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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

ピックアップ対象

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

平成29(ワ)24598  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月26日  東京地方裁判所

 技術的範囲に属しない、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使できないと判断されました。

原告による測定結果
株式会社東洋環境分析センターが,平成30年2月,原告の依頼によ り,宮崎県食品開発センターが保有するPT−Rを用いて,前記イの記載 に従って,同じロットナンバーの被告製品2について,3回測定した結果 によれば,被告製品2(1ロット)の見掛けタッピング比容積は,いずれ も2.4cm3/g(2.45cm3/g,2.46cm3/g,2.46cm3/g)で あった(甲20の1,20の2)。
オ 被告による測定結果
株式会社住化分析センターが,平成30年2月,被告の依頼により, PT−Xを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナ ンバーが異なる5つの被告製品についてそれぞれ1回ずつ測定した結果 によれば,被告製品2(製造時期の異なる5ロット)の見掛けタッピン グ比容積は2.2〜2.3cm3/g(2つの製品について2.2cm3/g, 3つの製品について2.3cm3/g)であった(乙11)。 被告が,平成30年10月頃,宮崎食品開発センターが保有するPT −Rを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナンバ ーが異なる5つの被告製品2について,それぞれ3回ずつ測定した結果 によれば,その見掛けタッピング比容積は2.2〜2.3cm3/g(3つ の製品について3回とも2.3cm3/g,1つの製品について2.2cm3/ g,2.2cm3/g,2.3cm3/g),1つの製品について,2.2cm3/ g,2.3cm3/g,2.3cm3/g)であった(乙34)。
(2)本件明細書の特許請求の範囲には見掛けタッピング比容積の測定方法は記 載されていないが,発明の詳細な説明には,前記(1)イのとおり,実施例・比 較例における見掛けタッピング比容積はPT−Rを用いて測定された値であ る旨の記載がある。
原告は,PT−Rを用いて測定した結果(前記(1)エ)によれば,被告製品 2の見掛けタッピング比容積は2.4cm3/gであるから,構成要件1F及び 2Fをいずれも充足すると主張する。 て測定した結果によれば,製造時期の異なる5ロットの被告製品2につき, いずれも見掛けタッピング比容積が2.4cm3/gに達していなかった。その 実験の信用性が否定されることを裏付ける客観的な証拠はない。上記のとお り,5ロットという複数の被告製品2について,それぞれ3回ずつ検査した 結果,いずれも見かけタッピング比容積が構成要件1F・2Fの下限である 2.4cm3/gに達していなかったというのであるから,被告製品2は構成要 定対象,測定方法による測定結果に照らして,原告の同エの測定結果によっ て被告製品2の見掛けタッピング比容積が2.4cm3/gであることを認める に足りない。
・・・
本件発明1及び2は,前記のとおり,2.5N塩酸,15分,沸騰温 度という具体的な本件加水分解条件で測定された重合度(平均重合度) をレベルオフ重合度とするものである(そのような具体的な本件加水分 解条件で測定されることを前提として実施可能要件を充足する。)。した がって,本件では,本件加水分解条件という具体的な条件で加水分解さ れた後に測定されるレベルオフ重合度について,優先日当時,当業者 が,技術常識に基づいて,発明の詳細な説明に記載された原料パルプの レベルオフ重合度と,原料パルプを加水分解して得られたセルロース粉 末のレベルオフ重合度とが同一であると認識することができるかが問題 となるといえる(なお,本件加水分解条件は,レベルオフ重合度を求め るものとして,当該酸濃度温度条件では比較的短時間といえる時間の加 水分解を定めたものであることがうかがえる。)。
ここで,優先日当時,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合 度について,天然セルロースとそれを加水分解して生成されたセルロー ス粉末とが同じレベルオフ重合度となることを直接的に述べた文献があ ったことを認めるに足りる証拠はない。他方,本件明細書においてレベ ルオフ重合度の説明において現に引用されている文献であり,種々の対 象について本件加水分解条件を含む条件で加水分解をした上で本件加水 分解条件(2.5N塩酸,沸騰温度,15分)を提唱したBATTIS TA論文は,(1)木材パプルについて,温和な加水分解条件での加水分解 を経た後に2.5N塩酸,沸騰という過酷な条件で加水分解した重合度 と,温和な加水分解条件での加水分解を経ずに2.5N塩酸,沸騰温度 という条件で加水分解した重合度を実際に測定して,前者の値が後者の 値より低かったこと,(2)セルロースを加水分解した際には結晶化がされ るという他の複数の研究者による研究成果を紹介した上で,上記(1)等の 実験結果は温和な加水分解は重量減少を伴わない結晶化を誘導すること を示しているようであること,(3)温和な加水分解や過酷な加水分解で起 こるメカニズムを提唱した上で,温和な加水分解を経た後に過酷な加水 分解がされた場合には結晶化された短いセルロース鎖の残渣が保持され るため,温和な加水分解を経ずに過酷な加水分解がされた場合よりもレ ベルオフ重合度が低下すると予想されることなどを述べていた。なお, セルロースの加水分解において再結晶化が起こることは他の文献でも紹 発明の詳細な説明の実施例2ないし7のセルロース粉末は,前記 のとおり,原料パルプを4N塩酸,40°C,48時間という条件,3N 塩酸,40°C,40時間という条件,3N塩酸,40°C,24時間とい う条件などで加水分解したものであり,天然セルロースを温和な条件で 加水分解したものといえる。 前記のとおり,本件では本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が問 題となるところ,本件加水分解条件を提唱し,本件明細書でも引用してい るBATTISTA論文は,上記のとおり,他の複数の研究者による研究 成果を紹介した上で,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度について は,温和な加水分解を経た場合にはその過程を経ていないものに比べて, 値が低下することが予想されると述べていた。その内容とは異なり,本件 加水分解条件で測定されるレベルオフ重合度について,天然セルロースと, それを温和な条件で加水分解して生成されたセルロース粉末とが同じレ ベルオフ重合度であるという技術常識があったことを認めるに足りる証 拠はない。 に述べられるレベルオフ重合度は本件加水分解 条件により測定されたものではないし,同文献の著者は,優先日頃におい ても,著者が考える「レベルオフ」するためには本件加水分解条件の時間 では足りないと考えられていた旨述べる(同 )。 また,本件明細書に記載された実施例のセルロース粉末は,原料パル プを加水分解した後,攪拌,噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温 度180〜220°C、出口温度50〜70°C)して得られたものであ る。当該セルロース粉末の本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度 の明示的な記載が明細書にない以上は,上記加水分解,攪拌,噴霧乾燥 の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条件下でのレ ベルオフ重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識がある 場合に,当該セルロース粉末のレベルオフ重合度が本件明細書に記載さ れているに等しいといえる。上記の加水分解,攪拌や噴霧乾燥を経たセ ルロース粉末の本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度が原料パルプ のそれとの関係でどのような値になるかについての技術常識を認めるに 足りる証拠はない。 これらを考慮すれば,優先日当時,当業者が,本件明細書に記載され た原料パルプのレベルオフ重合度とそこから加水分解して生成されたセ ルロース粉末の本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が同じである と認識したと認めることはできない。また,発明の詳細な説明の実施例 は,具体的な原料パルプから明細書記載の特定の条件の加水分解,攪 拌,噴霧乾燥を経て得られたセルロース粉末である。当業者が,優先日 当時,技術常識に基づいて,記載されている当該原料パルプのレベルオ フ重合度に基づいて,上記具体的な条件で得られたセルロース粉末につ いて,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度の値を認識することが できたとも認められない。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,セルロース粉末 について,本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度の記載があるの に等しいとは認められない。 カ 原告は,非晶質領域が分解されて結晶領域のみが残った状態に達したと きの重合度であるレベルオフ重合度は,途中に原料パルプから本件セルロ ース粉末という加水分解過程を経ると否とに関わらず同じ値となるのであ り,当業者であれば,原料パルプとそこから温和な加水分解によって得ら れる本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は等しくなると当然に理解す ることができる旨主張し,また,BATTISTA論文における上記実験 結果における温和な加水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプ からセルロース粉末を生成する温和な加水分解の条件と同じものではない ことを指摘する。
しかし,本件においては具体的な本件加水分解条件による加水分解がさ れたセルロースの重合度(平均重合度)が問題となる。本件加水分解条件 を提唱し,発明の詳細な説明でも引用されるBATTISTA論文が,本 件加水分解条件によるレベルオフ重合度について前記のように述べていた ところ,優先日当時,そこに記載されているのと異なる内容の技術常識が あったことを認めるに足りる証拠はない。また,BATTISTA論文 は,セルロースを加水分解した際には結晶化がされるという他の複数の研 究者による研究成果を紹介した上で,前記の予想をしているのであり,そ こに記載されているのと異なる技術常識があったことを認めるに足りる証 拠がない本件で,BATTISTA論文においてされた実験での温和な加 水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプから粉末セルロースを 作成する加水分解の条件と全く同じものではないことは上記の結論を直ち に左右するものではない。
なお,原告は,実験をした結果,原料パルプを本件加水分解条件で加水 分解したときの平均重合度と,当該原料パルプを実施例2と同じ加水分解 条件で加水分解して得たセルロース粉末を本件加水分解条件で加水分解し たときの平均重合度は実質的に同じであったとして,平成30年8月頃に 測定された結果を記載した平成31年3月20日付け報告書(甲56の 1)を提出し,また,上記でセルロース粉末を得る際の写真やセルロース 粉末を得た際に80°Cの熱風を当てる工程を含む24時間の乾燥処理をし たことなどが記載された同年4月9日付け報告書(甲57)を提出する。 しかし,本件では,優先日当時,本件明細書に記載された加水分解,攪 拌,噴霧乾燥の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条 件下での重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識の存否が 問題となるところ,上記時点の上記実験結果によって同技術常識を認める ことはできない。
キ 以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度 と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるとこ ろ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの 本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく, また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しい とはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求 の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。
そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された 本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者 において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえ ない。 以上によれば,本件発明1及び2は,発明の詳細な説明の記載により当業 者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないから,特 許法36条6項1号に違反する。

◆判決本文

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令和1(ネ)10058  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審の特許権侵害で約9000万の損害賠償が認められ、一部の被告が控訴しましたが、控訴棄却されました。
 前記認定のとおり,本件地盤特許についてはecoリーフ の下請けであるはなみずきの担当者のFが,本件ナビ特許については リーフの担当者であるE又は代表取締役であるAが,被控訴人に対し,\n本件各特許権の共有持分を購入すれば,近日中に大幅に価値が上がり, 高額なロイヤリティを受け取れるなどと虚偽の説明をして購入を勧誘 し,被控訴人から,本件各特許権の共有持分の購入代金名下に合計8 295万円を騙取したものと認められ,これらの行為は被控訴人に対 する不法行為を構成するものと認められる。\n加えて,(1)このように本件各特許権の持分を細分化して高額で譲渡 するという基本的枠組みは,控訴人X2,日本知財開発及びジンムの 関与がなければ成立し得ないものであるから,Fらが控訴人X2,日 本知財開発及びジンムと無関係に被控訴人に対する上記虚偽の説明を して勧誘を行ったものとは考えられないこと,(2)本件地盤特許譲受申\n込書(甲3)には,本件地盤特許の共有持分を1口60万円で譲渡す ることが,本件ナビ特許の特許権譲受申込書(甲5)には,本件ナビ\n特許の共有持分を1口20万円で譲渡することが記載されているとこ ろ,いずれの書面にも特許権者及び譲渡者として控訴人X2の氏名及 び日本知財開発の名称が記載されていること,(3)控訴人X2及び日本 知財開発が作成した別件侵害訴訟に関する報告書(甲22ないし24 の2)及び本件ナビ特許に関する報告書(甲27の1ないし3)の各 内容に照らすと,控訴人X2,日本知財開発及びジンムは,Fらが上 記虚偽の説明をして,被控訴人に本件各特許権の共有持分を購入させ たことを認識し,これに積極的に加担したものと認められる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,ecoリーフ,はなみずき,リーフ, 控訴人X2,日本知財開発及びジンムは,被控訴人から本件各特許権 の共有持分の購入代金名下に合計8295万円を騙取したことの全体 について,共同不法行為責任を負うものと認めるのが相当である。 したがって,控訴人らの前記主張は採用することができない。 イ 控訴人X3は,本件については何も知らず,控訴人X2は監督すべき 要注意の人物ではないから,控訴人X3が控訴人X2に対する強い監督 責任を問われるべきものではない旨主張する。 しかしながら,控訴人X3は,ジンムの取締役であり,代表取締役で\nある控訴人X2の業務執行が適正に行われるよう監視すべき義務がある。 しかるところ,控訴人X3作成の平成29年11月4日付け答弁書(原 審)には,5年前に,控訴人X2から,特許の一部を譲ってその代金が もらえると聞いていたが,訴外鹿島建設との裁判に負けた後は控訴人X 3への説明はなくなった旨の記載がある。上記記載によれば,控訴人X 3は控訴人X2が特許権の共有持分権を譲渡していることを認識してい たことが認められるから,控訴人X2の業務執行について監視を行うこ とが可能であったものと認められる。もっとも,上記答弁書中には,控\n訴人X3は控訴人X2と別居中である旨の記載があるが,別居が開始し た時期やその態様についての記載はないことに照らすと,上記記載から 直ちに控訴人X2の業務執行についての監視が困難であったものと認め ることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,控訴人X3は,控訴人X2及びジンムが関与した本件各 特許権の共有持分の不正な販売行為に関し,ジンムの取締役としての控 訴人X2に対する監視義務の履行を怠ったことについて重大な過失があ ったものと認められるから,被控訴人に対し,会社法429条1項に基 づく損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。 したがって,控訴人X3の上記主張は採用することができない。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成31(ワ)3277

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令和1(ネ)10082  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 技術的範囲に属しないとした1審判決が維持されました。争点は「フリップフロップ現象発生用軸体」の用語の解釈です。

 控訴人は,本件発明1における構成要件E及びFの「フリップフロップ現象発生用軸体」について,「フリップフロップ現象を発生させる軸体を意味す\nる。」との原判決の判断には誤りがあると主張する。 しかし,本件発明1における構成要件E及びFの「フリップフロップ現象発生用\n軸体」は,その文言からフリップフロップ現象を発生させる軸体を意味することは 明らかである。また,本件明細書を見ても,本件発明1はクーランド液が「フリッ プフロップ現象発生用軸体」を通過することによってフリップフロップ現象を発生 させるなどして,その課題を解決するものである(本件明細書の【0006】, 【0007】,【0041】〜【0045】)から,「フリップフロップ現象発生 用軸体」がフリップフロップ現象を発生させる軸体であることは明らかである。 したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 控訴人は,本件明細書の【0037】は,電子回路の用語を参考に記載 しているだけであるのに,原判決は,本件発明1が「フリップフロップ現象」を解 決原理としていると誤解していると主張する。 しかし,本件明細書の【0037】の記載が,電子回路の用語に基づく参考記載 にすぎないと認めることができないことは,原判決の「事実及び理由」の第4の2(1)イ(カ)bの通りである。
(1) また,上記アのとおり,本件発明1は,「フリップフ ロップ現象」を解決原理としているものである。 したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(2) 「フリップフロップ現象」の意味について
ア 控訴人は,本件明細書の【0011】,【0043】及び【0007】 の記載によると,フリップフロップ現象とは,「フリップフロップ現象発生用軸体 を通過することにより当該現象の結果として『クーラント液等』が『乱流となり無 数の微小な渦を発生』した状態」を指すことを基本としていると主張する。 しかし,本件明細書の【0037】に,「フリップフロップ現象(フリップフロ ップ現象とは,流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象)」と 記載されている上,本件各発明と共通する技術分野において,本件特許出願前に 「フリップフロップ現象」の語が,おおむね,流体の流れの周期的な振動ないし方 向変換を意味するものとして使用されていること(原判決の「事実及び理由」の第 4の2(1)イ(ウ))からすると,本件発明1におけるフリップフロップ現象は,基本 的には,(1)「流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」を意味 すると解釈することができ,(2)「クーラント液等」が「乱流となり無数の微小な渦 を発生」した状態を指す語としての使用は,上記(1)の意味におけるフリップフロッ プ現象の発生を前提とした,派生的な使用と位置づけられるべきである。控訴人が 指摘する本件明細書の【0011】,【0043】及び【0007】の記載は,こ の判断を左右するものではない。
イ 控訴人は,本件特許の出願当時の当業者の理解について主張する。 まず,乙14〜20は,いずれも公開特許公報であるが,これらの特許において は,A及びBのほか,C(乙16),D(乙17),E(乙18,20),F(乙 19)も共同発明者とされていることが認められるから,単に,A及びBの2名の 研究者,発明者がフリップフロップ現象を「流体の流れの周期的な振動ないし方向 転換を意味するもの」として使用しているとは認められない。 また,控訴人は,本件発明1の構成要件Dの記載によると,当業者は,本件明細\n書の【0037】の括弧内の記載の流れ(流体の流れる方向が周期的に交互に方向 変換して流れること)が生じないことを理解すると主張する。 しかし,本件発明1の構成において,ひし形凸部がフリップフロップ現象発生用\n軸体の軸心に対してどのような傾きをもって設置されているかは特定されておらず, 上記軸心に対してひし形凸部が傾きを持っていて非対称となっているかは明らかで はないから,当業者が,本件明細書の記載や,「フリップフロップ現象」の語につ いての当業者の一般的な理解に反して,本件明細書の【0037】の括弧内記載の 流れ(流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象)が生じないこ とを理解すると認めることはできない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)11147

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令和1(行ケ)10097  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月19日  知的財産高等裁判所

 発明の具体的な作用・機能も,引用発明1とは大きく異なるので、阻害要因ありとして進歩性無しとした審決が取り消されました。\n

 本件審決は,引用発明1及び甲4発明の装身具は,いずれも,装身 具を簡単にシャツの第一ボタンに装着できるようにするという共通の課 題を有し,また,これを着用するに当たり,切欠き状の部分にボタンが はまり込むことで装着するという共通の機能を有するから,引用発明1\nのボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的な形状として,甲 4発明の係止導孔を有する円形の釦挿通孔の態様を採用し,相違点2に 係る本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得た\nことである旨判断した。 しかしながら,前記(2)イのとおり,引用発明1は,簡易型のネクタイ 本体を取付ける着用具を改良することによって,着用状態における位置 ずれや傾きを生じ難く,低コストで生産でき,そして着用操作も容易で ある簡易着用具付きネクタイを提供することを課題とするものである。 一方,前記ア(イ)のとおり,甲4に記載された考案は,襟飾り,生花 等の種々の装飾小物,殊に襟前に止着する装身具について,着脱が簡単 であり,かつ,衣服の損傷がほとんどない装身具取付台を提供すること を課題とするものであるが,かかる装身具として,蝶ネクタイやネクタ イを例示するものではなく,蝶ネクタイやネクタイを着用する際に固有 の問題があることを指摘するものでもない。 したがって,引用発明1と甲4発明は,その具体的な課題において, 大きく異なるものといえる。 また,発明の作用・機能をみても,引用発明1は,基板部,ネクタイ\n取付部及び一対の突出片から成る簡易着用具を備え,ネクタイ取付部の 裏側に位置する基板部に,その下縁を凹状に切り欠いたボタン係合部を 設け,その切欠きにシャツの第一ボタンを係合させるとともに,一対の 突片を襟下へ挿入することで,簡易蝶ネクタイの良好な着用状態及び簡 単な着用操作を実現するものである(前記(2)ア(オ))。 そして,甲1には,引用発明1に関し,(1)「ボタン係合部19」の奥 部は,ボタン取付け糸の部分を丁度跨ぐことができる程度の小円弧状を なすものとし,その幅は,ボタンとの係合状態において横方向にほとん ど移動しない程度のものとすること,(2)着用時にボタンとの係合を容易 にするとともに,着用時に基板部2の片側がボタン穴に入り込むことを 防ぐために,「ボタン係合部19」の下方を,ラッパ状に下方へ拡大し て基板部2の下縁に達するものとすることの記載(前記(2)ア(エ)a)が ある。これは,結び目の陰に隠れて見えない状態のボタン係合部を,上 方から探りながらも容易に装着できるようにするための工夫といえるか ら,簡易着用具1の基板部2における,ボタン係合部19の配置位置及 びその形状を引用発明1の構成とすることは,引用発明1の課題を解決\nするために,重要な技術的意義を有するものであることを理解できる。 他方,甲4発明は,取付台主板に対して上方に係止導孔を連続形成し た釦挿通孔を穿設すると共に,他の一部に背面方向に突出するピンを突 設し,ピン先端にピン挟持機構を有するピン挿入キャップを冠着するこ\nとで,釦の確実な止着と,各種装身用小物の衣類への簡単な着脱を実現 するものであって(前記ア(イ)b),第1ボタンへの係合方法,衣類への 確実な止着及び簡単な着脱の実現手段において,引用発明1と大きく異 なるものであるから,発明の具体的な作用・機能も,引用発明1とは大\nきく異なるものといえる。
加えて,甲4の記載事項(前記ア(ア)c)によれば,甲4発明の装身 具取付台は,衣類に装着する際に,第1ボタンの前部からアプローチし て,釦挿通孔(2)に挿入した後,装身具取付台を鉛直方向の下部に移 動させ,係止導孔(3)を第1ボタンの取付糸に係合するものであるか ら,当業者であれば,第1ボタンを釦挿通孔(2)に挿入する際に,こ れらを視認できる状態でないと,ボタンの着脱動作が困難となることを 理解できる。
そうすると,仮に,引用発明1のボタン係合部19における切欠き状 の部分の具体的な形状として,甲4発明の「細幅の係止導孔(3)を有する 円形の釦挿通孔(2)」の態様を採用した場合には,ボタン係合部19の前 側に位置し,その前側にネクタイが取り付けられるネクタイ取付部3が 存在するため,簡易蝶ネクタイを着用する際に,簡易蝶ネクタイ及びネ クタイ取付部に隠されて,第1ボタン及びボタン穴を視認することがで きないことになる。そのため,ボタン係合部を切欠き状にする場合より も,着用具へのボタンの係合が困難となることは明らかであるといえる。
(イ) 以上によれば,引用発明1と甲4発明とは,発明の課題や作用・機 能が大きく異なるものであるから,甲1に接した当業者が,甲4の存在\nを認識していたとしても,甲4に記載された装身具取付台の構成から,\n「細幅の係止導孔(3)を有する円形の釦挿通孔(2)」の形状のみを取り出し, これを引用発明1のボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的 な形状として採用することは,当業者が容易に想到できたものであると は認め難く,むしろ阻害要因があるといえる。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10095  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月12日  知的財産高等裁判所

 明確性要件を充足しないと判断されました。理由は「出願当時の技術常識を基礎としても,本件発明の「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義を理解することはできず,本件発明の技術的範囲は不明確といわざるを得ない」 というものです。

 請求項1には,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」との 記載があるところ,請求項1の記載自体から,この炭化タングステン粒子は,「少な くとも二個の粉砕工具」の「工具表面」に「含有」されるものであることを理解する\nことができ,また,上記炭化タングステン粒子は,第1の粉砕工具の表面には95\n重量%以下含有され,その粒径が1.3μm以上であること,第2の粉砕工具の表\n面には80重量%以上含有され,その粒径が0.5μm以下であること,粒径はメ ジアン粒径であること,炭化タングステン粒子のメジアン粒径が1.3μm以上あ るいは0.5μm以下であることは,炭化タングステン粒子を「質量により秤量」し て測定するものであることが理解できる。 しかしながら,請求項1の記載からは,粉砕工具の「工具表面」に「含有」される\n炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義が明らかであ るとはいえない。 また,本件特許の出願当時において,炭化タングステンを含んでなる表面を有す\nる粉砕工具の工具表面に含有される炭化タングステン粒子につき,質量により秤量\nしたメジアン粒径を得ることができたとする当業者の技術常識を認めるに足りる証 拠はない。
イ 本件明細書の記載
本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の\n「工具表面」のタングステン含有量が95%以下であり,工具表\面の材料における 100%に対する残りは,好ましくはコバルト結合剤であり,好ましくは1%未満 の程度に追加の炭化物が存在する(【0026】〜【0028】),焼結の結果は,炭 素の添加によっても影響を受ける(【0029】)との記載があり,「炭化タングステ ンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子 が,コバルトである結合剤と焼結により一体化していることが開示されている。そ して,本件明細書には,コバルト結合剤と焼結により一体化した「粉砕工具」の「工 具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン\n粒径について,定義や測定方法の記載はない。 ウ 以上によれば,本件明細書の記載を考慮し,出願当時の技術常識を基礎とし ても,本件発明の「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工\n具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン\n粒径の意義を理解することはできず,本件発明の技術的範囲は不明確といわざるを 得ないから,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件を充足しないと いうべきである。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の定義 は,沈降法により測定されるストークス径について,質量を基準に粒子径を表した\n質量分布におけるメジアン粒径ということで,一義的に明確であり,ストークス径 はストークスの式により明確に定義されるものである旨主張する。 そこで検討するに,甲18(神保元二ら編「微粒子ハンドブック」初版第1刷,1 991年9月1日)には,ストークス径は,最も広く用いられる代表径であり,静止\n流体中を重力で落下する粒子の沈降速度v1と同じ沈降速度をもち,また同じ密度を もつ球形粒子の直径であり,流体中で運動する粒子の諸現象を考える場合に有用な 代表径であることの記載があり,本件出願当時,粒子の大きさを測定する方法とし\nて,ストークス径を得る沈降法があることは,周知であったことが認められる。 また,ウェブページ「粒度分布測定の基礎知識」(甲19)には,「主な粒度分布測 定原理」の表の「遠心沈降法」の欄に,「測定粒子径の定義」を「ストークス径」,「基\n本粒度分布」を「重量基準」との記載があり,「遠心沈降法 液相中の粒子群の沈降 状態を吸光度などから計測して,球と仮定して導かれたストークスの式などと照合 し,有効径(ストークス径)を求める。」との記載がある。ウェブページ「粒径分布 測定[重力/遠心沈降式]」(甲22)には,「[測定原理/測定法]微粒子を水または不溶溶媒中に懸濁させ,重力場にそのまま静置するか遠心場に粒子懸濁液を置くと, 大きな粒子ほど速い速度で沈降していきます。その様子を粒子懸濁液に照射したレ ーザー光の透過光強度によって検出します。粒子サイズは重力沈降の場合,次のS tokesの式から得られます。」との記載があり, とのストークスの式が記載されている。これらによれば,沈降法は,重量(質量)基 準に基づく粒度分布が得られるものであること,液相中の粒子の沈降速度から粒径 を求めるものであり,分離して沈降可能な粒子を測定対象としていることが認めら\nれる。 しかし,前記(2)イのとおり,本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる 表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子が,コバルトで ある結合剤と焼結により一体化していることが開示されている一方,炭化タングス テン粒子が工具表面から分離可能\であることの記載や示唆はない。また,ストーク スの式によりストークス径を算出するためには,ストークスの式に沈降距離h,沈 降時間t等のパラメータを代入することが必要であるところ,本件明細書を見ても, ストークスの式のパラメータの値としてどのような値を採用するかについての記載 はない。 そうすると,粒子の大きさを測定する方法としてストークス径を得る沈降法があ ることが周知であり,沈降法により重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られる としても,「粉砕工具」の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子が,\nコバルトである結合剤と焼結により一体化している以上,沈降法により炭化タング ステン粒子のストークス径を測定することは不可能であるから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量されたメジアン粒径」が,沈降法に基づいて得 られるストークス径のメジアン粒径であると解することはできない。
イ 原告は,焼結によって炭化タングステン粒子の粒径が変化するか否か,変化 するとしてどの程度変化するかは,焼結条件との兼ね合いで理論的にも実験的にも 十分に予\測が可能であり,その変化分を加味した上で炭化タングステン粒子の粒径\nを調整し,必要に応じて焼結条件を調整すればよく,また,焼結の前後それぞれの 炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認するこ とで,ストークス径の粒度分布の変化を予測することは可能\であるから,工具表面\nに存在する炭化タングステン粒子自体を測定するまでもない,また,本件発明にお けるメジアン粒径は,「1.3μm以上」ないし「0.5μm以下」という広い範囲 を規定するものであるから,焼結の有無はそれらの数値範囲の充足性にほとんど影 響を及ぼさないと考えられる旨主張する。 しかし,本件明細書には,焼結条件との兼ね合いで焼結による粒径の変化を予測\nして炭化タングステン粒子の粒径を調整することや,焼結の前後それぞれの炭化タ ングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認してストーク ス径の粒度分布の変化を予測することの記載や示唆はないから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,かかる予測や調整等を\n行うことを前提として沈降法により測定されるストークス径のメジアン粒径である とは解されない。また,本件発明におけるメジアン粒径が,広い範囲を規定するも のであるとしても,焼結の有無が数値範囲の充足性に影響を及ぼさないと解すべき 根拠はないから,上記の判断を左右するものではない。
ウ 原告は,焼結後の炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定する必要がある としても,コバルトの融点は1495℃,炭化タングステンの融点は2870℃で あるから,バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し,炭化タングステン 粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である旨主張する。\nしかし,本件明細書には,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン 粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取 り出して沈降法で測定することについては,記載も示唆もないから,本件発明の「炭 化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,コバルトを除去して 取り出した炭化タングステン粒子を沈降法により測定したストークス径であるメジ アン粒径であるとは解されない。 仮に,上記測定方法により炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定する ことができたとしても,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子 とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出 すという過程において,炭化タングステン粒子の密度や形状が一切変化しないとい う根拠はないから,そのように取り出して測定した炭化タングステン粒子のストー クス径が,そのまま,コバルトマトリックスと一体化した工具表面の炭化タングス\nテン粒子のストークス径であるということもできない。

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令和1(行ケ)10135  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所

 「AI介護」について識別力無しとした審決が維持されました。

 前記(3)のとおり,「AI」の語は,多くの新聞やウェブサイト等におい て,「人工知能」を意味する言葉として使用されていること,その中には,「AI」\nの語の意味を説明せずに「AI」とのみ表記されているものもある(甲3,4)こ\nとからすると,「AI」の語は,人工知能を意味する言葉として一般的に知られてい\nるものと認められる。 そして,前記(3)のとおり,介護の分野において人工知能である「AI」を活用す\nることに関する新聞やウェブサイトの記載が多数あると認められるが,一方で,証 拠上,介護の分野において,「AI」という語を人工知能以外の意味で使用している\n例があるとは認められないことからすると,介護の分野において「AI」の語を使 用した場合は,その「AI」は,人工知能を意味するものと認識されるというべき\nである。 前記(3)のとおり,新聞やウェブサイト等においては,「AI介護」の語が,AI を活用した介護という意味で,「AI介護ソフト」の語が,AIを活用した介護のた\nめのソフトウェアという意味で,「AI介護事業」の語が,AIを活用した介護事業\nという意味で,「AI介護ロボ」及び「AI介護ロボット」の語が,AIを活用した 介護用ロボットという意味でそれぞれ使用されていることからすると,「AI」の語 に名詞が続いた場合は,当該「AI」は,「AIを活用した」との趣旨で使用され, また,そのような使用法が一般的に受け入れられているものと認められる。 以上からすると,本願商標の「AI介護」からは,AIを活用した介護という意 味合いが生じ,本願商標に接した取引者,需要者は,通常,本願商標は,本願の指 定役務である「介護」の質を示すものと認識するため,本願商標は,自他役務識別 力を欠くというべきである。 したがって,本願商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきであ る。
(5) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標の「AI」の語は「愛」のローマ字読みであり,本願 商標からは,「愛の介護」というような意味合いを生じると主張する。 しかし,前記(4)のとおり,「AI」の語は,人工知能を意味する言葉として一般的\nに知られていること,「愛」をローマ字読みで表記する場合に,「I」の文字を大文\n字で表記することは不自然であることからすると,「AI」の語は,通常,「エーア\nイ」と発音され,人工知能を意味するものと認識されるというべきであり,「愛」と\n認識されるとは認められない。このことは,本願の商標出願・登録情報表示におい\nて,「AI介護」の称呼を,第1に「アイカイゴ」としていることによって左右され ない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 イ 原告は,(1)「AI介護ロボ」,「AI介護ロボット」,「AI介護活用」,「A I介護ソフト」及び「AI介護のウェルモ」の各語は,「AI介護」の文字を分離抽\n出して観察すべきではない,(2)前記(3)の新聞やウェブサイト等に記載された役務 は,商標法上の役務ではないか,本願の指定役務である「介護」には当たらず,非 類似の役務である,(3)上記新聞やウェブサイト等の記載内容は,目標を記載したも のや開発段階のものであり,AIが介護現場で現実に使用されたことの記載ではな い,(4)甲4,乙20〜22の見出しは,本文の記事にふさわしくないと主張する。 しかし,「AI介護ソフト」の語がAIを活用した介護のためのソ\フトウェアを 意味し,「AI介護ロボ」及び「AI介護ロボット」の語がAIを活用した介護用 ロボットを意味することは,前記(4)イ認定のとおりである。また,「AI介護活用」 は文字どおりAIを介護に活用するという意味である。取引者,需要者は,これら について,「AI介護」とそれに続く「ソフト」,「ロボ」,「ロボット」又は「活\n用」とを分離して認識するというべきである。 また,「AI介護のウェルモ」の語について,取引者,需要者が,「AI介護」 と「ウェルモ」を分離して認識することは明らかである。また,商標法3条1項3 号の商標に該当するというためには,当該商標が,取引者,需要者において同号が 規定する商標に当たると認識されることで足り,当該商標が,その指定役務又は類 似する役務において実際に使用されている必要はないところ,前記(4)のとおり,「A I介護」という語からは,AIを活用した介護という意味合いが生じ,「AI介護」 という語は,取引者,需要者において,本願の指定役務である「介護」の質を示す ものと認識されるのであり,新聞やウェブサイト等の記載内容が,目標を記載した ものや開発段階のものであるとしても,この認定が左右されることはない。 さらに,甲4,乙20〜22の見出しの「AI介護」の語がAIを活用した介護 という意味で用いられていることは明らかであって,そのことは本文の記載によっ て左右されるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ 原告は,「AI」と「介護」の語は,共に,多義的であり,漠然とした 意味合いにとどまっているから,取引者,需要者である介護事業者・介護サービス の利用者が「AI介護」の文字に接して,「AIを活用した介護」であると認識する ことはないと主張する。 しかし,前記(4)のとおり,「AI」の語は,種々の意味を有するが,通常は,「人 工知能」を意味し,しかも,「AI」の語が「人工知能\」を意味することは一般的に 知られているといえるから,「AI」の語が漠然とした意味合いにとどまり,「AI 介護」の語を「AIを活用した介護」であると認識できないということはない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
エ 原告は,乙13〜17,22は,本件審決後に作成されたから,証拠と することはできないと主張するが,乙13〜17,22の記載が公表された日は,\n前記(3)のとおりであり,いずれも本件審決の前であると認められるから,原告の上 記主張は理由がない。 オ 原告は,「AI」を「アイ」と称呼している出願例もあると主張する(甲 14,15)。 甲14の登録商標は,その一部に「ai」の語を,甲15の登録商標は,その一 部に「AI」の語をそれぞれ含むものであるが,本願とは異なる登録例であり,商 標の構成も本願とは大きく異なるから,本願について,「AI」は,通常「エーア\nイ」と発音され,人工知能を意味するものと認識されるとの前記(4)の認定を左右し ない。

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平成31(行ケ)10019等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所(2部)

 サポート要件・実施可能要件、さらに進歩性について無効主張をしましたが、理由無しとした審決が維持されました。\n

 1997年(平成9年)に執筆された甲8の共同執筆者の一人は,クラマー博士 であるところ,甲8は,上記乙39,40を引用し,後述のとおり,甲8の実験で 観察されたグルタミン酸の排出が担体によるものであるとの結論を導いている(甲 8,乙39,40,42)。 イ 上記アに関連し,原告らは,証拠(甲47〜50)からすると,本件優 先日当時,コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて,グルタミン酸が,浸透圧 に応じて浸透圧調節チャネルから排出されることが周知となっていたと主張する。 しかし,甲47には,「特別な条件下で,大腸菌がトレハロースを排出した観察結 果(StyrvoldとStrem 1991)およびコリネバクテリウム・グル タミカムがグルタミン酸を排出した観察結果(Shiioら 1962)は我々の 研究と関連している。」との記載があるにすぎず,これだけで,原告らが主張するよ うな技術常識があったと認めるには足りない。 また,甲48,49はいずれも大腸菌に関する文献であって,そこからコリネバ クテリウム・グルタミカムをはじめとするコリネ型細菌におけるグルタミン酸排出 の技術常識の存在を認めることはできない。 甲50には,その5頁の図に関して,コリネバクテリウム・グルタミカムの低浸 透圧における相溶性溶質の排出が,少なくとも3種類の機械受容チャネル(浸透圧 調節チャネル)を通じて起こる旨の記載がある。しかし,後述する甲8の記載から すると,浸透圧調節チャネルを通じた排出は全ての溶質について等しく行われるも のではなく,特定の溶質について選択的に行われるのであると認められるから,上 記排出されるべき「相溶性の溶質」の中にグルタミン酸が含まれるのかは,上記図 だけからでは必ずしも明らかになっているとはいえず,甲50から原告らの主張す る技術常識の存在を認めることはできない。 以上からすると,原告らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(2) 甲8発明の認定の誤りについて(取消事由2)
前記(1)の事実関係を踏まえて,甲8において,原告らが主張するように,グルタ ミン酸が浸透圧調節チャネルから排出されたと認定できるかについて検討する。
・・・
甲8のTable 1.には,上記のとおり,低浸透圧の状態になった際にグルタ ミン酸が排出されていることが記載されているが,beforeの値を基準にその 排出量を検討すべきとする原告らの主張を前提としても,グルタミン酸は,浸透圧 が540mOsmになるまでほとんど排出されず,540mOsmになって20% が排出されているにすぎないところ,これは,全部で11種類検討されている溶質 の中でATPに次いで小さな値である。そして,上記のようなTable 1.の 結果を受けて,クラマー博士をはじめとする甲8の執筆者らは,グリシンベタイン など多くが排出されている溶質については浸透圧調節チャネルから排出されたとし つつ,グルタミン酸の排出については,浸透圧調節チャネルではなく,担体による 排出であるとの結論を導いている。 Table 1.でグルタミン酸に次いで排出が制限されていることが観察された リジンについては,前記(1)アで認定したとおり,本件優先日当時までに,その輸 送を担う担体がクラマー博士らによって発見されており,グルタミン酸の排出につ いてもリジンなどと同様に担体によるものであるとの説がクラマー博士らによって 提唱されていた。そのクラマー博士が,自ら実験をした上でTable 1.の結果 を分析し,甲8の共同執筆者の一人として上記のような結論を導いていることから すると,甲8に接した当業者が,それと異なる結論を敢えて着想するとは通常は考 え難いところである。
以上からすると,原告らが主張するように,当業者が,Table 1.の結果を 受けて,甲8に記載された浸透圧調節チャネルをグルタミン酸の排出と関連付けて 認識すると認めることはできないというべきである。

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令和1(行ケ)10119  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年3月11日  知的財産高等裁判所

 色彩のみからなる商標について,識別力なしとして3条1項6号違反とした拒絶審決が維持されました。3条2項の適用も使用している商標とは異なるとして否定されました。

 前記(ア)及び(イ)認定のとおり,(1)本願商標は,橙色の単色の色彩 のみからなる商標であり,本願商標の橙色が特異な色彩であるとはいえ ないこと,(2)橙色は,広告やウェブサイトのデザインにおいて,前向き で活力のある印象を与える色彩として一般に利用されており,不動産の 売買,賃貸の仲介等の不動産業者のウェブサイトにおいても,ロゴマー ク,その他の文字,枠,アイコン等の図形,背景等を装飾する色彩とし て普通に使用されていること,(3)原告ウェブサイトのトップページにお いても,別紙2のとおり,最上部左に位置する図形と「LIFULL H OME’S」の文字によって構成されたロゴマーク,その他の文字,白\n抜きの文字及びクリックするボタンの背景や図形,キャラクターの絵, バナー等の色彩として,本願商標の橙色が使用されているが,これらの 文字,図形等から分離して本願商標の橙色のみが使用されているとはい えないことを総合すると,原告ウェブサイトに接した需要者においては, 本願商標の橙色は,ウェブサイトの文字,アイコンの図形,背景等を装 飾する色彩として使用されているものと認識するにとどまり,本願商標 の橙色のみが独立して,原告の業務に係る「ポータルサイトにおける建 物又は土地の情報の提供」の役務を表示するものとして認識するものと\n認めることはできない。 したがって,本願商標は,本願の指定役務との関係において,本来的 に自他役務の識別機能ないし自他役務識別力を有しているものと認める\nことはできない。
イ これに対し原告は,原告ウェブサイトは,不動産総合ポータルサイトの トップブランドとしての確固たる地位を築いており,本願の指定役務の分 野においては,周知著名であること,我が国において,全国規模で種々の 取引形態の不動産物件を掲載する一定規模以上(掲載物件数が常時100 万件以上)の不動産総合ポータルサイトとしては,原告のほか,リクルー トグループが提供する「SUUMO(スーモ)」,大東建託が提供する「い い部屋ネット」,オウチーノが提供する「O−uccino」,ヤフーが 提供する「ヤフー不動産」,アパマンが提供する「アパマンショップ」, アットホームが提供する「athome(アットホーム)」があるが,各 不動産総合ポータルサイトは,それぞれイメージカラーを施しており,例 えば,原告は橙色,「SUUMO(スーモ)」は緑色,「いい部屋ネット」 は赤色,「O−uccino」はピンク色,「ヤフー不動産」は赤色,「ア パマンショップ」は濃青色,「athome(アットホーム)」は紅赤色 といった棲み分けがされているため,不動産総合ポータルサイトに接する 取引者,需要者は,色によるポータルサイトの識別が可能な状況ができて\nおり,本願商標の橙色は,原告ウェブサイトと即座に認識,理解をすると いう取引の実情があることを考慮すると,本願商標は,その指定役務との 関係において,本願商標の橙色が独立して,本来的に自他役務の識別機能\nないし自他役務識別力を有する旨主張する。 しかしながら,ポータルサイトとは,一般に,「インターネットを利用 する際,まず最初に閲覧されるような,利便性の高いウェブサイトの総称」 (「大辞林」第三版)であるところ,前記(1)ア認定のとおり,本願の指定 役務の需要者は,住宅やマンションなどの不動産物件の購入,賃借等を検 討している一般の消費者であり,このような需要者は,ポータルサイトで, 必要な情報に関する検索を行い,その検索結果に基づいて,不動産業者等 に対し,掲載物件についての問合せをしたり,不動産業者等から紹介を受 けるなどして,不動産取引を行うのが通常であることからすると,このよ うな需要者は,不動産の売買,賃貸の仲介等を行う不動産取引業の需要者 と同一であるか,又は重複するものと認められる。 そして,原告が主張するように掲載物件数が常時100万件以上の不動 産総合ポータルサイトが日本全国の不動産情報を網羅しているとしても, 不動産総合ポータルサイトと他の不動産業者が開設するウェブサイトとは, インターネット上で不動産情報を入手するための入口であるという点で共 通し,不動産関連の情報を提供するというサービスの内容が密接に関連し ていることに照らすと,上記需要者において,これらが質的に異なるもの と認識するものと認めることはできない。 また,不動産物件を探す者は,まず,不動産総合ポータルサイトを介し て不動産情報にアクセスするのが取引の実情であることを認めるに足りる 証拠はない。 そうすると,仮に原告が主張するように原告ウェブサイが不動産総合ポ ータルサイトのトップブランドとして周知著名であり,各不動産総合ポー タルサイトがそれぞれイメージカラーを施しており,それらの色による棲 み分けがされているとしても,不動産総合ポータルサイトに接する需要者 が,色彩のみによってポータルサイトを識別可能な状況にあるものと認め\nることはできない。 したがって,原告の上記主張は,その前提において採用することができ ない。
(2) 使用による識別力の獲得について
ア 原告ウェブサイトにおける使用について
前記1(1)の認定事実によれば,原告は,平成18年から13年間にわた り,原告ウェブサイトにおいて継続して本願商標の橙色を使用してきたこ とが認められる。 しかしながら,他方で,前記(1)ア(ウ)(1)ないし(3)のとおり,本願商標の 橙色は特異な色彩であるとはいえないこと,橙色は,広告やウェブサイト のデザインにおいて,前向きで活力のある印象を与える色彩として一般に 利用されており,不動産の売買,賃貸の仲介等の不動産業者のウェブサイ トにおいても,ロゴマーク,その他の文字,枠,アイコン等の図形,背景 等を装飾する色彩として普通に使用されていること,原告ウェブサイトの トップページにおける本願商標の橙色の使用態様は,上記不動産業者のウ ェブサイトと同様に,ロゴマーク,その他の文字,白抜きの文字及びクリ ックするボタンの背景や図形,キャラクターの絵,バナー等の色彩として 本願商標の橙色が使用されているが,これらの文字,図形等から分離して 使用されていたものといえないことに鑑みると,原告による原告ウェブサ イトにおける本願商標の使用の結果,本件審決時(審決日令和元年7月3 1日)において,本願商標の橙色のみが独立して,原告の業務に係る「ポ ータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」の役務を表示するもの\nとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたものと認める ことはできない。
イ 原告のテレビCMにおける使用について
前記1(2)のとおり,原告のテレビCMが,平成26年5月から同年10 月までの間,平成27年1月から9月までの間,平成30年4月及び5月 に,全国各地の放送局で放送されたことが認められるが,一方で,甲27 に係るテレビCM以外には,それらの各放送において本願商標の橙色が具 体的にどのような態様で使用されていたのかを認めるに足りる証拠はない。 また,甲27に係るテレビCMは,キャラクターの絵,「LIFULL HOME’S」の文字や図柄等に橙色が使用されているものであって,原 告ウェブサイトのトップページの画像自体が映し出されたものではないか ら,上記テレビCMを視聴者が本願商標の橙色と原告ウェブサイトに係る 役務とを関連付けて理解するものとは認めることはできない。
ウ 原告の売上高について
原告は,本願商標の橙色と原告が展開する不動産情報の提供に関する事 業との間には密接かつ直接的な関係が存在するものといえるから,本願商 標の橙色の存在が原告の事業の売上げに多大な貢献をしている旨主張する。 しかしながら,本願商標の橙色と原告の事業との間には密接かつ直接的 な関係が存在することを認めるに足りる証拠はなく,原告の事業の売上高 が高額であるからいって,本願商標の橙色のみが独立して,原告の業務に 係る役務を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識\nされていたことの根拠になるものではない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ アンケート調査結果について
(ア) 原告が提出するアンケート調査結果について検討するに,第1次調 査(甲30)は,「不動産・情報サイト」の名称として「LIFULL HOME’S」や「HOME’S」と記載した228人を対象として, 本願商標の橙色を見せ,思い浮かべた不動産・住宅情報サイトの名称を 記載させるという方法によるものであるから(前記1(3)ア),その対象 者は,調査前から原告ウェブサイトの名称を認識していた者に限定され ており,しかも,本願商標の橙色を示す前の段階で,原告ウェブサイト の名称を示され,いわば正解をほのめかされた状態で回答しているとい えることから,原告ウェブサイトの名称を記載する回答する者が高い確 率で現れるのは当然であるというべきである。 したがって,第1次調査の結果を採用することはできない。
(イ) 次に,第2次調査(甲33)では,回答方法として,本願商標の橙 色の画像を示して,「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」, 「HOME’S(ホームズ)」,「SUUMO(スーモ)」,「at h ome(アットホーム)」,「マイナビ賃貸」,「CHINTAI(チ ンタイ)」,「この中にはない・わからない」の選択肢の中から,「不 動産・住宅情報サイト・アプリ」を1つ選択させるという方法によって おり,理由を示すことなく選択する形式のため,偶然,「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」又は「HOME’S(ホームズ)」 を選択する可能性を排除できず,かつ,原告ウェブサイトの選択肢とし\nて「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」及び「HOM E’S(ホームズ)」の2つが掲げられている以上,偶然に原告ウェブ サイトを選択する確率は,必然的に高くなるというべきである。にもか かわらず,「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」と回 答した者が13.2%,「HOME’S(ホームズ)」と回答した者が 41.8%と,その合計は55%とさほど高くなく,むしろ,「SUU MO(スーモ)」と回答した者が16.3%,「at home(アッ トホーム)」と回答した者が10.9%,「この中にはない・わからな い」と回答した者が14.5%と,一定の割合を占めており,「SUU MO(スーモ)」と回答した者及び「この中にはない・わからない」と 回答した者の割合は,「LIFULL HOME’S(ライフルホーム ズ)」と回答した者の割合を上回っている。このような事情に照らせば, 第2次調査の結果を採用することはできない。
オ まとめ
以上によれば,原告は,平成18年から13年間にわたり,原告ウェブ サイトにおいて継続して本願商標の橙色を使用してきたこと,原告のテレ ビCMの実績及び原告の売上実績を勘案しても,本件審決時(審決日令和 元年7月31日)において,本願商標の橙色のみが独立して,原告の業務 に係る「ポータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」の役務を表\n示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたも のと認めることはできないから,本願商標は,その使用により自他役務の 識別機能ないし自他役務識別力を獲得したものと認めることできない。\nこれに反する原告の主張は理由がない。

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平成31(行ケ)10032  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所(4部)

 特別部、いわゆる大合議の判断がなされた事件(平成31(ネ)10003)の関連事件です。無効理由無しとした審決が維持されました。

 原告は,(1)甲7の1には,甲7の1記載のマッサージ器の開き角度の 構成により,一対のローラを用いて,マッサージ器をある一方向に移動\nさせることで,一対のローラが,皮膚をひだよせしたり,押し曲げたり, 引っ張ったりし,逆方向にマッサージ器を移動させることで,皮膚が弛 緩したり,ほぐしたりする効果を奏することの開示があること,(2)甲7 の1記載のマッサージ器のローラによって,筋肉が引っ張られ,押して ほぐされるのであれば,それと並行して毛穴が収縮し,毛穴の中の汚れ が押し出される効果も認められるから,甲1−1発明の油分の浮き上が らせ効果及びゲルマニウムの浸透効果がより促進されることに照らすと, 当業者は,甲1−1発明において,甲7の1記載のマッサージ器の前記 (ア)bの構成を適用する動機付けがあるといえるから,「ローラの回転\n軸が,柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ,一対のローラ の回転軸のなす角が鈍角に設けられ」た構成(相違点2に係る本件特許\n発明1の構成)とすることを容易に想到することができたものである旨\n主張する。
そこで検討するに,前記ア(イ)a認定のとおり,甲1−1発明のロー ラ支持部200は,別紙2の図1に示すとおり,横軸部210と縦軸部 220とで形成された「T字形状」であり,2つのローラ100,10 0が単一の横軸部210の両端に取り付けられているから,2つのロー ラの回転軸が共通する一軸の構成であり,これにより2つのローラ10\n0,100は平行な位置関係にあることを理解できる。 他方で,甲7の1記載のマッサージ器は,別紙5の正面図及び背面図 に示すように,「一対のローラの回転軸が,柄の長軸方向の中心線とそ れぞれ鋭角に設けられ,一対のローラの回転軸のなす角が鈍角」に設け られており,一対のローラの回転軸は,別異の軸で構成された2軸の構\ 成であり,これにより2つのローラは,甲1−1発明と比べて接近した 位置関係にあることを理解できる。
このように甲1−1発明と甲7の1記載のマッサージ器は,2つのロ ーラの回転軸の構成が異なるところ,甲1には,2つのローラ100,\n100の回転軸を1軸から2軸とすることについての記載も示唆もない。 かえって,甲1には,「前記ローラ支持部は二股になっており,2つの ローラが離れて支持されていると,皮膚に与える機械的な刺激が大きく なるというメリットがある。」(【0015】)との記載があり,2つ のローラが離れていることが望ましいことを示唆する記載がある。 また,甲7の1の「意匠の創作内容の要点」欄には,「本願マッサー ジ器は,人体の部位を引っ張り,押して筋肉をほぐすマッサージ器であ って,安定感と立体感を強調し,新しい美感を生じさせるようにしたこ とを創作内容の要点とする。」との記載があるが,一方で,甲7の1に は,ローラの材質,表面の構\成等についての記載はなく,「人体の部位 を引っ張り,押して筋肉をほぐす」ことによって皮膚に対していかなる 効果が生じるかについての具体的な開示はない。 そうすると,甲1及び甲7の1に接した当業者において,甲1−1発 明において,2つのローラの回転軸が1軸より複雑な構造である2軸の\n甲7の1記載のマッサージ装置の上記構成を適用する動機付けがあるも\nのと認めることはできない。
以上によれば,当業者が甲1−1発明と甲7の1に記載された発明に 基づいて,相違点2に係る本件特許発明1の構成を容易に想到すること\nができたものと認めることはできない。

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原審

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令和1(行ケ)10111  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年3月11日  知的財産高等裁判所

 本件商標「総本家駿河屋」が先行商標「駿河屋」と類似するかが争われました。審決は非類似と判断しましたが、知財高裁4部は先行商標「駿河屋」は周知であるとして、分離解釈すると、類似すると判断しました。

 ア 引用商標1及び2は,別紙記載1及び2のとおり,「駿河屋」の漢字3 文字を横書きに書してなり,その構成文字に相応して,「スルガヤ」の称\n呼が生じる。 しかるところ,前記1の認定事実を総合すると,(1)旧駿河屋は,昭和1 9年3月に設立以来,平成26年5月29日に事業を停止するまでの約7 0年間にわたり継続して,「駿河屋」の商標を使用した「羊羹」を販売し, 平成24年3月期時点では,和歌山県に15店舗,京都府に1店舗,大阪 府に3店舗の直営店,百貨店11店舗に販売店を出店し,このほか,百貨 店72店舗及び量販店等532店舗の銘店コーナ等に「駿河屋」の商標を 使用し,同3月期における直営店での売上高は約7億6568万円,百貨 店での売上高は約4億8955万円であったこと,(2)旧駿河屋が販売する 「羊羹」については,「徳川家ゆかりの伝統の味「煉羊羹」」,「駿河屋 は,紀州家御用御菓子司として和歌山に御用本店を置くようになった(現 在でも駿河屋は和歌山と伏見に総本家を置いている。)。」,「駿河屋の 「煉羊羹」は,秀吉の聚楽第茶会に諸侯の引き出ものに用いられ絶賛され たという「伏見羊羹」を発展させたもので,試作に成功したのが慶長4年 (1599)のことである。」,「淡紅色をした「極上本煉煉羊羹」は, みかけとちがいその歯ざわりはずっしり重く,深く厚みのある味が伝わっ てくる。」などと刊行物(甲42の1(「日本の名菓 《和菓子》」)で 紹介されていたこと,(3)旧駿河屋は,昭和32年4月24日,旧駿河屋の 前身の個人営業の「総本家駿河屋」の分家又は「総本家駿河屋」等から暖 簾分けを受けた「別家」等とともに,会員相互の親睦を図るとともに老舗 駿河屋の伝統を守り,商号及び商標権の確保に協力し,共存共栄を図るこ とを目的として,「駿河屋」の商号,商標の保全に必要な協定及びその他 の措置等の事業を行う「駿河屋会」を発足し,「駿河屋会」の会員は,「駿 河屋」の商標を使用した「羊羹」等の和菓子を販売し,平成27年6月2 5日に旧駿河屋の破産手続廃止決定が確定した前後を通じて,ウェブサイ トや取扱商品の「羊羹」の包装等に「駿河屋」の商標の使用を継続してい ること,(4)旧駿河屋の事業停止(平成26年5月29日)から約10か月 後の平成27年3月24日,原告は,旧駿河屋の旧本店店舗において営業 を再開し,「駿河屋」の商標を使用した「羊羹」等の和菓子を販売するよ うになり,旧本店店舗における営業再開時には「駿河屋」の再建として新 聞各誌で大きく報道されたことが認められる。 上記認定事実によれば,本件商標の登録査定時(登録査定日平成29年 4月12日)において,「駿河屋」の商標は,羊羹等の和菓子の取引者, 需要者の間において,近畿地方を中心に, 旧駿河屋又はその分家等が取り 扱う和菓子(特に,羊羹)を表示するブランド名として広く認識され,全\n国的にも相当程度認識されていたものと認められる。 そして,このような「駿河屋」の商標の周知性等に照らすと,「駿河屋」 の文字を横書きに書してなる引用商標1及び2から,「羊羹」等の和菓子 のブランド名としての「駿河屋」の観念が生じるものと認めるのが相当で ある。
イ これに対し被告は,(1)旧駿河屋は,「駿河屋」を単独では使用せず,「総 本家」の文字を付して「総本家駿河屋」を使用し,又は「総本家駿河屋」の 商標と同時に「駿河屋」を使用し,駿河屋会所属の分家との区別を明確に して,出所の混同を防止してきたから,引用商標1及び2が,旧駿河屋が 取り扱う和菓子(特に「羊羹」)を表示するものとして周知著名性を獲得\nしたとはいえない,(2)仮に旧駿河屋が引用商標1及び2について周知著名 性を獲得したとしても,旧駿河屋は,破産手続廃止決定の確定により,そ の法人格が消滅していること,駿河屋会所属の分家は,地名に「駿河屋」 の文字を付して,旧駿河屋との出所の混同を防止してきたこと,原告は, 旧駿河屋から事業譲渡を受けておらず,旧駿河屋が営業していた地で「株 式会社総本家駿河屋」の商号を使用して営業しているだけであり,旧駿河 屋の有していた引用商標1及び2についての周知著名性を引き継いでいる わけではないことからすれば, 旧駿河屋が獲得した引用商標1及び2につ いての周知著名性は,旧駿河屋の法人格の消滅とともに断絶している旨主 張する。 しかしながら,上記(1)の点については,前記1(4)アの認定事実によれば, 旧駿河屋がそのウェブサイトで使用していた「総本家駿河屋」の表示は,旧\n駿河屋が営業主体であることを表示したものと認識することができるが,\n一方で,旧駿河屋の販売する「羊羹」の包装資材,包装紙及び紙袋におい ては,「駿河屋」の文字部分が,同文字部分の右肩等に小さな文字で記載 された「総本家」文字部分と外観上明確に区別される態様で示されている から,「駿河屋」の文字部分は独立した商標として使用されているものと 認められる。 次に,上記(2)の点については,前記ア認定のとおり,「駿河屋」の商標 は,旧駿河屋のみならず,駿河屋会の会員の分家及び別家の経営する店舗 の営業活動を通じて,取引者,需要者の間において,近畿地方を中心に, 旧駿河屋又はその分家等が取り扱う和菓子(特に,羊羹)を表示するブラ\nンド名として広く認識され,全国的にも相当程度認識されていたものと認 められるものであり,このような「駿河屋」の商標のブランド名としての 周知性等は旧駿河屋の破産手続廃止決定の確定による法人格の消滅により 直ちに失われるものとはいえない。
また,前記1(2)イのとおり,駿河屋会は,「駿河屋」の商号,商標を使 用し,煉羊羹,菓子の製造又は販売に従事する個人及びその主宰する会社 等を会員とし,会員相互の親睦を図るとともに老舗駿河屋の伝統を守り, 商号及び商標権の確保に協力し,共存共栄を図ることを目的として,「駿 河屋」の商号,商標の保全に必要な協定及びその他の措置等の事業を行う ために発足したものである上,前記1(4)の認定事実によれば,駿河屋会の 会員の分家及び別家等の取扱商品の羊羹の包装等においては,「駿河屋」 の文字部分が,同文字部分の右肩等に小さな文字で記載された「大阪」, 「伏見」,「京都駅前」又は「宇治」の文字部分と外観上明確に区別され る態様で示されているから,「駿河屋」の文字部分は独立した商標として 使用されているものと認められる。加えて,株式会社大阪の駿河屋のウェ ブサイトでは,「駿河屋のお菓子」の見出しの下に,「伝統の製法で作ら れた羊羹に昔ながらの味わいが楽しめるお菓子。お菓子の老舗,駿河屋の ラインナップです。」,「古来より受け継がれた,駿河屋羊羹の「こころ」」 などと表示していること(前記1(4)イ),株式会社京都駅前駿河屋は,そ の店舗に「駿河屋」と記載された看板及び「SURUGAYA」と記載さ れた看板を掲げていること(前記1(4)オ)に照らすと,駿河屋会の会員の 分家及び別家は,旧駿河屋の破産手続廃止決定の確定後も,「駿河屋」の 商標を取扱商品の羊羹等の和菓子のブランド名として継続して使用してい たことが認められる。
さらには,旧駿河屋の事業停止から約10か月後の平成27年3月24 日,原告は,旧駿河屋の旧本店店舗において営業を再開し,「駿河屋」の 商標を使用した「羊羹」等の和菓子の販売を行っていることに鑑みると, 和菓子のブランド名としての「駿河屋」の周知性等は,本件商標の登録査 定時においても維持されていたものと認められる。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(2) 本件商標の要部抽出の可否について
ア 本件商標は,「総本家駿河屋」の標準文字から構成された,「総本家」\nの文字部分と「駿河屋」の文字部分とからなる結合商標である。 本件商標の構成文字は,外観上,同書,同大,同間隔で表\示されており, 「ソウホンケスルガヤ」の称呼も生じるが,一方で,前記(1)認定のとおり, 「駿河屋」の商標は,本件商標の登録査定日当時,羊羹等の和菓子の取引 者,需要者の間において,近畿地方を中心に, 旧駿河屋又はその分家等が 取り扱う和菓子(特に,羊羹)を表示するブランド名として広く認識され,\n全国的にも相当程度認識されていたものと認められるのに対し,「総本家」 の語は,「多くの分家の分かれ出たもとの家。おおもとの本家。」を意味 する普通名詞であること(甲6)に照らすと,「総本家」の文字部分と「駿 河屋」の文字部分とは,それを分離して観察することが取引上不自然であ ると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。 そして,本件商標がその指定商品の「最中」に使用された場合には,本 件商標の構成中の「駿河屋」の文字部分が和菓子のブランド名として周知\nであったことから,取引者,需要者に対し,上記商品の出所識別標識とし て強く支配的な印象を与えるものと認められる。 そうすると,本件商標の構成中「駿河屋」の文字部分を要部として抽出\nし,これと引用商標1及び2とを比較して商標そのものの類否を判断する ことも,許されるというべきである。
イ これに対し被告は,(1)引用商標1及び2の商標登録がされた後に,指定 商品を「煉羊羹」,「菓子」等とする「駿河屋」の文字を含む9件の商標 (乙5ないし13)が商標登録されていること,(2)商品「菓子」又は「羊 羹」について,主に,地名に「駿河屋」の文字を加えた商標を多数の者が 使用しており,これらの使用者には,「京阪宇治駅前駿河屋」(乙16), 「京三条駿河屋」(乙17),「河内駿河屋」(乙18),「美濃国駿河 屋」(乙25),「京都駅前駿河屋」(乙26)のように,駿河屋会の会 員でない者も含まれていること,(3)引用商標1 及び2の商標権者である株 式会社大阪の駿河屋は「大阪の駿河屋」の商標を,有限会社伏見駿河屋は 「伏見駿河屋」の商標を,株式会社京都駅前駿河屋は「京都駅前駿河屋」 の商標を使用し,互いに出所の混同が生じないようにしていること,(4)引 用商標1及び2の商標権者は,駿河屋会以外の者による「駿河屋」の商標 の使用に対して,商標権侵害を主張することなく,長年放置してきたこと 等の取引の実情によれば,本件商標の登録査定時には,「駿河屋」という 商標だけでは,商品「和菓子」や「羊羹」について,何人の商品の出所を 示すものであるのか,需要者は,認識できない状態になっていたから,本 件商標から「駿河屋」の文字部分を要部として抽出することはできない旨 主張する。
しかしながら,前記(1)認定のとおり,「駿河屋」の商標は,本件商標の 査定日当時,羊羹等の和菓子の取引者,需要者の間において,近畿地方を 中心に, 旧駿河屋又はその分家等が取り扱う和菓子(特に,羊羹)を表示\nするブランド名として広く認識され,全国的にも相当程度認識されていた ものと認められる。 このことは,指定商品を「煉羊羹」,「菓子」等とする「駿河屋」の文 字を含む9件の商標が商標登録されていること(上記(1))や,株式会社大 阪の駿河屋は「大阪の駿河屋」の商標を,有限会社伏見駿河屋は「伏見駿 河屋」の商標を,株式会社京都駅前駿河屋は「京都駅前駿河屋」の商標を, それぞれの営業を表示するものとして使用していること(上記(3))によっ て左右されるものではない。 また,前記1(5)認定のとおり,駿河屋会の会員以外の者が「駿河屋」の 文字を使用している例もみられるが,それが多数であるとはいえない上, 羊羹等の和菓子についての具体的な使用態様も明らかでないから,上記(2) 及び(4)をもって,「駿河屋」の商標が,何人の商品の出所を示すものであ るのか,需要者が認識できない状態になっていたということはできない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3) 本件商標と引用商標1及び2の類否について
本件商標の要部である「駿河屋」の文字部分(標準文字)と別紙記載1及 び2の引用商標1及び2を対比すると,字体は異なるが,「駿河屋」の文字 を書してなる点で外観が共通し,いずれも「スルガヤ」の称呼及び羊羹等の 和菓子のブランド名としての「駿河屋」の観念が生じる点で,称呼及び観念 が同一である。 そうすると,本件商標と引用商標1又は引用商標2が本件商標の指定商品 「最中」に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同が生ずる おそれがあるものと認められるから,本件商標と引用商標1及び2は,それ ぞれ全体として類似しているものと認められる。 したがって,本件商標は,引用商標1及び2に類似する商標であるものと 認められる。

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平成31(行ケ)10018等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月19日  知的財産高等裁判所

 無効理由として、実施可能要件、サポート要件、進歩性が争われました。裁判所は、無効理由無しとした審決を維持しました。\n

 前記(1)イのとおり,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの核酸 配列(図1)が記載されており,コリネ型細菌の染色体上の,GDH 遺伝子のプロモーター配列の−35領域に「TGGTCA」配列及び−10 領域に「CATAAT」配列を有し,CS遺伝子のプロモーター配列の−3 5領域に「TGGCTA」配列及び−10領域に「TAGCGT」配列を有するこ とが示されている。また,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの セットにおいて,最もよく保存されている配列は-35 領域の「ttGcca.a」 及び-10 領域の「ggTA.aaT」であることが記載されている(図5)。 一方,甲2には,コリネ型細菌を用いた発酵法によるグルタミン酸 の製造方法において,グルタミン酸生合成系遺伝子であり,コリネ型 細菌の染色体上の特定の遺伝子であるGDH遺伝子及びCS遺伝子の プロモーター配列について,その−35領域及び−10領域の塩基配 列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することの動機付けとな るような記載はない。 したがって,甲2発明に接した当業者は,甲2の原告ら指摘箇所を 認識していたとしても,甲2発明において,GDH遺伝子のプロモー ター配列の−35領域及び−10領域の配列と目的遺伝子の発現量の 強化の程度及びそれによるグルタミン酸生産能の向上との関係に着目\nし,グルタミン酸を高収率で生産する能力を有する変異株を得るため\nに,GDH遺伝子のプロモーター配列の−35領域及び−10領域の 配列を本件発明1−1の配列に置換する動機付けはないから,当業者 は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。\nb これに対し原告らは,(1)L−グルタミン酸の生産を増強するために は,L−グルタミン酸に至るまでの各反応に関与する酵素(CS,G DH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいことは,本件優 先日前において技術常識であったこと,(2)E.coli において,プロモー ターの−10領域及び−35領域をコンセンサス配列に変更ないし近 づけることによって,目的遺伝子の発現を強化できることも,本件優 先日前において技術常識であったこと,(3)甲2には,コリネ型細菌と E.coli のコンセンサス配列が同等であることや,コリネ型細菌のプロ モーターの−10領域のコンセンサス配列が「TA.aaT」であり,この 3番目の塩基「.」として,相対的に「T」が最も頻度が高いことが記 載されていることからすると,甲2の記載は,当業者に対し,甲2発 明のGDH遺伝子のプロモーター配列の−10領域(CATAAT)の1番 目の塩基「C」を「T」に変異して,コンセンサス配列,すなわち本件 発明1−1の構成(「TATAAT」)とし,同−35領域(「TGGTCA」) の1番目〜3番目の塩基を保存性の高い「TTG」にするために,2番目 の塩基「G」を「T」に変異して,本件発明1−1の構成(「TTGTCA」) とすることを示唆するものである旨主張する。
しかしながら,仮に,本件優先日前において,L−グルタミン酸の 生産を増強するために,L−グルタミン酸の生成反応に関与する酵素 (CS,GDH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいこと が知られていたとしても,当該酵素の遺伝子を増強する具体的な方法 は,相当多数のものが想定し得たものと考えられるのであって,かか る方法として,本件発明1のように,目的遺伝子のプロモーターの特 定の領域に変異を導入する方法が知られていたことは認められない。 また,E.coli において,プロモーターの−10領域及び−35領域 をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子 の発現を強化できる場合があることが,本件優先日前において知られ ていたとしても,コリネ型細菌について,これと同様の知見が存在し ていたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,前記(1)イのとお り,甲2には,C.グルタミカムにおけるプロモーターの活性と-35 及 び-10 のコンセンサス配列との類似性の間には,E.coliと異なり,相 関は確認できなかった旨が記載されている。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

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令和1(行ケ)10097  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月19日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が、動機付け無し・阻害要因ありとして取り消されました。

 本件審決は,引用発明1及び甲4発明の装身具は,いずれも,装身 具を簡単にシャツの第一ボタンに装着できるようにするという共通の課 題を有し,また,これを着用するに当たり,切欠き状の部分にボタンが はまり込むことで装着するという共通の機能を有するから,引用発明1\nのボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的な形状として,甲 4発明の係止導孔を有する円形の釦挿通孔の態様を採用し,相違点2に 係る本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得た\nことである旨判断した。 しかしながら,前記(2)イのとおり,引用発明1は,簡易型のネクタイ 本体を取付ける着用具を改良することによって,着用状態における位置 ずれや傾きを生じ難く,低コストで生産でき,そして着用操作も容易で ある簡易着用具付きネクタイを提供することを課題とするものである。 一方,前記ア(イ)のとおり,甲4に記載された考案は,襟飾り,生花 等の種々の装飾小物,殊に襟前に止着する装身具について,着脱が簡単 であり,かつ,衣服の損傷がほとんどない装身具取付台を提供すること を課題とするものであるが,かかる装身具として,蝶ネクタイやネクタ イを例示するものではなく,蝶ネクタイやネクタイを着用する際に固有 の問題があることを指摘するものでもない。 したがって,引用発明1と甲4発明は,その具体的な課題において, 大きく異なるものといえる。
また,発明の作用・機能をみても,引用発明1は,基板部,ネクタイ\n取付部及び一対の突出片から成る簡易着用具を備え,ネクタイ取付部の 裏側に位置する基板部に,その下縁を凹状に切り欠いたボタン係合部を 設け,その切欠きにシャツの第一ボタンを係合させるとともに,一対の 突片を襟下へ挿入することで,簡易蝶ネクタイの良好な着用状態及び簡 単な着用操作を実現するものである(前記(2)ア(オ))。 そして,甲1には,引用発明1に関し,(1)「ボタン係合部19」の奥 部は,ボタン取付け糸の部分を丁度跨ぐことができる程度の小円弧状を なすものとし,その幅は,ボタンとの係合状態において横方向にほとん ど移動しない程度のものとすること,(2)着用時にボタンとの係合を容易 にするとともに,着用時に基板部2の片側がボタン穴に入り込むことを 防ぐために,「ボタン係合部19」の下方を,ラッパ状に下方へ拡大し て基板部2の下縁に達するものとすることの記載(前記(2)ア(エ)a)が ある。これは,結び目の陰に隠れて見えない状態のボタン係合部を,上 方から探りながらも容易に装着できるようにするための工夫といえるか ら,簡易着用具1の基板部2における,ボタン係合部19の配置位置及 びその形状を引用発明1の構成とすることは,引用発明1の課題を解決\nするために,重要な技術的意義を有するものであることを理解できる。 他方,甲4発明は,取付台主板に対して上方に係止導孔を連続形成し た釦挿通孔を穿設すると共に,他の一部に背面方向に突出するピンを突 設し,ピン先端にピン挟持機構を有するピン挿入キャップを冠着するこ\nとで,釦の確実な止着と,各種装身用小物の衣類への簡単な着脱を実現 するものであって(前記ア(イ)b),第1ボタンへの係合方法,衣類への 確実な止着及び簡単な着脱の実現手段において,引用発明1と大きく異 なるものであるから,発明の具体的な作用・機能も,引用発明1とは大\nきく異なるものといえる。
加えて,甲4の記載事項(前記ア(ア)c)によれば,甲4発明の装身 具取付台は,衣類に装着する際に,第1ボタンの前部からアプローチし て,釦挿通孔(2)に挿入した後,装身具取付台を鉛直方向の下部に移 動させ,係止導孔(3)を第1ボタンの取付糸に係合するものであるか ら,当業者であれば,第1ボタンを釦挿通孔(2)に挿入する際に,こ れらを視認できる状態でないと,ボタンの着脱動作が困難となることを 理解できる。 そうすると,仮に,引用発明1のボタン係合部19における切欠き状 の部分の具体的な形状として,甲4発明の「細幅の係止導孔(3)を有する 円形の釦挿通孔(2)」の態様を採用した場合には,ボタン係合部19の前 側に位置し,その前側にネクタイが取り付けられるネクタイ取付部3が 存在するため,簡易蝶ネクタイを着用する際に,簡易蝶ネクタイ及びネ クタイ取付部に隠されて,第1ボタン及びボタン穴を視認することがで きないことになる。そのため,ボタン係合部を切欠き状にする場合より も,着用具へのボタンの係合が困難となることは明らかであるといえる。
(イ) 以上によれば,引用発明1と甲4発明とは,発明の課題や作用・機 能が大きく異なるものであるから,甲1に接した当業者が,甲4の存在\nを認識していたとしても,甲4に記載された装身具取付台の構成から,\n「細幅の係止導孔(3)を有する円形の釦挿通孔(2)」の形状のみを取り出し, これを引用発明1のボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的 な形状として採用することは,当業者が容易に想到できたものであると は認め難く,むしろ阻害要因があるといえる。 したがって,本件補正発明は,引用発明1に基づいて当業者が容易に 発明をすることができたものであるとはいえないから,これに反する本 件審決の判断には誤りがあり,同判断を前提とする本件審決の補正却下 の決定にも誤りがある。

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令和1(行ケ)10100  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月19日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとして異議申立が認められましたが、知財高裁3部は、かかる審決を取り消しました。理由は、「後知恵に基づく議論といわざるを得ず,これを周知の技術的事項であると認めることはできない」というものです。

 以上のとおり,引用文献4から6に記載された発光素子は,いずれもA lGaN層又はAlGaAs層を組成傾斜層とするものであるが,引用 文献4では緩衝層及び活性層における結晶格子歪の緩和を目的として緩 衝層に隣接するガイド層を組成傾斜層とし,引用文献5では,隣接する 2つの層(コンタクト層及びクラッド層)の間のヘテロギャップの低減 を目的として当該2つの層自体を組成傾斜層とし,引用文献6では,隣 接する2つの半導体層の間のヘテロギャップの低減を目的として2つの 層の間に新たに組成傾斜層を設けるものである。このように,被告が指 摘する引用文献4から6において,組成傾斜層の技術は,それぞれの素 子を構成する特定の半導体積層体構\造の一部として,異なる技術的意義 のもとに採用されているといえるから,各引用文献に記載された事項か ら,半導体積層体構造や技術的意義を捨象し上位概念化して,半導体発\n光素子の技術分野において,その駆動電圧を低くするという課題を解決 するために,AlGaN層のAlの比率を傾斜させた組成傾斜層を採用 すること(本件技術)を導くことは,後知恵に基づく議論といわざるを 得ず,これを周知の技術的事項であると認めることはできない。 よって,本件技術が周知の技術的事項であるとして,相違点1,2に係 る構成に想到することが容易であるとした本件取消決定の判断には誤りが\nある。
イ なお,乙6の3及び引用文献5から,AlGaN半導体積層体において, 隣接する2つの層の間のヘテロギャップを低減させることで駆動電圧を 低減させること目的として,当該層を組成傾斜層とするという限度では, 周知の技術的事項を認める余地はある。 しかし,引用発明Aにおいて,アンドープ層とドーピング層は,いずれ もAl0.6Ga0.4Nから構成されており,両者の間にヘテロギャップは\n存在しないと考えられる。また,超格子バッファとアンドープ層との間の ヘテロギャップに着目するとしても,引用発明Aにおいて,n側電極はコ ンタクト層であるドーピング層又はアンドープ層に形成されるから,それ より下層(p側電極とは反対側)にある超格子バッファとの間のヘテロギ ャップは,駆動電圧にほとんど影響しないと考えられる。 よって,引用発明Aのアンドープ層について,隣接するドーピング層と の関係においても,超格子バッファとの関係においても,駆動電圧の低下 を目的としてヘテロギャップの低減を図るために,組成傾斜層とする動機 付けがあるとは認められない。そのため,上記技術が周知であるとしても, 少なくとも相違点1に係る構成に想到することは容易とはいえない。\nこの点について,被告は,アンドープ層及びドーピング層はいずれもコ ンタクト層であるから一体として考えるべきである旨主張する。しかし, 両層はドーピングの有無が異なることに加え,引用文献1の本文において, 両層それぞれについて膜厚が記載されていることや,図1でも2つの層は 区別して記載されていることからすれば,両層は別個の層として取り扱わ れていることは明らかであり,いずれもコンタクト層であるとの一事をも って,当業者が両者をともに組成変更するとの動機を持つとは考え難いか ら,被告の主張は採用できない。
4 格子不整合との主張について
被告は,半導体積層体の格子不整合を緩和するために組成傾斜層を用いるこ とが周知の技術事項であり,また,当業者であれば,引用発明Aの半導体積層 体に格子不整合が生じていることを認識し得るから,引用発明Aにおいて,か かる格子不整合を緩和するために,アンドープ層及びドーピング層を組成傾斜 層にする動機付けがある旨主張する。 しかし,半導体積層体では,通常,組成の異なる半導体層を積層した構造を\n採るため,格子定数差がない半導体層だけで素子を構成することができないこ\nとは技術常識であるところ,かかる半導体積層体に組成傾斜層を採用すること が常に行われていると認めるに足る証拠はなく,かえって引用文献4及び5で は,組成傾斜層は付加的な構成とされているにすぎず,これが設けられていな\nい実施例が大半を占める。また,弁論の全趣旨によれば,組成傾斜層を設ける ことには成膜が難しいといった弊害もあり,膜厚の厚薄及び格子定数差の大小 を踏まえ,格子定数差を許容した設計とすることや,応力緩和層を設けるなど 組成傾斜層以外の手段を採ることもあると認められる。そうだとすれば,半導 体積層体において,組成傾斜層を用いることにより半導体層間の格子定数差を 緩和すること自体は周知の技術事項であるとしても,当業者にとって,半導体 層間の格子定数差はおよそ許容できないものであり,これがあれば組成傾斜層 の適用が当然に試みられるとまでは認められず,組成傾斜層の適用が容易想到 というためには,引用発明Aにおいて格子定数差に基づく問題が発生している ことなど,そのための契機が必要というべきである。 引用文献1には,超格子バッファが,「応力を緩和する」ために採用されて いることは記載されているものの,かかる超格子バッファを備えた半導体積層 体において,さらに各半導体層間の格子定数差を課題として認識するような記 載は見当たらない。また,そうであるのに,被告が主張するように,各半導体 層の組成比を仮定しさらに場合分けをしてまで半導体層間の格子定数の差を顕 在化させることを当業者が行うとは考え難いし,仮に被告が主張するとおりの 格子定数差を当業者が認識したとしても,それが,組成傾斜層を用いて格子不 整合を緩和する必要があると考えるほどの差であるのかも明らかではない。さ らに,被告は,超格子バッファとアンドープ層の間に格子定数差がない可能性\nがあるとしているところ,かかる場合に,ドーピング層を電子供給層との格子 整合のために組成傾斜層とするにしても,前記3(4)イに記載のとおり,ドー ピング層とは別の層であるアンドープ層まで組成傾斜層とする動機付けはない。 以上によれば,引用発明Aに接した当業者が,格子定数差の緩和を目的とし て,アンドープ層及びドーピング層の双方を組成傾斜層とする動機付けがある とは認められない。

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令和1(行ケ)10152  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年3月19日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(3部)は、「ベジバリア」の下部に「塩・糖・脂」と二段に記載した結合商標について、先願既登録商標「塩糖脂」と類似しないと判断し、拒絶審決を取り消しました。

 本願商標は,「ベジバリア」の文字及び「塩・糖・脂」の文字を,いずれ も標準的な書体で2段にして成る商標であり,分離して観察することが取引 上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえないか ら,「ベジバリア」の部分と「塩・糖・脂」の部分を分離して観察すること 自体は不可能とはいえない。\nしかし,「ベジバリア」の部分は,自他識別力を有すると考えられるのに 対し,「塩・糖・脂」の部分は,「・」が存在することもあって3つの文字 がそれぞれ独立し,「塩」は塩分を,「糖」は糖分を,「脂」は脂肪分を意 味する一般的,普遍的な意味を有する文字として認識されるものであるとい える。そして,これらの文字は,それが,指定商品であるサプリメント,栄 養補助食品に用いられた場合には,当該商品が塩分,糖分及び脂肪分のコン トロールに良い影響を与えるなどといった記述的,説明的意味を表すのにと\nどまり,取引者,需要者に特定的,限定的な印象を与える自他識別力を有す るものではない(引用商標の「塩糖脂」は,3つの文字が一体となっている ところから,それらが一体の文字として自他識別力を有するという余地が生 ずるが,「塩・糖・脂」の場合には,「・」により分離されているため, 「塩糖脂」と同列に論じることはできないものである。)。このことと, 「塩・糖・脂」の部分は,「ベジバリア」の部分と比べ,明らかに小さい文 字で構成されており,その分目立たなくなっていることを併せ考えれば,こ\nの部分は,自他識別標識としての称呼,観念は生じないものであるというべ きである。 したがって,本願商標は,「ベジバリア塩・糖・脂」全体として,又は 「ベジバリア」の部分としてのみ自他識別標識としての称呼,観念が生じる ということになる。

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平成30(ワ)18573  不当利得返還請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年12月4日  東京地方裁判所

 第1要件、第5要件を満たさないとして均等も否定されました。

3 争点1−2(均等侵害の成否)について
原告は,本件無線ユニットの信号伝送方法が,構成要件1Cにおける「2〜\n3cmの距離」との構成を充足しないとしても,この相違点は本件各発明に係\nる方法と均等なものということができるので,均等侵害が成立すると主張する ので,以下検討する。
(1) 第1要件(非本質的部分)について
ア 前記判示のとおり,本件各発明は,埋設した測定装置と地表の測定装置\nを接続する信号線等のケーブルが長くなると,誘導電圧の影響によって測 定結果が乱れ,また,落雷によって生じる高い誘導電圧によって埋設した 測定装置の電子回路が故障するなどの課題を解決するため,測定装置近傍 に2〜3cmの距離でカップリングさせたアンテナを設け,電波を介して 同軸ケーブルで信号を伝送する構成を採ることにより,上記課題の解決を\n図るものであると認められる。 そして,カップリングさせたアンテナの距離については,その距離が大 きくなりすぎると十分な電界強度が確保できず,信号の伝送に支障が生じ\nる可能性がある一方(本件明細書等の【発明の実施の形態】),その距離\nが小さくなりすぎると,落雷に伴う誘導電圧から測定装置内部の電子回路 を保護する能力が低下することから,上記課題の解決が困難になるものと\n考えられる。本件各発明において,カップリングさせたアンテナ間の距離 を「2〜3cm」としたのは,この距離が相反する上記の要請をいずれも 満たすからであると解するのが相当である。 このことは,前記前提事実(5)記載のとおり,カップリングの距離を 2〜3cmとすることによる臨界的意義は認められないから,当業者 が行う単なる設計事項にすぎないとした平成17年2月2日付け拒絶 理由通知書(乙15の4)に対し,原告が,同年3月16日付け意見書 (乙15の6)において,「ボアホール内で使用する歪計や傾斜計は, 直径約10cm程度で,気密性が高い空域に収納しなければなりませ ん.…多数の回路を収容する必要があり,アンテナ部分の空域は小さく することが望まれます.しかし,測定装置を小さくする目的で,アンテ ナ部分をあまり密結合構造にすると,本来の目的である落雷に伴う誘\n導電圧から,測定装置内部の電子回路を保護する能力が低下します.こ\nれらの相反する条件を参酌し,2〜3cm離すことが最も適した距離 であるといたしました.」と説明していることからも明らかである。 以上の事実によれば,カップリングされたアンテナ間の距離は,上記の 相反する2つの要請を調和させ,本件各発明の効果を奏する上で本質的な 部分というべきである。
イ これに対し,原告は,本件明細書等の段落【発明の実施の形態】に「カ ップリングの距離を短くすれば電界強度はより大きくなって,信号の伝送 距離を長くできる」との記載があり,これはカップリングの距離を2〜3 cmよりも短くすることを示唆しているから,上記相違点は,本件各発明 の本質的部分に当たらないと主張する。 しかし,原告の指摘する上記記載は,カップリングしたアンテナ間の距 離を2〜3cmまで短くすることの技術的意義を説明する記載にすぎず, 本件各発明において,上記距離を2cmより更に短くすると,平成17年 3月16日付け意見書(乙15の6)にも記載されているとおり,落雷に 伴う誘導電圧から測定装置内部の電子回路を保護する能力が低下するので\nあるから,本件明細書等の上記記載が,上記距離を2cmより更に短くす ることを示唆しているということはできない。 ウ したがって,本件無線ユニットの信号伝送方法は,均等の第1要件を充 足しない。
・・・
(2) 第5要件について
前記前提事実(5)記載のとおり,原告は,平成16年11月11日付け手続 補正書(乙15の2)により,「2〜3cmの距離で」との構成を付加し,\nその理由について,平成17年3月16日付け意見書において,「ボアホー ル内で使用する歪計や傾斜計は,直径約10cm程度で,気密性が高い空域 に収納しなければなりません.…多数の回路を収容する必要があり,アンテ ナ部分の空域は小さくすることが望まれます.しかし,測定装置を小さくす る目的で,アンテナ部分をあまり密結合構造にすると,本来の目的である落\n雷に伴う誘導電圧から,測定装置内部の電子回路を保護する能力が低下しま\nす.これらの相反する条件を参酌し,2〜3cm離すことが最も適した距離 であるといたしました.」と説明していることによれば,原告が,カップリ ングさせたアンテナ間の距離を2〜3cmに限定し,それ以外の距離を意識 的に除外したものというべきである。 したがって,本件無線ユニットの信号伝送方法は,均等の第5要件を充足 しない。

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平成29(ワ)3428  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和元年12月24日  東京地方裁判所

 旧2CHの元管理人による新2CH(5チャンネル)に対する商標権侵害・不競法防止法事件です。裁判所は一部の商標について商標権侵害を認めました。

 前記認定事実によれば,本件電子掲示板は,(1)平成11年に開設され,平 成12年に西鉄バスジャック事件の犯人とされる少年が同掲示板に犯行予告\nを書き込むなどの出来事もあって社会的に注目を集めるようになり,平成1 4年頃には利用者が急激に増加し(前記2(2)ア,ウ,エ),(2)平成16年及 び平成17年には本件電子掲示板に掲載された投稿をほぼそのまま出版した 「電車男」が話題となり,インターネットに係る複数の賞を受賞し,これが ネットニュースで報道され(前記2(2)カ),(3)平成18年頃には,本件電子 掲示板の名称である「2ちゃんねる」という言葉がマスコミにおいて頻繁に 登場したり,本件電子掲示板内において使用される用語が一般の雑誌におい ても使われたり,電子掲示板を利用しない一般人の間でも本件電子掲示板が 話題に上ったりするようになった(前記2(2)キ)。 これらによれば,本件電子掲示板のトップページ等に表示されていた被告\n標章1及び2は,遅くとも,平成18年には,本件電子掲示板に係る役務を 表示するものとして,全国の需要者の間に広く認識されるに至ったと認める\nことができる。そして,平成25年3月当時,本件電子掲示板の月間の閲覧 数が29億にのぼるとして「日本語圏最大級のネットコミュニティ」などと 宣伝されていたことに照らせば(前記2(2)ス),原告商標1及び2が出願さ れた平成25年1月25日及び平成26年3月27日においても,上記周知 性が維持,継続していたものと認められる。
(4)ア
本件電子掲示板に係る役務を誰が提供していたかについてみると,原告 は,本件電子掲示板を開設した者であり,管理人と呼ばれたこともあり, 平成26年3月まで,本件電子掲示板の広告収入を間接又は直接に受領し ていた(前記2(2)ア,カ,キ,セ)。また,そのように受領した広告収入 の一部をNTテクノロジー社に渡していた(前記2(2)エ)。他方,原告は, 平成21年以降,ブログや「僕が2ちゃんねるを捨てた理由」と題する書 籍等において,自ら積極的に,本件電子掲示板を第三者に譲渡したとか, 本件電子掲示板の管理人を退き,アドバイザーか1ユーザーであるなどと 公言していた(前記2(2)ク,コ,シ)。また,平成21年1月2日以降, 本件ドメイン名に係るWhois 情報において,本件証拠上,原告に特に関係 が深いと考えられる会社(東京プラス社やブラジル社)や原告は,登録者 や運営名に関する連絡先,登録サービス提供者等のいずれにも登録されて いない(前記2(3))。 NTテクノロジー社は,平成11年頃から本件電子掲示板のサーバの提 供や関係する掲示板の開設を新たに行うなどしており,その後も,利用者 が増大した本件電子掲示板のサーバの管理や関係するソフトウェアのプロ\nグラミング等を単独で又は被告と共にしていた(前記2(2)イ,エ,オ)。 また,NTテクノロジー社は,平成14年頃には本件電子掲示板の閲覧の 利便性を向上させるソフトウェアを開発してこれを本件電子掲示板の利用\n者に販売し,その多額の売上げを原告を介さずに自ら取得していた(前記 2(2)イ,エ)。NTテクノロジー社は東京プラス社を介して原告から本件 電子掲示板の広告料の一部の送金を受けていて,その送金額は平成14年 頃は少なくとも当面は月額2万ドルとされていたところ,それに関する契 約書はなく,送金額は変動し,実際に送金された総額は相当の多額であり, また,NTテクノロジー社が求めた増額に任意に応じてその送金がされた こともうかがわれる(前記2(2)エ,テ)。そして,少なくとも平成17年 5月以降,本件ドメイン名に係るWhois 情報において,NTテクノロジー 社(NTテクノロジー社の設立者のジムを含む。)は,単に技術面に関す る連絡先としてだけでなく,継続して,運営面に関する連絡先や登録サー ビス提供者として登録されていた(前記2(3))。被告は,平成16年頃よ り,本件電子掲示板の管理に直接携わるソフトウェアのプログラミング等\nの業務を担うようになり(前記2(2)オ),平成24年5月3日に本件ドメ イン名を取得して本件ドメイン名の登録者となり,遅くとも平成26年2 月19日から本件電子掲示板のトップページ等に被告標章1及び2を表示\nして使用し,その使用は平成29年9月30日まで継続し(前提事実(5), 前記2(3)カ),本件証拠上,平成26年3月5日には,本件電子掲示板の トップページの下に会社名,所在地等が表示され,平成30年4月当時の\n「5ちゃんねる」と題する電子掲示板のトップページには,本件電子掲示 板を被告から譲り受けたと解される記載が表示されていた(前記2(2)タ, ツ)。
本件電子掲示板は,多種の掲示板から構成された巨大掲示板サイトであ\nり,その性質上,サーバの管理,新たな掲示板や機能の導入,それらの維\n持,改善等の運営は極めて重要である。また,平成14年頃には利用者が 急激に増加していたのであり,遅くともその頃以降,それらの管理,運営 等が占める役割には非常に大きいものがあった。そして,それらの管理, 運営等は,平成11年以降,NTテクノロジー社が単独で又は被告と共に 担っていた。この点について,原告が前記2(2)テ記載の別件訴訟において 提出した陳述書中には,NTテクノロジー社は東京プラス社からサーバの 管理業務を受託したにすぎない旨の記載があるが(甲21),上記の事実 関係に照らせば,NTテクノロジー社が単に原告等の委託を受けてその指 示等に基づいて管理業務を行っていたのみであるというのは不合理という ほかない。原告が平成26年2月19日まで本件電子掲示板の役務の提供 を行っていたといえるかは措くとして,少なくとも,NTテクノロジー社 は,遅くとも平成14年以降は,自ら主体的に本件電子掲示板に係る役務 の提供を行っており,本件電子掲示板に係る役務を自己の役務として提供 していたと認めるのが相当である。そして,被告も,平成16年以降,N Tテクノロジー社とともに本件電子掲示板の役務の提供をしており,少な くとも平成26年2月19日から平成29年9月30日までの間,本件電 子掲示板に係る役務を自己の役務として提供しており,遅くとも被告が本 件ドメイン名を取得した平成24年5月3日頃に,NTテクノロジー社か ら,本件電子掲示板の運営に係る事業の譲渡等を受けるなどして,その地 位を承継したと認めるのが相当である。
イ 商標法32条の先使用権は,識別性を備えるに至った商標の先使用者に よる使用状態を保護し,もって,先使用者が当該商標に蓄積した信用を同 人において享受することを可能にするものである。前記先使用権の趣旨に\n照らせば,当該商標を主体的に自己の業務として提供する役務を表示する\nものとして使用してその商標の持つ出所,品質等について信用を蓄積した 者やその者から当該事業の承継を受けた者は,先使用権の他の要件を満た せば先使用権を有するといえる。 被告標章1及び2は,遅くとも平成14年頃以降は,少なくとも,NT テクノロジー社において主体的に自己の業務として提供していたといえる 本件電子掲示板に係る役務を表示するものとして使用され,遅くとも平成\n18年頃には周知性を獲得し,その後も,NTテクノロジー社は被告標章 1及び2を表示して同役務の提供を継続したため,上記周知性が維持・継\n続されたといえる。被告は,遅くとも平成24年5月3日頃に,NTテク ノロジー社から本件電子掲示板の運営に係る事業の承継を受けるなどして その地位を承継し,本件商標1及び2の登録出願当時(本件商標1につき 平成25年1月25日,本件商標2につき平成26年3月27日),継続 して被告標章1及び2を使用して本件電子掲示板に係る役務を自己の業務 として提供していたから,被告標章1及び2は,上記時点において,被告 の業務である本件電子掲示板に係る役務を表示するものとして周知であっ\nたと認められる。また,被告は,平成29年9月30日まで,自己の業務 を行う意図で被告標章1及び2を表示した本件電子掲示板に係る役務を提\n供したと認めることが相当である。
ウ 不正競争の目的なくある特定の標章を表示する役務を複数の者が共同し\nて提供していた場合,その複数の者の間で紛争が生じた後であっても,少 なくとも,主体的に自己の役務として自ら役務を提供して当該表示の持つ\n出所,品質等について信用を蓄積するために果たした役割が主要といえる 者が,紛争後も提供した当該役務が従前と同様のものであった場合,その 者による当該標章の使用は,前記の先使用権の制度趣旨に照らし,不正競 争の目的なくされているとするのが相当である。そして,前記に照らせば, NTテクノロジー社は,不正競争の目的なく本件電子掲示板に係る役務を 主体的に自らの役務として提供して,当該表示の持つ出所,品質等につい\nて信用を蓄積するために主要な役割を果たしたといえる。平成26年2月 19日にはそれまで本件電子掲示板に関与していた東京プラス社及び原告 が本件電子版のサーバにアクセスできなくなったところ,東京プラス社及 び原告の同時点までの本件電子掲示板への関与の内容には不明な部分もあ るが,NTテクノロジー社と共に上記提供を行ったか,NTテクノロジー 社から本件電子掲示板に係る事業の承継を受けるなどしてその地位を承継 した被告は,平成26年2月19日以降も本件電子掲示板に係る役務をそ れまでと同様に提供していたことがうかがえ,NTテクノロジー社の果た した上記の役割に照らせば,同日以降平成29年9月30日までの間,被 告標章1及び2を本件電子掲示板に係る役務を表示するものとして,不正\n競争の目的なく使用したと認めることが相当である。
エ 以上によれば,平成26年2月19日から平成29年9月30日までの 間,被告は,本件商標1及び2を本件電子掲示板に係る役務を表示するも\nのとして使用することについて,先使用権を主張することができる。

