲1発明の矢を適切 に再現した上でされた実験であることが担保されているとはみられない。また、そ の内容に沿わない被告提出の報告書(乙1)も存在する。さらに、接着剤の詳細に ついても不明であり、より強固な接着力を有する接着剤を選択するという方法が存 在しないことも裏付けられていない。したがって、前記報告書(甲12)に基づい て原告の主張するような動機付けがあると認めることはできず、その他、甲1発明 について矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採る動機付け\nとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。 したがって、原告の上記主張は前記イ〜エの判断を左右するものではない。
(イ) 原告は、1)矢軸の途中にフィルムを巻き付ける構成とした場合、ピンの軸が\nフィルムの中央を通るように固定することが困難となり、上下方向で重心のブレを 生じ、命中精度に影響し得ること、2)上記構成とすると、吹矢を量産する際に差し\n込む部分の長さを一定にするための位置決めが困難であるのに対し、フィルムに円 柱部を全て差し込む構成とすると、同じ長さの吹矢を容易に製造することが可能\と なるといった点を踏まえても、甲1発明に甲5発明を適用する動機付けがあると主 張するが、命中精度や製造の容易性に関して甲1に示唆や動機付けというべき記載 は認められず、他に上記1)及び2)の点に関して甲1発明に甲5発明を適用する動機 付けとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。

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◆令和3(ネ)10049等

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平成31(ネ)10007  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年8月8日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審は4700万円の損害賠償を認めましたが、控訴審はこれを約5560万円としました。また、1審は102条2項の推定覆滅の割合は完全非公開としましたが、知財高裁は、貢献度99%+αと一部非公開としました。また、1審では2項と3項との重畳適用は主張されていません。

(3) 特許法102条1項に基づく損害について
ア 適用関係
令和元年法律第3号による改正について 存続期間の満了により、本件特許権1の侵害行為は令和2年3月31 日までに終了しているところ、令和元年法律第3号による改正後の特許 法102条1項は令和2年4月1日から施行されたものであるが、改正 法附則には経過措置がないことから、本件特許権1の侵害行為には、上 記改正後の特許法102条1項が適用される。 一審被告は、改正法を遡及適用せずに旧1項を適用すべきであると主 張するが(前記第2の4(16)参照)、改正後の特許法102条1項2号は、 実施相応数量を超える数量又は特定数量(通常実施権を許諾し得た場合 に限る)に応じた実施料相当額を損害の額とするものであるところ、そ の実施相当額の損害が実体法上生じ得ないものとはいえないから、改正 法が実体法上の請求権を新たに創設したものとはいえない。したがって、 同号は、客観的には改正前から損害を構成するといえた実体法上の損害\nを推定する規定にとどまるものといえるから、一審被告の上記主張を採 用することはできない。
・・・
ウ 「単位数量当たりの利益の額」
原告の製品の1台当たりの限界利益の額が別紙1−1(1)のとおりである ことは、当事者間に争いがない。
エ 「その侵害の行為を組成した物」の譲渡数量等について
販売数
本件では、一審被告による被告表示器A及び被告製品3の生産、譲渡\n等の行為について間接侵害の成立が認められるが、被告製品3は、被告 表示器AにOSを提供することによって被告表\示器Aと原告の製品と同 等なものを生産するという限度において侵害行為を組成しているもので あるから、特許法102条1項の損害を算定するに当たり、被告表示器\nAと独立にその譲渡数量を論じる必要はない。 したがって、特許法102条1項の損害算定に当たっては、被告表示\n器Aの譲渡数量のみを算定基礎とすれば足りる。 そして、平成25年4月1日から令和2年3月31日までの被告表示\n器Aの販売数が別紙5に記載のとおりであることは、当事者間に争いが ない(なお、被告表示器Aについては、各月ごとの販売数は明らかでは\nないので、別紙5のとおり半期ごとの販売数量に基づき、以下、損害額 の算定を行うものとする。また、前記2(2)オのとおり、本件特許権1の 間接侵害が成立するのは平成25年4月2日以降であるところ、同月1 日の被告表示器Aの販売数の有無又はその数量が不明であるが、同日の\n譲渡等が7年にわたる期間の損害額全体に影響するのはごくわずかであ り、この1日分を含めるか否かの相違は以下の算定の中で吸収され、何 らかの影響を及ぼすことは想定し難いから、同日の販売数を改めて算定 することはせず、別紙5に記載の販売数をそのまま用いることとする。)。
譲渡数量
一審被告は、「その侵害の行為を組成した物」は直接侵害品であると ころ、被告表示器A及び被告製品3を購入した者の全てが本件発明1の\n実施品(直接侵害品)を生産しているのではないと主張する(前記第2 の4(16)参照)。しかしながら、間接侵害行為は特許権を「侵害するものとみなす」 (特許法101条)とされており、そして、特許権侵害の損害の額につ いて、「その侵害の行為を組成した物」(同法102条1項)とされてい るところ、前記ア のとおり、間接侵害にも同法102条の適用がある と解する以上、「侵害の行為を組成した物」とは間接侵害品を指すもの と解するべきである。
もっとも、特許法101条2号に係る間接侵害品たる部品等は、特許 権を侵害しない用途ないし態様で使用することができるものである。そ して、そのような部品等の譲渡は、当該部品等の譲渡等により特許権侵 害が惹起される蓋然性が高いと認められる場合には、譲渡先での使用用 途ないし態様のいかんを問わず、間接侵害行為を構成するが、実際に譲\n渡先で特許権を侵害する用途ないし態様で使用されていない場合には、 結果的には、間接侵害品の売上げに当該特許権が寄与していない。そう すると、そのような譲渡先については、間接侵害行為がなければ特許権 者の製品が販売できたとはいえないことになり、特許権者等に特許発明 の物の譲渡による得べかりし利益の損害は発生しないので、当該物の譲 渡によって得た利益の額を特許権者等が受けた損害の額と推定すること はできないというべきである。そして、このような場合は同法102条 1項1号の「販売することができないとする事情」に該当するものと解 するのが相当である。一審被告の主張は、仮に、直接侵害品の生産に用 いられた数量のみを損害算定の基礎とすべき主張が採用されない場合に は、同一の事情を「販売することができないとする事情」として主張す るとの趣旨も含むものと解され、その限度で採用することができる。 したがって、特許権者等の損害額の算定に当たっては、そのような販 売数量は、特許法102条1項の「譲渡数量」から控除されると解する のが相当である。
オ 「販売することができないとする事情」について
販売することができないとする事情(その1)
一審被告は、1)原告の製品が一審原告製のプログラマブル・コントロ ーラにしか接続できないこと、2)一審原告がプログラマブル・コントロ ーラ用表示器の市場において意味のあるシェアを有しておらず、本件発\n明1の技術的特徴による販売への貢献も極めてわずかであるから、被告 表示器A及び被告製品3の購入者のほとんどは、一審原告以外のメーカ\nーの製品を購入する、3)原告の製品は本件発明1の実施品ではないから 本件特許権1の侵害によって一審原告に損害が発生する余地はない旨を 主張する(以下、この主張に係る事情を「販売することができないとす る事情(その1)」という。)。
特許法102条1項1号の「販売することができないとする事情」と は、侵害行為と特許権者の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する 事情をいうものである。
本件発明1の特徴的技術手段は、異常発生時におけるタッチによる接 点検索にすぎず、回路モニタ機能全体ではないことや、従来製品として、\nモニタ上に表示される異常種類のうち特定のものをタッチして指定する\nと、その指定された異常種類に対応する異常現象の発生をモニタしたラ ダー回路が表示され、異常種類の原因となるコイルの指定や接点の指定\nをタッチパネル上の入力画面でデバイス名又はデバイス番号を入力して 行う製品が存在していたことは、前記2(2)イ において認定したとおり である。そうすると、本件発明1に係る機能を全て使用することができ\nる製品が原告の製品以外に存在していなかったとしても、コイルの指定 や接点の指定をタッチパネル上の入力画面でデバイス名又はデバイス番 号を入力して行う製品は存在しており、そのような製品でも、異常現象 の発生時にラダー回路図面集を参照しなくても真の異常原因を特定した り、原因の特定のために次々にラダー回路を読み出していったりするこ と自体は可能であり、それほど複雑な操作を要するものではないといえ\nる。さらに、本件発明1の技術的範囲に含まれないものであっても、異 常発生時においてコイル検索のみを実施できるようにし、回路を戻る場 合には検索機能を用いずに戻る機能\を有する表示装置であれば、異常現\n象の発生時にラダー回路図面集を参照しなくても真の異常原因を特定し たり、原因の特定のために次々にラダー回路を読み出していったりする という目的を達することに支障があるとは考えにくい。加えて、本件発 明1の特徴的技術手段である接点検索は、原告の製品にですら実施され ていないものであり、この特徴的技術手段が原告の製品の販売に貢献し ていないことは明らかである。しかも、この特徴的手段である接点検索 は、被告表示器A及び被告製品3の多数の機能\のうち、わずか一点に関 するものであって、その機能の極めて僅少な部分しか占めない。\n 以上からすると、本件発明1の技術的特徴部分が被告表示器A及び被\n告製品3の販売数に大きく寄与したものとはおよそ想定し難い。また、 一審原告のプログラマブル表示器(表示装置)における市場シェアは、\n別紙7−2の「その他」に含まれるにすぎない僅少なものである(甲3 1)上に、原告の製品は、一審原告製のプログラマブル・コントローラ にしか接続できない(争いがない。)のであるから、被告表示器A及び\n被告製品3が本件発明1の特徴的技術部分を備えないことによってわず かに販売数が減少したとしても、その減少数分を埋め合わせる需要が、 全て一審原告の方に向かうとも想定し難い。 したがって、本件では、被告表示器A及び被告製品3が本件特許1を\n侵害したことによって原告の製品が販売減少したとの相当因果関係は、 著しい程度で阻害されると認めるべきであり、被告表示器Aの販売数の\n99%について販売することができないとする事情があると認めるのが 相当である。
販売することができないとする事情(その2)
前記エ のとおり、一審被告が直接侵害品の生産に用いられた被告表\n示器Aの数量として主張するところは、「販売することができないとす る事情」の一要素として考慮することができるところ、一審被告は、前 記第2の4(16)(原判決第3の18(被告の主張)(1)ア c)のとおり、 1)輸出の除外、2)プログラマブル・コントローラに接続しない利用態様 の除外、3)一審被告製シーケンサ等に接続する利用態様の割合から算出 される事情、4)対応シーケンサ等に接続する利用態様の割合から算出さ れる事情、5)被告製品1−2についてオプション機能ボートを購入した\n割合から算出される事情、6)ワンタッチ回路ジャンプ機能を用いるプロ\nジェクトデータを有する被告表示器Aの割合から算出される事情を主張\nする(前記第2の4(16)参照。以下、この主張に係る事情を「販売するこ とができないとする事情(その2)」という。)。
そこで、検討するに、まず、一審被告が把握している被告表示器Aの\n輸出台数は、別紙7の1に記載したとおりであること、平成25年の一 審被告製のプログラマブル表示器の販売数量、販売金額、国内市場シェ\nアは、同7の2に記載したとおりであること、平成25年から令和2年 までの一審被告のプログラマブル・コントローラの国内総販売数、国内 市場シェアは、同7の3に記載したとおりであること、一審被告製シー ケンサ(プログラマブル・コントローラ)の販売実績、回路モニタ機能\nの実行が可能なシーケンサ等の割合は、同7の4に記載のとおりである\nこと、GT15(被告製品1−2)に装着可能なオプション機能\ボード の販売台数は、別紙7の5に記載のとおりであることが認められ(甲3 1、乙58ないし64、弁論の全趣旨)、これに反する証拠はない。 上記認定事実を前提に更に検討すると、1)国外に輸出された被告表示\n器Aについては、本件発明1が実施されるのが日本国外となり、属地主 義の原則から本件特許権1の侵害は生じ得ないから、一審被告から開示 された輸出台数は控除するのが相当であるが、その輸出台数を一審被告 は別紙7の1のとおり把握しているとし、これに疑念を差し挟む理由も ないところ、その台数が全体の販売数に占める割合は僅少である。2)プ ログラマブル・コントローラに接続しない被告表示器Aについても本件\n特許権1の侵害が生じないところ、その数量は、一審被告すらおおよそ の割合でしか示し得ていないものの(別紙2−1)、前記2(2)エ のと おり、ユーザは高額な機器である被告表示器Aの機能\を十全に利用する\nため回路モニタ機能等を利用しようと合理的に行動するものといえるか\nら、被告表示器Aをプログラマブル・コントローラに接続する割合は非\n常に高くなるものと推認される。3)一審被告製シーケンサ等に接続する 利用態様の割合については、前記2(2)エのとおり、プログラマブル・コ ントローラとプログラマブル表示器とを同一メーカのもので統一する傾\n向があると推認されることから、一審被告製シーケンサの国内市場シェ ア割合(別紙7−3)に従った割合で被告表示器Aが一審被告製シーケ\nンサに接続されるものとするのは不自然であり、当該シェア割合よりは 一定程度高い割合で一審被告製シーケンサと接続されるものと推認する のが相当であるが、他社の製品との組み合わせが僅少であるとまでは認 め難い。4)対応シーケンサ等に接続する利用態様の割合については、被 告表示器Aがその仕様・機能\等からみて特定のシーケンサに用いられる とする特別な傾向があることまでもを認めるに足りる証拠はないから、 回路モニタ機能を利用できないシーケンサの販売割合(別紙7−4)は\nその割合のまま考慮することが相当である。5)被告製品1−2について オプション機能ボートを購入したユーザの割合(最大で約4分の1)に\nついては、一定の考慮をするものとするが、そもそも被告表示器Aに占\nめる被告製品1−2の割合は約●パーセントにすぎないから、いずれに しても、被告表示器A全体の中ではほとんど影響を及ぼさない。最後に、\n6)ユーザがワンタッチ回路ジャンプ機能を用いるプロジェクトデータを\n作成する割合については、引用に係る原判決第4の2(2)(本判決前記1 (2)にて補正されたもの)において認定したとおり、一審被告がワンタッ チ回路ジャンプ機能を宣伝のポイントとしていたことや、被告表\示器A 及び被告製品3を購入等したユーザは回路モニタ機能等を用いることを\n強く動機付けられ、その機能がインストールされる可能\性もかなり高い といえること等に照らせば、ワンタッチ回路ジャンプ機能を用いようと\nする者は相応の数に上るものと考えられるものの、具体的な割合を確定 するに足りる資料はない。
以上の観点から検討するところ、上記1)、2)、5)については、直接侵 害品の生産に用いられる被告表示器Aの数量に与える影響はわずか、あ\nるいは少ないが、上記4)及び6)については直接侵害品の生産に用いられ る被告表示器Aの数量に与える影響はかなり大きく、3)についても少な からぬ影響があるというべきである。なお、ここまでにおいて、これら の事情を独立の要素として考慮したが、例えば、ワンタッチ回路ジャン プ機能を用いるプロジェクトデータを作成するユーザは回路モニタ機能\ 等を使用できる機器を有しているなど、これらの要素は相互に関連性を 有する場合もあり得る。そこで、このような点も加味して、上記事情を 総合考慮すると、被告表示器Aの販売数の●●%が直接侵害品の生産に\nは用いられなかったものと推認することが相当である。したがって、こ の限度において、「販売することができないとする事情」があると認め る。
一審被告の主張について
一審被告は、ユーザからの不具合調査や技術支援の依頼への対応に応 じてユーザから取得しているプロジェクトデータから、本件発明1の実 施品の生産に用いられる被告表示器Aの数が推定できると主張する(前\n記第2の4(16)参照)が、これらのプロジェクトデータは、一審被告に対 して技術支援を求めるユーザ、不具合品として製品を返却してきたユー ザ、他社製表示器から一審被告製品に乗り換えたユーザから取得してき\nたプロジェクトデータというのであって(乙72)、全くランダム化さ れていないものであり、それらユーザが一審被告の製品を用いるユーザ の平均的な技術水準にあるとは認め難く、その主張を採用することはで きないそのほか一審被告がるる主張するところも、前記 及び の認定を左 右しない。
一審原告の主張について
一審原告は、前記 3)の事情につき、引用に係る原判決第3の18(1) ア c(本判決前記第2の4(12)で補正されたもの)のとおり、プログラ マブル表示器を他社製のプログラマブル・コントローラに接続する利用\n態様は僅少である旨主張する。しかしながら、プログラマブル・コント ローラの市場シェアでは下位を占めるが、プログラマブル表示器のシェ\nアでは上位を占める社があり(乙58ないし64)、そのような社のプ ログラマブル表示器は他社製のプログラマブル・コントローラに接続さ\nれることを前提にされていると考えられる。このような点に鑑みると、 異なる社が製造するプログラマブル表示器とプログラマブル・コントロ\nーラとを組み合わせることも、当業界としてあり得る対応と推認される。 そうすると、プログラマブル表示器とプログラマブル・コントローラの\n親和性が好まれるといっても、他社製のものとの組み合わせることが僅 少であるとまでは認められないから、一審原告の上記主張を採用するこ とができない。
また、一審原告は、同c(b)(本判決前記第2の4(12)で補正されたもの) のとおり、1)被告表示器Aと接続できない場合がある「MELSEC Qn Aシリーズ」、「MELSEC Aシリーズ」、「MELDAS C6/C64」、「MELSE C iQ-Lシリーズ」及び「CNC C80シリーズ」などのシーケンサを購入 したユーザが被告表示器Aを購入するはずがない、2)単純な使用態様で あるスタンドアローン向けのシーケンサに回路モニタ機能等を有する高\n額な被告表示器Aを接続するユーザはいない旨主張するが、上記1)につ いていえば、仮に、一審原告の指摘するシーケンサが被告表示器Aと接\n続できないとしても、別紙7の4のとおり、一審被告製シーケンサ全体 に占めるその販売割合は●ないし●●●%と極めて僅少であって全体的 な傾向を全く左右させないものであるし、上記2)についていえば、一審 被告が主張するように言い切ることができることを認めるに足りる証拠 はない。そのほか一審原告がるる主張するところも、前記 及び の認定を左 右しない。
以上のとおり「販売することができないとする事情(その1)」とし て、主に本件発明1の売上げへの貢献に関する観点からの99%の控除 と「販売することができないとする事情(その2)」として、直接侵害 品の生産に用いられていないとの観点からの●●%の控除が認められ、 両者は独立して考慮できる控除要素であるから、結局、別紙8に記載の とおり、被告表示器Aの譲渡数量から、99%の譲渡数量を控除し、更\nにその数量から●●%の譲渡数量を控除した数量(控除数量は、●●● ●%となる。)について「販売することがのできないとする事情」を認 めるのが相当である(この数値は、一審原告が自認する59/60≒0.98 3を下回るものではない。)。
カ 特許法102条1項1号の損害
前記イないしオの判断を踏まえると、特許法102条1項1号に基づく 一審原告の損害額は、別紙8のとおり、5062万9205円と認めるの が相当である。
キ 特許法102条1項2号の損害
特許法102条1項2号は、特定数量がある場合、その数量に応じた実 施料に相当する額を損害の額とすることができると定める一方で、同号括 弧書きは、特許権者等が当該特許権者等の特許権について実施権の許諾を し得たと認められない部分を除く部分を除外しているから、侵害者の侵害 行為により特許権者がライセンスの機会を喪失したとはいえない場合には 実施料に相当する額の逸失利益が生じるものではないことが規定されてい る。
前記オのとおり、本件において認められた特定数量は本件発明1の特徴 的技術部分が被告表示器A及び被告製品3の販売量に貢献しているとは認\nめられない数量、機能上の制約あるいは一審原告のシェア割合からみてユ\nーザの需要が原告の製品に向かず、一審原告以外の他社への購入に振り向 けられる数量、直接侵害品の生産に向けられず本件発明1の技術的範囲に 属しない表示器となる数量を合わせたものであるから、そのように本件発\n明1が販売数量に貢献し得ていない製品や一審被告以外の他社が販売する 製品について、一審原告が一審被告に本件発明1をライセンスし得るとは 認められない。そうすると、特許法102条1項2号の損害を認めることはできない。
(4) 特許法102条2項に基づく損害について
ア 本件の間接侵害への特許法102条2項の適用の可否
特許法102条2項は、侵害者が侵害行為により受けた利益の額を特許 権者等が受けた損害の額と推定すると定めるところ、この規定の趣旨は先 に同条1項について述べたのと同様であると解される。したがって、先に 同条1項について述べたのと同様の考え方の下に、本件において同条2項 の適用を肯定するのが相当である。
イ 侵害者が侵害の行為により受けた利益の額
平成25年4月から令和2年3月までの被告表示器A及び被告製品3の\n販売額が別紙3ないし6に記載されたとおりであること、被告表示器Aの\n限界利益率が20パーセントを下らないこと、被告製品3の限界利益率が 原判決別紙「被告の変動費の内訳、加重平均値及び限界利益率」に記載さ れたとおりであることは、当事者間に争いがない。
ウ 推定覆滅事由について
特許法102条2項は推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が 得た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果 関係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は覆滅 されるものと解される。ここで、特許法101条2号の間接侵害品が実際には直接侵害品の生産に用いられることがなかった場合には、結果的にみれば、当該間接侵 害品の譲渡行為がなければ特許発明の物を譲渡することができたという 関係にはなく、特許権者に特許発明の物の譲渡により得べかりし利益の 損害は発生しないので、当該物の譲渡によって得た利益の額を特許権者 が受けた損害の額と推定することはできないというべきであるから、こ のような場合は同法102条2項の推定を覆す事情に該当するものと解 するのが相当である。そうすると、先に特許法102条1項1号につい て述べた事情(前記(3)オ 。以下「推定覆滅事由(その1)」という。) は、特許法102条2項の推定覆事由として捉えることができるから、 被告表示器A及び被告製品3の利益の99%について覆滅事由があると\n認めるのが相当である。さらに、被告表示器A及び被告製品3のうち、\n直接侵害品の生産に用いられなかった分については一審原告の受けた損 害額であるとの推定を覆す事情(以下「推定覆滅事由(その2)」とい う。)があるというべきであるところ、直接侵害品の生産に用いられな かった被告表示器Aの数は、前記(3)オ と同旨の理由により、全体の● ●%に及ぶと認められるから、●●%の利益について推定が覆滅される ものと認めるのが相当である。また、被告製品3についても、直接侵害 品の生産に用いられたものと、そうではないものとが生じるが、特にど ちらかに偏るべき事情はうかがわれないから、そのインストール先の表\n示器Aと同様の割合で、その●●%の利益について推定が覆滅されるも のと認めるのが相当である。
以上のとおりであり、推定覆滅事由(その1)として、主に本件発明 1の売上げへ貢献に関する観点から導いた99%の減額と推定覆滅事由 (その2)として、直接侵害品の生産に用いられているかの観点から導 いた●●%の減額が認められ、両者は独立して考慮できる減額要素であ るから、結局、受けた利益のうち、●●●●%の額について推定覆滅事 由を認めるのが相当である(この数値は、一審原告が自認する59/60 ≒0.983を下回るものではない。)。
エ 特許法102条2項の損害
前記イ及びウの判断を踏まえると、特許法102条2項に基づく一審原 告の損害額は、別紙9のとおり、合計2424万7080円と認めるのが 相当である。
オ 特許法102条3項の重畳適用について
仮に、特許法の解釈上、特許法102条2項と3項の重畳適用が排除さ れていないとしても、その適用は同条1項2号の趣旨にかなったものとな るのが相当と思料されるべきところ、本件においては、同条2項の覆滅事 由は前記ウ 及び のとおり、そもそも同条1項2号の適用のない場合で あるから、同条3項を重畳適用できる事案ではない。 したがって、いずれにせよ、一審原告の上記主張を採用することはでき ないものである。
(5) 小括
前記(3)及び(4)の判断を踏まえると、前記(3)にて認定の特許法102条1項 に基づく原告の損害額(5062万9205円)の方が高いことから、その 額を一審原告の損害と認める。
(6) 弁護士費用
一審原告は本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人に委任したところ(当裁判 所に顕著な事実)、一審被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士 費用は、500万円と認めるのが相当である。

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◆平成27(ワ)8974

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令和4(ネ)574  損害賠償請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和4年9月30日  大阪高等裁判所

 営業秘密であるとの控訴人(1審原告)は主張しましたが、1審と同じく「営業秘密」に該当しないと判断しました。

控訴人において、上記コンピューターにログインできる従業員を被控訴人P1 のみに限るとの規制はなく、上記ログインパスワードは、西脇支社の従業員 には周知のものであり、被控訴人P1を除く西脇支社の従業員もこれを知って いた。
・・・
控訴人の就業規則第31条(12)(甲16)には、控訴人の「内外を問わず、 在職中または退職後においても、」控訴人、「取引先等の機密、機密性のあ る情報、企画案、ノウハウ、データ、ID、パスワード、および会社の不利 益となる事項を他に開示、漏洩、提供しないこと、またコピー等をして社外 に持ち出さないこと。」と規定する服務心得があり、控訴人は、被控訴人P1 の入社時に同被控訴人から誓約書(甲17)を徴求しているものの、その内 容は上記就業規則を遵守する旨の内容にとどまるものである。そして、控訴 人において、被控訴人P1に対し、見積書記載の本件顧客情報及び本件価格情 報が、上記規定の対象になることはもとより、これら情報を含む見積書記載 の情報が営業秘密であることに関する注意喚起がされたことはなく、また取 引案件ごとに作成される見積書の取扱いに関する研修等の教育措置が行われ たこともない。
・・・
控訴人本社が直接発注業者に見積書を送付 する場合は、西脇支社に見積書がファックスで参考送信されることもあった が、そうした見積書の紙媒体の取扱いについては、控訴人において保管場所 や廃棄方法が定められていたとの事実はない。
・・・
「控訴人本社から本件見積書のデータが送信され、保存される西脇支社のコン ピューターにはログインパスワードが設定されていたが、控訴人において、 上記コンピューターにログインできる従業員を被控訴人P1のみに限るとの規 制はなく、被控訴人P1を除く西脇支社の従業員も上記ログインパスワードを 知っていた。

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令和4(ネ)1273  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年9月30日  大阪高等裁判所

大阪高裁は、特許権に関係する事件について、神戸地裁が判断したことは管轄違いとして、原判決を取り消しました。

ところで、民訴法6条1項は、「特許権」「に関する訴え」については、東 京地方裁判所又は大阪地方裁判所の管轄に専属する旨規定し、同条3項本文は、 東京地方裁判所又は大阪地方裁判所が第1審として審理した「特許権」「に関 する訴え」についての終局判決についての控訴は東京高等裁判所の管轄に専属 する旨規定し、さらに知的財産高等裁判所設置法2条が、上記訴えは、同法に 基づき東京高等裁判所に特別の支部として設置された知的財産高等裁判所が取 り扱う旨規定している。上記各規定の趣旨は、「特許権」「に関する訴え」の 審理には、知的財産関係訴訟の中でも特に高度の専門技術的事項についての理 解が不可欠であり、その審理において特殊なノウハウが必要となることから、 その審理の充実及び迅速化のためには、第1審については、技術の専門家であ る調査官を配置し、知的財産権専門部を設けて専門的処理態勢を整備している 東京地方裁判所又は大阪地方裁判所の管轄に専属させることが適当であり、控 訴審については、同じく技術の専門家である調査官を配置して専門的処理態勢 を整備して特別の支部として設置した知的財産高等裁判所の管轄に専属させる ことが適当と解されたことにあると考えられる。 そして、このような趣旨に加え、民訴法6条1項が「特許権」「に基づく訴 え」とせず「特許権」「に関する訴え」として、広い解釈を許容する規定ぶり にしていることも考慮すると、「特許権」「に関する訴え」には、特許権その ものでなくとも特許権の専用実施権や通常実施権さらには特許を受ける権利に 関する訴えも含んで解されるべきであり、また、その訴えには、前記権利が訴 訟物の内容をなす場合はもちろん、そうでなくとも、訴訟物又は請求原因に関 係し、その審理において専門技術的な事項の理解が必要となることが類型的抽 象的に想定される場合も含まれるものと解すべきである。 なお、専属管轄の有無が訴え提起時を標準として画一的に決せられるべきこ と(民訴法15条)からすると、「特許権」「に関する訴え」該当性の判断は、 訴状の記載に基づく類型的抽象的な判断によってせざるを得ず、その場合には、 実際には専門技術的事項が審理対象とならない訴訟までが「特許権」「に関す る訴え」に含まれる可能性が生じるが、民訴法20条の2第1項は、「特許権」\n「に関する訴え」の中には、その審理に専門技術性を要しないものがあること を考慮して、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所において、当該訴訟が同法6 条1項の規定によりその管轄に専属する場合においても、当該訴訟において審 理すべき専門技術的事項を欠くことその他の事情により著しい損害又は遅滞を 避けるため必要があると認めるときは、管轄の一般原則により管轄が認められ る他の地方裁判所に移送をすることができる旨規定しているのであるから、こ の点からも、上記「特許権」「に関する訴え」についての解釈を採用するのが 相当である。
3 そこで、以上に基づき本件についてみると、本件訴状の記載によれば、本件 が、本件契約の債務不履行に基づく損害賠償の訴えとして提起されたものであ ることは明らかであるが、訴状によって控訴人が主張する債務不履行に基づく 損害賠償請求は、本件発明が、本件契約に基づく研究(本件受託研究)により 得られた成果物であるのに、被控訴人がこれを本件研究者個人の発明であり控 訴人と共同出願することは出来ないとして、本件研究者単独で特許出願した行 為が、本件契約14条1項に規定する「被控訴人は、本件研究の実施に伴い発 明等が生じたとき・・・は、控訴人に通知の上、当該発明等に係る知的財産権 の取扱いについて控訴人及び被控訴人が協議し決定するものとする。」との協 議義務に違反し、また、控訴人が権利の承継について希望していたにもかかわ らず、被控訴人が控訴人と協議を行うことなく本件研究者による特許出願を強 行した行為が、本件契約14条2項に規定する「被控訴人は、前項の知的財産 権を控訴人が承継を希望した場合には、控訴人に対して相当の対価と引き換え にその全部を譲渡するものとする。」との義務にも違反し、その結果、控訴人 が本件発明に係る特許権を取得できなくなったことで余儀なくされた出捐をも って損害と主張するものである。
ところで、前者の本件契約14条1項の規定は「知的財産権」について規定 しているが、本件では、未だ特許がされていない特許出願された段階の本件発 明の取り扱いについて争われているから、本件発明に係る「特許を受ける権利」 が同項にいう「知的財産権」に含まれることを前提に同項違反が主張されてい るものと解されるし、また、後者の本件契約14条2項の規定関係についても、 ここで控訴人が主張している権利は、上記同様、本件発明に係る特許を受ける 権利と解されるから、ここでも同権利が同項にいう「知的財産権」に含まれる ことを前提に同項違反が主張されているものと解されるのであって、いずれも、 特許を受ける権利が本件の請求原因に関係しているといえる。 そして、控訴人は、本件発明に係る特許権を取得できなくなったことで余儀 なくされた出捐をもって、上記各条項違反を理由とする債務不履行により生じ た損害と主張し、その賠償を被控訴人に求めているのであるが、本件訴状の記 載によれば、被控訴人は、本件発明に係る特許を受ける権利が本件受託研究に より得られた成果物でないことを理由として、本件研究者のした特許出願が本 件契約14条1項、2項の債務に違反しないと争っていることが認められるか ら、本件訴状からうかがえる債務不履行に基づく損害賠償請求の成否は、本件 発明が本件受託研究により得られた成果物であるか否かが争点として判断され るべきことが見込まれ、その判断のためには、本件発明が本件受託研究の成果 物に含まれるかという専門技術的事項に及ぶ判断をすることが避けられないも のと考えられる。
したがって、本件は、債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟として訴訟提起 された事件であるが、その訴状の記載からは、その争点が、特許を受ける権利 に関する契約条項違反ということで特許を受ける権利が請求原因に関係してい るといえるし、その判断のためには専門技術的な事項の理解が必要となること が類型的抽象的に想定されることから、本件は「特許権」「に関する訴え」に 含まれると解するのが相当である(なお、前記1(3)のとおり、原審は、控訴人 主張に係る債務不履行の成否を判断する前提問題として、本件発明が、被控訴 人が本件契約に基づき協議義務を負うべき本件受託研究の成果物に含まれるか 否かの争点に関して、本件受託研究が、2ステップ(1)ヒトの血液を用いず、 培養細胞を用いて不活性型Gc−Proteinを合成、2)これを構成する二\nつの糖鎖(Gal(ガラクトース)及びSA(シアル酸))を、酵素の作用に より切断)を経る方法によって活性型GcMAFを生成する方法を研究すると いうものか、又は、本件発明のように、特定の細胞を特殊な培養条件下で合成 し、酵素処理を要することなく1ステップで活性型GcMAFを生成する方法 に関する研究をも含むものか、といった専門技術的事項にわたると考えられる 事項ついて審理判断をしている。)。
4 そうすると、大阪府内に主たる事務所を有する控訴人と神戸市内に主たる事 務所を有する被控訴人との間における、控訴人の被控訴人に対する債務不履行 の損害賠償請求である本件は、管轄の一般原則によれば債務の義務履行地であ る控訴人の主たる事務所の所在地を管轄する大阪地方裁判所又は被控訴人の主 たる事務所の所在地を管轄する神戸地方裁判所が管轄権を有すべき場合である から、本件訴訟は、民訴法6条1項2号により大阪地方裁判所の管轄に専属す るというべきであって、神戸地方裁判所において言い渡された原判決は管轄違 いの判決であって、取消しを免れない。

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令和3(行ケ)10090 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月4日  知的財産高等裁判所

知財高裁は、作用を追加する訂正事項がもともとの構成によって奏される作用効果を記載したにすぎないので、減縮には該当しないと判断し、審決を取り消しました。\n

(1) 訂正の目的の判断の誤りについて
ア 「特許請求の範囲の減縮」の目的の有無について
原告は、本件審決は、本件訂正について、1)訂正事項1は、本件訂正前 の請求項1の「噴射製品」を「粘膜への刺激が低減された、噴射製品」と 訂正するものであるが、当該噴射製品は、害虫忌避組成物を充填した物の 発明であり、その害虫忌避組成物が有している粘膜への刺激という作用に 対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、実質的に害虫忌避組成物を充 填した物の発明の作用・用途が、発明の構成として限定されたものと理解\nすることができるから、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法 134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものということができる、
2)訂正事項2は、本件訂正前の請求項3の「噴射方法」を「粘膜への刺激 を低減する、噴射方法」とするものであるが、当該噴射方法は、「害虫忌避 組成物を噴射する噴射方法」の発明であり、その害虫忌避組成物が有して いる粘膜への刺激という作用に対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、 実質的に害虫忌避組成物を噴射する方法の発明の作用・用途が、発明の構\n成として限定されたものと理解することができるから、訂正事項2は、「特 許請求の範囲の減縮」を目的とするものということができる旨判断したが、 かかる本件審決の判断は誤りである旨主張するので、以下において判断す る。
(ア) 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「噴射製品」を「粘膜への刺 激が低減された、噴射製品」と訂正し、訂正事項2は、本件訂正前の請 求項3の「噴射方法」を「粘膜への刺激を低減する、噴射方法」と訂正 するものであり(甲46)、本件訂正前の請求項1の「噴射製品」及び本 件訂正前の請求項3の「噴射方法」の各記載事項に、それぞれ「粘膜へ の刺激が低減された」又は「粘膜への刺激を低減する」という作用に係 る記載事項を加えたものと認められる。
しかるところ、本件明細書には、「粘膜への刺激の低減」に関し、「本 発明者らは、適用距離における粒子径だけでなく、適用箇所を超えた位 置における粒子径も考慮し、それぞれの位置における粒子径の比が所定 の値以上となるよう調整された噴射製品であれば、粘膜を刺激しやすい 害虫忌避成分が配合されている場合であっても、粘膜への刺激が低減さ れ、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。」(【00 06】)、「本実施形態の噴射製品は、噴口から15cm離れた位置におけ る噴射された害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、噴口から30 cm離れた位置における噴射された害虫忌避組成物の50%平均粒子径 r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整されて いる。なお、本実施形態の噴射製品は、噴射された際の粒子径比が特定 の範囲となるよう調整されていることを特徴とする。そのため、その他 の構成(たとえば噴射製品の形状、他の成分および配合、容器内圧等の\n各種物性等)は、上記粒子径比の範囲を満たすものであればよく、特に 限定されない。」(【0010】)、「本実施形態の噴射製品は、粒子径比(r 30/r15)が0.6以上となるよう調整されている。そのため、噴射さ れた害虫忌避組成物は、噴口から30cm離れた位置であっても粒子径 が維持されたままである。その結果、噴射製品は、粘膜を刺激しやすい 上記特定の害虫忌避成分が配合されているにもかかわらず、粘膜への刺 激が低減され得る。」(【0023】)、「このように、本実施形態の噴射製 品は、噴射された害虫忌避組成物の粒子径比(r30/r15)が0.6以 上に調整されていればよく、このような粒子径比を上記範囲に調整する 方法は特に限定されない。」(【0024】)、「以上、本実施形態の噴射製 品(ポンプ製品)によれば、粘膜を刺激しやすい上記特定の害虫忌避成 分が配合されているにもかかわらず、噴射された害虫忌避組成物は、噴 射後に粒子径比(r30/r15)が0.6以上に維持されているため、粘 膜への刺激が低減され得る。」(【0028】)、「本実施形態の噴射方法に よれば、粘膜を刺激しやすい上記特定の害虫忌避成分が配合されている にもかかわらず、噴射された害虫忌避組成物は、噴射後に粒子径比(r 30/r15)が0.6以上に維持されるよう噴射される。その結果、本実 施形態の噴射方法によって噴射された害虫忌避組成物は、使用者等の粘 膜を刺激しにくい。」(【0044】)、「表1に示されるように、粒子径比\n(r30/r15)が0.6以上となるよう調整された実施例1〜14の噴 射製品は、N,N−ジエチル−m−トルアミド(ディート)を配合した 噴射製品(たとえば表2に示される参考例1)と同程度まで粘膜刺激が\n低減された。また、たとえば実施例1〜3と実施例11〜13との比較 から分かるように、本発明の噴射製品は、使用するポンプ製品(アクチ ュエータ)の寸法等(噴射方式、噴口径、1回吐出量等の諸条件)が異 なる場合であっても、粒子径比(r30/r15)が0.6以上となるよう 調整されていることにより、粘膜刺激低減効果が得られることがわかっ た。」(【0052】)との記載がある。これらの記載によれば、本件明細 書には、「粘膜への刺激の低減」の作用効果は、本件訂正前の請求項1の 「前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組 成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置にお ける噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子 径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され」との構成又は\n本件訂正前の請求項3の「前記噴口から15cm離れた位置における5 0%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における5 0%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となり」 との構成によって奏することの開示があることが認められる。一方で、\n本件明細書には、本件訂正前の請求項1及び3の上記各構成にした場合\nであっても、「粘膜への刺激の低減」の作用効果を奏しない場合があるこ とについての記載も示唆もない。 そうすると、訂正事項1及び2により加えられた「粘膜への刺激が低 減された」又は「粘膜への刺激を低減する」という作用に係る記載事項 は、本件訂正前の請求項1及び3の上記各構成によって奏される作用効\n果を記載したにすぎないものであるから、訂正事項1及び2は、本件訂 正前の請求項1及び3の各発明に係る特許請求の範囲を狭くしたものと 認めることはできない。
(イ) したがって、訂正事項1及び2は、「特許請求の範囲の減縮」(特許 法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものと認めることは できないから、原告の前記主張は理由がある。
イ 被告の主張について
被告は、訂正事項1は、害虫忌避組成物を充填した物の発明(本件訂正 前の請求項1)において、その害虫忌避組成物が有している粘膜への刺激 という作用に対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、実質的に害虫忌 避組成物を充填した物の発明の用途又は作用が、発明の構成として限定さ\nれたものと理解することができ、また、訂正事項2は、害虫忌避組成物を 噴射する噴射方法の発明(本件訂正前の請求項3)において、その害虫忌 避組成物が有している粘膜への刺激という作用に対し、当該粘膜への刺激 を低減したものと、実質的に害虫忌避組成物を噴射する方法の発明の用途 又は作用が、発明の構成として限定されたものと理解することができると\nして、訂正事項1及び2は、本件訂正前の請求項1及び3の各発明の特許 請求の範囲について、少なくとも用途又は作用を限定しているから、「特許 請求の範囲の減縮」を目的とするものである旨主張する。 しかしながら、被告の上記主張は、本件審決と同旨の理由を述べるもの であるから、前記アで説示したとおり、採用することができない。
(2) 小括
以上のとおり、訂正事項1及び2は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法1 34条の2第1項ただし書1号)を目的とするものと認められないから、そ の余の点について判断するまでもなく、本件訂正は同号に適合しない。 そうすると、本件審決には、本件訂正の訂正要件の判断に誤りがあり、こ の判断の誤りは、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明 の要旨認定の誤りに帰するから、本件審決は取り消されるべきものである。

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令和3(行ケ)10133  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年9月7日  知的財産高等裁判所

 分割要件違反等の無効主張をしましたが、知財高裁は無効理由なしとした審決を維持しました。

(ア) 原告は、最初の親出願の明細書等について、発明が解決しようとする課題、 課題を解決するための手段、発明の効果及び実施形態に係る明細書の記載からする と、あくまで、かしめ部・逃げ空間あり構成に係る技術的事項が導かれるのであっ\nて、特に、発明が解決しようとする課題に照らし、かしめ以外の固定手段を用いる ことは同明細書等には記載されておらず、明細書の段落【0018】に、かしめ部 あり構成を前提とした逃げ空間あり構\成を必須とする旨の記載があることも考慮す ると、同明細書等に記載された発明は、逃げ空間あり構成を必須とするものである\nなどと主張する。 しかし、最初の親出願の明細書中、発明が解決しようとする課題等において、か しめ部・逃げ空間あり構成に係る事項が特に取り上げられて深く検討されていると\nしても、そのことから直ちに、最初の親出願の明細書等に記載された発明が上記構\n成を含むものに限定されるものではない。
前記(1)アのとおり、最初の親出願の出願当時、固定手段として溶接や接着も選択 肢として存在していたことが認められるのであるから、同明細書等における記載も それを前提に理解すべきものである。そして、前記ア(ア)〜(ウ)のように最初の親出 願の明細書に記載されていたといえる本件発明1に係る構成や、当該構\成における 上板部材及び下板部材による回転子積層鉄心の上下からの押圧並びに樹脂ポット内 の樹脂の磁石挿入孔への充填といった機序自体が、かしめ部あり構成であるか、か\nしめ部なし構成であるかによって影響を受けるものともみられない。そうすると、\n最初の親出願の明細書等には、1)本件発明1を含む発明が記載された上で、2)かし め部あり構成の場合に当該発明を用いる際の問題点等について、逃げ空間あり構\成 などが更に記載されているというべきであって、上記2)の記載の存在によって上記 1)の記載が存在しないものとはいえないところである。
(イ) 上記に関し、原告は、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の積層され た鉄心片の固定手段として、かしめが技術常識となっていたことから、最初の親出 願の明細書等の記載について固定手段を特定の手段に限定するものではないとはい えない旨を主張するが、原告が主張する上記技術常識が認められないことは、前記 (1)イのとおりである。
(ウ) また、原告は、「かしめ積層されていても回転子積層鉄心の鉄心片の板厚が0. 5mm以下でないもの」(鉄心片の板厚が0.5mm超のもの)について、当業者は 通常想定しないなどと主張するところ、かしめ積層された回転子積層鉄心の鉄心片 の板厚が0.5mm以下でないものは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下い ずれかの面から少しの範囲で突出してしまうことをもって、同板厚が0.5mmを 超える全てにおいて、直ちに、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの 面から少しの範囲で突出するとはいえないと理解できるものではないとしても、本 件全証拠をもってしても、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の鉄心片につ いて、板厚0.5mm以下のものが用られる場合が多かったという事情を超えて、 板厚0.5mm超のものが選択肢となっていなかったといった事情は認められない。 この点、板厚0.5mm超のものを用いる例があったことは、乙5の記載(前記2 (1))やその他の証拠(乙7〜10、17、18)からも認められるところである。 さらに、最初の親出願の明細書の段落【0004】には、「この特許文献1記載の 技術においては、回転子積層鉄心を形成する各鉄心片がかしめ積層された特に鉄心 片の板厚が0.5mm以下の薄いものでは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上 下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう」と記載されており、「鉄心片の板 厚が0.5mm以下の薄いもの」が全体の中から特に取り上げられた例であること が明記され、それ以外の場合(鉄心片の板厚が0.5mmを超えるもの)の存在が 示唆されているから、仮に、通常は板厚0.5mm以下のものを想定している当業 者においても、同段落の記載に接した場合には板厚0.5mm超のものを選択肢と して考慮し得るといえる。

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平成31(ワ)2614  商標使用料等請求事件  商標権  民事訴訟 令和4年10月25日  東京地方裁判所

 使用許諾契約書が真正に成立したとは認められないとして、商標権行使が権利濫用と判断されました。

前記前提事実(6)のとおり、本件においては、原告代表取締役の肩書が付さ\nれたAの記名押印及び被告代表取締役の肩書が付されたDの記名押印のある\n本件商標使用許諾契約書が存在するところ、同契約書の印影が被告代表取締\n役印により顕出されたものであることについては、当事者間に争いはないも のの、被告は、同印影がDの意思に基づいて顕出されたことを否認し、Aが Dの承諾なく押印したものであると主張する。 本件において、Aが被告の代表取締役に就任した当初からB及びDの代表\ 取締役印をAが保管していたことについては、当事者間に争いがない。加え て、証拠(乙100及び112)及び弁論の全趣旨によれば、平成11年1 2月1日にAが被告の代表取締役に就任した頃から、被告の業務に実質的に\n関与していたのはAのみであり、他の代表取締役らが業務に関する意思決定\nを行うことはなかったものと認められる。そうすると、Aは、被告の他の取 締役らの同意を得ずに本件商標使用許諾契約書を作成することが可能かつ容\n易な状況にあったといえる。
また、前記1(1)ないし(3)のとおり、本件各物件は、被告所有に係る物件で あり、かつ、いずれの名称も被告内部においてか又は被告と自治体の協議に よって決定されたものであるにもかかわらず、本件各物件に係る事業の委託 を受けたにすぎない原告が、本件各物件の名称そのものである原告各商標の 登録出願をすることは不自然であるといわざるを得ない。 さらに、被告内部においてか又は被告と自治体の協議によって決定された 本件各物件の名称と同一の原告各商標の使用の対価を、その決定に何ら関与 していない原告に支払うことを被告が承諾するとは考え難く、本件全証拠に よっても、被告がこのような内容の本件商標使用許諾契約を締結することに 合理的な理由があったことを示す事実は認められない。
一方、原告は、本件商標使用許諾契約の締結により、被告から原告各商標 の使用料を得られるから、原告の代表取締役であるAにおいて、同契約に異\n議を述べることが予想されるDやBに諮ることなく、本件商標使用許諾契約\n書を作成する動機があるといえる。 そうすると、Aが本件商標使用許諾契約書にDの承諾なく同人の代表取締\n役印を押してこれを作成した可能性が認められるというべきであって、本件\n商標使用許諾契約書の被告作成部分が真正に成立したと推定することはでき ず、他に本件商標使用許諾契約書が真正に成立したことを認めるに足りる証 拠はない。 よって、本件商標使用許諾契約書が真正に成立したと認めることはできず、 同契約書によって本件商標使用許諾契約が成立したと認めることもできない。
・・・
商標権の行使も、商標の取得の経過やその意図、標章の利用の態様、その 行使の態様等諸般の事情を考慮し、権利の濫用に当たり許されない場合があ る。
本件においては、前記1(1)のとおり、原告各商標は、被告が被告の事業名 又は被告が所有する本件各物件の名称として決定したものであり、周辺住民 に対して本件各物件の名称として周知されていったものである上、前記1(3) の認定事実及び証拠(甲A210並びに乙37、38、40及び103)に よれば、本件各物件の貸与業務については、これまで、被告を事業主として、 又は原告と被告の名称が併記された上で、広告が出され、宣伝されていたと 認められることからすると、原告各商標によって表示される本件各物件の貸\n与業務の主体、すなわち、当該役務の出所は、被告であるか又は被告及び原 告であるといえる。
他方で、原告は、被告との関係において、本件各物件を利用した事業及び 本件各物件の管理の委託を受けた受託者にすぎないものであり、原告が原告 各商標の周知に貢献したことがあるとしても、それは受託業務の一環として 位置付けられるものにすぎない。このような立場にあるにすぎない原告が業 務の委託者である被告に対して原告各商標に係る排他的かつ独占的な権利を 主張できるとする正当な理由は認め難い。 また、原告が被告に対して原告各商標権を行使するに至った経緯は、前記 1(5)アないしエのとおりであるところ、かかる経緯に加え、同オの他の訴訟 の状況も併せ考慮すれば、原告の被告に対する原告各商標権の権利行使は、 原告の代表取締役であるAが被告の取締役を解任され、それに伴って被告の\n口座名義が変更されたことにより、本件各業務委託契約に基づく管理報酬が 支払われなくなったことに対する対抗手段としてされたものであって、今後 も原告及びその関連会社が本件各物件の事業及び管理業務を続けることを被 告に承諾させる目的に基づくものと推認することができる。 他方で、被告による被告ウェブサイトの開設及び同ウェブサイト上での被 告標章4ないし6の使用は、前記1(4)の経緯によるものであって、被告にと って必要かつ正当なものであるといえること、原告各商標は、本件各物件の 名称として周辺住民に周知されている上(弁論の全趣旨)、前記前提事実(1) オ(ア)のとおり、一部地方自治体の施設として利用されていることなどを考 慮すると、原告商標権を侵害することのないよう、被告に本件各物件の名称 を変更し、又は同名称を表示せずに、被告ウェブサイトにおいて本件各物件\nの貸館又は貸室に係る申込みの誘引をすることは、通常期待できないという\nべきであって、被告が被告ウェブサイトにおいて被告標章4ないし6を使用 することには、正当な理由があると認められる。
しかも、本件各物件の管理業務は、依然として全般的に原告又はその関連 会社が行っており、被告が被告ウェブサイト上で本件各物件の賃借等の申込\nみを受け付けていることはうかがわれず、被告は、事実上これらの物件の管 理ができない状態に陥っているといえるから、当該役務の出所の混同が生じ ることにより、原告が、現に損害を被っているとは認め難く、かつ、将来的 にも損害を被るおそれがあるとも認め難い。 以上のような事情を総合考慮すると、原告の被告に対する不法行為に基づ く損害賠償請求を認めることは、公正な競争秩序を害するといえ、権利の濫 用として許されないものと解するのが相当である。
(2) これに対し、原告は、被告において、原告が原告各商標の商標登録を行う ことを被告が認めていたこと、原告と被告との間で原告各商標に関して本件 商標使用許諾契約が締結されていること、被告は原告に対して長年にわたり 商標使用料を支払ってきたことに基づき、Aが被告の取締役を解任されたこ ととは関連がなく、原告は従前から原告各商標に係る権利行使をしたもので ある旨主張する。
しかし、前記2で認定したとおり、本件においては、本件商標使用許諾 契約の存在を認めるに足りず、また、Aが原告の名義で原告各商標を取得 すること及び本件各商標の使用料を被告が原告に支払うことにつき他の取 締役又は株主の承諾を受けたとの事実を認めるに足りないから、原告の主 張は、その前提を欠くものであって、採用することができない。
(3) したがって、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、権利 の濫用(民法1条3項)であるといえるから、原告は、被告に対し、同損害 賠償請求に係る権利を行使することができない。

◆判決本文

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平成30(ワ)17968 著作権 民事訴訟 令和4年8月30日 東京地方裁判所

 在宅医療用プログラムの著作物性について争われました。東京地裁は被告プログラムのうち表現が似ている部分については、いずれも創作性無しと判断しました。\n

 以上のように、PMポータルを基盤としPMポータルのWebフレーム ワークを用いて作成されたことに起因して、(ア)部分の多くはPMポータル のWebフレームワークを構成するプログラムファイルから構\成されてお り、(ウ)部分は、PMポータルのWebアプリケーション部を参照して作成 され、データの処理や画面の表示などの中核的な機能\は(ア)部分を参照して 実行するため、その内容は、自由度が制約され、基本的な命令文を列挙し て、変数にデータを代入する処理や画面を表示するためのHTML文書が\n記述された部分が多くを占めていること(前記第2の1(5)イ、前記イ)、 作成、表示される医事文書の基本的な様式も通知により定められるなどし\nていることから、各プログラムにおいて変数に値を設定する処理や画面を 表示するためのHTML文書を記述するに当たっても個性を発揮する余地\nが乏しい。これらの(ア)及び(ウ)部分の特性から、電子カルテシステムに適用 するために、PMポータルを修正し新たに作成した部分があるからといっ て、そのことが直ちに本件31個の各プログラムの表現上の創作性につな\nがるとはいえない(前記ウ )。そして、原告は、本件各31個の各プロ グラムがそれぞれ著作物であり、それらに創作性があると主張するところ、 原告が本件31個の各プログラムの創作的表現であると主張する具体的な\n各点について、本件31個の各プログラムを含む(ア)及び(ウ)部分が上記のと おりの特性を有する部分でありそこにおけるプログラムもその特性の下に あるものであることにも関係し、原告が創作性があるとして主張する具体 的な記述等はいずれもありふれたといえるものなどであって、それらに独 自に著作物といえる程度の表現上の創作性を認めるに足りない(前記ウ\n〜 )。 以上のとおり、本件31個の各プログラムにPMポータルを離れた独自 の創作性があるとは認めるに足りない。
・・・・
原告プログラム4と被告プログラムにおいて共通する本件共通箇所は、原告 プログラム4においては、(オ)部分に用いられているORCAから受信したXM Lデータを解析する部分の一部である。 本件共通箇所のうち、オープンソースである「XML_Unserializer.php」を 用いた部分は、その仕様に基づくインスタンスを記述したものであり(前記1 (2)ウ )、その記述例もインターネットウェブサイトにおいて公開されている ものであって(乙56)、ありふれた表現であって、創作性が認められない。\nまた、本件共通箇所のその余の部分は、異なる施設間で診療情報を電子的に 交換するために制作された規約であるMML及びCLAIMにおいて定義され たタグ(用語)(前記1(2)ウ )を、「XML_Unserializer.php」の仕様に従 って記述した(乙62)ありふれた表現であって、創作性が認められない。\n以上によれば、本件共通箇所に創作性があると認めるに足りない。

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令和3(行ケ)10144  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年10月17日  知的財産高等裁判所

 無効審判にて訂正をしましたが、無効と判断されました。知財高裁は訂正要件(減縮)、サポート要件違反の無効理由ありとして、審決を維持しました。
訂正されたクレームは下記です。
媒体面上に形成され、且つデータ内容が定義できる情報ドットが配置されたドットパターンであって、
前記ドットパターンは、縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に、前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に、どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し、
前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように、前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上と、該第一方向ラインと交差するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方向ライン上とにおいて、該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配置されたことを特徴とするドットパターン。\n

ア 訂正事項1について 訂正事項1は、前記第2の2(1)のとおり、本件発明1の「縦横方向に等 間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に、前記情報ドットを 前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの 方向に、どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し」との構成を、本\n件訂正発明1の「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子 点を中心に、前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°の2 倍である90°ずつずらした前記縦横方向のうちいずれかの方向に、どの 程度ずらすかによってデータ内容を定義し」との構成に訂正するものであ\nる。
本件訂正前の上記構成は、任意の45°間隔による8方向をドットの配\n置に利用できる方向として、情報の内容を表現するものである一方、本件\n訂正後の上記構成は、縦横の4方向をドットの配置に利用できる方向とし\nて、情報の内容を表現するものであるから、情報の内容を定義する情報ド\nットの種類やデータの表現方法を異にするものであり、端的に、両者は異\nなる構成というべきものであって、包含ないしは上位下位概念の関係には\n立たない。したがって、訂正事項1は、特許法134条の2第1項ただし 書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1による請求項1の訂正に伴い、特許請求の範 囲の記載と明細書の記載との整合を図るため、対応する本件明細書【00 09】の記載を訂正事項1と同様の内容で訂正するものであるところ、前 記アのとおり、請求項1に係る訂正事項1が認められない以上は、訂正事 項2は、その訂正に係る請求項について訂正をしないものと帰すから、訂 正事項2も訂正要件を充足しない(特許法134条の2第9項、126条 4項参照)。
ウ 原告の主張について
原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、1)訂正事項1は、8方向のう ちの「いずれかの方向」とする選択肢についてこれを4方向にする制限 を直列的に付加するものである、2)「いずれかの方向に、どの程度ずら すか」というのは、ずらす方向の数を意味しており、このずらすことの できる各方向の選択肢の数を減らす択一的要素の削除であって、「特許請 求の範囲の減縮」に当たる旨主張する。
しかしながら、原告が自らも前記第3の1(1)ア にて主張するように、 本件発明1の「いずれかの方向に、どの程度ずらすかによってデータ内 容を定義し」との構成は、1つの単一な構\成としてデータ内容を定義し ているのであって、ある格子点を基準にして「いずれかの方向」とされ る全ての各方向にドットをずらすか、ずらさないかによって当該格子点 を基準として定義し得る情報を特定するものであるから、ドットがずら されていない方向も、ドットがずれていないという意味で当該情報の定 義に用いられているのであって、ドットがずらされている方向のみが情 報の定義に利用されているというものではない。この点、原告は、「縦横 方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に、前記情 報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のう ちいずれかの方向に、どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し」 との記載の「いずれかの方向に、どの程度ずらすか」を、ずらす方向の 数を規定するものである旨主張する。しかしながら、「方向の数」との趣 旨を「どの程度」との文言で表現したとするのは文言解釈として不自然\nであって、「等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に、 どの程度ずらすか」とは、ある格子点を基準にして「いずれかの方向」 とされる全ての各方向にドットをずらすか、ずらさないかによって当該 格子点を基準として定義し得る情報を特定する際に、ドットをずらすの は等距離で45°ずつずらした各方向のうちどの方向にするのか、ずら されるドットは等心円上に配置されることになるが、この等心円の半径 をどの程度にするのかによってデータ内容を定義する趣旨であると理解 するのが自然である。また、本件明細書(本件訂正後)にも、1)「デー タは、図103に示すように、ドット605を格子領域内の中心点から どの程度ずらすかによってデータ内容が定義できるようになっている。 同図では、中心から等距離で45度ずつそれぞれずらした点を8個定義 することによって単一の格子領域で8通り、すなわち3ビットのデータ を表現できるようになっている。」(【0191】の前半)、2)「なお、さ らに中心点から距離を変更した点をさらに8個定義すれば16通り、す なわち4ビットのデータを表現できる。」(【0191】の後半)との記載\nがある(本件訂正前にも、別紙記載のとおり、「格子領域」とある部分の 一部が「格子ブロック」となっているほかは同旨の記載がある。)のであ るから、特許請求の範囲の「いずれかの方向に、どの程度ずらすか」は、 これらの記載に対応するものと解するのが自然であるし、上記1)及び2) のどちらも中心点からの距離についての記載であって、「どの程度ずらす か」が方向の数をいうものでないことは明らかである。 そうすると、それぞれの各方向を取り出してそれぞれに独立した意味 があるというものではなく、8方向全部が一体となり、中心点からの距 離と相まって、データ内容の定義に用いられているのであるから、8方 向を4方向に変更することは、ある格子ドットについて用いることので きる方向の数に制限が付されたとか、あるいは、ある格子ドットについ て選択できる選択肢の数を制限したとかという単純なものではなく、端 的に、異なる情報定義体系を採用したことを意味するものというべきで ある。以上によれば、訂正事項1を発明特定事項の直列的付加又は択一的要 素の削除であるとすることができないから、「特許請求の範囲の減縮」と 解する余地はない。したがって、原告の上記主張を採用することはでき ない。
原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、数値による限定は、数値によ って限定される範囲が小さくなるほど対象が具体的になるから、8方向 から4方向への限定は、下位概念化である旨主張するが、前記 におい て説示したところによれば、本件発明において量的な大小で包含関係又 は上位下位概念の関係を論じることが適切でないことは明らかであるか ら、その主張を採用することはできない。
なお、本件審決には、「(逆に、4個しか定義できない構成を8個定義\nできる構成に変更する場合であれば、そのための構\成を付加し、上位概 念から下位概念に限定したといえる余地もある。)」(6頁)旨の説示がみ られるが、単なる傍論にすぎないから、その説示の当否が前記判断を左 右するものではない。
エ 小括
以上のとおりであるから、その他の点について検討するまでもなく、本 件訂正は訂正要件を満たさないものであるから、これを認めなかった本件 審決の判断には誤りがない。
(2) 取消事由について
前記(1)のとおり、本件訂正を認めなかった本件審決の判断には誤りはない ところ、原告は、本件訂正が認められなかった場合の本件審決の誤りを主張 するものではないから、本件訂正が認められた場合についての予備的請求の\n当否について判断するまでもなく、取消事由は理由がないことになる。
(3) サポート要件の充足について
ア 原告の予備的主張中には、前記第3の1 アのとおり、本件発明がサポ ート要件を充足する旨の記載があり、その趣旨や内容は判然としないもの ではあるものの、これは、本件訂正を認めず、その上で本件発明がサポー ト要件を充足しないとした本件審決の判断の誤りを主張する趣旨と善解 する余地もないではないから、念のために、同主張についての判断を示す。
前記2(2)及び(3)のとおり、本件明細書には、図5ドットパターンと図1 05ドットパターンについての記載がある。原告は、本件発明1のドット パターンは縦横4方向の図5ドットパターンに斜め4方向を付け加えた 設計上の微差でしかないドットパターンであるか、あるいは、8方向にド ットをずらす本件発明1のドットパターンの一例として図5ドットパタ ーンを位置付けることができるとして、本件発明1のドットパターンが図 5ドットパターンに基づくものである旨主張するので、以下、これを前提 に、本件発明1がサポート要件を充足するか検討する。
前記(1)アのとおり、縦横4方向をドットの配置に利用できる方向として 情報の内容を表現する図5ドットパターンの構\成と、任意の45°間隔に よる8方向をドットの配置に利用できる方向として情報の内容を表現す\nる本件発明1の構成は、情報の内容を定義する情報ドットの種類やデータ\nの表現方法を異にするものであるから、両者の差異が微差であるというこ\nとはできない。また、同ウ のとおり、本件発明1の構成は、8方向全部\nが一体となり、中心点からの距離と相まって、データ内容の定義に用いら れているのであり、縦横4方向の図5ドットパターンの構成とは異なる情\n報定義体系を採用するものであるから、図5ドットパターンを本件発明1 のドットパターンの一例として位置付けることもできない。以上からする と、図5ドットパターンに基づき、本件発明1のドットパターンが発明の 詳細な説明に記載されたものということはできないから、本件発明1はサ ポート要件に適合しない。したがって、本件発明1の構成を全て含む本件\n発明2及び3もサポート要件を充足しない。
イ これに対して、原告は、前記第3の1(3)アのとおり、るる主張するとこ ろ、前示のとおり、いずれの点もその趣旨、内容は判然としないが、本件 訂正が認められるべきものであることを前提にする主張が採用できない ことは明らかであるし、本件明細書の記載が本件発明をサポートする内容 を含むものとは認められないことも前記アのとおりである。したがって、 この点に係る原告の主張はいずれも当を得ないものというほかない。

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令和4(ネ)10011  商号使用差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年9月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 会社名を示すロゴについて著作物性無しと判断されました。原審の最後に問題の標章があります。

著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学\n術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)。そ して、商品又は営業の出所を表示するものとして文字から構\成される標章 は、商品又は営業の出所を示すという実用的な目的で作出され、使用され るものであり、その保護は、商標法又は不正競争防止法により図られるべ きものである。文字からなる商標の中には、外観や見栄えの良さに配慮し て、文字の形や配列に工夫をしたものもあるが、それらは、文字として認 識され、かつ出所を表示するものとして、見る者にどのように訴えかける\nか、すなわち標章としての機能を発揮させるためにどのように構\成するこ とが適切かという実用目的のためにそのような工夫がされているもので あるから、通常は、美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性が 発揮されているものとは認められない。商品又は営業の出所を表示するも\nのとして文字から構成される標章が著作物に該当する場合があり得ると\nしても、それは、商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識 別機能を超えた顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体\nが、識別機能という実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視\nし得る程度の美的鑑賞の対象となり得る創作性を備えなければならない というべきである。
・・・
商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識別機能を超えた\n顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体が、識別機能と\nいう実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視し得る程度の美 的鑑賞の対象となり得る創作性を備えるものとは認められないから、著作 権法により保護されるべき著作物に該当するとは認められない。
ア 控訴人は、Bは、控訴人標章に、単なるロゴタイプ・デザインを超えた 美の表現・印象を強く感じ、ウェブでの被控訴人商品の販売に利用したい\nと考えて控訴人標章を模倣したものであり、このことからしても、控訴人 標章には個性があり著作物性があると主張する(前記第3の2(1)〔控訴人 の主張〕ア)。 しかし、Bは、被控訴人商品に関する事業を実施するに当たり、同事業 に対するBの様々な意図や願望を込め、禅宗の僧侶等にも相談するなどし て「アノワ」という語を含む被控訴人商号を考案して商号変更し、さらに そのローマ字表記である「ANOWA」を含む被控訴人商品の名称(「AN\nOWA41」)を考案したものと認められ(乙11)、控訴人標章を被控訴 人商品に使用するために、被控訴人の商号を、控訴人標章の「ANOWA」 の読みである「アノワ」とし、ドメイン名を「ANOWA」を含む「AN OWA41」としたものであることを認めるに足りる証拠はない。 したがって、Bが控訴人標章を模倣したと認めることはできず、控訴人 の上記主張は、その前提を欠き、採用することはできない。
イ 控訴人は、不正競争防止法によればTシャツの柄は保護の対象となるか ら、デザインも保護すべきであり、著作権法によってもデザインを保護す べきであると主張する(前記第3の2(1)〔控訴人の主張〕イ)。 しかし、Tシャツの柄が不正競争防止法による保護の対象となる場合が あるとしても、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するもの\nであるから、著作権法によって当然にデザインの全てが保護されるべきで あるとはいえないし、標章は、Tシャツのデザインと性質を異にするもの であるから、控訴人の上記主張に基づいて、控訴人標章が著作権法により 保護されるということはできない。
ウ 控訴人は、控訴人標章は、文字を用いるものであるが、控訴人のロゴタ イプとしての利用を目的としてデザインされたものであり、控訴人の商号 と一致するアルファベットを強調していること、文字は誰でも使用できる ものであるから文字を強調するロゴタイプ・デザインは全て著作物とはな りえないとする合理的理由はないことを主張する(前記第3の2(1)〔控訴 人の主張〕ウ)。 しかし、控訴人標章は、標章としての機能を発揮させるためにどのよう\nに構成することが適切かという実用目的のために工夫がされているもの\nであり、美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性が発揮されて いるものとは認められないから、美術その他の範囲に属する著作物には該 当しないものというべきであり、控訴人の上記主張を採用することはでき ない。
エ 控訴人は、控訴人標章はポスターと等価値であり、著作権法制定当時、 ポスターは著作物又は著作物の複製として扱われるというのが著作権法 の解釈であったから、控訴人標章も著作権法上保護されるべきであると主 張する(前記第3の2(1)〔控訴人の主張〕エ)。 しかし、控訴人標章は、商品又は営業の出所を表示する標章であり、商\n標法や不正競争防止法の保護の対象となる余地があり得るとしても、ポス ターと等価値であるとはいえないから、控訴人の上記主張は、採用するこ とができない。
オ 控訴人は、控訴人標章が一品制作の図又は絵であるとしたら創作性のあ ることは議論の余地がなく、漫画の特徴的な表現を含む一こまを模倣して\nも著作権侵害となるのに、ロゴタイプ・デザイン(量産品の原画)である が故に著作権法の保護の対象とならない、あるいは高度の創作性がなけれ ば著作権法の保護の対象とならないというのは、著作権法上の著作物の定 義に反すると主張する(前記第3の2(1)〔控訴人の主張〕オ)。 しかし、控訴人標章は、商品又は営業の出所を表示する標章であり、商\n標法や不正競争防止法の保護の対象となる余地があり得るとしても、一品 制作の図又は絵や漫画とは性質を異にするから、控訴人の上記主張は、採 用することができない。

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◆令和2(ワ)19840

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令和3(受)1112 音楽教室における著作物使用に関わる請求権不存在確認請求事件 令和4年10月24日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 知的財産高等裁判所

 音楽教室における演奏について、1審は生徒の演奏も先生の演奏も著作権侵害と判断しましたが、知財高裁は「後者は公衆への演奏、前者は公衆への演奏ではない」と判断しました。最高裁は、「生徒の演奏は演奏権侵害にはならない」と、知財高裁の判断を維持しました。

2 本件は、被上告人らが、上告人を被告として、上告人の被上告人らに対する本件管理著作物の著作権(演奏権)の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権等が存在しないことの確認を求める事案である。本件においては、レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるか否かが争われている。
3 所論は、生徒は被上告人らとの上記契約に基づき教師の強い管理支配の下で演奏しており、被上告人らは営利目的で運営する音楽教室において課題曲が生徒により演奏されることによって経済的利益を得ているのに、被上告人らを生徒が演奏する本件管理著作物の利用主体であるとはいえないとした原審の判断には、法令の解釈適用の誤り及び判例違反があるというものである。
4 演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。
被上告人らの運営する音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏は、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的として行われるのであって、課題曲を演奏するのは、そのための手段にすぎない。 そして、生徒の演奏は、教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり、上記の目的との関係では、生徒の演奏こそが重要な意味を持つのであって、教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる。
また、教師は、課題曲を選定し、生徒に対してその演奏につき指示・指導をするが、これらは、生徒が上記の目的を達成することができるように助力するものにすぎず、生徒は、飽くまで任意かつ自主的に演奏するのであって、演奏することを強制されるものではない。 なお、被上告人らは生徒から受講料の支払を受けているが、受講料は、演奏技術等の教授を受けることの対価であり、課題曲を演奏すること自体の対価ということはできない。
これらの事情を総合考慮すると、レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるということはできない。
5 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

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控訴審はこちら

◆令和2年(ネ)第10022号
1審はこちら

◆平成29(ワ)20502等

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令和4(行ケ)10008  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年9月28日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、訂正請求が新規事項であるので認められないとした審決が維持されました。

ア 本件訂正により、請求項1には、端末装置から取得された第1患者識別 情報とあらかじめ記憶された第2患者識別情報が一致すると判定された 場合に、1)端末装置から取得された看護師又は医師を識別するための第1 看護師等識別情報と、第2看護師等識別情報とが一致すると判定した場合 に、第2患者識別情報に対応する患者医療情報のうち前記看護師又は前記 医師が必要とする医療情報を含む表示画面を端末装置へ出力し、2)端末か ら取得された医師を識別するための第1医師識別情報と、第2医師識別情 報とが一致すると判定した場合に、医師専用画面を端末に出力する、発明 特定事項を含むものとなり、2)が訂正事項1−1−3に関するものである。
そして、本件明細書の【0143】ないし【0161】(実施の形態4) には、看護師又は医師が必要とする医療情報を含む表示画面を出力する構\ 成に関する記載があり、この実施の形態4に関するフローチャート(図3 7、図38)についてみると、 端末装置から取得された第1患者識別情 報とあらかじめ記憶された第2患者識別情報が一致すると判定された場 合に、端末装置に患者用画面を表示し(S21)(図11、図12)、 端 末装置から取得し出力されたIDを、医療用サーバを経て情報処理装置が 取得し(S85)、このIDが看護師IDであると判定される(S87、8 8)と、看護師用専用画面(図20ないし22)が表示され、 看護師I Dでなく(S87の「No」)、医師IDであると判定されると(S151)、 医師専用画面(図35、図36)が表示されるフローが開示されている。\n
この記載からすると、S87は看護師IDか否かを判定するステップであ り、S151は医師IDであるか否かを判定するステップであるといえる。 こうしたS87、S151は、端末装置から取得された看護師又は医師を 識別するための第1看護師等識別情報と、第2看護師等識別情報とが一致 すると判定した場合に、第2患者識別情報に対応する患者医療情報のうち 前記看護師又は前記医師が必要とする医療情報を含む表示画面を端末装\n置へ出力する(前記1))ことに対応するもの、すなわち、第2判定部及び 第2出力部に関するものであり、さらに、医師を識別するための第1医師 識別情報を端末から取得して(第3取得部)、第3判定部及び第3出力部に 関するフローが続けて行われることは、記載も示唆もない。なお、本件明 細書の【0088】ないし【0125】(実施の形態2)は、看護師IDの 判定と看護師用専用画面を出力し表示するフローが記載されており、医師\nIDであると判定した場合に看護師専用画面を出力し表示してもよいと\nの記載があるものの(【0125】)、第2判定部及び第2出力部に続けて、 医師を識別するための第1医師識別情報を取得し(第3取得部)、第3判定 部及び第3出力部に関するフローが続けて行われることに関するもので はない。その他、本件明細書には、第2判定部及び第2出力部と、第3判 定部と第3出力部の両方を備え、また、1つのシステムで構成されること\nについての記載も示唆もないし、このような事項は、当業者にとって自明 であるともいえない。
そうすると、前記2)、すなわち、訂正事項1−1−3は、本件明細書又 は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係 において新たな技術的事項を導入するものであるから、特許法134条の 2第9項が準用する同法126条5項の規定に反するものであり、訂正要 件を満たさないというべきである。
・・・
イ これに対し、原告は、前記第3の1 ア のとおり、本件訂正後の請 求項1は、本件明細書の【0066】ないし【0090】、図37及び図 38にそのまま開示されている旨主張するが、原告が指摘する【006 6】ないし【0087】は実施の形態1、すなわち、患者用バーコード を読み取り、一致すると患者用画面を表示すること(構\成要件A1ない しC1)に関する事項であり、訂正事項1−1−3に関するものではな い。そして、実施の形態4に関する本件明細書の記載事項と図37及び 図38によれば、訂正事項1−1−3が新たな技術的事項を導入するも のであることは、前記アのとおりである。 また、原告は、前記第3の1 ア のとおり、本件明細書の【014 3】の記載を挙げて、本件明細書の実施の形態4は、実施の形態2を取 り込んだものであり、実施の形態2の構成及び作用に加えて、【0147】\nないし【0149】の記載からすれば、本件明細書には、第3取得部及 び第3判定部に関する構成が開示されている旨主張する。\n
しかし、【0143】は、「実施の形態4は医師が患者の医療情報を確 認するための医師専用画面30を表示部35に表\示する実施の形態に関 する。以下、特に説明する構成、作用以外の構\成および作用は実施の形 態2と同等であり、簡潔のため記載を省略する。…」とあるが、前記ア で指摘した実施の形態4に関するフロー図(図37、図38)からする と、ここでいう記載の省略とは、前記アの (端末装置から取得し出力 されたIDを、医療用サーバを経て情報処理装置が取得し(S85)、こ のIDが看護師IDであると判定される(S87、88)と、看護師用 専用画面(図20ないし22)が表示されること)に関する説明(実施\nの形態2)を省略するものであり、【0146】ないし【0149】は、 端末装置から取得し出力されたIDが医師である場合に関する説明であ って、第2判定部で端末から取得した識別情報が医師IDであると判定 し(第2判定部)、看護師専用画面が出力(第2出力部)された後、さら に続けて、医師を識別するための第1医師識別情報を取得し(第3取得 部)、第3判定部及び第3出力部に関するフローが続けて行われる構成を\n開示するものではない。したがって、前記アの説示に反する原告の主張はいずれも理由がない。

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令和3(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 知的財産裁判例 令和4年2月10日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所

特102条2項の覆滅90%は1審と同じです。控訴審の第1回口頭弁論においてした無効主張が時機に後れた抗弁と判断されました。

一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年 7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に「無 効理由5」(別件無効審判の無効理由2と同じ),「無効理由6」(別 件無効審判の無効理由3と同じ),「無効理由7」(別件無効審判の無 効理由4と同じ),「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理 由9」(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加\nし,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。 これに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一 審被告の「無効理由5ないし9」に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の 抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却 下を求める旨の申立てをした。\n
オ なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8 日)において,特許庁に係属中である。
(2)前記(1)の事実関係によれば,1)一審被告は,原審において,平成31年 3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許 に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進 歩性欠如の無効理由(本件の争点2−1ないし2−3)が存在するとして無 効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手 続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年 7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に 入ったこと,2)その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回 弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無 効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の 主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日にお いて,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこ と,3)一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において, 控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理 由2ないし4と同じ無効理由である「無効理由5ないし7」,原審で主張し なかった「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理由9」(実施可 能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権\n利の濫用の抗弁の主張をしたこと,4)別件無効審判は,当審の本件口頭弁論 終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審に おいて適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和 元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証 は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する「無効理由5ないし9」 に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて, やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審におけ る上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重 大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべき である。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗 弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の 機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得るこ とから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。 そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1 項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下 したものである。

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令和3(ワ)30051  損害賠償請求事件  その他  民事訴訟 令和4年9月28日  東京地方裁判所

 放送局における番組中のナレーションが原告ブログに依拠しているかについて、著作物性を立証していないとして、著作者人格権による損害賠償請求が棄却されました。興味深いのは、被告が、既存の文章をほぼ転載したものであることを謝罪する旨の文章をウェブサイトにて掲載している点です。

原告は、被告によって、原告文章を無断転載して制作した本件番組が放送 されたことにより、原告の名誉が毀損される可能性が生じて、原告の平穏な\n日常を阻害され、原告が、これに対応するために金銭的及び時間的な負担を 負い、精神的苦痛を被り、人格権が侵害されたとして、不法行為に基づく損 害賠償を請求するものと理解することができる。そこで、この理解を前提に、 被告による本件番組の放送が原告の「権利又は法律上保護される利益を侵害 した」(民法709条)といえるか否かについて検討する。
前記前提事実(2)及び(3)のとおり、被告が原告文章に依拠して本件ナレー ション等を作成した結果、本件ナレーション等は、原告文章と類似しており、 原告文章中の「以下省略」といった比較的特徴のある表現についてもほぼ同\nじ内容となっている。そして、被告が、本件番組において本件ナレーション 等を流すことについて、原告から事前の了解を得ていたことや、本件番組を 放送するに当たり、原告文章が掲載されている原告ウェブサイトを参照した 旨を表示したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告の上記行\n為は、公共の放送事業者として不適切なものであったといわざるを得ない。
また、原告が主張するように、原告ウェブサイト中の文章は、分かりやす く面白いものとなるように配慮され、独自性を有していると評価し得ること や、被告が放送法で定められた公共の放送事業者であることからすると、本 件番組を視聴した者が、原告文章を見たとき、被告が無断転載をするはずが ないと考えて、むしろ原告ウェブサイトの方が無断転載をしていると疑う可 能性を否定することはできない。しかし、前記前提事実(4)のとおり、被告は、本件番組が放送された4日後には、本件番組に係るウェブサイトにおいて、本件ナレーション等が既存の文章をほぼ転載したものであることを謝罪する旨の文章を掲載しており、こ れは、上記のような誤解が生じることを防止し得る措置であるといえる。そ して、本件全証拠によっても、実際に、上記のような誤解が広まったとは認 められない。しかも、名誉毀損が成立するためには、人の社会的評価を低下 させる事実を摘示することが必要であるところ、将棋の対局マナーについて 述べた本件ナレーション等において、原告の社会的評価を低下させる事実が 摘示されたとは認められない。そうすると、原告の主張する名誉毀損の可能\n性については、いまだ抽象的なものにとどまるものといわざるを得ない。
また、原告の主張に係る平穏に日常生活を送る利益について、上記のとお り、原告の懸念する誤解が実際に広まったとは認められず、原告の名誉が毀 損される可能性も抽象的なものに留まることに照らせば、被告に対する損害\n賠償請求を可能とする程度に、原告の平穏な日常生活が害されたということ\nはできず、不法行為の成立要件である「権利又は法律上保護される利益」の 「侵害」を認めることはできないというべきである。 なお、被告が原告文章と類似する本件ナレーション等を含む本件番組を放 送したことが原告の権利を侵害するかは、本来、原告文章に著作物性が認め られ、原告文章に係る原告の著作権又は著作者人格権が侵害されたと認めら れるかという観点から検討すべきであるということができる。しかし、原告 は、本件訴訟において、著作権及び著作者人格権が侵害されたことを主張し ないとしていることから、その要件についての具体的な主張立証がされてい ないため、著作権侵害及び著作者人格権侵害の事実を認めることはできない。 (2) 以上によれば、本件番組の放送により、原告の人格権が侵害されたとは認 められず、また、原告文章に係る原告のそのほかの権利が侵害されたと認め

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令和3(行ケ)10165 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月30日  知的財産高等裁判所

 動機づけなし・阻害要因ありとして、進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。

ア 本件発明1と甲2発明1との相違点1ないし4は、前記第2の3(3)イの とおりであるところ、これらはいずれも本件発明1における伸縮部を備え ているか否かをその内容とするものといえる。 そこで、以下、本件特許が出願された当時の当業者が、甲2発明1、甲 4発明及び甲5公報ないし甲7公報から認定される周知技術に基づいて、 甲2発明1について上記伸縮部を備えることを容易に想到し得たか否か について検討する。
イ まず、主引用発明である甲2発明1について検討するに、甲2公報にお いて、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能なものとすることが記載又は示唆\nされているというべき記載は見当たらない。 また、前記(1)のとおり、甲2発明1は、盗難防止用連結ワイヤの一方を ドアノブや玄関周り固定物に接続し、他方を宅配容器本体に接続するもの であるところ、甲2公報の段落【0022】並びに図3及び図4の記載に よれば、甲2発明1の盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側のドアノブや建 物内部の玄関周り固定物に接続するものであるといえる。さらに、甲2公 報の段落【0022】及び図3の記載によれば、甲2発明1において、配 達物を収納していないときの形態の宅配容器本体をドアノブに掛ける際 には、宅配容器本体に備えられた「宅配容器取っ手」を使用することとさ れている。
このように、甲2発明1においては、配達物を収納していないときの形 態の宅配容器は、「宅配容器取っ手」を使用して玄関外側のドアノブに掛け られ、他方で、宅配容器に接続された盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側 のドアノブや建物内部の玄関周り固定物に接続することとなるのである から、同ワイヤは、これを可能とするのに十\分な長さを確保する必要があ るといえる。そうすると、配達物を収納していないときの形態における甲 2発明1においては、盗難防止用連結ワイヤの長さを、ドアの一部に吊り 下げられるように短縮する構成は採用し得ず、そのような構\成を採る動機 付けは存しないというべきである。
以上によれば、甲2発明1において、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能\nなものとすることは動機付けられないというべきである。なお、上記に照 らすと、甲2発明1においては、少なくとも相違点3に係る本件発明1の 構成を採ることについて、阻害要因が存するというべきである。\n

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令和3(行ケ)10151  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月23日  知的財産高等裁判所

1次審決では無効理由無しと判断され、知財高裁はこれを取り消し、差し戻しました(1次審取訴訟)さしもどった2次審決では特許権者が再度、訂正をして、審決は無効理由無しと判断しました。知財高裁は審決の判断を維持しました。 争点は新規事項か否かです。

本件訂正前の請求項1の記載によれば、本件発明1の「浸水防止 部屋」は、側壁及び隔壁に接すること、仕切板により形成されるこ と、部屋の高さ方向にわたって形成されること、機関区域の部屋に 設けられること、側壁と隔壁との連結部を覆った空間であり空間に 面する側壁が損傷した場合浸水することなどが特定されている。し かし、「専ら」又は「主に」浸水防止を企図した空間であるべきかは 明らかでない。なお、当業者の技術常識として、「空間」とは、「空 所」や「ボイド」とは異なり、必ずしも物体が存在しない場所には 限定されないと認められ、このことは「下層空間13の船尾側に推 進用エンジン14が配置されている」(段落【0026】)などの本 件明細書等の記載とも整合する。そのため、「空間」であることから、 直ちに「専ら」あるいは「主に」浸水防止を企図していることは導 けない。また、SOLAS条約(「千九百七十四年の海上における人\n命の安全のための国際条約」、甲23)によれば、浸水率の計算にお いて、タンクは、0又は0.95のいずれか、より厳格な条件とな る方の値(もともと水で満たされているため浸水が0である場合と、 もとは空であるため浸水が容積の95%に及ぶ場合のうち、復原性 を悪くする方の値)を用いて計算すべきとされており、タンクであ ってもそれに面する側壁が損傷した場合浸水する場合があることを 前提としているから、「空間に面する側壁が損傷した場合浸水するこ と」が、必ずしもタンクを排除するものとはいえない。
次に、本件明細書等によれば、本件発明の課題及び解決手段は、 前記のとおり、浸水防止部屋を設けて、側壁における隔壁の近傍が 損傷を受けても、浸水防止部屋が浸水するだけで、浸水防止部屋を 設けた部屋が浸水することがないようにすることで、浸水区画が過 大となることを防止し、設計の自由度を拡大することを目的とする ものである。そうであるとすれば、「浸水防止部屋」は、それに面す る側壁が損傷し浸水しても、それが設けられた「部屋」に浸水しな いような水密構造となっていれば、浸水区画が過大となることを防\n止するという本件発明の目的にかなうのであって、タンク等の他の 機能を兼ねることが、そのような目的を阻害すると認めるに足りる\n証拠はない。かえって、甲17(実願昭49−19748号(実開 昭50−111892号)のマイクロフィルム)には、第1図及び 「本考案は、横置隔壁2の船側部両端に、船側外板1を一面とした 高さ方向に細長い浸水阻止用の区画7を備えているから、横隔壁数 を増加しなくても、船側外板1の損傷による船内への浸水を該区画 7内に、または該区画7と隣接する1つの船内区画内にとどめるこ とができ」(4頁下から7〜1行)との記載があり、本件発明の「浸 水防止部屋」の機能に類似する「空間7」を有する船舶の発明が開\n示されているところ、同文献には、「該区画7を小槽として利用する こともできる。」(5頁7行)とも記載されているから、浸水防止を 目的とした区画を、小槽(タンク)として利用することは、公知で あったと認められる。また、「浸水防止部屋」が他の機能を兼ねるこ\nとを許容する方が、設計の自由度が拡大し、その意味で本件発明の 目的に資するものである。
以上によれば、本件訂正前の請求項1の「浸水防止部屋」とは、 それに面する側壁が損傷し浸水しても、それが設けられた「部屋」 に浸水しないような水密の構造となっている部屋を意味すると解\nするのが相当である。そして、「浸水防止部屋」は、タンク等の他の 機能を備えることが許容されるものであると認められる。\n
b 「(ただし、タンクを除く。)」という記載の追加による新たな技術的 事項の導入の有無
前記aのとおり、「浸水防止部屋」は、タンクの機能を備えることが\n許容されるから、「浸水防止部屋」には、タンクの機能を兼ねるものと、\nタンクの機能を兼ねないものがあるものと認められる。本件明細書等\nには、浸水防止部屋としてタンクの機能を兼ねるもののみが記載され\nていると解すべき理由はないから、本件明細書等には、タンクの機能\nを兼ねる「浸水防止部屋」とともに、タンクの機能を兼ねない「浸水\n防止部屋」が記載されていると認められる。そして、タンクの機能を\n兼ねる「浸水防止部屋」を備える発明と、タンクの機能を兼ねない「浸\n水防止部屋」を備える発明は、いずれも本件明細書等に記載された発 明であったから、訂正事項1により、特許請求の範囲の請求項1の「浸 水防止部屋」がタンクの機能を兼ねない「浸水防止部屋(ただし、タ\nンクを除く。)」に訂正されて、タンクの機能を兼ねる「浸水防止部屋」\nを備える発明が除かれても、新たな技術的事項を導入しないことは明 らかである。
なお、本件訂正により、本件訂正後の発明が、側壁における隔壁の 近傍が損傷を受けても、浸水防止部屋が浸水するだけで、複数の部屋 に跨って浸水することはなく、船損傷時における複数の部屋への浸水 を防止することができると共に、複数の部屋の大型化を抑制して設計 の自由度を拡大することができるという本件発明の効果を奏すること なく、新たな効果を奏する発明となると解すべき理由はない。そのた め、本件訂正によって発明の作用効果が変わることによって新たな技 術的事項が導入されたと解する余地もない。
したがって、訂正事項1による「(ただし、タンクを除く。)」という 記載の追加は、当業者によって、特許請求の範囲、明細書又は図面の 全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係におい て、新たな技術的事項を導入しないものであると認められるから、新 規事項追加(法134条の2第9項、法126条5項)に当たらない というべきである。
c 原告の主張に対する判断
原告は、浸水防止部屋を、タンクを除くものに限定することによっ て、「タンクと比べて、設置スペースを低減することができ、配置の自 由度を向上できるという有利な効果を奏」し、「更に、浸水防止部屋と いう空間を設けることによって、タンクと比べて、損傷時復原性の計 算、二次浸水、環境汚染の観点からも有利な効果を奏する」という新 たな作用効果を奏するから、「(ただし、タンクを除く。)」という記載 の追加は、新たな技術事項を導入するものであると主張する。 しかし、原告が主張する上記の効果は、タンクの機能を兼ねる「浸\n水防止部屋」と比べた場合に、タンクの機能を兼ねない「浸水防止部\n屋」が有する効果を述べたものにとどまる。前記のとおり、本件明細 書等には、もともと、タンクの機能を兼ねる「浸水防止部屋」ととも\nに、タンクの機能を兼ねない「浸水防止部屋」が記載されていたもの\nと認められるから、タンクの機能を兼ねない「浸水防止部屋」が何ら\nかの作用効果を有するとしても、それは、もともと本件明細書等に記 載されていた発明の一部が作用効果を有しているというにすぎず、そ のことをもって、本件明細書等との関係で新たな技術的事項が付け加 えられたと解する余地はない。

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関連事件です。 令和3(行ケ)10150

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それぞれの1次審取訴訟です。 令和1(行ケ)10080

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令和1(行ケ)10079

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令和3(ワ)1390 特許権侵害差止請求権等不存在確認請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年8月30日  東京地方裁判所

 後発医薬品メーカが、特許権者である先発メーカに対して損害賠償不存在訴訟を提起しましたが、訴えの利益無しとして却下されました。

本件において、原告は、効能・効果を「手術不能\又は再発乳癌」等とする 「抗悪性腫瘍剤ハラヴェン静注1mg<エリブリンメシル酸塩製剤>」であ る被告医薬品の後発医薬品として、効能・効果を「手術不能\又は再発乳癌」 とする「エリブリンメシル酸塩静注1mg「ニプロ」」という販売名の原告 医薬品(別紙物件目録)の製造販売についての承認の申請をし、現在、原告\n医薬品の製造販売を予定して、製造販売についての承認の申\請及びGMP適 合性検査の申請のための原告医薬品の製造を行っている(前記第2の1(5)ア、 ウ)。
もっとも、二課長通知等は、後発医薬品(既に製造販売についての承 認を与えられている医薬品と有効成分、分量、用法、用量、効能、効果等が\n同一性を有すると認められる医薬品)の製造販売について、先発医薬品の有 効成分に特許が存在する場合や先発医薬品の一部の効能・効果等に特許が存\n在する場合に、厚生労働大臣の承認はしない方針であるとし(前記第2の2 (4)ウ)、また、後発医薬品の薬価基準への収載についても、特許係争のおそ れがあると思われる品目の収載を希望する場合は、事前に特許権者である先 発医薬品製造販売業者と調整を行い、将来も含めて医薬品の安定供給が可能\nと思われる品目についてのみ収載手続をとる方針であるとしている(同エ)。 また、被告エーザイRDが特許権者である本件各特許が存在する。本件各特 許権を有する。原告は、これらによれば、本件において、被告医薬品の後発 医薬品である原告医薬品の製造販売について厚生労働大臣の承認がされるこ とはないと主張する(前記第2の2(1)(原告の主張))。
これらの状況と本件各証拠によっては、近い将来において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされ、更に原告医薬品の薬価基準への収載がされる蓋 然性が高いことを認めるには足りない。原告が、医薬品医療機器等法等の定 め等(同1(1)、(4)ア、イ、カ)を前提として医薬品等の製造、販売等を目的 とする会社であり、上記法規等の定めに則った事業活動をすると推認される ことなどを考慮すると、近い将来において、原告が、製造販売についての承 認の申請及びGMP適合性検査の申\請のための原告医薬品の製造を除き、原 告医薬品を製造販売する蓋然性が高いとは認められない。
(3) 被告らは、原告が現に行っている製造販売についての承認の申請及びGM\nP適合性検査の申請のための原告医薬品の製造については、本件各特許権に\n基づく主張をしておらず、今後、本件各特許権に基づく主張をする意思もな いとし、現在、本件各特許権は侵害されていないから、被告らに損害は生じ ていないと主張する(前記第2の2(1)(被告エーザイRDの主張)、同(2)
(被告らの主張))。
したがって、承認の申請等のための原告医薬品の製造に関して、被告エー\nザイRDの原告に対する本件各特許権による差止請求権及び被告らの原告に 対する本件各特許権の侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求権が存 在しないことについて、現に、当事者間に紛争が存在し、原告の有する権利 又は法律的地位に危険又は不安が存在しているとは認めるに足りない。
(4) 被告らは、原告が、現在、承認の申請等のための製造(前記(3))を除き原 告医薬品の製造販売をしておらず、そもそも製造販売に必要な厚生労働大臣 の承認を受けていないことから、本件各特許権の侵害もそのおそれもないと して、現在、原告に対し本件各特許権に基づく主張をしていない(前記第2 の2(1)(被告エーザイRDの主張)、同(3)(被告らの主張))。 被告らは、令和3年5月に、原告から原告医薬品の製造販売について本件 各特許権を行使しないことの確認をするよう求める旨の通知を受け、原告に 対し本件各特許権を行使する可能性がある旨の本件回答をした(前記第2の\n1(5)ア)。もっとも、原告と被告らの間にはそれ以前に何らのやり取りもな く、被告らにおいて、原告が原告医薬品の製造販売をした場合に本件各特許 権に基づく権利行使をしないと直ちに確約することはできなかったことから、 上記のような回答をしたものと認められ(乙3)、本件回答をもって、被告 らが、現在の本件各特許権による差止請求権や不法行為による損害賠償請求 権の不存在を争っているとは認められない。
また、原告は、現在において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働 大臣の承認を条件とする本件各特許権による差止請求権等が発生し得るから、 被告エーザイRDに対する現在の本件各特許権による差止請求権等の不存在 確認請求には訴えの利益がある旨も主張する。しかし、原告医薬品の将来に おける製造販売について、被告エーザイRDの現在の本件各特許権による差 止請求権は、本件各特許権の侵害又は侵害のおそれを理由として発生し得る ものであり、被告らの本件各特許権の侵害を理由とする現在の不法行為によ る損害賠償請求権は、本件各特許権の侵害及び損害の発生等を理由として発 生し得るものである。そして、上記に記載した本件における状況に照らせば、 現在において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされ れば上記差止請求権等の権利を取得し得るという地位を被告らが有している と認めるに足りず、上記差止請求権等は、原告が原告医薬品の製造販売につ いての厚生労働大臣の承認を受けることを条件として発生しているものとは 解されない。
これらのことを考慮すると、被告エーザイRDの原告に対する本件各特許 権による差止請求権及び被告らの原告に対する本件各特許権の侵害を理由と する不法行為による損害賠償請求権が存在しないことについて、現に、当事 者間に紛争が存在し、原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存 在しているとは認めるに足りない。 なお、仮に、二課長通知等によれば本件各特許が存在するために原告医薬 品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされることがないとしても、 そのことによって、原告と被告らとの間に前記各請求権の存否に係る法律上 の紛争が存在することになるものとは解されない。
(5) 以上によれば、原告の被告エーザイRDに対する現在の本件各特許権によ る差止請求権の不存在確認請求及び被告らに対する本件各特許権の侵害を理 由とする現在の損害賠償請求権の不存在確認請求について、現に、原告の法 律的地位に危険又は不安が存在するとは認められず、これらの各訴えに、即 時確定の利益があるとは認められない。

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令和2(ワ)3931 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年10月6日  東京地方裁判所

 鉄道会社が、新聞記事をスキャンして、社内イントラネットにて閲覧できるようにしていた行為について、複製権侵害・公衆送信権侵害が認められ、約200万円の損害賠償が認められました。被告は、新聞記事は事実の報道なので、著作物無しとも主張しましたが、読みやすく表現しているので創作性ありと認定しました。また、記録が残っていないH30年以前の配信についても、推定認定されています。

 ア 平成30年度掲載記事のうちの一部の記事について、被告は、その著作物 性を争っている。 しかしながら、平成30年度掲載記事は、事故に関する記事や、新しい機 器やシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベントや企画の紹介、事業 等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に 関する記事である。そのうち、事故に関する記事については、相当量の情報 について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなど されており、表現上の工夫がされている。また、それ以外の記事については、いずれも、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テー\nマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、関 係者のインタビューや供述等を、適宜、取捨選択したり要約するなどの表現上の工夫をして記事を作成している。したがって、平成30年度掲載記事は、\nいずれも創作的な表現であり、著作物であると認められる。
・・・
以上の事実に、平成30年度について被告が本件イントラネットに掲載し た原告が著作権を有する記事の数が前記 のとおりであることなどの状況 等を考慮すると、平成30年度掲載記事の選別を行ったC証人が選別した平 成28年度及び平成29年度については、被告による著作権侵害が認められ る記事の総数(自社及び沿線記事に分類した記事及びそれに分類していない 記事の合計)は、これら両年度の枠付き記事(自社及び沿線記事に分類した 記事の一部)の合計である52本の3倍に当たる156本を下らないもので あると認定するのが相当である。
・・・
原告は、本件個別規定に基づく損害額を主張するところ、上記によれば、原 告においては、少なくも平成20年以降は、本件個別規定を適用して原告が発 行する新聞の記事について利用許諾を検討する体制を整えており、これらの規 定を複数年にわたり、少なくとも1000件程度適用し、これに基づく使用料 を徴収してきた実績があることが認められる。また、本件個別規定には、社内 LAN(イントラネット)での利用を想定した文言がある。他方、本件で問題 になっているイントラネットでの掲載に関して本件個別規定に基づき支払われ た利用料の額等の実績については不明であり、また、本件個別規定には件数が 多い場合の割引に関する規定もあり、件数が相当に多い場合、どの程度本件個 別規定の本文で定める額が現実に適用されていたかが必ずしも明らかではない。 さらに、本件イントラネットによる新聞記事の掲載は、被告の業務に関連する 最新の時事情報を従業員等に周知することを目的とするものであったことから すると、掲載から短期間で当該記事にアクセスする者は事実上いなくなると認 められる。これらの事実に加え、本件に係る被告による侵害態様等を総合的に 考慮すると、本件については、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額 (著作権法114条3項)は、掲載された原告の記事1本について掲載期間に かかわらず3000円として、原告に同額の損害が生じたものと認めるのが相 当である。
被告は、被告による使用が本件個別規定における「非営利で公共性のある使 用」に当たること、被告が取材対象者に当たる記事も存在することなどを指摘 する。本件個別規定の【割引】、【無料】の項目にはこれらの事情により原告が 無料での利用を許諾することが記載されている。しかし、株式会社である被告 にこれらの規定が適用されたかは明らかではなく、また、上記で定められてい る取扱いをしなければならないことが一般的であったことを認めるに足りる証 拠はない。また、被告は、本件は本件包括規定によるべきであると主張するが、 本件個別規定について前記 ア、イに認定した事情が認められる状況で、本件 包括規定の存在は、本件個別規定も参酌して上記のとおりの損額の額を認定す ることの妨げになるものとは認められない。 前記のとおり、平成30年度以前については、遅くとも平成30年3月31 日までに、原告が著作権を有する記事が458本掲載されたと認めるのが相当 であるから、これによる損害は137万4000円となる。平成30年度掲載 記事について、別紙損害金計算表の「掲載月」欄記載の月に対応する「記事数」欄記載の数の記事について侵害が成立すると認められる(なお、原告は、記事\n177、185、215について被告で2本分の記事が掲載されたことを理由 に2本分の損害を計上しているが、単一の記事に係る単一のイントラネットへ の掲載であることなどからすると、いずれも1本分の損害を計上するのが相当 である。)から、損害額は「損害額」欄記載のとおりとなり、その合計額は、3 9万9000円になる。

◆判決本文

原告新聞社が異なる関連事件です。こちらは約460万円の損害が認められています。

◆令和2(ワ)12348

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令和3(ワ)2722  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和4年8月30日  東京地方裁判所

 相続において、一部の相続人が商標を出願し、他の相続人に対して、権利行使をしました。裁判所は、権利濫用として商標権の行使を認めませんでした。

以上のとおり、漢字の「忠」を丸で囲んだもの、又は、これと、「山田石 材店」、「山田」、「つなぎ館」、「つなぎや」などの表示を組み合わせたものは、山田石材店及び被告において、長年にわたり、多磨霊園の近隣にお\nいて、墓石の販売、設置等その業務について使用されてきて(前記(1)ア)、 被告による使用によって同所においては関係する役務等について一定の信用 が蓄積されてきたものといえ、上記各表示を含む各被告標章もその中で使用されるようになったものである(同前)。被告は、山田石材店として創業以\n来、c及びその子孫によって運営されてきた(同イ)ところ、cの孫である aは、父であるdから被告の持分を相続し、平成7年頃に、被告を解散して 新たな組織により石材店を営むことを企図するなどしたことがあり(同ウ)、 被告に関係する者といえ、また、被告の使用する標章やその使用状況を知っ ていたと認められる。このような状況のもとで、aが設立した原告は、従前 被告の店舗が所在した土地の明渡しを受けて同所に原告店舗を構え、「c、dと続く「丸忠事業」を承継するために原告を設立した」のであるから「a\nすなわち原告が「丸忠ブランド」に関わる商標を商標登録出願するのは当然 のことである」と主張するなどして(前記2(8)(原告の主張))、被告が、 長年にわたり、「マルチュウ」との称呼が生じ「丸忠」とも表記され得る漢字の「忠」を丸で囲んだもの、「つなぎ舘」等を使用してきた中で、平成8\n年、上記の各標章に類似する本件商標1(漢字の「忠」を丸で囲んだもの) 及び原告商標(つなぎ館/指定役務・飲食物の提供等)を商標登録出願し、 被告が「有限会社つ ぎ館丸忠山田石材店」に商号変更した後の平成18年 に、同商号に含まれる文字列である本件商標2(丸忠山田)、本件商標3 (つなぎ館/指定役務・葬儀並びに法事のための施設の提供等)を商標登録 出願した(同ア、ウ)。
そうすると、原告の被告に対する本件各商標権に基づく各請求は、被告に 関係する者であるaが設立した原告が、被告の創業者であるcから続く事業 すなわち被告の事業を承継するためと主張して、被告が長年にわたり事業に 使用してきたことにより一定の信用が蓄積された標章に類似する商標につい て商標登録出願をして(なお、原告が、当時、これらの商標を各指定商品又 は各指定役務について使用していたことは認めるに足りない。)、被告に対 し、被告が上記の標章の使用の一環として使用するようになった各被告標章 を使用しないこと等を求めるものであって、このような被告による標章の使 用の状況、原告と被告との関係、原告の商標登録出願に至る経緯等に照らせ ば、仮に被告が本件各商標の指定役務に類似する役務に本件各商標に類似す る各被告標章を使用するものであったとしても(争点1)〜3))、権利の濫用 に当たると認められる。 したがって、原告の被告に対する本件各商標権に基づく各請求は、権利濫 用であって認められない。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10038  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年9月28日  知的財産高等裁判所

 不使用取消審判の審決取消請求事件です。ネット上における商標の使用について、審決は使用していたと認定しました。知財高裁も同じ判断です。

前記1(2)の認定事実によれば、使用商標2のみならず、使用商標1につ いても、本件投資信託(「香港籍指数連動型上場投資信託」及び「私募外 国投資信託(香港ドル建)」)の名称であることは明らかであるから、使 用商標1は、要証期間を含む期間において、請求に係る指定役務中、第3 6類「証券投資信託受益証券の募集・売出し、投資、金融資産の管理」の 範ちゅうに含まれる役務に使用されていることになる。
エ 楽天証券のウェブサイトにおける使用商標1の使用が本件投資信託の販 売会社としてのものであることは明らかである。前記イ のとおり、被告 の本件投資信託の交付運用報告書では、運用報告書(全体版)については、 販売会社である楽天証券のウェブサイトで電磁的方法により提供されて いるとしてURLを表示しているのであるから、被告が、楽天証券におい\nて使用商標1をウェブサイトで使用していることを認識していることも 明らかである。そうすると、被告が楽天証券に使用商標1の通常使用権を 許諾していることは優に推認される。 そして、前記1(1)のとおり、楽天証券のウェブサイトでは、過去10年 の本件投資信託の価格等、本件投資信託に関する重要な情報が示され、本 件投資信託の売買も可能なのであるから、「役務に関する広告・・・を内\n容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」が行われて いたことになる。
オ 以上によれば、本件商標の通常使用権者である楽天証券は、要証期間に 日本国内において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益 証券の募集・売出し」等に関する広告を内容とする情報に、本件商標と社 会通念上同一の商標である使用商標1を付して、自社のウェブサイト上で 表示し、役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法\n(インターネット)により提供する行為(商標法2条3項8号)をしてい たものと認められる。

◆判決本文

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令和4(ネ)10052  特許権侵害に基づく損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年9月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 興和vs東和薬品の特許権侵害訴訟です。1審は、サポート要件違反の無効理由があるとして請求を棄却しました。知財高裁は、サポート要件違反についてはふれることなく、公知文献(乙12)から進歩性無しとして無効と判断しました。阻害要因も否定されています。

前記(ア)及び(イ)によると、乙12発明における「コーティング」は、酸 化や環境湿度等に敏感なスタチン類(HMG−CoAレダクターゼ阻害剤)を保護 し、これを安定化するために塗布される材料の層であるところ、従来から、固形医 薬品の安定性を高める目的で保護コーティングが施され、その材料として様々なも の(ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体ではないアミノアルキルメタアク リレートコポリマーEを含む。)が開発されていることが周知であり、特に、HM G−CoA還元酵素阻害剤のコーティング材料として、カルメロース及びその塩、 クロスポビドン等の崩壊剤と共に、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE を用い得ることが知られていたものと認めることができる。 そうすると、乙12発明の「コーティング」の材料として、「カルボキシメチル セルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物」に代え、アミノアル キルメタアクリレートコポリマーE等の「ポリビニルアルコール又はセルロース誘 導体」を含まない周知のものを採用することは、乙12公報に接した本件出願日当 時の当業者において適宜なし得たことであると認めるのが相当である。
(エ) 控訴人の主張について
控訴人は、乙12発明は「ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィル ム形成剤として含む材料の層でコーティングされた構成」を必須の構\成とするもの であり、これを従来技術として知られている他のコーティングに変更することは想 定されていないから、上記の必須の構成を相違点2に係る本件訂正発明6の構\成に 変更することには阻害要因がある旨主張する。 しかしながら、乙12公報の記載(前記3(1)キ)を見ても、乙12発明の適切 な「膜形成剤」は、(環境影響に敏感な)粒子又は活性物質を含む医薬剤形のコア にコーティングの形態で塗布され、環境影響(酸化及び/又は環境湿度等)から活 性物質を保護する任意のものであり、最も好ましい「膜形成剤」は、活性物質を酸 化から保護する任意のものであるとまず理解され、当該任意の「膜形成剤」のうち 好適なものがポリビニルアルコール(PVA)及びセルロース誘導体からなる群か ら選択されるものであると理解するのが自然であるから、「ポリビニルアルコール 又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされた 構成」が乙12発明の必須の構\成であると認めることはできない。したがって、こ の構成を相違点2に係る本件訂正発明6の構\成に変更することに阻害要因があると いうことはできない。

◆判決本文

原審はこちら

◆平成30(ワ)17586等

なお、当事者および該当特許が同じ別訴では、侵害が認定されています。

◆平成27(ワ)30872

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平成30(ネ)10077  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 海外サーバからのサービス提供が特許発明の技術的範囲に属する場合に、1審は属地主義の原則からこれを認めませんでしたが、知財高裁2部は、日本特許の効力を認めました。

我が国は、特許権について、いわゆる属地主義の原則を採用しており、これによれば、日本国の特許権は、日本国の領域内においてのみ効力を有するものである(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷判決参照)。そして、本件配信を形式的かつ分析的にみれば、被控訴人ら各プログラムが米国の領域内にある電気通信回線(被控訴人ら各プログラムが格納されているサーバを含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内にある電気通信回線(ユーザが使用する端末装置を含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内でも米国の領域内でもない地にある電気通信回線上を伝送される場合等を観念することができ、本件通信の全てが日本国の領域内で完結していない面があることは否めない。
しかしながら、本件発明1−9及び10のようにネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。
c これを本件についてみると、本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって(甲3ないし5、44、46、47、丙1ないし3)、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明1−9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1−9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。
d 以上によれば、本件配信は、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当する。
なお、これは、以下に検討する被控訴人らのその余の不法行為(形式的にはその一部が日本国の領域外で行われるもの)についても当てはまるものである。
e 被控訴人らは、被控訴人ら各プログラムは米国内のサーバから自動的に配信されるものであり、提供行為は米国の領域内で完結しているから、本件配信は日本国特許法にいう「提供」に当たらない旨主張するが、上記説示したところに照らすと、これを採用することはできない。
(ウ) 以上のとおりであるから、被控訴人らは、本件配信をすることにより、被控訴人ら各プログラムの提供をしているといえる(特許法2条3項1号)。
イ 被控訴人ら各プログラムの提供の申出被控訴人らは、被控訴人ら各サービス(令和2年9月25日以降は被控訴人らサービス1。以下同じ。)の提供のため、ウェブサイトを設けて多数の動画コンテンツのサムネイル又はリンクを表\示しているところ(甲3ないし5)、これは、「提供の申出」に該当する(特許法2条3項1号)。\n
ウ 被控訴人ら各装置の生産
被控訴人らは、被控訴人ら各サービスの提供に際し、インターネットを介して日本国内に所在するユーザの端末装置に被控訴人ら各プログラムを配信しており、また、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものである(前記3(2)イ、被控訴人らが主張する被控訴人ら各サービスの内容)。そうすると、被控訴人らによる本件配信及びユーザによる上記インストールにより、被控訴人ら各装置(令和2年9月25日以降は被控訴人ら装置1。以下同じ。)が生産されるものと認められる。そして、被控訴人ら各サービス、被控訴人ら各プログラム及び被控訴人ら各装置の内容並びに弁論の全趣旨に照らすと、被控訴人ら各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当であり、また、被控訴人らが業として本件配信を行っていることは明らかであるから、被控訴人らによる本件配信は、特許法101条1号により、本件特許権1を侵害するものとみなされる。
エ 被控訴人ら各装置の使用
上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるし、被控訴人ら各装置を本件発明1の作用効果を奏する態様で用いるのは、動画やコメントを視聴するユーザであるから、被控訴人ら各装置の使用の主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人が主張するように被控訴人ら各装置の使用の主体が被控訴人らであると認めることはできない。
オ 被控訴人ら各プログラムの生産(端末装置における複製)
控訴人は、本件配信によりユーザの端末装置上に被控訴人ら各プログラムが複製され、これをもって、被控訴人らは被控訴人ら各プログラムを生産していると主張する。しかしながら、上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるから、ユーザの端末装置上において被控訴人ら各プログラムを複製している主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人の上記主張は、採用することができない。
カ 被控訴人ら各プログラムの生産(開発)
前記(1)カ及び(2)のとおり、被控訴人HPSは、被控訴人FC2と共同して、被控訴人らプログラム1を開発したものと認められるところ、これが被控訴人らプログラム1の生産に当たることは明らかである(特許法2条3項1号)。他方、前記(1)ケ及びサのとおり、被控訴人FC2は、被控訴人らサービス2及び3を第三者から譲り受け、ユーザに対する提供を開始したものと認められ、その他、被控訴人らが被控訴人らプログラム2又は3を開発したものと認めるに足りる証拠はないから、被控訴人らプログラム2及び3については、被控訴人らがこれを生産したということはできない。この点に関し、控訴人は、証拠(甲29の1及び2、30、36、37)を根拠に、被控訴人らは被控訴人らサービス2及び3につき各種機能の追加をしているのであるから、被控訴人らが被控訴人らプログラム2及び3の開発をしていることは明らかである旨主張する。しかしながら、これらの証拠により認められる被控訴人らサービス2及び3のアップデートの内容が本件発明1−9又は1−10の技術的範囲に属すると認めるに足りる証拠はないから、これらのアップデートをもって、被控訴人らが本件特許権1を侵害する態様で被控訴人らプログラム2又は3を開発したと認めることはできない。\n
キ 被控訴人ら各プログラムの生産(アップデートの際の複製)
控訴人は、被控訴人らは上記カのとおりの各種機能の追加を行う際、被控訴人ら各プログラムを複製して生産したと主張するが、被控訴人らがこれらのアップデートの際に本件特許権1を侵害する態様で被控訴人ら各プログラムを複製したものと認めるに足りる証拠はない。\n
ク 被控訴人ら各プログラムの譲渡及び譲渡の申出(被控訴人HPSによる被控訴人ら各プログラムの納品)\n
前記(1)によると、被控訴人HPSは、被控訴人らプログラム1を開発し、これを被控訴人FC2に納品したものと認められるが、前記(2)のとおり、被控訴人らが互いに意思を通じ合い、相互の行為を利用し、共同して被控訴人らプログラム1を開発し、被控訴人ら各サービスを運営するなどしてきたものと認められることに照らすと、被控訴人HPSが被控訴人FC2に対して被控訴人らプログラム1を納品する行為は、共同侵害者間の内部行為であると評価することができるから、これを独立した実施行為とみるのは相当でない。なお、前記(1)ケ及びサのとおりであるから、被控訴人HPSが被控訴人FC2 に対し被控訴人らプログラム2又は3を納品した事実を認めることはできない。
(5) 小括
以上によると、被控訴人らには、被控訴人らプログラム1の生産並びに被控訴人ら各プログラムの提供及び提供の申出を行うことによる本件特許権1の直接侵害と被控訴人ら各プログラムの提供を行うことによる本件特許権1の間接侵害が成立し、被控訴人らは、これらの侵害行為によって控訴人に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきである。\n
15 争点7(差止請求及び抹消請求の可否)について
(1) 前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人らサービス1に関し、本件特許権1を侵害する者に該当する。 もっとも、前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人ら装置1の生産又は使用をしている者ではなく、そのような行為に及ぶおそれがある者でもないと認められるから、この点については、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置1の生産又は使用の差止請求は理由がない。 そうすると、被控訴人らサービス1については、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人らプログラム1の抹消を命じるのが相当である。\n
(2)ア 前記14(1)トのとおり、被控訴人FC2は、SN社に対し、令和2年9月25日、被控訴人らサービス2及び3に係る事業を譲渡したものである。そうすると、現時点においては、被控訴人らがユーザに対し被控訴人らサービス2及び3の提供をするおそれはなくなったというべきであるから、被控訴人らサービス2及び3について、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置2及び3の生産又は使用並びに被控訴人らプログラム2及び3の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止請求は理由がない。もっとも、前記14(1)の事実及び弁論の全趣旨によると、被控訴人らが現時点においても被控訴人らプログラム2及び3を所持している蓋然性は高いと認められるから、侵害の予防のため、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム2及び3の抹消を命じるのが相当である。\n
イ 控訴人は、被控訴人らサービス2及び3の事業譲渡に係る契約書に多数の不備があることを根拠に、当該事業譲渡はされていない旨主張する。確かに、乙99の1の契約書には英文表記等の観点から幾つかの不備が認められるが、そのことのみをもって、当該事業譲渡の事実を否定することはできない。また、控訴人は、SN社が被控訴人らに対し被控訴人らサービス2及び3の再譲渡をする可能\性があるとも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人のこれらの主張を採用することはできない。
(3) 以上によると、控訴人の被控訴人らに対する差止請求及び抹消請求は、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人ら各プログラムの抹消の限度で認容するのが相当である。\n
なお、被控訴人らは、本件において認容される損害賠償請求の額に照らすと、控訴人が差止め及び抹消を求めることは権利の濫用に該当する旨主張する。しかしながら、当裁判所が認容する損害賠償請求の額(1億円及びこれに対する遅延損害金)に加え、被控訴人らによる本件特許権1の侵害の態様、現在における侵害の危険等にも照らすと、控訴人において差止め及び抹消を求めることが権利の濫用に該当すると評価することはできない。 また、被控訴人らは、被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものについては、公開が停止されたため、これに係る差止め及び抹消を求めることはできない旨主張する。しかしながら、仮に、被控訴人らが被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものの公開を停止したとしても、被控訴人らサービス1に関し、当裁判所が差止めを命じるのは、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出であり、また、当裁判所が抹消を命じるのは、被控訴人らプログラム1であり、被控訴人らプログラム1は、別紙被控訴人らプログラム目録記載1のとおりに特定されるものであるところ、当該特定に当たり、FLASH版であるか否かは問題とされていないのであるから、差止め及び抹消を命じる主文1項(1)及び(2)の対象たる被控訴人らプログラム1からFLASH版に係るものを除外する必要はない。

◆判決本文

1審はこちらです。1審では、第1,第2の表示欄の大きさを特定した構\成が非充足と判断されています。

◆平成28(ワ)38565
以上のとおり,「第1の表示欄」は動画を表\示するために確保された領域(動画表示可能\領域),「第2の表示欄」はコメントを表\示するために確保された領域(コメント表示可能\領域)であり,「第2の表示欄」は「第1の表\示欄」よりも大きいサイズでいずれも固定された領域であると解されるところ,被告ら各装置においては,動画表示可能\領域(被告ら装置1における「StageオブジェクトA」,被告ら装置2及び3における<iflame>要素又は<video>要素)とコメント表示可能\領域(被告ら装置1における「CommentDisplayオブジェクトD」,被告ら装置2及び3における<canvas>要素)は同一のサイズであるから,被告ら各装置は,「第1の表示欄」及び「第2の表\示欄」に相当する構成を有するとは認められない。\n 今回侵害となった特許4734471 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4734471/9085C128B7ED7D57F6C2F09D9BE4FCB496E638331DB9EC7ADE1E3A44999A3878/15/ja 1審と同じく侵害とはならなかった特許4695583 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4695583/7294651F33633E1EBF3DEC66FAE0ECAD878D19E1829C378FC81D26BBD0A4263B/15/ja

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令和4(ネ)10027等  損害賠償等請求控訴事件,同附帯控訴事件  その他  民事訴訟 令和4年8月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 情報提供サイトにおけるメタタグの使用は、商標的使用ではない(商26条1項6号)と判断されました。平成30(ネ)10064等は、メタタグの使用も不競法における商品等表示に該当するとしましたが、今回のように情報提供サイトにおける使用ではありませんでした。被告は、「葬儀」サービスは行っていませんが、「葬儀に関する情報の提供」には該当しそうです。なお、本事件の原告は本人訴訟です。\n

 前記認定によると、本件サービスサイトは、その構成において、需要者であ\nる葬儀希望者に対し、その条件に見合った葬儀社等の情報提供を行い、また希望者 には葬儀の依頼や相談、一括見積を行うことなどを通して、葬儀希望者と葬儀社等 とのマッチング支援を行うサービス(被告役務)を提供するものであることが容易 に看取できる。 そして、本件ウェブページは、これを単独でみても、そのドメインや本件ウェブ ページのタイトル部分や末尾の「安心葬儀」等の表示、競合し得る近隣の斎場等の\n情報も表示されることに加え、本件葬儀場の情報については、ホールの外観、特徴\nや所在地、アクセス方法、設備情報等の客観的な情報が記載されているにとどまり、 これを超えて本件葬儀場の利用を誘引するような記載はみられないこと等の事情か らすると、本件ウェブページに接した需要者は、「セレモニートーリン」を、葬儀 場を紹介するという本件サービスサイトにおいて紹介される一葬儀社(場)として 認識するものであり、原告が本件葬儀場において提供する商品ないし役務に関し、 被告がその主体であると認識することはないものというべきである(本件ウェブペー ジを含め、本件サービスサイトの運営者が原告であると認識することがないことも 同様である。)。
さらに、原告が問題とする本件ウェブページの html ファイル中のタイトルタグ及 び記述メタタグに記載された内容は、検索サイトYahoo!において「セレモニー トーリン」をキーワードとして検索した際の検索結果において基本的に各タグに記 載されたとおり表示されると認めることができるが、その内容は、いずれも本件サー\nビスサイトの名称が明記された見出し及び説明文と相まって、原告の運営するウェ ブサイトとは異なることが容易に分かるものと評価できる上、一般に、検索サイト の利用者、とりわけ現に葬儀の依頼を検討するような需要者は、検索結果だけを参 照するのではなく、検索結果の見出しに貼られたリンクを辿って目的の情報に到達\nするのが通常であると考えられるところ、需要者がそのように本件ウェブページに 遷移した場合には、前記のとおり、被告が運営する本件サービスサイトの一部とし て本件ウェブページを理解するのであって、やはり、被告標章を本件ウェブページ の各タグ内で使用することによって、原告と被告の提供する商品または役務に関し 出所の混同が生じることはないというべきである。 したがって、被告による被告標章の使用は、商標法26条1項6号の規定により、 本件商標権の効力が及ばないというべきである。
(3) 原告は、被告は、本件ウェブページの見出しやその説明文において被告標章 を表示させ、需要者をして本件ウェブページにアクセスするよう誘引し、本件ウェ\nブページにおいて本件葬儀場の建物の写真や情報を表示させることで、需要者をし\nて、本件ウェブページが原告(セレモニートーリン)のウェブページであると誤認 させ、出所の混同を生じさせている旨を主張する。 しかし、本件ウェブページの見出し、説明文及び本件ウェブページ自体の表示内\n容を踏まえると、見出し及び説明文に被告標章の表示があるからといって、出所の\n混同を生じさせることにはならないことは前述したとおりである。原告の主張は、 要するに、原告を紹介する本件ウェブページに被告の電話番号等が表示されること\nにより、原告が、その潜在的需要を失う不利益を被っていることをいうものと解さ れるが、そのような結果が仮に生じているとしても、前記認定に係る本件サービス サイトの性質及び本件ウェブページの記載(なお、反対にこれを参照して原告に依 頼する需要者も在り得ると考えられる。)からすると、自由競争の範囲内のものと いうべきである。原告の前記主張は採用の限りでない。  

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令和4(行ケ)10034  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年9月14日  知的財産高等裁判所

 フランチャイジーが契約解除のわずか4日後に出願した商標について、公序良俗違反(4条1項7号)の無効審決がなされました。知財高裁もかかる判断を維持しました。

本件契約書には、「『XPERIA 修理王』ブランドでの XPERIA 等修理経営 のための FC 契約関係を形成する」(第1条)、「『XPERIA 修理王』の商標… の使用を許諾する。」(第4条1項)とある(前記1 イ 、 )ものの、「本 契約において本部が加盟者に提供する FC サービスの内容は、次の各号とす る。…2)商標・商号・その他の表示の提供」(第2条)、「本部は、加盟者にお\nける XPERIA 等修理業経営について『XPERIA 修理王』の商標・サービスマ ーク、その他営業シンボル・著作物の使用を許諾する。」(第4条1項)、「第 1項に定める許諾に関しては、以下を条件とする。1)加盟者との本契約期間 中ならびに加盟者の事業所内に限る。」(第4条3項)とあり(前記1 イ 、 )、被告は、原告に対し、原告が本件フランチャイズ契約に基づいて運営す る店舗の屋号を「スマホ修理王 新宿店」、「XPERIA 修理王 新宿店」と指 定する旨を通知し(前記1 ウ)、原告は、少なくとも本件フランチャイズ契 約の契約期間中、運営するスマートフォンの修理業に関し「XPERIA 修理王 by スマホ修理王新宿店」の名称を使っていた(前記1 オ)ことからすると、 本件フランチャイズ契約においてフランチャイザーである被告がフランチャ イジーである原告に提供し、許諾の対象となる「商標・商号・その他の表示」\nには、「XPERIA 修理王」だけでなく「スマホ修理王」の商標も含まれるもの と解される(なお、原告は、本件商標(標準文字の「スマホ修理王」)は本件 フランチャイズ契約で規定されていない旨主張するが、上記のとおりである から採用できない。)。
また、原告は、被告が開設する「スマホ修理王 FC 加盟申し込みホームペ\nージ」を利用して本件フランチャイズ契約の申込みをしていること(前記1\nア)、本件フランチャイズ契約終了後、被告より、ウェブサイト等から 「XPERIA 修理王」及び「修理王」の名称を削除するよう求められたのに応 じて、本件ウェブサイトの「XPERIA 修理王 by スマホ修理王新宿店」(スマ ホ修理王の部分は引用商標2)の名称を「新宿駅前 XPERIA 修理専門店」と 変更していること(前記1 ウないしオ)からすると、原告は、「スマホ修理 王」の商標(引用商標1、2)は被告がフランチャイズ事業で使用しており、 その使用のためには被告の許諾が必要であることを十分に認識し、現にその\nような認識の下で、被告のフランチャイジーとして「スマホ修理王」の商標 を使用していたと解するのが相当である。
そうであるにもかかわらず、原告は、本件フランチャイズ契約に関し、平 成30年3月30日付けで、本件解除がされ、WEB サイト等から『XPERIA 修理王』および『修理王』の名称を削除するよう求められたその4日後に本 件商標の登録出願に及び、令和元年8月30日に本件商標の設定登録を受け ると、同年12月20日付けで、フランチャイザーであった被告に対し、被 告が展開するフランチャイズ事業で「スマホ修理王」の商標を使用すること が本件商標の商標権侵害に当たる旨を警告し(前記1 ア、イ)、本件商標の 放棄又は譲渡のために50万円(税別)を支払う用意があると通知した被告 に対し、本件商標の商標権買取価格を含め合計2670万円のライセンス契 約を提案し、代理人間の協議においても100万円から300万円程度では 受け入れられない旨回答した(前記1 イ、ウ)ことが認められる。こうした事実経過等に鑑みれば、本件商標の登録出願は、元フランチャイジーである原告が、被告から本件解除をされたわずか4日後に行ったものであり、これまでと同様の名称を使用することにより被告の顧客吸引力を利用し続けようとしたものと評価せざるを得ず、元フランチャイジーとして遵守すべき信義誠実の原則に大きく反するものであるのみならず、「スマホ修理王」の名称でフランチャイズ事業を営んでいる被告がその名称に係る商標登録を経ていないことを奇貨として、被告によるフランチャイズ事業を妨害する加害目的又は本件商標を高額で被告に買い取らせる不当な目的で行われたものというべきである。
このような本件商標の登録出願の目的や経緯等に鑑みれば、本件商標の出 願登録は、商標制度における先願主義を悪用するものであり、社会通念に照 らして著しく社会的相当性を欠く事情があるというべきであって、こうした 商標の登録出願及び設定登録を許せば、商標を保護することにより商標の使 用する者の業務上の信用を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要 者の利益を保護することを目的とする商標法の目的に反することになりかね ないから、本件商標は、公の秩序に反するものであるというべきであって、 商標法4条1項7号に該当する。 なお、原告は、本件審決は原告が享有すべき職業選択の自由を著しく狭く 解した不当な判断であると主張するが、事業において使用する特定の屋号等 の選択が職業選択の自由に含まれるものとしても、他人がその商標で築き上 げた信用の希釈又は特定の商標との混同等を理由として特定の商標の使用が 制限されることはやむをえないものであるし、もとより本件商標以外の屋号 等を選択することは可能であるから、原告の主張は当を得ないものというべ\nきであり、その他原告が縷々主張するところによっても、上記認定は左右さ れ得ない。

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令和1(行ケ)10157  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年9月12日  知的財産高等裁判所

 商標法53-2の取消審判の審決取消訴訟です。代理人である、正当理由無しとした審決が維持されました(登録取り消し)。

 イ 商標法53条の2は、輸入者が権利者との間に存在する信頼関係に違背 して、正当な理由がなく外国商標を勝手に出願して競争上有利に立とうと する弊害を除去し、商標の国際的保護を図る規定というべきであり、この 観点からすると、ここにいう「代理人」に該当するか否かは、輸入者が「代 理人」、「代理店」等の名称を有していたか否かという形式的な観点のみ から判断するのではなく、商標法53条の2の適用の基礎となるべき取引 上の密接な信頼関係が形成されていたかどうかという観点も含めて検討す るのが相当である。
この点、原告は、被告商品を輸入して、日本国内でこれを販売するため に被告との取引関係に入ったものというべきところ、前記1(3)のとおり、 本件期間内の被告商品の納入は合計5回、1261万円に上り、決して少 ないものとはいえず、さらに、本件期間後の平成29年3月14日まで継 続している。そうすると、原告と被告の関係は、単発の商品購入にとどま るものではなく、継続的な取引関係の構築を前提とするものであり、この\nことは、原告がわが国におけるエスタッチ社商標の使用権を取得しようと したこと、さらには、本件商標の登録出願をしたこと自体からも裏付けら れるものである。以上の事情を総合考慮すると、原告と被告の間には、本 件期間内に既に、代理人ないし代理店と同様の取引上の密接な信頼関係が 形成されたものと認めるのが相当であり、代理店契約の存否等にかかわら ず、原告は、同条の2にいう「代理人」に該当するというべきである。
・・・
(1) 原告は、前記第3の2(1)のとおり、被告は、本件商標の登録出願がなされ た平成28年9月5日の時点において、エスタッチ社商標に代わる商標の権 利取得を放棄していたのに等しく、他方、原告には、顧客に納入した被告製 品に付された商標に関する問題が生じることを回避する必要があったため、 原告が本件商標の登録出願をするについて正当な理由を有する旨主張する。 しかし、被告が、同年7月5日の時点でエスタッチ社商標の出願が登録料 未納付により却下されたことを把握していたとしても、原告による本件商標 の登録出願まではわずか2か月にすぎず、これをもって「長期間」放置した とか、原告のみならず任意の第三者においてエスタッチ社商標に代わる商標 を登録することが可能な状態を許容していたなどと評価できないことは明ら\nかである。なお、白岩物産は、前記1(4)のとおり、同日付けメールで、被告 が同月15日までに引用商標の商標登録出願をする予定であることを原告に\n告げているけれども、同日までに引用商標の商標登録出願がされなかったか らといって、被告が出願の意思を失ったと推認されるものでもない。 さらに、前記2(1)ウのとおり、原告は、エスタッチ社商標ないし将来被告 が日本において出願する予定の引用商標と同一の商標は、本来被告及びエス\nタッチ社が韓国において共有する商標に由来すること、また、被告が独占的 通常使用権の許諾には簡単には応じられないという意向であったことを知り ながら、独占的通常使用権をめぐる交渉中に本件商標の登録出願をしたもの であるから、原告が当該出願について正当な理由があるなどといえないこと も明白である。なお、原告のいう「被告製品に付された商標に関する問題」 とは、引用商標を付した商品が出回り値崩れを起こしているという趣旨と解 されるが(甲20の1・2、甲21の1ないし8)、これは、本来、独占的 通常使用権をめぐる交渉において解決されるべき問題であり、本件商標の登 録出願を正当化するものではない。

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令和2(ネ)10032  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月20日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 CS関連発明の特許権侵害に対して、原審は約3600万円の損害賠償を認めました。1審原告は、請求を2億円に拡張する控訴をし、知財高裁(2部)は約1億2000万円の損害賠償を認めました。
原審(平成28年(ワ)7678号)はアップされていません。

(ア) 原判決別紙「本件ソフト・ハード機器の売上額(裁判所の認定)」のとお\nり、本件において一審被告が受けた利益として認められる本件ソフト及びハードウ\nェアの売上額が合計2億5714万4027円であるのに対し、後記のとおり、本 件において一審被告が受けた利益として認められる月次利用料(被告システムない し本件ソフトの導入後5年以内に支払われるもの。以下同じ。)に係る売上額は、\n合計3億9531万1537円であり、月次利用料に係る売上額は、本件ソフト及\nびハードウェアの売上額の約1.5倍にも及ぶ高額のものであって、これを単なる データベースの更新費用等であるとみることは困難であること、一般に被告システ ムないし本件ソフトのように内容の更新が絶対に必要なデータベースを用いるシス\nテムないしソフトウェアにおいては、適時のデータベースの更新がなければシステ\nムないしソフトウェアとしての意味をなさないから、当該システムないしソ\フトウ ェアを導入する際に、更新があることを当然の前提にしてこれを含んだ価格設定を することには十分な合理性があること、弁論の全趣旨によると、一審被告は、被告\nシステムないし本件ソフトを導入した医療機関が月次利用料を3か月間支払わない\nときは、被告システムないし本件ソフトが起動しないような措置を執っているもの\nと認められること(一審被告第3準備書面5〜7頁)などの事情に照らすと、甲2 0及び48に月次利用料について「データベース更新料等」の記載があるとしても、 月次利用料に係る売上げは、被告システムないし本件ソフトの譲渡の対価(譲渡代\n金の延べ払い)の性質を持つものとして、これを一審被告が得た利益に含めるのが 相当である。

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令和3(行ケ)10110 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年7月14日  知的財産高等裁判所

 商標「ザプレミアムチロリアン(標準文字)」が商標「チロリアン」と類似するかが争われました。知財高裁(1部)は、類似しないとした審決を維持しました。

ア 本件商標は、「ザプレミアムチロリアン」の文字を標準文字で表してなり、\n「ザ」「プレミアム」の文字部分と「チロリアン」の文字部分とから構成さ\nれる結合商標である。本件商標を構成する文字は、外観上、同書、同大、\n同間隔で一連表記されており、構\成文字に相応して、「ザプレミアムチロリ アン」の称呼が生じる。
次に、「ザ」の文字部分は、定冠詞「the」の片仮名表記であり、「プ\nレミアム」の文字部分は、「一段上等・高級であること」(広辞苑第七版) といった意味を有する語として、「チロリアン」の文字部分は、「チロルの 人々。オーストリア西部からイタリア北東部にまたがるチロルの山岳地帯 に住む人々の用いる独特の民族服」(ブリタニカ国際大百科事典)、「チロル 地方の。チロル風の」(広辞苑第七版)といった意味を有する語として一般 に理解されていることが認められる。このような上記各文字部分の観念及 びそれぞれの称呼に照らすと、本件商標を構成する文字は、外観上、同書、\n同大、同間隔で一連表記されていることを勘案しても、本件商標において\n「ザ」「プレミアム」の文字部分と「チロリアン」の文字部分を分離して観 察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合してい るものとは認められない。
そして、前記1(2)認定のとおり、標章「チロリアン」は、本件商標の登 録審決日(令和元年10月1日)当時、福岡県を中心とした九州地方にお いて、菓子の取引者、需要者の間で、特定の菓子(菓子「チロリアン」)の ブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたこと に照らすと、本件商標がその指定商品中の「菓子」に使用された場合には、 本件商標の構成中の「チロリアン」の文字部分は、菓子のブランド名を示\nすものとして注意を惹き、取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与 えるものと認められる。 そうすると、本件商標の構成中「チロリアン」の文字部分は、独立して\n商品の出所識別標識として機能し得るものと認められるから、本件商標か\nら上記文字部分を要部として抽出し、これと引用商標1とを比較して商標 そのものの類否を判断することも、許されるというべきである。
イ これに対し、被告は、1)本件商標は、「ザプレミアムチロリアン」の標準 文字を表してなり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が\n等間隔に1行でまとまりよく表されており、その文字構\成は一連一体であ ることからすると、「ザ」「プレミアム」の部分と「チロリアン」の部分は、 分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合し ている、2)標章「チロリアン」、「TIROLIAN」は、本件商標の登録 出願時及び登録審決時において、原告の業務に係る商品を表すものとして、\n取引者、需要者の間に広く認識されていたとはいえないから、本件商標の 構成中の「チロリアン」の文字部分が、本件商標の指定商品の取引者、需\n要者に対し、原告の商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える ものとはいえない、3)菓子「チロリアン」については、発売後ほどなくし て、標章「チロリアン」を使用して独自に販売を行う事業主体が複数生じ、 平成8年以降は、標章「チロリアン」を使用する事業主体間で多数の紛争 が生じており、標章「チロリアン」について統一的な管理が行われていな かったことに照らすと、取引者、需要者は、本件商標の構成中の「チロリ\nアン」の文字部分が、複数の事業主体のいずれに係る表示であるかを認識\nすることが困難であるから、「チロリアン」の文字部分は、原告の出所識別 標識として強く支配的な印象を与えるものに該当しない、4)菓子「チロリ アン」を製造販売する複数の事業主体について、経済的・組織的な一体性 を持つグループといったものが形成されたことはないから、「チロリアン」 の文字部分が、上記のようなグループの識別標識として強く支配的な印象 を与えると評価する余地もない、5)「チロリアン」の文字部分に出所識別 機能がないにもかかわらず、これがあるかのように評価して結合商標の分\n離観察を行い、その結果として、標章「チロリアン」について他の事業主 体に比べて不十分な使用実績しか有しない原告に引用商標1ないし3を\n含む「チロリアン」の登録商標を独占させるような帰結は、社会的妥当性 に欠けるなどと主張して、本件商標から「チロリアン」の文字部分を要部 として抽出することは許されない旨主張する。
しかしながら、前記(1)で説示したとおり、商標の各構成部分がそれを分\n離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結 合しているものと認められない商標においては、商標の構成部分の一部が\n取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印 象を与えるものと認められる場合などのほか、商標の構成部分の一部が取\n引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商 品の出所識別標識として機能し得るものと認められる場合においても、商\n標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較し\nて商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当であ る。
そして、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い\n印象を与えるものであり、独立して商品の出所識別標識として機能し得る\nか否かについての判断は、商標に接した取引者、需要者において、商標の どのような構成部分について注意を惹き、どのような印象を受けるかなど\nの観点から判断されるべきものであることに照らすと、その判断において は、取引者、需要者が、当該構成部分を何人かの出所識別標識として認識\nし得るものであれば、当該構成部分に係る出所自体(例えば、特定の事業\n主体の名称、事業形態、事業主体が単数か、複数か等)について正確に認 識することまでは要しないと解するのが相当である。
被告主張の1)については、前記アのとおり、「ザ」「プレミアム」の文字 部分の観念及び称呼、「チロリアン」の文字部分の観念及び称呼に照らすと、 本件商標を構成する文字が、外観上、同書、同大、同間隔で一連表\記され ていることを勘案しても、本件商標において、「ザ」「プレミアム」の文字 部分と「チロリアン」の文字部分を分離して観察することが取引上不自然 であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。 被告主張の2)ないし4)は、取引者、需要者において、本件商標の構成中\nの「チロリアン」の文字部分に係る出所自体(特定の事業主体の名称等) について正確に認識することまで必要であることを前提とし、上記文字部 分が原告の出所を示す出所識別標識として認識されることを求めるもの であるから、その前提において採用することができない。 また、被告主張の5)については、結合商標の構成部分の一部を要部とし\nて抽出することができるかどうかの判断は、上記のとおり、当該結合商標 に接した取引者、需要者の認識及び印象に係る問題であって、本件商標と の関係では、原告による標章「チロリアン」の使用実績の規模等によって その判断が左右されるものではないから、その前提において採用すること ができない。

◆判決本文

関連事件です。
いずれも非類似とした審決が維持されています。 「ザリッチチロリアン(標準文字)」


◆令和3(行ケ)10109

「チロリアンホルン」

◆令和3(行ケ)10108

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平成21年(ネ)第10024号 著作権確認等請求控訴事件 原審・大阪地方裁判所平成17年(ワ)第2641号

 1審大阪地裁は、ソースコード1000行以上から構成されていることから、本件プログラムの著作物性を認めましたが、知財高裁(4部)は、創作性がある部分を立証しなかった原告に対して、多くの命令数により記述されているだけでは、実現される機能が多岐にわたることを意味するにすぎないとして、1審判決を破棄しました。

、 ア DHL車側プログラム(甲291)について
DHL車側プログラムのうち,「NL」「NL1」の処理(TC車の車番付けを 命ずる命令に関する処理)を行うための部分(甲291の8頁〜12頁(0286 番地〜0427番地))に関する部分は,200行前後のうちプログラムの実行順 序に係る制御を行う命令(JP命令とCALL命令)の行数が50行前後,つまり ステップ数で全体の4分の1前後が実行順序制御に係る命令に用いられている(甲 291,294)。 DHL車側プログラムには,ソースコード上では,「JP,・・・##」と示さ\nれる,飛び先の番地が指定されず,結果として0000番地が指定された場合と同 様の動作を行うJP命令(CA0000)が含まれている(なお,甲291及び後 述する甲292においては,上述したもの以外のJP命令については飛び先となる メモリのアドレス(番地)の値が具体的に示されており,甲289及び290と同 様に,ロードされるメモリ上のアドレス(番地)及びJP命令の飛び先となるアド レスが絶対的に定まったものとされている。)。 これらの命令は,変更後DHCフローチャート(甲189の1)や変更前のソー\nスコード(甲289)には含まれているものではないから,本件装置を動作させる ための最低限の機能を実現するために必要不可欠なものであったか否かは不明であ\nる。もっとも,昭和61年12月に「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しな い」という異常への対処としてプログラムが変更されたことからすると,変更を行 ったプログラム作成者は,何らかの意図,たとえば,当該プログラムの変更による 変更後の制御のタイミングを維持すべきであること等に基づいて,ほかに選択肢が あるにもかかわらず,あえて上記部分を挿入したままとしたものと推測されなくも ない。
そうすると,DHL車側プログラムには,上記命令が存在することにより,創作 性が認められる余地がないわけではない。 もっとも,1審原告は,本来,ソースコードの詳細な検討を行うまでもなく,本\n件プログラムは著作物性を有するなどと主張して,当初,本件プログラムのソース\nコードを文書として提出せず,当審の平成22年5月10日の第4回弁論準備手続 期日における受命裁判官の求釈明により,本件プログラム全体のソースコードを文\n書として提出するか否かについて検討し,DHL車側プログラムについては,ソー\nスコードを提出したものの,本件プログラムのいかなる箇所にプログラム制作者の 個性が発揮されているのかについて具体的に主張立証しない。 したがって,DHL車側プログラムに挿入された上記命令がどのような機能を有\nするものか,他に選択可能な挿入箇所や他に選択可能\な命令が存在したか否かにつ いてすら,不明であるというほかなく,当該命令部分の存在が,選択の幅がある中 から,プログラム制作者が選択したものであり,かつ,それがありふれた表現では\nなく,プログラム制作者の個性,すなわち表現上の創作性が発揮されているもので\nあることについて,これを認めるに足りる証拠はないというほかない。 以上からすると,DHL車側のプログラムには,表現上の創作性を認めることは\nできない。
イ TC車側プログラム(甲292)について
TC車側プログラムのうち,「LINK」の処理(TC車側における車番がつく までの処理)を行うための部分(甲292の4頁〜9頁(00F7番地〜0317 番地))は,294行中88行がプログラムの実行順序に係る制御を行う命令であ るとされている(甲294)ところ,当該部分の相当程度について,ソースコード\nが開示されていない。 DHL車側プログラムとTC車側プログラムとは,各プログラムが機能すること\nによって,本件装置を制御するものであるから,「不連結時TC流動発生ブレーキ 閉が作用しないという異常」を防止するために本件装置を制御するためには,両者 について同様の配慮が必要となると推測されることから,TC車側プログラムにも, DHL車側プログラムと同様に,本件装置を動作させるための最低限の機能を実現\nするために必要不可欠なものであったか否かは明らかではない命令が挿入されてい る可能性は否定できない。\nもっとも,仮に,このような命令が挿入されていたとしても,DHL車側プログ ラムと同様に,当該命令部分の存在が,プログラム制作者の個性,すなわち表現上\nの創作性が発揮されているものであることについて,これを認めるに足りる証拠は ないというほかない。 したがって,TC車側プログラムにも,表現上の創作性を認めることはできない。\n
ウ 1審原告の主張について
1審原告は,本件装置は,特許権を取得できるほどに新規で進歩性を有する画期 的な技術であり,新規な機能を有するものであるから,当該装置を稼働させるため\nの本件プログラムも,他の既存のプログラムの表現を模倣することにより作成する\nことはできないところ,特に,中核部分であるTC車の車番付けを行わせる部分は, 本件プログラムが有する多数の機能のうち最重要部分を実現するもので,新規のア\nイデアに基づき全くのゼロから開発されたものである,当該中核部分を構成する各\nパートは,それぞれ数十から百数十\もの命令数により記述されている上,多数のサ ブルーチンを用いた構成となっているところ,このような複雑なプログラムにつき,\nその表現が1つ又は極めて限定された数しかなかったり,だれが記述しても大同小\n異のものとなったりすることは到底あり得ないし,他にも多数の機能を実現するた\nめの部分が有機的に組み合わされてひとまとまりのプログラムとなっているのであ るから,本件プログラムは,本来,ソースコードの詳細な検討を行うまでもなく,\n著作権の保護を受けるプログラムの著作物に該当することは明らかであるなどと主 張する。しかしながら,本件装置が新規性を有するからといって,当該装置を稼働させるためのプログラムが直ちに著作物性を有するということができないことは明らかで ある。
また,先に述べたとおり,プログラムに著作物性があるというためには,プログ ラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個\n性,すなわち,表現上の創作性が表\れていることを要するのであるから,新規のア イデアに基づきゼロから開発されたものであること,多くの命令数により記述され ていることから,直ちに表現上の創作性を認めることはできない。本件プログラム\nが多数の機能を実現するための部分が有機的に組み合わされているとしても,当該\nプログラムに表現上の創作性があることについて具体的に主張立証されない以上,\n当該プログラムにより実現される機能が多岐にわたることを意味するにすぎない。\nさらに,1審原告は,TC車側プログラムのうち,SOSUBサブルーチン(0 72F〜0792番地)のソースコードを例として,甲290及び292が機械語\nレベルでほぼ同一の命令構成となっているにもかかわらず,ソ\ースコードレベルで の具体的表現が異なること,SOSUBルーチンの行う仕事は,1)連結器のピンを 外すパワーシリンダを作動させる部分,2)パワーシリンダが正常に作動したか否か をチェックする部分,3)パワーシリンダの作動状況及びそのチェックの結果を操作 者に知らせるため表示灯の点・消灯を行う部分の3つに大別できるところ,本件プ\nログラムの極めて小さな一部分であるSOSUBルーチンのソースコードにおける\n具体的表現だけをみても,多数の選択肢の中から開発者の個性により選択された表\ 現が用いられているなどとも主張する。
しかしながら,甲290及び292におけるソースコードレベルでの具体的表\現 の相違は,CPUの機種変更に応じて必然的に定まる変更に基づくものにすぎず, 創作性の基礎になり得るものではない。また,上記1)ないし3)の機能を実現するそのほかの表\現に係る選択肢が存在する可能性があるからといって,直ちに本件プログラムにおけるSOSUBルーチンの具体的表\現について,創作性が認められるものでもない。1審原告が具体的に指摘する各事項は,いずれも本件装置が要求する仕様や機能を単にプログラムとして実現したものにすぎず,表\現上の創作性を基礎付けるものではない。

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原審はこちら。

◆平成17(ワ)2641

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令和3(ワ)3418 不正競争  民事訴訟 令和4年8月26日  東京地方裁判所

 シーリングライトの形状について、周知商品等表示または商品形態模倣に該当するかが争われました。東京地裁(29部)は、いずれも否定しました。

(1) 不競法2条1項1号にいう「商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、\n商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示す\nるもの」をいうところ、商品の形態は、「商標」等とは異なり、本来的には 商品の出所を表示するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表\示 する二次的意味を有するに至る場合がある。そして、このように商品の形態 自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、「商品等表\示」に該当する ためには、その形態が「商標」等と同程度に不競法による保護に値する出所 表示機能\を発揮し得ること、すなわち、1) 商品の形態が客観的に他の同種商 品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、2) その形態が 特定の事業者によって長期間独占的に利用され、又は極めて強力な宣伝広告 や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定 の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要\nすると解するのが相当である。
(2) そこで、まず、原告各製品の第4世代製品の形態が有する特徴について検 討する。
証拠(甲1、2、27、28)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品1、 2及び4のシェード部分の形状は、白色のポリプロピレンの平板を、中心部 から放射状に多数の山又は谷ができるように鋭角又は湾曲に折り畳み、これ を一層又は大きさの異なる複数層となるように配置した形状をしており、原 告製品3のシェード部分の形状は、多数の白色のポリプロピレンの平板を湾 曲に折り畳み、全体としてバラ様の略円形に整えた形状をしていることが認 められ、いずれの製品も、一般的なシーリングライト(甲22、32ないし 35、乙22)のシェード部分の形状とは異なる特徴を有しているといえる。 しかし、シーリングライトのシェード部分は、その外観を構成する主たる構\ 造である一方で、その実用目的である発光機能を直接担う部材ではないこと\nから、シーリングライトを設置する場所に合わせて、様々なデザインとする ことが可能であると考えられ(証拠(乙3、4)によれば、実際に、様々な\n形状のシェード部分を有するライトが販売されていることが認められる。)、 このようなシェード部分の性質に照らせば、原告各製品のシェード部分の形 状が他の同種商品と比べて顕著に異なることを基礎付ける事情を認めるに足 りる証拠はないというほかない。 また、前記前提事実(2)エのとおり、第4世代製品の本体部分の形状は、フ ラットな円形の台座に三つのU字型LEDモジュールが磁石で取り付けられ るなどし、台座側面に換気孔が設けられ、調光調温機能の付いたリモコンが\n付属するものであるが、一般的なシーリングライト(甲24、25、32な いし35、乙22)の本体部分の形状と比較して、特徴的なものとはいえな い。
(3) 次に、原告各製品の第4世代製品の形態の周知性について検討する。 前記前提事実(2)のとおり、第4世代製品のシェード部分は、第1世代製品 から変更がなく、第1世代製品の販売が開始された平成22年から既に10 年以上が経過しているが、原告各製品のこれまでの販売数を認めるに足りる 証拠はなく、Yahoo!等の媒体やFacebook等のSNSによる原 告各製品に係る宣伝広告の期間、内容及び効果を認めるに足りる証拠もない (Facebookで行ったとする広告に関する資料(甲46)を見ても、 具体的にどのような広告がどの程度行われたのかは明らかでない。)。また、 前記前提事実(2)エのとおり、第4世代製品の本体部分について、改良が加え られて販売が開始されたのは平成30年からであり、上記シェード部分ほど 時間が経過していない上、通常、シェード部分によって隠れているため、需 要者の注意を惹くことも少ないといえる。 さらに、証拠(乙17ないし19)によれば、1943年に創業した、デ ンマークのレ・クリント社が製造販売するシーリングライトは、そのシェー ド部分が、白色の平板を中心部から放射状に多数の山又は谷ができるように 鋭角に折り畳み、これを一層又は大きさの異なる複数層となるように配置し た形状をしていることが認められ、少なくとも原告製品1、2及び4のシェ ード部分とかなり似通っているということができる。このような事情からす ると、原告各製品のシェード部分の形状が、長年にわたり、原告により独占 的に利用されていたとは認め難い。 そして、他に原告各製品の形態が原告の出所を表示するものとして周知に\nなっていることを認めるに足りる証拠はない。
(4) 以上を総合すると、原告各製品の第4世代製品の形態が、不競法2条1項 1号の「商標」等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能\を発揮 し得るとは認められないから、同号の「商品等表示」に該当するとは認めら\nれない。したがって、被告が被告各製品を販売したことは不競法2条1項1号の不 正競争には該当しない。
2 争点2(原告が「営業上の利益」(不競法3条、4条)を侵害された者に該当 するか)について
(1) 不競法2条1項3号は、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し 渡し、輸入するなどの行為が不正競争に該当すると規定するが、この趣旨は、 費用及び労力を投下して商品を開発し、これを市場に置いた者が、一定期間、 投下した費用等を回収することを容易にして、商品化への誘因を高めるため、 費用及び労力を投下することなく商品の形態を模倣する行為を規制しようと したものと解される。 したがって、同号の不正競争であるとして差止め等を請求することができ る「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(同法3条 1項)及び「営業上の利益を侵害」された者(同法4条)とは、自ら費用及 び労力を投下して商品を開発し、これを市場に置いた者をいうと解するのが 相当である。
(2) この点、証拠(甲36ないし42、48)によれば、原告が、パーツメー カーとの間で、ライトに取り付ける安定器やリモコンへの印字方法等に関す るメッセージのやり取りをしたことが認められる。しかし、これらが原告各 製品に係るやり取りかは明らかではない上、これらのやり取りの大半(甲3 8ないし42)は、原告各製品の第4世代製品の販売が開始された平成30 年(前記前提事実(2)エ)よりも後の令和元年12月にされたものであり、そ の他のやり取り(甲36、37)はいつされたものかが明らかでない。
また、台座に係る設計図(甲50)が存在するものの、原告各製品に係る ものであるかは明らかでないし、マスキング部分に続いて「有限公司」との 記載があり、原告以外の法人の名称が記載されていたとも考えられることか ら、原告自身がこれを作成したとは認められない。 さらに、証拠(甲14、15、乙1ないし4、23)によれば、原告各製 品に付属するリモコンには、原告のブランド名である「A」と印字されては いるが、当該リモコンそのものは、中国のオンラインモールにおいて、誰で も購入することができることが認められることからすると、そのようなリモ コンに原告のブランド名が印字されていることをもって、原告が原告各製品 を開発したことを裏付けるものとはいえない。
一方で、本件中国法人を経営するBの陳述書(乙20)には、本件中国法 人は、被告各製品及びこれとデザインの似たシーリングライトを製造してい ること、これらのシーリングライトは約20年前にヨーロッパの会社が開発 したモデルの一つであり、それ以降、中国の多くの工場で類似する製品が製 造されていること、本件中国法人は、特定の顧客との間で独占販売契約を締 結することなく、各社に対して上記シーリングライトを販売していることが 記載されており、この記載内容は、原告が本件中国法人に対して原告各製品 を発注し、被告がGlobee(Hongkong)Limitedを介し て本件中国法人から被告各製品の供給を受けていること(弁論の全趣旨)、 被告各製品が原告各製品とそれぞれほぼ同一の形状をしていること(前記前 提事実(3)イ)と合致しており、一定程度、信用することができるといえる。 そうすると、原告各製品や被告各製品と同様のシーリングライトが本件中国 法人により製造販売されていたことがうかがわれる。 そして、他に、原告が自ら費用及び労力を投下して、原告各製品を開発し て市場に置いたことを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、原告各製品の第4世代製品について、原告は、自らの費用 及び労力を投下してこれを開発して市場に置いた者とは認められないから、 原告各製品につき不競法2条1項3号の不正競争によって「営業上の利益を 侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(同法3条1項)及び「営業上 の利益を侵害」された者(同法4条)であるとして、被告による被告各製品 の販売の差止め及び被告に対する損害賠償を請求することができない。

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令和2(ワ)4530 不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和4年8月25日  大阪地方裁判所

 釣り具(浮き)の形について、不正競争行為(周知商品等表示の使用)かが争われました。大阪地裁(21部)は、特別顕著性無しとして、請求を棄却しました。

(1) 法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表\示 を使用等することをもって不正競争に該当すると規定しており、これは、周知な商 品等表示の有する出所表\示機能を保護する観点から、周知な商品等表\示に化体され た他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止 し、事業者間の公正な競争等を確保する趣旨と解される。そして、色彩を含む商品 の形態は、特定の出所を表示する二次的意味を有する場合があるものの、商標等と\nは異なり、本来的には商品の出所表示機能\を有するものではないから、その形態が 商標等と同程度に不正競争防止法による保護に値する出所表示機能\を発揮するよう な特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないというべきである。そうする\nと、商品の形態は、1)客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(特別顕著性) を有しており、かつ、2)特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、 又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品 が特定の事業者の出所を表示するものとして周知である(周知性)と認められる特\n段の事情がない限り、法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが\n相当である。
(2) 特別顕著性
ア これを本件についてみると、まず、原告商品1〜11は、釣り用のうきとし て、もっぱら釣果を得るための実用品であり、その性能を発揮するために形態が工\n夫されているものであって、基本的には、需要者が形状や色彩等のデザインを鑑賞 するためのものではない。また、使用時にはそのボディの大半が水中に隠れている 状態であり、実際の性能は外観のみでは判断し難いから、釣りをする一般的な需要\n者においては、購入時に、釣果に関する自らの経験や評判ないし価格を参考に選択 しているものと考えられ、少なくともボディの色や形状を主に観察して違いを見極 めるような商品ではないから、ボディの形態をもって特別顕著性があるというため には、他のうきとはかけ離れた特異な形態を備えている必要がある。 そして、前記認定事実によれば、昭和50年代に原告代表者が開発した「遠矢う\nき」の形態であり、原告商品に共通する形態でもある「B ボディ下部に膨らみが あり」、「D そのボディ上部に上方向にゴム管が突き出ており」、「E ボディ最 太部からボディ下端にかけて円錐状に窄まっており」、「F ボディ下端に金属製 の環が突き出ており」、「G ボディ上部、ボディの長手方向中央付近及びボディ の最太部の下方にそれぞれ二重線が引かれている」形態は、昭和57年7月30日 に登録された意匠であり、平成9年7月30日に意匠権の存続期間が満了し、それ 以降は当該形態について意匠権による独占は認められなくなっていたことが明らか である(なお、前記実用新案権についてはそれ以前に存続期間が満了していること が明らかである。)ところ、ZF 形態に係る原告商品1〜3の発売以前から、「B 木製黒色のボディ下部に膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗 装がなされ」、「D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ている」各 特徴の1つ又は2つを備えた棒うきが各メーカーから複数種類販売されていたこと が認められる。また、ボディの大きさについても、ボディ全長が10cm台〜20cm 台のものが存在し、ボディ最太部の直径も10mm台のものが存在したことが認めら れる。そうすると、ZF 形態は、その発売以前に存在した他のうきとかけ離れた特 異な形態を備えているとはいえず、特別顕著性が認められない。
また、SP 形態は、前記認定事実のとおり、従前の「2号」や「180s」等の 「遠矢うき」の形態を引き継いだ ZF 形態の特徴を維持しつつ、円錐うきに慣れた 需要者にも受け入れやすくするために開発されたものであって、原告商品12を含 めて「遠矢グレスペシャル」として販売されているものであり、客観的な形態も、 原告商品1〜9のボディ全長を数cm短く(原告商品10、11)又は長く(原告商 品12)、最太部の直径を2mm程度太くしたにすぎないから、ZF 形態のバリエー ションの一種というべきであって、ZF 形態と同様に特別顕著性があるとは認めら れない。
イ 原告は、ZF 形態及び SP 形態を備えた商品は、被告商品の登場まで他に存在 せず、被告商品以外の模倣品は短期間で市場から消えたと主張する。 しかしながら、原告において原告商品1〜3のボディ上部に黄白色の樹脂塗装を し始めたのは、原告の従来の遠矢うきと製造工程において区別するためであったと いうのであるから、ZF 形態のうち、「C ボディ上部の樹脂塗装」以外は従来から 存在した形態であることが明らかである。そして、前記認定事実のとおり、ボディ 上部に黄白色の樹脂塗装をしたうきが原告商品1〜12の発売以前から複数存在し ており、ボディ上部に黄白色の樹脂塗装をすることは何ら特異な配色とはいえない から、従来から存在する形態に黄白色の樹脂塗装を加えたからといって、特別顕著 性が備わるとはいえない。
また、前記認定事実のとおり、ZF 形態及び SP 形態と共通する特徴を備えた商品 は、原告商品1〜3の発売以前から複数存在し、商品カタログに掲載されているに もかかわらず全く販売されなかったとは考え難い上、原告代表者において、「遠矢\nうき」の模倣品が大量に出回った時期があったことを認めており、平成2年頃にお いてもなお、原告が類似品と認識するような商品が大量に出回っていることを前提 に、遠矢の名入りの有無で区別するよう注意を呼び掛ける広告をし、平成19年以 降も継続的に類似品が出回っている旨の広告をしていたのであるから、被告商品以 外の ZF 形態及び SP 形態を備えた商品が全て短期間で市場から消えたとは到底考え られない。 そうであれば、被告商品販売開始時において、ZF 形態ないし SP 形態と同一又 は類似する特徴を備えた商品は複数存在し、これらの形態はありふれたものとなっ ていたというべきである。 なお、原告は、個別の同種商品について、ZF 形態及び SP 形態と一部共通する特 徴を備えているとしても、特徴の全部が同一ではない旨主張するが、前記のよう に、うきの形態に特別顕著性があるというためには、他のうきとはかけ離れた特異 な形態であるといえる必要があり、形態上の特徴が同一又は類似の同種商品が存在 すれば、特別顕著性は認められないというべきである。

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令和3(行ケ)10137  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月23日  知的財産高等裁判所

 先の審取で、実施可能要件違反はないと判断され、再度、実施可能\要件要件の無効を主張しましたが、「一次審決取消訴訟において行った主張と同じ」と判断されました。

(1) 審決取消訴訟の拘束力
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が 確定したときは、審判官は法181条2項の規定に従い当該審判事件につい て更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟 法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定 により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が 導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審 判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。 したがって、再度の審判手続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ 判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰 り返すこと、あるいはかかる主張を裏付けるための新たな立証をすることを 許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限 りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすること ができない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号2 45頁)。
(2)ア 一次審決取消訴訟の判断
(ア) 本件訴訟におけると同様に、一次審決取消訴訟においても、実施可能\n要件(法36条4項1号)に関して、本件明細書の発明の詳細な説明の 記載は、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加す る所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成(構\成要件G)を 当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているか否かという\nことが争点となり、原告(一次審決取消訴訟の被告)は、本件発明に係 る作業機を自ら開発した被告(一次審決取消訴訟の原告)ですら、本件 明細書等の図7のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業 機」を再現できないのであるから、構成要件Gが実施不可能\であること は明らかであると主張した(甲47〔20頁〕)。
(イ) この点について、一次判決は、特許発明が実施可能であるか否かは、\n実施例に示された例をそのまま具体的に再現することができるか否か によって判断されるものではないから、本件特許の原出願時に当業者が 本件明細書の記載に基づいて本件発明を実施することができたか否か は、本件明細書等の図7のグラフのデータを得た「当時の作業機」自体 を再現できるか否かによって判断されるものではなく、甲60(審判乙 14)、甲64(審判乙18)によれば、構成要件Gが実施可能\であるこ とが認められるから、原告の上記主張は採用することができない、と判 断した(甲47〔51〜52頁〕)。
イ 本件審決の判断
原告は、本件審決においても、前記ア(ア)と同様の主張を行ったが(本件 審決第4の3(4)カ)、本件審決は、一次審決取消訴訟のとおりの判断(前記 ア(イ))をし、そのような判断によれば、「一次審決は、図7のグラフを得た という作業機(実施品)が当時存在していたかについて審理判断していな いが、図7のグラフを得たという作業機が当時存在していたことを示す証 拠は皆無であり、架空の構成Gは当業者であっても実施不可能\である。」と いう原告の主張をもって、構成要件Gが実施可能\であるとの判断が左右さ れるものでないことは明らかであると判断した(本件審決第6の2(5)イ(イ) c〔本件審決111頁〕)。
(3) 原告は、本件訴訟において、取消事由3として、本件発明が、構成要件G\nの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角 度範囲内において徐々に減少し」という構成を備えるものとして実施可能\で あるというためには、本件明細書等の図7のグラフに示された結果を得るた めの実測に用いられた本件発明に係る当時の作業機(本件発明の実施品)が 実際に存在していたことが前提であるとし、それにもかかわらず、構成要件\nGの根拠である図7のグラフを得たという当時の作業機自体及びそれに関す る資料が現在存在しないから、図7のグラフは、一体どのような作業機を用 いた実測結果であるのか全く理解できず、構成要件Gの根拠になり得ず、そ\nのため、構成要件Gは根拠がなく、当業者であっても実施不可能\であると主 張する(前記第3の9〔原告の主張〕)。 しかし、原告の取消事由3についての上記主張は、本件明細書等の図7の グラフのデータの実測に用いられた作業機に関する資料の存否に言及するも のの、資料がないためにそのような作業機の存在が認められなければ、構成\n要件Gは実施不可能であるとの趣旨の主張であり、実施可能\要件との関係に おいては、本件明細書等の図7のグラフのデータの実測に用いられた作業機 の存在が明らかにならなければ実施可能要件は認められないとの主張であっ\nて、原告が一次審決取消訴訟において行った主張(前記(2)ア(ア))と同じ内容 の主張であると認められる。そして、原告が一次審決取消訴訟においてした 主張は(前記(2)ア(ア))、一次審決取消訴訟の判決理由中で理由がないと判断 され(前記(2)ア(イ))、その判断には行政事件訴訟法33条1項の拘束力が生 じたものと認められ、本件審決は、一次審決取消訴訟の拘束力に従って、原 告の上記主張に理由がないと判断したものと認められる。 したがって、原告は、本件審決が一次審決取消訴訟の拘束力に従ってした 判断をもはや争うことはできないものというべきであるから、原告の取消事 由3の主張は理由がない。

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令和3(行ケ)10136等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月31日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(2部)は、進歩性判断における動機付けについて「当該構成を得るためにフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用しようとする動機付けはない」として、進歩性無しとした審決を取り消しました。

 前記1(2)のとおり、本件発明1は、溶融前の半田片をノズルの内壁及び端 子の先端に必ず当接させるとともに、溶融した半田片を必ず真球にならないまま端 子の上に載った状態で下方に移動しないように停止させ、ノズルからの熱伝導等に より半田片及び端子を十分に加熱し、これにより適正温度での半田付けを実現する\n結果、半田付け不良の防止という効果を奏するものである。これに対し、甲1には、 ランドに接地した糸半田が貫通孔の周壁から輻射熱、伝導熱及び対流熱により加熱 され、遜色なく溶解され、より的確な半田付けが可能になった旨の記載はみられる\nものの(段落【0023】及び【0042】)、溶融した半田が必ず真球にならな いまま停止すること、すなわち、溶融後も半田がノズルの内壁に当接し続けること により半田片及び端子が十分に加熱されることについての記載及び示唆はないから、\n甲1に接した当業者にとって、溶融した半田が必ず真球にならないとの構成が解決\nしようとする課題及び当該構成が奏する作用効果を知らないまま、当該構\成を得る ためにフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用しようとする動機付け はないものといわざるを得ない。
(6) なお、証拠(甲39)及び弁論の全趣旨によると、フラックスの含有量が 小さい半田を用いると、半田付け不良の原因になるものと認められる。
(7) 以上によると、使用する半田に含有されるフラックスの量についての記載 及び示唆がない甲1に接した当業者にとって、甲1発明においてフラックスの含有 量が1wt%の半田をわざわざ採用し、溶融した半田が必ず真球にならないとの構\n成を得ることが容易になし得たものであったと認めることはできず、その他、当業 者が甲1発明に基づいて溶融した半田が必ず真球にならないとの構成を得ることが\n容易になし得たものであったと認めるに足りる証拠はない。 なお、乙3(技術説明資料・17頁)には、甲1発明においてフラックスの含有 量が2wt%以下の半田を用いても必ず真球にならないとの構成を得ることができ\nる旨の記載があるが、半田が溶融した際に形成される球の直径を求めるに当たって は、フラックスの組成、半田の組成、半田の熱膨張、ノズルの熱膨張等の諸般の要 素につき詳細な検討が必要であるから、乙3が引用する甲33(原告の特許庁審判 長に対する回答書)の計算結果並びに残存するフラックスの影響及び半田の熱膨張 の影響のみを考慮することによっては、甲1発明においてフラックスの含有量が2 wt%以下の半田を用いた場合に必ず真球にならないとの構成を得るものと認める\nことはできない。

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令和3(行ケ)10131  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月22日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。原告は阻害要因ありを主張しましたが、「専門の技術者がこれを行うことを常に想定しているということはできない」としてこれを否定しました。

(3) 前記(2)の記載によると、甲4の「スクリーン保護膜30」が本件発明1の 「保護シート」に相当し、「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」が それぞれ本件発明1の「第2剥離部」及び「第1剥離部」に相当することは明らか である。そして、甲4の「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」は、 それぞれ「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」から、「スクリーン 保護膜30」の外側に延びるように設けられ、「第一の離型膜341」及び「第二 の離型膜342」を剥がす際に手で持つ部分であるから(段落【0025】、【0 026】、【図4】〜【図6】)、いずれも本件発明1の「延出部」に相当すると いえる。
ここで、甲4において「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」を設 けたのは、手で「第一の突起部343」又は「第二の突起部344」を持って、そ れぞれ「第一の離型膜341」又は「第二の離型膜342」を便利に剥がせるよう にするためである(段落【0025】)。そうすると、甲4に記載された発明とそ の属する技術分野を同じくする甲3−1発明(その内容は、前記第2の3(2)ア (ア)のとおり)においても、そのような利便性を図るため、甲4に記載された「第 一の突起部343」及び「第二の突起部344」の構成を適用して本件発明1の\n「延出部」を設けることは、本件優先日当時の当業者において容易に想到し得たこ とであると認められる。
(4) この点に関し、原告は、甲3−1発明に甲4に記載された「第一の突起部 343」及び「第二の突起部344」の構成を適用することには、阻害要因がある\n旨主張するが、以下のとおり、これを採用することはできない。
ア 原告は、まず、甲3−1発明はその貼付の対象として超大型のディスプレイ\nパネル(最低でも17インチのものであり、適するのは82インチのものであり、 更にそれより大きいものを含む。)を想定しており、その貼付を行うのは専門の技\n術者であるから、本件発明1の「延出部」のような部材は不要である旨主張する。 そこで検討するに、前記(1)のとおり、甲3には、甲3−1発明の光学フィルム を貼付する対象が「大型ディスプレイパネル」であり、「大型」とは17インチか\nら82インチ程度までのものをいう旨の記載がある(前記(1)イ、ケ等)。また、 特許請求の範囲においては、保護フィルムの貼付の対象となる大型ディスプレイパ\nネルが少なくとも17インチのものである旨の特定がされている(前記(1)ツ)。
さらに、実施例1においては、甲3−1発明の光学フィルムは40インチの大型液 晶テレビに貼付され、実施例2においては、甲3−1発明の光学フィルムは23イ\nンチのコンピュータディスプレイに貼付されている(前記(1)ソ及びタ)。これら\n甲3全体の記載を参酌すると、甲3の「要約」に、「この方法は、対角線208c m(82インチ)の可視領域を有するような大型ディスプレイパネルでの使用に適 している。」との記載があること(前記(1)ア)を考慮しても、甲3−1発明が8 2インチ程度の大型ディスプレイパネルのみをその貼付の対象としていると認める\nことはできず、甲3−1発明は、幅広い大きさの範囲(17インチないし82イン チ程度)のディスプレイパネルをその貼付の対象とするものであると認めるのが相\n当である。そして、17インチ程度の大きさのディスプレイパネルに光学フィルム を貼付することが専門の技術者でなければ行えないとみるべき事情もない。そうす\nると、甲3−1発明の光学フィルムの貼付については、専門の技術者がこれを行う\nことを常に想定しているということはできないから、原告の上記主張は、その前提 を欠くものとして失当である(なお、原告が主張する「把持部」(本件発明1の 「延出部」に相当する部材)は、甲4における「第一の離型膜341」及び「第二 の離型膜342」を剥がすのに便利な「第一の突起部343」及び「第二の突起部 344」と同様の機能を有するものであるところ(甲4の段落【0025】等参\n照)、甲4の「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」は、甲3―1発\n明の分離剥離ライナーである「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」に対 応するものである。専門の技術者であったとしても、分離剥離ライナーを剥がすた めに「把持部」を設けることは便利となるものであって、仮に、甲3−1発明の光 学フィルムがその貼付を専門の技術者が行うことを想定しているとしても、そのこ\nとから直ちに、甲3−1発明の光学フィルムにおいて、分離剥離ライナーである 「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」を剥がすのに便利な「把持部」を 設けることが不要になるわけではない。)。
イ 原告は、また、甲3−1発明の光学フィルムの貼付作業に利用できるように\n「把持部」を形成する場合、最低でも10cm程度の大きさ(これは、「把持部」 と「第1の部分38a」又は「第2の部分38b」が接する部分の長さをいうもの と解される。)が必要になるところ、そのような大きさの「把持部」が形成される と、甲3が想定する精度で貼付作業を行うことができなくなる旨主張する。\nしかしながら、甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を形成する場合、最低 でも10cm程度の大きさを必要とするとの原告の主張は、何ら客観的な根拠を有 するものではないし、上記アのとおり、甲3−1発明の光学フィルムは、17イン チのディスプレイパネルをもその貼付の対象とするものであるから、その場合にも、\n「把持部」を形成するのであれば最低でも10cm程度のものが必要であるという ことはできない(なお、原告の上記主張は、甲3−1発明の光学フィルムの貼付の\n対象として、82インチ程度の超大型ディスプレイパネルのみが想定されているこ とを前提とするものと解されるが、その前提が成り立たないことは、前記アのとお りである。)。したがって、原告の上記主張も、前提を誤るものとして失当である。 ウ 原告は、さらに、甲3−1発明の光学フィルムは、ディスプレイパネルの周 囲に大きな段差のあるフレームがあるような場合に使用されることを想定している ところ(甲3の図面)、そのような場合に「把持部」を形成すると、フレームと 「把持部」が干渉してしまい、甲3−1発明の光学フィルムの位置決めが不可能に\nなる旨主張する。
確かに、甲3の図面の中には、ディスプレイパネルの周囲にフレームがあり、段 差が生じていると見て取れるもの(図7a等)がある。しかしながら、実施例1に おいては、甲3−1発明の光学フィルムは大型液晶テレビに貼付され、実施例2に\nおいては、甲3−1発明の光学フィルムはコンピュータディスプレイに貼付されて\nいるところ(前記(1)ソ及びタ)、大型液晶テレビやコンピュータのディスプレイ\nパネルの周囲に必ず段差のあるフレームが存在するわけではないから、甲3−1発 明の光学フィルムが、常にディスプレイパネルの周囲に大きな段差のあるフレーム があるような場合に使用されることを想定しているということはできない。したが って、原告の上記主張も、その前提を誤るものとして失当である。
エ なお、原告は、実験報告書(甲28の3、甲36)を根拠に、甲3−1発明 の光学フィルムを巨大なディスプレイパネルに貼付する場合、「把持部」があると、\nかえって作業に支障を来す旨主張する。
しかしながら、上記実験において用いられたのは、82インチの光学フィルムの みであるところ、前記アのとおり、甲3−1発明は、常に82インチ程度の光学フ ィルムであることを前提としているわけではないから、82インチよりも小さいサ イズの光学フィルムを用いた実験を省略する上記実験は、17インチないし82イ ンチ程度といった幅広い大きさの範囲でディスプレイパネルに貼付することを前提\nとする甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を設けることの不都合さを示す実 験としては、十分なものではない。加えて、23インチのディスプレイパネル及び\n82インチのディスプレイパネルに貼付することのできる2種類の光学フィルムを\n用いた被告の実験結果(「延出部」を設けても貼付作業に支障を来さず、むしろ有\n用であったとするもの。乙1、2)にも照らすと、原告の上記実験結果によっても、 甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を設けると貼付作業に支障を来すことに\nなると認めることはできず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。

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令和1(ワ)16040  映画上映禁止及び損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年1月27日  東京地方裁判所

 インタビュー形式の映画「主戦場」について、著作権侵害(人格権を含む)に基づいて差止などを求めました。パブリシティの権利の侵害、修士卒論と聞いて了承したが商業映画だったとか、修正主義者のように紹介されたなどの事情もあるようです。裁判所は、原告の請求を認めませんでした。

原告らは,被告Fは,政治プロパガンダ映画である本件映画1を制作し, これを商業映画として有料で一般公開することを計画していたにも関わらず, あたかも真摯な学術研究目的であるかのように装うなど前記第2の4(14)(原 告らの主張)のとおり欺罔行為を行い,原告らをその旨誤信させて原告らに\n取材に応じるという役務を提供させたと主張する(争点7)関係)。また,原 告らは,本件各許諾について,被告Fは,原告らに対する取材映像を利用し て商用映画(本件映画1)を製作しようと考えていたが,原告らに対しては, これを秘し,上智大学大学院の修士課程の一環である卒業制作のための真摯 な学術研究目的の活動であると説明して原告らを欺罔したため,原告らはそ\nの旨誤信して,本件各書面を作成したものであり,本件各書面による本件各 許諾は,詐欺取消し又は錯誤無効により存在しない旨主張する(争点1)−2 関係)。
以下,原告ら主張の被告Fの欺罔行為の有無について,検討する。\n
(2)ア 原告らは,大学院生である被告Fから,卒業制作として大学院に提出す るドキュメンタリー映画の製作に協力してほしいと頼まれたことや,製作 された映画が商用映画になるとは説明を受けていなかったことから,取材 に協力し,また,本件各映像の利用について本件各許諾をした旨の供述等 をする(原告C,原告D,原告E,甲6,7,35〜38,41)。
イ 被告Fが,原告らに対して取材に協力するよう求めた際の説明の内容等 は,原告Eについて前記1(2)ア,原告Cについて同(3)ア,原告Dについて 同(4)ア,原告Bについて同(5)ア,原告Aについて同(6)アのとおりである。 被告Fは上記の際,上智大学大学院の学生であることを述べて,「歴史 問題の国際化」についてドキュメンタリーを作成していてそのために取 材をさせてほしいことを述べた。また,その際,それが学術研究である こと,卒業プロジェクトであることを述べたりもしたこともあった。
(3) ここで,被告Fは,前記依頼の当時,実際に上智大学大学院の学生であっ て,修士論文に代わる映像作品として従軍慰安婦問題に関する映画を作成す ることとし,その映画ではこの問題において重要な役割を果たしていると考 えた者たちに対する取材映像を映画の主たる部分とすることを構想し(前記\n1(1)),この問題において重要な役割を果たしていると考える原告らへの取 材を行い,その際の映像である本件各映像を用いて,本件卒業制作映画を完 成して,これを修士論文に代わるものとして上智大学大学院に提出した(同 (7))。そして,被告Fは,本件卒業制作映画に,音楽,アニメーション,字 幕等を追加し,一部を訂正するなど,軽微な編集を加えて鑑賞性を高めて本 件映画1としたものであり,本件映画1は,本件卒業制作映画と,内容,構\n成において同じであって(前同),本件各書面にいう被告Fが製作する「歴 史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」(前記第2の2(2)イ)に該 当する。
被告Fは,当初から良い映画が製作できた場合には映画祭に応募すること を視野に入れてはいたが(この点は後記(4)で検討する。),上記のとおり, 本件各映像を利用して被告Fが製作した映画である本件卒業制作映画は,実 際に修士論文に代わるものとして大学院に提出されたのであり,本件映画1 も本件卒業制作映画と内容,構成において同じものである。したがって,被\n告Fが,原告らに取材を依頼したり本件各書面の作成を求めたりした際に, 上智大学大学院の学生として行うものであり,学術研究として作成されるも のであることを述べるなどしたこと自体は,被告Fが虚偽を述べたとはいえ ない。
(4) 被告Fは,当初から良い映画が製作できた場合には映画祭等に応募するこ とも視野に入れていた。もっとも,原告らに取材をした時点では,具体的な 映画の配給が決まっていたわけではなく,その後,本件映画1を応募したも ののその上映を断った映画祭もあった(前記1(1),(7))。被告Fは,原告E及び原告Dに対しては,同原告らが,被告Fの開設するユーチューブチャンネルの登録者など欧米の視聴者や研究者,学術世論に対して意見を発信できる場所を提供したいなどとして取材を申し込んでおり(同(2)ア,(4)ア),本件映像が大学への提出以外にも使用されることがあることを述べていた。そして,被告Fは,原告E,原告B及び原告Aとの間では「被告F又はその指定する者が,日本国内外において,映画を配給,上映,展示若しくは公共に送信し,又は,映画の複製物を販売,貸与することができる」旨が記載されている書面を,原告C及び原告Dとの間では「映画の公開前に,同原告らに確認を求める」旨が記載されている書面を交わした(本件各書面)(前記第2の2(2)イ,前記1(2)〜(6))。
原告らが署名押印した本件各書面は,文言上,被告Fが製作する映画につ いて,「配給」,「上映」,「販売」されることがあることや,「公開」さ れることがあることを前提とするものである。原告C書面及び原告D書面は, 原告Cが当初被告Fが示した承諾書案への署名を留保したり,原告Dが過去 にメディアから特定の観点だけを切り取られたりしたことなどを述べて被告 Fと合意書案の修正についてのやりとりをした上で,原告C及び原告Dが署 名押印したものであり,映画が公開される場合における被告Fの義務等が具 体的に定められているものである。本件各書面の上映や公開が,商用として の上映,公開を含まないことをうかがわせる記載はない。 そして,被告Fが,原告らに対して取材を申し込み,また,本件各書面へ\nの署名押印を求めるに当たって,本件各映像を利用して製作する映画が一般 に,場合によっては商用として,公開される可能性が排除されると述べたこ\nとは認められないし,被告Fがその可能性を秘匿したと認められる状況も認\nめられない。
また,その後,被告Fは,本件各映像を利用して製作した本件映画1が映 画祭で上映されたり,日本国内で上映されたりすることについて,自ら事前 に原告らに知らせていた。すなわち,被告Fは,平成30年9月30日には, 本件各映像を利用して製作した本件映画1が釜山国際映画祭において上映さ れる予定であること,将来日本と韓国で更に上映される可能\性があることを 各原告に対して告知し,平成31年2月28日には,本件映画1が日本国内 において上映される予定であることを,各原告に対し事前に告知した(前記\n1(8))。そして,上記の告知に対して,いずれの原告らからも一般に又は商 用として公開されることについて許諾をしていないなどとの抗議がされるこ とはなかった。むしろ,原告D及び原告Bは被告Fに対し祝意を表し,原告\nDは試写会に参加し(同ウ,エ),原告Aは,ツイッターに本件映画1の日 本国内における公開等を宣伝する好意的な投稿をしたほか,試写会に参加し て毎日新聞社の取材に感想を述べるなどした(同オ)。その後,原告らは, 本件映画1の上映中止を求めるようになったが,それは,本件映画1が日本 国内において上映されるようになり,原告らがそれぞれ本件映画1を鑑賞し その内容を認識した後,又は,その内容を認識してから少し経過した後であ る平成31年4月から令和元年5月頃からである(同(8),(9))。
以上のとおり,被告Fは,原告らに取材を依頼した際,製作した映画を映 画祭に応募することも考えていたが,具体的な映画の配給についての話はな かったところ,原告らとの間でも,取材の結果を一般に公開する話が出たこ ともあった。また,原告らと被告Fとの間の本件各書面には,製作した映画 の配給,上映や公開についても記載されていた。本件各書面に記載された映 画の上映や公開が商用での公開を含まないことをうかがわせる記載もない。 被告Fが,取材の依頼の際や本件各書面への署名押印の依頼に当たり,商用 を含む公開の可能性を排除したり,その可能\性を秘していたりしたとは認め られない。また,被告Fは,映画祭や日本国内での本件映画1の上映に先立 ち,その上映を原告らに告知し,原告らもそれに抗議をすることはなかった。 これらによれば, 被告Fが,製作した映画が原告らに対する取材の時点 から一般に,場合によっては商用として公開されることがあることを秘して いたということはできず,被告Fが原告ら主張の欺罔行為を行ったとは認め\nられない。原告らは,本件各映像を利用して製作される映画が一般に,場合 によっては商用として公開される可能性をも認識した上で,被告Fに対し本\n件各許諾をしたものと認められる。
(5) 以上によれば,被告Fが,原告らに対して取材を申し込み,また,本件各\n書面への署名押印を求めるに当たって,原告らが主張する欺罔行為によって\n原告らを欺罔したとは認めるに足りず,本件各許諾をするに当たって原告ら\nに錯誤があったとも認めるに足りない。 したがって,本件各許諾は詐欺により取り消され又は錯誤により無効であ\nるか(争点1)−3),及び,被告Fが,原告らを欺罔して取材に応じるとい\nう役務の提供をさせたか(争点7))について,原告らの主張には理由がない。

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令和3(ワ)10987  著作権侵害損害賠償請求事件  著作権 令和4年2月24日  東京地方裁判所

 「文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表\現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が表\現されたものとはいえない」として、著作権侵害ではないと判断されました。

そこで検討すると,著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)と は,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを 再製することをいい(最高裁判所昭和50年(オ)第324号同53年9月 7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照),著作物の翻案(著作 権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特\n徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新た\nに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著\n作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創\n作する行為をいう。しかして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を\n保護するものであるから(著作権法2条1項1号),既存の著作物に依拠して 創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表\n現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作\n物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないもの と解される(最高裁判所平成11年(受)第922号同13年6月28日第 一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
このように,複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依 拠して創作された著作物との同一性を有する部分が,著作権法による保護の 対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である\n(著作権法2条1項1号)。そして,「創作的」に表現されたというためには,\n厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,筆者の何 らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが,他方,文章自体\nがごく短く又は表現上制約があるため他の表\現が想定できない場合や,表現\nが平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が表現されたものと\nはいえないから,創作的な表現であるということはできない。\n したがって,被告各記述を含む被告の雑誌記事,書籍等が,被告各記述に 対応する原告各記述との同一性により原告雑誌記事,原告ルポの複製又は翻 案に当たるか否かを判断するに当たっては,両者において共通する部分が, 思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部\n分又は表現上の創作性がない部分でないかどうかを検討する必要がある。\nそこで,以上の見地から,別紙1及び2の各対比表について個別に検討す\nることとする。
(2) 別紙1の対比表について\n
ア 「1−1あ」,「1−5あ」,「1−6あ」,「1−7あ」,「1−10あ」に ついて
この箇所の原告記述と被告記述とでは,1)奨学金の原資を確保するので あれば,元本の回収が何より重要であること,2)日本学生支援機構は20\n04年以降,回収金をまず延滞金と利息に充当するという方針をとってい ること,3)日本学生支援機構の2010年度の利息収入は232億円,延\n滞金収入は37億円に達し,これらの金は経常収益に計上され,原資とは 無関係のところにあること,といった点が共通している。 しかし,上記共通点のうち,1)は,原告雑誌記事が発行,公表される以\n前から既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての一般的な考察 (乙5ないし7)であって,思想又はアイデアに属するものというべきで ある。2)と3)は,奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事\n実であり,3)の後段の,回収された金と奨学金の原資との関係についての 評価は,これもまた1)と同様に奨学金の金融事業化についての一般的考察 として思想又はアイデアに属するものというべきであって,原告記述と被 告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎな\nい。また,1)ないし3)の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は 独創的なものとはいえないし,文章の分量も短く簡潔で,表現も特徴のな\nいありふれたものといわざるを得ず,表現上の創作性が認められない部分\nにおいて同一性を有するにすぎない。

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令和2(ワ)33027  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月25日  東京地方裁判所

 特許侵害事件において、出願経過時の補正が新規事項であるとして、権利行使不能(104条の3)と判断されました。

上記(2)によれば、本件特許の出願当初の請求項においては、本件発明の構成\nとして「有料自動機の動作を検知するセンサー」が含まれており、当該「セン サーの検知信号に基づいて前記有料自動機の動作状態」についての監視結果を 管理サーバへ送信することが規定されていた。ところが、本件補正により、「有 料自動機の動作を検知するセンサー」が本件特許の構成から除外されるととも\nに、「ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置」によって生成 された「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報」 を管理サーバに送信するという構成に変更されたことが認められる。このよう\nに、本件補正に補正された事項は、管理サーバに送信すべき情報が、有料自動 機の動作を検知するセンサーの検知信号に基づくものに限られることはなく、 当該センサーの検知信号以外の情報に基づくものであっても、これに含まれる というものと解するのが相当である。
これに対し、上記(2)の当初明細書等の記載内容によれば、有料自動機の動作 を検知するセンサーの検知信号以外の情報に基づき、有料自動機が運転中であ るか否かを判定したり、当該結果を推測したりする方法については、何ら開示 されていないことが認められる。そして、当初明細書等の記載に接した当業者 において、出願時の技術常識に照らし、上記補正された事項が当初明細書等か ら自明である事項であるものと認めることはできない。 そうすると、本件補正は、当初明細書等に記載した事項との関係において新 たな技術的事項を導入するものであると認めるのが相当であり、「願書に最初 に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」におい てするものということはできない。 したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項に違反するものと認めら れる。
これに対し、原告らは、本件特許の審査段階において、本件補正が新たな技 術的事項を導入するものと判断されておらず、本件異議申立ての審理において\nも訂正請求が認められているほか、当初明細書(【0038】)には、ICカ ードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置が接続されている前記ラン ドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を生成し、出力するという技術内 容が記載されている旨主張する。 しかしながら、本件補正により補正された事項が当初明細書等に記載されて おらず、これが自明である事項ということもできないことは、上記において説 示したとおりである。そうすると、原告らの主張は、上記審査及び審理の経過 を踏まえても、上記判断を左右するものとはいえない。また、原告らが指摘す る上記当初明細書の内容は、上記(2)において認定したところによれば、電流セ ンサーの検知信号に基づき有料自動機の動作状態を監視する構成のみを記載\nするものであり、センサーの検知信号によらずに動作状態を判定する構成を記\n載するものではないから、原告らの主張は、上記認定と異なる前提に立って主 張するものにすぎない。

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令和1(ワ)20286等 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年6月30日  東京地方裁判所

 任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟です。東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n原告は、本人訴訟です。特許は、特許第3382936号(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-3382936/03A51F6D5F3A043A6242B758D39317CEC3E7966037CD769975997EE07C2C14E4/15/ja)ですが、被告が無効審判(無効2020-800098)を請求しており、職権でサポート要件違反などが指摘されています。2022年8月現在では審決はなされていません。なお、2011/08/30に10年目の登録料を支払わずに存続期間満了による抹消がなされています。

 前記(ア)のとおり、乙4文献には、使用時に表示板2を見易い傾斜角度\nに開くことができる折畳み式の小型電子機器において、表示板2を手で\n回転させると、回転軸8の溝aないしeに回転軸止め用シャフト10が 弾性的に圧入され、回転軸8の溝b、c、d、eのところで、夫々クリ ック音を感触させながら位置II)、III)、IV)、V)で停止して表示板2を固定\nさせることが開示されており、第5図からは、傾斜角度が約120度か ら約170度までの範囲内の予め決められた1つの傾斜角度に対応した\n位置で固定可能なことも理解できる。\nまた、前記(イ)のとおり、乙26文献においても、表示体ケース2を開\n閉可能な小型の電子機器において、回転軸6の凸凹10とクリックツメ\n12を設けることで、表示体ケース2を任意の位置で停止させることが\nできることが開示されている。 そうすると、乙4文献及び乙26文献により、折り畳み式の小型電子 機器において、表示板を含む2つの部材のなす角度が、ユーザーが行う\n表示板の回動により約120度から約170度までの範囲内の予\め決め られた1つの角度に変化させられたとき、前記回動をストップさせて、 前記2つの部材の間を前記予め決められた1つの角度で固定する中間ス\nトッパであって、前記2つの部材のなす角度が折り畳まれた状態から広 げられて行く動作をストップする機能と、広げられた状態から角度を狭\nめて行く動作をストップする機能を有する中間ストッパを設けることは、\n周知の技術(以下「本件周知技術」という。)であると認めることができ る。
(エ) 本件相違点への本件周知技術の適用
乙1発明’は、前記(1)イのとおり、第1のパネル12と第2のパネル 14が蝶番手段16によって接続され、ユーザーが座ったり、立ったり、 又は、歩いたりする位置にあるときに、片手でコンピュータを保持し、 もう片方の手でデータを入力することを許容するコンピュータノートブ ック10の発明であり、これは、折り畳み式の小型電子機器に関する技 術であるという点で、本件周知技術と共通する。したがって、乙1発明’ において、「第1のパネル12及び第2のパネル14の両方が蝶番手段1 6を中心とした多数の角度において配向する」場合に、本件周知技術の 中間ストッパを採用することにより、本件相違点に係る本件発明1の構\n成とすることは、当業者において容易に想到し得たことである。

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令和3(ネ)10079  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、出願経過から用語の意義を解釈して、技術的範囲に属しないと判断しました。知財高裁も同様に、技術的範囲に属しないと判断されました。

(1) 控訴人は、前記第2の5(1)アのとおり、本件発明の「係止片」は、1)所定 位置において、それ自体として針先の再露出を直接防止し、2)片状の部材で あり、3)針ハブに向かって傾斜した内側面を有し、4)大径部に円筒状部と一 体形成され、5)小径部側には設けられていないものをいうから、上記構成要\n素から特定される形状を有しない係止片が小径部側に設けられていても構成\n要件1E4)の充足を左右しない旨主張しており、同イ及びウの主張もこのよ うな理解を前提とするものである。
しかしながら、引用に係る原判決第3の2(1)(補正後のもの)のとおり、 本件発明の技術的意義及び出願経過からみて、針先の再露出を防止する機能\nを有する係止片は小径部側には設けられてはならず(係止片が小径部側に設 けられていないことに特有の技術的意義がある。)、したがって、小径部に設 けられることで構成要件1E4)の充足が妨げられる係止片は、その形状を問 われないものであるから、針先の再露出を防止する機能を有する係止片が小\n径部側に存することは、対象製品が構成要件1E4)を充足することを妨げる ものである。
また、控訴人は、係止片は針先の再露出を「それ自体」として、かつ、「直 接」に防止しなければならない旨主張するところであるが、特許請求の範囲 及び本件明細書の記載上、根拠を見いだし難い(いずれにせよ、大径部係止 手段と小径部側壁部から構成される「係止片」は、それ自体により直接に針\n先の再露出を防止していると認められる。)。 さらに、控訴人は、「係止片」という用語を使用している以上、「片」とは その名が示すとおり「片」(へん)状の部材であるから、「係止片」とは「片 状(へんじょう)の部材」を指すものである旨主張するところ、確かに、控 訴人は、本件補正により「係止部」を「係止片」と改めたものではあるが、 上記のような本件発明の技術的意義及び出願経過からすれば、充足性の判断 に当たり、針先の再露出を防止するために小径部に設けられる係止部材を片 状のものに限定する意義は見いだせない。また、いずれにしても、被告製品 は、小径部側壁部の突端面により縦リブの側面を挟持するものであるところ (引用に係る原判決第2の1(3)イd(補正後のもの))、小径部側壁部の突端 面を「片」と理解することに支障があるとは思えない。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆令和1(ワ)27053

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令和2(ネ)10069  特許法74条1項を原因とする特許権移転登録請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年5月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 共同発明者として持ち分の移転登録を求めましたが、1審と同様に、請求は棄却されました。

イ 本件発明11の完成時期について
本件発明11に係る請求項11の記載は、「経糸送出機構、緯糸供給機構\、 柄出し機構、編目形成機構\、及び、巻取機構を備えた経編機を使用して、\n請求項1〜10に記載のラップネットを連続して編成するラップネット の製造方法において、前記編目形成機構から連続的に編出される前記ラッ\nプネットを前記巻取機構の巻上げローラで巻き取るにあたり、当該巻上げ\nローラをその回転軸方向に所定の振幅で往復運動させることを特徴とす るラップネットの製造方法。」であるのに対し、本件出願の優先権主張の基 礎となる先の出願2の請求項6の記載は、「経糸送出機構、緯糸供給機構\、 柄出し機構、編目形成機構\、及び、巻取機構を備えた経編機を使用して、\n請求項1〜5に記載のラップネットを連続して編成するラップネットの 製造方法において、前記編目形成機構から連続的に編出される前記ラップ\nネットを前記巻取機構の巻上げローラで巻き取るにあたり、当該巻上げロ\nーラをその回転軸方向に所定の振幅で往復運動させることを特徴とする ラップネットの製造方法。」であり、先の出願2の請求項6の記載は、本件 特許の請求項11の記載と同内容である。
加えて、本件明細書の【0042】ないし【0044】、【0083】及 び【0094】の記載は、先の出願2の明細書の【0032】ないし【0 034】、【0070】及び【0081】の記載と同内容であることからす ると、先の出願2の請求項6に係る発明の技術的思想は、本件発明11の 技術的思想と同一であることが認められる。 そして、先の出願2の明細書の上記記載中には、巻上げローラを回転軸 方向に往復運動させる振幅の数値、1本のロールに巻き取ったラップネッ トの長さ、その直径の数値、発明の効果等の記載があり、かかる記載によ って、本件発明11の技術的思想は、先の出願2の請求項6に係る発明の 技術的思想において、既に具体化しているものと認められる。 そうすると、本件発明11は、遅くとも、先の出願2がされた平成25 年7月22日には完成していたものと認められる。
ウ 本件発明11に係る控訴人代表者及び甲の共同発明者性について\n
(ア) 前記1(1)の認定事実によれば、控訴人代表者、甲及び被控訴人代表\ 者は、平成25年5月31日、タカキタにおいて、控訴人が作成したラ ップネットの試作品について評価を受け、同日、控訴人、被控訴人及び タカキタは、以後の予定として、同年6月中旬をめどに、ラップネット\nの巻取りの際に綾振りをするなどの仕様で試作品を製造することを確認 したこと、控訴人は、同月以降、巻上げローラの前に綾振り装置を設置 する方法によって綾振りを施すことを試みていたことが認められる。 しかるところ、ラップネットの巻取りの際に綾振りをするなどの仕様 でラップネットの試作品を製造することが確認された同年5月31日ま でに、控訴人代表者及び甲が、ラップネットの製造に当たり、綾振りの\n技術を適用することを着想して、被控訴人代表者に提案等をしたことを\n認めるに足りる証拠がないことは、前記1(2)エのとおりである。 また、先の出願2の出願日である同年7月22日までに、控訴人が被 控訴人に対し、控訴人が行っていたとする綾振りの方法に関する情報を 提供したことを認めるに足りる証拠もない。 そうすると、本件発明11の技術的思想に係るラップネットを巻取機 構の巻上げローラで巻き取るに当たり、当該巻き上げローラをその回転\n軸方向に所定の振幅で往復運動させる構成について、控訴人代表\者及び 甲が着想したものであると認めることはできない。
・・・
控訴人は、1)本件明細書記載の本件発明11の経編機を用いたラップネ ットの編立技術(【0026】、【0040】、【0064】、【0066】、【0 071】、【0076】、【0089】、【0094】、【0106】、【0111】、【0147】、【0149】、【0158】、【0167】)について、控訴人及 び被控訴人が共同でした別件出願1の明細書(甲19の2)にも、同様の 内容の記載がある(【0012】、【0020】、【0028】、【0056】、 【0058】、【0059】、【0067】)ことからすれば、本件発明11の 製造方法は、別件出願1の出願時に開発されたラップネットの製造技術が 応用されたものであり、控訴人代表者及び甲は、別件出願1の出願日前に\n本件発明11の編立技術を着想し、その後のラップネットの試作、改良を 繰り返すことで、その着想を具体化し、上記編立技術の完成に深く関与し たといえること、2)本件発明11における綾振り技術の課題に関しても、 上記経編機を利用したラップネットの製造において素材に綿糸を使用す ることで新たに発見した課題であり、その解決手段である巻上げローラを 左右に振る方法も経編機の編立部分と一体不可分の解決手段であること、 3)控訴人による綾振り装置の具体的な開発経過( 巻上げローラを左右に 動かしながら巻上げする方式(偏芯平カムを上下に動かして使用)を採用 し、平成25年5月31日のサンプル(約200m〜250m)を試作す る、 巻上げローラを左右に動かしながら巻上げする方式(偏芯ドラムカ ムを使用)を採用し、同年6月21日の試験用サンプル(1000m)を 試作する、 同年7月6日以降、生地を左右に動かしながら巻上げする方 式(偏芯平カムは(ア)を再利用)を採用し、サンプルを試作する)によれば、 控訴人代表者及び甲は、本件発明11の特徴的部分を着想し、その具体化\nに創作的に関与した旨主張する。
しかしながら、1)については、控訴人が指摘する別件出願1の明細書の 記載は、いずれも、本件発明11の技術的思想に係るラップネットを巻取 機構の巻上げローラで巻き取るに当たり、当該巻き上げローラをその回転\n軸方向に所定の振幅で往復運動させることに関係するものではないから、 上記記載と共通する記載が本件明細書にあるとしても、このことから、控 訴人代表者及び甲が本件発明11の技術的思想の具体化に創作的に関与\nしたものと認めることはできない。
また、2)及び3)については、前記ウ(イ)の説示に照らすと、控訴人が、 本件発明11が完成した同年7月22日までに、ラップネットの試作品の 作成において、控訴人が巻上げローラの綾振りを採用していたことを認め ることはできない。

◆判決本文

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令和2(ワ)4331  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年5月13日  東京地方裁判所

 電子たばこの特許について102条3項により、約2200万円の損害賠償が認められました。102条2項の推定覆滅として、別件特許権があることで5割が認定され、3項との重畳適用は否定され、3項により利率10%を認めました。2項侵害よりも3項侵害の方が80万円ほど高額となりました。

同一製品の製造等による別件特許権の侵害について
証拠(乙A80)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、本件各発明の実施品であるとともに、別件発明の実施品であること、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものであること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、別件発明は、安価で耐久性のある製品を提供するものとして、本件各発明と相等しく、被告製品の付加価値を高め、 顧客吸引力を有するものとして、被告製品の売上げに貢献しているものと認めるのが相当である。そうすると、別件発明による上記貢献の事情は、特許法102条2項の推定を覆滅する事情であるといえる。
これに対し、被告らは、別件訴訟において別件発明に係る侵害を理由として認容された損害額につき、本件訴訟で推定された損害額から覆滅されるべき旨主張するが、別件発明が被告製品の売上げに貢献した部分は、上記のとおり本件訴訟における推定覆滅の事情として考慮されているのであるから、被告らの主張は、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告らの主張は、採用することができない。
推定覆滅の割合
以上によれば、本件においては、上記 に掲げる事情の限度で推定を覆滅させるのが相当であり、上記 において認定した事情を踏まえると、推定覆滅の割合は、5割と認めるのが相当である。
ウ まとめ
本件特許権の侵害について、特許法102条2項により算定される損害額は、1853万0467円(3706万0935円×0.5(1円未満切り捨てとする。以下同じ。))となる。
エ 覆滅部分についての特許法102条3項の損害金について
原告は、本件特許権の侵害における特許法102条2項の推定の覆滅部分について同条3項が適用されると主張して、覆滅部分について同項にいう実施料相当損害金を請求する。 しかしながら、本件特許権の侵害における推定の覆滅は、上記において説示したとおり、本件各発明以外にも別件特許権が被告製品の売上げに貢献していた事情を考慮したものである。そのため、本件各発明のみによっては売上げを伸ばせないといえる原告製品の数量について、原告が、被告ジョウズに対し本件各発明の実施の許諾をし得たとは認められないというべきである。そうすると、当該数量について同条3項を適用して、実施料相当損害金を請求する理由を認めることはできない。したがって、原告の主張は、採用することがで
・・・
イ 前提事実及び前記認定事実のほか、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 本件報告書の表II)−3には、アンケートの調査結果として、技術分類を「食料品、たばこ」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は3.8%(最大値5.5%、最小値1.5%)(4件)、「健康;人命救助;娯楽」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は5.3%(最大値14.5%、最小値0.5%)(54件)と記載されている(乙A73)。原告は、被告ジョウズが被告製品の販売等により別件特許権を侵害したと主張して、別件訴訟を東京地方裁判所に提起したところ、同裁判所は、令和4年1月27日、別件発明の実施に対し受けるべき料率を被告製品の売上高の10%と判断した(乙A80)。そして、前記 イ のとおり、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものである。
前記 イ のとおり、本件各発明は、エアロゾル形成基材の加熱中にエアロゾルを均等に送達することを可能にする発明であり、加熱式タバコの香りや味等に直結するものであるから、加熱式タバコにおいて相応の重要性を有し、被告製品の売上げ及び利益にも一定の貢献をしたものである。また、エアロゾルを均等に送達することを可能\にする代替技術 が存在することは、本件全証拠によっても認めるに足りない。 原告と被告らは、いずれも原告製品専用のタバコスティックを使用することができる加熱式タバコ用デバイスを販売していたことからすると、その市場において競業関係にあったといえる。
ウ 前記イ ないし の各事情その他の本件訴訟に現れた諸事情を総合すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は、10%を下らないものと認めるのが相当である。したがって、被告らによる本件特許権の侵害について、特許法102条3項により算定される損害額は、1975万2707円(1億9752万7078円×10%)となる。

◆判決本文

関連事件(1)です。
特許権、当事者同じ
特許権者勝訴
差止のみ請求

◆令和2(ワ)4332

関連事件(2)です。
当事者同じ、対象特許違い
特許権者勝訴
損害額約5200万円

◆令和1(ワ)20074

関連事件(2)の控訴審です
控訴棄却

◆令和3(ネ)10072

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令和1(ワ)21901  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年5月31日  東京地方裁判所

 CS関連発明についての特許権侵害事件です。東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。本件発明は「〜表\示方法」であり、被告地図プログラムの配信が、特許法101条4号の「その方法の使用にのみ用いる物」に該当するかの争点については無効理由ありとしたことで判断されていません。

原告らは、乙22文献には、「枠要素」に相当する構成や画像を「当\nてはめ」る構成の開示がないと主張する。\n
そこで検討するに、乙22文献には、1)Webクライアントの記憶 装置につき、「記憶装置2は、…表示装置3に地図を表\示するために 必要なデータ種別及びデータ領域を管理する管理テーブルとサーバー 4から送信されてきた地図データを格納するものである。」、「管理 テーブルは、データ種別管理テーブルとデータ領域管理テーブルから なる。…データ領域管理テーブルは、データ領域のメッシュ番号とデ ータ種別のレイヤー番号により記憶装置2に格納された地図データを 管理するものであり」(段落【0010】)という記載が認められ、 2)メッシュ番号につき、「図2に示すように地図データを表示する領\n域(メッシュ)が識別できるデータ領域のメッシュ番号」(段落【0 014】)、「メッシュ番号は、地図のデータの範囲を含む矩形領域 を任意の矩形サイズで分割した領域に振られる番号であり、例えば北 海道の地図データを作成する場合の、メッシュ番号の採番状況を示し たのが図9である。」(段落【0026】)という記載が認められ、 3)表示領域につき、「Webクライアントからの地図データ要求では、\n図8に示すように…1データの表示領域(メッシュ番号)を指定する\n形式で、複数回の要求を行うことによって、必要範囲の地図データを Webサーバーから取得する。」(段落【0024】)、「1データ の表示領域の指定には、メッシュ・レイヤーインデックスファイルで\n管理するこのメッシュ番号を指定する。このことにより、表示領域を\n直ちに指示することが可能となる。座標単位は、任意に決定されるマ\nクロ座標であるが、原点位置(座標0,0)の緯度・経度とメッシュ の矩形サイズ(距離)は地図データ作成時に指定するため、各メッシ ュ原点(左下座標)の緯度・経度は計算により求められる。」(段落 【0026】)という記載が認められ、4)地図の表示につき、「地図\nデータを取得できたものから地図の描画処理を行うため、画面上の地 図表示領域には徐々に地図が表\示されていく」(段落【0032】) という記載が認められる。
上記各記載に加えて、【図1】、【図2】、【図8】、【図9】、 【図11】の記載を併せ考慮すれば、表示領域は、原点位置が計算に\nより求められるものであること、Webクライアントは、地図データ を表示するための矩形領域を識別するメッシュ番号の指定により、必\n要範囲の地図データをWebサーバーから取得し、表示領域を指示す\nること、取得された地図データは、メッシュ番号のある管理テーブル とは別の場所で記憶され、描画処理により、地図が画面上の表示領域\nに表示されること、以上の内容が乙22文献により理解されるものと\n認められる。 そうすると、乙22文献における「表示領域」は、メッシュ分割し\nた地図データを指定してWebクライアントのディスプレイ表示の所\n定の位置に地図を表示させるためのものであるから、乙22文献には、\n本件各発明における画像を「当てはめ」る「枠要素」に相当する構成\nが開示されていると認めるのが相当である。
b これに対し、原告らは、乙22文献における「地図データ」は、数 値データ(ベクターデータ)であるから、これに基づき表示を行う場\n合に「当てはめ」を行う「領域」をビューアに設定する必要はないと 主張する。しかしながら、上記にいう必要性の問題は、構成が開示さ\nれているかどうかという問題とは、必ずしも同一の事柄ではなく、乙 22文献における「地図データ」がベクターデータであることは、上 記発明の認定を左右するものではない。
●(省略)●
のみならず、乙22文献の「地図データ」がベクターデータである としても、これをいわゆるラスターデータに置き換えることは、技術 説明会における当事者双方の口頭議論の結果及び専門委員3名の各説 明内容を踏まえると、当時の技術常識に照らし、当業者が適宜になし 得る事項にすぎず実質的相違点に当たらず、又は明らかに容易に想到 することができるものといえる。そうすると、被告の主張はその趣旨 をいうものとして相当であり、原告らの主張は、結論において進歩性 の判断を左右するものとはいえない。
c 原告らは、乙22文献に地図データを「枠要素」に「当てはめ」て 表示する構\成の開示がないことを前提に、乙22文献には「表示でき\nる状態」の開示はないと主張するが、乙22文献には、画像を「当て はめ」る「枠要素」に相当する構成の開示があることは、上記におい\nて説示したとおりであり、原告らの主張は、前提を欠く。

◆判決本文

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令和3(ネ)10088等  特許権侵害差止等請求控訴事件,附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年6月20日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 特許侵害事件です。知財高裁第4部は、102条2項の覆滅は5%から15%とし、損害賠償額を減額しました。なお、102条2項と3項の重畳適用は1審と同様に否定しました。

被控訴人は、前記第2の3(2)ウ(イ) のとおり、競合品の存在を理由とする特 許法102条2項の推定覆滅に相応する侵害品の譲渡数量に対して、同条3 項を重畳適用して、被控訴人の許諾機会の喪失に係る逸失利益を想定すべき である旨主張する。しかし、競合品の存在を理由とする同項の推定の覆滅は、侵害品が販売されなかったとしても、侵害者及び特許権者以外の競合品が販売された蓋然性 があることに基づくものであるところ、競合品が販売された蓋然性があるこ とにより推定が覆滅される部分については、そもそも特許権者である被控訴 人が控訴人に対して許諾をするという関係に立たず、同条3項に基づく実施 料相当額を受ける余地はないから、重畳適用の可否を論ずるまでもなく、被 控訴人の主張は採用できない。

◆判決本文

1審はこちらです。1審も以下のように、重畳適用を否定しました。
特許法102条2項及び3項の重畳適用については,前記(2)ウのとおり,本件 において同条2項に基づく損害額の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきものは 競合製品の存在のみであるところ,被告による各被告製品の販売実績等と直接の関 わりを有しないこのような事情に基づく覆滅部分に関しては,同条3項適用の基礎 を欠く。

◆令和1(ワ)9113

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平成31(ネ)10027  職務発明対価支払い請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年5月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 職務発明の報奨金について、1審は約800万円でしたが、知財高裁は約3200万円と認定しました。判決文は128ページもあります。

 ところで、旧法35条4項は、職務発明に係る相当対価の額は、その 発明により「使用者等が受けるべき利益の額」及びその発明がされるに ついて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない旨規定 するところ、同項が「使用者等が受けるべき利益の額」と規定したのは、 使用者等に対する権利承継時の客観的に見込まれる利益の額をいうもの であり、発明の実施によって現実に受けた利益に必ずしも限るのではな く、自己実施等の場合を含め、使用者等が本来得ることのできた独占的 利益を指すものと解される。
これを前提として検討するに、SCEは、一審被告とSMEが共同出 資して設立された会社であり(前記1 カ )、一審被告がプレイステ ーションシリーズの製造及び販売に関し、フィリップス社との間で、そ れぞれの保有する特許のクロスライセンスを締結していれば、SCEは 本件ジョイントライセンスプログラムにおいて改めてライセンス料を支 払う必要のない一審被告の関連会社となり、こうしたクロスライセンス 契約における一審被告の得た利益が「使用者等が受けるべき利益の額」 となるといえるが、本件全証拠を検討してみても、一審被告がプレイス テーションシリーズの製造及び販売に関してフィリップス社との間でク ロスライセンスを締結したと認めるに足りず、むしろ、一審被告は、S CEに対し、プレイステーションシリーズの製造、販売又は開発等のた めに有用な一審被告保有の特許権(本件特許権1−5及び同2−1を含 む。)等の実施許諾に関するライセンス契約(SCEライセンス契約) を締結して、SCEを他社ライセンシーより優遇して同社から対価を得 ていることが認められる。
このように、一審被告が、フィリップス社と共に運用する本件ジョイ ントライセンスプログラムのライセンス対象製品であるプレイステーシ ョンシリーズの製造販売に関して、SCEを同プログラムの関連会社と してではなく1ライセンシーとして扱っている以上、同プログラムが開 放的かつ非差別的な条件でライセンスする、いわゆるオープンポリシー を採用している(前記1 エ )ことからすれば、PS1のゲーム機本 体及びゲームディスク、PS2のゲーム機本体の製造及び販売に当たっ て一審被告が本来得ることのできた独占的利益は、SCEがフィリップ ス社との間でプレイステーションシリーズの製造及び販売に関してライ センスを受けたものと仮定した上で、同ライセンスプログラムで定めら れたロイヤルティにより計算された額に一審被告の配分率を乗じたライ センス料額により算定した額(仮想積上げ方式)であるというべきであ り、一審被告がSCEライセンス契約により現実に得た利益に限る必要 はない。
なお、一審被告は、仮想積上げ方式を採用したとしても、資本関係の 全く存在しない第三者(競合他社を含む。)との関係と比較して資本関 係を有するグループ会社に特許ライセンスを行う場合には、ライセンス 料をはじめ条件面をある程度優遇することは当然であり、本件ジョイン トライセンスプログラムにおけるライセンス料がSCEライセンス契約 にそのまま適用されるわけではない旨主張するが、一審原告は、この主 張を受けて、ライセンス料に80%を乗じる範囲までは争わないものと する旨主張しており、当裁判所も、SCEが一審被告と資本関係にある ことに鑑みて、この限度での条件面の優遇の程度は不合理なものではな いものとして、以下試算する。
・・・
また、一審被告は、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●CDオーディオ及びCD-ROM ドライブの特許に対するロイヤルティは、独立して請求することがで きない旨主張する。しかし、この契約条項の趣旨については措くにし ても、この契約書は、平成16年(2004年)頃のDVDビデオプ レイヤーに関するライセンス契約に関するひな型であることがうかが われるところ、PS2が発売された平成12年10月26日から本件 特許1−5が満了となる平成17年3月22日までの間、このひな型 のとおりに実際にライセンス契約が締結され、また、DVDプレイヤ ーのロイヤルティにCD-ROMプレイヤーのロイヤルティが含まれ ることを明確に示す証拠は提出されていないから、一審被告の上記主 張を採用することは困難である(なお、前述のとおり、職務発明に係 る相当対価を算定するに当たって考慮すべき「使用者等が受けるべき 利益の額」は、使用者等に対する権利承継時の客観的に見込まれる利 益の額をいうものであり、発明の実施によって現実に受けた利益に必 ずしも限るのではないことに照らせば、仮に、上記条項に基づく形で ロイヤルティの支払がされていたとしても、そのことをもって当然に、 CD-ROMの再生機能に係る一審原告の相当対価請求権が制限され\nるとは認め難い。)。
c PS1のゲームディスクについて、PS1の発売開始日から本件特 許1−5の満了日までの各対象期間における北米販売数は、平成7年 (1995年)9月9日から平成16年(2004年)12月31日 までは3億7100万本であり(甲300)、平成17年(2005 年)1月1日から同年3月22日までは、平成17年1月1日から同 年3月31日までの北米販売数100万本(甲300)を基に日割り 計算すると、90万本であるところ、メキシコ、カナダ分を除いた米 国分を89%と見積もることは当事者間に争いがないから、米国販売 分は、別紙3の表2−1の左欄のとおりであるところ、●●●●●●\n●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●当該期間における平均為替レート (甲296)を乗じると、同表の「一審被告が支払いを受けるべきラ\nイセンス料」欄の記載のとおりとなるが、前記 のとおり、この8割 に相当する金額が各対象期間における一審被告が受けるべきライセン ス料の額となる(別紙4−2の「PS1ゲームディスク(CD-ROM ディスク)(本件発明1−5関係)」の「1)一審被告が受けるべき利 益」欄参照)。
そして、本件ジョイントライセンス契約におけるCD-ROMディス クの対象特許のうち本件特許1−5の貢献割合は、前記ア の「CD -ROM Disc」欄のとおり、平成14年度までは1/9であり、 平成15年度以降は1/3であるので(なお、厳密には、別紙4−2 の「PS1ゲームディスク(CD-ROMディスク)(本件発明1−5 関係)」の「1995.9.9〜2004.12.31」欄のうち、 平成15年度及び平成16年度に当たる期間(2003年4月1日か ら2004年12月31日)は1/3として計算すべきであるが、一 審原告は、「1995.9.9〜2004.12.31」のライセン ス料につき、一括して平成14年度までと同様にその貢献割合を3/ 6.6として計算しているところ(一審原告控訴第12準備書面61 頁参照)、この期間の販売本数を2003年4月1日を境にして区分 けして特定することは困難であり、また、一審被告に不利になる算定 ではないため、一審原告の計算手法を採用して算定する。)、これを 乗じると、一審被告が受けるべき独占の利益は、別紙4−2の「PS 1ゲームディスク(CD-ROMディスク)(本件発明1−5関係)」 の「2)本件特許1−5の一審被告の受けるべき利益」欄のとおりとな る。
・・・
本件発明1−5について一審被告が貢献した程度(争点1−2)
ア 本件ジョイントライセンスプログラム
本件発明1−5は、音楽用CDをコンピュータ分野に応用することを 可能とするためのエラー訂正技術であり、従来の音楽CDの誤り訂正率\nが訂正後10-9〜10-10であったのに対し、10-12まで改善すること ができ、データの信頼性が高まり、コンピュータのデータストレージと しての使用を可能としたものである(前記1 ウ )。本件特許1−5 は、CD-ROM等の規格必須特許に採用される(同1 ウ )など、技 術的価値は高いといえる。
他方で、本件発明1−5は、第1及び第2のクロスインターリーブ・ リード・ソロモン符号による誤り訂正(CIRC)に加えて、第3のリ\nード・ソロモン符号による誤り訂正を行うことを可能\とする発明特定事 項を含むものである(前記1 ウ )ところ、CIRCは、一審被告と フィリップス社が共同で音楽用CDの研究、開発の過程で発明されたも のであり(同1 )、本件発明1−5は、こうした一審被告に蓄積され た先行技術の一部が活用された面があることは否定することができな い。また、本件発明1−5が権利化されるまでの手続において、その優 先権の基礎となる本件特許1−1及び同1−2に係る手続を含め、一審 原告の貢献はなく、米国の事務所に依頼し、米国特許商標庁の拒絶理由 に対して適宜の対応をした点を含め、一審被告の知的財産部が相当の貢 献をしたものである(同1 イ)。
さらに、一審被告とフィリップス社は、非差別的かつ開放的なオープ ンライセンスポリシーを採用して広くライセンスの機会を与える(前記 1 エ )とともに、一審被告とフィリップス社が中心となって、CD -ROMの物理的フォーマットを作成しただけではなく、論理フォーマッ トを統一して互換性を持たせた(同1 オ )ほか、パソコンの周辺機\n器を接続するための伝送データ規格の統一を実現した(同1 オ )こ とにより、パソコンやゲームソ\フトとしてCD-ROMが広く利用される ようになったといえる。
加えて、一審被告は、CD-ROMディスクを受託生産するための製造 工場を設立し、CD-ROM駆動装置の生産能力の増産態勢を整え、また、\nCD-ROMを利用した様々な商品の企画・開発や、他業種との連携等を 行ったほか(前記1 オ )、マーケティングプロモーションとして、 ライセンシー会議の開催、コンテンツ業界への積極的なアプローチ、標 準規格を普及させるための装置の技術開発、ライセンシーに対するテク ニカルサポートを行い(同1 オ )、CD-ROMだけではなくCDR等のCDファミリー規格の改善のための研究開発やプロモーションを 行った(同1 オ )ことが認められる。
以上の諸事情に鑑みれば、本件ジョイントライセンスプログラムにお いて一審被告が得た独占の利益に関し、一審被告の貢献度は、95%と するのが相当である。
これに対して、一審原告は、本件発明1−5に関し、着想から具体的 なフォーマットの完成に至るまで一審原告が1人で検討し、シミュレー ションを行い、一審被告の会社設備を利用することなく就業時間外で発 明を完成させた旨主張し、その旨供述及び陳述(甲165)する。しか し、一審原告本人が供述等するところの発明を完成させるまでの経緯に ついては、これを裏付ける客観的証拠に乏しく、他方、これを否定する 〈B〉の陳述書(乙132)等の関係証拠もあるのであるから、前記1 アで認定した一審原告の関与の限度を超えて、一審原告本人の供述等 のみに沿った認定をすることは相当でない。

◆判決本文
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◆平成27(ワ)11651

添付文書1


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令和1(ワ)26366  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年5月27日  東京地方裁判所

 ポスティング業務を行うために住宅地図を購入し、これを適宜縮小して複写し、これにさらに、集合住宅名、ポストの数、配布数、交差点名、道路の状況、配布禁止宅等のポスティング業務に必要な情報を書き込むなどした地図(以下「ポスティング用地図」という。)の原図を作成して、配置していた被告に対して、差止請求と3000万円の損害賠償が認められました。

一般に、地図は、地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号に よって、客観的に表現するものであるから、個性的表\現の余地が少なく、文 学、音楽、造形美術上の著作に比して、著作権による保護を受ける範囲が狭 いのが通例である。しかし、地図において記載すべき情報の取捨選択及びそ の表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を\n果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表れ得るものということが\nできる。そこで、地図の著作物性は、記載すべき情報の取捨選択及びその表\n示の方法を総合して判断すべきものである。
・・・
前記(2)によれば、本件改訂により発行された原告各地図は、都市計画図等 を基にしつつ、原告がそれまでに作成していた住宅地図における情報を記載 し、調査員が現地を訪れて家形枠の形状等を調査して得た情報を書き加える などし、住宅地図として完成させたものであり、目的の地図を容易に検索す ることができる工夫がされ、イラストを用いることにより、施設がわかりや すく表示されたり、道路等の名称や建物の居住者名、住居表\示等が記載され たり、建物等を真上から見たときの形を表す枠線である家形枠が記載された\nりするなど、長年にわたり、住宅地図を作成販売してきた原告において、住 宅地図に必要と考える情報を取捨選択し、より見やすいと考える方法により 表示したものということができる。したがって、本件改訂により発行された\n原告各地図は、作成者の思想又は感情が創作的に表現されたもの(著作権法\n2条1項)と評価することができるから、地図の著作物(著作権法10条1 項6号)であると認めるのが相当である。また、前記(2)アのとおり、本件改訂より後に更に改訂された原告各地図は、いずれも本件改訂により発行された原告各地図の内容を備えるものであるから、同様に地図の著作物であると認めるのが相当である。なお、本件改訂より前に発行された原告各地図については、原告は、本件訴訟において、被告らにより著作権が侵害された対象として主張していないので(前記第2の4(1)(原告の主張)エ)、著作物性についての検討を要しない(以下においては、「原告各地図」という場合、特に断らない限り、本件改訂以降に発行されたものを指す。)。
(5) これに対して、被告らは、1) 地図に著作物性が認められる場合は一般的に 狭く、住宅地図は他の地図と比較して著作物性が認められる場合が更に制限 される、2) 原告各地図は、江戸時代の古地図や既存の地図、都市計画図に依 拠して作成されたものであり、創作性が発揮される余地は乏しい、3) 原告各 地図は機械的に作成され、正確・精密であるとされることからすると、創作 性が発揮される部分は更に限定され、国土地理院は、2500分の1の縮尺 の都市計画基本図について、著作物性が認められる可能性は低いとの見解を\n示している、4) 過去に作成された住宅地図には家形枠が記載されたものがあ り、家形枠を用いた表現自体ありふれている、5) 原告は地図作成業務のうち 少なくとも6割を海外の会社に対して発注しており、原告各地図には独自性 がないとして、原告各地図には著作物性が認められないと主張する。 しかし、上記1)については、前記(1)のとおり、地図の著作物性は、記載す べき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して判断すべきものであると\nころ、前記(4)のとおり、原告各地図は、その作成方法、内容等に照らして、 作成者の個性が発現したものであって、その思想又は感情を創作的に表現し\nたものと評価できるから、地図の著作物であると認められる。 上記2)については、原告が古地図や都市計画図等を参照して原告各地図を 作成したものであったとしても、前記(2)アのとおり、原告各地図は、本件改 訂によって、都市計画図等をデータ化したものに、居住者名や建物名、地形 情報、調査員が現地を訪れて調査した家形枠の形状等を書き加えるなどして 作成されたものであり、その結果、前記(2)イの特徴を備えるに至ったもので あって、このような原告各地図の作成方法、特徴等に照らせば、原告各地図 は、都市計画図等に新たな創作的表現が付加されたものとして、著作物性を\n有していると認められる。
上記3)については、原告各地図が正確・精密であるとしても、前記(1)のと おり、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法等において創作性を発\n揮する余地はある。また、被告らの指摘する国土地理院の見解(乙63)は、 都市計画基本図について述べたものであり、住宅地図作成会社が作成する住 宅地図一般について述べたものではないし、上記2)について説示したとおり、 原告各地図は、都市計画図等を基図としてデータ化した上、これに種々の情 報を書き加えるなどすることで、住宅地図として完成させたものであるから、 国土地理院の上記見解は原告各地図に当てはまるものではない。さらに、前 記(2)イのとおり、原告各地図は、地図の4辺に目盛りが振られ、当該地図の 上、右上、右、右下、下、左下、左及び左上の各位置にある地図の番号が記 載されており、目的とする地図を検索しやすいものとなっている上、信号機 やバス停等がイラストを用いてわかりやすく表示されたり、建物等の居住者\n名や店舗名等を記載することにより住居表示についてもわかりやすくする工\n夫がされているなどの特徴を有するのに対し、証拠(乙70ないし73)に よれば、都市計画基本図にはこのような特徴が全くないことが認められ、原 告各地図と都市計画基本図とでは、そもそも性質が異なることから、同列に 論じることはできない。
上記4)については、住宅地図において家形枠を記載することがよくあると しても、原告各地図における家形枠の具体的な表現がありふれていることを\n認めるに足りる証拠はないから、直ちに原告各地図の著作物性を否定するこ とはできないというべきである。
上記5)については、原告が原告各地図の作成業務を海外の会社に発注して いることのみをもって、原告各地図の独自性を否定し、ひいては、その著作 物性を否定することはできないというべきである。

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令和3(行ケ)10069  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年6月22日  知的財産高等裁判所

 薬について、無効審判において、訂正請求がなされ無効理由なしと判断されました。知財高裁は、予測できない効果ではないとして、これを取り消しました。\n

 本件明細書を見ると、実施例1において、高リスク患者 では、100単位週1回投与群における新規椎体骨折の発生率は、い ずれも実質的なプラセボである5単位週1回投与群における発生率に 対して有意差が認められるが、低リスク患者では、100単位週1回 投与群における新規椎体骨折の発生率は、いずれも、5単位週1回投 与群における発生率に対して有意差が認められなかったと記載されて いるのにとどまる(【0086】ないし【0096】、【表6】ないし【表\ 11】)ところ、誤記等を修正して再解析したとする数値(前記1(2)オ) に基づいても、低リスク患者の新規椎体骨折についていえば、100 単位週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人について、それ ぞれ、ただ1人の骨折例数があったというものであり、このような少 ない症例数のもとでは、上記プラセボ投与群の骨折発生率と対比した 場合の骨折発生率の低下割合(RRR)は、骨折例数が1件増減した だけでその値が大きく変動することは明らかであるし、そもそも、低 リスク患者を対象とした場合は、5単位週1回投与群であっても骨折 例数が少なく、5単位週1回投与群の骨折発生率に対する、100単 位週1回投与群の骨折発生率の低下割合であるRRRの値が、高リス ク患者に対するそれに対して小さいのは当然のことといえる。
この点、被告は、3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボ に対する関係で有意差があり、非3条件充足患者における骨折抑制効 果がプラセボに対する関係で有意差が無ければ、直ちに、本件発明1 の骨粗鬆症治療剤が3条件充足患者に対して優れた効果を有するとい える旨主張する。しかしながら、有意差が無いということは効果が優れているかどうか不明であるということにすぎず、効果が優れていないということを直ちに意味するものではないし、有意差が無かったことが症例数が不足していることによることも否定できない(甲30、35)から、上記のような結論の導出は適当でない。したがって、実施例1をみても、高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が、低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。

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関連事件です。

◆令和3(行ケ)10115

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令和3(行ウ)381    その他  行政訴訟 令和4年6月28日  東京地方裁判所

 「八丁味噌」について愛知の組合が地理的表示として申\請をして認められました。岡崎の業者が、これに不服申立を行いましたが、出訴期間を徒過していました。岡崎の会社は、自分たちの製法こそ、「八丁味噌」と主張しているようですので、発展的解消は難しいのかもしれません。\n

前提事実によれば、原告は、平成29年12月16日頃、本件処分があった ことを知ったところ、原告は、令和3年9月17日、本件処分の取消しを求め る本件訴えを提起したことが認められる。そうすると、本件訴えの提起は、本 件処分があったことを知った日から6か月を経過してされたものであるから、 行訴法14条1項本文所定の出訴期間を徒過しているものと認められる。 したがって、本件訴えは、出訴期間を経過したものとして、同項ただし書に いう「正当な理由」がない限り、不適法である。 これに対し、原告は、本件処分について八丁組合が本件審査請求をしている ところ、八丁組合がした本件審査請求は、実質的には原告が行ったものと同視 することができるから、原告は行訴法14条3項本文に規定する「審査請求を した者」に当たり、本件訴えはその出訴期間を遵守するものである旨主張する。 しかしながら、前提事実によれば、本件審査請求をした者は八丁組合であり、 原告と八丁組合の法人格は異なるものであるから、原告が上記にいう「審査請 求をした者」に該当しないことは明らかである。そもそも、原告は、八丁組合 が本件審査請求をした場合であっても、行訴法14条1項にいう出訴期間経過 前に本件処分に係る取消訴訟を提起することができたのであるから、下記2に おいて検討するとおり、同項にいう「正当な理由」がある場合に限り、原告は 本件訴えを提起することができるものと解するのが相当である。そうすると、 原告の主張は、上記判断を左右するに至らない。

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令和3(行ケ)10070 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年6月28日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決を取り消しました。理由は引用文献の認定誤りです。

 本件審決は、甲2において、制御端末110から複数の家電機器に対す る制御命令は、家電機器の制御部に対して実行されるものであるから、制 御端末110は家電機器の駆動部に接続して制御する装置ではなく、また、 甲3において、AV用集中制御装置(12)から複数のAV用機器(14)に対す る制御命令は、家電機器の制御部に対して実行されるものであるから、A V用集中制御装置(12)はAV用機器の駆動部に接続して制御する装置では ないので、いずれも、本件発明1の「駆動部に接続されたマイクロコント ローラ」に相当するものではないと解釈した。しかし、甲2及び甲3に記 載された技術的事項は、前記(3)ア(イ)、イ(イ)のとおり認定されるものであ って、本件審決のように、制御端末110が家電機器の駆動部に接続して 制御する装置ではないこと、AV用集中制御装置(12)がAV用機器の駆動 部に接続して制御する装置ではないことと限定的に解釈すべき根拠はな く、本件審決による甲2及び甲3の記載事項から把握される技術の認定に は誤りがある。したがって、被告の上記主張は採用することはできない。
イ 以上のとおり、甲2及び甲3に記載された技術的事項は、前記(3)ア(イ)、 イ(イ)のとおり認定されるものであって、本件審決による認定は誤りであ るから、取消事由8は理由がある。

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令和3(ワ)3824  損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和4年3月4日  東京地方裁判所

 アフィリエイト報酬を目的とした紹介サイトの運営者が、競合関係にあると判断されました。原告商品はWiMAXではないにも関わらず、WiMAX競合社と比較して紹介されまていました。

 不正競争防止法2条1項21号は、競争関係にある者が他の事業者の営業上 の信用を害する虚偽の事実を告知するなどし、競争行為において有利な地位を 得ようとする行為を規定し、もって事業者間の公正な競争等を確保するもので ある。このような同号の趣旨、目的に鑑みると、不正競争防止法2条1項21 号に規定する「競争関係」とは、商品販売上の具体的な競争関係がある場合に 限定されるものではなく、虚偽の事実を告知又は流布した者が、他人の競争上 の地位を低下させることによって、不当な利益を得る場合をも含むと解するの が相当である。 これを本件についてみるに、前記前提事実によれば、原告はモバイルWiF iルーターという商品を自ら販売する事業者であるのに対し、被告はアフィリ エイターであり、原告商品と競合する商品を直接販売するものではない。 しかしながら、前記前提事実によれば、原告の需要者はモバイルWiFiル ーター等の契約を希望する者であるのに対し、本件サイトの需要者は、WiM AXの契約を希望する者であって、両商品は、いずれも携帯可能な無線通信の\nための規格であるという点において共通しているところ、本件サイトにおいて は、本件各商品のうち、原告商品及びBroad WiMAXを除いた本件W iMAX商品についてのみ、アフィリエイトリンクが設定されている。 そのため、本件サイトを閲覧した者が本件サイトを通じて商品を契約する場 合において、被告は、上記の者が原告商品を契約した場合には何らの経済的利 益を得られないのに対し、Broad WiMAXを除いた本件WiMAX商 品を契約した場合にはアフィリエイト報酬を得ることができることになる。 これらの事情の下においては、被告は、原告商品について虚偽の事実を告知 又は流布し、原告の競争上の地位を低下させることによって不当な利益を得る ことができる関係にあるものと認められる。 したがって、被告と原告は、「競争関係」にあるものと認めるのが相当であ る。 (2) これに対し、被告は、本件サイトにおいては、本件各商品の長所も指摘され ていること、本件各商品に関する原告の公式サイトへのリンクも紹介されてい ること、アフィリエイトリンクの設定されている本件WiMAX商品につき、 公式サイトを通じて契約することを強く推奨するような文章も記載されてい ないこと、以上の事情等を指摘して、原告と被告は競争関係にない旨主張する。 しかしながら、本件サイトを閲覧した者が本件サイトを通じて商品を契約す る場合において、被告は、原告商品が契約された場合よりも、Broad W iMAXを除いた他の本件WiMAX商品を契約された場合の方が、利益を得 られる関係にあるものと認められ、このことは、上記において説示したとおり である。そうすると、被告主張に係る事情を考慮しても、上記判断は左右され ないものというべきである。

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令和3(ネ)10096  競業行為差止等請求本訴・損害賠償請求反訴控訴事件、同附帯控訴事件  商標権  民事訴訟 令和4年6月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審と同様に、商標権の行使が権利濫用と認定されました。原告Aと被告Bが婚姻していたなど特殊事情があります。

これに対し1審原告は、1審被告YとA間の「ギャラリーアートポイント」 の名称等に係る紛争に至る経緯や、1審原告が、1審被告Yとの婚姻中から、 個人事業主として、「ギャラリーアートポイント」の名称を自らの事業の表示\nとして使用してきたものであり、1審被告Yが主、1審原告が従であるよう な関係にもなく、双方が対等な立場にあったこと、1審原告の事業は、1審 原告と1審被告Yが別居した以降、1審被告Yと完全に独立していることか らすると、原告商標に1審原告独自の信用が化体しており、本件商号及び被 告ら標章1が正当に帰属すべきは1審被告Yであったものとはいえないから、 1審原告による1審被告らに対する原告商標権に基づく権利行使は、権利の 濫用に当たらない旨主張する。
しかしながら、前記(1)で説示したとおり、1)1審原告と1審被告Yは、1 審原告及び1審被告Yの両名が賃借人として契約した本件賃貸借契約が存続 する限りにおいては、別居後の合意に基づいて、1審原告及び1審被告Yが、 本件事務所において、それぞれ本件商号及び被告ら標章1あるいは原告商標 を使用した貸画廊(本件画廊)の営業を行うことを妨げてはならない旨の義 務を相互に負っていること、2)1審原告による原告商標に係る商標登録出願 は、1審原告が1審被告Yとの別居後の交渉を自己に有利に進める手段を得 るために行われたものとうかがわれ、1審被告Yとの関係では、正当なもの とはいえないことに照らすと、1審原告の上記主張は、原告商標に1審原告 独自の信用が化体しているかどうかを検討するまでもなく、採用することが できない。
(3) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、1審原告の1審 被告らに対する原告商標権に基づく差止請求及び1審被告Yに対する原告商 標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。

◆判決本文

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◆令和1(ワ)15716等

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令和3(行ケ)10158  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和4年6月28日  知的財産高等裁判所

『Wayback Machine』に保存・公開されている意匠を引用意匠として拒絶審決が成されました。知財高裁は審決を維持しました。争点は、本願意匠の意匠に係る物品は、『工具の落下防止コード』であり、部分意匠です。引用意匠はヨット用ハーネスライン(安全ベルト)ですが、創作容易か否かです。

ア 創作容易性の判断方法
・・・
さらに、出願された意匠が、物品等の部分について意匠登録を受けよ うとするものである場合は、その創作非容易性の判断に当たり、「意匠登 録を受けようとする部分」の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの 結合や、用途及び機能を考慮するとともに、「意匠登録を受けようとする部分」を、当該物品等の全体の形状、模様若しくは色彩若しくはこれら\nの結合の中において、その位置、その大きさ、その範囲とすることが、 当業者にとって容易であるか否かについても考慮して判断すべきである。 そして、意匠法3条2項は、物品との関係を離れた抽象的なモチーフ を基準として、それから当業者が容易に創作することができる意匠でな いことを登録要件としたものであって、創作非容易というためには、物 品の同一又は類似という制限をはずし、上記周知のモチーフを基準とし て、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性を要すると解す べきであり(最判昭和49年3月19日同45年(行ツ)第45号民集 28巻2号308頁、最判昭和50年2月28日同48年(行ツ)第8 2号最高裁裁判集民事114号287頁参照)、本願意匠に係る物品と厳 密には同一といえなくても、それと目的又は機能を共通にし、製造又は販売等する業者が共通している物品は、本願意匠に係る物品の当業者が\nその形状等を当然に目にするものと推認されるから、同一の物品分野に 属するものとして、創作容易性を判断する際の資料となるものと解すべ きである。
イ 本件審決における創作容易性の判断の適否
(ア) 物品分野について
a 本願意匠に係る物品である「工具の落下防止コード」は、一方を 人側に、他方を各種工具に取り付けて、人が所持する工具の落下を 防止するものであり、他方、引用意匠2に係る物品である「ハーネ スライン」(安全ベルト)は、一方をヨットのフレーム等側に、他方 を人側に取り付けて、ヨットから人が落下するのを防止するもので あって、落下防止を図るという目的において共通する。また、いず れも、全体が帯状で両端に取付具を有するという形状は共通してお り、一方の端を、落下の防止を図ろうとする目的物に取り付け、他 方の端を、固定された物の側に取り付け、固定された物から目的物 が落下するのを防止するという機能も共通する。いずれの材質・形態についても、目的物の落下を防ぐために必要十\分な強度を有し、取付けや落下の防止が確実・容易にできることが要請される。この ように、本願意匠に係る物品である「工具の落下防止コード」と引 用意匠2に係る物品である「ハーネスライン」(安全ベルト)は、目 的、機能、材質・形態に要請される事項が共通する。
b 本願意匠に係る物品等の製造販売の実態は、次のとおり認められ る。
(a)甲1(本件審決別紙第2)、乙6の1、2によれば、「播州三木 の道具屋『アルデ』」(以下「アルデ」という。)のウェブサイトに おいて、その一番上に「大工さんの道具箱!大工道具・金物の専 門通販なら三木金物オンラインショップ『アルデ』」との記載があ り、「カテゴリー一覧」の中に、「鋸(のこぎり)」、「ハンマー」、 「マリン」等とともに「安全用品・ロープ」の項目があり、「安全 用品・ロープ」の項目の中に、「その他」、「墜落制止用器具」等の 項目があり、「その他」の中に引用意匠1の「【NRK】布製安全コ ード 赤 3kg(落下防止コード)」が掲載されており、「墜落制 止用器具」の中にランヤード、安全帯などが掲載されている。 そうすると、アルデのウェブサイトでは、工具の落下防止コー ドと、人の落下を防ぐ安全用コードが販売されていることが認め られる。
(b)甲4(本件審決別紙第5)は、「【プロ志向】職人の為の安全帯 ハーネス・作業用品専門店 梅春 いちや 総本店」(以下「いち や」という。)のウェブサイトであり、「CATEGORIES」(カテゴ リーズ)の中に、「ハーネス」、「ハーネス+ランヤードセット」、 「ハーネス対応ランヤード」、「1本つり安全帯」、「ランヤード」、 「安全帯胴ベルト・付属品」等の項目があり、「安全帯胴ベルト・ 付属品」の項目の中の「落下防止対策」、「安全コード」の細項目 の中に「【NRK】布製 安全コード 3kg 【セーフティコード】 落下防止コード」が掲載されている。 そうすると、いちやのウェブサイトでは、工具の落下防止コー ドと、ハーネスやランヤードなどの人の落下を防ぐ安全用コード が販売されていることが認められる。
(c) 乙7は、作業服・作業用品専門店「ZOOM」(以下「ZOOM」と いう。)のウェブサイトであり、「Category」(カテゴリー)の中に、 「フルハーネス」、「安全帯」等とともに「ランヤード」、「落下防 止対策用品」の項目があり、「落下防止対策用品」の項目の中に、 工具の落下防止コードが掲載されている。 そうすると、ZOOM のウェブサイトでは、工具の落下防止コー ドと、ハーネスや安全帯などの人の落下を防ぐ安全用コードが販 売されていることが認められる。
(d) 乙8は、「第55回全国建設業労働災害防止大会 in 横浜」、「安 全衛生保護具・測定機器・安全標識等 展示会」のパンフレット であり、出展企業の一つである「スリーエム ジャパン(株)」の主 な取扱品目として、「工具落下防止用製品」とともに「ハーネス型 安全帯」、「ランヤード」が記載されており、工具の落下防止コー ドと、ハーネス、安全帯、ランヤードなどの人の落下を防ぐ安全 用コードの双方を製造又は販売している会社があることが認めら れる。
(e)甲5(本件審決別紙第6)は、株式会社 TOWA のウェブサイト であり、「高所作業&ガラスクリーニング」、「レスキュー&タクテ ィカル」、「マリン」の項目に分けられている。また、甲7(本件 審決別紙第8)は、株式会社 TOWA のカタログであり、「ツール ランヤード」(落下防止用ランヤード)が掲載されていることが認 められる(「ランヤード」という用語は、人の体を支えるものを指 すために用いられる場合が多いが、甲7(本件審決別紙第8)に 示されたものは、「ツールランヤード」と記載されているので、工 具の落下防止コードであると認められる。)。 本願意匠の「工具の落下防止コード」は、高所作業やガラスク リーニングで使われるものであり、他方、引用意匠2の「ハーネ スライン」は、ヨット用で、マリンスポーツで使われるものであ るところ、甲5(本件審決別紙第6)によれば、株式会社 TOWA でヨット用ハーネスが販売されているか否かは定かでないが、高 所作業やガラスクリーニングで使われるものとマリンスポーツで 使われるものが同一の業者により販売されていることは認められ る。 また、乙10、11によれば、コードとフック等による構成により落下防止が配慮された安全用のコードに係るものとして、工\n具の落下防止用のコードと人の落下防止用のコードが、高所作業 において同時に使用されていることが認められる。
c(a) さらに、甲9公報の【考案の詳細な説明】、【背景技術】、【00 02】には、「工具連結用索具として、従来、例えば実用新案登録 第3156504号の工具用安全策具や、特開2012−248 70号の工具用安全索具や、特開2012−200310号のラ ンヤードなどが提案されている。これらは、いずれも作業範囲に 余裕をもって届く範囲の長さで伸縮自在なスプリングに可撓性を 有する被覆体を被せ、その両端をフックやリングに連結した構成からなっている。」と記載されている。上記「特開2012−20\n0310号のランヤード」は、人体を吊下し得る強度を有するラ ンヤードであり(乙5)、引用意匠2の「ハーネスライン」と同様 に人の落下を防止する安全用コードであると認められる。上記甲 9公報の記載は、工具の落下防止コードである上記「実用新案登 録第3156504号の工具用安全策具」(乙3)及び上記「特開 2012−24870号の工具用安全索具」(乙4)と、人の落下 を防止するランヤードである「特開2012−200310号の ランヤード」(乙5)を、同様の構成を有するものとして同列に記載しており、これによっても、工具の落下防止コードと、人の落\n下を防止するハーネスライン等の安全用コードが、同じ種類の物 品として認識されていることが認められる。
(b) 乙9公報の考案は、【背景技術】【0002】及び【0003】 等の記載によれば、工具用落下防止安全ロープを実施対象の一つ にあげている安全用ロープに係る考案であることが認められ、【考 案の概要】、【考案が解決しようとする課題】、【0018】に、「図 7に示すのは、該連結部の両端がエクササイズハンドル80に設 けられる実施形態で、また、弾力ロープはそれぞれ、複数の連結 で使用される場合であり、本考案の弾力ロープの特性によって、 筋力トレーニング器具として用いられ、または、本考案の弾力ロ ープを海上でのサーフィンボードの安全ロープ(図示省略)とし て用いられてもよいが、弾力ロープの両端をそれぞれサーフィン ボードとプレヤーの踝につなぐことにより、プレヤーの安全性を 守り、サーフィンボードの漂流などを防ぐ効果がある。」と記載さ れていることから、マリンスポーツも危険を伴う分野の一つとし て、コードとフック等による構成により落下防止が配慮された、安全用のコードに係る物品が用いられる分野の一つとして想定さ\nれていることが認められる。
d(a) 本願意匠に係る物品である「工具の落下防止コード」と引用意 匠2に係る物品である「ハーネスライン」(安全ベルト)は、落下 を防止する対象において、工具と人体という違いがあり、対象の 重量等の違いに応じて、構成部材の寸法、材質、強度などが異なる場合があると推認される。また、本願意匠に係る物品である「工\n具の落下防止コード」は、主として高所作業において用いられる のに対し、引用意匠2に係る物品である「ハーネスライン」(安全 ベルト)はヨット用であり、マリンスポーツにおいて使用される ものである。そのため、本願意匠に係る物品と引用意匠2に係る 物品は、厳密には同一の商品とはいい難い面がある。
(b) しかし、本願意匠に係る物品である「工具の落下防止コード」 と引用意匠2に係る物品である「ハーネスライン」(安全ベルト) は、前記aのとおり、目的、機能、材質・形態に要請される事項が共通し、前記b(a)ないし(c)のとおり、工具の落下防止コードと、 人の落下を防ぐハーネスやランヤードなどの安全用コードが同じ 業者のウェブサイトで販売されていることが認められ、前記b(d) のとおり、工具の落下防止コードと、ハーネス、安全帯、ランヤ ードなどの人の落下を防ぐ安全用コードの双方を製造又は販売し ている会社があることが認められる。また、前記c(a)、(b)のとお り、工具の落下防止コードと、ハーネスライン、ランヤードなど の人の落下を防止する安全用コードが、同じ種類の物品として認 識されていることなども認められる。
そして、前記b(e)のとおり、高所作業やガラスクリーニングで 使われるものとマリンスポーツで使われるものが同一の業者によ り販売されていることが認められ、前記c(b)のとおり、マリンス ポーツも危険を伴う分野の一つとして、コードとフック等による 構成により落下防止が配慮された、安全用のコードに係る物品が用いられる分野の一つとして想定されていることが認められるこ\nとからすると、用途において、高所作業とマリンスポーツという 違いがあったとしても、それ故に、本願意匠に係る物品を取り扱 う当業者が引用意匠2に係る物品を目にすることが否定されるこ とはない。
そうすると、本願意匠に係る物品である工具の落下防止コード を取り扱う当業者は、人の落下を防ぐ安全用コードの形状等を当 然に目にするものと認められ、人の落下を防ぐ安全用コードに属 する引用意匠2に係る物品である「ハーネスライン」(安全ベルト) についても、その形状等を当然に目にするものと推認されるから、 引用意匠2に係る物品は、同一の物品分野に属するものとして、 本願意匠の創作容易性を判断する際の資料となるものと認められ る。
e 以上によれば、本願意匠に係る物品である「工具の落下防止コー ド」と引用意匠2に係る物品である「ハーネスライン」(安全ベルト) は同一分野の物品であるとして、引用意匠2に基づいて本願意匠の 容易想到性を判断することができるものと認めた本件審決の判断に 誤りはない。
(イ) 創作容易性について
a 引用意匠1及び参考意匠(本件審決別紙第4)は、本願意匠に係 る物品である「工具の落下防止コード」に係るものであり、本願意 匠に係る物品について当業者に該当する者は、引用意匠1及び参考 意匠を当然に目にするものと認められる。また、上記(ア)eのとお り、引用意匠2に基づいて本願意匠の容易想到性を判断することが できるものと認められる。
b 本願意匠に係る物品である「工具の落下防止コード」を含む安全 用のコードという物品の分野において、コードの長手方向の一端を ナスカン状のフックとすることはごく普通に見られ、本願部分にお けるフック部の形状も、本願意匠に係る物品と同じ物品の公知意匠 である引用意匠1に示されていた。また、安全用のコードの物品の 分野において、二又に分岐する構造のものも、公知意匠である引用意匠2に示されていた。さらに、薄いテープをDカンに巻いて帯部\nとし、フック部の先端側と略同じ長さとする態様も、帯部より先を 蛇腹タイプの波形伸縮コードとする態様も、引用意匠1及び引用意 匠2に表れていた。甲2(3枚目)、乙12によれば、引用意匠2の分岐根元部において、蛇腹タイプの波形伸縮コードは、内側に一山、\n外側に一山の波打った形態を示していることが認められる。本願意 匠に係る物品である「工具の落下防止コード」において、帯部につ いて、引用意匠1のように糸を同色として目立たないようにしたも のもあり、また、縫い目を有さないようにしたものも、参考意匠(本 件審決別紙第4(図5、7))(甲3)のとおり公知であった。 そうすると、引用意匠2のフック部を、引用意匠1の形状のもの とし、帯部より先の二又に分岐した2方向のコードのうち、平たい テープ状のコードを蛇腹タイプの波形伸縮コードとし、分岐根元部 について、上下共に内側に一山、外側に一山の波打った形態とし、 帯部を縫い目がないようにして、本願意匠を創作することは、本願 意匠に係る物品と同じ安全用のコードの分野の公知の意匠(引用意 匠2)をもとに、その構成要素の一部を、同じ物品の分野で公知であった意匠と置き換え、又は同じ物品の分野で公知であった意匠を\n寄せ集めたにすぎないものであり、そのような置き換え又は寄せ集 めに関して、当業者の立場からみて意匠の着想の新しさや独創性が あるとは認められず、そのため、本願意匠は、その意匠の属する分 野におけるありふれた手法により創作されたものであると認めら れる。
以上に検討したところによれば、本願意匠は、当業者が、本願意 匠の出願前に公知であった引用意匠1及び引用意匠2に基づいて 容易に創作をすることができたものであると認められ、同旨の本件 審決の判断に誤りはない。

◆判決本文
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◆令和3(行ケ)10159

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令和2(ワ)17423  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年5月27日  東京地方裁判所

 圧力風以外も用いて移送をするイ号が、「圧力風の作用のみによって、・・茶枝葉(A)を・・所定の位置まで移送する」の構成を有するかが争われました。東京地裁29部は、「のみ」ではないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。

これらの記載から、送風機によって生起された圧力風が刈刃後方の吹出 口から背面風として移送ダクト内に送り込まれること、この背面風は、刈 刃の後方から、ほぼ真上に向かう上昇流であり、少なくとも茶葉を移送ダ クトの吐出口まで搬送する移送作用を有すること、刈刃の後方から背面風 を吹き出すことにより、吹出口近傍に負圧が形成されて、茶葉が、負圧吸 引作用により、刈刃部分から吹出口側に引き寄せられ、その後、上昇流を 形成する背面風に乗って、移送ダクト内を上昇し、吐出口から収容部に設 けられた茶袋内に収容されること、刈刃から背面風の吹出口までの距離が 比較的長いものに本発明を適用する場合、背面風による負圧吸引作用は幾 らか低下することが考えられるため、圧力風を振り分けて生じさせた正面 風により、刈刃前方からの送風を補助的に行うことが好ましいことを理解 できる。
ウ 以上の各記載によれば、本件発明1の「圧力風」とは、移送ダクトの内 部に流される空気流であって、背面風及び刈刃前方からの補助的な送風で ある正面風を含むものであり、「圧力風の作用のみによって」とは、刈り 取られた「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移送が上記のよ うな「圧力風」の「作用」だけで実現されることと解するのが相当であり、 「圧力風」の「作用」以外の作用が加わって上記移送が実現される場合に は、「圧力風の作用のみによって」を備えるとは認められないというべき である。
(2) 被告各製品が「圧力風の作用のみによって」(構成要件A)を備えるか\n
ア 証拠(甲4ないし6、乙6、8)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製 品の回転ブラシはブラシシャフト及びこれに取り付けられたブラシから成 り、ブラシシャフトが回転することに伴ってブラシが回転する構造をして\nいること、被告各製品の回転ブラシR、刈刃(22')、移送ダクト(6')、吹出 口(38')及び収容部(4')の構造の概要は、別紙概要断面図記載のとおりであ\nり、被告各製品による摘採作業中、回転ブラシRは、160ないし300 rpmの回転数(1秒当たり2.6ないし5回転)で、茶枝葉を移送ダク ト(6')にかき込む向き(別紙概要断面図でいえば、時計回り)に回転し、 刈刃(22')後方の吹出口(38')から上方(W')に向かって吹き出した圧力風は、 移送ダクト(6')内を収容部(4')に向かって流れること、回転ブラシの高さ は、被告各製品のうち3段階調整方式のものは上下に約50mmずつ3段 階で、5段階調整方式のものは上下に約40ないし60mmずつ5段階で、 それぞれ調整することができることが認められる。これによれば、被告各 製品は、その摘採作業中、摘採する長さに合わせて高さを設定した回転ブ ラシが高速で回転して刈刃により刈り取られた茶枝葉を移送ダクト内にか き込み、移送ダクト内を流れる圧力風が茶枝葉を収容部まで移送する構造\nを有するということができる。
そして、証拠(乙9、10)によれば、被告各製品の取扱説明書には、 茶枝葉を長く刈り取る場合は回転ブラシを高く調整し、短く刈り取る場合 はこれを低く調整し、ブラシシャフトと芽の高さが同じくらいになるよう に設定する必要があり、回転ブラシの高さが適切に設定されなければ、茶 枝葉をスムーズに刈り取ることができない旨が記載されていたことが認め られ、これによれば、被告各製品は、刈り取る茶枝葉の長さに合わせて回 転ブラシを設定することが予定されていたということができる。さらに、被告各製品による摘採作業中、操縦者が回転ブラシを任意に回転させたり、回転させなかったりすることができることを認めるに足りる証拠はない。\n
以上によれば、被告各製品においては、回転ブラシを摘採する茶枝葉の 長さに応じて適切な高さに設定することを前提とし、刈刃により刈り取ら れた茶枝葉は、摘採作業中、常時回転するブラシに当たって移送ダクト内 に送り込まれ、その後、上向きに吹き出し、移送ダクト内を流れる圧力風 により、移送ダクト内を通り、収容部に到達すると認めるのが相当である。 したがって、被告各製品においては、「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の 位置」までの移送が「圧力風」以外の作用である回転ブラシの回転作用が 加わることによって実現されているといえるから、被告各製品は「圧力風 の作用のみによって」を備えるものとは認められないというべきである。
イ これに対して、原告は、原告各実験結果によれば、回転ブラシを備える 被告各製品と回転ブラシを取り外した被告各製品とで摘採量に有意な差は なく、むしろ回転ブラシを取り外した被告各製品の方が摘採量が多いこと もあり、被告各製品は回転ブラシがなくても背面風(圧力風)の作用のみ によって茶枝葉を移送することができるので、「圧力風の作用のみによっ て」を備えると主張する。
しかし、前記(1)のとおり、「圧力風」以外の作用が加わって上記移送が 実現されている場合は、「圧力風の作用のみによって」を備えないという べきであるところ、被告各製品については、前記アのとおり、回転ブラシ を摘採する茶枝葉の長さに応じて適切な高さに設定した上で摘採すること が予定されており、刈刃により刈り取られた茶枝葉は、常時回転する回転\nブラシに当たって移送ダクトに送り込まれた上で、上向きに吹き出し、移 送ダクト内を流れる圧力風により、移送ダクト内を通り、収容部に到達す ることからすると、「圧力風」以外の作用である回転ブラシの回転作用が 加わることなく、刈り取られた「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」 までの移送が実現されているということはできない。
また、前記(1)の「圧力風の作用のみによって」(構成要件A)の解釈に\nよれば、被告各製品が「圧力風の作用のみによって」を備えるというため には、「圧力風」の「作用」以外の作用が加わっていない必要があるから、 回転ブラシを備える被告各製品における茶枝葉の移送態様自体が検討され るべきであり、回転ブラシを備える被告各製品による摘採量とこれを取り 外した被告各製品による摘採量とを比較することによっては、「圧力風の 作用のみによって」を備えるか否かを明らかにすることはできないという べきである。
以上によれば、被告各製品においては、刈り取られた茶枝葉、回転ブラ シ、移送ダクト等の位置関係等からして、回転ブラシの回転作用が加わっ て茶枝葉の移送が実現されているといえ、原告各実験結果については、直 ちにこれらを採用することは困難であるといわざるを得ない。したがって、 原告の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

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令和2(ネ)10042  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審被告が NEXCO東日本です。高速道路におけるETCに関する発明について、1審は本件発明における用語を限定解釈しましたが、知財高裁は、かかる限定解釈をすべきでないとして、約2700万円の損害賠償を認めました。特102条3項のライセンス料は2%と判断されました。

争点1−イ(「第1の検知手段」及び「第1の遮断機」と、「通信手段」との位置関係に関する、構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D2への充足性)について\n
ア(ア) 本件各発明の特許請求の範囲の記載は、原判決別紙の特許公報(特許第6 159845号及び特許第5769141号)の該当部分記載のとおりであり、「第 1の検知手段」については、有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリ アに出入りをする車両を検知することや、「第1の遮断機」が「第1の検知手段」に 対応して設置されたこと、「第1の検知手段」により車両の進入が検知された場合、 前記車両が通過した後に、第1の遮断機を下ろす旨の記載があるのみであって、そ れ以上に、「第1の遮断機」、「第1の検知手段」及び「通信手段」が設置される位置 関係を特定する記載はないから、それぞれが設置される位置関係によって構成要件\n該当性が左右されるものではないというべきである。
(イ) これを前提に被控訴人各システムについてみると、車両検知器2)は、被控訴 人各システムにおいて車両の通過を検知するものであり(ステップS105、S2 04)、被控訴人各システムが設置されている「サービスエリア」である佐野SAス マートICに出入りする車両を検知するものであるから、「第1の検知手段」に当た り、車両検知器2)が車両の通過を検知すると発進制御機[開閉バー]1)が閉じるこ とから(ステップS105、S204)、発進制御機[開閉バー]1)は「第1の検知 手段」である車両検知器2)に対応して設置された「第1の遮断機」に当たる。そし て、車両に搭載されたETC車載器との間で無線通信を行う(ステップS103、 S202)路側無線装置3)が「通信手段」に当たり、路側無線装置3)がETC車載 器から受信したデータにより、無線通信が可能な場合と不能\又は不可の場合のいず れに当たるかの判定(ステップS104、S106、S203、S205)、すなわ ちETCによる料金徴収が可能か判定されているといえる。\nそうすると、被控訴人各システムは、構成要件B1、C1、D1、B2、C2、\nD2を充足する。
イ(ア) 被控訴人は、本件各発明においては、「通信手段」は、「第1の遮断機」及 び「第1の検知手段」より先に配置されるべきであるところ、被控訴人各システム においては、路側無線装置3)が発進制御機[開閉バー]1)の手前に配置されていて、 発進制御機[開閉バー]1)の手前に停止している車両に対して無線通信を行うから、 被控訴人各システムは、本件各発明の構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D\n2をいずれも充足しないと主張する。
(イ) しかし、前記ア(イ)のとおり、本件特許の特許請求の範囲には、「通信手段」 と「第1の遮断機」の位置関係については何ら特定されていない。 また、前記1(2)のとおり、本件各発明は、本件作用効果1(一般車がETC車用 出入口に進入した場合又はETC車に対してETCシステムが正常に動作しない場 合であっても、車両を安全に誘導する車両誘導システムを提供すること)を奏する ものであるところ、「通信手段」がETC車載器から受信したデータにより、ETC による料金徴収が可能か判定され、各遮断機が適切なタイミングで動くことにより\n車両が安全に誘導できるのであれば本件作用効果1は奏するのであって、「通信手 段」がETC車載器からデータを受信するタイミングにつき、車両が第1の遮断機 を通過する前後のいずれであっても、本件作用効果1を奏することが可能である。\nまた、本件作用効果2(ETCシステムを利用した車両誘導システムにおいて、 逆走車の走行を許さず、或いは先行車と後続車の衝突を回避し得る、安全な車両誘 導システムを提供すること)についてみると、本件各発明にいう「逆走車」には、 料金不払などを目的として、ETC車用レーンの出口や離脱レーンの出口から遡っ てETC車用レーンに逆進入する車両も含まれ、そのような「逆走車」の走行を防 止することと、「通信手段」と「第1の遮断機」の位置関係とは関係がないことは明 らかであるし、通信手段の位置にかかわらず、車両が第1の遮断機を通過した後に 第1の遮断機を下ろすことで、後退による逆走を防止することができる。 たしかに、本件明細書には、第1の遮断機(遮断機1)及び第 1 の検知手段(車 両検知装置2a)の先に通信手段(ゲート前アンテナ3)が位置する構成を有する\n例が記載されているが(【図4】)、これは実施例にすぎないというべきであって、上 記に照らすと、本件各発明について、上記構成に限定して解釈すべき理由はない。\nしたがって、本件各発明の課題及び作用効果との関係で、「通信手段」と「第1の 遮断機」の位置関係が、被控訴人が主張するように特定されるとはいえない。
(ウ) また、被控訴人は、本件各発明においては、第1の遮断機を通過した走行中 の車両に対して走行状態のまま無線通信を行うものであるところ、被控訴人各シス テムにおいては、発進制御機[開閉バー]1)の手前に停止している車両に対して無 線通信を行うから、本件各発明と構成や作用が異なると主張する。\nしかし、本件特許の特許請求の範囲においては、無線通信を行う際に車両が走行 中であるか停止しているかについては特定されていないし、本件明細書の段落【0 042】に「1台の車両が、遮断機1から車両検知装置2c、2dの区間に進入し ているときはこの区間は一種の閉鎖領域となり、1台の車両のみの存在が許される ようになっている。このため、この閉鎖領域では先行車と後続車の衝突は起こらな い。なお、ETCシステムが正常に働いている限り、遮断機1が閉じている時間は、 車両が遮断機1からETCゲート5を通過するまでの時間であり、ほんの数秒であ り、ETCシステム本来のノンストップ走行は実質的に確保されている。」とあるこ とからすると、本件各発明においては、先行車両が存在する場合、後続車両が第1 の遮断機の手前で停止することも予定されているといえる。そうすると、本件各発\n明について、第1の遮断機を通過した走行中の車両に対して走行状態のまま無線通 信を行うものであると限定的に解釈することはできない。 したがって、被控訴人各システムにおいて、無線通信を行う際に車両が停止して いるという点をもって、本件各発明の構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D\n2の充足性が否定されるものではない。
(エ) 以上のとおり、被控訴人の上記各主張は採用することができない。
(3) 争点1−ウ(構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」と\nの文言への充足性)について
ア(ア) 被控訴人各システムにおいては、ETC車載器との「無線通信が不能又は\n不可の場合」、すなわち、ETCによる料金徴収が不可能な場合に、「運転者に対し、\nインターホンによる音声でその旨の報知がなされ、レーンd手前の発進制御機[開 閉バー]1)及び5)が人的操作によって開かれ、車両は退出ルートdに退出する」も のとされている(ステップS106、S205)。被控訴人各システムにおける退出 ルートdは、構成要件F1、F2の「ETC車専用出入口手前へ戻るルート」に当\nたる。また、被控訴人各システムは、ETCによる料金徴収が不可能な車両に対し\nて、レーンd手前の発進制御機[開閉バー]1)及び5)を人的操作によって開くこと によって、レーンdへと誘導しているから、構成要件F1、F2の「ETC車専用\n出入口手前へ戻るルート」に通じる「第2のレーンへ誘導する誘導手段」を備えて いるといえる。そうすると、被控訴人各システムは、構成要件F1、F2の「第2\nのレーンへ誘導する誘導手段」との文言を充足する。
(イ) そして、被控訴人各システムでは、路側無線装置3)が受信したデータの判定 結果によって、無線通信が可能な場合は、発進制御機[開閉バー]1)及び4)が開い てサービスエリア内に入るレーン又はサービスエリアから一般道に出るルートへ通 じるレーンに誘導するか(ステップS104)、データ取得区間(レーンe)へと誘 導する(ステップS203)が、データ取得区間(レーンe)はサービスエリアに 通じるルート上に存在するから、データ取得区間(レーンe)への誘導は、サービ スエリアに入るルートへ通じる第1のレーンへの誘導に当たる。また、被控訴人各 システムは、前記(ア)のとおり、無線通信が不能又は不可の場合は、「ETC車専用\n出入口手前へ戻るルート」に通じる「第2のレーンへ誘導する誘導手段」を備えて いる。したがって、被控訴人各システムは、本件各発明の構成要件F1、F2を充足す\nる。
イ 被控訴人は、被控訴人各システムでは、車両が退出ルートdに自動誘導され るわけではなく、係員の手を煩わせることになってETC本来の目的が達成できな い状態となるから、構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」と\nの文言を充足しないと主張する。 しかしながら、本件特許の特許請求の範囲の記載をみても、「第2のレーンへ誘導 する誘導手段」が自動誘導である旨の記載はなく、本件明細書をみても、「誘導手段」 に係員が関与することを除外する記載はない。そして、被控訴人各システムにおい ては、発進制御機[開閉バー]1)及び5)が人的操作によって開かれているものの、 インターホンで係員を現地に呼び出す必要はないし、また、発進制御機[開閉バー] 1)及び5)が開くことで、車両は第2のレーンの方向に前進することができるので、 バック走行によりレーンから出ようとするおそれはないから、「インターホンで係 員を呼び出す必要があるので渋滞が助長されること」、「車両がバック走行をして出 ようとすると後続の車両と衝突するおそれがあって危険であること」という本件各 発明の課題を解決することができ、「車両を安全に誘導する車両誘導システムを提 供する」、「先行車と後続車の衝突を回避し得る安全な車両誘導システムを提供する」 という作用効果を奏することができる。なお、本件各発明においても、車両が第1 の遮断機の手前で停止することが想定されているといえることは、前記(2)イ(ウ)で 説示したとおりである。そうすると、「第2のレーンへ誘導する誘導手段」について、被控訴人の主張するとおりに限定的に解釈すべき理由はなく、上記被控訴人の主張は採用できない。
・・・
(3) 上記から、被控訴人各システムの使用による売上額は、11億2320万5 685円(=245円×458万4513台)と計算される。
(4) 証拠(甲26、31、乙51、55)によると、1)被控訴人各システムはス マートICに設置されるものであるところ、被控訴人は、スマートICの導入によ り、従前10kmであったIC間の平均距離を欧米並みの5kmに改善し、地域生 活の充実・地域経済の活性化を推進しようとしていること、2)設置コストは、通常 のICが30〜60億円であるのに対し、スマートICが3〜8億円、管理コスト は、通常のICが1.2憶円/年であるのに対し、スマートICが0.5憶円/年 と、スマートICを設置することで、被控訴人はコスト削減ができていること、3) 既存のサービスエリアに被控訴人各システムを設置することで、出入口を増やすこ とができ、高速道路の利便性が上がるので、利用者増加につながる可能性があるこ\nと、4)もっとも、佐野SAスマートICの設置により東北自動車道の利用台数が顕 著に増加したとはいえないこと、5)被控訴人は、本件特許に抵触しないスマートI Cも設置しており、代替技術があること(控訴人の主張によると、本件特許に抵触 しないスマートICが半数弱存在する。)、6)控訴人は、自ら本件特許を実施してお らず、今後も実施する可能性がないこと、7)佐野SAスマートICの施設に占める 被控訴人各システムの構成割合(価格の割合)は7.8%であること、8)被控訴人 は、控訴人からの警告を受けた後も本件特許の実施を継続していること、がそれぞ れ認められる。上記各事情を総合すると、本件において、本件特許の実施料率は、2%と認めるのが相当である。

◆判決本文

原審はこちら。

◆H31年(ワ)7178

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令和3(ネ)10094  特許権に基づく製造販売禁止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審で訂正主張が時期に後れたと判断されましたが、控訴理由書での主張も同じく却下されました。判決文を読む限り、訂正の抗弁は却下対象とされそうです(4部)。

なお、控訴人は、控訴理由書で、本件発明について訂正する(訂正の再抗弁) 旨主張するが、当裁判所は、これを時機に後れた攻撃防御方法に当たるものと して却下した。その理由は、一件記録によると、当該訂正の再抗弁は、原審裁 判所が本件特許は無効であるとの心証開示をした後にされたものであるため、 原審で時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下されたものであると ころ、適宜の時機に原審で主張することができなかった事情は見当たらないか ら、当審における上記主張は、明らかに時機に後れたものであって、そのこと について控訴人には少なくとも重過失があり、また、この攻撃防御方法の主張 を許せば、本件訴訟の完結が著しく遅れることは明らかであるためである。

◆判決本文

原審はこちら(東京地裁40部)

◆令和2(ワ)8506

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令和4(ネ)10004  不当利得返還請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年7月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 著作権侵害事件です。社史について、翻案かが争われました。知財高裁は該当部分は事実に過ぎないとして、翻案ではないと判断し、1審判断を維持しました。

(3) 前記(1)のとおり、本件社史部分が原告書籍を翻案したものに該当すると いうためには、原告書籍と本件社史部分とが、創作的表現において同一\n性を有することが必要であるものと解されるところ、前記(2)で検討した ところによれば、原告書籍と本件社史部分とは、番号1ないし20の各 記述において、事実、すなわち、表現それ自体でない部分において同一\n性が認められるにすぎないか、創作性が認められないありふれた表現に\nおいて同一性が認められるにすぎず、創作的表現において同一性を有す\nるものとは認められないから、被告社史中の本件社史部分は原告書籍を 翻案したものに当たらないというべきである。
(4) これに対し、控訴人は、当審において、1)ノンフィクション作品では、 著作者が取材を通じて発掘した事実こそが重要であり、自らの制作意図 にかなった事実をいかにして発掘し、発掘した事実から何を感じ取って、 どういうストーリーを見つけ出すかが、ノンフィクション作家の真骨頂 であるところ、原告書籍はこれまで公表されていなかった「NRプロジ\nェクト」の内実について明らかにしたものである、2)本件社史部分は、 原告書籍と同じテーマを取り上げたもので、原告書籍と同じ事実やエピ ソードが次々に登場していることからすれば、原告書籍と「表\現の本質 的な特徴」が完全に一致する、原告書籍を翻案したものに該当する旨主 張する。
控訴人の上記主張は、ノンフィクション作品においては、事実を見つ け出すこと及び見つけ出されたその事実が重要であって、原告書籍と本 件社史部分とは事実において共通する点が複数みられることを理由に、 本件社史部分は原告書籍を翻案したものに該当する旨を主張するものと 解される。
しかしながら、前記(1)のとおり、本件社史部分が原告書籍を翻案した ものに該当するというためには、その表現上の本質的な特徴である創作\n的表現の同一性が認められる必要があり、原告書籍と本件社史部分との\n間に事実において同一性が認められる部分が複数あるとしても、そのこ とによって両者が創作的表現において同一性を有することになるもので\nはない。控訴人の上記主張は、ノンフィクション作品自体の特徴や本質 についていうものにすぎず、その「具体的表現」における表\現上の本質 的な特徴について主張するものではないから失当である。 そして、前記(3)のとおり、原告書籍と本件社史部分は、創作的表現に\nおいて同一性を有するものとは認められないから、控訴人の上記主張は 理由がない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10021  特許権侵害差止請求控訴事件 特許権  民事訴訟 令和4年7月7日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

令和4(ネ)10021  医薬品の特許権侵害について、原審は、請求項1,2についてはサポート要件違反の無効理由あり、また請求項3,4については技術的範囲に属しないと判断していました。 原告(特許権者)が控訴し、知財高裁は原審の判断を維持しました。

 本件発明2の特許請求の範囲の請求項2(「化合物が、式IにおいてR3およびR2はいずれも水素であり、R1は−(CH2)0−2−iC4H9である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の鎮痛剤」)の記載に照らすと、本件発明2の化合物は、本件発明1の化合物の範囲に含まれるものである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2の化合物を線維筋痛症や神経障害等の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについての一般的な記載があるが(前記1(2)及び(4))、一方で、本件発明2の化合物を神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについて明示の記載はない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2の化合物に該当するCI−1008及び3−アミノメチル−5−メチル−ヘキサン酸を用いたラットホルマリン足蹠試験結果、CI−1008を用いたラットカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験結果、本件発明2の化合物に該当するS−(+)−3−イソブチルギャバを用いたラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験結果の記載がある(前記1(3)、(6)、(7)及び(9))。
しかし、前記(1)オ(ア)dの認定事実に照らすと、上記試験結果は、いずれも神経障害又は線維筋痛症による痛みの処置に本件発明2の化合物を使用した試験に関するものといえないから、上記試験結果から、本件発明2の化合物が、「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に対して鎮痛効果を有することを認識することはできない。 そうすると、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識から、本件発明1の化合物の範囲に含まれる本件発明2の化合物が、本件発明1及び2の「痛み」の範囲に含まれるすべての「痛み」に対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供するという本件発明1及び2の課題を解決できるものと認識することはできないから、本件発明1及び2は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものと認めることはできない。 ・・・・ 控訴人は、本件発明3は、慢性疼痛に対する画期的処方薬として、抗てんかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだしたものであり、その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用いる点にあるから、対象となる痛みが侵害受容性疼痛か、神経障害性疼痛や線維筋痛症かは本質的部分ではなく、効能・効果を神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とし、慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告ら医薬品は、均等論の第1要件を満たすと主張する。しかし、本件明細書の記載(前記1(4))によれば、本件発明3は、本件発明3の「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」の範囲に含まれるすべての「痛み」に対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供することを課題とするものと認められること、痛みは、その基礎となる病態生理に著しい差異があり、「侵害受容性疼痛」、「神経障害性疼痛」、「心因性疼痛」の3つに大別されることは、本件出願当時の技術常識であったこと(前記2(1)オ(ア)a)に照らすと、いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは、本件発明3において本質的部分であるというべきであり、その鎮痛効果の対象を異にする被告ら医薬品は、本件発明3の本質的部分を備えているものと認めることはできない。したがって、本件発明3に係る特許請求の範囲(本件訂正後の請求項3)に記載された構成中の被告ら医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でないということはできないから、被告ら医薬品は均等論の第1要件を満たさない。\n

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19925等

特許権は同じで、被告(被控訴人)が異なる事件(1)です。 令和4(ネ)10009

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19927


被告(被控訴人)が異なる事件(2)です。 令和4(ネ)10002

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)22283

被告(被控訴人)が異なる事件(3)です。 令和4(ネ)10012

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19924

被告(被控訴人)が異なる事件(4)です。 令和4(ネ)10020

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19929

被告(被控訴人)が異なる事件(5)です。 令和4(ネ)10013

◆判決本文
原審。

◆令和2(ワ)19917

被告(被控訴人)が異なる事件(6)です。 令和4(ネ)10016

◆判決本文
原審。

◆令和2(ワ)19918等

被告(被控訴人)が異なる事件(7)です。 令和4(ネ)10039

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19919

被告(被控訴人)が異なる事件(8)です。 令和4(ネ)10028

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19920等

被告(被控訴人)が異なる事件(9)です。 令和4(ネ)10015

◆判決本文
原審。

◆令和2(ワ)19922等

被告(被控訴人)が異なる事件(10)です。 令和4(ネ)10036

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19923等

被告(被控訴人)が異なる事件(11)です。 令和4(ネ)10017

◆判決本文
原審。

◆令和2(ワ)19926

被告(被控訴人)が異なる事件(12)です。 令和4(ネ)10003

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19928

被告(被控訴人)が異なる事件(13)です。 令和4(ネ)10037

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19931等

被告(被控訴人)が異なる事件(14)です。 令和4(ネ)10025

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19932


被告(被控訴人)が異なる事件(15)です。 令和4(ネ)10026

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)22290等

本件特許の無効審判事件の審取です。 令和2(行ケ)10135 審決は、「訂正後の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効、請求項3,4に係る発明についての本件審判の請求は,成り立たない。」と判断していました。 知財高裁は、審決維持です。

◆判決本文

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令和4(ネ)10005 損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年6月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 違法ダウンロードサイト「漫画村」に広告を出していた広告代理会社に対して、1審では、1100万円の損害賠償が認められました。知財高裁も同様の判断をしました。