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平成28(ワ)4815 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年1月20日  大阪地方裁判所

 大阪地裁26部で、102条2項により13億を越える損害賠償(代理人費用含む)が認められました。9割覆滅されています。

 特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害によって特許権者 が被った損害の賠償を求めるためには,特許権者において,損害の発生及び額,こ れと特許権侵害行為との間の因果関係を主張,立証しなければならないところ,そ の立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の填補がされないという不都合が 生じ得ることに照らして,侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは,そ の利益の額を特許権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規 定である。このような趣旨に鑑みると,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為 がなかったならば利益を得られたであろうという事情が存在する場合には,同項の 適用が認められると解すべきであるとともに,同項所定の侵害行為により侵害者が 受けた利益の額とは,原則として,侵害者が得た利益全額であると解するのが相当 であって,このような利益全額について同項による推定が及ぶと解される。
(イ) 証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告による本件特許権 侵害行為の期間(平成20年〜平成28年)において,スクリュ圧縮機に相当する 圧縮機ユニット又はスクリュ圧縮機に凝縮器を備えたものに相当するコンデンシン グユニットである原告各製品を製造し,プラント業者等に販売していたことが認め られる。 他方,証拠(乙39,78,81,82,85,93,99,110)及び弁論 の全趣旨によれば,被告は,平成20年〜平成28年にかけて,油冷式スクリュ圧 縮機である被告製品2−2及び2−3が組み込まれたスクリュ式ガス圧縮システム であるNewTonシステムを使用した冷凍・冷蔵プラントである被告製プラントを販 売した一方,NewTonシステムや被告製品2−2及び2−3を,国内においては別 個独立に販売することはなかったこと(なお,国外向けには,被告のグループ会社 に単体又は単独で販売し,当該グループ会社がシステムを完成させて顧客に販売す ることはあった。)が認められる。 このように,被告は,基本的には,油冷式スクリュ圧縮機である被告製品2−2 及び2−3が組み込まれたNewTonシステムを使用した被告製プラントを販売する という形で本件特許権侵害行為を行っているから,本件特許権侵害行為における侵 害品は,上記NewTonシステムとするのが相当である。 そして,NewTonシステムと原告各製品が組み込まれたシステムとは,上記のと おり,冷凍・冷蔵プラントの需要者を需要者とする点で共通する以上,NewTonシ ステムと原告各製品の需要者も,その面では共通する部分があるといえる。 したがって,本件においては,原告に,被告による本件特許権侵害行為がなかっ たならば利益が得られたであろうという事情が存在するといえることから,特許法 102条2項の適用が認められる。
(ウ) これに対し,被告は,原告各製品がスクリュ圧縮機等であるのに対し,被告 が販売するのは被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステムを使用し た被告製プラントであることを指摘して,特許法102条2項の適用は認められな いと主張する。 しかし,被告指摘に係る事情は,要するに特許権者である原告と侵害者である被 告との間の業務態様の相違(ひいては市場の非同一性)を指摘するものであるとこ ろ,このような事情を考慮しても,原告各製品と被告製品2−2及び2−3とは, 上記(ア)のような形で市場においてなお競合関係にあると見るのが相当であるから, 特許法102条2項の適用を否定すべき事情とはいえない。被告指摘に係る当該事 情は,同項に基づく損害額の推定を覆滅する事情として考慮すれば足りる。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 本件特許権侵害行為により被告が受けた利益の額
(ア) 侵害者がその侵害の行為により受けた「利益の額」(特許法102条2項)は, 侵害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりそ の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であ り,その主張立証責任は特許権者側にあると解される。 前記アのとおり,本件における侵害品は被告製品2−2及び2−3が組み込まれ たNewTonシステムであるから,本件特許権侵害行為により被告が受けた「利益の 額」は,その売上高から,被告においてNewTonシステムの製造販売に直接関連して 追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額を算定するのが相当である。 これに対し,被告は,本件発明が油冷式スクリュ圧縮機に関する発明であること, 原告自身が侵害品を圧縮機として特定していること,NewTonシステムから圧縮機だ けを分離可能であることなどを指摘して,本件の侵害品は,NewTonシステムではな く,圧縮機本体を中核とする被告製品2−2及び2−3であると主張する。 しかし,前記アのとおり,本件の侵害品はNewTonシステムとすることが相当であ り,このことは,本件発明が油冷式スクリュ圧縮機に関する発明であることなどに より左右されない。NewTonシステムから圧縮機を物理的に分離可能であるとしても,\n前記アのとおり,被告においては基本的にこれを別個独立に販売しておらず,この 部分の譲渡による利益を直接的に観念し得ない以上,同様であり,被告製品2−2 及び2−3がNewTonシステムの一部分であることは,損害額の推定を覆滅する事情 として考慮すれば足りる。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(イ) NewTonシステムの販売台数
証拠(乙85,93,110)及び弁論の全趣旨によれば,被告が販売した NewTonシステムの販売台数は,別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」〜 「NewTonシステムの利益額算定表(6)」の「NewTon台数」欄に各記載のとおりであ ることが認められる。
b これに対し,被告は,被告が販売したNewTonシステムのうち,本件特許権の 存続期間中に受注し,存続期間満了後に製造を終えて納入したものについては,本 件特許権の存続期間中に,存続期間満了後に行われた適法な譲渡についての申出が\n行われたにすぎないから,本件特許権侵害行為による損害賠償の算定の基礎にすべ きではないと主張する。 しかし,被告は,本件特許権の存続期間中に「譲渡の申出」を行った上で受注し\nており,この時点で顧客との間の請負契約が成立している以上,製造及び納入の完 了が本件特許権の存続期間満了後であったとしても,これによる原告の損害は,な お本件特許権の存続期間中の侵害行為である「譲渡の申出」と相当因果関係にある\n損害というべきである。そうすると,これに係る「譲渡」による販売分も,本件特 許権侵害行為による損害賠償の算定の基礎にするのが相当である。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ) NewTonシステム1台ごとの売上額
a NewTonシステムは,前記ア(イ)のとおり,基本的に冷凍・冷蔵プラントとは 別個独立のものとして販売されていないものの,証拠(乙39,92,110)及 び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品2−2及び2−3が組み込まれた NewTonシステムの「定価」を設定し,そのNewTonシステムを使用した被告製プラ ントを販売するに当たって,当該「定価」を見積書に記載するなどして顧客に対し 見積りを示した上で,被告製プラントを販売していることが認められる。 そうすると,NewTonシステム1台ごとの売上額を算定するに当たり,当該「定 価」に依拠することには合理性がある。
他方,証拠(甲23,乙100,119)及び弁論の全趣旨によれば,被告は, NewTonシステムを使用した被告製プラントの販売に当たり,「出精値引」などと して,冷凍・冷蔵プラントを構成する部品価格の合計額から値引きして販売する例\nがあったことが認められる。もっとも,全ての取引において値引きが行われたこと を認めるに足りる事情はなく,また,プラントを構成するいずれの部品が値引き対\n象とされたかも不明であるから,上記売上額の算定に当たり値引き分を考慮するこ とは合理的でない。 以上を踏まえると,証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば,NewTonシステ ム1台ごとの売上額は,別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」〜「NewTon システムの利益額算定表(4)」の「定価(単価)」欄に各記載のとおりであると認め られる。 これに対し,被告は,NewTonシステム1台ごとの売上額は,その実質的な販売 価格に相当する●(省略)●により算定すべきであると主張する。 しかし,証拠(乙39,92,93)及び弁論の全趣旨によれば,NewTonシス テムの●(省略)●は,被告の製造部門が販売部門に販売処理手続を行う際の設定 される価格にすぎず,被告は,この●(省略)●を上回る価格を「定価」として設 定した上で,NewTonシステムを使用した被告製プラントを販売していることが認 められる。すなわち,●(省略)●「定価」においてこれが反映されているものと 理解される。そうすると,顧客に対する関係では,●(省略)●は実質的な販売価 格とはいえない。 したがって,NewTonシステム1台ごとの売上額の算定に当たりその●(省略) ●を基礎とすることは合理性を欠き,相当でない。この点に関する被告の主張は採 用できない。
b 593番代替機及び6048番転用機について
証拠(乙99)及び弁論の全趣旨によれば,別紙「NewTonシステムの利益額算 定表(5)」の対象となっている593番代替機は,106番機の代替機として,顧客 に無償で譲渡されたことが認められる。そうすると,106番機と593番代替機 の販売は一連の取引によるものといえる。このような経緯を踏まえると,106番 機と593番代替機の販売については,106番機1台分の売上額●(省略)●円 をもって2台合計の売上額として算定するのが相当である。 また,証拠(乙99)及び弁論の全趣旨によれば,別紙「NewTonシステムの利 益額算定表(6)」の対象となっている6048番転用機は,同一の顧客に対して61 8番機2台と共に合計3台として納品されたこと,この取引におけるNewTonシステ ムの代金は2台分の代金とされたことが認められる。このような経緯を踏まえると, 2台分の売上額である●(省略)●円(●(省略)●円×2)をもってこれら3台合 計の売上額として算定するのが相当である。 以上に反する原告の主張は採用できない。
(エ) NewTonシステム1台ごとの経費
a 前記(ア)のとおり,控除すべき経費は,侵害品の製造販売に直接関連して追加 的に必要となったものをいい,例えば,侵害品についての原材料費,仕入費用,運 送費等がこれに当たる。これに対し,例えば,管理部門の人件費や交通・通信費等 は,通常,侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費には当たら ない。
b 控除すべき経費
(a) 製造原価
証拠(乙39,93,110)及び弁論の全趣旨によれば,NewTonシステム1 台ごとの製造原価は,別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」〜「NewTonシ ステムの利益額算定表(4)」の「製造原価(単価)」欄に各記載のとおりであること が認められる。
(b) その余の経費
被告は,上記製造原価のほかに,被告製品2−2及び2−3が組み込まれた NewTonシステムの製造工場に係る間接人件費並びに販売費及び一般管理費を控除 すべき旨を指摘する。 まず,間接人件費についてみると,間接人件費は,正に管理部門の人件費である ところ,被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステムの製品の製造 販売に直接関連して,間接人件費に相当する費用が追加的に発生したと見るべき事 情は見当たらない。そうすると,被告製品2−2及び2−3が組み込まれた NewTonシステムの製造販売に直接関連して追加的に必要となった費用とはいえず, 控除すべき経費に当たらない。 次に,販売費及び一般管理費についてみると,証拠(乙75,84,109)及 び弁論の全趣旨によれば,上記(a)の製造原価には,社内加工費及び艤装作業費が含 まれていることが認められるところ,これを除くと,証拠(乙78,101)及び 弁論の全趣旨によっても,被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシス テムの製品の製造販売に直接関連して,販売費又は一般管理費に相当する費用が追 加的に発生したと見るべき事情は見当たらない。そうすると,被告指摘に係る販売 費及び一般管理費は,被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステム の製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった費用とはいえず,控除すべ き経費に当たらない。 したがって,被告の上記指摘は当たらない。
(c) 被告の主張について
そもそも被告は,最小二乗法を用いて限界利益率を算定するのが管理会計学上確 立した方法であるとして,本件特許権侵害行為により被告が受けた利益の額を算定 するに当たっても,最小二乗法を用いるのが合理的であると主張する。 しかし,前記(ア)のとおり,特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受 けた利益の額として算定すべき額は,侵害者の侵害品の売上高から,侵害者におい て侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要とな った経費を控除した限界利益の額であり,被告主張に係る管理会計学上の限界利益 の額とは必ずしも一致しない。また,算定の目的を異にする以上,侵害者が受けた 「利益の額」(特許法102条2項)の算定に当たり,管理会計学上の限界利益の 額の算定方法である最小二乗法を用いないとしても,不合理であることにはならな い。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
・・・
ウ 推定の覆滅について
(ア) 基礎となる事情
a NewTonシステム及び被告製品2−2及び2−3等について
(a) NewTonシステムの特徴及び販売促進活動
NewTonシステムは,平成19年にNewTon3000が商品化され,平成20年以降, 被告製プラントに使用される形で販売されており(甲8の3,乙45),基本的に, 冷凍・冷蔵プラントとは別個独立のものとしては販売されていない。被告製品2− 2及び2−3のみならず,被告製品2は,いずれもNewTonシステム専用の圧縮機で あり(甲3),NewTonシステムを使用した被告製プラントを購入する際には,必然 的に購入することになるところ,これらも,NewTonシステムと同様に,基本的に別 個独立のものとして販売されていない。また,NewTon3000は,IPMモーターを 搭載することなどにより,従来式に比べて20%の省エネを実現するとされ,発売 開始当初は年間200台,10年後には年間800台の販売を目標にしていた(乙 45,116)。 被告は,その後もNewTonシステムの開発を継続し,平成24年にはチルド専用の NewTonC,フリーザー専用のNewTonF等のシリーズ展開が行われ,平成28年ま でに累計●(省略)●台以上を販売した。さらに,被告は,平成28年7月,省エ ネ性を保ちつつ,冷媒充填量の削減,メンテナンス性の向上及び小型・軽量化を達 成したフリーザー専用の機種として,F-300,F-600等の販売を開始した(甲8の3, 乙45)。
NewTonシステムは,被告自ら開発したIPMモーターを搭載することなどによっ て,より高度な経済性と省エネルギー性を実現する点,令和2年に全廃されるフロ ン冷媒対策として,自然冷媒であるアンモニアで二酸化炭素を冷却するという間接 冷却方式を採用するとともに,アンモニアを機械室に閉じ込める構造によりその安\n全な利用を可能とし,さらに,漏洩センサー等を装備するなどしてアンモニアが漏\n洩しても素早い対応が取れるようにしている点,コンパクトなユニット設計を採用 することで導入を容易としている点,遠方監視システム及び保全診断システムなど 24時間365日のサポート体制を設けている点等に特徴があるとされ,これらの 点が強調された形で販売促進活動が行われていた(甲8の3,乙38,45)。 なお,NewTonシステムや被告製品2−2及び2−3の宣伝広告物には,本件明細 書記載の本件発明の作用効果に直接言及し,又はこれを具体的にうかがわせる記載 は見られない(甲3,8の3,乙38,66の1)。
(b) NewTonシステムを導入した業者によるNewTonシステムについての評価 被告は,その作成に係る「Customer’s Point of View」と題する記事において, NewTonシステムを導入した顧客の導入の動機,導入後の成果等を紹介していると ころ,これには,以下のような記載がある。
・・・
(b) 原告各製品の取扱業者による販売促進活動
・・・・
(イ) 検討
a 前記認定のとおり,被告は,基本的には,油冷式スクリュ圧縮機である被告 製品2−2及び2−3を独立して販売しておらず,また,これらを組み込んだ NewTonシステムについても同様であり,被告製品2−2及び2−3を組み込んだ NewTonシステムを使用した被告製プラントを販売している。他方,原告は,スク リュ圧縮機又はこれに凝縮器を付加した原告各製品を販売しているにとどまり,プ ラントという単位でみると,「セットメーカ」などといわれる別の業者が需要者に 対して提案するパッケージに組み込まれて販売されるという関係にある。このよう に両者の業務形態が大幅に異なることは,本件の侵害品であるNewTonシステムへ の需要と原告各製品への需要とが質的に異なる面があることをうかがわせる。この ため,仮に被告製品2−2ないし2−3を組み込んだNewTonシステムが販売され なかったとしても,原告各製品のいずれかが被告製品2−2又は2−3に直接代替 されることは考え難い。他方,そのような場合に,被告製品2−2及び2−3の譲 渡数量に対応する需要の全部又は一部が原告各製品の組み込まれたシステムを使用 したプラントに向かうことはあり得ることから,その場合は,結果的に,上記需要 が原告各製品に向かったことになる。もっとも,原告は,プラントを構成する圧縮\n機を販売するにとどまり,プラント全体の構成及び価格の決定や需要者に対する販\n売促進活動において及ぼし得る影響力には限りがあると思われる。 以下では,このような観点も踏まえて,推定覆滅の有無及び程度を検討する。
b 被告製品2−2及び2−3は,本件発明の技術的範囲に属するものである以 上,基本的には本件発明の作用効果を奏すると考えられるところ,被告製品2−2 及び2−3において,本件発明の作用効果を奏していないという事情はうかがわれ ない。この点,被告は,被告製品2−2及び2−3が本件発明の作用効果を奏する ものではない旨主張するが,採用できない。 もっとも,本件発明の作用効果は,スラスト軸受の負荷容量を大きくすること, バランスピストンの受圧面積を大きくすること,逆スラスト荷重状態の発生をなく すことなど,単純かつコンパクトな構造で,振動,騒音を低減させることができる\nというものであり,技術的にはさておき,本件発明の実施品ないしこれを組み込ん だシステムの経済的価値に強いインパクトを及ぼすような性質のものとは必ずしも いえない。このことは,被告製品2−2及び2−3につき,被告がその販売促進活 動において本件発明の作用効果に直接的に言及していないこと,NewTonシステム に対する外部的な評価においても,本件発明の作用効果に直接的に関わるものは見 当たらず,これを示唆するものもないこと,特許権者である原告自身も,スクリュ 圧縮機等である原告各製品において本件発明を実施していないことによっても裏付 けられる。そうすると,本件発明の作用効果それ自体には,それほど強い顧客吸引 力はないと見るのが相当である。
また,弁論の全趣旨によれば,NewTonシステムは被告製プラントの顧客吸引力 の中核を成す部分であり,被告製品2−2及び2−3は,NewTonシステムを稼働 させるために不可欠な部品であることが認められる。そこで,NewTonシステムの 顧客吸引力を検討すると,被告は,NewTonシステムの販売促進活動において,省 エネ,安全性,サポート体制等を特徴とするものであるとの点を強調している。し かも,被告が強調するNewTonシステムのこれらの特徴は,表彰の受賞理由とされ,\nまた,その導入の動機となり,現にその実績も上がっているとされるなど,第三者 からも積極的に評価されていることがうかがわれる(なお,原告は,省エネや安全 性が本件発明の作用効果であるとも主張するけれども,NewTonシステムにおける 省エネや安全性はIPMモーターや間接冷却方式を採用するなどしたことによるも のであり,本件発明の作用効果とは無関係と見られることから,この点に関する原 告の主張は採用できない。)。
c 被告製品2−2及び2−3の製造原価がNewTonシステムの製造原価に占め る割合は,被告製品2−2及び2−3の技術的・商業的価値を直接的に反映したも のではないが,これを推し測る一事情とはなるところ,被告製品2−2及び2−3 がNewTonシステムを可動させるために不可欠な部分であるといっても,NewTonシ ステムの製造原価における被告製品2−2又は2−3の製造原価の割合は,●(省 略)●にとどまる。
d NewTonシステムを使用した被告製プラントとそれ以外の同様のプラントの 販売実績は,アンモニア/二酸化炭素冷媒・冷凍設備の冷凍機用途の油冷式スクリ ュ圧縮機市場が事実上被告と原告の二社寡占状態であることに鑑みると,原告及び 被告の各製造に係る圧縮機の納入実績におおむね対応するものと推察されることか ら,NewTonシステムを使用した被告製プラントの販売実績の方が右肩上がりであ る●(省略)●。また,被告製プラントで使用されるNewTonシステムに組み込ま れる圧縮機として被告の製造に係るもの以外のもの(おのずと,原告の製造に係る 製品がその候補となる。)が組み込まれるという事態は考え難い。そうすると,被 告が非侵害品を販売していたり,販売することが容易であったりすれば,仮に被告 製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステムが販売されなかったとして も,需要の多くは被告の製造に係る非侵害品等を組み込んだNewTonシステムを使 用したプラントに向かったであろうと考えるのが合理的である。 そして,被告は,被告製品2−2及び2−3以外にも,本件発明を侵害しない NewTonシステム専用品として,被告製品2−1を製造しており,これによって被 告製品2−2及び2−3に代替することが考えられる。なお,原告は,被告製品2 −1が組み込まれたNewTonシステムの販売実績が少なかったことを指摘するけれ ども,現に納入実績がある以上,需要者の需要を満たすものである限り,被告製品 2−1による代替に需要が向かう可能性を否定することはできない。\nまた,被告は,本件特許権侵害行為当時,被告製品2以外にはNewTonシステム 専用の油冷式スクリュ圧縮機を製造していなかったものの,弁論の全趣旨によれば, NewTonシステムにおいて,本件特許権の侵害を回避するために,例えば油ポンプ を加えて加圧流路を設けることについての物理的な制約はさほどなく,また,コス ト的にも問題とすべき程度に至るとは見られない。そうすると,被告製プラントを 欲する需要者の要望に対し,既存機種をベースとしたカスタマイズ等の形で対応し, 本件特許権侵害を回避することは比較的容易であったとうかがわれる。実際には, 本件特許権の非侵害品であるNewTonシステム専用の圧縮機としては被告製品2− 1しかなく,また,上記カスタマイズといった対応も取られなかったとはいえ,推 定を覆滅すべき事情としては,この点も考慮するのが合理的である。この点につき, 原告は,競合品として考慮できるのは現実に市場に存在した製品に限られると主張 するが,上記のとおり,これを採用することはできない。
e 被告は,被告のNewTon事業の限界利益率が,原告の圧縮機事業の限界利益 率を上回ることを前提に,特許法102条2項により算定された利益の額が,特許 権者である原告がその実施能力に基づき得られたであろう利益の額を上回る場合は,\nその限度で覆滅されると主張する。 しかし,仮に被告のNewTon事業の限界利益率が原告の圧縮機事業の限界利益率 を上回るとしても,それをもって原告の圧縮機事業の実施能力が被告のNewTon事 業の実施能力に劣ることを意味するものではないから,被告の上記主張は,その前\n提を欠く。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
f 以上の事情を総合的に考慮すると,本件においては,被告製品2−2及び2 −3が組み込まれたNewTonシステムを使用した被告製プラントの販売がなかった 場合に,これに対応する需要の全てが原告各製品やこれを組み込んだスクリュ圧縮 機,更にはこれを使用したプラントに向かったであろうと見ることに合理性はなく, むしろ,そのような需要はごく限られると考えられる。そうすると,本件では,9 割の限度で,特許法102条2項による推定を覆滅するのが相当である。 この点に関する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。
エ 以上によれば,原告の逸失利益の額は,別紙「損害額算定表(裁判所認定)」\nの(3)欄のとおり,合計12億5428万1900円であると認められる。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10102  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月24日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。理由は技術分野は共通するが、動機付け無し、さらに阻害要因ありというものです。

(ア) 引用発明1は,大口径の鋼管杭(ケーシング)の圧入,引抜きを行うための 回転式ケーシングドライバに関し,引用発明2’は,種々の径のケーシングに対応す ることができ,現場打杭に使用される回転式ボーリングマシンに関するから,両発 明の技術分野は共通する。 しかし,引用発明1では,小さく分割することでその輸送を容易にしながら,ケ ーシングドライバの大型化を図ることのできる構造の,昇降フレームを提供するこ\nとを目的とするのに対し,引用発明2’では,種々のケーシングチユーブに適用し, 掘削排土及びケーシングチユーブの回転の両操作を同時に行うことのできる回転式 ボーリングマシンを提供することを目的とするので,両発明の目的は異なる。 また,引用例1には,引用発明1の把持機構(旋回ベアリング6,回転リング7,\n及びバンド装置14)に代えて,引用発明2’の把持機構(クランプ部2)を採用す\nることに関する記載も示唆も認められない。 そうすると,引用発明1に引用発明2’を適用することについて,直ちに動機付け があると評価することはできない。
(イ) そこで,更に両発明の構成をみると,引用発明1の「旋回ベアリング6,回\n転リング7,及びバンド装置14」と引用発明2’の「クランプ部2」は,いずれも ケーシングの回転及び把持の機能を有する点において共通する。\nしかし,上記の目的の相違に対応して,引用発明1の「昇降フレーム4」は,旋回 ベアリング6を取り付ける「取付座4a」を分断するように分割する構成を有し,\nその「取付座4a」のサイズは一定であり,種々の径の旋回ベアリング6を固定で きるよう拡大や縮小が可能なものではないのに対し,引用発明2’の割ライナー4及\nび割クランプ3は,種々の径のケーシングチユーブをクランプするために締付拡大 可能なものであり,回転駆動される割ライナー4,及び割ライナー4を回転可能\に 支承する側の割クランプ3の両者が,締付ジヤツキ5の動作によってその径を変更 することのできるものである。このような引用発明2’の割ライナー4及び割クラン プ3を,旋回ベアリング6の径の変更に対応するための構成を有しない引用発明1\nの「昇降フレーム4」上の「取付座4a」にそのまま取り付けることはできないか ら,引用発明1に引用発明2’を組み合わせるためには,分割可能な「昇降フレーム\n4」及び「取付座4a」という引用発明1の構成自体を変更する必要が生じる。\nそうすると,引用発明1に引用発明2’を組み合わせることについては,これを阻 害する要因があるというべきである。
イ 原告らの主張について
原告らは,(1)旋回ベアリングを分割することは周知の技術であり,また,土木機 械である立杭構築機について,その運搬時の作業性を勘案して各種構\成部材を分割 することも引用例2から容易に発想できるから,引用発明1に引用発明2’を適用す る動機付けがある,(2)引用発明1に引用発明2’を適用するに際しては,引用発明1 の「取付座4a」に所定の径の旋回ベアリング6が固定できるように,サイズの合 う部材を現場において選択すれば足り,阻害要因はないと主張する。 しかし,(1)については,前記アで述べたとおりの理由により適用の動機付けがな いし,(2)についても,引用発明1に引用発明2’を適用する場合には,「取付座4a」 のサイズに応じた部材のほかに,「旋回ベアリング6の外歯歯車6cに噛合する出力 歯車11」のサイズや配置の変更も必要となることからすれば,適用することに阻 害要因があると評価すべきである。原告らの主張は理由がない。

◆判決本文

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平成30(ワ)15781  商標権侵害行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和2年2月20日  東京地方裁判所

 登録商標「サクラホテル」と、「SAKURA HOTEL」などが類似すると判断されました。損害額について商39条2項が適用されましたが、9割覆滅されて約330万円が認定されました。

需要者について
原告は,外国人をターゲットとしてホテル事業を展開していることから, 本件商標と被告の標章の類否を判断するに当たり,需要者は都内近郊の宿泊 施設を利用しようとする外国人観光客であると主張する。しかし,前記1(5) で認定したとおり,平成29年の原告宿泊施設の宿泊客の国籍をみると,日 本が最も多かったものであり,その他本件全証拠に照らしても,原告宿泊施 設が外国人観光客のみを対象としているものとは認められず,本件の需要者 は,外国人観光客に限定されるものではなく,およそ宿泊施設を利用しよう とする者であるというべきである。
(2) 類否について
ア 被告使用標章
(ア) 別紙被告標章目録1記載(1),(7)及び(8)の標章 別紙被告標章目録1記載(1),(7)及び(8)の標章は,桜の花びらのマーク 及び「桜」の漢字,横書きの「SAKURA」,横書きの「HOTEL」 の各文字をこの順番に縦に並べた外観を有し,「サクラホテル」との称呼, 及び桜の花をそのイメージとする宿泊施設という観念が生ずる。 ・・・ イ 本件商標と被告使用標章の対比
本件商標は,カタカナの「サクラホテル」との外観を有し,「サクラホテル」との称呼,及び桜の花をそのイメージとする宿泊施設という観念が生 ずるところ,被告使用標章の各標章から生ずる称呼及び観念は上記アで説 示したとおりであるから,本件商標と被告使用標章の各標章は,称呼及び 観念が同一ないし極めて類似しているといえる。一方で,本件商標と被告 使用標章の各標章はいずれも外観において異なるものの,被告使用標章は 「サクラホテル」を漢字やローマ字などで表記したものの組合せであるか,\nそれらに加えて桜の花びらのマークなどを組み合わせたものにすぎないか ら,その取引の実情に照らし,日本人を始めとする需要者にとって,両者 の外観の差異は大きいものとはいえないというべきであり,両者が称呼及 び観念において同一ないし極めて類似していることに照らせば,本件商標 と被告使用標章は類似しているというべきである。 ・・・ ア 商標法38条2項の適用
原告は,商標法38条2項に基づき,本件商標権侵害により原告に生じ た損害を主張するところ,被告は,原告宿泊施設と被告宿泊施設は競合関 係にない,第三者の競業が存在する,被告の営業努力が著しい,ホームペ ージの記載から運営主体が異なることは明らかであるなどとして,原告に 損害が発生していないから,商標法38条2項の適用がないと主張する。 しかし,被告は,本件商標に類似する被告使用標章を,本件商標の指定 役務である宿泊施設の提供に使用しているところ,原告宿泊施設と被告宿 泊施設はいずれも東京23区内に存在しており,提供するサービスの価格 に差はあるものの,需要者が全く異なるとまではいえないから,被告によ る被告使用標章の使用により原告に損害が発生していないと認めることは できない。また,被告は,「第三者」の競業や被告の著しい営業努力,ホー ムページの記載なども主張するが,これらに関し,上記認定を左右するに 足りるような具体的事情を客観的に認めるに足りる証拠はない。 以上によれば,被告の上記主張は採用することはできず,商標法38条 2項の適用があるというべきである。
イ 被告の利益
(ア) 被告使用標章の使用により被告の得た利益は,被告が被告使用標章を 使用していた平成29年9月15日の営業開始から平成30年3月5日 までの被告宿泊施設の売上げから,いわゆる変動費を控除した限界利益 がこれに当たると解すべきである。そして,宿泊業という被告の業種に 鑑みれば,水道光熱費及び消耗品費が変動費に当たることが認められる ところ,本件全証拠を精査しても,その他控除すべき費用は認められな い。
(イ) 証拠(乙27)によれば,上記期間の被告宿泊施設の売上げ,水道光 熱費,消耗品費は次のとおりであると認められる(ただし,平成30年 3月分はいずれも5日間の日割り計算である。1000円未満切捨て。)。
i 売上げ
平成29年9月分 251万9000円
平成29年10月分 645万7000円
平成29年11月分 600万3000円
平成29年12月分 684万9000円
平成30年1月分 587万円
平成30年2月分 760万9000円
平成30年3月分 138万3000円
合計 3669万円
ii 水道光熱費
平成29年9月分 7万3000円
平成29年10月分 23万9000円
平成29年11月分 27万7000円
平成29年12月分 30万9000円
平成30年1月分 38万円
平成30年2月分 26万4000円
平成30年3月分 10万8000円
合計 165万円
iii消耗品費
平成29年8月分 138万9000円
平成29年9月分 236万1000円
平成29年10月分 10万6000円
平成29年11月分 37万4000円
平成29年12月分 2万2000円
平成30年1月分 1万円
平成30年2月分 4万9000円
平成30年3月分 5000円
合計 431万6000円
(ウ) 以上によれば,上記期間の被告の限界利益は3072万4000円で あると認められる。
ウ 推定覆滅
原告は,平成11年頃から「サクラホテル」との名称を用いて宿泊施設 を提供している旨主張する。しかし,本件商標である「サクラホテル」は, 普通名詞である2つの単語を単純に組み合わせたものであり,そのうちの 1つは提供する役務の内容である「ホテル」であること,証拠(乙17) によれば,日本において「桜」,「さくら」,「Sakura」又は「サクラ」 を名称に使用した宿泊施設は多数存在することが認められ,宿泊施設の名 称に桜という単語を使用すること自体,強い自他識別力を付与するものと は言い難い。これらによれば,本件商標の顧客吸引力は強いものであると はいえず,これに類似する被告使用標章が,被告の売上げに寄与した程度 は極めて限定的であるというほかない。そして,前記1(6)及び(7)で認定 したとおり,原告宿泊施設と被告宿泊施設において提供するサービスに相 応の価格差があることも併せ考慮すれば,被告の限界利益額の相当大きな 部分について,損害の推定が覆滅されるというほかなく,その覆滅割合は, 上記のほか,本件に顕れた諸般の事情に照らし,9割と認めるのが相当で ある。
エ 損害額
以上によれば,被告の本件商標権の侵害につき,商標法38条2項によ って推定される原告の損害は,被告の限界利益である3072万4000 円の1割に相当する307万2400円であると認められる。
(2) 対応費用
原告は,本事案に係る被告の不誠実な対応により,原告に法律家による対 応の費用等の損害が発生したと主張する。 しかし,本件全証拠に照らしても,本訴訟提起前の交渉経緯における被告 の対応が殊更に不誠実であったとは認められず,本訴訟における和解協議に 係る原告の主張も,客観的にみれば,原告の期待が裏切られたというにとど まるものといわざるを得ない。 もっとも,原告が請求する対応費用の趣旨に鑑みれば,この費用には本訴 訟に係る弁護士費用も含まれていると解されることから,弁護士費用相当額 については,原告の損害として認めるのが相当であるが,その他については, 本件商標権の侵害により,被告が賠償すべき原告の損害を認めることはでき ないというべきである。しかして,本訴訟に係る弁護士費用については,上 記(1)の損害額に照らし,30万円が相当であると認められる。

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令和1(ワ)19689  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年2月25日  東京地方裁判所

 著作権侵害について発信者情報開示請求が認められませんでした。

(1) 争点2−1(本件発信者情報1は法4条1項1号の「当該権利の侵害に係 る発信者情報」に該当するか)について
原告は,本件投稿動画が投稿されたことにより原告動画に係る原告の公衆 送信権又は送信可能化権が侵害されたと主張しているところ,本件発信者情\n報1は,本件投稿行為から約1年8か月が経過した,平成31年4月28日 午後0時00分34秒(協定世界時)に本件サイトにログインした者の情報 であり,このログイン時に本件投稿行為が行われたものではないから,法4 条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないことは明ら かである。 この点について,原告は,最終ログイン者が本件投稿動画の投稿者である 可能性が高いと主張するが,同人が,本件投稿動画が投稿された本件サイト\nに,ユーザ名とパスワードを用いてログインした者であるとしても,本件投 稿動画を投稿した者であると直ちに認定することはできず,本件投稿行為か ら同人のログインまで約1年8か月もの期間が経過していることも考慮すれ ば,同人と本件投稿動画を投稿した者が同一人物ではない可能性が相当程度\n残っており,その他,本件全証拠を精査しても,最終ログイン者が本件投稿 動画の投稿者であるとは認め難いというほかない。 また,原告は,仮に最終ログイン者が本件投稿動画を投稿した者ではない としても,投稿した者と密接に関連する者であり,省令が「発信者その他侵 害情報の送信に係る者」の情報も発信者情報に該当することを規定している ことからすれば,本件発信者情報1は開示の対象になると主張する。しかし, 本件において,最終ログイン者と本件投稿動画の投稿者がどのような関係に あるのかを的確に認めるに足る証拠はなく,また,法4条1項1号の「当該 権利の侵害に係る発信者情報」との文言,及び省令の「発信者その他侵害情 報の送信に係る者」という文言からは,その文言内容や規定振りに照らして, 本件投稿行為を行った者以外の者である最終ログイン者の情報が,原告が指 摘するような理由によって直ちに,開示の対象となる発信者情報に当たると いうことはできないというべきである。 以上によれば,原告の主張はいずれも採用することができず,本件発信者 情報1は,法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当し ない。
(2) 争点2−2(本件発信者情報2又は同3は法4条1項1号の「当該権利の 侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
前記第2の1の前提事実によれば,本件発信者情報2及び同3は,平成3 1年4月28日午後00時00分34秒(協定世界時・最終ログイン時)に 本件サイトにログインがされた際の割当てに係るIPアドレスを,約1年8 か月前である本件投稿行為が行われた日時頃に割り当てられていた者に関す る情報である。 そして,原告は,このような本件発信者情報2又は同3に関し,本件投稿 行為が行われた日時頃に上記IPアドレスを割り当てられていた者は,本件 投稿行為をした者である可能性が高いものであるから,同人の情報に係る本\n件発信者情報2又は同3は,法4条1項1号の発信者情報に該当する旨主張 する。 しかし,前記(1)で説示したとおり,本件投稿行為から最終ログイン時まで は約1年8か月の期間があることなどを考慮すれば,最終ログイン者が本件 投稿動画の投稿者であると認め難いというほかなく,ひいては,最終ログイ ン時から約1年8か月も前である本件投稿行為が行われた日時頃に,本件サ イトへの最終ログインの際の割当てに係るIPアドレスを割り当てられてい た者が,本件投稿行為を行った者であるとも認め難いというほかない。 以上によれば,原告の主張はいずれも採用することができず,本件発信者 情報2及び同3は,いずれも法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信 者情報」に該当しない。

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令和1(行ウ)278  特許料納付書却下処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月22日  東京地方裁判所

 特112条の2第1項の「正当な理由」とは認められませんでした。

 法112条の2第1項所定の「正当な理由」があるときとは,原特許権者(代 理人を含む。以下同じ。)として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず, 客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかったときをいう ものと解するのが相当であるところ(知財高裁平成30年(行コ)第10006 号令和元年6月17日判決参照),以下のとおり,本件においては,本件追納期 間内に原告らが第4年分の特許料等を納付することができなかったことについ て,同項の「正当な理由」があったとは認められない。
1 正当な理由の有無について
(1) 原告中井紙器について
ア 原告らは,本件追納期間の徒過は,A弁理士が,原告中井紙器から本件年 金管理に係る委任についても解任されたと誤認したという人為的なミスに 起因するものであることを前提とした上で,本件年金管理につきA弁理士と いう適切な代理人を選任した時点で原告中井紙器としては本件追納期間の 徒過を回避するために必要な注意義務を尽くしており,A弁理士から甲3の 書面を受け取っていた以上,原告中井紙器が本件誤認に気付くことは困難で あったなどと主張する。 イ しかし,特許料の納付をするかどうかの判断,その支払期限の管理,特許 料の支出の確認を含め,自らの特許権に関する管理を行うのは,特許料納付 の手続を代理人に依頼していたとしても,特許権者の基本的な業務であり, かつ,容易になし得ることである。原告中井紙器は,本件特許の原特許権者 であり,しかも,原告グラセルとの間で本件特許の有効性をめぐり係争中で あったのであるから,本件特許の第4年分の特許料の納付期限が平成28年 1月18日であり,本件追納期間の末日が平成28年7月19日であること を認識し,同各期限までに特許料等が支払われているかどうかを容易に確認 し得たというべきである。 しかるに,原告中井紙器は,支払期限の管理,確認など特許権者として行 うべき基本的な管理を行うことなく,上記各期限を徒過させたものであって, 特許権者としての相当な注意を尽くしていたということはできない。 ウ これに対し,原告らは,本件追納期間の徒過は,本件年金管理事務を受任 していたA弁理士が,本件無効審判に係る手続のみならず,本件年金管理事 務についても委任を解除されたと誤認したという人為的なミスに起因する ものであると主張する。
しかし,前記第2の2(7)記載のとおり,原告中井紙器は,平成27年6月 1日付けの書面をもって,A弁理士に対し,当時係属中であった本件無効審 判に係る手続の委任を解除した旨の告知をしたところ,本件年金管理事務が 特許出願等の手続代理に付随する事務としての性質を有し,出願,無効審判 など各種の手続代理と年金管理事務とを異なる代理人に依頼するとは通常 考え難いことに照らすと,同原告により解除された委任事務は,本件無効審 判に係る手続のみにとどまらず,本件特許に係る全ての事務を包括するもの であったと解するのが自然である。仮に,原告らの主張するように,A弁理 士に対して委任していた事務の一部のみを解除するのであれば,その旨の説 明があってしかるべきであるが,原告中井紙器からA弁理士に対してそのよ うな説明がされたことをうかがわせる証拠は存在しない。 そうすると,本件特許の管理業務も解除された委任事務に含まれるとのA 弁理士の認識が誤信であるということはできず,本件追納期間の徒過がA弁 理士の人為的ミスに基づくものであったということもできない。 エ 仮に,原告中井紙器が本件特許の年金管理業務はA弁理士に引き続き委任 していたものと誤信し,あるいは,原告中井紙器により解除された委任事務 の中に本件特許に係る年金管理事務が含まれていなかったとしても,前記判 示のとおり,自らの特許権に関する管理を行うのは特許権者の基本的な業務 であり,しかも,A弁理士に対しては,特許無効審判に係る手続の代理の委 任を解除しているのであるから,同原告としては,同弁理士からの納付期限 の連絡を漫然と待つのではなく,自ら調査・確認し,又は同弁理士に自ら連 絡をするなどして,特許料等の納付期限の管理を行うべきことは当然であり, それが困難であったとも考えられない。 したがって,原告中井紙器がA弁理士に本件年金管理事務を委任したこと をもって必要な注意を尽くしたなどということはできないのであり,同原告 が特許権者として相当の措置を講じたということはできない。
オ さらに,前記第2の2(11)記載のとおり,原告らは,本件追納期間内であ る同年3月9日に,原告中井紙器が本件特許権の持分1%を原告グラセルに 譲渡する一方で,原告グラセルが無効審判請求を取り下げることなどを内容 とする本件和解契約を締結したと認められるが,原告中井紙器としては,本 件特許権の一部を原告グラセルに譲渡するに当たり,同特許権の特許料が期 限までに支払済みであることを確認し,その支払が未了である場合には本件 追納期間内に第4年分の特許料等を納付すべき取引上の注意義務を負って いたというべきである。 しかるに,原告中井紙器は,同契約に当たり,本件特許の第4年分の支払 の有無を調査すれば,その支払が未了であることを容易に確認し得たにもか かわらず,自ら又はA弁理士に確認するなどして,必要な調査・確認を行わ ないまま,漫然と,本件追納期間の末日を経過したのであるから,特許権者 として,相当な注意を尽くしたということはできない。
(2) 原告グラセルについて
ア 原告らは,本件和解契約において本件年金管理の義務が原告中井紙器にあ って原告グラセルにはないことを合意するなどして本件年金管理の義務が 原告グラセルにないことを明確にしているから,原告グラセルは,本件追納 期間の徒過を回避するために必要な注意義務を尽くしたと主張する。 しかし,本件特許権の持分1%を取得する原告グラセルとしては,本件和 解契約を締結するに当たり,自らの取得する本件特許権が有効に存続するも のであることを確認するのが通常であると考えられる。原告グラセルは,無 効審判手続の当事者であったのであるから,本件特許に係る第4年分の特許 料の納付期限が平成28年1月18日であることは認識していたものと考 えられ,本件和解契約に当たり,同特許料が支払済みであるかどうかを原告 中井紙器に確認し,これが未払である場合には,本件追納期間中に特許料等 の納付を求めることは容易であったというべきである。 しかるに,原告グラセルが原告中井紙器に第4年分の特許料の支払に関し て照会し,あるいは,その点について自ら調査したことをうかがわせる証拠 は存在しない。
イ そうすると,原告グラセルは,自ら特許料の納付の時期について適切に管 理すべき立場にありながら,原告中井紙器が本件年金管理を行うものと軽信 し,本件追納期間中にも自らの不注意によって本件追納期間内に特許料等の 納付をすべきことを認識しないまま,漫然と,本件追納期間の末日を経過し たのであるから,同原告が相当な注意を尽くしたにもかかわらず,客観的に みて追納期間内に特許料等を納付することができなかったということはで きない。 なお,原告らは,本件和解における本件特許権の持分の譲渡は実質的には 実施許諾契約の性質を有するものであったと主張するが,仮にそのとおりで あったとしても,上記結論を左右するものではない。
(3) 特殊な事情の有無について
原告らは,本件追納期間の徒過は,(1)A弁理士が本件年金管理に係る事務の 委任についても解任されたと誤認したことと,(2)A弁理士が自己の認識と異な る内容の書面を送付したことという2つの特殊な事情が重なって生じたもの であるので,正当な理由があると認められるべきであると主張する。 しかし,本件年金管理事務も解除された委任事務に含まれると解すべきであ り,この点について,A弁理士に誤認があったとは認められないことは前記判 示のとおりである。また,甲3の書面の内容は前記2(7)に記載のとおりである ところ,同書面に記載された内容とA弁理士の内心の認識に齟齬があると認め ることはできない。 また,仮に,原告の主張する上記事情が認められるとしても,本件追納期間 の徒過は,原告らが特許権者としての通常の注意を払っていれば容易に避ける ことができたものであり,これらの事情をもって通常起こりえない特殊な事情 であるということはできない。

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令和1(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月17日  知的財産高等裁判所

 審決は、補正が新規事項であるとして、補正却下をしました。裁判所は、かかる処分については否定したものの、補正却下後の発明が独立特許要件を満たしていないので、結論は妥当として審決が維持されました。また、補正も新規事項と判断されています。判決分がコピペできないので、OCR変換しましたので、誤記があります。

 本件審決は,本件明細書の【0022】, 【0024】〜【0027】が新たな技術 的事項を導入するものであることを理由に,本件補正は,本件当初明細書に記載さi れた事項の範囲内においてするものとはいえないと判断した。 しかし,本件補正は,特許請求の範囲についてのみするものであり(乙18),本 件明細書の【0022】, 【0024】〜【0027】 に係る補正は,本件第1 補正に おいてなされたものであって,本件補正においてされたものではない。本件補正が 新規事項を追加するものであるか否かは,本件当初明細書の配載に基づいてなされ るべきものであり,本件審決が,新たな技術的事項を導入するものであることを理 由に本件補正を却下したことには,誤りがあるというべきである。 もっとも,本件補正発明1が,特許出願の際独立して特許を受けることができる ものでない場合には,本件補正は部められないので,以下,独立特許要件について 検討する。
・・・
引用例1には,先端部32は,支持構造体42内に埋め込まれ,支持構造体42 は,超伝導単層金属タイプカーボンナノチュープ、44に対する排熱装置及び超高真 空密閉体としても働き,超伝導単層金属タイプカーボンナノチューブ44は,電場 放出引出し電極として及び微小超高真空室としても機能することの開示があり(【0054】図2).放出先端部は,微小超高真空室にまって固まれていることが示唆 されている。 かかる記載によれば,引用発明1において,放出先端部の近傍に熱を加えられる 部位を具備しないようにすることは,当業者が容易に想到できることである。 よって,相違点2は,引用発明1から容易に想到することができるものである。
エ原告の主張について
原告は,引用発明1は,先端のだんだん半径の小さくなる先端の大きさとS/N 比値とを問題としており,略閉じサイズである移動部が続く構成である本件補正発\n明1とは異なる旨主張する。 しかし,本件補正後の請求項1は,略同じサイズで粒子移動部が続く旨を特定し ていないため,粒子移動部が略同じサイズで続かない構成を含むものである。\nまた,本件補正発明1の粒子移動部に相当する引用発明1の放出先端部32は, rO. 3ナノメートルから10ナノメートルまでの範囲の,比較的小さい直径を有 する」とともにチューブ形状である(乙21 【0053】)から,放出先端部は,そ のいかなる断面もナノサイズであると解される。 よって,原告の主張は理由がない。
(3) 小括
以上によれば,本件補正発明1は,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明を することができたものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができ たものではない。 よって,本件審決が本件補正を却下したことは,結論において相当である。
・・・
以上によれば,本件第1補正は,本件当初明細書に「ナノオーダの構造物」と\nしか記載のなかった本願発明の素子について,極めて高純度で無欠陥の超周期を含 む結晶性の良い金属材質の三次元系のワイヤ形状であることを特定した上,ナノワ イヤ形状の断面上での金属電子の量子状態を決定するに当たっては,一定の前提を 置いた運動方程式,角運動量保存則, B0nrの量子論を用いること等の説明を加 えている。 その上で,電気伝導を持つ使用ナノワイヤ内の熱による誤差が少ない伝導電子が 擬一次元的パリステック(弾道的)運動するためには,式(20) を満たし,ナノワ イヤの直径がおよそ30nni以下の太さとなることが条件であり,また,ナノオー ダの構造物を絶縁体で被覆すれば,その断面空間内にある粒子流の許されるエネル\nギー状態は量子力学で決まる最低エネルギー準位近くでは断面中心部での存在確率 が大きく断面の周囲での構成原子・分子による乱れの影響が少ないとして,ナノオ\nーダの構造物の断面積の大きさを特定したり,絶縁体で被覆するなどの技術的事項\nを追加している。 そうすると,本件第1補正に係る事項は,本件当初明細書には記載がなく,本件 当初明細書の記載から自明でもないことは明らかである。 よってa 本件第1補正は,本件当初明細書等のすべての記載を総合することによ り導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであっ て,新規事項に該当するというべきである。
(5) 原告の主張について
原告は,本件第1補正について,既知である科学的なことを書き加えたものであ る,新しいことを追加したが,それは説明を加えたものである,ナノワイヤと書い てなかったが,より広い意味のナノオーダの構造物について記載しており,ただ例\n示しただけである,例えば,材質については,電流を流すときに金属材料であると いうことを記載したにすぎないなどと主張する。 しかし,公知のものや本願発明についての説明であっても,出願時の明細書に記 載されているに等しいといえるものでなければ新規事項であるところ,ナノオーダ の構造物の具体的な物質,形状,寸法等がそのようなものとはいえないことは,前\n記のとおりである。よって,原告の主張は理由がない。 (6) 小括
以上によれば,本件第1補正は,本件当初明細書に記載された事項の範囲内にお いてするものとはいえない。  

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令和1(行ケ)10072  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月17日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明「ホストクラブ来店勧誘方法及びホストクラブ来店勧誘装置」について、進歩性無しとした拒絶審決が取り消されました。

 引用発明の販売促進の対象を「ホストクラブ」のサービスとし,ホストクラブへ の「来店」の「勧誘」の目的で使用した場合,「仮想現実動画」は,潜在顧客を対象 とした,ホストクラブで提供するサービスを疑似体験する動画となり得ると解され る。しかしながら,引用例1には,「仮想現実動画」について,「メンタルケア」を行うものとすることや,「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応 じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」仮想現実動画ファイルとすることに ついて,記載も示唆もない。また,かかる事項が周知であったと認めるに足りる証拠もない。そうすると,引用発明に基づき,相違点2’に係る「潜在顧客の心理状態に応じて 選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホス トクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。\nよって,相違点2’に係る本件補正発明の構成は,当業者が容易に想到し得たもの\nではない。
ウ 相違点4’の容易想到性について
前記イのとおり,相違点2’に係る「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧 客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現 実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない以上,\n「異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選\n択される複数のコマンドボタン」を「各ホストクラブ仮想現実動画ファイル」に「対 応」させることを,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 よって,相違点4’に係る本件補正発明の構成は,当業者が容易に想到し得たも\nのではない。
エ 被告の主張について
被告は,(1)引用発明におけるサービスの販促活動の内容は,広告代理店と広告主 であるサービス提供者との間の取決めに即したものとならざるを得ず,「仮想現実動 画」を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」となる内容として「心理状態に応じ て選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ものとするこ とは,引用発明の販促活動を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」とすることに 伴って生ずることにすぎず,また,(2)コマンドボタンに動画の内容を表記すること\nは周知技術であるところ,かかる動画の内容としてサービスの「メンタルケア的な 側面」を捉えた表示を行うことも,周知技術の採用に当たって,広告代理店とサー\nビスの提供者との間の取決めに即して,適宜決定すべきことである旨主張する。 しかし,引用例1には,テーマパークへの来場を勧誘したいサービスの提供者が, テーマパークの魅力を潜在顧客に伝える目的で,来場すると体験できるアトラクシ ョンを疑似体験するための仮想現実動画を提供することの記載はあるものの,その 際に,当該サービスのメンタルケア的な側面に応じた複数の異なる仮想現実動画を サーバーに記憶させておき,潜在顧客が疑似体験したいサービスを自由に選択でき るようにすることや,当該サービスのメンタルケア的な側面を仮想現実動画のタイ トル等として表記した複数のボタンを設けることの記載はなく,かかる示唆もない。\nそして,引用発明を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」に適用した場合に, 販促支援の内容は,販促支援をする広告代理店とこれを受ける広告主との間の取決 めに即したものとなるとしても,「仮想現実動画」を,「心理状態に応じて選択され 潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」ものにする ことが必然とはいえない。 また,コマンドボタンに動画の内容を表記することが周知技術であるとしても,\n取決めの下でなされる販促活動がかかる周知技術を踏まえたものになることが,必 然とはいえない上,仮にかかる周知技術を適用したとしても,前記ウのとおり,「潜 在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケ アを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易\nに想到することができたとはいえない以上,「異なる心理状態の表記が各々されてい\nるとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタン」を「各 ホストクラブ仮想現実動画ファイル」に「対応」させるとの構成を,当業者が容易に\n想到することができたとはいえない。

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令和1(行ケ)10095  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月12日  知的財産高等裁判所

 「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」とのクレームの記載が不明確であるとした拒絶審決が維持されました。

ア 原告は,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の定義 は,沈降法により測定されるストークス径について,質量を基準に粒子径を表した\n質量分布におけるメジアン粒径ということで,一義的に明確であり,ストークス径 はストークスの式により明確に定義されるものである旨主張する。 そこで検討するに,甲18(神保元二ら編「微粒子ハンドブック」初版第1刷,1 991年9月1日)には,ストークス径は,最も広く用いられる代表径であり,静止\n流体中を重力で落下する粒子の沈降速度v1と同じ沈降速度をもち,また同じ密度を もつ球形粒子の直径であり,流体中で運動する粒子の諸現象を考える場合に有用な 代表径であることの記載があり,本件出願当時,粒子の大きさを測定する方法とし\nて,ストークス径を得る沈降法があることは,周知であったことが認められる。 また,ウェブページ「粒度分布測定の基礎知識」(甲19)には,「主な粒度分布測 定原理」の表の「遠心沈降法」の欄に,「測定粒子径の定義」を「ストークス径」,「基本粒度分布」を「重量基準」との記載があり,「遠心沈降法 液相中の粒子群の沈降 状態を吸光度などから計測して,球と仮定して導かれたストークスの式などと照合 し,有効径(ストークス径)を求める。」との記載がある。ウェブページ「粒径分布 測定[重力/遠心沈降式]」(甲22)には,「[測定原理/測定法]微粒子を水または不溶溶媒中に懸濁させ,重力場にそのまま静置するか遠心場に粒子懸濁液を置くと, 大きな粒子ほど速い速度で沈降していきます。その様子を粒子懸濁液に照射したレ ーザー光の透過光強度によって検出します。粒子サイズは重力沈降の場合,次のS tokesの式から得られます。」との記載があり,
・・・
とのストークスの式が記載されている。これらによれば,沈降法は,重量(質量)基 準に基づく粒度分布が得られるものであること,液相中の粒子の沈降速度から粒径 を求めるものであり,分離して沈降可能な粒子を測定対象としていることが認めら\nれる。 しかし,前記(2)イのとおり,本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる 表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子が,コバルトで ある結合剤と焼結により一体化していることが開示されている一方,炭化タングス テン粒子が工具表面から分離可能\であることの記載や示唆はない。また,ストーク スの式によりストークス径を算出するためには,ストークスの式に沈降距離h,沈 降時間t等のパラメータを代入することが必要であるところ,本件明細書を見ても, ストークスの式のパラメータの値としてどのような値を採用するかについての記載 はない。
そうすると,粒子の大きさを測定する方法としてストークス径を得る沈降法があ ることが周知であり,沈降法により重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られる としても,「粉砕工具」の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子が,\nコバルトである結合剤と焼結により一体化している以上,沈降法により炭化タング ステン粒子のストークス径を測定することは不可能であるから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量されたメジアン粒径」が,沈降法に基づいて得 られるストークス径のメジアン粒径であると解することはできない。 イ 原告は,焼結によって炭化タングステン粒子の粒径が変化するか否か,変化 するとしてどの程度変化するかは,焼結条件との兼ね合いで理論的にも実験的にも 十分に予\測が可能であり,その変化分を加味した上で炭化タングステン粒子の粒径\nを調整し,必要に応じて焼結条件を調整すればよく,また,焼結の前後それぞれの 炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認するこ とで,ストークス径の粒度分布の変化を予測することは可能\であるから,工具表面\nに存在する炭化タングステン粒子自体を測定するまでもない,また,本件発明にお けるメジアン粒径は,「1.3μm以上」ないし「0.5μm以下」という広い範囲 を規定するものであるから,焼結の有無はそれらの数値範囲の充足性にほとんど影 響を及ぼさないと考えられる旨主張する。 しかし,本件明細書には,焼結条件との兼ね合いで焼結による粒径の変化を予測\nして炭化タングステン粒子の粒径を調整することや,焼結の前後それぞれの炭化タ ングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認してストーク ス径の粒度分布の変化を予測することの記載や示唆はないから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,かかる予測や調整等を\n行うことを前提として沈降法により測定されるストークス径のメジアン粒径である とは解されない。また,本件発明におけるメジアン粒径が,広い範囲を規定するも のであるとしても,焼結の有無が数値範囲の充足性に影響を及ぼさないと解すべき 根拠はないから,上記の判断を左右するものではない。
ウ 原告は,焼結後の炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定する必要がある としても,コバルトの融点は1495℃,炭化タングステンの融点は2870℃で あるから,バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し,炭化タングステン 粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である旨主張する。\nしかし,本件明細書には,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン 粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取 り出して沈降法で測定することについては,記載も示唆もないから,本件発明の「炭 化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,コバルトを除去して 取り出した炭化タングステン粒子を沈降法により測定したストークス径であるメジ アン粒径であるとは解されない。 仮に,上記測定方法により炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定する ことができたとしても,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子 とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出 すという過程において,炭化タングステン粒子の密度や形状が一切変化しないとい う根拠はないから,そのように取り出して測定した炭化タングステン粒子のストー クス径が,そのまま,コバルトマトリックスと一体化した工具表面の炭化タングス\nテン粒子のストークス径であるということもできない。

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令和1(行ケ)10095 特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月12日  知的財産高等裁判所

 特許異議申し立てで「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」という表\記について、明確性違反として取り消し決定されました。特許権者はこれを不服として取り消しを求めましたが、裁判所も明確性違反と判断しました。

 特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする 発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮 に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許が付与された発 明の技術的範囲が不明確となり,第三者の利益が不当に害されることがあり得るの で,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとす る発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付し た明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基 礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確 であるか否かという観点から判断されるべきである。
・・・・
請求項1には,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」との 記載があるところ,請求項1の記載自体から,この炭化タングステン粒子は,「少な くとも二個の粉砕工具」の「工具表面」に「含有」されるものであることを理解する\nことができ,また,上記炭化タングステン粒子は,第1の粉砕工具の表面には95\n重量%以下含有され,その粒径が1.3μm以上であること,第2の粉砕工具の表\n面には80重量%以上含有され,その粒径が0.5μm以下であること,粒径はメ ジアン粒径であること,炭化タングステン粒子のメジアン粒径が1.3μm以上あ るいは0.5μm以下であることは,炭化タングステン粒子を「質量により秤量」し て測定するものであることが理解できる。 しかしながら,請求項1の記載からは,粉砕工具の「工具表面」に「含有」される\n炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義が明らかであ るとはいえない。 また,本件特許の出願当時において,炭化タングステンを含んでなる表面を有す\nる粉砕工具の工具表面に含有される炭化タングステン粒子につき,質量により秤量\nしたメジアン粒径を得ることができたとする当業者の技術常識を認めるに足りる証 拠はない。
イ 本件明細書の記載
本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の\n「工具表面」のタングステン含有量が95%以下であり,工具表\面の材料における 100%に対する残りは,好ましくはコバルト結合剤であり,好ましくは1%未満 の程度に追加の炭化物が存在する(【0026】〜【0028】),焼結の結果は,炭 素の添加によっても影響を受ける(【0029】)との記載があり,「炭化タングステ ンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子 が,コバルトである結合剤と焼結により一体化していることが開示されている。そ して,本件明細書には,コバルト結合剤と焼結により一体化した「粉砕工具」の「工 具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン\n粒径について,定義や測定方法の記載はない。
ウ 以上によれば,本件明細書の記載を考慮し,出願当時の技術常識を基礎とし ても,本件発明の「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工\n具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン\n粒径の意義を理解することはできず,本件発明の技術的範囲は不明確といわざるを 得ないから,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件を充足しないと いうべきである。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の定義 は,沈降法により測定されるストークス径について,質量を基準に粒子径を表した\n質量分布におけるメジアン粒径ということで,一義的に明確であり,ストークス径 はストークスの式により明確に定義されるものである旨主張する。 そこで検討するに,甲18(神保元二ら編「微粒子ハンドブック」初版第1刷,1 991年9月1日)には,ストークス径は,最も広く用いられる代表径であり,静止\n流体中を重力で落下する粒子の沈降速度v1と同じ沈降速度をもち,また同じ密度を もつ球形粒子の直径であり,流体中で運動する粒子の諸現象を考える場合に有用な 代表径であることの記載があり,本件出願当時,粒子の大きさを測定する方法とし\nて,ストークス径を得る沈降法があることは,周知であったことが認められる。 また,ウェブページ「粒度分布測定の基礎知識」(甲19)には,「主な粒度分布測 定原理」の表の「遠心沈降法」の欄に,「測定粒子径の定義」を「ストークス径」,「基本粒度分布」を「重量基準」との記載があり,「遠心沈降法 液相中の粒子群の沈降 状態を吸光度などから計測して,球と仮定して導かれたストークスの式などと照合 し,有効径(ストークス径)を求める。」との記載がある。ウェブページ「粒径分布 測定[重力/遠心沈降式]」(甲22)には,「[測定原理/測定法]微粒子を水または
・・・
不溶溶媒中に懸濁させ,重力場にそのまま静置するか遠心場に粒子懸濁液を置くと, 大きな粒子ほど速い速度で沈降していきます。その様子を粒子懸濁液に照射したレ ーザー光の透過光強度によって検出します。粒子サイズは重力沈降の場合,次のS tokesの式から得られます。」との記載があり, とのストークスの式が記載されている。これらによれば,沈降法は,重量(質量)基 準に基づく粒度分布が得られるものであること,液相中の粒子の沈降速度から粒径 を求めるものであり,分離して沈降可能な粒子を測定対象としていることが認めら\nれる。
しかし,前記(2)イのとおり,本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる 表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子が,コバルトで ある結合剤と焼結により一体化していることが開示されている一方,炭化タングス テン粒子が工具表面から分離可能\であることの記載や示唆はない。また,ストーク スの式によりストークス径を算出するためには,ストークスの式に沈降距離h,沈 降時間t等のパラメータを代入することが必要であるところ,本件明細書を見ても, ストークスの式のパラメータの値としてどのような値を採用するかについての記載 はない。 そうすると,粒子の大きさを測定する方法としてストークス径を得る沈降法があ ることが周知であり,沈降法により重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られる としても,「粉砕工具」の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子が,\nコバルトである結合剤と焼結により一体化している以上,沈降法により炭化タング ステン粒子のストークス径を測定することは不可能であるから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量されたメジアン粒径」が,沈降法に基づいて得 られるストークス径のメジアン粒径であると解することはできない。
イ 原告は,焼結によって炭化タングステン粒子の粒径が変化するか否か,変化 するとしてどの程度変化するかは,焼結条件との兼ね合いで理論的にも実験的にも 十分に予\測が可能であり,その変化分を加味した上で炭化タングステン粒子の粒径\nを調整し,必要に応じて焼結条件を調整すればよく,また,焼結の前後それぞれの 炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認するこ とで,ストークス径の粒度分布の変化を予測することは可能\であるから,工具表面\nに存在する炭化タングステン粒子自体を測定するまでもない,また,本件発明にお けるメジアン粒径は,「1.3μm以上」ないし「0.5μm以下」という広い範囲 を規定するものであるから,焼結の有無はそれらの数値範囲の充足性にほとんど影 響を及ぼさないと考えられる旨主張する。 しかし,本件明細書には,焼結条件との兼ね合いで焼結による粒径の変化を予測\nして炭化タングステン粒子の粒径を調整することや,焼結の前後それぞれの炭化タ ングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認してストーク ス径の粒度分布の変化を予測することの記載や示唆はないから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,かかる予測や調整等を\n行うことを前提として沈降法により測定されるストークス径のメジアン粒径である とは解されない。また,本件発明におけるメジアン粒径が,広い範囲を規定するも のであるとしても,焼結の有無が数値範囲の充足性に影響を及ぼさないと解すべき 根拠はないから,上記の判断を左右するものではない。
ウ 原告は,焼結後の炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定する必要がある としても,コバルトの融点は1495℃,炭化タングステンの融点は2870℃で あるから,バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し,炭化タングステン 粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である旨主張する。\nしかし,本件明細書には,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン 粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取 り出して沈降法で測定することについては,記載も示唆もないから,本件発明の「炭 化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,コバルトを除去して 取り出した炭化タングステン粒子を沈降法により測定したストークス径であるメジ アン粒径であるとは解されない。 仮に,上記測定方法により炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定する ことができたとしても,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子 とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出 すという過程において,炭化タングステン粒子の密度や形状が一切変化しないとい う根拠はないから,そのように取り出して測定した炭化タングステン粒子のストー クス径が,そのまま,コバルトマトリックスと一体化した工具表面の炭化タングス\nテン粒子のストークス径であるということもできない。

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平成29(ワ)27238  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年2月28日  東京地方裁判所

 特許を侵害するとして約1800万円の損害賠償が認められました。判決文が200頁を越えてます。論点は技術的範囲の属否、無効の抗弁と多岐に渡ります。平成27年11月以降で1つあたりのライセンス料が1.5倍となっているのは、特許3についても侵害となったためです。

 本件では,本件LED又はその製造方法が特許発明の技術的範囲に属するということだけでなく,白色LEDはそれのみで販売の対象となるものであり,原告は白色LEDの製造,販売を行っていることなどから,特許法102条3項の金額の算定に当たって,まず,上記の平均的な価格の24個分の価格に,主として本件特許権1の侵害が問題 となる平成27年10月までの期間については5パーセントを乗じ,本件特許 権1に加えて本件特許権3(登録日平成27年10月23日)の侵害も問題と なる平成27年11月以降の期間(なお,本件発明2と本件訂正後発明3の内 容に照らし,損害の算定に当たり本件特許権2(登録日平成28年12月16 日)の侵害については特に期間を分けて考慮することをしない。)については 8パーセントを乗じると,それぞれ,10.80円及び17.28円となる(2 16円×5パーセント=10.80円 216円×8パーセント=17.28 円)。
そして,本件で特許権の侵害となるのは本件LEDを使用した被告製品の販 売であること,本件LEDはデジタルハイビジョンテレビである被告製品にと り不可欠のものであり,その機能,性能\において重要な役割を果たしていると いえること,原告の白色LEDの市場におけるシェア,原告が主張するライセ ンスについての方針,その他本件に現れた諸事情を考慮し,本件において,被 告製品1及び2を通じ,特許法102条3項の実施に対し受けるべき金銭の額 は,被告製品1台当たり,消費税相当額を含めて,平成27年10月までの期 間については,20円をもって相当であると認め,平成27年11月以降の期 間については,30円をもって相当であると認める。
以上のとおり,本件において,原告が実施に対し受けるべき実施料として被 告製品1台当たり,20円又は30円とするのが相当であるところ,これらは, それぞれ,被告製品の平均的な販売価格の0.058パーセント又は0.08 7パーセントである(20円÷3万4129円≒0.00058 30円÷3 万4129円≒0.00087)。これらに基づき,特許法102条3項に基づ く損害額は,以下のとおり,1645万6641円とするのが相当と認める。

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平成30(行ケ)10163  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月21日  知的財産高等裁判所

 動機付け無しとして、進歩性違反無しとした審決が維持されました。

 引用発明1は,薄肉の鋼管を梁鉄骨のウェブに設けた貫通孔に挿入して溶接によ り固着し,貫通孔の周辺のウェブ両面に補強プレートを溶接により固着する従来技 術において,溶接量と部品点数を少なくし,加工や品質管理をしやすくすることを 目的として,貫通孔を貫通する厚肉鋼管2の外周部の中央部をウェブ1aに溶接固 着する際に,その片面からリング状の裏当て体3aを一体形成して当接する構成を\n採用したものである。したがって,引用発明1の裏当て体3a(フランジ部)が厚肉 鋼管2と一体に形成される部位は,溶接部位である厚肉鋼管2のほぼ中央部であり, 引用例1には,これを端部に設けることについて記載も示唆もない。そうすると, 引用発明1には,裏当て体3aを外周部の軸方向の片面側の端部に設ける構成を採\n用する動機付けがないというべきである。 また,甲2,3,6〜10,23〜25の記載及び後記甲5(引用例2)の記載に よれば,フランジと呼ばれる部分が種々の分野で用いられていること自体は周知技 術であるとしても,相違点2に係る構成は,甲2,3,5〜10,23〜25のいず\nれにも開示も示唆もない。甲2,3は,梁補強金具の外周にフランジを設ける構成\nであるが,フランジを端部に設けることの記載はなく,甲5には,スリーブ管にフ ランジを設けることの記載はない。甲6,7には,フランジを端部に形成すること が記載されているが,甲6に記載されたフランジはボルト締め用の管フランジであ り,甲7に記載されたものは一般的なH形鋼のフランジであって,梁貫通孔構造用\nの厚肉鋼管である引用発明1とは技術分野が異なる。甲23〜25は,いずれも, 梁に配管を通すための構造において,それぞれ対となる2つの部材を用いた梁の補\n強やスリーブ材の固定に関する技術を開示したものであって,一体的な構成を有す\nる1つの金具を用いて梁の補強等を行う引用発明1とは,技術分野が異なる。した がって,これらの文献の記載によって,引用発明1の技術分野において,フランジ 部を端部に形成することが周知技術であったとは認められない。 以上によれば,引用発明1について,相違点2に係る構成を容易に想到すること\nはできない。
ウ 原告の主張について
原告は,引用例1は,貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3aが,厚肉鋼管2 の外周部の軸方向の中央より軸方向の片側にて厚肉鋼管2と一体に形成されること を開示しているのであるから,引用発明1において,裏当て体3aの形成箇所を, 厚肉鋼管2の外周部の軸方向の中央より軸方向の片側に位置する領域のうち片側の 端部とすることも設計事項として選択し得るものであるところ,フランジ部を相違 点2の構成とすることで,引用発明1と比較して優れた作用効果をもたらすもので\nはないから,甲6,7のように端部に形成された「フランジ」を引用発明1の裏当て 体3a(フランジ部)に適用できない理由はないなどと主張する。 しかし,引用発明1において,裏当て体3aを設ける位置は,厚肉鋼管2の外周 部のほぼ中央部であるから,軸方向の片側に形成されることが開示されているから といって,片側の端部に設けることの動機付けがあるとはいえないこと,また,甲 6,7は,引用発明1とは技術分野を異にし,これらの文献の記載によって,引用発 明1の技術分野において,フランジを端部に形成することが周知技術であったとは 認められないことは,前記イのとおりであるから,引用発明1に甲6,7のように 端部に形成された「フランジ」を適用し,裏当て体3aの位置を,梁補強金具の軸方 向の片側の端部とすることが設計事項として選択し得るものとはいえない。
・・・
(2) 相違点3の容易想到性
ア 容易想到性の判断
引用発明2は,スリーブ管の幅・肉厚を変えた試験体を用いて,そのせん断及び せん断+曲げ耐力を実験的に調査した結果等を開示するものであり,そもそも梁補 強金具の外周にフランジ部がないことを前提とした技術であって,そのスリーブ管 にフランジ部を設けることの記載も示唆もない。したがって,引用発明2において は,甲1〜3に記載された,梁補強金具の外周にフランジ部を設ける構成を適用し\nて,フランジ部を設ける動機付けはない。 また,仮に,引用発明2に甲1〜3に記載された事項を適用してフランジ部を設 けたとしても,甲1〜3に記載されたフランジ部は,いずれも,梁補強金具の中央 部に設けられたものであり,フランジを設けた方面側が面一に形成されるものでは ないから,相違点3に係る構成には至らない。\nさらに,甲1〜3,6〜10,23〜25の記載によれば,フランジと呼ばれる部 分が種々の分野で用いられていること自体は周知技術であるとしても,相違点3に 係る構成は,いずれの文献にも開示も示唆もない。前記のとおり,甲1〜3には,フ\nランジを設けた片面側を面一にすることの記載はなく,甲6,7には,フランジを 設けた片側面が面一になることが記載されているとしても,甲6に記載されたフラ ンジはボルト締め用の管フランジであり,甲7に記載されたものは一般的なH形鋼 のフランジであって,梁補強用のスリーブ管についての引用発明2とは技術分野が 異なる。また,甲23〜25は,いずれも梁に配管を通すための構造において,それ\nぞれ対となる2つの部材を用いて梁の補強やスリーブ材の固定に関する技術を開示 したものであって,梁補強金具の外側にフランジを設けない引用発明2とは,技術 分野が異なる。したがって,これらの文献の記載によって,引用発明2の技術分野 において,フランジ部を外周部の軸方向の片面側の端部に形成し,当該面を梁補強 金具の内周から外周部の一部であるフランジ部の外周まで平面である構成とするこ\nとが周知技術であったとは認められない。 よって,引用発明2について,甲1〜3のフランジ部を適用し,周知技術(甲1〜 3,6〜10,23〜25)を適用して,相違点3に係る構成を容易に想到すること\nはできない。
イ 原告の主張について
原告は,引用発明2と甲1〜3に記載された発明とは,梁のウェブの貫通孔に挿 入され,かつ,かかる梁を補強するための梁補強金具であるという点で共通してい るので,適用の動機付けがないとはいえないと主張する。しかし,前記のとおり,引 用発明2にフランジ部を設ける理由がない以上,適用の動機付けがないことは明ら かであり,原告の主張は採用できない。

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令和1(行ケ)10083  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月18日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決について、知財高裁1部は動機付けなしとしてこれを維持しました。

 ア アルギン酸ナトリウムに置換する動機付けについて
(ア) 原告は,気泡状の二酸化炭素を効率的に発生・保持するとの本件発明1の課 題は,周知の課題であったところ,アルギン酸ナトリウムが起泡剤としても利用す ることができるもので,発生した気泡状の二酸化炭素を閉じ込める効果を有するこ とは周知であり,粘性を高めることにより気泡の安定性が増すこと,界面活性剤が 気泡の発生・保持に効果的に作用することも技術常識であったから,増粘剤として アルギン酸ナトリウムを選択することは容易である旨主張する。 しかし,気泡状の二酸化炭素の持続性が周知の課題であることの根拠として原告 が挙げる文献のうち,特開平9−206001(甲5)には,「このゲル状食品は, 製造時に,膠質水溶液と炭酸ガスとを混合した後に加熱する。この加熱によって炭 酸ガスは激しく発泡すると同時に膠質水溶液から逃散してしまう」(【0002】), 「その目的とするところは,発泡成分の発泡によって生成した気泡が,ゼリー中に 多数内包され,しかもこの気泡中の炭酸ガスが長時間保持され,喫食時に口中で強 い発泡感が感じられる発泡性ゼリーを,家庭で簡単に手作りできる発泡性ゼリー用 粉末およびこれを用いた発泡性ゼリーの製法を提供するにある」(【0004】)との 記載があるものの,同文献に記載されているのは,ゲル状食品であって,引用発明 のパック剤とは異なる技術分野に関するものである。 また,特開昭63−310807号公報(甲18)は,炭酸ガスのガス保留性につ いて,特開平3−161415号公報(甲63)は,炭酸ガスを高濃度で長時間保持 することについて,特開昭63−280799号公報(甲64)及び特開昭62− 294604号公報(甲65)は,炭酸ガスの発生による発泡の持続性について,特 開昭61−43102号公報(甲66)は,化粧料の炭酸ガスの滞留時間について, 特開昭61−43101号公報(甲67)及び特開昭61−40205号公報(甲 68)は,炭酸ガスが化粧料に溶けて配合されていることについて,それぞれ記載 したものであるが,これらの文献のいずれにも,気泡状の二酸化炭素を保持するこ とが周知の課題であると読み取れる記載はない。 したがって,本件優先日当時において,パック剤の技術分野において気泡状の二 酸化炭素を保持するとの本件発明1の課題が周知であったとは認められず,引用発 明の増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを適用する動機付けがあるとはいえないか ら,原告の主張は採用できない。
(イ) 原告は,アルギン酸ナトリウムを含む水溶液が皮膜を形成するから,引用 発明の増粘剤をアルギン酸ナトリウムに置換しても,皮膜形成作用を維持すること はでき,引用発明におけるポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロース ナトリウムをアルギン酸ナトリウムに置き換えることは可能である旨主張する。\n特開平9−278926号公報(甲86)には, アルギン酸を含む水溶液は,皮 膜を形成すること(【0011】,【0015】),被コーティング物に塗布される皮膜は,アルギン酸の濃度で調整できること(【0016】)が,「機能性包装資材の開発\n技術の形成 −機能性段ボール箱の開発−」と題する文献(1995年。甲87)に\nは,アルギン酸ナトリウム(G−I)と天然多糖類プルラン(PI−20)を(1: 1)で混合した5wt%溶液を,秤量220g/m2の段ボールライナー表面に塗工\nし,5wt%塩化カルシウム水溶液を噴霧し凝固させ,フィルムを形成させたこと が,「機能性包装資材の開発技術の形成 −機能性無機粉体の開発−」と題する文献\n(1995年。甲88)には,アルギン酸ナトリウムとプルランを混合してフィル ムを形成した場合,両者の混合比を変化させると酸素透過量と炭酸ガス透過量が変 化することが,それぞれ記載されていることが認められる。 しかし,これらの文献に開示されているのは,内容物を保護する目的で使用され る包装材料としてのフィルムやコーティング被膜をアルギン酸ナトリウムによって 形成することであるところ,引用発明のパック剤の膜は,その造膜過程において皮 膚に刺激を与えて血行を促進すると共に,皮膚表面の汚れを吸着して清浄するもの\nであって,造膜後には皮膚から剥がして除去されるものであって,その適用対象や, 使用目的・作用効果が異なる。 したがって,甲86〜88を考慮しても,引用発明におけるポリビニルアルコー ル及びカルボキシメチルセルロースナトリウムをアルギン酸ナトリウムに置き換え 可能であるということはできず,原告の主張は採用できない。\n
イ 酸を「顆粒(細粒,粉末)剤」に含ませる点について
原告は,二酸化炭素を適切に発生させるための徐放化技術として,炭酸塩と酸を 一つの固形物に含有させることは慣用技術であるところ,どのような剤型を選択す るかは,化粧品についての一般的な課題であり,美容目的の化粧品については,当 該化粧品の効能や作用機序等が異なっていても同一の剤型のものが存在していたの\nであるから,剤型の選択の局面においては,技術分野を狭く解することは誤りであ り,慣用技術を適用できる旨主張する。 特開平6−179614号公報(甲6)には,アルギン酸水溶性塩類を含有する ゲル状パーツからなる第一剤と,前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上 の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤 からなることを特徴とする,剥がすタイプのパック剤が,化粧品製造製品届書(香 椎化学工業株式会社,平成13年1月11日。甲7)に係る化粧品製造品目追加許 可書(厚生大臣,平成3年11月12日。甲8)には,2剤を使用前に混合して肌に 塗布し,膜が乾燥したら剥がすパック剤が,特開平7−53324号公報(甲9) には,美白や保湿を目的として,粉末あるいは顆粒状の組成物を,使用する直前に 化粧水や乳液に分散せしめ,皮膚に塗布する用時混合タイプのものが,「化粧品成分 ガイド」第5版(フレグランスジャーナル社,2009年2月25日。甲10)に は,化粧品の剤形タイプとして,溶液タイプ,ジェルタイプ,乳化タイプ,固体タイ プ,液体タイプ,ペーストタイプ,皮膜タイプ,エアゾールタイプがあることが,そ れぞれ記載されていることが認められる。 しかしながら,甲6ないし8に記載されているのは,剥がすタイプのパック剤, 甲9に記載されているのは,化粧水や乳液など肌に塗布する化粧品であり,甲10 には,剤型タイプの分類が記載されているにすぎず,これらの文献のいずれも,炭 酸ガスを発生させ,発生する炭酸ガスによる血行促進作用により,皮膚の血流を良 くし皮膚にしっとり感を与えるパック剤に関するものではないから,これらによっ て,引用発明の技術分野において炭酸塩と酸を一つの固形物に含有させることが慣 用技術であったとは認められない。そして,化粧品の剤型は,その効能や使用目的\nに応じて個別に検討されるものであることは当然であり,分野の異なる技術を引用 発明に適用できるとはいえないから,原告の主張は採用できない。

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平成30(行ケ)10165  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月19日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした無効審決が、動機付けあり、特段の効果無しとして取り消されました。

 (ア) 甲3には,引用発明2−2−1’(実施例4記載の用時混合型の医療 溶液)が「血液浄化用薬液」であることを明示した記載はない。 一方で,甲3には,前記(1)イ(イ)認定のとおり,「本発明」の目的の1 つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り良好な安 定性を保証する「医療溶液」(血液透析,血液透析濾過,血液濾過及び腹 膜透析用の透析液,腎疾患集中治療室内での透析用の溶液,通常は緩衝 物質を含む置換液又は輸液,並びに栄養目的のための溶液)を提供する ことにあることの開示がある。この「医療溶液」中の「腎疾患集中治療 室内での透析用の溶液」とは,救急・集中治療領域において,急性腎不 全の患者に対して行う持続的な血液浄化のための透析用の溶液を含むこ とは自明である。
また,甲3には,前記(1)イ(ア)及び(イ)認定のとおり,(1)急性腎不全に 罹患している患者に適応となる治療法は,数週間を通しての持続的腎機 能代替療法(CRRT)であり,血液濾過が用いられるが,血清リンレ\nベルが正常な患者からリンを効率的に除去してしまう結果,定期的な週 3回の血液透析治療を受けている患者よりも高い頻度で,低リン血症が 起こり得るものであること,(2)低リン血症は,リンの投与によって予防,\n治療されるが,医療溶液にリンを導入する場合,沈殿する様々なリン酸 カルシウムの形成の問題があり,生理的pHに等しいpH値を有する生 理溶液では,リン酸カルシウムの沈殿の危険性が高くなるという問題が あること,(3)「本発明」の発明者らは,特定のpH範囲等の如き一定の 条件下では,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを重炭酸塩及び リン酸塩重炭酸塩と共に保持し得ることができ,滅菌の安定なリン酸塩 含有医療溶液を提供できることを見出したことの開示があることからす ると,「本発明」の実施例である引用発明2−2−1’の「医療溶液」は, 急性腎不全に罹患している患者に適応し得るものと理解できる。 以上の点に照らすと,甲3に接した当業者においては,甲3記載の実 施例4(引用発明2−2−1’)において,当該「医療溶液」を「血液浄 化用薬液」にすることを試みる動機付けがあるものと認められる。 したがって,当業者は,引用発明2−2−1’において,相違点(甲 3−3−b”)に係る本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到す\nることができたものと認められる。 これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(イ) これに対し被告らは,引用発明2−2−1’は,単なる「医療溶液」 にすぎず,これを「血液浄化用薬液」として使用することができると解 すべき技術常識は存在しないことなどからすると,甲3に「医療溶液」 として記載された引用発明2−2−1’を「血液浄化用薬液」とするこ とは,当業者が容易に想到し得たことではない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)のとおり,甲3の記載事項に照らすと,当業 者は,引用発明2−2−1’において,相違点(甲3−3−b’’)に係る 本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到することができたもの\nと認められるから,被告らの上記主張は採用することができない。
イ 相違点(甲3−3−d”)について
(ア) 引用発明2−2−1’(実施例4記載の用時混合型の医療溶液)にお ける第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液の各成分の イオン濃度は,「K+」(カリウムイオン濃度)が「4.0mM」(4.0 mEq/L),「HPO4 2-」(リン酸イオン濃度)が「1.20mM」(無 機リン濃度3.72mg/dL),「Ca2+」(カルシウムイオン濃度) が「1.25mM」(2.50mEq/L),「Mg2+」(マグネシウムイ オン濃度)が「0.6mM」(1.2mEq/L),「HCO₃⁻」(炭酸水 素イオン濃度)が「30.0mM」(30.0mEq/L)である。 一方,前記(1)イ(イ)の認定事実によれば,甲3には,(1)「本発明」の 目的の1つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り 良好な安定性を保証する「医療溶液」を提供することにあること,(2)「本 発明」の発明者らは,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは,特 定のpH範囲等の如き一定の条件下では,重炭酸塩と共に保持し得るも のであり,一定の条件下では,リン酸塩とも一緒に保持することができ, 特定の環境,濃度,pH範囲及びパッケージングにおいて,滅菌の安定 なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したこと,(3)「本発明」 は,上記課題を解決するため,「即時使用溶液」が,1.0〜2.8mM の濃度(無機リン濃度に換算すると「3.1〜8.7mg/dL」)のリ ン酸塩を含み,滅菌され,かつ6.5〜7.6のpHを有するという構\n成を採用したことの開示があることが認められる。
加えて,甲3には,(4)「本明細書で述べる現在好ましい実施形態への 様々な変更および修正は当業者に明らかであることが理解されるべきで ある。そのような変更および修正は,本発明の精神および範囲から逸脱 することなくおよびその付随する利点を減じることなく実施することが できる。」(前記(1)ア(ケ))との記載があることに照らすと,甲3に接し た当業者は,引用発明2−2−1’における上記即時使用溶液の各成分 のイオン濃度を最適なものに変更し得るものと理解するものといえる。 しかるところ,前記(2)イ認定のとおり,本件優先日当時,「急性血液 浄化」のための血液濾過(透析)用に使用され得る,市販されている透 析液及び補充液において,カルシウムイオン濃度を「2.5〜3.5m Eq/L」,マグネシウムイオン濃度を「1.0〜1.5mEq/L」, 炭酸水素イオン濃度を「30mEq/L」前後の範囲の中で調整するこ とは,技術常識又は周知であったものである。 そして,上記技術常識又は周知技術を踏まえると,引用発明2−2− 1’における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度(「1.2mE q/L」)を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整する ことは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。 そうすると,甲3に接した当業者は,引用発明2−2−1’における 上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度を市販されている透析液及 び補充液の上記数値範囲内の「1.0mEq/L」(相違点(甲3−3− d”)に係る本件訂正発明12の構成)にすることを容易に想到すること\nができたものと認められる。 したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(イ) これに対し被告らは,(1)不溶性微粒子の形成を抑制する溶液を実現 するためには,リン酸塩の濃度のみならず,溶液に含まれる他の成分及 び各イオン濃度の組合せが調整される必要があるから,これらの組合せ が1個の不可分のまとまりのある技術事項となるところ,本件訂正発明 12は,配合及び混合液の各成分の濃度が所定の組合せであることによ って,混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性炭酸塩の生成 を抑制することができる用時混合型急性血液浄化用薬液を実現したも のであるから,混合液の各成分の濃度は,成分ごとに区々別々に対比す るのではなく,各成分の濃度の組合せを一つの単位として認定して,引 用発明2−2−1’と対比するのが相当である,(2)引用発明2−2−1’ は,「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制され る,混合時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」であり,本件 訂正発明12とは,技術的意義を異にする発明であるから,各成分の濃 度の相違は,設計事項となるものではなく,また,引用発明2−2−1’ に基づき,その各成分の濃度を変更して本件訂正発明12に到達しよう とする動機付けは,そもそも観念できない,(3)引用発明2−2−1’は, 低リン血症を防止するとともに粒子の形成を抑制する旨の課題に対し, 所定の配合及び各成分の濃度を定めるとともに,「溶液混合時のpHの 範囲を定めることにより」既に上記課題を解決しているものであるから, 引用発明2−2−1’に接した当業者が,上記課題を解決するために引 用発明2−2−1’の各成分の濃度を変更する動機付けもない,(4)一定 の濃度の範囲内で各成分の濃度を適宜に変動することができるのは,あ くまで,「一般の透析液・補充液」限りのものであって,これは,リン 酸塩を含む溶液に妥当するものではないなどとして,当業者は,引用発 明2−2−1’において,相違点(甲3−3−d”)に係る本件訂正発 明12の構成(マグネシウムイオン濃度を「1.0mEq/L」)とす\nることを容易に想到し得たものではない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)のとおり,甲3に接した当業者においては, 甲3記載の実施例4(引用発明2−2−1’)において,マグネシウム イオン濃度を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整 することは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。 そうすると,当業者は,引用発明2において,相違点(甲3−3−d”) に係る本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到することができ\nたものと認められる。このことは,混合液の各成分の濃度の組合せをひ とまとまりの相違点と認定した場合であっても同様である。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
ウ 相違点(甲3−3−a”)について
(ア) 本件訂正発明12の特許請求の範囲(請求項12)の記載中には, 本件訂正発明12の「当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不 溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」との構成の意義を規定し\nた記載はない。 次に,本件明細書(甲11)には,「時間の経過と共に補充液中のカル シウムイオンおよびマグネシウムイオンと炭酸水素イオンが反応し,不 溶性の炭酸塩の微粒子や沈殿が生じる」こと(【0007】),「当該薬液 中には,カルシウムイオンやマグネシウムイオンが存在するにも拘わら ず,リン酸イオンを含有させても不溶性のリン酸塩を生じない。また, リン酸イオンの存在により,炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグ ネシウムイオンが共存し,pHが7.5を超えるような長時間後であっ ても,不溶性炭酸塩の生成が抑制される」こと(【0023】),「不溶性 微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制される」とは,投与対象に 適用すべき最終薬液の調製後,たとえば上記A液とB液の混合後,少な くとも27時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されること, またはpHが7.5以上になっても不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制さ れること」を意味すること(【0057】)の記載がある。 また,本件明細書には,本件訂正発明12に規定するオルトリン酸の 濃度の範囲内である「リン酸イオン濃度が4.0mg/dL」の薬液と 「リン酸イオンを含有しない薬液」との対比実験を行ったところ,「7日 間でpHが7.23〜7.29から7.89〜7.94までほぼ直線的 に上昇し,その間にリン酸イオン不含有薬液では不溶性微粒子の粒径も 数も顕著に増加したが,リン酸イオン含有薬液ではpHの上昇にもかか わらず,不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった。」(【008 8】)との記載があり,この記載は,本件訂正発明12に規定するオルト リン酸の濃度の範囲内である「リン酸イオン濃度が4.0mg/dL」 の薬液では,「7日間」にわたって「リン酸イオン含有薬液ではpHの上 昇にもかかわらず,不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった」 ことを示すものである。もっとも,本件明細書には,本件訂正発明12 の「用時混合型血液浄化用薬液」が「27時間」にわたって不溶性微粒 子や沈殿の形成が実質的に抑制されたことを明示した記載はない。 以上の本件訂正発明12の特許請求の範囲(請求項12)の記載及び 本件明細書の記載を総合すると,本件訂正発明12の「そして当該薬液 調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質 的に抑制され」との構成は,本件訂正発明12のA液及びB液の成分組\n成及びそれらのイオン濃度を請求項12に記載されたものに特定するこ とによって実現されるものと理解できる。
(イ) そして,前記ア及びイのとおり,甲3に接した当業者は,引用発明 2−2−1’において,「血液浄化用薬液」として使用すること(相違点 (甲3−3−b”)に係る本件訂正発明12の構成)及びマグネシウムイ\nオン濃度を本件訂正発明12の濃度とすること(相違点(甲3−3−d”) に係る本件訂正発明12の構成)を容易に想到することができたもので\nある。 加えて,引用発明2−2−1’のカリウムイオン濃度と本件訂正発明 12のカリウムイオン濃度は「4.0mM」(4.0mEq/L),引用 発明2−2−1’の炭酸水素イオン濃度と本件訂正発明12の炭酸水素 イオン濃度は「30.0mEq/L」であって,いずれも一致する。 以上によれば,本件訂正発明12の「少なくとも27時間にわたって 不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という構成は,引用\n発明2−2−1’において,相違点(甲3−3−b”)及び(甲3−3− d”)に係る本件訂正発明12の構成とした場合に,自ずと備えるものと\n認められる。 したがって,引用発明2−2−1’において,相違点(甲3−3−a”) に係る本件訂正発明12の構成とすることは,当業者が容易に想到する\nことができたものと認められる。 したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(ウ) これに対し被告らは,引用発明2−2−1’は,「所定のリン酸塩 の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合時の即時使用 溶液のpHの範囲を特定した発明」にすぎず,24時間を超える長時間 の経過によるpHの上昇は,全く想定されていないこと,粒子の形成が 24時間抑制されれば,pHの上昇にかかわらず,少なくとも27時間 にわたって,不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されるとする技術常識は ないことからすると,引用発明2−2−1’には,同発明から,混合後 長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈澱の生成を抑制 することができる血液浄化用薬液を想到する基礎がないから,相違点(甲 3−3−a”)に係る本件訂正発明12の構成は,引用発明2−2−1’\nに基づいて容易に想到し得たものではない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)及び(イ)で説示したとおり,引用発明2−2− 1’において,相違点(甲3−3−a”)に係る本件訂正発明12の構成\nとすることは容易に想到することができたものと認められるから,被告 らの上記主張は採用することができない。
(4) 本件訂正発明12の顕著な効果について
被告らは,(1)本件訂正発明12は,「混合後長時間が経過してpHが上昇し ても,不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができる用時混合型急性血 液浄化用薬液」を実現した発明であるのに対し,引用発明2−2−1’は, 「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合 時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」にすぎず,また,用時混合 型急性血液浄化用薬液の技術分野では,本件優先日当時,所定の配合により, 混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑 制することができる旨の技術常識はなかったことからすると,本件明細書の 【0088】に係る「混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微 粒子や沈殿の生成を抑制することができる」という本件訂正発明12の効果 は,引用発明2−2−1’に比して,質的に差のある当業者が予測できない\n格別の効果である,(2)被告らが,本件明細書記載の実施例2の検体と甲3記 載の実施例4(表9)の検体について行った不溶性微粒子の形成の対比試験\nの結果(甲20の参考資料3)によると,両検体のpHは,混合後,同様の 上昇推移を経て,54時間経過後に約8.7まで上昇したところ,本件明細 書記載の実施例2の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過時 に8個,54時間経過時に12個形成されるにとどまり,25μmの微粒子 が,混合後54時間経過時でも1個形成されるにとどまったのに対し,甲3 の実施例4(表9)の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過\n時に17個,54時間経過時に78個も形成され,25μmの微粒子が,混 合後54時間経過時には5個も形成されていたことからすると,「混合後長時 間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑制すること ができる」という本件訂正発明12の効果は,甲3の記載から予測できない\n格別の効果であるのみならず,引用発明2−2−1’の配合や各成分の濃度 では実現することができない,当業者の予測を超えた顕著な効果である旨主\n張する。
そこで検討するに,被告らが主張する「混合後長時間が経過してpHが上 昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑制することができる」という本件 訂正発明12の効果は,「当該薬液調整後少なくとも27時間にわたってpH 7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」ること(【0 057】)に相当する効果であるものと認められる。一方で,本件明細書には, 本件訂正発明12の成分組成及びイオン濃度を有する用時混合型急性血液浄 化用薬液において,「混合後27時間経過時」及び「54時間経過時」のpH の推移,微粒子の形成状況について明示した記載はないから,上記対比試験 の結果(甲20の参考資料3)に基づく効果は,本件明細書に記載された本 件訂正発明12の効果であるとは認められない。 そして,上記「当該薬液調整後少なくとも27時間にわたってpH7.5 以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」るという効果は, 前記(3)ウで説示したところと同様に,引用発明2−2−1’において,相違 点(甲3−3−b”)及び(甲3−3−d”)に係る構成とした場合に,自ず\nと備えるものと認められるから,当業者の予測を超えた顕著な効果であると\nいうことはできない。

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令和1(行ケ)10103  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月26日  知的財産高等裁判所

 大成建設の特許「コンクリート造基礎の支持構造」に、大林組が無効審判を請求しました。審決は無効理由無しとし、知財高裁2部もこれを維持しました。争点は進歩性、実施可能要件、明確性、サポート要件です。\n

 前記(1)アで認定したとおり,甲3文献は,PHC杭のフーチングへの埋 込み長さと接合部の補強方法が異なる場合における杭頭固定度,接合方法及び終局 耐力を把握することを主目的として,5種類の試験体((1)杭をフーチング内へ単に 埋込む方式で,埋込み長さを10cmとした試験体,(2)杭をフーチング内へ単に埋 込む方式で,埋込み長さを35cmとした試験体,(3)フーチング内で立ち上げ筋と スパイラルフープ筋により補強し,埋込み長さを20cmとした試験体,(4)内径3 5.4cm,長さ35cm,厚さ0.6cmの鋼管をエポキシ樹脂系接着材によっ て杭体と一体化し,定着長35cmのアンカー鉄筋(D10−8本)を鋼管に溶接 して接合部を補強し,埋込み長さを10cmとした試験体,(5)内径35.4cm, 長さ35cm,厚さ0.6cmの鋼管をエポキシ樹脂系接着材によって杭体と一体 化し,定着長35cmのアンカー鉄筋(D10−8本)を鋼管に溶接して接合部を 補強し,埋込み長さを20cmとした試験体)について曲げせん断試験実験を行っ たこと,及び同実験の条件を開示したものであるから,甲3文献は,PHC杭を用 いた剛接合構造によるコンクリート造基礎の支持構\造における杭頭固定度及び終局 耐力を把握する実験であると認められる。そして,甲3発明は,PHC杭を用いた 剛接合構造による支持構\造であることを前提とした上記の実験において,杭をフー チング内へ単に埋込む方式で,埋込み長さを10cmとした試験体について,フー チングのコンクリートの圧縮強度を228kg/cm2,杭体のコンクリートの圧 縮強度を895kg/cm2とするとの条件を設定したものである。 したがって,PHC杭を用いた剛接合構造によるコンクリート造基礎の支持構\造 における杭頭固定度及び終局耐力を把握する実験において,PHC杭を用いた剛接 合構造によるコンクリート造基礎の支持構\造という実験の前提自体を変更すること の動機付けはないというべきである。
イ 前記2(3)ウ(キ)のとおり,剛接合構造と半剛接合構\造とでは,杭の移動 に対する拘束の有無,杭頭部に生じる曲げモーメントの大きさが異なるなどの点で 差異がある。 また,甲37には,「充填コンクリートは,鋼管の拘束度に応じてその圧縮強度が 著しく増大し,プレーンコンクリートの約6〜10倍になる」との記載があること からすると,PHC杭と場所打ちコンクリート杭とでは,求められるコンクリート の強度も異なるというべきである。 このように,剛接合構造と半剛接合構\造とでは,杭頭部に生じる曲げモーメント の大きさが異なる上に,PHC杭と場所打ちコンクリート杭とでは,求められるコ ンクリートの強度も異なるのであるから,甲3発明における杭体とフーチングの圧 縮強度の関係をそのままにして,甲3発明の実験の前提となるPHC杭を用いた剛 接合構造を場所打ちコンクリート杭を用いた半剛接合構\造に置換することを,当業 者が容易に想到するとは認められない。
ウ そして,上記ア,イで判示したところは,杭に基礎を「載置」する構成\nがありふれた構成であり,PHC杭と場所打ち杭は相互に代替的な構\成であり,甲 3文献に,「地震力に対する建築物の基礎の設計指針・・・が示され,実務に供され つつあるが,杭頭接合部の固定度・・・と接合方法および構造耐力の問題が,研究\n課題の一つとして残されている。」と記載されているとしても,左右されることはな い。
また,原告は,PHC杭と場所打ちコンクリート杭の相違が重要であるとすれば, 本件明細書には,鋼管中空杭と場所打ちコンクリート杭の相違を前提としても,な お同様の作用効果が生じることにつき説明がないから,当業者が,課題を解決する ものと理解できず,この点でもサポート要件違反となると主張するが,本件明細書 には,鋼管中空杭と場所打ちコンクリート杭のそれぞれについて本件発明の作用効 果を生じることが記載されており,サポート要件に違反するものではない。
エ したがって,甲3発明に,場所打ちコンクリート杭を用いた半剛接合に よるコンクリート造基礎の支持構造という技術を適用して,本件発明2の相違点ア\n〜ウに係る構成とすることを当業者が容易に想到すると認めることはできない。\nまた,本件発明3は,本件発明2の構成に「コンクリート造基礎と前記杭頭部と\nの間に芯鋼材を配筋したこと」を付加したものであるところ,甲3発明に基づき本 件発明2を容易に発明することができない以上,甲3発明に基づき本件発明3も容 易に発明することはできない。

◆判決本文

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平成31(行ケ)10059  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年2月26日  知的財産高等裁判所

 不使用とした審決が取り消されました。原告は本件訴訟で、新たな証拠 を提出しました。被告がシャネルで、本件商標は「COCO」です。

ア(ア) 原告は,平成19年9月3日に設立された,衣料品及び服飾雑貨の 卸,小売販売,製造及び輸出入等を目的とする株式会社である。 (イ) ダンエンタープライズは,要証期間(平成24年4月23日から平 成27年4月22日までの間)において,本件商標権の商標権者であっ た。
(ウ) ジーティーオーは,ダンエンタープライズの有する商標権(本件商 標権を含む。)の使用許諾の窓口として,ダンエンタープライズから購 入した使用許諾を証明する「証紙」を使用許諾先に販売する業務を行っ ていた。一方,ダンエンタープライズは,ジーティーオーから,「商品 化申請管理表\」及び「証紙申請書」の提出を受けて,商標を付する予\定 の商品を確認して,商標の使用を承認した上で,商品化権使用料名義で 商標の使用料を受け取り,「証紙」をジーティーオーに引き渡していた。 イ(ア) 原告は,平成25年9月3日及び4日,ジーティーオーに対し,原 告が商品化を企画している「COCO」の欧文字を付した4種類のトー トバッグの商品(「COC−COB01」,「COC−COB02」, 「COC−CV01」,「COC−CV02」)のデザイン及び12種 類のカラーのデータ画像を添付したメール(甲89の1,2,90の1, 2,134の1,2,135の1,2)を送信し,本件商標の使用許諾 を求める旨の申請をした。\nその後,原告とダンエンタープライズは,同月30日,期間同年10 月1日から3年間,指定商品第14類,第18類,第25類及び第26 類「身飾品他か」,使用許諾地域日本国内の約定で,ダンエンタープラ イズが原告に対し,本件商標権の使用権を独占的に許諾し,原告が本件 商標を付した「かばん・小物類」の商品を製造及び販売することを許諾 する旨の本件使用許諾契約(甲24)を締結した。
(イ) 原告は,平成25年10月29日,韓国のミラクル社(甲124の 2,3)に対し,「2013.10」,「COC−BGT01」,「C OC−CV01」,「COC−BGT02」,「COC−CV02」と の表示の下に,「COCO」の欧文字が付されたトートバッグのデザイ\nン及び寸法等を記載した画像データ(甲91の2,3,136の1,2) を添付した,「COCOバッグサンプル作成のお願いになります。」, 「指示書添付致します。」,「大,中2サイズでWHITE(生成り) とBLACKで作成お願いします。」などと記載したメール(甲91の 1)を送信した。
(ウ) 原告は,平成25年12月4日,ミラクル社に対し,「Re:商品 発注になります:COCOバッグ発注」との件名で,「商品発注の件」 と題する書面2通(甲93の2,3,137の1,2)を添付した,「発 注書2件添付しております。」,「COC−BGT」,「COC−CV」, 「納期が確定しましたら教えて下さい。」などと記載したメール(甲9 3の1)を送信した。上記添付書面中には,「(COC−BGTビッグ トート)1st」として品番「COC−BGT01」のカラー5色を3 500枚,品番「COC−BGT02」のカラー5色を3500枚の合 計7000枚を単価US4.8ドルで発注(甲93の2,137の1) し,「(COC−CVキャンバストート)1st」として品番「COC −CV01」の5色を2500枚,「COC−CV02」の5色を25 00枚の合計5000枚を単価US4.0ドルで発注(甲93の3,1 37の2)する旨の記載がある。
(エ) 原告は,平成25年12月27日,ミラクル社に対し,「付属指示: COCOビッグトート修正」との件名で,(1)作成日「2012.12. 25」,品番「COC−BGT01,02/COC−CV01,02」, ブランド「COCO」と記載した「付属仕様書」(甲116の2,13 9の1),(2)「2013.12.25」,「COC−BGT02」,「C OC−CV02」,「COC−BGT01」,「COC−CV01」と の表示の下に,「COCO」の欧文字が付されたトートバッグのデザイ\nン等を記載した画像データ(甲116の3,4,139の2,3)を添 付した,「COCO付属の指示になります。」,「混率修正致しました。」 などの記載のあるメール(甲116の1)を送信した。上記「付属仕様 書」には,「COCO」の欧文字,品番,素材等を記載したステッカー の仕様が記載されていた。
(オ) ジーティーオ―は,原告の依頼を受けて,平成26年1月17日付\nけの証紙申請書(甲3)を作成し,ダンエンタープライズに対し提出し\nた。上記申請書には,「株式会社ダンエンタープライズの許諾により「C\nOCO」の商品化権を下記掲載の商品に使用致しますので証紙の発行を 依頼いたします。」との記載に続き,以下の記載がある。
「商品名 承認NO. 製造数量
COCOトートバック(中) 44516 1900
COCOトートバック(中) 42832 1900
COCOトートバック(大) 44515 1900
COCOトートバック(大) 42831 1900
COCOエコバッグ 43015 15000
(合計) 22600」
(カ) ジーティーオ―は,平成26年1月20日,ダンエンタープライズ\nから,甲3の証紙申請に係る証紙合計2万2600枚の納品(甲4)を\n受け,そのころ,原告に対し,上記証紙を引き渡した。
ウ(ア) 原告は,平成26年3月25日,日本PMSに対し,「※再送です 【COCO 商品のご案内】【E−COME】」との件名で,「Coc oバッグ BIGトートNo.1」のファイル名及び「Cocoバッグ キャンバストートNo.1」のファイル名のPDFデータ(甲127の 2)等を添付した,「再送致します。現状では,圧倒的にトート・ミニ トートの方が予約段階での付きは良い状況です。」,「早速ではござい\nますが【COCO絵型】を添付しております。何卒よろしくお願い致し ます。」などと記載したメール(甲127の1)を送信した。 「Cocoバッグ BIGトートNo.1」のファイル名のPDFデ ータ(甲127の2の1枚目)には,「Coco ビッグトートNo. 1」,「Coco ビッグトートNo.2」との表題の下に表\が記載さ れ,表の枠内には,「STYLENO」欄に「COC−BGT01」,\n「COC−BGT02」,「納期」欄に「4月上旬頃〜随時発送予定 下 代@990−」とする「COCO」の欧文字が表示されたそれぞれカラ\nー5色のトートバッグの写真が掲載され,表の枠外にはトートバッグを\n持った女性の写真とともに,「商標:COCO 商標登録番号:第14 93277号」,「この商品は,(株)イーカムが(株)ダンエンター プライズの所有する,商標:COCOの使用,販売許諾を独占契約した 正規国内ライセンス商品です。」との表示があった。\nまた,「Cocoバッグ キャンバストートNo.1」のファイル名 のPDFデータ(甲127の2の2枚目)には,「Coco キャンバ ストートNo.1」,「Coco キャンバストートNo.2」との表\n題の下に表が記載され,表\の枠内には,「STYLENO」欄に「CO C−CV01」,「COC−CV02」,「納期」欄に「4月上旬頃〜 随時発送予定 下代@930−」とする「COCO」の欧文字が表示さ\nれたそれぞれカラー5色のトートバッグの写真が掲載され,表の枠外に\nはトートバッグを持った女性の写真とともに,「商標:COCO 商標 登録番号:第1493277号」,「この商品は,(株)イーカムが(株) ダンエンタープライズの所有する,商標:COCOの使用,販売許諾を 独占契約した正規国内ライセンス商品です。」との表示があった。\n
(イ) 原告は,平成26年4月23日,埼京三喜に対し,「【COCO絵 型】【イーカム】」との件名で,「Cocoバッグ BIGトートNo. 1」のファイル名及び「Cocoバッグ キャンバストートNo.1」 のファイル名のPDFデータ(甲128の2)等を添付した,「早速で はございますが【COCO絵型】を添付しております。」,「こちらの 商品の中の,トート2アイテムに関しましては5月GW明け納期商品と なっております。」などと記載したメール(甲128の1)を送信した。 「Cocoバッグ BIGトートNo.1」のファイル名のPDFデ ータ(甲128の2の1枚目)には,「Coco ビッグトートNo. 1」,「Coco ビッグトートNo.2」との表題の下に表\が記載さ れ,表の枠内には,「STYLENO」欄に「COC−BGT01」,\n「COC−BGT02」,「納期」欄に「5月中旬頃〜随時発送予定 下 代@1134−」とする「COCO」の欧文字が表示されたそれぞれカ\nラー5色のトートバッグの写真が掲載され,表の枠外にはトートバッグ\nを持った女性の写真とともに,「商標:COCO 商標登録番号:第1 493277号」,「この商品は,(株)イーカムが(株)ダンエンタ ープライズの所有する,商標:COCOの使用,販売許諾を独占契約し た正規国内ライセンス商品です。販売許諾地域:日本国内限定 商品可 能化アイテム:かばん,小物類」との表\示があった。 また,「Cocoバッグ キャンバストートNo.1」のファイル名 のPDFデータ(甲128の2の2枚目)には,「Coco キャンバ ストートNo.1」,「Coco キャンバストートNo.2」との表\n題の下に表が記載され,表\の枠内には,「STYLENO」欄に「CO C−CV01」,「COC−CV02」,「納期」欄に「5月中旬頃〜 随時発送予定 下代@1026」とする「COCO」の欧文字が表示さ\nれたそれぞれカラー5色のトートバッグの写真が掲載され,表の枠外に\nはトートバッグを持った女性の写真とともに,「商標:COCO 商標 登録番号:第1493277号」,「この商品は,(株)イーカムが(株) ダンエンタープライズの所有する,商標:COCOの使用,販売許諾を 独占契約した正規国内ライセンス商品です。販売許諾地域:日本国内限 定 商品可能化アイテム:かばん,小物類」との表\示があった。
エ ミラクル社は,(1)「荷送人/輸出者」欄にミラクル社,「買い手名」欄 に原告,「積荷港」欄に「中国,上海」,「最終仕向港」欄に「日本,博 多」,「出港予定日」欄に「2014年4月19日」,「インボイスNo. 作成日」欄に「MC140417 2014年4月17日」,「L/C No.日付」欄に「L/C:211−612−14457」,「品名の詳細」 欄に「鞄 COC−BGT01 424枚 USD2,035.20」, 「鞄 COC−BGT02 390枚 USD1,872.00」,「鞄 COC−CV01 131枚 USD524.00」,「鞄 COC−C V02 195枚 USD780.00」などと記載された「コマーシャ ルインボイス」(甲130の2,4),(2)「パッキングリスト詳細」欄に 「COC−BGT01」,「COC−BGT02」,「COC−CV01」, 「COC−CV02」の「カラー」が「ホワイト」である旨の記載のある 「パッキングリスト」(甲130の2,4)を発行した。 原告は,平成26年4月28日,輸入者を原告,ミラクル社を輸入取引 者,積出地を上海,船卸港を博多,仕入書番号を「MC140417」と する貨物の輸入について,博多税関支署長から,輸入許可(甲130の1, 3)を受けた。 原告は,同日,乙仲業者のSGHグローバルジャパン株式会社(以下「S GH社」という。)に対し,輸入関税,費用等(甲130の1)を支払い, 上記貨物の引渡しを受けた。
オ 原告は,平成26年10月14日,ユニーから,「ディズニー,COC O,スクールの発注明細を添付します。確認をお願いします。本日,伝票 発行しました。」,「10/19までに納品をお願いします。」などと記 載したメール(甲107の1)を受信した。上記メールの添付ファイル(甲 107の2)には「COCOキャンバストート COC−CV01 各色 20」,「COCOキャンバストート COC−CV02 各色20」と の記載があった。 原告は,同月15日,ユニーに対し,上記発注の内容を確認し,商品確 保が完了した旨のメール(甲108)を送信し,同月18日,ユニーに対 し,「COCOキャンバストート COC−CV01 各色」及び「CO COキャンバストート COC−CV02 各色」を納品(甲110の1 ないし20,111の1ないし20)した。
(2) これに対し被告は,前記(1)掲記の証拠に関し,(1)甲91の1ないし93, 107の1,2,110の1ないし20,111の1ないし20,112, 127の1,2,128の1,2等は,原告が所持し,その提出も極めて容 易であったにもかかわらず,4年の審理がされた本件審判の段階では提出さ れずに,本件訴訟に至って初めて提出されたのは極めて不自然であるから, そもそも信用することができない,(2)甲91の1,116の1,117の1, 127の1,128の1の各メール等に添付されていたファイルであるとし て,当該メールと合わせて提出された書面(甲91の2,3,116の2な いし4,117の2,127の2,128の2等)について,実際に当該メ ールに添付されたファイルの中身と同一のものであることについての立証が ない,(3)原告提出のUSBメモリ(甲148)に保存されたメールデータに ついては,メールの作成日について,インターネットヘッダーの「Received from」の表示時刻は容易に変更可能\であり,当該変更を反映する形で,メー ル自体の送受信日時も同様に変更されることになるから,上記メールデータ によっても,各メールが表示されたとおりの日時に送受信されたとは限らな\nい,(4)甲148に保存された甲127の1,128の1のメールデータのイ ンターネットヘッダーには「Received from」の項目が存在しておらず,この ことは,当該メールが実際に送信された形跡が存在しないことを意味するな どと主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,本件審判の経過及び本件訴訟の審 理経過に照らすと,原告は,本件審決を踏まえて,本件訴訟において,本件 審判段階では主張していなかった本件商標の使用の事実を新たに主張し又は 主張を補充し,新たな証拠を提出したものと認められ,被告主張の上記甲各 号が本件審判段階で提出されていなかったことから直ちにその信用性がない ということはできない。 次に,上記(2)の点については,甲89ないし91,93,107,116, 117,120ないし122,124,126ないし128,132(いず れも枝番を含む。)の各メールのメールデータを保存したUSBメモリ(甲 148)によれば,印刷された各メールの本文(甲89ないし91,93, 107,116,117,120ないし122,124,126ないし12 8,132の各1)にそれぞれの添付ファイルを印刷した書面(甲89の2, 3,90の2,3,91の2,3,93の2,3,107の2,116の2 ないし4,117の2,120の2,121の2,122の2,124の2, 3,126の2ないし5,127の2,128の2,132の2)が添付さ れていた事実を確認することができるから,上記(2)の点は理由がない。 さらに,上記(3)の点については,アプリケーションを用いて電子メールデ ータ自体を編集することで,各メールの送受信日時を変更することが可能で\nあるとしても(乙37,38),甲148から,上記のとおり各メールに記 載された添付ファイルが添付されていることを確認することができ,これら のメールが送受信されたことが認められることに照らすと,原告において各 メールの送受信日時のみの変更を行ったものと認めることは困難である。 また,上記(4)の点については,「Received from」の項目は,メールを受信 した際の項目であるから,原告が送信した甲127の1,128の1のメー ルに上記項目が存在しないことは何ら不自然なことではない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 他に前記(1)の認定を左右するに足りる証拠はない。
2 原告による本件4商品の輸入及び販売の事実の有無等について
(1)ア 前記1の認定事実を総合すれば,(1)原告は,平成25年9月30日,ダ ンエンタープライズとの間で,期間同年10月1日から3年間,使用許諾 地域日本国内の約定で,ダンエンタープライズが原告に対し,ダンエンタ ープライズが有する本件商標権の使用権を独占的に許諾し,原告が本件商 標を付した「かばん・小物類」の商品を製造及び販売することを許諾する 旨の本件使用許諾契約(甲24)を締結した後,同月29日,韓国のミラ クル社に対し,「COC−BGT01」,「COC−BGT02」,「C OC−CV01」,「COC−CV02」との表示の下に,「COCO」\nの欧文字が付されたトートバッグのデザイン及び寸法等を記載した画像デ ータ添付したメール(甲91の1ないし3)で,「COCOバッグ」のサ ンプル品の作成を依頼したこと,(2)原告は,同年12月4日,ミラクル社 に対し,品番「COC−BGT01」のカラー5色を3500枚,品番「C OC−BGT02」のカラー5色を3500枚,品番「COC−CV01」 のカラー5色を2500枚,「COC−CV02」のカラー5色を250 0枚の合計1万2000枚のトートバッグ(「COCOバッグ」)をメー ル(甲93の1ないし3)で発注し,同月27日,ミラクル社に対し,「付 属仕様書」と「COCO」の欧文字が付されたトートバッグのデザイン等 を記載した画像データを添付したメール(甲116の1ないし4)で,品 番「COC−BGT01」,「COC−BGT02」,「COC−CV0 1」及び「COC−CV02」の仕様,デザイン等について指示をしたこ と,(3)原告は,平成26年3月25日,日本PMSに対し,「Cocoバ ッグ BIGトートNo.1」のファイル名及び「Cocoバッグ キャ ンバストートNo.1」のファイル名のPDFデータを添付したメール(甲 127の1,2)で,品番「COC−BGT01」,「COC−BGT0 2」,「COC−CV01」及び「COC−CV02」のトートバッグの 商品の案内をし,また,原告は,同年4月23日,埼京三喜に対し,「C ocoバッグ BIGトートNo.1」のファイル名及び「Cocoバッ グ キャンバストートNo.1」のファイル名のPDFデータを添付した メール(甲128の1,2)で品番「COC−BGT01」,「COC− BGT02」,「COC−CV01」及び「COC−CV02」のトート バッグの商品の案内をしたこと,(4)上記(3)の各PDFデータには,「CO CO」の欧文字がそれぞれ表示されたカラー5色のトートバッグの写真が\n掲載され,そのうちの一つには,別紙2の「COCO」の欧文字の標章が 付されていたこと,(5)ミラクル社は,「荷送人/輸出者」欄にミラクル社, 「買い手名」欄に原告,「積荷港」欄に「中国,上海」,「最終仕向港」 欄に「日本,博多」,「出港予定日」欄に「2014年4月19日」,「イ\nンボイスNo.作成日」欄に「MC140417 2014年4月17日」, 「品名の詳細」欄に「鞄 COC−BGT01 424枚 USD2,0 35.20」,「鞄 COC−BGT02 390枚 USD1,872. 00」,「鞄 COC−CV01 131枚 USD524.00」,「鞄 COC−CV02 195枚 USD780.00」などと記載された「コ マーシャルインボイス」(甲130の2,4)及び「COC−BGT01」, 「COC−BGT02」,「COC−CV01」,「COC−CV02」 の「カラー」が「ホワイト」である旨の記載のある「パッキングリスト」 (甲130の2,4)を発行した後,原告は,平成26年4月28日,輸 入者を原告,ミラクル社を輸入取引者,積出地を上海,船卸港を博多,仕 入書番号を「MC140417」とする貨物の輸入について,博多税関支 署長から,輸入許可を受け,同日,上記貨物の引渡しを受けたこと,(6)原 告が輸入許可を受けた品番「COC−BGT01」,「COC−BGT0 2」,「COC−CV01」及び「COC−CV02」の「ホワイト」の 「鞄」は,上記(3)の各PDFデータに掲載された「COCO」の欧文字を 付した白色のトートバッグの画像の商品と同一の商品であることが認めら れる。 以上によれば,原告は,平成26年4月28日,ミラクル社から,「C OCO」の欧文字からなる標章(別紙2)を付したトートバッグである本 件4商品(品番「COC−BGT01」,「COC−BGT02」,「C OC−CV01」及び「COC−CV02」)を輸入したことが認められ る。
イ これに対し被告は,(1)「ミラクルチームコーポレーション(英語表記:\nMIRACLE. TEAM CORPORATION)」なる会社は,イン ターネット上で検索しても関連する情報を確認することができず(乙10, 11),ミラクル社が発行する輸入関係資料に同社の住所として表示され\nた住所(「(省略)」)も実在しないこと(乙12),原告は,「Whi te(生成り)」及び「Black」の2色のサンプル品を受領しただけ で,その直後に同サンプル品とは全く色合いの異なる商品6000枚を含 む合計1万2000枚の本件4商品をミラクル社に発注する取引を行った というのは経営判断として明らかに合理性を欠いていることからすると, そもそもミラクル社の存在自体が疑わしく,原告がミラクル社を通じて中 国の工場において本件4商品を製造した事実は存在しないから,原告が本 件4商品をミラクル社から輸入した事実も存在しない,(2)原告がミラクル 社から輸入したとする「COMMERCIAL INVOICE」(イン ボイス)及び「PACKING LIST」(梱包明細書)記載の「CO C−BGT01」,「COC−BGT02」,「COC−CV01」及び 「COC−CV02」の商品が「COCO」の欧文字からなる標章(本件 使用商標)を付した本件4商品を指すことを示す証拠はなく,一方で,原 告が「COCO」ないし「ココ」との名称のキャラクター等を用いた「キ ャンバストート」等を取り扱っていた可能性も十\分にあり,このような商 品について,「COC−BGT01」,「COC−BGT02」,「CO C−CV01」及び「COC−CV02」との品番が付けられていたとし ても何ら不思議ではないなどとして,原告がミラクル社から本件使用商標 を付した本件4商品を輸入した事実は存在しない旨主張する。 しかしながら,上記(1)の点については,原告は,平成26年4月28日, 輸入者を原告,ミラクル社を輸入取引者,積出地を上海,船卸港を博多, 仕入書番号を「MC140417」とする貨物の輸入について,博多税関 支署長から,輸入許可を受け,同日,上記貨物の引渡しを受けたこと(前 記1(1)エ),上記輸入許可に係る輸入許可通知書(甲130の3)記載の ミラクル社の「住所」は,韓国の税務署長作成の2013年4月25日付 け事業者登録証(甲124の2,3)記載のミラクル社の「事業場所所在 地」と一致することに照らすと,ミラクル社は実在する事業者であるもの と認められ,被告が主張するようにインターネット上の検索サイトで「M IRACLE.TEAM CORPORATION」を検索してもミラク ル社の情報が表示されず,ミラクル社が発行する輸入関係資料に同社の住\n所として表示された住所が表\示されなかったとしても,そのことから直ち にミラクル社が存在(実在)しないということはできないし,ひいては原 告が本件4商品をミラクル社から輸入した事実も存在しないということは できない。また,原告が「White(生成り)」及び「Black」の 2色のサンプル品を確認しただけで,他の色の商品を含む本件4商品の発 注を行ったことが特段不合理であるということはできない。
次に,上記(2)の点については,前記ア認定のとおり,原告が輸入した品 番「COC−BGT01」,「COC−BGT02」,「COC−CV0 1」及び「COC−CV02」の「ホワイト」の「鞄」は,甲127の2, 128の2の各PDFデータに掲載された「COCO」の欧文字を付した 白色のトートバッグの画像の商品と同一の商品であることが認められる。 また,原告が上記輸入の当時,上記画像の商品とは異なる他の商品につい て,「COC−BGT01」,「COC−BGT02」,「COC−CV 01」及び「COC−CV02」の品番を付していたことを認めるに足り る証拠はない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。
(2)ア 次に,前記1の認定事実及び前記(1)アの認定事実を総合すれば,(1)原 告は,平成26年10月14日,ユニーに対し,「COC−CV01」及 び「COC−CV02」の商品を販売し,同月18日,これを納品したこ と,(2)上記「COC−CV01」及び「COC−CV02」の商品は,甲 127の2,128の2のPDFデータに掲載された「COCO」の欧文 字を付した各トートバッグの画像の商品と同一の商品であることが認めら れる。 上記認定事実によれば,原告は,平成26年10月14日,ユニーに対 し,「COCO」の欧文字からなる標章(別紙2)を付した「COC−C V01」及び「COC−CV02」の商品を販売したことが認められる。
イ これに対し被告は,(1)原告がユニーに納品した品番「COC−CV01」 及び「COC−CV02」の商品にどのような商標が付されていたかは不 明である,(2)原告のユニーあての請求書は,伝票番号や明細事項が物品受 領書及び納品書(控)と一致しない上,上記請求書記載の請求額及び支払 明細書の合計金額がいずれも異なることからすると,ユニーがそのような 取引をしたとは考えられない,(3)原告ホームページの平成27年(201 5年)9月7日時点の「ブランド紹介」ページ(乙18)及び同月8日時 点での「お知らせ」ページ(乙19)には,本件商標に係るブランドの掲 載はないことに照らすと,要証期間において,原告が本件商標に係るブラ ンドを展開していなかったことが強く推認されるなどとして,原告がユニ ーに対し本件使用商標を付した「COC−CV01」及び「COC−CV 02」を販売した事実は存在しない旨主張する。 しかしながら,上記(1)の点については,前記ア認定のとおり,原告が平 成26年10月18日にユニーに納品した「COC−CV01」及び「C OC−CV02」の商品は,甲127の2,128の2のPDFデータに 掲載された「COCO」の欧文字を付した各トートバッグの画像の商品と 同一の商品であることが認められる。 また,被告主張の上記(2)及び(3)の事情があったとしても,上記認定を左 右するものではない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。
(3) 前記(1)及び(2)の認定事実によれば,原告は,平成26年4月28日,ミ ラクル社から,「COCO」の欧文字からなる標章(別紙2)を付したトー トバッグである本件4商品(品番「COC−BGT01」,「COC−BG T02」,「COC−CV01」及び「COC−CV02」)を輸入したこ と,原告は,同年10月14日,ユニーに対し,本件4商品のうち,「CO C−CV01」及び「COC−CV02」の商品を販売したことが認められ る。 そして,原告による「COCO」の欧文字からなる標章(別紙2)を付し た本件4商品の輸入及び本件4商品のうちの「COC−CV01」及び「C OC−CV02」の商品の販売は,商標法2条3項1号の「商品に標章を付 したもの」の輸入及び譲渡に該当するものと認められる。 また,本件4商品に付された「COCO」の欧文字からなる標章(別紙2 参照)は,「COCO」の欧文字から構成され,本件商標(別紙1)とは書\n体が異なるが,本件商標と社会通念上同一の商標であることが認められる。 そうすると,原告は,本件商標の通常使用権者であった原告が,要証期間 内に,日本国内において,本件審判請求に係る指定商品である第18類「か ばん」を輸入及び販売することによって,本件商標と社会通念上同一の商標 の使用をしていることを証明したものと認められる。 したがって,原告主張の取消事由は理由がある。

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令和1(行ケ)10105 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年1月29日  知的財産高等裁判所

 公序良俗違反(商4条1項7号)の無効理由無しとした審決が維持されました。

 原告は,被告及び被告と密接な関連性を有するサクラグループは,原告及び その取引先の業務を妨害し,本件商標の商標権を譲渡することにより不正の利 益を得る目的で,本件商標の登録出願をしたものであり,本件商標の出願経緯 等には,適正な商道徳に反し,社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠く 事情があるから,本件商標は,商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風 俗を害するおそれがある商標」に該当する旨主張するので,以下において判断 する。
(1) 業務妨害等の目的について
原告は,被告又はサクラグループは,原告がした繊研新聞の記事に係るハ ワード社に対する抗議行為に対する報復措置の一環として,原告のロゴとほ ぼ同一のロゴをあえて使用して,原告及びその取引先の業務を妨害するとと もに,原告のブランドにフリーライドするという不正の目的で,本件商標の 登録出願をしたものといえる,原告の上記抗議行為は正当なものであり,被 告らから報復措置を受けるいわれがないにもかかわらず,被告らが本件商標 を利用して,業務妨害行為及びフリーライド行為を行ったから,その不当性 は強度である旨主張する。 そこで検討するに,前記1の認定事実によれば,(1)原告と被告は,199 7年(平成9年)から,被告が,高島USAを通じて,「Goodwear」 の商標を付したティーシャツ(原告商品)を輸入し,日本国内で販売すると いう取引関係にあったところ,被告が1999年(平成11年)に原告商品 に係る商標権について調査した結果,原告が日本において「Goodwea r」の商標の商標登録を有しておらず,一方で,ビーグッド社が「good wear」又は「Good Wear」の欧文字を含むビーグッド社商標の 商標権を有していることが判明したことを契機として,原告及び被告がそれ ぞれビーグッド社との間でビーグッド社商標の譲渡交渉を行うようになった 後,被告がビーグッド社からビーグッド社商標の商標権の譲渡を受け,平成 12年1月6日にその移転登録が経由された後,被告が被告の販売する商品 にビーグッド社商標を使用するようになり,原告と被告との取引関係が解消 されたこと,(2)原告は,ビーグッド社商標の譲渡交渉中の平成11年7月2 日,「GoodwearUSA」の欧文字からなる商標について商標登録出願 をし,平成14年3月28日付けで,当該商標が商標法3条1項3号に該当 することを理由に拒絶査定を受けた後,平成15年4月4日,別紙2の構成\nからなる金色で縁取りをした赤色の「Goodwear」の欧文字,図形等 を含む原告登録商標の商標登録を受けたが,原告商品に使用されていた「G oodwear」の欧文字からなる商標(甲3の1)については,商標登録 出願をしなかったこと,(3)被告の関連会社のサクラグループが本件商標の商 標登録出願をしたのは,原告と被告の上記取引関係の解消から約12年を経 過した後の平成24年3月12日であること,(4)サクラグループ及びそのラ イセンシー又は被告は,本件商標の商標登録後,本件商標のうち,「Goo dwear」の欧文字部分を黒色から赤色とした商標をティーシャツ等に使 用するようになったものであり,上記商標は本件商標と社会通念上同一の商 標であると認められることからすると,被告及びサクラグループは,サクラ グループによる本件商標の登録出願時,原告との関係で,「Goodwea r」の欧文字を含む商標の商標登録出願を差し控えるべき信義則上の義務等 を負っていたものとまで認めることはできないし,一方で,サクラグループ 及びそのライセンシー又は被告は,本件商標の商標登録後,本件商標と社会 通念上同一の商標を実際に使用しているのであるから,サクラグループによ る本件商標の商標登録出願が原告及びその取引先の業務を妨害する目的や原 告のブランドにフリーライドする目的をもって行ったものと認めることはで きない。
もっとも,前記1の認定事実によれば,平成22年11月18日付けの繊 研新聞において,サクラグループの取引先のハワード社が米国のカジュアル ブランド「グッドウェア」のライセンス製造販売を始める旨の記事が掲載さ れたことについて,原告は,上記記事中の「米国のカジュアルブランド「グ ッドウェア」」は原告を意味するが,原告とハワード社とは取引も取引交渉 もなかったため,上記記事に誤りがあると考え,繊研新聞社に対して上記記 事の訂正を求めるとともに,原告の代理人弁護士を通じて,ハワード社に対 し,原告とサクラグループとの間には何らの契約関係もないことから,サク ラグループの商標権に基づくライセンスを受けても,原告商品との誤認,混 同を生ずるような商品の販売は許されない旨を通知したことに端を発し,被 告の代表取締役のAが原告代表\者に対して原告と被告との交渉が決裂した場 合には原告の代理人弁護士のハワード社への通知に対する「報復措置」を行 うこと及びその「報復措置」の具体例について言及したメールを送信した後, 被告が原告登録商標について商標法53条1項に基づく不正使用取消審判 (取消2011−300044号事件)及び同法51条1項に基づく不正使 用取消審判(取消2011−300162号事件)を請求するとともに,原 告の取引先に対し,原告登録商標を取り消す旨の審決が確定すれば,現在取 り扱っている商品の法的拠り所を喪失することになるなどと警告する旨の通 知をし,さらに,サクラグループは,赤色の「Goodwear」の欧文字 と「Massachusetts」の欧文字を含む商標,赤色の「Good wear」の欧文字と「Essex」の欧文字を含む商標及び本件商標の商 標登録出願をしたことが認められる。上記認定事実によれば,サクラグルー プによる本件商標の商標登録出願は,原告の代理人弁護士のハワード社への 通知に対する対抗措置の一環として行われた側面があるものと認められる。 しかしながら,上記(1)ないし(4)の事情に照らすと,このような側面がある からといって直ちにサクラグループによる本件商標の商標登録出願が原告及 びその取引先の業務の妨害や原告のブランドにフリーライドする目的をもっ て行ったものと認めることはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 不正の利益を得る目的について
原告は,原告が平成28年12月に本件商標について別件無効審判を請求 した後,被告らは,平成29年1月,原告に対し,本件商標を含むグッドウ ェア関連商標を譲渡する意向がある旨を告げるとともに,もし譲渡交渉が成 功すれば,訴訟や刑事告訴などといった原告と被告らとの間の将来の紛争を 回避できるであろうなどと述べた上で,120万米ドルの譲渡対価を要求し たことは,被告らが,原告が他社による保有を望まない商標(本件商標を含 む。)をあえて選択して商標登録出願をし,商標登録を受けた上で,自己に 有利な交渉材料として本件商標等を利用し,120万米ドルもの極めて高額 な譲渡対価を要求したことを示すこと,本件商標の出願時に原告と被告らと の間では鋭い対立関係があった事情にも鑑みると,被告らは,不正の利益を 得る目的で,本件商標の登録出願をしたものであり,その不当性は強度であ る旨主張する。
そこで検討するに,前記1(4)イ及びウ認定のとおり,被告の代表取締役の\nAは,原告が平成28年12月5日に本件商標について別件無効審判を請求 した後の平成29年1月31日,原告代表者に対し,「私たちは再び衝突し\nそうです。こちらとしては今回でこの一連の紛争を終結させたいと真に望ん でいるので,いったん衝突に至れば,こちらは勝つためにありとあらゆる手 段(訴訟,刑事告訴等を含みます。)をとらざるを得ません。一方で,紛争 には辟易しています。最近,私は,条件が満たされるならばこちらの商標を 誰かに近々譲渡しようかと考えています。そちらはこの譲渡の件に興味をお 持ちではないでしょうか? うまくいけば,私たちは衝突の繰り返しを回避 することができます。…私たちは円満な解決を望んでおります。」などと記 載したメールを送信し,さらに,同年2月6日,原告代表者に対し,「現段\n階での私の考える解決に関してですが,過去のことについては話し合う必要 はありません。話し合うべきことは,譲渡額のみです。私たちの提示額は, 私たちの5年間の利益に基づいて算出された120万米ドルです。あなたの お考えを聞かせてください。」などと記載したメールを送信したことが認め られる。
上記認定事実によれば,被告は,原告に対し,被告又はサクラグループが 保有する本件商標を含む「Goodwear」の欧文字を含む商標の商標権 を120万米ドルで譲渡する旨の提案をしたことが認められるが,一方で, (1)Aの上記各メールの文面によれば,120万米ドルの譲渡対価はあくまで も被告側の希望額の提示であるにすぎないこと,(2)本件においては,Aが上 記提案をした後,原告に対し,本件商標を含む「Goodwear」の欧文 字を含む商標の買取りを求める更なる要求をしたことをうかがわせる証拠は ないこと,(3)サクラグループ及びそのライセンシー又は被告は,本件商標の 商標登録後,本件商標と社会通念上同一の商標を実際に使用していること(前 記1(4)ア)に照らすと,Aが原告に対し上記提案をしたことから直ちにサク ラグループによる本件商標の商標登録出願が不正の利益を得る目的をもって 行ったものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 小括
以上のとおり,被告及びサクラグループは,原告及びその取引先の業務を 妨害し,本件商標の商標権を譲渡することにより不正の利益を得る目的で, 本件商標の登録出願をしたものと認めることはできないから,本件商標の出 願経緯等に,適正な商道徳に反し,社会通念に照らして著しく社会的相当性 を欠く事情があるとの原告の前記主張は,その前提を欠くものである。 したがって,本件商標は商標法4条1項7号に該当するものと認めること はできないから,これと同旨の本件審決の判断はその結論において誤りはな く,原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(理由不備の違法)について
(1) 原告は,本件審決は,本件商標の出願経緯等に不正の利益を得る目的その 他不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くもの があったものと認めることはできないとの結論を示すにとどまり,本件商標 の出願経緯等や出願目的に関する事実認定,法律を事実に適用した判断過程 を示しておらず,重要な争点について実質的な理由を欠いているから,本件 審決には,理由不備(商標法56条,特許法157条2項)の違法がある旨 主張する。
そこで検討するに,本件審決の審決書によれば,本件審決は,(1)原告提出 の全証拠によっても,本件商標の出願経緯等に不正の利益を得る目的その他 不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものが あったものと認めることはできないし,本件商標の登録後,被告が原告に対 して,何らの実質的損害がないにもかかわらず不当な要求をする警告書等を 送付したというような事実も見いだせず,原告主張のビーグッド社とのビー グッド社商標の譲渡交渉経緯や原告登録商標に対する被告による異議申立て\nや取消審判(商標法53条1項,同法51条1項,同法50条1項)等につ いては,いずれの商標も本件商標とは構成態様を異にするものであり,かつ,\n「Goodwear」の文字部分の識別力が弱いことも併せ考慮すれば,当 該経緯等が,本件の審理判断に影響を及ぼすものではないから,本件商標が 同法4条1項7号に該当するということはできない,(2)原告提出の証拠及び 主張を前提とすると,原告は,平成2年(1990年)頃の我が国への進出 にあたって,「Goodwear」の欧文字からなる商標を自ら登録出願す る機会は十分にあったというべきであり,また,平成11年(1999年)\n6月後半の時期においても,原告は,速やかに「Goodwear」の欧文 字からなる商標を登録出願することができたものであるところ,被告が,そ の時期に「Goodwear」の欧文字からなる商標の存在を認識していた ものであるとしても,商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者 同士の私的な問題として解決すべきであり,しかも,原告は,この時期にお いても被告に対し,原告の「Goodwear」関連の商標登録出願をしな いことや,出願をした場合には原告へ帰属させる旨の契約や交渉等ができた にもかかわらず,そのような措置を講じた事実は見いだせず,かつ,自ら登 録出願しなかった責めを被告に求めるべき格別な事情を見いだすこともでき ないことからすると,本件商標について,商標法の先願登録主義を上回るよ うな,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあるというこ とはできないし,そのような場合には,あくまでも,当事者間の私的な問題 として解決すべきであるから,公の秩序又は善良の風俗を害するというよう な事情があるということはできず,本件商標は,同号に該当しない旨判断し たことが認められる。

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平成31(ネ)10003  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年2月28日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 特別部、いわゆる大合議の判断です。102条1項但し書きについて、販売に寄与した割合(寄与度)ではなく、利益に貢献した割合を考慮するとしました。
「本件発明2が原告製品の販売による利益に貢献している程度を考慮して,原 告製品の限界利益の全額から6割を控除し,また,被告製品の販売数量に上記の原 告製品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た一審原告の受けた損害額から,特 許法102条1項ただし書により5割を控除するのが相当である。」
 知財高裁は、最近、寄与度という用語を使用しないという傾向を打ち出しています。特別部として明確化したということでしょうか。

 特許法102条1項は,民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損 害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり,特許法102条 1項本文において,侵害者の譲渡した物の数量に特許権者又は専用実施権者(以下 「特許権者等」という。)がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位 数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者等の実施の能力の限度で損害額とし,同項ただし書において,譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは,当該事情に相当する\n数量に応じた額を控除するものと規定して,侵害行為と相当因果関係のある販売減 少数量の立証責任の転換を図ることにより,より柔軟な販売減少数量の認定を目的 とする規定である。 特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば,特許権者等が「侵害行為が なければ販売することができた物」とは,侵害行為によってその販売数量に影響を 受ける特許権者等の製品,すなわち,侵害品と市場において競合関係に立つ特許権 者等の製品であれば足りると解すべきである。 また,「単位数量当たりの利益の額」は,特許権者等の製品の売上高から特許権者 等において上記製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的 に必要となった経費を控除した額(限界利益の額)であり,その主張立証責任は, 特許権者等の実施の能力を含め特許権者側にあるものと解すべきである。さらに,特許法102条1項ただし書の規定する譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が「販売することができないとする事情」については,侵害\n者が主張立証責任を負い,このような事情の存在が主張立証されたときに,当該事 情に相当する数量に応じた額を控除するものである。
(2) 侵害の行為を組成した物の譲渡数量
ア 前記3ないし5のとおり,被告製品の譲渡行為は,本件特許権2を侵害 するものであり,被告製品は「侵害の行為を組成した物」に該当する。 イ 一審原告が本件訴訟において損害賠償請求をしている不法行為の期間で ある平成27年12月4日から平成29年5月8日までの期間(以下「本件侵害期 間」という。)の被告製品の譲渡数量は下記のとおりであり,被告は総計35万17 24個,月平均2万0690個程度の被告製品を譲渡したことになる(争いがない。)。
被告製品1(DR−250A) 7万1077個
被告製品2(DR−250C) 14万1135個
被告製品3(FS−800) 1万5114個
被告製品4(DR−250P) 8万2584個
被告製品5(DR−250G) 1万8526個
被告製品6(DR―250SW) 8263個
被告製品7(JDR−300) 416個
被告製品8(DR−260BK) 6088個
被告製品9(DR−260C) 8521個
ウ 被告製品は,ディスカウントストアや雑貨店に卸売販売されることが中 心であり,一審被告作成の文書では1万5000円(税抜)の価格表示がされているものが多いが(甲7〜13),実際には,3000円ないし5000円程度の価格で販売されている(乙85〜93)。\n被告製品は,ゲルマニウムの粒を使用したゲルマミラーボールと説明されている が,後記の原告製品のように微弱電流(マイクロカレント)を発生する機構は有していない(甲7〜13)。
(3) 侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額
ア 侵害行為がなければ販売することができた物
前記(1)のとおり,「侵害行為がなければ販売することができた物」とは,侵害行 為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品,すなわち,侵害品と市 場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる。一審原告は,本件発 明2の実施品として,「ReFa CARAT(リファ カラット)」という名称の 美容器(以下「原告製品」という。)を,平成21年2月以降販売しており(甲23, 24,弁論の全趣旨),原告製品は,「侵害行為がなければ販売することができた物」 に当たることは明らかである。 原告製品は,ローラの表面にプラチナムコートが施され,支持軸に回転可能\に支 持された一対のローリング部を肌に押し付けて回転させることにより,肌を摘み上 げ,肌に対して美容的作用を付与しようとする美容器(弁論の全趣旨)であり,搭 載されたソーラーパネルにより,微弱電流(マイクロカレント)を発生する機構\を 有している(甲23)。 原告製品は,原告の店舗,大手通販業者,百貨店,家電量販店で販売され,希望 小売価格である2万3800円(税抜)又はこれに近い価格で販売されている(甲 23,乙94〜108)。 一審原告は,平成27年10月から平成29年8月までの間に,125万641 0個の原告製品を販売しており(月平均5万4626個〔1個未満切り捨て〕),最 も少ない月(平成28年1月)でも1万8770個,最も多い月(平成28年12 月)には8万5492個を販売した(甲38)。
イ 単位数量当たりの利益の額の意義
前記(1)のとおり,特許法102条1項所定の「単位数量当たりの利益の額」は, 特許権者等の製品の売上高から,特許権者等において上記製品を製造販売すること によりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益 の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。
ウ 原告製品の限界利益の額
(ア) 売上高及び製造原価
平成27年10月から平成29年8月までの間の原告製品の販売数量は125万 6410個,売上高は合計132億4606万1089円であり,製造原価は●● ●●●●●●●●●●●である(甲38,39)。
(イ) 製造原価以外の控除すべき費用
a 前記(ア)の期間における一審原告の全製品の売上高は合計671億0 968万1552円であり(甲40),一審原告の全製品に対する原告製品の売上比 率は19.74%となる(132億4606万1089円÷671億0968万1 552円≒0.1974)。
b また,前記(ア)の期間における原告製品が含まれる「ReFa」ブラ ンドの製品全体の売上高が342億0958万6196円であり(甲28),同売上 に占める原告製品の売上比率は38.72%となる(132億4606万1089 円÷342億0958万6196円≒0.3872)。
c 前記(ア)の期間における原告製品の製造販売に直接関連して追加的に 必要となった費用は,前記(ア)の製造原価のほか,後記(1)〜(9)のとおりであり,その 額は,(1),(3),(4),(6)〜(9)については,一審原告の全製品について生じた各費用(甲 40)に前記aの比率を乗じた額であり,(2)及び(5)については,「ReFa」ブラン ドの製品について生じた各費用(甲32,33)に前記bの比率を乗じた額である
(1円未満切り捨て)。
(1) 販売手数料 ●●●●●●●●●●●●
(2) 販売促進費 2億5798万4777円
(3) ポイント引当金 741万7870円
(4) 見本品費 5343万9379円
(5) 宣伝広告費 5億2075万3024円
(6) 荷造運賃 4億5578万0084円
(7) クレーム処理費 6548万5934円
(8) 製品保証引当金繰入 590万2260円
(9) 市場調査費 1038万5182円
(1)から(9)までの合計額 ●●●●●●●●●●●●●
d 一審被告は,原告製品の売上高から,一審原告の全ての費用を,原 告製品の売上比率に従って控除すべきであると主張する。
しかし,前記(1)のとおり,特許法102条1項は,民法709条に基づき販売数 量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規 定であり,侵害者の譲渡した物の数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売 することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を上記の損害額としたも のである。このように,同項の損害額は,侵害行為がなければ特許権者等が販売で きた特許権者等の製品についての逸失利益であるから,同項の「単位数量当たりの 利益の額」を算定するに当たっては,特許権者等の製品の製造販売のために直接関 連しない費用を売上高から控除するのは相当ではなく,管理部門の人件費や交通・ 通信費などが,通常,これに当たる。また,一審原告は,既に,原告製品を製造販 売しており,そのために必要な既に支出した費用(例えば,当該製品を製造するた めに必要な機器や設備に要する費用で既に支出したもの)も,売上高から控除する のは相当ではないというべきである。 一審被告が,売上高から控除すべきであると主張する上記費用のうち,前記cの (1)〜(9)の費用以外の費用は,全て上記の売上高から控除するのが相当ではない費用 に当たるというべきであるから,一審被告の上記主張は理由がない。
(ウ) 原告製品の限界利益の額は,原告製品の前記(ア)の売上高から前記(ア) の製造原価と前記(イ)cの各費用の合計額を控除した69億6809万2706円で あり,これを,前記(ア)の期間における原告製品の販売数量125万6410個で除 すると5546円(69億6809万2706円÷125万6410個≒5546. 03円。1円未満切り捨て)となる。
(エ) 前記第2の2で認定した本件発明2の特許請求の範囲の記載及び前記 1で認定した本件明細書2の記載からすると,本件発明2は,回転体,支持軸,軸 受け部材,ハンドル等の部材から構成される美容器の発明であるが,軸受け部材と回転体の内周面の形状に特徴のある発明であると認められる(以下,この部分を「本件特徴部分」という。)。\n原告製品は,前記アのとおり,支持軸に回転可能に支持された一対のローリング部を肌に押し付けて回転させることにより,肌を摘み上げ,肌に対して美容的作用を付与しようとする美容器であるから,本件特徴部分は,原告製品の一部分である\nにすぎない。 ところで,本件のように,特許発明を実施した特許権者の製品において,特許発 明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても,特許権者の製品の販売によ って得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定される というべきである。 そして,原告製品にとっては,ローリング部の良好な回転を実現することも重要 であり,そのために必要な部材である本件特徴部分すなわち軸受け部材と回転体の 内周面の形状も,原告製品の販売による利益に相応に貢献しているものといえる。 しかし,上記のとおり,原告製品は,一対のローリング部を皮膚に押し付けて回 転させることにより,皮膚を摘み上げて美容的作用を付与するという美容器である から,原告製品のうち大きな顧客誘引力を有する部分は,ローリング部の構成であるものと認められ,また,前記アのとおり,原告製品は,ソ\ーラーパネルを備え,微弱電流を発生させており,これにより,顧客誘引力を高めているものと認められ る。これらの事情からすると,本件特徴部分が原告製品の販売による利益の全てに 貢献しているとはいえないから,原告製品の販売によって得られる限界利益の全額 を原告の逸失利益と認めるのは相当でなく,したがって,原告製品においては,上 記の事実上の推定が一部覆滅されるというべきである。 そして,上記で判示した本件特徴部分の原告製品における位置付け,原告製品が 本件特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力など本件に現れた事情を総合 考慮すると,同覆滅がされる程度は,全体の約6割であると認めるのが相当である。 この点に関し,一審被告は,原告製品全体の製造費用に占める軸受けの製造費用 の割合を貢献の程度とすべき旨主張するが,上記の推定覆滅は,原告製品の販売に よる利益に対する本件特徴部分の貢献の程度に着目してされるものであり,当該部 分の製造費用の割合のみによってされるべきものではない。また,一審被告は,原 告製品においては,ローラの抜落の防止機能が不十\分であるから,軸受けの貢献度 は低い旨主張するが,一審被告が根拠とする乙138(原告製品に関するブログの 記載)から,原告製品においてローラの抜落の防止機能が不十\分であると認めるこ とはできず,他に同事実を認めるに足りる証拠はない。よって,上記主張はいずれ も採用できない。 以上より,原告製品の「単位数量当たりの利益の額」の算定に当たっては,原告 製品全体の限界利益の額である5546円から,その約6割を控除するのが相当で あり,原告製品の単位数量当たりの利益の額は,2218円(5546円×0.4 ≒2218円)となる。
(4) 実施の能力に応じた額
特許法102条1項は,前記(1)のとおり,侵害者の譲渡数量に特許権者等の製品 の単位数量当たりの利益の額を乗じた額の全額を特許権者等の受けた損害の額とす るのではなく,特許権者等の実施の能力に応じた額を超えない限度という制約を設けているところ,この「実施の能\力」は,潜在的な能力で足り,生産委託等の方法により,侵害品の販売数量に対応する数量の製品を供給することが可能\な場合も実施の能力があるものと解すべきであり,その主張立証責任は特許権者側にある。そして,前記(3)アのとおり,一審原告は,毎月の平均販売個数に対し,約3万個 の余剰製品供給能力を有していたと推認できるのであるから,この余剰能\力の範囲 内で月に平均2万個程度の数量の原告製品を追加して販売する能力を有していたと認めるのが相当である。したがって,一審原告は,一審被告が本件侵害期間中に販売した被告製品の数量\nの原告製品を販売する能力を有していたと認められる。
(5) 一審原告が販売することができないとする事情
ア 前記(1)のとおり,特許法102条1項ただし書は,侵害品の譲渡数量の 全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情(以 下「販売できない事情」という。)があるときは,販売できない事情に相当する数量 に応じた額を控除するものとすると規定しており,侵害者が,販売できない事情と して認められる各種の事情及び同事情に相当する数量に応じた額を主張立証した場 合には,同項本文により認定された損害額から上記数量に応じた額が控除される。 そして,「販売することができないとする事情」は,侵害行為と特許権者等の製品 の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい,例えば,(1)特許権者と侵害者 の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場における競合 品の存在,(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品及び特許権者の 製品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの 事情がこれに該当するというべきである。
イ 以下,一審被告が販売できない事情として主張する事情について検討す る。
(ア) 一審被告は,原告製品と被告製品の価格の差異や販売店舗の差異を, 販売できない事情として主張する。
a 本件においては,前記(2)ウ,(3)アのとおり,原告製品は,大手通 販業者や百貨店において,2万3800円又はこれに近い価格で販売されているの に対し,被告製品はディスカウントストアや雑貨店において,3000円ないし5 000円程度の価格で販売されているが,このように,原告製品は,比較的高額な 美容器であるのに対し,被告製品は,原告製品の価格の8分の1ないし5分の1程 度の廉価で販売されていることからすると,被告製品を購入した者は,被告製品が 存在しなかった場合には,原告製品を購入するとは必ずしもいえないというべきで ある。したがって,上記の販売価格の差異は,販売できない事情と認めることがで きる。 そして,原告製品及び被告製品の上記の価格差は小さいとはいえないことからす ると,同事情の存在による販売できない事情に相当する数量は小さくはないものと 認められる。 一方で,上記両製品は美容器であるところ,美容器という商品の性質からすると, その需要者の中には,価格を重視せず,安価な商品がある場合は同商品を購入する が,安価な商品がない場合は,高価な商品を購入するという者も少なからず存在す るものと推認できるというべきである。また,前記(3)アのとおり,原告製品は,ロ ーラの表面にプラチナムコートが施され,ソ\ーラーパネルが搭載されて,微弱電流 を発生させるものであるから,これらの装備のない被告製品に比べてその品質は高 いということができ,したがって,原告製品は,その販売価格が約2万4000円 であるとしても,3000円ないし5000円程度の販売価格の被告製品の需要者 の一定数を取り込むことは可能であるというべきである。以上からすると,原告製品及び被告製品の上記価格差の存在による販売できない事情に相当する数量がかなりの数量になるとは認められない。\n
b このように,原告製品と被告製品との価格の差異は,需要者の購入 動機に影響を与えているといえるが,大手通販業者や百貨店において商品を購入す る者がディスカウントストアや雑貨店において商品を購入しないというような経験 則があるとは認め難いから,価格の差を離れて,原告製品と被告製品の上記販売態 様の差異が,需要者の購入動機に影響を与えているとは認められず,販売態様の差 異は,販売できない事情として認めることはできないというべきである。
(イ) 一審被告は,競合品が多数存在することを,販売できない事情として 主張する。
平成31年4月の時点で,原告製品と被告製品の同種の製品として,少なくとも 29種類の製品が販売されていることが認められる(乙176,弁論の全趣旨)が, 本件証拠上,本件侵害期間(平成27年12月4日ないし平成29年5月8日)に, 市場において,原告製品と競合関係に立つ製品が販売されていたと認めるに足りな いから,この点を,販売できない事情と認めることはできない。
(ウ) 一審被告は,本件発明2は軸受けについての発明であるところ,被告 製品における軸受けの製造費用は全体の製造費用の僅かな部分を占めるにすぎず, 軸受けは付属品に類するものであることを販売できない事情として主張する。 しかし,本件発明2が美容器の一部に特徴のある発明であるという事情は,既に 原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たって考慮しているのであるから, 重ねて,これを販売できない事情として考慮する必要はないというべきである。
(エ) 一審被告は,軸受けの部分は外見上認識することができず,代替技術 が存することなどを販売できない事情として主張する。 しかし,一審被告の主張する上記の事情は,被告製品及び原告製品のいずれにも 当てはまるものであるから,同事情の存在によって,被告製品がなかった場合に, 被告製品に対する需要が原告製品に向かわなくなるということはできず,したがっ て,これらの事情を販売できない事情と認めることはできない。
(オ) 一審被告は,原告製品は,微弱電流を発生する機構を有しているが,被告製品はそのような機構\を有していないことを販売できない事情として主張する。確かに,前記(3)アのとおり,原告製品は,微弱電流を発生する機構を有しており,一方で,被告製品はそのような機構\を有していないが,このことは,被告製品は,原告製品に比べ顧客誘引力が劣ることを意味するから,被告製品が存在しなかった 場合に,その需要が原告製品に向かうことを妨げる事情とはいい難い。したがって, 上記の点は,販売できない事情と認めることはできない。
(カ) 一審被告は,一審被告の営業努力を,販売できない事情として主張す るが,本件証拠上,一審被告に,販売できない事情と認めるに足りる程度の営業努 力があったとは認められない。
ウ 以上によれば,本件においては,前記イ(ア)aで判示した事情を考慮する と,この販売できない事情に相当する数量は,全体の約5割であると認めるのが相 当である。
(6) 本件発明2の寄与度を考慮した損害額の減額の可否について 前記(3)及び(5)のとおり,原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たっ ては,本件発明2が原告製品の販売による利益に貢献している程度を考慮して,原 告製品の限界利益の全額から6割を控除し,また,被告製品の販売数量に上記の原 告製品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た一審原告の受けた損害額から,特 許法102条1項ただし書により5割を控除するのが相当である。仮に,一審被告 の主張が,これらの控除とは別に,本件発明2が被告製品の販売に寄与した割合を 考慮して損害額を減額すべきであるとの趣旨であるとしても,これを認める規定は なく,また,これを認める根拠はないから,そのような寄与度の考慮による減額を 認めることはできない。
(7) 損害額の算定
以上からすると,特許法102条1項による一審原告の損害額は,被告製品の譲 渡数量35万1724個のうち,約5割については販売することができないとする 事情があるからその分を控除し,控除後の販売数量を原告製品の単位数量当たりの 利益額2218円に乗じることで,3億9006万円(2218円×35万172 4個×0.5≒3億9006万円)となる。 また,一審被告による本件特許権2の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用 は,認容額,本件訴訟の難易度及び一審原告の差止請求が認容されていることを考 慮して,5000万円と認めるのが相当である。 したがって,一審原告の損害額は,合計で4億4006万円となる。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成28(ワ)5345
本件発明2の技術の利用が被告製品の販売に寄与した度合いは高くなく,上記事情を総合すると,その寄与率は10%と認めるのが相当である。
・・・
上記アないしオで検討したところによれば,特許法102条1項による原告の損 害額は,被告製品の譲渡数量35万1724個のうち,5割については販売するこ とができないとする事情があるから控除し,これに原告製品の単位数量当たりの利 益額●(省略)●円及び本件特許2の寄与率10%を乗じることで,・・・

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平成31(行ケ)10025 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月19日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反の無効理由ありとした審決が取り消されました。審決は「水素水を過飽和の状態とし,かつ,これを安定に維持することができない例が含まれる」と判断していましたが、裁判所は、技術常識から明らかと審決を取り消しました。

 本件審決は,本件明細書の記載から,本件特許発明1ないし4の課題は「気 体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持」する ことであり,当該課題を「降圧移送手段を設け,かつ液体にかかる圧力を調整 す」ることにより,解決できることが理解できるが,一方で,0.8mより長 い細管には,水素水を過飽和の状態とし,かつ,これを安定に維持することが できない例が含まれることは当業者であれば十分に認識しうる事項であるから,過飽和の状態が安定に維持できると認めることができない数値範囲が含まれて\nいる本件特許発明1ないし4は,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題 を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した 範囲を超えて特許を請求するものであり,サポート要件に適合しない旨判断し たが,原告は,本件審決の上記判断は誤りである旨主張するので,以下におい て判断する。
・・・
前記1の本件明細書の記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明に は,(1)「本発明」の気体溶解装置1は,気体を発生させる気体発生手段2 と,この気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解手段3と,気体 を溶解している液体を溶存及び貯留する溶存槽4と,この液体が細管5a を流れることで降圧する降圧移送手段5とを備えること(【0029】, 図1),「本発明の気体溶解方法は,水に水素を溶解させて水素水を生成 し取出口から吐出させる気体溶解方法であって,生成した水素水を導いて 加圧貯留する溶存槽と,前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路と, を少なくとも含む気体溶解装置において,前記取出口からの水素水の吐出 動作による前記管状路内の圧力変動を防止し前記管状路内に層流を形成さ せることを特徴とする」こと(【0023】),(2)「加圧型気体溶解手段」 に関し,「電気分解により発生した水素」は「加圧型気体溶解手段」によ り「加圧されることで,液体吸入口7から吸入した水に加圧溶解」され, 「水素を加圧溶解した水」は,「加圧型気体溶解手段」の吐出口9から吐 出され,溶存槽4に「過飽和の状態」で溶存されること(【0034】), 「20度Cにおける加圧型気体溶解手段3の圧力Yとしては,0.10〜1. 0MPaであることが好ましく,0.15〜0.65MPaであることが より好ましく,0.20〜0.55MPaであることがさらにより好まし く,0.23〜0.50MPaであることが最も好ましい。圧力をかかる 範囲とすることで,気体を液体中に容易に溶解できる」こと(【0036】), (3)「降圧移送手段」に関し,「降圧移送手段5は,溶存槽4及び取出口1 0を接続する管状路5aにおいて,取出口10からの水素水の吐出動作に よる管状路5a内の圧力変動を防止しこの中に層流を形成させる。例えば, 降圧移送手段5の管状路5aは,内部を流れる液体の圧力にもよるが比較 的長尺であり径の小さいことが好まし」いこと(【0030】),「溶存 槽4に溶存された液体は,降圧移送手段5である細管5a内で層流状態を 維持して流れることで降圧され(S6),水素水吐出口10から外部へ吐 出される(S7)」こと(【0034】),「降圧移送手段5である細管 5aの内径Xが,1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましく, 1.0mmより大きく3.0mm以下であることがより好ましく,2.0 mm以上3.0mm以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで, 特開平8−89771号公報記載の技術のように,降圧するために10本 以上の細管を設置する必要が無く,細管5aを1本有することで降圧する ことができるとともに,管内に層流を形成し得る」こと(【0035】), (4)「細管」の内径X及び長さL,「加圧型気体溶解手段」の圧力Yと「層 流」との関係に関し,「細管5aの内径をXmmとし,加圧型気体溶解手 段3により加えられる圧力をYMPaとしたときに,細管5a内に層流を 形成させるようなものであって,X/Yの値が,1.00〜12.00で あることを特徴とするものであり,さらに,X/Yの値が,3.30〜1 0.0であることが好ましく,4.00〜6.67であることがより好ま しい。気体を過飽和で溶存させている液体が,かかる条件で細管5a中を 層流状態で流れて降圧移送されることで,気体を過飽和の状態で液体に溶 解させ,さらに過飽和の状態を安定に維持し移送することができる」こと (【0031】),「上記発明において,前記管状路の内径及び長さをそ れぞれX,Lとし,前記加圧型気体溶解手段に加えられている圧力をYと したときに,前記管状路内の水素水に層流を形成させるようX,Y及びL の値が選択されていることを特徴としてもよい」こと(【0020】)の 記載がある。上記記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本 発明」の気体溶解装置は,「加圧型気体溶解手段」により水素を「過飽和 の状態」で液体に溶解させて水素水を生成し,この水素水が「降圧移送手 段」である管状路内で層流状態を維持して流れることで降圧され,「過飽 和の状態」を維持して水素水吐出口10に移送する構成を採用し,これにより「気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定\nに維持」するという「本発明」の課題を解決できることの開示があるもの と認められる。
ここに「過飽和」とは,「気体の液体への溶解度は温度により異なるが, ある温度A(度C)における気体の液体への溶解量が,その温度A(℃)に おける溶解度より多く存在している状態を示す。」こと(本件明細書の【0 031】),「層流」とは,一般に,速度の方向がそろった規則的な流れ であって,流速が十分遅いときに実現するものであること(甲39の1)をいう。また,細管の内径X及び長さL,加圧型気体溶解手段の圧力Yと\nいう変数に関し,L及びYの2つの変数の値が同じであれば,細管の内径 Xの値が大きいほど,細管内を流れる液体の流速が遅くなり得ること,加 圧型気体溶解手段の圧力Yの値が大きければ,気体を液体に多く溶解させ ることができるが,細管内を流れる液体の流速は速くなり得ること,細管 の長さLの値が大きければ,細管内壁の抵抗により細管内を流れる液体の 流速が遅くなり得ることは,技術常識であるものと認められる。
イ 前記アのとおり,本件明細書には,「上記発明において,前記管状路の 内径及び長さをそれぞれX,Lとし,前記加圧型気体溶解手段に加えられ ている圧力をYとしたときに,前記管状路内の水素水に層流を形成させる ようX,Y及びLの値が選択されていることを特徴としてもよい」(【0 020】)との記載があるが,水素水に層流を形成させるようにするには X,Y及びLの値をどのように選択されるのかについての明示的な記載は ない。 そこで,本件明細書記載の実施例1ないし13及び比較例1及び2に基 づいて,以下において検討する。なお,別紙2は,実施例1ないし13及 び比較例1及び2を一覧表にまとめたものである。
(ア) まず,実施例1ないし3(【0053】ないし【0055】)を比 較すると,別紙2のとおり,3つの実施例で細管の内径Xの値は2mm, 長さLの値は1.6m及び水素水の流量の値は730cm3/minと同 じであるところ,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値は,実施例1は0. 41Mpa,実施例2は0.25Mpa,実施例3は0.30Mpaで ある。加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が最も大きい実施例1の水素濃 度は6.5ppmと最も大きく,圧力Yの値が最も小さい実施例2の水 素濃度の値は2.6ppmと最も小さく,両実施例の差は3.9ppm である。 このような実施例1ないし3の比較の結果は,前記アの技術常識に照 らすと,細管の内径X及び長さLと水素水の流量の各値が同じであれば, 加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が大きいほど,水素が水に多く溶け込 むため,生成時における水素濃度の値が大きくなる結果,測定時におけ る水素濃度の値も大きくなっているものと理解できる。
(イ) 次に,実施例5(【0057】)と実施例7(【0059】)を比 較すると,別紙2のとおり,両実施例で細管の内径Xの値は2mm及び 水素水の流量の値は560cm3/minと同じであるが,加圧型気体溶 解手段の圧力Yの値は,実施例5が0.38Mpa,実施例7が0.4 5Mpaで,実施例7は実施例5の約1.18倍であり,また,細管の 長さLの値は,実施例5が1.6m,実施例7が1.8mで,実施例7 は実施例5の約1.13倍である。水素濃度の値は,実施例5が3.8 ppm,実施例7が4.5ppmであり,両実施例の水素濃度の差は0. 7ppmであり,実施例2と実施例3との水素濃度の差3.9ppmと 比べると,その差はわずかである。このような実施例5と実施例7の比 較の結果は,細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合に おいて,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値と細管の長さの値をそれぞれ おおむね同じ割合で増加させたときは,増加の前後で,水素濃度はおお むね同じであり,水素濃度が高まらないことを示している。 また,実施例10(【0062】)と実施例11(【0063】)を 比較すると,別紙2のとおり,両実施例で細管の内径Xの値は2mm, 水素水の流量の値は550cm3/minと同じであるが,加圧型気体溶 解手段の圧力Yの値は,実施例10が0.20Mpa,実施例11が0. 50Mpaで,実施例11が実施例10の2.5倍であり,細管の長さ Lの値は,実施例10が1.4m,実施例11が3mで,実施例11は 実施例10の約2.14倍である。水素濃度の値は,実施例10が2. 7ppm,実施例11が2.4ppmであり,実施例10が実施例11 よりも0.3ppm高いが,実施例2と実施例3との水素濃度の差3. 9ppmと比べると,その差はわずかである。このような実施例10と 実施例11の比較の結果は,実施例5と実施例7の比較の結果と同様に, 細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合において,加圧 型気体溶解手段の圧力Yの値と細管の長さの値をそれぞれおおむね同じ 割合で増加させたときは,増加の前後で,水素濃度はおおむね同じであ り,水素濃度が高まらないことを示している。 これらの実施例の比較の結果及び前記(ア)の実施例1ないし3の比較 の結果と前記アの技術常識から,細管の内径X及び水素水の流量の各値 が同じである場合に,水素濃度の値を高めるには,加圧型気体溶解手段 の圧力Yの値の増加割合が細管の長さLの値の増加割合よりも大きくな るように各値を選択すればよいことを理解できる。
(ウ) 他方,比較例1及び2については,別紙2のとおり,比較例1は, 細管の内径Xの値が2mm,細管の長さLの値が0.4m,加圧型気体 溶解手段の圧力Yの値が0.05MPa,水素水の流量の値が960c m3/min,水素濃度の値が1.6ppm,比較例2は,細管の内径 Xの値が3mm,細管の長さLの値が0.8m,加圧型気体溶解手段の 圧力Yの値が0.08MPa,水素水の流量の値が900cm3/mi n,水素濃度の値が1.8ppmであって,いずれも過飽和の状態を維 持できなかったものであるところ(【0066】,【0067】),比 較例1及び2は,圧力Yの値が0.05又は0.08MPaであって, 実施例1ないし13における圧力Yの値(0.20ないし0.60MP a)と比べて相当小さかったため,そもそも,加圧型気体溶解手段によ って水素水生成時に過飽和の状態の水素水を得ることができなかったこ とによる可能性もあるものと理解できる。
ウ 前記ア及びイを総合すると,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明 の記載及び技術常識から,本件特許発明1の気体溶解装置は,水に水素を 溶解させて水素水を生成し,取出口から吐出させる装置であって,気体を 発生させる気体発生手段と,この気体を加圧して液体に溶解させる加圧型 気体溶解手段と,気体を溶解している液体を導いて溶存及び貯留する溶存 槽と,この液体が細管からなる管状路を流れることで降圧する降圧移送手 段とを備え,降圧移送手段により取出口からの水素水の吐出動作による管 状路内の圧力変動を防止し,管状路内に層流を形成させることに特徴があ る装置であり,一方,必ずしも厳密な数値的な制御を行うことに特徴があ るものではないと理解し,例えば,細管の内径(X)が1.0mmより大 きく3.0mm以下で,かつ,細管の長さ(L)の値が0.8mより大き く1.4mより小さい数値範囲のときであっても,「細管の内径X及び水 素水の流量の各値が同じである場合に水素濃度の値を高めるには,加圧型 気体溶解手段の圧力Yの値を大きくすればよく,この場合に加圧型気体溶 解手段の圧力Y及び細管の長さLの値をいずれも大きくして,水素濃度の 値を高めるには,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値の増加割合が細管の長 さLの値の増加割合よりも大きくなるように各値を選択すればよいこと」 (前記イ)を勘案し,細管からなる管状路内の水素水に層流を形成させる ようX,Y及びLの値を選択することにより,「気体を過飽和の状態に液 体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持」するという本件特許発 明1の課題を解決できると認識できるものと認められる。
エ これに対し被告は,(1)当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載 及び技術常識から,細管の長さの値が0.8mより大きく1.4mより小 さい場合に,過飽和の状態を安定に維持するとの発明の課題を解決できる と認識することはできないから,本件特許発明1は,サポート要件に適合 しない,(2)過飽和の状態が維持される条件として,降圧移送手段の管状路 (細管5a)の内径や長さのみならず,細管5aの材料,加圧型気体溶解 手段3により加えられる圧力,水素発生量,水の流量等の条件は,過飽和 の状態を安定に維持するという本件特許発明1の課題の解決に不可欠であ るにもかかわらず,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1にはそれらの 条件が記載されていないため,当業者は,細管の内径X及び長さがそれぞ れ本件特許発明1に規定された範囲内であれば,本件特許発明1の上記課 題を解決できると認識することはできないから,この点からも,本件特許 発明1は,サポート要件に適合しない旨主張する。
しかしながら,前記ウ認定のとおり,本件特許発明1において細管の長 さの値が0.8mより大きく1.4mより小さい場合においても,本件明 細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて,当業者が,本件 特許発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから,被告 の上記主張は,いずれも理由がない。

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平成31(行ケ)10038  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月19日  知的財産高等裁判所

  CS関連発明について、進歩性無効理由無しとした審決が維持されました。原告FC2、被告ドワンゴです。

 以上によると,甲2及び3から共通して把握できる技術は,「テレビ放 送の受像機において,メインのテレビ放送の映像とともに,文字放送を受信して文 字放送の文字をプログラム制御によりスクロール表示する際に,メインのテレビ放\n送の映像に文字が含まれている場合,メインのテレビ放送の映像の文字と重ならな いように文字放送の文字の表示位置を変更してスクロール表\示する技術」であり, 甲19及び25から共通して把握できる技術は,「FlashのActionSc riptのhitTestを用いることにより,ムービークリップの領域判定を行 う技術」である。 このように,甲2及び3から把握できる技術と,甲19及び25から把握できる 技術は共通するものではないから,甲2,3,19及び25に共通する慣用技術を 把握することはできない。
カ 原告は,甲1発明と甲2等技術は,プログラミングという技術分野に属 するとともに,動画と文字情報とを配信するという技術分野に属することで共通す るため,甲1発明に甲2等技術を適用する動機付けがあると主張する。 甲1発明は,ライブ映像とライブ閲覧者からのコミュニケーション情報(例えば, チャット〔テキスト文による情報〕)とを一つの画面でリアルタイムで同期表示する\n機能を有するライブ配信サーバ(構\成1a)と,クライアントであるライブ閲覧者 の複数のライブ閲覧者端末(構成1b)とが,通信ネットワークを介して接続され\nて構成されるライブ配信システム(構\成1c)に関する発明である。そして,甲1 発明の前記ライブ閲覧者端末が再生するマルチメディアコンテンツは,「ライブ映 像データ」であり(構成1a,構\成1a2,構成1a5,構\成1b4),前記ライブ 閲覧者端末が表示する複数のチャット文は,ライブ閲覧者が入力した「テキスト文\nによる情報」(構成1a,構\成1a5,構成1b5)である。\n他方,甲2及び3に記載された技術事項は,上記オ(オ)のとおり,テレビ放送の受 像機において,メインのテレビ放送の映像とともに,文字放送を受信して文字放送 の文字をプログラム制御によりスクロール表示する際に,メインのテレビ放送の映\n像に文字が含まれている場合,メインのテレビ放送の映像の文字と重ならないよう に文字放送の文字の表示位置を変更してスクロール表\示する技術である。 そうすると,甲1発明は,ライブ配信サーバとライブ閲覧者端末とが通信ネット ワークを介して接続されて構成されるライブ配信システムに関する発明であるのに\n対して,甲2及び3に記載された技術事項は,テレビの文字放送の受信機の技術で あるから,両者は,その前提となるシステムが異なる。 また,甲1発明と甲2及び3に記載された技術事項とは,文字を表示する点では\n共通するものの,表示される文字は,甲1発明では,ライブ閲覧者が入力するチャ\nット文であるのに対し,甲2及び3に記載された技術事項は,メインのテレビ放送 の映像に含まれる文字と文字放送の文字であるから,対象とする文字が異なる。 したがって,甲1発明と甲2及び3に記載された技術とは,技術が大きく異なる といえるのであり,プログラミングに関するものであることや動画と文字情報を配 信するものであるということ,文字と文字の重なり合いが生じないようにする技術 であることだけでは,甲1発明に甲2及び3に記載された技術を適用する動機付け があると認めることはできないから甲1発明に甲2及び3に記載された技術を適用 して本件特許発明1を容易に発明することができたとはいえない。 また,甲19及び25には,文字列情報の表示位置の制御については何ら開示さ\nれていないから,甲1発明に甲19及び25に記載された技術を適用して本件特許 発明1を容易に発明することができたとはいえない。
キ 原告は,甲1発明と甲2等技術は,視認性の低下という課題が共通する と主張するが,前記のとおり,甲1発明は視認性の低下という課題を有しないため, 甲1発明と甲2等技術が課題において共通するとは認められない。
ク 以上によると,その余の点を判断するまでもなく,甲1発明に甲2等技 術を適用して本件特許発明1を容易に発明をすることができたと認められないから, 本件審決の判断に誤りはない。

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平成31(行ケ)10039  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月19日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性無効理由無しとした審決が維持されました。原告FC2、被告ドワンゴです。

 上記(1)によると,本件特許発明は,「放送されたテレビ番組などの動画に 対してユーザが発言したコメントをその動画と併せて表示するシステム」という背\n景技術を前提とし(段落【0002】),「コメントの読みにくさを低減させる」とい う課題を解決するための発明であり(段落【0005】),動画を再生するとともに, 前記動画上にコメントを表示する表\示装置であって,前記コメントと,当該コメン トが付与された時点における,動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画\n再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記 憶部と,前記動画を表示する領域である第1の表\示欄に当該動画を再生して表示す\nる動画再生部と,前記再生される動画の動画再生時間に基づいて,前記コメント情 報記憶部に記憶されたコメント情報のうち,前記動画の動画再生時間に対応するコ メント付与時間に対応するコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し,当該 読み出されたコメントを,前記コメントを表示する領域である第2の表\示欄に表示\nするコメント表示部とを有し,前記第2の表\示欄のうち,一部の領域が前記第1の 表示欄の少なくとも一部と重なっており,他の領域が前記第1の表\示欄の外側にあ り,前記コメント表示部は,前記読み出したコメントの少なくとも一部を,前記第\n2の表示欄のうち,前記第1の表\示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表\ 示することを特徴とするものであり(段落【0006】),本件特許発明により,「オ ーバーレイ表示されたコメント等が,動画の画面の外側でトリミングするようにし\nて,コメントそのものが動画に含まれているものではなく,動画に対してユーザに よって書き込まれたものであることが把握可能となり,コメントの読みにくさを低\n減させることができる」(段落【0012】)という効果を奏するものであることが 認められる。
(3) 本件特許発明における「コメント」について検討すると,本件特許発明1 は,「(1A)動画を再生するとともに,前記動画上にコメントを表示する表\示装置 であって,(1B)前記コメントと,当該コメントが付与された時点における,動画 の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と\nを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部と,」を構成要件としている。\n構成要件1Bによると,「コメント」が付与された時点で,「動画の最初を基準と\nした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間」が記憶されるこ\nとになるから,「コメント」は,それが表示される表\示装置において,動画を再生す る時に付与され,付与された時点の動画再生時間が,コメント付与時間としてコメ ント情報記憶部に記憶されるものであると解される。そして,「コメント」は,「動 画を再生するとともに,前記動画上にコメントを表示する表\示装置」(1A)におい て,動画を再生する時に付与されるものであるから,コメントを付与する者は,表\n示装置において,動画を再生して閲覧するユーザであることを読み取ることができ る。 そうすると,本件特許発明における「コメント」とは,表示装置において,動画\nを閲覧するユーザが,動画の再生開始後の任意の時点に,動画に対して付与するも のと解することができる。
・・・・
これに対し,原告は,相違点1について,甲1の「テキスト」は,ユ ーザが発言するものが排除されることはなく,「コメント」を含むから,本件審決の 相違点1の認定には誤りがあると主張する。 甲1には,ユーザとの双方向の情報伝達が行える環境が整ってきたとの記載はあ る(段落【0002】)ものの,甲1発明は,前記ア認定のとおりのものであって, 動画コンテンツ作製者側が「動画コンテンツ」の個々の動画に応じて,または1つ の動画内でも個々の場面に応じて表示されるように予\め作成した「データコンテン ツ」が,「動画コンテンツ」とともに「コンテンツ」を構成し,その「データコンテ\nンツ」はインターネットのホームページのデータに対応するものであり,代表的に\nはテキストや静止画を含み,場合によっては音声などのデータを含むものであるか ら,甲1発明の「テキスト」とは,コンテンツ作製者側が「動画コンテンツ」の個々 の動画に応じて,または1つの動画内でも個々の場面に応じて指定した「テキスト」 であり,ユーザの投稿したテキストデータをその構成に含むとは認められない。\n原告は,甲1について,ユーザからのコメントが付与されたデータコメントを配 信することも予定されているというべきであると主張するが,甲1発明の「データ\nコンテンツ」は上記認定のとおりのものであって,そこにユーザからのコメントが 含まれると認めることはできない。 また,原告は,インターネットで公開されるインタラクティブなサービスではテ キスト情報の送受信を行う場合,ユーザが投稿したコメントの送受信に容易に拡張 可能であることは当業者の常識であるとも主張するが,甲1発明が前記のような内\n容であり,甲1には,ユーザがコメントを投稿することについての記載があるとは 認められないことからすると,甲1発明がユーザが送信したコメントをその構成に\n含むものであると認めることはできない。 さらに,原告は,甲22,24及び25はユーザが送信したデータをテキストデ ータと表記しているから,「テキスト」であることをもって「コメント」を排除する\nと解することはできないと主張するが,上記のとおり,甲1発明は,ユーザが送信 したデータをその構成に含むものではなく,原告の指摘することは,上記判断を左\n右するものではない。 したがって,本件特許発明1と甲1発明の相違点として,相違点1を認めること ができる。
・・・
本件特許発明1における「コメント」は,表示装置において,ユーザ\nが動画を再生している時に付与され,表示装置から,ユーザによりいつでも付与可\n能であるのに対し,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」は,コンテン\nツ作製者側で「データコンテンツ」として予め作成されたものであって,ユーザに\nより表示装置で付与されるものではないし,表\示装置において再生している時に付 与されるものでもない。 したがって,本件特許発明1における「コメント」と,甲1発明における「デー タコンテンツ」の「テキスト」とは,ユーザによる付与が可能か否か,付与を行う\n装置,付与を行う時において異なり,このように異なる「データコンテンツ」の「テ キスト」を「コメント」に置き換えることは,甲1発明の前提となる装置構成の変\n更を必要とするものであって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」を ユーザが付与する「コメント」に容易に置き換えることができるものとは認められ ない。 よって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」を「コメント」に置き 換えることは,当業者が容易に想到し得た事項とはいえない。 (イ) これに対し,原告は,甲1の段落【0002】の記載や,WEB2. 0という技術常識によると,「テキスト」を利用者からの情報伝達を可能とする「コ\nメント」に置換することができる旨主張する。 しかし,甲1には,ユーザがコメントを投稿することについての記載は全くなく, 段落【0002】の記載があり,誰もがウェブサイトを通して自由に情報を発信で きるように変化したウェブの利用状態であるWeb2.0が知られていたとしても, 甲1発明の「データコンテンツ」をユーザが付与する「コメント」に置き換えるこ とが容易であるとは認められない。
(ウ)a 原告は,甲22に基づき,動画配信において,その魅力を高めるた めに,コンテンツ作製側で,個々の動画に応じて,または,1つの動画内でも個々 の場面において指定される「テキスト」を利用者からの情報伝達を可能とする「コ\nメント」に置換することには十分な動機付けがあると主張する。\n甲22は,発明の名称を「ストリーミング配信方法」とする発明の公開特許公報 であり,「動画コンテンツをネットワークを介して利用者端末にストリーミング配 信するストリーミングサーバと,ストリーミング配信中の動画コンテンツに関連付 けられたウェブ掲示板又はチャット領域をネットワークを介して利用者端末に提供 するウェブサーバと,動画コンテンツの配信を受け,ウェブ掲示板又はチャット領 域のテキスト書込部にテキストデータからなるメッセージを書き込む利用者端末と からなるストリーミング配信システムにおいて,ストリーミングサーバは,ウェブ サーバの書込ログファイルに格納されたテキストデータを収集し,収集されたテキ ストデータをストリーミング配信中の動画コンテンツに重畳し,テキストデータの 重畳された動画コンテンツを利用端末に配信するストリーミング配信システム」を 採用することにより,「利用者は,非常に便利であり,会場の客席の様な雰囲気を味 わうことができる」技術(以下,「甲22技術」という。)が記載されていることが 認められる。 他方,甲1発明は,「ネットワーク環境」をユーザへのデータコンテンツの配信に 用いたものであり,「データコンテンツ」を双方向に情報伝達するものではないから, 甲22技術があることをもって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」 をユーザが付与する「コメント」に置換する動機付けがあるということはできない。
b 原告は,動画とユーザが入力した文字データ(コメント)を同期表\n示させることは,本件原出願日の時点において慣用技術であった(甲26〜34) から,甲1発明に当該慣用技術を適用して甲1の「テキスト」を「コメント」に置 換することは容易であると主張する。 甲26〜34には,映像を見ながらユーザがリアルタイムでテキストによるコミ ュニケーションを行う技術(以下,「甲26等技術」という。)が開示されているこ とが認められる。 しかし,甲1発明は,「ネットワーク環境」をユーザへのデータコンテンツの配信 に用いたものであり,「データコンテンツ」を双方向に情報伝達するものではないか ら,原告の主張する甲26等技術が慣用技術であるとしても,甲1発明の「データ コンテンツ」の「テキスト」をユーザが付与する「コメント」に置換する動機付け があるとは認められない。
c 原告は,動画と同時に表示するデータコンテンツはユーザが指定す\nるのでなければ,コンテンツ作製者側で指定するのが通常であり,甲22や甲26 〜34には,甲 1 発明における「コンテンツ作製者側で,個々の動画に応じて,ま たは,1つの動画内でも個々の場面に応じて相応しいデータコンテンツおよび表示\n態様が指定される」ことの記載も示唆もないということはできないと主張する。 しかし,甲26〜34は,ユーザがデータコンテンツを指定することを前提とし たものであるから,原告の主張は失当である。原告は,甲33「コメントを表示す\nる際には,入力する際に指定された場所を指し示すように,指定された場所毎にコ メントを表示する,映像コメント入力・表\示方法を提案する。」(段落【0008】),甲34「提供された増補は,配置の命令と,持続時間の命令とを有してもよい」(段 落【0006】)の記載も指摘するが,いずれもユーザ側が指定する場合に関する記 載であるから,甲1発明における「コンテンツ作製者側で,個々の動画に応じて, または,1つの動画内でも個々の場面に応じて相応しいデータコンテンツおよび表\n示態様が指定される」が記載又は示唆されていると読み取ることはできない。 なお,甲22技術の内容は,コンテンツ作製者側が,利用者端末から収集したテ キストデータを,ストリーミング配信中の動画コンテンツに重畳し,テキストデー タの重畳された動画を利用者端末に配信するものであるが,このような甲22技術 があるからといって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」を「コメン ト」に置換する動機付けがあるとはいえないことは,前記(1)イ(ウ)aのとおりであ る。

◆判決本文

原告被告の異なる別特許の審取事件です。 こちらも無効理由無しとした審決が維持されています。

◆平成31(行ケ)10038

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令和1(ネ)10046  特許権侵害行為差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年11月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁3部は、侵害を認めた1審判断を維持しました。なお、判決文がテキストデータになっていないため、OCR処理しましたが、誤字についてはご了承ください。

 当審における補充主張に対する判断
控訴人は,本件明細書等の記載によれば,本件各発明の効果は, ドラ イパビットの翼部の屈曲部l乙ネジの翼係合部の屈曲部が接触することに よるものであるとし,これを前提に,被告製品は本件各発明の効果を奏 しないと主張する。 本件明細書等の段落【0003), 【0004】, 【0008】, 【図1】の記載からは,従来技術においては,食い付き部分を有する ネジを含む従来のネジにおいて,翼係合部とドライパピットの翼部と の引っ掛かりが悪いことやドライパピットがネジに対して傾いた状態 であることにより更ネジを回転させようとするとき,カムアウト現象 が生じ易いという課題が存するところ,本件各発明の「側壁面」の構\n成を採用すると,対応する形状の翼部を有するピットを用いれば,ネ ジに対してドライパピットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した 側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので, 前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛か りがよくなるため, ドライバピットがカムアウトしにくくなり,上記 課題が解決されることが理解できる。 そして「食い込む」とは「他の領域へ入りこんで侵す。侵入す る。」 (乙10 1) ことであるから,本件明細書等の段落【0008】 の「翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面 が食い込むJとは,回転力を加えることにより, ドライパピットの翼部 とネジの翼係合部が接触する箇所において, ドライパピットの翼部の側 面がネジの翼係合部の側壁面を確実に把握し,引っ掛かりがよくなるこ とを意味するものと解され,本件各発明の効果を奏するために, ドライ パピットの翼部とネジの翼係合部の屈曲部同士が接触することが必須で あるということはできない。また,控訴人の指摘する本件明細書等の段 落【0014], 【0017]及び【0022]にも, ドライバピット の翼部とネジの翼係合部の屈曲部同士が接触することの記載はない。 控訴人は,本件意見書2の図A,B等は, ドライパピットの翼部の屈 曲部にネジの翼係合部の屈曲部が接触することを裏付けると主張するが, 本件明細書等の上記記載に照らせば,本件意見書2の各図は上記判断を 左右するものではない。
(イ) 控訴人の主張によっても,専用ピットの翼部の先端が被告製品の 「先端部内側面Jに点状に接触するというのであるから,被告製品に おいても, ドライパピットに回転力を加えた際に当該接触した箇所で 食い込みが生じ,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなり, ドライ パビットがカムアウトしにくくなるという効果を奏すると解され,被 告製品において本件各発明の効果を奏しないということはできない。
本件特許に係る無効理由の有無(争点2) について
(1) 本件特許に係る無効理由の有無(争点2) についての判断は,次のとお り補正し,後記のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほか は,原判決第4の・・・記載のとおりであるから,これを引用する。
ア原判決56頁24行目「動機」を「動機付け」と改める。
イ原判決57頁19行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。
「しかし,前記判示のとおり,ネジ及びドライパピットの食い付き部分は 周知技術であり,出願当初の明細書等の実施例に当該周知技術について記 載がされていないとしても,それは本件各発明が当該周知技術を備えるこ とを排除する趣旨であるとは解し得ない。そうすると,本件各発明の技術 的範囲に当該周知技術の構成を備えたネジが含まれるとしても,構\成要件 1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かつて延びる平面状の基端側 部分」との発明特定事項を追加する本件手続補正が新規事項の追加となる ものではない。 また,本件明細書等の段落【0003], 【0004】, 【0008], 【図1】の記載からは,本件各発明の「側壁面」の構成を備えることによ\nり,対応する形状の翼部を有するピットを用いれば,ネジに対してドライ パピットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した側面に,対応する形状 に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確 実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなるため, ドライパピ ットがカムアウトしにくくなるという本件各発明の効果が得られることが 理解でき(本判決第3の2(3)ウ(7)参照。), 「食い付き部分」の有無は 本件各発明の課題の解決に影響する構成とはいえない。したがって,控訴\n人主張の点は,サポート要件適合性を否定するものではないというべきで ある」
(2) 当審における補充主張に対する判断
ア 乙13考案及び乙5-8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如 (争点2- 1) について
控訴人は,食い付き部分に関し,屈曲した二平面とR面を相互に代替す ることは当業者の技術常識であると主張するo しかし,食い付き部分と本 件各発明の「側壁面」は,目的も機能も異なり,食い付き部分の構\成に関 する技術常識を側壁面に適用することはできなし、から,控訴人の主張は採 用できない。
イ 乙13考案並びに乙12考案及び乙5〜8公報に開示された周知技術に よる進歩性の欠知(争点2-2) について
控訴人は,乙12考案の効果は本件各発明の「食い込む」ことにより 「カムアウトがしにくくなる」効果と実質的に同質の効果であるから, 乙13考案と乙12考案とは,実質的な目的・課題及び作用・機能にお\nいて共通し,両者を組み合わせる動機付けがあると主張する。しかし, 乙12考案の「切込溝3Jは錆びついたピスを容易に抜くために設けた ものであるのに対し,乙13考案の「円弧E-Fからなる溝」は, ドラ イパーのねじ込み力を完全に受け止めるために設けられたものであって, これらの考案の課題は全く異なることは,上記引用に係る補正された原 判決第4の5に説示したとおりであり,乙13考案に乙12考案を組み 合わせる動機付けがあるということはできない。
ウ補正要件違反又はサポート要件違反の有無について(争点2-3) につ いて
控訴人は,本件各発明の「屈曲」について,翼部の屈曲した側面に,対 応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むことが可能な「屈曲J, すなわち, ドライパピットの翼部の屈曲部に,対応する形状に屈曲したネ ジの翼係合部の屈曲部が深く内部に入り込むほど接触することを要すると 限定解釈しないとすると,本件各発明の課題である「ドライパピットがカ ムアウトしにくい(回動部から外れにくい)ネジおよびドライパピットを 提供するJ (【0004】)を解決し得ると当業者が認識し得ないものを 特許請求の範囲に含むことになると主張する。しかし, ドライパビットが カムアウトしにくい(回動部から外れにくし、)ネジとの課題を解決するに つき, ドライパピットの翼部の屈曲部にネジの翼係合部の屈曲部が接触す る(食い込む)ことが必須であるといえないのは前記2(1)イ及び(2)に説 示したとおりでありこれを前提とする控訴人の主張は採用できない。

◆判決本文


1審はこちらです。

◆平成28(ワ)14753
 被告は,本件意見書1における,「引用文献2〜4」のネジと本件各発 明のネジ穴とは構成が異なる旨の記載は,本件各発明の特許請求の範囲か\nら,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の部分)を有する構成を意\n識的に除外する趣旨であって,食い付き部分を有する構成が本件各発明の\n技術的範囲に属すると主張することは,禁反言の法理に照らして許されな いと主張する。
イ しかし,本件意見書1には,以下の内容の記載がある。
(ア) 本件手続補正は,請求項1について「引用文献2〜4記載の発明との 相違が明確になるように締付側側壁面(10)の形状をより細かく限定 した」ものであり,請求項2について「引用文献2〜4記載の発明との 相違が明確になるようにネジの翼係合部(2)の緩め側側壁面(9)の 形状をより細かく限定したもの」である。(乙10の2頁)
(イ) 「引用文献2」(乙6)記載の発明は,「本来の意味においては,各 翼係合部は屈曲部を有していない。具体的には,引用文献2記載の発明 の場合,各翼係合部の両側壁面は,それぞれ全体が1つの平面状をなし ており,全く屈曲されていない」点で本件各発明と異なる。 引用文献2記載の発明において「強いて回動部の中心部の円弧面状の 部分を翼係合部の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても」,本願発 明のような優れた作用効果を全く果たさない。(乙10の4頁)
(ウ) 「引用文献3」(乙7),「同4」(乙8)記載の発明においても, 「本来の意味においては,各翼係合部は屈曲部を有していない。具体的 には,引用文献3,4記載の発明の場合,本来の意味での各翼係合部の 両側壁面は,軸方向から見ると扇形の両辺(直線状部)をなす平面状の 部分のみである」点で本件各発明と異なる。 引用文献3,4記載の発明における「ネジの中央部分において翼係合 部の基端側部分間をつなぐR部分は,円弧面状をなす部分であって,ネ ジへのドライバビットの食い付きをよくするために設けられる所謂食い 付き部を構成する部分」であって,「前記R部分(食い付き部分)は,\nネジの締め付けおよび緩め動作自体には直接関係のない部分」にすぎな い。 「引用文献3,4」記載の発明において,「強いて前記R部分を翼係 合部の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても,これらの部分は,平 面状ではなく,円弧面状の部分であり,かつネジの中心側から外方に向 かって延びていない」ので,本件各発明とは構成が異なる。\n 引用文献3,4記載の発明において,「強いて前記R部分を翼係合部 の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても」,本件各発明の作用効果 は生じない。(乙10の5頁)
 ウ 本件意見書1の上記記載によれば,原告は同意見書において,「引用文 献2〜4」記載の発明に係る構成と本件各発明に係る構\成が異なることを 説明するとともに,仮に同各文献の構成が対応する本件各発明の構\成に相 当するとしても,同各文献記載の発明が本件各発明の効果を奏しないとい うことを説明しているにすぎないのであって,上記記載をもって,本件各 発明の特許請求の範囲から,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の 部分)を有する構成を意識的に除外しているということはできない。\n