ア 争点1−1(本件行為の幇助行為該当性等)について
・・・
a 控訴人らは、本件行為が本件ウェブサイトの運営者側に対して著作権侵害行 為自体を直接誘発し、又は促進するものではないから幇助行為には当たらないと主 張するが、訂正して引用した原判決の第3の1(2)アのとおり、広告料収入をほとん ど唯一の資金源とするという本件ウェブサイトの実態を踏まえると、本件行為は、 本件ウェブサイトの運営者において、原告漫画のうち既にアップロードしたものの 掲載を継続するとともに、さらにアップロードする対象を追加することを直接誘発 し、また促進するものというのが相当であるから、控訴人らの上記主張は採用する ことができない。 上記に関し、控訴人らは、幇助の適用範囲が広がりすぎて不当であるとも主張す るが、本件ウェブサイトの上記実態を無視して一般論として幇助の範囲が拡大され ることを前提とした主張にすぎず、また、客観的に幇助行為に該当することから直 ちに幇助行為について不法行為責任を問われるものでもないから、控訴人らの上記 主張も前記認定判断を左右するものではない。
b 控訴人らは、本件行為が既にアップロードされていたものについて、公衆送 信権の侵害行為を助長する行為とはいえないと主張するが、訂正して引用した原判 決の第3の1(2)アのとおり、上記主張も採用することができない。また、本件行為 を幇助行為とみることは本件ウェブサイトの運営自体を公衆送信権侵害行為と捉え ることである旨をいう控訴人らの主張や、平成13年最判で認められた幇助の解釈 と整合しないとの控訴人らの主張も、本件において判断の前提とすべき事情の理解 を誤るものであって採用できない。
c 控訴人らは、控訴人らが支払っていた広告料が本件ウェブサイトの運営者の 広告料収入のわずかな割合しか占めるものでなかったと主張するが、同主張の前提 となる割合を証拠上直ちに認めるに足りるかという点をおくとしても、前記のよう に広告料収入がほとんど唯一の資金源であったという本件ウェブサイトの実態に加 え、当該実態に照らすと、最終的に本件ウェブサイトの運営者に支払われる広告料 の金額の多寡にかかわらず広告を本件ウェブサイトに提供するとの行為自体が同運 営者による著作権侵害行為を助長するものであったというべきこと(なお、甲7及 び弁論の全趣旨によると、ウェブサイトの運営者に支払われていた広告料は、掲載 した広告の数等、広告の量によって単純に定められるものではなく、広告として掲 載された商品の広告を見た利用者が商品を購入したことが支払額に影響するなど、 広告の提供の程度と広告料の支払額は直接的に対応するものではなかったことがう かがわれる。また、広告主が拠出した広告料から広告代理店が差し引く手数料等の 額が多くなればなるほど、ウェブサイトの運営者に支払われる広告料が少なくなっ ていたことも容易に推測される。)のほか、後記イで認定判断する控訴人らの主観 的態様に照らしても、控訴人らが主張する前記の事情は、共同不法行為者間の求償 に係る問題にすぎず、被控訴人に対する不法行為責任がないことを基礎づける事情 にはならないというべきである。
・・・
イ 争点1−3(控訴人らの故意又は過失の有無)について
・・・
「(ア) まず、1)平成29年に至るまでの間に、広告収入が違法サイトの収入源と なっていることが大きな問題とされ、広告配信会社の多くにおいても一定の方法で 広告を出したサイトに違法な情報が掲載されていないかを調べるなどの手段を講じ ていたことや、官民共同の取組として、海賊版サイトを削除するという対策を継続 的に行うほか、周辺対策として広告出稿抑止にも重点的に取り組んでいくことが確 認されていたことが指摘できる。そのような状況において、2)本件ウェブサイトに ついては、平成29年4月までの時点で、登録不要で完全無料で漫画が読めるとさ れるサイトであり、検索バナーが必要な程度に大量の漫画が掲載されていることが 一見して分かる状態にあったもので、ツイッター上でも、違法性を指摘するツイー トが複数されていたところであった。また、3)本件ウェブサイトについては、遅く とも平成29年5月10日時点において、日本の著作物について、著作権が保護さ れないという前提で掲載されていること等が閲覧者に容易に分かる状態となってい た。 控訴人エムエムラボは、「MEDIADII」を利用して本件ウェブサイトに広告 の配信を開始するに当たり、本件ウェブサイトの表題及びURLの提示を受け、運\n用チームにおいて、それらを含む情報に基づいて登録の可否を審査して承諾し、手 動で広告の配信設定をしたものであるところ、前記1)〜3)の事情を踏まえると、遅 くとも平成29年5月までの時点で、控訴人らにおいては、本件ウェブサイトに掲 載された多数の漫画が著作権者の許諾を得ることなく掲載されているものであるこ とや、そのように違法に掲載した漫画を無料で閲覧させるという本件ウェブサイト が広告料収入をほぼ唯一の資金源とするものであること、それゆえ控訴人らが本件 ウェブサイトに広告を提供し広告料を支払うことは本件ウェブサイトの運営者によ る著作権侵害行為を支える行為に他ならないことを、容易に推測することができた というべきである。
そうすると、控訴人らは、遅くとも平成29年5月時点で、本件ウェブサイトの 運営者に著作権者との間での利用許諾の有無等を確認して適切に対処すべき注意義 務、又は、そもそもそのような確認をするまでもなく本件ウェブサイトの「MED IADII」への登録を拒絶すべき注意義務(既に本件ウェブサイトの「MEDIA DII」への登録作業を終えていた場合にはそれに係る契約を解除するなどして対応 すべき注意義務)を負っていたというべきであり、それにもかかわらず、本件行為 を遂行したことについて、控訴人らには少なくとも過失があったと認められる。 上記に関し、控訴人らが平成29年5月時点で上記の注意義務を怠り、その後、 安易に本件行為を継続的に遂行していたことは、控訴人グローバルネットが海賊サ イト対策の取組を推進していたJIAAの会員であり、また、「MEDIADII」 の利用規約によると本件ウェブサイトが第三者の著作権を侵害するものである場合 にはその利用に係る契約を解除し得る旨が定められていたにもかかわらず、その後、 同年10月31日に控訴人らの取引先に係る違法サイト「はるか夢の址」の運営者 の逮捕が報道されたり、本件ウェブサイトの違法性が社会的により大きく取り上げ られ、平成30年2月2日には取引先から本件ウェブサイトが海賊版サイトである と記載した上での問合せを受けたといった事情があった中でも、控訴人らにおいて、 本件ウェブサイトへの「MEDIADII」を利用した広告の提供等の当否について 検討したことが一切うかがわれず、かえって、取引先に対し、「漫画村」という名 称を明記しつつ、同年3月2日には本件ウェブサイトへの広告の掲載が可能である\nと回答したり、同月23日には広告の効果がいいという根拠の一つとして本件ウェ ブサイトの保有を挙げたりしていたもので、ようやく同年4月13日に本件ウェブ サイトを名指ししてブロッキングを行うという方針を政府が表明して以降に初めて\n本件ウェブサイトへの配信停止の検討を開始したといった事情によっても裏付けら れているというべきである。」

◆判決本文
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◆令和3(ワ)1333

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令和4(ネ)10015 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年6月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 医薬品特許について、原告特許権者、被告ジェネリック医薬品メーカです。1審は36条違反(実施可能要件)として権利行使不能\と判断していました。知財高裁も同様の判断をしました。

前記1(1)オ、カ及びクのとおり、本件明細書には、薬理データ又はこれと 同視し得る程度の事項として、本件化合物がホルマリン試験、カラゲニン試験及び 術後疼痛試験において効果を奏した旨の記載がある。しかしながら、後記(5)にお いて説示するとおり、本件出願日当時、慢性疼痛は全て末梢や中枢の神経細胞の感 作という神経の機能異常により生じる痛覚過敏や接触異痛の痛みであり、原因にか\nかわらず神経細胞の感作を抑制することにより痛みを治療できるとの控訴人主張の 技術常識が存在していたとは認められないから、本件化合物がホルマリン試験、カ ラゲニン試験及び術後疼痛試験において引き起こされた各痛みの処置において効果 を奏した旨の記載があるからといって、そのことをもって、当業者において、本件 化合物が原因を異にするあらゆる「痛み」の処置においても効果を奏すると理解し たとは到底いえない。したがって、ホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛 試験の結果に係る上記記載をもって、本件明細書の発明の詳細な説明において、本 件化合物が「あらゆる全ての痛みの処置における鎮痛剤」の用途に使用できること につき薬理データ又はこれと同視し得る程度の事項が記載され、本件出願日当時の 当業者において、本件化合物が当該用途の医薬として使用できることを理解できた と認めることはできない。 その他、本件明細書の発明の詳細な説明に、本件化合物が「あらゆる全ての痛み の処置における鎮痛剤」の用途に使用できることにつき、薬理データ又はこれと同 視し得る程度の事項が記載され、本件出願日当時の当業者において、本件化合物が 当該用途の医薬として使用できることを理解できたと認めるに足りる的確な証拠は ない。

◆判決本文
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◆令和4(ネ)10017

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◆令和2(ワ)19922等

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◆令和2(ワ)19926

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令和3(行ケ)10111  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年6月22日  知的財産高等裁判所

訂正請求により無効理由なしとした審決に対する審決取消訴訟です。 知財高裁も審決の判断を維持しました。一つの争点が「前記加工対象物はシリコンウェハである」と記載されているのを、「前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」に訂正するのが訂正要件を満たすかです。

ア 訂正前の請求項1の記載は、「加工対象物」である「シリコンウェハ」に ついて、その文言上、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿 った溝が形成されているシリコンウェハ」を概念的には含むものであった のに対し、訂正事項1により、そのようなシリコンウェハを除く形で限定 されるものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とす るものといえる。 別の観点からいえば、訂正前の請求項1の記載は、その文言上、「レーザ 加工装置」の構成として、切断予\定ラインに沿った溝が存在するシリコン ウェハを切断し得る性能を有するが、そのような溝が存在しないシリコン\nウェハを切断し得る性能を有するとは限らない「レーザ加工装置」(溝必須\n装置)を概念的には含むものであったのに対し、訂正事項1により、そのよ うな装置を除く形で請求項1に係る発明のレーザ加工装置を特定したので あるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものともい える。
イ 原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、訂正事項1における「シリコン単 結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿った溝が形成されていないシリコ ンウェハ」については、加工対象物がシリコン単結晶構造の場合において、\n「シリコン単結晶構造部分」や溝の位置、どのような溝が形成されていな\nいのかが特定されておらず不明確であるから、訂正後の特許請求の範囲が 不明確であると主張するが、そのような具体的な事項まで特定されなけれ ば、訂正事項1が減縮か否かを判断できないほどに不明確であるとは考え られない。 また、原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、訂正事項1によって、請求 項1の装置について、溝が形成されていないシリコンウェハを切断するこ とが用途になるとしても、レーザ加工装置の構成がそのような特定の構\成 に限られるものではないから、発明の構成を限定するものではないとか、\nいわゆるサブコンビネーション発明の理論によれば訂正の前後で発明の要 旨の認定は変わらない旨主張する。しかし、アに説示したとおり、訂正事項 1により概念上請求項1に係る発明が限定されることは明らかであり、特 許法134条の2第1項の「特許請求の範囲の減縮」への該当性を判断す るに当たっては、これで足りると解するのが相当である。また、本件発明を サブコンビネーション発明と解するかはさて措くとして、本件における上 記該当性を判断するに当たって、サブコンビネーション発明のクレーム解 釈や特許要件の考え方を直接参考にする必要性があるとは認め難いし、い ずれにしても本件においては、訂正事項1に係る事項は、加工対象物のみ を特定する事項にとどまらず、レーザ加工装置自体についてもその構造、\n機能を特定する意味を有するものと解するべきであるから(本件訂正前は、\n溝必須装置のように溝が形成されているシリコンウェハを切断する構造を\n有すれば、これをもって特許要件を満たし得たのに対し、本件訂正後はこ のような構造を有するのでは足りず、溝が形成されていないシリコンウェ\nハを切断する構造を有することが必要とされることになる。)、原告の主張\nするところは、本件訂正が、特許請求の範囲の減縮であることを否定する に足りるものではない。

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令和2(ワ)13326  特許権侵害差止等請求事件 令和4年5月27日  東京地方裁判所

 用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。東京地裁46部は、新規性無しとして、権利行使不能と判断しました。\n

ア 本件発明1は、「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部 骨折を抑制するための医薬組成物」であるところ、前記(1)によれば、乙1文 献には、エルデカルシトールを骨粗鬆症治療薬として用いることが記載され ており、本件発明1と乙1発明とは、構成要件1A、1Cにおいて一致して\nいる。他方、本件発明1は、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」 (構成要件1B)医薬組成物であるところ、乙1発明は骨粗鬆症治療薬であ\nり、この点において本件発明1と乙1発明が相違するといえるかが問題にな る。 イ 本件明細書によれば、「非外傷性骨折とは、転倒などの一般的な日常生活 で起こる軽微な外力により生じた骨折を示す」(【0035】)とあり、「前腕 部は、橈骨と尺骨からなる」(【0022】)とされ、また、「抑制あるいは予\n防は、骨粗鬆症にり患していない者あるいは骨粗鬆症患者のいずれにおいて も、新たな骨折が発生しないことを意味する。」(【0022】)とされている。 したがって、本件発明1の「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」とは、 骨粗鬆症にり患していない者及び骨粗鬆症患者のいずれについても、転倒な どの一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨又は尺骨に新たな 骨折が発生しないようにすることを意味しているといえる。
ここで、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴として骨折のリスクが増大しや すくなる骨格疾患であり(前記2(1)ア)、骨粗鬆症治療薬は、骨粗鬆症を治療 することを目的とする薬物なのであるから、骨折のリスクを低下させること、 すなわち、新たな骨折を発生させないようにすることを目的としているとい える。そして、本件優先日当時、骨粗鬆症においては、骨強度の低下により、 通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで生ずる骨折である脆弱性骨折 が生ずることが問題とされており、骨折が生ずることがある具体的な部位と しては、大腿骨、椎体等と並んで、橈骨が含まれていたことが知られていた と認められる(前記2(1)イ)。 そうすると、乙1発明の骨粗鬆症治療薬とは、骨強度の低下によって通常 は骨折を生じさせない些細なきっかけで大腿骨、椎体、橈骨等に新たな骨折 を発生させないようにすることを目的とする治療薬であり、この中には、骨 粗鬆症患者に対する、通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで橈骨に新 たな骨折を発生させないようにすることについても用途として含まれるこ とは明らかである。
これに対し、乙1発明の骨粗鬆症治療薬について、原告は、エルデカルシ トールに骨折抑制効果があることは知られていなかったと主張する。しかし、 乙1文献の表題は「骨粗鬆症治療薬」というものであり、その表\題からも、 そこに記載されたエルデカルシトールが骨粗鬆症の治療薬であること、すな わち、エルデカルシトールが骨粗鬆症患者に対する骨折抑制効果があること に関する文献であることが理解できる。そして、乙1発明のエルデカルシト ールは活性型ビタミンDの誘導体であり、活性型ビタミンDが体内のビタミ ンD受容体と結合して作用するのと同様にビタミンD受容体に結合して作 用するという、活性型ビタミンDと同一の機序によって骨粗鬆症に作用する ことが想定されていた。活性型ビタミンDは、前腕部を含む骨における骨形 成を促進し、骨破壊を抑制することによって骨量を増やして骨密度骨強度を 増加させるとともに、転倒自体を抑制するといった作用を有することが知ら れており(前記2(3)ア、(4))、実際に、乙1文献には、エルデカルシトール が骨密度を上昇させる効果を有することが記載されている。さらに、当時、 一般に、骨量が多いほど骨折しにくくなり、骨量の多寡が骨折リスクの指標 になると考えられていた(前記2(2) )。これらからすると、当業者は、乙1 発明の骨粗鬆症治療薬について、前腕部骨折予防効果があると理解すると認\nめられる。原告が指摘する文献や記載は、上記技術常識等に照らし、当業者 に対して乙1発明のエルデカルシトールが上記骨折抑制効果を有すること に対して疑念を抱かせるものとは認められない。
以上によれば、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において一般的な日常生 活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用 途とする構成は、乙1発明のエルデカルシトールの用途と一致すると認めら\nれる。
ウ 原告は、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認 められると主張する。 しかし、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において、一般的な日常生活で 起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途と する構成について、前記イに述べたところにより、乙1発明のエルデカルシ\nトールにおいても、当然に当該部位に係る骨折予防についても有効であるこ\nとが具体的に想定されていたと認められる。また、乙1文献には、エルデカ ルシトールを活性型ビタミンD3製剤であると記載されていて、乙1発明に おいても、既存の活性型ビタミンD製剤と同様の機序、すなわち、ビタミン D受容体への作用による骨強度の上昇及び転倒防止(前記2 ア、 )が想 定されていたと認められる。本件明細書には、本件発明1について、技術常 識から認められる上記機序と異なる機序によって作用していることについ ての記載もなく、本件発明1も、乙1発明と同一の作用機序を前提にしてい ると認められる。仮に年齢等によって第1選択として投与される薬剤の種類 が異なるとしても、エルデカルシトールが投与されたとき、乙1発明のエル デカルシトールが投与されたのか、本件発明1のエルデカルシトールが投与 されたのかを区別することができるものではない。本件発明1の一部の用途 は、作用機序の点からも、乙1発明の用途と区別することはできない。
なお、原告は、本件発明1において、エルデカルシトールの前腕部骨折抑 制に関する顕著な効果が初めて見出されたとも主張する。原告が本件明細書 で明らかにされた医学的に有用であると主張する具体的な知見は、1)前腕部 の骨折予防の観点からは、アルファカルシドールよりもエルデカルシトール\nの方が顕著に優れていること、2)前腕部以外の部位においては、エルデカル シトールとアルファカルシドールの効果の差は前腕部における差ほど顕著 ではないという2点である。しかし、仮に原告が主張する上記評価が統計学 上正当であると認められるとしても、1)については、本件明細書で明らかに されているのは、エルデカルシトールがアルファカルシドールに比べて骨折 抑制効果が高いことのみであり、このことのみからは、エルデカルシトール がプラシーボに比べて顕著に優れている可能性も、アルファカルシドールが\nプラシーボに比べて顕著に劣っている可能性も、どちらともいえない可能\性 もある。さらに、乙1発明において、エルデカルシトールの骨折抑制効果が アルファカルシドールを上回ること自体が想定されていたことも認められ る(前記3)。2)についても、本件明細書の実施例で記載されている前腕部 骨折以外に関する分析結果は椎体骨折に関するもののみ(【0069】)であ り、前腕部についてのみ良好な結果が得られたのか、椎体についてのみ良好 とはいえない結果が得られたのかすら明らかにされていない。これらによれ ば、何らかの顕著な効果の存在を理由に乙1発明に対する新規性等が認めら れる場合があるか否かは措くとしても、本件においてはその前提となる顕著 な効果を認めることはできない。
さらに原告は、65歳の患者群やI型骨粗鬆症患者群においては前腕部に おける骨折抑制が特に求められており、独立の用途を構成するなどと主張す\nる。しかし、乙1発明のエルデカルシトールにおいても、一般的な日常生活 で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことに有効 であることが具体的に想定されていたと認められるなど、上記に述べた事情 に照らせば、原告が主張する上記知見は、本件において、乙1発明の用途を 前腕部の骨折予防に限定することに新規性を付与すべき事情に当たるとは\nいえない。
エ 以上によれば、本件発明1は、乙1発明で想定される橈骨の骨折抑制、大 腿骨の骨折抑制といった複数の骨折抑制部位に係る用途のうち、前腕部の効 果に着目したものと認められる。本件発明1において「非外傷性である前腕 部骨折を抑制するための」と限定した部分は乙1発明との相違点になるとは いえず、本件発明1は、乙1発明と同一であり、本件発明1は、新規性が欠 如しているといえる。

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令和2(ワ)29604  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月27日  東京地方裁判所

 携帯電話機の画像表示技術について、102条3項の実施料率として0.01%が認められました。

ア 特許発明の実施に対し受けるべき料率を認定するに当たっては、1)当該 特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない 場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明 自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可 能性、3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献 や侵害の態様、4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等 訴訟に現れた諸事情を総合考慮するのが相当である。 イ そこで検討するに、本件発明に関しては、前記1)ないし4)に係る事情と して、次のとおりのものが認められる。 「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査 研究報告書」には、以下のような実施料率を報告するが、同時に、関係 特許が多数に上り、クロスライセンスが主流であるデバイスの特許の分 野では、その相場は1%以下であるとも記載されている。(甲26)
ソース 技術分野 平均値 最大値 最小値
国内アンケート調査 器械 3.5% 9.5% 0.5%
コンピュータテクノロジー3.1% 7.5% 0.5%
電気 2.9% 9.5% 0.5%
司法決定 電気 3.0% 7.0% 1.0%
実際、被告補助参加人は、被告製品の製造販売のため、11社とライ センス契約を締結したが、破産直前という特殊事情のある1社を除くと、 アプリ特許等に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率は、 平均●(省略)●%であると計算された。(乙14) また、前記 の10社とのライセンス契約のうち、ライセンス料率が 初年度の●(省略)●%から逓減する特殊な規定となっていた1社を除 き、画像処理に関連する発明に限定したとすると、1件当たりのライセ ンス料率は、平均●(省略)●%と計算された。(乙16) 平成20年5月発行の雑誌「日経エレクトロニクス」には、「携帯電 話の画面サイズには限界がある。」、「HDTV対応によって、大画面 テレビなど周囲のAV機器を接続し、コンテンツをやりとりする機能が\n携帯電話機に必須となる。」との記載がある。(甲29・43頁) 他方、前記雑誌には、「スマートフォンのような両手の操作を前提と する端末であれば、比較的大きな4〜5型程度のディスプレイを搭載す る可能性はある。このような端末ならば、「液晶パネルの画素数を高精\n細化してHDTV対応にできる」」との記載もある。(甲29・59頁) 原告は、情報処理・通信システムの考案及び開発を目的とする会社で あり、自ら実施品の製造販売をすることはせず、その発明を他社に許諾 し、これに対する実施料収入を得るという営業方針をとっているが、本 件発明については、実施許諾をした例はない。(弁論の全趣旨)
ウ これらの事情によれば、1)本件発明の技術分野においては、ライセンス 料率を0.5%ないし9.5%程度とする例はあるが、スマートフォンの ように多数の特許が関連する分野では、クロスライセンスによる場合に限 らず、特許1件当たりで計算した実施料率が、0.01%を下回ることも 通常であること、2)本件発明で実現される高解像度画像を外部出力する機 能は、携帯電話において早くから望まれていたものではあるが、被告製品\nのようなスマートフォンにおいては、当然に必須の機能であるとはいえず、\nその顧客に対する顧客吸引力は明らかとはいえないこと、3)原告は、その 保有する発明を他社に許諾し、その実施料収入を得るという営業方針をと っているものの、本件発明を実施するため、原告とライセンス契約を締結 した者はいないこと、以上の事情を認めることができる。 これらの事情を考慮すると、被告補助参加人の売上高に乗じる相当実施 料率は、侵害があったことを前提に通常の実施料率よりも自ずと高くなる ことをも十分考慮しても、0.01%の限度で認めるのが相当である。\nエ これに対し、原告は、被告補助参加人におけるライセンス例は、大部分 が一時金方式であり、ランニング方式よりも割安となっていることなど 種々の事情を指摘し、これを相当実施料率の認定の参考にすることを争う ものの、原告の指摘を踏まえても、業界における実施料の相場等として、 当該ライセンス例を上記の限度で参酌することまで妨げられるべきもので はなく、上記認定を左右するに至らない。 また、原告は、本件発明には代替技術がなかったと主張するが、これを 認めるに足りる証拠はないほか、原告は、本件発明を代替するには、24 00円程度の部品(甲31)を追加する必要があったとも主張するが、当 該部品は、本件発明に係る機能のみを実現するものとは認められず、その\n2400円というのも「サンプル価格」にすぎず、いずれも、上記の結論 を左右するものとはいえない。

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令和3(行ケ)10100  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年5月19日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、41類「知識の教授」などについて、商標「Scrum Master」は識別力無しと判断しました。異議・無効審判では識別力ありと判断されていました。

 前記(1)の認定事実によれば、1)「Scrum(スクラム)」の語は、本件商 標の登録査定前に発行、作成されたコンピュータ、IT関連の事典、用語集 等において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つと説明されていること(前記(1)ア)、2)「Scrum Master(スクラムマスター)」の語 は、本件商標の登録査定前に作成されたウェブサイト上の辞典等において、 アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」における役割の名称として説明されていること(同イ)、3)「Scrum」の提唱者が執 筆した「スクラムガイド」において「スクラムマスター」の定義が説明され ていること(同ウ)、4)本件商標の登録査定前に発行されたコンピュータやI T関連の複数の書籍、雑誌、ウェブサイトやブログにおいて、「アジャイルソフトウェア開発」や「Scrum(スクラム)」をテーマとした記事等に「S\ncrum Master(スクラムマスター)」についての記載があること (同エないしカ)、5)平成21年から平成30年4月までの間に複数の団体 が、スクラムマスターの研修を複数回実施していること(同キ)、6)本件商標 の登録査定前に発行・作成された雑誌やウェブサイト等に「Scrum M aster(スクラムマスター)」の認定制度、研修やセミナー等に関する記 載があること(同ク)が認められる。
以上の1)ないし6)を総合すれば、本件商標の登録査定時において、「Scr um」の語は、コンピュータ、IT関連の分野において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つを表\すものとして認識され、また、「Scrum M aster」の語は、同分野において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」における役割の一つを表\すものとして認識されていたものと認められる。
2 本件商標の商標法3条1項3号該当性について
(1) 商標法3条1項3号が、「その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、 効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標」について商標登録の要件を欠くと規定しているのは、このような商標は、指定役務との関 係で、その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途その他の特性を表\示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人\nもその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるの は公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場 合自他役務の識別力を欠くものであることによるものと解される。
そうすると、商標が、指定役務について役務の質を普通に用いられる方法 で表示する標章のみからなる商標であるというためには、商標が指定役務との関係で役務の質を表\示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であ\nり、当該商標が当該指定役務に使用された場合に、取引者、需要者によって、 将来を含め、役務の質を表示したものとして一般に認識されるものであれば足りるものであって、必ずしも当該商標が現実に当該指定役務に使用されて\nいることを要しないと解される。以上を前提に、本件商標の本件指定役務との関係における同号該当性について判断する。
(2) 本件商標は、「Scrum Master」の文字を標準文字で表してなり、「Scrum」の語及び「Master」の語から構\成される結合商標である。本件商標から「スクラムマスター」の称呼が生じる。 前記1(2)認定のとおり、本件商標の登録査定時において、「Scrum」の 語は、コンピュータ、IT関連の分野において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つを表\すものとして認識され、また、「Scrum Maste r」の語は、同分野において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」における役割の一つを表\すものとして認識されていたものと認められる。
また、「マスター」(master)の語は、一般に、「あるじ。長。支配者」、 「修得すること。熟達すること」等(広辞苑第7版。甲391の2の2)の 意味を有することからすると、「Scrum Master」の語からは、ア ジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」を修得した者、「Scrum」に熟達した者などの観念をも生ずるものと認められる。\nそうすると、本件商標が本件指定役務に含まれる「教育訓練、研修会及び セミナー等」に使用された場合には、取引者、需要者は、当該教育訓練等が アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」を修得することや、「Scrum」における特定の役割に関する教育訓練等であることを\n示したものと理解するものといえるから、本件商標は、かかる役務の質(内 容)を表示したものとして一般に認識されるものと認めるのが相当である。そして、本件商標は、標準文字で構\成されており、「Scrum Mast er」の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるといえるから、本件商標は、本件指定役務の質(内容)を普通に用いられ\nる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)に該当するものと認められる。\n
(3) この点に関し本件審決は、「Scrum Master(スクラムマスタ ー)」に特化した研修やセミナー等に関する証拠は限定的である上、その具体 的な内容についての説明や当該研修やセミナー等の開催規模や開催頻度等の 具体的な証拠はなく、また、「Scrum Master(スクラムマスター)」 の認定制度の有資格者数もさほど多いとはいえないから、本件商標は、その 指定商品及び指定役務中、第41類の教育訓練、研修会及びセミナー等に関 する役務との関係においては、「Scrum Master(スクラムマスタ ー)」を内容とする役務であることを理解させるものとはいい難いと述べた 上で、本件商標である「Scrum Master」の文字が、商品の品質 及び役務の質等を直接的に表すものとして一般に使用されているとまではいえず、また、本件商標に接する取引者、需要者が、本件商標を商品の品質及\nび役務の質等として認識するとみるべき特段の事情も見いだせないとして、 本件商標は、本件指定役務を含む本件商品・役務以外の指定商品及び指定役 務について商標法3条1項3号に該当しない旨判断した。 しかしながら、前記(1)で説示したとおり、本件商標が、本件指定役務につ いて役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、本件商標が本件指定役務との関係で役務の質を表\示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本件商標が本件指定役務に使用された場合に、本件商標の取引者、需要者によって、将来を含め、役\n務の質を表示したものとして一般に認識されるものであれば足りるものであって、必ずしも本件商標が現実に本件指定役務に使用されていることを要し\nないと解されるから、本件審決の上記判断は、その前提において誤りがある。
3 被告の主張について
被告は、1)商標法3条1項3号の趣旨によれば、同号により不登録とされる 商標は、「将来必ず一般的に使用されるもの」に限定されるところ、本件商標が 「将来必ず一般的に使用されるもの」であることについての立証はなく、また、 本件商標は、その登録査定時において、使用実績は僅かであり、周知性は全く なく、一般に認識されておらず、むしろ無名である、2)スクラムマスターのセミ ナー・研修の受講・参加、資格・認定取得が、本件商標の登録査定前に多数なさ れていた事実は認められず、「スクラムマスター」は、資格として世間一般に認 知されておらず、セミナーの開催数や資格者数もごく僅かである、3)本件商標 は、「Scrum」の語と「Master」の語を単に結合しただけの造語であ り、本件商標から、特段の観念は想起されない、4)証拠上「スクラムマスター」 の語の使用が確認される最も早い時期である平成16年10月から被告が本件 商標の登録出願をした平成29年6月までの12年8か月の間、原告らが本件 商標の登録出願をしなかったという事実は、誰もその使用を欲することがなか ったことの証左であり、本件商標は「何人もその使用を欲する」ような商標に 該当しないとして、本件商標は、本件指定役務について同号に該当しない旨主 張する。
しかしながら、1)ないし3)については、前記2(1)及び(2)で説示したとおり、 本件商標が、本件指定役務について同号に該当するというためには、本件商標 が本件指定役務との関係で役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表\示であり、本件商標が本件指定役務に使用された場合に、本件商標の取引者、需要者によって、将来を含め、役務の質を表示したものとして一般に認識されるものであれば足りるものであって、被告がいうように「将来必ず一\n般的に使用されるもの」に限定されるものではなく、また、必ずしも本件商標 が現実に本件指定役務に使用されていることを要しないと解されるから、その 使用実績の程度や周知性の有無が問題となるものではない。 さらに、前記1(2)で説示したとおり、本件商標の登録査定時において、「Sc rum Master」の語は、コンピュータ、IT関連の分野において、ア ジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」における役割の一つを表\すものとして認識されていたものと認められ、また、「Scrum M aster」の語からは、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」を修得した者、「Scrum」に熟達した者などの観念をも生ずるも\nのと認められるから(前記2(2))、本件指定役務の需要者において、本件商標が 一般に認識されず、無名であったとはいえないし、本件商標から、特段の観念 が想起されないとはいえない。4)については、ある用語の使用を必要とすることと、その用語について商標登録出願をすることとは別の問題であり、原告らが本件商標の登録出願をしなかったことをもって、本件商標が「何人も使用を欲する」ような商標に該当し ないものとはいえない。

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令和2(ワ)29897  相当の対価請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年5月27日  東京地方裁判所

 職務発明事件です。一つの争点が、社内の発明規程により報奨金の請求権が消滅するという規定でした。原告は公序良俗に反すると争いましたが、裁判所はこの規定には特35条の報奨金は含まれていないとして、原告の主張を認めませんでした。

原告は、使用者である被告は、従業者であった原告に対し、退職により相 当の対価請求権が消滅したとの誤解を生じさせて相当の対価請求権の行使を 妨害してはならない信義則上の義務を負うところ、原告は、本件退職条項の 存在により、被告を退職したことでもはや何らの請求権も行使することがで きないと誤解していたのであるから、被告は上記の義務に違反したものであ ること、被告は、被告発明規程について、カネカと同様に、実績補償金を支 払う旨の規定を置くべきであったし、これが容易であったことから、被告が 相当の対価請求権及び被告発明規程に基づく登録報奨金請求権について消滅 時効を援用することは、信義則違反又は権利濫用に当たるなどと主張する。
しかし、被告発明規程の本件退職条項においては、発明者である従業員が 退職した場合に「報奨金を受ける権利」が消滅する旨が定められており、こ の「報奨金」が「譲渡報奨金」及び「登録報奨金」(被告発明規程10−1) を指すことは明らかである一方、特許法35条3項に基づく相当の対価請求 権の消長に関する定めは存在しない。したがって、被告発明規程に本件退職 条項が置かれていたからといって、そのことによって直ちに、被告の従業者 に対し、被告を退職した場合に、被告発明規程に基づき支給されるべき報奨 金請求権に加え、特許法35条3項に基づく相当の対価請求権までも行使す ることができなくなるとの誤解を生じさせるものではない。加えて、原告の 陳述書(甲18)の記載からは、被告が、原告に対し、本件退職条項が被告 を退職した後は相当の対価請求権の行使ができないことを定めたものである 旨を積極的に説明したといった事実が存したとはうかがわれず、他の証拠に よっても、当該事実を認めることはできない。したがって、本件において、 被告が原告主張に係る信義則上の義務に違反したとは認められない。
また、使用者が契約や勤務規則において定めを置くか否かにかかわらず、 従業者は、特許法35条3項に基づく相当の対価請求権を行使することがで きるから、被告発明規程に実績に対応する相当の対価支払に関する定めが置 かれていなかったからといって、直ちに、被告の消滅時効の援用が信義に反 するということはできず、権利の濫用になるということもできない。
(2) なお、原告は、被告の親会社であるカネカが、本件各発明の実施品である EDコイルを有望な商品であると考えて、被告の研究者である原告をカネカ における製品開発に専従させたこと、被告から本件各発明に係る特許を受け る権利を譲り受けていること、本件について交渉段階から積極的に関与して いることに照らすと、カネカは、その子会社である被告を現実的統一的に管 理支配しているといえ、そのようなカネカが実績補償に関する規定を置いて いる以上、被告が、相当の対価請求権についての消滅時効を援用し、原告に 実績補償をしないことは、信義則上許されない旨を主張する。 しかし、カネカと被告との間に親会社と子会社の関係が存在するとしても、 それぞれは独立した法人であることに変わりはなく、両者の業種や雇用体系、 業務の実情などは異なり得るから、そうした実情に合わせて、被告が実績補 償に関する規定を設けるか否かを独自に判断したとしても、直ちに、問題視 されるべき事態であるとまではいえない。したがって、原告が主張する上記 の事情は、いずれも、被告による消滅時効の援用が信義則違反であることを 基礎付けるに足りるものではない。
(3) 以上によれば、原告の前記主張はいずれも採用することができず、被告が 原告の被告に対する特許法35条3項に基づく相当の対価請求について消滅 時効を援用することが信義則違反又は権利濫用に当たるということはできな い。

社内規定の該当部分です。
10−1 会社は発明の内、特許、実用新案及び意匠につき、発明者に対し以下に定める報奨金を支払うものとする。ただし、実用新案は自動登録なので登録報償金を支払わないものとする。
(1) 譲渡報奨金
会社が出願した発明1件(発明者が複数の場合でも1件とする)に対して金●(省略)●を支払う。社外発明者には支払わない。
(2) 登録報奨金(実用新案を除く)
登録になった発明1件(発明者が複数の場合でも1件とする)に対して金●(省略)●を支払う。社外発明者には支払わない。
・・・
10−3 発明者である従業員が定年以外の理由で会社を退職した場合、報奨金を受ける権利は、退職と同時に消滅する。

◆判決本文

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令和2(行ケ)10143  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年6月23日  知的財産高等裁判所

 数値限定発明についてサポート要件違反などを理由にした無効審判が請求されました。審決は無効理由無しと判断しました。裁判所も同様です。

ウ 原告は、本件発明の「引張弾性率」の数値範囲は、「250〜600MP a」であるが、「250MPaから500MPaまで」の範囲については、 実施例による裏付けを欠いているから、本件明細書の発明の詳細な説明の 記載から、本件発明の「引張弾性率」の数値範囲うち、少なくとも上記範 囲については、本件発明の課題を解決できると認識することはできないと して、本件発明はサポート要件に適合しない旨主張する。 しかしながら、前記イ(ア)bのとおり、本件明細書の【0039】の記載 から、「MD方向の引張弾性率」が、「250MPa以上」であれば、「鋸刃 でフィルムをカットするために力を加える際、フィルムのMD方向への延 びを抑制でき、鋸刃がフィルムに食い込みやすくでき、カット性が向上」 し、「600MPa以下」であれば、「フィルムが軟らかく、鋸刃の形状に 沿ってフィルムをきれいにカットでき、切断端面に多数の裂け目が発生す るのを抑制できる」ことから、「本実施形態のラップフィルム」(本件発明) の「MD方向の引張弾性率」を「250〜600MPa」の範囲としたこ とを理解できる。また、本件明細書には、MD方向の引張弾性率が「51 0MPa」ないし「540MPa」の範囲の本件発明の実施例(実施例1 ないし6)では、「裂けトラブル抑制効果」の評価結果が「◎」又は「○」、 「カット性」の評価結果がいずれも「◎」であったことが示されており、 「塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムのフィルム切断刃によるカット 性を維持しつつ、巻回体からのフィルム引き出し時、及び化粧箱の中に巻 き戻ったフィルム端部の摘み出し時の裂けトラブルを低減する」という本 件発明の効果が確認されている。
一方、本件明細書には、「250MPaから500MPaまで」の範囲に ついては実施例の記載がないが、上記【0039】の記載が不合理である ことをうかがわせる証拠はないから、上記【0039】の記載から、上記 範囲のものについても、本件発明の上記効果を奏するものと理解できる。 以上によれば、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、 本件発明の「引張弾性率」の「250〜600MPa」の数値範囲全体に わたり、本件発明の上記効果を奏するものと認識できるものと認められる から、上記効果を奏する塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを提供する という本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められる。 したがって、原告の上記主張は理由がない。
エ 原告は、1)「低温結晶化開始温度」の「塩化ビニリデン系樹脂」への影 響について、公然知られた知見がないことを踏まえると、当業者は、本件 明細書の発明の詳細な説明の記載から、「低温結晶化開始温度」を「40〜 60度」の数値範囲とすることにより、本件発明が裂けトラブル抑制効果 を奏することを認識することができない、2)本件明細書の記載によれば、 本件発明の「低温結晶化開始温度」は、「流通・保管時」の値と解されるが、 一方で、本件明細書の記載において、ラップフィルムが製造された後の「流 通・保管時」の低温結晶化開始温度の挙動は一切明らかではないし、「製造 時」から「流通・保管時」を経て、低温結晶化開始温度を「40〜60度」 に調節する方法についても明らかではないこと、本件明細書記載の実施例 1ないし6は、いずれも「流通・保管時」の条件が「28度に設定した恒 温槽にて1ヶ月間保管したもの」という特定の条件におけるものであり、 それ以外の「流通・保管時」の条件下においては、低温結晶化開始温度が 「40〜60度」の範囲になるとは限らないこと、本件明細書の記載から は、ラップフィルムの製造後の「流通・保管時」における流通・保管条件 なども不明であり、かつ、それらの流通・保管条件による「低温結晶化開 始温度」の挙動に与える影響も不明であることからすると、当業者は、本 件明細書の記載に基づいて、ラップフィルムの低温結晶化開始温度が、「流 通・保管時」において、「40〜60度」に属するかどうかを予測すること\nができないから、裂けトラブルの抑制やカット性の向上という本件発明の 課題を解決することができると認識することも困難であるとして、本件発 明は、サポート要件に適合しない旨主張する。
しかしながら、1)については、前記イ(イ)bで説示したとおり、本件明細 書の記載から、本件発明の「低温結晶化開始温度」の意味、「低温結晶化開 始温度」を「40〜60度」の範囲に制御することにより、「巻回体からの フィルム引き出し時、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部の摘み出 し時の裂けトラブル」の発生を抑制する機序を理解できるから、原告主張 の1)は、採用することができない。 次に、2)については、本件明細書の【0044】には、「ラップフィルム 製造後にガラス転移温度以下である−30度で保管した場合」、「すなわち、 ラップフィルムが製造後に全く熱を受けていないとみなせる場合の低温 結晶化開始温度は40度」であったことの記載がある。この記載から、低 温結晶化開始温度は、ラップフィルムが製造された後、外部から熱を受け ることによって「40度」から変化するものと理解できる。そして、本件 明細書の実施例1ないし6は、製造直後のラップフィルムの巻回体を2 8度に設定した恒温槽で1か月保管したものであるが、低温結晶化開始温 度が43度から53度までの範囲にあり、本件発明の数値範囲を満たすも のである。 そして、上記各実施例の上記の保管条件は、「ラップフィルムの出荷後の 流通、及び家庭での保管を想定」した(【0059】)ものであり、この条 10件の設定自体は、出荷後の流通及び家庭での保管を想定したものとして自 然なものである。
そうすると、当業者は、上記【0044】及び【0059】の記載と上 記各実施例の記載から、ラップフィルムが出荷後の流通及び家庭での保管 の過程で熱を受けると、低温結晶化開始温度が40度から上昇することを 理解し、上記各実施例の上記保管条件のみならず、他の保管条件であって も、一般的な流通及び家庭での保管の条件(温度及び保管する時間)の範 囲に沿うものであれば、低温結晶化開始温度が「40〜60度」の範囲内 に収まるラップフィルムを作成することができると認識できると認めら れる。

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令和4(行ケ)10002  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年6月16日  知的財産高等裁判所

 商標「温石灸」の識別力について、知財高裁は識別力なしとした審決を維持しました。

原告は、原告が「温石灸」の語を使用して行っている施術は、平成26 年に施術を開始した、温石及びもぐさの両方を用いるオリジナルの施術で あり、「温石灸」の語は、「温石をもぐさの上に置いて行う施術」との意味 合いを有する造語であるから、本願商標の指定役務との関係で出所識別機 能を有する旨主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(1))。 そこで検討するに、証拠(甲9、10、33)及び弁論の全趣旨によれ ば、原告は、平成26年10月頃から、温めた石をもぐさの上に置いて患 部を温める施術を「温石灸」との名称で行っていること、原告がこのよう な内容の施術を「温石灸」との名称で行うことを許諾したのは、「MoMo Soはり灸院」のみであることが認められる。 しかしながら、本願商標が商標法3条1項3号に該当するか否かは、本 件審決がされた時点における取引の実情を考慮して判断すべきものであ るところ、上記(4)で検討したとおり、本件審決がされた当時の本件業界に おいて、温石を用いた施術が、火をつけたもぐさの代わりに温めた石を用 いることにより、灸に類似する効果を得ることができる施術として、「温石 灸」との名称でも広く行われている実情があったといえることからすれば、 原告がそれ以前から温石及びもぐさの両方を用いる施術を「温石灸」と称 して行っているなどの事情があるからといって、前記の結論が左右される ものではないというべきである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、本件業界において「温石」又は「温石灸」の語が使用されてい る例について、「温石」が「温めた石」ほどの意味合いを有するとしても、 施術において「温石」をどのように用いるかや、「温石」と肌にのせたもぐ さに火を点じて焼く施術である「灸」との関係性が明らかではないから、 使用されている「温石灸」の語から直接的かつ具体的な施術の方法及び内 容(効能)等が想起されるものではない旨主張する(前記第3の1〔原告\nの主張〕(2))。しかしながら、原告が指摘するとおり、商標法3条1項3号に該当する というためには、当該商標から具体的な役務の質(内容)が認識されるこ とが必要であると解されるものの、上記(4)で検討したとおり、本件審決が された当時の取引の実情を考慮すると、「温石灸」の語は、「火をつけたも ぐさの代わりに温めた石を患部に置く、灸と同種の施術」を表すものと容\n易に理解されるものであったというべきである。そうすると、「温石灸」の 語からは、施術に用いる道具、施術の方法及び施術によって得られる効果 がいずれも容易に理解されるものといえるから、本願商標の取引者、需要 者は、「温石灸」の語から役務の質(内容)を具体的に認識することができ るものといえる。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、本件業界において行われている「温石灸」の施術について、1) 「灸」の語の一般的な意味とは異なる内容の施術であり、かつ、様々な施 術の方法及び内容(効能)等を含むものであること、2)「温石」や「温石 療法」等とも表示することができるから、「温石灸」の語は役務の質を表\示 記述するものとして取引に際し必要適切な表示であるとはいえないこと、\n3)全国に存在する「はり及びきゅうを行う施術所」の数からすれば、「温石 灸」の語を使用する事業者はごくわずかであることを理由に、本件業界に おいて「温石灸」が施術されている例があることをもって、「温石灸」の語 が示す役務の内容が一般に理解されるものとはいえない旨主張する(前記 第3の1〔原告の主張〕(3))。 しかしながら、上記1)については、上記(4)で検討したとおり、本件業界 において一般に行われている「温石灸」の施術は、火をつけたもぐさを使 用しない点において、本来的な意味における灸とは異なるものではあるも のの、火をつけたもぐさの代わりに温めた石を用いることにより、灸に類 似する効果を得ることができる施術として行われていることなどからす れば、「温石灸」の語は、このような内容の施術を表すものとして容易に理\n解されるものといえる。 また、上記2)については、上記(4)で検討したとおり、本件審決がされた 当時の本件業界において、温石を用いた施術は、「温石療法」や「温石」等 と呼ばれ、灸とは区別されて取り扱われている実情があったといえるもの の、他方で、必ずしも灸と厳格に区別されていたものではなく、灸に類似 する効果を得ることができる施術として、「温石灸」との名称でも広く行わ れている実情があったといえることからすれば、温石を用いた施術が「温 石療法」や「温石」等とも表示されているからといって、「温石灸」の語が、\n役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表\示であるこ とが否定されるものではないというべきである。 さらに、上記3)については、上記(4)で検討したところに照らせば、全国 に存在する「はり及びきゅうを行う施術所」の数のみを根拠として、前記 のとおりの取引の実情があったことを否定することはできないというべ きである。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
エ 原告は、材料等の名称を冠した従来の「味噌灸」等と原告が行っている 「温石灸」とでは施術内容が全く異なるものであり、「温石灸」の語を従来 の「味噌灸」等の語と同様の意味で捉えると、施術の方法及び内容(効能)\n等が理解し難いものとなるから、「味噌灸」等と称する灸が存在するからと いって、「温石灸」の語が、特定の役務の質・内容を直接的かつ具体的に示 すものであるとはいえない旨主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(4))。 しかしながら、本件において検討すべきであるのは、本件審決がされた 当時の本件業界において使用されていた「温石灸」の語から認識される内 容であるから、原告が行っている「温石灸」の具体的な施術内容が考慮さ れるものではないというべきである。そして、上記(4)で検討したとおり、 本件審決がされた当時の本件業界において、温石を用いた施術は、施術の 道具として温めた石を用いる灸と同種の施術であることから、「味噌灸」等 と同様に、「温石灸」とも称されるようになったものであり、「温石灸」の 語は、「火をつけたもぐさの代わりに温めた石を患部に置く、灸と同種の施 術」を表す語として容易に理解されるものであったというべきである。\nしたがって、原告の上記主張は採用することができない。
オ 原告は、本件テレビ番組において「温石灸」と称された施術は、従来か ら広く使用されてきた「温石」又は「温石療法」と同義のものとして紹介 されたものにすぎないから、そのような内容の放送がされ、本件業界の関 係者がこれに否定的な意見を述べなかったとの事実をもって、「温石灸」の 語が、灸(施術)の一種を表したものとして、特定の役務の質・内容を示\nすものとして理解されたものとみるのは相当でない旨主張する(前記第3 の1〔原告の主張〕(5))。
しかしながら、上記(4)で検討したところに照らせば、原告が指摘すると ころによって、前記の結論が左右されるものではないというべきである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

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令和4(ワ)3374  特許権侵害行為差止等請求事件(承継参加)  特許権  民事訴訟 令和4年6月20日  大阪地方裁判所

 技術的範囲に属しない、さらに、乙36発明から新規性がないと判断されました。前者については原告被告の双方から実験結果が提出されており、被告のものが採用されました。

このように、甲6食品実験等と乙12実験等の結果は異なっているところ、 前記2(1)において認定したとおり、主たる青色光源であるLED5)が青色 発光するのは、パーシャル室を(チルドではなく)微凍結パーシャル状態と し、かつオート急冷中のときであって、この場合、パーシャル室内は約−3度 から約−1度に保たれることになるから、乙12ないし乙15の各実験の結 果にみられるとおり、培地の一部や豚肉が凍結していたとする結果と整合的 に理解できるものであり、乙12、13実験における黄色ブドウ球菌や枯草 菌のコロニーが見られなかったという結果も、黄色ブドウ球菌の一般的な増 殖可能温度域は5〜47.8度(至適増殖温度は30〜37度)であり、枯\n草菌の一般的な増殖可能温度域は5〜55度(最適発育温度帯は20〜4\n5度)であること(乙12、13に添付の参考資料)と矛盾なく理解するこ とができる。
これに対し、甲6実験等は、そもそも本件製品の冷蔵室やパーシャル室内 の温度設定ないし機能設定が明らかでない上、甲15食品実験及び甲15培\n地実験にあっては、試料設置後、冷蔵室扉を封印したというのであるから、 青色光の照射時間は扉の開閉を所定時間行った乙12実験等におけるもの よりも短いものと推認されるのに、青色光照射区で有意に細菌の生長が抑制 されていると評価されて結果が報告されるなどしており、本件製品の冷蔵室 内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長を抑制する効果があるかを判 定するについての実験条件の統制が的確に取れていたのかについて大きな 疑義を生じさせるものというべきである。 以上によると、本件製品の冷蔵室内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の 生長を抑制する効果があるかを判定するについては、甲6食品実験等を採用 することはできず、乙12実験等によるべきである。 そして、乙12、13実験等によると、そもそも本件製品において青色L EDが発光する状態となったパーシャル室内では、黄色ブドウ球菌及び枯草 菌は遮光の有無にかかわらず生長しないことが認められ、乙15実験の結果 によると、豚肉中の細菌量が6つに分けた各試料でおおむね一定であり、ま た結果の判定につき(本件測定器具の精度については議論があるものの)精 度が十分で誤差がないと仮定すると、青色光の照射を受けた豚肉よりも青色\n光の照射を受けなかった豚肉の方が3日後の細菌数が少ないものもあると いう結果も見て取れる。加えて、そもそも本件製品が食品等に照射する光の 強度(光量子束密度)は、白色光等他の波長域の光も含めて最大7μE/m2/s 程度であって(乙8)、この光は冷蔵庫の扉が開いたときに照射されるが、通 常の用法において冷蔵庫の扉を開けるのは短時間にとどまることからする と、本件明細書の実施例等で示される光の強度や照射時間と対比するとごく わずかにすぎないと見込まれること、そもそも冷蔵庫は、一般常識に照らし、 庫内の食品を微生物の活動が抑制される程度の低温に保つことで食品を保 存する機器であることを併せ考えると、本件製品において、LED4)や同5) の青色光の照射が、黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長が抑制されることに影響 を与えているとは認められないというべきである。
(4) まとめ
以上によると、本件製品が、青色光の照射により枯草菌、黄色ブドウ球菌等 の微生物の生長を抑制しているとは認められず、他に、前記(2)の本件製品の 使用方法による青色光の照射の影響によって微生物の生長が抑制されている こと(光の照射と微生物の生長抑制させることとの間に直接的な関連性がある こと)を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件製品の使用方法は、「光 の照射下で」(構成要件B)を充足せず、本件発明の技術的範囲に属しない。\n争点1についての原告の主張(請求原因)は、理由がない。
・・・
(1) 当裁判所は、前記2のとおり、本件製品の使用方法は、本件発明の技術的範 囲に属しないと判断するが、さらに、本件特許は、少なくとも新規性が欠如し ているから特許無効審判により無効にされるべきものと判断する。以下、事案 に鑑み、争点3−7(乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の有無) を検討する。
・・・・
これに対し、原告は、乙36公報に記載された「FL-40SB(東芝電気(株))」 は、混在する光を発することを指摘して、乙36公報には青色光に着目した 記載はないから、「およそ400nm から490nm までの光波長領域にある光 の照射下で培養して、この微生物の生長を抑制させる」こと(構成要件B)\nは開示されていない旨や、近紫外線が必須の構成となっていることを主張す\nる。 しかし、前記(2)によれば、乙36公報の特許請求の範囲第2項は「500 nm から近紫外線の波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線」を微生物 に照射することを明示しており、また乙36公報に記載の発明は、「従来の 殺菌及び滅菌方法では、対象菌体のみならず、人体、家畜類及び各種製品を 損傷させるという弊害があり、これらの弊害なく簡便な菌体の繁殖抑制方法」 を課題とし、この課題の解決手段として、「微生物に少くとも500nm から 近紫外線の波長域に含まれる光線を照射することにより、微生物の繁殖を抑 制する」方法を開示したものである。また、「近紫外線」の意義については 「本発明における「近紫外線」とは、(中略)更に好ましくは、360nm か ら400nm の波長域に含まれる光線を意味する。」とされ、400nm にごく 近い波長の光線が好ましい近紫外線に含まれていることが前提となってい るし、光源−2についてはおよそ400nm〜500nm で発光する蛍光灯であ ることがその定義及び分光エネルギー分布図によって明らかである。そして、 実施例−11にあっては、枯草菌に前記光源−2を照射した結果、他の波長 の光源とは有意に異なる微生物の生長抑制効果があったことが記載されて いる。このような開示がされている乙36公報に接した当業者は、波長が400 nm〜500nm の範囲の青色光が微生物のうち枯草菌の繁殖を抑制するとす る乙36発明が開示されていると容易に理解し得るものである。

◆判決本文

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令和2年(受)第1442号 投稿記事削除請求事件 令和4年6月24日 第二小法廷判決

 知財案件ではありませんが、原告の実名入りの逮捕事実が複数の報道機関のウェブサイトに掲載された(有罪確定)。このリンクツイートの削除要請が認められるのか?について、最高裁は、認めないとした高裁判断を取り消しました。
 本件事実は、他人にみだりに知られたくない上告人のプライバシーに属する事実である。他方で、本件事実は、不特定多数の者が利用する場所において行われた軽微とはいえない犯罪事実に関するものとして、本件各ツイートがされた時点においては、公共の利害に関する事実であったといえる。しかし、上告人の逮捕から原審の口頭弁論終結時まで約8年が経過し、上告人が受けた刑の言渡しはその効力を失っており(刑法34条の2第1項後段)、本件各ツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどからすれば、本件事実の公共の利害との関わりの程度は小さくなってきている。また、本件各ツイートは、上告人の逮捕当日にされたものであり、140文字という字数制限の下で、上記報道記事の一部を転載して本件事実を摘示したものであって、ツイッターの利用者に対して本件事実を速報することを目的としてされたものとうかがわれ、長期間にわたって閲覧され続けることを想定してされたものであるとは認め難い。さらに、膨大な数に上るツイートの中で本件各ツイートが特に注目を集めているといった事情はうかがわれないものの、上告人の氏名を条件としてツイートを検索すると検索結果として本件各ツイートが表示されるのであるから、本件事実を知らない上告人と面識のある者に本件事実が伝達される可能\性が小さいとはいえない。加えて、上告人は、その父が営む事業の手伝いをするなどして生活している者であり、公的立場にある者ではない。以上の諸事情に照らすと、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越するものと認めるのが相当である。したがって、上告人は、被上告人に対し、本件各ツイートの削除を求めることができる。\n

◆判決本文

原審はこちら。なお、1審判決(平成30(ワ)66)は判決文がアップされていません。

◆令和1(ネ)4733
現時点(本件口頭弁論終結時)においては,広く利用されている検索事業者であるグーグルの機能を用いて検索しても(甲90,96,102),本件各投稿記事に関する情報が検索結果として表\示されることはない。本件各投稿記事が引用するインターネット上の報道記事も,すでに削除されている(乙23)。第1審原告が本件逮捕を理由に就職や交友関係などで不利益を受けたと考えている出来事は,いずれも平成▲年以前(刑の消滅前)の出来事であって,グーグルなど一般的な検索事業者の提供する検索機能により本件逮捕の事実が知られたことが原因と推定される。そして,ツイッターの検索機能\の利用頻度は,グーグルなど一般的な検索事業者の提供する検索機能ほどには高くないことは,公知の事実である。そうすると,本件逮捕の事実が伝達される範囲はある程度限られ,かつ,本件各投稿記事によって第1審原告が具体的被害を被る可能\性も低下しているということができる。なお,第1審原告は,平成▲年▲月に婚姻したが,配偶者やその家族には本件逮捕や罰金刑確定の事実は伝えていない。
エ 以上の事実を総合すると,罰金の納付(平成▲年▲月▲日)から5年が経過して刑の消滅の効果(刑法34条の2)が発生し,その後更に3年近くが経過したこと及び第1審原告が本件各投稿記事が一般の閲覧に供されることにより各種の社会的な不利益を受ける可能性が消滅したわけではないことを考慮しても,被疑事実の内容や本件各投稿記事が公共の利害に係り公益目的で投稿されたこと,既にグーグルなどの一般的な検索サイトでは本件逮捕の事実が検索結果として表\示されることはなく,具体的な不利益を受ける可能性が低下していることなどに鑑みれば,本件において,本件各投稿記事を一般の閲覧に供する諸事情よりも本件逮捕の事実を公表\されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。よって,第1審原告による本件各投稿記事の削除請求は理由がない。

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令和3(ネ)10102 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年6月8日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審は、発明の技術的意義から、用語を解釈し、技術的範囲に属しないと判断しました。知財高裁も同様です。特許訴訟事件にしては、1審の判決から約半年で判決がなされています。新たな争点がなかったのかもしれません。

 当裁判所も、被告各製品は本件各発明の構成要件1E4)等をいずれも充足し ないものであるから、本件各発明の技術的範囲に属せず、したがって、その余 の点について判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がないものと 判断する。
その理由は、後記1のとおり原判決を補正し、後記2に当審における当事者 の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第4の 1及び2に記載されたとおりであるから、これを引用する。
・・・
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 控訴人は、前記第2の5(1)アのとおり、本件各発明の「係止片」は、1)片 状の部材であり、2)針ハブに向かって傾斜した内側面を有し、3)大径部に円 筒状部と一体形成され、4)小径部側には設けられていないものをいうから、 上記構成要素から特定される形状を有しない係止片が小径部側に設けられて\nいても構成要件1E4)等の充足を左右しない旨主張しており、同イ及びウの 主張もこのような理解を前提とするものである。
しかしながら、引用に係る原判決第4の1(1)エ(補正後のもの)のとおり、 本件各発明の技術的意義及び出願経過からみて、針先の再露出を防止する機 能を有する係止片は小径部側には設けられていないこととされている(係止\n片が小径部側に設けられていないことに特有の技術的意義がある。)と理解 するのが相当であり、したがって、小径部に設けられることで構成要件1E\n4)等の充足が妨げられる係止片は、その形状を問われないものというべきで あるから、針先の再露出を防止する機能を有する係止片が小径部側に存する\nことは、対象製品が構成要件1E4)等を充足することを妨げるものである。 さらに、控訴人は、「係止片」という用語を使用している以上、「片」とは その名が示すとおり「片」(へん)状の部材であるから、「係止片」とは「片 状(へんじょう)の部材」を指すものである旨主張するところ、確かに、控 訴人は、本件補正により「係止部」を「係止片」と改めたものではあるが、 上記のような本件各発明の技術的意義及び出願経過からすれば、充足性の判 断に当たり、針先の再露出を防止するために小径部に設けられる係止部材を 片状のものに限定する意義は見いだせない。以上によれば、控訴人の上記主張は、いずれも採用することができない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和1(ワ)8905

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令和1(ワ)9842  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年6月9日  大阪地方裁判所

 102条2項の覆滅部分(2割)について、3項のライセンス相当額が加算されて、トータルで2億円弱の損害賠償が認められました。

(ウ) 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば、一定数の競合品の存在による推定覆滅がなさ れるものの、一方で、競合品に該当する商品数が多いとはいえないこと、被告製品 の売上に対する本件各訂正後発明の貢献の程度は大きいと認められること、被告独 自の販売ルートの点は限定的な影響に留まり、その他に推定を覆滅すべき具体的な 事情は見当たらないことから、本件においては2割の限度で損害額の推定が覆滅さ れるものと解するのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採 用できない。
ウ 以上から、特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は、1億4759万2498円(≒184,490,622 円×0.8)となる。
(2) 特許法102条3項に基づく主張について
ア 被告製品の売上
原告製品の販売開始前である平成25年から平成27年11月24日までの被告 製品の売上は合計1億3814万3836円である(当事者間に争いがない)。
イ 実施料率
本件において、本件各訂正後発明の実施許諾契約の存在を認めるに足りず、証拠 (乙26)及び弁論の全趣旨によれば、平成22年8月31日に発行された「ロイ ヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウ ハウ〜」において、光学機器及び家具、ゲームの技術分野における正味販売高に対 する実施料率は、光学機器については、平均が3.5%、最大値が9.5%、最小 値が0.5%、標準偏差が1.9%であり、家具及びゲームについては、平均が2. 5%、最大値が4.5%、最小値が0.5%、標準偏差が1.5%であることが認 められる。これらに、原告と被告は競業関係にあること、前記(1)イのとおり、本件 各訂正後発明の貢献の程度その他本件に現れた諸事情を総合的に考慮すると、本件 における実施に対して受けるべき料率としては6%が相当であると認める。
原告は、他社との和解内容等を考慮して、被告製品1台あたり1万円(実施料率 23.6%)が妥当である旨を主張する。しかし、種々の事情を総合的に考慮して 和解に至ることが通常であり、和解内容を実施許諾契約と同様に考えるのは相当で ないことに加え、証拠(甲42、43)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、和解 契約等において、相手方が、原告に対し、原告が実施料相当額であると主張してい る金員を支払う他に金員を支払う条項は存在しないことが認められ、特許法102 条3項及び同条2項の適用により損害の額を算定する本件とは条件を異にするとい うべきである。
ウ 以上から、特許法102条3項に基づき推定される損害額は、828万86 30円(≒138,143,836×0.06)となる。
(3) 特許法102条2項の推定覆滅と同条3項の適用について
特許法102条2項の推定が覆滅された部分について、特許侵害行為と被告の受 けた利益との相当因果関係が認められないとしても、当該部分について、特許権者 は、特許権侵害の際に請求し得る最低限度の損害額として同条3項の適用により算 定される損害額の賠償請求をし得るものと解される(この点につき被告も争ってい ない。)。 平成27年11月25日から令和元年7月までの被告製品の売上は3億3613 万9283円であるところ(当事者間に争いがない)、前記(1)及び(2)のとおり、 特許法102条2項の推定は2割覆滅され、同条3項の実施料率は6%である。 したがって、特許法102条2項の推定が覆滅された部分について同条3項が適 用されることによる損害額は、403万3671円(≒336,139,283×0.2×0.06) となる。

◆判決本文

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平成30(ワ)24818 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月23日  東京地方裁判所

 東京地裁(40部)は、約5700万円の損害賠償を認めました。

ア 特許法102条3項の「受けるべき金銭の額」を算定する基礎となる相 当実施料率については、1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実 施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考 慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や 重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該製品に用いた 場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵害者との競 業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理 的な料率を定めるべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号 令和元年6月7日特別部判決参照)。
イ これを本件についてみると、本件訂正発明1の実際の許諾例は存在しな いものの、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、実施料の相場について、 「精密機器」の特許の実施料率が、平均3.5%(最大値9.5%、最低 値0.5%)であり、「その他」の分野の司法決定の実施料率が、平均7. 3%(最大値12.0%、最小値3.0%)であると報告された例がある こと(甲22)、原告が、第三者との間で、その発明の名称を「導電性ボ ール配列用マスク及びその製造方法」とする特許について、実施料率を1 0%とする旨の合意をしたことがあり(甲23)、その発明の名称を「ク リーム半田用メタルマスクおよびスクリーン印刷用スキージ技術」とする 特許について、実施料率を20%とする合意をしたことがあること(甲2 4)、以上の事実を認めることができる。 これに対し、被告は、これらの許諾例は、認識マークの電解処理とは無 関係なものを抽象的に一括するものであると主張するが、特許発明の属す る一定の範囲の分野を相当実施料率の考慮要素とすることは正当であり、 被告が指摘するような個別具体的な特許発明の内容については、特許発明 自体の価値や技術内容の観点から考慮するのが相当である。
ウ そして、本件訂正発明1は、前記1(1)のとおり、認識マークを形成する 従来の技術が、認識マークとして充填したトナーが凹部から脱落し、また、 箔物メタルマスクに適用することが困難であるという欠点があったため、 これを解消するものであって、本件訂正発明1と同一の作用効果を代替す る技術があることを認めるに足りる証拠はない。ただし、現在においても、 本件訂正発明1の電解マーキングよる認識マーク以外の認識マークの形成 方法も相当な割合で使用されており(乙93、99)、顧客によっては、 電解マーキング以外の方法を特に指示する場合があることも認められるこ とからすると、メタルマスクの認識マークに係る市場において、本件訂正 発明1の方法が、唯一の実用的な技術であるとまでいうことはできない。
エ 上記のような本件訂正発明1の技術内容や重要性に照らせば、これを実 施することは、原告及び被告にとって、相応に売上げや利益に貢献するも のであるといえる。そして、原告が、本件訂正発明1に係る技術を広く宣 伝等しているとは認められないとしても(乙97)、原告と被告が、本件 訂正発明1に係るメタルマスクの分野で競合する会社同士であることを考 慮すれば、仮に、原告が、被告に対し、本件訂正発明1の実施を許諾する とすれば、その実施料は相当に高額になったものといえる。
このような事情に加え、特許法102条3項の「受けるべき金銭の額」 を算定する基礎となる相当実施料率は、特許権侵害をした者に対し事後的 に定められるものであって、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるこ とをも踏まえると、被告製品1による本件訂正発明1の侵害に係る実施料 率としては、売上高の●(省略)●%を認めるのが相当である。
オ なお、被告は、侵害論に係る裁判所の心証開示後、損害論の相当実施料 率の考慮要素として、本件訂正発明1が、既知の技術であり、被告が、先 使用していたものであるなどとして、乙2メタルマスクとは別個の製品に 係る分析結果などを証拠提出した。しかし、当該主張は、実質的には先使 用の抗弁(争点2)の根拠となる事由を追加するものであり、訴訟の完結 を遅延させると認められたことから、当裁判所は、被告に対し、上記証拠 提出に係る主張を補充しないように訴訟指揮をした。そして、被告は、こ れを侵害論の段階で主張立証し得なかった理由を特に説明しないのである から、当該主張立証は、時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条 1項)として、原告の申立てに基づき却下するのが相当である。\n

◆判決本文

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令和2(ネ)10057 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ICチップのメモリの書換えを技術的に困難にする措置をプリンターカートリッジに採用することが、独禁法が禁ずる行為に該当するのかが争われました。1審は、独禁法違反(権利濫用)としましたが、知財高裁は、独禁法違反ではなく、約470万円の損害賠償を認めました。

 被控訴人らは,控訴人の本件請求は,控訴人が,原告電子部品(ICチップ) のメモリの書換えを技術的に困難にする本件書換制限措置という合理性及び必 要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品を取 り外して被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,原告電子部品(IC チップ)のメモリを書き換える態様により原告製品をリサイクルしたリサイク ル品の原告電子部品についての本件各特許権の消尽の成立を控訴人の意思によ り妨げ,そのような結果を利用したものであるという点において消尽の趣旨を 潜脱し,また,リサイクル品が装着された場合にディスプレイ上に「?」が表\n示されるような設定と本件書換制限措置という妨害行為を組み合わせる方法で, 純正品と同等のリサイクル品を競争上劣位におき,リサイクル事業者である被 控訴人らの取引を不当に妨害しているから,公正な競争を阻害するものであり, 競争者に対する取引妨害として,独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6 号,一般指定14項)に抵触することを総合考慮すると,控訴人が,被控訴人 らに対し,被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請求権及び損害賠 償請求権を行使することは,権利の濫用に当たり許されない旨主張するので, 以下において判断する。
(2) 被控訴人ら主張の本件書換制限措置による競争上の不利益について
被控訴人らは,1)トナーカートリッジの消費者は,トナー残量表示の有無\nを製品選択における重要な要素であると考えており(乙25),いくら価格 が安くとも,トナー残量表示のないリサイクル製品は,純正品と同等ではな\nい「中途半端な再生品」として消費者に受け入れられない,2)ICチップを 書き換えずにトナーを再充填した場合には,トナー残量表示が常に「?」と\nなりトナー残量が分からなくなるという不都合にとどまらず,トナーが少な くなってきた時のカートリッジ交換予告メッセージが出ないため,トナーが\nなくなった時に突然トナーの補給を求める表示が出てプリンタが動かなくな\nるという不便をユーザーが被ることになり,その結果,リサイクル事業者に 大きな不利益を与えるものである,3)残量表示がされず,「?」が表\示され る製品がユーザーに受け入れられないことは,被控訴人らの実施した聴き取 り調査の結果(乙25,66)から明らかであり,また,残量表示がされな\nいことは,官公庁の入札条件を満たさない(乙67の1ないし4,68の1 ないし4)ことからも明らかであり,このことは,本件アンケート調査(乙 70)の結果及び東京国税局の回答書(乙71)からも,裏付けられる,4) 本件書換制限措置を回避できたというためには,大量に販売されるリサイク ルトナーカートリッジが長期間安定的にプリンタで使用できる必要があり, 実用に耐えうる程度の本件書換制限措置の回避は事実上不可能か,著しく困\n難である,5)したがって,本件書換制限措置は,リサイクル業者である被控 訴人らに対し,競争上著しい不利益を与えるものである旨主張するので,以 下において判断する。
・・・
以上のとおり,本件書換制限措置が講じられた原告電子部品が搭載された 純正品の原告製品が装着された原告プリンタと使用済みの原告製品にトナー を再充填した再生品が装着された原告プリンタの機能を対比すると,再生品\nが装着された原告プリンタは,トナー残量表示に「?」と表\示され,残量表\n示がされず,予告表\示がされない点で純正品の原告製品が装着された原告プ リンタと異なるが,再生品が装着された場合においても,トナー切れによる 印刷停止の動作及び「トナーがなくなりました。」等のトナー切れ表示は純正\n品が装着された場合と異なるものではなく,印刷機能に支障をきたすもので\nはないこと,再生品が装着された原告プリンタにおいても,トナー残量表示\nに「?」と表示されるとともに,「印刷できます。」との表\示がされるので, 再生品であるため残量表示がされないことも容易に認識し得るものであり,\nユーザーが印刷機能に支障があるとの不安を抱くものとは認められないこと,\nユーザーは,残量表示がされないことについて予\備のトナーをあらかじめ用 意しておくことで対応できるものであり,このようなユーザーの負担は大き いものとはいえないことを踏まえると,残量表示がされない再生品と純正品\nとの上記機能上の差異及び価格差を考慮して,再生品を選択するユーザーも\n存在するものと認められる。また,前記認定のとおり,残量表示がされるこ\nとが公的入札の条件であるとはいえない。
一方,リサイクル事業者においては,残量表示がされないことについてユ\nーザーが不安を抱くことを懸念するのであれば,再生品であるため残量表示\nがされないが,印刷はできることを表示することによって対応できること,\n電子部品の形状を工夫することで,本件各発明1ないし3の技術的範囲に属 さない電子部品を製造し,これを原告電子部品と取り替えることで,本件各 特許権侵害を回避し,残量表示をさせることは,技術的に可能\であり,●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●からすると, 原告プリンタ用のトナーカートリッジの市場において,本件書換制限措置に よるリサイクル事業者の不利益の程度は小さいものと認められる。 次に,控訴人は,本件書換制限措置を行った理由について,原告電子部品 に本件書換制限措置が講じられていない場合には,原告プリンタに自ら品質 等をコントロールできない第三者の再生品のトナーの残量が表示され,残量\n表示の正確性を自らコントロールできないので,このような弊害を排除した\nいと考えて本件書換制限措置を講じたものである旨を主張し,経営戦略とし て,原告製プリンタに対応するトナーカートリッジのうち,ハイエンドのプ リンタであるC830及びC840シリーズに対応する原告製品に搭載され た原告電子部品を選択した旨を述べていること(甲75,76),その理由に は,相応の合理性が認められること,上記のとおり,本件各特許権侵害を回 避した電子部品の製造が技術的に可能であることを併せ考慮すると,控訴人\nが本件書換制限措置がされた原告電子部品を取り替えて使用済みの原告製品 に搭載した被告電子部品について本件各特許権を行使することは,原告製品 のリサイクル品をもっぱら市場から排除する目的によるものと認めることは できない。
上記のとおり,本件書換制限措置によりリサイクル事業者が受ける競争制 限効果の程度は小さいこと,控訴人が本件書換制限措置を講じたことには相 応の合理性があり,控訴人による被告電子部品に対する本件各特許権の行使 がもっぱら原告製品のリサイクル品を市場から排除する目的によるものとは 認められないことからすると,控訴人が本件書換制限措置という合理性及び 必要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品 を取り外し,被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,上記消尽の成 立を妨げたものと認めることはできない。 以上の認定事実及びその他本件に現れた諸事情を総合考慮すれば,控訴人 が,被控訴人らに対し,被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請 求権及び損害賠償請求権を行使することは,競争者に対する取引妨害として, 独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)に抵触す るものということはできないし,また,特許法の目的である「産業の発達」 を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するものであるということはできないか ら,権利の濫用に当たるものと認めることはできない。 したがって,被控訴人らの前記主張は採用することができない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)40337

上記(1)ないし(5)によれば,本件各特許権の権利者である原告は,使用 済みの原告製品についてトナー残量が「?」と表示されるように設定した\n上で,本件各特許の実施品である原告電子部品のメモリについて,十分な\n必要性及び合理性が存在しないにもかかわらず本件書換制限措置を講じ ることにより,リサイクル事業者である被告らが原告電子部品のメモリの 書換えにより本件各特許の侵害を回避しつつ,トナー残量の表示される再\n生品を製造,販売等することを制限し,その結果,被告らが当該特許権を 侵害する行為に及ばない限り,トナーカートリッジ市場において競争上著 しく不利益を受ける状況を作出した上で,当該各特許権の権利侵害行為に 対して権利行使に及んだものと認められる。 このような原告の一連の行為は,これを全体としてみれば,トナーカー トリッジのリサイクル事業者である被告らが自らトナーの残量表示をし\nた製品をユーザー等に販売することを妨げるものであり,トナーカートリ ッジ市場において原告と競争関係にあるリサイクル事業者である被告ら とそのユーザーの取引を不当に妨害し,公正な競争を阻害するものとして, 独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)と抵触 するものというべきである。
そして,本件書換制限措置による競争制限の程度が大きいこと,同措置 を行う必要性や合理性の程度が低いこと,同措置は使用済みの製品の自由 な流通や利用等を制限するものであることなどの点も併せて考慮すると, 本件各特許権に基づき被告製品の販売等の差止めを求めることは,特許法 の目的である「産業の発達」を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するもの として,権利の濫用(民法1条3項)に当たるというべきである。
イ 損害賠償請求について
差止請求が権利の濫用として許されないとしても,損害賠償請求につい ては別異に検討することが必要となるが,上記ア記載の事情に加え,原告 は,本件各特許の実施品である電子部品が組み込まれたトナーカートリッ ジを譲渡等することにより既に対価を回収していることや,本件書換制限 措置がなければ,被告らは,本件各特許を侵害することなく,トナーカー トリッジの電子部品のメモリを書き換えることにより再生品を販売して いたと推認されることなども考慮すると,本件においては,差止請求と同 様,損害賠償請求についても権利の濫用に当たると解するのが相当である。 ウ したがって,本訴において,原告が,被告らに対して,本件各特許権に 基づき,被告製品の製造,販売等の差止め及び損害賠償等の請求をするこ とは,いずれも権利の濫用に当たり許されないものというべきである。

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令和3(行ケ)10160  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年5月31日  知的財産高等裁判所

 先願商標「一升パン」の商標権者が、本件商標「三橋の森の一升パン」について無効審判を請求しました。審決は類似しないと判断しました。知財高裁(3部)も同様です。先願商標が周知か否かについては、「”一升パン”の語は、それ自体が特徴的又は印象的な語でなく、”一升パン”と称する商品は、少なくとも100を超える事業者によっても製造、販売されていた」として、周知ではないとした審決の判断を維持しました。

 原告は、本件商標について、特定の場所を示すものにすぎない「三 橋の森」の語と、識別力の強い造語である「一升パン」の語とが組み合 わされた結合商標であり、これらは不可分的に結合しているものではな く、また、「一升パン」部分が商品の識別情報として強く支配的な印象を 与えるから、同部分を要部として認定し、引用商標と対比すべきである 旨主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(2))。
(イ) そこで検討するに、本件商標の構成全体をみると、「三橋の森」と「一升パン」との間の「の」は、所有や所属等を示す格助詞であるといえる\nから、本件商標は、「三橋の森」の語と「一升パン」の語とが格助詞であ る「の」で結合された結合商標であるといえる。 そして、「三橋の森」の語は、一般の辞書等に掲載されている語ではな く、また特定の地域や森の名称を指すものでもないことからすれば、造 語であるとみるのが相当である。また、証拠(甲27の1ないし3)及 び弁論の全趣旨によれば、「三橋の森」は、埼玉県内に所在する、結婚式 場やフレンチレストラン等が一体となった複合商業施設の名称であると 認められる。これらの事情を考慮すると、「三橋の森」の語は、単に「森 等の緑に囲まれた公園等の地域」を表すものとはいえず、「三橋の森」部分からは、商品の出所識別標識としての称呼、観念が生じるものといえ\nる。
他方で、「一升パン」の語は、前記のとおり、一般の辞書等に掲載され ている語ではないことからすれば、造語であるとみるのが相当である。 また、一般に、「一升」の語は、米や日本酒、醤油の容量を表す単位として用いられるものの、パンの数量を表\す単位として用いられるものとはいえないことからすれば、「一升パン」の語は、通常は組み合わされるこ とのない「一升」の語と「パン」の語とが組み合わされたものといえる。 これらの事情を考慮すると、「一升パン」部分についても、商品の出所識 別標識としての称呼、観念が生じるものといえる。 このように、本件商標の「三橋の森」部分及び「一升パン」部分は、 いずれも商品の出所識別標識として機能する語であるといえる。
(ウ) しかしながら、「一升パン」の語は、旧来から1歳の誕生日を迎えた 子供のお祝いとして用いられてきた「一升餅」の「餅」の語を「パン」 に置き換えたものにすぎないといえる(甲4)上、このような「一升パ ン」と称する商品は、本件商標の登録査定時において、原告以外の少な くとも100を超える事業者によっても製造、販売されていたといえる こと(甲4、乙1ないし147)からすれば、「一升パン」の語は、通常 は組み合わされることのない二つの語を組み合わせた造語であること を考慮しても、それ自体が特徴的又は印象的な語であるとまではいえな い。また、前記のとおり、本件商標は、「三橋の森の一升パン」の文字を 標準文字で書してなるものであり、いずれかの部分が目立つ態様で記載 されているものではない上、後記3(2)で検討するところに照らせば、本 件商標の登録査定時において、「一升パン」の語が、原告商品を表示するものとして、本件商標の取引者及び需要者の間において広く認識されて\nいたものとはいえない。 以上の各事情を考慮すると、本件商標の「一升パン」部分は、取引者、 需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるも のであるとは認められない。
(エ) 以上によれば、本件商標について、「一升パン」部分が取引者、需要 者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと は認められず、また、「一升パン」部分以外の部分である「三橋の森」部 分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないとも認められないか ら、本件商標の「一升パン」の部分を抽出し、この部分だけを引用商標 と比較して商標そのものの類否を判断することは許されないというべ きである。
(オ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、本件商標のように「○○の△△」という商標出願については、 「の」の前後の語のいずれかが要部として抽出された上で、他の商標と類 似するとして拒絶された例が多数存在する旨主張する(前記第3の1〔原 告の主張〕(5))。しかしながら、商標登録の可否は、商標の構成、指定商品又は指定役務、取引の実情等を踏まえて、具体的な実情に基づき商標ごとに個別に判断すべきものであるから、原告が指摘するような他の例があるからといって、\n前記の結論が左右されるものではないというべきである。

◆判決本文

関連事件です。こちらは、本件原告が、本件被告の「一升パン」は3条1項3号、または4条1項16号違反として無効審判を請求し、無効理由無しと判断されています。知財高裁も同様です。

◆令和3(行ケ)10154

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令和3(行ケ)10082  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年5月31日  知的財産高等裁判所

 引用発明では、本願発明と共通する課題が異なる別の手段によって既に解決されているので、組み合わせの動機付けがないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。。

しかしながら、前記1 で検討したとおり、本願発明は、被覆層を除 去してコア電線を露出させる作業の作業性に関し、コア材の外周面に粉 体が塗布された従来のケーブルには、コア材を取り出す作業の際に粉体 が周囲に飛散し、作業性が低下してしまうという課題があったことから、 コア電線と被覆層との間に、コア電線に巻かれた状態で配置されたテー プ部材を備える構成とすることにより、テープ部材を除去することによ\nって容易にコア電線と被覆層とを分離することができるようにして、上 記課題を解決しようとする点に技術的意義を有するものである。 他方で、前記2 イで検討したとおり、引用発明は、線心の取り出し を容易に行うことができるようにすることを課題の一つとする発明で あり、この点で本願発明と課題を共通にするものといえるが、電源用線 心及び信号用線心の外周をシースで覆うのみの形で被覆する構成とす\nることによって上記課題を解決しようとするものであり、本願発明とは 課題を解決する手段を異にするものといえる。
このように、引用発明においては、本願発明と共通する課題が本願発 明とは異なる別の手段によって既に解決されているのであるから、当該 課題解決手段に加えて、両線心をテープ部材で巻き、その結果、両線心 とシースとの間にテープ部材が配置される構成とする必要はないという\nべきである。そして、引用発明に上記のような構成を加えると、線心を\n取り出そうとする際に、シースを除去する作業のみでは足りず、更にテ ープ部材を除去する作業が必要となることから、かえって作業性が損な われ、引用発明が奏する効果を損なう結果となってしまうものといえる。 加えて、甲1公報をみても、引用発明の効果を犠牲にしてまで両線心を テープ部材で巻くことに何らかの技術的意義があることを示唆するよう な記載は存しない。 以上によれば、引用発明に上記周知技術を適用することには阻害要因 があるというべきであるから、相違点3に係る「前記コア電線のみを巻 くテープ部材」という構成の意義について検討するまでもなく、本件原\n出願日当時の当業者が、引用発明及び上記周知技術に基づいて、相違点 3に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものとはいえない。\n
イ 相違点4に係る容易想到性
相違点4に係る本願発明の構成は、相違点3に係る本願発明の構\成であ る「テープ部材」を含むものであるところ、上記アで検討したところによ れば、相違点4に係る「前記テープ部材上に形成された被覆層」という構\n成の意義について検討するまでもなく、本件原出願日当時の当業者が、引 用発明及び上記周知技術に基づいて、相違点4に係る本願発明の構成を容\n易に想到し得たものとはいえない。
ウ 相違点6に係る容易想到性
相違点6に係る本願発明の構成は、相違点3に係る本願発明の構\成であ る「テープ部材」を含むものであるところ、上記アで検討したところによ れば、本件原出願日当時の当業者が、引用発明及び上記周知技術に基づい て、相違点6に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものとはいえない。\n
エ 相違点3、4及び6に係る被告の主張に対する判断
被告は、相違点3に関し、1)甲1公報には引用発明が簡素な構成を課\n題解決手段としたものであることについては何も記載されていない、2) 甲1公報に記載された電源用線心及び信号用線心の取り出しが容易に行 えるという効果は従来例と比較しての記載にすぎない上、線心がシース 内に埋め込まれている従来例及び線心をシースで覆う引用発明のいずれ が簡素な構成であるかは不明である、3)甲1公報に記載された実施例に ついて、両線心の外周がシースで覆われているのみであるとしても、甲 1公報には両線心の上に何らかの部材を介在させることを排除する記載 はないことを理由に、引用発明にテープ部材を介在させることについて、 原告が主張するような阻害要因があるとはいえない旨主張する(前記第 3の〔被告の主張〕3 エ)。
しかしながら、前記2 イで検討したとおり、引用発明は、線心の取 り出しを容易に行うことができるようにすることを課題の一つとする発 明であり、電源用線心及び信号用線心の外周をシースで覆うのみの形で 被覆する構成とすることによってこの課題を解決しようとするものであ\nるといえることからすれば、上記1)の主張は理由がないというべきであ る。 また、上記周知技術の適用が引用発明の効果に及ぼす影響については、 引用発明の構成を前提に検討すべきものであって、従来例と対比して検\n討すべきものではないから、上記2)の主張は理由がないというべきであ る。 さらに、甲1公報には、線心上に何らかの部材を介在させることを排 除する明示的な記載はないものの、上記アで検討したとおり、引用発明 における課題解決手段及びその効果を考慮すれば、引用発明に上記周知 技術を適用すると、線心の取り出しを容易に行うことができるようにす るという引用発明の効果を損なう結果となってしまうというべきである から、上記3)の主張も理由がないというべきである。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
 被告は、相違点4及び6に係る容易想到性についても縷々主張するが、 これまで検討したとおり、当業者が相違点3に係る本願発明の構成であ\nる「テープ部材」を容易に想到し得たものとはいえない以上、相違点4 及び6に係る本願発明の構成も容易に想到し得たものとはいえないから、\nいずれの主張も前記の判断を左右するものではないというべきである。

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令和3(ネ)2663 意匠権侵害差止等請求控訴事件  意匠権  民事訴訟 令和4年6月1日  大阪高等裁判所

 控訴審(大阪高裁)も、1審と同じく非類似と判断しました。なお、不競法については、特別顕著な形態ではないと判断しました。

ア 具体的構成態様D/dにおける差異点について\n
1審原告は、原審が、円筒状中空本体の形状に関する差異点2)の与える印 象について、差異点3)と逆の認定をしたことについて、主観的な印象であり、 その理由が不明であると主張する。しかし、原告意匠の要部である具体的構\n成態様D3、被告意匠の具体的構成態様d3を対比した結果である差異点2) についてみると、前者は、円筒状中空本体が円周部(周辺部)まで厚みがあ ることから(十分な体積を感じることができる。)、存在感を感じさせると認\n定することに合理性があり、一方、後者の側面の厚みは、円周部(周辺部) に行くに従い、薄くなっていることから、すっきりとした印象を与えるとい える。上記と同様に原審が認定した差異点3)は、円筒状中空本体の中空部の 直径と本体の直径との違いであって、差異点2)とは異なる差異点であるから、 「すっきりした印象」が逆に認定されたからといって不合理ということはで きない。
また、1審原告は、差異点2)、3)が微差であると主張するが、差異点2)に つき、原告意匠では円筒状であるのに対し、被告意匠では、上半分が略梯形 状で、その形状の違いは大きく、微差ということはできない。また、差異点 3)についても、需要者の注意を最も引く部分である円筒状中空本体の下面部 に占める、中空部(ファンガード部分に相当する。)と透光部の割合の大小が 相当に異なることになるから、微差ということはできない。 なお、点灯した場合、差異点が明確でなくなることがあったとしても、需 要者は、常に点灯した状態で看取するわけではなく、上述した点が左右され ることはない。1審原告の主張は採用することができない。
イ 具体的構成態様E/eについて\n
1審原告は、原審が、原告意匠の要部である具体的構成態様E3、被告意\n匠の具体的構成態様e3を認定した上で指摘する差異点Aが微差であり、む\nしろ、円形板から放射状に多数のファンガードが面一に形成されているとい う全体的な印象の方が強いという。確かに、原審の認定した上記具体的構成\n態様(E3/e3)によると、1審原告が主張するとおり、いずれの意匠も、 多数のファンガードが円筒状中空部下面とほぼ面一に形成されているという 印象は受けるものの、このような形態を備えた先行意匠が存在することが認 められ(乙14〜16、乙17の1・2)、多数のファンガードが存在するこ とや、略面一であることもって特徴的ということはできない。むしろ、ファ ンガードの形状が直線的であるか、曲線的(渦巻き状)であるかについての 差異点は、より強い印象を与えるというべきであり、上記差異点を微差とい うことはできない。 なお、1審原告は、点灯した状態では、上記の差異点について、認識され なくなると主張するが、前記アのとおり、常に点灯した状態で看取されるわ けではない。1審原告の主張は採用することができない。
ウ 具体的構成態様H/hについて\n
1審原告は、原審が、原告意匠の要部である具体的構成態様H3、被告意\n匠の具体的構成態様h3を認定した上で指摘する差異点6)が微差という。 しかし、原審の認定した上記具体的構成態様(H3/h3)によると、側\n面視の本体に対して透光部の占める割合は、原告意匠(約3分の1)と被告 意匠(約4分の3)とで相当に異なっており、この違いは異なる印象を与え るということができ、微差ということはできない。また、前記アのとおり、 被告意匠では円筒状中空本体側面の上半分が略梯形状であって、その部分の 与える印象が異なるため、原告意匠と被告意匠の側面における透光部の占め る割合(高さ)を、上記略梯形状を含めた円筒状中空本体側面に対する下面 からの高さとして、単純に比較することもできない。 なお、1審原告は、点灯した状態では、上記の差異点について、認識され なくなると主張するが、前記アのとおり、常に点灯した状態で看取されるわ けではなく、1審原告の主張を採用することはできない。
エ 具体的構成態様I/iについて\n
1審原告は、原審が、原告意匠の要部である具体的構成態様I3(ただし、\n口金部を除く。)、被告意匠の具体的構成態様i3(ただし、シーリングプラ\nグを除く。)を認定した上で、その差異点8)、9)から受けるとした印象につい て、支柱体は天井から吊り下げられる部位に関するものであり、しかも、支 柱体の下部には円筒状中空本体が存在するのであるから、支柱体が独立して、 原審が認定した印象を与えることはない旨主張する。しかし、円筒状中空本 体を天井から吊り下げる部位である支柱体は、同中空本体直径の約5分の1 (原告意匠)ないし約3分の1(被告意匠)という相当の存在感を示すもの であり、円筒状中空本体が上方突出体をもって角度調整可能であって下方の\nみを向いているものでもないことをも考えると、支柱体が天井と円筒状中空 本体に挟まれたものであったとしても、その支柱体から受ける印象は、原審 が認定するとおりであるというべきであって、1審原告の主張は採用するこ とができない。
オ まとめ
以上によると、1審原告が当審において主張する差異点は微差ということ はできない。そして、前記(1)で補正した上で原判決を引用して説示したとお り、要部を踏まえた原告意匠と被告意匠の共通点及び差異点を総合的に考慮 すると、原告意匠の構成は、平面視(底面視)が円形である点を除き、全体\n的に直線的で、すっきりとして洗練された印象を与えるのに対し、被告意匠 の構成は、全体的に存在感を示しつつも、柔らかく安定感のある印象を与え\nるものであって、これらの印象がそれぞれの意匠全体に与える影響は強く、 原告意匠と被告意匠に接した需要者は、両意匠から異なる印象を強く感じる ものとみられる。 したがって、原告意匠と被告意匠とは、基本的構成態様においておおむね\n共通するものの、具体的構成態様における差異点がその共通点により生ずる\n美感を凌駕し、全体として需要者の視覚を通じて起こさせる美感を異にする というべきであって、被告意匠は、原告意匠と類似するとはいえない。 このことは、原告意匠と被告意匠とで意匠の要部としての基本的構成態様\n(2か所)が全て共通していることを十分に参酌しても、判断が左右される\nものではなく、1 審原告の主張を採用することはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和2(ワ)10386

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令和2(ワ)14627 損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和4年5月27日  東京地方裁判所

 商標権移転手続につて、元代表取締役の被告がかってに行った手続によって生じた損害として、百貨店のカタログに掲載ができなかったことによる売上減少が相当因果関係ありと認定されました。\n

 原告は、三越伊勢丹から、原告の商標登録の問題を指摘され、商標登録に問題があるとカタログ等を作り直さなければならないとして、平成30年の御中元のカタログ等の掲載はできないことなどを告げられ、当該カタログ等の掲載による売上げを計上すること ができなかったことが認められる。 そうすると、少なくとも、原告がB商標2及び3に係る無効審決を得た 令和2年5月まで、原告の商品を当該カタログに掲載し得なかったことに よる損害は、被告による本件各商標権の移転に係る不法行為と相当因果関 係がある損害と認めるのが相当である。
これに対し、被告は、原告が、三越伊勢丹の実店舗での販売を継続し得 ていることからすれば、商標登録が問題であったとは考えられず、また、 原告が、原告の商品を当該カタログに掲載し得なかったのは、原告が、経 営陣を被告から交代するに当たり、三越伊勢丹の信頼を失ったことが主た る原因であるなどと主張する。しかし、被告も主張するとおり、原告は、 以後も実店舗での販売は継続し得ているのであるから、三越伊勢丹にカタ ログ等の掲載を拒否された理由が、原告がそもそも三越伊勢丹の信頼を失 ったことによるものとは、直ちに認め難い。そして、実店舗は、原告の従 業員が、原告専用のブースで販売するものであるのに対し(原告代表者・\n14頁)、カタログ等は、他の店舗の商品と一緒に掲載され、問題があれ ば全体を作り直さなければならないものであると認められることからする と(C・14頁から15頁)、商標登録に問題があるためにカタログ等の 掲載を拒否されたとするCの証言は、その内容に照らして信用することが できる。そうすると、上記拒否により生じた損害は、本件各商標権の移転 に係る不法行為と相当因果関係がある損害というべきである。 したがって、被告の主張は、採用することができない

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令和3(ネ)10022  特許権侵害に基づく不当利得返還等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。1審では侵害として約10億円の損害賠償が認められましたが、知財高裁(3部)は非侵害と認定しました。ちみなに原告は1審2審とも、均等主張はしていません。

 一審原告は,本件各発明は「ユーザの発信地域ごとに異なるWebデー タの送信が可能なWebページ閲覧システムを提供することを目的とす\nる」(本件明細書等の段落【0013】)ことから,この目的を達成する ための地域判別の原理は,回線網の敷設地域とISPのサーバが保有する 一群のIPアドレスとの一定の対応関係の存在を利用したものであるとし て(原判決「事実及び理由」第3の1(原告の主張)(2)〔原判決12 頁〕),「アクセスポイントに対応する地域」等の解釈として,第一義的 には,「ユーザ端末に割り当てたIPアドレスを所持しているアクセスポ イントに通常アクセスするユーザの地域」と解釈すべきであり,「IPア ドレスを割り当てるアクセスポイントが利用している物理的回線網等の敷 設範囲に相当する地域」も同義であると主張し,また,本件各発明は,設 置場所に対応する地域がユーザ端末の存在する地域と対応することに基づ いて,その地域に関連する情報を提供するというエリアターゲティングを 目的とする発明であるから,そもそも,アクセスポイントの「設置場所」 といった地点を判別する意味はなく,「アクセスポイントの設置場所」 (アクセスポイントが属する地域)を判別するステップを介するかどうか を問題とすること自体が誤りであると主張する(原判決「事実及び理由」 第3の1(原告の主張)(5)ア(ア)〔原判決16頁〕)。
しかしながら,特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づい て定めなければならず,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細 書及び図面を考慮して解釈すべきであるところ(特許法70条1項・2 項),構成要件1B2等において「判別」の対象となっているのは文言上\nあくまで「アクセスポイントが属する地域」であるから,本件特許請求の 範囲の用語の意義としてアクセスポイントの設置場所を無視することはで きない。また,本件明細書等の記載を考慮すると,本件各発明は,ダイヤ ルアップ接続を前提として,ユーザ端末がアクセスポイントの設置された 地点の近傍に所在する蓋然性が高いという経験則を利用して,そのアクセ スポイントの設置場所の近傍をユーザが所在する地域と想定することによ って,ユーザの所在する地域に対応した地域情報をある程度の確率で提供 することができるという技術的思想に基づくものであること,したがって, 「アクセスポイントに対応する地域」等は「アクセスポイントの設置され ている地点とその近傍の一定の地域」と解釈されるべきことは前記⑴のと おりであるから,まさにアクセスポイントの設置場所を判別することに意 味があるのであって,一審原告の上記主張は採用することができない。 そして,このことは,本件特許の出願経過からも明らかである。すなわ ち,本件特許の出願経過は原判決「事実及び理由」第2の2(2)イ記載のと おりであるが,一審原告は,出願経過中の本件補正により,「IPアドレ スと地域とが対応したIPアドレス対地域データベース」を「IPアドレ スとアクセスポイントに対応する地域とが対応したIPアドレス対地域デ ータベース」とし,さらに「IPアドレスが属する地域」を「IPアドレ スを所有するアクセスポイントが属する地域」(甲12の13)として, 自ら「アクセスポイントが対応する」及び「アクセスポイントが属する」 をあえて付加している。そして,一審原告は,意見書(甲12の14)に おいて,「アクセスポイントが属する地域を判別することについて は,・・・ユーザの発信地域は,ユーザ端末101aがアクセスポイント 109aに接続しているため,正確にはアクセスポイント109aに対応 する地域である」と説明し,さらに,本件拒絶査定不服審判における審判 請求書(甲12の16)において,「・・・,IPアドレス対地域データ ベースにおいてはIPアドレス毎にアクセスポイントが設置された地域, 例えば県や市,さらには市よりも狭い地域を対応付けておくことによって, ユーザ端末が接続しているアクセスポイントの属する地域から,ユーザ端 末の地域を県単位,市単位または市よりも狭い地域単位で判別することが できるという顕著な効果を奏します」と述べている。このように,一審原 告自らが「アクセスポイントに対応する地域」等の解釈につき,IPアド レス毎にアクセスポイントが設置された地域を対応付けることを意味する ものと主張していたものである。
さらに,一審原告が主張するところの「アクセスポイントに通常アクセ スするユーザの地域」とか「アクセスポイントが利用している物理的回線 網等の敷設範囲に相当する地域」は,そもそもどのような範囲を意味する のか必ずしも明らかではないが(特に「物理的回線網の敷設範囲」という 用語は本件明細書等にはない用語であり,ダイヤルアップ接続を前提とす ると,ダイヤルアップ接続においてユーザは世界中のどのアクセスポイン トへも接続が可能であるから,「物理的回線網の敷設範囲」という限定の\n仕方はアクセスポイントの地域を限定する意味を持たないと解される。), 一審原告の主張から推測するに,NTT東西が構築した地域IP網を念頭\nに置いて,地域IP網を経由する接続においては,ダイヤルアップ接続と は異なり,アクセスポイントは各地域IP網エリア単位で固定されていて, ユーザがアクセスポイントを選択することができないことから,アクセス ポイントが設置されている場所がどこであるかにかかわらず,「アクセス ポイントの属する地域」を「アクセスポイントに通常アクセスするユーザ の地域」又は「アクセスポイントが利用している物理的回線網等の敷設範 囲に相当する地域」と解釈しているものと推認される。しかしながら,前 記1(2)イのとおり,そもそも「地域IP網」が現れたのは,平成11年以 降のことであり,本件特許出願時(平成10年6月26日)には存在しな い仕組みであって,出願当時に存在した技術常識ともいえず,当然,本件 明細書等には記載も示唆もされていない。したがって,特許請求の範囲に 記載された用語の意義を解釈するに当たり,上記事実を参酌することはで きないというべきである。 この点に関して一審原告は,本件各発明は,実施例にあるダイヤルアッ プ接続に限定されるものではなく,地域IP網経由の接続も含むものであ る旨主張する。
しかしながら,本件明細書等には,「・・・もちろん,ユーザの発信地 域以外の地域の情報を閲覧したい場合には,ユーザが発信地域以外の地域 のアクセスポイントに接続するか,従来と同じ方法を用いて従来と同じ方 法を用いて選択すればよいことはいうまでもない。」(段落【003 8】)と記載されているところ,この記載は,ユーザが任意の地域のアク セスポイントを選択して接続することを意味するものであって,このよう なアクセスポイントのユーザによる選択はダイヤルアップ接続では可能で\nあるもの,地域IP網経由の接続では通常は想定されていないものである。 そうすると,本件特許の技術的範囲を,地域IP網経由の接続を前提とす る事項まで拡大することは,本件明細書等に開示された技術的範囲を逸脱 することになるというべきである。本件各発明がダイヤルアップ接続を前 提としているという解釈は実施例に限定した解釈ではない。 いずれにしても,上記「アクセスポイントに通常アクセスするユーザの 地域」とか「アクセスポイントが利用している物理的回線網等の敷設範囲 に相当する地域」との解釈は,本件特許請求の範囲の記載からかけ離れた 解釈であり,採用することはできない。

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令和3(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年5月19日  知的財産高等裁判所

 審決では、無効審判に対して、特許権者は訂正をしました。かかる訂正は発明の範囲が実質上減縮されないとして、訂正請求は拒絶されました。ただ、無効審判は進歩性違反無しと判断されました。裁判所は進歩性違反なしとした審決を維持しました。 構成要件を追加して、実質上減縮していないというのは興味深いですが、裁判所では争点とはなっていません。\n
「前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角が半径略5〜15mmとなるよう形成されたR部」→ 「前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角が半径略5〜15mmとなるよう形成された,スプーンへの食物移載力転換機構としてのR部」に訂正しても,実質的に発明の範囲が減縮されるものではない。\n

 次に、本件発明1の特許請求の範囲の請求項1には、本件発明1の「R 部」は、「前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角 が半径略5〜15mmとなるよう形成された」構成を有することが規定さ\nれている。本件明細書には、「R部」に関し、本件発明1の実施形態とし て、「竹製食器100には、各収容部の立ち上がりと底面との取り合い部、 一つの立ち上がり部とこれに隣接する立ち上がり部との間の取り合い部、 に各々略10mm程度の半径によるRを設けてある。具体的に、たとえば 第4の収容部23において、底面部40と立ち上がり部33との取り合い 部に、図3に示されるような半径略10mmの曲線断面が図3の紙面と直 交する方向に延伸されて形成されている。また、平面においても、たとえ ば、立ち上がり70と立ち上がり13との間の取り合い部には、図1に示 されるような半径略10mmの曲線断面が図1の紙面と直交する方向に 延伸されて形成されている。」(【0030】)との記載があり、別紙1のと おり、図1及び3には、「R部」が図示されている。 そこで、「R部」に関する甲4の記載について検討するに、甲4文章部分 中の「φ23×H2.1(plate)」との記載から、甲4記載の「こども用 食器」は、直径(φ)23cm、高さ(H)2.1cmであることを理解 できるが、他方で、甲4の記載事項全体をみても、上記直径及び高さ以外 の寸法についての記載はない。
また、甲4全体写真及び甲4部分拡大写真(別紙2参照)のアングル、 解像度等に照らすと、甲4全体写真及び甲4部分拡大写真から、被写体で ある「こども用食器」の「R部」を形成する「立面と底面とのなす角」の 角度や「半径」の寸法についてまで認識することは困難である。 以上を総合すると、甲4に接した当業者において、甲4から、甲4記載 の「こども用食器」の「R部」は、「前記窪み部において穿削されて得ら れる立面と底面とのなす角が半径略5〜15mmとなるよう形成された」 構成を有することが開示されているものと認識することはできないとい\nうべきである。
・・・
原告は、1)甲4全体写真について説明した甲76の5枚目の左側の画像記 載のとおり、A(こども用食器の外径):B(こども用食器の竹の集成材から なる所定の厚みのある部分の内側の径):C(こども用食器の二層目の竹材平 板の内側の径)の比率は、100:94.8:88.3である、2)この比率 と甲4記載の実寸から、A´(Aの実寸)は230mm、B´(Bの実寸) は218mm、C´(Cの実寸)は203mm、D´(こども用食器の竹の 集成材からなる所定の厚みのある部分の幅の実寸)は6mm、E´(こども 用食器を真上から見たときの二層目の竹材平板の幅の実寸)は7.5mmと 算出される、3)甲76の5枚目中欄の「Rごとの見え方の違い」の表によれ\nば、E´が7.5mmである場合、その見え方は、R10の場合の見え方に 該当するから、甲4記載の「こども用食器」の立面と底面とのなす角は、半 径略10mm弱となるよう形成されたR部になるとして、甲4には、甲4記 載の「こども用食器」は、「立面と底面とのなす角が半径略10mm弱となる よう形成されたR部」の構成を有することの開示がある旨主張する。\nしかしながら、甲76は、原告従業員が作成した書面(作成日2021年 10月25日)であり、そもそも本件出願前に頒布された刊行物に当たらな いこと、甲4には、「こども用食器」の直径(φ)及び高さ(H)以外の寸 法についての記載はなく(前記(2)イ)、甲76記載のAないしCの比率やA ´ないしE´の寸法の記載もないこと、甲4には、甲76の5枚目中欄の「R ごとの見え方の違い」の表の記載はないことに照らすと、甲4に接した当業\n者において、甲4から、上記1)ないし3)の事項を認識し、又は理解すること はできないから、原告の上記主張は、その前提において採用することができ ない。

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令和4(行ケ)10006  商標登録取消決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年5月25日  知的財産高等裁判所

 指定商品「時計」に商標「OMECO」が、周知商標「OMEGA」と混同するか、また、公序良俗に反するとして異議申立が成されました。審決、知財高裁とも、公序良俗に反すると判断しました。\n

 本件商標は、その構成文字に相応して「オメコ」の称呼を生じるものであり、\nこの点は当事者間にも争いがないところ、その称呼の語は、「大辞林 第四版」 (2019年 三省堂。乙12)に「俗に、女陰の称」を、「大辞泉 第二版 上巻」(2012年 小学館。乙13)に「女性性器の俗称」を、「国語大辞 典 新装版」(1988年 小学館。乙14)に「女陰の異名」を、「精選版 日本国語大辞典」(小学館。乙15)に「女陰の異名。また、男女の交合」を 意味するとされているものである一方、その称呼から異なる意味合いを直ちに 想起させる語は見当たらない。加えて、現に、本件商標は、ドメイン名を「om eco.buyshop.jp」とする原告の運営に係るウェブサイトのページ上部左上に、「変態高級腕時計」の文字と、女性器を模した、二重丸とその中心を縦断する 縦線及び円の外側の放射状の短い線で構成される円状図形と一体となって、ロ\nゴマーク様の図形を構成する一部として表\示されているほか(甲10の1ない し甲10の3)、このウェブサイトでは、原告の販売に係る腕時計として、上 記円状図形及び本件商標が付された腕時計の画像や(甲10の1ないし甲10 の3)、「パイパンマン」等の性的な意味合いを認識させる表示が付されたT\nシャツの画像等の商品画像が多数掲載されているのであるから(乙22ないし 25)、本件商標は、上記各辞典に掲載されたそのとおりの意味合いで使用さ れていると認められ、それ以外の意味合いのものと理解され得る余地はない。 そうすると、本件商標は、その称呼から、少なくとも需要者に女性器を連想、 想起させるものであるから、その構成自体が卑わい又は他人に不快な印象を与\nえるようなものであって、その余の点について検討するまでもなく、公の秩序 又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきである。したがって、本 件商標は、商標法4条1項7号に該当するものであり、商標登録を受けること ができないものに当たる。
2 原告の主張について
(1) 原告は、本件商標の称呼が女性器等を示す俗語であったとしても、本件商 標は欧文字で表記されているから、女性器等が連想、想起されることはない、\nあるいは、このような俗語は関西地方で用いられる方言、俗語であり、日本 の社会一般で理解されるものであるとはいえない旨主張する。しかしながら、 本件商標の綴りからは自然に女性器が連想、想起される称呼が生じ、それ以 外の称呼が自然と生じるものとはいい難いし、また、仮に、関西地方で用い られる方言、俗語であったとしても、関西地方で用いられているならば、周 知の用語というに十分である。そして、何より、原告自身が女性器等を連想、\n想起させるものとして本件商標を使用していることは、前記1において説示 したとおりであるから、欧文字で表記されていることや関西地方で用いられ\nる方言、俗語であることが女性器を連想、想起させることを何ら妨げるもの ではない。 したがって、原告の上記主張は、いずれにしても採用し得ない。なお、本 件商標と同一の称呼を生じさせる原告の商号が現時点で維持されていること は、商標法に従い商標登録の適否を判断する本件の結論を何ら左右しない。
(2)原告は、本件商標が用いられても、取引の実情からみて、被告補助参加人 の業務との間に誤認混同は生じないから、引用商標の信用等又は被告補助参 加人の業務上の信用を毀損させるおそれはない旨主張するが、本件商標は、 その構成自体から卑わい又は他人に不快な印象を与えるような文字であるか\nら、引用商標の信用等又は被告補助参加人の業務上の信用を毀損させている か否かの点は、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商 標であるとの判断を何ら左右しない。

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令和3(ネ)10091  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、特許法102条2項の適用について、個々の法人格に基づく形式的な判断をして、これを否定し、同3項により損害額を約90万円と認定しました。知財高裁は、102条2項の推定を認め、控訴人の請求額満額の損害賠償を認めました。

 ア 特許法102条2項は、「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合におい て、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特 許権者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。特許法102条2項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるために は、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関 係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、 妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵 害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定 するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害 者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存 在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。
イ これを本件についてみると、一審原告製品は本件特許権の実施品であり、一 審被告製品1〜3と競合するものである。そして、一審原告製品を販売するのはジ ンマー・バイオメット合同会社であって特許権者である一審原告ではないものの、 前記(1)のとおり、一審原告は、その株式の100%を間接的に保有するZimme r Inc.の管理及び指示の下で本件特許権の管理及び権利行使をしており、グ ループ会社が、Zimmer Inc.の管理及び指示の下で、本件特許権を利用 して製造した一審原告製品を、同一グループに属する別会社が、Zimmer I nc.の管理及び指示の下で、本件特許権を利用して一審原告製品の販売をしてい るのであるから、ジンマー・バイオメットグループは、本件特許権の侵害が問題と されている平成28年7月から平成31年3月までの期間、Zimmer Inc. の管理及び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行してい ると評価することができる。そうすると、ジンマー・バイオメットグループにおい ては、本件特許権の侵害行為である一審被告製品の販売がなかったならば、一審被 告製品1〜3を販売することによる利益が得られたであろう事情があるといえる。 そして、一審原告は、ジンマー・バイオメットグループにおいて、同グループの ために、本件特許権の管理及び権利行使につき、独立して権利を行使することがで きる立場にあるものとされており、そのような立場から、同グループにおける利益 を追求するために本件特許権について権利行使をしているということができ、上記 のとおり、ジンマー・バイオメットグループにおいて一審原告の外に本件特許権に 係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件について、特許 法102条2項を適用することができるというべきである。
(3) 推定の覆滅について
特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1項ただし書の事情と 同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が 受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解されるところ、一 審被告は、1)本件特許権を保有・管理するだけの一審原告の利益は何ら害されてい ないこと、2)競合する第三者の製品があること、3)固定プレートの選択をする医師 は、一審被告製品がなかったとするならば、他の一審被告の製品であるP−Pla teを選択していたことが確実であることから、推定が覆滅されるべきであると主 張する。
そこで検討するに、前記(1)で認定したジンマー・バイオメットグループの一審原 告製品に係る事業遂行の状況を踏まえると、本件特許権を第三者が侵害することに よって一審原告製品の売上げが減少して、ジンマー・バイオメットグループの利益 が減少し、その結果、本件特許権の保有による利益が帰属する一審原告の利益が害 されたということができる。また、一審被告は、第三者の競合品の存在を指摘する ものの、本件全証拠によっても、それらが本件特許権の特徴を具備する競合品であ るのか、また、一審被告の指摘する競合品の存在が、一審被告製品が存在しなかっ たとした場合に一審原告製品の販売に影響するといえるかは必ずしも明らかではな い。さらに、一審被告製品が存在しないとした場合に、医師がそもそも一審被告製 品を販売していない一審被告の製品を選択すると認めるに足りる証拠はない。 そうすると、本件において特許法102条2項における推定を覆滅する事由があ ると認めることはできない。
(4) 損害額
ア 平成28年7月から平成31年3月までの被告製品1及び2の販売額が●● ●●●●●●●であること並びにその限界利益率が●●●であることについて当事 者間に争いがない。そうすると、特許法102条2項により、一審原告の損害額は、 ●●●●●●●●●と推定される。
イ 事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌すると、本件の 不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は、●●●●と認められる。
ウ 上記ア及びイの合計額は、454万4478円である。

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原審はこちら。

◆令和1(ワ)14314

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平成29(ワ)7391等  職務発明の対価請求  特許権  民事訴訟 令和4年3月24日  大阪地方裁判所

 職務発明の報奨金として、約200万円が認められました。なお、使用者と従業者等と間で、十分な意見聴取や説明がなされなかったという原告の主張は、「協議の状況に不合理な点は認められない。」と判断されました。\n

 被告は、本件発明2−1を国内において自ら実施している。 前記(1(2)ア)のとおり、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」 (同条4項)とは、使用者等が当該発明を実施することによって得られる利益の全 体ではなく、その全体の額から通常実施権の実施によって得られる利益の額を控除 した残額(独占の利益)をいうと解されるところ、特許権者が自ら特許発明を実施 している場合の独占の利益は、使用者等が自ら発明を独占的に実施し、他社に当該 特許発明の実施を禁止したことに基づいて得られた利益に相当する売上額(超過売 上)と解される。この場合、相当の対価は、「対象商品(実施品)の売上合計額× 超過売上の割合×仮想実施料率×対象特許発明の貢献の程度×(1−被告の貢献割 合)×共同発明者間における原告の貢献割合」によって算定するのが相当である。 また、特許の登録前であっても、特許出願人は、出願公開後発明を実施した第三 者に対して一定の要件の下に補償金を請求することができること等を踏まえると、 出願公開以降の売上額には一定の独占的利益があると見るのが相当である。もっと も、出願公開から登録までの期間においては、登録されて排他的な独占権を有する か否かが未確定であることに鑑み、売上の2分の1を独占の利益の検討の基礎とす るのが相当である。
・・・
エ 超過売上の割合
(ア) 対象製品群2の販売による市場占有率の変化等
対象製品群2は、平成16年10月から被告の 200シーズン年度モデルとして 販売され、●(省略)● また、被告のルームエアコンの国内の出荷台数は、2003 冷凍年度から 200冷凍 年度にかけて増加し、国内4位から3位に上昇するだけでなく、1位及び2位との 出荷台数の差が縮小したことを踏まえれば、200冷凍年度においては、その市場 占有率が上昇したものと認められる(前記(2)キ(ウ))。このような被告の市場占有 率の上昇には、当該時期に被告の製造販売する●(省略)●対象製品群2の販売が 直接貢献していることがうかがわれる。 なお、原告は 2004 シーズン年度モデルによる被告の市場占有率の上昇等につい ても指摘するが、本件発明2−1は当該モデルでは実施されていないことから(弁 論の全趣旨)、当該モデルの市場占有率の変動と本件発明2−1との間に関連性は 認められない。
(イ) 本件発明2−1の技術的意義及び代替技術等
a 本件発明2−1は、ルームエアコン室内機に搭載される熱交換器の配置につ いて、前面熱交換器の設置角度 α を特定すると共に、クロスフローファンの翼の出 口角 β2 を特定することで、所定風量を得るのに必要なファンモータ入力や回転数 を低減することができ、省エネを図ることができる点にその技術的意義がある。ま た、設置角度 α を 65°以上とすることで、熱交換器からの水滴がファンへ流入して 室内ユニットの外部へ吹き出されること等を防止し、また、ユニットの奥行きをコ ンパクトにできるという効果もある(前記(1)ア(オ)【0024】)。
b もっとも、省エネ、ドレン水の確実な処理及び室内機ユニットのコンパクト 化という課題自体は本件発明2−1の出願以前から存在するものである。また、当 該課題に対して、熱交換器を逆 V 字状にすること、前面熱交換器と背面熱交換器と の連結部を送風ファンの中心軸よりも前面側に位置させ、かつ前面熱交換器の傾斜 を急な配置にすること、熱交換器を通過した空気がファンの翼に当たる際の空気の 流れを滑らかにし、空気流の剥離等を防ぐために、翼形状を変更することといった 着想やその技術自体も、従来から存在した(前記(2)ウ)。 したがって、本件発明2−1は、熱交換器の配置とクロスフローファンの翼形状 (出口角)の双方を、同時に、具体的な数値をもって特定したところに技術的な意 義があるといえる。
c また、ルームエアコンの省エネ性能の向上を図る技術には、室内機及び室外\n機それぞれを見ても、熱交換器、圧縮機、モータ、送風機等に係る種々の技術が存 在する。しかも、被告のほか、国内の競合他社であるパナソニック、ダイキン、東\n芝、日立等は、それぞれ、省エネのための独自の基本的な技術を有しており、● (省略)●被告以上又は同等の市場占有率を保持していたと認められる(上記(2) イ、キ(ウ)、ク(イ)及び(ウ))。 加えて、本件発明2−1は熱交換器の配置とクロスフローファンの翼形状を特定 するものであるから、それぞれ独自のユニット、熱交換器、ファン等の形状や配置 を工夫して製品化している競合他社において、本件発明2−1をそのまま実施する ことにより直ちに性能が向上するといった性質の技術であるとは思われない。\n
d 以上の事情を総合的に考慮すると、本件発明2−1に係る超過売上の割合は 50%と見るのが相当である。
オ 仮想実施料率
本件発明2−1に係る仮想実施料率を検討するにあたっても、上記エの事情は同 様に考慮されるべきである。 また、経済産業省知的財産政策室編「ロイヤルティ料率データハンドブック」 (平成22年8月31日発行。乙 A4)によれば、技術分類を「機関またはポンプ」 とする対象例(16件)では、平均ロイヤリティ料率 3.1%、標準偏差 1.4%、最大 値 5.5%、最小値 0.5%である。また、技術分類を「照明;加熱」とする対象例(1 6件)では、平均ロイヤリティ料率 3.9%、標準偏差 2.2%、最大値 9.5%、最小値 1.5%である。 ●(省略)●
以上の事情のほか、本件発明2−1がルームエアコン室内機における熱交換器の 配置とクロスフローファンの翼の出口角の数値を限定したものであり、このような 最適な数値を検討する行為自体は当業者が自ずと行うものであること等を踏まえる と、本件発明2−1の仮想実施料率は、3.5%とするのが相当である。
カ 対象特許発明の貢献の程度
(ア) 対象製品群2には、本件発明2−1のほか、●(省略)●特許が実施されて おり(乙 A10、乙 B27)、また、被告カタログ2)で訴求されている代表的な技術に\n関連する特許は、●(省略)●(乙 A35、乙 B59)。 このうち、被告のポキポキモータに係る技術は、従来のモータ以上にコイルを密 に巻き、それによりモータ効率を向上させるという基本的・汎用的な技術である点 で、室外機の圧縮機モータ及び●(省略)●それぞれ重要な技術といえる。
(イ) また、被告は、対象製品群2の販売に当たり、被告カタログ2)においてムー ブアイを大々的に取り上げると共に、そのほかにも脱臭機能、換気機能\、サプリメ ントエアー機能といった付加価値的な部分をも顧客に対し強く訴求している。当時、\n既にルームエアコンは家庭に広く普及し、省エネ等に係る技術も各社製品において 採用されていたと考えられることを踏まえると、付加価値的なものとはいえ、この ような他社製品と差別化を図る技術は消費者に対する訴求力を高め、対象製品群2 の売上に大きく貢献したものと見るのが相当である。もとより、本件発明2−1も、 熱交換器の配置を工夫することで室内機のコンパクト化といった訴求力のある効果 を実現し、また、同時にシロッコファンの翼形状の角度を数値限定することで省エ ネ効果等を実現していることから、対象製品群2の売上に貢献したと見られるもの の、その貢献の程度が他の技術と比較して特に顕著であったことまではうかがわれ ない。
(ウ) 以上の事情のほか、対象製品群2の売上高には、室内機のみならず室外機の 売上高も含まれること等を踏まえると、対象製品群2における本件発明2−1の貢 献の程度としては、1%と見るのが相当である。
キ 使用者の貢献割合
●(省略)●
さらに、対象製品群2の開発にあっては、熱交換器やクロスフローファンの翼形 状のみならず、被告カタログ2)で訴求されたものをはじめとする種々の開発項目や 試験項目があり、これをクリアして製品化に至ることは、被告の有する多くの蓄積 された技術や物的・人的な体制があってこそ可能になるといえる。\nこのほか、量産化及び販売も含めて被告が●(省略)●多額の費用を投入してい ること、長年にわたりルームエアコンを販売してきた被告及び被告ブランドの知名 度が対象製品群2の販売実績に大きく貢献していると見られることなどを踏まえる と、被告の貢献割合は 95%とみるのが相当である。
ク 共同発明者間における原告の貢献割合
本件発明2−1は、熱交換器の配置及びクロスフローファンの出口角の数値を限 定した点に意義があるところ、原告は、流体解析の技術を用いて、その数値解析に 中心的に寄与したことが認められる(前記(2)ア(イ))。 もっとも、発明当時、被告においても既に流体解析の技術及びこれを支援する装 置等が存在し(乙 A16、乙 B44)、●(省略)●これらの事情に加え、●(省略)●(弁論の全趣旨)、●(省略)●などを踏まえると、共同発明者間における原告の貢献割合は 60%とみるのが相当である。
ケ 小括
以上のとおり、対象製品群2の国内実施分に係る●(省略)●、超過売上の割合 50%、仮想実施料率 3.5%、対象特許発明の貢献割合 1%、被告の貢献割合 95%、共 同発明者間における原告の貢献割合 60%と認められる。これに反する原告及び被告 の各主張はいずれも採用できない。 その結果、本件発明2−1に係る相当の対価の額は、●(省略)●となる。 ●(省略)●*50%*3.5%*1%*(100-95%)*60%=●(省略)● もっとも、被告は、本件各発明2について、既に特許を受ける権利の承継を受け た対価として原告に対し●(省略)●を支払済みであることから(前記2の2(7) ウ)、これを差し引くと●(省略)●となる。 したがって、原告は、被告に対し、昭和34年法35条3項に基づき、●(省略) ●の相当対価請求権を有する。
・・・
(ア) 協議の状況
前記(2)のとおり、被告は、●(省略)●従業員側の意見を聴取する機会も十分\nに設け、これに対応した行動を取ったものといってよい。 したがって、●(省略)●原告を含む従業者と被告との間で行われた協議の状況 に不合理な点は認められない。 これに対し、原告は、被告規程が知財部門により一方的に定められ、少なくとも 原告が協議に関与していないなどと主張する。しかし、上記のとおり、●(省略) ●の過程において、被告の従業員に対する説明及び従業員からの意見聴取は十分に\n行われたものと見られることに鑑みると、被告規程●(省略)●が知財部門により 一方的に定められたとの評価は当たらない。また、原告も●(省略)●質問等の機 会を現に与えられていたことから、原告が協議に関与していないということもでき ない。そもそも、使用者等と従業員等との協議として、個々の従業員が規程内容の 作成に個別的ないし直接的に関与する手続を担保することまでが求められていると は解されない。その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告 の主張は採用できない。
(イ) 開示の状況
前記(2)及び(3)のとおり、被告は、●(省略)● 以上のような状況を踏まえれば、●(省略)●被告規程の基準の開示の状況に不 合理な点は認められない。 これに対し、原告は、開示された基準では従業員が自ら実績補償金を算定できず、 また、●(省略)●労力を要するため、開示の状況は不合理であるなどと主張する。 しかし、被告において被告規程に係る基準が開示されていることに争いはない。 その上、被告では、●(省略)●が開示されていたのであるから、従業員は、これ と被告規程を照合すれば、実際の実績補償金の算定過程についても一定程度理解可 能であったとうかがわれる。それ以上に、●(省略)●についてまで、基準として\n開示しないことをもって不合理とはいえない。 また、●(省略)●基準の開示として不合理とすべきほどに特段の労力を要する と見るべき具体的な事情も見当たらない。 したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 意見聴取の状況
●(省略)●最終的に、原告と被告との間で意見等の相違は解消されなかったと 見られるものの、原告からの意見聴取の状況という観点からは、被告による原告か らの意見聴取は実質的に尽くされたといってよい状況にあり、被告の一連の対応に つき不合理ないし不誠実と評価すべきものはないというべきである。 これに対し、原告は、十分な意見聴取や説明がなされなかったとして縷々主張す\nる。しかし、その内容は、被告細則の解釈や発明に対する評価の程度に対する不満 を述べるものであって、被告における原告からの意見聴取の手続自体が不合理であ ることを基礎付けるものではない。 したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
・・・
(ウ) 以上のとおりの●(省略)●基準の策定に際して使用者等と従業員等との間 で行われた協議の状況、策定された当該基準の開示状況のほか、●(省略)●の定 めたところにより相当の利益を与えることが不合理であると評価することはできな い。
これに対し、原告は、被告が●(省略)●対して真摯に回答しなかった旨などを 主張する。しかし、被告は、●(省略)●協議が不合理であるとはいえない。その 他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用できな い。 なお、原告は、●(省略)●被告規程における実績報奨金の算定基準の内容面及 びその適用の不合理性をも主張する。しかし、●(省略)●これをもって不合理と は必ずしも認められない。この点に関する原告の主張は採用できない。
ウ 小括
以上の事情を総合的に考慮すると、被告の原告に対する●(省略)●支払は、い ずれも不合理であるとは認められない。これに反する原告の主張は採用できない。 したがって、本件各発明3に係る相当の対価支払につき、平成16年法35条5 項は適用されないから、本件発明3−2−2に係る不法行為に基づく損害賠償請求 も含め、その余の争点について判断するまでもなく、同項に基づく原告の請求はい ずれも認められない。

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令和3(行ケ)10080 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年5月11日  知的財産高等裁判所

 審判では無効理由無しと判断されましたが、裁判所は、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているとして、進歩性無しと判断しました。

(3) 上記(1)イ及びウの「Reflective ... Film」との用語に加え、上記(1)エ及 び(2)のとおり通常光下では黒色であった商品サンプルがフラッシュ光下では肌色 様に見えることや弁論の全趣旨も併せ考慮すると、甲4に貼付された黒色の商品サ\nンプルは、「黒色の再帰反射フィルム」であると認めるのが相当である。 また、上記(1)ウの「従来の印刷手法に加え、溶剤及びUVインクジェットに対 応しています」との記載は、甲4の黒色の再帰反射フィルムに溶剤インクジェット 印刷を施すことが可能であることを意味するものと解され、溶剤インクジェット印\n刷が施されれば、黒色の再帰反射フィルムの上に印刷層が形成されることは明らか であるから、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより印刷層を形成す ることができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているといえる。
(4) そこで進んで、甲4に「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性 の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているかに つき検討する。
ア 上記(1)ウのとおり、印刷層の形成に関し、甲4には「従来の印刷手法に加 え、溶剤及びUVインクジェットに対応しています」との記載があるのみであり、 溶剤インクジェット印刷が非透光性のインクを用いたものに限られるとの記載又は 示唆はみられない。
イ ここで、溶剤インクジェット印刷の意義等に関し、下記の各証拠には、それ ぞれ次の記載がある。
(ア) 甲18(全日本印刷工業組合連合会(教育・労務委員会)編「印刷技術」 (平成20年7月発行))
「カラー印刷では基本的にCMYKの4色によって原稿の色を再現している。こ の4色をプロセスセットインキと呼び、このうちCMYは透明インキとなっている ので刷り重ねで印刷した場合、下のインキの色が一緒になり2次色、3次色が発色 する。」
(イ) 甲19(高橋恭介監修「インクジェット技術と材料」(平成19年5月2 4日発行))
「インクの色剤としては染料、顔料を挙げることができる。・・・ 染料は媒体である水に可溶であり、分子状態でインク媒体中に存在している。個 々の分子が置かれた環境はほぼ同一であるため、吸収スペクトルは非常にシャープ であり、透明性の高い印刷物が得られる。・・・ 従来、インクジェットプリンタ用色材としては、上記特徴とインク設計が容易で あるということで、染料が用いられた。」
(ウ) 甲20(Janet Best 編「Colour design Theories and applications」
(2012年発行)) 「CMYK:印刷業界で画像の再現に使用される減法混色プロセスであって、純 度の高い透光性プロセスカラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック) が網点様に重ね刷りされて、様々な色及びトーンを表現する。」\n
(エ) 甲21(特開2012−242608号公報)
「【0033】ここで、第1の装飾層20aを形成する印刷インクとしては、光 透過性を有し、屋外使用にも耐えられる有機溶剤系のアクリル樹脂インク、例えば、 市販のエコソルインクMAXのESL3−CY、ESL3−MG、ESL3−YE、\nESL3−BK(それぞれローランド社製)を用いることが望ましい。 そして、かかる第1の装飾層20aを形成するには、例えば、インクジェットプ リンタなどのインクジェット装置に、印刷インクをセットし、これを微滴化して表\n面フィルム12h上の所定場所に、吹き付け処理して行なうことが好ましい。」
ウ 上記イによれば、本件出願日当時、溶剤インクジェット印刷においては、透 光性(透明性)を有するCMYのインクが広く用いられていたものと認められるか ら、仮に、本件出願日当時、溶剤インクジェット印刷において非透光性のインクが 用いられることがあったとしても、溶剤インクジェット印刷に対応しており、かつ、 前記アのとおり、溶剤インクジェット印刷が非透光性のインクを用いたものに限ら れるとの記載も示唆もみられない甲4の記載に接した当業者は、甲4は透光性を有 するインクを用いた溶剤インクジェット印刷に対応しているものと容易に理解した といえる。
エ 以上によると、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性 の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されていると認 められるから、甲4発明は、そのように認定するのが相当である。これと異なる本 件審決の認定は誤りである。
オ この点に関し、被告は、甲4発明の用途(トラックを始めとする車両に貼付\nされるステッカー等)に照らすと、甲4発明に透光性の印刷層を設けることは考え られないと主張する。確かに、前記(1)ウのとおり、甲4には消防自動車様の車両を撮影した写真が掲 載されているが、車両に貼付して用いる黒色の再帰反射フィルムの上に透光性の印\n刷層を形成すると甲4発明の目的が阻害されるものと認めるに足りる証拠はないし、 また、甲4には甲4発明の用途が車両に貼付して用いるステッカー等に限られると\nする記載も示唆もないから、被告の上記主張を採用することはできない。

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令和3(ネ)2608 商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和4年5月13日  大阪高等裁判所

 納入された際の原告標章を使用せずに商品販売したことが商標権侵害となるかについて、1審は契約の問題であり侵害は成立しないと判断しました。高裁も同様に判断しました。

 控訴人は、商標権者である控訴人が控訴人標章を付した本件商品につい て、その譲渡を受けた卸売業者等である被控訴人らが、梱包箱に被控訴人ら シールを貼付し、本件商品とともに梱包されていた控訴人説明書を被控訴人\nら説明書に差し替えた行為は、本件商標の出所表示機能\及び品質保証機能を\n積極的に毀損するものとして、商標の剥離抹消行為と評価し得る本件商標権 侵害に当たる旨主張するとともに、上記譲渡によって本件商標権が消尽する とみるべきではないとして原審の判断を非難する(前記第2の5(1))。
(2) 商標法の目的は、信用化体の対象となる商標が登録された場合に、その 登録商標を使用できる権利を商標権者に排他的に与え、商品又は役務の出所 の誤認ないし混同を抑止することにあり、商標権侵害は、指定商品又は指定 役務の同一類似の範囲内で、商標権者以外の者が、登録商標と同一又は類似 の商標を使用する場合に成立することが基本である(商標法25条、37 条)。すなわち、商標法は、登録商標の付された商品又は役務の出所が当該 商標権者であると特定できる関係を確立することによって当該商標の保護を 図っているということができる。 商標権者が指定商品に付した登録商標を、商標権者から譲渡を受けた卸売 業者等が流通過程で剥離抹消し、さらには異なる自己の標章を付して流通さ せる行為は、登録商標の付された商品に接した取引者や需要者がその商品の 出所を誤認混同するおそれを生ぜしめるものではなく、上記行為を抑止する ことは商標法の予定する保護の態様とは異なるといわざるを得ない。した\nがって、上記のような登録商標の剥離抹消行為等が、それ自体で商標権侵害 を構成するとは認められないというべきである。\n
(3) また、その点を措くとしても、後半期間における被控訴人らの行為(被 控訴人らの行為2)及び3)に関する。)は、以下のとおり、控訴人標章の剥離 抹消行為と評価し得る行為には当たらないと解される。
ア 前記第2の2で補正した上で引用した前提事実によれば、控訴人が被控 訴人らに納入した本件商品の梱包箱の外側にはそもそも控訴人標章は表示\nされていないから、被控訴人らが仕入れ後に貼付した被控訴人らシールに\nよって控訴人標章が覆い隠されたという事実はない。控訴人が被控訴人ら シール1)によって覆い隠されたのを問題としているのは、控訴人の屋号で あって、控訴人標章ではない。また、被控訴人らの行為によって、本件商 品本体に英文字で印字された「Roller Sticker」という標章(称呼及び観 念において控訴人標章と同一のもの)に何らかの変更が加えられたという 事実もない(本件商品の品質にも変更はない。)。
イ そうすると、控訴人標章の剥離抹消行為として問題となり得る行為は、 被控訴人フジホームが、控訴人から本件商品を仕入れた際に梱包箱に同梱 されていた控訴人説明書を被控訴人説明書に差し替えた行為のみ(被控訴 人ら行為2)に関する。)であるが、控訴人説明書は、取引によって納入さ れた本件商品の梱包箱の中に、本件商品の使用方法を説明する書面として、 本件商品に貼付等されずに単に同梱されていたものにすぎないから、本件\n商品に標章を付した(商標法2条3項1号)とはいえず、控訴人説明書が 取引書類(同項8号)に当たると認めるに足りる事情も窺われない。した がって、控訴人説明書に「ローラーステッカー使用説明書」との記載があ るのは、控訴人標章を商標として使用したものとは認められず、控訴人説 明書を差し替えたことが控訴人標章の剥離抹消行為と評価すべきものとは 認められない。
ウ 以上のとおり、後半期間における被控訴人らの行為は、そもそも控訴人 標章の剥離抹消行為と評価される行為には当たらないから、その余の点を 判断するまでもなく、商標の剥離抹消を理由として商標権侵害をいう控訴 人の主張は採用できない。 なお、被控訴人らの行為2)及び3)における本件商品について、控訴人が 本件商品本体に付した標章(称呼及び観念において控訴人標章と同一の もの)と、被控訴人らが梱包箱に付した被控訴人ら標章とが併存してい るとしても、控訴人から適法に本件商品を仕入れた被控訴人らが、再販 売業者としての出所を明らかにするため本件商品に併存して自らの標章 を付すことが一般的に禁止される理由もない。

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◆令和2(ワ)3646

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令和3(ワ)23928  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年4月15日  東京地方裁判所

 写真がトリミングされてSNSに投稿されたことが、同一性保持権および氏名表示権侵害として、約24万円の損害賠償が認められました。複製・公衆送信権侵害などは争われていません。

 前記前提事実(1)のとおり、原告が撮影した原告写真1及び2は「写真の著 作物」(著作権法10条1項8号)に該当するから、原告は、原告写真1及 び2に係る同一性保持権を有するところ、前記前提事実(3)のとおり、被告は、 原告写真1の上下左右を正方形になるようにトリミングして被告写真1を、 原告写真2の上下左右を正方形になるようにトリミングして被告写真2を、 それぞれ作成したものである。 したがって、被告は、原告写真1及び2に係る原告の同一性保持権を侵害 したと認めるのが相当である。
(2) これに対して、被告は、原告写真1及び2の中央位置はそのままにし、イ ンスタグラムの仕様に合わせて正方形にトリミングしたものであり、原告写 真1及び2の創作性及び特徴を害したものではないし、「やむを得ないと認 められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当すると主張する。 そこで検討するに、原告写真1及び2は、列車が川に架かる鉄橋を走行す る様子を、列車をほぼ中心に据え、周囲に霧のかかった川及び連なる山々を 配置し、列車と比較して周囲の川及び山を大きく写すような横長の構図で撮\n影されたものであり、これらの点について創作性を認めることができる。そ して、被告写真1及び2は、上記のような原告写真1及び2の上下左右をト リミングして正方形にし、それらに写し出された左右の山を大きく切り取っ たものである。そうすると、被告が被告写真1及び2を作成したことにより、 原告写真1及び2について、その著作者である原告の意に反し、上記のとお り創作性の認められる表現部分に実質的な改変が加えられたことは明らかで\nあって、これが原告写真1及び2の創作性及び特徴を害さないものというこ とはできない。 また、本件全証拠によっても、被告が被告のインスタグラム上のアカウン トにおいて掲載するために原告写真1及び2をトリミングすることについて、 正当な理由を基礎付ける事実は認められないから、被告による上記改変が 「やむを得ないと認められる改変」に該当するとは認められない。
・・・
前記前提事実(1)のとおり、原告が撮影した原告写真1及び2は「写真の著 作物」に該当するから、原告は、原告写真1及び2に係る氏名表示権を有す\nるところ、被告は、前記前提事実(3)のとおり、原告写真1及び2をそれぞれ トリミングして被告写真1及び2を作成した上、前記前提事実(4)のとおり、 被告のツイッター上のアカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく\n被告写真1の掲載を含む本件投稿1をし、また、被告のインスタグラム上の アカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく被告写真1及び2の掲\n載を含む本件投稿2及び3をしたものである。 したがって、被告は、原告写真1及びに2に係る原告の氏名表示権を侵害\nしたと認めるのが相当である。
(2) これに対して、被告は、原告写真1及び2には原告に著作権があることを 示す原告のウォーターマークの表示はなく、被告がこれを削除したものでは\nないし、被告写真1に記載された「B以下省略」は被告のアカウント名でも 本名でもないから、これによって被告写真1の著作権者が被告であると理解 されるとはいえないと主張する。 しかし、氏名表示権とは、「その著作物の公衆への提供若しくは提示に際\nし、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表\示し ないこととする権利」(著作権法19条1項)をいうところ、前記前提事実
(4)のとおり、被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿1ないし3において、 原告の氏名は表示されていなかったものであり、原告写真1及び2に原告の\n氏名が記載されていなかったからといって、原告が、原告写真1及び2を公 衆に提示するに際し、自身の氏名を著作者名として表示しない意思を有して\nいたということはできず、本件全証拠によっても、そのような意思を有して いたとは認められない。

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令和3(ネ)10072  特許権侵害行為差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁1部は、共同侵害あり、無効理由なしとした1審判断を維持しました。

 前記(1)の認定事実によれば、1)控訴人アンカー及び控訴人ジョウズは、 いずれも中国法人の中国アンカー社を中核企業とする国際的な企業グル ープ「Ankerグループ」の日本法人であり、控訴人ジョウズの全株 式は、中国アンカー社の完全子会社である POWER MOBILE LIFE、 LLC が 保有していること、2)控訴人ジョウズの設立当時(平成30年2月28 日)の代表取締役は、控訴人アンカーの代表\取締役と同一人(A)であ ったこと、3)控訴人ジョウズの本店所在地のオフィスの利用契約は、控 訴人アンカーが契約し、同年4月16日、控訴人ジョウズに契約上の地 位が譲渡されたものであり、かつ、利用契約上の利用者はA1名のみで あること、4)令和元年9月時点の控訴人ジョウズの従業員数は2名であ り、そのうちの1名のBは、平成30年4月から平成31年4月末まで 控訴人アンカーに在籍し、令和元年5月から控訴人ジョウズに在籍して いたこと、5)控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、控訴人ジョウズ設立 日の翌日の平成30年3月1日付けで、控訴人ジョウズが控訴人アンカ ーに対し、控訴人ジョウズの喫煙具製品の開発補助業務及びそれに付随 する一切の業務、喫煙具製品のマーケティング及びそれに付随する一切 の業務、会計事務及び経営管理に関する一切の業務、その他控訴人ジョ ウズと控訴人アンカーの協議の上決定された業務の全部又は一部を委託 する旨の本件業務委託契約を締結したこと、6)被告製品は、同年6月以 降、控訴人ジョウズのウェブサイトで販売が開始され、同年11月当時 には、アマゾンサイト及び楽天市場のサイトで、控訴人ジョウズを販売 者として販売されており、また、被告製品の輸入手続は、控訴人ジョウ ズを輸入者として行われたこと(乙14、37)、7)アマゾンサイトでは、 被告商品について、「米国・日本・欧州のEC市場において、スマートフ ォン・タブレット関連製品でトップクラスの販売実績を誇る『Anke r』のサポートのもと、精密かつ均一な温度管理と・・・最適な加熱環境を 作り出し、たばこ本来の香りと味を忠実に再現」などと紹介され(甲4 の1、5の1)、また、Ankerグループのオフィシャルストアの海外 のウェブサイトでは、被告製品が「Anker Jouz 20」など として販売されていたこと(甲14)、8)被告製品1及び2の記者発表に\n関する同年6月20日付け記事等(甲13の1ないし4)には、「Ank erグループが技術的にサポートしたことから、アンカー・ジャパンの A社長がジョウズ・ジャパンの代表取締役を兼任する」などと掲載され、\n被告製品3の記者発表に関する2019年(平成31年)4月9日付け\n記事(甲32)には、当時控訴人アンカーの従業員であったBが「ジョ ウズ・ジャパン株式会社事業戦略本部マネジャー」との肩書きでプレゼ ンテーションを行ったことが掲載されたことが認められる。
上記認定の控訴人ジョウズと控訴人アンカーの人的及び物的な結合関 係(1)ないし4))、控訴人ジョウズの控訴人アンカーに対する本件業務委 託契約に基づく委託業務の範囲が控訴人ジョウズの業務全般にわたって いること(5))、被告製品の広告宣伝の態様(7)、8))その他前記(1)認定 の諸事情を総合考慮すると、控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、被告 製品の販売等に関し、緊密な一体関係があるものと認められるから、被 告製品の販売及びその輸入手続が控訴人ジョウズ名義で行われていたこ と(6))を勘案しても、控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、平成30 年6月以降、共同して被告製品の販売等を行っていたものと認めるのが 相当である。
そして、被告製品は、被告方法の使用に用いる物であって、本件発明 1による「課題の解決に不可欠なもの」に該当することは、前記のとお りであるところ、控訴人らは、遅くとも、本件仮処分命令の送達により、 本件発明1が特許発明であること及び被告製品が方法の発明である本件 発明1の実施に用いられることを知ったものと認められるから、控訴人 らによる被告製品の上記販売等の行為は、本件発明2に係る本件特許権 の侵害(直接侵害)に該当するとともに、本件発明1に係る本件特許権 の間接侵害(特許法101条5号)に該当するものと認められる。 したがって、控訴人らについて本件特許権侵害の共同不法行為が成立 するものと認められる。
・・・
そこで検討するに、本件業務委託契約書には、控訴人ジョウズは控訴人 アンカーに対し業務委託料として毎月100万円に消費税相当額を加算 した額を支払う旨の条項(5条1項)があり、同条項によれば、控訴人ア ンカーの業務委託料は固定額であるといえるが、一方で、前記(2)認定のと おり、控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、被告製品の販売等に関し、緊 密な一体関係があるものと認められるから、控訴人アンカーの業務委託料 が固定額であるからといって、控訴人アンカーが被告製品の販売等に関す る業務を一切行っていないということはできない。

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◆令和2(ワ)4332

関連事件です。 ◆令和1(行ケ)10174

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令和3(行ケ)10097  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年4月28日  知的財産高等裁判所

 補正前後の請求項に係る発明が一対一又はこれに準ずるような対応関係にない補正が限定的減縮(特17-2第5項)に該当するかが争われました。裁判所は、該当しないとした審決を維持しました。

 ア 特許法17条の2第5項は、拒絶査定不服審判を請求する場合において、 その審判の請求と同時に特許請求の範囲についてする補正(同条1項ただし 書4号)は、同条5項1号から4号までのいずれかの事項を目的とするもの に限ると規定し、同項2号は、「特許請求の範囲の減縮」(同法36条5項の 規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するも のであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該 請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同 一であるものに限る。)と規定している。同法17条の2第5項の趣旨は、拒 絶査定を受け、拒絶査定不服審判の請求と同時にする特許請求の範囲の補正 について、既に行った先行技術文献調査の結果等を有効利用できる範囲内に 制限することにより、迅速な審査を行うことができるようにしたことにある ものと解される。このような同項の趣旨及び同項2号の文言に照らすと、補 正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するというためには、 補正後の請求項が補正前の請求項の発明特定事項を限定した関係にあること が必要であり、その判断に当たっては、補正後の請求項が補正前のどの請求 項と対応関係にあるかを特定し、その上で、補正後の請求項が補正前の当該 請求項の発明特定事項を限定するものかどうかを判断すべきものと解される。 また、補正により新しい請求項を追加する増項補正であっても、補正後の新 しい請求項がそれと対応関係にある補正前の特定の請求項の発明特定事項を 限定するものであれば、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当す るものと解される。 以上を前提に、補正事項1が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするもの に該当するかどうかについて判断する。
・・・
ア 前記(1)ウ認定のとおり、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項1 0と対応関係にあることが認められる。 しかるところ、前記(1)ウ認定のとおり、本件補正後の請求項8は、本件補 正前の請求項10の発明特定事項から、「前記ストラップセンサが、前記スト ラップの第1の部分に備えられた1個以上の第1接点と、前記ストラップの 第2の部分に備えられた1個以上の第2接点とを備えるか、あるいは、第1 接点および第2接点と通信可能であり、第1接点のうちの1個以上が、第2\n接点のうちの1個以上と選択的に接触可能であり、前記ストラップが閉じら\nれるか固定されたときに、第1接点の1個以上および第2接点の1個以上の 間の接触により測定回路を完成させるように構成されている導体によって、\n第1接点と第2接点とが結合されて、該システムが、前記ストラップセンサ によって測定された前記測定回路の少なくとも1つの電気特性に基づいて、 前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さを特定するよ うに構成されている」との構\成を削除した請求項であるところ、この削除に よって、本件補正前の請求項10の発明特定事項を限定したものと認めるこ とはできず、かえって、本件補正前の請求項10に係る発明を上位概念化し たものといえるから、補正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする ものと認められない。
イ これに対し原告は、1)本件補正後の請求項8は、本件補正後の請求項1な いし7に従属し、本件補正前の請求項1に内的付加に相当する追加的要件を 規定したものであるから、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定する ために必要な事項を限定するものである、2)本件拒絶理由通知では、本件補 正前の請求項1について新規性及び進歩性などの実体的要件に関する拒絶理 由の指摘はなく、本件補正前の請求項1に特許性が認められていることから すると、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項1に対する従前の審 査内容に沿って特許性を具備するものといえるから、本件補正前の請求項1 についての審査を十分に有効活用して、補正された発明の審査を行うことが\n可能であり、新たな先行技術調査等を要求することで審査遅延などの事態を\n生じさせないことも明らかである、3)厳密には、本件補正後の請求項8は、 本件補正前の請求項1と一対一で対応する請求項ではないとしても、これに 準ずるような対応関係に立つものであり、補正事項1は、既にされた審査結 果を有効に活用できる範囲内で補正を認めることとした特許法17条の2第 5項の制度趣旨に反するものではなく、同項2号が許容する増項補正に相当 するから、本件補正前の請求項1との関係で「特許請求の範囲の減縮」(同号) を目的とするものに該当する旨主張する。
しかしながら、前記(1)エで説示したとおり、本件補正後の請求項8は、本 件補正前の請求項1と一対一で対応する請求項に該当しないのはもとより、 これに準ずるような対応関係に立つものと認めることはできないから、この 点において、原告の上記主張は、その前提を欠くものである。 また、前記アで説示したとおり、本件補正後の請求項8は、本件補正前の 請求項10の発明特定事項の構成の一部を削除した請求項であるが、本件に\nおいては、本件補正前の請求項10の発明特定事項から上記構成を削除した\n請求項について、サポート要件等の記載要件の審査が行われた形跡はうかが われず、かかる審査が新たに必要となるものと考えられるから、本件補正後 の請求項8は、本件補正前の請求項1に対する従前の審査内容に沿って特許 性を具備するものと直ちにいえるものではなく、この点においても、原告の 上記主張は、その前提を欠くものである。

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平成30(ネ)10034  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は技術的範囲に属しないと判断しました。控訴人は均等侵害を追加主張しましたが、知財高裁は均等侵害を検討するまでもなく、技術的範囲に属するとして、約8900万円の損害を認定しました。計算は1項と3項の合算が、2項の侵害よりも多いとしてそちらが採用されています。

上記の各種実験結果によると、被告製品は、長時間の塩水噴霧試験(乙 14実験)、試験紙を用いた湿気の流入実験(乙19実験、乙20実験) の結果からすると、端部部材だけで外部雰囲気(湿気や水等の流体物) の流入を遮断するものとはいえないが、同じ場所に10数滴の液体を滴 下したり(乙15実験の第2実験)、連続して液体を注入したり(甲4 9実験の実験2)、液体を滴下後に強い衝撃を加える(乙15実験の第 3実験、甲49実験の実験3)といった条件がない限り、少量の水滴を 滴下した実験では、端部部材だけでも液体の流入は抑制されており(甲 33実験、甲49実験の実験1)、また、湿気の流入も短時間であれば 抑制されている(甲58実験の試験1及び試験2)ことからすると、被 告製品の端部部材は外部雰囲気(湿気や水等)の進入を抑制するものと いえる(なお、乙15実験の第1実験は、被告製品の端部部材及びOリ ングのみならず弁本体側のOリングも外しており、甲50実験の試験結 果からすると、上記認定を左右するものではなく、また、乙16実験は、 圧縮機の取付孔側面に穴を穿設しており、実験条件の前提が異なるため、 上記認定を左右するものではない。)。
また、乙1実験、乙14実験、甲49実験、甲58実験、乙19実験 及び乙20実験の試験結果によれば、端部部材とシール部材(Oリング) を備えた被告製品においては、外部雰囲気(湿気や水等)の流入が完全 に抑制されていることが認められる。 そうすると、被告製品は、端部部材(H)をボディ の上部側の開口部 に嵌合させることにより外部雰囲気の流入を抑制し、シール部材 の構\n成を備えることにより、ボディ と取付孔の間を密封して外部雰囲気の 流入をより抑制する効果を奏するものであるから、被告製品は、構成要\n件B6の「『密封』嵌合」の文言も充足する。 したがって、被告製品は、構成要件B6を充足する。\n
・・・
引用に係る原判決第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 のと おり、被告製品の構成につき、控訴人は、原判決別紙被告製品目録(原告)\n(以下「原告作成目録」という。)記載のとおりであると、被控訴人は、 同被告製品目録(被告)(以下「被告作成目録」という。)記載のとおり であるとそれぞれ主張する。原告作成目録の写真2と被告作成目録の写真 1がそれぞれ被告製品の外観形状を、原告作成目録の図1と被告作成目録 の写真2がそれぞれ同内部構造を明らかにするものであるところ、これら\nを対比すると、被告製品の構成部材の名称や配置についてはほぼ争いがな\nく、争いがあるのは、ソレノイドと弁本体の境界をどの部分と位置付ける\nかに関してのみであり、この点に関する当事者双方の主張は、上記原判決 第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 及び のとおりである。 そこで、原告作成目録の図1と被告作成目録の写真2を見ると、いずれ においても構成要件B8の「プランジャ」は「プランジャ 」、「バルブ」 は「弁本体(V)」、「ロッド」は「作動ロッド 」にそれぞれ当たり、「作 動ロッド 」は電磁コイル を含むボディ やシール部材 より下部まで 上下に可動する構成となっている。そして、前記アにおいて説示したとお\nり、ロッドは、本件発明におけるソレノイドの一部を構\成するものといえ るから、本件発明における「ソレノイド」部は、控訴人が主張するとおり、\n原告作成目録の図1の「ソレノイド 」の矢印で示される範囲までを指す ものと理解するのが相当である。そうすると、同図1のとおり、被告製品 におけるシール部材 は、本件発明との対比におけるソレノイド の部分 (ソレノイド の下端側である弁本体(V)側)の外周に設けられたもので あり、弁本体(V)からの流体の進入を防止するものであるといえる。
・・・
被告製品は、構成要件B6及びCを充足するものであり、その他の構\成要 件の充足性については引用に係る原判決の第2の2 のとおりであるから、 争点2(均等論)について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属 するものである。
・・・
被告製品の実施料率について判断する。 甲79報告書によれば、日本国内で特許出願を行った国内企業・団体 のうち上位となっている企業・団体(対象2031件)及び株式会社帝 国データバンク保有データ信用調査報告書ファイル(約143万社収録) の中からライセンス契約を実施していると判断できる企業(対象975 件)につき、重複データを削除した合計3006件を調査対象とし、平 成21年11月5日から平成22年2月15日までを調査対象期間とし て、技術分類別ロイヤルティ率のアンケート調査を実施した結果(有効 回答は563件)によると、本件発明に最も近い技術分野である「精密 機械」のロイヤルティ率は、最大値9.5%、最小値0.5%、平均値 3.5%であった(同報告書52頁)ことが認められる。また、同報告 書によると、実施料の決定要因の重要度としては、1)当事者におけるラ イセンスの必要性、2)ライセンス対象(特許権の評価)の重要度が高い ことが挙げられている。
なお、控訴人は、前記第2の4 ウ【控訴人の主張】 のとおり、平 成4年度から平成10年までのデータによる実施料率〔第5版〕データ や平成10年3月30日言渡しの別件判決の説示を基にした主張もする が、平成27年から平成30年までの間の実施料率を問題とする本件で は参考とならず、採用の限りではない。
本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合すると、本件 発明は、「ソレノイド」を備えた制御弁の発明であるが、その特徴的部\n分は、1)アッパーブレードの外側で取付孔に嵌合して取付孔の開口部を 塞ぐ端部部材と、2)取付孔と端部部材との間に配置されるシール部材の 2つの構成を採用したことにあり、これらの構\成によって、外部雰囲気 (湿気や水等の流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上\nさせるとともに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決め ができ、ボルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向 上するという効果を奏するものである。 これに対し、相手方ハウジング部材に取付孔を設けてこの部分に容量 制御弁を挿入するという技術は、本件発明の出願時には公知の技術であ る(乙8、9)。また、シール部材の配置については、原告製品2のよ うに、取付孔と端部部材の間のシール部材を設けることなく、腐食防止 のために鉄系材料にメッキを施して可変容量制御弁の耐久性を保つ代替 技術(従来技術。本件明細書の【0011】)があることから、ソレノ\nイドの耐食性の向上という観点からいえば、当事者のライセンスの必要 性の程度が高いとはいえず、特許としての重要度も高いとはいえない。 そして、被控訴人が●●●社向けに作成した、原告製品2との比較を 含む被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、重要設計項目 として、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●が 挙げられているように、弁本体の機能や動作性等が重視され、本件発明\nの上記特徴的部分については何ら言及されていないから、被告製品にお ける本件発明の実施の程度及びその価値は相対的に低いと言わざるを得 ない。
以上のような本件各事情を総合すると、前記 のとおり、控訴人と被 控訴人は、可変容量制御弁の分野では国際的にシェアを分かち合う競業 関係にあるといった事情を考慮しても、被告製品における本件特許の実 施料率は2%程度であると認めるのが相当である。 ウ ところで、前記 アのとおり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の共 有関係にあり、その持分割合について両社で特段の合意がされたと認める に足りないから、民法250条により共有持分は相等しい割合に推定され る。 そうすると、特許法102条3項による損害は、以下の計算式のとおり、 ●●●●●円であると認定するのが相当である。
[計算式] ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
特許法102条1項による損害について
・・・
c 原告製品2の限界利益額に関する覆滅事由について
前記3 イ のとおり、本件発明は、「ソレノイド」を備えた制御\n弁の発明であるが、その特徴的部分は、1)アッパープレートの外側で 取付孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材と、 2)取付孔と端部部材の間に配置されるシール部材の2つの構成を採用\nしたことにあり、これらの構成によって、外部雰囲気(湿気や水等の\n流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上させるととも\nに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボ ルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向上すると いう効果を奏するものである。
前記 ウ のとおり、原告製品2は、取付性の向上及び端部部材に よる外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入の抑制といった本件発明 の作用効果を備えているといえるが、アッパープレードの外側で取付 孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備え ている(上記1)を備える。)ものの、端部部材と取付孔との間のシー ル部材(Oリング)を備えておらず(上記2)を備えておらず)、腐食 防止のために鉄系材料にメッキを施している。また、原告製品2は、 自動車に搭載するソレノイドを有する可変容量コンプレッサ制御弁で\nある以上、自動車メーカーとしては、外部雰囲気の進入の抑制という よりは、原告製品2の制御弁としての機能及び動作性に最も着目する\nものといえる。 このように、原告製品2は、本件発明の従来技術の課題とされてい る、耐食性を必要とする構成部材にメッキ処理を施したものであるこ\nとや、原告製品2は可変容量コンプレッサ容量制御弁であって、制御 弁としての機能及び動作性の点に強い顧客吸引力があるといえるから、\n原告製品2の販売によって得られる限界利益の全額を控訴人の逸失利 益と認めるのは相当ではないところ、原告製品2が備える機能等や顧\n客誘引力等の本件諸事情を総合考慮すると、事実上推定される限界利 益の全額から95%の覆滅を認めるのが相当である。
・・・
エ 控訴人が販売することができないとする事情
特許法102条1項1号に規定するところの侵害品の譲渡数量の全部又 は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事 情は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少と相当因果関係を阻害する 事情であり、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存 在すること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵害者 の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、4)侵害品及び特許権者の製品の機 能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在すること等の事 情がこれに該当するというべきである(前掲知財高裁大合議判決)。 以下これを前提として検討する。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 aのとおり、被控訴人は、「販 売することができない事情」として、●●●社の前身である●●●社及 び同社が買収した●社と被控訴人との間では、長年の取引関係があり、 被控訴人は、こうした取引関係を通じて構築された信頼関係に基づいて、\n●●●社との間で年間●●●●個に及ぶ被告製品の取引を行ってきたが、 控訴人は、●●●社の事業領域については何らの商圏を有していなかっ たのであるから、容量制御弁を年間●●●●個生産する能力があるとし\nても、せいぜい従前●●●社に納入していた程度の数量である●●万個 程度の数量しか販売することができなかったというべきである旨主張す る。
確かに、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社及び●社、●● ●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等の点で表彰を受\nけるなど、一定の信頼関係を築いてきたこと(乙36ないし40)は認 められるものの、前記 カ及びキのとおり、●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●、こうした事情に照らせば、原告製品2 について本件侵害期間より前の期間に納入していた数量の限度でしか 販売することができなかったとはいえないから、被控訴人の上記主張は 理由がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 bのとおり、被控訴人は、「販 売することができない事情」として、●●●社は、防水手段についてメ ッキ処理で行うか、端部部材へのシール部材の装着で行うかについては 全く重視しておらず、被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると被控 訴人において認識すれば、「メッキ処理」に変更した代替品に転換する ことは容易に可能であったから、被告製品に代わって控訴人が原告製品\n2を納入することができるというものではない旨主張する。 しかし、「販売することができない事情」で考慮されるべき事情は、 本件侵害期間中に原告製品2を被告製品の販売個数では販売することが できなかった事情が問題となるのであって、被控訴人が主張する上記の ような仮定的事情はこれに当たらないから、被控訴人の上記主張は理由 がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 cないしeのとおり、被控訴 人は、「販売することができない事情」として、●●●社の購入動機や 信頼関係の存否等につき主張する。 そこで、検討するに、前記 キによれば、●●●●●●●●●●●● ●●●●●●被告製品を選択した理由の1つとして価格面を挙げている ことが認められる。実際、控訴人の担当部長が作成した報告書(甲67) の添付資料によると、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●ことが認められる。被告製品が原告製品2と比 較して価格面で有利であったという点は、本件侵害期間中における原告 製品2の販売個数に少なからず影響する事情であるということができる。 また、前記 のとおり、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社 及び●社、●●●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等 の点で表彰を受けるなど、サポート面や協力態勢の面で一定の信頼関係\nを築いてきており、実際のところ、●●●社が原告製品2から被告製品 に切り替えた理由の1つとして、被控訴人のサポート態勢等を挙げてい る。被控訴人が被告製品の販売個数を順調に維持することができた背景 には、こうした事情が影響しているものと認められるから、被控訴人と ●●●社との信頼関係の構築は、本件侵害期間中における原告製品2の\n販売個数に影響する事情であるといえる。 さらに、証拠(乙25、32、48)によれば、被控訴人は、原告製 品2と被告製品の起動性に関する対比実験を提示し(乙25)、●●● 社の仕様等に関する要望を受けて改良し、●●●社は、被告製品の制御 弁としての性能面を評価して被告製品を採用したことが認められるから、\nこうした事情は、本件侵害期間中において、被告製品の販売実績に相当 する原告製品2を販売し得たことを阻害する事情であるといえる。 以上で指摘した事情を総合考慮すると、侵害品である被告製品の譲渡 数量を控訴人が販売することができない事情に相当する数量は、譲渡数 量全体の2割であると認めるのが相当である。
・・・
なお、共有に係る特許権であっても、各共有者は、契約で別段の定めを した場合を除いて他の共有者の同意を得ることなく特許発明の実施をす ることができる(特許法73条2項。なお、本件では、控訴人が●●●● ●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証拠 はない。)ところ、特許法102条1項により算定される損害については、 侵害者による侵害組成物の譲渡数量に特許権者等がその侵害行為がなけ れば販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じて算出さ れる額には、特許権の非実施の共有者に係る侵害者による侵害組成物の譲 渡数量に応じた実施料相当額の損害が含まれるものではなく、その全部又 は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事 情にも当たらないから、後記の同条2項による損害の推定における場合と 異なり、非実施の共有者の実施料相当額を控除することもできない。
・・・
キ 特許法102条1項2号による実施料相当額ついて
前記エ のとおり、特許法102条1項1号の「その全部又は一部に相 当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができない とする事情」としては、侵害品である被告製品と原告製品2の価格差、被 控訴人によるサポート面や協力態勢の面で●●●社との間との一定の信 頼関係の構築、被告製品と原告製品2の性能\面の差異といった事情がある と認められる。
ところで、特許法102条1項2号は、括弧書で「特許権者・・・が、当該 特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許 諾・・・をし得たと認められない場合を除く。」と規定するところ、この括弧 書部分は、特定数量がある場合であってもライセンスをし得たとは認めら れないときは、その数量に応じた実施相当額を損害として合算しないこと を規定するものであると解される。 これを前提として本件についてみると、特許法102条1項1号に規定 する特定数量に該当するとされた事情は、上記のとおりであるところ、被 告製品と原告製品2の性能面の差異については、その性質上、控訴人が被\n控訴人にライセンスをし得たのに、その機会を失ったものとは認められな いが、被控訴人の営業努力等に関わる点については、本件発明の存在を前 提にした上でのものというべきであるから、控訴人が被控訴人にライセン スをし得たのに、その機会を失ったものといえる。 これらの事情を総合考慮すると、特定数量2割のうちライセンスの機会 を喪失したといえる数量は、その半分に当たる譲渡数量の1割とするのが 相当である。
また、前記 アのとおり、本件侵害期間中の被告製品の1個当たりの販 売価格は●●●●●●●円(本件侵害期間の総販売金額●●●●●●●● ●●●●●●●円を、同期間における総製造数●●●●●●●●個で割っ た額(乙23参照)。)であり、前記 イのとおり、被告製品の実施料率 は2%程度とするのが相当であり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の 共有関係にあることも前記認定事実のとおりである。 以上を前提とすると、特許法102条1項2号により算定される控訴人 の損害額は268万円と認められる。
・・・
特許法102条2項による損害について
ア 覆滅事由について
本件侵害期間中における月別の被告製品の生産個数及び売上高は当事者 間に争いがないが、控除すべき経費の範囲及びその額について争いがある。 ところで、特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1 項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵 害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事 情がこれに当たると解され、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様等に 相違があること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵 害者の営業努力、4)侵害品の性能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴) 等の事情がこれに当たり、また、特許発明が侵害品の一部分のみに実施さ れている場合には、この点も、推定覆滅の事情として考慮することができ るが、特許発明が侵害品の一部分のみに実施されていることから直ちに上 記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の 侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的 に考慮して決するのが相当である(知財高裁令和元年6月7日大合議判 決・判例時報2430号34頁以下参照)。 控訴人は、特許法102条2項による損害の算定に当たり、覆滅事由は ないと主張しているところ、被控訴人は、1項ただし書と同様の事由、す なわち、1)●●●社における事情、2)代替品の納入が可能であること、3) 原告製品2と被告製品の性能に本件発明以外に相違があること、4)被告製 品が原告製品2と比較して低価格であること、5)被控訴人の市場開発努力、 営業努力、販売力の事情を指摘して、覆滅事由を主張するので、この点に つき、まず検討を加える。
前記 エで説示したのと同様に、●●●社が原告製品2の供給を打ち切 って被告製品を採用したのは、被告製品が原告製品2と比較して価格面で 有利であったこと、被控訴人は、●●●社及びその前身の●●●社(●● ●社が買収した●社を含む。)と長年取引関係にあって信頼関係を醸成し ており、被告製品の販売個数を順調に伸ばしてきたのはこうした事情が背 景にあるものと推認されること、被控訴人は、原告製品2と被告製品の起 動性に関する対比実験を提示し、●●●社の仕様等の要望を受けて改良し たことにより、被告製品の採用に至ったものと認められる。
こうした被告製品の価格面での優位性、被控訴人の企業努力等の事情に 加えて、被告製品における本件発明が実施されている部分の位置付け、本 件発明の顧客吸引力等の事情についてみると、被告製品は容量制御弁であ り、ソレノイドの耐食性や取付容易性といった本件発明の特徴的部分もさ\nることながら、弁本体の機能がむしろ重要であり(被控訴人が●●●社向\nけに作成した被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、本件発 明の特徴的部分については何ら触れるところはないことは既に説示したと おりである。)、また、前記 イ のとおり、相手側ハウジング部材に取 付孔を設けてこの部分に容量制御弁を挿入するという技術は、本件発明の 出願時には公知の技術であり、密封構造に関しても、容量制御弁の高耐食\n性については、鉄製材料をメッキ処理するといった従来技術(代替技術) が存在していたことからすると、被告製品における本件発明の位置付けは 重要なものとはいえず、顧客吸引力も低いものと言わざるを得ない。 被控訴人の主張する覆滅事情は上記の限度で理由があり、これらの事情 を総合考慮すると、覆滅割合は9割とするのが相当である。
イ 本件特許が共有であることについて
本件特許権は、控訴人及び●●●●●●の共有に係るものであり、前 記 オで説示したとおり、●●●●●●は、少なくとも本件侵害期間中 において本件特許権を実施していない。 ところで、特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定 めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施 をすることができる(特許法73条2項)。本件では、控訴人が●●● ●●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証 拠はないから、本件特許権の共有者である控訴人は、共有持分割合に応 じて特許法102条2項により推定される損害の按分割合に応じた損害 賠償を請求することができるにすぎない旨の被控訴人の主張は理由がな い。
他方で、実施料に相当する損害は、特許権の実施の有無にかかわらず 請求することができるから、特許権を共有するがその特許を実施してい ない共有者であっても、その特許が侵害された場合には、特許法102 条3項により推定される実施料相当額の損害賠償を受けられる余地があ るところ、仮に、同条2項により推定される全額を共有に係る特許権を 実施する共有者の損害額であると推定されると、侵害者は実際に得た利 益以上に損害賠償の責めを負うことになることからすると、共有に係る 特許権を実施する共有者が同条2項に基づいて侵害者が得た利益を損害 として請求するときは、同条3項に基づいて推定される共有に係る特許 権を実施していない共有者の損害額は控除されるべきである。そして、 侵害に係る特許権が共有に係るものであるといった事情は、同条2項に より推定される損害の覆滅事情に当たるものであるから、侵害者がその 立証責任を負うというべきである。
次に、前記第2の4 イ【控訴人の主張】 のとおり、控訴人は、● ●●●●●が特許法102条3項に基づく損害賠償請求権について控訴 人が消滅時効を援用することにより、被控訴人は、控訴人に対して●● ●●●●の被控訴人に対する実施相当額を控除すべき旨を主張すること ができない旨主張する。 しかし、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権と、●●●●●● の被控訴人に対する損害賠償請求権は、いずれも金銭債権であって可分 であり、可分債権である●●●●●●の損害賠償請求権が時効により消 滅したからといってその損害賠償請求権があたかも復帰的に控訴人に帰 属したかのように控訴人がこれを行使することができるわけではないか ら、控訴人が●●●●●●の被控訴人に対して有する損害賠償請求権を 援用することができる正当な利益を有する者ではなく、控訴人の上記主 張は明らかに失当である。 もっとも、●●●●●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求 権が時効により消滅している場合には、被控訴人は、これを援用するこ とにより、その支払を免れることができるのであるから、いわゆる二重 払いにより、実際に得た利益以上に損害賠償の責めを負うことになるリ スクは生じないし、このような特殊事情がある場合にまで、特許権侵害 により得た利益の留保を被控訴人に許すことは、法の趣旨に照らし相当 とはいえないというべきである。
ウ 損害額の算定
前記アのとおり、特許法102条2項に基づき、被控訴人が特許権侵害 により受けた利益の額を算定するに当たり、控除すべき経費については前 記第2の4 イ のとおり当事者間に争いがあり、仮に、被控訴人が主張 するところの覆滅事由を考慮せずに控訴人が請求する●●●●●●●● ●●●円を前提としたとしても、前記アの覆滅割合(約90%)分を控除 すると、●●●●●円である。そうすると、前記イ のとおり、●●●● ●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求権が時効により消滅し ている場合には、その実施料相当額を覆滅事由として控除しないと解する 余地があるものの、このような場合を仮定しても、特許法102条2項に より算定される損害額は、上記●●●●●円を上回ることはない。
小括
以上によれば、特許法102条1項による損害額は●●●●●円であり、 同条2項による損害額は●●●●●円を上回ることはなく、同条3項による 損害額は●●●●●円であるから、特許法102条により算定される損害額 は●●●●●円をもって相当と認める。 また、控訴人は、本件において弁護士及び弁理士に委任して訴訟を遂行し ているところ、被控訴人による特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士 費用及び弁理士費用は、本件事案の性質及び内容、認容額、本件事案の難易 度等を考慮すると、●●●●●円とするのが相当である。 そうすると、本件特許権侵害による損害額は8920万円となる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29年(ワ)3569号
「密封嵌合」とは,「ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもた\nらすように外部雰囲気の進入を抑制させる程度に,端部材が取付孔に対してぴっちり と封をするように機械部品がはまり合う関係」を意味すると解されるところ,Oリン グ(シール部材(13))を外した被告製品が,取付孔内部への水分の進入を抑制する効果 があるとは認められないのであるから,被告製品の端部材(H)が取付孔に「密封嵌合」 しているとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告製品は,構成要件B6の「該アッパープレートの外側で前記取付\n孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」に係る構成を\n有しない。そうすると,被告製品は,その余の構成要件を検討するまでもなく,本件\n発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。

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令和1(ワ)34096  商標権侵害行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和4年3月18日  東京地方裁判所

 「ぼてぢゅう総本家」は登録商標「ぼてぢゅう」に類似するとして、原告らに対して約1000万円の損害賠償が認められました。

そこで、前記1(結合商標の類否の判断基準)に基づき本件商標1と被告 標章I)の類否を検討するに、被告標章I)は、暖簾を模した図案の上に2段書 きされた文字を記載しており、図案と文字との結合商標であるといえる。そ して、図案部分についてみると、現実の暖簾には文字が記載されることも少 なくないという実情を踏まえると、単なる背景や文字枠として認識されるも のであり、図案部分自体には、出所を識別する機能があるとはいえない。\n他方、被告標章I)の文字部分についてみると、2段書きされており、各段 の文字を結合したものであるといえるところ、全体的に見て、上段の「宗右 衛門町趣味のお好み焼」が下段の「ぼてぢゅう総本家」に対し、小さい文字 で付されたものであることからすれば、その内容に照らしても、需要者は、 上段部分が、下段部分の説明書きであると理解するといえるから、上段部分 には出所を識別する機能があるとはいえない。\nそして、被告標章I)の下段の文字部分についてみると、「ぼてぢゅう」と 「総本家」とを結合したものであるといえるところ、前者は、お好み焼き店 のために創作された極めて特徴的な造語であるのに対し、後者は、「おおも との本家」を意味する一般的な日本語であって(甲28)、その前後に接続 する語句がある場合には、その語句に関連する「総本家」であると理解され るのが通常であるから、下段の文字部分中「総本家」の文字部分から出所識 別標識としての称呼、観念が生ずるものとはいえない。そうすると、「ぼて ぢゅう」の文字部分が、需要者に対し、商品又は役務の出所識別標識として 強く支配的な印象を与えるものと認めるのが相当である。
(3) したがって、被告標章I)は、その構成中の「ぼてぢゅう」の文字部分を抽\n出し、この部分だけを本件商標1と比較して商標そのものの類否を判断する ことが許されるというべきである。そして、被告標章I)は、筆書きによる平 仮名「ぼてぢゅう」を同大同間隔に左横書きした外観を有するのに対し、本 件商標1は、別紙商標目録記載1のとおり、筆書きの「ぼてぢゅう」の文字 を同大同間隔で左横書きにした外観を有するのであるから、両者は、その外 観において類似するものであり、両者の称呼及び観念が同一であることも明 らかである。以上によれば、本件商標1と被告標章I)とは、類似するものと認めるのが 相当である。
(4) これに対し、被告は、「宗右衛門町」が著名であり、「趣味」が特徴的な 言葉であることを理由として、出所識別機能を有すると主張するが、「宗右\n衛門町趣味のお好み焼」という部分は、地理的名称、商品の性質、商品の種 類を示すものと理解されるのであるから、「ぼてぢゅう」が強く支配的な印 象を与えるという上記認定を左右するものとはいえない。 また、被告は、「総本家」が出所識別機能を有しないとする根拠は存在せ\nず、被告標章I)の2段の文字部分の1段に記載され、まとまりのある「ぼて ぢゅう総本家」という9音を分離観察する理由もないなどと主張する。しか し、「総本家」の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生ずるものと はいえないことは、上記において説示したとおりである。のみならず、「ぼ てぢゅう」の5字は、「総本家」の3字に比し、大きく書かれ、視覚的にも それ自体十分区別し得る上、前者の文言は、後者の文言に対し、強く支配的\nな印象を与えるものといえる。これらの事情を踏まえると、「ぼてぢゅう」 と「総本家」とを分離して観察することが、取引上不自然であると思われる ほど不可分的に結合しているものともいえないのであるから、被告の主張は、 上記結論を左右するものとはいえない。
・・・
商標法38条2項は、民法の原則の下では、商標権侵害によって商標権者 が被った損害の賠償を求めるためには、商標権者において、損害の発生及び 額、これと商標権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならな いところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の填補がされ ないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利 益を受けているときは、その利益の額を商標権者の損害額と推定するとして、 立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、商標権者に侵害者による 商標権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在 する場合には、商標法38条2項の適用が認められると解すべきである。 これを本件についてみると、証拠(甲81ないし83)及び弁論の全趣旨 によれば、原告らの店舗は、外食市場が伸び悩む現状を踏まえ、コンビニや スーパーの弁当や惣菜を中心として着実に成長しているいわゆる中食市場に 進出することとし、平成29年11月又は12月以降、焼きそばやお好み焼 き等のテイクアウト販売及びデリバリー販売の事業を展開していることが認 められる。そうすると、原告らの事業に係る焼きそばやお好み焼き等の商品 が被告商品1)及び4)と同じ種類の商品であることを踏まえると、被告商品1) 及び4)が一定の調理を要することを考慮しても、少なくとも中食市場におけ る原告らの事業は、被告商品1)及び4)を販売等する被告事業と競業関係にあ るものといえる。 したがって、原告らに、被告による商標権侵害行為がなかったならば利益 が得られたであろうという事情が存在することが認められ、商標法38条2 項の適用が認められる。
・・・
商標法38条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は、侵害 者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することにより その製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益 の額であり、その主張立証責任は商標権者側にあるものと解すべきである。 そして、原告が、被告商品1)及び4)の限界利益の額を売上高の3割である と主張するのに対し、当該商品を実際に製造する被告は、その割合は24% であると主張するにとどまり、これを裏付ける証拠を何ら提出していない事 情を踏まえると、限界利益の額は、原告らの主張する上記3割を下回らない と認めるのが相当である。 そうすると、商標法38条2項の損害額と推定される侵害品の限界利益の 額は、原告東京フードについては、前記10(2)で認定した売上高2億482 0万8219円の3割に相当する7446万2465円であると認めるのが 相当であり、原告BGHDについては、前記10(2)で認定した売上高654 6万8493円の3割に相当する1964万0547円であると認めるのが 相当である。
(2) 商標法38条2項における推定の覆滅については、侵害者が主張立証責任 を負うものであり、侵害者が得た利益と商標権者が受けた損害との相当因果 関係を阻害する事情がこれに当たるものと解される。
これを本件についてみると、前記10(2)のとおり、原告らは、「ぼてぢゅ う」の名を付した店舗を出店し、主としてお好み焼きや焼きそばなどを提供 する事業を行っているところ、平成29年11月又は12月以降テイクアウ ト販売及びデリバリー販売の事業を展開しているものの、その事業規模は明 らかではなく、原告の業務態様は、基本的にはスーパーマーケットなどで商 品を販売するという被告の業務態様とは、大きく異なるものであること、他 方、前記前提事実、証拠(乙1、2、4)及び弁論の全趣旨によれば、被告 は、平成23年3月19日、最初に「ぼてぢゅう」のお好み焼き店を開業し た者が設立した株式会社ぼてぢゆう総本家から、被告保有商標1の譲渡を受 けてこれを使用し、被告保有商標1が失効した後も、被告保有商標2及び3 を保有して、お好み焼きや焼そば等を販売してきたことが認められ、被告は、 元祖「ぼてぢゅう」の信用をも引き継ぎつつ、相応の営業努力をして商品を 販売等してきたことが認められること、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、原告らと被告の業務態様等には大きな相違が存在 する上、被告も通常の範囲を超える格別の営業努力をして商品を販売等して きたことが認められ、その他に本件に現れた事情を総合考慮すると、原告ら に生じた損害については、商標38条2項による推定を覆滅する事情がある というべきであり、その推定の覆滅の割合は、上記諸事情を踏まえ、9割と 認めるのが相当である。
(3)これに対し、原告らは、「ぼてぢゅう監修」などと表記した商品(甲18\nないし25、62)を販売しており、被告による商標権侵害行為により、当 該商品の売上げも減少し、原告らに損害が生じた旨主張する。 しかし、証拠(甲18ないし25、62)及び弁論の全趣旨によれば、上 記商品の販売減による原告らの利益の減少は、ライセンス収入の減少に相当 するものにすぎず、しかも、原告らは、上記減少に係る具体的な額について 何ら主張立証していないことからすれば、原告らの主張は、上記判断を左右 するものとはいえない。したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(4) 以上によれば、原告東京フードに生じた商標法38条3項で推定される損 害額は、前記(1)の限界利益の額7446万2465円の1割である744万 6246円と算定され、当該事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に 鑑み、これと相当因果関係あると認められる弁護士費用相当損害74万46 24円との合計819万0870円となり、原告BGHDに生じた商標法3 8条3項による損害額は、前記(1)の限界利益の額1964万0547円の1 割である196万4054円と算定され、当該事案の内容、難易度、審理経 過及び認容額等に鑑み、これと相当因果関係あると認められる弁護士費用相 当損害19万6405円との合計額は216万0459円となる。

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令和1(ワ)25152  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月24日  東京地方裁判所

 ドワンゴvsFC2のコンピュータ関連発明の特許権侵害事件です。東京地裁29部は、海外サーバからの提供について、準拠法は認めたものの、被告システムは本件発明の技術的範囲に属するが、「生産」に該当しないとして、請求を棄却しました。 なお、国際裁判管轄については、被告FC2が争うことなく弁論をしてとして、日本の裁判所に管轄権を認めています。

2 争点1(準拠法)について
(1) 差止め及び除却等の請求について
特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法は、当該特許権が登録された 国の法律であると解すべきであるから(最高裁平成12年(受)第580同 14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)、本件の差止 め及び除却等の請求についても、本件特許権が登録された国の法律である日 本法が準拠法となる。
(2) 損害賠償請求について
特許権侵害を理由とする損害賠償請求については、特許権特有の問題では なく、財産権の侵害に対する民事上の救済の一環にほかならないから、法律 関係の性質は不法行為である(前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷 判決)。したがって、その準拠法については、通則法17条によるべきである から、「加害行為の結果が発生した地の法」となる。 原告の損害賠償請求は、被告らが、被告サービスにおいて日本国内の端末 に向けてファイルを配信したこと等によって、日本国特許である本件特許権 を侵害したことを理由とするものであり、その主張が認められる場合には、 権利侵害という結果は日本で発生したということができるから、上記損害賠 償請求に係る準拠法は日本法である。
・・・
前記(1)のとおり、被告システム1は、構成要件1Bないし1F及び1Hを\n充足し、前記前提事実(6)アのとおり、被告システム1が構成要件1A、1G\n及び1Iを充足することは、当事者間に争いがない。 そして、前記(2)のとおり、被告システム2及び3は、構成要件1Aないし\n1F及び1Hを充足し、前記前提事実(6)イのとおり、被告システム2及び3 が構成要件1G及び1Iを充足することは、当事者間に争いがない。\nしたがって、被告システムは本件発明1の技術的範囲に属するものと認め られる。
(2) 被告FC2による被告システムの「生産」の有無について
ア 本件発明1の関係での被告システム1(被告サービス1のFLASH版) の「生産」について
本件発明1の「実施」として被告FC2による被告システム1の「生産」 があるといえるかを、まず、被告サービス1のFLASH版について検討 する。
(ア) 物の発明の「実施」としての「生産」(特許法2条3項1号)とは、 発明の技術的範囲に属する「物」を新たに作り出す行為をいうと解され る。また、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められること を意味する属地主義の原則(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年 7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12 年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7 号1551頁参照)からは、上記「生産」は、日本国内におけるものに 限定されると解するのが相当である。したがって、上記の「生産」に当 たるためには、特許発明の構成要件の全てを満たす物が、日本国内にお\nいて新たに作り出されることが必要であると解すべきである。
(イ) 前記3(1)のとおり、被告システム1は、本件発明1の構成要件を全\nて充足し、その技術的範囲に属するものであって、被告システム1にお ける構成1aないし1iは、本件発明1の構\成要件1Aないし1Iにそ れぞれ相当する。 また、被告サービス1のFLASH版においてコメント付き動画を日 本国内のユーザ端末に表示させる手順は、前記(1)ウ(ア)のとおりであっ て、被告サービス1がその手順どおりに機能することによって、上記の\nとおり本件発明1の構成要件を全て充足するコメント配信システムであ\nる被告システム1が新たに作り出されるということができる。 そして、本件発明1のコメント配信システムは、「サーバ」と「これと ネットワークを介して接続された複数の端末装置」をその構成要素とす\nる物であるところ(構成要件1A)、被告システム1においては、日本国\n内のユーザ端末へのコメント付き動画を表示させる場合、上記の「これ\nとネットワークを介して接続された複数の端末装置」は、日本国内に存 在しているものといえる。
他方で、前記3(2)アによれば、本件発明1における「サーバ」(構成\n要件1A等)とは、視聴中のユーザからのコメントを受信する機能を有\nするとともに(構成要件1B)、端末装置に「動画」及び「コメント情報」\nを送信する機能(構\成要件1C)を有するものであるところ、これに該 当する被告FC2が管理する前記(1)ウ(ア)の動画配信用サーバ及びコメ ント配信用サーバは、前記(1)イ(ア)のとおり、令和元年5月17日以降 の時期において、いずれも米国内に存在しており、日本国内に存在して いるものとは認められない。
そうすると、被告サービス1により日本国内のユーザ端末へのコメン ト付き動画を表示させる場合、被告サービス1が前記(1)ウ(ア)の手順ど おりに機能することによって、本件発明1の構\成要件を全て充足するコ メント配信システムが新たに作り出されるとしても、それは、米国内に 存在する動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバと日本国内に存在 するユーザ端末とを構成要素とするコメント配信システム(被告システ\nム1)が作り出されるものである。
したがって、完成した被告システム1のうち日本国内の構成要素であ\nるユーザ端末のみでは本件発明1の全ての構成要件を充足しないことに\nなるから、直ちには、本件発明1の対象となる「物」である「コメント 配信システム」が日本国内において「生産」されていると認めることが できない。
(ウ) 原告は、被告システム1では、多数のユーザ端末は日本国内に存在し ているから、被告システム1の大部分は日本国内に存在している、被告 FC2が管理するサーバが国外に存在するとしても、「生産」行為が国外 の行為により開始されるということを意味するだけで、「生産」行為の大 部分は日本国内で行われている、本件発明1において重要な構成要件1\nHに対応する被告システム1の構成1hは国内で実現されている、被告\nシステム1については「生産」という実施行為が全体として見て日本国 内で行われているのと同視し得るにもかかわらず、被告らが単にサーバ を国外に設置することで日本の特許権侵害を免れられるという結論とな るのは著しく妥当性を欠くなどとして、被告システム1は、量的に見て も、質的に見ても、その大部分は日本国内に作り出される「物」であり、 被告らによる「生産」は日本国内において行われていると評価すること ができると主張する。
しかしながら、前記(ア)のとおり、特許法2条3項1号の「生産」に該 当するためには、特許発明の構成要件を全て満たす物が日本国内におい\nて作り出される必要があると解するのが相当であり、特許権による禁止 権の及ぶ範囲については明確である必要性が高いといえることからも、 明文の根拠なく、物の構成要素の大部分が日本国内において作り出され\nるといった基準をもって、物の発明の「実施」としての「生産」の範囲 を画するのは相当とはいえない。そうすると、被告システム1の構成要\n素の大部分が日本国内にあることを根拠として、直ちに被告システム1 が日本国内で生産されていると認めることはできないというべきである。 また、前記(1)ウ(ア)の2)−2及び5)からすれば、被告システム1にお いては、被告FC2のウェブサーバがユーザ端末に配信するSWFファ イルによって規定される条件に基づいて、2つのコメントが重複するか 否かを判定する計算式及び重複すると判定された場合の重ならない表示\n位置の指定が行われており、構成要件1Fの「判定部」及び構\成要件1 Gの「表示位置制御部」に相当する構\成1f及び1gの動作の実現は、 日本国内に存在するユーザ端末において行われるものであるということ ができ、これらのユーザ端末における動作からは、原告が指摘する構成\n要件1Hに対応する構成1hのうち「前記ユーザ端末のディスプレイに\nは、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間におい て、前記動画上に、右から左方向に移動する前記コメント1及び前記コ メント2とが、追いついて重複しないように表示される、」という部分に\n相当する動作は、日本国内に存在するユーザ端末において実現されるも のということができるものの、構成要件1Hに対応する構\成1hのうち 「前記サーバが、前記動画ファイルと、前記コメントファイルとを前記 ユーザ端末に配信することにより、」という部分に相当する動作は、米国 内に存在するコメント配信用サーバ及び動画配信用サーバによって実現 されるものであり、構成1hが日本国内に存在するユーザ端末のみによ\nって実現されているとはいえない。前記1(2)イで検討したところからす れば、本件発明1の目的は、単に、構成要件1Fの「判定部」及び構\成 要件1Gの「表示位置制御部」に相当する構\成等を備える端末装置を提 供することではなく、ユーザ間において、同じ動画を共有して、コメン トを利用しコミュニケーションを図ることができるコメント配信システ ムを提供することであり、この目的に照らせば、動画の送信(構成要件\n1C及び1H)並びにコメントの受信及びコメント付与時間を含むコメ ント情報の送信(構成要件1B、1C及び1H)を行う「サーバ」は、\nこの目的を実現する構成として重要な役割を担うものというべきである。\nこの点からしても、本件発明1に関しては、ユーザ端末のみが日本に存 在することをもって、「生産」の対象となる被告システム1の構成要素の\n大部分が日本国内に存在するものと認めることはできないというべきで ある。 さらに、前記(1)アのとおり、被告サービスにおいては、日本語が使用 可能であり、日本在住のユーザに向けたサービスが提供されていたと考\nえられ、同オのとおり、平成26年当時、日本法人である被告HPSが、 被告FC2の委託を受けて、被告サービスを含む同被告の運営するサー ビスに関する業務を行っていたという事情は認められるものの、本件全 証拠によっても、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月17日以 降の時期において、米国法人である被告FC2が本件特許権の侵害の責 任を回避するために動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを日本 国外に設置し、実質的には日本国内から管理していたといった、結論と して著しく妥当性を欠くとの評価を基礎付けるような事情は認められな い。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 以上によれば、被告サービス1のFLASH版については、本件発明 1の関係で、被告FC2による被告システム1の日本国内での「生産」 を認めることができないというべきである。
・・・
オ 小活
以上のとおり、本件発明1の関係でも、本件発明2の関係でも、被告サ ービス(FLASH版及びHTML5版)において、被告FC2による被 告システムの日本国内での「生産」を認めることはできない。

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令和3(行ケ)10148  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年4月25日  知的財産高等裁判所

 文字の一部を図形化した商標について、先願文字商標と類似するとした審決が維持されました。判決の末尾に本件商標が添付されています。

 本願商標は、別紙1の1のとおり、1)上段には「natural baby soap」の文 字が、水色の手書き風の書体で、下段部分の文字より小さく、また、下段部 分よりも幅が狭く、上側に湾曲する形で配され、2)下段には、Doodle Pen の 特徴を備えた書体で、上段の欧文字よりも目立つ大きさで「nico」の欧文字 が水色で横書きに表され、「nico」の「o」の上部には「サボテン」のような 図形が配され、「o」の内側には、横並びに2つの点とその下に両端上がりの 弧線が配されて顔を表すように図案化された、結合商標である。\n ところで、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の\n出所識別機能として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、そ\nれ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる 場合等には、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商\n標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するの が相当である。そして、本件においては、要部が本件商標の下段部分である ことについては、当事者間に争いがなく、本願商標が、全体の構成からみる\nと、上段部分と下段部分とを分離して観察することが取引上不自然とはいえ ず、上段部分は下段部分と比して全体の大きさは小さく、出所識別標識とし て特定の称呼、観念を生じさせないものであること等に照らしても、本件商 標の要部は下段部分であるとするのが相当である
次に、本件商標の要部である下段部分について検討する。
前記(1)のとおり、本件商標の要部である下段部分は、「nico」の欧文字が横 書きに表され、「nico」の「o」の上部には「サボテン」のような図形が配さ れ、「o」の内側には、横並びに2つの点とその下に両端上がりの弧線が配さ れて顔を表すように図案化されているところ、店舗名や商品名等に含まれる\n欧文字の「o」の内側に横並びに2つの点とその下に両端上がりの弧線を配し て顔を表すように図案化したり(乙3ないし8、10、11、14)、「o」の 文字上部にイラストを配して図案化する(乙9ないし14)ことは慣用され ていることが認められる。そうすると、本願商標の下段部分に接した取引者 及び需要者は、末尾の欧文字は一般的に慣用されているものと同様に図案化 されたものと理解し、認識するものということができる。そして、この下段 部分からは「nico」の欧文字に相応して「ニコ」の称呼を生じるものである が、「nico」の欧文字は辞書等に載録されているものでなく、特定の観念を生 じさせるものではない。
これに対し、原告は、前記第3の1(1)のとおり、欧文字の称呼「ニコ」と イラスト部分が「にこにこ笑う」との共通の印象を与えるものであり、「nico」 ないし「ニコ」の欧文字は、これを含む商品が多数存在し、登録商標等が合 計30件あることから、必ずしも取引者及び需要者に強い印象を与えるもの ではないのに対し、イラスト部分は、独自性を有するものであり、イラスト 部分からは観念が生じ、出所識別標識として強い支配的な印象を与えること を前提とした類否判断をすべきである旨主張する。
しかし、「nico」ないし「ニコ」の欧文字は、原告が提出する証拠によれば、 本願商標の指定商品と同一又は類似する商品では2件しか使用されておらず (甲9、10)、少なくとも本願商標の指定商品と同一又は類似する分野にお いて、「nico」ないし「ニコ」が出所識別標識としての機能が弱いとまではい\nえない。また、前記(2)のとおり、欧文字の「o」の内側に横並びに2つの点と その下に両端上がりの弧線を配して顔を表すように図案化したり、「o」の文 字上部にイラストを配して図案化することは慣用されているところ、本願商 標の下段部分の「o」の部分も一般的に慣用されている態様と同様であるし、
また、サボテンのようなイラストも特定の観念を生じさせるような特異なも のとはいえず、その大きさや態様において強い印象を与えるものとはいい難 い。そうすると、特に商標の細部にまで注意を払うことがない一般消費者が、 取引に際して、下段部分のうちイラスト部分にことさら着目し、それにより 特異な観念が生じ、出所識別標識として強い支配的な印象を受けるものとは 認め難いから、原告の主張は理由がない。
・・・・
これに対し、原告は、前記第3の1(3)イのとおり、本願商標の下段部分は 特徴的なイラスト部分があるが、引用商標の欧文字はこうした特徴的なもの を備えておらず、また、本願商標と引用商標の字体、イラスト、文字の与え る印象を挙げて、本願商標と引用商標は、外観において、離隔的観察のもと でも称呼における類似性をしのぐほどの差異を取引者及び需要者に与える旨 主張する。
しかし、原告が指摘するイラスト部分は、欧文字の「o」を顔等の図案化す るものとしてこれまで慣用されてきたものと大きく異なるものではなく、イ ラスト部分が強い支配的印象を与えるものではないことは繰り返し説示して きたとおりであり、また、本願商標と引用商標の字体、イラスト、文字の与 える外観上の差異については、離隔的観察のもとでは、取引者及び需要者に 大きく異なる印象を与えるものであるとまではいえない。
また、原告は、前記第3の1(3)ウのとおり、本願商標の下段部分全体から、 「にこにこ笑った」印象を与えるものであるのに対し、引用商標は特定の観 念を生じさせない旨主張するが、前記1(2) において判示したところに照らせ ば、その前提を誤るものというべきである。
さらに、原告は、前記第3の1(3)エのとおり、本願商標を付した原告の商 品について、現在までに本願商標と引用商標その他の第三者の商標と混同し たような内容の問い合わせがないことを「取引の実情」として挙げて、称呼 が共通していても、外観及び観念の相違から誤認混同が生じていない旨主張 するが、商標の類否判断に当たり考慮することのできる取引の実情とは、そ の指定商品全般についての一般的、恒常的なそれを指すものであつて、該商 標が現在使用されている商品についてのみの特殊的、限定的なそれを指すも のではない(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小 法廷判決参照)ところ、原告の上記主張は、本願商標が現在使用されている 商品についての取引の実情をいうものであるから、当を得ない。

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平成31(ワ)8969  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年4月22日  東京地方裁判所

 ゲーム画面が著作権侵害か否か争われました。前提として裁判管轄についても争われました。後者の裁判管轄は「あり」としましたが、被告は、リンク設定行為をしただけなので、複製及び公衆送信には該当しないと、請求棄却されました。

証拠(乙8)及び弁論の全趣旨によれば、原告及び被告は、いずれも中国 に住所を置く法人であり、日本に事務所等の拠点を有しないこと、被告ゲー ムの開発や配信に関する主要な作業は中国において行われたことが認められ る。これらの事情によれば、本件訴訟に関する証拠が中国に存在することが うかがわれるから、本件を日本の裁判所で審理した場合には、被告が、本件 訴訟の争点に関する主張立証をする際に、中国語で記載された書類を日本語 に翻訳したり、中国語を話す関係者のために通訳を手配したりするなどの一 定の負担を被り得ることは、否定し難い。
しかし、本件訴訟における原告の請求は、日本国内向けに配信された被告 ゲーム及びそれに関連する画像の複製を差し止め、被告ゲーム等のデータを 削除し、被告ゲームの売上げに基づき著作権法114条2項によって推定さ れる額の損害を賠償すること等を求めるというものである。そうすると、本 件訴訟における請求の内容は日本と密接に関連するものであり、かつ、原告 が主張する上記損害は日本において発生したものと解されるから、本件は、 事案の性質上、日本とも強い関連性を有するというべきである。 また、本件訴訟の争点は、前記第2の3及び前記第3のとおり、原告各画 像と被告各画像の表現の同一性ないし類似性(争点2−1)、被告による原\n告画像1に係る著作権侵害の成否(争点2−2)、被告が原告各画像に依拠 して被告各画像を作成したと認められるか否か(争点2−3)、差止め及び 削除請求の必要性(争点3)並びに損害額(争点4)である。この点、上記 争点2−1については、原告各画像と被告各画像の対比や同一性ないし類似 性が認められる部分が創作的な表現であるか否かに関する検討を要するとこ\nろ、それらの点に係る主張立証は、主として原告各画像及び被告各画像自体 に基づいて行うことになる。これに加えて、他の画像に基づき、上記同一性 ないし類似性の認められる部分がありふれた表現であることの主張立証を行\nうことも考えられるが、当該他の画像に関する証拠が中国に存在するとして も、その性質上、翻訳等の作業は必要とされないであろうから、被告に過大 な負担が生じるとは認め難い。上記争点2−2は、本件リンク設定行為が原 告画像1に係る原告の著作権を侵害するかどうかを、主として日本の著作権 法の解釈、適用によって判断するというものであるから、証拠の所在地が当 該争点の判断において重要な意味を持つものとはいえない。上記争点2−3 に関する証拠としては、原告ゲーム及び被告ゲーム以外のゲーム等の画像及 び公表時期に関する資料、ゲーム制作者の陳述書等が想定されるが、それら\nの全てが中国にのみ所在するとはうかがわれず、立証に際して被告に過大な 負担が生じるとまでは認め難い。上記争点3については、前記第3の3のと おり、被告ゲームの配信が中止された事実が重要な評価障害事実として主張 立証され得るところ、被告ゲームが日本国内向けに配信されたオンラインゲ ームであることを踏まえると、上記事実に関する主要な証拠は日本に所在す るものと認められる。上記争点4についても、上記のとおり、原告が主張す る損害は日本において発生したものと解されるから、損害額の算定の基礎と なる主要な証拠は日本に所在するものと考えられる。したがって、本件が日 本で審理されるとしても、本件の重要な争点に係る主張立証に当たり、被告 に過大な負担が生じるとまでは認められない。
(2) これに対し、被告は、1)本件訴訟と当事者、事案及び争点において密接な 関連性が存在する別件中国訴訟が中国の裁判所において係属していること、 2)原告と被告は、当然に、本件訴訟を中国の裁判所に提起することが最も適 切であり、本件が中国の裁判所での解決が図られると想定していたこと、3) 本件訴訟に関する客観的な事実関係は全て中国において発生したこと、4)本 件訴訟の証拠は全て中国国内に存在すること、5)本件を日本の裁判所で審理 する場合には被告に過大な負担を課すること等を根拠として挙げ、本件訴訟 には民事訴訟法3条の9所定の「特別の事情」があると主張する。 しかし、まず、上記1)についてみるに、本件訴訟と別件中国訴訟は、いず れも原告が当事者であるという点において共通するものの、被告は別件中国 訴訟の当事者の地位にはないから、当事者が完全に一致するものではない。 しかも、別件中国訴訟においては、原告ゲームの中国語版の表現と「C」と\n称するゲームの表現の類否等が争点とされているのであって、被告ゲームの\n表現との類否は争点とされていないばかりか、証拠(甲10)によれば、別\n件中国訴訟において争点とされている原告ゲームの表現はいずれも原告各画\n像とは異なる画像等に係るものであると認められる。そうすると、本件訴訟 と別件中国訴訟の事案及び争点はいずれも大きく相違するものといえるから、 本件訴訟と別件中国訴訟との間に強い関連性があるとまでは認められない。 次に、上記2)についてみるに、上記のとおり、本件訴訟と別件中国訴訟と の関連性は強くない上、原告ゲームと被告ゲームがいずれも日本国内向けに 配信されたスマートフォン向けのオンラインゲームであることに照らすと、 別件中国訴訟が本件訴訟に先立って中国国内の裁判所に係属していたとして も、原告ゲームと被告ゲームに関する著作権侵害に関する紛争の解決が中国 の裁判所で図られることが想定されていたとまでは認められない。 さらに、上記3)ないし5)についてみるに、前記(1)のとおり、本件の請求 の内容は日本と密接に関連するものであり、かつ、原告が主張する上記損害 は日本において発生したものと解されることから、本件に関する客観的な事 実関係が全て中国において発生したということはできない。また、前記(1) のとおり、本件の証拠が専ら中国に存在するとは認められないし、本件を日 本の裁判所が審理するとしても、立証に関して被告に過大な負担を生じさせ るものとまでは認められない。 したがって、被告の上記1)ないし5)の主張はいずれも理由がない。
(3) 以上の次第で、本件の事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の 所在地、原告を当事者とする中国の裁判所に係属中の訴訟の存在その他の事 情を十分に考慮しても、本件訴訟について、民事訴訟法3条の9所定の「特\n別の事情」があると認めることはできない。
・・・
ア 証拠(甲9、乙15ないし17)及び弁論の全趣旨によれば、本件リン ク設定行為は、本件動画の表紙画面である被告画像1をリンク先のサーバ\nーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示させるものにすぎず、\n被告は、本件リンク設定行為を通じて、被告画像1のデータを本件ウェブ ページのサーバーに入力する行為を行っていないものと認められる。そう すると、前記(2)アのとおり原告画像1を複製したものと認められる被告 画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力、蓄積 し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは、本件動画の投稿者であっ て、被告による本件リンク設定行為は、原告画像1について、有形的に再 製するものとも、公衆送信するものともいえないというべきである。
イ これに対し、原告は、1)本件ウェブページに被告画像1を貼り付ける行\n為も、本件リンク設定行為も、本件ウェブページの閲覧者にとっては、何 らの操作を介することなく被告画像1を閲覧できる点で異なるところはな いこと、2)本件リンク設定行為は、被告画像1を閲覧者の端末上に自動表\n示させるために不可欠な行為であり、かつ、原告画像1の複製の実現にお ける枢要な行為といえること、3)本件リンク設定行為をすることにより、 被告ゲームを宣伝し、被告ゲームの販売による多大な利益を得たことを指 摘し、規範的にみて、被告が複製及び公衆送信の主体と認められる旨を主 張する。しかし、上記1)についてみると、単に、本件ウェブページに被告画像1 を貼り付ける等の侵害行為がされた場合と同一の結果が生起したことをも\nって、本件リンク設定行為について、複製権及び公衆送信権の侵害主体性 を直ちに肯定することはできないというべきである。 また、上記2)についてみると、仮に枢要な行為に該当することが侵害主 体性を基礎付け得ると解したとしても、本件リンク設定行為の前の時点で 既に本件動画の投稿者による原告画像1の複製行為が完了していたことに 照らすと、本件リンク設定行為が原告画像1の複製について枢要な行為で あるとは認め難いというべきである。なお、本件動画は、本件ウェブペー ジを閲覧する方法によらずとも、本件動画が投稿されたYouTubeの 「D」のページにアクセスすることによっても閲覧することができるから、 本件リンク設定行為が原告画像1の公衆送信にとって枢要な行為であると も認められない。 さらに、上記3)についてみると、本件全証拠によっても、本件リンク設 定行為により被告がどの程度の利益を得ていたのかは明らかではないから、 その点をもって、被告が原告画像1の複製及び公衆送信の主体であること を根拠付けることはできない。 したがって、上記1)ないし3)の点を考慮しても、被告を原告画像1の複 製及び公衆送信の主体であると認めることはできず、原告の上記主張は採 用することができない。
ウ また、原告は、仮に被告が著作権侵害の主体であると認められない場合 であっても、少なくとも、被告が本件リンク設定行為により上記著作権侵 害を幇助したものと認められると主張する。 しかし、前記アのとおり、被告による本件リンク設定行為は、被告画像 1をリンク先のサーバーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示\nさせるものにすぎず、本件動画の投稿者による被告画像1を含む本件動画 をYouTubeが管理するサーバーに入力・蓄積して公衆送信し得る状 態にする行為と直接関係するものではない。そうすると、本件リンク設定 行為が本件動画の投稿者による複製及び公衆送信行為自体を容易にしたと はいい難いから、被告による本件リンク設定行為が、被告画像1に係る原 告の著作権(複製権及び公衆送信権)侵害を幇助するものと認めることは できない。 したがって、被告を原告画像1の複製及び公衆送信の幇助者であると認 めることはできない。

◆判決本文

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令和3(ネ)10074  債務不存在確認請求控訴事件  著作権 民事訴訟 令和4年4月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ファイル共有ソフトBitTorrentによる動画のダウンロードについて訴訟です。損害賠償請求不存在確認訴訟です。知財高裁は、1審とほぼ同額の損害賠償を認めました。ファイル共有ソフトによるダウンロードは、分散しているデータをまとめた完全なファイルのダウンロードが完了すると、その後は、シーダー(ダウンロードさせる者)の責任(共同侵害)も課せられます。\n

 イ 一審原告ら(一審原告X6及び一審原告X10を除く。)は、同一審原告らが 本件著作物をアップロードしたことの立証に欠けると主張するが、訂正の上引用し た原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2(4)のとおり、一審被告 は、BitTorrentを利用して本件著作物をアップロード及びダウンロード している者のIPアドレスを特定し、プロバイダから、上記IPアドレスに対応す る契約者の氏名及び住所の開示を受けていることが認められ、証拠(乙13の2・ 3・6・7)によると、プロバイダの回答書にIPアドレス並びに一審原告X2、 一審原告X4、一審原告X3、A、一審原告X7、一審原告X9の氏名及び住所の 記載があり、これら一審原告らの氏名及び住所の開示を受ける過程において、IP アドレスの混同がないことが認められる。なお、Aとの記載が、一審原告X8の行 為に係るものであることについては当事者間に争いがない。また、一審原告X1の 氏名及び住所が記載された株式会社TOKAIコミュニケーションズからの通知書 (乙13の1)には、IPアドレスの記載はないものの、「添付ファイル「接続記録 リスト」 No.49〜58」との記載があり、同記載は、一審被告作成の「調査結果一覧 (株式会社TOKAIコミュニケーションズ)」と題する書面(乙11の1)の49 〜58行目に対応するものと推認され、乙11の1の記載からIPアドレスの特定 ができることから、IPアドレスの混同がないことが認められる。そうすると、前 記(1)のとおり立証がされていないと認められる一審原告X5及び一審原告X11 を除き、一審原告ら(一審原告X6及び一審原告X10を除く。)について、本件著 作物をアップロードしたことについての立証がされていると認めるのが相当である。
(2) 争点1−2(共同不法行為性)について
ア 本件で、一審原告X1らは、本件各ファイルを、BitTorrentを利 用して送信可能な状態におくことで、一審被告の著作権を侵害した。ところで、訂\n正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2(3)のとお り、BitTorrentを利用してファイルをダウンロードする際には、分割さ れたファイル(ピース)を複数のピアから取得することになるところ、後掲の証拠 によると、一部のピアのみが安定してファイルの供給源となる一方で、大半のピア は短時間の滞在時(BitTorrentの利用時)に一時的なファイルの供給源 の役割を担うものとされるが、一審原告X1らは、常にBitTorrentを利 用していたものではないことから、一時的なファイルの供給源の役割を担っていた と考えられること(甲12、15、21)、あるトラッカーが、特定の時点で把握し ているリーチャーとシーダーの数は0〜5件程度と、特定時点における特定のファ イルに着目した場合には必ずしも多くのユーザー間でデータのやり取りがされてい るものではないこと(乙2〜4、8〜10)、BitTorrentを利用したアッ プロードの速度は、ダウンロードの速度よりも100倍以上遅く、また、ファイル の容量に比しても必ずしも大きくなく、例えば本件各ファイルの容量がそれぞれ8. 8GB、7.0GB、2.3GBであるのに照らしても、アップロードの速度は平 均0〜17.6kB/s程度(本件著作物以外の著作物に関するものを含む。)と遅 く、ダウンロードに当たっては、相当程度の時間をかけて、相当程度の数のピアか らピースを取得することで、1つのファイルを完成させていると推認されること(甲 5、6、乙2〜4、6)がそれぞれ認められる。これらの事情に照らすと、Bit Torrentを利用した本件各ファイルのダウンロードによる一審被告の損害の 発生は、あるBitTorrentのユーザーが、本件ファイル1〜3の一つ(以 下「対象ファイル」という。)をダウンロードしている期間に、BitTorren tのクライアントソフトを起動させて対象ファイルを送信可能\化していた相当程度 の数のピアが存在することにより達成されているというべきであり、一審原告X1 らが、上記ダウンロードの期間において、対象ファイルを有する端末を用いてBi tTorrentのクライアントソフトを起動した蓋然性が相当程度あることを踏\nまえると、一審原告X1らが対象ファイルを送信可能化していた行為と、一審原告\nX1らが対象ファイルをダウンロードした日からBitTorrentの利用を停 止した日までの間における対象ファイルのダウンロードとの間に相当因果関係があ ると認めるのも不合理とはいえない。
そうすると、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイ ルをアップロードした他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと、本件ファイル1〜 3のファイルごとに共同して、BitTorrentのユーザーに本件ファイル1 〜3のいずれかをダウンロードさせることで一審被告に損害を生じさせたというこ とができるから、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能化したことについて、\n同時期に同一の本件各ファイルを送信可能化していた他の一審原告X1ら又は氏名\n不詳者らと連帯して、一審被告の損害を賠償する責任を負う。 なお、控訴人(一審原告)らは、原判決が、一審原告X1らが送信可能化した始\n期から終期までの期間のダウンロード数をひとまとめで判断したことが不相当であ る旨主張するが、原判決は、当該期間のダウンロード数をもってひとまとめの損害 が生じたと認定したものではなく、1ダウンロード当たりの損害額を認定した上で、 当該期間にダウンロードされた本件各ファイルの数を推定して、推定したダウンロ ード数に応じた損害額を算定しているのであって、この手法は相当である。
イ 控訴人(一審原告)らは、原判決が、一審原告らがBitTorrentの 仕組みを十分認識・理解していたと認定したことについて事実誤認であると主張す\nるところ、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判 断」の1(2)のとおり、控訴人(一審原告)らは、BitTorrentを利用して ファイルをダウンロードした場合、同時に、同ファイルを送信可能化していること\nについて、認識・理解していたか又は容易に認識し得たのに理解しないでいたもの と認められ、少なくとも、本件各ファイルを送信可能化したことについて過失があ\nると認めるのが相当である。 そうすると、控訴人(一審原告)らが、本件著作物の送信可能化に関し、不法行\n為責任を負うとした原判決の判断は相当である。
(3) 争点2−1(共同不法行為に基づく損害の範囲)について
ア 一審被告は、本件各ファイルが最初にBitTorrentにアップロード されて以降の権利侵害の全てについて、一審原告らが責任を負う旨主張するが、一 審原告らと本件各ファイルをアップロードしている他の一審原告ら又は氏名不詳者 との間に共謀があるものでもないのであるから、一審原告らは、BitTorre ntを利用して本件各ファイルのダウンロードをする前や、BitTorrent の利用を終了した後においては、本件著作物について権利侵害行為をしていないの は明らかである。また、本件各ファイルの送信可能化による損害は、1ダウンロー\nドごとに発生すると考えられるところ、一審原告らがBitTorrentの利用 をしていない時期におけるダウンロードについてまで、一審原告らの行為と因果関 係があるなどということはできない。そうすると、一審原告らは、BitTorr entを利用して本件各ファイルのダウンロードをする前及びBitTorren tの利用を終了した後については、本件著作物の権利侵害について責任を負わない というべきであり、一審被告の上記主張は採用できない。
イ 一審原告X1らによる本件各ファイルのアップロードの終期について、別紙 「損害額一覧表」の「終期」欄記載の日(プロバイダからの意見照会を受けた日)\nと認定できるのは、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁 判所の判断」2(3)記載のとおりである。これは、一審原告X1らの陳述書(甲15、 20の1)に基づき認定したものであるが、プロバイダからの意見照会を受けたこ とで怖くなり、BitTorrentのクライアントソフトを削除したり、Bit\nTorrentの利用を控えるのは通常の行動であり、上記各陳述書の内容に不自 然な点はない。
ウ 一審原告らは、BitTorrentの利用者が、ファイルのアップロード を24時間継続することはまずないことや、シーダーやピアが数百以上散在してい ることなどを踏まえ、本件の損害額については、例えば原判決の認定する額の10 0分の1などとして算定すべきと主張する。しかしながら、前記(1)及び(2)に判示 したとおり、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイル をダウンロードしてから、BitTorrentの利用を停止するまでの間の本件 各ファイルのダウンロードによる損害の全額について、共同不法行為者として責任 を負うと認めることが相当である。また、BitTorrentの仕組みに照らす と、本件各ファイルのダウンロードキャッシュを削除するか、BitTorren tの利用を停止するまでの間は、一審原告X1らの端末にダウンロード済みの本件 各ファイルが送信可能な状態にあったのであるから、一審原告X1らが本件各ファ\nイルのダウンロードキャッシュを削除したこと又はBitTorrentの利用を 停止したことが認められる時点までは、一審原告X1らの不法行為は継続していた と認めるのが相当であり、本件では、一審原告X1らが、別紙「損害額一覧表」の\n「終期」欄記載の日よりも前の特定の日に、本件各ファイルのダウンロードキャッ シュを削除したことを認めるに足りる証拠はない一方で、一審原告X1らが、同別 紙の「終期」に記載の日より後はBitTorrentの利用をしていないことが 認められるから、同日までの間は、一審原告X1らは、本件各ファイルの送信可能\n化による不法行為を継続していたと推認することが相当である。 ところで、一審原告らは、正確なダウンロード数についての立証がない旨指摘す るが、正確なダウンロード数は不明であるものの、一審原告X1らが本件各ファイ ルを送信可能化していた期間におけるダウンロード数は、令和元年10月1日から\n令和3年5月18日までの間にダウンロードされた数から、別紙「損害額一覧表」\nの「5)期間中のダウンロード数」のとおりに推計することができるから、本件にお いては、当該ダウンロード数の限度で立証されているというべきである。

◆判決本文

原審はこちら。

◆令和2(ワ)1573

◆別紙1

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令和3(行ケ)10068  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年4月14日  知的財産高等裁判所

 パチンコ機について明確性違反とした拒絶審決が取り消されました。争点となったのは、「〜状態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く、〜状態とならない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」という記載です。出願時は代理人なしの本人出願です。通常はこのレベルで審取まで争うことはやらないので参考になります。

以上を総合すると、本件発明の「前記演出制御手段は、前記可動体演出 を行う際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に 前記特典遊技状態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く、前記 当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態 とならない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」との記載は、「前記 演出制御手段」が、「前記可動体演出を行う際に、前記当否判定の結果が大 当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合」には、 前記第1操作手段が操作されることを起因に可動体演出を行う選択をす るより、前記第2操作手段が操作されることを起因に可動体演出を行う選 択をする割合が高く、「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の 終了後に前記特典遊技状態とならない場合」には、前記第2操作手段が操 作されることを起因に可動体演出を行う選択をするより、前記第1操作手 段が操作されることを起因に可動体演出を行う選択をする割合が高いこ とを規定したものと理解できる。 したがって、本件発明の「前記演出制御手段は、前記可動体演出を行う 際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特 典遊技状態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く、前記当否判 定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となら ない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」との記載は、その記載内 容が明確である。
(2) これに対し、被告は、1)請求項1の「前記演出制御手段は、所定の前記変 動演出の実行中に、前記第1操作手段又は前記第2操作手段が操作されるこ とを起因に前記可動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行い」 との記載から、第1操作手段又は第2操作手段が操作されることを起因に可 動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行うことを理解できるが、 第1操作手段と第2操作手段の両方が操作される場合や、その他の操作手段 が操作される場合が排除されていないため、上記記載は、「第1操作手段又は 第2操作手段が二者択一で選択される構成」を特定しているとはいえないし、\n仮に「第1操作手段又は第2操作手段が二者択一で選択される構成」を読み\n取れるとしても、そのことから直ちに、記載j1の「前記当否判定の結果が 大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合には前記 第2操作手段の選択率が高く」との記載における「前記第2操作手段の選択 率」の比較対象や、記載j2の「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当 り遊技の終了後に前記特典遊技状態とならない場合には前記第1操作手段の 選択率が高い」との記載における「前記第1操作手段の選択率」の比較対象 が一義的に導かれるわけではない、2)本件明細書の【0012】及び【00 13】の記載は、請求項1の記載Jに対応しておらず、本件発明の解釈の根 拠とはならないから、記載Jを含む本件発明は、明確性要件に適合しない旨 主張する。
しかし、1)については、請求項1の「前記演出制御手段は、所定の前記変 動演出の実行中に、前記第1操作手段又は前記第2操作手段が操作されるこ とを起因に前記可動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行い」 との記載が、「演出制御手段」が、第1操作手段と第2操作手段の両方が操作 される場合や、その他の操作手段が操作される場合について可動体演出を行 うことを規定しているものと読み取ることはできないし、請求項1の記載全 体をみても同請求項がそのように規定しているものと読み取ることはできな い。
また、前記(1)のとおり、本件発明の「演出制御手段」は、当否判定の結果 が大当りである場合、変動演出の実行中、第1操作手段が操作されることを 起因に可動体演出を行うか、又は第2操作手段が操作されることを起因に可 動体演出を行うかを選択するものと理解できることからすると、記載j1は、 「前記可動体演出を行う際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り 遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合」について、「前記第2操作手段 の選択率」が「前記第1操作手段の選択率」よりも高いことを規定するもの と、記載j2は、「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後 に前記特典遊技状態とならない場合」について、「前記第1操作手段の選択率」 が「前記第2操作手段の選択率」よりも高いことを規定するものとそれぞれ 理解できるから、記載j1及びj2のいずれの記載についてもその比較対象 は明確である。 2)については、前記(1)のとおり、記載Jの記載内容が明確であることは、 本件明細書の【0012】及び【0013】を根拠とするものではないから、 被告の主張は前提を欠くものである。

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令和2(ワ)19920等  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年1月19日  東京地方裁判所

 医薬品の用途発明について、請求項1,2については、実施可能要件・サポート要件違反として訂正が認められず、請求項3,4については均等侵害も否定されました。

医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されるこ\nとのみによっては,当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該\n医薬を当該用途に使用することができないから,医薬の用途発明において 実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明にその医薬の\n有用性を当業者が理解できるような薬理試験結果を記載する必要がある が,前記判示のとおり,本件明細書等には,本件化合物が神経障害性疼痛 又は心因性疼痛による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの治療に有効である と当業者が理解し得るような薬理試験結果の記載は存在しない。
(3) 本件特許出願当時の技術常識
ア 本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛による痛覚過敏又は接 触異痛に対して有効であれば,神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接 触異痛についての薬理試験を要することなく治療効果が予測されること\nを明示又は示唆する技術常識の記載は存在しない。また,侵害受容性疼痛, 神経障害性疼痛,心因性疼痛などの種類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛 などの痛みの発症原因や機序が同一であり,いずれかの種類の痛みに対し て有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても有効であることが本 件特許出願当時の当業者に知られていたなどの記載もない。
・・・・
上記各文献は,本件の技術分野に属する専門家により執筆されたもので あり,その当時の技術常識を反映した書籍であるというべきところ,上記 に摘示した各記載によれば,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性 疼痛は,その発症原因,痛みの態様・程度及び治療方法がそれぞれ異なる というのが本件特許出願当時の技術常識であり,痛みの種類を問わず,痛 覚過敏又は接触異痛などの痛みの発症原因や機序は同一であり,いずれか の種類の痛みに対して有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても 有効であるとの技術常識が存在したということはできない。
ウ 以上によれば,本件化合物が神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接 触異痛の痛みの治療に有効であることを示す薬理試験結果の記載もなく, 本件明細書等の記載に接した当業者が,本件化合物がこれらの痛みの治療 に有効であると認識し得たとは考えられない。
(4) したがって,本件明細書等の記載は訂正前発明1及び2を当業者が実施で きる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできず,実施可\n能要件を充足しない。\n
(5) 原告の主張について
これに対し,原告は,本件特許出願当時,慢性疼痛は,それが侵害受容性 疼痛,神経障害性疼痛又は心因性疼痛のいずれによるものであっても,末梢 や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛\nの痛みであるとの技術常識が存在したので,当業者は,本件明細書等の記載及 び同明細書等に記載された薬理試験から,本件化合物が同明細書等に記載さ れた各種の痛みに有用であると認識することができたと主張する。
・・・・
(オ) 以上によれば,上記(ア)ないし(ウ)の各記載から,侵害受容性疼痛,神 経障害性疼痛等で出現する痛覚過敏と,脊髄のNMDA受容体の活性化 による中枢性感作との間に関連性があるといい得るとしても,本件特許 出願当時,本件明細書等に記載された侵害受容性疼痛(炎症性疼痛,術 後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,痛風,火傷痛等)や神経障害性 疼痛(三叉神経痛,急性疱疹性神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギ ー等)により出現する痛覚過敏がすべて末梢や中枢の神経細胞の感作と いう神経の機能異常により生じるとの技術常識が存在したとは認め難\nく,まして,これらの記載から,当業者が,薬理試験結果の記載もなく, 本件化合物が神経障害性疼痛の治療に有効であると認識し得たという ことはできない。
・・・・
原告は,被告医薬品が構成要件3B及び4Bの文言を充足しない場合であっ\nても,均等侵害が成立すると主張する。 しかし,相手方が製造等をする製品(対象製品)が,特許請求の範囲に記載 された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属すると認められる\nためには,当該対象製品が特許請求の範囲に記載された構成と異なる部分が特\n許発明の本質的部分ではないことを要する(第1要件)。 本件発明3及び4と被告医薬品との相違部分は,その用途にあるところ,同 各発明は,既知の薬物である本件化合物が,侵害受容性疼痛の治療に有効であ ることを新たに見出したことにあるので,その用途が同各発明の本質的部分を 構成することは明らかである。\nしたがって,被告医薬品は,第1要件を充足しないので,均等侵害は成立し ない。
7 まとめ
以上によれば,訂正前発明1及び2に係る特許は,実施可能要件及びサポー\nト要件の各違反を理由に特許無効審判により無効にされるべきものであり,本 件訂正は訂正要件を具備せず,同訂正によっても上記各無効理由が解消されな い。また,被告医薬品は,本件発明3及び4の技術的範囲に属しない。

◆判決本文

特許権は同じく、被告が異なる事件です。

◆令和2(ワ)19932

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 >> 均等
 >> 第1要件(本質的要件)
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

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令和3(ワ)5668 発信者情報開示請求事件 著作権 令和4年1月20日  東京地方裁判所

 著作権侵害がなされたツイート時のログイン時のIPアドレスに加えて、それ以外のツイート時のIPアドレスも、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するかが争われました。東京地裁は該当すると判断しました。

1 争点1(本件ログイン時IPアドレス等の「権利の侵害に係る発信者情報」 (法4条1項)該当性)について
(1) 原告が本件において開示を求める本件発信者情報は,本件各投稿に利用さ れた本件各アカウントを保有する者の電話番号及び電子メールアドレスのほか,本 件各アカウントにログインした際に割り当てられたIPアドレス及びそのタイムス タンプに係る情報であり,原告の本件各写真に係る公衆送信権侵害行為を構成する\n情報の送信時に割り当てられたIPアドレス及びそのタイムスタンプではない。そ こで,本件ログイン時IPアドレス等のようなログインする際に割り当てられたI Pアドレス及びそれが割り当てられたタイムスタンプが,法4条1項所定の「権利 の侵害に係る発信者情報」に該当するかが問題となる。
(2) 法4条1項は,特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害 されたとする者が開示関係役務提供者に対して開示を請求することのできる情報と して,「権利の侵害に係る発信者情報」と規定しており,権利侵害行為そのものに使 用された発信者情報に限定した規定ではなく,「係る」という,関係するという意義 の文言が用いられていることからしても,「権利の侵害に係る発信者情報」は,権利 侵害行為に関係する情報を含むと解するのが相当である。そして,法4条の趣旨は, 特定電気通信(法2条1号)による情報の流通には,これにより他人の権利の侵害 が容易に行われ,その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し,匿名で情報の発 信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという,他の情 報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ,特定電気通信による情報の流通に よって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバシー,表現の自由,通信\nの秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通信の用に供される特定電気通 信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求すること ができるものとすることにより,加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を\n図ることにあると解され(最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻 3号676頁参照),かかる趣旨からすると,権利侵害行為そのものの送信時点では なく,その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっ ても,それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には,「権利の侵害に係 る発信者情報」に当たると解すべきである。 被告は,ログイン行為と侵害情報そのもの送信行為とは全く異なる性質のもので あること等を理由に,法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」には,ログイ ン時のIPアドレス等を含まないと主張する。 しかし,ログイン時のIPアドレス等であっても,当該ログインが侵害情報の発 信者のものと認められる場合には,当該ログイン時のIPアドレス等は侵害情報の 送信行為との関連性を有するということができ,したがって,当該ログインに係る IPアドレス等も法4条1項所定の発信者情報に当たるといえるのであるから,被 告の上記主張は採用することができない。 また,被告は,法4条1項の委任を受けた省令8号が「侵害情報が送信された年 月日及び時刻」と規定していることやログイン情報の送信が1対1の電気通信であ って,「特定電気通信」(法2条1号)に該当しないことからすると,ログイン時の タイムスタンプは開示が認められる発信者情報に該当せず,また,省令5号は省令 8号と整合的に解釈すべきであるから,省令5号にいうIPアドレスも侵害情報の 送信時に割り当てられたIPアドレスのみをいうのであって,ログイン時に割り当 てられたIPアドレスを含まないとも主張する。 しかし,省令5号及び8号に開示の対象となる発信者情報の特定を委任した法4 条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」は,権利侵害行為そのものの送信時点で はなく,その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であ っても,それが当該侵害情報の発信者のものと認められるものをも含むと解するこ とができることは前記説示のとおりである。また,省令5号は,法4条1項所定の 発信者情報に該当するIPアドレスにつき,「侵害情報に係る」と規定しており,侵 害情報の送信の際に割り当てられたIPアドレスに限定する規定ぶりとはなってい ないことからすれば,ログインの際に割り当てられたIPアドレスも「侵害情報に 係るアイ・ピー・アドレス」に該当するというべきである。そして,IPアドレス の開示を受けるだけでは発信者を特定することが不可能ないし極めて困難であって,\n発信者の特定には,当該IPアドレスを割り当てられた年月日及び時刻(タイムス タンプ)を必要とすることからすれば,省令8号の規定するタイムスタンプは,ロ グインの際のIPアドレスが割り当てられた電気通信設備からのログイン情報の発 信時のものを含むと解するのが相当であるというべきであって,被告の上記主張は 採用することができない。また,本件各投稿は不特定の者の投稿・閲覧が認められ るツイッター上にされたものであり,不特定の者によって受信されることを目的と する電気通信の送信といえることに照らし,「特定電気通信」該当性を否定する被告 の上記主張も採用の限りではない。
(3) 続いて,本件ログイン時IPアドレス等から把握される発信者情報が本件 各投稿の発信者のものと認められるかどうかを検討する。 弁論の全趣旨によれば,被告が提供するツイッターを利用するには,まず,アカ ウントを作成する必要があり,アカウントの作成には,ユーザID及びパスワード の設定が必要となること,ツイッターを利用する際は,ユーザID及びパスワード を入力して当該アカウントにログインすることが必要であり,当該アカウントの管 理者はスマートフォン等の各種デバイスを利用してツイッターにログインして当該 アカウントにツイート(投稿)していることが認められる。このようなツイッター の仕組みを踏まえると,法人や団体においてその営業や事業に利用する場合を除き, 複数人が共有して特定のアカウントを利用する可能性は極めて乏しく,また,本件\nにおいて複数人が本件各アカウントを共有して使用していることをうかがわせる事 情は見当たらない。そうすると,本件各アカウントはそれぞれ特定の個人が利用し ていたものであるというべきであり,本件各アカウントにそれぞれログインした者 と本件各投稿の各発信者とは同一の者であると認められ,本件IPアドレス等から 把握される発信者情報が本件各投稿の発信者のものということができる。 被告は,本件各投稿がされる前のログイン情報もさることながら,本件各投稿が された後の情報であって,本判決確定の時点で被告が保有する本件各アカウントへ のログインの際のIPアドレス等から把握される情報(最新ログイン時の情報)ま でをも「権利の侵害に係る発信者情報」ということはできないと主張する。 しかし,前記認定したツイッターの仕組みからすれば,本件各投稿を本件各アカ ウントの設定者がこれを第三者に譲渡したことがうかがわれるなどの特段の事情の ない限り,本件各投稿と開示を求めるログイン時の情報との前後関係,その時間的 間隔の程度等を考慮することなく,本件各アカウントにログインした際のIPアド レス等は,本件各投稿による権利の侵害に係る発信者の特定に資する情報に該当す るというべきであるところ,本件全証拠に照らしても,上記特段の事情の存在はう かがわれない。 以上からすると,本件各アカウントにログインした際のIPアドレス等の情報は, 最新のログインの時のIPアドレス等も「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる というべきである。 そして,被告は,原告の著作権を侵害する本件各投稿に係る侵害情報の発信者と 同一の者によるものと認められる各通信を媒介し,その際に割り当てられた本件ロ グイン時IPアドレス等を保有する特定電気通信役務提供者であるから「開示関係 役務提供者」に当たるということができる

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令和2(ワ)5616 特許権 令和4年1月25日  東京地方裁判所

 訂正後の発明について、技術的範囲に属しないと判断されました。

2 争点1(被告各製品の20ライン分のラインバッファは,「単一のVRAM」 を充足するか(構成要件D及びHの充足性))について\n
(1) 「単一のVRAM」の意義
ア 本件特許の特許請求の範囲における構成要件Dにおいては,「グラフィ\nックコントローラ」が,「該中央演算回路の処理結果に基づき,単一のVR AMに対してビットマップデータの書き込み/読み出しを行い,「該読み 出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成」すると\n規定されている。 また,構成要件Hにおいては,「グラフィックコントローラ」が,「前記\n単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度 を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマ ップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成」すること及び「前記単\n一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像 度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビット マップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成」することが規定され\nている(なお,構成要件Hにおける「前記単一のVRAM」との文言から,\n構成要件Dと構\成要件Hの「単一のVRAM」は同一の意義を持つものと 解される。)。
さらに,構成要件F,H,Jによると,「ディスプレイパネルの画面解像\n度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」は,「外部ディス プレイ手段」に表示するためのものであるといる。\nこれらの記載によれば,構成要件D及びHの「単一のVRAM」は,「グ\nラフィックコントローラ」により,「ビットマップデータの書き込み/読み 出し」がされるものであって,外部ディスプレイ手段に表示するための「デ\nィスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビット マップデータ」の書き込み/読み出しがされるものであり,前記「ディス プレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマッ プデータ」の全体を記憶することが可能なものと解するのが相当である。\nそして,前記1に認定した本件明細書の記載(特に段落【0115】,【0 117】,【0127】)も,その記載内容に照らせば,構成要件D及びHの\n「単一のVRAM」が,「ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像 度を有する画像のビットマップデータ」の全体を記憶することが可能なも\nのであるとの上記クレーム解釈に整合しており,同解釈を裏付けるものと 評価することができる。
イ 原告は,構成要件Hは,ビットマップデータの読み出しの具体的な方法\nについて何らの特定もしておらず,ディスプレイパネルの画面解像度と同 じ解像度を有する画像のビットマップデータを一挙に読み出すことを規 定したものとは解されない旨を主張する。しかし,特許請求の範囲の記載, 明細書の記載を検討すると,上記アに説示したとおり,「単一のVRAM」 は,「ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像の ビットマップデータ」の全体を記憶することが可能なものと認めるのが相\n当である。原告の上記主張は採用することができない。
(2) 「単一のVRAM」の充足性
以上のクレーム解釈を前提に,被告各製品が,構成要件D,Hの「単一の\nVRAM」を充足するかについて検討する。 前記前提事実のとおり,被告各製品は,データ処理手段としてのCPU(中 央演算回路)及び液晶コントローラ(グラフィックコントローラ)を備える ものであるところ,このCPU(中央演算回路)は,無線通信手段から受信 した信号(圧縮した通信信号)をデコードして画像データを展開し,拡大/ 縮小(補間/間引き)を適宜行って内蔵用表示データ及び外部用表\示データ を生成し,生成した表示データを同CPU(中央演算回路)に接続されたS\nDRAMに書き込み/読み出しを行い,その内蔵用表示データ及び外部用表\ 示データを液晶コントローラ(グラフィックコントローラ)に送信する構成\nを有している。しかして,この液晶コントローラ(グラフィックコントロー ラ)には,6個の2Mビット(256kバイト)DRAMが内蔵されている ところ,これは,外部表示用のラインバッファ(20ライン分)であり,画\n像全体を書き込み/読み出しするためのものではないというのである(被告 各製品の構成d)。\n
しかして,このような,被告各製品の液晶コントローラ(グラフィックコ ントローラ)が内蔵するDRAMは,少なくとも外部表示用にはラインバッ\nファ(外部表示手段に表\示するための画像全体を書き込み/読み出しするた めのものではない)として用いられるものであるから外部表示手段に表\示す るための「ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像 のビットマップデータ」の全体を記憶するものではないことは明らかである というほかない。 そうすると,被告各製品における上記DRAM(20ライン分のラインバ ッファ)は,「単一のVRAM」との文言を充足するものとは認められず,被 告各製品が,構成要件D及びHを充足するものとは認められない。\n

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令和3(ネ)1005 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月10日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 空調服の特許について、1審は侵害を認めました。1審被告は控訴しましたが控訴は棄却されました。1審(東京地裁29部)は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。控訴審も覆滅割合は同じです。また、1審は、侵害論が終わってからの無効主張について、時期に後れたと判断しましたが、控訴審も同様です。  

前記ア及びイの認定事実によれば,本件各発明が被告各製品の部分 にのみ実施されていること,電動ファン付きウェアの市場において, 他社の販売する被告各製品の競合品が存在していたことは,本件推定 の覆滅事由に該当するものと認められる。 そして,本件推定の上記覆滅事由に加えて,1)前記アで説示した とおり,本件各発明は,空調服の襟後部と首後部との間に形成される 開口部の大きさを襟後部の内表面に設けた一組の調整紐で調整する従来技術における一組の調整紐を,取付部を有する二つの調整ベルトに\n置き換えて,一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数あ る取付部のうちいずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首 後部との間に形成される開口部の大きさを調整することを可能にし,より適切な空調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したもの\nであり,開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の 延長線上に位置づけられるものであること,本件特許の出願当時,ボ タン及びボタンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で 調整することは,周知慣用の技術であったことに照らすと,本件各発 明の技術的意義は必ずしも大きいものとはいえず,その作用効果も従 来技術と比較して大きなものとは認められないから,被告各製品にお いて本件各発明を実施した部分の顧客吸引力は高いものとはいえない こと,2)電動ファン付きウェアの市場における一審原告,一審被告及 び競業他社のシェアの割合(前記イ(ア)),3)一審被告における被告 各製品の広告宣伝の態様(甲3の1,6,乙57等)を総合考慮する と,被告各製品の購買動機の形成に対する本件各発明の寄与割合は1 0%と認めるのが相当であり,上記寄与割合を超える部分については 被告各製品の限界利益の額と一審原告の受けた損害額との間に相当因 果関係がないものと認められる。 したがって,本件推定は上記限度で覆滅されるものと認められる から,特許法102条2項に基づく一審原告の損害額は,被告各製品 の限界利益の額(5652万1465円)の10%に相当する565 万2147円と認められる。
・・・
当裁判所は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,一審 被告が同年7月9日付け控訴理由書に基づいて提出した「無効理由5ないし9」 に基づく無効の抗弁(同理由書第3ないし第6記載)及び権利の濫用の抗弁 (同理由書第8記載)の主張について,一審原告の申立てにより,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが,その理由は,以下のとおりで\nある。
(1) 一件記録により認められる本件訴訟の経緯等は,次のとおりである。
ア 一審原告は,平成30年7月6日,原審に本件訴訟を提起した。 一審被告は,同年11月12日の原審第1回弁論準備手続期日におい て,同年10月31日付け被告第1準備書面に基づいて,本件各発明 (請求項3及び9)に係る本件特許に明確性要件違反の無効理由(本件 の争点2−1)が存在するとして,特許法104条の3第1項の無効の 抗弁を主張した。その後,一審被告は,平成31年3月7日の原審第3 回弁論準備手続期日において,同年2月28日付け被告第3準備書面に 基づいて,上記無効の抗弁について,乙2公報を主引用例とする新規性 欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点2−2及び2−3)を追加 して主張した。 一審原告及び一審被告は,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備 手続期日において,侵害論についての主張立証は終了した旨陳述した。 その後,本件訴訟は,同年7月19日の原審第6回弁論準備手続期日 から,損害論の審理に入った。
イ 株式会社サンエスは,令和2年10月15日,本件特許のうち,請求項 3ないし10に係る特許について,明確性要件違反(無効理由1),冒 認出願又は共同出願要件違反(無効理由2),公然実施発明(結び紐タ イプの空調服に係る発明)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由3), 乙2公報を主引用例とする進歩性欠如(無効理由4)(ただし,本件の 争点2−3とは,乙2公報記載の発明の内容,副引用例等の主張が異な る。)を無効理由として特許無効審判(無効2020−800103号 事件。以下「別件無効審判」という。乙104)を請求した。
ウ 一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回弁論準備手続期日に おいて,同月16日付けの被告第10準備書面に基づいて,本件各発明 に係る本件特許に別件無効審判の無効理由1ないし4と同一の無効理由 が存在するとして,新たな無効の抗弁の主張をした。
原審は,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日において,一 審原告の申立てにより,被告第10準備書面で追加された上記無効の抗弁の主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下した。\n原審は,令和3年1月28日の第16回弁論準備手続期日で弁論準備 手続を終結した後,同年2月26日の原審第2回口頭弁論期日において 口頭弁論を終結し,同年5月20日,一審原告の請求を一部認容する原 判決を言い渡した。
エ 一審被告は,令和3年5月20日,本件控訴を提起し,一審原告は,同 年6月3日,本件附帯控訴を提起した。 一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年 7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に「無 効理由5」(別件無効審判の無効理由2と同じ),「無効理由6」(別 件無効審判の無効理由3と同じ),「無効理由7」(別件無効審判の無 効理由4と同じ),「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理 由9」(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加し,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。\nこれに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一 審被告の「無効理由5ないし9」に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の 抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却 下を求める旨の申立てをした。
オ なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8 日)において,特許庁に係属中である。
(2) 前記(1)の事実関係によれば,1)一審被告は,原審において,平成31年 3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許 に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進 歩性欠如の無効理由(本件の争点2−1ないし2−3)が存在するとして無 効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手 続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年 7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に 入ったこと,2)その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回 弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無 効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の 主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日にお いて,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこ と,3)一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において, 控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理 由2ないし4と同じ無効理由である「無効理由5ないし7」,原審で主張し なかった「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理由9」(実施可 能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権利の濫用の抗弁の主張をしたこと,4)別件無効審判は,当審の本件口頭弁論 終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審に おいて適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和 元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証 は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する「無効理由5ないし9」 に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて, やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審におけ る上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重 大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべき である。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗 弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の 機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得るこ とから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。 そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1 項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下 したものである。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)21900

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平成30(ワ)4329等  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月18日  東京地方裁判所

 二重まぶた形成用テープの特許権侵害で約2億4000万円の損害賠償が認められました。 ◆原告のウェブサイトには本件を含めて経緯が開示されています。
争点は、技術的範囲の属否、無効(104条の3)、損害額の認定、覆滅の程度などです。

 被告らは、原告製品の売上げが伸びずに損害が発生したのは、原告製 品及び被告各製品の競合品であるマイクロファイバー及びオリシキの販 売が開始されたからであり、特にマイクロファイバーは販売開始から現 在に至るまでに270万個が販売されるほどの人気商品であると主張す る。しかし、マイクロファイバー及びオリシキが販売されたのは、平成3 0年3月又は同年11月以降であり、前記(1)イ(ア)のとおり、被告各製 品の販売による本件特許権の侵害が認められた期間の一部にすぎない。 また、証拠(甲82)によれば、ドン・キホーテにおける原告製品の 販売はその販路全体の一部にすぎないと認められるところ、二重瞼形成 用アイテムの市場又はそのうち収縮食い込み型の商品の市場における原 告製品及び被告各製品の各シェアがどの程度のものであったかを認める に足りる的確な証拠はない。
さらに、証拠(乙75)及び弁論の全趣旨によれば、令和3年1月頃、 マイクロファイバーの広告には「累計販売数270万個突破」と記載さ れていることが認められるが、二重瞼形成用アイテムの市場又は収縮食 い込み型の商品の市場において販売された商品全体の個数が明らかでは ないから、上記の記載のみによってシェアを認定することはできないし、 前記(1)イ(ア)のとおり、マクロファイバーの販売が開始されたのは、被 告各製品の販売により本件特許権が侵害されたと認められる期間の半ば 頃である上、マイクロファイバーの販売個数の推移も明らかではない。 以上によれば、マイクロファイバー及びオリシキが販売されていたこ とのみをもって、推定の覆滅を認めるのは相当でない。
もっとも、前記(ア)a及びdのとおり、二重瞼形成用アイテムには接着 型、シャッター型及び収縮食い込み型が存在し、ドン・キホーテにおけ る販売数を見ても、原告製品、マイクロファイバー及びオリシキのほか にも、接着型の二重瞼形成用アイテムが相当数販売されており(ただし、 商品ごとに、これを1個購入することにより、どの程度の期間、二重瞼 を形成することができるかなどの条件が異なると考えられるため、販売 数を単純に比較することはできない。)、需要者は、収縮食い込み型の 被告各製品を購入することができない場合、同じく二重瞼形成用アイテ ムである接着型の商品やシャッター型の商品を購入することも十分に考えられる。そうすると、原告製品及び被告各製品の競合品が存在することに基づき、法102条2項により推定される損害額の10%について\n推定の覆滅を認めるのが相当である。

◆判決本文

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令和2(ワ)25127 著作権  民事訴訟 令和4年3月25日  東京地方裁判所

 「オーサグラフ世界地図」について、そもそも原告は共同著作者ではないと判断されました。

 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学\n術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいい、 共同著作物とは、「二人以上の者が共同して創作した著作物であつて、その 各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」(同項12号) をいう。
そうすると、本件地図1ないし4が原告及び被告の共同著作物であり、原 告がこれらについての共有著作権及び著作者人格権を有するというためには、 原告の思想又は感情が本件地図1ないし4に創作的に表現されたと認められ\nる必要がある。
(2) 前記1(5)及び(6)のとおり、被告は、平成12年頃に、原告と本件覚書を 交わし、原告との共同研究が終了した後、原告と面会したり、直接連絡をと ったりしたことはなかったところ、原告に相談することなく、平成21年に 本件発表をし、その頃に本件地図1及び2が掲載された本件論文1を、平成\n29年に本件地図3及び4が掲載された本件論文2を、それぞれ作成したも のであり、原告は、被告の本件発表並びに本件論文1及び2の作成の事実を\n知らなかったものである。また、原告は、その本人尋問において、本件地図1ないし4自体を作成し たのは被告である旨供述している。したがって、仮に本件論文1に掲載された本件地図1及び2並びに本件論 文2に掲載された本件地図3及び4に著作物性が認められるとしても、本件 地図1ないし4は、原告の思想又は感情が創作的に表現されたものではなく、\n被告のみの思想又は感情が創作的に表現されたものと認めるのが相当であり、\n原告及び被告の各氏名が記載された本件論文1に掲載された本件地図1及び 2について、著作権法14条に基づき、原告及び被告が著作者であると推定 されたとしても、その推定は覆されるというべきである。
(3)ア これに対して、原告は、1) 本件論文1及び2は、原告及び被告を共同発 明者とする本件出願1ないし3の各願書に添付した明細書に記載された内 容に基づくものであり、本件論文1及び2に掲載された本件地図1ないし 4は、本件出願1ないし3の各願書に添付した図面と基本的に同一である こと、2) 本件発表の発表\者として原告の氏名が挙げられ、本件論文1の冒 頭に原告の氏名が、末尾に原告に対する謝辞が、それぞれ記載されている ことからすると、本件地図1ないし4は原告及び被告の共同著作物である と主張する。
イ しかし、上記1)について、本件出願1ないし3の各願書に添付した明細 書に従って本件地図1ないし4を作成できるとの事実を認めるに足りる証 拠はない。
また、前記前提事実(2)ないし(4)のとおり、原告は本件出願1ないし3 の各発明者の一人として名前が挙げられているが、発明とは「自然法則を 利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法2条1項)であり、 発明者はこのような技術的思想を創作した者をいうのに対し、著作物とは 「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)であ\nり、著作者は「著作物を創作する者」(同項2号)をいうことから、両者 が創作する対象は、それぞれ技術的思想と表現という異なるものである。\n仮に本件出願1ないし3が地図の作成方法に関する発明に係る出願であり、 本件出願1ないし3の各願書に添付した明細書に従って地図を作成するこ とができたとしても、上記発明に係る技術的思想の創作に関わったにすぎ ない原告の思想又は感情が当該地図において創作的に表現されたというこ\nとにはならない。
さらに、証拠(甲1、2、4ないし6)によれば、本件地図1及び3と 本件出願1の願書に添付した図面の【図10】のLC2、本件出願2の願 書に添付した図面の【図10】のLC2及び本件出願3の願書に添付した 図面のFIG.10のLC2とを比較すると、国境線及び地名の記載の有 無、各大陸の形状、位置関係等が少なからず異なっており、本件地図2及 び4と本件出願1の願書に添付した図面の【図9】、本件出願2の願書に 添付した図面の【図9】及び本件出願3の願書に添付した図面のFIG. 9とを比較すると、各大陸の形状、位置関係等が少なからず異なっている ことが認められる。地図が地形等を客観的に表現することを目的としたも\nのであることを考慮すると、仮に本件出願1ないし3の上記各図面に原告 の思想又は感情が創作的に表現されたといえるとしても、上記のような相\n違のある本件地図1ないし4にも同様に原告の思想又は感情が創作的に表\n現されたということは困難である。以上を総合すると、上記1)の事情をもって、原告の思想又は感情が本件地図1ないし4に創作的に表現されたというには足りないから、同事情は前記(2)の認定を左右するものではないというべきである。
ウ また、上記2)について、前記前提事実(5)のとおり、日本国際地図学会の 平成21年度定期大会のプログラムには、本件発表の発表\者として、被告 のみならず原告の氏名が記載されており、本件論文1の冒頭にも、被告の みならず原告の氏名が記載され、その末尾に「本研究の基礎はA氏との半 年間の共同研究によるものである。」と記載されている。しかし、被告は、その本人尋問において、被告が修士論文を作成した際、原告が被告に対してアイデアの盗用であるなどと主張したことがあったことから、原告に配慮して、上記のとおり、原告の氏名を記載するなどした旨供述しているところ、前記1(3)ないし(5)の経過に鑑みると、被告の上 記供述は信用することができるというべきである。そうすると、上記各記載の存在をもって、本件論文1に掲載された本件地図1及び2に原告の思想又は感情が創作的に表現されているということはできないから、上記2)の事情も前記(2)の認定を左右するものではない。
エ したがって、原告の前記アの主張は採用することができない。
(4) 以上によれば、本件地図1ないし4は、原告及び被告の共同著作物とは認 められないから、原告が本件地図1ないし4に係る共有著作権及び著作者人 格権を有するとはいえない。 087/091087

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令和1(ワ)5620等  特許権侵害差止等請求事件、不正競争行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月24日  大阪地方裁判所

 CS関連発明について、キッティング作業を行うことでいずれかのプログラムが解放されて稼働するコンピュータについて、起動していない製品については、特101条の「その物の生産に用いる物」「その物の生産にのみ用いる物」ではないと判断されました。

イ 特許法101条1号について
 間接侵害について検討するに、特許法101条1号の「その物の生産にのみ用い る物」とは、抽象的ないし試験的な使用の可能性では足らず、社会通念上、経済的、\n商業的ないしは実用的観点からみて、特許発明に係る物の生産に使用する以外の他 の用途がないことをいうと解するのが相当である。 被告製品2)には、被告システムに使用される以外に、社会通念上、経済的、商業 的ないしは実用的であると認められる他の用途があるとはいえないから、被告製品 2)は「その物の生産にのみ用いる物」に該当する。
 被告らは、被告製品には、本件仕様2)のみならず、本件仕様1)及び3)があること、 被告製品は蒸気タービン発電システムの計測器として使用されていること、被告製 品のメイン基板として使用されているコンピュータは汎用的な小型コンピュータで あることから、拡張ボードと組み合わせることにより種々の用途に使用することが できることを指摘して、被告製品には他の用途がある旨を主張する。 しかし、被告システムに使用され、本件特許権侵害が問題となるのは被告製品のうち本件仕様2)に係るプログラムが現に稼働したものに限られるところ、前提事実(4)及び前記2 (1)のとおり、被告製品にインストールされている本件仕様1)〜3)に係るプログラ ムに対してキッティング作業を行うことでいずれかのプログラムが解放されて稼働 することになるが、同作業は被告フィールドロジック以外の者が行うことができず、 いったん設定された仕様の変更も、被告フィールドロジックが特殊ツールを使って 同作業を行い、再設定済みの機器を現地に送付するほかないのである。 そうであれば、本件仕様2)が稼働していない被告製品(本件仕様1)ないし3)のいずれも稼働していない製品も含む。)に関しては、被告システムに使用されるとはいえないから、「その物の生産にのみ用いる物」(特許法101条1号)ないし「その物の生産に用いる物」(同条2号)に該当するとはいえない。
また、本件仕様1)ないし3)のいずれも稼働していない被告製品について、顧客の要望に応じて被告フィールドロジックが本件仕様1)又は3)に係るプログラムを解放する可能性はあり、そのような態様での被告製品の使用が、社会通念上、経済的、商業的ないしは実用的な用途でないとも認められない。\n
 一方、本件仕様2)に係るプログラムが現に稼働した被告製品2)については、前記のとおり、被告システムに使用されるものと認められるところ、被告製品2)の使用を続けながら、本件仕様1)又は3)に係るプログラムが稼働する使用を行うことはできないから、かかる使用を被告製品2)の他の用途ということはできないし、その他、被告らが指摘する用途は、いずれも被告製品2)の用途以外のものであるから、被告らの主張は採用できない。なお、被告らは、被告製品のうち本件仕様2)を稼働させた場合、太陽光発電システムのほかにも風力発電システム及び小水力発電システムにも使用される旨を主張するが、これを裏付ける証拠はなく、実用的な用途であるとは認められない。
ウ 前記イのとおり、本件仕様2)が稼働していない被告製品は、特許法101条 2号の「その物の生産に用いる物」に該当しない。また、本件仕様2)が稼働してい る被告製品2)については、同号に基づく間接侵害の成否を検討するまでもなく、前 記イのとおり、同条1号に基づく間接侵害が成立するものと認められる。

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令和3(ワ)6266  著作権侵害等に基づく発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年3月30日  東京地方裁判所

 被告は、プロ責法の「開示関係役務提供者」には該当しないとして、発信者情報の開示請求が否定されました。

 プロバイダ責任制限法は、4条1項において、「開示関係役務提供者」の 意義について「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる 特定電気通信役務提供者」と定め、「特定電気通信による情報の流通によっ て自己の権利を侵害されたとする者」は、「侵害情報の流通によって当該開 示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであ」り(同項1号)、 かつ、「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使 のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が あるとき」(同項2号)に限り、開示関係役務提供者に対し、当該開示関係 役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報の開示を請求するこ とができる旨を規定し、また、同条2項において、開示関係役務提供者がそ のような請求を受けた場合には、原則として発信者の意見を聴かなければな らない旨を規定する。
これらの規定の趣旨は、発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自\n由、通信の秘密に関わる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示さ れるべきものではなく、また、これが一旦開示されると開示前の状態への回 復は不可能となることから、発信者情報の開示請求につき厳格な要件を定め\nた上で、開示請求を受けた開示関係役務提供者に対し、上記のような発信者 の利益の保護のために、発信者からの意見聴取を義務付けて、開示関係役務 提供者において、発信者の意見も踏まえてその利益が不当に侵害されること がないように十分に意を用い、当該開示請求が同条1項各号の要件を満たす\nか否かを慎重に判断させることとしたものと解される。 こうした「開示関係役務提供者」の意義及びプロバイダ責任制限法の定め の趣旨に鑑みれば、「開示関係役務提供者」については厳格に解すべきであ って、ある特定電気通信役務提供者が「開示関係役務提供者」に当たるとい うためには、当該特定電気通信役務提供者が用いる特定電気通信設備が侵害 情報の流通に供されたことが必要であると解すべきである。
(2) 判断
ア 被告TOKAIについて
(ア) 本件ツイート1の投稿について
原告らが被告TOKAIに対して開示を求める契約者の情報である本 件発信者情報1は、令和2(2020)年6月29日15時56分35 秒(UTC)頃及び同年8月16日7時49分52秒(UTC)頃に被 告TOKAIから(IPアドレスは省略)という発信元IPアドレスを 割り当てられていた契約者に関するものである。 この点、本件ツイート1が投稿されたのは、同年6月29日17時4 5分(JST。これをUTCに換算すると同日8時45分となる。)で あるから、本件発信者情報1のうち、同日15時56分35秒(UTC) 頃に関するものは、本件ツイート1の投稿から7時間余り後のものであ り、同年8月16日7時49分52秒(UTC)頃に関するものは、同 投稿から48日余り後のものである。したがって、被告TOKAIから 上記発信元IPアドレスを割り当てられた通信によるログインの状態下 で、本件ツイート1の投稿に係る通信がされたものと認めることはでき ない。
また、証拠(甲35、36、39、40、乙5の1)によれば、(I Pアドレスは省略)というIPアドレスに係るドメインには「t−co m.ne.jp」という文字列が含まれていたと認められるから、被告 TOKAIが割り当てるIPアドレスに係るドメインには、この「t− com.ne.jp」という文字列が含まれるものと推認される。そし て、当該文字列を含むドメインに係るIPアドレスが割り当てられた通 信によって本件アカウントにログインされた時刻は、その大半が17時 台から23時台までの間(いずれもUTC)であって、8時台(UTC) は見当たらない。したがって、本件ツイート1が投稿された令和2(2 020)年6月29日8時45分(UTC)頃に、被告TOKAIの電 気通信設備を経由する通信によって本件アカウントにログインがされた ものと認めることはできない。 かえって、証拠(甲40)によれば、本件ツイート1の投稿の直前の ログインに係る通信は「amazonaws.com」を含むドメイン のものであると認められ、これは、本件ツイート1の投稿に係る通信が、 被告TOKAIの電気通信設備以外の電気通信設備を経由してなされた ことをうかがわせる事情といえる。 以上によれば、被告TOKAIが用いる電気通信設備が本件ツイート 1の投稿に供されたことは認められないから、本件ツイート1の投稿に ついて、被告TOKAIが「開示関係役務提供者」に該当するとは認め られない。
・・・
ウ 原告らの主張について
(ア) 原告らは、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備とログイ ンの通信に用いられた電気通信設備が同一であれば、当該電気通信設備 を用いる特定電気通信役務提供者は「開示関係役務提供者」に該当する 旨を主張する。しかし、仮に原告らの解釈を前提にしても、前記ア及び イのとおり、本件各ツイートが被告らの電気通信設備を経由して投稿さ れたとは認められないから、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通 信設備とログインの通信に用いられた電気通信設備が同一であるとは認 められない。したがって、原告らの上記主張は理由がない。 さらに、原告らは、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備 が厳密に特定できなくとも、そのいずれかの電気通信設備を用いて投稿 されたことが明らかであれば、権利侵害を受けた者の権利回復を図ると いう観点からも、立証責任を緩和して、いずれの経由プロバイダに対す る発信者情報開示請求についても認められるべきであるとも主張する。 しかし、前記(1)のとおり、プロバイダ責任制限法4条1項は、情報の 発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件\nの下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特 定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することを認め たものと解されるから、権利侵害を受けた者の権利回復を図るという観 点のみを根拠として、その者の立証責任を緩和し、複数の経由プロバイ ダのうちいずれかの経由プロバイダの電気通信設備を用いて投稿された ことさえ立証されれば、いずれの経由プロバイダに対しても発信者情報 開示請求が認められると解するというのは、相当でないというべきであ る。原告らの主張は独自の見解というほかはなく、採用の限りではない。
(イ) 原告らは、さくらインターネット株式会社やアマゾンジャパン合同会 社が管理する通信網を経由した本件アカウントへのログイン(「sak ura.ne.jp」や「amazonaws.com」の文字列を含 むドメインによるIPアドレスが割り当てられた通信によるログインを 指すと解される。)は、本件ツイート1及び2の投稿者とは異なる別事 業者が提供する、本件アカウントと連携したツイッター専用アプリケー ションを用いて本件アカウントにログインしたものであって、上記投稿 者による通信ではないと主張する。しかし、本件全証拠によっても、原 告が主張する上記事実は認められないから、本件各ツイートの投稿の通 信に関する前記ア及びイの認定を何ら左右するものではない。
(ウ) したがって、原告らの前記(ア)及び(イ)の主張はいずれも採用すること ができず、その他原告らが種々主張するところを十分に考慮しても、前\n記(2)ア及びイの認定を左右するには至らない。

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令和3(ネ)10049等  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審(東京地裁46部)では文言侵害として3600万円の損害賠償が認められましたが、知財高裁(2部)は、技術的範囲に属しない(均等含む)と判断しました。

3 争点1−1(被告製品のピンが,長手方向断面が「楕円形」(構成要件B,D)\nである先端部を有しているか)について
(1) 「楕円形」の一般的な意味について
ア 「楕円形」とは,「楕円状をなした形」をいい,「楕円」とは,「円錐曲線 (二次曲線)の一つ。幾何学的には,一平面上で二定点(F,F’)からの距離の和 (FP+F’P)が一定であるような点Pの軌跡。」を意味する(「広辞苑 第六版」 (平成20年1月11日発行,株式会社岩波書店)1705頁,乙2参照)。この点, 被控訴人が提出するウェブサイト「コトバンク」における検索結果に係る証拠(甲 2。令和元年5月30日印刷)では,「楕円形」について,「楕円状をなす形,ある いは,それに近い形。」(デジタル大辞典の解説),「楕円のような形。また,そのよ うな形のさま。小判がた。長円形。側円形。」(精選版日本国語大辞典の解説)とさ れている。 上記を踏まえると,一般に,「楕円形」とは,「楕円状をなした形」をいい,幾何 学上の楕円の形状がそれに含まれることはもとより,同形状とは異なるがそれに近 い形についても用いられる語であると解される。 もっとも,幾何学上の楕円の形状とは異なるがそれに近い形として,どのような 形が「楕円形」に含まれるか,「楕円形」の意味の外延は,上記の辞書的な意味から は明確とはいえない。
イ 上記に関し,「卵形(たまごがた)」は,「鶏卵に似た楕円形。」を意味する語 である(上記「広辞苑 第六版」1756頁,甲78参照)。なお,被控訴人が提出 するウェブサイト「コトバンク」における検索結果に係る証拠(甲77。令和3年 7月29日印刷)では,「卵形(たまごがた)」について,「鶏卵のような楕円形。ま た,そのような形のもの。たまごなり。」(精選版日本国語大辞典の解説),「鶏卵に 似た楕円形。たまごなり。らんけい。」(デジタル大辞典の解説)とされている。 また,「卵形(らんけい)」は,「たまごのような形。たまごがた。」を意味する語 である(上記「広辞苑 第六版」2933頁)。なお,上記証拠(甲77)では,「卵 形(らんけい)」について,「卵のような形。楕円の一方が少し細くなっている形。 たまごがた。」(精選版日本国語大辞典の解説),「卵のような形。たまごがた。」(デジタル大辞典の解説)とされている。 そうすると,「楕円形」の語は,「卵形」を含むものとして用いられることもある ものの,他方で,前記アの「楕円形」の意味において,「卵形」と同義である旨の説 明はもちろん例示としても「卵形」という説明がみられないことや,上記のとおり, 「卵形」の意味においても,限定なしで「楕円形」と同義であることは何ら示され ず,「鶏卵に似た」,「鶏卵のような」といった限定を付して「楕円形」という語が用 いられたり,「楕円の一方が少し細くなっている形」との説明がされていることも踏 まえると,「楕円形」は本来的な意味として「卵形」を含むものではないとみられる ところである。
ウ 以上によると,「楕円形」の語は,幾何学上の楕円の形状及びそれに近い形を いうものであるが,当該楕円の両端(当該楕円とその長軸が交わる2点をいう。)付 近の曲線を比較した場合に,その一方の曲率が他方の曲率より小さい形状(「卵形」 など。当事者の主張における「長手方向の端の一方が他方よりも緩い曲率の形状」。 以下「曲率に差のある形状」という。)を含むものとして「楕円形」の語が用いられ ているか否かは,明細書(図面を含む。)における当該「楕円形」の語が用いられて いる文脈等を踏まえて判断する必要があるというべきである。
エ これに対し,被控訴人は,「楕円形」の語が卵形等を含むものであると主張し て,インターネットでの画像検索の結果(甲10の1〜6)やウェブサイト等にお ける語の使用例(甲79〜84)を指摘するが,それらは一般に「楕円形」の語が どのような形を説明する際に用いられているかといった事情を示すものにすぎず, 「楕円形」の語が上記各証拠で示される各種の形をその意味として当然に含むこと を示すものとは解されない。
(2) 本件明細書における「楕円形」の語について
ア 本件明細書に,「楕円形」の意味について説明する記載等は見当たらない。 ただし,請求項1の発明においては先端部が「球形」とされ,本件明細書でも「球 形」と「楕円形」が使い分けられていることを踏まえると,少なくとも,本件発明 の「楕円形」は,円形(球形の断面)を含むものではなく,円形を含み得るような 広い意味の語ではないことは理解されるといえる。
イ(ア) 訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」 の1(2)を踏まえると,本件発明が解決しようとする課題は,従来技術について,矢 の先端部に「かえし」が存在することにより生じていた,1)矢を的から外すときに 丸釘のピンだけ的に残ってフィルムだけ引き抜かれてしまうという課題と,2)ダブ ル突入の場合に後ろの矢を引き抜くときにフィルムが丸釘のピンから抜け,後ろの 矢のピンが前の矢のフィルム内に残ってしまうという課題(以下,併せて「ピン抜 けの課題」という。)のほか,矢の先端部の頭部と円柱部の位置のずれやフィルム の重なりにより生じていた,3)上下方向の重心に偏りがあるという課題(以下「重 心の課題」という。)であると解される。
(イ) 本件発明の「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状は,ピン抜けの課 題の原因が先端部の「かえし」の存在にあったとされていることを踏まえると,ピ ン抜けの課題の解決手段の一つとして採用されたものと理解されるところ,「かえ し」の存在をなくすという観点からは,先端部の形状は,幾何学上の楕円の形状で 足り,曲率に差のある形状である必要はない。したがって,ピン抜けの課題の解決 手段の一つであるという事情は,本件発明における「楕円形」の語が,曲率に差の ある形状を含むというべき積極的な事情には当たらない。むしろ,曲率に差のある 形状とした場合,具体的な形状次第では,的やダブル突入の場合の前の矢のフィル ムに曲率の差のある形状の先端部が残ってしまうという可能性が別途生じ,ピン抜\nけの課題の解決に支障が生じ得るともいえるところである。この点,本件明細書に は,先端部の形状について,「楕円形」としてどのような範囲内のものであればピン 抜けの課題が適切に解決されるかの判断の資料となり得るデータ等は,何ら記載さ れていない。
他方,本件明細書上,重心の課題の解決と「長手方向断面が楕円形」という先端 部の形状との関係は明確ではないが,重心の課題の原因の一つとして,矢の先端部 の頭部と円柱部との位置のずれが挙げられていることのほか,本件発明の効果等に 関し,請求項1の発明に係る実施例についてのものではあるものの,「ピンを従来 の丸釘から先端球形に変更することによって矢の長手方向の重心位置を矢の先端方 向に寄せることができた」ことが記載され,その変形例が本件発明に係るもので, 上記実施例と同様に従来の矢の丸釘と比較した丸ピンの重量等について具体的な記 載がされていることも考慮すると,「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状 は,円柱部との位置のずれを解消しやすく,また,上下方向の重心に偏りがなく, かつ,従来の丸釘よりも先端部が後ろに長い形状であるために先端部が相対的に重 くなるといった観点から,重心の課題の解決手段の一つとして採用されたものと理 解することもあり得る。しかし,そのような観点からも,先端部の形状は,幾何学 上の楕円の形状で足り,曲率に差のある形状である必要はない。むしろ,曲率に差 のある形状とした場合,具体的な形状次第では,円柱部との位置の調整が困難にな ったり,上下方向の重心に偏りがなく,かつ,先端部が相対的に重くなるといった 特徴が十分に発揮できなくなり,重心の課題の解決に支障を生じ得るともいえると\nころである。この点,本件明細書には,先端部の形状について,「楕円形」としてど のような範囲内のものであれば重心の課題が適切に解決されるかの判断の資料とな り得るデータ等は,何ら記載されていない。
ウ 本件発明の実施例は,本件明細書の【0065】〜【0069】及び【図3】 のとおりであり,先端部の長手方向の断面は,請求項1の発明の実施例(同【図2】) の先端部の形状である「球形」の長手方向の断面である円を左右(矢の進行方向か らすると前後)に二つに分割してその間に長方形を挟み込んだような形(換言する と,「円」を左右に引き伸ばしたような形)であって,「小判型」や「俵型の断面」 などというべきものであり,幾何学上の楕円の形状とは異なるものの,長手方向の 両端の曲率を同じくするものである。上記の形については,本件明細書に実験結果 が記載されており,また,前記イ(イ)で指摘したような,ピン抜けの課題の解決や重 心の課題の解決に支障を生じ得るといった事情も認め難いものといえる。
(3) 構成要件B及びDの「楕円形」の意味及び文言侵害の成否について\n
ア 前記(1)及び(2)の点を踏まえると,構成要件B及びDの「楕円形」は,幾何\n学上の楕円の形状や,本件発明の実施例の形のような,楕円に近い形状であって長 手方向の両端の曲率を同じくする形状は含むものと解される一方で,曲率に差のあ る形状は含まないものと解するのが相当である。なお,これと異なる技術常識を認 めるべき証拠もない。
イ 被告製品のピンの先端部は,「長手方向断面が,前部が曲率の緩い曲線形状, 後部が略円錐形となるように円弧を描き,後部の円柱部との接合面が上下に角を有 し,前記後部の角と角とを直線で結んだ形状である先端部」(構成要件b)であり,\n曲率に差のある形状の一端を更に一定の範囲で切断した形状というべきものである から,構成要件B及びDの「楕円形」には含まれない。\nしたがって,被告製品が,文言上,本件発明の技術的範囲に属するとは認められ ない。
ウ 被控訴人は,曲率に差のある形状のピンの先端についても,1)「かえし」が ないため矢が抜きやすいこと,2)上下方向の重心が均等であり,また,3)従来技術 の釘形状の先端部と比べて錘として重くなり,矢全体の長手方向の重心を前寄りに 寄せることという本件発明の技術的意義を満たすものであるから構成要件B及びD\nの「楕円形」に含まれると主張するが,前記(1)及び(2)で認定説示した点に照らし, 上記1)〜3)を満たすことから直ちに上記「楕円形」に含まれるということはできな い(なお,被控訴人の上記主張によると,請求項1の発明に係る「球形」が,同時 に本件発明に係る「楕円形」に含まれることとなり得,この観点からも上記主張は 相当といい難い。)。 また,被控訴人は,本件で問題になっているのは,一般的に楕円形といえばどの ような形を最初に思い浮かべるかではなく,卵形や涙滴型のような,長手方向の端 の一方が他方よりも緩い曲率の形状を「楕円形」と表現するのか否かであると主張\nするが,被告製品の先端部の形状が本件発明の構成要件B及びDの「楕円形」に含\nまれるかという判断に先立って,まず,本件発明の構成要件の解釈として構\成要件 B及びDの「楕円形」の意味が問題となるのであるから,被控訴人の上記主張は, その前提を誤るものといえ,前記ア及びイの判断を左右するものではない。
4 争点1−2(均等侵害の成否)について
・・・・
(エ) 本件発明の構成要件A〜Eに加え,前記(ア)ないし(ウ)を踏まえると,本件発 明について,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分とは,\nピンと巻いたフィルムによって構成される吹矢において,構\成要件B〜Dのうち, 特に「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とか らなるピン」,「先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ・・・たフィルム」 及び「前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続さ れた」という構成を採用することにより,ピン抜けの課題と重心の課題をともに解\n決するという点にあると解される。
(オ) 前記3で認定判断した構成要件B及びDの「楕円形」の意味及び弁論の全趣\n旨によると,本件発明の先端部の形状と被告製品の先端部の形状について,1)本件 発明では「楕円形」であるのに対し,被告製品では,曲率に差のある形状を基礎と して,「長手方向断面が,前部が曲率の緩い曲線形状,後部が略円錐形となるよう に円弧を描」く形状となっていること(なお,別紙乙第1号証のとおり,後部の略 円錐形となるような円弧について,一定の曲率が選択されているものである。乙3 の1・2,乙15参照)と,2)根元段差部分があることとにおいて,異なっている ということができる。 上記のうち1)について,前記3(2)イで指摘したところからすると,本件発明は, 少なくともピン抜けの課題の解決方法として,「長手方向断面が楕円形である先端 部」という構成を採用したものと解される。そして,同イ(イ)で指摘したとおり,「長 手方向断面が楕円形」という形状を曲率に差のある形状に変更した場合,ピン抜け の課題の解決や重心の課題の解決に支障を生じ得るともいえるところ,「楕円形」と してどのような範囲内のものであればピン抜けの課題が適切に解決されるかの判断 の資料となり得るデータ等は本件明細書に記載されていない。 そうすると,本件発明における前記3(3)で認定判断した意味での「長手方向断面 が楕円形」という先端部の形状の特定は,本件発明の本質的部分に含まれるものと いうべきであり,それを被告製品の先端部の形状に置き換えることは,本件発明の 本質的部分を変更するものというべきである。 ウ したがって,本件発明の構成中に,被告製品と異なる部分が存在するところ,\n異なる部分は本件発明の本質部分であるから,第1要件を満たさない。
(2) 第3要件について
また,本件全証拠をもってしても,本件発明の「長手方向断面が楕円形」という 形状を被告製品の先端部の形状に置き換えることについて,前記3(2)イ(イ)で指摘 したとおり,曲率に差のある形状への変更によりピン抜けの課題の解決や重心の課 題の解決に支障を生じ得るともいえる一方で,どのような範囲内の変更であればそ れらの課題がなお適切に解決されるかの判断の資料となり得る記載が本件明細書に ないにもかかわらず,当業者が被告製品の製造等の時点において上記置換えを容易 に想到することができたというべき技術常識等は認められない。 したがって,第3要件も満たさない。
(3) まとめ
したがって,その余の点について判断するまでもなく,均等侵害は成立しない。
(4) 被控訴人の主張について
ア(ア) 被控訴人は,第1要件について,「かえし」部分が存在せず,矢が的や前の 矢から引き抜きやすい滑らかな曲線状の長手方向断面形状を有する先端部と,当該 先端部の略中心部を円柱部が通る形状のピンを備えているという点が本件発明の本 質的部分であると主張するが,前記(1)ア及びイで認定説示したとおりであって,被 控訴人の上記主張は採用できない。それゆえ,上記主張を前提とする本件発明と被 告製品との一致点・相違点に係る被控訴人の主張も採用できない。 (イ) 被控訴人は,第1要件について,ピンの先端部の後方部の形状に着目したと いう点で本件発明は技術的思想として新しいなどとも主張するが,そのような着眼 点に本件発明の一つの特徴があるとしても,その上で,本件発明においては,課題 解決の方法として,「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状が選択されたとい う事情を均等侵害の成否の検討においても無視することはできず,また,ピンの先 端部の後方部の形状に係る構成は,本件発明による複数の課題の解決のうちのいま\nだ一つにとどまるというべきものであるから,被控訴人の上記主張は,前記(1)イ及 びウの認定判断を左右するものではない。
イ 被控訴人は,第3要件について,本件発明は,矢が的や前の矢から引き抜き やすいピンの先端部を提供するものであり,そのためにはピンの先端部の形状は球 形や楕円形に限られず,「かえし」部分が存在せず,かつ,引き抜く際の抵抗がよ り小さくなるような滑らかな曲線状で形成されていればよいことは,当業者におい て容易に想到できるなどと主張するが,前記ア(ア)のとおり,本件発明の本質的部分 についての被控訴人の主張は採用できないから,当業者において容易に想到できる という被控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであり,第3要件を満たさない というべきことは,前記(2)のとおりである。その余の被控訴人の主張も,本件発明 の本質的部分についての被控訴人の主張を前提とするものか,本件発明において課 題解決の方法として「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状が選択されたと いう事情を無視するもので相当でないものであって,いずれも採用できない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成31(ワ)2675

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令和2(ワ)11834  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年1月27日  大阪地方裁判所

 漏れていたのでアップします。原告のイラストをテレビに自作イラストとして投稿して、放映された事件で、著作権侵害として、34万円の損害賠償が認められました。著作権侵害の場合、特許などと異なり、故意・過失が侵害認定要件となっていますが、「検索サイトによる画像検索等の方法により特定の画像の制作者等を特定することは,特別の専門的知識等がなくとも比較的容易」と判断されています。  原告は,平成28年6月19日,自ら作成した本件イラストを原告筆名の名義で 開設する SNS「ツイッター」のアカウント(以下「原告アカウント」という。) により投稿してこれを公表した。\nまた,原告は,同年10月頃,イラスト集(以下「本件イラスト集」という。) を出版したが,本件イラスト集には掲載されたイラストの著作者名として原告筆名 が表示され,また,本件イラストもこれに掲載されている。\nさらに,本件イラストは,令和元年9月10日以降,「コンビニプリント」と称 するサービスにより,全国のコンビニエンスストアでその複製物を購入し得るよう になっているところ,そのサービス提供に当たり,原告筆名が著作者名として表示\nされている。(以上につき甲5〜8,当裁判所に顕著な事実)
・・・
前提事実(第2の2(2))によれば,原告は,本件イラストの著作者とし て,その著作権及び著作者人格権を有する者と認められる。 にもかかわらず,被告が,本件応募行為等に際し,本件データを原告に無断で 複製していまじんに提供し,また,いまじんに対し本件イラストの著作者が「X 2」である旨を伝えたことにより,本件番組の放送に際してはその旨の表示がさ\nれ,原告の実名又は原告筆名は著作者として表示されなかった。\n
イ 被告の故意又は過失の有無(争点1)
被告は,本件イラストの著作者ではなく,また,その主張を前提としても, SNS を通じて知り合っただけの人物から同人の作品としてデータの提供を受けた にとどまる。 本件応募フォーム,とりわけ本件注意書の記載内容(前記1(1))に鑑みれば, 本件番組がオリジナル作品の制作者本人による応募を前提とするものであること は容易に理解される。また,この趣旨を踏まえれば,仮に制作者本人以外の者が 応募する場合であっても,応募者が制作者本人の承諾等を得た上で応募すべきこ とが求められることも,やはり容易に理解し得る。さらに,日テレ及びその系列 局で本件番組が放送されること及び放送日時等も踏まえれば,本件番組が多くの 視聴者により視聴されることも容易に予想される。\n他方,昨今のインターネットをめぐる状況を踏まえると,SNS その他ウェブサ イト等を通じて,他人が作成したイラスト等の画像データを入手することは事実 上容易であり,また,検索サイトによる画像検索等の方法により特定の画像の制 作者等を特定することは,特別の専門的知識等がなくとも比較的容易である。
以上のような事情を踏まえれば,被告は,本件応募行為等に際し,本件イラス トに係る他人の著作権及び著作者人格権を侵害することのないよう,インターネ ット上の画像検索等の客観性を有する適切な方法により,その著作者ないし著作 権者を確認すべき注意義務を負っていたことが認められる。にもかかわらず,被 告は,その主張を前提としても,単に被告に本件データを提供した人物(P3) に本件イラストが同人の作品であることなどを直接電話等で確認したにとどま る。そうである以上,被告には,本件イラストに係る著作権(複製権)及び著作 者人格権(氏名表示権)の各侵害行為について,少なくとも過失が認められる\n(なお,原告は,複製権侵害につき,明示的には被告の故意を主張するにとどま るが,その主張全体の趣旨から,過失の主張も包むものと理解される。)。これ に反する被告の主張は採用できない。

◆判決本文

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令和1(ワ)25550 設計図面の複製の差止め等請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年3月30日  東京地方裁判所

 原告は企画書の著作者ではないとして、著作権侵害が否定されました。

 原告は、本件企画書の作成に際して本件土地の開発計画を立案し、つくば 建設設計事務所等から提出された検討結果を総合的に取りまとめ、本件企画 書に落とし込む作業を行ったこと、建築計画等の制作において設計図面等の 著作権は発注者である取りまとめ会社に帰属する慣例があることから、原告 は本件企画書の著作者であると主張する。 しかし、単に計画を立案したというのみではアイデアの提供にとどまるし、 他社による検討結果を取りまとめ、本件企画書に落とし込む作業をしたとし ても、当該他社の創作的表現を本件企画書に記載したのみでは、当該作業を\n通じて、本件企画書に原告の思想又は感情を創作的に表現したことにはなら\nないというべきである。そして、本件全証拠によっても、原告が本件企画書 等の作成にどのように関与したのかは明らかではないから、本件企画書等が 「著作物」に該当するとしても、原告がこれを「創作」したと認めることは できない。したがって、原告が本件企画書等の「著作者」(著作権法2条1 項2号)であるとは認められない。 また、原告が主張するような慣例が存在することを認めるに足りる証拠も ないから、そのような慣例に基づいて原告が本件企画書等の著作者になると 認めることもできない。 以上の次第で、仮に本件企画書等に著作物性が認められるとしても、原告 は本件企画書等の著作者であると認めることはできない。

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令和2(ワ)32121  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年3月30日  東京地方裁判所

 写真の複製・翻案かが争われました。料理写真なので、構図なども一般的と判断されています。\n

 著作権法が、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、\n文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号)をいい、 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製 することをいう旨規定していること(同項15号)からすると、著作物の複 製(同法21条)とは、当該著作物に依拠して、その創作的表現を有形的に\n再製する行為をいうものと解される。 また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、 その表現上の本質的な特徴である創作的表\現の同一性を維持しつつ、具体的 表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表\現す ることにより、これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得する\nことのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。 そうすると、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるとい うためには、原告写真と被告写真3との間で表現が共通し、その表\現が創作 性のある表現であること、すなわち、創作的表\現が共通することが必要であ るものと解するのが相当である。
一方で、原告写真と被告写真3において、アイデアなど表現それ自体では\nない部分が共通するにすぎない場合には、被告写真3が原告写真を複製又は 翻案したものに当たらないと解される。そして、共通する表現がありふれた\nものであるような場合には、そのような表現に独占権を認めると、後進の創\n作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり、文化の発展に寄与するという著作\n権法の目的(同法1条)に反する結果となりかねないため、当該表現に創作\n性を肯定して保護することは許容されない。したがって、この場合も、複製 又は翻案したものに当たらないと解される。
(2) 原告は、原告写真と被告写真3において共通する部分である共通点aない しfは創作性のある表現であるから、被告写真3は原告写真を複製又は翻案\nしたものに当たる旨主張するので、以下において判断する。
ア 共通点aについて
原告写真と被告写真3とは、被写体であるスティック春巻を2本ない し3本ずつ両側から交差させている点において共通する。 しかし、証拠(乙9)によれば、角度や向きを変えながら料理を順に 重ねて盛る「重ね盛り」という方法が存在することが認められるところ、 原告写真と被告写真3の被写体であるスティック春巻はいずれも細長い 形状を有するから、スティック春巻を盛り付ける場合に、上記の「重ね 盛り」の方法によってスティック春巻を数本ずつ交差させて配置するこ とは、スティック春巻の撮影する場合に一般的に行われるものであると いうことができる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8) によれば、共通点aと同様に、棒状の春巻を配置して撮影された写真が 複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は、\nありふれたものといわざるを得ない。 以上によれば、共通点aは創作的表現であるとはいえないから、被告写\n真3の共通点aの部分が、原告写真の共通点aの部分を複製又は翻案した ものに当たると認めることはできない。
イ 共通点bについて
原告写真と被告写真3とは、2本のスティック春巻を斜めにカットして、 断面を視覚的に認識しやすいように見せ、さらに、チーズも主役でない程 度に見えるようにしている点において共通する。 しかし、具が衣に包まれているという春巻の形状に照らすと、春巻の 具を撮影するためには春巻をカットしなければならないし、その際、具 を強調するために、断面積が大きくなるよう、斜めにカットすることは、 スティック春巻を撮影する際に一般的に採用され得る手法ということが できる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)によれば、 共通点bと同様に春巻を斜めにカットした断面を配置して撮影された写 真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表\n現は、ありふれたものといわざるを得ない。 以上によれば、共通点bは創作的表現であるとはいえないから、被告\n写真3の共通点bの部分が原告写真の共通点bの部分を複製又は翻案し たものに当たると認めることはできない。
ウ 共通点cについて
原告写真と被告写真3とは、端に角度がついた、白色で模様がなく、被 写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用して いる点において共通する。 しかし、証拠(乙10、11)によれば、白い器は料理の色を引き立て る効果があり、選択肢として基本的な色であること、料理の写真を撮影す る際には盛り付ける料理にぴったり合う大きさの皿を選択することが重要 であることが認められる。そうすると、白色で模様がなく、黄土色のステ ィック春巻とフィットする大きさの皿を使用することは、スティック春巻 の写真を撮影する上で一般的に行われ得るということができる。加えて、 証拠(甲25、26、乙2、8)によれば、共通点cと同様に、白色で模 様がなく、被写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの 皿を使用して撮影された写真が複数存在すると認められることに照らすと、 上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。\n以上によれば、共通点cは創作的表現であるとはいえないから、被告\n写真3の共通点cの部分が原告写真の共通点cの部分を複製又は翻案し たものに当たると認めることはできない。
エ 共通点dについて
原告写真と被告写真3とは、皿に並べた春巻を、正面からでなく、角度 をつけて撮影している点において共通する。 しかし、証拠(乙12)によれば、料理写真の構図として、料理を正面\nから撮影するのではなく、左右に回転させて左右向きに配置して、斜めの 方向から撮影する手法が存在することが認められる。そうすると、皿に並 べた春巻を、角度をつけて撮影することは、一般的に行われ得るというこ とができる。加えて、証拠(甲25、26、乙7、8)によれば、共通点 dと同様に、皿に並べた春巻を、角度をつけて撮影した写真が複数存在す ると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたも\nのといわざるを得ない。 以上によれば、共通点dは創作的表現であるとはいえないから、被告\n写真3の共通点dの部分が原告写真の共通点dの部分を複製又は翻案し たものに当たると認めることはできない。
オ 共通点eについて
原告写真と被告写真3とは、撮影時に光を真上から当てるのではなく、 斜め上から当てることで、被写体の影を付けている点において共通する。 しかし、証拠(乙13)によれば、料理写真の撮影方法として、料理の 斜め後ろから料理に光を当て、料理上部を明るく照らすとともに手前側を 暗くして立体感を生じさせる斜め逆光という手法が存在すること、斜め逆 光は料理写真で最もよく使われるライティングであることが認められる。 したがって、被写体に影を付け、立体感を醸成するという撮影方法は、春 巻を含む料理の写真を撮影する上で一般的に用いられ得る手法であるとい うことができる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)によ れば、共通点eと同様に、斜め逆光の手法を用いて撮影された春巻の写真 が多数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は\nありふれたものといわざるを得ない。 以上によれば、共通点eは創作的表現であるとはいえないから、被告\n写真3の共通点eの部分が原告写真の共通点eの部分を複製又は翻案し たものに当たると認めることはできない。
カ 共通点fについて
原告写真と被告写真3とは、葉物を含む野菜を皿の左上のスペースに置 いている点において共通する。 しかし、揚げ物である春巻に、野菜が付け合わせとして盛り付けられ ることは、一般的に行われることであるといえるから、春巻の写真を撮 影する際に野菜が皿の隅のスペースに置かれることもまた、一般的に行 われることということができる。現に、証拠(甲25、26、乙2、6 ないし8)によれば、上記の共通点と同様に配置された春巻の写真が複 数存在することが認められる。そうすると、上記の共通点に係る表現は\nありふれたものといわざるを得ない。 以上によれば、共通点fは創作的表現であるとはいえないから、被告写\n真3の共通点fの部分が原告写真の共通点fの部分を複製又は翻案したも のに当たると認めることはできない。
キ 全体的観察
前記アないしカのとおり、共通点aないしfはいずれも創作的表現であ\nるとは認められないから、これらの共通点を全体として観察しても、原告 写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認められない。\n
ク 小括
以上の次第で、原告写真と被告写真3は、ありふれた表現が共通するに\nすぎず、原告写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認めら\nれないから、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるとは 認められない。

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令和3(ネ)10075 意匠権侵害差止等請求控訴事件  意匠権  民事訴訟 令和4年3月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 先使用権ありとして意匠権侵害は成立しないとした1審判断が維持されました。

 控訴人は,ダイセン又はWuxi社が本件出願前意匠の存在について悪意 であったから,本件出願前意匠に類似する原告意匠についても悪意であった といえ,原告意匠と類似する被告製品の意匠についてダイセンに先使用権は 成立しない旨主張する。 しかしながら,当時ダイセンの営業部長であったCの陳述書(乙38)に よれば,ダイセン及びWuxi社は,被告製品の開発に当たって,本件出願 前意匠に接する機会はなく,既に市販されていた洗面台用ごみ受けの構成\n(原判決別紙公知意匠目録1ないし3)を参考としつつ,打合せの最中に, つまみ部分があったほうが取り外しやすいという意見が出たことから,取り 外しの便宜のためにつまみ部を付加することにしたことが認められる。かか る開発の経緯は,排水口のごみ受けの分野全般において,円状のフィルタの 周囲につまみ部を設ける構成が珍しくなかったこと(同目録4〜13)に照\nらしても,何ら不自然ではない。 他方,前記第3の2(1)の控訴人の主張が事実であったとしても,被告製品 の開発の過程でWuxi社が本件出願前意匠に接し得たことをうかがわせる 事情(例えば,Wuxi社と控訴人の中国の協力会社との間に人的つながり や地理的近接性があったこと等)は,本件証拠上全くうかがわれない。控訴 人の主張は,ほぼ同じ時期に,同じ中国で製品の開発が行われていたという だけの事実に基づいて,Wuxi社は本件出願前意匠の存在を知ったはずだ とするものであり,到底採用することができない。
(2) 以上によれば,本件出願前意匠と原告意匠との同一性や,原告意匠と被告 製品の意匠との類似性を問うまでもなく,ダイセン又はWuxi社は,意匠 登録出願に係る意匠(原告意匠)「を知らないで」被告製品の意匠を創作し たと認められるから,この点において先使用権の成立要件は充足されている。

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◆令和2(ワ)11491

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令和3(行ケ)10087  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年3月22日  知的財産高等裁判所

 本件商標は、指定商品が「フランス製の被服・・」となっています。これに対して不使用取消審判が請求されました。審決は、使用していた商品がフランス製ではないとして、不使用としました。知財高裁はこれを維持しました。商標は、「IRO PARIS」です。

2 登録商標を使用すべき商品について
(1) 商標法50条2項によれば,本件の場合,商標権者たる原告が本件商標の 登録取消しを免れるためには,本件指定商品のいずれかについての本件登録 商標の使用の事実を証明しなければならない。そして,使用の事実は本件指 定商品と同一の商品に限られるのであって,指定商品に類似する商品につい ての使用の事実を証明しても,登録取消しを免れ得ないことは,同条項の文 理上明らかである。商標権のうち禁止権に係る部分すなわち類似部分の使用 は,権利としての使用でなく事実上の使用であるため,商標法50条の意図 する登録商標の使用義務の履行とは認められないからである。 なお,商標法50条2項の適用に当たり,使用する商標については商標法 38条5項かっこ書きが適用されるため,「登録商標と社会通念上同一と認 められる商標」の使用であっても登録取消しを免れ得るが,いかなる商品に ついての使用であるかに関しては商標法に同旨の定めはないから,上記「社 会通念上同一」とは登録商標に関する記述であって,「指定商品と社会通念 上同一と認められる商品」について使用の事実を証明しても,商標の登録取 消しを免れることはできないと解される。
(2) そして,本件指定商品は,「フランス製の被服」であり,「フランス製」 とは,フランス国内で製造された物を意味すると解されるところ,前記認定 のとおり,本件使用商品は,フランス国以外の国で製造された物であるから, 本件使用商品の使用によっては本件指定商品について本件登録商標を使用し たものと認めることはできないというべきである。
3 原告の個別の主張について
(1) 原告は,本件使用商品がフランス国以外の国で製造されたことを自認しつ つも,フランス国で企画,デザイン及び品質管理が行われていることを理由 に,「フランス製の」被服等に当たると認められるべきであるとして,前記 第3の1及び2のとおり種々の主張をする。 しかしながら,同主張に係る事実関係を前提としても,原告の主張は,結 局のところ,本件使用商品(フランスで企画等が行われた被服等)は本件指 定商品(「フランス製の」被服等)と類似すること,あるいは社会通念上同 一と認められることを理由に,本件商標の登録取消しを免れ得ると主張する に等しいものであり,上記のとおり,商標法50条2項の文理に反するから, 採用できない。そして,このことは,商品の原産地表示に関する不正競争防\n止法,関税法並びに不当景品類及び不当表示防止法の一般的な運用(乙2,\n3,5〜8,11)に照らしても明らかである。
(2) 商標審査便覧に係る主張(前記第3の3)につき
原告は,商標審査便覧において,商標法4条1項16号の拒絶理由を解消 するための補正として指定商品に「○○製の」との限定を付すことが示され ているところ,この限定が「製造された」の趣旨であるとは明記されていな いことを指摘する。 しかしながら,商標審査便覧の内容が当裁判所における商標法の解釈適用 を左右しないことは当然である。また,原告の指摘箇所において,「○○製 の」との限定を付す補正は一例として教示されているにすぎないと解され, 現に,「イタリア製の」との限定を付す補正を教示する拒絶理由通知書(甲 21の2)に対して「イタリアにてデザインされイタリア国法人としての出 願人による厳格かつ恒常的な品質管理の下で出願人の指示に従って生産され た」等の限定を付す補正を行い登録査定に至った登録第6430949号 (甲21の3)のような例もみられるのであるから,商標出願の実務におい て,「○○製の」と「〇〇国でデザインされた」等とは区別されているとい うべきである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 商標法50条の趣旨に係る主張(前記第3の4)につき 確かに,上記認定の事実関係を前提とすれば,本件使用商品はフランス国 で企画等がされた被服等であって「フランス製の」被服等と著しく類似する から,商標の使用を通じた信用の蓄積がない商標を整理しようとする商標法 50条の趣旨に照らして,本件商標の登録を取り消すことはいささか酷であ るともいえる。また,本件商標の場合,出願人(原告)が「フランス製の」 との限定を付す補正をしたのは商標法4条1項16号の拒絶理由を解消する ためやむなく行ったことにすぎず,例えば「フランスで製造,企画,デザイ ン又は品質管理された」のような限定を付す補正が拒絶理由通知書や商標審 査便覧等において教示されていたとすればそれに従った可能性が高い,とい\nう事情もある。 しかしながら,そのような事情があるとしても,前記2のとおり,商標法 50条2項の文理からすれば,「指定商品」を「指定商品と社会通念上同一 と認められる商品」に拡張解釈することは認められないのであるから,かか る拡張解釈を排した本件審決の判断に誤りはない。 なお,原告は,商標法2条1項1号における「商標」と「標章」との使い 分けを根拠に,「社会通念上同一と認められる商標」とは「『社会通念上同 一と認められる標章』が,『社会通念上同一と認められる商品』について使 用されている」と解釈されるべきとも主張するが,独自の解釈であって採用 することができない。
(4) 特許庁における審査実務の一貫性に係る主張(前記第3の5)につき 原告は,外国の地名を含む商標の出願に対して商標法4条1項16号該当 の拒絶理由通知がされた後,「○○製の」ではなく「○○でデザインされ た」等の限定を付す補正によって登録査定に至った例があると主張する。 しかしながら,そのことは,当該補正によって商標法4条1項16号該当 の拒絶理由が解消したと判断されたことを示すにすぎず,「○○でデザイン された」等と「○○製の」とが同義であると判断されたことを示すわけでは ない。したがって,原告の上記主張は,上記2の判断を何ら左右しない。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10055 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年3月28日  知的財産高等裁判所

 スマホの操作関連の発明について、公然実施発明から進歩性無しと判断した審決が維持されました。無効審判請求人(本件被告)はApple Japanです。

 公然実施発明と甲3発明1は、技術分野や作用機能を共通にし、甲3文献に接した当業者であれば、公然実施発明には、スリープ状態にお\nいてホームボタンを押してから認証を経てデバイスにアクセスできるま での一連の動作に関して、デバイスのホームスクリーン又はメニューを 表示する前に、本人認証のためにパスコードの入力を要求することは、パスコードが知られたり、パスワードを忘れたりするという、甲3発明\n1と共通の技術課題が存在することを想起するものといえ、公然実施発 明において、許可されていない人物がユーザの個人情報にアクセスし、 閲覧することを防ぐため、デバイス機能を有効にする前又はデバイスリソ\ースにアクセスする前の起動時に、デバイスが迅速にユーザを認証することを目的とした甲3発明1を適用する動機付けがあるといえる。
(イ) 原告は、前記第3の1(1)イ(イ)のとおり、公然実施発明では、本件 発明1のように、使用者識別機能を、使用者の操作以外の追加の操作をすることなく、実行するという技術思想は全くない旨主張するが、前記\n(ア)のとおり、甲3発明1に接した当業者であれば、公然実施発明が有 する技術課題及び甲3発明1の適用を想起するものといえ、原告の主張 する当初の技術思想の相違は、その後の技術適用の動機付けの有無と直 接関係するものとはいえないから、原告の上記主張は当を得ないという べきである。
また、原告は、公然実施発明において、ディスプレイがオンにされた 後に、更にディスプレイ上のスライダをドラッグすることで初めて認証 を実行することには、ユーザの誤操作(意図せざる操作等)による誤動 作を防止するという意義があるから、これを改変して本件発明1のよう に構成することは、公然実施発明の技術的意義・機能\を損なう旨の主張 もするが、甲3発明1の使用者識別機能を採用し、指紋によるユーザ認証をしても、認証に係る誤操作は防止できるから、公然実施発明の技術\n的意義・機能を損なうことにはならない。なお、仮に、原告がホーム画面の誤作動防止に係る機能\をも指摘しているとしても、そもそも本件発明1においては、ロック画面からホーム画面への移行の仕方については 何ら規定していないから、操作入力を行った使用者が正当な使用者と認 証された場合に、ディスプレイ上のスライダをドラッグすることで初め てホーム画面に移行する構成も本件発明1の構\成に含まれることにな り(現に本件明細書の図1等においてもスライダが表示されているところである。)、スライダを取り除く改変をしなければ本件発明 1 の構成に至らないわけではないから、原告の主張は前提を誤るものといえる。\nしたがって、原告の主張は、いずれにしても採用できない。
エ 公然実施発明に甲3発明1を適用した場合に、本件発明1の構成に容易に想到するかについて\n
(ア) 甲3発明1において、指紋による認証の結果を得るには一定の時間 を要することは、明らかである。また、公然実施発明に甲3発明1を適 用することで、ホームボタンを押下すると、起動によりディスプレイが オンになり、それと同時に指紋認証を行い(別紙4のA図右及びB図1 左)、認証が成功すれば、追加の操作を要することなく、更にホーム画面 に移行するという構成を得ることが可能\である(別紙4のB図1右)。 そして、本件発明1で特定されるロック画面は、「前記非活性状態の際 になされた前記活性化ボタンに対する使用者の操作に基づいて」「表示され」るものであって、ロックが解除されていない状態を表\示する機能以\n外は特定されていない。そうすると、公然実施発明に甲3発明1を適用 したものにおいて、ホームボタンの押下後、オンになったディスプレイ にホーム画面に移行する前に表示される画面も、客観的にロックが解除されていない状態を表\示するものであり、これを「ロック画面」ということができる。したがって、公然実施発明に甲3発明1を適用した場合、使用者によ る追加の操作なしに、指紋認識による使用者識別機能が、非活性状態からロック画面が表\示された活性状態への切り替えのための操作入力により行われるという、本件発明1の構成に容易に想到するということができる。\n
(イ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)aのとおり、甲3発明1においても、 ロックを解除するために画面上のスライダのドラッグ操作を受け付け る構成となっているから、公然実施発明に甲3発明1を組み合わせた場合には、当業者は、公然実施発明と甲3発明1の共通の技術思想をなす\n上記構成を残しつつ甲3発明1の指紋認証を行うことを想到することになり、ディスプレイが活性化された後にスライダのドラッグという追\n加の操作を要することになるから、本件発明1の構成とはならない旨主張する。しかし、前記イ(ア)aのとおり、甲3文献からは、ホームボタンの背 後にセンサを配置し、ユーザが当該ホームボタンを押下した時に、ユー ザからの明示的な入力を要求することなく、指紋による認証を行う構成も、甲3発明1として認定することができるのであるから、原告の主張\nは採用できない。
(ウ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)bのとおり、公然実施発明の構成においては、ロック状態の画面を表\示させ、その画面上に表示されるスラ\nイダがドラッグされたときに初めて、次のパスコードの入力画面に移行 し、パスコードを入力させて認証を行う、という一連の認証操作を行わ せるものであるから、公然実施発明の使用者識別機能に係る手順のうちロック状態の画面上でのスライダをドラッグする処理を排除するので\nあれば、ロック画面も用いない構成しか想到できない旨主張する。しかし、前記(ア)のとおり、「ロック画面」自体は、ロックが解除さ れていない状態を示す画面であり、スライダのドラッグ操作とロック画 面の表示を不可分一体のものとして捉えなければならない理由はないから、原告の主張は採用できない。\n
(エ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)cのとおり、公然実施発明のロック 画面は、パスコードの入力における意図せぬ誤操作を防止する意義・機 能があるとした上で、甲3発明1の「シームレス」に使用者識別機能\を 行う構成とは両立しない旨主張する。しかし、公然実施発明において、甲3発明1の使用者識別機能\を採用し、ロック解除する時に指紋によるユーザ認証をしても、偶発的な誤操作等は防止できることは前記ウ(イ) のとおりであって、原告の主張は採用できない。
(オ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)dのとおり、別紙4のB図1左には スライダが表示されているところ、指紋認証に成功した場合に「当該成功後に直ちにホーム画面に遷移する構\成」であるとされる以上、スライダの機能は利用されず、当業者がそのように何ら機能\を発揮しないスラ イダをあえて表示させる構\成を考え付くとすれば、本件発明1を見た上 での後知恵である旨主張する。
原告の主張の真意は判然としないが、そもそも本件発明1においては、 ロック画面からホーム画面への移行の仕方については何ら規定してい ない(したがって、この場面におけるスライダの表示の有無やその利用の有無等についても何も限定はない)ことは前記ウ(イ)において説示し たとおりであるところ、被告の主張如何にかかわらず、公然実施発明に 甲3発明1を組み合わせた場合に、正当な使用者と認証されたときに、 スライダを利用しようとしなかろうと、どちらにしてもロック画面から ホーム画面へ移行させることが可能であること自体は明らかであるから、原告の主張は失当というほかない。\n
(4) 小括
その他原告がるる主張する点は、いずれもその前提に誤りがある、あるい は理由がないものであり、採用できない。 以上によれば、相違点1についての容易想到性を認めた本件審決の判断に 誤りはないから、原告主張の取消事由1は理由がない。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和3(行ケ)10054
本件の侵害事件です。

◆令和3(ネ)10081
上記控訴審の1審です。104条の3で権利行使不能と判断されています。

◆平成31(ワ)647

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平成31(ワ)11108  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和4年3月11日  東京地方裁判所

 赤い靴底のハイヒールで有名なルブタンがコピー品の差止、損害賠償を求めました。裁判所は、被告ハイヒールはマニュキュアのような光沢がある赤色ではないとして、請求を棄却しました。

 不競法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示(人の業務に係る氏名、\n商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示す\nるものをいう。以下同じ。)と同一又は類似の商品等表示を使用等すること\nをもって、不正競争に該当する旨規定している。この規定は、周知な商品等 表示の有する出所表\示機能を保護するという観点から、周知な商品等表\示に 化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得す る行為を防止し、事業者間の公正な競争等を確保するものと解される。そし て、商品の形態(色彩を含むものをいう。以下同じ。)は、特定の出所を表\n示する二次的意味を有する場合があるものの、商標等とは異なり、本来的に は商品の出所表示機能\を有するものではないから、上記規定の趣旨に鑑みる と、その形態が商標等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能\を 発揮するような特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないというべ\nきである。そうすると、商品の形態は、1)客観的に他の同種商品とは異なる 顕著な特徴(以下「特別顕著性」という。)を有しており、かつ、2)特定の 事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極 めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の 出所を表示するものとして周知(以下、「周知性」といい、特別顕著性と併\nせて「出所表示要件」という。)であると認められる特段の事情がない限り、\n不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。\n
そして、商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一\n部の商品形態が商品等表示に該当しないときであっても、上記商品に関する\n表示が全体として商品等表\示に該当するとして、その一部の商品を販売等す る行為まで不正競争に該当するとすれば、出所表示機能\を発揮しない商品の 形態までをも保護することになるから、上記規定の趣旨に照らし、かえって 事業者間の公正な競争を阻害するというべきである。のみならず、不競法2 条1項1号により使用等が禁止される商品等表示は、登録商標とは異なり、\n公報等によって公開されるものではないから、その要件の該当性が不明確な ものとなれば、表現、創作活動等の自由を大きく萎縮させるなど、社会経済\nの健全な発展を損なうおそれがあるというべきである。そうすると、商品に 関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商\n品等表示に該当しないときは、上記商品に関する表\示は、全体として不競法 2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。\n
これを本件についてみると、原告表示は、別紙原告表\示目録記載のとおり、 原告赤色を靴底部分に付した女性用ハイヒールと特定されるにとどまり、女 性用ハイヒールの形状(靴底を含む。)、その形状に結合した模様、光沢、 質感及び靴底以外の色彩その他の特徴については何ら限定がなく、靴底に付 された唯一の色彩である原告赤色も、それ自体特別な色彩であるとはいえな いため、被告商品を含め、広範かつ多数の商品形態を含むものである。
そして、前記認定事実及び第2回口頭弁論期日における検証の結果(第2 回口頭弁論調書及び検証調書各参照)によれば、原告商品の靴底は革製であ り、これに赤色のラッカー塗装をしているため、靴底の色は、いわばマニュ キュアのような光沢がある赤色(以下「ラッカーレッド」という。)であっ て、原告商品の形態は、この点において特徴があるのに対し、被告商品の靴 底はゴム製であり、これに特段塗装はされていないため、靴底の色は光沢が ない赤色であることが認められる。そうすると、原告商品の形態と被告商品 の形態とは、材質等から生ずる靴底の光沢及び質感において明らかに印象を 異にするものであるから、少なくとも被告商品の形態は、原告商品が提供す る高級ブランド品としての価値に鑑みると、原告らの出所を表示するものと\nして周知であると認めることはできない。そして、靴底の光沢及び質感にお ける上記の顕著な相違に鑑みると、この理は、赤色ゴム底のハイヒール一般 についても異なるところはないというべきである。
したがって、原告表示に含まれる赤色ゴム底のハイヒールは明らかに商品\n等表示に該当しないことからすると、原告表\示は、全体として不競法2条1 項1号にいう商品等表示に該当しないものと認めるのが相当である。\n
のみならず、前記認定事実によれば、そもそも靴という商品において使用 される赤色は、伝統的にも、商品の美感等の観点から採用される典型的な色 彩の一つであり、靴底に赤色を付すことも通常の創作能力の発揮において行\nい得るものであって、このことはハイヒールの靴底であっても異なるところ はない。そして、原告赤色と似た赤色は、ファッション関係においては国内 外を問わず古くから採用されている色であり、現に、前記認定事実によれば、 女性用ハイヒールにおいても、原告商品が日本で販売される前から靴底の色 彩として継続して使用され、現在、一般的なデザインとなっているものとい える。そうすると、原告表示は、それ自体、特別顕著性を有するものとはい\nえない。また、前記認定事実によれば、日本における原告商品の販売期間は、 約20年にとどまり、それほど長期間にわたり販売したものとはいえず、原 告会社は、いわゆるサンプルトラフィッキング(雑誌編集者、スタイリスト、 著名人等からの要望又は依頼に応じて、これらの者が雑誌の記事、メディア での撮影等で使用するため原告商品を貸し出すという広告宣伝方法をいう。) を行うにとどまり、自ら広告宣伝費用を払ってテレビ、雑誌、ネット等によ る広告宣伝を行っていない事情等を踏まえても、極めて強力な宣伝広告が行 われているとまではいえず、原告表示は、周知性の要件を充足しないという\nべきである。したがって、原告表示は、そもそも出所表\示要件を充足するも のとはいえず、不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当するものとはい\nえない。
(3) また、前記認定事実によれば、原告商品は、最低でも8万円を超える高価 格帯のハイヒールであって、靴底のラッカーレッド及びその曲線的な形状に 加え、靴の形状、ヒールの高さその他の形態上の顕著なデザイン性を有する 商品であるのに対し、被告商品は、手頃な価格帯の赤色ゴム底のハイヒール であることからすると、ハイヒールの需要者は、両商品の出所の違いをそれ 自体で十分に識別し得るものと認めるのが相当である。さらに、いわゆる高\n級ブランドである原告商品のような靴を購入しようとする需要者は、その価 格帯を踏まえても、商品の形態自体ではなく、商標等によってもその商品の 出所を確認するのが通常であって、原告商品、被告商品とも、中敷や靴底に ブランド名のロゴが付されているのであるから、需要者は当該ロゴにより出 所の違いを十分に確認することができる。しかも、原告商品のような高級ブ\nランド品を購入しようとする需要者は、自らの好みに合った商品を厳選して 購入しているといえるから、旧知の靴であれば格別、現物の印象や履き心地 などを確認した上で購入するのが通常であるといえ、上記の事情を踏まえて も、このような場合に誤認混同が生じないことは明らかである。 このような取引の実情に加え、原告商品と被告商品の各形態における靴底 の光沢及び質感における顕著な相違に鑑みると、原告商品と被告商品とは、 需要者において出所の混同を生じさせるものと認めることはできない。 そうすると、被告商品の販売は、不競法2条1項1号にいう不正競争に明 らかに該当しないものと認められる。

◆判決本文

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令和1(ワ)10829  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和4年2月10日  大阪地方裁判所

 頭部マッサージ具の意匠権侵害事件です。大阪地裁(26部)は、約700万円の損害賠償を認めました。39条2項と3項の重畳的に適用についても認められています。

(イ) 本件意匠1の実施品である原告製品1は、使用者がその柄を握り、枝部の先 端の涙滴状部を頭部(頭皮)に当てた状態で、枝部から涙滴状部にかけて力を加え て動かしながら、頭部をマッサージするものである。
(ウ) このような頭部マッサージ具の購入に当たり、需要者は、通常、店舗であれ ば店頭に置かれた商品そのものないし商品パッケージに付された商品画像等を、イ ンターネット上であれば EC サイト等に掲載された商品画像等を視認する。 原告製品1のパッケージ(以下「本件パッケージ1」という。)は、台紙上に製 品を正面側から視認できる状態で設置し、これを透明なプラスチックケースで覆う ものである。台紙の表面(商品側)には、「頭のラインに沿って/頭皮をかき上げ\n/キュっと引き締め」(「/」は改行部分を示す。以下同じ。)という説明文と、 使用者が原告製品1の柄を持ち、その涙滴状部を頭皮に当てている画像(以下「本 件画像1−1」という。)及び人物の頭部を他者が両手の手指を広げてマッサージ するイメージ画像と、涙滴状部を頭皮に当て枝部の先端方向に動かしてマッサージ することをうかがわせるイラスト(以下「本件イラスト1」という。)等が掲載さ れている。本件画像1−1及び本件イラスト1に掲載された原告製品1の画像等は、 いずれも、正面側を斜め上方向から見たものである。また、台紙の裏側には、「使 用方法」として「突起部分をヘッドラインに沿って頭皮に当て、押しながらかき上 げてください。」との説明文(以下「本件説明文1」という。)や、本件画像1− 1と同様のイラスト及び本件イラスト1が掲載されている。(乙1) 他方、原告サイトの原告製品1の紹介ページ(乙12)には、上部に商品画像と して本件パッケージ1の画像及び以下の画像から説明文や矢印等を除いた商品自体 のみの画像の2つの画像のうち1画像が拡大表示可能\とされているほか、「ヘッド ラインタイプ/頭のラインに沿って/頭皮をかき上げてキュッ」という説明文、本 件画像1−1と同様の画像に人物の頭部に使用方向を示す矢印が三本描かれている 画像、本件イラスト1及び本件説明文1が掲載されているほか、次の画像(以下 「本件画像1−2」という。)が掲載されている。
(エ) 需要者が注意を惹かれる部分
上記各事情に照らせば、需要者は、原告製品1の使用に当たり、頭部マッサージ の効果に直截的に影響を与える部分である枝部の本数、頭皮に直接当たる部分であ る枝部の先端の形状、柄から涙滴状部に力を伝える部分である枝部の形状に主に注 目すると考えられる。他方、各涙滴状部間の距離については、さほど注意を惹かれ ないと思われる。 また、性質上頭部マッサージを現に実施している間に原告製品1を直接視認する ことは困難と思われるものの、事前ないし事後の時点では、これを正面側ないし正 面側に向かって前後左右いずれかのやや斜め方向から視認することが多いものと考 えられる。他方、原告製品1の購入に当たっては、需要者は、これを正面側ないし 正面側に向かって前後左右いずれかのやや斜め方向から視認することが多く、左右 各側面側、平面側及び背面側から視認する機会は乏しいと考えられる。
イ 本件公知意匠1について
(ア) 証拠(乙2、3)によれば、本件公知意匠1は、いずれも本件出願日1 (平成20年3月6日)前に公知となった意匠と認められる。
(イ) 乙2意匠
証拠(甲17、乙2、15、24)及び弁論の全趣旨によれば、乙2意匠は、次 のとおりのものと認められる。 乙2意匠は、いわゆる「孫の手」であり、背中を掻いたり、身体を叩いたりする 目的で使用される物品に係る意匠である。この種の商品は、頭部を掻いたり叩いた りする方法で頭部に刺激を与える目的で使用される場合もある。そのため、乙2意 匠は、本件意匠1の属する分野と同一の分野に属しないものとはいえない。 もっとも、乙2意匠は、正面視において、柄の先端に接続された板状の部材が、 接続部側と先端側との間の中央付近で湾曲し、湾曲した先の先端側部分が平行な5 本の枝部に枝分かれしているものである。乙2意匠における「基端」を柄の先端と の接続部と捉えるならば、枝部は、熊手状に湾曲させて形成されてはいるものの、 基端からは分岐しておらず、また、各枝部は丸棒状ではなく板状に形成されている。 他方、板状の部材の接続部側と先端側との間の中央付近の湾曲部付近を「基端」と 捉えるならば、乙2意匠の枝部は、基端から5本に分岐し、熊手状に湾曲させて形 成されたものとはいえるものの、各枝部が丸棒状ではなく板状に形成されているこ とは、同様である。 さらに、「基端」をいずれと捉えるかにかかわらず、各枝部の先端部は、丸みの ある形状とされてはいるものの厚みに変化はなく、涙滴状部に相当するものはない。 各枝部間の距離も、各枝部の先端部の幅に比してかなり狭い。
(ウ) 乙3意匠
証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば、乙3意匠は次のとおりのものであると 認められる。 乙3意匠は、人やペット等の背中や腹部を掻いたり、マッサージするためなどに 使用される物品に係る意匠である。これも、乙2意匠と同様に、本件意匠1の属す る分野と同一の分野に属しないものとはいえない。 乙3意匠は、人の手をそのまま模した形状であり、その指部をもって「基端から 5本に分岐した丸棒状の枝部」と捉えることは、一応可能である。もっとも、乙3\n文献を見る限り、指部(枝部)は、基端から先端まで熊手状に湾曲しているとはい えず、また、その先端に涙滴状部が形成されていない。さらに、乙3意匠が本件意 匠1の具体的構成要件 C1-3〜E1-3 に相当する構成を有するとも認められない。\n
(エ) 以上のとおり、本件公知意匠1のうち、乙2意匠は、5本に分岐した枝部が 形成されている点及び枝部が熊手状に湾曲させて形成されている点で、また、乙3 意匠は、「基端から5本に分岐した丸棒状の枝部」と捉えることが可能な部分があ\nる点で、それぞれ本件意匠1と共通する部分があるといえるにとどまる。もっとも、 その共通するといえる部分の具体的形状は、本件意匠1とは大きく異なる。 そうである以上、本件公知意匠1は、本件意匠1の基本的構成態様及び具体的構\ 成態様いずれとの関係でも、本件意匠1に先行する公知意匠ということはできない。 その他本件意匠1の要部を判断するにあたり参考とすべき公知意匠は、証拠上見当 たらない。
ウ 本件後願意匠
登録意匠の要部認定に当たっては、先行する公知意匠を考慮すべきではあっても、 登録意匠の出願に後れる後願意匠を考慮することは、原則として相当でない。また、 この点を措くとしても、証拠(乙4)によれば、乙4意匠は、涙滴状部に金属球を 有する点で本件意匠1の形状と明確に異なること、証拠(乙5)によれば、乙5意 匠は、基端から5本に分岐した丸棒状の枝部が全体として人の手指の指部を想起さ せる形状となっており、その先端に涙滴状部がない点で本件意匠1の形状と明確に 異なることなどから、本件後願意匠は、翻って本件意匠1の要部を判断するものと して参考となり得るものではない。
エ 小括
以上の事情を総合的に考慮すれば、本件意匠1の要部は、基本的構成態様 A1-3 及び B1-3 並びに具体的構成態様 D1-3 であると見るのが相当である。
・・・
イ 差異点について
(ア) 差異点 A について
差異点 A は、平面視における枝部の湾曲の程度と、これによる左右各側面視にお ける涙滴状部の配置に係るものである。需要者が原告製品1及び被告製品1を平面 側及び左右の側面側から視認する機会が乏しいこと等を踏まえれば、差異点 A は、 本件意匠1と被告意匠1とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異とはいえない。
(イ) 差異点 B 及び C について
差異点 B は、正面視における一番外側の枝部の湾曲の形状に係るもの、差異点 C は、等間隔に配置された涙滴状部間の距離に係るものである。 これらの差異点は、いずれも、原告製品1及び被告製品1を正面側から視認する ことにより認識し得るものであり、需要者はこれを目にする機会が多いといえる。 もっとも、上記各差異点は、中央の枝部がほぼ直線状に伸び、外側にいくにつれて 枝部の湾曲の程度が大きくなるという共通点 B や、枝部の先端の涙滴状部が等間隔 に配置されているという共通点 C がある中で、一番外側の枝部の先端近くの形状や、 涙滴状部間の距離がいささか異なるというにとどまり、顕著に特徴的なものとまで はいえず、本件意匠1と被告意匠1とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異で はない。
ウ 小括
以上の事情を総合的に考慮すると、本件意匠1と被告意匠1は、その骨格的な構\n成態様において共通し、両意匠の差異点は、それ自体も、また、これらを組み合わ せたとしても、そのもたらす印象をもって共通点により需要者に生じる美感の共通 性を凌駕するほどのものということはできない。
・・・・
) 法39条2項による損害額の推定覆滅に係る部分については、同項に基づく 推定が覆滅されるとはいえ、無許諾で実施されたことに違いはない以上、当該部分 に係る損害評価が尽くされたとはいえない。したがって、当該部分については、同 条3項が重畳的に適用されると解するのが相当である。この点に関する被告の主張 は採用できない。
・・・
b 検討
被告製品1と原告製品1は、共に頭部マッサージ具である。原告製品1は枝部の 先端に形成された涙滴状部を頭部の形状に沿って押し当て、押しながらかき上げる といった使用方法が想定されている(乙1)のに対し、被告製品1は、枝部の先端 に形成された涙滴状部を頭皮に押し当て、微細な振動を与えるといった使用方法が 想定されている(甲3、4、乙29)。このように、両製品は、具体的な使用方法 は異にするものの、枝部の先端に形成された涙滴状部を頭皮等のマッサージ対象部 位に押し当ててマッサージを行うものである点で、その基本的な用途を同じくす る。両製品の販売価格には2倍以上の差があるものの、具体的な価格差は610円 (税抜)であり、「プチプラ」のもともとの意義はともかく、市場において「プチ プラ」と呼ばれる廉価な生活雑貨品のカテゴリーにいずれも分類されることがある 以上、両製品は、その価格差を踏まえても、市場において競合するものといえる。 また、被告は、被告各製品を被告店舗等のみで販売しているものの、被告店舗の 出店先の商業施設に原告の製品を取り扱う店舗も出店している例が多数ある。こう した商業施設では、需要者は、商業施設内の各店舗を巡って目的に適う同種製品を 比較検討して購入することが可能であり、実際上も、このような行動はしばしば見\n受けられる。さらに、被告製品1が販売されている EC サイトは被告サイトのみで あるとしても、被告店舗等で被告製品1に触れた需要者が、他の EC サイトで頭部 マッサージ具を検索することは容易であり、これもしばしば見受けられる行動とい えるのであって、その結果、複数の EC サイトにおいて販売されている原告製品1 が検索結果として表示されることも容易に推察される。\nこのような事情を踏まえれば、業務態様ないし販売チャンネルのあり方における 原告と被告との違いや被告製品1と原告製品1との価格差は、損害額の推定を覆滅 すべき事情とはいえないか、いえるとしてもその程度は限られる。 これに対し、被告は、被告店舗での取扱商品の多様さや、商品ラインナップにお ける被告製品1の位置付けなどから、需要者は、被告店舗を訪れて被告製品1に触 れた際に始めて被告製品1の存在を知り、そのまま衝動的に購入する場合が多く、 被告製品1が存在しなければそもそも頭部マッサージ具の需要が発生しないか、需 要者が当初より被告製品1を購入する意思をもって被告サイトで被告製品1を購入 しているため、被告製品1が販売されなくともその分の需要が原告製品1に吸収さ れるとはいえないなどと主張する。しかし、そのような需要者の購買行動等があり 得るとしても、被告製品1の需要者の全てないし多くがそのように行動すると考え るべき根拠はない。被告製品1が廉価なことを踏まえても、価格のみならずその機 能やデザイン等を含む総合的な評価に基づいて、同種製品と比較検討の上で購入に\n至る需要者も一定数存在すると考えるのが、むしろ経験則に合致する。 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用 できない。
(ウ) 競合品の存在
本件意匠1及び被告意匠1の各構成態様並びに原告製品1及び被告製品1の具体\n的な使用態様等を踏まえると、乙28の各ウェブサイト掲載商品に係る別紙「被告 主張の競合品一覧(本件意匠1)」のうち、少なくとも1)、2)、4)〜6)、9)、10)、 15)、20)、21)は、原告製品1及び被告製品1の競合品と認められる。 そうすると、被告製品1が市場に存在しない場合、被告製品1に係る需要の全て が原告製品1に吸収されるとは限らないから、これらの競合品の存在は、被告が得 た利益と原告が受けた損害との間との相当因果関係を阻害するものとして、損害額 の推定を一定程度覆滅させる事情として考慮すべきである。
(エ) 被告の営業努力等
証拠(甲41、乙45〜49)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、約6年の間 に全国的に被告店舗を多数展開し(令和3年5月時点で62店舗)、複数のウェブ サイトで人気の生活雑貨店として取り上げられていることが認められることなどを 踏まえると、被告ブランドは一定程度需要者に認知されているとうかがわれる。 もっとも、被告自身、被告製品1につき被告の主力商品として販売されていたも のではないと主張していることに加え、被告製品1に特化した宣伝広告等がされた ことを認めるに足りる証拠もないこと、廉価な生活雑貨品という被告製品1の性格 等を踏まえると、被告製品1を購入する需要者にとって、被告ブランドの取扱商品 であることが主な購入の理由ないし動機となっているとは考え難い。 その他被告の格別な営業努力が被告製品1の売上増加に貢献していると見るべき 具体的な事情はない。 したがって、被告の営業努力等は、損害額の推定を覆滅すべき事情とはいえない か、いえるとしてもその程度は限られる。
(オ) 侵害品の性能\n
前記((イ)b)のとおり、被告製品1は、枝部の先端に形成された涙滴状部を頭 皮に押し当て、微細な振動を与えることにより頭皮をマッサージする効果を奏する 商品であり、涙滴状部を頭部の形状に沿って押し当て、押しながらかき上げるとい った使用方法が想定されている原告製品1とは、その具体的な使用方法において異 なる。この使用方法の相違は、実用品である頭部マッサージ具の機能に関わるもの\nである。実用品である以上、商品の機能性は、デザインと同等かそれ以上に需要者\nの商品選択において重要な要因として位置付けられる。このことは、被告が商品デ ザインを重視した商品開発を行い、需要者に対してこれを訴求していることがうか がわれること(甲81〜83)などを考慮しても異ならない。 したがって、原告製品1と被告製品1の具体的な使用方法の相違すなわち機能面\nの相違は、損害額の推定を相当程度覆滅すべき事情といえる。
(カ) 覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すると、本件では、被告製品1に係る原告の損害額の 推定につき、4割の限度で覆滅されるとするのが相当である。これに反する原告及 び被告の各主張はいずれも採用できない。 そうすると、被告の本件意匠権1侵害による原告の損害額は、●(省略)●円 (=●(省略)●*(1-0.4))となる。
オ 法39条2項及び3項の重畳適用、実施料率
(ア) 法39条2項による損害額の推定覆滅に係る部分については、同項に基づく 推定が覆滅されるとはいえ、無許諾で実施されたことに違いはない以上、当該部分 に係る損害評価が尽くされたとはいえない。したがって、当該部分については、同 条3項が重畳的に適用されると解するのが相当である。この点に関する被告の主張 は採用できない。
(イ) 実施に対し受けるべき金銭の額
「意匠の実施に対し受けるべき金銭の額」(法39条3項)すなわち意匠の実施 に対し受けるべき料率は、当該意匠の実際の実施許諾契約における実施料率や、そ れが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、当該意 匠自体の価値、当該意匠を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の 態様、意匠権者と侵害者との競業関係や意匠権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情 を総合的に考慮して、合理的な料率を定めるべきである。また、その際、必ずしも 当該意匠権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必 然性はなく、意匠権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受 けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと を考慮すべきである。 また、不当利得返還請求に関し、当該「受けるべき金銭の額に相当する額」は、 本来、意匠権者がその登録意匠の実施に当たり意匠権者に対して支払うべきであっ た実施料相当額であるから、侵害者がこれを支払うことなく登録意匠を実施した場 合は、その実施により、侵害者は同額の利得を得、意匠権者は同額の損失を受けた ものと評価することができる。したがって、法39条3項の「受けるべき金銭の額 に相当する額」が不当利得における受益者の利得の額に相当し、かつ、権利者の損 失の額に相当すると認めるのが相当である。
(ウ) まず、本件意匠権1に係る実施許諾契約が締結されたことを認めるに足りる 証拠はなく、その他原告が本件意匠権1に係る実施許諾契約を締結する場合に定め る実施料率をうかがわせる事情はない。 また、「実施料率〔第5版〕技術契約のためのデータブック」(甲59)によれ ば、「プラスチック製品」の技術分野(その対象には、「プラスチック板・棒・管 ・継手・異形押出製品製造技術、・・・その他のプラスチック製品製造技術」であり、 「その他のプラスチック製品」とは「プラスチック製台所用品・浴室用品等」であ るが、「プラスチック製の家具(29)・ブラシ(31)・履物(27)等」は含まれ ない。)における外国技術導入契約の実施料(許諾製品の出来高にリンクした料率 表示であったもの)につき、平成4年度〜平成10年度の外国技術導入契約(イニ\nシャルロイヤリティがないもの。63件)の場合、平均値は3.9%、中央値は3 %であった(なお、甲59には、このほかに技術分野を「ゴム製品」とする項も存 するが、その対象は、タイヤ・チューブ製造技術、ゴム製・プラスチック製履物・ 同付属品製造技術等であり、被告製品1の分野と類似するものがないから、これを 参考とするのは相当でない。)。また、「ロイヤルティ料率データハンドブック〜 特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(甲60)によれば、「個 人用品または家庭用品」の技術分類における実施料率(13件)は、平均が3.5 %、標準偏差1.6%、最大値7.5%、最小値0.5%であり、「健康;人命救 助;娯楽」の技術分類(54件)では、平均5.3%、標準偏差3.2%、最大値 14.5%、最小値0.5%である。
さらに、前記(エ(イ)b、エ(オ))のとおり、被告製品1の需要者は、製品の機能\nを中心に、デザイン及び価格性を総合的に考慮した上で商品選択を行うものと見ら れることから、本件意匠1ないしこれに類似する被告意匠1を用いた場合の売上及 び利益への貢献の程度の評価にあたっても、これを踏まえる必要がある。 加えて、原告製品1と被告製品1はいずれも頭部マッサージ具であることに加 え、原告と被告は、取扱い商品や販売店舗の出店先が相当程度に重複していること から、高い程度で競合関係にあるといえる。このため、仮に原告が被告に対し本件 意匠権1に係る実施許諾契約を締結するならば、その実施料は高めに設定されるの が通常であると考えられる。しかも、証拠(甲64〜69)及び弁論の全趣旨によ れば、原告は、自己の保有する登録意匠に係る侵害品の防止に積極的に努めている ことがうかがわれる。
以上の事情に加え、意匠権侵害に基づく損害賠償請求の場面での仮想実施料率の 考察であることを総合的に考慮すると、本件意匠権1を侵害した者に対して事後的 に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は5%を下らないというべきであ る。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。 そうすると、法39条3項により認められる損害賠償請求の額は、●(省略)● 円(≒●(省略)●*0.4*0.05)となる。

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令和2(ワ)19931等  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月16日  東京地方裁判所

 医薬用途発明の特許権侵害訴訟です。東京地裁(29部)は、本件発明1,2については実施可能要件・サポート要件違反の無効理由ありと判断しました。また、本件発明3,4について、均等侵害も否定しました。本件発明1,2は特許庁で訂正要件を満たさないと判断されており、審決取消訴訟に係属しています。本件発明3,4は特許庁で訂正が認められています。

 いわゆる医薬用途発明においては,一般に,当業者にとって,物質名, 化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのた\nめの当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該発明に係る医薬\nを当該用途に使用することができないから,そのような発明において実施 可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの\n記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,当該用途の 有用性及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載を要するものと解 するのが相当である。 本件発明1及び2の特許請求の範囲においては,本件化合物が「痛みの 処置における」(構成要件1B)「鎮痛剤」(構\成要件1C)及び「鎮痛 剤」(構成要件2C)として作用することが記載されているところ,いず\nれも本件化合物の鎮痛効果が認められる痛みは特定されていない。しかし, 本件明細書には,本件化合物について,「痛みの処置とくに慢性の疼痛性 障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定さ れるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み, 三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザ ルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー, 線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障 害および特発性疼痛症候群が包含される。」(前記1(1)イ)と記載されて いることに照らすと,本件発明1及び2は,本件化合物が少なくとも上記 各痛みに対して鎮痛効果を有することを内容とするものと解される。 したがって,本件発明1及び2について実施可能要件を満たすというた\nめには,本件明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと 同視し得る程度の記載をすることなどにより,上記各痛みに対して鎮痛効 果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載が必要であ るというべきである。
・・・
前記(ア)の各文献の記載によれば,本件出願当時,術後疼痛試験は,ラ ットの皮膚,筋膜及び足蹠の足底側面の筋肉を切開することにより,痛 覚過敏を引き起こし,これに対する薬剤の効果を確かめる試験であるこ とが,技術常識であったと認められる。 そして,本件明細書には,「S−(+)−3−イソブチルギャバ」\n(弁論の全趣旨によれば,構成要件3Aを充足する本件化合物の一種で\nあると認められる。)が術後疼痛試験において有効であったことが記載 されており,さらに,「ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触 異痛を生じた。いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達 し,3日間維持された。実験期間中,動物はすべて良好な健康状態を維 持した。」(前記1(1)キ(キ)),「ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉 の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏および接触異痛を誘発するこ とを示している。本試験の主要な所見は,ギャバペンチンおよびS− (+)−3−イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対して\nも等しく有効なことである。」(同(コ))との記載がある。 以上によれば,本件出願当時,本件明細書の術後疼痛試験の結果に接 した当業者は,本件化合物について,侵害受容性疼痛としての熱痛覚過 敏及び接触異痛に対して有効であると理解し,その他の痛みに対して有 効であると理解することはなかったというべきである。
・・・
ア 被告医薬品が本件発明3の構成と均等なものであるかについて\n
(ア) 原告は,本件発明3は,慢性疼痛に対する画期的処方薬として,抗て んかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだ したものであり,その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用い る点にあるから,対象となる痛みが侵害受容性疼痛か,神経障害性疼痛 や線維筋痛症かは本質的部分ではなく,効能・効果を神経障害性疼痛や\n線維筋痛症に伴う疼痛とし,慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告 医薬品は,均等侵害の第1要件を満たすと主張する。
しかし,前記1(1)アのとおり,本件特許に係る発明は,てんかん,ハ ンチントン舞踏病等の中枢性神経系疾患に対する抗発作療法等に有用な 薬物である本件化合物が,痛みの治療における鎮痛作用及び抗痛覚過敏 作用を有し,反復使用により耐性を生じず,モルヒネと交叉耐性がない ことに着目した医薬用途発明であるところ,前記2(1)イのとおり,本件 出願当時,痛みには種々のものがあり,その原因や機序も様々であるこ とが技術常識であった。
そうすると,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発明 3において本質的部分というべきであり,その鎮痛効果の対象を異にす る被告医薬品は,本件発明3の本質的部分を備えているものと認めるこ とはできない。したがって,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載さ れた構成中の被告医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でない\nということはできないから,被告医薬品は均等の第1要件を満たさない。
(イ) また,前記(1)アによれば,原告は,本件訂正前発明3においては鎮痛 の対象となる痛みを限定していなかったところ,本件訂正により「炎症 を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」に限定していること からすると,本件発明3との関係においては,被告医薬品の効能・効果\nである神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を意図的に除外したと 認めるのが相当である。 したがって,被告医薬品は均等の第5要件も満たさない。
(ウ) 以上によれば,被告医薬品は,本件発明3の特許請求の範囲に記載さ れた構成と均等なものとは認められない。\n
イ 被告医薬品が本件発明4の構成と均等なものであるかについて\n
前記アと同様に,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発 明4の本質的部分というべきであり,被告医薬品は均等の第1要件を満た さず,また,本件発明4との関係においては,被告医薬品の効能・効果で\nある神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛が意図的に除外されている から,均等の第5要件も満たさない。 したがって,被告医薬品は,本件発明4の特許請求の範囲に記載された 構成と均等なものとは認められない。\n

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関連事件です。本件特許は同じですが、被告が異なります。なお、原告代理人はなぜか異なります。

◆令和2(ワ)19923等

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令和3(ネ)10083  著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年3月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 コンピュータソフトの画面について、著作物性、不競法2条1項1号の商品等表示に該当するかが争われました。知財高裁2部は、1審の判断を維持しました。

ア 控訴人は,控訴人表示画面と被控訴人表\示画面との一致箇所をひとまとまり として捉えて創作性を判断すべきこと,ビジネスソフトウェアのディスプレイ(表\ 示画面をいう趣旨と解される。)における表現の創作性については丁寧な検討が必\n要であること,控訴人表示画面について表\現上主要な箇所は2)データ分析等画面(単 品詳細情報画面,日別画面,他店舗在庫表示画面,定期改正入力画面,リクエスト\n管理画面)であり,そこには表現上の工夫が多数散りばめられていることなどを主\n張する。
しかし,被控訴人製品の各表示画面から控訴人製品の各表\示画面の本質的な特徴 を感得することはできず,被控訴人表示画面に接する者が全体として控訴人表\示画 面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとは認められないことは,\n訂正して引用した原判決の第4の1で認定判断したとおりである。 控訴人表示画面と被控訴人表\示画面の対比に係る判断は,同1(3)のとおりであ って,控訴人表示画面と被控訴人表\示画面の共通する部分をひとまとまりにして検 討することによって,上記判断が左右されるものではない。ビジネスソフトウェア\nのディスプレイ(表示画面)における表\現の創作性について丁寧な検討が必要であ るという一般論の主張も,上記判断に影響しない。控訴人が2)データ分析等画面に 多数散りばめられていると主張する表現上の工夫のうち,発注操作を行う欄の配色\nについては,創作者の思想又は感情が創作的に表現されているといえる程度の特徴\nを有するものとは認められず,同欄の位置や詳細情報を画面の下方に配置すること は,書店業務を効率的に行うという観点から通常想定される範囲内のものである。 控訴人の主張する2)データ分析等画面における素材の選択及び配列における選択の 幅についても,訂正して引用した原判決の第4の1(4)で判断したとおりである。
イ 控訴人は,控訴人製品の表示画面と被控訴人製品の表\示画面に共通性が多数 認められること,操作ガイダンスの文字列に一致が何か所もあることなどを主張す るが,それらの主張は,訂正して引用した原判決の第4の1の認定判断を左右する ものではない。
(2) 争点4(不正競争防止法違反の有無)に関する控訴人の補充主張について
ア 控訴人は,控訴人表示画面の特別顕著性に関し,需要者を書店ユーザーに限\n定すべきこと,控訴人製品がその表示画面に顕著な特徴を有することを主張するが,\n控訴人表示画面の特徴に関しては訂正して引用した原判決の第4の1(3)及び(4)で 認定判断したとおりであり,控訴人表示画面に特別顕著性が認められないことは,\n同3で判断したとおりである。控訴人の主張するように控訴人製品の需要者を書店 に限定したとしても,上記の認定判断は左右されない。
イ 控訴人は,周知性についても主張するところ,控訴人製品のシェアについて 控訴人が当審で追加提出した証拠(甲83の1・2,甲84)を含む本件全証拠を もってしても,控訴人の主張するシェアを認めるに足りない。なお,仮に,控訴人 製品が相応のシェアを占めているとしても,そのことから直ちに,控訴人表示画面\nの周知性が認められるものともいえない。 また,控訴人は,控訴人製品の宣伝・広報活動について主張するが,当該活動に ついて控訴人が追加提出した証拠(甲85〜91)を含む本件全証拠をもってして も,当該活動は一定の期間及び範囲に限定して認められるにすぎず,また,その内 容をみても,当該活動において控訴人表示画面が媒体に表\示されていたものではな いから,控訴人表示画面の周知性を裏付けるものとはいえない。\n控訴人のその他の主張も,訂正して引用した原判決の第4の3(2)における控訴 人表示画面の周知性が認められない旨の判断を左右するものではない。\n

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)28215

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令和3(行ケ)10112  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年3月23日  知的財産高等裁判所

 不使用であったとした審決が維持されました。争点は「IC電子点滅器」が「電子応用機械器具」に該当するか否かです。

(2) 本件指定商品は、本件商標について書換登録申請がされた日(平成13年\n3月15日(甲7、8)。以下「本件申請日」という。)に施行されていた商標法\n施行規則別表(平成13年経済産業省令第202号による改正前のもの。以下「省\n令別表」という。)第9類15に定める「電子応用機械器具及びその部品」を意味\nするものと解されるので、同類15に定める「電子応用機械器具及びその部品」の 意義について検討する。
ア 本件申請日に施行されていた商標法施行令別表\(平成13年政令第265号 による改正前のもの)には、「第9類 科学用、航海用、測量用、写真用、音響用、 映像用、計量用、信号用、検査用、救命用、教育用、計算用又は情報処理用の機械 器具及び電気式又は光学式の機械器具」との定めがある。
イ 省令別表には、次の定めがある。\n
(ア) 「第9類3 配電用又は制御用の機械器具
開閉器 継電器 遮断機 制御器 整流器 接続器 断路器 蓄電器 抵抗器 点滅器 配線函 配電盤 ヒューズ 避雷器 変圧器 誘導電圧調整器 リアクト ル」
(イ) 「第9類15 電子応用機械器具及びその部品
(1) 電子応用機械器具
ガイガー計数器 高周波ミシン サイクロトロン 産業用X線機械器具 産業用 ベータートロン 磁気探鉱機 磁気探知機 磁気ディスク用シールドケース 地震 探鉱機械器具 水中聴音機械器具 超音波応用測探器 超音波応用探傷器 超音波 応用探知機 電子応用静電複写機 電子応用扉自動開閉装置 電子計算機(中央処 理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テ ープその他の周辺機器を含む。) 電子顕微鏡 電子式卓上計算機 ワードプロセ ッサ
・・・
ウ なお、弁論の全趣旨により本件申請日の後に発行されたものと認められる類\n似商品・役務審査基準(乙1、2)においても、「配電用又は制御用の機械器具」 として「開閉器」及び「点滅器」が掲げられているが、「電子応用機械器具及びそ の部品」としては、「開閉器」も「点滅器」も掲げられていない。
エ 上記ア及びイによると、本件指定商品(「電子応用機械器具及びその部品」) は、上記イ(イ)のとおり省令別表第9類15に定める「電子応用機械器具及びその\n部品」に該当するものとして掲げられた「電子計算機」、「X線管」、「ダイオー ド」、「集積回路」等の商品を含み、上記イ(ア)のとおり同類3に定める「配電用 又は制御用の機械器具」に該当するものとして掲げられた「開閉器」及び「点滅器」 を含まないと解するのが相当である。そして、証拠(甲13〜15)及び弁論の全 趣旨によると、ここでいう「開閉器」ないし「点滅器」とは、電気回路を開閉する 装置、すなわち、スイッチを意味するものと認められる。
(3) これを本件各商品についてみるに、証拠(甲5、9〜12、16の1、甲 17〜19、23、24)及び弁論の全趣旨によると、本件各商品は、いずれも照 明器具の点滅を制御したり、その色を調節したりするICスイッチであると認めら れるから、本件各商品は、少なくとも省令別表第9類3に定める「制御用の機械器\n具」としての「開閉器」ないし「点滅器」に該当するというべきである。したがっ て、本件各商品は、同類15に定める「電子応用機械器具及びその部品」、すなわ ち、本件指定商品には該当しないといわざるを得ない。
(4) 原告は、本件各商品の部品(CPU、IC等)はいずれも本件指定商品に 該当するから、本件各商品も本件指定商品に該当する旨主張する。しかしながら、 本件において本件指定商品に該当するか否かが問題とされるのは、完成品たる本件 各商品であり、その部品ではないから、仮に原告が主張するとおり本件各商品の全 ての部品が本件指定商品に該当するとしても、そのことは、本件各商品が本件指定 商品に該当しないとの上記判断を左右しない。 また、原告は、「配電」は変電所から需要端までの屋外の電力輸送を意味し、家 庭内等において使用する照明器具の内部に配設される本件商品1は「配電用の機械 器具」の範ちゅうに属しないとして、本件商品1が「配電用の機械器具」の範ちゅ うに属し、「電子応用機械器具及びその部品」の範ちゅうに属しないとした本件審 決の判断は誤りである旨主張する。しかしながら、上記(3)において説示したとお り、本件商品1は、少なくとも「制御用の機械器具」としての「開閉器」ないし 「点滅器」に該当するものであるから、仮に「配電」の意義が原告の主張するとお りであったとしても、そのことは、本件商品1が本件指定商品に該当しないとの上 記判断を左右しない。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10058  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年3月23日  知的財産高等裁判所

 コメント表示装置(CS関連発明)について、進歩性違反なしとした審決が維持されました。FC2(無効審判請求人)vsドワンゴ(特許権者)です。争点は引用文献の開示です。

 甲5技術は、コンテンツの映像(主映像)及び主映像を補足するなどの理由で表\n示される字幕等の映像(副映像)を表示することができるようにした復号装置に係\nる技術である。甲5技術においては、主映像及び副映像は、表示装置の画面(甲5\nの第19図参照)上に設けられた各画枠の内部に表示されるところ、主映像の画枠\nのサイズは、表示装置のアスペクト比及び主映像のアスペクト比に基づいて変換さ\nれ、副映像の画枠のサイズも、表示装置のアスペクト比及び副映像のアスペクト比\nに基づいて変換される。このようにしてサイズが変換された主映像及び副映像の各 画枠は、表示装置の画面上に配置されるが、その際、例えば表\示装置のアスペクト 比が16:9であり、主映像のアスペクト比が4:3であるなどの条件を満たす場 合、副映像の画枠の一部は、主映像の画枠と重なり合い、副映像の一部は、主映像 の画枠の内側に表示されるが、その余の部分は、主映像の画枠の外側に表\示される という事象が生じるものである。
そして、甲5技術によると、主映像の画枠は、主映像が表示される領域であると\n解されるから、これが本件発明1の構成1E及び1Fにいう「第1の表\示欄」(動 画を表示する領域)に相当するものであることは明らかである。\nしかしながら、甲5技術によると、副映像の画枠に表示される副映像の例として\n挙げられているのは字幕であり、甲4技術の「データコンテンツ」と同様、主映像 の配信時に既に存在するものである(なお、甲5によると、甲5技術の副映像に当 たる字幕は、映像データであることがうかがわれる。甲5には、字幕がテキストデ ータであるとの開示又は示唆はない。)。これに対し、本件発明1のコメントは、 前記のとおり、動画に対し任意の時間にユーザが付与するものである。 また、甲5の記載(明細書1頁5行目〜2頁11行目)によると、従来、副映像 のアスペクト比は、主映像のアスペクト比に関連付けられており、例えば、表示装\n置のアスペクト比が16:9であり、主映像のアスペクト比が4:3であるとき、 副映像(字幕)のアスペクト比は必ず4:3となるため、小型の電子機器において は字幕が見えづらくなってしまうという問題があったところ、甲5技術は、主映像 のアスペクト比から独立したアスペクト比で副映像を表示することにより、副映像\nを見やすくすることを目的とするものであると認められる。これに対し、本件発明 1は、前記のとおり、動画と重なって表示されたコメントが動画に含まれるもので\nはないこと及びこれがユーザによって書き込まれたものであることをユーザが把握 できるようにすることを目的とするものである。 以上のとおり、甲5技術の「副映像の画枠」は、本件発明1の「コメント」を表\n示する領域ではないから、これが本件発明1の構成1E及び1Fにいう「第2の表\ 示欄」に相当するということはできない。また、甲5技術において、副映像の画枠 の一部が主映像の画枠と重なり、副映像の一部が主映像の画枠の内側に表示され、\nその余の部分が主映像の画枠の外側に表示されるという事象を生じさせるのは、副\n映像のアスペクト比が主映像のアスペクト比と関連付けられていたことから来る副 映像の見づらさを解消するためであり、本件発明1のようにコメントが動画に含ま れるものではないこと及びこれがユーザによって書き込まれたものであることをユ ーザが把握できるようにすることを目的とするものではなく、この点からも、甲5 技術の上記内容が本件発明1の構成1E及び1Fに相当するということはできない。\nしたがって、甲5技術も、本件発明1の構成1E及び1Fに相当する構\成を有する ものではない。
エ 原告の主張について
原告は、甲5技術の「字幕」はユーザが入力するものでないものの、これを端末 に表示させる局面においては本件発明1と同様に文字列データとして処理されるも\nのであるし、本件原出願日当時にWEB2.0が技術常識であったことからしても、 甲5に接した当業者にとって、甲5技術の「字幕」を本件発明1の「コメント」に 置換することは容易であったと主張する。 しかしながら、甲5技術の「字幕」と本件発明1の「コメント」の技術的意義の 相違は、前記ウにおいて説示したとおりであるところ、仮に、甲5技術及び本件発 明1において「字幕」及び「コメント」が文字列データとして処理される場面があ るとしても(ただし、甲5に甲5技術の字幕がテキストデータであるとの開示又は 示唆がないことは、前記ウにおいて説示したとおりである。)、そのことにより上 記相違の本質が解消されるものではない。また、前記(2)エ(ア)において説示した ところに照らすと、仮に、本件原出願日当時、原告が主張するような内容のWEB 2.0という社会現象が生じていたとしても、そのことから直ちに、甲5技術にい う「字幕」(副映像)と本件発明1にいう「コメント」につき、これらが相互に置 換可能であると認めることはできない。よって、原告の上記主張は失当である。\n
(4) 前記(2)及び(3)のとおり、甲4技術及び甲5技術は、いずれも本件発明1 の構成1E及び1Fに相当する構\成を有するものではないから、甲1発明に甲4技 術及び甲5技術を適用しても、相違点1−1に係る本件発明1の構成を得ることは\nできない。
(5) なお、原告は、相違点1−1に係る本件発明1の構成は甲1発明において\nふきだしの大きさ並びにふきだし中のコメント(テキスト注釈)の文字長、フォン トの大きさ及び表示位置を適宜変更することにより得られるものであるから、設計\n的事項にすぎないと主張する。 しかしながら、甲1の図18によると、甲1発明においては、ふきだしが映像表\n示部の枠の外側にはみ出すこととされる一方、テキスト注釈については、それが3 行にわたる場合を含め、ふきだし中の上側、下側、左側及び右側にあえて十分な余\n白を設けて、テキスト注釈が映像表示部の枠の外側にはみ出さないようにしている\nと認められるから、ふきだしの大きさ並びにふきだし中のテキスト注釈の文字長及 びフォントの大きさをどのようにするかが設計的事項であるとしても、ふきだしと 映像表示部との位置関係及びテキスト注釈の表\示位置につき、これを相違点1−1 に係る本件発明1の構成(構\成1E及び1F)とすることについてまで設計的事項 であるということはできない。よって、原告の上記主張を採用することはできない。
(6) 小括
以上のとおりであるから、相違点1−1についての本件審決の判断に誤りはない。 そして、前記2(4)のとおり、本件発明9と甲1プログラム発明との間にも、相違 点1−1と同様の相違点が存在するといえるところ、上記説示したところに照らす と、この相違点についての本件審決の判断にも誤りはない。取消事由5は理由がな い。よって、無効理由2−1は理由がない。

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令和2(ワ)31138等  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和4年1月28日  東京地方裁判所

 原告は、登録商標「ライスパワー」「RICE POWER」を、被告は登録商標「いいべさーホワイトライスパワー」をそれぞれ保有していました。被告は「ホワイトライスパワー」「WHITE RICE POWER」を使用しており、これらが商標権侵害・不正競争行為に該当するのかが争われました。裁判所は商標権侵害・不正競争行為であるとして、差止および17万円の損害賠償を認めました。

被告主張表示1について\n
被告主張表示1は,「IIBESA」,「いいべさー」,「ホワイトライ\nスパワー」の3段の文字列からなり,「ホワイトライスパワー」の部分 は,黒字の背景に白文字の表示となっており,「いいべさー」,「いいべ\nさー」,「ほわいとらいすぱわー」との称呼が生じる。そして,「いいべ さー」とは,東北地方の方言で「いいでしょう」という意味を持ち, 「いいでしょう」,「いいでしょう」,「白い米の力」との観念が生じるも のといえる。
このように,被告主張表示1の外観において,「IIBESA」,「い\nいべさー」,「ホワイトライスパワー」の部分は3段に分かれて表示され\nており,「ホワイトライスパワー」の部分は黒字の背景に白文字の表示\nになっており,他とは区別されている。そして,その観念については, 「いいでしょう」,「いいでしょう」,「白い米の力」というものであり, 「いいでしょう」は「白い米の力」(ホワイトライスパワーの文字部分) を修飾しており,「白い米の力」の部分が需要者の注意を引きつけるも のといえる。また,その称呼についても「いいべさー」,「いいべさー」, 「ほわいとらいすぱわー」というものであり,これを一連のものと一読 するのは冗長であり,各部分について格別に称呼が生じるといえる。 加えて,被告主張表示1の「ホワイトライスパワー」のうち「ライス\nパワー」部分は,需要者である化粧品に関心のある一般の消費者に原告 勇心酒造の出所を示すものとして周知の表示であった(前記3(1))。そ して,原告商品及び被告各商品は,ともに化粧品の部類に属するものと いえるところ,化粧品類の取引においては,一般に,「ホワイト」とは, その商品の色彩を表示するもの又は肌の美白効果を謳う品質や効能\表示\nに用いられるものとして,広く使用されているといえ,このような化粧 品類の取引の実情に鑑みれば,「ホワイト」の部分は,その商品の品質, 効能,色彩を表\示するものと理解し得るものといえる。これらによれば, 本件においては,「ホワイトライスパワー」のうち,「ライスパワー」の 部分が周知の表示として需要者に強い印象を与え,このこととの関係に\nおいて,「ホワイト」の部分は,その「ライスパワー」の品質,効能,\n色彩を示すものと理解し得て,その場合には識別力を有しないか,又は 識別力の弱い部分であるというべきであり,一般の消費者は,「ライス パワー」部分に着目するといえる。
このように,被告主張表示1の外観や観念,称呼に加えて,「ライス\nパワー」部分が需要者に周知の表示といえることや化粧品類の取引の実\n情に照らせば,被告主張表示1において強く支配的な印象を与えるのは,\n「ホワイトライスパワー」の文字部分のうちの「ライスパワー」部分で あるというべきである。 したがって,被告主張表示1については,原告各表\示と被告主張表示\n1の「ライスパワー」部分の類似性を検討するのが相当である。 そうすると,原告表示1と,被告主張表\示1の「ライスパワー」部分 は,外観,称呼,観念において同一であり,原告表示2及び3と被告主\n張表示1の「ライスパワー」部分は,称呼,観念において同一であると\nいえるから,原告各表示と被告主張表\示1は,両者を全体的に類似のも のとして受け取るおそれがあるといえ,類似しているといえる。
・・・
原告各表示と被告各表\示が類似していることに加えて,原告商品及び被告各 商品はいずれ化粧品の部類に属し,取引者及び需要者は共通のものといえる ことなどに照らせば,被告が原告各表示と類似する被告各表\示を付して被告 各商品の販売等することは,需要者に他人である原告の商品と混同を生じさ せる行為といえる。 したがって,被告が被告各表示を使用した商品を販売等する行為は,不競法\n2条1項1号の不正競争に該当する行為といえる。
・・・
被告主張標章1について
被告主張標章1は,被告主張表示1と同一の構\成であり,「IBESA」,「いいべさー」,「ホワイトライスパワー」の3段の文字列からなり, 「ホワイトライスパワー」の部分は,黒字の背景に白文字の表示となっ\nており,「いいべさー」,「いいべさー」,「ほわいとらいすぱわー」との 称呼が生じる。そして,「いいべさー」とは,東北地方の方言で「いい でしょう」という意味を持ち,「いいでしょう」,「いいでしょう」,「白 い米の力」との観念が生じるものといえる。 このように,被告主張標章1の外観において,「IIBESA」,「い いべさー」,「ホワイトライスパワー」の部分は3段に分かれて表示され\nており,「ホワイトライスパワー」の部分は黒字の背景に白文字の表示\nになっており,他とは区別されている。そして,その観念については, 「いいでしょう」,「いいでしょう」,「白い米の力」というものであり, 「いいでしょう」は「白い米の力」(ホワイトライスパワーの文字部分) を修飾しており,「ホワイトライスパワー」の文字部分が需要者の注意 を引きつけるものといえる。また,その称呼についても「いいべさー」, 「いいべさー」,「ほわいとらいすぱわー」というものであり,これを一 連のものと一読するのは冗長であり,各部分について格別に称呼が生じ るといえる。
加えて,被告主張標章1の「ホワイトライスパワー」のうち「ライス パワー」部分は,化粧品に関心のある一般の消費者に,原告勇心酒造の 出所を示す表示として周知の表\示といえ,需要者に強い印象を与えると いえる(前記3(1))。また,原告商品及び被告各商品は,ともに化粧品 の部類に属するものといえるところ,化粧品類の取引においては,「ホ ワイト」とは,一般に,その商品の色彩を表示するもの又は肌の美白効\n果を謳う品質や効能表\示に用いられるものとして,広く使用されている といえ,このような化粧品類の取引の実情に鑑みれば,「ホワイト」の 部分は,その商品の品質,効能,色彩を表\示するものと理解し得るもの といえる。これらによれば,本件においては,「ホワイトライスパワー」 のうち,「ライスパワー」の部分が周知の表示として需要者に強い印象\nを与え,このこととの関係において,「ホワイト」の部分は,その「ラ イスパワー」の品質,効能,色彩を示すものと理解し得て,その場合に\nは識別力を有しないか,又は識別力の弱い部分であるというべきであり, 一般の消費者は,「ライスパワー」部分に着目するといえる。
このように,被告主張標章1の外観や観念,称呼に加えて,「ライス パワー」の部分が需要者に周知の表示といえることや化粧品類の取引の\n実情に照らせば,被告主張標章1で強く支配的な印象を与える部分は, 「ホワイトライスパワー」の文字部分のうちの「ライスパワー」部分で あるというべきである。 したがって,被告主張標章1については,原告各表示と,被告主張標\n章1の「ライスパワー」部分との類否を検討するのが相当である。そう すると,原告商標1と,被告主張標章1の「ライスパワー」部分は,外 観,称呼,観念において同一であり,原告商標2と被告主張標章1の 「ライスパワー」部分は,称呼,観念において同一であるといえる。そ して,原告勇心酒造と原告創研は,原告各商標の持つ出所識別機能等を\n保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価する ことができ(前記認定事実(4)),実質的には同一の表示による商品化事\n業を一体として営む関係にあるといえることに鑑みれば,上記「ライス パワー」部分が同一である場合,原告各商標と被告主張標章1は,類似 しているということが相当である。
・・・
カ 被告は,1)被告主張標章1ないし4が全体としてまとまりよく表示され\nており,称呼も冗長ではなく,よどみなく一連に称呼できることから,全 体を一体として理解すべきである,2)「ホワイトライスパワー」のうち 「ホワイトライス」とは白米を指すことから,「ホワイト」の部分だけを 分離して判断することはできないなどと主張するが,これらの被告の主張 を採用することができないのは,前記4(3)キのとおりである。
キ 以上のとおり,原告各商標と被告主張標章1ないし4及び被告標章5な いし8は類似しているといえる。そして,被告主張標章1ないし4は, 「ホワイトライスパワー」又は「White Rice Power」と いう被告標章1ないし4の文字列を含むことからすれば,原告各商標と被 告標章1ないし4は類似しているといえる。したがって,原告各商標と被 告各標章は類似しているといえる。

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令和2(ワ)22071  特許権に基づく損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月18日  東京地方裁判所

 ユーグレナに対して、個人発明家が特許権侵害と300万円の損害賠償を求めました。早期審査と分割出願を繰り返しています。親出願は代理人がついていますが、分割出願は代理人無しです。本人訴訟です。裁判所はサポート要件違反として権利行使不能と判断しました。\n

2 争点2−3(サポート要件違反)について
事案にかんがみ,サポート要件に関する争点2−3から判断する。
(1) 判断枠組み
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特 許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲 に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な 説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の ものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術 常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか 否かを検討して判断すべきであり,明細書のサポート要件の存在は特許権者 が証明責任を負うと解するのが相当である。
(2) 本件発明の課題
ア 【0006】には,本件発明の目的が「タンパク質を抽出できる液状化 粧品を提供すること」と記載されているにとどまり,界面活性剤の含有の 有無や含有量,界面活性剤がタンパク質の抽出に与える作用に関する記載 はない。 しかし,本件明細書において,【0006】は,【0005】とともに 「発明が解決しようとする課題」についての記載と位置付けられるとこ ろ,【0005】には,「界面活性剤は,皮膚に負担をかけ,荒れ等を生 じさせ得るため,界面活性剤を使用していないか,又は,界面活性剤の 使用量が極少量である方法が求められていた。」との記載が存在する。そ うすると,【0006】に記載された本件発明の目的は,【0005】に 記載された従来技術の課題の解決を踏まえたものと解釈するのが合理的 である。 加えて,【0011】には,本件発明に係る液状化粧品は,「有効成分を 所定量にて含有してなるタンパク質抽出剤の一態様を指すもの」である との記載がある。そして,本件発明に対応する「第2のタンパク質抽出 剤」の「有効成分」について,【0037】では,「第2の高級アルコー ル」及び「炭化水素」が挙げられている一方,界面活性剤は挙げられて おらず,かえって,【0038】には,「本発明の第2のタンパク質抽出 剤は,界面活性剤を含まなくともよい。」との記載がある。また,上記の 「所定量」について,【0060】には,「第2のタンパク質抽出剤を液 状化粧品として使用する場合,「炭化水素」の含量としては,タンパク質 抽出剤(液状化粧品)の「全量」に対して3体積%以上含まれているこ とが好適である。」,「炭化水素の濃度が低い場合には,タンパク質抽出剤 (液状化粧品)をより多く使用することにより,タンパク質の抽出は可 能である。しかし,炭化水素の含有量が全量に対して3体積%を下回る\nと,化粧品として実用的な範囲を上回る量を使用しなければならなくな るため,好適ではない。」,「第2のタンパク質抽出剤を液状化粧品として 使用する場合,「第2の高級アルコール」の含量としては,「炭化水素」 の体積に対して1体積%以上含まれていることが好適である。」,「第2の 高級アルコールの濃度が低い場合には,タンパク質抽出剤(液状化粧品) をより多く使用することによりタンパク質の抽出は可能である。しかし,\n第2の高級アルコールの含有量が炭化水素に対して1体積%を下回ると, 化粧品として実用的な範囲を上回る量を使用しなければならなくなるた め,好適ではない。」との記載がある。 さらに,【0044】には,「第2の高級アルコール」を「炭化水素」と 組み合わせることによってタンパク質を抽出できる機序が記載されてい るほか,【0065】には,本件発明の「タンパク質抽出剤は,界面活性 剤等を含まなくとも,優れたタンパク質抽出効果を奏する。したがって, 本発明のタンパク質抽出剤によれば,皮膚への負担を低減しつつ,所望 の洗浄効果が得られる。」との記載が存在する一方,界面活性剤がタンパ ク質を抽出する作用ないし機序についての記載はない。 以上によれば,本件発明の課題は,単にタンパク質を抽出できる液状化 粧品を提供することと解することはできず,界面活性剤を使用していな いか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出で きる液状化粧品を提供することであると認めるのが相当である。
イ 原告は,本件発明の課題は,【0006】記載のとおり,タンパク質を 抽出できる液状化粧品を提供することであると解釈すべき旨を主張するが, 前記アで説示したところに照らし,採用することができず,このことは, 本件特許の出願経過において,原告が【0006】にあった「上記課題を 解決するためになされたものであり,」との記載を削除する補正をした事 実によっても左右されるものではない。
・・・
ウ 本件明細書に記載された実施例のうち,実施例13(【0149】)は, 角栓のある皮膚に対する洗浄効果に関するものであり,第2のタンパク質 抽出剤Aとして,約30体積%のオクチルドデカノールと,約60体積% のスクアラン(スクワラン)を含むものが用いられている(【0141】)。 なお,実施例13の結果として,実際に毛穴に詰まった角栓を除去できた ことに関する記載や示唆はない。 また,本件明細書に記載されたその余の実施例は,いずれも,角栓のあ る皮膚に関するものではない。
エ 本件明細書には,炭化水素の含有量が全量に対して3体積%を下回る場 合及び第2の高級アルコールの含有量が炭化水素に対して1体積%を下回 る場合において,角栓除去の効果を奏することができるか否かに関する記 載や示唆はない。
(5) 検討
前記(2)のとおり,本件発明の課題は,界面活性剤を使用していないか又 は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化 粧品を提供することにあると認められるところ,前記(2)のとおり,本件明 細書の特許請求の範囲にはオクチルドデカノール及び炭化水素の含有量に関 する記載がないから,特許請求の範囲の記載上,上記課題を解決するために 必要となるオクチルドデカノール及び炭化水素の含有量について何ら限定は ないと理解できる。
しかるに,前記(4)のとおり,本件明細書においては,タンパク質を抽出 する効果を奏する有効成分として,第2の高級アルコールであるオクチルド デカノールと,リモネン,スクアレン,及びスクアランからなる群から選ば れる1種類以上の炭化水素が特定されているところ,炭化水素の含有量がタ ンパク質抽出剤の全量に対して3体積%を下回る場合及び第2の高級アルコ ールの含有量が炭化水素に対して1体積%を下回る場合には,化粧品として 実用的なものではないことが記載されており,かつ,炭化水素及び第2の高 級アルコールの含有量が上記の数値を下回った場合に角栓を除去する効果を 奏することができるか否かについては何らの記載も示唆もない。 また,本件明細書には,本件発明に係る角栓除去用液状クレンジング剤に よって実際に角栓を除去することができた旨の記載は見当たらない。これに 加えて,角栓のある皮膚を対象とする実施例13において用いられた,角栓 除去用液状クレンジング剤に相当する「第2のタンパク質抽出剤A」に含ま れるスクアラン及びオクチルドデカノールの含有量は,それぞれ,全量の3 体積%及び炭化水素(スクアラン)に対する1体積%を大きく上回るもので ある。
以上によれば,本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件明細書の発明の 詳細な説明の記載により,当業者が,本件発明に係る角栓除去用液状クレン ジング剤のうち炭化水素の配合量が全量の3体積%未満又はオクチルドデカ ノールの配合量が炭化水素の1体積%未満の範囲であっても,角栓除去作用 があり,前記(2)の課題を解決できることについて,認識することはできな いというべきであり,本件全証拠によっても,本件明細書の発明の詳細な説 明の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし上記の本件発 明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めることはできな い。
(6) 原告の主張について
ア 原告は,【0002】ないし【0005】の記載は,本件発明をするに 至った契機を記載したものにすぎず,【0006】は,こうした認識に端 を発して「タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供することを目的と」 してなされたものであることが記載されているものにすぎない旨を主張す る。 しかし,前記(2)アで説示したところによれば,本件発明の課題が単に タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供することに限定されると解す ることはできない。
イ 原告は,【0061】には液状化粧品に含まれるオクチルドデカノール 及びスクアランの含有量が少なくてもよいことが記載されているから,本 件発明が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている旨を主張する。 しかし,【0061】には,第2のタンパク質抽出剤を「液状化粧品」 に使用した場合の各成分の含有量について,実際の使用態様において 「好適な量」よりも薄い濃度で使用することを許容する旨が記載されて いるにすぎず,オクチルドデカノール及びスクアランを「好適な量」含 有しない濃度において,タンパク質を抽出する作用及び角栓除去作用を 奏することができるかについては,何ら記載も示唆もされていない。し たがって,【0061】の記載をもって,本件発明が本件明細書の発明の 詳細な説明に記載されたものであると認めることはできない。
ウ 原告は,【0061】には,水を含有する態様の第2のタンパク質抽出 剤(液状化粧品)において,炭化水素の配合量は水への溶解度以上の量で あり,第2の高級アルコールの配合量は,炭化水素の体積に比し,1体 積%以上から200体積%以下の範囲内の量であると記載されているとこ ろ,炭化水素であるスクアランは水に溶けないから,スクアランがわずか でも含まれていればよいことが本件明細書の発明の詳細な説明に記載され ている旨を主張する。
しかし,【0061】の直前の段落である【0060】には,第2のタ ンパク質抽出剤を液状化粧品として使用する場合に,水を含有する態様 と含有しない態様とを区別することなく,炭化水素の配合量を定めるこ とが記載されている。そして,これに続く【0061】も,【0060】 と同様,第2のタンパク質抽出剤を液状化粧品として使用する場合につ いて説明したものであり,かつ,【0060】の記載内容を排斥する記載 はない。そうすると,【0061】は,【0060】の記載のとおり,炭 化水素が全量の3体積%以上含まれていることを前提とした記載と解釈 するのが相当である。
エ 原告は,本件明細書の実施例13には,スクワランとオクチルドデカノ ールが含まれる第2のタンパク質抽出剤Aは,角栓のある皮膚に対する洗 浄効果,すなわち角栓除去効果が市販の石けんより高かったことが明らか にされているから,その記載により当業者は本件発明の課題が解決できる ことを認識できる旨を主張する。 しかし,実施例13には,角栓のある皮膚に対する洗浄効果の高さにつ いての記載が存在するにとどまり,実際に毛穴に詰まった角栓が除去さ れたことについては記載されていない。

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◆本件特許

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令和3(行コ)10003  手続却下処分取消請求控訴事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 国際特許出願について、期限内に翻訳文を提出しなかった点について、救済を求めましたが、1審はこれを認めませんでした。知財高裁も同様です。

 法184条の4第4項は,外国語特許出願の翻訳文の提出について,手続 期間を遵守しなかったことによって出願又は特許に係る権利の喪失を引き起 こしたときの権利の回復について定めた特許法条約(PLT)12条に整合し た救済手続を導入するために,平成23年の特許法改正により新設されたも のであり,こうした規定新設の経緯からすると,外国語特許出願人について, 期限の徒過があった場合でも,柔軟な救済を図ることを目的としたものであ ると解される。しかし,他方で,1)特許協力条約(PCT)に基づく国際特許 出願の制度は,国内書面提出期間内に翻訳文を提出することによって,我が 国において,当該外国語特許出願が国際出願日にされた特許出願とみなされ るというものであるから,同制度を利用しようとする外国語特許出願の出願 人には,自己責任の下で,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出する ことが求められる。また,2)取り下げられたものとみなされた国際特許出願 に係る権利の回復を無制限に認めると,国内書面提出期間経過後も,当該国 際特許出願が取り下げられたものとみなされたか否かについて,第三者に過 大な監視負担をかけることになる。そうすると,法184条の4第4項にい う「正当な理由があるとき」とは,特段の事情がない限り,国際特許出願を 行う出願人が相当の注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内 書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいう ものと解すべきである。控訴人は,法184条の4第4項の「正当な理由」 の解釈は,期限管理システムが通常の状態で有効に機能しているのであれば,\n人は間違えることもあるのだからそれは救済するという立場に近づける方向 で緩やかにすべきであると主張するが,その解釈に当たって上記1),2)の点 も考慮しなければならないことからすると,「正当な理由」の解釈を一概に緩 やかにすべきであるということはできず,控訴人の上記主張は,採用するこ とができない。
(2) 相当な注意を尽くしていたか否かについて
控訴人は,本件担当パラリーガルが控訴人に送付した本件メールに,日本 の国内移行手続の期限として誤った記載がされたのは,本件代理人事務所に おいてダブルチェック体制による期限管理システムが有効に機能していたに\nもかかわらず,偶発的でかつ予期し得ない人為的ミスが重なって生じたもの\nであり,偶発的に生じた予期し難いものであったとした上で,法184条の\n4第4項の「正当な理由」の解釈を控訴人主張のとおりに緩やかにすれば, 本件においては,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて 国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったもので あり,法184条の4第4項の「正当な理由」があると主張する。 しかし,法184条の4第4項の「正当な理由」の解釈を控訴人主張のと おりに緩やかにすることができないことは,前記(1)に述べたとおりである。 また,本件代理人事務所では,国際出願の出願人に,国内移行手続の期限と して,国・地域にかかわらず,国内移行手続の期間が30か月である場合の 期限を報告するのが標準の実務であり,また,費用見積りは,クライアント から要望があった場合に行う手続であった(甲23和訳3〜4頁)。そうする と,費用見積りを,クライアントの要望がないにもかかわらず,本件担当弁 護士が選択した国について,国内移行手続の期間が30か月の国と31か月 の国に分けて用意し,それに伴って国内移行手続の期限も,国内移行手続の 期間が30か月の国と31か月の国に分けて表示するというのであれば,そ\nれは通常の取扱いと異なるのであるから,通常の取扱いと異なる部分につい て,誤りが生じないように,通常の取扱い以上にチェックすることが必要と なるというべきである。そして,本件の取扱いにおいては,国内移行手続の 期限を,国内移行手続の期間が30か月の国と31か月の国に分けて表示す\nるという点が,同期間が30か月である場合の期限のみを報告するという通 常の場合と異なっており,同期限は,国際特許出願の出願人であるクライア ントの権利の得喪に非常に重要な意味を有するから,通常と異なる取扱いを する以上は,同期限の表示の誤りの有無は,入念に点検すべきであるといえ\nる。そして,本件メール案には,国内移行手続の期限及び同手続に要する費 用の見積額が記入された一覧表(本件一覧表\)が記載され,国によって異な る期限が表示されていたのであるから,これらの国ごとの期限に誤りがない\nかを点検すべきであり,これをすることは容易にできたものと認められる。 しかしながら,本件一覧表に示された期限が正しいかどうかについてダブル\nチェック等により入念な点検が行われたことはうかがわれない。 本件一覧表に記載されていたのと同じ誤った期限は,本件担当パラリーガ\nルが日本の特許事務所に送付した,見積額を問い合わせるメール(甲19の 英文2頁目)にも表示されていたが,それは,本文の上の「Re:」という欄に 表示されていたにとどまり,そのメールの本文の問い合わせ事項に含まれて\nいたものではなかった。そのため,これに返信した日本の特許事務所がこの 表示の誤りを指摘しなかったとしても,日本の特許事務所がその表\示に誤り がないことを確認したと考えることは必ずしもできないようなものであった。 そうすると,上記メールに対する日本の特許事務所の返信メールに誤りの指 摘がなかったことをもって,その表示が正しいことについて確認がされたと\n認めることはできない。 したがって,控訴人は,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観 的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかっ たものであるとは認められず,法184条の4第4項の「正当な理由」があ るとは認められない。

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◆令和2(行ウ)316

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令和2(ワ)7486  特許権移転登録手続等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月28日  大阪地方裁判所

 冒認発明を理由に移転請求をしました。裁判所は共同発明であるとして移転請求を認めました。

ア 特徴的部分1)について
前記各認定によれば、被告は、少なくとも平成29年8月10日頃までは、魚の 神経抜き及び血抜きにあたってはあえて少し血を残す方が良く、魚の熟成等の観点 からは血の回りだけでなく神経絞めに意味があると考えており、このような考えに 基づき、脳髄や神経を抜くことで血抜きをするという発想を持っていたことがうか がわれる。また、被告は、この頃、「明石浦漁港のやり方」すなわち背骨上側に沿う 脊髄神経に針金を通し神経を破壊する方法に加えて水圧を使うことを提案している ことに鑑みると、尾部を切断することやそれによって血液弓門を露出させ、血液弓 門から水圧を掛けて血抜きをすることは、必ずしも想到していなかったものと推察 される。他方、原告は、早く確実に作業することが可能なことや骨全体まで完全に血抜きをすることを重視し、神経抜きはすればよいがしなくてもよく、血を回さな\nいための神経抜きであると考えていた。原告は、当時実施していた方法はエラに水 圧を掛けて血抜きをするものであったが、この方法では鬱血を広げてしまうという 欠点があるとしていたところ、足踏み式試作品を見て、水が噴出されるノズルの先 端部分の形状をより細くすれば十分に加圧することが可能\\となり、「全て切った尾 びれの付け根から処理でき」る、すなわち、尾部を切断して血液弓門を露出させ、 そこに先端を細くしたノズルを刺して水圧を掛け、神経抜きと血抜きを行う方法を 着想したことがうかがわれる。 その後の原告と被告とのやり取りは、原告が着想した上記方法を念頭に、ノズル の形状や流量調節器具に関する具体的検討を進めたものと理解される。 したがって、本件各発明の特徴的部分1)は、被告が製作した足踏み式試作品に接 したことを契機とするものの、長年の水産会社勤務、とりわけ魚の生き締めに関す る実地での経験等を背景とした原告の着想及び具体化に基づくものといってよい。 したがって、本件各発明の特徴的部分1)の完成については、被告のみならず原告も 創作的に寄与したものというべきである。 イ 特徴的部分2)について
前記各認定によれば、本件各発明の特徴的部分2)に関する原告と被告とのやり取 りは、以下のような経過をたどったものと理解される。 すなわち、被告は、原告とのやり取りを開始した平成29年7月11日までには 既にノズルの先端の形状がテーパ状である足踏み式試作品を試作していたが、同月 12日には、ノズルの形状が針状のエアダスターにつき、十分に用途を果たすこと、\nエアガンでないと極細ノズルが付けられないこと、魚によっては極細ノズルは要ら ないかもしれないが、特に血管の方までやるなら極細ノズルは必要と考えることな どの意見を述べた。また、原告は、同年8月1日、被告に対し、足踏み式試作品に ついて、先端部分をもっと細くすることができるかを尋ね、被告が簡単にできる旨 を回答すると、それであれば神経まで潰せるし、逆から骨の血も抜ける、全て切っ た尾ヒレの付け根から処理できるとの考えを示した。さらに、同日、原告は、針状 試作品について、これを用いれば簡単に後ろから処理できる、水圧で神経が出せる なら、スーパーでも使えるなどと感想を述べた。その後の同年9月の間のやり取り においても、原告と被告は、ノズルの形状については針状の極細ノズルとすること を念頭に検討を進めていたことがうかがわれる。 もっとも、原告は、針状試作品では魚が暴れた際等にノズルが変形等してしまう\nなどの不具合があると結論付け、同年11月1日、被告に対し、ノズルの形状をテー パ状にすることを提案した。これに対し、被告は、当初、テーパ状とすると製造に あたって精密さが求められ、コストが掛かることなどを指摘し、消極的な態度を示 したが、原告が製造業者からテーパ状のノズルの製作は比較的簡単である旨の回答 を得たこともあって、ノズルの形状をテーパ状とすることも検討することとした。 しかるに、原告は、その後、ノズルの形状をテーパ状とするだけでは十分ではな\nく、せめて先端の1cm程度を針状にして魚の骨の中で固定することが必要であると し、当該針状の部位からそのままテーパ状の部位につながるノズルの形状を提案し た。これに対し、被告は、スプレー式に噴出するテーパ状のノズルであっても、圧 力の逃げ場がないように神経弓門や血液弓門に刺すなどすることができるのではな いか、との意見を述べたが、原告は、これに否定的な態度を示した。 このような経緯を経て、本件各発明は、あらゆる大きさの魚に対応するための血 液弓門の密着封止構造を実現すると共に、ノズル先端部の破損を抑制するため、ノ\nズルの先端部分の形状をテーパ状にすること(特徴的部分2))をその特徴的部分の 1つとするものとして完成するに至ったものといえる。このことに鑑みると、特徴 的部分2)につき、最終的には被告の考えに基づき発明として完成したものの、課題 を解決するための着想及びその具体化の過程においては、被告のみならず原告も創 作的に寄与したものというべきである。
ウ したがって、原告と被告は、共に本件各発明の特徴的部分1)及び2)の完成に 創作的に寄与したものといえ、原告と被告は、本件各発明の共同発明者と認められ る。これに反する原告の主張は採用できない。
エ 被告の主張について
被告は、原告の助言を受ける前に既に本件各発明を完成させていた旨を主張し、 これに沿う供述等をする。 しかし、着想としてであれ被告が原告とのやり取りとかかわりなく単独で本件各 発明を完成させていたことをうかがわせる検討メモその他の客観的な資料は見当た らない。その点を措くとしても、前記認定に係る本件各発明に至る経緯を見る限り、 被告は、とりわけ本件各発明の特徴的部分2)について、原告の意見を踏まえて方針 を変更したことがうかがわれる。この方針変更は、特徴的部分2)に関わるものであ る以上、単に本件各発明を商品化する上で必要となったという程度にとどまるもの とはいえない。また、本件各発明を商品化した商品の販売促進につき原告の協力を 得るという被告の意図の存在は、前記認定に係る本件各発明に至る経緯からもうか がわれるものの、本件各発明の構成を具体的に示すなどして原告との議論を誘導す\nるなどした形跡はうかがわれず、むしろ上記のとおり原告の意見を踏まえて方針変 更をしたことなどを踏まえると、そのような意図のみに基づくものとまでは認めら れない。 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用 できない。
(5) 小括
以上より、本件特許は、特許法38条に違反してされたものであるから、同法1 23条1項2号所定の要件に該当すると共に、原告は本件特許に係る発明である本 件各発明について特許を受ける権利を有する者であることから、原告は、特許権者 である被告に対し、同法74条1項に基づき、その持分の移転請求権を有する。
2 本件出願の不法行為該当性等(争点2)について
不法行為の被害者が自己の権利擁護のため訴えを提起することを余儀なくされ、 訴訟追行を弁護士に委任した場合、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容 された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、 不法行為と相当因果関係に立つものというべきである(最高裁昭和44年2月27 日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁参照)。 しかし、本件において、原告は、冒認出願又は共同出願違反による損害として、 本件訴訟追行に要した弁護士費用以外の損害の主張をしていないことから、弁護士 費用以外の損害を認めることはできない。そうである以上、原告が、冒認出願等の 被害者として、本件出願により生じた損害につき本件訴えを提起することを余儀な くされたとは認められない。そうすると、原告が本件訴訟追行に要した弁護士費用 は、冒認出願等と相当因果関係のある損害とはいえない。 したがって、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の成立は認め られない。これに反する原告の主張は採用できない。

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令和3(行ケ)10072  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月21日  知的財産高等裁判所

 記載不備、進歩性なしとして拒絶審決が成されました。記載不備については理由ありとされましたが、進歩性欠如として審決維持です。

(1) 特許出願における特許請求の範囲の記載については,「特許を受けようとす る発明が明確であること」という要件に適合することが求められるが(特許法36 条6項2号),これは,特許制度が,発明を公開した者に独占的な権利である特許権 を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者に ついては特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図るこ とを通じて発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであ ることを踏まえたものである(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月 5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁)。同要件については,同目的の見地 を踏まえ,請求項の記載のほか,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識 を考慮して判断されることになる。 これを本願発明についてみると,前記第2の2の本願の請求項1の記載及び本願 明細書の図1の内容に加え,本願明細書中,本願発明の特徴について説明する段落 において,「増幅器の出力回路」(又は「アナログ増幅器の出力回路」)という表現が\nひとまとまりの語として用いられていること(本願明細書の段落[0001],[0002], [0007]〜[0009],[0012]。同[0017],[0020]も参照。なお,本願明細書[甲11]中に,本願発明の内容に関して,「出力回路」の語が単体で用いられている個所 はない。),前記1(2)の本願発明の概要からすると,本願発明の技術的特徴の最たる 部分は,出力電流に相関した消費電流の変化がないという点にあり,その旨が本願 の請求項1にも明記されているところ,本願明細書の段落[0009]の記載からする と,本願発明が上記の技術的特徴を回路の構成によって実現するものであることは\n明らかであることのほか,実施例についても,「信号に相関した電流を電源回路に流 さない出力部」という記載がある(本願明細書の段落[0015]。同[0018],[0023] も参照)一方で,前段の増幅部については図示されていない旨の記載があること(同 [0016]。同[0019]も参照)を踏まえると,本願の請求項1中,「・・・を特徴と するオーディオ用増幅器の出力回路」という記載において,「・・・を特徴とする」 という部分は,「オーディオ用増幅器の出力回路」,すなわち,「オーディオ用増幅器」におけるものであるという特定の付加された「出力回路」を修飾するものであるこ とが,明確であるというべきである。 そうすると,本願の請求項1の記載は,第三者が特許に係る発明の内容を把握す ることを困難にするものとはいえず,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確 なものであるとは認められず,本願発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法3 6条6項2号に規定する要件を満たしている。
(2) 前記(1)の判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。被 告の主張は,本願の請求項1の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明 確なものであることを根拠づけるものとはいえない。
(3) したがって,取消事由1には理由がある。
もっとも,前記第2の3(2)の本件審決の進歩性についての判断は,本願の請求項 1の記載の明確性についての前記(1)の判断を前提としても,なお問題となるもの であって,前記進歩性についての判断に誤りがない場合には,本件審決の結論に誤 りはないこととなるから,次に,取消事由2について検討する。
5 取消事由2(進歩性について)について
・・・
以上を踏まえると,相違点アを認定しなかった点で本件審決に誤りがあるとはい えない。なお,仮に,形式的に引用発明と本願発明を対比して,相違点アを認定し たとしても,引用発明におけるショットキーバリアダイオードが高抵抗素子として 機能するものであることを含めて既に述べた点のほか,本願発明についても3端子\n増幅素子の入力端子より信号SIG側にバイアス回路として抵抗R1及びR2を設け ることが示されていること(本願明細書の段落[0015],図1)に照らし,相違点ア が本願発明の進歩性を基礎付けるものとはいえない。
c 前記bは,あくまで本願発明がショットキーバリアダイオードの構成を付加\nすることを排除していない旨をいうものにすぎず,同構成を本願発明の構\成要素と して追加するものではない。後者の理解を前提とする原告の主張(それゆえにそれ が前者の理解と矛盾しているという主張を含む。)は,採用することができない。 また,特に入出力電圧の点で引用発明と本願発明が異なるという原告の主張は, 本願発明の発明特定事項に含まれていない構成を前提に本願発明についていうもの\nであって,その前提を欠き,採用することができない。引用発明との対比のために, 本願発明の入出力電圧の範囲を具体的に検討する必要がある旨をいう原告の主張も, 同様に,本願発明の発明特定事項に含まれていない構成をいうもので,採用するこ\nとができない。

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令和2(ネ)10059  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟__全文__ 令和4年2月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、アルギニンは,その後の発酵処理工程で初めて混合されるものであるから技術的範囲に属さないと判断しましたが、知財高裁は、属すると判断しました。1審判決後に訂正審判がなされ、これが確定しています。控訴人は訂正発明のみについての判断を求めました。争点は104条の推定規定の出願日が優先権基礎出願日が適用されるのか、推定が覆滅されるか等です。

 以上によると,基礎出願A,Bの上記記載に接した当業者は,上記本件優先日当 時の技術常識とを考え併せ,「大豆胚軸」以外の「ダイゼイン類を含む原料」を発酵 原料とした場合でも,ラクトコッカス20-92株のようなエクオール及びオルニ チンの産生能力を有する微生物によって,発酵原料中の「ダイゼイン類」がアルギ\nニンと共に代謝されるようにすることにより,発酵物の乾燥重量1g当たり,8m g以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを含有する,食品素材として用い られる粉末状の発酵物を生成することが可能であると認識することができたという\nべきであるから,本件訂正発明を基礎出願A,Bから読み取ることができるものと 認められる。 したがって,本件訂正発明は,少なくとも基礎出願A,Bに記載されていたか, 記載されていたに等しい発明であると認められ,本件訂正発明は,基礎出願A,B に基づく優先権主張の効果を享受できるというべきである。 そうすると,本件特許は,特許法104条の規定の適用については,本件優先日 である平成19年6月13日に出願されたものとみなされるから,本件訂正発明生 産物が同条の特許出願前に日本国内において「公然知られた物でない」か否かを検 討するに当たり,本件優先日以降に公開された乙B3(国際公開第2007/06 6655号。国際公開日2007(平成19)年6月14日)を考慮することはで きない。
ウ 「公然知られた物でない」に当たるか
その物が特許法104条の「公然知られた」物に当たるといえるには,基準時に おいて,少なくとも当業者がその物を製造する手がかりが得られる程度に知られた 事実が存することを有するというべきところ,本件訂正発明生産物が,本件優先日 当時に公知であった乙B16,乙B24に記載されていたとはいえず,また,乙B 16又は乙B24から本件訂正発明を容易に想到することができないことは後記3 (4),(6)のとおりである。そうすると,本件優先日時点において,乙B16又は乙 B24に触れた当業者が本件訂正発明生産物を製造する手がかりが得られたという ことはできない。 また,被控訴人らは,本件訂正発明生産物は,乙B16の「実施例1」の「乾燥 重量1g当たり,1mg−3mgのエクオールが生成」している発酵物「992m g」に栄養強化添加物である「97.48%」の純度のオルニチン(乙B67の国 際公開公報(WO2006/051940))を「8mg」加えたものであるにすぎ ないから,「公然知られた物」であると主張するが,前記アのとおり,本件訂正発明 生産物は,「オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物であって,前記発 酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール が生成され,食品素材として用いられる物」であるから,乙B16に乙B67を組 み合わせたとしても,「発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び 1mg以上のエクオールが生成された」物に当たらないから,上記被控訴人らの主 張は採用できない。
なお,被控訴人らは,本件発明による生産物について,乙B4により公然知られ た物に当たる旨の主張をしていたので念のため検討するに,乙B4に本件訂正発明 が記載されていたとはいえず,また,乙B4から本件訂正発明を容易に想到できた ものではないことは後記3(3)のとおりであり,乙B4によっても当業者が本件訂 正発明生産物を製造する手がかりが得られたということはできない。 したがって,本件訂正発明生産物は,本件優先日当時,「公然知られた物でない」 といえる。
エ 被控訴人方法の構成について\n
被控訴人らは,被控訴人原料の生産方法が原判決別紙「被告方法目録」記載の被 控訴人方法であることについて自白が成立しているから,特許法104条の推定は 働かないと主張する。そして,令和元年6月7日の原審第4回弁論準備手続期日に おいて,当事者双方が,被控訴人方法の構成について原判決別紙「被告方法目録」\n記載のとおりである旨陳述している(当裁判所に顕著)。 原審において当事者間に争いがないものとされた被控訴人方法と,当審で控訴人 が主張する被控訴人方法とでは,前者における「α3 前記酵素処理工程を経て得 られたダイゼインを含む処理液と,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●をアルギニンを含む培養液と共に混合して発酵処理をし,」との構成部\n分を,後者では「α3−1 前記酵素処理工程を経て得られたダイゼインを,アル ギニンを含むその他の成分と混合して培地とした上,これを滅菌処理して滅菌済培 地とし,」と「α3−2 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●を同滅菌済培地に植菌して発酵処理をし,」との構成に変更するというものであ\nるところ,同α3−1及びα3−2の内容は,α3の内容を更に具体化・詳細化し ようとするものであり,また,控訴人は,原判決における本件訂正発明に係るクレ ーム解釈に基づく場合の構成としてα3−1及びα3−2とすべきと主張している\nものであるから,まずは,原審において当事者間に争いがないものとされた被控訴 人方法(α1〜6によるものであって,α3をα3−1及びα3−2に変更しない もの)の構成について検討を進めることとする。\n
オ 推定の覆滅について
被控訴人らは,被控訴人原料の生産方法が被控訴人方法であり,これが本件訂正 発明の方法とは異なるから,本件訂正発明の方法を使用していないとの主張立証を しているものと解されるから,以下,被控訴人方法(まずは,α1〜6によるもの であって,α3をα3−1及びα3−2に変更しないもの)が本件訂正発明の方法 とは異なるものであるか検討する。
・・・
c 原判決は,構成α3の「アルギニンを含む培養液」は,本件発明の構\成要件 A−2,A−3の「アルギニンを含む発酵原料」に当たらず,被控訴人方法は本件 発明のA−2,A−3を充足しないと判断したが,本件訂正発明においても,構成\n要件B’−1に「アルギニンを含む発酵原料」とあるので,α3の「アルギニンを 含む培養液」が構成要件B’−1の「アルギニンを含む発酵原料」に当たるか検討\nする。 構成要件B’−1は,「前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料を」と\nいうものであるが,これは,構成要件A’においてダイゼイン類にアルギニンを添\n加したものを指すと解するのが自然である。そして,上記bのとおり,被控訴人方 法の構成α3においては,「ダイゼイン」を含む処理液と「アルギニン」を含む培養\n液を,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●と共に混合して発 酵処理をしているところ,「ダイゼイン」を含む処理液と「アルギニン」を含む培養 液の混合物を,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能\力を有する微生物」であ る●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●で「発酵処理」してい るから,上記混合物は発酵原料に当たるというべきである。そうすると,同混合物 は,「前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料」に当たるから,被控訴人 らの主張する被控訴人方法を前提としても,被控訴人原料の生産方法は,本件訂正 発明の構成要件B’−1を充足し,構\成要件B’−1の発酵原料を微生物で発酵処 理することを内容とする構成要件B’−2も充足する。\n
この点,原判決は,本件発明について,アルギニンは,発酵処理をする前の発酵 原料の調製をする段階において発酵原料に含まれているものであり,構成α3の「ダ\nイゼインを含む処理液」が発酵原料に当たり,「アルギニンを含む培養液」は発酵原 料ではなく,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分に当たるものと解した上で, 被控訴人方法は発酵処理段階においてアルギニンが初めて現れるから本件発明の構\n成要件を充足しないと判断した。
しかしながら,本件特許請求の範囲及び本件明細書をみても,ダイゼイン類にア ルギニンを添加した後に微生物を加えることと,ダイゼイン類とアルギニンと微生 物を同時に混合することとの間に何らかの差異があることをうかがわせる記載はな い。また,本件明細書をみると,【0091】に「発酵原料(発酵に供される原料)」 との記載があるものの,【0093】には「ダイゼイン類を含む発酵原料としては, ダイゼイン類を含む限り,特に制限されるものではない」と発酵原料に特段の制限 がないものとされており,そのほかには発酵原料を定義付ける記載はない。前記1 (2)のとおり,本件訂正発明においてオルニチン産生能力及びエクオール産生能\力 を有する微生物による発酵に供されるのは,「ダイゼイン類」と「アルギニン」であ り,ダイゼイン類にアルギニンが添加されたのちに微生物が添加されたとしても, ダイゼイン類に,アルギニンと微生物が同時に添加されたとしても,アルギニンが 発酵に供されることに変わりがない。そうすると,被控訴人方法におけるアルギニ ンが,発酵原料ではないというべき理由がない。
原判決は,本件明細書の【0033】の「当該エクオール含有大豆胚軸発酵物は, 発酵原料として大豆胚軸を用いて製造される」との記載及び【0036】の「大豆 胚軸の発酵において,発酵原料となる大豆胚軸には,必要に応じて,発酵効率の促 進や発酵物の風味向上等を目的として,酵母エキス,ポリペプトン,肉エキス等の 窒素源;グルコース,シュクロース等の炭素源;リン酸塩,炭酸塩,硫酸塩等の無 機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に,エクオール産 生微生物として,アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(中略)を\n使用する場合には,大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって,得 られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。この場合,アルギニンの 添加量については,例えば,大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して,ア ルギニンが0.5〜3重量部程度が例示される。」と発酵原料となる大豆胚軸には, 必要に応じて,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分を添加してもよいと記載さ れていることから,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分は,発酵原料とは別の 成分として扱われていると認定したが,ダイゼイン類を含む「大豆胚軸」が発酵原 料に当たることと,ダイゼイン類を含む処理液とアルギニンを含む培養液のいずれ もが発酵原料に当たると考えることは何ら矛盾するものではない。また,【0036】 の記載も,大豆胚軸にアルギニンを添加したものを発酵原料とみなすことと矛盾す るものではない。したがって,原判決の判断には誤りがあるというほかない。 そうすると,α3の「アルギニンを含む培養液」は,構成要件B’−1の「アル\nギニンを含む発酵原料」に当たると認めるのが相当であるから,被控訴人方法が構\n成要件A’,B’−1,B’−2を充足しないことが立証されているとはいえない。
・・・
(ウ) 以上のとおり,被控訴人原料の生産に本件訂正発明の方法を使用していない ことが立証されているとはいえないから,特許法104条の推定が覆滅されたと認 めることはできない。

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◆平成30(ワ)18555

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令和2(ワ)22290等  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年1月19日  東京地方裁判所

 医薬用途発明について、「各痛みに対して鎮痛効果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載がない」として、実施可能要件違反なので権利公使不能\と判断されました。

ア 実施可能要件違反の判断基準について
いわゆる医薬用途発明においては,一般に,当業者にとって,物質名, 化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予\測することは困難であり,当該発明に係る医薬を当該用途に使用することができないから,そのような発明において実施 可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載を要するものと解\nするのが相当である。 本件発明1及び2の特許請求の範囲においては,本件化合物が「痛みの 処置における」(構成要件1B)「鎮痛剤」(構\成要件1C)及び「鎮痛 剤」(構成要件2C)として作用することが記載されているところ,いずれも本件化合物の鎮痛効果が認められる痛みは特定されていない。しかし,本件明細書には,本件化合物について,「痛みの処置とくに慢性の疼痛性\n障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定さ れるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み, 三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザ ルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー, 線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障 害および特発性疼痛症候群が包含される。」(前記1(1)イ)と記載されて いることに照らすと,本件発明1及び2は,本件化合物が少なくとも上記 各痛みに対して鎮痛効果を有することを内容とするものと解される。 したがって,本件発明1及び2について実施可能要件を満たすというためには,本件明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,上記各痛みに対して鎮痛効\n果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載が必要であ るというべきである。
イ 痛みの分類及び機序について
(ア) 痛みの分類及び機序について,証拠(甲15の1,甲26,39,4 1,42,46,55,59,77ないし84,86,88)によれば, 本件出願当時,以下の文献が存在したことが認められる。
・・・
(イ) 前記(ア)aないしgの文献の記載によれば,痛みは,その機序により大 きく分けると,1)炎症や組織損傷による侵害レセプターへの刺激により 生じる侵害受容性疼痛,2)末梢神経又は中枢神経が圧迫されたり,絞扼 されたり,遮断されたりすることにより生じる神経障害性疼痛,3)直接 末梢からの侵害刺激がないにもかかわらず存在し,心因性のもので,特 発性疼痛とも呼ばれる心因性疼痛の三つに分類することができること, 線維筋痛症は,上記3)の心因性疼痛に分類されること,上記のとおりに 分類された痛みの中にも様々なものがあり,それぞれの痛みについて機 序や症状,治療方法が存在することが,本件出願当時,技術常識であっ たと認めるのが相当である。
(ウ) これに対して,原告は,痛覚過敏及び接触異痛は,通常の痛みとは異 なり,末梢性感作や中枢性感作による神経の機能異常で生じる痛みであると主張し,その根拠として,本件出願当時に前記(ア)hないしlのとお りの文献が存在したことを指摘する。 しかし,前記(ア)h,i,k及びlの各文献は,マスタードオイル,カ プサイシン及び切開による侵害刺激を与える実験の結果に基づくもので あるから,これらの実験により,痛覚過敏及び接触異痛が,その原因に かかわらず,末梢性感作や中枢性感作による神経の機能異常により生じると,直ちにいうことはできない。
また,前記(ア)jの文献では,「NメチルDアスパラギン酸(NMDA) 受容体の過剰活性は,神経障害性疼痛の発生における要因の1つである 可能性がある。」,「動物の神経障害性疼痛モデルにおいて示唆されるように…,痛覚過敏は NMDA 受容体によって介在される「ワインドアップ 現象」の提示である可能性がある。」などと記載されているところ,これらの記載は,NMDA受容体の過剰活性が神経障害性疼痛の要因となること,あるいは痛覚過敏がNMDA受容体によって介在されるワイン\nドアップ現象(神経細胞の感作)によるものであることの可能性を指摘したにすぎず,これをもって,上記文献の記載内容が本件出願当時の技術常識であったということはできない。そして,他に,本件出願当時,痛覚過敏及び接触異痛がその原因にかかわらず末梢性感作や中枢性感作による神経の機能\異常で生じる痛みであることが技術常識であったと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
・・・
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明においては,ホルマリン 試験,カラゲニン試験及び術後疼痛試験の各薬理データの記載により,本 件化合物が侵害受容性疼痛に分類される痛みに対して鎮痛効果があること 及びそのための当該医薬の有効量は裏付けられているといえる。しかし, 本件発明1及び2がその内容とする「痛み」,すなわち,少なくとも「炎 症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急性疱 疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢 捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風, 幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛 症候群」(前記1(1)イ)の各痛みに対して鎮痛効果があること及びそのた めの当該医薬の有効量を裏付ける記載はない。したがって,本件発明1及 び2は,実施可能要件に違反するものと認められる。\n

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令和3(行ケ)10101  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年2月22日  知的財産高等裁判所

 経過概要は以下です。PUMAが「ジャンピングシーサー」の図形商標につき、4条1項7号、15号違反の無効審判を請求しました。これに対して、被告は商標権放棄をしました。また、5年の除斥期間経過しているとして、却下審決がなされました。原告は除斥期間は不正目的の場合は適用がないとして審決取消を求めました。 原告の主張によると、被告はアダルトグッズに使用し、ブランドイメージ毀損されているとのことです。裁判所は、審決維持しました。

商標法4条1項15号を無効理由とする本件審判の請求について
ア 本件審判の請求は,本件商標権の設定登録の日から5年の除斥期間を経 過した後にされたものであるから,本件審判の請求中,商標法4条1項1 5号を理由とする請求は,本件商標が「不正の目的で商標登録を受けた場 合」(商標法47条1項括弧書き)に限りする
原告は,1)本件商標の動物図形と原告の業務に係る周知著名な引用商標に は高い類似性があり,本件商標と引用商標が同一又は類似の商品に使用され た場合,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあること,2)被告によ る被告標章の商標登録の無効審決の確定後の被告標章の使用及びアダルトグ ッズへの被告標章の使用の事実があること,3)本件審判において,被告の自 白をもとに,被告の不正の目的を推認させる事情を原告が具体的かつ詳細に 立証した後,被告がこれに争わない意向を表明した経緯があることを総合考\n慮すれば,被告は,周知著名な引用商標に化体した顧客吸引力にただ乗りし, その出所表示機能\を希釈化させ,又はその名声を毀損させる「不正の目的」 で本件商標の登録出願をし,その商標登録を受けたものである旨主張する。
ア そこで検討するに,1)については,引用商標は原告の業務に係る周知著 名な商標ではあるが,前記(1)ウ(イ)認定のとおり,本件商標と引用商標と は,外観,称呼,観念のいずれにおいても異なり,本件商標と引用商標は, 類似しない。 また,本件商標の動物図形と引用商標は,四足動物が右から左に向けて 跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿 でシルエット風に描かれている点で共通し,その基本的姿勢等に似通った 点があることから,本件商標に接した需要者は,本件商標の動物図形は引 用商標を模倣したものと連想,想起するものと一応いい得るが,「JUM PING SHI−SA」の文字部分があることによって,本件商標の動 物図形からは,引用商標から生じる「PUMA」ブランドの観念や「プー マ」の称呼は生じないものと認められること(前記(1)ウ(ア)a)に照らす と,本件商標の動物図形は引用商標を模倣したものと連想,想起するから といって,被告が本件商標の登録出願をし,その商標登録を受けたことに ついて,周知著名な引用商標に化体した顧客吸引力にただ乗りし,その出 所表示機能\を希釈化させる「不正の目的」があったものと認めることはで きない。
イ 2)については,証拠(甲61ないし63)によれば,知的財産高等裁判 所は,別紙3のとおりの構成からなる被告標章についての商標登録無効審\n判請求を不成立とした審決(無効2016−890014号事件)の審決 を取り消す旨の判決をした後,特許庁が被告標章が商標法4条1項15号 に該当することを理由に被告標章の商標登録を無効とする別件無効審決 をし,別件無効審決は,令和元年9月2日,確定したことが認められる。 しかしながら,本件商標と被告標章の外観は,四足動物が右から左に向 けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見 た姿でシルエット風に描かれている点で共通し,その基本的姿勢等に似通 った点があるものの,被告標章には本件商標において大きな構成部分であ\nる文字部分を有していないという顕著な相違があり,両商標は,外観,称 呼及び観念において異なり,類似しないことに照らすと,原告が主張する 被告による被告標章の商標登録の無効審決の確定後の被告標章の使用及 びアダルトグッズへの被告標章の使用の事実があるからといって,被告が 本件商標の登録出願をし,その商標登録を受けたことについて,周知著名 な引用商標に化体した顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能\を希釈 化させ,又はその名声を毀損させる「不正の目的」があったものと認める ことはできない。
ウ 3)については,商標登録無効審判の審判手続においては,職権で証拠調 べをすることができ,当事者が申し立てない理由についても審理すること\nができるなどの職権探知主義が採用され(商標法56条において準用する 特許法150条1項,153条1項),自白法則は適用されないから(商 標法56条において準用する特許法151条が準用する民事訴訟法17 9条の規定から「当事者が自白した事実は証明することを要しない」とし た部分の準用が除かれている。),商標登録無効審判の請求人は被請求人 が商標登録の無効理由を基礎づける事実について自白した場合であって も,当該事実を証拠によって証明する必要がある。また,被請求人には特 許庁がした審決を取り消す権限がなく,商標登録無効審判に処分権主義の 適用はないから,被請求人は,請求人の請求を認諾することはできないも のと解される。
しかるところ,原告が3)の根拠として挙げる被告作成の令和2年9月2 8日付け上申書(甲104)には,「被請求人は,請求人の主張を認め,\n請求の趣旨に対し,請求人が主張するとおりの審決がなされ,本件商標権 が遡及消滅することを争わない。」との記載があるが,上記記載中の「請 求人の主張を認め」にいう「請求人の主張」を基礎づける具体的な事実が 特定されていないから,上記記載をもって被告が具体的事実について自白 したものと認めることはできないのみならず,具体的事実を証明する供述 証拠として評価することもできない。また,上記記載中の「請求の趣旨に 対し,請求人が主張するとおりの審決がなされ…争わない。」との部分は 請求の認諾の趣旨のものとうかがわれるが,商標登録無効審判においては 請求の認諾はできないから,上記部分を斟酌することはできない。 次に,原告が3)の根拠として挙げる被告作成の平成19年9月12日付 け「商標登録第5040036号について1)」と題する書面(甲41)に は,商標の制作経緯等に関し,「2003年(平成15年)年末ごろ,弊 社も新アイテムとして『シーサー』を分かりやすく,そして現代の若者に も受け入れられるデザインをコンセプトにしようと改めてデザインを構\n想しました。2004年(平成16年)3月ごろ,コンセプトであげた『分 かりやすく・シンプルに』と言うことでデザインに当時では珍しいピクト グラム(道路標識や公共施設,非常口など図柄だけで意味を表現するデザ\nイン)を取り入れてはどうか?と,社内で議論しました。そこで,(スポ ーツブランド)にはシンプルなデザイン(ロゴ)が多数使用されていたこ とから世界的に有名な『ラコステ』『ポロ・ラルフローレン』『マンシン グウェア』『プーマ』など,動物(生物)をモチーフにしたデザインを参 考にして図3)のように大まかなデザインができあがりました。空想上の生 物なので,伝統工芸の焼き物や民芸雑貨などをシルエット(影)にしてみ たものの形状はまだ複雑でシンプルを追求すると(プーマ)風なデザイン になっていました。しかし,デザイン(ロゴ)だけでは『シーサー』を表\n現していると誰も気づかないのでは?等の意見もあり,前述で述べた『獅 子面T-シャツ』のように文字(読み方・言い方)をデザインに組み合わせ てはどうか?ということで図4)になりました」,「その後,何度かデザイ ンを変更して図5)〜7)を経て現在は図8)(平成17年から発売)になって います。」との記載がある。しかし,上記記載中の「『プーマ』など,動 物(生物)をモチーフにしたデザインを参考にし」た,「(プーマ)風な デザインになっていました」旨の部分は,これに引き続きく「デザイン(ロ ゴ)だけでは『シーサー』を表現していると誰も気づかないのでは?等の\n意見もあり,前述で述べた『獅子面T-シャツ』のように文字(読み方・言 い方)をデザインに組み合わせてはどうか?ということで図4)になりまし た」との部分と併せて読めば,本件商標(図6))は,『プーマ』など,動 物(生物)をモチーフにしたデザインを参考にして『シーサー』を表現す\nる意図で作成されたものとうかがわれるから,被告が周知著名な引用商標 に化体した顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能\を希釈化させる 「不正の目的」で本件商標(図6))の登録出願をし,その商標登録を受け たことを認め,あるいはこれを裏付ける趣旨の記載であると評価すること はできない。 したがって,上記書面から,被告に上記「不正の目的」があったものと 認めることはできない。
(3) 小括
以上によれば,本件商標は「不正の目的」で商標登録を受けたものに該当 しないとした本件審決の判断に誤りはないから, 原告主張の取消事由1は, 理由がない。

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◆令和3(行ケ)10103

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令和3(行ケ)10041  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年3月8日  知的財産高等裁判所

 本件商標「BREZTRI」が商標「BREEZHALER」と類似または出所混同するかが争われました。裁判所は、無効理由なしとした審決を維持しました。争点は文理解釈が可能かどうかです。\n

ア 本件商標に係る主張について
(ア) 原告は,本件商標につき,「BREZ」部分を要部として分離観察す ることが可能である旨主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(1))。 (イ) しかしながら,前記のとおり,本件商標は,「BREZTRI」の欧 文字を標準文字で書してなるものであり,いずれかの部分が目立つ態様 で記載されているものではない。また,本件商標の構成文字数は7文字\nと少なく,全体を「ブレズトリ」と自然に発音することが可能である。\nさらに,「BREZ」は,辞書等に掲載されていない語であり,後記のと おり,この部分が取引者,需要者に格別の造語として認識されている事 実も認められないことからすれば,独立した単語として認識されるもの とはいえない。加えて,「TRI」は,接頭辞として用いられた場合に「三, 三重の」等を意味する旨が辞書等に掲載されてはいるものの(甲22), 本件商標の「TRI」部分は語尾に位置することからすれば,直ちに「三, 三重の」や「triple」を意味する単語として認識されるものとは いえない。 これらの事情によれば,本件商標は,各構成部分がそれを分離して観\n察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合してい る商標というべきであるから,全体を一連一体のものとして観察するの が相当であり,「BREZ」部分と「TRI」部分とを分離して観察する ことはできないというべきである。
(ウ) 上記の点に関して原告は,「TRI」部分につき,薬剤の名称とし 末尾に「tri」を付すことが多い実情が存するから,識別力が弱い旨 主張する。 確かに,証拠(甲38,39)によれば,原告が主張するような使用 例が複数あることが認められる。しかしながら,本件商標の構成文字数\nが少ないこと,「BREZ」は独立した単語として認識されるものとはい えないことからすれば,「TRI」部分について,単に薬剤の名称の末尾 に付された語であり,「BREZ」部分とは区別すべきものであると直ち に認識されるものとはいい難い。そうすると,原告が主張するような実 情があるからといって,「TRI」部分の識別力が弱いということはでき ない。
(エ) また,原告は,「BREZ」部分につき,需要者の間で広く認識され た引用商標1の「BREZ」部分と同様に,特徴的で識別力の強い部分 である旨主張する。 しかしながら,後記のとおり,引用商標1それ自体はある程度の周知 性を有しているといえるものの,だからといって同商標の「BREZ」 部分も周知であるということはできないから,本件商標の「BREZ」 部分につき,特徴的で識別力の強い部分であるということはできない。
(オ) 以上によれば,本件商標につき,「BREZ」部分を要部として分離 観察することはできないというべきである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない

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令和2(ワ)3481  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和4年1月20日  大阪地方裁判所

 顧客情報および見積書の価格情報について、秘密管理性無しとして営業秘密に該当しないと判断されました。

ア 「営業秘密」(法2条6項)といえるためには,当該情報が秘密として管理 されていることを要するところ,秘密として管理されているといえるためには,秘 密としての管理方法が適切であって,管理の意思が客観的に認識可能であることを\n要すると解される。 これを本件見積書記載の情報について見るに,前記各認定事実のとおり,本件見 積書には営業秘密である旨の表示がなく,そのデータにはパスワード等のアクセス\n制限措置が施されていなかった。また,原告において,業務上の秘密保持に関する 就業規則の規定はなく,被告P1との間で見積書の内容に関する秘密保持契約等も 締結等していなかった。原告は,発注者との間においても見積書の内容に関する秘 密保持契約を締結していなかった。さらに,原告は,見積書記載の情報が営業秘密 であることなどの注意喚起も,その取扱いに関する研修等の教育的措置も行ってい なかった。本件見積書のデータ管理の点でも,原告は,見積書の使用後にデータを 西脇支社のコンピュータから削除するよう指示しなかった。 このような本件顧客情報及び本件価格情報その他本件見積書記載の情報の管理状 況に鑑みると,当該情報は,原告の企業規模等の具体的状況を考慮しても,原告に おいて,特別な費用を要さずに容易に採り得る最低限の秘密管理措置すら採られて おらず,適切に秘密として管理されていたとはいえず,また,秘密として管理され ていると客観的に認識可能な状態にあったとはいえない。\nしたがって,本件見積書記載の情報は秘密として管理されていたとはいえない。
イ 原告は,本件見積書記載の情報につき,原告代表者が一元的に管理し,その\n了承がなければ従業員や外部業者に対して明らかにされないから,秘密として管理 されていたと主張する。 しかし,前記認定のとおり,本件見積書の各データは,パスワードによる保護等 の措置のないままに,発注者に交付されるべきもの又は参考として被告P1にメー ルにより送信されたものであり,その使用後も,情報漏洩を防止する何らの措置も 採られなかったことなどに鑑みると,これらの情報は,いずれも秘密として適切に 管理されているとはいえず,秘密として管理されていると客観的に認識可能な状態\nであったともいえない。 その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用 できない。
ウ そうすると,その余の点について検討するまでもなく,本件顧客情報及び本 件価格情報は,「営業秘密」に該当しない。

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令和2(行ケ)10114    商標権  行政訴訟 令和4年2月10日  知的財産高等裁判所

 不使用取消審判の請求自体が信義則に反するとして、不使用とした審決が取り消されました。なお被告は欠席裁判です。

原告らとブランデッドボースト社が平成27年(2015年)11月4日 に締結した本件和解契約には,1)原告らは,「BOAST」の商号で「BO AST」商標を付した商品を米国外で自由に販売することができることを確 認する旨の条項(12項),2)ブランデッドボースト社は,世界中でボース ト社又は原告によるその他の登録により保護される原告らの商号権及び商標 権を妨害しない旨の条項(14項)が存在することは,前記1(4)認定のとお りである。
前記1認定の本件和解契約締結に至る経緯,本件和解条項12項及び14 項の文言に鑑みると,本件和解条項14項の「世界中でボースト社又は原告 によるその他の登録により保護される原告らの商号権及び商標権を妨害しな い」にいう「妨害しない」との文言は,ブランデッドボースト社が,原告ら が有する米国外で商標登録された「BOAST」ブランドに係る商号権及び 商標権の有効性を争わない義務(いわゆる不争義務)を負うことを定めた趣 旨を含むものと解される。 そうすると,ブランデッドボースト社は,本件和解契約に基づき,原告に 対し,本件商標の商標権について不争義務を負うものと認められる。 そして,前記1(5)認定のとおり,被告は,平成29年(2017年)10 月3日,ブランデッドボースト社から,米国内の「BOAST」ブランドに 係る事業を買収し,同社が保有する「BOAST」ブランドに係る米国登録 商標の移転を受け,これに伴い,ブランデッドボースト社の本件和解契約に 基づく契約上の地位を承継したのであるから,被告は,原告に対し,本件和 解契約に基づいて,本件商標の商標権について不争義務を負うものと認めら れる。
(2) 商標法50条1項が,「何人も」,同項所定の商標登録取消審判を請求す ることができる旨を規定し,請求人適格について制限を設けていないのは, 不使用商標の累積により他人の商標選択の幅を狭くする事態を抑制するとと もに,請求人を「利害関係人」に限ると定めた場合に必要とされる利害関係 の有無の審理のための時間を削減し,審理の迅速を図るという公益的観点に よるものと解される。 一方で,商標権に関する紛争の解決を目的として和解契約が締結され,そ の和解契約において当事者の一方が他方(商標権者)に対して当該商標権に ついて不争義務を負うことが合意された場合には,そのような当事者間の合意の効力を尊重することは,当該商標権の利用を促進するという効果をもた らすものである。また,このように当事者間の合意の効力を尊重するとして も,第三者が当該商標権に係る商標登録について同項所定の商標登録取消審 判を請求することは可能であるから,上記公益的観点による利益を損なうも\nのとはいえない。 したがって,和解契約に基づいて商標権について不争義務を負う者が,当 該商標権に係る商標登録について同項所定の商標登録取消審判を請求するこ とは,信義則に反し許されないと解するのが相当である。 しかるところ,前記(1)認定のとおり,被告は,原告に対し,本件和解契約 に基づいて,本件商標の商標権について不争義務を負うものであるから,被 告による本件審判の請求は,信義則に反し,許されないというべきである。 これと異なる本件審決の判断は誤りであある。

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令和3(行ケ)10056  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月10日  知的財産高等裁判所

 サブコンビネーション発明の要旨認定について、発明の構造,機能\等を何ら特定してない場合は,除外して認定すると判断し、審決の判断を維持しました。

(1) 発明の要旨認定
特許出願に係る発明の要旨の認定は,特段の事情がない限り,願書に添付 した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるが,特許請 求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか, あるいは,一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に 照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合は,明細書の発明の詳細 な説明の記載を参酌することが許される(最高裁平成3年3月8日第二小法 廷判決・民集45巻3号123頁参照)。 これを本件補正後発明について検討するに,前記1(3)のとおり,本件補正 後発明は,二つ以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し,組み 合わされる各装置の発明(サブコンビネーション発明)であって,特許請求 の範囲請求項1の記載から,第1ユーザによって操作される情報処理装置に 関する発明であることが理解されるが,特許請求の範囲請求項1の記載中に, 情報処理装置とは別の,他の装置であるサーバにおける処理の内容が記載さ れているため,特許請求の範囲の記載の技術的意義を一義的に明確に理解す ることができない特段の事情がある。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,本件補正 後発明の要旨を認定することとする。
ところで,サブコンビネーション発明においては,特許請求の範囲の請求 項中に記載された「他の装置」に関する事項が,形状,構造,構\成要素,組 成,作用,機能,性質,特性,行為又は動作,用途等(以下「構\造,機能\n等」という。)の観点から当該請求項に係る発明の特定にどのような意味を 有するかを把握して当該発明の要旨を認定する必要があるところ,「他の装 置」に関する事項が当該「他の装置」のみを特定する事項であって,当該請 求項に係る発明の構造,機能\等を何ら特定してない場合は,「他の装置」に 関する事項は,当該請求項に係る発明を特定するために意味を有しないこと になるから,これを除外して当該請求項に係る発明の要旨を認定することが 相当であるというべきである。 以上の観点から,以下,本件補正後発明を検討する。
(2) 構成要件(A)及び(E)について\n
本件補正後発明の構成要件(A)及び(E)は,発明の対象が「第1ユー\nザによって操作される情報処理装置」であることを特定する記載事項である から,これによって,本件補正後発明は「情報処理装置」の発明であること が画定される。
(3) 構成要件(B)について\n
特許請求の範囲請求項1の記載によれば,構成要件(B)における「事業\nに使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を,前記 第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知的財産権 に関する公報の情報を,前記サーバに通知する公報通知手段と」の記載は, 情報処理装置が有する公報通知手段を直接的に特定する構成であるといえる。\n一方,「(公報の情報を,)サーバによる第2情報及び第3情報の抽出の 根拠となる情報を含む第1情報として(,前記サーバに通知する)」との記 載は,サーバに通知する公報の情報を更に限定する記載であると認めること はできるが,サーバによって抽出処理を行うことを前提とした限定であって 直接的に情報処理装置を限定する特定事項ではない。 上記第2情報及び第3情報の抽出処理について,請求項の記載をみると 「(C1)前記公報通知手段により通知された前記第1情報により特定される 前記公報に含まれ得る第1書類の内容のうち,所定の文字,図形,記号,又 はそれらの結合が,前記第2情報として抽出され, (C2)当該公報に含まれ得る第2書類の内容のうち,抽出された前記第2 情報と関連する文字,図形,記号又はそれらの結合が,前記第3情報として 抽出され,」 と特定されている。 上記特定事項に対応する発明の詳細な説明の記載を参照すると,構成要件\n(C1)は,特に段落【0023】のクレーム内単語として抽出する構成に,\n構成要件(C2)は段落【0024】の明細書内関連単語として抽出する構成\nに対応すると認められる。 一方,本願明細書等の段落【0021】には,上記「第1情報」に関して, 「特許権者は,活用を希望する特許権の情報(例えば特許番号等)を予めサ\nーバ1に通知しているものとする。即ち,当該特許権の公報(特許掲載公報 若しくは出願公開公報)の内容が公報情報DB61にデータとして記憶され ているものとする。」と記載され,段落【0022】には,「ここで,公報 の内容のデータは,必ずしも公報の謄本のデータである必要は特になく,そ の名称のごとく,公報の内容さえ特定できれば足り,任意の形態のデータで よい。」と記載されていることから,これらの抽出処理に用いられる公報の 情報は,普通に公開されている特許公報の内容であれば足りるといえ,第1 情報としてサーバに通知される知的財産権に関する公報の情報は,普通に公 開されている特許権の公報の内容を表す情報(すなわち,知的財産権に関す\nる公報の情報)以上に格別の内容を含むものではないことは明白である。 すなわち,構成要件(B)における,公報通知手段が「第1情報」としてサ\nーバに通知する公報の情報とは,通常の特許公報又は公開特許公報を示すに すぎないと認められる。そして,本願明細書等を精査しても,当該情報を通 知するに先立って,情報処理装置において,サーバにおける処理(第2情報 及び第3情報の抽出等)に資するため何らかの処理がされること等を開示又 は示唆する記載は,何ら見出すことができない。 そうすると,構成要件(B)の「サーバによる第2情報及び第3情報の抽\n出の根拠となる情報を含む第1情報として」との記載事項は,第1情報の通 知を受けたサーバが当該第1情報から第2情報及び第3情報を抽出するとい う,サーバにおける処理(構成要件(C1)及び(C2))を特定しているにす ぎない。すなわち,上記記載事項は,第1情報自体が,第2情報及び第3情 報を抽出するため通常の公報とは異なる格別の情報を含むことを特定してい るものではない。 このように,本件補正後発明の構成要件(B)のうち「サーバによる第2\n情報及び第3情報の抽出の根拠となる情報を含む第1情報として」の記載事 項は,サーバの処理を特定したものであり,情報処理装置が備える公報通知 手段の内容を特定するものではないから,構成要件(B)によって特定され\nる発明特定事項の認定に当たっては,上記記載事項を除外するのが相当であり,本件審決が(B')のとおり認定したことに誤りはない。
(4) 構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)について
本件補正後発明の構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)は,情報処理装 置から知的財産権に関する公報の情報(第1情報)の通知(送信)を受けた サーバが,第1情報から第2情報を抽出し,さらに第3情報を抽出し,第3 情報と第4情報とから通知対象を決定して当該公報の情報を第5情報として 通知対象者の端末に通知し,その後,通知対象者の端末から第6情報を受信 し第7情報を生成して情報処理装置に送信するという,サーバが行う処理を 特定したものであって,情報処理装置が行う処理を特定するものではない。 すなわち,情報処理装置から通知された情報に対して,どのような処理を行 い,どのような情報を生成して情報処理装置に送信するかという処理は,サ ーバが独自に行う処理であって,情報処理装置が行う処理に影響を及ぼすものではない。 一方,情報処理装置は,第1情報をサーバに送信し,第7情報をサーバか ら受信するものであるところ,かかる情報処置装置の機能は,サーバに所定\nの情報を送信してサーバから所定の情報を受信するという機能に留まり,当\n該機能は,上記構\成要件(C)及び(C1)ないし(C7)によって影響を受け たり制約されるものではない。このように,構成要件(C)及び(C1)ない し(C7)は,情報処理装置の機能,作用を何ら特定するものではない。\nよって,本件補正後発明の認定に当たっては,構成要件(C)及び(C1) ないし(C7)を発明特定事項とはみなさずに本件補正後発明の要旨を認定す べきであり,これと同旨の本件審決に誤りはない。
(5) 構成要件(D)について\n
本件補正後発明の構成要件(D)は,情報処理装置が備える「受付手段」\nが,サーバから送信される「第7情報」を受け付けることを特定するもので ある。 そして,本件補正後発明の構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)の記載 によれば,「第7情報」は,「知的財産権に興味を有する者が存在すること を少なくとも示す情報」であって,「情報処理装置により前記第1情報が (サーバに)通知された結果として生成され」,「(サーバから)情報処理 装置に送信された」情報である。また,同(B)の記載によれば,「前記第 1情報」は「知的財産権に関する公報の情報」である。そして,構成要件\n(C6)及び(C7)に対応する発明の詳細な説明の記載(段落【0029】, 【0040】及び【0041】)も参酌すると,「第7情報」は,サーバの 通知部が特許権者端末に通知する情報であって,特許権者がサーバに登録し た特許掲載公報を見て興味応答を示した事業者のリスト(匿名事業者リス ト)を少なくとも含む情報であるということができ,これは,上記特許請求 の範囲の記載から特定した「第7情報」と格別の相違はない。そうすると, 結局,「第7情報」は,「知的財産権に興味を有する者が存在することを少 なくとも示す情報であって,情報処理装置により知的財産権に関する公報の 情報がサーバに通知された結果として生成され,サーバから情報処理装置に 送信された情報」ということができる。 よって,本件補正後発明の構成要件(D)により特定される事項の認定に\n当たっては,「第7情報」を上記のとおり言い換えるのが相当であり,本件 審決が(D')のとおり認定したことに誤りはない。
(6) 原告の主張に対する判断
ア 原告は,知的財産権を有効活用してくれる候補者を数多くかつ容易に提 示するという本件補正後発明の課題からして,本件補正後発明はサーバと 情報処理装置とを組み合わせたシステムを前提にしたものであって,構成\n要件(C)及び(C1)ないし(C7)によって,情報処理装置の発明の機能\nを特定している旨主張する。 しかしながら,本願明細書等には発明の課題としてそのような記載があ るとしても,親出願についてはともかく,分割出願としての本件補正後発 明は,上記(1)ないし(5)で説示したとおり,システムの発明ではなくあくまで情報処理装置の発明である。そして,上記(4)で説示したとおり,構成要\n件(C)及び(C1)ないし(C7)はサーバの処理を特定するものであって 情報処理装置の機能を特定するものではないから,本件補正後発明を特定\nする事項には含まれない。 よって,原告の前記主張は採用することができない。
イ 原告は,知財高裁平成22年(行ケ)第10056号事件の判決を援用 し,本件補正後発明はサーバと情報処理装置とを組み合わせたシステムを 前提にしたものであってサーバを除外して検討するのは誤りであるとも主 張する。 しかしながら,原告が援用する上記事件は本件とは無関係の全く別の事 件であって,事案も異なるから,上記事件の判決の判断を根拠とする原告 の上記主張はそもそも採用することができない。 なお,付言するに,原告が援用する上記事件に係る発明は,発光部を有 する液体インク収納容器と,前記液体インク収納容器を搭載し前記発光部 の発光を受光する受光手段を備えた記録装置とを組み合わせたシステムに おける液体インク収納容器に関する発明であって,上記システムに専用さ れる特定の液体インク収納容器がこれに対応する記録装置の構成と一組の\nものとして発明を構成するものであることから,容易想到性を検討するに\nあたり,記録装置の存在を除外して検討することはできないとした裁判例 であるところ,原告は,これに関連して,本件補正後発明の情報処理装置 は,第7情報として認識された場合において当該第7情報を受け付ける専 用端末である旨主張する。 しかしながら,本件補正後発明における情報処理装置とサーバからなる システムでは,情報処理装置の機能は,単に,サーバに「公報の情報」\n(第1情報)を送信し,サーバから「知的財産権に興味を有する者が存在 することを少なくとも示す情報」(第7情報)を受信するという機能に留\nまるものであって,サーバに対して情報を送受信する機能を有する情報処\n理装置であればどのような情報処理装置であってもよいから,サーバに対 して専用される特定の情報処理装置とみなすことはできない。また,本願 明細書等には,情報処理装置が種々の情報の中から第7情報を選択して認 識する等の技術事項は開示されておらず,情報処理装置はサーバから送信 された情報を単に第7情報として受け付けるものにすぎないと解されるか ら,原告の上記主張は本願明細書等に開示された技術事項に基づくもので はなく,採用することができない。
ウ 原告は,情報処理装置とサーバが別個のものとしても,本件審決は,発 明の実施形態に強みを有する事業者を選択できるという本件補正後発明の 意義を無視し,「公報通知手段」がサーバに通知する情報について,単に 「当該知的財産に関する公報の情報」と矮小化し,また「受付手段」が受 け付ける情報についても,「知的財産権に興味を有する者が存在すること を少なくとも示す情報」と矮小化して認定しており,本件審決の認定は誤 りである旨主張する。 しかしながら,第1情報を送信するという送信処理自体は,かかる第1 情報からどのようにして第2情報及び第3情報を抽出するのか,その抽出 方法を規定するものではないから,情報処理装置の「公報通知手段」は, 技術的には,知的財産権に関する公報の情報をサーバに送信するものにす ぎないというべきである。また,第7情報は知的財産権に興味を有する者 の情報であるところ,本件補正後発明の構成要件(C5)及び(C6)によれ ば,事業者による選択結果という事業者の自由な意思に基づいた人為的な 情報にすぎないものであって,第1情報と関連するものの第1情報から 「生成された」情報ではない。さらに,情報処理装置の「受付手段」は, サーバから上記第7情報を受け付けるものの,これは単に情報の受信にす ぎないものであって,情報処理装置の側に,当該第7情報を受け付けるた めの特別の構成を有するものでもない。\nしてみると,上記(2)ないし(5)で検討したとおり,本件補正後発明の「公 報通知手段」は,単に「知的財産に関する公報の情報」をサーバに通知す るものにすぎず,本件補正後発明の「受付手段」は「知的財産権に興味を 有する者が存在することを少なくとも示す情報」を受け付けるものにすぎ ないというべきであり,本件審決が「公報通知手段」及び「受付手段」に つき,それぞれ(B')及び(D')のとおり認定したことに誤りはない。

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令和3(行ケ)10076  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年2月9日  知的財産高等裁判所

 商標「知本主義」の不使用取消審判の審決取消訴訟です。会報のタイトルとして「賢主主義と知本主義」を使用していましたが、審決は不使用と認定しました。裁判所も同様です。本件会報は市場における独立した商取引の対象たる商品ではないとされています。

 商標法上,商標の本質的機能は,自他商品又は役務の識別機能\にあると解するの が相当であるから(同法3条参照),同法50条にいう「登録商標の使用」という ためには,当該登録商標が商品又は役務の出所を表示し,自他商品又は役務を識別\nするものと取引者及び需要者において認識し得る態様で使用されることを要すると 解するのが相当である。 この点に関し,原告は,上記「登録商標の使用」といえるためには,当該登録商 標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足りる旨 主張するが,上記のとおりの商標の本質的機能に照らし,採用することができない。\n
(2) 本件各書籍について
証拠(甲8,10,12,14,16,18,20,22,24,26,36の 1及び2)によれば,本件各書籍(表紙,裏表\紙,書籍に付された帯等も含む。) には,「知本主義の時代を生きろ」,「私は資本主義ではなく「知本主義」時代が 到来すると思う。」,「資本主義に代わる知本主義」,「「資本主義」から「知本 主義」へ」など,「知本主義」の文字を用いた表現が一定程度記載されているもの\nと認められる。 しかしながら,原告が「知本」の語につき辞書にも記載がないと主張するとおり, 「知本主義」の語の観念は不明確であり,「主義」との語尾から何らかの主義主張 を指すことがうかがわれるのみである。そうすると,上記のとおり本件各書籍にお いて「知本主義」の文字を用いた表現が一定程度記載されていることや,本件各書\n籍が通信販売サイト等において宣伝されていること(甲9,11,13,15,1 7,19,21,23,25,27,37)を考慮しても,「知本主義」の文字又 はこれを含む表現に触れた取引者及び需要者は,これらの文字等を書籍の副題の一\n部,記載内容,宣伝文句,著者の主張等であると認識するにとどまり,これらの文 字等が当該書籍に係る自他商品識別機能を果たすと認識するとは考え難い(これは,\n「知本主義」の文字が鍵括弧でくくられている場合であっても変わるところではな い。)。なお,この点に関し,原告も,「知本主義」の文字等が書籍に付された場 合,「知本」の主義主張に関する分野ないし事項の書籍であることを取引者及び需 要者に想起させる旨主張しているところである。 したがって,本件各書籍における「知本主義」の文字の記載は,商標法50条に いう「登録商標の使用」に該当しない。
(3) 甲28会報について
ア 証拠(甲28)によれば,甲28会報には,「賢主主義と知本主義」との表\n題が付され,「X会のうた」として,「いっぱい 知本主義」との記載がされ, 「「知本主義」を実践するX会12月例会」なる会合の告知がされているものと認 められるが,甲28の記載やその他の証拠によっても,甲28会報が市場における 独立した商取引の対象たる商品であると認めることはできないから,甲28会報に おける上記表題等の記載をもって,本件商標が商品について使用されたということ\nはできない。
イ 証拠(甲28)によれば,甲28会報には,「令和元年12月23日」との 日付の記載があるものと認められ,その他,甲28会報が本件要証期間内に発行さ れたものと認めるに足りる証拠はない。
ウ 以上のとおりであるから,甲28会報における上記アの記載をもって,原告 又は本件商標の専用使用権者若しくは通常使用権者(以下「原告ら」という。)が 本件要証期間内に本件指定商品について本件商標を使用したと認めることはできな い。
(4) 甲29の選挙公報について
証拠(甲29)によれば,甲29は,東京都選挙管理委員会が平成11年4月1 1日執行の東京都知事選挙に際して発行した選挙公報(原告に係るもの)であり, 「資本主義(拝金主義)から知本主義へ」との記載がされているものと認められる。 しかしながら,一般に選挙公報が「新聞」,「雑誌」若しくは「書籍」又はこれ らに係る広告等に該当しないことは明らかである。また,上記認定のとおりの選挙 の執行期日にも照らすと,同選挙公報が本件要証期間内に発行されたと認めること もできない。 そうすると,甲29の選挙公報における上記記載をもって,原告らが本件要証期 間内に本件指定商品について本件商標を使用したと認めることはできない。
(5) 甲30の社歌について
証拠(甲30)及び弁論の全趣旨によれば,甲30の書面には,「知本主義・知 財企業「B 勤務心得の歌」」と題する歌の歌詞が記載され,その歌詞の中に「知 本主義」の語が用いられているものと認められる。 しかしながら,本件全証拠によっても,甲30の書面が「新聞」,「雑誌」若し くは「書籍」又はこれらに係る広告等に該当すると認めることはできないし,同書 面の作成時期も不明である(同書面には,「SINCE1957」との記載がみられるのみ である。)。 そうすると,甲30の書面における上記記載をもって,原告らが本件要証期間内 に本件指定商品について本件商標を使用したと認めることはできない。
(6) 甲34のウェブサイトについて
証拠(甲34)及び弁論の全趣旨によれば,甲34は,原告の著書を宣伝するウ ェブサイトであって,原告が代表取締役を務める株式会社Bが運営するものの画面\nを印刷した書面であると認められる。 しかし,甲34をみても,本件商標又は社会通念上これと同一の商標が当該ウェ ブサイトに表示されているということはできない。\nしたがって,原告らが甲34のウェブサイトにおいて本件商標を使用したとは認 められない。
(7) 甲37のウェブサイトについて
証拠(甲37)及び弁論の全趣旨によれば,甲37は,原告の著書(甲36の1 及び2)を宣伝するウェブサイトであって,上記株式会社Bが運営するものの画面 を印刷した書面であり,同画面には,同著書を宣伝する文言として,「資本主義社 会は「知本主義」へ」との記載がされているものと認められる。 しかしながら,前記(2)において説示したとおり,「知本主義」の文字を含む上 記記載に触れた取引者及び需要者は,これを同著書の記載内容,宣伝文句,著者の 主張等であると認識するにとどまり,これが同著書に係る自他商品識別機能を果た\nすと認識するとは考え難い。 したがって,甲37のウェブサイトにおける上記記載は,商標法50条にいう 「登録商標の使用」に該当しない。

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令和3(ネ)10066  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について、構成要件Bの「操作メニュー情報」を有するとは認められないとして、1審判断を維持しました。

ア 前記のとおり補正して引用する原判決が説示するとおり(原判決46頁 23行目ないし49頁1行目),本件各発明の特許請求の範囲の記載内容 に加え,本件明細書の段落【0012】の記載内容及び【図7】に記載さ れた本件各発明の実施例としての様々な操作メニュー情報の表示内容か\nらすれば,本件各発明の「操作メニュー情報」とは,「ポインタの座標位置 によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段 に表示するため」の「画像データ」であり,出力手段に表\示され,利用者 がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構\ 成されていることを要するものというべきである。
イ そして,被告製品のページ一部表示が,縮小された中央ページの右端又\nは左端あるいは両端に,幅が細く縦長の白みがかった長方形として表示さ\nれること,そこには何の文字,図形,記号,アイコン等は表示されないこ\nとからすれば,当該長方形部分のみを見た利用者は,それがどのような命 令を実行する表示であるのかを理解することはできないというべきであ\nり,したがって,被告製品のページ一部表示の画像は本件各発明の「操作\nメニュー情報」には当たらず,本件ホームアプリが構成要件Bの「操作メ\nニュー情報」を有するとは認められないことは,前記のとおり補正して引 用する原判決が説示するとおりである(原判決49頁2行目ないし50頁 6行目)。
控訴人は,1)被告製品においては構成e又は構\成e’によってそれまで 表示されていなかったページ一部表\示の画像が液晶画面に表示されるよ\nうになること,2)ページ一部表示の画像と壁紙画像との境界が明確である\nことを指摘するが,これらの点は,いずれも利用者がページ一部表示の画\n像自体から「実行される命令結果」の内容を理解することができるか否か に関わるものではないから,上記の判断を左右するものではないというべ きである。また,控訴人は,3)被告製品のページ一部表示の画像が表\現し ている表示内容は,実行されるスクロール命令の結果を小さな絵で表\現し た画像であるとも指摘するが,上記のとおり,ページ一部表示の画像は,\nその表示内容等からすれば,利用者がその表\示自体から「実行される命令 結果」の内容を理解できるように構成された画像データであるということ\nはできない。 なお,上記の判断に照らすと,控訴人が上記第2の3(1)アにおいて主張 する判断基準によったとしても,被告製品のページ一部表示の画像は,少\nなくとも同主張における3)の要件を満たすものとはいえないから,本件ホ ームアプリが構成要件Bの「操作メニュー情報」を有するとは認められな\nい。
ウ したがって,控訴人の主張(1)アは採用することができない。
(2) 控訴人の主張(1)イについて
ア 控訴人が主張(1)イにおいて指摘する各点は,いずれも上記(1)で検討し たところと同様の事情であるといえるから,いずれも前記の判断を左右す るものではないというべきである。そして,このことは,本件ホームアプ リに係るソースコードの記載内容を基に検討した場合であっても同様で\nある。
イ したがって,控訴人の主張(1)イは採用することができない。
(3) 小括
ア 控訴人は,上記のほかにも,争点1−3について縷々主張するが,いず れも前記の判断を左右するものではないというべきである。 イ 以上によれば,本件ホームアプリは,構成要件Bにいう「操作メニュー\n情報」を有するとは認められず,被告製品が構成要件Bを充足するものと\nは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,被告製品 が本件各発明の技術的範囲に属するものと認めることはできない。

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原審はこちら。

◆令和2(ワ)15464

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令和2(ワ)1160  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和4年1月31日  東京地方裁判所

 商標権侵害事件です。3段併記の商標「KENT/MARINE SPIRIT/BROS.」、2段併記の商標「KENT/BROS.」、が、原告商標「Kent」に類似すると判断されました。被告は、2段併記の登録商標「KENT BROS/ケントブロス」を保有していましたが専用権の範囲外の使用と判断されています。

 ア 被告標章1の分離観察の可否
 被告標章1の外観は別紙被告標章目録記載1のとおりである。すなわち, 上段に横書きの「KENT」,中段に横書きの「MARINE SPIR IT」,下段に横書きの「BROS.」を,いずれもほぼ同じ列幅で,か つ,上段と中段との行間及び中段と下段との行間をほとんど空けること なく三段に配して成る結合商標であって,全体としてまとまりよく構成\nされている。 もっとも,欧文字は左から右に順次目線を移して読解するものであるか ら,二段以上にまたがって欧文字が配された場合には,横一列に配され た場合と比較して結合の度合いは相当弱くなるといえる。特に,上段と 下段でそれぞれ独立した単語となり得る場合には,なおさらである。さ らに,上段と下段を構成する欧文字はいずれもおおむね同じ大きさであ\nる上,黒地に白抜きで記載されている点及び手書き風の字体である点に おいても共通するのに対し,中段を構成する欧文字の大きさは上段及び\n下段の欧文字より相当小さく,その行の高さは上段及び下段の行の高さ の3分の1程度にすぎない上,白地に黒い字で記載されている。しかも, 中段を構成する欧文字は,水平方向に平行に延びる2本の直線と垂直方\n向の弦を有する2つの半円とを組み合わせた横長の角丸長方形様の図形 によって囲まれ,当該図形部分は白く着色されており(そのため,中段 を構成する欧文字は,上段及び下段とは異なり,黒字で記載されてい\nる。),中段の全体が一本の白い横棒のような外観を呈している。このよ うに,中段の外観は上段及び下段と大きく異なる上,横棒のような外観 を有しているから,中段を境に,上段と下段が分離されたような外観を 有しているということができる。
そして,前記(2)アのとおり,イトーヨーカドーは,平成21年度以降, 約10年という相当長期間にわたって,168回もの多数回,チラシに 「Kent」ブランドのシャツ,パーカー,パンツ,靴下,コート,セ ーター,下着,手袋等の広告を掲載しており,前記(2)ウのとおり,「K ent」ブランドの商品については,イトーヨーカドーにおいて,平成 21年度から平成30年度までの間に●(省略)●もの売上げがあった もので,年によって増減はあるものの,平均すれば年間約50億円を売 り上げてきたこと,前記(2)イのとおり,限られた期間及び回数ながら, 著名人を起用した「Kent」ブランドのテレビCMが全国に放映され たことに照らせば,「Kent」ブランドは,令和元年当時,被服の分野 において,相応の周知性を有しており,取引者及び需要者に対し,商品 の出所識別標識として相当強い印象を与えていたものと認めるのが相当 である。そうすると,被告標章1の上段の「KENT」は,上記「Ke nt」の二文字目以降を大文字で記載したほかは,つづりが同一である ことから,「KENT」の標章が被服に用いられた場合には,取引者及び 需要者において「Kent」ブランドを想起するものと認めることがで きる。
他方,「BROS.」についてみれば,25類・被服を指定商品とする 「BROS ブロス」との登録商標が存在すると認められるものの(乙 3),本件全証拠によっても,被服に関する「BROS」の実際の使用例 としては,男性用下着のサブブランドとしてのものが認められるのみで あって,「BROS」がどの程度の周知性を有するのかは明らかではない。 そうすると,上記の登録商標の存在を根拠に「BROS.」から出所識別 標識としての称呼,観念が生ずると認めることはできず,その点につい ては,本件証拠上,明らかではないというべきである。以上の事情を総 合すれば,被告標章1の構成部分のうち,「BROS.」から出所識別標\n識としての称呼,観念が生じないとまでは認められないものの,上段の 「KENT」と下段の「BROS.」は,二段以上にまたがって配され, かつ,それぞれが独立した単語となり得ることにより,横一列に配され た場合と比較して結合の度合いは相当弱くなることに加え,一本の白い 横棒のような外観を有する中段の「MARINE SPIRIT」によ り上下に分離されている上,「KENT」に対応する「Kent」ブラン ドが,被服の分野において,相応の周知性を有しており,取引者及び需 要者に対し,商品の出所識別標識として相当強い印象を与え得ることか らすれば,上段の「KENT」と下段の「BROS.」とを分離して観察 することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している とまではいえない。したがって,被告標章1については,上段の「KE NT」のみを分離して観察することができると認めるのが相当である。 その結果,被告標章1については,「ケント」との称呼が生じ,かつ,原 告が使用権を設定し,イトーヨーカドーが使用する「Kent」ブラン ドの商品であるとの観念が生じるものと認められる。
イ 被告標章2の分離観察の可否
被告標章2の外観は別紙被告標章目録記載2のとおりである。すなわち, 上段に横書きの「KENT」,下段に横書きの「BROS.」を,いずれ もほぼ同じ列幅で,かつ,上段と下段との行間をほとんど空けることな く二段に配して成る結合商標であって,全体としてまとまりよく構成さ\nれている。 もっとも,欧文字は左から右に順次目線を移して読解するものであるか ら,上記の「KENT」と「BROS.」のように,二段以上にまたがっ て欧文字が配された場合には,横一列に配された場合と比較して結合の 度合いは弱くなり,上段と下段でそれぞれ独立した単語となり得る場合, その結合の度合いがより弱くなることは,被告標章1の場合と同様であ る。
そして,前記アのとおり,「BROS.」から出所識別標識としての称呼, 観念が生じないとは認められないものの,他方で,「Kent」は商品の 出所識別標識として取引者及び需要者に相当強い印象を与えていたもの と認められ,かつ,「KENT」の標章が被服に用いられた場合には,取 引者及び需要者において「Kent」ブランドを想起するものと認めら れる。 そうすると,被告標章2においては,被告標章1の中段に相当する部分 が存在しないものの,そもそも「KENT」と「BROS.」の結合の度 合いが弱い上,「KENT」に対応する「Kent」ブランドが商品の出 所識別標識として相当強い印象を与え得ることからして,被告標章2の 各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思わ\nれるほど不可分的に結合しているものとは認められないというべきであ り,上段の「KENT」を分離観察することができるというべきである。 その結果,被告標章2についても,被告標章1と同様,「ケント」との称 呼及び「Kent」ブランドの商品の観念が生じるものと認められる。

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令和2(ワ)19927  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年12月24日  東京地方裁判所

 薬について技術的範囲に属しないと判断されました。均等侵害についても本質的要件を満たさないと判断されました。

 原告は,本件発明3は,慢性疼痛に対する画期的処方薬として,抗て んかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだ したものであり,その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用い る点にあるから,対象となる痛みが侵害受容性疼痛か,神経障害性疼痛 や線維筋痛症かは本質的部分ではなく,効能・効果を神経障害性疼痛や\n線維筋痛症に伴う疼痛とし,慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告 医薬品は,均等侵害の第1要件を満たすと主張する。 しかし,前記1(1)アのとおり,本件特許に係る発明は,てんかん,ハ ンチントン舞踏病等の中枢性神経系疾患に対する抗発作療法等に有用な 薬物である本件化合物が,痛みの治療における鎮痛作用及び抗痛覚過敏 作用を有し,反復使用により耐性を生じず,モルヒネと交叉耐性がない ことに着目した医薬用途発明であるところ,前記2(1)イのとおり,本件 出願当時,痛みには種々のものがあり,その原因や機序も様々であるこ とが技術常識であった。 そうすると,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発明 3において本質的部分というべきであり,その鎮痛効果の対象を異にす る被告医薬品は,本件発明3の本質的部分を備えているものと認めるこ とはできない。したがって,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載さ れた構成中の被告医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でない\nということはできないから,被告医薬品は均等の第1要件を満たさない。
(イ) また,前記(1)アによれば,原告は,本件訂正前発明3においては鎮痛 の対象となる痛みを限定していなかったところ,本件訂正により「炎症 を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」に限定していること からすると,本件発明3との関係においては,被告医薬品の効能・効果\nである神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を意図的に除外したと 認めるのが相当である。 したがって,被告医薬品は均等の第5要件も満たさない。

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令和2(ワ)19927  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年12月24日  東京地方裁判所

 社史の発行が原告書籍の翻案であるとした不当利得返還請求訴訟です。裁判所は、創作的表現において同一性を有しないとして、請求を棄却しました。\n

(1) 言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,か つ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表\現に修正, 増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,\nこれに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得すること\nのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は 感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),既\n存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア, 事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表\現上の創作性がない部 分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には 当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同 13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁)。 そうすると,本件社史部分が原告書籍を翻案したものに当たるというため には,原告書籍と本件社史部分とが,創作的表現において同一性を有するこ\nとが必要であるものと解される。
したがって,原告書籍と本件社史部分との間で,事実など表現それ自体で\nない部分でのみ同一性が認められる場合には,本件社史部分は原告書籍を翻 案したものに当たらない。 また,原告書籍と本件社史部分との間に,表現において同一性が認められ\nる場合であっても,同一性を有する表現がありふれたものである場合には,\nその表現に創作性が認められず,本件社史部分は原告書籍を翻案したものに\n当たらないと解すべきである。すなわち,著作者等の権利の保護を図り,も って文化の発展に寄与するという著作権法の目的(同法1条)に照らせば, 著作物に作成者の何らかの個性が現れており,その権利を保護する必要性が あるといえる場合には,上記の創作性が肯定され得るが,一方で,表現があ\nりふれたものである場合には,そのような表現に独占権を認めると,後進の\n創作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり,かえって上記の著作権法の目的\nに反する結果となりかねないため,当該表現に創作性を肯定して保護を与え\nることは許容されないというべきであり,そのため,原告書籍と本件社史部 分との間で同一性を有する表現がありふれたものである場合には,その表\現 に創作性を認めることができない。
(2) まず,別紙2記述対比表の原告書籍及び本件社史部分の各記述について,\nそれぞれの間での創作性を有する表現の同一性が認められるか否かについて\n検討する。
ア 番号1の各記述について
(ア) 原告書籍の番号1の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈 を踏まえると,被告従業員であったBが被告の二輪世界選手権への再挑 戦の担当者になるとの内示を受ける前日に出身地を尋ねられた際のやり とりを記述したものであり,本件社史部分の番号1の記述は,本件社史 部分における当該記述の前後の文脈を踏まえると,Bが上記内示の際に 出身地を尋ねられたことを記述したものであると認められる。 これらの記述は,Bが上記内示を受ける際に出身地を尋ねられたこと を内容とする点で共通しているが,このようなやりとりがあったことは 事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が\n認められるに留まる。また,出身地を尋ねるやりとりがあったことにつ いて,原告書籍の番号1の記述では,「おいB,おまえ家は東京だよな」 と記述されているのに対し,本件社史部分の番号1の記述では,「世間話 の中で出身地を聞かれました。『東京です』と答えたのを覚えていますよ」 と記述されており,それらの具体的な記述における描写の手法が異なる ものとなっており,表現それ自体において同一性を有するとは認められ\nない。
(イ) 原告は,原告書籍と本件社史部分に同じ事実が記述されていることに ついて,社史編纂委員会の担当者は原告書籍に記述された事実を原告書 籍に依拠して知ったものであるから,翻案該当性が認められるべき旨を 主張する。 しかしながら,前記(1)のとおり,本件社史部分に記述された事実が原 告書籍に依拠したものであったとしても,原告書籍と本件社史部分の各 記述が事実といった表現それ自体でない部分において同一性を有するに\n留まる場合には,原告書籍の翻案には当たらないと解するのが相当であ るから,原告の上記主張は採用することができない。 (ウ) したがって,番号1の各記述について,創作的表現において同一性を\n有するものと認めることはできない。
・・・
(ウ) 小活 前記(ア)及び(イ)の対比の結果に照らせば,原告書籍の番号20−1及 び20−2の記述と本件社史部分の番号20の記述が創作的表現におい\nて同一性を有するものと認めることはできず,これは,原告書籍の番号 20の記述全体と本件社史部分の番号20の記述とを対比した場合でも 同様である。
(3) 前記(2)のとおり,番号1ないし20の各記述において,本件社史部分が 原告書籍と創作的表現において同一性を有するとは認められないから,依拠\n性について検討するまでもなく,被告社史中の本件社史部分は原告書籍の翻 案に該当するものではない。

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平成30(ワ)866 職務発明の対価 特許権 民事訴訟 令和3年12月27日 大阪地方裁判所

 職務発明であるとして1億円を越える請求を求めましたが、裁判所は独占的利益を得ていないとして請求を棄却しました。なお、原告は45万円の報奨金を受け取っていました。

ウ コスト面について
(ア) 本件工場の建設に係る設備投資について,実行予算●(省略)●に対し,実\n際には●(省略)●の建設費用を要し,本件増設工事に更に●(省略)●の費用を 要したことで,合計●(省略)●を要したこと(前記(3)ウ(イ)a)に加え,被告に とって,本件工場は本件乾式分別法による設備を導入した初めての事例であるのに 対し,溶剤分別法による設備を設置した事例は既に FOJ 等において存在し,FVO 建設当初における溶剤分別設備に係る投資額の見積もりは本件設備の見積もりに比 して比較的正確になされたと考えられること等を踏まえると,本件工場建設に係る 設備投資額が溶剤分別法による設備を導入する場合と比して安価であったとは考え 難く,少なくともその点は不明と見るほかない。
(イ) 比例費については,平成27年〜平成29年の FVO 等の各 SOS パーツの加 工費に係る試算結果を比較した場合,FVO は FOJ 等に比して大幅に低額である。 また,分別設備に係る最終製品の比例費を見ても,FVO は,●(省略)●FOJ 等 に比して幾分低額である(以上につき,前記(3)ウ(イ)b)。もっとも,具体的な金 額は不明ながら,本件工場の稼働開始から平成26年までは FVO において●(省 略)●ことも考慮に入れる必要がある。
(ウ) 歩留まりについては,当初より乾式分別法による歩留まりが溶剤分別法より も低いことが前提とはされていたものの,本件増設工事を経て更に設計上の分別収 率は●(省略)●に引き下げられ,実際の歩留まりも●(省略)●という状況にあ る(前記(3)ウ(イ)c)。
(エ) これらの事情を総合的に考慮すると,本件乾式分別法は,必ずしも溶剤分別 法に比してコスト面で明確に有利とはいえない。
エ 採算性について
FVO パーツ品の採算性については,販売限利率を見る限り,FVO パーツ品は, CBE として販売されたもの及び SOS パーツ単体で販売されたもののいずれも,総 じて FOJ パーツ品よりも低い(前記(3)ウ(イ)d)。すなわち,FVO 品は,SOS パ ーツ製造の比例費を溶剤分別法により製造された FOJ 品に比して抑えられている にもかかわらず,FOJ 品よりも利益への貢献の程度は低いといえる。 なお,販売限利率は,分別方法による利益率の相違等をそれ自体として表すもの\nでは必ずしもないが,販売限利は,その算出に当たってその時々の相場と過去の実 績等が考慮され,変動費に相当する見込額として位置付けられるものであることな どに鑑みると,販売限利率に基づき収支採算性を評価することには一定程度の合理 性があると考えられる。
オ CBE 販売市場の状況について
CBE の国際的な需要は,平成12年〜平成20年にかけて急激に拡大し,それ 以降も,平成28年まで,緩やかな拡大傾向を示しているところ(前記(3)エ(ア)), 被告グループのシェアが本件工場の稼働によって増大したことを裏付けるに足りる 客観的な資料はない。むしろ,平成19年〜平成28年における被告グループのシ ェアは●(省略)●で増減していると見られると共に,この変動はココアバターと の価格変動との関連性がうかがわれる(前記(3)エ(イ))。これを見る限り,本件各 発明の実施は,被告による競合他社からのシェア奪取にはつながっていないと考え られる。 また,被告との合計で CBE 市場の約8割のシェアを占める AKK 及び LC は, CBE 製造にあたり,いずれもシア脂から SOS パーツを製造・精製する工程におい て,溶剤分別法によっている。本件各発明はシア脂を原料とする分別にも利用でき るとされているものの,実際には,各設備の規模等のほか,本件工場の稼働による 被告のシェア増大といった事情もないことをも踏まえれば,競合他社にとって,多 額の設備投資を行って本件乾式分別法による設備を導入するメリットは乏しいと思 われ,本件各特許権の存在いかんにかかわりなく本件乾式分別法による設備の導入 は容易ではないと考えられるのであって,本件各特許権の存在が競合他社による本 件各発明の実施を回避させているとまではいえない。 このことは,原告との係争が表面化した後とはいえ,被告が特許料不納付により\n本件各特許権を消滅させ,又はその方向で対応する旨の判断を示していることとも 平仄が合うといえる。
なお,油脂分別技術の開発の方向性としては,安全性及びコスト面での問題を抱 える溶剤分別法から,最も持続可能性の高い方法とされる乾式分別法に向かうとし\nても,現状においては乾式分別法もなお問題点を抱えており,溶剤分別法も依然と して選ばれる場面があるとされていることなどに鑑みると,少なくとも本件各特許 権の存続期間においては,油脂分別法として溶剤分別法と乾式分別法はなお選択的 な関係にあるものと見るべきであって,その意味で,溶剤分別法は本件各発明の代 替技術として位置付けられる。
カ 小括
以上の事情を総合的に考慮すると,本件において,本件各特許権に係る通常実施 権の実施によって得られる利益の額を超えて被告が利益を得たと認めるに足りる証 拠はないというべきである。すなわち,被告は,本件各特許権により独占の利益を 得たとはいえない。
キ 原告の主張について
原告は,被告が本件各特許権により独占の利益を得ているとして,縷々主張する。 しかし,FVO パーツ品及び FVO 品の品質については,原告は主にパイロットレ ベルでの乾式分別法による SOS パーツの数値を根拠とするにとどまり,また,実 際に本件設備を用いて製造した FVO パーツ品を用いた分析結果等の信用性につき 疑義を抱くべき事情は見当たらない。また,コスト及び採算性については,前記の とおりである。
さらに,溶剤分別法に係る各種規制の存在も,溶剤分別法による設備の導入の障 害になり得るものではあっても,その新設が不可能ないし著しく困難であるとまで\n見るべき事情はない。このため,前記のとおり,油脂分別法として溶剤分別法はな お乾式分別法の代替技術といえる。 本件発明賞や本件経営賞の受賞等も,FVO における本件乾式分別法による設備 の導入に対する肯定的な評価を裏付けるものではあるものの,必ずしも被告に独占 の利益が生じたことを前提とするものではない。 被告の有価証券報告書に FVO から被告への特許料支払が記載されていること (甲74)についても,その支払が本件各特許権の実施に係るものであるかが明ら かではない上,本件各特許権の特許権者が被告であること,グループ会社とはいえ 被告と FVO とは法人格を異にすることなどに鑑みると,これをもって,被告に本 件各特許権による独占の利益が生じていることを示すものとは必ずしも見られない。 その他原告が縷々指摘する事情を踏まえても,この点に関する原告の主張は採用 できない。

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令和3(ワ)1333    著作権 令和3年12月21日  東京地方裁判所

 東京地裁47部は、漫画閲覧サイトにおける公衆送信について、被告らの行為が原告漫画の売上減少に寄与した割合は,約1%として、1000万円の損害を認めました。 0.1を乗じているのは、印税(10%)です。

 前記認定のとおり,原告漫画1の累計発行部数(紙媒体による書籍,電子書籍及 び複数巻を一つにまとめた新装版を含む。以下同じ。)は約2000万部,原告漫画 2の累計発行部数は約370万部であり,原告漫画の1冊当たりの販売価格は46 2円であって,原告漫画の売上額は,およそ109億4940万円となるところ, 原告漫画の著作権者であると認められる原告が受けるべき使用料相当額は,原告漫 画の上記のような発行部数等に照らし,同売上額の10パーセントと認めるのが相 当である。 ところで,本件ウェブサイトによる原告漫画が無断掲載されたことにより,原告 漫画の正規品の売上が減少することが容易に推察され,原告漫画においても,発売 日翌日に本件ウェブサイト上にその新作が掲載されていたことによれば,新作が無 料で閲覧できることにより,読者の原告漫画の購買意欲は大きく減退するというべ きである一方,被告らの行為は,本件ウェブサイトによる原告漫画の違法な無断掲 載を,広告の出稿や広告料支払という行為によって幇助したものにとどまること, 原告漫画2の上記累計発行部数は令和2年1月頃までのものであって,本件ウェブ サイトが閉鎖された平成30年4月より後の期間における原告漫画2の売上げに関 して被告らの行為との間の関連性を認めることができないことその他本件に顕れた 一切の事情に照らして検討すれば,被告らの本件における行為が原告漫画の売上減 少に寄与した割合は,約1パーセントと認めるのが相当である。 これらの事情に鑑みると,本件ウェブサイトによる原告漫画に係る著作権(公衆 送信権)侵害行為を被告らが幇助したことと相当因果関係が認められる原告の損害 額は,1000万円(≒109億4940万円×0.1×0.01)と認めるのが 相当である。

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令和1(ワ)25121 特許権 令和3年12月9日  東京地方裁判所

 CS関連発明について、技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断されました。

 このように,乙8発明は,ユーザから入力された情報から抽出したキーワードに 基づいてそれに関連するウェブページを収集し,そのリンク情報を取得して記憶し, ユーザ端末にキーワードに関連するウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する ものである。しかして,かかるウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力すること は,ユーザに対してユーザの関心のある事項に関連するウェブサイトの閲覧を勧め るものであるといえ,当該リンクを出力することは,ユーザに対する提案を行うも のということができ,また,当該リンクはウェブ上から取得されるものであるから, ウェブサイトからユーザに対して提案すべき情報を取得しているということができ る。 そうすると,乙8発明がユーザコメントに基づいてリンクを出力するアバター管 理部及び情報収集部は,構成要件1Eの「前記第1又は第2受付手段によって受け\n付けられた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行う提案手段」に相当し, また,乙8発明の,アバター管理部及び情報収集部によりユーザコメントに基づい てウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する機能は,構\成要件5Eの「前記受 け付けた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行うステップ」に相当する。 さらに,乙8発明における,ウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリ ンクを取得する情報収集部は,構成要件1Fの「前記個人情報に基づいてウェブサ\nイトから前記ユーザに対して提案すべき情報を取得する手段」に相当し,上記情報 収集部によりウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリンクを取得する 機能は,構\成要件5Fの「前記個人情報に基づいてウェブサイトから前記ユーザに 対して提案すべき情報を取得するステップ」に相当する。 その他,構成要件E及びFと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件E及びFは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
エ 構成要件G(「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段と,を有する」「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促すステップと,を更に有する」)につき,\n乙8発明と対比する。 構成要件Gに関し,本件明細書の記載をみると,「飲みすぎないように!」などの\nアドバイスのメッセージを出力する旨の記載があり(【0119】),かかる記載内容 からすると,構成要件Gにおける「注意を促す」とは,気を付けるように仕向ける,\n気を配るように仕向けるとの意であると解することができる。 しかして,乙8発明は,スケジュールが未完了であることが確認すると,アバタ ーから,「スケジュールが未完了だよ。代わりのスケジュールを入力してね」のよう な,スケジュールの修正を依頼するアバターコメントを出力する機能を有する(【0\n043】)。そして,乙8発明の学習・生活支援サーバ内にはアバターコメントを出 力するアバター管理部が実装されている(【0024】等)ところ,上記機能は,ユ\nーザに対してスケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は, スケジュールに気を配るように仕向けるものであるといえる。 そうすると,乙8発明の,アバターコメントの出力を実行するアバター管理部は, 構成要件1Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段」に相当し,ま\nた,乙8発明の,ユーザに対して上記の趣旨のアバターコメントを出力するアバタ ー管理部の機能は,構\成要件5Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す ステップ」に相当する。 その他,構成要件Gと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Gは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
オ 構成要件H(「情報提供装置。」「を情報提供装置に実行させる情報提供プロ\nグラム。」につき,乙8発明と対比する。 乙8発明のアバター管理部によるアバターコメントの出力は,情報の提供に当た るため,この点をもって既に,アバター管理部を有する乙8発明の学習・生活支援 サーバは,情報を提供する装置(「情報提供装置」)であるということができる。 また,上記サーバは,アバター管理部のほかに,ユーザ情報管理部,テキスト分 析部,情報収集部,コンテンツ管理部で構成される制御部を有しており,制御部は,\n少なくとも一つのCPU等を備え,ROM等に予め記憶されたプログラムを読み込\nんで実行することにより,上記各部の機能を事項することが可能\となるものである (【0021】等)ことから,乙8発明の学習・生活支援サーバは,情報提供装置で あって,各種機能を実行させる情報提供プログラムを有しているといえ,乙8発明\nは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プログラム」と同 一であるといえる。 その他,構成要件Hと乙8発明の間に,実質的に相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Hは,乙8発明の構\成と実質的に同一のものといえる。
(4) したがって,本件各発明は,その全ての構成要件が,乙8発明の構\成と実質 的に同一のものであるから,本件各発明は,乙8発明との関係で,新規性を欠くも のといわざるを得ず,いずれも,特許無効審判により無効にされるべきものと認め られる(特許法29条1項3号,123条1項2号)。
(5) 原告らの主張について
原告らは,1)乙8公報に記載されている「スケジュールの修正を依頼する」とは, 構成要件Eにおける,議案や意見を提出するという「提案を行う」こととは相違す\nる,2)乙8公報がユーザ端末に出力するウェブサイトのリンクは,ウェブサイトの 所在を示す情報であって,この所在を示す情報が,「提案を行う」内容である議案や 意見であるはずがなく,乙8発明は構成要件Eと相違し,また,ウェブサイトのリ\nンクはユーザに対して提案すべき情報を規定している構成要件Fの「情報」とも相\n違する,3)乙8発明がユーザのスケジュールが未完了であることを確認した場合に ユーザにスケジュールの修正を依頼することは,構成要件Gの,気を付けるよう仕\n向けることとは相違する,4)乙8発明のユーザ端末は,情報提供をするものではな いから,構成要件Hと相違する,などとして,本件各発明が乙8発明の構\成と実質 的に相違する旨主張する。
しかしながら,原告らの上記各主張は,次のとおり,いずれも理由がないという べきである。 まず,上記1)及び3)の点については,乙8発明において「スケジュールの修正」 を依頼されたユーザは,スケジュールが完了していないことを知り,新たなスケジ ュールを考えて入力するように促されることとなるのであって,「スケジュールの 修正の依頼」も,ユーザに対して新たなスケジュールを組み立てる旨の議案や意見 の提出にも当たるといえるから,構成要件Eの「提案を行う」と実質的に同一の構\ 成であるといえる。また,乙8発明の上記のような働きは,まさにユーザに対しス ケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は,気を配るよう に仕向けることであるといえるから,乙8発明は,構成要件Gの「注意を促す手段」\nないし「注意を促すステップ」と実質的に同一の構成を有するといえる。\nまた,上記2)の点については,構成要件Eの「提案を行う」との文言について,\n特許請求の範囲及び本件明細書の記載に,ユーザに提案すべき情報の具体的内容を 限定する根拠となるものはなく,ウェブページを出力することに限る旨の示唆もな い。その上,前記説示のとおり,キーワードに関連するウェブページのリンクをユ ーザ端末に出力することは,当該リンク先のウェブページを閲覧することをユーザ に勧めることに該当し,まさに,この点が「提案」といえるというべきである。そ うすると,乙8発明のアバター管理部が当該リンクをユーザ端末に出力することは, 構成要件Eが規定するユーザに対する「提案を行う」との構\成と,同一であるとい わなければならない。また,構成要件Fの「情報」との相違を指摘する原告の主張\nも,結局,リンクはあくまでウェブサイトの所在を示す情報に過ぎず,これがユー ザに対して提案すべき情報には当たらないとの主張であると解されるが,前記のと おり,ユーザ端末にユーザの個人情報に基づいてこれに関連するウェブページのリ ンクを出力することは,ユーザに対して当該リンク先のウェブページの閲覧を勧め るという意味において,ユーザに提案すべき情報を表示するものであり,乙8発明\nにおいてユーザ端末に出力されるリンクは,構成要件Fの「情報」と異なるもので\nはないというべきである。 さらに,上記4)の点は,前記説示のとおり,乙8発明の学習・生活支援サーバ及 びプログラムは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プロ グラム」と同一であるといえる。 以上によれば,原告らの主張はいずれも採用することができない。

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令和3(行ケ)10113  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年1月25日  知的財産高等裁判所

 商標「睡眠コンサルタント」が識別力無し(3条1項3号)とした拒絶審決が維持されました。

(3) 上記認定事実によれば,「睡眠コンサルタント」が,「睡眠の事柄につい て相談・助言・指導を行う専門家」の意味合いを容易に認識させることは, その構成から明らかである。そして,上記認定事実によれば,「睡眠コンサ\nルタント」と称する資格又は「睡眠コンサルタント」の文字を含む名称を冠 する資格を与える団体が存在し,当該団体が睡眠に関する専門的な知識の教 授等を行っている例が複数あること(上記ア〜エ),これらの団体により認 定資格を得た者が「睡眠コンサルタント」と名乗り,睡眠に関する知識の教 授,及び睡眠に関するセミナーの企画・運営又は開催を行っている例が複数 あること(上記オ〜ク),それ以外にも,睡眠に関する専門的な知識を有す る「睡眠コンサルタント」と称する者が,睡眠に関する知識の教授,及び睡 眠に関するセミナーの企画・運営又は開催等を行っている例が複数あること (上記ケ〜タ)が認められる。また,知識の教授及びセミナーの企画・運営 又は開催を行う業界において,講義及びセミナー等の内容に関する書籍(テ キスト,問題集等)及びビデオ等が制作されている実情があることは,顕著 な事実である。
以上からすると,本願商標は,本願指定役務である「技芸・スポーツ又は 知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,書籍の制 作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用 のものを除く。)」との関係で,本件審決がされた令和3年7月26日の時 点において,「睡眠に関する専門的な知識を有する者による,睡眠に関する 役務である」という役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切\nな表示であり,本願商標の取引者,需要者によって本願商標が本願指定役務\nに使用された場合に,役務の質を表示したものと一般に認識されるものであ\nるから,本願商標は,本願指定役務について役務の質を普通に用いられる方 法で表示する標章のみからなる商標であると認めるのが相当である。\nしたがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する。これと同旨の 本件審決の認定判断に誤りはない。 ・・・ 原告は,「○○〇コンサルタント」という商標の登録例が多数あること,専門分野を表す「〇〇〇」の次に「専門家」を意味する言葉を付加した商標の登録例も多数あることを挙げて,これらの登録例と構\成を同じくする本願商標は登録されて然るべきである旨主張する。しかしながら,商標登録の可否は,商標の構成,指定役務,取引の実情等を踏まえて,具体的な実情に基づき商標ごとに個別に判断すべきものであって,原告が指摘するような他の商標登録事例が多数あるからといって本願商標の登録の可否が影響を受けるものではないから,本願商標が本願指定役務について役務の質を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標であることを否定する理由にはならない。

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令和3(行ケ)10092  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年1月27日  知的財産高等裁判所

 本件商標「hihachi」が「HITACHI」と出所混同するとして異議申立がなされました。知財高裁は、4条1項15号違反とした審決を維持しました。

ア 上記(1)ないし(3)のとおり,本件商標及び引用商標は,観念において類 似するものではないものの,外観及び称呼が互いに相紛らわしいものであ るというべきである。 そして,前記3で検討したとおり,本件商標及び引用商標に係る需要者 には一般消費者が含まれるものであるところ,一般消費者が通常有する注 意力を踏まえると,外観及び称呼が互いに相紛らわしい両商標を取り違え ることは十分にあり得るといえることからすれば,両商標の類似性の程度\nは,相当程度高いというべきである。
イ 原告は,引用商標の取引の実情に関して,商標中の大文字のアルファベ ットを小文字表記に変えて使用することなどは全く行われておらず,この\nことは引用商標においても同様である旨主張する。 しかしながら,上記(1)イのとおり,アルファベットからなる商標の使用 においては,その構成文字について,大文字と小文字とを相互に変換して\n表記することが一般に行われているといえる。また,商標法においても,\n商標登録の取消しの審判について,登録商標と社会通念上同一と認められ る商標(例えば,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更\nするものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標)の使用を証明するこ とによって商標登録の取消しを免れることができる旨が規定されている が(商標法50条1項,2項,38条5項),これは,商標の使用において は,同一の称呼及び観念が生じる範囲内で商標の構成文字の文字種を相互\nに変換して表記したり,デザイン化したりすることが一般によく行われる\nことを前提とした規定であるといえる。これらの事情を考慮すると,商標 中の大文字のアルファベットを小文字表記に変えて使用することが全く\n行われていないということはできない。 以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
5 出所混同が生ずるおそれの有無
本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基 準として,前記2ないし4において検討した事情を総合的に考慮すると,注意 力がそれほど高いとはいえない一般消費者が,被告補助参加人及びそのグルー プ会社の業務に係る商品及び役務を表示するものとして極めて高い周知著名性\nを有する引用商標に相当程度類似し,取り扱う商品も密接に関連する本件商標 が付された商品に接した場合には,当該商品が被告補助参加人及びそのグルー プ会社の業務に係る商品であると混同するおそれがあるというべきである。

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令和2(行ケ)10071  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月2日  知的財産高等裁判所

 訂正後の発明について無効理由なしとした審決が取り消されました。理由は基準日当時の骨粗鬆症に関する技術常識から動機付けありというものです。

 (イ) 前記(ア)の各記載によると,本件基準日当時の骨粗鬆症に関する技術 常識は,次のとおりである。すなわち,1)骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折の危険性が増大した骨疾患であり,その治療の目的は,骨折を予防し,QOL(qu\nality of life)の維持改善を図ることである,2)骨粗鬆症は,加齢とと もに発生が増加する,3)骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子の中で, わが国では,低骨密度,既存骨折,年齢に関するエビデンスがある,4) 骨粗鬆症の診断基準に関して,1990年当時,厚生省シルバーサイエ ンスプロジェクト「老人性骨粗鬆症の予防および治療に関する総合的研\n究班」により提唱された診断基準(1989年診断基準)があったが, 1996年に診断基準が改訂され(1996年診断基準),その後,20 00年に更に改訂された(2000年診断基準),5)骨強度は骨密度と骨 質の2つの要因からなり,骨密度が骨強度のほぼ70%を,骨質が残り の30%を説明することが知られていたといえる。
イ 本件3条件について
(ア) 甲7発明と本件発明1とは,「1回当たり200単位のPTH(1− 34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする」との用量の点 において一致するが,その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を一応 異にする。
(イ) 甲7発明で投与対象とされた患者は,前記(1)のとおり,1989年診 断基準で骨粗鬆症と診断された患者であるところ,より新しい基準を参 酌しながらその患者を選別することは,当業者がごく普通に行うことで あるから,甲7発明に接した当業者が,甲7発明のPTH200単位週 1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する対象患者を選択するのであれば, 1989年診断基準とともに,より新しい,1996年診断基準又は2 000年診断基準を参酌するといえる。 そして,前記ア(ア)b及びcのとおり,1996年診断基準で骨粗鬆 症と診断される者は,1)骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの8 0%以下の低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か,2)X線上椎体骨折 を認めないが,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAMの70%未 満である者であり,2000年診断基準で骨粗鬆症と診断される者は, 3)骨萎縮度II)度以上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨量が原因で, 軽微な外力による非外傷性椎体骨折等(脆弱性骨折)を有する者か,4) 脆弱性骨折がないものの,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAM の70%未満の者である。
本件条件(2)及び本件条件(3)は,上記1)と同じであるから(「既 存椎体骨折」は「非外傷性椎体骨折」を含む。),当業者が甲7発明の2 00単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件条 件(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。 また,前記ア(イ)のとおり,骨粗鬆症は,加齢とともに発生が増加す るとの技術常識があり,高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らかであ るところ,高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的なことで あり,高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上が高齢者 とされている。したがって,これらを参酌し,骨粗鬆症による骨折の複 数の危険因子として,低骨密度及び既存骨折に並んで年齢が掲げられて いることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上として,本件条 件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1)のように設定する ことはごく自然な選択であって,何ら困難を要しない。 そうすると,甲7発明に接した当業者が,投与対象患者を本件3条件 を全て満たす患者と特定することは,当業者に格別の困難を要すること ではない。
ウ 被告の主張について
(ア) 被告は,前記第3の3(2)ア(イ)a及びbのとおり,本件3条件は, 層別解析により初めて,本件条件(1)ないし本件条件(3)を組み合 わせるとPTHの骨折抑制効果が高いという新規な知見を得たことに基 づくものであり,本件3条件は一般的な指標ではなく,甲7文献の開示 事項からは導かれず,むしろ甲7文献にはサブグループ間で薬物に対す る応答は同程度であった旨の記載があり,甲7発明から本件3条件を選 択する動機付けは否定される旨主張する。
しかしながら,前記イにおいて判示したように,本件基準日における 技術常識に照らせば,甲7発明に接した当業者が投与対象患者を本件3 条件を全て満たす患者とすることに格別の困難はない。また,本件3条 件の組合せについても,客観的観点からその選択において格別なもので ある,あるいは,他の骨折リスク因子等も含めた様々な組合せが想定さ れる中で本件3条件を組み合わせること自体に特別の意味合いがあると 認めるに足りる証拠はない(被告が主張する層別解析は,後述するよう に,あくまで本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグルー プと,本件3条件の全部又は一部を満たさない患者(低リスク患者)の グループのうちごく一部のグループとを比較するものにすぎず,また, その結果自体も被告主張の顕著な効果が認められると即断できるもので はない。)。 そして,確かに甲7文献には,別紙2のとおり,「年齢が64歳以下と 65歳以上,体重が49kg以下と50kg以上,閉経後10年未満,10 から20年,20年以上,および脊椎骨折が0,1および2箇所以上を 有するサブグループに被験者を分類して比較したところ,サブグループ 間で薬物に対する応答は同程度であった。」との記載があることは認めら れるものの(300頁左欄11行ないし右欄6行目),当該記載は,上記 記載中の条件によってサブグループ化されたサブグループ間の薬物効果 の比較について述べているにすぎず,当該記載により,甲7発明の投与 対象患者をサブグループ化すること全般が阻害されるとはいえない。 したがって,被告の上記主張は,いずれも採用することができない。
(イ) また,被告は,前記第3の3(2)ア(イ)cのとおり,甲7発明におけ る200単位投与群には,副作用が多発しており,200単位は副作用 脱落率が高い用量と認識されているから,当業者はこれを試みない旨主 張する。
確かに,別紙2のとおり,甲7文献には,PTH200単位週1回投 与のH群の副作用発生率は42%であり,72人のうち16人(約22%) が副作用により脱落していて,副作用発生率及び副作用による脱落率は, 50単位を投与したL群(副作用発生率19%)及び100単位を投与 したM群(副作用発生率19%)のいずれと比べても高いことが記載さ れており(表6),骨粗鬆症の治療は長期間にわたるため,臨床使用にお\nいて患者の症状や治療継続意思に直接に影響する副作用が起こることは 望ましくはないから(甲70ないし72,100),甲7文献の上記記載 に接した当業者は,この点に限っていえば,200単位の投与よりも1 00単位の投与の方がより適当であると認識することが考えられる。 しかしながら,他方,甲7文献には,重篤な有害事象は認められない と記載されており(301頁左欄1行ないし右欄4行目),さらに,20 0単位の投与が腰椎骨密度を48週間後に8.1%増加させたこと,及び, その増加の程度は,100単位投与の3.6%,及び,50単位投与の0. 6%のいずれよりも高いことが記載され,PTHは腰椎骨密度を48週 という比較的短期間で用量に依存して増加させる極めて有望なものと評 価されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目,301頁右欄5 行ないし303頁右欄23行目。有望とされた対象から200単位の投 与のみが排除されているとは理解し難い。)。そして,前記ア(イ)のとお り,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであるところ,骨密度\nが低いことは,既存骨折,年齢とともに,わが国でエビデンスがある骨 折危険因子であり,骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常 識がある。
以上によれば,甲7文献に接した当業者は,200単位週1回投与と 100単位週1回投与とを対比した場合に,副作用の面と効果の面を総 合考慮して,いずれを選択するか判断するものと考えられ,200単位 週1回投与がその選択が排除されるほど劣位したものと見られるとはい えず,これを選択することもまた十分に動機付けられているというべき\nである。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) さらに,被告は,前記第3の3(2)ア(イ)dのとおり,PTH製剤が 高齢者には効きにくいということは技術常識であったから,PTH製剤 を高齢者に特に使用しようとする積極的な動機付けは生じない旨主張す る。
被告は,関係文献(乙29)を挙げて,PTH製剤が高齢者には効き にくいということは技術常識であるとするが,「フォルテオ皮下注キット 600μg フォルテオ皮下注カート600μg「2.7.3臨床的有 効性の概要」」(乙29)における記載(213頁)として,プラセボ投 与群,テリパラチド20μg投与群(連日投与)及びテリパラチド40 μg投与群(連日投与)に分けてフォルテオを投与をした際の新規椎体 骨折発生率の結果が示されているところ,65歳以上75歳未満の患者, 及び,75歳以上の患者いずれに対しても,テリパラチド投与群におけ る椎体骨折発生率は,プラセボ投与群の椎体骨折発生率より低くなって いるから,これらの記載をもって,フォルテオが高齢者,すなわち65 歳以上の患者に効きにくいなどとはいえない。また,被告は,20μg投与群又は40μg投与群のプラセボ投与群に対する骨折相対リスク減少率は,患者が75歳以上の場合には,65歳以上75歳未満の場合よりも低くなっている旨を指摘するが,75歳 以上の患者群の骨折相対リスク減少率が65歳以上75歳未満の患者群 の骨折相対リスク減少率よりも低いとしても,それは,投与対象を75 歳以上の高齢者とすることの動機付けの有無の問題にはなるとしても, 投与対象を65歳以上の高齢者とすることの動機付けには何らの影響を 与えない。したがって,上記各文献をもって,200単位のPTH製剤を65歳 以上の高齢者に投与することが妨げられ,動機付けが生じないとはいえ ない。

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令和3(行ケ)10037  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月2日  知的財産高等裁判所

 一部のクレームについて、新規事項であるので訂正要件を満たさないとした審決が維持されました。

 以上の訂正前明細書の記載を全体的に総合して観察すると、訂正前 発明における「固定」には、摩擦力やチルト機構等を用い所定量以上の\n力を加えることによって状態の変更が可能な「半固定」と、ストッパ等\nを用い回動を停止させる「一時的に固定」の2種類が存在し、時に「半 固定」と「一時的に固定」とを混然と使用する箇所もないではないが、 これらを使い分けていることが理解できるし、これらが概念的に異なる ものであることはその性質上も明らかである。このことを考慮して、訂正前発明1の構成をみてみると、2つの表\示板を約120度から約170度までの範囲内のいずれかの角度に「ストッパにより」「固定する」構成eの中間左右見開き固定手段は、「一時的\nに固定」する手段であり、2つの表示板を「摩擦力により」「保持する」\n構成Cの任意角度保持手段は「半固定」をする手段であることは明らか\nであり、両者は異なる固定手段を用いる別な手段であることが当然に理 解できる。したがって、構成eの中間左右見開き固定手段の構\成を基に して、任意角度保持手段について「任意の角度」を約120度から約1 70度までの範囲内のいずれかの角度を意味するなどと限定して解釈 する根拠はないこととなり、任意角度保持手段の「任意の角度」は通常 の語義に従い、0度から360度の範囲が含まれると理解すべきもので ある。
(オ) 以上からすると、訂正事項1−4は、訂正前発明に、2つの表示板を\n0度から最大見開き角度までの任意の角度とすることができ、最大見開 き角度が約180度を超えるものを包含するよう訂正するものとなる ところ、このような構成は訂正前明細書には記載されていない。\nしたがって、訂正事項1−4は、訂正前の明細書の全ての記載を総合 することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事 項を導入しないものであるとはいえない。
イ 原告の主張について
原告は、前記第3の1(1)イのとおり、1)「ユーザーの任意の角度」とは、 ユーザが装置の構造上の制約の下に自由意思により変化・回動させること\nができる角度である、2)180度を超えてから360度まで回動させても 2つの表示板の各画面を容易に見ることができず実用的な意味は全くな\nい、3)0度から360度まで回動させるためにはヒンジ部の1つの回転軸 を2つの表示板の厚さ寸法を合計した長さ以上の巨大な直径を有する回\n転軸としなければならないが、訂正前明細書【図2】からみると訂正前発 明の表示装置はそのような構\造を有していない旨主張する。 しかしながら、「あらかじめ定められた角度にユーザが任意に変化させ られること」と「ユーザが任意の角度に変化させられること」とは、固定 方法を異にすれば両立する機能であるところ、どちらも角度の変化はユー\nザがその自由意思によりするものであるから、訂正前明細書にユーザが自 在に枠体を折り曲げられるとの記載等、角度の変化がユーザの自由意思に よるとの記載があったからといって、「任意の角度」が前者に限定されると する根拠にはならず、上記1)の主張は採用することができない。 また、引用文献1には第1のパネル12と第2のパネル14が背中合わ せで並置され、片手で装置を運び、もう片方の手でデータを入力する状態 が記載されていることからしても(9頁32行ないし10頁13行目、図 3)、表示装置の2つの表\示板の回動角度を270度ないし360度の範 囲にまで設定可能にする使用方法も十\分に実用的なものといえるから、上 記2)の主張も採用することができない。 また、上記3)の主張は、単なる実施例に関する図面に基づく主張にすぎ ず、訂正前発明は、ヒンジ軸の構造も、回転軸の直径も、表\示板の厚さも 何ら特定するものではないから、前提を欠くものとして失当である。 したがって、原告の上記主張はいずれも採用することができない。その ほか、原告はるる主張するが、いずれも、前記アの認定判断を左右しない。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1−4は新規事項を追加する訂正で ある。

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令和3(行コ)10001  手続却下処分取消等請求控訴事件  特許権  行政訴訟 令和4年1月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 期間徒過後にPCT国際出願の翻訳文提出したのは、期限管理ソフトへの入力ミスがあり、184条の4第4項の「正当な理由」にあたると争いました。知財高裁1部は、これを認めませんでした。

エ 控訴人は,1)法184条の4第4項の立法趣旨や立法経緯,特許庁の ガイドラインに鑑みると,期間徒過の原因となった事象が予測可能\であ るといえない場合は,当該事象により期間徒過に至ることのないように 事前に措置を講じておくことを出願人等に求めるのは酷であることから すると,期間徒過の原因となった事象が出願人等の補助者の人為的ミス に起因するときは,ガイドラインの「相応の措置」(状況に応じて必要と されるしかるべき措置)が採られたかどうか,すなわち,期間内に手続 をすることができなかったことについて「正当な理由」があるかどうか は,監督者が個々具体的な人為的ミスを防ぐための措置を採っていたか ではなく,当該補助者を使用する出願人等がガイドライン3.1.5(5) に規定するaからcの3要件を満たしているか否かによって判断される べきである,2)本件特許事務所では,特許期限管理システム「IPマネ ージャー」を使用し,経験豊富な補助者(A,B及びC)を起用するな ど期間徒過が生じることがないようにするための期限管理体制が採用さ れていたが,本件期間徒過は,本件国際出願の期限前日である平成28 年9月21日,本件国際出願の出願書類の準備と本件国際出願用の新た な期限管理ファイル(本件期限管理ファイル)作成の作業が並行して行 われるという緊急事態の状況下で,Aが錯誤により本件期限管理ファイ ルに本件国際出願の基礎出願の優先日を誤入力し,優先日の入力に対す るB及びCによるダブルチェックが働かず,Aの誤入力が見過ごされた 結果,IPマネージャーによって誤った優先日に基づいて誤った国内移 行の移行期限が自動作成され,それに気づかなかったことが重なって偶 発的に起きた事象であり,このような特殊な事態に起因する複数の補助 者による偶発的な確認ミス等は予測可能\であるといえないから,上記期 限管理体制は,「相応の措置」に該当し,本件期間徒過を回避することが できなかったことについて「正当な理由」があるというべきである旨主 張する。 しかしながら,1)については,ガイドラインは,期間徒過後の救済規 定に関し,救済要件の内容,救済に係る判断の指針及び救済規定の適用 を受けるために必要な手続を例示することによって,救済が認められる か否かについて出願人等の予見可能\性を確保することを目的として,特 許庁が作成したものであり(乙4の表紙から4枚目の「期間徒過後の救\n済規定に係るガイドラインの利用に当たって」),法令等の法規範性を有 するものではなく,裁判所の法令の解釈やその判断を拘束するものでは ない。
次に,2)については,前記(2)及び(3)によれば,IPマネージャーの期 限管理ファイルの「基礎出願」欄に優先日として優先権を主張する基礎 出願の出願日を正確に入力することは,控訴人から本件国際出願の委任 を受けた本件特許事務所の基本的な業務であり,これを正確に入力する 必要性が高いことは明らかであること,本件においては,国際出願手続 及び各国への国内移行手続を担当するCから,ドケット管理部署に所属 するAへの連絡が適切ではなかったこと,本件期限管理ファイルを作成 したAは本件国際出願に係る優先日として米国特許仮出願1及び2のい ずれの出願日を入力すべきであるかを十分に確認することなく誤った優\n先日を入力(本件誤入力)したこと,本件国際出願の際のD弁護士等に よるチェック,本件国際出願後のBによるチェック及び本件国内移行期 限管理ファイル作成の際のドケット管理部署による優先日の事後的なチ ェックがいずれも行われなかったか,不十分であったことによって本件\n期間徒過が発生したことが認められる。 また,本件国際出願の期限の前日に,本件国際出願の出願書類の準備 と本件国際出願用の新たな期限管理ファイル(本件期限管理ファイル) 作成の作業を並行して行うことが,緊急事態であるということも,特殊 な事態であるということもできないし,本件国際出願を期限に余裕をも って行えば,このような事態に至ることを回避することも可能であった\nものである。
さらに,Aの本件誤入力は,本件期限管理ファイルへ優先日として米 国特許仮出願1の出願日である「2015年9月22日」と入力すべき であったのに,米国特許仮出願2の出願日である「2015年12月1 6日」と入力したという単純なミスであり,D弁護士等,B又はドケッ ト管理部署が,通常の注意力をもって,他の資料等と照合してダブルチ ェックを行えば,容易に発見することができたものと認められる そうすると,控訴人から委任を受けた本件特許事務所の担当弁護士や 補助者事務員が本件期間徒過を回避するために相当な注意を尽くしたも のと認められないから,控訴人において,本件期間徒過を回避すること ができなかったことについて「正当な理由」(法184条の4第4項)が あるものと認めることはできない。 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

◆判決本文

同様の人為ミスの事件です。 知財高裁2部は、正当理由についてかなり踏み込んで判断しています。

◆令和3(行コ)10002
(ア) 控訴人は,本件技術担当補助者は特許庁における7年以上の職歴を有する弁 理士であり,担当弁理士においては,本件案件について相当な注意を払って本件技 術担当補助者を選任したものである旨を主張するが,一般的に,本件技術担当補助 者が特許庁において担当していた業務と,その後担当弁理士の事務所において担当 するに至った業務とを同視することはできないものであるところ,本件全証拠によ っても,これらを同視することができる事情を認めることはできない。補正して引 用した原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」(以下,単に「原 判決の第4」という。)の1(3)イ(ア)で認定したとおり,本件技術担当補助者は, 平成30年4月に担当弁理士の事務所に採用され,本件案件について指示を受けた 当時,同事務所における勤務経験は2か月程度にすぎなかったものであって,そも そも「業務の進め方」に記載された通常の業務の流れについてすら,必ずしも習熟 していたといえるか疑問が残るところである。 上記に関し,同じく原判決の第4の1(2)で指摘した本件回復理由書の記載によ ると,本件期間徒過に至った当時,本件技術担当補助者に対する指導・教育等のた めに担当弁理士の業務負担は一時的に更に増大していたなどというのであるが,そ のことは,本件技術担当補助者の特許庁における経験や弁理士という資格をもって, 直ちに担当弁理士の事務所における技術担当補助者としての業務の遂行能力を評価\nすることができないことを裏付けているといえる。なお,控訴人が提出する世界知 的所有権機関のPCT受理官庁ガイドライン(甲35)の166Mの(f)においても, 出願人又は代理人が説明すべき事情の一つとして,当該補助者が「その特定の業務」 を任されていた年数が指摘されているところである。 したがって,控訴人の上記主張は,本件期間徒過について正当な理由が認められ ないとの前記認定判断を左右するものではない。
(イ) 控訴人は,本件技術担当補助者の誤認や思い込みは,担当弁理士の想定外の 人為的ミスというほかない旨を主張するが,本件期間徒過の原因について,専ら本 件技術担当補助者の単独の人為的過誤であると評価することが相当でないことは, 補正して引用した原判決の第4の1(3)アで説示したとおりである。
(ウ) 控訴人は,補助者の選任について相当な注意を払っていた以上,担当弁理士 においては,補助者を信頼することが許されるという旨を主張するが,補正して引 用した原判決の第4の1(3)アで説示したとおり,本件期間徒過に関しては,担当弁 理士の指示の方法が本件技術担当補助者の誤認に無視できない影響を与えたものと みるのが相当であって,そのことや,前記(ア)で指摘した点を考慮すると,控訴人の 上記主張は,その前提を欠くものというべきである。
(エ) 控訴人は,来客対応や外出等が重なれば,担当弁理士において,期限管理シ ステムにアクセスする余裕がないことが生じ得ることや,補助者への指示が万事円 滑に行われているという認識の下において担当弁理士に期限管理システムにアクセ スする義務があるとはいえない旨を主張するが,前者の点は,何ら正当な理由を基 礎付ける事情に当たらず,後者の点は,前記(ウ)で説示したところからして,本件期 間徒過についてはその前提を欠くものというべきである。
(オ) その他の控訴人の主張する点も,本件期間徒過について正当な理由が認めら れないとの前記認定判断を左右するものではない。 以上に関し,本件技術担当補助者の誤認についての主張からすると,控訴人は, 要するに,弁理士であって国内書面の提出期限の重要性を認識していた本件技術担 当補助者においては,少なくとも事務担当補助者から国内書面の印刷物を渡された 以上,担当弁理士が直接に事務担当補助者に国内書面の作成を指示したといった事 情にかかわらず,自らの経験も踏まえ,国内書面提出期間の徒過に至らないよう対 応すべきであったものであり,そのような対応をしなかった本件技術担当補助者に 本件期間徒過のほぼ全面的な責任があるとの捉え方を前提として,担当弁理士には 正当な理由があったことを主張するものとみられるが,本件技術担当補助者に対す るそのような要求ないし期待は,「業務の進め方」に記載された通常の業務の流れ における技術担当補助者の責任の範囲すらも一定程度超えるものとみ得るものであ り,ましてや,担当弁理士が通常の業務の流れから逸脱した形で指示を行った本件 において,担当弁理士が相当な注意を尽くしていたことを基礎付ける事情とは到底 なり得ないものである。

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令和3(ネ)10025 損害賠償請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和4年1月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 交換用カートリッジの記載が不競法2条1項1号の周知の商品等表示に該当するかが争われました。知財高裁1部は、該当しないとした1審判断を維持しました。

ア(ア) 本件アマゾンサイトのウェブページ(本件切替え画像)において, 別紙3(2)のとおり,交換用カートリッジのイメージ画像の左上部に被告 表示2が,その下の中央部に「待望の」,「交換用カートリッジ」,「つい に発売!!」との本件三段書き表\示が,被告表 示2の左上部に小さく表\ 示された複数の画像が,その上に青色の文字で「【ノーブランド品】タカ ギの浄水器に使用できる、取付け互換性のある交換用カートリッジ...」 との表示が掲載されていた。 
本件切替え画像は,交換用カートリッジのイメージ画像及び本件三段 書き表示の「交換用カートリッジ」,「ついに発売!!」の文字部分から, イメージ画像に表\示された交換用カートリッジの商品の販売広告である ことを理解できる。
また,被告表示2は, 
「タカギ社製
浄水蛇口の交換用カートリッジを
お探しの皆様へ」
と青色の文字で3段書きに表示してなるものである。 
被告表示2の上段の「タカギ社製」の文字部分(被告標章)及び中段 の「浄水蛇口の交換用カートリッジ」の文字部分の2段の記載部分は,\n販売広告の対象商品と関連付けたものとして理解できる。そして,2段 の上記記載部は,その構成態様から,「タカギ」が製造した「交換用カー トリッジ」を表\示したものと読み取ることが可能 であり,また,「タカギ」\nが製造した「浄水蛇口」に適合する「交換用カートリッジ」を表示した ものと読み取ることも可能\であると一応考えられる。 一方で,被告表示2の左上部に小さく表\ 示された複数の画像の上に青 色の文字で「【ノーブランド品】タカギの浄水器に使用できる、取付け互 換性のある交換用カートリッジ...」との表示は,販売広告の対象商品が 「ノーブランド品」であって,「タカギ」が製造した「浄水器」に使用で\nきる「交換用カートリッジ」であることを説明したものと理解できる。 そして,1)「ノーブランド品」とは,ブランドを掲げずに一般名称の みを記した商品を意味するものと解されること,2)原告表示(黒色のゴ シック体の「タカギ」の表\示)は,家庭用浄水器及びその関連商品を購 入しようとする需要者の間において,控訴人の業務に係る商品を表示す るものとして周知となっており(前記1(1)イ),家庭用浄水器及びその 関連商品のブランド名として理解されていたことに鑑みると,控訴人製 の純正品の交換用カートリッジについて「ノーブランド品」と表示する ことは通常考えられないというべきであるから,本件切替え画像に接し\nた需要者は,「【ノーブランド品】タカギの浄水器に使用できる、取付け 互換性のある交換用カートリッジ...」との表示は,販売広告の対象商品 が控訴人製の純正品とは異なる商品であることを示したものと理解する\nものと認められる。 そうすると,「【ノーブランド品】タカギの浄水器に使用できる、取付 け互換性のある交換用カートリッジ...」との表示は,被告表\ 示2の上段 の「タカギ社製」の文字部分(被告標章)及び中段の「浄水蛇口の交換 用カートリッジ」の文字部分の2段の記載部分が「タカギ」が製造した 「交換用カートリッジ」(控訴人製の純正品)を表示したものと読み取る ことを否定する打ち消し表\示としての機能 を有するものと認められる。\nしたがって,本件アマゾンサイトの本件切替え画像の被告表示2に接 した需要者は,被告表\示2の上段の「タカギ社製」の文字部分(被告標 章)及び中段の「浄水蛇口の交換用カートリッジ」の文字部分の2段の 記載部分は,「タカギ」が製造した「浄水蛇口」に適合する「交換用カー トリッジ」を表示したものと理解するものと認められる。 
(イ) 以上によれば,被告表示2における被告標章の使用によって,被告 商品が控訴人製の純正品であると需要者に誤認させて,被告商品の出所\nが控訴人又は控訴人の関連会社であるとの混同を生じさせるおそれが あるものと認めることはできないし,また,その営業主体が控訴人又は 控訴人の関連会社であるとの混同を生じさせるおそれがあるものと認 めることはできない。
イ(ア) これに対し控訴人は,本件アマゾンサイトアンケート調査の結果に よれば,「ノーブランド品」と掲げ,かつ,「タカギの浄水器に使用でき る、取付け互換性のある交換用カートリッジ」と表示されていたとして も,「タカギ」が製造・販売元であると認識する回答者の数は,「タカギ」\nが製造・販売元ではないと認識する回答者の数を上回っており,また, 原告製浄水器を使用したことがある需要者に着目すると,3分の1を超 える需要者は「タカギ」が製造元であると認識していることに照らすと, 「【ノーブランド品】タカギの浄水器に使用できる、取付け互換性のある 交換用カートリッジ」との表示が,被告商品が「タカギ」が製造・販売 する商品ではないと需要者が認識する表\示(打ち消し表 示)であるとい\nうことはできないなどとして,上記調査結果から,本件切替え画像に接 した大多数の需要者は,被告標章を含む被告表示2から,「タカギ」 が被告商品の製造・販売元であると認識する旨主張する。\nそこで検討するに,証拠(甲23ないし25)によれば,本件アマゾ ンサイトアンケート調査は,本件アマゾンサイトに掲載された被告表示 2についての需要者の認識を確認することを目的とし,控訴人がGMO\nリサーチに委託し,2021年(令和3年)4月27日,20歳以上9 9歳以下のオンラインショッピング利用経験者を調査対象者とし,別紙 4(3)の本件アマゾンサイトの商品ページに掲載されている商品の画像及 びその説明文(本件アマゾンサイト画像1)),別紙4(4)の本件アマゾンサ イトの商品ページに掲載されている商品の画像(本件アマゾンサイト画 像2))を提示して,調査対象者が,画像を見ながら質問に回答するオン ラインリサーチを実施し,それぞれの画像につき各500名の回答(回 答者の重複はない。)を得て,その回答結果を集計したものであることが 認められる。
しかるところ,前記1(3)ア(ア)認定のとおり,原告商品の需要者は,家 庭用浄水器及びその関連商品を購入しようとする者であり,原告製浄水 器の交換用カートリッジである被告商品の需要者も,これと同様である ところ,本件アマゾンサイトアンケート調査の調査対象者は,20歳以 上99歳以下のオンラインショッピング利用経験者であって,その中に は,家庭用浄水器及びその関連商品を購入しようとする者以外の者が含 まれている点において,本件アマゾンサイトアンケート調査の結果は, 需要者の認識を正確に反映したものとはいえない。 また,本件アマゾンサイトアンケート調査で調査対象者に提示された 画像は,本件切替え画像全体ではなく,そのうちの被告表示2のみの画 像(本件アマゾンサイト画像2))であり,交換用カートリッジの購入を 検討する需要者が実際に接する画像と異なることに照らすと,本件アマ ゾンサイトアンケート調査の結果から,需要者の認識を確認すること は困難であるというべきである。 したがって,その余の点について検討するまでもなく,控訴人の上記 主張は,採用することができない。
(イ) また,控訴人は,甲18の報告書記載のとおり,本件アマゾンサイト の被告標章に接した複数の顧客から被告商品を控訴人製の純正品である と勘違いして購入した旨のクレームを受けたことを根拠として挙げて, 被告標章の使用によって,被告商品が控訴人製の純正品であると需要者 に誤認させた旨主張する。 しかしながら,甲18の報告書に記載されている「顧客」が本件アマ ゾンサイトで被告商品を購入した者であるかどうかは不明であり,その 数も僅かであることに照らすと,甲18の報告書の記載から,被告標章 の使用によって,被告商品が控訴人製の純正品であると需要者に誤認さ せたものと認めることはできない。 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 前記ア及びイによれば,被控訴人グレイスランドが本件アマゾンサイト で被告商品の広告に被告表示2を掲載した行為による被告標章(「タカギ 社製」の表\示)の使用が,控訴人の商品又は営業と混同を生じさせる行為 に該当するものと認めることはできないから,控訴人の前記主張は,理由 がない。
(3) 小括
以上のとおり,被控訴人グレイスランドが本件アマゾンサイトで被告商品 の広告に被告表示2を掲載した行為による被告標章の使用は,控訴人の商品 又は営業と混同を生じさせる行為に該当するものと認められないから,不競\n法2条1項1号の不正競争行為に該当しない。

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令和2(行ケ)10080等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月27日  知的財産高等裁判所

 医薬用途発明の「実施可能要件」について、患者に投与した場合に,著しい副作用又は有害事象の危険が生ずるため投与を避けるべきことが明白であるなどの特段の事由がない限り,治療効果を有することを当業者が理解できるものであれば足りると判断しました。

(3) 本件出願当時の5−HT1A 受容体部分作動薬の双極性障害のうつ病エピ ソードに対する治療効果に関する技術常識について\n
ア 前記(1)イの記載事項を総合すると,本件出願当時,1)大うつ病(単極性 うつ病)の症状の一つである「大うつ病エピソード」(うつ病エピソ\ード) と双極性障害(双極性障害I)型及びII)型)の症状の一つである「大うつ病 エピソード」(うつ病エピソ\ード)の定義及び診断基準は同一であったこと, 2)大うつ病性障害の患者に有効であることが立証されているすべての抗う つ薬は双極性障害のうつ病エピソードの患者にも有効であると考えられて\nいたこと,3)一方で,双極性障害の患者に対する抗うつ薬の投与によって, 躁病エピソードを誘発し,躁転や急速交代化を引き起こす可能\性があるが, このような可能性がある場合には,抗うつ薬の投与量の調整,気分安定薬\nとの併用等により対応していたことが認められる。 上記認定事実と5−HT1A 受容体部分作動薬が,脳内のシナプス後5− HT1A 受容体に結合することによって発現する5−HT1A 受容体部分作 動作用に基づいて抗うつ作用を有することは,本件出願当時の技術常識で あったこと(前記(2))によれば,本件出願当時,5−HT1A 受容体部分 作動薬一般がその抗うつ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対\nして治療効果を有することは技術常識であったことが認められる。
イ この点に関し本件審決は,本件出願時において,各種の抗うつ薬を双極 性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用することができることは,技\n術常識であるが,一方で,双極性障害の患者に抗うつ薬を使用した場合, 躁病エピソードの誘発,軽躁エピソ\ードの誘発,急速交代化の誘発,及び 混合状態の悪化等の様々な有害事象が生じる危険性があることを考慮する と,全ての抗うつ薬が双極性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用す\nることができるという技術常識があるとは言い難く,5−HT1A 部分作動 薬を双極性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用できることが技術常\n識であるとはいえないなどとして,5−HT1A 部分作動薬を双極性障害の 治療に使用することができることは,本件出願時の技術常識であるとはい えない旨判断した。
(ア) ところで,医薬品の開発は,基礎研究として対象疾患の治療の標的 分子(受容体等)を探索し,標的分子(受容体等)に対する薬理作用及び 当該薬理作用を有する化合物を探索する薬理試験(in vitro 試験,動物実 験)が実施され,このような薬理試験の結果として,化合物が有する薬 理作用が疾患に対する治療効果を有すること(「医薬の有効性」)につい て合理的な期待が得られた段階で医薬用途発明の特許出願がされるのが 一般的であるものと認められる。 一方で,薬機法は,医薬品の製造販売をしようとする者は,その品目 ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければなら ない旨規定し(14条1項),その承認審査においては,申請に係る医薬\n品の名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,\n有効性及び安全性に関する事項を審査し,その審査の結果,申請に係る\n医薬品又は医薬部外品が,その申請に係る効能\又は効果を有すると認め られないとき,申請に係る医薬品が,その効能\又は効果に比して著しく 有害な作用を有することにより,医薬品又は医薬部外品として使用価値 がないと認められるときは,承認を与えない旨規定し(同条2項3号), 厚生労働省令で定める医薬品の承認を受けようとする者は,申請書に,\n厚生労働省令で定める基準に従って収集され,かつ,作成された臨床試 験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければなら\nない旨規定している(同条3項)。この臨床試験は,臨床試験第1相(少 数の健常人に対する投与であり,副作用などの有無をみる。),臨床試験 第2相(少数の患者に対する投与であり,効果などが見込まれるかをみ る。),臨床試験第3相(多数の患者に対する投与であり,効果などがあ ることを確認する。)の3段階の試験で実施される。このように医薬品の 承認審査では,申請に係る化合物の薬効及び安全性(副作用,有害事象\nの有無及び程度等)を総合的に考慮し,「医薬の有用性」について審査し ている。
以上のような医薬品の開発の実情,医薬品の承認審査制度の内容,特 許法の記載要件(実施可能要件,サポート要件)の審査は,先願主義の下\nで,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業 の発達に寄与するとの特許法の目的を踏まえてされるべきものであるこ とに鑑みると,物の発明である医薬用途発明について「その物の使用す る行為」としての「実施」をすることができるというためには,当該医薬 をその医薬用途の対象疾患に罹患した患者に対して投与した場合に,著 しい副作用又は有害事象の危険が生ずるため投与を避けるべきことが明 白であるなどの特段の事由がない限り,明細書の発明の詳細な説明の記 載及び特許出願時の技術常識に基づいて,当該医薬が当該対象疾患に対 して治療効果を有することを当業者が理解できるものであれば足りるも のと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,本件審決が述べる「双極性障害の患者に 抗うつ薬を使用した場合,躁病エピソードの誘発,軽躁エピソ\ードの誘 発,急速交代化の誘発,及び混合状態の悪化等」の「様々な有害事象が生 じる危険性」については,本件出願当時,抗うつ薬と気分安定薬とを併 用することにより,躁転のリスクコントロールが可能であり,躁転発生\n時には抗うつ薬の中止又は漸減により対応可能であると考えられていた\nこと(前記ア3))に照らすと,上記特段の事由に当たるものと認められない。 そして,本件出願当時,5−HT1A 受容体部分作動薬一般がその抗う つ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対して治療効果を有する\nことが技術常識であったことは,前記ア認定のとおりである。
(イ) 以上によれば,本件審決の前記判断は誤りである。
ウ この点に関し被告らは,双極性障害については,鬱病相と躁病相があり, 双極性障害の鬱病相を治療するために抗鬱薬を投与すると,躁転の可能性\nを有意に高め,双極性障害の症状を悪化させる可能性が高いという固有の\n事情が存在し(甲A1,2,31の1,乙A98,106,),臨床上も,双 極性障害の鬱病相の治療において抗鬱薬の使用は慎重に行うべきとされて いることからすれば,全ての抗鬱薬を双極性障害の鬱病相(うつ病エピソ\nード)の治療に用いることができるなどという技術常識は存在しない旨主 張する。 しかしながら,前記イで説示したところに照らすと,被告ら主張の上記 固有の事情があるとしても,本件出願当時,5−HT1A 受容体部分作動薬 一般がその抗うつ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対して治療\n効果を有することが技術常識であったことを否定する根拠にならない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。

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関連事件です。 令和2(行ケ)10079等

◆判決本文
令和2(行ケ)10078等

◆判決本文
令和2(行ケ)10077

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令和2(行ケ)10128  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年1月11日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は引用文献の認定誤りです。

(2) 引用発明における「検出部ID」の技術的意義
上記認定に係る引用発明の「検出部ID」が,「電源タップ4」の住居内 での設置箇所を識別するものであるか否かについて検討する。 引用発明の「検出部ID」は,住居内で「電源タップ4」を一意に識別す る符号であるものの,引用文献1には,前記「検出部ID」が「電源タップ 4」の設置箇所を表す情報と関連するものであることは一切記載されていな\nい。また,電源タップの一般的な使用形態を参酌すると,電源タップを住居 内のどこに設置してどのような電気機器に接続するかは,当該電源タップを 利用する者が任意に決められるものと解される。 引用文献1では,「電源タップ4」に照明器具が接続される態様も開示さ れているものの(【図6】),照明器具は,居間,トイレ,寝室等,住居内 のあらゆる箇所で用いられるものであり,よって,当該照明器具に接続され る電源タップの設置箇所も住居内のあらゆる場所が想定されるものであるか ら,「検出部ID」により「電源タップ4」を一意に識別しても,それは 「電源タップ4」の識別にとどまるものであって,当該「電源タップ4」の 設置箇所も識別できるとする根拠は見出せない。 すなわち,「電源タップ4」の「検出部ID」から住居内の設置箇所を識 別するためには,「検出部ID」と当該「電源タップ4」の住居内での設置 箇所とを対応付けた何らかの付加的情報が必要である。「電源タップ4」の 「検出部ID」という,電源タップを一意に識別する符号から,当該「電源 タップ4」の設置箇所を識別することができる,と認めることはできない。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,本願明細書等の段落【0024】において,照明装置から発信 されるID番号としては「位置ID番号」のみが開示されているところ, 位置ID番号に紐づけられる位置情報に設置箇所(個々の部屋)が含まれ るか否かが明らかでないと指摘する。 しかしながら,次の(ア)ないし(ウ)に照らすと,本願発明の「位置ID 番号」には,居宅内の各部屋を特定する「内部管理ID番号」が含まれる, と理解されるから,被告の上記指摘は上記認定を覆すものではない。
(ア) 段落【0026】及び【0027】においては,情報を受信するク ラウドサーバの側のデータベース内に,居宅内の各部屋を特定する「内 部管理ID番号」が登録されることが記載されており,段落【002 9】以下では,安否確認システムの動作によって,居宅内のどの部屋 (設置箇所)において異常が生じているのかを判定する仕組みが詳細に 説明されている。そうすると,発信装置から発信される「位置ID番 号」が,クラウドサーバの保有する「内部管理ID番号」を含むものと 解しないと,本願明細書等の記載全体を合理的に理解することができな い。
(イ) 段落【0035】,【0040】及び【0042】には,段落【0 024】と異なり,「位置ID番号」が照明装置の設置箇所(居間,ト イレ,寝室等の各部屋)を特定することが明示されている。
(ウ) 段落【0024】において,「位置ID番号」に紐づけられる「位 置情報」は,「設置箇所が存在する施設の住所,並びに設置箇所の緯度 経度及び施設の設置する階数等」(下線付加)である。この「等」に, 設置箇所となる各部屋の名称(居間,トイレ,寝室等)を含めることに よって,位置ID番号が,設置箇所を特定する情報(クラウドサーバの 「内部管理ID番号」に対応する情報)を含むものと解釈することが許 されないとはいえない。 また,設置箇所となる各部屋の名称を「等」に含めることが許されな い,あるいは位置情報をクラウドサーバへ登録する旨について述べたも のにとどまる,と解釈し,当該施設の中での「設置箇所」(各部屋)の 位置情報は,利用者が照明装置の設置後にアプリを用いてクラウドサー バに登録する,と理解することも可能である。段落【0019】の「利\n用者は,取得したアプリにしたがい,・・・照明装置の設置箇所・・・ の設定登録を行う」との記載も参酌すると,むしろ,かかる理解が本筋 であるともいえる。 前記(1)のとおり,照明装置から発信される「ID番号」とクラウドサ ーバに登録される「ID番号」とを相互に対照することができて初めて 本願発明は所期の作用効果を奏することができるのであるから,本願明 細書等に接する当業者の理解は,上記のいずれかであると考えられる。
イ 被告は,電源タップに接続される電気機器の設置箇所(部屋)は,電気 機器の種別によって通常定まるから,引用発明の「検出部ID」は,単に 「電源タップ4を一意に識別する符号」,すなわち,住居内の「どれ」か ということを識別する符号にとどまるものでもなく,住居内で「どこ」に 設置されているのかを識別する符号であって,位置情報として意味を有し, 本願発明の「内部管理ID番号」と同じ役割を有している旨主張する。
たしかに,被告がその主張の根拠とする引用文献1の【図5】において, 「住居ID」,「検出部ID」(図5の「計測部ID」との記載は「検出 部ID」の誤記と認められる。),「機器種類」,「稼働状況」などから なる機器稼働データが例示されており,たとえば,「検出部ID」が“i d13”の場合は,「住居ID」が“hid7”の場合も“hid2”の 場合も「機器種類」が“電気炊飯器”であること,「検出部ID」が“i d17”の場合は,「機器種類」が“PC”,“アイロン”,あるいは “ポット”であることが例示されており,「検出部ID」と電気機器の種 類,ひいては「電源タップ4」の設置箇所との間に何らかの相関関係があ ることも推測される。 しかしながら,引用文献1の【図5】におけるこれらの例示は,利用者 が住居内に各電源タップを任意に設置して電気機器に接続した結果として 生じる,「検出部ID」と接続されている電気機器との対応関係を示して いるにすぎないというべきであって,たとえば,前記ポットは,台所,居 間,ダイニング,寝室のいずれでも利用されることに鑑みると,【図5】 の記載をもってして,「電源タップ4」の「検出部ID」と当該「電源タ ップ4」の設置箇所との間に何らかの対応関係が定められているとするこ とはできない。
また,引用文献1の段落【0075】ないし【0078】には,実施の 形態3に係る生活状況監視システムにおいて,「電源タップ4」に機器種 類を設定する「スライドスイッチ20a」を設けることが記載されており, 【図16】には,機器種類として,「冷蔵庫」,「炊飯器」,「テレビ」, 「アイロン」,「レンジ」,「その他」が例示されており,「スライドス イッチ20a」がこれらの機器種類の中から任意に機器種類を選択するこ とが示されている。 してみると,引用文献1に記載の「電源タップ4」は,「冷蔵庫」, 「炊飯器」,「テレビ」等を含め,種々の電気機器に接続されることを前 提としたものであり,当該「電源タップ4」が設置される箇所も,台所, 居間等,住居内の様々な箇所が想定されるものであるから,「電源タップ 4」の「検出部ID」と当該「電源タップ4」の設置箇所との間には,元 来関連性はない。
以上によれば,引用文献1に,「電源タップ4」を一意に識別するため の「検出部ID」に基づいて,当該「電源タップ4」の設置箇所を識別す るという技術思想が開示されているとは認められず,被告の上記主張は採 用することができない。
ウ 被告は,住居内の電源タップ及びそれに接続される家電機器は,いった ん設置されれば移動しないのが通常であること,引用発明においては「電 源タップ4」の設置箇所が判明しているからこそ警戒すべき状況か否かの 判定ができること,を考慮すれば,「電源タップ4」の「検出部ID」は 設置箇所を識別し得る情報であり,本願発明の位置情報(設置箇所の情報 を含む。)と相違しない旨主張する。 しかしながら,以下のとおり,被告の上記主張は採用することができな い。
(ア) 引用文献1の【図13】には,警戒すべき状況か否かを判定するた めの条件の例が記載されている。この記載からは,電気機器の種別(テ レビ,炊飯器,アイロン等)と稼働状況(稼働中か停止中か)に応じて 警戒状況を判定するという技術思想は読み取れるものの,電気機器の種 別が同一である場合に,当該電気機器の設置箇所に応じて判定する条件 を異ならせる(例えば,居間と寝室のテレビとで判定条件を異ならせ る)という技術思想を読み取ることはできない。 例えば,【図13】に記載された判定条件のうち,「3日以上,『電 気炊飯器』の『停止』が続いた場合」は,住人が食事をとっていないと いう事態をうかがわせるから,かかる場合をもって段落【0057】等 にいう「警戒すべき稼働状況」として登録する,というのが引用発明の 技術思想であると解される。電気炊飯器の設置箇所は,通常,「台所」 という住居内の特定の部屋であるが,その間に住人が台所に立ち入った か否かが,警戒状況か否かを判定するための条件とされているものでは ない。 このように,引用発明においては,警戒すべき状況か否かを判定する ための情報として,特定の電源タップに接続された電気機器の種別を用 いているが,当該電源タップ及びそれに接続された電気機器の設置箇所 と関連する情報を用いることの開示又は示唆はない。
(イ) 引用文献1の【図6】には,二つの部屋のそれぞれにおいて,同一 の種別の電気機器である照明装置が「電源タップ4」に接続される態様 が開示されており,二つの部屋にそれぞれ設けられた「電源タップ4」 が,「検出部ID」を「遠隔監視装置1」に送信するものと認められる が,この場合であっても,上記(ア)に示したとおり,「検出部ID」は, 各々の電源タップ及びこれに接続された電気機器を一意に識別するため の符号であるにとどまり,「電源タップ4」の設置箇所を示す情報では ないから,「検出部ID」により各部屋を識別できるとする技術的根拠 は見出せない。
(4) 以上によれば,引用発明の「検出部ID」は,「電源タップ4」の住居内 での設置箇所を識別するものではないから,本願発明の位置情報のうち,住 居内における設置箇所を特定する「内部管理ID番号」(具体的には居間, トイレ,寝室等の各部屋)とは技術的意義を異にする。 それにもかかわらず,本件審決は,引用発明の「検出部ID」は本願発明 の「内部管理ID番号」に相当するとして,「施設内での設置箇所に係るI D番号」が安否確認に用いられることを一致点の認定に含めており,この認 定には誤りがあるといわざるを得ない。その結果,本件審決は,原告の主張 に係る相違点5を看過しており,上記一致点の認定誤りは本件審決の結論に 影響を及ぼす誤りである。

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令和3(ネ)10031  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年1月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 IPブリッジによる侵害事件です。知財高裁は技術的範囲に属しないとした1審判断を維持しました。控訴人は本件発明はDRAMも含むと主張しましたが、裁判所は、明細書における本件発明の課題とその解決原理から、含まれないと判断しました。

イ 控訴人の主張ア(イ)(本件発明の課題解決原理に基づく検討について)に つき
本件発明の技術的意義(前記1(2))に鑑みれば,本件明細書に開示され た発明は,半導体チップ上の領域ごとのゲート電極周縁長の合計が異なる 半導体集積回路装置(具体的にはシステムLSI)において,このような 領域ごとのゲート電極周縁長の合計のばらつきが,従来知られていたマイ クロローディング効果による局所的なパターン寸法の変動などとは異な り,半導体チップ全体にわたるCDロスに許容できないほどの変動をもた らすという,本件特許の出願時においては新規な課題を見い出し,これを, ダミーパターンを挿入してゲート電極周縁長のばらつきを抑えることに より解決したものである。したがって,本件発明の課題とその解決原理に 照らすと,本件発明の「半導体集積回路装置」は,システムLSIを意味 するものと解される。
本件特許の出願時に既に慣用されていたDRAMにおいて,メモリセル アレイを構成するビットラインやワードラインが,DRAMにおける他の\n回路と比較して周縁長が密な回路パターンであり,メモリセルアレイ領域 とそれ以外の回路領域とではゲート電極周縁長の合計がばらつくという 技術常識があったとしても,それが,DRAMを構成する半導体チップ全\n体にわたるCDロスに許容できないほどの変動をもたらすものであるこ とは,本件明細書に何ら言及されておらず,また,上記の新規な課題が, システムLSI中の一部の領域にすぎないDRAM単体においても同様 に生じるものであると認めるに足りる証拠はない。 そうすると,本件発明の課題とその解決原理に照らして,本件発明の「半 導体集積回路装置」は,システムLSIを意味するものと解され,DRA Mを含むと解することはできない。
ウ 控訴人の主張ア(ウ)(審査経過に基づく検討について)につき
控訴人は,審査経過に関し,第1回目及び第2回目の拒絶理由通知につ いて,審査官は,本件特許の発明がシステムLSIの発明であるとは認識 しておらず,また,出願人の意見書においても,本願発明と引用発明の相 違点について,本願発明はシステムLSIであるのに対して引用発明はシ ステムLSIではないという説明はしていないと主張する。 しかし,そもそも特許発明の技術的範囲の画定は,特許請求の範囲の記 載に基づいて定められるが,特許請求の範囲に記載された用語の意義の解 釈は明細書及び図面を考慮して行われるのであって(特許法70条1項及 び2項参照),特許出願の審査過程において,審査官がその特許発明をどの ように理解していたかということは,裁判所の特許発明の技術的範囲の画 定の判断を拘束するものではない。
また,出願人は,第1回目の拒絶理由通知に対する意見書(平成15年 11月28日提出,乙2)において,特許法29条1項3号及び同条2項 の規定に該当しない理由として,「言い換えると,ダミーパターンを挿入す ることによって,異なるマスクパターンレイアウト間でパターンの粗密の 程度を小さくします。このため,ライン状パターンに品種に依存した寸法 変動が生じることを防止できるので,DRAM等の搭載率が用途又は仕様 により異なるシステムLSIにおいても,ゲート電極又はメタル配線等の 加工寸法をマスクパターンレイアウトと無関係に一定にできます。従って, 請求項4の発明によると,動作マージンのバラツキが解消された半導体集 積回路装置を実現できるという格別の効果が得られます。」(乙2〔2〜3 頁〕)と記載し,第2回目の拒絶理由通知に対する意見書(平成16年3月 25日提出,乙4)において,特許法29条2項の規定に該当しない理由 として,「言い換えると,ダミーパターンを挿入することによって,異なる マスクパターンレイアウト間でパターンの粗密の程度を小さくします。こ のため,本願明細書の段落番号[0132]に記載されておりますように, 『半導体集積回路装置の品種によりマスクパターンレイアウトが大きく 異なる場合にも,マスクパターンレイアウトの違いに起因してライン状パ ターンに寸法ばらつきが生じることを防止できる。従って,DRAM等の 搭載率が用途又は仕様により異なるシステムLSIにおいても,ゲート電 極又はメタル配線等の加工寸法をマスクパターンレイアウトと無関係に 一定にできるので,動作マージンのバラツキが解消された半導体集積回路 装置を実現できる』という格別の効果・・・が得られます。」(乙4〔4頁〕) と記載し,いずれの意見書においても,本願発明がシステムLSIに用い られて効果を生ずることを明確に述べており,このような段階を踏まえて 本件特許が登録されたものである。 したがって,仮に,審査官が,拒絶理由通知を発出する際に,特許請求 の範囲に記載された発明の要旨認定において,「半導体集積回路装置」を, その一般的な字義どおりに,DRAMを含む半導体集積回路装置全般と解 釈しており,また,出願人の意見書において,本願発明と引用発明の相違 点として,本願発明はシステムLSIであるのに対して引用発明はシステ ムLSIではないことが明示されていなかったとしても,それに基づいて, 本件発明の「半導体集積回路装置」にシステムLSIではないDRAM自 体が含まれるということはできない。
(3) そうすると,本件発明における「半導体集積回路装置」(構成要件1A,1\nE,5B,5E等)という語は,システムLSIを意味するものとして用い られており,DRAMはこれに含まれないというべきであり,DRAMであ ることに争いのない被控訴人製品(前記第2,2による引用のうちの原判決 「事実及び理由」第2,2⑽(原判決8頁20〜23行目))は,本件発明1 の構成要件1A,1E,本件発明5の構\成要件5B,5Eをいずれも充足せ ず,本件発明1及び本件発明5の技術的範囲のいずれにも属さないものと認 められる。 控訴人は種々主張するが,その主張は,いずれも採用することができない。

◆判決本文

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令和2(行ケ)10113  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年1月19日  知的財産高等裁判所

 不使用取消審判の請求が権利濫用かが争われました。知財高裁は、権利濫用とまではいえないとした審決を取り消しました。

 上記各事実によれば,被告は,ブランデッドボースト社を買収した後,本 件審判請求に及ぶ直前まで,原告との間で,原告が保有する本件商標を含む 日本及びその他の国のBOASTブランドに係る登録商標の買取りについて 協議をしていたが,協議中断の数か月後に本件審判請求に及んだものである。 こうした経緯に加え,被告は,本件審判請求における手続において,原告 が,「2017年10月3日,請求人は,ブランドボースト社(当審注:ブ ランデッドボースト社のこと)より,同社の「BOAST」ブランド事業を 買収し,同社が保有する米国「BOAST」登録商標の移転を受けた(乙1)。 したがって,請求人は,被請求人が保有する日本「BOAST」登録商標に 干渉しない義務を含む,本件和解契約に基づく義務を履行する責任を負う」, 「また,請求人は,本件和解契約に基づき,日本「BOAST」登録商標に 係る被請求人の権利に対する干渉を行ってはならない義務を負う」旨主張し たのに対して,具体的に弁駁していないことは記録上明らかであり,また, 本訴における原告による同旨の主張についても反論していないことからする と,被告は,ブランデッドボースト社から米国内における「BOAST」事 業を買収するに際して,原告らと同社との間では,同社が,世界中でボース ト社又は原告によるその他の登録により保護される原告らの商号権及び商標 権を妨害しない旨の本件和解契約に基づく義務を負担しており,上記買収に より被告も同義務を履行する責任を負うことを認識しながら,これを前提と して,原告との間で,原告が保有する本件商標を含む日本及びその他の国の BOASTブランドに係る登録商標の買取り交渉をしていたものと認められ る。
そうすると,被告は,原告との間で,原告が保有する本件商標を含む日本 及びその他の国のBOASTブランドに係る登録商標の買取り交渉が頓挫す るや否や,原告が保有する商標権を妨害してはならない旨の上記義務に反す ることを知りながら,本件商標の取消しを求めて本件審判請求に及んだもの と認めるのが相当である。したがって,本件審判請求は,金銭的負担をすることなく本件商標を使用することを企図し,取消審判制度が何人も申し立てることができることに藉\n口して,専ら原告を害する目的でしたものと認められるから,権利の濫用に 当たるものというべきである。

◆判決本文

審決(取消2018−300722)は、下記のように、権利濫用とまではいえないとして、不使用であるので登録を取り消すと判断していました。
 イ 判断
上記事実によれば、被請求人らとブランドボースト社との間で、互いの商号及び商標に係る権利について妨害しないことを含む本件和解契約が結ばれていたことは窺えるものの、そのような当事者間の合意が、本件商標に対する不使用取消審判の請求までも禁止するものであるかは、証拠上明らかでなく、当該契約違反か否かは措くとしても、請求人による本件審判の請求が専ら被請求人を害することを目的としていると認められる事情を見いだすこともできない。また、前記(1)の不使用取消制度の趣旨からすれば、登録商標は使用をしているからこそ、保護を受けられるのであって、一定期間登録商標が使用されていない場合には、保護すべき信用が存しないのであるから、取り消されてもやむを得ないものである。
そして、後述するとおり、被請求人は本件商標の使用について、何らの主張、立証もしていないものである。なお、請求人と被請求人との登録商標買取り交渉が合意に至らなかった状況において、本件商標の不使用を理由として、請求人が本件審判請求を行ったとしても、そのこと自体は格別不自然とはいえない。その他、請求人による本件審判の請求が専ら被請求人を害することを目的としていると認められる場合などの特段の事情は見いだせず、本件審判請求が権利の濫用であるとはいえないし、信義則違反であるとして本件審判請求が成り立たないとすべきともいえない。   

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令和3(行ケ)10107  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年1月19日  知的財産高等裁判所

 商標「花間堂」が、商標法4条1項10号,15号,19号又は7号の無効理由があるかが争われました。知財高裁は、無効理由無しとした審決を維持しました。

 また,仮に,引用商標の中国における周知性が認められると仮定しても,前 記認定事実によれば,被告は,中国人であるものの,来日してから長らく我が 国に居住し,本件商標の登録出願に先立って「旅程管理業務を行う主任(国内)」 の資格を取得し,本件商標の商標登録後,引用商標が登録出願されるまでに, 実際に本件商標を構成する「花間堂」の文字を含む名称のツアーを主催したこ\nとが認められることからすると,本件商標の指定役務である「宿泊施設の提供, 宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」等のために本件商標を登録出願して 登録を受けたものと推認されるところであり,また,本件商標を構成する文字\nを選択した理由についても具体的に陳述しているところである。このような事 実関係からすれば,被告が本件商標の登録出願をした経緯に,不正の利益を得 る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的があったとは認め難く, 本件全証拠を検討してみても,被告に上記のような目的があったと認めるに足 りる証拠はない(なお,引用商標の中国における周知性についても,原告提出 の書証中には,原告が運営する「花間堂」を「中国大陸で有名な高級チェーン ホテル」(前記1(3)イ(ウ)),「中国の有名な民宿ブランド」(同(エ)),「中 国大陸の有名な高級ホテルブランド」(同(オ)),「中国国内の有名な優れた リゾートホテルブランド花間堂」(同(カ))として紹介するものがあるものの, 該当部分の抄訳であり,当該記事内容やその記事がどういった媒体からによる ものであるのかの詳細が不明であるし,その他のものを併せても,これらの記 事等のみから,引用商標が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において, 中国の需要者の間で原告の業務に係る役務を表示するものとして周知であると\n認定することはできず,また,「花間堂」の中国国内における売上高,利用者 数,旅行業界におけるシェア等に関する証拠もないから,上記中国における周 知性を認めることはできないことを念のため付言する。)。 そうすると,本件商標は,商標法4条1項19号に該当するものとはいえず, これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10067  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和4年1月12日  知的財産高等裁判所

 物品の認定があやまっているとして、類似するとした審決を取り消しました。本件意匠にかかる物品は「インジェクターカートリッジ」であり、「インジェクターカートリッジ」とは,「注射器用の交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」を意味する。と、引用意匠の「注射器用シリンジ」とは非類似物品と判断されました。\n

1 本件審決は,本願意匠が引用意匠に類似し,意匠法3条1項3号に該当する から意匠登録を受けることができないと判断した。
そこで検討するに,意匠は物品と一体をなすものであるから,登録出願前に日本 国内若しくは外国において公然知られた意匠又は登録出願前に日本国内若しくは外 国において頒布された刊行物に記載された意匠と同一又は類似の意匠であることを 理由として,意匠法3条1項により登録を拒絶するためには,まずその意匠にかか る物品が同一又は類似であることを必要とし,更に,意匠自体においても同一又は 類似と認められるものでなければならない(最高裁判所昭和45年(行ツ)第45 号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁参照)。 そうすると,物品の同一性又は類似性の認定に誤りがある場合には,意匠法3条 1項該当性の判断に誤りがあるというべきである。 2(1) 原告は,本件審決が,本願意匠に係る物品について「医療用注射器の外筒」 と認定したことが誤りであると主張し,これに対し被告は,1)本件審決は,本件願 書等の記載から本願意匠に係る物品を「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有す\nるもの」と認定したところ,この判断に誤りはなく,2)原告が,本件意見書や本件 審判請求書で本願意匠と引用意匠の物品が「注射器等に用いられるカートリッジ」 であって「物品が共通する」などと主張していたことは上記1)の認定を裏付けるも のであり,原告が,本訴において,本件審決以前にしていた主張と異なる主張をす ることは禁反言により許されないなどと主張している。
(2) そこで検討するに,本件意見書や本件審判請求書において,原告は,本願意 匠と引用意匠の物品が「注射器等に用いられるカートリッジ」であって「物品が共 通する」などと主張していたことが認められるが(乙5,7),意匠登録出願につい ての拒絶理由の存否は,審査官が職権により判断すべきものであって(旧法17条), 出願人が審査段階又は審判段階において述べたことについて自白の拘束力が働くも のではない上,権利行使の当否ではなく権利設定の適否が問題となる審決取消訴訟 である本件において,被告は行政庁として対応しているものであって,本願意匠の 意匠に係る物品につき,査定及び審判の各段階における原告の主張が本訴における 主張と異なるものであったことにより被告の利益が不当に害されるとの関係もない ことからすると,本件意見書や本件審判請求書における上記の原告の主張をもって, 禁反言の法理の適用などによって原告が本訴において本件審決以前にしていた主張 と異なる主張をすることが許されないとまでいうことはできない。 また,被告以外の第三者との関係において,禁反言の法理が適用されることによ り,原告が本願意匠に係る意匠権を行使する場面に制限を受けるおそれがあるとし ても,特定の当事者間における権利行使の制限の当否と権利の付与の適否とは,お よそ場面が異なるのであるから,直ちに本願意匠について,意匠権登録による保護 を与えるべきではないなどということはできない。
(3) さらに,審決取消訴訟の審理対象は,当該審決の判断の違法であり,その範 囲は当該審判手続において具体的に争われた拒絶理由に限定されるものであるから (最高裁判所昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集3 0巻2号79頁参照),各当事者は,審判手続において具体的に争われていない拒絶 理由を主張することは許されないものの,審判手続において具体的に争われた拒絶 理由に係る判断の当否に係る主張やそれを裏付ける証拠の提出についてまで制限を 受けるものではない。そして,原告の,本願意匠の意匠に係る物品が「自動注射器 等の内部に挿入される,交換可能な薬液溶液」であり,引用意匠に係る物品である\n「注射器用シリンジ」とは異なる旨の主張は,本件の審判手続について争われた拒 絶理由である「引用意匠との類似」に関する主張であって,審理対象に含まれない 事項に係るものではないから,この観点からも原告の主張を制限する理由はない。
(4) そこで,以下,原告が,本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品が異なると主 張していることを前提として,本願意匠に係る物品について検討する。 3(1) 意匠法24条1項は「登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添附した 図面に記載され又は願書に添附した写真,ひな形若しくは見本により現わされた意 匠に基いて定めなければならない。」と規定する。 また,旧法6条1項3号は,意匠登録出願の際に提出すべき書類に,「意匠に係る 物品」を記載すべき旨規定し,意匠法施行規則別表第一には意匠に係る物品の欄に\n記載すべき区分が定められているが,同表には「インジェクターカートリッジ」と\nの区分の記載はない(乙2,3,15。なお,同表には,「インジェクター」を含む\n区分の記載もなく,「カートリッジ」を含むものとしては「レコードプレーヤー用カ ートリッジ」の区分の記載があるのみである。)。同表の備考二には,「この表\の下欄 に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは, その下欄に掲げる物品の区分と同程度の区分による物品の区分を願書の「意匠に係 る物品」の欄に記載しなければならない。」と記載されている。そして,同規則様式 第2備考39には「別表第一の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品\nについて意匠登録出願をするときは,「【意匠に係る物品の説明】」の欄にその物品の 使用の目的,使用の状態等物品の理解を助けることができるような説明を記載する。」 と記載されている。
(2) 前記(1)の各規定を踏まえ,本件願書等の記載から,本願意匠の意匠に係る物 品が何であるか検討する。本件願書等(乙1)の記載をみると,【意匠に係る物品】 として「インジェクターカートリッジ」とあるほか,【意匠の説明】及び図面はいず れも別紙第1記載のとおりであって,本件願書等には【意匠に係る物品の説明】の 欄はなく,その余の欄にも意匠に係る物品の説明は記載されていない。本件願書等 における物品を示唆する記載は「インジェクターカートリッジ」との文言及び図面 のみである。
(3) そこで,「インジェクターカートリッジ」との文言について検討すると,これ は,「インジェクター」と「カードリッジ」という2つの単語が組み合わされたもの と認められる。
ア 「インジェクター」についてみると,新英和大辞典第六版(乙9)には,外 来語である「インジェクター」のもとの英単語である「injector」について,「注射 する人,注入器,注射器」という意味が記載されており,証拠(甲7,15)によ ると,本件優先日より前に,糖尿病の注射治療に用いる注射薬として「オートイン ジェクター」と呼ばれる,ボタンを押すだけであらかじめ充填されている1回分の 薬液が自動的に注入されるGLP−1受容体作動薬の注入器及び「アポカインイン ジェクター」との名称の電動式医療品注入器(原告の主張する自動注射器を意味す るものと推認される。)が既に存在していたことが認められる。加えて,原告及び被 告ともに,インジェクターが「注射器」を意味するものと認識している。そうする と,本件において,「インジェクター」は注射器を意味すると推察される。
イ 「カートリッジ」についてみると,外来語である「カートリッジ」のもとの 英単語である「cartridge」について,新英和大辞典第六版(乙9)には,「弾薬筒, 薬筒,薬包,実包」「(機械・器具などの一部に取換えのできるように工夫された液 体・ガスなどの)小容器」,ウィズダム英和辞典(甲8)には「交換[詰め替え]用容 器」,New Oxford American Dictionary(甲9)には「巻かれた写真用フィルム,イ ンク,その他の物又は物質を内包する容器であり,装置の中に挿入するべくデザイ ンされたもの」との意味がそれぞれ記載されている。そして,証拠(甲13)によ ると,本件優先日より前に,専用注入器に装着して使用する「カートリッジ製剤」 と呼ばれるインスリン製剤が存在していたことが認められる。また,本件優先日よ り前に公開されていた特許公報(甲12,28〜32)には,自動注射器,注射器 装置,ばね駆動式の注射装置,ペン型注射器及び医療用自動注射装置に用いられる, 薬を充填した小容器を意味する「カートリッジ」に関する記載(その中には,薬剤 カートリッジ,薬物充填カートリッジなどと記載されている部分もある。)があるこ とが認められる。そうすると,「カートリッジ」は交換用の液体・ガスなどを充填し た小容器を意味するものと推測される。なお,上記各証拠に照らす限り,「カートリ ッジ」が文言上,「外筒」を意味するものと認めることはできない。
ウ 次に,「インジェクターカートリッジ」の語句について検討するに,被告は, 本件願書の【意匠に係る物品】の記載は「インジェクターカートリッジ」であり, 「インジェクター用カートリッジ」ではないなどとも主張するが,証拠(甲17〜 20,22,23)によると,「カートリッジ」の文言は,「トナーカートリッジ」 「インクカートリッジ」のようにカートリッジ自体についてその内容物を意味する 文言とともに用いられる場合がある一方で,浄水器に用いられるカートリッジにつ いて「浄水器用カートリッジ」とする登録意匠と「浄水器カートリッジ」とする登 録意匠とが存在し,「浄水器カートリッジ」が浄水器用のカートリッジを意味する場 合があることが認められ,「インジェクターカートリッジ」という文言をもって,イ ンジェクター用のカートリッジを意味するものと理解することも不自然ではない。 そして,本願意匠の意匠に係る物品として,出願人である原告が,注射器を意味す る「インジェクター」のみにとどめず,あえて「インジェクターカートリッジ」と したものであることを併せ考慮すると,「インジェクターカートリッジ」は,「注射 器用のカートリッジ」を意味すると認めるのが相当である。
エ 前記ア〜ウを総合すると,「インジェクターカートリッジ」は,「注射器用の 交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」を意味すると認めるのが相当である。\n
(4) そうすると,本願意匠の意匠に係る物品を「医療用注射器の外筒の用途及び 機能を有するもの」とした本件審決の認定には誤りがあるというほかない。もっと\nも,本件願書等には,「インジェクター」(注射器)が「自動注射器」を意味するこ とまでを示唆する記載はなく,本件優先日当時において,一般に,「インジェクター カートリッジ」が自動注射器用のカートリッジを意味していたと認めるに足りる証 拠もないから,本願意匠の意匠に係る物品は,自動注射器に限ることなく,「『注射 器』用の交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」であると認めるのが相当で\nある。
(5) 被告は,本件審決は「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するインジェ\nクターカートリッジ」であると認定したのであって「医療用注射器の外筒」と認定 したものではないから原告の主張は前提を欠くなどと主張するが,物品の同一性及 び類似性は,物品の用途及び機能等を比較して実質的に判断すべきところ,本件審\n決の認定は「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するもの」というものであっ\nて実質的に上記原告の主張のとおり「医療用注射器の外筒」と認定したものといえ る。被告の上記主張は形式にすぎ,本質を看過したもので相当ではない。 また,被告は, 本件願書に【意匠に係る物品の説明】の欄を設けて物品の理解を 助ける説明を記載し,参考図を提出する必要があったと主張しているところ,前記 3(1)のとおり,意匠法施行規則別表第一には「インジェクターカートリッジ」との\n区分の記載はなく,また,「インジェクターカートリッジ」が一般用語とはいえない ことからすれば,被告の主張するように【意匠に係る物品の説明】を記載するのが 適当であったとはいえるものの,このことから,本願意匠に係る物品が「医療用注 射器の外筒の用途及び機能を有するもの」であると直ちに認定できるものではなく,\n上記被告の主張は,本願意匠に係る物品についての上記認定に影響しない。
4 他方,本件審決は,別紙第2記載の注射器の意匠のうち,「注射器用シリンジ」 の意匠を引用意匠としているところ,当該部分に係る物品は,注射器用外筒の用途 及び機能を有するものと認められる。\nそうすると,本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は共通しない。
5 したがって,本件審決の本願意匠に係る物品の認定及び本願意匠と引用意匠 の同一性の認定には誤りがあるから,取消事由1(本願意匠に係る物品の認定及び 本願意匠と引用意匠の物品の同一性(類似性)の認定の誤り)には理由がある。

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令和3(行ケ)10050 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月22日  知的財産高等裁判所

 原告は個人で本人訴訟です。無効審判も代理人無しです。被告は富士フイルムです。 進歩性違反なしとした審決が維持されました。被告は訂正無しでした。

ア 原告の主張(1)について
(ア) 前記1(3)で検討したとおり,従来の撮像装置においては,ヒンジユ ニットを本体に連結する第1ヒンジに係る軸Aが,ディスプレイをヒン ジユニットに支持する第2ヒンジの外側で第2ヒンジに係る軸Bと交 差し,軸A上の一対の第1ヒンジがディスプレイの外側に突出して配置 されているために,ヒンジユニットがディスプレイよりも大きくなって しまうという課題があったところ,本件発明1は,この課題を解決する ために,一対の第1ヒンジの一方が一対の第2ヒンジの間に配置される 構成(構\成要件1Fの構成)を採ったものであり,この点に技術的意義\nがあるということができる。 他方で,前記2(1)及び(2)によれば,甲1発明においては,軸受44 の孔44bを有する支持部44eが,孔44aを有する支持部44dよ りも液晶表示ディスプレイ3に近い側にあり,軸受44の支持部44d\n及び第1回転軸41の他方端が貫通するガイド45が,基台43におけ る第2回転軸42の他方端を軸支するサイドフレーム46と反対側のカ メラ縦方向の一辺に配置されている(構成要件1gの構\成。甲1公報の 段落【0028】ないし【0030】及び図1ないし3)。そうすると, 甲1発明においては,本件発明1における「一対の第1ヒンジ」に相当 する支持部44d及びガイド45の一方が,本件発明1における「一対 の第2ヒンジの間」に相当する支持部44eとサイドフレーム46との 間に配置されているものではないから,甲1発明は,構成要件1Fの構\ 成を備えるものではない。 以上によれば,本件発明1及び甲1発明は,甲1発明が構成要件1F\nの構成を備えていない点に実質的な相違があるといえ,両発明を対比し\nた場合には,この点を相違点として認定するのが相当であるから,両発 明について,ディスプレイ及び中間に位置するプレートが共に動く方向 とディスプレイのみが動く方向とが,縦方向又は水平方向のいずれであ るのかの違いしかないということはできない。 (イ) また,前記2(1)及び(2)によれば,甲1発明2は,甲1発明と構成\n要件1c及び1f以外の構成を共通にするものであるところ,上記(ア) で検討したとおりの構成要件1gの構\成の内容からすれば,甲1発明2 も,構成要件1Fの構\成を備えていないものといえる。 そうすると,甲1公報の段落【0074】において開示されている構\n成どおりの図を描けば,本件発明1及び甲1発明は同じものになるとい うことはできない。
(ウ) 以上によれば,原告の主張(1)は採用することができない。
イ 原告の主張(2)について
(ア) 原告の主張(2)は,善解するに,甲1発明において軸受の方向を90 度ずらして取り付けることにより,構成要件1Fの構\成と同様の構成を\n採ることができること,このことは甲1公報の段落【0074】に開示 されていることを主張するものと解される。 (イ) しかしながら,甲1公報の段落【0074】には,甲1発明におい て,カメラ縦方向回りに左右に回動させるヒンジユニット及びカメラ横 方向回りに上下に回動させる液晶ディスプレイのそれぞれの回動の向 きを,ヒンジユニットをカメラ横方向回りに,液晶ディスプレイをカメ ラ縦方向回りとしてもよいことが記載されているにすぎず,軸受の方向 を90度ずらして取り付けることが開示され,又は示唆されているもの とはいえない。また,上記アで検討したとおり,甲1公報の段落【00 74】には,構成要件1Fの構\成が開示されているものではないという べきである。
(ウ) 以上によれば,原告の主張(2)は採用することができない。
ウ 原告の主張(3)について
(ア) 本件明細書の図3について検討するに,第2ヒンジ24に係るヒン ジブラケット33が支持部21に接している部分の位置を基準とすれば, 第1ヒンジ23の軸B寄りに位置する方のヒンジブラケット31は,一 対の第2ヒンジ24の間に配置されているといえる。ただし,図3にお いては,上記ヒンジブラケット33の先端は,原告が主張するように, 支持部の外側に向かって水平方向に延びており,同ヒンジブラケット3 3に設けられた軸B回りにディスプレイを回動可能に支持する孔が上記\n第1ヒンジ23の外側に位置する形となっているようにもみえる。その ようにみると,本件明細書の図3における軸A及び軸Bは,図6Aと同 様の位置関係となるといえるところ,図6Aは,ヒンジユニットが大き くなってしまうという課題を有する従来技術が「参考例」として記載さ れているものであると解されることからすれば,図3は,本件発明1の 実施形態を説明するための図1Aの分解斜視図であると説明されてはい るものの,本件発明1の実施例を示す図面としては,適切なものではな いといわざるを得ない。 しかしながら,本件明細書においては,本件発明1の実施形態を示す 図面として図4Aが記載されているところ,図4Aは,一対の第1ヒン ジの一方が一対の第2ヒンジの間に配置されるという構成要件1Fの構\ 成を適切に示した図面であるといえる。そして,図4Aは,図3のヒン ジユニットの一対の第1ヒンジ及び一対の第2ヒンジの配置を示す模式 図として説明されているから,図3を上記原告の主張するようにしか読 み取ることができないというものではない。
(イ) そうすると,本件明細書の図3は,原告の主張するようにしか読み 取ることができないというものではないから,図3の記載内容を根拠と して,本件発明1が甲1発明と同じであるなどということはできない。
(ウ) 以上によれば,原告の主張(3)は採用することができない。
エ 原告の主張(4)について
(ア) 前記1(2)によれば,本件明細書の図6A及び図6Bは,ヒンジユニ ットが大きくなってしまうという課題を有する従来技術が「参考例」と して記載されているものである。そうすると,図6A及び図6Bの記載 内容を根拠として,本件発明1が甲1発明と同じであるなどということ はできない。
(イ) 以上によれば,原告の主張(4)は採用することができない。
オ その他 このほか,原告は,本件発明1は甲1発明に対する新規性を欠くとして 種々の主張をするが,これまで検討したところに照らすと,原告の主張は 採用することができない。
(4) 小括
以上によれば,本件発明1ないし5は甲1発明に対する新規性を欠くもの ではないとした本件審決の判断に誤りはない。

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令和3(ネ)10008  謝罪広告等請求控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年12月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 芸能人が、私立大学に裏口入学をしたこと等を内容とする記事のネット配信、車内広告などが名誉毀損およびパブリシティ権の侵害であるとしてする出版社を訴えました。1審は440万の損害賠償を認めました。知財高裁はこの判断を維持しました。

当裁判所は,原審裁判所と同じく,一審被告の主張に係る違法性阻却事由は 認められないと判断する。その理由は,次のとおりである。
(1) 民事上の不法行為である名誉毀損については,その行為が公共の利害に関 する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合には,摘示された事実が真実 であることが証明されたときは,右行為には違法性がなく,不法行為は成立 しないものと解するのが相当であり,もし,右事実が真実であることが証明 されなくても,その行為者においてその事実を真実と信じるについて相当の 理由があるときには,右行為には故意もしくは過失がなく,結局,不法行為 は成立しないものと解するのが相当である(最高裁昭和41年6月23日第 一小法廷判決・民集20巻5号1118頁)。 この点について一審被告は,「一審原告の父親が,一審原告を日大に裏口 入学させた」という事実が真実であり,又は真実であると信じるにつき相当 の理由があること,当該事実の摘示が公共の利害に関する事実に係ること, 当該事実の摘示が専ら公益を図る目的でされたことを主張して,名誉毀損に よる不法行為責任を否定する。 以下,検討する。
(2)事実の公共性及び目的の公益性について
この点に関して,一審原告は,単に一審原告が著名人であるという理由だ けで「公共性」を満たすことには全くならないから,本件各記事は,そもそ も公共の利害に関する事実には当たらず,公益を図る目的がないことも明ら かである旨主張する。 しかしながら,一審原告は,もともとは「B」の一員として世に出たが, 本件各証拠によれば,本件各記事等の掲載の時点までには,テレビ番組の司 会者を務めたり,雑誌等のインタビュー記事や自らの著書等において政治や 社会に関する発言を公にしたりしていることが認められるから,一審原告の 経歴や人柄にかかわる事実は,一定程度,不特定多数人が関心を寄せてしか るべき公共の利害に関する事実に当たるというべきである。また,そのよう な人物につき,社会一般では非難の対象となる裏口入学という事実が存在し ていたのであれば,それを広く報道することは,経歴に関する不正を正そう とする行為と認められるから,一定程度,公益を図る目的に出たものという べきである。 したがって,本件各記事等の掲載は,公共の利害に関する事実に係るもの であり,専ら公益を図る目的でされたものと認められる。 もっとも,一審原告が現実に公職に就いたことはない上に,公職への応募 や立候補を企図していることをうかがわせる証拠もないのであるから,公共 の利害に関する程度はさして高いものではない。また,大学への裏口入学と いう事実が仮にあったとしても,未成年の当時のことである上に,一審原告 の現在の活動に対する評価は学歴によって左右される性質のものでもないか ら,公益にかかわる程度は高いものではないというべきである。
(3) 真実性又は真実と信ずるについての相当の理由の存否について
本件各記事等に記載された内容は,本件経営コンサルタントから聴き取っ た内容として編集スタッフがまとめた乙17録取書に依存しているものであ る。しかるに,本件経営コンサルタントについてはその特定は必ずしも十分\nであるとはいえず,また,後述のとおり,乙17録取書に同人の供述内容が 正確に録取されていることの担保はなく,乙17録取書の内容の真実性を基 礎付けるに足りる証拠は乏しく,かえって,乙17録取書の内容には客観的 事実及び証拠に矛盾する点が多い上に,一般的な経験則に照らして不自然な 内容も多い。これらの点に照らすと,乙17録取書の内容に依存している本 件各記事等の内容,特に,「一審原告の父親が,一審原告を日大に裏口入学 させた」という事実が真実であることの証明があったとはいえない。 また,乙17録取書に依存した内容の本件各記事等を公にすることによる 影響(一審原告の社会的評価の低下等)の大きさに比して,実際に一審被告 において行った取材の期間・経過やその内容等は前記1のとおりであって, 後述のとおり,編集スタッフにおいて,本件経営コンサルタントの陳述につ き十分な検討や裏付け取材を行ったとはいえない。そうすると,一審被告に\nおいて,本件各記事等の内容を真実と信じるについての相当な理由があった (以下,このことを「相当性」という。)とは認められない。 以下,当審における一審原告の主張も踏まえて,詳述する。
・・・
オ 小括
上記イないしエに説示したことを考慮すると,一審被告は本件経営コン サルタントの供述(乙17録取書)と矛盾せず積極的にその信用性を基礎 付けるには足りない取材結果のみを積み重ね,それに基づいて本件経営コ ンサルタントの供述が信用できるものと軽信したものといわざるを得ない から,編集スタッフが得た取材結果等は本件各記事等の内容の真実性を裏 付けるものではなく,また,真実と信じるについて相当の理由があると認 めることもできないというべきである。なお,このことは,真実性の証明 の対象事実として,一審被告が主張する事実(すなわち,亡父が本件経営 コンサルタントを通じて裏口入学のための手段を尽くした結果として一審 原告を日芸演劇学科に入学させたという事実)を前提としても,その内容 に照らし,左右されるものではない。

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平成31(ワ)647 債務不存在確認請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年8月26日  東京地方裁判所

 Appleによる債務不存在確認訴訟です。進歩性無しとして104条の3で権利公使不能と判断されました。\n

ウ そこで,以上の説示を前提として,以下,公然実施発明1への甲5−1発 明の組合せの可否について検討する。 まず,公然実施発明1は,スリープ状態とスリープ解除状態とを有し,スリープ 状態からスリープ解除状態とする際の操作及びその際にロック画面が表示されるス\nマートフォンというものであり,他方,甲5−1発明の技術分野は,生体情報を利 用した電子デバイスの内蔵認証システムに関するものである。そうすると,両発明 の技術分野については関連性が存するものというべきである。 また,公然実施発明1は,スリープ状態において,ホームボタンを押すことによ り,デバイス機能を有効にするときに,起動して認証を行うというものであるか\nら,ホームボタンの押下によりスリープ状態からスリープ解除状態に切り替わった ときに,パスコード認証によりユーザを識別するという機能を有するものである。\nこの点,公然実施発明1においては,ホームボタンの押下の後,パスコード認証の 前に,ロック画面においてスライダをドラッグするという操作入力という構成があ\nるが,この構成については,タッチパネル入力による誤作動防止(パスコードによ\nる認証の設定がされている場合は,パスコードやホーム画面の誤作動防止であり, パスコードによる認証の設定がされていない場合であっても,ホーム画面の誤作動 防止)という,ユーザ識別とは別の技術的意義があるといえるところ,パスコード 認証という構成は,これとは別の,ユーザ識別のための構\成として把握することが できるものであって,上記スライダをドラッグするという構成とは可分な別個の構\ 成であるというべきである。そして,甲5−1発明における「ユーザがデバイスを オンにする,ロックを解除する,または,起動する」ことは,デバイスの機能を有\n効にすることであるといえ,また,デバイス機能を有効にする前に,生体情報の提\n供をユーザに対して要求する認証方法という構成のものである。そうすると,公然\n実施発明1と甲5−1発明とは,デバイスの機能を有効にするときに,ユーザ識別\nのための認証動作を行う点に関して,その作用機能が共通するものと認められる。\n以上によれば,公然実施発明1と甲5−1発明においては,技術分野の関連性及 び作用機能の共通性が認められるものであって,当業者(その発明の属する技術の\n分野における通常の知識を有する者)において,両者を組み合わせる動機付けがあ るものと認められるものであり,その他,本件全証拠をみても,両者の組合せを阻 害する事情を認めるに足りる主張立証はない。そうすると,公然実施発明1のデバ イスの機能を有効にするときのユーザ認証として,甲5−1発明におけるデバイス\nの機能を有効にするときにデバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証するため\nのホームボタンの背後に配置した指紋を検出するセンサによって指紋認証を行う構\n成を組み合わせることは,当業者が容易に想到できたことである。また,公然実施 発明1はパスコードの入力による認証に関して,誤ったパスコードが入力されると, ロック状態が維持され,ディスプレイに認証を行うよう求めるメッセージが表示さ\nれる構成を有するし,甲5−1発明も,特定されたユーザが許可されていないと判\n断した場合,認証を行うようユーザに指示する構成を有し(甲5文献【0080】),\nかかる指示がディスプレイ部に表示することによってなされること,及びユーザ認\n証のための操作が行われると,認証結果にかかわらずディスプレイがオンにされる ことは,当該技術の性質・内容に照らし,周知慣用技術といえる。そして,公然実 施発明1は,使用者識別機能による認証の結果,使用者が正当な使用者と認証され\nなければロック状態を維持するものであるところ,公然実施発明1に甲5−1発明 を組み合わせる際に,かかる構成をあえて排除又は変更する理由は,本件全証拠を\nみても見当たらない。 以上からすると,当業者は,相違点1に係る構成を容易に想到することができた\nものといえ,本件発明1−1を容易に発明することができたものと認められる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,公然実施発明1は,パスコードの入力という使用者識別機能を有\nするものの,指紋等の生体情報による内蔵認証システムを有するものではなく,こ れを有する甲5発明とは技術の点における共通性がない旨主張する。 しかし,前記認定のとおり,両発明においては,いずれも,デバイスの機能を有\n効にするときにユーザ識別のための認証動作を行う点で共通しているのであって, パスコードの入力による認証方法と指紋等の生体情報による認証方法というように 認証に用いる情報の内容は異なるものの,両発明の技術分野に相違があるとは認め られない。そうすると,被告の上記主張は,採用することができない。
(イ) また,被告は,公然実施発明1は,ホームボタンに対する操作入力及びスラ イダのドラッグ操作を経てから使用者識別機能を実行するものであるところ,これ\nは,デバイス機能を有効とする前あるいはデバイスリソ\ースへのアクセスの前のシ ームレスな認証という甲5発明の課題と共通しないから,公然実施発明1に甲5発 明を組み合わせる動機付けがないと主張する。 しかしながら,前記説示のとおり,公然実施発明1に係るパスコード認証という 構成については,ユーザ識別のための構\成として,上記のスライダをドラッグする という構成とは可分な別個の構\成として把握することができるというべきである。 そうすると,公然実施発明1におけるパスコードによる認証という構成と,甲5−\n1発明におけるシームレスな認証処理という構成とは,ユーザにおいて許可されて\nいない人が個人情報にアクセスして閲覧することを防ぐ方法の一つとしての認証方 法を備えている点で共通するものであり,両発明において,デバイス機能を有効に\nするときのユーザ認証の動作に関して,その作用機能が共通するものと認められる\nことに変わりはない。すなわち,ユーザによる誤作動の防止と,スリープ状態にお いてホームボタンを押してユーザ識別を実行するための動作とは,その性質内容に 照らし,互いに別個のものということができ,公然実施発明1がユーザによる誤作 動防止の意義を有するからといって,これに甲5−1発明を組み合わせることがで きないことになるとはいえない。 そうすると,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) さらに,被告は,本件発明1−1は,1) 指紋認証による使用者識別機能が,\n非活性状態から活性状態に切り替えるための操作入力により,かつ,使用者による 追加操作なしに行われる,2) 使用者識別機能による認証の結果,使用者が正当な\n使用者と認証されなければ,移動通信端末機のロック状態を維持するとともに,デ ィスプレイ部にメッセージを表示する,3) 活性化ボタンにおいて非活性状態にあ るときに操作入力を受け付けると,使用者識別機能による認証の結果にかかわらず,\nディスプレイ部をオンにして活性状態に切り替えるという構成を有するが,公然実\n施発明1にはこれらのいずれも有していないという相違点があるところ,甲5発明 には,上記1)ないし3)に係る構成が開示されていないため,両者を組み合わせても,\n上記相違点を埋めることはできないと主張する。 しかし,被告主張の上記1)については,上記ウで説示したとおり,公然実施発明 1のデバイスの機能を有効にするときにユーザ認証として,甲5−1発明における\nデバイスの機能を有効にするときにデバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証\nするための構成を,公然実施発明1のスライダを備えたロック画面を残したまま組\nみ合わせることは当業者が容易に想到できたことである。 また,公然実施発明1は,パスコードを入力することによる使用者識別機能によ\nる認証の結果,認証されなければロックを維持するものといえるところ,公然実施 発明1に甲5−1発明を組み合わせる際に,かかる構成をあえて排除又は変更する\n理由が認められないこと,ユーザ認証がされなかった場合には,ディスプレイに認 証を行うよう求める旨のメッセージが表示されること,及びユーザ認証のための操\n作が行われると,認証結果にかかわらずディスプレイがオンになることは周知慣用 技術といえることは,前記説示のとおりである。そうすると,被告主張の上記2)及 び3)について,実質的な相違点ということはできないというべきである。 以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。
オ 小括
上記によれば,本件発明1―1は,当業者が公然実施発明1に甲5−1発明を組\nみ合わせることにより,容易に想到することができたものといえ(特許法29条2 項),本件発明1−1は,特許無効審判により無効にされるべきものというべきで ある(同法123条1項2号)。
・・・
7 争点3−3(無効理由2の解消の有無)
(1) 本件訂正事項2−1,2−2に係る訂正による無効理由2の解消の有無
ア 訂正の概要
本件訂正事項2−1は,本件発明2−1の構成要件2−1Cの活性状態をロック\n画面が表示されたものに限定するものであり,本件訂正事項2−2は,本件発明2\n−2の構成要件2−2Aに,「前記ロック画面には,現在の時間を表\示することがで きる」と追加するものである。 イ 本件訂正事項2−1,2−2に係る訂正による無効理由2の解消の有無 しかしながら,本件訂正発明2−1及び本件訂正発明2−2と公然実施発明2と を対比してみたとしても,前記5(2)で認定した公然実施発明2の構成からすれば,\nスリープ状態からスリープ解除状態においてロック画面が表示される点,同画面に\n現在の時間を表示することができる点について,相違するものではない。\n以上によれば,本件訂正事項2−1,2−2に係る訂正によっても,無効理由2 を解消することはできないといわなければならない。