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平成30(ワ)8414  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和元年12月18日  東京地方裁判所

 高輝度LEDペンライト「キンブレ」について、被告製品の販売は不競法2条1項1号の不正競争行為に該当すると判断されました。

 事案に鑑み,争点(2)から検討するに,原告製品形態が,不競法2条1項1 号に該当するには,(1)商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特 徴を有しており(特別顕著性),かつ,(2)その形態が特定の事業者によって長 期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等によ り,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するも\nのとして周知になっていること(周知性)を要すると解されるが,以下の理由 から,原告製品形態は上記要件を満たすものというべきである。
(1) 特別顕著性
ア 原告製品が以下の形態を備えていることは,当事者間に争いがない。
(1) 「持ち手部分」と,光を発する「ライト部分」と,その間の「リング 部分」とで構成され,「リング部分」はメッキが施されている。\n
(2) ライト部分の先端にメッキの外カバーを付けており,リング部分のメ ッキと合わせて同一色,統一感のあるデザインとしている。
(3) 全体のフォルムは円柱状のシンプルな形態とし,ライト部分及び持ち 手部分の側面は,どの角度から見ても,平らな直線又はなだらかな曲線 によりそれぞれ外縁が形成され、突起物や階段状又は鋭角な部分が存在 しない。ただし,メッキ仕様のリング部分だけは,ライト部分,持ち手 部分を外側から覆う外観となり,一回り径が太くなっている。
(4) 持ち手部分は,真ん中でなだらかに凹型となる曲線を描き,底面部の 角は丸みを帯びており,正面視,背面視において瓢箪型である。\n
(5) ライト部分先端の外カバーも,凸状に丸みを帯びており,正面視,背 面視において円弧を描く球状である。
(6) 全体の長さが約25センチメートルで,そのうちライト部分は約15 センチメートル,持ち手部分とリング部分を合わせて約10センチメー トル,ライト部分の太さは直径約3センチメートルである。
(7) 持ち手部分の底面部に,発光・消灯及び発光色の切替えを行うスイッ チボタンが設置され,側面部にはスイッチを設置していないか,あるい は,スイッチを設置する場合でも,外観上その存在がわからないような スイッチとする。
イ 原告製品1が発売された平成24年4月当時に存在した同種製品は,上 記1(6)ア記載のとおりであるが,甲18の写真撮影報告書,甲17等に よれば,このうち,「大電光改」及び「CHEER LIGHT」は,原 告製品に比べて細くて小さいペンライトであり,いずれもリング部分が太 くなっている形態をしている点などにおいて,原告製品の形態と異なる。 また,「大電光煌」は持ち手部分が太くて,製品全体の長さにおけるラ イト部分の割合が原告製品より小さく,ライト部分の先端は半円球状であ る点などにおいて,原告製品の形態と異なる。 さらに,「ネオンスティック」は製品全体の長さにおける持ち手部分の 割合が原告製品より小さく,持ち手部分に設けられたボタンが特徴的であ る点で,「カラフルビーム」はライト部分が先端に向けて細くなっており, 持ち手部分に円形のダイヤルが取り付けられている点において,原告製品 の形態と異なる。 加えて,これらの同種製品は,いずれも,リング部分及びライト部分の 先端に同一色のメッキが施されておらず,持ち手部分にスイッチ等が設け られているなど,全体的に凹凸があって統一感のない印象を与えるもので ある。
ウ これに対して,原告製品は,全体的に丸みの帯びた円柱状のシンプルな 形態であり,ライト部分からリング部分、持ち手部分を通じて、全体とし て凸凹感のない直線又は曲線により外縁が形成されている点(形態(3))に 特徴がある。 また,原告製品のリング部分にはメッキが施されるとともに,ライト部 分の先端にも同一色のメッキの外カバーが付けられており,リング部分の メッキとライト部分先端のメッキの金属的な光沢は,原告製品に他社の製 品にはないデザイン上のアクセントを与えているということができる(形 態(1),(2))。さらに,原告製品の持ち手部分は,その真ん中がなだらかな曲線から形 成される凹型となっており,底面部の角は丸みを帯びている上,ライト 部分先端の外カバーも,凸状に丸みを帯びて円弧を描く球状であり,更 に側面部にスイッチボタンもないことが,全体として,柔らかくシンプ ルな印象を与えているということができる(形態(4),(7))。加えて,原告製品の全体の長さは約25センチメートルと他社の多くの製品より長く,ライト部分と持ち手部分の長さのバランスも良く,全体の長さとライト部分の太さの割合も均衡がとれているとの印象を与えるものである(形態(6))。
以上のとおり,原告製品形態(1)〜(7)は,平成24年4月当時の同種製品 にはない形態上の特徴であるということができ,更に,これらの特徴があ いまって,製品全体として,同種製品とは異なる顕著な特徴を備えている ということができる。
エ これに対し,被告は,形態(1)〜(7)は,いずれもありふれたものであると 主張する。
(ア) しかし,形態(1),(2)については,上記のとおり,平成24年4月当時 のペンライトのリング部分及びライト部分の先端に同一色のメッキを 施しているものはなく,また,ペンライトを使用する上で,その構成\n部分に金属的な装飾を加える必然性はないのであるから,同各形態は 原告製品に特徴的なものというべきである。
(イ) 被告は,形態(3)に関し,ペンライトのライト部分が円柱状であるのは 特別なことではなく,平成24年4月当時の同種製品も,丸みを帯び た円柱状のシンプルな形態であったと主張する。 しかし,原告製品は,単にライト部分が円柱状であるのみならず,全 体的に丸みの帯びた円柱状のシンプルな形状をしており,ライト部分 からリング部分、持ち手部分を通じて、全体として凸凹感のない直線 又は曲線により外縁が形成されている点に特徴があり,かかる特徴は 同種製品には見られないものである。
(ウ) 被告は,形態(4)に関し,持ち手部分の中央付近をなだらかにへこませ るデザインは公知であったこと,形態(5)に関し,ペンライトの先端に 外カバーを設けたり,その先端を球状にすることは,特別なことでは ないこと,形態(6)に関し,原告製品の長さはコンサート等のイベント における規制に従ったものにすぎず,その太さも特別なものではない こと,形態(7)に関し,底面部のスイッチは,底から見ない限り視認で きないので,識別力を生じさせないことなどを指摘する。しかし,原告製品は,持ち手部分の中央部分をなだらかにへこませるとともに,ペンライトの先端の外カバーを球状にし,更に持ち手部分の側面にスイッチを側面に設けないことにより,全体として,なだら かな曲線と直線から形成されるすっきりとして統一感のある輪郭が形 成され,全体として柔らかくシンプルな印象を与えるのであり,こう した特徴は同種製品には見られないものである。そうすると,上記の 個々の形態が公知であることなどを理由として,原告製品形態があり ふれたものであるということはできない。
(エ) 被告は,平成24年10月に発売されたルミエースや同年12月に発 売されたカラフルサンダー110などに原告製品形態と共通する特徴 が見られると主張するが,これらの製品は,原告製品1及び2の後に 発売されたものであるから,同各製品の発売時点では原告製品の形態 は同業者の間では知られていたのであり,原告製品形態も参考にしな がらデザインされた可能性が高い。これらの製品が原告製品形態と同\n様の特徴を有するとしても,そのことをもって原告製品形態の特別顕 著性は否定されるものではないというべきである。
(オ) 被告は,ペンライトという製品は,その性質上,外見を重視するので はなく,輝度や色などの機能を重視して選択される製品であるから,\nこの観点からしても,原告製品形態には特別顕著性はないと主張する。 しかし,ペンライトは,その用途・性状に一定の制限があるとしても, 種々のデザインを工夫し得ることは同種製品のデザインとの対比から も明らかであり,また,ペンライトの需要者が,趣味・嗜好に強い興 味・関心を示すいわゆる「オタク」を中心とする者であることに鑑み ても,これらの需要者は,機能のみならずデザインにもこだわりを持\nって購入するペンライトの選択をすると考えるのが自然である。
オ 以上によれば,原告製品形態は特別顕著性を有するということができる。
(2) 周知性
ア 前記1(2)のとおり,原告製品1(キングブレードMAX)及び同2 (キングブレードX10)は,平成24年4月に原告製品1の販売が開始 されて以降,同年10月までに,両製品で累計●(省略)●本,●(省略) ●円を売り上げたとの事実を認めることができる。 平成25年ころにおいて,国民的アイドルとされるアイドルグループの CDの売上が,複数枚購入を含め合計56万枚程度であり(甲38),平 成26年8月に開催された日本最大級とされるアニメソングのライブの3\n日間の延べ来場者数が8万人程度であったと認められること(甲37)を 考慮すると,わずか6か月という短期間のうちに●(省略)●本の売上げ があったことは,趣味嗜好に強い関心を有するいわゆる「オタク」を需要 者とするこの種の製品としては「爆発的」と評価し得る売れ行きであった ということができる。
イ また,前記1(3)のとおり,原告製品は,平成24年10月,テレビ番 組に使用され,それを見た視聴者が,同番組において使用されたペンライ トの商品名については紹介がされていなかったにもかかわらず,原告製品 であると認識し,ツイッター上で,「みんなキンブレ振ってる」などとツ イートしたとの事実によれば,そのころには,需要者において,原告製品 形態を有する商品は原告製品であって,原告を出所とすることを表示する\nものとして,広く知られていたと認めるのが相当である。
ウ さらに,前記1(4)のとおり,原告製品2(キングブレードX10)は, 平成25年2月,アマゾンのおもちゃのベストセラーの3位にランクイン したとの事実が認められるが,このランキングは,ペンライト又はそれに 類する商品間のランキングではなく,おもちゃ全体におけるランキングで あることに照らすと,原告製品は同時点において既に需要者に広く知られ していたものと認められる(甲21の4)。 以上によれば,原告製品形態は,平成24年10月時点において,また, 遅くとも平成25年1月までに,原告の出所を表示するものとして,周知\n性を獲得していたというべきである。
エ これに対し,被告は,原告製品が,平成24年10月以後も売れ行きを 伸ばしている事実を指摘し,そのことから逆に,平成24年時点の市場占 有率はそれほど高くなかったと主張するが,平成24年4月から10月ま での売上本数や売上高等に照らし,同月時点において原告製品形態が需要 者に広く知られていたと認められることは前記判示のとおりであり,平成 25年以降に更に売上げが増加したことは,上記認定を左右するものでは ない。また,被告は,原告製品が多く売れたのは,原告製品形態のデザイン性 が着目されたからではなく,高輝度という機能に需要があったためである\nと主張するが,原告製品の需要者が機能のみならず,デザインも重視して\nペンライトを購入したと考えるのが自然であることは前記判示のとおりで ある。さらに,被告は,原告の製品の中には原告製品目録に掲げられていない ものもあり,また,原告製品の中にも原告製品形態の一部を満たさない種 類のものがあると主張するが,原告製品の主力は原告製品目録記載の製品 であり,その他の製品が原告製品形態の一部を満たしていなかったとして も,原告製品形態の周知性が否定されるものではない。加えて,被告は,需要者は,原告製品をその形態によって識別しているのではなく,キングブレードという名称とともに,そのロゴ及びマークによって原告製品と識別していたものであると主張するが,テレビ番組の視聴者が,同番組において使用されたペンライトの形態を見て原告製品であ ると認識したことは前記判示のとおりであり,需要者はその形態により原 告製品と識別し得たというべきである。
オ 以上によれば,原告製品形態は,平成24年10月時点において,また, 遅くとも平成25年1月までに,周知性を獲得したものと認められる。
3 争点(3)(原告製品と被告製品との混同のおそれの有無)
(1) 被告製品は,原告製品形態の全てを備えるのみならず,原告製品のX10 シリーズのバージョン2以降のものと基本的に同一の形状及び大きさを有す るのであるから,需要者が被告製品を原告製品と混同するおそれがあるもの と認められる。
(2) これに対し,被告は,原告製品と被告製品の名称が異なることなどを理由 に,混同のおそれを否定するが,需要者は,インターネットに掲載された商 品の形態を見てその出所を識別することも少なくないと考えられ,また,商 品名は新商品が発売されるたびに異なった名称が付されることもあるのであ るから,製品の名称が異なることから直ちに混同のおそれがないということ はできない。
(3) また,被告は,需要者は,知識が豊富な「オタク」であるから,ロゴやマ ーク,機能や価格帯などから製品を原告製品から被告製品を識別すると主張\nするが,一口に「オタク」といっても,その知識や経験は様々であり,需要 者にはコンサートなどの各種イベントへの参加者なども含まれるのであるか ら,需要者の性質から,当然に,製品の機能や価格帯により出所を識別する\nことができるということはできない。
(4) 以上のとおり,需要者が被告製品を原告製品と混同するおそれはあるとい うべきである。 したがって,被告製品は,需要者の間に広く認識された原告の商品等表示\n(原告製品形態)と類似するものであり,原告製品と混同を生じさせるもの であるということができるので,被告製品を販売する行為は,不競法2条1 項1号の不正競争行為に該当する。

◆判決本文

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平成30(ワ)39914  特許権侵害に基づく損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年12月25日  東京地方裁判所

 1億円の損害賠償を求めましたが、無効理由あり(29-2および進歩性)として請求棄却されました。

上記(ア)によれば,乙12公報には,情報ユニット及び識別ユニット のそれぞれが有する2個のデータの比較によって,情報ユニットの認証 処理をするという技術的事項が開示されているということができる。そ して,乙12発明は,乙11発明と技術分野及び課題が共通しているの であるから,当業者にとって,乙11発明に前記の技術的事項を適用し, 使用者が入力するパスワードを含む3つのデータの演算による認証処理 に代え,本件発明のように,2個のデータの比較による認証処理を採用 することは,容易に想到し得たというべきである。 ウ これに対し,原告は,乙11発明において,パスワードを含む3つのデ ータを用いた複雑な構成にすることは,その課題解決にとって不可欠なも\nのであるので,乙11発明に乙12発明を組み合わせる動機付けは存在し ないと主張する。 しかし,乙11発明は,携帯電話等にパスワードを設定するのみでは不 正使用の防止としては十分ではないという課題を解決するため,IDカー\nド等の携帯電話以外の物体に記憶されたデータを利用し,携帯電話等に予\nめ記憶されたデータとの間で比較・照合することにより,不正使用を防止 しようとするものであって,この点において,本件発明及び乙12発明と その技術的な思想を共通にしているということができる。 もとより,乙11発明は,携帯電話等に記憶されたデータとICカード に記憶されたデータという二種類のデータを使用するにとどまらず,使用 者が入力したパスワードも加えて比較・照合を行う点で本件発明と異なる が,これは,比較・照合に使用するデータを更に一種類増やすことにより 安全性を高めようとしたものであって,上記技術思想と基本的に異なるも のではなく,また,乙11公報には,IDカード6と携帯電話1との間で データの授受がある限りパスワードの再入力をする必要がないようにする など(乙11公報の段落【0014】),パスワードの入力作業により生 じる操作の煩瑣性の軽減という課題も示唆されているということができる。 そして,本件明細書等の段落【0028】に記載されているように,3 つのデータを利用する代わりに2つのデータを利用したとしても,一意な データを複数組み合わせたものやこれを暗号化したものを照合用データと して利用するなど,様々な工夫をすることにより不正使用の防止という課 題を解決することは可能であるから,乙11公報に接した当業者は,操作\nの煩瑣性を軽減するため,3つのデータを利用する代わりに,乙12公報 に開示されているような2つのデータによる比較・照合する構成を容易に\n想到し得たというべきであり,かかる構成を採用したとしても,上記のと\nおり,不正使用の防止という効果を奏することが可能であることを十\分に 認識し得たものと考えられる。 したがって,相違点Cに係る構成は,乙11発明に乙12発明を適用す\nることにより,当業者が容易に想到し得たものというべきである。
(8) 相違点Dについて
相違点Dに関し,乙11公報には,「携帯電話1の電源を投入した時ある いは通話のためにキー5を押したときに携帯電話1より第1の電波信号送受 信装置3を介して電波信号Aを送信する。IDカード6は電波信号Aを受信 するとIDカード6にあらかじめ記憶されたデータ9を,電波信号Bを介し て自動的に送信する。・・・IDカード6より受信したデータ9と,パスワード として入力されたデータ10と,第1のデータ読み取り装置2内にあらかじ め記憶されたデータ11とを比較し,データ9とデータ11との和がデータ 10になる場合にのみ携帯電話1が使用可能である。」(段落【001\n2】),「携帯電話1の電源が投入されている状態のとき,計時装置4は電 源が投入されてからの時間を計時する。計時装置4の計時時間をもとに,… 一定時間…ごとに第1のデータ読み取り装置2内にてデータ11を書き換え, 同時にIDカード6に電波信号Aを送信し,IDカード6内のデータ9を書 き換える。携帯電話1とIDカード6との間でデータのやりとりが行われ, データ9とデータ11の和がデータ10になるときは常に携帯電話1を使用 可能にする。・・・携帯電話1とIDカード6の距離が離れていると,IDカー\nド6からデータ9が送信されることはない。ここでデータ9の送信がなけれ ば自動的に電源が切れ,携帯電話1の使用を不可能にする。」(段落【00\n13】)との記載がある。 上記記載によれば,乙11発明においては,最初に携帯電話の電源を投入 した際の演算結果を満たせば,少なくとも一定時間,携帯電話の使用が可能\nになるものと認められる。そして,携帯電話1の電源の投入は本件発明の 「アクセス要求」に相当するから,乙11発明は,「アクセス要求が許可さ れてから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」 構成を備えるということができる。\nしたがって,相違点Dは,実質的な相違点には当たらない。
・・・・
3 争点3−3(乙16に基づく拡大先願違反) また,念のため,争点3−3も検討するに,以下のとおり,本件発明は,い わゆる拡大された先願と同一の発明にも当たるということができる。
・・・・
原告は,「本件発明は,被保護情報に対するアクセス要求を許可する という比較結果が得られた場合は,アクセス要求が許可されてから所定 時間が経過するまでは被保護情報へのアクセスを許可するものであるの に対し,乙16発明は,動作処理要求に伴った一連の操作が前記携帯電 話機に対して行われると個人認証を行い,個人認証が完了すると当該一 連の操作のみが可能になるのであって,当該処理中に他の処理を行うこ\nとも,当該処理が終了後に他の処理を行うこともできず,また,所定時 間を計時することもなく,所定時間が経過するまで携帯電話機内の情報 に対するアクセスを含む何らかの操作を許可するものではない点」にお いて相違すると主張する。
(イ) そこで,検討するに,乙16公報の段落【0035】には,「制御部 11は,比較認証の結果が一致していた場合,前記ステップST4にお けるキー入力は,特定の使用者(使用が許可されている携帯電話機使用 者)によるキー入力であるものと判断し,ロック解除状態とし,前記ス テップST4にて入力装置14から入力された発信操作及びメモリダイ ヤル等の操作を有効として(ステップST9),発信処理等を継続する (一連のキー入力による処理が完了するまでの処理の継続を可能とす\nる)。」との記載がある。これによれば,乙16発明においては,被保 護情報へのアクセスが許可されると,「一連の処理が完了するまでの」 時間,アクセスが許可されるものということができる。 他方,本件発明の構成要件Fは,「前記アクセス制御手段は,当該比\n較手段で前記アクセス要求を許可するという比較結果が得られた場合は, 前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過するまでは前記被保 護情報へのアクセスを許可する」というものであり,「所定期間」に関 する限定は付されていない。 また,本件明細書等の段落【0120】及び【0121】には,アク セスが許可されると,タイマに所定の時間t2を設定し,時間t2が経 過するまでに開始した処理が終了した場合には,時間t3をタイマに設 定し,時間t3が経過するまでに次の作業を開始した場合には,レッド バッジの読み込みをすることなく,引き続き次の作業を行うことができ, 更に一つの作業が終了するたびにt3が起動されることが記載されてい るものと認められる。これによれば,本件発明においても,アクセスが 許可された後,一連の作業が継続している間は,アクセスが許可されて いるということができる。 以上によれば,乙16発明における「一連の処理が完了するまでの」 時間も,構成要件Fの「所定時間」に当たるというべきである。\n
(ウ) これに対し,原告は,乙16発明は,一連の処理中に他の処理を行う ことも,当該処理が終了後に他の処理を行うこともできず,また,所定 時間を計時することもなく,所定時間が経過するまで携帯電話機内の情 報に対するアクセスを含む何らかの操作を許可するものではないので, 本件発明と異なると主張する。 しかし,前記判示のとおり,乙16発明においては,「一連の処理が 完了するまでの」時間は,被保護情報へのアクセスが許可されているの であるから,仮にその間に他の処理を行うことができないとしても,構\n成要件Fの「前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過するま では前記被保護情報へのアクセスを許可する」との構成を満たすとの結\n論を左右するものではない。 また,構成要件Fの「所定期間」には特段の限定は付されていないの\nで,これを計時された一定の長さの時間に限定されると解することもで きない。

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平成31(行ケ)10010 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月25日  知的財産高等裁判所

 特29−2についても、実施可能であると理解できる程度の記載がないと開示された発明とはならないと判断されました。ゲノム編集技術であるCrispr-Cas(クリスパー−キャス)関連発明です。

 特許法29条の2は,特許出願に係る発明が,当該特許出願の日前の他の特 許出願又は実用新案登録出願であって,当該特許出願後に特許掲載公報,実用新案 掲載公報の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願 明細書等」という。)に記載された発明又は考案と同一であるときは,その発明につ いて特許を受けることができないと規定する。 同条の趣旨は,先願明細書等に記載されている発明は,特許請求の範囲以外の記 載であっても,出願公開等により一般にその内容は公表されるので,たとえ先願が\n出願公開等をされる前に出願された後願であっても,その内容が先願と同一内容の 発明である以上,さらに出願公開等をしても,新しい技術をなんら公開するもので はなく,このような発明に特許権を与えることは,新しい発明の公表の代償として\n発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でない,というものである。 同条にいう先願明細書等に記載された「発明」とは,先願明細書等に記載されて いる事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明をいい,記載されて いるに等しい事項とは,出願時における技術常識を参酌することにより,記載され ている事項から導き出せるものをいうものと解される。 したがって,特に先願明細書等に記載がなくても,先願発明を理解するに当たっ て,当業者の有する技術常識を参酌して先願の発明を認定することができる一方, 抽象的であり,あるいは当業者の有する技術常識を参酌してもなお技術内容の開示 が不十分であるような発明は,ここでいう「発明」には該当せず,同条の定める後願\nを排除する効果を有しない。そして,ここで求められる技術内容の開示の程度は, 当業者が,先願発明がそこに示されていること及びそれが実施可能であることを理\n解し得る程度に記載されていれば足りるというべきである。
(イ) これを本件についてみると,引用発明1の実施例1〜3には,引用発明1 の(i)〜(iii)の各ベクターを製造する方法が詳細に記載されており,実施例4に は,ドナー配列(GFP遺伝子)が標的配列又はその近傍に組み込まれていること を確認するための具体的な試験方法も明記されている。 また,前記のとおり,実施例4の実験結果から,核局在化シグナルを含むRNA 誘導型エンドヌクレアーゼ,ガイドRNA,ドナーポリヌクレオチドの組合せが, 真核細胞に組み込まれ,標的部位にて二本鎖の切断及び修復が生じていると理解す ることができ,実施例5の実験結果も上記の理解の妨げになるものとは解されない。 さらに,上記(i)〜(iii)のベクターを含むベクター系は,真核細胞内で適切に 転写,翻訳,核移行等がなされるに必要な技術手段,及び,真核細胞内で適切に標的 配列の改変がなされるに必要な技術手段を備えたものであるから,ベクター系にし た場合でも,真核細胞中の標的配列を開裂し,標的配列の改変を行う機能を有する\nものと理解できることも,上記のとおりである。 そうすると,引用例1には,当業者が,先願発明がそこに示されていること及び それが実施可能であることを理解し得る程度の記載があるといえるから,「ガイドR\nNAが,II型Cas9タンパク質を真核細胞中の染色体配列中の標的部位へ誘導 し,そこで該II型Cas9タンパク質が,該標的部位にて染色体DNA二本鎖の 切断を誘導し,該二本鎖の切断が,染色体配列が修飾されるようにDNA修復過程 により修復される」機能の部分も含めて,後願を排除するに足りる程度の技術が公\n開されていたものと認めるのが相当である。
エ 原告らのその他の主張について
(ア) 原告らは,引用例1の優先基礎明細書(甲105)によれば,実施例4に「ド ナー配列の挿入および融合タンパク質の発現が確認された」という文言がなく,実 施例4で採用されたFACSだけでは,検出された蛍光が標的部位への組込み以外 の他の要因によるものでないことが示されているとはいえず,また,対象と比較し て約10倍以上の蛍光が検出されなければ,標的部位への組込みが生じていないと 理解すべきであるとして,これに沿う研究者の意見書(甲103)を提出する。しか し,引用例1に記載された実験結果について,技術内容の開示が不十分であるとま\nではいえない。 原告らは,実施例5のPCR実験の結果で,処理DにおいてPCR産物が確認さ れなかったことから,標的部位にはドナー配列の遺伝子が組み込まれなかったこと が示されていると主張するが,実施例5の処理Dにおいては,前記イ(ウ)のとおり, ガイドRNAや標的配列などの違いにより,ゲノム改変効率が不足していた結果と して,所定のゲル上のバンドが検出されなかった可能性があるから,実施例5の処\n理Dの結果から,引用発明1のベクター系が,標的配列にドナー配列(GFP遺伝 子など)を組み込む機能を有することまで否定されないと解すべきである。\n
(イ) 原告らは,当業者であれば,引用例1のFACS実験とPCR実験により得 られた矛盾する結果を検討し,CRISPR−Cas9システムが真核細胞におい て作動するか否かの疑問は未解決であると結論したはずである,あるいは,他の科 学者らが他の技術又は構築物を用いて真核細胞で成功を収めることができたことに\n基づいて引用例1の実験が成功したと推論することもできないとも主張する。 しかし,実施例4の実験結果は,核局在化シグナルを含むRNA誘導型エンドヌ クレアーゼ,ガイドRNA,ドナーポリヌクレオチドが,真核細胞に組み込まれ,標 的部位において二本鎖の切断及び修復が生じていることを理解するに足りるもので あるし,実施例5の実験結果も上記の理解の妨げになるものとまでは解されない。 また,引用発明1の(i)〜(iii)のベクターを含むベクター系は,前記イ(オ)の とおり,真核細胞内で適切に転写,翻訳,核移行等がなされるに必要な技術手段,及 び,真核細胞内で適切に標的配列の改変がされるに必要な技術手段を備えるから, 引用発明1のベクター系が,真核細胞中の標的配列を開裂し,当該標的配列の改変 を行う機能を有するものと理解することができ,引用例1には,引用発明1の実施\nが可能であることを理解するに足りる記載がある。\nそうすると,引用発明1において,CRISPR−Cas9システムが真核細胞 でも作動するか否かが解決していないとはいえない。
(ウ) 原告らは,本願発明は,CRISPR−Cas9システムを真核細胞内環境 において真核生物のゲノムDNAに適合させるガイダンスを開示しているとして, 引用例1のCRISPR−Cas9系との機能の相違を強調するが,本願発明は,\n請求項1の記載から判断して,Cas9に複数のNLSを付加する,tracrR NAを長くする,キメラRNAの3’末端にターミネーターとして例えばポリTを 挿入する等の選択を行ったものではなく,むしろ,本願発明と引用発明1は,発明 の構成上,共通のベクターを含むベクター系を使用するものである。\n両者の相違を強調する原告らの主張は理由がない。

◆判決本文

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平成31(行ケ)10011  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月25日  知的財産高等裁判所

 ゲノム編集技術であるCrispr-Cas(クリスパー−キャス)関連特許について、29-2違反、進歩性違反の拒絶審決が取り消されました。出願人はブロードコムおよびMITです。技術説明会をやったのでしょうね。

(相違点)
本願発明は「tracr配列が,30以上のヌクレオチドの長さを有」するもの であると下限値が特定されているのに対して,引用発明1では,本願発明の「tr acr配列」に相当する部分の長さについて明確な特定はなく,「第二及び第三領域」 の合わせた長さが「約30から約120ヌクレオチド長の範囲」である点。
(5)相違点の検討
ア 特許法29条の2は,特許出願に係る発明が,当該特許出願の日前の他の特 許出願又は実用新案登録出願であって,当該特許出願後に特許掲載公報,実用新案 掲載公報の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願 明細書等」という。)に記載された発明又は考案と同一であるときは,その発明につ いて特許を受けることができないと規定する。 同条の趣旨は,先願明細書等に記載されている発明は,特許請求の範囲以外の記 載であっても,出願公開等により一般にその内容は公表されるので,たとえ先願が\n出願公開等をされる前に出願された後願であっても,その内容が先願と同一内容の 発明である以上,さらに出願公開等をしても,新しい技術をなんら公開するもので はなく,このような発明に特許権を与えることは,新しい発明の公表の代償として\n発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でない,というものである。 同条にいう先願明細書等に記載された「発明」とは,先願明細書等に記載されて いる事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明をいい,記載されて いるに等しい事項とは,出願時における技術常識を参酌することにより,記載され ている事項から導き出せるものをいうものと解される。
イ 本願明細書の【0162】には,tracr配列の長さとゲノム改変効率の 関係について,「EMX1およびPVALB遺伝子座中の5つ全ての標的について, tracr配列長さの増加に伴うゲノム改変効率の一貫した増加が観察された」と の一般的な説明がなされ,特に,ゲノム改変効率の増加が優れるものとして,nが 67,85,すなわちtracr配列の長さが45,63のキメラRNAをとりあ げて,「野生型tracrRNAのより長い断片を含有するキメラRNA(chiR NA(+67)及びchiRNA(+85))は,3つ全てのEMX1標的部位にお けるDNA開裂を媒介し,特にchiRNA(+85)は,ガイド及びtracr配 列を別個の転写物中で発現する対応するcrRNA/tracrRNAハイブリッ ドよりも顕著に高いレベルのDNA開裂を実証した(図16b及び17a)。ハイブ リッド系(別個の転写物として発現されるガイド配列及びtracr配列)を検出 可能な開裂を生じなかったPVALB遺伝子座中の2つの部位も,chiRNAを\n使用してターゲティングした。chiRNA(+67)及びchiRNA(+85) は,2つのPVALBプロトスペーサーにおける顕著な開裂を媒介し得た(図16 c及び17b)。」との説明が加えられている。 そして,本願明細書の図16や図17を参照すると,プロトスペーサー1やプロ トスペーサー3を標的とした場合については,nが+67,+85である場合のみ ならず,nが+54,すなわちtracr配列の長さが32のキメラRNAである 場合も,nが+48,すなわちtracr配列の長さが26のキメラRNAを上回 る改変効率が得られていることを見て取ることができ,本願発明がtracr配列 につき30以上のヌクレオチドの長さに設定したことによって引用発明1とは異な る新たな効果を奏していることも理解できる。 このように,本願発明は,「tracr配列の長さ」に着目し,「tracr配列 が,30以上のヌクレオチドの長さを有」するものという構成を採用したことによ\nって,ゲノム改変効率が増加することを特徴とするものである。 他方,引用例1には,ガイドRNAが第一領域から第三領域までの3つの領域を 含むこと(【0067】),ステムの長さは約6から約20塩基対長であってよいこと (【0069】),一般的に,第三の領域は,約4ヌクレオチド長以上であり,例えば,第三の領域の長さは,約5から約60ヌクレオチド長の範囲であるとすること(【0 070】),ガイドRNAの第二及び第三領域の合わせた長さは,約30から約12 0ヌクレオチド長の範囲であり得ること(【0071】)が記載されているにすぎな い。
ウ また,本願明細書【0063】の「ループの3’側の配列の部分は,trac r配列に対応する」の記載によれば,本願発明のtracr配列は,引用発明1の 第二領域の片方のステムと第三領域を合わせたものに相当すると認められる。しか し,引用例1には,tracr配列(第二領域の片方のステムと第三領域を合わせ たもの)の長さそれ自体を規定するという技術思想が表れてはいない。\nさらに,本願優先日当時,tracr配列の長さを30以上のヌクレオチドの長 さとするとの当業者の技術常識が存在したことを認めるに足りる証拠はない。 エ よって,引用例1に「tracr配列が,30以上のヌクレオチドの長さを 有」するものという構成を採用したことが記載されているといえないし,技術常識\nを参酌することにより記載されているに等しいともいえない。
(6) 被告の主張について
 被告は,26ヌクレオチド長のtracr配列を有するガイドRNA(+48) と,32ヌクレオチド長のtracr配列を有するガイドRNA(+54)とで,プ ロトスペーサー2,4及び5を標的としたものでは差異を見出せない(図16,図 17)とした上,30以上のヌクレオチド長と特定する本願発明においては,標的 配列に依存することなく,改変効率が向上するとの効果を有しているとはいえない として,本願発明は,引用発明1と異なる新たな効果を奏すると認めることはでき ないと主張する。 しかし,前記のとおり,本願明細書によれば,プロトスペーサー1やプロトスペ ーサー3という異なる標的配列に対して,32ヌクレオチド長のtracr配列を 有するキメラRNAが,26ヌクレオチド長のtracr配列を有するキメラRN Aよりも,ゲノム改変効率が増加していることが記載されており,tracr配列 について30以上のヌクレオチド長であることを特定する本願発明は,プロトスペ ーサー1やプロトスペーサー3以外においても真核細胞のゲノム改変効率が向上す る可能性がないということはできない。\nしたがって,被告の主張は,理由がない。
(7) 小括
以上のとおり,本件審決において本願発明と引用発明1との一応の相違点として 挙げられた「tracr配列が,30以上のヌクレオチドの長さを有」することは, 実質的な相違点であり,本願発明と引用発明1とが同一の発明であるとは認められ ないから,本願発明につき特許法29条の2の規定により特許を受けることができ ないとした本件審決の判断には誤りがある。
・・・
(4)相違点4の判断について ア 引用例2には,全長成熟(42ヌクレオチド)crRNAと,5’又は3’末 端で配列が欠如した様々な切断型のtracrRNAを組み合わせて再構成された\n二本鎖のCas9−tracrRNA:crRNA複合体を用いた試験において, 天然配列のヌクレオチド23〜48(tracr配列のヌクレオチド長は26)を 保持しているtracrRNAがCas9によるDNA切断に有効であることが示 されている(前記(1)ウ,ク,図3A)。 また,tracrRNA:crRNAは一本鎖のキメラRNAに設計でき(前記 (1)ア),ヌクレオチド23〜48を保持した長いキメラA(tracr配列のヌクレ オチド長は26)が,二本鎖のtracrRNA:crRNA複合体を用いた場合 と同じような挙動でCas9によるDNA切断を誘導したこと,他方,短いキメラ B(tracr配列のヌクレオチド長は18)の場合には,DNA切断を誘導でき なかったこと(前記(1)エ,オ,図5B)が示されている。 以上の引用例2の実験結果に接した本願優先日の当業者は,26ヌクレオチド長 よりも短いtracr配列は,Cas9の開裂効果が劣ることから,Cas9タン パク質による標的配列の開裂には,少なくとも,天然配列の23〜48を保持した 26ヌクレオチド長のtracr配列を含む必要があることを理解する。 ところが,tracr配列の長さについては,26ヌクレオチドより短い場合と の比較では,長い26ヌクレオチドの方が好ましいことは理解できるものの,引用 例2には,26ヌクレオチドより長い場合で比較した場合に,より長さの大きいt racr配列の方が好ましいことを示す記載は,見当たらない。 加えて,本件全証拠によっても,本願優先日当時,tracr配列の長さが大き ければ大きいほど好ましいことを示す技術常識が存在したことを認めるに足りない。
(イ) 一方,本願明細書の【0162】によると,tracr配列の長さとゲノム 改変効率の関係について,「EMX1およびPVALB遺伝子座中の5つ全ての標的 について,tracr配列長さの増加に伴うゲノム改変効率の一貫した増加が観察 された」との一般的な説明がされ,本願明細書の図16や図17から,プロトスペ ーサー1やプロトスペーサー3を標的とした場合に,tracr配列の長さが32 のキメラRNAの方が,tracr配列の長さが26のキメラRNAよりも,ゲノ ム改変効率に優れていると理解することができる。 そうすると,引用例2の記載や本願優先日の技術常識を勘案しても,ゲノムの改 変効率を向上させる観点で,引用発明2のtracrRNAの長さについて,引用 例2に具体的に開示されている26から30以上に変更することを,当業者が動機 付けられていたということはできない。
(ウ) また,本願優先日当時,引用例2の要約に記載された細菌や古細菌の獲得免 疫に由来するCRISPR/Cas系(前記(1)ア)を,緩衝液中での混合(試験管レ ベル)でなく,真核細胞に適用することができた旨を報告する技術論文や特許文献 は存在しておらず,tracr配列の長さを30以上に設定するという技術手段を 採用することで,真核細胞におけるゲノム改変効率が向上するという効果は,当業 者の期待や予測を超える効果と評価することができる。\n
(エ) したがって,相違点4として挙げた本願発明の発明特定事項,すなわち「t racr配列」について,「30以上のヌクレオチドの長さ」とすることは,引用例 2の記載や本願優先日の技術常識を参酌しても,当業者が容易に想到し得たとはい えないものである。
イ 被告の主張について
被告は,引用例2の記載から,23〜48の26ヌクレオチド長を含むtrac rRNAであれば,その5’末端側や3’末端側にさらにヌクレオチドが存在して も,Cas9によるDNA切断を誘導できると理解することができるとした上,引 用例2には5’末端側や3’末端側にヌクレオチドを付加してさらに長くすること を妨げる記載はなく,図3Aには,上記最小領域のほか,「15−53」,「23− 89」,「15−89」の領域からなるさらに長いtracrRNAも,crRNA と共に用いることでCas9によるDNA切断を誘導できることが示されていると して,引用発明2のうち「tracrRNA」を多少長くして30ヌクレオチド長 程度のものとすることは,当業者が適宜なし得たことであると主張する。 しかし,図3Aには,長いtracrRNAをcrRNAと組み合わせて二本鎖 として用いた実験結果が示されるものの,特に長いtracrRNAの方が標的配 列の開裂に優れることは開示されていない。また,引用発明2のtracr配列の 長さを26から30にするには,15%以上長くする必要があるから,これが多少 長くした程度のものであるとはいえない。さらに,上記のとおり,本願優先日当 時,tracr配列の長さが大きければ大きいほど,好ましいことを示す技術常識 は存在せず,真核細胞にCRISPR/Cas系を適用したことを報告する技術論 文,特許文献も存在しなかったことからすれば,tracr配列の長さを30以上 に設定することに伴い真核細胞におけるゲノム改変効率が向上するという効果は, 当業者の期待や予測を超えるものと評価されるというべきである。\n

◆判決本文

下記は出願人の一部が一致するCrispr-Casの関連事件ですが、こちらは拒絶審決が維持されています。

◆平成31(行ケ)10010

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平成31(ネ)10033  パブリシティ権侵害等差止等・著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和2年2月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 バブリシティー権に基づく請求として、1審が認定した額(100万円)が争われました。知財高裁3部は、原審の判断を維持しました。

 (1)原判決を引用して認定した事実経過によれば,本件事案には,次のような 事情がある。
(2) 両当事者は,平成9年から平成25年までの間,本件ブランドを用いた日 本での婦人服販売事業のための契約関係にあり,本件ブランドの知名度の向 上について共通の利益を有していた。被告各表示の素材となった一審原告X\nの肖像写真及び紹介文並びに被告写真に複製された原告写真は,上記事業に おける本件ブランドの宣伝広告の目的のために,一審原告側から提供された 素材である。そして,その提供に当たっては,当時の両当事者は協力関係に あったという背景から,使用の目的,態様及び期間等について,文書等によ る明確な取極めはなされていなかった。 平成25年の修正サービス契約の解除(本件解除)により両当事者間の契 約関係が解消された時点において,これらの素材は,被告ウェブサイト上及 び店舗内の被告各表示及び被告写真として現に用いられていた。そのことは,\n一審原告側においても了知していた可能性が高いし,仮に了知していなかっ\nたとしても,被告ウェブサイトの閲覧及び店舗の訪問によって容易に知りう る状態にあった。
契約関係の解消後も,一審被告は,日本国内のJS商標を既に譲り受けて いた以上,本件ブランドの下での婦人服販売事業をそれ以前とほぼ同じ態様 で継続することが可能であり,そのことは一審原告側も了知していた。また,\n乙7の終了合意書が締結された平成14年以降,同事業における商品のデザ インや宣伝広告の手法等について,一審原告側は具体的に関与する権利を失 っていたから,本件解除によりすべての契約関係が解消されたからといって, 一審被告が被告ウェブサイトを改修するなどして宣伝広告の内容を改めるべ き事業上の必然性はなかった。そうすると,契約関係の解消後も,被告各表\n示及び被告写真をそれまでと同様に使用し続けることを,一審被告は予定し\nており,一審原告側も,これを予想していたか少なくとも予\想し得たといえ る。
また,JS商標は一審原告Xの氏名と同一であるから,JS商標及び各商 標に関連するグッドウィルを商標権譲渡契約によって譲り受けた上で行う一 審被告の事業活動は,その需要者層に,一審原告X個人がこれに関与してい るとの認識又は印象を必然的に生じさせるものであったといえる。このよう な状況は,契約関係の終了後においても直ちに変わるものではない。
(3) このように,本件事案は,長期間にわたり契約関係にあった当事者が,必 ずしも明確に定めてこなかった事柄が問題となり,それが原因となってパブ リシティ侵害行為,著作権侵害行為及び不正競争行為(いずれも法的性質と しては不法行為)として損害賠償等が請求されている,というものである。 そうすると,権利侵害の成否や損害額の算定の判断に当たっても,契約関係 にない権利者と侵害被疑者との間の訴訟におけるものとは異なり,契約関係 にあった当時の事情を踏まえた合理的な意思解釈が必要とされる。 (4) そして,当裁判所は,上記(3)のような観点に立った上で,原審の判断は是 認し得ると考え,原判決を引用して上記1のとおり判断するものである。
3 両当事者の当審における主張に対する判断
・・・
ア パブリシティ権侵害に基づく使用料相当損害について
原判決の認定した100万円という損害額につき,一審原告会社は高額 に過ぎる旨主張し,一審被告は低額に過ぎる旨主張する。 そこで検討するに,本件においては,以下のような事情を考慮する必要 があると考えられる。すなわち,
(ア) 本件証拠中,例えば甲28には,一審原告Xについて,「世界12ヶ 国に進出。どの国でも高い人気を獲得している。」という記載がある一 方で,「日本は世界最大のマーケット」という記載もある(前者につい ては甲27,後者については甲27,29,30にも同旨の記載があ る。)。 そして,後掲各証拠(いずれも枝番含む)によれば,「世界12ヶ国 に進出」というその実態は,一審原告Xの生地である米国ニューヨーク 市のソーホー地区に平成5年ころから直営の実店舗を有している(乙1\n0)ほかは,米国を含む各国のデパート等に断続的に商品を卸したり (甲134),ネットショップに商品が掲載されたり(甲117〜12 1,133)しているにとどまる。一審原告側が運営するウェブサイト には,店舗の所在場所として18か国のデパート等が挙げられているが (甲122),その中には商品の実際の取扱いを確認できないものが多 い上(乙39ないし45),取扱いがある場合でもデパートの店内に本 件ブランドを冠した売場を確保してはいない(乙11,48)。そして, 一審原告側が主要国の大都市の目抜き通りに独自の路面店を構えている\nこと等を示す証拠は見当たらない。 なお,一審原告Xの日本国外での活動に関する証拠(甲2〜7,10 1〜116)はいずれもウェブサイトへの掲載であるところ,ウェブサ イトは,紙媒体と異なり,掲載可能な記事数が極めて多い媒体である。\nまた,一審原告Xが出展したファッションショー(甲103〜109, 111〜115)は,いわば「地元」であるニューヨーク市でのもので ある上に,出展料を支払えば参加資格に制限はない(一審被告前代表者\n本人尋問)。
(イ) 一審原告Xの世界的な名声については上記(ア)のとおり一定の留保を付 けざるを得ないのに比して,日本国内での名声(特に被告商品の需要者 層におけるもの)は,それなりに高いと認められる。 もっとも,本件ブランドの日本での立上げ以前から一審原告Xが日本 の需要者層に広く知られていたことを示す証拠は見当たらないのに対し, それ以降は一審被告を先駆けとする各ライセンシーが本件ブランドのビ ジネスに深く関わってきたことからすれば,日本における一審原告Xの 名声には,各ライセンシーによるマーケティングの成果という側面が多 分にある。一審原告Xの日本国内での名声を示すものとして一審原告側 から提出されている証拠(甲8〜10,27〜34,83,84,16 2,214〜470等)も,各ライセンシーによる上記と同様のマーケ ティングに影響されたものである可能性がある(例えば,外見上は出版\n社が編集したムックである甲8にも,Editorial cooperatorとして,複 数名の一審被告の関係者が関与している(5頁)。) そして,各ライセンシーがそのマーケティングに当たり,一貫して, 一審原告Xを被告表示2〜4のとおりの容貌・経歴・信条を有する人物\nとして需要者層に印象付けようと努めてきたことは本件各証拠から明ら かであるから,一審原告Xが「世界的に有名な」ファッションデザイナ ーであるとの名声が日本において形成されるについては,各ライセンシ ーの寄与,中でもその先駆けである一審被告の寄与が相当程度に大きか ったと認められる。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の事情によれば,一審原告Xの肖像等が顧客誘引力を有 し同人にはパブリシティ権が認められるとしても,それらは,いわゆる 超一流のファッションデザイナー(例えばB,C,Dにつき甲44,5 4,56)のものと同列ではないし,パブリシティ権の形成に当たって 一審被告がライセンシーとして寄与してきたという経緯を考慮すべきで ある。
(エ) 一審原告らは,一審原告Xのパブリシティ権の価値が高く,その侵害 による損害が大きい旨の主張を裏付けるため,過去の裁判例及び文献の 記載を多数援用する(甲85,131,166〜169,194〜20 0,473等)。しかしながら,過去においてパブリシティ権の価値が 検討された事案の多くは,きわめて知名度が高い権利者(その多くは, 知名度の高さが「公知の事実」に近いような芸能人,運動選手等であ\nる。)の名称及び肖像等が有する顧客誘引力を,その知名度の形成に寄 与していない他者が利用した事案であるから,これらの事案を通じて形 成された法理論及びマーケティング理論並びに個別の事案における裁判 所の判断は,本件にそのまま適用できるものではない。もっとも,一審 原告Xの我が国における認知度は,それなりに高いことからすると,そ の形成に当たって一審被告の貢献が大きいことを考慮しても,パブリシ ティ権侵害に対する損害賠償の額を余りに少額とすることもまた相当で はないというべきである。 上記(ア)〜(エ)で検討した点を踏まえると,一審原告Xのパブリシティ侵害 によって生じた使用料相当損害の額は,原判決が説示するとおり,100 万円と評価するのが相当であって,これに反する一審原告会社及び一審被 告の主張は,いずれも採用することができない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成28(ワ)26612等

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平成30(ワ)12609  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月9日  東京地方裁判所

 原告は、ヤマハです。技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されました。被告は本件アプリを設計変更して、本件新アプリに変更しましたが、本件アプリについては引き続き差止請求が認められました。

 被告は,(1)乙2公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音 された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の 関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙2技術を開示しているところ,本件 発明1も乙2技術を採用するものであり,相違点1−1ないし同1−4は,識別対 象,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違にすぎず,当業者が適 宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,乙2技術を乙4課題の 解決に応用して,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成を容易に想到し得た旨主張する。\n
しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記1(2)認定のとおり, 本件発明1は,コンピュータを,(i)放音される「案内音声である再生対象音」と 「当該案内音声である再生対象音の識別情報」を含む音響を収音して識別情報を抽 出する情報抽出手段,(ii)サーバに対し,抽出した識別情報とともに「端末装置に て指定された言語を示す言語情報」を含む情報要求を送信する送信手段,(iii)「前 記案内音声である再生対象音の発音内容を表」し,情報要求に含まれる識別情報に対応するとともに「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求\nの言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信する受信手段,(iV)受信 手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラムの発明であり,乙2公報等に音響IDとインターネットを利用するという点で本件発明1と\n同様の構成を有する情報提供技術が開示されていたとしても,その手順や方法を具体的に特定し,使用言語が相違する多様な利用者が理解可能\な関連情報を提供できるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるか ら,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成が当業者において適宜設定できる事項であるということはできない。\nまた,被告の上記(2)の主張については,前記イのとおり,乙4公報に,発明が解 決しようとする課題の一つとして,システムを複数の言語に対応させること(以下, 単に「乙4発明の課題」という。)が記載されているものの,以下のとおり,乙2 発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められず,仮に,乙4発明の 課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加え たとしても相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成に到達しないから,採用することができない。\n
(ア) 乙2発明1を乙4発明の課題を組み合わせる動機付け
a 前記のとおり,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり,放送中のテレ ビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サーバを介して 当該場面に関連する情報を取得するものであるのに対し,前記イ(イ)のとおり,乙 4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館や博物館等の展 示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり,展示物に固有のIDを赤外線 等の無線通信波によって発信し,携帯受信器が発信域に入ると上記IDを受信し, 展示物の音声ガイドが自動的に再生されるものであり,サーバに接続してインター ネットを介して情報を取得する構成を有しないから,両発明は,想定される使用場面や発明の基本的な構\成が異なっており,乙2発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められない。
b 被告は,(1)乙4発明は,放音装置を利用した情報提供技術という乙2技術と 同じ技術分野に属するものであること,(2)乙2技術は汎用性の高い技術であり, 様々な放音装置を含むシステムに利用されていたこと(乙11ないし13),(3)端 末装置とサーバとの通信システムを利用する情報提供技術は周知のものであったこ と(乙2,5,6,8,11ないし13等)などによれば,当業者において,乙2 技術を乙4課題の解決に応用する動機付けがある旨主張する。 しかしながら,乙2発明1と乙4発明がいずれも放音装置を利用した情報提供技 術であるという限りで技術分野に共通性が認められ,また,本件優先日1当時,音 響IDとインターネットを利用し,又は端末装置とサーバとの通信システムを利用 する情報提供技術が乙2公報以外の公開特許公報に開示されていたとしても,いず れも乙4発明とは想定される使用場面や発明の基本的な構成が異なることは前記のとおりであり,乙4発明の課題の解決のみを取り上げて乙2発明1を適用する動機\n付けがあると認めるに足りない。
(イ) 乙2発明1に対する乙4発明等の適用
また,以下のとおり,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加えたとしても,本件発明1の構成に到達しない。\n前記第2の2(2)ア(ウ)認定の特許請求の範囲,前記(1)認定の本件明細書1の発明 の詳細な説明,図面,弁論の全趣旨に照らすと,本件発明1は,概要,以下のとお りのものであると認められる。
ア 本件発明1は,端末装置の利用者に情報を提供する技術に関する(【0001】)。
イ 従来から,美術館や博物館等の展示施設において利用者を案内する各種の技 術が提案されていたが,各展示物の識別符号が電波や赤外線で発信装置から送信さ れるものであったため,電波や赤外線を利用した無線通信のための専用の通信機器 を設置する必要があった。本件発明1は,そのような問題を踏まえてされたもので あり,無線通信のための専用の通信機器を必要とせずに多様な情報を利用者に提供 することを目的とする(【0002】,【0004】)。
ウ 本件発明1は,(1)案内音声である再生対象音を表す音響信号と当該案内音声である再生対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音さ\nれた音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,(2)情報抽出手 段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,(3)情報要求に含まれる 識別情報に対応するとともに案内音声である再生対象音に関連する複数の関連情報 のいずれかを受信する受信手段,(4)受信手段が受信した関連情報を出力する出力手 段としてコンピュータを機能させることにより,赤外線や電波を利用した無線通信に専用される通信機器を必要とせずに,案内音声である再生対象音の識別情報に対\n応する関連情報を利用者に提供することを可能とする(【0005】)。
エ 以上に加えて,本件発明1は,前記送信手段が,当該端末装置にて指定され た言語を示す言語情報を含む情報要求を送信し,前記受信手段が,情報要求の識別 情報に対応するとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の 言語情報で指定された言語に対応する関連情報を受信するという構成を採用するこ\nとにより,相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の言語情報で指 定された言語に対応する関連情報を受信することができ,使用言語が相違する多様 な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものである(【0\n006】等)。
2 本件アプリの広告等について
証拠(甲6,7)によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告作成の「Sound Insight(サウンドインサイト)」と題す る本件アプリを用いたシステムに関する広告(甲6。以下「本件広告」という。) には,次のとおり記載されていた。
ア (1)「映像・音声にのせて,情報配信」,(2)「動画・音楽などの音に人間には 聞こえない音波信号(音波ID)を埋め込み,テレビ・サイネージ・スピーカー等 から再生し,スマートフォンアプリで音波信号(音波ID)を受信する事により, 紐づいた情報をスマートフォン上に自動表示」,(3)(音波信号に紐づく情報を表示\nする手順の一つとして)「映像・音声に重畳した音波信号を発する」
イ (1)「音で情報を配信」,(2)「『Sound Insight』は,人には聞 こえない音波信号(音波ID)を使い,映像や音に合わせてアプリを連動できます。 利用者が信号音を意識することなくスマートフォン上に情報を表示します。」\n
ウ 「多言語で配信可能 日本語のほか,英語,中国語,台湾語,韓国語,ロシ ア語など多言語で情報配信できます。」
エ (使用例の一つとして)「バスの車内案内では 多国語で停留所情報や地域 の情報を案内できます。」
(2) 本件アプリのダウンロード用のウェブサイト(甲7。「本件ダウンロードサ イト」という。)には,次のとおり記載されていた。 「『サウンドインサイト』は,空港,駅,電車,バスなどの様々な場所に設置さ れた各種スピーカーから送信された音波を,専用アプリをインストールしたスマー トフォンで受信することで,関連する情報を自動で表示させることのできるサービ\nスです。・・・『サウンドインサイト』の活用により,・・・外国人観光客へ空港・駅などのアナウンスに関連する情報を多言語で情報提供する『言語支援用途』・・・などで活 用いただくことができます。」
3 争点1(本件アプリは本件発明1の技術的範囲に属するか)について
(1)争点1−1(本件アプリは構成要件1Bを充足するか)について\n
ア 構成要件1Bに対応する本件アプリの構\成に係る事実認定
(ア) 前記第2の2(5)ア(ア)のとおり,本件アプリは,スピーカー等の放音装置か ら,識別情報であるIDコードを表す音響IDを含む音響が放音されると,これを\n収音し,当該音響IDからIDコードを検出するものとしてスマートフォンを機能\nさせるものであるところ,前記2(1)のとおり,本件広告には,「映像・音声にのせ て」,「動画・音楽などの音」に埋め込んで,「映像・音声に重畳」させて音響I Dを放音することが記載されているほか,使用例の一つとして,バスの車内案内で は多言語で停留所情報等を提供することができることが記載されていること,同(2) のとおり,本件ダウンロードサイトには,本件アプリは,空港,駅,電車,バス等 に設置された放音装置から送信された音波を,スマートフォンで受信することで, 関連する情報を自動で表示させることのできるサービスを提供するものであること\nが記載されていることなどからすると,被告から音響IDの提供を受けた顧客にお いて,案内音声を識別するものとしてIDコードを使用し,これを案内音声ととも に放音装置から放音することは,本件アプリにつき想定されていた使用形態の一つ であるというべきである。そうすると,本件アプリは「案内音声と当該案内音声を 識別するIDコードを含む音響IDとを含有する音響を収音し,当該音響からID コードを抽出する情報抽出手段」(構成1b)を備えていると認めるのが相当であ\nる。
(イ) 被告は,本件アプリが構成1bを備えていることを否認し,その理由として,\n(1)被告サービスにおいて,被告は,放音される音響やIDコードの識別対象を決定 しておらず,これらを選択,決定しているのは顧客であって,いずれも「案内音声」 に限られるものではないこと,(2)本件アプリの利用場面の中で,最も多くの需要が 見込まれているのは商品説明の場合であるが,商品説明において,放音装置から音 声が発せられることは必須ではなく,かえって,音声が放音されるとスマートフォ ンに表示される情報を理解する妨げになることを主張する。\nしかしながら,被告の上記(1)の主張は,構成要件1B所定の音響が放音されない\n場合があることを指摘するにとどまるものであり,前記(ア)のとおり,本件広告に おいても,案内音声を収音する使用形態を回避させるような記述はなく,むしろ, そのような使用形態を想定したものとなっていたというべきであるから,前記認定 を覆すに足りないというべきである。 また,被告の上記(2)の主張について,本件アプリにつき最も多くの需要が見込ま れていたのが商品説明の場面であったとしても,被告において,そのような使用形 態に特化したものとして本件アプリを広告宣伝していたものでもなく,前記認定を 覆すに足りない。
イ 構成要件1Bに係るあてはめ\n
以上の認定を踏まえて検討すると,構成1bの「案内音声」は,本件発明1の\n「案内音声である再生対象音を表す音響信号」に対応し,構\成1bの「案内音声を 識別するIDコードを含む音響ID」は,本件発明1の「案内音声である再生対象 音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号」に対応する。 そして,本件発明1は,コンピュータを所定の手段として機能させるプログラム\nに係る発明であり,構成要件1Bは,放音された所定の音響を収音した収音信号か\nら識別情報を抽出する情報抽出手段を規定するものであるから,構成要件1B所定\nの音響が放音された場合に,これを収音し,識別信号を抽出する手段としてコンピ ュータを機能させるプログラムであれば,これと異なる用途でコンピュータを機能\ させ得るとしても,又は音響が放音されない場面があるとしても,同構成要件を充\n足すると解すべきところ,本件アプリは,同所定の音響を収音し,当該音響からI Dコードを抽出するものとしてスマートフォンを機能させるものであるから,放音\nされる音響やIDコードの識別対象を選択しているのが顧客であり,音響が放音さ れない使用方法が選択され得るとしても,構成要件1Bを充足する。\n
(2)争点1−2(本件アプリは構成要件1Dを充足するか)について\n
ア 構成要件1Dの「関連情報」の言語の解釈\n
(ア) 構成要件1Dは,「関連情報」について,「前記案内音声である再生対象音\nの発音内容を表す関連情報であって,前記情報要求に含まれる識別情報に対応する\nとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求の言語情報 で指定された言語に対応する関連情報」と規定しているから,「関連情報」の言語 は,相異なる言語に対応するものの中から情報要求の言語情報で指定された言語に 対応するものと解すべきである。
(イ) 被告は,「関連情報」は,第1言語で発音される案内音声の発音内容を第1 言語で表した文字列であると解すべきであるとし,その理由として,原告が本件訂\n正審判請求1の際に訂正事項が明細書の記載事項の範囲内であることを示す根拠と して本件明細書1の【0041】を挙げていたことを指摘するが,構成要件1Dは\n上記のとおりのものであるから,「関連情報」が案内音声の言語と同一のものであ ると解するのは文言上無理がある。また,同段落には,第2言語に翻訳することな く,第1言語の指定文字列のまま関連情報Qとする実施例が開示されているが,こ れは第1実施形態の変形例の一つ(態様1)にすぎず,原告が本件訂正審判請求1 の際に同段落を指摘したからといって,当該実施例の態様に限定して「関連情報」 の言語について解釈するのは相当でない。
イ 構成要件1Dに対応する本件アプリの構\成に係る事実認定
(ア) 前記第2の2(5)ア(ウ)及び同イのとおり,本件アプリは,管理サーバから, リクエスト情報に含まれるIDコード及びアプリ使用言語の情報に対応する情報の 所在を示すものとして送信されるアクセス先URLを受信するものとしてスマート フォンを機能させるものであり,管理サーバには,1個のIDコードに対応させて,\n6個までのアプリ使用言語に対応するURLを記憶することができるところ,前記 2(1)のとおり,本件広告には,日本語のほか,英語,中国語,台湾語,韓国語,ロ シア語など多言語で情報配信できることが記載されており,使用例の一つとして, バスの車内案内では多言語で停留所情報等を提供することができることが記載され ていること,同(2)のとおり,本件ダウンロードサイトには,外国人観光客に対して, 空港・駅等のアナウンスに関連する情報を多言語で情報提供する用途に用いること ができることが記載されていることなどからすると,顧客において,リクエスト情 報に含まれるIDコードに対応する案内音声の発音内容を表す情報について,当該\n案内音声とは異なる言語に対応する複数の情報を管理サーバに記憶させ,リクエス ト情報に含まれるアプリ使用言語に対応する情報をスマートフォンに送信するよう にすることは,本件アプリにつき想定されていた使用態様の一つであるというべき である。そうすると,本件アプリは,「前記案内音声の発音内容を表す関連情報で\nあって,前記リクエスト情報に含まれるIDコードに対応するとともに,6個まで のアプリ使用言語に対応する複数の情報のうち,前記リクエスト情報のアプリ使用 言語に対応する情報を受信する受信手段」(構成1d)を備えていると認めるのが\n相当である。
(イ) 被告は,本件アプリが構成1dを備えていることを否認し,その理由として,\n
(1)被告サービスにおいて,被告は,本件スマートフォンが受信する情報を決定して おらず,これを選択,決定しているのは顧客であって,構成要件1D所定のものに\n限られないこと,(2)被告は,本件アプリに係る実証実験において,本件アプリを用 いて「案内音声である再生対象音の発音内容」を関連情報として出力したことはな く,外国語に翻訳した内容を関連情報として出力したこともないこと,(3)被告は, 今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語の関連情報\nを提供することを禁ずる旨の約束をする意思があることを主張する。 しかしながら,被告の上記(1)の主張は,本件スマートフォンの受信する情報が構\n成要件1D所定の情報ではない場合があることを指摘するにとどまるものであり, 前記(ア)のとおり,本件広告及び本件ダウンロードサイトにおいても,案内音声の 発音内容を表し,リクエスト情報に含まれるアプリ使用言語に対応する情報を受信\nする使用形態を回避させるような記述はなく,むしろ,そのような使用形態を想定 したものとなっていたというべきであるから,被告の実証実験では同構成要件所定\nの情報を受信しなかったこと(上記(2)),被告が今後も同構成要件所定の使用態様\nで本件アプリを使用しないことを約束する意思を有していること(上記(3))を併せ 考慮しても,前記認定を覆すに足りないというべきである。
ウ 構成要件1Dに係るあてはめ\n
構成要件1Bにおいて規定するとおりにコンピュータを機能\させるものであれば, 同構成要件を充足するとの前記(1)イにおける検討と同様に,構成要件1D所定の情\n報を受信する手段としてコンピュータを機能させるプログラムであれば,受信する\n情報が同構成要件所定のものではない場面があるとしても,同構\成要件を充足する と解すべきところ,本件アプリは,構成1dを備えており,スマートフォンを「前\n記案内音声の発音内容を表す関連情報であって,前記リクエスト情報に含まれるI\nDコードに対応するとともに,6個までのアプリ使用言語に対応する複数の情報の うち,前記リクエスト情報のアプリ使用言語に対応する情報を受信する受信手段」 として機能させるものであるから,本件スマートフォンが受信する情報を選択して\nいるのが顧客であるとしても,構成要件1Dを充足する。\n
4 争点4(本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものか)につい て
(1) 争点4−1(本件発明1は乙2公報により進歩性を欠くか)について
・・・
(イ) 乙2発明1
前記(ア)によれば,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり(【000 1】),テレビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サ ーバを介して当該場面に関連する情報を取得することを容易にした携帯端末装置等 を提供することを目的とするものであって(【0005】等),本件発明1に対応 する構成として,次の各構\成を有すると認められる。
「携帯端末装置を,
放送中のテレビ番組の放送音声と重畳して放音される,当該番組の場面を識別す る音声信号である音響IDを収音し,前記音響IDからIDコードにデコードする 情報抽出手段,
携帯端末装置に記憶されたIDコードをID解決サーバに送信する送信手段,
前記IDコード及び前記ID解決サーバが当該IDコードを受信した時刻に基づ いて当該ID解決サーバによりID/URL対応テーブルにおいて検索された対応 するURLを受信し,放送されたテレビ番組の場面に関連する情報を当該URLで 指示されるコンテンツサーバから受信する受信手段,及び,
前記受信手段が受信した情報を携帯端末装置上で表示する出力手段として機能\させるプログラム。」
(ウ) 乙2発明1と本件発明1の対比
乙2発明1と本件発明1を対比すると,これらは,次のaの点で一致し,少なく とも,次のbの点で相違すると認められる。
a 一致点
「コンピュータを,再生対象音を表す音響信号と識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音された音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,前記情報抽出手段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,\n前記情報要求に含まれる識別情報に対応する関連情報を受信する受信手段,および, 前記受信手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラム。」\n
b 相違点
(a) 相違点1−1(構成要件1B)\n
本件発明1では,「案内音声・・・を表す音響信号」と「当該案内音声である再生対\n象音の識別情報」が放音されるのに対し,乙2発明1では,「放送中のテレビ番組 の放送音声」と「当該番組に対応し,当該番組の場面を識別する音声信号である音 響ID」が放音される点
(b) 相違点1−2(構成要件1C)\n
本件発明1では,端末装置からサーバに送信される「情報要求」に含まれる情報 は,「識別情報」と「当該端末装置にて指定された言語を示す言語情報」であるの に対し,乙2発明1では,携帯端末装置からID解決サーバに送信される情報は 「IDコード」のみであり,「端末装置にて指定された言語を示す言語情報」は含 まれない点
(c) 相違点1−3(構成要件1D(1))
本件発明1では,端末装置が受信する「関連情報」は,「案内音声である再生対 象音の発音内容を表す」のに対し,乙2発明1では,「放送されたテレビ番組の場\n面」に関連する内容を表す点\n
(d) 相違点1−4(構成要件1D(2))
本件発明1では,端末装置が受信する「関連情報」は,「相異なる言語に対応す る複数の関連情報のうち,前記情報要求の言語情報で指定された言語に対応する関 連情報」であるのに対し,乙2発明1では,携帯端末装置がこれに対応する情報を 受信しない点
(エ) 相違点に関する被告の主張について
a 相違点1−1(構成要件1B)\n
被告は,乙2発明1の「IDコード」は,番組と同時に,番組の放送音声という 「再生対象音」も識別しているから,「再生対象音の識別情報」が放音される点で は本件発明1と相違しない旨主張する。 しかしながら,乙2公報に「この音響IDは,放送中の番組に対応するものであ り,放送音声に重畳されて放音される。」(【0014】)と記載されており,I D/URL対応テーブルを示す図4においても,受信時間帯に対応する番組の「シ ーン」が特定されていること(【0025】)などからすると,乙2発明1の「ID コード」は,放送中の番組に対応し,当該番組の場面を識別する音声信号であって, 番組の放送音声を識別するものではないから,本件発明1の「再生対象音の識別情 報」に対応する構成を有するものとは認められない。\n
b 相違点1−2(構成要件1C)\n
被告は,乙2発明1では,ユーザがボタンスイッチを押した時刻は「端末装置に て指定された・・・情報」に該当するから,「端末装置にて指定された・・・情報」が「言 語を示す言語情報」であるか「ボタンスイッチの操作タイミングを示す情報」であ るかの点でのみ本件発明1と相違する旨主張する。 しかしながら,乙2公報に「番組を視聴しているユーザ6は,番組を視聴し興味 ある場面が映し出されると,スマートフォン2を操作する(たとえばボタンを押下 する)。このときの操作により,スマートフォン2は記憶していたIDコードをI D解決サーバ4に送信する。」(【0014】)と記載されていることなどからする と,乙2発明1において,携帯端末装置から送信される情報はIDコードのみであ り,ID解決サーバは当該IDコード及び受信時刻で対応するURLを検索するも のであるから,本件発明1の「端末装置にて指定された・・・情報」に対応する構成を\n有するとは認められないというべきである。
c 相違点1−3(構成要件1D(1))
被告は,乙2発明1で,携帯端末装置が受信する情報は,番組の特定の場面に対 応する放送音声に関連するものであるから,端末装置が受信する「関連情報」が 「再生対象音」である点では本件発明1と相違しない旨主張する。 しかしながら,乙2公報に「この対応するURLは,ユーザ6がスマートフォン 2を操作したときに放送されていた(テレビ1の画面に映し出されていた,または 音声で再生されていた)場面に関連する情報を提供するインターネットサイトのU RLである。」(【0014】)と記載されていることなどからすると,乙2発明1 において,携帯端末装置が受信する情報は,放送されたテレビ番組の場面に関連す るものであり,放送音声に関連する情報であるとは認められない。
d 相違点1−4(構成要件1D(2))
被告は,乙2発明1では,番組中の相異なる場面に対応する「複数の関連情報」 が存在し,そのうち選ばれた情報を受信しているから,「関連情報」が対応してい るのが「言語」であるか「場面」であるかの点でのみ本件発明1と相違する旨主張 する。 しかしながら,乙2発明1において,携帯端末装置が受信する放送中の番組の場 面に関する情報は「相異なる言語に対応する」ものでもないから,ID解決サーバ に番組内の相異なる場面に対応する情報が複数記憶されていたとしても,これを構\n成要件1Dの「相異なる言語に対応する複数の関連情報」との構成に対応するもの\nと認めることはできない。
イ 乙4発明の内容等に係る事実認定
・・・
(イ) 乙4発明の概要 前記(ア)によれば,乙4公報には,概要,次のとおりの内容の乙4発明が開示さ れていると認められる。 すなわち,乙4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館 や博物館等の展示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり(【000 1】),(1)電波によって情報を伝達する従来技術によると,対象物以外のガイド音 声を受信して利用者に誤った情報を提供するおそれがあったこと(【0005】) を踏まえ,展示物に固有のIDを赤外線等の無線通信波によって発信するID発信 機を展示物ごとに一定の間隔で設置し,利用者が携帯する携帯受信器が発信域に入 ると上記IDを受信し,展示物の音声ガイドが自動的に再生される構成を採用する\nことにより,情報提供するIDの受信範囲を限定することが容易になり,隣接する 対象展示物との混信を回避した音声ガイドシステムを可能とするという作用効果を\n奏するものであり(【0008】ないし【0010】,【0014】),また,(2) そのシステムを複数の言語に対応させようとすると,多数のチャンネルの割当てが 必要となり,その選択操作を利用者が行う必要があったこと(【0007】)を踏 まえ,多言語に翻訳された音声ガイドのデータを携帯受信器に蓄積し,その中から 再生する言語を選択するという構成を採用することにより,多くの外国人利用者に\nも携帯受信器を操作することなくガイド音声を提供することができるという作用効 果を奏するものである(【0012】,【0020】)。
ウ 乙5発明の内容等に係る事実認定
・・・
(イ) 乙5発明の概要 前記(ア)によれば,乙5公報には,概要,次のとおりの内容の乙5発明が開示さ れていると認められる。 すなわち,乙5発明は,公共の場所等に掲載された文書等の掲載物を様々な言語 に翻訳して提供する情報提供装置等に関するものであり(【0001】),文書の 内容を様々な言語で利用者に正しく提供することを主たる課題とし(【000 6】),2次元コードと複数の言語に対応する言語コードをその内容として含むコ ード画像をユーザ端末装置によって読み取り,ユーザにおいて所望の言語を選択す るなどして,インターネットを介して,文書等の掲載物の翻訳ファイルにアクセス というものである(【0015】,【0025】,【0035】,【0038】)。
エ 容易想到性についての判断
被告は,(1)乙2公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音 された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の 関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙2技術を開示しているところ,本件 発明1も乙2技術を採用するものであり,相違点1−1ないし同1−4は,識別対 象,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違にすぎず,当業者が適 宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,乙2技術を乙4課題の 解決に応用して,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成を容易に想\n到し得た旨主張する。 しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記1(2)認定のとおり, 本件発明1は,コンピュータを,(i)放音される「案内音声である再生対象音」と 「当該案内音声である再生対象音の識別情報」を含む音響を収音して識別情報を抽 出する情報抽出手段,(ii)サーバに対し,抽出した識別情報とともに「端末装置に て指定された言語を示す言語情報」を含む情報要求を送信する送信手段,(iii)「前 記案内音声である再生対象音の発音内容を表」し,情報要求に含まれる識別情報に\n対応するとともに「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求 の言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信する受信手段,(iV)受信 手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラムの発明で\nあり,乙2公報等に音響IDとインターネットを利用するという点で本件発明1と 同様の構成を有する情報提供技術が開示されていたとしても,その手順や方法を具\n体的に特定し,使用言語が相違する多様な利用者が理解可能な関連情報を提供でき\nるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるか ら,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成が当業者において適宜設\n定できる事項であるということはできない。 また,被告の上記(2)の主張については,前記イのとおり,乙4公報に,発明が解 決しようとする課題の一つとして,システムを複数の言語に対応させること(以下, 単に「乙4発明の課題」という。)が記載されているものの,以下のとおり,乙2 発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められず,仮に,乙4発明の 課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加え たとしても相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成に到達しないから,\n採用することができない。
(ア) 乙2発明1を乙4発明の課題を組み合わせる動機付け
a 前記のとおり,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり,放送中のテレ ビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サーバを介して 当該場面に関連する情報を取得するものであるのに対し,前記イ(イ)のとおり,乙 4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館や博物館等の展 示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり,展示物に固有のIDを赤外線 等の無線通信波によって発信し,携帯受信器が発信域に入ると上記IDを受信し, 展示物の音声ガイドが自動的に再生されるものであり,サーバに接続してインター ネットを介して情報を取得する構成を有しないから,両発明は,想定される使用場\n面や発明の基本的な構成が異なっており,乙2発明1を乙4発明の課題に組み合わ\nせる動機付けは認められない。
b 被告は,(1)乙4発明は,放音装置を利用した情報提供技術という乙2技術と 同じ技術分野に属するものであること,(2)乙2技術は汎用性の高い技術であり, 様々な放音装置を含むシステムに利用されていたこと(乙11ないし13),(3)端 末装置とサーバとの通信システムを利用する情報提供技術は周知のものであったこ と(乙2,5,6,8,11ないし13等)などによれば,当業者において,乙2 技術を乙4課題の解決に応用する動機付けがある旨主張する。 しかしながら,乙2発明1と乙4発明がいずれも放音装置を利用した情報提供技 術であるという限りで技術分野に共通性が認められ,また,本件優先日1当時,音 響IDとインターネットを利用し,又は端末装置とサーバとの通信システムを利用 する情報提供技術が乙2公報以外の公開特許公報に開示されていたとしても,いず れも乙4発明とは想定される使用場面や発明の基本的な構成が異なることは前記の\nとおりであり,乙4発明の課題の解決のみを取り上げて乙2発明1を適用する動機 付けがあると認めるに足りない。
(イ) 乙2発明1に対する乙4発明等の適用
また,以下のとおり,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなど\nして乙2発明1の構成に変更を加えたとしても,本件発明1の構\成に到達しない。
a 相違点1−1(構成要件1B)\n
(a) 前記のとおり,乙4発明は,展示物ごとに設置されたID発信機から赤外線 等の無線通信波によって展示物に固有のIDが発信されるものであり,「案内音声 ・・・を表す音響信号」を放音するものではなく,「当該案内音声である再生対象音の\n識別情報」を含む音響信号を放音するものでもないから,乙4発明の構成を参照し\nて乙2発明1の構成に変更を加えたとしても,相違点1−1に係る本件発明1の構\ 成に到達しない。
(b) 被告は,乙4発明の音声ガイドは「案内音声」に相当するから,「案内音声」 を識別する構成を採用することは容易であった旨主張するが,上記のとおり,乙4\n発明のIDは展示物を識別するものであり,当該展示物に係る音声ガイドを識別す るものではないから,乙4発明は「案内音声」を識別する構成を開示するものでは\nない。
b 相違点1−2(構成要件1C)\n
前記のとおり,乙4発明は,サーバに接続してインターネットを介して情報を取 得するという構成を有しないものであり,端末装置からサーバに「識別情報」と\n「当該端末装置にて指定された言語を示す言語情報」が送信されることはないから, 乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照して乙2発明1の構\成に変更を加 えることによって,相違点1−2に係る本件発明1の構成に到達することはない。\n
c 相違点1−3(構成要件1D(1))
前記のとおり,乙4発明は,サーバに接続してインターネットを介して情報を取 得するという構成を有しておらず,IDによって識別される展示物のガイド音声を\n再生するものであって,端末装置が「案内音声である再生対象音の発音内容を表す」\n情報を受信することはないから,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照\nして乙2発明1の構成に変更を加えることによって,相違点1−3に係る本件発明\n1の構成に到達することはない。\n
d 相違点1−4(構成要件1D(2))
前記のとおり,乙4発明は,多言語に翻訳された音声ガイドのデータを携帯受信 器に蓄積し,その中から再生する言語を選択することによって,IDによって識別 される展示物のガイド音声を所定の言語で再生するという構成を有するものの,サ\nーバに接続してインターネットを介して情報を取得するという構成を有していない\nから,端末装置が「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求 の言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信することはなく,乙4発 明の構成を参照して乙2発明1の構\成に変更を加えることによって,相違点1−4 に係る本件発明1の構成に到達することはない。\n
・・・
5 争点6(差止めの必要性は認められるか)について
被告は,本件アプリについて差止めの必要性は認められないとし,その理由とし て,(1)本件口頭弁論終結時点において,本件アプリに係るサービスは実用化されて いなかったこと,(2)被告は,平成30年5月以降,本件アプリの配信を中止し,多 言語で情報配信を行う機能を取り除いた本件新アプリを配信しており,本件訴訟の\n結果によって本件アプリに係る事業を再開するか否かを決定する予定であること,\n(3)被告は,今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語\nの関連情報を提供することを禁ずる旨の約束や,案内音声である第1言語の再生対 象音が表す発音内容を第2言語で表\現した情報を提供することを禁ずる旨の約束を する意思があることを主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,本件アプリは,本件発明1の技術的範囲に属 し,本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないから, 前記第2の2(4)のとおり,被告は,少なくとも,平成29年5月頃から平成30年 6月頃まで,本件アプリを作成し,譲渡等及び譲渡等の申出をし,平成28年6月\nから平成29年3月までの間に3回にわたり本件アプリを使用することによって本 件特許権1を侵害していたものである。 これらに加えて,被告が本件訴訟において本件アプリが本件発明1の技術的範囲 に属することを否認して争い,本件特許1について特許無効審判により無効にされ るべきであると主張していること,弁論の全趣旨によれば,被告は,現在も,ウェ ブサイトに本件アプリの説明や広告を掲載していると認められ,被告が本件アプリ の作成等を再開することが物理的に不可能な状況にあるとは認められないことなど\nも考慮すると,被告は,今後,本件特許権1を侵害するおそれがあるものというべ きであるから,原告が被告に対し,その侵害の予防のため,本件アプリの作成等の\n差止を求める必要性は認められるものというべきである。

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平成31(行ケ)10025 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月19日  知的財産高等裁判所

 無効理由ありとした審決が取り消されました。争点はサポート要件です。

 前記1の本件明細書の記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明に は,(1)「本発明」の気体溶解装置1は,気体を発生させる気体発生手段2 と,この気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解手段3と,気体 を溶解している液体を溶存及び貯留する溶存槽4と,この液体が細管5a を流れることで降圧する降圧移送手段5とを備えること(【0029】, 図1),「本発明の気体溶解方法は,水に水素を溶解させて水素水を生成 し取出口から吐出させる気体溶解方法であって,生成した水素水を導いて 加圧貯留する溶存槽と,前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路と, を少なくとも含む気体溶解装置において,前記取出口からの水素水の吐出 動作による前記管状路内の圧力変動を防止し前記管状路内に層流を形成さ せることを特徴とする」こと(【0023】),(2)「加圧型気体溶解手段」 に関し,「電気分解により発生した水素」は「加圧型気体溶解手段」によ り「加圧されることで,液体吸入口7から吸入した水に加圧溶解」され, 「水素を加圧溶解した水」は,「加圧型気体溶解手段」の吐出口9から吐 出され,溶存槽4に「過飽和の状態」で溶存されること(【0034】), 「20度Cにおける加圧型気体溶解手段3の圧力Yとしては,0.10〜1.0MPaであることが好ましく,0.15〜0.65MPaであることが より好ましく,0.20〜0.55MPaであることがさらにより好まし く,0.23〜0.50MPaであることが最も好ましい。圧力をかかる 範囲とすることで,気体を液体中に容易に溶解できる」こと(【0036】), (3)「降圧移送手段」に関し,「降圧移送手段5は,溶存槽4及び取出口1 0を接続する管状路5aにおいて,取出口10からの水素水の吐出動作に よる管状路5a内の圧力変動を防止しこの中に層流を形成させる。例えば, 降圧移送手段5の管状路5aは,内部を流れる液体の圧力にもよるが比較 的長尺であり径の小さいことが好まし」いこと(【0030】),「溶存 槽4に溶存された液体は,降圧移送手段5である細管5a内で層流状態を 維持して流れることで降圧され(S6),水素水吐出口10から外部へ吐 出される(S7)」こと(【0034】),「降圧移送手段5である細管 5aの内径Xが,1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましく, 1.0mmより大きく3.0mm以下であることがより好ましく,2.0 mm以上3.0mm以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで, 特開平8−89771号公報記載の技術のように,降圧するために10本 以上の細管を設置する必要が無く,細管5aを1本有することで降圧する ことができるとともに,管内に層流を形成し得る」こと(【0035】), (4)「細管」の内径X及び長さL,「加圧型気体溶解手段」の圧力Yと「層 流」との関係に関し,「細管5aの内径をXmmとし,加圧型気体溶解手 段3により加えられる圧力をYMPaとしたときに,細管5a内に層流を 形成させるようなものであって,X/Yの値が,1.00〜12.00で あることを特徴とするものであり,さらに,X/Yの値が,3.30〜1 0.0であることが好ましく,4.00〜6.67であることがより好ま しい。気体を過飽和で溶存させている液体が,かかる条件で細管5a中を 層流状態で流れて降圧移送されることで,気体を過飽和の状態で液体に溶 解させ,さらに過飽和の状態を安定に維持し移送することができる」こと (【0031】),「上記発明において,前記管状路の内径及び長さをそ れぞれX,Lとし,前記加圧型気体溶解手段に加えられている圧力をYと したときに,前記管状路内の水素水に層流を形成させるようX,Y及びL の値が選択されていることを特徴としてもよい」こと(【0020】)の 記載がある。上記記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本 発明」の気体溶解装置は,「加圧型気体溶解手段」により水素を「過飽和 の状態」で液体に溶解させて水素水を生成し,この水素水が「降圧移送手 段」である管状路内で層流状態を維持して流れることで降圧され,「過飽 和の状態」を維持して水素水吐出口10に移送する構成を採用し,これにより「気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定\nに維持」するという「本発明」の課題を解決できることの開示があるものと認められる。
ここに「過飽和」とは,「気体の液体への溶解度は温度により異なるが, ある温度A(度C)における気体の液体への溶解量が,その温度A(度C)に おける溶解度より多く存在している状態を示す。」こと(本件明細書の【0 031】),「層流」とは,一般に,速度の方向がそろった規則的な流れ であって,流速が十分遅いときに実現するものであること(甲39の1)をいう。また,細管の内径X及び長さL,加圧型気体溶解手段の圧力Yと\nいう変数に関し,L及びYの2つの変数の値が同じであれば,細管の内径 Xの値が大きいほど,細管内を流れる液体の流速が遅くなり得ること,加 圧型気体溶解手段の圧力Yの値が大きければ,気体を液体に多く溶解させ ることができるが,細管内を流れる液体の流速は速くなり得ること,細管 の長さLの値が大きければ,細管内壁の抵抗により細管内を流れる液体の 流速が遅くなり得ることは,技術常識であるものと認められる。
イ 前記アのとおり,本件明細書には,「上記発明において,前記管状路の 内径及び長さをそれぞれX,Lとし,前記加圧型気体溶解手段に加えられ ている圧力をYとしたときに,前記管状路内の水素水に層流を形成させる ようX,Y及びLの値が選択されていることを特徴としてもよい」(【0 020】)との記載があるが,水素水に層流を形成させるようにするには X,Y及びLの値をどのように選択されるのかについての明示的な記載はない。 そこで,本件明細書記載の実施例1ないし13及び比較例1及び2に基 づいて,以下において検討する。なお,別紙2は,実施例1ないし13及 び比較例1及び2を一覧表にまとめたものである。(ア) まず,実施例1ないし3(【0053】ないし【0055】)を比 較すると,別紙2のとおり,3つの実施例で細管の内径Xの値は2mm, 長さLの値は1.6m及び水素水の流量の値は730cm3/minと同 じであるところ,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値は,実施例1は0. 41Mpa,実施例2は0.25Mpa,実施例3は0.30Mpaで ある。加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が最も大きい実施例1の水素濃 度は6.5ppmと最も大きく,圧力Yの値が最も小さい実施例2の水 素濃度の値は2.6ppmと最も小さく,両実施例の差は3.9ppm である。 このような実施例1ないし3の比較の結果は,前記アの技術常識に照 らすと,細管の内径X及び長さLと水素水の流量の各値が同じであれば, 加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が大きいほど,水素が水に多く溶け込 むため,生成時における水素濃度の値が大きくなる結果,測定時におけ る水素濃度の値も大きくなっているものと理解できる。
(イ) 次に,実施例5(【0057】)と実施例7(【0059】)を比 較すると,別紙2のとおり,両実施例で細管の内径Xの値は2mm及び 水素水の流量の値は560cm3/minと同じであるが,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値は,実施例5が0.38Mpa,実施例7が0.4 5Mpaで,実施例7は実施例5の約1.18倍であり,また,細管の 長さLの値は,実施例5が1.6m,実施例7が1.8mで,実施例7 は実施例5の約1.13倍である。水素濃度の値は,実施例5が3.8 ppm,実施例7が4.5ppmであり,両実施例の水素濃度の差は0. 7ppmであり,実施例2と実施例3との水素濃度の差3.9ppmと 比べると,その差はわずかである。このような実施例5と実施例7の比 較の結果は,細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合に おいて,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値と細管の長さの値をそれぞれ おおむね同じ割合で増加させたときは,増加の前後で,水素濃度はおお むね同じであり,水素濃度が高まらないことを示している。 また,実施例10(【0062】)と実施例11(【0063】)を 比較すると,別紙2のとおり,両実施例で細管の内径Xの値は2mm, 水素水の流量の値は550cm3/minと同じであるが,加圧型気体溶 解手段の圧力Yの値は,実施例10が0.20Mpa,実施例11が0. 50Mpaで,実施例11が実施例10の2.5倍であり,細管の長さ Lの値は,実施例10が1.4m,実施例11が3mで,実施例11は 実施例10の約2.14倍である。水素濃度の値は,実施例10が2. 7ppm,実施例11が2.4ppmであり,実施例10が実施例11 よりも0.3ppm高いが,実施例2と実施例3との水素濃度の差3. 9ppmと比べると,その差はわずかである。このような実施例10と 実施例11の比較の結果は,実施例5と実施例7の比較の結果と同様に, 細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合において,加圧 型気体溶解手段の圧力Yの値と細管の長さの値をそれぞれおおむね同じ 割合で増加させたときは,増加の前後で,水素濃度はおおむね同じであり,水素濃度が高まらないことを示している。 これらの実施例の比較の結果及び前記(ア)の実施例1ないし3の比較 の結果と前記アの技術常識から,細管の内径X及び水素水の流量の各値 が同じである場合に,水素濃度の値を高めるには,加圧型気体溶解手段 の圧力Yの値の増加割合が細管の長さLの値の増加割合よりも大きくな るように各値を選択すればよいことを理解できる。
(ウ) 他方,比較例1及び2については,別紙2のとおり,比較例1は, 細管の内径Xの値が2mm,細管の長さLの値が0.4m,加圧型気体 溶解手段の圧力Yの値が0.05MPa,水素水の流量の値が960c m3/min,水素濃度の値が1.6ppm,比較例2は,細管の内径 Xの値が3mm,細管の長さLの値が0.8m,加圧型気体溶解手段の 圧力Yの値が0.08MPa,水素水の流量の値が900cm3/mi n,水素濃度の値が1.8ppmであって,いずれも過飽和の状態を維 持できなかったものであるところ(【0066】,【0067】),比 較例1及び2は,圧力Yの値が0.05又は0.08MPaであって, 実施例1ないし13における圧力Yの値(0.20ないし0.60MPa)と比べて相当小さかったため,そもそも,加圧型気体溶解手段によ って水素水生成時に過飽和の状態の水素水を得ることができなかったこ とによる可能性もあるものと理解できる。
ウ 前記ア及びイを総合すると,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明 の記載及び技術常識から,本件特許発明1の気体溶解装置は,水に水素を 溶解させて水素水を生成し,取出口から吐出させる装置であって,気体を 発生させる気体発生手段と,この気体を加圧して液体に溶解させる加圧型 気体溶解手段と,気体を溶解している液体を導いて溶存及び貯留する溶存 槽と,この液体が細管からなる管状路を流れることで降圧する降圧移送手 段とを備え,降圧移送手段により取出口からの水素水の吐出動作による管 状路内の圧力変動を防止し,管状路内に層流を形成させることに特徴があ る装置であり,一方,必ずしも厳密な数値的な制御を行うことに特徴がある装置であり,一方,必ずしも厳密な数値的な制御を行うことに特徴があ るものではないと理解し,例えば,細管の内径(X)が1.0mmより大 きく3.0mm以下で,かつ,細管の長さ(L)の値が0.8mより大き く1.4mより小さい数値範囲のときであっても,「細管の内径X及び水 素水の流量の各値が同じである場合に水素濃度の値を高めるには,加圧型 気体溶解手段の圧力Yの値を大きくすればよく,この場合に加圧型気体溶 解手段の圧力Y及び細管の長さLの値をいずれも大きくして,水素濃度の 値を高めるには,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値の増加割合が細管の長 さLの値の増加割合よりも大きくなるように各値を選択すればよいこと」 (前記イ)を勘案し,細管からなる管状路内の水素水に層流を形成させる ようX,Y及びLの値を選択することにより,「気体を過飽和の状態に液 体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持」するという本件特許発 明1の課題を解決できると認識できるものと認められる。 エ これに対し被告は,(1)当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載 及び技術常識から,細管の長さの値が0.8mより大きく1.4mより小 さい場合に,過飽和の状態を安定に維持するとの発明の課題を解決できる と認識することはできないから,本件特許発明1は,サポート要件に適合 しない,(2)過飽和の状態が維持される条件として,降圧移送手段の管状路 (細管5a)の内径や長さのみならず,細管5aの材料,加圧型気体溶解 手段3により加えられる圧力,水素発生量,水の流量等の条件は,過飽和 の状態を安定に維持するという本件特許発明1の課題の解決に不可欠であ るにもかかわらず,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1にはそれらの 条件が記載されていないため,当業者は,細管の内径X及び長さがそれぞ れ本件特許発明1に規定された範囲内であれば,本件特許発明1の上記課 題を解決できると認識することはできないから,この点からも,本件特許 発明1は,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかしながら,前記ウ認定のとおり,本件特許発明1において細管の長 さの値が0.8mより大きく1.4mより小さい場合においても,本件明 細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて,当業者が,本件 特許発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから,被告 の上記主張は,いずれも理由がない。

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令和1(ネ)1635 不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和2年2月14日  大阪高等裁判所

 ガラス瓶の形状が周知商品形態であると主張しましたが、顕著性および周知性ともに否定されました。形状の写真などは判決文および別紙にはありませんので不明です。

 前記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第4の2(2)におい て説示するとおり,控訴人は,食調瓶として,SSシリーズの細口瓶を 開発し,そのうち5種類のシリーズからなる原告商品は,縦長ですっき りしているが,安定感に乏しい印象を与えるものということができる (更に原告商品1から13までについては,その首部と胴部の接続部分 の形状から,肩が張った印象を与えるという点でも共通する。)。 これに対し,他のメーカーの食調瓶にも,縦長ですっきりしているが, 安定感に乏しい印象を呈する細口瓶(甲15の「調味料M200角」, 「ST150」,「ST150PP」,甲16の「SLD150A−H C」,甲18の「ゴージャス」シリーズ,甲19の「サエ」シリーズ, 「スイト」シリーズ)があると認められるところ,控訴人は,前記第2 の5(1)アのとおり,これらの食調瓶の形態が,原告商品の形態に類似し ないと主張し,原告商品の特徴を有する他業者の同種商品と,原告商品 との形状の違いを詳細に指摘する。 しかし,原告商品の形態による商品表示性は,上記5種類のシリーズ\nからなる原告商品に共通する特徴をもって特定されるところ,控訴人の 指摘する形状の違いがあるからといって,異なる印象を与えるとは認め られない。 なお,控訴人は,原告商品と,前述した特徴を有する他業者の同種商 品との間で,首部から肩部に係る傾斜角度(肩の張り方)が大きく異な ると主張するが,肩の張り方が異なることによって受ける印象の違いは, 縦長で安定感に乏しいという特徴の有無によって受ける印象の違いに比 べ,大きいとはいえない。 以上によると,控訴人が指摘する形状の違いがあるからといって,原 告商品の形態の特別顕著性が基礎づけられるものでもない。
イ 原告商品の形態の周知性について
控訴人は,原告商品の形態の周知性に関して,前記第2の5(1)イのと おり主張する。 しかし,控訴人が主張する直近の累計販売本数に係るデータに依った としても,一般瓶市場における原告商品の販売実績等が圧倒的であった 等の状況は認めるに足りないし,高級品市場に限れば,原告商品は相当 のシェアを有しているとの主張についても,これを裏付ける資料等はな い。また,過去に原告商品が出展された展示会における展示・陳列の様 子(甲41)に照らしても,控訴人がSSシリーズの複数の下位シリー ズの一部にまたがる原告商品を,改めて一つのシリーズとして構成し直\nすなどして宣伝していたというような事情を認めることはできない。 そうすると,控訴人のシェアや宣伝活動の状況からみて,原告商品の 形態が,特定の事業者の出所を表示するものとして周知となっていると\nいうこともできない。
(2) 混同のおそれの有無
控訴人は,前記第2の5(2)のとおり,被控訴人の営業活動や商社のカタ ログやウェブサイトにおける掲載内容から,被告商品を控訴人の商品と混同 するおそれがあると主張する。 しかし,前記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第4の2(4) において説示するとおり,原告商品の形態をもって,商品等表示と認めるこ\nとができない以上,被告商品の形態が原告商品の形態と類似しているからと いって,被控訴人が被告商品を製造,販売する行為が,不正競争防止法2条 1項1号に該当するとはいえない。 なお,被控訴人が,不特定多数の需要者に対しても営業活動をしていると しても,その取引態様からすると,その相手方にとって,被告商品の製造・ 販売者が被控訴人であることは明らかであるから,控訴人の商品と混同する おそれがあるということはできない。 また,食品メーカー等がカタログやウェブサイトを閲覧してガラス瓶の購 入を検討することがあるとしても,それらの需要者が,当該ガラス瓶が自社 で製造する調味料等の内容物の充填工程や商品梱包等の工程に容器として適 合するか否かを確認等することなく,その購入を決定することは考えにくい。 そうすると,上記カタログ等の掲載態様をもって,混同のおそれがあると いう控訴人の主張も採用できない。
(3) アンケート調査結果について
ア 本件アンケートに関する事実関係(甲42〜44)
(ア) 本件アンケートの対象者,質問内容等
控訴人は,前記第2の5(3)アのとおり,原告商品及び被告商品を含 むガラス瓶の写真5点を示して,その製造者及びそのように製造者を 特定した理由を質問するという本件アンケートを,東京・大阪・名古 屋のガラス製品協同組合の加入者のうちの58社を対象として実施し た。このうち何らかの回答を返したものは16社である。
(イ) 上記16社の回答内容は,前記第2の5(3)イのとおりである。
イ 検討
(ア) アンケート対象者の選定について,母集団となった上記各地域のガ ラス製品共同組合の加入者は,原告商品及び被告商品の取引者に当た ると解される。 しかし,上記組合の加入者の中から,対象者58社をどのようにし て選定したのかは明らかではない。また,本件アンケートの各質問の 形式がいわゆるオープンクエスチョンとなっていることを踏まえても, 上記のような対象者に対して,原告商品2点及び被告商品2点を含む ガラス瓶の写真5点を示して製造者を回答させるというアンケートを 実施することが,原告商品や被告商品の形態のみから,その出所を特 定し得るかを判定するものとして有用といえるのか疑問がある。
(イ) 回答者は,上記アンケート対象者58社のうち16社にすぎない。 そして,被告商品5(質問1),原告商品2(質問2),被告商品9(質 問4)及び原告商品12(質問5)について,それぞれ,その製造者を いずれも控訴人であると回答したのは,順に8社,9社,5社及び7 社に過ぎず,このような少数の取引者が,上記各商品の製造者を控訴 人と回答したからといって,これらの商品に係る形態がその出所を示 すものとして周知となっていると評価することはできない。
(ウ) また,他社製品に関する質問3(調味料M200角の製造者)につ いての回答内容は,2社が控訴人,2社が日本山村硝子,12社が不 明(白紙を含む。)というものである。控訴人は,原告商品と日本山 村硝子の製品を区別できなかったのが2社のみというが,12社が回 答できなかったことに照らすと,これをもって,原告商品の形態に特 別顕著性を認めることはできない。
(エ) 上記回答内容によれば,被告商品5及び被告商品9について,製造 者を特定して回答した全員(順に8社,5社)が,その製造者を控訴 人と誤ったことが認められる。 しかし,食調瓶である原告商品及び被告商品の取引態様(認定事実 (2),前記(2))に照らせば,少数の取引者が上記のように誤った回答 をしたからといって,被告商品の形態が原告商品に類似することによ り混同が生じるおそれがあるということもできない。