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令和2(ワ)1573  債務不存在確認請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年8月27日  東京地方裁判所

 ファイル共有ソフトの使用者に対して、公衆送信権侵害が認められました。\n

ア 以上のとおり,原告X1,原告X2及び原告X3は本件ファイル1を, 原 告X4,原告X6,原告X7及び原告X8は本件ファイル2を,原告X9及 び原告X10は本件ファイル3を,それぞれ,BitTorrentを通じ てダウンロードしたものと認められる(以下,ダウンロードを行ったと認め られる上記各原告を「原告X1ら」という。)。 そして,前記前提事実2(3)のとおり,BitTorrentは,リーチャ ーが,目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても,既に所 持しているファイルの一部(ピース)を,他のリーチャーと共有するために アップロード可能な状態に置く仕組みとなっていることに照らすと,原告X\n1らは,ダウンロードしたファイルを同時にアップロード可能な状態に置い\nたものと認められる。
イ 前記前提事実のとおり,BitTorrentは,特定のファイルをピー スに細分化し,これをBitTorrentネットワーク上のユーザー間で 相互に共有及び授受することを通じ,分割された全てのファイル(ピース) をダウンロードし,完全なファイルに復元して,当該ファイルを取得するこ とを可能にする仕組みであるということができる。\n これを本件に即していうと,原告X1らが個々の送受信によりダウンロー ドし又はアップロード可能な状態に置いたのは本件著作物の動画ファイル\nの一部(ピース)であったとしても,BitTorrentに参加する他の ユーザーからその余のピースをダウンロードすることにより完全なファイ ルを取得し,また,自己がアップロード可能な状態に置いた動画ファイルの\n一部(ピース)と,他のユーザーがアップロード可能な状態に置いたその余\nのピースとが相まって,原告X1ら以外のユーザーが完全なファイルをダウ ンロードすることにより取得することを可能にしたものということができ\nる。そして,原告X1らは,BitTorrentを利用するに際し,その 仕組みを当然認識・理解して,これを利用したものと認めるのが相当である。
以上によれば,原告X1らは,BitTorrentの本質的な特徴,す なわち動画ファイルを分割したピースをユーザー間で共有し,これをインタ ーネットを通じて相互にアップロード可能な状態に置くことにより,ネット\nワークを通じて一体的かつ継続的に完全なファイルを取得することが可能\nになることを十分に理解した上で,これを利用し,他のユーザーと共同して,\n本件著作物の完全なファイルを送信可能化したと評価することができる。\n したがって,原告X1らは,いずれも,他のユーザーとの共同不法行為に より,本件著作物に係る被告の送信可能化権を侵害したものと認められる。\nウ(ア) これに対し,原告らは,アップロード可能な状態に置いたファイルが全\n体のごく一部であり,個々のピースは著作物として価値があるものではな いから,原告らの行為は著作権侵害に当たらないと主張するが,上記イで 判示したとおり,原告X1らによる行為は,他のユーザーと共同して本件 著作物を送信可能化したものと評価できるから,原告らの主張は採用する\nことができない。
(イ) 原告らは,ファイルを送信する側は,自らがファイルをアップロード可 能な状態に置いていることを認識していないことも多いと指摘するが,原\n告X1らは,BitTorrentを利用するに当たって,前記前提事実 (3)イ記載のような手続を踏み,各種ファイルやソフトウェアを入手して\nいる以上,BitTorrentの基本的な仕組みを理解していると推認 されるのであって,とりわけ,BitTorrentにおいて,ユーザー がダウンロードしたファイル(ピース)について同時にアップロード可能\nな状態に置かれることは,その特徴的な点であるから,これを利用した原 告X1らがこの点を認識していなかったとは考え難い。
(ウ) 原告らは,送信可能化権侵害の主張に関し,ユーザー間における本件著\n作物に係るファイルの一部(ピース)の授受を中継した可能性やダウンロ\nードを開始した直後に何らかの事情でダウンロードが停止した可能性が\nあり,原告らが本件著作物を送信可能な状態に置いたと評価することはで\nきないと主張する。 しかし,BitTorrentにおいて,ユーザーがダウンロードした ファイル(ピース)について同時にアップロード可能な状態に置かれるこ\nとは,前記判示のとおりであり,原告X1らがこれを中継したにすぎない ということはできず,また,本件各ファイルのダウンロードの開始直後に ダウンロードが停止したことをうかがわせる証拠もない。
(エ) 原告らは,シーダーとして本件著作物の動画ファイルの配布を行ったも のではなく,原告X6や原告X10の共有比に照らしても,被告の主張す るダウンロード総数の全部や主要な部分を惹起したということはできな いので,民法719条1項前段を適用する前提を欠くと主張する。 しかしながら,そもそも,民法719条1項前段は,個々の行為者が結 果の一部しか惹起していない場合であっても,個々の行為を全体としてみ た場合に一つの加害行為が存在していると評価される場合に,個々の行為 者につき結果の全部につき賠償責任を負わせる規定であるから,仮に個々 の原告がアップロード可能な状態に置いたデータの量が少なく,結果に対\nする寄与が少なかったとしても,そのことは,原告X1らの共同不法行為 責任を否定する事情にはならないというべきである。
エ 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,原告X1らが本件各フ ァイルをアップロード可能な状態に置いた行為は,本件著作物に係る被告の\n送信可能化権を侵害することになる。\n
2 争点2−1(共同不法行為に基づく損害の範囲)について
(1) 被告は,本件著作物の侵害は,本件各ファイルの最初のアップロード以降継 続しており,社会的にも実質的にも密接な関連を持つ一体の行為であることな どを理由として,原告らがBitTorrentを利用する以前に生じた損害 も含め,令和2年4月2日当時のダウンロード回数について,原告らは賠償義 務を負う旨主張する。しかしながら,民法719条1項前段に基づき共同不法行為責任を負う場合であっても,自らが本件各ファイルをダウンロードし又はアップロード可能な\n状態に置く前に他の参加者が行い,既に損害が発生しているダウンロード行為 についてまで責任を負うと解すべき根拠は存在しないから,被告の上記主張は 採用することはできない。
また,被告は,BitTorrentにアップロードされたファイルは,サ ーバからの削除という概念がないため,永遠に違法なダウンロードが可能であ\nるとして,現在に至るまで損害は拡大している旨主張する。 しかし,前記前提事実(3)ウのとおり,BitTorrentは,ソフトウェ\nアを起動していなければアップロードは行われないほか,BitTorren t上や端末の記録媒体からファイルを削除すれば,以後,当該ファイルがアッ プロードされることはないものと認められる。 そうすると,原告X1らがBitTorrentを通じて自ら本件各ファイ ルを他のユーザーに送信することができる間に限り,不法行為が継続している と解すべきであり,その間に行われた本件各ファイルのダウンロードにより生 じた損害については,原告X1らの送信可能化権侵害と相当因果関係のある損\n害に当たるというべきである。他方,端末の記録媒体から本件各ファイルを削 除するなどして,BitTorrentを通じて本件各ファイルの送受信がで きなくなった場合には,原告X1らがそれ以降に行われた本件各ファイルのダ ウンロード行為について責任を負うことはないというべきである。
(2) アップロードの始期について
ア 以上を前提に検討するに,証拠(甲6)によれば,原告X6については, 遅くとも平成30年6月4日までには本件ファイル2をアップロード可能\nな状態に置いていたことが認められる。
イ 原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X7,原告X8,原告X 9及び原告X10については,BitTorrentを通じて本件各ファイ ルのダウンロードを開始した時期は明らかではないものの,証拠(乙11)に よれば,遅くとも,それぞれ次の各年月日において本件各ファイルをアップ ロード可能な状態に置いていたことが認められる。\n
(ア) 原告X1 平成30年6月12日
(イ) 原告X2 平成30年6月4日
(ウ) 原告X3 平成30年6月2日
(エ) 原告X4 平成30年6月4日
(オ) 原告X7 平成30年6月12日
(カ) 原告X8 平成30年6月13日
(キ) 原告X9 平成30年6月2日
(ク) 原告X10 平成30年6月9日
(3) アップロードの終期について
ア 乙14及び弁論の全趣旨によれば,原告X1らは,それぞれ,別紙「損害 額一覧表」の「終期」欄記載の各年月日に原告ら代理人に相談をしたことが\n認められるところ,同原告らは既にプロバイダ各社からの意見照会を受け, 著作権者から損害賠償請求を受ける可能性があることを認識していた上,上\n記相談の際に,原告ら代理人からBitTorrentの利用を直ちに停止 すべき旨の助言を受けたものと推認することができるから,同原告らは,そ れぞれ,遅くとも同日にはBitTorrentの利用を停止し,もって, 本件各ファイルにつきアップロード可能な状態を終了したものと認めるの\nが相当である。
イ これに対し,原告らは,プロバイダ各社からの意見照会を受けた時点で, 直感的にBitTorrentの利用を停止した旨主張するが,プロバイダ 各社から意見照会を受けたからといって,直ちにBitTorrentの利 用停止という行動に及ぶとは限らず,実際のところ,原告X6は,平成30 年10月19日に受領したものの,少なくとも同年11月頃までBitTo rrentソフトウェアを端末にインストールしていたことがうかがわれ\nる(甲6)。そうすると,プロバイダ各社からの意見照会を受けた時点でB itTorrentの利用を停止したと認めることはできない。
ウ 以上によれば,原告X1らは,それぞれ,別紙「損害額一覧表」の「期間」\n欄記載の期間中に他のユーザーが本件各ファイルをダウンロードしたこと により生じた損害の限度で,賠償義務を負うことになる。
(4) ダウンロード数
ア 本件全証拠によっても,上記各期間中に本件各ファイルがダウンロードさ れた正確な回数は明らかではない。他方で,証拠(乙2〜4,8〜10)に よれば,令和元年10月1日から令和3年5月18日までの595日間にお いて,本件ファイル1については501,本件ファイル2については232, 本件ファイル3については910,それぞれダウンロード数が増加している ことが認められるところ,各原告につき,同期間の本件各ファイルのダウン ロード数の増加率に,前記(2)・(3)において認定したダウンロードの始期か ら終期までの日数(別紙「損害額一覧表」の「日数」欄記載のとおり)を乗\nじる方法によりダウンロード数を算定するのが相当である。この計算方法に基づき算定されたダウンロード数は,別紙「損害額一覧表」の「期間中のダウンロード数」欄記載のとおりである。\n
なお,原告らは,乙2〜4記載のコンプリート数(ダウンロード数)と甲 10記載のコンプリート数が大幅に異なることを根拠に,乙2〜4記載のコ ンプリート数に依拠することは相当ではないと主張するが,コンプリート数 が一致しないのは,参照するトラッカーサーバーが異なることが原因である と考えられ,上記乙2〜4のコンプリート数に特に不自然・不合理な点はな い以上,上記各証拠に記載されたコンプリート数に基づいてダウンロード数 を計算することが相当である。
(5) 基礎とすべき販売価格
ア 原告X1らが本件各ファイルをBitTorrentにアップロード可 能な状態に置いたことにより,BitTorrentのユーザーにおいて,\n本件著作物を購入することなく,無料でダウンロードすることが可能となっ\nたことが認められる。これにより,被告は,本件各ファイルが1回ダウンロ ードされるごとに,本件著作物を1回ダウンロード・ストリーミング販売す る機会を失ったということができるから,本件著作物ダウンロード及びスト リーミング形式の販売価格(通常版980円,HD版1270円)を基礎に 損害を算定するのが相当である。
そして,被告は,DMMのウェブサイトにおいて本件著作物のダウンロー ド・ストリーミング販売を行っているところ,被告の売上げは上記の販売価 格の38%であると認められるので(弁論の全趣旨),本件各ファイルが1回 ダウンロードされる都度,被告は,通常版につき372円(=980×0. 38),HD版につき482円(=1270×0.38)の損害を被ったも のということができる。
イ 本件ファイル3は通常版の動画ファイルのピースであるのに対し,本件フ ァイル1及び2はHD版の動画ファイルのピースであることが認められる ので(弁論の全趣旨),別紙「損害額一覧表」の「価格」欄記載のとおり,\n原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X6,原告X7及び原告X 8については482円,原告X9及び原告X10については372円を基礎 として,損害額を計算することが相当である。
ウ 本件各ファイルをダウンロードしたユーザーの中には有料であれば本件 著作物を購入しなかったものも存在するという原告らの指摘や,BitTo rrentのユーザーと本件著作物の需要者等が異なるという原告らの指 摘も,前記認定を左右するものということはできない。 (6) 以上によれば,原告X1らが被告に対して負うべき損害賠償の額は,それぞ れ,別紙「損害額一覧表」の「損害額」欄記載のとおりとなる(なお,同別紙\n「5)期間中のダウンロード数」は計算結果を小数第2位まで表示したものであ\nり,「損害額」欄は小数第1位で切り捨てたものである。)。
3 争点2−2(減免責の可否)について
原告らは,原告らにおいて複製物を作成しようという意思が希薄であり,客観 的にも本件著作物の流通に軽微な寄与をしたにすぎないことや,原告らとユーザ ーとの間の主観的・経済的な結び付きが存在しないことからすれば,関連共同性 は微弱であるとして,損害額につき大幅な減免責が認められるべきである旨主張 するが,原告らの指摘するような事情をもって,前記認定の損害額を減免責すべ き事情に当たるということはできない。

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令和1(ワ)27053  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月31日  東京地方裁判所

 出願経過から用語の意義を解釈して、技術的範囲に属しないと判断されました。

争点1−1(被告製品の小径部側壁部は,係止片は大径部側に一体形成される一方 小径部側には設けられていないという文言を充足するか−構成要件1E4),2E4), 3E5)充足性)について
構成要件1E4),2E4),3E5)によれば,「係止片は」「大径部側に」「一体形成 される一方」「小径部側には設けられておらず」というのであり,上記のとおり,本 件発明は,従来よりも安全性などの向上を図るというその目的をより良く達成する という上記の技術的見地から,針先再露出防止を担う係止片の構成を工夫して,拡\n開部の大径部側に一体形成し小径部側には設けないという構成を採用したものとい\nうことができる。これによれば,本件発明において,拡開部に設ける「係止片」に ついては,大径部側に一体形成されている必要があるとともに,小径部側には設け られていない構成である必要があるものであって,「係止片」が小径部側に設けられ\nている構成は排除されているものといわなければならない。\n
そして,この「係止片」は,使用後の針先再露出を防止する部材であるといえる が,当該部材が針先の先端側への移動を阻止して針先再露出を防止する態様につい ては,構成要件1Dに「該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた\n所定位置において,該針先プロテクタに設けられた係止片が該針ハブに対して係止 される」とある以上には何ら具体的な限定がなされていない。また,本件明細書の 発明の詳細な説明を見ても,当該部材が,針先の先端側への移動を阻止する具体的 態様を限定する根拠となり得るような記載は見当たらない。加えて,本件特許の出 願経過を見ると,証拠(乙14,15)によれば,原告は,令和元年5月15日頃, 特許庁から進歩性欠如等を理由とする拒絶理由通知を受け,その際,構成要件1D\nに関し,「針先プロテクタの断面形状を,周知の形状である小径部と大径部とを備え た楕円形とし,大径部の周壁に針ハブ係合部を設け,大径部の周壁で覆われた内部 に係止部を設けた構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。」などと\n指摘されたことを踏まえて,同年6月19日,従前の請求項で「前記拡開部の前記 大径部に対応する位置に,前記筒状の周壁に一体形成された前記係止部が設けられ て」と記載していた部分を,「前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される一方, 前記小径部側には設けられておらず,」と補正したものであることが認められる。そ の上で原告は,同日特許庁に提出した意見書において,本件発明の進歩性を基礎付 ける事情として,拒絶理由通知書で審査官が指摘した引用文献(乙27,29)に ついては,いずれも針先プロテクタの小径部側に係止部が設けられており本件発明 とは異なる旨主張し,その際,当該係止部が針先の先端側への移動を阻止する具体 的態様には言及していなかったことが認められる。そして,本件特許は,その上で 登録されている。
そうすると,本件特許請求の範囲の記載文言をみても,本件明細書の発明の詳細 な説明をみても,小径部側に設けられてはならないとされている「係止片」が針先 の先端側への移動を阻止する具体的態様を限定する根拠となり得るような記載がな く,加えて,原告自身,本件特許の出願手続においては,その特許請求の範囲を前 記のように「前記小径部側には設けられておらず,」と補正した上で,意見書におい て,具体的態様については何ら限定しないまま,小径部側に「係止片」が設けられ ていない点を本件発明の進歩性を基礎付ける事情として主張し,その上で本件特許 が登録されたものである。 以上によれば,本件発明において小径部側に設けられてはならない「係止片」は, 針先の先端側への移動を阻止する具体的態様が限定されているものではなく,他の 部材と協働して針先の先端側への移動を阻止する構成を含むものであるといわなけ\nればならない。
そこで,被告製品をみるに,前記前提事実によれば,被告製品においては,針基 に設けられた針リブと針先保護部に設けられた小径部側壁部とが,小径部側壁部の 突端面により縦リブの側面を挟持することで互いに係合することにより,針基が針 先保護部に対して回動することを防止する構成になっており,仮にこのような回動\nが発生して針基の受部が大径部係止手段のない小径部側まで移動した場合には,針 基が大径部係止手段をすり抜けて針先保護部に対して前進することになる。すなわ ち,小径部側壁部がなければ,大径部係止手段が無効化されて,針基が前進し,留 置針の針先が針先保護部の先端側から再露出することになるのであるから,被告製 品においては,小径部側壁部による針基の回動防止と大径部係止手段による針基の 受け部の係止が協働して機能することによって,針先の再露出を防止していると認\nめられる。
そうすると,被告製品の小径部側壁部は,他の部材と協働して,針先の先端側へ の移動を阻止する構成であるといえ,当該小径部側壁部は,本件発明において小径\n部側に設けられることが排除されている「係止片」に当たるといわなければならな い。これによれば,「係止片」が針先抜出防止機構を含むものであるか否かに関わら\nず,被告製品は,小径部側に「係止片」が設けられているものとして,本件発明に おいて排除されている構成を有しているから,本件発明の構\成要件1E4),2E4), 3E5)をいずれも充足しないといわなければならない。 したがって,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,本件発明の構成要件1Dの「係止片」が,針ハブ(に設けられた受部)\nと「係止」されることによって「再露出を防止する(つまり,留置針が前進しな いように止める)」ものであるのに対し,被告製品の小径部側壁部は,針基の縦リ ブの側面を挟持して針基の回動を防止しているだけで,針基の前進を防止してい るわけではないから,「係止片」に該当しないなどと主張する。 しかし,前記説示のとおり,本件発明にいう「係止片」は,他の部材と協働し て針先の先端側への移動を阻止する構成を含むものといわなければならない。そ\nして,被告製品において,小径部側壁部がそれ単体として針先の再露出を防止す るものでないとしても,小径部側壁部による針基の回動防止と大径部係止手段に よる針基の受け部の係止が協働して機能することによって針先の再露出を防止し\nているものである以上,本件発明にいう「係止片」に該当しないということはで きない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ また,原告は,被告製品の小径部側壁部が針基の縦リブの側面を挟持する場所 は,針基と針先保護部の位置関係にかかわらないのであって,留置針の針先側へ 針先プロテクタが移動せしめられた「所定位置」において係止するものでないた め,被告製品の小径部側壁部は「係止片」に当たらないとも主張する。 しかしながら,前記のとおり,被告製品は,小径部側壁部がそれ単体として針 先の再露出を防止するものではなく,小径部側壁部による針基の回動防止と大径 部係止手段による針基の受け部の係止が協働して機能することによって針先の再\n露出を防止するものであり,その機能が発揮される場所は,前記前提事実のとお\nり,針管と針先保護部が相対移動してクリック感が生じる位置に限定されている。 このことからすれば,被告製品の小径部側壁部は,「留置針の針先側へ針先プロテ クタが移動せしめられた所定位置において」,大径部係止手段と協働して針先の再 露出を防止しているといえる。被告製品の小径部側壁部が,針先と針先保護部の 位置関係にかかわらず針基の縦リブの側面を挟持しているという事情は,この説 示を左右するものではない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ さらに,原告は,本件発明の構成要件1E4),2E4),3E5)が「前記係止片 は,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,」と規定していることをもって, 本件発明で小径部側に設けられてはならないとされている「係止片」は「前記針 ハブに向かって傾斜した内側面」を有しているものに限られているなどと主張す る。
しかし,構成要件1E4),2E4),3E5)の「前記係止片は,前記針ハブに向 かって傾斜した内側面を有し」との文言は,本件明細書の段落【0061】の記 載(「・・・垂直面79a,79aの外周側に位置する傾斜面79b,79bが,外周 側になるにつれて先端側に傾斜していることから,垂直面79a,79aと基端 側規制面40とが傾斜面79b,79bに干渉されることなく当接することがで きて,針ユニット20と針先プロテクタ10の軸方向における相対移動防止効果 がより確実に発揮され得る。」との記載)も併せると,そのような大径部側に一体 形成される係止片の構成について,規定した針ユニットと針先プロテクタの軸方\n向における相対移動防止効果がより確実に発揮されるという効果を奏させるべく 規定されたものであると認められる。そうすると,当該文言は,大径部側に円筒 状部と一体形成される係止片について特定したものにすぎず,設けられていては ならない位置にある「係止片」の形状を限定するものではないというべきである。 したがって,被告製品の小径部側壁部が「傾斜した内側面」を有しないことは, 被告製品の小径部側壁部が本件発明において小径部側に設けられてはならないと されている「係止片」に当たることを否定する理由にはならない。原告の上記主 張は,採用することができない。
エ 以上によれば,原告の上記主張はいずれも採用できない。原告は,その他も縷々 主張するが,それらの主張内容を慎重に精査しても,上記説示を左右するに足り るものはない。

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平成30(ワ)1130  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月31日  東京地方裁判所

 102条2項について、2割の推定覆滅が認められました。同3項による認定についても触れています。損害額は15億円です。対応EP特許でドイツでも侵害訴訟があります。

ア 前記前提事実によれば,本件発明の構成要件1Eは,「該印刷層は,白色の有機\n顔料,白色または黄色の無機顔料,蛍光染料,および蛍光増白剤のうちの一以上 の着色剤を含有する」である。これに対応する被告製品(1)の構成1eは,「印刷層\nは,●(省略)●と●(省略)●を含有する●(省略)●印刷インキにより形成 されるが,」である。そして,被告製品の印刷層の●(省略)●印刷インキに含有 される●(省略)●は,「白色」の「無機顔料」に当たる。 ここでは,本件発明については,印刷層が「白色の有機顔料・・・着色剤」を含有 すれば,それだけで構成要件1Eを充足するのではなく,これにより「色相を明\nるくすること」を要するかが問題となる。
イ 本件発明の構成要件1Eには,印刷層が「白色の有機顔料,および蛍光増白剤」\nのいずれかを含有するとの記載がされているだけであり,「色相を明るくすること」 が発明特定事項として記載されているわけではない。 また,前記1のとおり,本件発明は,再帰反射シートに関する発明であるとこ ろ,本件明細書の段落【0004】には,三角錐型キューブコーナー再帰反射シ ートのうち,反射素子の反射側面に蒸着層が設置されている「蒸着型」三角錐型 キューブコーナー再帰反射シートについては,その再帰反射素子の性質から金属 の色の影響を受けて外観が暗くなってしまうという欠点を有していると記載され ているものの,それ以外の再帰反射シートについては,外観の暗さが課題になっ ている旨の記載がない。また,本件明細書の【0014】,【0015】には,本 件発明の技術的意義は「色相の改善」であると記載され,段落【0021】,【0 030】,【0032】には,印刷層の目的は「色相を調節」,「色相の調整」と記 載され,段落【0036】には,「本発明に用いられる着色剤は,特に限定される ものではないが,・・・色相を明るくすることができ,且つ,隠蔽性が得られるもの が良く,シートの色相に合わせた明色系の色が好ましく,・・・白色の有機顔料や白 色や黄色の無機顔料,並びに蛍光染料や蛍光増白剤を挙げることができ,中でも, 白色や黄色の無機顔料が好ましい。」と記載されており,「色相を明るくすること」 は,「隠蔽性」を得ることや「シートの色相に合わせた」色であることと並んで, あくまで好ましい態様であるとされているにすぎない。そのため,本件発明の着 色剤の技術的意義である「色相の改善」は,色相の調節ないし調整を意味するも のであり,「色相を明るくすること」に限定されるものではないと解される。他方, 本件明細書の実施例では,白色顔料が用いられているものの,その他の着色剤と 比較して明るさが向上するとの趣旨で記載されているものではなく,比較例でも, 実施例とは印刷の模様のみを変えて,「Y値」すなわち「色相(明るさ)」には変 化がないが耐候性が改善することを確認しているにすぎない。このような本件明 細書全体の記載を考慮すれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を\n明るくすること」を要件としたものとは解されない。 以上によれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を明るくするこ\nと」を要しているとはいえないというべきである。
ウ これに対し,被告らは,本件特許の出願経過において,原告が,補正により本 件発明に構成要件1Eを追加し(乙21),本件発明の効果は,「色相,特に昼光\n下での色相(Y値=明るさ)が改善されて」いることであり,同構成要件の着色\n剤を用いることにより色相(Y値=明るさ)を改善したと主張しており(乙3), 同構成要件の「白色」,「黄色」,「蛍光」を用いて「色相(Y値=明るさ)」を改善\nする技術的意義を強調しているから,上記着色剤の意義は,色相を明るくするこ とにあると主張している。 しかし,原告が提出した乙21の内容を見ても,本件発明の構成要件1Eの技\n術的意義が,「色相を明るくすること」であるとは記載されていない。 むしろ,乙3には,本件発明の効果は,「十分な再帰反射性能\を有し,かつ色相, 特に昼光下での色相(Y値=明るさ)が改善されており,耐候性及び耐水性にも 優れている」ことであると記載され,Y値と同義である「色相(Y値=明るさ)」 と,それに限定されない意味での「色相」とが区別されているため,明るさに限 定されない色相の改善についても主張していると解される。さらに,乙3には, 一般に用いられている着色剤は,再帰反射性の確保のために光透過性を有するが, 光透過性を有する着色剤は光劣化しやすいという欠点があったのに対して,本件 発明の構成要件1Eの着色剤は,光透過性を有するものではないこと,本件発明\nは,構成要件1Eの着色剤を用いることにより,再帰反射シートの昼光下での色\n相(Y値=明るさ)を更に改善したこと,本件発明では,印刷領域が構成要件1\nB〜1Dを具備する独立印刷領域であるため,印刷層が光透過性を有しない構成\n要件1Eの着色剤を含有しても,それ以外の領域を通じて十分な再帰反射性能\を 有することが記載されている。以上によれば,原告は,本件特許の出願経過にお いて,本件発明の構成要件1Eの着色剤について,明るさの改善だけでなく,そ\nれ以外の効果も主張していると解されるから,そのような主張をもって,本件発 明の着色剤の技術的意義が色相を明るくすることに限定されるとまではいえない というべきである。 その他,被告らの主張を検討しても,採用すべきものはない。
エ したがって,被告製品(1)の構成1eは,それぞれ本件発明の構\成要件1E及び これを引用する構成要件2Bを充足する(なお,仮に同構\成要件の着色剤が「色 相を明るくすること」を意味するものとしても,これは相対的に色相を明るくで きるような所定の着色剤を含有させれば足り,必ずしも絶対的に「色相を明るく すること」を要するものではないというべきであるところ,証拠(甲17)及び 弁論の全趣旨によれば,被告製品では,「白色」の「無機顔料」に当たる●(省略) ●を含有しない領域よりも,これを含有する領域の方が色相も改善●(省略)● による色相改善の効果を享受)していることがうかがわれ,被告製品の●(省略) ●印刷インキの色相が暗くなっているのは,●(省略)●で色相が明るくなった 一方で,●(省略)●で色相が暗くなったにすぎないというべきであり,これに よって本件発明の構成要件1Eの充足性が否定されることにはならないというべ\nきである。)。
・・・
推定覆滅の事情
a 特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の 事情と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益 と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると 解される。例えば,1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること (市場の非同一性),2)市場における競合品の存在,3)侵害者の営業努力(ブ ランド力,宣伝広告),4)侵害品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特 徴)などの事情について,特許法102条1項ただし書の事情と同様,同条 2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができ るものと解される。
b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張 する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当 である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の 印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品 と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし, 原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明 は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。 しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技 術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域 をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独 立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料・・・着色 剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措 定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製 品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実 験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって 直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の 全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の 技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当 ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度 等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き く変化していないと主張する。 しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な 証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替 えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧 製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従 前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた 可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品 の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略) ●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売 できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+● (省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。 しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競 合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨 によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性 能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告 らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認 めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売 上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの は相当ではない。
(d) さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益 率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省 略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品 のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10 2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の ●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製 品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と 同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一 定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単 価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e) 以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち, 原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。
・・・
ア 次に,原告は,予備的主張として,特許法102条3項の適用を前提とする損\n害額の支払を求めているため,以下検討する。
・・・
a 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の 額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「そ の特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められ ていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうと して,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。 特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無 効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額 を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還 を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常であ る状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該 特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされ た場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして,上記 のような特許法改正の経緯に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たって は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づか なければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対して事後的に定め られるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べ て自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施 許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実 施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発 明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該 製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵 害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し て,合理的な料率を定めるべきである。
b そこで検討するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)原告は,本 件訴訟の提起前に,被告らを含む3Mグループに対し,本件特許のライセン ス料率5%を提案していたこと(乙41),他方で,米国3Mは,過去に第三 者に提起した特許権侵害訴訟において,再帰反射シートに関する特許の実施 料率は9%であると主張していたこと(甲71),米国3Mらは,過去に第三 者に提起した訴訟において,ロイヤルティ料率20%での合意をしたこと(甲 72,乙66),株式会社帝国データバンク編「知的財産の価値評価を踏まえ た特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書 〜知的財産(資産)価値 及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜」(平成22年3月)において,再 帰反射シート(樹脂シート)が該当する「化学」の最小値が0.5%,最大 値が32.5%,平均が4.3%であるとされていること(甲73,乙67), 被告3Mジャパンらは,原告に提起した特許権侵害訴訟において,実施料率 を10%と主張していること等が認められる。 また,2)本件発明は,前記のとおり,再帰反射シートの構成全体に関わる\n発明であり,相応の重要性を有しているといえ,これらの構成を備えた従来\n技術は存在せず,この点についての代替技術が存在することはうかがわれな い。
そして,3)本件発明は,被告旧製品の全体について実施されており,これ によって向上される耐水性・耐候性は,需要者の購入動機に影響を与えるも のであるから,本件発明を被告旧製品に用いることにより,被告らの売上及 び利益に貢献するものと認められる。
さらに,原告と被告らは,いずれも再帰反射シートの製造販売業者であり, 競業関係にある。
c 上記bの諸事情を含む本件訴訟に表れた事業を総合考慮すると,本件特許\n権を侵害した被告らに事後的に定められるべき,本件での実施に対し受ける べき料率は,10%を下らないものと認めるのが相当である。 したがって,本件特許権侵害について,特許法102条3項により算定さ れる損害額は,前記(1)で認定した被告旧製品の売上高の10%になる。

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平成18(行ケ)10043  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成18年6月29日  知的財産高等裁判所

 かなり昔の判決ですが、興味深いのであげておきます。登録商標の同一性および、取説における使用も使用と認定されました。
 標章「速脳速聴基本プログラム」の使用が、登録「速脳速聴」の使用と認定されました。指定商品は「中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・ 磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器」です。

 本件関連標章1は,「速脳速聴」(本件商標)と「基本プログラム」と が結合した語から成るものである。この構成中の「速脳速聴」の部分は,\n高速で聴くことによって脳の回転を高めるといった程度の意味を有するも のと理解されないこともないが,明確な意味を有するとまではいえず,取 引者・需要者において,既存の明確な観念を伴わない新たな造語であると 認識するものと認められる。一方,「プログラム」の語は,本件商標の指 定商品である電子応用機械器具の分野において,その一種である電子計算 機のためのプログラムを示す普通名称であり,これに冠して付加されてい る「基本」の語は,「物事が成り立つためのよりどころとなるおおもと。 基礎。」(甲27の2,ウェブサイトの「 辞書」),「物事がそれに goo 基づいて成り立つような根本。」(甲28,株式会社岩波書店平成3年1 1月15日発行「広辞苑第4版」)を意味し,後に「応用」若しくは「発 展」など次の段階へと続くことを想起,連想させる一般的な記載にすぎな いから,本件関連標章1に接した取引者・需要者は,通常,その構成中の\n「基本プログラム」の部分は,商品の特定のために当該商品の用途等を表\n示したものと理解して,それ自体を自他商品の識別力を有する部分とは考 えないと認めるのが相当である。
そして,「速脳速聴」と「基本プログラム」とは,一体不可分の密接な 関係にあるとはいえないし,「速脳速聴基本プログラム」の称呼は,「ソ\nクノウソクチョウキホンプログラム」と著しく冗長であって,この一連一\n体の称呼によることが取引の実情に即したものであるとは言いがたく,む しろ,取引の実際においては,冒頭の「速脳速聴」の部分に即して「ソク\nノウソクチョウ」との称呼を生ずるのが通常であるということができる。\nそうすると,本件関連標章1の「速脳速聴基本プログラム」の語は, 「速脳速聴」の部分において,取引者・需要者の注意を引くものであり, その部分が自他商品の識別力を有するものというべきである。 もっとも,本件関連標章1の「速脳速聴」の部分について,高速で聴く ことによって脳の回転を高めるといった程度の意味のものととらえ,本件 関連標章1について,一体として「速脳速聴の基本的なプログラム」,あ るいは,「速脳速聴に関する基本的なプログラム」との観念を生ずること もあり得ないものではない。しかし,一般には,「速脳速聴」の観念が必 ずしも明確でないことに照らしても,「速脳速聴の基本的なプログラム」 等の観念が生ずる可能性がないわけではないことによって,「速脳速聴」\nの部分の自他商品識別力が否定されるものではないというべきである。 そして,この「速脳速聴」は,本件商標と同一なのであるから,本件関 連標章1は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標とみるのが相当 であり,上記1及び2・・・ に照らせば,プランニングラボは,本件予\n告登録前3年以内に,本件関連標章1により,本件商標の指定商品である 本件商品1につき,商標法2条3項1号及び8号にいう本件商標の「使 用」をしていたというべきである。
ウ ところで,被告は,本件CDに付されている商標は,「速脳速聴基本プ ログラム」であるから,本件商標「速脳速聴」とは,同一の商標ではない し,「速脳速聴基本プログラム」は,一体として「速脳速聴の基本プログ ラム」の観念が生じ,当然,一連一体として観察,称呼しなければならず, 本件商標とは,称呼,外観,観念のすべてを異にするものであり,識別力 を異にすることが明らかであるから,本件関連標章1は,本件商標と社会 通念上同一と認められる商標でないと主張する。 しかし,「速脳速聴基本プログラム」がそれ自体一つの商標であるとし ても,上記のとおり,取引の実際においては,「速脳速聴」の部分,すな わち,本件商標に相当する部分が商標として自他商品識別力を有している ものというべきである。また,「速脳速聴基本プログラム」から,一体と して「速脳速聴の基本プログラム」の観念が生ずる可能性があることは,\n上記のとおりであるが,そのことから,このような結合語を,直ちに一連 一体として観察,称呼しなければならないものとはいえず,一体として 「速脳速聴の基本プログラム」の観念が生ずる可能性があることによって,\n「速脳速聴」の部分の自他商品識別力が否定されるものではないことも, 上記のとおりである。
(4) 次に,本件取扱説明書の表紙に記載されている「速脳速聴<R>基本プログ ラム」(以下「本件関連標章2」という。)について検討する。 ア 本件関連標章2が,本件商標と社会通念上同一といえるかについてみる と,本件関連標章2は,「速脳速聴」と「基本プログラム」とが<R>マー クで区分された語であるところ,この<R>マークは,米国における連邦登 録商標の商標表示の方法(米国連邦商標法1111条〔ランナム法29\n条〕)であって,商標法73条,同法施行規則17条にいう商標登録表示\nではないが,我が国でも登録商標に簡明な<R>マークを付すことが慣行的 に行われていることは,当裁判所に顕著である。そして,本件関連標章2 においては,<R>マークによって,「速脳速聴」と「基本プログラム」と が明確に分離されており,また,上記のとおり,本件取扱説明書の裏表紙\nには,「『速脳』『速脳速読』『速脳速聴』等は新日本速読研究会(X 〔注,原告〕)が保有する商標です。」等の記載があることから,取引者 ・需要者は,「速脳速聴」が商標であると容易に理解することができるも のである。 そうすると,本件関連標章2は,本件関連標章1以上に,「速脳速聴」 の部分に自他商品識別力があるということができるから,本件商標と社会 通念上同一と認められる商標であり,プランニングラボは,本件関連標章 2によっても,本件関連標章1と同様,本件商標の使用をしていたといわ なければならない。

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平成30(ワ)28215 著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年9月17日  東京地方裁判所

 コンピュータソフトの画面について、著作物性、不競法2条1項1号の商品等表示に該当するかが争われました。本件ではいずれも否定されましたが、一般論としては「ビジネスソ\フトウェアの表示画面は,商品の形態と同様,・・特別顕著性,かつ,・・周知になっている場合に不競法2条1項1号の「商品等表\示」に該当すると解するのが相当である。」と 認定されています。

 以上のとおり,原告表示画面と被告表\示画面の共通する部分は,いずれも アイデアに属する事項であるか,又は,書店業務を効率的に行うに当たり必 要な一般的な指標や情報にすぎず,各表示項目の名称の選択,配列順序及びそのレイアウトといった具体的な表\現においても,創作者の思想又は感情が創作的に表現されているということはできない上,両製品の配色の差違等により,利用者が画面全体から受ける印象も相当異なるというべきである。そ\nして,被告表示画面について,他に原告表\示画面の本質的特徴を直接感得し 得ると認めるに足りる証拠はない。
(4) 表示画面の選択や相互の牽連関係における創作性の有無・程度
ア 原告は,表示画面の牽連性に関し,原告製品は,画面の最上部にメニュータグを常時表\示し,どの画面からも次の業務に移行できるようにしている点や,画面の中央にサブメニュー画面を用意し,画面遷移なしに表示することを可能\にしている点などに独自性があると主張する。 しかし,画面の最上部にメニュータグを常時表示し,そのいずれの画面からも次の業務に移行できるようにすることや,画面の中央にサブメニュー画\n面を用意し,画面遷移なしに表示することを可能\にすることは,利用者の操 作性や一覧性あるいは業務の効率性を重視するビジネスソフトウェアにおいては,ありふれた構\成又は工夫にすぎないというべきであり,原告製品における表示画面相互の牽連性に特段の創作性があるということはできない。
イ また,原告は,原告製品が補充発注画面や自動計算機能を備えていることをもって他社にはない独自性があると主張するが,在庫の変動に伴い商品を\n補充して発注することや,定期改正数を自動計算することなどは,一般的な 書店業務の一部であり,原告製品の補充発注(条件設定)画面及び補充発注 (入力)画面に表示された項目の名称の選択,配列順序及びそのレイアウトなどの具体的な表\現において,創作者の思想又は感情が創作的に表現されて\nいるということはできないことは,前記(3)ケ及びコで判示のとおりである。
ウ したがって,原告製品は,表示画面の選択や画面相互の牽連性において独自性又は創作性があるとの原告主張は採用し得ない。\n
・・・
(1) 原告は,被告製品の表示画面が不競法2条1項1号の規定する不正競争行為に該当すると主張するところ,ビジネスソ\フトウェアの表示画面は,商品の形\n態と同様,1)当該表示画面が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,2)その表示画面が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な広告宣伝や爆発的な販売実績等により,\n需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている場合に不競法2条1項1号の「商品等表\示」に該当すると解するのが相当である。
(2) 周知性について
原告は,原告表示画面が,遅くとも平成25年末までには,出版業界及び書店業界において広く認識されていたと主張するが,以下のとおり,理由がない。\nア 原告製品の販売数や市場占有率に関し,原告は,原告のシステム製品は出 版社市場でトップシェアを占めており,原告製品は既に全国の小売書店10 00店舗に向けて販売・採用されていると主張するが,原告商品の導入件数, 市場規模,原告製品の市場占有率を客観的に示す証拠は提出されていない。
イ また,原告は,業界新聞である「文化通信BB」において原告製品が紹介 されたことを指摘するが,「文化通信BB」の発行部数等は明らかではなく, その記事の内容は原告製品を紹介する内容を含むものの,原告製品の表示画面は一切掲載されていない(甲18)。\n同様に,原告は,日販が平成25年8月1日付け業界新聞において書店向 けPOSレジと原告製品を連携させることを発表し,系列の書店1000店に合計1300台を販売することを表\明したと主張するが,同記事で導入が表明されているのはPOSレジであり,原告製品が書店に導入されたことを裏付けるものではない上,同記事には原告製品の表\示画面は一切表示されて\nいない(乙23)。
ウ さらに,原告は,「文化通信」及び「新文化」のウェブサイトの上段に,バ ナー広告を掲載したことや,「BOOK EXPO」や「書店大商談会」に出 展し,広報を行っていることを根拠に,原告表示画面には周知性がある旨主張する。\n しかし,証拠(乙22)によれば,文化通信社のウェブサイト上に掲載さ れたバナー広告は,「BOOK ANSWERシリーズ」という製品名を表示するものにすぎず,原告製品の表\示画面は一切示されていない。また,「BOOK EX PO」や「書店大商談会」への出展についても,その規模や具体的な出展・ 宣伝態様などは一切明らかではない。
エ 以上によれば,原告画面表示が,遅くとも平成25年末までに,出版業界及び書店業界において広く認識されていたと認めることはできない。\n
(3) 特別顕著性について
原告は,原告表示画面には特別顕著性が認められる旨主張し,その根拠として,1)業務統合型のシステムを構築するという設計思想に基づき,仕入部門で使用するメニューと店売部門で使用するメニューが統合されている点や,2)発 注に当たって,商品分析の画面から一旦発注画面に移行することなく,商品分 析の画面から即発注することができる点,3)帳票を作成するという発想がなく, 画面上に表示して見るということを基本にしている点,4)独自の用語を用いて いる点に,他社製品にはない原告製品の独創的な特徴がある旨主張する。
しかし,上記1)〜3)の点は,いずれも,原告製品の設計思想や機能としての独自性を指摘するものにすぎず,表\示画面自体の顕著な特徴を基礎付けるものということはできない。また,上記4)の点についても,原告製品の表示画面に用いられた用語は,一般的な書店業務に用いられているものがほとんどであり,\n画面全体の特別顕著性を基礎付けるに足りる独創的を有すると認めることは できない。
したがって,原告表示画面が同種製品と異なる顕著な特徴を有しているということはできない。\n
(4) 以上のとおり,原告表示画面には,周知性及び特別顕著性のいずれも認められないから,原告表\示画面が「商品等表示」に該当するということはできない。\nしたがって,その余の点を判断するまでもなく,不正競争防止法に関する原 告の主張についても理由がない。

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令和3(ネ)10026  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月30日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

損害賠償不存在確認訴訟です。 国際裁判管轄の有無、訴えの準拠法、確認の利益の有無、など争点はたくさんです。1審の判断が維持されました。

(2) 控訴人の当審における補充主張に対する判断
控訴人は,請求1−1に関し,前記第2の3(1)アのとおり,別件評決ない し別件米国判決は,被控訴人の元従業員であるAの認識や記憶に基づかない 意図的な偽証に基づきされたのであり,被控訴人自身も,そのことを認識し たはずであるにもかかわらず,Aの供述や証言を援用して,自らに有利な架 空のストーリーを主張していたことになり,別件評決及び別件米国判決には, 民事訴訟法338条1項7号の再審事由が存するといえ,我が国の法秩序の 基礎をなす公序,適正手続という観点に照らして到底容認されるべきもので はなく,同法118条3号の要件を欠くほどに重大な瑕疵があると主張する。 しかし,民事訴訟法338条1項7号の再審事由は,証人の虚偽の陳述が 判決の証拠となった場合でなければならず,同号を理由に再審を求める場合 には,まず刑事手続で有罪の判決が確定した後等でなければならないところ (同条2項),本件においてはこのような事情は認められない。したがって, Aの供述・証言に係る事情をもって同号の再審事由が認められるとする控訴 人の主張は失当というほかない。証人の供述の信用性等は,本来,別件米国 訴訟の中で攻撃防御を尽くした上,誤った判断がされたのであれば,最終的 には上告や再審といった手続の中で是正されるべきものであるところ,別件 米国訴訟においては,そのような機会を経た上で,控訴人の敗訴が確定し, 現在に至っているのであるから,請求1−1に係る控訴人の訴えは,別件米 国訴訟の蒸し返しに当たるといわざるを得ない。 なお,念のために付言すれば,Aは,2015年(平成27年)2月15 日付けの宣誓供述書(甲32)で,参加人が宇部興産に本件発明の実施品を 販売するために本件特許のライセンスを被控訴人に要求し,被控訴人は宇部 興産が非競合者であるためライセンスを与えることを許諾したと供述してい るものの,別件米国訴訟における証人尋問においては,A自身はライセンス の交渉自体には関与していないこと,Cから,本件特許により設備を販売で きなくなり参加人としては困るとの話があったので購買部門に話をつないだ こと,参加人が販売対象として考えているのが非競合他社であるかどうかに ついては明確な議論はなく,ただ,その後上級管理者からは,非競合他社で ある宇部興産に販売しようとしているので問題はないだろうと言われたこと を証言し(甲35),別件関連訴訟における陳述書(甲50)では,Cから ライセンスの打診は受けたが上司に話をつないだだけであるとし,別件関連 訴訟の証人尋問では,Cから本件特許が製品の販売に支障をきたすので何と かならないかという話があったので,上司に話をつないだこと,宇部興産と いう具体名は出なかったが,被控訴人の競合相手ではない同社のことだろう と推測したものであることを証言している(甲51)。このような経緯に照 らせば,別件米国訴訟においてAが意図的な偽証をしていたとまで認めるこ とは困難であり,また,その偽証に基づき被控訴人が別件米国訴訟を追行し ていたともいい難い。 その他,控訴人がるる主張する点を考慮しても,日本の裁判所が審理及び 裁判をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情(民事訴訟法3条の9) があるとの判断を覆すに足りるものではない。
2 確認の利益の有無(請求1−2について。争点3)
確認の利益が認められるためには,原告の権利又は法律的地位に危険又は不 安が存在し,これを除去するために,原告と被告の間で,その訴訟物である権 利あるいは法律関係の存否を確認することが必要かつ適切であることを要する。 被控訴人は,令和3年7月20日の当審第1回口頭弁論期日において,仮に, 本件日本特許権の侵害に基づく被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求権が存 在するとしても,請求権自体放棄すると陳述した。 そうすると,請求1−2の対象となる権利については,被控訴人による権利 行使の意思がないことはもちろん,本件口頭弁論終結時におけるその存在自体 が認められないことになり,権利の存否を巡る法律上の紛争は解決されたとい えるから,現に控訴人の法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去する ため被控訴人に対し確認判決を得ることが必要かつ適切であると認めることは できない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,請求1−2に係る訴 えには確認の利益が認められないから,不適法というべきである。
3 訴訟物の特定の有無(請求2について。争点4)
当裁判所も,請求2に係る訴訟物の特定に欠けるところはないものと判断す る。その理由は,原判決の第3の3の説示のとおりであるから,これを引用す る。
4 請求2−1に係る訴えの準拠法(争点2)並びに別件米国訴訟の提起及び追 行の違法性等(争点6)
(1) 日本法に基づく不法行為の成否
ア 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,原則として加害行為の 結果発生地の法による(通則法17条本文)。もっとも,不法行為につい て外国法によるべき場合において,当該外国法を適用すべき事実が日本法 によれば不法とならないときは,当該外国法に基づく損害賠償その他の処 分の請求は,することができない(同法22条1項)。このため,請求2 −1に係る訴えの準拠法をいずれの地の法と考えるとしても,被控訴人に よる別件米国訴訟の提起及び追行につき日本法により不法行為といえる 必要があることになる。そこで,以下,この点につきまず検討する。
イ 別件米国訴訟は,被控訴人が勝訴して確定するに至っており,このよう な場合に,訴えの提起や追行が不法行為となるためには,確定判決の騙取 が不法行為となる要件,すなわち判決の成立過程において,被控訴人が控 訴人の権利を害する意図のもとに,作為又は不作為によって控訴人の訴訟 手続に対する関与を妨げ,あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔す\nる等の不正な行為を行い,その結果,本来あり得べからざる内容の確定判 決を取得したこと(最高裁判所昭和43年(オ)第906号同44年7月 8日第三小法廷判決・民集23巻8号1407頁),ないしはこれに準ず る特段の事情を要すると考えるのが相当である。そもそも,法的紛争の当 事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求め得ることは,法治国家の根幹 に関わる重要な事柄であるから,訴えの提起や追行が不法行為を構成する\nか否かを判断するに当たっては,裁判制度の利用を不当に制限する結果と ならないような慎重な配慮が必要とされるのであり,民事訴訟を提起した 者が敗訴の確定判決を受けた場合ですら,当該訴えの提起が相手方に対す る違法な行為となるには,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法 律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを 知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに あえて訴えを提起し,又はそれを維持したなど,訴えの提起・追行が裁判 制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められることを要す ると理解されている(63年判決)のであるから,民事訴訟を提起した者 が勝訴の確定判決を受けている場合には,前示のとおり,より高次の特段 の事情を要するというべきである。
これを前提にして本件を見れば,引用に係る原判決第2の1(補正後の もの)及び第3の1(2)イで認定された事実関係に照らせば,本件が,確定 判決の騙取が不法行為となる要件ないしはこれに準ずる特段の事情どこ ろか,民事訴訟を提起した者が敗訴した場合の要件すら満たし得ないもの であることは明らかというべきである(なお,別件米国訴訟においてAが 意図的な偽証をしていたとまで認めることは困難であり,また,その偽証 に基づき被控訴人が別件米国訴訟を追行していたともいい難いことは,前 記1(2)において判示したとおりである。)。 以上のとおりであるから,被控訴人による別件米国訴訟の提起・追行が 不法行為となるとはいえない。
(2) 小括
以上によれば,請求2−1に係る訴えの準拠法をいずれの地とした場合 でも,日本法によれば,被控訴人による別件米国訴訟の提起及び追行につ き,控訴人に対する不法行為は成立しない以上,損害賠償その他の処分の 請求をすることはできない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,請求2−1は理 由がない。
5 請求2−2に係る訴えの準拠法(争点2)及び本件許諾契約に基づく被控訴 人の控訴人に対する本件各特許権不行使債務の不履行の有無(争点7)につい て
(1)準拠法について
本件許諾契約には,その成立及び効力に係る準拠法を明示的に定めた規定 はない。もっとも,本件許諾契約により参加人に対する独占的通常実施権の 許諾を行う被控訴人は,日本に主たる事務所を有する日本法人であること等 を踏まえれば,本件許諾契約の効力の準拠法は,その最密接関係地である日 本法とするのが相当である(通則法8条2項,1項)。
(2) 債務不履行の有無について
控訴人は,前記第2の3(4)アのとおり,参加人と被控訴人との間で締結さ れた第三者のためにする契約の効果又は参加人が本件各特許発明について再 実施許諾する権限に基づき控訴人に本件各特許権の再実施を許諾したことに より,控訴人は本件各発明について実施権を有し,被控訴人は控訴人に対し 本件各特許権を行使しない義務を負っているところ,これに反して被控訴人 が別件米国訴訟を提起したことが控訴人に対する債務不履行となると主張す る(なお,控訴人のこの点に係る請求は,被控訴人が別件米国訴訟を提起, 追行したことにより生じた弁護士費用相当額の損害賠償である。)。 しかし,控訴人の特許権者の実施権者に対する提訴が債務不履行となると すれば,それは実質的には訴権の放棄に等しい効果をもたらすものであるか ら,特許権者が実施権者に不提訴義務を負うことが前提となるというべきで ある。仮に参加人からの機械装置の購入者が,本件許諾契約に基づき,本件 各特許発明について実施権を取得し,それが被控訴人に主張できるものであ るとしても,そのことは,被控訴人が購入者に対し差止請求権や損害賠償請 求権を行使して訴えを提起しても,抗弁が成立して請求が棄却されることを 意味するだけで,当然に被控訴人に参加人からの機械装置の購入者に対する 訴えの提起をしない義務を負わせるものとはいえない。 本件許諾契約には,参加人から機械装置を購入して本件各特許発明(製法 特許)を実施した者に対する不提訴義務が規定されていないことはもちろん, 参加人に対する不提訴義務についても規定されていない。事情が変更する可 能性があり,様々な形態をとり得る特許権者と実施権者ないし実施権者から\nの機械装置の購入者の将来の紛争について,明文の規定もなく不提訴の合意 があったと軽々に認めることはできない。控訴人は本件許諾契約の当事者で はなく,当時存在もしていなかったのであるから(控訴人の成立は,原判決 第2の1(1)アのとおり,2008年〔平成20年〕4月頃である。),なお さら,本件許諾契約が控訴人に対する不提訴義務を定めていると認めること はできない。その他に,本件において,不提訴の合意があったことを裏付け るに足りる事情は見当たらない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,本件において被控 訴人の控訴人に対する不提訴義務は認められず,被控訴人が別件米国訴訟の 提起をしたことについて,債務不履行が成立する余地はないというべきであ る。
(3) 小括
以上のとおり,被控訴人が別件米国訴訟を提起したことについて債務不履 行は認められず,請求2−2は理由がない。

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◆平成30(ワ)5041

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令和3(ワ)12332  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年10月15日  東京地方裁判所

ログインに関する本件発信者情報がプロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断されました。

 上記認定事実によれば,本件アカウントにログインした者が本件各投稿をす ることによって,下記2において説示するとおり,原告の権利を侵害したもの と認めるのが相当である。そうすると,ログインに関する本件発信者情報は, 上記侵害の行為をした発信者を特定する情報であるといえるから,「権利の侵 害に係る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。 これに対し,被告は,本件発信者情報が本件アカウントにログインした者の 情報にすぎず,本件各投稿を行った本件発信者の情報ではないことからすると, 本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないと主張する。 しかしながら,本件発信者情報は本件各投稿を行った本件発信者の情報であ るといえることは,上記において説示したとおりであり,被告の主張は,その 前提を欠く。のみならず,プロバイダ責任制限法4条の趣旨は,特定電気通信 による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバ シー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通\n信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し て発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の 特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにある(最高裁平成21年\n(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676 頁参照)。そうすると,アカウントにログインした者が,権利の侵害に係る情 報を送信したものと認められる場合には,侵害情報の送信時点ではなく,アカ ウントにログインした時点における発信者情報であっても,「権利の侵害に係 る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。そうすると,被告の 主張は,上記判断を左右するに至らない。

◆判決本文

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令和1(ワ)15716等  競業行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年10月29日  東京地方裁判所

 商標権の行使が権利濫用と認定されました。原告Aと被告Bが婚姻していたなど特殊事情があります。

 証拠(乙4,75)及び弁論の全趣旨によれば,原告商標は被告ら標章1 と同一であること,Bは,遅くとも,母であるDが亡くなった平成19年以 降,本件商号を用いて貸画廊を運営しており,平成21年以降は,被告ら標 章1を使用していたこと,原告において本件営業譲渡契約が締結されたと主 張する平成27年2月当時,本件商号及び被告ら標章1には原告独自の信用 が化体しておらず,むしろ,それらが正当に帰属すべきはBであったと認め られる。
これに対し,原告は,本件営業譲渡によって,Bから本件商号を含め本件 画廊に関する全ての権利を譲り受けていると主張するが,前記1のとおり, 本件営業譲渡契約の成立は認められないから,平成30年1月30日の原告 商標の登録出願がされた時点においても,本件商号及び被告ら標章1に原告 独自の信用が化体していたとは認められず,これらが正当に帰属すべきはB であったと認めるのが相当である。 そうすると,原告が,Bに対して,原告商標権に基づく差止及び廃棄請求 並びに商標権侵害による損害賠償請求を行うことは,権利の濫用に該当して 許されないというべきである。また,弁論の全趣旨によれば,被告会社は, Bが代表者を務め,Bと一体になって被告ら標章1を使用しているものと認\nめられるから,原告が,被告会社に対して,原告商標権に基づく差止及び廃 棄請求を行うことも,同様に権利の濫用に該当するというべきである。

◆判決本文

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平成31(ネ)10008 不正競争防止法に基づく差止・損害賠償請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。 卵子及び胚の100%の生存率が達成できるとの記載が不競法2条1項20号の不正競争に当たるが争われました。1審は該当せずと判断しましたが、知財高裁は品質誤認を認めました。損害賠償額は、5条2項による被控訴人(1審被告)の利益額として推定がなされ、被控訴人が書類の提出を拒んだため、控訴人(1審原告)の主張がそのまま認められたものの、覆滅が95%として、5%が損害額です。

前記第2の2で判示したとおり被告サイト1には本件表示1〜6が記載されているほか,前記1(2)アで認定した記載がされている。 不妊治療において,治療用の器具を使用する際は,当該器具の使用方法に従うこ とは当然であることを考慮すると,被告サイト1の上記記載を閲覧した医療関係者 は,被告サイト1に記載された本件表示1〜6は,医療関係者が,クライオテック法のプロトコールを遵守して,被告製品を使用して正常な卵子,胚及び胚盤胞,す\nなわち,臨床において使用可能な卵子,胚及び胚盤胞(以下「正常な卵子」などという。)の凍結保存をした場合,融解後の生存率は100%となるという意味であ\nると認識するものと認められる。
・・・
ア 控訴人は,令和2年9月7日,法7条に基づき,平成30年7月26日 から令和2年7月31日までの間の1)貸借対照表・損益計算書・法人事業概況説明書を含む決算報告書,2)営業報告書,3)確定申告書控え(添付書類を含む),4)総 勘定元帳,5)売上元帳,6)仕入元帳を提出対象の書類とし,上記期間の被告製品に よって乳児が出生される年間の件数は2万8333件であること,乳児一人の出生 に必要な被告製品一式の販売価格は7733円であること及び被告製品の利益率は 70%であることを証すべき事実として,書類提出命令の申立てをしたところ,当裁判所は,同年10月9日,送達日から14日以内に上記申\立てに係る書類の提出を命じる旨の決定をしたが,被控訴人は,提出期限までに上記の各書類を提出しな かった。 そして,上記の各書類の記載に関して具体的な主張をすること及び上記の各書類 によって証明すべき事実を他の証拠によって証明することは,著しく困難であると 認められる。
したがって,民訴法224条3項により,控訴人が,被告広告によって受けた損 害の賠償請求期間として主張している平成27年7月26日から令和2年7月31 日までの間における被告製品によって乳児が出生される年間の件数は2万8333 件であること,乳児一人の出生に必要な被告製品一式の販売価格は7733円であ ること及び被告製品の利益率は70%であることは真実と認められる。 なお,前記2〜4のとおり,被告広告に本件記載部分を含む本件各表示を表\示す る行為は,法2条1項20号の不正競争に当たり,被控訴人は,同不正競争につい て,控訴人に対し損害賠償責任を負うものと認められるところ,上記の書類提出命 令に係る書類は,いずれも,被控訴人の上記不正競争によって控訴人の受けた損害 を算定するために必要であること,被控訴人は,上記書類の提出によって受ける損 害について特段の主張をしていないことからすると,上記の書類提出命令について, 被控訴人において,書類の提出を拒む正当な理由があるとは認められない。 イ 被控訴人は,被告製品を購入した者は,被告製品を実際に使用してみて 購入したのであり,被告広告に接したことによって被告製品を購入したのではない こと,被告製品の性能,品質は原告製品よりも優れていること,控訴人の売上げ,利益は減少していないことを理由に,被控訴人は,被告広告によって利益を受けた\n事実は認められないと主張する。 しかし,前記アのとおり,法5条2項の「侵害の行為により・・・受けてい る・・・利益の額」は,侵害行為と相当因果関係のある利益を意味するのではなく, 侵害者が得た利益の全額を意味するのであり,本件においては,上記「利益の額」 は,本件記載部分を含む本件各表示を掲載した被告広告を表\示している期間中に, 本件各表示によってその品質等が示されている被告製品を販売したことによって被控訴人が受けた利益の全額であるというべきであるから,被控訴人の上記主張は理\n由がない。
(3) 推定の覆滅について
ア 前記1(3)のとおり,被控訴人の営業活動は,主に,営業担当者が被告 製品の購入が見込まれる不妊治療施設を訪問して行うというものであるから,その ような営業活動において,被告広告が利用されることがあるとしても,被控訴人の 営業活動にとって,広告の占める程度は小さいといえる。 しかし,そうであるとしても,被告広告に記載された本件各表示に接することにより,被告製品の購入を検討するようになり,前記1(3)のとおり,所属の培養士 を技術講習会(ワークショップ)に参加させ,その結果,被告製品を購入する不妊 医療施設が存在するものと推認され,このような意味において,本件各表示は,被告製品の購入動機に影響を与えている場合があるというべきである。もっとも,そ\nの場合であっても,技術講習会(ワークショップ)における被告製品の使用感等が 被告製品を購入しようとの意思決定をするに当たって重視されるものと考えられる から,本件各表示の影響は相当程度限定的であるというべきである。また,本件製品は継続的に使用されるものであるから,原告製品や被告製品の販\n売の多くは,既に,同製品を購入して,同製品を使用している不妊医療施設に対す るものであると認められるところ,「生存率100%」が実現できるかは,客観的 に判明し,被告製品を使用している者にとっては,その真偽を比較的容易に認識し 得るといえることからすると,被告製品を継続的に購入し,使用している不妊医療 施設が購入の更なる継続をしようとの意思決定をするに当たっては,「生存率10 0%」などの本件記載部分に影響を受けることはないというべきである。 以上の事情を総合考慮すると,被告製品の売上げに対する被告広告の貢献の程度 は,かなり小さいといわざるを得ない。
また,前記1(9)のとおり,日本において販売されている本件製品のほとんどは, 原告製品又は被告製品であるが,海外においては,原告製品と被告製品が競合して いるインドのシェアは,被告製品が18%,原告製品が54%であり,原告製品と 被告製品が競合しているロシアのシェアは,被告製品が15%,原告製品が60% である。そうすると,法5条2項の推定が一部覆滅され,その割合は95%であると解するのが相当である。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成30(ワ)22646
以上によれば,研究報告1ないし5によっては,手順を厳密に遵守して被 告製品を用いて卵子を凍結保存し融解したとしても100%の生存率を達成 することができないとは認めるに足りず,他にこれを認めるに足りる証拠も ないから,被告から提出された証拠(乙4ないし10)の内容も考慮すれば, 本件記載部分を含む本件各表示が被告製品の需要者である医療関係者や研究者をしてその品質等を誤認させるおそれがあるとは認めるに足りない(なお,\n本件記載部分の表現については,紛争予\防の観点から,研究報告1ないし5 の内容も踏まえ,より慎重に検討することが望まれる。)。

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平成31(ワ)2534  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年11月11日  大阪地方裁判所

 自然保護センターのインターネット展示システムについて著作物性があるかが争われました。大阪地裁は著作物性無しと判断しました。

ア 著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,\n美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(法2条1項1号)。したがって,著作 物といえるためには,思想又は感情を表現したものであること,その表\現に創作性 があること,文学,学術,美術又は音楽の範囲に属するものであることを要する。
イ 前提事実及び前記認定に係る各事実によれば,原告は,旧展示システムから の移行として本件展示システムを構築するに当たり,本件購入契約及び本件構\築契 約に基づき,本件展示システムの機能を実現するために必要な機能\を選定し,性能,\nセキュリティ対策ないし費用等の面から必要かつ最適と考えるサーバ機器及びネッ トワーク機器等を,その組合せも踏まえた上で選定し,各機能等を分担させて本件\n展示システムを構築することとして,本件サーバ設計書を改訂し,これに基づき,\n本件展示システムを構築したことが認められる。\nもっとも,本件サーバ設計書と本件展示システム自体とはその表現形式を異にす\nることから,本件展示システムの著作物性の有無は,本件サーバ設計書の著作物性 とは別個に検討する必要がある。すなわち,本件展示システム自体につき著作物性 が認められるためには,本件サーバ設計書を離れてなお固有の創作性が認められる 必要がある。 しかるに,本件展示システム自体は,いわば本件サーバ設計書の記載 を技術的・機械的に具体化したものにとどまるものというべきであって,固有の創 作性があると見るべき部分に関する具体的な主張立証はない。そうである以上,本 件展示システム自体をもって創作的な表現と見ることはできない。\nしたがって,本件サーバ設計書の表現の創作性すなわち著作物性の有無に関わり\nなく,本件展示システム自体をもって著作物ということはできない。
ウ これに対し,原告は,本件展示システムは本件サーバ設計書とは独立して外 部に表出された著作物である旨などを主張する。\nしかし,本件展示システムが本件サーバ設計書の記載のとおりに構築されたもの\nであることは,原告自身も認めるところである。原告が本件展示システム自体の創 作性の表現として縷々主張するものも,本件サーバ設計書の記載に基づき実現され\nているものと理解されるのであって,前記のとおり,これを離れて本件展示システ ムに固有の創作性があると見るべき部分についての具体的な主張立証はない。また, 本件保守管理仕様書には「生物情報データベースフォーマット,及び,WebGIS」 の著作権が原告に帰属する旨の記載があるものの,著作物性の有無は当事者間の契 約条項の記載によって決定されるものではない。そもそも,上記記載が示すものと 本件展示システム自体との関係性に関する具体的な主張立証はなく,両者の異同そ の他の関係性は不明というほかない。 その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用 できない。
(3) 小括
以上のとおり,本件展示システム自体の著作物性は認められない。したがって, 原告は,本件展示システム自体に係る著作者人格権(同一性保持権)を有しないか ら,その余の点を論ずるまでもなく,被告に対する著作者人格権に基づく差止及び 廃棄請求権を有しない。
ア 本件サーバ設計書1頁にはネットワーク構成図等が記載されているところ\n(前記1(1)エ(イ)),本件展示システムが ADSL 回線と本件ルータを接続すること により外部ネットワークと接続することは,本件購入仕様書及び本件構築仕様書に\nも,システム構成として記載されている。また,同頁記載の各端末に割り当てられ\nたグローバル IP アドレスは,本件サーバ設計書を見ずとも,所定の手順を履践す ることにより確認可能なものである。また,本件サーバ設計書15頁には,「項目\n名設計」の項に本件ルータの初期パスワード及び変更後パスワードが記載されてい るところ(前同),このうち,初期パスワードは本件説明書にも記載がある。さら に,本件サーバ設計書17頁には,「ルータ・ファイアウォール設定コマンド」の 項の「パケットフィルタリング」に関する記載があるところ(前同),本件展示シ ステムにおいてファイアウォール機能がパケットフィルタリングにより行われるこ\nとは,本件購入仕様書及び本件構築仕様書にも記載されている。加えて,本件ルー\nタがファイアウォール機能を有することやそのファイアウォールポリシーの詳細な\n設定情報,ルータの設定コマンド等は一般に公開されている(乙1,3〜5)。し かも,「パケットフィルタリング」記載の設定方法は,メーカーが一般に公開して いる設定例集(乙5)記載の設定例と,サーバの IP アドレスを異にするに過ぎな い。
そうすると,本件展示システムにつき外部との接続を遮断するために必要な情報 のうち,本件サーバ設計書を参照しなければ被告及び外部業者が把握し得ないもの は,本件ルータの変更後パスワード及び開放されているポート番号である。これに, 確認に所定の手順を要するIPアドレスをも含むとしても,サーバのIPアドレス及 び本件ルータの変更後パスワードは,本件展示システムに固有のものと思われるこ とから,これらの情報が第三者との関係で秘密として保持されることにつき,原告 にとっての有用性ないし固有の利益があるとは考え難く,少なくともこれがあるこ との具体的な主張立証はない。また,本件サーバ設計書17頁には,開放済みポー ト番号として本件閉鎖行為により閉鎖された80,25及び53のほか,110, 143,123も記載されているが,これらも含め,いずれも代表的なポート番号\nとされるものであるから(乙14),これらの情報についても,秘密として保持さ れることにつき原告にとっての有用性ないし固有の利益があるとは考え難い。 そうすると,被告の外部業者に対する本件開示行為(本件サーバ設計書1頁,1 5頁及び17頁の開示)につき,原告の法的に保護すべき権利ないし利益を侵害す るものとはいえない。 したがって,本件開示行為をもって,被告による国家賠償法上の違法行為と認め ることはできない。
イ これに対し,原告は,本件開示行為により,本件サーバ設計書記載の原告の 秘密情報を保持する権利ないし利益が侵害された旨及びこれにより本件展示システ ムの基となっている基礎システムを使用する他の顧客のシステムについてセキュリ ティ対策を施す必要が生じ,損害を受けた旨などを主張する。 しかし,前記のとおり,本件開示行為により開示された情報は,いずれも公開さ れたものであるか,原告にとって有用性ないし固有の利益がある情報とはいえない。 また,損害の点についても,他の顧客に対する連絡・周知文書や対策として調達し たとする機器の購入の裏付資料といった客観的な証拠はない。 その他原告が縷々主張する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用 できない。

◆判決本文

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令和3(ネ)10057  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月17日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 原告が、共同発明者か否かかが争われました。1審、控訴審とも発明者ではないと判断しました。

控訴人は,1)平成22年6月24日,3本スリットフィンの風上側 のスリットをなくすことにより座屈強度の向上を図ることができること を着想し,同日,Eに対し,フラットフィンの強度計算をFにしてもら うように指示し,その後,2本スリットフィンの座屈強度計算もFにし てもらうように指示したこと,2)その結果,2本スリットフィンの座屈 強度は当初フィンの2.5倍で,フラットフィンとほぼ同一であったが, Eは,2本スリットでは伝熱性能が低下するとして,3本のスリットを\n風下側に押し込めることを提案し,控訴人はこれを承諾したこと,3)そ の後,控訴人及びEによる試験を経て,同年7月下旬頃,本件発明が完 成したことを主張する(本判決による補正後の原判決4頁21行目から 5頁20行目まで)。
(イ) そこで,前記(ア)の控訴人の主張について検討する。
控訴人は,控訴人メール1において,Eに対し,フラットフィンの座 屈強度の解析を指示し,Eは,Eメールにより,●(省略)●を報告し た。しかし,それらの●(省略)●に記載されていたものであり(前記 (3)ケ(イ)),このうち●(省略)●に提出されたものであり(前記キ),E らが住環研において●(省略)●を示すものであった。
また,控訴人は,Eメールに対して返信した控訴人メール2において, ●(省略)●と記述したが,これは,Eメールに示された●●を見て, 控訴人がその時に,●(省略)●と認識したというにとどまるものと認 められ,それをもって,控訴人が,Eらに先んじて,当初フィンを2本 スリットフィンに変えることを着想したとはいえない。 さらに,控訴人がEに対して2本スリットフィンの座屈強度計算を指 示したことを認めるに足りる証拠はなく,Eが3本のスリットを風下側 に押し込めることを提案し,控訴人がこれを承諾したこと,その後,控 訴人及びEによる試験を経て,平成22年7月下旬頃,本件発明が完成 したことなどの控訴人の主張に係る事実を認めるに足りる証拠もない。 そうすると,仮に,伝熱性能を確保しつつ座屈強度を向上させるため\nに2本スリットフィンとすることが本件発明の特徴的部分に係る着想で あるとしても,控訴人がそれを着想したとは認められず,控訴人は,本 件発明の発明者とは認められない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和1(ワ)5059

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令和2(ワ)10386  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和3年11月25日  大阪地方裁判所

 意匠権侵害、不競法2条1項3号の商品形態模倣が争点です。大阪地裁は意匠は類似していない・模倣でもないと判断しました。

ウ 原告商品1−1と被告商品との共通点及び差異点
原告商品1−1と被告商品の各形態を対比すると,原告商品1−1の基本的形態 の全て及び具体的形態 T1-1-3 と,被告意匠の基本的形態の全て及び具体的形態 t3 が 共通点であり,それ以外の形態が差異点であると認められる。 すなわち,原告商品1−1と被告商品の各形態とは,差異点2)’,3)’,5)’〜12)’の ほか,具体的形態 S1-1-3 と s3 につき,原告商品1−1では,中空部中央に位置する 円形板から細い48本の直線状のファンガードが放射状に円筒状中空部下面とほぼ 面一に形成されている(S1-1-3)のに対し,被告商品では,中空部中央に位置する円 形板から細い36本の湾曲線状のファンガードが放射状に円筒状中空部下面とほぼ 面一に形成されている(s3)点で相違する(差異点 C)。
エ 検討
原告商品1−1と被告商品の各形態の差異点のうち,差異点2)’,3)’,6)’〜10)'及 び C は,原告意匠と被告意匠の差異点2),3),6)〜10)及び A と同じである。そうで ある以上,少なくとも差異点3)’,6)’,8)’,9)’及び C については,原告意匠と被告意匠とが差異点3),6),8),9)及び A により異なる美感を生じるのと同様に,原告 商品1−1と被告商品の各形態につき,需要者に異なる美感を生じさせるものとい える。また,これらの差異点の存在にもかかわらずなお両商品の形態が酷似し,実 質的に同一というべき事情は見当たらない。 したがって,原告商品1−1と被告商品の各形態は実質的に同一であるとは認められないから,被告商品は,原告商品1−1の形態を模倣したものということはできない。これに反する原告の主張は採用できない。

◆判決本文

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令和2(ネ)10029  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審はサポート要件違反として無効と判断しましたが、控訴審は約360万円の損害賠償を認めました。

イ 原告は,1)本件発明1の「該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2. 5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベ ルオフ重合度より5〜300高いこと」との要件(差分要件)は,「該セル ロース粉末」に関するレベルオフ重合度との差分であるにもかかわらず, 本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたレベルオフ重合度は,いずれ も「原料パルプ」のレベルオフ重合度であって,実施例及び比較例の「該 セルロース粉末」のレベルオフ重合度は不明であること,BATTIST A論文の記載に照らすと,「該セルロース粉末」と「原料パルプ」のレベル オフ重合度が同じであるとは認められないことからすると,本件明細書の 発明の詳細な説明の記載から,差分要件の数値範囲において,本件発明の 1の課題を解決できると当業者が認識することはできない,2)仮に本件審 決が認定するように「該セルロース粉末」のレベルオフ重合度は,「原料パ ルプ」のレベルオフ重合度より100低いと仮定した場合,実施例2ない し6において示されている差分の範囲は150〜255であり,その下限 値は150であること,差分5ないし10という数値は,粘度法による重 合度測定の誤差の範囲のレベルであり,実質的にはレベルオフ重合度との 差分を技術的有意性をもって認識することはできないこと,当業者は,差 分要件の作用機序の技術的意味を理解できないことからすると,本件明細 書記載の差分が150以上の実施例のデータのみをもって,測定誤差のレ ベルである差分5ないし10を下限とする差分要件の数値範囲の全体に わたり本件発明1の課題を解決できると認識することはできないとして, 本件発明1はサポート要件に適合しない旨主張するので,以下において判 断する。
(ア) 本件発明1の「レベルオフ重合度」の意義について
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明1の「レベ ルオフ重合度」の意義について規定した記載はないが,本件明細書の【0 015】に,「本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温 度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法) により測定される重合度をいう。」との記載がある。 上記記載は,本件発明1の「レベルオフ重合度」を定義したものとい えるから(前記6(1)イ),本件発明1の「レベルオフ重合度」とは,2. 5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチ レンジアミン法)により測定される重合度」をいうものと解される。 なお,本件明細書の【0015】には,レベルオフ重合度に関し,「セ ルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶 以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,レベル オフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(I NDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMIST RY,Vol.42,No.3,p.502−507(1950)),その 後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはなら ない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分 の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合 度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合 度でないと判断できる。」との記載がある。上記記載中の「乾燥後のセ ルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時, 重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき, 重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。」と の記載部分は,本件出願当時,「レベルオフ重合度」とは,セルロースを 酸加水分解すると,その重合度は,酸加水分解初期に急激に200−3 00に低下した後ほぼ一定になり,このほぼ一定になった重合度を意味 することは技術常識であったこと(前記(1)イ(ア))に照らすと,レベルオ フ重合度に達しているか否かの一般的な判断基準を示したものではない ものと理解できる。
(イ) 1)について
a 本件明細書には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセル ロース粉末について,それぞれの原料パルプ(市販SPパルプ,市販 KPパルプ等)のレベルオフ重合度が記載されている(【0039】な いし【0047】)。 前記(1)イ(ア)のとおり,本件出願当時,酸加水分解時に,非結晶部 分は酸で分解されやすいが,結晶部分は分解されず残り,残った部分 の化学構造と結晶構\造は,原料セルロースのままであって,分解され ずに残った部分の結晶領域の長さが「レベルオフ重合度」に対応する ことは技術常識であったことを踏まえると,本件明細書の上記実施例 及び比較例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度は,原料パルプ のレベルオフ重合度とおおむね等しいものと理解できる。 この点に関し磯貝明作成の令和2年9月11日付け意見書(乙72) 中には,「3桁のLODPを報告するときの有効数字は2桁とするのが 一般的であるが,実際のところ,2桁目,3桁目の精度は無いといっ ていほどバラバラになるので,LODPについて十の桁,一の桁を議\n論することは技術的に意味がない。そして,同一のセルロースでもL ODPは酸加水分解条件等によって変化することも常識である,その ため,例えば,市販の木材パルプのLODPを測定したとしても,そ の木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉末のLODP については,やはり実際に測定してみなければわからず,原料である 木材パルプと同一になるとは推測できないばかりか,具体的にいかな る値になるかも推測することはできない。」との記載部分がある。 しかしながら,他方で,上記意見書中には,「LODPとは「セルロ ース試料を酸で加水分解処理した残渣の重合度が一定時間(・・・)経過 しても”ほぼ”一定になる現象」であると述べる部分や,「BATTI STA論文でも同様であるが,「ほぼ一定になる」という現象を示す以 上に,例えば,「平均重合度が下がりきっている(これ以上全く低下し ない)」という含意はない。」,「「一定」といっても過酷な条件であれば 少なくとも2時間程度は更なる酸加水分解によって平均重合度が緩や かに低下していくことは常識である。」,「こうした変化も含めて200 〜300程度の粗い幅で「ほぼ一定」と言っているのである。」と述べ る部分がある。
これらを総合すると,上記意見書の上記記載部分は,市販の木材パ ルプのLODPとその木材パルプを原料として酸加水分解したセルロ ース粉末のLODPとの間における「かなり程度の高い同一性」を問 題とした上で,木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉 末のLODPについては,原料である木材パルプと同一になるとは推 測できない旨を述べたにとどまるものというべきであるから,上記記 載部分によって,本件明細書の実施例及び比較例記載のセルロース粉 末のレベルオフ重合度が原料パルプのレベルオフ重合度とおおむね等 しいものと理解できるとの上記判断を左右するものではない。
b 加えて,本件明細書の表4には,実施例2ないし7及び比較例1な\nいし11のセルロース粉末の平均重合度の記載があることからすると, 本件明細書に接した当業者は,上記セルロース粉末が差分要件を満た すかどうかを把握できるものと解される。 また,本件明細書の表4には,「平均重合度」,「粒子の平均L/D(長\n径短径比)」,「平均粒子径」,「見掛け比容積」,「見掛けタッピング比容 積」,「安息角」及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」(差分 要件)のいずれもが本件発明1の数値範囲内にある実施例2ないし7 のセルロース粉末の円柱状成形体とそのいずれかが本件発明1の数値 範囲外である比較例1ないし11とのセルロース粉末の円柱状成形体 について,平均降伏圧[MPa],錠剤の水蒸気吸着速度Ka,硬度[N] 及び崩壊時間[秒]が示されている。 そして,実施例2ないし7のセルロース粉末は,いずれも,安息角 が55°以下,錠剤硬度が170N以上,崩壊時間が130秒以下で あり,ここで,安息角は,55°を超えると,流動性が著しく悪くな り(【0018】),錠剤硬度は成形性を示す実用的な物性値であり,1 70N以上が好ましく(【0019】),崩壊時間は崩壊性を示す実用的 な物性値であり,130秒以下が好ましい(【0019】)のであるか ら,実施例2ないし7のセルロース粉末は,成形性,流動性及び崩壊 性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であるということ\nができる。
したがって,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び 本件出願時の技術常識から,実施例2ないし7のセルロース粉末は, 本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから, 1)は採用することができない。
(ウ) 2)について
本件明細書には,「平均重合度はレベルオフ重合度ではないことが好ま しい。レベルオフ重合度まで加水分解させてしまうと製造工程における 攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくな い。」(【0015】),「レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めて おく必要があるかということについては,5〜300程度であることが 好ましい。さらに好ましくは10〜250程度である。5未満では粒子 L/Dを特定範囲に制御することが困難となり成形性が低下して好まし くない。300を超えると繊維性が増して崩壊性,流動性が悪くなって 好ましくない。」(【0016】),「セルロース質物質をレベルオフ重合 度まで加水分解してしまうと,製造工程における攪拌操作で粒子L/D が低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。・・・セルロース分散 液の粒子は乾燥により凝集し,L/Dが小さくなるので,乾燥前の粒子 の平均L/Dを一定範囲に保つことで高成形性でかつ崩壊性の良好なセ ルロース粉末が得られる。」(【0021】)との記載がある。 これらの記載から,セルロース粉末がレベルオフ重合度まで加水分解 されてしまうと,乾燥前のセルロース粒子のL/Dが低下しやすく,そ の後の乾燥工程でセルロース粒子が凝集して,得られるセルロース粉末 のL/Dが小さくなり,L/Dが小さくなると,成形性が低下すること を理解できる。 そして,本件発明1の差分要件は,レベルオフ重合度まで重合度が低 下しないように加水分解することを,セルロース粉末の平均重合度とレ ベルオフ重合度の差分(差分要件)で表し,その下限を「5」としたこ\nとを理解できるから,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全 体にわたり,本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認めら れる。 したがって,2)は採用することができない。
(エ) まとめ
以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願時 の技術常識から,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全体に わたり,本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められるか ら,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであることが認め られる。 また,これと同様の理由により,本件発明2も,発明の詳細な説明に 記載したものであることが認められる。

◆判決本文

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◆東京地裁平成29年(ワ)24598号
キ 以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度 と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるところ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの 本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく,また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しい とはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求 の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された 本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえない。\n

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令和1(ワ)30282  損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年11月29日  東京地方裁判所

 本件登録商標を使用していたとする虚偽の主張を行い,原告に対し本件連絡書を送付して損害賠償を請求し,本件仮処分命令申立てをしたという,IBEX社による一連の行為は,原告に対する故意による不法行為を構\成するとして、IBEX社の代表取締役に、約1600万円の損害賠償が認められました。

前記1(1)イ(ア)のとおり,原告は,従前から使用していたブランド である「Attractions」に係る原告標章を商標登録しよう と考え,本件弁理士に対し相談したところ,本件登録商標の存在が判 明したため,その取消請求をすることとした。こうした経緯に照らす と,原告は,今後「Attractions」のブランドを事業展開 するに当たり,原告標章の使用が本件商標権を侵害するおそれがあっ たことから,それを避けることを目的として上記取消請求をすること としたものと認められる。
また,証拠(原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,I\nBEX社との和解交渉が難航していたことや,原告代理人から,IB EX社が原告に対し保全命令を申し立て,原告の商品が差し押さえら\nれるなどする可能性があるとの説明を受けたことなどを契機として,\n平成29年7月末頃から「Attractions」のブランドの使 用を取り止めることを選択肢の一つとして検討し始めたこと,同年8 月8日頃にIBEX社から本件連絡書の送付を受けたため,「Att ractions」のブランドの使用を取り止め,別ブランドに変更 することを決定したこと,さらに,同年9月1日以降,実際に「At tractions」の商標を切り替える対応を採り,商標を切り替 えることができない本件在庫商品については販売の停止を決定したこ とが認められる。
さらに,前記(1)ア(ア)のとおり,平成28年9月1日から平成29 年8月31日までの会計年度における原告の売上高は1億0794万 2353円であると認められるのに対し,前記(1)ア(イ)のとおり,平 成29年8月31日の時点において原告が保有していた本件在庫商品 の販売価額は合計2875万7760円であると認められるから,こ れらの数値を基礎とすれば,本件在庫商品が原告の総売上高に占める 割合は26%余りであることになる。 以上のように,原告は,そもそも本件商標権を侵害するリスクを避 けるために本件審判請求事件に係る請求をしたところ,IBEX社が これを争い,同社の主張に沿う外観の証拠が提出され,その一方でI BEX社との手続外での和解交渉が難航していたことからすると,遅 くとも平成29年7月頃には,本件在庫商品を販売することにより本 件商標権を侵害し,原告の商品が差し押さえられるなどするリスクを 相当程度具体的に認識していたと認められる。そして,本件在庫商品 が原告の総売上高に占める割合が26%余りであったことからすると, これが差し押さえられた場合には原告の経営に大きな影響を及ぼす可 能性があったと認められる。こうした中で,本件連絡書を送付され,\nIBEX社から同年8月18日までの回答を迫られたという経緯に照 らせば,原告において,同年9月1日以降に「Attraction s」のブランドの使用を取り止めるという判断をするのはやむを得な いものであったというべきである。
以上によれば,IBEX社の前記1(2)の不法行為と原告の損害と の間に相当因果関係が認められることはもとより,被告に認められる 善管注意義務違反が,IBEX社の代表取締役としての権限を行使す\nることなく,Bらに業務を任せきりにし,IBEX社による上記不法 行為を惹起したというものであることに照らすと,被告の任務懈怠と 原告の損害との間にも相当因果関係があると認めるのが相当である。 b これに対し,被告は,原告が商標を切り替える対応を採り,本件在 庫商品の販売を取り止めるという行為に及んだのは,原告自身の経営 判断によるものであるとして,被告の任務懈怠と原告の損害との相当 因果関係は認められないと主張する。 しかし,原告の上記行為が経営判断に基づくものであるとしても, 前記 a で説示したとおり,それはやむを得ないものであったというこ とができ,むしろ,経営判断として合理的かつ自然なものであるとい うべきであるから,原告の経営判断が介在したことをもって,被告の 任務懈怠と原告の損害との間の相当因果関係を否定することはできな い。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 c また,被告は,IBEX社の経営を実質的に支配していたのはBで あり,被告がBの判断を翻意させることはできなかったから,被告の 任務懈怠と原告の損害との間には相当因果関係は認められないと主張 する。 しかし,前記1(1)アのとおり,被告は,Bの大学の同級生であり, IBEX社の経営会議やBとF弁護士との打ち合わせに同席するなど, 代表取締役として一応の役割を果たしていた。また,被告は同社の代\n表取締役であり,被告の他に同社には役員が選任されていなかったの\nであるから,法的には同社の業務に関する一切の権限を被告のみが有 しており,同社の代表取締役として,主体的に行動することは可能\で あったというべきである。したがって,被告は,IBEX社の一連の 不法行為により原告が損害を被ることについても,これを阻止するこ とができなかったとまではいえない。
以上によれば,被告が代表取締役としての任務を懈怠することなく,\n原告に不法行為による損害を与えないようにする善管注意義務を果た し,本件審判請求事件や本件仮処分命令申立て等について適切に対処\nしていれば,原告が主張する損害が発生していなかったということが できる。 してみると,IBEX社の経営をBが実質的に支配していたことか ら直ちに被告の任務懈怠と原告の損害との間の相当因果関係が否定さ れるものではなく,被告の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

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平成27(ワ)547  不正競争行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 平成29年1月19日  大阪地方裁判所

 漏れていたのでアップします。メタタグが商標的使用になるかについて、ディスクリプションメタタグないしタイトルタグは該当、キーワードメタタグについては、該当せずと判断されました。

 被告のウェブサイトの html ファイル上の前記前提事実(4)ウ記載のコードのう ち,「<meta name=″keywords″content=″バイクリフター″>」との記載は,い わゆるキーワードメタタグであり,ユーザーが,ヤフー等の検索サイトにおいて, 検索ワードとして「バイクリフター」を入力して検索を実行した際に,被告のウェ ブサイトを検索結果としてヒットさせて,上記(1)のディスクリプションメタタグ 及びキーワードタグの内容を検索結果画面に表示させる機能\を有するものであると 認められる。このようにキーワードメタタグは,被告のウェブサイトを検索結果と してヒットさせる機能を有するにすぎず,ブラウザの表\示からソース機能\をクリッ クするなど,需要者が意識的に所定の操作をして初めて視認されるものであり,こ れら操作がない場合には,検索結果の表示画面の被告のウェブサイトの欄にそのキ\nーワードが表示されることはない。(弁論の全趣旨)\n
ところで,商標法は,商標の出所識別機能に基づき,その保護により商標の使用\nをする者の業務上の信用の維持を図ることを目的の一つとしている(商標法1条) ところ,商標による出所識別は,需要者が当該商標を知覚によって認識することを 通じて行われるものである。したがって,その保護・禁止の対象とする商標法2条 3項所定の「使用」も,このような知覚による認識が行われる態様での使用行為を 規定したものと解するのが相当であり,同項8号所定の「商品…に関する広告…を 内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」というのも,同号 の「広告…に標章を付して展示し,若しくは頒布し」と同様に,広告の内容自体に おいてその標章が知覚により認識し得ることを要すると解するのが相当である。 そうすると,本件でのキーワードメタタグにおける原告商標の使用は,表示され\nる検索結果たる被告のウェブサイトの広告の内容自体において,原告商標が知覚に より認識される態様で使用されているものではないから,商標法2条3項8号所定 の使用行為に当たらないというべきである。
これに対し,原告は,インターネットの検索サイトの利用者がサーチエンジンに キーワードとして原告商標を入力した際にサーチエンジンを通じて被告ホームペー ジでのメタタグ表記を視認しているといえることから,被告による原告商標のメタ\nタグ使用は,商標的使用に当たると主張する。しかし,検索サイトにおける検索キ ーワードと検索結果との関係にさまざまな濃淡があることは周知のことであること からすると,検索結果画面に接した需要者において,検索キーワードをもって,検 索結果として表示された各ウェブサイトの広告の内容となっていると認識するとは\n認め難いから,検索キーワードの入力や表示をもって,キーワードメタタグが,被\n告のウェブサイトの広告の内容として知覚により認識される態様で使用されている と認めることはできない。
(3) よって,被告標章1のディスクリプションメタタグないしタイトルタグへの 記載は商標的使用に当たり,侵害行為であると認められるが,原告商標のキーワー ドメタタグへの使用については,これを商標的使用に当たると認めることはできな いから,侵害行為であるとは認められない。

◆判決本文

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令和3(ネ)10046  著作者人格権等侵害行為差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年12月22日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 一審原告から懲戒請求を受けた弁護士である一審被告Yが自らのブログ上に懲戒請求の内容とともに一審原告の主張に対する反論を掲載しました。これらが著作権侵害なのか、また権利濫用なのかが争われました。1審は被告のブログ掲載の削除を認めました。知財高裁は、これを取り消しました。

本件懲戒請求書は,一審原告が,弁護士会に対し,一審被告Yに対する 懲戒請求をすること,及び懲戒請求に理由があること等を示すために,本 件懲戒請求の趣旨・理由等を記載したものであって,利用者に鑑賞しても らうことを意図して創作されたものではないから,それによって財産的利 益を得ることを目的とするものとは認められず,その表現も,懲戒請求の\n内容を事務的に伝えるものにすぎないから,全体として,著作物であるこ とを基礎づける創作性があることは否定できないとしても,独創性の高い 表現による高度の創作性を備えるものではない。\n
イ 一審原告自身の行動及びその影響
本件産経記事は,一審原告による本件懲戒請求の後,産経新聞のニュー スサイトに掲載されたものであって,本件懲戒請求書の「懲戒請求の理由」 の第3段落全体(4行)を,その用語や文末を若干変えるなどした上で, かぎ括弧付きで引用していることに加え,証拠(甲2,乙2,6)及び弁 論の全趣旨を総合すれば,一審原告は,産経新聞社に対し,一審被告Yの 氏名に関する情報を含め,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を自 ら提供したものと推認される。 そうすると,一審原告は,産経新聞社に対し,本件懲戒請求書又はその 内容に関する情報を提供し,それに基づいて,本件懲戒請求書の一部を引 用した本件産経記事が産経新聞のニュースサイトに掲載され,その結果, 後記(2)のとおり,一審被告Yが,ブログにより,本件懲戒請求書に記載さ れた懲戒請求の理由及び本件産経記事の内容に対して反論しなければな らない状況を自ら生じさせたものということができる。
ウ 保護されるべき一審原告の利益
前記2のとおり,本件懲戒請求書は公表されたものとは認められないか\nら,一審原告は,本件懲戒請求書に関して,公衆送信権により保護される べき利益として,公衆送信されないことに対する財産的利益を有しており, 公表権により保護されるべき利益として,公表\されないことに対する人格 的利益を有していたものと認められる。 しかし,本件懲戒請求書の性質・内容(前記ア)を考慮すると,一審原 告が本件懲戒請求書に関して有する財産的利益及び人格的利益は,もとも とそれほど大きなものとはいえない上,一審原告自身の行動及びその影響 (前記イ)を考慮すると,保護されるべき一審原告の上記利益は,一審原 告自身の自発的な行動により,少なくとも産経新聞のニュースサイトに本 件産経記事が掲載された時以降は,相当程度減少していたものと認めるの が相当である。
(2) 一審被告Yによる本件記事1と本件リンクの目的について 前記第2の2(前提事実)によれば,本件記事1の目的は,本件産経記事 により,一審被告Yに対する本件懲戒請求の事実が報道され,一審被告Yに 対する批判的な論評がされたことから,一審被告Yが,自らの信用・名誉を 回復するため,本件懲戒請求の理由及びそれを踏まえた本件産経記事の報道 内容に対して反論することにあったものと認められる。 ところで,弁護士に対する懲戒請求は,最終的に弁護士会が懲戒処分をす ることが確定するか否かを問わず,懲戒請求がされたという事実が第三者に 知られるだけで請求を受けた弁護士の業務上又は社会上の信用や名誉を低下 させるものと認められるから,懲戒請求が弁護士会によって審理・判断され る前に懲戒請求の事実が第三者に公表された場合には,最終的に懲戒をしな\nい旨の決定が確定した場合に,そのときになってその事実を公にするだけで は,懲戒請求を受けた弁護士の信用や名誉を回復することが困難であること は容易に推認されるところである。したがって,弁護士が懲戒請求を受け, それが新聞報道等によって弁護士の実名で公表された場合には,懲戒請求に\n対する反論を公にし,懲戒請求に理由のないことを示すなどの手段により, 弁護士としての信用や名誉の低下を防ぐ機会を与えられることが必要である と解すべきである。
本件においては,前記(1)イのとおり,一審原告が一審被告Yに対する懲戒 請求をしたことに加え,一審原告が本件懲戒請求書又はその内容に関する情 報を自ら産経新聞社に提供したため,一審被告Yに対して本件懲戒請求がさ れたことが報道され,広く公衆の知るところになったのであるから,一審被 告Yが,公衆によるアクセスが可能なブログに反論文である本件記事1を掲\n載し,本件懲戒請求に理由のないことを示し,弁護士としての信用や名誉の 低下を防ぐ手段を講じることは当然に必要であったというべきである。した がって,本件記事1を作成,公表し,本件リンクを張ることについて,その\n目的は正当であったものと認められる。
(3) 本件リンクによる引用の態様の相当性について
ア 上記(1)及び(2)のとおり,一審被告Yは,本件リンクにより,本件懲戒請 求書の全文(ただし,本件懲戒請求書のうち,一審原告の住所の「丁目」 以下及び電話番号が墨塗りされているもの。)を本件記事1に引用したも のであるが,本件においては,一審原告が自ら産経新聞社に本件懲戒請求 書又はその内容を提供し,産経新聞のニュースサイトに本件産経記事が掲 載されたため,一審被告Yは,弁護士としての信用及び名誉の低下を防ぐ ために,ブログに反論文である本件記事1を掲載し,懲戒請求に理由のな いことを示すことが必要となった。 確かに,本件懲戒請求書は未公表の著作物であり,本件産経記事には本\n件懲戒請求書の一部が引用されていたものの,その全体が公開されていた ものではないが,懲戒請求書の理由の欄には,その全体にわたって,懲戒 請求を正当とする理由の主張が記載されていたから(甲2),一審被告Yと しては,本件記事1において本件懲戒請求書の要旨を摘示して反論しただ けでは,自分に都合のよい部分のみを摘示したのではないかという疑念を 抱かれるおそれもあったため,その疑念を払拭し,本件懲戒請求の全ての 点について理由がないことを示す必要があり,そのためには,本件懲戒請 求書の全部を引用して開示し,一審被告Yによる要旨の摘示が恣意的でな いことを確認することができるようにする必要があったものと認められ る。 また,一審被告Yは,本件記事1に本件懲戒請求書自体を直接掲載する のではなく,本件懲戒請求書のPDFファイルに本件リンクを張ることに よって本件懲戒請求書を引用しており,本件懲戒請求書が,本件記事1を 見る者全ての目に直ちに触れるものでなく,本件懲戒請求書の全文を確認 することを望む者が本件懲戒請求書を閲覧できるように工夫しており,本 件懲戒請求書が必要な限りで開示されるような方策をとっているという ことができる。 さらに,本件記事 1 は,本件懲戒請求書とは明確に区別されており,本 件懲戒請求に理由のないことを詳細に論じるものであって,その反論の前 提として本件懲戒請求書が引用されていることは明らかであり,仮に主従 関係を考えるとすれば,本件記事1が主であり,本件懲戒請求書はその前 提として従たる位置づけを有するにとどまる。 そして,前記(1)のとおり,一審原告が本件懲戒請求書に関して有する, 公衆送信権により保護されるべき財産的利益,公表権により保護されるべ\nき人格的利益は,もともとそれほど大きなものとはいえない上,一審原告 自らの行動により,相当程度減少していたから,本件懲戒請求書の全部が 引用されることにより一審原告の被る不利益も相当程度減少していたと 認められるばかりか,一審原告は,自らの行為により,本件懲戒請求書又 はその内容を産経新聞社に提供し,本件産経記事の産経新聞のニュースサ イトへの掲載を招来したものであり,一審原告の上記行為は,本件懲戒請 求があったこと及び本件懲戒請求書の内容を世間に公にするという点に おいて,一審被告Yの弁護士としての信用及び名誉に関して非常に大きな 影響を与えるものであったと認められる。 イ 以上の点を考慮するならば,一審被告Yが,本件リンクを張ることによ って本件懲戒請求書の全文を引用したことは,一審原告が自ら産経新聞社 に本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を提供して本件産経記事が産 経新聞のニュースサイトに掲載されたことなどの本件事案における個別的 な事情のもとにおいては,本件懲戒請求に対する反論を公にする方法とし て相当なものであったと認められる。
(4) 権利濫用の成否
前記(1)のとおり,一審原告が本件懲戒請求書に関して有する,公衆送信権 により保護されるべき財産的利益,公表権により保護されるべき人格的利益\nは,もともとそれほど大きなものとはいえない上,一審原告自身の行動によ り,相当程度減少していたこと,前記(2)のとおり,本件記事1を作成,公表\nし,本件リンクを張ることについて,その目的は正当であったこと,前記(3) のとおり,本件リンクによる引用の態様は,本件事案における個別的な事情 のもとにおいては,本件懲戒請求に対する反論を公にする方法として相当な ものであったことを総合考慮すると,一審原告の一審被告Yに対する公衆送 信権及び公表権に基づく権利行使は,権利濫用に当たり,許されないものと\n認めるのが相当である。
(5)当事者の主張に対する判断
ア 一審原告の主張について
(ア) 一審原告は,一審原告が本件懲戒請求書又はその内容に関する情報 を産経新聞社に提供し,本件懲戒請求書の一部が本件産経記事に引用さ れたとしても,一審原告の公表権を保護すべき必要性が全くなくなった\nわけではなく,他方,一審被告Yは,本件懲戒請求書の要旨又はその一 部を引用することにより一審原告の懲戒請求に対して反論することが可 能であり,本件懲戒請求書の全部を引用する必要がなかったにもかかわ\nらず,これを全部引用して公表したのであるから,一審原告の一審被告\nYに対する公表権の行使は権利濫用に当たらないと主張する。\n しかし,前記(1)ウのとおり,一審原告が本件懲戒請求書に関して公衆 送信権により保護されるべき財産的利益,公表権により保護されるべき\n人格的利益は,もともとそれほど大きなものとはいえない上,一審原告 自身の行動により相当程度減少していたものと認められる。他方,前記 (3)のとおり,一審被告Yは,一審原告が産経新聞社に本件懲戒請求書又 はその内容を提供し,産経新聞のニュースサイトに本件産経記事が掲載 されたため,弁護士としての信用及び名誉の低下を防ぐために,本件懲 戒請求書の全文を引用して開示した上で反論する必要があったものであ るから,それらを比較衡量すれば,後者の必要性が前者の必要性をはる かに凌駕するというべきであるから,たとえ一審原告の公表権を保護す\nべき必要性が全くなくなったわけではないとしても,一審原告の一審被 告Yに対する公表権の行使は権利濫用に該当するというべきである。\nしたがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 一審原告は,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を産経新聞 社に提供するという一審原告の行為と,本件リンクを張るという一審被 告Yの行為とは,行為の性質やそれによって閲覧可能となる範囲・程度\nが異なり,本件懲戒請求書の内容が拡散する規模は,本件リンクを張る 行為の方が,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を産経新聞社に 提供する行為よりも圧倒的に大きいから,一審原告による公衆送信権及 び公表権の行使は権利濫用に当たらないと主張する。\n しかし,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を産経新聞社に提 供するという一審原告の行為は,産経新聞又はそのニュースサイトによ って本件懲戒請求に関する情報が報道されることを意図してされたもの と容易に推認され,実際,産経新聞のニュースサイトに本件産経記事が 掲載されたものであり,産経新聞が大手の一般紙であって,法律に興味 を有する者に限らず広く公衆がその新聞又はニュースサイトを閲読する ものであることからすると,一審原告の上記行為は,一審被告Yに対す る本件懲戒請求があったこと及び本件懲戒請求書の内容を世間に公にす るという点において,一審被告Yの弁護士としての信用及び名誉に関し て非常に大きな影響を与えるものであったと認められるから,本件懲戒 請求書の内容が拡散する規模において,本件リンクを張る行為の方が, 本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を産経新聞社に提供するとい う一審原告の行為よりも大きいということはできない。

◆判決本文

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◆令和2(ワ)4481等

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令和2(行ケ)10069  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月9日  知的財産高等裁判所

 医薬品の特許について、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。

(ア) 検討
a 甲7発明と本件発明1とは,「1回当たり200単位のPTH(1− 34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする」との用量の 点において一致するが,その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を 一応異にする。
b 甲7発明で投与対象とされた患者は,前記(1)のとおり,1989年 診断基準で骨粗鬆症と診断された患者であるところ,甲7発明に接し た当業者が,甲7発明のPTH200単位週1回投与の骨粗鬆症治療 剤を投与する対象患者を選択するのであれば,より新しい基準を参酌 しながらその患者を選別することは,当業者がごく普通に行うことで あるから,1989年診断基準とともに,より新しい,1996年診 断基準又は2000年診断基準を参酌するといえる。 そして,前記ア(ア)b及びcのとおり,1996年診断基準で骨粗 鬆症と診断される者は,1)骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの 80%以下の低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か,2)X線上椎体 骨折を認めないが,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAMの7 0%未満である者であり,2000年診断基準で骨粗鬆症と診断され る者は,3)骨萎縮度II)度以上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨 量で,軽微な外力による非外傷性椎体骨折等(脆弱性骨折)を有する 者か,4)脆弱性骨折がないものの,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度 値がYAMの70%未満の者である。
本件条件(2)及び本件条件(3)は,上記1)と同じであるから(「既 存の骨折」は「非外傷性椎体骨折」を含む。),当業者が甲7発明の2 00単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件 条件(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。 また,前記ア(イ)のとおり,骨粗鬆症は,加齢とともに発生が増加 するとの技術常識があり,高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らか であるところ,高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的な ことであり,高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上 が高齢者とされている。したがって,これらを参酌し,骨粗鬆症によ る骨折の複数の危険因子として,低骨密度及び既存骨折に並んで年齢 が掲げられていることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上 として,本件条件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1) のように設定することはごく自然な選択であって,何ら困難を要しな い。
そうすると,甲7発明に接した当業者が,投与対象患者を本件3条 件を全て満たす患者と特定することは,当業者に格別の困難を要する ことではない

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令和1(ワ)8905 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月18日  大阪地方裁判所

 発明の技術的意義から、用語を解釈し、技術的範囲に属しないと判断されました。

(ア) 本件明細書の記載によれば,本件明細書においては,「針先の再露出」ない しこれと同旨の意味を含む表現(「針先再露出阻止機構\」等)と「針抜出し」ない しこれと同旨の意味を含む表現(「針抜出阻止機構\」等)がそれぞれ用いられてい る。その上で,「針先の再露出」等の表現は,針先プロテクタが留置針の針先側へ\nの移動位置において針ハブに係止された後に,針先プロテクタが留置針の基端側へ 後退(移動)すること(【0013】,【0027】,【0070】,【0073】)又は留置針 が針先側(先端側)へ前進(移動)すること(【0028】,【0029】,【0034】〜 【0036】)により針先が外部に露出することを意味する場合に用いられている。 他方,「針抜出し」等の表現は,留置針が基端側へ移動し,針先プロテクタの基端\n側から抜け落ちることにより針先が外部に露出することを意味する場合に用いられ るものと理解される(【0022】,【0028】,【0029】,【0034】,【0035】, 【0071】)。
このように,本件明細書では,「針先の再露出」等と「針抜出し」等の表現が明\n確に使い分けられていることを踏まえると,「留置針の針先の再露出」(構成要件\n1D 等)とは,針先プロテクタが留置針の針先側への移動位置において針ハブに係 止された後に,針先プロテクタが留置針の基端側へ後退(移動)すること又は留置 針が針先側(先端側)へ前進(移動)することにより針先が外部に露出することを 意味するものであって,留置針が基端側へ移動し,針先プロテクタの基端側から抜 け落ちることにより針先が外部に露出する場合はこれに含まれないと解される。こ れに反する被告の主張は採用できない。 したがって,「係止片」(構成要件 1D 等)は,上記の意味における「留置針の 針先の再露出」を防止する機構を構\成するものと理解される。構成要件 1E4)等の 「係止片」も,「前記係止片」として構成要件 1D 等を受けたものであることか ら,同様である。
(イ) 「係止片」(構成要件 1E4)等)につき,本件明細書には,針先プロテクタの 大径部側に形成されるものの形状及び機能等に関しては,それが「針ハブに向かっ\nて傾斜した内側面を有し」,「円筒状部と一体形成される」ことを含めて具体的に 記載されている(【0028】,【0034】,【0036】,【0058】,【0059】, 【0061】,【0065】,【0067】〜【0070】,図 9)。これに対し,「小径部側に 設けられ」ない「係止片」に関しては,その形状はもとより,係止片を小径部側に 設けないことの技術的な意義ないし作用効果やこれを設けた場合の弊害等につい て,本件明細書には何ら記載されていない。
また,本件特許の出願経過を見ると,本件意見書によれば,小径部に設けられて いない係止片の形状につき,原告は「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有」 するものを念頭に置いていると理解する余地もあるものの,本件各発明の進歩性を 主張するに当たり,本件通知書の引用文献2及び4に各記載の「針先プロテクタの 小径部側」に設けられている「係止部」の具体的な形状に言及してはおらず,小径 部に設けられていない係止片の形状についてはもとより,係止片を小径部側に設け ないことの技術的な意義ないし作用効果やこれを設けた場合の弊害についての言及 もない。そうすると,本件意見書の記載については,原告は,公知の発明と構成が\n異なることを示す趣旨で「係止片」が「小径部側には設けられて」いないことに言 及したに過ぎず,「係止片」の形状に関しては,拡開部の大径部側に設けられた係 止片Sが針ハブに向かって傾斜した内側面を有することを説明するにとどまり,小径 部側に設けられていない係止片に関しては何ら述べていないものと理解される。 このような本件明細書の記載及び本件特許に係る出願経過を参酌すると,「係止 片」(構成要件 1E4)等)につき,「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有 し」とは,「前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される」「係止片」の形状を 特定したものであって,「前記小径部側には設けられて」いない「係止片」の形状 を特定するものではないと理解される。これに反する原告の主張は採用できない。
(ウ) 小括
以上より,本件各発明の「係止部」とは,「該針先プロテクタに設けられた」も のであり,これが「該針ハブに対して係止されることで該留置針の針先の再露出が 防止される」,すなわち,針先プロテクタが留置針の針先側への移動位置において 針ハブに係止された後に,針先プロテクタが留置針の基端側へ後退(移動)するこ と又は留置針が針先側(先端側)へ前進(移動)することにより針先が外部に露出 することを防止するものであって(以上につき,構成要件 1D 等),針先プロテク タの有する「前記円筒状部の基端側に」設けられるものであり(構成要件 1E2) 等),かつ,「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,前記大径部側に前記 円筒状部と一体形成される」が,その形状のいかんを問わず「前記小径部側には設 けられ」ない(以上につき,構成要件 1E4)等)ものであると解される。
(2) 構成要件の充足性\n
ア 被告各製品の小径部の側壁部の構成等\n
(ア) 被告各製品の小径部側壁部につき,針先保護部(針先プロテクタ)の基端側 に設けられていること,針抜出防止機構(針先プロテクタが留置針の針先側への移\n動位置において針ハブに係止された後に,更に留置針が基端側へ移動し,針先プロ テクタの基端側から抜け落ちることにより針先が外部に露出することを防止する機 構)として機能\すること,及び,少なくとも針管と針先保護部が相対移動してクリ ック感が生じる位置において,小径部側壁部の突端面により針基に設けられた縦リ ブの側面を挟持することで,針基が針先保護部に対して回動を防止する状態となる ことについては,当事者間に争いがない。
(イ) 証拠(甲3〜6,乙5)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品において は,小径部側壁部が針基に設けられた縦リブの側面を挟持することで針基の回動を 防止しつつ,針先保護部が初期状態の配置位置から留置針の針先方向へ移動し,小 径部側壁部が針基に設けられた縦リブの側面を挟持した状態のまま,クリック感が 生じる位置(「該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた所定位 置」(構成要件 1D 等)に相当する。)である針基の受け部において大径部係止手 段が針基に対して係止されることによって,針管の針先が再度,針先保護部の先端 側から露出することが防止されることとなる。 また,証拠(乙63)及び弁論の全趣旨によれば,仮に被告各製品の小径部側壁 部が存在しない場合,針基の受け部においても針基は回動可能な状態にある。この\n場合,針基が回動したとしても,針先保護部の大径部係止手段に針基の縦リブが接 触することにより針基の回動がいったん停止することとなる。この状態ではなお大 径部係止手段と針基の受け部が接触しているため,直ちに針先保護部が基端側に移 動可能となるものではない。もっとも,この状態において一定の外力が加えられる\nと,縦リブが大径部係止手段を乗り越えて再び回動するなどして,針基の受け部と 大径部係止手段の係止が解除され,針先保護部が基端側に再度移動し,留置針の針 先が再露出する状態となり得ることが認められる。 しかも,被告各製品の添付文書(甲5)には,次のような記載がある。
「・針を収納する際は,ロックが外れたことを確認し,真っ直ぐ引くこと。(針 基が曲がったり,折れるおそれがある。)
・針が収納,固定された状態でグリップ部を強く引っ張る,回転させる操作をし ないこと。(針基が曲がったり,折れるおそれがある。)
・針が収納,固定された状態で針先が飛び出す方向に力を加えないこと。(針刺 し及び感染のおそれがある。)」 これらの記載によれば,被告各製品においては,留置針を収納する際や収納・固 定された状態において日常的な使用時に作用し得る程度の外力により,針基の屈曲 や針先再露出といった状態が生じ得ることがうかがわれる。まして,被告各製品の 小径部側壁部が存在しない場合は,更に小さい外力によりこのような状態が生じ得 ると考えられる。
(ウ) そうすると,被告各製品においては,針先保護部に大径部係止手段及び小径 部側壁部が設けられており,針管と針先保護部が相対移動してクリック感が生じる 位置において,針先保護部に設けられた大径部係止手段が針基に対して係止される ことと,針基に設けられた縦リブと針先保護部に設けられた小径部側壁部とが相互 に係合することにより針基が針先保護部に対して回動することが防止される状態に あることとが相まって,針基が大径部係止手段をすり抜けて針先保護部に対して前 進することができなくなっているものと認められる。すなわち,被告各製品は,大 径部係止手段のみならず小径部側壁部が針先保護部に設けられていることにより針 先の再露出が防止される構成となっている。\n以上のとおり,被告各製品の小径部側壁部は,針先再露出防止機構としての機能\ をも有するものと認められる。したがって,被告各製品の小径部側壁部は,「係止 片」(構成要件 1D 等)に該当し,これが小径部に設けられている以上,被告各製 品は,「前記係止片は,…前記小径部側には設けられておらず」(構成要件 1E 4))を充足しない。

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平成30(ワ)35263  損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和3年9月29日  東京地方裁判所

原告のデータは、営業秘密であるとは認定されましたが、被告がそれを用いたとの事実を認める証拠がないと判断されました。

(1) 秘密管理性
ア 本件データは,気圧の上限・下限,加圧(減圧)に要する時間,チャン バー内を一定の気圧に保っている時間,排気時間及び動作の繰返しの回数 等を内容とし,これらの数値に基づいて酸素チャンバー内の気圧を昇降さ せるためのものであり,本件酸素チャンバーの制御装置内に設置された媒 体に記録されているものであると認められる(原告代表者〔10,11頁〕),\n弁論の全趣旨)。
イ 本件データの上記内容に照らすと,同データは酸素チャンバーの作動を 制御する上で中核をなすものであり,その秘密性は高いと考えられるとこ ろ,証拠(甲2,3,9,11,15,原告代表者〔2,6,23頁〕)\nによれば,1)原告製の酸素チャンバーは,その出荷前に,制御装置内の特 定の箇所をジャンパー線で接続し導通させることにより,本件データ等を 読み出せないようロックがかけられており,それ以降,原告社内でこれに アクセスできるのは,原告代表者のほか限られた人数の役員等であったこ\nと,2)原告の従業員には就業規則第5条(5)により守秘義務を課せられて いたこと,3)原告は,本件データを含む制御装置一式の製作を委託してい た協立電機との間で機密保持契約を締結しており,本件データは同契約第 1条の「秘密情報」に該当すると考えられること,4)原告製の酸素チャン バーの販売代理店であった被告会社も本件データの変更は自由にできな かったこと,5)原告製の酸素チャンバーを購入した顧客も本件データにア クセスすることはできなかったことの各事実が認められ,これを覆すに足 りる証拠はない。 このように,原告社内においても本件データにアクセスすることのでき る者は限られており,取引先等についても秘密保持義務が課せられ,ある いは本件データへのアクセスができない状態とされていたことに照らす と,本件データは原告において秘密として管理されていたというべきであ る。
ウ(ア) これに対し,被告らは,原告が主張するロックの内容は明らかではな く,また,全国的に販売されている原告製の酸素チャンバーの納品や修 理の作業を支障なく行うには本件データの内容を原告の従業員等が知っ ていることが必要であったと主張する。 しかし,原告の主張するロックの内容は上記イ1)のとおり十分に具体\n的であり,かかる措置を講じてもなお本件データへのアクセスが可能で\nあることをうかがわせる証拠はない。また,原告の従業員が,原告製の 酸素チャンバーの納品を行い,あるいは同製品の修理を行うために本件 データにアクセスすることが必要な事例が日常的に生じていたことをう かがわせる証拠はなく,原告製の酸素チャンバーが全国に販売されてい たとしても,そのことから,原告従業員が本件データにアクセスするこ とができたとの事実を推認することはできない。
(イ) また,被告らは,原告との間で,本件データを対象とする秘密保持契 約を締結したことはなく,本件販売代理店契約の契約書(甲3)をみて も,原告製の酸素チャンバー全てについて原告又は原告が委託した者が 修理をする旨の規定はないと主張する。 しかし,上記イ4)のとおり,被告会社が本件データを自由にアクセス し,これを変更し得たことを示す証拠はないことに照らすと,被告会社 との間で本件データは秘密として保護されていたというべきである。ま た,被告会社又は原告の委託者が原告製酸素チャンバーを修理すること があったとしても,これらの業者が本件データにアクセスすることがで きたことをうかがわせる証拠はない。 そうすると,本件データは,被告会社及び原告製酸素チャンバーの修 理を行う業者との間においても,秘密として管理されていたというべき である。
(ウ) さらに,被告らは,本件クラブに納品された本件酸素チャンバーには 本件データのロックがかけられていなかったので,本件データは秘密と して管理されていなかったと主張する。 しかし,本件クラブに納品された本件酸素チャンバーに本件データの ロックがかけられなかったのは,前記前提事実(3)イのとおり例外的な 措置であって,このことは,本件データが秘密として管理されていたと の上記判断を左右しないというべきである。
・・・
本件においては,以下のとおり,被告らが本件データを実際に読 み出して取得し,また,被告会社が取得した本件データを使用して酸素チャ ンバーを製造したことを客観的に示す証拠は存在しない。 ア 被告らが本件制御装置等を保管していた間,本件制御装置に対していか なる作業又は操作を行ったかは証拠上明らかではない。
原告は,本件制御装置等の持ち出し前と返還後とでは,同装置等の側面 にテープ付けしていた鍵の位置が異なっており,明らかに鍵を使用した痕 跡があったことや,原告が本件酸素チャンバーの復旧作業を行った際,本 件制御装置に対する原告のPC以外のPCからのアクセスを確認したこ となどを指摘するが,これを裏付ける客観的な証拠は何ら提出されていな い。 また,原告代表者は,本件クラブには本件データを読み出し,パラメー\nタの設定や変更を行い得る設備や人材等を有していたため,ロックの解除 の方法を伝えたものであり,本件クラブにおいて同ロックを解除したかど うか,また,パラメータ等の変更後のロックをかけたかどうかは承知して いない旨の供述をしているところ(原告代表者〔24,28〜29頁〕),\n同供述を前提にすると,仮に被告らが持ち出した本件制御装置等を使用し て本件データへのアクセスを試みたとしても,奏功したかどうかは明らか ではない。
さらに,原告は,制御装置等の取外しや取付けをしたのみでは酸素チャ ンバーの機能が動作しなくなることはないので,本件制御装置等の返還後\nに本件酸素チャンバーの低圧モードに支障が生じたのは,本件データの複 製等が行われた現れであると主張するが,低圧モードに支障が生じたこと から,直ちに本件データの複製等が行われたと推認することはできない。 そして,他に,被告らが本件制御装置等を保管していた間に本件制御装 置に対して行った具体的な操作や作業の内容を特定し得る証拠はない。 イ 原告は,被告会社が本件データを使用して,酸素チャンバーを製造した と主張するが,被告会社製の酸素チャンバーの開発・製造に当たり,本件 データが使用されたことを客観的に示す証拠はない。
かえって,被告会社の製造した酸素チャンバーの制御装置マニュアル(乙 8)及びW証言〔1,2頁〕によれば,被告会社製の酸素チャンバーにお いては,制御装置のモード選択画面に表示される圧力や運転時間について,\n納品時に所定の設定はされているものの,顧客がこれを変更することも可 能な仕様となっており,顧客がこれらの数値を自由に変更することができ\nない原告製の酸素チャンバーとは仕様が異なるものであると認められる。 なお,原告は,本件酸素チャンバーのラダープログラムと被告会社製の 酸素チャンバーのラダープログラムを対比することにより,被告会社によ る本件データの使用の有無を解析できると主張し,被告らに対し,同プロ グラムの任意提出を求めていたが,その後,被告らが同プログラムを改ざ んしているおそれが高いとして,被告会社の保有するラダープログラムの 提出を求めない旨の意思を表明した(原告第6準備書面)。原告は,被告\nらがラダープログラムを証拠として任意提出しないことから本件データ の使用を推認し得ると主張するが,ラダープログラムを実際に対比するこ となく,そのような推認をすることはできない。
ウ 以上によれば,被告らが本件データを取得し,また,被告会社が取得し た本件データを使用して酸素チャンバーを製造したとの事実を認めるに 足りる証拠はないので,本件持出し行為が不競法2条1項4号の不正競争 行為に該当するとの原告主張は理由がない。

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令和2(ワ)4023 特許権  民事訴訟 令和3年10月7日  大阪地方裁判所

 特102条2項による損害賠償として8割の推定覆滅が認められました。

(3) 推定覆滅について
ア 本件発明の効果
本件発明の効果は,各種タイプのチャイルドシートの背面側に装着することがで きること(【0022】),カバーの天部の高さ位置を適宜設定・変更することがで き,カバーの内部空間で,幼児の頭頂部がカバー天部に接触しないか,接触しても カバーの重みがもろに幼児の頭部に掛ることが少なくなり,居住環境が向上するこ と(【0023】)である。 要するに,本件発明の作用効果は,1)各種のチャイルドシートに装着できるこ と,2)幼児の頭部に合わせてカバーの天部高さ位置を適宜調整できることにあると いえる。 もっとも,様々な形状のチャイルドシートに対応してその略全体を被覆するチャ イルドシートカバーは従来技術として各種存在し(【0002】〜【0010】),これら は本件発明以外の適宜の方法で装着されていたのであるから,上記効果のうち1) は,本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とはいえない。 また,前記1ないし3のとおり,ハ号物件等,ホ号物件等及びト号物件等のよう に本件発明の技術的範囲に属しない部品によっても,装着方法によってはチャイル ドシートカバーを適宜高さ位置に装着できると考えられるから,本件発明の効果2) も,本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とはいえない。
イ 本件発明の貢献の程度等について
(ア) 本件発明は,チャイルドシートのほぼ全体を被覆するチャイルドシートカ バーを自転車のチャイルドシートに装着する際に使用される部品である装着補助プ レートの発明である。チャイルドシートカバーを選択するのは,主に幼児の保護者 等である自転車所有者と考えられるが,装着補助プレートは,チャイルドシートカ バーそのものではなく装着に用いる補助的な部品であって,使用時にはチャイルド シートカバーの内部に隠れ,雨避け等のチャイルドシートカバーの機能そのものを\n発揮する部分ではないから,装着補助プレート自体が需要者の関心を惹き,製品選 択の直接の動機となるとはいえない。 また,本件発明の効果は,前記アのとおり,いずれも本件発明によるのでなけれ ば実現し得ない効果ではなく,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たって は,必ずしも重視できるものではないが,本件発明に係る装着補助プレートを使用 したチャイルドシートカバーの広告において前記の効果1)及び2)を謳っている場合 は,需要者に当該チャイルドシートカバーの利点,優位性を認識させるものである から,製品選択の動機となり得る事情といえる。
(イ) 証拠(甲4,5)によれば,被告は,イ号物件の特徴として,「背もたれ の高いタイプのチャイルドシートなら装着 OK」などと効果1)については謳ってい るものの,効果2)については特に宣伝していない。 また,証拠(甲6)によれば,被告は,ロ号物件の特徴としても,「各種後付け シートに対応しています」などと効果1)については謳っているものの,効果2)に関 しては,取付方法の説明において「6)最後にファスナーを閉じたら,装着完了。突 っ張る部分がある場合は,カバーの高さを調節してください。背面部分を高くセッ トしすぎるとカバーにシワが寄ったり,突っ張ったりするので適宜調節ください」 との記載があるにすぎず,カバーの高さ位置を調整できる旨を記載しているが,特 段の利点としては記載していない。 さらに,証拠(甲4,18)によれば,イ号物件及びロ号物件の購入者のレビュ ーにおいても,効果2)について記載したものはなく,単にカバーがワイヤーにより 自立して天井が高いことに係る記載があるにとどまり,証拠(甲3,16)によれ ば,原告においても,効果1)及び2)を宣伝していないことが認められる。
(ウ) 原告は,チャイルドシートカバーが自転車に常時装着されているものでは なく,使用,不使用時に取り外しを行うものであるので,需要者にとってカバーが 簡単に取り付けられるかどうかが重要であるところ,原告製品の補助プレートを用 いることでカバーの取付が従来より容易となり,需要者から支持を得ていると主張 する。
しかしながら,本件明細書によれば,「カバーを装着したままで使用するという ことが常態」(【0009】)であるというのであり,「本発明においても,上記従来 のチャイルドシートカバーと同様に,これを装着したままの状態で,自転車の不使 用時は勿論のこと,…どのような天候の際にも,幼児を乗せて使用することができ るカバーに適用可能なものである」(【0012】)とされているから,本件発明は, チャイルドシートカバーを常時装着した状態で使用することを前提としたものであ る。また,本件発明にチャイルドシートカバーの取付を容易にする効果があること は本件明細書に記載がなく,【発明が解決しようとする課題】や【課題を解決する ための手段】にも取付を容易にすることに関する記載はないから,チャイルドシー トカバーの取付が容易になることは本件発明の効果とは関係がない。
(エ) 以上によれば,本件発明は,効果1)及び2)を有し,これを実施する製品の 販売等に一応貢献し得るものであるが,効果1)については需要者に重視されず,効 果2)については,イ号物件及びロ号物件において需要者にほとんどその効果が認識 されないものであって,顧客誘引力は極めて低く,イ号物件及びロ号物件の他の利 点を考慮して,これを購入した需要者が多かったものと考えられる。
ウ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,本件においては,8割の損害額の推定が覆滅 されるとすべきである。

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令和1(ワ)9113  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月16日  大阪地方裁判所

 特102条2項による損害額算定において、5%の覆滅されました。

ウ 推定覆滅について
(ア) 本件各発明の効果
本件発明1の効果は,発明に係るケーシングのコンセント部に対する設置形態を 採用することにより,設置面からの表示面部の突出量が極力小さくなり,設置箇所\nの美観が向上されると共に,歩行の妨げになることが抑制されること,上記設置形 態を採用することで大きさ等に制限が生じるケーシング内に複数のアンテナ素子を 配置するにあたり,複数のアンテナ素子がケーシングの内壁面に沿う板状に形成さ れ,内挿部の内壁面において表示面部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分\n配配置されることで,アンテナ素子間の離間距離を十分に大きくとって,送受信波\nの相互干渉を良好に抑制することができること(【0009】)である。 本件発明2の効果は,本件発明1の効果に加えて,ケーシングの内挿部における 四方の内壁面において,表示面部の両側縁部から後方に延出し互いに対向する一対\nの平面状側壁部が存在し,これらの平面状側壁部のそれぞれに複数のアンテナ素子 を分配配置するという合理的な構成により,これら複数のアンテナ素子を表\示面部 の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置できると共に,一対の平面状側 壁部は互いに平行な平面となるので,その平面状側壁部に沿った姿勢で配置される 複数のアンテナ素子のそれぞれにおいて,指向性を決定する延出方向が設定しやす くなること(【0019】),複数のアンテナ素子が表示面部の後方側内部空間を挟ん\nで対角位置に配置されているので,それぞれのアンテナ素子間の離間距離を一層大 きくとって,それぞれのアンテナ素子における送受信波の相互干渉を一層良好に抑 制することができること(【0021】)である。 本件発明3の効果は,本件発明1及び2の効果に加えて,無線 LAN に加えて有 線 LAN や電話回線が利用可能になること,表\示面部の後方側にモジュラーアダプ タが配置されているので,複数のアンテナ素子をモジュラーアダプタを間に挟んだ 状態で配置することができ,それぞれのアンテナ素子における送受信波の相互干渉 が一層良好に抑制されること(【0017】)である。 要するに,本件各発明の作用効果は,1)ケーシングをコンセント部に埋設状態で 設置でき,設置面からの表示面部の突出量が極力小さくなることによる美観の向上\n及び歩行の妨げとなることの防止,2)複数のアンテナ素子間の送受信波の相互干渉 の抑制,3)アンテナ素子の指向性を決定する延出方向設定の容易化(本件発明1を 除く)にあるといえる。
(イ) 本件各発明の貢献の程度等について
本件各発明は,コンセント部に埋設状態で設置される情報コンセントに係る発明 であり,主として集合住宅やホテル,オフィス等に一括して設置することが想定さ れる(甲4,54,55,弁論の全趣旨)。そうすると,それらの設置を扱うイン ターネットサービスプロバイダーが原告製品及び各被告製品の主要な取引者と解さ れると共に,最終的な需要者である情報コンセントが設置される建築物の施主の意 向も,製品選択に影響することが考えられる。これらの者にとって,本件各発明の 前記の効果1)〜3)は,いずれも選択の動機となり得る事情といえる。 また,証拠(甲52)によれば,被告は,各被告製品について,「標準の情報コ ンセント内に埋込み,省スペースで快適な無線 LAN 環境」,「美観重視のお客様 に適した,見た目がスマートな埋込み型」,「JIS 規格のコンセントであればメー カを問わず設置可能」などと宣伝しており,効果1)を謳っている上,「もっと電波 を強くしてほしい」という要望に応じて導入された事例や,「確実に無線が使用で きる環境でありながら,部屋に設置しても存在を意識しないデザイン」が評価され たという事例等を紹介して宣伝してもおり,効果2)を取り上げた宣伝も行っている と認められる。 そうすると,本件各発明は,少なくとも効果1)及び2)により,これを実施する製 品の販売に貢献するものというべきであって,顧客誘引力がない又は乏しいものと はいえない。
これに対し,被告は,本件各発明の特徴は従来から存在したケーシングに対して 技術常識に基づく配置を併せた点に限定されること,原告が商品の訴求ポイントと して挙げる事情は本件各発明と無関係であること,乙26文献及び乙27文献記載 の公知技術の存在を指摘して,本件各発明は売上や利益に対して寄与せず,又はそ の寄与は無視できる程度に小さいなどと主張する。 しかし,被告がその主張の前提とする本件各発明の特徴に関する理解は,本件各 発明に係る技術的思想や効果を正しく理解したものとはいえず,被告の上記主張は その前提を欠く。また,乙26文献及び乙27文献には,いずれも複数のアンテナ を配置することの記載も示唆もないから,これらの文献記載の公知技術の存在は, 本件各発明の貢献の程度を失わせるものとはいえない。 このほか,被告において,他に顧客誘引力を有すべき製品の特徴等についての主 張立証はない。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ) 競合品の存在について
証拠(甲1,49〜52,55,56)によれば,原告製品及び各被告製品は, JIS 規格のコンセントプレートに対応した情報コンセント型無線 LAN アクセスポイ ントの製品であるところ,エレコム株式会社の製品(WAB-S733IW-PD。以下「甲 56製品」という。)も,1つの電子チップ型アンテナ及び1つの基板アンテナの 2つのアンテナ素子を有し,JIS 規格のコンセントプレートに対応した製品である から,原告製品及び各被告製品と市場において競合する製品であることが認められ る。もっとも,その販売開始時期,販売価格,販売実績,市場占有率その他具体的 な事情について,被告による主張立証はなく,証拠上明らかでない。また,甲56 製品のほかに,原告製品及び各被告製品と市場において競合するものと認められる 製品の存在等に関する具体的な主張立証はない。 そうすると,原告製品及び各被告製品と市場において競合する製品として甲56 製品が存在する以上,その存在をもって特許法102条2項に基づく損害額の推定 の覆滅事由として考慮すべきではあるものの,その覆滅の程度は極めて限定的であ り,本件においては,5%の限度で推定が覆滅されるにとどまると考えるのが相当 である。
これに対し,被告は,原告製品及び各被告製品と同種の製品を販売している競合 企業が多数存在するなどと主張する。しかし,一般論として技術的に同一の製品で はなくとも市場において競合することがあり得るとしても,他社製品との競合の状 況に関する具体的な主張立証がない以上,特許法102条2項に基づく損害額の推 定を覆滅すべき事情としてこれを考慮することはできない。また,原告製品の失注 といった個別の取引事例に基づく主張については,その具体的な事情が明らかでは ないから,失注の点をもって直ちに原告製品の競争力の乏しさを示すものとは必ず しもいえない。したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
・・・
(3) 損害額(特許法102条3項に基づくもの)並びに特許法102条2項及 び3項の重畳適用について
原告は,損害額につき,選択的に特許法102条3項に基づく推定をも主張す る。しかし,その主張する額は特許法102条2項に基づき推定される損害額(前 記(2)エ)より少ない。したがって,同条3項に基づく損害額について論ずる必要 はない。 特許法102条2項及び3項の重畳適用については,前記(2)ウのとおり,本件 において同条2項に基づく損害額の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきものは 競合製品の存在のみであるところ,被告による各被告製品の販売実績等と直接の関 わりを有しないこのような事情に基づく覆滅部分に関しては,同条3項適用の基礎 を欠く。したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。

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令和2(ワ)3646  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年11月9日  大阪地方裁判所

 納入された際の原告標章を使用せずに商品販売したことが商標権侵害となるかについて、裁判所は契約の問題であり侵害は成立しないと判断しました。

原告は,原告標章(標準文字)が商標登録され,これに係る公報が発行された後 は,原告標章を使用せず,被告ら標章により本件商品を販売した行為は,登録商標 の出所表示機能\を毀損するものとして,商標権侵害が成立する旨を主張する。
しかしながら,商標権侵害は,指定商品又は指定役務の同一類似の範囲内で,商 標権者以外の者が,登録商標を同一又は類似の商標を使用する場合に成立すること がその基本であり(商標法25条,37条),原告が原告標章を付した本件商標を 被告らに譲渡した際に,原告標章と同一又は類似の商標を使用する競業者が存在し なかったことをもって,本件商標権はその役割を終えたと見ることができるのであ り,原告から本件商品を譲り受けた被告らが,これを原告標章以外の商品名で販売 することができるかは,商標権の問題ではなく,前記検討したとおり,原告と被告 らとの合意の存否の問題と考えざるを得ない。 したがって,後半期間において,被告フジホームが本件商品を被告ら標章により, また取扱説明書を差し替えて自社のオンラインストアで販売したこと(被告ら行為 2)),あるいは被告サンリビングが,原告より直接入手した本件商品を,被告ら標 章によりダイワに譲渡したことは(被告ら行為3)),いずれも商標権侵害にはあた らないといわざるを得ない。

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令和3(行ケ)10016  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年11月30日  知的財産高等裁判所

 延長登録拒絶審決が維持されました。争点は 本件発明における「緩衝剤の量」です。

 特許権の存続期間の延長登録の制度は,政令処分を受けることが必要であったた めに特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とする ものであるから,本件医薬品の製造販売が,本件各発明の実施に当たらないのであ れば,本件処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることがで きなかったということはできない。 ところで,本件処分は,オキサリプラチンを有効成分とする「エルプラット点滴 静注液50mg」(本件医薬品)に係る本件処分に係る医薬品製造販売承認事項一部 変更承認申請当時(平成26年10月3日。甲2・参考資料7参照)の法14条9\n項に規定する医薬品の製造販売についての承認である。原告は,本件医薬品はオキ サリプラチンと注射用水からなり,本件医薬品中でオキサリプラチンが水と反応し て遊離したシュウ酸を緩衝剤とする旨主張している。 そこで,以下,本件医薬品の製造販売行為が,本件各発明の実施に当たるか検討 する。
3 本件各発明の「緩衝剤の量」について
(1) 本件各発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の1(2)のとおりであり,本 件発明1〜9及び15〜17については,1)オキサリプラチン,2)有効安定化量の 緩衝剤であるシュウ酸又はそのアルカリ金属塩及び3)製薬上許容可能な担体である\n水,を包含する「安定オキサリプラチン溶液組成物」に係るものであり,本件発明 10は,1)オキサリプラチン,2)有効安定化量の緩衝剤であるシュウ酸又はそのア ルカリ金属塩及び3)製薬上許容可能な担体,を包含する水性溶液である「オキサリ\nプラチン溶液組成物」に関して,緩衝剤を溶液に付加することを含む安定化方法に 係る発明,本件発明11〜14は,本件発明1〜9のいずれかの組成物についての 担体(水)と緩衝剤を混合することを含む製造方法に係る発明である。
(2) 原告は本件審決における「緩衝剤の量」の認定に誤りがあると主張するので 検討するに,上記(1)の特許請求の範囲の記載からすると,「緩衝剤」は,溶液に添 加したり,混合することを前提とするものと解するのが自然である。また,上記の 通り,本件発明1〜9及び15〜17が,オキサリプラチン,緩衝剤及び担体を含 む溶液組成物に係るものであるところ,オキサリプラチンを水に溶解させたときに 生じるシュウ酸を緩衝剤と称し,オキサリプラチンや水とは別個の要素として把握 するのは不自然である。さらに,「緩衝剤」の「剤」は,「各種の薬を調合すること。 また,その薬」(広辞苑〔第6版〕)を意味するから,この一般的な意義に従うと, 「緩衝剤」は,「緩衝作用を有する薬」を意味すると解される。そうすると,特許請 求の範囲の記載からは,本件各発明における「緩衝剤」に,オキサリプラチンから 遊離したシュウ酸は含まれないと解するのが相当である。
(3) 次に,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細書の記載を考慮して 解釈するものとされる(特許法70条2項)ので,本件明細書(甲1)の記載をみ ると,前記1(1)のとおり,「緩衝剤という用語」について,「オキサリプラチン溶液 を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンお よびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあら ゆる酸性または塩基性剤を意味する。」(【0022】)として,これを定義付ける記 載があり,上記の「剤」の一般的意義に照らしても,「緩衝剤」について,「緩衝作 用を有する薬」を意味するものと理解することは,本件明細書の記載にも整合する。 なお,原告は,本件において,本件明細書の記載を考慮すべきではない旨主張し ているが,特許法70条2項は一般的に特許発明の技術的範囲を定める場面に適用 され,特許侵害訴訟における充足性を検討する場面にのみ適用されるものではない から,原告の上記主張は採用できない。また,原告は,オキサリプラチンから遊離 したシュウ酸が緩衝剤としての役割を果たすと主張するが,同主張は本件特許の特 許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に整合していないし,一般に,有効成分 である化合物が水溶液中で分解した場合に,当該分解物を「緩衝剤」と称するとい うような技術常識があると認めるべき証拠もない。
(4) そして,前記1(2)のとおり,本件各発明が,オキサリプラチンと水からなる 従来技術よりも安定したオキサリプラチン溶液組成物を提供することを目的とする ものであることに加え,本件明細書には,緩衝剤としてシュウ酸が二水和物として 付加される実施例1〜17が記載され,オキサリプラチン及び水のみからなる実施 例18は従来技術である比較例とされていることなどの本件明細書のその余の記載 を考慮しても,「緩衝剤」にオキサリプラチンから遊離したシュウ酸を含むと認める ことはできない。そうすると,「緩衝剤の量」に,オキサリプラチンから遊離したシ ュウ酸の量を含めるべきであるという原告の主張を採用することはできず,本件発 明1の「緩衝剤の量」について,「オキサリプラチン溶液組成物の作製時に,オキサ リプラチン及び担体に添加,混合された緩衝剤の量を意味し,オキサリプラチン溶 液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸の量は, 当該『緩衝剤の量』に含まれない」とする本件審決の認定に誤りはない。
4 本件医薬品を製造販売する行為が本件各発明の実施行為に該当するか否かに ついて
(1) 証拠(甲9)によると,本件医薬品中のシュウ酸モル濃度は,製造直後にお いて5×10-5M,36箇月保存後において8×10-5Mであることが認められる ものの,前記3のとおり,オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経 時的に分解することで生じたシュウ酸の量は,本件各発明における「緩衝剤の量」 に含まれないから,本件医薬品のシュウ酸モル濃度から直ちに,本件医薬品が本件 各発明の「緩衝剤の量」の範囲の緩衝剤を含有するということはできない。そして, 証拠(甲3,10)によると,本件医薬品は,オキサリプラチンと注射用水のみを 成分とし,その他の添加物はないことが認められるから,本件各発明における「緩 衝剤」すなわち「オキサリプラチン溶液組成物の作製時に,オキサリプラチン及び 担体に添加,混合された緩衝剤」を含有しないというほかないから,本件医薬品は, 本件各発明における「緩衝剤の量」の範囲を満たす量の「緩衝剤」を含有しない。
(2) そうすると,本件医薬品を製造・販売することは,本件各発明の実施に当た らないから,本件医薬品には緩衝剤が外から添加されていないとして,特許発明の 実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないとした本件審決の判 断に誤りはない。

◆判決本文

延長対象の特許が同じ事件です。

◆令和3(行ケ)10021

◆令和3(行ケ)10020

◆令和3(行ケ)10019

◆令和3(行ケ)10018

◆令和3(行ケ)10017

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令和2(ワ)11491  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和3年9月15日  東京地方裁判所

 先使用権ありとして意匠権侵害は成立しないと判断されました。

ア 原告意匠の出願日は令和元年8月20日であるところ,上記(2)におい て判示した被告製品の開発経緯によれば,被告製品を開発・製造して被告 に販売したダイセンは,Wuxi社及びCNTA社との間で洗面台用排水 口フィルターの新製品の開発を進め,平成31年4月にWuxi社から抜 き型図面(乙20)を受け取り,これに基づき試作品を作成した上で,被 告に対して新製品販売の提案を行い,被告製品の意匠は令和元年7月に被 告に採用されて,被告製品の製造・販売に至ったものと認められる。
イ ダイセンがWuxi社から受領した上記抜き型図面の構成は,上記(1) イの被告製品の意匠の基本的構成態様及び具体的構\成態様をいずれも備 えたものであり,被告製品の意匠と同一又は類似するということができる。 そして,同図面に基づいて作成されたと推認される被告製品の試作品(乙 23の2の1の下段,乙23の2の2,乙23の4)も同様に被告製品の 意匠の基本的構成態様及び具体的構\成態様をいずれも備え,被告製品の意 匠が被告に採用された後に,ダイセンの担当課長がCNTA社の担当者に 送信した電子メール(乙27)の本文に挿入された試作品の画像も同各態 様を備えていたものと認められる。 そうすると,原告意匠と同一又は類似する意匠は,平成31年4月にダ イセンがWuxi社から知得し,仮にそうではないとしても,ダイセンが 被告と打合せを重ねる中で原告意匠の出願日までの間に創作したもので あり,その意匠は平成31年4月から被告製品の意匠の採用時まで,一貫 して,上記(1)イの基本的構成態様及び具体的構\成態様を備えていたもの というべきである。
ウ 意匠法29条は「現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意 匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は,そ の実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において,その意 匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する」と規定するところ, 上記(2)のとおり,ダイセンは,令和元年8月2日には被告から2万個の被 告製品の製造を受注していたことに照らすと,原告意匠の出願日(同月2 0日)には原告意匠又はこれに類する意匠の実施である事業を開始してい たというべきである。 加えて,ダイセンが,原告意匠の出願日当時,原告意匠について知って いたことを示す証拠はない。
エ 以上によれば,原告意匠と被告製品の意匠が類似しているとしても,ダ イセンは,原告意匠を知らないで自ら原告意匠又はこれに類似する意匠を 創作し,又は同意匠の創作をした者から知得して,原告意匠登録出願の際, 現に日本国内において原告意匠又はこれに類似する意匠の実施である事 業をしていたということができるので,意匠法29条に基づき,原告意匠 権について通常実施権を有するものというべきである。そうすると,被告 が,原告意匠権について通常実施権を有するダイセンから被告製品を仕入 れて販売等する行為が原告意匠権を侵害するということはできない。
(4) 原告の主張について
ア 抜き型図面(乙20)について
(ア) 原告は,抜き型図面は,作成日付が印字されておらず,手書き部分は 後日追記された可能性があるため,同図面が原告意匠の登録出願前に作\n成されたかどうか不明であると主張する。 しかし,ダイセンが平成31年4月11日にWuxi社及びCNTA 社と打合せを行った際の商談記録表(乙21)には,「シートサイズ:\nφ40mm(穴/12mm)×厚さ5mm,取っ手/8mm(45゜C))」, 「抜き型の形状は4月13日までに協議した上で決定させる。」,「別 紙参照:抜き型図面データ」との記載がある。同記録表はその内容,形\n式等に照らして,その「作成日」(同月17日)に作成されたものと信 用し得るところ,同記録表の上記記載に加えて,令和元年6月5日付け\nの電子メールに添付されていた乙23の2の1上段の画像データが乙 20の抜き型図面と同一であり,同図面にはその寸法が記載されている ことなども考慮すると,平成31年4月11日の上記打合せにおいて同 抜き型図面が配布されたと認めるのが相当である。 原告は,同抜き型画面には「4/13 最終案」との手書きの書込み があるのに対し,乙23の2の1上段の画像データには同様の書込みが ないと主張するが,同画像データは,乙20の抜き型図面の図面部分の みを画像データとしたものとも考えられることからすると,同画像デー タに書込みがないことをもって,「4/13 最終案」との上記書込み が原告と被告間の紛争が生じてからされたものであるということはで きない。
(イ) また,原告は,Wuxi社が,抜き型図面のCADファイルをわざわ ざ印刷した上で,紙媒体を日本まで郵送したというのは不自然であると 主張する。 この点,Wuxi社が抜き型図面の元データを印刷して紙媒体として 配布した経緯は明らかではないが,データの流用,改変の防止などの観 点から,CADデータを印刷し,精度を落とした上で,取引先との打合 せにおいて配布したとしても不自然ということはできない。
(ウ) さらに,原告は,乙20の抜き型図面の元データに作為が加わる可能\n性は否定できないと主張するが,乙20の画像データに作為が加えられ たことを具体的に示す証拠は存在しない。
イ 令和元年6月5日付け電子メール(乙23の1)に添付された図面及び 写真データ(乙23の2の1)について
(ア) 原告は,乙23の2の1の画像データ及び製品比較表(乙23の4)\nの画像データのプロパティ(乙34,36の2)は容易に変更すること ができるので,その信用性には疑問があると主張するが,同プロパティ が変更されたことを具体的に示す証拠は存在しない。
(イ) 原告は,被告の主張によると乙23の2の1上段の画像データが作成 されたのは抜き型図面の作成後ということになるが,通常,データを作 成してから印刷するはずであるから,被告の主張は不自然であると主張 する。 しかし,被告の主張するとおり,本件では,Wuxi社が,自らの保 有するデータに基づき,紙媒体の抜き型図面を作成してダイセンに交付 し,その後にダイセンが紙媒体の同図面から必要な部分をデータ化して 乙23の2の1上段の画像データを作成したものと認めるのが相当であ る。そうすると,抜き型図面の作成時期が乙23の2の1上段の画像デ ータの作成時期より早いのは当然であるというべきである。
ウ 製品比較表(乙23の4)について\n
(ア) 原告は,乙36の2のプロパティの作成日時は「2014/12/1 7」と本件よりはるかに過去のものになっており,また,最終更新日も 記載されておらず,同プロパティにある「最終印刷日」もいずれの画面 を印刷したのか不明であると主張する。 しかし,同プロパティの「作成日時」の記載は,同表の元になったフ\nォーマットの作成日時を示すものであると考えられ,製品比較表の作成\n日を示すものということはできない。 また,同プロパティによれば,その最終更新日は令和元年6月5日午 前9時41分であり,最終印刷日は同日午前9時40分であると認めら れ,印刷対象は同表であると認められる。そうすると,同プロパティの\n最終更新日や印刷対象が不明であるということはできない。 同プロパティに表示された最終更新日や最終印刷日は,令和元年5月\n27日の商談記録表(乙22)に「類似商品が販売されていないか,確\n認の依頼を受ける。比較資料を作成し,提出するとした。」との記載が あり,その次の打合せが同年6月12日に行われていること(乙24) とも整合するものであり,信用することができるというべきである。
(イ) 原告は,製品比較表の表\示と乙36の1のデータファイルの画像とは 異なると主張するが,乙36の1は画面の一部をスクロールしたために その一部が表示されていないものにすぎず,製品比較表\(乙23の4) と乙36の1のデータファイルとは同一のものであると認められる。
(ウ) 原告は,製品比較表は乙23の2の1下段の画像データを利用してい\nるので製品比較表のデータファイルの最終印刷日(令和元年6月5日午\n前9時40分)が乙23の2の1の画像データの作成日時(同日午前1 1時14分。乙34)より早いのは不自然であると主張する。 しかし,被告の主張する「乙23の2の1の画像データの作成日時」 は,乙23の2の1の画像データを貼り付けたエクセルファイルをPD\nFファイルに変換した日時にすぎないものと認められる(乙34)から, 被告が,試作品の画像データを作成した上で,これを利用して製品比較 表を作成し,その後同データと抜き型図面の画像データを併せて乙23\nの2の1のPDFファイルを作成したとも考えられる。そうすると,製 品比較表のデータファイルの最終印刷日が被告製品の試作品の写真の\n画像データを貼り付けたPDFファイルの作成日時より早いとしても\n不自然ということはできない。
エ 令和元年7月31日付け電子メール(乙27)について
原告は,電子メールの改ざんや編集は容易であって,ダイセンにも乙2 7の電子メールを改ざんする動機があったと主張するが,同メールの記載 やその本文に挿入された試作品の画像データが改ざんされたことを具体 的に示す証拠は存在しない。
オ 被告製品の意匠の完成時期について
原告は,令和元年8月2日の打合せに係る商談記録表(乙29)に「デ\nザイン案を提出したが,NGとのことであった。」と記載されていること をもって,この時点においてデザインが完成していなかったと主張する。 しかし,1)同年7月22日に行われた被告とダイセンの商談記録表には\n「当初の提案形状のままで,商品化を依頼した」との記載があること,2) 同月30日付けでキャンドゥから採用通知書がダイセンに送付されてい ること(乙26),3)ダイセンの担当課長のCNTA社の担当者宛の電子 メール(乙27)に「下記のフィルターで,採用決定しました。」と記載 され,その直下に被告製品の試作品の画像が挿入されていることによれば, 乙29の商談記録表における「デザイン」とは被告商品の形状に関するデ\nザインではなく,上記電子メールに「作成中」であると記載されている被 告製品の化粧袋のデザインであると解するのが相当である。 そうすると,同年8月2日時点において被告製品のデザインが完成して いなかったとの原告の主張は採用し得ない。

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平成31(ワ)7038等  特許権侵害行為差止等請求事件,損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年10月29日  東京地方裁判所

 29条1項2号にいう「公然実施」について、出願前から製造していた物と現在製造している物に変化がないとして、公然実施と認定し、権利行使不能と判断されました。\n

29条1項2号にいう「公然実施」とは,発明の内容を不特定多数の 者が知り得る状況でその発明が実施されることをいい,本件各発明のよう な物の発明の場合には,商品が不特定多数の者に販売され,かつ,当業者 がその商品を外部から観察しただけで発明の内容を知り得る場合はもちろ ん,外部からそれを知ることができなくても,当業者がその商品を通常の 方法で分解,分析することによって知ることができる場合も公然実施とな ると解するのが相当である。
・・・
エ 日本黒鉛らについて
(ア) 日本黒鉛各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか
a 日本黒鉛製品2,4及び5に係る日本黒鉛製品結果及び乙A18結 果は近接していること,日本黒鉛製品4及び5に係る乙A18結果の 回折プロファイルにおいて,菱面晶系黒鉛層(3R)の(101)面 及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)面の各ピークが出現すると される回折線の角度43ないし44°付近のピークは比較的明瞭であ り,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDXLの自動解析機能を使用しても\n適切な解が得られると考えられること,日本黒鉛製品2に係る乙A1 8結果の回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし44°付 近のピークは明瞭とはいい難いが,このような場合に,PDXLの自 動解析機能を使用して得られた解が常に誤っていることを認めるに足\nりる証拠はないことからすると,日本黒鉛製品2,4及び5のRat e(3R)については,日本黒鉛製品結果及び乙A18結果のいずれ も採用することができるというべきである。
他方で,日本黒鉛製品1及び3に係る乙A18結果については,同 じ製品であるにもかかわらず,算出されたRate(3R)にかなり のばらつきがあること,日本黒鉛製品1及び3に係る乙A18結果の 各回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし44°付近のピ ークは必ずしも明瞭ではないこと,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDX Lは,ピークが不明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な解に\n収束したり,解が発散したりすることがあり,このような場合,試料 を考慮した解析条件を手動で入力する必要があること,前記(1)ウ(イ) aのとおり,原告は,自動解析機能によっては不合理な解に収束した\nり,解が発散したりする場合には適宜の解析条件を手動で入力するこ とにより,PDXLを用いて解析を行い,日本黒鉛製品結果を得たこ とからすると,日本黒鉛製品1及び3のRate(3R)については, 日本黒鉛製品結果を採用することができ,乙A18結果は採用するこ とができないというべきである。
b 日本黒鉛製品結果及び乙A18結果によれば,日本黒鉛製品2は本 件各発明の構成要件1B及び2Bを,日本黒鉛製品4及び5は構\成要 件1Bをそれぞれ充足し,日本黒鉛製品結果によれば,日本黒鉛製品 1及び3は構成要件1B及び2Bを充足することとなり,前記2の本\n件各発明の解釈を前提とすると,日本黒鉛製品1ないし3は本件各発 明の,日本黒鉛製品4及び5は本件発明1の各技術的範囲に属すると 認めるのが相当である。
(イ) サンプルのRate(3R)
a 次に,前記(1)ウ(イ)bのとおり,日本黒鉛工業が保管していた日本 黒鉛製品1,2,4及び5の各サンプルのRate(3R)は,サン プル結果3)のとおりである。
そして,日本黒鉛工業の証人Zは,日本黒鉛工業においては,平成 13年10月頃からおおむね10年に1回,製品のサンプルを保管す るようになり,平成20年6月12日に採取した日本黒鉛製品1のサ ンプル,平成13年10月5日に採取した日本黒鉛製品2のサンプル, 平成20年7月30日に採取した日本黒鉛製品4のサンプル及び同年 12月16日に採取した日本黒鉛製品5のサンプルを保管している旨 証言し,Z証人作成の陳述書(乙A120)にも同旨の記載があると ころ,証拠(乙A86,94,95)による裏付けがあることからす ると,Z証人の上記証言は採用することができるというべきである。 したがって,上記日本黒鉛製品1,2,4及び5の各サンプルは上 記各日に採取したものと認めるのが相当である。
b 日本黒鉛製品1に係るサンプル結果3)については,同じ製品である にもかかわらず,算出されたRate(3R)にかなりのばらつきが あること,サンプル結果3)の回折プロファイルにおいて,菱面晶系黒 鉛層(3R)の(101)面及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101) 面の各ピークが出現するとされる回折線の角度43ないし44°付近 のピークは必ずしも明瞭ではないこと,前記2(1)ウ(イ)のとおり,P DXLは,ピークが不明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な\n解に収束したり,解が発散したりすることがあり,このような場合, 試料を考慮した解析条件を手動で入力する必要があることからすると, 日本黒鉛製品1のサンプルのRate(3R)について,サンプル結 果3)は採用することができないというべきである。 他方で,日本黒鉛製品4及び5の各サンプルに係るサンプル結果3) については,複数回算出したRate(3R)にばらつきはほとんど なく,サンプル結果3)の回折プロファイルにおける回折線の角度43 ないし44°付近のピークは比較的明瞭であり,前記2(1)ウ(イ)のと おり,PDXLの自動解析機能を使用しても適切な解が得られると考\nえられることからすると,日本黒鉛製品4及び5の各サンプルのRa te(3R)について,サンプル結果3)を採用することができるとい うべきである。 日本黒鉛製品2のサンプルに係るサンプル結果3)については,複数 回算出したRate(3R)にばらつきはほとんどないこと,そして, サンプル結果3)の回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし 44°付近のピークは必ずしも明瞭ではないものの,本件証拠上,こ のような場合に,PDXLの自動解析機能を使用して得られた解が常\nに誤っているとまでは認められないことからすると,日本黒鉛製品2 のサンプルのRate(3R)について,サンプル結果3)を一応採用 することができるというべきである。
(ウ) 日本黒鉛らが本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属する日 本黒鉛各製品を製造販売していたか
前記イ(イ)のとおり,菱面晶系黒鉛層の増加に影響を及ぼすと考えられ る要素のほとんどは,黒鉛製品の製造工程及び製造された製品が満たす べき規格に関わるといえるが,具体的に,どのような条件の下,どのよ うな操作をすることにより,単に菱面晶系黒鉛層が増加するだけでなく, 六方晶系黒鉛層との総和における菱面晶系黒鉛層の割合であるRate (3R)がどの程度変動するかは,本件訴訟に現れた全証拠によっても 確定することができない。 そして,前記(1)ウ(ア)のとおり,日本黒鉛工業は,本件特許出願前か ら日本黒鉛各製品を製造しており,本件特許出願前から現在に至るまで, その製造工程及び出荷の基準となる規格値に大きな変更はない。 また,前記前提事実(2)及び(7)アのとおり,原告が日本黒鉛製品結果 をもって日本黒鉛らに対して提訴したのは平成31年3月であり,平成 26年9月9日の本件特許出願からそれほど長い年月が経過しているも のとはいえない。
以上によれば,日本黒鉛らは,本件特許出願前から現在に至るまで, 日本黒鉛各製品の各名称を付した黒鉛製品を製造販売しており,この間, 菱面晶系黒鉛層の増減に影響を与えると考えられるこれらの製品の製造 工程及び規格値に変更はないことから,この間に製造販売された日本黒 鉛各製品は,同じ製造工程を経て,同じ規格を満たすものであると認め られる。そして,他にこれらの製品に対してRate(3R)の増減に 影響を及ぼす事情が存したとは認められず,前記(ア)のとおり,現時点に おいて,日本黒鉛製品1ないし3は本件各発明の,日本黒鉛製品4及び 5は本件発明1の各技術的範囲に属する。これらの事情に照らせば,日 本黒鉛らは,本件特許出願前から,このような日本黒鉛各製品を製造販 売していたと認めるのが相当であり,前記(イ)bのとおり,本件特許出願 前の平成20年に採取した日本黒鉛製品4及び5のRate(3R)が 31%以上であることも,この結論を裏付けるというべきである。
なお,日本黒鉛製品2に係るサンプル結果3)は,乙A18結果と相違 しているが,日本黒鉛製品2は土状黒鉛であり,菱面晶系黒鉛層(3R) の(101)面及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)面の各ピーク が出現するとされる回折線の角度43ないし44°付近のピークが必ず しも明瞭ではなく,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDXLは,ピークが不 明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な解に収束したり,解が発\n散したりすることがあり,同じく土状黒鉛である日本黒鉛製品1に係る サンプル結果3)及び乙A18結果を見てもばらつきがあることからする と,日本黒鉛製品2に係るサンプル結果3)と乙A18結果が相違するこ とは,日本黒鉛らが本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属す る日本黒鉛製品2を製造販売していたという上記認定を左右するとはい えない。

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令和3(ネ)10044  著作権侵害請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年12月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

公園に設置したタコの滑り台について1審は著作物ではないと判断し、知財高裁もこの判断を維持しました。

「イ 前記ア認定のとおり,本件原告滑り台は,遊具としての実用に供 されることを目的として製作されたことが認められる。 ところで,著作権法2条1項1号は,「著作物」とは,「思想又は 感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の\n範囲に属するもの」をいうと規定し,同法10条1項4号は,同法に いう著作物の例示として,「絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物」 を規定しているところ,同法2条1項1号の「美術」の「範囲に属す るもの」とは,美的鑑賞の対象となり得るものをいうと解される。そ して,実用に供されることを目的とした作品であって,専ら美的鑑賞 を目的とする純粋美術とはいえないものであっても,美的鑑賞の対象 となり得るものは,応用美術として,「美術」の「範囲に属するもの」 と解される。 次に,応用美術には,一品製作の美術工芸品と量産される量産品 が含まれるところ,著作権法は,同法にいう「美術の著作物」には, 美術工芸品を含むものとする(同法2条2項)と定めているが,美術 工芸品以外の応用美術については特段の規定は存在しない。 上記同条1項1号の著作物の定義規定に鑑みれば,美的鑑賞の対 象となり得るものであって,思想又は感情を創作的に表現したもので\nあれば,美術の著作物に含まれると解するのが自然であるから,同条 2項は,美術工芸品が美術の著作物として保護されることを例示した 規定であると解される。他方で,応用美術のうち,美術工芸品以外の 量産品について,美的鑑賞の対象となり得るというだけで一律に美術 の著作物として保護されることになると,実用的な物品の機能を実現\nするために必要な形状等の構成についても著作権で保護されることに\nなり,当該物品の形状等の利用を過度に制約し,将来の創作活動を阻 害することになって,妥当でない。もっとも,このような物品の形状 等であっても,視覚を通じて美感を起こさせるものについては,意匠 として意匠法によって保護されることが否定されるものではない。 これらを踏まえると,応用美術のうち,美術工芸品以外のもので あっても,実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離し て,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えてい\nる部分を把握できるものについては,当該部分を含む作品全体が美術 の著作物として,保護され得ると解するのが相当である。 以上を前提に,本件原告滑り台が美術の著作物に該当するかどう かについて判断する。
ウ 控訴人は,本件原告滑り台は,一品製作品というべきものであり, 「美術工芸品」(著作権法2条2項)に当たり,創作性を有するから, 美術の著作物に該当する旨主張する。
そこで検討するに,1)「タコの滑り台,北欧に」との見出しの平 成23年7月7日の朝日新聞の記事(甲4)には,控訴人のB会長の 発言として「タコの滑り台は一つ一つデザインが違い,その都度設計 する。」,2)「タコの滑り台の話」と題するC作成の令和2年7月11 日の毎日新聞の記事(甲25)には,タコの滑り台について「一つ一 つが手作りで,全く同形の作品はないという。」,3)株式会社パークフ ル作成のウェブサイトに掲載された「日本縦断!タコすべり台がある 公園特集」と題する2018年(平成30年)1月3日付けの記事 (乙24)には,タコの滑り台について「どのタコも手作りで作られ ていて,二つとして同じ形のタコはいないんだそう!」との記載があ る。
しかしながら,上記各証拠の記載は,いずれも,B会長の発言又 は伝聞を掲載したものであって,客観的な裏付けに欠けるものである。 他方で,前記前提事実(2)及び(3)のとおり,前田商事が全国各地から発 注を受けて製作したタコの滑り台は260基以上にわたること,前田 商事が製作したタコの滑り台は,基本的な構造が定まっており,大き\nさや構造等から複数の種類に分類され,本件原告滑り台は,その一種\nである「ミニタコ」に属するものであったことからすれば,本件原告 滑り台と同様の「ミニタコ」の形状を有する滑り台が他にも製作され ていたことがうかがわれる。そうすると,上記各証拠から直ちに本件 原告滑り台が一品製作品であったものと認めることはできない。他に これを認めるに足りる証拠はない。
よって,本件原告滑り台は,「美術工芸品」に該当するものと認め られないから,控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであって, 理由がない。
エ 控訴人は,本件原告滑り台が「美術工芸品」に当たらないとしても, 美術の著作物として保護される応用美術である旨主張する。 そこで,まず,本件原告滑り台において,実用目的を達成するた めに必要な機能に係る構\成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美 的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるかどうかを検\n討し,その上で,全体として美術の著作物に該当するかどうかについ て判断する。
・・・
このように,タコの頭部を模した部分は,本件原告滑り台の中でも最 も高い箇所に設置されており,同部分に設置された上記各開口部は,滑 り降りるためのスライダー等を同部分に接続するために不可欠な構造で\nあって,滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成であると\nいえる。また,上記空洞は,同部分に上った利用者が,上記各開口部及 びスライダーに移動するために必要な構造である上,開口部を除く周囲\nが囲まれた構造であることによって,高い箇所にある踊り場様の床から\n利用者が落下することを防止する機能を有するといえる。他方で,上記\n空洞のうち,スライダーが接続された開口部の上部に,これを覆うよう に配置された略半球状の天蓋部分については,利用者の落下を防止する などの滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成とまではい\nえない。 そうすると,本件原告滑り台のタコの頭部を模した部分のうち,上記 天蓋部分については,滑り台としての実用目的を達成するために必要な 機能に係る構\成と分離して把握できるものであるといえる。 しかるところ,上記天蓋部分の形状は,別紙1のとおり,頭頂部から 後部に向かってやや傾いた略半球状であり,タコの頭部をも連想させる ものではあるが,その形状自体は単純なものであり,タコの頭部の形状 としても,ありふれたものである。 したがって,上記天蓋部分は,美的特性である創作的表現を備えてい\nるものとは認められない。 そして,本件原告滑り台のタコの頭部を模した部分のうち,上記天蓋 部分を除いた部分については,上記のとおり,滑り台としての実用目的 を達成するために必要な機能に係る構\成であるといえるから,これを分 離して美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えてい\nるものと把握することはできないというべきである。 以上によれば,本件原告滑り台のうち,タコの頭部を模した部分は, 実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,美的鑑賞 の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握で\nきるものとは認められない。
・・・
そうすると,本件原告滑り台のうち,タコの足を模した部分は,座っ て滑走する遊具としての利用のために必要な構成であるといえるから,\n同部分は,実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して, 美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分\nを把握できるものとは認められない。
・・・
前記(ア)ないし(ウ)のとおり,本件原告滑り台を構成する各部分にお\nいて,実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して, 美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部\n分を把握することはできない。 そして,上記各部分の組合せからなる本件原告滑り台の全体の形状に ついても,美的鑑賞の対象となり得るものと認めることはできないし, また,美的特性である創作的表現を備えるものと認めることもできない。\nしたがって,本件原告滑り台が美術の著作物に該当するとの控訴人の 主張は,採用することができない。
・・・
「(カ) また,控訴人は,応用美術であっても「実用目的を達成するため に必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞の対象となり得る美的 特性を備えている部分を把握できるもの」については「美術の著作物」 として保護され得るという判断基準によるとしても,「実用目的を達 成するために必要な機能に係る構\成と分離して」とは,その構成部分\nを物理的に取り除くというのではなく,実用品として必要な機能を果\nたす構成を観念的に捨象して,創作物をみることを意味すると解すべ\nきであり,本件原告滑り台を滑り台としての機能を取り去ってみたと\nき,その形状は,Aが彫刻家としての思想又は感情を創作的に表現し\nたものであり,抽象芸術として十分に鑑賞の対象になり得るものであ\nるから,美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとして,美 術の著作物に該当する旨主張する。 しかしながら,本件原告滑り台は,遊具としての実用に供されるこ とを目的として製作された作品である以上,これが美術の著作物に該 当するか否かを判断するに当たっては,実用品である滑り台としての 機能を果たす構\成を観念的に捨象して検討することはできないから, 控訴人の上記主張は,採用することができない。

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1審はこちら。

◆令和1(ワ)21993

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令和3(ワ)15819  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年12月10日  東京地方裁判所

 ログインに関する本件発信者情報がプロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断されました。

前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ る。
ア ツイッターの利用者がツイート等の投稿を行うには,事前にアカウントを 登録した上,ユーザー名,パスワード等を入力し,当該アカウントにログイ ンすることが必要である。そのため,アカウントの使用者は,ツイッターの 仕組み上,当該アカウントにログインした者とされている。
イ ツイッター社により開示された本件IPアドレス等の使用期間(令和3年 3月15日から同年5月7日まで)においても,本件各アカウントは,いず れも,昼夜を問わず頻繁にログインされるなど,継続的に使用されている。 (甲2ないし6,12)。
「権利の侵害に係る発信者情報」該当性
上記認定事実によれば,ツイッターの上記仕組み及び本件各アカウントの使 用状況を踏まえると,本件各アカウントにログインした者が本件各投稿をする ことによって,下記2において説示するとおり,原告の権利を侵害したものと 認めるのが相当であり,これを覆すに足りる的確な証拠はない。そうすると, ログインに関する本件発信者情報は,上記侵害の行為をした発信者を特定する 情報であるといえるから,「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものと いえる。 これに対し,被告は,本件発信者情報が本件アカウントにログインした者の 情報にすぎず,本件各投稿を行った本件発信者の情報そのものではないことか らすると,本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない旨 主張する。 しかしながら,本件発信者情報は本件各投稿を行った本件発信者の情報であ るといえることは,上記において説示したとおりであり,被告の主張は,その 前提を欠く。のみならず,プロバイダ責任制限法4条の趣旨は,特定電気通信 による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバ シー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通\n信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し て発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の 特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにある(最高裁平成21年\n(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676 頁参照)。そうすると,アカウントにログインした者が,権利の侵害に係る情 報を送信したものと認められる場合には,侵害情報の送信時点ではなく,アカ ウントにログインした時点における発信者情報であっても,「権利の侵害に係 る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。

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令和2(行ケ)10089  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月15日  知的財産高等裁判所

 訂正発明は、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。

発明の要旨認定は,特許請求の範囲の記載に基づいて行うべきであ り,発明が属する技術分野における優先日前の技術常識を考慮した通 常の意味内容により特許請求の範囲の記載を解釈するのが相当である。 もっとも,特許請求の範囲の記載の意味内容が,明細書又は図面にお いて,通常の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれ ば,通常の意味内容とは異なるものとして解される余地はあるものの, そのような定義又は説明がない場合には,上記のとおり解釈するのが 相当である。
・・・
f 本件審決の解釈の適否
(a) 本件審決の説示
本件審決は,シートシェルについて次のように説示する。 (i) 「ア.本件発明1の『シートシェル』で特定される事項」に おいて「本件発明1の『シートシェル』は,・・・『支持部』と は別個の部材であると解するのが相当である。そうすると, 『シートシェル』の定義は,『シート』の『シェル』であって,『子 供又は乳児を支持する支持部』とは別個の部材であって,『前 記支持部は前記シートシェルの内側にあ』るから,支持部が 内側にある『支持部のための構造要素』である『シェル』とい\nうことができる。」とする(本件審決第5,2(1)(1−2)ア 〔本件審決49頁9〜17行目〕)。 (ii) 前記(i)の「『シートシェル』の定義からみて,甲1発明1の 『側方支持部6を備えた背もたれ5,座部4,ヘッドレスト 10』は子供を支持する部材であるから本件発明1の『支持 部』に相当するものであり」とする(本件審決第5,2(1)(1 −2)イ〔本件審決49頁19〜21行目〕)。 (iii) 「シートシェルが,従来技術とは異なり,子供を支持する 支持部材とは別な部材であることは,以下の明細書の記載か らも明白である。」(本件審決第5,2(1)(1−2)オ(ア)〔本 件審決53頁20〜21行目〕)として,本件明細書の段落【0 008】及び【0019】を挙げる。
(b)本件審決の解釈
前記(a)の本件審決の説示を総合すると,本件審決は,本件発明の 「支持部」が,シートシェルに係る技術常識の(a)ないし(c)(前記c (a)ないし(c)により理解される「シートシェル」及び「子供を支え る柔軟性のある素材」に相当し,本件発明の「シートシェル」は, 「支持部」を内側に配置する,従来技術(技術常識)における「シ ートシェル」及び「子供を支える柔軟性のある素材」とは別異の, それらに更に追加される構造要素と解釈しているものと認められ\nる。
(c) 本件審決の解釈の適否
本件審決は,本件発明の「シートシェルが,従来技術とは異なり, 子供を支持する支持部材とは別な部材である」と解する根拠として, 本件明細書の段落【0008】や【0019】を引用するが(前記 (a) (iii)),これらの段落は,「側面衝突保護部」の配置とその作用又 は効果についての説明にとどまるものであって,「シートシェル」が 従来技術とは別異なものであるとの記載はないし,支持部について は何らの記載もないことからすると,上記段落が本件審決の上記解 釈を裏付けるものとはいえない。そして,本件発明の特許請求の範 囲の記載や本件明細書の発明の詳細な説明の記載において,前記(b) の本件審決の解釈を採用すべき根拠を見出すことはできない。した がって,前記(b)の本件審決の解釈を採用することはできない。
(d)被告の主張の検討
被告は,本件発明の「シートシェル」の解釈について,「背部側か ら支持部を構造的に保持するシェル(外殻)的構\造要素である」,「支 持部とは別個のシェル形状の一構成要素であり,子供を前部側で支\n持する支持部の背部側を外側から構造的に保持する,支持部のため\nのシェル(外殻)的構造要素であって,車両の側部から伝わる横か\nらの力がシートシェルに導かれるように側面衝突保護部を配置し たシェルである」,「シートシェルは,シートシェルの内側にある支 持部の背部側を外側から構造的に保持し,かつ側面衝突保護部を取\nり付けるのに必要とされる程度に剛性(段落【0022】)を備える シェル形状部材である」,「シートシェルはその背部側が露出してお り,シェルの名のとおり曲面形状である」などと主張する(前記第 3,1(1)ア〔被告の主張〕)。確かに,本件図面の図2,5及び6に, シートの背部に曲面形状の構造が示されているようにも見え,実施\n例において,それがシートシェルに該当するとされている。しかし, 本件明細書には,本件発明のシートシェルを,被告が主張するよう な外殻的構造の意味に限定して解釈すべき根拠となるような記載\nはなく,シートシェルという用語の解釈に当たって,本件発明が属 する技術分野における優先日前の技術常識を考慮した通常の意味 内容とは異なるように解釈すべきことを裏付ける根拠もないから, 被告の上記主張は採用することができない。
(イ) 側面衝突保護部の配置について
a 請求項1(本件発明1)により示される側面衝突保護部の配置 本件発明1は「前記シートシェルの外側で前記シートシェルに取り 付けられる側面衝突保護部」(構成要件1D)という構\成を備えるから, 本件発明1の側面衝突保護部は,シートシェルの外側でシートシェル に取り付けられるものである。そして,前記(ア)dのとおり,「シート シェル」は,剛性のある素材から成るチャイルドセーフティシートの 基本構造体であると解されることからすると,このような基本構\造体 である「シートシェル」の側面の外側に取り付けられた「側面衝突保 護部」が受けた力は,自ずと「シートシェル」に伝達されることにな る。
本件発明1は,「前記側面衝突保護部は,前記チャイルドセーフティ シートが前記車両の前記シートに取付けられた状態において,前記車 両の側部から前記チャイルドセーフティシートに伝わる横からの力が 前記シートシェルに導かれるように,配置される」(構成要件1G)と\nいう構成を備えるところ,上記のとおり,側面衝突保護部がシートシ\nェルの外側で前記シートシェルに取り付けられること(構成要件1D),\nシートシェルは剛性のある素材から成るチャイルドセーフティシート の基本構造体であり(前記(ア)d),側面衝突保護部が受けた力は自ず とシートシェルに伝達されることに照らすと,上記の構成(構\成要件 1G)は,シートシェルの外側に取り付けた側面衝突保護部の配置(換 言すれば「取付位置」)が,シートシェルの側面の外側であることを示 すのみであり,その配置について,それ以上に何ら具体的な特定をす るものではないと認められる。
b 被告の主張の検討
被告は,請求項1(本件発明1)の「側面衝突保護部は,・・・横か らの力が前記シートシェルに導かれるように,配置される」(構成要件\n1G)という文言は,機能的限定であるから,本件明細書に記載され\nた具体的構成に基づいて限定的に解釈し,「側面衝突保護部が,チャイ\nルドセーフティシートの座部領域より上方であって,チャイルドセー フティシートの背部に配置される」ことによって,「横からの力が,支 持部(子供)には導かれず,シートシェルにのみ導かれる」ことを意 味するものと解釈すべきであると主張する(前記第3,1(1)イ〔被告 の主張〕)。
しかし,発明の要旨認定は,特許請求の範囲の記載に基づいて行わ れるべきであり,それは,特許請求の範囲の記載の中に作用又は機能\nを用いて物を特定しようとする記載がある場合であっても同様である。 本件発明1の「前記側面衝突保護部は,前記チャイルドセーフティシ ートが前記車両の前記シートに取付けられた状態において,前記車両 の側部から前記チャイルドセーフティシートに伝わる横からの力が前 記シートシェルに導かれるように,配置される」(構成要件1G)とい\nう構成には,「車両の側部からチャイルドセーフティシートに伝わる横\nからの力がシートシェルに導かれる」ということしか記載されておら ず,「横からの力が,支持部(子供)には導かれず,シートシェルにの み導かれる」とは記載されていないから,被告主張のような限定的な 解釈をとることはできない。請求項6(本件発明6)には,側面衝突 保護部の側部要素がチャイルドセーフティシートの座部領域より上に 配置されるチャイルドセーフティシートが記載され,請求項7(本件 発明7)には,側部要素がチャイルドセーフティシートの背部に配置 されるチャイルドセーフティシートが記載されており,また,本件明 細書の段落【0008】及び【0019】には,衝突による横からの 力が子供の体に直接伝わらず,子供の体を迂回してシートシェルに導 かれるように取り付けられる側面衝突保護部材に関する記載があるが, 請求項1(本件発明1)の文言を,従属請求項である請求項6及び7 の記載並びに本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】及び 【0019】の記載によって限定して解釈する理由はないから,被告 の上記主張は採用することができない。

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令和2(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月16日  知的財産高等裁判所

 原告は、訂正発明は、進歩性違反、新規事項、委任省令違反などの無効理由があるとして、無効理由無しとした審決の取消を求めました。知財高裁は審決を維持しました。

特許法36条4項1号の委任する特許法施行規則24条の2は,発明の詳細な説 明の記載について,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発 明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解 するために必要な事項を記載することによりしなければならない」と規定するとこ ろ,原告は,本件明細書からはオルニチンを用いた本件訂正発明が,どのような課 題をどのように解決したか明らかでないこと,「発酵物の乾燥重量1g当たり」「8 mg 以上のオルチニン」という数値限定に対応する課題も効果も,本件明細書に記載 がなく,当業者において本件訂正発明の課題やその解決手段を認識することはでき ないから,上記委任省令要件違反である旨主張する。
(2) 本件明細書の記載について
そこで検討するに,前記1(1)のとおり,本件明細書の段落【0226】には,「ア ルギニンについては,発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。 従って,大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス 20-92 株で発酵処理する ことにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成させ得ることが明らかと なった。」との記載があり,本件明細書の段落【0228】【表3】にも,発酵によ\nり,アルギニンからオルニチンが生成することが示されている。また,本件明細書 の段落【0050】には,「ダイゼイン類を含む原料」の一例である「大豆胚軸」を 用いた場合のオルニチンの含有量について,「エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥 重量1g当たりオルニチンが5〜20mg,好ましくは8〜15mg,更に好ましくは 9〜12mg 程度が例示される。」と記載されており,当業者は,本件訂正発明は,こ の好ましい量の下限を採用したものであると理解できる(前記5(5)参照)。
これらからすると,当業者は,本件訂正発明の技術上の意義は,ラクトコッカス 20-92 株で発酵処理することにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成さ せ得ることを明らかにし,エクオール及びオルニチンを含有する発酵物(オルニチ ンの含有量は乾燥重量1g当たり8mg 以上)の製造方法を提供したことにあること 及び発酵処理によりこれを解決することが理解できるから,本件明細書の発明の詳 細な説明の記載には,当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が 記載されているということができる。
(3) 原告の主張について
原告は,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】段落【0010】におい てオルニチンに係る記載がないことを指摘するが,上記のとおり,特許法施行規則 24条の2は,「発明の詳細な説明の記載」に係る規定であるから,本件明細書全 体の記載から理解できれば足り,必ずしも,発明の技術上の意義を理解するために 必要な事項が「発明が解決しようとする課題」の項目に記載されている必要はない。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10052  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月20日  知的財産高等裁判所

 髪の毛のカット手法を分析する方法について、発明該当性無しとした審決が維持されました。

以上によれば,本願補正発明の第1のステップないし第4のステップは, 全体として考察すると,分析者が,頭髪の知識等を利用して自然乾燥ヘア スタイルを推定し(第1のステップ),分析の対象となる頭部の領域を選択 し(第2のステップ),セクションに適した分類項目の中から分析者が推定 した分析対象者のヘアスタイルを分類し(第3のステップ),この分類に対 応するカット手法の分析を導出する(第4のステップ)ことを,頭の中で すべて行うことが含まれるものである以上,仮に,分析者が頭の中で行う 分析の過程で利用する頭髪の知識や経験に自然法則が含まれているとして も,専ら人の精神的活動によって前記1(1)で認定した課題の解決すること を発明特定事項に含むものであって,「自然法則を利用した技術的思想の創 作」であるとはいえないから,特許法2条1項に規定する「発明」に該当 するものとはいえない。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10060  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月20日  知的財産高等裁判所

 ブロックチェーン関連技術のCS関連発明について、進歩性無しとした審決が維持されました。

進歩性無しとされた請求項1は以下です。
請求項1(本件補正発明)
管理主体が存在しないパブリック型ネットワークにおいて台帳を分散して記録する複数のノードの少なくとも1つに対し,トランザクションのリクエストを送信する複数のプロセスであって,設定されるプロセス多重度に応じた複数のプロセスを生成する生成部と,
トランザクションの指示を受け付け,前記複数のプロセスのいずれかに当該トランザクションのリクエスト送信を割り当てる割当部と,を備えるシステム。
これらの記載によると,引用文献1の実験においては,スレッド当たり のリクエスト数をセキュリティ機能のOFF又はONの相違に従って固\n定し,並列スレッド数を変化させてスループット(1秒当たりのリクエス ト処理量)を測定しているのであり,「全スレッドによる合計リクエスト件 数」は並列スレッド数にのみ左右されるから,引用文献1は,専ら並列ス レッド数とスループットとの関係を測定したものであり,その測定結果と して,並列スレッド数の増加に対するスループットは,ある程度までは増 加し,一定程度で頭打ちとなり,その後は挙動不安定になるというものが 得られたとするものである。そうすると,引用文献1は,並列スレッド数 を増加させていけばスループットは増加するが,ある程度以降は挙動が安 定しなくなるので,その場合には並列スレッド数の増加による効果がなく なり,「リクエストの流量制限」で対応しなければならないと理解すべきも のであるから,その記載内容は,スレッド数の増加による効果には一定の 最大限度があることを含意するものというべきである。 以上のとおりであるから 原告の前記第3の1(1)アの主張は採用する ことができない。なお,原告は,引用文献1においては,「負荷が大きすぎ ること」,すなわち「単位時間当たりのリクエスト数が大きすぎること」を 認識するための手段としてスレッドの数を増加させてみた測定結果が記 載されているのにすぎず,このような記載をもって,「スレッド数(並列度) の制御」を,「リクエストの流量制御」における課題解決手段として読み取 ることはできないない旨主張するが,前述のとおり,引用文献1の該当部 分の記載は,単に課題認識手段としての測定結果を表示したものとはいえ\nず,スレッドの数を増加させた場合の結果に応じて,課題解決に向けた対 応策の示唆等にも及ぶものであるから,原告の前記主張は前提を欠くもの というべきである。 したがって,引用文献1には,引用発明がスレッド数を制御すること, 少なくとも,スレッドの多重度を設定し,これより,設定されるスレッド 多重度に応じた複数のスレッドを生成するものであるとの記載があると 認められる。

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令和2(行ケ)10144  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年11月16日  知的財産高等裁判所

 無効理由(進歩性、サポート要件など)は無しとした審決が維持されました。

ア 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許 請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載さ れた発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載によ り当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,ま た,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当で ある。
イ 本件訂正発明の課題について
(ア) 前記1(2)によると,本件訂正発明は,連通可能な隔壁手段で区画された複数\nの室を有する輸液容器が病院で使用されているところ,輸液中には通常微量金属元 素が含まれていないことから投与が長期になると微量金属元素欠乏症を発症するが, 微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると品質劣化が問題となるため,依然 として輸液の投与直前に混合されているという現状に鑑み,外部からの押圧によっ て連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い,用時に細菌\n汚染の可能性なく微量金属元素を混入することができ,かつ,保存安定性にも優れ\nた輸液製剤の創製研究が開始されたものの,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一 室に充填して微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量 金属元素が隔離してあっても微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が 生じることを知見し,その上で,微量金属元素が安定に存在していることを特徴と する含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを目的とするものであ る。
(イ) 上記(ア)からすると,本件訂正発明1及び2は,微量金属元素が安定に存在し ていることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを 課題とするものであるが,より具体的には,外部からの押圧によって連通可能な隔\n壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用いて,あらかじめ微量金属元素 を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤であって,含硫化合物を含む溶液を\n一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を提供 することを課題とするものと解される。同様に,本件訂正発明10及び11の課題 は,そのような輸液製剤の保存安定化方法を提供することを課題とするものである。
ウ 本件訂正発明1について
(ア) 本件訂正発明の請求項1は,前記イの課題に関し,「外部からの押圧によって 連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において」,「室\nに・・・微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されて」 いるとして,あらかじめ微量金属元素を用時に混入可能な形で保存することを特定\nしつつ,「一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも 1種を含有する溶液が充填され,他の室に・・・微量金属元素を含む液が収容され た微量金属元素収容容器が収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂 フィルム製の袋であ」り,「前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液で あり」,「前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており」,「前記外袋内の 酸素を取り除いた」ものであるとして,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場 合であっても微量金属元素が安定に存在している構成を特定しているものといえる。\n
(イ) 本件明細書の発明の詳細な説明をみると,段落【0006】及び【0007】 で輸液製剤の大枠が示された上で,輸液容器の構造や材料(同【0012】,【00\n13】),微量金属元素,特に銅イオンを安定化することができるという効果(同【0 014】),硫黄原子を含む化合物及びこれを含む溶液の例示(同【0015】,【0 016】),微量金属元素を含有する液を収容する容器の具体的な収納方法や態様(同 【0020】),微量金属元素の例示(同【0021】)や,微量金属元素の組成(同 【0022】),微量金属元素収容容器を収納している室の態様(同【0024】)や 当該室に充填され得る輸液やその組成等(同【0025】〜【0030】)が,それ ぞれ具体的に記載されている。 そして,本件訂正発明1に係る構造や材質に対応した輸液製剤の好ましい態様で\nある本件明細書の【図1】について,その構造(段落【0031】)や,微量金属元\n素を用時に混入可能とする構\成(同【0032】),輸液の充填の態様(同【003 3】),ガスバリヤー性外袋や脱酸素剤の封入とそれらの材質等(同【0035】〜 【0039】),投与時の混合の態様(同【0046】)がそれぞれ詳細に記載されて いる。
(ウ) その上で,本件訂正発明1に該当する実施例1(同【0052】,【図1】)と, これに該当せず,含硫アミノ酸を含む溶液を充填した室に微量金属元素収容容器を 収納した比較例(同【0060】,【図4】)について,具体的な製造方法や溶液(A)〜(C)の具体的な成分組成(同【0062】【表1】,【0063】【表\2】,【0064】【表3】)が示され,実施例1と比較例の重要な差異が微量金属元素収容容器\nを収納する室の差異であることが示された上で,「安定性試験」として,60゜C)で2 週間保存した後の容器の外観を肉眼で観察したところ,比較例の輸液製剤において のみ微量金属元素収容容器に着色がみられたこと(同【0065】),「銅の安定性」 について,開始時を「100.0%」とした場合,実施例1では,60゜C)で2週間 保存した場合が「100.8%」,60゜C)で4週間保存した場合が「102.6%」 であったのに対し,比較例では,60゜C)で2週間保存した場合が「88.8%」,6 0゜C)で4週間保存した場合が「69.8%」であったことが示されて(【表5】),最後に,発明の効果が記載されている(同【0066】)ところである。\nなお,上記「安定性試験」に関し,輸液製剤の保存時において含硫アミノ酸であ るシステインやその誘導体であるアセチルシステイン等が分解することにより硫化 水素ガスが発生すること,硫化水素ガスが熱可塑性樹脂フィルムを透過すること及 び硫化水素ガスが銅や鉄などの金属と反応して硫化物を生成する(水溶液中におい ては黒色の沈殿を生成する)ことは,技術常識である(甲7〜9,弁論の全趣旨)。 また,微量金属の定量分析法としては,ICP発光分光分析法が慣用技術であって, その測定法等は技術常識であると解される(甲34,35,弁論の全趣旨)。
(エ) 前記(ア)〜(ウ)によると,当業者は,本件訂正発明1の構成を採ることによって,\n同【0065】や【表5】に記載されているように,含硫アミノ酸を含む溶液を充\n填した室に微量金属元素収容容器を収納した場合と比較して,微量金属元素が安定 に存在している輸液製剤を得ることができると認識することができると解され,本 件訂正発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細 な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲内のものであ るといえる。 したがって,本件訂正発明1がサポート要件を欠くものとはいえない。
(オ) 原告の主張について
a 原告は,本件明細書の実施例1において,アセチルシステインから発生した 硫化水素ガスが溶液(C)を充填した小袋に到達することを妨げることのできる実 施例1の構成は,小袋を収納する「第1室4」にブドウ糖を含む溶液(A)が充填\nされているとの構成1)及び外袋に「脱酸素剤9」が封入されているとの構成2)のみ であり,当業者も構成1)及び構成2)によるものであると当然に理解すると主張する。 しかし,本件訂正発明1の構成に係る本件明細書の実施例1では,アセチルシス\nテインを含む溶液(B)が「第2室5」に充填された一方で,溶液(C)を充填し た小袋は,それとは異なる室である「第1室4」に挟着されているのであって,同 小袋を「第2室5」に収納した比較例の場合と比較すると,同小袋の外面が直接溶 液(B)に触れることがないという点と,溶液(B)と溶液(C)との間に,同小 袋の構成素材に加え,「第2室5」の構\成素材及び「第1室4」の構成素材とを介す\nる状態となっている(被告のいう「三重の壁」となっている。)という点で,差異が あることが明らかである。 そして,上記の差異が,アセチルシステインから発生する硫化水素ガスが溶液(C) を充填した小袋に到達することを妨げるに当たり,何らの作用を果たさないという べき技術常識その他の事情は認められないから(なお,被告の実験報告書[甲21, 36,乙1]を排斥して専ら原告の実験報告書[甲19,20,23]の結果の信 用性を認めるべき事情は見当たらない。),当業者の理解に係る原告の上記主張は採 用することができない。 したがって,当業者において,本件明細書の実施例について専ら構成1)及び構成\n2)により微量金属元素の安定が図れたと理解することを前提とする原告の主張は, 本件訂正発明1における「他の室」が空室である場合についての主張も含め,いず れも採用することができない。

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令和3(ワ)3208  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年11月9日  大阪地方裁判所

 プログラムの著作権侵害として、10億円を超える損害額が認定され、一部として6000万円の損害賠償が認められました。原告プログラムはAUTOCADです。

(1) 著作権法114条3項に基づく使用許諾料相当の損害について
ア 証拠(甲1,2,4〜9,18,乙2,3[各枝番を含む。])及び弁論の全 趣旨によれば,原告製品は,オンラインストア等で顧客に対し販売されていること, 原告製品には,永久ライセンス版と,使用期間を1か月,1年,3年に制限したサ ブスクリプション版が存在するところ,これらの動作種別は,ライセンス認証時に 原告から送付される認証コードの種別により決せられることが認められるが,被告 は,前記認定のとおり,本件海賊版製品の落札者に対し,本件海賊版製品と共に, ライセンス認証を回避する不正なプログラム,及びインターネットに接続せずにイ ンストールをすること等を指示するマニュアル等を添付して,落札者をして前記ラ イセンス認証システムを無効化させ,これによって,落札者は,使用期間の制限な く本件海賊版製品を使用することが可能になったことが認められる。\nこれらの事実関係に照らすと,原告製品の永久ライセンス版の定価をもって,原 告が原告製品の著作権の行使につき受けるべき価額であると認めるのが相当である。
イ これに対し,被告は,原告製品の定価をもって著作権法114条3項の使用 料相当額とすることは,最低限の賠償額を保障した同3項の趣旨及び文理に反する 旨を主張する。しかし,被告販売行為により,落札者は,もともとの原告製品の使 用期間制限の有無や期間にかかわらず,使用期間の制限なく本件海賊版製品を使用 することが可能となるのであり,これによって,原告は,被告販売行為がなければ\n得られたであろう永久ライセンス版の定価の額に相当する額を得られなかったこと になるし,被告販売行為の態様は,本件海賊版製品をライセンス認証を回避しつつ インストールすることができるよう販売するという悪質なものであり,その違法性 は高く,市場への影響も大きい。 被告は,原告製品の定価と原告製品の使用料相当額として受けるべき金銭の額と は別である旨を主張するが,原告製品のようなアプリケーションプログラムの販売 価格は,その本質において著作物の使用許諾に対する対価というべきであるから, 前述のとおり,原告製品の定価をもって,著作権法114条3項が定める著作権の 行使につき受けるべき金銭の額と見ることができるのであり,被告の主張は理由が ない。
また,被告は,原告製品と動作環境との適合性や進化するセキュリティソフトと\nの相性の問題等があるため,本件海賊版製品を期間の制限なく使用できることはあ り得ないことから,原告製品の永久ライセンス版の価格を使用許諾料の基準とする のは相当でないこと,あるいは,原告製品の期間契約には,1か月,1年及び3年 の各期間設定があるところ,契約期間が長くなれば割安になることから,原告製品 のうち永久ライセンス版が設定されていないものについて1年ライセンス版の価格 を使用許諾料の基準とするのは相当でないことを主張する。しかし,前述したとお り,被告販売行為により,落札者は,もともとの原告製品の使用期間制限の有無や 期間にかかわらず,使用期間の制限なく本件海賊版製品を使用することが可能とな\nるのであり,その時点で原告には原告製品の永久ライセンス版の定価相当額の損害 が発生したというべきであって,その後,動作環境等により本件海賊版製品を使用 できなくなる可能性があることやもともとの原告製品には期間制限があることなど\nの事情は,損害額の算定には影響しないと解するのが相当である。
ウ 証拠(甲2の1〜2の18)及び弁論の全趣旨によれば,原告製品の永久ラ イセンス版の定価は,別紙2−1「原告損害一覧表1」及び同2−2「原告損害一\n覧表2」の各「原告製品価格」欄記載の価格をくだらないことが認められ,被告販\n売行為による原告の損害は,同各「原告損害」欄記載の合計10億5509万67 50円をくだらない。
(2) 弁護士費用相当の損害について
被告販売行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告が主張する弁護士費用1 億0550万円をもって相当と認める。

◆判決本文

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令和3(ネ)10043  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月11日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審と同じく、知財高裁は、明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして権利行使不能\と判断しました。

以上からすると,当業者によって,当初明細書等の全ての記載を総合す ることにより導かれる技術的事項とは,低地球温暖化係数の化合物である HFO−1234yfを調整する際に,不純物や副反応物が追加の化合物 として少量存在し得るという点にとどまるものというほかない。
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,沸点の近い化合物を組み合せて共沸組成物とすることが本件 発明の技術的思想であることや,低コストで有益な組成物を提供すること ができること等を主張するが,当初明細書中には,沸点の近い化合物を組 み合せて共沸組成物とすることや低コストで有益な組成物を提供できる ことについては,記載も示唆もされていないから,その主張は前提を欠く し,このような当初明細書に記載のない観点から本件補正をしたというの であれば,それは新たな技術的事項を導入するものであり,まさしく新規 事項の追加にほかならない。

◆判決本文

1審はこちら

◆令和1(ワ)30991

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令和3(ネ)10058  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 遠隔監視システムについて、均等侵害が第1要件を満たさないと判断した1審の判断が維持されました。

なお,事案に鑑み,念のため,被告製品の均等論の第1要件の充足につい て判断する。
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書の開示事 項を総合すれば,本件発明1は,従来の遠隔監視システムでは,施設の侵入 者があったり,施設において異常が発生した場合に,当該施設の所有者や管 理責任者が一次的に当該侵入や異常発生を知ることができず,また,警備会 社からの二次的な通報により上記所有者や責任者が侵入や異常発生を知るこ とは可能であるが,これらの者が外出している場合等には警備会社が通報を\nすることができないといった課題があり,こうした課題を解決するために, 構成要件1Bないし1Gの構\成を採用し,施設の監視対象領域を監視する監 視装置からのメッセージと監視装置によって得られた画像の情報が当該施設 の所有者や管理責任者に対応する顧客の携帯端末に通知又は伝達されること により,顧客が何れの場所においても施設の異常等を適切に把握することが できるとともに,監視装置から受理された画像の略中央部分の画像からなる コンテンツを携帯端末に伝達することにより,表示装置が小さい携帯端末で\nも顧客により十分に認識可能\な画像を表示することができ,さらに,カメラ\nの「パンニング」を含む携帯端末からの遠隔操作命令により「パンニング」 に従った領域を特定し,その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを備 え,顧客が参照したい領域を特定して携帯端末に提示することができるよう にしたことにより,施設の所有者や管理責任者が外部からの侵入や異常の発 生を知り,その内容を確認することができるという効果を奏するようにした ことに技術的意義があるものと認められる(【0004】ないし【0007】)。 このような技術的意義に鑑みると,本件発明1の本質的部分は,1)何れの 場所においても顧客が携帯し得るものとして,監視装置からの異常検出によ って監視装置により撮影された画像データの伝達を受ける端末を「携帯端末」 とし,2)「携帯端末」に伝達する画像は,略中央部分の画像領域から構成さ\nれ,3)携帯端末からの「パンニング」を含む遠隔操作命令を受理し,その領 域の画像を携帯端末に伝達するステップを含むことにより,4)表示装置が小\nさい携帯端末でも,顧客により十分に認識可能\な画像を表示することができ,\nさらに,携帯端末からの遠隔操作命令により,顧客が参照したい領域を特定 して携帯端末に提示することができるようにした点にあるものと認められる。 すなわち,単にセンサの情報伝達の宛先を警備会社の中央コンピュータから 施設の所有者等の携帯端末に切り替えたことのみに重きがあるわけではなく, 何れの場所においても顧客にとって携帯が容易で,操作等が迅速かつ簡便で あるためには表示装置が小さい端末とならざるを得ない面があるところ,そ\nうであっても,外部からの侵入や異常の発生を知り,その内容を確認するこ とが十分に可能\な構成を有することが本件発明1の本質的部分であるという\nべきである。なお,本件発明2及び3は本件発明1(請求項1)の従属項で あり,また,本件発明5は,本件発明1の遠隔監視方法の発明を監視制御サ ーバに関する発明としたものであるから,これらの発明の本質的部分もこれ に同様である。
これに対し,被告製品は,監視装置からの異常検出によって監視装置によ り撮影された画像データを伝達する端末は,携帯電話のような表示装置が小\nさい端末ではなく,また,端末からの遠隔操作命令により受理された画像の うち他の領域の画像を参照すること示す命令である「パンニング」を含む遠 隔操作命令を受理し,その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを含ま ないため,顧客が何れの場所においても施設の異常等を適切に把握すること ができ,表示装置が小さい「携帯端末」でも顧客は十\分に認識可能な画像を\n表示することができ,顧客が参照したい領域を特定して「携帯端末」に提示\nすることができるようにしたことにより,施設の所有者や管理責任者が外部 からの侵入や異常の発生を知り,その内容を確認することができるという本 件各発明の効果を奏するものと認めることはできない。 したがって,被告製品は, 本件各発明の本質的部分を備えているものと認 めることはできず,被告製品の相違部分は,本件各発明の本質的部分でない ということはできないから,均等論の第1要件を充足しない。 よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件各発 明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。\n

◆判決本文
1審はこちらです。

◆令和1(ワ)21597

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令和3(ワ)2526  発信者情報開示請求事件 令和3年9月6日  大阪地方裁判所

 発信者情報開示の前提として、著作権侵害が争点となりました。動画のテロップ全体からの翻案であると判断されました。

 本件テロップと本件記事の各内容を比較すると,本件記事には本件テロップと完全に一致する表現が多数含まれる。他方,相違する部分は,句読点の有無や助詞の違い,文言の一部省略等の僅かな相違のほか,例えば,次のような相違部分が存在する。これらの相違部分は,表\現の手法等に若干の違いが見られるものの,内容的には,本件テロップの表現を若干修正したり,要約又は省略したり,前後の表\現を入れ替えるなどしているにとどまり,実質的にほぼ同一の内容を表現したものといえる。\n
1) 本件テロップ:「ドイツ出身のヴァレンティンさんは幼い頃からずっと動物 を大切に思ってきました。」
本件記事:「この感動のストーリーは2人の人間から始まります。その1人がヴァ レンティンさん。ヴァレンティンさんはドイツ出身。幼い頃よりずっと動物を大切 に思ってきました。」
2) 本件テロップ:「2人はボツワナで自然保護プロジェクトを立ち上げました。 野生動物の保護を目的とするプロジェクトです。」
本件記事:「2人はボツワナで野生動物の保護を目的とする自然保護プロジェクト を立ち上げました。」
3) 本件テロップ:「メスのライオンで非常に弱っており,瀕死の状態です。」
本件記事:「そのメスの幼いライオンで非常に弱っており,瀕死の状態です。」
4) 本件テロップ:「けれどシルガにとって,人間に慣れてしまう事は危険な事で す。」
本件記事:「しかし,人間に慣れてしまってはいけません。」
5) 本件テロップ:「そう決めた2人は決して他の人間をシルガと交流させたりし ませんでした。」
本件記事:「他の人間とは交流させませんでした。」
6) 本件テロップ:「2人は本当にシルガの為を思い,幸せを願っていたのです。」
本件記事:「2人はシルガの幸せ,野生に戻る事を1番に考えていました。」
7) 本件テロップ:「ヴァレンティンさんとミッケルさんは,シルガの世話をする だけでなく狩りの仕方も教えます。」
本件記事:「2人は世話だけでなく,狩りの仕方も教えます。」
8) 本件テロップ:「何度も何度も練習を重ね,ようやくシルガが獲物を狩る事が 出来るようになった頃,2人は複雑な気持ちに襲われはじめていました。」
本件記事:「狩りの練習を何度も練習を重ね,ようやくシルガは獲物を狩る事が出 来る様になった頃,2人は複雑な気持ちになりました。」
9) 本件テロップ:「そしてシルガは予想を上回る反応を示します。」
本件記事:「そこで予想を超える事に。」
10) 本件テロップ:「ずっとヴァレンティンさんに会えずに寂しく思っていた事が, その表情から伝わります。」
本件記事:「ずっとヴァレンティンさんに会えず,さみしかった事が分かります。」
(2) 複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製 することをいうところ(著作権法2条1項15号),著作物の複製とは,既存の著作 物に依拠し,これと同一のものを作成し,又は,具体的表現に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表\現することなく,その表現上の本質\n的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうものと解される。また,\n翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表\現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表\現上の本質的な特徴 を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいうものと解される(最 高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻 4号837頁参照)。
本件記事は,記事中に本件動画が埋め込まれていること(甲5)や,上記のとお り,本件テロップと完全に一致する表現を多数含み,相違する部分も,句読点の有無等の僅かな形式的な相違のほか,本件テロップの表\現の僅かな修正,要約,前後の入れ替え等にとどまり,実質的にほぼ同一の内容を表現したものであることに鑑みると,本件テロップに依拠したものと認められると共に,著作物である本件テロッ\nプの表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者がその特徴を直接感得できるものと認められる。\n

◆判決本文

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令和3(ネ)10007  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審では方法クレームについても、物クレームと同じく「連通可能な室」として、構\成要件を具備しないと判断されました。これに対して、知財高裁は方法クレームについては「室」の意義について「連通可能な」という要件がないものも含むとして、方法クレームの侵害と判断しました。

「室」という語は,一般的には,「へや」すなわち「物を入れる所」などを 意味する語であるところ(甲27),構成要件1A及び2Aの文言のほか,前記2(2)の本件各訂正発明の概要及び前記(1)の本件各訂正発明の課題を踏まえると,構成要件1A及び2Aの「複数の室を有する輸液容器」の要件は,複数の輸液を混合\nするのに用いられる従来技術であるそのような輸液容器を用いる輸液製剤であるこ とを示すことによって,本件訂正発明1及び2の対象となる範囲を明らかにするも のである。本件各訂正発明の課題は,そのような輸液容器を用いて,あらかじめ微 量金属元素を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤で,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を\n提供することにあるから,本件各訂正発明における「室」の意義の解釈に当たって は,上記の一般的な意義のほか,輸液容器における「室」の意義も考慮するのが相 当である。
そこで検討すると,本件特許の出願当時には,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた空間を「室」と呼んだ上で(乙31),その「室」の中に 収納される,薬剤を収容する構成部材を「容器」と呼んだり(甲25,乙17),その「室」の外側に付加して空間を構\成する部材を「被覆部材」と呼んだり(乙16),その「室」に連通される「ポート部材」が薬剤を収容し得る機能を備えるものとしたり(乙12),その「室」を分割したものを「区画室」と呼んだり(乙5)すると\nいった例があった。本件特許の出願後も,上記基礎となる一連の部材によって構成される「室」の中に収納される,薬液を収容する構\成部材を「容器」や「袋」などと呼ぶ例が複数みられるが(甲14,15,乙19),そのように,輸液等を収容す るという機能を有する部分を指す語として「室」以外の語が加えられている中においても,「室」という語は,基本的に,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくために仕切られた相対的に大きな空間を指すものとして用いられ,「容器」や「袋」の\n付加の有無にかかわらず,そのような「室」が複数あるものが「複室輸液容器」な どと呼ばれていたことがうかがわれる(なお,上記のうち,甲15は,大きな「隔 室」の中に「内袋」があり,その「内袋」が更に複数の「薬剤収容室」で構成されているというものであり,「室」の中に「室」があるという点では,やや珍しいもの\nともみられるが,各「隔室」と各「薬剤収容室」は,あくまでそれぞれ一連の部材 によって構成されている。)。そして,上記のような「室」の理解は,本件明細書の記載とも整合的である。\n
(イ) 上記(ア)の点を踏まえると,構成要件1A及び2Aにいう「室」についても,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,\n輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間をい うものと解するのが相当である。
イ 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器」について\n
もっとも,本件訂正発明1の構成要件1A及び本件訂正発明2の構\成要件2Aに おいては,「複数の室を有する輸液容器」の前に,「外部からの押圧によって連通可 能な隔壁手段で区画されている」との特定が付加されている。そうすると,上記特定により,「室」が「連通可能\な」ものであることが明確にされているというべきであるから,構成要件1A及び2Aにおける「室」については,「外部からの押圧によって連通可能\な」ものであることを要するものである。
ウ 被控訴人製品について
(ア) 「室」について
a 先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)ア及び弁論の全趣旨 によると,被控訴人製品に係る輸液容器について,その構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間は,大室及び中室を直接構成するとともに小室T及\nび小室Vの外側を構成する一連の部材によって構\成される空間であるといえる。
b もっとも,小室Tに関しては,外側の樹脂フィルムによって構成される空間が,上記のとおり輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成さ\nれる空間である一方で,連通時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,小室Tの外側の樹脂フィルムに\nよって構成される空間に輸液が直接触れることがない。そのため,小室Tの外側の樹脂フィルムによって構\成される空間が,前記の「室」の理解のうち,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間に当たるかどう かが問題となり得る。 しかし,輸液容器全体の構成を踏まえると,被控訴人製品における小室Tは,外側の樹脂フィルムによって構\成される空間の中に,内側の樹脂フィルムによって構\n成される空間(本件袋)を内包するという二重の構造になっているにすぎず,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための空間としての構\成において,外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間に機能の優劣等があるとはみられない。この点,小室Tと中室との間の接着部について,内側の樹脂フィルムの接着を剥離した\n場合のみならず,外側の樹脂フィルムの接着のみを剥離した場合であっても小室T の外側のフィルムの内側の空間に中室に収容された輸液が流入してこれが本件袋の 外面に直接触れることとなり,中室内の輸液と本件袋の中の液との分離の態様に少 なからず差異が生じるのであり,輸液同士の混合という点では専ら小室Tの内側の 樹脂フィルムの接着部分が意味を持つとしても,隣接する中室内の輸液からの分離 という観点からは,外側の樹脂フィルムにも重要な意義があることは明らかである。 そして,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)は,被控訴人製品に係る輸液容器において基礎となる一連の部材とは別の部材により構\成され,上記基礎となる一連の部材に構成を追加する部分である(このことは,小室Vの内側の樹脂フィルムによって構\成される空間と対比しても,明らかである。)。以上の諸点を踏まえると,小室Tについても,被控訴人製品に係る輸液容器の構成の中で基礎となる一連の部材である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)をもって,「室」に当たるとみるのが相当である。
c ところで,被控訴人製品の小室Tの外側の樹脂フィルムによって区画される 空間のように,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成され る空間が,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大き な空間であるといえるか疑問があり得るような場合に,本件各訂正発明の「室」を どのように理解すべきかについて,本件訂正発明1及び2に係る請求項の文言上は, 必ずしも明らかであるといえないから,そのような場合における「室」の理解につ いて,本件明細書の内容を踏まえた検討も行うと,本件明細書の段落【0024】 は,「微量金属元素収容容器を収納している室」には,溶液が充填されていてもよ いし,充填されていなくてもよい旨を明記しており,同【0033】は,「本態様 の輸液製剤では,図1に示す輸液容器の第1室4に,溶液が充填されていてもよい し,充填されていなくてもよい」と明記しているところであるから,本件各訂正発 明においては,輸液が充填される空間であるか否かという点は,「室」であるか否か を決定する不可欠の要素ではないと解される。 それゆえ,前記bのような理解は,本件明細書における「室」の理解にも沿うも のであるといえる。
d 以上に対し,被控訴人らは,被控訴人製品において,小室Tの外側の樹脂フ ィルムによって構成される空間(本件小室T)は存在しないと主張するが,2枚の樹脂フィルムの間に空間が構\成されている(その空間中には,2枚の内側の樹脂フィルムの間の空間(本件袋)が包摂されている。)こと自体は,明らかであり,被控 訴人らの主張は採用することができない。
(イ) 「連通可能」について
a 前記(ア)のとおり,「室」については理解すべきものであるとしても,前記イ のとおり,構成要件1A及び2Aにおいては,「室」が「連通可能\」であることが要 件とされているところ,前記(ア)bで既に指摘したとおり,小室Tに関しては,連通 時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,「室」である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)に輸液が通じることはない。 そうすると,結局,被控訴人製品は,「室」が「連通可能」という要件を充足しないから,構\成要件1A及び2Aを充足しないというべきである。
b これに対し,控訴人は,本件小室Tに収納された本件袋に輸液が通じること は,本件小室Tに輸液が通じることといえる旨を主張する。この点,前記(ア)dのと おり,本件小室Tという空間が本件袋という空間を包摂していることは確かに認め られるが,そのことと,本件袋との連通をもって本件小室Tとの連通と評価し得る かは,別の問題である。本件訂正発明1及び2に係る請求項1及び2が「室」と「容 器」を明確に分けていることや,前記ア(ア)で指摘した「室」と「容器」についての 技術的な関係のほか,本件明細書の段落【0020】の「微量金属元素収容容器は, それを収納している室と連通可能であることが望ましい。」という記載は,容器の連通が室の連通とは異なるものとみる見方に沿うものであることからすると,控訴人\nの上記主張を採用することはできない。
(3) 争点(4)について
構成要件10A及び11Aの「複室輸液製剤」にいう「室」についても,前記(2) アと同様に解するのが相当である。 そして,構成要件1A及び2Aと異なり,構\成要件10A及び11Aについては, 「室」が「連通可能」であることは要件とされていない。したがって,先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)イ及び弁論 の全趣旨により,被控訴人方法は,構成要件10A及び11Aを充足するというべきである。\n
4 争点(2)(構成要件10C及び11Cに係る点に限る。)について
前記3(2)及び(3)で指摘した点を踏まえ,先に引用した原判決の「事実及び理由」 中の第2の1(7)イ及び弁論の全趣旨によると,被控訴人方法においては,「含硫ア ミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収 容している室」である中室とは「別室」である小室Tの外側の樹脂フィルムによっ て構成される「室」(本件小室T)に,構\成要件10C又は11Cで特定された微 量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器である,小室Tの内側の樹 脂フィルムによって構成される本件袋が収納されていると認められる。したがって,被控訴人方法は,構\成要件10C及び11Cを充足する。

◆判決本文

1審は、構成要件1C、10Cを具備しないので、技術的範囲に属しないと判断していました。

◆平成30(ワ)29802
以上の記載によれば,本件各発明については,次のとおりのものである旨 認めることができる。
すなわち,まず本件各発明の技術分野は,経口・経腸管栄養補給が不能又は不十\分な患者に対して,経静脈からの各種輸液(糖製剤,アミノ酸製剤,電解質製剤,混合ビタミン製剤,脂肪乳剤等)の投与を行うための輸液製剤 に関するものである。この点,当該輸液製剤は,経時変化を受けることなく 保存し,その使用時に細菌による汚染なく混合するため,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器に収容される。\nしかして,輸液中には,通常,銅等の微量金属元素が含まれていないこと から,患者は,輸液の投与が長期になるときにはいわゆる微量金属元素欠乏 症を発症することとなる。しかるところ,これを予防するために必要な微量金属元素を輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の\n原因になり,これを防ぐべく含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填 し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金 属元素とを隔離していても,微量金属元素を含む溶液が不安定となるという 技術的課題が生じていた。
本件各発明は,このような技術的な課題に対して,連通可能な隔壁手段で区画されている複室の一室に含硫アミノ酸を含有する溶液を充填し,これと\nは他の室に,微量金属元素を収容した容器を収納するという構成を採用することにより,上記技術的な課題を解決し,微量金属元素が安定に存在してい\nることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するとい う効果を奏するようにしたものであるというべきである。 そうである以上,本件各発明の課題解決の点における特徴的な技術的構成は,微量金属元素収容容器を,含硫アミノ酸を含有する溶液と同じ室ではな\nく,同室と連通可能な他の室に収納するという構\成を採用したところにある ものというべきである。そして,これは,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器であることを前提として,その複数の各「室」に\nついては,それぞれ異なる輸液を充填して保存するための構造となっており,上記の微量金属元素収容容器を収納する「室」は,含硫アミノ酸を含有する\n溶液とは異なる輸液の充填・保存のための構造となっている「室」であるという技術的構\成が採用されたものということができる。すなわち,本件各発明において,構成要件1Aの「複数の室」及び構\成要 件10Aの「複室」は,各種輸液を充填して保存するための構造となっている各空間を意味すると解されることから,輸液容器に設けられた空間がその\n一室である構成要件1C及び10Cの「室」に当たるためには,当該空間が輸液を充填して保存し得る構\造を備えていることを要すると解するのが相当であり,これに反する原告の前記主張は採用できない。 この点,証拠(甲2)によれば,本件明細書には,発明の詳細な説明とし て,「(略)また,微量金属元素収容容器は,それを収納している室と連通 可能であることが好ましい。(以下,略)」(段落【0020】)との記載や,「上記『微量金属元素収容容器を収納している室』には,溶液が充填さ\nれていてもよいし,充填されていなくてもよい。(以下,略)」(段落【0 024】)との記載のあることが認められる。しかしながら,前者の記載に ついては,前記で説示した本件各発明の技術的意義に照らせば,微量金属元 素収容容器が上記のような意味の「室」に収納されていることを前提とする 記載であり,同容器が輸液を充填して保存し得る構造を備えていない構\成の ものに収納されている場合をも許容する趣旨であるとは解されない。また, 後者の記載についても,同様に,「微量金属元素収容容器を収納している 室」には,輸液が充填されていない構成のものも含まれることを述べたものにすぎず,そもそも輸液を充填して保存するための構\造となっていない構成\nのものまで含まれることを意味したものと解することはできない。 したがって,これらの記載によっては,前記判断は左右されず,その他, 本件明細書の記載内容を詳細に検討しても,前記判断を左右し得る記載は見 当たらない。
そこで,これを被告製品ないし被告方法について見ると, 及び弁論の全趣旨によれば,小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋を 覆っている外側の樹脂フィルム2枚は,中室側及び小室V側の両端部におい て内側の樹脂フィルムと溶着されており,使用時にも当該溶着部分は剥離し ないと認められる。 そうすると,小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の 空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではなく,これに照らすと, 同空間が,輸液を充填して保存し得る構造を備えているものとは認められないといわざるを得ず,同空間が「室」に当たるということはできない。\nしたがって,被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を具備するとは認められない。\n

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令和3(ネ)10047  損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年10月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 自ら作詞作曲した楽曲を含めてライブハウスでの演奏利用許諾の申込みをJASRACにしましたが、そのライブハウスが著作権使用料相当額の清算が未了であることを理由に拒否されました。裁判所は、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」に当たると判断し、請求を棄却した1審判断を維持しました。

(ア) 控訴人X1は,被控訴人は形式的な権利者にすぎないから,利用申\n込みを拒否するに当たり,実質的な権利者である委託者や受益者の意思 を確認すべき義務があり,本件利用申込み1の対象楽曲には控訴人X1\nの作詞及び作曲に係る本件3曲が含まれていたから,通常の委託者であ れば許諾を望むと考えられるにもかかわらず,控訴人X1及びブラステ ィーの意思の確認を怠った旨主張する。
しかし,まず,引用する原判決の第2の2(6)エ(補正後のもの)のと おり,被控訴人は,本件著作権契約によりその権限を得たブラスティー から本件3曲の楽曲の著作権の信託譲渡を受けており,形式的にも実質 的にも本件3曲の著作権者であることから,被控訴人が「形式的な権利 者」であるとする控訴人X1の上記主張はそもそも当を得ない。 また,この点を措くとしても,被控訴人は,著作者等から委託を受け て多数の楽曲の著作権等を集中的に管理しており,委託者もこうした管 理の実態を前提として楽曲の委託をしているから,利用者からの申込み\nを拒絶することについて「正当な理由」があるか否かは,個々の委託者 の利害や実情にとどまらず,著作権等に関する適正な管理と管理団体業 務への信頼の維持の必要性等についても勘案した上で,利用者からの演 奏利用許諾の申込みを許諾することが通常の委託者の合理的意思に反す\nるか否かの観点から判断されるべきことは前記アで説示したとおりであ る。そして,本件においては,通常の委託者の合理的意思に照らし,同 申込みを拒絶することについて「正当な理由」があると認められること\nは,前記イで説示したとおりであり,その結論は,本件利用申込み1に\n本件3曲が含まれているか否かによって左右されるものではないから, 受託者である被控訴人が本件3曲に関して委託者兼受益者であるブラス ティーの意向を確認すべき義務があったとはいえず,まして本件3曲に 関する本件約款上の受益者でもない控訴人X1の意向を確認すべき義務 があったとは到底いえない。
(イ) 控訴人X1は,本件利用申込み1は別件訴訟を有利にするためにA\nらの呼びかけに応じたものではなく,Aらとも親しい関係にはないし, 本件店舗は控訴人X1がライブ演奏を行う1つの店にすぎず,平成28 年4月6日に本件店舗で被控訴人管理楽曲を演奏した際は1曲140円 を供託した上で演奏しており,著作権侵害に加担していないなどと主張 する。 しかし,前示のとおり,本件利用申込み1は,著作権の管理に係る被\n控訴人の方針や別件一審判決を不服とし,ライブ演奏の予約済みの出演\n者等に被控訴人管理楽曲を演奏する場合には出演者が被控訴人に利用申\n込みをするようホームページで公表された後にされたものであり,また,\n控訴人X1は,本件店舗に21回の出演歴があり,別件一審判決直後も 無許諾で被控訴人管理楽曲を演奏していたこと等を踏まえると,控訴人 X1の主観的意図はともかく,外形的,客観的に見れば,同申込みは,\n無許諾で長期間にわたって被控訴人管理楽曲を使用してきた本件店舗の 運営に賛同し,支援するものと受け止められてもやむを得ないものであ る。なお,本件全証拠を精査しても,平成28年4月6日に開催された 本件店舗のライブ演奏に当たって,控訴人X1が被控訴人管理楽曲の演 奏使用料を供託したとの事実を認めることはできない(本件店舗の経営 者らに被控訴人管理楽曲の使用料を手渡したとしても,それが供託に当 たるものではないことはいうまでもない。)。
エ また,控訴人X1は,当審においてそれぞれ以下のとおり主張するが, いずれも理由がない(なお,前記イ及びウと重複する部分は説示しない。)。
(ア) 控訴人X1は,前記第2の4(1)ア(ア)のとおり,被控訴人は,係争 中の店舗における演奏を予定する第三者からの演奏利用許諾の申\込み については一切受け付けない方針の下,本件利用申込み1について「正\n当な理由」の審査を行うことなく,本件店舗が使用料未清算であるとい った理由のみで拒否したものであり,こうした拒否は,使用料を徴収す るための私的制裁措置であって独占禁止法19条で禁止される優越的 地位の濫用に当たる旨主張する。
確かに,被控訴人は,被控訴人管理楽曲の利用許諾を得ることなく営 業の一環として演奏した店舗との間では,その店舗が過去の楽曲の使用 料を清算しなければ,新たに被控訴人管理楽曲に係る演奏の利用許諾を しないこととしており,また,その店舗において無許諾の利用があり, 楽曲の使用料の清算が未了であれば,第三者からその店舗における被控 訴人管理楽曲の利用の申込みがあっても,その楽曲の利用がその店舗の\n営業の一環として行われるものである限り,利用の許諾をしない取扱い をしている(前記認定事実1(4)イ)が,楽曲の演奏の利用許諾の申込み\nについて拒否したことに「正当な理由」があるか否かは,演奏利用許諾 の申込みの時点における事情を踏まえた事後的な法律判断というべきで\nあり,演奏利用許諾の申込みを拒否した際に示した理由に拘束されるも\nのではない。そして,本件においては,上記申込みの時点でAらと被控\n訴人間には著作権侵害等に係る裁判が係属しており,被控訴人は,平成 22年9月24日以降,職員を本件店舗のライブに客として派遣し,ラ イブ名,演奏曲目や演奏時間等の実態調査等をしており,また,本件店 舗のホームページ等を調査することを通じて,控訴人X1の本件店舗の 出演歴や本件申込みがされた経緯等を把握していたことが認められるの\nであり(前記認定事実1(2),(3)ア,イ,(4)ア),このような事情を踏 まえると,本件利用申込み拒否1に「正当な理由」があることは,現に\n拒否時に示された理由等にかかわらず,揺らぎ得ない。そして,本件利 用申込み拒否1に「正当な理由」がある以上,それが私的制裁措置であ\nって優越的地位の濫用に当たるなどという控訴人X1の上記主張も当を 得ないというほかない。
なお,控訴人X1は,前記第2の4(1)ア(イ)のとおり,被控訴人が控 訴人X1による本件利用申込み1を拒否した当時,別件訴訟の判決は確\n定していなかったにもかかわらず,被控訴人は,本件店舗の経営者らが 被控訴人管理楽曲の使用料相当額を清算していないものと決めつけて控 訴人X1による被控訴人管理楽曲の演奏利用許諾の申込みを拒否してお\nり,こうした被控訴人による拒否は優越的地位の濫用であり,本件約款 における受託者としての忠実義務にも反するとも主張する。しかし,債 権者は,事実的,法律的根拠があれば,判決の確定を待つことなく,債 務者との間の権利義務関係があることを前提とした措置を執ることはで きる(判決の確定により債権が存在しないことが明らかとなったときは, その措置により生じた損害を賠償すべきことは無論である。)ところ, 被控訴人による措置が事実的,法律的根拠を明らかに欠いているといっ た事情は見当たらない(後に別件訴訟はAらの敗訴で確定している。)。 したがって,被控訴人が講じた措置は優越的地位の濫用に当たらず,受 益者との関係で忠実義務に反するものでもない。
(イ) また,控訴人X1は,前記第2の4(1)イのとおり,控訴人X1が被 控訴人管理楽曲の利用料の支払を申し出て音楽著作物の演奏利用許諾を\n求めているのであるから,受託者である被控訴人がこれを拒否すること は信託法上の忠実義務に反する旨主張する。
しかし,前記アで説示したとおり,被控訴人が多数の委託者からの委 託を受けて楽曲に係る著作権等を集中的に管理しており,委託者も広く 楽曲の利用がされることを期待して被控訴人による楽曲の集中管理を前 提とした委託をしている以上,被控訴人による楽曲全体の著作権等に関 する適正な管理と管理団体としての業務全般の信頼の維持という観点を 軽視することは相当でない。そして,本件利用申込み1がされた経緯や\n時期等を踏まえると,控訴人X1が使用料の支払を申し出て被控訴人管\n理楽曲の演奏利用の許諾を求めたとしても,これに許諾を与えることは, 本件店舗の運営姿勢を是認し,安定的な著作権の管理,使用料の徴収に 支障を生じさせることにつながりかねないものであるといわざるを得ず, 通常の委託者の合理的意思に反するものであって,被控訴人の管理団体 としての業務の信頼を損ねかねないものである(なお,本件のような状 況下においては,支払がされる確実性についての信頼関係も希薄になら ざるを得ないと解される。)。控訴人X1の上記主張は,個別の委託者 兼受益者の実情を重視して本件利用申込み1を拒否することが特定の楽\n曲の委託者兼受益者の信託法上の忠実義務に反するというものであって, 被控訴人による多数の楽曲に係る著作権等の集中管理の実態を見ないも のというほかなく,当を得ない。

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令和3(ネ)10048  著作権侵害行為差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年10月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 講義レジュメについて、著作物性なしとした1審判断を維持しました。

 著作権法は,著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したものであっ\nて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号) をいい,複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有 形的に再製することをいう旨規定していること(同項15号)からすると, 著作物の複製(同法21条)とは,当該著作物に依拠して,その創作的表\n現を有形的に再製する行為をいうものと解される。 また,著作物の翻案(同法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ, その表現上の本質的な特徴である創作的表\現の同一性を維持しつつ,具体 的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表\ 現することにより,これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感\n得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。 そうすると,被告レジュメが原告ワークブックに係る著作物を複製又は 翻案したものに当たるというためには,原告ワークブックと被告レジュメ との間で表現が共通し,その表\現が創作性のある表現であること,すなわ\nち,創作的表現が共通することが必要であるものと解するのが相当である。\n一方で,原告ワークブックと被告レジュメにおいて,アイデアなど表現そ\nれ自体ではない部分が共通するにすぎない場合や共通する表現がありふ\nれた表現である場合には,被告レジュメが原告ワークブックを複製又は翻\n案したものに当たらないと解される。
イ 控訴人会社は,原告ワークブックと被告レジュメは,全体の構成が実質\n的に同一であり,しかも,原判決別紙2レジュメ対比表及び原判決別紙5\n原告ワークブックに関する主張対比表の「原告らの主張」欄記載のとおり,\n具体的な記述部分における同一性を有する表現は創作性のある表\現であ るから,被告レジュメは原告ワークブックを複製又は翻案したものに当た る旨主張するので,以下において判断する。
(ア) 原告記述部分1ないし24及び被告記述部分1ないし24に係る複 製又は翻案について
a 原告記述部分1ないし5と被告記述部分1ないし5について
(a) 原判決別紙2レジュメ対比表の番号1ないし5のとおり,原告ワ\nークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは,それぞれ, 会議において,会議での約束事として,そのまま「やってみる」こ と(番号1),「携帯」電話を切っておくこと(番号2),「問題」 を見つけたら,「問題を指摘する」のではなく,「解決策を提示す る」こと(番号3),「わかりません」という回答はしないこと(番 号4),「発言」は,「短く」,「簡潔に」,「直接的な表現で」\n行うこと(番号5)を内容とする記述である点で共通する。 しかしながら,原告記述部分1は「まずは本書の手順どおりその ままやってみる。」であるのに対し,被告記述部分1は「とりあえず 身を預けてやってみる。」,原告記述部分3は「問題を見つけたら問 題を指摘するのではなく,解決できる人に解決策を提示する(自分 自身かもしれない)。」であるのに対し,被告記述部分3は「問題を 発見したとき,解決策を提示する。問題を指摘するだけは無し」,原 告記述部分4は「このワークブックが質問してくる質問に「わかり ません」という回答はなし。」であるのに対し,被告記述部分4は「侍 会議中,「わかりません」「ありません」という答えは無しでやっ てみる」,原告記述部分5は「発言は3Sにやる。(スリーエス:Short 短く,Simple 簡潔に,Straight 直接的な表現で)」であるのに対し, 被告記述部分5は「発言は短く,簡潔に,直接的な表現でやる。」で あり,具体的記述における表現は異なり,共通性は認められない。\nそうすると,被告記述部分1ないし5と原告記述部分1ないし5 は,会議の約束事を説明した記述であるという点において共通して いるものの,その共通する部分は,会議における約束事をどのよう に取り決めるかというアイデアであって,表現それ自体ではない。\n
(b) 控訴人会社は,1)原告記述部分1ないし5及び被告記述部分1な いし5について,会議における約束事の表現の仕方にはいくつかの\n選択肢がある中で,一見当たり前と思われるような内容も約束事と してあらかじめ記載するという表現形式をとっている点で同一性\nを有しており,その同一性を有する部分は創作的な表現である,2) また,会議における約束事は多数あり,どの約束事を選択するか, その組合せ,約束事の表現の仕方については,その選択の幅は広く,\nアイデアの表現方法がただ1つしか存在しない場合,あるいは,1\nつでなくとも相当程度に限定されている場合には該当しないので あるから,原告記述部分1ないし5と被告記述部分1ないし5の同 一性を有する部分はアイデアそのものではない旨主張する。
しかしながら,会議の冒頭で約束事を決めることや,当たり前の ことをあえてワークブックないしレジュメに記載するということ 自体は,アイデアにすぎないから,仮に,そうしたアイデアそのも のに個性の表れが認められるとしても,そのことをもって直ちに創\n作的表現部分に共通性があるとはいえない。また,アイデアの表\現 方法がただ1つしか存在しない場合,あるいは,1つでなくとも相 当程度に限定されている場合かどうかは,具体的表現を前提にその\n表現に創作性があるかどうかの考慮要素になり得るとしても,前記\n(a)認定の原告記述部分1ないし5と被告記述部分1ないし5の共 通する部分がそもそも表現であるか,アイデアであるかの判断を左\n右するものではない。 したがって,控訴人会社の上記主張は,採用することができない。
(c)また,控訴人会社は,1)原告記述部分1ないし5と被告記述部分 1ないし5の5つの約束事が同一であり,約束事の1つ1つは短い 表現であるが,約束事は一体として意味を成すものであることから,\n原告記述部分1ないし5と被告記述部分1ないし5の表現を一体\nとしてみた場合には,相当程度の文章になるのであって,短い表現\nではない,2)これらの5つの約束事を全て記載した他の書籍やウェ ブページは見当たらず,約束事の1つ目に,手順どおりそのまま「や ってみる」という表現を選択していることには作成者の創意工夫が\n表れているなど,これらの5つの約束事の配置や文字列には作成者\nの創意工夫が表れており,ありふれた表\現とはいえないから,創作 的表現が共通する旨主張する。\nしかしながら,前記(a)認定のとおり,原告記述部分1ないし5と 被告記述部分1ないし5は,具体的記述における表現の共通性は認\nめられない。
また,原告記述部分1中の「まずは・・・そのままやってみる。」との 表現部分は,ウェブページ(乙16)において「素直にそのままや\nる」との記載が,書籍(乙20)において「おやくそく」,「まず はやってみよう」との記載が,それぞれ存在していること,会議中 の「発言」に関するものとして,原告記述部分5中の「発言は3S にやる。(スリーエス:Short 短く,Simple 簡潔に,Straight 直接的 な表現で)」との表現部分は,ウェブページ(乙15)において「会\n議での発言は「3S」(Short=短く,Simple=簡潔で, Straight=直接的に)のルールでおこないましょう。」と の記載が存在することに照らすと,上記各表現部分は,いずれもあ\nりふれた表現であり,創作性があるとはいえない。\nしたがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(d)以上によれば,被告記述部分1ないし5が原告記述部分1ないし 5と共通する部分は,表現それ自体ではないから,被告記述部分1\nないし5は,原告記述部分1ないし5を複製又は翻案したものに当 たるものと認めることはできない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成31(ワ)4521

原告・被告物件などはこちら

◆資料1

◆資料2

◆資料3

◆資料44

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令和2(ワ)3474  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年10月19日  大阪地方裁判所

 一部については消滅時効により消滅し、102条2項における覆滅は2割と認定され、約70万円の損害賠償が認められました。

ア 本件発明1〜3の効果
本件発明の効果は,センサ保持具の回動を保持するための機械的な連結構造がコンパクトになること(【0014】),接続器を引掛型配線器具に掛着する作業に際して引掛型配線器具の掛着面を視認しやすく,作業が容易になると共に,作業の安全性も向上すること(【0016】),本体カバーを天井面に密着させることが可能になり,美観に優れた取付状態が得られること(【0017】)である。 要するに,本件発明の作用効果は,1)センサの回動構造のコンパクト化,2)引掛型配線器具の掛着面の視認性の向上,3)本体カバーの天井面への密着にあるといえる。
イ 本件発明の貢献の程度等について
本件発明は,センサを用いてランプを自動的に点灯・消灯する天井取付タイプの照明器具に係る発明であるから,主として屋内のトイレ灯などとして使用されることが想定される。そして,本件発明の実施品である照明器具の需要者は,新築建物に照明器具を設置する総合住宅メーカー等の業者と既存の照明器具を交換しようとする個人が想定されるところ,前記の効果1)〜3)は,いずれも選択の動機となり得る事情といえる。 もっとも,本件発明の効果1)については,センサを回動させることが前提となっているところ,屋内のトイレ灯等を想定すると,一度センサの検知範囲を確認して照明器具を設置してしまえば,後にセンサを回動させて検知範囲を変更する必要が生じることはそれほどないものと考えられるから,センサが取付後も回動可能であることの顧客誘引力は低いものと解される。また,本件発明の効果2)及び3)は,接続器等を引掛型配線器具に掛着した後,別体に形成された本体カバー及びセードを後付けすることによる効果であるため,本件発明によるのでなければ実現し得ない効果ではなく,例えば,周知技術1によっても実現することができる。そうすると,効果2)及び3)については,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たっては,必ずしも重視できるものではない。 さらに,被告は,そのカタログ(乙14)において,被告製品1の特徴として,人感センサ付,クイック点灯,引掛シーリング取付式,本体可動式,点灯照度調節機能付,点灯保持時間調節機能\付などを挙げているものの,掛着面の視認性や本体カバーが後付けであることについては触れていない。 以上によれば,本件発明は,センサの回動構造がコンパクトであるという効果(効果1))によりこれを実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえるものの,その程度は限られているというべきである。また,効果2)及び3)に関しては,本件発明は,本体カバーが後付けであり,外観上の体裁が同程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 効果1)について
本件発明の効果1)は,センサが回動可能であることを前提として,構\造をコンパクトにするものであるが,センサを回動可能としたのは照明器具本体(本体カバー,セード等)により検知範囲が制約されることに対処したものであるから,本体がコンパクトであることによってセンサの検知範囲に制約がなく,センサを回動させる必要がない製品も,本件発明の効果1)と同様の効果を奏しているものといえ,被告製品の競合品に該当するといえる。
証拠(乙11の1〜6,乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,原告及び被告以外のセンサ付シーリングライト製品のうち,乙11の1の型番 LBC56975,乙11の4の型番 OL 013 180,OL 013 120,乙11の5の型番 IG20026C,乙11の6の型番 LE-3837 については,センサ保持具が大きく,本体がコンパクトではないが,その余のセンサ付シーリングライト製品は,いずれも被告製品と同等以下のコンパクトな形状を有しているものと認められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏するものといえる。
(イ) 効果2)について
本件発明の効果2)は,引掛型配線器具に掛着する照明器具であることを前提とするが,照明器具が一般的な引掛型配線器具に掛着する形式であるか,電気設備工事を要するものであるかは,照明器具を交換しようとする個人の需要者にとっては大きな違いである。また,総合住宅メーカー等の事業者においても,引掛型配線器具を設置するか否かや施工の際の視認性は相応に商品選択に影響があると考えられる。そうすると,各被告製品の競合品といえる前提として,引掛型配線器具に掛着する照明器具であることが必要である。 証拠(乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28の被告指摘に係る製品は,いずれも引掛型配線器具に掛着する照明器具であり,被告製品と同等程度には掛着面が視認しやすく,効果2)と同様の効果を奏するものといえる。
(ウ) 効果3)について
証拠(乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,原告及び被告以外のセンサ付引掛シーリングライト製品のうち,乙21の1〜5の型番 IG20042C(以下「乙21製品」という。),乙23の1の型番 TGS-6119(以下「乙23の1製品」という。),乙23の2の型番 TZGS-6099(以下「乙23の2製品」という。),乙24の1の型番 SCL9NMS-HL(以下「乙24製品」という。),乙28の型番 TN-CLLS-L(以下「乙28製品」という。また,以上を併せて,「乙21製品等」という。)は,いずれも,本体カバーが天井面に密着した外観を有しており,効果3)を奏するものといえる。
(エ) その他
原告は,ランプ交換ができない LED 内蔵型照明器具は,ランプ交換を望む顧客の需要を満たすことができないので,競合品に当たらないと主張する。しかしながら,そのような需要者が存在するのか明らかではなく,そもそも,ランプ交換が可能であるか否かは本件発明の作用効果とは無関係である。したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。\n
(オ) 以上より,乙21製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有する製品として,原告製品及び各被告製品と市場において競合するものとみるのが相当である。 また,証拠(乙21の1,乙22の1,乙23の1,2,乙24の1,乙28)によれば,乙21製品等の販売開始時期は,乙21製品が平成16年4月,乙23の1製品が平成20年6月,乙23の2製品が平成22年2月,乙24製品が平成29年10月,乙28製品が平成28年7月であることが認められる。原告は,乙21製品について,平成16年〜平成20年のカタログに掲載された製品であり,平成21年9月1日に生産を終了したと主張するが,一般的にカタログに掲載された製品は特段回収等がされない限り数年程度は流通していると考えられ,被告製品の競合品に当たらないとはいえない。
もっとも,原告製品,各被告製品及び乙21製品等のセンサ付引掛シーリングライトの市場におけるシェアは明らかではなく,原告において,平成27年当時の住宅用照明のうち直付け型の居室外用の照明器具市場における原告のシェアが●(省略)●%であったことを自認するにとどまる。被告は,照明器具市場全体の売上のシェアや住宅用照明市場におけるシェア,LED シーリングライト市場におけるシェアを主張するが,原告製品,被告製品及び乙21製品等のセンサ付引掛シーリングライトは,そのごく一部であって,他の多数の照明器具が含まれるシェアから被告製品の競合品のシェアを推認することは困難である。 これらの事情を総合的に考慮すると,センサ付引掛シーリングライトの市場において原告製品及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2項に基づく損害額の推定に係る覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,その程度は限定的と考えるのが相当である。
エ 推定覆滅の程度 以上の事情を総合的に考慮すれば,本件においては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるにとどまるとすべきである。
・・・
ア 証拠(乙10の1〜3)によれば,平成22年10月21日から同年11月5日にかけて,大手家電量販店チェーンの3店舗において,原告製品と被告製品3及び4が隣り合った状態で陳列され販売されたことが認められる。 一般に店舗において商品の陳列場所等は商品の売上に影響を及ぼす重要な要素であって,原告においても,営業担当者等を通じて,当然に自社製品や競合他社製品が家電量販店においてどのように陳列・販売されているかを逐次把握していたものと考えられるから,遅くとも平成22年11月5日には,原告において,被告製品3及び4の存在を知ったものと認められる。 そして,原告製品と各被告製品は同種の用途の競合品であって,大手家電量販店チェーンにおいては概ね統一的な商品陳列を行っているものと考えられることからすれば,各被告製品は,家電量販店において基本的に原告製品と隣接して陳列されていたと考えられ,被告製品3及び4以外の各被告製品についても,その販売開始から間もなく,原告は,各被告製品の存在を知ったものと認められる。
イ 本件発明は,前記のとおり,効果1)〜3)を奏するものであり,これらの効果は外観上明らかであって,各被告製品の外観から,各被告製品が本件特許権の侵害品であることの疑いを持つことは十分に可能\である。 原告は,本件発明の構成要件 A〜D は,内部構造に係るものであるから,被告製品の外観からは判明しないと主張するが,被告製品の外観からして本体カバーに被覆された接続器やセンサ保持具が存在することは明らかであり,センサ保持具が天井面と略平行な面内で回動可能\に構成されていることは推測することができる。そして,証拠(乙10の1〜3)によれば,家電量販店の陳列棚において,天井を模した造作があり,引掛型配線器具が設けられ,各被告製品を現実に組み立て,取り付けることができるようになっていたものと認められ,原告において,各被告製品の取付状態を確認することもできたものと考えられる。また,証拠(甲5の1〜3,甲7,乙14)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,各被告製品を毎年発行する被告のカタログに掲載すると共に,各被告製品の仕様や構\造を記載した「施工・取扱説明書」をインターネット上等で公開していたことが認められ,カタログには引掛シーリングに取り付けるタイプであること,人感センサがあり,本体可動式であること等が記載され,施工・取扱説明書には,購入者又は工事店が各被告製品を取り付けることができるよう,各部を分解した構造図とセンサの可動範囲等が記載されているのであるから,被告はこれらの情報を秘匿せず,一般に公開していたのであって,原告は,各被告製品の存在を知り,その外観から本件特許権侵害の疑いを持った時点で,各被告製品の構\造等を容易に検討することができたといえる。
ウ 原告は,遅くとも平成22年11月5日までに被告製品3及び4の発売を知り,その余の各被告製品についても,発売後まもなくその事実を知ったものと認められ,各被告製品の構造等を知ることもできたのであるから,製品が競合する関係にある原告としては,その時点で,損害賠償請求をすることが可能\な程度に,損害及び加害者を知ったと認めるのが相当である。

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令和3(行ケ)10061  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年11月4日  知的財産高等裁判所

 不使用取消審判事件です。商標権者の使用について立証責任は権利者にありますが、特定技術を用いて製造されたか否かの立証までは、被告の防御の準備の機会を著しく損なうとして、使用義務を果たしていると知財高裁2部は、審決の判断を維持しました。

ア 原告は,本件商標の使用が特定乳化技術を用いて製造した化粧品ではない化 粧品についてのものであることまで被告が主張立証しなければならないと主張する が,既に判示したとおり,同主張を採用することはできない。
イ 原告は,その主張の根拠として商標法50条2項を挙げるところ,同項は, 「その請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をし ていることを被請求人が証明しない限り」と定めるが,上記のうち「その請求に係 る指定商品又は指定役務」という文言から,直ちに,本件商標の使用が特定乳化技 術を用いて製造した化粧品ではない化粧品についてのものであることまで被告が主 張立証しなければならないとはいえない。
商標法50条が定める取消審判請求の審理の対象となる指定商品の範囲は,設定 登録において表示された指定商品の記載に基づいて決められるのではなく,審判請求人において取消しを求めた審判請求書の「請求の趣旨」の記載に基づいて決めら\nれるものではあるが,審判請求書の「請求の趣旨」は,審判における審理の対象・ 範囲を画し,取消審決が確定した場合における登録商標の効力の及ぶ指定商品の範 囲を決定づけるという意味のほか,被請求人における防御の要否の判断・防御の準 備の機会を保障するという意味でも重要なものというべきである。
しかるに,本件のように,要証期間における本件商標の指定商品のうち関連部分が第3類「化粧品」であったにもかかわらず,専ら審判請求人において,本件商標の登録の日の後に認知されてきたものとみられる一方で要証期間を通じて周知のものであるとも認めら れない商品の製造方法である特定乳化技術に基づいて,本件審判請求と対の審判請 求とに取消審判請求を分けた上で,被告に対し,対の審判請求においては化粧品が 特定乳化技術に基づいて製造したものであることも含めた本件商標の使用の主張立 証を求め,本件審判請求においては特定乳化技術を用いて製造した化粧品でないこ とをも含めた本件商標の使用の主張立証を求めることは,被告の防御の準備の機会 を著しく損なうものであって,前記のとおり,被請求人において,審判請求に係る 指定商品又は指定役務の「いずれかについて」の登録商標の使用を証明すれば足り ると定める商標法50条2項が,上記のような要請まで含むものとは解されないと ころである。
特に,本件のように,製造方法に係る特定を審判請求人が任意に付し た場合に,商標権者において,自らの商品の製造方法を開示して立証しない限り, 商標登録の取消しを免れないとみることは,商標権者に過度の負担を課すものであ って不合理であることが明らかであり,そのような立証を求めるに帰する原告の主 張は,信義誠実の原則に照らしても採用することができない。

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令和3(行ケ)10006  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年10月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。阻害要因についても無しと判断されました。

 ア 前記1(3)によれば,引用文献2技術事項は,物質に特有な高吸収X線を 利用することにより,荷物や人体内に隠匿した麻薬,あるいは爆薬や象牙 などの禁制品の有無を検査できるものであるから,人体用だけでなく,荷 物の中の見えない物体の有無を検査するX線荷物検査装置でもあるとい える。そうすると,食品等の異物検査を行うX線検出装置である引用発明 1の技術分野と,医療検査や荷物検査を行う引用文献2技術事項の技術分 野は,X線検査装置が用いられる技術分野として関連するものであるとい える。 また,引用発明1においては,判定部24において「各ライン走査ごと のデータ中の最大画素濃度のデータを所定の閾値と比較してX線吸収率 が大きい金属異物等の混入の有無が検出濃度レベルと閾値との比較によ り判定される」(M)ものであり,ワークWのX線画像の検出濃度レベルと 所定の閾値とを比較することにより,金属異物等の混入が有る場合の濃度 レベルと混入が無い場合の濃度レベルとを判定する必要があるから,ワー クWのX線画像における金属異物等の混入の有無の濃度レベルの間の差 異を明確にしなければならず,X線画像において目的とする物体を透過し たX線の検出出力と前記目的とする物体以外の部分を透過したX線の検 出出力との間に明確な差異を有するX線画像を生成するという課題を有 している。一方,引用文献2においては,従来のX線撮影装置では「目的 とする臓器などを明瞭に表示するようにしたコントラストの高いX線像\nを得ることが難しい」(【0002】)という課題を有し,また,異なる波長 の単色X線を用いて得られたX線像の差分から目的とする部分を際立た せて表示する方法を用いる場合,「異なる時刻に撮影したX線像の差分を\n取ると,位置がずれてしまい明瞭な動脈像を生成することができない」 (【0004】)という課題を有しているところ,引用文献2技術事項によ り「それぞれピクセルへの入射X線量をカウントしカウント値の差分を取 ると,軟部組織や骨に吸収されたX線が相殺され血管部分のみに差が現れ て冠状動脈のコントラストの大きな鮮明な映像を得ることができる」(【0 021】)としている。コントラストが大きなX線画像は,物体を透過した X線の検出出力と目的とする物体以外の部分を透過したX線の検出出力 との間に明確な差異を有するものであるから,引用発明1と引用文献2技 術事項とは課題を共通するといえる。 さらに,引用発明1と引用文献2技術事項は,いずれも被測定物の中の 外から見えない物体を検出するために用いられるX線画像を形成し,当該 X線画像に基づいて検査を行うという作用・機能が共通するといえ,加え\nて,引用文献2には,「X線検出部11に1次元のリニアアレイを用いて1 次元走査して測定することもできる」【0014】ことが記載され,被測定 物を1次元走査してX線画像を得ることも示唆されており,引用発明1の X線ラインセンサにより搬送される被測定物のX線画像とは,X線画像を 被測定物を1次元走査して生成するという点においても共通する。 以上のように,引用発明1と引用文献2技術事項との間に,技術分野, 解決課題及び作用機能に密接な関連性・共通性があることからすると,引\n用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせることに強い動機付けがあ るといえる。
イ 前記第3の1(1)イ(ア)bのとおり,原告は,引用発明1のX線検査装置 は異物の有無を低コストで検査する分野の装置であり,簡易な検査作業の 実現を目的とするのに対し,引用文献2技術事項のX線検査装置は,コス トを度外視して検査する分野の装置であり,被曝防止を目的とするもので あるから,当業者は,異物検出の精度向上のためにわざわざ引用発明1に 引用文献2技術事項とを組み合わせたりする動機付けない旨主張する。 まず,引用文献2には,「撮影は1度で済み」(【0010】),「エネルギ ーを変えて検査するときにも1度の撮影で済むので検査時間が短縮する 利点がある。」(【0022】)との記載があるが,それは副次的なものにす ぎず,引用文献2技術事項の課題は,複雑で高価な装置を用いずにコント ラストの高いX線像を得ることである(【0003】ないし【0007】, 【0010】,【0022】,【0024】)。したがって,引用文献2技術事 項のX線検査装置は,コストを度外視して検査する分野の装置であると認 めることはそもそも相当でない。また,引用発明1が,コンベア搬送路上 のワークの金属異物等の混入の有無を検査する異物検査装置であること からして,引用発明1が製品製造現場用の装置であり,引用文献2の記載 上は,引用文献2技術事項が直接には医療用検査装置に用いることを想定 しているとしても,コストをどの程度かけるかということと技術分野とは 直結しないところ,製品の性質,製造現場の規模,製品の販路等も度外視 して,製品製造現場用の装置であれば,おしなべて性能の低い製品で足り,\n当業者は性能の向上には意を払わず,医療検査装置用の技術には関知しな\nいなどとは当然にいえることではなく,そのようにいえる証拠は提出され ていない。
異物検査装置の異物検査の性能を向上させることは自明の要請ともいう\nべきところであり,前記アのとおり,引用発明1の異物検査装置に,技術 分野,課題・解決手段,作用・機能,効果とも密接に関連ないし共通する\n引用文献2技術事項を適用する強い動機付けがあるというべきである。
ウ 前記第3の1(1)イ(イ)aのとおり,原告は,1つの「設定時X線画像」 を基準とする引用発明1に,複数個の画像を基準とし,その基礎とする技 術的思想を異にする引用文献2技術事項を適用することには阻害要因が ある旨主張する。 ここで,「設定時X線画像」とは,実検査前にサンプルを使用した検査に おいて得られたX線画像データとして設定情報記憶部23に保持された 初期設定データの1つであり(引用文献1の【0052】ないし【005 5】),当該品種に設定された各種パラメータや検出条件及び判定条件にお ける検査における代表画像とされ(【0042】),実検査時に実検査時のX\n線画像Wiと共に表示器26に表\示され,実検査中に両者を照合すること により,検査の条件に実検査品が適合したものか否かを判定することや (【0046】,【0059】ないし【0061】),品種選択操作を視覚的に 容易に把握することに役立てるものである(【0062】,【0063】)。 したがって,検査の目的に合わせたX線画像を得られるならば「設定時 X線画像」も同時に得られる関係にあるところ,引用文献2技術事項によ ると複数のX線画像を生成することができ得るが,特に感度のよいエネル ギー領域を選択して目的部位の像を鮮明化したり,異なるX線エネルギー 領域における出力信号の差分に基づいて画像化するなどして,最適な条件 で選んだ画像を1つ生成できることも明らかである。そして,当業者が, 異物検査の目的に応じて最適な画像を選択してそれを代表画像とするこ\nとができないとする理由もない。 そうすると,引用発明1のX線画像を得る手段として引用文献2技術事 項を適用することには,阻害要因はない。
エ 前記第3の1(1)イ(イ)bのとおり,原告は,低コストでの簡便・容易化 を目指す引用発明1に,高精度で複雑・高度な引用文献2技術事項を適用 することには,甲1発明の目的から乖離・矛盾するから阻害要因がある旨 主張する。 しかしながら,前記イにて説示したとおり,技術分野としての観点から 見た場合に,あたかもX線検査装置が低コストでの簡便・容易化を目指す 装置の分野の技術と複雑・高精度で複雑・高度な装置の分野の技術に二極 化していて,両者の技術が相容れないとは認められない。その上,引用文 献2技術事項の課題は,前記イのとおり,複雑で高価な装置を用いずにコ ントラストの高いX線像を得ることであり,前記アのように,被測定物を 1次元走査して測定するような簡易な方法も示唆されている。また,引用 文献2に禁制品の有無を検査することもできるとの示唆があるからとい って,引用文献2技術事項が空港や税関等で用いる検査装置のみに用いら れる技術ととらえることは,同技術の正しい理解とはいい難い。 したがって,原告の上記主張は前提を欠くものであって,採用すること ができない。
オ 以上のとおり,引用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせる動機付 けがあり,阻害要因があることもうかがわれないところ,引用発明1にお いて,引用文献2技術事項に基づき,相違点1に係る本件発明1の発明特 定事項を得ることが容易であることは,本件決定が引用する取消理由通知 書が説示するとおりであり,誤りは認められない。

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令和3(ワ)2322 著作権  民事訴訟 令和3年8月20日  東京地方裁判所

 プロレスラーの衣装に関する著作権侵害事件です。黙示の許諾があったと判断されました。この種の業務についても、きちんと契約が必要ということですね。

 事案に鑑み,まず,争点1−4について検討する。
(1)ア 前記前提事実によれば,原告X1は,令和元年7月6日,プロレスラーと してのデビューに当たって必要となるコスチュームの制作について被告か ら相談を受け,衣装制作会社及びデザイナーを紹介するとともに,被告から 送信を受けた本件デザイン画のデータについて,「アイドルらしくて,いい よ。」,「コスチューム代,俺が出そうか?」,「絶対にクオリティは下げ ないで。」などのコメントをしているとの事実が認められる。これによれば, 原告X1は,本件コスチュームの制作に積極的に協力し,その代金の負担ま で申し出ているのであり,完成したデザイン画及びそれに基づいて制作され\nる本件コスチュームの著作権の使用について特段の制限や条件を付したこ とをうかがわせる事実は存在しない。
イ 同様に,原告X1は,令和元年8月8日,被告から,完成した本件コスチ ュームを着用した写真の送付を受けたが,これ対して特段の異議を述べるこ とはなく,被告のデビュー後も,被告とLINEを通じてやり取りを行って いるが,その際に,本件デザイン画や本件コスチュームの使用について特段 の異議を述べたとの事実も認められない。
ウ このように,原告X1は,被告が令和元年8月10日にプロレスラーとし てデビューすることを認識した上で,本件デザイン画や同デザイン画をベー スとしてコスチュームを制作することを認識し,同日の前に実際に制作され たコスチュームのデザインを確認していながら,その使用についてデビュー の前後を通じ何ら異議を述べていないのであるから,仮に原告会社が本件デ ザイン画及び本件コスチュームの著作権を有するとしても,被告に対してそ の使用を許諾していたものというべきである。
(2)ア これに対し,原告会社は,本件デザイン画につき,著作権法30条の3に いう「検討の過程における利用」において必要と認められる限度で使用する ことは承諾していたが,当該限度を超えて,本件デザイン画と同一又は類似 のコスチュームを使用することは承諾していなかった旨主張する。 しかし,原告X1は,被告が完成した本件デザイン画を使用して本件コス チュームを制作し,これを着用して活動することを認識した上で,同デザイ ン画の使用に関して何らの制限や条件を付していなかったと認められるこ とは前記判示のとおりである。 したがって,「検討の過程における利用」のみを許諾していたとの原告会 社の主張は採用し得ない。
イ 原告会社は,原告X1が令和元年8月8日に本件コスチュームの写真を確 認した際に異議を述べなかったのは,2日後に被告のデビューが控えていた ためである旨主張する。 しかし,原告X1は,令和元年8月8日より以前の段階から,本件デザイ ン画に基づいて本件コスチュームを制作していることを認識していたと認 められ,デビュー後の被告とのやりとりにおいても,本件デザイン画及び本 件コスチュームの使用について何ら異議を述べていないのであるから,原告 X1が本件コスチュームの写真を確認したのが被告のデビューの2日前で あったとしても,同事実は,原告会社が本件デザイン画及び本件コスチュー ムの使用について承諾していたとの結論を左右しない。 したがって,原告会社の上記主張は採用し得ない。

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平成29(ワ)1390 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月16日  大阪地方裁判所

 パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟です。技術的範囲に属しないと判断されました。対象特許は7件です。多くは29条1項2号(公然実施)による権利行使不能です。事件番号が平成29・・なので、提訴から判決まで4年かかったことになります。委託者および受託者が原告となっています。

 本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲の記載によれば,同発明に係るランプ は,「基板を保持する金属製の基台」(構成要件 1-1F’)をその構成要素の1つとして備えるところ,「前記基台は,前記長尺状の底部と,前記底部の短手方向の一\n方の端部に設けられた第1壁部と,前記底部の短手方向の他方の端部に設けられた 第2壁部とを有し」(構成要件 1-1I’),「前記第1壁部及び前記第2壁部は,前 記底部の前記基板側に衝立状に形成されて」(構成要件 1-1J’)いることが特定さ れている。 これによれば,基台の底部の短手方向の両端部にそれぞれ設けられた第1壁部と 第2壁部は,底部に対し基板側に形成されるものであり,その形状ないし状態が 「衝立状」であることが示されている。もっとも,いかなる形状等をもって「衝立 状」とするかについては記載がなく,その意味が一義的に明らかとはいえない。
イ 本件明細書1の記載等
「第1壁部」及び「第2壁部」について,本件明細書1【0055】には,第1基 台 50 が,長尺状の底部(底板部)と,底部における第1基台 50 の短手方向(基板 11 の幅方向)の両端部に形成された第1壁部 51 及び第2壁部 52 とを有すること, これらの壁部は,第1基台 50 を構成する金属板を折り曲げ加工することによって衝立状に形成されていることが記載されている。また,同段落には,同明細書図\n3B と合わせ,LED モジュール の基板 11 は第1壁部 51 と第2壁部 52 とによっ て挟持されており,LED モジュール は,第1壁部 51 と第2壁部 52 とによって 基板 11 の短手方向の動きが規制された状態で第1基台 50 に配置されることも記載 されている。本件訂正における本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J'の追加は,こ の記載等を含む本件明細書1の記載による開示に基づいて行われたものである(甲 83)。 さらに,広辞苑(乙291)においては,「衝立」とは「衝立障子の略」であり, 「衝立障子」とは「屏障具の一。一枚の襖障子または板障子に台をとりつけ,移動 便ならしめたもの。・・・玄関・座敷などに立てて隔てとする。」と説明されている。 加えて,「衝立障子」は,一般に,それが設置される面に対して略直立するものと 把握される。他方,「状」とは,物事の形,姿,有り様,様子を意味し,「○○状」 とは,ある物事の形等を「○○」に例える際に用いられる表現である。以上の本件明細書1の記載等を踏まえると,第1壁部及び第2壁部は,基台の底\n部の基板側に衝立状に形成されることにより基板11を挟持し,短手方向の動きが 規制する機能を果たすものであるところ,その形状等は上記意味での「衝立障子」に例えられるものである必要があることが理解できる。\n
ウ 小括
以上より,本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲及び本件明細書1の記載等 並びに「衝立」の一般的な意味等に鑑みると,第1壁部及び第2壁部が「衝立状」 に形成されるとは,これらの壁部が基台の底部の基板側に,同底部に対して略直立 した形状に形成されていることを意味するものと解される。これに反する原告の主 張は採用できない。
(2) 被告製品1〜5,7〜10及び12の構成要件充足性
被告製品1〜5,7〜10及び12の断面図は,別添「被告製品断面図」のとお りである。 このうち,被告製品4及び5については,第1壁部及び第2壁部に相当すると見 られる部位は,基台の底部から基板側に形成された基台の一部が内側に向けて鋭角 に傾斜した形状に形成されており,底部に対して略直立した形状とはいえない。 次に,被告製品1〜3,7〜10及び12については,第1壁部及び第2壁部に 相当すると見られる部位には,基台の底部から基板側に略直立といってよい形状に 延出している部分もあるものの,これと一体のものとして,基板とほぼ同じ高さで 基台の底部に平行に形成された部分もあるため,全体としては「コの字」又は「T 字」と表現すべき形状に形成されているものというべきであって,底部に対して略直立した形状に形成されているとはいえない。\nしたがって,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,第1壁部及び第 2壁部に相当すると見られる部位が底部の基板側に「衝立状」に形成されておらず, 本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J’を充足しない。
(3) 小括
以上により,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,本件訂正発明1 −1の技術的範囲に属しない。
4 充足論のまとめ
本件発明1−1,1−3,1−16及び1−17及び並びに本件訂正発明1−1 7につき,対象となる各被告製品が各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属することは,前記(第1の5)のとおりである。\nまた,本件発明1−14並びに本件訂正発明1−18及び1−20については, 前記2のとおり,被告製品1〜5,7〜16は,対応する各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属すると認められる。\n他方,本件訂正発明1−1については,被告製品1〜5,7〜10及び12は, いずれもその構成要件 1-1J'を充足せず,その技術的範囲に属しない。したがって, 本件訂正発明1−1については,その余の点を論ずるまでもなく,訂正の再抗弁は 認められない。
5 403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10) 事案に鑑み,まず,403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10)について検 討する。
(1) 403W 製品の先使用について
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。
(ア) 被告は,平成24年4月23日頃,韓国で製造された 403W 製品480セッ トを輸入した(乙143,315)。
(イ) 被告は,同月25日,ミツワ電機株式会社関西支社に対し,403W 製品24 台を含む商品の見積書を作成,送付し,同月26日,同社関西特機営業所から受注 して,同月28日,これを井づつやに納品した(乙167,168)。 その後,井づつやに納品された上記 403W 製品24台は,同所のエントランスロ ビー等において使用されていたところ,被告は,平成30年7月23日までに,井 づつやからこれを入手した。この被告 403W 製品には,製造ロット番号として 「120416」が表示されているところ,これは,当該製品の製造年月日が平成24年4月16日であることを意味する。(乙166,弁論の全趣旨)\n
(ウ) 被告は,本件チラシ(平成24年1月発行)に,平成24年3月初旬発売予定の商品として 403W 製品を掲載した(乙138)。また,被告は,本件カタログ (同年2月発行)にも 403W 製品を掲載したところ,他の掲載商品には発売予定時期を明記したものが見られるが,403W 製品にはそのような記載はない(乙35)。
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,被告は,遅くとも本件優先日である 平成24年4月25日以前に,403W 発明の実施である事業をしていたことが認め られる。
(2) 403W 発明の構成等
ア 403W 発明の構成のうち,上記第2「10」(被告の主張)(3)における構成 1- 3a10〜c及び e並びに 1-14a10〜f及び hについては,原告 PIPM も明ら かには争わないから,これを認める。 上記構成 1-3a10〜c及び eは,本件発明1−1の構成要件 1-1A〜C 及び E, 本件発明1−3の構成要件 1-3A〜C 及び E,本件発明1−16の構成要件 1-16A〜 C 及び F,本件発明1−17の構成要件 1-17A〜C 及び E 並びに本件訂正発明1− 17の構成要件 1-17B’〜D’にそれぞれ相当するものといえる。また,構成 1-14a10 〜f及び hは,本件発明1−14の構成要件 1-14A〜E,G 及び本件訂正発明 1−18の構成要件 1-18B’〜F’,I’にそれぞれ相当するものといえる。 さらに,403W 製品は,直管形 LED ユニットであり,樹脂(ポリカーボネート) 製カバー(筐体)の長手方向の両端に口金が設けられているところ,その一方には 電源内蔵ユニット用専用口金を備え,この口金のみが,電源内蔵用専用ソケット(給電側)を通じて交流電力を受けるものである(乙35,299)。そうすると,\n403W 発明は,本件発明1−16の構成要件 1-16E 並びに本件訂正発明1−17の 構成要件 1-17E’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18G’,H’に相当する構成を備えていることが認められる。\n加えて,403W 製品は,既存の器具本体をそのまま残し,専用ソケット及び直管形LED ユニットをリニューアルして照明装置として使用する製品シリーズに含まれる製 品である(乙35)。したがって,ランプである 403W 製品に係る発明(403W 発明) は,そのランプが取り付けられた照明装置に係る発明に含まれるといえる。このため, 403W 発明は,本件発明1−17の構成要件 1-17F,本件訂正発明1−17の構成要件 1-17A’及び G’並びに本件訂正発明1−18の構成要件 1-18A’及び K’に相当する構成を備えていることが認められる。
イ 403W 製品の輝度均斉度等
(ア) 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。
a LED モジュールの寿命は,製造業者等が指定する条件下で点灯したとき, LED モジュールが点灯しなくなるまでの総点灯時間,又は全光束が点灯初期に測 定した値の70%に下がるまでの総点灯時間のいずれか短い時間とされているとこ ろ,高光束 LED を1万時間連続通電してその光出力の変化を調査した実験データ によれば,1チップ方式の白色 LED の寿命(光出力が70%になる時間)は4万 5000時間と推定されるとの実験データがある。なお,原告パナソニックのカタログ(乙34)には,直管形 LED ランプについて,4万時間経過後の光束維持率 が95%であることが示されている。 また,LED を連続的に点灯し続けると,LED チップを封止する樹脂(以下 「LED 樹脂部」という。)が黄変し,光量の低下を招くことがある。さらに,LED 照明は,使用する場所の環境温度が高くなるほど劣化が加速されると共に,使用環 境下に硫化ガス等の発生要因がある場合,LED 樹脂部及び接合部にダメージを与 えることなどによっても,劣化が加速する場合がある。 (以上につき,上記のほか,甲37〜39)
b 被告 403W 製品は,平成24年4月28日の井づつやへの納品後,被告が平 成30年7月に入手するまで,6年以上の間継続的に使用されていたものと見られ るところ,その LED 素子の中央部分はやや黄変しており(乙217,218), カタログに記載された初期値を100%とした場合の被告 403W 製品の全光束(全 ての方向に放出する光束の総和)は89.0%,光効率は92.6%に減少してい る(乙216)。もっとも,被告 403W 製品の LED1個あたりの配光データは, 新品の LED の配光データが概ね120度(ランバーシアン配光の場合)であるの に対し,114度及び115度である(乙214,215の3,215の4)。 また,403W 製品のカバーと 402W 製品のカバーは,共通の部材(ポリカーボネ ート)を使用した同じ仕様のものであると認められるところ(乙35,298,2 99,315),被告 403W 製品と未使用の 402W 製品について,それぞれカバー を交換して全光束及び y/x 値を測定した結果,いずれも交換せずに測定した結果と の差は,1%以下(全光束)及び0.01(y/x 値)であった(乙316〜318, 弁論の全趣旨)。
(イ) 以上の事情を踏まえると,被告 403W 製品の LED 素子は,6年以上使用を 継続されているものであり,LED 樹脂部の黄変及び全光束や光効率の減少は生じ ているものの,その配光特性は,初期値(ランバーシアン配光)と大きく異ならず, 著しい経時変化は見られないものといってよい。403W 製品の光拡散性を有するカ バー部分についても,被告 403W 製品には,上記継続使用期間にもかかわらず,全 光束や y/x 値の測定値に影響を与えるような劣化等が生じているとはいえない。 そうすると,被告 403W 製品について,被告が平成30年7月23日に測定した y 値=15.7mm,x 値=11.7mm,y=1.34x との測定結果(乙166)及び令和2年1 月29日に測定した y 値=15.6mm,x 値=11.7mm,y=1.33x との測定結果(乙29 7)は,いずれも 403W 製品の初期値とほぼ同等のものと見るのが相当である。
(ウ) そうすると,403W 発明は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合 う前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y=15.7mm,x=11.7mm であり,y=1.34x」との構成すなわち構\成 1-3d及び 1-14g10)を有するといえる。 したがって,403w 発明は,本件発明1−1の構成要件 1-1D,本件発明1−3の 構成要件 1-3D,本件発明1−14の構成要件 1-14F,本件発明1−16の構成要素 1-16D 及び本件発明1−17の構成要件 1-17D 並びに本件訂正発明1−17の 構成要件 1-17F’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18J’に相当する構成を有していると認められる。\n
ウ 以上より,403W 発明は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1 −18の構成要件を充足する構\成を備えたものであり,これらの各発明と同一性が 認められる。
エ 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告 403W 製品について,長時間の使用による経年変化,LED 素子の樹脂やせや黄変,使用環境の影響等により,被告測定時点での被告 403W 製 品の y/x 値等が初期値のものと同等とはいえない旨を主張する。 しかし,上記のとおり,被告 403W 製品については,長時間の使用による経年変 化等により,LED 素子の中央部に黄変が見られ,また,カタログ値と比較して全 光束や光効率が10%程度減少しているという事実は認められるものの,それ以上 に,LED 素子の劣化(凹み)をはじめ,配光特性に影響を及ぼし得るような LED 素子の劣化等を裏付ける具体的な事情は見当たらず,カバー部材についても,y/x 値等に影響を与えるような劣化が生じているといった事実の存在を具体的にうかが わせる事情は見当たらない。本件交換実験の結果に関しても,上記のとおり,交換 に係る製品が共通の部材を使用した同じ仕様のものであると認められることに鑑み ると,原告 PIPM が指摘する事情を考慮しても,その結果の信用性を直ちに疑うべ きものとまではいえない。 その他原告 PIPM が縷々指摘する事情を踏まえても,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
(3) 先使用権の範囲
上記(1)及び(2)によれば,被告は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及 び1−18の内容を知らないで自らこれらに含まれる 403W 発明をし,本件優先日 の際に,日本国内において,その発明の実施である事業をしている者と認められる。 したがって,被告は,403W 発明及び上記事業の範囲内において,本件各発明1並 びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る特許権について,通常実施権を有す る。 また,403W 製品は,x 値及び y 値の関係性を特定する技術的思想が明示的ない し具体的にうかがわれるものではないものの,実際にはその x 値及び y 値の関係性 により,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る構成要件に相当する構\成を有し,その作用効果を生じさせている。加えて,403W 発明につき, 照明器具としての機能を維持したまま,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18の特定する x 値及び y 値の関係性を充たす数値範囲に設計変更するこ とは可能と思われる。このため,被告製品1〜5及び7〜16は,いずれも,403W 発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式であるにとどまる ものといえる。 そうすると,被告による被告製品1〜5及び7〜16の製造販売は,被告の上記 通常実施権の及ぶ範囲内に含まれる。
(4) 小括
以上のとおり,被告は,403W 発明に基づく上記通常実施権により,業として被 告製品1〜5及び7〜16を製造販売し得ることから,その余の点につき論ずるま でもなく,原告 PIPM は,被告に対し,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17 及び1−18に係る本件特許権1を行使し得ない。
6 無効理由9(クラーテ製品2)の公然実施による新規性欠如)の有無(争点12)
(1) 公然実施の有無
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。
(ア) リコーは,平成23年7月7日,直管形 LED ランプである「クラーテ P シ リーズ40形」を同月末発売予定である旨をプレスリリースした。また,同社は,平成24年1月現在の製品を掲載したカタログ「<クラーテ>P シリーズ」(乙1 71の1)にクラーテ製品2)を掲載しているところ,同カタログ掲載の仕様は,上 記プレスリリースに係る製品の仕様と概ね同一である。さらに,同社は,遅くとも 同月には,クラーテ製品2)を含むシリーズ製品を販売していた。(上記のほか,乙 170,172,173,368)
(イ) 被告は,令和元年9月12日終了のオークションにより,クラーテ製品2)1 4本(被告クラーテ製品2))を入手したところ,これらの被告クラーテ製品2)には, いずれも,製造ロット番号として「1203」が表示されている。これは,当該製品の製造年月が平成24年3月であることを意味する。(乙172,174,186,\n288)
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,クラーテ製品2)は,遅くとも平成2 4年1月頃には,リコーから販売されたことによりその構造が解析可能\な状態に至 ったものと認められる。 これに対し,原告 PIPM は,クラーテ製品2)の上市時期が明らかでないこと,仮 に被告クラーテ製品2)の製造日が平成24年3月であっても,製品製造後すぐ出回 るとは考えがたいことなどを主張する。 しかし,上記のとおり,リコーがクラーテ製品2)を平成24年1月には販売して いたことが認められるのであって,それから約3か月が経過した本件優先日時点で は,クラーテ製品2)が実際に市場に出回っていたものと見るのが合理的かつ相当で ある。したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
ウ 小括
以上より,クラーテ発明2)は,本件優先日より前に日本国内において公然実施を された発明といえる。
(2) クラーテ発明2)の構成等
ア クラーテ発明2)が構成 1-20a’12〜f’12 及び h’12 を有すること,これらの構成がそれぞれ本件訂正発明1−20の構\成要件 1-20A’〜F’及び H’に相当すること については,原告は明らかに争わないことから,これを認める。なお,本件訂正発 明1−20の構成要件 1-20D’の「「基台の上に実装された」の意義について, LED チップが実装された容器が基板を介して間接的に実装された構成を含むことは上記2のとおりである。\nイ 被告クラーテ製品2)14本の構成 1-20g’12 に係るパラメータ(y/x)の被告 測定値は,1.208〜1.278 であった(乙289)。また,関連無効審判における検 証手続の結果によれば,被告クラーテ製品2)は,x 値は 8.6mm,y 値は 10.39mm であり,y≒1.208x であった(乙346,365,弁論の全趣旨)。 そうすると,クラーテ発明2)は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合う 前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y≒1.208x の関係である」(構成 1-20g’12)の構成を有するものと認められる。この構\成は,本件訂正発明1−20 の構成要件 1-20G’に相当する。
(3) したがって,本件訂正発明1−20は,本件優先日より前に日本国内におい て公然実施をされた発明であるクラーテ製品2)に係る発明と同一の発明であるから, 法29条1項2号に違反し,無効にされるべきものと認められる。すなわち,本件 訂正発明1−20に係る本件訂正によっては無効理由が解消されないことから,本 件訂正発明1−20に係る訂正の再抗弁は認められない。
(4) 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告測定値のばらつきや経年変化等の事情を指摘して,被告測定 値が初期値と等しいとはいえない旨を主張する。 この点,被告クラーテ製品2)については,オークションの出品者による説明とし て,中古品であること,商品の状態として「やや傷や汚れ」があること,使用期間 が2年弱であること,電気工事業者による取り外し作業の際に「ざっくりと中性洗 剤で管だけ拭きあげた状態」で丁寧な梱包により発送すること,「RICOH ロゴマ ークあたり」が黒ずんで見えるものの,LED は使用が進んでも黒ずむことはない ため元々の仕様であることなどが記載されている(乙288)。 もっとも,クラーテ製品2)は,光束が70%まで低下するまでの定格寿命が4万 時間とされている(乙170の3,171の1)。このため,被告クラーテ製品2) につき,仮に25%に相当する1万時間使用された事実があったとしても,配光特 性に影響を与えるとは必ずしもいえず,現に,被告クラーテ製品2)のうち2本の配 光特性はいずれも117度である(乙320)。口金ピンやランプマーク側の管端 部の黒ずみについても,その存在から直ちに他の部位にも同様の黒ずみが存在し, 配光特性に影響を与えるとは必ずしも推認し得ないことから,同様である。また, クラーテ製品2)については,光触媒の膜が剥がれて本来の効果が得られなくなる場 合があるとして,製品の表面を強く擦らないようにとの注意喚起がされているものの(乙170の3),「ざっくりと中性洗剤で」「拭き上げ」るといった態様がこ\nれに含まれるとは考えられない。むしろ,LED ランプの手入れ方法としてこのよ うな方法が奨励されているとも見られる(乙35)。さらに,被告クラーテ製品1) (乙169,214,215によれば,未使用品と認められる。)と被告クラーテ 製品2)のカバー部材を交換した測定によっても,両者の半値幅等に有意な差異はな い(乙370)。 これらの事情等を踏まえると,被告クラーテ製品2)につき,経年変化等によりパ ラメータの値に変化が生じているとは考えられず,上記(2)での認定に係る被告ク ラーテ製品2)の被告測定値及び関連無効審判の検証手続における測定値は,初期値 と概ね等しいものと見られる。 したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
7 まとめ
以上のとおり,本件各発明1(並びに本件訂正発明1−17及び1−18)に係 る本件特許権1に基づく原告 PIPM の請求については,被告に 403W 発明に基づく 先使用権が成立することにより,原告 PIPM は,被告に対し,本件特許権1を行使 し得ない。他方,本件訂正発明1−1に係る訂正の再抗弁は,被告製品1〜5,7 〜16がその技術的範囲に属さないことにより,また,本件訂正発明1−20に係 る訂正の再抗弁は,クラーテ発明2)の公然実施を理由とする新規性欠如の無効理由 があり,本件訂正によって無効理由が解消されないことにより,いずれも再抗弁の 成立が認められない。 以上より,その余の点について論ずるまでもなく,被告による本件特許権1の侵 害は認められないから,原告 PIPM の本件特許権1の侵害に基づく請求は,いずれ も理由がない。

◆判決本文

◆添付1

◆添付2

◆添付3

◆添付4

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令和2(ワ)26567    著作権  民事訴訟 令和3年8月18日  東京地方裁判所

 取説について著作物性なしと判断されました。不存在確認訴訟なので被告が著作権者です。なお、被告は答弁書すら提出していません。説明書の一部は下記です。
「この水虫(白癬)爪専用クリアーネイル&ヤスリセットは100年以上の歴史を誇るDrスコール社が科学的に研究を重ねて作られた独自技術の集大成です。解決法として従来製品よりも簡単に優しく治療できます。
水虫(白癬)菌の発育を妨げ菌の発生を防ぎます。
水虫(白癬)菌の成長と始発を予防し清潔な爪に貢献をします。」\n

 被告説明文の「ア」部分は,本件商品がドクターショール社の製品であるこ とや,本件製品が従来製品よりも簡単かつ優しく治療できること,水虫菌の発 生・発育を防止することなどを記載するものである。このような製品の出所, 特性や効能については,その性質上,消費者が過大な期待を抱くことのないよ\nうに,客観的な事実をできる限り正確かつ明確に説明することが求められてお り,思想又は感情を創作的に表現する幅は狭く,表\現の選択肢は限られたもの となると考えられる。このため,上記「ア」部分の記載に創作性があるとは認 められない。
(2) 被告説明文の「イ〜エ」部分は,本件商品が適合する症状や,本件商品の使 用方法,爪白癬(爪水虫)が生じる原因について記載したものである。これら についても,利用者が誤った場面や方法で本件商品を使用すること等を避ける ために,前記ア同様,その性質上,客観的な事実をできる限り正確かつ明確に 説明することが求められており,思想又は感情を創作的に表現する幅は狭く,\n表現の選択肢は限られたものとなると考えられる。このため,上記「イ〜エ」\n部分の記載についても創作性があるとは認められない。