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◆平成29(ワ)12720

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平成31(行ケ)10045 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月20日  知的財産高等裁判所

 訂正後の発明について、進歩性ありとした審決が維持されました。

 これによれば,甲1文献においては,被覆層を貫通する「孔60」は, 傷からの体液を吸収層へ移動させるように機能するものであり,創傷を湿\n潤状態に保ち,傷の治癒を促進することができるのは,上記「孔」の機能\nによってではなく,吸収層において必要とされる吸収量にあわせて吸水性 の高い材料の量を調整し,特に,水吸収時にゲルを形成する物質を含ませ ることによってであると理解できる。
・・・
これによれば,甲10文献においては,創傷被覆材の,第1層と第3層 との間に第2層を挟み互いに分離しないようにすることは,甲10文献の 「創傷からの浸出液による適切な湿潤環境を維持しながら治療する方法に 好適な,さらに改良された創傷被覆材を提供する」という課題([000 9])の解決のために必須の構成であるというべきであり,甲10文献の\n第1層の貫通孔は,第1層を第2層と一体化させることで貯留空間を設け て滲出液を保持する機能を担わせることを前提とする構\成であることが理 解できる。
エ 容易想到性について
以上のとおり,甲1文献においては,甲1−1発明の被覆層ではなく, 組み合わされる吸収層が創傷を湿潤状態に保つ機能を有しているのであり,\n体液を吸収層へ移動させる機能を有する被覆層の「孔」に,さらに滲出液\nを保持する機能を担わせる改良を加えるべきことを示唆する記載はない。\nまた,甲10文献においては,第1層を第2層と一体化させることで貯 留空間を設けることを前提としているのに対し,甲1文献の傷手当用品は 被覆層と一体化する第2層に相当する構成を有しない。\nこのような甲1文献に記載された傷手当製品と甲10文献に記載された 創傷被覆材の構成の相違や,甲1−1発明の被覆層と甲10文献の第1層\nの有する機能の相違に照らせば,甲10文献から第1層の貫通孔に関する\n構成のみを取り出して,甲1−1発明における被覆層の「孔」に適用する\nことの動機付けは見出せない。 また,甲3〜12,14〜16,18文献にも,甲1−1発明における 「孔」に滲出液を保持する機能を担わせることについての記載ないし示唆\nはなく,これらの文献の記載を考慮しても,本件優先日当時の当業者が, 甲1−1発明に,甲10文献記載の技術事項を組み合わせ,相違点1cに 係る構成を採用することを容易に想到し得たということはできない。\nよって,甲1文献,甲3〜12,14〜16,18文献に基づいて,本 件発明1が進歩性を欠如するとはいえない。

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令和1(行ケ)10093  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月20日  知的財産高等裁判所

 異議申し立てがなされて、訂正されました。審決は異議理由を認めて特許を取り消しましたが、知財高裁は異議決定を取り消しました。争点は引用文献の認定誤りです。\n

本件発明1と引用発明との対比について
本件決定は,前記第2の3(2)イのとおり,本件発明1と引用発明の一致点 及び相違点を認定するところ,甲1に記載された発明として,引用発明’を 認定するのが相当であることについては,前記(3)のとおりである。 ここで,引用発明’の「経編地」は,一定の伸縮性を有することが明らか であるから,本件発明1の「伸縮性経編地」に相当し,引用発明’の「非弾 性糸10からなる,ジャカード運動により振りが入れられている組織」は, 本件発明1の「ジャカード編成組織」に相当するものといえる。また,引用 発明’の「弾性糸12からなる組織」は,全ての編目位置においてループを 形成している点で,本件発明1の「弾性糸のみで構成されて全ての編目位置\nにおいてループが形成されている支持組織」と共通する。 したがって,本件発明1と引用発明’の一致点及び相違点は,以下のとお りであると認められる。
・・・
(5) 相違点の容易想到性の判断について 前記(4)のとおり,本件発明1は,「非弾性糸が全ての編目位置でループを形 成する組織を含まない」のに対し,引用発明’は,「全ての編目位置において ループを形成している非弾性糸11からなる,ジャカード編からなる経編で 編まれる組織」を含むものである。 この点に関し,本件決定は,甲1の図10に相違点に係る本件発明1の構\n成が開示されている旨の認定を前提にして,かかる構成を引用発明の構\成と 置換することは容易である旨判断した。そこで,この点について検討する。
ア 図10の組織図の意義
(ア) 甲1には,(1)図7〜図9は,「本発明で用いるサテン調トリコット組 織の表側の代表\的な組織図」であり,1繰り返し単位中にジャカード運 動により,図7は3つのコースに3針の振りを,図8は1つのコースに 3針の振りを,図9は1つのコースに1針の振りを入れたものを,それ ぞれ示すものであること(【0064】,【0066】,【0068】,【00 69】),(2)図10は,「本発明で用いるメッシュ調トリコット組織の表側\nの代表的な組織図の一例」であって,メッシュ調トリコット組織は,サ\nテン調トリコット組織に比べて,空間部分が大きく,単位面積当たりの 糸の密度が小さいことから,図7〜図9よりも緊迫力が弱いこと(【00 70】,【0072】),(3)甲7〜図10のような態様により,表側に現れ\nる地編トリコット組織をコントロールすることによって,比較的緊迫力 の強い部分と比較的緊迫力の弱い部分とを,所定部分にパターン状に設 けることができること(【0073】),(4)弾性糸の編み込み態様と,図7 〜図10のような地編トリコット組織による緊迫力の強弱の態様とを組 み合わせることにより,種々の強さの緊迫力を有する部分を,1つの経 編トリコット生地上に実現できること(【0097】),(5)図28の下着の 表側に現れる地編組織は,図7で説明した様なサテン調トリコット組織\n(133a,133c),図9で説明した様なサテン調トリコット組織(1 33b,133d),図10で示した様なメッシュ調トリコット組織(1 31a)などから構成され,133cの部分が最も緊迫力が強く,13\n1aの部分が最も緊迫力が弱くなること(【0151】,【0152】)が 記載されている。 そして,これらの記載によれば,図7〜図10に示された組織図は, いずれも,本発明で用いるサテン調又はメッシュ調トリコット組織の表\n側の組織を示したものであることを理解でき,また,これらの図では, いずれも全てのウェールに糸が供給されていることが示されているので, 2枚1組の「ジャカード筬」を2枚とも用いて編成されたものであるこ とを理解できる。
以上によれば,甲1の図10には,次の事項(以下「甲1に記載され た事項’」という。)が記載されていると認められる。 「図7〜図9に示されるサテン調トリコット組織と同様,2枚1組の ジャカード筬を2枚とも用いて編成される,ループが形成されていない 編目位置が存在するメッシュ調トリコット組織の表側の組織。」\n
(イ) これに対し被告は,甲1の図10は,メッシュ調トリコット組織と して,地編の表側と裏側の両方の組織を図示したものである旨主張し,\nその根拠として,(1)甲1の図9が表側の組織の調整によって緊迫度を下\nげた限界であること,(2)甲1に記載された様々な実施態様に示される経 編地は,特開平6−166934号に例示される2枚のジャカード筬と 1枚の地筬を具備した経編機で編成されるものであるところ,図10の 組織の編成には,2枚1組のジャカード筬を2枚とも必要とするから, 「ジャカード編からなる地編」として,それ以外の「裏側の組織」を編 成することができないことを挙げる。
まず,上記(1)の点について,図9に示したサテン調トリコット組織に おいては,1繰り返し単位中,1針の振りしか入っていないコースがX 7の1箇所存在するが(【0069】),当業者であれば,1針の振りしか 入っていないコースを2箇所以上にすることにより,更に緊迫力が低下 することを理解できるから,図9が表側の組織の調整によって緊迫度を\n下げた限界であるとは解されない。 そして,甲1に,「メッシュ調トリコット組織は,図10からも明らか な様にサテン調トリコット組織に比べて,空間部分が大きく,単位面積 あたりの糸の密度が小さく,従って,上述した図7〜図9のサテン調ト リコット組織に比べて,緊迫力が弱くなる。」(【0072】)との記載が あることに照らすと,図10は,地編の表側の組織の緊迫力の強弱を変\nえる方法として,図7〜図9のように,ガイドの振りの大きさ及びガイ ドの振りが入った割合を調整することとは別の方法として,空間部分の 大きさ及び単位面積当たりの糸の密度を調整することを示したものであ ると理解できる。
次に,上記(2)の点について,甲1の「ジャカード編からなる地編」と は,ジャカード筬と地筬とを備えるジャカード制御装置を有する経編機 を用いて編まれるものであるが,ジャカード筬のみを用いて編んだもの に限定されるものではなく,表側はジャカード筬を用いて編み,裏側は\n地筬を用いて編んだものも含まれることを理解できることについては, 前記(3)ウ(ウ)のとおりである。
そして,甲1には,「本発明で用いる経編生地は,実際にはジャカード 制御装置を有する経編機(例えば特開平6−166934号など参照) などを用いて,これらの経編機に地編用の非弾性糸と挿入糸用及び/又 は編み込み用の弾性糸とを供給して同時に編まれるのであるが,理解を 容易にするために,地編の部分をまず説明する。」(【0034】)との記 載があるが,上記記載をもって,甲1の各実施形態に示される経編地が 2枚のジャカード筬と1枚の地筬のみを具備した経編機で編成されるも のであることを記載したものとは解されない。むしろ,上記特開平6− 166934号は,具体的な装置としてRSJ4/1を挙げているとこ ろ,同装置は,2枚1組でフルゲージを構成するジャカード筬のほかに,\n3枚の地筬を備えるものであるから(甲10),かかる事実に照らしても, 被告の主張するような解釈を採ることはできないというべきである。 以上によれば,被告の上記主張を採用することはできない。
イ 引用発明’と甲1に記載された事項’との組合せについて
前記アのとおり,甲1の図10は,メッシュ調トリコット組織の表側の\n組織のみを示すものであって,表側と裏側の両方の組織を示すものではな\nいと理解できる。 そうすると,仮に,引用発明’に甲1に記載された事項’を適用しても, 引用発明’の「非弾性糸10からなる組織」が,甲1に記載された事項’ の「ループが形成されていない編目位置が存在するメッシュ調トリコット 組織」と置換されるだけであって,引用発明’の「全ての編目位置におい てループを形成している非弾性糸11からなる組織」は残ることとなるか ら,相違点’に係る本件発明1の構成(「非弾性糸が全ての編目位置でルー\nプを形成する組織を含まない」構成)に至るものではない。\nそして,そのほかに,甲1には,「全ての編目位置においてループを形成 している非弾性糸11」を含まないようにすることについて,これを示す 記載も,これを示唆する記載も存在しない。 したがって,当業者が,甲1に記載された発明に基づき,相違点’に係 る本件発明1の構成を容易に想到することができたものとは認められない。\n

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平成30(ネ)10031  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年11月20日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 実施していない共有者が存在する場合、102条2項に基づく損害額の推定は,不実施に係る他の共有者の持分割合による同条3項に基づく実施料相当額の限度で一部覆滅されると判断されました。

 1審原告は,特許法102条2項に基づく推定額から共有に係る特許権者である 訴外会社に生じた損害額を控除することはできない旨を,1審被告らは,侵害者の 得た利益の額を共有者の持分権の割合によって按分した額を当該共有者の受けた損 害額と推定すべき旨を,それぞれ主張する。 民法の原則の下では,特許権侵害による特許権者の損害の賠償を求めるためには, 特許権者において損害の発生及び額等につき主張立証しなければならないところ, 前記のとおり,特許法102条2項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設 けられたものであり,加害行為がなかった場合に想定される利益状態と加害行為に よって現実に発生した不利益状態とを金銭的に評価した場合の差額を「損害」とし て把握し,その填補賠償を目的とするという点で,民法上の不法行為による損害賠 償制度の枠内にあるものであることに違いはない。特許権の共有者は,それぞれ, 原則として他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができるも のの(特許法73条2項),その価値の全てを独占するものではないことに鑑みる と,特許法102条2項に基づく損害額の推定を受けるに当たり,共有者は,原則 としてその実施の程度に応じてその逸失利益額を推定されると解するのが相当であ り,共有者各自の逸失利益額と相関関係にない持分権の割合を基準とすることは合 理的でない。なお,本件では,引用に係る原判決指摘のとおり,原告製品は本件発 明の実施品と認めるに足りる証拠はないものの,原告製品と被告製品とは市場にお いて競合関係にあるものといえる。このため,前記のとおり特許法102条2項の 適用が認められることから,本件においても上記と同様に解するのが相当である。 もっとも,特許発明の実施品(又は侵害品と競合する特許権者の製品)の販売利 益の減少等による特許権者の逸失利益と,侵害者から得べかりし実施料の喪失によ る逸失利益とは,類型的にその性質を異にするものである。また,共有者の一部が 当該特許発明を実施しなかったとしても(又は侵害品と競合する製品の製造等を行 っていなかったとしても),共有に係る特許権の侵害による侵害者の利益は,特許 権の共有者の一方の持分権の侵害のみならず他方の持分権の侵害にもよるものであ る以上,実施料相当額の逸失利益を観念することは可能であり,特許法102条3\n項もこのことを前提とするものと理解される。そうである以上,同条2項による損 害額の推定に基づき侵害者に対し特許権の共有者の一部が損害賠償請求権を行使す るに当たっては,同条2項に基づく損害額の推定は,不実施に係る他の共有者の持 分割合による同条3項に基づく実施料相当額の限度で一部覆滅されるとするのが合 理的である。
また,1審原告は,本件における特別の事情として,訴外会社の1審被告らに対 する損害賠償請求権が1審原告に債権譲渡されていることを指摘する。 しかし,当該請求権は本件における1審原告固有の損害賠償請求権とその発生原 因を異にし,訴外会社の1審被告らに対する債権譲渡の結果,1審原告の下に両立 していると考えられること,1審原告が,債権譲渡を受けた損害賠償請求権を行使 しないで,固有の損害賠償請求権のみの行使を主張する旨明言していることなどに 鑑みると,本件においては,結果として同一人に帰属しているからといって,結論 を異にすべき事情ということはできない。 その他1審原告ないし1審被告らがるる指摘する事情を考慮しても,この点につ いてのそれぞれの主張はいずれも採用できない。
ウ 推定覆滅事由の存否(争点9)について
(ア) インターネット上のサイトに見られる原告製品及び被告製品に関する宣伝 文句に鑑みると,引用に係る原判決の認定のとおり,原告製品及び被告製品は,い ずれも脚口部分が前方に突出するように構成され,脚口部分及びお尻の部分がずり\n上がらないという特徴を有する点で共通すると認められるところ,これらは,本件 発明の作用効果に係るものということができる。また,原告製品及び被告製品は, いずれも,これらの機能に関係する形状を除き,そのデザイン面で特徴的というべ\nき形状ないし装飾は存在しない。ただし,原告製品にはハイウエストタイプの製品 及びテンセル素材の製品が存在しないのに対し,被告製品には存在するところ,丈 のタイプ及び素材は,いずれも下肢用衣料にとって重要な要素である着心地に直接 関わる要素であり,ハイウエストタイプやテンセル素材を好む需要者も一定程度存 在することは容易に推察されること,他方で,被告製品の販売実績に占める割合等 から,この点が需要者の購買に及ぼす影響は,限定的ながらも存在すると考えるの が相当である。
(イ) 価格については,一般に,同種かつ同程度の機能等の製品相互間では,製\n造者・販売者のブランド力等様々な要素が需要者の購買行動に影響するものの,価 格の顧客誘引力も大きな影響力を持つといえること,その影響力の程度は,製造者 等のブランド力等の影響をも受けつつ,製品相互間の機能面等での差異の程度に応\nじて相対的に変化することは,経験則上明らかである。その意味で,市場において 競合関係にあり,その機能面でも同種かつ同等ないし類似する関係にあると見られ\nる製品における価格帯の相違は,推定覆滅事由として考慮されることがあり得ると いうべきである。もっとも,本件においては,原告製品と被告製品との価格差をも って,顧客誘引力の点で大きな影響を及ぼすものとまでは認められない。
(ウ) 販売形態の相違について,1審被告らは,何らかの理由で店頭での商品購 入のみを行い,インターネット販売を利用しない需要者の存在を主張する。 しかし,これを具体的に裏付けるに足りる的確な証拠はないし,現在のインター ネット利用可能な端末それ自体やインターネット上での日用品取引の普及状況等に\n鑑みると,特許法102条2項に基づく損害額の推定を覆滅すべき事由とはいえな い。

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◆平成26(ワ)7604

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令和1(ネ)10039  不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和元年11月11日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 純正品であると誤認させる行為が不競法2条1項14号に該当するのかが争われました。1審、2審とも、本件行為は、同号には該当しないと判断しました。

 控訴人は,被告表示1は,被告各商品がタカギ社純正品であると誤認させ\nると主張する。しかし,「タカギ社純正品」であるとの表示が商品の品質等\nを表示していると理解するのは疑問であり,むしろ,商品の出所を表\示する ものと理解すべきであるから,控訴人主張の点は,不競法2条1項1号の問 題としてとらえるべきもので,同項14号の問題としてとらえるべきもので はない。そして,控訴人は,本訴においては同項1号該当の主張はしないと 明言しているのであるから,控訴人の上記主張は,それ自体失当である。 仮に,「タカギ社純正品」との表示が品質等の表\示に当たると見る余地が あり,かつ,一行目の「タカギ社製」が二行目の「交換用カートリッジ」を 修飾すると認識する需要者も一定程度は存在するとしても,例えば,被告表\n示1の直下には「待望の交換用カートリッジついに発売!!」という表示が\nあるところ,被告各ウェブページに接する需要者は控訴人製の浄水蛇口のユ ーザであって,もともと純正品の交換用カートリッジが控訴人によって提供 されていることを知っているのであるから,上記表示を読めば直ちに被告各\n商品が控訴人製の純正品ではないことを認識するはずであることや,被告表\n示1と近接した位置にある「お買い求めの前に」の欄に,「標準タイプ・高 除去タイプともに,純正カートリッジより浄水の流量が少ないですが」と被 告各商品がタカギ社純正品ではないことを前提とした記述があることなどに 照らしてみれば,需要者は,被告各商品が控訴人の製品ではないと認識する と考えられる。  したがって,控訴人の上記各主張は,被告表示1が同項14号の表\示に当 たらない旨の判断を左右するものでなく,採用することができない。

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◆平成29(ワ)19266

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令和1(行ケ)10125  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年2月12日  知的財産高等裁判所

 指定商品は第11類「対流形石油ストーブ」について、「三つの略輪状の炎の立体的形状」を付する位置が特定された位置商標について、識別力無しと審決が維持されました。

 商標法3条1項3号は,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,\n用途,形状(包装の形状を含む。・・・),生産若しくは使用の方法若しくは時期そ の他の特徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する 物,効能,用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格\nを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は,商標登録を受けるこ\nとができない旨を規定しているが,これは,同号掲記の標章は,商品の産地,販売 地その他の特性を表示,記述する標章であって,取引に際し必要な表\示として誰も がその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益 上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場 合,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないことから,登録を許\nさないとしたものである。
同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能を\nより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選 択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標\n識として用いられるものは少ないといえるのであり,需要者としても,商品等の形 状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能\ や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択さ\nれたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能又は美感に資す\nることを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用すること を欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定 の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。 したがって,商品等の形状は,同種の商品が,その機能又は美感上の理由から採\n用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用\nいられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するの が相当である。
(2) 本願商標は,前記第2の2(1)に記載の商標であり,「三つの略輪状の炎 の立体的形状」(本願形状)を付する位置が特定された位置商標である。 そして,本願形状を採用することにより,対流形石油ストーブの燃焼筒内の輪状 の炎が四つあるように見え,これにより対流形石油ストーブの美感が向上するから, 本願形状は,美感を向上するために採用された形状であると認められる。また,原 告特許は,特許請求の範囲を「1 燃焼室や赤熱体を囲繞する様に位置せしめ,か つ燃焼室の外殻を構成する燃焼筒をリング状の表\面凸凹部を形成するとともに耐熱 性の透明もしくは半透明物質で造製し,この燃焼筒の表面にTi,Zr,Fe等の\n金属もしくは金属化合物被膜を付着きせてなる暖房器。2 燃焼炎や赤熱体から発 する光が,金属被膜による干渉と屈折特性により多重かつ虹状に見ることが出来る 特許請求範囲第1項記載の暖房器。」とするものであって,「また燃焼筒をリング状 の表面凸凹部を形成せしめたから,前記発熱・発熱部が多段に見えるのを,凸凹部\nがレンズ状に拡大して観者に対して大きな炎の輪を多段に確実に詔めさせる効果が ある。この様にこの発明は透明もしくは半透明燃焼筒に金属被膜もしくは金属化合 物被膜を形成する簡単な構造によって暖房に最も適する波長の熱線を良好に透過せ\nしめると共に,該被膜によって燃焼炎より発生する光を干渉させて各色に色付いた 沢山の燃焼炎や赤熱体の像を形成して燃焼炎や赤熱体から発生する熱線が多方向か ら届く様になり,見せると共にリング状の凹凸部によるレンズ効果により,暖房効 果を高めるものであり,更に各色に色付いた沢山の燃焼炎や赤熱体の像は非常に美 しく,視覚的な暖房効果を高め,光の交差による優れたデザイン効果を生むもので ある。」(4段落の8行〜24行)との効果を生じさせるものであり,特許公報には 別紙図面が第1図として付けられているから,本願形状は,暖房効果を高めるとい う機能を有するものと認められる。\nそうすると,本願形状は,その機能又は美感上の理由から採用すると予\測される 範囲を超えているものということはできず,本願形状からなる位置商標である本願 商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標で あると認められる。 したがって,本願商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきであ る。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標と同一又は類似する商標が同業他社によって使用され ていないことやグッドデザイン賞を獲得していることなどから,本願商標は,「独占 不許商標」や「自他商品識別力欠如商標」に該当しないと主張する。 しかし,本願商標が商標法3条1項3号の商標に該当することは,前記(2)のとお りであって,原告が主張する事実は,同号に該当するとの上記判断を左右するもの ではない。
イ  原告は,本願商標は,物理的な形状ではなく,石油ストーブの部品の形 状でもないから,模様に近いものであり,商標法3条1項3号の「商品の形状」に は当たらないと主張する。 しかし,前記(2)のとおり,本願商標は,三つの略輪状の炎からなる立体的形状の 位置商標であることは明らかである。そして,立体的形状は,商標法3条1項3号 の「商品の形状」に当たるから,本願商標の立体的形状も同号の「商品の形状」に 当たるというべきである。

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平成28(ワ)3928  製造販売差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月3日  大阪地方裁判所

 ノウハウの使用料ではないと判断されました。被告らは、特許権が消滅した後はロイヤルティ支払を拒否しました。原告は、それなしではWBトランスを製造することのできない有用な情報であり,ノウハウの使用料だと主張しましたが、大阪地裁はこれを否定しました。

 本件技術資料に記載された数値等は,WBトランスを開発した川鉄電設ない しP2が,開発の過程で得られた実験値や実測値,あるいはトランスの容量等に応 じて推測した理論値や計算値を表形式に整理したものが多いと思われる。\nそうすると,WBトランスを製造,販売しようとする者が本件技術情報を入手し た場合,独自に実験を行って必要な値を計測・算出したり,部品の製造元等へ問い 合わせたりすることなく当該トランスの特性を予測したりすることができるという\n点において有用であるといえ,要件を充たせば,営業秘密として保護されるべきも のと解されるから,例えば,被告らが,当初契約を締結して平成7年技術資料を入 手し,未だWBトランスの製品が市場に出ていない段階で,原告の許諾を得ずにこ れを第三者に開示したとすれば,秘密保持義務違反の責めを負うべきものと解され る。 他方,上記検討したとおり,本件技術情報の開示を受けなければWBトラン スを製造することができないといった事情までは認められず,本件技術情報がWB トランスの製造に必須であることを前提に,本件各基本契約の性質を考えることは できない。 また,本件技術情報に記載された数値は,物理的に測定したり,計算によっ て求めることができるものと考えられるから,WBトランスが市場に出回り,リバ ースエンジニアリングを行って計測等ができるようになった段階で,公知になると いわざるを得ない。 本件各特許権の明細書等を参照し,流通に置かれたWBトランスに対するリバー スエンジニアリングを行ってもなお解明することができず,原告よりその開示を受 けない限り,WBトランスの製造はできないというようなノウハウが,本件技術情 報に含まれていると認めるべき証拠は提出されていない。
・・・
(1) 本件各基本契約の内容 本件各基本契約の内容は,前提事実(3)のとおりであり,文言上は,WBトランス 製造及び販売の実施許諾,指定された装置及び資材の使用,技術情報の提供,対価 としてのイニシャルフィー及びランニングロイヤルティの支払,その前提としての 実施報告,特許権等の実施許諾,改良技術の通知,秘密保持といった内容が双方の 権利または義務として定められており,原告が主張する技術情報の提供および秘密 保持も,被告らが主張する特許権の実施許諾も,いずれも本件各基本契約の内容と して定められているのであって,その関係をどのように解するかが問題となる。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,本件各基本契約は,ノウハウライセンス契約であって特許の実施許 諾を内容とするものではなく,イニシャルフィー及びランニングロイヤルティの支 払義務は,ノウハウの使用に対する対価であって,特許の使用許諾に対する対価で はないから,本件各特許権の消滅により影響されない旨を主張する。 しかしながら,ノウハウライセンス契約であるとの主張は,本件技術情報がなけ ればWBトランスを製造することができないとの原告の主張を前提とするものであ るところ,その主張が失当であることは既に述べたとおりである。
イ 既に認定したとおり,WBトランスとして定義されたものは,本件各特許権 の特許請求の範囲の文言と一致する部分が多く,当初契約の際の川鉄電設側の説明 によっても,特許権者の許諾を得ない限り,これを製造,販売することはできない と考えられる。 WBトランスの製造に使用する資材や装置にも,川鉄電設や川崎製鉄の権利が及 ぶものは多いと考えられ,権利者の許諾を得るか,権利者又はその許諾を得た者が 製造した資材や装置を購入等するのでなければWBトランスを製造,販売すること はできず,単に製造に関する技術情報やノウハウの提供を受けるのでは足りないと いうべきである。
ウ 本件各基本契約,特に当初契約の締結に至る経緯を考えても,前記認定のと おり,川鉄電設は工業会の会員に対し,特許の実施許諾であることを前提に,それ に付随するものとして情報提供,技術指導を行う旨を案内しているのであり,その 本質が特許の実施許諾ではなく,ノウハウライセンス契約であるとの説明が行われ た事実は認められない。
エ 前記認定したとおり,被告らの照会やトランスの設計依頼に応じて,川鉄電 設又は原告から情報提供が多数回にわたって行われているが,時期的なところに着 目すると,被告らが当初契約を締結し,WBトランスの設計,製造をしてその販売 を行い始めた平成9年から平成13年までの間になされたものが大部分であり,最 長20年にわたるランニングロイヤルティの支払と技術情報の提供ないし技術情報 とが対価関係に立つと解することは不合理である。 むしろ,従前にはなかった形式のものとして新たに開発したWBトランスについ ての実施許諾を行うに際し,被告らにおけるWBトランスの製造が軌道に乗るまで の間,WBトランスの開発者である川鉄電設又は原告が,技術情報を提供したり, 技術指導を行うというのは,通常予定されるところと考えられること,川鉄電設か\nら原告に契約関係を承継した際に,前記認定のとおり,当初契約に係るイニシャル フィーは承継せず,追加契約に係るイニシャルフィーは,実施分を控除して原告に 承継される扱いであったことからすると,本件各基本契約において,技術情報の提 供や技術指導の対価と認められるのは,契約当初に支払われるイニシャルフィーと 解するのが合理的である。
オ 以上を総合すると,本件各基本契約には,前記(1)で要約した複数の要素が含 まれるものの,その中心となるのは本件各特許権の実施許諾であり,本件技術情報 の提供は,これに付随するものというべきであるから,ランニングロイヤルティの 支払も,本件各特許権の実施許諾に対する対価と位置づけられるべきであり,これ を本件技術情報の提供に対する対価と考えることはできない。 原告は,本件各基本契約の体裁として,第2条にWBトランスの製造,販売の実 施権の許諾を,第3条に技術情報の提供を,第7条に特許権の実施許諾を定めた上 で,第4条の対価は第2条,第3条の対価である旨定めていることをその主張の根 拠とする。しかし,既に検討したとおり,そもそも本件各特許権の実施許諾なしに WBトランスを製造,販売することはあり得ないし,契約の第2条において,鉄心 巻込装置,コイルボビン,フレームについては川鉄電設が特許出願中のものを使用 すべきことが定められていることからしても,同条の実施許諾は,本件各特許権の 実施許諾を含むものであり,第7条の規定は,特許の登録後と出願中の場合とを分 けて規定したものと解されるから,第4条の対価に特許の実施許諾に対するものが 含まれないと解することはできない。

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平成29(ワ)7532  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年12月16日  大阪地方裁判所

 本件再訂正発明の実施品ではない原告各製品に向かう部分はごく限られるとして、特102条2項による推定の覆滅が、認められました。

 本件再訂正発明の技術的意義は,LED基板のサイズを同一にして,部品点数 及び製造コストを削減できるとともに,LED基板の大きさを可及的に小さくして, 汎用性を向上させることができる点にある。このような技術的意義は,光照射装置 としての性能の向上に必ずしも直結するものではないといえるものの,ライン状の\n光を照射する光照射装置の製造者にとっては,これにより製品の販売価格をより廉 価とし得ることで競合品との価格競争力を高め得ることその他のメリットを期待し 得る。他方,そのような製品の使用者(需要者)にとっては,販売価格のより廉価 な製品を購入し得るというメリットはあるものの,それ以外には,メリットがある としても乏しいものと思われる。このため,本件再訂正発明の実施により他の競合 品の価格より競争力がある程度に廉価な製品を製造,販売しているのでなければ, 本件再訂正発明の実施による顧客吸引力は乏しいと評価すべきことになる。 しかるに,証拠(乙37)及び弁論の全趣旨によれば,原告各製品及び被告各製 品を含むライン状の光を照射する光照射装置(別紙競合品(被告主張)一覧表記載\nの各製品)の市場における実勢価格は,おおむね同程度であり,また,当該市場に おいて原告及び被告の各シェアは,いずれもトップにはないと認められる。被告各 製品のカタログ(甲3)及びウェブページ(甲4,13)においても,本件再訂正 発明の実施により,光照射装置としての性能が向上していること,部品点数及び製\n造コストの削減を図ることができていること又はこれを前提として他社製品より廉 価で販売可能であることなどをうかがわせる宣伝文句は見られず,他方で,「業界最\n高クラスの光量を実現」,「驚異の明るさを実現」と,被告各製品の機能を宣伝文句\nとしており,被告各製品に対する需要は,販売価格というよりもむしろ光量の大き さといった機能によって喚起されたことがうかがわれる。\nしかも,上記のような市場の状況にあるにもかかわらず,前記認定のとおり,原 告は,本件再訂正発明を実施しているとは認められない。 そうすると,本件再訂正発明は,その実施により光照射装置の性能を必ずしも向\n上するというものではなく,また,販売価格の面でも,実施によるコスト削減に伴 い他社製品との価格競争上同程度の地位に立つことを可能にすることはあり得ると\nしても,価格競争上他社より優位に立ち得る程度のメリットをもたらすものとまで はいえないと見られる。これを需要者の側から見ると,本件再訂正発明の実施品で あることは,そのこと自体により直ちに需要者の購買意欲を高めるものとはいえな いことになる。すなわち,本件再訂正発明は,その性質上,顧客吸引力は必ずしも 高くないものと評価すべきである。
(イ) もっとも,被告が約5年間にわたって本件再訂正発明を実施していたことに 鑑みると,本件再訂正発明を実施することに経済的な意義がないとは考え難く,少 なくとも,被告各製品の販売価格が,ライン状の光を照射する光照射装置の市場に おいて,他社製品に後れを取ることがない程度となることに本件再訂正発明の作用 効果が影響していると考えることには合理性がある。
(ウ) 証拠(甲3,4,13,乙37)によれば,原告各製品及び被告各製品を含 むライン状の光を照射する光照射装置の製品としての特徴は,別紙競合品(被告主 張)一覧表記載のとおりと認められる。本件においては,原告各製品と被告各製品\nとが市場において競合関係に立つ製品であることが前提となるところ,これを踏ま えて上記製品のうち被告各製品及び原告各製品以外のものを見ると,いずれも原告 各製品及び被告各製品と用途例が共通しており(同一覧表の「用途欄」において,\n具体的な用途が「不明」とされているものも,少なくとも原告各製品及び被告各製 品と同様の用途に用い得るとうかがわれる。),長さ寸法及び発光色も対応してい る。前記認定のとおり,これらの製品の価格帯もおおむね同程度である。他方,こ れらの製品の冷却方式は様々であるものの,被告各製品はいずれも自然空冷である 一方,原告各製品には自然空冷だけでなくファン空冷のものもあることに照らせば, その違いは競合関係を否定する事情とまではいえない。また,前記のとおり,本件 再訂正発明の実施によって光照射装置としての性能が向上するとはいえない。色及\nびサイズ展開の点も,機能面で大きな差異を生じるのでなければ,需要者にとって\nは必要とする特定の色及びサイズに対応した製品であれば足り,製品ラインナップ として多色展開していることや,希望サイズに対応するためにLED基板を複数とす るか1枚の基板で対応するかといったことは,需要者にとっては必ずしも重要でな いと思われる。 これらの事情に鑑みると,これらの製品は,原告製品及び被告各製品と市場にお いて競合関係に立つ製品であると認められる。 そうすると,原告各製品及び被告各製品の競合品としては,ライン状の光を照射 する光照射装置を想定するのが相当であり,多色展開していて,複数のLED基板を ライン方向に直列させることで多数のサイズ展開をしているライン状の光を照射す る光照射装置に限られないというべきである。
(エ) 以上の事情を総合的に考慮すると,本件においては,被告各製品の販売がな かった場合に,これに対応する需要が全て原告各製品に向かったであろうと見るこ とに合理性はなく,むしろ,本件再訂正発明の実施品ではない原告各製品に向かう 部分はごく限られると考える。そうすると,本件では,●(省略)●の限度で特許 法102条2項による推定が覆滅されると認めるのが相当である。 これに対し,原告は,本件再訂正発明の顧客吸引力は大きいと主張するとともに, 競合品は,多色展開していて,複数のLED基板をライン方向に直列させることで多 数のサイズ展開をしているライン光照射装置に限られるなどと主張する。しかし, 上記のとおり,この点に関する原告の主張は採用できない。
(オ) そうすると,被告が本件特許権侵害行為によって得た利益の額は,別紙「損 害額算定表」の(3)欄のとおりであり,937万0447円であると認められる。 これに反する原告及び被告の各主張はいずれも採用できない
・・・
(カ) 共有者の存在について
a 前記のとおり,本件特許権は,被告による特許権侵害行為の継続した期間の うち,その始期である平成24年7月から平成26年11月21日までの間,原告 と三菱化学との共有に係るものであった。 特許権の共有者は,それぞれ,原則として他の共有者の同意を得ないでその特許 発明の実施をすることができるが(特許法73条2項),その価値の全てを独占す るものではないことに鑑みると,同法102条2項に基づく損害額の推定を受ける に当たり,共有者は,原則としてその実施の程度に応じてその逸失利益額を推定さ れると解するのが相当であり,共有者各自の逸失利益額と相関関係にない持分権の 割合を基準とすることは合理的でない。 もっとも,特許発明の実施品又は侵害品と競合する特許権者の製品に係る販売利 益の減少等による特許権者の逸失利益と,侵害者から得べかりし実施料の喪失によ る逸失利益とは,類型的にその性質を異にするものである。また,共有者の一部が 当該特許発明を実施したり,侵害品と競合する製品の製造等を行ったりしていなか ったとしても,共有に係る特許権の侵害による侵害者の利益は,特許権の共有者の 一方の持分権の侵害のみならず他方の持分権の侵害にもよるものである以上,実施 料相当額の逸失利益を観念することは可能であり,同法102条3項もこのことを\n前提とするものと理解される。そうである以上,同条2項による損害額の推定に基 づき侵害者に対し特許権の共有者の一部が損害賠償請求権を行使するに当たっては, 同条2項に基づく損害額の推定は,不実施に係る他の共有者の持分割合による同条 3項に基づく特許発明の実施に対し受けるべき金銭相当額の限度で一部覆滅される とするのが合理的である。 これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
b なお,原告は,三菱化学から,その共有に係る特許権に基づく被告に対する 損害賠償請求権を譲渡されたと主張する。しかし,証拠(甲16)及び弁論の全趣 旨を総合しても,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。この点に関する原 告の主張は採用できない。 そこで,三菱化学の賠償請求し得る損害額を特許法102条3項に基づき算 定する必要があるところ,同項による損害額は,原則として,侵害品の売上高を基 準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。実施に対 し受けるべき料率を定めるに当たっては,当該特許発明の実際の実施許諾契約にお ける実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮 に入れつつ,当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他の ものによる代替可能性,当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益へ\nの貢献や侵害の態様,特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟 に現れた諸事情を総合的に考慮して,合理的な料率を定めるべきである。 まず,料率について,「実施料率〔第5版〕」(甲17)によれば,「民生用電 気機械・電球・照明器具」(イニシャル無)の技術分野における平成4年度〜平成 10年度の実施料率の平均値は4.6%であり,昭和63年度〜平成3年度に比較 してほぼ横ばいとなっている。また,平成4年度〜平成10年度の実施料率の最頻 値及び中央値はいずれも4%である。なお,上記技術分野は,民生用電気機械器具 製造技術及び電球・電気照明器具製造技術であり,具体的には,電球,蛍光灯,ネ オンランプ等の電球ないし電気照明器具のほか,電気アイロン,暖房用電熱器,扇 風機,電気洗濯機,電気冷蔵庫等を含む。 次に,本件再訂正発明の価値及び他のものによる代替可能性については,推定覆\n滅に関する前記事情に鑑みると,価値的には必ずしも高いとはいえず,また,競合 品による代替の余地は大きく,売上げに対する貢献の程度も同様である。 さらに,証拠(乙27)及び弁論の全趣旨によれば,原告と被告は,長年にわた って競業関係にあることが認められる。 これらの各事情を斟酌すると,本件において,本件特許権の実施に対し受けるべ き料率は,●(省略)●とするのが相当である。これに反する原告及び被告の主張 は,いずれも採用できない。 他方,本件特許権が共有されていた期間(本件期間1及び本件期間2)における 被告製品1〜6の売上高が●(省略)●円(本件期間1:●(省略)●円,本件期 間2:●(省略)●円)であることは,当事者間に争いがない
d なお,被告は,被告製品1〜6の売上高を基礎として実施に対し受けるべき 料率を算定することが不合理であると主張する。しかし,前記のとおり,被告製品 1〜6が本件再訂正発明の作用効果を全く奏していないとはいえないし,その程度 が乏しいとしても,その点は実施に対し受けるべき料率の算定に当たって斟酌すれ ば足りるのであって,被告製品1〜6の売上高を基礎として実施に対し受けるべき 料率を算定することが不合理であるとまではいえない。したがって,この点に関す る被告の主張は採用できない。
e 以上より,三菱化学に生じた損害の額は,別紙「損害額算定表」の(4)欄のと おり,合計26万6379円であると認められる。

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平成28(ワ)42833等  特許権侵害差止等請求事件,特許権侵害差止請求事件,特許権侵害に基づく損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成31年3月7日  東京地方裁判所

 漏れていたので、アップします。国際裁判管轄、差止請求等に係る訴えの利益、技術的範囲の属否、間接侵害、無効理由など、争点は満載なので、判決文が200頁以上あります。認められた損害額も40億円を超えています。

 (1) 特許法102条2項の適用の有無(争点11−1) 原告は,被告らが特許権侵害行為により利益を受けているとして,特許法 102条2項の適用があると主張するのに対し,被告らは,原告が本件発明 1を実施していないこと,また,本件発明1は被告製品の販売に何ら寄与し ていないことから,被告製品の販売と原告の損害との間には因果関係がなく, 特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られた であろうという事情が存在しないから,特許法102条2項の適用がないと 主張する。
そこで検討するに,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかった ならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法10 2条2項の適用が認められると解すべきであり,特許法102条2項の適用 に当たり,特許権者において,当該特許発明を実施していることを要件とす るものではないというべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015 号同平成25年2月1日判決参照)。 そうすると,原告が本件発明1を実施していないことは,特許法102条 2項の適用を妨げる事情とはいえない。また,原告は,被告製品と同様にL TO−7規格に準拠する原告製品を販売しており(弁論の全趣旨),原告製 品と被告製品の市場が共通していることからすれば,特許権者である原告に, 侵害者である被告らによる特許権侵害行為がなかったならば利益が得られた であろうという事情が認められるから,原告の損害額の算定につき,特許法 102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。被告らが主 張する,被告製品の販売における本件特許1の寄与の程度については,推定 覆滅の一事情として考慮すべきである(後記(4)参照)。 以上のとおり,被告らの主張は採用することができず,原告の損害額の算 定については,特許法102条2項の適用による推定が及ぶ。
(2) 輸出を伴う取引形態における利益の範囲(争点11−2)
被告OEM製品の取引形態のうち,取引形態2(被告OEM製品の製造業 者である被告SSMMが被告OEM製品を海外に輸出し,海外において被告 SSMM自身の在庫として保有しているものを,被告ソニー又は被告SSM\nSを介して海外の顧客に販売する取引形態)によって被告らが得た利益につ いて,特許法102条2項の推定が及ぶか否かについて検討する。この点, 被告らは,取引形態2によって得られた利益は,全て海外での販売行為によ り発生したものであるから,属地主義の原則から,これには上記推定が及ば ないと主張する。
弁論の全趣旨(被告準備書面(7))によれば,被告OEM製品の取引形態 2は,具体的には,(1)平成27年12月から平成29年3月までは,被告S SMMが,被告OEM製品を日本国内で製造して海外に輸出した後に,被告 ソニーに対して販売し,さらに,被告ソ\ニーが,これを顧客に対して販売し ており,(2)平成29年4月から同年9月までは,被告SSMMが,被告OE M製品を日本国内で製造して海外に輸出した後に,被告SSMSに対して販 売し,さらに,被告SSMSが,これを被告ソニーに対して販売し,その後,\n被告ソニーが,これを顧客に対して販売しており,(3)平成29年10月以降 は,被告SSMMが,被告OEM製品を日本国内で製造して海外に輸出した 後に,被告SSMSに対して販売し,さらに,被告SSMSが,これを顧客 に対して販売したことが認められる。 上記事実に照らせば,被告OEM製品の取引形態2における販売行為は, 形式的には全て被告SSMMが被告OEM製品を海外に輸出した後に行われ ているものである。しかしながら,被告OEM製品は,その性質上,被告ら (本件期間(1)においては被告ソニー及び被告SSMM)が,本件OEM供給\n先(HPE及びQuantum)の発注を受けて製造し,本件OEM供給先に対し てのみ販売することが予定されていたものであるから,被告SSMMが被告\nOEM製品を日本国内で製造して海外に輸出し,被告ソニーや被告SSMS\nに販売し,さらに被告ソニーや被告SSMSがこれを顧客(本件OEM供給\n先)に販売するという一連の行為が行われた際には,その前提として,当然, 当該製品の内容,数量等について,被告らと本件OEM供給先との密接な意 思疎通があり,それに基づいて上記の被告SSMMによる日本国内での製造 と輸出やその後における被告らによる販売が行われたことを優に推認するこ とができる。そうであれば,上記一連の行為の一部が形式的には被告OEM 製品の輸出後に行われたとしても,上記一連の行為の意思決定は実質的には 被告OEM製品が製造される時点で既に日本国内で行われていたと評価する ことができる。被告らは,被告SSMMが本件OEM供給先から提供を受け たフォーキャストと,実際の被告OEM製品の受注は必ずしも一致しないこ とから,被告SSMMの製造・輸出と,その後の販売行為は独立した別々の 行為である旨主張するが,被告SSMMは本件OEM供給先から提供される フォーキャストで示された予想される発注量に基づいて被告OEM製品を製\n造し,被告らはこれを販売していたものであるから,月々のフォーキャスト と受注が必ずしも一致しないことをもって,被告らの行為ないしその意思決 定の一連性が否定されるものではない。また,被告らは,本件OEM供給先 からの被告OEM製品の受注,被告OEM製品の海外倉庫からの出庫(海外 倉庫の管理を含む)及びOEM顧客への発送,並びにOEM顧客に対する請 求を,各国に本拠地を有する各現地協力会社に委託しており,これらの業務 は全て,日本国内ではなく海外において行われたものであるとも主張するが, 単に事実行為の一部を海外の協力会社に委託していたと主張するにすぎない ものであって,上記一連の行為の意思決定が実質的に日本国内で行われてい たと評価することができるという上記結論を何ら左右するものではない。 加えて,少なくとも,本件特許権1の侵害行為である被告OEM製品の国 内での製造及び輸出が被告らによる共同不法行為であると認められる(前記 7参照)以上,被告らによる販売行為が,全て被告SSMMが被告OEM製 品を海外に輸出した後に行われたものであるとしても,被告らの販売行為に よる利益は,被告らによる国内における上記共同不法行為(被告OEM製品 の国内での製造及び輸出)と相当因果関係のある利益(原告にとっての損害) ということができ,侵害行為により受けた利益といえる。 したがって,取引形態2によって被告らが得た利益についても,特許法1 02条2項の推定が及ぶと解すべきであり,このように解しても,我が国の 特許権の効力を我が国の領域外において認めるものではないから,属地主義 の原則とは整合するというべきである。これに反する被告らの主張は採用で きない。
・・・
(4) 推定覆滅事由の存否及びその割合(争点11−4)
ア 被告製品が本件発明1の作用効果を奏していないとの主張について 被告らは,被告製品においては,硬度の高い磁性層表面を形成している\nことにより,裏写りを十分に抑制することができていること,また,本件\n発明1の構成要件1Cを充足する製品としない製品の保存試験(乙204,\n206)の結果などから,被告製品が本件発明1の作用効果を奏していな いと主張する。 しかしながら,前記5(4),(5)説示のとおり,本件明細書1・表1の記\n載からは,磁性層表面及びバックコート層表\面の10μmピッチにおける スペクトル密度,磁性層の中心面平均表面粗さ,六方晶フェライト粉末の\n平均板径のそれぞれが本件発明1−1に規定された範囲内である実施例は, 比較例よりも保存前後のSNRの変化が小さいことを読み取ることができ, そこから,本件発明1により発明の課題を解決することができるものと理 解できるから,そうである以上,本件発明1の技術的範囲に属する被告製 品は本件発明1の作用効果を奏していると認められ,これを覆すに足りる 証拠はない。 これに対し,被告らは,被告製品が本件明細書1の実施例に記載されて いる磁気テープとは材質・組成等が異なるものであり,構成要件を充足す\nるからといって当然に明細書に記載されている発明の効果を奏すると認め られるものではないと主張するが,本件明細書1の実施例に記載されてい る磁気テープと被告製品とは材質・組成等が異なるとしても,そのことに よって被告製品が本件発明1の発明の効果を奏していないものと認めるに 足りる証拠はない。被告らはその他るる主張するが,いずれも上記結論を 左右しない(なお,原告の製品が本件発明1の実施品でないとする主張に ついては,その主張の根拠である測定結果(乙116,117)が前記4 (2)イ(ア)の説示に照らして信用できないから,採用できない。)。
なお,被告らが主張する,被告製品が硬度の高い磁性層表面を形成して\nいる点について検討するに,確かに,証拠(乙197ないし199)によ れば,磁性層表面が硬いほど裏写りが生じにくいことが認められ,また,\n本件発明1の構成要件1Cを充足しないように調整した被告製品において,\n高温保存の前後でエラーレートに有意な変化は生じなかったこと(乙20 4)からすれば,本件発明1の構成要件1Cを充足しないように調整した\n被告製品においては,硬度の高い磁性層表面を形成していること(原告は\n特に争っていない)によって,高温保存後の電磁変換特性の悪化が抑えら れているものと認められる。 (なお,原告は,甲96の実験を根拠に,磁性層の硬度を高めたとして も裏写りは防止できないと主張するが,同実験においては,磁気テープの 硬度の指標として引張り強度が用いられているところ,裏写りによる磁気 テープの電磁変換特性の悪化を防止するための磁性層の硬度の指標として は,押込み強度が用いられるべきである(乙197・段落【0024】, 【0026】,乙205)から,同実験によっても,磁性層の硬度(押込 み強度)を高めた場合に裏写りが防止できないものと認めることはできな い。また,原告は,エラーレートの検証がなぜ本件発明1の作用効果の検 証につながるのか説明がないなどと主張するが,磁気テープにおいて電磁 変換特性が悪化した場合,エラーレートが上昇すること(乙204)から すれば,エラーレートの変化を検証することで電磁変換特性の変化も検証 できるものと考えられる。)。 しかしながら,一方,証拠(乙206)によれば,本件発明1の構成要\n件1Cを充足する被告製品においても,高温保存の前後でエラーレートに 有意な変化は生じず,高温保存後の電磁変換特性の悪化が抑制されている ものと認められるが,上記のとおり,本件発明1の技術的範囲に属する被 告製品は本件発明1の作用効果を奏していると認められるところ,被告製 品において,硬度の高い磁性層表面を形成していることにより,本件発明\n1の作用効果を超えて,独自の作用効果を奏していることを認めるに足り る証拠はない。
イ 本件発明1の作用効果が被告製品の購入動機となっていないとの主張に ついて
被告らは,被告製品の顧客は,本件発明1の作用効果に着目して被告製 品を選択しているわけではなく,本件発明1の作用効果が被告製品の購入 動機となっていないと主張する。 そこで検討するに,特許法102条2項の趣旨からすれば,同条項の推 定を覆滅させる事由として認められるためには,特許権侵害がなかったと しても,被告製品の販売等による利益(の一部)は原告に向かわなかった であろう事由の存在が必要である。したがって,被告製品の顧客の購入動 機が単に本件発明1の作用効果に着目していなかったというのでは足りず (ゆえに,被告製品のパンフレットに本件発明1の作用効果がセールスポ イントとして記載されていないのみでは推定覆滅事由足りえない。),被 告製品の顧客の購入動機が,被告製品の独自の技術や性能に着目したもの\nであったことを具体的に主張立証する必要がある。 そして,被告らは,被告製品の顧客の主要な購入動機として,被告製品 が大記録容量及び高速データ転送速度を実現した製品である点,記録媒体 としての磁気テープの利点(保存時に通電が不要である点等),単一ドラ イブを用いて時期テープカートリッジへのデータ記録を行った場合におけ る,記録容量,転送レート及び記録速度の安定性(原告製品と比較してよ り優れた性能を有すること)を挙げるが,これらの点が被告製品独自のも\nのであることや,仮に独自のものであったとしても,それが原告製品と比 較して異なる程度,及び,これらの点が被告製品の顧客の主要な購入動機 となっていたことを認めるに足りる証拠はないから,仮に本件特許権1の 侵害がなかったとしても,これらの点のために,被告製品の販売等による 利益(の一部)は原告に向かわなかったであろうと認めるには足りない。 なお,前記アのとおり,本件発明1の技術的範囲に属する被告製品は本 件発明1の作用効果を奏していると認められるところ,被告製品において, 硬度の高い磁性層表面を形成していることにより,本件発明1の作用効果\nを超えて,独自の作用効果を奏していることを認めるに足りる証拠はない し,仮に,被告製品において,磁性層の素材の硬度を高めることにより本 件発明1と同様な独自の作用効果を一部奏しているとしても,そのような 被告製品独自の作用効果がどの程度生じているのかは不明である上,その 点が被告製品独自の購入動機となっていたとも認められない(被告自身が 本件発明1の作用効果は購入動機となっていない旨主張している。また, 被告製品の広告(甲97)では,データの長期保存について記載されてい るところ,本件発明1の作用効果である長期保存後の裏写りの防止は,デ ータの長期保存に資するものであるから,被告製品が本件発明1の作用効 果を有していることは,間接的には購入の動機の一因になっているものと 考えられるが,上記のとおり,そのような作用効果ひいては購入の動機が 被告製品独自の構成によって生じたり,高められたりしたものと認めるこ\nとはできない。)。したがって,仮に,被告製品が磁性層の素材の硬度を 高めることで本件発明1の作用効果を一部奏しているとしても,そのこと によって,仮に本件特許権1の侵害がなかった場合に,被告製品の販売等 による利益(の一部)は原告に向かわなかったであろうと認めることはで きない。
ウ 以上のほか,被告らは,本件発明1の技術的範囲に属さない代替製品を 製造・販売することできたことも主張するが,現にそのような代替製品を 製造・販売していたものではなく,その可能性にとどまるものであるから,\n推定覆滅事由として認めることはできない。 したがって,特許法102条2項の推定を覆滅させる事由を認めること はできない。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10122  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月4日  知的財産高等裁判所

 UFO飛行装置について、実施可能要件違反とした拒絶審決が維持されました。本人訴訟です。

 特許法36条4項1号は,発明の詳細な説明の記載は,発明の属する技術 の分野における通常の知識を有する者が,その実施をすることができる程度 に明確かつ十分に記載したものでなければならないことを規定するものであ\nる。本願発明は,物の発明(特許法2条3項1号)であるから,本願発明が実 施可能要件を充足するためには,当業者がこれを生産し,かつ使用すること\nができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならない。そして,\n実施可能要件を満たすことは,出願人が立証責任を負う。\n
(2) 本願発明は「磁石及び対をなす電極が取り付けられた物体であって,それ らの電極間で放電が可能で,放電時に於いて運動する電子が作る磁界から磁\n石が受ける力を物体の推力として利用する もの。」(【請求項1】)とあ るように,本願発明に係る「物体」ないし「もの」(以下,本願発明に係る 「物体」及び「もの」並びに本願明細書に開示された「構造体」を,「「U\nFO飛行装置」」ということがある。)は,電磁力を利用して物体に推進力 を与えることができるものとされている。推進力を与えるものであるから, その速度が変化することは明らかである。なお,段落【0006】によれば, 重力加速度gに等しい大きさの推進力を与えることが可能であるとされてい\nる。
しかるに,本願明細書中には,「UFO飛行装置」内部の電子と磁石の関 係についての記載はあるものの,「UFO飛行装置」が装置の外部の電磁場 から影響を受ける旨の記載はないし,外部の電磁場の状態を特定するような 記載もない。かえって,段落【0006】によれば,「UFO飛行装置」を 取り付けた物体は,地球から月まで行くことができ,その中間地点まで加速 しそれ以降は減速できるとされているから,「UFO飛行装置」は,宇宙空 間においても地球上でも使用可能なものであり,外部の電磁場の状態に関わ\nりなく動作可能なものであることが前提とされていると考えられる。したが\nって,本願明細書に開示された「UFO飛行装置」は,装置の外部にある電 磁場との関係で生じる電磁力により推進力を得るものではないと解される。 また,電磁力以外の力についても,本願明細書には,「UFO飛行装置」 が,外部の物体を押すことによる反作用を受けるなど,何らかの物理的な力 を外部から受けることは記載されていない。さらに,「UFO飛行装置」が, 外部に物質を噴射するなどして質量を変化させることも記載されていない。 なお,原告も,「UFO飛行装置」は,周囲の媒介物等との間に,連続的 な反作用や他の外力が作用しないだけでなく,連続的でない反作用や他の外 力も作用しないこと,質量変化も生じないことを認めている。 以上によれば,本願発明の「UFO飛行装置」は,外部からの何らかの力 を受けることも,質量を変化させることもないにも関わらず,その速度を変 化させることができるとする発明であると解するほかない。これは,外力の 作用なく「UFO飛行装置」の運動量(質量×速度)が変化するということで あるから,運動量保存の法則に反する。また,「UFO飛行装置」の推進力 に対向する反作用の力が見当たらないから,作用反作用の法則にも反する。 このように,本願発明は,当業者の技術常識に反する結果を実現するとす る発明であるが,本願明細書には,本願発明の「UFO飛行装置」が推進し た事実(実験結果)は示されていない。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者が「放電時に於 いて運動する電子が作る磁界から磁石が受ける力を物体の推力として利用す る」「UFO飛行装置」を生産し,かつ使用できる程度に明確かつ十分に記\n載されているとは認められない。
(3) 原告は,自動車の内部で燃料が燃焼を起こすことによりタイヤが回転し 車体が動くが,これが運動量保存の法則に反するとはされていない旨主張す る。 しかし,自動車の場合は,路面とタイヤとの間に摩擦力が働き,タイヤが 路面に及ぼす力と反対方向の力を,路面がタイヤに反作用として及ぼすこと で推進するのであって,自動車は路面という外部からの力を受けている。 これに対し,本願発明は,「UFO飛行装置」の外部との間に何ら力が働 かないにもかかわらず,推進することができるとするものであるから,自動 車の場合と相違することは明らかである。 その他,原告は,本願発明の原理としてるる主張するが,いずれも「UF O飛行装置」内部の現象にとどまり,「UFO飛行装置」全体が外部からの 力を受けることなく運動量を変化させられることを説明するものではないか ら,前記認定を左右しない。

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平成31(行ケ)10023  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月31日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。

 本件訂正発明1は,前記1(2)のとおり,(1)作業者が天板の突出方向と反対側で作 業を行う場合には,天板の端を目視で確認しながら作業を行わなければならず,作 業の効率が低下してしまうという問題や(2)天板の突出方向の反対側にも同様の手摺 を取り付けたとしても,作業者が可搬式作業台を昇降する際に手摺を乗り越えたり, 手摺をくぐったりしなければならないことから,天板と主脚との間の移動を自由に 行うことができず,かえって作業の効率が低下してしまう問題を解決し,作業空間 を包囲することにより作業の効率化を図るとともに,天板と主脚との間の移動を容 易に行うことができる脚立式作業台を提供することを目的とするものであって,特 許請求の範囲請求項1の構成をとることによって,「作業の効率化を図ると共に,天\n板と主脚との間の移動を容易に行うことができる」という作用効果を奏するもので ある。本件訂正発明1の相違点1に係る構成も,上記のような課題を解決し,作用\n効果を奏させるための構成であるということができる。\nこれに対して,甲3発明は,容易に運搬できないかさばった構造のプラットフォ\nームラダーにおいて,高い安全性を損なわないようにしつつ,容易に運搬できるよ うにすることを課題として,その解決のために,前記(1)イのような構成をとったも\nのである。
そして,本件訂正発明1の相違点1に係る構成である,一対の前方バーについて,\n「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認 識させる」ものであること,第1の状態において,「互いの先端部が隙間を介して対 向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され」ること,「前記軸着部 に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の\n状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可 能」であることについては,甲3には,それらの構\成を示唆する記載はなく,甲3 発明の上記技術的意義に照らしても,それらの構成が想起されるということはでき\nない。また,原告が周知技術と主張する甲5〜8,11及び12を併せて考慮して も,甲5〜8,11及び12には,周知技術としては,作業台の「軸支ピンを中心 に回動可能な手すり部材」が開示されているにすぎず,当業者が甲3発明及び周知\n技術に基づいて本件訂正発明1を容易に発明することができたとは認められない。
・・・
甲3発明の「前方バー107」及び甲4発明の「ゲート42,44」 は,共に,それぞれ略左右対称に回動可能であって,互いの先端部が対向して略直\n列に位置するように支持される状態と,作業者が作業空間へ移動可能な状態と,に\n変形可能な部材である点で共通する。\nしかし,甲3発明の「前方バー107」は,プラットフォーム50に登った作業 者の安全性を確保するためのレールの一部となるものであるのに対して,甲4発明 の「ゲート42,44」は,ラダーが不正に使用されないようにアクセスをブロッ クするためのものであるから,甲3発明の「前方バー107」の構成に代えて,甲\n4発明の「ゲート42,44」の構成を適用する動機付けはない。そして,甲3発\n明と甲4発明に原告が周知技術と主張する甲5〜8,11及び12を併せて考慮し ても,当業者が甲3発明と甲4発明に基づいて本件訂正発明1を容易に発明するこ とができたとは認められない。

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令和1(行ケ)10078  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年1月28日  知的財産高等裁判所

 商標権者または使用権者以外の使用について、審決は不使用と判断しましたが、知財高裁3部は、これを取り消しました。審決を確認したところ、審判段階では商標権者は答弁していませんでしたので、審決では「使用」に関して、実質判断がなされていません。

第4 被告の反論
・・・
上記の不使用取消審判制度の趣旨に鑑みれば,商標権者及び商標使用権者以 外の第三者による日本国内での使用を安易に商標権者又は商標使用権者による 使用と同視してはならず,かかる評価は極めて例外的かつ厳格に行う必要があ る。具体的には,商標権者又は商標使用権者が,登録商標を付した商品の譲受人 が日本国内でこれを販売することを単に事実として認識していただけでは足り ず,少なくとも商標権者又は商標使用権者が,第三者と締結する販売代理店契約 等に基づき第三者が商標権者を代理して日本国内で販売することを契約上認識 していることが必要であると解すべきである。
・・・
第5 裁判所の判断
・・・
証拠によれば,以下の事実を認定することができる。
(1) ランジュビオは,フランスに在住する日本人Aが運営するオンラインショッ プであり,日本語で運営され,日本向けに商品販売を行っている。(甲7,38)
(2) Aは,氏名のアルファベット表記としてAを用いている。(甲40)
(3) 原告は,Aに対し,2013年(平成25年)から,本件商標を付した瓶や スパチュラ(化粧品や料理に用いる「へら」)を含むさまざまな製品を販売し てきた。この販売に当たり,原告は,A がランジュビオを運営していること 及びランジュビオが上記製品を日本で消費者向けに販売していることを認識し ていた。(甲41)
(4) 本件要証期間中の2016年(平成28年)3月1日,原告はプラスチック 製の瓶及びガラス製の容器をAに販売した。(甲12,17,18)
(5) 本件要証期間中の同年2月から2018年(平成30年)8月までの間のラ ンジュビオのウェブページには,原告製品である瓶やガラス製容器が販売商品 として掲載され,日本円で価格が表示されている。(甲21ないし26)\n
(6) 本件要証期間中の2016年3月のランジュビオのウェブページには,原告 製品であるスパチュラが販売商品として掲載され,用途の一つとして「お料理 に」と記載され,日本円で価格が表示されている。(甲19,20)\n
(7) 原告が販売する製品の本体又は包装には,本件商標が直接表示されるか,本件商標を表\示したタグ又はラベルが付されるかしている。(甲27,38,39の各枝番)
2 上記1の各事実を総合すると,原告は,ランジュビオに対し,日本において消 費者に販売されることを認識しつつ本件商標を付して使用立証対象商品を譲渡 し,ランジュビオは,本件要証期間中に,本件商標を付した状態で日本の消費者 に対して本件使用対象商品を譲渡した事実を推認することができるし,少なくと も,ランジュビオが譲渡のための展示をしたことは明らかである。 かかる事実によれば,本件商標は,本件要証期間内に,商標権者である原告に よって,日本国内で,使用立証対象商品に,使用されたものと評価することがで きる。
3 被告の主張について
(1)被告は,商標権者が商標の使用をしたというためには,商標権者が,登録商 標を付した商品の譲受人が日本国内でこれを販売することを単に事実として 認識していただけでは足りず,少なくとも商標権者が,第三者と締結する販売 代理店契約等に基づき第三者が商標権者を代理して日本国内で販売すること を契約上認識していることが必要である旨主張する。 しかしながら,商標権者が,日本国内で販売されることを認識しつつ商標を 付した商品を譲渡し,実際に,その商標が付されたまま当該商品が日本国内で 販売されたのであれば,日本国内における上記商標の使用(商標を付した商品 の譲渡)は,商標権者の意思に基づく「使用」といえるから,それ以上に,被 告のいう「契約上」の「認識」なるものを要求する根拠はないというべきであ る。したがって,被告の主張は失当である。

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令和1(ワ)60 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和元年11月18日  大阪地方裁判所

 漫画を違法アップロードしていた個人に対して、連帯して約1.6億円の損害賠償が認められました。裁判所は「電子書籍の価格構造における出版社の利益率は,配信プラットフォームの違いに応じた代表\的な複数の事例の中で,最も低いもので45%である」と認定しました。編集著作者としての講談社が原告です。一部の被告は欠席裁判でした。

 証拠(甲2,13)及び弁論の全趣旨によれば,原告が原告各雑誌を販売してい ること,その本体価格は別紙著作物目録の「本体価格(円)」欄にそれぞれ記載の とおりであることが認められる。 また,証拠(甲25の1〜25の4)によれば,平成27年〜平成30年にそれ ぞれ発行された調査報告書には,電子書籍の価格構造における出版社の利益率は,\n配信プラットフォームの違いに応じた代表的な複数の事例の中で,最も低いもので\n45%であることが認められる。本件各違法アップロード行為の対象となった原告 各雑誌に係る販売利益率がこの割合を下回ることをうかがわせる事情はないから, これが45%であるものとして算定することには十分な合理性がある。\n
(ウ) 逸失利益額
各雑誌に係るファイルごとのダウンロード数並びに雑誌ごとの本体価格及び販売 利益率を乗じると,1億5032万8192円となる。他方,被告P3は,「販売 することができないとする事情」(著作権法114条1項ただし書)について,何 ら主張立証していない。したがって,本件各違法アップロード行為による原告の逸 失利益額は,同額であると認められる。
イ 弁護士費用相当損害額
原告の逸失利益額(上記ア)その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告 らの本件各違法アップロード行為と相当因果関係に立つ弁護士費用相当損害額は, 1503万2819円と認めるのが相当である。

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平成31(行ケ)10057  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月31日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決について、知財高裁4部は、動機付けなし、阻害要因ありとして、審決を維持しました。

 原告は,甲1−1発明のマッサージ具の代表的な使用方法は,回転体8,\n9の回転軸を鈍角にし,人体の凸部分(皮膚10)に使用するものであると ころ,「一対のローラやマッサージ球の回転軸のなす角度を鈍角とし,柄に 相当する部材の長軸方向の中心線と回転軸との間の角度を鋭角にしたマッサ ージ器具」及びそのマッサージ器具の作用効果は,本件出願当時,周知であ ったから,当業者は,甲1−1発明において,上記周知技術を適用し,甲1 −1発明の回転体8,9を揺動しないように固定した状態とする構成を採用\nすることの動機付けがあり,また,甲1−1発明のマッサージ具の回転体8, 9のなす角を鈍角に限定したとしても,甲1−1発明の全ての技術的意義が 失われるものではなく,技術的意義が縮小されることがあったとしても,そ の程度は極めて限定的なものであって,上記マッサージ器具の一定の作用効 果を得られる上,人体のほとんどの部分をマッサージすることが可能であり,\n甲1−1発明に上記周知技術を適用することに阻害要因があるとはいえない から,当業者が相違点2に係る構成に想到することは容易であり,これと異\nなる本件審決の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 甲1には,甲1−1発明のマッサージ具について,「回転体軸が旋回軸 によって把手に旋回可能に接続されたフォーク形部の把手側に配置される\nこと,及び旋回軸がフォーク形部の中央に,したがって回転体に関して中 央に延びているという構造を採用した」(【0006】)との開示がある。\n一方で,甲7,8,9の1及び10の1によれば,本件出願当時,「一 対のローラの回転軸のなす角度を鈍角とし,柄に相当する部材の長軸方向 の中心線と回転軸との間の角度を鋭角にした」マッサージ器具の構成は周\n知であったことが認められる(以下,上記マッサージ器具の構成を「本件\n周知の構成」という。)。本件周知の構\成は,相違点2に係る本件特許発 明1の構成に相当するものと認められる。\n しかしながら,甲1には,甲1−1発明において,本件周知の構成を適\n用することについての記載も示唆もないから,甲1に接した当業者におい て,甲1−1発明において,本件周知の構成を適用する動機付けがあるも\nのと認めることはできない。
イ また,甲1の記載(【0007】,【0008】,【0018】,【0 019】)によれば,甲1−1発明は,「回転体軸が旋回軸によって把手 に旋回可能に接続されたフォーク形部の把手側に配置され,旋回軸がフォ\nーク形部の中央に回転体に関して中央に延びている」構成を採用すること\nにより,回転体を支持するフォーク形部が旋回軸周りで揺動可能となり,\n回転体をマッサージ中にマッサージされる皮膚部分の輪郭に適合して接触 させ,多数の凸面部と凹面部,例えば眼窩,突出した頬骨,鼻,顎及び唇 のような部分がある顔面を処置するのに特に適するという効果を奏するこ とに技術的意義があることが認められる。 しかるところ,甲1−1発明における「回転体を支持するフォーク形部 が旋回軸周りで揺動可能」となるように把手に接続する構\成に代えて,本 件周知の構成(「一対のローラの回転軸のなす角度を鈍角とし,柄に相当\nする部材の長軸方向の中心線と回転軸との間の角度を鋭角にした」構成)\nを採用した場合には,「回転体を支持するフォーク形部」が固定され,旋 回軸周りで揺動可能」とならなくなる結果,回転体をマッサージ中にマッ\nサージされる皮膚部分の輪郭に適合して接触させることができなくなり,又は接触させる範囲が制限され,多数の凸面部と凹面部,例えば眼窩,突 出した頬骨,鼻,顎及び唇のような部分がある顔面を処置するのに適さな くなるから,甲1−1発明に本件周知の構成を適用することには阻害要因\nがあるものと認められる。
ウ 以上によれば,当業者が甲1−1発明に本件周知の構成を適用する動機\n付けがあるものと認めることはできず,かえって,その適用には阻害要因 があることが認められるから,当業者が甲1−1発明及び周知技術に基づ いて,相違点2に係る本件特許発明1の構成を容易に想到することができ\nたものと認めることはできない。

◆判決本文

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平成29(ネ)10068等  不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 平成30年2月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 少し前の事件ですが、漏れていたのでアップします。1審では、実用新案権による独占状態に由来する周知性かが争われました。1審はそれ以降も、独占状態が継続しているとして周知性を認めました。知財高裁は、「知的財産権の存在による独占状態は,知的財産権の存続期間が経過することにより解消し,知的財産権の存続期間中の独占状態に基づき生じた周知性も,存続期間満了後の期間の経過に伴って漸減し,存続期間満了後相当期間が経過した後は,知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響は払拭されたものと評価することができる。」と判断しました。

 控訴人は,仮に第三者が同種競合製品をもって市場に参入する機会があ ったとしても,現実に参入者との間で競争が生じない限り,知的財産権による独占 状態の影響が払拭されたと評価することはできないと主張する。 しかし,知的財産権の存在による独占状態は,知的財産権の存続期間が経過する ことにより解消し,知的財産権の存続期間中の独占状態に基づき生じた周知性も, 存続期間満了後の期間の経過に伴って漸減し,存続期間満了後相当期間が経過した 後は,知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響は払拭されたものと評 価することができる。 そして,被告商品の販売を開始した平成24年12月までの間に,原告商品のう ちS−O型については,実用新案権1の存続期間が満了した昭和54年6月23日 から約30年間,原告商品のうちL型,M型,S型については,実用新案権2の存 続期間が満了した昭和57年12月4日から約30年間,原告商品のうちS−II 型,LL型,L−II型については,実用新案権3の存続期間が満了した平成9年2 月26日から約15年間が経過しており,第三者が同種競合製品をもって市場に参 入する機会が十分にあったと評価し得ることは,前記1のとおり補正して引用する\n原判決の判示するとおりである。 また,控訴人は,被控訴人による原告商品の宣伝広告が実用新案権の存続期間満 了の前後を通じて基本的に変化がない旨を指摘するが,商品の形態の商品等表示性\nの要件である周知性を基礎付ける宣伝広告が,知的財産権の存続期間満了の前後を 通じて同様のものであったからといって,そのことが周知性を否定する根拠となる ものではないことは明らかである。 そして,原告商品について,実用新案権の存続期間満了後における広告・宣伝 や,継続的・独占的な大量の製造・販売により,遅くとも平成24年までには原告 商品の形状が出所を表示するものとして周知又は著名であるとの事情が認められる\nことは,前記1のとおり補正して引用する原判決の判示するとおりである。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成27(ワ)24688
「特許権や実用新案権等の知的財産権の存在により独占状態が生じ,これ に伴って周知性ないし著名性が生じるのはある意味では当然のことであり, これに基づき生じた周知性だけを根拠に不競法の適用を認めることは,結 局,知的財産権の存続期間経過後も,第三者によるその利用を妨げてしま うことに等しく,そのような事態が,価値ある情報の提供に対する対価と して,その利用の一定期間の独占を認め,期間経過後は万人にその利用を 認めることにより,産業の発達に寄与するという,特許法等の目的に反す ることは明らかである。もっとも,このように,周知性ないし著名性が知 的財産権に基づく独占により生じた場合でも,知的財産権の存続期間が経 過した後相当期間が経過して,第三者が同種競合製品をもって市場に参入 する機会があったと評価し得る場合など,知的財産権を有していたことに 基づく独占状態の影響が払拭された後で,なお原告製品の形状が出所を表\n示するものとして周知ないし著名であるとの事情が認められる場合であれ ば,何ら上記特許法等の目的に反することにはならないから,不競法2条 1項1号の適用があるものと解するのが相当である。」

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平成30(行ケ)10157  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月30日  知的財産高等裁判所

 第1次審決は,個別の効果しか認定をしていないとして審理不尽の違法があるとして,取り消されました。第2次審決は進歩性違反無しとの審決がなされました。知財高裁3部は、特段の効果無しとして、審決を取り消しました。

 特許に係る発明が,先行の公知文献に記載された発明にその下位概念と して包含されるときは,当該発明は,先行の公知となった文献に具体的に 開示されておらず,かつ,先行の公知文献に記載された発明と比較して顕 著な特有の効果,すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏さ れる効果とは異質の効果,又は同質の効果であるが際立って優れた効果を 奏する場合を除き,特許性を有しないものと解するのが相当である。 したがって,本件発明1は,甲1に具体的に開示されておらず,かつ, 甲1に記載された発明すなわち甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果 を奏する場合を除き,特許性を有しないところ,甲1には,本件発明1に 該当する態様が具体的に開示されていることは認められない。 そこで,本件発明1が甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する ものであるかについて,以下検討する。
・・・
前記(イ)のとおり,甲1発明Aは,(1)広い温度範囲において析出する ことがない,(2)高速応答に対応した低い粘度である,(3)表示不良を生じ\nない,という効果を同時に奏する液晶組成物であることから,本件発明 1と甲1発明Aは,上記三つの特性を備えた液晶組成物であるという点 において,共通するものである。 そこで,本件発明1に特許性が認められるためには,上記三つの特性 において,本件発明1が,甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏 することを要する。
a 効果(1)(低温保存性の向上)について
・・・
(b) 前記(a)の記載に関し本件審決は,甲1の実施例1〜52及び比較 例1の「下限温度」は,−40度及び−30度のいずれでも(ただ し,実施例21は「−40度では」)10日以内に結晶又はスメク チック相に変化したものと理解できるのに対し,本件明細書の実施 例1〜4は,−25度及び−40度で2週間又は3週間ネマチック 状態を維持したと記載されているから,甲1に記載された実験結果 より低い温度でより長い期間に渡り安定性が維持されるものと解す ることができ,本件発明1の低温保存性は,甲1に記載されていな い有利な効果である旨判断した。 しかしながら,そもそも,本件明細書に記載された低温保存試験 は,具体的な測定方法,測定条件について記載されていないため, 甲1に記載された低温保存試験と同じ測定方法,測定条件で実施さ れたものであるかについて,本件明細書の記載からは明らかでない。 また,液晶組成物の低温保存試験は,液晶組成物のその他の物性 値である粘度,光学異方性値,誘電率異方性値等と異なり,確立さ れた標準的な手法は存在しないところ(弁論の全趣旨),甲32(原 告従業員による平成30年7月12日付けの試験成績証明書)にお いては,試験管(P−12M)を用いた場合とクリーンバイアル瓶 (A−No.3)を用いた場合という容器の形状等の違いで実験結 果に差異が生じ,甲1の実施例20と甲82(株式会社UKCシス テムエンジニアリングによる平成31年4月17日付け試験報告 書)の実験結果の間でも,低温保存試験の条件によって実験結果が 異なることからすると,液晶組成物の低温保存試験においては,試 験方法や試験条件が異なることで過冷却の状態が生じることを否 定できず(甲40),試験結果に著しい差異が生じる可能性がある\nものと認められる。 加えて,甲1の低温保存試験においては,化合物(1)ないし(3) の組合せやその配合量が顕著に異なる液晶組成物であっても,実施 例21(「Tc≦−30度」)を除いて,「Tc≦−20度」とい う同じ結果となっているのに対し,本件明細書の実施例1〜4と比 較例1は,フッ素原子を有する重合性化合物又はフッ素原子を有し ない重合性化合物という配合成分の差異のみで,−25度及び−4 0度におけるネマチック状態の維持期間が顕著に異なる結果とな っている。
(c) 以上の事情に照らすと,低温保存試験に関する甲1の実験と本件 明細書の実験が,同じ配合組成(配合成分及び配合量)の液晶組成 物を試験した場合に同様の試験結果が得られるような,共通の試験 方法,試験条件において実施されたものとは,にわかに考え難いと いうべきである。 さらに,本件明細書において,実施例1〜4と対比されたのは, 重合性化合物にフッ素原子を有しない構造を有するというほかは,\n実施例1〜4と同様の配合組成を有する比較例1であって,その配 合組成は,甲1の実施例(1〜52)とは顕著に異なるものである。 そして,この点は,被告において本件明細書の試験の再現実験であ る旨主張する乙14についても同様であることから,本件明細書及 び乙14の実験結果のみから,本件発明1の効果と甲1発明Aの効 果を比較することは困難である。 したがって,本件明細書に記載された実施例1〜4の下限温度と, 甲1に記載された実施例及び比較例の下限温度とを単純に比較す るだけで,低温保存に係る本件発明1の効果が,甲1発明Aの効果 よりも顕著に有利なものであると認めることはできない。
b 効果(2)(低粘度)について
前記(イ)のとおり,甲1発明Aの具体例である実施例の液晶組成物 は,いずれも高速応答に対応した低い粘度のものであることが認めら れるところ,液晶組成物の粘度について,本件発明1が甲1発明Aと 比較して顕著な特有の効果を奏するものであることを認めるに足りる 証拠はない。 したがって,本件発明1が,甲1発明Aと比較して,低粘度に係る 有利な効果を奏するものとは認められない。
c 効果(3)(焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないこと)につ\nいて
(a) 本件発明1に関し,本件明細書には,実施例1〜6の液晶組成物, 及びフッ素原子を有しない重合性化合物を用い,かつ一般式(II −A)及び(II−B)で表される化合物を含まない比較例2の液\n晶組成物において,重合性化合物の液晶化合物に対する配向規制力 をプレチルト角の測定により確認した旨が記載されている(前記(1) イ(エ)c)。
一方,甲1発明Aに関し,甲1には,第三成分の好ましい割合は, 表示不良を防ぐために,第三成分を除いた液晶組成物100重量部\nに対して10重量部以下であり,さらに好ましい割合は,0.1重 量部から2重量部の範囲である旨が記載されている(前記(2)イ (エ))。
(b) 前記(a)の記載に関し本件審決は,本件明細書には,実施例1〜4 が,焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないという効果(効果(3))\nを奏することは具体的に記載されていないが,実施例1〜4におい ては,「環構造と重合性官能\基のみを持つ1,4−フェニレン基等 の構造を有する重合性化合物」に相当する重合性化合物(I−11)\nが用いられ,かつ,当該重合性化合物が添加された液晶組成物は, いずれも「アルケニル基や塩素原子を含む液晶化合物を使用」して いないから,従来から公知の技術的事項に照らして,焼き付きや表\n示ムラ等が少ないか全くないものである蓋然性が高いといえる旨判 断した。 しかしながら,前記(a)のとおり,本件明細書には,実施例1〜6 及び比較例2に関し,「重合性化合物の液晶化合物に対する配向規 制力をプレチルト角の測定により確認した」旨が記載されているに 過ぎず,本件明細書及び被告の提出する実験報告書(甲46〜48) を参照しても,焼き付き等の表示不良の有無や程度についての評価\nが可能な,プレチルト角の経時変化及び安定性に関する実験結果は\n記載されておらず,VHR(電圧保持率)についても,いかなる条 件で得られた数値が,この評価の対象とされ,どの程度の数値を示 せば,焼き付き等の表示不良を生じないと評価できるのか等の詳細\nについて,何ら具体的な説明はされていない。 したがって,仮に,焼き付き等の表示不良とプレチルト角の経時\n変化及び安定性又はVHRとの間に一定の相関関係があったとし ても,本件明細書及び甲46〜48に示された実験結果に基づいて, 本件発明1が達成している焼き付き等の表示不良抑制の程度を評\n価することはできないというべきである。
(C)また,本件明細書には,式(I−1)ないし(I−4)の重合性 化合物を用いることにより,表示ムラが抑制されるか,又は全く発\n生しないこと,また,焼き付きや表示ムラ等の表\示不良を抑制する ため,又は全く発生させないためには,塩素原子で置換される液晶 化合物を含有することは好ましくないことが記載されているとこ ろ(前記(1)イ(イ)),甲1の実施例の半数以上(実施例5,7,1 1,13,26〜27,29〜52 )が,本件発明1の重合性化合 物(I−1)〜(I−4)のいずれかに相当する重合性液晶化合物 (化合物(3−3−1),(3−4−1),(3−7−1),(3 −8−1))を含有し,また,甲1の実施例の7割以上(実施例2 〜8,11〜16,19,21〜24,28〜30,35〜52) が,塩素原子で置換された液晶化合物を含有していない。 さらに,本件明細書において,実施例1〜6と対比されたのは, フッ素原子を有しない重合性化合物を用い,かつ一般式(II−A) 及び(II−B)で表される化合物を含まない比較例2であって,\nその配合組成は,甲1の実施例(1〜52)とは顕著に異なるもの であり,この点は,被告において本件明細書の試験の再現実験であ る旨主張する甲46〜48についても同様であるから,仮に本件発 明1の実施例が比較例よりも有利な結果を示したとしても,甲1の 実施例に対しても同様に有利な結果を示すとは限らない。
(d) 以上の事情に照らすと,焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くな\nいことに係る本件発明1の効果が,甲1発明Aの表示不良が生じな\nい効果よりも顕著に有利なものであると認めることはできない。
d 小括
以上によると,本件発明1は,甲1の実施例で示された液晶組成物 では到底得られないような効果(低温保存性の向上,低粘度及び焼き 付きや表示ムラ等が少ないか全くないこと)を示すものとは認められ\nないので,本件発明1が,甲1発明Aと比較して,格別顕著な効果を 奏するものとは認められない。

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平成30(行ケ)10170  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月29日  知的財産高等裁判所

 異議申し立てでサポート要件の無効理由ありと認定されましたが、知財高裁4部はこれを取り消しました。

 本件決定は,(1)本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき出願時(本 件出願の優先日当時)の技術常識に照らして,当業者が,本件訂正発明4の 課題を解決できる範囲は,実施例に記載された「エチレンカーボネート(E C)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70) にLiPF6を1mol/Lの割合となるように溶解して調整した基本電解 液にフルオロスルホン酸リチウムを2.98×10−3mol/L以上0.5 96mol/L以下の範囲内で含有している非水系電解液であって,硫酸イ オンの含有量が1.00×10−7mol/L以上1.00×10−2mol/ L以下である,非水系電解液」である,(2)本件訂正発明1の特許請求の範囲 の記載には,実施例に記載された上記非水系電解液以外の非水系電解液も包 含されているが,本件出願の優先日当時の技術常識に照らしても,本件明細 書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明4の課題を,本件訂正発明4によ って解決し得るまでの開示がされているとはいえないから,本件訂正発明4 は,発明の詳細な説明に記載したものとはいえず,サポート要件に適合しな い旨判断した。
原告は,本件決定の上記判断は,当業者が本件訂正発明4の課題を解決で きると認識できる範囲は本件明細書の実施例記載の非水系電解液に限定され ることを前提とするものであるが,「基本電解液」を「エチレンカーボネー ト(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30: 70)とLiPF6を1mol/Lの割合となるように溶解して調整した基 本電解液」以外の一般的な基本電解液とし,フルオロスルホン酸リチウムの 含有量を本件訂正発明4の下限値の0.0005mol/L以上2.98× 10−3mol/L未満の範囲内のものとした場合であっても,本件訂正発明 4の課題を解決できると認識できるものといえるから,本件決定の上記判断 は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 本件明細書記載の実施例について
本件明細書には,実施例1ないし7に係る「試験例B」として,「エチ レンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混 合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF6を1mol/Lの割合と なるように溶解して」調整した「基本電解液」に,「硫酸イオンを含むフ ルオロスルホン酸リチウムを表2に記載の割合となるように混合」して電\n解液を製造し(【0253】) ,表2記載の電解液を用いたシート状電池\nを作製して,「初期放電容量評価」及び「高温保存膨れ保存評価」(高温 保存前後の体積変化から発生したガス発生量の評価)を行ったこと(【0 254】,【0249】,【0250】)が記載されている。 表2には,実施例1ないし7は,電解液中のフルオロスルホン酸リチウ\nムの含有量が「0.025〜5質量%」(「2.98×10−3mol/L 〜0.596mol/L」)及び硫酸イオンの含有量が「9.21×10 −7mol/L〜7.27×10−3mol/L」の範囲内の電解液であり, 比較例2は,電解液中のフルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオンをい ずれも含有しない電解液,比較例3は,電解液中のフルオロスルホン酸リ チウムの含有量が「5質量%」(「0.596mol/L」)及び硫酸イ オンの含有量が「1.67×10−2mol/L」の電解液であることが示 されている。このうち,実施例2ないし7は,本件訂正発明4(フルオロ スルホン酸リチウムのモル含有量が「0.0005mol/L以上0.5 mol/L以下」,硫酸イオン分のモル含有量が「1.0×10−7mol /L以上1.0×10−2mol/L以下」)に含まれる電解液である。 そして,本件明細書には,「表2より,製造された電解液の硫酸イオン\nの量が1.00×10-7×mol/L〜1.00×10-2mol/Lの範 囲内であれば,初期放電容量が向上し,高温保存時のガス発生量が低下す ることから,電池特性が向上することが分かる。」(【0256】)との 記載がある。 また,表2の記載から,実施例2ないし7は,比較例2及び3よりも,\n初期放電容量が向上し,高温保存時のガス発生量が低下し,電池特性が向 上していることを理解できる。 一方で,本件明細書には,本件訂正発明4に含まれる「フルオロスルホ ン酸リチウムのモル含有量が0.0005mol/L以上2.98×10 −3mol/L(0.00298mol/L未満)」の電解液については, 実施例の記載がない。
イ 実施例記載の基本電解液と他の電解液との互換性について
(ア) 本件訂正発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,本件訂正発明 4の非水系電解液の含有する非水系溶媒として「炭素数2〜4のいずれ か1種以上のアルキレン基を有する飽和環状カーボネート」及び「炭素 数3〜7のいずれか1種以上の鎖状カーボネート」を含むことが記載さ れているが,飽和環状カーボネートと鎖状カーボネートの具体的な組成 及び混合割合を特定する記載はない。 次に,本件明細書には,(1)「飽和環状カーボネート」について,「本 発明において非水系溶媒として用いることができる飽和環状カーボネー トとしては,炭素数2〜4のアルキレン基を有するものが挙げられる。 具体的には,炭素数2〜4の飽和環状カーボネートとしては,エチレン カーボネート,プロピレンカーボネート,ブチレンカーボネート等が挙 げられる。」(【0036】),「飽和環状カーボネートの配合量は, 特に制限されず,本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが, 1種を単独で用いる場合の配合量の下限は,非水系溶媒100体積%中, 3体積%以上,より好ましくは5体積%以上である。…また上限は,9 0体積%以下,より好ましくは85体積%以下,さらに好ましくは80 体積%以下である。」(【0036】),(2)「鎖状カーボネート」につ いて,「本発明において非水系溶媒として用いることができる鎖状カー ボネートとしては,炭素数3〜7のものが挙げられる。具体的には,炭 素数3〜7の鎖状カーボネートとしては,ジメチルカーボネート,ジエ チルカーボネート,ジ−n‐プロピルカーボネート,ジイソプロピルカ\nーボネート,n‐プロピルイソプロピルカーボネート,エチルメチルカ\nーボネート…等が挙げられる。」(【0039】),「 鎖状カーボネー トは,1種を単独で用いてもよく,2種以上を任意の組み合わせ及び比 率で併用してもよい。…鎖状カーボネートの配合量は,より好ましくは 20体積%以上,さらに好ましくは25体積%以上であり,また,より 好ましくは85体積%以下,さらに好ましくは80体積%以下である。」 (【0043】),(3)「本発明において,フルオロスルホン酸リチウム, フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を溶解する為の非水系溶 媒の代表的な具体例を以下に列挙する。本発明においては,これらの非\n水系溶媒は単独或いは複数の溶媒を任意の割合で混合した混合液として 使用されるが,本発明の効果を著しく損なわない限りこれらの例示に限 定されない。」(【0035】)との記載がある。これらの記載によれ ば,本件明細書には,「本発明において非水系溶媒として用いることが できる飽和環状カーボネート」の配合量は,「非水系溶媒100体積% 中,3体積%以上,より好ましくは5体積%以上」,「上限は,90体 積%以下,より好ましくは85体積%以下,さらに好ましくは80体積% 以下」であること,「本発明において非水系溶媒として用いることがで きる鎖状カーボネート」の配合量は,「より好ましくは20体積%以上, さらに好ましくは25体積%以上」,「より好ましくは85体積%以下, さらに好ましくは80体積%以下」であること,「鎖状カーボネート」 と「飽和環状カーボネート」の混合割合は,本発明の効果を著しく損な わない限り,実施例記載のものに限定されないことの開示があるものと 認められる。 そうすると,本件明細書の上記記載から,「試験例B」で用いられた 「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC) との混合物(体積比30:70)」以外の組成及び混合割合の「炭素数 2〜4のいずれか1種以上のアルキレン基を有する飽和環状カーボネー ト」及び「炭素数3〜7のいずれか1種以上の鎖状カーボネート」を含 む混合物であっても,本件訂正発明の非水系溶媒として用いることがで きるものと理解できる。
(イ) 本件訂正発明4の特許請求の範囲(請求項4)は,本件訂正発明4 の非水系電解液中のLiPF6の含有量は「0.7mol/L以上1. 5mol/L以下」であることを規定している。 次に,本件明細書には,「LiPF6」の含有量について,「本発明 における非水系電解液は,特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロ硫 酸リチウムを含有するが,さらにその他のリチウム塩を1種以上含有す ることが好ましい。その他のリチウム塩としては,この用途に用いるこ とが知られているものであれば,特に制限はなく,具体的には以下のも のが挙げられる。」(【0024】),「例えば,LiPF6,LiB F4,LiClO4,LiAlF4,LiSbF6,LiTaF6,LiW F7等の無機リチウム塩」(【0025】),「…さらに,これらの中 でも,LiPF6,LiBF4が好ましく,LiPF6が最も好ましい。」 (【0028】)との記載があるが,「LiPF6」の含有量について 一般的に述べた記載はなく,「試験例B」で用いられた基本電解液中の LiPF6の含有量(1mol/L)以外であっても,本件訂正発明4 に用いることができることについて述べた記載もない。 一方で,(1)甲37(特開2000−195546号公報)には,「本 発明で使用される非水溶媒としては,高誘電率溶媒と低粘度溶媒とから なるものが好ましい。高誘電率溶媒としては,例えば,エチレンカーボ ネート(EC),プロピレンカーボネート(PC),ブチレンカーボネ ート(BC)などの環状カーボネート類が好適に挙げられる。これらの 高誘電率溶媒は,1種類で使用してもよく,また2種類以上組み合わせ て使用してもよい。」(【0015】),「本発明で使用される電解質 としては,例えば,LiPF6,LiBF4…などが挙げられる。これら の電解質は,1種類で使用してもよく,2種類以上組み合わせて使用し てもよい。これら電解質は,前記の非水溶媒に通常0.1〜3M,好ま しくは0.5〜1.5Mの濃度で溶解されて使用される。」(【001 7】),(2)甲13(特開2011−054503号公報)には,「非水 電解液としては,リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。 リチウム塩としては,溶媒中で解離してLi+イオンを形成し,電池と して使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こしにくいものであれ ば特に制限はない。例えば,LiClO4,LiPF6,LiBF4 ,L iAsF6 ,LiSbF6 などの無機リチウム塩…などを用いることが できる。」(【0084】),「このリチウム塩の電解液中の濃度とし ては,0.5〜1.5mol/lとすることが好ましく,0.9〜1. 25mol/lとすることがより好ましい。」(【0086】)との記 載がある。上記記載によれば,本件出願の優先日当時,高誘電率溶媒と 低粘度溶媒とからなる非水系溶媒に電解質として用いる「LiPF6」 の濃度は,0.5〜1.5mol/Lの範囲とすることが好ましいこと は技術常識であったものと認められる。 そして,上記技術上常識に照らすと,本件訂正発明4の非水系電解液 中のLiPF6の含有量(「0.7mol/L以上1.5mol/L以下」) は,LiPF6を「炭素数2〜4のいずれか1種以上のアルキレン基を有 する飽和環状カーボネート」及び「炭素数3〜7のいずれか1種以上の 鎖状カーボネート」を含む非水系溶媒に電解質として用いる場合におい て好ましい濃度範囲であることを理解できる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載 及び本件出願の優先日当時の技術常識から,当業者は,試験例Bに用い られた基本電解液(「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカ ーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLi PF6を1mol/Lの割合となるように溶解して」調整した「基本電 解液」)以外の組成及び混合割合の本件訂正発明4に含まれる基本電解 液を用いた場合であっても,試験例Bに示されたように,フルオロスル ホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解液 に対して,「初期放電容量」を改善できるものと理解し,本件訂正発明 4の課題を解決できると認識できるものと認められる。
(エ) これに対し被告は,本件出願の優先日当時の技術常識((1)ECなど の誘電率の大きな溶媒とEMCなどの低沸点の低粘度溶媒とLiPF6 などの支持電解質の組合せやそれらの使用量比の変動に伴う,電解液組 成の変動によって,非水系電解液二次電池の電池特性も変動するため, 電池特性評価試験の結果に基づいて,満足な電池特性が得られない電解 液組成を選別するという最適化を行わなければ,満足な電池特性の非水 系電解液二次電池をもたらす電解液組成が得られないこと(乙1等), (2)非水系電解液の導電性について,電解質伝導度は電池の放電容量など に密接に関係し,電池性能に大きな影響を及ぼすこと(甲15))に照\nらすと,ECとEMCとの体積比やLiPF6の濃度が実施例の範囲内 のもの(試験例B)と異なる非水系電解液については,電池特性評価試 験の結果に基づく電解液組成の選別を行わないと,比較例3のような満 足な電池特性が得られない非水系電解液が含まれてしまうことになるか ら,当業者は,試験例Bに用いられている基本電解液を他の一般的な電 解液に変更したとしても,本件訂正発明4の課題を解決できるとは認識 しない旨主張する。
しかしながら,まず,被告の主張は本件訂正発明4の課題が「初期放 電容量が改善され,容量維持率および/またはガス発生量が改善された 非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液を提供する こと」にあるというものであるが,前記(1)ウのとおり,本件訂正発明4 の課題は,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として 含有しない非水系電解液に対して,初期放電容量等の電池特性を改善す る非水系電解液を提供することにあると認定すべきであるから,その前 提を欠くものである。 また,本件出願の優先日当時,非水電解液は,PC,ECなどの誘電 率の大きな溶媒とジメチルカーボネートなどの低沸点の低粘度溶媒とL iPF6などの支持電解質とから主に構成され,これら3種類の組合せ\nやそれらの使用量比などにより最適化されることは,技術常識であった こと(甲15(「電池ハンドブック」平成22年2月刊行)の373頁 等)に照らすと,当業者は,本件明細書の記載に基づいて最適化を行う ことにより,試験例Bに用いられた基本電解液以外の組成及び混合割合 の本件訂正発明4に含まれる基本電解液を用いた場合であっても,本件 訂正発明4の課題を解決できると認識できるものと認めるのが相当であ る。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
ウ フルオロスルホン酸リチウムの含有量の下限値について 前記アのとおり,本件明細書には,本件訂正発明4に含まれる「フルオ ロスルホン酸リチウムのモル含有量が0.0005mol/L以上2.9 8×10−3(0.00298)mol/L未満」の電解液については,実 施例の記載がない。 しかるところ,本件明細書には,試験例Bの結果を示した表2において,\n本件訂正発明4に含まれる実施例2ないし7(電解液中のフルオロスルホ ン酸リチウムの含有量が「0.025〜2.5質量%」(「2.98×1 0−3mol/L〜2.98×10−1mol/L」)及び硫酸イオンの含有 量が「9.21×10−7mol/L〜8.23×10−3mol/L」の範 囲内の電解液)が電解液中のフルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオン をいずれも含有しない比較例2の電解液よりも,初期発電容量が向上して いること,実施例2ないし7のうち,電解液中のフルオロスルホン酸リチ ウムの含有量が最も少ない実施例7(フルオロスルホン酸リチウムの含有 量2.98×10−3mol/L,硫酸イオンの含有量9.21×10−7 mol/L)の初期発電容量は148.7mAh/g,比較例2の初期発 電容量は145.8mAh/gであることが開示されている。この開示事 項から,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として添加 した非水系電解液は,これらをいずれも添加剤として含有しない非水系電 解液に対して,初期放電容量が改善できるものと理解できる。 そして,本件訂正発明4に含まれる「フルオロスルホン酸リチウムのモ ル含有量の下限値0.0005mol/Lは,実施例7のフルオロスルホ ン酸リチウムの含有量2.98×10−3mol/L(0.00298mo l/L)の約6分の1程度であり,実施例7よりも顕著に少ないとまでは いえないことに照らすと,当業者は,フルオロスルホン酸リチウムの含有 量が0.0005mol/Lの電解液を用いた場合であっても,フルオロ スルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解 液に対して,「初期放電容量」が改善し,本件訂正発明4の課題を解決で きると認識できるものと認められる。 これに反する被告の主張は理由がない。
(3) 小括
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願の優先 日当時の技術常識に基づいて,当業者が,本件訂正発明4の発明特定事項の 全体にわたり,本件訂正発明4の課題を解決できると認識できると認められ るから,本件訂正発明4は発明の詳細な説明に記載したものであることが認 められる。したがって,本件訂正発明4は,サポート要件に適合するものと認められ る。

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平成31(行ケ)10021  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月29日  知的財産高等裁判所

 マネースクエアHDの特許権について、訂正を認めないとの審決がなされましたが、知財高裁はこれを取り消しました。被告は外為オンラインです。

(2) 訂正事項1−1ないし1−3の特許法126条5項の要件の適合性の判 断の誤りについて
 原告は,本件審決が,本件訂正のうち,本件訂正前の請求項1の記載を本 件訂正後の請求項1に訂正する訂正事項1−1(請求項1の記載を引用する 請求項2,請求項2の記載を引用する請求項3ないし5,及び請求項1ない し5の記載を引用する請求項7も同様に訂正),本件訂正前の請求項2の記 載を本件訂正後の請求項2に訂正する訂正事項1−2(請求項2の記載を引 用する請求項3ないし5,及び請求項2ないし5の記載を引用する請求項7 も同様に訂正)及び本件訂正前の請求項6の記載を本件訂正後の請求項6に 訂正する訂正事項1−3は,本件訂正前の「売買取引開始時に,成行注文を 行うとともに,該成行注文を決済するための指値注文を有効とし」との事項 について,当該事項が「前記注文情報生成手段」によるものであり,「該成 行注文を決済するための指値注文」だけでなく,「前記成行注文を決済する ための逆指値注文」についても有効とするとの事項を追加したものであるが, 当該訂正事項については,願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の 範囲内においてしたものとはいえず,新規事項を追加するものであるから, 本件訂正は,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定 に適合しないと判断したのは誤りである旨主張するので,以下において判断 する。
・・・
以上によれば,本件明細書には,「本発明」の「一の実施形態」とし て,「注文情報生成手段」である「注文情報生成部16」が,「第一の 注文情報群」の生成をする際に,「第一の注文情報群」に含まれる「第 一注文」及び「第二注文」についてそれぞれ有効及び無効の設定を行い, 「約定情報生成手段」である「約定情報生成部14」が「第一の注文情 報群」に含まれる「第一注文51a」に基づく「成行注文」の約定処理 を行った時点で,その「成行注文」を決済するための「第二注文」(指 値注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理を 行うことの開示があることが認められる。 そうすると,本件明細書には,「注文情報生成手段」(「注文情報生 成部16」)が,「第一の注文情報群」の生成をする際に,「第一の注 文情報群」に含まれる注文情報の有効/無効の設定を行う技術的事項の 開示があるものと認められる。
また,「本発明」の上記実施形態においては,「注文情報生成手段」 (「注文情報生成部16」)が,「第一の注文情報群」に含まれる「第 一注文51a」の「成行注文」を決済するための「第二注文」(指値注 文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理は,「約 定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)によって行われ,「注文 情報生成手段」(「注文情報生成部16」)が行うものではないが,本 件明細書には,「上記実施形態は本発明の例示であり,本発明が上記実 施の形態に限定されることを意味するものではないことは,いうまでも ない。」(【0076】)との記載があることに照らすと,「本発明」 は,「第一注文」の「成行注文」を決済するための「第二注文」(指値 注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理は, 「約定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)が行う形態のものに 限定されないことを理解できる。
イ 本件訂正後の特許請求の範囲(請求項1)には,・・・
上記記載によれば,訂正事項1−1により,本件訂正前の「売買取引開 始時に,成行注文を行うとともに,該成行注文を決済するための指値注文 を有効とし」との事項について,「該成行注文を決済するための指値注文」 だけでなく,「前記成行注文を決済するための逆指値注文」についても有 効とするとの事項を追加したものであり,本件訂正発明1においては,「注 文情報生成手段」が「売買取引開始時」に「成行注文を行うとともに,該 成行注文を決済するための指値注文および前記成行注文を決済するための 逆指値注文を有効とし」とする処理を行うことを理解できる。 しかるところ,前記ア認定のとおり,(1)本件訂正前の請求項1には,「注 文情報生成手段」が「売買取引開始時」に「成行注文を行うとともに,該 成行注文を決済するための指値注文を有効とし」との処理を行うことの記 載があり,本件明細書の【0009】には,本件訂正前の請求項1と同内 容の記載があること,(2)本件明細書には,「注文情報生成手段」(「注文 情報生成部16」)が,「第一の注文情報群」の生成をする際に,「第一 の注文情報群」に含まれる注文情報の有効/無効の設定を行う技術的事項 の開示があること,(3)本件明細書に記載された「本発明」の「一の実施形 態」では,「第一の注文情報群」に含まれる「第一注文51a」の「成行 注文」を決済するための「第二注文」(指値注文)及び「逆指値注文」を 「無効」から「有効」に変更する処理は,「約定情報生成手段」(「約定 情報生成部14」)によって行われ,「注文情報生成手段」(「注文情報 生成部16」)が行うものではないが,本件明細書の【0076】の記載 に照らすと,「本発明」は,「第一注文」の「成行注文」を決済するため の「第二注文」(指値注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」 に変更する処理は,「約定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)が 行う形態のものに限定されないことを理解できることからすると,本件訂 正後の請求項1の「前記注文情報生成手段」は「売買取引開始時に,成行 注文を行うとともに,該成行注文を決済するための指値注文および前記成 行注文を決済するための逆指値注文を有効とし」との構成は,本件出願の\n願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面すべての記載事項を総合 することにより導かれる技術的事項の関係において,新たな技術的事項を 導入するものではないものと認められるから,訂正事項1−1は,本件出 願の願書に添付した明細書等に記載された事項の範囲内においてしたもの であって,新規事項の追加に当たらないものと認められる。 したがって,訂正事項1−1は特許法126条5項の要件に適合するも のと認められる。同様に,訂正事項1−2及び1−3は同項の要件に適合 するものと認められる。
ウ これに対し,被告は,・・・
訂正事項1−1に係る本件訂正は,本件出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものではなく,新たな技術的事項を導入する ものであるから,新規事項の追加に当たる旨主張する。
 しかしながら,前記ア(ア)認定のとおり,本件訂正前の請求項1の記載 から,本件発明1においては,「注文情報生成手段」が主体となって「売 買取引開始時」に「成行注文を行うとともに,該成行注文を決済するため の指値注文を有効とし」との処理を行うことを理解できるものであり,ま た,本件訂正前の請求項1に「注文情報生成手段」が上記処理を行うこと の記載があるかどうかの問題とその記載があることを前提とした場合にサ ポート要件に違反することになるかどうかの問題とは,別異の問題である から,上記(1)の点は採用することができない。 また,前記イ認定のとおり,本件明細書には,「注文情報生成手段」(「注 文情報生成部16」)が,「第一の注文情報群」の生成をする際に,「第 一の注文情報群」に含まれる注文情報の有効/無効の設定を行う技術的事 項の開示があること及び本件明細書の【0076】の記載に照らすと,「本 発明」は,「第一注文」の「成行注文」を決済するための「第二注文」(指 値注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理は, 「約定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)が行う形態のものに限 定されないことを理解できるから,上記(2)の点は採用することができない。 したがって,訂正事項1−1に係る本件訂正は,本件出願の願書に添付 した明細書等に記載した事項の範囲内でしたものではなく,新規事項の追 加に当たるとの被告の主張は理由がない。
(3) 小括
以上のとおり,訂正事項1−1ないし1−3は特許法126条5項の要件 に適合するものと認められるから,訂正事項1−1ないし1−3が同項に適 合しないことを理由に本件訂正は認められないとした本件審決の判断は誤り である。かかる判断の誤りは,無効理由の存否の審理の対象となる発明の要 旨の認定の誤りに帰することになるから,審決の結論に影響を及ぼすもので ある。

◆判決本文

本件の対象特許とは、下記の侵害事件の対象特許です。

◆平成29(ネ)10027

◆平成27(ワ)4461

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平成31(行ケ)10016  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月29日  知的財産高等裁判所

 第1次審決で訂正後の請求項について無効理由無しと判断されていましたが、2次審決も無効理由無しとした審決が維持されました。

原告は,本件審決の相違点1−2に関する判断は,前件侵害訴訟判決の判断と矛盾していると主張する。証拠(甲24,30)によると,前件侵害訴訟事件及びその原審は,被告が,原告の本件特許権侵害を主張したものであるところ,原告が,「前記導入通路の出口は,前記ロータリバルブの外周面上にあり,前記吸入通路の入口は,前記軸孔の内周面 上にあり,前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されること によって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段とな っており,前記ラジアル軸受手段は,前記カム体から前記ロータリバルブ側におけ る前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり,」という訂正前の本 件特許の請求項1の構成要件Eについて,本件特許発明にいう「ロータリバルブ」\nとは,「導入通路を有するロータリバルブ」(構成要件A)及び「前記吸入通路の入\n口に向けて前記ロータリバルブを付勢する」(構成要件C)の記載に鑑みれば,回転\n軸の一部であって導入通路及びその近傍を意味するものであり,それゆえ,構成要\n件Eにおける「唯一のラジアル軸受手段」とは,吸入通路近傍のみにおいて軸受さ れていることを要すると主張したのに対し,前件侵害訴訟判決は,ロータリバルブ が「吸入通路入口近傍のみにおいて軸受されていることを要する」などという要件 は,本件特許の特許請求の範囲請求項1には記載されていないし,かえって,本件 明細書の【0019】,【0026】,【0033】及び【0040】の記載によると,本件明細書においては,回転軸がシリンダブロックに貫設された軸孔に挿通され, 軸孔の内周面で支持された構造を「直接支持される」としているのであって,本件\n特許発明の「前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持される」 とは,軸孔の内周面とロータリバルブの外周面との間に他の部材が存在しないこと を意味するものと解するのが相当であるし,「唯一のラジアル軸受手段」との用語は, 複数のラジアル軸受手段から,当該ラジアル軸受手段が唯一採用されたという意義 を有するものと解されるから,本件特許発明の「前記カム体から前記ロータリバル ブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段」とは,カム体か らロータリバルブ側における回転軸の部分について,直接支持されたラジアル軸受 手段の他にラジアル方向の軸受手段が存在しないことを意味するものと解するのが 相当であると判断していることが認められる。 この前件侵害訴訟判決の判断が,上記aの判断と矛盾するといえないことは明ら かである。
(エ) 以上によると,相違点1―2が存在し,これは実質的な相違点である\nと認められる。
・・・
前記(1)イによると,引用発明4は,円錐コロ軸受け10,11によって,ラジア ル軸受とスラスト軸受とを兼ねているものであるから,引用発明4において,相違 点4−1及び4−2に係る構成とするためには,円錐コロ軸受け10,11を,ラ\nジアル軸受とスラスト軸受とに分離し,それぞれを別の位置に設けることが必要と なる。 しかし,円錐コロ軸受け10,11を,ラジアル軸受とスラスト軸受とに分離す ると,部品が多くなり,構造がより複雑になるため,製造コストやメンテナンスコ\nストが上がり,故障の可能性も高くなるというデメリットがあるところ,このよう\nなデメリットがあるのにもかかわらず,あえて円錐コロ軸受け10,11を,ラジ アル軸受とスラスト軸受とに分離することに技術的意義があると認めるに足りる証 拠はない。 したがって,引用発明4において,円錐コロ軸受け10,11を,ラジアル軸受 とスラスト軸受とに分離することには動機付けがあるとはいえず,むしろ,阻害要 因があるといえる。

◆判決本文

侵害訴訟はこちらです。 平成26(ワ)34678

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第1次審決の取消訴訟はこちらです。 平成28(行ケ)10231

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平成30(ワ)4901  不当利得返還請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年1月23日  大阪地方裁判所

 CS関連発明について、技術的範囲に属するものの、特29-2の規定により権利行使不能と判断されました。\n

 以上より,乙12−1発明は,1つ又は複数の画像をカメラやネットワーク を通じて入手し,1つ又は複数の電話番号に対応付けてこれらの画像を記憶し,当 該電話番号から着呼があったときに,これらの画像を切り替えて表示させ,これに\nより,発信者を識別しやすくするという効果を有する,無線携帯端末に関する発明 であるということができる。
(3) 本件発明1と乙12−1発明との対比
ア 乙12−1発明に係る無線携帯端末において,1つの電話番号に2つの画像 を対応付けて記憶させた場合,当該電話番号から着呼があった際,2つの画像が, 時刻や着呼の回数等による一定の規則性に従って表示される。このとき,特定の着\n呼時に表示されない方の画像については,当該電話番号との対応関係を維持したま\nま,画像メモリに記憶され続けており,「表示選択がOFF」にされているといえ\nる(前記2(3)参照。)。乙12−1発明における「メモリ」及び「画像メモリ」は, それぞれ本件発明1における「電話帳データメモリ」及び「画像データメモリ」に 対応する。
イ そうすると,本件発明1と乙12−1発明との間には,(1)本件発明において は,画像をメモリ番号に対応付けているが,乙12発明においては,画像を電話番 号に対応付けている点(相違点(1)),(2)本件発明1においては,新たに入手・記憶 された第2画像が優先的に表示されるが,乙12発明においては,新たに入手・記\n憶された画像が優先的に表示されるか否か不明である点(相違点(2)),という相違 点が存するとも考えられるため,これらの相違点が設計上の微差にすぎないか,実 質的な相違点であるかについて,以下検討する。
ウ 相違点(1)について
本件特許1の出願当時,携帯電話やハンドフリー電話の分野においては,携帯電 話等の端末において,特定の電話番号をメモリ番号に対応付けて記憶させることは, 複数の名前や電話番号を含む情報を整理するなどの目的に広く使われる,周知の技 術であったことが認められる(乙13ないし15)。 そうすると,画像を,ある電話番号と対応付けられたメモリ番号に対応付けて記 憶させるか,それとも,直接,当該電話番号と対応付けて記憶させるかという違い は,設計上の微差にすぎないというべきである。
エ 相違点(2)について
乙12−1発明において,ある特定の電話番号に対して既に1つ又は複数の画像 が対応付けられて記憶されている場合において,新たな画像をカメラやネットワー クを通じて入手し,当該電話番号に対応付けて記憶させたとして,当該電話番号か ら着呼があった際,当然に,その新たな画像が優先的に着信画面に表示されるよう\nになるということはできない。 しかし,乙12の段落【0032】の記載(「複数の画像を一つの電話番号と対 応させ,着呼毎に変えたり,時間によって変えたり,着呼時に順番に出したりする こともできる。」)によれば,乙12−1発明は,複数の画像を一つの電話番号に 対応付ける機能部を有しており,これを使用して,当該電話番号の着呼に応じて,\n複数の画像から一つの画像を選択しており,かかる選択を,着呼毎に変更したり, 時間に応じて変更したり,一回の着呼に対して複数の画像を順番に変更したりする ことにより,様々な表示を行っているものと認められる。\nしたがって,乙12−1発明において,電話番号と対応する複数の画像からどの 画像を選択するかということは任意に設定することが可能であり,複数の画像のう\nち,新たに入手した画像を優先的に選択することや,上記機能部において,これま\nで記憶されていた複数の画像のうち,表示しない画像と当該電話番号との対応付け\nを削除するか否かということは,必要に応じて,当業者が適宜選択し得る設計的事 項である。また,かかる選択をしたことに伴う顕著な効果も認められない。 よって,乙12−1発明において,複数の画像のうち,新たに入手した画像を選択 して表示し,これまで記憶されていた複数の画像と当該電話番号との対応付けを削\n除せずに,これまで記憶されていた複数の画像と当該電話番号との対応関係を維持 することは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるといえ,奏せられる効果に 著しい差も認められない。したがって,相違点(2)についても,設計上の微差にすぎ ないということができる。
(4) まとめ
以上より,本件発明1は,実質的に,乙12−1発明と同一であるから,特許法 29条の2により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2 号の無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10073  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和元年10月23日  知的財産高等裁判所

 被告からの商品を卸売りをしていた原告に対して、その商標の商標を取得することは公序良俗に反する(商4条1項7号違反)とした審決が維持されました。

 商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある 商標」には,健全な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く出願行為に係る 商標も含まれると解される。 (1) そこで,まず,原告による本件商標の登録出願が,被告との関係で義務違 反となりうるかについて検討する。 前記1(1)(2)の各事実によれば,原告と被告とは,本件商標の登録出願が行 われた平成28年10月14日時点を含めて,平成11年頃から平成29年 10月12日頃までの間,被告が,原告に対し,独占的に本件被告商品やマ ナマリンなどを卸売りし,原告がこれを薬局薬店等に販売するという長期間 にわたる取引関係にあった。 かかる取引関係に関して,前記1(2)エのとおり,原告と被告とは,被告商 標の登録が完了した直後である平成16年3月25日,本件覚書(甲6)を 締結した。本件覚書の柱書,1条,3条の記載に照らすと,本件覚書は,被 告商標として登録された「仙三七」との商標を,本件被告商品に付して,販 売することを前提とするものであることが明らかである。また,本件覚書に は,被告及び原告は,第三者が被告商標の権利を侵害し又は侵害しようとし ていることを知ったときには互いに遅滞なく報告し合い協力してその排除に 努めるものとすること(第5条)や,被告及び原告は,信義に基づいて本件 覚書を履行するものとし,万一本件覚書に関して疑義が生じた場合には,被 告及び原告はお互いに誠意をもってこれを解決するものとすること(第7 条)とする合意が含まれていた。このように,被告が原告に使用許諾して 「仙三七」との商標を本件被告商品に付して販売することとされ,第三者か らの被告商標に係る商標権の侵害に対する対策も合意された上で,7条にお いて信義に基づいて本件覚書を履行するとされていたことに照らすと,本件
覚書において,原告自身が,三七人参を原材料とした健康食品との関連で 「仙三七」との商標を商標登録することは全く想定されていないといえる。 以上によれば,長期間にわたり,本件被告商品の卸売りを受けて,これに 被告商標と同じ「仙三七」との商標を付して販売し,利益を上げていた原告 は,被告との関係において,被告が「仙三七」との商標の商標権者として, かかる商標を付して本件被告商品を販売することを妨げてはならない信義則 上の義務を負っていたものということができる。 そして,原告による本件商標の登録出願は,被告商標と同じく「仙三七」 を横書きにしてなる商標について,本件被告商品を指定商品に含むものとし て登録出願するものである。かかる登録が認められることになると,被告 は,「仙三七」との商標の商標権者として,第三者に使用許諾をするなどし てかかる商標を付して本件被告商品を販売することはできなくなり,重大な 営業上の不利益を受けるおそれが生じる。 以上によれば,原告の本件商標の登録出願は,上記信義則上の義務に反す るものといわざるを得ない。
(2) 次に,原告の本件商標の登録出願の経緯及び目的についてみる。 前記1(3)イからエのとおり,原告は,上記出願の前後において,被告に対 し,被告商標が本件被告商品を指定商品に含んでいない可能性や自らが本件\n商標を登録出願することについて何ら告げることはなく,本件商標の設定登 録完了から4か月以上経過した後の平成29年8月18日付けの「申し入れ\n書」(甲7)において,初めて,本件商標の商標権者であることを明らかに した上で,原告と被告との本件被告商品の取引終了を一方的に申し入れると\nともに,被告に対し,マナマリンの商標の譲渡やそれを条件とした三七人参 の購入などを提案したものである。 これに対し,上記「申し入れ書」の内容に照らすと,原告自身は,当該\n「申し入れ書」を送付する前に,被告以外の第三者から,本件被告商品と同\n種の競合品を購入する段取りを既に整えていたと認められる。 そして,原告は,その後の被告とのやりとりの中で,原告から被告に対す る営業譲渡の申入れや被告商標の譲渡の依頼に応じてもらえなかったこと,\n被告の本件被告商品の仕入れ価格が高額であるために原告独自の商品を生産 することにしたことなどをも理由として挙げながら,原告としては被告の生 産する本件被告商品が原告の希望仕入れ価格に不適格であると判断し,原告 にて新しいブランドで生産から販売を開始することなどを伝えている。 このような原告の言動に照らすと,原告は,「仙三七」との商標が,本件 被告商品と同種の商品に付されることによって生じる利益を独占するべく, 被告に本件商標と競合する商標を登録出願されないように注意を払った上 で,自らは,同種商品の調達ルートを確立する一方で,被告との取引関係を 終了する準備を計画的に整えながら,本件商標の登録出願及び上記「申し入\nれ書」の送付に及んだものといえる。
(3) 以上によれば,原告による本件商標の登録出願は,被告が「仙三七」との 商標を付して本件被告商品を販売することを妨げてはならない信義則上の義 務を負うにもかかわらず,被告商標が本件被告商品を指定商品として含まな い可能性があることを奇貨として本件商標の登録出願を行い,本件商標を取\n得し,被告が「仙三七」のブランドで健康食品を販売することを妨げて,そ の利益を独占する一方で,その他の商品の取引に関する交渉を有利に進める という不当な利益を得ることを目的としたものということができる。 このような本件商標の登録出願の経緯及び目的に鑑みると,原告による本 件商標の出願行為は,被告との間の信義則上の義務違反となるのみならず, 健全な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきである。 そうすると,このような出願行為に係る本件商標は,商標法4条1項7号 所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するも のといえる。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,「仙三七」との商標は原告の努力等によってその信用が築き上 げられたものであり,また取引者等は本件被告商品の出所は原告であると 認識するなどとして,かかる商標は原告のものであるなどと主張する。 しかしながら,原告は,本件覚書に基づいて「仙三七」の商標の使用を 許諾され,この許諾に基づいて,本件被告商品に「仙三七」との商標を付 して,長年にわたり販売してきたものである。その過程において,原告が 努力し,また販売者として表示されたことによって「仙三七」との商標の\n出所であると取引者や需要者に認識されたとしても,それは,あくまでも 被告の許諾を基盤として形成された信用なのであるから,原告が当然に 「仙三七」との商標の権利者として扱われるべきであるとする根拠となる ものではない。 前記のとおり,被告との関係で,原告による本件商標の出願行為が,信 義則上の義務違反となり,健全な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠 く行為であるとの評価は,原告の主張によっても左右されない。
イ また,原告は,被告商標は本件被告商品を指定商品として含んでいなか ったなどとして,被告は「仙三七」との商標について何らの権利ももって いなかったなどと主張する。 確かに,被告商標について,本件被告商品を指定商品として含んでいな かった可能性が高いことは,被告も認めるところである。\nしかしながら,本件被告商品が,被告商標の指定商品の範囲に含まれて いなかったとしても,本件覚書を締結し,長年にわたりその有効性を前提 として取引関係にあった原告と被告の間においては,問題が生じた場合に は,本件覚書の第7条に基づき,お互いに誠意をもって解決すべきであ る。そして,原告としては,被告が,「仙三七」との商標の商標権者とし て,かかる商標を付して本件被告商品を販売することを妨げてはならない 信義則上の義務を負っていたことは前記(1)に判示したとおりであることを も併せ考えると,原告において,抜け駆け的に本件被告商品を指定商品と するような商標で商標登録をすることが許されるわけではない。 むしろ,本件商標の登録出願の経緯及び目的に鑑みると,原告は,本件 被告商品を指定商品として含んでいなかった可能性や,自らが本件商標の\n登録出願をしようとしていることについては,何ら被告に告げておらず, 却って,前記1(3)アにみたとおり,平成28年9月頃(本件商標の登録出 願の直前頃と考えられる。)には,被告商標の譲渡を持ちかけて,その指 定商品に本件被告商品が含まれることを前提とするかのような言動を示し たものである。これらの原告の行為は,被告商標の保護範囲についての被 告の誤解を解消することなく,むしろ,被告の誤解を奇貨として,被告が 本件商標と同一の商標の登録出願をすることを著しく困難にするものであ ったと評価できる。それにもかかわらず,先願主義をそのまま適用して, 本件商標の有効性を肯定することは,当事者間の衡平を著しく欠くものと いえるから,前述の結論は左右されない。 なお,本件覚書7条は,覚書に関する疑義が生じた場合に誠意を持って 解決するとしていることからもうかがわれるとおり,本件覚書は,被告商 標に係る商標権が本件被告商品を指定商品として含むことを保証ないし当 然の前提とするものであるとまではいえないから,仮にこの点について疑 義が生じたとしても,そのことによって,当然に本件覚書が無効となるも のではない。
ウ また,原告は,被告に被告商標が空虚な権利であることを告げること は,自らを縛る道具を更に継続させるのみであることは明らかであるか ら,本件商標の登録出願を告知する義務はないなどと主張する。 しかしながら,被告商標の有効性に疑問があるというのであれば,それ を告知することによって本件覚書を適切に機能させることが本件覚書の趣\n旨なのであるから,原告の主張は,この趣旨に反し,信義にもとるもので あると言わなければならない。

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平成30(ワ)7538  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年1月14日  大阪地方裁判所(21部)

 ブロンズ像の複製の使用料相当額について、過去の実績である40%は認められませんでしたが、それでも、6作品で6000万円を超える損害額が認定されました。。

 著作権法114条3項は,「著作権者…は,故意又は過失によりその著作権 …を侵害した者に対し,その著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する 額を自己が受けた損害の額として,その賠償を請求することができる。」旨規定し, 使用料相当額の請求を認めるところ,これは,民法709条,著作権法114条1 項及び2項の主張立証が困難な場合であっても,著作権者に最低限の損害賠償を保 証する趣旨であると解されている。 著作権の許諾は,多くの場合,特許権の実施許諾契約の場合に見られるように, 実施権者が,自らの製品の一部に当該特許発明を用いて製造するといった態様では なく,許諾を受けた者が,当該著作物をそのままの形で使用する態様が採られ,他 の著作物による代替も予定されていない。また,本件のような著名な芸術家による\n高価な芸術作品の複製に関する許諾の場合には,大量の複製品の製造及び流通は通 常予定されておらず,許諾を受けた者が制作する複製品の品質の評価が,著作者で\nある芸術家の評価に直接影響することから,許諾に際し,慎重な選考が行われたり, 複製品の製造数量が限定されたり,複製品の価格設定を著作権者が行ったり,比較 的高い料率が設定されたりすることが考えられる。 そうすると,このような場合において,「その著作権…の行使につき受けるべき 金銭の額」,すなわち許諾料相当額は,相手方又は第三者との間における当該著作 権に係る許諾契約における許諾料や,その算定において用いられた事情,あるいは 業界慣行等一般的相場を基礎として,著作物の種類及び性質や,当該著作権の許諾 を受けた者において想定される著作物の利用方法等を考慮し,個別具体的に合理的 な許諾料の額を定めるべきである。
(2)ア 本件において,前記1(4)のとおり,平成元年から平成23年までの間に, 本件各ブロンズ像について,各作品の販売価格を基礎としてその約10ないし4 0%の額の許諾料にて複製の許諾がなされていたこと,具体的な許諾料は,複製品 の制作者との協議の上で最終的に訴外直樹が決定しており,減額はされなかったこ と,前記1(5)のとおり,作品の販売価格についても訴外直樹が原則として値引きを 行わせなかったこと,平成18年ころにおける各作品の販売価格は,上記許諾料が 定められた際に基礎とされた販売価格とほぼ同水準であったこと等が認められる。
イ 一方で,許諾料相当額を算定するにあたっては,許諾を得た者が実際に支払 った許諾料の水準や,著作権が侵害された平成16年ころから平成28年ころまで の間に,許諾を得て複製された訴外直樹の作品が販売された数量,価格を考慮する 必要があるが,平成18年に原告が訴外直樹の著作権を相続した後,どの程度許諾 料を得たかについての証拠は提出されていないし,前記1(5)の平成18年の回顧展 の後に,訴外直樹の作品が,どのような価格で,どのような数量販売されたかにつ いての証拠も提出されていない。 また,「大将の椅子」について,平成23年以降は許諾を受けた者が倒産したた め製造販売されず,他の者に対する許諾もなされていないこと,令和元年における オークションにおける最低入札価格が68万円とされているところ,オークション が中古市場であることや最低入札価格と実際の販売価格との間には相当程度の開き が生じ得ることを考慮しても,同作品につき以前の販売価格(450万円)又はこ れに近い価格で取引が行われているかについては,不明といわざるを得ないし,前 記1(4)アの合意は,訴外直樹と業者との間で,平成元年から平成9年にかけてなさ れたものであることを総合すると,前記1(4)で合意された金額が,著作権侵害期間 である平成16年ころから平成28年ころまでの許諾料相当額としてそのまま妥当 するとすることは困難である。
ウ 他方,前記1(3)のとおり,被告は,無断で製造した本件各ブロンズ像の複製 品を,単価15万円から60万円程度という安価で販売し,鋳造及び着色業者に対 して,1体当たり15万円程度の対価を支払っていることから,複製品の製造によ り得た利益は多額とはいえないと考えられるし,被告から廉価で品質の劣る複製品 を購入した者は,それが禁止されていれば,直ちに高価な正規品を購入したであろ うとの関係も認め難い。 しかし,本件のように,著作権者の側が,一定の水準以下では複製も,複製品の 販売も認めないとしている場合に,無断で複製を行った者がこれを廉価で販売する ことで,侵害者の利益に合わせて許諾料相当額の水準を大きく下落させることは, 前記(1)で述べた,著作権法114条3項の趣旨を没却することになり,相当でない というべきである。
(3) 以上より,本件各ブロンズ像の許諾料相当額については,前記1(4)で認定し た,訴外直樹が,本件各ブロンズ像の販売価格を基礎として,許諾を受ける者との 協議の上で決定した価格を出発点としつつも,前記(2)イで検討した事情を総合して, 以下のとおり,侵害時期に対応する本件各ブロンズ像の許諾料相当額は,前記1(4) の各許諾料の半額とするのが相当であると考えられる。
(1) 「クリスマス・イブ」(小) 30万円
(2) 「パリ祭」 75万円
(3) 「初舞台」 40万円
(4) 「大将の椅子」 90万円
(5) 「トルコの貴婦人」 75万円
(6) 「トスカーナの女」 125万円
(4)まとめ
したがって,上記許諾料に,それぞれ,前記第2の1(2)及び第3の2のとおりの販売数を乗じると,合計6290万円となるところ,これが訴外直樹又は原告の損害額と認められる。
(計算式)30万円×39体+75万円×20体+40万円×16体+90万円×17体+75万円×11体+125万円×5体=6290万円

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平成30(行ケ)10175  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月4日  知的財産高等裁判所

 漏れていましたので、追加します。引用例の認定誤りがあり、相違点の認定に誤りありと判断されました。ただ、相違点の評価については、容易相当として、進歩性無しとした審決は維持されました。

 被告らは,引用例1に記載された東レポートという発明の構成の内容を理解する\nために,東レポートの添付文書である引用例2を参照することは許容され,本件審 決が引用例1と引用例2の2つから甲9発明を認定したことに,誤りはないと主張 する。 しかし,「刊行物に記載された発明」(特許法29条1項3号)の認定に当たり,特 定の刊行物の記載事項とこれとは別個独立の刊行物の記載事項を組み合わせて認定 することは,新規性の判断に進歩性の判断を持ち込むことに等しく,新規性と進歩 性とを分けて判断する構造を採用している特許法の趣旨に反し,原則として許され\nないというべきである。 よって,東レポートを用いた耐圧性能に関する実験結果を記載した論文である引\n用例1と,これと作成者も作成年月日も異なる,東レポートの仕様や使用条件を記 載した添付文書である引用例2の記載から,甲9発明を認定することはできない。 そして,引用例1には,東レポートの具体的な構成についての記載はなく,東レポ\nートの具体的な構成が本件出願の優先日時点において技術常識であったとまでは認\nめられないから,甲9発明が,引用例1に実質的に開示されているということもで きない。

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平成31(ネ)10018  損害賠償請求本訴,使用料規程無効確認請求反訴控訴事件  著作権  民事訴訟 令和元年10月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 著作権侵害について、知財高裁3部は、1審よりも損害額を減額しました。事後的に定められるべき金銭の額としては,「・・・本件基本合意・・・をベースとし,そこに定められた額の約1.5倍が妥当」と基準を示しました。

 以上のとおり,被控訴人は,地上テレビジョン放送事業者から管理 委託を受けた著作権及び著作隣接権の有線放送権に基づき再放送の利用 許諾をするに当たり,ほぼ全てのケーブルテレビ事業者との間で,3者 契約又は2者契約の方式により年間の包括的利用許諾契約を締結し,3 者契約の場合は本件基本合意に基づき,2者契約の場合は本件使用料一 覧(2者契約)に基づき定められた使用料額をケーブルテレビ事業者か ら徴収していることが認められる。 一方,被控訴人と3者契約又は2者契約の方式により年間の包括的利 用許諾契約を締結したケーブルテレビ事業者のうち,本件基本合意に基 づく減額措置(3者契約の場合)又は本件使用料一覧(2者契約)に基 づく減額措置(2者契約の場合)を受けることが可能であるにもかかわ\nらず,減額措置を受けずに,本件使用料規程に定められた区域内再放送 の使用料(1世帯1ch当たり年額120円)及び区域外再放送の使用 料(1世帯1ch当たり年額600円)を支払っている事業者は存在し ない。 そして,控訴人は,適法に同意を得て,又は総務大臣による同意裁定 を得て,毎日放送等6社の地上テレビジョン放送を同時再放送している ものであり,ケーブルテレビ連盟の会員でもあることから,仮に控訴人 が希望すれば,被控訴人との間で,本件基本合意に基づく3者契約又は 本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者契約を締結することが可能で\nあって,その場合の再放送使用料は,上記減額措置の適用を受けて,区 域内再放送につき1世帯1ch当たり年額24円(3者契約)又は28 円(2者契約),区域外再放送につき1世帯1ch当たり年額120円 (3者契約)又は144円(2者契約)であり,平成26年度の再放送 使用料については,使用料の50%が軽減されるものと認められる(弁 論の全趣旨)。
以上のような,被控訴人とケーブルテレビ事業者との間で締結された 同時再放送に係る利用許諾契約の内容,控訴人による本件有線放送権の 利用の態様等の事実を考慮すると,上記利用許諾契約の締結に当たり適 用された実績が全くない,本件使用料規程の「年間の包括的利用許諾契 約によらない場合」(3条(2))又は「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ 場合」(3条(1))が,著作権法114条4項の「使用料規程のうちその 侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定」 に該当するものとは認めらない。
(イ) これに対し被控訴人は,(1)使用料規程による使用料の算出方法が複 数あるときは各方法により算出した額のうち最も高い額を請求すること ができるとする著作権法114条4項を設けた趣旨に鑑みれば,「最も 高い額」となる算出方法による許諾実績がなくとも,同項の適用は妨げ られない,(2)実際にも,被控訴人は,著作権等管理事業を開始した平成 26年度以降,年間の包括的利用許諾契約によって区域外再放送を許諾 するに当たり,累計12社(平成27年度10社,同28年度9社,同 29年度9社)の有線テレビジョン放送事業者につき,本件減額措置を 施さずに,有料視聴世帯数に地上テレビジョン放送1波当たり年額60 0円を乗じた額の使用料を徴収している旨主張する。
まず,上記(1)の点について,著作権法114条4項は,同条3項により損害の賠償を請求する場合において,当該著作権等管理事業者が定め る使用料規程により算出した金額をもって,同条3項に規定する金銭の 額とする旨を定めるものである。そして,同条3項は,不法行為による 著作権等侵害の際に著作権者等が請求し得る最低限度の損害額を法定し た規定であるところ,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じ た現実の損害を填補することを目的とするものであるから,現実の損害 が発生しなかった場合には,それを理由とする賠償請求をすることがで きないことは自明である。 これを本件についてみるに,前記(ア)のとおり,被控訴人は,ほぼ全て のケーブルテレビ事業者との間で,3者契約又は2者契約の方式により 年間の包括的利用許諾契約を締結し,3者契約の場合は本件基本合意に 基づき,2者契約の場合は本件使用料一覧(2者契約)に基づき定めら れた使用料額をケーブルテレビ事業者から徴収しており,これらの事業 者のうち,本件基本合意に基づく減額措置又は本件使用料一覧(2者契 約)に基づく減額措置を受けることが可能であるにもかかわらず,これ\nを受けずに,それよりも遥かに高額な,本件使用料規程3条(1)又は(2)に 定められた区域内再放送及び区域外再放送の使用料を支払っている事業 者は存在しない。被控訴人と控訴人との交渉の過程においても,本件基 本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者 契約によることが,当然の前提とされていたものである。
そして,このような被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再 放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額,控訴人による本件 有線放送権の利用の態様,控訴人と被控訴人の間の再放送同意に係る利 用許諾契約に関する交渉経緯(前記ア(エ))等によれば,本件における使 用料相当額の算定に当たって,実際の利用許諾契約において用いられた 例がなく,かつ,上記減額措置を受ける場合と比較して使用料が遥かに 高額となる,本件使用料規程3条(1)又は(2)による場合の算定方法を用い ることは,被控訴人に生じた現実の損害の算定方法としてはおよそ非現 実的というべきであり,相当でない。 次に,上記(2)の点について,被控訴人が,累計12社の有線テレビジ ョン放送事業者との間で,本件使用料規程に基づき,区域外再放送の使 用料を1世帯1ch当たり年額600円とする年間の包括的利用許諾契 約を締結し,同規程に基づき算定された金額を徴収していることについ ては,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。また,被控訴人の 主張によれば,上記12社はいずれも重複波等の区域外再放送を行った 者であるところ,前記認定の被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の 同時再放送に係る利用許諾契約の締結状況に照らすと,上記12社は, 本件基本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)による 2者契約を締結した上で,本件基本合意(1)(3)の定めに基づき,「有料視 聴世帯数×1世帯1chあたり年額600円×区域外再放送(重複波等) ch数」の使用料を支払ったものであると推認される。そして,上記1 2社において,本件基本合意に基づく減額措置(3者契約の場合)又は 本件使用料一覧(2者契約)に基づく減額措置(2者契約の場合)を受 けることが可能であるにもかかわらず,減額措置を受けずに,本件使用\n料規程に定められた区域外再放送の使用料を支払っていることを認める に足りる証拠はない。 したがって,被控訴人の上記各主張を採用することはできない。
ウ 被控訴人は,控訴人が本件有線放送権を侵害したことにより被控訴人が 受けた損害の額として,著作権法114条3項及び4項により算定される 損害額を主張するところ,前記イのとおり,本件において著作権法114 条4項を適用して,本件使用料規程3条(1)又は(2)に基づいて被控訴人の損 害の額を算定することは,相当でない。そこで,同条3項により算定され る被控訴人の損害の額について,以下検討する。 同条3項は,著作権及び著作隣接権侵害の際に著作権者,著作隣接権者 が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。また,同項所定の 「その著作権…又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当 する額」については,平成12年法律第56号による改正前は「その著作 権又は著作隣接権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額」と 定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得にな ってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。 そして,かかる法改正の経緯に照らせば,著作権及び著作隣接権侵害をし た者に対して事後的に定められるべき,これらの権利の行使につき受ける べき金銭の額は,通常の利用許諾契約の使用料に比べて自ずと高額になる であろうことを考慮すべきである。
これを本件についてみると,前記イ(ア)の被控訴人とケーブルテレビ事 業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額, 控訴人による本件有線放送権の利用の態様等の事実に加えて,控訴人と被 控訴人の間の再放送同意に係る利用許諾契約に関する交渉経緯など,本件 訴訟に現れた事情を考慮すると,著作権及び著作隣接権侵害をした者に対 して事後的に定められるべき,本件での利用に対し受けるべき金銭の額は, 被控訴人とケーブルテレビ事業者との間における再放送使用料を現実に 規律していると認められる本件基本合意及び本件使用料一覧(2者契約) をベースとし,そこに定められた額を約1.5倍した額である,区域内再 放送につき1世帯1ch当たり年額36円及び区域外再放送につき1世 帯1ch当たり年額180円とし,平成26年度についてはその半額を下 らないものと認めるのが相当である。

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1審はこちらです。

◆平成28(ワ)28925等

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平成31(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月28日  知的財産高等裁判所(1部)

 無効理由無しとした審決が維持されました。

 原告は,本件各発明は物の発明であるから,構成要件Hは制御手段の存在に\nよって特定されるべきであり,この解釈を措くとしても,構成要件Hは空気式マッ\nサージ具による挟み動作と施療子による叩き動作という異質の2種類の施療手段を あえて同期させるものであるから,その制御手段を具体的に開示することが要請さ れるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には制御手段の具体的な説明はなく, またかかる制御手段が技術常識であった事実は存在しないから,本件明細書の発明 の詳細な説明の記載は,実施可能要件に違反していると主張する。\n
 しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記(2)アのとおり,機械式マッサ ージ器8の左右の施療子9がマッサージ用モータ10の回転を制御することで叩き 動作を行うことや,空気式のマッサージ具41が内部に備えた袋体(エアセル42) にコンプレッサー61から空気を供給し膨張させることで押圧動作を行うことが記 載されている。そして,機械式のマッサージ器による叩き動作と,空気式マッサー ジ器による押圧動作を「同時」に行うためには,両者の制御をその字義どおり時を 同じくして(甲25の1・2)行えば足り,それぞれを単独で動作させる場合の制御 と格別異なる制御を要するものではないから,このような制御手段について発明の 詳細な説明に記載がないとしても,そのことによって当業者が本件各発明の実施に 過度の試行錯誤を要するとは認められない。 イ 原告は,被告が本件出願の審査過程で主張した,左右の施療子によって使用 者の背中に対し左右交互に前後の叩き動作が繰り返されるという作用効果に関して は,制御手段としてさらに具体的な説明が必要であるのに,本件明細書の発明の詳 細な説明には何らの記載も存在しないとも主張する。 しかし,実施可能要件の適合性は,請求項に係る発明について,明細書の記載と\n出願時の技術常識とに基づいて判断され,その判断が,出願人の審査段階の主張に より左右されるとは解されない。実施可能要件の適合性の判断を,出願人が出願経\n緯において述べた事項が禁反言の法理等により技術的範囲の解釈に影響することが あるということと同様に考えることはできない。

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平成31(行ケ)10031  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月28日  知的財産高等裁判所

 動機付け無しとして、知財高裁1部は、進歩性無しとした審決を取り消しました。

 本願発明は,管状に成形された鋼板の突き合せ部をサブマージアーク溶接で 内面外面の順に内外面それぞれ一層溶接したラインパイプ用溶接鋼管において,溶 接による熱影響部(HAZ)で優れた低温靭性を得るため,溶接部において,内面側 溶融線と外面側溶融線との会合部を内外面溶融線会合部とした際,内面側の前記鋼 板表層から前記内外面溶融線会合部までの板厚方向距離L1と,外面側の前記鋼板\n表層から前記内外面溶融線会合部までの板厚方向距離L2とが0.1≦L2/L1\n≦0.86を満足し,前記鋼管の周方向を引張方向とした際,前記鋼板の引張強度 が570〜825MPaであるように規定したものである。 一方,引用発明は,管状に成形された鋼板の突き合せ部をサブマージアーク溶接 で内面外面の順に内外面それぞれ一層シーム溶接した,ラインパイプに用いられる UO鋼管において,シーム溶接部に発生する低温割れを防止するため(【0014】),溶接部において,先行するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW1,後 続するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW2とする場合に,0.6≦ W2/W1≦0.8,あるいは1.2≦W2/W1≦2.5の関係を満足し,鋼板の 引張強度が850MPa以上1200MPa以下と規定したものである。 そうすると,本願発明と引用発明とは,いずれも,管状に成形された鋼板の突き 合せ部をサブマージアーク溶接で内面外面の順に内外面それぞれ一層溶接したライ ンパイプ用溶接鋼管に関するものであり,技術分野において共通する。 しかしながら,本願発明は,外面入熱を大幅に低減して外面溶接熱影響部の低温 靭性を向上させ,内面溶接熱影響部の低温靭性を劣化させない範囲に内面入熱を制 御することで,十分な溶け込みを得ながら内外面両方の溶接熱影響部で優れた低温\n靭性を得ることを目的として(【0015】),内面側の前記鋼板表層から前記内外面\n溶融線会合部までの板厚方向距離L1と,外面側の前記鋼板表層から前記内外面溶\n融線会合部までの板厚方向距離L2の比を検討し,内外面両方の溶接熱影響部の低 温靭性を向上させることができるよう,L2/L1の上限及び下限を設定したもの である。これに対し,引用発明は,シーム溶接部に発生する低温割れを防止するた め,先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の残留応力の変化に着 目して,先行するシーム溶接の溶接金属の厚さW1と後続するシーム溶接の溶接金 属の厚さW2の比を検討し(引用例1【0041】),残留応力が大きくならない範 囲であり,かつ,低温における吸収エネルギーの低値の発生頻度が大きくない範囲 において,W2/W1の上限及び下限を設定したものである(引用例1【0042】)。
そうすると,本願発明と引用発明とは,本願発明が,外面溶接熱影響部における 低温靭性の向上を課題として,L2/L1の上限及び下限を規定しているのに対し, 引用発明は,内面溶接金属内におけるシーム溶接部に発生する低温割れの防止を課 題として,W2/W1の上限及び下限を規定しているのであるから,両者はその解 決しようとする課題が異なる。また,その課題を解決するための手段も,本願発明 は,外面熱影響部において,外面入熱を低減して粒径の粗大化を抑制するものであ るのに対し,引用発明は,先行するシーム溶接(内面)の溶接金属に発生する溶接線 方向の引張応力を低減するものである。したがって,引用例1には,外面溶接熱影 響部における低温靭性の向上のため,W2/W1をL2/L1に置き換えることの 記載も示唆もない。 そして,溶接ビード幅中央の位置における溶接金属の厚さであるW2/W1と, 母材表面から内外面溶融線会合部までの距離の比であるL2/L1とは,余盛部分\nの厚さや,内外面溶融線会合部から外面溶接金属の先端までの距離を考慮するか否 かにおいて,技術的意義が異なるところ,引用発明においてW2/W1に替えてL 2/L1を採用するなら,余盛部分の厚さや内外面溶融線会合部から外面溶接金属 の先端までの距離を含む溶接金属の厚さが考慮されないことになる。 また,W2/W1が一定であっても,内面側溶接金属の溶け込み量が変化すると, L2/L1は変動するから,W2/W1とL2/L1とは相関がなく,W2/W1 に対してL2/L1は一義的に定まるものではない。 以上によれば,引用発明のW2/W1をL2/L1に置き換える動機付けがある とはいえないというべきである。
イ 引用発明のW2/W1は,鋼板の引張強度が850MPa以上1200MP a以下という条件下での溶接金属内での残留応力を根拠として最適化されたもので あり,引用例1には,これを850MPa未満のものに変更することの記載も示唆 もない。 そうすると,本願出願時において,鋼管の周方向に対応する引張強度が600〜 800MPaの鋼板について,その突合せ部を内外面から1パスずつサブマージド アーク溶接することで,低温靭性に優れたラインパイプ用溶接鋼管を製造すること が知られていたこと(引用例2【0002】,【0009】,【0059】,【0071】) を考慮しても,鋼板の引張強度が850MPa以上1200MPa以下という条件 下でW2/W1を最適化した引用発明において,鋼板の引張強度が570〜825 MPaのものに変更することについて,動機付けがあるとはいえない。
ウ よって,相違点1及び2は,引用発明及び引用例2の技術事項に基づいて, 当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

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平成29(ワ)6334  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年1月16日  大阪地方裁判所(21部)

 102条2項に基づく損害として約1000万円が認められました。経費として、「単に被告らの従業員が被告製品の製造に関与しているというだけでは,侵害品である被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を要したと認めることはできず・・」と判断されています。

 まず,原告の主位的主張について検討すると,被告らは被告製品を製造販 売等し,被告製品の包装箱には「発売元」として被告ナプラが,「製造販売元」と して被告ビー・エス・ピーが記載されていたこと,その株主及び代表取締役が同一\nであることを踏まえると,被告らは原告に対して共同不法行為に基づく損害賠償責 任を負うというべきである。 そして,原告と被告ナプラは理美容室向け毛髪化粧品の分野の競業企業であり, 原告は被告製品と競合する「エルジューダ サントリートメント セラム」という UVケアオイル(アウトバストリートメント)を販売しているから(弁論の全趣旨), 特許権者である原告に,被告らによる特許権侵害行為がなかったならば利益が得ら れたであろうという事情が存在すると認めることができる。したがって,本件には 特許法102条2項が適用される。
(2) 特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,侵 害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりその 製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり, その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである(知財高裁令和元年6 月7日判決・最高裁ウェブサイト)。 このような観点から,被告らの利益額を検討するが,被告らに共同不法行為が成 立することから,被告らを一個の製造,販売の主体と見て,被告らにいくらの利益 が生じたかという観点から検討する。
ア 被告製品の売上金額
被告らが一旦,被告製品1を1万0056個販売し,その売上金額が737 万5231円(税込)であったこと,被告製品2を4716個販売し,その売上金 額が557万6552円(税込)であったことは,当事者間に争いがない。 もっとも,被告らは,原告が損害賠償を請求している平成29年2月2日から平 成31年4月2日までの被告製品の出荷分についても返品があったとして,その売 上金額を差し引くべきと主張する。 そこで,この点について検討すると,上記期間の出荷分に返品があり,その返品 に係る売上金額が計上されない場合には,被告らにそれに相当する利益があったと いえないことは明らかである。したがって,特許法102条2項の利益の額の算定 に当たっては,上記期間の出荷分に返品があった場合には,売上金額の算定に当た って,返品に係る売上金額を控除すべきである。 そして,上記期間における被告製品の返品数は,乙39及び弁論の全趣旨によれ ば,被告製品1が124個(その売上金額は,合計9万1065円(税込)),被 告製品2が21個(その売上金額は,合計2万4948円(税込))と認められる。 原告は,返品されたのは平成29年2月1日以前の出荷分である旨主張するが, 乙39記載の返品時期に照らし,同月2日以降の出荷分である可能性は否定できず,\n前記認定に反する証拠があるわけでもないから,被告らに上記金額に相当する売上 げないし利益が生じたことを認めるには足りないというべきである。 したがって,被告製品の販売個数及び売上金額は,次のとおりと認められる。
販売個数 売上金額(税込)
被告製品1 9932個 728万4166円
被告製品2 4695個 555万1604円
合計 1万4627個 1283万5770円
イ 被告らの経費の額
(ア) 商品原価
被告らは,乙27記載の各経費を控除すべきと主張するのに対し,原告は これを否認して争い,予備的に,被告製品1について204円/個,被告製品2に\nついて330円/個の限度で控除するにとどめるべきと主張する。そこで,乙27 記載の各経費について,控除の可否を検討する。
a バルク原価(原料原価,調合光熱費及び調合手間)
乙40及び弁論の全趣旨によれば,被告らが被告製品を製造販売するに 当たり,バルク原価として,原料原価及び調合光熱費を要したと認められ,その性 質上,これらは侵害者である被告らにおいて侵害品である被告製品を製造販売する ことによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費に当たると認め られる。そして,上記書証等によれば,原料原価は(中略)円/kg,調合光熱費は (中略)円/kgを下らないと認められるところ,これによれば,被告製品1個当た りのこれらの費用は,被告製品1について(中略),被告製品2について(中略) を下らないと認められる。 これに対し,乙40では「調合手間」もバルク原価に含み,これは調合作業の人 件費に相当するものと説明されている。しかし,単に被告らの従業員が被告製品の 製造に関与しているというだけでは,侵害品である被告製品の製造販売に直接関連 して追加的に必要となった経費を要したと認めることはできず,これに当たること を認めるべき事情は主張立証されていない。したがって,「調合手間」については, 経費として控除すべきとはいえない。
b 容器,ポンプ,キャップ,一本箱,添付文書,内箱,外箱に係る費用
乙27及び弁論の全趣旨によれば,被告らが被告製品を製造販売するに 当たり,これらの費用を要したと認められ,その性質上,これらは侵害者である被 告らにおいて侵害品である被告製品を製造販売することによりその製造販売に直接 関連して追加的に必要となった経費に当たると認められる。そして,上記書証等に よれば,被告製品1個当たりのこれらの費用は,被告製品1について合計(中略) 円,被告製品2について合計(中略)円を下らないと認められる。
c 運賃,関税輸送費
乙27,39及び弁論の全趣旨によれば,被告らが被告製品を製造販売 するに当たり,これらの費用を要したと認められ,その性質上,これらは侵害者で ある被告らにおいて侵害品である被告製品を製造販売することによりその製造販売 に直接関連して追加的に必要となった経費に当たると認められる。そして,上記書 証等によれば,被告製品1個当たりのこれらの費用は,被告製品1について運賃(中 略)円,関税輸送費(中略)円,被告製品2について運賃(中略)円,関税輸送費 (中略)円を下らないと認められる。
d 手間
乙27,39では「手間」も商品原価に含み,これは女性7名による作 業や添付文書の差込みに関する経費である旨説明されている。しかし,前記aの「調 合手間」と同様の理由により,これを経費として控除すべきとはいえない。
e 原告の主張について
原告は乙27記載の各経費を要したことを否認し,仮定による試算結果 にすぎないなどと主張するが,被告製品の製造販売に当たって前記aないしcで控 除を認めた諸経費を要することは明らかであり,また前記認定に反する証拠がある わけでもないから,前記認定は左右されない(被告らの利益額の立証責任が原告に あることは前述したとおりである。)。
f 控除すべき経費の額
商品原価として控除すべき経費の額は,被告製品1について合計217. 02円/個,被告製品2について合計364.21円/個と認められ(弁論の全趣 旨によれば,これらの金額は税込みの金額と認められる。),これによると,商品 原価は合計386万5409円となる。 計算式:217.02×9932個+364.21円×4695個=386万5 409円(小数点以下切上げ)
(イ) UV防止効果の試験費用
被告らは,平成28年3月31日と同年5月20日付けで依頼したSPF・ UVAPF測定試験に係る費用(乙34の1ないし35の2)を経費として控除す べきと主張する。 しかし,同年3月31日付け依頼分については,被告の主張によっても,被告製 品を研究開発する過程で支出された費用にとどまるものといわざるを得ず,被告製 品そのものについて試験をしたものとは認められないから,この費用をもって,侵 害品である被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費に当たる ということはできない。 これに対し,同年5月20日付け依頼分について,原告はこれが被告製品に関す る試験であることを前提としつつ,平成29年2月2日以降に販売された製品その ものについて行われた試験ではないという理由で,経費として控除することを争っ ている。しかし,被告製品は,化粧料としての性質上,これを製造販売するために は,平成28年5月20日付け依頼分のような試験を行うことが必要不可欠であり, この試験は,平成29年2月2日以降に被告製品を販売するのにも必要であったと いうことができる。そうすると,上記試験の費用(86万4000円(税込))は, その全てが侵害品である被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった 経費に当たるということはできないが,原告が本件で損害賠償を請求している期間 の被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったと認められる部分につ いては,経費として控除するのが相当である。 控除する金額については,原告が本件で損害賠償を請求している期間における被 告製品の調合量(弁論の全趣旨によれば,310kg)の,それ以外の期間も含めた 被告製品の調合量(弁論の全趣旨によれば,6070kg)に対する割合によって按 分して算定すべきであり,原告が本件で損害賠償を請求している期間の終期の後に も被告製品が販売されていることをも考慮して,原告が主張し,被告らも予備的に\n主張する4万円の限度で,原告が本件で損害賠償を請求している期間の被告製品の 製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と認めるのが相当である。
(ウ) 被告らの経費の額
以上によれば,被告らの経費の額は,合計390万5409円となる。 計算式:386万5409円+4万円=390万5409円
ウ 被告らの利益額
前記ア及びイによれば,被告らの特許権侵害行為による利益額は,893万 0361円となり,この額が原告の損害額と推定される。 なお,原告は予備的に特許法102条3項に基づく損害を請求しているが,原告\nが主張する同項に基づく損害額は上記金額を上回らないから,同条2項に基づく損 害額をもって原告の損害額とすべきである。
エ 弁護士費用
原告は,原告訴訟代理人弁護士に委任して,本件の各請求をしているところ, 差止請求分も考慮し,被告らの特許権侵害行為と因果関係のある弁護士費用は,1 10万円と認めるのが相当である。
オ 以上より,原告の損害額は,1003万0361円となる。

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平成31(ネ)10018  損害賠償請求本訴,使用料規程無効確認請求反訴控訴事件  著作権  民事訴訟 令和元年10月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 著作権侵害について、知財高裁3部は、1審よりも損害額を減額しました。事後的に定められるべき金銭の額としては,「・・・本件基本合意・・・をベースとし,そこに定められた額の約1.5倍が妥当」と基準を示しました。

 以上のとおり,被控訴人は,地上テレビジョン放送事業者から管理 委託を受けた著作権及び著作隣接権の有線放送権に基づき再放送の利用 許諾をするに当たり,ほぼ全てのケーブルテレビ事業者との間で,3者 契約又は2者契約の方式により年間の包括的利用許諾契約を締結し,3 者契約の場合は本件基本合意に基づき,2者契約の場合は本件使用料一 覧(2者契約)に基づき定められた使用料額をケーブルテレビ事業者か ら徴収していることが認められる。 一方,被控訴人と3者契約又は2者契約の方式により年間の包括的利 用許諾契約を締結したケーブルテレビ事業者のうち,本件基本合意に基 づく減額措置(3者契約の場合)又は本件使用料一覧(2者契約)に基 づく減額措置(2者契約の場合)を受けることが可能であるにもかかわ\nらず,減額措置を受けずに,本件使用料規程に定められた区域内再放送 の使用料(1世帯1ch当たり年額120円)及び区域外再放送の使用 料(1世帯1ch当たり年額600円)を支払っている事業者は存在し ない。 そして,控訴人は,適法に同意を得て,又は総務大臣による同意裁定 を得て,毎日放送等6社の地上テレビジョン放送を同時再放送している ものであり,ケーブルテレビ連盟の会員でもあることから,仮に控訴人 が希望すれば,被控訴人との間で,本件基本合意に基づく3者契約又は 本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者契約を締結することが可能で\nあって,その場合の再放送使用料は,上記減額措置の適用を受けて,区 域内再放送につき1世帯1ch当たり年額24円(3者契約)又は28 円(2者契約),区域外再放送につき1世帯1ch当たり年額120円 (3者契約)又は144円(2者契約)であり,平成26年度の再放送 使用料については,使用料の50%が軽減されるものと認められる(弁 論の全趣旨)。
以上のような,被控訴人とケーブルテレビ事業者との間で締結された 同時再放送に係る利用許諾契約の内容,控訴人による本件有線放送権の 利用の態様等の事実を考慮すると,上記利用許諾契約の締結に当たり適 用された実績が全くない,本件使用料規程の「年間の包括的利用許諾契 約によらない場合」(3条(2))又は「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ 場合」(3条(1))が,著作権法114条4項の「使用料規程のうちその 侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定」 に該当するものとは認めらない。
(イ) これに対し被控訴人は,(1)使用料規程による使用料の算出方法が複 数あるときは各方法により算出した額のうち最も高い額を請求すること ができるとする著作権法114条4項を設けた趣旨に鑑みれば,「最も 高い額」となる算出方法による許諾実績がなくとも,同項の適用は妨げ られない,(2)実際にも,被控訴人は,著作権等管理事業を開始した平成 26年度以降,年間の包括的利用許諾契約によって区域外再放送を許諾 するに当たり,累計12社(平成27年度10社,同28年度9社,同 29年度9社)の有線テレビジョン放送事業者につき,本件減額措置を 施さずに,有料視聴世帯数に地上テレビジョン放送1波当たり年額60 0円を乗じた額の使用料を徴収している旨主張する。
まず,上記(1)の点について,著作権法114条4項は,同条3項により損害の賠償を請求する場合において,当該著作権等管理事業者が定め る使用料規程により算出した金額をもって,同条3項に規定する金銭の 額とする旨を定めるものである。そして,同条3項は,不法行為による 著作権等侵害の際に著作権者等が請求し得る最低限度の損害額を法定し た規定であるところ,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じ た現実の損害を填補することを目的とするものであるから,現実の損害 が発生しなかった場合には,それを理由とする賠償請求をすることがで きないことは自明である。 これを本件についてみるに,前記(ア)のとおり,被控訴人は,ほぼ全て のケーブルテレビ事業者との間で,3者契約又は2者契約の方式により 年間の包括的利用許諾契約を締結し,3者契約の場合は本件基本合意に 基づき,2者契約の場合は本件使用料一覧(2者契約)に基づき定めら れた使用料額をケーブルテレビ事業者から徴収しており,これらの事業 者のうち,本件基本合意に基づく減額措置又は本件使用料一覧(2者契 約)に基づく減額措置を受けることが可能であるにもかかわらず,これ\nを受けずに,それよりも遥かに高額な,本件使用料規程3条(1)又は(2)に 定められた区域内再放送及び区域外再放送の使用料を支払っている事業 者は存在しない。被控訴人と控訴人との交渉の過程においても,本件基 本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者 契約によることが,当然の前提とされていたものである。
そして,このような被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再 放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額,控訴人による本件 有線放送権の利用の態様,控訴人と被控訴人の間の再放送同意に係る利 用許諾契約に関する交渉経緯(前記ア(エ))等によれば,本件における使 用料相当額の算定に当たって,実際の利用許諾契約において用いられた 例がなく,かつ,上記減額措置を受ける場合と比較して使用料が遥かに 高額となる,本件使用料規程3条(1)又は(2)による場合の算定方法を用い ることは,被控訴人に生じた現実の損害の算定方法としてはおよそ非現 実的というべきであり,相当でない。 次に,上記(2)の点について,被控訴人が,累計12社の有線テレビジ ョン放送事業者との間で,本件使用料規程に基づき,区域外再放送の使 用料を1世帯1ch当たり年額600円とする年間の包括的利用許諾契 約を締結し,同規程に基づき算定された金額を徴収していることについ ては,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。また,被控訴人の 主張によれば,上記12社はいずれも重複波等の区域外再放送を行った 者であるところ,前記認定の被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の 同時再放送に係る利用許諾契約の締結状況に照らすと,上記12社は, 本件基本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)による 2者契約を締結した上で,本件基本合意(1)(3)の定めに基づき,「有料視 聴世帯数×1世帯1chあたり年額600円×区域外再放送(重複波等) ch数」の使用料を支払ったものであると推認される。そして,上記1 2社において,本件基本合意に基づく減額措置(3者契約の場合)又は 本件使用料一覧(2者契約)に基づく減額措置(2者契約の場合)を受 けることが可能であるにもかかわらず,減額措置を受けずに,本件使用\n料規程に定められた区域外再放送の使用料を支払っていることを認める に足りる証拠はない。 したがって,被控訴人の上記各主張を採用することはできない。
ウ 被控訴人は,控訴人が本件有線放送権を侵害したことにより被控訴人が 受けた損害の額として,著作権法114条3項及び4項により算定される 損害額を主張するところ,前記イのとおり,本件において著作権法114 条4項を適用して,本件使用料規程3条(1)又は(2)に基づいて被控訴人の損 害の額を算定することは,相当でない。そこで,同条3項により算定され る被控訴人の損害の額について,以下検討する。 同条3項は,著作権及び著作隣接権侵害の際に著作権者,著作隣接権者 が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。また,同項所定の 「その著作権…又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当 する額」については,平成12年法律第56号による改正前は「その著作 権又は著作隣接権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額」と 定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得にな ってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。 そして,かかる法改正の経緯に照らせば,著作権及び著作隣接権侵害をし た者に対して事後的に定められるべき,これらの権利の行使につき受ける べき金銭の額は,通常の利用許諾契約の使用料に比べて自ずと高額になる であろうことを考慮すべきである。
これを本件についてみると,前記イ(ア)の被控訴人とケーブルテレビ事 業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額, 控訴人による本件有線放送権の利用の態様等の事実に加えて,控訴人と被 控訴人の間の再放送同意に係る利用許諾契約に関する交渉経緯など,本件 訴訟に現れた事情を考慮すると,著作権及び著作隣接権侵害をした者に対 して事後的に定められるべき,本件での利用に対し受けるべき金銭の額は, 被控訴人とケーブルテレビ事業者との間における再放送使用料を現実に 規律していると認められる本件基本合意及び本件使用料一覧(2者契約) をベースとし,そこに定められた額を約1.5倍した額である,区域内再 放送につき1世帯1ch当たり年額36円及び区域外再放送につき1世 帯1ch当たり年額180円とし,平成26年度についてはその半額を下 らないものと認めるのが相当である。

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◆平成28(ワ)28925等

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令和1(ネ)10036  特許権侵害差止等請求控訴事件  民事訴訟 令和2年1月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 フランジに特徴がある梁補強金具の発明について、特許法102条2項における推定覆滅を主張しましたが、裁判所は「覆滅すべき事情があるとは認められない」と判断しました。

ア 推定覆滅の事情
 特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情と 同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が 受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば, (1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場 における競合品の存在,(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品の 性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について,特許法102 条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事 情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部分の みに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することができる が,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅 が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置 付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相 当である。
イ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,本件各発明等は,その全体が被告各製品の全体を対象とするもの の,特徴部分は,梁補強金具の外周部の軸方向の「片面側の端部に形成」した「フ ランジ部」であり,被告各製品においては,ダイヤリングの外周部の軸方向の「片 面側の端部に形成」した「つば状の出っ張り部の外周部」がこれに該当するところ, 侵害製品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合,すなわち特許発明の寄与 度を考慮すべきであり,上記推定は,少なくとも70%の割合で覆滅されるべきで あると主張する。 前記認定の本件明細書等の記載(引用に係る原判決「事実及び理由」第4の1(1)) によれば,本件各発明等は,各種建築構造物を構\成する梁に形成された貫通孔に固 定され当該梁を補強する梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造に関し\n(【0001】),梁に開設された貫通孔に対する配管の取り付けの自由度を高める とともに大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補 強することができ,柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔設置を可能とする\n梁補強金具と,前記梁補強金具を用いた梁貫通孔補強構造とを提供するために(【0\n010】),梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁 補強金具であって,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍〜10.0倍と し,前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成 し(訂正前の請求項1),さらに,フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部 に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周か ら前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である という構成を採用したものであって(訂正後の請求項1),梁に外力が加わったとき\n貫通孔の周縁部に生じる応力は,ウェブ部から貫通孔の中心軸に沿って離れるに従 って徐々に小さくなることから,梁補強金具の軸方向長さを必要以上に長くしない ように規制することにより,大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつ つ必要な強度まで補強することができ(【0012】),また,フランジ部により軸方 向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができるという効果を奏するものである (【0048】)。 このように,本件各発明等の特徴部分が,フランジ部のみにあるということはで きない。
(イ) また,控訴人は,本件各発明等の特徴部分であるフランジ部に特有の効果 は,「軸方向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができる」というものにとどまり, 同効果は,被告各製品の宣伝広告において,需要者に何ら積極的に訴求されていな いなどと主張する。 しかし,控訴人のウェブサイト(甲3)や被告各製品のカタログ(甲4)におい て,被告各製品のフランジ状の部分も図示され,被告各製品の特徴として,鉄骨梁 ウェブ開口に被告各製品をはめ込み,片面(つば状の出っ張り部の外周部)のみを 全周溶接することにより,取付けの際に梁の回転が不要となり施工性が大幅にアッ プするという点が挙げられている。このような施工が可能となるのも,梁補強金具\nにフランジ部に該当するつば状の出っ張り部を設けたからであると考えられ,被告 各製品の特徴は本件各発明等の構成に由来するものであると考えられる。\nこの点,控訴人は,控訴人のウェブサイトや被告各製品のカタログにおいては, 「つば状の出っ張り部の外周部」のみを溶接固定するため,「[梁の反転が不要]とな り施工性が大幅にアップ」する作用効果が需要者に訴求されているところ,これら は,控訴人により工夫された独自の工法により奏される顕著な作用効果であって, 本件各発明等の作用効果ではない旨主張する。 しかし,本件各発明等は,梁に形成された貫通孔にリング状の梁補強金具をはめ 込んで,フランジ部を含む外周部が溶接固定される梁補強金具であるところ,被告 各製品の,鉄骨梁ウェブ開口に被告各製品をはめ込み,片面(つば状の出っ張り部 の外周部)のみを全周溶接するという取付方法は,本件各発明等に係る梁補強金具 の取付方法として通常想定される態様の1つにすぎず,控訴人により工夫された独 自の工法とはいえないから,控訴人の主張は採用できない。
ウ 推定覆滅の事情は,侵害者が主張立証責任を負うものであるところ,以上に よれば,本件においては,損害額の推定を覆滅すべき事情があるとは認められない。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)26468

本件特許権の審取事件です。無効理由無しとした審決が維持されました。

◆平成30(行ケ)10163

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平成31(ワ)7788  職務発明対価請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年11月6日  東京地方裁判所

 職務発明の対価請求訴訟です。時効消滅したと判断されました。

1 争点3(消滅時効の成否)について
(1) 消滅時効は「権利を行使することができる時」から起算される(民法16 6条1項)ところ,特許法35条3項は,「従業者等は,契約,勤務規則そ の他の定めにより,職務発明について使用者等に特許を受ける権利…を承継 させ…たときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する。」と規定してい るから,同条項に基づく相当の対価の支払請求権は,原則として,特許を受 ける権利を承継させたときに発生し,その時点から,権利を行使することが できることになり,その時点が本件対価請求権の消滅時効の起算点となるも のというべきである。もっとも,勤務規則その他の定めに,使用者等が従業 者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その 支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解さ れる(最高裁平成13年(受)第1256号同15年4月22日第三小法廷 判決・民集57巻4号477頁参照)。
(2) これを本件についてみるに,前記のとおり,被告規則には特許出願時及び 特許登録時に譲渡補償金を支払う旨の明示的な規定はあるものの(同9条), いわゆる実績補償金については,「会社が職務発明に基づく発明の実施また は実施権の許諾もしくは処分により相当の利益を得たときは,会社は当該発 明者に褒賞金を支給することがある。」(同10条)と規定するのみで,一 義的に明確な支払時期の定めがあるということはできない。被告規則10条が,前記のとおり,「職務発明に基づく発明の実施または実施権の許諾」等を前提として褒賞金の支給について定めていることに照らすと,発明者である従業者等は,登録された特許に係る発明が実施又は実施 権の許諾等される以前に褒賞金の支払を求めることはできないものの,当該 発明が実施又は実施許諾等された場合には,褒賞金の請求権の行使が可能に\nなるということができる。 そうすると,被告規則に定められた褒賞金の支払時期については,本件発 明の実施又は実施許諾等により利益を取得することが可能になった時点,す\nなわち,特許権の設定登録時又はその実施若しくは実施許諾時のうちいずれ かの遅い時点であると解するのが相当である。
(3) これに対し,原告は,被告規則10条は,本件発明の実施がされる限り, 各事業年度の決算の結果を踏まえ,毎年4月1日に褒賞金を支払う旨を定め たものであることを前提とし,少なくとも平成20年度及び平成21年度の 実施に係る褒賞金については,消滅時効が完成していないと主張する。 しかし,同条は,被告が本件発明の実施等により相当の利益を得たときは, 発明者に褒賞金を支給することがあると規定するのみであり,支払時期につ いては一義的に明らかではないというべきであり,同条に基づき,褒賞金の 支払時期が毎年4月1日に到来すると解することはできず,また,被告にお いてそのような慣行や支払実態があったと認めるに足りる証拠もない。
(4) 第2の2(2)アのとおり,本件特許の登録時は平成7年12月8日であり, また,同(4)アのとおり,被告が平成元年11月頃から本件特許の実施品であ る被告旧製品を第三者に継続的に出荷していたことは当事者間に争いがない から,被告規則10条に基づく褒賞金,すなわち本件対価請求権の支払時期 は,平成7年12月8日となる。そうすると,その翌日である平成7年12月9日が消滅時効の起算日となり,同日から10年後の平成17年12月8日の経過をもって消滅時効が完成したので,本件対価請求権は時効消滅したものと認められる。

◆判決本文

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平成28(ワ)10759  特許権に基づく製造販売禁止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月30日  東京地方裁判所(40部)

 石けんの特許権侵害について、1社あたり2億円を越える損害賠償が認められました。102条1項の販売不可事情は否定されました。

(3) 譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額
前記(1)の譲渡数量に前記(2)の単位数量当たりの利益を乗じた額は,以下 のとおりとなる。
ア 被告日本生化学について
原告長寿乃里
21万3457個×1225円=2億6148万4825円
原告イング
23万9658個×993円=2億3798万0394円
イ 被告ブレーンコスモスについて
原告長寿乃里
17万0132個×1225円=2億0841万1700円
原告イング
19万1015個×993円=1億8967万7895円
ウ 被告ビーシーリンクについて
原告長寿乃里
135個×1225円=16万5375円
原告イング
152個×993円=15万0936円
(4) 特許法102条1項ただし書の「販売することができないとする事情」の 有無
ア 競合品の存在
証拠(甲8,乙24)によれば,シラスが配合された洗顔料が原告製品 及び被告製品のほかに8銘柄が存在したことが認められるが,販売数が多 いものでも,株式会社メディカルドーズの「お茶!入ったよ〜わっぜ!! 火山灰石けん」が平成22年9月から平成27年12月までに2万754 8個を販売したにとどまり,他の銘柄は,販売数が約1000個から38 00個程度にとどまるか,販売数が明らかではないから,これらの洗顔料 の存在が,「販売することができないとする事情」に当たるということは できない。
イ 原告製品の販売経過
被告日本生化学は,被告製品を販売していない月でも原告製品の販売が 落ちている月があることから,原告製品の販売は被告製品の販売に影響を 受けていなかったと主張するが,原告製品についてそのような販売経過と なった原因としては様々なものが考えられるのであり,上記の販売経過が 直ちに「販売することができないとする事情」に当たるとはいえない。
ウ 薬機法上の区分及び本件発明1の作用効果
被告日本生化学は,原告製品及び被告製品について,薬機法上の区分が 異なること及び宣伝広告の内容から,本件発明1の作用効果は原告製品及 び被告製品の販売に寄与していないと主張する。 しかし,消費者が薬機法上の区分を意識して商品を選択するとは考え難 く,前記判示のとおり,原告製品と被告製品はいずれもシラスが配合され た石けんという同種の商品であり,かつ,被告製品は本件発明1の作用効 果を奏するのであるから,両者は市場で競合する製品であるということが できる。 また,被告ブレーンコスモスは,被告製品の説明において,原告製品は 発売以来700万個以上が売れた大ヒット商品であると紹介するととも に,被告製品には,人工皮膚成分「リピジュア」が配合され,原告製品と 同じ価格だが,内容量が多いという2点が異なることを挙げて,被告製品 の宣伝をしていたことが認められ(甲14),このような宣伝内容によっ て,原告製品ではなく被告製品を購入した消費者も相当数いるものと考え られる。 そうすると,被告日本生化学が主張する上記事情は,「販売することが できないとする事情」に当たるとはいえない。
エ 販売ルートの違いについて
被告ブレーンコスモスらは,原告らは消費者に直接販売する小売である のに対し,被告ブレーンコスモスは販売数のうち95%は企業に対する卸 売りであり,販売ルートが異なるから,競合しないと主張する。 しかし,原告製品及び被告製品はいずれも最終的には一般消費者によっ て購入され,使用される石けんであり,被告製品が一般消費者に販売され る段階では原告製品と競合すると認められるところ,被告製品が存在しな ければ,被告ブレーンコスモスが他の企業に被告製品を卸売りすることも なく,ひいては被告製品が一般消費者に販売されることもないのであるか ら,被告ブレーンコスモスが卸売りを主たる取引形態とするからといって, 原告製品と被告製品が市場において競合することは左右されず,「販売す ることができないとする事情」に当たるとはいえない。
オ 東日本大震災の義援金に充てる旨のアテンションシールについて
被告ブレーンコスモスらは,売上げの一部を東日本大震災の義援金に充 てる旨記載されたアテンションシールを被告製品に貼っていた期間(平成\n23年4月1日から同年9月30日まで)の販売数がそうでない期間の販 売数を上回っており,同シールが被告製品の売上げに寄与した旨主張する。 しかし,平成23年4月1日から同年9月30日まで被告製品に上記シ ールが貼られていたことを認めるに足りる証拠はない上,仮に同シールが\n貼付されていたとしても,平成23年1月から同年9月までの被告製品\n(100gのもの)の販売数は毎月概ね1万個程度で推移しており(丙1, 21),販売数の増加が同シールによるものとは認め難く,被告ブレーン コスモスらの主張はその前提を欠き,採用できない。
カ 海外市場における競合
被告ブレーンコスモスらは,被告ビーシーリンクは専ら海外に被告製品 を販売しているところ,原告製品と被告製品は海外市場において競合しな いと主張する。 しかし,証拠(甲76,77,84〜87,108〜112,丙25〜 28)によれば,被告ビーシーリンクは,平成25年2月から11月にか けて,米国,中国,シンガポール,ラトビアに被告製品を販売していたこ と,原告長寿乃里は,自ら又は株式会社フェローシップ等を介して,以下 のとおり海外に原告商品を出荷したことが認められる。
・・・
以上の事実関係に照らせば,原告製品と被告製品は,少なくとも米国及 び中国の海外市場において競合していたことが認められるから,被告ビー シーリンクが専ら海外において被告製品を販売していることは,「販売す ることができないとする事情」に当たるとはいえない。
キ 以上のとおり,被告らが主張する事情は,いずれも「販売することがで きないとする事情」に当たらないから,特許法102条1項に基づく損害 額の推定は覆滅されない。

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平成28(ワ)39687等  不正競争行為差止請求権不存在等確認等請求事件,不正競争行為差止請求事件  不正競争  民事訴訟 令和元年11月13日  東京地方裁判所

 国際裁判管轄が認められ、「サンプル及び諸経費」として45万ドルの支払い命令がなされました。また、ニューヨーク州法を準拠法としで、遅延損害金の割合は年9パーセントと認められました。

 修正サービス契約6条(i)は,「トラスト及びサンエーは,それぞれ,本契約 から生じる又は本契約に関連する全ての法的手続のため,ニューヨーク州南部 地区連邦地方裁判所又はニューヨーク市に置かれるニューヨーク州裁判所の 専属的裁判管轄に服する。」と定めている。被告会社は,同条項の「トラスト」 との記載は単なる誤記にすぎず,同条項は被告会社とサンエー間の専属的裁判 管轄の合意を定めたものであるから,本訴請求について我が国の裁判所は管轄 権を有しないと主張する。 しかし,国際裁判管轄の合意は,その合意に係る管轄地に所在しない当事者 に大きな不利益を与えることになることから,書面によって合意されなければ ならないとされており(民事訴訟法3条の7),同合意の存在は当該書面の記 載に基づいて慎重に行うことが相当であるところ,修正サービス契約6条(i) は,専属的管轄合意の主体を,被告会社とは別の法人である「トラスト」と明 示しており,被告会社のスペルの誤りなどではないから,その記載から合意の 主体が被告会社であると認めることはできない。 修正サービス契約は,英文で起草された国際的な取引に関する企業間の契約 書であり,各条項については,契約当事者がその文言について慎重に精査・検 討した上で合意されたと考えるのが自然である。しかも,専属的裁判管轄の合 意において,合意の主体は最も基本的かつ重要な要素の一つであることを考慮 すると,修正サービス契約6条(i)に規定する専属的裁判管轄の合意主体はそ の文言に従って「トラスト」であると認めることが相当である。 また,原告を当事者とする他の契約についてみると,トラストと原告間の終 了合意書(甲7)7条(f),トラストと原告間の期限付き商標権譲渡契約6条, 原告と被告会社間のサービス契約9条(i)(甲30)及び原告,被告会社,トラ ストの三者間の商標権譲渡契約12条(甲51)においては,修正サービス契 約と同様,原告とトラストを合意主体とする専属的裁判管轄に関する規定が置 かれており,原告と被告会社間の管轄合意について規定した契約は存在しない。 この点について,被告会社は,修正サービス契約6条(i)の規定は,それ以前 に締結された「商標権譲渡契約(中国,香港及び台湾)」(乙6)やサービス 契約の規定をそのまま流用し,契約当事者もそれを看過したものであると主張 するが,仮に,被告会社の主張を前提としても,流用した規定が置かれたこと をもって,原告と被告会社との間において管轄合意がされたと認めることはで きない。上記のとおり,従前の契約には原告と被告会社間の管轄合意の規定は 存在せず,取り分け,原告,被告会社,トラストの三者間の商標権譲渡契約に おいては,原告とトラストとの間の管轄合意は置かれているものの,原告と被 告会社間の管轄合意の規定は設けられていないのであって,他に原告と被告会 社との間において専属的裁判管轄に関する合意形成のための交渉や話合いが 行われたことをうかがわせる証拠は存在しない。 そうすると,修正サービス契約6条(i)の規定の「トラスト」との表記が誤記\nであるとして,これを「被告会社」と読み替えることにより,両者間において 専属的裁判管轄の合意があったと認めることはできないというべきである。 したがって,原告と被告会社との間に,修正サービス契約から生じる紛争に ついて,その専属的裁判管轄をニューヨーク州の連邦又は州裁判所とする旨の 合意があったと認めることはできない。 (2) 本訴請求は,原告が,被告会社に対して,修正サービス契約3条(d)に基づ き,「サンプル及び諸経費」として支払済みの45万ドルの返金を求めるもの であるところ,かかる返金が原告の指定する口座にされるべきものであること は,被告会社の代表者であるA自身が原告に対して返金先を指示するように求\nめていること(甲31の4)からも明らかである。そして,日本国内に本店の 有する原告の指定する口座は,原告の国内口座であると考えられるので,修正 サービス契約3条(d)に基づく返還債務の履行地は日本国内にあると認められ る。 したがって,民事訴訟法3条の3第1号に基づき,我が国の裁判所は,本訴 請求に係る管轄権を有するというべきである。
2 争点2(被告会社の返金義務の存否及び返金額等)について
(1) まず,原告が「サンプル及び諸経費」として被告会社に対して支払う金員の 趣旨について検討する。
ア 前記前提事実(3)エ(イ)によれば,平成19年4月13日付けで締結された 修正サービス契約においては,同契約に基づき提供される業務の対価として, 原告が被告会社に対して,各契約年度の初日に合計80万〜100万ドルの 業務手数料の支払義務を負うが,このうち「サンプル及び諸経費」として定 められた金額は40万〜50万ドルであること(2条),被告会社は,業務 手数料に基づき,原告に対し,従来提供されてきた量と同等のサンプルを提 供する義務を負い,これを怠った場合,原告に対し,「サンプル及び諸経費」 に割り当てられたサービス料を比例計算で返金する義務を負う旨が定めら れていたこと(3条(d))が認められる。 このように,修正サービス契約は,被告会社が原告に従来提供されてきた 量と同等のサンプルを提供する義務を負うとした上で,「サンプル及び諸経 費」の対価を定め,更にサンプルを提供する義務を怠った場合の返金方法に ついても規定しているのであるから,同契約にいう「サンプル及び諸経費」 は,提供されるサンプルの対価であると認めるのが相当である。 また,「諸経費」については,修正サービス契約にその内容やサンプル費 用との関係についての記載はないが,「サンプル及び諸経費」(同契約2条), 「『サンプル及び諸経費』に割り当てられた業務手数料」(同3条(d))と一 体的に規定されていることによれば,サンプル代金の提供に必要な諸経費を 意味するものと解するのが自然である。そうすると,「サンプル及び諸経費」 は,被告会社が原告に提供するサンプルの対価及びサンプル提供のために必 要な経費を意味するものというべきである。
イ(ア) これに対し,被告会社は,修正サービス契約2条の「サンプル及び諸経 費」は,被告会社からサンプルの提供を受ける権利自体の対価の支払につ いて定めたものであり,このうち特に「諸経費」は,被告ジルのコレクシ ョン等の活動に基づき多大な恩恵を受ける原告が,その活動のための費用 を一部負担する趣旨のものであると主張する。 しかし,修正サービス契約には,「サンプル及び諸経費」がサンプルを 受ける権利自体の対価であると理解し得る規定は存在せず,被告会社の上 記主張が修正サービス契約の文理と整合しないことは明らかである。また, 前記前提事実(3)イによれば,サービス契約においても,原告が,被告会社 から提供を受けるサンプルの対価として,契約年度ごとに10万ドル〜1 1万ドルを年度の初日に先払いすることができること,被告会社が従来提 供してきた量と同等の量のサンプルを提供できない場合には,上記金額が 相応に減額される旨が定められているのであり,サービス契約の後に締結 された修正サービス契約においても,契約年度毎に支払われる対価は同様 の性質を有するものと認めることが相当である。
この点について,被告会社は,サービス契約締結時は期限付き商標権譲 渡契約が締結されていたのに対し,修正サービス契約締結時には商標権譲 渡契約が締結されて,被告側に商標権が戻らなくなったことから,原告が サンプルの提供を受ける権利自体の対価の支払をすることとなったもの であると主張するが,商標権譲渡契約により譲渡された商標権等について は対価が別途定められているのであるから,商標権譲渡契約の締結を契機 として,修正サービス契約において,サンプルの提供を受ける権利自体に 対価を要するようになったとは考え難い。 (イ) また,被告会社は,修正サービス契約における原告の支払金額がサービ ス契約と比較して大幅に増加したことを指摘するが,この点について,原 告は,原告としては高額のサンプル費用を一括で先払いすることで被告会 社から商品の購入圧力を受けずにサンプルの提供を確保することにメリ ットがあることから,増額に応じたものであると説明する。 この原告の説明は,(1)サービス契約6条においては,原告が一定数量の 商品を購入するように努める旨の規定が置かれているのに対し,修正サー ビス契約3条(e)においては,原告が被告会社等から商品の購入義務がな いとする規定のみが置かれていること,(2)JSインターナショナルのD (以下「D」という。)が平成24年11月9日にサンエーUSAの担当 者E(以下「E」という。)に対して「購入されていないスタイルのサン プルはお渡ししておりません」という電子メールを送信するなど,被告会 社は,修正サービス契約の下においても,なお,原告に対して,サンプル の提供に関連付けて商品の購入を求めていたことがうかがわれることな どに照らしても,合理的なものということができる。 そうすると,修正サービス契約において原告の支払金額が増加したこと をもって,修正サービス契約において,サンプルの提供を受ける権利自体 の対価の支払を要するようになったと認めることはできないというべき である。
(ウ) 被告会社は,Bの証言やサンプルの単価と提供枚数との関係からしても, 上記の45万ドルがサンプルの対価であるということはできないと主張 するが,被告会社が提供していたサンプルの量についてBが45万ドル分 であるとは証言しなかったとしても,それをもって,上記45万ドルがサ ンプルの対価ではないということはできず,また,上記のとおり,原告は 商品の購入圧力を受けずにサンプルの提供を確保することをメリットと 考えて支払金額の増加に応じたと認められることからすると,その金額が サンプルの単価に提供枚数を乗じた金額より高いとしても,そのことは同 金額がサンプルの対価であることを否定する根拠とはならないというべ きである。
(エ) 被告会社は,甲75,乙479,480などに基づき,原告が修正サー ビス契約の期間中,被告会社に「サンプル及び諸経費」としての45万ド ルとは別にサンプル代金を支払っていたと主張するが,被告会社が根拠と するインボイス等(乙479,480)は,サービス契約の締結日(平成 17年9月2日)より前の時期のものであり,甲75のインボイスに係る サンプルも修正サービス契約の締結前に注文されたものであるから,これ をもって,原告が修正サービス契約に基づき上記45万ドルとは別にサン プル代金を支払っていたと認めることはできない。

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平成30(ワ)2439  損害賠償請求事件  意匠権  民事訴訟 令和元年11月14日  大阪地方裁判所

 食品包装用容器の底部に関する部分意匠の侵害事件です。大阪地裁は、約6000万円の損害賠償請求を認めました。

 原告と浪漫亭との間において定められた原告製品1の単価は,平成27年4月以 前は(中略)円であったと認められるところ(甲19,20),同年5月からは(中 略)円,同年7月の途中からは(中略)円となり,被告製品1の納入が開始された 平成28年1月以降も同額を維持したものの,同年2月から販売終了までの間は(中 略)円に下落した(別紙「原告製品販売数量・単価一覧表」参照。)。\nまた,原告製品2の単価は,平成27年5月以前は(中略)円であったところ(甲 19,20),同月6月以降販売終了までの間は(中略)円に下落した。 前記認定事実によれば,原告は,P1から本件見積書を提示されたことにより, 被告らの提示価格(原告製品1と競合する製品について(中略)円,原告製品2と 競合製品について(中略)円。)と対抗するため,原告製品を値下げせざるを得な くなったという事情が認められる。
しかし,前記(2)で述べたとおり,この時点では,被告製品が本件意匠権を侵害す るものとなるかは未確定であり,被告静岡産業社が本件見積書を示して浪漫亭との 取引を誘引する行為自体には違法性がなく,これにより原告が原告製品の値下げを 余儀なくされたことも,それまで原告がこの種の製品について浪漫亭との取引を独 占していたところに競業者(被告ら)が現れたため,対抗するために価格を改定し たという原告の経営判断の結果であるということができる。 そうすると,被告らの本件意匠権の侵害行為による原告の損害を算定する際に基 準となる原告製品の単価は,値下げ前の単価ではなく,侵害行為時,すなわち,平 成28年1月時点の単価(原告製品1につき(中略)円,原告製品2につき(中略) 円)であるとするのが相当である。
控除経費
(a) 控除経費として争いのない費目は,(1)原材料費,(2)梱包費及び(3)運送費であ り,それぞれ,原告製品1個当たりの額は,以下のとおりである(甲13ないし18)。