◆判決本文

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令和3(ネ)10005 損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許侵害事件で、1審は4億4000万円の損害賠償を認めましたが、原告が控訴しました。知財高裁は約7億円の損害賠償を認めました。

ア 特許法102条3項による損害額として,侵害品の売上高を基準とし, そこに実施に対し受けるべき料率を乗じて算定する場合,実施に対し受 けるべき金銭の料率の算定に当たっては,1)当該特許発明の実際の実施 許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界におけ る実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわ ち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特 許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の態様,
4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた 諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。以下,順に 検討する。
1) 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明 らかでない場合には業界における実施料の相場等 本件訂正発明について実際に実施許諾契約が締結されたことを示 す証拠はない。
・・・
本件訴訟において,本件特許権の技術分野については実際の実施許 諾契約の実施料率を示す証拠はない。 本件特許権の技術分野に近似する分野(「機関またはポンプ」) の実施料率についてのアンケート調査結果によれば,実施料率3〜 4%未満の例が最も多く(37.5%),実施料率5〜6%未満の例 や実施料率2〜3%未満の例は同数(12.5%),実施料率1〜 2%未満は3件(18.8%)とされており,また,他の調査結果や データベースには,実施料率3%又は6%の例や実施料率5〜8%又 は3%の例もあったとされていることからすれば,圧縮機の分野でも, 実施料率を3%から4%程度とする例を中心としつつ,その前後の実 施料率とする例も相当程度あることがうかがわれる。 なお,一審被告は,前記第2の3 本件訴訟の 事案と本件ライセンス契約はいずれも圧縮機を販売するための特許権 の実施許諾を対象とするものであって,実施許諾の対象は同じと評価 すべきであるから,本件ライセンス契約を重視すべきであると主張す るが,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●このようなライセンス契約の事例を他の事例より 特に重視すべき理由があるとはいえず,圧縮機分野の実施料率の一例 としてみるのが相当である。
また,一審被告は,甲19ないし21に掲げられた事例は,いず れも,一審被告や一審原告とは何ら関係がない一般的なものであって, 具体的な点において,本件と共通性や類似性はないとか,本件特許権 は,圧縮機の分野に係る日本の特許権1件であるから,特許法102 条3項の実施に対し受けるべき料率を検討するに当たっては,日本の 特許権1件の非独占的な実施許諾による料率と対比すべきであるとこ ろ,甲20は日本の特許権に関するものではなく,また,独占的実施 許諾の事例であるなどと主張するが,実施料率を定める事例として, 具体的な点において完全に合致する事例がなければ,同分野の他の事 例(他の国の特許権に関するものを含む。)を参酌することは当然で あるし,甲20で独占的とされるのは製造のみであり,販売について ライセンシーが独占権を得ていることはうかがわれない。したがって, 一審被告の主張は採用できない。
2) 本件訂正発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性\n
本件優先日前である平成9年3月25日に発行された書籍「カーエ アコン」(甲11)には,ピストン式圧縮機の斜板形のものでロータ リバルブを使用したものは記載されておらず,113頁の図6.5で 吸入弁(リードバルブ)が図示されている。 従来技術であるリードバルブ方式は,シリンダ室と吸入室の圧力 差が必要であること,流路断面積が小さいこと,弁による吸入抵抗が 発生するという難点があることから,シャフトの回転によって冷媒を 提供するロータリバルブ方式が提案されてはいたものの(乙18,2 2,23,28,30等),回転軸の外周面と軸孔の内周面のクリア ランスによって,吐出行程時の圧縮室から冷媒が漏れるという問題が あったこと,クリアランス管理が非常に難しいこと(本件明細書【0 004】)から実用化には至っていなかったのであり,本件訂正発明 において,ロータリバルブを備えた回転軸に伝達される圧縮反力を利 用して,吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口に向 けてロータリバルブを付勢させて,体積効率を向上させていること (本件明細書【0015】),クリアランスに関する厳密な管理が不 要となること(本件明細書【0043】)は,コスト面も含め,ロー タリバルブ方式を実用化するのに寄与したものと認められ,一審原告 が,本件優先日後に,ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機を販売 していることは争いがない。
もっとも,実用化当初の一審原告の製品(10SR15C)は, 本件訂正前の構成であるから,ロータリバルブが円筒状でなく凹部や\n溝が設けられており,本件訂正発明そのものの実施品ではないと考え られる。しかし,同製品も,圧縮反力で冷媒漏れを防止するという本 件訂正発明の技術思想を利用するものであり,この点については本件 訂正の前後で変更はない。 そうすると,本件訂正発明はロータリバルブ方式のピストン式圧 縮機の実用化に寄与したものというべきで,相応の顧客吸引力がある ということができる。
一審被告は,被告各製品の販売先であるマツダに対し,設計変更 品を継続して販売しているが,●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●少なくとも,侵害時(平成24年12月から平成 29年6月)の大部分において,本件訂正発明の効果を奏する代替 技術はなかったということになる。
3) 当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害 の態様
本件訂正発明がロータリバルブ方式を実用化するのに貢献したこ とは前記2)のとおりである。 一方,どの程度の体積効率の向上がもたらされるかは具体的数値 をもっては明らかではなく,本件訂正発明の作用効果についての顧客 吸引力等は一定程度限定される。 被告各製品はクラッチ部分と組み合わされて販売されている。 乙62によれば,被告各製品に該当する部品番号に相当するコン プレッサー(クラッチ部分及び圧縮機部分)の販売価格は468.1 5ドル,クラッチ部分のみの販売価格は231.82ドルとする事例 があることが認められるが,これはアフターマーケット(商品販売後 の需要に対する正規ディーラーではない業者の市場)における販売価 格であり,直ちに一審被告とJCSないしマツダとの間の被告各製品 の取引にあてはめることはできない。また,一審被告は,被告各製品 と別にクラッチを販売しているものではない。 しかし,クラッチ部分と圧縮機部分は観念的には区別することが でき,特許法102条3項の適用に当たっては,被告各製品の売上高 は,クラッチ部分を含むものであるという事情も考慮する必要がある。 一審被告は,前記第2の3 被告各製品は,本 件訂正発明とは無関係に,厳密なクリアランス管理により,冷媒漏 れ防止の効果を達成していると主張する。 一審被告のいう被告各製品における「厳密なクリアランス管理」 は,シャフトとシャフト用孔を極めて高精度に仕上げ,クリアラン スを30μmに設定する構造を採用し,ラジアル軸受は,斜板取付\nけ部とスラスト軸受を除く全領域でシャフトを支持する軸受とし, さらに,軸受がシリンダブロックの外側に突き出る長い構造を採用\nすることによって,シャフトの動きを伴うことなく,冷媒が吸入通 路の入口から漏出するのを防止するというものである(引用に係る 原判決12頁5行目ないし13行目)。
しかし,一審被告の主張のとおり厳密なクリアランス管理により冷 媒漏れを防止しているというのであれば,乙3報告書(被告製品1 〔クリアランスが30μm〕と,クリアランスを50μm,70μm, 90μm,110μmに変更した圧縮機の体積効率を比較したもの) において,クリアランスが30μmである被告製品1よりも50μm のものの方が体積効率は落ちることになるはずであるが,30μmと 50μmとで体積効率はほとんど変わらなかったとされているのであ るから,一審被告の主張は十分な裏付けを欠くものというべきである。\nまた,仮に,被告各製品が,一審被告主張の厳密なクリアランスを 採用し,その構成が冷媒漏れの防止に対する効果を奏することがある\nとしても,一方で,被告各製品は,原判決別紙イ号物件説明書及びロ 号物件説明書記載のとおりの構造を有しており,ピストン60に作用\nした圧縮反力Fが斜板やスラスト荷重吸収機能が付与されたフロント\n側スラスト軸受70に伝達され,このスラスト荷重吸収により斜板5 1の動きを許容することで斜板51の径中心部を中心としてシャフト 50を傾かせようと作用し,これによって,シャフト50(回転弁) は,吐出行程中のシリンダボア22に連通するフロント側通路23の 入口に向けて付勢され,この際シャフト50が変位しているのであっ て,この本件訂正発明の構成要件C,Fを充足する構\成によっても, 冷媒漏れが防止されるものといえることは,原判決が第4の3で説示 するとおりであるから,本件訂正発明とは無関係に冷媒漏れを防止し ているという一審被告の主張は採用できない。
4) 特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針
一審原告は,ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機を製造・販 売しており,一審被告は,平成24年12月以降,ロータリバルブ 方式のピストン式圧縮機である被告各製品を輸入・販売しているの であるから,両者は競合関係にある。一審被告は,前記第2の3⑵ のとおり,被告各製品が組み込まれていたマツダ製の自動車 においては,圧縮機について,「被告親会社→一審被告→JCS→ マツダの商流」という系列関係が確立しているとして競業関係を否 定するが,ここでは,特許権者と侵害者の間の料率を定める上で競 業関係が問題とされているのであるから,一審原告がマツダに直接 販売することができるかどうかの問題ではなく,一審被告の主張は 採用できない。 ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機の市場は寡占状態にあり, 相互に実施許諾を行っていない閉ざされた市場傾向にある(弁論の 全趣旨)。
イ 以上の検討を踏まえると,圧縮機の分野では,実施料率を3%から 4%程度とする例を中心としつつ,その前後の実施料率とする例も相当 程度あることがうかがわれること,本件訂正発明が相応の技術的価値を 有し,代替品もなかったこと,一審原告と一審被告が競業関係にあり, 相互に実施許諾を行うことが考えにくいこと,他方,本件訂正発明の作 用効果に対する顧客吸引力等は一定程度限定されること,被告各製品の 売上高はクラッチ部分を含むものであること等の本件諸事情を考慮すれ ば,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実 施に対し受けるべき料率は,3%と認めるのが相当である。 なお,一審被告は,第2の3 本件訂正発明の作用 効果や侵害の成否等について,前件侵害訴訟における知財高裁判決や本件 無効審決,ソウル高等法院等,判断主体によって判断が分かれていること\nを理由に,本件訂正発明の価値が低いと主張するが,事前の実施許諾契約 の料率については特許権が無効となる可能性等も考慮して算定されるのと\n異なり,特許法102条3項の損害は,特許権が有効であり,特許権侵害 があることを前提に算定されるものであるから,別個の手続の状況を考慮 に入れるのは相当でない。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)28541

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令和3(ネ)10029  特許侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年10月13日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 知財高裁は、1審の「技術的範囲に属する、推定覆滅率2割」を維持し、約7300万円の損害賠償を認めました。1審判決が出たのが2021年3月なので早いですね。また、方法発明について、共同直接侵害の成立を認めています。

 足場が不要になることが本件発明の唯一の効果であるとはいえないことは,上記2のとおりである。また,同業他社の製品(乙60の各枝番)の施工方法は,証拠上は必ずしも明らかではなく,本件発明及び被告方法のように,倹鈍式によるガラス板の嵌め込み,ガラス板及び目地枠を摺動させることによる取付け,係止爪と被係止爪との係止,といった工程を可能にするものか否かは定かでない。また,控訴人が引用する裁判例は,本件とは事案を異にし,本件における損害額の算定において参考となるものではない。そうすると,控訴人の当審における上記主張は,原判決を引用して説示したとおり推定覆滅率2割を相当とするとの判断を左右するものではなく,採用することができない。\n

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)10716
以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを 実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同 程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について
証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数 のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認 められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について
証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付 枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる (乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4 辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的 にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付 強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係 合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲 14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等 の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得 る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について
証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ 製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程 度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって, アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺 笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関 係である。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他
原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可 能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当 である。 もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると 認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全 趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27 製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3 9製品が平成29年10月であることが認められる。 また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。 これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品 及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2 項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程 度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的 であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに 反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。 そうすると,特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は,以下のと おりとなる。
・・・
したがって,原告の損害額は合計5481万9267円となり(内訳は以下のと おり),原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づき,同額の損害賠 償請求権を有する。

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令和3(ネ)10036  著作権等の侵害に基づく削除等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年9月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原告はイラストと文章をTwitterに投稿しました。被告の行為は原告著作物の公衆送信権、翻案権侵害と訴えました。知財高裁は1審判断を維持しました。

 既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア, 事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表\現上の創作性がない部 分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案に当 たらないことは引用する原判決が説示するとおりである。
本件についてみると,被告イラストは,原告文章と同じく,原作である「O NE PIECE」に登場するキャラクターの設定に依拠して,身長差のあ る同性の2人が,壁に掴まりながら特定の体位で性交渉を行うという描写に おいて,原告文章と同一性を有するにとどまるものであり,こうした描写自 体は,アイデアないし着想にすぎないか,表現上の創作性がない部分である。\nそうすると,原告文章を全体として見た場合に一定の創作性が認められる余 地があるとしても,前述のとおり,被告イラストは,原告文章のうちアイデ アないし着想にすぎないか,表現上の創作性がない部分において同一性を有\nするにすぎないのであるから,原告文章の翻案に当たるものでないことは明 らかというべきである。 控訴人は,原告文章の創作性につき前記第2の3(1)のとおり指摘し,被告 イラストは,これらの創作部分が全て描写されているので,原告文章の翻案 に当たる旨主張するが,控訴人の指摘する部分は,いずれも,アイデアない し表現上の創作性のない部分であるにすぎないし(「ONE PIECE」 に登場するキャラクターの設定については,当然のことながら創作性を認め ることができない。),その具体的な表現ぶりも,性表\現として平凡かつあ りふれたものであり,そもそも被告イラストが当該表現部分に依拠して作成\nされたと特定することもできないものといわざるを得ない。 したがって,控訴人の主張は失当というほかない。
(2) 被告文章が原告イラストの翻案に当たるとの点について
被告文章は,原作である「ONE PIECE」に登場するキャラクター の設定に依拠して,原作に登場する2人の人物が性交渉後に,身長の低く若 い人物(ルフィ)が失禁したと勘違いし,動揺をしている描写設定において, 原告イラストと同一性を有するに止まり,こうした描写設定は,同性間の性 交渉を描写するに当たってのアイデアないし着想にすぎないか,表現上の創\n作性があるとはいえない部分である。そうすると,原告イラストを全体とし て見た場合に一定の創作性が認められる余地があるとしても,前述のとおり, 被告文章は,原告イラストのうちアイデアないし着想にすぎないか,表現上\nの創作性がない部分において同一性を有するにすぎないのであるから,原告 イラストの翻案に当たるものでないことは明らかというべきである。 控訴人は,前記第2の3(2)のとおり,被告文章は,原告イラストの最後の コマの「ルフィ」のセリフを受けて,あたかも連歌のように,直前の状況や 内容を参看し,その背景や情趣,心境を踏まえて,そのポエジーを受け継い で記載されたものである旨主張するが,独自の見解というほかないものであ り,控訴人主張のセリフ自体に表現上の創作性を認めることはできないし,\nましてやそのセリフから連歌性やポエジーの存在を認め,被告文章が原告イ ラストに依拠した翻案に当たるなどと認めることは到底できない。  

◆判決本文

原審はこちら

◆令和1(ワ)30833
以下のように判断されています。
まず,原告文章と被告イラストについては,原告文章が言語の著作物で あるのに対し,被告イラストは基本的には美術の著作物であって,表現の\n形式が異なり,これらを対比すると,両者は,描写対象の設定(身長差の ある設定の2人の登場人物が,一般的には困難と思われている体位で性行 為を行っている点,性器の状態,及び登場人物の一方が壁につかまろうと しているという点)につき同一性を有するにとどまるといえる。しかして, 上記描写対象の設定は,その内容自体や,原告文章の性質・内容に照らし, 内面的思想たるアイデアにすぎず,表現それ自体でない部分であるという\nべきである。また,仮に表現自体と捉えられる部分があったとしても,本\n件各証拠を見ても,上記設定による表現に幅があると認められ制作者の個\n性の表れとして著作物性を肯定することを基礎付けるに足りるものは見当\nたらず,原告文章の性質・内容に照らせば,上記設定を前提とする限り, これを表現したものとしては平凡かつありふれたものであり,表\現上の創 作性がない部分であるといわざるを得ない。
イ 次に,原告イラストと被告文章については,原告イラストが基本的には 美術の著作物であるのに対し,被告文章は言語の著作物であって,表現の\n形式が異なり,これらを対比すると,両者は,描写対象の設定(2人いる 登場人物の一方が性的行為の際に勘違いをした状況で,他方の登場人物に 対する言動・働きかけに及んでいる点)につき同一性を有するにとどまる といえる。しかして,これについても,上記説示が同様に当てはまるもの である。すなわち,上記描写対象の設定は,その内容自体や,原告イラス トの性質・内容に照らし,内面的思想たるアイデアにすぎず,表現それ自\n体でない部分であるというべきである。また,仮に表現自体と捉えられる\n部分があったとしても,本件各証拠を見ても,上記設定による表現に幅が\nあると認められ制作者の個性の表れとして著作物性を肯定できることを基\n礎付けるに足りるものは見当たらず,原告イラストの性質・内容に照らせ ば,上記設定を前提とする限り,これを表現したものとしては平凡かつあ\nりふれたものであり,表現上の創作性がない部分であるといわざるを得な\nい。
ウ 以上によれば,被告イラストは原告文章を翻案したものには当たらず, また,被告文章は原告イラストを翻案したものには当たらないというべき である。

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令和2(行ケ)10103 特許権 行政訴訟 令和3年10月6日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、動機付けがないとして取り消されました。引用文献における「演色性」は本件とは意味が異なるという認定です。

ア 甲1発明の課題の認定について
(ア) 黄色の発色
甲1には,「イエロー系」,「イエローとライトイエローの違いが分かり づらいです。」(4頁の上から5枚目の写真の上下)と記載されていると ころ,この記載からは,甲1製品において,「イエロー」と「ライトイエ ロー」の色の相違が判別し難いという問題があることは認められる。し かし,上記の記載の前提として,「イエロー」は,色票等ではなくペンラ イトの「ライトイエロー」との比較がされているにとどまる上(上記写 真),色の相対的な判別の問題と,一般的に各色の基準とされている色(色 票の該当色)にどれだけ近い色を出しているかという発色の問題は異な るから,「イエロー」と「ライトイエロー」の色の相違が判別し難いとい う上記の問題は,「イエロー」が一般的に黄色の基準とされている色にど れだけ近い色を出しているかという発色の問題とは異なる。 本件審決は,「それら『イエロー』及び『ライトイエロー』の各発色に ついて検討するに,p.4-写真には,写真中央に位置する4本のペンライ トの他に,その左側に2本(『亜美・真美』及び『小鳥』),右側に2本(『ル ミスティック』及び『大電光改』)の計4本の他のペンライトが色比較の ために配置されているところ,上記写真中央の4本(甲1発明)の『イ エロー』の発色は,上記他の4本のペンライトの黄色の発色とは異なり, むしろ p.4-6 写真((摘示(1q))示されるオレンジ系の色に近い発色 となっている。」(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)ア(ア) 〔本件 審決47頁〕)と述べ,甲1の写真を根拠として,甲1製品の「イエロー」 とされる黄色の発色自体に問題があるという認定をしている。本件審決 が,甲1サイトのアドレスにアクセスの上,ディスプレイ上に表示され\nた写真(画像)に基づいて上記認定をしたのか,又は用紙に印刷された 写真に基づいて上記認定をしたのかは,本件審決の記載からは直ちには 明らかでないが,仮に,前者であるとした場合,ディスプレイに表示さ\nれる色の発色は,ディスプレイ自体の性能や調整に依存するものである\nし,また,後者であるとした場合でも,紙に印刷される色の発色は,紙 の品質やプリンタの性能や調整に依存するものであり,さらにいえば,\n写真を撮影したカメラの性能や調整によっても発色は相違するものであ\nるから,いずれにしても,実際の甲1製品の発色とディスプレイ上の表\n示又は印刷されたものの発色は,必ずしも同じとは限らない。また,甲 1製品と対比された他社のペンライトが,甲1製品よりも,一般的に黄 色の基準とされている色に近いことを裏付ける客観的な証拠はない。そ のため,甲1の写真に基づいて,「イエロー」が一般的に黄色の基準とさ れている色にどれだけ近い色を出しているかを判断することはできず, 甲1の写真を根拠に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題がある と認定することはできない。
その他の甲1の記載によっても,甲1に,「イエロー」とされる黄色の 発色自体に問題が内在しているという課題が示されていると認めること はできない。 そうすると,「イエロー」と「ライトイエロー」の各発色の色の違いを 明確に識別することができないという問題は,「イエロー」とされる黄色 の発色自体に問題が内在しているということもできるとする本件審決の 判断(前記(3)ア(ア))は誤りである。
(イ) 演色性
本件審決が甲1発明の課題に関して認定する「演色性」は,発色のバ ランスを崩れないようにすることや,全体が綺麗に光るようにすること (前記(3)ア(イ)),多くの色彩の選択肢を提供すること(前記(3)(ウ)。 本件審決は,第6,2,2−1(2)(2−1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で, 甲10に記載されているように周知の課題といえると認定する。)であり, 甲2に記載された技術事項として認定された「演色性」,すなわち,照明 された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという,一般的な意味 での「演色性」(前記(3)イ(イ))とは異なる。
イ 甲2に記載された技術事項の認定
前記(3)イ(イ)のとおり,甲2に記載された技術事項として認定された「演 色性」は,照明された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという, 一般的な意味での「演色性」であるものと認められる。
ウ 相違点1に係る本件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及び\nその「発光色」の容易想到性
前記(2)のとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,技術分野が 完全に一致しているとまではいえず,近接しているにとどまるから,甲1 発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を想到すること が容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採 用するについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付け があり,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を容 易に想到することができたと判断する前提として,甲1発明に,「イエロー」 とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があり(前記(3) ア(ア)),甲1発明に,演色性を向上させるという,甲2と共通の課題があ ると認定した(前記(3)ア(イ),(ウ))。しかし,前記ア(ア)のとおり,甲1発 明に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課 題があるとする本件審決の認定は誤りであるし,また,本件審決が甲1発 明の課題に関して認定する「演色性」(本件審決が第6,2,2−1(2)(2 −1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で,甲10に記載されているように周知の 課題といえると認定する事項を含む。)は,甲2に記載された技術事項とし て認定された「演色性」,すなわち,照明された物体の色が自然光で見た場 合に近いか否かという,一般的な意味での「演色性」とは異なる(前記ア (イ))。
そうすると,本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用 する動機を基礎づける甲1発明の課題の認定を誤っているものであり,ま た,甲2に記載された技術事項の内容(前記(1)),甲1発明と甲2に記載さ れた技術事項の技術分野相互の関係(前記(2))を考慮すると,甲1発明に は,甲2に記載された技術事項と共通する課題があるとは認められず,そ のため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがある とは認められない。 したがって,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲 10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ とができたとは認められず,これを容易に想到することができたとする本 件審決の判断(前記(3)ウ(ア))は誤りである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲 10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ とができた(前記(3)ウ(ア))という判断を前提として,甲1発明に甲2に記 載された技術事項及び周知の課題(甲10)を採用し,本件発明1の構成\nのうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容易に想到するこ とができた(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)イ(ア)〔本件審決48 〜50頁〕)と判断するところ,その前提とする判断が誤っているから,本 件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容\n易に想到することができたという判断も誤りである。
エ 黄色発光ダイオードの単独発光色及び混合発光色の容易想到性
前記ウのとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項との間には課題 の共通性がなく,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付 けがあるとは認められないが,念のため,仮にそのような動機付けがある として,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することにより,黄 色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及 び前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオード から発せられる光が混合することにより得られる発光色という,相違点1 に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかについて検討\nする。
甲2には,前記(1)認定のとおり,カード型LED照明光源10に実装さ れるLEDを,相関色温度が低い光色用又は相関色温度が高い光色用や青, 赤,緑,黄など個別の光色を有するものとすることができること(段落【0 080】)が記載されているが,当該事項に係る実施の形態1に関連する段 落【0076】ないし【0080】の記載全体をみても,青,赤,緑,黄 など個別の光色のうちからいずれか1色の単色LEDのみを搭載したLE D光源により青,赤,緑,黄などいずれかの個別の光色を発光するという 意味なのか,複数色のLED光源を搭載して青,赤,緑,黄などの個別の 光色となるように制御するという意味なのか必ずしも判然としない。段落 【0080】に続いて,段落【0081】の前半において「更に,多発光 色(2種以上の光色)のLEDをカード型LED照明光源10に実装する ことにより,・・・この場合,2種の光色を用いた2波長タイプのときには」 との記載が続くことに照らせば,段落【0080】の上記記載は,前者の 意味,すなわち,1種の光色を用いた1波長タイプを意味し,黄色の単色 LEDを搭載したLED光源により黄色の光色を有するという意味と解す ることはできる。しかし,本件発明1は,赤色発光ダイオード,緑色発光 ダイオード,青色発光ダイオード,黄色発光ダイオード及び白色発光ダイ オードを備え,複数得られる特定の発光色として,少なくとも,黄色発光 ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色の他に,黄色発 光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオー ドから発せられる光とを混合して得られる発光色が得られなければならな いところ(相違点1),前者の意味であるとすれば,上記の混合して得られ る発光色が容易想到であるとはいえない。他方,仮に後者の意味だとして も,甲2には,複数色のLED光源に黄色のLEDを含んでいるとの直接 的な記載はないから,黄色以外のLED光源によって黄色の光色を得てい る可能性も否定できず,黄色のLEDの単独発光が容易想到であるとはい\nえない。 さらに,前記(1)イで認定したとおり,甲2には,3種の光色を用いた3 波長タイプの場合は青と青緑(緑)と赤発光の組合せ,4種の光色を用い た4波長タイプの場合は青と青緑(緑)と黄(橙)と赤発光の組合せが望 ましく,特に4波長タイプのときには平均演色評価数が90を超える高演 色な光源を実現できること(段落【0081】)が記載されており,演色性 を向上させるためにRGBY(赤,緑,青,黄)4種類のLEDを用いる ことが記載されているが,これらの記載は,一般的な意味での演色性の向 上に関するものであるから,これらの記載からは,RGBY4種類のLE Dを用いた照明装置において,黄色のLEDを単独発光させることが客観 的かつ具体的に把握できるものとは認められない。 また,甲2には,RGBWY(赤,緑,青,白,黄)の5種類のLED を用いることが,段落【0065】や【0189】に記載されているが, 具体的な記載としては電源に関する説明があるのみで,これらの記載から は,RGBWYの5種類のLEDを用いた照明装置において,黄色LED を単独で発光させることやその他の色と混ぜて発光色を制御することは, 客観的かつ具体的に把握することはできない。 そうすると,仮に甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機 付けがあり,甲2に記載された技術事項を甲1発明において採用し,甲1 発明において黄色発光ダイオードを備えたとしても,黄色発光ダイオード が単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び,前記黄色発光 ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる 光が混合することにより得られる発光色という,相違点1に係る本件発明 1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n
なお,本件発明1は,黄色LEDを追加した上で,白色LEDとそれ以 外の1つ又は2つのLEDから発せられる光が混合して発光色を得,黄色 LEDとそれ以外の1つ又は2つのLEDから発せられる光が混合して 発光色を得るとの構成をとることによって,電圧が低下した状態において\nも発色のバランスを保つことができるもの(本件特許の明細書の段落【0 007】,【0009】,【0010】,【0013】〜【0017】,【002 1】,【0033】,【0034】)であり,このような発明の効果は,甲1発 明及び甲2に記載された技術事項から予測できるものとはいえないから,\nこの点からしても,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用すること によって本件発明1を容易に想到することができたとは認められない。

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令和3(行ケ)10036  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年10月6日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、30類に「菓子」について、商標「スイーツパーティー」と「スイートパーティー」が非類似(11号)と判断し、無効理由無しとした審決を維持しました。

ア 国語辞典の記載
本件商標と引用商標(スイートパーティー)は,「スイーツ」という部分 と「スイート」という部分が異なる。 国語辞典には,「スイーツ」という語については,「【sweets】甘いもの。 ケーキ・菓子など。」を意味するものと記載されている(広辞苑第7版,乙 2)。 他方,「スイート」という語については,「【sweet】1)甘いこと,甘口。 2)甘美なこと。快いこと。気持ちよいさま。」を意味するものと記載され, 「スイート」という語を用いた語として,「−・コーン【〜corn】トウモロ コシの一品種。糖分を多く含む。−・スポット【〜spot】ゴルフのクラブ・ フェースやテニスのラケットなどの,球を最も効果的に打つことができる 点。−・ハート【〜heart】恋人(特に女性)。愛人。−・ピー【〜pea】マ メ科の蔓性観賞用一年草。シチリア島原産で,江戸時代末に渡来。葉はエ ンドウに似,先端は巻ひげとなる。桃色・白色・紫色・斑などの蝶形花を つけ,花後に莢を生じる。園芸品種が多い。ジャコウエンドウ。ジャコウ レンリソウ。−・ホーム【〜home】(特に新婚の)楽しい家庭。愛の巣。−・ ポテト【〜potato】1)サツマイモのこと。2)サツマイモで作った洋風菓子。 サツマイモを蒸して裏漉しし,砂糖・卵黄・バターなどを加えて練り,オ ーブンで焼く。」が挙げられている(広辞苑第7版,乙2)。 上記の国語辞典の記載によれば,「スイーツ」と「スイート」は別の語と して一般的に認識されており,また,「スイート」という語は,「1)甘いこ と,甘口。」の他に,「2)甘美なこと。快いこと。気持ちよいさま。」などの 意味を有し,「スイートハート」,「スイートホーム」など,「甘いこと」以 外の,「愛しい」,「楽しい」の意味で用いられる例があることが一般的に認 識されているものと認められる。
イ 実際の使用例
(ア) 「スイーツ」という語の使用例
インターネット上で検索結果の多い「スイーツ」という語を含む用語 の例として「人気スイーツ」があり(検索結果:約 2,060,000 件,乙1 2),「絶対おすすめ!人気スイーツベスト 20!」,「人気スイーツをお取 り寄せ」のように使用されている(乙13,14)。また,「スイーツレ シピ」という用語(検索結果:約 1,780,000 件,乙15)は,「お手軽ス イーツレシピをご紹介」,「『本格チョコ』のスイーツレシピ特集」のよう に使用されている(乙16,17)。「スイーツ食べ放題」(検索結果:約 1,440,000 件,乙18)という用語は,「種類以上のスイーツ食べ放 題!」,「平日限定スイーツ食べ放題プラン」のように使用されている(乙 19,20)。これらの用語において,「スイーツ」という語は,「ケーキ・ 菓子など」の意味で使用されている。
(イ) 「スイート」という語の使用例
「スイート」という語が食料品との関係で使用される例としては,「ス イートワイン」,「スイートチョコレート」,「スイートチリソース」など\nがあり(乙21〜乙23),「スイート」という語は「甘い,甘口」の意 味で使用されている。
(ウ) 「スイーツ」という語と「スイート」という語が同一作成者のウェ ブページで使い分けられている例
・・・
(エ) 「スイーツパーティー」という語の使用例
・・・
(キ) 以上によれば,実際の使用例において,「スイーツ」という語と「ス イート」という語は,それらが他の語と結びつく場合も含めて区別して 使用されており,「スイーツ」という語は,「甘いもの,ケーキ・菓子な ど」の意味で使用され,他方,「スイート」という語は,「甘い,甘口」 の他,「甘美な,快い,愛しい,楽しい」という意味で用いられているも のと認められる。そして,「スイーツパーティー」という語は,スイーツ (甘いもの,ケーキ,菓子など)が提供され,それらを食べるパーティ ーの意味で用いられている。
ウ そうすると,本件商標は,「スイーツ」と「パーティー」を二段書きにし たものであるから,「スイーツ」(甘いもの,ケーキ・菓子など)という名 詞が強調された上で,その全体から,「スイーツパーティー」という語とし て認識され,スイーツ(甘いもの,ケーキ,菓子など)が提供され,それ らを食べるパーティーという観念を生じるものと認められる。 他方,引用商標は,「スイートパーティー」又は「SWEET PART Y」という語として認識され形容詞である「スイート」「SWEET」が必 然的に名詞の「パーティー」を修飾する関係にあるから「スイート」なパ ーティーを意味し,「スイート」という語の意味のうち,パーティーを修飾 する場合に当てはまる意味は,「甘美な,快い,愛しい,楽しい」という意 味であるから,「甘美な,快い,愛しい,楽しいパーティー」という観念を 生じるものと認められる。
・・・・
(5) 類否の判断
以上のとおり,本件商標と引用商標は,外観上明確に区別できるものであ ること,本件商標と引用商標は観念において明確な差異があること,本件商 標と引用商標とは称呼において類似しているものの,その類似性の程度は高 くないことを考慮すると,本件商標と引用商標は,外観,観念,称呼等によ って取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察する場合に は,同一又は類似の商品に使用された場合に,その商品の出所につき誤認混 同を生ずるおそれはないものと認められる。 したがって,本件商標を引用商標の類似商標と解することはできないとい うべきである。
3 原告の主張の検討
(1)ア 原告は,「スイーツパーティー」という語が一般的になればなるほど「ス イートパーティー」,「SWEET PARTY」は,「スイーツパーティー」 と同じような,「甘いものを対象としたパーティー」という類似する観念で 捉えられ,観念としても非常に近い,紛らわしいものとして認識されるお それは十分に生じる旨主張する(前記第3,2(3)イ(ア))。 しかし,前記2(3)のとおり,「スイーツ」という語と「スイート」という 語は,区別して観念されており,それらが他の語と結びつく場合も含めて 区別して使用されているから,「スイーツパーティー」という語が一般的に なっても,「スイートパーティー」,「SWEET PARTY」から類似す る観念が生ずるとはいえず,原告の上記主張は,採用することができない。
イ(ア) 原告は,「スイーツパーティー」と「スイートパーティー」とが混同 を生じるか否かが問題であって,「スイーツ」という語と「スイート」と いう語の違いを強調して商標の類否を判断することは重大な誤りである 旨主張する(前記第3,2(3)イ(イ))。 しかし,前記のとおり,本件商標は,「スイーツ」と「パーティー」を 二段書きにしたものであり,しかも名詞と名詞が結合した商標であるか ら,上段の「スイーツ」を分離して観察することが可能であること,「ス\nイーツ」,「スイート」及び「パーティー」はそれぞれ独立した意味のあ る単語であって,「スイーツパーティー」と「スイートパーティー」は, 「パーティー」の部分において共通し,「スイーツ」,「スイート」は,「パ ーティー」という語を修飾して,どのようなパーティーであるかを示す 部分であるから,「スイーツパーティー」と「スイートパーティー」とが 混同を生じるか否かを明らかにする上で,「スイーツ」という語と「スイ ート」という語の観念等の違いの有無を検討することは必要である。
(イ) また,原告は,「スイート」という語が「すてきな」,「楽しい」,「か わいらしい」といった意味で使用されている例は乙27以外にない旨, 食品,とりわけ菓子について「スイート」という語が用いられた場合, 味覚を表す「甘い」という意味以外の理解をし,わざわざ「甘美な」,「快\nい」という意味を認識する者はいない旨主張する(前記第3,2(3)イ(イ))。 しかし,「スイート」という語が,甘美な,愛しい,楽しいという意味 で使用された例は,乙27(前記2(3)イ(カ))の他,乙8(前記2(3)イ(ウ) d),乙24,乙26(前記2(3)イ(エ)a),乙65(前記2(3)イ(オ))に ある。また,食品,とりわけ菓子について用いられる場合でも,「スイー ト」という語により修飾される語が味覚を生ずるものでない場合は,「ス イート」という語は,甘美な,愛しい,楽しいの意味で使用されるもの と推認され,前記2(3)イ(ウ)dのとおり,菓子について,「スイートなビ ジュアルが本命チョコにお勧め!」(乙8〔2頁〕)として,「スイート」 という語が,甘美な,愛しい,楽しいの意味で用いられている例もある。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(2)ア 原告は,本件商標及び引用商標の指定商品の需要者は,幼児,老人を含 む大衆であり,本件商標と引用商標のカタカナ表記(外観)及び称呼は,\n同行音の近似音とされる「ツ」と「ト」の一字(一音)が相違するだけで あり,本件商標を英語表記して引用商標の英語表\記と比較しても,「S」一 文字の有無が相違するだけであるから,需要者の通常の注意力を基準とす ると,本件商標と引用商標は相紛らわしく,混同のおそれがあると主張す る(前記第3,2(4)ア)。
しかし,「スイート」,「パーティー」という語は,子供を含めて一般に広 く知られた平易な語であると認められ(弁論の全趣旨),「スイーツ」,「ス イーツパーティー」という語も,子供を対象とするゲーム,玩具,絵本に ついて用いられていることからすれば(乙62〜乙64),広く知られた平 易な語であると認められるから,難解で聞き慣れない語の中の一字(一音) が相違する場合と異なり,本件商標と引用商標は,外観及び称呼において, 「ツ」と「ト」の一字(一音)が相違するだけであっても,その区別は可 能であるものと認められる。そして,本件商標と引用商標とで観念が明確\nに異なることは,前記2(3)ウのとおりである。したがって,需要者を考慮 しても,本件商標と引用商標は混同のおそれがあるとは認められず,原告 の上記主張は,採用することができない。
イ 原告は,菓子等を製造販売する訴外会社の申し入れにより商標使用許諾\n契約を締結し,訴外会社から指摘されて本件無効審判を請求したことから, 本件商標と引用商標とが相紛らわしいことは,菓子等の製造販売業者にお いて認識されていたと主張する(前記第3,2(4)イ)。 しかし,原告と訴外会社との一契約をもって,菓子等の製造業者すべて における認識を判断することは相当ではなく,また,原告が訴外会社と商 標使用許諾契約を締結するに至った経緯や訴外会社の意図は明らかでない から,菓子等の製造販売業者において,一般に,引用商標と「スイーツパ ーティー」という商品名が商標として類似していると認識していたと認め るに足りないというべきである。

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令和2(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年10月7日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決に対して、知財高裁は一致点の認定誤りを理由として審決を取り消しました。

(3) 本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御回路」の対比
ア(ア) 本願発明の制御装置は,「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再 水和間隔を提供するために」,「燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように 構成される」ものである。\n
(イ) 本願発明の特許請求の範囲の請求項1の文言や本願発明が燃料電池に係るも のであることのほか,前記1(2)の本願発明の概要からして,上記のうち「燃料電池 スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」については,燃 料電池の良好な動作のために,膜/電極接合体(MEA)が好適に水和された状態 とすべく,MEA内の水分量を積極的に増加させるという目的をいうものと解され る。この点,本願明細書の段落【0036】及び【0037】には,「再水和間隔」 が,燃料電池カソードにおいて過剰な水を産生して燃料電池における膜の水分量を\n増加させる短い期間であって,燃料電池上の外部電気負荷及び温度などのその環境 動作条件に基づき有効であるレベルを超えて,水和レベルを増加させるために,燃 料電池アセンブリがその動作環境を能動的に制御する期間である旨が記載されてい\nるところである。 そして,「燃料電池スタックを通る空気流動を調節する」については,上記目的の ために,膜の含水量の低下等をもたらし得る空気流動を調節することをいうものと 解される。
イ 引用発明の短絡制御回路は,「燃料電池の負の水和降下現象を防止するため に」,「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」ものであるところ,このうち「負 の水和降下現象」の意味内容については,前記2(3)イで検討したとおりである。そ して,その意味内容を踏まえると,「負の水和降下現象を防止する」とは,基本的に, MEAにおける水和の損失が,熱の発生につながり,それが薄膜電極アセンブリの 乾燥につながるといった状態を停止させる,又は抑制することをいうものと解され る。 そして,「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」については,上記目的のため に,燃料電池の発熱につながる燃料ガスの供給を停止することをいうものと解され る。
ウ(ア) 上記ア及びイによると,本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御 回路」は,MEA内の水分量を積極的に増加させることを目的とするか,MEAに おける水和の損失等を停止させる,又は抑制することを目的とするにとどまるかと いった点において異なるとともに,燃料電池のカソード側で水分の低下につながり\n得る空気流動を調節するか,アノード側で熱の発生につながる燃料ガスの供給を停 止するかといった点においても異なっている。
(イ) もっとも,上記のうち後者の点については,本件審決は,「空気流動を調節す る」ことと「燃料ガスの供給を停止する」ことを「気体流動を調節する」とした上 で,相違点2を認定しており,その認定判断に誤りがあるとはいえない。
エ 他方で,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路について,「所定条件 で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して」,気体流動を調節するよ うに構成される「制御装置」であるという点で一致するとした本件審決の判断に誤\nりがあるとは認められない。
オ 以上によると,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路が,「水和レベ ルを増加させる再水和間隔を提供するために」という点で一致しているとした点に おいて,本件審決には誤りがある。
カ 原告は,本願発明の制御装置が短絡制御を行うものではない旨を主張するが, 短絡制御の点は一致点として認定されておらず,原告の上記主張は当を得ないもの である。また,原告は,引用発明における燃料ガスの供給の停止が「流動を調節す る」に当たらないと主張するが,甲3の段落【0023】には,燃料電池10への 燃料ガス105の供給を停止するような位置にバルブ104をすると同時に,電気 的スイッチ124を閉鎖電気状態にする旨の記載がある一方,本願明細書の段落【0 010】には空気流動をゼロまで減少させることについて記載があり,これらの記 載も踏まえると,両者は,対象となる気体以外の点で実質的に相違するものとは認 められず,いずれも気体流動の調整を行うとの概念の範囲で一致するものといえる。 さらに,原告は,「所定条件」の内容が本願発明と引用発明とで全く異なる旨を主張 するが,本件審決が認定した相違点1及び2のほか,前記ウ(ア)で指摘した本願発明 の制御装置と引用発明の短絡制御回路の目的の相違があることに加え,別途,それ らの動作に係る所定条件に関して相違点を認定すべきものとは認められない。
キ(ア) 被告は,燃料電池においてイオン交換膜の含水量が減少する一般的な原因 について主張した上で,引用発明においても,薄膜電極アセンブリの水和レベルが 増加することは明らかであると主張する。 しかし,被告の上記の主張のうち,単に薄膜電極アセンブリの含水量の減少量が 小さくなることをいうにすぎないもの(含水量の積極的な増加を意図した制御を行 っているものではない。)は,前記ウ(ア)の判断を左右するものではない。この点, 被告は,燃料電池内の発熱が収まることで,それまでの発電で生じた水や空気中に 含まれる水蒸気によって水和レベルが増加することも主張するが,当該主張を裏付 ける証拠や,そのような技術常識を直ちに認めるに足りる証拠は見当たらない。
(イ) 被告は,本願発明における水和レベルの増加のメカニズムが明確でなく,本 願の実施例で実行される制御で水和レベルが増加するのであれば,引用発明でも同 様であるという旨を主張するが,本願発明における「燃料電池スタックの水和レベ ルを増加させる再水和間隔を提供するために」の意味内容については,前記ア(イ)で 認定判断したとおりであって,そのメカニズムが明確か否かという点は,直ちに本 願発明と引用発明の一致点及び相違点の判断に影響を与えるものではない。
(4) まとめ
ア 以上によると,本願発明と引用発明は,次の一致点で一致し,本件審決が認 定した相違点1及び2のほか,次の相違点3及び4で相違するというべきである。
(一致点)
「燃料電池システムであって,
第1の燃料電池スタックと,
前記第1の燃料電池スタックと直列の,第2の燃料電池スタックと,
前記第1の燃料電池スタックと並列の,第1の電子部品と,
前記第1の燃料電池スタックの水和状態を調整するために,所定条件で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記第1の燃料電池スタックを通る気体流動を調節するように構成される,制御装置と,
を備える,前記燃料電池システム。」
(相違点1)
所定条件に関し,本願発明は,「定期的に」であるのに対し,引用発明は,「燃料 電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合」である点。
(相違点2)
気体流動の調節に関し,本願発明は,気体は空気であるのに対し,引用発明は, 気体は燃料ガスである点。
(相違点3)
第1の電子部品に関し,本願発明は,電子部品は整流器であるのに対し,引用発 明は,電子部品は電界効果トランジスタである点。
(相違点4)
燃料電池スタックの水和状態を調整するために関し,本願発明は,水和レベルを 増加させる再水和間隔を提供するためであるのに対し,引用発明は,負の水和降下 現象を防止するためである点。
イ その上で,後記5の点も踏まえると,少なくとも相違点4の看過は,本件審 決の取消事由に当たるというべきである。
5 容易想到性の判断について
(1) 相違点1,2及び4は,いずれも本願発明の「制御装置」又は引用発明の「短 絡制御回路」に関するもので,技術的構成として相互に関連するものといえるから,\n以下,一括して検討する。
(2)ア 前記4(3)イからすると,引用発明が「燃料電池の出力電圧が0.4Vよ り低くなる場合」に「燃料ガス」を調節する目的は,主として熱の発生を抑えるこ とで「負の水和降下現象を防止する」ためであり,これは,甲3にいう「第1の動 作条件」(甲3の段落【0024】)に係るものである。 他方で,甲3には,「第2の動作条件」として,燃料電池の特性パラメータを回復 させる構成が記載されている(甲3の段落【0025】〜【0027】)。\nこのように,二つの条件に係る構成があることに加え,甲3の段落【0001】,\n【0009】,【0023】,【0029】及び【0030】の記載並びに【図4】に 照らし,上記「第1の動作条件」が,基本的に,「燃料電池が故障した際」(同【0 001】。【図4】にいう「欠陥は重大」である場合である。)に係るものとみられる ことからすると,相違点1,2及び4に係る引用発明の構成は,燃料電池の故障を\n示すものとみ得る状態を具体的に検知し,負の水和降下現象を防止するために,燃 料ガスの供給を停止して熱の発生を抑えるためのものと解するのが相当である。 イ 上記のような燃料電池の故障を示すものとみ得る状態を具体的に検知したと の引用発明に係る「燃料電池の出力電圧が0.4Vより低くなる場合」の動作につ いて,実際の出力が閾値以上に変化しているか否かにかかわらず,これを「定期的 に」行うことを想到することが,当業者において容易であるとはいい難いというべ きである。甲3に,引用発明に係る燃料ガスの供給の停止を定期的に行うこととす る動機付けや示唆があるとは認められない。甲3の段落【0024】には,第1の 動作条件について,「約0.4Vより低い範囲に低下する場合」以外の記載があるが, そこで挙げられている他の特性パラメータも,燃料電池の故障を示すものとみ得る 状態の検知の範疇に止まるものである。燃料電池の保湿レベルを周期的に増加させ ることに係る周知の事項(甲4[前記3(1)],甲5[前記3(2)])を参照しても, 上記判断は左右されない。 上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
ウ また,引用発明が,上記アのように,主として熱の発生を抑えることを目的 としたものであることを考慮すると,「気体流動を調節する」ことについて,引用発 明から,燃料電池の乾燥につながり得る一方で冷却効果をも有する空気の流動(本 願明細書の段落【0006】参照)を停止することを,当業者が容易に想到し得た ということも困難である。甲3に,空気の流動を調節することの動機付けや示唆が あるとは認められない。 上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
(3) 以上によると,相違点1,2及び4に係る本願発明の構成が引用発明に基づ\nいて容易に想到できたものとは認められないから,相違点1及び2について容易想 到と判断した点において,本件審決には誤りがあるというべきである。

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令和3(行ケ)10071  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年10月14日  知的財産高等裁判所

 無効審判の審決取消訴訟です。争点は、商標「pum’s」がpumaと類似(11号)または混同するか(15号)です。指定商品は18類「折り畳み式傘,晴雨兼用傘,ビーチパラソル,日傘」及び第25類「運動用特殊衣服,運動用特殊靴」です。知財高裁は類似・混同しないとした審決を維持しました。\n

(1) 本件商標と引用商標の類否判断について
ア 外観
(ア) 本件商標は,「pum’s」の文字を太字の斜体の書体で表し,末尾\nの「s」の文字の下端を語頭の「p」の文字の下部まで横一直線に延伸 し,下線のように表されて構\成されている。原告は,本件商標の1文字 目と4文字目は,大文字「P」「S」と認識されると主張するが,1文 字目の左側の縦棒が下に突き出しているのは小文字であるからなのは明 らかであり,4文字目も上端が他の小文字と同じ高さに位置しているか ら,大文字とは認識されない。また,原告は,本件商標の2文字目は, 右側の縦棒がないため,大文字「U」と捉えられると主張するが,2文 字目は他の小文字と同じ大きさであって,直ちに採用できない。 一方,引用商標は,「PUmA」の文字を縦線を太く垂直に,横線を 細く描く書体で表し,各文字は,小文字である「m」も含めて,同じ高\nさで構成されている。\n両者は,語頭を含めた「pum(PUm)」の文字を共通にするが, 末尾において本件商標が小文字の「s」であるのに引用商標が大文字の 「A」であるという文字の相違,アポストロフィの有無,下線のように 表されたものの有無,書体が斜体であるか否か及び文字の横線が細いか\n否かといった点において明らかに異なり,外観においては,相紛れるお それはない。
(イ) 原告は,第3の1(1)ア(ア)cのとおり,るる主張するが,前記(ア)で 認定したとおり,本件商標と引用商標の外観上の相違は明白であり,仮 に,原告が主張する個別の点につき一定の類似が認められるとしても, そのことから,外観において相紛れるおそれがあるということはできな い。 なお,念のために判断すれば,上記c(a)については,引用商標は文字 の横線が細いことが明確であるのに対し,本件商標では縦線と横線の太 さの違いは子細に見なければ看取できず,逆に,本件商標では角部の丸 みは明確であるが,引用商標では明らかでないし,同(b)については,本 件商標が斜体であるのに対し,引用商標は各文字が垂直かつ同じ高さで, 長方形の範囲に収まって全体として整然とした印象を与えるものであっ て,両者の印象が異なることは明らかであるし,同(c)については,いず れにしても本件商標における「s」の文字の下端の延伸された部分が引 用商標との相違点として着目されないということにはならないし,同? については,相違する最後の「A」と「S」の文字が相似た文字に看取 される場合があるとは認め難いし,同(e)については,特段の意味内容を 想起させない「pum」の欧文字部分が本件商標の要部であるとは到底 いえず,原告の各主張は個別にみても採用し得ない。 そうすると,本件商標と引用商標の外観は大きく異なるものであって, 前記1の引用商標の周知著名性を勘案しても,両者の外観が類似すると の原告の主張は採用できない。
イ 称呼
(ア) 本件商標からは「パムズ」,「パムス」,「プムズ」又は「プムス」 の称呼が生じるのに対し,引用商標からは「プーマ」又は「ピューマ」 の称呼が生じ,語頭の「pu」ないし「PU」を「プ」と読んだ場合に 音を共通にする場合があるとしても,いずれも3音という短い音数にお いては,2音目及び3音目における音の相違,特に,3音目の「ズ」な いし「ス」(本件商標)と「マ」(引用商標)の相違は大きいものであ って,相紛れるおそれはない。
(イ) 原告は,前記第3の1(1)ア(イ)のとおり,本件審決が,本件商標の要 部である「PUm」の欧文字部分から生ずる「プム」の称呼と引用商標 から生ずる称呼とを対比していないと主張するが,本件商標における 「pum」の欧文字部分が要部であるという主張が到底採用できないこ とは前記アのとおりである上,仮に同部分を本件商標の要部とし,これ を「プム」と称呼し,引用商標を「プーマ」と称呼したとしても,短音 と長音の違い,「ム」と「マ」の違いは,短い標章の中では大きな差異 として認識されるものというべきである。
ウ 観念
本件商標が造語であることから,特定の観念を生じないのに対し,引用 商標が周知著名であることから,「原告のブランド」との観念を生じ,両 者は明確に区別することができ,相紛れるおそれがない。
エ その他
原告は,前記第3の1(1)ア(エ)のとおり,本件商標と引用商標の需要者 である一般消費者は,衣類や靴等に商標をワンポイントマークとして小さ く表示された場合,些細な相違点に気付かないことも多いと主張する。\nしかし,商標が小さく表示された場合をことさら取り上げることの当否\nは措くとしても,そもそも本件商標と引用商標は全体的な印象においても 明らかに異なることは前記アのとおりであり,小さく表示された場合でも,\nその相違は明白であるから,原告の主張は採用できない。 また,原告は,前記第3の1(1)ア(オ)のとおり,本件消費者調査の結果を 理由に,本件商標と引用商標の類似性を主張する。 しかし,本件消費者調査は,本件商標の登録査定時よりも後に実施され たものであること,本件商標について助成想起(本件商標の指定商品〔ス ポーツ関連用品〕の出所標識という前提〔ヒント〕を与えて自由回答形式 で聴取するもの)による質問について原告を連想した15%という数値は 大きいとはいえない上,スポーツ関連用品というヒントを与えられれば, 多少とも本件商標と共通点のあるブランドを想起しようと努めると考え られることを考慮すると,この数値すらそのまま受け取ることはできない こと,本件商標と引用商標を並べた場合に両商標が類似するという回答も, このような限界のある質問の後にされたものであることを考慮すれば,本 件商標と引用商標の類似性を裏付ける資料とはいえない。したがって,こ の点に係る原告の主張も採用し得ない。
(2) 小括
以上によれば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれに おいても相紛れるおそれがなく,類似しないものと認められる。 そうすると,本件商標の指定商品と同一又は類似する商品が引用商標7, 8及び10の指定商品中に含まれているとしても,本件商標は,商標法4条 1項11号に該当せず,本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由2(本件商標の商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)につい て
(1) 混同のおそれについて
「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程\n度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,当該商標の指定商品等と他\n人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並 びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等に照らし,当該 商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準 として,総合的に判断すべきである。 これを本件につき検討するに,前記2において判断したとおり,本件商標 と引用商標とは,引用商標の周知著名性を勘案しても,外観,称呼及び観念 のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であって,その類似 性は極めて低いというべきであるから,本件商標の指定商品には「運動用特 殊衣服,運動用特殊靴」が含まれており,原告の業務に係る商品との間の関 連性や,取引者や需要者の共通性が高く,また,そのような商品はいずれも 注意力が高いとはいえない一般消費者も需要者とするものであることを考慮 しても,本件商標に接する取引者及び需要者が,原告又は引用商標を連想又 は想起することはないというべきである。これに反する原告の主張は,前記 2において判断したのと同様の理由によりいずれも採用し得ない。そうする と,本件商標は,これをその指定商品に使用をしても,その取引者及び需要 者をして,当該商品が原告の商品に係るものであると誤信させるおそれがあ るものとはいえない。

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令和3(ネ)10040  差止請求権不存在確認請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年10月14日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 CS関連発明について、均等侵害を認めた大阪地裁の判断を知財高裁も支持しました。

 控訴人は,前記第2の3(2)エ(ア)のとおり,本件特許の出願過程の経 緯から客観的,外形的に見るならば,物又は方法の発明として特許出願 している被控訴人が,その補正として「逐次又は一斉に表示」という構\ 成を削除したのであるから,画像選択手段を含むコンピューターにより 出力されるという構成においても「逐次又は一斉に表\示」という構成を\n意識的に除外したと主張する。
しかし,当該出願経過によれば,被控訴人は,明確性要件違反の拒絶 理由(甲8)に対し,本件補正により,コンピューターを構成に含む学\n習用具と記載し,また,被控訴人が甲第10号証と併せて提出した意見 書(甲9)3頁の「(4)記載不備の拒絶への対処」では「作業の主体を 「手段」とし,人が行う作業を示す部分を削除致しました。」としている のであり,他の部分も削除したことを外形的に示す説明はない。 また,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」との構成を付\n加した点について,客観的には,組画を構成する複数の画のうち任意の\n1つの画像データ(ユニット画)を選択すること(例えば第一の関連画 のみを選択すること)が意識的に除外されているとはいい得るとしても, 二以上の組画の画像データを選択することが意識的に除外されたとは いえない。また,「逐次」の文言が用いられている本件明細書【0037】, 【0038】及び【0052】 において,「逐次」及び「一斉」の両方 が用いられているのは特定の組画を構成するユニット画について記載\nしている【0038】に「特定の組画を構成するユニット画は,全て一\n斉に表示してもよいが,前述のように逐次表\示するほうが,学習効果が 増して好ましい。」とあるのみであるから,本件補正前の「それぞれの前 記記憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対\n象を記憶する」との記載は,特定の組画を構成するユニット画を逐次又\nは一斉に表示することを指していると解するべきであり,「逐次又は一\n斉に表示」という構\成を削除したからといって,複数の組画を選択する 構成を除外する意図であったと認めることはできない。\n
さらに,被控訴人が,上記意見書で進歩性に関して主張したところは, 本件発明が,1)対応する語句が存在する原画の形態を,その形態に対応 する語句と結びつけて記憶することを目的すること,2)関連画の輪郭が, 原画に類似等しており,一定の意味内容を有することから,学習対象者 が,意味内容と原画との関連付けにより,記憶することに苦痛を感じる ことなく楽しみを感じながら,原画を記憶することができること,3)関 連画及び原画に対応する語句の音声データを再生し,関連画及び原画の 表示は対応する語句の再生と同期して行うこと,4)原画又は原画に対応 する語句を思い出すことを目的とするため,関連画の表示及び関連画に\n対応する語句の再生を行った後に,原画の表示及び原画に対応する語句\nの再生を行うこと,5)第一の関連画,第二の関連画,及び原画の順に表\n示し,しかも,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を, 対応する語句の再生と同期して表示することにより,4通りのルートに\nよって原画及び対応する語句を思い出すことができることを挙げるもの であるが(甲9),これらの特徴は,複数の組画を選択する構成と矛盾す\nるものではなく,これを意識的に除外する旨を表示したものとはいえな\nい。
(イ) 控訴人は,前記第2の3(2)エ(イ)のとおり,被控訴人が補正において, 構成要件B2の画像選択手段の構\成を加えた点について,複数の組画を 選択する構成を除外しない意図であるならば「一又は複数の組画」や単\nに「組画」等といった記載にすることは極めて容易であり,本件特許の 出願経過を客観的,外形的に見るならば,「一の組画の画像データを選択 する画像選択手段」を付加したことは,複数の組画を選択する構成を意\n識的に除外したことになると主張する。 しかし,仮に,他により容易な記載方法があったとしても,出願人が, 補正時に,これを特許請求の範囲に記載しなかったからといって,それ だけでは,第三者に,対象製品等が特許請求の範囲から除外されるとの 信頼を生じさせるとはいえない。客観的にみて,「一の組画の画像データ を選択する」との記載が,組画を構成する画が維持された状態で選択す\nる限りにおいては,二以上の組画の画像データを選択することを意識的 に除外するものとまでは認められないことは,前記(ア)のとおりである。

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1審はこちらです。

◆大阪地判 平成31年(ワ)第3273号)

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令和3(行ケ)10032    商標権  行政訴訟 令和3年10月6日  知的財産高等裁判所

 「ヒルドプレミアム」に対して、先願「ヒルドイド」の商標権者が無効審判を請求しました(4条1項11号、15号)。審決は無効理由無しと判断し、知財高裁も同様の判断をしました。「ヒルドイド」は、医薬品として周知著名だとしても、化粧品としてはそこまではいえないというものです。

 上記事実(ア)ないし(エ)によれば,本件商標の登録出願当時,原告使用商標 は,処方薬としての原告薬剤を表示する商標として,処方薬の需要者であ\nる皮膚科の医師等の医療関係者の間において,広く知られていたものと認 められる。これに対し,化粧品としての用途が,雑誌記事に取り上げられ るなどして一般に知られるようになったのは,証拠上は平成26年以降で ある上(事実(オ)),その紹介記事の内容(別紙2)をみても,「知る人ぞ 知る」という取り上げ方をされており,その時点において既に周知著名で あったとはいえない。そして,これらの記事においては原告薬剤は処方薬 であることへの注意喚起がなされていること(事実(オ)),原告が医師等に 対して美容目的での処方をしないように啓発していること(事実(カ))も踏 まえると,本件商標の登録出願(平成30年1月29日)の時点において, 化粧品の需要者である一般消費者の間で,原告使用商標が周知著名であっ たとまではいえない。
また,事実(キ)ないし(ケ)のとおり,これらの記事が出た後に,複数の事業 者からヘパリン類似物質含有商品が相次いで販売された事実,その広報宣 伝において原告薬剤を引き合いに出すものや,名称に「ヒル」又は「ヒル ド」を含むものが多くみられる事実は,化粧品の分野におけるヘパリン類 似物質含有商品という市場自体が,原告薬剤の美容目的への流用という事 態によって成立したという経緯を反映するものではあるが(例えば甲26 の1(2018(平成30)年12月6日付け「日経doors」記事)の 「『ヒルドイド』で知られる医療用保湿剤の成分,ヘパリン類似物質を配 合した市販薬とコスメが,18年秋に相次いで登場した。背景には,化粧 品代わりに求める女性が増え,健康保険財政を圧迫するまでになったとい う事情がある。」との記載),そのような経緯があるからといって,医療 用医薬品である原告薬剤の名称としての原告使用商標が,化粧品の分野に おいて周知著名性を獲得していたことになるものではない。
なお,本件アンケートにおいてヒルドイドの「認知度」が5割ないし6 割にのぼっていた(事実(コ))としても,これらの「認知度」は,皮膚の乾 燥に起因すると考えられるトラブルを抱えて何らかの皮膚薬を最近になっ て使用していた者の間でのものであるから(事実(コ)のa),原告薬剤が処 方薬の分野で5割以上の高い市場占有率を得ていること(事実(ウ))に照ら して,本件アンケートにおける「認知度」が高くなることはある程度必然 的であり,化粧品の分野における一般消費者の間での周知著名性を明らか にするものではない。
ウ 原告の主張について
原告は,上記アの各事実に基づき,原告使用商標が化粧品の分野におい ても本件商標の登録出願当時に周知著名性を獲得していた旨主張するが, これらの事実を前提としても周知著名性を認定するに足りないことは,上 記イで説示したとおりであるから,原告の主張は採用することができない。 また,原告は,ヘパリン類似物質を含有する一般用医薬品「ヒルマイル ド」につき,原告薬剤を想起している需要者が多数いること(別紙4)や, 「あのヒルドイドが店頭で新発売!」といううたい文句で販売されている ことからも,原告使用商標が広く知られている実態を見て取れる旨主張す るが,そもそも「ヒルマイルド」は被告の販売する商品ではないばかりか, 「ヒルマイルド」は「ヒル」の文字の後に「イ」の文字を含み,「ド」の 文字で終始する点において,原告使用商標との類似性は本件商標よりも更 に高いから需要者に原告薬剤を想起させたとも考えられるところであるし, 「あのヒルドイドが店頭で新発売」という文言は,医療用医薬品であって 店頭では販売されない原告薬剤の代わりとなる商品が発売されたという趣 旨に理解されるから,原告の主張は,上記イの判断を左右しない。

◆判決本文

関連事件です。こちらは医薬品について周知著名と認定されています。

◆令和3(行ケ)10028

◆令和3(行ケ)10029

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令和2(行ケ)10103 特許権  行政訴訟 令和3年10月6日  知的財産高等裁判所

 内在する課題が共通するとして進歩性無しとした審決が、課題の認定が誤っているとして審決を取り消しました。

 ウ 相違点1に係る本件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」の容易想到性\n
前記(2)のとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,技術分野が 完全に一致しているとまではいえず,近接しているにとどまるから,甲1 発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を想到すること が容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採 用するについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付け があり,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を容 易に想到することができたと判断する前提として,甲1発明に,「イエロー」 とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があり(前記(3) ア(ア)),甲1発明に,演色性を向上させるという,甲2と共通の課題があ ると認定した(前記(3)ア(イ),(ウ))。
しかし,前記ア(ア)のとおり,甲1発 明に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課 題があるとする本件審決の認定は誤りであるし,また,本件審決が甲1発 明の課題に関して認定する「演色性」(本件審決が第6,2,2−1(2)(2 −1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で,甲10に記載されているように周知の 課題といえると認定する事項を含む。)は,甲2に記載された技術事項とし て認定された「演色性」,すなわち,照明された物体の色が自然光で見た場 合に近いか否かという,一般的な意味での「演色性」とは異なる(前記ア (イ))。
そうすると,本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用 する動機を基礎づける甲1発明の課題の認定を誤っているものであり,ま た,甲2に記載された技術事項の内容(前記(1)),甲1発明と甲2に記載さ れた技術事項の技術分野相互の関係(前記(2))を考慮すると,甲1発明に は,甲2に記載された技術事項と共通する課題があるとは認められず,そ のため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがある とは認められない。 したがって,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲 10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ とができたとは認められず,これを容易に想到することができたとする本 件審決の判断(前記(3)ウ(ア))は誤りである。 本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲 10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ とができた(前記(3)ウ(ア))という判断を前提として,甲1発明に甲2に記 載された技術事項及び周知の課題(甲10)を採用し,本件発明1の構成\nのうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容易に想到するこ とができた(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)イ(ア)〔本件審決48 〜50頁〕)と判断するところ,その前提とする判断が誤っているから,本 件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容\n易に想到することができたという判断も誤りである。
エ 黄色発光ダイオードの単独発光色及び混合発光色の容易想到性
前記ウのとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項との間には課題 の共通性がなく,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付 けがあるとは認められないが,念のため,仮にそのような動機付けがある として,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することにより,黄 色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及 び前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオード から発せられる光が混合することにより得られる発光色という,相違点1 に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかについて検討\nする。
甲2には,前記(1)認定のとおり,カード型LED照明光源10に実装さ れるLEDを,相関色温度が低い光色用又は相関色温度が高い光色用や青, 赤,緑,黄など個別の光色を有するものとすることができること(段落【0 080】)が記載されているが,当該事項に係る実施の形態1に関連する段 落【0076】ないし【0080】の記載全体をみても,青,赤,緑,黄 など個別の光色のうちからいずれか1色の単色LEDのみを搭載したLE D光源により青,赤,緑,黄などいずれかの個別の光色を発光するという 意味なのか,複数色のLED光源を搭載して青,赤,緑,黄などの個別の 光色となるように制御するという意味なのか必ずしも判然としない。段落 【0080】に続いて,段落【0081】の前半において「更に,多発光 色(2種以上の光色)のLEDをカード型LED照明光源10に実装する ことにより,・・・この場合,2種の光色を用いた2波長タイプのときには」 との記載が続くことに照らせば,段落【0080】の上記記載は,前者の 意味,すなわち,1種の光色を用いた1波長タイプを意味し,黄色の単色 LEDを搭載したLED光源により黄色の光色を有するという意味と解す ることはできる。しかし,本件発明1は,赤色発光ダイオード,緑色発光 ダイオード,青色発光ダイオード,黄色発光ダイオード及び白色発光ダイ オードを備え,複数得られる特定の発光色として,少なくとも,黄色発光 ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色の他に,黄色発 光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオー ドから発せられる光とを混合して得られる発光色が得られなければならな いところ(相違点1),前者の意味であるとすれば,上記の混合して得られ る発光色が容易想到であるとはいえない。他方,仮に後者の意味だとして も,甲2には,複数色のLED光源に黄色のLEDを含んでいるとの直接 的な記載はないから,黄色以外のLED光源によって黄色の光色を得てい る可能性も否定できず,黄色のLEDの単独発光が容易想到であるとはい\nえない。
さらに,前記(1)イで認定したとおり,甲2には,3種の光色を用いた3 波長タイプの場合は青と青緑(緑)と赤発光の組合せ,4種の光色を用い た4波長タイプの場合は青と青緑(緑)と黄(橙)と赤発光の組合せが望 ましく,特に4波長タイプのときには平均演色評価数が90を超える高演 色な光源を実現できること(段落【0081】)が記載されており,演色性 を向上させるためにRGBY(赤,緑,青,黄)4種類のLEDを用いる ことが記載されているが,これらの記載は,一般的な意味での演色性の向 上に関するものであるから,これらの記載からは,RGBY4種類のLE Dを用いた照明装置において,黄色のLEDを単独発光させることが客観 的かつ具体的に把握できるものとは認められない。 また,甲2には,RGBWY(赤,緑,青,白,黄)の5種類のLED を用いることが,段落【0065】や【0189】に記載されているが, 具体的な記載としては電源に関する説明があるのみで,これらの記載から は,RGBWYの5種類のLEDを用いた照明装置において,黄色LED を単独で発光させることやその他の色と混ぜて発光色を制御することは, 客観的かつ具体的に把握することはできない。 そうすると,仮に甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機 付けがあり,甲2に記載された技術事項を甲1発明において採用し,甲1 発明において黄色発光ダイオードを備えたとしても,黄色発光ダイオード が単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び,前記黄色発光 ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる 光が混合することにより得られる発光色という,相違点1に係る本件発明 1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n

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令和2(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年10月7日  知的財産高等裁判所

 引用文献の認定誤りを理由として、進歩性無しとした審決が取り消されました。

 イ 引用発明の「電界効果トランジスタ」は,甲3における「第1の条件」にお いて,「不良燃料セルのアノードとカソードの間の電流を短絡し,よってその不良燃料電池のための電流側路を設ける」もの(甲3の段落【0009】)であり,甲3の\n【図3】において,電気的なスイッチ124(nチャネルMOSFET)として示 されているもので,開放電気状態と閉鎖電気状態とを有する(同【0020】〜【0 022】)。そして,引用発明においては,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低 くなるような場合に,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされる(同【002 3】)。 この点,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた場合,ドレインからソース,ソ\ースからドレインのいずれの方向にも電流が流れ得ることは,技術常識であるから,直ちに引用発明の電界効果トランジスタが整流器に相当するものとはいえ ない。 そこで,上記のように,引用発明の電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされ た場合の電流の流れについて検討すると,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低 くなるような状態となって電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた時点では, 燃料電池のアノード,カソード間の電位差により,電界効果トランジスタでは,カソ\ード53側からアノード52側へ電流が流れ,その後,燃料電池の電位差が低下することによって,アノード52側からカソード53側へ電流が流れるに至るものと解するのが相当である。そうすると,甲3において,好適実施例として記載され\nている【図3】の構成においても,電界効果トランジスタを流れる電流は一方向に限定されているものではない。\n
ウ 以上によると,本願発明における第1の整流器が飽くまで一方向にのみ電流 を流すものであるのに対し,引用発明における電界効果トランジスタは,双方向に 電流を流すものであるから,引用発明の電界効果トランジスタが本願発明の第1の 整流器に相当するとはいえず,この点において,本件審決には誤りがある。
エ(ア) これに対し,被告は,引用発明においては,電界効果トランジスタが閉鎖 電気状態とされた場合であっても,電流は電界効果トランジスタをアノード52側 からカソード53側に流れると主張し,その根拠として,甲3の段落【0023】の記載を指摘する。\n
しかし,上記イのように,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた時点で は,カソード53側からアノード52側へ電流が流れるとしても,その後,アノード52側からカソ\ード53側へ電流が流れるに至るのであって,同段落の記載はそのような理解と矛盾するものとはいえない。甲3の段落【0001】,【0005】, 【0008】及び【0009】の記載や,【図4】(上記各段落の記載内容に照らし, 引用発明に係る甲3の「第1の条件」の際の動作は,同図の「欠陥は重大か?」に 対する答えが肯定(Y)の場合の動作,すなわち同図の「燃料電池への水素供給遮 断及び燃料電池の両端を永久的に短絡」という動作に当たるものと認められる。)を 踏まえると,段落【0023】は,引用発明において電界効果トランジスタが閉鎖 電気状態とされた場合に最終的に至る,引用発明の構成においてより重要な電流の流れについてのみ記載したものと理解することができ,そこに至るまでに一旦電流\nが反対方向に流れることを否定するものとは解されない。 したがって,甲3の段落【0023】の記載は被告の上記主張の根拠とはならず, 乙13(前記3(5))の記載や,燃料電池を迂回する経路をMOSFETで形成する ことに係る周知技術(乙13[前記3(5)],乙14[同(6)]参照)など,その他被 告の主張する点は,いずれも上記認定判断を左右する事情ではない。 なお,被告は,本件第1回口頭弁論期日における技術説明会のための資料におい て,甲3の【図3】における電界効果トランジスタについて,ドレインとソースの表\記が逆である旨を指摘するが(乙15の10頁),上記認定判断のとおり,同図の記載と段落【0023】の記載が直ちに矛盾しているとはいえず,相当とはいえな い。

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令和1(ワ)11874    商標権  民事訴訟 令和3年6月23日  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。商標権侵害事件です。38条3項のライセンス相当額が0.15%と判断されました。総額では1億円を超えています。判決文中では2項侵害の主張はされていません。

ア 証拠(乙112,113)によれば,平成22年10月1日から平成3 1年4月30日までの期間における本件各店舗の総売上高は,652億5 439万2382円であると認められる。
イ 使用料率について
(ア) 商標法38条3項による損害は,原則として,侵害に係る役務の売上 高を基準とし,これに実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきで あり,実施に対し受けるべき料率は,1)実際の実施許諾契約における実 施料率や,業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該商標 権の顧客吸引力,3)当該商標を使用した場合の売上げ及び利益への貢献 や侵害の態様,4)商標権者と侵害者との競業関係や商標権者の営業方針 等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきであ る(知財高裁特別部平成30年(ネ)第10063号・令和元年6月7日 判決(最高裁HP)参照)。
(イ) 被告らは,パチンコホールの売上げを計上する場合,貸玉の対価をも って売上高とするグロス方式と,貸玉の対価から客に提供した景品原価 を控除した金額をもって売上高とするネット方式があるところ,パチン コ店について商標法38条3項の損害額を算定するに当たっては,ネッ ト方式により貸玉の対価から景品原価を控除した金額を基に計算するべ きであると主張する。 しかし,本件において,損害を算定する基準となる売上高は,当該役 務によって得られる収入,すなわち,貸玉の対価と解するのが自然であ り,店舗運営に係る諸費用のうち景品原価のみを控除した額を売上げと みなすべき合理的な理由はない。被告らが主張するような,パチンコ業 界における利益率は使用料率の算定において考慮すれば足りるというべ きである。
(ウ) そこで,原告各商標についての相当な使用料率について以下検討する。
a 本件においては,原告が実際に原告各商標の使用を許諾したことを うかがわせる証拠はなく,業界における実施料の一般的な相場等も明 らかではない。
b 原告各商標は,上記(1)イで摘示した事情,すなわち,パチンコ業界 における店舗数ランキング,「ベガスベガス」という名称の需要者へ の訴求力,原告の店舗情報に関するウェブサイトへのアクセス状況, 原告の会員数などを考慮すると,相応の顧客吸引力を有するものと認 められる。
他方で,全日本遊技事業協同組合連合会が実施したアンケート結果 (乙40・15頁)によると,パチンコホールを選ぶ上でのポイント として需要者が重視するのは,1)遊戯機種,2)アクセスの容易さ,3) 出玉感,4)ホールの雰囲気,5)店員の接客態度などであり,店舗の名 称が売上げ又は利益に貢献する程度は限定的であるというべきである。
c さらに,原告と被告らはその事業分野で競合しているが,営業地域 をみると,原告の店舗は,北海道,東北地方及び関東地方が中心であ り,本件各店舗の所在する広島県及び山口県においては店舗展開及び 営業活動をしていない。他方,被告らは,原告各商標の出願前から本 件各店舗を同地域に出店し,地元の需要者に対して,新聞の折込みチ ラシ(乙55,56,78,85〜87,90,91,96,97), 新聞紙面広告(乙53,54,77),テレビCM(乙57,59〜 66,86〜88,91〜93,97〜101)などによる宣伝広告 活動を継続してきたものと認められ,被告らによるかかる営業活動が その売上げに貢献する割合は大きかったと推察される。
d 本件各店舗の月当たりの営業利益をみると,売上高の概ね●(省略) ●前後で推移しているものと認められ(乙112,113),売上高 に対する営業利益の比率は必ずしも高くないことからすると,通常想 定される使用料率は上記の割合より相当程度低くなると考えられるが, 本件においては,さらに,店舗の名称が売上げに貢献する程度は限定 的であり,原告と被告らは本件各店舗の所在地で競合していないこと, 被告の営業努力の寄与が大きいなどの事情が認められる。
e 以上の事情も含め,本件に現れた事情を総合考慮すると,原告各商 標に関する使用料率は0.15%であると認めるのが相当である。

◆判決本文

関連事件です。不使用であるとした審決の取消請求事件です。

◆平成29(行ケ)10126

◆令和2(行ケ)10091

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令和3(行ケ)10029  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年9月21日  知的財産高等裁判所

 商標 「HIRUDOMILD」について、引用商標1「Hirudoid」及び引用商標2「ヒルドイド」から無効か否かが争われました。審決は非類似、出所混同無し(11,15号違反無し)と判断しましたが、知財高裁は、「HIRUDO」の文字のみを抽出できるとして、審決を取り消しました。

 ア 本件商標は,「HIRUDOMILD」の10文字の標準文字で表してなるものであり,「ヒルドマイルド」の称呼が生じるものである。\nところで,本件商標が10文字からなるものでその一部のみを観察することも想 定可能な程度の長さを有していること,その構\成中の「MILD」の文字部分は, 前記1(5)のとおり,「物事の程度や人の性質・態度などが穏やかなさま。」「刺激の 少ないさま。」などを意味する英単語として広く知られ,また,会話中においても日 常的に使用されており,ひとまとまりの語句として強く認識され得るものであるこ とからすると,本件商標は,「HIRUDO」の構成部分と「MILD」の構\成部分 からなる結合商標であるとみることができる。 そして,「HIRUDO」の構成部分は,我が国において周知されているものではないから一種の造語と理解され,同構\成部分に対応する和名の「ヒルド」は,前記1(1)のとおり長期間にわたって原告商品の他には薬剤の名称には使用されておら ず,薬剤の名称としてありふれたものではないことからしても,需要者に対し,商 品の出所識別標識として強い印象を与えるといえる。これに対し,「MILD」の構成部分は,前記1(5)のとおり,薬剤の分野においては,薬の効果や刺激が弱いこと を意味するものとして理解され,その和名である「マイルド」は薬のブランド名等 とともに商品名に用いられることが相当程度にあるから,指定商品である薬剤との 関係において,自他識別機能は極めて弱いというべきであり,「MILD」の構\成部 分から出所識別標識としての称呼,観念が生じるとはいえない。 そうすると,本件商標については,「HIRUDO」の文字のみを抽出し,この部 分だけを引用商標と比較して類否を判断することも許されるというべきである。
イ したがって,本件商標については,「HIRUDOMILD」の外観及び「ヒ ルドマイルド」の称呼のほか,「HIRUDO」の外観及び「ヒルド」の称呼が生じ るものとして引用商標と比較することが相当である。なお,「HIRUDO」は特定 の意味合いを有しない一種の造語と理解され,本件商標からは特定の観念を生じな いというべきである。もっとも,上記1(5)からすれば,「HIRUDOMILD」 が薬剤に使用された場合には,「薬効又は刺激が弱い『HIRUDO』」という観念 が生じ得ると認めるのが相当である。
(2) 引用商標について
ア 引用商標1は,「Hirudoid」の8文字のアルファベットからなるもの であり,「ヒルドイド」の称呼を生じる。辞書等に採録された既成語ではなく,特定 の意味合いを有しない一種の造語と理解され,特定の観念を生じない。
イ 引用商標2は,「ヒルドイド」の5文字の片仮名からなるもので,「ヒルドイ ド」の称呼を生じる。辞書等に採録された既成語ではなく,特定の意味合いを有し ない一種の造語と理解され,特定の観念を生じない。
4 本件商標と引用商標1の類否
本件商標と引用商標1の類否について検討する。
(1) 本件商標の指定商品は「薬剤」であり,引用商標1の指定商品は「薬剤(蚊 取線香その他の蚊駆除用の薫料・日本薬局方の薬用せっけん・薬用酒を除く。)」を 含むものであって,その指定商品は同一又は類似である。
(2)ア 本件商標は,その10文字中,7文字目の「M」,9文字目の「L」を除 く「HIRUDO(Hirudo)」「I(i)」「D(d)」の8文字が,引用商標1と大文字と小文字の差はあるものの共通し,その並び順も同じである。次に,称呼 についてみると,本件商標と引用商標1は,「ヒルド」「イ」「ド」の5つの構成音が共通し,その並び順も同じであり,本件商標の方が引用商標1よりも「マ」と「ル」\nの2音多いものの,印象の強い語頭の3音と語尾の1音が同じである。そして,前 記3(1)のとおり,本件商標は,薬剤に使用された場合,「薬効又は刺激が弱いHI RUDO」を連想させるものである。 イ 本件商標の「HIRUDO」の構成部分と引用商標1を比較すると,大文字と小文字の差はあるものの,その6文字全てが引用商標1の冒頭6文字と共通し,\nその3つの構成音全てと引用商標1の語頭の3つの構\成音が共通する。「HIRU DO」及び引用商標1はいずれも特定の意味を有しない造語であり,それ自体から 特定の観念は生じない。
(3) 原告商品は医療用医薬品であるものの,その需要者は医療関係者に限られる ものではなく,その最終需要者は患者である上に,前記1(2)のように,記事やオン ラインショップ等で,市販品であるヘパリン類似物質含有製剤について「『ヒルドイ ド』で知られる医療用保湿剤の成分」を配合している旨の説明がされるほどに「ヒ ルドイド」が市販品である保湿剤の購入者に知られていたと推認されることからし ても,原告使用商標が表示された原告商品の需要者には,医師等医療関係者のみならず患者も含まれるというべきである。本件商標の付された商品は存在しないもの\nの,仮に被告が主張するように医療用医薬品のみに使用されるものであったとして も上記需要者の認定を左右しない。 その上で,取引の実情について検討するに,前記1(1)及び(2)のとおり,引用商 標1を表示した原告商品が60年以上にわたり販売されていること,原告が原告商品について一定の宣伝活動を継続していること,平成29年度には原告商品が医療\n用医薬品の年間売上げで19位となるなど非常に高い売上げを有していること,平 成26年度から平成30年度までの間のヘパリン類似物質含有製剤又は血液凝固阻 止剤の分野における原告商品の売上占有率は,徐々に減少しているものの全期間を 通じて金額にして7割,数量にしても5割を超えていたこと,平成29年頃には, アンチエイジングの効果がある又は肌荒れ・乾燥に効果のある保湿クリームとして 女性誌等でも取り上げられ,美容目的で処方を受ける例があることが疑われるなど として問題視されるまでになっていたこと,原告が適正な処方をするよう注意喚起 した後に,原告商品と同じヘパリン類似物質を配合した市販品(医薬品又は医薬部 外品)が複数販売されるようになり,製造者や販売店が,「ヒルドイドで有名な『ヘ パリン類似物質』を配合」などと説明するなどしていたこと及び令和3年2月から 同年3月に実施されたアンケートによると乾燥肌等に対する皮膚薬を使用又は1年 以内に使用した者の44%が「ヒルドイド」を保湿剤であると認識していたことか らすると,平成29年頃までには,需要者の相当割合の者が,「ヒルドイド」という 造語及びこれに対応する欧文字の「Hirudoid」から,「ヘパリン類似物質を 配合した保湿剤」である原告商品を想起するものと認められ,長期間をかけて形成 されたこの状況は,本件商標の出願日及び本件査定日においても継続していたもの と認めるのが相当である。 また,昭和51年から平成11年まで販売されていた「ヒルドシン」を除けば, 語頭に「ヒルド」や「HIRUDO(Hirudo)」が付された薬剤は原告商品の みであったこと,原告が原告商品について適正な処方をするよう注意喚起した後に, 原告商品と同じヘパリン類似物質を配合した市販品(医薬品又は医薬部外品)が複 数販売されるようになり,そのうち医薬部外品の一つは語頭に「ヒルド」を用いて おり,一部の購入者が原告商品の市販品であると誤解して購入するなどしていたこ と等に照らすと,本件商標の出願日及び本件査定日時点において,需要者の間では, 「ヒルド」やこれに対応する欧文字の「HIRUDO」は,「ヒルドイド」及び「H IRUDOID」を意味する単語として認識されており,「ヒルド」に対応する欧文 字の「Hirudo」は「Hirudoid」を意味するものと認識されていたと 認めるのが相当であるから,「HIRUDO」と引用商標1は,いずれも「ヘパリン 類似物質を配合した保湿剤であるヒルドイド」を想起させるということができ,観 念を共通とするものと認められる。
(4) 被告の主張について
被告は,「○○」と「○○MILD」の両方が商標登録されている例が複数ある旨 指摘するが,これらの登録例は,同一権利者による商標出願に係るものか,指定商 品が異なるか,「○○」の部分が「PRECIOUS」など特定の意味を有する単語 であるなどしていて,本件とは事案が異なる(乙1)。また,「ウフェナ」の文字を 標準文字で表してなる商標が,「ウフェナマイルド」の文字と「UFENAMILD」の文字を上下二段に表\してなる構成の引用商標と類似しないと判断した審決例(乙\n2)があるが,当該引用商標の構成が本件商標及び本件の引用商標とは異なる上,同審決においては取引の実情が考慮されていないなど本件とは事案が異なるもので\nある。 次に,被告は,語頭に「ヒルド」を付す名称の薬剤は原告商品のみではない旨主 張するが,「ヒルド」を語頭に付した名称の商品が原告商品の他に複数販売されてい る状況が長期間にわたり継続するなどして「HIRUDO」の構成部分の出所識別機能\が失われたとまで認めるべき事情はないから,これらの商品の存在は,本件商標と引用商標1の類否の判断に影響しない。
(5) 上記を総合すると,本件商標と引用商標1は,指定商品が同一で,外観,観 念,称呼に共通している部分があり,同一又は類似の商品に使用された場合に,商 品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるというほかないから,両商標は類似 すると認めるのが相当である。

◆判決本文
関連事件です。商標がカタカナ表記です。

◆令和3(行ケ)10028
関連事件です。

◆令和3(行ケ)10032

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令和2(ワ)8061  商標権侵害差止請求  商標権  民事訴訟 令和3年9月27日  大阪地方裁判所

 被告はメルカリの販売サイトにて「♯シャルマントサック」のハッシュタグを使用して、ハンドメイド品の巾着袋を販売していました。 大阪地裁は、「♯シャルマントサック」は商標的使用として、差し止めを認めました。

 被告は,被告標章1につき,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であるこ とを認識することができる態様により使用されていない,すなわち商標的使用がさ れていない旨を主張する。 しかし,前記のとおり,オンラインフリーマーケットサービスであるメルカリに おける具体的な取引状況をも考慮すると,記号部分「#」は,商品等に係る情報の検 索の便に供する目的で,当該記号に引き続く文字列等に関する情報の所在場所であ ることを示す記号として理解される。このため,被告サイトにおける被告標章1の 表示行為は,メルカリ利用者がメルカリに出品される商品等の中から「シャルマン\nトサック」なる商品名ないしブランド名の商品等に係る情報を検索する便に供する ことにより,被告サイトへ当該利用者を誘導し,当該サイトに掲載された商品等の 販売を促進する目的で行われるものといえる。このことは,メルカリにおけるハッ シュタグの利用につき,「より広範囲なメルカリユーザーへ検索ヒットさせること ができる」,「ハッシュタグ機能をメルカリ上で使うと使わないでは,商品閲覧数\nや売り上げに大きく差が出ます」などとされていること(いずれも甲7)からもう かがわれる。
また,被告サイトにおける被告標章1の表示は,メルカリ利用者が検索等を通じ\nて被告サイトの閲覧に至った段階で,当該利用者に認識されるものである。そうす ると,当該利用者にとって,被告標章1の表示は,それが表\示される被告サイト中 に「シャルマントサック」なる商品名ないしブランド名の商品等に関する情報が所 在することを認識することとなる。これには,「被告サイトに掲載されている商品 が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名のものである」との認識も当 然に含まれ得る。
他方,被告サイトにおいては,掲載商品がハンドメイド品であることが示されて いる。また,被告標章1が同じくハッシュタグによりタグ付けされた「ドットバッ グ」等の文字列と並列的に上下に並べられ,かつ,一連のハッシュタグ付き表示の\n末尾に「好きの方にも・・・」などと付されて表示されている。これらの表\示は,掲載 商品が被告自ら製造するものであること,「シャルマントサック」,「ドットバッ グ」等のタグ付けされた文字列により示される商品そのものではなくとも,これに 関心を持つ利用者に推奨される商品であることを示すものとも理解し得る。しかし, これらの表示は,それ自体として被告標章1の表\示により生じ得る「被告サイトに 掲載されている商品が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名である」 との認識を失わせるに足りるものではなく,これと両立し得る。 これらの事情を踏まえると,被告サイトにおける被告標章1の表示は,需要者に\nとって,出所識別標識及び自他商品識別標識としての機能を果たしているものと見\nられる。すなわち,被告標章1は,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であ ることを認識することができる態様による使用すなわち商標的使用がされているも のと認められる。これに反する被告の主張は採用できない。

◆判決本文

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令和1(ワ)5444  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月28日  大阪地方裁判所

 知財高裁特別部で判断された「二酸化炭素含有粘性組成物事件」の原告は、侵害事件で勝訴しましたが、被告会社が破産したため、実質経営者である取締役に対して訴訟をしました。裁判所は、被告らに監視・監督義務があるとして1億円を超える損害賠償を認めました。

 法人の代表者等が,法人の業務として第三者の特許権を侵害する行為を行った場\n合,第三者の排他的権利を侵害する不法行為を行ったものとして,法人は第三者に 対し損害賠償債務を負担すると共に,当該行為者が罰せられるほか,法人自身も刑 罰の対象となる(特許法196条,196条の2,201条)。 したがって,会社の取締役は,その善管注意義務の内容として,会社が第三者の 特許権侵害となる行為に及ぶことを主導してはならず,また他の取締役の業務執行 を監視して,会社がそのような行為に及ぶことのないよう注意すべき義務を負うと いうことができる。 他方,特許権者と被疑侵害者との間で特許権侵害の成否や特許の有効無効につい て厳しく意見が対立し,双方が一定の論拠をもって自説を主張する場合には,特許 庁あるいは裁判所の手続を経て,侵害の成否又は特許の有効性についての公権的判 断が確定するまでに,一定の時間を要することがある。 このような場合に,特許権者が被疑侵害者に特許権侵害を通告したからといっ て,被疑侵害者の立場で,いかなる場合であっても,その一事をもって当然に実施 行為を停止すべきであるということはできないし,逆に,被疑侵害者の側に,非侵 害又は特許の無効を主張する一定の論拠があるからといって,実施行為を継続する ことが当然に許容されることにもならない。 自社の行為が第三者の特許権侵害となる可能性のあることを指摘された取締役と\nしては,侵害の成否又は権利の有効性についての自社の論拠及び相手方の論拠を慎 重に検討した上で,前述のとおり,侵害の成否または権利の有効性については,公 権的判断が確定するまではいずれとも決しない場合があること,その判断が自社に 有利に確定するとは限らないこと,正常な経済活動を理由なく停止すべきではない が,第三者の権利を侵害して損害賠償債務を負担する事態は可及的に回避すべきで あり,仮に侵害となる場合であっても,負担する損害賠償債務は可及的に抑制すべ きこと等を総合的に考慮しつつ,当該事案において最も適切な経営判断を行うべき こととなり,それが取締役としての善管注意義務の内容をなすと考えられる。
具体的には,1)非侵害又は無効の判断が得られる蓋然性を考慮して,実施行為を 停止し,あるいは製品の構造,構\成等を変更する,2)相手方との間で,非侵害又は 無効についての自社の主張を反映した料率を定め,使用料を支払って実施行為を継 続する,3)暫定的合意により実施行為を停止し,非侵害又は無効の判断が確定すれ ば,その間の補償が得られるようにする,4)実施行為を継続しつつ,損害賠償相当 額を利益より留保するなどして,侵害かつ有効の判断が確定した場合には直ちに補 償を行い,自社が損害賠償債務を実質的には負担しないようにするなど,いくつか の方法が考えられるのであって,それぞれの事案の特質に応じ,取締役の行った経 営判断が適切であったかを検討すべきことになる。
・・・
(コ) 別件判決は,ネオケミアに対し,金1億1107万7895円及びこれに 対する遅延損害金を原告に支払うこと等を命じるものであり,令和元年6月7日に これに対する控訴棄却判決がなされたが,原告において供託金の差押え等の方法に より計700万円を回収した以外に,ネオケミアより原告に対する前記損害賠償債 務の弁済はなされていない。 被告P1は,令和2年9月24日付けで,二酸化炭素経皮吸収技術の開発等を目 的とする新会社を設立した。また被告P1は,ネオケミアについて破産手続開始の 申立てを行い,同年12月7日,同手続開始決定を得た。\n破産者ネオケミアについては,令和3年2月28日の時点で,回収済みとして破 産管財人が保管している資産の額は124万9370円,届出のあった一般破産債 権の総額は1億6969万3683円とされた。
・・・
ウ 判断
前記アで認定した事実,及び前記イで被告P1の主張について判断したところを 総合すると,被告P1が,各被告製品の製造販売が本件各特許権の侵害にならな い,あるいは本件各特許は無効であると主張した点について十分な論拠があったと\nいうことはできず,むしろ特許制度の基本的な内容に対する無理解の故に,ネオケ ミア特許の実施品であれば本件各特許権の侵害にはならないと誤解して各被告製品 の製造販売を続け,取引先にもそのように説明したものである。 前述のとおり,特許権侵害の成否,権利の有効無効については,公権力のある判 断が確定するまでは軽々に決し得ない場合があり,自社に不利な判断が確定する場 合もあるのであるから,取締役にはそれを前提とした経営判断をすべきことが求め られ,前記(1)の1)ないし4)で述べたような方法をとることで,特許権侵害に及 び,自社に損害賠償債務を負担させることを可及的に回避することは可能であるに\nも関わらず,被告P1はそのいずれの方法をとることもせず,各被告製品の製造販 売を継続している。さらに,別件判決(甲5)によれば,ネオケミアは各被告製品 の販売により相応の利益を得ていたのであるから,特許権侵害となった場合の賠償 相当額を留保するなどして,別件判決確定後に損害を遅滞なく填補すれば,ネオケ ミアに損害賠償債務を確定的に負担させないようにすることも可能であったのに,\n被告P1は任意での賠償を行わず,ネオケミアを債務超過の状態としたまま,破産 手続開始の申立てを行ったものである。\n
以上を総合すると,被告P1が,本件各特許が登録されたことを知りながら,特 段の方法をとることなく各被告製品の製造販売を継続したことは,ネオケミアの取 締役としての善管注意義務に違反するものであり,被告P1は,その前提となる事 情をすべて認識しながら,ネオケミアの業務としてこれを行ったのであるから,そ の善管注意義務違反は,悪意によるものと評価するのが相当である。
(3) 被告P2の悪意重過失について
ア 会社法上,取締役として選任されている以上は,個々の能力,知識,報酬等\nの有無にかかわらず,取締役として一般に要求される善管注意義務を尽くして代表\n取締役の業務執行を監視,監督すべきものである。 被告P2は,自身が名目上の取締役であり,ネオケミアの業務に全く関与せず, 本件各特許の内容を知らず,各被告製品が本件各特許権を侵害するかを判断する機 会もなかったので,被告P1の経営判断が特許権侵害であるとしても,それを発見 し,抑止することはできなかったと主張するが,このような理由で,取締役として の善管注意義務が存在しない,あるいは免除されていると解することはできない。
イ 既に認定したとおり,原告とネオケミアとの間で各被告製品に係る明らかな 紛争が発生していたのであるから,被告P2において,これを把握することは容易 であり,前記(2)で検討したとおり,被告P1に対し,ネオケミアに不利となる公 権的判断が確定する可能性をも考慮した適切な経営判断を行っているかを確認し,\n被告P1の判断に不十分な点があれば,再考を求めることは可能\であったと解され る。 被告P2が,上述したような監視,監督を尽くしても,被告P1の行為を抑止で きなかったとすべき具体的な事情は認められないし,被告P2がネオケミアの業務 に関心を持たず,本件各特許すら知らず,各被告製品に係る紛争を知らなかったと いうことを被告P2に有利な事情と解することはできず,むしろ,取締役としての 義務に違反する程度は大きいといわざるを得ない。
以上を総合すると,被告P2には,取締役である被告P1の業務執行に対する適 切な監視,監督を怠ったことについて,重大な過失があったということができる。
(4) 被告P3の悪意重過失について
ア 前記前提事実,証拠(甲31の1,60の1及び2,乙82の1,丙1, 2,4,被告P3本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 被告P3は,エステティシャンとして活動していたところ,原告ら10数 社から発売されていた炭酸ガスパックを試した結果,ネオケミアの製品が効果的で あったため,被告P1に面会して炭酸ガス療法及び炭酸ガス美容について説明を受 け,炭酸ガスパック剤の特許はネオケミアのみが有しているので,安心して販売で きると聞いた。 被告P3は,ネオケミアの製品には特許使用料が上乗せされて他の商品より高額 であったが,ネオケミアの製品が最も良いと考え,これを仕入れて販売することに した。
(イ) 被告P3は,ネオケミアの製品が人気を博した後,琉球粘土を配合した炭 酸ガスパック剤を作りたいと考え,被告P1に相談した。 被告P3は,事業を法人化して製品の開発・販売を進めることし,平成23年1 1月18日,自らを代表取締役とするクリアノワールを設立し,平成24年頃,ネ\nオケミアの協力を得て被告製品14を開発した。
(ウ) 被告P3は,平成25年7月22日,原告から被告製品14が本件各特許 の技術的範囲に属するとして,その製造販売の中止等を求める通告書を受領し,ま た,取引先からも,原告から同様の通告を受けたと聞いた。 被告P3は,原告からの通告書を確認してもその内容を理解することができなか ったため,被告P1に面会して説明を求めたところ,被告P1から,原告は本件各 特許権を有しているが,大阪の大手の事務所である北浜法律事務所の弁護士と青山 特許事務所の弁理士に相談しており,弁護士及び弁理士が特許権の侵害はないから 心配はないと言っていると聞いた。また,被告P1は,弁護士を代理人として原告 と交渉しているので心配ない,任せてほしいなどとも言ったことから,被告P3 は,これを信用し,被告製品14の販売を継続することとした。 被告P3は,同月29日頃,被告P1から,前記(2)ア(キ)の書面(丙4)を受領 した。
(エ) 被告P3は,別件訴訟の提起を受けて,改めて被告P1に説明を求めたと ころ,被告P1から,北浜法律事務所の弁護士と青山特許事務所の弁理士が原告の 特許権を侵害していることはないと言っている旨を再び告げられ,別件訴訟の裁判 費用をネオケミアが負担し,万一敗訴した場合は,賠償金もネオケミアが負担する と言われた。また,被告P3は,その頃,被告P1から,被告製品2について,本 件発明2−1の技術的範囲に属さない旨の青山特許事務所の弁理士作成の鑑定書の 写しの交付を受けた。 被告P3は,炭酸ガスパックの専門家である被告P1が自信を持っており,原告 製品よりもネオケミアの製品の方が品質・性能が良く,悪い製品の特許が優先する\nことはあり得ないと考え,被告製品14の販売を継続した。 その後,被告P3は,ネオケミアの代理人弁護士や弁理士から直接説明を受ける 機会があり,その際も,大丈夫だ,心配ないと言われた。
(オ) 被告P3は,平成28年12月16日,別件訴訟において裁判所から心証 開示を受けた後も,被告製品14の販売が本件各特許権の侵害に当たることに疑問 を持っていたが,裁判所の判断である以上やむを得ないと考え,被告製品14の販 売を止めた。
(カ) 令和元年6月7日の控訴棄却判決により,クリアノワールに対し1223 万6265円及び遅延損害金を支払うよう命じた別件判決は確定したが,原告にお いて供託金の差押えにより150万円を回収した以外に,クリアノワールが原告に 対し前記債務を弁済することはなく,被告P3は,同年6月,琉球粘土と炭酸ガス パックからなるスキンケア商品その他を販売することを目的とする新会社を設立し た。
イ 判断
前記認定したところによれば,被告P3は,原告から被告製品14の販売が本件 各特許権の侵害に当たるとの警告を受けたものの,本件各特許の発明者であって炭 酸ガスパックの専門家であった被告P1から,ネオケミアが委任した弁護士や弁理 士が特許権侵害ではないと言っているなどと聞き,どのような根拠で特許権侵害に 当たらないということになるのか理解できないまま,ネオケミアも特許権を有して いて,原告製品よりネオケミアの製品の方が品質・性能が良いので,原告の特許権\nが優先することはないなどと考え,被告製品14の販売を継続する意思決定をした というのであるから,主として,被告製品14の製造元であるネオケミアからの説 明に依拠してその判断を行ったことになる。 しかしながら,特許権侵害が成立しないとするネオケミア側の説明に十分な論拠\nがなく,むしろ被告P1の特許制度に対する誤解が前提となっていたことは,前記 (2)で検討したとおりであるし,品質・性能において上回っていることは,特許権侵\n害を否定する理由とはなり得ない。
被告P3は,特許権侵害の判断は素人には難しく,警告を受ければすべからく製 造販売等を停止しなければならないとすることは不当であると主張するが,前記 (1)で述べたとおり,クリアノワールの代表取締役として,被告P3には,特許権\n侵害の成否や権利の有効性についての公権的判断が,自己に有利にも不利にも確定 する可能性があることを前提に,そのいずれの場合であっても第三者の権利を侵害\nし損害を生じさせることを可及的に回避しつつ,自社の利益を図るような経営判断 をすべき注意義務があったということができる。 この点について被告P3は,特許権侵害の警告を受けた後も,主として被告製品 14の製造元であるネオケミア側からの説明に依拠し,前記(1)の1)ないし4)で検 討したような方法をとることもなく,裁判所からの心証開示があるまでの間,被告 製品の14の販売をして特許権侵害の不法行為を継続し,原告に損害を生じさせた のであるから,取締役としての善管注意義務に違反したというべきであり,少なく とも重過失によると認めるのが相当である。
(5) 被告P4の悪意過失について
会社法上,取締役として選任されている以上は,個々の能力,知識,報酬等の有\n無にかかわらず,取締役として一般に要求される善管注意義務を尽くして代表取締\n役の業務執行の監督を行うべきものである。 前記(4)のとおり,原告から警告書の送付を受けるなど,クリアノワールについ て被告製品14に係る明らかな紛争が発生していたのであるから,その取締役であ った被告P4においてこれを把握することは容易であった。また,前記(4)で認定 したとおり,被告P3に確認すれば,特許権侵害が成立しないことの十分な論拠は\nなく,仮に特許権侵害が確定した場合の対応も想定しないままに,クリアノワール が被告製品14の販売を継続しようとしていることを知り得たのであるから,被告 P4には,取締役である被告P3の監視・監督を怠る義務違反があったというべき であり,その過失の程度は重大というべきである。
4 原告の損害額(争点4)について
(1) 訴外2社の行為に係る原告の損害額
ア ネオケミアの行為に係る原告の損害額
(ア) 証拠(甲45〜49,51〜57)及び弁論の全趣旨によれば,各被告製 品とその顆粒の販売によるネオケミアの売上の額は別紙「ネオケミアの売上の推 移」(ただし,平成22年12月6日の被告製品6の売上を除く)のとおりと認め られる。 そして,当該売上額から,原告において経費として控除することを自認する額を 差し引き,その1割に相当する金額を弁護士費用として加算した金額は,1億08 29万1485円である。 証拠(甲5,6)によれば,別件訴訟において原告が弁護士及び弁理士に委任し て訴訟追行していたことが認められ,ネオケミアの行為と相当因果関係のある弁護 士費用等は,ネオケミアの利益の額の1割とするのが相当であるから,ネオケミア の行為と相当因果関係のある損害として特許法102条2項により推定される損害 額及び弁護士費用は,1億0829万1485円であると認められる。 また,原告は,700万円を回収した等として控除することを自認しているか ら,ネオケミアの行為と相当因果関係のある損害額として現存するのは,1億01 29万1485円であると認められる。
(イ) 上記1億0829万1485円という金額は,別件判決が特許法102条 2項を適用して算出したネオケミアの損害賠償債務の元金部分(1億1107万7 895円)から,被告製品6の売上にかかる部分と原告が差押え等により回収した 700万円を控除した金額に一致するところ,被告らは,会社法429条1項に基 づく責任に特許法102条2項を適用または類推適用すべきではない旨主張する。 しかしながら,特許法102条2項は,推定を用いるとはいえ,特許権者が受け た損害賠償額を算定する方法を定めたものであり,別件判決の確定により,原告が ネオケミアの特許権侵害により上記損害を受けたことは確定しているのであるか ら,取締役の善管注意義務違反によりネオケミアが特許権侵害を行ったことによる 損害も,これと同じものであると解するのが相当であり,法的性質は異なるとし て,別途の算定をしなければならないと解すべき理由はない。
イ クリアノワールの行為に係る原告の損害額
(ア) 弁論の全趣旨によれば,被告製品14の販売に係る別紙「ダイヤモンドス キンジェルパック売上一覧表(クリアノワール)」の内容は,クリアノワールが自\nら原告に開示したものであると認められ,被告製品14の販売によるクリアノワー ルの売上の額は当該別紙記載のとおりと認められる。 そして,当該売上額から,原告において経費として控除することを自認する額を 差し引き,その1割に相当する金額を弁護士費用として加算した金額は,1223 万6265円であり,被告P4がクリアノワールの取締役であった平成26年11 月30日までの期間の利益額は896万8027円である。 証拠(甲5,6)によれば,別件訴訟において原告が弁護士及び弁理士に委任し て訴訟追行していたことが認められ,クリアノワールの行為と相当因果関係のある 弁護士費用等は,クリアノワールの利益の額の1割とするのが相当であるから,ク リアノワールの行為と相当因果関係のある損害として特許法102条2項により推 定される損害額及び弁護士費用は,1223万6265円であると認められる。 また,原告は,150万円を回収したとして控除することを自認しているから, 現存するクリアノワールの行為と相当因果関係のある損害額は,1073万626 5円であると認められる。
(イ) 上記1223万6265円という金額は,別件判決が特許法102条2項 を適用して算出したクリアノワールの損害賠償債務の元金部分に一致するが,前記 アで述べたとおり,取締役の善管注意義務違反によりクリアノワールが特許権侵害 を行ったことによる損害も,同様に解するのが相当である。 被告P3及び被告P4は,会社法429条1項は悪意又は重過失を要件としてお り,成立要件を厳格にしておきながら,損害額の立証については立証を容易にする 推定規定を適用することは立法趣旨に反すると主張するが,会社法429条1項の 責任は不法行為責任とは別個の責任を定めるものであるところ,第三者の生じた損 害をどう認定するかについては何も定めておらず,特許権侵害があった場合の損害 の算定について,特許法の規定を用いることを禁じるものとは解されない。
(2) 損害の発生について
被告P3及び被告P4は,クリアノワールが沖縄県内でのみ被告製品14を販売 しており,原告は沖縄県内で原告製品を販売していなかったから,クリアノワール の行為によって原告は損害を被っていないと主張する。 しかしながら,証拠(甲7,8)によれば,原告製品は販売地域を限定した製品 とは認められないものであり,原告製品の性質上,沖縄県内での販売が困難である とか,原告において沖縄県において原告製品を販売することができない事情があっ たとは認められないから,仮に原告製品が沖縄県において販売されていなかったと しても,被告製品14が販売されていることが原告製品の沖縄県への進出を妨げる 等の損害が生じ得たのであり,特許法102条2項の適用を否定すべき理由とはな らない。
(3) 被告らの任務懈怠行為との因果関係について
ア 被告P1について
前記3(2)のとおり,被告P1は,本件各特許が登録されたことを知ってなお, ネオケミアにおいて各被告製品やその顆粒剤を製造販売するに際し,被告P1の当 該意思決定によってネオケミアが本件各特許権の侵害行為をしたのであるから,ネ オケミアが本件各特許権の侵害行為により原告に与えた前記(1)アの損害は,被告 P1の任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。
イ 被告P2について
前記3(3)のとおり,被告P2は,被告P1にネオケミアの業務執行を一任して 監視・監督義務を怠ったものであり,これは重過失による任務懈怠行為に当たると ころ,前記アのとおり,原告がネオケミアから受けた前記(1)アの損害が被告P1 の悪意の任務懈怠によって生じたものであって,被告P1の任務懈怠行為と同損害 に相当因果関係があるのであるから,被告P2の任務懈怠行為と同損害にも相当因 果関係があると認められる。
ウ 被告P3について
前記3(4)のとおり,被告P3は,原告から被告製品14の販売が本件各特許権 の侵害となるとの通知を受けてなお,クリアノワールにおいて被告製品14を販売 するに際し,調査・検討を怠って,漫然と被告製品14の販売を継続する意思決定 をしたものであり,この善管注意義務違反は重過失による任務懈怠に当たるとこ ろ,クリアノワールが本件各特許権の侵害行為により原告に与えた前記(1)イの損 害は,被告P3の任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。
エ 被告P4について
前記3(5)のとおり,被告P4は,被告P3にクリアノワールの業務執行を一任 して監視・監督義務を怠ったものであり,これが任務懈怠行為に当たるところ,前 記ウのとおり,原告がクリアノワールから受けた前記(1)イの損害が被告P3の重 過失による任務懈怠によって生じたものであって,被告P3の任務懈怠行為と同損 害に相当因果関係があるのであるから,被告P4の任務懈怠行為と被告P4がクリ アノワールの取締役在任中にクリアノワールから原告が受けた損害にも相当因果関 係があると認められる。 そして,前記(1)イのとおり,被告P4がクリアノワールの取締役であった期間 にクリアノワールが本件各特許権を侵害して被告製品14を販売したことにより得 た利益は,896万8027円であり,原告は,これから回収済みの150万円を 控除した746万8027円についてのみ被告P4に対して請求しているから,こ の全額について,被告P4の任務懈怠行為との間に相当因果関係があるものと認め られる。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10046  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年9月29日  知的財産高等裁判所

 不使用取消審判の審決取消訴訟事件です。知財高裁は、指定商品に使用していたとした審決を維持しました。

 本件商標は,「Nクール」の文字を標準文字で表してなるものである。\n次に,本件使用商標は,別紙1のとおり,「Nクール(R)ベストII」の緑色 の文字を表してなるものである。そして,本件使用商標の構\成中の「ベス ト」の文字部分は,本件使用商品(「メッシュベスト」)との関係では, 商品の種類を表すものであり,「(R)」の文字部分は登録商標を意味する記 号及び「II」の文字部分はローマ数字の2を表するものであって,いずれ\nも自他商品識別標識としての機能を有するものと認められないから,本件\n使用商標の要部は,「Nクール」の文字部分であると認めるのが相当である。 そこで,本件商標と本件使用商標の要部の「Nクール」の文字部分を対 比すると,外観は異なるが,構成文字が共通であり,「エヌクール」とい\nう同一の称呼が生じることからすると,本件使用商標は,全体として本件 商標と社会通念上同一の商標であると認められる。
ウ 以上によれば,被告は,要証期間内の令和2年1月23日から同年4月 2日までの間,日本国内において,本件使用商品に関する広告(本件カタ ログデータ)に本件商標と社会通念上同一の商標である本件使用商標を付 して電磁的方法により提供したものと認められるから,かかる被告の行為 は,本件商標の使用(商標法2条3項8号)に該当するものと認められる。
2 本件使用商品の本件商標の指定商品該当性について
(1) 本件使用商品が本件審判の請求に係る指定商品である第25類「ベスト」 に該当するかについて検討する。
ア(ア) 本件商標の登録出願時(登録出願日平成28年6月20日)に施行 されていた商標法施行令別表(以下「政令別表\」という。)には,第25 類の名称として「被服及び履物」が挙げられている。 また,本件商標の登録出願時に施行されていた商標法施行規則別表(平\n成28年経済産業省令第109号による改正前のもの。以下「省令別表」\nという。)には,第25類に属する商品として「一 被服」を掲げ,その 細分類として定められた「(一) 洋服」から「(十一) ナイトキャップ 帽子」までに商品が例示列挙されているが,「ベスト」については掲げら れていない。
(イ) 次に,本件商標の登録出願時に用いられていた国際分類(第10− 2016版)を構成する類別表\(以下「国際分類類別表」という。)の第\n25類の「注釈」(Explanatory Note)には,「この類 には,特に,次の商品は含まない:特殊な用途に供する被服及び履物(商 品のアルファベット順一覧表参照).」と記載されている。一方で,国際\n分類類別表の「商品のアルファベット順一覧表\」には,「ベスト」(「ve sts」,「waistcoats」)は,第25類に属する商品として掲 げられている。
(ウ) 「ベスト」(「vests」,「waistcoats」)とは,一般に, 「丈が短く,体にぴったりつく,袖のない胴着の一種」を意味するもの と認められる(甲3,4)。
イ 前記ア認定の政令別表第25類の名称,省令別表\に第25類に属するも のとされた商品の内容,国際分類類別表の第25類の「注釈」において示\nされた商品の説明及び国際分類類別表の「商品のアルファベット順一覧表\」 の記載,「ベスト」の用語の意義を総合考慮すると,本件審判の請求に係る 指定商品である第25類「ベスト」とは,省令別表第25類に属する商品\nとして掲げられた「被服」に含まれる「丈が短く,体にぴったりつく,袖 のない胴着の一種」であって,「特殊な用途に供するものではないもの」と 解するのが相当である。
これを本件使用商品についてみるに,証拠(甲7,8,13の2,14 の3,15の3)によれば,本件使用商品は,メッシュ生地で作られた, 丈が短く,体にぴったりつく,袖のない胴着であると認められる。 また,前記1(1)ウの認定事実によれば,本件使用商品は,被告が販売す る「空調服」(電動ファンを内蔵した上着)(甲9)の下に着用する「専用 メッシュベスト」であるが,「空調服」自体,その有する機能から暑さ対策\nが必要となる場面で着用されることが想定された商品であり,実際に,業 界を問わず,様々な場面で利用されており(本件カタログデータの2頁に 「建設,建築業界を始め,土木・自動車・流通・運輸・金属・農業など・・・ 業界を問わず,あらゆるシーンで採用されています。」との記載(前記1(1) ウ(イ))がある。),その用途が限定されていないことからすれば,本件使 用商品も,同様にその用途が限定されていないものと認められるから,「特 殊な用途に供するものではないもの」と認められる。 したがって,本件使用商品は,「丈が短く,体にぴったりつく,袖のない 胴着の一種」であって,「特殊な用途に供するものではないもの」であるか ら,本件商標の指定商品第25類「ベスト」に含まれるものと認められる。
(2) これに対し原告は,1)類似商品・役務審査基準によれば,第25類は,細 分類として「被服」を含み,更にこの「被服」は「洋服,コート,セーター 類,ワイシャツ類」を含み,このうちの「セーター類」には「3 セーター 類 カーディガン,セーター,チョッキ」が含まれるところ,「ベスト」(「v ests and waistcoats)」は,「1 洋服」とは別の「3 セーター類 カーディガン,セーター,チョッキ」の中に分類されており, これに準じるものでなければならないから,洋装ファッションとしての「機 能又は用途」と,それにふさわしい「材料」を有するものでなければならな\nい,2)「メッシュベスト」(本件使用商品)は,保冷剤を保持するための装着 具であり,洋装ファッションとしての「機能又は用途」を有せず,また,単\n純にメッシュ(網)を,保冷剤を保持するように縫製したものにすぎず,保 冷剤を装着せずに使用することは実用性がなく実際上も考えられない特別な 「材料」からなり,保冷具の一部材にすぎないから,洋装ファッションとし てのベストではなく,第25類の一般的な被服に属する「ベスト」(類似群コ ード17A01)の範疇に属する商品であるとはいえない旨主張する。 しかしながら,1)については,本件審判の請求に係る指定商品である第2 5類「ベスト」は,省令別表第25類に属する商品として掲げられた「被服」\nに含まれる「丈が短く,体にぴったりつく,袖のない胴着の一種」であって, 「特殊な用途に供するものではないもの」と解すべきであることは,前記(1) イ認定のとおりである。また,省令別表には,第25類に属する商品として\n掲げた「一 被服」の細分類の「(一) 洋服」から「(十一) ナイトキャップ 帽子」までに「ベスト」は掲げられていないが,上記細分類に掲げられた商 品は,第25類に属する商品の例示列挙であるから,第25類「ベスト」は, 上記細分類中の「(三) セーター類 カーディガン セーター チョッキ」 に準じるものでなければならないと解すべき理由はない。また,国際分類類 別表の第25類の「注釈」において示された商品の説明(前記(1)ア(イ))に 照らしても,第25類「ベスト」は,洋装ファッションとしての「機能又は\n用途」とそれにふさわしい「材料」を有するものでなければならないと解す べき合理的な根拠はない。
2)については,本件使用商品は,メッシュ生地で作られた,丈が短く,体 にぴったりつく,袖のない胴着であるが(前記(1)イ),その材料は特殊なもの であるとはいえず,保冷剤を装着することができるという機能を有するとし\nても,そのことによって本件使用商品が保冷具の一部材にすぎないものであ るともいえない。また,上記のとおり,第25類「ベスト」は,洋装ファッシ ョンとしてのベストに限られるものではない。 したがって,原告の上記主張は,理由がない。

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令和3(ネ)10028  損害賠償等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年9月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ゲームの著作物について複製・翻案であるかについて1審は複製・翻案ではないと判断しました。知財高裁(1部)も同様です。

 また,控訴人は,当審において,原判決は,全体として一つのゲーム を一画面一画面に分断し,分断した画面ごとに共通する部分(アイコン 等の配置等)について,個別に創作性を判断し,その結果として,共通 する部分全体の創作性を否定したものであり,一連の流れのあるゲーム の著作権侵害を判断しているのではなく,画面の著作権侵害を判断して いるにすぎないから,このような原判決の判断手法によると,他社のゲ ームをデッドコピーしても,キャラクターやアイコンのデザイン等を多 少変更さえしてしまえば,著作権侵害を免れることになり,不合理であ るとして,被告ゲームは原告ゲームを複製又は翻案したものに当たらな いとした原判決の判断手法は誤りである旨主張する。 しかしながら,原告ゲーム全体と被告ゲーム全体の共通部分が創作的 表現といえるか否かを判断する際に,その構\成要素を分析し,それぞれ について表現といえるか否か,表\現上の創作性を有するか否かを検討す ることは,有益かつ必要なことであり,その上で,ゲーム全体又は侵害 が主張されている部分全体について表現といえるか否か,表\現上の創作 性を有するか否かを判断することは,合理的な判断手法であると解され る。 そして,前記(イ)のとおり,原判決は,被告ゲームと原告ゲームの共 通点はアイデアや創作性のないものにとどまり,また,具体的表現にお\nいて相違し,デッドコピーであるとは評価できないから,被告ゲーム全 体が,原告ゲーム全体を複製又は翻案したものに当たるということはで きないと判断したものであり,その判断手法に誤りはない。 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。」
(2) 原判決42頁6行目の「原告は,」を「ア 控訴人は,」と改め,同43頁 20行目から44頁20行目までを次のとおり改める。
「 イ ところで,著作権法上の「プログラム」は,「電子計算機を機能させ\nて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせ たものとして表現したもの」をいい(同法2条1項10号の2),プロ\nグラムをプログラム著作物(同法10条1項9号)として保護するた めには,プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に 表現され,その作成者の個性が表\れていることが必要であると解され る。すなわち,プログラムの具体的記述において,指令の表現自体,そ\nの指令の表現の組合せ,その表\現順序からなるプログラムの全体に選 択の幅があり,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表\れ ていることが必要であると解される。 これを原告ソースコードについてみるに,前記ア認定のとおり,原\n告ソースコードは,原告ゲームの473個のLuaファイルのうちの\n1個である「MissionMainPage.lua」であり,原告 ソースコードに係るプログラムは,「任務(ミッション)」に係る画面\n(メインミッション画面,デイリーミッション画面,功績画面)の切 り替えに関する処理及び表示内容の更新処理を行うプログラムである。\nそして,原告ソースコードの記述は,原判決別紙「ソ\ースコード対比 表」の「原告ソ\ースコード」欄記載のとおりであり,個々の記述の意味 は,同表の「裁判所の認定」欄記載のとおりである。\n原告ソースコードの記述は,いずれも単純な作業を行うfunct\nion(ローカル変数やテーブルの宣言及びモジュールの呼び出し等) が複数記述されたものであり,ソースコードによって記述される機能\ が上記のとおりローカル変数やテーブルの宣言及びモジュールの呼び 出し等の単純な作業を行うことである以上,表現の選択の幅は狭く,\nその具体的記述の表現も,定型的なものであり,ありふれたものであ\nると言わざるを得ない。 また,個々の記述の順序や組合せについても,ゲームの機能に対応\nさせたにすぎないものであり,ありふれたものである。 そうすると,原告ソースコードの具体的記述に控訴人の思想又は感\n情が創作的に表現され,控訴人の個性が表\れていると認めることはで きないから,原告ソースコードに係るプログラムは,プログラムの著\n作物に該当するものと認めることはできない。 したがって,被告ソースコードの大部分が原告ソ\ースコードと共通 しているとしても,原告ソースコードに係るプログラムの著作物性は\n認められないから,被告ソースコードの制作は,原告ソ\ースコードに 係るプログラム著作権(複製権又は翻案権)の侵害に当たらない。
(4) 編集著作権の侵害について 控訴人は,当審において,1)原告ゲームは,素材である個々の画面(8 4画面)の選択,その画面遷移等の配列,素材である各画面内における アイコン,ボタン,キャラクター等の選択又は配列に作成者の個性が発 揮されているから,素材の選択又は配列によって創作性を有する編集著 作物である,2)原告ソースコードも,個々のソ\ースコードの書き方,各 ソースコードの順序,変数の名称等の素材を選択して組み合わせたこと\nに作成者の個性が発揮されているから,素材の選択又は配列によって創 作性を有する編集著作物である,3)被告ゲームは,編集著作物である原 告ゲーム(原告ソースコードを含む。)を複製又は翻案して制作されたも\nのであるから,被告ゲームの制作及び配信行為は,原告ゲームについて 控訴人が有する編集著作権(複製権,翻案権及び公衆送信権)の侵害に 当たる旨主張する。 しかしながら,控訴人の上記主張は,原告ゲーム又は原告ソースコー\nドにおける個々の素材の選択又は配列にいかなる創作的表現がされてい\nるのか,その創作的表現が被告ゲーム又は被告ソ\ースコードにおいてど のように利用されているのかについて具体的に主張するものではないか ら,その主張自体理由がない。

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令和2(ワ)14629  意匠権侵害差止等請求事  意匠権  民事訴訟 令和3年9月7日  東京地方裁判所

 意匠権侵害事件です。東京地裁46部は、両者は類似していないとして請求を棄却しました。

 ア 本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様において共通し,また,具体的構\ 成態様のうち,共通点1から5において共通する。 このうち,本件意匠の基本的構成態様は,需要者の注意を引くべき形状等\nとはいえず,類否判断に当たって,それが共通することを大きく取り扱うこ とは相当ではない。 具体的構成態様の共通点のうち,共通点1及び2は,需要者の注意を引く\nべき形状等に係るものであり,これらが共通することは,類否判断に影響を 与える。もっとも,渦流生成部において,捕捉部を中心とする等角度位置に 配置された複数の斜面体を設ける構成を有する公知意匠があり(前記\n),この点を特に大きく取り扱うことは相当とはいえない。 共通点3から4は,フランジ部の形状等であり,需要者が注意を引くべき 部分の形状等ではなく,また,フランジ部においてその形状等が占める割合 も大きくなく,類否判断に与える影響は小さいといえる。
イ 本件意匠と被告意匠の具体的構成態様は,差異点1から6において異なる。\n差異点1から4は,渦流生成部の形状であり,注意を引くべき形状等に関 するものである。そして,本件意匠においては,渦流生成部を形成する4個 の斜面体が,段差構造によって境界を形成するものであり,渦流生成部を形\n成する斜面体が,段差構造によって境界を形成し,斜面体を区切る構\造体が ないという形状等が,注意を引くべき形状等に含まれるといえるところ,差 異点1は,その形状等に係るものである。本件意匠が上記の形状等であるの に対し,被告意匠においては,本件意匠と異なり,斜面体の外周部には,堰 部が設けられている。斜面体の段差構造によって境界を形成するか,別に堰\n部を設けるかは,その形状等自体が明確に異なるものである。ヘアキャッチ ャーの需要者は,それが排水口の上に設置された際等も含めてその真上から だけでなく,やや斜め上から見る場合も多いといえるところ,斜視図等(別 紙本件意匠,本件意匠説明図,被告意匠目録,被告意匠説明図,本件意匠・ 被告意匠対照表)に特に明らかなとおり,需要者は,本件意匠の渦流生成部\nは平面状の斜面体のみで構成されるやや平板な段差構\造であることを認識 するのに対し,被告意匠では,斜面体の外周部に斜面体に対し垂直方向に突 出する堰部があることを認識し,斜面体から堰部が突出していること及び堰 部によってもたらされる別の斜面体との段差が強く印象付けられる。また, 本件意匠では,斜面体のみで渦状模様を生じさせるものであり,渦流生成部 が平面状の斜面体のみからなり,渦状模様もあっさりした印象を与える。こ れに対し,被告意匠では,堰部によって各斜面体が明確に区別され,堰部自 体も斜面体と独立して渦状模様を顕出させるものであって,このことにより 斜面体と堰部それぞれによって二重の明確な渦状模様を生じさせるという 印象を与えるものである。したがって,差異点1は,本件意匠と被告意匠の 類否判断に大きく影響を与える。 差異点2(斜面体の個数)及び3(斜面体の形状)も,需要者の注意を引 くと考えられる渦流生成部の形状に係る差異であり,類否判断に影響を与え るといえる。もっとも,本件意匠と被告意匠において,斜面体の形状は,い ずれも最も長い曲線が内側に湾曲する3つの線で囲まれるものであり,その 形状の差は大きなものとはいえない。そして,本件意匠と被告意匠では,こ のような形状の斜面体がいずれも捕捉部を中心として等角度位置に配置さ れていて,斜面体の形状に大きな差がないことからも,その個数が6個であ っても4個であっても,数個の斜面体で構成されているとの印象を与える側\n面があり,個数の差が美感に与える影響は必ずしも大きなものであるとはい えない。差異点4(捕捉部の形状)は,需要者の注意を引くと考えられる捕 捉部の形状に係る差異であり,本件意匠の捕捉部には整流体がないのに対し, 被告意匠には,本件意匠にはない整流体があり,それが膨出していることか らも,類否判断に一定の影響を与えるといえる。 差異点4から6は,いずれも,需要者の注意を引くとはいえない,フラン ジ部における差異であり,その差異も大きくなく,類否判断に与える影響は 大きくないといえる。
ウ 以上によれば,本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様で共通し,具体的\n構成態様においても,注意を引くべき形状等に係る共通点1及び2において\n共通する。もっとも,本件意匠の基本的構成態様は,注意を引くべき形状等\nとはいえず,また,具体的構成態様の共通点も類否判断に与える影響を特に\n大きく取り扱うことは相当ではない。 他方,本件意匠と被告意匠の具体的構成態様の差異のうち,差異点1は,\n本件意匠において特に注意を引くべき形状等に関する差異であり,被告意匠 には本件意匠には見られない堰部があるのであり,前記のとおり,それが類 否判断に与える影響は大きい。また,差異点4も類否判断に一定の影響を及 ぼす。 これらからすると,本件意匠と被告意匠の差異点から受ける印象は,本件 意匠と被告意匠の共通点から受ける印象を凌駕するものであるといえる。よ って,被告意匠は,本件意匠に類似していないというべきである。
(7) 原告は,本件意匠も被告意匠も,堰部の有無にかかわらず,内側に向かう渦 の流れという美感が共通するので,堰部の有無は美感判断に影響をしないと主 張する。既に説示したとおり,内側に向かう渦の流れという美感自体は,公知 意匠にも共通するありふれた意匠であり(公知意匠1から4),この点を共通 にすることを類否判断で大きく扱うことは相当ではない。 また,原告は,公知意匠1から4のヘアキャッチャーに係る意匠はいずれも, 正面視において渦流壁がフランジ部よりも上方に張り出していたところ,本件 意匠も被告意匠もこれがなく,全体的に平面的な美感を共通にしていると主張 する。上記公知意匠における渦流壁は,フランジ部よりも上部に張り出し,ま た,平面視において占める面積は大きく,被告意匠の堰部は,公知意匠の渦流 壁に比べれば,その存在感は大きくない。しかし,渦流生成部を区分けする構\n造体がフランジ部よりも上部に張り出していない意匠自体は公知であったと いえる上(公知意匠5),本件意匠は渦流壁,堰部に相当する部位を全く有して いないのに対し,被告意匠は堰部を有しているのであって,堰部の存在の有無 自体が類否判断に大きな影響を与えるというべきである。原告の指摘は前記判 断を覆すに足りるものではない。

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令和2(行ケ)10038  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年9月28日  知的財産高等裁判所

 薬について、動機付け無しとした審決が取り消されました。顕著な効果も記載が無い、実験成績証明書の参酌をしたとしても、顕著な効果とはいえないと判断されました。

 前示のとおり,本件訂正発明の構成は容易想到であるが,これに対し,\n被告は,前記第3の5(2)イのとおり,本件訂正発明は,本件3条件を全て 満たす患者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本 件条件(4)の服薬歴がある患者に投与すると,本件条件(4)の服薬歴 のない患者に対するよりも骨折抑制効果がより増強される効果(以下「効 果2)」という。)を奏し,これらの効果は,当業者が予測をすることができ\nなかった顕著な効果を奏するものである旨主張する。 以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折 の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり, 骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから, 当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して いることは,当業者において容易に理解できる。
b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ ラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を 指すものであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満 たす患者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本 件3条件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対 する骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折 抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位 週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。 そして,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位週 1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年1月15日 付け被告第1準備書面33頁における再解析の数値による。)について, それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また,椎 体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1人 の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが, 症例数が不足していることによることを否定できない。このように, 低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び 椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生 率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数 を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑 制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して, 前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。 したがって,実施例1をみても,高リスク患者に対するPTHの骨 折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高 いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他 の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低 リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理 解することはできない。 以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい うべきである。
c 被告は,効果1)を明らかにするものとして,別紙4の実験成績証明 書(甲79)を提出する。
しかしながら,本件明細書の記載から,高リスク患者に対するPT Hの骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よ りも高いということを理解することができず,また,これを推認する こともできない以上,効果1)は対外的に開示されていないものである から,上記実験成績証明書を採用して,効果1)を認めることは相当で ない。 仮に,上記実験成績証明書を参酌するにしても,本件3条件の全て を満たす患者(高リスク患者)のグループと,本件3条件の全部又は 一部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部の グループとを比較しているものにすぎないから,本件3条件の効果が 明らかになっているとはいえない。また,上記実験成績証明書には, 本件条件(1)を満たし,本件条件(2)又は本件条件(3)のいず れかを満たさない患者とされる「非3条件充足患者」につき,「非3条 件充足患者においてもPTH投与群ではコントロール群よりも骨折の 発生が抑制されたが,3条件充足患者においては,PTH投与群では コントロール群よりも骨折の発生が『有意に』抑制された。」旨が記載 されているだけである。すなわち,本件3条件を満たさない患者につ いては,PTH投与群においてコントロール群よりも骨折発生が抑制 されたものの有意差がなかったことが理解できるのみであり,それら 有意差がなかったとの結論も症例数が少ないことによるものと推認さ れることからすると,本件3条件の全てを満たす患者の骨折発生の抑 制の程度が本件3条件を満たさない患者に対する骨折発生の抑制の程 度より優れていると結論付けることはできない。そうすると,上記実 験成績証明書をみても,本件3条件を全て満たす患者に対するPTH の骨折抑制効果が,本件3条件を満たさない患者に対するPTHの骨 折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 d 以上によれば,いずれにしても効果1)を認めることはできないから, その他の点について判断するまでもなく,効果1)を予測することので\nきない顕著な効果という余地はない。
(イ) 効果2)について
前記ア(ウ)のとおり,効果2)は本件明細書からうかがうことのできな い効果である。
被告は,骨粗鬆症治療薬の服薬歴が本件3薬剤のいずれか1剤のみの 場合における新規椎体骨折発生数が記載された甲86証明書により本件 訂正発明の顕著な効果が裏付けられると主張する。仮に,上記実験成績 証明書を参酌するにしても,甲86証明書は,本件3薬剤それぞれにつ いて,服薬歴のある患者につき被験薬(PTH)を投与された場合と対 照薬(プラセボ)を投与された場合との骨密度変化率や新規椎体骨折発 生数を対比しているにすぎず,本件3薬剤のいずれかの服薬歴がある患 者と当該薬剤の服薬歴がない患者との間で,被験薬を投与された場合の 骨密度変化率や新規椎体骨折発生数を対比したものではないから,プラ セボ投与との対比による被験薬の骨粗鬆症治療に対する効果しか示され ていない。しかも,各薬剤についての評価例数があまりにも僅少で,そ のようなデータから算出される骨折相対リスク減少率は,骨折例数が1 件増減するだけで大きくその値を変えることは明らかであり,骨折相対 リスク減少率を対比してその効果を論じることも相当ではない。

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令和1(ワ)23407  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月10日  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。「調整」の文言を解釈して、被告製品1,2は技術的範囲に属しないと判断されました。

 本件発明の技術的意義や本件発明における調整手段の位置付けについて みると,従来の吊張り装置としては,略円弧状の天井部に沿って設けら れたウインチワイヤーと吊り上げワイヤーとを連結する連結体が,天頂 部との距離に応じてウインチワイヤーに沿って移動するよう構成されて\nいる装置が考えられたが,複数の停止体の設置等の調整作業を天井側で 行わなければならず費用がかかり煩雑である等の問題点があった(段落 【0006】【0008】)ところ,本件発明は,略円弧状の屋内の天 井部に沿ってウインチワイヤーを設け,吊り上げワイヤーを一端側でウ インチワイヤーに連結しその他端側に吊張体を設けるなどの構成をとる\nとともに,天頂部,又は天頂部に最も近接している基準となる吊り上げ ワイヤーのウインチワイヤーとの取付位置と,任意の吊り上げワイヤー のウインチワイヤーとの取付位置との「高さ方向の距離に対応した長さ」 (構成要件C),すなわち,取付位置の高さの差の長さ(以下「本件差\n分」という。)に基づく吊り上げワイヤー等の長さの変更,すなわち調 整を,ネット等の吊張体若しくは吊り上げワイヤーの下端(床面)側又 はその両方に調整手段を設け,あらかじめ行うことにより,上記問題点 を解決するものである(段落【0010】【0025】【0026】 【0045】。前記1(2))。
また,「調整」とは,「1)調子の悪いものに手を加えてととのえること。 2)ある基準に合わせてととのえること。過不足なくすること。3)釣り合 いのとれた状態にすること。折り合いをつけること。」(大辞林第4版) などとされる。 上記のとおりの本件発明の技術的意義,調整手段の意義や,「調整」の 一般的意味からすると,本件発明に係る吊張り装置において吊張体を過 不足なく適切に吊り張りするためには,本件差分が認識された上で,本 件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあら かじめ変更する必要があり,本件発明の「調整手段」は,そのためのも のであって,本件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー 等の長さをあらかじめ変更する構成であり,その調整を行うことにより,\n吊張体を過不足なく適切に吊り張りするための手段であると理解するこ とができる。 本件明細書の具体的な実施例についてみても,ネット吊張り装置におい て,天頂部の吊り上げワイヤー(9b)の取付位置と,他の吊り上げワ イヤー(9a)の取付位置との「距離に対応した長さ」であるL1等の長 さ(L)が認識された上で,一対の筒状体(15)を吊り上げワイヤー に挿通し,その一対(2個)の筒状体の間の距離を「距離に対応した長 さ」(L 本件差分)とすることによって,調整を行う調整手段が記載 されており(段落【0036】【0037】【図1】【図4】【図5】 等)ここでは,ネット体を過不足なく適切に吊り張りするため,吊り上 げワイヤーに挿通する一対の筒状体が設けられ,その筒状体の間の距離 を認識された差(L 本件差分)と同じにすることができることが記載 されており,本件差分(L)を基準としてこれに合うように筒状体の間 の距離の長さをあらかじめ変更する構成が調整手段として記載されてい\nる。以上のとおり,本件発明の「調整手段」(構成要件C)とは,吊張体を\n過不足なく適切に吊り張りするため,認識された本件差分を基準として これに合うように長さをあらかじめ変更するための手段であると解され る。
なお,吊張体の吊張り装置は,複数の部材を組み合わせて構成され,そ\nこには当然に連結部材や係止部材が含まれ,それらの連結部材や係止部 材において,何らかの長さの変更を行うことができる場合もあり得る。 しかし,本件発明の「調整手段」等の技術的意義は,上記のとおりのも のであり,吊張り装置に何らかの長さ変更を行う構成があったとしても,\n本件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあ らかじめ変更するための手段であると認められないものは,本件発明の 「調整手段」とはいえないと解される。仮に,本件発明において,単に 長さを変更する手段のみをもって調整手段に該当すると解するとすれば, 吊張体の施工やメンテナンスに際して吊り上げワイヤー等の長さを変更 するに当たり,他の手段によって,本件差分を基準としてこれに合うよ うにしなければならないことになるが,そのような作業を床面側のみで 行うことが可能であることは本件明細書の記載等によっても明らかでは\nなく,このような構成によっては本件発明の課題を解決することができ\nない。ここで,本件明細書には,吊り上げワイヤーにネット体への係止 体を設けることで,又は,ネット体に吊り上げワイヤーの係止体を設け ることで,吊り上げワイヤーの長さの調整を行うこともできることが記 載されている(段落【0058】)。これまで述べてきたところから, そのような係止体が,認識された本件差分を基準としてこれに合うよう に吊り上げワイヤー等の長さをあらかじめ変更するための手段といえる 場合には,本件発明の「調整手段」といえ,上記記載はその趣旨のもの と理解することができる。それに対し,そのような手段とはいえず,通 常の係止体としての構成,機能\を超える構成,機能\等を有しないものは, これまで述べたところに照らせば,本件発明と関係なく用いられている 係止体であり,本件発明の「調整手段」が有する効果を奏するものでは なく,本件発明の「調整手段」に該当するとは認められない。 他方,被告らは,本件発明の「調整手段」が筒状体など本件明細書に記 載された具体的な実施例に限られる趣旨の主張もするが,本件発明の技 術的範囲が上記の範囲に限定される理由はなく,前記のとおり,本件差 分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあらかじ め変更する構成を備えたものであれば,本件発明の「調整手段」といえ\nる。
・・・・
(3) 被告製品1が本件発明の技術的範囲に属するかについて
原告は,被告製品1において,各吊り上げワイヤーと各バトンを連結する シャックル,リングキャッチ,チェーン(以下,これらを「本件連結材」と いう。)が本件発明の調整手段であると主張する。 ここで,本件発明の「調整手段」(構成要件C)とは,吊張体を過不足な\nく適切に吊り張りするため,認識された本件差分を基準としてこれに合うよ うに長さをあらかじめ変更するための手段である(前記(1)イ)。 本件連結材は,ワイヤーとバトンを連結する際に通常用いられる連結材と 認められるところ,それは,単に連結のために通常用いられる複数の構成部\n品から成っているものにすぎず,認識された本件差分を基準としてこれに合 うように長さをあらかじめ変更する構成を有するものであるとは認められず,\nそのような調整作業をするための手段とはいえない。 また,被告製品1において,もともと各吊り上げワイヤーのウインチワイ ヤーへの連結位置から連結材の下端までの長さはほぼ同程度であり(前記(2) イ),天頂部に最も近接した吊り上げワイヤーが取り付けられたバトンが床 面に到達した状態においては,他の各吊り上げワイヤーはたわんだ状態とな るのであって(同エ),本件連結材によって吊り上げワイヤー等の長さの変 更は行っていない(同ウ)。本件連結材による長さの変更が想定されている ことを認めるに足りる証拠もなく,本件連結材は,そもそも長さの変更を行 うための手段ではないともいえる。 したがって,被告製品1の連結材は,構成要件Cの調整手段には該当しな\nい。 以上から,被告製品1は,構成要件Cを充足せず,本件発明の技術的範囲\nに属しない。

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令和3(行ケ)10047  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年9月15日  知的財産高等裁判所

 不使用であるとした審決が取り消されました。商標権者は、訴訟にて使用の事実を示す新証拠を提出しました。

 これに対し被告は,1)本件各写真(甲28)の撮影日が2018年11月 14日であることについては,客観的な裏付けがなく,撮影日が同日である ことは疑わしい,2)発行名義を桂ヶ丘開発とする「精算書控」及び「御精算書」 (甲46の1ないし9)は,本件審判段階では提出されず,本件訴訟に至って 初めて提出されたものであること,桂ヶ丘開発は原告が代表取締役を務める会\n社であり,発行名義を桂ヶ丘開発とする精算書をいつでも作成できること,令 和3年6月20日に本件ゴルフ場のクラブハウス内の物販コーナーで「福米」 を表示した米が販売された際に発行された「御精算書」(乙1)には,「福米」\nの文字の記載がなく,甲46の1ないし9記載の発行日付当時に実際に発行さ れていた精算書に「福米」の文字が表示されていたものとは,にわかに信用し\n難いことに照らすと,甲46の1ないし9の証明力は低い,3)桂ヶ丘開発が本 件ゴルフ場の利用者に対して福米2018を販売したとの原告の主張は,原 告が本件審判段階で本件ゴルフ場のクラブハウス内で一般客に対して自ら商 品「米」の販売を行ったと主張していたこと及びその立証のために提出され た桂ヶ丘開発の取締役会議事録(甲45)の記載と矛盾する旨主張する。 しかしながら,1)については,本件各写真(甲28の2枚の写真)の画像デ ータ(甲56)の「プロパティ」の「詳細」の「撮影日時」欄にそれぞれ「2 018/11/14 13:24」(甲28の「下」の写真に係る画像データ) 及び「2018/11/14 13:25」(甲28の「上」の写真に係る画 像データ)と表示されていること,本件各写真に写された本件価格表\には「期 間限定」,「福米2018」及び「2018年11月末日までの限定価格。」と の表示があり,その表\示内容は,本件各写真の撮影日時が「2018/11 /14 13:24」及び「2018/11/14 13:25」であるこ とと矛盾しないことに照らすと,本件各写真の撮影日は2018年11月1 4日であると認められる。被告が1)について指摘する原告提出の他の写真(甲 15,29ないし31)に日付が入っていない点,本件ゴルフ場のクラブハウ スのフロント付近で日常的に販売されている商品を写真撮影する理由も考え難 い点,同日以外の日に他の客の少ない時間にフロント前に商品を陳列し,写真 撮影することは容易であるとの点は,上記認定を覆すものではない。
次に,2)については,甲46の1ないし3,5ないし7は,桂ヶ丘開発が 運営する「桂ヶ丘カントリークラブ」作成名義の「精算書控」,甲46の8は, 甲46の3の「精算書控」に対応する「桂ヶ丘カントリークラブ」作成名義 の「御精算書」であり,それぞれ利用者の氏名,「お客様番号」,発行日時, 「精算金額」のほか,「精算項目」欄にプレーフィ,利用税等とともに,「福 米(5kg)」,「数量」欄に「1」又は「2」,「単価」欄に「2,200」, 「金額」欄に「2,200」又は「4,400」との記載があり,その体裁に 特段不自然な点は認められないから,甲46の1ないし3,5ないし8の記載 内容は信用できるものといえる。この点に関し被告が提出する「桂ヶ丘カント リークラブ」作成名義の「御精算書」(乙1)には,「2021年6月20日 1 3:29」,「精算項目」欄に「〈軽〉新米(2kg)」,「数量」欄に「1」,「単 価」欄に「800」,「金額」欄に「800」と記載され,「福米」の記載はな いことが認められる。しかし,乙1は,要証期間経過後の令和3年6月20 日に単価800円で販売された「新米(2kg)」の精算書であり,甲46の 1ないし3,5ないし8に係る「福米」とは販売時期が異なること,本件各 写真に撮影された本件価格表に表\示された「福米2018」の「2kg」の 販売価格「700円」と単価が異なることに照らすと,乙1に係る「新米(2 kg)」は,甲46の1ないし3,5ないし8に係る「福米」と異なる商品で あると認められるから,乙1に「福米」の記載がないことは,甲46の1な いし3,5ないし8の記載内容の信用性を揺るがすものではない。また,原告 は,本件審決において本件審判段階で主張した本件商標の使用の事実が認め られなかったため,本件訴訟において,本件商標の使用の事実を改めて整理 して主張し,その立証のため,甲46の1ないし9を新たに提出したものであ るから,甲46の1ないし9が本件審判段階では提出されなかったことや桂 ヶ丘開発は原告が代表取締役を務める会社であることは,甲46の1ないし3,\n5ないし8の信用性を左右する事情には当たらない。 さらに,3)については,本件審決は,原告による「桂ヶ丘カントリークラ ブ」(本件ゴルフ場)のクラブハウス内の物販コーナーにおける「米」の販売 に係る本件商標の使用の主張について,平成30年10月1日に開催された 桂ヶ丘開発の取締役会議事録(審判乙34・本訴甲45)には,「第1号議案 として,本件商標権者が個人事業主として生産している米(福米2018) を桂ケ丘カントリークラブのロビー内の物販コーナーで販売することについ て承認された旨の記載があるが,当該米についての販売期間の記載はない。」 (審決書13頁36行〜14頁1行)として,上記主張は認められない旨判 断した。原告は,本件審決の上記判断を踏まえて,本件訴訟において,上記 物販コーナーにおける「米」の販売に係る本件商標の使用の主体を,原告か ら原告が代表取締役を務める桂ヶ丘開発に構\成し直して,桂ヶ丘開発が本件 ゴルフ場の利用者に対して本件ステッカーが米袋に貼付された福米2018\nを販売したとの主張をするに至ったものと認められるから,原告の主張の変 遷が不自然であるということはできないし,上記取締役会議事録の記載と矛 盾するということもできない。

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令和2(ワ)3247等  損害賠償請求  特許権  民事訴訟 令和3年9月6日  大阪地方裁判所

 原告は被告に対して特許権侵害による損害賠償を求めましたが、被告は提訴自体が不法行為は裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとして、反訴請求しました。裁判所は被告の主張を認め、50万円の損害賠償を認めました。

 (1) 前提事実,争いのない事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば, 次の事実が認められる。 ア 被告は,原告退職後の平成22年9月から漏水探査等を目的とする事業を行 うようになったところ,平成23年頃実施の門川町上水道漏水調査委託業務の入札 に参加し,これを落札した。これについて,原告は,その後,門川町に対し,被告の 指名競争入札参加申請書及び被告が納品した漏水調査結果報告書等を求めて公文書\n公開請求を行った(甲15,16)。
イ 被告は,平成26年10月1日,原告から,平成23年4月26日付け「情 報窃盗に関する記述」と題する部分及び平成25年9月26日付け「情報窃盗及び 機密保持違反に関する刑事告訴に至る記述」と題する部分からなる書面(乙7)を 受領した。同書面のうち,前者の部分には,被告が,原告が「業務を通じ考案した 「エアー加圧工法」を実用新案特許出願中 平成2年6月 その工法さえも盗み出 した」との旨や,書類(結果報告書及び作業計画書等)の無断使用による著作権侵 害,原告の固定客や取引先の横取り等による原告の被害額が推定1500万円以上 に上ること,被告を刑事告訴する旨等が記載されている。後者の部分には,前者の 部分と同趣旨の記載のほか,「虚偽申請による不当なる資格取得」との記載があり,\n原告の被害額が推定3000万円以上に上ること,被告を刑事告訴する旨等が記載 されている。
ウ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,平成27年4月1日付け「質問書」 (乙9)を送付した。同書面には,同協会発行の有資格者認定名簿における被告の 記載に関する質問等が記載されている。
エ 原告は,同月6日,被告に対し,「「漏水調査技術者認定証等」に関する件」 と題する書面(乙8の1)を送付した。同書面には,被告につき,「不正に全国漏 水調査協会の民間資格者として,再登録を行っています。」,「貴殿が行った行為 は,「業務上横領」や「詐欺」に匹敵する許し難い行為だと思います。」,「まず貴\n殿が,「弊社の技術」を盗む目的を持って入社し弊社が長年の研究や試行錯誤の上 で開発した「エア加圧工法」と言う独自工法を盗み」などと記載されていると共に, 「期日までに,何らかのご連絡,若しくは,「漏水調査技術者証の返還」が,無き 場合は,「刑事告訴」及び「法的手段」を取りますので,ご了承下さい。」とも記載 されている。
オ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,同年5月6日付け「勧告書」(甲3 2,乙10)を送付した。同書面は,上記「質問書」に対する回答が得られていな いとして送付されたものであり,ここには,有資格者の調査技師の欄に被告が記載 されているが,その記載内容は虚偽である旨の指摘等が記載されている。また,同 書面(乙10)の余白には,「この書面を提出した事で,彼は責任を取り自から会 長職を辞職した!!」との原告代表者の手書きによる記載がある。\n
カ 原告は,同年6月11日,被告に対し,同日付け「通知書」(甲29,乙11 の1)を送付した。同書面には,「その盗んだ技術の中身には,長年研究開発した 「エア加圧工法」が含まれており,弊社が開発した技術を無断で利用して,平然と 営業利益を上げています。」などとして,原告の損害金総額1億円の支払を求める 旨等が記載されている。 これに対し,被告は,同年9月14日,原告に対し,同日付け「回答書」(甲9, 31,乙12の1)を送付した(同月15日に原告に到達。乙12の2)。同書面に は,「調査内容の「エア加圧工法」は他社企業でも行われている工法で,特許侵害 等の法を犯す工法ではありません」などと記載されていると共に,1億円の支払請 求については,内容が事実に反していることなどから応じられない旨が記載されて いる。
キ 被告は,平成31年2月7日頃,原告から,平成30年2月7日付け「最後 通告書」(乙13の1。なお,同書面の作成日付は,書面全体の記載の趣旨から, 「平成31年」の誤記と思われる。)を受領した(乙13の2)。同書面には,「貴 殿は,…私文書偽造詐欺行為を平然と行って置きながら,…全国漏水調査協会に私\n文書偽造の行為にあたる事を長年繰り返し申請をして,不正に漏水調査士の資格を\n取得しています。」,「弊社の「報告書書式や漏水調査カルテ書式等」を退職時に 何らかの形で持ち出しましたね。」,「「工具は持ち出して居ない」とは思います が,どの様な方法でエアを注入していますか?」,「漏水調査工法のエア加圧工法 は,弊社が開発したものです。…弊社は,昨年5月11日付で,エア加圧工法で, 「特許権」を取得しています。このままだと仕事を失う事になりますよ。速やかに, なんらかの行動を起して下さい。」,「弊社が取得した「エア加圧工法」は,…何人 たりとも勝手に利用して,使用が出来ないのです。それを犯して使用する場合は, 「知的財産権の侵害行為」となり,そこには,処罰の対象になります。…独自の工 法を考えださない限りは,特許権侵害行為になり,この仕事は,出来ません。」な どと記載されていると共に,改めて,総額1億円の技術使用料の支払を求める旨等 が記載されている。 なお,同書面には,被告の使用する工法が原告の「特許権」の侵害にあたると原 告が考える理由等に関する記載はない。
ク 原告は,本件の証拠として提出した令和2年8月22日付け「上申書(5)認否 事項についての反論」(甲21)において,「裁判を提訴するまで,被告の行って居 る工法につては,知る由は無かった。」としている。
ケ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,本訴の提起後である令和2年9月1 1日付けで,同協会の漏水調査技術資格認定者名簿における被告の記載に関して質 問をし,同月28日付けで回答を得たものの,これを不十分として,同年10月1\n日付け「公開質問書」(甲32)を送付して再度質問をし,同月16日付けで回答 を得た。
(2) 法的紛争の当事者が紛争の解決を求めて訴えを提起することは,原則として 正当な行為であり,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴 訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くもので ある上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知 り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的 に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当 である(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・ 民集42巻1号1頁参照)。 前記(1)認定のとおり,原告は,被告が原告を退職して独立開業した後,本訴の提 起に至るまでの間,被告が門川町の業務を落札したことを契機に,被告の事業活動 を問題視するようになり,被告の使用する工法が原告の「エア加圧工法」を無断で 使用するものであるなどとして,刑事告訴の可能性にも言及するなどしつつ,被告\nに対して直接非難する趣旨を含む書面を送付した。他方で,原告は,漏水調査協会 に対しても,有資格者名簿に被告が記載されていることにつき,質問の形式を取り ながら,これを問題視していることをうかがわせる内容の書面を送付した(しかも, 原告は,本訴提起後も改めてこのような行為に及んでいる。)。さらに,本件特許 権の設定登録後には,「エア加圧工法」につき特許権を取得したとの前提ではある ものの,被告の行為は特許権侵害にあたるとして,技術使用料の支払を重ねて求め たものである。 こうした経過を経て本件の本訴が提起されたことを踏まえると,本訴の提起も, 被告がその事業上実施する工法を原告が問題視して行った一連の行動の一環として 行われたものと理解される。
他方,原告と被告との一連のやり取りにおいて,原告は,被告から「特許侵害等 の法を犯す工法ではありません」などと反論されたこともあるにもかかわらず,被 告の使用する工法等が原告の特許権を侵害するものと考える理由に言及したことは なく,また,被告が使用する漏水探査方法の具体的内容やこれに使用する装置につ いて質問等をしたのも,平成30年2月7日付け「最後通告書」におけるものが初 めてである。加えて,本件における原告の主張立証活動,就中,原告自身が「裁判 を提訴するまで,被告の行って居る工法につては,知る由は無かった。」とし,実 際,被告が主張する被告装置の構成等を前提として主張立証を行っていることに鑑\nみると,原告は,本訴の提起に先立ち,被告の使用する漏水探査方法やこれに使用 する装置に関する調査等を自ら積極的には必ずしも行っていなかったことがうかが われる。 このような本訴の提起に至る経緯や訴訟の経過等に加え,前記のとおり,被告装 置につき本件各発明の技術的範囲に属さないことに照らすと,原告は,本訴で主張 する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることにつき,少なく とも通常人であれば容易にそのことを知り得たのに,被告による事業展開を妨げる ことすなわち営業を妨害することを目的として,敢えて本訴を提起したものと見る のが相当である。 そうすると,原告による本訴の提起は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相 当性を欠くものと認められるから,被告に対する不法行為を構成する。これに反す\nる原告の主張は採用できない。

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令和1(ワ)11673  差止請求等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和3年9月3日  東京地方裁判所

 女性用下着の形状について、周知著名商品等表示ではないと判断されましたが、不競法2条1項3号の形態模倣であるとして、約2億円の損害賠償が認められました。

 原告は,原告商品は形態1)ないし7)を組み合わせたものであり,原告 商品全体の形態と同一又は類似の商品は見当たらないから,他の同種商 品と識別し得る特徴を有すると主張する。 しかし,原告商品の販売が開始された当時,原告商品が備える形態1) ないし7)の全てを備えるブラジャー又はナイトブラが販売されていたこ とを認めるに足りる証拠はないものの,前記(1)ウ(ア)のとおり,形態1) ないし7)のうちの3つ又は4つを備える商品AないしGが存在していた。 そうすると,原告商品の販売開始時点では,既に,原告商品の形態に似 通った商品が複数販売されていたということができる。しかも,前記(ア) のとおり,原告商品の形態1)ないし7)は,いずれも他の商品とは異なる 顕著な特徴とは認められないから,当該商品には認められないが原告商 品には認められる形態上の特徴により,需要者であるブラジャー又はナ イトブラの購入に関心がある一般消費者が出所の違いを識別することが できるとはいえない。そして,形態1)ないし7)を組み合わせることによ り上記需要者の注意を特に惹くことになる事情も見当たらないことから すると,形態1)ないし7)を組み合わせた原告商品の形態が他の同種の商 品とは異なる顕著な特徴を有していると認めることはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 周知性について
前記(1)イ(ア)のとおり,原告商品は平成28年9月12日に販売が開始 されたところ,原告商品の形態につき周知性が確立したと原告が主張する 平成29年12月までに約1年4か月,被告商品1の販売が開始された平 成30年10月まででも約2年1か月しか経過していない。そして,前記 (1)ウ(ア)のとおり,原告商品の販売が開始される前から,原告商品が備え る形態1)ないし7)のうち複数を有するブラジャー又はナイトブラが販売さ れており,原告商品の形態が原告によって長期間独占的に利用されたとは 認められない。
・・・
商品の形態を比較した場合,問題とされている商品の形態に他 人の商品の形態と相違する部分があるとしても,当該相違部分についての 改変の内容・程度,改変の着想の難易,改変が商品全体の形態に与える効 果等を総合的に判断した上で,その相違がわずかな改変に基づくものであ って,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見て些細な 相違にとどまると評価されるときには,当該商品は他人の商品と実質的に 同一の形態というべきである。
イ 被告商品1について
(ア) 前記(1)アのとおり,被告商品1は,原告商品が備える形態1)ないし7) を全て備え,別紙3比較写真目録記載の写真のとおり,全体的なデザイ ンはほぼ同一であるといえる。 被告商品1と原告商品の間には相違点1)が認められるが,別紙2原告 商品目録記載の写真のとおり,原告商品のカップ部の中央に付けられた リボンはごく小さな装飾にすぎず,そのようなリボンを取り外すという 改変については,その程度はわずかであり,着想することが困難である とはいえず,商品全体の形態に与える効果もほとんどないといえる。 また,被告商品1と原告商品の間には相違点2)が認められるが,別紙 1被告商品目録記載1の写真のとおり,左右の前身頃を構成する3枚の\n生地のうち最下部にある生地が被告商品全体に占める面積はそれほど大 きいものではなく,他の部分の布地と同系色であってレース生地の存在 が際立つものではない上,別紙3比較写真目録記載の写真のとおり,原 告商品と被告商品1とで,ナイトブラとしての機能を成り立たせるパー\nツの形状及び構成は同一といってよいことからすると,相違点2)は,需 要者であるブラジャー又はナイトブラの購入に関心がある一般消費者に 対し,原告商品よりもレース生地が比較的多いという印象を与えるにと どまるから,被告商品1の上記部分をレース生地とすることが商品全体 の形態に与える効果は小さいといえる。さらに,前記1(2)イのとおり, ブラジャーにレース生地を用いること自体ありふれた形態であり,上記 部分を無地の生地からレース生地に置き換える着想が困難であるともい えない。
そうすると,相違点1)及び2)は,いずれもわずかな改変に基づくもの であり,商品の全体的形態に与える変化は乏しく,商品全体から見て些 細な相違にとどまるといえるから,被告商品1は原告商品と実質的に同 一の形態であると認めるのが相当である。 (イ) 前記(ア)のとおり,被告商品1と原告商品は実質的に同一の形態であり, 前記前提事実(2)及び(3)アのとおり,被告商品1の販売が開始された平 成30年10月頃に先立つ平成28年9月12日に原告商品の販売が開 始されているところ,本件全証拠によっても,被告が被告商品1を独自 に開発したことをうかがわせる事情は認められないことからすると,被 告は原告商品の形態に依拠して被告商品1を作り出したと推認するのが 相当である。
(ウ) 以上によれば,被告商品1は,原告商品の「商品の形態」を「模倣し た商品」であると認められる。
・・・
また,被告商品2と原告商品の間には相違点5)が認められるが,別紙 1被告商品目録記載2の写真のとおり,被告商品2も,被告商品1と同 様,レース生地の色合いが他の部分の布地と同系色であって,レース生 地の存在が際立つものではなく,被告商品2では,被告商品1よりレー ス生地が多く用いられているものの,そのレース生地が肩紐部や背部と いった比較的注目することが多くないと考えられる部分に用いられてお り,一方で,同写真と別紙2原告商品目録記載の写真を見比べると,原 告商品と被告商品2とで,ナイトブラとしての機能を成り立たせるパー\nツの形状及び構成はほぼ同一であるといえることからすると,この改変\nが商品全体の形態に与える効果は大きくないというべきである。さらに, 前記1(2)イのとおり,ブラジャーにレース生地を用いること自体ありふ れた形態であり,被告商品2の相違点5)に係る部分を無地の生地からレ ース生地に置き換える着想が困難であるとはいえない。 被告商品2と原告商品の間には相違点6)が認められるが,ホックが4 段階であるか3段階であるかの違いにすぎず,ホックを連結する段階数 を増やすという改変を着想することは容易であり,そのような改変が商 品全体の形態に与える効果は小さいといえる。 そうすると,相違点3)ないし6)は,いずれもわずかな改変に基づくも のであり,商品の全体的形態に与える変化は大きくなく,商品全体から 見て些細な相違にとどまるといえるから,被告商品2は原告商品と実質 的に同一の形態であると認めるのが相当である。
(イ) 前記(ア)のとおり,被告商品2と原告商品は実質的に同一の形態であり, 前記前提事実(2)及び(3)イのとおり,被告商品2の販売が開始された平 成31年2月頃に先立つ平成28年9月12日に原告商品の販売が開始 されているところ,本件全証拠によっても,被告が被告商品2を独自に 開発したことをうかがわせる事情は認められないことからすると,被告 は原告商品の形態に依拠して被告商品2を作り出したと推認するのが相 当である。
・・・
不競法5条2項の侵害者が侵害行為により受けた利益の額は,侵害者の侵 害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりその製 造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額で あると解するのが相当である。 辞任前の被告訴訟代理人が作成した一覧表(甲54)によれば,被告が被\n告商品1を販売したことにより,1億5794万円の売上げがあり,商品原 価として2650万円,カード決済料金として552万7900円及び送料 原価として2650万円を要したこと,被告が被告商品2を販売したことに より,1億4254万5320円の売上げがあり,商品原価として2873 万7640円,カード決済料金として498万9086円及び送料原価とし て2391万7000円を要したことが認められる。
そして,弁論の全趣旨 によれば,上記の商品原価,カード決済料金及び送料原価は,いずれも被告 各商品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と認められる。 他方で,上記一覧表(甲54)には,被告商品1につき広告費として73\n20万5070円,人件費420万円及び販売システム費用789万700 0円,被告商品2につき広告費として7063万0834円,人件費630 万円及び販売システム費用712万7266円を要したかのような記載があ る。しかし,被告が上記広告費を支出してどのような内容の広告をしたのか, それが被告各商品に係るものであったかは,証拠上明らかではないし,上記 人件費及び販売システム費用がいかなる目的で支出されたかも証拠上明らか でないから,これらの費用は,被告各商品の製造販売に直接関連して追加的 に必要となった経費とは認められない。
したがって,被告が被告商品1を販売したことによる利益の額は9941 万2100円(=1億5794万円−2650万円−552万7900円− 2650万円)であると,被告商品2を販売したことによる利益の額は84 90万1594円(=1億4254万5320円−2873万7640円− 498万9086円−2391万7000円)であると,それぞれ認められ る。
(2) 本件訴訟に現れた全ての事情を勘案すると,本件訴訟の弁護士費用相当の 損害額は,被告商品1につき994万1210円,被告商品2につき849 万0159円と認めるのが相当である。
(3) したがって,被告が被告各商品を販売したことにより原告が被った損害額 は,合計2億0274万5063円である。

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令和2(行ケ)10044  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年8月30日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が取り消されました。論点は「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」との動機付けがあるか否かです。

 原告は,相違点2に関し,本件審決が,1)刊行物5の記載及び脂質の大量 の摂取を控えることが健康上の技術常識であることを考慮すると,1回の「用 量」でω−6脂肪酸を40gを超えた脂質含有配合物として用いることは考 えられないから,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」であること(相違点 2に係る本願発明の構成)は,刊行物5に記載自体がなくとも記載されてい\nるに等しい事項であるから,相違点2は,実質的な相違点ではないか,刊行 物5発明において,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることは,「用 量」の意味が,1回の「用量」や1日の「用量」であるかにかかわらず当業 者が容易になし得る技術的事項である旨判断したのは誤りである旨主張する ので,以下において判断する。
ア(ア) 刊行物5(甲24)には,1)「従来の技術」として「最近の日本人の 食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え, 脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の 種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増 加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。これ らの疾病の原因は,脂肪酸の摂取過多と考えられていた。しかし,研究 が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和脂肪酸の種類の摂取アンバラン\nスによることが判明した。これは肉類に多く含まれるω−6脂肪酸であ るアラキドン酸から産生される2型のプロスタグランジンやロイコトリ エンなどが過剰になり,ω−3脂肪酸によって産出される3型のプロス タグランジンやロイコトリエンとのバランスがくずれる事による。」(前 記(1)エ),2)「発明が解決しようとする課題」として,「ω−6脂肪酸の 過剰摂取は,PGF2α,TXA2などの2型プロスタグランジンやロイ コトリエンの産生を促し,血小板凝集や血管収縮を起こし動脈硬化や血 栓症を誘発する。しかしω−3脂肪酸は逆に,これらの疾患を抑制した り,更に,乳癌や大腸癌の発癌率を抑えたり(・・・),癌細胞の転移能を低\n下させる(・・・)ことが報告されている。・・・気をつけなければならないの は,ω−3脂肪酸ばかりを摂取するのではなく,ω−3脂肪酸とω−6 脂肪酸をバランス良く摂取することである。しかし,前述のように現在 の日本人の食事はω−6脂肪酸の摂取に偏っている。この状態を改善す るためにω−3脂肪酸などを高濃度に濃縮して添加した食品や栄養補助 剤などが開発された。しかしこれらの製品を過度に摂取した場合,逆に ω−3脂肪酸の過剰摂取につながり新たな疾病の原因となる。そこでω −3,ω−6脂肪酸の適正な比率での摂取が必要である。」,「本発明は, ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,前述 の疾病の予防や改善に効果が期待されるように,脂質の脂肪酸組成を適\n正比率に調整した食品を提供することを目的とする。」(以上,前記(1)オ), 3)「課題を解決するための手段」として,「本発明の食品は,脂肪酸組成 をω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5になるように調 整した高度不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする。」,「本発明の食品の脂 肪酸組成は,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5にな るように調整する。この範囲よりも小さいときは,ω−3脂肪酸が過剰 になり,この範囲よりも大きいときはω−6脂肪酸が過剰になってしま い,いずれの場合もω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との摂取バランスが崩 れてしまうので好ましくない。」(以上,前記(1)カ),4)「発明の効果」 として,「本発明によれば,食品に含有される脂質のω−3,ω−6脂肪 酸の比率を適正比率である1:1〜1:5に保つように調製された食品 を提供することができるので,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバランス 良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸 癌などの疾病の予防や改善に効果が期待される。」(以上,前記(1)キ)と の記載がある。
これらの記載によれば,刊行物5には,刊行物5記載の高度不飽和脂 肪酸を含む食品(「本発明」)の技術的意義に関し,従来は,高血圧,心 臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の原因は,脂肪酸の「摂 取過多」と考えられていたが,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不\n飽和脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明したこと,現在 の日本人の食事はω−6脂肪酸の摂取に偏っており,この状態(ω−6 脂肪酸の「過剰摂取」)を改善するためにω−3脂肪酸などを高濃度に濃 縮して添加した食品や栄養補助剤などが開発されたが,これらの製品を 過度に摂取した場合,逆にω−3脂肪酸の「過剰摂取」につながり新た な疾病の原因となるため,ω−3,ω−6脂肪酸の適正な比率での摂取 が必要であることから,「本発明」は,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバ ランス良く摂取することができ,前述の疾病の予防や改善に効果が期待\nされるように,脂質の脂肪酸組成を適正比率に調整した食品を提供する ことを目的とし,その課題を解決するための手段として,脂肪酸組成を ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5になるように調整 した高度不飽和脂肪酸を含む構成を採用し,これによりω−3脂肪酸と\nω−6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循 環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の予防や改善の効果が期待される\nことについての開示があることが認められる。また,前記(1)の刊行物5 の記載によれば,刊行物5において,「過剰摂取」の用語は,ω−3脂肪 酸,ω−6脂肪酸が適正比率(1:1〜1:5)の範囲を基準として, 「この範囲よりも小さいときは,ω−3脂肪酸が過剰になり,この範囲 よりも大きいときはω−6脂肪酸が過剰にな」ると述べていること(前 記(1)カ)に照らすと,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との摂取バランス(比 率)が崩れた状態を表現するために用いており,一方で,「摂取量」が多\nい状態を表現するときは「摂取過多」の用語を用い,「摂取量」との関係\nでは,「過剰摂取」の用語を用いていないことが認められる。 以上を前提に検討すると,刊行物5における「最近の日本人の食生活 は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,脂肪の 摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の種類も 変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増加して, こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との記載は, それに引き続き「しかし,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和\n脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明した。」などの記載が あることに照らすと,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加した こと自体が問題であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆す るものではないと理解するのが自然である。 また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取 量を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」 は,1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や 示唆はない。
(イ) 次に,本件審決が述べるように「脂質の大量の摂取を控えること」 自体が健康上の技術常識であるといえるとしても,脂質の適正な摂取量 は,年齢,性別,エネルギー摂取量等の要素によって変わり得るものと 考えられるから,そのことから直ちに「脂肪の摂取量」を1日当り40 g以下とすることが技術常識であることを導出することはできないし, それが技術常識であることを前提に「ω−6脂肪酸の用量」は,1日又 は1回当たり「40g以下」とすることが技術常識であるということは できない。本件においては,他に「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」 とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。 イ(ア) 前記アの認定を総合すると,刊行物5には,本件審決のいう技術常 識を踏まえても,刊行物載5発明に含有する「ω−6脂肪酸の用量は, 40g以下であること」についての実質的な開示があるものと認めるこ とはできない。 そうすると,刊行物5発明が「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」 であるとの構成(相違点2に係る本願発明の構\成)を有することは認め られないから,相違点2は実質的な相違点であるものと認められる。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(イ) 次に,前記ア認定のとおり,刊行物5には,脂肪の摂取量を1日当 たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」は,1日又 は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆はなく, また,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であ ることを認めるに足りる証拠がないことに照らすと,刊行物5に接した 当業者が,刊行物5発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採\n用することの動機付けがあるものと認めることはできないから,上記構\n成とすることを容易に想到することができたものと認められない。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。
ウ これに対し被告は,1)刊行物5には,脂肪の摂取量については1日当た り40gと増加しているとの記載及びそれを問題であると認識している ことの記載があり,刊行物5発明は,脂質(脂肪)の取り過ぎの抑制を前 提に,ω−6脂肪酸とω−3脂肪酸をバランス良く摂取することを技術思 想とする発明であるから,脂質の一部である不飽和脂肪酸のさらに一部で あるω−6脂肪酸を一定以下に抑えることは当然であり,脂質全体として 取り過ぎであるとの認識である40gという値以下と特定することには 強い動機付けがある,2)しかも,1日の脂質摂取は,刊行物5発明のドリ ンク剤組成物以外の食品からも生じるのであるから,1日又は1回当たり ω−6脂肪酸40g以下との上限を設定することは,当業者が容易になし 得る技術的事項であるから,当業者は,刊行物5発明において,相違点2 に係る本願発明の構成とすることを容易に想到することができた旨主張\nする。
しかしながら,前記ア(ア)で説示したとおり,刊行物5における「最近の 日本人の食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に 増え,脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾 病の種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが 増加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との 記載は,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加したこと自体が問題 であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆するものではない。 また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取量 を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」は, 1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆は ない。 加えて,本件においては,他に「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」 とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,刊行物5に接した当業者が刊行物5発明において相違点2 に係る本願発明の構成を採用することの動機付けがあるものと認めるこ\nとはできないから,被告の上記主張は採用することができない。

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令和2(ワ)4332  特許権侵害行為差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月20日  東京地方裁判所

 特許権侵害事件で無効理由無し、技術的範囲に属するとの判断がなされました。被告らは共同関係にないと主張しましたが認められませんでした。

上記認定事実のとおり,被告ジョウズ及び被告アンカーは,いずれもAn kerグループに属する法人であり,被告ジョウズの設立時の代表者と被告\nアンカーの代表者は同一である上,被告ジョウズの令和元年9月時点での従\n業員数は2名であり,そのうちの1名であるZは令和元年5月に被告アンカ ーから被告ジョウズに移籍しているとの事実が認められる。また,被告ジョ ウズの本店所在地のオフィスの利用契約上の地位は被告アンカーから譲り受 けたものであるなど,両社には密接な人的及び物的な関係があるということ ができる。
また,被告ジョウズは被告製品1及び2の販売に関する記者発表が行われ\nる約4か月前に設立されているが,その人的態勢は,代表者であるYのほか\n従業員が2名にすぎず,その2名についても,令和元年9月1日から同月3 0日までの1人当たりの勤務日数及び勤務時間は通常の事業活動をしている とは考え難いほど短い。また,被告ジョウズのオフィスはシェアオフィスで あり,平成30年10月時点において,同オフィスの入居するビル1階の受 付には被告ジョウズの表示はなかったことなどによれば,被告ジョウズが被\n告製品に関する実質的な事業活動を行っていたとは考え難い。 さらに,上記のとおり,楽天における被告製品の販売サイトにおける商品 の返送先住所は被告アンカーの所在地と同じビルであると認められるところ, 被告ジョウズが被告アンカーに対して返品された商品の取扱いを委託すると ともに,マーケティング業務などを委託していたことについては当事者間に 争いがない。被告らは,被告アンカーが受託したのは上記業務に限定される と主張するが,マーケティング業務も行いながら,商品については返品取扱 い業務のみを取り扱っていたとは考え難く,上記の被告ジョウズの物的・人 的態勢も考慮すると,被告アンカーは被告製品の販売等に関する業務を被告 ジョウズと共同して行っていたと推認することが相当である。
加えて,被告製品1及び2の記者発表に関する記事等には,「Anker\nグループが技術的にサポートしたことから,アンカー・ジャパンのY社長が ジョウズ・ジャパンの代表取締役を兼任する」などと記載されていること,\n被告製品3の記者発表は当時まだ被告アンカーの在籍していたZが行ってい\nること,被告商品に関するウェブページには,同製品がAnkerグループ ないし中国アンカー社のサポートを受けて作られたものである旨の説明がさ れていること,Ankerグループのオフィシャルストアの海外のウェブサ イトにおいて被告製品が「Anker Jouz 20」などとして販売さ れていることなどの事実によれば,被告製品に関する事業には,被告アンカ ーを含むAnkerグループや中国アンカー社が関与していることがうかが われる。 以上を総合すると,被告アンカーが被告ジョウズと共同して被告製品の販 売等をしていたと認めるのが相当である。
(3) 被告らの主張について
ア これに対し,被告らは,被告製品に関する業務の委託先の一つにすぎず, 被告製品の返品及びマーケティング業務等の委託を受けていただけであ り,業務委託の対価も固定額であり,被告製品の販売実績によって金額が 左右されるものではないと主張する。
しかし,被告らからは,被告アンカーから被告ジョウズに宛てた業務委 託料の請求書や担当者名等が黒塗りされた請求書や電子メール等が提出 されているにとどまり,被告ジョウズと被告アンカーとの間の業務委託契 約書,被告製品に関する費用や利益の帰属を示す客観的な証拠,被告アン カーが行っていた業務の実態やこれに関与した者の氏名や具体的な役割 等を客観的かつ具体的に明らかにする証拠は提出されていない。 前記判示のとおり,被告ジョウズと被告アンカーの人的・物的関係や被 告ジョウズの実態などを考慮すると,被告アンカーは被告ジョウズから一 部の業務を受託していたにとどまらず,被告製品の販売等に関する業務を 同被告と共同して行っていたと推認することが相当であり,これを覆すに 足りる的確な証拠は存在しない。したがって,被告らの上記主張は理由がない。
イ 被告らは,被告ジョウズと被告アンカーには資本関係がなく,取扱製品 も異なる上,代表取締役自らが営業等を行っている会社は多数存在し,商\n品開発において他社と協力することも通常の事業活動にすぎないので,被 告らに相互に相手方の役割等を認識し,これを利用する意思はなかったと 主張する。
しかし,両社はいずれもAnkerグループに属する法人であり,被告 ジョウズの設立時の代表者と被告アンカーの代表\者は同一である上,被告 ジョウズは本店所在地のオフィスの利用契約上の地位を被告アンカーか ら譲り受けるなど,両社には密接な人的及び物的な関係があることは前記 判示のとおりである。また,被告ジョウズの実態などを考慮すると,被告 アンカーが返品処理業務やマーケティングなど一部の業務を受託してい たにとどまらず,被告製品の販売等に関する業務を被告ジョウズと共同し て行っていたと評価し得ることも上記のとおりである。 したがって,被告らの上記主張は理由がない。
(4) 以上によれば,被告アンカーは,被告ジョウズと共同して,被告製品の販 売,輸入及び販売の申出をしてきたと認められる。\n

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関連事件です。

◆令和1(行ケ)10174

下記はアップされていません。 令和1年(ワ)20075特許権侵害差止請求事件

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令和2(行ケ)10132  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年8月31日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決について、裁判所は予測できない効果ではないとして、これを取り消しました。\n

 発明の効果が予測できない顕著なものであるかについては,当該発明の\n特許要件判断の基準日当時,当該発明の構成が奏するものとして当業者が\n予測することのできなかったものか否か,当該構\成から当業者が予測する\nことのできた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点か ら検討する必要がある(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年 8月27日第三小法廷判決・集民262号51頁参照)。もっとも,当該発 明の構成のみから予\測できない顕著な効果が認められるか否かを判断す ることは困難であるから,当該発明の構成に近い構\成を有するものとして 選択された引用発明の奏する効果や技術水準において達成されていた同 種の効果を参酌することは許されると解される。 前示のとおり,本件発明の構成は容易想到であるが,これに対し,被告\nは,前記第3の3(2)イのとおり,本件発明は,本件3条件を全て満たす患 者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本件条件(4) を満たす患者に対する副作用発現率と血清カルシウムに関する安全性が 腎機能が正常である患者に対する安全性と同等であるという効果(以下\n「効果2)」という。)及び3)BMD増加率が低くてもより低い骨折相対リス クが得られるとの効果(以下「効果3)」という。)を奏し,これらの効果は, 当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するものである\n旨主張する。 以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折 の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり, 骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから, 当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して いることは,当業者において容易に理解できる。 b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ ラセボの骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を指すも のであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満たす患 者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本件3条 件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対する骨 折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折 抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位 週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。
ここで,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位 週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年2月15 日付け被告第1準備書面32頁における再解析の数値による。)につい て,それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また, 椎体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1 人の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが, 症例数が不足していることによることを否定できない。このように, 低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び 椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生 率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数 を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑 制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して, 前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。 したがって,実施例 1 をみても,高リスク患者に対するPTHの骨 折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高 いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他 の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低 リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理 解することはできず,ましてや,200単位週1回投与群に関し,高 リスク患者における骨折発生抑制が,低リスク患者における骨折発生 抑制よりも優れていると結論付けることはできない。 以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい うべきである。

◆判決本文

当事者が同じ分割出願についての関連事件です。審決取り消しです。

◆令和2(行ケ)10056

こちらは審決維持です。

◆令和2(行ケ)10004

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平成28(行ケ)10257  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年10月19日  知的財産高等裁判所

 漏れていたので追加します。補正は新規事項であるとした審決が維持されました。

原告は,本件発明特定事項の機能Aは,当業者によって,本件明細書の\n段落【0117】,段落【0118】,段落【0120】及び段落【0143】な どの記載を総合することにより導かれると主張する。
しかし,段落【0117】は,ウェブサーバから画像データファイル をダウンロードすることについての記載ではなく,ウェブページを閲覧する場合 についての記載であり,同段落の「ページ画像」とは,ウェブページをブラウザで 表示した画像であって,画像データをデータファイルとしてダウンロードする場合\nに関する記載ということはできない。 また,同段落には,閲覧しているウェブページがLCDパネル15Aの画面水平 解像度よりも広い固定幅レイアウトを採用する場合に,中央演算回路1_10A1 が,その固定幅と同じ水平画素数を有するページ画像の描画命令を生成し,VRA M1_10Cに書き込むとともに,グラフィックコントローラ1_10Bが,LCD パネル15Aの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータを切 り出してLCDドライバ15Bに送信することが記載されているが,「その結果と して,LCDパネル15Aにおいてページ画像がスクロール表示される。」のであ\nり,LCDドライバ15Bに送信される信号は,画像の一部分に対応するビットマ ップデータの信号であるから,この場合には,本来解像度がディスプレイパネルの 画面解像度より大きい画像から,ディスプレイパネルの画面解像度と同じ画像への 解像度の変更が行われているということはできない。 次に,段落【0118】に記載されている事項は,携帯電話機1がテレビ番組の 視聴用に使用される場合のグラフィックコントローラ1_10BやVRAM1_10 C等の機能であり,携帯電話機1により表\示される「画像」は,テレビ受信用アン テナ112Aで受信した「テレビ番組の画像」であるから,画像データをデータフ ァイルとしてダウンロードする場合とは異なるというべきである。 そして,段落【0143】には,段落【0117】,【0118】に記載されてい るような,ウェブページの閲覧やテレビ動画の表示の場合との関連性を示唆する記\n載はない上,段落【0143】の記載は前記のとおりであって,画像データファイ ルの解像度を変更することなく表示することが記載されているから,段落【014\n3】の記載に接した当業者が,その記載を段落【0117】,段落【0118】の記 載と関連付けて,ウェブサーバから画像データファイルをダウンロードして画像を 表示する場合に画像ファイルの解像度を変更することが記載されていると理解する\nとは考えられない。
(イ) 段落【0120】には,「デジタル音声信号及び/又はデジタル動画 信号をデータファイルに変換して保存したり,該保存したデータファイルを読み出 して必要な処理を行う」,「画像データファイル及び/又は音声データファイルは, ウェブサイトにアクセスし,・・・受信・変換されたデジタル信号を,バス19経由で 中央演算回路1_10A1が受信し,必要な変換を行ってフラッシュメモリ14A に書き込むことによっても保存することができる。」との記載があるが,段落【01 20】には,受信した「デジタル音声信号及び/又はデジタル動画信号」を携帯電 話1においてデータファイルに変換して保存したり,それを読み出して再生する ことが記載されているにすぎず,この記載と前記のような内容の段落【0143】 の記載を併せて見たとしても,当業者が,ウェブサーバから本来解像度が携帯電話 機のディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データファイルをダウンロー ドして画像を表示する場合に,VRAMからディスプレイパネルの画面解像度と同\nじ解像度を有する画像のビットマップデータを読み出し,読み出したビットマップ データを伝達するデジタル表示信号を生成し,これをディスプレイ制御手段に送信\nする機能を想起するとは考えられない。\n
(ウ) そうすると,原告の主張する本件明細書の各記載を総合しても,訂 正事項7に係る「前記ウェブサーバから「本来解像度がディスプレイパネルの画面 解像度より大きい画像データファイル」をダウンロードして画像を表示する場合\nに,前記VRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有す る画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出されたビットマップデータ を伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表\示信号を前記ディスプレイ 制御手段に送信する機能」が導かれるとは認められず,本件明細書には他に同機能\ の実現についての記載又は示唆は存在しない。

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平成25(行ケ)10346  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年10月9日  知的財産高等裁判所

 漏れていたので追加します。明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして、審決が取り消されました。\n

 本件特許明細書には,【0041】に,中立線 を残して,その両側に溝を形成し,音叉腕の中立線を含めた部分幅W7は 0.05mmより小さく,また,各々の溝の幅は0.04mmより小さくな るように構成する態様,及び,このような構\成により,M1をMnより大きく することができることが記載されている。また,【0043】には,溝が中 立線を挟む(含む)ように音叉腕に設けられている第1実施例〜第4実施例 の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動で の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さくなるように構成\nされていること,及び,このような構成により,同じ負荷容量CLの変化に\n対して,基本波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が2次高調波 モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きくなることが記載さ れている。 しかし,上記【0041】と【0043】の各記載に係る構成の態様は,\nそれぞれ独立したものであるから,そこに記載されているのは,各々独立し た技術的事項であって,これらの記載を併せて,本件追加事項,すなわち, 「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmよ り小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成され た場合において,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の 容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高 調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい」という事項が記載 されているということはできない。また,その他,本件特許明細書等の全て においても,本件追加事項について記載はないし,本件追加事項が自明の技 術的事項であるということもできない。 そうすると,本件追加事項の追加は,本件特許明細書等の全ての記載を総 合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項 を導入するものというべきである。

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令和1(ワ)30991 特許権侵害差止等請求事件 令和3年3月30日 東京地方裁判所

 漏れていたので追加します。特許侵害事件において、明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして権利行使不能\と判断されました。
なお、原告の査証命令申立てについては却下されました。\n 

 前記(2)に説示したとおり,前記第2の1(4)アの出願当初の請求項1及び 2の記載からすれば,本件特許に係る特許出願当初の請求項1及び2の記載 は,HFO−1234yfに対する「追加の化合物」を多数列挙し,あるい は当該「追加の化合物」に「約1重量パーセント未満」という限定を付すに とどまり,上記のとおり多数列挙された化合物の中から,特定の化合物の組 合せ(HFO−1234yfに,HFO−1243zfとHFC−245c bとを組み合わせること)を具体的に記載するものではなかったというべき である。
しかして,上記(3)の当初明細書の各記載について見ても,特許出願の当 初の請求項1と同一の内容が記載され(【0004】),新たな低地球温暖化 係数(GWP)の化合物であるHFO−1234yf等を調製する際に,H FO−1234yf又はその原料(HCFC−243db,HCFO−12 33xf,及びHCFC−244bb)に含まれる不純物や副生成物が特定 の「追加の化合物」として少量存在することが記載されており(【0003】, 【0016】,【0019】,【0022】),具体的には,HFO−1234y fを作製するプロセスにおいて,有用な組成物(原料)がHCFC−243 db,HCFO−1233xfおよび/またはHCFC−244bbである ことが記載され(【0005】),HCFC−243db,HCFO−123 3xf及びHCFC−244bbに追加的に含まれ得る化合物が多数列挙さ れてはいる(【0006】ないし【0008】)ものの,そのような記載にと どまっているものである。
そして他方,当初明細書においては,そもそもHFO−1234yfに対 する「追加の化合物」として,多数列挙された化合物の中から特に,HFO −1243zfとHFC−245cbという特定の組合せを選択することは 何ら記載されていない。この点,当初明細書においては,HFO−1234 yf,HFO−1243zf,HFC−245cbは,それぞれ個別に記載 されてはいるが,特定の3種類の化合物の組合せとして記載されているもの ではなく,当該特定の3種類の化合物の組合せが必然である根拠が記載され ているものでもない。また,表6(実施例16)については,8種類の化合\n物及び「未知」の成分が記載されているが,そのうちの「245cb」と 「1234yf」に着目する理由は,当初明細書には記載されていない。さ らに,当初明細書には,特許出願当初の請求項1に列記されているように, 表6に記載されていない化合物が多数記載されている。それにもかかわらず,\nその中から特にHFO−1243zfだけを選び出し,HFC−245cb 及びHFO−1234yfと組み合わせて,3種類の化合物を組み合わせた 構成とすることについては,当業者においてそのような構\成を導き出す動機 付けとなる記載が必要と考えられるところ,そのような記載は存するとは認 められない(なお,本件特許につき,優先権主張がされた日から特許出願時 までの間に,上記各説示と異なる趣旨の開示がされていたことを認めるに足 りる証拠はない。)。
これらに照らせば,当業者によって,当初明細書,特許請求の範囲又は図 面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項としては,低地球 温暖化係数(GWP)の化合物であるHFO−1234yfを調製する際に, HFO−1234yf又はその原料(HCFC−243db,HCFO−1 233xf,及びHCFC−244bb)に含まれる不純物や副反応物が特 定の「追加の化合物」として少量存在する,という点にとどまるものという ほかなく,その開示は,発明というよりはいわば発見に等しいような性質の ものとみざるを得ないものである。そして,当初明細書等の記載から導かれ る技術的事項が,このような性質のものにすぎない場合において,多数の化 合物が列記されている中から特定の3種類の化合物の組合せに限定した構成\nに補正(本件補正)することは,前記のとおり,そのような特定の組合せを 導き出す技術的意義を理解するに足りる記載が当初明細書等に一切見当たら ないことに鑑み,当初明細書等とは異質の新たな技術的事項を導入するもの と評価せざるを得ない。したがって,本件補正は,当初明細書等の記載から 導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したもので あるというほかない。
以上によれば,本件補正は「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範 囲又は図面に記載した事項の範囲内」においてしたものということはできず, 特許法17条の2第3項の補正要件に違反してされたものというほかなく, 本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められ(特許法 123条1項1号),同法104条の3第1項により,特許権者たる原告は, 被告に対しその権利を行使することができないこととなる。
・・・
原告は,令和2年10月19日,原告主張製品のうち,被告から原告に対 し販売された最終製品以外のものに含まれるHFO−1234yf,HFO −1243zf,HFC−245cb及びHFO1234zeの含有量を立 証すべき事項として,査証命令の申立てをした(当庁令和2年(モ)第267 4号)。
(2) しかしながら,前記のとおり,本件特許は特許無効審判により無効にされ るべきものと認められるのであって,原告主張製品であれ,被告主張製品で あれ,対象製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かを問わず,原告は被 告に対し,本件特許権を行使することができないものである。そうすると, 当裁判所としては,本件訴訟において,原告の請求に理由があるかを判断す るために,上記の立証すべき事項たる事実を判断する必要がないものといわ ざるを得ず,ひいては,同事実を判断するため,上記査証命令申立てにより\n得られる証拠を取り調べることが必要であるとも認められない。 以上によれば,上記査証命令の申立ては,必要でない証拠の収集を求める\nものであり,その必要性を欠くものというべきであるから,原告の上記査証 命令申立ては,これを却下することとする。\n

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令和2(行ケ)10126  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年8月30日  知的財産高等裁判所

 音商標「マツモトキヨシ」について、商標法4条1項8号に該当するとした拒絶審決が取り消されました。

 本願商標の商標法4条1項8号該当性について
原告は,1)本願商標の出願当時,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」\nという言語的要素からなる音から,通常,容易に連想,想起するのは,ドラ ッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」又は企業名としての株式会社 マツモトキヨシ,株式会社マツモトキヨシホールディングス(原告)であっ て,「マツモトキヨシ」と読まれる人の氏名であるとはいえないから,本願 商標を構成する「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音は,「マツ\nモトキヨシ」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものではない, 2)したがって,本願商標は,「他人の氏名」を含む商標であるとはいえない から,本願商標が商標法4条1項8号に該当するとした本件審決の判断は誤 りである旨主張するので,以下において判断する。
(1)商標法4条1項8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称 等を含む商標は,その承諾を得ているものを除き,商標登録を受けること ができないと規定した趣旨は,人は,自らの承諾なしに,その氏名,名称 等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにある ものと解される(最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日 第三小法廷判決・裁判集民事214号373頁,最高裁平成16年(行ヒ) 第343号同17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号59 5頁参照)。 このような同号の趣旨に照らせば,音商標を構成する音が,一般に人の\n氏名を指し示すものとして認識される場合には,当該音商標は,「他人の 氏名」を含む商標として,その承諾を得ているものを除き,同号により商 標登録を受けることができないと解される。 また,同号は,出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名,名称等に 係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定であり,音商標を構成する音と同\n一の称呼の氏名の者が存在するとしても,当該音が一般に人の氏名を指し 示すものとして認識されない場合にまで,他人の氏名に係る人格的利益を 常に優先させることを規定したものと解することはできない。 そうすると,音商標を構成する音と同一の称呼の氏名の者が存在すると\nしても,取引の実情に照らし,商標登録出願時において,音商標に接した 者が,普通は,音商標を構成する音から人の氏名を連想,想起するものと\n認められないときは,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識 されるものといえないから,当該音商標は,同号の「他人の氏名」を含む 商標に当たるものと認めることはできないというべきである。
(2)ア これを本願商標についてみるに,前記2の認定事実によれば,1)株式 会社マツモトキヨシが昭和62年にドラッグストア「マツモトキヨシ」 の店舗展開を開始した後,平成29年1月30日に本願の出願がされる までの約30年以上にわたり,株式会社マツモトキヨシ,原告及び原告 のグループ会社が,「マツモトキヨシ」の表示をドラッグストアの店名\n又は自己の企業名として継続して使用したこと,2)同年3月31日現在 で,ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店舗数は,全国45都道府県 で1555店舗,原告のグループ会社のメンバーズカード(ポイントカ ード)の会員数は約2440万人に達しており,また,「マツモトキヨ シ」のブランドは,インターブランド社による2016年度及び201 7年度のブランド価値評価ランキングでドラッグストアとして日本で ナンバーワンブランドの評価を獲得したこと,3)平成8年から開始され たドラッグストア「マツモトキヨシ」のテレビコマーシャルでは,女性 又は男性の声の音色,複数の声の斉唱で本願商標と同一又は類似の音を フレーズに含むコマーシャルソングが相当数使用され,テレビコマーシ\nャルが放映された以降においても,本願商標と同一又は類似の音がドラ ッグストア「マツモトキヨシ」の各小売店の店舗内において使用されて いたことが認められる。 これらの認定事実によれば,本願商標に関する取引の実情として,「マ ツモトキヨシ」の表示は,本願商標の出願当時(出願日平成29年1月\n30日),ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店名や株式会社マツモ トキヨシ,原告又は原告のグループ会社を示すものとして全国的に著名 であったこと,「マツモトキヨシ」という言語的要素を含む本願商標と 同一又は類似の音は,テレビコマーシャル及びドラッグストア「マツモ トキヨシ」の各小売店の店舗内において使用された結果,ドラッグスト ア「マツモトキヨシ」の広告宣伝(CMソングのフレーズ)として広く\n知られていたことが認められる。
イ 前記アの取引の実情の下においては,本願商標の登録出願当時(出願 日平成29年1月30日),本願商標に接した者が,本願商標の構成中\nの「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音から,通常,容易に 連想,想起するのは,ドラッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」, 企業名としての株式会社マツモトキヨシ,原告又は原告のグループ会社 であって,普通は,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本 潔」,「松本清司」等の人の氏名を連想,想起するものと認められない から,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識されるものと はいえない。 したがって,本願商標は,商標法4条1項8号の「他人の氏名」を含 む商標に当たるものと認めることはできないというべきである。
(3)ア これに対し被告は,1)ウェブサイト(乙4ないし7)には,原告とは 他人の「松本清」,「松本潔」,「松本清司」等の氏名表示のひとつと\nして,「マツモトキヨシ」の片仮名が表記されており,かつ,これらの\n者は,現存していると推認できること,各地域のハローページ(乙8な いし19)には,「マツモトキヨシ」と読まれる人の氏名として,原告 とは他人の「松本清」,「松本潔」等が掲載されており,かつ,これら の者は,いずれも本願商標の登録出願時から現在まで存在している者で あると推認できること,氏名を片仮名表記することは,各種の商取引に\nおいて,社会一般に行われていること(乙20ないし28)からすると, 本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音は,\n「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本潔」,「松本清司」 等の人の氏名を容易に連想,想起させるものであり,「マツモトキヨシ」 と読まれる人の氏名として客観的に把握されるものである,2)原告の提 出に係るテレビコマーシャルに関する証拠からは,当該テレビコマーシ ャルの規模が明らかでなく,平成19年以降の放映も確認できないから, 当該テレビコマーシャルが本願商標の音を聞いた者の認識に与える影 響は限定的であること,当該テレビコマーシャルを視聴した者は,視覚 的要素とともに「マツモトキヨシ」の言語的要素からなる音を聴取,把 握し,記憶するものといえるので,当該テレビコマーシャルは,本願商 標に接した者が,「マツモトキヨシ」の言語的要素からなる音を,マツ モトを姓とし,キヨシを名とする人の氏名であると認識することなく, 店舗名又は企業名としてのみ認識することの根拠たり得ないこと,原告 の挙げるブランド価値ランキングは,本願商標の音を聞いた者の認識を 直接反映したものとはいい難く,このほか,「マツモトキヨシ」という 言語的要素からなる音がドラッグストアの店名又は企業名としてのみ 認識されることを裏付ける証拠はないことからすると,1)のとおり,上 記言語的要素からなる音が,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」, 「松本潔」,「松本清司」等の人の氏名として客観的に把握されること を否定することはできないとして,本願商標は,商標法4条1項8号の 「他人の氏名」を含む商標に当たる旨主張する。 しかしながら,前記(2)ア認定のとおり,「マツモトキヨシ」の表\n示は,本願商標の出願当時,ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店名 や株式会社マツモトキヨシ,原告又は原告のグループ会社を示すものと して全国的に著名であり,「マツモトキヨシ」という言語的要素を含む 本願商標と同一又は類似の音は,テレビコマーシャル及びドラッグスト ア「マツモトキヨシ」の各小売店の店舗内において使用された結果,ド ラッグストア「マツモトキヨシ」の広告宣伝(CMソングのフレーズ)\nとして広く知られていたという取引の実情を踏まえると,本願商標に接 した者が,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要素か\nらなる音から,通常,容易に連想,想起するのは,ドラッグストアの店 名としての「マツモトキヨシ」,企業名としての株式会社マツモトキヨ シ又は原告のグループ企業であって,普通は,「マツモトキヨシ」と読 まれる「松本清」,「松本潔」,「松本清司」等の人の氏名を連想,想 起するものと認められない。
また,甲43によれば,上記テレビコマーシャルの規模は首都圏を中心 にドラッグストア「マツモトキヨシ」の出店のある全国の地域に及んでい たことが認められる上,上記テレビコマーシャルの放映後も,上記テレビ コマーシャルで使用された本願商標と同一又は類似の音がドラッグスト ア「マツモトキヨシ」の各小売店の店舗内で使用されていたものと認めら れるから,当該テレビコマーシャルが本願商標を聞いた者の認識に与える 影響が限定的であるということはできないし,上記テレビコマーシャルが 視覚的要素を伴うことも,上記認定を左右するものではない。 さらに,前記(1)で説示したとおり,同号は,出願人の商標登録を受 ける利益と他人の氏名,名称等に係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定 であり,当該音が一般に人の氏名を指し示すものとして認識されない場合 にまで,他人の氏名に係る人格的利益を常に優先させることを規定したも のと解することはできないことに鑑みると,本願商標に接した者が,「マツ モトキヨシ」の言語的要素からなる音をドラッグストアの店名又は企業名 としてのみ認識することがない以上は,本願商標が同号の「他人の氏名」 を含む商標に該当するとの解釈は妥当とはいえない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イ 次に,被告は,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要\n素からなる音が,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本潔」,「松 本清司」等の人の氏名として客観的に把握され,本願商標は「他人の氏名」 を含む商標である以上,商標法4条1項8号の趣旨に照らせば,上記言語 的要素からなる音が,原告又は株式会社マツモトキヨシが経営するドラッ グストアを指し示すものとして一定程度知られていることや,特定の者の 略称として一定の著名性を有することは,本願商標の同号該当性を左右す るものではない旨主張する。 しかしながら,前記アで説示したとおり,本願商標は「他人の氏名」を 含む商標であるとはいえないから,被告の上記主張は,その前提を欠くも のであり,採用することができない。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10031  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年8月19日  知的財産高等裁判所

 本件商標 HIRUDOSOFT(標準文字)について、先行商標「Hirudoid」、商標「ヒルドイド」に対して、類似または混同が生ずるかが争われました(4条1項11号、同15号違反)。知財高裁(4部)は、無効理由無しとした審決を維持しました。

前記2(1)のとおり,本件商標と引用商標1及び2は,外観及び称呼にお いて明らかに相違するものであるから,引用商標と同一又は類似である原 告使用商標も,本件商標とは非類似の商標であるといえる。
もっとも,本件商標が原告商標と非類似の商標であっても,その商品の 出所について混同を生じるおそれがある商標については,商標法4条1項 15号に規定する商標に当たる余地もあり得るので,以下,念のためこの 点についても検討する。
イ 前記2(1)アのとおり,本件商標の取引者及び需要者は,先発医薬品につ いては,医師,薬剤師等の医療関係者であり,一般用医薬品及び医薬部外 品については,薬剤師等のほか,一般消費者も含まれることになる。 そして,仮に原告使用商標が周知著名であるとしても,原告使用商標は 「Hirudoid」又は「ヒルドイド」として認知されているのであっ て,「Hirudo」又は「ヒルド」として認知されているわけではなく, また,本件全証拠を精査しても,薬剤の取引の分野において,販売名の語 頭3文字に略して取引されているといった取引の実情を認めるに足りる 証拠はないことからすると,一般消費者を含む取引者及び需要者において 普通に払われる注意力を基準としても,本件商標を付した一般用医薬品又 医薬部外品について,原告が製造販売したものであり,又は原告と経済的 若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの ようにその商品の出所について混同を生じる恐れがあるものと認めるこ とはできない。 なお,前示のとおり,本件商標は先発医薬品にも使用されることもあり 得るところ,その取引者及び需要者は,医療関係従事者であり,薬効も原 告使用商標に付される原告商品と異なるものであるから,その商品の出所 について混同を生じるおそれがあるといえないことはなおさら明らかで ある。

◆判決本文

こちらは関連事件です。「ヒルドソフト」(標準文字)と仮名表\示となった商標です。

◆令和3(行ケ)10030

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令和2(行ケ)10115 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年6月24日  知的財産高等裁判所

 阻害要因ありとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。

 甲1には,請求項1に「任意の形状の中央ハンドル」との記載があり,発 明の詳細な説明中に,ユーザが握る中央ハンドルは「球,あるいは他のあら ゆる任意の形状とすることが可能である。」と記載があることから,長尺状の\nハンドルを排除するものではないと理解することはできる。しかし,「球,あ るいは他のあらゆる任意の形状とすることが可能である。」との記載ぶりか\nらすれば,まずは「球」が念頭に置かれていると理解するのが自然であり, しかも甲1の添付図(FIG.1,FIG.2)は,いずれも器具の正面図 であり,実施例を表すとされているが,そこに描かれたハンドルの形状や全\n体のバランスに照らして,球状のハンドルが開示されているとしか理解でき ないものである。 また,甲1には,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握 り,これを傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を\n皮膚に当てて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転するこ とにより,球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集め て皮膚に沿って動き,引っ張る代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿っ た動きによって皮膚が引き伸ばされることが開示されているところ,こうし た2つの球がハンドルに2つの軸に固定され,2つの軸が70〜100度を なす角度で調整された甲1発明において,球が進行方向に対して非垂直な軸 で回転し,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿った動きをさ せるためには,ハンドルを進行方向に向かって倒す方向に傾けることが前提 となる。
ハンドルが球状のものであれば,後述するハンドルの周囲に軸で4個の球 を固定した場合を含めて,把持したハンドル(1)の角度を適宜調整して進行方 向に向かって倒す方向に傾けることが可能である。しかし,ハンドルを長尺\n状のものとし,その先端部に2つの球を支持する構成とすると,球状のハン\nドルと比較して傾けられる角度に制約があるために進行方向に傾けて引っ張 る際にハンドルの把持部と肌が干渉して操作性に支障が生じかねず,こうし た操作性を解消するために長尺状の形状を改良する(例えば,本件発明のよ うに,ボールの軸線をハンドルの中心軸に対して前傾させて構成させる(相\n違点3の構成)。)必要が更に生じることになる。そうすると,甲1の中央ハ\nンドルを球に限らず「任意の形状」とすることが可能であるとの開示がある\nといっても,甲1発明の中央ハンドルをあえて長尺状のものとする動機付け があるとはいえない。 また,甲1においては,「マッサージする面に適合させるために,より大き な直径を持つ1つまたは2つの追加球をハンドルが受容可能である」形態も\n開示されており,FIG.2には,小さい直径の球(2)を2つ,大きな直径球
(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された図が開示されている。 このような実施例において,ハンドル(1)を球状から長尺状とすると,前記の とおり,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握り,これを 傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を皮膚に当て\nて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転することにより, 球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿 って動き,引っ張る代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿った動きによ って皮膚が引き伸ばされるとの作用効果を生じるところ,例えば,大きい球 (3)を皮膚に当てることを想定し,長尺状のハンドルを中心軸に前傾させて構\n成させると,小さい球(2)を皮膚に当てるときには,ハンドルを進行方向に対 して傾けて小さい球(2)の球を引っ張ることができなくなる。したがって,こ うした点からすると,甲1のハンドル(1)を長尺状のものとすることには,む しろ阻害要因があるといえる。
(2) これに対し,被告は,1)甲1のFIG.1の正面図は,ハンドルが円形で 図示されているが,ハンドルが円柱状(長尺状)の形状であるとしても整合 する,2)同FIG.2においては,4つの球をハンドルに取り付けて,皮膚 が吸引される使用方法が記載されており,こうした使用方法を前提とすると, ハンドルが長尺状であればローラ(球)と接触することなくハンドルを握る ことができるから,ハンドルの形状は,球体と理解するよりも長尺状(円柱 状)のハンドルと理解するのが自然である旨主張する。 しかし,正面図であるFIG.1やFIG.2において図示されている円 形が球状ではなく円柱状(長尺状)の形状を示すものと理解することが困難 なことは,前記(1)において判示したところから明らかである。また,4つの 球をハンドルに取り付けて使用する形態であっても,FIG.2の実施例の 記載によると,使用されるのは2つの球であり,ハンドルを把持する際には 軸を避けて指でハンドルを把持すれば足り,ハンドルを長尺状(円柱状)の ハンドルと解するのが自然であるともいえず,かえって,上記のとおりハン ドルを長尺状とすることについては阻害要因があるというべきである。そう すると,甲1の実施例(FIG.1,FIG.2)には球状のものしか開示 されていないと認められ,被告の上記主張は採用し得ない。 また,被告は,甲1において,ハンドル(1)は,握って引っ張るものである という使用方法が明記され,ハンドルの形状としてあらゆる任意の形状とす ることができると記載されているのであるから,当然ながら握りやすい長尺 状の形状が想定された形状であり,甲1発明のハンドルは,握って傾けなが ら引っ張るものであるから,ハンドルの先端部に球を設けることは当業者で あれば容易に想到するものであるから,本件審決の判断に誤りはない旨主張 する。
しかし,たとえハンドルを球に限らず任意の形状とすることは可能である\nとしても,甲1発明の球状のハンドルを長尺状のものとした場合における操 作性の問題があることから,球状の実施形態しか開示されていない甲1発明 の中央ハンドルを長尺状のものとする動機付けがあるとはいえないことは前 記(1)のとおりであり,一般的に長尺状のハンドルが握りやすいものであると いえたとしても,そのことは結論を左右し得ない。また,小さい球(2)を2つ, 大きい球(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された場合に,ハン ドル(1)を長尺状とすると,甲1発明の作用効果との関係でその操作に支障が 生じることから,甲1発明のハンドル(1)を長尺状のものとすることにはむし ろ阻害要因があることも前記(1)のとおりである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3) そうすると,甲1発明のハンドルが長尺状のハンドルを排除するものでは ないとして,当業者が長尺状のハンドルを容易に想起し得るものとはいえな いし,ましてや,長尺状のハンドルが甲1に記載されたに等しい事項である と認めることはできないから,甲1発明のハンドルには長尺状のものが含ま れ,長尺状のハンドルが甲1の1に記載されたに等しい事項であることを前 提として,相違点1については,ハンドルを長尺状のものとした場合には, 一対の回転可能な球を先端部に配置することは甲1発明,又は甲1発明及び\n周知技術1に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものであり,また, 相違点3については実質的な相違点にならないとした本件審決の判断は誤り というほかない。

◆判決本文

こちらは審決の判断維持ですが無効理由なしとの審決が維持されています。 原告・被告が入れ替わってます

◆令和2(行ケ)10045

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令和2(行ケ)10148  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年6月16日  知的財産高等裁判所

 図形と文字の結合商標について、同じ文字構成の先願既登録商標が存在するして、拒絶された審決の取消訴訟で、知財高裁は審決の判断を維持しました。本件商標は、カンガルーをモチーフとしたと思われる図形部分と,その下に「KANGOL」と横書きされた欧文字部分で構\成されてました。指定役務は「洋服・コート・セーター類・ワイシャツ類・・・,寝巻き類・下着・水泳着・水泳帽の小売など・・・」のファッション分野の小売りなどです。先行登録商標は、「KANGOL」の文字を標準文字で表し,指定役務が「帽子の小売等・・・」ですが、小売りサービスとしては同じ35K02の類似群コードが付与されています。

ア 本願商標
(ア) 本願商標は,カンガルーをモチーフとしたと思われる図形部分と, その下に「KANGOL」と横書きされた欧文字部分からなる。
(イ) 上記の図形は,その形状からすれば,カンガルーをモチーフとした 図形であると認識され得るものといえるが,やや抽象化された図形であ ることからすれば,同図形部分から特定の称呼や観念が生じるものとま ではいえない。また,上記の欧文字は,一般的な辞書等に掲載されてい る語ではなく,特段の図案化もされていないことからすれば,同欧文字 部分から特定の観念が生じるものとはいえない。 そうすると,上記の図形部分及び欧文字部分には観念上のつながりが あるとはいえないところ,本願商標全体の構成からすると,同各部分は,\n視覚上分離して看取されるものであって,分離して観察することが取引 上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないか ら,それぞれが要部として認識されるものといえる。
(ウ) そして,上記の欧文字部分についてみるに,同部分からは「KAN GOL」の欧文字に相応して「カンゴール」の称呼が生じるが,特定の 観念は生じないといえる。
イ 引用商標
引用商標は,「KANGOL」の欧文字を標準文字で表したものであると\nころ,本願商標の欧文字部分と同様に,引用商標からは「カンゴール」の 称呼が生じるが,特定の観念は生じないといえる。
ウ 類否判断 上記ア及びイを基に,本願商標の要部である「KANGOL」の欧文字 部分と引用商標とを比較すると,両者は,観念を比較することはできない ものの,欧文字のつづりが同じである上,本願商標の欧文字部分について 特段の図案化はされていないから,外観が極めて類似するものといえる。 また,両者からはいずれも「カンゴール」の称呼が生じるから,両者は称 呼を共通にするものといえる。 以上の事情を総合して全体的に考察すれば,本願商標の要部である「K ANGOL」の欧文字部分及び引用商標については,これらが同一又は類 似の商品又は役務に使用された場合には,その商品又は役務の出所につき 誤認混同を生ずるおそれがあるといえる。
・・・・
上記ア及びイで検討したとおり,本願指定役務及び引用指定役務は,い ずれも衣類を中心とするファッション商品を取扱商品とするものである 上,これらの取扱商品が通信販売ウェブサイトにおいて販売されるなどし ている実情があることからすれば,いずれも一般需要者を広く対象とする ものといえる。また,上記イ(ア)ないし(エ)及び(コ)によれば,特定のブ ランドが付された両役務の取扱商品を,同一の小売業者から購入する需要 者は少なくないと考えられる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務は,需要者 の範囲が一致するものといえる。
エ 類否判断
上記アないしウで検討したところによれば,本願指定役務及び引用指定 役務は,具体的な取扱商品は異なるものの,いずれも衣類を中心とするフ ァッション商品を取扱商品とする点において共通するほか,役務を提供す る手段,目的及び業種が共通するものといえる。また,両役務は,役務を 提供する場所が共通する場合があるほか,需要者の範囲が一致するものと いえる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務については, これらの役務に同一又は類似の商標を使用する場合には,同一営業主の提 供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるといえ る。

◆判決本文

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令和2(行ケ)10057  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年7月8日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。

 前記(1)のとおり,相違点2は,相違点21)及び相違点23)により構成さ\nれるべきものである。本件審決は,相違点21)は容易に想到できるとして おり(当裁判所としてもその結論を是認できる。),原告は,相違点23)の 容易想到性を否定した本件審決の判断を争っている。
イ 相違点23)の容易想到性
(ア) 相違点23)は,「『フレームと床との間に介護者又は患者の足が存在 しても,挟み込みが生じないように』,下降スイッチが押し状態であって もフレームをいったん停止させ,『ブザーを鳴らして警報』すること」で ある。
原告は,前記第3の2(1)イ(イ)のとおり,「フレームと床との間に,介 護者又は患者の足が存在しても,挟み込みが生じないように」との点が 用途による限定を付すものであり発明の構成とはならないから,相違点\nを構成することもない旨主張するが,上記特定事項は,フレームが停止\nする高さを何に基づいて決定するかを特定するものであるから,発明を 構成する部分であり,その主張は失当である。したがって,本件訂正発\n明1が用途発明になることもない。 そうすると,同(2)イ(ア)の被告の主張につき判断するまでもなく,原 告の上記主張はいずれにせよ採用することができない。 (イ)a 前記第2の3(2)アのとおり,甲1発明における下方中間位置は患 者支持面が床から約14インチ(約356mm)の高さであり,同最 下位置は患者支持面が床から約8インチ(約203mm)の高さであ るところ,下方中間位置から最下位置に153mm下降できるという ことは,少なくともフレームの下端が床から153mm以上離れてい なければならないから,下方中間位置でのメインフレーム12の床か らの高さは153mmよりは高いことになる。 ここで,甲2技術事項に係る別紙3の記載によると,足が届く範囲 の可動部と床面との間に120mm以上の寸法があれば,足を挟み込 む危険がないものと理解される。 そうすると,甲1発明における下方中間位置でのメインフレーム1 2の床からの高さは,本件訂正発明1の「介護者又は患者の足が存在 しても,挟み込み等が生じないような高さ」(本件訂正明細書【002 1】)であるといえ,また,甲1発明の最下位置は「床に近接して配置 される」ものであり(甲1[0011],FIG−4),足が挟み込まれ る高さであることは明らかであるから,最下位置に向けて下降する下 方中間位置は「これ以上フレーム1が下降すると,足を挟み込んでし まうような高さ」(本件訂正明細書【0021】)である。 そして,甲1には,「磁石112のホール効果センサ118に隣接し た配置までの移動は,下方中間位置でのベッド10の位置付けに相当 し,磁石112のホール効果センサ116に隣接した配置までの移動 は,上方中間位置でのベッド10の位置付けに相当する。」([0036]) との記載があり,そして,甲1発明の管部110は,軸受部材108 に摺動接触して支持された状態でねじ式リニアアクチュータ98のね じ120に対して直線移動で駆動できるよう構成されており,磁石1\n12は,水平移動に当たり必ずホール効果センサ118及び116に 隣接した位置を通るから,甲1発明のベッドは,必ずフレームが下降 する際に上方中間位置及び下方中間位置で自動的に下降を停止するベ ッドである。
b ここで,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に,\n人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよう下降を停止させるこ とは当業者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる (甲4の【請求項1】,【0003】,甲21の【請求項1】,【0003】, 【0005】参照)。 そして,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に\n人体が挟み込まれないよう警告音で周囲に異常を知らせることも当業 者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる(甲4の 【0014】,【0010】,甲21の【0014】,【0010】参照)。 c そうすると,上記aのように,介護者又は患者の足が存在しても, 足の挟み込みが生じないような下方中間位置においてフレームの下降 は停止するが,それ以上フレームが下降すれば介護者又は患者の足が 挟み込まれてしまうことになる甲1発明に接した場合,昇降機能を有\nするベッドにおいて,人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよ うにベッドの下降を停止するとの周知技術に従い,その下降を停止す る高さを「前記フレームと床との間に,介護者又は患者の足が存在し ても,挟み込みが生じないよう」な意図で設定し,この際,警告音で フレームと床との間に人体が挟み込まれないよう知らせるとの周知技 術に従い,警告音を発するようにすることは,当業者には格別困難な ことではないといえる。
(ウ) 被告の主張について
被告は,前記第3の2(2)イ(ウ)のとおり,足を挟んでしまうことの防 止という課題は甲1発明に内在する課題とはいえない旨主張する。しか しながら,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2 002−125807号公報」(甲21)においては,各【発明の詳細な 説明】の中に,子供が入り込むことの防止に係る記載がされているとこ ろ,各請求項1には,それぞれ「床部下への人体の侵入を監視して,人 体の侵入ありとした際に」又は「人体が存在する旨の検知信号により」 と記載されているのであり,子供が入り込むことのみに限定されるもの と解すべき事情も見当たらないことに照らしても,これらの発明の技術 的思想としては,人体が挟み込まれるのを防止するということが抽出で きるのであり,人体の対象には介護者又は患者も含まれるから,当業者 であれば,甲1に介護者又は患者の足を挟んでしまうことを防止すると の課題の記載や示唆がなくとも,甲1発明のベッドを介護者又は患者の 足を挟んでしまうことを防止するとの意図の下に設定することは容易と いうほかない。したがって,上記主張は,採用することができない。 さらに,被告は,同(エ)のとおり,「ブザーを鳴らして警報」すること は容易想到ではない旨主張するが,上記(イ)cのとおり,昇降機能を有\nするベッドにおいてフレームと床との間に人体が挟み込まれないよう警 告音で周囲に異常を知らせることは周知技術であるところ,人体の挟み 込みの防止のために警報音を鳴らすということの目的は,人体の挟み込 みの防止のためにフレームの下降を停止して実際に挟み込みを防止する こととは異なり,人体が挟み込まれる前の所定の段階であらかじめ操作 者を含む周囲の者に注意確認を促すことにある(警報音を鳴らすものの フレームの下降を人体の接触を感知するまで停止しないという選択もあ り得るから,警報音を鳴らすこととフレームの下降停止とは独立に置換 可能な独立の技術的事項である。)。したがって,フレームと床との間に\n人体があって実際に挟み込みの危険があるか否かは,人体の挟み込みの 防止のために警報音を鳴らすという技術的事項を導入するに際して直接 の関係を有するものではない。そうすると,警告音を発する場面を,異 物を検出した段階とするのか,あるいは,フレームがそれより下降すれ ば人体の挟み込みの危険が生じ得る高さとするかは,設計的事項にすぎ ず,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2002 −125807号公報」(甲21)に記載の発明から認められる周知技術 と甲1発明とは,むしろ警報音を鳴らす局面,対象又は目的を共通とす るといえる。したがって,下方中間停止位置で常に自動的に下降を停止 する甲1発明において,上記周知技術に基づいて下方中間停止位置で停 止した際に「ブザーを鳴らして警報」することは容易に想到できるとい え,上記周知技術が異常を検知した際に警報音を発するものである点が 甲1発明に同技術を適用することを妨げるものではない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。。 そのほか,被告がるる主張するところも,前記イの判断を左右するも のではない。
(エ) まとめ
以上によれば,相違点21)に加えて,相違点23)についても容易に想 到できるというべきであるから,本件審決の相違点2の容易想到性判断 には,誤りがある。

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平成30(ワ)21900  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月20日  東京地方裁判所

東京地裁29部は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。

(1) 推定される損害額
ア 前記前提事実(5)のとおり,被告は,本件特許権の登録日である平成29 年6月16日から令和元年10月31日までの間,被告各製品合計●省略 ●個を販売し,これにより●省略●円の売上げがあり,少なくとも●省略 ●円の経費を要した。 したがって,法102条2項の利益の額は,5652万1465円(消 費税込み)と認めるのが相当である。 イ 被告は,被告による被告各製品の販売がなかったならば原告が利益を得 られたであろうという事情は存在しないので,法102条2項の適用はな いと主張する。
しかし,証拠(甲12,35ないし38,乙17,33,107,10 8)及び弁論の全趣旨によれば,1) 電動ファン付きウエアの市場において, 平成29年当時,原告グループ(原告,株式会社空調服等。以下同じ。) は約30%,被告グループ(被告,株式会社サンエス等。以下同じ。)は 約40%,平成30年当時,原告グループは約33%,被告グループは約 33%,令和元年当時,原告グループは約40%,被告グループは約2 0%,令和2年当時,原告グループは約35%,被告グループは約20% の各シェアを占めていたこと,2) 原告は,首後部からの空気の排出口の大 きさを調整することができるように,空調服の販売を開始した当初は調整 紐型空調服を製造販売し,その後,2段階調整型空調服を製造販売してい るが,本件各発明を実施する空調服は製造販売していないことが認められ る。 上記認定事実によれば,原告グループは電動ファン付きウエアの市場に おいて大きなシェアを占め,原告は,首後部からの空気の排出口の大きさ を調整するために,調整紐型空調服又は2段階調整型空調服を販売してい たものと認められる。他方で,被告各製品のように複数段階で調整できる 空調服が多数販売され,他の電動ファン付きウエアの市場とは異なる独自 の市場を形成していたことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,原告製品は被告各製品の競合品であると認めるのが相当で あるから,被告が被告各製品を販売して本件特許権を侵害しなければ,原 告は原告製品をさらに販売して利益を得られたであろうという事情が認め られる。 したがって,本件には法102条2項が適用されるので,被告の上記主 張は採用することができない。
ウ 被告は,商品の運用及び管理を●省略●に委託しており,平均すると商 品1点当たり●省略●円の経費を要したから,売上げから合計●省略●円 (●省略●円×●省略●個)を控除すべきであると主張する。 法102条2項の利益の額とは,侵害者の売上高から,侵害者において 侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必 要となった経費を控除した限界利益の額をいうところ,証拠(乙62)及 び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成28年6月21日以降,●省略● に対し,被告の物流センターにおける衣料用繊維製品等の入出荷業務その 他これに付随する業務全般を,製品の点数にかかわらず一律の月額委託料 (平成29年8月1日以降は●省略●円)を支払うことを約して委託した ことが認められる。 そうすると,●省略●に対する委託料は,被告が被告各製品を製造販売 することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と は認められないから,前記アの被告各製品の売上げからこれを控除するの は相当でない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(2) 推定の覆滅事由
ア 本件各発明が被告各製品の部分のみに実施されていること
(ア) 前記1(2)のとおり,空調服は,送風手段を用いて外部から服内に空気 を取り込み,当該空気が服内を流通し,その間に人体から出た汗を蒸発 させ,気化熱により体表面の温度を下げようとするものであるところ,\n本件発明1は,空調服の襟後部又はその周辺に二つの調整ベルトを設け, 一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数ある取付部のうち いずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首後部との間に形成 される開口部を広げたり,狭めたりすることを可能にし,より適切な空\n調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したものである。 しかし,本件特許の出願当時,既に,空調服の襟後部の内表面に一組\nの調整紐を設け,これらを結ぶことによって上記開口部の大きさを調整 する技術があったところ(本件明細書【0004】),本件発明1は, 一組の調整紐を任意の長さに結ぶことが難しく,上記開口部の大きさを 求める冷却効果に応じた適正なものにすることが困難であったことを解 決しようとしたものであり(同【0006】及び【0009】),上記 開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の延長線上に 位置付けられるものである。そして,本件発明1は,主として,従来技 術における調整紐を「取付部」を有する「調整ベルト」に置き換えたも のであるが,前記5(2)のとおり,本件特許の出願当時,ボタン及びボタ ンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で調整することが できる周知慣用の技術が存在したものである。 以上からすると,従来技術と比較したときの本件発明1の技術的意義 は,必ずしも大きいものではなかったといわざるを得ない。 なお,本件発明2は,本件発明1の空気排出口調整機構を備える空調\n服の服本体の発明であって,本件発明2につき本件発明1とは異なる独 自の技術的意義は認められない。
(イ) 従来技術に係る調整紐型空調服において,送風手段を作動させたとき の襟後部と首後部との間に形成される開口部の形状は,電動ファンの風 力,前部ファスナーの締め具合,着用者の姿勢や体格,服の布地や布ベ ルト,ゴムベルト等の素材,襟部の形状等の影響を受けると考えられる ところ,この点については,本件発明1を実施した空調服であっても異 なるところはない。そして,上記従来技術又は本件発明1に係る空気排 出口調整機構が,上記の諸要素と比較して,上記開口部の形状決定にど\nの程度の影響を与えるのか,ひいては当該空調服の冷却性能にどの程度\nの作用効果があるのかを確定するに足りる証拠はない。 また,調整紐型空調服の場合,結び目付近に調整紐の先端部分が集ま り,空気排出の障害となることが指摘されるが(本件明細書【000 8】),紐という形状から考えて障害の程度がさほど大きいものとはい えず,本件発明1により特に有意な作用効果が得られるとはいえない。 さらに,従来技術に係る調整紐型空調服においても,一定の技量があ れば調整紐を任意の長さに結ぶことは可能であり,本件発明はこの点に\nついて特段の技量を要しないこととしたところに発明の作用効果がある といえるものの,実際に空調服を使用するに際し,上記の調整紐の長さ につき,どれほどの頻度で,どの程度細かく調整することが必要とされ ていたのかは明らかではない。 そうすると,本件発明1は,容易に襟後部と首後部との間に空気排出 口を形成し,これを調整することができるものの,従来技術に比して大 きな作用効果があるものとは認められない。
(ウ) 証拠(乙34,35)及び弁論の全趣旨によれば,顧客が空調服を選 択する際,空調服の価格,デザイン,服の素材並びに電動ファン及びバ ッテリーの性能に着目することが多いと認められ,空調服の襟後部と人\n体の首後部との間の空気排出口を調整する機構の有無が特に着目された\nことを認めるに足りる証拠はない。 また,被告各製品のうちの本件各発明を実施する部分は,ボタン,ボ タンホール,ゴムベルト及び布ベルトで構成され,その製造がさほど困\n難であったとは認められず,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば, 被告各製品に上記部分を設けるのに要する費用は1着当たり41ないし 42円であり,被告各製品の販売価格の1ないし2%にすぎなかったと 認められる。 さらに,証拠(甲3,乙57ないし59)及び弁論の全趣旨によれば, 平成29年から令和元年までの被告の商品のパンフレット及びウェブサ イトにおいて,空調服の構造を紹介するページに,本件発明1に係るゴ\nムベルト及び布ベルトが取り付けられた部分の写真が掲載され,その機 能を紹介する記載があるが,同写真は,ファンの写真よりは小さく,フ\nァンの取り付け位置及び着脱方法並びにバッテリーの各写真と同程度の 大きさであったこと,個々の空調服を紹介するページに,空調服が備え る機能として,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット,袖口の複\n数のボタン,保冷剤用ポケット等の各写真と並んで,上記部分の写真が 掲載されていることが認められる。 そうすると,被告各製品が備える機能のうち本件発明1を実施した部\n分が占める割合は小さかったといえ,また,同部分の顧客誘引力が特に 高かったとはいえない。
(エ) 以上によれば,本件発明1の技術的意義や作用効果,被告各製品のう ち本件発明1が実施された部分の顧客誘引力等に照らすと,本件特許権 を侵害する同部分が被告各製品の販売に貢献したところは小さいといわ ざるを得ないから,この事情に基づき,法102条2項により推定され る損害額の80%について推定の覆滅を認めるのが相当である。
イ 市場における競合品の存在
(ア) 前記(1)イのとおり,平成29年から令和元年までの電動ファン付きウ エアの市場において,原告グループのシェアは約30ないし40%,被 告グループのシェアは約20ないし40%であり,原告は,襟後部と首 後部との間に形成される開口部の大きさを調整することができるように, 2段階調整型空調服を製造販売している。 また,前記ア(ウ)のとおり,被告は,その商品のパンフレット等におい て,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット等の機能と並んで本件\n発明1に係る部分を紹介しており,購入者が本件発明1が実施された部 分のみに着目して被告各製品を選択したとはいい難い。 一方で,証拠(乙39ないし45)及び弁論の全趣旨によれば,原告 及び被告以外の業者も,首後部からの空気の排出をより効率的に行うた めの機能を備えた空調服や,その他種々の機能\を備えた空調服を販売し ていることが認められる。 そうすると,空調服のうちの特定のものだけが被告各製品の競合品と なるとは認められず,競合品に係るシェアは上記の原告,被告及びその 他の競業他社のシェアのとおりと認めるのが相当であり,これを踏まえ ると,被告が被告各製品を販売することがなかったとしてもその購入者 の全てが原告製品を購入したとはいえないから,この事情に基づき,法 102条2項により推定される損害額の50%について推定の覆滅を認 めるのが相当である。
(イ) 被告は,被告各製品を製造販売しなかったとしても,被告各製品を購 入しようとしていた顧客は,本件各発明の技術的範囲に属しない被告の 代替製品を購入するはずであるから,被告各製品の販売と原告の損害と の間には因果関係は認められず,仮に法102条2項が適用されるとし ても,この点は推定の覆滅事由になると主張する。 しかし,被告が被告各製品を製造販売しなかったとして,被告が他に いかなる空調服を製造販売したかは証拠上明らかではないから,被告の 上記主張は採用することができない。
ウ 被告の営業努力
被告は,独自のブランドである「空調風神服」の名称で被告各製品を販 売しており,「空調風神服」には強い出所識別力があるから,被告各製品 の販売には上記ブランドによる力が貢献していると主張する。 しかし,前記(1)イのとおり,遅くとも平成29年以降,電動ファン付き ウエアの市場において,原告グループのシェアと被告グループのシェアは 拮抗し,むしろ原告グループのシェアの方が伸びていることからすると, 原告製品の顧客吸引力と比較して「空調風神服」の名称に特に強い顧客吸 引力があるとは認められないというべきであり,他にこれを認めるに足り る証拠はない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
エ その他
被告は,1) 原告製品は本件発明1を実施しておらず,被告が被告各製品 を販売したことにより原告が損害を受けることはない,2) 原告製品はイン ターネットショッピングサイトにおいて酷評されていると主張する。 しかし,上記1)について,前記(1)イのとおり,原告は,電動ファン付き ウエアの市場において,被告各製品の競合品を製造販売していたから,原 告製品において本件各特許が実施されていなかったからといって,被告が 被告各製品を製造販売したことにより,原告が損害を被ったことを否定す ることはできない。 また,上記2)について,原告(原告グループ)が電動ファン付きウエア の市場において相当程度のシェアを占めていることは前記(1)イのとおりで あり,インターネットショッピングサイトにおけるごく一部の評価(乙4 6)をもって,被告各製品が販売されなかったとしても原告製品が売れる ことはなかったということはできない。 したがって,被告の上記各主張はいずれも採用することができない。 (3) 小括 ア 以上によれば,本件各発明の被告各製品の売上げに対する貢献の程度に より80%(前記(1)ア),電動ファン付きウエアの市場に競合品が存在す ることにより50%(前記(1)イ)の推定の覆滅を認めるべきであるから, 被告による本件特許権の侵害により,原告が被った逸失利益に係る損害額 は,565万2147円(5652万1465円×(1−0.8)×(1 −0.5))と認められる。 イ 被告の上記不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用相当額は6 0万円と認めるのが相当である。
ウ よって,原告が被った損害額は合計625万2147円である。

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令和2(行ケ)10033  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年6月28日  知的財産高等裁判所

 無効審判では無効理由無しとされた請求項の一部(請求項7、10)について、知財高裁(3部)は、進歩性違反の無効理由ありとしてこれを取り消しました。

(3) 相違点10−2の容易想到性
ア 本件発明7のステップ(b)について
(ア) 相違点10−2においては,本件発明7のステップ(b)に係る構\n成の容易想到性が問題となるところ,上記1(4)のとおり,本件発明7の ステップ(b)は,原油組成物を実質的に塩基なしで水性流体処理ステ ップにかけるステップであり,かつ,相分離を改善するために無機塩を 水性流体に添加するものである。
(イ) そして,上記(2)アのとおり,本件優先日当時,油の精製において, アルカリ精製による脱酸処理の前に脱ガム処理を経ること,一般的な脱 ガム処理の方法の1つとして,水や水蒸気等の水性流体を油組成物と接 触させ,水和したガム質を含む親水性の不純物を油から分離して除去す る方法があったことは,いずれも周知の技術であったと認められる。ま た,証拠(甲3,4,6〔693,700,701頁〕)によれば,本件 優先日当時,蒸留(物理的精製)による脱酸処理の前に脱ガム処理又は 水洗の処理を経ることは,周知であったと認められる上,証拠(甲5〔4 75頁の表2〕,6〔693頁右欄の表\1〕,13〔571頁の右欄〕,1 4〔98頁の図2〕,24〔185頁〕)によれば,水や水蒸気等の水性 流体を油組成物と接触させた後に分離する処理によってタンパク質性化 合物が除去されることも,周知であったと認められる。
(ウ) そうすると,本件発明7のステップ(b)は,タンパク質性化合物 を含む親水性の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去し得る 点において,上記の水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水 洗の処理と異なるところはないというべきである。
イ 甲2文献における開示
(ア) 上記(1)のとおり,甲2文献においては,油をストリッピング工程の 前に前処理してもよいと記載されている(【0057】)。
(イ) そして,上記アのとおり,ストリッピング処理を行う前に水や水蒸 気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を経ることが周知 であったことからすれば,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や 水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性 の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去することを,当業者 は当然に動機付けられるものといえる。
ウ 解乳化剤としての無機塩の添加が周知技術であったか否か
(ア) 水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理におい ては,水相と油相との界面が十分に解乳化され,水性流体を油から容易\nに分離することが可能な状態となることが好ましいことは明らかである。\n
(イ) そして,証拠(甲30,31,44ないし46)によれば,一般科 学においては,従来から,塩化ナトリウム等の塩を解乳化剤として用い ることが広く知られていたと認められることからすれば,水や水蒸気等 の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においても,水相と油相 との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離することが可能な状\n態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,当業者は当然 に動機付けられるものといえる。
エ 容易想到性
(ア) 上記アないしウで検討したところによれば,甲2文献に接した本件 優先日当時の当業者は,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や水 蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性の 不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去すること,その際に, 水相と油相との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離すること が可能な状態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,容\n易に想到することが可能であったといえる。\n
(イ) また,本件発明7のステップ(b)に係るその他の構成について検\n討するに,証拠(甲5,24)によれば,魚油には炭素数16から22 の遊離脂肪酸が必ず含まれていることが認められる。 さらに,粗魚油の一般的な遊離脂肪酸濃度は2重量%ないし5重量% であると認められる(甲5〔475頁の表1〕)ところ,水や水蒸気等の\n水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においては,油組成物中の 遊離脂肪酸は中和されず,その量が変化しないことは明らかであるから, 上記処理後の魚油の遊離脂肪酸濃度が,0.5重量%ないし5重量%の 範囲内となることも明らかである。
(ウ) 以上によれば,甲2文献に接した本件優先日当時の当業者は,本件 発明7のステップ(b)に係る構成を,容易に想到することができたも\nのといえる。
オ 被告の主張について
(ア) 被告は,甲2文献には,ストリッピング処理前の前処理過程の一例 として脱臭工程のみが挙げられている上,脱ガム処理のほか,本件発明 7のステップ(b)に係る構成について何らの記載等もされていないか\nら,当業者は同構成を採ることを動機付けられるものではない旨主張す\nる。 しかしながら,甲2文献の段落【0057】には,ストリッピング工 程の前処理の一例として脱臭工程が挙げられているものの,これに限る 旨の記載は存しない上,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用い た脱ガム処理等が周知の技術であり,これをストリッピング処理の前に 行うこともまた周知であったことからすれば,当業者は,ストリッピン グ工程の前処理として,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理等 を行うことを動機付けられるものといえる。 したがって,被告の主張は,採用することができない。
(イ) 被告は,原告が主張する脱ガム処理には様々な方法によるものが含 まれるから,相違点10−2に係る本件発明7の構成には至らない旨主\n張する。 しかしながら,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガ ム処理が,一般的な脱ガム処理の方法の1つとして周知の技術であった と認められることからすれば,甲2文献に接した当業者は,これを甲2 発明に適用することを動機付けられるものといえるから,被告が指摘す るとおり,脱ガム処理に様々な方法によるものが存在するとしても,前 記の結論を左右するものではないというべきである。 したがって,被告の主張は,採用することができない。
(ウ) 被告は,エマルジョン形成の解消が容易ではないことは技術常識で あったこと,甲44文献に記載された有機相及び本件発明7のステップ (b)における有機相は全く異なるものであること,魚油の精製工程に おいて無機塩を解乳化剤として用いることに関する文献が本件訴訟にお いて提出されていないことから,当業者が無機塩を添加して有機相と水 相とを分離させる技術を甲2発明に適用することを動機付けられるもの ではない旨主張する。 しかしながら,欧州の特許公開公報である甲44文献に対応する日本 の公開特許公報である乙C6文献には,海産動物油等の天然源からEP A及びDHA混合物等を抽出する方法に関して,脂肪酸混合物を含む相 と水相との分離を高めるために,塩化ナトリウム等の塩類を少量加える ことが記載されている。また,甲30文献には,魚鯨油を2%程度の塩 化ナトリウム等の塩類水溶液で洗浄する方法が記載されており,脱ガム 処理として魚鯨油を塩類水溶液で洗浄する方法が行われているものと認 められる。このように,魚油の精製工程において,無機塩を添加するこ とによって相分離を図る方法が記載されている文献が存在するのに対し, 本件各証拠上,このような方法の採用を妨げるような内容の文献は見当 たらない。 そうすると,一般科学において実施されている相分離を改善するため の無機塩の添加を,魚油の精製工程において実施することが妨げられる ものではないというべきである。 したがって,被告の主張は,採用することができない。
(エ) 被告は,本件発明7は当業者には予測し得ない顕著な効果を奏する\n旨主張する。
しかしながら,これまで検討したとおり,本件発明7のステップ(b) に係る構成は,周知技術である水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム\n処理等に,同じく周知技術である相分離を改善するために無機塩を添加 する方法を組み合わせたものであることからすれば,当業者は,同構成\nが塩基を使用しないものであることや,相分離の改善によりトリグリセ リド油の回収率を高めることができることを当然に予測し得るものとい\nえるから,本件発明7は,予測し得ない顕著な効果を奏するものとは認\nめられない。

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令和2(ワ)9992  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年6月24日  大阪地方裁判所

 時計の文字盤のデザインについて著作物性が否定されました。

 1 本件原画の著作物性(争点1)について
(1)前記(第2の2(1))のとおり,本件原画は,一般向けの販売を目的とする時計のデザインを記載した原画であり,それ自体の鑑賞を目的としたものではなく,現に,原告は,本件原画に基づき商品化された原告製品を量産して販売している。すなわち,本件原画は,実用に供する目的で制作されたものであり,いわゆる応用美術に当たる。
( 2 )「著作物」とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいい,このうち「美術の著作物」には美術工芸品が含まれる(同条2項)。他方,応用美術のうち,美術工芸品に当たらないものが「美術の著作物」に該当するかどうかについては,明文の規定はない。しかし,「著作物」の上記定義によれば,「美術の著作物」は,実用目的を有しない純粋美術及び美術工芸品に限定されるべきものではない。すなわち,実用目的で量産される応用美術であっても,実用目的に必要な構\成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては,純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることができる。そうである以上,当該部分は美術の著作物として保護されるべきである。他方で,実用目的の応用美術のうち,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては,純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることはできないから,美術の著作物として保護されないと解される。\n
(3)本件原画について
ア 本件原画は,別紙写真目録記載のとおりであるところ,本件形態1及び2の観点を踏まえると,これには,以下のとおりの形態の時計が表現されているものと認められる。\n
(ア)長針,短針,秒針の三種の針を有する壁掛け型アナログ時計であり,各針はいずれも白色である。各針は,いずれも黒色の円盤状部の中心にその回転軸を固定されている。
(イ)上記円盤状部の頂部上部に数字の「12」を配置し,これを起点として,上記円盤状部の外周に沿って右回りに,黒色太字ゴシック体様の算用数字「1」〜「11」を概ね均一の大きさで順に円環状に配置している。これらの数字のうち,「1」,「2」,「5」,「6」,「7」,「11」及び「12」は,上記円盤状部に接着している。また,「6」及び「7」を除く数字は,隣接する別の数字のいずれか又は両者と接着している。
(ウ)前記数字のうち「12」を構成する「2」の頂部から「1」〜「8」を経て「9」の下部まで,円環状に配置された各数字の外周側に,これらに沿うと共にそれぞれの数字に接着する形で,黒色の円弧状の枠が配置されている。
イ 本件原画のうち,本件形態1に係る部分(前記ア(ア))について,時計の針が本体の色彩との関係で視認しやすいこと自体は,針の位置により時間を表示するアナログ時計の実用目的に必要な構\成といえる。配色に係るデザイン性(本体の黒色と針の白色のコントラスト)も,このような構成を実現するために採用されているものといえるのであって,当該構\成と分離して美的鑑賞の対象となるような美的特性を備えている部分として把握することはできない。
ウ 本件形態2に係る部分(前記ア(イ),(ウ))については,まず,アナログ時計において,「1」〜「12」の各数字及びこれを「12」を頂部として配置して右回りに円環状に配置することは,時間の表示という実用目的に必要な構\成といえる。また,これらの数字により形成された円環の内側にある円盤状部及び外側に形成された円弧状の枠は,円環状に配置された数字と互いに接着することにより,全体として時計本体を構成し,その形状を維持している部分と見られるから,これらも実用目的に必要な構\成といえる。使用されている数字のフォントや円盤状部の大きさの点も,数字の見易さ及び時計としての使用に耐える一定の強度の実現という時計としての実用目的に必要な構成である。さらに,数字の字体そのものは,何ら特徴的なものではない。\n
他方,各数字の外周側に円弧状の枠が設けられていない部分は,デザインの観点から目を引く部分と見ることも可能である。もっとも,当該部分は,下部に上記枠の終端部が接する「9」を除くと,2桁の数字(「10」〜「12」)が配置された部分であるところ,全ての数字の外側を円弧上の枠により囲んだ製品においては「10」及び「11」の数字のサイズが他の数字に比して明らかに小さいこと(乙3)にも鑑みると,上記枠の設けられていない部分に他の部分と同様に枠を設けた場合,10の桁を示す「1」の部分がそれぞれ円弧状の枠と干渉して数字を読み取り難くなり,時間の把握という時計の実用目的を部分的にであれ損なうことになると考えられる。\n
そうすると,当該部分のデザインについても,時計の実用目的に必要な構成と分離して美的鑑賞の対象となるような美的特性を備えている部分として把握することはできない。エしたがって,本件原画は,実用目的に必要な構\成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものであるから,これを純粋美術の著作物と客観的に同一なものと見ることはできず,著作物とは認められない。

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◆原告の文字盤の写真

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令和2(行ケ)10134  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年7月29日  知的財産高等裁判所

 コンピュータ関連発明について、知財高裁(2部)は、相違点の認定誤りを理由に、拒絶審決を取り消しました。判決文は、長いです(97ページ)。

 本件審決は,引用発明の構成b1の「コンテンツ」及び構\成f1の「OTTデバイス」が,それぞれ本願発明8の「デジタル・コンテンツ・アイテム」及び「ディスプレイ装置」に相当するという判断を前提として,クライアントに対してファイルを配信する方法において配信の効率化を図ることは一般的課題であるから,引用発明に甲2技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとし,引用発明に甲2技術を適用した発明は,OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構\成を備える方法ということができ,同構成は,構\成Hの「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構\成に相当すると判断した。
(2) しかし,前記3(1)アの甲2の記載(段落【0002】,【0005】,【0012】,【0014】〜【0018】,【0072】〜【0079】,【0116】〜【0123】等。特に,品質情報を具体的に記載した段落【0073】〜【0078】)からすると,甲2技術は,ファイルの効率的な配信のための技術であって,そこで取得される品質情報は,クライアント計算機の性能や動作状態,あるいは回線状態などに関するものと認められる。なお,甲2の段落【0049】,【0050】,【0053】及び【図3】からすると,甲2において,サーバ201と同様の概略構\成であり得るクライアント211がディスプレイ装置と接続されることは示唆されているが,他方で,ディスプレイ110は,あくまで,サーバ201に備わる表示コントローラ105と接続される外部装置として取り扱われており,そのような外部装置であるディスプレイ110から何らかの情報を取得することについての記載は見当たらない。したがって,甲2技術における「受信品質の指標・・・および受信性能\の指標を含む品質情報」に,ディスプレイ装置の品質等の情報が含まれているとまでは認められず,その点に係る技術常識等を認めるべき他の証拠もない。
(3) そうすると,仮に,引用発明の構成b1の「コンテンツ」及び構\成f1の「OTTデバイス」が,それぞれ本願発明8の「デジタル・コンテンツ・アイテム」及び「ディスプレイ装置」に相当するという判断を前提とし,クライアントに対してファイルを配信する方法において配信の効率化を図ることが一般的課題であると解して,引用発明に甲2技術を適用し,OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構\成を備えるものとしたとしても,直ちに「ディスプレイ装置」の「品質情報を取得する」ことまでをも含む構成になるということはできず,本願発明8の構\成Hの「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構\成に相当するものになるとはいえない。よって,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断には,誤りがある。以上の認定判断に反する被告の主張は,採用することができない。
5 相違点2に係る構成の容易想到性について\n
(1)本件審決は,引用発明と甲3技術は,送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法である点において共通することから,引用発明に甲3技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとし,引用発明に甲3技術を適用した発明は,OTTデバイス(ピア1A)から他のOTTデバイス(ピア1B)に対して,「ピア1Bは,ピア1Aに該当のデータの送信を要求する」構成を備える方法ということができ,当該構\成は,構成Jの「外部の創作地点から,インターネットを介して,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へと,前記サービス・クラウドの外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」構\成に相当すると判断した。
(2) しかし,甲3技術がピアツーピアシステムに係るものである(構成i)のに対し,引用発明は,コンテンツの取込み,自動パブリッシング,配信及び格納並びに収益化等の複合的なタスクが実行可能\であるもので,それ自体が主体的にコンテンツの取込みや配信等を行う方法であるものと解されるから,甲3技術と引用発明とは,少なからず技術分野を異にするものというべきである。この点,「送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法」という広い技術分野に属することから直ちに,それらの関係性等を一切考慮することなく,引用発明に甲3技術を適用することを容易に想到することができるものとは認め難い。そして,甲3に,他に,甲3技術を引用発明に適用する動機付けや示唆となる記載があるとも認め難い。 よって,本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断には,誤りがある。
(3) 被告は,本願明細書(甲6)の段落【0130】の記載を踏まえて,本願発明8の構成Jにいう「外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」という文言の意味について,「デジタル・コンテンツ・アイテム」が「外部コンテンツ・ゲートウェイ」を経由するか否かにかかわらず,「外部コンテンツ・ゲートウェイ」の機能\「により転送する」ことをいうと主張するが,上記(2)の判断は,本願発明8の構成Jにいう「外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」を上記の被告が主張するように理解したとしても左右されるものではない。\n
6 相違点3に係る構成の容易想到性について\n
(1)本願発明8の構成Kの「ライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」については,構\成Kの文言によると,サービス・クラウドに備えられ,コンテンツをサービス・クラウドの外部の供給源からディスプレイ装置に提供する機能を有するものと認められ(前記1(2)ウ(ク)),また,「ライブ・データ・フィード」という用語からすると,外部の供給源から供給されるデータには「ライブ」の要素が含まれるものと解される。しかるに,甲4技術が,上記の「ライブ」の要素が含まれるデータの供給に関する構成を含むものであるかは明らかでない。したがって,引用発明に甲4技術を適用しても,直ちに本願発明8の構\成Kに至るものかは,明らかでない。
(2) 本件審決は,甲4技術の構成kの「オンラインサービスコンピューティング装置108」が,本願発明8の「ライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」に相当すると判断したが,上記(1)の点に関し,この判断の根拠が明確にされているとはいえない。また,被告は,甲4技術の「オンラインサービスコンピューティング装置108」は,コンテンツアイテムを外部供給源(「オンラインソーシャルネットワーキングサービス」)から受信してユーザ装置310に送信するから,データを一方から他方へ転送する制御機能\を有する「ゲートウェイ」に相当するとした上で,データは「多数のユーザにより投稿され共有された種々のメディアコンテンツアイテム」や「コンテンツを共有しているユーザ又は『友達』により供給されたニュースフィード」を含むから,上記ゲートウェイは「サービス・クラウドのライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」といえると主張するが,上記(1)の点に関し,その根拠が明確にされているとはいえない。
(3) 以上の点は,原告が取消事由として主張するものではないが,特許庁において更なる審理判断がされることを考慮して判示するものである。7相違点4に係る構成の容易想到性について(1) 引用発明と甲5技術は,いずれもサーバにコンテンツを取り込む方法に係るものであるという点で技術的な共通性を有するといえ,引用発明に甲5技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。そして,引用発明に甲5技術を適用した発明は,OTTデバイスに表示するための「画像データが表\す画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予め記憶された目標濃度に補正する」構\成を備える方法ということができ,この構成は,本願発明8の構\成F2の「前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」構成に相当するということができる。よって,相違点4に係る構\成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。(2)ア原告は,本願発明における解析は,ユーザが視聴するための,映画やテレビ番組等のコンテンツをディスプレイ装置に送信するために行われるものであるところ,ユーザにおいてそれらの画像の特定の部分(顔等)を調整したいという要求はないから,甲5技術に係る「画像データが表す画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予\め記憶された目標濃度に補正する」構成は,本願発明8の構\成F2には相当しないと主張する。
しかし,本願発明8の構成F2は,「ディスプレイ装置上に表\示するための」「デジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」というもので,「解析」の具体的な内容については記載されていない。そして,本願発明8の構成中に,「デジタル・コンテンツ・アイテム」について,原告の主張するような内容のものに特定する旨の記載もなく,他に本願発明8の構\成F2の「解析」を原告の主張するように限定して解釈すべき理由はない。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。イ原告は,本願明細書の段落【0119】の記載から,本願発明8の構成F2の「解析」は,ビジュアル及び音響コンテンツの両方に対して行われ得るもので,甲5技術の「解析」とは異なる旨を主張するが,本願の特許請求の範囲の請求項8には,「音」について何ら記載がなく,上記アのような記載があるのみであるから,本願発明8の構\成F2の「解析」が音響に対しても行われるものと解することはできない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ原告は,引用発明と甲5技術とを組み合わせる動機付けはなく,シーンごとに画像の特定の部分を調整するために,オペレータの好みに従って事前に手動で入力される「目標濃度」を用い,オートセットアップ機能を介して,画像を調整するという甲5技術の「解析」の特徴は,特定の装置の技術的仕様に画像をより良好に適合させるために画像の調整を行う本願発明の「解析」とは対照的であって,甲5技術の「解析」を本願発明に組み込むことは,無意味であり,逆効果であると主張するが,上記アで指摘したのと同様,本願発明8における「解析」について,特定の装置の技術的仕様に画像をより良好に適合させるために画像の調整を行うためのものと限定して解釈すべき理由はないから,原告の上記主張も,前提を欠くものであって採用することができない。\n
8まとめ
以上によると,原告主張の取消事由のうち,相違点の認定の誤り及び相違点4に係る容易想到性の判断の誤りは,いずれも理由がないが,相違点1に係る容易想到性の判断の誤り及び相違点2に係る容易想到性の判断の誤りは,いずれも理由がある。

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令和3(行ケ)10026  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月29日  知的財産高等裁判所

 文字「S」を図形化し文字「SANKO」と結合させた商標について、先願商標「SANCO」と類似するとして拒絶審決がなされました。知財高裁も同様に類似すると判断しました。

結合商標の類否判断の方法について
(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,各構\成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合は,一つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同一又は類似であるといえないとしても,他の称呼,観念が他人の商標のそれと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。
(2) この点について,原告は,結合商標の一部を分離,抽出して商標の類否を判断することは,「商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合」や,「それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合」などの場合に限られるべきであると主張する。しかし,原告が挙げる上記の場合以外にも,「各構\成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合」には,分離して観察することが許されると解するのが相当である。原告が引用する最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁も,このことを否定するものとは解されない。
(3) そして,以上の(2)で述べた事情などを総合的に考慮して,結合商標の一部を分離,抽出して商標の類否を判断することが許されるかどうかを判断することが相当であると解される。
2本願商標について
(1)本願商標は,朱色の半楕円と同色縞模様の半楕円を斜めに接するように組み合わせてなる図形を配した本願図形部分と,その右にやや図案化された「SANKO」の欧文字を本願図形部分と同様の朱色で横書きした本願文字部分からなるところ,図形と文字という構成要素の性質の違いや,本願図形部分の上部が本願文字部分の上部よりも少なからず上にはみ出す形となっていることのほか,本願文字部分については容易に「サンコ」又は「サンコー」という称呼を有する部分として理解されることからすると,本願図形部分と本願文字部分とは,外観上,明確に分離して看取されるものであるといえる。そうすると,本願図形部分及び本願文字部分について,それらの部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものとはいえない。
(2) 上記のとおり容易に特定の称呼を有する部分として理解される本願文字部分は,本願商標の構成の大きな部分(7割以上)を占めている。そして,「SANKO」の文字は,辞書等に載録のない語であるから,特定の観念を生じないものである。そうすると,本願文字部分は,需要者の印象に残りやすく,強い印象を与えるということができる。
(3) これに対し,本願図形部分については,その形状に照らし,称呼を有しない図形であるのか,一定の文字を図案化したものであるのか,一見して直ちに明確なものであるとはいい難いが,商標において,企業等の名称の文字の一部が図案化される例は少なからずあると解されることや,本願文字部分の冒頭の文字が「S」であることからすると,本願図形部分は,「S」を図案化したものであると理解することも可能であるといえ,その場合には本願図形部分から「エス」の称呼が生じ得る。もっとも,本願文字部分の冒頭の文字が「S」であることからすると,本願図形部分が「S」を図案化したものと理解される場合においては,本願文字部分の冒頭の「S」を取り出して特に図案化して配置したものにすぎず,本願文字部分と独立した意味を有するものではないとの理解がされることも多いものとみることができる。\n
(4)上記(1)〜(3)からすると,本願商標については,本願文字部分のみによって商標の類否を判断することも許されるということができる。したがって,本願商標は,その構成文字に相応して,「サンコー」又は「サンコ」の称呼が生じ,特定の観念を生じないものである。
3 引用商標1,2及び4について
(1) 証拠(乙3,5,6)によると,引用商標1,2及び4について,本件審決が認定した前記第2の3(2)ア(ア),(イ)及び(エ)のとおりに認められる。
(2)引用商標1は,やや図案化された「SANCO」の欧文字を横書きしてなるところ,その構成文字に相応して,「サンコー」又は「サンコ」の称呼を生じる。「SANCO」の文字は,辞書等に載録のない語であり,特定の観念を生じない。
(3)引用商標2及び4は,水色の雫を重ねたような図形を配し,その下にやや図案化された「SANCO」の欧文字を青色で横書きしてなるところ,引用商標2及び4を構成する図形部分と,「SANCO」の文字部分は,視覚上,明確に分離して看取されるものであり,それらが常に一体となって特定の観念を生じるものともいえないから,文字部分が独立して自他役務の識別標識としての機能\を果たすものといえる。したがって,引用商標2及び4は,その構成文字に相応して「サンコー」又は「サンコ」の称呼を生じる。「SANCO」の文字は,辞書等に載録のない語であり,特定の観念を生じない。4本願商標と引用商標1,2及び4の類否引用商標1,2及び4の「SANCO」の欧文字は,本願文字部分である「SANKO」と,外観の全体的な印象において近似するものであるといえる。そうすると,本願商標と引用商標1,2及び4は,文字部分の比較において,観念を比較できないとしても,その外観は近似し,いずれも「サンコー」又は「サンーコ」の称呼を共通にするものであるから,これらを総合的に勘案すると,両商標は互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
5 以上のとおり,本願商標は,引用商標1,2及び4と類似する商標であるところ,本願商標が引用商標1,2及び4の指定役務と同一又は類似する役務について使用をするものであることについては,当事者間に争いがない。よって,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の審決取消事由は認められない。

◆判決本文

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令和2(行ケ)10151等  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月29日  知的財産高等裁判所

 不使用であるとした審決が取り消されました。

1 取引に係る認定事実
(1) 証拠(甲6の2,甲12の2,甲20,23,24)によると,1)原告が,愛知県在住の特定人(以下「A」という。)から,令和2年1月10日,PayPalで1万7940円の支払を受けたこと及び2)同支払を原告に連絡するPayPalからのメールには,同支払金額について,「エクス:バイアージュ6個(送料無料)」,「¥17,940JPY」が,数量「1」であるとの記載があることが認められる。また,証拠(甲13の2)によると,3)問い合わせ番号「6271−4993−2452」のレターパックプラスについて,令和2年1月12日に福岡県で引受けがされ,同月13日に愛知県の届け先に届けられたことが認められる。さらに,証拠(甲7の2,甲28の3)及び弁論の全趣旨によると,4)原告が「6271−4993−2452」と記載されたレターパックプラスの追跡番号シールを所持しており,同シールは,本件納品書写し(甲7の2)と同一内容の納品書の控え(甲28の3)の裏面に貼付されていることが認められる。\n
(2) 本件チラシ(甲4)には,「送料無料」,「美容クリーム(エクスバイアージュ)¥2,990」との記載がある。また,原告が提出する別のチラシ(甲3)には,「特別販売(2,990円&送料無料)」,「感謝を込めて【1個2,990円&送料無料】の特別販売続行中」との記載がある。なお,同チラシには,「EX:biargue(エクスバイアージュ)」について「40,000円(税込)」との記載もある。さらに,本件サイト(甲5)には,「EX:biargue」との表示がされたクリームの瓶の写真及び本件使用商標1−2の表\\示(別紙3の2)の右側に,「特別販売キャンペーン」,「1個(送料無料)2,990円」,「6個(送料無料)17,940円」などの記載がある。以上の各チラシ及び本件サイトの各記載は,上記(1)2)の事実と整合するもので,上記(1)2)の事実と合わせると,上記(1)1)のAからの支払が,本件チラシに記載された「美容クリーム(エクスバイアージュ)」(本件使用商品1)6個の代金の支 払であることを推認させるものである。
(3)ア本件納品書写し(甲7の2)及びこれと同一内容で上記(1)4)のとおり裏にレターパックプラスの追跡番号シールが貼付された納品書の控え(甲28の3)の記載内容をみると,「今回の商品配送詳細【無料】」,「【商品名】日本郵便・レターパックプラス(対面でのお受取)」,「【追跡番号(商品番号)】627149932452」との記載のほか,「商品」として「美容クリーム」,「単価」として「¥2,990」,「個数」として「6」,「計」として「¥17,940」,「備考」として「送料無料」の記載があり,宛名欄にはAの氏名の記載がある。そして,本件納品書写し及び上記納品書の控えには,上部に,「DOLGES」の文字の下に「D」及び「S」を重ねるように組み合わせて円で囲んだ図形を配置した商標(以下「本件使用商標1−3」という。)が表\\示され,右下部に本件使用商標2−2が表示されている。\n
イ上記アの事実に,上記(1)1)〜4)の事実及び上記(2)のとおり推認される事実を併せ考慮すると,原告が,上記(1)1)の令和2年1月10日のAからの支払を受けて,本件チラシに記載された「美容クリーム(エクスバイアージュ)」(本件使用商品1)6個を発送し,それが同月13日に愛知県在住のAに届けられたという事実が推認され,この推認を覆す事情は認められない。
(4) 原告の本人尋問における供述及び陳述書(甲25)の記載(以下,併せて「原告供述等」という。)によると,原告が,上記(1)1)の令和2年1月10日のAからの支払を受けて,本件使用商品1(6個)に,本件納品書の写し(甲7の2)の原本及び本件チラシ(甲4)を同封したレターパックプラスを発送し,それが同月13日にAに届けられたという取引(以下「本件取引」という。)の事実が認められる。原告供述等は,上記(1)〜(3)で指摘した各事実と整合しており,本件取引について述べる部分について,その信用性を否定すべき事情は見受けられない。2本件商標1及び2の使用について(1)ア本件チラシ(甲4)には,本件使用商標1−1を紙製の外装箱に表示し\nた美容クリームである本件使用商品1の写真(別紙3の1)が掲載されているとともに,本件使用商標2−1を容器側面に表示した美容ミストである本件使用商品2の写真が掲載されている。本件チラシは,原告が作成したものである(原告供述等,弁論の全趣旨)。
イ本件納品書写し(甲7の2)には,前記1(3)アのとおり,本件使用商標1−3が表示されている。本件納品書写しの原本は,原告が作成したものである(原告供述等,弁論の全趣旨)ウ本件使用商標1−1及び1−3は,本件商標1と,本件使用商標2−1は,本件商標2と,それぞれ社会通念上同一であると認められる。\n
(2) 上記(1)の事実及び前記1(4)のとおり認められる本件取引の事実からすると,本件商標1及び2の商標権者である原告が,要証期間内である令和2年1月10日から同月13日までの間に,本件商標1の指定商品のうち「化粧品」に含まれる本件使用商品1について,本件商標1の使用(商標法2条3項2号[商品の包装に標章を付したものの譲渡],8号[広告に標章を付して頒布])をするとともに,本件商標2の指定商品のうち「化粧品」に含まれる本件使用商品2について,本件商標2の使用(同項8号[広告に標章を付して頒布])をしたものと認められる。

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令和3(行ケ)10003  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月19日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、Webサイト上の使用について、使用証明が要証期間内のものかが不明として、使用ありとして審決を取り消しました。

 被告は,平成28年頃,本件サービスの有料会員のみが閲覧可能な本件ウェ\nブサイトの本件トップページ(甲15)に本件使用商標が表示された本件バナ\nーを,本件バナーのリンク先の「美少女図鑑 作品一覧」の見出しがある本件 ウェブページ(甲17)に本件バナーの画像をそれぞれアップロードして,本 件バナー及びその画像を掲載したこと,ファンプラス社が,令和2年4月1月 以降,本件トップページ及び本件ウェブページにそれぞれ本件バナー及びその 画像を継続的に掲載したことにより,被告又はファンプラス社が要証期間内に 本件使用商標を使用した旨を主張するので,以下において判断する。
(1) 甲15は,本件トップページを印刷した書証であり,甲15には,「Fの ぶらり商店街」の見出しの下に,別紙記載の本件バナーを含む複数のバナー が表示されている。また,甲17は,本件ウェブページを印刷した書証であ\nり,甲17には,「美少女図鑑 作品一覧」の見出しの下に,本件バナーの 画像が表示され,その画像の下には,複数の電子写真集のサムネイルが表\示 されている。本件バナーには,別紙記載のとおり,女性を被写体とする3枚 の写真(本件写真1ないし3)を背景に,白く縁取りされたピンク色の書体 の「美少女図鑑」の文字からなる本件使用商標が表示されている。\nそして,証拠(甲15,17,32)及び弁論の全趣旨によれば,本件ト ップページに表示された本件バナーのリンク先が本件ウェブページであるこ\nと,本件ウェブページに表示された各サムネイルの横には,例えば,「女子\n校生 先輩は僕のいいなり A 2018−09−01」,「女子校生 純 白 B 2018−09−01」等の記載があることが認められる。 しかしながら,甲15及び17は,いずれも要証期間経過後の本件審判請 求後に印刷されたものであるから,甲15及び17が存在するからといって, 要証期間(平成29年6月18日から令和2年6月17日までの間)に,本 件トップページ及び本件ウェブページに本件バナー及びその画像が表示され\nていたものと直ちに認めることはできない。 また,本件バナーのアップロード時のログ等の電子記録は提出されておら ず,平成28年頃,本件トップページ及び本件ウェブページに本件バナー及 びその画像がアップロードされて掲載されたことを客観的に裏付ける証拠は 存在しない。
もっとも,甲17には,本件ウェブページに表示された各サムネイルに係\nる「2018−09−01」等の日付の記載があるが,これらの日付は,当 該サムネイルに係る電子写真集の販売開始日等を示したものとうかがわれ, また,本件バナーのアップロード時期とサムネイルのアップロード時期が当 然に同じ時期になるものとはいえないから,これらの日付から,本件バナー が平成28年頃にアップロードされたものと認めることはできない。
(2)次に,C作成の令和3年4月14日付け陳述書(乙3)中には,1)Cが代 表取締役を務める友ミュージック社は,およそ5,6年前に,被告の依頼を\n受け,本件ウェブサイトの会員限定ページに本件バナーをアップロードした, 2)同ページの本件バナーとリンクさせる形で,美少女図鑑のコンテンツ用ペ ージをアップロードした,3)その後,本件バナーはアップロード時と同じ状 態で会員限定ページに掲載され続けており,現在に至るまで本件バナーに変 更を加えていない旨の記載部分がある。 しかし,上記記載部分によっても,本件バナーのアップロードの時期は, およそ5,6年前とあいまいであるのみならず,上記記載部分は,本件使用 商標を表示する本件トップページ及び本件ウェブページをアップロードした\n時期が「2015年3月25日」であることを証明する旨のC作成の令和2 年9月23日付け証明書(甲20)の記載部分と齟齬するものであるから, 措信することができない。
また,G(以下「G」という。)作成の令和3年6月11日付け陳述書(乙 8)には,1)Gは,被告に在籍していた,今から5,6年前,被告が保有す るコンテンツ(乙5ないし7)から女性3名の写真と本件使用商標を使用し て,本件バナーを作成し,友ミュージック社に依頼して,本件ウェブサイト の有料会員のみが閲覧できる本件トップページに本件バナーを掲載し,本件 バナーのリンク先において,年齢の若い女性を被写体とするコンテンツを一 覧化した本件ウェブページを作成した,2)本件バナーに表示された女性3名\nの写真は,直近1,2年前に出版された,女子高生シリーズの中で比較的新 しい3冊の写真集から選んだものである,3)その後,本件バナーはアップロ ード時と同じ状態で会員限定ページに掲載され続けており,現在に至るまで 本件バナーに変更を加えていない旨の記載部分がある。 しかし,上記記載部分によっても,本件バナーのアップロードの時期は, およそ5,6年前とあいまいであるのみならず,本件バナーの背景の本件写 真1ないし3は,Cが挙げる乙5ないし7(電子写真集1ないし3)記載の 写真と異なる構図の写真であるから,乙5ないし7は,本件バナーのアップ\nロードが平成28年頃にされたことを直ちに裏付けるものでないことからす ると,上記記載部分は措信することができない。 したがって,乙3及び8から,本件トップページ及び本件ウェブページに それぞれ本件バナー及びその画像が掲載されたことを認めることはできない。 他に本件使用商標が表示された本件バナー及びその画像が要証期間内に\n本件トップページ及び本件ウェブページに掲載されていたことを認めるに足 りる証拠はない。

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令和2(ネ)10044 特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年6月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁3部は、非接触式ICカードは本件発明の「記憶媒体」には非該当、また、無効主張は、時期に後れた攻撃防御でないとして、被告の敗訴部分を一部取り消しました。

(2) 非侵害論主張5)について
ア 自白の成否及び時機に後れた攻撃防御方法該当性
一審原告は,非侵害論主張5)は,原審の答弁書記載の認否によって成立 した自白の撤回に当たり,また,時機に後れた主張でもあるから,許され ない旨主張する。 たしかに,一審被告は,原審答弁書における構成要件1A等の認否に際\nし,被告給油装置の電子マネー媒体が本件発明の「記憶媒体」に当たると の対比を明確に争っていたわけではないが,従前から,被告給油装置が本 件発明の技術的思想を具現化したものでないことを主張しており,非侵害 論主張5)は,これを,使用される決済手段の差異(プリペイドカードと非 接触式ICカード)という観点から論じたものであるといえるから,一審 被告が充足論全体について単純に認めるとの認否をしていない以上,自白 を撤回して新たな主張をしているとはいえないし,この主張を時機に後れ たものとして扱うのも相当ではない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
イ 非接触式ICカードの「記憶媒体」該当性
本件明細書において,本件発明の「記憶媒体」の具体的態様としては, 磁気プリペイドカード(【0033】)のほか,「金額データを記憶する ためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」(【0070】)や 「カード以外の形態のもの,例えば,ディスク状のものやテープ状のもの や板状のもの」(【0071】)も開示されている。このように,本件発 明の「記憶媒体」は必ずしも磁気プリペイドカードには限定されない。 しかしながら,本件発明の技術的意義が上記1のとおりであることに照 らして,「媒体預かり」と「後引落し」との組合せによる決済を想定でき る記憶媒体でなければ,本件3課題が生じることはなく,したがって,本 件発明の構成によって課題を解決するという効果が発揮されたことになら\nないから,上記の組合せによる決済を想定できない記憶媒体は,本件発明 の「記憶媒体」には当たらない。 かかる見地にたって検討するに,被告給油装置で用いられる電子マネー 媒体は非接触式ICカードであるから,その性質上,これを用いた決済等 に当たっては,顧客がこれを必要に応じて瞬間的にR/Wにかざすことが あるだけで,基本的には常に顧客によって保持されることが予定されてい\nるといえる。そのため,電子マネー媒体に対応したセルフ式GSの給油装 置を開発するに当たって,物としての電子マネー媒体を給油装置が「預か る」構成は想定し難く,電子マネー媒体に対応する給油装置を開発しよう\nとする当業者が本件従来技術を採用することは,それが「媒体預かり」を 必須の構成とする以上,不可能\である。 そうすると,被告給油装置において用いられている電子マネー媒体は, 本件発明が解決の対象としている本件3課題を有するものではなく,した がって,本件発明による解決手段の対象ともならないのであるから,本件 発明にいう「記憶媒体」には当たらないというべきである。むしろ,電子 マネー媒体を用いる被告給油装置は,現金決済を行う給油装置において, 顧客が所持金の中から一定額の現金を窓口の係員に手渡すか又は給油装置 の現金受入口に投入し,その金額の範囲内で給油を行い,残額(釣銭)が あればそれを受け取る,という決済手順(これは乙4公報の【0002】 に従来技術として紹介されており,周知技術であったといえる。)をベー スにした上,これに電子マネー媒体の特質に応じた変更を加えた決済手順 としたものにすぎず,本件発明の技術的思想とは無関係に成立した技術で あるというべきである。一審被告の非侵害論主張5)は,このことを,被告 給油装置の電子マネー媒体は本件発明の「記憶媒体」に含まれないという 形で論じるものと解され,理由がある。
ウ 一審原告の主張について
(ア) 一審原告は,本件発明の「記憶媒体」は,構成要件1C及び1Fの動\n作に適した「記憶媒体」であれば足りる旨主張する。 しかしながら,発明とは課題解決の手段としての技術的思想なのであ るから,発明の構成として特許請求の範囲に記載された文言の意義を解\n釈するに当たっては,発明の解決すべき課題及び発明の奏する作用効果 に関する明細書の記載を参酌し,当該構成によって当該作用効果を奏し\n当該課題を解決し得るとされているものは何かという観点から検討すべ きである。しかるに,一審原告の上記主張は,かかる観点からの検討を せず,形式的な文言をとらえるにすぎないものであって,失当である。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 一審原告は,本件明細書の【0070】に「記憶媒体」として「金額 データを記憶するためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」を 例示する記載があり,非接触式ICカードもこれに含まれる旨主張する。 しかしながら,上記記載は,【0033】の「プリペイドカード71 は,磁気カードからなり」等の記載を受けて,カードの記憶素子が磁性 材ではなくICメモリであっても良い旨を示すにとどまり,そのカード が非接触で動作することを示す記載ではない。また,上記記載において, ICメモリは「金額データを記憶するための」ものであって,非接触式 ICカードのように演算・通信の機能を有することは開示も示唆もされ\nていないから,上記記載を根拠に非接触式ICカードが本件発明の「記 憶媒体」に当たるとはいえない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 一審原告は,非接触式ICカードが券売機に取り込まれて使用され得 ることは周知であり,本件明細書には設定器内部にカードを取り込んだ ままとしない記憶媒体を用い得ることが示されているから,非接触式I Cカードが本件発明の「記憶媒体」に当たらないとはいえない旨主張す る。 しかしながら,前掲前提事実のとおり,被告給油装置において電子マ ネー媒体を使用する際には,電子マネー媒体(非接触式ICカード)は R/Wにかざされるだけであって装置に「取り込まれ」ることはない。 非接触式ICカード一般に一審原告主張のような使用態様はあり得るも のの,被告給油装置ではそのような使用態様によらずに非接触式ICカ ードが「電子マネー媒体」として用いられているので,被告給油装置に おける「電子マネー媒体」の技術的意義は,本件発明における「記憶媒 体」のそれとは異なる。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(3) 充足論についての小括
以上によれば,一審被告の非侵害論主張4)及び5)は理由があるから,その 余の非侵害論主張の成否について判断するまでもなく,被告給油装置及び被 告プログラムは本件特許を侵害しない。
4 争点4(無効論)について
念のため,仮に,本件発明1の「先引落し」金額は顧客が指定する場合を含 み(上記3(1)イ(イ)参照),また,非接触式ICカードも本件特許の「記憶媒 体」に含まれる(上記3(2)イ参照)とした前提で,無効論につき検討する。 なお,本件において,無効論は,本件発明1及び本件発明3(本件訂正後の もの)について検討すれば足りる。このことは,上記「第3」4の冒頭に説示 したとおりである。
(1) 「時機に後れた攻撃防御方法」該当性について
無効主張A,B,Dは,原審における侵害論の心証開示後に主張されたも のであり,そのため,原審においては時機に後れたものとして取り扱われた わけであるが,既に充足論に関する項で指摘したとおり,構成要件1C1充\n足性(非侵害論主張4))及び構成要件1A,1C,1F3,1F4充足性\n(非侵害論主張5))に関する原審の主張整理には,本来は,争いがあるもの として扱うべき論点を争いのないものとして扱ったという不備があったとい わざるを得ない。そして,無効論に関する主張の要否や主張の時期等は,充 足論における主張立証の推移と切り離して考えることができないのであるか ら,充足論について,本来更に主張立証が尽くされるべきであったと考えら れる本件においては,無効主張が原審による心証開示後にされたという一事 をもって,時機に後れたものと評価するのは相当ではない。 また,上記無効事由に関する当審における無効主張は,控訴後速やかに行 われたといえる。 以上によると,一審被告による上記無効主張は,原審及び当審の手続を全 体的に見た観点からも,また,当審における手続に着目した観点からも,時 機に後れたものと評価することはできない。 したがって,いずれの無効主張も,時機に後れた攻撃防御方法として却下 すべきものではない。
・・・
ウ 相違点の容易想到性
上記の表において一致点とされていない本件発明1の構\成は,相違点と なる。 しかしながら,いずれの構成も,セルフ式GSの給油装置において,審\n判甲B1装置の現金による支払を,電子マネー媒体による支払に置き換え る際には,当然に備わる構成である。すなわち,上記の各相違点をまとめ\nると,本件発明1においては装置がR/Wを備えること,電子マネーの金 額データはR/Wにより電子的に書き換えられること,の2点となるが, いずれの構成も,現金の場合は貨幣という有体物に化体されている金銭的\n価値を,電子的情報という無体物に化体させたことによって必然的に生じ る帰結である。 また,現金による支払を電子マネー媒体による支払に置き換えること自 体は,電子「マネー」という名称自体からも容易に着想することができる し,例えば乙16の12(電子商取引推進協議会「モバイルECに関わる 決済標準モデルの研究中間報告書」平成13年3月発行)には,非接触式 ICカードが「電子マネー」として利用されること,FeliCa内蔵の携帯電 話は「電子財布」になること等が記載されており,これらの記載は,現金 による支払いを電子マネー媒体に置き換えることを動機付ける。 そうすると,当業者にとって,上記各相違点にかかる本件発明1の構成\nに想到することは,通常の創作能力の発揮にすぎず,容易であったといえ\nる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)29228

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令和3(行ケ)10013  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月20日  知的財産高等裁判所

 不使用取消を請求しましたが、棄却されました。知財高裁も同様に「動画である本件動画における商標の使用は,商標的使用とはいえないと判断をしました。

 事案の性質に鑑み,まず本件商標の使用の有無の点から検討,判断する。 商標法は,50条において,「日本国内」において「商標権者,専用使用権 者又は通常使用権者」のいずれかが「不使用取消審判請求に係る指定役務」 のいずれかについての登録商標の「使用」をしていることを商標権者が証明 しない限り,当該指定役務について当該商標の登録が取り消されると定め, また,2条において,商標とは「業として」使用するものであり,その「使 用」とは,同条3項各号に列記されているのものに限ることを定めている。 したがって,本件において,商標権者である原告は,本件サービス又は本 件チャンネルにおける本件商標の使用が,日本国内において原告又はリンガ フランカ社によって,本件指定役務について,業務に係る標章として同条3 項各号に列記されている態様で行われていることを立証することを要する。
(2)本件サービスにおける本件商標の使用について
ア 前記1(8)のとおり,本件サービスに係る会員認証ページ(甲8)には, 本件商標と同一の商標が表示されており,また,同(1)ウ及び(3)のとおり, 本件サービスは日本国内における日本人も対象としていることが明らか であるから,本件商標は,日本国内において使用されているといえる。 しかしながら,上記ページは,要証期間経過後で本件審判請求がされた 後の平成31年4月16日に印刷されたものにすぎず,要証期間に同ペー ジに本件商標が表示されていたことを直ちに明らかにするものではない\nし,自己のウェブサイトの表示を変えることは容易であるから,この証拠\nだけから要証期間に本件商標が表示されていたことを推認できるもので\nもない。 したがって,要証期間に本件サービスで本件商標が使用されていること を認めるに足りる証拠はないというべきである。
イ 仮に,要証期間に本件サービスに係る会員認証ページに本件商標が表示\nされていたとしても,本件商標は本件指定役務の範囲に含まれる役務につ いて使用されているとはいえない。 すなわち,本件指定役務のうち,「語学に関する知識の教授」,「国際文化 に関する知識の教授」又は「教育研修のための施設の提供」は,人に対す る教育又は知能を開発するための役務であるが,本件サービスは,会員が\nSNSを利用して会員同士で情報発信,情報交換をするものであり,その 際に使用できる言葉をグロービッシュの基本単語1500語又はその派 生語に限定したというにすぎず,実態としては個人間の交流の場を提供し ているだけのサービスである。したがって,本件サービスが主体的に知識 の教授や教育研修を行っているとはいえず,本件サービスを利用すること でグロービッシュについての能力が向上することがあるとしても,それは,\n単なる副次的な作用,効果にすぎない。 そうすると,本件サービスの提供は,「語学に関する知識の教授」,「国際 文化に関する知識の教授」又は「教育研修のための施設の提供」のいずれ にも該当しないというべきである。
ウ したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件サービスに おいて,要証期間に上記各指定役務について本件商標の使用がされていた とは認められない。
(3) 本件チャンネルにおける本件商標の使用について
ア 前記1(4)のとおり,本件動画1)ないし4)には,その冒頭に本件商標と同 一の商標が使用されており,また,本件サービスやグロービッシュ・ラー ニング・センターの案内を内容とするなど日本国内における日本人を対象 としていることが明らかであるから,当該商標は日本国内において使用さ れているといえる。 また,前記1(4)のとおり,本件動画1)ないし4)の投稿日は要証期間開始 前の平成25年3月9日から同年7月9日にかけてであるところ,要証期 間経過後である令和2年10月9日時点においても本件動画1)ないし4) を視聴することが可能であり,同日時点の本件動画1)の視聴回数が750 回,本件動画2)の視聴回数が1125回,本件動画3)の視聴回数が431 回,本件動画4)の視聴回数が437回となっているから(甲10),要証期 間に本件動画1)ないし4)が視聴され得る状態であったことは十分に推認\nすることができる。したがって,要証期間に本件商標が本件チャンネルに おいて使用されたことが認められる(なお,被告は,要証期間に本件チャ ンネルが閉鎖されていた可能性を否定することはできない旨主張するが,\n閉鎖されていたことを疑うに足りる事情は見当たらない。)。
イ しかしながら,本件サービスの提供は,前記(2)イで判示したとおり,「語 学に関する知識の教授」又は「国際文化に関する知識の教授」,さらには「語 学教育に携わる教師の育成のための教育又は研修」のいずれの役務にも当 たらないというべきであるから,本件動画1)ないし4)が本件サービスの案 内を内容とするとしても,それが上記各指定役務に関する「広告」(商標法 2条3項8号)に該当する余地はない。 また,本件動画1)及び2)は,専らグロービッシュそのものの紹介を内容 とするものと把握される動画であって,具体的な役務との関連性が明確に されているとはいえず,この点からも「役務に関する広告」(商標法2条3 項8号)とはいい難いものである。したがって,本件動画1)及び2)におけ る本件商標の使用が,商標法2条3項所定の「使用」に該当するとは認め られない。 さらに,本件動画3)は,専らリンガフランカ社の前記1(1)ウ2)のサービ スの紹介を,本件動画4)は,専ら前記1(1)ウ3)のサービスの紹介を内容と するとものとそれぞれ把握される動画であるところ,前記1(6)及び(7)のと おり,リンガフランカ社は,要証期間前の平成25年9月30日には上記 両サービスを終了させており,原告は,同サービスの運営を引き継いでい ないから,本件動画3)及び4)を「役務に関する広告」(商標法2条3項8号) と捉えるとしても,その内容は,事業として行われていない実態のサービ スに関するものにすぎない。そうすると,本件動画3)及び本件動画4)は, 業として行われている役務について使用されているものではないから,そ こに本件商標が表示されているとしても,その本件商標の使用を商標とし\nての使用と解することはできない。
ウ 以上によれば,本件チャンネルで公開されている動画である本件動画1) ないし4)における本件商標の使用は,いずれにしても商標法2条3項所定 の「使用」とはいえない,あるいは商標的使用とはいえないことになる。
(4) 小括
以上の次第で,本件商標が,要証期間中,本件指定役務のうち,「語学に関 する知識の教授」,「国際文化に関する知識の教授」,「教育研修のための施設 の提供」又は「語学教育に携わる教師の育成のための教育又は研修」の役務 について使用されていたと認めることはできず,また,原告は,本件指定役 務のうち,上記役務を除く役務について要証期間に本件商標が使用されてい る点について具体的に主張立証をしておらず,本件証拠からもその使用をう かがうことはできない。 したがって,要証期間に本件商標が本件指定役務について使用された旨の 立証はないというべきであるから,本件商標の使用者に係る点について判断 するまでもなく,いずれにしても本件審決の判断に誤りはない。