(1) 原材料費
原告製品の原材料はレジンであり,原告製品は,仕入れたレジンをシート状に加 工した後,金型成形して製造される。 よって,原告製品1の1個当たりの原材料費は,レジンの仕入費用をそこから製 造される原告製品1の数で除し,シート状に加工し金型成形する際のロス率(10%) を掛けた金額であり,(中略)円となる。
(計算式)レジン平均単価((中略)円/Kg)/1000(g当たり換算)× 1シートのグラム数(83.5cm×97.5cm×0.045cm×比重0.9 1)×ロス1.05/1シート当たりの原告製品の数24個=(中略)円 なお,原告製品2の原材料費は,(中略)円(原告製品1の原材料費に,木目状 フィルム費(中略)円を足した額)である。
(計算式)木目用フィルム仕入単価(中略)m/円×0.975m/24個=(中略)円
(2) 梱包費
原告は,原告製品1080個を1枚のビニル袋に入れ,これを段ボール1ケース に梱包しているところ,それぞれの仕入単価は(中略)円及び(中略)円である。 原告は原告製品の梱包及び運送を100%子会社に委託しているところ,同会社 が支払った費用に10%上乗せした額を原告の経費とすることを争わない。 よって,原告製品1個当たりの梱包費は,(中略)円となる。
(計算式)((中略)円+(中略)円)/1080個×1.1=(中略)円
(3) 運送費
運送トラック1回の配送で,原告製品1080個の入った上記段ボール箱を12 6箱積載することが可能であり,1回当たりの運送費は(中略)円である。\n原告は,運送費についても上記梱包費と同様に,子会社が支払った費用に10% 上乗せした額を原告の経費とすることを争わない。 よって,原告製品1個当たりの運送費は,(中略)円となる。
(計算式)(中略)円/126箱/1080個×1.1=(中略)円
(b) 被告らは,原告製品の原材料につき,シート加工賃及び金型成型加工賃を含 めた金額とすべきであると主張し,また,上記(a)の経費に加えて,原告製品の製造 のために使用されている直接労務費及び電気代を控除すべきであると主張し,これ に沿う証人P3の供述(丙3)もある。 しかし,原告は原告製品を自己の工場内で製造しているものと解されるため,シ ート加工賃及び金型成型加工賃が通常の労務費とは別に発生するとは考えられない。 また,原告の製造する食品包装用容器全体のうち原告製品の占める割合はわずか である(甲18,原告代表者本人)ことからすれば,労務費及び電気代が原告製品\nの販売数量の増加に伴って追加的に発生する変動費であるということはできない。 したがって,上記被告らの主張を採用することはできない。
まとめ
以上より,原告製品1の単位数量当たりの利益の額は(中略)円,原告製品2の 単位数量当たりの利益の額は(中略)円となる。
・・・・
ウ 被告らの主張について
推定覆滅
(a) 被告静岡産業社は,被告製品における被告意匠の占める部分は,面積比にお いて約50%であるから,寄与度を50%とするか,被告製品の販売数量のうち5 0%について推定覆滅されるべきであると主張する。 しかし,被告意匠は,被告製品において,需要者の注意を引き,美感に訴えると いう点で,最も重要な位置を占めているというべきであり,被告意匠としての面積 比が製品全体に対して約50%であるからといって,寄与度を50%としたり,5 0%の推定覆滅を認めるべきことにはならない。
(b) 被告ヨコタ東北は,被告製品には原告製品よりも価格面,ブランド力及び製 品そのものの機能において優れていたことから,被告製品全量について原告には販\n売することができないとする事情(意匠法39条1項但書)があったと主張する。 しかし,前記認定事実のとおり,原告製品及び被告製品は,いずれも浪漫亭の製 造・梱包ラインに合致するように製造され,浪漫亭のみを納入先とするものであり, 被告製品の納入開始前は原告製品のみが浪漫亭に納入されていたのであるから,被 告製品の販売がなければ,浪漫亭は同数の原告製品を購入したと考えられ,上記被 告ヨコタ東北の主張を採用することはできない。
実施能力\n
被告ヨコタ東北は,原告の実施能力につき,被告製品納入前の原告製品1の販売\n数量が,被告製品1の平均販売数量(約50万個)よりも少ないから,原告の損害 額の主張は自己の実施能力を超えると主張する。\nしかし,平成27年5月及び6月の原告製品1の販売数量はいずれも約51万個 であるし(別紙「原告製品販売数量・単価一覧表」参照。),原告は,食品用包装\n容器を多種類製造しており,その中において原告製品の占める割合はわずかである ことから,製造ラインを適宜調整することにより,被告製品の販売数量に相当する 受注に応じることは可能であったと考えられるから,被告ヨコタ東北の上記主張に\nは理由がない。
過失相殺
被告静岡産業社は,原告が被告製品の納入に気が付きながら放置したことにより, 原告の主張する損害を拡大させたとして,過失相殺の主張をするが,前記のとおり, 原告において被告らが本件意匠権を侵害していることを知りながらそれを放置した とは認められないので,被告静岡産業社の上記主張には理由がない。
エ まとめ
以上より,被告らによる本件意匠権の侵害行為により原告が被った損害額と して意匠法39条1項により推定される額は,被告製品1につき4555万067 0円,被告製品2につき397万4875円であり,合計5348万7589円(税 込。税抜4952万5545円。)となる。
(計算式)
被告製品1 (中略)個×(中略)円=4555万0670円
被告製品2 (中略)個×(中略)円= 397万4875円
被告静岡産業社は,株式会社帝国データバンクによる調査報告書(乙6)に 基づき,原告主張のとおり,原告製品の製造数量が全製品の製造数量に占める割合 が(中略)%であるとすると,原告製品の限界利益は870万円程度となるはずで あり,上記の金額は過大であると主張する。 しかし,上記調査報告書は,公開情報等に加え上記会社が独自に調査した結果を 掲載したものであるところ,上記会社は原告から売上資料等の開示を受けているわ けではないから(原告代表者本人),その情報の正確性には自ずと限界があるとい\nわざるを得ない。また,被告静岡産業社は,原告製品の1個当たりの利益額の算定 方法について,前記 具体的な問題点の指摘をせず,上記の算定結果が 不正確であることについての直接の主張・立証はない。 したがって,上記調査報告書に記載された情報のみから,上記原告の損害額(5 348万7589円)が過大であるということはできず,被告静岡産業社の上記主 張を採用することはできない。
(4) 値下げによる損害
ア 平成27年5月から同年12月までの期間について
前記(2)のとおり,被告静岡産業社がP1に対し本件見積書を提示したことは,本 件意匠権の侵害行為にもその他の不法行為にも当たらないから,平成27年5月以 降,原告が原告製品の価格を値下げしたことで生じた値下げ前の単価との差額分の 金額は,被告らの不法行為による損害であると解することはできない。 また,意匠法39条1項の算定に,平成27年4月以前よりも下落した平成28 年1月時点の原告製品の価格を用いたことは前述のとおりであるが,この下落が不 法行為によるものとは認められない以上,その差額分を民法709条による損害賠 償として,意匠法39条1項による算定額に加算することはできない。
イ 平成28年1月以降の期間について
平成28年1月以降の期間については,被告らに意匠権侵害が成立すると認 められるが,原告は,この部分について,前記検討した意匠法39条1項による損 害賠償とは別に,原告が,被告らと並行して浪漫亭に販売していた原告製品につい ても,被告らの意匠権侵害行為により値下げを余儀なくされたとして,原告が販売 した個数に値下額を乗じた額を,民法709条の損害賠償として請求する。 そこで検討するに,意匠権侵害が行われた場合に権利者に生じ得る損害とし ては,権利者側の商品の販売数量の減少や販売価格の低下による逸失利益が典型的 には想定され,本来的には,権利者において損害の発生及び額,並びに権利侵害と 損害発生との因果関係を立証しなければならないが,これらの立証が困難であるこ とから,意匠法39条は,侵害者の譲渡数量に権利者の単位数量利益を乗じた額を 権利者の損害とすること(1項),侵害者が侵害行為により受けた利益を権利者の 損害と推定すること(2項),意匠の実施に対し受けるべき金銭に相当する額を, 権利者は損害賠償として請求し得ること(3項)を定めた。 そうすると,意匠権者が,意匠権侵害による損害賠償として,自己の商品の販売 数量の減少や販売価格の低下による逸失利益を個別具体的に立証することに替えて, 意匠法39条各項が定める算定・推定規定を利用して損害賠償請求を行った場合, 前記各項に基づく請求とは別に,民法709条による損害賠償請求をすることがで きるのは,意匠権により保護されるのとは別の法益が侵害されたり,前記各項が定 める算定・推定規定では評価されていない別の損害が生じたような場合であると考 えられる(一例として弁護士費用)。
原告は,意匠法39条1項により,被告静岡産業社が浪漫亭に譲渡した被告 製品の数量に,原告の単位利益を乗じた金額を,原告の損害として請求しているの であるから,同じ期間内に,被告らが被告製品を製造・販売したことによって原告 製品の販売数量が減少した,あるいは販売価格が低下したといった逸失利益につい ては,既に評価されているというべきであり,意匠権により保護されるのとは異な る法益が侵害された,あるいは意匠法39条1項による算定では評価されていない 損害が生じたと認めるべき事情は,本件では認められない。 また,仮に意匠法39条1項による算定とは別に,民法709条による損害 賠償請求を認めるべき場合であっても,被告らの意匠権侵害行為によって原告製品 の価格が低下したとの因果関係については,原告が立証責任を負うべきものである が,平成28年1月に被告製品が浪漫亭に納入された後,原告製品1の販売価格の 低下は平成29年2月に生じているところ,この原因が何であるかは証拠上明らか ではなく,この点についての因果関係の立証がなされているとは認められない。 以上より,平成28年1月以降の原告製品の価格の低下についての,民法7 09条に基づく損害賠償請求は,理由がないというべきである。

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被告製品と原告意匠の対比は以下です。 

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平成31(行ケ)10042  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月21日  知的財産高等裁判所

 マッサージ機の特許について、無効理由無しとした審決が取り消されました。 争点は補正要件(新規事項)、記載要件などです。裁判所は、明確性について構成要件Fについて実質判断していないとして審決を取り消しました。

 本件審決は,明確性要件の判断において,構成要件G及びLについて判断したの\nみで,構成要件Fについては「請求人の主張の概要」にも「当合議体の判断」にも記\n載がなく,実質的に判断されたと評価することもできない。 したがって,本件審決には,手続的な違法があり,これが審決の結論に影響を及 ぼす違法であるということができる。
(3) 補正要件違反,分割要件違反及びサポート要件について
ア 本件審決には,補正要件違反等の原告の主張する無効理由との関係で,構成\n要件Fについての明示的な記載はない。 しかし,補正要件の適否は,当該補正に係る全ての補正事項について全体として 判断されるべきものであり,事項Fの一部の追加が新規事項に当たるという主張は, 本件補正に係る補正要件違反という無効理由を基礎付ける攻撃防御方法の一部にす ぎず,これと独立した別個の無効理由であるとまではいえない。その判断を欠いた としても,直ちに当該無効理由について判断の遺脱があったということはできない。 また,構成要件Fで規定する「開口」は,構\成要件H(「前記一対の保持部は,各々 の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」) の前提となる構成であって,事項Hの追加が新規事項の追加に当たらないとした本\n件審決においても,実質的に判断されているということができる。 そして,後記のとおり,当初明細書の【0037】,【0038】,【図2】には,断 面視において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載され,「開口部」とは, 「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し,一般的な体格の成人の腕 部の太さよりも若干大きい幅とされ,そこから保持部内に腕部を挿入可能であるこ\nとが記載されているから,構成要件Fで規定する「開口」が,当初明細書に記載され\nていた事項であることは明らかである。
イ また,新規事項の追加があることを前提とした分割要件違反に起因する新規 性・進歩性欠如をいう原告の主張も,同様である。
ウ サポート要件についても,本件審決には,構成要件Fについての明示的な記\n載はない。 しかし,サポート要件の適合性は,後記4(1)のとおり判断すべきものであり,上 記アと同様,事項Fの一部についての判断を欠いたとしても,直ちに当該無効理由 について判断の遺脱があったということはできない。 また,構成要件Fで規定する「開口」は,上記アのとおり,構\成要件Hの前提とな る構成であり,本件審決においても実質的に判断されているということができる。\nそして,後記のとおり,本件発明1は,本件明細書の【0010】に記載された構\n成を全て備えており,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明に より当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであり,加え て,本件明細書にも前記【0037】,【0038】,【図2】と同様の記載があることからすれば,構成要件Fで規定する「開口」が本件明細書の当該記載によってサポ\nートされていることも明らかである。
(4) 小括
以上のとおり,本件審決は,明確性要件についての判断を遺脱しており,この点 の審理判断を尽くさせるため,本件審決は取り消されるべきである。 もっとも,他の無効理由については当事者双方が主張立証を尽くしているので, 以下,当裁判所の判断を示すこととする。
・・・
ア 当初明細書の【0042】,【0044】,【0048】,【図5】,【0066】, 【0072】,【0074】,【図8】には,保持部の内面の略全体に空気袋が設けられている構成の記載がある。これらの記載に加えて,従来のマッサージ機においては,\n肘掛け部に例えばバイブレータ等の施療装置が設けられていないことが多く,被施 療者の腕部を施療することができないことが課題になっていたこと(【0003】) を併せて考えれば,当初明細書の上記各記載から,保持部の内面の対向する部分の 双方でなくとも,対向する部分の一方に空気袋が設けられていれば,腕部が保持部 によって保持され,保持部の内面の一方の側から空気袋の膨張・圧縮に伴う力を受 けることで一定の施療効果が期待できることは明らかというべきである。 そうすると,保持部の内面の互いに対向する部分の双方でなく,対向する部分の 一方に空気袋が設けられていれば,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に 設けた空気袋によって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕 部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題\nの課題解決手段として十分であることが容易に理解できる。\n
イ 当初明細書の【0042】には,保持部の形状について「略C字状」の断面形 状を有することの記載があり,【0037】,【0038】及び【図2】には,断面視 において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載されており,「開口部」と は,「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し,一般的な体格の成人 の腕部の太さよりも若干大きい幅とされ,そこから保持部内に腕部を挿入可能であ\nることが記載されている。そして,【0100】には,腕部を保持する保持部は,【図 13】(a)に示されるものに限定されず,同図(b)〜(e)に示されるものとし てもよいこと,さらに,同図(c)は,開口を「所定角度で傾斜させた」ものであり, 同図(e)は,開口を「上方に開口」させたものであることが記載されている。 以上の記載を踏まえると,【図13】(a)は,開口が所定角度で傾斜せずに横を向 いている保持部を示していると理解するのが自然であり,そうすると,当初明細書 には,所定角度で傾斜したものと傾斜していないものを含めて「開口が横を向」い ている保持部が記載されているといえる。 そして,「開口が横を向」いている保持部であっても,腕部を横方向に移動させる ことで被施療者が腕部を保持部内に挿入することができ,座部に座った被施療者の 腕部を保持部の内面に設けた空気袋によって施療することができることが容易に認 識でき,被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当\n初明細書に記載の課題を解決できることが容易に理解できるというべきである。
ウ 請求項2の「開口が真横を向いている」にいう「開口」とは,そこから保持部 内に腕部を挿入することを可能とするもの(【0038】,【図2】)であることから\nすれば,「開口が真横を向いている」とは,腕部の挿入方向に着目して,被施療者が 座部に座った状態で腕部を「真横」(水平)に移動させることで保持部内に腕部を挿 入することができるという技術的意義を有するものであると理解できる。 そして,当初明細書には,【図13】(a)及び(c)において,所定角度で傾斜し たものと傾斜していないものを含めて「開口が横を向」いている保持部が示され, 同図(a)は,開口が所定角度で傾斜せずに横を向いている保持部,すなわち,「開 口が真横を向」いている保持部を示していると理解するのが自然であるところ,「開 口が真横を向」いていれば,腕部を真横(水平)に移動させることで被施療者が腕部 を保持部内に挿入することができ,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に 設けた空気袋によって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕 部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題\nを解決できることも容易に理解することができるというべきである。
エ 当初明細書には,【0037】,【0044】,【0046】などにも,前腕部を 挿入する第2保持部分の内面において,被施療者の手首又は掌に相当する部分に振 動装置が設けられていることが開示されている。加えて,保持部が,被施療者の上 腕を保持するための第1保持部分と被施療者の前腕を保持するための第2保持部分 とから構成され(【0037】,【図2】),第2保持部分の内面であって被施療者の手首又は掌に相当する部分に振動装置が設けられ,この振動装置が振動することによ\nり,被施療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっていること(【0044】,【図2】)も記載されている。\nそうすると,保持部内に挿入された被施療者の手首又は掌を,保持部の内面であ って,手首又は掌に相当する部分に設けられた振動装置を振動させることで,被施 療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっており,その前提として,保持\n部が,被施療者の手首又は掌を「保持可能」とするような構\成を有していることは 明らかである。
オ 当初明細書のうち,第1保持部分を幅方向へ切断したときの断面図である【図 5】,【図8】には,空気袋(11b,11c,26b,26c)が全体として保持部 の奥側(図の右側)よりも開口側(図の左側)の端部にて高さが高くなるよう盛り上 がる形状が示されており,当初明細書の【0042】の記載も踏まえると,【図5】 には,保持部分の内面の略全体において略一定の厚み幅を有する空気袋11bと, 当該空気袋11bの上に積層する形で空気袋11cが設けられ,当該空気袋11c は奥側から開口側に行くにしたがってその厚み幅が漸増しており,空気袋11bと 空気袋11cをあわせてみたときに,空気袋は開口側の部分の方が奥側の部分より も立ち上がるように構成されていることが記載されているといえる。\nそして,空気袋が保持部の開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がるよう に構成されていれば,空気袋の膨張・圧縮の程度が保持部の奥側の部分よりも開口\n側の部分の方が大きく,腕部がそのような空気袋の構成に応じた膨張・圧縮に伴う\n力を受けることで,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に設けた空気袋に よって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕部を施療するこ とが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題を解決できるこ\nとも容易に理解することができる。 カ 以上によれば,本件補正は,当初明細書の全ての記載を総合することにより 導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものとはいえ ない。
・・・
4 取消事由3(サポート要件に係る判断の誤り)について
(1) サポート要件について
特許請求の範囲の記載が,サポート要件を定めた特許法36条6項1号に適合す るか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請 求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細 な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであ るか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当 該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) 本件発明1について
ア 本件明細書の記載 本件明細書には,(1)椅子型のマッサージ機にあっては,肘掛け部にバイブレータ 等の施療装置が設けられていないことが多く,被施療者の腕部を施療することがで きないという問題があったことから(【0002】,【0003】),被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供することを課題とし(【0007】),(2)当 該課題を解決するための手段として,被施療者が着座可能な座部と,被施療者の上\n半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において,「前記座部の両 側に夫々配設され,被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と,前 記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と,を有し,前記保持部は,\nその幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されて いると共に,その内面に互いに対向する部分を有し,前記空気袋は,前記内面の互 いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ,前記一対の保持部は, 各々の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設され」 ていること(【0010】),(3)本発明に係るマッサージ機によれば,空気袋によって 被施療者の腕部を施療することが可能となること(【0028】)が記載されている。\n
そして,本件明細書には,本件発明の「実施の形態1」の説明において,マッサー ジ機の全体構成やその動作について,保持部の構\成やその内面に設けられた空気袋 の構成や作用とともに記載され(【0037】,【0038】,【0042】〜【0045】,【0048】,【図1】,【図2】,【図5】),本件明細書の【0100】,【010\n1】及び【図13】には,本件発明のマッサージ機の保持部の種々の断面形状につい て説明がされているところ,マッサージ機を扱う当業者であれば,本件明細書の以 上の記載から,(1)の課題を解決するために(2)の解決手段を備え,(3)の効果を奏する 発明を認識することができる。 そして,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2(1)のとおりで あるところ,本件明細書の【0010】には,同発明が記載されている。また,当業 者が,本件明細書の前記記載により本件発明1の課題を解決できると認識すること ができる。そうすると,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明 の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のも のであるということができ,本件発明1の記載についてサポート要件の違反はない。
イ 原告の主張について
原告は,(1)構成要件Gは,空気袋につき,保持部の内面の対向する部分の一方の\n部分のみに設ける構成も含むが,本件明細書には,かかる構\成であっても解決でき る課題につき何らの説明もなく,(2)構成要件Hは,保持部の形状につき,本件明細\n書の【図13】の(a),(c)から導かれる形状とするものであるところ,本件明細 書には,他の形状を示す同図(b),(d),(e)との関係で解決される課題につき,何らの説明もないと主張する。 しかし,本件明細書によれば,保持部の内面の対向する部分の双方でなくとも, 対向する部分の一方に空気袋が設けられていれば,被施療者の腕部を施療すること が可能なマッサージ機を提供するという本件明細書に記載の課題の解決手段として\n十分であることが容易に理解することができる。また,保持部に形成する開口が横\nを向いていれば,腕部を横方向に移動させることで被施療者が保持部内に腕部を挿 入することができ,座部に座った被施療者の腕部を施療することが可能なマッサー\nジ機を提供するという本件明細書に記載の課題を解決できることが容易に理解する ことができる。 したがって,原告の主張は理由がない。
5 取消事由5(引用発明に基づく進歩性判断の誤り)について
・・・
このように,甲13文献に示されるパッド31は,せいぜい,パッド35ととも に肢にフィットするように全体にc字形をしており,開口を患者の側に向けて,パ ッド35とともに椅子21(肘掛け)又は床の上に「置く」ことができることが開示 されているにとどまり,「一対の保持部」について,相違点2に係る,各々の開口が 横を向き,かつ開口同士が互いに「対向するように配設」するという技術思想が開 示されているとはいえない。
(ウ) したがって,引用発明に甲13技術を適用する動機付けはないし,これを 適用しても,相違点2に係る構成に至らないから,これを容易に想到することがで\nきたものとはいえない。

◆判決本文

関連事件です。こちらは無効理由無しとした審決が維持されています。

◆平成31(行ケ)10054

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平成31(行ケ)10060  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月14日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が維持されました。争点は実施可能要件、サポート要件、進歩性です。

 本件明細書によれば,本件発明1に係るスクラブ石けんの製造方法について, 次の事項が記載されていることが認められる。
 微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンをアルカリ溶液に浸漬し て,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加す ることにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中 空内部にも石けんを形成するものであり(【0029】),アルカリ溶液には,界面活 性剤を添加しているため,アルカリ溶液の表面張力が弱められて,シラスバルーン\n表面の微細なクラックからシラスバルーンの内部へ,アルカリ溶液を容易に浸入さ\nせることができ,シラスバルーン内部はアルカリ溶液で満たされることとなる(【0 032】,【0033】)。
通常石けんを製造する場合には,脂肪酸(又は油脂)の溶液に,アルカリ溶液を 徐々に添加するのが一般的であるが,脂肪酸溶液とシラスバルーンとを混合し,次 いで,アルカリ溶液を添加した場合,シラスバルーンの内部にある脂肪酸溶液と, シラスバルーン内に浸入してきたアルカリ溶液とが,シラスバルーンの表面で石け\nんを形成してしまい,アルカリ溶液の更なる浸入を妨げるため,シラスバルーン中 心部の脂肪酸溶液が未反応となりやすく,内包石けんが形成されにくいため,好ま しくない(【0039】,【0040】)。また,固形状又は半固形状の基材石けんに,シラスバルーンを混入させただけでは,単にシラスバルーンの表面に基材石けんが\n付着するのみであり,粘度の高い基材石けんがシラスバルーンの中空内部に入って 内包石けんとなることはない(【0043】)。これに対し,アルカリ溶液とシラスバ ルーンとを混合してアルカリ火山灰溶液を調製し,次いで,アルカリ火山灰溶液に 加温溶融した脂肪酸を添加すると,脂肪酸もまた徐々に表面のクラックを介してシ\nラスバルーン内に浸透することとなり(【0037】),シラスバルーンの表面で石け\nんを形成しても,反応当初は高濃度のアルカリ溶液が脂肪酸溶液に比して多量にあ るため,速やかに石けん分子が分散することとなり,シラスバルーン内部に脂肪酸 溶液が入るのを妨げることがなく,シラスバルーン内部に十分な量の内包石けんを\n形成することができる(【0041】,【0042】)。 具体的な工程は,次のとおりである。すなわち,加温可能で内部を減圧可能\に形 成した調合タンク等で,アルカリ溶液調製工程を行い,27.3重量部の水に,5. 55重量部の水酸化カリウムを徐々に添加して,水酸化カリウムを十分溶解し,ア\nルカリ水溶液をできるだけ室温に近い温度で調製し(【0051】〜【0053】), 界面活性剤添加工程で,3重量部のグリセリン,5重量部の保湿剤,3重量部の増 泡剤,3重量部の界面活性剤をそれぞれアルカリ溶液中に添加して均一になるまで, できるだけ室温に近い温度撹拌を行う(【0054】〜【0056】)。シラスバルー ン添加工程では,22.74重量部の予め膨化処理を施して微細な中空球状に成形し\nた火山灰(シラス),4重量部の白色顔料,0.01重量部の糖類を,界面活性剤を 含有するアルカリ溶液に添加し,この際,まず,プラネタリーミキサー等で液中及 び液面を穏やかに撹拌し,次いで,ディスパー等により,強力な渦流を発生させて 液中に巻き込むように撹拌混合を行ってシラスバルーンや白色顔料が粉塵として宙 に舞うことを防止するとともに,当初の時点で空気を抱き込ませずに撹拌を行うこ とで,シラスバルーンの中空内部まで,効率よく界面活性剤を含有するアルカリ溶 液を浸透させ,撹拌時には,80℃に達するまで徐々に液温を昇温する(【0057】 〜【0065】)。次に,浸透工程で調製した,界面活性剤を含有するアルカリ溶液と シラスバルーンとの混合液(アルカリ火山灰溶液)に,図1に示すB−1(脂肪酸) を添加する脂肪酸添加工程では,炭素数がC12〜C18で直鎖状の飽和又は不飽 和脂肪酸を好適に用い,脂肪酸の組成は,所望する石けんの性状に併せて適宜決定 することができ,本実施形態で用いる脂肪酸(又は脂肪酸塩)は,固体であるため, 70〜90℃に加熱溶融してから添加する(【0066】,【0069】〜【0071】)。 石けん調製工程では,アルカリ火山灰溶液に脂肪酸を混合した直後より,調合タン ク内の減圧を行い,混合液中に含まれる空気を脱気(脱泡)しながら,20分間撹拌 混合し,混合液の温度を75〜85℃,より好ましくは77〜83℃とすることに より,均一で滑らかであり,しかも,白色の際だったスクラブ石けんとすることが できる(【0072】〜【0077】)。 このようにして得られたスクラブ石けんは,シラスバルーンの内部にもペースト 状の石けんを含有している(【0082】)。
イ 以上によれば,本件明細書には,微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシ ラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアル カリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記 シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを 形成するスクラブ石けんを製造する方法について,その実施をすることができる程 度に明確かつ十分に記載されていると認められる。\n
(3) 原告の主張について
原告は,中空状のシラスバルーンの中空内部に石けんが内包(形成)されている か否かを如何なる方法により観察(分析)できるのか,本件発明にかかる明細書に は何ら示されていないことから,本件明細書の記載は実施可能要件に適合しない旨\nを主張する。 しかし,本件明細書の記載から,シラスバルーンの中空内部に石けんが形成され ることが十分に理解できることは,前記(2)のとおりであり,分析方法についての説 明がないことをもって実施可能要件に適合しないとはいえないから,原告の主張は\n採用できない。

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平成30(ワ)8302  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年11月14日  東京地方裁判所

 CS関連発明について、特許侵害事件です。原告(会社)の本人訴訟です。東京地裁47部は、構成要件Fを充足しないと判断しました。

 前記(1)の記載によると,次のとおり認められる。
ア 本件各発明以前にも,コンピュータシステムにおけるシステム利用者の 入力行為を支援する従来技術としては,マウスを右クリックすることによ り,マウスが指し示している画面上のポインタ位置に応じた操作コマンド のメニューが表示される「コンテキストメニュー」や,画面上でマウスポ\nインタがウィンドウの枠やファイルのアイコンなどに重なった状態でマ ウスの左ボタンを押し,そのままの状態でマウスを移動させ,別の場所で マウスの左ボタンを離すマウス操作である「ドラッグ&ドロップ」などが あった。しかして,「コンテキストメニュー」には,マウスの左クリックを 行うまではメニューが画面に表示され続け,また,利用者が間違って右ク\nリックを押してしまった場合には,利用者の意に反して画面上に表示され\nてしまうので不便であるなどの課題があり,また,「ドラッグ&ドロップ」 には,継続的な動作,例えば,移動させる位置を決めないで徐々に画面を スクロールさせていくような動作に適用させるのが難しいという課題が あったところである(段落【0001】〜【0005】)。
イ 本件各発明は,このような課題を解決するため,入力手段における命令 ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間に,ポインタの 位置を移動させる命令を受信すると,画像データである操作メニュー情報 を出力手段に表示させ,入力手段における命令ボタンが利用者によって離\nされると,出力手段に表示されていた操作メニュー情報の表\示を終了させ ることにより,普段は画面上に操作メニュー情報を表示させずに,利用者\nにとって必要な場合に簡便に表示させることを可能\にするという構成を\n採用したものといえる(段落【0022】,【0023】,【0051】)。そ して,スムーズな画面操作を可能とするため,操作メニュー情報が表\示さ れている状態において,これをポインタで指定した場合,すなわち,実行 される命令結果を利用者が理解できるように出力手段に表示した画像デ\nータである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲にポインタの座標 位置が入った場合に,「操作メニュー情報にポインタが指定された場合に 実行される命令」として特定された,例えば,出力手段に表示される画面\n(ビュー)をスクロールさせるような命令など,コンピュータシステムに 対する命令が実行され,操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,ポ インタの座標位置が入らなくなるまで当該実行を継続するという構成を\n採用したものといえる(段落【0009】,【0012】,【0013】,【0 016】,【0023】,【0051】)。
ウ 以上のような,本件各特許請求の範囲の記載文言及び本件明細書の各記 載によれば,本件各発明は,コンピュータシステムにおけるシステム利用 者の入力行為を支援するため,「コンテキストメニュー」や「ドラッグ&ド ロップ」における,操作メニュー情報が利用者に意に反して表示されるこ\nとに関わる課題や,移動先を決めないで画面をスクロールさせるような継 続的な動作に関わる課題を解決すべく,操作メニュー情報については,普 段は画面上に表示させずに,利用者にとって必要な場合に簡便に表\示させ るという構成を採用し,その上で,物理的に操作メニュー情報が占める座\n標位置の範囲にポインタの座標位置が入っているときに,コンピュータシ ステムに対する命令が実行されるようにして,スムーズな画面操作が可能\nとなるという構成を採用したものといえる。このような構\成を採用した以 上,構成要件B,E,F及びGの「操作メニュー情報」とは,利用者にと\nって,その表示,非表\示を明確に認識できることが前提となっており,物 理的に操作メニュー情報が占める座標位置の範囲が明確になっている必 要があることは明らかである。 そうすると,構成要件B,E,F及びGの「操作メニュー情報」につい\nては,利用者にとっての,視覚的な見地からの,命令内容の表示や実行の\n簡便性を実現する構成を意味するものであるものといえ,そのような見地\nに照らし,同「操作メニュー情報」とは,利用者が,その表示の有無を視\n覚的に認識でき,その表示内容から,所望の命令を実行した結果について\nも理解できるような,画像データである必要があるものと解するのが相当 である。
そして,構成要件Fの,(1)「操作メニュー情報がポインタにより指定さ れる」と「操作メニュー情報に関連付いている命令」を「実行」する,及 び(2)「操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなるまで当該実行 を継続する」との文言については,画像データである操作メニュー情報の 座標位置が利用者に視覚的に認識できることを前提に,(1)画面上に表示さ\nれた画像データである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,ポイ ンタの座標位置が入った場合に,特定の命令を実行し,(2)操作メニュー情 報が占める座標位置の範囲に,ポインタの座標位置が入らなくなるまで当 該実行が継続され,入らなくなった場合には,当該実行が継続されないこ とを意味し,かかる動作状況を満たす命令であることをもって,「操作メニ ューに関連付いている命令」に当たるものと解するのが相当である。
(3) 「操作メニュー情報」(構成要件B,E,F,G)の充足性\n
ア 以上を前提に,まず,「操作メニュー情報」(構成要件B,E,F,G)\nの充足性につき検討するに,被告製品の構成のエ(イ)ないし(エ)及び\nオ(イ)ないし(エ)のとおり,本件ホームアプリにおける上ページ一部 表示及び下ページ一部表\示(以下「上ページ一部表示等」という。)は,画\n像データであり,その内容や表示位置からすれば,これを見た利用者は上\nページ又は下ページにスクロールする結果を理解できるといえるから,利 用者が,その表示の有無を視覚的に認識でき,その表\示内容から,所望の 命令を実行した結果についても理解できるような,画像データに当たるも のというべきであって,「操作メニュー情報」を充足するものと認められる。 イ これに対し,被告は,上ページ一部表示等は,単にホーム画面が縮小表\ 示されることによって当該ホーム画面の隣のホーム画面が見えているに すぎず,実行される命令を表す文字も,矢印表\示等何らかの操作ができる ことを示す絵や記号も表示されておらず,表\示自体から上ページ又は下ペ ージにスクロールするといった実行される命令結果を理解できる画像で はない旨を主張する。 しかし,被告製品の構成エ(イ)及びオ(イ)のとおり,上ページ一部\n表示等が表\示されるのは,利用者が移動させたいショートカットアイコン をロングタッチして,ドラッグ操作をして同アイコンを移動させる等して, 縮小モードになった状態であることからすれば,同アイコンを移動したい 利用者が,1つ上のページ又は1つ下のページの一部を表示した画像であ\nる上ページ一部表示等を見て,上ぺージ又は下ページが存在することのみ\nならず,上ページ一部表示等までドラッグすれば,上ページ又は下ページ\nに画面をスクロールさせることができるものと理解することも可能とい\nうべきである。 以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。
ウ 他方,原告は,上ページ一部表示等のみならず,「左上領域」「右上領域」\n又は「左下領域」「右下領域」(以下「左上領域等」という。)も「操作メニ ュー情報」に該当する旨を主張する。 しかし,左上領域等は,被告製品の構成エ(ウ)及びオ(ウ)のとおり,\n特定の座標位置で囲まれた領域にすぎず,利用者が,その表示の有無を視\n覚的に認識でき,その表示内容から,所望の命令を実行した結果について\nも理解できるような,画像データに当たるものとは認められない。前記ア の説示に照らしても,左上領域等が,「操作メニュー情報」に当たるとは認 められず,同説示のとおり,「操作メニュー情報」に該当するのは,上ペー ジ一部表示等に限られるというべきである。\n以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 「操作メニュー情報がポインタにより指定される」と「操作メニュー情報 に関連付いている命令」を「実行」する,及び「操作メニュー情報がポイン タにより指定されなくなるまで当該実行を継続する」(構成要件F)の充足性\n ア 被告製品においては,被告製品の構成のエ(ウ)(エ)及びオ(ウ)(エ)\nのとおり,左上領域等の占める座標位置の範囲に,原告が「ポインタの座 標位置」に当たると主張(前記第2の3(2)[原告の主張]イ)する「当該 ショートカットアイコンをドラッグしている指等のタッチパネル上の位 置」又は「当該ショートカットアイコンをドラッグしているマウスカーソ\nルの先端の位置」の座標位置(以下「指等及びマウスカーソルの先端の座\n標位置」という。)が入った場合に「上ページスクロール1」,「上ページス クロール2」,「下ページスクロール1」,「下ページスクロール2」を生じ させる命令(以下,併せて「ページスクロール命令」という。)が実行され, 左上領域等の占める座標位置の範囲に指等及びマウスカーソルの先端の\n座標位置が入らなくなるまでページスクロール命令が継続され,入らなく なった場合には当該実行が継続されないことが認められる。
しかし,前記(3)のとおり,被告製品において,「操作メニュー情報」に 該当するのは上ページ一部表示等であるところ,証拠(甲19,乙11〜\n13)によれば,上ページ一部表示等が占める座標位置の範囲と左上領域\n等の占める座標位置の範囲とは必ずしも一致せず,上ページ一部表示等は,\n左上領域等と一部重なる座標位置に表示されているにすぎないことが認\nめられる。このため,(1)上ページ一部表示等が占める座標位置の範囲に,\n指等及びマウスカーソルの先端の座標位置が入っていても,その位置が左\n上領域等の占める座標位置の範囲外であればページスクロール命令が実 行されず,また,(2)上ページ一部表示等が占める座標位置の範囲に,指等\n及びマウスカーソルの先端の座標位置が入っていなくとも,その位置が左\n上領域等の占める座標位置の範囲内であればページスクロール命令が実 行・継続されることとなる。 このような被告製品の動作状況から検討すると,ページスクロール命令 の実行や継続は,指等及びマウスカーソルの先端の座標位置が,利用者が\nその範囲を視覚的に認識することができない,左上領域等の占める座標位 置の範囲に入っているかどうかによるものであり,これが肯定されれば, 指等及びマウスカーソルの先端の座標位置が上ページ一部表\示等の占め る座標位置の範囲に入っていなくても,ページスクロール命令が実行され 継続されるものである一方,上記が否定されれば,指等及びマウスカーソ\nルの先端の座標位置が上ページ一部表示等の占める座標位置の範囲に入\nっていても,ページスクロール命令は実行され継続されないこととなるも のである。 すなわち,被告製品においては,指等及びマウスカーソルの先端の座標\n位置が,偶々,上ページ一部表示等と左上領域等が重なる部分の占める座\n標位置の範囲に入った場合に限って,ページスクロール命令が実行・継続 されているにすぎないものである。これに照らせば,ページスクロール命 令については,飽くまで利用者が視覚的に認識できない左上領域等の範囲 において実行・継続されるものであって,上ページ一部表示等の範囲にお\nいて実行・継続されるものではないのであるから,上ページ一部表示等に,\nページスクロール命令が関連付いているとまでは認めるに足りないとい うほかない。 したがって,上記のとおりの被告製品の構成は,構\成要件Fの「操作メ ニュー情報がポインタにより指定される」と「操作メニュー情報に関連付 いている命令」を「実行」する,及び「操作メニュー情報がポインタによ り指定されなくなるまで当該実行を継続する」という文言(構成要件F)\nを充足するとは認められない。
イ 原告の主張について
(ア) まず,原告は,上ページ一部表示等のみならず左上領域等も「操作\nメニュー情報」に相当する旨主張するが,前記(3)に説示したとおり,左 上領域等は,「操作メニュー情報」には当たるとはいえない。
(イ) また,原告は,上ページスクロール1が生じるのは,処理手段が上ペ ージスクロール1を行うプログラムを実行していることを意味するとこ ろ,同プログラムは上ページ一部表示が表\示されていないと実行されな いから,上ページ一部表示と同プログラムとは関連付いている旨主張す\nる。 しかし,前記説示のとおり,本件発明の構成要件F(「関連付いている」)\nについては,画像データである操作メニュー情報の座標位置が利用者に 視覚的に認識できることを前提に,(1)画面上に表示された画像データで\nある操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,ポインタの座標位置 が入った場合に,特定の命令を実行し,(2)操作メニュー情報が占める座 標位置の範囲に,ポインタの座標位置が入らなくなるまで当該実行が継 続され,入らなくなった場合には,当該実行が継続されないことを意味 し,かかる動作状況を満たす命令であることをもって,「操作メニューに 関連付いている命令」に当たるものと解するのが相当であるところであ る。しかして,被告製品においては,指等及びマウスカーソルの先端の\n座標位置が,偶々,上ページ一部表示等と左上領域等が重なる部分の占\nめる座標位置の範囲に入った場合に限って,ページスクロール命令が実 行されているにすぎないものであって,ページスクロール命令について は,飽くまで利用者が視覚的に認識できない左上領域等の範囲において 実行・継続されるものであり,上ページ一部表示等の範囲において実行・\n継続されるものではないというのである。 以上によれば,原告の上記指摘をもって,直ちに,上ページ一部表示\nと上記プログラムとが関連付いており,上ページ一部表示等の有無とペ\nージスクロール命令の実行の可否が関連付いているとまで認めることは できず,他に,両者の関連付けを推認させるに足りる事情も見当たらな い。 以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 原告は,構成要件Fの「操作メニュー情報がポインタにより指定さ\nれなくなるまで当該実行を継続する」には,「終了」といった記載はない から,操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなった際に当該 実行が終了することまで求めてはおらず,実行がいつ終了するかは同構\n成要件とは関係がない旨を主張する。 しかし,上記(2)ウで述べたとおり「操作メニュー情報がポインタによ り指定されなくなるまで当該実行を継続する」とは,操作メニュー情報 がポインタにより指定されている場合に当該実行が継続されることのみ ならず,操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなった場合に は当該実行が継続されなくなることまで意味するものと解すべきところ, 前記アで述べたとおり,被告製品において,指等及びマウスカーソルの\n先端の座標位置が上ページ一部表示等の占める座標位置の範囲に入って\nいない場合であっても,左上領域等の占める座標位置に入っていればペ ージスクロール命令の実行が継続されるものである以上,被告製品は上 記の構成要件を充足しないというべきである。なお,原告の主張する「実\n行」の「終了」が何を意味するか必ずしも判然としないが,仮に,上記 構成要件の解釈として,操作メニュー情報がポインタにより指定されて\nいる場合に当該実行を継続することのみを意味し,操作メニュー情報が ポインタにより指定されなくなった場合に当該実行が継続されないこと までは含んでいないとする旨を主張する趣旨であるとしても,そもそも そのような解釈は,本件各特許請求の範囲の文言及び本件明細書の記載 に照らし,上記構成要件の解釈として失当と言わざるを得ない。\n

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平成30(ワ)34728  特許権に基づく損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年12月17日  東京地方裁判所

 多機能型間接侵害(特許法101条2号)に該当するのかが争われました。東京地裁47部は、「生産に用いる物」、「課題の解決に不可欠なもの」いずれにも、該当しないと判断しました。

 本件事案に鑑み,まず,争点2(被告各製品が,本件発明に係る「物」の「生 産に用いる物(中略)であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に 当たるか)について判断する。
(1) 本件特許請求の範囲は,前記第2の1 のとおりであり,その構成要件C\nは,「前記改質領域から延びる微小亀裂を前記ウェーハの表面に露出させな\nい状態で前記ウェーハの裏面を研削除去する研削手段を有する,」分割起点 形成装置という文言の記載であるところ,本件特許の特許出願の願書に添付 した明細書(以下「本件明細書」という。)には,発明の詳細な説明として, 次の記載がある(甲2)。
・・・
(2) 以上を前提に,以下判断する。
ア 本件特許請求の範囲の記載をみると,本件発明に係る「物」である「分 割起点形成装置」(構成要件A,D)は,「内部にレーザ光で改質領域を形\n成したウェーハを分割するための」装置であるものであって,上記の「形 成した」という記載文言からすれば,既にその内部にレーザ光で改質領域 が形成されたウェーハを加工対象物として,その割断のための分割の起点 を形成する装置であることが明らかである。 このことは,本件明細書の各記載からも裏付けられる。すなわち,本件 発明の課題は,チップ断面の改質領域の部分からの発塵やチップの破断等 を防ぎ,抗折強度の高い,安定した品質のチップを効率よく得るようにす ることにあるところ(段落【0010】,【0022】),本件発明は,研削 後においても,微小空孔が大きくなり亀裂が進展するものの,完全に基板 は分割されていない点に技術的特徴があり(段落【0051】),また,本 件発明の実施の形態によれば,研削によりレーザ光により形成された改質 領域内のクラックを進展させることができるため,チップCの断面にレー ザ光により形成された改質領域が残らないようにすることができる(段落 【0209】)というのである。これらによれば,本件発明は,その内部に 既にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを対象として所定の加工 等を行うに当たり,クラックの進展の程度を制御しようとする技術思想の ものであることが認められる。 そうすると,SDレーザソーに搭載される被告各製品は,あくまでその\n内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを製作するためのもので あり,本件発明に係る分割起点形成装置に対しては,その加工対象物を提 供するという位置付けを有するものにとどまるというべきであるから,こ のような被告各製品をもって,同分割起点形成装置の生産に用いる物とい うことはできないというほかない。 したがって,被告各製品は,本件発明に係る「物」の「生産に用いる物」 に当たるということはできない。
イ また,上記のとおり,構成要件A,Dは,既にその内部にレーザ光で改\n質領域が形成されたウェーハを加工対象物として,その割断のための分割 の起点を形成する装置であることを示すものであり,本件発明に係る上記 技術思想を実現する構成を特定するものではないことからすれば,本件特\n許請求の範囲の記載において,同技術思想について具体的に特定している 構成は,構\\成要件B(「前記ウェーハの前記改質領域を研削除去するための 研削手段であって,」),構成要件C(「前記改質領域から延びる微小亀裂を\n前記ウェーハの表面に露出させない状態で前記ウェーハの裏面を研削除\n去する研削手段を有する,」)にいう「研削手段」であるものというべきで ある。 そうすると,本件発明は,SDBGプロセス実行システムBを実現する 複数の装置の中で,上記「研削手段」により,課題を解決する発明である と解されるものであって,本件発明において,課題解決手段による作用効 果を直接もたらすものは,上記「研削手段」以外には存しないというべき であるから,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるものは, 構成要件B,Cの「研削手段」であるというべきである。\nしかして,SDレーザソーに搭載される被告各製品は,飽くまでウェー\nハ内部に改質領域を作るための装置であって,上記構成要件B,Cの「研\n削手段」を実現する装置ではない。そうすると,被告各製品は,「その発明 による課題の解決に不可欠なもの」に当たるとはいえないというべきであ る。
ウ 以上のア,イによれば,被告各製品は,本件発明に係る「物」の「生産 に用いる物(中略)であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」 に当たるとはいえないというべきである。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件明細書の記載(段落【0165】ないし【0168】,【0 170】ないし【0184】等)にあるように,改質領域の形成からウェ ーハの分割までの一連のプロセスを実行する装置が全てそろって初めて 技術的に意味があるものであることからすれば,SDレーザソー(被告各\n製品搭載)及び研削装置は,本件発明の「分割起点形成装置」を構成する\nものであるといえ,被告各製品は,本件発明に係る「物」の「生産に用い る物」に当たるといえる旨主張する。 しかし,原告が指摘する本件明細書の記載(段落【0165】ないし【0 168】,【0170】ないし【0184】等)が,研削除去工程だけでな く被告各製品が関わるレーザ改質工程についても触れたものとなってい るとしても,本件特許請求の範囲の記載は,飽くまで「内部にレーザ光で 改質領域を形成したウェーハを分割するための」(構成要件A),「分割起点\n形成装置」(構成要件D)というものであり,その記載文言上,既にその内\n部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物として,その 割断のための分割の起点を形成する装置であることが,一義的に明確なも のとなっているものと認められる。そうである以上,本件明細書の上記記 載がレーザ改質工程についても触れたものとなっていることを指摘する ことによって,本件特許請求の範囲の記載文言から導いた前記認定を左右 することはできないというべきである。 また,仮に,原告が指摘するように,改質領域の形成からウェーハの分 割までの一連のプロセスを実行する装置が全てそろって初めて技術的に 意味があるとしても,それぞれの工程を担う各装置自体は,不可分一体と なっているものではなく,改質領域を形成したウェーハを製作するための 装置,かかるウェーハに対して研削という加工をするための装置というよ うに,それぞれの各装置として具体的に把握できるものであって,上記の 技術的な意味を指摘することから当然に,本件特許請求の範囲の記載文言 から導いた上記認定が左右される根拠となるものとはいえない。 以上に照らせば,SDレーザソー(被告各製品搭載)及び研削装置が,\n本件発明の「分割起点形成装置」を構成するものであるとする根拠はない\nというほかなく,原告の上記主張は,採用することができない。
イ 原告は,本件発明の特徴的技術手段が,構成要件C(「前記改質領域から\n延びる微小亀裂を前記ウェーハの表面に露出されない状態で前記ウェー\nハの裏面を研削除去する」)の点にあることは前提としつつも,そのために は,研削手段による研削の仕方だけでなく,レーザ光による改質領域及び これから伸びる微小亀裂の作り込みが重要であることが明らかであり,ウ ェーハの裏面を研削除去しても微小亀裂をウェーハの表面に露出させな\nいことが可能となるような改質領域を形成するレーザ光は,本件発明の特\n徴的技術手段を特徴付ける特有の構成に該当するから,このレーザ光を照\n射する被告各製品は,当該構成を直接もたらす特徴的な部材に当たるとい\nえる旨主張する。 しかし,原告が指摘する,レーザ光による改質領域及びこれから伸びる 微小亀裂の作り込みの重要性について検討しても,そもそも,本件発明の 技術思想との関連で,研削工程と有意な関連性を有する改質領域形成手段 (ウェーハの裏面を研削除去しても微小亀裂をウェーハの表面に露出さ\nせないことが可能となるような改質領域を形成するレーザ光)が備えるべ\nき具体的な構成,条件等についての説明は,本件明細書に何ら見当たらな\nいところであって,原告の上記指摘は,明細書の記載に根拠を有しない主 張といわざるを得ない。そうである以上,原告が指摘する上記改質領域形 成手段が,本件発明の特徴的技術手段を特徴付ける特有の構成に該当する\nということはできないから,レーザ光によりウェーハ内部に改質領域を作 るため,SDレーザソーに搭載される被告各製品は,本件発明に関して,\n「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるとはいえないもの というべきである。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

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平成29(ワ)5108  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和元年12月17日  大阪地方裁判所

 SIX PADに関する意匠権侵害事件です。大阪地裁21部は、類似しないと判断しました。意匠は特許事件のように、侵害論と損害論を分けてないのですね。損害額についての主張立証がなされています。

ア 要部認定の意義
被告意匠が本件意匠に類似するかは,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基 づいて判断すべきものであることは前述のとおりであるから,まず,意匠に係る物 品の需要者を想定し,物品の性質,用途,使用態様を前提に,需要者に生じる美感 が類似するか相違するかを検討すべきこととなる。 本件意匠と被告意匠については,前記(1)で述べたとおり,多数の共通点,差異点 が存するが,それが需要者に美感を与える程度は異なるから,単純に共通点,差異 点の多寡によって決したりすることはできず,需要者の注意を最も引きやすい部分 を意匠の要部として把握し,両意匠の構成態様の要部における共通点,差異点を検\n討し,全体として両者の美感が類似するか相違するかを判断することになる。
イ 物品の需要者及び使用態様
本件意匠及び被告意匠に係る物品は,いずれもトレーニング機器であって,背面 電極部から流れる電流により腹筋等を刺激し,腹部の筋肉等を引き締めるためのも のである点において共通する(各公報における「意匠に係る物品の説明」参照。)。 原告商品及び被告商品の商品説明や広告宣伝方法(前記1(3))からは,原告商品は 腹筋を鍛えることに特化したものである一方,被告商品は腹部以外への装着も予定\nされており,「理想のボディライン」を作ることに主眼が置かれているという違い が見られるものの,原告商品及び被告商品の需要者は,いずれも,上記公報の説明 のとおり,「腹部の筋肉等を引き締める」目的でトレーニング機器を使用しようと する一般消費者である。 また,原告商品及び被告商品は,いずれも使用者の身体に貼付して装着し,当該\n物品の背面に設けられている電極を直接肌に接触させて使用する物であるから,需 要者は主に正面ないし斜め上方部から当該製品を見ることが多く,背面については 着脱時等にある程度見る機会があるにとどまるというべきである。このことは,両 製品の商品説明や広告宣伝において,正面から撮影した写真や身体に装着した状態 の写真が多く用いられ,背面の写真は数少ないことからも推認することができる。
ウ 本件意匠の要部
以上を前提に検討すると,本件意匠については,前記2(2)アで基本的構成態\n様と指摘した部分は,本件意匠の特徴をなすものとして需要者の注意を引くと考え られるから,本件意匠の要部というべきであるが,本件意匠については,さらに, 同イの具体的構成態様のうちVないしVIIIとして指摘した内容,すなわち,各パッド 片の形状,各パッド片の結合方法(向き),各パッド間の切込みの形状,深さにつ いても,需要者に一定の美観を与え,需要者の注意を引くと考えられるから,これ ら指摘した部分も,本件意匠の要部であると認めるのが相当である。 他方,それ以外の点,すなわち前記2(2)イの具体的構成態様のうち,IXない しXII記載の点については,前述イの使用態様をも考慮すると,需要者の注意を特に 引くとは考えにくいので,要部には当たらないと解するのが相当である。
エ 双方の主張について
原告は,本件意匠出願時の公知意匠との対比において新規性を有することを 理由に,原告が基本的構成態様であると主張する部分(要旨,円形の電池部を中心\nに6枚のパッド片を左右対称2段3列に配置すること)のみが要部であると主張す るのに対し,被告は,前記部分はありふれており,要部には当たらないと主張する。 まず,原告の主張について検討するに,意匠に公知意匠にはない新規な構成\nがあるときは,その部分は需要者の注意を引く度合いが強く,逆に公知意匠に類似 した構成があるときは,その部分はありふれたものとして需要者の注意を引く度合\nいは弱いと考えられるから,その意味で,要部を認定するに当たり,公知意匠を参 照する意義はある。
しかしながら,この場合における要部の認定は,意匠の新規性を判断するのでは なく,需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通するか否かを判断するために行 うものであるから,公知意匠にはない新規な構成であっても,特に需要者の注意を\n引くものでなければ要部には当たらないというべきであるし,公知意匠と共通する いわばありふれた構成であっても,使用態様のいかんによっては需要者の注意を引\nき,要部とすべき場合もある。 すなわち,公知意匠との関係で新規性が認められれば,当然に要部とされるもの ではないし,新規性が認められる部分のみが要部となるわけでもなく,需要者に与 える美感を具体的に検討する以外にない。
仮に原告の主張する基本的構成(円形の電池部を中心に6枚のパッド片を左右対\n称2段3列に配置すること)をとった場合であっても,パッド片の形状やパッド片 をどのように結合するか,あるいはパッド片を区切る切込みの形状や深さをどのよ うにするかによって,需要者に与える美感は異なると考えられ,前記1の(1)及び(2) で認定した本件意匠に先行,後行する公知意匠を総合しても,本件意匠のパッド片 の形状等がありふれたものであるとか,需要者の注意を引くものではないというこ とはできない。 そうすると,本件意匠については,上記基本的構成のほか,各パッド片の形状,\n各パッドの結合方法(向き),各パッド間の切込みの形状や深さが全体として需要 者に一定の美感を与え,需要者の注意を引くというべきであるから,前記ウのとお り,これらについても本件意匠の要部と認めるのが相当である。 仮に,上記基本的構成のみが要部であり,その部分が共通でありさえすれば本件\n意匠と類似であると認められるとすると,パッド片の形状等がどれほど相違しても 本件意匠の類似の範囲内にあるとすることになるが,それは本件意匠権を,具体的 に得られる美感の観点を離れて抽象化,上位概念化することであり,原告の主張は 採用できない。
次に被告の主張について検討するに,前記1(1)及び(2)で認定した本件意匠に 先行又は後行する公知意匠を参照しても,前記2(2)アの基本的構成がありふれたも\nのであるとか,需要者の注意を引くものではないということはできない。 上記基本的構成は,各パッド片や切込みの形状とあいまって,全体として需要者\nに一定の美感を与え,需要者の注意を引くというべきであるから,上記基本的構成\nが本件意匠の要部には当たらないとする被告の主張は採用できない。
(3)類否の判断
ア 要部についての共通点
本件意匠の要部を前記(3)ウのように解すると,要部について本件意匠と被告意匠 が共通するのは,前記(1)ア(基本的構成態様)の(1)(本体シート状,6枚のパッド 片),(2)(2列3段,左右対称),(3)(略円形上の操作部)及び(4)(パッド背面の 電極)であり,少なくともその限度では,美感の類似性が認められる。
イ 要部についての相違点
本件意匠の要部を前記(3)ウのように解すると,要部における本件意匠と被告 意匠との差異点は,前記(1)ア(基本的構成態様)の(5)(パッド片の結合)及び(6)(左 右対称か上下対称か),並びに前記(1)イ(具体的構成態様)の(3)(上段,下段パッ ド片の形状,傾斜),(4)(中段パッド片の形状,傾斜),(5)(上下の切込みの形状, 深さ)及び(6)(左右の切込みの形状,開口の方向,深さ)ということになり,これ
本件意匠の美感と被告意匠
本件意匠は,中段パッド片が略横長隅丸4角形状で左右端が若干上に傾くように 配置され,上段及び下段パッド片は,略横長隅丸5角形状で,いずれも中段パッド 片との間に,略V字形の,深さが上段及び下段パッド片の2分の1程度の切込みが 設けられ,上段及び下段パッド片の各中央に略V字状の切込みが設けられているこ とから,各パッド片の各辺は概ね直線状となっていること,及び各パッド片の結合 する中心部分が略6角形状に見えることと合わせて,全体的に上向きでがっしりと した印象を与え,躍動感や力強さといった,原告商品を使用することによって達成 しようとする目標(鍛えられ6つに割れた腹筋)を想起させるものとなっている。 各パッド片の形状や切込みの形状は,機械的,幾何学的な形状と表現し得るもの\nであり,そのために先進的,未来的な印象を与えるものであるが,被告意匠からそ のような印象を受けることはない。
被告意匠の美感と本件意匠
被告意匠は,中央から左右端に向けて徐々に上下の幅が狭くなっている,略横長 隅丸台形状の中段パッド片の上下に,それぞれ上底又は下底が略弓形に湾曲してい る上段及び下段パッド片が略水平に配置されており,いずれも中段パッド片との間 に,先端部分を円弧状の頂点を有する細長い略3角形状の,切込みの深さが上段及 び下段パッド片の3分の1程度の切込みが設けられており,全体的に上下対称であ って,本体の輪郭線に曲線が多いこと,各パッド片の結合する中心部分が略柱状に 見えること,及び上部又は下部のパッド片の根元が湾曲形状部分に比べて細く引き 締まった印象を与えることから,全体的に,しなやかで柔らかく,引き締まった軽 快な印象を与える。 特に,上段パッド片について,中央の切込みが深くなく,左右のパッド片同士が 結合しているようにも見えること,上底が略弓形に湾曲していることから,一対の 羽根を広げた形状のような印象を受け,下段のパッド片がこれと上下対称となるよ う配置されていることは,独特の美感を生じさせているということができるが,本 件意匠にこのような要素はない。
まとめ
以上のように,本件意匠は,躍動感や力強さを感じさせる機械的,幾何学的な意 匠であるのに対し,被告意匠は,自然界に存在する羽根を想起させるやわらかで軽 快な印象を与える意匠であって,両者が与える美感の差異は大きく,この点は,前 記要部の共通点が存することによる美感の同一性を上回ると認められ,全体として 評価すると,本件意匠と被告意匠が与える美感は,需要者において区別可能な程度\nには異なるということができる。
(4)争点(2)の結論
前記前提事実のとおり,原告商品は被告商品に先行して販売され,前記1(3)アの 宣伝により,需要者に広く知られていると認められるから,被告商品を見た需要者 は,原告商品と同様の機能を有し,同様の用途に使用し得るEMS製品と考える可\n能性はあるものの,そのような広義の誤認混同のおそれは意匠法が規律するところ\nではなく,上記検討したとおり,本件意匠と被告意匠が与える美感が異なり,需要 者においてこれを区別することが可能である以上,被告意匠は本件意匠には類似し\nないというべきである。

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平成29(ワ)31544  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年8月30日  東京地方裁判所

 東京地裁40部は、技術的範囲に属すると判断し、102条2項に基づく損害賠償を認めました。

 上記グラフにおけるZn(青線)とPk(赤線)の線形性にほぼ差異はない 上,ZnとXcの差(Zn−Xc)のZnの値に対する比率((Zn−Xc)/Z n)は,Brix値が0%のとき約4.98%,10%のとき約3.82%, 20%のとき約2.75%,30%のとき約1.62%,40%のとき約1. 46%,50%のとき約0.99%であって,ZnとXcの値の差は全体的に かなり小さく,Zn≒Xcと評価しるものであって,そうすると,式(B)は, 重心であるZnの平均値を出しているにすぎないというべきである。 また,式(B)の分子の式(Zn+(Zn−Xc))については,(1)Xc値> Zn値の場合,(2)Xc値=Zn値の場合,(3)Zn値>Xc値の場合があり得るが, (2)の場合にはPkの値は重心位置と一致する上,上記計測結果のような(1)の 場合又は(3)の場合に,式(B)により算出されるPkの値(被告の主張によれ ば臨界角点)が理論上の臨界角点により近似することの合理的な説明はなさ れておらず,そのことを示す的確な証拠もない。そうすると,式(B)が臨 界角点を求めるものとしての技術的意義を有すると認めることはできず,む しろ,前記のとおり,ZnとXcの値の差は全体的にかなり小さく,Zn≒X cと評価し得るものであることを踏まえると,式(B)は重心であるZnの平 均値を出しているものというべきであり,さらに,被告製品において式(B) に基づき複数の試行を行っていることも,同製品が構成要件Eを充足すると\nの結論を左右しない。
ウ 式(C)について
本件発明における式(2)は,「Pc=Pc’+C」というものであると ころ,本件明細書等の段落【0035】〜【0038】,段落【0040】, 【0041】によれば,定数Cは,重心位置Pc’に加算して臨界角点Pc (=Pc’+C)を求めるための定数であり,屈折率が既知である試料を用 いた実験により予め決定された値であると認められる。そして,本件発明は,\nこのように式(1)と式(2)を組み合わせることにより,臨界角点を直接 求めるよりも,同点をより正確に求めることができるとの効果を奏するもの であると認められる。 他方,被告製品の用いている式(C)は,「ΔPc=PCT20−PC0」とい うものであるところ,被告製品説明書,証拠(甲7,8,乙1,9)及び弁 論の全趣旨によれば,PCT20は,式(A)により得られたZn値を式(B) により調整したPk値(前記判示のとおり,重心であるZnの平均値)を,2 0°Cの環境下での値に換算した値であるから,この値は,上記手順により調 整された光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置 のアドレス値(甲7・10頁における「ゼロセット後 10%測定」欄の「Bary T20」の値(30.146))であり,PC0は,20°Cの環境下で濃度0%の 水を用いて計測した重心位置のアドレス値(同頁における「水基準書き込み 後 水」欄の「CAL OffSet」の値(18.54758))であること,また, 水の屈折率は既知であるところ,被告製品の理論上の臨界角点のアドレス値 は18.50000であることが認められる。 そして,甲7によれば,被告製品は,(1)上記PCT20の値(上記「Bary T20」 の値)を入力し,(2)「Bary T20」の値から「CAL OffSet」(水書き込みアド レス値)を差し引いた値を計算する,(3)上記(2)の値をBrix値に換算し, 「Saccharin T20」(Brix値)を算出する,(4)ゼロセットオフセット値を 読み込む,(5)「Saccharin T20」(Brix値)から「ゼロセットオフ値」を 差し引き,その結果を「Brix Value」(Brix値)として算出する,(6)「Brix Value」(Brix値)を「Final Rfact」(屈折率)に換算するという順序 でプログラムが実行されているものと認められる。 上記のプログラム実行過程のうち(2)の計算式は,試料の重心位置のアドレ ス値である「Bary T20」(PCT20)の値から水の重心位置のアドレス値であ る「CAL OffSet」(PC0)の値を差し引くものであり,試料の重心位置のア ドレス値の原点を水の重心位置のアドレス値に改めるとの意味を有するも のであるところ,このPC0値(18.54758)は理論値(水の理論上の 臨界角点のアドレス値である18.50000)との差(0.04758) を含む値であるということができる。そうすると,上記(2)の計算式は,試料 の重心位置のアドレス値から水の重心位置のアドレス値を直接差し引くも のであるが,実質的には,PCT20及びPC0の双方から水の臨界角点の理論 値(18.50000)を控除していったん同理論値を原点とする試料の重 心位置と水の重心位置の各アドレス値を算出し,さらに前者から上記差の値 (0.04758)を調整しているに等しく,試料の重心位置のアドレス値 に,屈折率が既知である水を用いた実験により予め決定された定数(−0.\n04758)を加算する計算をしているのと同義であるということができる。 したがって,式(C)は,式(2)を充足する。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,式(1)と式(A)が形式的に異なっているから,被告製品は構\n
成要件Eを文言充足しないと主張する。 しかし,式(1)は,光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲 線)の重心位置Pc’を求めるものであって,式(A)と技術的思想を同じ くするものであり,かつ,式(A)は式(1)に変形し得るものであって, 当業者であれば,式(A)と式(1)が実質的に同一の式であると認識し得 るというべきである。 そうすると,式(1)の技術的範囲は式(A)を包含するものと認めるの が相当である。
イ 被告は,被告製品におけるZnは13回算出され,更にPkを5回算出して 臨界角点Pcを算出しているのに対し,本件発明は,重心位置Pc’を1回 算出し,これに定数Cを加えてPcを算出しているのであるから,技術的思 想が異なると主張する。 しかし,Znが重心位置を求める式であると認められるのは前記のとおり であり,これを13回にわたり求めて,平均値を算出するといった手法は当 業者が容易に採用し得る技術常識に属するものと解される。また,前記のと おり,式(B)が臨界角点を求めるものとしての技術的意義を有すると認め ることはできず,むしろ,重心であるZnの平均値を出しているものという べきであることは前記判示のとおりであるから,本件発明と被告製品の技術 的思想が異なるということもできないというべきである。
ウ 被告は,PC0はΔPcを算出するための基準数値にすぎないから定数Cに 対応する概念ではなく,ΔPcも本件発明の式(2)のPcに対応する概念 ではなく,フェーズが異なるなどと主張する。 しかし,ΔPcを算出する式(PCT20−PC0)が有する意義は前記のとお りであって,被告製品においても試料の重心位置につき差分を調整すること で臨界角点を求めている点で本件発明と変わりがないから,式(C)が式(2) と実質的に異なるということはできない。
エ 被告は,本件発明における式(2)に関し,Pc’は特定の装置における 測定値ベースの臨界角点であり,定数Cは当該装置毎の個体差を較正する値 にすぎないなどと主張する。 しかし,前記のとおり,式(1)により得られるPc’は光量分布曲線の 一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置であるから,臨界角点と は異なるものであって,本件発明がこれに定数Cを加えることで臨界角点を 求めるものであることは,前記判示のとおりである。
(4) 以上のとおり,被告製品は構成要件Eを充足し,また,被告製品が構\成要件 A〜D及びFを充足することは前記前提事実(3)ウのとおりであるから,被告 製品は,本件発明の技術的範囲に属する。
・・・
(1)特許法102条2項に基づく損害額について
ア 被告は,(1)平成28年9月9日から平成30年2月9日までの間に被告製 品を137個販売し,(2)その売上総額は204万4164円であり,(3)被告 製品1個当たりの製造原価は1万0249円であるが,(4)特許法102条2 項所定の被告の利益額を算出するに当たっては,(3)に加えて配送費合計16 00円を控除すべきと主張するところ,(1),(3)及び(4)については,当事者間 に争いがなく,証拠(乙10〜12)によれば,(2)の事実を認めることがで きる。 そうすると,原告の損害額は,特許法102条2項に基づき,63万84 51円(=204万4164円−(137個×1万0249円+1600円)) と推定される。被告がこれを超える利益を得たことを認めるに足りる証拠は ない。
イ 被告は,寄与率を考慮すべきと主張する。しかし,本件発明は,屈折率を 測定するための臨界角点の算定という,屈折計の本質的ないし根幹的技術に 関するものであって,その可分的な一部に関するものではないから,本件で 寄与率を考慮すべきとは認められない。被告主張の諸事情は,この結論を左 右しない。
(2) 弁護士・弁理士費用について
本件事案の難易,請求額及び認容額等の諸般の事情を考慮すると,被告の侵 害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金として6万円を認めるの が相当である。

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平成30(ワ)13400  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月11日  東京地方裁判所

 文言侵害不成立および、第1要件満たさないとして均等侵害が否定されました。

 原告は,本件発明1のうち,挿入力の増加の防止のための構成がその本\n質的部分であるとした上で,被告製品は少なくともその課題の解決原理を 利用しているのであるから,被告製品のサブアーム部にフック部が付属し ているかどうかにかかわらず,同製品は本件発明1の本質的部分を備えて いると主張する。 しかし,本件発明1は,特に車載用等のアンテナの仮固定用ホルダにつ いて,従来例の仮固定用ホルダでは抜け力が弱いという問題があり,他方, 抜け力を強くするために係止爪の引っ掛かり量を多くすると,挿入力が強 くなり作業性が悪化することから,挿入力は弱いままで,抜け力を強くす るという課題を解決するためのものであると認められる(本件明細書等の 段落【0009】,【0013】〜【0015】)。そうすると,本件発 明1の本質的部分は,挿入力は弱いままで,抜け力を強くするための構成\nにあり,従来技術との対比でいうと,特に抜け力の強化のための構成が重\n要であるというべきである。 そして,本件発明1は,上記課題の解決のため,(1)メインアーム部と, メインアーム部の下端部で繋がったサブアーム部を有し,(2)当該下端部が サブアーム部の撓みの支点となり,(3)サブアーム部の上端部を,上端に向 かって肉厚が増加する係止爪からなるものとすることなどにより,取付孔 への挿入性の向上を図るとともに,アンテナ上方向(抜け方向)に荷重が 加わったときは,係止爪が外側に撓んで拡がることにより抜け力の増大を 可能にするものであると認められる(特許請求の範囲,本件明細書等の段\n落【0017】,【0029】,【0032】,【0033】,【003 6】,【0037】)。
ウ 他方,被告製品においては,サブアーム部の爪部の上部にフック部が設 けられ,当該フック部と車体のルーフ孔の距離が0.3mmであると認め られるから(乙13),抜け方向に荷重が加わった際に,フック部は0. 3mm程度以上は撓むことなくすぐに車体のルーフの内側面に当たり,爪 部がそれ以上に外側に撓ることは抑制されるものと認められる。 そして,被告製品における抜け力に関し,被告が実施した実験結果(乙 5)によれば,本件発明1の実施品の抜け力は186Nであるのに対し, 被告製品の抜け力は,215.8N,227N,271N,295Nであ り,最小でも約30N,最大で約110Nの差が生じたことが認められる。 また,被告が実施した,被告製品のコの字型部材(サンプル(1))と,被告 製品のコの字型部材を加工してフック部を除いたもの(サンプル(2))を用 いた実験結果(乙14)によれば,前者の抜け力の平均値は227.60N,後者の抜け力の平均値は73.51N(いずれも10回実施)であり, フック部を備えたコの字型部材の方が,抜け力において約150N大きい ことが認められる。 前記のとおり,被告製品の爪部は外側への撓みが抑制されていると認め られるところ,これに上記の各実験結果を併せて考慮すると,被告製品は, 本件発明1の実施品に匹敵する抜け力を備えているということができ,そ の抜け力の大きさは,同製品がフック部を備えることに起因しているもの と考えるのが自然であり,少なくとも爪部の外部への撓みによるものでは ないということができる。
なお,原告は,乙14実験はサンプル(2)のフック部のカット加工の際に メインアーム部とサブアーム部の接続部の耐久性が損なわれた可能性が\nあるとして,乙14実験の信用性を争うが,サンプル(2)はフック部を爪部 からカットするものであり,上記接続部の耐久性が損なわれたことをうか がわせる事情は見当たらない。前記判示のとおり,乙14実験はサンプル (1)と(2)のそれぞれについて10回ずつ実験を行っているところ,数値にば らつきはあるものの,サンプル(1)は200N以上であり,サンプル(2)は概 ね60〜100程度であり,全体的に100N以上の差が生じていること に照らすと,その差が誤差や実験方法の不適切さに由来するものとはいう ことはできない。
エ 前記判示のとおり,抜け力の増大という課題を解決するための構成は本\n件発明1の本質的部分ということができるところ,本件発明1はこの課題 をアンテナ上方向(抜け方向)に荷重が加わったときに係止爪が外側に撓 んで拡がることにより解決しているのに対し,被告製品は爪部に加えてフ ック部を備えることにより抜け力を保持しているものと認められ,そうす ると,被告製品は本件発明1と異なる構成により上記課題を解決している\nということができる。
そうすると,本件発明1と被告製品はその課題解決のための特徴的な構\n成において相違し,本件発明1と被告製品との相違点は,この課題解決に 必要な構成に関するものであるから,同相違点は本件発明1の本質的部分\nに関するものであるということができる。
オ したがって,本件発明1と被告製品の相違点は,本件発明1の本質的部 分に関するものではないということはできないので,被告製品は第1要件 を充足しない。

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平成31(ネ)10035等  著作権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件  著作権  民事訴訟 令和元年9月18日  知的財産高等裁判所  静岡地方裁判所

 カラオケ店舗において、顧客が楽器演奏をすることができました。かかるカラオケ店舗の行為が著作権侵害かが争われました。知財高裁は、演奏権侵害と認定しました。1審はアップされていません。

 被控訴人は使用料規程により使用料を得ているのであるから,使用料規 程に従って算出される使用料相当額をもって,被控訴人の損害と認めるのが 相当である。 これに対し,控訴人らは,使用料規程のうち,入場料もなく無償で行わ れる著作物の演奏に対しても使用料を徴収する規定は,著作権法による保護 の範囲を超えており,憲法上の表現の自由及び幸福追求権などの権利を過度\nに制約するもので,公序良俗に反し無効であるし,本件におけるSUQSU Qでの演奏活動は著作権法の規制の範囲外のものであり,無償の範疇にあっ たと主張する。しかし,演奏権が及ばない場合については著作権法38条1 項が規定するとおりであり,使用料規程の内容に照らし,一般に演奏権が及 ぶ場合について使用料を規定したものであることは明らかであり,著作権の 保護範囲に関する控訴人らの主張は独自の見解であって採用できない。また, 控訴人らの行為が著作権法38条1項により演奏権が及ばない場合に該当し ないことは上記2(7)において説示したとおりであり,控訴人らの行為が著 作権法の規制の範囲外であるとの控訴人らの主張は失当である。 さらに,控訴人らは,使用料規程は具体性,合理性を欠くものであるこ とを主張する。しかし,使用料規程には,社交場として定義される施設にお いて,椅子又は座席以外の客席(客にダンスをさせるための場所を含む。) については面積を1.5m2で除した数を座席数とみなすことを含めた座席数 の算出方法,標準単位料金の算出方法(客1人あたりにつき通常支払うこと を必要とされる税引き後の料金相当額(いずれの名義をもってするかを問わ ない))が定められており,十分に具体性がある。また,著作権等管理事業\n者において締結する著作物の利用許諾契約の性質上,このような座席数及び 標準単位料金を基準に使用料を定めることにも合理性があるというべきであ る。 また,控訴人らは,損害額の算定に当たり,包括的利用許諾契約を締結 する場合の規定によるべきであるとか,本件店舗における生演奏はカラオケ と異ならないから使用料規程の別表7(2)記載の表中の2の区分が適用され\nるべきであるなどと主張するが,いずれも採用できない。
・・・
以上によれば,現SUQSUQに係る平成28年11月1日から 令和元年7月8日までの使用料相当額は139万3548円であり, 弁護士費用としては1割である13万9355円をもって相当と認め るから,その合計額は153万2903円である。
(ウ) 令和元年7月9日以降の損害ないし損失に係る請求について 将来の給付を求める訴えは,あらかじめその請求をする必要がある場 合に限り認められるところ(民訴法135条),継続的不法行為に基づ き将来発生すべき損害賠償請求権については,たとえ同一態様の行為が 将来も継続されることが予測される場合であっても,損害賠償請求権の\n成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具 体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定するこ とができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債 権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき 新たな権利成立阻却事由の発生として捉えてその負担を債務者に課する のは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起す ることのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当で ある(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決民集35巻10号13 69頁,最高裁平成19年5月29日第三小法廷判決集民224号39 1頁等参照)。 以上によれば,現SUQSUQにおける,控訴審の口頭弁論終結日の 翌日である令和元年7月9日以降の不法行為に基づく損害賠償請求ない し不当利得返還請求に係る訴えは不適法であり,却下を免れない。
(5) 控訴人らの主張について
控訴人らは,被控訴人による実態調査の方法そのものに大きな問題があ り,その調査結果の信憑性は低いと主張するが,そのようにいえないことは 前記1において引用した訂正された原判決説示のとおりである。 使用料規程によれば,座席の配置,実際の売上げや来店者数や椅子の利 用状況により使用料額が変動するものではないから,これらの点についての 控訴人らの主張は採用できない。また,控訴人らの主張する補助椅子がどの ような椅子を指すのかは明らかではないが,甲10,24,25,41,4 2からは,本件店舗の各店の座席数は31〜40席であったものと認めら れ,これを覆すに足りる証拠はない。 控訴人らは,平成29年11月21日から同年12月11日にかけての 利用状況や営業時間についての主張をするが,いずれもこれを裏付ける的確 な証拠はなく,上記認定を左右するものではない。 控訴人らのその余の主張も採用できない。
4 小括
以上によれば,被控訴人の拡張後の請求は,(1)差止請求,(2)金銭請求 のうち,i)控訴人Xにつき,平成20年6月18日から平成28年10月31 日までの著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償金合計から既払金を控除した 残額470万4605円(このうち51万3523円の限度で控訴人Yと連帯 して)及びこれに対する不法行為以後である同年12月14日から支払済みま で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,ii)控訴人Yにつき,平 成27年12月7日から平成28年10月31日までの著作権侵害の不法行為 に基づく損害賠償金51万3523円及びこれに対する不法行為以後である同 年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支 払(うち,51万3523円及びこれに対する平成28年12月14日から支 払済みまで年5分の割合による金員の限度で控訴人Xと連帯支払),iii)控 訴人らにつき,連帯して,同年11月1日から令和元年7月8日(控訴審口頭 弁論終結日)までの不法行為についての損害賠償金153万2903円の支払 を求める限度で理由があり,同月9日から管理著作物の使用終了に至るまでの 不法行為に基づく損害賠償金又は不当利得金の将来請求に係る部分は不適法で あり,その余の請求は理由がないことになる。
したがって,原判決中,(1)の差止請求を認容した部分,(2)iii)の控 訴人らに対する請求について,令和元年7月9日以降に生ずべき損害賠償金又 は不当利得金の支払を求める訴えを却下した部分は相当である。(2)の i)の 控訴人Xに対する請求に関する部分については,470万4605円(このう ち51万3523円の限度で控訴人Yと連帯して)及びこれに対する平成28 年12月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を超え て認容するのは相当でないから,本件控訴に基づき変更すべきことになる。 (2)の ii)の控訴人Yに対する請求に関する部分については,51万352 3円及びこれに対する同年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割 合による遅延損害金の支払(うち,51万3523円及びこれに対する平成2 8年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で控訴人X と連帯支払)を,(2)の iii)の控訴人らに対する請求のその余の部分につい ては,153万2903円の連帯支払を命じるべきであるから,本件附帯控訴 に基づき変更すべきことになる。また,仮執行宣言については,被控訴人が求 める限度で付するのが相当である。

◆判決本文

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平成31(行ケ)10036  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和元年9月18日  知的財産高等裁判所

 知財高裁3部は、不使用とした審決を取り消しました。

 ア まず,上記各書証の成立の真正についてみると,原本で提出されている もの(甲62から64まで,66,71)と写しが原本として提出されて いるもの(甲21,29から38まで,40,43,45,49,51, 52,65,67から70まで)とが存在する。そして,信用性の点につ き別途の検討を要するとしても,その記載内容や外観,この点に関する本 件審判手続の証人尋問におけるKの供述内容(甲58)によれば,当該各 書証の名義人として表示された者の意思に基づいて当該各書証が作成され\nたこと,すなわち各書証の成立の真正(写しを原本として提出する書証に ついてはその原本の存在も含む。)が認められる。
イ これに対し,被告は上記のとおり各書証の成立の真正を争うものの,被 告自身が名義人であるなど,被告がその作成過程を認識し得る書証は含ま れておらず,当該各書証に名義人として表示された特定の作成者の意思に\n基づかずに当該各書証が作成されたことについて具体的な事実関係を主張 するものではない。むしろ,被告の主張は,各書証の作成名義ではなく, その作成時期や記載内容の信用性を争うものである(前記第4の2(3)参 照)。そうすると,当該各書証の成立の真正に関する被告の主張は採用で きず,前記アの通り,前記(1)にみた各書証の成立の真正が認められる。
(3)次に,書証の信用性について検討する。
ア 前提として,各書証の作成経過についてみると,Kは,本件審判手続の 証人尋問(甲58)において,建設会社の従業員を辞めて事業を始める際 に,原告に相談したところ,原告から本件商標の使用を許されたため,平 成28年1月末頃から,「アンドホーム」の名称で,客から注文を受けて 建物の設計と建築をする住宅の事業を始めたこと,「アンドホーム」の名 称で,少なくとも3件の契約をしたこと,その3件の契約は,Kが,名刺 を渡して自己紹介をした上で,その注文者らと直接やりとりをしながら, 何度も資金計画表や建築図面等を修正して注文者らに提案し,最終的に契\n約書を交わして契約を締結したこと,上記建築図面は,K自らがラフな図 面を描いた上で他の設計士に依頼して作ってもらったこと,上記資金計画 表は全てKが作成したこと,資金計画表\の「建物の設計申請費用」とは,\n建築図面を作って市の検査に出すための費用であること,同表に記載され\nている「地盤改良工事費用」は,地盤調査費用及びその調査の結果土地が 軟らかいことが判明した場合に必要となる改良工事の費用が計上されてい ること,資金計画表の「建物工事費」及び消費税と,「建物付帯工事」費\n用の合計額から,先にもらっている「建物契約印紙費用」を引いて,「ア ンドホーム契約値引き(役員承認)」を引くと,契約書の請負代金額とな ること(なお,建物印紙の金額を足すかのような供述をするが,文脈に照 らし言い間違いであることは明らかである。),地盤調査は東昇技建に依 頼して行ってもらったこと,平成28年6月9日に「アンドホーム」から 「シンプルハウス」に名前を変えて法人化したこと,契約をした3件につ いてはいずれも建築工事を完了したことを供述する。 また,Kは,上記尋問において,建築確認申請書については,「アンド\nホーム」で出したか「シンプルハウス」で出したかは今手控えがないので 分からないとしつつも,平成28年6月9日以降,銀行との関係では, 「アンドホーム」で出した事前審査関係書類をシンプルハウス名義のもの に差し替えるなどしたが,役所の関係の申請等は現場監督がしていたので\n分からないなどという趣旨の供述をする。 そして,Kは,陳述書(甲19,50)においても,概ね同趣旨の供述 をしている。
イ 工事請負契約1に係る確認済証及びその添付書類一式(甲59)及び同 契約に係る建築計画概要書(甲60)は,行政官庁に提出され,行政官庁 において保管されていた文書の写しであるから,当該行政官庁に対して行 った手続の内容に関する証拠としては信用性が高いといえるところ,これ によれば,平成28年6月9日の建築確認申請の際にKが営業所名を「ア\nンドホーム」として手続をし,同月15日に営業所名を「株式会社シンプ ルハウス」に変更する手続をしたことが認められる。かかる事実は,前記 アのKの供述内容のうち,Kが,平成28年6月9日に「アンドホーム」 から「シンプルハウス」に名前を変えて法人化したが,それまでの間は 「アンドホーム」の名称で建物の建築等の事業を行っていたという,最も 重要な部分を裏付けるものである。 そうすると,前記アのKの供述内容のうち,「アンドホーム」の名称で の契約締結やその契約において提供した役務等に係る点については,上記 のとおり,重要な点において裏付けが存する上,その供述内容全体も,合 理的なものであって不自然な点は存しないから,基本的には信用できると いうべきである。 そして,本件では,工事請負契約1に関する契約書の写し(甲70)及 び工事請負契約3に関する契約書の原本(甲71)が提出されているとこ ろ,これらの各契約書の記載,特に注文者や建築時期等の記載は,上記工 事請負契約1に関する確認済証及び建築計画概要書の記載並びに工事請負 契約3に係る建物の登記事項証明書(甲56)及びその底地である土地の 登記事項証明書(甲55)といった各種公的書類の記載と合致しており, 少なくともこれらの契約が存在することが裏付けられている。 また,工事請負契約1及び3に関しては,契約の締結経過や役務の内容 に関する書証として,前記(1)ア及びウにみた各書証も提出されているとこ ろ,その作成時期及び記載内容は,上記契約書やKの供述と概ね合致して いる(例えば,工事請負契約書1及び3の工事請負代金についてみると, 工事請負契約書1の代金は,甲38記載の建物工事費にKの供述する計算 方法を適用したものと合致し,また,工事請負契約書3の代金も,同様の 計算方法を適用することにより,甲52の代金と概ね合致する。契約日に 近接する資金計画表は提出されていないが,これをもって本件において信\n用性が損なわれるものではない。また,工事請負契約3に係る地盤調査報 告書によれば,地盤改良工事は不要とされるところ,かかる地盤調査後に 作成された資金計画表(甲52)においても,なお地盤改良工事費用とし\nて7万9920円が計上されていることは,同書面における地盤改良工事 費用には,地盤調査の費用が含まれていることを裏付けるといえる。)。 注文者1及び3の陳述書(甲62,66)における陳述内容もこれに沿う ものである。
なお,これらの各書証にはマスキングされている箇所も存在するもの の,施工面積や敷地面積,把握できる建築場所等の記載を対照すると,各 資金計画表(甲30,31,33から35まで,38,43,45),各\n建築図面(甲29,32,36,37,40),保証書(甲64)が工事 請負契約1に関する書面であり,各資金計画表(甲51,52),保証書\n(甲69)及び地盤調査報告書(甲49)が工事請負契約3に関する書面 であると認められる。 以上によれば,少なくとも,工事請負契約1及び3に関する各工事請負 契約書(甲70,71),各資金計画表(甲30,31,33から35,\n38,43,45,51,52。以下,全てを指して「本件資金計画表」\nという。),各建築図面(甲29,32,36,37,40),各保証書 (甲64,69)及び地盤調査報告書(甲49)については,Kの供述又 は陳述(甲19,49,58)と相まってその信用性が認められる。ま た,注文者らの陳述書(甲62,66)についても,Kの供述及び陳述並 びに上記各書証と整合するものであるから,信用性が認められる。
(4) 被告の主張
ア 被告は,資金計画表や建築図面の注文者又は宛先がマスキングされてい\nることから証拠としての関連性がないと主張するが,工事請負契約1及び 3に関するマスキングされた各書証が,これらの契約に関する書面である と認められることは,前記(3)イで説示したとおりである。また,被告は, 写しが原本として提出されていることも問題とするが,写しであっても成 立の真正及び信用性が認められることは,前記(2)ア及び(3)イで説示したと おりである。
イ 被告は,資金計画表に書き込みがないことをもってねつ造であると主張\nするが,打ち合わせにおいて同表に書き込むことが打ち合わせの内容を記\n録する唯一の方法であるとはいえず,本件事情の下で,同表の信用性に疑\nいを抱かせるものではない。
ウ 被告は,原告が,当初,注文者の氏名等をマスキングしていたことをも って原告の提出する書証のねつ造を主張するが,注文者らと原告とは,K を介した希薄な関係しかないことに照らすと,原告が注文者らの個人情報 の開示を躊躇することも理解できる。本件においては,最終的に工事請負 契約1及び3についてマスキングを外した書証が提出され,各種公的書類 の記載等に照らし,各書証の成立の真正及び信用性が認められることは, 既に説示したとおりである。
エ 被告は,Kが要証期間に建築事務所として登録していなかったこと,K が建築工事中の看板に表示された標章についての供述を変遷させたこと,\nKが設計に関する供述を変遷させたことをもって,Kの本件審判手続の証 人尋問における供述及び陳述書の信用性を争う。しかしながら,Kは本件 審判手続において最初に提出した陳述書(甲19)の中で,当初から,設 計については一緒にやっている設計士がいること及び平成28年6月9日 になされた建築確認の申請の段階までは「アンドホーム」名で事業を行な\nっていたことを述べており,被告が指摘する証人尋問における供述の変遷 は,尋問におけるやりとりの中でそれを具体的に述べる際に,記憶の混乱 等が生じたものに過ぎないといえるから,Kの供述の信用性に疑いを生じ させるものとまではいえない。また,協力する設計士がいたことに照らす と,K自身が建築事務所として登録していなかったことは,Kが設計に関 与したとの供述の信用性に疑いを生じさせるものではない。
オ 被告は,原告提出の甲62から甲69の提出時期が遅いことなどをもっ て,提出の直前に作成されたものであるなどと主張する。書証の早期提出 が望ましいことはもちろんであるが,原告と注文者1及び3との関係が希 薄であることは前記のとおりであり,本件審決で本件商標が取り消された ことを受けて改めて協力を仰ぐなどしたとしても殊更に不合理であるとは 言い難い。なお,本件では,本件審判手続において提出されたKの陳述書 (甲19)においても言及されていた確認済証及びその付属書類一式が, 本件訴訟において甲59として原本で提出されて取り調べられており,そ の記載内容が,Kの供述の最も重要な部分を裏付けることは前記のとおり である。
カ 各書証の信用性を争うその他の主張も,信用性判断に関する上記認定を 左右するものではない。 したがって,各書証の信用性に関する被告の主張はいずれも採用でき ない。
(5) 以上の次第で,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認めら れる。
ア Kは,原告から本件商標の使用許諾を受け,平成28年1月頃から「ア ンドホーム」との名称を用いて,現場監督ができるもう一人の者ととも に,建築等の事業を開始した。(甲19,58)
イ Kは,平成28年4月7日,注文者1との間で,建物の建築工事を内容 とする工事請負契約1を締結し,同年9月20日頃,建物を完成させた。 かかる契約の締結の際,Kは,注文者1との間で,「アンドホーム」を請 負業者とする工事請負契約書1(請負代金額合計1302万3192円) を作成して,注文者1に交付した。(甲58,60,70)
ウ また,Kは,工事請負契約1に関して,土地を探すところから協力し, 少なくとも平成28年3月2日頃から同年5月14日頃にかけて,建物の デザインや設計についても注文者1と打ち合わせを複数回にわたって行 い,金銭面を含めて注文者1の要望を建築工事に反映させた。かかる打ち 合わせの際,Kは,「アンドホーム資金計画表」との標題が付された建築\n費用合計代金(3300万円台から3600万円台の金額である。)及び その内訳等を示す資金計画表(甲30,31,33から35,38,4\n3,45)や,建物の平面図や立面図が記載された建築図面を,打ち合わ せを踏まえた修正を加えつつ,複数回にわたり,注文者1に示すなどし た。 上記資金計画表のうち,作成日を平成28年3月23日以降とするもの\nについては,その右下に「◎土地契約時は土地手付け現金100万円+印 紙代…をご準備下さい。」,「◎建物契約時は建物手付け現金10万円+ 印紙代1万円…をご持参で当社にお越し下さい。」,「◎土地決済時に建 物着手金・上棟金として,1000万円を当社にお振り込み頂きま す。」,「◎最終の建物お引き渡し時に,残金を現金もしくはお振り込み 頂きます。」などと記載されている。 (甲29から38,40,43,45,58,62)
エ Kは,平成28年4月24日,注文者3との間で,建物の建築工事を内 容とする工事請負契約3を締結し,同年10月頃,建物を完成させた。か かる契約の締結の際,Kと注文者3は,「アンドホーム」を請負業者とす る工事請負契約書3(請負代金額合計1241万3270円)を作成して 注文者3に交付した。(甲56,58,71)
オ また,Kは,工事請負契約3に関し,ある程度土地が決まっている段階 で関与し始めて,少なくとも平成28年3月30日頃から同年5月29日 頃にかけて,建物のデザインや設計についても注文者3と打ち合わせを複 数回にわたって行い,金銭面を含めて注文者3の要望を建築工事に反映さ せた。 かかる打ち合わせの際,Kは,「アンドホーム資金計画表」との標題が\n付された建築費用合計代金(2600万円台から2700万円台の金額で ある。)及びその内訳等を示す資金計画表(甲51,52)や建築図面\nを,打ち合わせを踏まえた修正を加えつつ,複数回にわたり,注文者3に 示すなどした。 (甲51,52,56,58,66,71)
カ Kは,工事請負契約1及び3に関して,東昇技建に対し,地盤の調査を 依頼して,これを行わせた上で,その調査結果を注文者1及び3に説明し た。(甲19,50,58,62,64,66,69)
キ Kは,平成28年6月9日頃に株式会社シンプルハウスを設立し,「ア ンドホーム」との名称の使用をやめて,同月15日には工事契約1にかか る建築確認申請の工事施工者を,同社へと変更した。(甲19,58,5\n9,60)
2 取消事由2(Kによる本件商標の使用についての判断の誤り)について 原告は,Kが,前記1(5)カのとおり東昇技建に依頼して地盤の調査を行い, 同ウ及びオ記載の本件資金計画表を注文者1及び3に交付したことが商標法2\n条3項8号に該当し,「地質の調査」の役務について,本件商標を使用した (商標法50条2項)と主張するので,この点について検討する。
(1) まず,Kが,取消対象役務のひとつである「地質の調査」を提供したか否 かについてみると,Kは,前記1(5)カのとおり,工事請負契約1及び3に関 して,東昇技建に依頼して地盤調査を行うなどしている。 そして,前記1(5)イ及びエのとおり,Kは,「アンドホーム」の名称にて 工事請負契約1及び3を締結しているところ,これらの契約の前後に注文者 らに対して示した本件資金計画表において地盤改良工事費用の中に地盤調査\n費用が含まれており(前記1(3)イ参照),当該費用を含めた建築費用合計代 金の全額をKに支払うべきこととされて,現実に注文者らに対応したのは主 としてKであったことなどに照らすと,Kは,工事請負契約1及び3の締結 とともに地盤調査も含む当該工事に関する役務を一括して請け負ったものと 認められる。 そうすると,Kが東昇技建に依頼して行った地盤調査は,Kが注文者1及 び3から請け負った債務の履行としてされたものであるといえるから,Kが 「地質の調査」を提供したと認められる。
(2)次に,商標法2条3項8号の該当性についてみる。
本件では,Kが「地質の調査」の役務を提供することは,本件資金計画表\nの「地盤改良工事費用」「地盤調査の結果により工事費用が変動いたしま す。」などとの記載に表れており,本件資金計画表\は,上記役務に対応して 作成された見積書としての書面であるといえるから,上記役務に関する「取 引書類」に当たる。そうすると,前記1(5)ウ及びオのとおり,Kが,本件資 金計画表に,本件商標を付して,その作成日付頃(平成28年3月2日頃か\nら同年5月29日頃),それぞれ注文者1及び3に交付した行為は,商標法 2条3項8号所定の使用に該当する。
(3)これに対し,被告は,Kが本件商標を使用して工事請負契約1及び3を請 け負った後,実際に建築工事を開始した時点では,「シンプルハウス」へと 屋号を変更していたことなどをもって,取消対象役務を「アンドホーム」の 名称にて提供していないと主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,Kは,工事請負契約1及び3の締結と ともに地盤調査も含む当該工事に関する役務を一括して請け負ったものであ るところ,Kは,これらの契約に関して,平成28年3月2日頃から同年5 月29日頃にかけて,本件資金計画表を,注文者1及び3に交付しているか\nら,当該交付の時点で「アンドホーム」との標章に対する業務上の信用が発 生したといえる。その後,Kが,その事業について「シンプルハウス」との 名称に変更したとしても,かかる信用が,直ちに保護に値しなくなるもので はない。また,少なくとも工事請負契約3に係る地盤調査は,屋号変更前で ある同年5月25日に行われたことが明らかである。 したがって,Kは,「アンドホーム」との標章を取消対象役務のひとつで ある「地質の調査」について使用したといえる。
(4) また,被告は,Kによる本件商標の使用が名目的な使用であると主張す る。しかしながら,不使用取消に言及する被告から原告に対する連絡は平成 29年3月24日付けであって,Kが「アンドホーム」との標章を使用した 平成28年1月から同年6月頃までの期間よりも相当遅い時期であること (甲15)や,前記認定のKによる本件商標の使用態様に照らすと,Kによ る本件商標の使用が名目的な使用であるとまでは認められず,被告の主張は 採用できない。
(5)したがって,通常使用権者であるKが,要証期間内である平成28年3月 2日頃から同年5月29日頃にかけて,日本国内において,取消対象役務の ひとつである「地質の調査」について,本件商標を使用した(商標法50条 2項)と認められる。

◆判決本文

関連事件は下記です。

◆平成31(行ケ)1003

◆平成31(行ケ)10034

◆平成31(行ケ)10033

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平成31(行ケ)10005  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月19日  知的財産高等裁判所