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令和2(行ケ)10147  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年6月29日  知的財産高等裁判所

 ゲームプログラムの発明について新規事項であるとした審決が維持されました。なお本件発明は第4世代の分割出願です。

 これらによると,「アイテムボックス」は,アイテムを収納するものとしてゲーム 分野で慣用されている語であるとはいえるものの,「アイテムボックス」という記載 をもって,アイテムボックスに収納できるアイテムの数に所定の上限が設けられて いるか否か,アイテムボックスが必ずすべてのアイテムを収納するものであるか否 か,といった特定の仕様が一義的に決まるものではない。 当初明細書に記載の「アイテムボックス」の解釈に当たっては,当初明細書に記 載の「アイテムボックス」が収納上限を設けているという仕様を有していることを 前提としているものといえ,甲12〜14の記載は,当初明細書等に記載の「アイ テムボックス」が収納上限を設けているという前提に対して何らの影響を与えるも のとはいえない。
ウ 原告は,本願発明1は「アイテムボックスに特定アイテムの収納上限が 設けられ」ることを特定しているわけではないから,「アイテムボックスに特定アイ テムの収納上限が設けられている」ことが当初明細書に記載されているか否かは, 本件補正が新規事項の追加に該当するか否かとは無関係である旨主張する。 しかし,当初明細書において唯一アイテムボックスに関して記載されている段落 【0051】における「アイテムボックス」に関する記載からは,当該「アイテム ボックス」に収納上限が設けられているものであることが読み取れるのみであるか ら,「アイテムボックス」に特定アイテムを収納するとした場合には,特定アイテム の収納上限が設けられることになるとの解釈が,新たな技術的事項を導入するもの であるか否かを判断する際に考慮すべき事項である。 なお,新規事項の追加の判断は,補正により追加された事項が,当初明細書に記 載された事項から導き出される全ての技術的事項との関係から,新たな技術的事項 が導入されたものであるか否かであるから,本願発明1において「アイテムボック スに特定アイテムの収納上限が設けられ」ることを特定しているか否かは,新たな 技術的事項を導入するものであるか否かの判断に影響するものではない。
エ 原告は,令和2年4月1日付け意見書(甲8)と当初明細書等の記載が 整合するか否かは,本件補正が新規事項の追加に該当するか否かとは無関係である 旨主張する。 しかし,原告は,同意見書(甲8)において,当初明細書に記載の「アイテムボ ックス」には収納上限が設けられているということを前提とした主張をしているた め,同意見書の主張と,当初明細書との記載とが整合しているか否かは,新たな技 術的事項を導入するものであるか否かを判断する際に検討すべき事項であって,無 関係というべきではない。
(3) 「特定のアイテム」について
ア 当初明細書の段落【0051】には,「・・・具体的には,ユーザは,付 与される様々な種類の不要なアイテムを,1つの特定のアイテムに変換して所持す ることができるため,・・・」として,「付与される様々な種類の不要なアイテム」 を「1つの」「特定アイテム」に変換して所持することが記載されているところ,「1 つの」特定のアイテムが,「1個の」特定のアイテムのことを意味するのか,「1種 類の」特定のアイテムのことを意味するのかは当初明細書には記載されていない。 しかし,当初明細書の【図3】において,レアリティが「R」のカードが3個の 「特定のアイテム」に変換され,レアリティが「N」のカードが2個の「特定のア イテム」に変換されることが看取でき,すべてのカードが「『1個の』特定のアイテ ム」に変換されるものではないことを踏まえると,当初明細書の段落【0051】 に記載の「1つの」特定のアイテムは,「1種類の」特定のアイテムのことを意味す ると解することができる。 本件審決は,「1つの」特定のアイテムについて,直接的に言及していないものの, 「特定のアイテム」が「1種類」であることを当然の前提とした上で,判断してい る。
イ 当初明細書には,「特定のアイテム」が「上限なくユーザが所持可能とす\nることができる」ものであることが記載されているとともに,当初明細書には「特 定のアイテム」を上限なくユーザが所持可能とするという構\成をとることによって, ユーザは,付与される様々な種類の不要なアイテムを,一つの特定のアイテムに変 換して所持することができるため,不要なアイテムによりユーザのアイテムボック スが満杯になるのを防ぐことができることが記載されている。 これらの記載によると,本願発明における「ユーザに付与されたアイテムを特定 のアイテムに変換する」ことの技術的意義は,不要なアイテムを,上限なくユーザ が所持可能とすることができる「特定のアイテム」に変換することによって,収納\nすることができるアイテムの数に上限が設けられている「ユーザのアイテムボック ス」が満杯になることを防ぐことであると理解される。
ウ 上記イのような「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイテムに変換 する」ことの技術的意義に照らすと,当初明細書等に記載の「アイテムボックス」 は,収納上限が設けられているものであるのに対し,当初明細書に記載の「特定の アイテム」は,「上限なくユーザが所持可能とすることができる」ものであるから,\n「アイテムボックス」に収納される「アイテム」と,「特定のアイテム」とでは,所 持可能な数に上限があるかないかという点で,アイテムの性質が異なるといえる。\nまた,当初明細書には,「特定のアイテム」が「他アイテム」とは異なる種類のアイ テムであることが説明されている。 当初明細書の記載に接した当業者は,そこに記載された収納上限が設けられてい る「アイテムボックス」に,上限なくユーザが所持可能とするようにされた「特定\nのアイテム」が収納されると認識することはなく,上限なくユーザが所持可能とす\nるようにされた「特定のアイテム」は,収納上限のある「アイテムボックス」とは 別に管理するものであると認識するというべきである。 また,「特定のアイテム」と,「ユーザに付与される」「他のアイテム」とは異なる 種類のアイテムであることが説明されており,「特定のアイテム」とユーザに付与さ れるアイテムとでは,所持可能な数に上限があるかないかという点で,アイテムの\n性質が異なるものと理解されることからしても,「ユーザ」に付与される「他のアイ テム」がアイテムボックスに収納されるものであるからといって,「特定のアイテム」 がアイテムボックスに収納されるものであると当然に理解するものとはいえない。 以上によると,当初明細書の記載は,上限なくユーザが所持可能とすることがで\nきる「特定のアイテム」を収納上限のある「アイテムボックス」に所持する(アイ テムボックスに収納する)ことを排除していると評価できる。
エ 原告が主張するように,本願発明において,「特定のアイテム」が「アイ テムボックス」に収納されるものであると解した場合には,当初明細書の段落【0 051】にのみ記載されているところの「アイテムボックス」には収納上限が設け られているのであるから,不要なアイテムを「特定のアイテム」に変換したとして も,(複数個の)1種類の「特定のアイテム」が不要なアイテムとして変換されたア イテムの代わりにアイテムボックスに収納されることとなる以上,(複数個の)「特 定のアイテム」によりアイテムボックスが占有されることになるのであるから,ア イテムボックスが満杯になることを防ぐことができなくなってしまうこととなり, 不要なアイテムを「特定のアイテム」に変換することにより,ユーザのアイテムボ ックスが満杯になることを防ぐという「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイ テムに変換する」ことの技術的意義を損なうものといえる。
オ 原告は,アイテムの所持とアイテムボックスへの収納とが関連すると主 張する。 しかし,上記(2)の「アイテムボックス」に関する前提や上記イの本願発明におけ る「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイテムに変換する」ことの技術的意義 を踏まえると,当初明細書の段落【0051】の記載は,ユーザに付与された不要 なアイテムを特定のアイテムに変換して,変換した特定のアイテムをアイテムボッ クスに入れることなく上限なしに所持できるようにすることにより,ユーザのアイ テムボックスが満杯になることを防ぐという,原因と結果の関係を示しているとい うべきである。 本件審決は,「1つの特定のアイテムを所持できる」ことと「不要なアイテムによ りユーザのアイテムボックスが満杯になるのを防ぐことができる」ことを,当初明 細書の記載を踏まえて,両者を関連付けた上で判断を行っているから,「1つの特定 のアイテムを所持できる」ことと「不要なアイテムによりユーザのアイテムボック スが満杯になるのを防ぐことができる」ことを別個独立したものとして捉えている との原告の主張は誤りである。
カ 原告は,当初明細書の段落【0052】は,段落【0051】の記載に 加え,更に「上限なくユーザが特定のアイテムを所持可能とする」という構\成を付 加的に採用してもよいこと,その付加的な構成によって「特定アイテムを貯蓄する\n事が可能となり,ユーザの好きなタイミングで特定アイテムを使用する事ができる」\nという効果があることを述べたにすぎないから,新たな発明特定事項が当初明細書 に明確に記載されているか否かは,段落【0052】の記載に左右されるものでは ない旨主張する。
しかし,新規事項の追加の判断は,補正により追加された事項が,当初明細書の 全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技 術的事項を導入するものであるか否かである以上,本件審決において,当初明細書 の段落【0051】だけでなく,段落【0052】を含めた当初明細書のすべての 記載を総合的に判断して,「アイテムボックス」及び「特定のアイテム」,並びに, 本願発明における「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイテムに変換する」こ との技術的意義を解釈して,新規事項の追加の判断を行ったことに,誤りはない。 なお,本件審決は,本願発明において,「特定のアイテム」が「アイテムボックス」 に収納されるものであると解した場合には,不要なアイテムを「特定のアイテム」 に変換することにより,ユーザのアイテムボックスが満杯になることを防ぐという 「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイテムに変換する」ことの技術的意義を 損なうものであると判断しており,当該判断においては,「特定のアイテム」が「上 限なくユーザが特定のアイテムを所持可能とする」ものであるか否かに関係なく,\n「特定のアイテム」を「アイテムボックス」に対応付けて記憶する事項が新規事項 であると判断している。
(4) 以上のとおり,当初明細書には,「特定のアイテム」が「アイテムボック ス」に収納されることが記載されているとはいえず,また,当初明細書の記載から, 「特定のアイテム」が「アイテムボックス」に収納されることが自明であったとも いえないから,「特定のアイテム」を「アイテムボックス」に対応付けて記憶する事 項を追加する補正が,当業者によって当初明細書の全ての記載を総合することによ り導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであると した本件審決の判断に誤りはない。

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平成31(ワ)11130  商標権侵害差止請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年6月17日  東京地方裁判所

 東京地裁46部は、富富富」という標章,「ふふふ」という読み仮名を付した「富富富」という標章は、登録商標「ふふふ」と非類似として、侵害を否定しました。

 被告標章2と本件商標を比較すると,これらは外観において明らかに異 なる。他方,被告標章2と本件商標は,「フフフ」の称呼を共通にする場 合がある。もっとも,被告標章2は特定の観念を生じないのに対し,本件 商標は軽く笑う声等の観念を生じ,これらは観念において異なる。
そうすると,被告標章2と本件商標は,称呼において類似する場合があ るとしても,外観,観念において相違しており,その出所について誤認混 同を生じさせるような取引の実情があるとは認められず,同一又は類似の 商品等に使用された場合に,商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれ があるとは認められない。
したがって,被告標章2は本件商標と同一又は類似のものではない。 なお,「富富富」は,被告富山県によって育成された本件米の品種名で あり(前記1(1),(6)),被告富山県は,特に,平成30年秋頃以降,本 件米について積極的に広告,宣伝しており(同(5)),「富富富」が米の 品種名であることは相当程度知られていたと認められる。被告標章2は, この品種名を普通に用いられる方法で表示したものである。\n

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◆令和2(行ケ)10014

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平成29(ワ)36506 損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月19日  東京地方裁判所

 LINEのフリフリ機能の特許権侵害について、約1400万円の損害賠償か認められました。広告収入については因果関係無しとして認められず、有料スタンプの売り上げのみでした。

 原告は,被告に対し,特許法102条3項に基づく損害賠償を請求していると ころ,同項は,「特許権者・・・は,故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を, 自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定してい るから,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに, 実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 そして,かかる実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許 諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の 相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内 容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場 合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や 特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定め るべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日大合 議判決参照)。
本件においては,被告アプリが無償で配信されており,被告アプリのユーザが 友だち登録をし,友だち等との間で被告システム等によるメッセージの送受信等 のサービスを享受すること自体により被告に売上げは発生しない(甲73)から, 「侵害品の売上高」をどのように確定すべきかがまず問題となり,次いで,実施 に対し受けるべき料率(相当実施料率)の算定が問題となる。 そこで,それぞれにつき,以下,検討する。
(1) 売上高について
ア 当事者の主張
原告は,被告の事業のうち,本件特許権侵害の対象となる事業は,コア事 業中の「アカウント広告」と「コミュニケーション」の売上げであり,本件 特許登録日である平成29年9月15日から被告が「ふるふる」の提供を終 了した日の前の日である令和2年5月10日までの間(以下「本件損害算定 期間」という。)の売上高(アカウント広告につき合計1519億5800 万円,コミュニケーションにつき767億2800万円)に基づいて損害額 を算定すべきであると主張する。 一方,被告は,主に被告アプリ上でアカウントを有する企業等からの売上 げであるアカウント広告の売上げは損害賠償額算定の対象とならず,仮に, コミュニケーションの売上げが損害賠償額算定の対象となり得るとしても, 対象となるのは本件機能と関係のある部分に限られると主張する。\n
イ 認定事実
そこで検討するに,前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると, 以下の事実を認めることができる。
・・・
(ウ) 企業等のアカウントとの間の「ふるふる」による友だち登録(被告シス テム等図面【図38】,甲61) LINE@等のサービスを導入している企業等が住所の位置情報をあ らかじめ登録している場合,一般ユーザが被告アプリの友だち追加画面で 「ふるふる」を選択して手元のスマートフォンを振ると,半径1km圏内 の上記企業等も友だち登録の候補として表示され,同ユーザが同企業等に\nつき友だち追加処理をすると,同企業等が同ユーザの友だちとして追加登 録される。
ウ 「ふるふる」以外の友だち登録及び海外企業への輸出に係る売上げ等につ いて
原告は,損害賠償の対象は,「ふるふる」による友だち登録及びこれによ り友だちとなったユーザとの交流等に限定されず,QRコードやID検索等 の他の友だち登録も含み,また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべき であると主張する。 (ア) しかし,原告は,本訴提起当初から,一貫して「ふるふる」による友だ ち登録及びその後の交流が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張を していたのであり(前記前提事実(5),被告システム等図面【図2】〜【図 4】,【図34】〜【図44】),その余の友だち登録手段による友だち 登録等が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張立証は侵害論の対象 とされていないので,損害賠償の対象となるのは,「ふるふる」による友 だち登録と相当因果関係のある範囲の売上高に限定されるというべきで ある。
(イ) また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべきとの点については,被 告から海外企業への実施品の輸出に係る売上高を対象とする趣旨と考え られるが,原告が侵害論において対象としていた被告の実施行為は,被告 システムの使用と,被告アプリの生産,譲渡及び譲渡の申出にとどまって\nおり,仮に被告システム等が輸出されているとしても,当該被告システム 等に本件機能が搭載されているかどうかといった点も本件の証拠上明ら\nかではないから,この点の原告の主張も採用し難い。
エ 損害賠償の対象となる売上高の範囲について そこで,前記イ(ア)〜(ウ)で認定した事実に基づき,本件において損害賠償 の対象となる売上高の範囲につき検討する。
(ア) アカウント広告の売上げについて
アカウント広告の売上げは,企業等からの売上げに関するものであると ころ,一般ユーザは,かかる企業等との間でも「ふるふる」による友だち 登録をなし得るものの,この場合は,企業等が住所の位置情報をあらかじ め登録している必要があり,また,その際,企業等はスマートフォンを操 作するとは考え難いから,そもそも,この場合に,「近くにいるユーザ同 士がスマートフォン(2)を操作して友だち登録することによりコンピュ ータ(14)を利用してコミュニケーションによる交流」(構成a等)を\n具備するとは認め難く,他にこの場合の被告システム等が本件各発明の技 術的範囲に属するという的確な主張立証はない。 また,前記イ(ア)aに記載されたアカウント広告を構成する各売上げの\n内容に照らすと,これらの売上げは,いずれも,一般のユーザ同士の本件 機能による友だち登録との関係がないか,関係があっても希薄であるとい\nうべきである。 そうすると,アカウント広告の売上げは,本件の損害賠償の対象となら ないと解するのが相当である。
・・・
b 前記aで認定した売上高は,「ふるふる」以外の友だち登録に関する 分も含まれているところ,被告の侵害行為は,「ふるふる」による友だ ち登録に関するものであるから,被告の侵害行為と相当因果関係にある 売上高は,上記売上高に,本件損害算定期間中の「ふるふる」による友 だち登録割合を乗じて算出するのが相当である。そして,前記イ(イ)の とおり,同割合は,●(省略)●であるから,被告の侵害行為と相当因果 関係にある売上高は,●(省略)●となる。 ●(省略)●
(ウ) 以上のとおり,被告の侵害行為と相当因果関係にある売上高は,●(省 略)●となる。
・・・
(2) 相当実施料率について
ア 本件各発明の実施許諾契約における実施料率やその相場等
原告は,原告代表者から専用実施権の設定を受けているが,その設定契約\nの詳細は本件の証拠上明らかでなく,また,原告が他人に本件各発明の実施 を許諾したことをうかがわせる証拠はない。 そこで,相場等につきみるに,証拠(甲157〜159,乙82)によれ ば,電子計算機に係るロイヤルティ(件数719件)は,平均値が33.2%, 最頻値が50.0%,中央値が40.0%とされている一方,「技術分類 コ ンピュータテクノロジー」,「対象となる製品・技術例 計算;係数,チェ ック装置等」におけるロイヤルティ料率の相場は,1%未満,1〜2%未満, 2〜3%未満,3〜4%未満がいずれも16.7%であり,4〜5%未満が 25.0%であるとされている。 しかし,本件においては,被告アプリは無償で配信され,被告アプリのユ ーザが「ふるふる」を使用して友だち登録をし,その後の交流を行うといっ た行為自体による被告の売上げは発生しないという特殊性があることから すれば,上記の相場等を重視することはできない。
イ 本件各発明の価値や代替可能性等\n
本件各発明は,前記1(2)に記載のとおり,初対面の人物同士が出会った 後互いにコンタクトを取ることができるようにする際に,極力個人情報を明 かすことなくコンタクトが取れるようにするためのコンピュータシステム 及びプログラムに関する発明であって,相手方に互いの個人情報を通知する ことなく後々コンタクトを取ることができ,かつ,相手方以外の他人がその 相手方に成りすましてコンタクトしてくる不都合をも防止できる理想的な 連絡可能状態を構\築する手段を提供することを目的として,現実世界で出会 ったユーザ同士がユーザ端末を操作し,コンピュータを利用して交流を行う に当たり,コンピュータ(サーバ)が各ユーザ端末の位置情報を取得し,該 位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索 されたことを必要条件として,該検索されたユーザ端末を新たな交流先とし て交流先のリストに追加して表示させ,ユーザが表\示された複数の交流先の 内からコミュニケーションを取りたい相手を選択指定し,指定された相手と の間でメッセージを送受信できるようにするという手段を採用することで, 互いにコミュニケーションによる交流に同意したユーザ同士が連絡先の個 人情報を知らせ合うことなく交流できるという効果が得られるようにした ことを特徴とする発明である。 このような発明には一定のニーズが存在するものと考えられるから,本件 各発明には相応の価値があるものと認められる。 もっとも,前提事実(6)のとおり,本件特許に関する無効審判請求におい て,特許庁は,本件特許が進歩性を欠く旨の職権審理結果通知をしていると ころ,このことは,実際に本件特許が無効となるか否かはともかく,類似の 技術が存在することを示すものということができる。
ウ 本件各発明の被告の売上げや利益への貢献等
証拠(甲41・3丁)によれば,「ふるふる」を利用する場合の最大の特 長は,複数人と一度に友だちになれることであり,サークルや部活,仕事の チーム,パーティーなど,複数の人が集まる場で活躍しそうであるとされて いることが認められ,これらの事実に加え,前記(1)イ(イ)記載の事実関係に よると,既に友人等であるユーザ同士が友だち登録する方法が多く,実際に もそのようなユーザ同士により友だち登録がされることが多いことがうか がわれることからすると,被告システム等においては「ふるふる」による友 だち登録がされる場合であっても,それ以前に相互の個人情報を交換してい る場合も少なくないものと考えられる。
●(省略)●
被告による企業努力が大きく貢献しているとうかがわれるとこ ろである。 そうすると,被告システム等に係る売上げや利益についての本件各発明の 貢献の度合いは,かなり限定的なものであると認められる。 エ 以上の諸事情,とりわけ,本件各発明には相応の価値があると認められる ものの,これと類似の技術が存在することがうかがわれることや,被告シス テム等に係る売上げや利益についての本件各発明の貢献の程度は限定的な ものであることなどを総合的に考慮すると,本件における相当実施料率は● (省略)●と認めるのが相当である。

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令和3(行ケ)10010 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年6月30日  知的財産高等裁判所

 商標「パールアパタイト」を商品1類「化学品」、3類「化粧品,せっけん類・・・」に使用することが、品質誤認(商4条1項16号違反)に該当するかが争われました。知財高裁は、該当しないとした審決の判断を維持しました。

ア 「パールアパタイト」の語が,一般の辞書等に掲載されていることを認 めるに足りる証拠はない。 一方で,本件商標を構成する「パール」の文字部分は,「真珠」の意味\nを有するものと認められる(甲3,11,12)。
イ 原告は,本件商標の登録査定時において,「アパタイト」の語が,取引 者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシア パタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意味する語\nとして,一般的に広く認識されていた旨主張するので,以下において判断 する。
(ア) 証拠(甲23ないし205(枝番のあるものは枝番を含む。特に断 りのない限り,以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認 められる。
a 株式会社サンギ(以下「サンギ」という。)は,平成5年2月,歯 を白くする美白効果のある歯磨き剤として,「薬用ハイドロキシアパ タイト」を含有する「アパガードM」を発売した。 「アパガードM」は,1995年(平成7年)に放映を開始した「芸 能人は歯が命」のキャッチコピーのテレビCMの効果等によって,ヒ\nット商品となり,1996年(平成8年)には,年間売上げが140 億円を記録した。 「アパガードM」の発売後,同年中には,歯磨き業界大手の他の事 業者(サンスター,ライオン)も,美白効果のある歯磨き剤として, 「ハイドロキシアパタイト」又は「フルオロアパタイト」を配合する 歯磨き剤を製造,販売するようになった(甲146ないし155)。 また,「アパガードM」は,FRIDAY,プレジデント,WED GE等の雑誌(甲175ないし181)において,「薬用ハイドロキ シアパタイト」配合のヒット商品として,取り上げられた。 このほか,「アパガードM」及びその後発品に関する記事が,平成 17年6月14日付けの読売新聞(甲160),平成21年9月14 日付け及び平成22年5月3日付けの日経流通新聞(甲169,17 0),同年6月5日付けの朝日新聞(甲171)や,週刊東洋経済, 日経ヘルス等の雑誌(甲182,183等)に掲載された。
b 「ハイドロキシアパタイト」の語の意義に関し,平成21年7月2 7日付けの朝日新聞(甲27)に,「ハイドロキシアパタイト」は, 「骨や歯,貝殻などの成分。人体への害が少なく,なじみやすいこと から,人工骨や人工歯根などの医用材料に使われている。」,平成2 2年5月29日付けの加藤歯科医院のウェブサイト(甲29)に,「ハ イドロキシアパタイトとはリン酸カルシウムでできた歯や骨を構成す\nる成分のことで,エナメル質は97%,象牙質の70%がハイドロキ シアパタイトで構成されています。」などと掲載された。\nまた,香粧品科学研究開発専門誌フレグランスジャーナル2008 年(平成20年)6月号(甲204)に,「ハイドロキシアパタイト (Ca10(PO4)6(OH) 2)は,リン酸カルシウムの一種であり,歯牙 や骨といった硬組織の主成分であって,化学合成品においても生体に 対する安全性の高い化合物である。・・・工業的には,・・・広範囲な用途に 利用されている。化学合成したハイドロキシアパタイトがそのような 用途に利用されるのは,生体硬組織と直接結合するといった高い生体 親和性やタンパク質,核酸および配糖体との吸着特性を有するためで ある。」(20頁右欄)などと掲載された。 さらに,日本化粧品工業連合会作成の医薬部外品の成分表示名称リ\nストにおいて,「成分名 ヒドロキシアパタイト」,「別名 ハイド ロキシアパタイト」,「本品は,主としてヒドロキシアパタイト(・・・)」 と記載されている(甲139,140)。
c 「アパタイト」の語の意義に関し,材料開発・応用専門誌「ニュー セラミックス」1990年(平成2年)7月号(甲59)に,「アパ タイトはアパタイト構造(六方晶系・・・)をもつ結晶群の総称であるか,\n単にアパタイトといった場合は最も代表的なリン酸カルシウムを意味\nすることが多い。水酸アパタイト(以下,単にアパタイトと略称する。) といえば,Ca10(PO4)6(OH)2 であり,生体アパタイトのモデル物 質である。フッ素アパタイトはCa10(PO4)6(PO4)F2 となる。」 (96頁左欄),「PHOSPHORUS LETTER 2000 年6月第38号」(甲135)に,「アパタイトはM10(ZO4)6X2 の組 成を持つ結晶鉱物の総称であり,次の各元素が単独あるいは複数M, ZO4,Xの位置に入る。M:Ca,Ba,Sr,Mg,Na・・・,ZO4: PO4,AsO4・・・,X:F,OH,Cl・・・このようにアパタイト構造に\nは多くの種類の元素が入り得るために,さまざまな固溶体が生成する。」 (8頁左欄),「PHOSPHORUS LETTER 2010年 2月第67号」(甲138)に,「アパタイトはカルシウムヒドロキ シアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2 :Hap)に代表される塩基性\n金属リン酸塩の一種である。」(22頁左欄)などと掲載されている。
d 応用化学,環境化学,触媒化学,生化学等の各種化学分野の文献等 において,「アパタイト」を含む用語が,ハイドロキシアパタイト(ヒ ドロキシアパタイト)のほかに,フッ化アパタイト二酸化チタン光触 媒(甲35),可視光応答型アパタイト被覆二酸化チタンハーフメタ ル(甲39),水酸アパタイト(甲47,58,64,71,111), フッ素アパタイト(甲50),ハロゲン固溶アパタイト(甲53), Pb2+〜Ag+交換水酸アパタイト(甲56),フッ素アパタイト結 晶(甲60),チタンアパタイト(甲86),カルシウムヒドロキシ アパタイト粒子(甲88)などと使用されている。
(イ) 前記(ア)の認定事実によれば,1)歯を白くする美白効果のある歯磨 き剤として広告宣伝された,「薬用ハイドロキシアパタイト」を含有す る「アパガードM」がヒット商品となり,新聞,雑誌等で取り上げられた 結果,「薬用ハイドロキシアパタイト」又は「ハイドロキシアパタイト」 の語は,一般消費者の間でも,歯や骨を構成する成分であることはある\n程度知られるようになったこと,2)「ハイドロキシアパタイト」は,Ca 10(PO4)6(OH)2 の化学式で表される,リン酸カルシウムの一種である\nこと,3)「アパタイト」は,M10(ZO4)6X2 の組成をもつ結晶鉱物の総称 であり,M,Z及びXには複数の種類の元素が入り得るため,特定の化 合物を指すものではなく,「ハイドロキシアパタイト」は,アパタイトの 一種(Mがカルシウム(Ca),Zがリン(P),Xが水酸基(OH)の もの)ではあるが,アパタイトそのものを意味するものではないことが 認められる。 加えて,「アパタイト」の文字は,その称呼から,英単語「appet ite」(「本能的欲望,(特に)食欲」)(甲17)又は「apati\nte」(「燐灰石。ハイドロキシアパタイト」)(甲16)に通じるもの である。
以上の認定事実に照らすと,前記(ア)の冒頭掲記の証拠(甲23ない し205)から,「アパタイト」の語が,本件商標の登録査定時におい て,取引者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイド ロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を\n意味する語として,一般的に広く認識されていたものと認めることはで きず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえって,「アパタイト」 は,M10(ZO4)6X2 の組成をもつ結晶鉱物の総称であって,具体的な特定 の物質を表するものではなく,このことからしても「アパタイト」が特\n定の意味合いを理解させるものとはいえない。 したがって,原告の前記主張は,採用することができない。
ウ 前記ア及びイによれば,本件商標は,「真珠」の意味を有する「パール」 の文字と,特定の意味合いを理解させるものとはいえない「アパタイト」 の文字とからなる結合商標であり,その構成全体から,特定の意味合いを\n認識することはできないから,特定の商品の品質を直接的に表示するもの\nと認めることはできない。 したがって,これと同旨の本件審決の認定に誤りはない。
エ これに対し原告は,本件商標の登録査定時において,「アパタイト」の 語が,取引者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイ ドロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を\n意味する語として,一般的に広く認識されており,「アパタイト」という 成分に着目して商品の購入に及ぶといった取引の実情があったことを考 慮すると,「パール」と「アパタイト」とが結合した「パールアパタイト」 の語から構成される本件商標は,「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキ\nシアパタイト)」という物質(化学物質)を想起させるものであるから, 「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキシアパタイト)」を含有するとい う商品の品質を表示する旨主張する。\nしかしながら,前記イで説示したとおり,「アパタイト」の語が,取引 者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシア パタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意味する語\nとして,一般的に広く認識されていたものと認めることはできない。 また,「パールアパタイト」の語は,一般の辞書等に掲載されていない 造語であって,具体的な特定の商品を示すことを認めるに足りる証拠はな いのみならず,「パールアパタイト」の語から,「真珠」そのものと「ア パタイト(ハイドロキシアパタイト)」とを成分に含有する具体的な商品 を一般に想起することを認めるに足りる証拠はない。

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平成31(ワ)8117  損害賠償等請求(商標権侵害)事件  商標権  民事訴訟 令和3年6月28日  東京地方裁判所

 「日本酒」に商標「夢」の使用が、商標権侵害としてラベルの廃棄および、売上げの2%の損害賠償が認められました。特許法105条の3(裁判所が口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づく、相当な損害額の認定)の適用は不要と判断されています。

(1) 法38条2項に基づく請求について
原告は,原告商標を自ら使用していないものの,市島酒造社らに対して原 告商標の通常使用権を許諾し,市島酒造社らが原告商標を継続して使用して いるから,法38条2項に基づく請求が認められると主張する。 この点,前記2(1)ア(ア)のとおり,原告は,原告商標を自ら使用したこと はないところ,商標権者が当該商標を使用していることは,法38条2項を 適用するための要件とはいえず,商標権者において,侵害者による商標権侵 害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合 には,同項の適用が認められると解すべきである。 しかし,前記2(1)ア(オ)のとおり,原告は,日本酒を生産等する市島酒造 社らに対して原告商標の通常使用権を許諾したにすぎず,自らは日本酒の生 産等を行っていないから,被告が被告各標章を付した被告商品を販売するこ とがなかったならば,原告が日本酒の販売等によって利益を得たであろうと は直ちには認められない。また,本件全証拠によっても,被告による被告商 品の販売が,原告が上記許諾の対価として受ける原告商標を付する商品の容 器に貼付するラベルその他の関連印刷物の注文に影響を与えるといった事情\nは認められず,他に,被告による商標権侵害行為がなければ,原告が利益を 得たであろうという事情を認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告に法38条2項に基づく請求は認められない。
(2) 法38条3項に基づく請求について
ア 法38条3項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし, そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 そして,実施に対し受けるべき料率については,当該商標の実際の実施 許諾契約における実施料率,業界における実施料の相場,当該商標を当該 製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様等訴訟に現れた 諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
イ 前記5のとおり,被告は,平成31年4月19日以降,被告標章1が印 刷されたラベルを瓶に貼付せず,被告標章2が印刷されていない外箱に入\nれた被告商品を販売するようになったから,原告が被告に対して原告商標 権侵害に基づく損害賠償を請求することができるのは,被告が設立された 平成20年5月21日から平成31年4月18日までの間のものと認める のが相当である。 そして,証拠(甲21,乙10)及び弁論の全趣旨によれば,被告は, 上記期間に,被告商品のうち,720ml瓶入りのものを1万5456本, 1800ml瓶入りのものを2171本,それぞれ販売し,これにより, 2783万0092円と905万7659円の各売上げ(合計3688万 7751円)があったと認められる。
ウ 以上を前提に,まず,原告がこれまでに原告商標の通常使用権を許諾し たことにより得られた利益について検討する。
(ア) 前記2(1)ア(オ)のとおり,原告は,市島酒造社らに対して原告商標の 通常使用権を許諾し,その対価として,市島酒造社らから原告商標を付 する商品の容器に貼付するラベルその他の関連印刷物を受注する契約を\n締結していた。 上記受注による原告の利益には,原告が印刷を受注したことそのもの による利益も含まれているといえるから,原告商標の使用の対価に相当 する金額は,上記受注による利益の額から,原告が印刷を受注したこと そのものによる利益の額を控除した額と考えるべきである。
(イ) 証拠(甲24ないし26)及び弁論の全趣旨によれば,原告の事業全 体における平成29年から令和元年までの平均の粗利率は約27.5% であり,原告の市島酒造社からの受注に係る平均の粗利率は約45. 7%,原告の大関社からの受注に係る平均の粗利率は約47.8%であ ると認められる。 そうすると,原告商標の使用の対価に相当する金額の割合は,市島酒 造社らからの受注に係る代金額の算定方法や販売費及び一般管理費の取 扱い等について更に厳密な検討をする余地はあるものの,原告の市島酒 造社らからの受注に係る平均の粗利率から原告の事業全体における平均 の粗利率を控除することによって,約18.2%ないし20.3%と一 応計算することができる。
(ウ) 被告商品の容器に貼付するラベルその他の関連印刷物の発注額につい\nては,以下のとおり認定することができる。 被告商品の容器に貼付するラベルその他の関連印刷物の発注額の単価\nについて,証拠(乙9)及び弁論の全趣旨によれば,1) 720ml瓶入 りのもの1本当たりの単価の合計は99.5円(本件ラベル:5円,商 品名等ラベル:18円,本件瓶の背面のラベル:2.5円,本件外箱: 74円),2) 1800ml瓶入りのもの1本当たりの単価の合計は36 1.5円(本件ラベル:5円,商品名等ラベル:45円,本件瓶の背面 のラベル:21.5円,本件外箱:290円)と認められる。
前記イのとおり,原告が被告に対して損害賠償を請求することができ る平成20年5月21日から平成31年4月18日までの間に販売され た被告商品のうち720ml瓶入りのものは1万5456本,1800 ml瓶入りのものは2171本であるから,被告商品の容器に貼付する\nラベルその他の関連印刷物の発注額は,720ml瓶入りのものについ て153万7872円(99.5円×1万5456本),1800ml 瓶入りのものについて78万4817円(361.5円×2171本) と認められ,合計で232万2689円となる。
(エ) 前記(イ)のとおり,原告商標の使用の対価に相当する金額の割合が受注 額の約18.2%ないし20.3%であるとすると,被告商品における 原告商標の使用の対価に相当する金額は,42万2729円(232万 2689円×0.182)ないし47万1506円(232万2689 円×0.203)と一応計算することができる。 そして,この金額は,平成20年5月21日から平成31年4月18 日までの間の被告商品の売上げの合計3688万7751円の約1.1 5%ないし1.28%に相当する。
エ 次に,原告商標を被告商品に用いた場合の売上げ等への貢献について検 討する。
原告商標は,「夢」の標準文字からなり,これ自体は,比較的頻繁に目 にする文字であるから,本来的に高い顧客吸引力があるとまではいえない。 また,前記前提事実(3)のとおり,被告商品の商品名は「夢とまぼろしの物 語」であり,被告各標章はこの商品名の一部を切り出したものであること, 本件瓶の正面には本件ラベルよりも大きい商品名等ラベルが貼付され,本\n件外箱の正面には特徴的な武者の絵が大きく描かれていることからすると, 被告各標章が独自に有する顧客吸引力は限定的というべきであり,被告商 品の売上げに対する貢献もそこまで大きなものであったとは認め難い。
オ 以上の諸事情に加え,前記ウのとおり,原告が原告商標の通常使用権を 許諾したことにより得られた利益の実績を基に,被告商品について計算し た原告商標の使用の対価に相当する金額の割合や,広告業等における商標 権のロイヤルティ料率の相場は概ね3ないし6%であり,1%未満の例も あると認められること(甲23)を考慮すると,原告商標の使用に対し受 けるべき金銭の額に相当する額は,被告商品の売上げの2%に相当する額 と認めるのが相当である。
したがって,原告の損害は,73万7755円(3688万7751円 ×0.02)と認められる。
カ 原告は,市島酒造社らから原告商標のラベルその他の印刷物を受注して おり,これによる利益が原告商標のライセンス料に相当するところ,原告 にはこの受注により1社当たり年232万2514円の売上げがあり,原 告における粗利率25%を乗ずると,年58万0628円がライセンス料 相当額となり,被告は原告商標権を11年間にわたり侵害したので,ライ センス料相当額の損害は638万円となると主張する。 しかし,前記ウ(ア)のとおり,原告商標の使用の対価に相当する金額は, 市島酒造社らからの受注による利益の額から,原告が印刷を受注したこと そのものによる利益の額を控除した額と考えるべきであるから,原告にお ける粗利率をそのまま採用することは相当ではない。 また,前記2(1)ア(オ)のとおり,原告は,原告商標の通常使用権を許諾 する対価として,原告商標を付する商品の容器に貼付するラベルその他の\n関連印刷物を受注する旨の契約を締結していたところ,このような契約内 容からすると,原告の受注額は原告商標を付する商品の数量に比例するこ とになり,その数量は市島酒造社らと被告とでは異なるものと考えられる から,市島酒造社らからの平均の受注額は直ちに被告に当てはまるもので はない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 さらに,原告は,原告商標のライセンス料率は,少なくとも5%と認め るべきであるとも主張するが,前記イないしオで説示したとおり,上記ラ イセンス料率は2%と認めるのが相当であるから,同主張も採用すること ができない。
キ なお,前記2(1)ア(ウ),(エ)のとおり,原告は,旧原告商標権を侵害する 標章を使用した酒造会社との間で,年150万円以上の印刷物の受注又は 300万円の損害賠償金の支払を合意している。 しかし,いかなる標章が付された日本酒が,どのくらいの期間に,何本 販売され,どのくらいの売上げがあったのかなど,上記酒造会社が旧原告 商標権を侵害した態様が明らかではないから,本件と比較することは困難 である。 また,上記合意は,原告商標に関するものではない上,比較的古いもの であり,原告商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を算定す るに当たっては,原告商標に関する直近の許諾契約である原告と市島酒造 社らとの間の契約(前記2(1)ア(オ))を参考にするのが相当である。 したがって,原告が上記の合意をしていたことは,前記オの認定判断を 左右するものではない。
(3) 小括
以上のとおり,原告は,被告による原告商標権の侵害により,原告商標の 使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額として,73万7755円の損 害を被ったと認められる(法38条3項)。 また,原告が本件訴訟を遂行するのに要した弁護士費用相当額の損害は, 本件に現れた一切の事情を考慮すると,10万円と認めるのが相当である。 したがって,原告は,被告に対し,83万7755円の損害賠償を請求す ることができる。 なお,原告は,法39条,特許法105条の3に基づき相当な損害額を認 定すべきであると主張するが,本件においては,原告に生じた損害額は上記 のとおり算定することができるので,「損害額を立証するために必要な事実 を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるとき」に該当せず,同 主張についての判断は要しない。

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令和2(行ケ)10136  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和3年6月16日  知的財産高等裁判所

 意匠法における創作容易性の判断について、意匠の類似範囲が狭い分野においては,形状のわずかな相違であっても,その中に少なくとも一つの「意匠が非類似になる意匠上の要素」があれば,非類似の意匠となり,しかも創作非容易と認められるべきと主張しましたが認められませんでした。

 意匠法3条1項3号における類否の判断は,出願された意 匠と類似する意匠とが,出願意匠に係る物品と同一又は類似の物品につき一 般需要者に対して出願意匠と類似の美感を生じさせるかどうかを基準として なされるべきであるのに対し,同法3条2項は,物品との関係を離れた抽象 的なモチーフとして日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若し くは色彩又はこれらの結合(公然知られた形態)を基準として,それからそ の意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に創作 することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,上記公然知 られた形態を基準として,当業者の立場から見た意匠の着想の新しさないし 独創性を問題とするから(平成10年法律第51号による改正前の法3条2 項につき,最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号3 08頁,最高裁昭和50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号 287頁参照),意匠の類似性と創作容易性とは判断主体や判断手法を全く 異にしている。 したがって,原告の上記主張は,両者の違いを無視した独自の見解といわ ざるを得ないものであって,採用することができない。
(2) 原告は,本願分野の登録意匠について自ら作成した別掲4を用いるなどし て,原告の挙げる7要素のうち少なくとも一つの「意匠が非類似になる意匠 上の要素」があれば,形状のわずかな相違であっても創作非容易と認められ るべき旨主張する。 しかしながら,まず,別掲4の多数の登録意匠のうち,出願人及び登録日 を同じくする複数の意匠は,互いに部分意匠や関連意匠の関係にある可能性\nが高く,その場合は形状の差異がわずかであっても登録されているのは当然 のことにすぎないから,原告の分析は,その前提に問題があるといわざるを 得ない。 そして,既に述べたとおり,本願意匠は,引用意匠1の凹陥の数と位置を 引用意匠2のそれに置き換えたのにすぎず,何ら意匠としての着想の新しさ や独創性を認めることはできないのであるから,原告のいう登録済意匠の存 在を考慮したとしても,本願意匠は創作容易であるとの結論が左右されるも のではない。

◆判決本文

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令和2(行ケ)10148  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年6月16日  知的財産高等裁判所

 本件商標:カンガルーの図形と文字「KANGOL」の結合商標で、指定役務が「織物及び寝具類、洋服の小売・・・など」です。 引用商標は「KANGOL」の文字を標準文字で表し,指定役務を第35類「帽子の小売・・など」です。知財高裁は、類似役務であるとした審決を維持しました。原告とカンゴール社との間で取扱商品及び役務に係る棲み分けがされていることも理由にならないと判断されています。\n

 ア 役務の内容及び取扱商品等
(ア) 本願指定役務及び引用指定役務は,いずれも小売等役務であるから, 商品の品揃え,陳列,接客サービス等といった役務の提供の手段や,小 売又は卸売といった役務の提供の目的が共通するものといえる。 (イ) また,本願指定役務及び引用指定役務は,本願指定役務が主に織物, 衣服,身の回り品等を取扱商品とするのに対し,引用指定役務は帽子を 取扱商品とする点において異なるものの,いずれの取扱商品も衣類を中 心とするファッション商品であるといえるから,この範囲において取扱 商品が共通するものといえる。
(ウ) さらに,本願指定役務及び引用指定役務は,いずれも衣類を中心と するファッション商品を取り扱う卸売業者又は小売業者が提供する役 務であるから,役務を提供する業種が共通するものといえる。 イ 役務の提供の場所 次の各事情によれば,本願指定役務及び引用指定役務は,それぞれの取 扱商品が,同一事業者の通信販売ウェブサイトにおいて,同一の事業者が 提供する一連の商品の一環として,あるいは同一のカテゴリーに属する一 連の商品の一環として販売されるなどしている実情があることが認めら れる。
(ア) 「ZOZOTOWN」の通信販売ウェブサイトにおいて,「NIKE」 ブランドの取扱商品として,パーカー,ティーシャツ,靴,バッグ等が, 帽子と共に掲載されている(乙1)。
・・・
(コ) 「ZOZOTOWN」の通信販売ウェブサイトにおいて,「mari mekko」ブランドの取扱商品として,クッション,靴下,ティーシ ャツ,エプロン,バッグ,財布,タオル等が,帽子と共に掲載されてい る(乙10)。
ウ 需要者の範囲
上記ア及びイで検討したとおり,本願指定役務及び引用指定役務は,い ずれも衣類を中心とするファッション商品を取扱商品とするものである 上,これらの取扱商品が通信販売ウェブサイトにおいて販売されるなどし ている実情があることからすれば,いずれも一般需要者を広く対象とする ものといえる。また,上記イ(ア)ないし(エ)及び(コ)によれば,特定のブ ランドが付された両役務の取扱商品を,同一の小売業者から購入する需要 者は少なくないと考えられる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務は,需要者 の範囲が一致するものといえる。
エ 類否判断
上記アないしウで検討したところによれば,本願指定役務及び引用指定 役務は,具体的な取扱商品は異なるものの,いずれも衣類を中心とするフ ァッション商品を取扱商品とする点において共通するほか,役務を提供す る手段,目的及び業種が共通するものといえる。また,両役務は,役務を 提供する場所が共通する場合があるほか,需要者の範囲が一致するものと いえる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務については, これらの役務に同一又は類似の商標を使用する場合には,同一営業主の提 供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるといえ る。
(3) 小括 以上によれば,本願指定役務と引用指定役務は,役務が類似するものと認 められる。
3 原告の主張について
(1) 原告は,原告とカンゴール社との間で本件契約が締結され,その後,原告 とカンゴール社との間で取扱商品及び役務に係る棲み分けがされてきたこと を,現実的かつ具体的な取引の実情として重視すべきである旨主張する。 しかしながら,本件契約それ自体は,原告とカンゴール社との間における 個別の合意にすぎないから,同契約を締結した事実や,同契約に基づいて原 告が本願商標を継続的に使用している事実は,商標の類否判断において考慮 し得る一般的,恒常的な取引の実情(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同 49年4月25日第一小法廷判決・審決取消訴訟判決集昭和49年443 頁参照)には当たらないというべきである。 また,原告が提出する証拠(甲30ないし49)は,原告が,本願商標を 用いて衣類等を提供してきたことを裏付けるものであるとはいえても,帽 子(及びそれに係る役務)とそれ以外の衣類(及びそれに係る役務)とで, 原告が主張するような棲み分けがされ,それが需要者に認識されているこ とを認めるに足りるものではなく,むしろ,原告が,本願商標を用いて帽子 を販売している例さえ存在することが認められる。 したがって,原告の主張は,採用することができない。
(2) 原告は,原告とカンゴール社との間においては,カンゴール社が所有す る複数の登録商標につき,帽子類以外の指定商品に係る商標権が原告に分 割移転された例等がある旨主張するが,たとえそうであるとしても,このよ うな個別的な事情によって商標法4条1項11号の適用が排除されるもの ではないと解するのが相当である。

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令和1(行ケ)10132  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年11月5日  知的財産高等裁判所

 見過ごしていましたのでアップします。米国仮出願から実施形態を変更して優先権出願をしました。無効審判が請求され、審決は新たな技術的事項の導入ではないとして優先権を認めました。知財高裁(3部)は、結論は同じですが、パリ条約4条Fの規定により優先権が認められると判断しました。
本件発明の器具は下記に動画があります。 https://www.youtube.com/watch?v=RTerQy8M-BI

 ・・・この点に関する原告の主張を正確に記載すると,本件発明は,1)ピンが 複数の溝を有する構成を含むこと,2)ピンバーとベースが一体成型になって いる構成を含むこと,3)ピンバーをベースの溝ではなく,ベース上の凸部に 嵌め込む方式の構成を含むこと,4)ピンに,溝ではなく,ピンを貫く間隙を 有する構成を含むこと,の4点において,本件米国仮出願にはない構\成を含 むからパリ優先権が否定され,その結果,甲1動画との関係で新規性,進歩 性を欠き,無効であるというものである。
しかしながら,本件発明が,その請求項の文言に照らし,原告が新たな構\n成であると主張する1)ないし4)の点を含まない構成,すなわち,本件米国仮\n出願の明細書に記載された実施例どおりの構成を含むことは明らかであると\nころ(この点は,原告も否定していないものと考えられる。),この構成は,\n1まとまりの完成した発明を構成しているのであって,1)ないし4)の構成が\n補充されて初めて発明として完成したものになるわけではない。このような 場合,パリ条約4条Fによれば,パリ優先権を主張して行った特許出願が優 先権の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことを理由とし\nて,当該優先権を否認し,又は当該特許出願について拒絶の処分をすること はできず,ただ,基礎となる出願に含まれていなかった構成部分についてパ\nリ優先権が否定されるのにとどまるのであるから,当該特許出願に係る特許 を無効とするためには,単に,その特許が,パリ優先権の基礎となる出願に 含まれていなかった構成部分を含むことが認められるだけでは足りず,当該\n構成部分が,引用発明に照らし新規性又は進歩性を欠くことが認められる必\n要があるというべきである。このように解することがパリ条約4条Fの文言 に沿うばかりではなく,このように解しないと,例えば,特許権者がAとい う構成の発明について外国出願をし,その後,その構\成を含む発明Bが公知 となった後に,わが国において,パリ優先権を主張し,構成Aと,前記外国\n出願には含まれないが,発明Bに対して新規性,進歩性が認められる構成C\nを合わせた構成A+Cという発明について特許出願をした場合,当該発明は,\n構成Aの部分は,発明Bよりも外国出願が先行しており,優先権も主張され\nており,かつ,構成Cは,発明Bに対し新規性,進歩性が認められるにも関\nわらず,前記外国出願に含まれない構成Cを含んでいることのみを理由とし\nて構成Aについての優先権までが否定され,特許出願が拒絶されるという結\n論にならざるを得ないが,そのような結論は,パリ条約4条Fが到底容認す るものではないと考えられるからである。
なお,1)ないし4)も,それぞれ独立した発明の構成部分となり得るものであるから,引用発明に対する新規性,進歩性は,それぞれの構\成について,別個に問題とする必要がある。この観点から検討すると,甲1によれば,甲1動画に係るツールは,前記 3)の構成を有していることが認められる。そして,本件発明の請求項は,「\nベース上にサポートされた複数のピン」と定めているのみであって,前記3) の構成を含むことは明らかであるから,この点において,本件発明は,甲1\n動画との関係で新規性を欠くものといわなければならない。したがって,パ リ優先権が認められるかどうかを判断するため,さらに,構成3)が,本件米 国仮出願に含まれない構成であるかどうかを判断する必要がある。\n
これに対し,甲1動画に係るツールは,前記1),2),4)の構成を含むものとは認めら\nれないから,新規性が問題となる余地はなく,また,これらの構成が,甲1\n動画に係る発明に対して進歩性を欠くことを認めるに足りる主張立証はない。 そうであるとすると,これらの構成が,本件米国仮出願に含まれない構\成で あるかどうかを判断するまでもなく,原告の主張は失当というべきである。
(3) そこでさらに,構成3)が,本件米国仮出願に含まれない構成であるかど\nうかについて判断するに,たしかに,米国仮出願書類には,ベースに設けた 溝にピンバーを嵌め込む態様しか記載されていないが,これは実施例の記載 にすぎないし,米国仮出願書類全体を検討しても,ベースにピンバーを固定 する態様を,この実施例に係る構成に限定する旨が記載されていると理解す\nることはできない。そして,ベースに凹部を設け,その凹部にピンバーを嵌 め込む態様の構成(米国仮出願書類の実施例の記載)と,ベースに凸部を設\nけ,この凸部にピンバーを嵌め込む態様の構成(3)の構成)とは,まさに裏\n腹の関係にあるものであって,一方を想起すれば他方も当然に想起するのが 技術常識であるといえるから,たとえ明示的な記載がないとしても,ベース に凹部を設ける構成が記載されている以上,ベースに凸部を設ける構\成も, その記載の想定の内に含まれているというべきである。 そうすると,3)に係る構成が,本件米国仮出願に含まれない構\成であると はいえないから,この点に関する原告の主張も失当ということになる。

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令和2(ワ)25127 「オーサグラフ世界地図」の共同著作権確認請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年6月4日  東京地方裁判所

 共同著作者である確認訴訟について、裁判所は訴えの利益無しとして、訴えを却下しました。

 確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,すなわち,現に,原告の有する 権利又は法的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため,被告に対し て確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許される。したがって,そ れが許されるためには,仮に原告の権利又は法的地位に危険又は不安が存在す るとしても,その危険又は不安が被告に起因し,かつ,対象となる権利又は法 的地位について確認判決をすることでその危険又は不安が解消されなければな らないというべきである。
しかし,本件においては,Bによる講義の内容が「オーサグラフ世界地図は Bが発明したものである」というものとなったこと,上記講義と同内容の論文 が学術論文誌に掲載されたこと,本件ウェブサイト内に本件地図とともに本件 地図はBが発明したものである旨の説明文が掲載されたことについて,それら が被告に起因するものであることを認めるに足りる証拠はない。また,被告は, 本件地図に係る著作権又は著作者人格権が自らにあるとは主張しておらず,今 後,被告がこのような主張をすることをうかがわせる事情も認められない。そ うすると,原告の有する権利又は法的地位に存在する危険又は不安が被告に起 因するものであるとはいえない。
さらに,被告が,自らは本件地図の作成に関与しておらず,本件地図に関し て原告及びBのいずれかにいかなる権利が帰属するかを判断し得ないとも主張 していることに照らせば,そのような被告に対して確認判決を得ることにより, 原告の有する権利又は法的地位への危険又は不安を取り除くことができるとは 考え難い。そして,前記前提事実(3)のとおり,原告は,別件訴訟において,B に対し,本件地図と同じくオーサグラフ図法により作成された別件各地図が原 告及びBを発明者とする共同著作物であることの確認を求め(本件と同様に, 原告及びBが別件各地図に係る著作権及び著作者人格権を有することの確認を 求めるものと解される。),これに対して,Bは,別件各地図はBが単独で作 成したものであると主張して争っているが,原告と被告との間で本件地図に係 る著作権及び著作者人格権の帰属を確定したところで,原告とBとの間におい て別件各地図に係る著作権及び著作者人格権の帰属を確定することはできない。 このことは,Bが被告の設置する慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准 教授であり(前記前提事実(1)イ),被告とBは雇用関係にあると認められるこ とを考慮しても変わりはない。さらに,前記前提事実(2)のとおり,本件ウェブ サイトはBが管理運営しており,被告が本件ウェブサイトの内容を変更するこ とができるとは認められないから,被告に対して確認判決を得たとしても,本 件ウェブサイト内において,本件地図につき当該判決に従った取扱いがされる ことが期待できるとはいえない。そうすると,本件において原告の権利又は法 的地位について確認判決をすることにより,原告の権利又は法的地位に存在す る危険又は不安が解消されるとは認められないというべきである。 そのほかに,原告と被告との間で,本件地図に係る原告の権利又は法的地位 に危険又は不安が存在し,これを除去するために被告に対して確認判決を得る ことが必要かつ適切であることをうかがわせる事情は認められない。 したがって,原告と被告との間で原告及びBが本件地図に係る著作権及び著 作者人格権を有することを確認することについては即時確定の利益が認められ ないから,本件においては確認の利益が認められない。

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令和2(ネ)10048  職務発明対価等請求控訴事件,同附帯控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年5月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 競馬ゲーム発明のうち、出願しなかった部分について、ノウハウに基づく報奨金(特35条)を求めました。知財高裁は1審と同じく否定しました。

 当裁判所も,原審と同様に,本件ノウハウに係る控訴人の被控訴人に対する 対価請求権が存するということはできないと判断する。 その理由は,次のとおりである。
(1) 本件ノウハウは,特許登録がされていない職務発明として主張されてい るものであるところ,特許性を有する発明でなければ,これを実施すること によって独占の利益が生じたものということはできず,特許法35条3項に 基づく相当の対価を請求することはできないと解される。 そこで,以下,控訴人が主張する内容に基づき,本件ノウハウが特許性を 有する発明といえるか否かについて検討する。
(2) 原審及び当審における控訴人の主張によれば,控訴人が主張する本件ノ ウハウの特徴は,次のとおり理解することができる。
ア 完全確率抽選方式の下で,何らの工夫もせずに予想ゲームと馬主ゲーム\nとを組み合わせた競馬ゲームを設計すると,馬主ゲームにおいて購入する 馬の能力値によって馬ごとのメダル獲得の期待値に不公平が生じるため,\nプレイヤーが能力値の高い馬ばかりを購入するようになり,馬主ゲームの\nゲーム性が損なわれてしまう。他方で,各馬の能力値を同一にすることに\nよってこの問題を解消しようとすると,今度は予想ゲームのゲーム性が損\nなわれてしまう。このように,上記のような競馬ゲームの設計においては, 馬主ゲームにおける馬ごとのメダル獲得の期待値の不公平さを解消して 公平性を確保しつつ,現実の競馬同様のゲーム性を持たせる工夫をする必 要があるという課題があった。
イ 本件ノウハウは,上記の課題を解決するために,1)プレイヤー馬につい て,能力値とは別に,一定の割合でメダル数と相互に換算される活力値と\n呼ばれる指標を導入した上で,2)馬主ゲームにおいて,レースに出走する ために消費する活力値(以下「消費活力値」という。)とレース結果に応じ て増加する活力値(以下「増加活力値」という。)の期待値とを等しくする ことにより,馬主ゲームにおける馬ごとのメダル獲得の期待値の不公平さ が生じないようにするものである。 また,消費活力値及び増加活力値の算出においては,3)同じレースに複 数のプレイヤー馬が出走する場合もあるところ,プレイヤー馬の能力値が\n当初は未確定であることから,各プレイヤー馬の増加活力値,消費活力値 及び能力値について,一旦暫定値を用いて計算し,必要に応じて数値を再\n調整する計算方法が採られている。 さらに,4)活力値は,メダルとして目に見える賞金や出走料とは異なり, プレイヤーに認識されない形で増減され,次回以降の競馬ゲームに影響を 与えるように導入されており,これにより,ゲーム性が醸成されている。 (以下,上記1)ないし4)の点を,順に「特徴1)」などという。) (3) 以下,控訴人が主張する本件ノウハウが特許性を有する発明といえるか 否かにつき,特徴1)ないし4)を基に検討する。
ア 特徴1)について
(ア) 予想ゲームのみの競馬ゲームを設計する場合であれば,各馬の能\力 値を定めた上で,能力値に応じた適切なオッズを定めることにより,公\n平性及びゲーム性を確保することができるといえるが,これにゲーム内 容が全く異なる馬主ゲームを組み合わせて新たな競馬ゲームを設計し ようとするのであれば,能力値とは別の指標を導入する必要が生じるこ\nとは,いわば必然のことであるといえる。
(イ) また,上記(2)アによれば,完全確率抽選方式の下で予想ゲームと馬\n主ゲームとを組み合わせた競馬ゲームを設計する場合,馬主ゲームで購 入する馬の能力値に差があることが原因となって馬ごとのメダル獲得\nの期待値に不公平さが生じることにより,馬主ゲームのゲーム性が損な わる事態が生じ得るが,他方で,馬の能力値の差をなくすことによって\nこの問題を解消しようとすると,今度は予想ゲームのゲーム性が損なわ\nれてしまうというのであるから,これらの問題を解決するためには,能\n力値を調整するのみでは足りず,能力値とは別の指標を導入する必要が\nあることは明らかである。
(ウ) 以上によれば,特徴1)における活力値の導入は,完全確率抽選方式 の下で予想ゲームと馬主ゲームとを組み合わせた競馬ゲームを設計す\nる場合において,必然的に必要となる指標を導入したものにすぎないと いうべきである。
・・・・
オ 小括
以上検討したところによれば,本件ノウハウにおける活力値の導入につ いては,必然的に導入すべき指標を用いたものにすぎないというべきであ る上,活力値を用いた期待値の算出等についても,課題解決のために当然 に採られ得る手段であるか,又は通常よく採られる方法を超えるものでは ないというべきである。
(4) なお,控訴人は,本件ノウハウにおいては,ペイアウト率90%のメイン ゲームと同100%のサブゲームとが組み合わされ,ゲームセンターと顧客 との間の利害のバランスがとられている点が画期的であるとも主張する。 しかしながら,ペイアウト率をいくらに設定するかという問題は,それ自 体としては,技術の問題ではなく,取極めの問題にすぎないから,控訴人主 張の点は,本件ノウハウの特許性を根拠付ける事情には当たらない。
(5) 以上検討したところによれば,本件ノウハウは,特許性を有する発明であ るとは認められず,これを実施することによって被控訴人に独占の利益が生 じたということはできないから,本件ノウハウが控訴人によって職務発明と して開発され,被告製品2において実施されたものであったとしても,控訴 人は,被控訴人に対し,本件ノウハウにつき,特許法35条3項に基づく相 当の対価を請求することはできない。

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令和2(ワ)27196 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年4月23日  東京地方裁判所

 写真の著作物の著作権侵害について、損害賠償額として約40万円が認められました。なお、1.5倍の主張については根拠無しと判断されています。

 前記アないしウの事情を踏まえて,著作権法114条3項の損害額を検 討すると,前記ア及びイのとおり,本件料金表における使用料を一応の参\n考としつつ,一般紙と機関紙としての性質の違いに加え,原告における有 償での使用許諾の実績や使用料規定の存在が認められないことからは,聖 教新聞の記事や写真等の使用については本件料金表よりも低額の使用料が\n想定され,他方で,前記ウのとおり,本件掲載行為については使用料の増 額要素があることも考慮すれば,前記1の自動公衆送信権侵害についての 著作権法114条3項の損害額は,それぞれ以下のとおり認定するのが相 当であり,その合計額は32万円と認められる。
・・・
 原告は,被告による著作権侵害の態様が悪質であるとして,著作権法114条3項の損害を算定にするに当たっては,本件料金表における使用料相当額のさらに1.5倍した額を基準とすべきであると主張する。\nしかし,前記エの損害額の認定は,原告に有償での使用許諾実績等がないこと,本件料金表の金額,本件各画像の使用点数や使用期間,被告による本件各画像の掲載態様等,本件訴訟に現れた一切の事情を総合考慮した上で,著作権法114条3項を適用したものであるところ,この認定を超えて,本件料金表\における使用料を1.5倍した額を基準とすべき合理的な理由は見当たらない。

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平成30(ワ)38504  特許権侵害差止等請求事件 令和3年3月30日  東京地方裁判所

 薬の特許について、明細書に記載されていたが酸付加塩の具体的態様がクレームアップされていなかったことは均等の第5要件の「特段の事情」に該当すると判断されました。

 これらの記載によれば,本件発明の目的は,各種の痒みを伴う疾患にお ける痒みの治療のために止痒作用が極めて速くて強いオピオイドκ受容体 作動薬を有効成分とする止痒剤を提供することにあるところ,本件明細書 には,まさしくその有効成分となるオピオイドκ受容体作動薬として,本 件発明に記載された本件化合物のほかに,その薬理学的に許容される酸付 加塩が挙げられることが,「オピオイドκ受容体作動性化合物またはその 薬理学的に許容される酸付加塩」というように明記されているほか,同化 合物に対する薬理学的に好ましい酸付加塩の具体的態様(塩酸塩,硫酸塩, 硝酸塩等)も明示的に記載されている。
そうすると,出願人たる原告は,本件明細書の記載に照らし,本件特許出 願時に,その有効成分となるオピオイドκ受容体作動薬として,本件化合物 を有効成分とする構成のほかに,その薬理学的に許容される酸付加塩を有効\n成分とする構成につき容易に想到することができたものと認められ,それに\nもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったというべきである。 そして,本件発明につき,出願人たる原告の主観的意図いかんにかかわらず, 第三者たる当業者の立場から客観的にその内容を把握できる徴表である本件\n明細書においては,本件化合物の薬理学的に許容される酸付加塩という構成\nは,まさしく,各種の痒みを伴う疾患における痒みの治療のために止痒作用 が極めて速くて強いオピオイドκ受容体作動薬を有効成分とする止痒剤を提 供するという本件発明の目的を達成する構成として,当該目的と関連する文\n脈において,特許請求の範囲に記載された本件化合物と並んで,明示的,具 体的に記載されているものである。
これらによれば,出願人たる原告は,本件特許出願時に,本件化合物の薬 理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする構成を容易に想到することが\nできたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったものである といえ,しかも,客観的,外形的にみて,上記構成が本件発明に記載された\n構成(本件化合物を有効成分とする構\成)を代替すると認識しながらあえて 特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるものというべき\nである。
そうすると,本件発明については,本件化合物の酸付加塩であるナルフラ フィン塩酸塩を有効成分とする被告ら製剤が,本件特許出願の手続において 特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの,被告ら製剤と 本件発明に記載された構成(本件化合物を有効成分とする構\成)とが均等な ものといえない特段の事情が存するというべきである。

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令和3(行ケ)10022  商標登録維持決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年4月28日  知的財産高等裁判所

 「X」型十字の図形商標の侵害について、1審は約1300万円の支払いを命じましたが、知財高裁は約200万に減額しました。理由は「被告商品の限界利益の額に対する原告各商標の寄与割合は,8割と認め」というものです。判決分の最後に当事者の商標があります。\n

 一審原告の商品と被告商品との価格差及び限界利益額の差,需要者 層の相違,販売態様の相違について 一審被告は,1)被告商品の価格は,一審原告の商品の価格の約2倍 から4倍であり,一審原告の商品と被告商品とでは大きな価格差があ り,安価のスニーカーを求める一審原告の需要者と高級志向のスニー カーを求める被告商品の需要者とでは,需要者層が異なること,一審 原告の商品はインターネット上で販売されるのに対し,被告商品は高 級デパートの店頭で販売され,販売態様においても差があることに照 らすと,被告商品が販売されなかったとしても,被告商品の需要者が, 安価で大衆向けの一審原告の商品を購入することはあり得ないこと, 2)仮に一審被告による被告商品の販売に係る限界利益率を一審原告が 訴状で主張していた販売価格の10パーセントとすると,一審原告の 商品の1足当たりの限界利益は300円となるのに対し,被告商品の 1足当たりの限界利益は,560円から1155円となり,限界利益 の額に差があることから,これらの事情は本件推定を覆す事情に該当 する旨主張する。
(ア) そこで検討するに,証拠(甲68ないし77,183ないし18 6)及び弁論の全趣旨によれば,一審原告は,自社の商品を,主に 靴の量販店やインターネット上の通信販売サイトを通じて販売し, その小売価格は2000円から6000円程度の商品が中心であ り,一審原告が対象期間中に原告各商標と類似する商標を付したス ニーカーを販売した際の販売価格は1足当たり3000円程度で あったことが認められる。
一方で,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品は 主に百貨店等の店頭で販売されたものであり,原判決別紙3被告商 品販売一覧表記載のとおり,その小売価格は1万5000円から2\n万1000円,被告が百貨店等に販売する際の卸売価格は5600 円から1万1550円であったことが認められる。 上記認定事実によれば,一審原告の商品と被告商品の販売価格は, 1足当たりの小売価格で5倍から7倍程度の差があり,被告商品が 高額であることが認められる。
そして,商標権が,特許権等の他の工業所有権とは異なり,それ 自体に創作的価値があるものではなく,商品又は役務の出所である 事業者の営業上の信用等と結びつくことによってはじめて一定の 価値が生ずるという性質を有するため,商標権が侵害された場合に, 侵害者の得た利益が当該商標権に係る登録商標の顧客誘引力のみ によって得られたものとはいえない場合が多く,スニーカーにおい ても,価格,全体のデザイン,アッパー及びソールの素材,履き心\n地等も考慮されて購買動機が形成されることに照らすと,一審原告 の商品と被告商品との販売価格の上記違いは,原告各商標と類似す る被告各標章が購買動機の形成に寄与した程度を低く評価すべき 事情に当たるものと認めるのが相当である。 したがって,一審原告の商品と被告商品との販売価格の上記違い は,本件推定を覆す事情に該当するものと認められる。 一方で,一審被告が主張する一審原告の商品と被告商品との1足 当たりの限界利益の額の差については,一般に,需要者が限界利益 の額を認識し得るものではなく,限界利益の額の差が購買動機の形 成に直接影響するものとはいえなから,本件推定を覆す事情に該当 するものと認めることはできない。また,一審被告が主張する一審 原告の商品と被告商品との販売態様の差についても,被告商品がデ パート等でのみ限定販売されていたとする事情は認められないか ら,本件推定を覆す事情に該当するものと認めることはできない。
(イ) これに対し一審原告は,スニーカーなどのファッションアイテ ムにおいては,需要者は,価格帯が多少異なっても気に入ったもの を購入するものであり,例えば,同じブランドでも1500円〜1 万7280円という10倍以上の幅広い価格の商品が販売されて いる例(甲195)があるように,この程度の価格差をもって需要 者層が異なるとはいえないこと,一審原告が被告商品の価格帯であ る1万5000円〜2万1000円のスニーカーを現実には販売 していないとしても,このようなスニーカーを販売する潜在的な能\n力を保有していることからすると,一審原告の商品と被告商品との 販売価格の違いは,本件推定を覆滅すべき事情に該当しない旨主張 する。 しかしながら,一審原告の上記主張は,前記(ア)で説示したとこ ろに照らし,採用することができない。
イ 一審原告が原告各商標を使用しない商品を販売していたことにつ いて
一審被告は,原告が販売していた商品の多くに,原告各商標と同一 又は類似の標章が付されていなかったから,被告商品の販売によって 一審原告の売上げが減少したという関係にないことは,本件推定を覆 す事情に該当する旨主張する。 しかしながら,一審被告による被告商品の輸入販売行為がなかった ならば利益が得られたであろうという事情が一審原告に認められる ことは,前記(1)イ認定のとおりであり,一審原告が原告各商標と類似 する標章が付されていないスニーカーも販売していたことを指摘す るのみでは,本件推定を覆滅すべき事情があるものということはでき ない。 したがって,一審被告の上記主張は,採用することができない。
ウ 競合品の存在について
一審被告は,側面に「X」型十字が付された大人用スニーカーは,\n被告商品の他にも市場に多数存在していることは,本件推定を覆す事 情に該当する旨主張する。 しかしながら,乙1によれば,一審被告が他のスニーカーに付され ていると指摘する「X」型十字は,その形状が被告各標章や原告各商\n標とは大きく異なるものであり,このほか,原告各商標と同一又は類 似の標章が付された他社のスニーカーの存在及びそのシェアについて の具体的な主張立証はされていないから,一審被告の上記主張は採用 することができない。
エ 一審被告の営業努力,ブランド力の差等について
一審被告は,被告商品を販売するための営業努力,一審原告と一審 被告とのブランド力の差,原告各商標の訴求力の程度等からすれば, 原告各商標の被告商品の売上げへの寄与は著しく低いから,かかる事 情は本件推定を覆す事情に該当する旨主張する。 しかしながら,一審被告が作成した展示会の資料においてミュニッ ク社商品については「2014年日本デビュー」との記載がされ,一 審被告が広告宣伝活動を行ったこと(前記(2)イ(キ))を考慮しても, 対象期間中の日本国内におけるミュニック社商品に係るブランドの知 名度の程度を裏付ける証拠はない。 他方で,証拠(甲170ないし176,180ないし182)及び 弁論の全趣旨によれば,原告各商標に関する販売,広告宣伝状況につ いては,平成14年頃から原告各商標と類似の標章が付されたスニー カーが,原告が許諾した業者によって販売されており,歌手のBがこ れを着用した雑誌広告が掲載されたこともあったとの事情も認められ, これらの点からすれば,一審被告の主張する上記各点をもって,本件 推定を覆滅すべき事情に該当するものと認めることはできない。 したがって,一審被告の上記主張は,採用することができない。
オ まとめ
以上を前提に検討するに,1)前記ア(ア)認定の本件推定を覆す事情 の内容,2)前記ア(ア)認定のとおり,商標権が侵害された場合に,侵 害者の得た利益が当該商標権に係る登録商標の顧客誘引力のみによっ て得られたものとはいえない場合が多く,スニーカーにおいても,価 格,全体のデザイン,アッパー及びソールの素材,履き心地等も考慮\nされて購買動機が形成されること等を総合考慮すると,被告商品の限 界利益の額に対する原告各商標の寄与割合は,8割と認めるのが相当 であり,上記寄与割合を超える部分については被告商品の限界利益の 額と一審原告の受けた損害額との間に相当因果関係がないものと認め られる。
したがって,本件推定は上記限度で覆滅されるから,商標法38条 2項に基づく一審原告の損害額は,被告商品の限界利益の額(前記(2) ウ(ウ)の244万5001円)の8割に相当する195万6000円 と認められる。」

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1審はこちら。

◆平成29(ワ)11462

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令和1(ワ)21993  著作権侵害訴訟事件  著作権  民事訴訟 令和3年4月28日  東京地方裁判所

 公園に設置したタコの滑り台について著作物ではないと判断されました。

 (1) 争点1−1(本件原告滑り台が美術の著作物に該当するか)について
ア 前記前提事実(2)及び(3)によれば,本件原告滑り台は,自治体(兵庫県 赤穂市)から公園に設置する遊具の発注を受けて,小型のタコの滑り台と して製作されたものであり,その形状は,別紙1原告滑り台目録記載のと おり,上部にタコの頭部を模した部分を備え,正面に1本,右側面に2本, 左側面に1本の計4本のタコの足を有するというものである。そして,こ れらのタコの足は,いずれも,子どもたちなどの利用者が滑り降りること ができるスライダーとなっており,また,利用者がスライダーの上部に昇 るための取っ手が取り付けられているなど,遊具である滑り台として通常 有する構造を備えている。そうすると,本件原告滑り台は,利用者が滑り\n台として遊ぶなど,公園に設置され,遊具として用いられることを前提に 製作されたものであると認められる。したがって,本件原告滑り台は,一 般的な芸術作品等と同様の展示等を目的とするものではなく,遊具として の実用に供されることを目的とするものであるというべきである。 そして,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されてい\nる美的創作物(いわゆる応用美術)が,著作権法2条1項1号の「美術」 「の範囲に属するもの」として著作物性を有するかについては,同法上, 「美術工芸品」が「美術の著作物」に含まれることは明らかであるもの の(著作権法2条2項),それ以外の応用美術に関しては,明文の規定が 存在しない。
この点については,応用美術と同様に実用に供されるという性質を有す る印刷用書体に関し,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を 備えることを要件の一つとして挙げた上で,同法2条1項1号の著作物 に該当し得るとした最高裁判決(最高裁平成10年(受)第332号同 12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2481頁)の判示に 照らし,同条2項は,単なる例示規定と解すべきである。 さらに,上記の最高裁判決の判示に加え,同判決が,実用的機能の観点\nから見た美しさがあれば足りるとすると,文化の発展に寄与しようとす る著作権法の目的に反することになる旨説示していることに照らせば, 応用美術のうち,「美術工芸品」以外のものであっても,実用目的を達成 するために必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞の対象となり得 る美的特性を備えている部分を把握できるものについては,「美術」「の 範囲に属するもの」(同法2条1項1号)である「美術の著作物」(同法 10条1項4号)として,保護され得ると解するのが相当である。 以上を前提に,本件原告滑り台が「美術の著作物」として保護される応 用美術に該当するかを検討する。 イ 原告は,本件原告滑り台が,一品製作品というべきものであり,「美術 工芸品」(著作権法2条2項)に当たるから,「美術の著作物」(同法10 条1項4号)に含まれる旨主張する。 そこで検討するに,著作権法10条1項4号が「美術の著作物」の典型 例として「絵画,版画,彫刻」を掲げていることに照らすと,同法2条 2項の「美術工芸品」とは,同法10条1項4号所定の「絵画,版画, 彫刻」と同様に,主として鑑賞を目的とする工芸品を指すものと解すべ きであり,仮に一品製作的な物であったとしても,そのことをもって直 ちに「美術工芸品」に該当するものではないというべきである。
本件においてこれをみると,前記アのとおり,本件原告滑り台は,自治 体の発注に基づき,遊具として製作されたものであり,主として,遊具 として利用者である子どもたちに遊びの場を提供するという目的を有す る物品であって,「絵画,版画,彫刻」のように主として鑑賞を目的とす るものであるとまでは認められない。 したがって,本件原告滑り台が「美術工芸品」に該当すると認めること はできず,原告の上記主張は採用することができない。 ウ 原告は,本件原告滑り台が「美術工芸品」に当たらないとしても「美術 の著作物」として保護される応用美術であると主張する。そこで,本件原 告滑り台が,実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して, 美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるもので あるか否かについて,以下検討する。
(ア) タコの頭部を模した部分について
別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば,本件原告滑り台 のうちタコの頭部を模した部分の構成は,次のとおりであると認められ\nる。すなわち,タコの頭部を模した部分は,本件原告滑り台を正面から 見て,その最も高い箇所のほぼ中央部に存在しており,タコの足を模し たスライダーによって形作られるなだらかな稜線から上に突き出るよう な格好で配置されている。そして,その形状は,本件原告滑り台のうち 最も高い箇所に存在する頭頂部から,正面向かって後方にやや傾いた略 鐘形をなしており,全体として曲線的な印象を与える形状であって,そ うした形状と,上記のような配置等から,当該部位を見た者をして,タ コの頭部を連想させるような外観となっている。さらに,その構造をみ\nると,内部は空洞をなし,頭部に上った利用者が立てるような踊り場様 の床が設置されている。また,正面,左側面及び背面にそれぞれ1か所, 右側面に2か所の開口部を有しており,そのうち正面,右側面及び左側 面の開口部からは後述のタコの足を模したスライダーが延びているほか, 背面の開口部付近には,手でつかんだり,足を掛けたりして上り下りす るための取っ手が8個取り付けられている。 このように,タコの頭部を模した部分は,本件原告滑り台の中でも最 も高い箇所に設置されているのであるから,同部分に設置された上記各 開口部は,滑り降りるためのスライダー等を同部分に接続するために不 可欠な構造であって,滑り台としての実用目的に必要な構\成そのもので あるといえる。また,上記空洞は,同部分に上った利用者が,上記各開 口部及びスライダーに移動するために不可欠な構造である上,開口部を\n除く周囲が囲まれた構造であることによって,最も高い箇所にある踊り\n場様の床から利用者が落下することを防止する機能を有するといえるし,\nそれのみならず,周囲が囲まれているという構造を利用して,隠れん坊\nの要領で遊ぶことなどを可能にしているとも考えられる。\nそうすると,本件原告滑り台のうち,タコの頭部を模した部分は,総 じて,滑り台の遊具としての利用と強く結びついているものというべき であるから,実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離し て,美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できる ものとは認められない。
(イ) タコの足を模した部分について
別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば,本件原告滑り台 には,タコの頭部を模した部分から4本のスライダーが延びており,こ れらはいずれもタコの足を模したものであって,その形状は,直線状か 曲線状かの相違はあるものの,いずれについても,なだらかな斜度をな しつつ,地面に向かって延びているほか,滑らかな板状のすべり面を有 し,かつ,その左右には手すり様の構造物が付されていると認められる。\nこの点,滑り台は,高い箇所から低い箇所に滑り降りる用途の遊具で あるから,スライダーは滑り台にとって不可欠な構成要素であることは\n明らかであるところ,タコの足を模した部分は,いずれもスライダーと して利用者に用いられる部分であるから,滑り台としての機能を果たす\nに当たって欠くことのできない構成部分といえる。\nそうすると,本件原告滑り台のうち,タコの足を模した部分は,遊具 としての利用のために必要不可欠な構成であるというべきであるから,\n実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞 の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認め られない。
(ウ) 空洞(トンネル)部分について
別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば,本件原告滑り台 には,正面から見て左右に 1 か所ずつ,スライダーの下部に,通り抜け 可能なトンネル状の空洞が配置されていると認められる。\nこの構成は,滑り台としての機能\には必ずしも直結しないものではあ るが,前記アのとおり,本件原告滑り台は,公園の遊具として製作され, 設置された物であり,その公園内で遊ぶ本件原告滑り台の利用者は,こ れを滑り台として利用するのみならず,上記空洞において,隠れん坊な どの遊びをすることもできると考えられる。 そうすると,本件原告滑り台に設けられた上記各空洞部分は,遊具と しての利用と不可分に結びついた構成部分というべきであるから,実用\n目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞の対 象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められ ない。
(エ) 本件原告滑り台全体の形状等について
別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば,本件原告滑り台 は,頭部(前記(ア)),足(前記(イ))及び空洞(前記(ウ))等によって形 成されており,その全体を見ると,本件原告滑り台は,見る者をしてタ コの体を模しているとの印象を与えるものであると認められる。また, とりわけ本件原告滑り台の正面からその全体を見ると,空洞のある頭部 を頂点に,左右へ広がる緩やかな2本の足によって均整の取れた三角形 を見て取ることができ,見栄えのよい外観を有するものということがで きる。 この点,本件原告滑り台のようにタコを模した外観を有することは, 滑り台として不可欠の要素であるとまでは認められないが,そのような 外観は,子どもたちなどの本件原告滑り台の利用者に興味や関心を与え たり,親しみやすさを感じさせたりして,遊びたいという気持ちを生じ させ得る,遊具のデザインとしての性質を有することは否定できず,遊 具としての利用と関連性があるといえる。また,本件原告滑り台の正面 が均整の取れた外観を有するとしても,そうした外観は,前記(ア)及び
(イ)でみたとおり,滑り台の遊具としての利用と必要不可欠ないし強く 結びついた頭部及び足の組み合わせにより形成されているものであるか ら,遊具である滑り台としての機能と分離して把握することはできず,\n遊具のデザインとしての性質の域を出るものではないというべきである。 そうすると,本件原告滑り台の外観は,遊具のデザインとしての実用 目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞の対 象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められ ない。
(オ) 以上のとおり,本件原告滑り台は,その構成部分についてみても,\n全体の形状からみても,実用目的を達するために必要な機能に係る構\成 と分離して,美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把 握できるものとは認められないから,「美術の著作物」として保護され る応用美術とは認められない。
(カ) これに対し,原告は,本件原告滑り台の実用目的は滑り台自体とし ての機能を前提に把握すべきであり,高所に上がるための手段と,滑り\n降りるためのスライダーがあればその機能を果たすことができるので,\n表現の選択の幅は広いとした上で,本件原告滑り台のタコの頭部を模し\nた部分,タコの足を模した部分及び空洞(トンネル)部分は,滑り台の 機能から必然的に創作できるものではなく,滑り台の機能\とは独立して 存在する特徴であって,製作者であるBの個性が表われた部分といえる\nから,そのような部分を有する本件原告滑り台は「美術の著作物」に該 当する応用美術であると主張する。 しかしながら,ある製作物が「美術の著作物」たる応用美術に該当す るか否かに当たって考慮すべき実用目的及び機能は,当該製作物が現に\n実用に供されている具体的な用途を前提として把握すべきであって,製 作物の種類により形式的にその目的及び機能を把握するべきではない。\n原告の主張は,滑り台には様々な形状や用途のものがあるにもかかわら ず,本件原告滑り台が滑り台として製作されたものであるという点を過 度に重視するものであり,子どもたちなどの利用者が本件原告滑り台に おいて具体的にどのような遊び方をするかを捨象している点で相当では ない。
また,原告の上記主張は,本件原告滑り台の表現の選択の幅が広く,\n製作者であるBの個性が表われていることを根拠とするものであるが,\nその点は,著作物性(著作権法2条1項1号)の要件のうち,「思想又 は感情を創作的に表現したもの」との要件に係るものであって,「美術」\n「の範囲に属するもの」との要件に係るものではないというべきである。 したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。 エ 以上によれば,本件原告滑り台は,著作権法10条1項4号の「美術の 著作物」に該当せず,同法2条1項1号所定の著作物としての保護は認め られないというべきである。

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令和2(行ケ)10092 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月31日  知的財産高等裁判所

 知財高裁3部は、進歩性無しとした審決を取り消しました。理由は、引用文献の認定誤りです。

 上記(1)の記載によれば,引用技術2の「油性ゲル状」「粘着シート製剤」 は,上記(1)イの従来技術である「架橋アクリル系粘着剤」の組成を調整する ことによって,粘着性を維持しつつ薬剤の溶解性を高めたシートであって, 皮膚への粘着性は,従来技術と同様に,専らアクリル系粘着剤に依存してい ることが認められる。
3 相違点についての審決の判断の当否
上記1(3)のとおり,本願発明の技術的意義に照らすと,本願発明の「オイル ゲル」は,アクリル系粘着剤等の粘着性ではなく,ゲル化したオイルの粘着性 によって,皮膚に対して粘着するものである。これに対し,引用技術2の「油 性ゲル状粘着製剤」は,上記2(2)のとおり,アクリル系粘着剤の粘着性によっ て,皮膚に対して粘着するものである。 このように,引用技術2の「油性ゲル状粘着製剤」は,本願発明の「オイル ゲル」とは技術的意義を異にするから,引用発明に引用技術2を適用しても, 相違点に係る本願発明の構成には至らない。\nしたがって,容易想到性に関する審決の判断には誤りがある。
4 被告の主張について
被告は,「オイルゲル」は有機溶剤を溶媒とするゲルの総称であるとの技術 常識が存在し,本願発明の「オイルゲル」の意義や組成について本件明細書に は記載がないから上記技術常識に沿って解釈すべきであり,上記技術常識によ れば引用技術2の「油性ゲル」は「オイルゲル」に含まれる旨主張する。 たしかに,乙1(特許庁「周知・慣用技術集(香料)第I部香料一般」1999 年1月29日発行)等によれば,「ゲル」を流体(溶媒)の違いという観点から 「ヒドロゲル」「オイルゲル」「キセロゲル」の3種類に分類することが一般 的に承認されている事実は認められ,また,乙6(権英淑ほか「実効感を発現 するためのスキンケア製剤設計」FRAGRANCE JOURNAL Vol.34 No.1 pp.52-55 (2006))等には,この分類を前提として,アクリル系材料を基剤とした「オイ ルゲル」の粘着剤に言及する記載も見られる。しかしながら,他方,甲7(柴 田雅史「化粧品におけるオイルの固化技術」J.Jpn. Soc. Colour Mater., 85 [8] 339-342 (2012))では,冒頭に「有機溶剤(オイル)を少量の固化剤を用 いて固形もしくは半固形状にしたものは一般に油性ゲルと呼ばれ,・・・・・・メイク アップ化粧品を中心に幅広い製品の基剤として用いられている」と記載されて おり,化粧品の分野において,「オイルゲル」の用語をこのような意味で用い ることも一般的であったと認められるから,「オイルゲル」という用語が,当 然に被告主張のような意味に用いられると断定することはできない。
そうすると,本願発明の「オイルゲル」の技術的意義は,特許請求の範囲の 記載だけからは一義的に明確ではない。そこで,明細書の発明の詳細な説明の うち,従来技術に関する記載及び解決課題に関する記載を参酌し,上記1のと おり,「オイルゲルシート」を「アクリル系粘着剤等の粘着性ではなく,ゲル 化したオイルの粘着性によって,皮膚に対して粘着するシート」と解釈すべき である。

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令和2(ネ)10010 損害賠償等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年5月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁(3部)は、1審が認めた本件アカウント1についてツイート1の直前に同アカウントにログインした際のログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を命じた部分,原判決主文第2項(2)のうち,本件アカウント6についてツイート6の直前に同アカウントにログインした際のログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を命じた部分を取り消しました。

 4 争点4(ツイート直前ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
(1) 被控訴人は,本件アカウント1及び6につき,ツイート1並びに6及び6’ の直前のログイン時IPアドレス等の開示を求めるのに対し,控訴人は,ロ グイン時のIPアドレス及びタイムスタンプは,侵害情報の発信行為とは全 く別個の行為であるアカウントへのログイン行為に関する情報であるから, 「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法4条1項柱書) に該当しないと主張する。
(2) プロバイダ責任制限法4条1項は,開示請求の対象となるべき情報につい て,「権利の侵害に係る発信者情報」と規定し,その具体的な内容を総務省 令(発信者情報省令)に委任しているところ,権利の侵害に「係る」という ように,やや幅をもって規定していることからすれば,権利の侵害そのもの から把握される発信者情報だけでなく,権利の侵害に関連して把握される発 信者情報であり,発信者情報省令により定められているものであれば,開示 請求の対象となると解すべきである。 そして,新発信者情報省令5号が「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」 と規定し,侵害情報に「係る」というように,やや幅をもって規定している ことからすれば,侵害情報の発信そのもののIPアドレスだけでなく,侵害 情報の発信と密接に関連し,同一人物のものである確度が高い情報のIPア ドレスであれば,開示請求の対象となると解すべきである。 これを本件についてみるに,上記3(2)で述べたとおり,ツイート行為1並 びに6及び6’によって送信されたテキストデータ等は本件写真1及び2に 係る被控訴人の同一性保持権の侵害を発生させた侵害情報と評価することが できる。そして,ツイッターに投稿(ツイート)するためには特定のアカウ ントにログインしなければならず,ツイート1又は6若しくは6’は直前に おける本件アカウント1又は6へのログイン行為によるログイン状態を利用 してされたと合理的に考えられる。これらのことからすれば,ツイート1並 びに6及び6’の直前のログインに係る情報は,侵害情報の送信と密接に関 連する情報であって,同一人物のものである確度が高いから,侵害情報の発 信に関連して把握される発信者情報であると認められ,したがって,被控訴 人は,控訴人に対し,新発信者情報省令5号に基づき,本件アカウント1に ついてツイート1の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの 開示を請求することができ(原判決主文第2項(1)のうちIPアドレスの開示 を認めた部分),本件アカウント6についてツイート6の直前に同アカウン トにログインした際のIPアドレスの開示を請求することができるとともに (原判決主文第2項(2)のうちIPアドレスの開示を認めた部分),ツイート 6’の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの開示を請求す ることができる(本判決主文第2項(2))ものと認められる。
他方,新発信者情報省令8号は,「第五号のアイ・ピー・アドレスを割り 当てられた電気通信設備,第六号の携帯電話端末等からのインターネット接 続サービス利用者識別符号に係る携帯電話端末等又は前号のSIMカード識 別番号(中略)に係る携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定 電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」として,開示の対象 となる「侵害情報が送信された年月日及び時刻」は,「侵害情報が送信され た」ときのものであることをと定めている。上記のとおり,ツイート1並び に6及び6’に係るテキストデータ等は侵害情報に当たると解されるところ, ツイート1並びに6及び6’自体とは異なるツイート1並びに6及び6’の 直前のログインに係る送信の年月日及び時刻は,「侵害情報が送信された年 月日及び時刻」という文言に該当するとは認められない。したがって,本件 アカウント1について,ツイート1の直前のログインに係る送信の年月日及 び時刻の開示を請求することはできず,本件アカウント6について,ツイー ト6の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示,並びにツイート 6’の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示を請求することは できない(そのため,原判決主文第2項(1)のうち,本件アカウント1につい てツイート1の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示を命じた 部分を取り消し(本判決主文第1項(1)),原判決主文第2項(2)のうち,本件 アカウント6についてツイート6の直前のログインに係る送信の年月日及び 時刻の開示を命じた部分を取り消し(本判決主文第1項(2)),当審における 追加請求のうち,本件アカウント6についてツイート6’の直前のログイン に係る送信の年月日及び時刻の開示を請求する部分を棄却する(本判決主文 第2項(3))。)。
(3) これに対し,控訴人は,ツイッターのシステム上,一つのアカウントに対 して,複数のログイン状態が競合することは頻繁に発生しており,ツイート 行為がその直前のログイン行為によるログイン状態を利用して行われたもの であるかどうかは明らかではないから,ツイート行為と直前のログイン行為 の関連性は明らかとはいえない旨主張する。 しかしながら,ツイッターのシステム上,一つのアカウントに対して複数 のログイン状態が競合することがあるとの一般的な可能性を考慮しても,ツ\nイート行為がその直前のログイン行為によるログイン状態を利用して行われ たと考えることには合理性があるものと認められ,控訴人の指摘は,ツイー ト行為1並びに6及び6’の直前のログイン時におけるIPアドレスが,侵 害情報の送信と密接に関連する情報であって,同一人物によるものである確 度が高く,侵害情報の発信に関連して把握される発信者情報であるとの上記 認定を左右しない。したがって,控訴人の上記主張には理由がない。
また,控訴人は,発信者情報の開示は,通信の秘密や表現の自由という重\n大な権利権益に関する問題である以上,ひとたび開示されてしまうと原状回 復は不可能であるという性質を有していることから,開示請求の対象となる\n発信者情報は,訴訟による権利回復を可能にするという制度の趣旨に照らし\nて必要最小限度の範囲に予め限定するのが相当であり,ログイン時IPアド\nレス等のような情報を開示の対象に含めるべきではなく,現に,ログイン時 情報を発信者情報として開示することは立法時には必ずしも想定されてい なかったと主張する。 しかし,通信の秘密や表現の自由を保護しつつ,情報の発信により著作権\n法上の権利を侵害された者の救済を図ることも必要であり,プロバイダ責任 制限法及び発信者情報省令の解釈により認められる範囲において発信者情報 を開示することは許容されるべきであるから,控訴人の上記主張を採用する ことはできない。

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令和1(行ケ)12020 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月19日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。同じ先行技術について審決は阻害要因あり、裁判所は阻害要因無しとの判断です。

(イ) 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手 段1)の採用と甲1発明の技術思想について
a 空所134への液体の集約
被告は,甲1は,甲1発明が,「改良された液体分布機構」として,ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をい\nったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個 所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており,甲1発明の「改良された液体分布機構\」においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング 30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,コ ンプレツサ内に存在しないとし,したがって,スラストピストン室6 0についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所13 4を介することなく供給するなどという構成は,甲1発明の技術思想に反するものであって,適用が排斥されていると主張する(前記第3,\n1(2)イ(イ)c(a))。
甲1には,空所134に関し,「中間ハウジング30はまた,圧力の かかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有して いる。」(9欄35〜37行),「空所134は,コンプレツサベアリン グおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形 成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70 に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働 く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152および パイプ154を介して空所134から室70に供給される。」(10欄 6〜13行)と記載され,ポンプ140によって加圧した液体の供給 について,いったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必 要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するとい う構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると,ポンプ140により加圧された液体を供給する経路の一部を,あえて空\n所134を経由しない別の経路として設けるように変更することは, 甲1の技術思想に反するものとして,その適用が排斥されているとい う余地があるとしても,ポンプにより圧力が加えられない液体をスラ ストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に,これを, ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが 排斥されていると解することはできない。したがって,被告の上記主 張を採用することはできない。
被告は,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける と,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂 回することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属く ず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不物等)がスラストピストン 室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいて はコンプレツサ10が機能不全に陥るとし,甲1発明において,スラストピストン室60に液体を供給する構\成を,ポンプ140・フイルタ146・空所134を迂回するものの他のフイルタを通過してスラ ストピストン室60に至る構成に改変しようとすると,フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体\nパイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,甲1発明がコン プレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等 に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因があると主張する(前記第3,1(2)イ(イ)d(b))。
しかし,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ14 6を迂回したとしても,圧縮機全体での液体の循環が繰り返される中 で,大部分の異物はいずれはフイルタ146を通って除去されること になるし,必要であれば,ポンプの前にフイルタを経由するように構成を変更し,ポンプにより圧力を加えられる液体も,圧力を加えられ\nない液体もフイルタを通過するようにするなどの対応を取ることもで きるから,コンプレツサ10が機能しなくなるとは認められない。また,このように構\成を変更するとしても,それによってコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数が著しく増えるとする根拠はない。したが って,被告の上記主張を採用することはできない。
・・・
。このように,甲1発明に ついても,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題を 認識できることから,そのような課題を解決するために,逆スラスト 荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるもの と認められる。そうすると,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が 発生するという技術的課題やその課題の解消について甲1に直接の言 及がないとしても,そのような課題を解決するために甲1発明に非加 圧の経路を設けるという動機付けが生じるものと認められる。したが って,被告の上記主張を採用することはできない。
3 以上によれば,本件特許発明は,甲1発明に,甲2ないし甲5に記載された 周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許 法29条2項の規定により特許を受けることができず,本件特許は特許法12 3条1項2号の規定により無効とすべきものであると認められ,取消事由1(無 効理由1に関する進歩性の判断の誤り)は理由がある。

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令和2(ネ)10062  商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和3年5月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 本件輸入行為は並行輸入の要件を満たしているとした1審判決を維持しました。

 最高裁平成15年判決について
 同判決は,いわゆる真正商品の並行輸入について,それが1)当該商標が外 国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に 付されたものであり(以下「第1要件」という。),2)当該外国における商 標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に 同一人と同視し得るような関係にあることにより,当該商標が我が国の登録 商標と同一の出所を表示するものであって(以下「第2要件」という。),\n3)我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る 立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品 とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される 場合(以下「第3要件」という。)には,商標権侵害としての実質的違法性 を欠くと判断した。
この判決は,商標権者から商標の使用許諾を受けた上で,当該商標を付し た商品を製造販売した者から,当該事件の被告が商品を輸入したという事案 に関するものであった。これに対し,本件の事案は,商標権者が自ら商品を 製造してこれを販売代理店に売却し,その販売代理店から被控訴人ブライト が商品を輸入したという事案であり,製品が商標権者自らの手によって製造 されていたかどうかという点において,重大な違いがある。このため,後述 のとおり,上記の3要件を事案の違いに応じて変容させる必要がないのかと いう点が問題になり得るものの,基本的には,上記の3要件をベースとして 被控訴人ブライトによる輸入行為が実質的に違法性を欠くものであるかどう かを判断すべきであると解されるので,以下,各要件について判断する。
(3) 第1要件について
ア 上記のとおり,第1要件は,当該商標が当該商標権者等によって適法に 付されたものであるかどうかを問題とするのに止まるから,この要件をそ のまま適用する限り,商標権者が製造した本件商品の輸入が問題になって いる本件においては(控訴人らは,本件商品の全てが,ランピョン社がM ゴルフ社に販売した商品であることは立証されていない旨主張するが,既 に認定したとおり,Mゴルフ社は,かつてはランピョン社の販売代理店で あり,同社から正規の2UNDR商品を購入し,保有していたことが認め られ,また,被控訴人ブライトがMゴルフ社から輸入した商品の点数(2 387点)は,Mゴルフ社が,ランピョン社から購入し,上記輸入直前の 時点において保有していたとしてもおかしくない商品の点数(2448 点)の範囲内であるのに対し,被控訴人ブライトが輸入した商品が,上記 とは他のルートで入手されたものであったことを疑わせるような証拠は全 くないのであるから,本件商品が真正商品であることを否定することはで きないものというべきである。),第1要件が満たされることは明らかで あるし,本件代理店契約の解除や,地域制限条項の存在などといった控訴 人ら主張の事情は,この判断に何ら影響を及ぼすものではないということ になる。そして,これが被控訴人らの主張するところでもある。
イ これに対し,控訴人らは,本件事案においては,第1要件は,単に適法 に商標が付されたことだけではなく,適法に商標が付された商品が,商標 権者の意思に基づいて流通に置かれたことまで要求するものとして理解す べきであると主張する。 たしかに,最高裁平成15年判決の事案は,商標が,商標権者自身では なく,商標権者から使用許諾を受けた者によって付された事案であったた め,使用許諾権者がその権原に基づいて商標を付したのかどうかという意 味において,商標が適法に付されたのかどうかが問題となる余地があった のに対し,本件事案のように,商標権者自身が商品を製造販売している事 案では,この要件が問題になることはほとんど考えられず,果たして,商 標が適法に付されたかどうかのみを単独の要件とする意味があるのかとい う点が問題となり得る。この点や,最高裁平成15年判決以前には,本件 事案のような事案に関し,「商標権者が当該商標を適法に付して流通に置 いたこと」を要件とする見解が有力であり,このように「適法に流通に置 いたこと」を要件とすることは,非正規のルートで入手された商品が並行 輸入された場合を排除するという意味を持ち得るものであることを併せ考 えると,最高裁平成15年判決とは事案が異なる本件においては,商標が 適法に付されたかどうかだけではなく,それが適法に流通に置かれた(あ るいは,商標権者の意思に基づいて流通に置かれた。以下,同じ。)かど うかも問題とする必要があるという見解もあり得るものと考えられる。そ の意味で,控訴人らの主張にはもっともなところがあるといえる。 しかし,仮にそのように考えるとしても,本件において,Mゴルフ社は, ランピョン社から正規に本件商品を購入したのであるから,この時点にお いて,本件商品が「適法に流通に置かれた」ことは明らかである。そして, 本件代理店契約の解除や地域制限条項の存在といった控訴人ら主張の事情 は,上記の判断を左右するに足りるものではないと考えられる。その理由 は,次のとおりである。
ウ すなわち,まず,本件代理店契約解除との関係について検討すると,前 認定のとおり,Mゴルフ社は,上記解除によって本件商品を販売してはな らない義務を負うと解する余地はある。しかし,このような条項があるか らといって,Mゴルフ社が本件商品の処分権限を失うわけではない(本件 代理店契約解除によって,直ちにMゴルフ社の本件商品に対する所有権が 失われるものではないことは控訴人ら自身が自認しているところであるし, ランピョン社が買戻権を行使した事実が存在しないことも既に指摘したと おりである。)。そうであるとすると,Mゴルフ社が,本件代理店契約解 除後に本件商品を売却したとしても,それは,ランピョン社との間で債務 不履行という問題を生じさせるだけで,本件商品が「適法に流通に置かれ た」という評価を覆すまでのものではないというべきである。実質的に見 ても,Mゴルフ社が正規に購入した商品を,本件代理店契約解除後に他に 売却したからといって,直ちに商標の出所表示機能\が害されるとはいえな いのであって,この点からしても,第1要件該当性を否定する理由はない。 この点は,地域制限条項との関係についても同様であり,地域制限条項 は,あくまでも債権的な効力を有するにすぎず,Mゴルフ社による本件商 品の処分権限を奪うものではないのであるから,これに違反した処分がさ れたからといって直ちに,本件商品が「適法に流通に置かれた」という評 価が覆るものではないというべきである。実質的にみても,Mゴルフ社が 正規に購入した商品を制限地域外で販売したからといって直ちに商標の出 所表示機能\が害されるとはいえないのであって,この点からしても,第1 要件該当性を否定する理由はない(なお,最高裁平成15年判決は,地域 制限条項違反を理由の一つとして第1要件該当性を否定しているので,こ の判断との関係についても念のため触れておく。同判決の事案は,商標の 使用許諾契約において地域制限がされていたという事案であったため,使 用権者は,そもそも,制限地域外において商品に商標を付す権限を有して いなかった。このため,制限地域外で商標を付したとしても,それは「適 法に」商標を付したことにならないとの評価を免れなかった。これに対し, 本件事案において,Mゴルフ社の商品処分権限は何ら制約されていないこ とは既に説示したとおりであり,この点において,本件と最高裁平成15 年判決の事案とは事案を異にするというべきである。)。
エ 以上の次第で,第1要件の内容を最高裁平成15年判決の判断どおりと みた場合でも,それに「適法に流通に置かれたこと」との要件を加えたも のとして理解したとしても,いずれにせよ,同要件は満たされているとい うべきである。
(4) 第2要件について
本件においては,控訴人ハリスが我が国における商標権者であると同時に 外国における商標権者でもあるから,本件商品に付された商標と我が国の登 録商標(原告商標)とが同一の出所を表示するものであることは明らかであ\nる。 なお,被控訴人ブライトは,我が国において被告各標章を利用した宣伝広 告活動を行っているが,これは本件商品の輸入後の行為であることからする と,そもそも,かかる事情が第2要件該当性の判断に影響を及ぼすものであ るのかは疑問である。また仮に,これらの事情を考慮に入れる必要があると しても,原告商標と被告各標章が類似のものであることは上記1で原判決を 引用して説示したとおりであるから,出所表示の同一性に影響を及ぼすもの\nではなく,いずれにせよ第2要件該当性は肯定されるべきである。
(5) 第3要件について
ア 最高裁平成15年判決における第3要件は,「我が国の商標権者が直接 的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当 該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保 証する品質において実質的に差異がないと評価される場合」であることと いうものである。 ところで,最高裁平成15年判決の事案は,商標権者自身ではなく,商 標の使用許諾権者が商品を製造したという事案であった。そこで,商標に 係る商品の品質保証のため,商標権者が,商標使用許諾権者(あるいは, その下請等の立場にあった者)の行為に対して,直接的に又は間接的に品 質管理を行い得る立場にあったかどうかが重要な問題になり得たものであ る。これに対し,本件のように,商標権者自身が商品を製造している場合 には,商品の品質は,商標権者自身が商品を製造したという事実によって 保証されており,後は,その品質が維持されていれば品質保持機能に欠け\nるところはないといえる。そして,本件商品は男性用下着であって,常識 的な期間内で流通している限り,その過程で経年劣化等をきたす恐れはな いし,商標権者自身が品質管理のために施した工夫(商品のパッケージ 等)がそのまま維持されていれば,商品そのものに対する汚損等が生じる おそれもないといえる。 そうであるとすると,少なくとも,本件のように商標権者自身が商品を 製造している事案であって,その商品自体の性質からして,経年劣化のお それ等,品質管理に特段の配慮をしなければ商標の品質保証機能に疑念が\n生じるおそれもないような場合には,商標権者自身が品質管理のために施 した工夫(商品のパッケージ等)がそのまま維持されていれば,商標権者 による直接的又は間接的な品質管理が及んでいると解するのが相当である。
イ そこで,以上の観点から,第3要件が満たされているかどうかを検討す るに,本件商品と2UNDR商品の日本における販売代理店が販売する商 品とが,登録商標の保証する品質において実質的に差異がないといえるこ とは,原判決「事実及び理由」第3,2⑷オ(原判決31頁24行目から 32頁17行目まで)に記載のとおりである。そして,商品のパッケージ 等はそのまま維持されていたものと推認できるから,「我が国の商標権者 が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあること」 との要件も,満たされているものといってよい。
ウ 控訴人らは,地域制限条項は,商品が最終消費者に販売されるまでの間 の品質を商標権者がコントロールするために重要な条項であるから,同条 項の違反は商標の品質保証機能を害する旨主張するが,販売地域の制限に\n係る取決めは,通常,商標権者の販売政策上の理由でされるにすぎず,商 品に対する品質を管理して品質を保持する目的と何らかの関係があるとは 解されないから,上記主張は失当である(なお,最高裁平成15年判決の 事案における地域制限条項は,商品を製造する地域を制限する条項という 意味も持っていたため,どこで商品を製造するかは品質の保持に影響する と解する余地があった。これに対し,本件事案においては,商品自体は商 標権者によって製造済みであり,それをどの地域で販売するかが問題にな るのにすぎないのであるから,両者が全く事情を異にすることは明らかで ある。)。また,本件代理店契約が解除されたという事実も,第3要件の 充足性に影響を及ぼす事情とはいい難い。
エ 控訴人らは,本件商品の包装箱にシールを剥がした跡があることや,広 告に「訳あり/パッケージ汚れ」との記載があることは,商標の品質保証 機能を害する旨主張する。\nしかし,包装箱(パッケージ)の汚れ等の不具合は,商品(男性用下 着)自体の品質とは直接の関係がなく(パッケージの汚れが,単に表面に\nとどまらず,内部にまで影響を及ぼしていたことを認めるに足りる証拠は ない。),本件商品の品質が控訴人らの扱う2UNDR商品の品質よりも 実際に劣っていたことをうかがわせる証拠もない。また,「訳あり/パッ ケージ汚れ」との記載は,商品そのものではなく,そのパッケージに汚れ があることを「訳あり」と称しているのにすぎないものと理解できるから, これによって,2UNDR商品そのものの品質に疑念が生じるおそれはな いものといえる。 したがって,この点に関する控訴人らの主張は失当である。
オ さらに,控訴人らは,控訴人ハリスは,正規代理店を経由して日本に輸 入された商品については交換に応じる等の保証をしており,品質について 独自の信用を構築しているところ,本件商品は保証の対象外であり,本件\n商品の購入者は,商品に欠陥があった場合も交換等を受けられないのであ るから,控訴人ハリスの保証を受けられないことは,品質保証機能を害す\nるとも主張する。 しかし,控訴人ハリスが,顧客からの要請に基づいて,商品の交換に応 じることがあるというだけで,独自の品質管理体制が構築されていたとま\nでいうことはできないし,そのほかに,控訴人らが,商品の品質について, 並行輸入を排除するのに足りるような独自の信用を構築していることを認\nめるに足りる証拠はない。 したがって,この点に関する控訴人らの主張も失当である。
(6)まとめ
以上の次第で,本件において,第1要件ないし第3要件は,いずれも満た されているというべきであるから,被控訴人ブライトによる本件商品の輸入 行為は,実質的な違法性を欠くというべきである。
3 並行輸入の違法性阻却と販売行為の態様との関係について
控訴人らは,被控訴人ブライトの輸入行為が違法性を阻却されるとしても, 商標権者が許容しない方法で広告宣伝及び販売をする行為は違法性を阻却され ない旨主張する。 しかしながら,その理由として控訴人らが挙げる事情は,いずれも並行輸入 の違法性阻却の場面で検討ずみのものであって,むしろ,上記2のとおり,商 標の品質保証機能が害されていないことの理由ともなり得るものである。また,\n被控訴人ブライトは,被告各標章を利用して本件商品の宣伝,広告を行ってい るところ,被告各標章の中には,本件商標と完全に同一であるとはいい難いも のも含まれているが,本件商標と類似するものであることは上記1で原判決を 引用して説示したとおりであり,このような標章を使用することによって本件 商標の機能を害しているとまではいえないから,この点も違法性阻却を否定す\nるに足りる事情であるとはいい難い。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)35053

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令和2(ネ)1006 不当利得返還等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年5月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審の東京地裁はプログラムの著作権侵害として20万円の支払いを認めました。控訴しましたが棄却されました。

 控訴人は,平成25年9月以降のやり取りにおいて被控訴人学園か ら提案された120万円には著作権に対する対価は含まれていなかった ものであり,控訴人と被控訴人学園との間で本件システムの開発に係る 委託費用は月額約32万円と合意されていたことからすれば,著作権侵 害行為によって生じた控訴人の損失は160万円を下らない旨主張し, また,著作権法114条1項又は同条3項に基づいて算定しても,同損 失は160万円を下らない旨主張する。 (イ) まず,控訴人と被控訴人学園との間のやり取り又は合意に関する主 張について検討するに,仮に,上記やり取りにおける被控訴人学園の提 案が,本件システムに係るプログラムの著作権を取得する対価を含む趣 旨ではなかったとしても,前記認定事実のとおり,平成24年12月か ら平成25年3月までの本件システムの開発費用は105万円であっ たこと,この支払がされた時点において,本件プログラムは本件システ ムの半分程度を完成させたものであったことに加え,上記提案のほかに 控訴人及び被控訴人学園が本件プログラムの対価について具体的な金 額を協議したと認めるに足りる証拠はないことや,本件における被控訴 人学園による本件プログラムの著作権等侵害行為の態様等,本件に現れ た一切の事情を考慮すると,被控訴人学園による著作権侵害行為につい て,本件プログラムの著作権の利用料相当額としての利益を受け,控訴 人に損失を及ぼした金額は,20万円と認めるのが相当であり,これを 超える利益及び損失が生じたものと認めるに足りる的確な証拠は存し ない。また,控訴人と被控訴人学園との間において,本件システムの開発に 係る委託費用を月額約32万円とする合意が成立したと認めるに足りる 証拠は存しない。そうすると,控訴人と被控訴人学園との間のやり取り又は合意を根拠 として,控訴人に160万円の損失が生じたと認めることはできない。
(ウ) 次に,著作権法114条に基づく控訴人の主張について検討するに, 同条1項に基づく主張については本件プログラムの譲渡等に係る控訴 人の利益の額につき,同条3項に基づく主張については本件システムと は異なるシステムであるWebClassのライセンス料を基に利用 料相当額を算定することにつき,それぞれ具体的な根拠を欠くというべ きである。 そうすると,著作権法114条1項又は同条3項を根拠として,控訴 人に160万円の損失が生じたと認めることはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)36168
被告学園は,前記4の著作権侵害行為につき,本来原告に支払うべき金 銭を支払っていないから,その金銭の額に相当する額の利益を受け,原告 に同額の損失を及ぼしたと認められる。そこで,以下,上記の額(利用料 相当額)がいくらであるのかについて検討する。 原告は,被告学園から,平成24年12月から平成25年3月までの本 件システムの開発費用として,105万円を受け取った(前記1(4))。こ れは,前記3のとおり,著作権の対価ではなく,それまでの労務の対価と して支払われたものであったが,原告が上記の金銭を受け取った時点で, 本件プログラムは,本件システムの半分程度を完成させたにとどまるもの であった(前記1(5))。Cは,同年10月頃,原告に対し,本件システム の残りの開発に係る開発費用として,120万円を支払うことを提案して おり(前記1(14)),当該提案がされた経緯や提案された金額からすれば, これは,残り半分程度の本件システム開発に係る労務の対価に加えて,被 告学園が原告から本件システムに係るプログラムの著作権を取得する対価 を含む趣旨での提案であったものと推認することができる。 以上に加え,上記提案のほかに原告と被告学園が本件プログラムの対価 の具体的な金額について協議したと認めるに足りる証拠はないこと,前記 4の被告学園の本件プログラムの著作権等侵害の態様等,本件に現れた一 切の事情を考慮すると,被告学園が前記4の著作権侵害行為について,本 件プログラムの著作権の利用料相当額としての利益を受け,原告に損失を 及ぼした金額は20万円と認めるのが相当である。 イ 原告は,平成25年4月1日から同年10月15日までの本件システム の開発に係る委託費用相当額の損失をも被ったと主張して,被告らに対し 同額の不当利得の返還を請求するので,以下検討する。 前記1(4)ないし(6),(11)ないし(14)の経緯に照らせば,被告らは上記 期間に対応する本件システムの開発の成果物を受領していないし,原告と 被告らとの間において,上記期間に係る本件システムの開発の委託費用の 支払を合意したとも認められない(むしろ原告は,被告学園に対し,Bへ の本件圧縮ファイルの送付以降の開発費用等の支払は不要であると伝えて いる。)。そうすると,被告らにおいて,原告による平成25年4月1日 から同年10月15日までの対応する本件システムの開発に係る利益を受 けたと認めることはできない。 また,前記2,3のとおり,本件プログラムの著作権は原告に帰属して おり,被告らは,本件プログラムの著作権を取得しておらず,本件全証拠 によってもこれを利用する権原を取得したとも認められないから,被告ら は原告の許諾なく本件プログラムを利用することはできない。そうすると, 被告らにおいて,原告に本件プログラムを作成させた対価を支払う必要は ないというべきであり,その支払を免れたことによる利益を受けたとは認 められない。 したがって,原告が被告らに対して委託費用相当額の不当利得返還請求 権を有しているとは認められず,原告の上記主張は理由がない。

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令和2(ワ)2956 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月20日  大阪地方裁判所

 均等侵害も第1要件を満たさないとして特許権侵害とはならないと判断されました。

 本件各発明に係る特許請求の範囲及び本件訂正明細書の各記載によれば,本件各 発明の本質的部分については,以下のとおりと認められる。 すなわち,従来,硬貨の表面に描かれた模様は,硬貨を製造するプレス機に設置\nされるプレス金型に予め彫り込まれ,硬貨をプレス及び打ち抜きする際,硬貨の表\ 面に金型の凹凸が反転して表現されていたところ,プレス金型に対して硬貨の表\面 に浮き出る部分は,平面彫刻機で彫り込んで行われていた。しかし,平面彫刻機の ように厚み方向のみ切削する切削工具では,切削した部分及び切削を行わなかった 部分は平面仕上げであり,金属の地肌のままの色合いであるため,放電加工機で不 規則かつ微細に地金を削り取りいわゆるナシ地仕上げを行ったり,切削した部分を 細かく研磨して鏡面仕上げを行ったりし,また,立体彫刻機で人物や動物等立体的 な図形を彫り込み,得られた硬貨の表面の凸部に人物等を立体的に表\現して,硬貨 の装飾効果を高めていた。しかし,これらの方法によっても,図形等の部分を除い た硬貨の地模様に対応する部分は,平面仕上げ,鏡面仕上げ,ナシ地仕上げのいず れかであり変化に乏しく,また,メダル遊戯機で使用される硬貨は,コスト等の兼 ね合いがあり,高価な金属の使用が難しく,表面の輝きが鈍いものが多いという課\n題があった。本件各発明は,こうした課題に対し,硬貨の表面の地模様に立体彫り\nによる変化を起こし,硬貨の輝きを増し,硬貨の装飾価値等を高めることを目的と するものである。具体的には,本件発明1は,切削深さを任意に変えられる同時三 軸制御 NC フライス機を,硬貨表面に描かれる人物や動植物等の図形に用いるので\nはなく,金型の表面に対して一定パターンで切削を繰り返すことにより硬貨の地金\n部分に立体的な幾何学的模様からなる新たな地模様を描き出し,硬貨の装飾価値を 高めるものである。本件発明2は,本件発明1と同様の方法で硬貨の地模様を描き 出すことに加え,同じく同時三軸制御 NC フライス機により地模様以外の模様に対 応する部分をV溝状に切削することで,当該模様部分の表面積の増加等により硬貨\nの表面の輝きを増加させ,硬貨の装飾価値等を高めるものである。\n以上を踏まえると,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,少なくとも 「金型の厚み方向へ切削可能な」切削工具「を用い,金型に対して一定のパターン\nで切削深さと,水平面に対する金型の切削角度と,を変えながら金型表面上を移動\nさせ,傾斜面を含む特定のパターンを金型上に描き,これを金型表面全体に繰り返\nすことにより繰り返し模様からなる地模様を形成すること」は,従来技術には見ら れない特有の技術的思想を有する本件各発明の特徴的部分すなわち本質的部分であ るといえる。さらに,本件発明2においては,これに加え,上記工具「により硬貨 の表面に浮き出る文字,図形等の模様に対応する部分をV溝状に切削すること」も,\n特徴的部分すなわち本質的部分ということができる。
(3) 前記のとおり,本件各発明における「金型」(構成要件B,C,E及びF)は\nプレス金型を意味し,また,被告製造方法の構成については当事者間に争いがある\nものの,被告製造方法が原金型に関する工程とプレス金型に関する工程という2つ の工程を含むこと,被告機械を用いて原金型の表面に地模様及び地模様以外の模様\nに対応する部分を切削加工により作製することは,当事者間に争いがない。これを 踏まえると,本件各発明においては,プレス金型の厚み方向へ切削可能な切削工具\nを用い,プレス金型に対して一定のパターンで切削深さと,水平面に対するプレス 金型の切削角度と,を変えながらプレス金型表面全体に繰り返すことにより繰り返\nし模様からなる地模様を形成し,本件発明2においては,これに加えて,上記工具 により硬貨の表面に浮き出る地模様以外の模様に対応する部分をV溝上に切削して\nプレス金型を得るのに対し,被告製造方法においては,被告機械を用いて原金型の 表面に地模様及び地模様以外の模様に対応する部分を切削加工により作製し,こう\nして得られた原金型から(特定されない加工方法(被告方法1)又は放電加工(被 告方法2)により)プレス金型を得る点で相違する。そうすると,被告製造方法は, 本件各発明の本質的部分を共通に備えているとはいえない。 したがって,本件各発明と被告製造方法の相違部分は,本件各発明の本質的部分 に当たる。
(4) 原告らの主張について
これに対し,原告らは,本件各発明の本質的部分は,金型に対して一定のパター ンで切削の深さと,水平面に対する金型の切削角度と,を変えながら金型表面上を\n移動させ,傾斜面を含む特定のパターンを金型上に描くことと,地模様以外の模様 に対応する部分をV溝状に切削することであり,原金型とプレス金型の2つの金型 を用いるか否かは本件各発明の本質的部分ではないなどと主張する。 しかし,前記のとおり,原金型からプレス金型に対する転写等の工程につき,そ の構成を特定しなくても,本件各発明の作用効果を奏し得るものが行われることが\n当業者にとって技術常識であるとは認められないことをも踏まえると,金型につき 原金型とプレス金型の2つを用いるか否かは,本件各発明の本質的部分に係る相違 部分というべきである。 したがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。

◆判決本文

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令和2(行ケ)10015 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月17日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が維持されました。知財高裁は、課題が公知文献に記載されていないだけでなく、解決手段も公知文献から導けないと判断しました。

 イ シリコーン誘発凝集阻害という課題の発見の容易性について 原告は,タンパク質製剤におけるシリコーン誘発凝集は知られており, タンパク質の凝集が多糖類−タンパク質コンジュゲート凝集の原動力であ ることを当業者は理解していたから,公知発明1に6種の肺炎球菌CRM コンジュゲートを追加することによりタンパク質含量が増える13価の肺 炎球菌CRMコンジュゲート製剤でシリコーン誘発凝集が生じることは予\n見可能であった旨主張する。\nしかし,原告がその主張の根拠とする公知文献(甲25,26,71) は,キャリアタンパク質がCRM又は破傷風毒素(TT)である多糖類− タンパク質コンジュゲートの構造的不安定性に関連する凝集について記載\nするのみであるから,これらの公知文献からは,多糖類−タンパク質コン ジュゲートのシリコーン誘発凝集が本件優先日当時に課題として当業者に 認識されていたとはいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 課題の解決手段の適用の容易性について
上記イで述べたとおり,当業者は本件発明の課題を認識できないから, 既にこの点において容易想到性は否定されることになるが,念のため,課 題解決手段適用の容易想到性に関する原告の主張についても検討しておく。
(ア) タンパク質製剤のシリコーン誘発凝集の解決手段に関する知見につき
原告は,当該課題の解決のために,当業者は,タンパク質製剤におけ るシリコーン誘発凝集の解決手段に関する知見を採用し得た旨主張する。 しかしながら,原告がその主張の根拠とする公知文献(甲3,69) には,タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集についての記載はあるが, 多糖類−タンパク質コンジュゲートのシリコーン誘発凝集についての記 載はない。他方,多糖類−タンパク質コンジュゲートの構造的不安定性\nや凝集は,タンパク質部分のみでなく多糖類部分の影響も受けることが 知られていたところ(甲25,50),多糖類とタンパク質は構造や性\n質が異なるから,両者の挙動は異なることが当然に予想される。そうす\nると上記公知文献(甲3,69)に記載されたタンパク質医薬品のシリ コーン誘発凝集についての知見が,多糖類−タンパク質コンジュゲート のシリコーン誘発凝集にも直ちに妥当するものとは認められない。また, 上記公知文献は,タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集の問題を解決 する手段として,それぞれ,界面活性剤の添加又はシリコーン含有量の 低減を開示するのみであって,本件発明の構成であるアルミニウム塩の\n添加には触れていないから,公知発明1にタンパク質製剤のシリコーン 誘発凝集の解決手段に関する上記公知文献記載の知見を適用しても,本 件発明の構成には至らない。\nしたがって,原告の上記主張は採用できない。
(イ) アルミニウム塩の発揮する効果に関する知見につき
原告は,凝集体の発生に関連するタンパク質の疎水性表面への吸着は\nアルミニウム粒子で防ぐことができるとの知見(甲81の3,76)が あったから,疎水性界面を示すシリコーンによるワクチンの凝集も,ア ルミニウム塩をアジュバントとすることにより防ぐことができると当業 者は理解したと主張する。
しかし,上記知見においては,容器の疎水性表面へのタンパク質の吸\n着は,液体(製剤)と固体(容器)との界面における容器表面とタンパ\nク質分子との相互作用に関連すると理解されていたのに対し(甲81の 3),タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集は,微量のシリコーンの 存在と空気−液体界面におけるタンパク質の変性や(甲3),タンパク 質結合に関与する分子間相互作用へのシリコーンの影響(甲69)に関 連すると考えられており,シリコーン誘発凝集がタンパク質のシリコー ンへの吸着によって生じると考えられていたとは認められないから,疎 水性表面へのタンパク質の吸着をアルミニウム粒子により阻害する旨の\n上記知見を,直ちに肺炎球菌CRMコンジュゲートのシリコーン誘発凝 集の阻害のために適用することは困難であったといえる。 したがって,原告の上記主張は採用できない。
エ 単なる「発見」にすぎないとの予備的主張について\n
原告は,相違点4に係る発明特定事項は,ワクチン製剤のアジュバント としてアルミニウム塩を選択するという周知慣用技術を採用したとき,ア ルミニウム塩が肺炎球菌CRMコンジュゲートワクチン製剤においてはシ リコーン凝集阻害という効果を示すという,公知発明1(7価プレベナー )でも生じていたメカニズムを「発見」したにすぎないから,相違点4を 根拠に本件発明の進歩性を認めることは,自由技術に独占権を与えること になって不当である旨主張する。 しかし,この主張は,本件発明と公知発明1とは実質的には同一である という前記の主張と本質を同じくするものであるといえるところ(すなわ ち,本件発明と公知発明1とは実質的には同一であって,発明の構成にお\nいて違いはないという前提があって初めて,本件発明の独自性は,凝集の メカニズムを「発見」したにすぎないという議論が成り立ち得ることにな るはずである。),この主張を採用することができないことは既に説示し たとおりである。

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平成31(ワ)784  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年4月26日  大阪地方裁判所

  商標「蛸焼工房」について先使用権を主張しましたが、認められませんでした。権利濫用の主張も認められませんでした。

 「需要者の間に広く認識されている」(商標法32条1項)といえるため には,全国的に知られている必要はないものの,商品又は役務の性質等を踏まえつ つ,取引の実情を考慮して,一定の地理的範囲において広く知られているものとい えることを要すると解される。本件においては,たこ焼きの需要者はたこ焼きを購 入しようとする一般の消費者であると見られること,たこ焼きは,通常,加熱調理 されて温かい状態で食べられる食品であることなどを考慮すると,被告標章が「需 要者の間に広く認識されている」といえるためには,被告店舗が多数存在する愛知 県及びその近隣県の需要者の多くに認識されていることを要するといえる。
(イ) 前記認定事実((1)ア)によれば,被告は,本件商標の登録出願まで15年 以上にわたって被告標章を使用し,店舗を展開してきたものであり,また,被告の 売上,愛知県内の店舗数,各店舗の総来店者数のいずれも,決して少ないとはいえ ない。 しかし,本件商標の登録出願当時における愛知県を除く隣接県の店舗数は,各県 とも数店舗にとどまる(前記(1)ア)。愛知県においても,本件商標の登録出願後 の数ではあるものの愛知県内に500店舗を超えるたこ焼き店が存在すること(前 記(1)ア)に鑑みれば,被告店舗数は,それ自体をもって被告標章が需要者の多く に認識されていることを裏付けるに足りるほど多数であるとまではいえない。しか も,基本的には SC 内,しかも多くは地域密着型の総合スーパーマーケットに出店 し,単独で又は他のファーストフード店その他の飲食店と共に,専門店として1階 に位置し,店舗出入り口付近又はフードコートに配置され,たこ焼き,お好み焼 き,たい焼き,焼きそば,フライドポテト,杵つき団子,ソフトクリーム等を主要\nな取扱商品とするという被告店舗の出店態様等(前記(1)イ)を考慮すると,その 来店客は,基本的にはスーパーマーケットを中心とする SC 内の他店での買い物を 目的とする買い物客のうち,買い物の合間の食事や持ち帰りの軽食として手軽に食 べられる飲食物を購入するために来店する者が多数を占め,被告店舗での購入を主 要な目的として来店する者は必ずしも多くないものと推察される。さらに,被告店 舗において,被告標章は来店客により容易に認識され得る態様で表示されていると\nいえるものの,こうした来店客が被告標章に払う注意の程度は必ずしも高くないと 思われる。
また,上記出店態様等に鑑みると,出店先の SC がその商圏内で配布する広告宣 伝用の折込チラシ等に被告店舗の広告も掲載される例が多いことが推察され,現に その例も認められるものの(前記(1)ウ(オ)),そのような折込チラシの性質上,被 告の店舗に関する広告は,SC 内に出店する専門店の1つとして掲載されるにとど まり,その掲載スペースも大きくはないものと推察される(乙23添付の資料3及 び4では,被告店舗に割り当てられているスペースは全体の 1/16 程度である。)。 求人広告においても被告標章が表示されていることが認められるものの,これに触\nれる者は求職中の者に自ずと限定されることに鑑みると,これをもって需要者に広 く認識されていることを裏付ける事情としては必ずしも考慮し得ない。広告宣伝費 としての支出額(前記(1)ウ(ア))も,売上及び店舗数を踏まえると,被告と同じ業 種ないし業態の事業者に比して顕著な額を投下していることが明らかとまではいい 難い。
本件商標の登録出願までに被告店舗がマスコミ等に取り上げられた状況(前記 (1)ウ(イ)〜(エ))を見ても,その回数はむしろ少なく,かつ,その影響が及ぶ範囲も 限定的である。他方,上記時期に限らず,その後も含めた被告のウェブサイトの総 閲覧者数,口コミサイトや第三者のブログ等での掲載状況(前記(1)ウ(カ),エ(ア)) を見ても,その掲載数等が多いとはいえない。 これらの事情を総合的に考慮すると,被告標章は,本件商標の登録出願の際,被 告の業務に係る商品又は役務を表示するものとして,愛知県及びその隣接県の需要\n者の多くに認識されていた,すなわち「需要者の間に広く認識されて」いたとは認 められない。これに反する被告の主張は採用できない。
・・・
被告は,本件訴訟における原告の本件商標権の行使につき,原告は,被告 に対し損害賠償請求をするという不当な目的で本件商標の登録出願を行い,本件訴 訟を提起したものであるから,原告の被告に対する本件商標権の行使は権利濫用に 当たると主張する。 確かに,本件商標の登録出願は,被告が売上額及び店舗数とも大きく伸ばした段 階でされたものであり(前記1(1)ア),また,被告による被告標章の使用を理由 として本件商標の登録出願に関する早期審査を求めながら,その商標登録後被告に 対する最初の警告書送付まで1年半近くの期間を要した(前記(1)エ,オ)といっ た経緯は認められる。
しかし,前記(1)ア〜ウのとおり,原告は,「たこ焼工房」に「43」,「Sea & Sun」等を結合させた標章をその屋号として主に使用しているところ,「たこ焼工 房」と組み合わせる表示が複数存在することに鑑みると,原告としては,「たこ焼\n工房」の表示それ自体も自己を示すものとして使用しているものとうかがわれる。\nまた,原告は,「たこ焼工房/Sea & Sun/ シーアンドサン」の商標につき登録 出願し,商標登録を得ている。原告によるこうした営業表示の使用状況等を踏まえ\nると,原告が,既に商標登録を受けた商標「たこ焼工房/Sea & Sun/シーアンド サン」の一部である「たこ焼工房」につき商標権として権利化を図ったこと自体を 不当ということはできない。このことは,原告が被告ないし被告標章の存在等を知 って本件商標権を取得したといった事情があったとしても異ならない。さらに,本 件商標の登録から最初の警告書送付までの期間,更には本件訴訟提起までの期間の 点も,原告が賠償請求し得る損害額をより多額とする意図を有していたと認めるべ き具体的な事情はない。 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても,本件における原告の被告に対する 本件商標権の行使をもって権利の濫用というべき事情があるとはいえない。

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平成30(ワ)8708  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月13日  大阪地方裁判所

本件発明の「せぎり部」には該当しないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。

 本件発明の構成要件B1,B2及びB3は,「支持面」について規定するもので\nあり,その文言によれば,1)支持面は,水平支持部材の上面の略中央にある開口部 の端部にあり,2)支持面は,側溝蓋の当接部の曲面(断面凸状)と略相似の断面凹 状の曲面からなり,3)当接部の下端部とせぎり部との間に所定の隙間を形成するた め,4)支持面の下端に沿って連続的にせぎり部が形成されるというものである。 前記1のとおり,従来製品においては,側溝蓋の平面の当接部が,側溝本体の平 面の支持面によって支持されていたところ,本件発明においては,断面凸状の当接 部が,略相似の関係にある断面凹状の支持面で支持されることによって,側溝蓋に より受ける荷重が分散されるとともに密着性がよくなり,支持面に平面がないため に小石,砂利,土等が堆積しにくくなり,側溝蓋のガタツキや騒音の発生を抑制し, かつ,せぎり部により当接部の下端部と支持面の下端部との間に所定の隙間が形成 されるため,砂利,土等がその隙間に集まり,当接部と支持面との間の面接触状態 が維持され,堆積した小石,砂利,土等も除去しやすい,という効果があるとされ る。
そうすると,せぎり部は,本来であれば略相似の関係にある曲面が当接する関係 にあった当接部と支持面のうち,支持面の下端の形状を変更することによって,当 接部の下端部との間に隙間を設けるものであるから,せぎり部は,それが設けられ ていなければ支持面の一部として当接部と当接した部分に存することになるし,せ ぎり部と対応する位置には,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部が存すること になる。逆に言うと,側溝蓋と側溝本体との間に隙間が存したとしても,その隙間 が,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部に対応するのでなければ,それは本件 発明のせぎり部にはあたらないというべきである。

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令和2(行ケ)10102等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月20日  知的財産高等裁判所

 10日ほど前に、新聞を賑わしたユニクロのセルフレジの特許についての無効審判事件です。知財高裁は特許無効とした審決を、引用文献の認定誤りがあるとして、取り消しました。

 ウ また,甲1の「読取り/書込みデバイス102」は単独で機能するもの\nである。
 (ア) 甲1発明は,RFIDタグの読取り/書込みを行うデバイスと,この デバイスを利用する会計端末に関するものである(甲1の訳文3頁4行〜6行)が, 一般に,RFID読取りデバイスにより情報が読み取られる対象物には,液体を含 む物や水分量が多い物もあるが,そうでない物もある。こうした液体を含む物や水 分量が多い物を取り扱わない店舗も多々あるが,甲1発明の発明者は,スーパーマ ーケットのように,液体を含む物や水分量が多い物も販売する店舗に着目し,その ような店舗においては,「FR 2 966 954 A1号」として公開されてい る特許公開公報(乙30)の図に示された装置では,効率的な読取りを実施するこ とができないと考えており(甲1の訳文3頁10行〜26行),甲1発明は,「液体 を含む物や水分量の多い物についてもRFIDタグが効率的に読みとれること」, 「対象物のタイプにかかわらず,RFIDタグが効率的に読みとれること」を目的 とするものであることを,当業者は理解する。
そして,当業者は,甲1の具体的構成(甲1の訳文3頁35行〜47行)により,\n「本発明によるデバイスによって,載置キャビティ内において,端末の近傍に置か れた製品,特に端末に隣接する棚に置かれた製品に貼付されたRFIDタグが通電\nされ,したがって読み取られるリスクを伴わずに,読取り/書込み動作を実施する のに使用される電波の出力を増加させることが可能になり,またしたがって,キャ\nビティ内に載置されたタグを,液体を含む対象物に貼付されたタグであっても,よ\nり良好に読み取ることが可能になる。」という効果を有すること(甲1の訳文4頁1\n4〜19行)を理解する。
甲1の具体的構成と,乙30に記載されているRFID読取りデバイスの相違は,\n1)「前記挿入アパーチャの周りに配置され,前記挿入アパーチャから上方に延在し, 前記載置キャビティと外部との間の電波を減衰することができる,防壁と呼ばれる 少なくとも1つの壁」(「防壁」)と,2)「前記少なくとも1つの防壁を通して前記挿 入アパーチャにアクセスするための,アクセス開口部と呼ばれる少なくとも1つの 開口部」(「アクセス開口部」)のみである。 2)の「アクセス開口部」は,1)の「防壁」がある場合に,載置キャビティに物を 入れるため(「防壁を通して前記挿入アパーチャにアクセスするため」)の開口部で あるから,防壁があれば必然的に存在することになるものであり,水分を含む物で も情報が効率的に読み取れることとは関係しない。甲1の具体的構成が,乙30に\n係る発明と異なり,水分を含む物でも情報が効率的に読み取れるのは,「防壁」があ るからであると当業者は理解する。 したがって,当業者は,水分を含まない物や対象物が軽い物を読み取るのであれ ば,電波を低量にするから,「防壁」のない装置で十分であると理解する。\nそして,甲1では,「防壁」のないものとして,「読取り/書込みモジュール20 0」が,[図2]に示され,甲1の訳文10頁1〜19行に具体的な構成が記載され\nており,当業者は,「読取り/書込みモジュール200」は,「防壁」を備えるもの ではなく,よりシンプルな構成であるが,読取装置に必要な要素をすべて備えるも\nのであり,水分を含まない対象物については,問題なく動作することを理解する。 このように,甲1には[図1]に示されている読取装置と,[図2]に示されてい る読取装置の二つが開示されており,[図1]の読取装置は,水分を含む物も含まな い物も,効率よく読み取ることができるものであり,[図2]の読取装置は,水分を 含まない物に使用することができると,当業者は理解する。 甲1発明2のように,読取装置を独立した発明として把握する公知文献,公知技 術は枚挙に暇がない(甲2,乙28〜37)。
(イ) 原告らは,水分を含まない物を読み取るものとして,甲1発明2を単 体で利用することについては甲1に何ら記載がないと主張している。 しかし,被告は,読取対象物が水分の少ない場合については従来技術と同様に甲 1発明2が単体の読取装置として機能することを説明しているのであるから,これ\nに対する反論となっていない。当業者が甲1文献の記載を読めば,読取対象物が水 分の少ない物を取り扱う店舗においては,水分の多い物を読み取るために創作され た甲1発明1全体を実施するのは無駄であり,従来技術に近い甲1発明2を実施す べきであると考えるのが当然である。 また,原告らは,電波の出力を下げると金属に貼られたタグも読み取りできなく\nなると主張する。 しかし,そのような事実があるかは不明であるし,仮にそうであるとしても,読 取対象物が金属製でない場合は,従来技術と同様に,甲1発明2が単体の読取装置 として機能し,使用可能\である。本件明細書には,電波強度や金属に貼られたタグ\nを読み取る点について記載がなく,本件発明が金属に貼られたタグが読めるものと\nは解釈できないから,甲1発明2と対比できるものではない。
エ 原告らは,防壁及びアクセス開口部は,甲1に記載される目的を達成す るために必須の構成であると主張する。\nしかし,上記ウのとおり,甲1の[図2]の読取装置は,水分を含まない物につ いては読取装置として十分に使用することができると,当業者は理解する。本件審\n決は,甲1に記載されたこれらの発明のうち,水分を含まない物に使用することが できる[図2]の読取装置を「甲1発明2」と認定したものであるから,誤りはな い。
オ 原告らは,甲1の実施例に重量計が使われていることを指摘するが,読 取対象物が水分の少ない場合については,重量計が存在しても,従来技術と同様に, 甲1発明2が単体の読取装置として機能することに変わりはない。\n

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平成31(ワ)2675  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月18日  東京地方裁判所

 吹矢に関する特許侵害の損害認定について、101条1項、2項に基づき約3600万円の請求が認められました。

 以上によれば,被告製品は,そのほとんどが吹矢協会と関係がある需要 者により購入されたと認めることが相当である。そして,被告製品は,吹 矢協会の関係者において吹矢協会の公認用具であることを理由として購 入された割合が相当に高いと認められる。原告の製造販売する吹矢用具は 令和2年12月1日以降は吹矢協会の公認用具でなかったから上記の理 由で購入された被告製品の需要の全てが原告の製造販売する吹矢の矢に 向かうとは認められない。他方,原告の製造する吹矢の矢については,吹 矢協会の公認がなくとも購入するとする者もいたことがうかがわれ,被告 製品の需要が全く原告の製造販売する吹矢用具に向かわないとはいえな い。
被告は,原告の吹矢用具が吹矢協会の公認用具でないことを理由として 令和2年12月1日以降の被告の売上げについての推定覆滅を主張する ところ,上記事情に照らせば,同日以降の利益については,65%の割合 で損害額の推定が覆滅すると認めるのが相当である。

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令和1(行ケ)10108  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月13日  知的財産高等裁判所

 無効審判において訂正しましたが。新規事項である、実質上の拡張等に該当するとして訂正が認められませんでした。知財高裁は、新規事項については開示ありと認定したものの、実質上の拡張等については該当するとして審決が維持されました。

 上記の本件明細書の記載等からすると,本件明細書には,図4で示 された24のコントロールチャネルエレメントについて,最高レベルの 集合レベル1ではそれぞれが1つのコントロールチャネル(24個)を 形成し,比較的低いレベルである集合レベル2では2つのコントロール チャネルエレメントが1つのコントロールチャネル(12個)に,集合 レベル4では4つのコントロールチャネルエレメントが1つのコント ロールチャネル(6個)に,集合レベル8では8つのコントロールチャ ネルエレメントが1つのコントロールチャネル(3個)に,それぞれま とめられた上で,スケジュールに使用可能なコントロールチャネル候補 は,集合レベル1は4つ,集合レベル2は4つ,集合レベル4は4つ,\n集合レベル8は3つに制限され,この制限によってデコーディング試行 の数は15に低減されること,このような制限をツリー構造に課すこと により,図4の例では,集合レベル1では4つのコントロールチャネル\nを,集合レベル2では2つのコントロールチャネルを,集合レベル4で は2つのコントロールチャネルを,集合レベル8では1つのコントロー ルチャネルをスケジュールすることができることが開示されている。 また,本件明細書の上記記載に加えて,図4を総合すると,スケジュ ールに使用可能なコントロールチャネル候補の制限をツリー構\ 造によ って課される割合は,図4の実施例では,最高レベルの集合レベル1で は,24個のコントロールチャネルを4つの候補に(候補の割合6分の 1),比較的低いレベルの集合レベル2では12個のコントロールチャ ネルを4つの候補に(候補の割合3分の1),集合レベル4では6個のコ ントロールチャネルを4つの候補に(候補の割合3分の2)それぞれ制 限し,集合レベル8の3個のコントロールチャネルを制限しない(候補 の割合1分の1)ことが開示されているに等しい事項といえる。
そうすると,本件明細書及び図面には,ユーザイクイップメントに対 するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補の各レベルにおける割合に着目し,最高レベルよりも低い2,4,8の各レベル\nにおけるユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補の割合は,最高レベルにおける,ユーザイ\nクイップメントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補の割合よりも大きくして,ユーザイクイップメントに対する\nアロケーションを含むスケジュールをすることが開示され,又は開示さ れているに等しい事項であるということができる。また,【0025】の 記載からすると,最高レベルよりも低い各レベルのコントロールチャネ ルは,ツリー構造の前記最高レベルよりも低いレベルにあるノードによって表\されていることが開示されていることから,この開示事項に上記 事項と合わせると,ツリー構造における,より低いレベルほど,ユーザ イクイップメントに対するアロケーションに使用可能\なコントロール チャネル候補の割合がより大きくされることも開示され,又は開示され ているに等しい事項であるといえる。
したがって,訂正事項2に係る技術的事項及び訂正事項3に係る技術 的事項は,いずれも本件明細書の記載及び図面の全ての記載を総合する ことにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を 導入するものであるとはいえないから,訂正事項2及び3は,新規事項 の追加に当たるものとはいえない。
イ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
願書に添付した特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決が確定したとき は,訂正の効果は出願時まで遡及する(特許法128条)ところ,特許請 求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲が定められる特許権の 効力は第三者に及ぶものであることに鑑みれば,同法126条6項の「実 質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するもの」であるかは,訂正の前 後の特許請求の範囲の記載を基準として判断されるべきであり,こうした 解釈によって,特許請求の範囲の記載の訂正によって第三者に不測の不利 益を与えることを防止することができる。以下,これを前提にして判断す る。
(ア) 本件訂正前の請求項1は,「前記アロケーションは,最高レベルのコ ントロールチャネルのアロケーションを制限することによって実行され, 前記最高レベルのコントロールチャネルは,ツリー構造の最高レベルにあるツリー構\造のノードによって表 され,それにより,比較的低いレベ\nルのコントロールチャネルのアロケーションが可能となり,比較的低いレベルのコントロールチャネルは,ツリー構\造の比較的低いレベルにあ るツリー構造のノードによって表\ される,方法」との発明特定事項を含 むものであり,この発明特定事項からは,ツリー構造のノードによって表\されるコントロールチャネルのアロケーションは,最高レベルにある コントロールチャネルのアロケーションを制限することによって実行さ れ,それにより比較的低いレベルのコントロールチャネルのアロケーシ ョンが可能となることと理解される。 
これに対し,本件訂正後の請求項1は,訂正事項1ないし3によって, 「ユーザイクイップメントに対するアロケーションは,前記最高レベル における,ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補を部分的に制限して実行され,前記最高レ\nベルのコントロールチャネルは,ツリー構造の前記最高レベルにあるツ リー構\造のノードによって表 され,それにより,前記最高レベルよりも\n低い各レベルにおける,ユーザイクイップメントに対するアロケーショ ンに使用可能なコントロールチャネル候補の割合を,前記最高レベルに おける,ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能\な コントロールチャネル候補の割合よりも大きくして,ユーザイクイップ メントに対するアロケーションを実行することが可能となり,前記最高レベルよりも低い各レベルのコントロールチャネルは,ツリー構\造の前 記最高レベルよりも低いレベルにあるツリー構造のノードによって表\ さ れ,ツリー構造における,より低いレベルほど,ユーザイクイップメン トに対するアロケーションに使用可能\なコントロールチャネル候補の割 合がより大きくされる,方法」との発明特定事項を含むものであり,こ の発明特定事項からは,ユーザイクイップメントに対するアロケーショ ンは,最高レベルにおけるユーザイクイップメントに対するアロケーシ ョンに使用可能なコントロールチャネル候補を部分的に制限して実行され,それにより,最高レベルよりも低い各レベルのユーザイクイップメ\nントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補の割合を最高レベルにおけるユーザイクイップメントに対するアロケーシ\nョンに使用可能なコントロールチャネル候補の割合より大きくして,ユーザイクイップメントに対するアロケーションを実行することを可能\と し,かつ,ツリー構造におけるより低いレベルほどユーザイクイップメ ントに対するアロケーションに使用可能\なコントロールチャネル候補の 割合がより大きくされる方法が含まれるものと理解することができる。 このように,訂正後の請求項1は,訂正前の請求項にはない,「ユーザ イクイップメントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチ ャネル候補」という概念を追加した上で,「前記最高レベルよりも低い各\nレベルにおける,ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使 用可能なコントロールチャネル候補の割合を,前記最高レベルにおける, ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能\なコントロールチャネル候補の割合よりも大きくして,ユーザイクイップメントに 対するアロケーションを実行する」,「ツリー構造における,より低いレ ベルほど,ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能\ なコントロールチャネル候補の割合がより大きくされる」との事項を追 加し,これによって,訂正前の方法では,ツリー構造で表\ される比較的 低い各レベルのアロケーションについては特に規定するところがなかっ た,ツリー構造で示されるより低いレベルほどユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能\なコントロールチャネル候補の割合 を大きくすることが発明特定事項に含まれることになったといえる。 そうすると,訂正事項1ないし3は,特許請求の範囲を実質上変更す るものであるから,特許法126条5項に適合するものとはいえない。
(イ) これに対し,原告は,前記第3の1(1)ア(イ)及びイ(イ)のとおり,1) 訂正事項2及び3は,新たな技術的事項を導入するものではなく,2)訂 正事項2は,訂正前は,無条件で比較的低いレベルのコントロールチャ ネルのアロケーションを可能としていたのを,訂正後は,使用可能\ なコ ントロールチャネル候補の割合に関する条件付きでアロケーションを実 行することを可能とするものであるから,本件訂正は,特許請求の範囲 の減縮に該当する旨主張する。\n
しかし,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものであるかに ついては,特許請求の範囲の記載を基準として判断されるべきことは前 記のとおりであるところ,発明の詳細な説明に記載された事項からどの 事項を発明特定事項とし,上位概念とするかについては,出願者がその 技術的意義に鑑みて適宜選択して特許請求の範囲とするものであって, 明細書に記載された事項及び図面から導き出される技術的事項との関係 において,新たな技術的事項を導入するものではないからといって,訂 正の前後で特許請求の範囲の記載が実質的に同一の発明特定事項を有す るものとはいえない。
そして,前記(ア)のとおり,請求項1は,訂正事項2及び3によって, 訂正前の方法では,ツリー構造で表\ される比較的低い各レベルのアロケ ーションについては特に規定するところがなかった,ツリー構造で示されるより低いレベルほどユーザイクイップメントに対するアロケーショ\nンに使用可能なコントロールチャネル候補の割合を大きくするとの事項が発明特定事項に含まれることになったものであり,こうした発明特定\n事項は,「統合されたコントロールチャネルに対するツリー検索が系統的 に低減される」という課題((【0004】)を解決する発明の構成そのも のに関する事項であるから,単に条件付けをしたのにすぎないとはいえ\nず,特許請求の範囲の減縮に該当するものではない。 したがって,原告の上記主張は採用できない。

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◆令和1(行ケ)10107

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平成30(ワ)16422等  商標使用差止等請求事件 損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年4月23日  東京地方裁判所

 登録商標「舞豚」があり、このアルファベット表記「maiton」の使用は商標権侵害と判断されました。本件は、「舞豚」はブランド豚肉で、使用許諾契約終了後の標章の使用という特殊事情があります。損害論では38条2項による算定は地理的に離れているということで否定されましたが、飲食物の提供の通常のライセンス料の約2倍の8%が認められました。

 ア 商標法38条2項は,商標権者は,故意又は過失により自己の商標権を 侵害した者に対してその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場 合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,そ の利益の額は,商標権者が受けた損害の額と推定すると規定しているとこ ろ,同項が損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定である ことに照らせば,商標権者に,侵害者による商標権侵害行為がなかったな らば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,商標法38 条2項の適用が認められると解すべきである。
イ 本件において,被告は,本件商標1と類似する被告各使用標章を本件商 標1と同一の指定役務である飲食物の提供に使用している。しかしながら, 原告が本件商標1を用いて経営する原告店舗は長崎県島原市に所在してい るところ,しゃぶしゃぶ料理の提供という原告の業務に係る顧客は,飲食 店の一般的な顧客の範囲からすると,同市及びその周辺に在住の者である と推認され,本件において,これと異なる事実を認めるに足りる証拠はな い。他方,被告が経営していた本件店舗は東京都台東区に所在しており, 本件店舗の業務に係る顧客は,東京都内及びその周辺に在住の者であると 推認され,本件において,これと異なる事実を認めるに足りる証拠はない。 原告店舗における事業との関係で被告による商標権侵害行為がなければ原 告が利益を得られたといえるためには,それらが競合関係にある必要があ ると解されるところ,原告店舗及び本件店舗の事業の性質から,原告店舗 に対する需要者と本件店舗に対する需要者とは重ならず,原告店舗と本件 店舗が競合関係にあるとは認められない。
ウ 原告は,本件に商標法38条2項が適用されると主張するに当たり,オ ンラインショップや東京都中央区所在のアンテナショップ(以下,これら を併せて「原告オンラインショップ等」という。)において,本件各商標 を付して本件豚肉等を販売しているところ,被告が本件店舗において被告 各標章を使用して飲食物を提供しなければ,豚肉舞豚を食べたいという顧 客の需要は,原告オンラインショップ等に向かうというべきであり,これ により原告は利益を得られたなどと主張する。 ここで,被告による商標権侵害行為がなければ,原告オンラインショッ プ等において原告が利益を得られたというためには,少なくとも本件店舗 における業務と原告オンラインショップ等における業務が競合関係にある といえる必要があるとするのが相当である。そして,原告オンラインショ ップ等においては,本件豚肉等が販売されているのに対し,本件店舗では 豚肉のしゃぶしゃぶ料理が提供されており,これらの事業の形態は大きく 異なる。また,顧客についてみても,本件店舗においては,店舗において 豚肉舞豚を用いたしゃぶしゃぶ料理の提供を受けたいという顧客が主であ るのに対し,原告オンラインショップ等においては,本件豚肉等を購入し 自宅で食べたいという顧客が主である。本件店舗における業務と原告オン ラインショップ等における業務にはこのような相違があるところ,本件に おいて,店舗において豚肉舞豚を用いた料理を食べたいと考える顧客の需 要が原告オンラインショップ等に向かうことを裏付ける的確な証拠はない。 そうすると,本件店舗と原告オンラインショップ等とでは,類型的に事業 の形態が相違しており,本件でその顧客等が重なる事情も認められず,本 件店舗における業務と原告オンラインショップ等における業務が競合関係 にあるとはいえないと認めるのが相当である。原告の上記主張を採用する ことはできない。
なお,原告は,被告が本件店舗を閉店したと主張する平成30年8月を 基準に,閉店後の平成30年9月から平成31年2月までとその前年同期 (平成29年9月から平成30年2月まで)の原告オンラインショップ等 の売上げを比較し,本件店舗閉店後の前者の売上げが閉店前年同期の後者 の売上げから約125%増額しており,被告による商標権侵害行為により 原告は得られる利益を逸していたなどと主張する。しかしながら,証拠 (甲38,39)及び弁論の全趣旨によれば,原告オンラインショッピン グ等の平成30年9月から平成31年2月までの売上げが974万074 3円(内訳:ふるさと納税に係る売上げ964万6895円,それ以外の 売上げ9万3848円)であり,平成29年9月から平成30年2月まで の売上げが776万8833円(内訳:ふるさと納税に係る売上げ757 万6000円,それ以外の売上げ19万2833円)であることが認めら れ,本件店舗の閉店前と閉店後の同時期の売上げを比較すると,本件店舗 の閉店後の期間の売上げが増加しているとはいえるものの,それはふるさ と納税による売上げが増加したことに伴うものといえる。そして,ふるさ と納税制度を利用して商品を購入する動機は,ふるさとへの貢献や返礼品 を受領することなど多種多様であることに鑑みれば,上記の売上額の増加 をもって,原告の主張を裏付けるものということはできず,他に原告の上 記主張を認めるに足りる証拠もない。
エ 以上によれば,原告の業務と被告各使用標章の使用に係る被告の業務と の間で市場における競合関係があるとはいえず,被告による商標権侵害行 為がなかったならば,原告が利益を得られたであろうと認めることはでき ない。したがって,原告の本件商標権1の侵害による損害額の算定に当た って,商標法38条2項を適用する前提を欠き,同項の適用は認められな い。
(2)商標法38条3項の損害額について
ア 本件店舗は,「舞豚」というブランドの豚肉のしゃぶしゃぶ料理を提供 することを特徴とする飲食店であるところ,被告は,被告各使用標章を本 件店舗の名称,店舗の外観や料理のメニュー表などに広く用いていたこと(前記前提事実(3)アイ)からすれば,商標法38条3項による損害額の算 定に当たっては,本件店舗の売上げに対して,本件商標1の使用に対し受 けるべき料率を乗じて算定するのが相当である。
イ 次に,本件商標1の使用に対し受けるべき金銭の料率について検討する。 証拠(甲36)によれば,株式会社帝国データバンク作成の「知的財産 の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査報告書」におい て,「商標権に関する分類別ロイヤルティ料率の平均値」について全体 (205件)では2.6%であり,「商標の分類」が「第43類 飲食物 の提供及び宿泊施設の提供」については3件の例があり,最大値5.5%, 最小値1.5%,平均値3.8%であるとの記載が認められ,飲食物の提 供についての商標権のロイヤルティ料率は,全体の平均値より相当程度高 いといえる。 また,証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば,豚肉舞豚は平成7年1 0月19日の第39回長崎県種豚共進会において農林水産大臣賞を受賞し たこと(甲37),本件店舗の開店時に長崎新聞には「島原産ブランド豚 提供「舞豚」」という見出しの記事が,島原新聞には「「舞豚」が東京進出」 という見出しの記事がそれぞれ掲載されたこと(乙4)が認められる。こ れらの事実に照らせば,豚肉舞豚に対して一定の評価が与えられていたこ とがうかがえる。 そして,本件店舗は,豚肉舞豚をしゃぶしゃぶ料理として提供すること を大きな特徴とする店舗であるところ,被告は,店舗の名称や看板,メニ ュー表等に被告各使用標章を使用していた。他方,本件店舗には,他に顧客を特に引き付けるような標章等が使用されていたともいえない。そうす\nると,被告は,一定の評価が与えられていた豚肉舞豚と同じ呼称等を有す る被告各使用標章を,店舗の名称も含めて積極的に活用して本件店舗を営 業していたといえ,被告各使用標章の使用は被告の売上げにも貢献するも のであったといえる。
これらの事情に加えて,被告は,本件各商標の使用許諾契約が被告によ る信頼関係を破壊する行為により解除された後も,被告各使用標章の使用 を継続していたなど本件訴訟に現れた一切の事情を併せて考えれば,商標 権を侵害した者に対して事後的に定められるべき商標の使用に対し受ける べき料率は,8%と認めるのが相当である。
ウ 以上によれば,被告による商標権侵害について,商標法38条3項によ り算定される損害額は,本件店舗の売上高(平成29年12月から平成3 0年8月)1189万7246円(争いのない事実)に8%を乗じた金額 である95万1779円となる。
(3) 損害不発生の抗弁について
被告は,原告に使用料相当額の損害は発生しておらず,商標法38条3項 は適用されないと主張する。 しかし,被告は,店舗の名称や看板,メニュー表等に被告各使用標章を使用した一方,本件店舗において他に強く顧客を誘引する標章等が使用されて\nいたものではない。被告各使用標章の使用が被告の売上げに貢献していたと いえることは前記(2)のとおりであるから,被告が被告各使用標章を使用した ことにより原告に使用料相当額の損害が生じないとは認められない。被告の 損害不発生の抗弁についての主張は理由がない。

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平成30(ワ)38486  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年3月24日  東京地方裁判所

コンピュータプログラムの著作権侵害として約6600万円の損害賠償が認められました。著作権侵害による損害額は,本件プログラムが違法に複製されたパソコンごとに,その使用期間に応じたライセンス料相当額と認定されています。\n

イ 被告会社による著作権侵害について
本件プログラムをパソコンにインストールすることは,本件プログラムを\n有形的に再製するものとして,本件プログラムの複製に該当するところ(著 作権法2条1項15号),前記1(1)ないし(3)によれば,本件平成20年契約 においては,平成20年9月の一時期を除き,パソコン1台分についてのみ\n本件プログラムのインストールすることが許諾されていたと認められるから, 前記アのとおり,被告会社において,本件平成20年契約の締結当初から本 件旧プログラムをインストールしていた1台に加え,平成26年3月以降, 合計10台のパソコンに本件旧プログラムをインストールしたことは,本件\n旧プログラムの著作権(複製権)の侵害に該当する。なお,被告会社は,平 成20年の契約の内容として,1つのライセンスの契約で,インストールす るパソコン台数を問わずに本件プログラムが使用できるとの合意が成立して\nいたと主張するが,前記2(3)イのとおり,当該主張は採用することができな い。 また,被告会社は,自ら複製権侵害行為を行っているから,上記10台に 複製された本件旧プログラムについて,その使用する権原を取得した時に著 作権侵害の事実について知っていたものと認められ,これを使用する行為は, 著作権法113条2項により,本件旧プログラムの著作権を侵害する行為と みなされる。
(2) 争点2−2(著作権侵害による損害額)について
ア 前記(1)の著作権侵害の態様と,本件平成20年契約においてライセンス 数に応じた本件旧プログラムの複製,すなわちライセンス数に応じた台数 のパソコンへのインストールが許諾されていたことからすれば,前記(1)の 著作権侵害による損害額は,本件旧プログラムが違法に複製されたパソコ\nンごとに,その使用期間に応じたライセンス料相当額と認めるのが相当で ある。 本件旧プログラムの平成30年3月までの使用期間は,平成26年3月 にインストールされた2台につき各49か月,平成28年9月にインスト ールされた1台につき19か月,同年10月にインストールされた5台に つき各18か月,平成29年12月にインストールされた1台につき4か 月,平成30年1月にインストールされた1台につき3か月の累計214 か月となる。 そして,このうち,平成26年3月分については,当時の消費税率に基 づいた1台当たり月額4万4100円(4万2000円×1.05)とし て,平成26年4月分ないし平成30年3月分については,当時の消費税 率に基づいた1台当たり月額4万5360円(4万2000円×1.08) として,それぞれ算定すると,次のとおり,損害額合計は970万452 0円と認められる。
4万4100円×2か月+4万5360円×212か月=970万4520円
イ(ア) 原告は,著作権侵害の不法行為に基づく損害額の算定に当たっても, 債務不履行に基づく場合と同様に,本件プログラムが複製されたパソコ\nンの台数ではなく,本件プログラムを使用した医師会数を基準としてラ イセンス料相当額を算定すべきと主張する。 しかしながら,前記1(4)のとおり,被告会社は,本件旧プログラムを 使用するに当たり,医師会ごとにバックアップデータを作成し,作業し たい医師会に合わせて,その都度使用するバックアップデータを切り替 えることにより,本件旧プログラムをインストールした1台のパソコン\nで複数の医師会に係る作業を行っていたところ,このような被告会社の 行為が本件旧プログラムを有形的に再製するもの,すなわち複製とは認 められないし,違法な複製がされたことを前提とする著作権法113条 2項のみなし侵害に該当するともいえない。 そうすると,前記(1)の著作権侵害行為と相当因果関係のある損害とし て,医師会数を基準としたライセンス料相当額の損害が発生したとは認 められないから,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 被告らは,原告のホームページに記載された料金表(乙7)に基づい\nて,前記アのライセンス料相当額を算定すべきと主張する。 しかしながら,前記2(4)イで検討したとおり,本件平成20年契約に おけるライセンス料相当額を算定にするに当たって,原告のホームペー ジに記載された通常の料金表(乙7)が適用されるとは認められないから, 同料金表に基づいて算定するのは相当ではなく,被告らの上記主張は採\n用することができない。

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平成30(ワ)19441  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月28日  東京地方裁判所

 被告製品には当該構成要件が存在するとはいえないとして、技術的範囲外と認定されました。\n

 本件発明は,端部開口を含む「空気導入口」(構成要件D)から空気\nが導入されてその空気が「排出部」(構成要件E)から排出され,その\n空気の流れによってガス容器収容部,ガス容器を冷却するという空冷機 構を備え,ガス容器収容部,ガス容器に対する熱害の発生を防ぐという\nものである(前記(1))。 原告は,各被告製品の側面開口と底面穴が「空気導入口」であり,カ バー穴が「排出部」であると主張する。 原告は,原告実験1−1から1−3,2−1から2−3,3−1,3 −2,3−3(前記(2)オ,キ,ケ)を,被告は被告実験1−1,1−2, 2(同カ,ク)を行った(このうち,原告実験1−1,2−1,3−1, 被告実験1−1,2が標準ガス容器に関する実験であり,原告実験1− 2,1−3,2−2,2−3,3−2,3−3,被告実験1−2が小型 ガス容器に関する実験である。)。そして,これらの実験において,燃 焼中のガス容器上側側面,下側側面等の温度が測定されるほか,スモー ク粒子を用いて,器具周辺の空気の流れを示すことが試された。 ここで以下の(ウ)ないし(オ)のとおり本件に提出された証拠によって は,各被告製品について,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう, 側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された 空気がカバー穴から排出されていることを認めるに足りない。
被告製品1については,スモーク粒子を用いた原告実験1−3(前 記(2)オ(ウ) において,カバー穴から空気がガス容器収容部外に流出して いるように見えるときが多いものの,そうでないときがあるほか,側面 開口においては,基本的にガス容器収容部から空気が流出しているよう に見え,側面開口から空気がガス容器収容部内部に流入する動きは観察 できるとしても,少しの間しか観察できない。また,被告製品1には, 作動部とガス容器収容部の間には仕切板が一部に設けられているにすぎ ない。作動部においては,空気が取り込まれて燃焼炎等の影響を受けて 熱せられるところ,本件各証拠によっても,作動部で燃焼炎の影響を受 けて熱せられた空気がどのような動きをするかを認めるに足りず,作動 部において燃焼炎等の影響を受けて熱せられた空気がガス容器収容部側 のカバー穴,側面開口から流出することがないことを認めるに足りる証 拠はない。 他方,燃焼の際には,ガス容器内の液化石油ガスの気化に伴い,ガ ス容器は気化冷却され,ガス容器内のガスの温度は低下する(前記(2)ア(イ) そして,気化冷却により液化石油ガスの気化が妨げられることか ら,ガス器具にはガス容器の加温機構を備える必要があり(同前),被\n告製品1においても,燃焼炎の熱や輻射熱を作動部からガス容器収容部 に伝達してガス容器を加温するための加温機構が備えられている(同\nイ)。したがって,ガス容器の気化冷却の程度や,燃焼熱や輻射熱の影 響は,ガス容器収容部及びガス容器の温度に影響を与え得る要因である と認められる。このうち,気化冷却に関して,原告が行った各実験のう ちガス容器内のガスを使い切るまで燃焼したものにおいて,いずれも, ガス容器上側側面及び下側側面の温度がガスを使い切る直前から急激に 上昇しており(同オ ,(ア)(イ))帰化冷却はガス容器を用いた燃焼の最 終段階まで継続しており,かつ,ガス容器下側側面の温度は,開口等の 一部を塞ぐ作為の有無にかかわらず,概ね室温以下で推移しているので あって(同前),その燃焼中のガス容器ひいてはガス容器収容部の冷却 に及ぼす影響は相当に大きいものと認められる。
以上のとおりの原告実験1−3における側面開口付近の空気の流れ, 被告製品1の構造に照らしてカバー穴等から流出する空気と燃焼炎の影\n響を受けた作動部側の空気との関係が不明なこと,燃焼中のガス容器, ガス容器収容部に影響を与え得る諸要因を考慮すると,ガス容器収容部, ガス容器を冷却するよう,側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が 導入され,その導入された空気がカバー穴から排出されていることを認 めるに足りない。

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令和2(行ケ)10041  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月25日  知的財産高等裁判所

 薬品の特許について、公知文献の記載は技術的な裏付けがない仮説にすぎないとして、進歩性違反なしとした審決を維持しました。

(ア) ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動に関する本件優先日当時 の知見について
前記ア(ウ),(エ),(カ),(ケ)の各記載からすると,本件優先日当時までに,Co wanらは,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みの間には関連性が あることを提唱していたものと認められる。 しかし,これらの証拠によっても,本件優先日当時,Cowanらが,ボンベシ ン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があることを実験等により実 証していたとは認められないし,また,その作用機序等も説明していない。さらに, 甲4には,「この行動,及びその行動の発生におけるボンベシンの考え得る役割に ついては,更に研究する必要がある。」と記載されており,ボンベシン誘発グルー ミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があると断定まではされていない。 加えて,前記ア(ア)のとおり,昭和35年に発表された甲25では,そもそもラッ\nトのグルーミングの実施形態,目的,又は,これを支配する状況等は,ほとんど何 も知られていないとされており,前記ア(キ)のとおり,平成4年に発表された甲27\nでも,ボンベシンにより誘発される行動が,痛み等の侵害刺激に基づく可能性があ\nるとの指摘がされており,前記(2)ア(オ)のとおり,平成7年に発表された甲9にお\nいても,信頼性のある痒みの動物モデルは存在しない,マウスは起痒剤Compo und48/80を皮下注射されても引っ掻き行動をせず,マウスがグルーミング 中に耳及び体の引っ掻き行動するのが痒みに関連した行動とは考えられないなどと されており,Cowanら以外の研究者は,ボンベシンやそれ以外の原因により誘 発されるグルーミング・引っ掻き行動が,痒み以外の要因によって生じているとの 見解を有していたと認められる。 そして,前記(2)ア(オ)のとおり,甲9は,Compound48/80やサブス タンスPを起痒剤として取り扱っており,本件明細書の実施例12でも起痒剤とし てボンベシンではなく,Compound48/80が使用されている一方,ボン ベシンは,本件優先日当時,起痒剤として当業者に広く認識されて用いられていた ものであるとは,本件における証拠上認められない。 以上からすると,本件優先日当時,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動 と痒みの間に関連性があるということは,技術的な裏付けがない,Cowanらの 提唱する一つの仮説にすぎないものであったと認められる。
(イ) オピオイドκ受容体作動性化合物とボンベシン誘発グルーミング・引 っ掻き行動との関係について
前記ア(イ)〜(カ),(ケ),(コ)の記載を総合すると,本件優先日当時までに,ベンゾモ ルファン,エチルケタゾシン,チフルアドム,U−50488,エナドリンといっ たオピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行 動を減弱すること,他方で,同じオピオイドκ受容体作動性化合物であっても,S KF10047,ナロルフィン,ICI204448といったものは,ボンベシン 誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱しないこと,さらに,オピオイドμ受容体 作動性化合物であるフェナゾシン,オピオイドκ受容体作動作用を有することにつ いて報告がされていない化合物(乙6〜11)であるメトジラジン,トリメプラジ ン,クロルプロマジン,ジアゼパムのようなものであっても,ボンベシン誘発グル ーミング行動が減弱されることが,Cowanらによって明らかにされていたとい える。
また,前記ア(エ),(カ)の記載及び弁論の全趣旨を総合すると,上記のボンベシン 誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱するオピオイドκ受容体作動性化合物の基 本構造は,それぞれ異なっており,エチルケタゾシンはベンゾモルファン骨格,チ\nフルアドムはベンゾジアゼピン骨格,U−50488及びエナドリンはアリールア セトアミド構造をそれぞれ有しており,甲1発明の化合物Aとはそれぞれ化学構\造 (骨格)を異にするものであった。そして,前記ア(ク)のとおり,化学構造の僅かな\n違いは,薬理学的特性に重大な影響を及ぼし得るものである。 以上からすると,本件優先日当時,オピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベ シン誘発グルーミング・引っ掻き行動を抑制する可能性が,Cowanらによって\n提唱されていたものの,甲1の化合物Aがボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き 行動を減弱するかどうかについては,実験によって明らかにしてみないと分からな い状態であったと認められる上,上記(ア)のとおり,ボンベシンが誘発するグルーミ ング・引っ掻き行動の作用機序が不明であったことも踏まえると,なお研究の余地 が大いに残されている状況であったと認められる。
(ウ) 上記(ア),(イ)を踏まえて判断するに,前記ア(イ)〜(カ),(ケ)のとおり, 本件優先日当時,Cowanらは,1)ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動 が,痒みによって引き起こされているものであるという前提に立った上で,2)オピ オイドκ受容体作動性化合物のうちのいくつかのものが,ボンベシン誘発グルーミ ング・引っ掻き行動を減弱することを明らかにしていた。 しかし,上記1)の点については,上記(ア)のとおり,技術的裏付けの乏しい一つの 仮説にすぎないものであった。 上記2)の点についても,上記(イ)のとおり,本件優先日当時において研究の余地が 大いに残されていた。 そうすると,本件優先日当時,当業者が,Cowanらの研究に基づいて,オピ オイドκ受容体作動性化合物が止痒剤として使用できる可能性があることから,甲\n1発明の化合物Aを止痒剤として用いることを動機付られると認めることはできな いというべきである。
(エ) 小括
以上からすると,当業者が,甲1発明に甲2〜9,12などから認定できる一連 のボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動とオピオイドκ受容体作動性化合物 に関する知見を適用し,本件発明1を想到することが容易であったということはで きないというべきであり,取消事由1は理由がない。
ウ 原告の主張について
原告は,これまで認定判断してきたところに加え,1)本件審決は,技術常識が存 在しないことから直ちに動機付けを否定してしまっており,公知文献から認められ る仮説や推論からの動機付けについて検討しておらず,裁判例に照らしても誤りで ある,2)甲63によると,ダイノルフィンAと同じオピオイドκ作動作用を持つ化 合物は,痒みや痛みを抑制することが容易に予測でき,甲1の化合物Aを使用して\n止痒剤としての効果を奏するかを確認してみようという動機付けも肯定できると主 張する。 しかし,上記1)について,仮説や推論であっても,それらが動機付けを基礎付け るものとなる場合があるといえるが,本件においては,Cowanらの研究に基づ いて,甲1発明の化合物Aを止痒剤として用いることが動機付けられるとは認めら れないことは,前記イで認定判断したとおりであり,原告が指摘する各裁判例もこ の判断を左右するものとはいえず,原告の上記1)の主張は採用することができない。 上記2)について,本件明細書には,前記1(1)イのとおり,甲63にダイノルフィ ンと共に挙げられているエンドルフィン,エンケファリン(前記ア(サ))が,痒みを 惹起することが記載されている上,前記ア(サ)のとおり,甲63が,痒みと痛みの関 係は明確ではなく,研究を更に行わなければならないと結論付けているところから すると,甲63の記載が,ダイノルフィン,エンドルフィン,エンケファリン等の 内因性オピオイドが,止痒剤の用途を有することを示唆するものであるとは認めら れず,甲63の記載から,当業者が,甲1の化合物Aについて,止痒剤としての効 果を奏するかを確認することを動機付けられるとは認められない。 そして,その他,原告が主張するところを考慮しても,前記イの認定判断は左右 されないというべきである。

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令和2(行ケ)10030  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月28日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反ありとした審決が取り消されました。理由は、先行技術甲1に接した当業者は,甲1の構成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識するとはいえないので、甲1に本件周知技術を適用する動機付けがないというものです。\n

 原告は,本件審決は,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥 没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具 と接続管とで挟持取付けること」(本件周知技術)は,本件出願前の周知技術 にすぎないから,取付けの強固さや水密性等を考慮して,甲1発明の「縁部 2」の構成を,本件周知技術のように,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥\n没部の底部に形成された内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取 付けることによって,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者\nが容易になし得たことである旨判断したが,甲1発明に本件周知技術を適用 する動機付けはないから,本件審決の判断は,誤りである旨主張するので, 以下において判断する。
ア 甲1発明は,「浴槽の底部1は,開口部を有し,その縁部2は,貫通する 方法で湾曲しながら徐々に下側に向かって成形され,この開口部の中には, 排水装置が挿入されており,この排水装置は,おおよそ筒状を呈した排水 ケーシング3を有しており,排水ケーシング3の上端部にはパッキン5を 保持し固定するフランジ4が配置されて,上記縁部2の下端が該パッキン 5に接しており,上側からは,排水カップ6が,排水ケーシング3の中へ ネジ固定により挿入されて,上部外側の縁部分で浴槽の底部に接しており, 排水カップ6の内側には,排水カップ6の上端の径と略同径の閉塞板7が 挿入されており,タペット8を用いることにより上昇させたり,下降させ たりすることができ,閉塞板7は,開口部に接触せず,閉鎖時には,浴槽 の底部1に概ね面一とされ,閉塞板7の裏側には,径内方向に凹んだ断面 コ字状の環状の溝部が設けられ,該溝部にパッキンが保持されている,排 水装置」(前記第2の3(2)ア)である。
甲1の図面(別紙2参照)は,排水ケーシング3の円形断面の中心線に おける断面図であること(前記2(2)イ(イ)),甲1の「ここでは,唯一の図 面が,本発明に基づく排水装置の横断面の形状を示している。ここに示さ れた一つの浴槽の底部1は,一つの開口部を有しており,その縁部2は, 貫通する方法で下側に向かって成形されている。この開口部の中には,排 水装置が挿入されており,この排水装置は,排水ケーシング3を有してい る。・・・排水カップ6の内側には,閉塞板7が挿入されており,一本のタペ ット8を用いることにより上昇させたり,下降させたりすることができる。」 (前記(1)ウ)との記載に照らすと,甲1の図面は,閉塞板7が下降し,開 口部を閉鎖した状態を示した図面であることを理解できる。 そして,甲1の図面から,甲1発明の縁部2は,断面形状が内側に湾曲 しながら徐々に下側に向かって縮径する構成を有し,縁部2の湾曲面に上\n部外側の縁部分が当接する排水カップ6と,縁部2の下端に接するパッキ ン5を保持し,固定するフランジ4を含む排水ケーシング3とで挟持取り 付けられていることを理解できる。
他方で,甲1には,縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持 取付けられていることやその作用等について明示的に述べた記載はない。 また,甲1の記載事項全体(図面を含む。)をみても,縁部2が排水カップ 6と排水ケーシング3とで挟持取付けられている構成について,取付けの\n強固さや水密性等の観点から,改良すべき課題があることを示唆する記載 もない。
イ 次に,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に 内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管と で挟持取付けること」(本件周知技術)が,本件出願当時,周知であったこ とは,前記(1)イのとおりである。 他方で,本件周知技術に係る甲3,5及び8には,円筒状陥没部の底部 に形成した内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構\n成の作用等について述べた記載はない。 また,甲3,5及び8には,取付けの強固さや水密性等の観点から,内 向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成が,甲1の図\n面記載の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられ る構成よりも優れていることを示唆する記載はない。\n
ウ 前記ア及びイによれば,甲1に接した当業者は,甲1発明の縁部2の構\n成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識 するとはいえないから,甲1発明の縁部2に本件周知技術の構成を適用す\nる動機付けがあるものと認めることはできない。 したがって,当業者は,甲1及び本件周知技術に基づいて,甲1発明に おいて,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到すること\nができたものと認めることはできない。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,1)本件発明の「内向きフランジ部」は,円筒状陥没部の底部か ら縮径するように延出させることで排水口金具と接続管とで挟持取付ける ものである必要があり,かつ,それで足りるところ,甲1発明の縁部2は, 断面形状が内側に凸となる円弧状を呈し,下方向だけでなく内側方向にも 延出することで,開口部を下側に向かって縮径しており,このように開口 部を縮径することによって「排水カップ6」と「排水ケーシング3」とで 挟持取付けられるものである点において,本件発明の「内向きフランジ部」 と甲1発明の縁部2は,構造的に共通する,2)本件明細書の【0013】 の記載に照らすと,本件発明の「内向きフランジ部」は,「円筒状陥没部」 の底部に位置することで排水口金具が「水槽の底部1」に露出しない状態 で排水口金具と接続管とで挟持取付けられるものであるところ,甲1発明 の縁部2も,「開口部」の底部に位置することで排水口金具が「浴槽の底部 1」に露出しない状態で排水口金具と接続管とで挟持取付けられる点にお いて,本件発明の「内向きフランジ部」と機能及び作用が共通するとして,\n甲1発明の縁部2は,フランジ形状を呈していないとしても,構造,機能\ 及び作用が共通しているから,本件発明の「内向きフランジ部」と実質的 に同一であり,相違点1は実質的な相違点ではない旨主張する。 しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明の「内向き フランジ部」に関し,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状 陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管と で挟持取付けられて排水口部を形成」されること,「その円筒状陥没部内 を上下動するカバーが,前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径である」 ことの記載はあるが,本件発明の「内向きフランジ部」の形状や構造を\n規定する記載はない。また,本件明細書においても,本件発明の「内向 きフランジ部」の用語を定義する記載はない。 一般に,「フランジ」とは,「管を他の管または機械部分と結合する際 に用いる鍔型の部品。」(広辞苑第七版)を意味することからすると,本 件発明の「内向きフランジ部」とは,円筒状陥没部において内側に向け て形成された鍔状の部分を意味するものと解される。そして,上記結合 の際には鍔状の形状であることに即した作用を奏するものといえる。 しかるところ,甲1発明の縁部2は,湾曲しながら徐々に下側に向か って形成され,下端部に至るまでなだらかな弧状であり,内側に向けて 形成された鍔状の部分は存在しないから,本件発明の「内向きフランジ 部」に相当するものと認めることはできない。 このように甲1発明の縁部2は,鍔状の部分を備えていない点におい て,本件発明の「内向きフランジ部」と構造が明らかに異なり,その作\n用にも差異があるといえるから,本件発明の「円筒状陥没部の底部に形 成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて」 いる構成と,甲1発明の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで\n挟持取付けられている構成とが実質的に同一であるものと認めることは\nできない。
(イ) したがって,相違点1は実質的な相違点でないとの被告の主張は, 理由がない。
イ また,被告は,水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部 の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と 接続管とで挟持取付けること(本件周知技術)は,本件出願当時,周知で あったことからすると,甲1に接した当業者は,取付けの強固さや水密性 等を考慮し,甲1発明の「縁部2」に本件周知技術を適用することによっ て,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することがで\nきた旨主張する。 しかしながら,被告の上記主張は,前記⑵で説示したとおり,採用する ことができない。

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令和2(ネ)10060 商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和3年4月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ビクトリノックスの黒字に白十字を二重の外枠で囲った登録商標についての、商標権侵害訴訟です。侵害被疑者は赤十\字が登録できない(商標法4条)ので、十字部分は要部ではないと争いましたが、知財高裁は侵害とした東京地裁の判決を維持しました。\n

(1) 十字部分の色彩等に基づく類否の主張について\n
控訴人は,標章において色彩が類否に大きく影響すること,十字部分を有\nする標章は特に十字部分の色彩が類否に大きく影響することを前提として,\n被控訴人商標と控訴人標章1,3は外観,称呼,観念が異なり,類似しない と主張するが,控訴人の主張を採用することはできない。以下,詳述する。
ア 標章において色彩が類否に大きく影響するという控訴人の主張について 控訴人は,例えば,国旗において色彩が重要な要素であるように,標章 は,同一の文字や図形の結合等であっても,色彩の相違によって印象が異 なるものであり,現に,商標法70条1項は,色彩を登録商標と同一にす れば登録商標と同一の商標となる場合であっても,色彩が異なれば登録商 標に類似しない商標があることを前提としており,このことは,色彩以外 が同一であり色彩だけが異なっている商標が非類似になることを示して いるとし,そのため,商標の類否判断に色彩が大きく影響すると主張する。 しかし,国旗において色彩が重要な要素であるとしても,国旗の例が直 ちに商標に当てはまるものではない。また,標章において,文字や図形は 色彩に劣らず重要な要素であり,商標法70条1項が,色彩を登録商標と 同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるもの を,登録商標に類似の商標にとどまるとするのではなく,登録商標に含ま れるとしていることからすれば,文字や図形が同一であって色彩のみが異 なる商標は,登録商標と同一の商標と認められる場合が多いといえる。そ のため,控訴人の上記条項の理解は不適切であり,同条項に基づき,標章 において色彩のみが類否に大きく影響するということはできない。なお, 色彩が識別性等の観点から大きな意味を有しており,色彩のみが異なるこ とにより全く違う商標となってしまうような例外的な場合について商標 法70条1項が適用されないとする余地があるとしても,上記の認定は左 右されない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 十字部分を有する標章は特に十\字部分の色彩が類否に大きく影響すると いう控訴人の主張について 控訴人は,商標法4条1項4号は,赤十字の標章と同一又は類似の商標\nについて商標登録を受けることができないと定めており,赤十字の標章及\nび名称等の使用の制限に関する法律1条は,白地に赤十字の標章若しくは\n赤十字の名称又はこれらに類似する記章若しくは名称をみだりに用いる\nことを禁じていること,緑と白で構成された十\字の標章は,安全標識とし て定められていることから,十字部分を有する標章においては特に十\字部 分の色彩が類否に大きく影響すると主張する。 しかし,赤十字の標章や安全標識について上記の事実があるとしても,\n赤十字の標章と同一又は類似の商標でなければ,十\字部分を含む商標の登 録は認められる余地があり,十字部分を含む商標において十\字部分の色彩 が識別性等の観点からどのような意味を有するかは,その商標の具体的な 構成等に照らして判断されるべき事柄であって,一概に,十\字部分を有す る標章において特に十字部分の色彩が類否に大きく影響するということ\nはできず,控訴人の上記主張は,採用することができない。
ウ 被控訴人商標と控訴人標章1,3の類否について 控訴人は,被控訴人商標と控訴人標章1,3は,外観,称呼,観念が異 なり,類似しないと主張する。 しかし,原判決の説示するとおり(原判決9頁6行目ないし10頁10 行目),被控訴人商標と控訴人標章1は,外観が類似しており,いずれも 「ジュウジ」「クロス」などの同一の称呼及び「十字」「クロス」などの\n同一の観念が生じ,取引の実情を踏まえると,被控訴人商標と控訴人標章 1は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり,両者は類似する と認められる。また,原判決の説示するとおり(原判決11頁5行目ない し12頁14行目),被控訴人商標と控訴人標章3は,外観が類似してお り,同一の称呼及び観念が生じ,取引の実情を踏まえると,被控訴人商標 と控訴人標章3は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり,両 者は類似すると認められる。したがって,控訴人の上記主張は採用するこ とができない。
(2) 十字以外の部分等に基づく類否の主張について\n
控訴人は,商標法4条1項1号が,国旗と同一又は類似の商標は商標登録 を受けることができないと定めていることからすると,被控訴人商標が登録 されているのは,スイス国旗と類似していないからであり,そうであるとす ると,被控訴人商標のうち,スイス国旗と似ている十字部分は要部ではなく,\n円弧からなるループ状図形が要部であるとした上で,被控訴人商標の円弧か らなるループ状図形の外周と控訴人各標章の正方形部分の外周は,形状,色 彩,観念が異なるとし,被控訴人商標の指定商品と同一又は類似の商品に使 用された控訴人各標章が外観,観念等によって取引者,需要者に与える印象, 記憶,連想等は,被控訴人商標とは全く異なるものであるから,被控訴人商 標と控訴人各標章は類似しないと主張する。 しかしながら,被控訴人商標が登録されているのは,スイス国旗と類似し ていないからであるとしても,そのことから直ちに,被控訴人商標のうち, 十字部分以外の円弧からなるループ状図形が要部であるとして,その部分の\n比較に基づいて商標の類否を判断すべきであるとはいえない。商標の類否は, 外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を 総合して,その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきもの であるところ,被控訴人商標と控訴人各標章は,いずれも十字部分と外周部\n分からなり,十字部分は被控訴人商標及び控訴人各標章の中心にあって目立\nつ位置にあるから,類否判断に当たっては,十字部分も含めて被控訴人商標\nと控訴人各標章のそれぞれの全体を比較考察すべきである。そのため,十字\n部分以外の周囲の部分の比較により被控訴人商標と控訴人各標章は非類似で あるとする控訴人の上記主張を採用することはできない。

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1審は東京地裁ですがなぜかアップされていません。 こちらは同商標権に対する不使用審決取消訴訟です。審決は不使用と認定しましたが、知財高裁はこれを取り消しています。

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令和2(行ケ)10125 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年4月27日  知的財産高等裁判所

 商標「六本木通り特許事務所」が識別力無しとした審決が維持されました。

 本願商標は,「六本木通り特許事務所」の文字を標準文字で表してなり,指定役務を第45類「スタートアップに対する特許に関する手続の代理」と\nするものである。 本願商標の構成中の「六本木通り」の文字は,昭和59年(1984年)に,起点を東京都千代田区霞が関2丁目,終点を渋谷区渋谷2丁目とする道\n路に東京都が設定した通称名を意味する語である(乙1)。また,本願商標 の構成中の「特許事務所」の文字は,弁理士等が業務を行う事務所を意味する語であり(弁理士法76条1項参照),弁理士は,特許,実用新案,意匠,\n商標等に関する特許庁における手続等の代理又はこれらの手続に係る事項に 関する鑑定その他の事務を行うこと等をする者であり(弁理士法4条参照), 事務を行う者が所在する事務所があたかも事務を行う主体と呼ばれることは 慣用の表現であるから,「特許事務所」は,特許に関する手続の代理等を行う者の一般的名称と認識されるものである。\nそうすると,本願商標は,道路の通称名である「六本木通り」の文字と, 特許に関する手続の代理等を行う者の一般的名称である「特許事務所」の文 字とを結合したものと認識,理解されるものである。
(2) 本願商標の指定役務である「スタートアップに対する特許に関する手続の 代理」は,「特許に関する手続の代理」の範囲を「スタートアップ」に係る ものに限定したものであり,語義からして「特許に関する手続の代理」に含 まれることは明らかであるから,本願商標の構成中の「特許事務所」の文字は,本願商標の指定役務を提供する者の一般的名称を意味すると理解される。\nまた,本願商標の構成中の「六本木通り」は,本件審決時である令和2年(2020年)9月時点で35年以上の長きに渡り広く一般に慣れ親しまれてい\nる道路の通称名であるから,本願商標の指定役務の提供の場所を意味すると 理解される。
そうすると,本願商標に係る「六本木通り特許事務所」との文字は,本願 商標の指定役務との関係で,役務の提供場所と理解される「六本木通り」と の文字と,役務を提供する者の一般的な名称と理解される「特許事務所」の 文字とを結合させたものであるから,本願商標の指定役務の需要者は,これ を「通称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手 続の代理等を行う者」を意味するものと認識するというべきである。 以上からすると,「六本木通り特許事務所」との文字は,六本木通りに近 接する場所において本願商標の指定役務を提供している者を一般的に説明し ているにすぎず,本願商標の指定役務の需要者において,他人の同種役務と 識別するための標識であるとは認識し得ないものというべきであって,その 構成自体からして,本願商標の指定役務に使用されるときには,自他役務の出所識別機能\を有しないものと認められる。 したがって,本願商標は,商標法3条1項6号に該当するものというべき であり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標の指定役務の分野において「〇〇通り□□事務所」の 文字が広く採択,使用されているとの本件審決の認定は誤りである,ある いは本願商標の指定役務を取り扱う法律事務所や「〇〇通り法律事務所」 という名称の法律事務所が多数あるとしても,「〇〇通り法律事務所」と の名称に自他役務の出所識別機能がないと根拠付けることはできない旨主張する。\n
確かに,これらの主張については,当裁判所としても首肯し得る面もあ る。しかしながら,そもそも本願商標の指定役務の分野において「〇〇通 り□□事務所」の文字が広く採択,使用されているとの事実の有無や,本 願商標の指定役務を取り扱う法律事務所や「〇〇通り法律事務所」という 名称の法律事務所が多数あるとの事実の有無等が,本願商標の自他役務の 出所識別機能の有無の判断に当たって必要な前提事実となるものではないから,これらの点に関する本件審決の認定に誤りがあるとしても,その\n認定の誤りが結論を左右するものではなく,本願商標に自他役務の出所識 別機能を認めることができないことについては,前記⑵において認定判断 したとおりである。したがって,原告の上記主張は,結論を左右しない点に関する誤りを主張するにすぎず,採用し得ない。
イ 原告は,「〇〇通り□□事務所」の語は,単に各構成要素の辞書的な意味を足し合わせた意味だけを有するものではないから,本願商標も,その\n全体において造語として需要者に印象付けられる旨主張する。 一般的に,複数の語を組み合わせてなる語がそれを構成する各語の意味を結合したものを超える意味を有し得るとはいえるものの,原告は,「通\n称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手続 の代理等を行う者」と認識される本願商標が,その組合せ自体によりこれ とは異なる新たな意味を生じさせること,あるいは,使用された結果,何 人かの業務に係る役務であることを認識することができるに至っている ことを何ら具体的に主張立証していないから,原告の上記主張は,その前 提を欠くものというべきであって,採用することができない。
ウ 原告は,本願商標は,新規で意外性のある造語である旨主張する。 しかしながら,商標の構成についていえば,「○○通り」と「法律事務所」とを組み合わせた構\成をとる商標は多数の例が認められ(乙7ないし 51),法律事務所は特許事務所と同様に本願商標の指定役務を提供し得 る事務所であるから(弁護士法74条1項,3条2項参照),「法律事務 所」を「特許事務所」と言い換えて「○○通り」と「特許事務所」との組 合せとしたとしても,格別,新規なものとは認識し得ないといえ,その構成に意外性もない。また,前記のとおり,本願商標の構\成中の「六本木 通り」の文字は,35年以上の長きに渡り広く一般に慣れ親しまれている 道路の通称名であり,本願商標の構成中の「特許事務所」は,本願商標の指定役務を提供する者を意味する一般的な名称であるから,この両語の組\n合せから新規な意外性を生じるということもできない。

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平成30(ワ)5041  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月21日  大阪地方裁判所

 損害賠償不存在確認訴訟です。 国際裁判管轄の有無、訴えの準拠法、確認の利益の有無、など争点はたくさんです。民訴法3条の9の特別の事情があると認めるとして,訴えは却下されました。

   被告の主たる事務所は日本国内にあることから,本件各請求に係る訴えのい ずれについても,日本の裁判所が管轄権を有する(民訴法3条の2第3項)。 もっとも,その場合でも,事案の性質,応訴による被告の負担の程度,証拠の所 在地その他の事情を考慮して,日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間 の衡平を害し,又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があ ると認めるときは,裁判所は,その訴えの全部又は一部を却下することができる (同法3条の9)。そこで,本件各請求に係る訴えにおいて,それぞれ,上記「特 別の事情」があると認められるかについて,以下検討する。
(ア) 前記イ(ア)のとおり,請求1−1は,別件米国訴訟と同一の訴訟物に関するも のである。 また,本件において,本件各装置が本件米国特許に係る発明の実施品であること, 本件各装置が参加人から SKC 等に販売されたこと及び原告が本件各装置を使用し て本件各製品を製造したことについては,当事者間に争いはない。本件での主要な 争点は,本件許諾契約により参加人が許諾された本件実施権の範囲,すなわち,参 加人の販売先に関する制限の存否といった本件許諾契約の解釈である。他方,別件 米国訴訟においても,その経過(前記イ(イ))から,消尽及び黙示のライセンスの抗 弁は主要な争点として位置付けられ,本件許諾契約の解釈につき,日本法の専門家 の各意見書及び関係者の供述書並びにそれを踏まえた主張の提出,陪審公判での証 人尋問といった形で,原告等と被告とが主張立証を重ね,陪審及び加州裁判所の判 断の対象となっている。その意味で,本件と別件米国訴訟とは,争点を共通にする ものといえる。 しかも,別件米国訴訟の提起は平成22年7月であり,本件の訴え提起までの約 8年間,こうした主張立証が行われ,その結果として,別件評決及び加州裁判所の 別件米国判決に至ったものである。なお,この間,原告が日本において請求1−1 に係る訴えのような訴訟を提起することを妨げる具体的事情があったことはうかが われない。
これらの事情を総合的に考慮すると,別件米国訴訟につき加州裁判所の別件米国 判決がされるまでは,原告は,日本において請求1−1に係る訴えのような訴訟を 提起する考えはなく,別件米国判決を受けたことを契機に,その結論を覆すべく請 求1−1に係る訴えを提起したものと理解される(別件米国判決の基礎となった証 拠方法の重大な瑕疵等を度々指摘する原告の主張からも,原告のこのような意図が うかがわれる。)。他方,請求1−1に係る本件の訴えに応訴すべきものとした場 合,被告は,時期を異にして別件米国訴訟と共通する主張立証活動を重ねて強いら れることとなるのみならず,別件米国判決の結論を本件において覆そうとする以上, 原告は別件米国訴訟では行わなかった主張立証を追加的に行う蓋然性が高いと見ら れるところ,これに対する対応を強いられることで,被告にとっては,更なる応訴 の負担を新たに生じる蓋然性も高いといえる。 そうすると,本件許諾契約はいずれも日本法人である被告と参加人との間で締結 されたものであり,関連する証拠も,多くは日本語で作成されていること又は日本 語を解する者である蓋然性が高く,その所在も多くは日本国内にあると見られるこ とを考慮しても,請求1−1に係る訴えについては,日本の裁判所が審理及び裁判 をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情(民訴法3条の9)があると認め られる。
(イ) これに対し,原告は,日本の裁判所で審理をすることが必要かつ適切である こと,別件米国訴訟の重複・蒸し返しに当たらないこと,別件米国判決は日本にお いて承認されないことなどを指摘して,特別の事情があるとはいえない旨主張する。 しかし,請求1−1に係る訴えに関する限り,日本の裁判所で審理をすることが 必要かつ適切であるとは必ずしもいえないこと,別件米国訴訟の蒸し返しに当たる と見られることは,上記のとおりである。別件関連訴訟が係属しているといっても, 請求1−1に係る訴えとは当事者及び訴訟物を異にする別の事件である以上,その 主張立証の負担をもって本件における主張立証の負担を無視ないし軽視し得ること にはならない。
また,別件米国判決が日本において承認されないとする根拠として,原告は,別 件米国判決が重大な瑕疵のある証拠に依拠するものであることを指摘する。しかし, そのような誤りは本来的には米国の訴訟手続を通じて是正されるべきものであると ころ,かえって,別件米国判決は,CAFC においても承認され,確定している。こ のことと,再審事由(民訴法338条)に該当するような具体的な事情もないこと に鑑みると,日本法に照らしても,原告の上記指摘は別件評決及び別件米国判決の 依拠する証拠評価に対する不満をいうにすぎず,これをもって外国の確定判決の効 力が認められる要件である「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は 善良の風俗に反しないこと」(民訴法118条3号)を欠くとはいえない。 さらに,原告は,別件米国判決が承認された場合に,別件関連訴訟につき参加人 の被告に対する損害賠償請求等の判決が確定すると両者に矛盾が生じることなどを 指摘して,その点からも別件米国判決は承認されるべきものではないとする。しか し,別件関連訴訟が原告の主張するとおりに帰結するか否かは,請求1−1に係る 訴えの提起の時点では不明というほかない。この点を措くとしても,別件関連訴訟 は,本件とも別件米国訴訟とも当事者及び訴訟物を異にするものであるから,その 判決の効力は原告と被告との関係に及ぶものではない。 その他原告が縷々指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用で きない。
(ウ) 以上のとおり,請求1−1に係る訴えについては,日本の裁判所が審理及び 裁判をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情があると認められるから,こ れに係る訴えを却下することとする。

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令和2(行ケ)10118  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月11日  知的財産高等裁判所

 三つのハート形を一筆書き風に表した図形の下に欧文字「SMS」と記載した商標について、別の図形の下部に欧文字「SMS」と記載した商標と類似するとして、無効とされた審決が維持されました。本件と引用商標は判決文の末尾にあります。\n

 前記2〜4のとおり,本件商標及び引用商標の類否判断においては,それぞれ, 「SMS」の文字部分を抽出し,これらを対比することになり,称呼は同一となる。 また,本件商標の「SMS」と引用商標の各「SMS」からは,特定の観念を生 じない。そして,各「SMS」の文字の外観については,本件商標と引用商標とでは,書体が異なるが,特段書体に特徴があるとはいえないから,この差異によって,両文 字の外観に異なる印象が生じるとはいえない。また,本件商標の色彩は黒色である のに対し,引用商標3の色彩は青色を基調にして白色が混入している点で差異があ るが,このような差異は些細な差異であるから,この差異によって,両文字の外観 に異なる印象が生じるとはいえない。したがって,本件商標の「SMS」と引用商 標の各「SMS」とでは,外観も類似しているといえる。
・・・・
原告は,本件商標全体と引用商標全体を対比して,それらの類否判断をす べきであると主張するが,前記2〜4のとおり,本件商標及び引用商標は,いずれ も,外観上,「SMS」の文字部分と他の部分は明確に区別され,これらを分離して 観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合していると認めら れないから,本件商標及び引用商標から「SMS」の文字部分を抽出して,類否判 断をすることは相当であり,原告の上記主張は理由がない。
(2) 原告は,「SMS」とは,携帯電話でのメッセージ送受信サービスである 「Short Message Service(ショートメッセージサービス)」の 略語であり,本件審決がされた令和2年の時点で,「ショートメッセージサービス」 の略語としての「SMS」は,通信分野に限らず,一般に周知されていると主張し, その証拠として,甲25,26を提出する。 甲25によると,「SMS」が「ショートメッセージサービス」の略語であること を説明したウェブサイトが存在することが認められるが,前記2(2)のとおり,「S MS」の語が一般的な辞書に掲載されている例があるとは認められないことからす ると,上記ウェブサイトの存在から,「SMS」が「ショートメッセージサービス」 の略語を意味することが一般的に認識されていたということはできないというべき である。 また,甲26のアンケートは,「SMSという言葉を聞いたことがありますか?」, 「SMSとは何か知っていますか?」,「いつごろからSMSについて知っています か?」の三つの質問について,それぞれ「ある,ない」,「知っている,知らない」, 「 年ごろから」との回答を求めるというアンケートであることが認められるとこ ろ,上記の質問内容からすると,同アンケートにおいて,SMSを知っているとの 回答があったとしても,その回答者が,「SMS」がどのような意味を有するものと 認識していたかは明らかではないから,同アンケートから,「SMS」が「ショート メッセージサービス」の略語を意味することが一般的に認識されていたと認めるこ とはできない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,商標の登録例を考慮すると,本件図形部分は,十分な出所識別力\nを有し,また,本件商標も十分な出所識別力を有すると主張する。\nしかし,本件図形部分や本件商標が十分な出所識別力を有することから直ちに,\n他の商標との類否判断において,本件文字部分を抽出することができないことには ならないから,原告の上記主張は理由がない。
(4) 原告は,「SMS」の文字を含む商標が商標登録された事例を挙げて,「S MS」の文字を含む商標の他の商標との類否判断においては,「SMS」の文字 と他の文字又は図形は一体不可分に判断されるべきであるなどと主張する。 しかし,前記1のとおり,商標の類否判断は,外観,観念,称呼等によって取引 者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合し,かつ,具体的な取引状況に基づ いて行うものであり,事案ごとの具体的な事実に基づく判断となるものであって, 「SMS」の文字を含む他の商標についての特許庁における類否判断の結果によっ て,本件訴訟における本件商標と引用商標の類否判断が左右されることはない。

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平成31(ワ)2597等  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年1月26日  東京地方裁判所

 おみくじについての著作権侵害について、114条1項に基づく損害賠償が認定されました。販売不可事情による減額もなしです。

 原告は,本件文書1を一部改変したおみくじを寺院に対して販売しており (甲10,乙7の1,2,弁論の全趣旨),その販売価格は1枚当たり120 円である(甲11の1,2)。そのおみくじについて,印刷,用紙及び折り畳 みを印刷業者に依頼した場合に要する費用が1枚当たり約41円以下であ って(甲12),その他の販売に要する経費を考慮してもその販売により追 加的に必要となった経費は1枚当たり50円を上回ることはないと認めら れるから,原告における本件文書1を一部改変したおみくじの1枚当たりの 利益額は70円を下回ることはないと認められる。
・・・
以上によれば,著作権法114条1項に基づく原告の損害額は,以下の計 算式のとおり,572万8590円となる。
(計算式)
70円(単位数量当たりの原告利益)×(81117枚+720枚+0枚)(被告の譲渡数量)=572万8590円
原告は,著作権侵害について,予備的に著作権法114条2項に基づく額\nを主張するが,原告の主張するおみくじ1枚当たりの被告の利益額が同条1 項に基づく主張における原告の利益額よりも小さいことなどから,予備的な\n主張が著作権法114条1項に基づく損害額よりも大きくなるとは認めら れない。
カ 著作者人格権侵害による損害額
本件文書1において,その内容が真逆になるような内容の改変がされるこ とは,おみくじについての表現の本質的部分についての改変であるといえる\nことに加え,その他,本件にあらわれた の著作者人格権侵害について原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は5 0万円をもって相当であると認める。

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平成30(ワ)5948  損害賠償請求事件  著作権 令和3年1月21日  大阪地方裁判所

 舟券購入のプログラムについて著作物性、翻案かが争われました。裁判所はこれを認め、約1.4億円の損害額を認めました。ただ請求が一部請求したため1400万の損害賠償額です。

 プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,そ\nの指令の表現の組合せ,その表\現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があ り,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表\現上の創 作性が表れていることを要するといわなければならない(知財高裁平成21年\n(ネ)第10024号同24年1月25日判決・判例時報2163号88頁)。
イ そこで検討するに,前記1(5)で認定したところによれば,原告プログラム は,市販のプログラム開発支援ソフトウェアである Microsoft Visual Studio を使用 して Microsoft Visual Basic 言語で記述されているから,ソースコードを個別の行\nについてみれば,標準的な構文やありふれた指令の表\現が多用されており,独創的 な関数等は用いられていない。 しかしながら,前記(5)イについては,一定の画面表示を得るために複数の記述\n方法が考えられるところ,一定の意図のもとに特定の指令を組み合わせ,独自のメ ソッドを作成して独自の構\成で記述しており,同ウ及びエについては,一定の処理 方式を選択すること自体はアイデアにすぎないが,やはり,一定の結果を得るため にどのように指令を組み合せ,どの範囲で構造体を設定し,配列・構\造化するかに は様々な選択肢が考えられるところ,その具体的な記述は,一定の意図のもとに特 定の指令を組み合わせ,多数の構造体を設定し,配列・構\造化した独自のものにな っている。
また,同オについては,HTML データから一定の情報を抽出する指令の記述は 選択の幅があるところ,メンテナンス性を考慮して独自の記述をしていることが認 められ,同カについても,人間が情報を入力してログインや舟券購入の操作をする ことを想定して作成されている投票サイトのサーバーに,人間の操作を介さずに必 要なデータを送信してログインや舟券の購入を完了するための指令の表現方法は複\n数考えられるところ,複数の方式を適宜使い分けて記述し,一連の舟券購入動作を 構成していることが認められる。\nそうすると,前記イないしカのソースコードには表\現上の創作性があるといえ, これらを組み合わせて構成されている原告プログラムにも,表\現上の創作性が認め られるというべきである。
ウ 被告ら(被告エーワンを除く。以下同じ。)は,原告プログラムの機能は,\n原告プログラムを利用せずに競艇公式ウェブサイト等により実行できると主張する が,競艇公式ウェブサイト等で人間の動作として情報を得たり舟券の購入をしたり することと,原告プログラムにより情報を得たり自動的に舟券を購入したりするこ とは異なるから,原告プログラムに創作性がないとする理由にはならない。 また,被告らは,原告プログラムが利用しているデータが競艇公式ウェブサイト で公知であると主張するが,プログラムに入力される変数であるレース情報等のデ ータが公知であるか否かはプログラムの著作物性とは関係がなく,失当である。 さらに,被告らは,原告プログラムのうち自動運転機能の部分は,既存のソ\ース コードを単純作業により組み合わせたものであり,「Boat Advisor」等の類似のソ\nフトウェアが多数存在すると主張する。しかしながら,前記のとおり,原告プログ ラムは,独自の指令の組合せ,構造体等の設定,構\成によって記述されており,あ りふれたものとはいえず,証拠(乙2)をみても,「Boat Advisor」はレース予\n想,データ分析を主たる機能とするソ\フトウェアであり,原告プログラムのように 舟券を自動購入するものであるとは認められず,原告プログラムがありふれたソー\nスコードによって構成されているものとはいえない。\n原告プログラムに著作物性がないとの被告らの主張は,採用できない。
(2) 争点2(被告プログラムは,原告プログラムを複製又は翻案したものか) について
ア 前記1(3)で認定したところによれば,被告プログラムは,被告P4がP7 より入手した原告プログラムについて,被告P3において逆コンパイルを行うと共 に難読化を解除し,期待値と称する機能を追加した以外は,逆コンパイルによって\n得られた原告プログラムの機能をそのまま利用したものであるから,少なくともそ\nのまま利用した部分において,被告プログラムは,原告プログラムを複製したもの ということができる。
イ また,前記1(6)で認定したところによれば,被告プログラムは,少なくと も,原告プログラムの BoatRaceCom.DLL 及び Kcommon.DLL を複製して作成され たことが明らかである。 さらに,被告プログラムは,原告プログラムと画面表示やモジュール名がほぼ同\nじであること,マニュアルに記載された機能が原告プログラムとほぼ同一であるこ\nとも,上記アの結論と合致する。
ウ 被告らは,被告プログラムは,被告プログラム独自のアルゴリズムで算出さ れた期待値(人気指数)に基づく予想をユーザーに提供するものであって,その部\n分に創作性があり,原告プログラムとは全く異なるものであると主張する。 被告らが主張する期待値の機能については,本件の証拠によっても判然とはしな\nいが,仮に,より勝率が高くなることが期待される買目を計算して推奨し,舟券を 自動購入する機能を追加した点で,被告プログラムは原告プログラムと異なる旨を\nいう趣旨であるとしても,原告プログラムが元々有する買目設定の機能を強化,発\n展させたものと理解し得るものであると共に,既に認定したとおり,被告プログラ ムは,期待値の機能を追加した以外の部分については,原告プログラムを複製した\nものをそのまま利用しているとされるのであり,全体として,被告プログラムは, 原告プログラムの本質的特徴を直接感得し得るものであるから,少なくとも翻案に あたることは明らかというべきであり,被告プログラムの作成は,原告プログラム についての原告らの著作権を侵害するものである。 なお,被告らは,被告プログラムに「買目切捨」や「保険買目」など,原告プロ グラムにはない機能があると主張するが,被告P3において,期待値の機能\以外は 原告プログラムと異なる機能はないと供述していること,前記のとおり,マニュア\nルや画面が同じであること,原告プログラムにも同一の機能があることから,当該\n主張は上記結論を左右するものではない。
・・・
前記1の(2)ないし(4)によれば,P7は1本20万円を原告らに支払って取 得した原告ソフトウェアを1本50万円から80万円で約30本販売したこと,被\n告P5は,被告エーワンの名義で,被告ソフトウェア約70本を1本60万円から\n100万円で販売し,その中に,平成28年5月2日のP8に対する100万円の 売買が含まれること,以上の事実が認められる。なお,被告ガルヒが被告ソフトウ\nェアを販売するためのセキュリティ認証キーを140個用意したことは前記1の (4)で認定したとおりであるが,これに対応する140本の被告ソフトウェアが販\n売されたと認めるに足りる証拠はない。
イ 以上によれば,被告らは,被告ソフトウェアを少なくとも70本販売し,う\nち少なくとも1本は平成28年5月2日に100万円で販売し,その余は少なくと も1本60万円で販売したと認めるのが相当であり,ここから控除すべき経費等の 主張はないから,被告ソフトウェアの販売により被告らが受けた利益は,少なくと\nも4240万円であると認められる。 そうすると,著作権法114条2項により,原告らの受けた損害額は4240万 円,著作権を共有する原告各人について2120万円ずつと推定される。 また,損害のうち100万円(各50万円)は,平成28年5月2日に被告ソフ\nトウェアが販売されたことによるものであり,被告エーワンを含む被告らは,同日 から遅滞の責を負う。その余については販売時期が不明であり,前記のとおり,被 告ソフトウェアが3から4か月間販売されていたことからすれば,遅くとも同年9\n月2日までには,その余の損害すべてに係る侵害行為が行われたと認められるか ら,原告らのその余の損害について,被告らは,同日から遅滞の責を負うものと認 められる。

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平成30(ワ)37847  共同著作権に基づく利得分配請求等事件 令和3年1月21日  東京地方裁判所

 共同著作者であるかが争われました。創作と評価されるに足りる程度の精神的活動をしたものとまで認められないと判断されました。

 2人以上の者が共同して創作した著作物であって,その各人の寄与を分離 して個別的に利用することができないものを共同著作物というところ(著作 権法2条1項12号),共同著作者に当たるというためには,当該著作物の制 作に際し,創作と評価されるに足りる程度の精神的活動をしている必要があ るというべきである。 そこで,原告において本件各作品の制作に際し,かかる創作的関与が認め られるか否かにつき見るに,上記1(1)イ及びウで認定したとおり,原告は, 本件各作品の制作を企図した被告Aから,制作への協力を依頼され,台詞を 読み上げる声優の候補者を数人紹介し,被告Aが制作したシナリオや指示に 沿う形で,効果音の収録や編集の作業を担当したにとどまっているものであ り,これらの原告の関与の性質・内容に照らせば,ボイスドラマであるとい う本件各作品の性質に照らしてもなお,原告が,本件各作品の制作に際し, 創作行為を行ったものとみることは困難というほかない。そうすると,本件 各作品の制作に際するこれらの関与について,原告が,創作と評価されるに 足りる程度の精神的活動をしたものとまで認めるに足りないというべきであ り,原告が本件各作品の共同著作者に当たるものとは認められない。
(2) これに対し,原告は,本件各作品の制作に際し,1)声優を選択した点,2) セリフや表現方法につきアドバイスをした点,3)効果音を選択・収録した点, 4)全体の長さを一定時間内におさめるよう編集した点において,創作的に関 与した旨を主張する。 しかしながら,1)の点については,上記のとおり声優の候補者を紹介した にとどまるものであり,2)の点については,その具体的内容は判然としない が,いずれにしてもアドバイスをしたにとどまるものであり,3)及び4)の点 については,具体的な作業を担当したとしても,上記のとおり,被告Aが制 作したシナリオや指示に沿う形で作業を行い,被告Aのチェックを受けてい たものである。これらからすれば,たとえ原告において上記1)ないし4)の点 において尽力した旨の認識であったとしても,そのいずれも,原告の創作的 な精神活動がなされたことを具体的に基礎付けるものとまでは言い難い。そ うすると,原告の上記主張は,原告の創作的関与を否定した上記認定を左右 するものではなく,同主張は採用することができない。

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令和2(行ケ)10110 決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月18日  知的財産高等裁判所

 加圧トレーニングに関する発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

 これに対して,原告は,前記第3の1(1)のとおり,甲1に引用された実 施例と本件発明3の実施例は,全く同一であり,自然締付け力を付与され ていない状態とする効果を生じさせるための新たな構成要素が付加されて\nいるわけでもないし,仮に,本件優先日当時,自然締付け力を皆無にする 施術が広く実施されていなかったとしても,加圧力の範囲は,身体に対す る負担や得られる効果を勘案しつつ適宜決定し得る程度の事項である旨主 張する。 原告の主張は,本件明細書と甲1の明細書を対比すれば,本件明細書の 図1ないし図7が甲1の明細書の図1ないし図7と同一であること,すな わち,本件発明3と甲1−3発明でそれぞれ用いられる緊締具,加除圧制 御装置及び加除圧制御システムが同一であることを指摘するものと解さ れるが,そうであるとしても,甲1−3発明には,加圧工程と除圧工程を 交互に繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに 緊締具が所定の部位に与える締付け力について,特定部分を締付ける加圧 力を付与しない状態,すなわち,自然締付け力による加圧力も付与しない 状態に制御することについての記載も示唆もないことは前記(1)のとおり である。
また,甲1−3発明は,四肢の所定の部位の締付け力の上げ下げを行い ながら,その所定の部位よりも下流側に流れる血流を阻害し,それによっ て筋肉に疲労を生じさせ,筋肉の効率的な増強を図ることを目的とするも のである(【0003】,【0004】,【0009】,【0010】)から,甲 1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に繰り返す圧力調整手段 を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締具が所定の部位に与え る締付け力について,自然締付け力による加圧力も付与しない状態にして 血流を阻害しないようにする構成とする動機付けがあるとはいえない。\nなお,原告は,甲2発明は,筋肉トレーニングの方法を応用することに よって動脈硬化,つまり,血管のメタボリック症候群状態を改善すること を目的としており,血管を強化する方法の1つを示している旨主張してい るところ,上記主張の趣旨は明らかではないが,要するに,甲2発明にお いて筋肉トレーニング方法を応用することで血管強化も実現できること が示されている以上,本件発明3と同じ緊締具,加除圧制御装置及び加除 圧制御システムが用いられている甲1−3発明において,血管強化も実現 するために,除圧工程により加圧動作によって付与された加圧力が完全に 除去された状態において特定部分を締め付ける加圧力が付与されていな い構成にすることは,設計的事項であると主張するものと解される。\nしかし,甲2の発明の詳細な説明には,「メタボリック症候群は,・・・動 脈硬化,心筋梗塞,或いは脳卒中を起こしやすい状態である」(【0005】) との記載があるのみで,メタボリック症候群が動脈硬化の状態にあると記 載されているわけではなく,また,「加圧トレーニング方法は,四肢の少な くとも1つで流れる血流を阻害することによりその効果を生じさせるも のである・・・加圧トレーニング方法を,メタボリック症候群の治療に用い ようとした場合には,・・一般的には中高年であるメタボリック症候群の患 者は血管の強度,柔軟性が低下していることが多いため,四肢の付根付近 の締付けを行うことにより四肢に与える圧力の制御に最大限の注意が必 要である」(【0007】),「加圧トレーニングは,・・・四肢の付根付近の所 定の部位を締付けて加圧することにより,四肢に血流の阻害を生じさせ, それにより運動したのと同様の効果を生じさせるものである。・・・しかし ながら,メタボリック症候群の患者のような,血管の強度,柔軟性が低下 している者の四肢を締付ける場合には,動脈まで閉じさせるような大きな 圧力を与えることは適切ではない。他方,静脈をある程度閉じさせるよう な圧力で締付けを行わなければ,メタボリック症候群の患者の治療を十分\nには行うことができない。そこで,本願発明における治療システムでは, 四肢の付け根付近の締付けを本格的に行う通常処理に先立って前処理を 行い,その前処理で,四肢の付根付近を締付ける際に与える適切な圧力と しての最大脈波圧を特定することとしている。・・・本願発明の治療システ ムは,メタボリック症候群の患者を含む血管の弱い者の治療に適したもの となる。」(【0009】)との記載がある。そうすると,甲2発明は,加圧 トレーニング方法の機序を応用した,血管の弱いメタボリック症候群の患 者に対する治療装置等に関する発明であって,血管強化方法に関するもの ではないというべきであるから,甲2に血管強化方法が開示されていると の原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,その他の点につき判断 するまでもなく,この点に関する原告の主張は理由がない。
イ また,原告は,甲6には,ベルト(あるいはカフ)を外すことにより締 付け力を皆無にする方法が記載されているところ,本件発明3においては, 「自然締付け力」を皆無にするための付加的な構成要素は示されておらず,\n具体的な方法すら示されていないから,ベルトを単に緩める,あるいは外 すという方法もその「自然締付け力」を皆無にする方法として本件発明3 に包含されている旨主張する。 上記主張の趣旨は明らかではないが,甲6に記載されたベルトを外すこ とにより締め付け力を皆無にするという技術事項を,自然締め付け力によ る加圧力を付与しない方法として甲1−3発明に適用すれば,本件発明3 の相違点2の構成に容易に想到するというものと解される。\n しかし,そもそも甲1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に 繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締 具が所定の部位に与える締付け力について,自然締付け力による加圧力も 付与しない状態として血流を阻害しない状態とする構成にする動機付け\nがあるとはいえないことは前記アのとおりである。 また,甲6には,1)「(バラコンバンドの効能)・・・2.血管内を清掃し 血管にも弾力がでる。バンドを強く締めると,そこで血流が止まる。心臓 からは絶え間なく血液は送られてくる。血液は,バンドの所で滞留し,血 量はその部で倍加される。バンドをはずすと,血は倍の速力で血管内を流 れる。その時血管壁を掃除し,動脈硬化を治し,血管そのものも弾力がで る。」(74頁7行目〜75頁5行目),2)「足裏指巻き ●まず親指と第2 指の間を通してかかとにひっかけ,次に第2指と第3指を通して,またか かとへ巻き,指の間を通した余りで足の甲をこの停止部分にバンドを巻く。 一つでも関節を越したほうがよく効くので,手の場合なら肘の下の二つの 腕にバンドを巻くといい。(肘の上から巻き込んでいてもかまわない)きつ めに巻いて我慢できなくなったらはずそう。すると,ダムの水門を開いた ように,血液がどっと流れ込み,これまで充分にいきわたっていなかった ところまで勢いよく入り込む。」(120頁上段8行目〜121頁2行目) との記載があるが,これらは,血流を一時的に止めた後にバンドを外した 場合の効果が記載されているに止まる。したがって,これらの記載に基づ き,緊締具を付けたままの状態で,「ガス袋120へ空気を送って締付け部 位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位 への加圧を行わない下ピークと,を繰り返す加除圧方法」を採用する甲1 −3発明に,下ピークにする度に緊締具(甲6でいえば「バンド」)を外し, 上ピークにする前にこれを付け直すような変更を施すことは想定できず, この点からも,甲1−3発明に甲6に記載された事項を適用する動機付け はない。

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令和1(行ケ)10140 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月16日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

ア 本件発明1の「利用者データベース」について
(ア) 前記第2の2の特許請求の範囲の記載のとおり,構成要件1Bの「利\n用者データベース」は,管理コンピュータ側に備えられるものであり, 「監視端末側に対して付与されたIPアドレスを含む監視端末情報」が, 「利用者ID」に「対応付けられて登録」されているものと規定されて いる。 また,管理コンピュータ側は,「利用者の電話番号,ID番号,アド レスデータ,パスワード,さらには暗号などの認証データの内少なくと も一つからなる利用者IDである特定情報」を入手し(構成要件1Di),\n「この入手した特定情報が,前記利用者データベースに予め登録された\n監視端末情報に対応するか否かの検索を行」い(構成要件1Dii),「前 記特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合,…この抽出された 監視端末情報に基づいて監視端末側の制御部に働きかけていく」(構成\n要件1Diii)と規定されている。 そうすると,特許請求の範囲の記載からは,「利用者データベース」 は,記憶媒体の種類や構成等の限定は付されていないものの,入手する\n特定情報から,あらかじめ登録された監視端末情報を検索することがで き,入手した特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合に当該監 視端末情報に含まれるIPアドレスを抽出し得る程度に,IPアドレス を含む監視端末情報が利用者IDに「対応付けられて登録されている」 ものと理解することが相当である。
(イ) そこで,次に,本件明細書の記載をみると,前記1のとおり,本件発 明の実施例において,「利用者データベース」は,磁気ディスクや光磁 気ディスクからなる記憶装置35に記憶され,利用者の電話番号,ID 番号,アドレスデータ,パスワード,暗号,指紋等を基にした利用者を 識別可能な符号である利用者IDに,該利用者の暗証番号並びに該利用\n者が監視したい場所に設置されている監視端末に付与されているIPア ドレスを対応付けているものであり(【0020】,【0021】,【図 5】),利用者の認証の際に参照されるとともに,利用者がアクセス可 能な監視端末のグローバルIPアドレスを検索抽出するために参照され\nるものとされている(【0026】,【0029】,【0030】,【図 7】)。 本件明細書の記載によっても,「利用者データベース」は,利用者を 識別できる情報(「利用者ID」)に,当該利用者が監視したい場所に 設置されている監視端末に付与されたグローバルIPアドレス(「監視 端末情報」)が検索できる程度に対応付けられることを要するものと理 解される(なお,実施例における記憶媒体の種類は単なる例示であるこ とが明らかであるから,やはり,本件発明1において,「利用者データ ベース」の記憶媒体の種類や構成等に限定が付されたものと理解するこ\nとはできない。)。
(ウ) 以上からすると,本件発明1の「利用者データべース」は,利用者を 識別できる情報に監視端末側に付与されたIPアドレス等の情報が,検 索できる程度に対応付けられて登録されていることを要するものの,そ れで足り,記憶媒体の種類や構成等が具体的に限定されているものでは\nないと解されるが,利用者を識別できる情報とIPアドレスが関連性な く記憶され,両者がシステム動作中に単にあい続いて利用されているだ けの関連性しか有しない場合には,前記(ア)において説示した意味合い において,当該監視端末情報に含まれるIPアドレスを抽出し得る程度 に,IPアドレスを含む監視端末情報が利用者IDに「対応付けられて 登録されている」ものということはできないから,「利用者データベー ス」が構成されているとはいえないと解するのが相当である。\n

◆判決本文

こちらは原告被告の同じ関連事件です。

◆令和1(行ケ)10141

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令和2(行ケ)10073  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月24日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

(1) 一致点及び相違点
上記1及び2によれば,本件各発明と甲1発明との一致点及び相違点は, 本件審決が認定したとおり(前記第2の3(2)イ)であると認められる(なお, 以下において,「医療情報取得情報」とは,患者の医療情報を取得するため に,端末装置から取得され,又は情報処理装置の記憶部にあらかじめ記憶さ れた情報をいう。)。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,甲1発明の「ベッドサイド端末識別子」は患者名を取得するた めの識別情報であり,本件発明1の「第1識別情報」に相当するから,相 違点1−1は存在しない旨主張する。 しかしながら,本件明細書1及び甲1公報の記載内容からすれば,本件 発明1の「第1識別情報」は,患者ごとに付された患者ID等であるのに 対し,甲1電子カルテサーバの「ベッドサイド端末識別子」は,ベッドサ イド端末ごとに付されたIPアドレス等であり,両者が識別する対象は異 なるというべきである。また,甲1電子カルテサーバの「ベッドサイド端 末識別子」は,患者IDと関連付けられて記憶されることによって初めて 患者を識別する情報として用いることが可能となるにすぎないものであ\nり,それのみによって直接に患者が識別されるものではない。 これらの事情を考慮すると,本件発明1の「第1識別情報」と甲1電子 カルテサーバの「ベッドサイド端末識別子」とは,異なる概念であるとい うべきであるから,相違点1−1を認定することができる。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ なお,原告が主張する相違点は,上記相違点1−2と実質的に同じ内容 である(原告が指摘するとおり,相違点1−2の第2段落及び第3段落は, 第1段落に伴って形式的に生じる相違点にすぎない。)。

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こちらは関連発明です。

◆令和2(行ケ)10074

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令和2(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月22日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。争点は相違点が設計事項か否かです。

 前記のとおり,相違点1は,切削ローラの路面に対する高さを調節する ための機構に関するものであるところ,相違点2は,切削ローラの移動方\n向を踏まえた切削ローラ及びこれを支持する切削ローラハウジングとフ レームとの支持構造に関するものであり,また,相違点3は,切削ローラ\nに一体化された切削ローラ駆動ユニットの可動方向を踏まえた同ユニッ トの支持構造に関するものである。\nそうすると,これらは相互に密接に関連するものといえるから,相違点 1ないし3の容易想到性については,併せて判断するのが相当である。
イ そこで検討するに,上記2(1)のとおり,検甲1発明においては,切削ロ ーラ及び切削ローラと一体化した駆動部がハウジング部に支持され,ハウ ジング部は,上下方向変位用の油圧シリンダが取り付けられた2つの棒状 ガイド及び4本の連結棒を介してフレーム部に支持されているところ,切 削ローラの路面に対する高さの調節に関しては,切削ローラを油圧シリン ダ等の駆動機構によって垂直方向に移動させる構\成が採られている。 これに対し,本件発明1においては,上記1(3)のとおり,切削ローラ及 び切削ローラハウジングが上下方向及び進行方向に機械フレームに強固 に支持されているところ,切削ローラの路面に対する高さの調節に関して は,切削ローラを車体の上下動によって垂直方向に移動させる構成が採ら\nれている。
そして,本件優先日時点において,これらの方法以外に,自走式道路切 削機における切削ローラの路面に対する高さを調節する方法があったこ とをうかがわせる証拠は存しないから,当業者としては,上記2つの方法 のいずれかを採るほかなかったものといえる。そうすると,これらの方法 のいずれを採るかは,当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎないという べきである(なお,切削ローラを上下させるために,油圧シリンダ等によ り切削ローラそのものを垂直方向に移動させることは誰しも思いつくと ころであるといえるし,また,上記3(1)ないし(3)によれば,甲6文献な いし甲8文献には,いずれも,自走式道路切削機における切削ローラの路 面に対する高さを調節する方法として,車体の上下動を用いる構成を採る\nことが記載されていることからすれば,本件優先日当時の自走式道路切削 機の技術分野において,同構成は,周知の技術であったといえる。したが\nって,これらの2つの方法のうちいずれかを採用することには技術的創意 を要するから設計事項には当たらないなどといった議論は成り立たな い。)。 これらの事情を考慮すると,検甲1発明において,相違点1に係る本件 発明1の構成を採ることは,容易に想到し得るものであったといえる。\n
ウ また,検甲1発明において,切削ローラの路面に対する高さを調節する 方法として,上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成に代えて,車体\nの上下動を用いる構成を採る場合には,ハウジング部を垂直方向に移動さ\nせるための機構であった同油圧シリンダが不要となるところ,同油圧シリ\nンダが設置されていた棒状ガイドとフレーム部との間に,敢えて新たな別 の部材を設置する必要はない。そうすると,当業者としては,棒状ガイド をフレーム部で直接支持するような構造を採ろうとするのが自然な技術\n的発想であるといえる。
そして,上記のように,検甲1発明において,棒状ガイドをフレーム部 で直接支持するような構造を採る場合には,切削ローラ及びハウジング部\nは,横断方向にのみ移動することができるようにすればよいのであって, 敢えてこれらを垂直方向又は進行方向にも移動することができるように する必要はない。そうすると,当業者としては,切削ローラ,ハウジング 部及び切削ローラと一体化した駆動部を,垂直方向及び進行方向に移動し ないように,垂直方向及び進行方向にフレーム部で強固に支持し,進行方 向に対して横断方向にのみ変位可能に支持する構\造を採ろうとするのが 自然な技術的発想であるといえる。
エ 以上によれば,検甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の構成\nを採った場合には,必然的に,相違点2及び3に係る本件発明1の構成を\n採ることとなるというべきである。 したがって,検甲1発明において,相違点2及び3に係る本件発明1の 構成を採ることは,相違点1と同様に,容易に想到し得るものであったと\nいえる。

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令和2(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月20日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項の追加、および実施可能要件違反であるとした審決が維持されました。

 本件補正によって,当初明細書等の段落【0002】,【0008】及び【0 010】に追加された事項並びに図3〜8には,本願発明の原理に関する事項が記 載されているところ(甲9),これらの事項は,当初明細書等には記載されておらず (甲4,16),また,自明な事項ということもできないから,新規事項を追加する ものといえる。 したがって,本件補正は,当初明細書等に記載された範囲内においてするものと はいえず,特許法17条の2第3項に違反するものである。
(2) 原告は,本件補正は,先行技術文献に記載された内容を「発明の詳細な説 明」の【背景技術】の欄に追加する補正であると主張する。 しかし,本件補正は,「高周波超伝導電磁エンジンは,磁石となるループと超伝導 磁石を重ね合わせたものである。二つの磁石は離れないように固定する。その二つ の磁石の中の一つは,常伝導の磁石である。但し,この常伝導の磁石は一回巻きで 芯が無く,高周波数かつ低電圧の脈流を流す。脈流の周波数は,その波長がループ の一周の長さと一致する程度の高周波数とする。もう一つの磁石は,超伝導磁石で あり,超伝導状態となるので永久電流が流れる。磁石と磁石を重ねたので,磁石と 磁石の間には,図3で上下方向の矢印で表した反発力もしくは吸引力(どちらも磁\n力)が生じる。しかし,この特殊な構造ゆえに生じる打消しの力により,図4のよ\nうに,超伝導磁石に働く反発力もしくは吸引力は打ち消される。従って,常伝導磁 石に働く反発力もしくは吸引力のみが残り,これを推進力として利用する」,「図8 のように,脈流の周波数は,その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周 波数としているので,高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には,各瞬間におい て,脈流により生じるローレンツ力がゼロの部分がある。これにより,電磁力の偏 りが生じる。よって,この電磁力の偏りのために,運動量秩序に従った動きを電子 対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことが できないので,重心運動の運動量に変化せずに,各超電子の散乱を通じて,最終的 には熱エネルギーとして外部に放出される。超伝導磁石の超電流を構成する電子対\nの重心運動が生じないので,超伝導磁石に働く電磁力(ローレンツ力)は磁力となら ず,超伝導磁石の磁力は打ち消された形となる。その結果,常伝導のループに働く 電磁力,即,磁力だけが残り,これを直線的運動エネルギーとして利用できる。」と の記載及び図4,8(以下「本件追加部分」という。)を加えるものであるところ, 本件追加部分は,特許文献1の記載の一部及び甲2文献の記載の一部から成るもの である。当初明細書等には,特許文献1及び甲2文献が先行技術文献として記載さ れているものの,それのどの部分を引用するかは記載されておらず,上記各文献を 見ても,それから直ちに本件追加部分を把握できないことからすると,本件補正は, 新規事項を追加するものということができる。
(3) 原告は,本願発明の原理は,甲2文献に記載されているところ,甲2文献は 出版されてから年数が経過しているため,上記原理は技術常識となっていると主張 する。 しかし,本願発明の原理が甲2文献に記載されており,甲2文献が出版されてか ら相当の年数が経過していたとしても,それだけで,本願発明の原理が技術常識と なっていたと認めることはできない。
(4) したがって,本件補正が,特許法17条の2第3項に違反するとした本件 審決の判断に誤りはない。
3 実施可能要件違反について\n
(1) 本願発明は,磁気シールドで半分程度を覆った「超伝導磁石」に対して固 定された位置にあるループに直流電流を流して,同ループに電磁力を発生させ,「超 伝導磁石」の永久電流に働く電磁力を無効とすることにより,ループに発生する電 磁力を推進力,制動力,浮力として利用するというものであるところ,当初明細書 等には,「超伝導磁石」の永久電流に働く電磁力を無効とすることにより,ループに 発生する電磁力を推進力,制動力,浮力として利用する原理についての説明が記載 されておらず,また,このような原理が技術常識であるということもできない。 なお,本件補正によって追加された事項では,上記の原理について説明されてい るが,磁石となるループと超伝導磁石を固定した場合,仮に,超伝導磁石に働く磁 力が常伝導ループに働く磁力より小さいとしても,互いに固定された超伝導磁石と ループ間の力は,作用・反作用の法則によって釣り合うことになり,結局,本願発 明の装置を動かす力は発生しないと考えるのが自然であるから,本件補正後の明細 書及び図面を前提としても,本願発明の原理について,当業者が理解し実施できる 程度に裏付けがされているとはいえない。この点について,原告は,作用・反作用 の法則が保障するのは,超伝導磁石に働く電磁力と常伝導ループに働く電磁力が釣 り合うことまでであり,発生した電磁力がそのまま磁力となって,釣り合うことま では保障しないと主張するが,上記のとおり,作用・反作用の法則により,超伝導 磁石に働く力と常伝導ループに働く力は釣り合うと解されるから,原告の上記主張 は理由がない。 また,原告は,本願発明の原理を利用して製造されたストレンジクラフトが存在 すると主張して,その証拠として写真集「ストレンジクラフトの写真」(甲3)を提 出するところ,甲3には,飛行する物体を撮影した写真が掲載されているものの, 同物体が,本願発明の原理を利用したものであると認めるに足りる証拠はないから, 原告の上記主張は理由がない。

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令和2(行ケ)10032  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所

 引用文献1との一致点の認定が誤っているとして、進歩性無しとした審決が取り消されました。

 これに対し,被告は,前記第3の1(2)ア(ア)のとおり,甲1発明におい ては,撮像装置を光軸まわりに回転させる方向が「ロール方向」の傾きで あることは技術常識であるから,表示部の回転した角度である「天地方向\nの向き」,すなわち「天地方向の情報を示す矢印の角度」が「ロール方向の 傾き」であると主張する。 しかし,「画像撮像装置1000が,右に30度傾いた状態である場合の, 報知画像600Aを示す図」である図13の「矢印512」は,「天地方向 の情報を示す」(【0112】)ものであるところ,「天地方向算出手段22 2は,傾斜測定部250が算出した重力加速度の方向と大きさに基づいて」 天地方向を判定し(【0079】,【0087】,【0088】,【0107】), 「傾斜測定部250」は,直交する2軸の重力加速度センサーが,【007 2】の式(3)で求められる,「方向D303と水平面P302とが成す角度」 (【0069】)であるθの値を算出し,平面P302の傾斜度を測定する (【0073】,【0074】)ものである。そして,前記(1)ア(イ)のとおり, こうした直交する2軸の重力加速度センサーと水平面との角度がなす傾 斜度により判定される角度は,光軸が水平面と平行である場合を除き,撮 像装置を光軸まわりに回転させる方向の傾きの角度とは異なるから,「矢 印512」で示される「天地方向の情報を示す矢印の角度」が「ロール方 向の傾き」であるということはできない。
イ また,被告は,前記第3の1(2)ア(イ)のとおり,甲1発明は,第1傾斜 度及び第2傾斜度の両方に基づいて画像撮像装置の前後方向の傾き,すな わち,ピッチ方向の傾きを検出するものといえる旨主張する。
確かに,甲1には,1)天地方向算出手段222は,第1傾斜度及び第2 傾斜度のいずれかが所定値A(例えば,30〜60の範囲の値)以上であ るか否かを判定(ステップS120)し(【0105】),所定値A以上であ れば,天地方向算出手段222が,傾斜測定部250が測定した第1傾斜 度及び第2傾斜度に基づいて画像撮像装置1000の天地方向の算出を 行い(【0107】),制御部が画像撮像装置1000の天地方向の算出結果 に基づく情報を表示した報知画像を生成し,表\示部150に表示する(【0\n108】),2)ステップS120において,所定値A未満であれば,天地方 向算出手段222が傾斜測定部250が測定した第1傾斜度及び第2傾 斜度に基づいて,画像撮像装置1000の天地方向の算出を行う(【011 8】)ところ,図14のように画像撮像装置1000が水平面に対して平行 である場合,天地方向算出手段222は,傾斜測定部250が測定した第 1傾斜度及び第2傾斜度に基づいて画像撮像装置の天地方向の判定はで きない(【0119】)が,画像撮像装置が図14の状態になる前に必ず第 1傾斜度及び第2傾斜度のいずれかが所定値A以上(ステップS120に おいてYESの場合)の状態にあり,天地方向が判定できる状態にあって (【0121】),傾斜度及び天地方向が記憶(ステップS126)する処理 が行われており(【0122】),こうした場合,天地方向算出手段222は, 記憶されている傾斜度データ及び天地方向のデータの少なくとも一方に 基づいて画像撮像装置1000の天地方向の判定を行い(【0123】),こ の算出結果に基づく情報を報知した報知画像を表示部150に表\示させ る(【0124】),3)【図16】は,画像撮像装置1000が水平面P30 2に対し平行である場合の報知画像を示す図である(【0126】)ことが それぞれ開示されている。
しかし,天地方向算出手段222は,傾斜測定部250が算出した重力 加速度の方向を大きさに基づいて天地方向を判定し(【0079】,【008 7】,【0088】,【0107】),画像撮像装置に内蔵された2軸の重力加 速度センサーである傾斜測定部250は,【0072】の式(3)により求め られる重力加速度センサーと水平面とが成す角度θ(D301,303と 同じ軸上にある重力加速度センサーと水平面P302とが成す角度)の値 を算出することによって傾斜度を測定するものであるから,甲1で測定さ れる第1傾斜度及び第2傾斜度は,撮像装置の水平軸が水平面と平行であ る場合を除き,撮像装置を水平軸周りの傾き度合いであるピッチ方向の傾 きを算出するものではないことは前記(1)イ(イ)のとおりである。また,【図16】について,画像撮像装置の水平軸が水平面と平行であることを前提として,画像撮像装置を水平軸周りに前後に回転(変位)させて画像撮像装置が水平面P302に平行になった状態であると仮定したとしても,上記の開示事項からは,「画像撮像装置が水平面に対し平行である場合」かどうかの判定に際し,第1傾斜度及び第2傾斜度が用いられる ことは読み取ることができるものの,ピッチ方向の傾きを検出し,判定に 用いることを開示しているとはいえない。

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平成30(ワ)3461  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟

 分包紙ロールのロールを販売する行為は間接侵害に該当すると判断されました。実施料率は立証がなく被告が自白した3%が認定されました。

 ア これまで検討したところによれば,原告製の使用済み紙管を保有する者は, 被告製品と合わせることで一体化製品を生産できること,一体化製品は本件特許の 技術的範囲に属すること,被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いられる物であ ることが認められるから,業として被告製品を製造,販売することは,特許法10 1条1号の間接侵害に当たるというべきである。 この点について被告らは,原告製品の購入者は,紙管に分包紙を合わせて買い受 けたものであるところ,本件発明の本質は紙管部分にあるから,分包紙を費消した としても原告製品の効用は終了せず,分包紙の交換は,製品としての同一性を保っ たまま,通常の用法における消耗部材を交換することにすぎないから,原告は,原 告製品の購入者に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることができない旨を主 張する(消尽の法理)。 これに対し原告は,使用済み紙管については原告が所有権を留保しており,一体 化製品の生産は特許製品の新たな製造に当たるとして,消尽を否定し,間接侵害の 成立を主張する。
イ そこで検討するに,本件発明の実施品である原告製品を原告より取得した利 用者がこれに何らかの加工を加えて利用した場合に,当初製品の同一性の範囲内で の利用にとどまり,改めて本件特許権行使の対象にはならないとすべきか,特許製 品の新たな製造にあたり,本件特許権行使の対象となるとすべきかは,当該特許製 品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総 合考慮して判断すべきものである(最高裁判所平成19年11月8日第一小法廷判 決・民集61巻8号2989頁参照)。 本件発明は,分包紙ロールの発明であって,紙管と,紙管に巻き回される分包紙 から成るものであり,紙管についてはこれに設ける磁石の取付方法に限定があるの に対し,分包紙については,紙管に巻き回す以上の限定がないことは,既に述べた ところから明らかである。
しかしながら,証拠(甲5の1,2,甲23,乙11,12)及び弁論の全趣旨 によれば,分包紙ロールの価格は分包紙の種類によって決められていること,原告 製の使用済み紙管については,相当数が回収されていることが認められるのである から,本件特許の特徴は紙管の構造にあるとしても,原告製品を購入する利用者が\n原告に支払う対価は,基本的に分包紙に対するものであると解されるし,調剤薬局 や医院等で薬剤を分包するために使用されるという性質上,当初の分包紙を費消し た場合に,利用者自らが分包紙を巻き回すなどして使用済み紙管を繰り返し利用す るといったことは通常予定されておらず,被告製品を利用するといった特別な場合\nを除けば,原告より新たな分包紙ロールを購入するというのが,一般的な取引のあ り方であると解される。 また,一体化製品を利用するためには,利用者は,使用済み紙管の外周に輪ゴム を巻いた上で,これを被告製品の芯材内に挿入しなければならないが,これは,使 用済み紙管を一体化製品として使用し得るよう,一部改造することにほかならない。 そうすると,分包紙ロールは,分包紙を費消した時点で,製品としての効用をい ったん喪失すると解するのが相当であり,使用済み紙管を被告製品と合わせ一体化 製品を作出する行為は,当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たる というべきであり,消尽の法理を適用すべき場合には当たらない。
ウ なお, 原告は,利用者との合意により,使用済み紙管の所有権は原告に留保 されていると主張するところ,証拠(甲3,17ないし21,23,25)によっ ても,使用済み紙管を原告に返還すべきこととされている取引の実情が認めるにと どまり,利用者との間で所有権留保についての明確な合意が存在するとまでは認め られないが,前記イで検討したところによれば,使用済み紙管の所有権の所在は, 上記結論を左右するものではない。
エ 以上検討したところによれば,使用済み紙管と被告製品を合わせて一体化製 品を作出すれば,新たな特許製品の製造に当たり,一体化製品の生産にのみ用いる 被告製品を業として製造,販売することは,特許法101条1号の間接侵害に当た るというべきである。
・・・・
原告は,前記認定した被告日進の利益率が約27%であることから,被告O HUと被告セイエーの利益率も同程度と推認されること,被告日進の原価率が約7 0%(被告OHUより4203万8700円で仕入れ,5952万4536円で販 売。)であることから,被告OHUの原価率も同程度と推認されること(被告日進 に4203万8700円で売った物は,被告セイエーより2942万7090円で 仕入れた。その27%が被告セイエーの利益。)と主張する。 しかしながら,原告において共同不法行為が成立すると主張する被告らの関係に おいて,被告セイエー,被告OHU,被告日進,顧客と被告製品が流通する過程に おいて,各段階で高い利益を確保することができる場合もあれば,最終の被告日進 から顧客に至る段階で利益を確保しようとする場合もあり得るところ,本件におい て,前者の取引形態であったことを示す証拠,あるいはそれを示唆するような事実 は何ら示されていない。
原告が推認する利益率,原価率をあてはめた場合,被告日進の販売額の約6割の 金額を,グループとしての被告らは利益として確保したことになり,高額に過ぎる と解されると同時に,被告セイエーが負担した製造原価以外には,被告OHUも被 告日進も,控除すべき費用をほとんど負担していないことになる。 以上によれば,被告らの利益率がすべて27%であり,被告OHUの原価率は被 告日進と同様に70%と推認される旨の原告の主張は採用できないというべきであ る。 本件において,被告セイエーが負担した製造原価等の経費,被告OHUの被 告セイエーからの仕入額,被告OHUが負担した経費については,主張,証拠共に 開示されていないが,これは被告らが開示するよう求められつつこれを拒んだので はなく,原告が,訴状(平成30年4月20日付け)の段階では,被告セイエー及 び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%の利益を有する旨を主張し,損 害論の審理に入る際の訴えの変更申立書(令和2年1月27日付け)においても,\n被告セイエー及び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%相当の利益を有 していると主張したため,被告らにおいてこれを争わず,被告セイエーらの経費等 に関する主張,証拠を提出しないままに終わったという審理の経緯によるものであ る。
原告は,被告らが被告日進の売上及び経費に関する主張,証拠を提出した後の訴 えの変更申立書(2)(同年11月13日付け)に の推認を主張したところ,被告らは,被告セイエー及び被告OHUの利益が被告日 進の売上の3%であることについては,裁判上の自白が成立している旨を主張した ものである。
以上の経緯を前提に検討すると,原告の訴状,訴えの変更申立書の主張は,\n被告日進の売上高が確定する前になしたものであるから,具体的な金額についての ものではなく,裁判上の自白が成立するとはいい難い。 他方,被告らの利益率をいずれも27%,被告セイエーの原価率を70%と推認 することについては,具体的な根拠に乏しく,被告セイエー及び被告OHUが負担 した経費等が開示されておらず,これに基づいて被告らの利益を算定できないこと について,被告らを責めるべき事情は存しない。 以上の審理の経過を踏まえ,原告が訴状の段階から訴訟の最終の段階に至るまで, 被告セイエー及び被告OHUの利益は被告日進の売上の3%とする主張を維持し, 被告らもこれを争わずに来たこと,他に依拠すべき算定方法がないことを考慮し, 弁論の全趣旨により,被告セイエー及び被告OHUが被告製品の製造,販売によっ て得た利益は,被告OHUにつき被告日進の売上の3%である178万5736円, 被告セイエーにつき,同金額から, のとおり,返品等分の製造原価とし て11万3925円を控除した167万1811円と認めるのが相当である。
(3) 推定の覆滅
これまで検討したところによれば,薬剤分包装置を業務上使用するためには薬剤 分包紙が必須であるから,同装置の利用者は,定期的に自己の保有する薬剤分包装 置に適合した分包紙ロールを購入することとなる。そして,被告製品は,使用済み 紙管の外径とほぼ一致する内径を持つ分包紙ロールであり,被告らが一体化製品を 作出して原告装置において使用できることを明示していたこと,市場に存在する原 告製品又は被告製品以外の主な分包紙ロールがこれと異なる寸法の内径を持つもの であることは前記3(1)ウのとおりであるから,需要者は,原告製の分包紙の代替と して被告製品を購入していたものと考えられる。 原告は,本件発明の技術的範囲に属する原告製品の製造,販売を独占できる立場 にあり,被告製品が市場に存在しない場合には,需要者は値段にかかわらず原告製 品を購入したものと考えられるから,被告製品の価格がこれに比べて有利であるこ とは,特許法102条2項に基づく前記(1)の推定を覆滅するものではない。

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平成30(ワ)36690  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月15日  東京地方裁判所

 実施料率0.01%の980万円の不当利得があると認定されました。損害賠償は時効と判断されて、不当利得の返還を求めました。判決に目次があり、目次だけでほぼ3ページあります。

(1) 消滅時効の成否
前記前提事実(2),(6)ないし(8)のとおり,本件特許の登録は平成22年7 月30日にされており,被告各製品の製造,販売は同年12月から平成23 年9月の期間に行われたものであったところ,原告は,平成24年1月9日 頃,被告による被告各製品の製造,販売が別件特許権の侵害に当たる等とし て,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求を求める別件訴訟を提起し, 平成25年8月2日に別件判決が言い渡された。 そして,証拠(甲4,5,乙1,5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は, 別件訴訟の審理を通じて,遅くとも別件判決の言渡日である平成25年8月 2日までには,被告各製品の具体的な構成について本件の訴状で記載した程\n度には認識していたものと認められる。 したがって,本件の主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権に ついては,原告が遅くとも同日までにその損害及び加害者を知ったものと認 められるから,改正前民法724条前段の3年の時効期間は同日から進行し, 平成28年8月2日の経過をもって,本件訴訟提起前に消滅時効が完成した ものと認められる。
・・・
ウ 実施料率の認定
(ア) 前記イ(ア)ないし(ウ)によれば,1)実際の実施許諾契約における実施料 率,業界における実施料の相場等について,次の点を指摘することがで きる。 本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また, 業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率 〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。こ のような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場 等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許 諾契約の内容を参考とするのが相当である。 そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する 標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位 での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,その うち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセン ス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成2 2年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規 格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当 たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5 「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出 した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。 なお,上記陳述書における被告従業員の説明によれば,これらのライ センス契約のうち,C社を含む一部の会社との間の契約においてはクロ スライセンスの条項が設けられていたところ,前記イ(イ)a(a)によれば, クロスライセンスの存在はライセンス料率を引き下げる要因と考えられ るから,上記の被告従業員の説明に係るライセンス料率についても,ク ロスライセンスによる減額がされていた可能性は否定されない。\n(イ) 前記(ア)の点に加え,前記イ(エ)のとおり,2)本件発明が被告各製品に とって代替不可能なものとは認められず,3)本件発明を実施することに よる被告の利益の程度も明らかではないこと,前記イ(ア)のとおり,4)原 告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での 実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針 としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約 の締結に至ったことはないことといった事情を総合考慮すれば,本件発 明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0. 01%と認めるのが相当である。
エ 被告が返還すべき利得の額
以上によれば,被告が返還すべき利得額は,別紙5「被告各製品の販売 状況」記載の被告各製品の売上高合計980億1770万4000円に実 施料率0.01%を乗じた980万1770円と認められる。

◆判決本文

別件訴訟はこちらです(請求棄却)。

◆平成24年(ワ)237

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令和2(行ケ)10063  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月25日  知的財産高等裁判所

 存続期間延長登録拒絶査定にかかる審決取消訴訟で、裁判所は、延長を認めなかった審決を取り消しました。

 前記(1)で認定した事実関係をもとにして,本件発明の実施に本件処分を受ける ことが必要であったかどうかについて検討する。 ア 特許権の存続期間の延長登録の制度は,政令処分を受けることが必要で あったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的 とするものであるから,本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったか どうかは,このような特許法の存続期間延長の制度が設けられている趣旨に照らし て判断されるべきであり,その場合における本件処分の内容の認定についても,こ のような観点から実質的に判断されるべきであって,本件承認書の「有効成分」の 記載内容のみから形式的に判断すべきではない。このように解することは,最高裁 平成26年(行ヒ)第356号同27年11月17日第三小法廷判決・民集69巻 7号1912頁の趣旨にも沿うものということができる。
イ 前記(1)エで認定した事実からすると,医薬品について,良好な物性と安 定性の観点からフリー体に酸等が付加されて,フリー体とは異なる化合物(付加塩) が医薬品とされる場合があること,そのような医薬品が人体に取り込まれたときに は,付加塩からフリー体が解離し,フリー体が薬効及び薬理作用を奏すること,ナ ルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩についても同様の関係にあり,ナルフラフィ ンとナルフラフィン塩酸塩で薬効及び薬理作用に違いがないことは,本件医薬品の 製造販売の承認申請がされた平成28年3月31日までに,当業者に広く知られて\nいたものと認められる。
ウ 上記イで述べたところに,前記(1)オ,カ,キで認定した事実や前記(1) クの専門家の意見書の内容を総合すると,医薬品分野の当業者は,医薬品の目的た る効能,効果を生ぜしめる作用に着目して,医薬品に配合される付加塩だけでなく,\nそのフリー体も「有効成分」と捉えることがあるものと認められる。
エ 前記(1)ア〜ウのとおり,本件承認書には,「有効成分」として「ナルフ ラフィン塩酸塩」と記載されており,本件添付文書にも「有効成分に関する理化学 的知見」として,「ナルフラフィン塩酸塩」と記載され,その構造式や性状などが\n記載されているが,これは,賦形剤などの製剤補助剤と区別する観点から,実際に 医薬品に配合されている原薬(付加塩)を有効成分として捉えていることに基づく 記載であると解される。これに対し,本件添付文書の「有効成分・含量(1錠中)」 の欄に,「ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)」 と記載されており,本件インタビューフォームには,和名は「ナルフラフィン塩酸 塩」と記載されているものの,洋名については「ナルフラフィン塩酸塩」と「ナル フラフィン」が併記されているし,「有効成分(活性成分)の含量」として カプ セル:1カプセル中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2. 32μg)含有 OD錠:1錠中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィ ンとして2.32μg)含有」と記載されている。そして,前記(1)アのとおり,本 件承認書における●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●同じ く,前記(1)イ,ウのとおり,本件添付文書や本件インタビューフォームにおける, 本件医薬品の「薬物動態」の血漿中濃度や薬物動態パラメータもナルフラフィン塩 酸塩ではなく,ナルフラフィンを測定して得られたものとなっている。
オ 以上のことを考え併せると,本件処分の対象となった本件医薬品の有効 成分は,本件承認書に記載された「ナルフラフィン塩酸塩」と形式的に決するので はなく,実質的には,本件医薬品の承認審査において,効能,効果を生ぜしめる成\n分として着目されていたフリー体の「ナルフラフィン」と,本件医薬品に配合され ている,その原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当 である。 したがって,「ナルフラフィン塩酸塩」のみを本件医薬品の有効成分と解し,「ナ ルフラフィン」は,本件医薬品の有効成分ではないと認定して,本件発明の実施に 本件処分を受けることが必要であったとはいえないと判断した本件審決の認定判断 は誤りであり,取消事由1は理由がある。
(3) 被告の主張について
被告は,原告が本件延長登録出願に当たって,本件医薬品の「有効成分」を「ナ ルフラフィン塩酸塩」と主張していたことや原告が作成した書類(甲83,88, 90)で有効成分をナルフラフィン塩酸塩としていたと主張する。 しかし,本件延長登録出願の経緯は,前記(1)ケ認定のとおりであって,この経緯 に照らして,原告が取消事由1の主張をすることや裁判所が同取消事由1に理由が あると判断することを妨げられる理由はなく,前記(2)の上記判断を左右するもの ではない。また,被告が主張する文書(甲83,88,90)は,本件医薬品の製 造販売の承認申請に向けて作成された文書であるところ、本件医薬品の有効成分は,\n本件医薬品の承認審査の経緯や内容等を踏まえると,実質的にはナルフラフィン塩 酸塩とナルフラフィンの双方と解するのが妥当であるから、本件承認書(甲4,9 6,148)の記載が前記(2)の認定判断を左右しないことと同様に,上記の文書も、 前記(2)の認定判断を左右するものではない。

◆判決本文

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平成31(ワ)2034  損害賠償請求事件  その他  民事訴訟 令和3年1月8日  東京地方裁判所

 被告会社は原告に事業譲渡をしました。原告は競業避止義務違反を理由に事業の中止を求めました。裁判所はこれを認めました。争点は問題の事業が譲渡対象であったか否かでした。

(1) 本件事業譲渡の対象について
本件事業譲渡の対象について,原告は,関東地方に所在する食品加工業者 及び食品工場向けの食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンス の事業等が包括的に含まれると主張するのに対し,被告は,本件事業譲渡の 対象は,旧関東事業部の行っていた食品用機械のメンテナンス及び付属部品, 資材の販売等の事業に限られると主張するので,以下,検討する。 ア 本件事業譲渡契約書第1条には,被告は原告に「関東事業部」を譲渡す る旨の記載があるところ,前記前提事実(第2の1(1)),証拠(甲11, 12)及び弁論の全趣旨によれば,1)被告は,平成23年11月,海外メ ーカー製の食品用機械の輸入及び販売事業等を行うことを目的として,関 東産機事業部を被告所沢事務所内に立ち上げたこと,2)その後,関東産機 事業部の責任者であるAが平成27年に被告を退社したことから,被告所 沢事務所内に同事業部の担当者が不在になり,関東産機事業部が行ってい た事業は,原告代表者を含む旧関東事業部の従業員等が引き継いで行うよ\nうになったこと,3)平成28年から平成29年頃にかけての被告の受注予\n定表は「札幌」と「関東」とで別々に作成されており,関東地方の受注予\ 定表には関東産機事業部と旧関東事業部の区別なく,受注案件の進捗状況\n等が記載されていること,の各事実が認められる。 上記各事実によれば,本件事業譲渡当時,関東産機事業部の活動は事実 上休止状態にあり,被告の関東地方における事業やその営業は,そのほと んどを旧関東事業部が行っていたものと認められ,本件事業譲渡契約書第 1条の「関東事業部」とは,同契約締結当時に旧関東事業部が行っていた 事業,すなわち,被告の関東地方における食品加工業者及び食品工場向け の食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンスの事業を包括的 に含むものと解するのが相当である。
イ また,前記前提事実(第2の1(2))のとおり,本件事業譲渡契約書には, 関東産機事業部に残される資産や契約等についての記載は存在せず,かえ って,同契約書第2条は,被告は,原告に対し,建物付属設備,機械装置, 器具備品等の全てを含む資産,旧関東事業部の敷地及び建物(工場・事務 所)の物品の全てに関する契約,並びに旧関東事業部の行う事業に関する 営業上の秘密,ノウハウ,顧客情報等を含む必要又は有益な全ての情報を 譲渡すると規定されている。 被告は,原告に譲渡した事業には関東産機事業部の事業は含まれないと 主張するが,本件事業譲渡契約書の草案を作成したのが被告であることに ついては当事者間に争いないところ,仮に被告の主張するように関東産機 事業部を事業譲渡の対象としないのであれば,本件事業譲渡契約書におい て旧関東事業部に譲渡する食品用機械や資材等の資産,契約,顧客等と被 告の関東産機事業部に残す資産,契約,顧客等とが区別して規定されてし かるべきであるが,本件事業譲渡契約書においては,関東産機事業部に一 部の資産,契約,顧客情報等を残すことを前提とする記載は存在しない。 そうすると,本件事業譲渡契約書第2条の規定は,被告が,原告に対し, 被告の関東における食品加工業者及び食品工場向けの食品用機械の開発, 製造,加工,販売又はメンテナンスの事業等に関する資産,顧客情報を包 括的に譲渡する趣旨であると解するのが相当である。
ウ さらに,平成28年10月21日に開催された役員会議の議事録(乙1 2)には,本件事業譲渡に関し,被告代表者が「(関東事業部の)事業譲\n渡を考えています。・・・関東事業部の資産価値1,000万円,営業権1,000万円 くらい。Xさんが関東事業部の頭でもあるため,Xさんが関東事業部を買 う形が望ましい。」と発言した旨の記載があると認められるが,同議事録 には,関東産機事業部の事業を譲渡対象としないことやその資産価値につ いての記載は存在しない。 このことに照らしても,本件事業譲渡契約の対象には,被告の関東にお ける食品加工業者及び食品工場向けの食品用機械の開発,製造,加工,販 売又はメンテナンスの事業等が包括的に含まれると解するのが相当であ る。

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令和2(行ケ)10107  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年4月14日  知的財産高等裁判所

 商標「ざんまい」が「すしざんまい」と混同するかが争われました。指定商品・役務は「すし」「すしを主とする飲食物の提供」です。審決・判決とも「すしざんまい」は著名、混同する」と判断しました。

 本件商標は,別紙1記載のとおり,「ざんまい」の文字を横書きに書 してなる商標である。本件商標から「ザンマイ」の称呼が生じる。 「ざんまい」の語は,「一心不乱に事をするさま。」(広辞苑第七版)の 意味を有するから,本件商標から,このような意味合いの観念を生じる。 また,前記2(2)ア認定のとおり,「すしざんまい」の表示は,本件商標 の登録出願時及び登録査定時において,被告が店舗展開する「すしざん\nまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く認 識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示する ものとして,著名であったこと,「すし」に関連する登録商標の使用にお\nいては,「すし」又は「寿司」の表示を登録商標の前後に付加して使用す ることが普通に行われており,現に,原告においても,本件商標の「ざ\nんまい」の前に「寿司」の文字を付加した「寿司ざんまい」の商標を使 用していること(前記1(4))に鑑みると,本件商標が指定商品「すし」 に使用されたときは,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店 を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念をも生じるものと 認めるのが相当である。
(イ) 引用商標1は,別紙2記載のとおり,上段に筆文字風で記載された 「つきじ喜代村」の文字を,中段に大きく筆文字風で記載された「すし ざんまい」の文字を,下段に小さくゴシック体で記載された「SUSH IZANMAI」の文字を3段に配した構成からなる結合商標であり, このうち,「すしざんまい」の文字は,引用商標1の中央に他の文字より\nも大きく,かつ,太く記載されており,「すし」の部分は,「し」が「す」 の左下に位置し,縦書きのように記載されている。 そうすると,引用商標1を構成する「つきじ喜代村」の文字部分,「すしざんまい」の文字部分及び「SUSHIZANMAI」の文字部分は,\n外観上,それぞれが分離して観察することが取引上不自然と思われるほ ど不可分的に結合しているものとはいえない。 そして,「すしざんまい」の文字部分の上記構成態様に照らすと,引用 商標1の構\成中の「すしざんまい」の文字部分は,取引者,需要者に対 し,「すしを主とする飲食物の提供」の役務の出所識別標識として強く支 配的な印象を与えるものと認められるから,要部として抽出できるもの と認めるのが相当である。 しかるところ,引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分 及び「すしざんまい」の標準文字からなる引用商標2から,いずれも「ス シザンマイ」の称呼が生じる。 また,前記2(2)ア認定のとおり,「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及び登録査定時においては,被告が店舗展開する「すしざ\nんまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く 認識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示す るものとして,著名であったことに鑑みると, 引用商標1の要部である 「すしざんまい」の文字部分及び引用商標2から,被告が店舗展開する 「すしざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんま い」の観念を生じるものと認めるのが相当である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,本件商標と引用商標1及び2は,外観 及び称呼が異なるが,観念においては,本件商標が指定商品「すし」に 使用されたときは,本件商標から被告が店舗展開する「すしざんまい」 チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念をも生 じるのに対し,引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分及 び引用商標2からも,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店 を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念を生じる点で共通 するものと認められる。
イ 以上のとおり,1)「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及 び登録査定時において,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店\nの名称として,需要者である一般消費者の間に広く認識され,被告の業務 に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示するものとして,著名であ ったこと(前記2(2)ア),2)本件商標と引用商標1の要部である「すしざ んまい」の文字部分及び引用商標2から,いずれも被告が店舗展開する「す しざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の 観念を生じる点で共通すること(前記ア(ウ)),3)本件商標の指定商品であ る「すし」と被告の業務に係る役務である「すしを主とする飲食物の提供」 は,需要者が一般消費者である点で共通し(前記2(1)ア),販売の対象とな る商品又は提供の対象となる商品がいずれも「すし」である点で共通する ことを総合考慮すると,本件商標をその指定商品の「すし」に使用すると きは,その取引者,需要者において,被告が店舗展開する「すしざんまい」 チェーン店の名称として著名な「すしざんまい」の表示を想起し,当該商 品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表\示による商品化事業 を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのよ うに,その出所について混同を生ずるおそれがあるものと認められる。 したがって,本件商標は,引用商標1及び2との関係において,商標法 4条1項15号に該当するものと認められる。 これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(2) 原告の主張について
原告は,1)引用商標1及び2の指定役務「すしを主とする飲食物の提供」 にいう「すし」と本件商標の指定商品「すし」とは,握り寿司等3種類を除 き,「すし」の内容が一致せず,需要者が異なる,2)「すし」の販売にいう「す し」は,弁当と同じような用途であるのに対し,「すしを主とする飲食物の提 供」にいう「すし」の提供は,すし職人と会話を楽しむといった別の要素が あり,極めて人間的であり,しかも,魚の鮮度が勝負であり,鮮度が比較的 短時間で落ちる商品を鮮度の良い状態で提供していること,回転ずしや着席 スタイルのすし店等でも,テイクアウトは行われているが,全体のごく一部 であり,特に着席スタイルのすし店は鮮度にこだわり,テイクアウトは拒否 されるのは周知の事実であることからすると,「すし」と「すしを主とする飲 食物の提供」とは,その性質,用途又は目的において密接な関連性を有する とはいえない,3)原告の業態は,宅配寿司であり,ウェブサイト又は電話に よる注文を受けてから寿司を盛り,スピーディな配達をするというものであ るのに対し,被告の業態は,カウンター方式及び個室方式をとり,会食・接 待・結納などにも利用できる料亭をイメージした落ち着いた雰囲気の個室を 用意しており,テイクアウトはあくまで「お持ち帰り」としての利用であり, 原告の業態と被告の業態が相違するなどとして,本件商標の登録出願時及び 登録査定時において,本件商標をその指定商品「すし」に使用した場合,こ れに接する需要者が引用商標を想起,連想し,当該商品を被告あるいは被告 と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの ように,その出所について混同を生ずるおそれがあるとはいえないから,本 件商標が商標法4条1項15号に該当するものとはいえない旨主張する。 しかしながら,1)については,前記2(1)イで説示したとおり,本件商標の 指定商品「すし」と引用商標1及び2の指定役務「すしを主とする飲食物の 提供」とは,需要者が異なるものと認めることはできない。 2)については,「すしを主とする飲食物の提供」の提供の場所を原告が主張 するような着席スタイルのすし店に限定すべき合理性はない。 3)については,原告が主張する原告の業態と被告の業態の相違は,本件商 標をその指定商品「すし」に使用した場合,これに接する需要者が,当該商 品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を 営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのように,\nその出所について混同を生ずるおそれがあるとの前記(1)の判断を左右するも のではない。

◆判決本文

こちらは関連事件です。

◆令和2(行ケ)10108

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令和1(行ケ)10159  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月15日  知的財産高等裁判所

 審決は、複数のカメラの一方の表示を回転させることは、周知として進歩性なしと判断しました。これに対して、知財高裁は、主引例にはそのような課題が存在しないとして、動機付けなしとして審決を取り消しました。

 前記2(1)イのとおり,引用発明は,医師等が観察して診断を行う診断用 画像モニタ装置と離れて,操作者が被検者に対してX線装置のコリメータ やTVカメラの調整等を行う際の被検者及び操作者のX線被爆を避ける ために,X線曝射しない状態でコリメータやカメラの操作ができ,簡単か つ安価で操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものである。\nそして,引用文献1は,こうした課題を解決するために,医師等が観察 する診断用画像モニタ装置とは別に,1対の平行コリメータ位置マーカ2 4,24や円形コリメータ位置マーカ25,カメラ画像正立位置マーカ2 6の画像を,制御ユニット18の制御の下で,X線照射停止直前に撮像さ れ画像メモリ19に格納されたX線透視像を画像と重ねて操作用液晶デ ィスプレイ装置21に表示し,マーカ24,25,26上を指などで触れてドラッグすると,その位置情報が制御ユニット18に取り込まれて演算\nされて新たな表示位置が求められ,その位置へ各マーカが動いていくような表\示がされ,この入力情報に応じて制御ユニット18が指令をコリメータ12及びTVカメラ15へ出し,コリメータ12の遮蔽板の位置や方向 が変更され,TVカメラ15の回転角度が調整され,現実に動いた位置・ 方向の情報が制御ユニット18に返され,これに応じて制御ユニット18 が平行コリメータ位置マーカ24,24又は円形コリメータ位置マーカ2 5の表示位置を固定するとともに,表\示されたX線透視像23及びカメラ 画像正立位置マーカ26を回転させる(【0018】,【0019】)という 構成を開示している。このように,引用発明は,あくまで,医師等が観察して診断を行う診断用画像モニタ装置とは別に,X線被爆を避けるために,X線曝射しない状\n態で操作ができ,画像を操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものであって,こうした技術的意義を有す\nる引用発明において,引用文献1には,操作者が医師等の術者が被検者を 見る方向と異なる方向から被検者を見ることにより,操作者が被検者を見 る方向と操作用画像表示装置に表\示される患部の方向とが一致しないと いう課題(課題B2)があるといった記載や示唆は一切ない。
イ この点につき,被告は,前記第3の2(1)のとおり,当業者であれば,課 題B2の存在を理解し,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置に おいて,「操作者」が異なる方向から被検者に対向する場合,各々の被検者 を見る向き(視認方向)に一致させるという周知の課題(乙3,4)を参 照し,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプ レイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致 させるという課題を当然に把握し,引用発明に技術事項2を適用する動機 づけがある旨主張する。
しかし,当業者であれば,課題B2の存在を当然に理解するという点に ついては,これを裏付けるに足りる証拠の提出はなく,むしろ,原告が主 張するように,術者と操作者との力関係や役割の違いに照らせば,操作者 は,従前は,このような課題を具体的に意識することもなく,術者の指示 に基づきその所望する方向に画像を調整することに注力していたもので あるのに対して,本願発明は,その操作者の便宜に着目して,操作者の観 点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上 げたことに意義があるとの評価も十分に可能\である。
また,乙3には,「本発明の手術用顕微鏡システムでは,前記画像表示手段を複数備え,少なくとも一つの画像表\示手段で表示される画像の向きが\n変更可能であることが望ましい。このような構\成では,術者と助手とが向 き合って手術する時のように,撮像部分を異なる方向から見る場合におい ても,それぞれの見る方向に応じて画像の向きを変えることにより,撮像 部分を見るのと同じ向きの画像を表示することが可能\となり,より手際の よい手術が行えるようになる。」(【0007】),「本発明の手術用顕微鏡シ ステムは,・・・前記画像処理装置は,各電気光学撮像手段からの撮像信号に 基づいて,基準画像信号を生成して,基準画像を前記画像表示手段に表\示 させる基準画像生成部と,前記各撮像信号に基づいて,基準画像と上下ま たは左右が反転した反転画像信号を生成して,前記画像表示手段に表\示さ せる反転画像生成部とを備えることを特徴とする。」(【0008】)との記 載があるように,術者とそれを補助する術者が向き合って手術をするとき のように撮像部分を異なる方向から見る場合でも,画像表示手段で表\示さ れる画像の向きをそれぞれの見る方向に応じて変更する構成により,撮像部分を見るのと同じ向きの画像を表\示することが可能となり,より手際の\nよい手術が行えるようになるとの課題が示されているにとどまり,術者と X線撮影装置の操作者についてそのような課題があると開示するもので はない。
さらに,乙4には,「本実施例の装置の動作について,図を参照して説明 する。まず,図1において術者Aは第1モニタ4を見て,術者Bは第2モ ニタ7を見て手技を行っている。ここで術者Bは内視鏡2に対向している ので,内視鏡2の原画像をそのまま第2のモニタ7に表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまう。このため,画像処理装置8にて,第2モニ\nタ7の画面のみを上下左右反転させた倒立像を映し出す。」(【0022】), 「本実施例では,第2モニタ7を倒立像にすることで,術者Bが上下左右 逆の感覚で手技を行うことがないので,スムーズに手技を行うことができ る。また,第1モニタ4及び第2モニタ7のいずれでも倒立像にできるの で,内視鏡2の向きや術者の位置が変わっても,容易に対応できる。」(【0 025】)との記載があるように,術者Aと術者Bがそれぞれ異なるモニタ を見て手技を行う場合において,術者Bが見ている第2のモニタ7に内視 鏡2の原画像を見てそのまま表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまうという課題が示されているにとどまり,術者とX線撮影装置の操作者\nについてそのような課題があると開示するものではない。
そうすると,上記の乙3,4の各文献に記載された課題は,あくまで術 者と助手又は術者と術者がそれぞれ異なるモニタを見ることによって生 じる課題を指摘するにとどまり,術者とは異なる操作者が操作を行うとい う引用発明の場合において,操作者の便宜のために,操作者が見る患部の 向きの方向と,操作者が見る操作用液晶ディスプレイの患部の向きとを一 致させるという課題を示唆するものとはいえないから,当業者がこのよう な課題を当然に把握するともいえない。
(2) また,仮に,引用発明について,前記課題B2の存在を認識し,異なる方 向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の 向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題を 把握して,操作用液晶ディスプレイ装置21に表示されるX線画像のみを回転させるという相違点の構\成とする動機づけがあると仮定しても,前記2(2) のとおり,技術事項2’は,HMDを装着し操作者を兼ねた術者が見るHM Dの画像表示部に表\示されるX線画像と実際の患者の患部の位置把握を容易 にするために,上記術者の床面上の位置情報に基づいて上記X線画像の回転 処理を行うものであるから,回転処理がされるX線画像はHMDの画像表示部であり(引用文献2の【0014】,【0020】,図14等),また,画像\n回転処理の基になる位置情報は,床面に設けられた感圧センサによるもので ある(引用文献2の【0022】)。
こうした技術事項2’の構成は,キャビネット43に設置された診断用画像モニタ17は術者である医師が使用し,台車41に設けられた操作用液晶\nディスプレイ装置21は撮像装置のセッティング等のために操作者が状況に 応じて自由に移動し,また台車41に様々な立ち位置を取ることができる引 用発明の具体的な構成と大きく異なるものであるから,引用発明と引用文献2に記載されたX線装置は同一の技術分野に属し,X線画像を表\示する装置を有する点で共通するとしても,HMDに表示されるX線画像の回転処理が行われるという技術事項のみを抽出して引用発明に適用する動機づけがある\nとはいえない。 さらに,技術事項2’は,操作者を兼ねた術者が装着したHMDに表示されるX線透視像を床面の位置情報に基づいて回転させるという構\成を有するものであるから,こうした構成を無視して,表\示されたX線画像のみを回転させるという技術事項のみを適用し,本願発明の相違点の構成に想到するとはいえない。\n
(3) 以上によれば,本願発明と引用発明との相違点は,本願発明は「前記X線 画像のうち,前記表示部に表\示されるX線画像のみを回転させる画像回転機 構を備え」ているのに対し,引用発明は,そのような特定がない点に尽きるが(本願発明における画像回転機構\自体については目新しいものとはいえない。),引用文献1には,「操作用液晶ディスプレイ装置21」を見て操作する「操作者」の視認方向が「診断用画像モニタ装置17」を見る「術者」の「被検者」の視認方向と一致しないという課題(課題B2)について記載も示唆もなく,被告が提出した文献からは,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置において,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題があると認めるに足りないから,こうした課題があることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとはいえず,また,本件審決の技術事項2の認定に誤りがあり,引用文献2に記載された事項(技術事項2’)から引用発明との相違点の構\成に想到するともいえないから,結局のところ,本願発明は,引用発明及び引用文献2に記載された技術事項2’に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものとはいえず,これと異なる本件審決の判断は,その余の点につき判断するまでもな く,誤りである。

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平成30(ワ)3789  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和3年2月9日  東京地方裁判所

 不競法違反の損害額として覆滅97%の約1800万円の損害が認定されました。

ア 被告商品の売上高について
前記期間の被告商品の売上金額は,11億0573万1572円(消費 税相当額抜き)であった(乙34,弁論の全趣旨)。 もっとも,このうち2251万6179円は未収であり(乙35),結 局,被告商品が販売されて被告が利益を受けたものとはいえないから, 上記売上金額から控除すべきである。また,被告は被告商品の売上げに 係る消費税を納税しなければならないから,税抜金額を売上金額とする。 以上から,前記期間の被告商品の売上高は,別紙損害額の売上高欄記載 のとおり,10億8321万5393円であったと認められる。
・・・
エ 被告が受けた利益の額について
以上から,被告が前記期間に被告商品の販売により受けた利益の額は, 別紙損害額の限界利益欄記載のとおり,合計6億1192万6912円 となる。
(3) 推定覆滅事由について
ア 不正競争防止法5条2項による推定は,侵害者による侵害行為がなかっ たとしても侵害者が受けた利益を被侵害者が受けたとはいえない事情が 認められる場合には,覆滅されると解される。
イ 掲記の証拠によれば,次の各事実が認められる。 被告は,被告商品について,電子商取引サイト等において,本件品質 誤認表示によるオリゴ糖の純度に係る特徴のほか,オリゴ糖が1種類で\nはなく,複数の種類のオリゴ糖を配合していることを強調し,また,被 告商品の原材料が全て動植物に由来するものであり添加物がないことな どの特徴をも大きく取り上げ,妊婦や乳幼児等が摂取しても安全,安心 であるなどと広告宣伝していた。さらに,「実感力」などの言葉を使っ て,584人のアンケート結果によれば,「『毎日すっきり!』実感で きました!」というモニターが76.1%であるなど,多くの者が何ら かの形で便通の効果を実感しているとして,「満足率97.2%」であ るという記載をするなどしていた。(甲10〜16)
被告は,被告商品の購入者に対して,商品を使用した感想,被告の客 対応,他社との違い等を自由に記載する欄を設けたアンケートの葉書を 交付していたところ,それらを記載して被告に返送した回答者928人 のうち,被告商品が「オリゴ糖100%」であることについて言及した ものは6人であった。回答者には,多くの者が便通が改善したことを述 べていた。(乙41,42) オリゴ糖類食品は,オリゴ糖などを組み合わせ,配合することによっ て製造されており,主力製造業者及びその販売する商品としては,原告 商品及び被告商品のほか,塩水港精糖の「オリゴのおかげ」,加藤美蜂 園本舗の「北海道てんさいオリゴ」,日本オリゴの「日本オリゴのフラ クトオリゴ糖」,株式会社明治フードマテリアの「メイオリゴ」,Hプ ラスBライフサイエンスの「オリゴワン」,伊藤忠製糖の「クルルのお いしいオリゴ糖オリゴDEクッキング」,井藤漢方製薬の「乳酸菌オリ ゴ糖」,梅屋ハネーの「梅屋イソマルトオリゴ糖」,正栄の「スッキリ\nオリゴ糖」,ユウキ製薬の「活き活きオリゴ糖」,オリヒロの「オリゴ 糖シロップ」,ビオネの「ビオネ・ビートオリゴ」,日本甜菜製糖の 「ラフィノース100」などがある。これらのオリゴ糖類食品市場にお ける平成25年度から平成28年度及び平成30年度の原告商品の占有 率は,22.8%から26.9%であり,平均約24.4%であった。 上記のオリゴ糖類食品には,その内容や形態,販売態様において様々 なものがあり,例えば,塩水港精糖の販売する「オリゴのおかげ」は, 個包装された顆粒状のもの,シロップ形態のものなどがあり,加藤美蜂 園本舗の販売する「北海道てんさいオリゴ」は天然の甘味料であること をうたった商品であるが,同社は他にシロップ形態の商品も販売してお り,株式会社明治フードマテリアの販売する「メイオリゴ」には,液体, 粉末,顆粒等の各形態が存在する。もっとも,いずれについても,需要 者である一般消費者が,日常の食生活の中で健康に有用な効果作用を発 揮するオリゴ糖を簡便に摂取できる点に商品の意義が認められており, 需要者は,これらの多数の各商品の中から,各商品の上記の点以外の様 々な特徴を勘案して選択,購入しているといえる。 (本項につき,甲34,41,乙54,59,61(なお,乙59の5 によれば,平成29年度の原告商品の市場占有率42.3%であるとさ れているが,その前後の年度の市場占有率と大きな差があること,平成 29年度の市場規模が47億4000万円である一方,同年前後の原告 商品の売上高は概ね年9億7000万円から10億9000万円程度で あること等に照らすと,上記の同年度の市場占有率を直ちに信用するこ とはできない。))
ウ 被告は,被告商品について,本件品質誤認表示によるオリゴ糖の純度に\n係る特徴のほか,複数の種類のオリゴ糖を配合していること,被告商品の 原材料が全て動植物に由来するものであり添加物がないことなどの特徴を も大きく取り上げ,妊婦や乳幼児等が摂取しても安全,安心であるなど, 被告商品の魅力を掲げて広告宣伝していた。そして,被告商品の購入者が 自由に記載したアンケート結果によっても,オリゴ糖の純度に特に着目し て被告商品を購入した需要者が多かったことが直ちに認められるものとま ではいえない(前記イ )。また,オリゴ糖類食品には様々な形態のもの が存在し,原告商品と被告商品が似た形態であるのに対し,これらと異な る形態のものが多数あるのであるが,形態にかかわらず,これらの商品は, 基本的に需要者である一般消費者が,オリゴ糖を簡便に摂取できる点に商 品の意義が認められている。そうすると,需要者は,多数の各商品の中か ら,各商品の様々な特徴を勘案して選択,購入することもあるといえ原告 商品以外のオリゴ糖類商品も原告商品及び被告商品と市場において競合す るといえるものである。このようなオリゴ糖類食品市場における原告商品 )。
そして,本件では品質を誤認させるような表示が問題となっていて,被\n告商品の出所を原告と誤認するおそれが問題となっているわけではない ところ,被告商品を販売するウェブサイトには,被告が強く関与するも の(前記第2の1(2)ケ)に加えて,アマゾン,楽天,ヤフーなどが運営 するサイトもあり,これらにおいて原告商品について触れられていると は認められない(甲10,15,32)。 さらに,被告は,平成28年11月までは自社の電子商取引サイト等も 含めて本件品質誤認表示をしていたが,同月以降,自社の電子商取引サイ\nトからはその表示を削除し,平成30年2月には,アフィリエーターらに\n対し,「オリゴ糖100%使用」等の表示をしないように求めた(前記1\n(2)エ)。
これらを考慮すると,被告の本件品質誤認表示による被告商品の販売数\n量の増加と,他のオリゴ糖類食品の販売数量の低下,さらには,原告商 品の販売数量の低下との間には,それほど強い相関関係が成り立つとは いえず,上記の各事情を総合考慮すれば,被告の本件品質誤認表示がな\nかったとしても被告が受けた利益を原告が受けたとはいえない事情が相 当程度認められ,被告が受けた利益の額の97%について,原告が受け た損害の額であるとの推定が覆滅されるとするのが相当である。 以上から,上記推定覆滅後の額は,別紙損害額の推定覆滅後の金額欄記 載のとおり,1835万7803円となる。

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令和2(行ケ)10035 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月29日  知的財産高等裁判所

 パチンコ機について進歩性無しとした審決が取り消されました。

 原告は,本件審決が,相違点1ないし3について,「再変動」(本願発明の 「単位演出」に相当。)の契機となる前回の「変動(再変動)」に基づく仮停 止について,初回の変動においてチャンス目Aが仮停止し,2回目の変動(再 変動)においてチャンス目Bが仮停止するというように,仮停止させるチャ ンス目を,段階的に大当り信頼度が高いものとしていく引用発明において, 「再変動」の契機となる,前回の「変動(再変動)」に基づく所定のチャンス 目により仮停止させることを節目として,引用文献2に記載の技術である, 遊技図柄の確変図柄の割合を変化させるという演出である「図柄群変化演出」 を適用することにより,所定のチャンス目が仮停止した後の「再変動」にお いて,当該「図柄群変化演出」により遊技図柄の確変図柄の割合が変化した 後の遊技図柄を用いた変動を実行するとともに,当該「図柄群変化演出」に おいて,遊技の興趣を向上させるために,遊技図柄の確変図柄の割合を変化 させる態様として,上記周知技術の態様を採用して,非確変図柄を確変図柄 に変更することにより,相違点1ないし3に係る本願発明の構成とすること\nは,当業者が容易になし得たものである旨判断したが,引用発明から出発し て,相違点1ないし3に係る本願発明の構成に想到することは,当業者にと\nって容易であったということはできない旨主張するので,以下において判断 する。
ア(ア) 引用文献1には,所定の入賞領域(始動入賞口)に遊技媒体が入賞す る(始動条件が成立する)と識別情報を可変表示(「変動」)可能\な可変 表示装置が設けられ,識別情報の可変表\示の表示結果が特定表\示結果(大 当り図柄)となった場合に遊技者にとって有利な特定遊技状態(大当り 遊技状態)に制御可能に構\成された従来の遊技機において,可変表示が\n実行されるより前に複数回の可変表示に渡って予\告演出を実行し,連続 した予告演出の態様の組合せにより,表\示結果を予告するものも提案さ\nれているが,遊技に有利状態となる可能性が低い予\告演出が実行された 場合には,遊技者が落胆してしまい,遊技の興趣が低下してしまうおそ れがあったという問題があったため,「本発明」の課題は,上記実情に鑑 み,遊技の興趣を向上させた遊技機を提供することを目的とすることに ある旨の開示がある(【0002】,【0003】,【0005】,【0006】)。
(イ) 次に,引用発明の遊技機は,1)「特図ゲームの第1開始条件と第2開 始条件のいずれか一方が1回成立したことに対応して,飾り図柄の可変 表示が開始されてから可変表\示結果となる確定飾り図柄が導出表示さ\nれるまでに,「左」,「中」,「右」の飾り図柄表示エリア5L,5C,5R\nにおける全部にて飾り図柄を一旦仮停止表示させた後,全部の飾り図柄\n表示エリア5L,5C,5Rにて飾り図柄を再び変動させる擬似連の可\n変表示演出であって,擬似連の可変表\示演出(「再変動」)は1回の変動 において最大3回まで実行可能になっていて,再変動の回数が多ければ\n多いほど,大当り信頼度が高くなるように変動パターンが決定され,決 定された変動パターンなどに基づいて演出制御パターンとしての特図 変動時演出制御パターンをセットし,演出制御パターンに含まれる,演 出装置における演出動作の制御内容を示し,演出制御の実行を指定する 表示制御データ#1〜表\示制御データ#n(nは任意の整数)の内容に 従って,画像表示装置5の制御を進行させる演出制御用CPU120と\nを備え」(構成b),2)「可変表示結果が「リーチハズレ」,「大当り」の\nいずれであるかによって擬似連予告演出が実行される割合,擬似連予\告 パターンの決定割合が異なり,具体的には,可変表示結果が「大当り」\nである場合には,「リーチハズレ」である場合よりも,擬似連予告演出が\n実行される割合が高くなっていて,チャンス目Aが停止する擬似連予告\nパターンYP1−1の擬似連予告演出が実行された場合よりも,チャン\nス目Bが停止する擬似連予告パターンYP1−2の擬似連予\告演出が 実行された場合の方が,可変表示結果が「大当り」となる割合である大\n当り信頼度が高くなっていて,チャンス目の種別により大当り信頼度が 異なるものとされ,4回の変動及び再変動(擬似連3回の変動パターン) に渡って実行される擬似連予告演出の擬似連予\告パターンとして,初回 の変動においてチャンス目Aが仮停止し,2回目の変動(再変動)にお いてチャンス目Bが仮停止し,3回目の変動(再変動)において,背景 画像が特殊な背景画像に変化し,4回目の変動(再変動)においては継 続して特殊な背景画像において変動が実行される擬似連予告パターン\nを設けることで,大当り信頼度が段階的にステップアップしていくよう な演出を行」い(構成c),3)「所定の通常大当り組合せとなる確定飾り 図柄が停止表示されると,通常開放大当り状態に制御され,その終了後\nには,時短制御が行われる一方,所定の確変大当り組合せとなる確定飾 り図柄が停止表示されると,通常開放大当り状態に制御され,その終了\n後には,時短制御とともに確変制御が行われ,確変制御が行われると, 各回の特図ゲームにおいて可変表示結果が「大当り」となる確率は,通\n常状態に比べて高くなり,確変制御は,大当り遊技状態の終了後に可変 表示結果が「大当り」となって再び大当り遊技状態に制御されるという\n条件が成立したときに終了する」(構成e)との構\成を有している。 引用発明は,構成cのとおり,疑似連予\告演出で仮停止するチャンス 目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似連予告演出の回数と背景画像\nの変化とからなる擬似連予告パターンを設けることによって,大当り信\n頼度が段階的にステップアップしていくような演出を行う構成のもの\nであることが認められる。
そして,引用文献1には,チャンス目に関し,「チャンス目Aは,図2 1(A)に示すように,左図柄と中図柄が同じ数字であり,右図柄のみ が1つずれた数字の組合せとなっている。また,先読み予告パターンS\nYP1−2に基づく停止図柄予告では,連続演出用のチャンス目として,\n図21(B)に示すチャンス目CB1〜CB6(チャンス目B)のいず れかが停止する。チャンス目Bは,図21(B)に示すように,並び数 字の組合せとなっている。この実施の形態では,後述するように,チャ ンス目Aが停止する停止図柄予告が実行された場合よりも,チャンス目\nBが停止する停止図柄予告が実行された場合の方が,大当りとなる可能\ 性(大当り信頼度)が高くなっている。このようにすることで,停止図 柄予告が実行されるときに,いずれのチャンス目が停止したかに遊技者\nを注目させることができ,遊技の興趣が向上する。」(【0247】),「ま た,図35(B)に示す決定割合では,チャンス目Aが停止する擬似連 予告パターンYP1−1の擬似連予\告演出が実行された場合よりも,チ ャンス目Bが停止する擬似連予告パターンYP1−2の擬似連予\告演出 が実行された場合の方が,可変表示結果が「大当り」となる割合(大当\nり信頼度)が高くなっている。このように,チャンス目の種別により大 当り信頼度が異なるので,遊技者が停止図柄に注目するようになり,遊 技の興趣が向上する。」(【0370】)との記載がある。上記記載から, 「チャンス目」(チャンス目A及びB)は,「飾り図柄」を構成する個々\nの数字ではなく,「数字の組合せ」であり,「数字の組合せ」に着目して 可変表示結果が「大当り」となる割合(大当り信頼度)に差を設けてい\nることを理解できる。
・・・
イ(ア) 引用文献2には,1)複数種類の遊技図柄を変動表示装置において変\n動表示させることで変動表\示遊技を行う従来の遊技機においては,「リー チ状態」が発生した場合,例えば,遊技者の大当たり状態の発生に対す る期待感を高めて,遊技の興趣を盛り上げるために,最後に停止状態と なる変動表示部における遊技図柄の変動表\示速度を変化させたり,変動 表示部に表\示される遊技図柄の背景領域を利用してキャラクタ等による 演出表示を行ったりするのが一般的であるが,既に在り来たりのもので\nあり,それらの演出表示だけでは遊技者は遊技の興趣を得難くなってお\nり,また,未だ変動表示中の変動表\示部において変動表示される遊技図\n柄の中で特定の組合せ態様を成立し得ない遊技図柄の数を減少させて, 特定の組合せ態様が成立し易いような状態を演出表示することにより,\n遊技者の大当たり状態の発生に対する期待感を高めている遊技機もある が,遊技図柄の数を減少させた状態で行われる変動表示の速度が高速で\nあると,遊技者が遊技図柄の数が減少していることを把握できないまま 遊技を終了してしまうおそれがあるため,変動表示の速度を低速にする\nのが一般的であるが,その場合には,遊技自体にスピード感がなくなり, 変化に乏しい面白みのないものとなり,遊技の興趣を得難いという問題 点があったことから,遊技者の遊技に対する興趣を高める上で斬新な変 動表示を行う遊技機が求められており,2)「本発明」の課題は,上記実 情に鑑み,遊技者の遊技に対する興趣を高めることが可能な遊技機を提\n供することを目的とすることにある旨の開示がある(【0002】ないし 【0004】)。
・・・
ウ 以上を前提に検討するに,前記ア及びイの認定事実によれば,引用発明と 引用文献2に記載の技術は,遊技の興趣の向上という課題が共通し,1回の 変動中に複数段階で演出態様を変化させるという共通の機能を有している\nものと認められるが,一方で,引用発明と引用文献2に記載の技術は,遊技 の興趣の向上のために着目する観点が相違すること(前記イ(イ)),引用発 明の「飾り図柄」は,「基本的態様を示す基本要素部」と「第一属性および 第二属性のいずれが設定されているかを示す属性要素部」の二つの要素部 を有する「識別図柄」であるとはいえず,引用発明の「飾り図柄」のうち の「確変図柄」は,本願発明の「第一属性が設定された識別図柄」に相当 するものではなく,引用発明の「飾り図柄」のうちの「非確変図柄」は, 本願発明の「第二属性が設定された識別図柄」に相当するものではないこ と(前記(3)イ)に鑑みると,引用文献1及び2に接した当業者が,数字の 組合せからなるチャンス目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似連予告\n演出の回数と背景画像の変化に着目し,この観点から,大当り信頼度が段 階的にステップアップしていくような演出を行う引用発明において,遊技 の興趣の向上のために,「一連の遊技図柄」に含まれる確変図柄の割合の大 きさに着目する引用文献2に記載の技術を適用して遊技図柄の確変図柄の 割合を変化させる構成とする動機付けがあるものと認めることはできな\nいし,引用発明に引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用する動 機付けがあるものと認めることもできない。
また,仮に引用発明に引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用 しようとした場合に,引用発明において相違点1ないし3に係る本願発明 の各構成をそれぞれどのように備えることになるのかを具体的に想到す\nることは,当業者にとって容易であるということはできない。 そうすると,本件審決の相違点1ないし3の容易想到性に関する前記判 断のうち,「当該「図柄群変化演出」において,遊技の興趣を向上させるた めに,遊技図柄の確変図柄の割合を変化させる態様として,上記周知技術 の態様を採用して,非確変図柄を確変図柄に変更することにより,相違点 1ないし3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得た」\nとの部分は,論理付けが不十分であって,採用することができないから,\n本件審決における相違点1ないし3の容易想到性の判断には誤りがある。
エ これに対し被告は,1)引用発明と引用文献2に記載の技術は,遊技者に 段階的に有利となる期待感を高めることで興趣を向上させるという点で 課題が共通し,1回の変動中に複数段階に演出態様を変化させるという点 で作用・機能も共通すること,2)擬似連変動を行うパチンコ機において, 図柄や画像の段階的な変化を仮停止後の再変動を契機に行うことは,広く 一般に周知の技術であること,3)引用文献2の【0074】の「前記一連 の遊技図柄に含まれる確変図柄の割合を変更させることが可能であれば\n如何なる方法であっても良い。」との記載は,引用文献2に記載の技術にお いて,「図柄群変化演出」により遊技図柄(識別図柄)の確変図柄の割合を 変化させる方法について,実施例に例示した形態以外の他の周知の態様に 置換することを許容していることを示唆するものであり,当該他の周知の 方法の具体例として,本件周知技術である「通常図柄を確変図柄扱いにし ていく図柄変化演出」が存在することに鑑みると,引用文献1及び2に接 した当業者は,引用発明における「1回の変動」における「擬似連」とし てその各「仮停止」した後の「再変動」において,「図柄群変化演出」によ り遊技図柄の確変図柄の割合が変化した後の遊技図柄を用いた変動を実 行する構成とし,当該「図柄群変化演出」において,遊技の興趣を向上さ\nせるために,遊技図柄の確変図柄の割合を変化させる態様として,本件周 知技術の態様(「変化前に表示装置において変動表\示されていた識別図柄 群には含まれていなかった新規の識別図柄となるように設定された図柄 群変化演出を,変化前の非確変図柄を消して替わりに新たな確変図柄を出 現させること」)を適用して,相違点1ないし3に係る本願発明の構成とす\nることを容易になし得たものである旨主張する。
しかしながら,前記ウで説示したとおり,引用発明と引用文献2に記載の 技術は,遊技の興趣の向上のために着目する観点が,引用発明においては, 数字の組合せからなるチャンス目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似 連予告演出の回数と背景画像の変化であるのに対し,引用文献2に記載の\n技術は,「一連の遊技図柄」に含まれる「確変図柄の割合」の大きさである点 において相違すること,引用発明の「飾り図柄」は,「基本的態様を示す基 本要素部」と「第一属性および第二属性のいずれが設定されているかを示 す属性要素部」の二つの要素部を有する「識別図柄」であるとはいえず, 引用発明の「飾り図柄」のうちの「確変図柄」は,本願発明の「第一属性 が設定された識別図柄」に相当するものではなく,引用発明の「飾り図柄」 のうちの「非確変図柄」は,本願発明の「第二属性が設定された識別図柄」 に相当するものではないことに照らすと,上記1)及び2)の点を考慮しても, 引用文献1及び2に接した当業者が,引用発明において,遊技の興趣の向 上のために,引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用して遊技図柄 の確変図柄の割合を変化させる構成とする動機付けがあるものと認める\nことはできない。

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◆令和2(行ケ)10036

◆令和2(行ケ)10037

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令和2(行ケ)10133  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所

 商標「Ujicha」が識別力無しとした審決が維持されました。3条2項も否定されました。出願人は、漢字「宇治茶」を地域団体商標登録している京都府茶協同組合です。

 ア 原告は,漢字表記の「宇治茶」は,「京都府宇治地方から産出する茶」\nという意味を持つほか,本件地域団体商標の存在により,商品に付された 場合,原告の業務に係る商品であることを示す出所識別機能を有すると主\n張する。 しかし,商標法7条の2は,地域名と商品名からなる商標は自他識別力 を有しないため,原則として同法3条1項3号又は6号に該当すると解さ れることから,一定の要件を備えた場合に,「第3条の規定(同条第1項 1号又は第2号に係る場合を除く。)にかかわらず,」地域団体商標の商 標登録を受けることができるとしているものであり,地域団体商標の登録 を受けたからといって,当然に同法3条1項3号に該当しない(出所識別 機能を有する)ことになるわけではないことは明らかである。\n
イ 原告は,欧文字表記の「Ujicha」は商品の産地等を「普通に用い\nられる方法で表示するもの」でないと主張する。\n しかし,前記のとおり,多数のウェブサイトにおいて,本願の指定商品 又は関連する商品に関して,「UJICHA」,「Ujicha」,「U ji cha」,「UJI−CHA」,「Uji」,「“Uji”」,「U JI」といった文字が包装に使用されていることが認められるし,さらに, 国際化の進展による外国人需要者の増加や,我が国におけるローマ字の普 及状況も考慮すれば,欧文字表記は,取引者において一般的に使用する範\n囲に属するものであって「普通に用いられる方法」に当たるというべきで あるから,原告の主張は採用することができない。
ウ 原告は,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとすれば,同法26 条1項2号により,本件地域団体商標に係る商標権の効力(同法37条1 号に規定する排他権)は,「Ujicha」の商標に及ばないこととなり, 地域団体商標制度を設けた趣旨が没却されると主張する。 しかし,地域団体商標の登録を受けたからといって,当然に当該商標が 同法3条1項3号に該当しないことになるわけではないことは前記アのと おりであるし,本件地域団体商標に係る効力がそれとは異なる「Ujic ha」の商標に及ばないからといって,地域団体商標制度を設けた趣旨が 没却されるとは到底いえないから,原告の主張は採用することができない。
ア 原告は,本願商標の使用の事実を立証するものとして,原告の組合員(甲 4)である株式会社伊藤久右衛門(以下「伊藤久右衛門」という。)の使 用に係る甲1,2と,矢野園の使用に係る甲5,6を提出する。 イ まず伊藤久右衛門の使用について判断すると,同社は,かぶせ茶,煎茶, ほうじ茶についてそれぞれティーバッグを販売しているところ(甲1), 甲2は,そのうちかぶせ茶の包装について,中央上部に大きく「かぶせ茶」 の横書きの記載があり,その下に「急須用ティーバッグ」,さらにその下 に「UJICHA TEA BAG」と横書きで記載されており,煎茶や ほうじ茶についても中央上部にそれぞれ茶の種類が記載されているもの と推認される。 そうすると,本願商標「Ujicha」と甲2の表示は,その文字数や\n記載ぶりが大きく異なるものというべきであるから,両者が実質的に同一 であると認めることはできない。 よって,伊藤久右衛門による甲2の表示については,商標法3条2項に\nいう使用がされたものとは認められない。
ウ 次に,矢野園の使用については,同社は,その商品の包装の中央部に, 煎茶については「産地直送 宇治蔵出し煎茶」の,玉露については「産地 直送 宇治蔵出し玉露」の大きな縦書きの記載をし,その下部に横書きで 「UJICHA」の記載をしているが,同包装には,原告との関連性を示 す記載はない(甲5,6)。 このような記載では,原告固有の商標として表示しているのか,単なる\n産地表示や品質表\示として表示しているのかが明らかとはいえず,当該表\ 示に接する需要者が,本願商標について,原告又はその構成員固有の出所\n識別標識であると直ちに認識,理解するとはいえない。
エ 甲7,8によれば,矢野園が包装に「UJICHA」の記載をした煎茶 について,平成20年に東京に1万本,平成21年に金沢に1万本売り上 げたことが認められるが,販売期間,累計の販売数量,売上金額,販売地 域を裏付ける証拠はなく,原告の他の組合員に関しては,本願商標を付し た指定商品の売上に関する証拠は提出されていないし,原告又はその組合 員による本願商標を付した指定商品の市場占有率を裏付ける証拠もない。 他方で,本願の指定商品又は関連する商品に関して,原告の組合員以外の ウェブサイトにおいて,「UJICHA」(乙7,8,12,13),「U jicha」(乙14),「Uji cha」(乙9),「UJI−CH A」(乙10,11)といった「宇治茶」の欧文字表記を包装に表\示した 商品が掲載されている。
オ 以上を前提に検討すると,本願商標に通じる「宇治茶」は,前記1の とおり,「京都府宇治地方で産出する茶」を指称する語として広く受け入 れられ,もともと特定の主体と結びつき難いものである一方,原告の組合 員である伊藤久右衛門による甲2の表示については,そもそも商標法3条\n2項にいう使用がされたものとは認められないし,矢野園による本願商標 の使用態様も,原告固有の商標として表示しているのか,単なる産地表\示 や品質表示として表\示しているのかが明らかとはいえない態様のもので ある。また,原告の組合員による本願商標を付した指定商品の販売期間, 販売数量,累計の売上金額,販売地域,市場占有率等については,矢野園 による平成20年及び平成21年の散発的な販売実績を除き,これを裏付 ける証拠はなく,結局,原告又はその構成員による本願商標の使用状況は\n明らかでない。さらに,原告の組合員以外の者が,「UJICHA」,「U jicha」,「Uji cha」,「UJI−CHA」といった「宇治 茶」の欧文字表記を包装に表\示した商品を販売しているという実情があ る。
これらを総合すると,本願商標が,原告又はその構成員により使用をさ\nれた結果,需要者が原告又はその構成員の業務に係る商品であると全国的\nに認識されているとはいえず,本願商標は商標法3条2項の要件を具備し ないというべきことは明らかである。

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令和2(行ケ)10085 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月9日  知的財産高等裁判所

 特許庁審査官は、PCTの国際手続きでおこなった補充の扱いについて、欠落部分を含まないようにする手段(施行規則38条の2の2第4項)をしなかったため、出願日が繰りさげて、自己公表よりあとの出願として拒絶査定としました。これについて取消を求めましたが認められませんでした。具体的には、PCT出願のあとに、米国で補充手続きをしましたが、その間に発明者による公表行為がありました。

 前記第2の4のとおり,平成24年10月1日より前の国際特許出願 である本願には,特許協力条約の「引用による補充」に関する規定は適用されない から,本願について「引用による補充」によって本件欠落部分を含んだ出願の出願 日が本願の国際出願日である平成23年8月25日になることはなく,本件欠落部 分を受理官庁に提出した同年9月29日となるが,本件欠落部分を含まない場合に は,本願の出願日が同年8月25日となる。 そして,本願に本件欠落部分を含まないようにする手段として施行規則38条の 2の2第4項の手続が定められているのであるから,同手続によることなく本件欠 落部分を含まないようにすることはできないものと解される。 前記1のとおり,原告は,施行規則38条の2の2第1項に基づいて本件通知を 受けたにもかかわらず,本件指定期間内に本件欠落部分が本願に含まれないものと する旨の同条4項の請求をしなかったのであるから,本願の出願日が平成23年9 月29日となることは明らかである。
イ 前記1のとおり,本願発明と同一の発明である引用発明が掲載された本 件学術誌が,本願の出願日の前の平成23年9月11日に公開されたのであるから, 本願発明には,新規性が認められない。
(2) 原告は,1)出願日が発明の公知日よりも後になることを知らずに,論文発 表等により発明を公知にしてしまった場合は,錯誤に陥って発明を公知にしてしまったのであるから,改正前特許法30条2項の「意に反して」に該当する,2)改正 前特許法30条2項の「意に反して」とは,権利者が発明を公開した後に,権利者 の意に反して出願日が繰り下がり,当該発明が遡及的に出願日よりも前の公知発明 となってしまった場合も含むとして,本願においては,同項が適用されるべきであ ると主張する。 しかし,本件において,原告は,引用発明が掲載された本件学術誌が公開された ことを認識していたことは明らかである。原告は,当初の出願後に「引用による補 充」を求めた行為によって出願日が繰り下がることを認識し得たのであり,また, 改正前特許法30条4項に規定する手続を,特許法184条の14に規定する期間 内に行うことも可能であったといえる。したがって,本件においては,改正前特許法30条2項の「意に反して」には当たらず,同項は適用されないというべきである。\nこの点について,原告は,出願日が繰り下がることがあることを知らなかったと 主張するが,それは日本の特許法についての知識が乏しかったということにすぎず, 上記判断を左右するものではない。
(3) 原告は,本件通知によって出願日が繰り下がる認定がされた日は平成25 年9月24日であり,この時点では既に「国内処理基準時」から30日が経過して いるから,原告が改正前特許法30条4項に規定する手続を行うことは不可能であると主張する。\nしかし,原告は,米国特許商標庁に対し,平成23年9月29日に,本件欠落部 分につき「引用により補充」を求める書面を提出しているのであるから,この時点 で,将来,施行規則38条の2の2第4項の請求をしない限り,本願の国際出願日 が平成23年9月29日となり,本件論文が本願の国際出願日前に公開されたこと になることを認識し得たものである。したがって,原告は,国内処理基準時(特許 法184条の4第6項)から30日以内(特許法184条の14,特許法施行規則 38条の6の3)に,改正前特許法30条1項の適用を受けることができる発明で あることを証明する書面を特許庁長官に提出することができたものということがで きる。 よって,原告の上記主張は理由がない。
(4) 以上より,取消事由1は認められない。
3 取消事由2(本願の出願日の認定の誤り)について
(1) 前記2(1)アのとおり,本願の国際出願日は,平成23年9月29日であ る。
(2) 原告は,特許庁長官に提出した翻訳文には,本件欠落部分が含まれていな かったから,本願の明細書には本件欠落部分が含まれていないとみなされ,また, 特許法184条の6第2項により,本件翻訳文は,願書に添付して提出した明細書 とみなされるから,本件欠落部分は本願の明細書の範囲外となっていると主張する。 しかし,前記2(1)アのとおり,本願の国際出願日は平成23年9月29日であり, このことは,特許法184条の4第1項に基づき指定官庁である特許庁長官に提出 した本件翻訳文に本件欠陥部分の翻訳が含まれていたか否かや,本件翻訳文が特許 法36条2項の明細書とみなされ(特許法184条の6第2項),外国語特許出願に 係る明細書等について補正できる範囲は,翻訳文の範囲に限定されている(特許法 184条の12第2項)ことで影響を受けるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,本件通知には,本願について「引用による補充」がなかったとする 場合には,本件指定期間内に条約規則に基づく請求書に所定の事項を記載して提出 するとともに,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提 出してほしいことが記載されているが,本件通知の発送よりも前に,手続補正によ り削除すべき本件欠落部分が明細書に存在しないことになるから,本件通知に応答 して,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提出するこ とは不可能であり,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提出することを求める本件通知は法律に基づいた処分ではなく,重大かつ明白な瑕疵があると主張する。\nしかし,本件通知の文書に上記の記載があるからといって,本願の国際出願日の 認定が左右される理由はない。
(4) 原告は,翻訳文からあえて膨大な量の本件欠落部分を除いているのである から,本件翻訳文の提出をしたことにより,本件欠落部分が本願に含まれないもの とする旨の請求をする意思を持っていることが客観的に明らかであるところ,原告 は,本件翻訳文の提出により,本願に「引用による補充」がなかったとする黙示的 な意思表示をしており,同意思表\示は,施行規則38条の2の2第4項の請求に当 たるから,本件通知には重大かつ明白な瑕疵があるとともに,本件通知に対する応 答があったとみなされるべきであると主張する。 しかし,施行規則38条の2の2第4項は,特許庁長官が,認定された国際出願 日を通知する際に指定した期間内に,条約規則20.5(c)の規定によりその国際特 許出願に含まれることとなった明細書等が当該国際特許出願に含まれないものとす る旨の請求をすることができる旨を規定しており,本件通知前にした本件翻訳文の 提出行為が,上記の請求に当たらないことは明らかである。このことは,本件欠落 部分の分量が70頁であり,一方,本願の当初の明細書の分量が22頁であること によって左右されるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。

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令和2(行ケ)10127  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月25日  知的財産高等裁判所

 商標の不使用が争われた事件で、指定商品「工楽松右衛門の創製した帆布」に使用したのかが争われました。知財高裁は指定商品の意義を検討した上、使用に該当すると判断した審決を維持しました。

(ア) 本件指定商品における「工楽松右衛門の創製した帆布」の意義につい て,まず検討する。
前記(1)エで認定した各文献の記載によると,播州高砂の船頭であった工樂松右 衛門は,江戸時代後期の天明年間に,従来使われていた刺し帆より耐久性や強度な どに優れる織り帆を発明し,それが「松右衛門帆」として全国に伝播し,明治時代 頃まで帆船の帆などとして広く利用されていたものと認められる。 もっとも,前記(1)エの各文献の記載にあるとおり,現代において帆船が用いられ なくなったことに伴い,「松右衛門帆」は急速に姿を消していったものと認められ, B論文(甲7)の表にあるとおり,現代においては,残存する「松右衛門帆」も限\nられたものとなっていたと認められる。そして,前記(1)エの各文献等の記載や前記 (1)ウ(ア)のとおり,被告による「松右衛門帆」の復元に当たって,D教授が改めて 調査を行っていることも考え併せると,被告が,平成22年頃から「松右衛門帆」 を復元したとする本件布地を用いた商品の製造販売を始めるまでの間,「松右衛門 帆」が,具体的にどのようなものであるのかについて,B教授のような一部の専門 家以外の者には,その詳細は不明なものとなっていて,本件指定商品の取引者,需 要者たる一般人が,容易に調査できる範囲の資料から得られる「松右衛門帆」につ いての情報は,前記(1)エ(ア)の各辞典に記載されていた「太い綿糸で織られた幅広 の厚手の帆布」程度のものになっていたと認められる。 このような状況において,前記(1)ウ(ア),(イ)のとおり,被告は,D教授の協力を 得て,神戸大学海事博物館に所蔵されていた,原告らの実父で,帆船について研究 をしていたCによって寄贈された「松右ヱ門帆」という資料名の布の調査に基づい て,1)現在,一般に流通している帆布と異なり,2本の単糸を引き揃えにしている 点や2)緯糸が経糸より3倍太くなっていて,極端に太い点などの特徴を有する布地 (本件布地)による,かばん等の商品の製造販売を始めた。 そして,前記(1)ウ(ウ)認定の被告や御影屋による広告宣伝活動や同エ(イ)f以降 及び同(ウ)の第三者による文献等の記載から分かるとおり,平成22年頃以降から 要証期間中にかけて,被告や御影屋が「松右衛門帆」を復元したとする本件布地を 用いた商品の製造販売を開始して広告宣伝活動を行うことで,「松右衛門帆」とは, 被告が復元した上記1),2)のような特徴を持つ本件布地を指すものであるという認 識が,取引者,需要者の間に広まっていたものと認められる。
そうすると,遅くとも,本件商標を付した本件かばん2が,一般消費者に販売さ れ,平成30年2月5日に納品された時点で,本件指定商品の取引者,需要者は, 「松右衛門帆」,すなわち,「工楽松右衛門の創製した帆布」とは,本件布地のよう な「太い木綿糸を用い,太さの違う経糸と緯糸を2本引き揃えて織った厚く丈夫な 布地」(前記(1)ウ(ア))であると認識していたものと認められる。
(イ) 原告らは,1)本件指定商品中の「工楽松右衛門の創製した帆布」とは,
「天明年間に播州高砂に実在した船頭である工樂松右衛門がはじめてつくりだした 帆布」を意味しており,「松右衛門帆」は,「工楽松右衛門の創製した帆布」の上位 概念であるから,「松右衛門帆」から「工楽松右衛門の創製した帆布」の意義を解釈・ 認定するのは誤りである,2)布の耳部(両端)1寸ほどについては縦糸1本横糸2 本で織り,それ以外の部分については縦糸2本横糸2本で織っている(特徴1)),幅 の長さは2尺5寸(約75センチ)ほどのものである(特徴2))という二つの特徴 を備えないと,「工楽松右衛門の創製した帆布」とはいえない,3)神戸大学海事博物 館所蔵の帆布はその出自が不明である上,耳部が失われているから,「工楽松右衛門 の創製した帆布」とはいえない,4)工樂松右衛門が創製した当時の「松右衛門帆」 に使われていた糸は2.2番手相当であり(甲68),神戸大学海事博物館に所蔵さ れていた帆布や本件布地とは糸の太さが異なるし,織布の密度も異なる上,本件布 地の織り方は他の織り方においても認められる構造である,5)本件指定商品の意義 は,登録事項に基づき客観的に認定判断されるべきであり,商標権者である被告自 身の広告宣伝によって定まるとするのは不当であるなどと主張する。
a 上記1)について
前記(1)エの文献の記載を見るに,各辞典(甲46〜48)では,「工楽松右衛門 の創製した帆布」と「松右衛門帆」を同じものとして扱っており,また,各文献(甲 3〜7)においても,「この松右衛門が開発した,いわゆる『松右衛門帆』」(甲4),「松右衛門帆は,高砂在住の松右衛門帆が天明(1785)に創製した」(甲7)な どと,各辞典と同様に「工楽松右衛門の創製した帆布」と「松右衛門帆」を同じも のとして扱っているから,「工楽松右衛門の創製した帆布」と「松右衛門帆」は同じ ものであると認められ,原告らが主張するように両者が異なるものであるとは認め られず,上記(ア)の認定判断は左右されない。
b 上記2)について
前記(1)エ(イ)a,dのとおり,甲3には「工楽家に現存する帆」として幅3尺の ものが存在する旨の記載がある上,B論文(甲7)の表の中にも,幅が2尺5寸と\nは大きく異なる1尺9寸5分のものが記載されているし,同論文には,「現在の工業 製品と違って,織り幅を規格化していたかどうか疑問で,また,織り手によって多 少差があったのではないだろうか。」と記載されている。そして,前記(1)エ(イ)a, eのとおり,「松右衛門帆」は,人伝いに各地に伝播していったもので,中には地方 において見様見真似で織ったものも存在していた(甲3,4)とされている。そう すると,「松右衛門帆」とされるものの幅やその他の性状といったものについては, 「松右衛門帆」が船の帆として使用されていた当時から既に相当にバラつきがあっ たものと推認できるところである。 また,前記(1)ウ(イ)で認定したように,被告の商品のかばん類に耳部が用いられ ておらず,裁断されるなどして,織り上げられた時点とは幅も異なるものとなって いることからすると,布地の耳部は,一般的に布地から製品を作る際に必ずしも使 用されるものではなく,また,布地の幅も,それぞれの製品に応じて裁断されるな どして異なったものとなると認められるところ,前記(1)エ(イ)d,e のとおり,「松 右衛門帆」は,船の帆として利用されただけでなく,前垂れや覆い,敷物などの他 の用途にも利用されていた(甲4,7)のであるから,そのような中で,「松右衛門 帆」が,幅二尺五寸以外の大きさに加工されたり,耳部がない形で利用されたりす ることもあったものと推認できる。 さらに,現代において,帆船の減少に伴い,「松右衛門帆」の意義が不明確なもの となっていたのは,上記(ア)で認定したとおりである。
以上からすると,「松右衛門帆」が船の帆として使用されていた当時から,特徴1), 2)が,「松右衛門帆」の特徴として広く認識されていたとは認められないし,まして, 「松右衛門帆」の意義が一旦不明確となった以降で,かつ,前記(1)エ(イ)aのとお り,一般に帆布が船の帆に限られず幅広く様々な製品で使われるようになった本件 査定日や要証期間の時点において,特徴1),2)が,「工楽松右衛門の創製した帆布」 の特徴として,本件指定商品の取引者,需要者に認識されていたとは認められず, 原告らの上記主張は,上記(ア)の認定判断を左右するものではない。 なお,原告らは,被告も,耳部が「松右衛門帆」の特徴であるとして宣伝してい る(甲9)から,特徴1)が「松右衛門帆」の特徴である旨主張するが,甲9にも記 載されているように,被告や御影屋が製造販売するかばんには,耳部は使われてい ないのであるから,原告らの上記主張は採用できない。
c 上記3)について
前記(1)ウ(ア)のとおり,神戸大学海事博物館所蔵の帆布は,帆船の研究をしてい た原告らの実父によって寄贈され,同博物館で「松右ヱ門帆」として保管されてき たものであるから,前記(1)ウ(イ)のとおり同帆布の調査に基づいて復元された本件 布地が「松右衛門帆」とはいえないということはできない。原告らが主張する耳部 に関する特徴1)が,現代において,「松右衛門帆」の特徴として,本件指定商品の取 引者,需要者に認識されていたとはいえないことは,上記bで認定判断したとおり であり,原告らの主張はその前提を欠いている。
d 上記4)について 上記bのとおり,「松右衛門帆」が船の帆として使われていた当時から,その規格 にはバラつきがあったものと認められるところ,神戸大学海事博物館に所蔵されて いた「松右ヱ門帆」は,上記cのとおりのものであって,これとは異なる「松右衛 門帆」が存在するからといって,神戸大学海事博物館に所蔵されていた「松右ヱ門 帆」が「松右衛門帆」であることを否定することはできない。 また,神戸大学海事博物館に所蔵されていた「松右ヱ門帆」や本件布地の織り方 が他にも認められる構造のものであったとしても,それが「松右衛門帆」であるこ\nとを否定することにはならない。
e 上記5)について
上記(ア)で認定判断したように,現代において「松右衛門帆」の意義が不確かなも のとなっていたところ,被告や御影屋による広告宣伝活動の結果として,要証期間 までの間にその意義が再度認識されるようになってきているのであり,取引の実情 として,「松右衛門帆」,すなわち,「工楽松右衛門の創製した帆布」の意義を認定す るに当たり,被告や御影屋の広告宣伝活動の結果を考慮に入れることは何ら不当で はないし,上記(ア)で認定判断した事実経過からすると,第三者の地位を著しく不安 定にするということはない。 また,前記(1)ウ(ア),(イ)のとおり,被告は,神戸大学海事博物館において「松右 ヱ門帆」として所蔵されていた,帆船の研究家である原告らの実父が寄贈した帆布 を調査し,これを復元することを試みて,本件布地を完成させている上,本件布地 の特徴が,前記(1)エ(ア)の各辞典に記載されている「松右衛門帆」の特徴と合致す るのみならず,同(イ)の文献に記載されている「松右衛門帆」の特徴とも耳部以外の 点で概ね合致するものであることからすると,被告や御影屋が,本件布地を「松右 衛門帆」,すなわち,「工楽松右衛門の創製した帆布」として販売することは,本件 指定商品の品質について誤認を生じさせて公益を害するものとはいえず,本件にお いて,被告や御影屋の広告宣伝の結果を考慮に入れることは,このような観点から も相当なものといえる。 したがって,原告らの上記5)の主張は採用することができない。
f 小括 以上から,原告らの上記1)〜5)の主張はいずれも採用することができないし,そ の他原告らが主張するところも,いずれも上記(ア)の認定判断を左右するものでは ない。
イ 本件かばんが,「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」である のかについて
前記アで認定した本件指定商品における「工楽松右衛門の創製した帆布」の意義 に基づいて,本件かばん2が,「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」に 該当するかについて検討する。 前記(1)ウ(ア),(イ)のとおり,被告は,D教授が神戸大学海事博物館において「松 右ヱ門帆」として所蔵されていた帆布についてした調査に基づき復元した本件布地 を使用して,本件かばん2を製作したところ,本件布地は,太い木綿糸を用いて, 2本の単糸を引き揃えにして平織りにし,かつ,緯糸の太さが,経糸より約3倍太 くなっていた厚手の帆布なのであるから,本件布地は,取引者,需要者が観念し得 る「工楽松右衛門の創製した帆布」としての要件を満たすものであったといえる。 したがって,本件布地を使用した本件かばん2は,「工楽松右衛門の創製した帆布 を用いたかばん類」に該当するものであったと認めるのが相当である。 以上のとおり,本件商標の通常使用権者である御影屋は,要証期間内である平成 30年2月頃に本件商標を付した「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」 に該当する本件かばん2を一般消費者に販売していたのであるから,本件商標は, 要証期間中に,日本国内において,通常使用権者により,本件指定商品中,「工楽松 右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」について使用されていた(商標法2条3 項1,2号)ということができる。

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令和2(行ケ)10084  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年2月25日  知的財産高等裁判所

 空調服について、使用による顕著性(3条2項)が認められました。審決は識別力無し&使用による顕著性(3条2項)なしでした。 ア 原告らは,原告各社が生み出した「空調服」の文字構成には強い独創性\nがあり,かつ,「空調」という語と「服」という親和性の乏しい語とを結合させて 意味付けることは困難であること,「空調服」の語は,漢字3文字から構成される\n短い用語で,一連一体の語として発音され,切れ目がなく,ひとまとまりの造語と して需要者,取引者に認識されてきたことから,「空調」と「服」とを分離して検 討することはできないと主張する。
しかし,「空調」という語と「服」という語の親和性の程度が本来的には高いと いい難いことを考慮しても,「空調服」の語が特定の意味合いを有すると理解でき ることは,上記(1)のとおりである。また,上記(1)で指摘した,「服」が末尾に来 る一般的な名詞の例に照らしても,漢字3文字から構成される短い用語であること\n等から,「空調」の語と「服」の語を分離できないということはできない。そして, 「空調服」という文字構成を原告各社が生み出したという事情は,「空調服」とい\nう語を分離して解釈できるか否かを左右するものではない。 イ 原告らは,「空調服」を「空調」と「服」とに分離して解釈したとして も,「空調」の意味からすると,「空調服」が通気機能を備えた作業服の品質を表\ すものとはいえないと主張するが,「空調」の語の意義を考慮すると,「通気機能\nを備えることにより,空気の温度等を調節する機能を有する服」を認識させるもの\nと解されることは,上記(1)のとおりである。電気機械器具品質表示規程の定めは,\nこの認定を左右するものではない。
ウ 原告らは,「空調服」の語の一般的な使用例について,1)原告各社等以 外のEFウェアのメーカーによっては一切使用されておらず,「EFウェア」等の 語が定着していること,2)ネット通販サイトにおける「空調服」の使用例について は,EFウェアにおける原告商品の認知度の高さゆえに「空調服」の表記が用いら\nれたものにすぎず,同表記が原告商品以外の商品の自他商品識別表\示として用いら れているわけではないこと,3)EFウェアの取引のごく一部に係るものにすぎない ネット通販サイトにおける記載(誤用例)をもって需要者,取引者の認識を判断す ることはできないこと,4)当該「空調服」が原告商品を指しているものが含まれて いること,5)「日本経済新聞」などのメディアについては,順次,「空調服」が原 告各社の商標であることについての訂正がされていること,6)特許出願明細書や実 用新案登録出願の明細書については,出願人がファン付き作業服の需要者や取引者 であるとは限らず,需要者,取引者の認識を表すとはいえないことなどを主張する。\nしかし,他に「EFウェア」等の語が存在することから直ちに,「空調服」の語 が「EFウェア」等の語とは異なる意義を有するということはできないし,作業服 メーカーによる用語法をもって直ちに本願指定商品の需要者の認識を表すものとい\nうことはできない。また,他に原告らが主張する事情は,商標法3条2項に該当す るかどうかについて考慮することができる事情とはいえても,上記(1)の認定判断 を左右するものとはいえない。
3 商標法3条2項該当性について
(1) 特別顕著性について
ア 原告商品「空調服」は,原告ら代表者の発案により原告セフト研究所が\n開発したもので,原告空調服が「空調服」の販売を本格的に開始した平成17年当 時,「空調服」のほかにEFウェアは存在せず,「空調服」は,極めて独自性の強 いものであった(前記1(2)イ)。そして,ファンが衣服に取り付けられているとい う「空調服」は,平成17年当時,他に例のない形態で,これを目にした者に強い 印象を与えるものであったと解される。 また,前記2(1)で指摘したように,本願商標「空調服」の語の意味内容を,本来 の字義から直ちに理解することには一定の困難があり,上記のように,EFウェア という商品分野がいまだ存在しなかった当時においては,「空調服」という語の構\n成も,強い独自性を有していたということができる。 そうすると,「空調服」という商品やその「空調服」という名称は,強い訴求力 を有していたといえる。
イ 上記アの事情に加えて,EFウェアという商品分野において,平成27 年頃まで約10年間は,原告各社等によって市場は独占されていたこと(前記1(3) ア)及び前記1(2)イ〜カで認定した諸事情,特に,「空調服」が原告らの商品を指 すものとして,全国紙を含む新聞や雑誌で多数回にわたって取り上げられたこと, 全国放送の番組を含むテレビ番組でも多数回にわたって同様に取り上げられたこと, 建設会社等の企業に導入されたことなどを踏まえると,平成27年頃までには,「空 調服」は,「通気機能を備えた作業服・ワイシャツ・ブルゾン」という商品分野に\nおいて,原告らの商品として,需要者,取引者に全国的に広く知られるに至ってい たものと認めるのが相当である。
ウ その後,平成27年頃から他社がEFウェアの市場に参入するようにな り(前記1(3)ア),新聞記事やネットショッピングサイト等においてEFウェアを 示す語として「空調服」の語が用いられること(前記1(5)ア(イ))もあったが,原 告商品「空調服」が上記のとおり広く知られていたために同種の商品を「空調服」 と呼ぶ例が生じたと認められる。そして,1)前記1(3)ア〜クで認定した諸事情,特 に,平成28年以降においても,「空調服」が原告商品を指すものとして,又はE Fウェアの元祖が原告空調服の「空調服」であるとして,全国紙を含む新聞や雑誌 で多数回にわたり取り上げられ,また,全国放送を含むテレビ番組等においても同 様に取り上げられ,原告空調服による広告もいろいろな形態で行われ,企業におけ る「空調服」の導入例も拡大してきたことなどの事情,2)「空調服」以外にEFウ ェアを指す一般的な用語が用いられていること(前記1(5)ア(ア)),3)EFウェア の他のメーカーにおいては,「空調服」とは異なる商品名やブランド名で販売活動 を行っていること(前記1(5)イ),4)多くの他業者の参入があっても,なお,平成 30年及び令和元年(平成31年)の時点において,原告各社等による「空調服」 はEFウェアの3分の1程度のシェアを占めていること(前記1(4)イ)を考慮する と,「空調服」は,原告らの商品の出所を示すという機能を失うことなく,その認\n知度を高めていったものと認めることができる。
エ したがって,本件審決時である令和2年4月30日の時点において,本 願商標「空調服」は,使用をされた結果,本願指定商品の需要者,取引者が,原告 各社の業務に係る商品であることを認識することができるものであるから,商標法 3条2項に該当するというべきである。

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令和2(行ケ)10043  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所

 特許取消審決が取り消されました。争点は動機付けです。裁判所は課題および上限値が知られていたとはいえないと判断しました。 

 引用発明c−1は,粒子径分布が好適範囲に管理されていても,平均粒 子径から大きく逸脱する粗大粒子が存在する場合には,表示品位の低下や,光学フ\nィルムに欠点が生じる(段落[0005])ため,好適な粒子径を逸脱する粗大な 粒子の含有量が低レベルに低減された微粒子,及び,このような微粒子の製造方法, 並びにこの微粒子を含む樹脂組成物を提供するものであり(段落[0006]), 湿式分級と乾式分級とを組み合わせた方法により処理することで,粒径の好適範囲 から逸脱する粗大粒子や微小粒子を一層効率よく低減するものである(段落〔00 09〕)。
本件発明は,前記(1)アのとおり,架橋アクリル酸系樹脂粒子の揮発分が塗膜表\n面にムラなどを生じさせる結果,塗膜表面の傷付き性能\の低下が生じてしまうこと を解決することを課題としているところ,甲2−3には,このような本件発明の課 題は現れていない。
また,前記(2)によると,合成樹脂粒子の製造については,水分量を低減させ, 残存モノマーを低減させることにより,その品質を向上させることが知られていた ことは認められるが,前記(2)の各証拠から,本件発明のように,粒子中の揮発分 が表面ムラの発生や,塗膜表\面の傷付き性低下などを生じさせていたこと(本件明 細書の段落【0005】)という課題や,この課題を解決するために,加熱減量を 減ずるという構成を採用することが,本件優先日当時,当業者に知られていたと認\nめることはできないし,まして,本件発明の「加熱減量のす.5%」が当業 者に知られていたと認めることはできない。
そして,他に,上記の点について動機付けとなる証拠が存するとは認められない から,甲2−3によって,相違点c−1を容易に想到することができたと認めるこ とはできず,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 被告は,合成樹脂粒子の技術分野において,粒子の残存モノマー,水分などの揮 発分が存在することに起因して,何らかの問題が発生する場合に,当該揮発分の量 を一定量以下に低減化させることは,一般的な共通課題であるから,本件発明1は, 引用発明c−1から容易想到であると主張するが,被告の上記主張を採用すること ができる証拠がないことは,既に説示したところから明らかである。
(4) 以上によると,本件発明1が,当業者が容易に発明をすることができたも のであるとする本件決定の判断に誤りがある。
そして,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものでないから, 本件発明4,8も,当業者が容易に発明をすることができたものではないし,さら に,本件発明9及び本件発明10も,当業者が容易に発明をすることができたもの ではない。

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平成31(ワ)3273  差止請求権不存在確認請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月25日  大阪地方裁判所

 CS関連発明について大阪地裁26部は均等侵害を認めました。問題となった構成は「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」です。この構\成は審査段階で補正で追加されたものです。私の記憶ではCS関連発明でかつ補正した要件について均等を認めたのは初事例と思います。

 イ 原告は,組画の逐次又は一斉の表示をして記憶する人の「作業」となる部分\nを削除しつつ,組画の表示を構\成要件 B2 の選択手段に限定して,明確性の欠如に 係る拒絶理由を補正すると共に,「組画を逐次又は一斉に表示して」とする構\成を 削除し,かつ,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」を付加したとい う本件補正の経緯から,被告は,特許請求の範囲につき,「一の組画の画像データ を選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限定し,これを備えない発明を本件 発明の技術的範囲から意識的に除外したなどと主張する。 しかし,本件通知書及び本件意見書の各記載を踏まえると,「それぞれの前記記 憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対象を記憶する」の\nは人間が行う作業であって,物の発明としての「学習用具」の構成をなしていない\nなどといった明確性要件に係る本件通知書の指摘に対し,被告は,本件補正におい て,作業の主体につき,画像選択手段,画像表示手段,音声選択手段,音声再生手\n段といった「手段」とし,人が行う作業を示す部分を削除することで,これらの手 段を含むコンピューターであることを明確にしたものと理解される。それと共に, 進歩性に係る本件通知書の指摘に対しては,上記のように作業の主体を明確にした ことに加え,組画記録媒体に記録される画像データを,「1又は複数種の記憶対象 から成る記憶対象群に含まれる個別の記憶対象を表現する原画及び該原画に関連す\nる関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連画から成る組画の画像」(当\n初の請求項1)から「原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭 を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に 似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在 する第二の関連画,から成る組画の画像データ」に限定すると共に,画像表示手段\nが第一の関連画,第二の関連画,及び原画をその順に表示することとし,さらに,\nその表示を,これらに対応する語句の再生と同期させることとして,情報の提示方\n法を限定したものである。
このような出願経過を客観的,外形的に見ると,被告は,本件補正により,人為 的作業を示す部分としての「逐次又は一斉に表示」という行為態様は意識的に除外\nしているものの,物及び方法の構成として,逐次又は一斉に表\示する構成を一般的\nに除外する旨を表示したとはいえない。また,「一の組画の画像データを選択する\n画像選択手段」との構成を付加した点は,本件明細書に「一の組画」の画像データ\nの選択,表示を念頭に置いた記載があることを踏まえたものと理解されるものの\n(例えば【0057】),これをもって直ちに,客観的,外形的に見て,複数の組画を 選択する構成を意識的に除外する旨を表\示したものとは見られない。 そうすると,原告指摘に係る本件補正の経緯をもって,被告は,特許請求の範囲 につき,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限 定し,これを備えない発明を本件発明の技術的範囲から意識的に除外したと見るこ とはできない。この点に関する原告の主張は採用できない。

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令和2(ネ)10022  音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年3月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 やっと判決文がアップされました。音楽教室における演奏について、1審は生徒の演奏も先生の演奏も著作権侵害と判断しましたが、知財高裁は前者は公衆への演奏ではないと判断しました。2小節以内の演奏について演奏権が及ぶのか、演奏権の消尽、録音物の再生に係る実質的違法性阻却事由、権利濫用については音楽教室側の主張は認められませんでした。 双方が上告受理申立をしているとのことです。

 (ウ) 本件について
 前記(ア)及び(イ)によると,演奏権の行使となるのは,演奏者が,1) 面前にいる個人的な人的結合関係のない者に対して,又は,面前にいる 個人的な結合関係のある多数の者に対して,2)演奏が行われる外形的・ 客観的な状況に照らして演奏者に上記1)の者に演奏を聞かせる目的意思 があったと認められる状況で演奏をした場合と解される。 本件使用態様1ないし4のとおり,控訴人らの音楽教室で行われた演 奏は,教師並びに生徒及びその保護者以外の者の入室が許されない教室 か,生徒の居宅であるから,演奏を聞かせる相手方の範囲として想定さ れるのは,ある特定の演奏行為が行われた時に在室していた教師及び生 徒のみである。すなわち,本件においては,一つの教室における演奏行 為があった時点の教師又は生徒をとらえて「公衆」であるか否かを論じ なければならない。 オ 以下,前記の基本的考え方を前提に,教師による演奏行為及び生徒によ る演奏行為がそれぞれ「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」 行われたものに当たるかについて検討する。
(2) 教師による演奏行為について
ア 教師による演奏行為の本質について
引用に係る原判決の第2の3(1)アのとおり,控訴人らは,音楽を教授す る契約及び楽器の演奏技術等を教授する契約である本件受講契約を締結 した生徒に対して,音楽及び演奏技術等を教授することを目的として,雇 用契約又は準委任契約を締結した教師をして,その教授を行うレッスンを 実施している。 そうすると,音楽教室における教師の演奏行為の本質は,音楽教室事業 者との関係においては雇用契約又は準委任契約に基づく義務の履行とし て,生徒との関係においては本件受講契約に基づき音楽教室事業者が負担 する義務の履行として,生徒に聞かせるために行われるものと解するのが 相当である。
・・・
(ウ) これに対して,控訴人らは,前記第2の5(1)ア(ア)のとおり,教師 がレッスンで演奏(録音物の再生を含む。)するかどうか,どのような演 奏をどの程度するかについて教師の裁量に任されているから,控訴人ら は教師の演奏を管理・支配していないし,音楽教室における教師の楽曲 の演奏は,未完成又は不完全な演奏であり,また,1回1回全て異なる ものであるから,音楽教室事業者が管理・支配できるものではない旨主 張する。 しかしながら,教師は,控訴人らとの雇用契約又は準委任契約に基づ き,その義務の履行として演奏技術等を生徒に教授するのであって,履 行方法に選択肢を有するとしても,履行しない自由を有してはおらず, その履行に当たって一定の裁量があるとしても,本件受講契約において 控訴人らが生徒に対し負担する義務を履行するために必要なレッスンを 行う義務を負うこと自体には何ら変わりはないのであるから,教師がレ ッスンの進行について裁量を有することは,教師がした演奏の主体が控 訴人らであるとする前記判断を左右するものではない。
また,教師が未完成又は不完全な形で毎回異なるように演奏するのは, その技量が不足するためではなく,生徒への演奏技術等の教授のために 敢えてしていることであって,まさしく控訴人らとの間の雇用契約又は 準委任契約に基づく義務の履行に適ったことをしているにほかならない。 したがって,演奏内容の完成度若しくは完全度又は再現性は,教師が, 控訴人らとの雇用契約又は準委任契約に基づく義務の具体的履行方法と してどのような演奏手法を用いたかということを意味するにすぎず,教 師のした演奏の主体が控訴人らであるとする前記判断を左右するもので はない。 そのほかに控訴人らが教師の演奏行為に係る演奏主体について主張す る点は,いずれもその前提を異にする,あるいは理由がないものである から,前記判断を左右し得ない。
エ 「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」について
(ア) 前記(1)エ(ア)のとおり,演奏権の行使に当たるか否かの判断は,演 奏者と演奏を聞かせる目的の相手方との個人的な結合関係の有無又は 相手方の数において決せられるところ,この演奏者とは,著作権者の保 護と著作物利用者の便宜を調整して著作権の及ぶ範囲を合目的な領域 に設定しようとする著作権法22条の趣旨からみると,演奏権の行使に ついて責任を負うべき立場の者,すなわち演奏の主体にほかならない。 そうすると,前記ウ(イ)のとおり,音楽教室における演奏の主体は,教 師の演奏については控訴人ら音楽教室事業者であり,教師の演奏行為に ついて教師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがなく,生徒 に聞かせるために演奏していることは明らかであるから,実際の演奏者 である教師の演奏行為が「公衆」に直接聞かせることを目的として演奏 されたものであるといえるかは,規範的観点から演奏の主体とされた音 楽教室事業者からみて,その顧客である生徒が「特定かつ少数」の者に 当たらないといえるか否かにより決せられるべきこととなる。
(イ) そこで検討するに,引用に係る原判決の第2の3(1)アによると,生 徒が控訴人らに対して受講の申込みをして控訴人らとの間で受講契約を締結すれば,誰でもそのレッスンを受講することができ,このような音\n楽教室事業が反復継続して行われており,この受講契約締結に際しては, 生徒の個人的特性には何ら着目されていないから,控訴人らと当該生徒 が本件受講契約を締結する時点では,控訴人らと生徒との間に個人的な 結合関係はなく,かつ,音楽教室事業者としての立場での控訴人らと生 徒とは,音楽教室における授業に関する限り,その受講契約のみを介し て関係性を持つにすぎない。そうすると,控訴人らと生徒の当該契約か ら個人的結合関係が生じることはなく,生徒は,控訴人ら音楽事業者と の関係において,不特定の者との性質を保有し続けると理解するのが相 当である。
したがって,音楽教室事業者である控訴人らからみて,その生徒は, その人数に関わりなく,いずれも「不特定」の者に当たり,「公衆」にな るというべきである。音楽教室事業者が教師を兼ねている場合や個人教 室の場合においても,事業として音楽教室を運営している以上は,受講 契約締結の状況は上記と異ならないから,やはり,生徒は「不特定」の 者というべきである。
・・・・
オ 小活
以上によれば,教師による演奏については,その行為の本質に照らし, 本件受講契約に基づき教授義務を負う音楽行為事業者が行為主体となり, 不特定の者として「公衆」に該当する生徒に対し,「聞かせることを目的」 として行われるものというべきである。
(3) 生徒による演奏行為について
ア 生徒による演奏行為の本質について 引用に係る原判決の第2の3(1)ア及び前記(2)アに照らせば,控訴人らは, 音楽を教授する契約及び楽器の演奏技術等を教授する契約である本件受 講契約を締結した生徒に対して,音楽及び演奏技術等を教授することを目 的として,雇用契約又は準委任契約を締結した教師をして,その教授を行 うレッスンを実施している。 そうすると,音楽教室における生徒の演奏行為の本質は,本件受講契約 に基づく音楽及び演奏技術等の教授を受けるため,教師に聞かせようとし て行われるものと解するのが相当である。なお,個別具体の受講契約にお いては,充実した設備環境や,音楽教室事業者が提供する楽器等の下で演 奏することがその内容に含まれることもあり得るが,これらは音楽及び演 奏技術等の教授を受けるために必須のものとはいえず,個別の取決めに基 づく副次的な準備行為や環境整備にすぎないというべきであるから,音楽 教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教師に演奏を聞かせ,指導を 受けることにあるというべきである。 また,音楽教室においては,生徒の演奏は,教師の指導を仰ぐために専 ら教師に向けてされているのであり,他の生徒に向けてされているとはい えないから,当該演奏をする生徒は他の生徒に「聞かせる目的」で演奏し ているのではないというべきであるし,自らに「聞かせる目的」のものと もいえないことは明らかである(自らに聞かせるためであれば,ことさら 音楽教室で演奏する必要はない。)。被控訴人は,生徒の演奏技術の向上の ために生徒自身が自らの又は他の生徒の演奏を注意深く聞く必要がある とし,書証(乙57の58頁)や証言(原審証人Q15頁)を援用するが, 自らの又は他の生徒の演奏を聴くことの必要性,有用性と,誰に「聞かせ る目的」で演奏するかという点を混同するものといわざるを得ず,採用し 得ない。
・・・
ウ 演奏主体について
(ア) 前述したところによれば,生徒は,控訴人らとの間で締結した本件 受講契約に基づく給付としての楽器の演奏技術等の教授を受けるためレ ッスンに参加しているのであるから,教授を受ける権利を有し,これに 対して受講料を支払う義務はあるが,所定水準以上の演奏を行う義務や 演奏技術等を向上させる義務を教師又は控訴人らのいずれに対しても負 ってはおらず,その演奏は,専ら,自らの演奏技術等の向上を目的とし て自らのために行うものであるし,また,生徒の任意かつ自主的な姿勢 に任されているものであって,音楽教室事業者である控訴人らが,任意 の促しを超えて,その演奏を法律上も事実上も強制することはできない。 確かに,生徒の演奏する課題曲は生徒に事前に購入させた楽譜の中か ら選定され,当該楽譜に被告管理楽曲が含まれるからこそ生徒によって 被告管理楽曲が演奏されることとなり,また,生徒の演奏は,本件使用 態様4の場合を除けば,控訴人らが設営した教室で行われ,教室には, 通常は,控訴人らの費用負担の下に設置されて,控訴人らが占有管理す るピアノ,エレクトーン等の持ち運び可能ではない楽器のほかに,音響設備,録音物の再生装置等の設備がある。しかしながら,前記アにおい\nて判示したとおり,音楽教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教 師に演奏を聞かせ,指導を受けること自体にあるというべきであり,控 訴人らによる楽曲の選定,楽器,設備等の提供,設置は,個別の取決め に基づく副次的な準備行為,環境整備にすぎず,教師が控訴人らの管理 支配下にあることの考慮事情の一つにはなるとしても,控訴人らの顧客 たる生徒が控訴人らの管理支配下にあることを示すものではなく,いわ んや生徒の演奏それ自体に対する直接的な関与を示す事情とはいえない。 このことは,現に音楽教室における生徒の演奏が,本件使用態様4の場 合のように,生徒の居宅でも実施可能であることからも裏付けられるものである。以上によれば,生徒は,専ら自らの演奏技術等の向上のために任意か\nつ自主的に演奏を行っており,控訴人らは,その演奏の対象,方法につ いて一定の準備行為や環境整備をしているとはいえても,教授を受ける ための演奏行為の本質からみて,生徒がした演奏を控訴人らがした演奏 とみることは困難といわざるを得ず,生徒がした演奏の主体は,生徒で あるというべきである。
(イ) これに対して,被控訴人は,引用に係る原判決の第3の2〔被告の 主張〕(1)エ(イ)及び(ウ)並びに前記第2の5(2)ア(ウ)のとおり,音楽教 室における生徒の演奏は,1)控訴人らとの間で締結した本件受講契約に おけるレッスンの一環としてされるものであり,レッスンの受講と無関 係に演奏するものではないこと,2)教師の指導の下,教育効果の観点か ら必要と考えられる場合にその限度でされること,3)本件受講契約によ って特定されたレッスンで使用される楽譜において課題曲として指定 された音楽著作物を,教師の指導・指示の下で演奏することを原則とす るものであること,4)控訴人らが費用を負担して設営した教室において, 控訴人らの管理下にある音響設備,録音物の再生装置等,録音物,楽器 等を利用してされるものであること,5)音楽教室事業が音楽著作物を利 用せずに楽器の演奏技術を教授することは不可能であることに照らすと,本件受講契約に基づき支払う受講料の中に,音楽著作物の利用の対\n価部分が含まれていることに照らせば,生徒の演奏についても音楽教室 事業者である控訴人らによる管理・支配及び利益の帰属が認められ,演 奏の主体は控訴人らである旨主張する。
しかしながら,上記1)ないし4)において控訴人が主張する事情から直 ちに,生徒が任意にする演奏の主体を音楽教室事業者であると評価する ことができないことは,前記説示から明らかである。なお,被控訴人は, 前記第2の5(2)ア(イ)のとおり,カラオケ店における客の歌唱の場合と 同一視すべきである旨主張するが,その法的位置付けについてはさてお くにしても,カラオケ店における客の歌唱においては,同店によるカラ オケ室の設営やカラオケ設備の設置は,一般的な歌唱のための単なる準 備行為や環境整備にとどまらず,カラオケ歌唱という行為の本質からみ て,これなくしてはカラオケ店における歌唱自体が成り立ち得ないもの であるから,本件とはその性質を大きく異にするものというべきである。 さらに,上記5)において被控訴人が主張する事情については,レッス ンにおける生徒の演奏についての音楽著作物の利用対価が本件受講契 約に基づき支払われる受講料の中に含まれていることを認めるに足り る証拠はないし,また,いずれにしても音楽教室事業者が生徒を勧誘し 利益を得ているのは,専らその教授方法や内容によるものであるという べきであり,生徒による音楽著作物の演奏によって直接的に利益を得て いるとはいい難い。 したがって,被控訴人の上記主張はいずれも採用できない。
(ウ) そのほかに被控訴人らが生徒の演奏行為に係る演奏主体について 主張する点は,いずれもその前提を異にする,あるいは理由がないもの であるから,前記判断を左右し得ない。
エ 小括
以上のとおり,音楽教室における生徒の演奏の主体は当該生徒であるか ら,その余の点について判断するまでもなく,生徒の演奏によっては,控 訴人らは,被控訴人に対し,演奏権侵害に基づく損害賠償債務又は不当利 得返還債務のいずれも負わない(生徒の演奏は,本件受講契約に基づき特 定の音楽教室事業者の教師に聞かせる目的で自ら受講料を支払って行わ れるものであるから,「公衆に直接(中略)聞かせることを目的」とするも のとはいえず,生徒に演奏権侵害が成立する余地もないと解される。)。 なお,念のために付言すると,仮に,音楽教室における生徒の演奏の主 体は音楽事業者であると仮定しても,この場合には,前記アのとおり,音 楽教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教師に演奏を聞かせ,指導 を受けることにある以上,演奏行為の相手方は教師ということになり,演 奏主体である音楽事業者が自らと同視されるべき教師に聞かせることを 目的として演奏することになるから,「公衆に直接(中略)聞かせる目的」 で演奏されたものとはいえないというべきである(生徒の演奏について教 師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがない。また,他の生徒 や自らに聞かせる目的で演奏されたものといえないことについては前記 アで説示したとおりであり,同じく事業者を演奏の主体としつつも,他の 同室者や客自らに聞かせる目的で歌唱がされるカラオケ店(ボックス)に おける歌唱等とは,この点において大きく異なる。)。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)20502等

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平成30(ワ)60 不当利得返還請求事件  その他  民事訴訟 令和3年3月11日  大阪地方裁判所

 特許を譲り受けたのに特許料を不能とした特許権者に対して、無効となった期間に対応する実施権料の不当利得返還請求が認められました。\n

(1) 以上より,被告が特許料不納付により本件特許権5〜8を消滅させたこと は,本件許諾契約上の特許維持義務(本件許諾契約書8条2項)の不履行に当た る。したがって,本件許諾契約は,原告の解除の意思表示(前記第2の1(10))に より解除されたこととなるから,被告は,原告に対し,原状回復義務(民法545 条)として,本件許諾契約に基づき原告が支払った実施料の返還義務及び利息支払 義務を負う。
(2) 本件許諾契約書において,実施料の額は本件プラントの処理能力に基づき算\n定されており(5条1項。前記第2の1(4)),本件各特許権の実施料を個別に算 定し,これを合算した額をもって実施料とするといった定め方はされていない。本 件各特許権の存続期間終了に応じて実施料を減額するといった規定も存在しない。 また,本件仕様書において,本件プラントにおいて本件各発明が実施される設備な いし方法及びそこで実施される発明を特定しているわけでもない。 これらの事情に鑑みると,本件許諾契約は,本件プラントの建設,操業及びリサ イクル品の製造,販売等において,本件各発明に係る技術のどれがどのように使用 されるかを具体的に特定して実施料を算定したものではなく,本件各特許権を一体 的なものとして取り扱い,本件許諾契約書記載のとおり,本件プラントの処理能力\nに基づき実施料を算定したものと理解される。 そうすると,本件許諾契約は,出願日の最も遅い本件特許権8(出願日平成10 年4月11日)の存続期間が終了する平成30年4月11日までは,契約として意 義を有していた可能性が高く,同契約に基づく本件実施料は,平成18年4月1日\n〜平成30年4月11日の期間中,本件各特許権のいずれかの通常実施権を許諾さ れることの対価として一体的に定められたものと見られる。 もっとも,本件各特許権のうち最もその消滅が遅かったのは本件特許権6(平成 23年7月6日)であり,それまでは,原告は,本件許諾契約に基づく通常実施権 者としての地位を享受していた。このため,本件許諾契約の解除により,原告も, その間に享受した利益を返還すべき地位にある。 そこで,本件実施料として支払われた1億5750万円から,原告が実際に通常 実施権者としての地位を享受していた期間に相当する部分を控除すると,8857 万1347円となる。
\157,500,000-(\157,500,000*1923 日/4394 日)=\88,571,347
(日数は実日数,小数点以下切捨て)
(3) 被告の主張について
被告は,本件実施料はそもそも実質的には本件各特許権の実施に係る許諾料では ない,本件許諾契約の目的は本件プラントが本稼働を開始した平成18年4月時点 で既に達成されている,本件プラントにおいて本件各特許権が実施されていないこ とから,被告が本件特許5〜8を消滅させたことによって原告に損害が発生してお らず,債務不履行となるべき事実自体がないなどと主張する。 しかし,本件許諾契約に至る経緯等(前記1(1))に鑑みれば,本件実施料が実 質的に本件各特許権の実施に係る許諾料でないと見るべき事情はない。また,本件 許諾契約は,本件プラントの操業を埼玉ヤマゼンが担うことを前提としたものであ ることから(前記第2の1(2),第3の1(1)ケ,(2)),その目的が本件プラントの 本稼働開始により既に達成されたと見ることもできない。 さらに,そもそも,本件では本件許諾契約の債務不履行による解除に基づく原状 回復請求がされているのであって,損害賠償請求はされていないことから,損害の 発生の有無は問題とならない。その点は措くとしても,本件プラントにおける本件 各発明の実施の有無は必ずしも判然とせず(前記1(5)),また,本件許諾契約に より原告が認められるのは通常実施権にとどまるものの,本件許諾契約には,JRT が原告以外の者にも本件各発明の実施を許諾する場合は,事前に原告との協議を要 することが定められていること(本件許諾契約書3条。前記第2の1(4)ア)など に鑑みると,なお本件特許権5〜8が権利として維持されることには意味があった ものといえる。しかも,前記(2)のとおり,本件許諾契約においては,本件実施料 を定めるに当たり本件各特許権は個別にではなく一体的に取り扱われていることか ら,本件特許権1〜4が本件譲渡契約の時点で既に消滅していたことは,原状回復 が認められる範囲を定めるに当たり考慮すべき事情とはいえない。その他被告が 縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する被告の主張は採用できない。

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令和2(ネ)10051  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるかが争われました。東京地裁(40部)は平成11年最判の判断が本件にも該当するとして、特69条が適用されると判断しました。知財高裁(2部)も同様の判断をしました。

 (1)控訴人は,新薬の製造販売承認を得るための必要な試験は,平成11年最 判の射程外であるところ,特許法69条1項の「試験又は研究」に該当するかにつ いては特許権者の利益と第三者の利益を綿密に検討する必要があり,本件治験は, 同項の「試験又は研究」に該当しないと主張する。 しかし,新薬の製造販売承認を得るために必要な本件治験が,特許法69条1項 の「試験又は研究」に該当することは,原判決「事実及び理由」の第4の1(2)のと おりである。 控訴人は,新薬の製造販売承認のためにする試験と後発薬の製造販売承認のため の試験の内容が異なる旨主張するが,平成11年最判の趣旨が本件治験についても 該当することは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(2)のとおりであって,この ことは,製造販売承認のための試験の内容によって左右されるとは解されない。
(2) 控訴人は,特許権者ではない第三者が特許権の存続期間中に新薬の製造 販売承認を得た場合,当該第三者は,特許権の存続期間満了までは,当該新薬を製 造販売することができないから,その間,当該新薬の再審査期間中に製造販売でき ないという空白期間が生じると主張するが,実地医療での使用における安全性情報 の調査は,特許期間満了後に開始すればよいのであり,実地医療での使用における 安全性情報等の調査という目的が十分に果たされないというものではない。\n
(3) 控訴人は,特許権者でない第三者が特許発明について新薬としての治験 を行うことに特許権の効力が及ばないとすると,この第三者が特許権者に先行して 製造販売承認を得ることも可能になり,特許権者は,特許権の存続期間中であるに\nもかかわらず,事実上自らの特許発明に係る実施品について治験を実施することす らできなくなることとなるから,特許出願をするメリットがなくなり,発明の公開 というデメリットばかりが大きいことになるため,薬剤の発明者は,特許出願をた めらうことになり,医薬品産業の発達を著しく阻害することになり,特許法の目的 に反すると主張する。
しかし,特許法は,当該特許権の存続期間中に特許発明を独占的に実施し,それ により利益を得る機会を確保しているものであるが,特許権者が現実に利益を得る ことまでをも保障するものではないから,第三者が特許権者に先行して製造販売承 認を得たり,特許権者が,事実上,自らの特許発明の実施品について治験を実施す ることが難しくなることがあるとしても,これが特許法の趣旨に反すると認めるこ とはできず,控訴人の上記主張は,本件治験が特許法69条1項の試験に該当する との判断を左右するものではない。
(4) 控訴人は,再生医療等製品のうち特にバイオ医薬品については,通常の医 薬品とは異なる規制や制約があるのであり,その開発には,長期の開発期間を要す ることから,製造承認販売を得て販売されるタイミングが当該特許権の存続期間満 了間近とならざるを得ず,特許権の存続期間中に第三者が承認申請のための治験(臨\n床試験)を実施することを許容すると,特許権者の不利益は甚大なものとなる旨主 張する。 しかし,この点についての控訴人の主張を採用することができないことは,原判 決の「事実及び理由」の第4の1(3)ウのとおりである。 また,控訴人は,特許権の存続期間中に第三者が承認申請のための治験(臨床試\n験)を実施することを許容すると,革新的な医薬品の研究開発に悪影響を与えると か国内外において製薬業界に大きな混乱を与えると主張するが,控訴人の陳述書(甲 32)のみで,そのような事情を認めることはできず,他に,そのような事情を認 めるに足りる証拠はない。
(5) 控訴人は,新薬の承認申請のための治験を特許権の存続期間中に何らラ\nイセンスもなく実施可能ということにすると,諸外国の取扱いに反する旨主張する。\nしかし,我が国と諸外国では,法制度を異にしているから,我が国において諸外 国と同様の取扱いをしなければならないとはいえない。また,欧州においては,証 拠(甲41)及び弁論の全趣旨によると,欧州各国の中で,それぞれの国内法にお いて,医薬品の承認を得るための手続が特許権侵害とならないとする,いわゆるB olar条項の適用の範囲を定めており,フランス,イタリア,スペイン及び英国 は,同条項の適用を,後発医薬品の承認を得るための試験に限定していないことが 認められる。 控訴人は,Amgen が米国及び欧州で Massachusetts General Hospital の特許(本 件特許に対応する米国特許と欧州特許)についてライセンス契約を締結した上で TVEC の臨床試験を実施していることを主張するが,新薬に係る治験が特許権侵害に 該当しないとされていたとしても,新薬に係る治験を行うために特許権者とライセ ンス契約を締結することはあり得ることであるから,控訴人の上記主張から諸外国 の制度に関する認定をすることはできない。 控訴人は,陳述書(甲32)において,後発薬と異なり,新薬に係る治験につい ては,当該新薬に係る特許が存在している場合に,当該特許の所有者からライセン スを受けることなく当該治験を実施することが当該特許の侵害に該当するという考 え方が定着していると記載するが,諸外国の制度に関する上記認定によると,控訴 人の陳述書の上記記載を採用することはできない。 上記のとおり,新薬に係る治験が特許権侵害とならないとする国が複数存在する ことからすると,そうでない制度を有する国があるとしても,我が国において,本 件治験が特許法69条1項の「試験又は研究」に該当すると判断することが,諸外 国の制度と異なるものであるとはいえない。
(6) 控訴人は,本件治験は本件特許権の存続期間満了「前」の販売を目的とし たものであると主張する。 しかし,本件治験は,本件特許権の存続期間中の製造販売を目的としたものであ るといえないことは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(3)イのとおりであって, 被控訴人が,本件特許権の存続期間満了日より前に T-VEC の承認を得られる可能性\nがあるかどうかやそのような可能性がある時点で本件治験を開始したかどうかによ\nって,この判断が左右されることはない。 控訴人は,原判決が判示する論理が認められるとすると,特許権の存続期間中に 行われるすべての治験について特許権の存続期間中の製造販売を目的としていると 認定されることはおよそないこととなるから,平成11年最判が目的要件を提示し た趣旨を完全に逸脱していると主張するが,原判決の判示する論理によったからと いって,特許権の存続期間中に行われるすべての治験について特許権の存続期間中 の製造販売を目的としていると認定されることはおよそないこととなるとはいえな いことが明らかである。

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◆平成31(ワ)1409

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令和3(行ケ)10118  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月11日  知的財産高等裁判所

 「SMS」+図形商標から、「SMS」を分離観察できるかが、争われました。知財高裁(2部)は分離可能とした審決を維持しました。判決文の最後に本件および引用商標が掲載されています。\n

 (1) 本件商標は,別紙1のとおりであり(甲1),三つのハート形の図形を横に 重なるように並べた本件図形部分と,その下に配置された横書きにした「SMS」 のありふれた書体の欧文字(本件文字部分)とからなる商標である。 本件図形部分は,ハートの形を縁取った線を横に二つ描き,その二つのハートの 形の内側の二つの半円部分を用いて,中央部分に三つ目のハートの形を描いたもの で,一筆書きによって描くことができるようになっている。 本件図形部分及び本件文字部分のいずれにも色彩はなく,本件図形部分の高さは, 本件文字部分の高さの3倍弱であり,本件図形部分の横幅は,本件文字部分の横幅 の2倍弱である。
(2) 本件商標の上記(1)の外観からすると,本件商標においては,本件図形部分 と本件文字部分とを明確に区別することができ,それらの各部分を分離して観察す ることが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは認められな いから,本件商標から,本件文字部分を抽出し,同部分を他人の商標と比較して商 標の類否を判断することができるというべきである。 そして,本件文字部分からは,「エスエムエス」との称呼が生じるが,「SMS」 の語は,「広辞苑 第六版」には掲載されておらず(甲19),他に一般的な辞書に 掲載されている例があるとも認められないから,造語であると認められ,特定の観 念は生じないというべきである。
3 引用商標1及び2について
(1) 引用商標1及び2は,別紙2,3のとおりであり(甲2,3),オレンジ色 の小さな円をL字型に並べた形状と,同様の黄色のL字型の形状とを組み合わせた 正方形を45度傾けた形状の図形部分(引用1及び引用2図形部分)と,その右側 に配置された,横書きにした「SMS」の欧文字と横書きにした「Best ma tching Best value」の欧文字を上下二段に配置した部分(引用 1及び引用2文字部分)からなる商標である。 引用1及び引用2図形部分の高さは,「SMS」の文字部分の高さの2倍程度であ り,引用1及び引用2図形部分の横幅は,「SMS」の文字部分の横幅の6割程度で ある。また,「Best matching Best value」の文字部分は, 「SMS」の文字部分と同じ横幅で,「SMS」の文字部分に比較して,極めて小さ く書かれている。
(2) 引用商標1及び2の上記(1)の外観からすると,引用商標1及び2において は,引用1及び引用2図形部分と引用1及び引用2文字部分とを明確に区別するこ とができる。また,引用1及び引用2文字部分については,「SMS」の文字部分と, 「Best matching Best value」の文字部分は2段に分か れていて,大きさも顕著に異なるのであるから,両者を明確に区別することができ る。 したがって,引用商標1及び2において,「SMS」の文字部分が他の部分と分離 して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは 認められないから,「SMS」の文字部分を抽出し,同部分を他人の商標と比較して 商標の類否を判断することができるというべきである。 そして,前記2(2)のとおり,「SMS」の文字部分からは,「エスエムエス」との 称呼が生じるが,特定の観念は生じないというべきである。
・・・・
原告は,「SMS」とは,携帯電話でのメッセージ送受信サービスである 「Short Message Service(ショートメッセージサービス)」の 略語であり,本件審決がされた令和2年の時点で,「ショートメッセージサービス」 の略語としての「SMS」は,通信分野に限らず,一般に周知されていると主張し, その証拠として,甲25,26を提出する。 甲25によると,「SMS」が「ショートメッセージサービス」の略語であること を説明したウェブサイトが存在することが認められるが,前記2(2)のとおり,「S MS」の語が一般的な辞書に掲載されている例があるとは認められないことからす ると,上記ウェブサイトの存在から,「SMS」が「ショートメッセージサービス」 の略語を意味することが一般的に認識されていたということはできないというべき である。

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令和1(ネ)1735 著作権に基づく差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年1月14日  大阪高等裁判所

 電話ボックスを金魚鉢にみたてた現代アートについて、1審は著作物性は認めましたが、 複製ではないと判断しました。控訴審は、「受話器がハンガー部から外されて水中に浮いた状態で固定され,その受話部から気泡が発生している」点について、著作物性を認めて、翻案権侵害と認定しました。

同一性又は類似性について
ア 共通点
原告作品と被告作品の共通点は次のとおり(以下「共通点1)」などと いう。)である。
1) 公衆電話ボックス様の造作水槽(側面は4面とも全面がアクリルガ ラス)に水が入れられ(ただし,後記イ6)を参照),水中に主に赤色の 金魚が50匹から150匹程度,泳いでいる。
2) 公衆電話機の受話器がハンガー部から外されて水中に浮いた状態で 固定され,その受話部から気泡が発生している。
・・・・
著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知 させるに足りるものを有形的に再製すること(著作権法2条1項15号) をいい,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上\nの本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更\n等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これ\nに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得すること\nのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁昭和53年9月7日 第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁,最高裁平成13年6月2 8日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。 依拠については後記(3)において検討することとし,ここではそれ以外 の要件について検討する。 共通点1)及び2)は,原告作品のうち表現上の創作性のある部分と重な\nる。なお,被告作品は,平成26年2月22日に展示を開始した当初は, アクリルガラスのうちの1面に,縦長の蝶番を模した部材を貼り付けて\nいた(相違点6))。しかし,前記のとおり,この蝶番は目立つものでは なく,公衆電話を利用する者にとっても,鑑賞者にとっても,注意をひ かれる部位とはいえないから,この点の相違が,共通点1)として表れて\nいる原告作品と被告作品の共通性を減殺するものではない。
一方,他の相違点はいずれも,原告作品のうち表現上の創作性のない\n部分に関係する。原告作品も被告作品も,本物の公衆電話ボックスを模 したものであり,いずれにおいても,公衆電話機の機種と色,屋根の色 (相違点1)〜3))は,本物の公衆電話ボックスにおいても見られるもの である。公衆電話機の下の棚(相違点4))は,公衆電話を利用する者に しても鑑賞者にしても,注意を向ける部位ではなく,水の量(相違点5)) についても同様であることは前記のとおりである。すなわち,これらの 相違点はいずれもありふれた表現であるか,鑑賞者が注意を向けない表\ 現にすぎないというべきである。 そうすると,被告作品は,原告作品のうち表現上の創作性のある部分\nの全てを有形的に再製しているといえる一方で,それ以外の部位や細部 の具体的な表現において相違があるものの,被告作品が新たに思想又は\n感情を創作的に表現した作品であるとはいえない。そして,後記(3)のと おり,被告作品は,原告作品に依拠していると認めるべきであり,被告 作品は原告作品を複製したものということができる。 仮に,公衆電話機の種類と色,屋根の色(相違点1)〜3))の選択に創 作性を認めることができ,被告作品が,原告作品と別の著作物というこ とができるとしても,被告作品は,上記相違点1)から3)について変更を 加えながらも,後記(3)のとおり原告作品に依拠し,かつ,上記共通点1) 及び2)に基づく表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,原告作品にお\nける表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,原告作品\nを翻案したものということができる。

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◆平成30年(ワ)466

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令和2(ネ)10052  特許権持分一部移転登録手続等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 「オプジーボ」について、原告Xは発明者であるとの確認を求める訴訟にて、知財高裁も、1審と同じく、「発明者ではない」と判断しました。原告Xは研究室にいた研究者と小野薬品です。

控訴人は,1)抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相 互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」な いし「着想」は,本件出願当時,公知であったから,本件発明の技術的 思想の特徴的部分は,上記公知の課題について具体的な免疫細胞と標的 となるがん細胞を用いて抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1 分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の賦活化の効果を実証し た点にあること,2)控訴人は,抗PD−L1抗体の作製に貢献し,指導 教官であるA教授から指導を受けながら,試行錯誤を重ねて本件発明を 構成する個々の実験系を構\\築し,主要な実験のほぼすべてを単独で行い, 特に2C細胞とP815細胞の組合せ実験に関しては,A教授から指示 を受けることなく着想して,遂行し,この点に関する控訴人の貢献の程 度は大きいこと,3)控訴人が本件発明と同内容のPNAS論文の筆頭著 者(共同第一著者)であること等からすると,控訴人は,本件発明の具 体化に創作的に関与したものといえるから,本件発明の発明者であると いうべきである旨主張する。 しかしながら,以下のとおり,控訴人の主張は,理由がない。
ア 1)について
控訴人は,抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相 互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」 ないし「着想」が,本件出願当時(原出願1の優先日平成14年7月 3日及び平成15年2月6日),公知であったことについて,JEM論 文及び1999(平成11)年9月に出願されたダナ・ファーバー癌 研究所等の特許出願の優先権主張の基礎出願に係る明細書の記載を根 拠として挙げる。 しかしながら,JEM論文(甲66)は,「新しいB7ファミリーメ ンバーによるPD−1免疫抑制性受容体の関与が,リンパ球活性化の 負の制御を導く」ことに関する論文であり,JEM論文中には,「ヒト 卵巣腫瘍から3つのESTがみられるように,PD−L1は,いくつ かの癌において発現されている。このことは,腫瘍が,抗腫瘍免疫応 答を阻害するために,PD−L1を使用している可能性を提起する。」との記載部分があるが,一方で,JEM論文には,腫瘍に発現したP\nD−L1が抗腫瘍免疫応答を阻害することを実際に実証する実験デー タやその分析結果等の記載がないことに照らすと,JEM論文の上記 記載部分は,腫瘍が抗腫瘍免疫応答を阻害するためにPD−L1を使 用している可能性があることの仮説を述べたものにとどまるというべきである。\n
次に,控訴人提出の甲60は,ダナ・ファーバー癌研究所等を出願 人,2000年(平成12年)8月23日を国際出願日,2001年 (平成13年)3月1日を国際公開日とする国際出願((PCT/US /23347)の国際公開公報,甲61は,その公表特許公報であって,本件においては,上記国際出願の優先権主張の基礎出願に係る明\n細書の提出はないし,また,控訴人の指摘する甲61の「PD−1を 介するシグナリングを阻害する作用剤を対象の免疫細胞に投与して, 免疫応答のアップレギュレーションから利益を受けるであろう症状を 治療することを特徴とする・・・1の具体例において,該症状は,腫瘍・・・ からなる群より選択される。」(段落【0009】)との記載から直ちに 抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害 することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」を導出するこ とはできない。 したがって,控訴人の1)の主張のうち,抗PD−L1抗体がPD− 1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の 賦活化の効果が,本件出願当時,公知であったとの点は,採用するこ とはできない。 そして,前記1(2)認定のとおり,本件発明の技術的思想は,PD− 1,PD−L1による抑制シグナルを阻害して,免疫賦活させる組成 物及びこの機構を介した癌治療のための組成物を提供するという課題を解決するための手段として,抗PD−L1抗体がPD−1分子とP\nD−L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもた らすことを見出した点にあるものと認められ,本件発明の発明者であ るというために,上記技術的思想を着想し,又は,その着想を具体化 することに創作的に関与したことを要するものと解されるところ(前 記(1)),控訴人が上記技術的思想の着想に関与していないことは,前 記(2)オで説示したとおりである。
・・・・
エ まとめ
以上によれば,控訴人は,A教授の指導,助言を受けながら,自ら の研究として本件発明を具体化する個々の実験を現実に行ったものと 認められるから,A教授の単なる補助者にとどまるものとはいえない が,一方で,上記実験の遂行に係る控訴人の関与は,本件発明の技術 的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認めることは できないから,控訴人は,本件発明の発明者に該当するものと認める ことはできない。 したがって,控訴人の前記主張は理由がない。

◆判決本文

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◆平成29(ワ)27378

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令和2(ネ)10035  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審では約3000万円の損害賠償が認定されました。1審被告が控訴しましたが、控訴棄却されました。ハンドル部分の構造に関する特許ですが、102条2項における寄与率減額なしです。

 本件発明の技術的思想(課題解決原理)は,前記2(1)ア(イ)のとおり,二 股の美容器において,ハンドルを,凹部を有するハンドル本体と,その凹部 を覆うハンドルカバーで構成することにより,ハンドルが上下又は左右に分\n割された従来の構成よりも,ハンドルの成形精度や強度を高く維持するとと\nもに,美容器の組み立て作業性が向上するようにしたというものである。そ して,本件発明に係る美容器は,美容器のハンドルを持ち,ローラを肌に押 し当ててこれを使用するから,本件発明の技術的思想(課題解決原理)によ って達成されるハンドルの成形精度や強度の維持は,美容器を使用する需要 者一般が関心を有する美容器の基本構造に関するものであり,二股美容器の\n使用やマッサージの施行に影響する事項であって,美容器全体に貢献してい るものと認められる。本件発明が需要者の商品選択に特段寄与しないとする 根拠はなく,被告各製品の販売に対する本件発明の寄与が限定的であるとす る根拠もない。したがって,本件において,本件発明の寄与率を考慮して推 定を覆滅すべき理由はない。
控訴人は,被告各製品は特許第5840320号の技術的範囲には属しな いが,同特許に係る発明の効果を有しており,そのような効果のあることが 被告各製品購入の主な動機になっていることは,本件における損害額算定に 当たっての推定覆滅事由として考慮されなければならないと主張する(前記 第2の5(4)ア(イ))。しかし,被告各製品が特許第5840320号に係る 発明の効果を有しているかどうかは明らかでなく,また,そのような効果の 存在が被告各製品購入の主な動機になっていることを認めるに足りる証拠は ない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)32839


当事者が同じ関連侵害訴訟および審決取消訴訟です。

◆平成31(ネ)10001等

◆平成30(行ケ)10049

◆平成30(行ケ)10048

◆平成29(ネ)10086

◆平成28(ワ)4356

◆平成30(行ケ)10013

◆平成29(行ケ)10201

◆平成29(行ケ)10095

◆平成28(ワ)6400

◆平成31(行ケ)10032

当事者が同じ審決取消訴訟はこちらです。

◆令和1(行ケ)10090

◆令和1(行ケ)10066

◆平成31(行ケ)10057

◆平成30(行ケ)10160

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令和2(行ケ)10075  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月11日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反有りとした異議決定が動機付け無しとして取り消されました。

 甲1発明及び甲3記載事項は,共に,弁当包装体という技術分野に属す るものであると認められる(甲1の段落【0001】,甲3の段落【0017】)。 しかし,甲1発明は,熱収縮性チューブを使用した弁当包装体について,煩雑な 加熱収縮の制御を実行することなく,包装時の容器の変形やチューブの歪みを防ぎ, また,店頭で,電子レンジによる再加熱をした際にも弁当容器の変形が生じること を防ぐことを課題とするものである(甲1の段落【0003】,【0004】)のに対 し,甲3に記載された発明は,ラベルを構成する熱収縮性フィルムについて,主収\n縮方向である長手方向への収縮性が良好で,主収縮方向と直交する幅方向における 機械的強度が高いのみならず,フィルムロールから直接ボトルの周囲に胴巻きした 後に熱収縮させた際の収縮仕上がり性が良好で,後加工時の作業性の良好なものと するとともに,引き裂き具合をよくすることを課題とするもの(甲3の段落【00 07】,【0008】)である。 そして,上記課題を解決するために,甲1発明は,非熱収縮性フィルム(21) と熱収縮性フィルム(22)とでチューブ(20)を形成し,熱収縮性フィルム(2 2)の周方向幅はチューブ全周長の1/2以下である筒状体であり,熱収縮性フィ ルム(22)の熱収縮により,弁当容器の外周長さにほぼ等しいチューブ周長に収 縮して弁当容器に締着されてなるものとしたのに対し,甲3に記載された発明の熱 収縮性フィルムは,甲3の特許請求の範囲記載のとおり,各数値を特定したもので ある。 これらのことからすると,甲1発明と甲3に記載された発明は,課題においても その解決手段においても共通性は乏しいから,甲3記載事項を甲1発明に適用する ことが動機付けられているとは認められない。
イ これに対し,被告は,甲1発明と甲3記載事項は,熱収縮という作用, 機能が共通する旨主張するが,熱収縮は,通常,弁当包装体が持つ基本的な作用,\n機能の一つにすぎないことを考慮すると,被告の上記主張は,実質的に技術分野の\n共通性のみを根拠として動機付けがあるとしているに等しく,動機付けの根拠とし ては不十分である。\nまた,被告は,甲1発明と甲3記載事項とでは,ポリエステルフィルムを用いて いる点が共通する旨主張するが,包装体用の熱収縮性フィルムを,ポリエステルと することは,本件特許の出願前の周知技術(甲1の段落【0010】,甲3の【請求 項7】,段落【0003】,甲6〔特開2008−280371号公報〕の段落【0 001】)であると認められ,ポリエステルは極めて多くの種類があること(乙5) からすると,材料としてポリエステルという共通性があるというだけでは,甲1発 明において,熱収縮性フィルムとして,甲3記載事項で示される熱収縮性フィルム を適用することに動機付けがあるということはできない。
ウ 以上によると,甲1発明において,熱収縮性フィルムとして,甲3記載 事項で示される熱収縮性フィルムを適用する動機付けがあると認めることはできな い。 したがって,甲1発明及び甲3記載事項に基づいて,相違点2に係る本件発明2 の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。\n

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令和2(ネ)1492    意匠権  民事訴訟 令和3年2月18日  大阪高等裁判所

 意匠法39条2項の推定覆滅の割合は9割、実施料率3%とすべきと主張しましたが、控訴審も1審と同様に、覆滅割合を7割実施料率5%と判断しました。

 ア 推定覆滅の割合について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決43頁 14行目から51頁13行目まで)け,本件においては,意匠法39条2 項による損害額の推定は,7割の限度で覆滅されるというべきである。 控訴人は,控訴人の製品が被控訴人の製品より安価であることを理由 に,覆滅の割合を9割とすべきであると主張する。しかし,証拠(乙1 9)によれば,ここで控訴人が比較しているのは,外付け型 HDD につい ての控訴人の製品全体の平均単価と被控訴人の製品全体の平均単価で あって,原告製品の価格と被告製品の価格がどれだけ違うのかは明らか でない。被告製品が一般に原告製品より安価であるといえるとしても, 前記の7割という推定覆滅の程度は,このことをも考慮の対象とした上 でのものである。したがって,控訴人の主張を採用することはできない。
イ 実施料率について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決52頁 5行目から53頁21行目まで),本件においては,意匠法39条3項 を適用して損害額を認定するに当たり(同条2項による損害額の推定が 覆滅される部分について同条3項を適用する場合を含む。),被控訴人 が本件意匠の実施に対し受けるべき料率(実施料率)は,5%を下らな いというべきである。 控訴人は,アンケート調査結果(乙45)を根拠として,本件におけ る実施料率は3%程度とすべきであると主張する。このアンケート調査 結果には,特許権のみの場合のロイヤルティ料率と特許権と意匠権を組 み合わせた場合のロイヤルティ料率が示されており,前者は,平均値が 約3.5%,中央値が約3.3%であり,後者は,平均値が約3.1%,中 央値が約2.9%であるから,確かに控訴人の指摘するとおり,後者の数 字の方が若干低くなっている。しかし,このアンケート調査の回答数は 必ずしも多くなく,特許権と意匠権を組み合わせた場合のロイヤルティ 料率についての回答数は全部で25にすぎないし,意匠権のみの場合の ロイヤルティ料率についての調査結果は存在しない。また,特許権,意 匠権それぞれ単独でロイヤルティ料率を設定する場合と,これを組み合 わせてロイヤルティ料率を設定する場合を比較すると,単純に,単独の 場合の料率を足したものが組み合わせた場合の料率になるとは考え難く, むしろ,組み合わせた場合の料率は,単独の場合の料率を足したものよ り低くなるのが一般的ではないかと考えられる。したがって,このアン ケート調査結果は,本件における実施料率を認定するに当たっては,あ くまでも参考資料の一つにとどまるといわざるを得ない。これに加え, 本件意匠自体の価値,被告製品の需要者がデザイン性を考慮する程度, 原告製品と被告製品とが競合品の関係にあることといった事情を総合的 に考慮すれば,本件における実施料率は5%を下らないというべきであ り,控訴人の主張を採用することはできない。

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1審はこちら。

◆平成30(ワ)6029

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平成29(ワ)10716  特許権侵害差止等請求事件  特許権 令和3年2月18日  大阪地方裁判所

 特許法102条2項による損害認定について、2割の覆滅が認められました。 消費税については、侵害時の税率で計算すると判断されました。

 消費税は,国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものであるとこ ろ(消費税法4条1項),「例えば,次に掲げる損害賠償金のように,その実質が 資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当する ことに留意する。・・・(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財 産権の権利者が収受する損害賠償金」(消費税法基本通達 5-2-5)とされているこ とに鑑みると,特許権を侵害された者が特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金 を侵害者から受領した場合,その損害賠償金も消費税の課税対象となるものと推察 される。そうすると,特許権者が特許権侵害による損害のてん補を受けるために は,課税されるであろう消費税額相当分についても損害として受領し得る必要があ るというべきであるから,「利益」には消費税額相当分も含まれ得ると解される。 適用されるべき消費税率について,原告は,損害賠償支払時点の税率(10%) によるべきと主張する。
しかし,上記のとおり,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金に対する消費 税が課せられるのは,損害賠償金の実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認めら れることによる。ここで,資産の譲渡等に相当する行為と見られるのは,特許権侵 害行為である。また,消費税基本通達 9-1-21 では,「工業所有権等又はノウハウを 他の者に使用させたことにより支払いを受ける使用料の額を対価とする資産の譲渡 等の時期は,その額が確定した日とする。」とされている。これらのことに鑑みる と,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金は,特許権侵害行為時に直ちに損害 が発生して金額が確定するものであるから,資産の譲渡等の時期は,特許権侵害行 為時であると解される。 そうすると,本件においては,第1期間〜第4期間のいずれにおいても,本件特 許権侵害行為時の消費税率8%が適用されることとなる。
・・・・
本件明細書の記載によれば,本件発明の効果は,前記4(1)のとおりである。要 するに,本件発明の効果は,1)外観上の体裁の良さ及び室内側への風雨の進入防止 並びに2)取付強度の高さ及び風圧に対する耐久性の良さと,3)取付作業時に足場等 が不要となることによる施工コストの低減にあるといえる。もっとも,上記効果の うち1)及び2)は,手摺本体取付け後の効果であるため,取付方法に係る発明である 本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とは必ずしもいえない。
イ 本件発明の貢献の程度等について
(ア) 本件発明は,手摺の取付方法に係る発明である。手摺を選択するのは,最終 的にはこれを取り付ける建築物の施主であるものの,手摺の取付方法そのものが施 主の関心を惹くとは考え難い。その意味で,本件発明に係る手摺の取付方法を実施 することは,製品選択の直接の動機となるとはいえない。 しかし,本件発明の効果1)〜3)は,いずれも建築物に取り付けるべき手摺製品の 選択の動機となり得る事情ということはできる。
(イ) もっとも,前記アのとおり,効果1)及び2)は,いずれも手摺本体取付け後の 効果であるため,取付方法に係る発明である本件発明によるのでなければ実現し得 ない効果とは必ずしもいえない。例えば,本件特許出願後に公開されたものである ものの,特開 2009-2283号公報(乙16。平成21年10月8日公開)には,手 摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数のガラス板等のパネルが取り付けら れ,パネル間にはパネル支持枠(アルミニウム系金属で構成されるものであり\n(【0012】),アルミ製目地枠に相当する。)を用い,パネルの上下左右全ての側 部が支持固定される手摺の構成が開示されている。そうすると,効果1)及び2)につ いては,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たっては,必ずしも重視し得 るものではない。
(ウ) 他方,効果3)については,最終的な需要者(ないしこれに対して建築物に取 り付けるべき手摺を提案する手摺取付業者や建築物の開発業者等)にとって,顧客 誘引力を生じ得るものといってよく,本件発明の貢献の程度を評価するに当たって はこれを考慮に入れるべきである。 もっとも,複数階層の建築物の建築現場においては,手摺取付工事のための足場 は不要であっても,別工程のために足場の設置が必要となることは,当然あり得る (乙50〜54参照)。このため,このような場合は,結局は足場等設置に要する コストが発生し,施工コスト低減の効果がないか,あるとしても,設置期間短縮等 による限られた効果しか生じないものと合理的に推察される。 他方,このような事情は主として建築物の新築時や大規模修繕時のものであり, それ以外のメンテナンス時には,足場等を不要とすることによる施工コストの低減 という効果が発揮されることは考えられる。現に,乙42製品のカタログ(乙4 2)には,「パネルは室内側から取り付けられ,メンテナンス性に優れていま す。」と記載されている。また,原告製品のカタログ(甲15)においても,「ガ ラス嵌め込み工事における,外部足場が不要になります。」との記載があり,これ もメンテナンス性における優位性を指摘するものと理解される。ただし,建築物の 新築時及び大規模修繕時に比較すると,それ以外の機会にメンテナンスを実際に要 する例は,規模的にかなり少ないと推察される。 さらに,被告は,そのウェブサイト(甲3の1)において,被告製品の特徴とし て,ガラスの連続した意匠となること,4辺支持とすることでガラス厚を薄く設計 できるとともに,手すりの高耐風圧仕様となること,ガラスの縦枠への掛かり寸法 をガラス厚とし,安心な製品仕様としていることを挙げるものの,足場を組む必要 がないこと(その結果として施工費が安価になること)については触れていない。 加えて,本件発明に係る手摺取付方法によれば,ガラス取付業者においてガラス 板と目地枠を取り付けることができるとしても,それがどの程度施工コストの低減 に貢献する効果を有しているのかは明らかではない。
(エ) 以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを 実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同 程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について 証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数 のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認 められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について 証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付 枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる (乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4 辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的 にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付 強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係 合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲 14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等 の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得 る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について 証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ 製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程 度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって, アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺 笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関 係である。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他 原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可 能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当 である。 もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると 認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全 趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27 製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3 9製品が平成29年10月であることが認められる。 また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。
これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品 及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2 項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程 度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的 であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに 反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。

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令和2(行ケ)10042  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月25日  知的財産高等裁判所

 訂正が明細書等に記載した事項の範囲内ではないとした審決が維持されました。

 (ア) 原告は,本件明細書の段落【0111】の記載及び【図8】を指摘し, 本件決定が,訂正1イにおける「第3部材とは反対側」と本件明細書に記載された 「回転中心C3とは反対側」とは別意であると判断したことは誤りであり,訂正1 イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」は,第 1線分に対して第3部材の回転中心とは反対側をいうものと解釈すべきであると主 張する。 しかし,本件明細書の段落【0111】における「回転中心C3」は,「伝達軸8 2」の中心として特定されており(本件明細書の段落【0016】,【0056】), クランクシャフトの軸方向から見たときの径の大きさによって定義される「第3部 材」とは異なる概念であるから,「回転中心C3とは反対側」との記載を根拠として, 「前記第3部材とは反対側」の語をもって,第3部材の回転中心とは反対側と同義 ということができないことは,明らかである。 この点,原告は,訂正1イ及び訂正2イについて,誤記であることが明らかであ るとも主張するが,上記の点及び前記イで指摘した諸点に照らし,採用できない。
(イ) 原告は,本件明細書等には,上記「第3部材とは反対側」を「第3部 材の全体とは反対側」と解釈することの記載又は示唆はないと主張するが,前記イ で判示したところに照らし,原告の上記主張は採用できない。 また,原告は,そのように解釈した場合,【図8】の図示内容を始めとする本件明 細書等に記載された内容と整合しないことになるとも主張するが,そのような事情 があるからといって,前記イの判断が左右されるものでもない。
(ウ) 原告は,訂正1イ及び訂正2イの「前記第1線分に対して前記第3部 材とは反対側」からは,その技術的意義が一義的に明確にできないから,本件明細 書等を参酌して,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対して前記第3 部材とは反対側」は,第1線分に対して第3部材の回転中心とは反対側をいうもの と解釈すべきであると主張する。 しかし,前記イのとおり,「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」の意 義(意味内容)自体は,一義的に明確であって,前記イのように解することができ るというべきである。
(2) 訂正1イ及び訂正2イが本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであ るかどうか
ア 上記(1)のとおり,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対し て前記第3部材とは反対側」は,第1線分によって区切られる領域の片側に第3部 材の全体が存在することを前提とし,それが存在する側と第1線分を挟んで反対側 をいうものと解すべきところ,そのような構成は,本件明細書には,「基板」を図示\nしている【図8】,【図9】及び【図11】を含め,全く記載されていない。 そして,「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を上記のとおり解する と,訂正1イ及び訂正2イは,第3部材について,第1線分に重ならないという構\n成に限定するものとなるが,そのように限定する技術的意義については,本件明細 書等には記載がない。他方で,「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を 上記のとおり解すると,訂正1イ及び訂正2イは,同時に,本件訂正前の請求項1 及び9では,第1部材〜第3部材の各定義に照らし,モータか第1伝達歯車のいず れかという限度にまでしか特定されていなかった「第3部材」について,モータで はない(すなわち第1伝達歯車である)という限定を加える結果をもたらすもので あるが,それは,応用例に係る本件明細書の段落【0157】及び【図15】で, 「第3部材」と解される「クランクシャフト54の軸方向から見たときの径が最も 小さい部材」が「モータ60」とされていることと相容れないものである(なお, 上記段落及び図では,そもそも請求項1及び9における「第1線分」すなわち第1 部材の回転中心と第2部材の回転中心とを結ぶ線分が「線分S1」ではなく「線分 S3」 と記載されており,上記「第1線分」の定義との関係自体も必ずしも明らか でない。)。 そして,その他,本件明細書に,第1線分によって区切られる領域の片側に第3 部材の全体が存在することを前提とし,それが存在する側と第1線分を挟んで反対 側における基板の位置について記載されていないにもかかわらず,訂正1イ及び訂 正2イが本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたというべき事情は認 められない。 そうすると,訂正1イ及び訂正2イは,いずれも,本件明細書等に記載した事項 の範囲内においてしたものということはできない。
イ(ア) 仮に,原告の主張するとおり,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記 第1線分に対して前記第3部材とは反対側」について,第1線分に対して「第3部 材の回転中心」とは反対側をいうものであると解したとしても,以下のとおり,訂 正1イ及び訂正2イは,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたもの ということはできない。
a 本件明細書の段落【0111】,【0113】及び【0118】の記 載並びに【図8】,【図9】及び【図11】によると,本件明細書には,訂正1イ及 び訂正2イに含まれる「前記基板は,前記クランクシャフトの軸方向から見た場合 に,前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重な る領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重 なる領域を有する,駆動ユニット」の構成のうち,第1部材が被駆動歯車,第2部\n材がモータ,第3部材が第1伝達歯車である場合の実施例が記載されていると認め られる。 しかし,本件訂正後の請求項1及び9においては,基板の構成について,上記の\n特定がされているのみであるので,被告が主張する五つの態様のもの(前記第4の 1(2)イ(イ),(ウ)。以下,併せて「被告主張の別態様」という。)も含まれることに なるが,これらは本件明細書等には記載されていない。
b また,前記1(2)オのとおり,本件明細書には,「基板」の位置を上 記のとおり特定したこと,殊に,基板が被駆動歯車及びモータと重なる領域が第1 線分に対して「第3部材とは反対側」の領域であることについて,本件発明の課題 との関係でいかなる技術的意義を有するかの記載はなく,それを認めるに足りる技 術常識があるとも認められない。したがって,訂正1イ及び訂正2イの上記構成が\nいかなる技術的意義を有するかは不明というほかない。
c そうすると,本件訂正後の請求項1及び9は,その技術的意義が明 らかでない,本件明細書等に記載のない被告主張の別態様を含むこととなるところ, 被告主張の別態様中には,本件明細書に記載された上記aの実施例と比較して「基 板」の技術的意義が共通するものと直ちにみ難いものが含まれているといえるから, このような訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものということ はできない。

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令和2(行ケ)10058  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月25日  知的財産高等裁判所

 周知技術から、特許の出願時には,小児外科においては,長さが可変の手術 台が一定程度普及していたとして、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。

ア 周知技術について (ア) 昭和53年に出願され,昭和54年に公開された実用新案登録願(甲 64)には,前記4(3)のとおり,小児用手術台は,患者の身長の長短によって,長 すぎたり,短かすぎて,医師が適切な診療処置を行うのに不便であったこと,この ことから,医師が適切な診療処置を行うためには,手術台の長さを,患者の身長に 応じたものにする必要があったこと,そのために,小児用手術台の患者受板部を, 中央受板部の前後に連結される頭受板及び足受板の他に,複数の補助受板で構成し,\n小児から中年の患者の身長に応じて各受板を適宜組み合わせ連結して手術台を形成 することが記載されていると認められる。
・・・
(ウ) 前記4(5)のとおり,昭和53年〜昭和55年に,日本において,小児 外科用手術台であるMOC−1800が販売されていたが,そのカタログ(甲76) によると,前記4(5)のとおり,同手術台は,主枠の両側に,腰板,背板,脚板,枕 板(頭部受板)及び補助板を取り付けることができ,その組合せにより,様々な長 さのテーブルトップを形成することができることが認められ,また,同カタログに は,「全長60〜187cmの間で幼少児の身長に応じて全長が選べる」,「21種類 の組合せの中より小児の身長に応じて,テーブルトップの全長を選択してください。」 などの記載がある。この事実からすると,患者の身長に応じて,長さの異なるテー ブルトップを備える手術台の需要があったこと,この需要に対応するために,主枠 の両側に,腰板,背板,脚板,枕板(頭部受板)及び補助板を組み合わせて,様々 な長さのテーブルトップを形成できる手術台が販売されていたことが認められる。
・・・
(オ) 以上の事実からすると,本件特許の出願時には,手術台のテーブルトッ プは,患者の身長に応じた長さとすることが望まれており,医療機関において,テ ーブルトップの長さを調整できる手術台の要望があったこと,その要望に応えるた めに,各種の大きさのコンポーネントを組み合わせて,適宜の長さのテーブルトッ プとする手術台が販売されており,また,小児外科においては,長さが可変の手術 台が一定程度普及していたことが認められる。
・・・
前記5(3)イのとおり,製品1発明3)においては,患者の頭部側から順に,1)背板, 座板,足板の組合せ,2)背板(短),座板,背板の組合せ,3)背板(短),座板,足 板の組合せを適宜選択し,各組合せによるテーブルトップとし,また,4)各種頭板, 背板,座板,足板の組合せ,5)各種頭板,背板(短),座板,背板の組合せ,6)各種 頭板,背板(短),座板,足板の組合せを適宜選択し,各組合せによるテーブルトッ プとすることが可能であり,上記1)の組合せを上記2)の組合せに変更することや上 記2)の組合せを上記3)の組合せに変更すること,上記4)の組合せを上記5)の組合せ に変更することや上記5)の組合せを上記6)の組合せに変更することも可能であると\nころ,甲1,2,4及び5には,これらの組合せを禁止したり,推奨しない旨の記 載もなく,かえって,前記3のとおり,甲2には,「マッケ手術台システム1120 は,モジュール方式でデザインされ」(2頁),「広く世界的に採用されている非常に フレキシブルなモジュール方式の手術台システムです。」との記載がある。
そして,前記イのとおり,製品1において,患者の背が高い場合には,足側の背 板の先に頭板を付け加える使用方法が行われていたことからすると,前記アのとお り,手術台のテーブルトップを患者の身長に応じた長さとすることが望まれており, その要望に応えるために各種のコンポーネントを組み合わせることなどが行われて いることを知る当業者は,製品1発明3)において,患者の身長に対応させるために 各種モジュールを取り換えて手術台を患者の身長に対応したものとすることを容易 に想到することができたものと認められる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,背板(短)は頭部手術という特定の用途のためにのみ頭板と 共に使用されると主張する。 しかし,甲5の20頁には,背板(短)に頭板「1002.62」と取り付けら れた写真が載っているが,同頁の表題は「眼科,ENT,一般外科,麻酔科」と表\ 記されていることから,背板(短)は,必ずしも,特定の用途のために頭板と共に 使用されるとは認められない。 また,患者の頭側に頭板を取り付けた背板(短)を配置した場合,前記5(3)イの とおり,足側は背板又は足板を配置することが可能であり,足側の背板を足板に交\n換すれば,テーブルトップの全長も変わるから,被告の主張を前提としても,使用 者の体格に対応して,床板を支えるフレームを交換したことになる。 したがって,被告の上記主張は理由がない。
(イ) 被告は,製品1の具体的な構成は,それぞれが独立した構\成であり,そ れらの構成を組み合わせることにより相違点を解消することはできないと主張する。\nしかし,製品1発明3)の構成は,前記5(2)のとおりであるところ,同構成は,背\n板,座板及び足板の各コンポーネント並びに背板(短)及び各種頭板のアクセサリ ーを含めて,一つの製品である製品1から認定できる技術的構成であるから,一つ\nの発明の構成である。そして,前記イの実施態様も製品1の実施態様であるから,\nこれを考え併せて,製品1発明3)から本件発明を容易に想到することができるとい うべきである。
(ウ) 被告は,原告の主張は,「設計事項」という名目の下,甲61以下の証 拠に基づく異なる構成(公知事実)を組み合わせることにより相違点を解消できる\nという新たな進歩性欠如の主張をするものであり,本件訴訟の審理事項から排除さ れるべきものであると主張するが,前記アの周知技術を本件発明の進歩性を判断す るに当たっての当事者の技術水準を示すものとして考慮することはできるのであり, 前記ウの判断はそのような趣旨で考慮したものであるから,本件訴訟の審理範囲外 ではない。
(3) 以上より,取消事由2は理由がある。
7 そうすると,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の主張し た無効理由は認められないとした本件審決の判断は誤りであるから,本件審決は取 り消されるべきである。

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令和2(ネ)10045 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審と同様に、104条の3の無効理由(新規事項、サポート要件違反)があるので、権利行使不能と判断されました\n

(ア) 図105ドットパターンにおいては,情報ドットは,四隅を格子ドッ トで囲まれた領域の中心からずれた位置に置かれるところ,本件補正1 1)部分に当たる構成要件B1の情報ドットは,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点の中心」からずれた位置に置かれる。\n図105には,水平又は垂直の格子線の中間に各格子線と平行な線が引 かれているが,当初明細書1に,「格子状に配置されたドットで構成されている。」(【0185】),「格子ブロックの四隅(格子線の交点\n(格子点)上)には格子ドットLDが配置されている」(【0186】), 「4個の格子ドットLDの正中心に配置したドットである(図106(a) 参照)」(【0197】)と記載されているとおり,格子ドットは等間 隔に配置されたドットにより構成された水平ラインと垂直ラインの交点であり,格子線は格子ドットを結ぶラインであるから,図105に示さ\nれた各格子線の中間に引かれた線は格子ドットで囲まれた領域の中心を 示すために参考として引かれた補助線にすぎず,格子線とは認められな い(図106(a)のように,格子ドット同士を対角線で結べば,その 交点は「格子線の交点」となるが,その線は構成要件B1に規定する「縦横方向」のラインではない。)。\n そうすると,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格 子点の中心」を基点として情報ドットが位置付けられることを構成要件とする本件補正11)部分は,図105のドットパターンとは似て非なる ものであり,そもそも図105ドットパターンに基づく補正であるとは 認められない。
(イ) 図5ドットパターンにおいては, 情報を表現するドットは,格子ドットから上下左右の格子線上にずらした位置に配置されるところ,構\成要件B1の情報ドットは「格子点の中心から等距離で45°ずつずらし た方向のうちいずれかの方向」に配置されるものであるから,本件補正 11)部分は,図5ドットパターンに基づく補正であるとは認められない。
(ウ) そのほか,当初明細書1に本件補正11)部分に対応する記載は認め られないから,本件補正前発明1の本件補正11)部分に対応する部分と 構成要件B1とを対比するまでもなく,本件補正11)部分は新たな技術 的事項を導入するものというべきである。
・・・・
(ア) 本件発明3の特許請求の範囲の記載(分説後のもの)は,次のとおり である(引用に係る原判決の「事実及び理由」第2の2(5)ウ参照)。
A3 等間隔に所定個数水平方向に配置されたドットと,
B3 前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから 等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドットと,
C3 前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ライ ンと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定さ れた水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方でデータ 内容が定義された情報ドットと,からなるドットパターンであって,
D3 前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位置 からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している E3 ことを特徴とするドットパターン。
(イ) 構成要件B3の「前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」と,\n構成要件C3の「前記垂直方向に配置されたドット」と,構\成要件D3 の「前記垂直方向に配置されたドット」とは同じものを指すと解される から,この一つの「垂直方向に配置されたドット」は,垂直方向に「等 間隔」に配置される一方で(構成要件B3),「本来の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味するとされており,その「ず\nらし方」について特に限定はされていない。同一方向に等間隔に配置さ れながらその位置がずれているのは文言上整合していないが,これを合 理的に解釈するならば,「等間隔」はこの一つの「垂直方向に配置され たドット」以外のドットに係り,この一つの「垂直方向に配置されたド ット」は他のドットと異なり「等間隔」に配置されなくてもよいもので あり,そのずらされる方向,距離とも何ら限定はないと解するほかない。 また,本件発明3は,「ずらし方によって前記ドットパターンの向き を意味している」(構成要件D3)としているから,「ずらし方」,すなわち,本来の位置からずらされた別の位置に配置された一つの「垂直\n方向に配置されたドット」が当該位置に配置されていることが認識され, 本来の位置とその実際の位置との間の位置関係に基づいてドットパター ンの向きが意味されることを規定していると解釈すべきものである。
イ 図105ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図103ないし106のほか,次の記載がある。
「【0239】 また,本発明のドットパターンでは,キードットのずらし方を変更す ることにより,同一のドットパターン部であっても別の意味を持たせる ことができる。つまり,キードットKDは格子点からずらすことでキー ドットKDとして機能するものであるが,このずらし方を格子点から等距離で45度ずつずらすことにより8パターンのキードットを定義でき\nる。
【0240】 ここで,ドットパターン部をC−MOS等の撮像手段で撮像した場合, 当該撮像データは当該撮像手段のフレームバッファに記録されるが,こ のときもし撮像手段の位置が紙面の鉛直軸(撮影軸)を中心に回動され た位置,すなわち撮影軸を中心にして回動した位置(ずれた位置)にあ る場合には,撮像された格子ドットとキードットKDとの位置関係から 撮像手段の撮像軸を中心にしたずれ(カメラの角度)がわかることにな る。この原理を応用すれば,カメラで同じ領域を撮影しても角度という 別次元のパラメータを持たせることができる。そのため,同じ位置の同 じ領域を読み取っても角度毎に別の情報を出力させることができる。
【0241】 いわば,同一領域に角度パラメータによって階層的な情報を配置でき ることになる。
【0242】 この原理を応用したものが図74,図76,図78に示すような例で ある。図74では,ミニフィギュア1101の底面に設けられたスキャ ナ部1105でこのミニフィギュア1101を台座上で45度ずつ回転 させることでドットパターン部の読取り情報とともに異なる角度情報を 得ることできるため,8通りの音声内容を出力させることができる。」 (図74,76及び78については本判決への添付を省略する。)
(イ) 上記(ア)の記載は,構成要件D3との関係においては,確かに,格子ドットとキードットとの位置関係によってドットパターンの向きを意味\nすることを記載するものといえる。 しかしながら,構成要件C3との関係について見れば,本件発明3は,「格子点からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」との構\成を有するところ,前記2(1)ウのとおり(引用に係る原判決の「事実及び 理由」第3の1(補正後のもの)のとおり,当初明細書1と本件明細書 3の関連部分の記載はいずれも同じである。),図105ドットパター ンにおいては,情報ドットを四隅を格子ドットで囲まれた領域の中心か らずらすことによってデータ内容を定義するものであって,格子ドット からのずらし方によってデータ内容を定義するものではない(構成要件C3は格子点を垂直ラインと水平ラインの交点と定義しているから,構成要件 C3が図105ドットパターンに基づくものと仮定する余地はな い。)。 そうすると,本件発明3は,図105ドットパターンに関する記載に 係るものとはいえない。
ウ 図5ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図2,5ないし8のほか,次の記載がある。 「【0069】 ・・・図5から図8は他のドットパターンの一例を示す正面図である。
【0070】 上述したようにカメラ602で取り込んだ画像データは,画像処理ア ルゴリズムで処理してドット605を抽出し,歪率補正のアルゴリズム により,カメラ602が原因する歪とカメラ602の傾きによる歪を補 正するので,ドットパターン601の画像データを取り込むときに正確 に認識することができる。
【0071】 このドットパターンの認識では,先ず連続する等間隔のドット605 により構成されたラインを抽出し,その抽出したラインが正しいラインかどうかを判定する。このラインが正しいラインでないときは別のライ\nンを抽出する。
【0072】 次に,抽出したラインの1つを水平ラインとする。この水平ラインを 基準としてそこから垂直に延びるラインを抽出する。垂直ラインは,水 平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識する。\n
【0073】 最後に,情報領域を抽出してその情報を数値化し,この数値情報を再 生する。」 (イ) また,引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の4(2)(補正後のも の)とおり,図5及び図7では,左端の垂直ラインに配置されたドット の一つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ライ ンに沿って左側に配置され,「x,y座標フラグ」とされていることが 示され,図6及び図8では,左端の垂直ラインに配置されたドットの一 つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ラインに 沿って右側に配置され,「一般コードフラグ」とされていることが示さ れている。
(ウ) 本件発明3は,「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ド ット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意 味している」(構成要件D3)ことを特徴とするドットパターンであるところ,図5ドットパターンに関し,本件明細書3には,前記(ア)のとお り,「垂直ラインは,水平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識す\nる。」(【0072】)との記載がある。しかしながら,これは,垂直 ライン上の特定位置(本来の位置)にドットがないことによってドット パターンの上下方向を認識するとの意味の記載であって,「ドット本来 の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味する記載 とはいえない。 また,前記(イ)のとおり,図5ないし8には,他のドットから形成され る垂直ラインから左右にずれたドットが示され,それらドットが「x, y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」との意味を有するフラグ であることが記載されている。しかしながら,引用に係る原判決の「事 実及び理由」第3の4(2)(補正後のもの)によれば,「x,y座標フラ グ」(図5及び7)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはXY平面上の特定の座標値を示し,「一般コードフラグ」(図6\n及び8)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはある特定のコード(番号)を示すものと認められる。そうすると,「x,y\n座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」とされたドットは,情報を 表現する部分のドットパターンのデータ内容の定義方法を示すというデータ内容を定義するドットの一つにすぎず,フラグとしてその位置を認\n識され,ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によって ドットパターンのデータの内容を定義しているが,ドットパターンの向 きを意味しているものではない。そして,そのほか,図5ないし8には, ドットパターンの向きを意味するドットは記載されていないし,データ の内容を定義しているドットがドットパターンの向きを意味するドット を兼ねるとの記載もない。
さらに,「垂直方向に配置されたドット」の一つにつき,その本来の 位置からのずらし方によってドットパターンの向きを意味することを特 徴とする本件発明3の実施形態について,上記ドットがどのような方向, 距離において配置されるのかについては,本件明細書3にはその記載は ない。 以上によると,図5ドットパターンは,「ずらし方によって前記ドッ トパターンの向きを意味している」(構成要件D3)との構\成を有しな い。 そうすると,本件発明3は,図5ドットパターンに関する記載に係る ものともいえない。
エ 控訴人は,1)図5ないし8において,「x,y座標フラグ」又は「一 般コードフラグ」はドットパターンの向きを意味するドットと兼用され ている,2)本件明細書3の段落【0239】ないし【0241】,【図 105】,【図106】の(d)の記載を参酌すれば,キードットにデータ 内容を定義する機能とドットパターンの向き(角度)を意味するという機能\を持たせ得ることが示されている,3)本件明細書の段落【0230】 の記載から,「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」もキード ットと同様の機能が備わると理解できる,4)本件明細書3の【0072】 では格子ドットを非回転対称の配置にして上下方向も認識できるように しているし,本件明細書3の図5ないし8には「x,y座標フラグ」又 は「一般コードフラグ」が本来の位置からずれることで本来の位置と実 際に配置されたドットの位置関係に基づいてドットパターンの向きが表現されている,5)「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」 がキードットと同一の機能を有するものであることは当業者にとって自明である旨を主張する。\n
しかしながら,前記ウで認定したとおり,図5ないし8においては, ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によってドットパ ターンの向きを認識することについては何ら説明されておらず,控訴人 主張のドットの兼用を認めるに足りる根拠は見当たらないないから,上 記1)の主張は採用することができない。 また,【0239】ないし【0241】,【図105】,【図106】 の(d)の記載は,図105ドットパターンに関する記載であり,図105 ドットパターンと図5ドットパターンを組み合わせることは新規事項の 追加となることは前記2にて判断したとおりであるから,そのような組 み合わせをしたのであれば,それ自体からしてサポート要件を欠くこと になり,上記2)の主張は失当である。
次に,図105ドットパターンに関する記載である段落【0230】 (引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の2の【0230】III)部分 参照)には「本発明におけるドットパターンの仕様について図103〜 図106を用いて説明する。」との記載があるだけであり,これにより 「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」が図105ドット パターンのキードットと同様の機能が備わると理解することはできないから,上記3)の主張は採用することができない。 さらに,控訴人の上記4)及び5)の主張については,確かに,ドットパ ターンの方向を意味するドット又はドット群を設けてこれらを非回転対 称の配置にすればドットパターンの向きを認識できることは明らかであ り,また,図5ないし8に記載された「x,y座標フラグ」又は「一般 コードフラグ」は非回転対称の位置に配置されているとはいえるから, これをドットパターンの向きを意味するドットとして兼用することも可 能である。しかしながら,本件明細書3は,そのような構\成としたもの と理解すべき記載となっておらず,「本来の位置からのずらし方」とし てどのような選択に従い本件発明3を構成したのかがそもそも記載されているとはいえないことは,前記ウで示したとおりである。したがって,\n上記4)及び5)の主張も採用することができない。
オ 以上のとおり,技術常識を踏まえても,当業者において,本件発明3 が本件明細書3の発明の詳細な説明に記載したものと理解することはで きないというべきであるから,本件発明3に係る本件特許3は,特許法 36条6項1号に違反し,特許無効審判により無効とされるべきもので ある。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成30(ワ)10126

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令和2(行ケ)10088  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年2月22日  知的財産高等裁判所

 文字商標「ホームズくん」が、「ホームズ君」を含む図形商標と類似するとして拒絶されました。知財高裁は審決を維持しました。

 原告は,1)原告キャラクターと本願商標との密接不可分的なつながり,2) 原告キャラクター及び原告ウェブサイトの周知著名性,3)不動産業界の取引 の実情を考慮すると,本願商標からは,原告キャラクターの観念,さらには 原告による各種不動産情報の提供の役務という観念が生じる旨主張する。こ の主張は,取引の実情を考慮すると,本願商標から,上記の各観念が生じる と主張しているものと解される。 しかしながら,証拠(甲34〜39,41)によれば,原告が,原告キャ ラクターを利用した宣伝広告活動や営業活動を展開しており,原告キャラク ターやその愛称である「ホームズくん」がそれなりの知名度を有するに至っ ていることは認められるものの,他方で,参加人も,引用商標1やそれに類 似した標章,「ホームズ君」という名称等を利用して宣伝広告活動や営業活 動を行っており,相応の知名度を得るに至っていること(丙20〜323) 等の事情に照らしてみると,本願商標の指定役務に係る取引分野において, 「ホームズくん」といえば原告キャラクター,ひいては原告の営業を表すと\n取引者,需要者の誰もが理解するといえるほどの一般的,普遍的な観念が成 立するに至っているとまで認めることはできない。そして,単に,原告が「 ホームズくん」という愛称の原告キャラクターを利用しており,それが,一 定程度の知名度を有しているという程度のことであれば,それは,せいぜい 本願商標に係る個別的な事情であるにとどまり,取引の実情として考慮する ことが許される,指定商品・役務全般についての一般的・恒常的事情(最高 裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小法廷判決・審決取消 訴訟判決集昭和49年443頁参照)には当たらない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
3 引用商標1の外観・観念・称呼について
(1) 引用商標1は,別紙審決書写しの別掲2のとおり,「ホームズ君」部分, 「耐震フォーラム」部分,引用図形部分から成る結合商標である。 ア 引用商標1は,外観上,「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分 及び引用図形部分の三つが分離されないような態様で構成されているもの\nではない。そして,「ホームズ君」部分及び「耐震フォーラム」部分と引 用図形部分とは,文字と図形との違いに加え,色彩においても大きく異な っており,外観上密接不可分な関係にないことは明らかである。他方,「 ホームズ君」部分と「耐震フォーラム」部分とは,色彩が青色で統一され ており,字体も共通するようにみられるものの,改行により二列になって いて一体性に乏しい上,前者は文字が青であるのに対し,後者は,青の背 景に白抜きで文字が表されている点でも異なり,更に文字の大きさも異な\nるため,やはり外観上密接不可分な関係にあるとはいい難い。 また,「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分,引用図形部分の 三者が,称呼,観念において密接不可分の関係性を有していると認めるだ けの根拠を見出すこともできない(なお,後のイで述べるとおり,「ホー ムズ君」部分と引用図形部分には,観念において一定の関係があると理解 することも可能であるが,そうであるとしても,「ホームズ君」部分を要\n部として抽出し得るという結論に変わりがないことは,後に述べるとおり である。)。 したがって,引用商標1は,各構成部分を分離して観察することが,取\n引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないか ら,各部分を分離して観察することも許されるものというべきである。
イ そして,「ホームズ君」の文字は,それ自体としてみれば,商品・役務 の出所識別標識としての機能を十\分に果たし得るものであるといえること, 「ホームズ君」部分は,引用商標1の他の部分に比べると小さいとはいえ, 十分に認識可能\な形で記載されており,出所識別標識としての機能を果た\nし得ないほどに他の部分に埋没してしまっているとはいえないこと等の事 情に照らしてみると,「ホームズ君」部分を,引用商標1の要部として抽 出することは十分に可能\であるということができる。 他方「耐震フォーラム」部分を構成する「耐震」及び「フォーラム」は\nいずれも普通名詞であって(乙7・8(大辞林第三版)),これらを結合 した「耐震フォーラム」の語は,建築物等の耐震性に関する講演会・討論 会を指称するためしばしば使用されていること(乙9〜19(各種の専門 新聞・一般日刊新聞))に照らすと,引用商標1が例えば「不動産に関す るセミナーの企画・運営」に用いられた場合には,「耐震フォーラム」部 分は,「建物の耐震性に関する講演会・討論会」程度の意味合いを認識さ せるにすぎず,出所識別標識としての称呼・観念を生じさせるとはいえな い。
また,引用図形部分は,全体としてみると,探偵風の装束をした人物が 家を観察している場面を描いたものと受け取れ,横にある「ホームズ君」 部分を併せ見ることにより,家を観察する名探偵ホームズといった観念を 生ずる余地があるが,仮にそうであるとしても,それは,「ホームズ君」 のイメージを視覚的に描き出したものであって,「ホームズ君」部分を補 完するものにすぎないと理解すべきであるから,独立して出所識別機能を\n果たすとまで見ることはできない。 以上によれば,本件においては,引用商標1から抽出した「ホームズ君 」部分と本願商標との比較によって類否を判断すべきである。

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令和2(行ケ)10104  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年2月22日  知的財産高等裁判所

 商標「旬/JAPAN SHUN」について、先行商標「市場365/旬/SYUN RAKU ZEN」と類似するかが争われました。審決、知財高裁とも、分離解釈可能として類似すると判断しました。\n

 商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された 場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否か によって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称 呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべ く,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その 具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行 ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁, 最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集5 1巻3号1055頁参照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構\成部 分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分 的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,\nこの部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許さ れないが,その場合であっても,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に\n対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や, それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには, 商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判\n断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同 38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成 3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5 009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷 判決・裁判集民事228号561頁参照)。 以下,上記の判断枠組みに沿って,本願商標及び引用商標の類否について検 討する。
2 原告の主張1(分離観察の可否)について
(1) 本願商標について
ア 商標の構成\n
(ア) 本願商標は,黒色の長方形図形を背景として,左側から順に,本願 漢字部分及び本願欧文字部分が配置された結合商標であり,両部分は, ほぼ同じ高さで横一列に,重なり合うことなく配置されている。
(イ) 本願漢字部分は,「旬」の漢字1文字からなる。この文字は,赤色の 毛筆体で描かれており,本願欧文字部分の各文字の4倍程度の大きさで ある。また,本願漢字部分は,やや図案化されているものの,その程度 は低いといえる。
(ウ) 本願欧文字部分は,同じ幅で上下2段に配置された「JAPAN」 及び「SHuN」の欧文字からなり,これらの文字は,いずれも白色の 毛筆体で描かれている。また,本願欧文字部分は,本願商標のうち2分 の1程度の幅を占めている。
イ 分離観察の可否
(ア) 本願漢字部分は,漢字1文字が赤色で大きく描かれているのに対し, 本願欧文字部分は,上下2段に配置された複数の欧文字が白色で描かれ ており,両部分の文字の大きさや色彩,文字種,構成等は,明らかに異\nなるといえる。また,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,ほぼ同じ高 さで横一列に配置されてはいるものの,重なり合うことなく配置されて いる。そうすると,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,それぞれが独 立したものであるとの印象を与え,視覚上分離して認識されるものとい える。 また,本願欧文字部分は,本願商標のうち2分の1程度の幅を占めて おり,看者の目を引きやすいとはいえるものの,他方で,本願漢字部分 は,その色彩や大きさからすれば,相応に目立つ態様で表示されている\nといえるから,本願商標に接した者は,本願欧文字部分のみならず,本 願漢字部分にも注意を引かれるものといえる。なお,黒色の背景部分は, 視覚上,特段の印象を与えるようなものではない。
(イ) また,本願漢字部分は,平易な漢字である「旬」の文字を表したも\nのであるから,同部分からは,「シュン」との称呼が生じるとともに,日 常用語として「魚介・野菜・果物などがよくとれて味の最もよい時」等 (乙2)を意味する「旬」の観念が生じるものといえる。 他方で,本願欧文字部分は,上下2段に配置された「JAPAN」及 び「SHuN」の欧文字からなるものであるところ,平易な英語である 「JAPAN」の文字からは,「ジャパン」との称呼が生じるとともに, 「日本」の観念が生じるが,「SHuN」の文字は,外国語の成語である とは認められず,特定の意味合いを表す語であるとも認められないから,\n同文字からは,いわゆるローマ字読みによって「シュン」との称呼が生 じ得るとはいえるものの,特定の観念は生じないというべきである。そ うすると,本願欧文字部分からは,特定の観念が生じるものではないと いうべきである。
以上のとおり,本願漢字部分は,本願欧文字部分との間において,「S HuN」の文字部分と称呼が共通し得るのみであり,これ以外の部分と は,称呼の面からみても,観念の面からみても,共通するところはない から,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,統一性のある称呼又は観念 によって結び付けられているものではないというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)で検討したところによれば,本願漢字部分及び本 願欧文字部分は,それぞれが独立したものであるとの印象を与え,視覚 上分離して認識されるものといえる上,称呼又は観念上の関連性がある ものとはいえない。 そうすると,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,本願漢字部分のみ を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的 に結合しているものとは認められない。そして,前記のとおり,本願漢 字部分は,相応に目立つ態様で表示されているといえることからすれば,\n本件においては,本願商標から本願漢字部分を抽出し,同部分のみを他 人の商標と比較して類否を判断することが許されるというべきである。

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令和2(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所

 機械系の発明について、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」というクレームの文言が実施可能要件を満たすのかが争われました。地裁高裁3部は、実施可能要件を具備していないとした審決を取り消しました。

 本件審決は,前記2(1)イ〔本判決22頁〕のとおり,原告が主張する式及 び説明に基づいて本件発明を実施するとしても,当業者に過度の試行錯誤を 要するものと判断した。
(2) 判断の誤りの有無とその理由
ア しかし,本件審決の前記(1)の判断は誤りである。その理由は,次のイの とおりである。
イ(ア) 前記2(3)イ(エ) 〔本判決27頁〕のとおり,前記2(3)イ(ウ) 〔本判 決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項目を適宜設定し,Fsが, θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成を実\n現することにより,構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要\nする力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」 するとの構成は実現されるものと認められるところ,前記2(3)イ(ウ〔本) 判決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項は複数存在することか ら,それらについて適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作業 機を作成して本件発明を実施するために過度な試行錯誤を要するかを 検討することが必要となる。
この点に関し,原告は,【図2】に記載された各支点の基本的な位置関 係に基づき,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力」と「エ\nプロン角度」の変化曲線をシミュレーションし,甲60(審判乙14) の7頁のグラフ(別紙図4)の結果を得た。そして,同グラフによれば, 【図2】に記載された作業機の位置関係を基礎にして,第3の支点15 2の位置を,第1の支点140を中心として25°下方に移動させた「第 1の作業機」において,「第1の姿勢」(作業機が水平より33°前傾し た状態)の場合(同グラフの青色線)には,エプロンを跳ね上げるのに 要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化する間に,250N から0Nに徐々に減少したことが認められ,「第2の姿勢」(作業機が水 平より18°前傾した状態)の場合(同グラフの黄色線)には,エプロ ンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化 する間に,約230Nから約75Nまで徐々に減少したことが認められ る。また,甲64(審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)によれば, 「第1の作業機」において,「最上姿勢」(トラクタ油圧機構で作業機を\n最も持ち上げた位置,入力軸が水平より30.5°前傾した状態)の場 合,エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から6 0°に変化する間に,約230Nから約20Nまで徐々に減少したこと が認められる。そして,前記4(2)イ(ア)〔本判決43頁〕のとおり,これ らの場合は,エプロンを跳ね上げるのに要する力が,一般的な作業者が 感じることができる程度に徐々に減少したものと認められる。そうする と,これらのシミュレーションにより,構成要件Gの実施が可能\である ことが立証されたものと認められる。 これらのシミュレーションは,コンピュータを用いたものと推認され るが,その実施が特に困難であったとは認められず,上記の結果を得る ために過度の試行錯誤が必要であったことを窺わせる事情はない。 したがって,前記2(3)イ(ウ)〔本判決27頁〕の式中の各項目のうち, θ以外の項目について適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作 業機を作成して構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,\nエプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの 構成を実施するために,当業者は過度の試行錯誤を要しないものと認め\nられる。
(イ)a 被告は,本件明細書の【0028】には「上記実施例の各支点の位 置関係からこのような荷重の傾向が観察される。」と記載されており, 【図2】の作業機の支点の位置により【図7】のグラフが得られたこ とが明らかにされているとした上,原告が,力学的なシミュレーショ ンにより「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が 増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する変化曲線を得たと する「第1の作業機」(別紙図2の青色で記載された構造)は,【図2】\nの作業機とは第3の支点(152)の位置が異なり,本件明細書,本 件特許の特許出願の願書に添付された図面に記載されていないもの であるから,「第1の作業機」を用いて得た甲60(審判乙14)の7 頁のグラフ及び甲64(審判乙18)の6頁のグラフに基づいて,本 件発明の構成要件Gが実施可能\であるとする原告の主張は誤りであ ると主張する。
しかし,【図2】の作業機は,本件発明の構成を説明するための作業\n機の一例であるところ(【0016】),本件発明の特許請求の範囲にお いて,支点の位置に関しては,第2の支点及び第3の支点の位置につ いて,アシスト機構が両支点を通る同一軸上で移動可能\であること (構成要件E)が定められているのみであることからすると,その定\nめを充たしていれば,本件発明の作業機における第2の支点及び第3 の支点の位置は,【図2】に示される具体的な位置と同じである必要は ない。そして,特許出願の願書に添付される図面は,設計図のように 寸法等が正確なものが求められるものではなく,発明の技術内容を理 解できる程度の精度で表現されていれば足りるものであり,【図2】も,\n本件発明の構成を説明するために示されたものであって,設計図のよ\nうに厳密な形状や寸法等を具体的に示したものとは認められないか ら,【図2】の作業機とは第3の支点(152)の位置が異なるのみで 全体の構成が同じであり,構\成要件Eも満たしている「第1の作業機」 において,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ\nプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとい う構成が実施可能\であることが示されていれば,本件発明の構成要件\nGは実施可能であると認められる。本件明細書の【0028】には「上\n記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観察され る。」と記載されているが,本件発明の構成が特許請求の範囲により特\n定されていることからしても,上記の【0028】の記載は,本件発 明の作業機における第2の支点及び第3の支点の位置が【図2】に示 される具体的な位置と同じであることまでを要求するものとは認め られない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
b 被告は,「第1の作業機」の計算に用いたガススプリング(甲65(審 判乙19))は,直径をφ16mmにした「オールガスタイプ」のもの であり,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピストンタイプ」 のものでないところ,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピス トンタイプ」のピストンでは【図7】のグラフが得られないことは明 らかであると主張する。
しかし,本件発明におけるアシスト機構で用いるガススプリングに\nついて,本件訂正後の請求項1には,「ガススプリング」と記載されて いるのみであり,「オールガスタイプ」であるか「フリーピストンタイ プ」であるかについての特定がない。また,本件明細書の【0029】 には,「上記実施例においては,ガススプリングとして,フリーピスト ンを有するものを用いたが,フリーピストンを用いない従来型のガス スプリングを用いることも可能である。」と記載されており,本件発明\nのガススプリングが「フリーピストンタイプ」のものに限られない旨 記載されている。そうすると,「オールガスタイプ」のガススプリング (甲65(審判乙19))を計算に用いて,前記(ア)のとおり,「第1の 作業機」により構成要件Gが実施可能\であることが示されていること (甲60(審判乙14)1〜2頁,甲64(審判乙18)1頁,甲6 5(審判乙19))からすれば,構成要件Gは実施可能\であると認めら れる。そして,「オールガスタイプ」のガススプリング(甲65(審判 乙19))は,その構造に照らし,本件特許の原出願時に実施可能\であ ったものと推認され,本件特許の原出願時に実施できなかったことを 裏付ける具体的な証拠はない。したがって,被告の上記主張は,採用 することができない。
c 被告は,本件発明に係る作業機を自ら開発した原告ですら,【図7】 のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業機」を再現で きないのであるから,構成要件Gが実施不可能\であることは明らかで あると主張する。 しかし,特許発明が実施可能性であるか否かは,実施例に示された\n例をそのまま具体的に再現することができるか否かによって判断され るものではないから,本件特許の原出願時に当業者が本件明細書の記 載に基づいて本件発明を実施することができたか否かは,【図7】のグ ラフのデータを得た「当時の作業機」自体を再現できるか否かによっ て判断されるものではない。前記(ア)のとおり,甲60(審判乙14), 甲64(審判乙18)によれば,構成要件Gが実施可能\であることが 認められる。したがって,被告の上記主張は,採用することができな い。

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令和2(ネ)10050  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について1審は技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されていました。控訴審でも同様です。なお、控訴審における乙18に基づく無効主張は1審において主張できたとして、却下されました。乙18が実質あまり強くないのか、気になります。

 なお,控訴人は,当審において,乙第18号証に記載された発明を主引例 とする無効の抗弁を新たに主張した。
しかしながら,この新たな無効の抗弁が時機に後れた攻撃防御方法に当た るかどうかは,原審及び当審における審理の経過を総合的に踏まえて検討す べきものであるところ,一件記録によれば,原審においては,平成31年3 月12日に第1回口頭弁論期日が開かれた後,審理が弁論準備手続に付され たこと,充足論及び無効論について当事者双方の主張立証が行われた後,令 和元年12月20日の第5回弁論準備手続期日において,当事者双方の主張 立証が尽くされたことが確認された上で,裁判所の心証開示が行われたこと が認められる。そして,裁判所の心証開示が行われた上記第5回弁論準備手 続期日までに,乙第18号証に記載された発明を主引例とする無効の抗弁を 主張することが困難であったことをうかがわせるに足りる証拠はない。そう であるとすれば,控訴人としては,上記第5回弁論準備手続期日までに新た な無効の抗弁を主張すること(あるいは,少なくとも,速やかにその主張を する予定である旨を告知すること)が可能\\\であったし,そうすべきものであ ったといえるから,それをしなかったことは時機に後れたものであり,また, 時機に後れたことについて重大な過失があったものといわざるを得ない。そ して,そのような評価は,控訴人が控訴をし,審級が変わったからといって 変わるものではないところ,当審において新たな無効の抗弁の成否を審理す ることになれば,訴訟の完結が遅延することは明らかである。
以上の次第で,当審としては,新たな無効の抗弁を時機に後れた攻撃防御 方法であるとして却下したものである。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成31(ワ)22

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令和2(ネ)10053  意匠権侵害行為差止請求控訴事件  意匠権  民事訴訟 令和3年2月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 タッチパネル式の自販機について、1審と同じく、被告意匠は本件意匠(部分意匠)に類似しないと判断されました。判決文の最後に両者の意匠、公知意匠が示されています。

 本件意匠の具体的構成態様は前記(2)のとおりであるところ,タッチパネ ルの縦横比や後傾角度をどのように構成するかによっては,ありふれた範\n囲内の差しか生じないのであり,また,ディスプレイの枠を等幅に構成す\nるのはありふれた手法であるから,具体的構成態様1)及び3)が美感に与え る影響は微弱である。したがって,前記(4)イの共通点に係る具体的構成態\n様1)及び2)並びに前記(5)イの差異点が類否判断に与える影響はほとんど ない。
ウ また,本件意匠の基本的構成態様に関して,次のような公知意匠がある。\n 公知意匠A(意匠に係る物品「クレジットカードのポイント照会による 商品券販売」)は,傾斜面から下方に向かって側面視「く」字状に形成さ れた基台上にディスプレイ部が筐体より一段高く形成され,薄板状のディ スプレイ部の相当程度が筐体の上端部から突出しているディスプレイ部 について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり, ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状であるものと認め られる。
また,公知意匠B(意匠に係る物品「無人発券機」)は,傾斜面から下 方に向かって側面視「く」字状に形成された基台上にディスプレイ部が筐 体より一段高く形成され,薄板状のディスプレイ部の相当程度が筐体の上 端部から突出しているディスプレイ部について,上方を後方に傾斜させた ディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケーシング が縦長略長方形状であるものと認められる。 さらに,公知意匠C(意匠に係る物品「金融自動化機器」)は,筐体上 部においてアーム状の部品で接続されて正面視で筐体の上端部から突出 しているような外観を呈するディスプレイ部について,上方を後方に傾斜 させたディスプレイが縦長略長方形状であり,ディスプレイを収容するケ ーシングが右上に突出部分があるほか縦長略長方形状であるものと認め られる。
これらによると,本件意匠登録出願前に,自動精算機又はそれに類似す る物品の分野において,筐体の上端部から一定程度突出するディスプレイ 部について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であ り,ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状である意匠が知 られていたものといえるし,より一般的に考えても,自動精算機又はそれ に類似する物品のディスプレイ部において利用者が見やすくタッチしや すい形状を得るためには,本件意匠のような基本的構成態様とすることが\n社会通念上も極めて自然かつ合理性を有するものと考えられる。
そうすると,本件意匠の基本的構成態様は,新規な創作部分ではなく,\n自動精算機又はこれに類似する物品に係る需要者にとり,特に注意を惹き やすい部分であるとはいえず,需要者は,筐体の上端部から一定程度突出 し上方を後方に傾斜させたディスプレイ部であること自体に注意を惹か れるのではなく,これを前提に,更なる細部の構成から生じる美感にこそ\n着目するものといえるから,本件意匠の基本的構成態様が美感に与える影\n響は微弱である。したがって,共通点に係る基本的構成態様が類否判断に\n与える影響はほとんどないし,また,タッチパネル部を本体正面上部の右 側に設けるか左側に設けるかによっては,ありふれた範囲内の差しか生じ ないから,前記(5)アの差異点も類否判断に与える影響はほとんどない。
エ 以上からすると,本件意匠については,前記(2)イの具体的構成態様2), 4)及び5)が需要者の注意を惹きやすい部分となるから,前記(4)イの共通点 に係る具体的構成態様3)並びに前記(5)ウ及びエの各差異点が類否判断に 与える影響が大きい。
そこで検討するに,本件意匠と被告意匠とは傾斜面部を有する点におい て共通するといっても,下側部分も含めて,被告意匠の傾斜面部の幅,あ るいはこれにその下側縁と接する周側面の幅を合わせた合計幅は極めて わずかな広さしかないのに対し,本件意匠は,傾斜面部の上側及び左右側 部分の幅(傾斜面部の上側部分の外縁上側から傾斜面部の下側部分の外縁 下側までの直線長さを仮に50cmとすると,0.75cm前後となる。) に対する傾斜面部の下側部分の幅(上記の仮定によれば,3cm前後とな る。)に極端に差を設けることによって,下側部分が顕著に目立つように 設定されており,しかも,傾斜面部の下側部分に本体側から正面側に向け た高さを確保することにより,タッチパネル部が本体の正面から前方に突 出する態様を構成させているというべきである。そして,需要者は,様々\nな離れた位置から自動精算機を確認し,これに接近していくものであり, 正面視のみならず,斜視,側面視から生じる美感がより重要であるといえ るところ,本件意匠の傾斜面部の下側部分の目立たつように突出させられ た構成は需要者に大きく着目されるといえ,この構\成態様により,本件意 匠はディスプレイ部全体が浮き出すような視覚的効果を生じさせている と認められる。他方,被告意匠は,傾斜面部と周側面がわずかな幅にすぎ ず(上記の仮定によれば,合計しても1.2cm前後にすぎない。),ディ スプレイ部がただ単に本体と一体化しているような視覚的効果しか生じ ないと認められる。したがって,差異点から生じる印象は,共通点から受 ける印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠とは,たとえディス プレイ部の位置等に共通する部分があるとしても,全体として,異なった 美感を有するものと評価できるのであり,類似しないものというべきであ る。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和元年(ワ)第16017号

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令和1(ネ)10078  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許権侵害について、東京地裁(40部)は新規性違反(発明1,3)および進歩性違反(発明2,4)の無効主張を認めました。知財高裁も同じ判断です。

 イ A邸工事が「公然」実施されたものではないとの主張について 控訴人は,A邸は塀や草木に囲まれており,容易に外部からA邸をのぞ き見ることはできないこと,山に囲まれており,近隣の住民もわずかであ ること,作業が屋根上で行われるものであり,外部から容易にその作業の 内容を確認することができないことから,A邸工事は,公然と行われたも のとはいえないと主張する。 しかし,被控訴人のために発明の内容を秘密にする義務を負わない不特 定の者によって技術的に理解されるか,そのおそれのある状況で実施され たのであれば,工事は公然と行われたと評価するのが相当であるところ, 本件においては,まず,A邸の屋根からストーブの煙突が突出している側 (煙突の正面側)の隣地は,本件工事の当時には駐車場であり(乙14の 10),同駐車場には10台を優に超える駐車スペースがあり,敷地もA邸 より高いことが認められるのであって(乙24の2),同駐車場からは煙突 についても十分視認が可能\であるし,当該工事が第三者から視認されるこ と等を拒むような態様で行われていたことはうかがえない。
また,乙12の資料4は,前記ア(イ)認定のとおり平成19年7月2日 に被告から住友林業に提出されたものであるところ,同図面にはインナー フラッシングが明記されており,これが,住友林業からニシカネにファッ クスで転送されている(乙32)。そして,前記ア(イ)において認定したと おり,住友林業の下請業者であるニシカネがA邸の煙突について不燃材の 装着を行うことになっていたが,その時点では,煙突の屋内からの引き出 し及び立ち上げ部分はまだ設置されておらず,住友林業又はニシカネにお いて煙突の屋根貫通部の構造を認識することは十\分可能であったといえ\nるところ,A邸工事の施工方法及び防水構造は,引用に係る原判決の「事\n実及び理由」第4の2(3)ア及びイ(ア)記載のとおりであって,いずれも複 雑なものではなく,当業者であれば,乙12の資料4や,II)期工事時の煙 突の屋根貫通部の構造から,これらの発明を技術的に理解できるものと認\nめられる。
以上によれば,A邸工事は,本件特許出願前に,被控訴人のために発明 の内容を秘密にする義務を負わない不特定の者(少なくとも上記住友林業 やニシカネ等の下請業者等)によって技術的に理解されるか,そのおそれ のある状況で実施されたもので,公然実施された発明に当たるというべき であるから,控訴人の主張は採用できない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)9909

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令和2(行ケ)10011  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月17日  知的財産高等裁判所

 引用文献の開示認定に誤りありとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。

 上記記載から,隔壁の遠位部に備えたスリットは,隔壁の遠位部を通る イントロデューサ針の位置決めをし,その挿入を簡単にするために設けら れたものであることを理解できる。 さらに,図1,23,25ないし27から,延長チューブの遠位端が, カテーテル・アダプタの近位端と遠位端との間で,かつ,隔壁の遠位部の 遠位端よりも更に遠位側に開口した中空部分に接続していることを看取 できるから,引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセン ブリにおいては,患者への流体の注入及び患者の循環系からの流体の除去 は,延長チューブを通じてカテーテル・アダプタの上記中空部分を介して 行うものであることを理解できる。 ウ 以上によれば,引用文献1記載の隔壁は,針の保管及び使用中に針の周 りにシールを提供し,針が引き出された場合に密閉されるように隔壁アセ ンブリ内に設けられたものであって,隔壁の遠位部に備えたスリットは, そこを通るイントロデューサ針の挿入を簡単にするために設けられたも のであるから,隔壁の遠位部は,流体の「該流入及び流出を可能とするよ\nうに開口可能なスリットを有して」いると認めることはできない。\nそうすると,引用文献1記載の「隔壁」の遠位部は,本願発明の「前記 第2弁部材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブの前記内室を 通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように\n開口可能であ」るとの構\成(本件構成)に相当するものといえず,引用文\n献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリは,本件構成を\n有しない点で本願発明と相違するから,この点において,本件審決には, 一致点の認定の誤り及び相違点の看過があるものと認められる。
(2) これに対し被告は,1)引用文献1には,カテーテル及びイントロデューサ 針アセンブリについて,従来より,流体を患者に注入することができるとと もに,患者の循環系からの流体の除去を可能にするものであることが述べら\nれていること(【0002】),2)流体の患者への注入及び患者の循環系からの 流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された,「二方弁」として機能\nする「スリットを備えた隔壁」を介してされることが技術常識であること(例 えば,甲3,乙6)からすれば,当業者は,引用文献1記載のカテーテル及 びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相当す\nると当然把握するから,本件審決における一致点の認定に誤りはない旨主張 する。
ア 1)について
引用文献1の【0002】には,「医療では,このようなカテーテル及び ントロデューサ針アセンブリは,患者の脈管系内に適切にカテーテルを配 置するのに使用される。定位置になると,静脈(すなわち,「IV」)カテ ーテルなどのカテーテルを使用して,生理食塩水,医療化合物,及び/ま たは栄養組成(完全非経口栄養,すなわち「TPN」を含む)を含む流体 をこのような治療を必要とする患者に注入することができる。カテーテル は加えて,循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視を 可能にする。」との記載がある。\n上記記載から,カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリのカテー テルは,「循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視」を 可能にすることを理解できるが,上記記載は,隔壁の遠位部又はその遠位\n部に設けられたスリットが流体の「流入及び流出を可能とするように開口\n可能」な構\成であることを示唆するものとはいえない。
イ 2)について
乙6(国際公開第2008/052791号)には,バルブ組立体の具 体的構造として,側部のポートに沿って配置され,ポートを閉じる弁であ\nって,ポート内の加圧された流体の作用により開口可能となる第1バルブ\n要素(チューブ要素5),流体が遠位方向又は近位方向のいずれかに流れる ことを可能にする二方向バルブとして形成されるスロット6aを備えたバ\nルブディスク6(原文4枚目7行〜5枚目3行(訳文5枚目),原文5枚目 17行〜20行(訳文6枚目),図1,2等)の記載がある。 引用文献3(甲3・訳文乙5)には,1)スリットを有する隔壁と隔壁作動 体とを含み,使用中は,隔壁作動体が隔壁のスリットを通って前進し,隔 壁を通る流体経路を形成する血液制御バルブと,カテーテルアセンブリ内 の流体がサイドポートから漏れることを防止できるポートバルブ(【000 2】,【0003】),2)「カテーテルアダプタは,隔壁作動体と隔壁とを含 む血液制御バルブを収容する。隔壁は,管腔の一部を封止する。1つ以上 のスリットが隔壁を貫通して延在することで,隔壁を通る選択的なアクセ スを提供できる。よって,ポートバルブは,ポートを介してカテーテルア ダプタの内部管腔に対する一方向の選択的なアクセスを提供し得る。」(【0 005】)との記載がある。 上記記載から,カテーテル組立体において,流体の患者への注入及び患 者の循環系からの流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された「二 方弁」として機能する「スリットを備えた隔壁」を介してされ得る技術が,\n本願優先日当時,一般に知られていたことが認められる。 一方で,上記記載から,カテーテルハブの中空部に配置された「スリッ トを備えた隔壁」が常に「二方弁」として機能するとまで認めることはで\nきないから,上記技術が一般に知られていたことを踏まえても,前記⑴ウ の認定を左右するものではなく,当業者は,引用文献1記載のカテーテル 及びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相\n当すると当然把握するものと認めることはできない。

◆判決本文

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令和2(ネ)10036  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 JR東海に対するCS関連発明の侵害事件です。1審では第1要件、第2要件を満たさないとして、均等侵害は否定されました。知財高裁(2部)も同じ判断です。

(1) 控訴人は,原判決は,特許法70条1項,2項等に反し,本件特許請求の 範囲に記載のある「問題のある実施例」を本件各発明の実施例とせず,「最善の実施 例」のみを本件各発明であるとした点に誤りがある旨主張する。
ア 本件特許請求の範囲の【請求項1】には,「ホストコンピュータが,前記 券情報と前記発券情報とを入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前 記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席 のレイアウトに基づいて表示する座席表\示情報を作成する作成手段と,該作成手段 によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段によって\n記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,「券情報」\nと「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手段に記憶さ\nせることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善の実施例」 が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する「問題のあ る実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはできない。 また,本件特許請求の範囲の【請求項2】には,「ホストコンピュータが,前記券 情報と前記発券情報とを入力する手段と,該入力手段によって入力された前記券情 報と前記発券情報とを,複数の前記座席管理地又は前記端末機を識別する座席管理 地識別情報又は端末機識別情報別に集計する集計手段と,該集計手段によって集計 された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される 指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表\示情報を作成する作成手段と,該 作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段\nによって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,\n「券情報」と「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手\n段に記憶させることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善 の実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する 「問題のある実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはでき ない。
イ 上記のことは,本件明細書(甲2)の記載からも明らかである。 本件明細書の「発明の詳細な説明」は,補正して引用した原判決「事実及び理由」 の第3,1(1)のとおりであり,段落【0002】には,【従来の技術】として,「従 来,指定座席を管理する座席管理システムとしては,カードリーダで読取られた座 席指定券の券情報及び券売機等で発券された座席指定券の発券(座席予約)情報等\nを,例えば列車車内において,端末機(コンピュータ)で受けて記憶し表示して,\n指定座席の利用状況を車掌が目視できるようにして車内検札を自動化する座席指定 席利用状況監視装置(特公H5−47880号公報)が発明されている。」との記載 があり,段落【0004】において,「券情報」及び「発券情報」を地上の管理セン ターから受ける場合について,「伝送される情報は2種になるために通信回線の負 担を1種の場合と比べて2倍にするなどの問題がある。」ことが記載されている。 そして,本件明細書の段落【0005】には,【発明が解決しようとする課題】と して,「上記発明の座席指定席利用状況監視装置は上記券情報と上記発券情報とに 基づいて各座席指定席の利用状況を表示するにはこれ等の両情報を地上の管理セン\nターから受ける場合,伝送される情報量が2倍になるために,該情報を伝送する通 信回線の負担を2倍にするとともに端末機の記憶容量と処理速度をともに2倍にす るなどの点にある。」として,控訴人の主張する「問題のある実施例」の問題点が指 摘されており,段落【0006】には,【課題を解決するための手段】として「本発 明は,上記管理センターに備えられるホストコンピュータが,カードリーダで読取 られた座席指定券の券情報と券売機等で発券された座席指定券の発券情報とを入力 して,これ等の両情報に基づいて表示する座席表\示情報を作成して,作成された前 記座席表示情報を,前記ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設\n置管理する座席管理地に備えられる端末機へ伝送して,該端末機が,前記座席表示\n情報を入力して表示してするように構\成したことを主要な特徴とする。」と記載さ れており,段落【0007】に,【作用】として,「上記ホストコンピュータから上 記端末機へ伝送される情報量が上記券情報と上記発券情報との両表示情報から1つ\nの表示情報となる上記座席表\示情報にすることで半減され,これによって通信回線 の負担と端末機の記憶容量と処理速度とを半減する。」と記載され,段落【0008】 〜【0019】に,【実施例】として,控訴人が主張する「最善の実施例」(「座席表\n示情報」は,券情報と発券情報という二つの情報を一つに統合した実施例)が記載 されていることが認められる。さらに,段落【0020】に,【発明の効果】として, 「該端末機がする各指定座席の利用状況の表示を前記券情報と前記発券情報との両\n表示情報から1つの表\示情報となる前記座席表示情報で実現できるようになり,こ\nれによって前記ホストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され, 通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコ ストダウンが計られて,本発明のシステムの構築を容易にする。」と記載されている\nことが認められる。 これらの本件明細書の記載によると,本件各発明は,指定座席を管理する座席管 理システムに関して,地上の管理センターから券情報と発券情報の両情報を端末機 で受ける場合,伝送される情報が2種になることから,伝送される情報が1種の場 合と比べて,通信回線の負担が2倍となり,端末機の記憶容量と処理速度を2倍に するなどの技術的課題があることに鑑み,地上の管理センターに備えられるコンピ ュータが,カードリーダで読み取られた券情報と,券売機等で読み取られた発券情 報等を入力して,これらの情報から一つの座席表示情報を作成し,作成された座席\n表示情報を,コンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管\n理地に備えられた端末機に伝送して,端末機が座席レイアウトに基づき各指定座席 の利用状況を表示するという構\成を採用したものであって,この点に,本件各発明 の技術的意義があると認められる。 このような本件明細書の記載によると,控訴人の主張する「問題のある実施例」 は,本件各発明が解決すべき課題を示したものであり,その課題を解決したのが本 件各発明であるから,これが本件各発明の実施例であると認めることはできない。
・・・
また,控訴人は,被控訴人は,被告システム1の「OD情報」,「改札通過情報」 が,それぞれ,本件明細書の図2の「発券情報」,「券情報」に,被告システム1の 「マルスサーバ」及び「セキュリティサーバ」が,「地上の管理センター」に該当す ることを認めているから,被告システム1は,本件明細書の図2の構成を備えるも\nのであり,本件特許権を侵害するものであると主張するが,本件明細書の図2は, 控訴人の主張する「問題のある実施例」に関するものであり,被告システム1が, 上記図2の構成を備えるからといって,本件各発明の構\成を備えるということには ならない。
原判決(15頁〜24頁)が判示するとおり,被告システム 1 は,本件発明 1 の構\n成要件1−B及び1−C並びに本件発明2の構成要件2−B及び2−Cの文言を充\n足せず,被告システム2は,本件発明1の構成要件1−A,1−B及び1−C並び\nに本件発明2の構成要件2―\A,2−B及び2−Cの文言を充足しないから,被告 各システムが本件各発明の技術的範囲に属するものとは認められない。
(4) 控訴人は,被告システム1と本件各発明との間の本件相違点(被告システ ム1は,本件各発明における,ホストコンピュータにおいて券情報と発券情報から 一つの「座席表示情報」を作成し,これを,指定座席を設置管理する座席管理地に\n備えられる端末機に伝送し,端末機において「座席表示情報」を表\示するという構\n成を有していないこと)は,本件各発明の本質的部分ではないと主張するが,控訴 人のこの主張を採用することができないことは,原判決(25頁〜26頁)が判示 するとおりである。 本件相違点は,本件各発明の本質的部分に係るものであるから,被告システム1 は,均等の第1要件を充足しない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)31428

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令和2(ネ)597  著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年1月21日  大阪高等裁判所

 1審は請求棄却でしたが、大阪高裁は、別のレシピブックを作成することについて黙示の許諾はなかったとして、著作権侵害と判断しました。一部の写真については著作物性が否定されています。

 原告制作物1を含む原告レシピブック1に係るデザイン制作委託契約 においては,契約書は作成されておらず,成果物の著作権の帰属や利用 に関する明示的な合意は存在しない。また,原告レシピブック1の発注 から納品に至る交渉経過等の詳細は明らかでない。
控訴人代表者は,同種の夏用レシピブックにつき,次の夏まで常識的な範囲で増刷することを許諾すると伝えたことがあったとか,レシピ\nブックに掲載された素材等を別の媒体で使うときは連絡があればほぼ快 諾しており,追加料金を生じるとは限らないなどと供述している(控訴 人代表者本人)。また,控訴人は,播磨喜水の依頼を受けて,シェフコラボレシピブック等に掲載した写真及びレシピ情報等を用いてレシピ\nカードを制作するなど,一旦納品した成果物の一部を他の制作物に用い ることもあったことが認められる(甲43〜50,控訴人代表者本人)。このように,レシピブック等に掲載した写真や情報が,レシピブック\n以外の媒体において控訴人に制作を依頼せずに使用されることもありう ると解されていたことが窺われるものの,新たな制作物において使用す る場合の具体的な権利関係が明確に決められていたとは認め難く,控訴 人と播磨喜水との間の個別のデザイン制作委託契約の趣旨,内容等から, 控訴人の著作物である原告制作物1に関する利用許諾についての当事者 の合理的意思を解釈する必要がある。
原告レシピブック1は,播磨喜水の取扱商品をレシピ情報の提供と組 み合わせて紹介することによって,宣伝広告,販売促進に役立て,さら にはブランドイメージの向上を図るものとして,播磨喜水が制作を依頼 し,控訴人が制作したものと解される。そして,播磨喜水の事業遂行に おいて,原告レシピブック1の内容と整合する範囲で,その成果物の一 部をそのまま使用する場合については,播磨喜水のブランドイメージの 形成,向上を企図した宣伝広告や販売促進活動における使用として,播 磨喜水はもちろん,控訴人も想定していたとみるのが合理的である。 しかし,被告制作物1は,原告制作物1(成果物である原告レシピ ブック1の出来上がった料理の写真である。)を「2017 SUMMER」と 明記された平成29年夏期用のチラシの背景に使用したものであり,そ の制作目的は同じとはいえない。 また,控訴人のデザイナーであるP2は,被告制作物1を発見し,平 成29年6月6日,P1に対し,LINEを通じて抗議をしており(甲 19:「事前にご相談がありましたら問題になりませんでしたが,この 件は著作物の無断使用になります。困りましたね。」という内容),控 訴人は,本件提訴後,これが被控訴人による最初の著作権侵害であると 主張し,控訴人代表者もその旨供述している(甲39,控訴人代表\者本 人21頁)。 これに対し,当時,被控訴人代表者のP1は,控訴人から原告制作物1の使用について,許諾があったという反論をしておらず,むしろ,播\n磨喜水がチラシ等を作成しようとする都度,ブランディング名目で常に 事前相談を求められることについて,不満を有していたことが認められ る(甲19,乙34)。
以上によると,前述したとおり,播磨喜水において,その事業活動の 一環として,控訴人が制作した成果物又はその一部をその作成目的に 従って,そのまま別の機会に利用する場合はともかく,成果物を構成する素材である原告制作物1(写真)を,事前の許諾を得ずにこれを異な\nる目的で利用することまで許諾していたと認めることはできない。
エ 抗弁1についてのまとめ
被控訴人による被告制作物1の制作は,控訴人の利用許諾を得ずに原 告制作物1をそのまま,制作目的の異なる制作物(原判決別紙被告制作 物目録記載2のチラシ)の背景に印刷し,これを複製するものであって, 原告制作物1の著作権を侵害する行為であると認められる。
・・・・
原告制作物5−2の著作物性については,いずれも,3種類の商品(播 磨喜水の白,黒,赤)を右下角斜め上方から撮影した写真であり,その撮影 方法は,商品を紹介する写真としてありふれた表現である。
・・・・
(イ) 損害額について
証拠(甲7の8,甲44の1〜44の5,甲45の1,甲50)及び 弁論の全趣旨によれば,原告制作物1を含む原告レシピブック1(12 頁から成り,5種類の料理写真及びそのレシピ情報,表紙写真,及びその料理写真,商品写真,商品の値段その他の情報,通信販売案内等を掲\n載するもの)の制作に係るオリジナルレシピブランディング料及び撮 影・スタイリング・フードコーディネイト料が100万円であったこと, 控訴人においては,同種のレシピブックに掲載した料理の1つのレシピ 情報と写真を1枚のレシピカードとして基づいてレシピカードを制作す る費用が1枚2万5000円とされていたことが認められ,控訴人は, レシピカードの上記制作費用が複製の使用料であると主張する。 これらを踏まえ,原告制作物1(写真1枚)に対する使用料としては, 2万5000円と認めるのが相当である。 また,事案の内容,認容額その他諸般の事情を考慮し,控訴人が負担 した弁護士費用のうち2500円につき,本件による損害として相当と 認める。
(ウ) 以上によれば,原告制作物1に係る著作権侵害による損害賠償請求は, 2万7500円(及び遅延損害金)の支払を求める限度で理由があるが, その余は理由がない。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成29(ワ)12572


◆原告および被告作品

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平成31(行ケ)10041  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月4日  知的財産高等裁判所

 審決は進歩性違反無しとして無効請求を棄却しました。知財高裁も同じ判断です。

 本件発明6は,貫通孔に関し,開孔率が3.07%以上であって,深さが 100〜2000μmであり,50個〜400個/cm2の密度で存在し,開 口面積が直径280〜1400μmの円形であるとの発明特定事項(相違点 6B)を有するところ,前記1(2)のとおり,第1表面のシート材のこの貫通\n孔は,創傷から滲み出した滲出液を貯留し,創傷面との間や上記の貫通孔内 などに滲出液を保持して湿潤環境を良好に維持するものでありながら,その 貫通孔は上記の第1表面側から第2表\面側への液体の透過を許容して,創傷 部位に過剰の滲出液を保持することがないという技術的意義を有するものと 認められる。
これに対し,甲1の発明の詳細な説明には,「被覆層下面側の少なくとも傷 接触表面は疎水性を有する。」(【0028】), 「 次に,液体の移動について 述べる。被覆層のこの疎水性の表面は,吸収層へ体液などの液体が移動し得\nるように形成される。被覆層の下面側を液体透過性とするためには,メッシ ュ,穿孔フィルム等のプラスチックシートや,編布,織布,不織布等の液体 透過性の繊維状シートを使用することができる。被覆層に疎水性樹脂層を形 成する場合は,被覆層の液体が移動し得る孔を塞がないように疎水性樹脂層 を塗工するか,疎水性樹脂層を塗工した後に疎水性樹脂層ごと被覆層を打ち 抜けば良い。」(【0029】),「 次に,吸収層について述べる。吸収層は,セ ルロース系繊維,パルプ,高分子吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独 又は併用して使用することができ,必要とされる吸収量にあわせてこれらの 量を調整すればよい。特に,水吸収時にゲルを形成する物質を含ませること が好ましく,このようにすることで,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促 進することができる。」(【0034】)との記載がある。これらの記載によれ ば,甲1発明においては,被覆層を貫通する孔60は,傷からの体液を吸収 層へ移動させるようにする機能を有するものであり,創傷を湿潤状態に保ち,\n傷の治癒を促進することができるのは,必要とされる吸収量にあわせて材料 を調整し,特に水吸収時にゲルを形成する物質を含ませることが好ましい吸 収層によってであり,被覆層を貫通する孔の機能によるものではないと理解\nすることが相当であり,甲1の発明の詳細な説明には,被覆層20に設けら れた孔60に創傷部位からの滲出液を保持し,創傷面の湿潤状態を保つこと についての記載や示唆はない。
また,甲7には,甲1発明の被覆層に相当するところの,多数の凸部及び その周囲に形成される凹部を有し,凸部には厚さ方向に貫通する孔を有する 樹脂製のシート材からなる第1層と水を吸収保持可能な第2層の順に積層さ\nれてなる創傷被覆材が開示されており(【0010】,【0014】),この創傷 被覆材は,創傷部と第1層の凹部との間に滲出液を貯留する空間が形成され ることにより,創傷部から流出する滲出液を保持し,創傷部の湿潤状態を保 持し,滲出液が多くなると,第1層の凸部に形成された孔を通して第2層の 吸収層に吸収されることが開示されている(【0012】,【0024】)。しか し,甲7の創傷被覆材は,「 第1シート材は,創傷部と凹部(6)との間に滲 出液の貯留空間を形成する。これは,創傷面と第1層との間における前記貯 留空間に,創傷部からの滲出液を保持することにより創傷部の湿潤状態を保 持できるという点で優れている。また,第1シート材は滲出液が多くなると, 凸部(5)に形成された貫通孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させるこ とができるため,滲出液が面内方向に広がるのを防止するという点でも優れ ている。」(【0024】)との記載があるように,創傷部と凹部(6)との間 に滲出液の貯留空間を形成し,創傷部の湿潤状態を保持するものであり,貫 通孔(4)については,「滲出液が多くなると,凸部(5)に形成された貫通 孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させることができる」という機能を果\nたすものである。
そうすると,甲7の貫通孔は,そもそも創傷面からの滲出液を貯留する機 能を有しないから,甲7に記載された貫通孔の開孔率,深さ,密度,直径に\n関する技術的事項を甲1発明に適用しても,第1表面のシート材に創傷から\n滲み出した滲出液を貯留するための貫通孔を設ける本件発明6に想到するこ とができないし,また,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進することが できるのが孔の機能によるものではない甲1発明に甲7に記載された発明を\n適用する動機付けもない。

◆判決本文

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令和2(行ケ)10001  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月8日  知的財産高等裁判所

 異議申立で進歩性無しとして取り消されましたが、知財高裁は動機付け無しとしてこれを取り消しました。

 (ア) 相違点1は,引用例1発明の共重合体が,本件発明とは異なり,d 成分を構成モノマーとして含まないというものであるところ,上記(1) ア(イ)bのとおり,甲7文献には,第1成分(a成分)及び第2成分(b 成分)又はそのいずれか(特に第1成分)と共重合させる第3成分とし て,「架橋性の官能基(エポキシ基,水酸基,アミド基及びN−メチロー\nルアミド基の少なくとも1種)を有するもの」が挙げられている。 そこで,引用例1発明における第3成分として,エポキシ基を有する モノマー(c成分)及び水酸基を有するモノマー(d成分)の2種を併 用することを,当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
  (イ) まず,上記(1)ア(ア),(イ)a及びdのとおり,引用例1発明は,可 塑化ポリ塩化ビニルシート上に積層して使用するのに好適な接着剤組成 物に関する発明であり,共重合体中のカルボキシル基の10%以上をア ルカリ金属と反応(中和)させることにより,耐ガソリン性及び耐油性\nを向上させることを目的とするものである。 そうすると,化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用の化合物 の発明である本件発明と引用例1発明とでは,技術分野や発明が解決し ようとする課題が必ずしも一致するものではないから,もともと引用例 1発明に本件発明の課題を解決するための改良を加える動機付けが乏し いというべきである。
 (ウ) また,上記(1)ア(イ)bのとおり,甲7文献には,第3成分として選 択し得る4種のモノマーの例示として8つのモノマーが挙げられてい るほか,4種のモノマーの1種のみ又は2種以上を併用して第1成分と 共重合させることができる旨が記載されている。そうすると,引用例1 発明における第3成分は,上記の各モノマーのうち1種のみを選択する 場合のほか,2種ないし4種のモノマーを併用する場合もあり得るとい うことになるから,その組合せは,異なる官能基に属するモノマーを併\n用する場合に限ったとしても,被告が主張する6通りにとどまるもので はない。
そして,証拠(甲7)によれば,甲7文献には,エポキシ基を有する モノマー(c成分)と水酸基を有するモノマー(d成分)を組み合わせ た合成例は記載されておらず,また,d成分を構成モノマーとして含む\nことによる効果等に関する具体的な記載もされていないものと認められ る。そうすると,甲7文献には,引用例1発明の技術思想として,複数 の組合せの中からエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有するモノ マーの2種を選択すべきである旨や,水酸基を有するモノマーを選択す ることによって特定の効果が得られる旨が開示されているものとはいえ ない。 これらの事情を併せ考慮すると,甲7文献に接した当業者が,引用例 1発明の第3成分として,複数の組合せの中から敢えてエポキシ基を有 するモノマー及び水酸基を有するモノマーの2種を選択する理由に乏し いというべきである。
(エ) 以上のとおり,本件発明と引用例1発明とでは技術分野や発明が解 決しようとする課題が必ずしも一致するものではないから,もともと引 用例1発明に本件発明の課題を解決するための改良を加える動機付け が乏しいことに加え,甲7文献の記載内容からすると当業者が複数の組 合せの中から敢えてエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有する モノマーの2種を選択する理由に乏しいことからすれば,甲7文献に接 した当業者において,相違点1に係る本件発明の構成に至る動機付けが\nあったということはできない。 したがって,引用例1発明において,構成モノマーとしてd成分を含\nませることを,本件出願時における当業者が容易に想到し得たというこ とはできない。
・・・
(3) 相違点2の容易想到性 上記(2)のとおり,相違点1について容易想到であるということはできな いが,事案に鑑み,相違点2の容易想到性についても検討する。
ア 検討
(ア) 相違点2は,(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマ\nーの全量を100質量%としたときのb成分の配合量b及びc成分の配 合量cの値が,本件発明は「10≦b+40c≦26(但し0.05≦ c≦0.45)」であるのに対し,引用例1発明の共重合体においてはc が0.5,b+40cが26.8であるというものである。 そこで,引用例1発明における上記b及びcの値を変更し,本件発明 における数値範囲内に調整することを,当業者が容易に想到し得たか否 か否かについて検討する。
(イ) まず,上記(2)ア(イ)のとおり,本件発明と引用例1発明とでは技術 分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではない というべきである。
(ウ) また,上記(1)ア(イ)fのとおり,引用例1発明の実施例には,引用 例1発明における第3成分を,N−メチロールアクリルアミドからアク リルアミドに量比を変えることなく置き換えた場合に,ピール(g/2 cm)が「1025FA」から「675AF」になり(なお,「ピール」 とは,剥離に要する力をいう(甲7)。),凝集力が「ずれ0.6mm」か ら「ずれ16mm」になった例が示されている(表−8の実施例6,7)。\nこのことからすれば,架橋性官能基であるエポキシ基,水酸基,アミド\n基及びN−メチロールアミド基は,その種類に応じて異なる粘着力や凝 集力を示すものと考えられるから,各モノマーは,粘着力や凝集力の点 で等価であるとはいえないというべきである(なお,表−8の実施例7\nにおける凝集力の数値(「ずれ16mm」)については,他の実施例にお ける数値と比較すると,「ずれ1.6mm」の誤記である可能性もあると\nいえるが,誤記であったとしても,実施例6とは3倍弱の違いが生じて いるのであるから,結論を左右しない。)。 そうすると,当業者において,各モノマーを同量の別のモノマーに置 き換えたり,水酸基を有するモノマー(d成分)を導入した分だけグリ シジルメタクリレート(c成分)の配合量を減少させて第3成分全体の 配合量を維持したりすることが,自然なことであるとか,容易なことで あるなどということはできない。
(エ) さらに,上記(1)ア(ア)によれば,引用例1発明においては,第3成 分(グリシジルメタクリレートはこれに当たる。)を第1成分及び第2成 分の合計量100重量部に対して0.5〜15重量部とするとされてい るから,第1成分ないし第3成分の合計量を100質量%としたときの 第3成分の配合量は,0.5〜13.0質量%となる(0.5/(10 0+0.5)×100〜15/(100+15)×100)。 そうすると,引用例1発明において,グリシジルメタクリレートの配 合量を本件発明における数値範囲内である0.45質量%以下とするた めには,第3成分の配合量の下限値とされている値である0.5質量% を下回る量まで減少させる必要があるところ,甲7文献の記載をみても, このような調整を行うべき技術的理由を見いだすことはできない。

◆判決本文

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令和2(ネ)10003  特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1億円の損害賠償を求めましたが、1審は無効理由あり(29-2および進歩性)として請求棄却しました。特許権者は訂正をしさらに控訴しました。知財高裁(3部)は、被告製品は本件訂正発明の「アクセス制御手段」を充足しないと判断して、控訴を棄却しました。

  特許請求の範囲の記載によれば,本件訂正発明の「アクセス制御手段」は, 携帯電話の所有者が第三者による閲覧や使用を制限し,保護することを希望 する被保護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段であって, RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別できる識別情報を 受け取って,該受け取った識別情報と当該携帯電話に予め記録してある識別\n情報との比較を行う比較手段で,前記アクセス要求を許可するという比較結 果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過す るまでは前記被保護情報へのアクセスを許可するものである。
一方,被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,上記1のとおり,画面 ロックを解除し,または画面ロックを継続する手段であって,背面にかざさ れたICカードの固有IDを受信し,その固有IDを用いて,当該ICカー ドが登録済ICカードであるか否かの比較を行う比較手段で,画面ロックを 解除するという比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定さ れた場合)は,画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しな い限り,画面を介して操作することができるものである。
ここで,被告製品の「背面にかざされたICカードの固有ID」が,本件 訂正発明の「RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別でき る識別情報」に相当することに争いはないから,被告製品の「画面ロック解 除制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に係る構成要件を充\n足するというためには,1)被告製品の「画面ロックを解除し,または画面ロ ックを継続する手段」が,本件訂正発明の「携帯電話の所有者が第三者によ る閲覧や使用を制限し,保護することを希望する被保護情報(以下,単に 「被保護情報」という。)に対するアクセス要求を許可または禁止する手 段」に当たるとともに,2)被告製品において「画面ロックを解除するという 比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定された場合)は, 画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しない限り,画面を 介して操作することができる」ことが,本件訂正発明の「アクセス要求を許 可するという比較結果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてか ら所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」こと に当たることを要するといえる。
(2) そこで,上記1)及び2)の2点に分けて,被告製品の「画面ロック解除制御 手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するか否かについて 検討する。
ア 上記1)の点につき
(ア) 証拠(甲4など)によれば,被告製品の「画面ロック機能」とは,ス\nマートフォンの画面をロックすることによって画面を介した操作が行え ないようにするためのものであり,画面ロックの解除とは,スマートフ ォンの操作(画面を介した操作)が可能な状態にするためのものであっ\nて,これらは被保護情報へのアクセスを許可するとか禁止するといった ことそのものを意味するわけではないし,それと同視すべき事柄である ということもできない。このことは,画面を介した操作が可能となった\nからといって,常に被保護情報へのアクセスが行われるわけではなく, 公開された地図の検索等,被保護情報には当たらない情報へのアクセス に終始する場合もあり得ることや,逆に,被保護情報そのものにパスワ ードが付されている場合等を想定すると,画面ロックを解除したからと いって直ちに当該被保護情報にアクセスできるようになるわけではない ことなどからも明らかである。 もちろん,被保護情報そのものにパスワード等が付されていない場合 には,画面ロックを解除した後,ユーザが画面を介して所定の操作を行 うことにより,スマートフォンに格納された被保護情報へのアクセスが 可能になるし,壁紙として,第三者に見られたくない写真を設定してい\nるような状況の下では,画面ロックの解除と同時に,被保護情報へのア クセスが起こり得ることとなる。しかしながら,これらは,画面が開か れたことそのものや,それによって画面を介した操作が可能になったこ\nとに付随して生じた結果というべきものであって,画面ロックやその解 除の直接の目的や効果といえるものではない(なお,1)の構成における\n違いが,2)の構成における違いにも反映していると考えられることにつ\nいては,後述のイ参照。)。
(イ) また,証拠(乙2)によれば,被告製品は,「画面ロック」状態にお いても,画面を介した操作によらないアクセス要求(例えば,自動改札 機の通過のために乗車券の情報にアクセスすること,電話着信があった ときに発信者の名前を画面に表示するために電話帳の情報にアクセスす\nること等)に対しては,アクセスを禁止していないことが認められ,こ の場合には,画面ロックの解除を経ないで被保護情報へのアクセスが可 能になることとなる。このことも,画面ロックやその解除が,被保護情\n報へのアクセスの禁止や許可そのものではないことを裏付ける一事情と いうべきである。なお,控訴人は,上記の例は,被告製品の構成を認定\nするための対象にはなっていない事例であるから考慮すべきではないと いう趣旨の主張をするが,画面ロックやその解除の意義を認定するため の事情として考慮することには何ら妨げはないものというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)に検討したところによれば,被告製品の「画面ロックを 解除し,または画面ロックを継続する手段」が,本件訂正発明の「被保 護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段」に当たるとい うことはできない。
イ 上記2)の点につき
本件訂正発明の「アクセス制御手段」の「前記アクセス要求が許可され てから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可す る」構成は,その記載のみからは,所定期間が経過した後の状態が明らか\nでない。しかしながら,本件明細書の【0009】に,本件訂正発明の目 的は,「個人情報や金銭的価値のある情報を統合して管理する場合に当該 情報の第三者による不正使用を確実に防止するための情報保護システムを 提供することにある。」と記載されていることや,【0039】に,「タ イマを設けて一定のタイムラグを許容することで,ICアセンブリ130 とICアセンブリ140とを実際に使用するときの距離が比較的長い場合 であっても,通信可能距離の短い通信方式を採用することが可能\にな る。」と記載されていることからすると,上記の構成の意義は,所定時間\nに限ってアクセスを許容する構成を付加することで,第三者による被保護\n情報の不正使用を確実に防止しつつ,Rバッジと携帯電話とが離間してい ても,自動改札機等による被保護情報に対するアクセス要求を適切に処理 できるようにしたことにあると解される。そうすると,所定時間経過後に は,被保護情報の保護のために,再度アクセスを禁止することが必須とさ れているというべきであり,「前記アクセス要求が許可され」たときを起 点とし,それから所定の時間が経過した後は,たとえ被保護情報へのアク セスが継続している最中であっても,被保護情報へのアクセスは禁止され ることになるものと解される。
これに対し,被告製品の構成は,前述のとおり,「画面ロックを解除す\nるという比較結果が得られた場合は,画面ロックが解除された後,無操作 状態が一定期間継続しない限り,画面を介して操作をすることができる」 というものである。その一定期間の起点は,画面ロックが解除された後, 何の操作もしないという例外的な場合には,画面ロックが解除されたとき となるが,何らかの操作がされる多くの場合には,その操作が終了したと きとなるのであって,常にアクセス許可がされたときが一定期間の起点と なる本件訂正発明とは異なる。また,本件訂正発明においては,アクセス 許可がされた後,一定期間が経過すれば,被保護情報へのアクセスが継続 してDいたとしてもアクセスが禁止されることになるのに対し,被告製品に おいては,画面を介した操作が継続している限り,一定期間がカウントさ れることはなく,したがって,画面がロックされることはあり得ないので あり,この点においても違いが存するものというべきである。 そして,両者にこのような違いが生じているのは,本件訂正発明におい ては,アクセス許可が被保護情報へのアクセスという意味を有するため, 被保護情報の保護という観点から時間制限が設けられているのに対し,被 告製品の画面ロック解除は,単に,画面を介した操作を可能にするという\n意味しか持たないため,被保護情報の保護という観点から時間制限をする 必要はなく,無駄な電力消費を防ぐという観点から時間制限が設けられて いるのにすぎないからであり,両者の時間制限が持つ技術的意義が全く異 なるからであると解される(このように本件訂正発明におけるアクセス許 可と被告製品における画面ロック解除が持つ技術的意義に違いがあること は,被告製品が1)の構成要件をも充足しないことをも裏付けるものである\nといえる。)。
ウ 上記ア及びイに検討したところによれば,被告製品の「画面ロック解除 制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するとはいえ ない。
(3) 控訴人は,本件訂正発明の「アクセス」とは,携帯電話の正当なユーザと して被保護情報を閲覧・利用・更新することを意味しており,被告製品にお いては,画面ロック状態では,正当なユーザであることを確認できていない ため,被保護情報(電子マネー,電話帳,写真などのデータ)の閲覧・使 用・更新は禁止されているとして,被告製品が,本件訂正発明の構成要件を\n充足する旨主張する。 しかしながら,被告製品の画面ロック状態においては,被保護情報の閲 覧・利用・更新に制限があるとはいえ,それが全面的に禁止されているもの ではなく(上記(2)ア(イ)),画面ロック状態の解除後においても,それだけで 被保護情報へのアクセスが全面的に可能になるものでもない(上記・・・(2)ア(ア))。 被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,まさに文字どおり,画面ロック 解除を制御しているにとどまり,被保護情報へのアクセスの制御との関連は 限定的なものにとどまる。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成30(ワ)39914

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令和2(行ケ)10007  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年1月25日  知的財産高等裁判所

 無効審判請求に対して訂正請求がなされ、特許庁は無効理由なしと判断しました。知財高裁はかかる審決を維持しました。

 上記の甲11,甲22,甲24,甲25の記載によれば,これらの文 献には,チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するよ うな深い位置で耕耘すると,前記チェーンケースによって前記耕耘地面 にチェーンケース跡の溝が形成されてしまい,次工程の播種作業の障害 になることから,飛散土を一部遮蔽しないようにして前記チェーンケー ス跡の溝に土を供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻すという技 術事項が記載されていたことが認められる。
(ウ) そこで,甲14発明に,飛散土を一部遮蔽しないようにしてチェー ンケース跡の溝に土を供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻すという 甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項を適用して,相 違点d(開口部について,本件発明1は,耕耘された土砂を外側方に流 し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝 を埋め戻すためのものであるのに対し,甲14発明は,そのような特定 がない点。)に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかが\n問題となる。しかし,前記(ア)のとおり,甲14の補助側板は,耕耘具 により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接する既耕地の境界部分 の均平性を高めるものであり,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐも のであるのに対し,甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術 事項は,一部といえども泥土の飛散を遮断せずに,かえって泥土の飛散 によって溝に土を供給するというものであり,両者は,泥土の飛散を防 ぐのかそれともそれを利用するのかという点で対極の技術思想に基づく ものであり,したがって,甲14の補助側板に,甲11,甲22,甲2 4,甲25に記載された技術事項を適用することについては阻害事由が あるものと認められる。そうすると,甲14発明に甲11,甲22,甲 24,甲25に記載された技術事項を適用して相違点dに係る本件発明 1の構成を容易に想到することはできなかったものと認められる。\nウ(ア) 原告は,本件審決は,補助側板の「新たな取付位置」を設定してい るが(判断1)),「新たな取付位置」は不要であると主張する(前記第3 の1(4)イ)。
しかし,前記イ(ア)のとおり,甲14の補助側板は,どのような耕耘 深さで作業するかにかかわらず,畑で作業する場合には畑用の取付け位 置に,水田で作業する場合には水田用の取付け位置に取り付けて作業す るものであり,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接 する既耕地の境界部分の均平性を高めるものであるから,チェーンケー ス跡の溝を埋め戻すための開口部を設置するためには,耕耘深さに応じ て補助側板の取付位置を設定する必要があり,本件審決の上記判断(判 断1))に誤りがあるとは認められない。

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平成30(ワ)11672  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年1月12日  大阪地方裁判所

 被告標章「リシュ活」が商標「Re 就活」の侵害となるかが争われました。大阪地裁(21部)は、称呼から類似すると判断しました。ドメインの差止も認められました。

 前記のとおり,本件商標は,欧文字2文字と漢字2文字からなっており, カタカナ3文字と漢字1文字からなる被告標章1とは,語尾の「活」の一文字のみ が共通しているに過ぎず,欧文字とカタカナから受ける印象も相応に異なるから, 外観は同一ではなく,類似するものとも認め難い。 また,被告標章1からは特定の観念を生じないため,観念の点において,両者が 同一又は類似ということはできない。 しかしながら,称呼においては,両者は長音の有無が異なるに過ぎず,長音は他 の明確な発音と比べて比較的印象に残りにくいことから,離隔的に観察した場合, 同一のものと誤認しやすく,極めて類似しているといえる。被告は,アクセントが 異なると主張するが,本件商標も被告標章1も造語であるため,固定したアクセン トがあるわけではなく,時と場所を異にしてもアクセントの違いで区別できるほ ど,印象が異なるものとは認め難い。
(イ) 取引の実情を踏まえて検討するに,需要者である求人企業においては,前 記認定のとおり,本件商標に係る役務についても,被告役務についても,役務利用 に当たっては文書による申込みを要し,役務のプランを選択し,相応の料金を支払\nうものであり,新規に正社員を採用するという企業にとって日常の営業活動とは異 なる重要な活動の一環として行われる取引であるから,求人に係る媒体の事業者が 多数ある中で(乙17,33),どの程度の経費を投じていかなる媒体でいかなる 広告や勧誘を行うかは,各事業者の役務内容等を考慮して慎重に検討するものと考 えられ,外観や観念が類似しない本件商標と被告標章1について,需要者である求 人企業が,称呼の類似性により誤認混同するおそれがあるとは認め難い。 しかしながら,求職者についてみると,前記認定のとおり,本件商標に係る役務 も被告役務も,利用のための会員登録は簡易であり,無料で利用できる上,証拠 (乙13,18ないし27,34。各枝番を含む。)によれば,多数の他の求人情 報ウェブサイトでも会員登録無料をうたっており,気軽に利用できるように簡単に 会員登録ができることを宣伝しているところ,情報を得て就職先の選択肢を広げる 意味で複数のサイトに会員登録する動機がある一方で,複数のサイトに会員登録す ることに何らの制約もなく,現実に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録し ていることが認められる。そうすると,求職者については,必ずしも役務内容を事 前に精査して比較検討するのではなく,会員登録が無料で簡易であるため,役務の 名称を見てとりあえず会員登録してみることがあるものと考えられる。 そして,本件商標も被告標章1も短く平易な文字列であり,発音も容易であるこ と,本件商標に係る役務や被告役務はインターネット上で提供されているところ, インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法として は,検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり,正確な表記では\nなく,称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており,ウェブサ イトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるように\nしていることが広く知られていることからすれば,需要者である求職者は,外観よ りも称呼をより強く記憶し,称呼によって役務の利用に至ることが多いものという べきである。
そうすると,求職者が需要者に含まれるという取引の実情にかんがみれば,需要 者に与える印象や記憶においては,本件商標と被告標章1とでは,前記外観の差異 よりも,称呼の類似性の影響が大きく,被告標章1は特定の観念を生じず,観念の 点から称呼の類似性の影響を覆すほどの印象を受けるものではないから,前述のと おり必ずしも事前に精査の上会員登録するわけではない学生等の求職者において, 被告標章1を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり,本件商標に係る役務と 被告役務とが,同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがあると認めら れる。
(ウ) 被告は,ウェブサイトでの役務の提供においては,役務主体の識別はウェ ブサイトの上部等の目立つところに付されたロゴにより行われるのが通常であると 主張するが,前記のとおり,インターネット上においても,文字列で構成された商\n標については,称呼で記憶してアクセスすることが多いのであり,称呼の重要性が 低いものとはいえない。また,被告は,求職者がサービス内容を確認して会員規約 に同意し,所定の情報を入力して会員登録するまでの過程で多くの画面に接するこ とにより視覚で役務の内容や運営主体を理解すると主張するが,証拠(乙3,36 の1,2)によれば,被告は,ウェブサイト上で,被告役務につき「まずは会員登 録してください。メールアドレスと属性の登録のみで約1分で完了します。」など と記載し,会員登録フォームのページには被告役務の内容を説明する特段の記載は なく,メールアドレスや学校名等の登録のみで会員登録が完了し,会員規約はスク ロールしなければ内容を確認できないものであることが認められる。他方,被告役 務の会員登録に当たって,学生に役務の内容や運営主体を理解させ,本件商標に係 る役務との誤認混同を生じさせないようにする識別表示については,存するとは認\nめられない。

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令和1(行ケ)10144  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年1月21日  知的財産高等裁判所

 「地熱発電促進方法」について、新規性なしとした拒絶審決が維持されました。出願人はドクター中松氏です。特許庁への出願時は代理人がついてましたが、拒絶査定以降は代理人なしです。

 本件クレーム1は下記です。
 我国地熱エネルギ活用の地熱発電を促進するため,地熱発電発電反対を抑止 する目的のため,第一に地熱発電用の井戸を掘らないこと,第二に既存のd温泉 の源泉からのお湯で発電すること,第三に発電により源泉の温度を下げ,第四 に入浴に適する温度に下げた温泉を温泉業者に提供し,第五に温泉業者の源泉 低温化のコストを不用にしてメリットを与えるという五つの組み合わせの方法 により温泉業界の地熱発電反対を抑止し,地熱発電を促進し,我国地熱エネル ギ活用を増大し得ることを特徴とする我国地熱発電促進方法。
 引用発明は下記です。
 地熱発電の普及が実現されるため,源泉の権利者への不具合を生じさせず 熱水蒸気発電装置1を設置するモチベーションを高くするため,温泉利用設 備30用の源泉を吸い上げる機構に熱水蒸気発電装置1を接続するだけで,\n自らが使用する電力をまかなうことができ,発電に使用した熱水を,本来の 温泉水としても利用でき,温泉利用設備30の所有者にとっても利益になり, 源泉の権利者への不具合を生じさせず温泉利用設備30の所有者にとって熱 水蒸気発電装置1を設置するモチベーションを高くし,熱水蒸気発電装置1 の普及を進みやすくする,地熱発電の普及が実現される方法。

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令和2(行ケ)10065 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月21日  知的財産高等裁判所

 商標「モンスターストライク」(標準文字)について、先行商標「MONSTER」(標準文字)、および「MONSTER ENERGY」(標準文字)から、無効主張をしました。審決・知財高裁とも無効理由なし(15号、7号)と判断しました。

 原告は,本件商標の登録出願時及び登録査定時までに,原告使用商標1が付された,別紙4の「モンスターエナジー」及び「モンスターエナジーアブソリュートリーゼロ」,原告使用商標4が付された「モンスターカオス」の3商品(原告商品)を発\n売したこと,原告から独占販売権を得たアサヒ飲料は,原告商品について 「モンスターエナジー」ブランドとニュースリリースで紹介していたこと, 原告商品は好調な売上げを記録し,本件商標の登録出願時までに先に我が 国においてエナジードリンクとして認知を得ていたレッドブルに次いで2 位の認知度を獲得したこと,原告及びアサヒ飲料は,新商品の発売,イベン ト等の開催に合わせて原告使用商標を付し,「モンスターエナジー」又は 「MONSTER ENERGY」の名称を付した賞品が当たる様々なキ ャンペーン活動を行ったほか,著名なアスリートを支援して,原告使用商 標が付された競技用スーツを着たアスリートが原告使用商標を付した競技 道具や車両で競技する姿を見てもらい,また,これらの動画をソーシャルメディアにアップするなどしたほか,イベントのスポンサーとなり,会場\n内に原告使用商標を付したブースを設けて,原告使用商標を付したスタッ フ等が来場者に原告使用商標を付した「モンスターエナジー」ドリンクを 無償で配布し,原告使用商標を付した車両を展示し,原告使用商標を付し た車両等を走行させるなどすることを通じて,キャンペーンの応募者,視 聴者や来場者に原告使用商標の浸透を図ったことが認められ,原告使用商 標は,原告商品を愛飲し,また,原告が支援する特定のアスリートに関心を 持ち,あるいは原告がスポンサーとなったイベント会場等に来場した一定 の需用者層には知られていたということはできる。
しかしながら,そもそも上記の認識の対象となったのは,あくまで原告 使用商標である。原告は,「MONSTER」及びその音訳「モンスター」 は,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,原告の業務に係る商品を 表示するものとして需要者の間で広く認識されていた旨主張するが,原告及び原告から我が国において独占販売権を得たアサヒ飲料が本件商標の登\n録出願時及び登録査定時までに販売した「エナジードリンク」に付した商 標,エナジードリンクの販売のための広告及び販売促進活動において使用 した商標は,いずれも原告使用商標であり,少なくとも,「MONSTER」 の標準文字からなる引用商標1のみをその業務において使用したと認める に足りる証拠はない。また,前記認定事実によれば,原告(モンスターエナ ジージャパン合同会社)及びアサヒ飲料は,「MONSTER」あるいはそ の音訳「モンスター」ではなく,原告使用商標と「モンスターエナジー」又 は「MONSTER ENERGY」の名称を用いて,新商品の発売,販売 のための広告及び販売促進活動等を行っているのであり(なお,モンスタ ーエナジージャパン合同会社のウェブページには,一部「モンスターガー ル」,「モンスターファミリー」といった表記も見られるが,「モンスターエナジー ガール」,「モンスターエナジー ファミリー」の略称であると 容易に理解されるものでもあるし,いずれにしても「モンスター」ないし 「MONSTER」の文字を用いてこれらの活動を行ってきたとは認めら れない。),この点からも,「MONSTER」及びその音訳「モンスター」 が本件商標の登録出願時及び登録査定時には,原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間で広く認識されていたといえないことが裏付\nけられる。したがって,この点に関する原告の主張は採用し得ない。 また,前記認定事実(1(4))によれば,エナジードリンクの主要な需要 者層は,30代から50代の男性が中心であり,10代から20代の男女 にも広がりつつあるが,1)エナジードリンクが何か分からないと回答した 人が16.1%,57.0%の人がエナジードリンクを購入して飲んだこと がないと回答し,2)エナジードリンクは,「飲んでいる人と飲んでいない人 と飲んでいない者の二極分化」しており,月に1日以上飲んでいる人で6 割を占め,「好調なエナジードリンクを支えているのは強烈なロイヤルカ スタマーに依るもの」と分析され,3)「61.9%がエナジードリンクの飲 用経験があり,5人に1人は「それを月に1回以上」飲用していることが分 かった」との調査結果があるように,エナジードリンクは,通常の清涼飲料 水のような幅広い需要者層が購入するものではないから,原告商品が,エ ナジードリンクとしてレッドブルに次いで2位の認知度を獲得し,当初の 目標を超える売上げを記録しているとしても,限られた需要者層が繰り返 し愛飲していることがうかがわれる。したがって,原告使用商標は,無効請 求商品の需要者である一般消費者に周知著名であったということはできな い。
以上によれば,「MONSTER」及びその音訳「モンスター」は,上記 のいずれの点においても周知著名性を認めることはできないし,原告使用 商標も,一般消費者に周知著名であったと認めることはできない。
・・・・
原告は,前記第3の2(1)のとおり,本件商標と引用商標の類似性の程度は高 く,本件商標に接した取引者及び需要者が原告及びその「MONSTER」ブラ ンドを直ちに想起,連想することは明らかであり,本件商標の使用は,原告が 「MONSTER」ブランドについて獲得した信用力,顧客吸引力にフリーラ イドするものといわざるを得ず,その経済的な価値を低下させるものであると して,本件商標は,公正な取引秩序の維持を目指す商標法の目的,国際信義の精 神に反するものであり,社会一般の道徳観念に反するものであるから,本件商 標は公の秩序を害するおそれがある商標というべきであり,商標法4条1項7 号に該当する旨主張する。
しかし,1)本件商標と原告使用商標は,外観,称呼及び観念のいずれにおいて も類似するものではないこと,2)原告使用商標はいずれも一般消費者に周知著 名とはいい難いこと,3)無効請求商品に本件商標が使用されたとしても,需要 者において,本件商標から原告使用商標を連想し,原告の業務に係る商品,原告 と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると,そ の商品の出所の混同を生ずるおそれがあるものと認めることはできないことは, 前記2のとおりであるから,原告の上記主張は,その前提を欠くものというほ かない。

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令和2(行ケ)10062  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月21日  知的財産高等裁判所

 商標「久保田メソッド(AKANON)」が、商標「久保田メソ\ッド」を含む結合商標から無効(4条1項11号違反)との審決が維持されました。

 本件商標は,前記第2の1(1)のとおり,「久保田メソッド(AKANON)」\nの文字を標準文字で表してなるところ,その構\成中前半部の「久保田メソッ\nド」の文字部分中,「久保田」については,ありふれた姓氏である久保田が まず想起され,「メソッド」が「方法,方式」の意味を有する英語「met\nhod」の片仮名表記であることはよく知られたことであるから,「久保田\nメソッド」の文字部分からは,「(ありふれた姓氏である)久保田という者\nによる方法,方式」といった意味合いを想起させる。また,構成中後半部の\n「(AKANON)」中の欧文字部分の「AKANON」は,辞書等に載録 されていない造語と認められ,ローマ字読みで「アカノン」と称呼されるも のの,これに類する語は想起されず,特定の観念を生じさせないものであり, 「久保田メソッド」の語と括弧内の「AKANON」の語との間に観念上の\n結び付きはない。また,文法上,「( )」(括弧)は,他の部分と区別し その中に他の部分の補充,注釈等を記入するための記号であり,通常,括弧 外の文字が主として,括弧内の文字が従として扱われることに照らせば,本 願商標が,「久保田メソッド」と括弧内の「AKANON」の語とに分離さ\nれて観察され,「久保田メソッド」が主として認識されることは明らかであ\nる。これに加えて,「久保田メソッド」が日本語表\記で先に配置されていて より目立ち,構成文字全体から生ずる「クボタメソ\ッドアカノン」の称呼が やや冗長であって,本件商標は「クボタメソッド」と略して称呼され得るこ\nと,「久保田メソッド」が明確な意味を有するのに対し,「AKANON」\nは造語であって特定の意味を有するものではないことから一般人にはなじみ にくいことも併せて考慮すると,本件商標中,「久保田メソッド」の部分が\n役務の出所識別標識として支配的な印象を与えていることは否定し難いとい うべきである。
そうすると,本件商標の構成中,その前半部に位置する「久保田メソ\ッド」 の部分は独立して自他役務の出所識別機能を果たし得るものと認められ,こ\nの部分を要部として抽出でき,本件商標は,その要部である「久保田メソッ\nド」の文字部分に相応して,「クボタメソッド」の称呼を生じ,「(ありふ\nれた姓氏である)久保田という者による方法,方式」といった観念を生ずる ものである。
・・・・
(3) 対比
本件商標と引用商標とをそれぞれ対比すると,本件商標の要部である「久 保田メソッド」の文字部分と引用商標1の要部である「久保田メソ\ード」及 び「KUBOTA METHOD」並びに引用商標2の要部である「クボタ メソッド」の文字部分とは,表\記方法が異なるのみであり,当該文字部分か ら生じる「クボタメソッド」又は「クボタメソ\ード」との称呼が共通し,又 は聞き誤りのおそれがあり,「(ありふれた姓氏である)久保田(クボタ) という者による方法,方式」の観念をいずれも共通にするものであるから, 本件商標と引用商標とは,互いに相紛れるおそれのある類似の商標であると 認められる。
そうすると,本件商標と引用商標1が本件商標の指定役務中,引用商標1 の指定役務とも類似する「乳幼児のための技芸・スポーツ又は知識の教授, 電子出版物の提供」に使用された場合には,その役務の出所について混同が 生ずるおそれがあり,本件商標と引用商標2が本件商標の指定役務中,引用 商標2の指定役務とも類似する「乳幼児のためのセミナーの企画・運営又は 開催」に使用された場合には,その役務の出所について誤認混同が生じるお それがあるから,本件商標は,「乳幼児のための技芸・スポーツ又は知識の 教授,乳幼児のためのセミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供」 (本件指定役務)ついて,商標法4条1項11号に該当する。
2 原告の主張について
原告は,1)姓氏と方法,方式を意味する「メソッド」又は「メソ\ード」の文 字とを結び付けた商標は「役務の質」を表示するものであるから,「久保田」\nが「(ありふれた姓氏である)久保田」を示すものであろうと幼児教育の分野 における「A」を示すものであろうと,本件商標中の「久保田メソッド」の文\n字部分は,その指定役務との関係において独立して自他役務の出所識別機能を\n有しない,2)同様に引用商標1中の「久保田メソード」及び「KUBOTA M ETHOD」並びに引用商標2中の「クボタメソッド」の部分も,それら指定\n役務との関係において独立して自他役務の出所識別機能を有しない,3)本件商 標も,引用商標1及び引用商標2も,全体が不可分一体のものであるから要部 抽出はできない,仮に要部抽出をするとしても,要部は「久保田メソッド」,\n「久保田メソード」,「KUBOTA METHOD」又は「クボタメソッド」\nのいずれの文字部分でもない,4)そうすると,上記各部分を要部として抽出し て商標を対比し,本件商標と引用商標とが類似すると判断した本件審決の判断 は誤りである旨主張する。
しかしながら,姓氏と「メソッド」とを結び付けた商標が「ある者が発案し\nた方法,方式」の意味をも含む場合があるとしても,当該商標が「ある者によ る(実施される)方法,方式」の意味をも有すること自体は否定し難いから, 当該商標を直ちに「役務の質」のみを表示する商標であるなどということはで\nきない。そして,姓氏又は名称と「メソッド」の文字を繋げた構\成を有する相 当数の商標登録例が現に認められていること(甲97)からも明らかなとおり, たとえありふれた姓氏であるとしても,姓氏と「メソッド」とを結合した商標\nは,その構成から直ちに出所識別機能\を有さない商標といえるものでもない。 そして,本件において,「久保田メソッド」が,その姓氏を有する発案者及び\nその関係者以外の者にも広く用いられるなどした結果,需要者,取引者に,特 定の幼児教育方法としての役務の質を表示するものとのみ認識されるようにな\nっており,特定の役務の出所先を表示するものではないことをうかがわせる証\n拠もない。
したがって,「久保田メソッド」に自他役務の出所識別機能\がないとはいえ ないから,原告の上記主張は,前提を欠くものであって,その余の点について 論じるまでもなく採用することができないものである。 なお,原告は,Aが自らの育児法を幼児教育現場の指導者の間で積極的に採 用させ,これを幼児教育の現場において広く実践させているから,「久保田メ ソッド」の商標的使用を制限することは不当であり,「久保田メソ\ッド」は独 占適応性に乏しい商標であるなど,るる主張する。しかしながら,その主張を 裏付けるに足りる証拠は提出されていない上,そもそも仮に,「久保田メソッ\nド」がAの考案に係る久保田メソッドの名称であるとすれば,原告に本件商標\nの商標権者の地位を保有させ,その名称の独占を認めることは,かえって不当 というべきであるから,いずれにせよ,上記主張を採用する余地はない。

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令和2(行ケ)10095 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月26日  知的財産高等裁判所

 商標法50条にて登録を取り消された審決取消訴訟です。知財高裁は、不使用とした審決を維持しました。指定商品は新聞で、使用していたのは電子新聞でした。

ア 原告は,新聞や書籍といった情報伝達媒体に属する商品において,取 引の対象となっているのは,その物理的な性状である紙ではなく,実質的には,そ の内容(コンテンツ)であり,この種の商品の流通とは,情報の流通のことを指し, インターネットを通じて流通できるため,新聞等は紙である必要性はなくなったし, 電子版も含まなければならないから,「紙媒体」に限定した本件審決の判断には誤り がある旨主張する。
商標法における商品に,電子情報財等の無体物が含まれることを否定するもので はないが,たとえ,新聞や書籍などの情報伝達媒体に属する商品が,原告がいうと ころの「その内容(コンテンツ)」に価値を見いだして購入する需要者がいるとして も,いわゆる収集家の如く,紙媒体としての新聞や書籍について,「その内容(コン テンツ)」以外の点に価値を見いだす需要者も存在する。また,インターネットが普 及し,「内容(コンテンツ)」がインターネットを通じて流通することが可能であるとしても,これにより紙媒体としての「新聞」の存在自体が完全に否定されるもの\nではないし,実際に,紙媒体としての「新聞」は依然として流通している。そうす ると,紙媒体としての「新聞」の流通とは,紙媒体としての「新聞」という物品そ のものの流通として捉えられるべきものである。
イ 原告は,本件アンケート(甲28)の結果をもとに,本件商標が指定商 品である「新聞」に実質的に使用されていると主張する。 しかし,本件アンケート調査は,その対象者がどのような条件・方法により抽出 されたものであり,どのような方法によりインターネットを通じて実施されたもの であるかは明らかでなく,本件アンケート調査によって得られた結果が,「電子版の 新聞及び本件ウェブサイトを一般購読者がどのように捉えているか」を示すものと して参酌することはできない。
また,本件アンケートは,ウェブサイト上におけるアーカイブの提供が,「電子化 された新聞の内容を提供(供覧)する役務」に該当するものであるか否かに関する ものであるから,これによって得られた結果を,本件商標が指定商品である紙媒体 である新聞に使用されているか否かを検討するに当たり,参酌することはできない。 さらに,本件アンケートの回答について,原告は,「どちらとも言えない,わから ない」という回答を,「新聞かもしれない,と消極的に感じている」と恣意的に認定 しているから,本件アンケート調査が,「需要者の約75%が本件ウェブサイトを 『新聞』と認識している。」ことを示すものでもない。

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令和2(行ケ)10066  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年1月14日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(2部)は,進歩性なしとした審決について,請求項2,3については動機付けがないとして,取り消しました。

 本件審決は,甲1文献には甲1文献記載技術的事項2,すなわち,「2軸式ヒンジ において,第1回転軸11と第2回転軸12とを平行状態で互いに回転可能となる\nように連結する,一対の支持片511,512の間に,第1位置制限カム521, 第2位置制限カム522及び一対の支持片511,512に対し,両側の短軸53 4により揺動可能である切換片53を設けることにより,第1回転軸11と第2回\n転軸12を交互に回転させるようにする」という技術事項が記載されているところ, 甲2発明において,「接続部材3」を一対とすれば,第1回転軸11及び第2回転軸 21をより安定して平行状態で互いに回転可能に支持できることになるとして,甲\n2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用して,甲2発明の相違点Aに係る構成を\n本件発明1の構成とすることは容易であると判断し,被告も同様の主張をする。\n
しかし,前記2(2)のとおり,甲2文献には,「本考案で開示されている開閉が安定 した2軸ヒンジは,軸スリーブ4及び当該軸スリーブ4を収容するハウジング5を 更に含む。当該軸スリーブ4は,当該接続部材3に接続される接続板41と,当該 接続板41に設置され,それぞれ当該第1回転軸11と当該第2回転軸21とが設 置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する。当該ハウジング5は,収 容空間51及び当該収容空間51に連通する開口52が設けられ,当該軸スリーブ 4と当該接続部材3とを収容し,当該接続板41と当該ハウジング5とに,相互に 対応してガイド凸条411とガイド凹溝53とが設けられ,当該ハウジング5の収 容空間51に配置されるように当該軸スリーブ4をガイドする。」(段落【0016】)との記載があり,同記載と甲2文献の【図2】からすると,甲2発明に係るヒンジ は,接続部材3に接続される接続板41と,同接続板41に設置され,それぞれ第 1回転軸11及び第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部4 3とを有する軸スリーブ4並びに同軸スリーブ4を収容するハウジング5を備えて いることが認められ,同部材により,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定し て平行状態で回転可能に支持できるから,甲2発明においては,甲1文献記載技術\n的事項2を適用する必要はない。
また,前記3(1)のとおり,甲1発明における支持片512は,第1自動閉合輪2 13・第2自動閉合輪223と共に自動閉合機能を発揮する部材を構\成すること, 第1位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイ ドブロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝512c を備えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していること,第1トルク装\n置21及び第2トルク装置22は,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223 に接して設けられ,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223を圧迫しており, この作用により,上記の自動閉合機能が発揮されることが認められるから,これら\nの部材(第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512,切換片5 3)は,機能的に連動しており,一体的に構\成されているといえる。また,甲1発 明における支持片511は,第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412と一 体となってストッパ機構を構\成すること,第1ストッパ輪411と第1ストッパ凸 点511aとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第1位置制限ブロック 531が第1位置制限口521a内に嵌入して,第1回転軸11が回動不能となり,\n第2回転軸12のみが回動可能となるように制限し,第2ストッパ輪412と当該\n第2ストッパ凸点511bとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第2位 置制限ブロック532が第2位置制限口522a内に嵌入して,第2回転軸12が 回動不能となり,第1回転軸11のみが回動可能\となるように制限すること,第1 位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイドブ ロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝511cを備 えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していることが認められるから,\nこれらの部材(切換片53,第1位置制限カム521・第2位置制限カム522, 支持片511,第1ストッパ輪412・第2ストッパ輪411)も,機能的に連動\nしており,一体的に構成されているといえ,さらに,これらの部材と上記の第1自\n動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512も一体的に構成されている\nといえる。そして,上記のとおり,甲2発明は,軸スリーブ4及びハウジング5を 備えることにより,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転 可能に支持できる構\成を有しており,甲1文献記載技術事項2を適用する必要がな いことを考慮すると,上記の一体的に構成された部材から,支持片511及び支持\n片512のみを取り出して,一対の支持片を有するという構成を甲2発明に適用す\nる動機付けはないというべきである。
また,前記(1)のとおり,甲2発明の接続部材3は,第1位置制限部113に当接 して第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35と,第2位置制限部21 3に当接して第2回転軸21の回転を制限する第2位置決め部36とを有するので あるから,甲2発明は,甲1発明のストッパ機構に相当する部材を備えていると認\nめられ,また,前記(2)のとおり,甲2発明は,選択的回転規制手段を有していると ころ,甲1発明の上記の一体的に構成された部材は,ストッパ機構\と選択的回転規 制手段を含むものであるから,甲1発明の上記の一体的に構成された部材を甲2発\n明に適用しようする動機付けもないというべきである。 したがって,甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用する動機付けはないと いうべきであり,甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明2の構\成とすることが 甲1文献により動機付けられているということはできない。

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令和2(ネ)10047  特許実費等請求控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年1月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 独占的権利(特許または専用実施権)については,特許の取得費用についても支払うとの契約があり,その一部について非独占的権利への変更通知をした場合に,その取得費用について支払う必要があるのかが争われました。知財高裁は1審と同じく,支払い義務ありと判断しました。

「(1)ア 特許実費の支払義務を負う対象となる権利の範囲について,本件契約 書5条1項は,「専用実施権又は独占的通常実施権を有している本件特許権等」と 規定していることから,控訴人は,専用実施権の設定登録がされた特許権について のみ,それらの特許実費を負担することになるのかが問題となる。
(ア) 出願中の特許について
本件契約書1条1号は,「本件特許権等」について,出願中の特許も含まれるも のと定義していること,本件契約書5条1項は,「当該特許権又は出願中の特許に 係る出願,登録及び維持に要する実費(以下「特許実費」という。)を負担する」 と規定していること,本件契約書5条2項は「2条3項に基づく非独占的通常実施 権への変更通知をしたときは,当該変更通知がなされた対象特許権及び/又は出願 中の特許については,前項の費用負担義務を免れるものとし」と規定していること からすると,本件契約書5条1項により控訴人が負担することになる特許実費には, 出願中の特許についての特許実費も含まれることは明らかである。 そして,出願中の特許については,専用実施権の設定や独占的通常実施権の許諾 はできないから,それが特許権の設定登録がされた後に本件契約上専用実施権や独 占的通常実施権の対象となるのであれば,特許実費の支払義務を負う対象となると いうべきである。なお,出願中の特許については,仮専用実施権の設定や仮通常実 施権の許諾をすることができる(特許法34条の2,34条の3)が,本件契約書 には,仮専用実施権の設定や独占的仮通常実施権の許諾がされたものに限り,控訴 人がその特許実費を負担する旨の規定はないから,控訴人がその特許実費を支払う 義務がある出願中の特許がこれらのものに限られると解することはできない。 したがって,出願中の特許についても,本件契約書2条3項に基づく非独占的通 常実施権への変更がされていないものであれば,控訴人がその特許実費を支払う義 務があるというべきである。
(イ) 特許権の設定登録がされた特許権について
本件契約書2条1項,2項は,本件特許権等につき,当初は,専用実施権の設定 合意をするが,本件契約締結日から3年経過したときに,その専用実施権が独占的 通常実施権に変更される旨規定しており,本件契約においては,専用実施権の設定 合意がされ,その設定登録がされていなくても,その専用実施権は,3年経過後に 独占的通常実施権に変更されるものとされているのであるから,本件特許権等のう ち特許権の設定登録がされた特許権については,「専用実施権又は独占的通常実施 権を有している本件特許権等」とは,本件契約書2条1項により専用実施権の設定 の合意がされた特許権及び本件契約書2条2項により同専用実施権が独占的通常実 施権に変更された特許権を意味し,控訴人は,そのような特許権であり,本件契約 書2条3項に基づく非独占的通常実施権への変更をしていないものであれば,専用 実施権の設定登録がされているかどうかにかかわらず,それらの特許実費を支払う 義務があるというべきである。
イ 次に,本件契約書1条1号において,「本件特許権等」が「本件製品を 技術的範囲に含む」ものと定義されていることから,その意味が問題となる。 本件契約書1条3号は,「本件製品」について,「(1)圧電型加速度センサ(L字 タイプ),(2)触覚センサ(薄型力覚センサ),(3)トルクセンサ,(4)マイクロ発電 機,及び(5)MEMSミラーを意味する。」と定めており,そこに控訴人が製造,販 売するあるいは製造,販売する予定の製品といった限定はないから,本件契約上,\n「本件製品」とは,これらの技術分野の製品一般を意味するものである。 したがって,「本件製品を技術的範囲に含む」とは,これらの技術分野を技術的 範囲に含むことを意味し,「本件特許権等」は,これらの技術分野に関する特許権 又は出願中の特許を意味すると解するのが相当である。
ウ そして,本件契約についての以上の解釈は,前記1(2)で認定した本件 契約締結に至る経緯,前記1(3)で認定した本件契約締結後の当事者のやり取りの 状況等及び前記1(5)アで認定した控訴人による本件契約に基づく特許実費の支払 状況とも矛盾なく整合するものであって,これ以外の解釈をすることはできない。
(2) 以上のとおり,控訴人は,被控訴人に対して,本件製品(圧電型加速度セ ンサ(L字タイプ),触覚センサ(薄型力覚センサ),トルクセンサ,マイクロ発電 機,及びMEMSミラーの技術分野)に関する出願中の特許,専用実施権の設定の 合意がされた特許権及び同特許権から独占的通常実施権の許諾のある特許権に変更 された特許権のうち,上記の専用実施権又は独占的通常実施権が非独占的通常実施 権に変更されていないものについての特許実費を支払う義務を負うが,前記1(7) アのとおり,平成29年度第2半期における上記範囲の特許実費は,4512万6 043円である。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成31(ワ)3197
被告は,本件変更通知以降は,被告が本件特許権等につき何らの専用実施権を 有しないことが明確となった以上,それ以降に発生した本件変更通知後特許実費につ いては,本件契約上,被告が負担すべきものと解釈されるべきではないし,仮にその ように解釈されたとしても,本件変更通知後特許実費の発生原因となった原告による 特許出願等が被告にとって必要性がなく,また,早期に行われる必要もないものであ ったことも踏まえると,原告の本件変更通知後特許実費の請求は権利の濫用に該当す る旨主張する。 しかしながら,前記(1)のとおり,本件契約上,原,被告間に本件特許権等について の専用実施権の設定合意が存在する間は,被告が本件特許権等の特許実費を負担すべ きであると解されるところ,前記1(6)のとおり,本件変更通知によって上記の合意 が解消されるのは平成30年3月31日である上に,本件変更通知の対象には本件特 許権等に含まれる出願中の特許は含まれておらず,前記(1)アの本件特許権等の文言の解釈を前提とすると,本件変更通知の対象とされたのは本件契約の対象となる本件特 許権等のうちの一部にとどまることとなるから,本件変更通知により被告が本件特許 権等につき何らの専用実施権を有しないことが明確になったともいえない。 また,証拠(甲2,43)及び弁論の全趣旨によれば,原告の請求に係る平成29 年度第2半期における特許実費のうち,原告において平成29年11月10日以前に 特許事務所に対して出願等の依頼をしたにもかかわらず,特許事務所からの実際の請 求が平成30年2月23日以降にされたにすぎないものも相当額含まれていること が認められるし,また,これに当たらないものに関し,原告において,同日以降に殊 更同年3月31日までに特許出願等の特許実費を発生させる行為をしたと認めるに 足りる証拠もないこと,本件契約上,被告における実施の必要性がないこと等を理由 として被告において特許実費の負担を免れることができる旨の定めも存在しないこ とに照らすと,原告の本件変更通知後特許実費の請求が権利の濫用に該当するともい えない。
エ 被告は,過去に原告の有する本件製品に関する特許権及び出願中の特許を対象 としてその特許実費全額を支払っていた点について,後に精算することを前提に仮払 したにすぎない旨主張する。 しかしながら,本件契約書上,支払対象とならない特許実費に関する仮払やその精 算に関する定めは存在しない上に,証拠(甲6〜15,24〜28)及び弁論の全趣 旨によれば,被告が,原告の特許実費の請求に応じてその支払をするに当たり,仮払 であることや後に精算する必要があることを示すことなく支払をしたことが認めら れるほか,前記1(7)カのとおり,Bは,過去の特許実費の支払につき,仮払という説 明ではなく,支払当時将来的に独占的な実施権を得られるであろうとの期待から自発 的に支払ったなどと説明していたのであって,他に被告が原告に対して仮払であるこ とや精算の必要性があることを支払の際に示していたことをうかがわせる証拠もな いことに照らすと,被告の上記主張は採用することができない。

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令和2(行ケ)10101  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月19日  知的財産高等裁判所

 商標「庵治石工衆」は,地域団体商標「庵治石」と出所混同する(15号)とした審決が維持されました。

 前記1に認定した事実によると,「庵治石」との文字は,「香川県高松市 庵治町・牟礼町産の花崗岩」を意味するものであり,これを用いた石材又は この石材を加工した石製品は,「庵治石(あじいし)」と呼ばれ,古くから 我が国において品質の高い石製品として広く知られており,香川県の伝統工 芸品となっていることが認められる。 一方,引用商標権者及びその構成員を含む高松市庵治町及び牟礼町内の採\n掘業者や石材業者らは,昭和20年から40年代にかけて組合を結成し,昭 和45年(1970)からは毎年,庵治石を用いた石製品の展示即売会を行 ってきており,平成19年3月9日には,地域団体商標として引用商標の設 定登録を受け,庵治石を用いた石製品に「庵治石(R)登録証」や「庵治石(R)プ レート」を発行したり,「庵治石(R)」のシールを付したりして,ブランドの 維持に努め,さらに,庵治石の知名度向上や庵治石を用いた石製品の販路拡 大等を目的とした様々な展示会やイベントを開催し,引用商標の普及活動の ための各種事業を長年継続して現在まで実施しているところ,その模様が相 当数の来場者や新聞,雑誌等への記事掲載を通じて,相応の程度に広告され ている。加えて,引用商標は,地域団体商標の登録を受けていることから, 経済産業省特許庁が年1回発行する冊子及び同庁のホームページに毎回掲載 され,地域団体商標の普及事業において紹介されている。 これらの事情を考慮すると,引用商標は,本願商標の登録出願時及び本件 審判時において,「香川県高松市庵治町・牟礼町で採掘され加工された製品 に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし地域ブランド」との引用商標権者 又はその構成員の業務を示すものとして,需要者の間に広く認識されており,\n相当程度高い周知性を有していたものと認めるのが相当である。
(2) 原告の主張について
原告は,「庵治石」の文字は「香川県庵治町産の石」及び「香川県庵治町 産の石を加工して製作された石塔・墓石等」を表示するものとして我が国に\nおいて広く知られていたものであり,全体として石材の一種を示す普通名称 であって石材関連の商品及び役務との関係において自他商品役務識別機能及\nび出所表示機能\を有しない語であり,そうであれば,「庵治石」を標準文字 で表してなる引用商標が引用商標権者の業務を想起させるものとして周知性\nを有することはない旨を主張する。 しかしながら,「庵治石」の文字が「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花 崗岩」を意味すると認められることは,前記のとおりであり,原告も自認し ているところ,「庵治石」がその本来の産地以外の産地から産出される同種 同等の石材の呼称にも用いられるなど,石材の種類を示す普通名称になった ことを示す証拠はなく,また,庵治地方以外の業者が「庵治石」を産地を示 すためではなく自己の商標として使用していたことを認めるに足りる証拠も ない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3 出所の混同のおそれに係る判断の誤りの存否について
(1) 検討
前記2(1)のとおり,「庵治石」の文字は,「香川県高松市庵治町・牟礼町 産の花崗岩」を意味するが,同時に,広く知られた「香川県高松市庵治町・ 牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし 地域ブランド」をも意味し,その文字部分のみで特定の意味合いを有するよ く知られた語であるから,本願商標の「庵治石工衆」は,「庵治石」の文字 部分と「工衆」の文字部分とを分離して観察することが取引上不自然である と思われるほど両者が不可分的に結合しているものとはいい難いといえる。 そして,本願商標の構成から「庵治石」の文字を除いた「工衆」の文字部分\nは,辞書等に載録された成語ではなく,「ものを作ることを職とする人々」 程の意味合いを連想させるにとどまるから,本願商標の指定役務との関係で は出所識別標識としての機能は必ずしも強くなく,本願商標の構\成中の「庵 治石」の文字部分が出所識別標識を果たし得る要部として看取されるという べきである。
本願商標の要部である「庵治石」の文字部分と引用商標とを対比すると, いずれも標準文字で「庵治石」の文字を書してなる点で外観が同一であり, また,「アジイシ」の称呼が生じる点で,称呼が同一である。そして,本願 商標をその指定役務に使用した場合は,本願商標の要部から「香川県高松市 庵治町・牟礼町産の花崗岩」という観念だけでなく,「香川県高松市庵治町・ 牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし 地域ブランド」という観念も生じるものであり,本願商標の観念は,引用商 標から生じる観念と同一である。そうすると,本願商標と引用商標の類似性 は極めて高いというべきである。
また,本願商標の指定役務は,その加工又は情報提供の対象物を,引用商 標の指定商品を含む墓用石材や墓石等とするものであるから,本願商標の指 定役務と引用商標の指定商品とは,密接な関連性を有するとともに,取引 者,需要者も相当程度で共通にするものといえる。そして,本願商標の指定 役務の需要者に含まれる一般需要者は,必ずしも石材等について専門的な知 識や経験を有するものではない者も含まれており,高度の注意力をもって役 務の提供を受けるとは限らない。
以上を考慮すると,本願商標をその指定役務に使用した場合には,これに 接する取引者,需要者は,出所識別標識としての機能を果たし得る要部であ\nる「庵治石」の文字部分に着目して,地域ブランド名として周知である引用 商標を連想,想起し,当該役務が引用商標権者又はその構成員との間に緊密\nな営業上の関係又は同一の表示による商品役務化事業を営むグループに属す\nる関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信し,役務の出所につき誤 認を生じさせるおそれがあるものというべきである。 そうすると,本願商標は,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずる おそれがある商標であるから,商標法4条1項15号に該当する。
(2)原告の主張について
原告は,1)取引者,需要者は,本願商標を「庵治石」の産地である庵治地 域を表す「庵治」と「石工」及び「衆」からなるものであると認識し,取引\n者,需要者に対して「香川県庵治地域において,石を切り出したり,それを 細工したりする職人の集団」ほどの観念を想起させ「アジイシクシュウ」又 は「アジセッコウシュウ」の称呼を生じさせるから,引用商標と混同のおそ れはない,2)仮に,取引者,需要者が本願商標を「庵治石」と「工衆」とか らなる商標であると認識するとしても,「庵治石」の文字には自他商品役務 識別機能及び出所表\示機能がないから,本願商標は,引用商標と識別力のな\nい部分で共通するにすぎず,引用商標権者の業務と何らかの関係性があると 認識させるものでない旨主張する。 しかしながら,上記1)の主張については,本願商標を「庵治」と「石工」 及び「衆」からなるものであると認識するのが通常であるとはいい難く,ま た,仮に,そのような認識が生じるとしても,それと並んで,庵治石を要部 とした前記(1)記載の観念が生じることは明らかであるし,上記2)の主張の 前提が成り立たないことは,前記(1)に認定判断したとおりであるから,原 告の上記主張は,採用することができない。

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令和2(行ケ)10047  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月20日  知的財産高等裁判所

 商標「KOREKARADA」(標準文字)が「ココカラダ」(標準文字)とは非類似,(11号)出所混同生じない(15号)とした審決が維持されました。

 以上のとおり,本件商標と引用商標は,外観及び称呼において明らかに 相違することに照らすならば,本件商標から「今からだ」ほどの意味合い を連想,想起させ,引用商標から「ここ(この時点)からだ」ほどの意味 合いを連想,想起させる点で観念において類似する面があることを勘案し ても,本件商標と引用商標を本件商標の指定商品「サプリメント」に使用 したときに,その出所について誤認混同を生じるおそれがあるものと認め ることはできないから,本件商標は,引用商標に類似する商標であるとい うことはできない。 したがって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当するものとは認 められない。
エ これに対し,原告は,本件商標と引用商標は,外観は相違するが,称呼 が類似し,観念が同一であること,引用商標は,原告の業務に係る商品を 表示するものとして,需要者であるスポーツ愛好家の間に広く認識されて\nいるという取引の実情があることをも考慮して全体的に考察すれば,本件 商標と引用商標が本件商標の指定商品「サプリメント」に使用された場合f には,その商品の出所について誤認混同が生ずるおそれがあるから,本件 商標と引用商標は全体として類似している旨主張する。 しかしながら,前記(1)認定のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願 時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとして,\n需要者の間に広く認識されていたものとは認められない。 また,前記ウ認定のとおり,本件商標と引用商標は,外観及び称呼にお いて明らかに相違することに照らすならば,観念において類似する面があ ることを勘案しても,本件商標と引用商標を本件商標の指定商品「サプリ メント」に使用したときに,その出所について誤認混同を生じるおそれが あるものと認めることはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することはできない。
・・・・
2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について
(1) 本件商標の商標法4条1項15号該当性について
原告は,1)引用商標は,「ここからだ」,「まだまだ諦めない」という意味 も含有した造語であり,独創性があること,2)引用商標は,本件商標の登録 出願時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとし\nて,需要者であるスポーツ愛好家の間に周知であったこと,3)本件商標と引 用商標は,少なくとも称呼や観念において類似する面があること,4)引用商 標を付した原告の商品と本件商標を付した被告の商品は,商品の用途や目的, 成分,用法,販売方法等において共通し,同一又は密接な関連性を有するも のであり,需要者が共通すること,5)本件商標を付した被告の商品のパッケ ージは,原告の商品のパッケージと比べて,形状,図柄,キャッチコピーな どその外観において類似点が多く,広報プロモーション活動の方法も似通っ ていること,6)本件商標の指定商品「サプリメント」は,スポーツ愛好家が 日常的に摂取する性質の商品であり,その需要者が特別の専門的知識経験を 有する者ではないから,これを購入するに際して払われる注意力は,さほど 高いものではないことを総合的に考慮すると,本件商標を上記指定商品に使 用したときは,その商品が原告の商品と誤認混同する可能性があり,本件商\n標は,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であり,商標 法4条1項15号に該当するから,これを否定した本件審決の判断は誤りで ある旨主張する。
しかしながら,前記1(1)認定のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願 時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとして,\n需要者の間に広く認識されていたものとは認められず,また,前記1(2)ウ認 定のとおり,本件商標と引用商標は,観念において類似する面があるといえ るものの,外観及び称呼において明らかに相違する。 そうすると,その余の点について判断するまでもなく,本件商標をその指 定商品「サプリメント」について使用したときに,これに接する需要者がそ の商品が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の 業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生ずるお それがあるものと認めることはできない。

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令和2(行ケ)10050 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月23日  知的財産高等裁判所

 めずらしい商51条の取消訴訟(登録商標の類似範囲の使用による混同)です。被告は商標「農口」を有する商標権者で、原告は商標「農口尚彦研究所」を有しています。被告は標準文字の商標を書体を草書体に変更して日本酒のラベルに使用していました。知財高裁は不成立の審決維持です。
原告は被告の下で杜氏として2年働き、その後、袂を分かったんですね。原告の目的は、被告の商標の使用禁止なのでしょう。51条で取り消しができれば、混同するとしてやめさせるつもりだったのかもしれませんね。

 原告は,「農口尚彦研究所」の日本酒は,日本酒評価サイトである「S AKETIME」の石川の日本酒ランキング2020において,第1位を 獲得したこと,ANAの国際線ファーストクラスにおいて,2018年(平 成30年)から継続して「農口尚彦研究所」の日本酒が提供されているこ と,このほか,様々な著名雑誌や全国放送のテレビ等においても,原告の みでなく,「農口尚彦研究所」も,北陸を代表する酒蔵として紹介されて\nいることなどからすると,原告自身の名はもちろん,原告の手による「農 口尚彦研究所」の日本酒及びその日本酒を販売する「農口尚彦研究所」の 名称も,需要者の間で広く認識されており,引用商標は,本件審決時にお いて,原告の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして,周知又は\n著名であったといえるから,これを否定した本件審決の認定は誤りである 旨主張するので,以下において判断する。
(ア) 引用商標は,別紙2に示すとおり,「農口尚彦研究所」の文字を縦 書きの楷書体で書してなるものである。 商品「日本酒」は,嗜好品であり,その需要者は,一般消費者である から,引用商標が周知であるというためには,需要者である一般消費者 の間で,引用商標が原告の業務に係る「日本酒」を表示するものとして\n広く認識されている必要がある。
(イ) そこで検討するに,前記アの認定事実によれば,原告が杜氏を務め る株式会社農口尚彦研究所は,平成29年12月頃から,引用商標を付 した日本酒(「農口尚彦研究所」の日本酒)を継続して販売し,本件審 決時(審決日令和2年3月27日)までの販売期間は約1年5か月であ ることが認められる。一方で,引用商標を付した日本酒の販売数量,売 上金額,市場占有率等についての立証はなく,引用商標を付した日本酒 の販売実績を認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 次に,前記ア(エ)の雑誌,新聞,ウェブサイト等には,原告について, 「酒造りの神様・X杜氏の復活!」,「酒造りの神,Xの酒が復活!」, 「日本酒の神様,ふたたび始動!」,「「酒造りの神様」「伝説の杜氏」 と称されるX氏」などと掲載され,原告が平成29年から酒蔵「農口尚 彦研究所」で杜氏として酒造りを再開したことが紹介されていること, 引用商標を付した日本酒が,2018年(平成30年)から,ANAの 国際線ファーストクラスの機内で提供される「日本酒セレクション」に 採用されていること,令和2年にもANAのウェブサイトで人気の銘柄 として紹介されていることが認められる。 もっとも,上記雑誌,新聞,ウェブサイト等においては,「農口尚彦 研究所」は,原告が杜氏を務める酒蔵として紹介されており,上記AN Aのウェブサイトを除き,日本酒の銘柄又はブランド名として,「農口 尚彦研究所」が用いられることを明確に示す記載はない。また,日本酒 が掲載された写真についても,当該写真から「農口尚彦研究所」と表示\nされていることを判読することは困難である。 加えて,前記ア(エ)の雑誌,新聞,ウェブサイト等における原告の紹 介記事等によれば,原告の氏名である「X」は,日本酒の銘柄等に関心 の高い日本酒愛好家の間では知名度が高かったものといえるが,嗜好や こだわり等も様々な一般消費者の間において,広く知られていたとまで 認めることはできない。 以上によれば,前記ア(エ)の雑誌,新聞,ウェブサイト等の掲載状況 から,本件審決時において,酒蔵「農口尚彦研究所」及び「農口尚彦研 究所」の日本酒は,日本酒の銘柄等に関心の高い日本酒愛好家の間では, 相当程度認識されていたものと認められるものの,一般消費者の間で広 く認識されていたものと認めることはできず,ましてや,引用商標が原 告の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして,広く認識されて\nいたものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はな い。
(エ) 以上によれば,引用商標は,本件審決時において,原告の業務に係 る商品「日本酒」を表示するものとして,需要者の間で広く認識されて\nいたものと認めることはできないから,原告の前記主張は採用すること ができない。

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令和2(ワ)2403 著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年12月23日  東京地方裁判所

 写真の著作物の複製・公衆送信があったとして、約30万円の損害賠償が認められました。損害の算定根拠は、「fotoQuote」というサイトにおける料金表です。\n

 本件写真は,原告が,天候の良好な平成23年3月2日の日中に,インドの世界遺産であるエローラ石窟群のカイラーサ寺院を被写体として選択し,日陰となる箇所が極力少なくなるように配慮しつつ,同寺院の正面を斜め上方から,同寺院の主要な建物を 中心に据え,その全体がおおむね収まるように撮影したものであることが認め られる。 そうすると,本件写真は,原告が撮影時期及び時間帯,撮影時の天候,撮影 場所等の条件を選択し,被写体の選択及び配置,構図並びに撮影方法を工夫し,\nシャッターチャンスを捉えて撮影したものであるから,原告の個性が表現され\nたものということができる。したがって,本件写真は原告の思想又は感情を創 作的に表現した「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当し,本件写真を創\n作した原告は「著作者」(同項2号)に該当するので,本件写真に係る著作権 及び著作者人格権を有する。
・・・
前記2(3),3のとおり,本件画像は,飲食店業等を目的とする会社である 被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり,本件画像の掲載 期間は,約5年に及ぶ。また,証拠(甲6ないし8)によれば,原告は,自 身の写真のライセンスに当たっては,通常,「fotoQuote」の料金 表(甲7)を使用していること,同料金表\によれば,世界市場のウェブ広告 にハーフページ(300×600ピクセル)の大きさの写真を5年間使用さ せる内容のライセンス料は,地域をアジアに限定しても,1989米ドルを 下らないこと,令和2年8月20日(本件の訴え提起の前日)時点における 米ドル・円相場の仲値が1ドル106.10円であることが認められる。さ らに,証拠(甲3の1)によれば,本件画像は,400×300ピクセルの 大きさで使用されていたことが認められる。そうすると,本件写真を営利目 的で使用する場合,原告は,21万1032円でその利用を許諾することと していたものと認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 以上に加え,本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件写真に係る原告 の著作権(複製権,自動公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額に相 当する額(著作権法114条3項)は,21万1032円と認めるのが相当 である。 また,上記の諸事情に鑑みれば,本件写真に係る原告の著作者人格権(氏 名表示権)が侵害されたことにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料\nは5万円,弁護士費用相当額の損害は5万円とそれぞれ認めるのが相当であ る。
(2) これに対し,被告は,原告が損害の算定根拠とする「fotoQuote」 の料金表は,あくまで営利目的の広告等として写真が使用された場合に適用\nされるものであり,被告は非営利公益目的で本件写真を使用したものである から,これを算定根拠とすることはできないと主張する。 しかし,前記2(3)のとおり,本件画像は,飲食店業等を目的とする会社で ある被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり,被告が本件 画像を利用したのは営利目的であったというべきであるから,被告の上記主 張は前提を欠く。

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令和2(行ケ)10086  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月23日  知的財産高等裁判所

 商標「AZURE」は,「AZULE」と類似するとした拒絶査定不服審判の審決取消訴訟です。争点は、「AZURE」から「アズレ」という称呼が生ずるか否かです。知財高裁は、審決と同様に、生ずるので類似すると判断しました。

(1) 本願商標は,「AZURE」の欧文字を表してなる。「azure」は,\n「空色,青空」の意味を有し,「アジュア」と発音される英単語として辞書 (乙2。ジーニアス英和辞典 第5版,2014年12月25日発行。)に掲 載されているが,中学生向け(乙2ないし6)や高校生向け(乙7)の学習書 で覚えておくべき単語として挙げられていないことはもちろん,TOEIC の制作機関が提供するボキャブラリーブック(乙8。国際的なビジネスの場 で一般的に使われる語彙を集めている。)でも取り扱われておらず,我が国に おいてその意味が広く一般に知られている語とは認められず,また,本願商 標の指定商品・指定役務の分野において,特定の意味合いを有する語として 知られているとの事情も見いだせない。そうすると,需要者から,一種の造語 として看取されることもあるものといえる。 それ自体あまり知られていない欧文字からなる商標は,一般的には,我が 国において広く親しまれている英語風又はローマ字風の読み方に倣って称呼 されるとみるのが自然であるから,本願商標は,英語風の読み方に倣って「ア ジュア」の称呼を生ずるほか,ローマ字風の読み方に倣って「アズレ」の称呼 をも生ずると認めるのが相当である。
(2) 原告は,本願商標は,「pure」,「cure」,「secure」等 の語尾に「ure」を有する英単語と同様に,英語として自然な文字の並びで あることに加え,広く知られているマイクロソフト社のクラウドプラットフ\nォーム「Microsoft Azure」に使用されているように,我が国 において認知されている語といえるため,英語の読み方に倣って称呼される とみるのが自然であると主張する。 しかし,前記(1)で判断したところに照らせば,「azure」は,「pu re」,「cure」,「secure」等の英単語のように一般に知られて いるとは認められない。そして,マイクロソフト社のクラウドプラットフォ\nーム「Microsoft Azure」については,一般のビジネスにおい て幅広く使われていると認めるに足りる証拠はない上,「Azure」の称呼 も,「アジュア」のほか「アズレ」とされる場合,「アズール」とされる場合 もあり(乙9ないし14,26),大手企業が上記クラウドプラットフォーム を採用する場合に「アズール」と呼んでいる場合もある(乙10,11)。 また,イギリスの自動車のブランド「AZURE」も「アズール」と称呼さ れ(乙15ないし19),ステッドマン医学大辞典第5版(乙21,2002 年2月20日)では一群の異染性塩基性青色メチルチオニン又はフェノチア ジン色素を示す用語「azure」を「アズール」と称呼し,南山堂医学大辞 典第20版(乙22,2015年4月1日)は,「アズール」の語を,英語a zureに由来し,アズール顆粒やギムザ染色を示すものとして挙げている。 したがって,引用商標から「アジュア」の称呼のみが生じるとはいえず,原 告の主張は採用できない。

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令和2(行ケ)10055 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年11月4日  知的財産高等裁判所

 商標「織部流」は周知であったとして、10号違反などが理由なしとした審決が取り消されました。

 以上によると,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標は,本 件不成立役務のうち「図書及び記録の供覧」,「図書の貸与」及び「書籍の制作」 についての原告の業務に係る役務を表示するものとして周知であり,また,「セミ\nナーの企画・運営又は開催」は,引用商標に係る原告の「茶道の教授」の役務と類 似の役務,「興行の企画・運営又は開催」は,引用商標に係る原告の「茶会の企画・ 運営又は開催」の役務と同一又は類似の役務,「電子出版物の提供」は,引用商標 に係る原告の「図書及び記録の供覧」及び「図書の貸与」の役務と類似の役務であ ると認められるから,本件商標の本件不成立役務のうち上記各役務についても,商 標法4条1項10号に該当するものとして,登録を無効とすべきである。 なお,被告は,類似群コードについて主張するが,類似群コードは,それ自体類 似との推定に係るものにすぎない上,審査官の審査の基準であって,裁判所がこれ に拘束されることはないから,上記判断を左右するものではない。
3 商標法4条1項7号該当性について
(1) 商標法4条1項各号は,商標登録を受けることができない商標として,相 当数の類型を規定しているのであって,同項7号において,「公の秩序又は善良の 風俗を害するおそれがある商標」がその一類型として規定されているのは,他の号 に当てはまらなくてもなお商標登録を受けることができないとすべき商標が存在し 得ることを前提に,一般条項をもって,そのような商標の商標登録を認めないこと としたものであると解されるから,同号の適用は,その商標の登録を社会が許容す べきではないといえるだけの反社会性が認められる場合に限られるべきである。
(2) 既に認定判断したとおり,本件商標は,多くの指定役務について,商標法 4条1項10号に該当するものである。また,証拠(甲7,27,28)及び弁論 の全趣旨によると,被告代表者Bは,原告が家元である織部流に入門したことがあ\nると認められるから,被告代表者Bは,本件商標について商標法4条1項10号に\n該当する事由があることを認識していたものと認められる。 しかし,本件商標は,これら商標法4条1項10号に該当するものについては, そのことを理由に無効とされるのであり,その余の指定役務である「美術品の展示」 について,本件商標の登録を許容すべきでないといえるだけの反社会性があるとい うべき事情を認めるに足りる証拠はない。
(3) これに対し,原告は,被告及び被告代表者Bが,古田家や古田織部と何の\n関係もないにもかかわらず,茶道織部流の何百年にもわたる伝統を承継する正当な 根拠も理由もなく,あたかも自己が創設した茶道の流派であるかのように,これを 独占しようとしているなどと主張するが,上記のとおり,「美術品の展示」を除く 役務について本件商標は無効であるので,被告が茶道について織部流を独占するこ とにはならない。 上記に関し,原告は,Lが織部流の茶会を開催しようとした際に織部流の名称の 使用の中止を求める平成30年10月26日付け「お知らせ」と題する書面(甲2 1)が届いたと主張するが,同書面の差出名義人である「A13」が被告又は被告 の意を受けた者であるとは直ちには認め難い。 また,原告は,被告代表者Bが関係した展示会や催し,同人の講演,同人の経歴\nや「織部賞」について主張するが,これらの主張は上記(2)の判断を左右するもので はない。さらに,本件審判請求の際の被告代表者Bの陳述書(甲28)についても,\n審判において被告代表者Bが自己の言い分を記載したものにすぎず,上記(2)の判 断を左右するものではないし,原告が提出する被告代表者Bにだまされていた旨の\n記載のあるKの陳述書(甲40)や,本件審判請求において提出された同人名義の 陳述書(甲29)のほか,被告代表者Bを発行者とする「茶湯手帳」の記載(前記\n1(1)エ)も,上記(2)の判断を左右するに足りるものではなく,その他,本件商標 の登録を許容すべきでないといえるだけの反社会性があるというべき事情を認める に足りる証拠はない。
4 小括
以上によると,本件審決のうち,「セミナーの企画・運営及び開催」,「電子出 版物の提供」,「図書及び記録の供覧」,「図書の貸与」,「書籍の制作」及び「興 行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競 馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」の役務について 商標法4条1項10号に該当しないとした範囲で,原告の主張する取消事由には理 由があると認められる。その余の原告の主張は理由がない。

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令和1(ワ)26106  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年10月14日  東京地方裁判所

 キャラクターの複製・翻案であるとの主張は認められませんでした。

(2) 原告作品全体の創作性及び被告作品全体との対比について
ア 証拠(甲1,2,5〜7)によれば,原告の原著作物(別紙2)に描かれ た原告キャラクターは,頭部は髪がなく半楕円形であり,目は小さい黒点で 顔の外側に広く離して配され,上下に分かれたくちばし部分はいずれも厚く オレンジ色であり,上下のくちばしから構成される口は横に大きく広がり,\n体は黄色く,顔部分と下半身部分との明確な区別はなく寸胴であり,手足は 先細の棒状であるとの特徴を有しており,原告作品においては,原告キャラ クターのこれらの特徴の全部又は一部が表現されているものと認められる。\n
イ 証拠(乙1)及び別紙6「対比キャラクター」を含む弁論の全趣旨によれ ば,原告作品に描かれた原告キャラクターの上記特徴のうち,キャラクター の髪を描かず,頭部を半楕円形で描く点は同別紙の「エリザベス」及び「タ キシードサム」と,目を小さい黒点のみで描く点は同別紙の「タキシードサ ム」,「アフロ犬」,「ハローキティ」,「にゃんにゃんにゃんこ」及び「ラ イトン」と,口唇部分を全体的に厚く,口を横に大きく描く点は同別紙の「お ばけのQ太郎」と,顔部分と下半身部分とを明確に区別をせずに寸胴に描き, 手足は手首・足首を描かずに先細の棒状に描く点は同別紙の「おばけのQ太 郎」及び「エリザベス」(ただし,いずれも手の部分)と共通し,いずれも, 擬人化したキャラクターの漫画・イラスト等においては,ありふれた表現で\nあると認められる。
ウ そうすると,原告作品は,上記の特徴を組み合わせて表現した点にその創\n作性があるものと認められるものの,原告作品に描かれているような単純化 されたキャラクターが,人が日常的にする表情をし,又はポーズをとる様子\nを描く場合,その表現の幅が限定されることからすると,原告作品が著作物\nとして保護される範囲も,このような原告作品の内容・性質等に照らし,狭 い範囲にとどまるものというべきである。
(3) 被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるか否かについて 上記(2)を踏まえ,被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるか否かにつ いて,作品ごとに以下検討する。
ア 被告作品1について
(ア) 被告作品1−1について
a 原告作品1−1と被告作品1−1との対比
原告作品1−1と被告作品1−1とを対比すると,両作品は,ほぼ正 面を向いて立つキャラクターにつき,目を黒点のみで描いている点,く ちばしと肌の色を明確に区別できるように描いている点,顔部分と下半 身部分とを明確に区別せずに描いている点,胴体部分に比して手足を短 く描いている点のほか,黒色パーマ様の髪が描かれている点において共 通するが,黒色パーマ様の髪型を描くこと自体はアイデアにすぎない上, その余の共通点は,いずれも擬人化されたキャラクターにおいてはあり ふれた表現であると認められる。\n 他方,両作品については,原告作品1−1では,キャラクターの体色 が黄色で,両目が小さめの黒点のみで顔の外側付近に広く離して描かれ, 上下のくちばしはオレンジ色で,たらこのように厚く描かれているのに 対し,被告作品1−1では,キャラクターの体色は白色で,両目がより 顔の中心に近い位置に,多少大きめの黒点で描かれ,上下のくちばしは 黄色で原告キャラクターに比べると厚みが薄く,横幅も狭く描かれてい るなどの相違点がある(以下,これを「作品に共通する相違点」という。)。 加えて,原告作品1−1では,キャラクターが,いわゆるおばさんパ ーマ状の髪型(毛量は体の約5分の1程度で,への字型の形状をし,眉 毛も見えている。)をして,口を開け,左手を上下に大きく振りながら, 表情豊かに相手に話しかけているかのような様子が表\現されているの に対し,被告作品1−1では,いわゆるアフロヘアー風のこんもりとし た髪がキャラクターの体全体の半分程度を占めるなど,その髪型が強調 され,キャラクターの表情や手足の描写にはさしたる特徴がないなどの\n相違点があり,その具体的な表現は大きく異なっている。\n 以上のとおり,両作品は,アイデア又はありふれた表現において共通\nするにすぎず,具体的な表現においても上記のとおりの相違点があるこ\nとにも照らすと,被告作品1−1から原告作品1−1の本質的特徴を感 得することはできないというべきである。 したがって,被告作品1−1は,原告作品1−1の複製にも翻案にも 当たらない。

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原告作品、被告作品、参考著作物はこちらです。

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平成29(ワ)40337  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年7月22日  東京地方裁判所

 カートリッジを再生利用できないようにした場合や,ICチップにカートリッジのトナーがなくなったなどのデータを記録し,再生品が装着されたときにレーザープリンタの機能の一部が作動しないようにすることが権利濫用と判断されました。\n

 独占禁止法21条は,「この法律の規定は,・・・特許法・・・による権利の行使 と認められる行為にはこれを適用しない。」と規定しているが,特許権の行 使が,その目的,態様,競争に与える影響の大きさなどに照らし,「発明を 奨励し,産業の発達に寄与する」との特許法の目的(特許法1条)に反し, 又は特許制度の趣旨を逸脱する場合については,独占禁止法21条の「権利 の行使と認められる行為」には該当しないものとして,同法が適用されると 解される
。 同法21条の上記趣旨などにも照らすと,特許権に基づく侵害訴訟におい ても,特許権者の権利行使その他の行為の目的,必要性及び合理性,態様, 当該行為による競争制限の程度などの諸事情に照らし,特許権者による特許 権の行使が,特許権者の他の行為とあいまって,競争関係にある他の事業者 とその相手方との取引を不当に妨害する行為(一般指定14項)に該当する など,公正な競争を阻害するおそれがある場合には,当該事案に現れた諸事 情を総合して,その権利行使が,特許法の目的である「産業の発達」を阻害 し又は特許制度の趣旨を逸脱するものとして,権利の濫用(民法1条3項) に当たる場合があり得るというべきである。 ところで,一般指定14項(競争者に対する取引妨害)は,「自己・・・と国 内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について, 契約の成立の阻止,契約の不履行の誘因その他いかなる方法をもってするか を問わず,その取引を不当に妨害すること」を不公正な取引方法に当たると 規定しているところ,乙3先例において,公正取引委員会が,プリンタのメ ーカーが,技術上の必要性等の合理的理由がなく又はその必要性等の範囲を 超えてICチップの書換えを困難にし,カートリッジを再生利用できないよ うにした場合や,ICチップにカートリッジのトナーがなくなったなどのデ ータを記録し,再生品が装着されたときにレーザープリンタの機能の一部が\n作動しないようにした場合には同項に違反するおそれがあるとの見解を示し ていることは,上記(1)コ(イ)のとおりである。
以上を踏まえると,本件において,本件各特許権の権利者である原告が, 使用済みの原告製品についてトナー残量が「?」と表示されるように設定し\nた上で,その実施品である原告電子部品のメモリについて,十分な必要性及\nび合理性が存在しないにもかかわらず本件書換制限措置を講じることにより, リサイクル事業者が原告電子部品のメモリの書換えにより同各特許の侵害を 回避しつつトナー残量の表示される再生品を製造,販売等することを制限し,\nその結果,当該リサイクル事業者が同各特許権を侵害する行為に及ばない限 りトナーカートリッジ市場において競争上著しく不利益を受ける状況を作出 した上で,同各特許権に基づき権利行使に及んだと認められる場合には,当 該権利行使は権利の濫用として許容されないものと解すべきである。 以下,本件各特許権の行使が権利の濫用に該当するかどうかについて,検 討する。
(3) トナーの残量表示を「?」とすることによる競争制限の程度について\n
ア 原告プリンタにおいては,前記第2の2(7)のとおり,純正品であるトナ ーカートリッジが装着された場合には,トナー残量が段階的に表示される\nのに対し,使用済みの原告製品にトナーを補充した再生品が装着された場 合には,印刷動作には支障がないものの,トナーの残量表示が「?」と表\ 示されるとともに,トナーがもうすぐなくなる旨の予告表\示はされず,ト ナーを使い切ると,トナーがなくなった旨のメッセージが出て,赤色ラン プが点灯するとの事実が認められる。
イ 原告は,トナーの残量の表示が「?」であるトナーカートリッジであっ\nても印刷は可能であり,ユーザーは価格を重視するので,純正品に比較し\nて廉価な再生品が競争上の不利益を被ることはないと主張する。
(ア) しかし,市場で競合する他の製品の場合と異なり,トナーカートリッ ジの再生品の場合には,再生品の価格の方が純正品の価格よりある程度 安いことはそのユーザーにとって当然の前提であり,再生品がユーザー に対して訴求力を有するのは,再生品と純正品の価格差のみならず,当 該再生品が純正品との価格差にもかかわらず,純正品と同等の品質を備 えているという点にあると考えられる。
(イ) このことは,被告DSジャパンのウェブサイト(甲7の2)において, 被告製品が「高品質で低価格」,「高品質で安全なリサイクルトナーを 安価で販売」などと記載され,その品質が優れていることが強調され, 更に「当社リサイクルトナーの品質」として,E&Qマークを取得して いる旨が記載されていることからもうかがわれるところである。 また,原告のウェブサイトには,前記(1)オ記載のとおり,「プリンタ の性能を安定した状態でご使用いただくために,リコー純正品のご使用\nをおすすめします。リコー純正品以外のご使用は,印字品質の低下やプ リンタ本体の故障など,製品に悪影響を及ぼすことがあります。」と記 載されており,同記載に接したユーザーは,プリンタメーカーは品質上 の理由から純正品の使用を勧めており,廉価な再生品の購入に当たって は,その品質に十分に留意する必要があることを容易に理解し得るもの\nと考えられる。
(ウ) さらに,再生品トナーカートリッジの市場シェアをみると,前記(1)ク のとおり,トナーカートリッジにおける平成21年から平成29年まで のリユース率は,モノクロ・カラー合計で23.1〜26.4%で推移 しているものと認められる。再生品の価格が純正品に比べて廉価であり, 価格面においては競争上優位に立っているにもかかわらず,その市場シ ェアが上記の程度にとどまっているとの事実は,ユーザーにとってトナ ーカートリッジ再生品の品質が非常に重要であり,再生品がユーザーの 信頼を得ることが難しいことを示しているものということができる。
(エ) 以上のとおり,ユーザーは,再生品を購入するかどうかを決めるに当 たり,純正品との価格差に勝るとも劣らず,その品質が純正品と同等か どうかを重視しているということができる。
ウ 本件において,原告プリンタに純正品であるトナーカートリッジを装着 した場合には,トナー残量が段階的に表示されるのに対し,再生品を装着\nした場合には,トナーの残量表示が「?」と表\示され,予告表\示もされな いことは,上記アのとおりである。 プリンタにとってトナー残量表示は一般的に備わっている機能\であると 認められるところ(弁論の全趣旨),トナー残量が「?」と表示されると,\nユーザーとしてはいつトナーが切れるかの予測がつかないことから,トナ\nーが切れたときに備えて予備のトナーカートリッジを常時用意しておか\nなければならず,トナー残量の表示がされる場合に比べ,本来不必要な保\n守・管理上の負担をユーザーに課すこととなる。 また,プリンタに純正トナーカートリッジを装着した場合にトナー残量 が「?」と表示されることは通常あり得ないことから,同表\示に接したユ ーザーは,トナーカートリッジの再生品の品質にはやはり問題があって, プリンタのトナー残量表示機能\が正常に作動していないのではないか,あ るいは,トナーカートリッジが純正品ではないことからプリンタがトナー カートリッジに記録された情報を適正に読み取ることができないのではな いかなどの不安感を抱き,再生品の使用を躊躇すると考えられる。 前記のとおり,プリンタメーカーである原告自身が品質上の理由から純 正品の使用を勧奨していることや,価格差にもかかわらず再生品の市場占 有率が一定にとどまっていることなどに照らすと,我が国において再生品 の品質に対するユーザーの信頼を獲得するのは容易ではないものと考えら れる。このような状況下において,トナーの残量が「?」と表示される再\n生品を販売しても,その品質に対する不安や保守・管理上の負担等から, 我が国のトナーカートリッジ市場においてユーザーに広く受け入れられる とは考え難い。
エ 実際のところ,我が国のトナーカートリッジ市場において,トナー残量 を「?」と表示する再生品が製造,販売等されていることを示す証拠は存\n在しない。このことは,原告製のプリンタのうち,対応するトナーカット リッジの電子部品のメモリの書換えが可能な機種はもとより,本件書換制\n限措置がされている機種(C830及びC840シリーズ)についても同 様である。被告らを含むリサイクル事業者が,わざわざ費用を費やして原 告電子部品のメモリの書換え又は同部品の取替えを行い,トナー残量が表\n示されるようにした上で再生品を販売しているとの事実も,トナー残量を 「?」と表示するトナーカートリッジを市場で販売したとしても,ユーザ\nーから広く受け入れられる可能性が低いことを示しているというべきであ\nる。
オ 加えて,前記(1)ケのとおり,公的機関によるカラーレーザープリンタ用 トナーカートリッジ等の入札においては,メーカーによる再生品以外の再 生品について,トナーカートリッジに装着するチップの情報を,リサイク ルの都度確実に書き換えることや,純正品と同等の機能を有することなど\nが条件とされているものがあるとの事実が認められる。これによれば,本 件書換制限措置がされている原告電子部品について,被告電子部品と取り 替えることなく,トナー残量が「?」と表示される再生品を製造,販売等\nした場合,このような条件を課す公的機関による入札において当該再生品 が入札条件を満たす可能性は低いというべきである。\n この点について,原告は,上記の入札条件は,あらゆる点で純正品と同 等の機能を有することまで求める趣旨ではなく,又は定型的な条件にすぎ\nずメモリの書換えが制限されていることを想定したものではないと主張 する。しかし,トナー残量が正確に表示されない再生品が「純正品と同等\nの機能」を有するということはできず,また,電子部品のメモリの情報を\n確実に書き換えるという条件が定型的なものであるとしても,他の手段に より電子部品のメモリの情報を書き換えた場合と同様のトナー残量表示\nをすることが求められる可能性が高いと考えるのが自然である。\n したがって,本件書換制限措置により,被告らが官公庁等との取引を継 続し得なくなることはあり得ないとの原告の主張は採用し得ない。
カ 以上のとおり,本件書換制限措置により,被告らがトナーの残量の表示\nが「?」であるトナーカートリッジを市場で販売した場合,被告らは,競 争上著しく不利益を被ることとなるというべきである。
(4) 本件各特許権の侵害を回避しつつ,競争上の不利益を被らない方策の存否 について
ア 上記(3)のとおり,被告らは,原告製プリンタのうち,本件書換制限措置 がされていない機種に適合するトナーカートリッジについて,トナー残量 が「?」と表示される製品を販売するのではなく,電子部品のメモリを書\nき換え,トナー残量の表示をすることができるようにした上で販売してお\nり,本件書換制限措置がされているC830及びC840シリーズ機種に ついても,同措置がとられていなければ,同様にメモリを書き換えること により再生品を製造,販売していたものと推認される。 本件書換制限措置は,原告製プリンタのうち,同各シリーズについて, 被告らによるこうした従前の対応を採り得なくするものであるが,被告ら は,これにより競争上の不利益を被ることなく特許権侵害を回避すること が困難な状況に置かれたと主張するのに対し,原告は,被告電子部品の構\n造を工夫するなどして,本件各特許権の侵害を回避することは可能である\nと主張する。
イ そこで,まず,前提として,被告らが従来行っていた原告電子部品のメ モリの書換行為が本件各特許権を侵害するかどうかについて検討する。
(ア) インクタンク事件最高裁判決は,譲渡済みの特許製品について加工等 がされた場合の特許権侵害の成否について,「特許権の消尽により特許 権の行使が制限される対象となるのは,飽くまで特許権者等が我が国に おいて譲渡した特許製品そのものに限られるものであるから,特許権者 等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ, それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造された ものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権 を行使することが許されるというべきである。そして,上記にいう特許 製品の新たな製造に当たるかどうかについては,当該特許製品の属性, 特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総 合考慮して判断するのが相当であり,当該特許製品の属性としては,製 品の機能,構\造及び材質,用途,耐用期間,使用態様が,加工及び部材 の交換の態様としては,加工等がされた際の当該特許製品の状態,加工 の内容及び程度,交換された部材の耐用期間,当該部材の特許製品中に おける技術的機能及び経済的価値が考慮の対象となるというべきであ\nる。」と判示する。
(イ) これを本件についてみると,本件各発明のうち,例えば,本件各発明 1は,前記第4の1のとおり,情報記憶装置の基板に形成された穴部に, 画像形成装置本体の突起部に形成された設置用の本体側端子に係合す るアース端子を形成した上,当該穴部を複数の金属板のうち2つの金属 板の間に挟まれる位置に配設することにより,情報記憶装置に電気的な 破損が生じにくくなるとともに,端子の本体側端子に対する平行度のず れを最低限に抑えるようにするものであり,画像形成装置本体(プリン タ)に対して着脱可能に構\成された着脱可能装置(トナーカートリッジ)\nに設置される情報記憶装置(電子部品)の物理的な構造や部品の配置に\n関する発明であるということができる。また,本件各発明2及び3も, 同様に情報記憶装置の物理的構造や部品の配置に関する発明である。\n
これに対し,被告らが行っている原告電子部品のメモリの書換えは, 情報記憶装置の物理的構造等に改変を加え,又は部材の交換等をするも\nのではなく,情報記憶装置の物理的な構造はそのまま利用した上で,同\n装置に記録された情報の書換えを行うにすぎないので,当該書換えによ り原告電子部品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと評 価することはできない。
(ウ) そうすると,原告電子部品のメモリを書き換える行為は本件各特許権 を侵害するものではないというべきである。 ウ 原告は,原告プリンタに使用可能な電子部品の製造等に当たっては,原\n告プリンタ側の形状に合う構造であれば足りるので,被告電子部品の構\成 を工夫するなどの他の手段により本件各特許権への抵触を回避することが 可能であると主張する。\n
しかし,本件各発明に係る情報記憶装置は,画像形成装置本体(プリン タ)に対して着脱可能に構\成された着脱可能装置(トナーカートリッジ)\nに搭載されるものであり,当該情報記憶装置に形成された穴部を介して, 画像形成装置本体の突起部と係合するものであるから,被告製品の構成や\n形状は,適合させる原告プリンタの構成や形状に合わさざるを得ず,その\n設計上の自由度は相当程度制限されると考えられる。 実際のところ,原告プリンタに関し,リサイクル事業者によって販売さ れている再生品は,いずれも電子部品を交換しており(乙2,37),そ の構造自体を本件各特許権の侵害を回避するような態様で変更している製\n品が存在することを示す証拠は存在しない。被告らは,本件各特許権の侵 害を回避するため,被告電子部品の設計を変更したが,設計変更後の被告 電子部品がなお本件各発明の技術的範囲に属することは前記判示のとおり であり,その他の方法により本件各特許の侵害を回避することが可能であ\nることをうかがわせる証拠は存在しない。
エ 以上によれば,被告らをはじめとするリサイクル事業者が,現状におい て,本件書換制限措置のされた原告製プリンタについて,トナー残量表示\nがされるトナーカートリッジを製造,販売するには,原告電子部品を被告 電子部品に取り替えるほかに手段はないと認められる。そして,本件各特 許権に基づき電子部品を取り替えた被告製品の販売等が差し止められるこ とになると,被告らはトナー残量が「?」と表示される再生品を製造,販\n売するほかないが,そうすると,前記(3)のとおり,被告らはトナーカート リッジ市場において競争上著しく不利益を受けることとなるというべきで ある。
(5) 本件書換制限措置の必要性及び合理性について
原告は,本件書換制限措置について,1)トナーの残量表示の正確性の担保,\n2)電子部品のメモリに書き込まれたデータの製品開発及び品質管理・改善へ の活用,3)●(省略)●の観点から行っており,このような措置を行うこと は必要かつ合理的であると主張するので,以下,検討する。 ア 本件書換制限措置の必要性及び合理性全般について 原告の主張する上記1)〜3)の各点について検討するに当たり,本件書換 制限措置の必要性及び合理性全般に関し,以下の点を指摘することができ る。 (ア) 本件書換制限措置がされた原告製プリンタ(C830及びC840シ リーズ)のうち,先行して販売されたのはC830シリーズであるが, その開発時点においては,既に原告製プリンタの他機種に適合するトナ ーカートリッジの電子部品のメモリを書き換えた再生品が市場に流通 していたものと推認される。 ところが,上記C830シリーズの原告製プリンタの開発時点におい て,メモリの書換えをした再生品による具体的な弊害が生じており,そ の対応が必要とされていたことや,この点が同プリンタの開発に当たっ て考慮されていたことをうかがわせる証拠は存在しない。原告の主張す る上記1)〜3)の各点については後に検討するが,これらの点とC830 シリーズの開発を具体的に結びつける証拠は本件において提出されてい ない。
(イ) また,本件書換制限措置が,本件各特許権に係る技術の保護やその侵 害防止等と関連性を有しないことは当事者間に積極的な争いはない。そ うすると,本件書換制限措置を講じる必要性及び合理性は,本件各特許 の実施品であるC830及びC840シリーズ用トナーカートリッジ にとどまらず,C830及びC840シリーズ以外の機種用トナーカー トリッジについても同様に妥当すると考えられるが,同各シリーズ以外 の機種については同様の措置は講じられていない。 原告は,その理由について,●(省略)●と主張するが,その説明は 抽象的であり,本件各特許の権利行使の可能性を考慮して上記各シリー\nズの機種についてのみ本件書換制限措置がされたのではないかとの疑 念を払拭することはできない。
なお,この点に関し,原告は,C830及びC840シリーズ以外の 原告製プリンタ用カートリッジのメモリについても書換えに一定の制約 を付してきたと主張するが,本件書換制限措置と同様の措置がされ,ト ナー残量表示が制限されている他の原告製プリンタが存在すると認める\nに足りる証拠はない。
(ウ) 加えて,本件書換制限措置は,純正トナーカートリッジを原告製プリ ンタに装着して印刷をする上で直接的に必要となる措置ではなく,使用 済みとなったトナーカートリッジについて,リサイクル事業者が再生品 を製造,販売するために電子部品のメモリを書き換える段階でその効果 を奏するものである。すなわち,本件書換制限措置は,特許実施品であ る電子部品が組み込まれたトナーカートリッジについて,譲渡等により 対価をひとたび回収した後の自由な流通や利用を制限するものである ということができる。
この点に関し,被告らは,トナーカートリッジの譲渡後の流通を妨げ ることはできないとして,本件各特許権について消尽が成立すると主張 するが,「特許権の消尽により特許権の行使が制限される対象となるの は,飽くまで特許権者等が我が国において譲渡した特許製品そのものに 限られる」(インクタンク事件最高裁判決)と解されるので,特許製品 である「情報記憶装置」そのものを取り替える行為については,消尽は 成立しないと解される。 しかし,譲渡等により対価をひとたび回収した特許製品が市場におい て円滑に流通することを保護する必要性があることに照らすと,特許製 品を搭載した使用済みのトナーカートリッジの円滑な流通や利用を特 許権者自身が制限する措置については,その必要性及び合理性の程度が, 当該措置により発生する競争制限の程度や製品の自由な流通等の制限 を肯認するに足りるものであることを要するというべきである。 以上を踏まえ,原告が本件書換制限措置の必要性及び合理性の根拠と して挙げる上記1)〜3)の各点について,順次検討する。
イ トナーの残量表示の正確性担保について\n
原告は,本件書換制限措置をした理由として,●(省略)●からである と主張する。
(ア) しかし,●(省略)●であることから,使用済みの原告製品にトナー を再充填して原告製プリンタにそのまま装着した場合に,そのトナー残 量を「?」と表示することに合理性があるとしても,そのことは,その\nメモリの書換えを制限する措置を講じることにより,当該第三者が自ら の責任でトナーの残量を表示するのを妨げることまでも正当化するもの\nではない。 本件書換制限措置は,リサイクル事業者がメモリの書換えにより,自 らの責任でトナー残量を表示することを制限するものであるから,その\n必要性及び合理性を是認するには,そのような措置をとらないと,トナ ー残量が不正確なトナーカートリッジが市場に流通してユーザーの利益 を害し,ひいては,原告製品への信頼が損なわれる具体的なおそれが存 在することを要するというべきである。
(イ) 原告は,再生品を含む第三者のトナーカートリッジには,製品ごとに 印刷枚数に大きなばらつきがあるので,再生事業者が「?」以外のトナ ー残量表示をできないようにしないと,トナー残量が不正確なトナーカ\nートリッジが市場に流通してユーザーの利益を害すると主張し,再生品 の印刷可能枚数が純正品と大きく違うことを示す具体例として,1)同一 顧客から回収した特定の第三者メーカー(E&Qマーク付きのもの)の 同一種類の再生品2つを分析したところ,一方の製品は純正品の73. 9%しか印刷できなかったのに対し,他方の製品は純正品の141.8% も印刷できたこと(甲39の添付資料1),2)同一メーカーのカラート ナーカートリッジの印刷枚数は,純正品の約75%〜88%しか印刷で きなかったこと(同添付資料2),3)他のメーカー(E&Qマークのな いもの)の再生品の中には,純正品の60%しか印刷できないものもあ ったこと(同添付資料3)などを指摘する。
a しかし,上記1)〜3)の調査は,対象となるメーカーの数は2つにす ぎず,調査の対象となった再生品の数も少数であるので,その分析結 果から,当該メーカーの再生品のトナー充填量が純正品と大きく異な り,その残量表示が一般的に不正確であると推認することはできず,\nまして,市場に流通する他のメーカーも含めた再生品のトナーカート リッジ全般について,そのトナーの充填量が純正品の充填量と大きく 異なり,その残量表示が不正確であると推認することはできない。\n
b また,トナーカートリッジの再生品については,E&Qマーク等の 認証基準が設定され,このうち,E&Qマークについては,前記(1)キ のとおり,第三者審査機関が再生品の製造工場に出向き,所定の環境 管理基準及び品質管理基準に基づく審査を行い,これに適合すると判 定された製品に付されるものであり,品質関連基準には,印刷枚数が 純正比90%以上であるという項目が含まれると認められる(乙28)。 このように,トナーカートリッジの再生品については,認証基準の 設定により品質の確保が図られているところ,本件証拠を総合しても, かかる認証を得たトナーカートリッジの再生品について,トナー残量 表示が不正確な製品が多く流通しており,メモリの書換制限により同\n表示を行うことができないようにしないと原告製品に対する信頼を維\n持することが困難であるなどの事情が存在するとは認められない。
c さらに,E&Qマーク等を得ている再生品については,同マークが 製品に貼付されているので(乙28),当該再生品を使用するユーザ\nーは,通常,それが再生品であることを認識して購入,使用するもの と考えられる。このため,仮に,E&Qマーク等を得ている再生品の トナー残量表示が不正確であるとしても,それによりユーザーの信頼\nを失うのは,当該再生品を製造,販売したリサイクル事業者自身であ って,それによって,本件書換制限措置を必要とするほどに原告製品 の信頼が損なわれるとは認め難い。
d もとより,市場で流通しているトナーカートリッジの再生品の中に は,認証を得たもののみならず,認証マークを貼付していないものも\n存在し,こうした製品については,ユーザーが純正品と誤認すること も考えられなくはない。しかし,こうした認証を得ていない再生品に ついて,トナー残量表示が不適切なトナーカートリッジが現に市場に\nおいて多数流通するなどして,原告製品の信頼性に対して影響を及ぼ していると認めるに足りる証拠は存在しない。
e なお,前記(1)イのとおり,●(省略)●ところ,純正品である原告 製品においても,印刷可能枚数と実際の印刷枚数に一定の乖離が生じ\nることは,前記(1)ウのとおりである。このようなトナー残量の算出方 法等に照らすと,リサイクル事業者が,原告製品に充填されるトナー の規定量と同量のトナーを再充填すれば,印刷可能枚数の残量を純正\n品と同程度の正確性をもって表示することは可能\であると認められる。
(ウ) 以上によれば,本件書換制限措置がされた当時はもとより,本訴提起 時点においても,トナーカートリッジの再生品市場にトナー残量表示が\n不正確な製品が多く流通しており,そのメモリの書換えを制限すること により「?」以外の残量表示を行うことができないようにしないと原告\n製品に対する信頼を維持することが困難であるなど,本件書換制限措置 を行うことを正当化するに足りる具体的な必要性があったと認めるこ とはできない。 したがって,本件書換制限措置は,トナーの残量表示の正確性担保の\nための装置としては,その必要性の範囲を超え,合理性を欠くものであ るというべきである。
・・・
ア 差止請求について
上記(1)ないし(5)によれば,本件各特許権の権利者である原告は,使用 済みの原告製品についてトナー残量が「?」と表示されるように設定した\n上で,本件各特許の実施品である原告電子部品のメモリについて,十分な\n必要性及び合理性が存在しないにもかかわらず本件書換制限措置を講じ ることにより,リサイクル事業者である被告らが原告電子部品のメモリの 書換えにより本件各特許の侵害を回避しつつ,トナー残量の表示される再\n生品を製造,販売等することを制限し,その結果,被告らが当該特許権を 侵害する行為に及ばない限り,トナーカートリッジ市場において競争上著 しく不利益を受ける状況を作出した上で,当該各特許権の権利侵害行為に 対して権利行使に及んだものと認められる。 このような原告の一連の行為は,これを全体としてみれば,トナーカー トリッジのリサイクル事業者である被告らが自らトナーの残量表示をし\nた製品をユーザー等に販売することを妨げるものであり,トナーカートリ ッジ市場において原告と競争関係にあるリサイクル事業者である被告ら とそのユーザーの取引を不当に妨害し,公正な競争を阻害するものとして, 独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)と抵触 するものというべきである。 そして,本件書換制限措置による競争制限の程度が大きいこと,同措置 を行う必要性や合理性の程度が低いこと,同措置は使用済みの製品の自由 な流通や利用等を制限するものであることなどの点も併せて考慮すると, 本件各特許権に基づき被告製品の販売等の差止めを求めることは,特許法 の目的である「産業の発達」を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するもの として,権利の濫用(民法1条3項)に当たるというべきである。
イ 損害賠償請求について
差止請求が権利の濫用として許されないとしても,損害賠償請求につい ては別異に検討することが必要となるが,上記ア記載の事情に加え,原告 は,本件各特許の実施品である電子部品が組み込まれたトナーカートリッ ジを譲渡等することにより既に対価を回収していることや,本件書換制限 措置がなければ,被告らは,本件各特許を侵害することなく,トナーカー トリッジの電子部品のメモリを書き換えることにより再生品を販売して いたと推認されることなども考慮すると,本件においては,差止請求と同 様,損害賠償請求についても権利の濫用に当たると解するのが相当である。 ウ したがって,本訴において,原告が,被告らに対して,本件各特許権に 基づき,被告製品の製造,販売等の差止め及び損害賠償等の請求をするこ とは,いずれも権利の濫用に当たり許されないものというべきである。

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令和1(ワ)5462  損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和2年12月3日  大阪地方裁判所

 不競法2条1項3号の商品形態模倣について、原告は自ら開発・商品化して市場に置いた者ではないとして請求が棄却されました。

不競法2条1項3号が,他人の商品形態を模倣した商品の販売行為等を不正 競争とする趣旨は,先行者の商品形態を模倣した後行者は,先行者が商品開発に要 した時間,費用及び労力等を節約できる上,商品開発に伴うリスクを回避ないし軽 減することができる一方で,先行者の市場先行のメリットが著しく損なわれること により,後行者と先行者との間に競業上著しい不公平が生じると共に,個性的な商 品開発や市場開拓への意欲が阻害されることになるため,このような行為を競争上 不正な行為として位置付け,先行者の開発利益を模倣者から保護することにあると 解される。 そうすると,同号所定の不正競争につき差止ないし損害賠償を請求することがで きる者は,模倣されたとされる形態に係る商品を先行的に自ら開発・商品化して市 場に置いた者に限られるというべきである。 また,原告商品及び被告商品のような女性向け衣類は,欧米での新作商品や流行 等の影響を受けると共に,中国及び韓国の製造業者ないし仲介業者と日本の販売業 者等との間で多くの取引が行われていると認められる(甲18,19,弁論の全趣 旨)。これらの事情に鑑みると,上記「市場」は,本件の場合,日本国内に限定さ れず,少なくとも欧米,中国及び韓国の市場を含むものと解される。
(2) 検討
ア 本件カタログ商品は,原告商品と同様の特徴(原告商品特徴)を有する(当 事者間に争いのない事実)。
また,本件カタログ(乙12)は,表裏の各表\紙のほか21頁からなる商品カタ ログとして製本されたものであるところ,その表紙右下部に「2015年春季新\n品」との記載があるとともに,本件カタログ商品がその14頁に掲載されている。 さらに,本件カタログ1頁には,その作成者である「广州琼林服饰」(本件中国メ ーカー)が例年韓国,日本,欧米等に輸出していることも記載されている。これら の記載によれば,本件カタログは,本件中国メーカーが,遅くとも平成27年春頃 までに,韓国,日本,欧米等を市場とする2015年(平成27年)春季向けの新 製品として,本件カタログ商品を含む本件カタログ掲載商品を紹介する趣旨で作成 され,頒布されたものであることがうかがわれる。 そうすると,原告商品と同様に原告商品特徴の全てを備えるものである本件カタ ログ商品は,平成27年春頃,本件中国メーカーにより市場に置かれたものといえ るから,原告は,模倣されたとされる形態に係る商品を先行的に自ら開発・商品化 して市場に置いた者ということはできない。

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令和2(ワ)3594  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年12月17日  東京地方裁判所

 プログラムの著作物について、複製、公衆送信されたとして損害賠償が認められました。損害額の認定について、本件プログラムは単独では販売されておらず、コニュニティの入会費用として約25万円がプログラムの価値で、被告は、約25万*7名分が損害と主張しました。東京地裁(46部)はそのうちの1人については、コミュニティへの入会の機会を失ったと認定して、約25万円の損害額が認定されました。

 (1) 前記1(1)のとおり,原告は,本件ソフトの配布を原告コミュニティへの入\n会の特典とし,原告コミュニティに入会した者から入会費用を受け取ること によって,本件ソフトを独占的に利用することができる地位による利益を享\n受していた。ここで,被告が本件各行為により本件ソフトを配布した本件各\n参加者は,いずれも原告コミュニティの紹介,勧誘を受けたが入会しなかっ たこと(前記1(2))を踏まえると,被告の本件各行為がなかったならば本件 各参加者全員が入会費用を支払って原告コミュニティに入会したことを認め ることはできない。もっとも,本件各参加者のうちAは,原告コミュニティ に参加した被告と情報交換をして,被告から本件ソフトの交付を受け,また,\n本件ソフトの配布のために必要な処理等を率先して行うなどしていて,本件\nソフトの価値に強く着目していた者であり,被告の行為がなければ,本件ソ\ フトを入手するために本件ソフトが入会特典である原告コミュニティに参加\nしたと認めることが相当である。そうすると,被告の本件各行為により,原 告は少なくとも本件ソフトが入会特典である原告コミュニティに参加した者\nを1名失ったと認められる。
そして,本件ソフトが入会特典であり本件ソ\フトの再許諾料を含むといえ る原告コミュニティの入会費用は24万9900円であり,また,本件契約 において,原告がBANANAに対して支払う1回の利用許諾代金が同額で あり,再利用許諾の代金を含む原告コミュニティの参加費用はその利用許諾 代金を下回らない範囲で設定するとされていたこと(前記第2の1(2)イ)等 に照らすと,原告は,少なくとも同額の損害を被ったものと認められる。
また,原告は,BANANAに対して本件各参加者7人分の利用許諾代金 174万9300円を支払う義務を負っているなどとも主張する。しかし, 被告の本件各行為によって原告に上記の支払義務が発生したことを認めるに は足りず,原告が被告の本件各行為により同額の損害を被ったとは認められ ない。

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令和2(ネ)10040  損害賠償請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和2年12月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 バーキンタイプのバッグ販売について、不競法2条1項1,2号違反とした1審判断が維持されました。

c 取引の実情
控訴人は,被控訴人商標が付された被控訴人商品と,控訴人商品等 は,価格,品質,商品名及びロゴ等の点で異なるので,取引の実情に 照らして,控訴人商品等と被控訴人商標は誤認混同を生ずることはな く,類似しない旨主張する。 しかし,被控訴人商標が付された被控訴人商品と,控訴人商品等が, 価格,品質,商品名及びロゴ等の点で異なるとしても,そのことから 直ちに,取引の実情に照らして,控訴人商品等の形状と被控訴人商標 が誤認混同を生ずることがないとはいえないし,類似性が否定される ことはない。被控訴人商品の新品は,被控訴人の直営店舗や専門店等 を通じて店舗又はインターネット上で販売されており,それらの販路 の数は比較的限定されているものの(弁論の全趣旨),高級ブランド バッグである被控訴人商品の中古品については,中古市場が成立して おり,店舗及びインターネット上で活発に取引がされている一方で(公 知の事実),控訴人商品等も新品は店舗(甲1,2,弁論の全趣旨) 及びインターネット上で販売され(原判決第2の2(1)イ(原判決3頁 14行目ないし19行目)),中古品もインターネット上で取引され ており(甲51〜61),このように,被控訴人商品と控訴人商品等 は,新品及び中古品のいずれについても市場に共通性があると認めら れる。また,中古品については,被控訴人商品であっても品質は新品 に比べて劣化しており,価格も新品よりは低廉である上,一般に中古 品は,ある期間使用された後に譲渡されるため,出所や商品名が新品 のように明確にされていない場合や,品質,商品名及びロゴの有無等 を十分に確認することなく取引が行われている場合(特にインターネ\nット上の取引の場合)が少なくないから(弁論の全趣旨),価格,品 質,商品名及びロゴによって被控訴人商品と控訴人商品等が明確に区 別されるとはいい難く,被控訴人商品の中古品が市場において活発に 取引されていることからすると,被控訴人商品と控訴人商品等の混同 の可能性が具体的に存在すると認められる。そうすると,前記a,b\nのとおり,控訴人商品等(控訴人商品及びバーキンタイプのバッグ) は被控訴人商標と外観上類似するから,価格,品質,商品名及びロゴ に相違があることを考慮しても,被控訴人商標を付した被控訴人商品 と控訴人商品等は具体的な取引において誤認混同のおそれがあるもの と認められる。したがって,取引の実情に照らして,控訴人商品等の 形状は被控訴人商標と誤認混同を生ずるおそれがあり,類似するもの と認められる。
・・・
(4) 争点4(被控訴人の損害)について
ア 控訴人商品等の販売個数について
(ア) 控訴人は,遅くとも平成22年8月11日以降,バーキンタイプの バッグを販売しており(甲41,弁論の全趣旨),平成30年2月14 日には,控訴人の店舗を訪問した被控訴人関係者に対して,控訴人商品 を販売した(甲1,乙34)ことからすると,控訴人は,対象期間(平 成22年8月11日から平成30年2月14日までの期間)において控 訴人商品等を販売していたものと認められる。そして,控訴人は,バー キンタイプのバッグを平成22年夏か秋頃に中国の業者から100個仕 入れ,それがバーキンタイプのバッグの最後の仕入れであったこと,そ の100個のバーキンタイプのバッグについて,被控訴人商標権の登録 がされた直後の平成23年10月頃の在庫は30個程度であったが,控 訴人はその頃からバザーに出品するなどして在庫処分を開始しており, 平成25年4月には在庫処分をほぼ終了し,平成26年1月か2月頃に, 最後の1点を販売したことを主張しており(本判決による補正後の原判 決第2の4(4)【被告の主張】ア(イ)(原判決13頁6行目ないし12行 目)),これらの控訴人の主張は,バーキンタイプのバッグの販売及び その前提としての仕入れという,控訴人に不利益な事実に関する主張で あるから,その主張に係る事実があったものと認めることができる。そ うすると,控訴人は,対象期間中に,少なくとも100個の控訴人商品 等を販売したものと認めるのが相当である。
(イ) これに対し,控訴人は,平成22年8月11日の時点においてバー キンタイプのハンドバッグが100個存在したという証拠はなく,平成 30年2月14日に誤って被控訴人関係者に有償譲渡したバッグは平 成22年頃に仕入れたバッグではなく,控訴人商品等をチャリティーバ ザーで販売したのは販売利益を寄付するためであったから,対象期間中 に少なくとも100個の控訴人商品等を販売したことはないと主張す る。 しかし,前記(ア)のとおり,控訴人は,バーキンタイプのバッグを平 成22年夏か秋頃に100個仕入れたことが認められ,仮に平成30年 2月14日に被控訴人関係者に有償譲渡した控訴人商品が平成22年 頃に仕入れたバッグではないとしても,控訴人が平成30年2月14日 時点において被控訴人商品に形態の類似した控訴人商品を譲渡してい たことからすると,控訴人が対象期間(平成22年8月11日から平成 30年2月14日までの期間)において,平成22年に仕入れたバーキ ンタイプのバッグや控訴人商品を含めて,控訴人商品等を,実際には1 00個を超えて販売した可能性があるとしても,少なくとも100個販\n売したことは,これを認めることができる。また,控訴人が控訴人商品 等の一部をチャリティーバザーで販売し,その利益の一部を寄付したと しても,それは控訴人が利益を得たことを否定する事情にはならず(寄 付は,利益の処分と評価すべきものであって,利益そのものを否定する 事情には当たらない。),控訴人が販売利益を寄付したことを裏付ける 客観的な証拠もないから,いずれにせよ,控訴人は控訴人商品等を10 0個販売したことにより利益を得たものと推認される。
イ 控訴人商品等の販売に係る限界利益率について
控訴人は,控訴人商品はサンプル品であって仕入処理が行われておらず, 購入した際の領収証等の資料はないと主張し,また,バーキンタイプのバ ッグの仕入れに関する資料は保管期間経過によって全て廃棄処分済みで あると主張して,これを提出しない。さらに,控訴人は,バーキンタイプ と同程度の販売価格のハンドバッグの仕入価格は販売価格の55%程度 であったから,バーキンタイプのバッグの仕入価格も販売価格の55%程 度であったと主張し,販売価格の55%の価格でハンドバッグの仕入れを 行ったことを裏付ける証拠として乙31(平成29年1月の取引の納品書) を提出する。しかし,乙31は,どのような態様の商品の仕入れに係るも のか明らかでなく,平成22年に中国の業者から100個仕入れたと認め られるバーキンタイプのバッグとは,仕入の時期,取引先,仕入数が異な るから,乙31により,バーキンタイプのバッグの仕入価格が販売価格の 55%程度であったことは認められず,その他に,これを裏付ける証拠は ない。控訴人がその他の経費として主張する梱包費用,送料については, 具体的な支出の有無や額を裏付ける的確な証拠はない。
そこで限界利益率について検討すると,上記のとおり,控訴人の主張に よっても,仕入価格が販売価格の55%を上回ることはない。また,控訴 人は,バッグ等の販売を業として行っており,控訴人商品等の仕入れ,販 売,経費等に関する資料を所持し,その内容を把握しているのが自然であ ると解されるにもかかわらず,これらを提出せず,その内容を明らかにせ ず,そのため,経費等も具体的に立証されていない。このように,控訴人 が,被控訴人主張の利益率(60%)を否認しながら,関連性の乏しい証 拠のほかは,本来提出されてもおかしくない証拠を含め,何ら証拠を提出 していないことからすると,控訴人は控訴人商品等の販売により相当高率 の利益を得たと疑われてもやむを得ない側面があること,及び60%とい う利益率が有名ブランドを模したバッグの販売による利益率として不当 に高いとは考えられないことなどの事情を併せ考えると,控訴人商品等の 販売による限界利益率を60%と認定することについて,これが高率に過 ぎるとして不当とする根拠はない。これらの事情を考慮すると,控訴人商 品等の販売による控訴人の限界利益は,平均して販売価格の60%であっ たものと認めるのが相当である。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成31(ワ)9997

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令和2(行ケ)10096  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年12月2日  知的財産高等裁判所

 特許権の延長登録無効審決の取消訴訟です。本案前に当事者参加適格があるのかが争われました。裁判所は155条1項の参加資格ありと判断しました。

 審判便覧(丙1)によると,1項参加人も3項参加人と同様,被参加人が審判請 求を取り下げない限り,被請求人が答弁書を提出した後でも,被請求人の同意なく 参加を取り下げることができるとされている。また,1項参加の申請に際して,特\n許法施行規則様式第65によると,参加申請書に「請求」を記載することは求めら\nれていない。
しかし,審判便覧の上記取扱いについては,被参加人が取下げをしない限り,特 許法155条2項が保護しようとしている被請求人の利益,すなわち,審決を得て, 審判請求の理由がないことを確定するという利益の保護は図られているのであるか ら,その段階で1項参加人の取下げについて被請求人の同意を要する実益は乏しい ことから,上記のように取り扱われていると解され,上記の取扱いが,1項参加人 が「請求」を定立していないことに基づくものとはいえず,1項参加人が特許法1 79条1項の「請求人」に当たらないことの理由とはならない。 また,特許法施行規則様式65についても,1項参加人の請求は,被参加人の請 求と同一のものであるとの理解の下に上記のような様式が定められていると解され, そのことから1項参加人が「請求」を定立していないということはできず,1項参 加人が,特許法179条の「請求人」に当たらないことの理由とはならない。
(3) 上記4),5)について
特許法148条1項は,被参加人が請求を取り下げた場合に限り,1項参加人が 「請求人」となるとは規定しておらず,1項参加人が同項に基づいて「請求人」と なるのは,被参加人が審判請求を取り下げ,1項参加人が審判手続を続行した場合 に限られると解することはできない。 また,1項参加人に審決取消訴訟の被告適格を認めることが1項参加人の意思に 反する事態を招来するとは認められない。1項参加人が多数いるからといって,そ のことにより,訴訟手続がいたずらに煩雑化したり,遅延を招いたりして,訴訟経 済に反するとは認められない。 さらに,被告ニプロは,審決取消訴訟の係属中に被参加人が無効審判請求を取り 下げた場合,「請求人」として1項参加人が審決取消訴訟を受継することができると 主張するが,いかなる法的根拠に基づいてそのような「受継」ができるのか明らか ではない。また,仮に,このような「受継」をすることができたとしても,1項参 加人が受継した時点での訴訟の進行状況によっては,主張立証が制限されることも あり得るといえ,1項参加人の手続保障に欠けるところがないとはいえない。

◆判決本文

こちらは関連事件です。

◆令和2(行ケ)10097

◆令和2(行ケ)10098

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平成30(ワ)22338  特許法74条1項を原因とする特許権移転登録請求事件  民事訴訟 令和2年12月1日  東京地方裁判所

 特許を受ける権利ありと主張しましたが、裁判所はこれを否定しました。

(1) 本件発明1及び本件発明11の特徴的部分について
ア 原告は,本件発明1及び本件発明11の特徴的部分の完成への関与につ いて,その大部分を担ったのは,原告代表者及びAiであると主張する。
イ 前記1(16)によれば,従前の技術的課題を解決する,本件発明1の特徴的 部分は,ラップネットにおいて従前,技術的課題であるとされていた作 業性,家畜の安全性を確保するために,ラップネットの経糸及び緯糸の いずれにもセルロース系繊維を用いたというものであると認められる。 この特徴的部分は,本件出願において優先権の主張がされた先の出願2 (平成25年7月22日出願)の請求項1に含まれるものであった。そ して,本件明細書の発明の実施の形態における,本件発明1のラップネ ットに関する経糸及び緯糸に使用する糸の種類や引張強度等の数値を含 めた記載は,先の出願2の明細書の記載とほぼ同様のものである。 これらによれば,本件発明1の特徴的部分は,平成25年7月22日ま でには完成されていた。
ウ 前記1(16)によれば,本件発明1のように,ラップネットの経糸及び緯糸 のいずれにもセルロース系繊維を用いると,特に緯糸に比べて強度が要求 される経糸が太くなり,それによって1本のロールに巻き取れるラップネ ットの長さが短くなるという課題があった。本件発明11は,その課題を 解決するため,本件発明1等のラップネットの製造方法において,巻上げ ローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振 り機構を適用したものであり,本件発明11の特徴的部分は,本件発明1\nから10に係るラップネットの製造方法において上記のようなあや振り機 構を適用した部分であると認められる。\n
この特徴的部分は,本件出願において優先権の主張がされた先の出願2 (平成25年7月22日出願)の請求項6に含まれるものであった。そ して,本件明細書の実施の形態における,巻上げローラを回転軸方向に 所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振り機構を用いた場合\nの往復運動の振幅,その場合の巻き取ったラップトップの長さや直径の 数値を含めた記載は,先の出願2の明細書の記載と同じものである。 これらによれば,本件発明11の特徴的部分は,平成25年7月22日 までには完成されていた。
(2) 本件発明1の特徴的部分の完成に対する原告代表者及びAiの現実の関与 について
ア 被告は,平成25年3月中旬頃,原告に対し,糸を提供して,緯糸に綿糸 を使用したラップネットの編布を依頼し,同年5月にタカキタ,原告,被告 の関係者が集まった場において,Biが全部を綿糸で製造した方が安全でな いかとの発言をして,その後,被告は,他の業者に対して依頼して製造して いた複数の種類の綿糸を原告に提供して,経糸及び緯糸に綿糸を使用するラ ップネットの編布を依頼し,原告は経糸にこれらの綿糸を使用してラップネ ットを試作した。 ここで,ラップネットの緯糸,経糸に綿糸を用いることについて,原告代 表者又はAiが着想して,これを被告に提案したと認めることはできない (前記1(19)ア,イ)。
イ 原告は,平成25年5月,被告から提供を受けた複数の種類の綿糸を経糸 及び緯糸に使用して,ラップネットの試作を行い,タカキタは,その試作品 の強度が十分であることを確認した。\nもっとも,経糸に使用した綿糸は,被告が平成25年3月頃からラップネ ットの経糸に使用することを想定して他社に依頼して製造していたものであ り,それを原告に提供したものであった。また,ラップネットの編組織は一 般的なものであり,その製造には一般的なラッシェル編機を用いることが可 能であり(前記1(2)),原告は,従前から保有していたラッシェル編機を用 いて編布をした。
ウ 原告は,平成25年7月22日,先の出願2をした。その請求項1に記載 された発明は,ラップネットにおける経糸及び緯糸がセルロース系繊維であ るというものであったところ,その明細書の実施例には,経糸,緯糸に用い る具体的な綿糸の種類や,それを用いて,ラッシェル編機を使用してラップ ネットを製造した場合の編地の長さ方向に連なるチェーンステッチ1本当た りの具体的な強度(引っ張り強さ)が記載されていた。この強度等の数値は, 被告代表者が,その知識,経験に基づき計算したもので,原告から提供され\nたものはなかった。 また,原告は,先の出願2等を優先権の基礎として,平成26年4月23 日に本件出願をしたところ,その明細書の実施例には,先の出願2とほぼ同 様の,経糸,緯糸に用いる具体的な綿糸の種類や,それを用いて,ラッシェ ル編機を使用してラップネットを製造した場合の編地の長さ方向に連なるチ ェーンステッチ1本当たりの具体的な強度(引っ張り強さ)が記載されてい た。この強度等の数値は,被告代表者が,その知識,経験に基づき計算した\nもので,原告から提供されたものはなかった。また,上記の計算や本件明細 書の記載に当たり,原告から提供を受けた試験結果等が参考等されたことを 認めるに足りる証拠はない。
エ 前記アによれば,本件発明1の特徴的部分について,原告代表者又はAi が着想したと認めることはできない。また,前記イのとおり,原告が綿糸を 使用したラップネットの編布を行ったことは認められるものの,それは被告 が製造して原告に提供した綿糸を使用してされたものであって,ラップネッ トの編組織が一般的なものであり,上記編布において一般的な編布に必要な 技術以外の技術が用いられたことを認めるに足りる証拠はないことなどから すると,そのような編布をしたことのみをもって,原告代表者及びAiが直 ちに本件発明1の特徴的部分の完成に現実に関与したと認めるには足りない。 そして,前記ウのとおりの明細書の記載やその記載に至る経緯に照らせば, 原告が編布を行ったり,その後,その試作品の強度試験を行ったりしたこと があったとしても,原告代表者及びAiが,本件発明1の特徴的部分の完成 に現実に関与したと認めるには足りない。 したがって,本件発明1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが具体 的に関与したとはいえず,原告代表者又はAiが本件発明1を発明したとい うことはできない。
オ 原告,被告及びタカキタは,平成25年12月,本件開発契約を締結した (前記1(14))。しかし,本件開発契約において,有効期間は同年9月からと 定められているのに対し,本件発明1の特徴的部分が同年7月22日までに 完成されていたことから,そもそも,本件発明1は,本件開発契約に基づい て開発,発明されたものとはいえない。また,原告もその当事者である本件 開発契約においては,その有効期間前の被告の活動等として,被告が,平成 25年5月に綿ベールネットの編布を原告に依頼したこと,原告に複数の綿 糸を納入したこと,タカキタに綿ネットの試験巻きを依頼したことが特に記 載されており,「綿ベールネット」自体は被告が開発したことが前提とされ ていたともいえる。 また,被告が平成24年に原告に対しラップネットの編布を依頼した後, 被告及び原告は,共同で特許出願をしたり,畜産試験場を訪れたり,試作品 についての評価をタカキタで受けたり,どのような試作品を製造するかを確 認したり,補助金の交付の申請をしたりした(前記1(3),(5),(7)ないし(9))。 また,原告は,新たに編機を購入するなどした上でラップネットの製造につ いての開発を行った(同(15))。
しかし,上記各事実は,それ自体は本件発明1の特徴的部分の完成に直接 関係するとはいえないものであって,それらの事実をもって直ちに本件発明 1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが現実に関与したと認めるに足 りるものではない。上記各事実は,前記アないしウに記載した事実に照らす と,本件発明1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが具体的に関与し たとはいえないという上記認定を左右するものではない。
なお,被告が,ラップネットに関し,平成25年1月に原告と共同で別件 出願1をしたことや,同年12月に原告及びタカキタと本件開発契約を締結 したことについて,被告代表者は,別件出願1は,原告からラップネットを\n量産化するに当たり,生分解性ポリエチレンフィルムのスリット加工等も原 告において行った上で編布をしたい旨の申出を受けたことから,経編機の改\n良における原告の役割を期待して,共同で行うこととしたものであり,また, 本件開発契約は,被告において綿製ラップネットの基本的な開発が完了した 段階で量産化や生産効率化を図るに当たり,原告及びタカキタにおいて積極 的な役割を果たすことが期待されたことから締結したものである等と陳述す る(乙34)。この説明は,原告が平成26年1月頃から新しく購入したラ ッシェル編機を用いてラップネットの製造を行う(前記1(15))など,ラップ ネットの量産化,生産効率化における役割を果たしたことや,原告と被告は 被告が原告に糸代及び加工賃を支払うという態様で継続的に取引を行うよう になっていて(同(18)),ラップネットの生産効率化等は被告の利益でもあっ たことなどを含めた前記認定に係る事実経過にも矛盾せず,相応の合理性が あるものである。
カ 以上によれば,本件発明1について,原告代表者及びAiが発明者である ことを認めるに足りず,同人らが本件発明1に係る特許を受ける権利を有し ていたとはいえない。
(3) 本件発明11の特徴的部分の完成に対する原告代表者及びAiの現実の関 与について
ア 原告代表者,Ai及び被告代表者は,平成25年5月31日,タカキタ\nにおいてラップネットの試作品の評価を受け,以後の予定として,巻取り\nの際にあや振りをするなどの仕様で試作品を製造することが確認された (前記1(8))。 ここで,原告代表者又はAiが,綿糸を用いるラップネットの編布におい てあや振りの技術を適用することを着想し,被告に提案したとは認められな い(前記1(19)エ)。
イ 原告は,平成25年6月以降,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で 往復運動させるのではなく,巻上げローラの前にあや振り装置を設置すると いう方法により,あや振りを施すことを試みていた(前記1(10))。なお,そ れ以前,原告は,巻上げローラを左右に往復運動させる方法を試みたが,所 望の結果が得られず,また,上記方法について,被告にその機械の動作等を 見せたことはなく(同(2)),同動作等に関する情報を被告に対して提供した ことを認めるに足りる証拠はない。
ウ 巻取りに際してあや振りをすること自体は,繊維業界において広く用いら れている基本的な技術であり,被告が昭和60年頃に導入した整経機にもあ や振り機構が備わっており,被告代表\者は,従前からあや振りの技術を認識 し,日常的に用いていた。 被告は,平成25年7月22日,先の出願2をした。その請求項6に記載 された発明は,経糸及び緯糸がセルロース系繊維からなるラップネットの製 造方法において,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させる というものであった。そして,明細書の実施例には,巻上げローラを回転軸 方向に往復運動させる振幅の数値や,1本のロールに巻き取ったラップネッ トの長さ,その直径の数値が記載されているところ,この数値等は被告代表\n者が知識と経験に基づいて計算したものであり,原告から提供されたもので はなかった。そして,原告は,先の出願2等を優先権の基礎として,平成2 6年4月23日に本件出願をしたところ,本件明細書の実施例には,あや振 りに関して,先の出願2の実施例と同じ記載がされていて,この数値等は被 告代表者が知識と経験に基づき計算したものであった。上記の計算や本件明\n細書の記載に当たり,原告から提供を受けた何らかの情報が参考等されたこ とを認めるに足りる証拠はない。
エ 上記アによれば,本件発明11の特徴的部分について,原告代表者又はA\niが着想したと認めることはできない。また,原告が巻上げローラの前にあ や振り装置を設置するという方法によりあや振りを施すことを試みていたこ とは認められるが,本件発明11は,巻上げローラを回転軸方向に所定の振 幅で往復運動させるというものである。そして,前記ウのとおりの明細書の 記載やその記載に至る経緯に照らしても,原告代表者やAiが本件発明11 の特徴的部分の完成に現実に関与したと認めるには足りない。 したがって,本件発明11の特徴的部分の完成に原告代表者又はAiが現 実に関与したとはいえない以上,原告代表者又はAiが本件発明11を発明 したということはできない。
オ 原告は,ラップネットの試作を行い,平成25年6月以降は,巻上げロー ラの前にあや振り装置を設置する方法によりあや振りを施すことを試みるよ うになり(前記1(10)),平成30年7月には,ネット生地を鎖編組織の間隔 の範囲内で幅方向に一定の大きさで振りながら巻き取ることなどの構成を有\nする製造方法についての特許出願をする(同(18))など,ラップネットの製造 においてあや振りに関する開発を行っていたことはうかがえる。しかし,上 記各事実は,その内容及び時期から,平成25年7月22日までに完成され ていた,本件発明1等のラップネットの製造方法において巻上げローラを回 転軸方向に所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振り機構を適用\nするという,本件発明11の特徴的部分の完成に対し,原告代表者及びAi が具体的に関与したことの根拠となるものではない。
(4) 以上によれば,原告代表者又はAiが本件発明1及び本件発明11を発明し, ひいては本件各発明の大部分を担ったとの原告の主張には理由がない。 なお,本件各発明のうち,本件発明1及び本件発明11以外の発明について, その特徴的部分の完成に対する,原告代表者又はAiの具体的な関与を認める に足りる証拠もない。原告の主張中には,本件各発明の中には本件開発契約の 期間中の発明がある旨述べる部分もあるが,その期間中にされた発明であるこ とによって,直ちに特定の発明の特徴的部分の完成に原告代表者及びAiが具 体的に寄与したと認められることになるものではない(本件開発契約でも発明 に係る権利は発明をした当事者に帰属することが定められていた。)。 したがって,原告代表者及びAiが被告代表者と共同で本件各発明をしたと\nは認めるに足りない。

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令和2(行ケ)10076  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月15日  知的財産高等裁判所

 焼く肉のタレ用のビンの一部の形状について、位置+形状を特定した本件商標は識別力無し(3条1項3号)と特許庁は判断しました。知財高裁も同じ判断をしました。

 同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,その反面として,商品・役務の出所を表\示し自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少なく,需要者としても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能\や美観を際立たせるために選択されたものと認識するものであり,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能\又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを必要とし,その使用を欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。したがって,商品等の形状は,同種の商品が,そ の機能又は美観上の理由から採用すると予\測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,3条1項3号に該当すると解するのが相当である。
(2) 包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形形状\n
ア 液体状の商品の包装容器に付された形状
飲食料品を取り扱う業界において,液体状の商品を封入する包装容器は, 持ちやすさ,注ぎやすさ,飲みやすさ等の観点から,細口で縦長のものが 採択,使用されることが多い。しかし,このような商品の性質から要求さ れる一定の制約の下においても,様々な形状の包装容器が存在し(乙1〜 乙5),これらの包装容器の表面に立体的形状による装飾を付したもの,中\nでも連続する菱形形状(ダイヤカット)を付したものが,次のとおり認め られる。
・・・・
そうすると,液体状の商品の包装容器の上部又は下部に,連続する菱形 形状を付すことは,取引上普通に採択,使用されているものと認められる。 そして,そのいずれの場合においても,その包装容器の連続する菱形形状 の上又は下に,商品名等を目立つ態様で表示したラベルが貼\付され又は商 品名が目立つ態様で表示されているものと認められることや,1),2)の各 記載等に照らしてみると,菱形形状は,持ちやすさなどの機能や美観の観\n点から採用されているものと考えられる。
・・・
(イ) 焼肉のたれに係る包装容器に付された菱形形状
焼肉のたれの包装容器の表面に付す立体的装飾の一類型として連続す\nる立体的な菱形形状を用いるものが,次のとおり認められる。
1) 「コスモ食品株式会社」のウェブサイト(乙17)において,「北の 方から 焼肉のたれ 中辛350g」(1枚目),「北の方から 焼肉の たれ 薬膳 中辛350g」(3枚目)の見出しの下,連続する縦長の 菱形の立体的形状が下部に付され,その上に商品名等を目立つ態様で 表示したラベルが貼\付された容器の写真が掲載されている。
2) 「フードレーベル」のウェブサイト(乙18)において,「焼肉トラ ジ 焼肉のたれ 240g」の見出しの下,連続する縦長の菱形の立 体的形状が下部に付され,その上に商品名等を目立つ態様で表示した\nラベルが貼付された容器の写真が掲載されている。\n
3) 「Amazon」のウェブサイト(乙19)において,「成城石井 焼 肉のたれ 350g」(1枚目)の見出しの下,連続する縦長の菱形の 立体的形状が包装容器の下部に付され,その上に商品名等を目立つ態 様で表示したラベルが貼\付された容器の写真が掲載されている。
4) 「Amazon」のウェブサイト(乙20)において,「焼肉チャン ピオン 焼肉のたれ 240g」(1枚目)の見出しの下,連続する縦 長の菱形の立体的形状が蓋部及び下部に付され,その間の中央部分に 商品名等を目立つ態様で表示したラベルが貼\付された容器の写真が掲 載されている。 そうすると,焼肉のたれの包装容器の上部又は下部の表面に,連続す\nる縦長の菱形形状を付すことは,取引上普通に採択,使用されているも のと認められる。そして,そのいずれの場合においても,その包装容器 の表面の連続する縦長の菱形形状の上又は下に,商品名等を目立つ態様\nで表示したラベルが貼\付されているものと認められること等からすれば, これらの菱形形状も,機能や美観の観点から採用されているものと推認\nされる。

◆判決本文

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令和2(ネ)10039  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年12月1日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許侵害事件で、1審ではサポート要件違反として無効と判断されました。知財高裁も同じ判断をしました。発明はアンテナなのでサポート要件違反は珍しいですね。原審(東京地裁平成30年(ワ)5506号)はアップされていません。

 前記(ア)の発明の詳細な説明の記載によれば,発明の詳細な説明に記 載された実施例(第1実施例,第2実施例)は,いずれもアンテナ素子 の下に平面アンテナユニットを配置し,アンテナ素子の下縁と平面アン テナユニットの上面の間隔を約0.25λ 以上としたものであり,それ により,アンテナ素子と平面アンテナユニットについて,相互に影響を 及ぼすことが低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同 等の電気的特性を示すことを具体的に示すものである。発明の詳細な説 明には,第1実施例のアンテナ装置を用いた実験結果が記載されている ところ(【0018】〜【0026】,図7〜図12,図15〜図19), これらは,アンテナ素子と平面アンテナユニットの相互干渉がアンテナ の電気的特性に及ぼす影響を検証したものであると認められ,実施例が, 発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するという効果を生ず るかどうかを確かめるものと認められる。 そうすると,発明の詳細な説明に記載された実施例は,前記認定の発 明の詳細な説明に記載された発明(前記イ(イ))の実施の形態を具体的 に示し,その発明の課題(前記ア(イ))を解決するという効果を生ずる ことを示すものであると認められる。
(3) 請求1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明か ア 請求項1に記載された発明は,前記第2,3(2)のとおりであり,1)アン テナ素子に加えて別のアンテナである平面アンテナユニットを組み込むこ とは構成要件とされてはおらず,また,2)仮にアンテナ素子に加えて平面 アンテナユニットを組み込んだ場合に,アンテナ素子の下縁と平面アンテ ナユニットの上面との間隔が約0.25λ以上であることも構成要件とさ\nれていない。そのため,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加 えて平面アンテナユニットを組み込み,アンテナ素子の下縁と平面アンテ ナユニットの上面との間隔を約0.25λ以上とするアンテナ装置以外に も,1)そもそもアンテナ素子以外に平面アンテナユニットが組み込まれて いないアンテナ装置の発明を含み,また,2)アンテナ素子に加えて平面ア ンテナユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面 アンテナユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置 の発明を含むものである。
イ これに対し,発明の詳細な説明に記載された発明は,前記(2)イ(イ)のと おりであり,アンテナ素子と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテ ナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを 備えるアンテナにおいて,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の 下端との間隔を約0.25λ以上とするものであると認められる。
ウ そうすると,請求項1に記載された発明のうち,1)アンテナ素子以外に 平面アンテナユニットが組み込まれていないアンテナ装置の発明,及び2) アンテナ素子に加えて平面アンテナユニットが組み込まれてはいるもの の,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔が約0. 25λ未満であるアンテナ装置の発明は,発明の詳細な説明に記載された 発明ではない。 したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載さ れた発明以外の発明を含むものであり,発明の詳細な説明に記載された発 明であるとは認められない。
(4)請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は 出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲の ものであるか発明の詳細な説明に記載された発明の課題は,限られた空間しか有してい ないアンテナケースを備えるアンテナ装置に既設の立設されたアンテナ素子 に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込むと相互に他のアンテナの影 響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという課題であり(前記 (2)ア(イ)),このような課題を当業者が認識するためには,限られた空間し か有しないアンテナ装置において,既設の立設されたアンテナ素子に加えて 新たに平面アンテナユニットを組み込むことが前提となる。しかし,請求項 1に記載された発明は,そもそもアンテナ素子以外に平面アンテナユニット が組み込まれていないアンテナ装置の発明を含み(前記(3)ア),そのような 構成の発明の課題は,発明の詳細な説明には記載されていない。そのため,\n請求項1に記載された発明は,当業者が発明の詳細な説明の記載によって課 題を認識できない発明を含むものであり,当業者が課題を解決できると認識 できる範囲を超えたものである。
また,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加えて平面アンテナ ユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面アンテナ ユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置の発明を含 むが(前記(3)ア),発明の詳細な説明には,課題を解決する方法として,平 面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔を約0.25λ 以 上とすることが記載されており,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニッ トの上面との間隔を約0.25λ未満とするならば,発明の詳細な説明に記 載された課題を解決することはできない。そのため,請求項1に記載された 発明は,この点においても当業者が発明の詳細な説明に記載された解決手段 によって課題を解決できると認識できない発明を含むものであり,当業者が 課題を解決できると認識できる範囲を超えたものである。 その他,請求項1に記載された発明が,発明の詳細な説明の記載若しくは 示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識でき る範囲のものであることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若し くは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識 できる範囲のものであるとは認められない。

◆判決本文

関連訴訟(原告被告が同じ)はこちらです。

◆平成27(ワ)22060

◆平成26(ワ)28449

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令和1(行ケ)10136  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年12月15日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反として無効審決がなされ、知財高裁もこれを維持しました。本件発明の課題である24ケ月の貯蔵安定性を有することの具体的裏付けが記載されていないとの判断です。

 上記(1)イ(イ)・(ウ)のとおり,本件明細書においては,パロノセトロン又はそ の塩を含む溶液は,pH及び/又は賦形剤濃度の調整並びにマンニトール及び キレート剤の適切な濃度での添加によって,安定性が向上することが記載さ れ,実施例1〜3において,製剤が最も安定するpHの値,クエン酸緩衝液及 びEDTAの好適な濃度範囲,マンニトールの最適レベルが示され,実施例 4,5に代表的な医薬製剤が示されているが,実施例4,5においては,実\n際に安定性試験が行われていないため,そこに記載された医薬製剤が少なく とも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されているとはいえない。ま た,その他の箇所をみても,安定化に資する要素は挙げられてはいるものの, それらが24ケ月の貯蔵安定性を実現するものであることについての直接的 な言及はないし,どのような要素があればどの程度の貯蔵安定性を実現する ことができるのかを推論する根拠となるような具体的な指摘もなく,結局, 具体的な裏付けをもって,具体的な医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安 定性を有することが記載されているとはいえない。
なお,上記(1)イ(イ)のとおり,本件明細書の一連の実施例は,薬剤の安定化 のための合理的な条件を見出すための要因を探求するものであって,特に, 実施例1〜3は,個々の要因を探求するプレフォーミュレーション(予備処\n方設計,前処方化)に該当し,実施例4,5の代表的な医薬製剤は処方化研\n究(製剤設計)に該当するといえるとしても,上記のとおり,本件明細書に は,pH,賦形剤,マンニトール及びキレート剤の濃度を調整することで,安 定性向上に関し,どのような作用・機序があるのか,どの程度の安定性の向 上,安定性への貢献が見込めるのかが記載されていないため,実施例4,5 の医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されてい るとはいえないし,その他の箇所をみても,合理的な説明をもって,具体的 な医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されてい るとはいえない。 そうすると,本件明細書には,24ケ月要件を備えたパロノセトロン製剤 が記載されているとはいえないし,本件出願時の技術常識に照らしても,当 業者が,本件各発明につき,医薬安定性が向上し,24ケ月以上の保存を可 能にするパロノセトロン製剤とその製剤を安定化する許容される濃度範囲を\n提供するという本件各発明の課題(上記(1)ア)を解決できると認識できる範 囲のものであるとはいえない。 なお,実施例6,7の記載は,(1)イ(エ)のとおり,パロノセトロン塩酸塩以 外の成分(賦形剤,等張剤など)の有無及び濃度についての記載や,pHの 値についての記載を欠くため,本件各発明に該当する製剤に関する実施例で あるとはいえないし,これによって安定性が確認されたのは,最長でも16 日間にすぎないのであるから,上記(2)イの技術常識に照らしてみても,24 ケ月要件を備えたパロノセトロン製剤を提供する等の本件各発明の課題(上 記(1)ア)を解決し得ることの根拠にはなり得ない。
(4) 原告の主張について
ア 上記第4の1(1)及び(2)の主張について
上記(3)のとおり,本件明細書には,pH,賦形剤,マンニトール及びキレ ート剤の濃度を調整することで,安定性向上に関し,どのような作用・機 序があるのか,どの程度の安定性の向上,安定性への貢献が見込めるのか が記載されていないため,本件出願時の技術常識を踏まえても,実施例4, 5の医薬製剤が24ケ月要件を備えたものであることが記載されていると はいえないし,その他の箇所をみても,具体的な医薬製剤が少なくとも2 4ケ月の貯蔵安定性を有することを,具体的な根拠に基づいて合理的に説 明しているとはいえない。そして,24ケ月という期間に直接言及する【 0017】【0037】の記載も,上記(1)イ(ア)のとおり,当該製剤ないし 容器を24ケ月以上保存できることをいかなる方法で確認したか等につい ての具体的な言及を欠くから,これらの段落の記載をもって,24ケ月要 件が本件明細書に実質的に記載されているということもできない。 したがって,原告の上記第4の1(1)及び(2)の主張は採用することができ ない。

◆判決本文

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令和2(行ケ)10028  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月9日  知的財産高等裁判所

 キューピー人形の図形と、文字「キューピー」が結合した商標について、無効請求がなされ、特許庁・裁判所とも無効理由無しと判断しました。出願が大正11年なので、旧商標法(大正10年法律第99号)の無効理由です。判決文の中に、関係法令として条文が記述されています。

 上記認定事実によれば,ローズ・オニールが創作したキューピー人形及び その名称の「キューピー」が大正2年(1913年)に我が国に紹介された 後,「キューピー人形」及びその名称の「キューピー」は,本件出願前(出 願日大正11年4月1日)に,日本国内の全国にわたり,広く知られるよう になったことが認められる。原告の挙げる甲6,9ないし14,18ないし 21の記述(前記第3の1(1)ア(イ))は,これを裏付けるものといえる。 しかしながら,一方で,上記認定のとおり,大正5年(1916年)以降, ローズ・オニールが創作に関与したキューピー人形とは異なる「日本なりの キューピー」人形や,日本文化と関わりを持たせて描かれた絵葉書,年賀状 などが発売され,また,日本的な,日本でデザインされたキューピーは,様々 な商品のブランド名,広告類のイラスト等や商品の容器等に広く使用されて きたこと,加えて,甲6には,「その代表たるキューピーちゃんも,最初は\nドイツで作られたものだそうだが,それが日本でも作られるようになり,い つの間にか日本的キューピーとして生れかわった。そのルーツもあまり知ら れずに,そのくせ,最近まで,子供の頃に一度もキューピーを手にしていな い人はなかったというぐらい大衆性が続いたのは,キューピーが子供ばかり でなく大人にも可愛がられる何かを,強力にもっていたからだろう。」,「遠 く太平洋をへだてた島国の日本のこと,生みの親のローズさんのことも,オ リジナルの可愛らしいイラストのキューピーもあまり知られないまま,どん どん日本なりのキューピーが作られ,ますます広く愛されたのである。」(前 記1(3)ア(イ))との記載があることに鑑みると,キューピー人形は,本件出 願当時,キューピー人形の創作者がローズ・オニールであることが認識され ることなく,西洋文化に由来する幼児姿のキャラクターとして誰もが自由に 使用できるものと理解され,全国において,キューピー人形やそれを模した 絵柄や図形等が多数作成され,商品のブランド名や広告宣伝等に広く使用さ れる状況にあったものと認められる。
以上によれば,原告の挙げる甲6,9ないし14,18ないし21の記述 から,キューピー人形及びその名称の「キューピー」が,本件出願前に自他 商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得するに至っていたものと認めるこ\nとはできず,他人の業務に係る商品を表示するものとして,日本国内におけ\nる需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。他にこれ を認めるに足りる証拠はない。
・・・
(2) 不正の目的について
原告は,被告の創業者のAは,本件出願前の1915年(大正4年)3月 から同年12月9日までの間米国に滞在中に,米国においてキューピー人形 及びその名称「キューピー」が広く知られていたことを了知したところ,1) 本件商標は,ローズ・オニール創作に係る人形の絵図及び人形の題号「KE WPIE」,「キューピー」のみからなること,2)本件出願以前において, ローズ・オニールの創作したキューピー人形の特徴を備えたキューピー人形 とその名称は,日本国内において,老若男女を問わず,全国津々浦々まで人 気があり,周知著名であったこと,3)被告は,本件商標を指定商品に使用し た実績がないこと(甲65,66),4)被告のウェブページ(甲27の1, 2)には,Aが他人の著名標章を自己のものとして商標登録した経緯が記載 されていること,5)被告は,本件出願後に,本件商標と同様のローズ・オニ ール創作に係る人形の絵図とローズ・オニール創作に係る人形の題号「KE WPIE」,「キューピー」から構成されるキューピー関連商標470件に\nついて広範な指定商品において出願及び登録し,あるいは商標を譲り受けて, 他人の知的創作である「キューピー人形の絵図」,「キューピーの名称」か らなる商標の独占を図ったことからすると,Aは,他人の標章の著名性にた だ乗りし,あるいは他人の知的財産を自己のものとして,権利化を図るとい う「不正の目的」をもって,本件出願を行ったものである旨主張する。
そこで検討するに,本件商標の出願時及び商標登録時において,ローズ・ オニールの創作に由来するキューピー人形及びその名称の「キューピー」は, 日本国内の全国にわたり,広く知られるようになったことは認められるもの の,キューピー人形及びその名称の「キューピー」が自他商品識別機能ない\nし自他商品識別力を獲得するに至っていたものと認めることはできず,他人 の業務に係る商品を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広\nく認識されていたものと認めることはできないことは,前記(1)で説示したと おりである。
こうした状況のもとで,Aは,大正11年4月1日,本件商標の出願をし, 商標登録を受けたものであるから,その余の点について判断するまでもなく, Aが本件出願に当たり,他人の標章の著名性にただ乗りし,あるいは他人の 知的財産を自己のものとして,権利化を図るという「不正の目的」を有して いたものと認めることはできない。
・・・・
(3) 国際信義違反について
原告は,1)被告の創業者のAによる本件商標の出願及び登録は,外国の著 名標章を自己のものとすることを目的とするものであり,不正の目的をもっ てされたものである,2)A及び本件商標を承継した被告は,ローズ・オニー ルの創作に係る人形の絵図と類似し,かつ,その創作に係る人形の名称「キ ューピー」の創作者の母国であり,「キューピー人形」の著作物の第1発表\n国であり,意匠登録された米国において,多数のキューピー関連商標を出願, 登録し(甲36),「KEWPIE DOLL」なる商標に対して権利行使 をした(甲37),3)のみならず,被告は,米国を含めた全世界において, 本件商標と同じく,キューピー人形の絵図,「KEWPIE」,「キューピ ー」等の文字商標を多数出願及び登録し,他人の知的創作であるキューピー 人形及びその名称の権利化を図っており,A及び被告による他人の知的創作 の剽窃行為は全世界に及んでいる,4)したがって,本件商標の出願及び登録 は,国際信義に反する旨主張する。 そこで検討するに,証拠(甲30,37,38)によれば,本件商標を承 継した被告は,「KEWPIE(kewpie)」の文字からなり,又は当 該文字を構成中に含む登録商標を米国において合計7件(2018年10月\n13日時点)保有しているほか,既に消滅したもの又は保留中のものを含め て,「KEWPIE(kewpie)」の文字やキューピーの絵図等を含む 商標について,ドイツ,シンガポール,カナダ,フィリピン,オーストラリ ア,マレーシア,フランス,デンマーク,ベトナム,インドネシア,ブルネ イ,メキシコ,カンボジア,モンゴル,イスラエル,ラオス,チリ,アイス ランド,ニュージーランド,欧州連合に出願等をしたこと,被告は,201 6年(平成28年)5月26日,「KEWPIE DOLL」の商標に係る 出願に対して異議の申立てをしたことが認められる。\n
しかしながら,一方で,前記(2)認定のとおり,Aが本件出願に当たり,他 人の標章の著名性にただ乗りし,あるいは他人の知的財産を自己のものとし て,権利化を図るという「不正の目的」を有していたものと認めることはで きないのみならず,被告が「KEWPIE(kewpie)」の文字からな り,当該文字等を含む商標を米国のみならず多数の国に出願し,登録を受け たことは,被告が我が国のみならず世界中で様々な事業を展開する上で,本 件商標と類似する商標の出願及び登録が必要であったことによるものと認め られ,また,被告が「KEWPIE DOLL」の商標に係る出願に対して 異議の申立てをしたことも,米国で保有する「KEWPIE」の文字からな\nる商標と類似する文字が含まれているために権利行使をしたものであり,い ずれも国際信義に照らし,不当であるということはできない。 したがって,本件商標の出願及び登録が国際信義に反するとの原告の上記 主張は理由がない。
(4) 本件商標の「秩序又ハ風俗ヲ紊ルノ虞アルモノ」該当性について
以上によれば,Aが,他人の標章の著名性にただ乗りし,あるいは他人の 知的財産を自己のものとして,権利化を図るという「不正の目的」をもって, 本件出願を行ったものと認めることはできず,また,本件商標の出願及び登 録が国際信義に反するものと認めることはできないから,本件商標権をAか ら承継した被告が保有することが,社会公共の利益に反し,又は社会の一般 道徳観念に反するものと認めることはできない。 したがって,本件商標が旧商標法2条1項4号の「秩序又ハ風俗ヲ紊ルノ 虞アルモノ」に該当するとの原告の主張は採用することができない。 これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は 理由がない。
3 取消事由2(本件商標の旧商標法2条1項11号該当性の判断の誤り)につ いて
(1) 原告は,本件商標は,ローズ・オニールが創作したキューピー人形の絵図 と「KEWPIE」の欧文字とその片仮名から構成されるものであって,本\n件商標を付した商品について,需要者は,著名な「キューピー人形」,「K EWPIE」の名称と関係があるという特定の出所を認識することにより混 同を生じさせるものであるから,旧商標法2条1項11号の「商品ノ混同ヲ 生セシムルノ虞アルモノ」に該当する旨主張する。
しかしながら,前記1(1)で説示したとおり,キューピー人形は,本件出 願当時,キューピー人形の創作者がローズ・オニールであることが認識され ることなく,西洋文化に由来する幼児姿のキャラクターとして誰もが自由に 使用できるものと理解され,全国において,キューピー人形やそれを模した 絵柄や図形等が多数作成され,商品のブランド名や広告宣伝等に広く使用さ れる状況にあったものであり,本件商標の出願時及び商標登録時において, ローズ・オニールの創作に由来するキューピー人形及びその名称の「キュー ピー」が自他商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得するに至っていたも\nのと認めることはできず,他人の業務に係る商品を表示するものとして,日\n本国内における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできな いことに照らすと,本件商標をその指定商品に使用しても,これに接する需 要者において,特定の他人(当該他人と緊密な営業上の関係等にある営業主 を含む。)の商品の出所との同一性の誤認を生じるおそれがあったものと認 めることはできない。 したがって,本件商標は,旧商標法2条1項11号の「商品ノ混同ヲ生セ シムルノ虞アルモノ」に該当するものと認められないから,原告の上記主張 は採用することができない。

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令和1(ワ)21183  損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和2年12月3日  東京地方裁判所

 仮差押申立事件において仮差し押さえられた部分について,商標権者に過失があるとして、その分の返還を認めました。前件訴訟では、種々の事情を考慮した上で商標法39条において準用する特許法105条の3を適用して,相当な損害額を認定していました。\n

 以上によれば,前件仮差押申立事件において500万円を超えて仮に差し\n押さえられた部分について,被告米国法人には過失が推定される。 これに対し,被告米国法人は,前件仮差押申立事件において,商標法38\n条1項において被告米国法人が販売することができた商品には,規範的に被 告米国法人と同視できる者が販売することができた商品も含むという理解を 前提として被保全債権額の主張をしたところ,事実関係や裁判例等から,そ のような主張をしたことには相当な理由があるから被告米国法人には過失が ない旨主張し,上記の事由から過失の推定が覆滅する旨主張する。 前件仮差押申立事件の申\立書において,被告米国法人は,被告米国法人が 被告商品を直販しているから,日本における推定小売価格の全額が被告米国 法人の利益となる旨主張していた(前記1(3))。
被告商品は,実際には,被告米国法人から,順に,MSオペレーション, MSリージョナルセイルズ,被告日本法人に販売され,日本国内において, 被告日本法人により販売されていたのであるが,前件仮差押申立事件の申\立 書において,被告米国法人は,前記のとおりの主張をしており,被告商品を 日本において販売しているのが被告日本法人であることや,被告日本法人が 被告米国法人と同視することができることなどの主張はしていなかった。そ して,取引の流れについて上記の主張をしていないだけでなく,被告米国法 人の販売後日本における販売までの間に独立の法人格を有する複数の法人が 介在している以上,前件仮差押申立事件の申\立人である被告米国法人の利益 はMSオペレーションに販売することによる利益であるのが原則であるのに, 特段の説明も一切なく,「直販」していることを挙げて日本における推定小 売価格の全額が被告米国法人の利益であるとの主張をしていた。この主張は, 被告米国法人が自ら日本国内で販売していることを前提として主張していた と解するほかはない。
これらからすると,前件仮差押申立事件の仮差押申\立書における被告米国 法人の主張は,実際の取引の流れを踏まえつつ,商標法38条1項において 被告米国法人が販売することができた商品には,規範的に被告米国法人と同 視できる者が販売することができた商品も含むという理解を前提にしてされ たものとは認められない(なお,仮に,実際の取引の流れを踏まえて,上記 のような理解から仮差押申立書を記載したとすると,被告日本法人と被告米\n国法人の関係や被告日本法人が被告米国法人と同視できるなどの主張を明示 的にせずに仮差押申立書において上記のように主張することが適切であるか\nは疑問の余地があるほか,特に,被告米国法人の利益について,特段の説明 もなく,直販を理由として日本国内の推定小売価格の全額が被告米国法人の 利益となるとの主張をすることは不適切といえる。債務者の審尋等を経ない 仮差押えの申立てにおける主張については,特にこのことがいえる。)。\n被告米国法人は,本件において,過失の推定を覆す事情として上記理解を していたことを前提とする主張をするのであるが,その主張は前提を欠くと いえる。被告らの主張中には,前件訴訟等における被告米国法人の原告に対する損 害賠償額が前記の額となったことに関係して,原告が前件訴訟等において侵 害行為の詳細を明らかにしなかったことを指摘する部分がある。
しかし,上記が本件における過失の推定を覆す事情になるかは措くとして も,原告が販売した原告商品に対応する被告商品の種類等が明らかにならな かったことによって前件訴訟等における損害賠償額が本来の損害賠償額より も少額となったことを認めるに足りる証拠はない。前件訴訟等の裁判所は, 上記詳細が明らかにならなかったことから証拠がないことを理由に損害が認 められないとしたりはせず,同状況も含み得る種々の事情を考慮した上で商 標法39条において準用する特許法105条の3を適用して,相当な損害額 を認定したものである。なお,被告米国法人は,前件仮差押申立事件の申\立 書において,商標法38条2項に基づき損害が算定され,直販を理由として 日本の推定小売価格の全額が被告米国法人の利益であるとの主張をしていた が,被告米国法人から独立した法人格を有する複数の企業を介して日本国内 において被告商品が販売される以上,仮に介在する企業が完全子会社であっ たとしても,被告米国法人の利益は,被告米国法人がMSオペレーションに 販売したことによって得られた利益であり,その額は,通常は,日本におけ る推定小売価格の全額とはならないといえる。また,被告米国法人は,前件 仮差押申立事件の申\立書において,上記のとおり,日本の推定小売価格の全 額が被告米国法人の利益であるとの主張をしていたが,その後の前件訴訟等 においては,利益率は42%であると主張し,前件訴訟等の裁判所は,原告 主張の利益率を逸失利益の算定の根拠とすることは相当でないとしてその利 益率を採用しなかった。
以上によれば,前件仮差押申立事件において500万円を超えて仮に差し\n押さえられた部分について,被告米国法人に過失が推定され,被告米国法人 は,その推定が覆ると主張するが,本件において,被告米国法人が過失の推 定が覆るとしている事由はその前提を欠くといえる 。

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令和1(行ケ)10117  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年12月3日  知的財産高等裁判所

 異議申立において取り消し審決がなされましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は補正が新規事項であるとの判断が間違いというものです。\n

 1 取消事由1(新規事項の追加についての判断の誤り)について
本件決定が,本件訂正は新規事項の追加に当たるとする理由は,本件明細書 等においては,駐車装置の利用者(以下「確認者」という。)が乗降室内の安 全等を確認する位置(訂正後請求項1の「安全確認実施位置」)及びその近傍 に位置する安全確認終了入力手段は,原則として乗降室内にあるものとされ, 例外的に,確認者がカメラとモニタを介して安全確認を行う場合にのみ,乗降 室外とすることができるものとされているにもかかわらず,訂正後請求項1に おいては,確認者が直接の目視によって安全確認を行う場合にも,安全確認実 施位置と安全確認終了入力手段を乗降室外とする(以下,これを「乗降室外目 視構成」という。)ことができることとなり,この点において,本件明細書等\nには記載のない事項を導入することになるというものであり,本訴における被 告の主張もこれと同旨である。
ところで,訂正後請求項1の構成Bは,「前記車両の運転席側の領域の安全\nを人が確認する安全確認実施位置の近辺及び前記運転席側に対して前記車両の 反対側の領域の安全を人が確認する安全確認実施位置の近辺のそれぞれに配置 され,人による安全確認の終了が入力される複数の入力手段と,」と定めるの みであって,安全確認実施位置や安全確認終了入力手段の位置を乗降室の内と するか外とするかについては何ら定めていないから,乗降室外目視構成も含み\n得ることは明らかである。
そこで,本件明細書等の記載を検討してみると,たしかに,確認者が目視で 安全確認を行う場合に関する実施例1,2,4においては,安全確認終了入力 手段は乗降室内に設けるものとされ,確認者がカメラとモニタによって安全確 認を行う実施例3においてのみ,安全確認終了入力手段を乗降室の内,外に複 数設けてもよいと記載されている(【0090】)のであって,乗降室外目視 構成を前提とした実施例の記載はない。しかしながら,これらはあくまでも実\n施例の記載であるから,一般的にいえば,発明の構成を実施例記載の構\成に限 定するものとはいえないし,本件明細書等全体を見ても,発明の構成を,実施\n例1〜4記載の構成に限定する旨を定めたと解し得るような記載は存在しない。\n他方,発明の目的・意義という観点から検討すると,安全確認実施位置や安 全確認終了入力手段は,乗降室内の安全等を確認できる位置にあれば,安全確 認をより確実に行うという発明の目的・意義は達成されるはずであり,その位 置を乗降室の内又は外に限定すべき理由はない(被告は,このような解釈は, 本件明細書【0055】【0064】を不当に拡大解釈するものであるという 趣旨の主張をするが,この解釈は,本件明細書等全体を考慮することによって 導き得るものである。)。
この点につき,被告は,乗降室の外から目視で乗降室内の安全を確認するこ とは極めて困難ないし不可能であると考えるのが技術常識であるから,本件明\n細書等において,乗降室外目視構成は想定されていないという趣旨の主張をす\nる。しかしながら,乗降室に壁のない駐車装置や,壁が透明のパネル等によっ て構成されている駐車装置等であれば,乗降室の外からでも自由に安全確認が\nできるはずであるし(その1つの例が,別紙2の駐車装置である。なお,被告 は,本発明は,「格納庫」へ車両が搬送される機械式駐車装置の発明であるこ とや,本件明細書等の図1の記載から,乗降室の外から乗降室内を目視するこ とはできないと主張するが,「格納庫」が外からの目視が不可能な壁によって\n構成されていなければならない理由はないし,上記図1は,実施例1の構\成を 示したものにすぎず,駐車装置の構成が図1の構\成に限定されるものではな い。),仮に乗降室が外からの目視が不可能な壁によって構\成されている場合 でも,出入口付近の適切な位置に立てば(したがって,そのような位置やその 近傍を安全確認実施位置として安全確認終了入力手段を配置すれば),乗降室 外からであっても,目視により乗降室内の安全確認が可能であることは,甲1\n9の報告書が示すとおりであり,いずれにせよ被告の主張は失当である。また, 仮に被告の主張が,訂正後請求項1は,安全確認実施位置や安全確認終了入力 手段が,目視による安全確認が不可能な位置にある場合までも含むものである\nという意味において,本件明細書等に記載のない事項を導入するものであると いうものであるとしても,「安全確認実施位置」とは,安全確認の実施が可能\nな位置を指すのであって,およそ安全確認の実施が不可能な位置まで含むもの\nではないと解されるから,やはり,その主張は失当である。

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令和2(行ケ)10072  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月2日  知的財産高等裁判所

 使用証明として「奥西木工」の文字部分が記載されていない証明書を提出しました。審決は当該部分が出所表示機能\を有する要部であるとして登録を取り消しました。知財高裁(2部)も同じく使用証明として認めませんでした。登録商標は判決本文内に参照されています。

 1 本件商標のうち,「奥西木工」の文字部分が,出所表示機能\を有する要部に当 たるかについて
本件商標は,前記第2の1のとおり,全体が一様に朱色の家具の催事についての 広告チラシを縮小した構成からなり,その上部には,上が欠けた円図形の内側に大\nきな赤い文字で「大処分」と記載され,その右側に「キズ物 半ぱ物 山積」と記 載された白抜きの将棋の駒様の図形を配し,さらに,上記円図形の右内側に大きく 「家具」の文字が記載され,内側に家具の絵が配されており,上記円図形の左上に 「京都最大の家具専門店奥西木工の魅力あるキズもの」と大きく記載され,同図形 の上に「キズ物市」とより大きく記載され,同図形の左には「大放出」と大きく記 載されており,その下部には,矢印と共に「うら面へつづく」と記載され,最下部 には赤色の長方形の中に白抜き文字で「奥西木工」等の文字が記載されているもの である。
上記のような本件商標の構成からすると,本件商標に接した需要者,取引者は,\n本件商標が,「キズ物市」という家具の催事についてのチラシであると認識すると認 められるところ,「大処分」,「家具」,「キズ物市」,「大放出」といった記載や家具の絵は,販売される商品や催事の内容などを表すものと認識されるのであって,本件\n商標には,「奥西木工」の文字部分以外に,本件商標に記載された各商品(家具)の 出所を示すような表示はない。そうすると,本件商標に接した需要者,取引者は,\n「奥西木工」の記載をもって,指定商品である家具の出所を表示するものとして認\n識するものと認められ,「奥西木工」の文字部分は,要部であるというべきである。
・・・
そうすると,本件チラシ1は,その全体のレイアウトは,本件商標と共通する部 分があるものの,本件チラシ1のいずれにも本件商標の要部である「奥西木工」と いう文字部分がなく,「タキソウパルクス刈谷店」,「タキソ\ウ家具」,「タキソウ家具本店」,「タキソ\ウパルクス吉原店」などとの記載があるのみであるから,本件チラ シ1に記載された本件使用商標1は,本件商標とは外観が大きく異なる上,本件商 標から生じる「オクニシモッコウ」などの称呼や「奥西木工の主催するキズ物市」 といった観念も本件使用商標1からは生じない。以上からすると,本件使用商標1が,本件商標と社会通念上同一ということはできない。

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令和1(ネ)10081  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年11月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について、知財高裁(4部)も技術的範囲に属しないと判断しました。

 以上の本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載及び本件明細書 の記載によれば,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,「ポインタの座\n標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力 手段に表示するため」の「画像データ」であり,出力手段に表\示され,利 用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるよう\nに構成されていることを要するものと解される。\n
イ これに対し控訴人は,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,命令の「対\n象」や「内容」のいずれかを,小さな絵で表現したものが,「実行される\n命令結果を利用者が理解できるという動作・作用を目的・目標として構成\nされている画像データ」であって,「画面上のどの座標位置・範囲に表示\nするかという表示位置・範囲に関する情報」を含むものである旨主張する。\n しかしながら,本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載中には, 「操作メニュー情報」が「実行される命令結果を利用者が理解できるとい う動作・作用を目的・目標として構成されている画像データ」であること\nの根拠となる記載は存在せず,控訴人の上記主張は,特許請求の範囲の記 載に基づかないものであるから,採用することができない。
 (3) 被告製品における「操作メニュー情報」(構成要件B)の具備の有無につ\nいて
控訴人は,1)被告製品の本件ホームアプリにおける「上ページ一部表示」\n及び「下ページ一部表示」は,その内容や表\示位置からすれば,これを見た 利用者は上ページ又は下ページにスクロールする結果を理解できるといえる から,利用者が,その表示の有無を視覚的に認識でき,その表\示内容から, 所望の命令を実行した結果についても理解できるような,画像データに当た り,「操作メニュー情報」に該当する,2)被告製品における「左上領域」(別 紙参考図の図1記載の左側の赤色の点線枠内),「右上領域」(同図1記載 の右側の赤色の点線枠内),「左下領域」(同図2記載の左側の赤色の点線 枠内,同図3のB記載の左側の画像)及び「右下領域」(同図2記載の右側 の赤色の点線枠内,同図3のB記載の右側の画像)は,「操作メニュー情報」 に該当する旨主張する。
ア そこで検討するに,被告製品の構成エ(ウ),(エ),オ(ウ)及び(エ)及び 別紙「乙2の2の説明図」によれば,被告製品においては,1)利用者が, 移動させたいショートカットアイコンをロングタッチし,ドラッグ操作を することにより当該ショートカットアイコンを移動させ,ロングタッチし た位置と当該ショートカットアイコンをドラッグしている指等のタッチパ ネル上の位置が約110ピクセル離れた場合に,その際のページ画面が縮 小表示されるとともに,そのページ画面のページ番号に応じて,当該ペー\nジが上端ページであれば1つ下のページの一部の画像である「下ページ一 部表示」のみが,下端ページであれば1つ上のページの一部の画像である\n「上ページ一部表示」のみが,それ以外のページであればこれらがいずれ\nもIGZO液晶ディスプレイに表示される「縮小モード」となること,2) 「縮小モード」の状態で,「上ページ一部表示」が表\示されているとき, 利用者が当該ショートカットアイコンをドラッグしている指等及びマウス カーソルの先端の座標位置を「左上領域」又は「右上領域」のいずれかの\n範囲に入れたときは,上ページスクロール1又は上ページスクロール2を 生じさせる命令が実行され,また,「縮小モード」の状態で,「下ページ 一部表示」が表\示されているとき,利用者が当該ショートカットアイコン をドラッグしている指等及びマウスカーソルの先端の座標位置を「左下領\n域」又は「右下領域」のいずれかの範囲に入れたときは,下ページスクロ ール1又は下ページスクロール2を生じさせる命令が実行されることが認 められる。
イ しかるところ,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表\ 示」は,別紙「乙2の2の説明図」の図6等に示すように,「縮小モード」 の状態で,IGZO液晶表示ディスプレイの画面上に表\示される長方形状 上の画像データであるが,その表示には「実行される命令結果」の内容を\n表現し,又は連想させる文字や記号等は存在せず,利用者がその表\示自体 から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構成されているも\nのと認めることはできない。
また,利用者が,縮小モードの状態で,1つ上のページ又は1つ下のペ ージの一部を表示した画像である「上ページ一部表\示」又は「下ページ一 部表示」を見て,「上ページ一部表\示」又は「下ページ一部表示」までド\nラッグすれば,上ページ又は下ページに画面をスクロールさせることがで きるものと考え,実際にそのように画面をスクロールさせる操作をしたと しても,それは,「上ページ一部表示」又は「下ページ一部表\示」の表示\n自体から「実行される命令結果」の内容を理解するのではなく,操作の経 験を通じて,画面をスクロールさせることができることを認識するにすぎ ないものといえる。 したがって,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表\示」 は,利用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解でき\nるように構成された画像データであるものと認めることはできないから,\n構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当しない。\n
ウ 次に,前記アの認定事実によれば,被告製品における「左上領域」,「右 上領域」,「左下領域」及び「右下領域」は,いずれも,被告製品の出力 手段であるIGZO液晶表示ディスプレイの画面上の特定の座標位置で囲\nまれた領域であり,その領域は,画面上に画像データとして表示されてい\nるものではなく,利用者が画面上で認識できるものではない。 したがって,被告製品における「左上領域」,「右上領域」,「左下領 域」及び「右下領域」は,出力手段に表示され,利用者が「実行される命\n令結果」を理解できるように構成されている「画像データ」であるものと\n認めることはできないから,構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当し\nない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)8302

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平成31(ワ)10672等  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和2年11月17日  東京地方裁判所

 秘密管理性がないとして、本件顧客名簿は営業秘密ではないと判断されました。  

 原告は,被告Aが原告で勤務していた平成28年頃から,顧客カルテをファ イリングしているバインダーの背面下部にマル秘シールが貼られていたと主\n張し,その主張の根拠として甲6号証を提出し,証人Gは上記主張に沿う供述 をする。これに対し,被告らは,マル秘シールは被告Aが原告を退職した後に 貼られたものであると主張し,被告Aはそれに沿う供述をする。\n甲6号証のマル秘シールの写真は,本件訴訟の準備のために平成31年3月 27日に撮影されたものであり,これによって,いつからマル秘シールが貼ら\nれていたかが客観的に明らかになるものではない。また,証人Gの供述と整合 する客観的証拠は存在しない。かえって,甲6号証には顧客カルテがファイリ ングされているバインダーが10冊以上写っているところ,そのバインダーの 形や顧客番号を示すと考えられる番号の記載方法などは相互に異なっている ものも多いのに対し,マル秘シールは大きさが同じで,最後の一冊を除き文字 も同じであり,写真撮影時に比較的近接した時期に一斉に貼付されたことと矛\n盾しないことを窺わせるものである。
以上によれば,被告Aが原告で勤務していた平成28年頃から顧客カルテを ファイリングしているバインダーの背面下部にマル秘シールが貼られていた\nという事実を認めるには足りず,被告Aが原告で勤務していた平成28年頃か ら顧客カルテをファイリングしているバインダーの背面下部にマル秘シール が貼られていたという事実は認定できない。\n
顧客カルテとその管理について
ア イのとおり,原告店舗において,施術履歴等を記載した紙である顧 客カルテは,バインダーにつづられ,バックルームに設置された棚にバイン ダーが並べて保管されていた。バックルームは,原告の従業員であれば自由 に入退室することができ,従業員が一人で休憩することもあり,従業員であ れば,顧客カルテは,バックルームで自由に見ることができたものであった。 顧客カルテは,ファスナーがついたファイルに入れて他の店舗に持ち運び することがあった。また,顧客カルテを共有する目的で,原告従業員全員を メンバーとするLINEのカルテ共有用グループが作成されていて,カルテ 共有用グループを使用して顧客カルテを従業員が共有する場合,原告従業員 が私用のスマートフォン等で顧客カルテを撮影し,それをカルテ共有用グル ープの全メンバーに送信していて,撮影した従業員の私用のスマートフォン にその画像が保存されるほか,全従業員のスマートフォン等にも,その画像 が送信され,保存されることとなっていた。このような送信は,原告代表者\nや店長の許可などの特別な手続は必要なく,通常業務として行われていた。 すなわち,原告の従業員は,全ての顧客カルテを少なくとも就業時間中は 誰でも自由に見ることができ,また,その画像は,通常業務の中で,特に上 司の決裁等もなく,私用のスマートフォン等で撮影され,当該カルテを必要 としない者を含む全従業員の私用のスマートフォン等に送信され,保存され ていたといえる。
イ ここで,顧客カルテ自体には,秘密であることを示す記載はなく,また, 本件送信行為の当時,顧客カルテをつづったバインダーに秘密であることを 示す記載等があったとは認められない。
他方,原告は,顧客情報の管理については注意喚起を行っているなどと主 張し,証人Gは,原告店舗では,店長が月に1,2回の頻度で全ての原告従 業員に対して顧客カルテの画像を削除するように口頭で伝え,店長は原告従 業員が私用のスマートフォンを操作して顧客カルテの画像を削除している 姿を見たこともあった旨供述する(甲39,証人G)。しかし,その供述を裏 付ける客観的証拠はないほか,同供述によっても,口頭で削除の指示を述べ ただけであり,前記アのとおり全従業員の私用のスマートフォン等に画像が 送信,保存されているとの状況にもかかわらず,口頭の指示を超えて,同グ ループ上で顧客カルテの画像を削除するようメッセージを送信したりする ことなどもなかった。
原告の顧客カルテの管理マニュアル(前記 )は,顧客カルテについ ての一定の取扱いを定めているが,これは顧客カルテ等の一般的な取扱い等 を定めるものであり,カルテ共有用グループの扱いなど顧客カルテに関する 重要な事項に触れるものでもなかった。また,就業規則や入社時合意では, 職務上知り得た情報の取扱いなどが定められていたが,その対象となる情報 の定義は一般的なものであって,これらによって顧客カルテやその施術利益 が秘密であることが示されているとはいえないものであった。 その他,監視カメラはレジや店舗の入口付近を映すものであって,それが バックルームの棚付近も映していたとしても,一般的な防犯対策や不審者に 対する対策を超えて,それによって,顧客カルテそのものを直ちに秘密とし て管理していたことになるものとはいえない。
ウ 上記のとおりの,顧客カルテの客観的な利用,保存等を含めた管理の状況, 顧客カルテが秘密であることを直接示す記載の欠如やそれが秘密であると 認識させる事情の少なさ等の事情を総合的に考慮すると,原告店舗の顧客カ ルテの施術履歴は,「秘密として管理されている」(不競法2条6項)という ことはできない。
エ 原告は,原告の顧客カルテの管理状況,就業規則や入社時合意の存在等を 挙げて,顧客カルテが秘密として管理されている旨主張するが,上記に照ら し,理由がない。
また,原告は,被告Aが,Dに対し,平成29年12月9日日にLINE で,「Eっていう私の友達のカルテ,もらえたりしないかな?誰にもバレず に」などと送信し,平成30年1月20日日に,LINEで「私に友達のカ ルテ送ったことだけは内緒でお願いします!」「それがバレるかどうかで左 右されるっぽい!」などと送信したことを挙げて,被告Aも顧客カルテを秘 密として認識していた旨主張する。
しかし,平成29年12月9日のLINEは,被告Aが原告を退職する時 点で原告代表者と被告Aの関係が相当悪化していたこと(乙21,弁論の全\n趣旨)や被告Aが原告との間で作成した入社時誓約書などの文言に抵触し得 る形で原告の店舗の近くの被告ら店舗での就業を退職後早々に開始したこ となどから,本件施術履歴が秘密情報であるか否かにかかわらず,被告Aが, 自身のための行為を原告代表者等に知られたくないと思う背景があった状\n況でされたものであり,かえって,Dがそれに対して逡巡する形跡なく程な く本件送信行為を行っていることからも,同日のやり取りは,直ちに,被告 AやDを含む原告の従業員において,顧客カルテを秘密として認識していた ことの根拠となるものではない。また,平成30年1月20日のLINEは, 前日に原告から顧客情報の不正使用等を指摘する通告書が送付され,これに ついて被告Bから顧客情報を持ち出していなければ大丈夫であるとアドバ イスされたものの,被告Bや被告Cには本件送信行為についての報告をして いなかったために本件送信行為を隠そうとしたものとも解され,また,顧客 カルテが当時言及されていた「顧客情報」に含まれることが明らかな一方, それが「営業秘密」など「秘密」であるか否かが当時話題とされていたかは 明らかでなく,上記のLINEにより,被告Aにおいて顧客カルテの情報が 秘密として管理されている情報であるとの認識を有していたことが直ちに 裏付けられるものではない。
以上によれば,顧客カルテの情報の一部である本件施術履歴も秘密管理性を 欠くから,その余を判断するまでもなく,本件施術履歴が営業秘密であるとは 認められない。したがって,本件送信行為は不正競争に該当しないから,本件 送信行為についての原告の被告Aに対する請求は認められない。

◆判決本文

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令和1(ネ)2739 意匠権  民事訴訟 令和2年10月30日  大阪高等裁判所

 食品包装用容器の底部に関する部分意匠の侵害事件です。1審(大阪地裁)は、約6000万円の損害賠償請求を認めました。1審被告が控訴、1審原告が附帯控訴をしました。控訴審は、原告が支払い済みの分を除いた約3000万円の支払いを命じました。

 当裁判所も,控訴人及び一審被告静岡産業社の共同不法行為により被控訴人が受けた損害につき,意匠法39条1項により推定される損害額は5348万7589円であって,上記共同不法行為と相当因果関係にある弁護士費用及び弁理士費用は540万円とするのが相当であり,その合計額は5888万7589円であるが,他方で,値下げによる損害についての賠償は認められないと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記4(3)及び5のとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」第4の8(ただし,一審被告静岡産業社のみの主張に対する判断部分を除く。)に記載のとおりであるから,これを引用する。
そして,被控訴人は,原判決言渡しの後,一審被告静岡産業社との間で任意の和解をし,これに基づき,一審被告静岡産業社から,2944万3795円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を受けたので,上記損害賠償残金は2944万3794円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員となった。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成30(ワ)2439

イ号および本件意匠は以下です。

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令和2(ネ)10025 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年11月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審は、約1800万円の損害賠償を認めましたが、知財高裁(2部)は原告の請求額を100%認めました。損害認定額は約1億3700万円で、請求額は1億3200万円でした。

 4 損害発生の有無及びその額(争点8)について(当審における当事者の補充主張に対する判断を含む。)
(1)特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」について
特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして,同項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については,技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定される特許発明の実施許諾契約の場合と異なり,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わないことや,平成10年法律第51号による同項の改正の経緯に照らし,同項に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はない。特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきであり,1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な実施料率を定めるべきである。
(2) 実施料率の算定に当たり考慮すべき事情括弧内に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる。ア実施料率に関する数値等(ア)社団法人発明協会発行の「実施料率〔第5版〕」(平成15年9月30日発行。甲79)には,「電子・通信用部品」分野の実施料率について,次の旨の記載がある。aイニシャル・ペイメント条件がない場合の実施料率の平均値は,昭和63年度〜平成3年度は4.9%,平成4年度〜10年度は3.3%である。平均値が下降した結果,全技術分野中実施料が最も低い技術分野の一つとなった。
bこの技術分野は,契約件数が全技術分野の中でも多い方であるが,他の契約件数上位の技術分野と比較して,実施料率が低く抑えられている。その理由としては,1)この技術分野では,高額のライセンス収入を得ることとともに,技術を普及させ,対象技術の標準化を目指すことが重要視されるケースが他の技術分野と比較して多いことや,2)半導体産業は設備投資が大きく,ライセンシーの危険負担が大きいことが考えられる。c平成4年度〜10年度の実施料率8%以上の契約(イニシャル・ペイメント条件の有無を問わない。)合計21件を技術内容的に細分すると,電子管が1件,半導体が18件,その他の電子・通信用部品が2件であり,半導体が大半を占めている。
(イ)平成22年8月31日に発行された「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」によると,本件発明1〜3に関連する「電気」の分野の実施料率について,平均値は2.9%,最大値は9.5%,最小値は0.5%であった(乙89)。
(ウ)一審原告が訴訟等で相手方と和解をする際には,相手方において侵害品から一審原告の製造するLEDへの置換えが可能な場合には,当該LEDを相手方が購入することを条件として,侵害品の売上高に5%前後の実施料率を乗じた損害賠償額で和解をすることがあるが,そのような置換えが難しい場合には,製品の製造販売の中止を条件に,侵害品の売上高に上記より高い実施料率を乗じた損害賠償額で和解をすることがある(甲84の1)。一審原告は,平成28年5月,本件特許1を含む二つの特許を侵害するLED電球の販売に係る事案に関し,相手方と,総売上高に10%の実施料率を乗じた額に8%の消費税相当額を加算した金額で裁判上の和解を成立させた(甲84の1・3)。\n
(エ)一審原告の競合メーカーであるフィリップス社は,平成28年6月21日,LED照明及びLEDレトロフィット電球のライセンスプログラムを公表したが,そこでは,LED照明の総収入に基づく実施料率は,単色照明(白色又は有色の固定色)については3%であることが示されている(乙102)。\n
イ本件発明1〜3の価値・重要性等に関する事情
(ア)一審原告による青色LEDの開発後,赤,緑,青の三種類のLEDを用いるのではなく,青色LEDと蛍光体を用いて一審原告が白色LEDの開発を実現したことは,非常に重要な産業上の意味を持つもので,その後のLED市場の急速な拡大に大きく寄与し(甲24,26),一審原告による白色LEDの開発については,文部科学省発行の「令和元年版科学技術白書」(甲86)においても取り上げられている。
(イ)白色LEDを構成するために青色LEDチップと組み合わせる蛍光体の材料としては,YAG系のほか,TAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)系,サイアロン系,BOS(バリウム・オルソ\シリケート)系などがある(乙105)。この点,ドイツのOSRAM Opto社は,平成15年〜平成16年頃に,複数の会社に対し,TAG蛍光体による白色LEDのライセンスを供与しており(乙108),平成20年には,アメリカのVishayIntertechnology社は,カメラのフラッシュ・ライト,自動車のブレーキ・ランプや方向指示器やインスツルメント・パネルのバックライトや非常灯などに向けたものとして,TAG蛍光体を用いた白色LEDを発売した(乙109の1・2)。平成18年には,TAG系蛍光体材料などを用いた白色LEDが続々登場しているとの報道があり(乙106),平成24年には,YAG,TAG及びシリケートが,世界三大の蛍光体であると評価されていた(乙107)。
(ウ)平成27年に発表された「LED製品開発の現状と最新動向」と題する論文(豊田合成技報57号。乙91)には,次の旨の記載がある。\n
a青色LEDを光源とし蛍光体を励起させる方式の白色LEDの開発により,小型・省電力の白色光源が実用化され,更なる用途拡大が進んだ。代表例としては,液晶ディスプレイが挙げられる。白色LEDの高効率化により,急速にバックライト用光源の置き換えが進んだ。LED化によるメリットは,主に,発光効率が高いことと,薄型化ができることである。LEDは光源自体のエネルギー効率が高いことに加え,配光指向性によりバックライトへの入射効率が高くなるため,機器としての省エネが図りやすいことも大きなメリットとなっている。LEDが当たり前になった現在においても,パネル画質向上(高精細化・広色域化)に伴うパネル透過率低下(画面が暗くなること)を補うため,LEDへの効率向上への期待・ニーズは依然として高い。\n
b最近,従来の青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせから,光の三原色である青色LEDと緑色蛍光体・赤色蛍光体の組み合わせによる色品質の向上が図られている。従来の青色LEDに黄色蛍光体を加えた疑似白色光は,液晶に用いられる場合,色の純度が低く,液晶パネル上の色域が狭いのが一般的である。色域を拡げるためには,液晶パネルのカラーフィルタの濃度を上げる方法があるが,光の損失が大きくなるため望ましくない。そこで,色域を向上させるため,青色LEDに緑色蛍光体と赤色蛍光体を組み合わせた,新規白色光が開発されている。
ウ一審被告製品の売上げ及び本件LEDの位置付け等
(ア)一審被告製品の売上げ(乙87)
a一審被告製品1一審被告製品1の販売期間は平成26年1月から平成28年3月までであり,総販売台数は43万3971台で,1台当たりの平均販売価格は3万3902円,総売上高は147億1230万5518円であった。売上高の内訳は,平成26年1月から平成27年9月までが147億0404万7272円,同年10月が293万6815円,同年11月から平成28年3月までが532万1431円であった。
b一審被告製品2一審被告製品2の販売期間は平成27年5月から平成28年12月までであり,総販売台数は29万6608台,1台当たりの平均販売価格は3万4461円,総売上高は102億2138万1519円であった。売上高の内訳は,平成27年5月から平成27年9月までが24億1436万1080円,同年10月が9億3268万0350円,同年11月から平成28年11月までが68億4922万2715円,同年12月が2511万7374円であった。
(イ)一審被告製品における本件LEDの位置付け等
a一審被告製品は,いずれもデジタルハイビジョン液晶テレビであり,一審被告製品1及び2のバックライトには,いずれも1台につき24個のイ号LED又はロ号LEDが搭載されていた。液晶テレビの方式は,バックライトの種類によって,直下型とエッジ型とに区分されるところ,一審被告製品は,直下型である(甲85)。
bテレビに用いられるLEDについては,テレビ一台に複数のLEDが用いられることから安価であることが望ましい一方で,テレビ内部に設けられたLEDを交換することはできないから,耐久性が極めて重要な特性として求められる。
c東芝のテレビ事業部の担当者は,平成21年4月に,液晶テレビのバックライトは白色LEDがトレンドになると主張し,RGB三色のLED光源よりも白色LEDの方がより高画質を実現できるという認識を明らかにしていた(甲32)。そして,一審被告は,一審被告製品を含む液晶テレビのシリーズ商品を販売するに当たり,映像美を一つのセールスポイントとしており,また,一審被告製品は,「おまかせオートピクチャー」という,周囲の明るさに適した画質に自動で調整するとの機能を有していたところ,それは,リニアに発光するというLEDの特性を利用したものであった(甲77,78,92)。一審被告製品1を購入したユーザーのレビューには,画質の良さやコストパフォーマンスの良さを指摘するものがある(甲93)。\n
d一審被告製品は,平成27年7月から11月までの売れ筋ランキングの上位(第3位)を占めていた(甲94)。
e直下型バックライトが採用される液晶テレビ用の一般的なサイズのLEDにおいては,本件発明2及び3に関連した技術を用いたLEDが多用されている(甲87〜89)。
f一審被告製品はOEM製品であり,一審被告は,本件LEDの単価も知らず,本件LEDがどこのメーカーの製品であるのかも知らなかった。
エLEDに関する市場等
(ア)テレビのバックライト用の白色LEDの世界的な平均価格は,平成26年は0.1ドル,平成27年は0.08ドル,平成28年は0.068ドルであった(乙85の1〜3,乙104)。なお,年間平均為替レート(TTS)は,平成26年は106.85円/1ドル,平成27年は122.05円/1ドル,平成28年は109.84円/1ドルであった(乙90)。(イ)株式会社富士キメラ総研発行の「2017LED関連市場総調査」(平成29年1月25日発行。甲84の2)には,次の旨の記載がある。
aテレビ用バックライトユニットについてテレビ用バックライトユニットでは,直下型の白色LEDパッケージが採用されている。テレビ向けのLEDは,高出力かつ広色域,長寿命が要求されるケースが多く,他のバックライトユニット向けLEDと比較してハイエンドな商品となる。平成28年第4四半期時点において,32型テレビ用の直下型バックライトユニットの主要な価格帯は,1台当たり1400円〜1700円である。ただし,光学シート構成やLEDパッケージの仕様,搭載個数によって大きく価格が変動する。また,テレビメーカー各社が独自設計を行うハイエンドテレビ用バックライトユニットは,より高価格になる。\nなお,光学シートの機能複合による搭載枚数削減,LEDパッケージの性能\向上による搭載数量削減により,今後も低価格化が続く見通しである。b白色LEDパッケージについて白色LEDパッケージとは,疑似白色に発光するLEDパッケージである。主に可視光(GaN系)LEDチップに蛍光体を使用することで,疑似的に白色光を実現している。白色LEDパッケージについて,日本では発光効率を高める開発が続けられている。一方で,演色性(色再現性)も必要であるが,演色性と発光効率はトレードオフの関係にある。なお,中国では,コストの圧縮を目的として,LEDパッケージメーカーによるリードフレームを始めとする各種部材の内製化が進んでいる。世界的にみると,白色LEDパッケージ市場は,数量ベースで引き続き好調な伸びとなっている。ただし,従来大きなウェイトを占めてきたバックライト向けは,出荷数量が大きく減少している。セット機器の減少に加え,中小型バックライト向けでは搭載工数の減少やOLEDへの移行,テレビ用バックライト向けではパッケージ当たりの光束量の増加に伴う搭載個数の減少が主な市場縮小の要因となっている。白色LEDパッケージについて平成28年第4四半期時点で,バックライト向けの直下型の白色LEDパッケージの価格は,1個当たり,18円〜24円である。
c白色LEDパッケージに採用される蛍光体について高発光効率・低価格が要求される製品には,黄色の蛍光体が単体で採用されるケースが多い。演色性や広い色域が要求される場合には,黄色と赤色や,赤色と緑色の組み合わせが採用されている。LED用蛍光体については,中国において,地域別生産数量に占めるウェイトが高まっている。平成27年の出荷数量実績では,黄色の蛍光体について,YAG蛍光体が83.5%を占めており,シリケート系が10.2%,その他が6.3%を占めている。この点,シリケート系は,近年減少傾向にある。YAGなどに比べ高温高湿条件下での信頼性に劣るためである。平成29年に一審原告のYAG主要保有特許が失効するのを受けて,特に電球など色温度3000K程度の照明向けLEDパッケージでは,効率の良さを背景にYAGへの移行が進む可能性がある。\n
(ウ)総合技研株式会社発行の「2017年度白色LED・応用市場の現状と将来性」(乙86)には,次の旨の記載がある。a白色LEDメーカーシェア動向について,メーカーは一審原告のほかに合計10社以上あるところ,平成24年〜平成28年において,一審原告は継続してシェア第1位を占めている。この点,シェアは,平成24年は23.7%,平成25年は24.2%,平成26年度は25.4%,平成27年度は19.6%,平成28年度は19.1%である。b分野別・用途別白色LED応用市場分析に関し,分野別市場規模について,平成24年〜平成29年で,液晶バックライトを用途とするものは,61.2%から44.4%に減少し,一般照明を用途とするものが34.5%から50.8%に増加してきた。他方,液晶バックライトの数量ベースでみると,平成24〜平成28年で,液晶テレビを用途とするものは,40%前後で推移しており,他の用途(ノートパソコン,液晶モニター,タブレット端末,スマートフォン等)を大きく引き離している。\n
(エ)直下型バックライトについては,商流として,LEDメーカーとは別に直下型バックライトを製造するバックライトメーカーが存在し,テレビの製造メーカーに対しては,当該バックライトメーカーが直下型バックライトを部材として供給している。オ一審原告のライセンス方針等(ア)一審原告は,平成28年においても,バックライト用LED(テレビ,モニター,ノートパソコン及びタブレットを含む。)収入で,世界第2位,14.1%のシュアを占めている(乙84)。(イ)一審原告は,後発メーカーとの間で,平成8年頃から,各国で特許訴訟の提起や交渉を繰り返してきたところ,平成14年には,後発メーカーのLEDの技術水準も向上したため,互いに補完し合える技術を保有しているメーカーとはクロスライセンス契約を結んで和解をするようになったが,その際,クロスライセンス以外の形態でLEDメーカーにライセンスを供与することは,一部の例外を除いてなかった。それは,ライセンス収入には頼らず,特許はあくまでも自社の技術を保護する手段と考え,自社製品の販売によって利益を得るという経営方針によるものである(甲84の1)。
(3) 実施料率の算定
訂正して引用した原判決第3で判示した本件発明1〜3の意義等に加え,上記(2)で認定した諸事情を踏まえ,以下,実施料相当額について検討する。
ア実施料率を乗じる基礎(ロイヤルティベース)について
(ア)前記(1)で特許法102条3項について指摘した点に加え,1)本件LEDは直下型バックライトに搭載されて一審被告製品に使用されていたところ,直下型バックライトは,液晶テレビである一審被告製品の内部に搭載された基幹的な部品の一つというべきであり,一審被告製品から容易に分離することが可能なものとはいえないこと,2)LEDの性能は,液晶テレビの画質に大きく影響するとともに,どのようなLEDを用い,どのようにして製造するかは製造コストにも影響するものであること,3)一審被告は,後記イのとおり,本件LEDの特性を活かした完成品として一審被告製品を販売していたもので,一審被告製品の販売によって収益を得ていたこと等に照らすと,一審被告製品の売上げを基礎として,特許法102条3項の実施料相当額を算定するのが相当である。
(イ)これに対し,一審被告は,本件特許1〜3の貢献が,LEDチップに限定される旨を主張するが,採用することができない。また,一審被告は,LEDチップが独立して客観的な市場価値を有して流通していると主張するが,そうであるとしても,上記(ア)1)〜3)の事情からすると,本件においてLEDの価格をロイヤリティのベースとすることは相当ではない。なお,直下型バックライトについても,独立の市場価値を有するものと認められるが,上記(ア)1)〜3)の事情からすると,直下型バックライトの価格をロイヤリティのベースとすることも相当ではない。
さらに,一審被告は,最終製品を実施料算定の基礎とすると,本件LEDがより高価な最終製品に搭載されるほど実施料が高額になると主張するが,本件LEDがより高額な製品に搭載されてより高額な収入をもたらしたのであれば,その製品の売上げに対する本件LEDの貢献度に応じて実施料を請求することができるとしても不合理ではない。
イ実施料率について
(ア)a一審原告は,クロスライセンス以外の形態でLEDメーカーにライセンスを供与することは,一部の例外を除いてはなく(前記(2)オ(イ)),特許権が侵害された場合,一審原告の製造するLEDへの置換えが可能な場合にはそれを前提に5%前後の実施料率を用いて,置換えが難しい場合にはより高い実施料率を用いて和解をしており,平成28年に,本件特許1を含む二つの特許権を侵害するLED電球の販売に係る事案において,10%の実施料率を想定し,それに8%の消費税相当額を付加して,裁判上の和解をした(前記(2)ア(ウ))。 b平成10年度までにおいて,電子・通信用部品分野のうち,半導体については,実施料率8%以上の契約が少なからず存する(前記2ア(ア)c)。
c本件特許1は,長時間の使用に対する特性劣化が少なく,色ずれや輝度低下の極めて少ない発光装置に係る特許であり,本件特許2及び3は,ダイシングの際の剥離の防止や廃棄される樹脂の低減を図るとともに,生産効率を大幅に向上させ,安価な発光装置を提供する方法及び当該装置に係る特許である。これらの特性は,液晶テレビのバックモニタ用の白色LEDとして,大きく活かされるものであったといえ,殊に,本件特許1は,非常に重要な産業上の意味を持つものとして,その後のLED市場の急速な拡大に大きく寄与した(前記(2)イ(ア),(ウ)a,同ウ(イ)b,c,e,同エ(イ)a)。この点,YAG系の蛍光体以外の蛍光体を用いた白色LEDも存在していたことが認められる(同イ(イ),(ウ))が,一審原告は,白色LEDメーカーとして,平成24年〜平成28年において継続してシェア第1位を占めており,平成28年にバックライト用LED収入でも世界第2位のシェアを占めていること(同エ(ウ)a,同オ(ア))や,平成27年の出荷数量実績において黄色の蛍光体につきYAG系の蛍光体が大部分を占めていること(同エ(イ)c)に照らすと,一審被告製品の販売期間である平成26年1月から平成28年12月までの期間において,液晶テレビのバックライト用の白色LEDについて,一審原告の製品は他の製品に比べてかなり優位な地位にあったものと認められる。
d以上のa〜cで述べたところに,前記(1)で特許法102条3項の実施料率について述べたところや,前記(2)で認定した関連技術分野における実施料率の特徴や幅,YAG系蛍光体を用いた白色LEDの価値等に係る他の事情を総合すると,平成26年1月から平成28年12月までの期間(ただし,本件特許3については平成27年10月23日以後,本件特許2については平成28年12月16日以後)における本件発明1〜3の実施料率は,10%を下回ることのない相当に高い数値となるものと認められる。なお,1)フィリップス社は平成28年に単色のLED照明の実施料率について3%と公表しており(前記(2)ア(エ)),2)LEDの属する技術分野における実施料率の平均値は,3.3%,2.9%といった数値である(同ア(ア)a,(イ))。しかし,上記1)の数値は,フィリップス社の特許についてこれからライセンスする場合の数値であり,また,上記2)は,広汎な分野における実施料率の平均値であり,いずれも上記認定を左右するものではない。
(イ)液晶テレビである一審被告製品は,本件LED以外の多数の部品から成り立っており,上記(ア)の実施料率をそのまま適用することは相当ではないが,前記(ア)cのとおり,本件発明1〜3の技術は,液晶テレビのバックモニタ用の白色LEDとして,大きく活かされるものであったということができる上,一審被告製品は,映像美を一つのセールスポイントとするなどして,売れ行きは好調であった(前記(2)ウ(イ)c,d)のであるから,一審被告製品の売上げに対する本件発明1〜3の技術の貢献は相当に大きいものであり,前記(2)で認定した白色LEDの価格等に係る事情を考慮しても,平成26年1月から平成28年1月までの間(ただし,本件特許3については平成27年10月23日以後,本件特許2については平成28年12月16日以後)において,一審被告製品の売上げを基礎とした場合の実施料率は,0.5%を下回るものではないと認めるのが相当である。
ウ一審被告の主張について一審被告は,一審被告製品2には一審原告が主張立証するLEDチップとは異なるチップが使用されているため,一審原告が主張立証するロ号LEDが使用されている一審被告製品2の販売数量は不明であるから一審被告製品2に係る損害賠償請求は認められないと主張するが,訂正して引用した原判決第3の1(5)(原判決93頁)で判示したことからすると,一審被告製品2には,その販売期間を通じて,本件特許1〜3を侵害するロ号LEDが使用されていたと推認されるというべきであり,一審被告の上記主張やその裏付けとしての証拠(乙66,70)は,この推認を覆すに足りるものではない。その他,一審被告の主張は,前記イの認定を左右するに足りるものではない。
(4) 一審原告が一審被告に請求し得る額の算定以上を踏まえると,一審原告が一審被告に請求し得る額は,次のとおりとなる。ア実施料相当額について,一審被告製品の総売上高は,一審被告製品1が147億1230万5518円,一審被告製品2が102億2138万1519円で,合計249億3368万7037円であり,同額に,上記(3)の実施料率0.5%を乗じると,1億2466万8435円(1円未満四捨五入)となる。
イ弁護士費用相当額については,原告の主張額である1200万円を認めるのが相当である。
ウしたがって,一審原告は,一審被告に対し,少なくとも損害賠償として,合計1億3666万8435円を請求することができるところ,この金額は,一審原告の請求額を超えているので,消費税相当額の加算について判断するまでもなく,一審原告の損害賠償請求は,全部について理由がある。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)27238

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令和2(ネ)10004  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年9月30日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 原審の特102条2項による推定について「売上げに対する本件再訂正発明の寄与ないし貢献の程度が相当低い」として覆滅が認められました。

 ウ 推定覆滅事由について
一審被告は,1)本件期間1ないし4に係る販売分につき,一審被告が販 売した被告各製品中,順方向電圧の異なるLEDを搭載した製品の販売実 績が乏しいこと等,被告各製品の競合品の存在,2)本件期間1及び2に係 る販売分につき,本件特許権が一審原告と三菱化学との共有であったこと は,いずれも本件推定を覆す事情に該当し,かかる事情を考慮すると,本 件推定は覆滅される旨主張するので,以下において判断する。 (ア) 本件期間1ないし4に係る販売分につき,一審被告が販売した被告 各製品中,順方向電圧の異なるLEDを搭載した製品の販売実績が乏し いこと等,被告各製品の競合品の存在 a 一審被告は,1)LED基板のサイズを同一にして,部品点数及び製 造コストを削減できるとともに,LED基板の大きさを可及的に小さ くして,汎用性を向上させることができるという本件再訂正発明の作 用効果は,順方向電圧の異なるLED搭載製品を作製することを前提 とするものであり,被告各製品において,白色LEDと青色LEDと は,いずれも順方向電圧は同じであり,順方向電圧が異なるのは赤色 LEDであるから,本件再訂正発明の作用効果を奏するのは赤色LE Dを搭載する製品であるところ,本件期間1ないし4の期間中に一審 被告が販売した被告各製品中,赤色LED搭載製品(被告製品2及び 5)の販売実績が乏しいこと,2)需要者の立場からは,LED基板の 設計において,本件再訂正発明の実施品であるLED単位数の「最小 公倍数」の単位基板が長さ方向に連設されている製品と最小公倍数で はない「公倍数」の単位基板が連設されている製品とでは,購入意欲 に有意な差異を生じるものではなく,また,本件再訂正発明において 複数のLED基板が直列させてある点は,基板の接続箇所で不具合が 起こる可能性が高いとして,製品としての評価を低下させ得る事情で\nあることは,被告各製品に実施された本件再訂正発明に顧客吸引力が ないことなどを示すものといえるから,本件推定を覆す事情に該当す る旨主張する。
(a) 1)について
本件再訂正により,本件再訂正前の第1次訂正発明(請求項1) の「LED基板」の枚数及び配置が「複数の前記LED基板を前記 ライン方向に沿って直列させてある」構成に特定されたこと,第1\n次訂正発明の技術的意義は,前記2(1)ア,イ(イ)及びウで説示した とおりである。また,本件明細書の【0009】及び【0041】 の記載から,順方向電圧の異なるLED毎に定まるLEDの個数を LED単位数の「最小公倍数」にすることにより可及的に小さくし たLED基板の直列させる数を変えることで,このLED基板を 様々な長さの光照射装置に用いることができるようになることを理 解できる。
これらを総合考慮すると,本件再訂正発明の技術的意義は,順方 向電圧の異なる種類のLEDを用いたライン状の光を照射する光照 射装置において,LED基板の大きさを同一にして,部品の共通化 により部品点数の削減,製造コストの削減を実現することを主たる 課題とし,電源電圧とLEDを直列に接続したときの順方向電圧の 合計との差が所定の許容範囲となるLEDの個数をLED単位数と し,LED基板に搭載するLEDの個数を順方向電圧の異なるLE D毎に定まるLED単位数の「最小公倍数」とする構成を採用した\nことにより,順方向電圧の異なるLED同士でLED基板に搭載さ れるLEDの個数を同一にし,順方向電圧の異なるLEDが搭載さ れるLED基板同士の大きさを同じにすることができ,また,LE D基板を収容する筐体として同一のものを用いることができること から,LED基板及び筐体などの部品を共通化し,部品点数を削減 することができるとともに,製造コストを削減するという効果を奏 し,さらに,LED基板の大きさを可及的に小さくして,汎用性を 向上させるという効果を奏し,加えて,「複数の前記LED基板を 前記ライン方向に沿って直列させてある」構成を採用したことによ\nり,可及的に小さくしたLED基板の直列させる数を変えることで, このLED基板を様々な長さの光照射装置に用いることができると いう効果を奏することにあるものと認められる。
そして,被告各製品のうち,白色LED搭載製品と青色LED搭 載製品は,順方向電圧が同じであり(白色LED搭載製品である被 告製品1と青色LED搭載製品である被告製品3,白色LED搭載 製品である被告製品4と青色LED搭載製品である被告製品6は, 順方向電圧が同じであることは,争いがない。),LED基板は共 通のサイズのものを利用することができるので,被告各製品におい ては,本件再訂正発明は,白色LED搭載製品及び青色LED搭載 製品と順方向電圧が異なる赤色LED搭載製品(被告製品2及び5) 及び赤外LED搭載製品(被告製品7)について,専用のLED基 板及びこれを収容する筐体を用意する必要はなく,白色LED搭載 製品及び青色LED搭載製品と共通のサイズのLED基板及び同一 の筐体を用いることができる点において主たる効果を発揮するもの と認められる。
しかるところ,本件期間1ないし4における被告各製品の販売個 数は,合計●●●個であり,このうち,被告製品2及び5は●個, 被告製品7は●個であるから(前記イ(ア)),被告製品2,5及び 9の販売個数(合計●●個)が占める割合は,全体の約●●●●で ある。
一方で,被告各製品のうち,白色LED搭載製品又は青色LED 搭載製品を購入した者においても,その購入時に赤色LED搭載製 品一緒に購入している場合や,既に赤色LED搭載製品を有し,又 は将来赤色LED搭載製品を購入する予定である場合もあり得るか\nら,白色LED搭載製品及び青色LED搭載製品においては本件再 訂正発明の主たる効果が発揮されていないとまではいえないが,こ のような点を考慮してもなお,被告製品2,5及び7の販売個数(合 計●●個)が全体の約●●●●であることは,本件期間1ないし4 における被告各製品の売上げに対する本件再訂正発明の寄与ないし 貢献の程度が相当低いことを示すものといえる。
したがって,被告製品2,5及び7の販売個数(合計●●個)が 全体の約●●●●であることは,本件推定を覆す事情に該当するも のと認められる。これに反する一審原告の主張は採用することができない。
(b) 2)について
一審被告は,需要者の立場からは,LED基板の設計において, 本件再訂正発明の実施品であるLED単位数の「最小公倍数」の単 位基板が長さ方向に連設されている製品と最小公倍数ではない「公 倍数」の単位基板が連設されている製品とでは,購入意欲に有意な 差異を生じるものではなく,また,本件再訂正発明において複数の LED基板が直列させてある点は,基板の接続箇所で不具合が起こ る可能性が高いとして,製品としての評価を低下させ得る事情であ\nることは,被告各製品に実施された本件再訂正発明に顧客吸引力が ないことを示すものといえるから,これらの事情は,本件推定を覆 す事情に該当する旨主張する。 しかしながら,一審被告の上記主張の根拠とする事情を裏付ける に足りる証拠はないから,一審被告の上記主張は採用することがで きない。
b 次に,一審被告は,本件再訂正発明の実施品であるライン光照射装 置と実施品ではないライン光照射装置とは,照明器具としての性能に\n変わりがなく,ライン光照射装置であれば全て被告各製品及び原告が 販売する原告各製品の競合品となることに鑑みると,仮に被告各製品 が販売されなかったとしても,被告各製品の販売数量に対応する需要 が,原判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の他社のライン光照射\n装置にも向かったであろうといえるから,このような被告各製品の競 合品の存在は,本件推定を覆す事情に該当する旨主張する。 そこで検討するに,原判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の原\n判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の他社のライン光照射装置は,\n被告各製品の競合品に該当し,このような被告各製品の競合品の存在 は,本件推定を覆す事情に該当するものと認められる。その理由は, 次のとおり訂正するほか,原判決60頁2行目から61頁8行目まで に記載のとおりであるから,これを引用する。
・・・・
(c) 原判決61頁8行目末尾に次のとおり加える。
「また,被告各製品のカタログ(甲3)及びウェブページ(甲4, 13)には,被告各製品において本件再訂正発明を実施している ことやその実施により光照射装置としての性能が向上し,部品点\n数及び製造コストの削減を図ることができることなどをうかがわ せる記載は見当たらず,他方で,「業界最高クラスの光量を実現」, 「驚異の明るさを実現」など被告各製品の光量の大きさに関する 機能を宣伝文言としていることに照らすと,被告各製品において\n本件再訂正発明が実施されていることが大きな顧客吸引力となっ ていたということはできない。」
c 以上を前提に検討するに,前記a(a)及びbの本件推定を覆す事情の 内容,本件再訂正発明の技術的意義等を総合的に考慮すると,被告各 製品の限界利益の形成に対する本件再訂正発明の寄与は●●と認め るのが相当であり,前記寄与割合を超える部分については被告各製品 の限界利益の額と控訴人の受けた損害額との間に相当因果関係がな いものと認められる。したがって,本件推定は上記a(a)及びbの本件推定を覆す事情により上記限度で覆滅されるものと認められる。 そうすると,上記推定覆滅後の被告各製品の限界利益の額は,別紙 認容額算定表の3)欄記載の562万2270円となる。
d これに対し一審原告は,1)被告各製品のうち,白色LED搭載製品 及び青色LED搭載製品においても,本件再訂正発明は大きな顧客吸 引力を有すること,2)画像処理LED照明の国内シェア(数量ベース) については,平成26年から平成30年まで一貫して,一審原告が1 位,一審被告が2位であり,一審原告のシェアは2割を超えており(甲 18ないし22),このように画像処理LED照明のシェアを2割以 上一審原告が有している以上,被告各製品の販売がなかった場合には, そのうちの少なくとも2割は原告各製品に向かうことは明らかである し,シェア上位の会社の信頼性という面からは,2位のシェアを占め る被告各製品を購入した需要者は,被告各製品の販売がなかった場合 には1位のシェアを占める原告各製品を購入する蓋然性が高いこと, 3)原判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の各製品のうち,原告各\n製品の種類の多さを考えても,被告各製品の販売がなかった場合には これに対応する需要は原告各製品に向かう割合は極めて高いことを勘 案すると,本件推定は5割を超えては覆滅しない旨主張する。 しかしながら,1)については,前記bで説示したとおり(原判決引 用部分),本件再訂正発明の顧客吸引力は大きいとはいえない。 また,2)については,原告各製品及び被告各製品は,ライン状の光 を照射する光照射装置(ライン光照射装置)であるところ,仮に画像 処理LED照明一般という,ライン光照射装置よりも広いカテゴリの シェアで一審原告が1位であり,そのシェアが2割を超えていたとし ても,被告各製品の販売がなかった場合に,これに対応する2割の需 要が原告各製品に向かい,原告各製品を購入する蓋然性が高いという ことはできない。 さらに,3)については,原告各製品の種類が多いからといって,被 告各製品の販売がなかった場合にはこれに対応する需要は原告各製品 に向かう割合は極めて高いということはできない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
・・・
b 原判決61頁16行目から62頁12行目までを次のとおり改める。 「b(a) 特許法73条2項は,特許権が共有に係るときは,各共有者 は,契約で別段の定めをした場合を除き,他の共有者の同意を 得ないでその特許発明の実施をすることができる旨規定してい るから,各共有者は,上記の場合を除き,自己の持分割合にか かわらず,無制限に特許発明を実施することができる。 そうすると,特許権の共有者は,自己の共有持分権の侵害に よる損害を被った場合には,侵害者に対し,特許発明の実施の 程度に応じて特許法102条2項に基づく損害額の損害賠償を 請求できるものと解される。また,同条3項は特許権侵害の際 に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であ ると解されることに鑑みると,特許権の共有者に侵害者による 侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情 が存在しないため,同条2項の適用が認められない場合であっ ても,自己の共有持分割合に応じて,同条3項に基づく実施料 相当額の損害額の損害賠償を請求できるものと解される。 しかるところ,例えば,2名の共有者の一方が単独で同条2 項に基づく損害額の損害賠償請求をする場合,侵害者が侵害行 為により受けた利益は,一方の共有者の共有持分権の侵害のみ ならず,他方の共有者の共有者持分権の侵害によるものである といえるから,上記利益の額のうち,他方の共有者の共有持分 権の侵害に係る損害額に相当する部分については,一方の共有 者の受けた損害額との間に相当因果関係はないものと認められ, この限度で同条2項による推定は覆滅されるものと解するのが 相当である。
以上を総合すると,特許権が他の共有者との共有であること 及び他の共有者が特許発明の実施により利益を受けていること は,同項による推定の覆滅事由となり得るものであり,侵害者 が,特許権が他の共有者との共有であることを主張立証したと きは,同項による推定は他の共有者の共有持分割合による同条 3項に基づく実施料相当額の損害額の限度で覆滅され,また, 侵害者が,他の共有者が特許発明を実施していることを主張立 証したときは,同条2項による推定は他の共有者の実施の程度 (共有者間の実施による利益額の比)に応じて按分した損害額 の限度で覆滅されるものと解するのが相当である。 これを本件についてみるに,一審原告と三菱化学は,本件期 間1及び2において,本件特許権を持分2分の1の割合で共有 していたことは,前記aのとおりであるが,一方で,その期間 中に,三菱化学が本件再訂正発明を実施したことについての立 証はない。 そうすると,本件期間1及び2に係る販売分についての本件 推定は,三菱化学の共有持分割合による同条3項に基づく実施 料相当額の損害額の限度で覆滅されるというべきある。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)7532

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平成28(ワ)4029  不正競争行為に基づく損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和2年10月1日  大阪地方裁判所

 標準構成明細が営業秘密に該当するか?が争われました。大阪地裁(26部)は一部について、営業秘密であると判断しました。

 (ア) 前記(1)ウ(エ)のとおり,被告P1は,被告会社において,パッケージリフォー ム商品の商品開発や仕入交渉等を単独で担当するとともに,原告の標準構成明細を\n使用して本件比較表及びこれに添付された標準構\成明細を作成し,これをP4等に 示した。また,被告P1は,原告の標準構成明細の書式を使用して被告会社の標準\n構成明細のテンプレート(別紙2「営業秘密目録」資料1−1−2)を作成した\n(前記ウ(オ))。当該テンプレートは,原告の標準構成明細の書式とかなりの程度類\n似する上,その備考欄上部の記載は,これが原告の標準構成明細の書式をもとに作\n成されたことをうかがわせる。 被告P1も,当該テンプレート作成に当たり表としては原告の標準構\成明細を使 用したことを認めている(被告P1本人)。 これらの事情に加え,被告P1がP1HDD に原告の標準構成明細のデータを保\n存していること(前記ア(イ))に鑑みると,被告P1は,被告会社のパッケージリフ ォーム商品の開発に当たり,その仕入価格,粗利率,粗利金額の設定のため原告の 標準構成明細記載の原告の仕入価格等の情報を参考にしていたことが合理的に推認\nされる。また,被告P1は,被告会社の標準構成明細の書式作成に当たり,原告の\n標準構成明細の書式を使用したことが認められる。\nしたがって,被告P1による上記原告の標準構成明細の使用は,別紙2「営業秘\n密目録」資料1−1の情報の使用といえる。
また,資料1−1の情報は,被告P1が原告在職中に取得したものであるところ, その当時被告P1がこれにアクセスすることは原告においても許容されていたこと から,その取得に不正の手段は使用されていない。もっとも,被告P1が,被告会 社への転職に向けた就職活動と時期を同じくして,複雑な手順を経て原告データサ ーバの情報をP1私物パソコンやP1HDD に保存したこと,被告会社で現に上記 のとおりその情報を使用したことに鑑みると,被告P1による原告データサーバ上 の情報の取得は,転職後に転職先でリフォーム事業に使用する意図を少なくとも含 んでいたことがうかがわれる。そうすると,被告P1による上記使用行為は,被告 会社のリフォーム事業にこれを使用することで被告会社の利益を増大させ,ひいて は自己の評価を高める等の目的があったものと見られるのであって,不正の利益を 得る目的での使用といえる。 以上より,被告P1による資料1−1の情報の使用及び同情報に基づき作成され た資料1−1−2の情報の使用は,不正競争(不競法2条1項7号)に当たる。
(イ) 前記(1)ウ(エ)及び(1)エのとおり,被告会社共有フォルダ内に原告の標準構成\n明細のデータが保存されており,同フォルダを通じてP4及びP8がこれに含まれ るデータを業務上使用する USB メモリに保存している。しかも,そのフォルダ名 から,当該データが,本来は被告会社にあるはずのない原告のデータであることは 容易に理解し得る。 これらの事情を総合的に考慮すると,被告会社は,資料1−1の情報につき,営 業秘密不正開示行為があることを知り又は少なくとも重大な過失によって知らずに, これを取得したものと認められる。すなわち,被告会社による資料1−1の情報の 取得は,不正競争(不競法2条1項8号)に当たる。 他方,被告P1は,被告会社において,その在籍中は被告会社のパッケージリフ ォーム商品の開発等を単独で担当していたものであり,その際に使用する標準構成\n明細も,原告の標準構成明細のデータ及び原告在籍中の被告P1の経験に基づき,\n他の被告会社従業員の関与のないままに作成されたものとうかがわれる。そうする と,被告会社における標準構成明細(甲86,87)について,被告会社が,被告\nP1の営業秘密不正開示行為により作成されたものと知っていたこと又は知らない ことにつき重大な過失があると認めるに足りる証拠はない。 したがって,資料1−1−2の情報については,被告会社の行為は,不正競争 (2条1項8号)に当たらない。これに反する原告の主張は採用できない。
(ウ) 被告らの主張について 被告らは,被告会社共有フォルダに保存されていた情報であっても,それをもっ て被告P1の被告会社に対する開示行為とはいえない,被告P1が自ら作成又は取 得した情報については,同人による不正取得ではなく,また,原告又はサンキュー から示された情報ともいえない,資料1−1の情報につき,被告P1のそれまでの 知識や経験に鑑みれば原告の標準構成明細やそこに記載された仕入価格等の具体的\n数値に係る情報を使用する必要がないなどと主張する。 しかし,被告P1の被告会社に対する開示が認められることは前記認定のとおり である。また,被告P1が自ら作成した情報が仮にあるとしても,原告及びサンキ ューの企業規模をも考えた場合,被告P1がその作成及び改訂を全て単独で行って いたとは考え難く,これを裏付けるに足りる証拠もない(被告会社の標準構成明細\nの作成等被告会社における商品開発等に関するものは除く。)。被告P1がサンキ ュー在籍時に取得した情報についても,サンキュー等が原告の完全子会社となりそ のグループに属するに至ったことにより原告の情報管理体制の下に置かれた以上, 被告P1もこれに基づく情報管理を行わなければならないことになる。さらに,被 告P1の経験等を考慮するとしても,原告の標準構成明細と被告会社の標準構\成明 細テンプレート(甲86)の類似性は相当に高い。加えて,本件比較表の作成に当\nたっては,そもそも被告P1による原告データサーバからの各種情報の取得は転職 後に被告会社で使用する意図の下に行われたと見られる上,いかに被告P1の経験 等を考慮しても,対応する原告の標準構成明細を実際に確認しなければ正確な数値\nまでは再現できないと思われることから,被告P1は,これを確認したものとうか がわれる。そのような被告P1が,被告会社の標準構成明細の書式作成に当たり原\n告の標準構成明細を敢えて参考にしないと考えることは不合理である。\nその他被告らが縷々主張する点を踏まえても,この点に関する被告らの主張は採 用できない。

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平成31(ワ)2210 特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年8月11日  東京地方裁判所

 東京地裁(46部)は、コンピュータ関連発明について、技術的範囲に属すると判断しました。なお、被告は無効理由を主張しましたが、該当しないと判断しています。

 本件発明1−1の特許請求の範囲の記載をみると,本件発明1−1は, 「患者を識別するための第1患者識別情報を端末装置より取得する第1 取得部と」(構成要件1−1A),「前記第1患者識別情報と,患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否\nかを判定する第1判定部と」(構成要件1−1B)を有するものであり,第1判定部において第1判定をする。また,「前記第1判定部で一致すると\n判定された場合に,看護師または医師を識別するための第1医師等識別情 報を前記端末装置から取得する第2取得部と」(構成要件1−1D),「前記第1医師等識別情報と,看護師または医師を識別する情報としてあらか\nじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判 定部と」(構成要件1−1E)を有するものであり,第2判定部において第2判定をする。\n
ここで,第1判定と第2判定の関係について,特許請求の範囲には,「前 記第1判定部で一致すると判定された場合に」(構成要件1−1D),第1医師等識別情報が取得されて第2判定がされることが記載されている。こ\nのことから,第1判定で一致すると判定されることが,第2判定がされる ことの前提であることが記載されているといえる。もっとも,第1判定と 第2判定との時間的な接着性の有無等についての記載はない。 そこで,本件明細書1をみると,本件明細書1には,実施の形態1ない し4が記載されている。実施の形態1では,第1判定や,第1判定で一致 するとの判定がされて患者の医療情報を出力することについての実施の 形態(構成要件1−1Aないし1−1C)が記載されているが,第1判定で一致するとの判定がされた直後に第2判定がされるとか,第1判定は,\n第2判定がされる都度にされるものであるなど,第1判定と第2判定の時 間的関係やその機会についての記載はない。そして,実施の形態1では, 患者が,患者の手に巻いており識別情報を含むリストバンドのバーコード を端末装置の撮像部で撮像することによって第1判定がされる(段落【0 045】)。そして,第1判定で一致するとの判定がされた場合には,「患者 用画面」が生成,表示され(段落【0047】ないし【0050】),患者用画面には検査の予\定や患者への注意事項が表示されるなどし(【004\n3】【図7】,患者はその画面を確認することで患者に対して行われる医療 行為等を知ることができ(段落【0019】),その患者用画面に対し,患 者が,例えば,検査ボタンをタッチすると検査名欄や検査説明欄が表示された検査表\示画面が生成,表示されることが記載されている(段落【00\n51】等)。また,第1判定で一致するとの判定がされて患者用画面が表示(ステップS21)されると検査ボタンや手術ボタンの入力を受け付ける\nようになり,その入力がされた場合には対応する画面の表示処理がされるが,入力がされなかったり,上記対応する画面の表\示処理がされたりした後には,患者用画面の表示に戻ることが記載されている(段落【0065】ないし【0068】,【図12】)。\n
実施の形態2は,看護師が患者の医療情報を確認するための看護師専用 画面を表示部に表\示する実施の形態であり,主に構成要件1−1Dないし1−1Fに対応する実施の形態が記載され,特に説明する構\成等以外は実施の形態1と同じであることが記載されている(段落【0088】)。そこ では,患者用画面が表示部に表\示された後,看護師が,自身のリストバン ドに記載されたバーコードを撮像部で撮像し,第2判定がされることが記 載されている(段落【0091】)。また,第2判定が一致した場合には医 療スタッフ用画面が表示されるところ,医療スタッフ用画面である看護師専用画面,バイタル画面等の表\示後に終了処理(ステップS120)がされると,患者用画面の処理(ステップS23)に移ることが記載されてい る(段落【0122】【図26】【図12】)。そこには,上記の他に,第1 判定と第2判定との関係についての記載はない。 また,実施の形態3は主に第1判定に関係する記載であり(ただし,請 求項2に関する形態),実施の形態4は,第2判定に関係する記載である が,それらの記載も含めて,本件明細書1に,第1判定と第2判定との時 間的接着性についての記載はない。 本件明細書1における背景技術や発明が解決しようとする課題の記載 によれば,医療情報を医療用サーバから取得し,取得した医療情報に基づ いてピクトグラムを表示する端末装置という従来技術ではセキュリティを確保することが難しかったところ,本件発明1−1は,セキュリティを\n従来技術より向上させることができるというものである(段落【0003】 ないし【0006】)。本件明細書1には,本件発明1−1について,上記 のとおり,従来技術よりセキュリティを向上させることが記載されている が,その記載のほかには従来技術と比較した優れた効果についての記載は ない。
以上の特許請求の範囲の記載や本件明細書1の記載に照らせば,第2判 定は,第1判定で一致すると判定された場合にされるものである。しかし, 本件明細書1には,実施の形態として,患者がその手に巻いているリスト バンドのバーコードを端末装置の撮像部で撮像することによって第1判 定がされ,一致すると判定された場合に患者用画面が表示され,それに対して患者が一定の操作をする形態が記載されている。そして,患者用画面\nの表示後に,医療スタッフがそのリストバンドのバーコードを撮像部で撮像することで第2判定がされ,そこで一致すると判定されると医療スタッ\nフ用画面が表示されるが,その終了処理後は,患者の医療情報を表\示する 患者用画面の表示に戻ることも記載されている。これらに照らすと,本件発明1−1において,第2判定がされるのは,第1判定で一致すると判定\nされた場合ではあるが,第1判定で一致するとされた後に患者による一定 の操作がされ,その後に第2判定がされることや,第1判定で一致すると 判定されて第2判定がされて第2判定で一致するとされて看護師等が必 要とする医療情報を含む表示画面が出力された後に,第1判定で一致すると判定された後と同じ,患者の医療情報を表\示する患者用画面に戻り,その状態から再び第2判定がされることがあり得ることが記載されている といい得る。
以上によれば,本件発明1−1において,第2判定がされるのは第1判 定で一致すると判定された場合であるが,第1判定がされるのは第2判定 がされる直前に限られるとか,第2判定がされる前にその都度第1判定が されるとは限られないと解するのが相当である。このように解したとして も,第1判定がされてそこで一致すると判定されない限り第2判定はされ ず,第2判定において一致すると判定されない限り看護師等が必要とする 医療情報を含む表示画面が表\示されることはないから,本件明細書1に記 載されたセキュリティの向上という効果を奏するといえる。

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令和1(行ウ)527  手続却下処分取消等  その他  行政訴訟 令和2年8月20日  東京地方裁判所  棄却

 期間徒過後に提出した国内書面について、特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるかが争われました。東京地裁(47部)は正当理由には該当しないと判断しました。

2 争点1(原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出できなかったこ とにつき,特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるか否か)に ついて
(1) 法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるときとは,特段の事情 のない限り,国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。以下同じ。)として, 相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間 内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうものと解する のが相当である(知財高裁平成28年(行コ)第10002号同29年3月7 日判決・判例タイムズ1445号135頁参照。)。
(2) これを本件について見るに,本件事務員は,本件日本事務所に対し,本件 メールを送信後,数分後に送信の不奏功を告知する本件送信エラー通知を受 けていたにもかかわらず,また,ほぼ同時刻に送信した他の5箇所の代理人 事務所からは送信と同日中に受信確認メールの送信を受けた一方で,本件日 本事務所からは受信確認メールの送信を受けていなかったにもかかわらず, 国内提出期間が徒過するまで,本件日本事務所に対して,本件指示メールの 受信確認等を一切行わなかったものである。さらに,本件事務員を監督する 立場にあった本件現地事務所代理人は,本件指示メールのカーボンコピーの 送信先となっており,同メールを受信できなかった事情が特段見当たらない 以上は同メールを受信していたものと認められるが,その後,国内書面提出 期間の徒過を回避するための具体的な役割を果たした形跡が見当たらない。 これらによれば,本件事務員及び本件現地事務所代理人が相当な注意を尽く していたとは認められないし,本件において「正当な理由」の有無の判断を 左右するに足りる特段の事情があったとも認められない。
(3) これに対し,原告は,法184条の4第4項の「正当な理由」の有無は, 当事者の規範意識を基準とすべきであり,本件においては米国の基準ないし 実務に基づいて判断すべきであるとした上で,本件事務員が,長年の経験を 有し,これまで一度も同様の問題を起こしたことのない者であったこと,本 件現地事務所の期限管理システムの下,本件現地事務所代理人が業務規則に 従い,本件事務員に対し的確な指導及び指示をしていたこと,国内書面提出 期間の終期の徒過を知った直後から,最善を尽くしたことなどを縷々主張す る。
しかしながら,法184条の4第4項の適用の有無は,国内移行手続にお いて判断されるものであるから,同項の「正当な理由」の有無については, 日本における規範・社会通念等を基準に判断されるべきである。また,本件 現地事務所が期限管理システムや業務規則により期限徒過を防止する態勢を 企図していたとしても,本件の事実経過のとおり,本件事務員が本件送信エ ラー通知を受信していたにもかかわらず,本件日本事務所に対して本件指示 メールの受信確認等を一切行わず,期限徒過を生じさせたことからすれば, 結局のところ,本件事務員が業務を適切に行っている限りは問題が生じない が,見落としや錯誤など何らかの過誤を発生させた場合,何らの監督機能や\n是正機能が働くこともなく,問題の発生を抑止できない態勢にとどまってい\nたと言わざるを得ない。また,その余の主張について慎重に検討しても,本 件において,正当な理由の有無の判断に影響を与えるものとはいえない。 以上からすれば,原告の前記主張は,いずれも前記判断を左右するもので はない。
(4) したがって,本件において,原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文 を提出することができなかったことについて,法184条の4第4項所定の 「正当な理由」があるということはできない。

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平成31(ワ)1409  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年7月22日  東京地方裁判所

 治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるかが争われました。東京地裁(40部)は平成11年最判の判断が本件にも該当するとして、特69条が適用されると判断しました。

1 争点1(本件治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明 の実施」に当たるか)について
(1) 特許法69条1項は「試験又は研究のためにする特許発明の実施」について 特許権の効力が及ばないと規定しているが,その趣旨は,特許法1条に規定さ れた「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発 達に寄与する」ためには,当該発明をした特許権者の利益を保護することが必 要である一方,特許権の効力を試験又は研究のためにする特許発明の実施にま で及ぼすと,かえって産業の発達を損なう結果となることから,産業政策上の 見地から,試験又は研究のためにする特許発明の実施には特許権の効力が及ば ないこととし,もって,特許権者と一般公共の利益との調和を図ったものと解 される。
本件治験が同項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当た るかどうかは,特許法1条の目的,同法69条1項の上記立法趣旨,医薬品医 療機器等法上の目的及び規律,本件治験の目的・内容,治験に係る医薬品等の 性質,特許権の存続期間の延長制度との整合性なども考慮しつつ,保護すべき 特許権者の利益と一般公共の利益との調整を図るという観点から決すること が相当である。
(2) 前記第2の2(8)のとおり,平成11年最判は,後発医薬品について,第三 者が,特許権の存続期間終了後に特許発明に係る医薬品と有効成分等を同じく する後発医薬品を製造して販売することを目的として,その製造につき薬事法 (当時)14条所定の承認申請をするため,特許権の存続期間中に,特許発明\nの技術的範囲に属する化学物質又は医薬品を生産し,これを使用して同申請書\nに添付すべき資料を得るのに必要な試験を行うことは,特許法69条1項にい う「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たり,特許権の侵害とは ならないと判示している。 本件治験の対象とされているT-VECは,前記第2の2(5)のとおり,外国の医 薬品規制当局の製造承認を受け,我が国でブリッジング試験を行っている先発 医薬品であるが,以下のとおり,本件治験についても,平成11年最判の趣旨 が妥当するものと解される。
ア 平成11年最判は,後発医薬品が特許法69条1項にいう「試験又は研究 のためにする特許発明の実施」に当たる理由として,後発医薬品についても, 他の医薬品と同様,その製造の承認を申請するためには,あらかじめ一定の\n期間をかけて所定の試験を行うことを要し,その試験のためには,特許権者 の特許発明の技術的範囲に属する化学物質ないし医薬品を生産し,使用する 必要がある点を指摘する。 本件治験は,外国の医薬品規制当局の製造承認を受け,我が国でブリッジ ング試験を行うものであるが,証拠(乙15)によれば,ブリッジング試験 とは,外国臨床データを新地域の住民集団に外挿するために新地域で実施さ れる臨床試験であり,新地域における有効性,安全性及び用法・用量に関す る臨床データ又は薬力学的データを得ることを目的として行われるもので あって,同試験に当たり,一定の条件に適合する外国臨床データは医薬品の 製造等承認申請書に添付される資料として受け入れられるものの,日本人に\nおける当該医薬品の有効性及び安全性の評価を行うため,原則として,国内 で実施された臨床試験成績に関する資料を併せて提出することが必要であ ると認められる。
そして,本件治験は,T-VECの「日本人被験者における安全性及び有効性を 評価するための試験」(甲8の1・2頁「Official Title」欄)であり,修 正版WHO応答基準を用いたDRR(持続性奏効率)によって評価されるT-VECの 抗腫瘍活性が主要評価項目となっているものと認められる(甲8の1・4頁 「Primary Outcome Measures」欄の2)。このDRRとは,乙14の論文によれ ば,最初の12か月以内に開始する完全奏功(CR:腫瘍が完全に消失するこ と)及び部分奏功(PR:腫瘍が一定の割合以上小さくなること)が6か月連 続して継続した割合として定義されるものであるから,T-VECの製造販売の 承認申請には,日本人被験者にT-VECを投与して,一定の期間をかけて臨床 試験を行うことが必要となる。
そうすると,先発医薬品等に当たるT-VECについても,後発医薬品と同様, その製造販売の承認を申請するためには,あらかじめ一定の期間をかけて所\n定の試験を行うことを要し,その試験のためには,本件発明の技術的範囲に 属する医薬品等を生産し,使用する必要があるということができる。
イ 平成11年最判は,特許権存続期間中に,特許発明の技術的範囲に属する 化学物質ないし医薬品の生産等を行えないとすると,特許権の存続期間が終 了した後も,なお相当の期間,第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果 となるが,この結果は,特許権の存続期間が終了した後は,何人でも自由に その発明を利用することができ,それによって社会一般が広く益されるよう にするという特許制度の根幹に反するとしている。
T-VECについても,前記判示のとおり,その製造販売の承認を申請するた\nめには,あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要するので, 本件特許権の存続期間中に,本件発明の技術的範囲に属する医薬品の生産等 を行えないとすると,特許権の存続期間が終了した後も,なお相当の期間, 本件発明を自由に利用し得ない結果となるが,この結果が特許制度の根幹に 反するものであることは,平成11年最判の判示するとおりである。
ウ 平成11年最判は,第三者が,特許権存続期間中に,薬事法(当時)に基 づく製造承認申請のための試験に必要な範囲を超えて,同期間終了後に譲渡\nする後発医薬品を生産し,又はその成分とするため特許発明に係る化学物質 を生産・使用することは,特許権を侵害するものとして許されないと判示す る。本件治験については,前記のとおり,医薬品医療機器等法の規定に基づい て第I)相臨床試験を行っているところであり,被告が,本件特許権の存続期 間中に,本件特許権の存続期間満了後の譲渡等を見据え,同法に基づく製造 販売承認のための試験に必要な範囲を超えてT-VECを生産等し,又はそのお それがあることをうかがわせる証拠は存在しない。
そうすると,特許権者である原告が本件特許権の存続期間中にその独占的 実施により利益を得る機会は確保されるのであって,それにもかかわらず, 本件特許権の存続期間中にT-VECの製造承認申請に必要な試験のための生産\n等をも排除し得るものと解すると,本件特許権の存続期間を相当期間延長す るのと同様の結果となるが,それは,平成11年最判も判示するとおり,特 許権者に付与すべき利益として特許法が想定するところを超えるものとい うべきである。
エ 以上のとおり,平成11年最判の趣旨は本件治験についても妥当するので, 本件治験は,特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実 施」に当たる。

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平成30(ワ)21448  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年7月9日  東京地方裁判所

 被告製品は構成要件を有していない、さらに、進歩性違反の無効理由ありとの判断されました。同時期に継続していた審取の判断については「証拠が異なる」として、審理再開の 必要なしと判断されました。

イ 本件発明の技術思想(課題解決手段)について
前記(1)によれば,本件発明は,鋼管等を回転して圧入する立坑構築機に\n関し,輸送する際に幅を狭くする必要があったところ,従来技術において は,円弧状歯車片同士の端部が当接されず,その隙間から内部の転動体が こぼれ落ちてしまうため,標準的なベアリングを使用することができない という課題が生じていたので,これを解決するため,構成要件Eに係る構\ 成を採用し,円弧状ベアリング片が隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ ングを構成し,もって,分割して幅方向の寸法を狭くすることができると\n共に,転動体がこぼれ落ちなくなり回転を安定させることができ,標準的 なベアリングを使用して装置を安価に構成することができるようにした\nという技術的思想であるものと認められる。すなわち,本件発明において, 円弧状ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付 ベアリングを構成するという技術的意義を有しているものというべきで\nあり,このことは,前記のとおり,課題解決手段の欄(段落【0011】) において,「円弧状ベアリングは隙間なく接続して環状の歯車付ベアリン グを構成し,内輪及び外輪の間に配置された球やころ等の転動体がこぼれ\n落ちない構造になっている。かかる構\成によって,分割して幅方向の寸法 を狭くすることができると共に,標準的なベアリングを使用して回転を安 定させることができる。」と記載されていることからも根拠付けられるも のである。
ウ 構成要件Eへの被告製品の充足性について\n
しかして,構成要件Eには,円弧状ベアリング片が「それぞれの両端部\nを各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する」との文言が記載され\nているところ,「接続」とは「つなぐこと。つながること。続けること。続 くこと。」を意味するものである(広辞苑第7版)。そうすると,その文言 の一般的意義,上記の本件発明の技術的思想(本件発明において,円弧状 ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ ングを構成するという技術的意義を有しているものであること)に照らせ\nば,環状の歯車付ベアリングを構成するために隙間なく接続する部品,す\nなわち,つなぐ部品が円弧状ベアリング片であって初めて,円弧状ベアリ ング片が「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構\n成する」といえるものであると解するのが相当である。そうすると,環状 の歯車付ベアリングを構成した際に,円弧状ベアリング片の両端部に隙間\nが有るならば,「接続」とは評価し難いものというべきである。 しかるに,前記アによれば,被告製品においては,環状の歯車付ベアリ ングは,2つある分割フレーム14に設けられた内外輪部ケースそれぞ れの両端部及び回転リング部材51−3,51−4それぞれの両端部を 隙間なく接続して構成するものであって,分割内輪部23や分割外輪部\n24それぞれの両端部を隙間なく接続するものでも,つなぐものでもな く,円弧状ベアリング片である円弧状部材36,37それぞれの両端部 には,客観的に隙間があるから,被告製品の円弧状部材36,37は 「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成す\nる」ものであるとはいえず,被告製品は,構成要件Eを充足しないもの\nというほかない。
・・・
以上によれば,本件特許は当業者が乙2発明に基づいて容易に発明するこ とができたもの(特許法29条2項)であるから,特許無効審判により無効 にされるべきもの(同法123条1項2号)である。 なお,本件特許については,知的財産高等裁判所令和2年(行ケ)第10 102号事件同2年3月24日判決(裁判所ホームページ)が,特許無効審 判請求の不成立審決に対する取消請求を棄却しているところ,原告は,これ を理由として,口頭弁論再開の申立てをしているが,同判決は,乙2発明を\n主引用発明とし,乙20発明を副引用発明として適用することに基づく進歩 性の欠如については判断しておらず,上記判断は同判決と矛盾するものでは ないから,再開の必要性は認められない。

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令和1(行ケ)10165 特許権  行政訴訟 令和2年11月5日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項か否か争われました。知財高裁(3部)は、新規事項であるとした審決を取り消しました。クレームに追加した「透光性を有する」との記載について、明細書に明示的な記載がありませんでしたが、裁判所は自明事項である認めました。

2 本件補正の適否について
(1) 前記第2の2のとおり,本願発明に係る特許請求の範囲については,本件 出願時には「通気性が確保された不織布又は織布からなるカバー体」と記載 されていたものが,本件補正後には「通気性及び通水性が確保され且つ透光 性を有する不織布又は織布からなるカバー体」へと記載が変更されたもので あり,本件カバー体につき,「通水性」及び「透光性」を有する旨の記載が追 加されたものといえる。 そして,上記1のとおり,本件当初明細書等には,本件カバー体が通水性 を有する旨の記載(【0035】)は存するものの,「透光性を有する」との事 項に対応する明示的な記載は存しない。 そこで,本件カバー体が「透光性を有する」との事項が,本件当初明細書 等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて,以下,検討する。
(2) 工業分野一般において,透光性とは,物質を光が透過して他面から出るこ とをいう(JIS工業用語大辞典第5版(乙1))ところ,本願発明の技術分 野における「透光性」の用語が,これと異なる意味を有するものとみるべき 事情は存しない。 そうすると,本件カバー体が「透光性を有する」とは,本件カバー体が光 を透過させて他面から出す性質を有することを意味するものといえる。
(3) 次に,上記1のとおり,本件カバー体は織布又は不織布から構成されると\nころ,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する技術常識につい て検討する。 証拠(甲23,24)及び弁論の全趣旨によれば,本件出願よりも前の時 点において,遮光カーテンの生地に遮光性能を付与するために,有彩色の生\n地に黒色の生地を重ねて二重にする,有彩色の糸と共に黒色の糸を使用して 生地を製造する,黒色顔料を配合した塗料を生地に塗布積層する,黒色顔料 を配合したプラスチックフイルムを生地に張り合わせるなどの方法が採られ ていたことが認められる。また,証拠(乙4,10)及び弁論の全趣旨によ れば,本件出願よりも前の時点において,織布である樹木の萌芽抑制シート の遮光性を高めるために,糸材にカーボン粉末が練り込まれた黒色糸を使用 する方法が採られたり,織布又は不織布である野生動物侵入防止用資材の遮 光率を高めるために,繊維間又は糸条間の間隔を小さくして光を通しにくく する方法が採られたりしていたことが認められる。 このように,本件出願よりも前の時点において,織布又は不織布に遮光性 能を付与するために,特殊な製法又は素材を用いたり,特殊な加工を施した\nりするなどの方法が採られていたことからすれば,本件出願時において,織 布又は不織布に遮光性を付与するためにはこのような特別な方法を採る必要 があるということは技術常識であったといえる。そうすると,このような特 別な方法が採られていない織布又は不織布は遮光性能を有しないということ\nもまた,技術常識であったとみるのが相当である。 そして,繊維分野において,遮光性能とは,入射する光を遮る性能\をいう (「JISハンドブック 31 繊維」(乙8))から,遮光性能を有しないと\nいうことは,入射する光を遮らずに透過させること,すなわち上記(2)の意味 における「透光性」を有することを意味することとなる。 以上検討したところによれば,織布又は不織布について遮光性能を付与す\nるための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は不織布は透光性を 有するということが,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する 技術常識であったとみるのが相当である。
(4) 以上を前提として,本件カバー体が「透光性を有する」との事項が,本件 当初明細書等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて検討する。 上記(3)によれば,本件出願時における当業者は,織布又は不織布について 遮光性能を付与するための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は\n不織布は透光性を有するものであると当然に理解するものといえる。 そして,上記1のとおり,本件当初明細書等には,織布又は不織布から構\n成される本件カバー体につき,遮光性能を有する旨や遮光性能\を付与するた めの特別な方法が採られている旨の明示的な記載は存せず,かえって,本件 カバー体が通気性や通水性を有する旨の記載(【0035】)や,本件カバー 体の表面の少なくとも一部は本件カバー体を構\成する材料がそのまま露出し, 通気性や通水性を妨げる顔料やその他の層が形成されていない旨の記載(【0 036】)が存するところである。 このような本件当初明細書等の記載内容からすれば,当業者は,本件カバ ー体を構成する織布又は不織布について,特殊な製法又は素材を用いたり,\n特殊な加工が施されたりするなど,遮光性能を付与するための特別な方法は\n採られていないと理解するのが通常であるというべきである。 そうすると,本件当初明細書等に接した当業者は,本件カバー体は透光性 を有するものであると当然に理解するものといえるから,本件カバー体が「透 光性を有する」という事項は,本件当初明細書等の記載内容から自明な事項 であるというべきである。
(5) 以上によれば,本件補正は,本件当初明細書等の全ての記載を総合するこ とにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入す るものではなく,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたも のといえるから,特許法17条の2第3項の要件を満たすものと認められる。

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令和2(行ケ)10005 特許権  行政訴訟 令和2年11月10日  知的財産高等裁判所

 特29−2違反に対して、先願は未完成発明と主張しましたが、知財高裁(1部)はこれを退けて、拒絶審決を維持しました。

 ア 原告は,当業者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度に まで具体的・客観的なものとして構成されていないいわゆる「未完成発明」は,特\n許法29条の2における「他の特許出願‥の発明」に当たらず,後願排除効を有さ ないとし,甲1明細書に記載された発明は発明として未完成であると主張する。
イ そこで判断するに,特許法184条の13により読み替える同法29条の2 は,特許出願に係る発明が,当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録 出願であって,当該特許出願後に特許掲載公報,実用新案掲載公報の発行がされた ものの願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書等」という。)に記 載された発明又は考案と同一であるときは,その発明について特許を受けることが できないと規定する。 同条の趣旨は,先願明細書等に記載されている発明は,特許請求の範囲以外の記 載であっても,出願公開等により一般にその内容は公表されるので,たとえ先願が\n出願公開等をされる前に出願された後願であっても,その内容が先願と同一内容の 発明である以上,さらに出願公開等をしても,新しい技術をなんら公開するもので はなく,このような発明に特許権を与えることは,新しい発明の公表の代償として\n発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でない,というものである。 このような趣旨からすれば,同条にいう先願明細書等に記載された「発明」とは, 先願明細書等に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握され る発明をいい,記載されているに等しい事項とは,出願時における技術常識を参酌 することにより,記載されている事項から導き出せるものをいうものと解される。 したがって,特に先願明細書等に記載がなくても,先願発明を理解するに当たっ て,当業者の有する技術常識を参酌して先願の発明を認定することができる一方, 抽象的であり,あるいは当業者の有する技術常識を参酌してもなお技術内容の開示 が不十分であるような発明は,ここでいう「発明」には該当せず,同条の定める後願\nを排除する効果を有しない。また,創作された技術内容がその技術分野における通 常の知識・経験を持つ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術 効果をあげることができる程度に構成されていないものは,「発明」としては未完成\nであり,特許法29条の2にいう「発明」に該当しないものというべきである。
ウ これを本件についてみると,・・・・
エ 以上によれば,ガラス合紙の,シリコーンのポリジメチルシロキサンであ る有機ケイ素化合物の含有量を3ppm以下,好ましくは1ppm以下で,0. 05ppm以上とした先願発明は,ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケ イ素化合物に起因する配線の不良等を大幅に低減でき,特にポリジメチルシロキ サンがガラス板に転写され,より配線や電極の不良等が発生し易くなることを抑 制できるものであって,先願発明の目的とする効果を奏するものであること,そ のようなガラス合紙は,ポリジメチルシロキサンを含有する消泡剤を使用しない で製造したパルプを原料として用い,ガラス合紙の製造工程において,パルプの 洗浄,紙のシャワー洗浄,水槽を用いる洗浄や,これらを2種以上行う方法によ り製造できること,以上のことが理解できる。
そうすると,先願発明は,創作された技術内容がその技術分野における通常の知 識・経験を持つ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果を あげることができる程度に構成されたものというべきである。\nよって,先願発明は,特許法29条の2にいう「発明」に該当し,未完成とは いえないから,同条により,これと同一の後願を排除する効果を有する。

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令和1(行ケ)10153  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年11月11日  知的財産高等裁判所

用語「臀部の頂上部よりも上側」とはいかなる位置かが争われました。裁判所は、拒絶審決を維持しました。

 1) 以上によれば,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)及び本願 明細書には,本願発明1の「臀部の頂上部よりも上側」は,「下方窄ま\nり」の状態の設定の開始位置(起点)を規定したものであることの開示 はあるが,その用語の意義や技術的意義について述べた記載はない。 しかるところ,「頂上」の用語は,一般に,「いただき,てっぺん」 などを意味すること(広辞苑(第七版)),ヒップサイズの寸法は,人 体を側方から見て臀部が最も後方に突き出している位置(最も高い位置)\nをメジャーで測定するのが一般的であることに鑑みると,本願発明1の 「臀部の頂上部よりも上側」にいう「臀\部の頂上部」の用語は,臀部が\n最も後方に突き出している位置(最も高い位置)を意味するものと理解 することができ,身頃の展開状態(展開平面図)においては,その位置 は,「臀部における点」として観念できるものと解される。\n
そうすると,本願発明1の「臀部の頂上部よりも上側」は,臀\部が最 も後方に突き出している位置(最も高い位置)よりも,上方であれば, それが多少の上方であっても,「臀部の頂上部よりも上側」に含まれる\nものと解される。
イ これに対し原告は,本願明細書の記載(【0010】,【0013】等) によれば,相違点1に係る本願発明1の構成は,下方窄まりにする領域の\n開始位置(臀部の形状と不整合にする領域の開始位置)を「臀\部の頂上部 よりも上側」に設定(相違点1に係る本願発明1の構成)し,この設定に\nより,生地が「臀部の頂上部」に対して「下方窄まり」の形状で接するこ\nとになるため,「臀部の頂上部」を押圧する力には上向きの成分(上向き\nのベクトル)が含まれることになり,これが臀部の頂上部をも上方に持ち\n上げる作用を果たすので,「ショーツ等衣料のヒップ下部該当部位周りを ヒップ下部体形にフィットすべく絞ることができ」,「背面覆い部分の下 部がヒップ下部の膨らみ体形にぴったり合って該下半分を絞り込むように 深く包み込むことができる」という作用効果を奏する旨主張する。 しかしながら,前記ア認定のとおり,本願明細書の【0010】及び【0 013】の記載は,「下方窄まり」の状態に設定した構成によれば,ヒッ\nプ下部体形の半球形状の下半分を深く立体的に包み込むことができるので, ヒップ下部へのフィット性に優れ,ヒップ裾ラインのずり上がりを確実に 防止できるとともに,直立姿勢時にショーツ等衣料のヒップ下部や臀溝部\nに相当する個所に弛み皺やだぶつきが発生することが無くなり,美しいヒ ップ裾ラインを出すことことができるという効果を奏する旨を開示するも のであるが,本願明細書には,この効果が「下方窄まり」の状態の設定の 開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」としたことによるもので\nあることについての記載はない。
また,前記ア認定のとおり,本願明細書には,本願発明1の「臀部の頂\n上部よりも上側」の具体的な位置を示した記載はないし,「下方窄まり」 の状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とするこ\nとの技術的意義について述べた記載もない。ましてや,「下方窄まり」の 状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とすること\nによって,生地が「臀部の頂上部」に対して「下方窄まり」の形状で接す\nることになるため,「臀部の頂上部」を押圧する力には上向きの成分(上\n向きのベクトル)が含まれることになり,これが臀部の頂上部をも上方に\n持ち上げる作用を果たすことについては,記載も示唆もない。 したがって,原告の上記主張は,本願明細書の記載に基づかないもので あるから,採用することができない。

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平成29(ワ)11462  商標権侵害行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和2年7月29日  東京地方裁判所

 スニーカーの側面に付与されている「X」について商標権侵害が認められました。販売時における38条2項損害について、約460万円が認められました。商標的使用も論点となっています。

◆イ号および本件商標


 原告各商標と被告各標章の外観を比較すると,上記のとおり,それぞれ1)英 文字の「X」型十字が左側(反時計回り方向)に傾いた形で組み合わされた2本の帯からなり,2)帯状線の輪郭が鋸歯状であるという点において共通しており,被告 各標章の外観は,原告各商標の外観と,その識別力の強い部分において共通する特 徴を有しているといえる。 他方で,被告各標章は,3)右上から左下に伸びる帯が左上から右下に伸びる帯の 上に重なっており,4)各帯の輪郭線に沿って,その内側にステッチがそれぞれ2本 施されているとの点で原告各商標とは異なる特徴を有しているが,同色の帯の重な りであって,ステッチも輪郭線の近くに施されているものであるから,いずれも一 見して目立つ特徴であるとまではいえない。また,被告各標章の色彩についても, 商品識別力の強い点とはいえない。 被告は,その他に別紙4被告が主張する原告各商標と被告各標章の外観相違点の とおり,原告各商標と被告各標章との間に,中心点から右下及び左下に伸びる部分 の長さの比,2つの帯のなす角度,帯の端部の形状,帯の太さ等において,相違点 があると主張するが,いずれも,上記1),2)の共通点を前提にすれば,需要者に対 して原告各商標と異なる印象を与えるようなものであるとまではいえない。 これらの争点について,被告は,靴という商品の性質や,被告商品の価格帯・販 売場所からすれば,需要者はそのデザインを細部まで入念に検討する等として,「X」 型十字の標章の細部に相違点がある場合には外観上類似性がないと判断されるべきと主張するが,上記に説示した内容に照らせば,この主張は採用することができな\nい。 したがって,被告各標章は,いずれも,原告各商標とその外観において類似する というべきである。
イ 前記(2)及び(3)のとおり,原告各商標と被告各標章は,いずれも特定の称 呼・観念が生じるものではなく,これらが著しく相違するとは認められない。 また,本件証拠上,原告各商標と被告各標章につき,上記の外観の類似性にかか わらず,商品の出所を誤認混同するおそれがないとするような取引の実情等がある とも認められない。被告商品の価格帯・販売場所などの被告の指摘する前記事情に ついて,商品の出所の誤認混同の有無を判断する上で考慮すべき取引の実情として 検討しても,本件について,上記判断を左右するとはいえない。
ウ したがって,被告各標章は,いずれも,原告各商標とそれぞれ類似するとい うべきである。
2 争点2(非商標的使用(商標法26条1項6号)該当性)について
(1) 被告各標章は,別紙2被告標章目録のとおりであり,前記第2の2(3)イで 示したとおり,いずれも靴の甲の側面において,側方から見て概ね中央の位置に付 されている。 上記の位置は,靴の外観において特に目立つ部分ということができ,証拠(乙1, 2,4,5,6,7,12)によれば,靴において,当該部分に商標を付すことは 一般的に行われていることが認められる。また,証拠(甲26,27)及び弁論の 全趣旨によれば,被告商品を製造したミュニック社においては,スニーカー様の靴 の側面の中央の位置に傾いた「X」型十字を表\\示した平面図状の標章について国際 商標登録をしていたことも認められる。 そうすると,上記の位置に目立つ大きさで付されている被告各標章については, 商品識別機能を果たすものとして使用されていると認めるのが相当である。
(2) 被告は,被告商品においては,被告各標章の他にも,ミュニック社が商標登 録した別の標章の一部が,商品そのもの,包装箱及びタグに記されており,被告各 標章は単なるデザインとして使用されているにすぎない等と主張するが,他の登録 商標が付されていることによって,当然に被告各標章が商品識別機能を有しないということはできない上,証拠(乙13)によっても,被告商品に付されている他の\n登録商標(乙14)は,その位置や大きさからして被告各標章よりも際だって目立 つものであるとは認められず,そうであれば,被告商品に付されている他の登録商 標の使用は,被告各標章が商品識別機能を果たすものとして使用されている旨の前記判断を左右するものではなく,被告の上記主張は採用することができない。また,\nミュニック社商品において,被告各標章を使用していないスニーカーがあること (乙15,16)によっても,被告商品に付された被告各標章に出所識別機能がないということはできない。\n被告は,ミュニック社以外の靴について,「X」型十字が単なるデザインとして付されているものがあると主張するが,証拠(乙1)によれば,被告が他の靴に付さ\nれていると指摘する「X」型十字は,その形状や位置において,被告各標章とは大きく異なるものであり,この点の指摘も上記(1)の結論を左右するものとはいえない。
(3) 以上によれば,被告商品に付された被告各標章が,需要者が何人かの業務に 係る商品である認識することができる態様により使用されていない商標(商 標法26条1項6号)に該当するとはいえない。
3 商標権侵害の有無についてのまとめ
以上によれば,被告商品は原告各商標権の指定商品に含まれるところ,被告各標 章はいずれも原告各商標とそれぞれ類似し,被告各標章の使用について商標法26 条1項6号によって原告各商標権の効力が及ばないとはいえないから,被告が,被 告各標章を付した被告商品を輸入し,販売することは,原告各商標権を侵害するも のとみなされる(商標法37条1項1号)。
4 争点3(原告の損害)について
(1) 商標法38条2項の適用の有無について
被告は,原告は対象期間のうち,少なくとも平成27年10月25日までの期間 については,原告各商標を使用したスニーカーを販売していなかったとして,同期 間の損害については,商標法38条2項は適用されないと主張する。 しかしながら,証拠(甲183)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,対象期間 を通じて,英文字の「X」型十字が左側(反時計回り方向)に傾いた形で組み合わされた2本の帯状線からなり,帯状線の輪郭が鋸歯状であるという特徴を持つ,原\n告各商標と同一又は類似する標章を甲の側面部分に付したスニーカーを販売してい たものと認められる。 このように対象期間において原告が被告商品と競合する商品を販売していたこと からすれば,原告には,被告による被告商品の輸入販売行為がなかったならば利益 が得られたであろうという事情が存在すると認められ,対象期間中の原告の損害額 の算定については商標法38条2項の適用があるというべきである。
(2) 被告が侵害の行為により受けた利益について
ア 利益の意義
被告商品の輸入販売について,商標法38条2項所定の侵害行為により被告が受 けた利益の額は,被告商品の売上高から,被告において被告商品を輸入販売するこ とによりその輸入販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利 益の額である。
イ 事実認定
前記の前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告商品の輸入販売状 況及び売上高,経費等について,以下の事実が認められる。
(ア) 被告商品を含むミュニック社商品の輸入及び販売
被告は,遅くとも平成26年2月3日以降,被告商品を含むミュニック社商品を, ベルネダ社から輸入し,靴流通問屋や百貨店等に卸売していた(乙19,25,2 6)。 被告における対象期間中のミュニック社商品全体の販売額は,総額●(省略)● 円であった(乙20,21)。
(イ) 被告によるミュニック社商品の費用に関する管理
被告は,平成26年11月1日にミュニック社商品のみを扱うミュニック事業部 を設立し,同日以降はミュニック事業部において輸入販売の管理を行っていた。被 告は,ミュニック社商品について,同事業部の設立の前後を通じて商品別又は品番 別の経費の管理はしていなかった(乙19)。
(ウ) 被告商品の販売数量
被告商品については,別紙3被告商品販売一覧表記載のとおり,被告各標章のうち「標章番号」欄記載の番号の標章が付された「商品名」,「品番」欄記載の商品名,品番を有するスニーカーを,それぞれ同別紙記載の数量輸入していた(弁論の全趣\n旨)。 また,平成29年4月7日時点の被告商品の在庫は別紙3被告商品販売一覧表の「在庫数量(4/7)」欄の記載のとおりであり(合計●(省略)●足),この在庫\nとは別に,被告は,同年9月ころに,輸入した被告商品のうち同別紙の「2017 /9/15返品」との記載の下に記載された数量(合計●(省略)●足)を仕入先 に返品した。 そうすると,対象期間中の被告商品の販売数は,輸入数量から上記の在庫数量及 び返品数量を控除した同別紙の「販売数量」欄記載の数量(その合計は●(省略) ●足)である(弁論の全趣旨)。
(エ) 被告商品の販売価格
被告商品それぞれの消費者への販売価格については,別紙3被告商品販売一覧表の「上代」価格のとおりである(被告商品の消費者への販売価格が1万5000円\nないし2万1000円程度であったとの当事者間に争いのない事実,弁論の全趣旨)。 そして,被告は,被告商品を靴流通卸問屋や百貨店に,上記の「上代」価格に別 紙3被告商品販売一覧表の「掛率」欄記載の割合を乗じた「販売価格」欄記載の価格で販売していた(乙19,25,26,弁論の全趣旨)。\n
(オ) 被告商品の仕入額
被告商品の1個当たりの仕入価格は別紙3被告商品販売一覧表の「輸入平均単価」欄に記載の金額であり,前記(ウ)の被告商品の販売数に対応する仕入額は同別紙の 「仕入額」欄記載のとおりとなり,合計額は●(省略)●円である(弁論の全趣旨)。 (カ) 諸掛(外注費)について 被告は,対象期間中に,ミュニック社商品の輸入販売に関して,被告での会計処 理において「諸掛(外注費)」の勘定科目において,「加工料」,「運賃」,「付属代」, 「関税」と「雑費」に分類した費用を次のとおり支出し,その合計は●(省略)● 円である(乙19,53,93,弁論の全趣旨)。
a 加工料について
加工料に分類された費用は●(省略)●円であり,これは主に輸入したミュニッ ク社商品を販売するための納品,入出庫,梱包等の作業のために被告が支払った費 用である(乙53,79,93,弁論の全趣旨)。このうち,商品値引き費用につい ては,ミュニック社商品を百貨店が値引販売した際に,被告が値引額を負担したも のである(乙19,弁論の全趣旨)。
b 運賃について
運賃に分類された費用の合計額は●(省略)●円であり,これは主に輸入の際の 運送費,海上運賃,航空運賃等として被告が支払った費用である(乙53,81〜 85,93,弁論の全趣旨)。 また,このうちTQ使用料については,革製品の輸入の際にその数量に応じて必 要となるものである(乙85,弁論の全趣旨)。
c 付属代について
付属代に分類された費用の合計額は●(省略)●円であり,これはミュニック社 商品の販売に当たって被告が付していたタグや袋等の購入費用である(乙53,8 0,93,弁論の全趣旨)。
d 関税について
関税に分類された費用の合計額は●(省略)●円であり,これはミュニック社商 品の輸入の際に支払った関税である(乙53,81〜83,86,87,93,弁 論の全趣旨)。
e 雑費について
雑費に分類された費用の合計額は●(省略)●円であり,これは,主にミュニッ ク社商品の輸入手続を依頼した業者に支払った通関料や手数料(取扱料)等の費用, 前記c及びdに計上されなかったTQ使用料や袋代,ミュニック社商品に付した輸 入保険料である(乙53,81,86〜88,93,弁論の全趣旨)。
(キ) 広告費について
被告は,対象期間中に,「広告費」の勘定科目において,ミュニック社商品の宣伝 のためのダイレクトメール作成費用,展示会や百貨店での催事に要した費用として 合計●(省略)●円を支出した(乙19,22〜24,54,63〜72,94, 弁論の全趣旨)。このうち,被告商品の写真のみを大きく扱ったダイレクトメールが 作成されていたことがある(乙22)。
(ク) 運賃について
被告は,対象期間中に,ミュニック社商品に関し,「運賃」の勘定科目において, 運送費,倉庫における入庫・梱包等に係る倉庫費用・出荷作業料,検品検査代その 他の国内での運送及び保管の費用として●(省略)●円の出費をした(乙19,5 5,89〜92,95,弁論の全趣旨)。
(ケ) 販売手数料について
被告は,対象期間中に,「販売手数料」の勘定科目において,ミュニック社商品の 販売に関して販売業務及び営業業務を委託した業務委託費用として,合計●(省略) ●円を支出した(乙56,96,弁論の全趣旨)。また,被告はミュニック社商品の 販売活動等に関してAとの間で業務委託契約を締結していた(乙27,弁論の全趣 旨)。
(コ) 荷造包装費について
被告は,対象期間中に,「荷造包装費」の勘定科目において,段ボール代,梱包テ ープ等のミュニック社商品の梱包資材費用として●(省略)●円の上記支出をした (乙57,97,弁論の全趣旨)。
(サ) 保険料について
被告は,対象期間中に,「保険料」の勘定科目において,ミュニック社商品の販売 に関して,火災保険料,損害保険料及び輸入保険料(ただし前記(カ)eで計上されな かったもの)として合計●(省略)●円を支出し,また,海外出張の際の傷害保険 料として●(省略)●円を支出した(乙19,58,98,弁論の全趣旨)。 このうち,火災保険料,損害保険料,輸入保険料として支出された合計●(省略) ●円については,毎回の保険料が定額でなく,補助元帳上,摘要欄に対象となる商 品数が記載されているものがある(乙58)。
(シ) 旅費交通費について
被告は,対象期間中に,「旅費交通費」の勘定科目において,ミュニック社商品の 営業等に要した交通費,国内出張費及び海外出張費として合計●(省略)●円を支 出した(乙59,99,弁論の全趣旨)。
(ス) 見本費について
被告は,対象期間中に,「見本費」の勘定科目において,ミュニック社商品販売の ためのサンプル購入費用や,スニーカーに関する書籍の購入費用として合計●(省 略)●円を支出した(乙60,100,弁論の全趣旨)。
(セ) 雑損失について
被告は,対象期間中に,「雑損失」の勘定科目において,為替予約を解約した際に発生した費用として,「為替予\約解約損」●(省略)●円を計上している(乙61,弁論の全趣旨)。
(ソ) 特別損失について
被告は,対象期間中に,「特別損失」の勘定科目において,ミュニック社商品を販 売していた恵比寿三越伊勢丹に支払った費用(広告費用,撤退費用,撤退違約金, B氏特別退職金)合計●(省略)●円を「恵比寿店舗撤退違約金」,「恵比寿店舗費 用等」,「恵比寿店舗撤退費用」及び「特別退職金」として計上している(乙32, 弁論の全趣旨)。
ウ 事実認定の補足
(ア) 輸入数量について,原告は,被告から,被告各標章が付された商品のインボ イスとして,被告商品の品番についてマスキングをした上で開示を受けたものの, 開示資料に裏付けられる前記イ(ウ)認定の数量以外にも,被告商品の輸入数量がある 旨を主張するが,原告が被告商品に関するインボイス等を対象として行った文書提 出命令の申立ては,後記5のとおり必要性がなく,その他,原告の主張を認めるに足りる証拠はない。\nまた,被告標章19を付した商品については,原告がその商品の商品名及び品番 として特定する「MASSANA」及び「862015」と,被告標章3の2を付 した商品の商品名及び品番とが同一であり,外観も,被告標章3の2を付した商品 とソールの色を除いて類似していると認められる(甲11,198,弁論の全趣旨)踏まえると,被告標章3の2を付した商品の輸入に関して被告から原告に開\n示され,それに沿うものとして認められる前記イ(ウ)の数量とは別に,輸入された事 実やその数量はないと考えることが自然であって,これを認めるに足りる証拠はな い。
(イ) 前記イ(カ)ないし(ソ)認定の費用を超えて,ミュニック社商品に関する費用を 認めるに足りる証拠はない。
エ 検討
前記イの認定事実を基に,限界利益の額を検討する。
(ア) 被告商品の売上高
前記イ(ウ)及び(エ)によれば,対象期間における被告商品の売上高は,別紙3被告 商品販売一覧表の「売上高」欄のとおりであり,合計●(省略)●円である。
(イ) 売上高から控除すべき経費
a 売上高から控除すべき経費として,まず,被告商品の仕入額があり,前記イ (オ)のとおり,●(省略)●円である。
b その他,売上高から控除すべき経費としては,前記イ(カ)の外注費,前記イ (キ)の広告費,前記イ(ク)の運賃,前記イ(コ)の荷造包装費及び前記イ(サ)の保険料 (傷害保険料を除く。)のうち,それぞれ被告商品に係る部分が,前記認定した各費 用の性質上,被告商品の輸入販売に直接関連して追加的に必要となったものとして, 該当すると認められる。そして,前記イ(イ)のとおり,被告は,ミュニック社商品の 経費について商品別又は品番別に管理しておらず,上記各費用の被告商品に係る部 分を直接的に示す資料はないことから,ミュニック社商品の販売総額に占める被告 商品の割合,被告商品の輸入数量に占める販売数量の割合などを考慮して,被告商 品に係る費用の額を算出するのが相当であり,これは,次のとおり,合計●(省略) ●円であると認められる。
(a) 外注費については,対象期間中の被告におけるミュニック社商品全体の販売 総額●(省略)●円に占める被告商品の販売総額●(省略)●円の割合(以下,こ の割合を「被告商品の販売総額の割合」ともいう。)が約●(省略)●%であること, 被告商品の輸入数量●(省略)●足のうち対象期間中に販売された数量●(省略) ●足の占める割合が約●(省略)●%である踏まえ,被告商品に係る費用の 額は,全体の●(省略)●円の15%に当たる●(省略)●円と認められる。
(b) 広告費については,上記の被告商品の販売総額の割合が約●(省略)●%で あることに加え,ミュニック社商品の広告宣伝活動の中で,被告商品が取り上げら れた程度や被告商品の広告宣伝のみに要した額を確定し得る証拠はない考慮 し,被告商品に係る費用の額は,全体の●(省略)●円の15%に当たる●(省略) ●円と認められる。
(c) 運賃については,前記(a)において考慮したものと同様の事情のほか,輸入 に要した費用の場合と比較して,国内の運送保管費の場合には,販売されなかった 商品に係る費用の占める割合が少ないと考えられることも考慮し,被告商品に係る 費用の額は,全体の●(省略)●円の20%に当たる●(省略)●円と認められる。
(d) 荷造包装費については,前記(c)において考慮したものと同様の事情を考慮 し,全体の●(省略)●円の20%に当たる●(省略)●円と認められる。
(e) 保険料のうち,火災保険料,損害保険料,輸入保険料として支出された● (省略)●円については,前記イ(サ)において認定した,毎回の保険料が定額でない ことや対象となる商品数の記載が帳簿に示されていることなどの事情を踏まえれば, 輸入販売数量によって変動するものとして控除すべき経費と考えられ,被告商品に 係る費用の額は,前記(a)において考慮したものと同様の事情を考慮し,上記金額の 15%に当たる●(省略)●円と認められる。
c その他の費用については,次のとおり,被告商品の輸入販売に直接関連して 追加的に必要となった経費とはいえず,売上高から控除すべき経費には当たらない。
(a) 前記イ(ケ)の販売手数料は,百貨店のミュニック社商品の売り場へのミュニ ック社商品販売員派遣に関する人件費や交通費といった費用(乙78,弁論の全趣 旨),ミュニック社商品の販売活動等に関する業務委託先への報酬額(乙27,弁論 の全趣旨)であるが,これらの費用と被告商品の販売との関連性などは明らかでは なく,いずれも,被告商品の輸入販売に直接関連する経費とはいえない。
(b) 前記イ(サ)の保険料のうち,前記b(e)でその一部を控除すべき経費と認めた 火災保険料等を除くもの,すなわち傷害保険料は,海外出張費に付随する費用であ り,後記(c)のとおり,海外出張費は控除すべき経費に該当しないことからすれば, 同様に控除すべき経費には該当しないものというべきである。 (c) 前記イ(シ)の旅費交通費のうち,交通費及び国内出張費は,その支出と被告 商品の販売との関連性について具体的な主張立証はなく,控除すべき経費には該当 しない。海外出張費については,被告が提出する出張報告書等(乙28)によって も,これらの海外出張が特に被告商品の輸入販売のために必要となった認め るに足りず,被告商品の輸入販売に直接関連して追加的に必要となった経費とはい えない。
(d) 前記イ(ス)の見本費については,サンプル商品や書籍の購入が被告商品に関 するものであることの具体的な主張立証はなく,被告商品の輸入販売に直接関連す る経費とはいえない。
(e) 前記イ(セ)の雑損失は,為替予約を解約した際に発生した費用であり,その性質からしても,被告商品の輸入販売に直接関連する経費とはいえない。\n
(f) 前記イ(ソ)の特別損失のうち,恵比寿三越伊勢丹に支払った撤退違約金,撤 退費用,営業担当者の特別退職金については,販売不振からミュニック社商品の恵 比寿三越伊勢丹での販売を終了したことによって発生したものにすぎないし,恵比 寿店舗費用等についてはこの発生原因や被告商品との関連性について具体的な裏付 けはないのであって,いずれも,被告商品の輸入販売に直接関連する経費とはいえ ない。
(ウ) 限界利益の額
以上によれば,対象期間における被告商品の輸入販売により,被告が受けた限界 利益の額は,前記(ア)の被告商品の売上高●(省略)●円から,前記(イ)aの被告商 品の仕入額●(省略)●円及び同bのその他の控除すべき経費●(省略)●円を控 除した583万0211円である。
(3) 推定覆滅事由について
ア 証拠(甲68〜77,183〜186)及び弁論の全趣旨によれば,原告は, 自社の商品を,主に靴の量販店やインターネット上の通信販売サイトを通じて販売 し,その小売価格は2000円から6000円程度の商品が中心であり,原告が, 対象期間中に原告各商標と同一ないし類似する商標を付したスニーカー(甲183) を販売した際の売上げは一足当たり3000円程度であったと認められる。 他方で,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品は主に百貨店等の 店頭で販売されたものであり,別紙3被告商品販売一覧表記載のとおり,その小売価格は1万5000円から2万1000円,被告が百貨店等に販売する際の卸売価\n格は●(省略)●円から●(省略)●円であったと認められる。 被告商品の販売による一足平均の限界利益は前記(2)エ(ウ)で認定した583万0 211円を,前記(2)イ(ウ)で認定した販売数量である●(省略)●足で除した● (省略)●円であり,原告が販売した競合品の一足当たりの限界利益を裏付ける証 拠はないが,上記の原告が販売した競合品の価格自体や,被告商品における一足当 たりの売上額が原告による競合品よりも大幅に高かったことからすれば,販売され た商品一足当たりの限界利益についても,被告商品の方が原告の商品よりも大きか ったものと推認される。 このような販売態様や販売価格の違い及び一足当たりの限界利益の違いは,被告 の限界利益額の一部について,商標法38条2項の推定を覆滅すべき事情として考 慮すべきである。
イ 他方で,被告が主張するその他の事情については,以下のとおり,いずれも 商標法38条2項の推定覆滅事情として考慮すべき事情とはいえない。
(ア) 原告が原告各商標を使用しない商品を販売していたことについて 被告は,原告が販売していた商品の多くには,原告各商標と同一又は類似の標章 が付されておらず,被告商品の販売によって,原告の売上げが減少したという関係 にないと主張する。 原告は,原告各商標と同一又は類似する標章を使用したスニーカーを販売してお り,被告による被告商品の輸入販売行為がなかったならば利益が得られたであろう という事情が原告に認められることは前記(1)のとおりであり,原告が上記のスニー カー以外に原告各商標と類似する標章が付されていない靴を販売していたとの事情 は,損害額の推定を覆滅すべき事情に当たるとも認められない。
(イ) 競合品の存在について
被告は,側面に「X」型十字が付された大人用スニーカーは,被告商品の他にも市場に多数存在していると主張するが,証拠(乙1)によれば,被告が他のスニー\nカーに付されていると指摘する「X」型十字は,その形状が被告各標章や原告各商標とは大きく異なるものであり,その他,原告各商標と同一又は類似の標章が付さ\nれた原告又は被告以外によるスニーカーの存在とそのシェアについての具体的な主 張立証はないから,この点も損害額の推定を覆滅すべき事情には当たらない。
(ウ) 被告の営業努力,ブランド力の差等について
被告は,被告商品を販売するための営業努力,原告と被告とのブランド力の差, 原告各商標の訴求力の程度等からすれば,原告各商標の被告商品の売上げへの寄与 率は著しく低いとも主張するが,被告が作成した展示会の資料においてもミュニッ ク社商品については「2014年日本デビュー」との記載がされており,被告が前 記(2)イ(キ)のように被告が広告宣伝活動を行った考慮しても,対象期間中に おける日本においてのブランドの知名度の程度を裏付ける証拠はなく,他方で,証 拠(甲170〜176,180〜182)及び弁論の全趣旨によれば,原告各商標 に関する販売,広告宣伝状況については,平成14年頃から原告各商標と同一又は 類似の標章が付されたスニーカーが原告が許諾した業者によって販売されており, 有名歌手がこれを着用した雑誌広告が掲載されたこともあったとの事情も認められ, これらの点からすれば,上記の被告の主張する各点をもって,推定覆滅事情に当た るとは認められない。
ウ 前記ア及びイで検討した事情によれば,被告商品の輸入販売による原告の損 害については,商標法38条2項の推定を覆滅すべき事情が認められ,その覆滅割 合は2割と認めるのが相当である。
(4) 損害額についてのまとめ 以上によれば,被告商品の輸入販売による原告各商標権侵害について,商標法3 8条2項に基づく原告の損害額は,被告の限界利益である583万0211円の8 割に相当する466万4168円であると認められる。

◆判決本文

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平成28(ワ)35157  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月24日  東京地方裁判所

 少し前の事件です。 損害額の算定について、2件の特許侵害があり、102条2項による額はいずれかの特許の侵害による損害額であると判断されました。

 しかして,前記第2のとおり,原告は,特許第5177317号(本件特 許権1)に基づく請求と,同第5610056号(本件特許権2)に基づく 請求をするところ,両請求の関係は,選択的併合の関係にあるものと解され る。そして,原告は,いずれの請求についても,損害額として,特許法10 2条2項により算定される損害額,弁護士費用相当額及びこれらに対する遅 延損害金を主張するものであるから,仮に本件特許権2の侵害が認められる 場合であっても,本件特許権1の侵害により算定される損害額と,本件特許 権2の侵害により算定される損害額とは,同一の額となるというべきである。 そうすると,本件特許権1の侵害による損害額の算定を行ったものが,原 告の請求の一部認容となる場合も,上記損害額が,仮に被告らの輸入販売等 の行為が本件特許権2を侵害するものであった場合の同侵害による損害額を 下回るものとは認められないものと考えられるから,本件特許権2の侵害や 損害額について判断するまでもなく,本件特許権1の侵害による損害額を, 原告の被った損害としてそのまま認容すべきこととなる。 そこで,原告の損害額として,本件特許権1の侵害による損害額について 検討する。
特許法102条2項により算定される損害額
ア 前記前提条件(4)(5)のとおり ,被告LEDは被告製品に搭載されて販 売されたものであるところ,被告LEDの主な用途は写真撮影時のフラッ シュライトであるが,被告らが販売している被告製品以外の機種にはかか るフラッシュライトの性能を特長にしたスマートフォンもあること(甲5),被告製品はデザインを重視し,機能\をシンプルなものにした製品として紹介・宣伝されており,被告製品の紹介や宣伝の中ではLEDライト の性能等について一切触れられておらず,被告製品の基本スペックとしてもLEDライトは挙げられていないこと(甲5,6の1,7)などの各事\n実がそれぞれ認められる。これらによれば,被告LEDについては,被告 製品の主要な特長として位置付けられているとは認められず,このような 被告LEDにつき被告製品の主要部として特に強い顧客吸引力があるとい うことは困難というべきである。 そして,前記前提条件(4)のとおり被告製品の販売による利益額は、被 告HTCについては●(省略)●円,被告兼松については●(省略)●円 であるところ,被告製品の市場想定価格は●(省略)●円(税別)である こと(甲7),被告製品自体の製造コストは明らかでないものの,被告製 品が発売された平成27年10月時点で既に販売されていた他のメーカー のスマートフォンについては,利益率は60%前後であるとされているこ と(乙52),他方,HTC台湾に被告製品を納入したメーカーが被告L EDを仕入れた価格は1個●(省略)●米ドルであったこと(乙47)が それぞれ認められる。
これらの事実からすれば,被告製品の製造コストは約●(省略)●円 (≒●(省略)●円×〔1−0.6〕)となり,これを被告製品が発売さ れた平成27年10月の平均の為替レート120.16円/米ドルで換算 すると,約●(省略)●米ドル(≒●(省略)●円÷120.16円/米 ドル)となるから,被告製品の製造コストに占める被告LEDの仕入価格 の割合は,約●(省略)●%(≒●(省略)●×100)となる。なお, 証拠(甲50)によると,50種類の単色LEDが1個約700円ないし 900円でインターネット販売されていることが認められるが,これらの 単色LEDは,砲弾型のものや複数のLEDチップが実装されたものであ るなど,被告LEDと同じ構成のものであるか明らかでないから,損害額を算定するに当たって事情として考慮するのは相当とはいえない。\n以上を総合すれば,被告LEDの販売による利益額は,被告HTCにつ いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%),被告兼松につ いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%)と認めるのが相 当である。
イ これに対し,原告は,被告製品1台当たりにおける被告LEDによる利 益額は100円を下回らない旨主張する。 しかしながら,前記前提条件(4)によれば 被告製品の販売による利益額 は,被告HTCについては1台当たり約●(省略)●円(≒●(省略)● 円÷●(省略)●台),被告兼松については1台当たり約●(省略)●円 (≒●(省略)●円÷●(省略)●台)となるところ,被告LEDによる 利益額を1台当たり100円とすれば,その割合は,前者との関係では約 ●(省略)●%,後者との関係では約●(省略)●%となるのであって, 上記アに説示した被告製品における被告LEDの位置付けや顧客誘引力に 照らすと,いずれの割合も相当とは認め難いから,原告の上記主張は採用 できない。
ウ 以上によれば,被告HTCに対する特許法102条2項による損害金の 額は,●(省略)●円と,被告兼松に対する特許法102条2項による損 害金の額は,●(省略)●円とそれぞれ認められる。
・・・
(3) 推定覆滅事由について
ア 証拠(甲68〜77,183〜186)及び弁論の全趣旨によれば,原告は, 自社の商品を,主に靴の量販店やインターネット上の通信販売サイトを通じて販売 し,その小売価格は2000円から6000円程度の商品が中心であり,原告が, 対象期間中に原告各商標と同一ないし類似する商標を付したスニーカー(甲183) を販売した際の売上げは一足当たり3000円程度であったと認められる。 他方で,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品は主に百貨店等の 店頭で販売されたものであり,別紙3被告商品販売一覧表記載のとおり,その小売\n価格は1万5000円から2万1000円,被告が百貨店等に販売する際の卸売価 格は●(省略)●円から●(省略)●円であったと認められる。 被告商品の販売による一足平均の限界利益は前記(2)エ(ウ)で認定した583万0 211円を,前記(2)イ(ウ)で認定した販売数量である●(省略)●足で除した● (省略)●円であり,原告が販売した競合品の一足当たりの限界利益を裏付ける証 拠はないが,上記の原告が販売した競合品の価格自体や,被告商品における一足当 たりの売上額が原告による競合品よりも大幅に高かったことからすれば,販売され た商品一足当たりの限界利益についても,被告商品の方が原告の商品よりも大きか ったものと推認される。 このような販売態様や販売価格の違い及び一足当たりの限界利益の違いは,被告 の限界利益額の一部について,商標法38条2項の推定を覆滅すべき事情として考 慮すべきである。
イ 他方で,被告が主張するその他の事情については,以下のとおり,いずれも 商標法38条2項の推定覆滅事情として考慮すべき事情とはいえない。 (ア) 原告が原告各商標を使用しない商品を販売していたことについて 被告は,原告が販売していた商品の多くには,原告各商標と同一又は類似の標章 が付されておらず,被告商品の販売によって,原告の売上げが減少したという関係 にないと主張する。
原告は,原告各商標と同一又は類似する標章を使用したスニーカーを販売してお り,被告による被告商品の輸入販売行為がなかったならば利益が得られたであろう という事情が原告に認められることは前記(1)のとおりであり,原告が上記のスニー カー以外に原告各商標と類似する標章が付されていない靴を販売していたとの事情 は,損害額の推定を覆滅すべき事情に当たるとも認められない。

◆判決本文

◆イ号および本件商標

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令和2(ネ)10034  不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和2年11月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 「協同組合ビジネスサポート」に対して、「ビジネスサポート協同組合」が不競法2条1項1号による差止を求めました。知財高裁(2部)は、1審と同様に、周知要件を満たさないと判断しました。

2 争点1(控訴人表示が,控訴人の商品等表\示として需要者の間に広く認識 されているか)について
(1)ア 前記1のとおり,控訴人は,中小企業等協同組合法に基づいて設立さ れた事業協同組合であり,その組合員の資格は,前記1(1)アで認定した控訴人の 地区内の中小規模の事業者に限られ,一方,被控訴人も中小企業等協同組合法に基 づいて設立された事業協同組合であり,その組合員の資格は,前記1(2)で認定し た被控訴人の地区内の中小規模の事業者に限られる。 また,控訴人の事業内容は,前記1(1)アのとおり,高速道路割引ETCカード 事業,各種備品や消耗品,車両燃料等の共同購買事業,外国人実習生受入事業等で あるから,控訴人に加入する可能性のある事業者は,これらの事業に関心のある事\n業者であると認められ,一方,被控訴人の事業は,前記1(2)のとおり,高速道路 割引ETCカード事業,車両燃料等の共同購買事業,情報提供事業等であるから, 被控訴人に加入する可能性のある事業者は,これらの事業に関心のある事業者であ\nると認められる。 したがって,控訴人に加入する可能性のある事業者のうち被控訴人のそれと重な\nる事業者は,前記1(1)アで認定した控訴人の地区のうち北海道を除く25の都府 県内の中小規模の事業者であると認められる。
イ 不正競争防止法2条1項1号にいう「営業」は,取引社会における事 業活動と評価できるものを指す(最高裁平成17年(受)第575号同18年1月 20日第二小法廷判決・民集60巻1号137頁)ところ,本件においては,控訴 人及び被控訴人が行う上記1(1),(2)の各事業は,上記「営業」ということができ るものである。そして,控訴人の事業の需要者には,控訴人の組合員となって控訴 人の上記1(1)アの事業を行う可能性のある上記アの事業者及び同事業の取引の相\n手方となる可能性のある者を含むというべきであり,その範囲は,かなり広く,被\n控訴人の事業者と重なる範囲もかなり広いということができる。
ウ 前記1(1)アのとおり,控訴人の組合員数は342事業者あるいは2 94事業者であるが,この数は,上記の需要者の範囲からすると極めて僅かなもの であるといえる。また,控訴人の事業に関する取引高等の控訴人の事業規模を示す 証拠は提出されていないが,控訴人の上記の組合員数からすると,その規模も小さ いものと推認される。
また,前記1(1)イのとおり,控訴人が行っている宣伝,広告は,ホームページ の開設,パンフレットの交付によっており,上記の方法のほか,千葉信用金庫及び 商工中金に紹介してもらう方法も用いているが,これら以外の方法で宣伝,広告を していることを認めるに足る的確な証拠はないことからすると,控訴人の宣伝,広 告の規模,程度は極めて小さなものであり,また,その効果も極めて小さいもので あるというべきである。 以上からすると,控訴人が,平成6年3月から,自己の名称として,控訴人表示\n又は「関東ビジネスサポート」の表示を使用していることを考慮しても,控訴人表\ 示が控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されていると認めることはで\nきない。
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,組合員が多種多様な業種で構成されていることから,控訴人\n表示は多様な業界で周知となっていると主張するが,前記1(1)アのとおり,控訴 人の組合員数は342事業者あるいは294事業者であり,この数は多種多様な業 種の事業者の数からすると極めて僅かな数であるから,控訴人表示が多様な業界で\n周知となっているとは認められない。
イ 控訴人は,同業の事業協同組合で構成された互助団体に加入し,中心的\nな活動を行っていること(甲20)から,控訴人表示は周知となっていると主張す\nる。 しかし,控訴人が上記の互助団体においていかなる活動を行っているのか,また, どのような成果を挙げたか等についての証拠はないことを考慮すると,控訴人の上 記主張事実から,控訴人表示が周知となったと認めることはできない。\n
ウ 控訴人は,控訴人表示の需要者は,高速道路を業に伴って頻繁に利用し,\n長距離移動を日常的に行い,利用料金の割引を受けようとする事業者に限定される と主張する。 しかし,控訴人の事業の需要者は,前記(1)イ認定のとおりであって,高速道路 割引ETCカード事業にのみ関心のある事業者だけであると認めることはできない。
エ 控訴人は,商工中金等の金融機関がその顧客に控訴人を紹介していると ころ,このことは,控訴人の信用度が高く,控訴人の名称が浸透していることを示 していると主張する。 しかし,仮に,控訴人の商工中金等に対する信用度が高いとしても,そのことか ら直ちに控訴人表示が周知であると認めることはできず,控訴人の上記主張は理由\nがない。
オ 控訴人は,控訴人と被控訴人との間で混同が生じていると主張し,その 具体例として,1)控訴人の顧客会社に被控訴人から電話勧誘があり,同顧客会社は, 被控訴人を控訴人と勘違いしたこと,2)控訴人の同業の事業協同組合から,その組 合員に控訴人から執拗な電話勧誘があったとの苦情が申し立てられたが,上記の電\n話勧誘は被控訴人によるものであるのに控訴人によるものと勘違いをしていたこと, 3)被控訴人に対する苦情を控訴人に申し立ててきた事業者がいたこと,4)控訴人を 被控訴人であると間違えて,控訴人に電話がかかってきたこと(以上につき,甲 8),5)被控訴人にすべき振込みを間違えて控訴人にしてきたこと(甲32),6)被 控訴人の組合員から,控訴人を被控訴人と間違えて,問合せの電話がかかってきた こと,7)控訴人が依頼している業者が,被控訴人のホームページを控訴人のものと 混同したこと(甲33)などを指摘する。 しかし,5),6)については,被控訴人の取引先や組合員が相手を間違えたという にすぎず,また,1),7)については,控訴人の取引先が相手を間違えたというにす ぎず,いずれも,控訴人表示が周知であることの根拠になるものということはでき\nない。 また,2)〜4)については,これらの事実があるとしても,そのことから,直ちに 控訴人表示の周知性を推認させるということはできない。\nしたがって,控訴人の上記主張は理由がない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和1(ワ)14303
1審は下記のように前置きをして、判断しています。 「法人の名称は,法人の事業又は営業全体を表す点で,個別の商品\nや役務を表す商標と区別されるものであって,当該事業又は営業との関係で\nみて一般的名称といえる性質を有するものもあり得るところ,そのような法 人の名称は,自他識別力を欠くか,自他識別力が極めて弱いものというべき 20 であるから,当該名称の使用の時期が相当程度に長くその浸透度も極めて大 きいことなどから商品等表示該当性を獲得したといえるなどの事情がない限\nり,それが法人の営業等を表示するものとして需要者の間に広く認識される\nに至っているものと認めて周知性を肯定することは,極めて困難といわなけ ればならない。

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令和1(行ケ)10137  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月28日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が支持されました。争点は進歩性違反、記載不備、手続き違背です。手続き違反について裁量の範囲を逸脱してないと判断しました。

 原告らは,本件審判において,主引用例である甲1に記載された発明と して「シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤としてヒトに経口投与される,3 00mgのセレコキシブを含む経口投与用カプセル」の発明を主張し,当 事者双方は,発明の目的を発明特定事項に含めることについて議論してい なかったが,審判合議体は,本件審決において,審理の過程で当事者が一 切主張しなかった目的を発明特定事項に含む甲1発明を認定し,この認定 について原告らに反論の機会を与えることなく,本件発明1と甲1発明と の相違点に係る容易想到性の判断をし,甲1発明を主引用例とする進歩性 欠如の無効理由は理由がないと判断したものであり,このような審理は, 原告らにとって不意打ちであり,原告らの手続保障を著しく欠くものであ るから,本件審決には審理不尽の手続違背がある旨主張する。
しかしながら,審判合議体が審決で認定する主引用例記載の引用発明の 内容と請求人の主張する引用発明の内容とが異なる場合において,当事者 対し,事前に審決で認定する引用発明の内容を通知し,これに対する意見 を申し立てる機会を与えるかどうかは,審判合議体の審判指揮の裁量に委\nねられていると解されるから,このような機会を与えなかったからといっ て直ちに審判手続に手続違背の違法があるということはできない。 また,原告らの主張する甲1に記載された発明と本件発明1との相違点 は,本件審決が認定した甲1発明と本件発明1との相違点1−1及び1− 2と異なるものではないから,審判合議体が本件審決認定の甲1発明を引 用発明として認定した上で,本件発明1の進歩性について判断をしたこと が,原告らにとって不意打ちであるとはいえず,上記裁量の範囲を逸脱し たということはできない。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10126  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月22日  知的財産高等裁判所

 本件特許についての第三次取消訴訟で無効理由無しの審決が取り消されました。第一次、第二次はいずれも、「無効理由無し、審決維持」でした。

 正規状態での施工の利点(上記(2)ア)及び2枚目クランプ状態での施工の 問題点(同イ)にかんがみると,甲1発明において,400mmの場合に2 枚目クランプ状態で施工すると,地盤が硬い場合や鋼矢板が長い場合には施 工不能となるおそれがあるから,正規状態での施工が可能\になるように構成\nすることを当業者は動機付けられるといえる。 ここで,600mm用のチャック装置のままで400mmの鋼矢板を正規 状態で施工すると,チャック装置が大きすぎるために干渉問題が生じる(上 記(2)ウ)。この干渉問題を解決するために,上記(3)の周知事項を適用して, 必要に応じて圧入機に仕様変更を加えつつ,600mm用のチャック装置よ りも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用のチャック装置を備え\nる一体型チャックフレームに交換することにより,あるいは,600mm用 の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm\n用の着脱式チャック装置に交換することにより,400mmの場合でも正規 状態での施工が可能になるように構\成することは,当業者が容易に想到し得 たことといえる。
なお,本件特許の明細書の【0027】には,従来技術の説明として,溶 接事項記載に相当する記載があるが,溶接の工程にはそれなりの手間や費用 を要する上に,溶接した鋼矢板は,その再利用にも支障が生じ得ることなど を踏まえると,鋼矢板の溶接は,あくまでも次善の策にすぎず,当業者とし ては,より抜本的な解決策の採用に向けて動機付けられるであろうことは否 定できない。そうすると,溶接事項記載の存在により,相違点に係る本件発 明1の構成を採用することが阻害されるとはいえない。\n
2 第2次審決(甲7−1)との関係について
なお,甲7の1,2によれば,本件審判手続と第2次審決に係る無効審判手 続とでは,類似の無効理由が主張されていたことが認められるので,第2次審 決との抵触等が問題にならないではないが,同証拠によれば,両者で主張され た無効理由は,主引例が異なる上に,その根拠として提出された証拠にも違い があることが認められるから,本件において,原告が,甲1発明に基づく進歩 性欠如を主張することが,第2次審決の効力に違反するものではないし,また, その主張が既に決着済みの問題を蒸し返すものであって信義則に違反するとま で認めるに足りる証拠もない。

◆判決本文

1次判決はこちら

◆平成28(行ケ)10161

2次判決はこちら

◆平成30(行ケ)10030

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令和1(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月22日  知的財産高等裁判所(3部)

 無効審判の審理で訂正し、無効理由無しとされましたが、これについては、審決取消訴訟(前訴)で取り消されました。再開した審理で、訂正がなされ、無効理由無しと判断されました。知財高裁は審決を維持しました。争点は新規性・進歩性、サポート要件です。概要は、先行公報に記載された事項については前訴の拘束力化あり、また阻害要因ありと判断されました。

   本件訂正発明1と甲1発明の相違点の認定の誤りについて
 ア 甲1の【0016】には,「図1にホットプレスにより作製したターゲッ トの断面組織写真を示す。これによれば,微細な黒い点(SiO2)が均質 に分布しているのが観察され,・・・以上の結果より,このターゲット組織は SiO2がCo−Cr−Ta合金中に分散した微細混合相からなっている ことがわかった。」との記載があるから,甲1の図1の黒い点はSiO2と 認められる。そして,甲1の図1によれば,SiO2の黒い点は粒子状をな しており,いずれも半径2µmの仮想円よりも小さいと認められる。したが って,甲1の図1のSiO2粒子はいずれも,SiO2粒子内の任意の点を 中心に形成した半径2µmの全ての仮想円よりも小さいと認められ,形状2 の粒子の存在を確認することはできないから,本件訂正発明1が必ず形状 2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否かが 一見して明らかではないと認められる。
前訴判決は,審決を取り消す前提として,甲1発明の図1の全ての粒子 は形状1であると認定しており(甲30,61頁),この点について拘束力 が生じているものと認められ,この点からしても,本件訂正発明1が必ず 形状2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否 かが一見して明らかではないということができる。 そうすると,本件訂正発明1が形状2の粒子を含むのに対し甲1発明に おいて形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでないとの本件審 決の相違点(相違点2)の認定に誤りはないものと認められる。 イ(ア) この点につき,原告は,甲3に記載された再現実験は,甲1の実施 例1の再現実験であり,甲3で確認される非磁性材料粒子の組織は,甲 1の実施例1の組織と同じであるとして,甲3の断面組織写真である図 6の画面右下には形状2の粒子が存在するから(甲47),本件訂正発明 1と同じく,甲1発明にも形状2の粒子が存在するということができ, 形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでない点をもって,本件 訂正発明1と甲1発明の相違点ということはできないと主張する。
(イ) 前記2(2)アのとおり,メカニカルアロイングは,高エネルギー型ボ ールミルを用いて,異種粉末混合物と硬質ボールを密閉容器に挿入し, 機械的エネルギーを与えて,金属,セラミックス,ポリマー中に金属や, セラミックスなどを超微細分散化,混合化,合金化,アモルファス化さ せる手法で,セラミックス粒子を金属マトリクス内に微細に分散させる ことを可能とするものであり,このようなメカニカルアロイングの仕組\nみに照らすと,メカニカルアロイングにおいては,ボールミルのボール の衝突により異種粉末混合物にどのような力が加えられるかにより,生 成物の組織が異なってくるものと認められる。また,甲52に「一般に 粉末のミリング時には衝撃,剪断,摩擦,圧縮あるいはそれらの混合し たきわめて多様な力が作用するがメカニカルアロイングにおいて最も重 要なものはミリング媒体の硬質球の衝突における衝撃力とされている。 衝撃圧縮により粉末粒子は鍛造変形を受け加工硬化し,破砕され薄片化 する。・・・薄片化および新生金属面の形成に加え,新生面の冷間圧接およ びたたみ込みが重なるいわゆる Kneading 効果により,次第に微細に混 じり合い,ついには光学顕微鏡程度では成分の見分けがつかないほどに なってしまう。」(前記2(1)オ)との記載があることからすると,メカニ カルアロイングにおいて最も重要なものはミリング媒体の硬質球の衝突 における衝撃力であると認められる。そうすると,ボールミルのボール の材質や大きさ,ボールミルの回転速度等の条件が異なれば,メカニカ ルアロイングによって得られる粉末の物性は異なり,そのような粉末か ら得られるスパッタリングターゲットの研磨面で観察される組織の形態 も異なると認められる。 そうであるとすれば,少なくともボールミルのボールの材質や大きさ, ボールミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件が明らかにされな ければ,どのような組織の生成物ができるかが明らかにならないものと いうべきである。 そこで本件についてみると,甲1には,甲1発明のスパッタリングタ ーゲットを製造する際の,ボールミルのボールの材質や大きさ,ボール ミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件についての記載はなく, 甲3のメカニカルアロイングの条件が,甲1発明のスパッタリングター ゲットを製造する際のメカニカルアロイングの条件と同じであったとい う根拠はない。そうすると,甲3に記載されたスパッタリングターゲッ トが形状2の粒子を含んでいたとしても,このことのみから,甲1発明 のスパッタリングターゲットも形状2の粒子を含むということはできな い。そして,その他に,甲1発明のスパッタリングターゲットが形状2 の粒子を含むことを認めるに足りる証拠はない。
・・・
(2) 本件訂正発明1〜6の進歩性についての判断の誤りについて
ア 本件訂正発明1と甲1発明の相違点2,本件訂正発明2と甲1発明の相 違点2’の容易想到性について検討する。 甲1発明は,ハードディスク用の酸化物分散型 Co 系合金スパッタリン グターゲット及びその製造方法に関する発明であり(【0001】【産業上 の利用分野】),発明の目的は,保磁力に優れ,媒体ノイズの少ない Co 系合 金磁性膜をスパッタリング法によって形成するために,結晶組織が合金相 とセラミックス相が均質に分散した微細混合相であるスパッタリングタ ーゲット及びその製造方法を提供することにある(【0009】【発明が解 決しようとする課題】)。そして,発明者らは,Co 系合金磁性膜の結晶粒界 に非磁性相を均質に分散させれば,保磁力の向上とノイズの低減が改善さ れた Co 系合金磁性膜が得られることから,そのような磁性膜を得るため には,使用されるスパッタリングターゲットの結晶組織が合金相とセラミ ックス相が均質に分散した微細混合相であればよいことに着目し,セラミ ックス相として酸化物が均質に分散した Co 系合金磁性膜を製造する方法 について研究し,甲1記載の発明を発明した(【0010】【課題を解決す るための手段】)。そして,甲1には,急冷凝固法で作製した Co 系合金粉末 と酸化物とをメカニカルアロイングすると,酸化物が Co 系合金粉末中に 均質に分散した組織を有する複合合金粉末が得られ,この粉末をモールド に入れてホットプレスすると非常に均質な酸化物分散型 Co 系合金ターゲ ットが製造できる(【0013】(課題を解決するための手段))と記載され ており,甲1発明のスパッタリングターゲットは,アトマイズ粉末とSi O2粉末を混合した後メカニカルアロイングを行い,その後のホットプレ スにより製造されたものであり,SiO2が Co−Cr−Ta 合金中に分散した 微細混合相からなる組織を有する(【0015】,【0016】(実施例1))。 他方,メカニカルアロイングについては,本件特許の優先日当時,前記 2(2)記載の技術常識が存在したと認められ,当業者は,甲1発明のスパッ タリングターゲットを製造する際も,原料粉末粒子が圧縮,圧延により扁 平化する段階(第一段階),ニーディングが繰り返され,ラメラ組織が発達 する段階(第二段階),結晶粒が微細化され,酸化物などの分散粒子を含む 場合は,酸化物粒子が取り込まれ,均一微細分散が達成される段階(第三 段階)の三段階で,メカニカルアロイングが進行すること自体は理解して いたものと解される。
そして,メカニカルアロイングが上記第一ないし第三の段階を踏んで進 行することからすると,メカニカルアロイングが途中の段階,例えば,第 二段階では,ラメラ組織が発達し,形状2の粒子も存在するものと考えら れ,甲49(実験成績報告書「甲3の混合過程で形状2の非磁性材料粒子 が存在すること(1)」)及び甲50(実験成績報告書「甲3の混合過程で 形状2の非磁性材料粒子が存在すること(2)」)も,メカニカルアロイン グの途中の段階においては,形状2の粒子が存在することを示している。 しかし,甲1には,形状2のSiO2粒子について,記載も示唆もされて いない。むしろ,本件特許の優先日当時のメカニカルアロイングについて の前記技術常識(前記2(2))に照らすと,メカニカルアロイングは,セラ ミックス粒子等を金属マトリクス内に微細に分散させるための技術であ り,第二段階は進行の過程にとどまり,均一微細分散が達成される第三段 階に至ってメカニカルアロイングが完了すると認識されていたものと推 認されるところであり,前記2(1)の技術文献の記載に照らして,メカニカ ルアロイングをその途中の第二段階で止めることが想定されていたとは 認められない。メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階までで終 了することについて,甲1には何ら記載も示唆もされておらず,その他に, これを示唆するものは認められない。むしろ,甲1には,合金相とセラミ ックス相が均質に分散した微細混合相である結晶組織を得ることが,課題 を解決するための手段として書かれており,セラミックス相が均質に分散 した微細混合相を得るためには,均一微細分散が達成される第三段階まで メカニカルアロイングを進めることが必要であるから,甲1は,メカニカ ルアロイングをその途中の第二段階で止めることを阻害するものと認め られる。
そうすると,当業者は,メカニカルアロイングについて前記2(2)記載の 技術常識を有していたものではあるが,甲1発明のスパッタリングターゲ ットを製造する際に,メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階ま でで終了することにより,SiO2粒子の形状を形状2(形状2’)の粒子 を含むようにすることを動機付けられることはなかったというべきであ る。 したがって,相違点2及び相違点2’に係る事項は,当業者が容易に想 到し得たものとは認められない。

◆判決本文

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令和2(ワ)1667  著作権侵害損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年10月23日  東京地方裁判所

 訴外Bからサーバの運営権を購入した会社に対して、カメラマンが写真の著作物の著作権侵害を理由に114万円の損害賠償を求めました。裁判所は、過失は認めたものの、ライセンス料の算定基準に根拠がないとして、14万円の損害賠償を認めました。

 証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,本件サイトには本件各写真を含 め多数の写真が掲載されており,これらの写真は,「写真の著作物」(著作権 法10条1項8号)又はそれに該当し得るものであったと認めることができ る。そして,被告は,本件各写真を含めた写真をインターネット上で公開す る以上,その著作権又は著作者人格権を侵害していないことについて調査, 確認する義務があったといえる。ところが被告は,本件各写真が著作権,著 作者人格権を侵害していないかについて調査,確認をせずに本件各写真をイ ンターネット上に公開して公衆送信等しており,被告には,少なくとも過失 があったといえる。
(2) 被告は,本件サイト売買を行ったウェブサイトには,「買い手は基本的に 著作権に触れているかどうか把握することは難しい」,「一般的には損害賠償 請求等は,サイトを売った人と著作権違反の警告を出した人の間で行われる」 との記載があり,サイト売買の通例では買い手である被告には損害賠償の支 払義務がなく,また,被告が本件サイトを購入した平成28年2月1日時点 で,掲載されている画像は3万8000点以上にも及び,これらの著作権の 有無を確認するのは実質的に不可能であり,被告には調査義務はないと主張\nする。 しかし,他人の写真を利用する場合にはその著作権又は著作者人格権を侵 害する可能性があるから,被告は,本件各写真を公衆送信等する以上,前記\nの調査,確認をする義務があったといえる。被告が指摘する記載等がウェブ サイトにあったことや本件サイトに多数の写真が掲載されていたことなど被 告が指摘する事情によってこのことは左右されず,被告の上記主張は採用す ることはできない。なお,被告が本件サイト売買を行ったウェブサイトには, 「サイト購入時,著作権には注意すること」,「サイトを購入する時あるいは 売却する時もそうですが,著作権が問題となってトラブルになることがあり ます。使用されている文章や画像,イラスト,アイディアが他の人のマネを していることがあります。」などと記載され(乙1),サイト売買の対象とな るウェブサイトには著作権法上の問題があるものが含まれ得ることが明記さ れていた。
3 争点(5)(損害額)について
(1) 公衆送信権侵害について
ア 証拠(甲7)によれば,協同組合日本写真家ユニオン作成の使用料規程 である本件規程は,同組合が管理の委託を受けた写真の著作物の利用にか かわる使用料を定めるものであり,一般利用目的(宣伝広告を目的とせず, 記事と共に,事柄を説明するために写真の著作物を利用する場合)でウェ ブページの最初のページ以降のページに写真を掲載する使用料は,12か 月以内で2万5000円,1年を超える場合の次年度以降の使用料は1年 当たり1万円とされている。 原告は結婚式における写真撮影を業とするカメラマンであり,本件各写 真は,原告が,依頼を受けて結婚式場において撮影したものであり(前記 前提事実(1)ア,同(2)),カメラマンである原告が業務により作成したもの といえる。そうすると,原告が本件各写真の著作権の行使につき受けるべ き金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)の算定に当たっては, 本件規程の内容を参酌するのが相当である。そして,本件規程の内容に加 えて,被告が遅くとも平成30年12月5日頃までには本件各写真の原告 の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害したこと,本件各写真は令和 2年2月17日に本件各ページから削除されたことその他の本件各写真の 使用態様等に鑑みれば,原告が本件各写真の公衆送信につき受けるべき金 銭の額(著作権法114条3項)は,本件各写真1枚当たり4万円と認め るのが相当である。
イ この点について,原告は,1)撮影した写真1枚当たり8万円で売却して おり(甲6),本件のような長期間の無断使用はその4倍が相当であるこ と,2)本件規程の商用広告目的の写真の使用料が12か月以内で5万円で あることを考慮して損害額を算定すべきであるなどと主張する。 しかしながら,「ご請求書」と題する甲6号証には,「広告写真使用料」 として8万円と記載されているが,当該写真がどのような写真か明らかで はない上に,この1件の利用許諾例の外に原告の写真の使用料を裏付ける 証拠は見当たらないことなどからすれば,本件各写真の使用料が1枚当た り8万円であると認めることはできず,他に原告の上記1)の主張を認める に足りる証拠はない。
また,本件規程の「商用広告目的」とは,「写真に写された物品等を宣 伝するために広告として利用する場合」をいうとされている(本件規程の 第3条)ところ,本件各写真は,結婚式に関係する文章が記載されるなど した本件各ページに掲載されたものであり(前記前提事実 ア,イ),い ずれも本件各写真に写された物品等を宣伝するために広告として本件各ペ ージに掲載されたものとはいえず,本件各写真の使用は,上記「商用広告 目的」には当たらず,原告の上記2)の主張も採用することはできない。したがって,原告の上記主張はいずれも採用することはできない。

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令和1(行ケ)10161  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月21日  知的財産高等裁判所

 本件発明の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。

 本件審決は,相違点の認定において,本件補正発明が,「ダンパを囲繞す る空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連である」点と,「想定される入力方向に 対して機能する向きに設置され」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され」る点とを分けて認定して\nいる。 しかし,本件補正発明は物の発明であること及び前記1で認定した本件明細書の 記載からすると,本件補正発明の,「想定される入力方向に対して機能する向きに設置され」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜す\nるように上記剪断部が設置され」との構成は,「端部の連結部を介して一連に設けられ」,「ダンパを囲繞する空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連である」二つの\n剪断部の形状について,いずれの剪断部も,想定される方向からの入力に対して機 能し,想定される入力方向に対し面内方向に傾斜するように設置できる形状であることを特定したものと解するのが相当であるから,本件補正発明の,「二つの剪断部\nが,当該ダンパの端部を成す連結部を介して一連に設けられ」との構成,弾塑性履歴型ダンパが「想定される入力方向に対して機能\する向きに設置され」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部 が設置され」との構成及び「ダンパを囲繞する空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連である」との構\成は,いずれも,ダンパの形状を特定するものである。そして,これらの形状の構成は相互に関連して,ダンパが振動エネルギーを吸収する機序に影響を与えるものであるから,上記の各構\成を別個の相違点として,それぞれ独立に容易想到性の判断をするのは相当ではないというべきである。これに反する 被告の主張は理由がない。
(2) 相違点4’の容易想到性について
ア 前記2(1)で認定した引用文献1の記載からすると,引用発明1は,水平 方向の全方向からの震動エネルギを,X)成分とY成分に分担して極低降伏点鋼製パ ネルが塑性変形して吸収する制震パネルダンパであること,従来は,水平方向の全 方向からの震動エネルギを吸収するために,極低降伏点鋼製パネルの向きが直角と なるように二つのダンパをL字状やT字状に並べて配置していたところ,そのよう なダンパの配置方法では,それぞれのパネル毎に一対のエンドプレートを設置する ため,取り付けのためのスペースが大きくなり,また,取り付けのための手間がか かるという課題があり,同課題を解決するために,引用発明1−2は,ダンパの形 状を,平面視した場合に断面が中空の矩形になる四角柱状とし,これを一対のエン ドプレートの間に設置する構成にしたもの,引用発明1−1は,ダンパの形状を,平面視した場合に断面が互いに直交する十\字状としたものであり,それぞれこれを一対のエンドプレートの間に設置する構成にしたものであることが認められる。一方,本件補正発明の特許請求の範囲の「想定される入力方向に対して機能\する向きに設置される弾塑性履歴型ダンパであって」,「上記想定される入力方向に対し, 二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され」との記載及 び前記1で認定した本件明細書の記載によると,本件補正発明は,振動エネルギー の入力方向を想定し,特定の入力方向からの振動に対応するダンパであること,本 件補正発明の従来技術であるダンパは,剪断部を一つしか有していないために,地 震の際にいずれの方向から水平力の入力があるかは予測困難であるのに,一方向からの水平力に対してしか機能\せず,また,想定される入力方向に対して高精度にダンパの剪断変形方向を合わせる設置角度設定が必要であるという課題があったこと, 本件補正発明は,剪断部を二つ設け,これらを端部で連結させたことにより大きな 振動エネルギーを吸収できるようにし,また,向きの異なる二つの剪断部を想定さ れる入力方向に対し面内方向に傾斜するように設置できる形状とすることにより, 入力の許容範囲及び許容角度が広くなり,据付誤差を吸収することができるように したことが認められる。 このように,引用発明1は,水平方向の全方向からの震動エネルギーを吸収する ためのダンパであるのに対し,本件補正発明は,振動エネルギーの入力方向を想定 し,その想定される方向及びその方向に近い一定の範囲の方向からの振動エネルギ ーを吸収するためのダンパであり,両発明の技術的思想は大きく異なる。これに反 する被告の主張は理由がない。 そして,相違点4’に係る本件補正発明の構成は,上記のような技術的思想に基づくものであるから,引用発明1−2との実質的な相違点であり,それが設計事項\nにすぎないということはできない。
イ(ア) 前記2(2)で認定した引用文献2の記載からすると,引用文献2には, 本件審決が認定した引用発明2(前記第2の3(1)イ)が記載されているが,引用発 明2の略L字状に配置された二つの剪断パネル型ダンパー90の各パネル部は,端 部で連結されていないことが認められる。 引用発明1−2においては,各側面のパネルはすべて端部で隣接するパネルと連 結されているが,引用発明1−2のこの構成に代えて,引用発明1−2に,二つの剪断パネル型ダンパー90のパネル部を,端部を連結することなく,略L字状に配\n置するという引用発明2の上記構成を適用して,ダンパの断面形状をL字状とするなど2枚のパネルを端部で連結する構\成とすることの動機付けは認められない。
(イ) 前記2(3),(4)で認定した引用文献3,4の記載によると,塑性変形す る部材を用いて震動を吸収するダンパー部材において,塑性変形する部材の降伏強 度を調整するなどの目的で,穴又はスリットを設けることは,周知技術であること が認められるが,引用発明1−2にこの周知技術を適用したとしても,ダンパを囲 繞する空間と一連とはなるが,ダンパの断面形状をL字状とするなど2枚のパネル を端部で連結する構成となるものではない。
(ウ) その他,相違点4’に係る本件補正発明の構成を引用発明1−2に基づいて容易に想到することができたというべき事情は認められない。\n
(エ) 以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,引用発明 1−2に基づいて本件補正発明を容易に発明することができたとは認められない。
(オ) なお,本件審決は,引用文献1には,断面が十字状や中空の矩形の形状の引用発明1のほか,断面が円状のダンパも記載されていることから,引用文献1\nにおける極低降伏点鋼パネルの数や配置及び交点の接合形態については,異なる方 向成分の震動を分担して塑性変形により吸収する機能が維持される範囲で,自由度がある,引用文献1は,断面が略L字状となるダンパを排除していないと判断する。\nしかし,本件補正発明を引用発明1−2に基づいて容易に発明することができた ということができないことは,既に判示したとおりであって,引用文献1において, 極低降伏点鋼パネルの数や配置及び交点の接合形態については自由度があり,また, 断面が略L字状となるダンパを排除していないとしても,そのことから直ちに本件 補正発明を発明する動機付けがあるということができないことは明らかである。

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平成30(ワ)35053  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和2年10月22日  東京地方裁判所

 真性商品の並行輸入かが争われました。商標「2UNDR」(標準文字)です。

(3)事実認定の補足説明
原告らは,被告らがMゴルフ社から本件商品を購入した当時,本件代理店契 約は解除されていてMゴルフ社は2UNDR商品の販売代理店ではなかった と主張するのに対し,被告らはそのような事実はないと主張する。
 上記(2)イ(ウ)のとおり,原告ハリス及びランピョン社の代表者は平成28年5\n月上旬にMゴルフ社に本件代理店契約を解除する旨のメールを送信した。そし て同ウのとおり,同月6日を最後に,各国の販売代理店に送信されていた原告 ハリスの商品に関する一斉送信メールがMゴルフ社に送信されなくなってお り,その後,令和元年5月3日まで両社の間で連絡が取られた形跡がないこと に照らせば,本件代理店契約は平成28年5月上旬に解除され,被告ブライト がMゴルフ社から初めて本件商品を購入した同月27日には,本件代理店契約 は解除されていたと認めるのが相当である(上記(2)イ(ウ)) 。
(4) 本件輸入行為の違法性について
ア 商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につ き,その登録商標と同一又は類似の商標を付したものを輸入する行為は,許 諾を受けない限り,商標権を侵害する。しかし,そのような商品の輸入であ っても,1)当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾 を受けた者により適法に付されたものであり(以下「第1要件」という。), 2)当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は 法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより, 当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって(以下\n「第2要件」という。),3)我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商 品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者 が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的 に差異がないと評価される場合(以下「第3要件」という。)には,いわゆる 真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠く(最高 裁平成14年(受)第1100号同15年2月27日第一小法廷判決・民集 57巻2号125頁)。
イ 本件商品は,ランピョン社から2UNDR商品の販売代理店であったMゴ ルフ社に販売されたものであった。 上記(2)イ、ウによれば、本件代理店契約 において,代理店契約の解除後の販売代理店における販売や在庫の処分等に ついての定めはなく,また,本件代理店契約の解除後,ランピョン社又は原 告ハリスがMゴルフ社に対して在庫の処分等について指示をしたことはな かった。他方,各国の販売代理店に対して同じ2UNDR商品のカタログや 注文のための商品のリストが送付されていたこと(同ウ)から,我が国で販 売される2UNDR商品が他国で販売される2UNDR商品と比べて格別 の品質等を有していたとは認められず,2UNDR商品の販売代理店の販売 地域の制限が,販売政策上の合意を超えて,2UNDR商品の品質の維持や 管理等と関係することをうかがわせる事情は見当たらない。また,本件商品 は箱型のパッケージに包装された男性用下着であり,通常は流通の過程でパ ッケージ内の商品自体の品質が劣化するものではなく,また,本件で,流通 の過程で商品の品質を変化させるおそれが存在したことを認めるに足りる 証拠はない。 そして前提事実(1)、上記(2)イ(ア)および弁論の全趣旨によれば、ランピョン 社と原告ハリスとは実質的には一体であるともいえる。
ウ 第1要件について
本件標章が付されていた本件商品は,ランピョン社が代理店契約に基づい てMゴルフ社に販売したものであった。 本件商品を被告ブライトがMゴルフ社から購入したのは,上記(2)、(3)のと おり本件代理店契約の解除後であるが,ランピョン社がMゴルフ社に販売し た2UNDR商品に対する上記イのとおりのランピョン社の管理内容等に 照らし,このことによって,原告商標の出所表示機能\が害されることになる とはいえない。また,本件代理店契約では,Mゴルフ社の販売地域はシンガ ポールに限定されていたが,上記イのとおり,そもそも我が国で販売される 2UNDR商品が他国で販売される2UNDR商品と比べて格別の品質等 を有していたとは認められず,販売地域の制限が本件商品の品質の維持や管 理等と関係していたとも認められないから,Mゴルフ社の販売地域が限定さ れていたことによって原告商標の出所表示機能\が害されることになるとは いえない。 これらによれば,本件商品に付された本件標章は,外国における商標権者 である原告ハリスから使用許諾を受けたランピョン社又はランピョン社と 実質的には一体ともいえる原告ハリスによって,適法に付されたものである ということが相当である。 したがって,本件輸入行為は第1要件を具備するものと認められる。
エ 第2要件について
前提事実(1)のとおり、原告商標についてのカナダなどの海外における商標権者と日本における商標権者はいずれも原告ハリスであり,本件標章は原告 商標と同一又は類似のものであるから(上記1),それらは同一の出所を表\n示するものであるといえる。 したがって,本件輸入行為は第2要件を具備するものと認められる。
オ 第3要件について
本件標章が付された本件商品は,本件代理店契約に基づきランピョン社に よってMゴルフ社に販売されたものである。そして,ランピョン社と原告ハ リスは実質的には一体ともいえた。 本件商品が被告ブライトによりMゴルフ社から購入されたのは,本件代理 店契約の解除後であるが,ランピョン社がMゴルフ社に販売した2UNDR 商品に対する上記イのとおりのランピョン社の管理内容等に照らし,このこ とによって,原告商標の品質保証機能が害されることになるとはいえない。\nまた,本件代理店契約では,Mゴルフ社の販売地域はシンガポールに限定さ れていたが,上記イのとおり,そもそも我が国で販売される2UNDR商品 が他国で販売される2UNDR商品と比べて格別の品質等を有していたと は認められないこと,Mゴルフ社の販売地域の制限が本件商品の品質の維持 や管理等と関係するとも認められないこと,本件商品が運送中に品質が直ち に劣化するものではない男性用下着であることなどから,そのことによって 原告商標の品質保証機能が害されることになるとはいえない。\nこれらによれば,我が国の商標権者である原告ハリスは,直接的に又は少 なくともランピョン社を通じて本件商品の品質管理を行い得る立場にあっ て,本件商品と2UNDR商品の日本における販売代理店が販売する商品と は登録商標の保証する品質において実質的に差異がないといえる。 したがって,本件輸入行為は,第3要件を具備するものと認められる。
カ 原告らは,被告ブライトが本件商品を購入したのが本件代理店契約の解除 後であること,本件代理店契約には販売地をシンガポールとする販売地制限 条項があることを挙げて,本件輸入行為が違法性を欠くことにはならない旨 主張するが,上記ウ,オに照らし理由がない。 また,原告らは,被告ブライトの広告に「訳あり/パッケージ汚れ」など という表示があり,本件商品の包装が汚れており,シールをはがしたような\n跡があり,本件商品は原告アイインザスカイが販売する2UNDR商品に比 して著しく安価であることから,本件輸入行為は原告商標や本件標章の出所 表示機能\及び品質保証機能を害すると主張する。しかし,本件商品の需要者\nは,本件標章が付されることによる通常期待される品質を前提として,安価 になっているのは上記事情によるものであると認識すると考えられ,上記事 情によって原告商標の出所表示機能\や品質保証機能が害されるとはいえず,\n上記主張は採用できない。
さらに,原告らは,Mゴルフ社は本件代理店契約の解除により正規の販売 代理店ではなくなったため,本件商品は欠陥等があっても原告ハリスから保 証を受けられないから,原告商標の出所表示機能\や品質保証機能が害される\nと主張する。しかし,商標権者から保証を受けられるか否かが並行輸入の場 面における商標の出所表示機能\や品質保証機能に直ちに影響するとはいえ\nないし,本件において,特定の商品について欠陥等の保証をすることについ て原告ハリスが日本国内で独自の信用を構築していたと認めるに足りる証\n拠もない。原告ら主張の事情によって原告商標の出所表示機能\や品質保証機 能が害されるとはいえず,原告らの主張は採用できない。\n
キ 小括
以上によれば,被告ブライトの本件輸入行為は,いわゆる真正商品の並行 輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠く適法なものであると認 められる。

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令和2(行ケ)10017  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年10月13日  知的財産高等裁判所

 商標「空調風神服」について「空調風神服」の風神部分の書体および太さを変更した使用行為について、商標「空調服」と混同するとして51条の取消審判の請求がされました。知財高裁(1部)は、取り消し理由無しとした審決を維持しました。

オ 引用商標の周知著名性及び独創性
原告のカタログにおいて,「空調服」の文字は多くが記述的に用いられている上, その頒布部数を認めるに足りる的確な証拠はない(前記ア(ア))。また,原告のウェブ サイト(同(イ))の閲覧者数も不明であるし,原告商品のシェアや売上げを認めるに 足りる的確な証拠はない。 前記イのとおり,原告商品は,平成14年から本件使用時点までの間に,暑さ対 策に有効な作業服等として,「空調服」との語と共に複数のメディアで取り上げられ, そのメディアに全国紙や全国ネットの著名なテレビ番組が含まれてはいるものの, 大部分は全国紙,全国ネットではなく,頒布部数や視聴者数が不明のものであり(同 イに掲記した証拠参照),その回数もその期間に比して多いとまではいえない。 加えて,「空調服」との語は,ファンを備えた作業服等一般を示すものとして記述 的に用いられ(前記エ(ア),(イ)),あるいは,原告を出所とするものと解し得ない商品 に関するカタログでも用いられている(前記ウ)。 以上によれば,原告の親会社であるセフト研究所の登録商標が表示されたCMが\nウェブサイト上で多数回閲覧されたこと(前記ア(ウ))を考慮しても,引用商標が, 原告の出所に係る商品を示すものとして周知著名であったと認めることはできない。 また,引用商標は,「空調」と「服」という日常的に用いられる平易な言葉を組み 合わせ,同一の書体及び大きさで等間隔に配置した構成であり,独創性の程度が高\nいとまではいえない。
カ 原告の主張について
(ア) 原告は,前記ア(ウ)のCMに関し,152件のウェブサイト上の記事が掲載 されたと主張するが,原告の提出した証拠(甲156)からは,記事において引用商 標に言及されているか否か不明であり,当該記事の閲覧者数も不明であるから,引 用商標の周知性を裏付けるものではない。 原告は,原告がこれまでに支払った原告商品の広告宣伝費用の総額が,少なくと も5211万円であること並びに原告商品の売上高及び原告商品のシェアについて 主張するが,原告の主張を裏付ける的確な証拠はない。
(イ) 原告は,法人等の需要者や取引者の間で,「空調服」との語は原告の会社名 又は商品名と認識されていることや,原告商品についての記事や番組においても, ファンを備えた被服一般を表す用語として「電動ファン付きウェア」とか,「ファン\n付き作業服」とか,「EFウェア」等の用語が区別して用いられている例があり,引 用商標には自他識別機能が認められると主張するが,このことから直ちに,引用商\n標が原告商品の出所を示すものとして周知であったということにはならないから, 上記認定を左右するものではない。
(ウ) 原告は,ウェブサイト上の「テレビ紹介情報」における「空調服」の検索結 果299件(甲164)を提出するが,本件使用時点後のものも多く含まれる上に, 検索結果からは原告商品の出所を示すものとして「空調服」が紹介されたのかが必 ずしも明らかではないものも多いから,上記認定を左右するものではない。
(4) 被告商品と原告商品との間の関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者 の共通性その他取引の実情等
ア 商品の関連性並びに取引者及び需要者の共通性
前記1のとおり,被告が本件使用商標を使用する被告商品と,原告が引用商標を 使用する原告商品は,いずれも電動のファンを備えた作業服であり,取引者及び需 要者は共通するものと推認される。
イ 取引の実情等
原告商品の包装には,「空調服」の文字が付されており(甲71),原告商品が掲載 されたカタログには「空調服」の文字が付されている(甲7の13)。 これに対し,被告商品のタグ及び包装には,「THE」の文字と組み合わせて本件 使用商標が付され(甲17の3・4。ただし,包装においては色彩が反転している。),被告商品が掲載されたカタログ(甲17の2)及び被告のウェブサイト(甲17の 1・14)には本件使用商標が表示されている。これらには,本件使用商標の末尾に\n「(R)」が組み合わされたものもあり,取引者及び需要者において,本件使用商標が全 体として商品の出所を示すことを理解するということができる。
(5)出所の混同の有無
ア 上記(4)アのとおり,本件使用行為に係る商標が使用された被告商品と引用商 標が使用された原告商品は,ファンを備えた作業服等であって同一の商品であるも のの,本件使用商標と引用商標は類似せず,かえって,前記(2)のとおり相違するも のである。そして,前記(3)のとおり引用商標は原告を示すものとして周知著名とは いえず,独創性の程度が高いといえない上,証拠からは,本件使用商標が使用され た被告商品と引用商標が使用された原告商品について,混同を生ずるおそれがある ような取引の実情は認められない。 そうすると,両商標を同一の商品に使用した場合に,取引者及び需要者において 普通に払われる注意力を基準として,出所の混同を生ずるとはいい難い。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は,本件使用商標が使用された被告商品と引用商標が使用された原告商 品の形態等が酷似し,両商品について需要者の間で取り違えが生じるほどである旨 を主張する。
本件使用商標が使用された被告商品と,引用商標が使用された原告商品の一部に おいて,基本的構成(襟付きの長袖であり,服胴部の前方中央に縦に帯状の袷部を\n形成し,その内側にファスナーを取り付け,両脇腹部,両胸部及び左腕部にポケッ トを設け,背面左右両腰部に開口部を形成し,その使用態様において,需要者が当 該開口部にファンを設置して使用できる態様のものである)が同一であるほか,具 体的構成(比翼仕立ての正面部分,前面のポケットの数及び位置,左袖のペン差し\nの構成,電池ボックスポケット及びバッテリー用ポケットの位置,袖口のマジック\nテープ等)の点からみても類似し,カラーラインナップも類似する3色のものがあ ることは認められる(甲8,甲17の14及び弁論の全趣旨)。しかし,前記(4)イの とおり,それぞれの商品やその包装及び広告ないし価格表には異なる商標が付され\nていることが認められ,その商標は前記(2)のとおり相違しているのであるから,上 記のとおり商品の形態が類似しているからといって,取引者及び需要者において普 通に払われる注意力を基準として,出所の混同を生ずるとはいい難いし,また,需 要者の間で頻繁に取り違えが生じていることを認めるに足りる証拠もない。
(イ) 原告は,被告は,ファンを備えた作業服の販売について原告に10年以上後 れる後行者でありながら,原告の周知の商標を組み込んだ本件使用商標を使用し, 商品の形態等も酷似させ,原告の商品の名声にフリーライドして自らの商品を販売 するものであるから,これを取引の実情として考慮すべきであると主張する。 しかし,引用商標と本件使用商標が相違することは前記(2)のとおりであるし,形 態が類似しているからといって,出所の混同を生ずるとはいえないのは上記(ア)のと おりである。また,証拠(甲8,12,13,甲17の14,乙16の1〜11及び 弁論の全趣旨)によれば,1)セフト研究所と被告が,平成15年頃,ファンを備えた 被服に関係するセフト研究所の出願中の特許について,セフト研究所が被告に実施 許諾(非独占的通常実施権)することなどを内容とする契約を締結したこと(甲1 2),2)セフト研究所と被告が,平成24年11月20日,i)セフト研究所が保有 する特許権に係る特許を用いたファン付き作業服等の被服の部分を被告が製造し, これにファン部材を組み付けた製品を被告が販売することを許諾し,ii)セフト研 究所が販売する製品の被服の部分の製造を優先的に被告に委託し,被告は優先的に 受託することなどを内容とする契約を締結したこと(甲13),3)平成27年頃に両 者の関係が悪化してほどなく上記契約関係が終了したことは認められるものの,原 告ないしセフト研究所が,その保有する特許権の技術的範囲を超える,ファンを備 えた作業服全体の独占権を有するものでもないことは明らかである。以上によれば, 被告が,ファンを備えた作業服の販売について,原告の後行者であるのに,原告の 名声にフリーライドしたものと評価することはできず,原告の主張は前提を欠く。
(ウ) 原告は,被告が,平成29年のカタログ(甲160)に虚偽の記載をし,意 図的に混同を生じさせていることを取引の実情として主張する。しかし,株式会社 中電工が平成17年から使用している「空調服」の出所が原告であることを裏付け るに足りる証拠はなく,原告の主張は前提を欠く。

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令和2(ワ)910 発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年9月25日  東京地方裁判所

 屋外に恒常的に設置された建物の写真について、著作物性ありと判断され、発信者情報開示が認められました。

 前記前提事実,証拠(甲1,6,8,乙1)及び弁論の全趣旨によれば, 本件写真は,原告が,空気の透明度が高い冬季において,天候が良好な日 の夜間に,約180度の眺望を有する本件展望台から見ることができる夜 景のうち,大阪府内所在のりんくうゲートタワー及びその周辺の建造物の 組合せを被写体として選択し,中でも目を引く建造物であるりんくうゲー トタワーを構図のほぼ中心に据え,その左右に複数の建造物がそれぞれ配\n置されるようにして,カメラについては,「70−200mm」のレンズを 選択し,レンズ焦点距離を「200.00mm」,シャッター速度を「16. 0秒」,絞り値を「f/9」とするなどの設定をした上で,ストロボ発光な しで撮影したものと認められる。 そうすると,本件写真は,原告において,撮影時期及び時間帯,撮影時 の天候,撮影場所等の条件を選択し,被写体の組合せ,選択及び配置,構\n図並びに撮影方法を工夫し,シャッターチャンスを捉えて撮影したもので あり,原告の個性が表現されているものと認められる。\nしたがって,原告が撮影した本件写真及びこれに本件文字を付加して作 成した本件写真画像は,いずれも,原告の思想又は感情を創作的に表現し\nたものということができるから,「著作物」(著作権法2条1項1号)に該 当する。
イ 被告は,本件写真の被写体であるりんくうゲートタワー及びその周辺の 建造物は,屋外に恒常的に設置されているものであるから,これを被写体 として撮影しようとすれば,焦点距離や撮影位置,構図等の表\現の選択の 幅は必然的に限定され,本件写真の構図自体ありふれたものであるから,\n撮影者の個性が現れたものとはいえず,本件写真には創作性がない旨主張 する。
しかしながら,別紙4写真画像目録記載の本件写真画像から明らかなよ うに,本件展望台からの眺望は広く,撮影することができる建造物は多数 あり,それらから発せられる光も様々であるから,どのような位置から, どのような構図で撮影するか,どの建物に焦点を合わせるかといった選択\nの幅が限定的であるということはできない。 そして,前記アのとおり,原告は,上記の幅の中から1つの撮影位置, 構図及び焦点距離を選択した上,さらに,撮影時期及び時間帯,撮影時の\n天候等の条件についても選択して,撮影方法を工夫し,シャッターチャン スを捉えて撮影したものであるから,本件写真には,原告の個性が現れて いるものと認められる。

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令和1(ネ)10062  商標権移転登録手続等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和2年10月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁も1審と同じく、商標の移転契約合意は成立していないと判断しました。

 甲と乙は,業務提携について合意し,その際,乙は,甲に対し,諸外 国で乙が保有し登録された「ROCCA」商標(本件商標)の使用を認め, 甲は,本件商標権を,日本において登録した。乙は,本件商標について・・・ 無効審判を請求したが,特許庁は,請求が成り立たない旨の審決(本件審 決)を下し,本件審決は確定した。甲と乙は,本件審決の解釈に関して見 解の相違を生じたことなどから,業務提携が事実上中断し,かつ,本件商 標権の帰属について,長年にわたり,合意に至らなかった。そこで,甲と 乙は,上記法解釈に係る見解の相違があることを認めつつ,本件を将来に 向けて解決し,業務提携を再開・発展させることにより,相互に共存共栄 することとした。」(前文),2)「甲は,乙に対し,本契約書別紙商標権目録 1記載の本件商標権について,移転登録手続を執ることを合意し,乙は, 甲に対し,「ROCCA SINCE 1947」商標を,日本において, 乙の使用に係る同商標と異なる字体で使用することにつき,通常使用権を 許諾する。上記移転登録手続に要する費用は,乙が負担し,上記許諾は無 償とする。」(1条3項)などの記載があることが認められる。本件和解契 約書案の上記1)中の「甲と乙は,本件審決の解釈に関して見解の相違を生 じたことなどから,業務提携が事実上中断し,かつ,本件商標権の帰属に ついて,長年にわたり,合意に至らなかった。」との記載は,2017年(平 成29年)2月25日付け書面の添付書面として本件和解契約書案を送付 した時点では,控訴人と被控訴人間で被控訴人が控訴人に対し本件各商標 権を移転することの合意が成立していないことを示すものであり,平成2 6年4月23日に控訴人と被控訴人間で本件合意が成立していたことと矛 盾する記載であり,また,本件和解契約書案の上記2)の内容は,本件合意 の内容と必ずしも一致するものではない。
・・・
そこで検討するに,上記1)の記載部分は,控訴人代表者のAが,2\n014年(平成26年)4月23日,レストランの席上で,被控訴人 代表者のCに対し,控訴人が使用し管理する「ROCCA」が国際著\n名商標であることは,Cもよく知っているはずであり,鈴屋(被控訴 人)は「ROCCA」商標を返還すべきであると明確に述べ,最終的 に,Cも,これを認めるに至った,Cは,控訴人との商標を巡る紛争 を直ちに解決するため,「ROCCA」商標を控訴人に移転する代わり に,控訴人との取引を継続し,ダミアーニ・グループに支援を要請し たいと述べ,Aの提案に同意した旨を供述するものであるところ,A がレストランの席上で「ROCCA」商標の返還を求める旨の提案を してから,Cが「最終的にこれを認めるに至った」具体的な経緯につ いての説明がない上,当時,被控訴人がダミアーニ・グループに支援 を要請すべき事情があったことを認めるに足りる証拠はなく,さらに は,ダミアーニ・グループのダミアーニB.V.社が請求した本件商 標1の商標登録無効審判(別件無効審判)を不成立とする別件審決が 既に確定している状況下において,CがAの提案に応じるべき合理的 な理由はないことに照らすと,Aの上記供述内容はそれ自体不自然で あって,説得力を欠くものである。 かえって,前記(1)アのとおり,控訴人が被控訴人に送付した201 7年(平成29年)2月25日付け書面(甲8の1)添付の本件和解 契約書案中には,被控訴人と「Damiani Internati onal S.A.」は,「業務提携が事実上中断し,かつ,本件商標 権の帰属について,長年にわたり,合意に至らなかった。」との記載部 分があり,この記載部分は,AとCが平成26年4月23日に面談し た後の本件和解契約書案が送付された時点において,控訴人と被控訴 人間で被控訴人が控訴人に対し本件各商標権を移転することについて の合意が成立していないことを示すものであり,上記1)の記載部分と 矛盾するものである。 次に,上記2)及び3)の記載部分は,A個人の内心の思いや考えを述 べたものであり,Aが,Cに対し,言葉として発して,その内容を確 認したというものではないから,控訴人主張の本件合意の成立を裏付 けるものではない。 以上によれば,甲22の上記1)ないし3)の記載部分は措信すること はできず,甲22の他の記載を勘案しても,甲22から控訴人主張の 本件合意が成立したことを認めることはできない。

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◆平成30(ワ)11399

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令和1(ワ)19889  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和2年3月18日  東京地方裁判所

 fashionブランドのセレクトショップ「SHIPS」と同じマッチングサイトの名称を使用していた被告に対して、差止と20万円の損害賠償が認められました。

原告ブランドに係る商品の需要者は,衣料品を中心とするファッション全 般に関心を有する一般消費者であると解されるところ,前記認定のとおり, 1)原告の店舗数及びその展開地域,2)オンラインショップも運営しているこ となど,その販売態様,3)原告の商品の売上高及び来店者数,4)セレクトシ ョップ分野における原告の地位(三大ブランドの一つ),5)雑誌,カタログ, フリーペーパー等における宣伝・広告の状況,6)フェイスブック,ツイッタ ー,インスタグラムにおけるフォロワー数などの事情を総合すると,原告表\n示は,被告表示の使用が開始された平成31年4月時点において,需要者等\nの間において,原告の商品等表示に当たるものとして,周知であったと認め\nられる。
(2) これに対し,被告は,原告商品の売上高や店舗数,UNITED ARR OWS,BEAMS,ユニクロ,しまむらなどの同業他社に比して少ないこ とを指摘する。 しかし,原告商品の売上高や店舗数が,原告より更に規模が大きい同業他 社と比較して小さいとしても,そのことは原告ブランドが需要者等の間で周 知であるとの認定を妨げるものではない。前記認定のとおり,原告は,アパ レルの一つの分野として確立しているセレクトショップ分野において,BE AMS及びUNITED ARROWSとともに,三大セレクトショップの 一つと評価されており,その店舗は,著名百貨店,主要ターミナル駅の駅ビ ル,大型路面店などを中心に,全国に展開され,売上高(平成31年2月期) も245億7502万円に上ることなどを考慮すると,原告表示が周知であ\nると認められることは前記判示のとおりである。
(3) 被告は,「知恵蔵」の出版が10年以上前であることなどを指摘し,原告 が挙げる書籍は周知性を基礎付けるものではないと主張するが,前記1(2) のとおり,アパレル業界に関する書籍及び「知恵蔵」などの一般書籍は,出 版時期を問わず,いずれも,原告がセレクトショップの大手であるとの認識 を示している上,上記1で認定した原告ブランドの宣伝・広告状況などにも 照らすと,原告がセレクトショップとして需要者等によく知られているとい う「知恵蔵」に記載された状況は,平成31年4月時点においても変わりが ないというべきである。
(4) 被告は,原告による広告宣伝について,他社の広告費との比較や実際の広 告効果の定量的な主張・立証がないと主張するが,前記1(3)(4)記載のとお り,原告ブランドの雑誌等における紹介の状況,SNSにおけるフォロワー の数,創業40周年の際の宣伝・広告状況(全国主要駅におけるポスター広 告,新聞における全面広告等),プロサッカーにおけるスポンサー企業とし ての宣伝・広告状況など,原告による広告・宣伝の内容,量等に照らすと, 他企業の広告費との比較を要することなく,原告表示は需要者等の間で周知\nであると認めることができる。
(5) 被告は,被告サイトの利用者向けに実施したアンケート調査の結果によれ ば,回答者341名のうち,原告表示を知らなかった者は297名に及ぶこ\nとを理由として,原告表示が周知ということはできないと主張する。\n しかし,被告の行ったアンケート調査調査は,その対象者が被告サイトの 利用者であり,被告サイトにより提供されるサービスの性質,内容等に照ら すと,その利用者層は一定の限定された範囲にとどまるものと考えられ,そ の調査結果が必ずしも原告ブランドに係る商品の需要者の認識を反映してい るとはいい難い。そうすると,上記調査結果は,原告表示が需要者等の間で\n周知であるとの結論を左右しないというべきである。
(6) 以上のとおり,原告表示は,少なくとも周知性を有するものであって,不\n正競争防止法2条1項1号の「需要者の間に広く認識されているもの」に当 たるというべきである。
3 争点2(混同のおそれの有無)について
(1) 不正競争防止法2条1項1号の「混同を生じさせる行為」には,他人の周 知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と当該他人とを同一\n営業主体として誤信させる行為のみならず,両者間にいわゆる親会社,子会 社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業\nを営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為をも包含すると解さ れる(最高裁平成7年(オ)第637号同10年9月10日第一小法廷判 決・集民189号857頁,最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年 5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。
(2) これを本件についてみるに,前記認定(5)及び(6)のとおり,1)原告は,原 告表示を含むブランド名を用いて,アパレル分野に限らず,自動車のメンテ\nナンスやカスタム,生活雑貨の販売などの事業も手掛けていること,2)原告 は,原告表示を用いて,異業種の他企業との間で,多数のコラボレーション\n企画を実施しており,そのことは需要者等に相応に認識されていたものと推 認されること,3)原告は,原告表示を用いて,福祉分野を始めとする社会的\nな活動にも参加しており,公式サイトにおいて,「コンプライアンス,LG BT,ダイバーシティなどについての啓蒙」に取り組んでいる旨を表明して\nいることが認められる。 これによれば,被告サイトに原告表示と類似する被告表\示を使用すること は,原告と被告との間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの緊 密な営業上の関係があり,又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属\nする関係が存すると需要者等に誤信させる行為であって,原告の商品又は営 業と「混同を生じさせる行為」というべきである。
(3) これに対し,被告は,原告の属するアパレル分野と被告の属するマッチン グサイトの分野とは,全くの異業種であり,業種の隔たりが大きいと主張す るが,原告自身が,障害者を始めとするマイノリティや福祉に対する支援活 動を積極的に行っていることは前記判示のとおりであり,また,アパレルメ ーカーがマッチングアプリとの協業プロジェクトを実施した事例や,セクシ ャルマイノリティの間で人気の出会い系アプリがアパレルラインを発表した\n事例があると認められること(甲65)に照らすと,アパレル分野とマッチ ングサイトの分野とが全くの異業種であるということはできない。
(4) また,被告は,原告は他の企業の知名度を借りたコラボレーションをして いるにすぎないと主張するが,原告が他の分野で事業自体を展開していない としても,他業種の企業とコラボレーションをし,原告表示の付された商品\n等を提供することとなれば,需要者等は,原告と被告との間に子会社等の関 係があるなどの誤信をするおそれがあることに変わりはないというべきであ る。
(5) 被告は,被告の実施したアンケート調査結果も根拠として,被告サイトが 原告によって運営されていると誤信することはないと主張するが,前記判示 のとおり,被告の行ったアンケート調査結果が原告ブランドの需要者等の認 識を反映しているとは必ずしもいうことはできないので,同アンケート調査 結果を根拠にして混同のおそれがないということはできないが,同調査結果 によっても,セレクトショップ「SHIPS」を知っている者の2割以上に 混同が生じていることによれば,被告表示に接した需要者等が上記の混同を\nする可能性は高いというべきである。\n
(6) したがって,被告の行為は,原告の商品又は営業と「混同を生じさせる行 為」に当たる。
4 争点3(営業上の利益の侵害の有無)について
原告は,昭和52年に「SHIPS 銀座店」を開設して以来,その店舗を 拡大し,平成31年3月頃までに,全国19都道府県に約70店舗を展開する に至っており,原告ブランドには長年にわたる使用により信用力が形成されて いると解されるところ,被告による被告表示の使用は,原告ブランドの信用力\nに依拠し,その意に反してこれと類似の被告表示を使用するものであり,原告\nブランドの信用力を希釈化若しくは毀損するものであるということができる。 したがって,被告の行為は,原告の営業上の利益を侵害し,これを侵害する おそれのある行為であると認められる。
5 争点4(故意・過失の有無及び損害額)について
(1) 被告は,被告以外にも「シップス」又は「SHIPS」の名称を用いる事 業者が存在することなどを理由として,被告には過失がなかったと主張する が,「SHIP」等の名称を用いる業者が他に存在するとしても,そのこと をもって過失の存在が否定されるものではない。被告は,原告表示の存在を\n知りつつ,被告サイトに被告表示を使用したものであり,原告表\示の周知性 や原告表示との類似性を容易に認識し得たものと認められるので,被告には\n少なくとも過失が存在したものというべきである。
(2) そして,本件訴訟の難易度,審理の経過,認容する請求の内容その他本件 において認められる諸般の事情を考慮すると,被告による不正競争行為と相 当因果関係にある弁護士費用相当額は20万円とするのが相当である。

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平成30(ネ)10016  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年5月27日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 知財高裁(4部)は、侵害しないとした1審判決を変更して、約2000万円の損害賠償を認めました。原審は,噴霧流同士が衝突する前に「粒子径10μm以下の液滴」を噴射するものではなく,クレームの「液体を微粒子に噴射する」を充足するものと認められないと判断していました。

(イ) これに対し被控訴人は,1)イ号製品においては,供給口(5)から 供給された液体は,空気口(10)から噴出された外部傾斜領域(7A ')に平行な方向に沿って流動する空気流の強い剪断応力と液体の自重で 下流側へ引っ張られて傾斜面(外部傾斜領域(7A'))に沿って流れ, 空気流によって傾斜面に液体を押し付ける力は作用しておらず,乙23 の鑑定書記載のとおり,流体力学の一般原理においては,傾斜面に対し て平行な高速気流によっては,傾斜面に供給された液体に対し,傾斜面 に押し付ける力は生じないから,イ号製品は,構成要件オの「液体を,\n高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」の構成を備えていない,2) 構成要件オの「薄膜流を空気流で空気中に微粒子として噴射する」とは,\n「高速流動空気によって押しつけられた液体の薄膜流が平滑面ないし傾 斜面から離れるとき」に「10μm以下の液滴の微粒子」になることを いうが,イ号製品は,気液体が混じった高速噴流が衝突することによっ て,微粒子を得られるものであり,この衝突前に微粒子を得られるもの ではないとして,イ号製品は,構成要件オを充足しない旨主張する。\n しかしながら,被控訴人の主張は,以下のとおり理由がない。
a 上記1)について
乙23の鑑定書には,1)液体が傾斜面に供給された場合,液体を傾 斜面側に押す力がなくても,液体は,その粘性による剪断応力と自重 とで傾斜面に沿って流れること,2)気体が傾斜面に平行に流れる場合, 気体は,傾斜面を押す力を発揮し得ないこと,3)液体には,高速の気 流との速度差によって傾斜面に平行な方向の剪断応力が作用し,液滴 の飛散を伴う流れとなるが,このような傾斜面に平行な気流では,該 傾斜面に液体を押し付けるような力は作用しないことは,流体力学の 一般原理である旨の記載がある。 しかしながら,乙23は,空気の直線流れの方向と平行に平板を設 置した場合における流体力学の一般原理について述べるものであって, イ号製品においては,「供給口(5)」から供給されたノズルの軸方 向(垂直方向)に直進する液体流が,空気口(10)から噴射する高 速流動する空気流によって,空気流と合流する時点で,外側傾斜領域 (7A')に沿って平行に進むように進行方向が曲げられており(前記 (ア)a),傾斜面(外側傾斜領域(7A'))に液体流を押し付ける力 が作用しているものといえるから,イ号製品には妥当しない。 したがって,被控訴人の上記1)の主張は理由がない。
b 上記2)について
本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,「微粒子」の粒子 径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。 次に,本件明細書には,微粒子の粒子径に関し,「図1に示すノズ ル」について「この構造のノズルは,液体を10μm以下の微細な粒\n子に噴射できる。」(【0003】),「図3に示すノズル」につい て「粒子径を5μmとする微粒子を得ることに成功した。しかしなが ら,この構造のノズルは,液体を噴射する供給口5の調整が極めて難\nしく,調整がずれると微粒子の粒子径は20〜30μm以上に急激に 大きくなった。」(【0011】),「図4に示すノズル」について 「この構造のノズルは,アトマイズエアーとスプレッディングエアー\nの衝突角を25度に設計すると,10μm以下の微粒子が得られる。」 (【0012】),「図11の拡大図に示すノズル」について「この 構造のノズルは,液体を極めて微細な,たとえば1〜5μmの微粒子\nとして噴射できる特長がある。」(【0052】),「ちなみに,本 発明者が試作したノズルは,1分間に1000gの液体を噴射して, 粒子径を10μm以下の微粒子の液滴を噴射することに成功した」(【0 072】)との記載があるが,これらの記載から,本件発明4の「微 粒子」の粒子径を「10μm以下」に限定する趣旨を読み取ることは できず,また,本件明細書には,本件発明4の「微粒子」の粒子径を 「微粒子」の粒子径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。 さらに,本件意見書には,「内部混合タイプのノズルは,閉鎖され た空間内で液体の微粒子として噴霧します。このため,ノズルの内部 で極めて目詰まりしやすい欠点があります。・・・にもかかわらず,内部 混合タイプの噴霧ノズルが多用されますのは,外部混合タイプでは, 安定して液体を極めて小さい微粒子に噴霧できないからです。外部混 合タイプの噴霧ノズルであって,液体を微粒子として安定して噴霧で きます優れたノズルは実用化が困難です。」,「本願発明は,外部混 合タイプのノズルを改良したものです。本願発明の噴射方法とノズル は,前述の独特の構成で,液体を極めて小さい微粒子に安定して噴射\nできる特長があります。本発明の噴射方法とノズルは,液体を,10 μm以下の極めて小さい微粒子として,安定して噴射することが可能\nです。・・・それは,本発明の噴射ノズルが,液体を極めて小さい孔や, 極めて小さいスリットから噴射して微粒子に噴射するのではなく,平 滑面を極めて速い速度で高速流動する空気流で,液体を薄く引き伸ば して微粒子にして噴射するからです。」(以上,6頁16行〜7頁2 行)との記載がある。上記記載中には,「液体を,10μm以下の極 めて小さい微粒子として,安定して噴射することが可能です。」との\n記載があるが,上記記載全体として読めば,「本発明」は,「平滑面 を極めて速い速度で高速流動する空気流で,液体を薄く引き伸ばして 微粒子にして噴射する」構成により,液体を微粒子として安定して噴\n霧でることを説明したものであって,「本発明」が「10μm以下」 の粒子径の微粒子を噴射できることに格別の作用効果があることを述 べたものではない。
以上によれば,構成要件オの「微粒子」とは,小さな粒子径の粒子\nを意味するものであって,粒子径の数値範囲に限定はなく,「10μ m以下」の粒子径のものに限定されるものでもない。そして,イ号製品においては,外側傾斜領域(7A')に沿って進む,液滴を含む薄膜流は,外側傾斜領域(7A')から離れるときに小さな粒子径の液滴(微粒子)となっていることは,前記(ア)b認定のとお りである。

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◆平成27(ワ)12965

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平成29(ワ)19073  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年3月4日  東京地方裁判所

 本件コンピュータプログラムは著作物性なしと判断されました。

イ そこで検討すると,前記1(1),(3)イ認定のとおり,本件プログラムは,ED INETにおける取扱いに変更があったことを踏まえ,ユーザーが作成した会計に 関するエクセルファイル等をX−Smartに取り込み,会計科目を開示科目に組 み替え,編集作業等を経て,宝XBRLの形式に変換することを簡易に行うことな どを目的として開発されたものであり,相応の分量のソースコードから成るもので\nある。 しかしながら,前記1(2)に照らすと,DI社が原告に本件プログラムの開発を委託した際に提供された本件各資料のうち,少なくとも本件資料4ないし6には,本 件プログラムに要求される機能及びそれを実現する処理,画面の構\成要素等を別紙 3本件プログラム説明書と同様のものとすることが概ね示されていたと認められる。 また,前記1(3)認定のとおり,本件プログラムは,ユーザーからのフィードバッ クの結果を踏まえ,順次,DI社からの発注を受けて修正及び追加等をしながら開 発されたものであり,その過程で,そのソースコードの一部については,DI社か\nら元となるデータやそのサンプルが提供され,その作成方法を指示されるなどして 作成されたものであること,その他,ソースコード中にNetAdvantageに含まれるフ ァイル,VisualStudioで自動生成されるファイル,オープンソースからダウンロー\nドしたファイルから作成された部分や,一般的な設定ファイル等である部分も相応 に含まれていることにも照らせば,ソースコードの分量等をもって,本件プログラ\nムに係る表現の選択の幅が広いと直ちにはいえない。\n
(2)原告が創作的表現であると主張している部分についての検討\n
以上を前提として,本件プログラムのうち,原告が創作的表現であると主張して\nいる部分について検討する。 ア ドロップダウンリストの生成に係る部分 前記1(4)認定のとおり,本件ソースコード1には,画面1の「ファイル形式」を\n選択するドロップダウンリストを生成する処理が記述されているところ,原告は, 本件ソースコード1では,ドロップダウンリストを「asp:DropDownList」を利用し て別の箇所で生成しているが,他の表現1のように,ドロップダウンリストを直接\n生成することもできるから,選択の幅があり,ここに原告の個性が表れている旨主\n張する。 しかしながら,前記1(3)ウ認定のとおり,本件プログラムの開発はASP.NE T環境下で行われているところ,証拠(乙227)及び弁論の全趣旨によれば, 「asp:DropDownList」は,ドロップダウンリストを生成するためのツールとしてA SP.NET環境で用意されているものであり,これを利用する方法は一般的なこ とであると認められるから,他の表現1があるとしても,「asp:DropDownList」を 利用することに作成者の個性が表れているということはできない。\nまた,本件ソースコード1の具体的な記述も,ASP.NET環境で利用可能\な 宣言構文のとおりのものであると認められる(乙227)のであって,作成者の個\n性が表れていると認めるに足りず,創作的表\現であるとはいえない。
イ サブルーチンに係る部分
原告は,本件ソースコード2ないし4について,サブルーチン化するか否か,サ\nブルーチン化するとしてどのようにサブルーチン化するかについて選択の幅がある と主張する。 しかしながら,前記第2の2(5)ア認定のとおり,サブルーチンは,高等学校工業 科用の文部科学省検定済教科書である乙232文献にも記載されているような基本 的なプログラミング技術の一つであり,証拠(乙238,240)及び弁論の全趣 旨によれば,プログラム中で繰り返し表れる作業につきサブルーチンに設定するこ\nとで可読性及び保守性を向上させることができ,そのような観点からサブルーチン を設定することは一般的な手法であると認められるから,本件ソースコード2ない\nし4にサブルーチンが設定されているというだけでは,作成者の個性が表れている\nとはいえない。
また,本件ソースコード3において,更にサブルーチンを設定しないことに何ら\nかの目的,意図があるともいい難いから,サブルーチンを更に分割することができ るというだけでは,作成者の個性が表れていると認めるに足りないというべきであ\nる。 以上に加えて,原告は,上記の各点以外に,本件ソースコード2ないし4の記述\nに選択の幅があることを具体的に主張立証しておらず,これらを創作的表現である\nと認めるに足りない。
ウ 条件分岐及びループに係る部分
(ア) 本件ソースコード5\n
前記1(4)認定のとおり,本件ソースコード5には,画面1から画面2に遷移する\n際に呼び出されるサブルーチンのうち,アップロードしたファイルの種類を判別し, 対応する画面を生成する処理が記述されているところ,原告は,本件ソースコード\n5では,switch文で条件分岐を行っているが,他の表現5のように,els\ne−ifで条件分岐を行うこともできるから,選択の幅があり,ここに原告の個性 が表れている旨主張する。\nしかしながら,証拠(乙223ないし226,232,233)及び弁論の全趣 旨によれば,switch文は,複数の選択肢の中から式の値に合うものを選び, その処理を行うものであり,else‐ifは,複数の条件のどれに当てはまるか によって異なる処理を行うものであって,いずれも高等学校工業科用の文部科学省 検定済教科書である乙232文献その他複数の文献(乙223ないし226,23 3)に記載されている条件分岐の基本的な制御文であり,3種類以上の場合に分け て条件を指定するときに使用されるものであると認められるから,本件ソースコー\nド5のように,アップロードしたファイルの種類によって場合を分けて条件を指定 する必要がある場合に,switch文を使用すること自体は一般的なことである と認められ,そのことに作成者の個性が表れているということはできない。\n
(イ) 本件ソースコード6\n
前記1(4)認定のとおり,本件ソースコード6には,ファイルの何列目からデータ\nを取り込むかを取得し,取り込み開始が20列目を超えているか否かを判別し,超 えている場合にはエラーを発生させる処理が記述されているところ,原告は,本件 ソースコード6では,for文でループを行っているが,他の表\現6のように,w hile文でループを行うこともできるから,選択の幅があり,ここに原告の個性 が表れている旨主張する。\nしかしながら,証拠(乙223ないし226,232,233)及び弁論の全趣 旨によれば,for文は,繰り返す回数を指定して反復処理を行うものであり,w hile文は,指定した条件を満たす限り反復処理を行うものであって,いずれも, 高等学校工業科用の文部科学省検定済教科書である乙232文献その他複数の文献 (乙223ないし226,233)に記載されているループの基本的な制御文であ り,for文で記述できるものはwhile文でも記述可能であると認められるか\nら,本件ソースコード6のように,取り込み開始が20列目を超えているか否かを\nループ処理によって判別するに当たり,for文を使用すること自体は一般的なこ とであると認められ,そのことに作成者の個性が表れているということはできない。\n
(ウ) 本件ソースコード7\n前記1(4)認定のとおり,本件ソースコード7には,ファイルの最大列数や項目名\nの開始列を取得する処理が記述されているところ,原告は,本件ソースコード7で\nは,全てのデータに対してforeach文でループを行っているが,他の表現7\n(1)のように,あらかじめ決められた条件で抽出されたデータに対してのみループを 行うことも可能であり,他の表\現7(2)のように,for文でループを行うこともで きるから,選択の幅があり,ここに原告の個性が表れている旨主張する。\n
しかしながら,証拠(乙223ないし226,233)及び弁論の全趣旨によれ ば,C#において,foreach文は,複数のデータの集まりの各要素を最初か ら最後まで1回ずつ呼び出して処理するものであり,for文等と共に複数の文献 (乙223ないし226,233)に記載されているループの基本的な制御文であ って,for文等で記述された処理を代替し得るものであると認められるから,本 件ソースコード7のように,ファイルの最大列数や項目名の開始列を判別するに当\nたり,foreach文を使用すること自体は一般的なことであると認められ,そ のことに作成者の個性が表れているということはできない。\nまた,他の表現7(1)及び(2)は,ループを行う範囲を限定するものであると認めら れるが,同等の処理を行うものと認められる本件ソースコード7と比べて記述が長\nく,可読性が低下していると認められるところ,あえてそのような記述をする必要 があると認めるに足る証拠はないから,これを選択可能な他の表\現であるとは認め 難い。
(エ) 本件ソースコード8\n
前記1(4)認定のとおり,本件ソースコード8には,金額の単位を選択するために\n画面3に表示されるドロップダウンリストを生成するための判別処理等が記述され\nているところ,原告は,本件ソースコード8では,foreach文によるループ\nの中で,求める条件が正しい場合に次の条件に進むように記述しているが,他の表\n現8のように,求める条件が正しくない場合にループをやり直すように記述するこ ともできるから,選択の幅があり,ここに原告の個性が表れている旨主張する。\nしかしながら,前記(ウ)のとおり,foreach文は,ループの基本的な制御 文であるから,本件ソースコード8のように,ドロップダウンリストを生成するた\nめの判別処理として,foreach文を使用すること自体は一般的なことである と認められ,そのことに作成者の個性が表れているということはできない。\nまた,証拠(乙232ないし234)及び弁論の全趣旨によれば,他の表現8に\n用いられているcontinue文は,ループの中で使用され,その前のif文が 真になった場合にcontinue以降の処理をスキップして,次のループ処理の 最初に戻るものであると認められるものの,if文を用いた本件ソースコード8と\n比べてソースコードが長く,可読性が低下していると認められ,あえてそのような\n記述をする必要があると認めるに足る証拠はないから,これを選択可能な他の表\現 であるとは認め難い。
(オ) 本件ソースコード9\n
前記1(4)認定のとおり,本件ソースコード9には,画面2で選択された列の種別\nを判別して対応する処理が記述されているところ,原告は,本件ソースコード9で\nは,else−ifで条件分岐を行っているが,他の表現9(1)のように,swit ch文で条件分岐を行うこともでき,他の表現9(2)のように,switch文に加 えて,foreach文によるループの対象として,条件分岐の判別に必要な変数 を直接取得することもできるから,選択の幅があり,ここに原告の個性が表れてい\nる旨主張する。 しかしながら,前記(ア)のとおり,else−if及びswitch文は,いず れも条件分岐の基本的な制御文であるから,本件ソースコード9のように,画面2\nで選択された列の種別を判別して対応する処理を行うに当たり,else−ifで 条件分岐を行うこと自体は一般的なことであると認められ,そのことに作成者の個 性が表れているということはできない。\nまた,証拠(乙222)及び弁論の全趣旨によれば,他の表現9(2)は,他の表現\n9(1)と同様のswitch文の中に統合言語クエリ(LINQ)を実行する処理に 係る記述を挿入したものであると認められるものの,ソースコードが長く,可読性\nが低下していると認められ,あえてそのような記述をする必要があると認めるに足 る証拠はないから,これを選択可能な他の表\現であるとは認め難い。
(カ) 小括(本件ソースコード5ないし9)\n
原告は,上記(ア)ないし(オ)の各点以外に,本件ソースコード5ないし9の記述に\n選択の幅があることを具体的に主張立証しておらず,これらを創作的表現であると\n認めるに足りない。
エ 変数への設定に係る部分
前記1(4)認定のとおり,本件ソースコード10には,画面4に表\示される会計科 目のデータの判別及び設定を行う処理が記述されているところ,原告は,本件ソー\nスコード10では,変数に対して判別結果を直接設定し,条件演算子「?」,「:」 を使用しているが,他の表現10のように,if文によって変数に設定する値を変\nえることもできる,実際の表現の方が簡潔に表\現されているが,他の表現10にも,\nデバッグやログの出力をしやすいといった利点があるのであって,選択の幅があり, ここに原告の個性が表れている旨主張する。\nしかしながら,証拠(甲48,乙236,237)及び弁論の全趣旨によれば, 条件演算子は,条件に基づいて複数の処理を選択する演算子であると認められ,i f文等の条件分岐の制御文と同様の処理を行い得るものであって,両者は代替され 得るものとして認識されていると認められるから,本件ソースコード10のように,\n会計科目のデータの判別及び設定を行うに当たり,条件演算子を使用すること自体 は一般的なことであると認められ,変数に対して判別結果が直接設定されることが 特殊なことであると認めるに足る証拠もないから,それらに作成者の個性が表れて\nいるということはできない。 また,原告は,上記の点以外に,本件ソースコード10の記述に選択の幅がある\nことを具体的に主張立証していないから,これを創作的表現であると認めるに足り\nない。
オ チェック処理に係る部分
前記1(4)認定のとおり,本件ソースコード11には,組替操作時に画面4でドロ\nップされた行番号の取得及び変換を行う処理が記述されているところ,原告は,本 件ソースコード11では,TryParseメソ\ッドの戻り値でドロップされた行 番号のチェック結果を判別しているが,他の表現11のように,Parseメソ\ッ ドを用いて,まず行番号の取得を試みて,エラーが発生するかどうかでチェック結 果を判別することもできるから,選択の幅があり,ここに原告の個性が表れている\n旨主張する。 しかしながら,証拠(乙226,227)によれば,TryParseメソッド\n及びParseメソッドは,いずれもC#ライブラリに標準機能\として搭載された, 文字列を数値に変換する手法であるところ,TryParseメソッドは,変換に\n失敗したときに,例外として情報を取得し,それを精査することにより失敗の原因 を究明することができるとされるParseメソッドとは異なり,戻り値として,\n失敗したという情報だけを取得し,ソースコードはParseメソ\ッドより短くな ると認められ,本件ソースコード11のように,ドロップされた行番号の取得及び\n変換を行うに当たり,TryParseメソッドを用いること自体は一般的なこと\nであると認められ,そのことに作成者の個性が表れているということはできない。\nまた,原告は,上記の点以外に,本件ソースコード11の記述に選択の幅がある\nことを具体的に主張立証していないから,これを創作的表現であると認めるに足り\nない。
カ デバッグログを出力するコードに係る部分
(ア) 本件ソースコード12\n
原告は,本件ソースコード12にデバッグログを出力するコードが挿入されてい\nることにプログラム作成者の個性が表れると主張する。\nしかしながら,弁論の全趣旨によれば,プログラムの開発過程において,プログ ラムの保守及び変更等の必要から,不具合があり得ると考えられるソースコード上\nにデバッグログを出力するコードを挿入することは一般的に行われていることであ ると認められるから,デバッグログを出力するコードが挿入されているというだけ で,そのことに作成者の個性が表れているということはできない。\nまた,本件ソースコード12のデバッグログを出力するコードの記述に作成者の\n個性が表れていることについて原告は具体的に主張立証していないから,これを創\n作的表現であると認めるに足りない。\n
(イ) 本件ソースコード13\n
原告は,デバッグログを出力するコードが挿入されていない本件ソースコード1\n3に対し,他の表現12(1)及び(2)のように,デバッグログを出力するコードを挿入 することも選択し得るとも主張するが,納品されるプログラムにデバッグログを出 力するコードが挿入されていないこと自体は一般的なことであると考えられるから, そのことに作成者の個性が表れているということはできない。\n
キ コメントに係る部分
原告は,本件ソースコード14等におけるコメントの有無及びその内容にプログ\nラム作成者の個性が表れる旨主張する。\nしかしながら,前記(1)アのとおり,プログラムは,電子計算機を機能させて一の\n結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現し\nたもの(著作権法2条1項10号の2)であるところ,コメントは,コンピュータ ーの処理の結果に影響するものではなく,コンピューターに対する指令を構成する\nものであるとはいえないから,上記のプログラムに当たらない。 また,原告は,本件ソースコード14のコメントの内容に作成者の個性が表\れて いることを具体的に主張立証しておらず,これを創作的表現であると認めるに足り\nない。
ク 小括(本件ソースコード)\n
以上のとおり,原告が創作的表現であると主張している本件ソ\ースコードについ て,作成者の個性が表れているということはできず,著作権法で保護されるべき著\n作物であると認めることはできない。
(3) 原告の主張について
原告は,本件プログラムはプログラムの著作物に当たるとし,その理由として, 1)本件プログラムは,原告が創作した部分に限っても,合計4万0381ステップ という膨大な量のソースコードから成り,指令の組み合せ方,その順序,関数化の\n方法等には無限に近い選択肢があること,2)本件プログラムにおけるエクセル取込 機能及び簡易組替機能\は,一般的な用途に使用されるものではないから,これらの 機能を実現するためのプログラムがありふれたものであるとはいえないこと,3)原 告は,NetAdvantageやVisualStudio等の開発ツールを用いながらも,ライブラリ群 の中からどのライブラリを用いるべきか,どの順番でライブラリを呼び出させるべ きか,どのように加工すべきか,どのようにパラメータを設定すべきかなどに工夫 を凝らしており,それらに個性が表れていること,4)本件各資料は,いずれも要求 定義又は外部設計に関するものにすぎず,DI社が要求している機能を実現するた\nめの指令の組合せは記載されていないから,本件プログラムに係る選択の幅を狭め るものではないことを主張する。 しかしながら,上記1)について,前記(1)アのとおり,プログラムに著作物性があ るというためには,プログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた 表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表\現上の創作性が表れていることを要す\nると解されるところ,本件プログラムに表現上の創作性があることについて具体的\nに主張立証されない以上,前記(1)イで認定,説示したとおり,多くのステップ数に より記述されていることをもって,直ちに表現上の創作性を認めることはできない。\nまた,上記2)について,原告の主張は,本件プログラムの機能の特殊性を指摘す\nるにとどまっているところ,プログラムの機能そのものは著作権法によって保護さ\nれるものではなく,特定の機能を実現するためのプログラムであるというだけで,\n直ちに表現上の創作性を認めることはできない。\nさらに,上記3)について,原告は,ライブラリの使用等にどのような工夫をした かについて具体的に主張立証しておらず,その点に選択の幅があり,作成者の個性 が表れていると認めるに足りない。\nまた,上記4)について,本件各資料にソースコードが具体的に記述されていない\nとしても,要求されている機能及び処理を実現するための表\現に選択の幅があると 当然にはいえないから,この点を考慮しても,本件プログラムに表現上の創作性を\n認めるに足りないというべきである。

◆判決本文

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令和2(ネ)10018  損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和2年10月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 著作権侵害の損害額についてPV数に基づく損害を9割控除した点について、1審原告が不服をとして控訴していました。知財高裁は、1審の判断を維持しました。

 一審原告の主張は,原判決が法114条1項ただし書に基づき,本件各漫 画のPV数に本件各同人誌の利益額を乗じた額から9割を控除したことにつ いて,原判決の認定判断の不当を種々の観点からいうものである。 しかしながら,一審原告の主張は採用することができない。その理由は, 次のとおりである。
ア 公衆送信行為による著作権侵害の事案において,法114条1項本文に 基づく損害額の推定は,「受信複製物」の数量に,単位数量当たりの利益 の額を乗じて行うものとされている。そして,本件のように,著作権侵害 行為を組成する公衆送信がインターネット経由でなされた事案の場合, 「受信複製物の数量」とは,公衆送信が公衆によって受信されることによ り作成された複製物の数量を意味するのであるから(法114条1項本 文),単に公衆送信された電磁データを受信者が閲覧した数量ではなく, ダウンロードして作成された複製物の数量を意味するものと解される。と ころが,本件においては,公衆が閲覧した数量であるPV数しか認定する ことができないのであるから,法114条1項本文にいう「受信複製物の 数量」は,上記PV数よりも一定程度少ないと考えなければならない。 また,本件において,一審被告会社は,本件各ウェブサイトに本件各漫 画の複製物をアップロードし,無料でこれを閲覧させていたのに対し,一 審原告は,有体物である本件各同人誌(書籍)を有料で販売していたもの であり,一審被告会社の行為と一審原告の行為との間には,本件各漫画を 無料で閲覧させるか,有料で購入させるかという点において決定的な違い がある。そして,無料であれば閲覧するが,書籍を購入してまで本件各漫 画を閲覧しようとは考えないという需要者が多数存在するであろうことは 容易に推認し得るところである(原判決27頁において認定されていると おり,本件各同人誌の販売総数は,本件各ウェブサイトにおけるPV数の 約9分の1程度にとどまっているが,これも,本件各漫画の顧客がウェブ サイトに奪われていることを示すというよりは,無料であれば閲覧するが, 有料であれば閲覧しないという需要者が非常に多いことを裏付けていると 評価すべきである。)。
イ そうすると,本件各漫画をダウンロードして作成された複製物の数(法 114条1項の計算の前提となる数量)は,PV数よりも相当程度少ない ものと予想される上に,ダウンロードして作成された複製物の数の中にも,\n一審原告が販売することができなかったと認められる数量(法114条1 項ただし書に相当する数量)が相当程度含まれることになるのであるから, これらの事情を総合考慮した上,法114条1項の適用対象となる複製物 の数量は,PV数の1割にとどまるとした原判決の判断は相当である。こ の点につき,一審原告は種々主張しているが,上記の点に照らし,その主 張を採用することはできない。
(2) 一審被告らの主張は,法114条1項に基づく損害額の認定を行うこと自 体の不当をいうものであるが,PV数と受信複製物数の違いを念頭に置いた 上で,更に一審原告が販売できないとする事情を考慮して損害額算定の基礎 となる数量を算定し,これに一審原告の利益額を乗じる手法が不合理である とすべき事情は見当たらないから,法114条1項に基づく損害額の認定は 相当であり,「損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事 実の性質上極めて困難であるとき」として法114条の5を適用する必要は ない。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成30(ワ)39343

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令和1(行ケ)10148  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月7日  知的財産高等裁判所

 コンピュータシステム(医薬品相互作用チェックシステム)について、進歩性違反なしとした審決が維持されました。

(3) 原告の主張に対する判断
ア 原告は,「医薬品」の語は,販売名(商品名),一般名あるいは,薬効, 有効成分及び投与経路を特定できるコードを意味するとの本件審決の認定は,リパ ーゼ事件判決に反していると主張する(前記第3の1(2)ア)。 特許請求の範囲から発明を認定するに当たり,特許請求の範囲に記載された発明 特定事項の意味内容や技術的意義を明らかにする必要がある場合に,技術常識を斟 酌することは妨げられないというべきであり,リパーゼ事件判決もこのことを禁じ るものであるとは解されない。 そして,本件発明1における「相互マスタ」に登録される「一の医薬品」と「他 の一の医薬品」が,いずれも,販売名(商品名)又は一般名,薬価基準収載用薬品 コードであれば薬効,投与経路・有効成分(7桁のコード)以下の下位の番号によ って特定されるものなど,具体的に当該医薬品の薬効,投与経路及び有効成分が特 定できるレベルのものを意味すると認められることは,前記(2)ウ(ア)のとおりであ り,特許請求の範囲の記載や技術常識からこのように判断できるものであることは, 前記(2)ウ(ア)で判断したとおりである。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
イ 原告は,本件審決の要旨認定は,「医薬品」の概念と,「医薬品」を表現\nするデータ(本件明細書の【0040】)を区別する本件明細書の記載と矛盾すると 主張する(前記第3の1(2)イ(ア))。 しかし,「相互マスタ」に登録される「一の医薬品」と「他の一の医薬品」につい て,具体的に当該医薬品の薬効,投与経路及び有効成分が特定できるレベルのもの を意味すると判断することは,データの格納の構成について判断しているものであ\nり,本件明細書の【0040】の記載にも沿うものであるから,本件明細書の記載 と矛盾するものではない。
原告は,本件審決の「医薬品」の認定は,「相互作用が発生する医薬品の組み合わ せ」の概念と,その表現方法,すなわち医薬品の組み合わせを表\現するためのデー タ