 周知技術を適用する動機付けなしとして、CS関連発明について、知財高裁2部は、拒絶審決を取り消しました。

 前記2(1)のとおり,引用文献1には,「近年,コンテンツマネジメントシステム (以下,CMS(Content Management System)という) によりウェブアプリケーションとして公開するコンテンツを構築し,管理すること\nが行われている(例えば,特許文献1参照)。ところで,近年,ネイティブアプリケ ーションをダウンロードしてインストールすることができるスマートフォンが普及 している。スマートフォンのユーザは,ネイティブアプリケーションをインストー ルする場合,アプリケーションを提供する所定のアプリケーションサーバにアクセ スし,所望のネイティブアプリケーションを検索する。しかしながら,CMSによ って構築されるウェブアプリケーションは,ウェブサイトとして構\築されるため, 検索サイトの検索結果として表示されることがあるものの,アプリケーションサー\nバから検索することができない。したがって,アプリケーションサーバにおいてネ イティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開発したウェブアプ リケーションを利用してもらうことができないという問題がある。これに対して, CMSによって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブ アプリケーションを開発し,当該ネイティブアプリケーションをアプリケーション サーバにアップロードすることも考えられる。しかしながら,ネイティブアプリケ ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要であった。本発明は,ネイ ティブアプリケーションを容易に生成することができるアプリケーション生成装置, アプリケーション生成システム及びアプリケーション生成方法を提供することを目 的とする。」(段落【0002】,【0004】〜【0007】)と記載されており,同記載からすると,引用発明は,CMSによって構築されるウェブアプリケーション\nは,アプリケーションサーバから検索することができないため,アプリケーション サーバにおいてネイティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開 発したウェブアプリケーションを利用してもらうことができないこと及びCMSに よって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブアプリケ ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要となることを課題とし,同 課題を解決するためのネイティブアプリケーションを生成する装置であることが認 められる。 引用発明は,上記課題を解決するために,前記(1)アで認定したとおり,既存のウ ェブアプリケーションのロケーションを示すアドレスや所望の背景画像を示すアド レス等の情報を入力するだけで,当該ウェブアプリケーションの表示態様を変更し\nて,同ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブアプリケーシ ョンを生成できるようにしたものと認められる。
イ 被告は,携帯通信端末の動きに伴う動作を行うネイティブアプリケーシ ョンを生成すること,特に,PhoneGapに係る技術が周知であると主張する。
(ア) 前記アのとおり,引用発明は,アプリケーションサーバにおいて検索で きるネイティブアプリケーションを簡単に生成することを課題として,同課題を, 既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入力するだけで,同ウェブア プリケーションが表示する情報を表\示できるネイティブアプリケーションを生成す ることができるようにすることによって解決したものであるから,ブログ等の携帯 通信端末の動きに伴う動作を行わないウェブアプリケーションの表示内容を表\示す るネイティブアプリケーションを生成しようとする場合,生成しようとするネイテ ィブアプリケーションを携帯通信端末の動きに伴う動作を行うようにする必要はな く,したがって,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネ イティブ機能を実行するためのパラメータ」とする必要はない。もっとも,引用文\n献1の段落【0024】には,ブログ等と並んで「ゲームサイト」が掲げられてお り,ゲームにおいては,加速度センサにより横画面と縦画面が切り替わらないよう に制御する必要がある場合が考えられる(引用文献5参照)が,ウェブアプリケー ションとして提供されるゲームは,(1)常に携帯通信端末の表示画面を固定する必要\nがあるとはいえないこと,(2)加速度センサにより,携帯通信端末の姿勢に対応した 画面回転表示を制御する機能\は携帯通信端末側に備わっており,端末側の操作によ って,表示画面を固定することができ,そのような操作は一般的に行われているこ\nと,(3)引用文献1の段落【0024】の「ゲームサイト」は,携帯通信端末の表示\n画面を固定する必要のないブログ,ファンサイト,ショッピングサイトと並んで記 載されており,また,引用文献1には,加速度センサについて何らの記載もないこ とからすると,当業者は,上記の「ゲームサイト」の記載から,パラメータを「携 帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」とすることの必\n要性を認識するとまではいえないというべきである。 また,引用発明によって生成されるネイティブアプリケーションは,HTMLや JavaScriptで記述されるウェブページを表示できるから,引用発明によ\nり,乙4に記載されたHTML5 APIのGeolocationを用いて携帯 通信端末の動きに伴う動作を行うウェブアプリケーションの表示内容を表\示するネ イティブアプリケーションを生成しようとする場合も,生成されるネイティブアプ リケーションは,設定情報に含まれているウェブアプリケーションのアドレスに基 づいて,同ウェブアプリケーションに対応するウェブページを取得し,取得したウ ェブページのHTMLやJavaScriptの記述に基づいて,同ウェブアプリ ケーションの内容を表示でき,したがって,ネイティブアプリケーションの生成に\n際して,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ 機能を実行させるためのパラメータ」とする必要はない。\nさらに,被告主張周知技術に係る各種文献にも,引用発明の上記の構成の技術に\nおいて,「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に\n応じて設定ファイルを設定することの必要性等については何ら記載されていない (甲2〜5,7,8,乙1〜3)。
(イ) 前記アのとおり,引用発明は,簡易にネイティブアプリケーションを生 成することを課題として,既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入 力するだけで,当該ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブ アプリケーションを生成できるようにしたのであり,具体的には,前記(1)アのとお り,入力しようとするウェブアプリケーションのロケーションを示すアドレス及び 表示態様に基づいて,テンプレートアプリケーション111に含まれる設定情報の\n内容を書き換えるだけで目的とするウェブアプリケーションの表示する情報を表\示 できるネイティブアプリケーションを生成でき,テンプレートアプリケーション1 11に含まれるプログラムファイル113については,新たにソースコードを書く\n必要はないところ,証拠(甲3,5,7,乙1〜3)によると,PhoneGap によってネイティブアプリケーションを生成するためには,HTMLやJavaS cript等を用いてソースコード(プログラム)を書くなどする必要があるもの\nと認められるから,引用発明に,上記のように,新たにソースコードを書くなどの\n行為が要求されるPhoneGapに係る技術を適用することには阻害事由がある というべきである。
被告は,(1)PhoneGapでは,PhoneGapのプラグインの仕組みを使 って,GPSなど端末のネイティブ部分にアクセス可能であり,端末のGPS機能\ にアクセスすることで,GPSで取得した端末の現在位置が中心となるように地図 を表示することが可能\となるから,引用発明において地図表示アプリケーションを\n生成する際に,PhoneGapのフレームワークを採用することで,ネイティブ 機能であるGPS機能\が利用可能となり,携帯通信端末の動きに伴う動作を設定可\n能となり,また,(2)AndroidManifest.xmlに「android: screenOrientation =”landscape”」の1行を追加し たり(Androidの場合),「Landscape Right」又は「Lan dscape Left」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,スマー トフォンの画面を横画面に固定可能となり,縦画面に固定する設定を施す場合,A\nndroidManifest.xmlに「android:screenOri entation =”portrait”」の1行を追加したり(Android の場合),「portrait」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,ス マートフォンの画面を縦画面に固定可能となるから,引用発明において,アプリケ\nーションを生成する際に,PhoneGapのフレームワークを利用することで, 「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に応じて,\n携帯通信端末において実行される「アプリケーションの,携帯通信端末の動きに伴 う動作」を規定する設定ファイルを備えることとなると主張する。 しかし,上記のとおり,引用発明にPhoneGapの技術を適用することの動 機付けはないから,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
(ウ) 以上からすると,引用発明に,被告主張周知技術を適用することの動機 付けは認められないというべきである。

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令和1(行ケ)10104  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和元年12月26日  知的財産高等裁判所

 「EMPIRE」の文字部分の下部に二重線があり、その下部に少し小さな文字で「STEAK HOUSE」の文字部分で構成された商標(判決文中にあり)について、「EMPIRE」と類似するとした審決が維持されました。\n

 ア 本願商標は,別紙のとおり,上段に,左向きの金色の牛の全身を表した\n図形を配し,当該図形部分の下方に,「EMPIRE」の黒色の欧文字と 「STEAK HOUSE」の黒色の欧文字を上下2段に横書きに書して なり,上下2段の文字部分の間に文字部分と幅を揃えた赤色の二重線を配 してなる結合商標である。 本願商標は,牛の図形部分,「EMPIRE」の文字部分及び「STE AK HOUSE」の文字部分の各構成部分が相互に一定の間隔を空けて,\n重なり合うことなく配置され,上記各文字部分の間に赤色の二重線が配さ れていることから,各構成部分は,それぞれが独立したものであるとの印\n象を与え,視覚上分離して認識されるものと認められる。
イ 「EMPIRE」の文字部分は,目につきやすい中央部に,「STEA K HOUSE」の文字部分よりも大きく表され,「EMPIRE」の文\n字部分の語頭及び語尾の「E」の文字は当該文字部分を囲って強調するよ うに他の文字よりも大きく表されていること,「EMPIRE」の文字部\n分の下に配された赤色の二重線は,「EMPIRE」の文字部分と「ST EAK HOUSE」の文字部分との区切り線のような印象を与えるとと もに,「EMPIRE」の文字部分を強調する下線のような印象をも与え ていることに鑑みると,本願商標の外観上,「EMPIRE」の文字部分 は,牛の図形部分及び「STEAK HOUSE」の文字部分よりも,強 く印象づける特徴を備えている。 そして,「EMPIRE」の文字部分に相応する「empire」の語 は,「帝国」の意味を有する基本的な英単語として知られており(新英和 中辞典(第7版),広辞苑(第七版),大辞林第三版(甲2)),本願商 標の構成中「EMPIRE」の文字部分から「エンパイア」の称呼が生じ\nる。
ウ(ア) 本願商標の構成中「STEAK HOUSE」の文字部分に相応す る「steakhouse」の語は,「ステーキ専門店」(ジーニアス 英和辞典第5版(乙2)),「ステーキハウス」(新英和中辞典(第7 版))の意味を有する英単語である。 証拠(乙3ないし25,30)によれば,(1)「レストランにおける飲 食物の提供」をする業界において,「STEAK HOUSE」又は「S TEAKHOUSE」(ステーキハウス)の語は,例えば,「WOLF GANG’S STEAKHOUSE」(ウルフギャング・ステーキハ ウス)(乙3),「BENJAMIN STEAK HOUSE」(ベ ンジャミンステーキハウス)(乙4),「MORTON’S THE S TEAKHOUSE」(モートンズ ザ ステーキハウス)(乙5), 「RUTH’S CHRIS STEAK HOUSE」(ルースクリ ス ステーキハウス)(乙6),「OUTBACK STEAKHOU SE」(アウトバックステーキハウス)(乙7),「JACK’S S TEAK HOUSE」(ジャッキーステーキハウス)(乙8),「L a Paysanne(ステーキハウス ラ・ペイザン)」(乙9), 「STEAK HOUSE ライおン」(乙10),「ステーキハウス 牛の松阪」(乙11),「STEAK HOUSE US・6(ステー キハウスUS・6)」(乙12),「Steak House JOY BULL」(ステーキハウス ジョイブル)(乙13),「ステーキハ ウス 柳鳳」(乙14)などのように,「ステーキ専門店」を表す語と\nして用いられ,上記各店舗は,例えば,「ウルフギャング」(乙15), 「ベンジャミン」(乙15),「モートンズ」(乙16),「ルースク リス」(乙17),「アウトバック」(乙18),「ジャッキー」(乙 19),「ラ・ペイザン」(乙20),「ライおン」(乙21),「牛 の松阪」(乙22),「US・6」(乙23),「ジョイブル」(乙2 4),「柳鳳」(乙25)などのように略称される場合があること,(2) 「日本標準産業分類」(総務省,平成25年10月改定,平成26年4 月1日施行。乙30)には,「ステーキハウス」は,「飲食サービス業」 の一業態の「7629 その他の専門料理店」として例示,分類されて いることが認められる。
上記認定事実によれば,我が国において,「STEAK HOUSE」 又は「STEAKHOUSE」(ステーキハウス)の語は,「ステーキ 専門店」を表す語として一般に用いられていること,上記語が「ステー\nキ専門店」の店名の一部に含まれる場合には,上記語を除いて,当該店 名が略称される場合があることも普通であることが認められる。 そうすると,「STEAK HOUSE」の語が本願の指定役務中「レ ストランにおける飲食物の提供」に使用される場合には,「レストラン」 の業態の一つである「ステーキ専門店」を表示する語として一般に認識\nされるものと認められるから,本願商標の構成中「STEAK HOU SE」の文字部分は,自他役務を識別する標識としての機能が微弱であ\nるというべきである。
(イ) これに対し原告は,(1)「STEAK HOUSE」の文字は,「ス テーキ専門店」の意味を有することは否定しないが,もともとは造語で あり,我が国では,ステーキの主流は鉄板焼きステーキであり,牛肉を グリル板や炉で焼くレストランの業態の一つの「ステーキハウス」は, 日本全国でも数えるほどしかなく,「STEAK HOUSE」の文字 は,ごく限られた店が使用しているにすぎない,(2)「STEAK HO USE」の文字を使用する場合であっても,ANAインターコンチネン タルホテル東京のレストラン「THE STEAKHOUSE/ ザ・ス テーキハウス」(甲26,27)のように,「THE」と結合して全体 として特定の店名を指標する造語の成分として使用されている,(3)世界 的に有名な米国のグルメガイド「ZAGAT」(2012年(平成24 年)ニューヨーク版。甲1)のステーキハウスカテゴリーにノミネート されている70のレストランの中で「STEAK HOUSE」の文字 を店名に含む店は原告の店舗「EMPIRE STEAK HOUSE」 のみであるなどとして,「STEAK HOUSE」の文字を役務「飲 食物の提供」の一業態を表すものとして一般に用いられているものとは\nいえない旨主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,前記(ア)の認定事実に照らす と,「ステーキ専門店」において,「STEAK HOUSE」の文字 がごく限られた店が使用しているにすぎないということはできない。 また,上記(2)及び(3)の事実があるからといって,「STEAK HO USE」(ステーキハウス)の語が「ステーキ専門店」を表す語として\n我が国において一般に用いられていることを否定すべき理由にはならな い。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ 本願商標の構成中牛の図形部分は,別紙記載のとおり,本願商標の上段\nに位置し,下段の「EMPIRE」の文字部分及び「STEAK HOU SE」の文字部分が占める面積と同程度の面積を有し,その金色の色彩は 黒色の上記各文字部分とコントラストをなしている。 他方で,上記牛の図形部分から特定の象徴的な態様や特定のキャラクタ ―を看取できるとまではいえないこと,飲食店などの取引においては,提\n供される料理や食材などをモチーフにした図形を看板や広告などに表示す\nることは,一般的に採択されている手法であって,ステーキハウスを含む 牛肉などに関連した料理を提供する店舗においても,食材である牛の全身 又は一部をモチーフにした図形を用いることは,広く一般的に行われてい ること(乙31ないし40)に照らすと,本願商標に接した需要者は,上 記牛の図形部分は,「STEAK HOUSE」の文字部分と相まって「ス テーキハウス」(ステーキ専門店)で提供される食材の牛をモチーフにし た図形という印象を受けるものと認められる。 そうすると,本願商標の構成中牛の図形部分は,本願の指定役務中「レ\nストランにおける飲食物の提供」との関係においては,自他役務を識別す る標識としての機能が微弱であるというべきである。\n
オ 前記ア認定のとおり,本願商標中,牛の図形部分,「EMPIRE」の 文字部分及び「STEAK HOUSE」の文字部分の各構成部分は,外\n観上それぞれが独立したものであるとの印象を与え,視覚上分離して認識 されるものと認められるから,上記各構成部分を分離して観察することが\n取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認めら れない。 そして,前記イないしエ認定のとおり,本願商標の構成において,目に\nつきやすい中央部に配置された「EMPIRE」の文字部分は,牛の図形 部分及び「STEAK HOUSE」の文字部分よりも,外観上強く印象 づける特徴を備えており,「EMPIRE」の文字部分から「エンパイア」 の称呼及び「帝国」の観念が生じること,他方で,「STEAK HOU SE」の文字部分及び牛の図形部分は,本願の指定役務中「レストランに おける飲食物の提供」との関係においては,自他役務を識別する標識とし ての機能が微弱であることに鑑みると,本願商標は,「EMPIRE」の\n文字部分が,取引者及び需要者に対して上記役務の出所識別標識として強 く支配的な印象を与えるものと認められるから,本願商標から「EMPI RE」の文字部分を要部として抽出し,これと引用商標とを比較して商標 そのものの類否を判断することは許されるというべきである。 これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(2) これに対し原告は,本願商標のうち,「EMPIRE」の文字部分及び「S TEAK HOUSE」の文字部分は,「EMPIRE STEAK HO USE」の全体をもって造語としての店名を構成して識別の用に供され,「帝\n国のステーキハウス」,「帝政(時代)のステーキハウス」という観念を生 じさせ,そこから高級な,並外れたステーキハウスであることがアピールさ れているから,本願商標から「EMPIRE」の文字部分を分離して観察す ることは不自然であることからすれば,本願商標から「EMPIRE」の文 字部分を要部として抽出することはできないから,「EMPIRE」の文字 部分と引用商標とを比較して,商標そのものの類否を判断することは許され ない旨主張する。 しかしながら,前記(1)ウ認定のとおり,我が国において,「STEAK HOUSE」又は「STEAKHOUSE」(ステーキハウス)の語は,「ス テーキ専門店」を表す語として一般に用いられていること,上記語が「ステ\nーキ専門店」の店名の一部に含まれる場合には,上記語を除いて,当該店名 が略称される場合があることも普通であることに照らすと,本願商標のうち, 「EMPIRE」の文字部分及び「STEAK HOUSE」の文字部分は, 「EMPIRE STEAK HOUSE」の全体をもって造語としての店 名を構成して識別の用に供されているものと認めることはできないから,原\n告の上記主張は,その前提において理由がない。
2 本願商標と引用商標の類否判断の誤りについて
(1) 前記(1)の認定事実を前提に,本願商標の要部である「EMPIRE」の 文字部分と引用商標を対比すると,引用商標は,「EMPIRE」の標準文 字からなるのに対し,本願商標の「EMPIRE」の文字部分は,語頭及び 語尾の「E」の文字は当該文字部分を囲って強調するように他の文字よりも 大きく表されている点において,両者の外観は,同一とはいえないが,紛ら\nわしいものといえること,本願商標の「EMPIRE」の文字部分と引用商 標は,「エンパイア」の称呼及び「帝国」の観念が生じる点において,称呼 及び観念が同一であること,「STEAK HOUSE」の文字部分及び牛 の図形部分は,本願の指定役務中「レストランにおける飲食物の提供」との 関係においては,自他役務を識別する標識としての機能が微弱であることに\n鑑みると,本願商標全体の外観と引用商標の外観が相違することを考慮して も,両商標が上記役務と同一又は類似の役務に使用された場合には,その役 務の出所について誤認混同を生じるおそれがあるものと認められるから,両 商標は全体として類似しているものと認められる。したがって,本願商標は,引用商標と類似する商標である。
(2) これに対し原告は,(1)原告の店舗「EMPIRE STEAK HOU SE」は,2010年(平成22年)に米国のニューヨークで創業された著 名なレストランであり,引用商標の登録出願当時,ニューヨークで2店舗を 営業し,年間売上げ800万米ドルを計上し,例えば,ウォールストリート ジャーナル,ニューヨークポスト,abcニュース,CBSニューヨークな どの著名メデイアに取り上げられて確固たる知名度を獲得し,終始一貫して その文字の全体「EMPIRE STEAK HOUSE」をもって識別さ れており,決して「EMPIRE」として識別されていないこと,(2)原告が 平成29年10月17日に東京都六本木に開店した店舗「EMPIRE S TEAK HOUSE」は,大変な注目を浴びて各種のインターネット記事 (甲7ないし21)で取り上げられ,上記記事では,「EMPIRE」ある いは「エンパイア」と呼ばれることは一切なく,「EMPIRE STEA K HOUSE」あるいは「エンパイアステーキハウス」と呼ばれており, また,上記店舗は,「客単価」1万円を越える敷居の高い高級店であり,客 は,飛び込みで来店することはなく,事前に店舗のことを調べ予約してから\n来店することなどの取引の実情の下においては,上記店舗の店名を「EMP IRE」あるいは「エンパイア」と誤解することは皆無であるという取引の 実情があることを考慮すると,本願商標と引用商標は,同一又は類似の役務 に使用された場合に,当該役務の出所について混同が生じるおそれはない旨 主張する。
しかしながら,上記(1)の点は,米国所在の原告の店舗に関する事情を述べ るものであり,我が国における取引の実情を反映したものとはいえない。 次に,上記(2)の点については,原告が挙げるインターネットの記事(甲7 ないし21)では,「NY人気ステーキハウス上陸 「エンパイアステーキ ハウス」の実力」(「日経トレンディネット」のホームページ。甲7),「N Yの高級ステーキ「エンパイア ステーキ ハウス」が日本初上陸! 今秋、 六本木にオープン」(「asoview! NEWS」のホームページ。甲 9)などのように,原告の六本木の店舗「EMPIRE STEAK HO USE」が「エンパイアステーキハウス」として紹介されていることが認め られるが,上記記事は,本願商標を直接引用して紹介したものではないから, 本願商標に接した需要者,取引者に対し与える印象等と直接結びつくものと はいえない。
加えて,「NY発『東京ステーキ戦争』 人気店が続々出店,熟成肉が売 り」の見出しの下,「昨年には『ベンジャミン』と『エンパイア』が相次ぎ 六本木に出店した。」(2018年9月1日付けの「FujiSankei Business i.」。乙26),「ステーキ激戦区,六本木,熱々, 本場NY発VS.日本発,家族・友達とわいわい,気分はマンハッタン。」 の見出しの下,「六本木通りを挟んで反対側には10月,『エンパイア ス テーキ ハウス』が上陸する。…マンハッタンのエンパイアを訪れたことが あるNY在住の…」(2017年9月18日付け「日経MJ(流通新聞)。 乙27),「六本木ステーキ戦線に異状あり!NY発『エンパイア』上陸で 混戦模様に」(2017年9月5日付け)の見出しの下,「エンパイアは, ジャック,ジェフ,ラスのシナナジ兄弟が2010年に立ち上げたステーキ ハウス。」,「エンパイアが提供する価値とは…店のコンセプトは,ずばり 『NYにあるエンパイアの再現』であり,『本場のNYスタイルを楽しんで 欲しい』とのこと。」(「マイナビニュース」のウェブサイト。乙28), 「六本木が『ステーキの街』に大変身した必然」(2017年10月29日 付け)の見出しの下,「六本木,芋洗坂の中腹に10月17日に開業した『エ ンパイアステーキハウス六本木』」,「エンパイアは今回,初めてとなる海 外進出先に六本木を選んだ。」,「ウルフギャングの後に続くのは冒頭のエ ンパイアだけではない。」(「東洋経済ONLINE」のウェブサイト。乙 29)などと記載したインターネットの記事のように,原告の六本木の店舗 は,「エンパイア」と略称で表示される例も見受けられる。\nしたがって,上記(1)及び(2)の点は,本願商標と引用商標が同一又は類似の 役務に使用された場合に,当該役務の出所について混同が生じるおそれはな いことを基礎付ける取引の実情に当たるものと認めることはできないから, 原告の上記主張は採用することができない。

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平成30(行ケ)10174  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が取り消されました。理由は一致点を相違点と認定した引用発明の認定誤りです。

 原告は,本件審決が認定した本件発明2と甲5発明との相違点Aのうち, 甲5には,「頂部に設けられた横線シールは,前面パネルよりも裏面パネルに 近い側に位置し,かつ,裏面パネル側に倒され」る構成が開示されており,こ\nの構成に係る部分は相違点ではなく,一致点であるから,本件審決の上記認\n定は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 前記(1)の甲5の記載事項によれば,甲5には,「前面,裏面,側面,上 面及び底面を有し,上面が前面に向けて傾けられており,縦シール部分は 前面に設けられ,横シール部分が上面に設けられて裏面側に倒され,厚紙 の成形による折り込み片が上面上に折り畳まれている,厚紙の折り畳み式 包装容器」(甲5発明)が記載されていることが認められる。 また,甲5の「図1〜図4に示された包装容器1は,それ自体公知のよう に底と側壁と上壁領域とを有する被覆2からなる。包装容器は,上面が傾 けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器の形態で示されている。この 包装容器は,上面の領域に開口領域3を有している。」(5頁4行〜8行, 訳文5頁10行〜13行)との記載から,甲5の図1及び図4記載の包装 容器1は,「上面が傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器」である ことを理解できる。 そして,甲5の図1及び図4(別紙甲5図面参照)から,図4において左 右の三角形の折り込み片の頂点の上側に描かれている2個の小さな三角形 (別紙3−1の図4の拡大図参照)は,「横シール部分」を示したものと 認められる。
もっとも,甲5の図4には,2個の小さな三角形の間には「横シール部 分」は図示されていないが,一方で,(1)図4記載の包装容器1は,「上面が 傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器」であること,(2)本件優先 日当時(本件優先日平成12年7月31日),紙製包装容器において,横線 シールを横方向に横断的に設け,横線シールをする際に対向するシール領 域同士が同じ長さとなるような構造とすることは,技術常識であったこと\n(前記(2)イ),(3)甲5の記載によれば,甲5の包装容器は,「蓋要素によ り再閉鎖可能な開口を備え,該開口は,最初の充填後に初めて開放する前\nには,前記開口を取り囲む前記被覆材料と少なくとも接続された実質的に 平たい封印要素によって閉鎖されている包装容器」に関する考案(実用新 案登録請求の範囲の請求項1ないし14)であり,「横シール部分」は,請 求項1ないし14の考案特定事項とされていないから,図4において「横 シール部分」の図示が省略されたとしても不自然ではないことに照らすな らば,甲5の図4の2個の小さな三角形の間の下側には,横方向に横断的 に設けられた「横シール部分」が存在するが,その描写が省略されていると 理解できる。
加えて,甲5発明のように片流れ屋根形状(「前面」の高さが「裏面」の 高さよりも低い形状のもの)であって,「横シール部分」が横方向に横断的 に形成されている場合には,横線シールをする際に形成される折り込み片 (フラップ)において対向するシールが同じ長さとなるので(例えば,別紙 3−2の展開図中の「横線シール位置」との記載の直下の青色の点の両側 のシール部分(「30」及び「30」の記載に対応する部分)参照),設計 上,必ず「横シール部分」は後方寄り(「裏面」に近い位置)に位置するこ とになるものと認められることに照らすと,甲5には,甲5発明において 相違点Aに係る本件発明2の構成のうち,「頂部に設けられた横線シール\nは,前面パネルよりも裏面パネルに近い側に位置し,かつ,裏面パネル側に 倒され」る構成を備えていることが開示されているものと認められる。\nしたがって,相違点Aのうち,上記構成は,相違点ではなく,一致点であ\nるから,本件審決の相違点Aの認定には誤りがある。
イ これに対し被告は,別紙4のとおり,「横線シール」が前方寄りに位置す る「片流れ屋根形状」の容器の例が多数存在することからすると,「片流れ 屋根形状」であれば,設計上,必ず横線シールが後方寄りに位置することに なるものとはいえないから,甲5において,甲5発明の「横シール部分」が 「前面」よりも「裏面」に近い側に位置していることの開示があるものとは いえない旨主張する。
そこで検討するに,前記ア認定のとおり,甲5の図4記載の包装容器1 は「上面が傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器」であることに 照らすと,甲5発明の上面(「頂部」)の形状は,本件優先日当時の折り畳 み式包装容器の一般的な形状のものと理解するのが自然である。 しかるところ,別紙4の説明資料1の展開図により紙製包装容器を製造 するには,折り目線に沿って折り畳むに際して,水色の部分を内側に折り 込む工程がさらに必要となるものであり,甲5の記載を全体としてみても, 甲5記載の包装容器1において,このような展開図をあえて選択する必要 性は認められない。また,本件優先日当時,説明資料1に係る紙製包装容器 の形態が公知であったものと認めるに足りる証拠はない。 同様に,説明資料2の展開図により紙製包装容器を製造するには,折り 目線に沿って折り畳むに際して,折目線に沿って折り畳むに際して,紫色 の部分を外側に折り込む工程がさらに必要となるものであって,甲5の記 載を全体としてみても,甲5記載の包装容器1において,このような展開 図をあえて選択する必要性は認められない。また,本件優先日当時,説明資 料2に係る紙製包装容器の形態が公知であったものと認めるに足りる証拠 はない。
次に,説明資料3ないし5の展開図は,通常の長方形の形状の展開図と 比べ,複雑な形状の展開図である上,説明資料3ないし5の展開図により 紙製包装容器を製造するには,側面パネル上の三角形で示される折り込み 片を液体充填物が漏れないように接着するための工程がさらに必要となる ものであり,甲5の記載を全体としてみても,甲5記載の包装容器1にお いて,このような展開図をあえて選択する必要性は認められない。また,本 件優先日当時,説明資料3ないし5に係る紙製包装容器の形態が公知であ ったものと認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。
(4) 相違点Aの容易想到性の判断の誤りについて
本件審決は,相違点Aについて,(1)甲5発明の上面の横シール部分は,裏面 側に倒されているものの,前面よりも裏面側に位置するものではないし,甲 5の記載においても,展開図等で上面の横シール部分が裏面側に近い側に位 置することを示唆する記載はなく,しかも,「折り込み片」を上面に折り畳む ものであり,容器の裏面側の2隅を補強することについての記載もない,(2) 本件発明2は,片流れ屋根形状の頂部から「頂部成形による折り込み片が側 面パネル上に斜めに折り込まれ」るだけではなく,「頂部に設けられた横線シ ールは,前面パネルよりも裏面パネルに近い側に位置し,かつ,裏面パネル側 に倒され」という構成を合わせて備えることにより,裏面パネル側に倒され\nた「横線シール」を,容器頂部の背面側の2隅若しくはその近傍に対して近接 させて補強するものであり,単に,甲5発明において横線シールを側面側に 折り込むことのみで,本件発明2の構成に到達できるというものではないな\nどとして,本件発明2の相違点Aに係る構成は,当業者が容易に想到するこ\nとができたものではない旨判断した。 しかしながら,前記(3)認定のとおり,甲5には,甲5発明において,相違 点Aのうち,「頂部に設けられた横線シールは,前面パネルよりも裏面パネル に近い側に位置し,かつ,裏面パネル側に倒され」る構成を備えていることが\n開示されているものと認められるから,上記構成に係る部分は,相違点では\nなく,一致点であるから,本件審決の上記判断には,その前提において誤りが ある。

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平成31(行ウ)162  特許料納付書却下処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月23日  東京地方裁判所

 特許の訂正の登録がなされた登録日を年金納付期限の登録日と誤解したことを「正当理由」と主張しましたが、認められませんでした。

 原告は,本件特許権に係る特許料の納付期限を管理していたファイザー社の 担当者において,本件訂正時特許証の「登録日」欄の日付である平成25年9月3 0日が本件設定時特許証の「登録日」欄の日付である平成24年3月16日と異な っていたことから,特許料の納付期限の起算日となる本件特許権の設定登録日が本 件訂正時特許証のとおり訂正されたものと誤解し,本件期間徒過が生じたとし,(1) 特許料等に関する法107条ないし112条の3の各規定によって,訂正をすべき 旨の審決が確定しても設定登録日が変わらないことや特許証に複数の種類があるこ とを認識することはできないこと,(2)本件設定時特許証及び本件訂正時特許証には 「登録日」としか記載されていないため,どちらが本件特許権の設定登録日である か不明確であり,米国や欧州の実務と比べても,我が国の特許証の記載は紛らわし いものであること,(3)特許証の大半は設定登録時に発行されるものであるから,フ ァイザー社において,訂正すべき旨の審決が確定したときに発行される特許証が存 在することを当然に把握しておくべきであったとはいえないことなどに照らし,原 告には,本件期間徒過について法112条の2第1項所定の「正当な理由」が認め られる旨主張する。
(2) 本件特許権に係る特許料の納付期限を管理していた担当者は,原告の主張が 本件回復理由書及び本件審査請求書における主張(甲6,10)から変遷し,判然 としないが,ファイザー社の担当者において,前記のような誤解をしていたと認め られたとしても,以下のとおり,本件期間徒過について,原告が原特許権者として, 相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて追納期間内に特許料等を 納付することができなかったときに当たると認めることはできない。 ア すなわち,原告は,日本の特許権を保有していたのであるから,特許料の納 付等の管理を行うに当たり,一般に求められる相当な注意として,日本の特許法及 びその他の関係法令を理解しておくべきであるといえるところ,(1)特許料の納付期 限については,法107条,108条において,特許権の設定登録日から起算され ることが規定されており,訂正をすべき旨の審決が確定してその登録がされた場合 に特許権の設定登録日が変更される旨の規定は存在しないから,本件特許権につい て,本件審決が確定してその登録がされたからといって,特許権の設定登録日が変 更されないことは条文上明らかであること,(2)特許証の交付についても,法28条 1項において,特許権の設定の登録があったときに交付されることのほかに,訂正 をすべき旨の審決が確定した場合にその登録があったときなどにも交付されること が規定されていることなどからすると,担当者において,これらの規定を理解して いれば,本件訂正時特許証に「登録日」として「平成25年9月30日」と記載さ れていても,本件訂正時特許証に「この発明は,訂正をすべき旨の審決が確定し, 特許原簿に登録されたことを証する。」と記載されていることをも踏まえれば,上 記の「登録日」が本件審決の確定等に係る登録日を記載したものであり,特許料の 納付期限の起算日となる特許権の設定登録日が変更されたものではないと理解する ことは可能であったと認められる。\n
イ 本件訂正時特許証及び本件設定時特許証の「登録日」欄記載の年月日には1 年半ものずれがあり,特許権の設定登録日が訂正されたと考えることに疑念を生じ させるものであったといえるところ,特許権の設定登録日は,ウェブサイトに公開 されている特許情報や特許登録原簿等によっても確認することができるから,担当 者において,上記疑念を抱いて,相当な注意を尽くしてそのような確認をしていれ ば,本件特許権の設定登録日が変更されていないことを認識することは容易であっ たというべきである。
ウ 本件全証拠によっても,担当者において,本件訂正時特許証の「登録日」欄 の記載を上記アのように理解すること又は上記イのような確認をすることが困難で あったことをうかがわせる事情は認められない。
(3) したがって,本件期間徒過について法112条の2第1項所定の「正当な理 由」は認められない。
3 小括
以上によれば,本件納付書による特許料等の納付のうち,第4年分の特許料等に 係る部分について,本件期間徒過について法112条の2第1項所定の「正当な理 由」があるとはいえないとし,第5年分の特許料等及び第6年分の特許料に係る部 分について,第4年分の特許料等の追納が認められないために本件特許権は消滅し ているとして,本件納付書による追納手続を却下した本件却下処分が違法であると はいえない。

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平成30(行ケ)10161  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月2日  知的財産高等裁判所

 新規性無し(29条1項3号)とした審決が維持されました。3号で審取までいくのは珍しいですね。

 原告は,引用例から,「待機状態」から「操作可能状態」に遷移することは観念で\nきず,遷移を実行するための構成の開示もないから,本願発明に係る「遷移手段」を\n認定することはできないと主張する。 そこで判断するに,本願明細書の【0045】の記載によれば,本願発明の「待機 状態」とは,「例えば電源ケーブルを介して通電されているが,操作ができる状態と はなっていない場合」,又は,「利用者によりベッド動作の制限が行われている状態」 であると解される。 そして,引用発明の「キー6aが解放されず押し続けられている場合は,解放さ れるまで待機し,リモコン6のキー6aが解放され,さらに任意のキー6aを押し たときに,アクチュエータ4を起動する(STEP3)」構成によれば,電源を投入\nした後,STEP2で「キー6aが解放され」るまでの間は,本願発明の「待機状 態」に相当するということができる。 引用発明は,「キー6aが解放され」た後に,任意のキー6aを押せばアクチュエ ータ4を起動できる状態,すなわち,ベッドの操作が可能な状態になるから,キー\n6aの解放の前後で,「待機状態」から「操作可能状態」に遷移するということがで\nきる。また,本願発明の「遷移手段」は,「待機状態」から「操作可能状態」に遷移\nすることを手段として記載したものということができる。 したがって,引用発明が,キー6aの解放の前後で,「待機状態」から「操作可能\n状態」に遷移しているということができ,引用発明のリモコン6は,「遷移手段」に 相当する構成も当然に備えている。\n以上によれば,引用例には,本願発明における「待機状態から,操作可能状態に遷\n移させる遷移手段」の開示があることになるので,引用例から本願発明の「遷移手 段」を認定することができる。これと異なる旨をいう原告の主張は理由がない。
オ 構成要件B(待機状態)について\n
(ア) 引用発明の「リモコン6」が,「電源を投入した後」,STEP1及び2を経 て,「リモコン6のキー6aが解放され」るまでの間は,「アクチュエータ4を起動 する」ことができない状態であることは,本願発明の「ベッド操作装置は,通電され ると待機状態とな」ることに相当する。
(イ) 本願発明との対比判断の誤りをいう原告の主張について
原告は,引用例には本願発明の「待機状態」の開示がないと主張する。 しかしながら,本願発明の「待機状態」とは,前記エ(ウ)で説示したとおり,「例 えば電源ケーブルを介して通電されているが,操作ができる状態とはなっていない 場合」,又は,「利用者によりベッド動作の制限が行われている状態」であると解さ れる。これまでに説示したとおり,本件審決の引用発明の認定には誤りがないと認 められるところ,引用発明の「キー6aが解放されず押し続けられている場合は, 解放されるまで待機し,リモコン6のキー6aが解放され,さらに任意のキー6a を押したときに,アクチュエータ4を起動する(STEP3)」構成によれば,電源\nを投入した後,STEP2で「キー6aが解放され」,その後「さらに任意のキー6 aを押」すまでの間は,アクチュエータ4の動作を行うことができない。このよう に,電源を投入した後,STEP2で「キー6aが解放され」るまでの間は,アクチ ュエータ4の操作ができる状態にないのであるから,この間,リモコン6は「待機 状態」にあるということができる。 したがって,引用例には,本願発明における「待機状態」の開示があるものと認め られ,これと異なる旨をいう原告の主張は理由がない。

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平成30(行ケ)10108  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月2日  知的財産高等裁判所

 動機付けありと認定されたものの、組み合わせても本件発明の構成までは想到しないとして、進歩性無しとした拒絶審決が取り消されました。\n

 イ 引用発明への甲2技術の適用
しかしながら,仮に引用発明に甲2技術を適用しても,甲2には,前記有機系廃 棄物の固形物上にトバモライト構造が層として形成されることの記載はないから,\n相違点2’に係る「前記重金属類が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモ ライト)構造」が「前記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されると\nの構成には至らない。\nこの点につき,本件審決は,引用発明に甲2技術が適用されれば,「前記重金属類 が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造」が「前記有機系廃\n棄物の固形物上に」いくらかでも「層」として「形成」されて,重金属の溶出抑制を 図ることができるものになる旨判断し,被告は,生成した造粒物の表面全体をトバ\nモライト結晶層で覆うことになるのは当業者が十分に予\測し得ると主張する。しか しながら,特開2002−320952号公報(甲8)にトバモライト生成によっ て汚染土壌の表面を被覆することの開示があるとしても(【0028】,図1。図1\nは別紙甲8図面目録のとおり。),かかる記載のみをもって,トバモライト構造が「前\n記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されることが周知技術であった とは認められず,被告の主張を裏付ける証拠はないから,引用発明1に甲2技術を 適用して相違点2’に係る本願発明の構成に至るということはできない。\n

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平成30(ワ)32519等  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和元年10月30日  東京地方裁判所

 YouTubeに対する発信者情報開示請求が一部、認められました。なお、利用者の住所(本件発信者情報2−2)については、動画投稿の際に登録が必要となるアカウントとは独立した異なるものであるとして、認められませんでした。

 原告は,被告グーグルが本件発信者情報2−2を保有している旨主張する。 しかしながら,被告グーグルは,原告の上記主張を否認しており,他に被告グー グルが本件発信者情報2−2を保有していることを認めるに足りる的確な証拠はな い。 この点,証拠(甲6,7,乙5〜8)及び弁論の全趣旨によれば,本件サイトへ の動画投稿により広告収入を得ようとする利用者は,支払を受ける住所を登録して Google AdSenseアカウントを開設する必要があり,同アカウントの 中には被告グーグルが管理するものがあるが,同アカウントは,本件サイトへの動 画投稿の際に登録が必要となるアカウントとは独立した異なるものであることが認 められる。そうすると,本件各投稿者が本件各動画の投稿により広告収入を得る目 的でGoogle AdSenseアカウントへの登録をし,その結果,被告グー グルが本件各投稿者に係る支払先住所に係る情報を管理していたとしても,同情報 は,本件各動画の投稿に用いられた各アカウントを登録するために用いられたもの には該当しないから,被告グーグルが本件発信者情報2-2を保有しているというこ とはできない。 よって,原告の主張は採用することができない。

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令和1(行ケ)10101  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和元年12月19日  知的財産高等裁判所

 「南三陸キラキラ丼」が4条1項10号、15号、19号違反の無効理由があるのかが争われました。知財高裁4部は、いずれも無しとした審決を維持しました。

 前記(1)アないしウの認定事実を総合すると,(1)南三陸町飲食店組合の組 合員であるホテル及び飲食店6店舗(原告及び被告を含む。)は,平成2 1年12月から「南三陸キラキラいくら丼」の標章を使用し,イクラを中 心の食材とした南三陸産の具材を含む丼物の提供を開始した後,南三陸キ ラキラ丼シリーズ第2弾として「南三陸キラキラ春つげ丼」の標章を使用 し,春が旬の地元の魚介類や野菜を中心の食材とした丼物の提供を,南三 陸キラキラ丼シリーズ第3弾として「南三陸キラキラうに丼」の標章を使 用し,ウニを中心の食材とした南三陸産の具材を含む丼物の提供を,南三 陸キラキラ丼シリーズ第4弾として「南三陸キラキラ秋旨丼」の標章を使 用し,地元の魚介類と米を中心の食材とした丼物の提供を,提供店を網羅 した共通のパンフレットを作成したり,共同で試食会を行うなど共同で 広告宣伝をしながら,順次行うことによって,南三陸産の具材を含む丼物 の提供を南三陸キラキラ丼シリーズとして観光キャンペーン化し,同月か ら平成22年12月末までの約1年間で合計約4万5000食を売り上 げ,この間提供店は,6店舗から8店舗に増加したが,いずれも南三陸町 飲食店組合の組合員であったこと,(2)提供店は,共通の問合せ先を南三陸 町観光協会内の「南三陸時間旅行サポートセンター」とするなど南三陸町 観光協会から支援を受けながら,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペー ン活動を行い,そのキャンペーン活動は,南三陸町のウェブサイト,南三 陸町観光協会作成のパンフレット,「宮城・仙台」の観光キャンペーン のガイドブック等に掲載され,新聞等の報道や旅行雑誌等による広告宣 伝が行われ,その報道等の中には,南三陸町飲食店組合の取組として紹介 されているものが見られたこと,(3)平成23年3月11日の東日本大震災 により,南三陸町は被災し,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペーン活 動は一時中断したが,平成24年2月25日の仮設商店街のオープンに合 わせて,南三陸町飲食店組合の組合員である同仮設商店街で営業を再開し た店舗及び「南三陸ホテル観洋」など9店舗で,「復活 南三陸キラキラ 丼」と称して,南三陸産の具材を含む丼物の提供を行うようになり,その キャンペーン活動が震災によって大きな被害を受けたと広く知られていた 南三陸地域の復興と関連付けて,新聞やテレビ放送等により報道されたこ とが認められる。
上記認定事実によれば,本件商標の登録出願時(平成24年11月29 日)までに,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペーン活動及びその報道, 広告宣伝等により,南三陸キラキラ丼シリーズの丼物は南三陸産の具材を 含む丼物として知名度が高まり,南三陸キラキラ丼の標章は,本件商標の 登録出願時には,少なくとも宮城県及びその近隣県において,南三陸町飲 食店組合の組合員の取扱いに係る丼物の提供を表示するものとして,需要\n者の間に広く認識されていたことが認められる。 そして,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペーン活動は,当初は南三 陸町飲食店組合の組合員の有志の団体による取組として始まったが,南三 陸町観光協会から支援を受けて進められ,南三陸キラキラ丼シリーズの丼 物の提供店は震災の前後を通じていずれも南三陸町飲食店組合の組合員で あったことなどから,次第に,南三陸町飲食店組合の取組として受け止め られるようになり,遅くとも本件商標の登録出願時には,南三陸町飲食店 組合は,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペーン活動を組合の事業活動 として位置づけていたものと認められるから,本件商標の登録出願時点に おける「南三陸キラキラ丼」の標章の使用主体は,南三陸町飲食店組合で あったものと認めるのが相当である。 これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ(ア) これに対し原告は,「南三陸キラキラ丼」の標章は,「原告の発案 したキャンペーンに賛同して参加した南三陸町内のホテルや飲食店の集 まり」によって使用された結果,本件商標の登録出願時には,少なくと も宮城県及びその近隣県において,上記南三陸町内のホテルや飲食店の 集まりの取扱いに係る丼物の提供を表すものとして周知性を獲得したも\nのであるから,上記南三陸町内のホテルや飲食店の集まりが,本件商標 の登録出願時点における「南三陸キラキラ丼」の標章の使用主体である 旨主張する。
そこで検討するに,原告の経営する「南三陸ホテル観洋」が平成21 年11月から,「南三陸キラキラいくら丼と鮑踊り焼プラン」という名 称の一泊二食付き宿泊プランの提供を開始した後に,原告を含む南三陸 町飲食店組合の組合員である6店舗が同年12月から「南三陸キラキラ いくら丼」の提供を開始したこと(前記(1)イ(ア)),原告は,その頃か ら本件商標の登録出願時まで,原告が運営する「南三陸ホテル観洋」の ウェブサイト等で「南三陸キラキラ丼」シリーズのキャンペーン等に関 する広告宣伝を行ってきたこと(甲2,8,9,16,22の1ないし 3,23の1ないし19,25の1ないし5),2010年(平成22 年)5月16日付けの三陸新報(甲7)に,「好評「キラキラ丼シリー ズ」南三陸町」の見出しの下に,「南三陸町飲食店組合の有志が地域産 食材を使って提供している「南三陸キラキラ丼シリーズが好評だ。…テ レビ局の取材も相次いでおり,“日本一の丼のまち”を目指す取り組み がこれからのまちづくりにどう生かされるのか。地域活性化の鍵を握っ ている。」,「「キラキラ丼」シリーズの“火付け役”となったのは, 南三陸ホテル観洋の女将・Aさん。」などと記載した記事が掲載された ことからすると,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペーン活動の立ち 上げ当初には,原告の積極的な関与があったことがうかがわれる。 しかしながら,これらの事実から直ちに「南三陸キラキラ丼」の標章 が本件商標の登録出願時において需要者の間で「原告の発案したキャン ペーンに賛同して参加した南三陸町内のホテルや飲食店の集まり」の 取扱いに係る丼物の提供を表すものとして広く認識されていたものと\n認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) また,原告は,関連訴訟判決が「南三陸キラキラ丼」の標章(「引 用商標2」)の使用主体として認定した「南三陸町地域を中心とする 飲食店の団体」には,「南三陸町飲食店組合」だけでなく,「南三陸 町観光協会」,「南三陸商工会」,「南三陸志津川復興名店運営組合」 等の複数の団体が存在するから,「南三陸町飲食店組合」が使用主体で あるとした本件審決の判断は,確定した関連訴訟判決とも矛盾・抵触す るものであって,誤りである旨主張する。 しかしながら,関連訴訟判決は,「南三陸キラキラ丼」の標章を用い た使用主体を,その時期に応じて,第一段階から第三段階に分けて検討 し,そのいずれについても,同一の団体が使用主体である旨を認定した ものであるが,原告が主張する複数の団体のうち,「飲食店」の団体は, 南三陸町飲食店組合のみである。 加えて,前記ア認定のとおり,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペ ーン活動は,当初は南三陸町飲食店組合の組合員の有志の団体による取 組として始まったものが,そのキャンペーン活動が進められる中で,次 第に,南三陸町飲食店組合の取組として受け止められるようになり,遅 くとも本件商標の登録出願時には,南三陸町飲食店組合は,南三陸キラ キラ丼シリーズのキャンペーン活動を組合の事業活動として位置づけて いたものと認められるから,関連訴訟判決がいう「南三陸町地域を中心 とする飲食店の団体」は,本件商標の登録出願時点においては,南三陸 町飲食店組合を指すものとみても不合理ではない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 被告と南三陸町飲食店組合を同一人として取り扱うのが相当であるとし た判断の誤りについて
ア 前記(1)ア(イ)及びウの認定事実によれば,南三陸町飲食店組合は,南三 陸町の地域に住所を有し,料理店,その他飲食店の許可を受けた者を組合 員とし,組合員相互の信頼と親睦の上に経営の安定,公衆衛生の向上に努 め職域を通じて社会に奉仕することを目的とする組合であって,法人格を 有していないが,団体としての組織を備え,多数決の原則が行われ,構成\n員の変更にかかわらず団体そのものが存続し,代表の方法,総会の運営,\n財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものと認められる から,権利能力のない社団(権利能\力なき社団)であることが認められる。 そして,前記(1)ウ及びエ(ウ)の認定事実によれば,(1)平成24年10月 26日開催の南三陸町飲食店組合の執行部会議において,南三陸町飲食店 組合が「南三陸キラキラ丼」の標章の商標登録を受けることの提案に関し, 南三陸商工会及び宮城県商工会連合会を通じて紹介を受けた宮城県発明協 会の担当者から,南三陸町飲食店組合は任意団体であるため,商標登録出 願は代表者個人で行うこと,出願及び登録費用などについての説明を受け,\nさらに,同年11月13日の会議において,上記担当者から,商標登録制 度の概要等について説明を受けるなどした後,同月16日の会議において, 当時の組合長であった被告個人名義で本件商標の商標登録出願を行うこと が決められたこと,(2)被告は,同月29日,本件商標の商標登録出願をし, 平成25年5月2日,その商標登録を受けたが,その商標登録出願に際し, 本件商標が南三陸町飲食店組合の業務に係る商品又は役務に使用すること を証明するための書類として被告と南三陸町飲食店組合との関係等を示し た被告作成の上申書(甲32の2)及び南三陸商工会E会長作成の平成2\n4年11月28日付けの「南三陸町飲食店組合「南三陸キラキラ丼」の取 組と経緯について(ご説明)」と題する書面(甲32の3)を提出したこ と,(3)平成25年5月17日開催の南三陸町飲食店組合の平成25年度通 常総会において,「南三陸キラキラ丼」について本件商標の商標登録が完 了したことなどの事業報告が行われ,承認されるとともに,「商標登録の 仕様基準」の作成に伴う規約の一部改正の承認の件が議案として提出され, 規約の一部改正について承認された後,同年6月4日に開催された南三陸 町飲食店組合の臨時総会において,仕様基準が承認されたこと,(4)上記仕 様基準には,本件商標について,登録名義人である組合長が退任した場合 には,新たに選任された組合長名義で登録の変更等の申請を行うことの定\nめがあることが認められる。 上記認定事実によれば,被告は,権利能力のない社団である南三陸町飲\n食店組合の代表者として,南三陸町飲食店組合のために本件商標の商標登\n録出願をし,その登録を受けたこと,南三陸町飲食店組合は,本件商標の 商標登録出願及びその商標登録について,総会の決議で承認していること が認められるから,本件商標権は,実質的には南三陸町飲食店組合が有し ているものと認められる。 そうすると,本件商標の商標登録出願及びその商標登録に関しては,被 告と南三陸町飲食店組合とは同一人とみなして取り扱うのが相当であるか ら,前記(2)ア認定の使用主体を南三陸町飲食店組合とする「南三陸キラキ ラ丼」の標章は,本件商標との関係では,「他人」の「業務に係る商品若 しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又\nはこれに類似する商標」に該当するものと認めることはできない。 したがって,本件商標は,その余の点について判断するまでもなく,商 標法4条1項10号に該当しない。 これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ これに対し原告は,(1)商標法上,法人格を有することが商標登録を受け るための要件とされており(7条参照),権利能力なき社団が商標登録を\n受けることは認められていないから,被告が「南三陸町飲食店組合」の組 合長であるからといって,被告個人の本件商標の商標登録の効力が,権利 能力なき社団である「南三陸町飲食店組合」の構\成員に及ぶことはあり得 ないこと,(2)本件商標の商標登録出願前に,被告の個人名義で本件商標の 商標登録出願を行うことについての総会決議や本件商標の仕様内容,使 用方法,使用できる者の範囲,企画,広報,予算などの取決めがされて\nおらず,被告は,独断で本件商標の商標登録を受け,事後的な報告をし たというのが実態であること,(3)被告が南三陸町飲食店組合の代表者を\n退任した後においても,未だに被告個人名義で本件商標の商標権を保有 していることからすると,被告は,南三陸町飲食店組合を代表して本件商\n標の商標登録出願をし,その登録を受けたということはできず,南三陸町 飲食店組合の一構成員である被告が個人として本件商標の商標登録出願を\nし,その登録を受けたというべきである旨主張する。 しかしながら,上記(1)の点については,商標法上,法人格を有すること が商標登録を受けるための要件とされており,権利能力のない社団が商標\n登録を受けることは認められていないが,権利能力のない社団の意思決定\nに基づいてその代表者の個人名義で商標登録出願をし,商標登録を受け,\nその登録商標を権利能力のない社団の財産として管理することは許容され\nるものと解される。この場合,実体的には,当該登録商標の商標権は,権 利能力のない社団の構\成員全員に総有的に帰属し,実質的には,当該社団 が有しているとみることができるから,当該登録商標の商標登録の効力が, 権利能力のない社団の構\成員に及ばないとはいえず,本件商標も,これと 同様である。 次に,上記(2)の点については,本件商標については,南三陸町飲食店組 合の執行部会議等による協議を経た上で,本件商標の商標登録出願に至っ たものであり,その商標登録後ではあるが,南三陸町飲食店組合の総会決 議で承認されていること,南三陸町飲食店組合は,本件商標の商標登録後, 総会決議で,本件商標の仕様基準を定めていることに照らすと,被告が, 独断で本件商標の商標登録を受けたということはできない。 さらに,上記(3)の点については,被告と南三陸町飲食店組合は,被告と 南三陸町飲食店組合のF組合長間の令和元年9月26日付け確認書に基づ いて,本件訴訟が終了するまでの間,本件商標の登録名義を被告名義とし ておくことを合意し,被告は,南三陸町飲食店組合に対し,本件訴訟終了 後,本件商標の登録名義を同訴訟終了時の同組合の組合長個人名に移転す ることを約していること(前記(1)エ(ウ))に照らすと,被告が南三陸町 飲食店組合の組合長を退任した後に本件商標の商標権の移転登録をして いないからといって,被告が南三陸町飲食店組合を代表して本件商標の商\n標登録出願をしたとの認定を覆すことはできない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。

◆判決本文

 判決中の拒絶審決が維持された審取は下記です。

◆平成28(行ケ)10245

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令和1(行ケ)10074  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月23日  知的財産高等裁判所

 訂正要件を満たすとともに、進歩性違反無しとした審決が維持されました。

 本件訂正は,請求項1における「前記LED基板に搭載されるLEDの個 数を,順方向電圧の異なるLED毎に定まるLED単位数の最小公倍数とし ている光照射装置。」を,「前記LED基板に搭載されるLEDの個数を,順 方向電圧の異なるLED毎に定まるLED単位数の最小公倍数とし,複数の 前記LED基板を前記ライン方向に沿って直列させてある光照射装置。」に訂 正するものである。 そして,原告は,本件訂正は,本件訂正前は1枚のLED基板についての 発明であったものを,複数のLED基板をライン状に直列させて所望の長手 方向の長さの製品を得るという発明に変質させるものであり,実質上特許請 求の範囲を拡張し,又は変更するものであるから,特許法126条6項に違 反する旨主張する。 そこで,この点について検討する。
ア 本件特許の特許請求の範囲(請求項1)の「LED基板」の意義
(ア) 本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,「LED 基板」とは,「ライン状の光を照射する光照射装置」に「備え」られた「基 板収容空間を有する筐体」に「収容」され,「複数の同一のLEDを搭載 した」ものであって,「搭載されるLEDの個数を,順方向電圧の異なる LED毎に定まるLED単位数の最小公倍数と」するものであることを 理解できる。 一方,本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)には,「LED基板」 の個数について定義した記載はなく,「LED基板」の個数を単数に限定 して解釈すべき根拠となる記載はない。
(イ) 次に,前記(1)イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本 発明」は,複数の同一のLEDを搭載したLED基板と,前記LED基 板を収容する基板収容空間を有する筐体とを備えた光照射装置であっ て,電源電圧とLEDを直列に接続したときの順方向電圧の合計との差 が所定の許容範囲となるLEDの個数をLED単位数とし,前記LED 基板に搭載するLEDの個数を,順方向電圧の異なるLED毎に定まる LED単位数の公倍数とする構成を採用することにより,LED基板の\nサイズを同一にして,部品点数及び製造コストを削減できるという効果 を奏するものであり,さらに,上記LED基板に搭載するLEDの個数 を,上記LED単位数の最小公倍数とすることにより,LED基板の大 きさを同じにするだけでなく,その大きさを可及的に小さくして,汎用 性を向上させるという効果を奏する旨が記載されており,この点に本件 訂正前の特許請求の範囲(請求項1)の発明(以下「本件訂正前発明1」 という。)の技術的意義があると認められる。 また,当業者であれば,上記「汎用性を向上させる」とは,可及的に 小さな大きさのLED基板の直列枚数を変えることにより,LED基板 を様々な長さの光照射装置に用いることのできるようにすることなど を意味するものであることを理解できるものといえる。 そして,本件訂正前発明1の上記技術的意義に照らすと,上記LED 基板の個数を単数に限定する必然性はみいだし難い。 むしろ,本件明細書の【発明を実施するための最良の形態】に関する 記載は,複数の上記LED基板をライン方向に沿って直列させることが 可能であることを理解できるものであって(【0017】,【0041】,\n図1),このことも,上記理解を裏付けるものといえる。
(ウ) 以上の本件訂正前発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び 本件明細書の記載を総合すれば,本件訂正前発明1の「LED基板」は 個数が単数のものに限定されないと解される。 イ 訂正の適否について 本件訂正による訂正事項は,前記柱書のとおりであり,本件訂正前にお いては,LED基板の枚数や具体的な配置の特定がなかったものを,本件 訂正後においては,「複数の前記LED基板を前記ライン方向に沿って直列 させてある」ことを特定するものである。 そして,本件明細書には,2つのLED基板をライン方向に沿って直列 させること(【0017】,【0019】,図1)及びLED基板の直列させ る数を変更して,光照射装置の長さを変更させること(【0041】)が記 載されていることから,本件訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の 範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であると認められる。 また,本件訂正前発明1の「LED基板」は個数が単数のものに限定さ れないと解されることについては,前記アのとおりであり,本件訂正は, 訂正前に特定されていなかった基板の枚数や配置を特定するものに過ぎな いから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認 められる。 したがって,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものではな く,訂正要件に適合するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主 張の取消事由1は理由がない。
・・・・
前記(1)のとおり,原告製品「IDB−L600/20RS」及び「ID B−L600/20WS」(甲5)として,本件出願前に公然実施をされた 甲5発明は,LED基板に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異な るLED毎に定まるLED単位数の公倍数である,ライン状の光を照射す る照射装置であって,上記LED基板を2枚,上記ライン方向に沿って直 列させるものであるといえる。 しかしながら,上記の原告製品からは,いかなる技術思想に基づき,1 枚のLED基板に搭載されるLEDの個数を定めたのか,また,そのよう なLED基板を2枚長手方向に直列させることにしたのかは,明らかでな い(前記(1))。 また,前記2(1)及び3のとおり,本件出願当時,原告製品「IDB−1 1/14R」及び「IDB11/14W」(甲3)として甲3発明が,原告 製品「IDB−C11/14R」及び「IDB−C11/14B」(甲4) として甲4発明が,いずれも公然実施されており,これらの発明は,1枚 のLED基板に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異なるLED毎 に定まるLED単位数の最小公倍数であるものであるが,他方で,上記の 原告製品からは,いかなる技術思想に基づき,同製品のLED基板に搭載 されるLEDの個数を定めたのかは,明らかでない(前記2(1),3)。 さらに,前記2(2)ウのとおり,本件出願当時,LED基板の設計におけ る技術分野では,故障を防ぎ,品質を保持し,作業を効率化するために, LED基板間の配線及び半田付けを極力減らすようにすることが技術常識 であった。
そうすると,甲5発明に接した当業者は,仮に,当該プリント基板(L ED基板)に搭載されるLEDの個数が,赤色LEDを直列に接続する場 合の個数と白色LEDを直列に接続する場合の個数の公倍数であることを 認識し,かつ,原告製品として公然実施されていた,1枚のプリント基板 (LED基板)に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異なるLED 毎に定まるLED単位数の最小公倍数である甲3発明及び甲4発明を認識 していたとしても,甲5発明において,2枚のLED基板を長手方向に直 列させるという構成を維持したまま,1枚のプリント基板に搭載するLE\nDの個数を174個から,直列接続されている赤色LEDの個数「6」と 直列接続されている白色LEDの個数「3」の最小公倍数である6個に変 更する(相違点3に係る本件発明1の構成とする)ことの動機付けはなく,\nかかる構成とすることを容易に想到することができたものと認めることは\nできず,むしろ,1枚のプリント基板に搭載するLEDの個数を減らして, 同一数のLEDを配設するのに必要なプリント基板数を増やすことには阻 害要因があったと認められる。
イ 以上のとおり,当業者において,甲5発明に基づき,又は,甲5発明に 甲3発明ないし甲4発明を適用して,相違点3に係る本件発明1の構成に\n容易に想到することができるものとは認められない。

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平成31(行ケ)10027  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月25日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。争点は、補正要件、記載要件、進歩性と多くありましたが、知財高裁3部は、実施可能要件違反と判断しました。発明は機械の構\造です。機械分野で実施可能要件違反の無効理由は珍しいです。\n

 ア 本件明細書には,(1)本件発明のマッサージ機は,施療者の臀部または大\n腿部が当接する座部11a,及び施療者の背部が当接する背凭れ部12a を有する椅子本体10aと,該椅子本体10aの両側部に肘掛部14aを 有する椅子式マッサージ機1aであり,前記背凭れ部12aは,座部11 aの後側にリクライニング可能に連結されていること(段落【0022】),\n(2)肘掛部14aは,椅子本体10aに対して前後方向に移動可能に設けら\nれ,背凭れ部12aのリクライニング角度に応じた所定の移動量を保持し ながら背凭れ部12aのリクライニング動作に連動して前記肘掛部14a が椅子本体10aに対して前後方向に移動するようにされていること(段 落【0054】),(3)肘掛部14aの下部に前後方向に回動するための回 動部141aを設けること(段落【0055】),(4)肘掛部14aの後部 で回動可能に背凭れ部12aの側部と連結する連結部142aを設けるこ\nと(段落【0055】)が記載されている。 また,【図4】は,背凭れ部12aが座部に対してリクライニングする と,背凭れ部12aに連結された肘掛部14aが前後方向に回動すること を概略的に図示している(段落【0054】,【0055】)。
イ 上記アによれば,本件明細書には,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側 部とを,「肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して, リクライニングする方向に傾くように」(構成要件E)連結する連結手段\nについては連結部142aによる回動関係が,[2]肘掛部全体を座部に 対して回動させる回動手段については回動部141aによる回動関係が開 示されているが,[3]背凭れ部をリクライニングするように座部に対し 連結する連結手段の具体的な構成は記載されていない。また,本件明細書\nには,「背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身におけ る着座姿勢を保」つように(構成要件F),[1]肘掛部の後部と背凭れ\n部の側部とを,「肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライニング動作に連 動して,リクライニングする方向に傾くように」連結する連結手段(構成\n要件D,E),[2]背凭れ部のリクライニング動作の際に上記の連結手 段を介して肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段(構成要件D)\n及び[3]背凭れ部をリクライニングするように座部に対し連結する連結 手段(構成要件D)の具体的な組み合わせの記載はない。\n
ウ 審決は,本件明細書の【図4】は,背凭れ部が座部に対して回動し,背 凭れ部に連結された肘掛部が回動するという事項(段落【0054】,【0 055】)を概略的に図示したものであり,そのための「適宜の回動手段」 「適宜の連結手段」については当業者が過度の試行錯誤なく適宜に行い得 る程度のことであると認定する。 しかし,上記イのとおり,本件においては,構成要件D〜Fを充足する\nような,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部を連結する連結手段,[2] 肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段及び[3]背凭れ部を座部 に対し連結する連結手段の具体的な組み合わせが問題になっており,した がって,これらの各手段は何の制約もなく部材を連結又は回動させれば足 りるのではなく,それぞれの手段が協調して構成要件D〜Fに示された機\n能を実現する必要がある。そうすると,このような機能\を実現するための 手段の選択には,技術的創意が必要であり,単に適宜の手段を選択すれば 足りるというわけにはいかないのであるから,明細書の記載が実施可能要\n件を満たしているといえるためには,必要な機能を実現するための具体的\n構成を示すか,少なくとも当業者が技術常識に基づき具体的構\成に至るこ とができるような示唆を与える必要があると解されるところ,本件明細書 には,このような具体的構成の記載も示唆もない。\n
エ 被告は,本件明細書の記載から当業者が実施し得る本件発明1の具体的 な構成として,別紙被告主張図面目録記載のとおり動作するマッサージ機\nの具体的構成(以下「被告主張構\成」という。)を主張する。 被告主張構成は,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部とを本件明細書\nの【図4】同様の回動手段により連結し,[2]肘掛部の下部の椅子本体 に設けられた回動部から延びる円柱状部材が肘掛部内に存在する空洞部に 挿入され,[3]座部の後端に軸心を設けて背凭れ部を回動させる回動手 段を設けた構成であり,リクライニング前は,肘掛部の下部に設けられた\n回動部から延びる円柱状部材が肘掛部内に存在する空洞部の奥まで達して おり(【被告参考図(1)−2】),これをリクライニングすると,背凭れ部 のリクライニング動作に連動して肘掛部全体がリクライニングする方向に 傾くに従って,肘掛部全体が円柱状部材から上記空洞部に沿って遠ざかる ように移動する(【被告参考図(2)】から【被告参考図(3)】)というもので ある。 しかし,本件明細書には被告主張構成の記載や示唆はないから,被告主\n張構成が直ちに実施可能\要件適合性を裏付けるものではない上に,当業者 が,上記ア及びイのとおりの本件明細書の記載及び出願当時の技術常識に 基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,被告主張構成を採用し得た\nというべき技術常識ないし周知技術に関する的確な証拠もない。
オ 以上によれば,本件明細書には,当業者が,明細書の発明の詳細な説明 の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要すること なく,本件発明1を実施することができる程度に発明の構成等の記載があ\nるということはできず,この点は,本件発明1を引用する本件発明2につ いても同様である。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。\n

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平成31(ネ)10014  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 少し前のですが、欠落していたのでアップします。薬品特許のクレームが作用的(?)に記載されている場合に、クレーム限定、またはサポート要件・実施可能要件違反が主張されました。知財高裁は、1審と同様に、技術的範囲に属する、無効理由無しと判断しました。

 上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク 質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結 合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使 用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は, かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって, PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより, 対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症 などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患\nのリスクを低減することにあると理解することができる。 本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用 してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体 を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体 について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合 しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること, また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含 まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。 21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21 B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗 体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細 書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個 の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同 様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体 を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認 識できると認められる。 さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免 疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や 31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業 者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって, 本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗 体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら れる。
以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル 抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成 物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できること\nを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に 適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結 合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定 される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照 抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし, 参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。\nそして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特 定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために, その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認め\nられない(甲34,35)。 前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し, 本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参 照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。\n
・・・
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が\n特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な 時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能\n要件を満たさない旨主張する。 しかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求\nめられるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程 度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰\nし,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる からである。
本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ, PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗 体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そし\nて,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す ることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離 されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度 の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発\n明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ ることまで記載されている必要はない。 また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない 抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認 識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に\n記載されているかどうかは,実施可能要件とは関係しないというべきである。\nそして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細 書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範 囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得 る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 よって,控訴人の主張は採用できない

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)16468

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平成31(行ケ)10053  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月19日  知的財産高等裁判所

 無効審判を請求しないという和解条項がある場合に、請求人適格があるかが争われました。知財高裁(4部)は、請求人適格なしとした審決を維持しました。

 本件和解契約2条は,「乙らは,自ら又は第三者を通じて,無効審判の 請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない。ただ し,甲が特許侵害を理由として乙らに対し訴訟提起した場合に,当該訴訟 における抗弁として本件特許権の無効を主張することはこの限りではな い。」と規定する。
しかるところ,2条の上記文言によれば,同条は,「乙ら」(原告,セ ンティリオン及びB)は,「甲」(被告)に対し,被告が原告らに対し提 起した本件特許権侵害を理由とする訴訟において本件特許の無効の抗弁を 主張する場合(同条ただし書の場合)を除き,特許無効審判請求により本 件特許権の効力(有効性)を争ってはならない旨の不争義務を負うことを 定めた条項であって,原告が本件特許に対し特許無効審判を請求すること は,およそ許されないことを定めた趣旨の条項であることを自然に理解で きる。 そして,前記(1)認定の本件和解契約の交渉経緯によれば,本件和解契 約2条の文案については,被告の代理人弁護士と原告,センティリオン及 びBの代理人弁護士が,それぞれが修正案を提案するなどして十分な協議を重ね,最終的な合意に至ったものであり,このような交渉経緯に照らし\nても,同条は,その文言どおり,原告が本件特許に対し特許無効審判を請 求することは,およそ許されないことを定めた趣旨の条項と解するのが妥 当である。 そうすると,原告による本件特許無効審判の請求は,本件和解契約2条 の不争条項に反するというべきである。 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ これに対し原告は,(1)本件和解契約1条,3条及び4条に関する交渉経 緯等の本件和解契約の締結経緯及び各条項に照らすと,本件和解契約2条 は,本件和解契約締結後の「将来の紛争」に備えて,本件特許権の効力を 特許無効審判等によっては争わないことを定めた不争条項であるが,ここ で想定されている「将来の紛争」とは,3条記載のJANコードで特定さ れる「本件商品」(過去製品)及び過去製品と同一の構成の製品に係る紛争に限られているというべきであるから,被告が過去製品とは別の構\成を有する製品に対して本件特許権を行使する場合には,2条により,原告が 特許無効審判等によって本件特許権の効力を争うことが禁止されるもので はない,(2)原告は,被告が過去製品と同一の構成ではない,本件特許の権利範囲に属しない類似製品に対して本件特許権を行使する関連訴訟を提起\nしたため,これに対抗して本件特許無効審判を請求するものであるから, 本件特許無効審判の請求については本件和解契約2条の効力は及ばない旨 主張する。 しかしながら,本件和解契約2条には,被告が3条に規定する「本件商 品」(原告主張の「過去製品」)とは別の構成を有する製品に対して本件特許権を行使する場合には,原告が特許無効審判請求によって本件特許権\nの効力を争うことが許される旨を定めた文言は存在せず,1条,3条及び 4条のいずれにおいても,原告の主張に沿う文言は存在しない。 また,前記(1)認定の本件和解契約の交渉経緯に照らしても,被告と原 告,センティリオン及びBとの間において原告の主張する上記場合には2 条の効力が及ばないことを確認したり,合意したことをうかがわせる事実 は認められない。 かえって,前記アで説示したように,本件和解契約2条の文言及び本件 和解契約の交渉経緯によれば,2条は,被告が原告らに対し提起した本件 特許権侵害を理由とする訴訟において本件特許の無効の抗弁を主張するこ と(同条ただし書の場合)は許されるが,原告が本件特許に対し特許無効 審判を請求することは,およそ許されないことを定めた趣旨の条項である と解するのが自然な解釈である。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 本件和解契約2条の不争条項の有効性の判断の誤りについて
原告は,(1)本件和解契約6条の和解金は,特許法102条2項の損害額に 相当するものであって,被告が原告に対して原告の過去の販売行為について 本件特許権を行使しないことの対価として支払われるものであるから,本件 和解契約は,実質的には,原告の過去の販売行為に関する特許権実施許諾契 約(ライセンス契約)であることを前提とした上で,独占禁止法上の指 針(第4の4の「(7) 不争義務」)は本件和解契約にも妥当するものであ り,本件和解契約2条の不争条項の存在により,原告が特許無効審判等を請 求することができないとした場合,原告は,同条ただし書により特許侵害訴 訟における抗弁として本件特許の無効を主張することができるとしても,被 告が原告に対して特許侵害訴訟を提起するまでは本件特許の有効性を争うこ とができないため,本件特許に無効理由があるにもかかわらず,一度コスト をかけて製品を販売した後,被告の訴訟提起という原告にとって如何ともし 難い被告の行為を待つことになり,かかる事実状態は,原告の経済活動を不 当に制限するものであり,その結果,本来無効となるべき本件特許により二 重瞼形成用テープに係る市場における公正な競争が阻害され,まさに独占禁 止法上違法な状態が発生することとなるから,かかる事態は,特許法の制度 趣旨からしても許容されるべきものではない,(2)また,原告以外の利害関係 人が本件特許について特許無効審判を請求することができるとしても,その ような利害関係人が常に特許無効審判を請求するとは限らないし,原告と同 じ無効理由を主張するとも限らないから,本来特許を受けられない技術が特 許として存続し続けるおそれがあることに変わりなく,公益性が失われる, (3)さらに,実施許諾契約に不争条項が存在する場合であっても,特許の無効 理由の存在が明らかな場合には,当該特許を維持しつつ技術の利用を促進す る必要もないため,不争条項は無効と解すべきであるが,本件発明1,2, 4及び5は,本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明(特許法 29条1項2号)に該当し,新規性欠如の無効理由があることは明らかであ り,本件特許を維持しつつ技術の利用を促進する必要もないなどとして,仮 に本件和解契約2条の不争条項が,原告の本件特許件無効審判の請求を制限 するものであるとするならば,本件和解契約2条の不争条項は,公序良俗に 反し,無効である旨主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,本件和解契約3条は,原告,セン ティリオン及びBが本件商品の販売を平成29年8月31日限りで中止する 旨を,4条は,同年9月1日以降,原告,センティリオン及びBが「本件商 品若しくは特許第3277180号の権利範囲に属する二重瞼形成用テープ 又は本件特許権の侵害品」の製造,譲渡等をしない旨を,6条は,原告,セ ンティリオン及びBが,被告に対し,連帯して本件商品の販売による利益額 に相当する4500万円の和解金を支払う旨を,8条は,「和解についての お知らせ」として,被告が本件特許を侵害していることを疑い,特許侵害行 為の中止等を求めて通告し,当事者間の協議の結果,原告及びセンティリオ ンが上記製品の販売を中止する形で和解が成立したこと,被告の知的財産権 その他の権利を侵害する行為については厳正な措置を講ずる所存であること を公表することを除き,本件和解契約の内容及び本件和解契約締結に至る経緯について相互に守秘義務を負う旨を定めたものであることに鑑みると,6\n条の和解金は,原告らによる本件特許権の過去の侵害行為に対する被告の損 害を填補する損害賠償金であって,被告が原告に対し本件特許権の実施を許 諾することの対価としての性質を有するものでないことは明らかであるから, 本件和解契約が実質的に原告の過去の販売行為に関する特許権実施許諾契 約(ライセンス契約)の性質を有するものと認めることはできない。 そうすると,本件和解契約2条の不争条項により,二重瞼形成用テープに 係る市場における公正な競争が阻害され,独占禁止法上違法な状態が発生す る旨の上記(1)の点は,その前提を欠くものである。 次に,上記(2)の点については,本件和解契約2条の不争条項によって原告 以外の者が本件特許について特許無効審判の請求をすることが制限されるわ けではなく,また,私権である特許権について当事者間で不争義務を負う旨 の合意をすることによって直ちに公益性が失われるということはできない。 さらに,上記(3)の点については,上記のとおり,本件和解契約が実質的に 原告の過去の販売行為に関する特許権実施許諾契約(ライセンス契約)の性 質を有するものと認めることはできないから,その前提を欠くものであり, また,本件和解契約2条ただし書は,被告が原告に対し本件特許権侵害を理 由とする特許権侵害訴訟を提起した場合には,原告が無効の抗弁を主張して 本件特許の有効性を争うことが許容されていること(現に関連訴訟において 原告は無効の抗弁を主張して争っている。)に照らすと,同条の不争条項に よって,原告が本件特許無効審判の請求を制限されることが不当であるとは いえない。

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平成28(ワ)16912  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月4日  東京地方裁判所

 CS関連発明についての特許権侵害事件です。東京地裁40部は、差止、102条2項による損害賠償を認めました。損害賠償額は計算鑑定人が計算しています。総額は不明です。 なお、クレームは「〜情報管理プログラム。」です。

2 争点1−1(被告プログラムにおける架電番号が「架電先の電話器を識別す る識別情報」に当たるか)について
(1) 証拠(甲6,7)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件不動産サイトにお ける物件の連絡先への架電等の仕組みは,以下のとおりであると認められる。
ア 本件不動産サイトにおいて,ユーザが特定の不動産物件の詳細情報を選 択すると,例えば,以下の画面のような,当該物件についてのウェブペー ジが表示され,同ページの下段・右側に「電話」ボタンが表\示される。
イ 上記「電話」ボタンをユーザが選択すると,例えば,次の画面に遷移す る。同画面には,架電番号が表示されるとともに「このページを開いて\nから10分以内にお電話をお願いいたします。」「上記無料通話番号は, 今回のお問合せ用に発行したワンタイムの電話番号です。」と表示される。\n
ウ ユーザが上記画面に表示された架電番号に架電すると,当該物件を管\n理する不動産業者に宜接通話が繋がるが,一定時間を経過すると,当該 架電番号に架電しでも電話は繋がらず,接続先がない旨の自動音声案内 が流れる。
エ 上記イの画像の表示から,架建言することなく10分以上経過してから, 間一携帯端末で,同一の不動産物件について架電番号を表示すると,例え\nば,以下のとおり,別の架電番号が表示される。\n
オ 上記ウにより繋がらなくなった架電番号は, 53Jのユーザ、端末や商品に 対応した電話番号として再利用し得る。なお,ユーザが,同架電番号に いったん架電をすると,その後も,同番号は端末上にリダイヤノレのため 再表示され,同時に,別の端末において異なる物件の連絡先として同ー\nの架電番号が表示され得る。\n
(2) 被告は,被告プログラムにおける架電番号が「架電先の電話器を識別する 識別情報J (構成要件(1))に該当しないので,被告プログラムは,構成要件\n(1)を充足しないと主張する。 しかしr識別情報」の意義については,本件明細書等の段落(0019) には「識別情報とは,架電先に関連付けられることによりその架電先を識別 する情報であj ると記載されているところ,証拠(甲6,7,乙2) によれ ば,被告プログラムを使用してサービスを提供している本件不動産サイトに おいては,ユーザが希望する物件を選択すると,当該物件の詳細情報が表示\nされた画面に問合せのための専用電話番号が表示され,当該番号が表\示され るとその時点で架電番号がロックされた状態となり,その表示から一定期間,\n当該架電番号に架電するとその不動産業者に架電されるとの事実が認められ る。そうすると,被告プログラムにおける架電番号は,「架電先に関連付け られることによりその架電先を識別する情報」であり,構成要件(1)にいう 「識別情報」に該当するということができる。
(3) また,原告が行った実験結果(甲8・実施結果1。なお,以下の実験結果 はいずれも被告プログラムを使用している本件不動産サイトを利用したもの である。)によれば,(i)本件不動産サイトのユーザが,端末を用い,特定 の物件の連絡先画面を表示させると,特定の架電番号が表\示された,(ii)そ のまま架電せずに前記連絡画面を閉じ,再び物件の連絡先画面を表示させる\nと同じ架電番号が表示された,(iii)ユーザが,異なる端末の電話機能を用い,\n同一の架電番号に架電しても,同一の連絡先である広告主に接続されたとの 事実が認められる。 上記結果は,被告プログラムにおいて,ある端末に特定の物件の連絡先に 繋がる架電番号を表示させると,それにより当該番号と架電先が関連付けら\nれ,それ以降は当該架電番号に対応する連絡先の不動産業者が識別されると の上記(1)の認定を裏付けるものであり,同結果に照らしても,被告プログ ラムにおける架電番号は,構成要件(1)にいう「識別情報」に該当するという ことができる。
(4) これに対し,被告は,架電番号と発信者番号とで架電先を識別するので, 架電番号は,本件発明にいう「識別情報」に当たらないと主張し,端末に表\n示させた架電番号に発信者番号非通知の設定で架電した場合,架電先にも接 続されないという実験結果(乙3)は被告主張を裏付けるものであると主張 する。 しかし,架電前においては,被告プログラムは当該ユーザの発信者番号を 知らないはずであるから,架電前において,同プログラムが架電番号と発信 者番号とで架電先を識別するとは考え難い。上記実験において端末に表示さ\nれた架電番号に架電した場合に架電先に接続されなかったのは,後記のとお り,被告プログラムが当該架電番号に架電した時点以降,架電番号と発信者 番号とで架電先が識別されていること(この点については当事者間に争いが ない。)に起因するものと考えるのが相当であって,上記実験結果は,架電 前において表示された架電番号と架電先が関連付けられることを否定するに\n足りるものではない。 むしろ,原告の行った実験結果(甲9)によれば,発信者番号を送信し得 ないパーソナルコンピュータに本件不動産サイトを表\示した場合であっても, 物件の連絡先に繋がる架電番号が表示され,携帯端末から当該番号に架電し\nたところ,当該連絡先に接続したとの事実が認められ,これによれば,被告 プログラムは,架電前の時点において,架電番号により架電先を識別してい ると推認することが相当である。
(5) 被告は,乙8の実験2の結果は,被告プログラムにおいて,1つの架電番 号が,同時に複数のユーザが複数の架電先に接続するために利用されている ことを示しているので,当該架電番号のみでは架電先を識別し得ないと主張 する。
しかし,上記実験は,(i)本件不動産サイトのユーザが,端末(1)を用い, 物件1の連絡先画面を表示させると架電番号が表\示された,(ii)端末(1)の電 話機能で当該番号に架電した後,1990台分の仮想端末を用い,それぞれ\n物件2の連絡先画面を表示させた,(iii)その後,上記(i)の時点から10分 以内に,端末(2)で物件2の連絡先画面を表示すると,同一の架電番号が表\示 された,(iV)上記(iii)の後,前記(i)から10分以内に,端末(1)で再び物件 1の連絡先画面を表示すると,同一の架電番号が表\示されたというものであ ると認められる。 同実験の(iii)において,端末(2)において物件2の連絡先画面が表示された\nのは,上記(i)のとおり,端末(1)により架電をした後であるから,物件2の 連絡先画面が表示された時点においては,物件1の連絡先は,架電番号のみ\nではなく,架電番号と発信者番号とで識別されるようになっており,それゆ えに,物件2の連絡先画面において同一の架電番号を表示することが可能\に なったものと考えられる。 そうすると,上記実験も,架電前において表示された架電番号と架電先が\n関連付けられることを否定するに足りるものではないというべきである。
(6) 被告は,乙10の実験結果も,同一の架電番号が同時に複数のユーザによ って未架電の異なる架電先に架電するための番号として用いられることを示 していると主張する。
ア 乙10の実験は,(i)本件不動産サイトのユーザが,端末(1)を用い,物 件1の連絡先画面を表示させると架電番号Xが表\示され,同番号に架電し た(午前2時10分),(ii)その後,端末(1)で物件2の連絡先画面を表示\nさせると,架電番号Yが表示された(午前2時10分),(iii)その後,1 994台分の仮想端末を用い,物件3の連絡先画面を表示させ,それぞれ\n架電番号を表示させた,(iV)端末(2)を用い,前記(ii)の表示から10分以\n内に,物件3の連絡先画面を表示させると,架電番号Yが表\示され(午前 2時14分),続いて端末(2)から架電番号Yに架電した(午前2時15 分),(v)端末(3)を用い,前記(ii)の表示から10分以内に,物件4の連\n絡先画面を表示させると,架電番号Yが表\示された(午前2時15分), (vi)前記(ii)の表示から10分以内に,端末(1)〜(3)において,再度各物件 について架電番号を表示させると,いずれの端末においても架電番号Yが\n表示されたというものであると認められる。\n
イ 上記実験結果のうち,(iv)〜(vi)において端末(1)〜(3)において架電番 号Yが表示されたこと,取り分け,端末(1)において架電番号Yに架電をし ていないにもかかわらず,端末(1)及び(3)に架電番号Yが表示されたことに\nついては,ある端末(この場合は端末(1))から架電すると,当該端末の発 信者番号が被告プログラムに登録され(この点は争いがない。被告準備書 面9の14頁参照),架電済みの端末に払い出された未架電の架電番号に ついても,架電番号と発信者番号とで識別されることによるものであると 考えられる。 このことは,原告が行った実験結果(甲15)からも裏付けられる。す なわち,同実験(甲15・実験A−1,2)は,(i) 本件不動産サイト のユーザが,端末Aを用い,物件Aの連絡先画面を表示させると,架電番\n号Aが表示された,(i) 端末Aの電話機能で架電番号Aに架電した後,\n端末Aで物件Bの連絡先画面を表示させると,架電番号Bが表\示された, (iii) 前記(ii)から10分以内に,端末Bの電話機能を用い架電番号Bに\n架電しても,物件Bの連絡先である広告主には接続されなかった,(iv)他 方,前記(iii)の代わり,端末Aの電話機能を用いて架電すれば,物件Bの\n連絡先である広告主に接続されたというものであると認められる。同実験 結果によれば,架電済みの端末に払い出された未架電の架電番号について も,架電番号と発信者番号とで識別されるものと認めるのが相当である。 そうすると,上記アの(iv)〜(vi)において架電番号Yが表示されたの\nは,その時点において,端末(1)及び(2)については,架電番号Yと各端末の 発信者番号により関連付けが行われていたからであり,同実験結果も,架 電前において表示された架電番号と架電先が関連付けられることを否定す\nるに足りるものではないというべきである。
(7) 以上によれば,被告プログラムにおいて,未架電の端末にのみ架電番号が 表示されている場合には,当該架電番号は,「架電先に関連付けられること\nによりその架電先を識別する情報」であり,構成要件(1)にいう「識別情報」 に該当するということができる。そして,前記判示のとおり,被告プログラ ムが架電後においては架電番号と発信者番号とで架電先を識別しているとし ても,このことは被告プログラムが構成要件(1)を充足するとの結論を左右す るものではないというべきである。 したがって,被告プログラムは,構成要件(1)を充足する。
・・・
(1) 特許法102条2項所定の利益の額について ア 特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は, 侵害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売すること によりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した 限界利益の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべ きである(知的財産高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7 日判決参照)。 本件における計算鑑定の結果によれば,被告プログラムについては,平 成25年6月分から平成30年9月分までの間,別紙2−3(1)欄記載の売 上高があり,製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費の額は同 (2)欄記載のとおりであるので,その限界利益の額は同(3)欄記載のとおりで あると認めることができる。
イ これに対し,原告は,●(省略)●であることを指摘し,別紙2−3(2) 欄記載の変動費に含まれる●(省略)●からの仕入費の額については,そ の利益相当額50%を控除した額とするべきであると主張する(なお,当 裁判所は,この点に関する原告の主張のうち,●(省略)●が,被告サー ビスを実質的に運営する共同事業者であって,共同不法行為者に当たるな どとする主張については,時機に後れた攻撃防御方法を理由とする却下を した。)。しかし,●(省略)●されるべきものでないことは当然であり, また,その仕入価格が不当に高額に設定されていたといったような事情を 認めるに足りる証拠もないのであるから,この点に関する原告の主張を採 用することはできない。
ウ 他方,被告は,別紙2−3(2)欄記載の金額のほか,(1)通信回線及び通信 機器設備の利用料,(2)派遣労働者の費用,(3)専用プログラムの開発費も, 変動費又は個別固定費として控除すべきであると主張する。 しかし,証拠(乙30〜32)によれば,上記(1)〜(3)の費用は,被告プ ログラムにのみ費消されたものではなく,被告の提供する他のサービスに ついても費消されているものであると認められ,被告プログラムの作成や 販売に直接関連して追加的に必要となった経費であるということはできな い。 したがって,これを売上高から控除すべきであるとの被告主張は採用し 得ない。
エ もっとも,本件において,原告の請求の対象となる限界利益は,平成2 5年5月26日から平成31年4月30日までの利用に対するものである のに対し,前記計算鑑定は,平成25年6月分から平成30年9月分まで の売上を対象とするところ,乙27及び弁論の全趣旨によれば,これら各 月分の売上は,それぞれ前月分の利用に対応することが認められる。そこ で,平成25年5月の利用については,同年6月分の限界利益の額を日割 り計算し,平成30年9月から平成31年4月までの利用については,平 成30年4月分から同年9月分までの限界利益の額の平均額を採用するの が相当である。そうすると,特許法102条2項所定の利益の額は,この 計算によって得た別紙2−1(2)欄記載の額に,それぞれの時期における同 2−3(3)欄記載の消費税率を加算した額と計算されることになる。
(2) 推定覆滅事由について
被告は,被告サービスに対する本件発明の寄与率は0%と解すべきである として,特許法102条2項における推定覆滅事由があり,その割合は10 0%であると主張する。
ア 同条項における覆滅については,侵害者が主張立証責任を負うものであ り,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害 する事情がこれに当たると解され,同条1項ただし書の事情と同様,同 条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮すること ができるものと解される。(前掲知的財産高等裁判所判決参照)
イ 被告は,被告プログラムの訴求ポイントは,PhoneCookieと いう独自技術を用い,ウェブと電話から得られるトランザクション情報を 効果的に利用する点であるのに対し,本件発明の特徴点は,補正手続にお いて付加された構成要件(6)であるから,被告プログラムと本件発明は訴求 ポイントが異なると主張する。 しかし,本件発明は,その構成要件が一体となって所期の効果,すなわ\nち,「架電先を識別するための識別情報を広告情報ごとに動的に割り当て て,識別情報の再利用を可能とすることにより,識別情報の資源の有効活\n用及び枯渇防止を図る」(段落【0049】)とともに,「ウェブページ への提供期間や提供回数に応じて動的に識別情報を変化させることにより, 広告効果を時期や時間帯に基づき把握すること」(段落【0050】)を 可能にするものであり,構\成要件(6)が出願審査の過程において補正により 付加されたとしても,同構成要件のみが本件発明の特徴点であると解する\nことはできない。 他方,被告プログラムを使用している本件不動産サイト(甲6)におい ては,ユーザーによる架電の負担の軽減が課題として掲げられるとともに, 「その時・その人にだけ有効な『即時電話番号』を発行」し,「静的に電 話番号を割り振るのではなく,ユーザーのアクションに応じて動的に電話 番号を割り振」るとの内容を有することが記載されていることが認められ る。 上記本件不動産サイトに記載された「その時・その人にだけ有効な『即 時電話番号』を発行」し,「動的に電話番号を割り振」ることは,「識別 情報の資源の有効活用及び枯渇防止を図る」などの本件発明の効果を発揮 する上で不可欠な要素であり,被告プログラムにおいてもこうした構成を\n備えた結果,その顧客は本件発明と同様の効果を享受しているものという ことができる。 被告は,被告サービスの訴求ポイントについて,PhoneCooki eという独自技術を用い,ウェブと電話から得られるトランザクション情 報を効果的に利用することができる点にあると主張するが,同技術が被告 サービスの売上に貢献したことを具体的に示す証拠はない。 そうすると,被告プログラムがPhoneCookieという独自技術 を用いているとしても,この点を覆滅事由として考慮することはできない というべきであり,被告がそのために被告を特許権者とする特許技術(特 許第5411290号,特許第5719409号)を使用していることも, 上記結論を左右しない。
ウ 被告は,本件発明のうち架電番号の再利用という部分の機能は,従来技\n術にすぎないと主張する。 しかし,原告が従来技術として挙げるLRU方式は,前記判示のとおり, 使用されてから最も長い時間が経った架電番号から順に利用する方式であ り,本件特許とはその採用している方式が異なるものであり,本件発明が 従来技術として利用しているものではない上,市場において本件発明と同 様の効果を奏する代替可能な技術として原告の提供するサービスと競合関\n係にあるということはできない。 また,被告は,被告を特許権者とする前記特許明細書に記載された方式 によっても,本件発明を代替することが可能であると主張するが,同方式\nは,架電番号の在庫が尽きた場合に,これを初期化し,その初期化したこ とを通知するものであり(乙18・段落【0095】),本件特許とはそ の採用している方式が異なるものであり,本件発明が従来技術として利用 しているものではない上,市場において本件発明と同様の効果を奏する代 替可能な技術として原告の提供するサービスと競合関係にあるということ\nはできない。 以上のとおり,本件発明のうち架電番号の再利用という部分の機能が従\n来技術にすぎないとの被告主張は理由がなく,この点を推定覆滅事由とし て考慮することもできない。
エ したがって,本件においては,被告が得た利益の全部又は一部について 推定を覆滅する事由があるということはできない。
(3) 小括
前記のとおり,特許法102条2項の「利益」の額は,別紙2−1(2)欄記 載の額に同(3)欄の消費税率を乗じた額であり,同項における推定覆滅事由が あるとは認められないので,被告が賠償すべき額は,その10%に相当する 弁護士費用相当額を加算し,一円単位に切り捨てた別紙2−1(5)欄のとおり と計算される。また,弁論の全趣旨によれば,これらの損害の発生日は,遅 くとも,それぞれ同(6)記載の日であると認められるので,各同日から支払済 みまでの遅延損害金の請求をすることができる。

◆判決本文

◆別紙1

◆別紙2

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平成30(行ケ)10093  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月19日  知的財産高等裁判所

 サポート要件および実施可能要件について、無効理由無しとした審決が維持されました。

前記(1)及び(2)を踏まえると,本件明細書には,本件発明に関し,次のよ うなことが開示されていると認められる。 従来,高温下の成形又は熱処理を要する鋼板においては,一般に亜鉛の融点を上 回る高い温度で熱処理が行われるため,鋼板に亜鉛被膜があると,亜鉛が溶融,流 動して熱間成形用ツールの働きを妨害し,さらに,急冷中に被膜が劣化すると考え られてきた。そのため,鋼板の被覆処理は,熱処理の前には行われず,熱間成形や 熱処理後の完成部品に対して行われていたが,そうすると,(1)部品の表面及び中空\n部分の十分な清浄化が不可欠であり,その清浄化には酸又は塩基を使用する必要が\nあるため,経済的な負担や作業員及び環境への危険があること,(2)鋼の脱炭及び酸 化を完全に防止するために,熱処理を管理雰囲気下で行う必要があること,(3)熱間 成形の場合に生じるカーボンデポジットが成形用ツールを損傷し,部品の品質を低 下させたり,ツールの頻繁な修理のためにコストが上がったりすること,(4)得られ た部品の耐食性を強化するために,当該部品の後処理が必要であるが,後処理は, 経費も高く作業も難しい上に,中空部分のある部品では不可能であることなどの問\n題があった。(【0002】,【0003】) そこで,本件発明は,熱間成形や熱処理の前に鋼板に被覆を形成することで,熱 処理における鋼板の脱炭や酸化を防止するなど,上記(1)〜(4)の従来技術の問題点を 解決することができる,極めて高い機械的特性値をもつ鋼板を製造する方法を提供 することを課題とするものであり,その解決に当たり,亜鉛又は亜鉛合金で被覆し た鋼板を熱処理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の 鋼と合金化した層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度 を持つようになるという,従来の定説とは異なる新たな知見が得られたことに基づ き,解決手段として,亜鉛又は亜鉛を50重量%以上含む亜鉛ベース合金(前記(2) のとおり,ここには金属間化合物からなる合金も含まれている。)で被覆された熱処 理用鋼板ブランクに対し,部品を得るための熱間型打ち前に,800℃〜1200℃ の高温を2〜10分間作用させる熱処理を行うことにより,腐食に対する保護及び 鋼の脱炭に対する保護を確保しかつ潤滑機能を確保する,亜鉛−鉄ベース合金化合\n物及び亜鉛−鉄−アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化 合物(金属間化合物)を熱処理用鋼板ブランクの表面に生じさせる工程を実施する\nものとしたことを特徴とするものである(【請求項1】,【0004】〜【0008】,
【0014】〜【0016】,【0021】)。 そして,本件発明は,熱処理用鋼板に上記合金化合物(金属間化合物)の被膜を 形成することにより,熱処理中又は熱間成形中の鋼の腐食防止及び脱炭防止,カー ボンデポジットの形成を阻止することによるツールの損耗防止,高温での潤滑機能\nの確保,得られた部品の酸洗い浴が不要となることによる経済的利点,成形部品の 耐疲労性,耐損耗性,耐摩耗性及び耐食性の強化などの効果を奏するものである(【0 024】〜【0027】)。
2 金属間化合物についての本件出願時の技術常識
(1) 金属間化合物とは,2種類以上の金属元素から形成される化合物であり, 本件出願時に,本件発明において熱処理後に生じるとされている(1)亜鉛−鉄ベース の金属間化合物として,亜鉛−鉄及び亜鉛−ニッケル−鉄の金属間化合物が,(2)亜 鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物として,亜鉛−鉄―アルミニウムと亜\n鉛−鉄−アルミニウム―ニッケルの金属間化合物がそれぞれ知られていた(甲3,\n7,8,14〜16,20,25,乙8,弁論の全趣旨)。 また,熱処理をして亜鉛に鉄を拡散させ,金属間化合物を形成することができる こと及び各金属間化合物について,組成の濃度に応じて複数の相が存在することが 本件出願時に知られていた(甲2,3,7,8,15,16,25,弁論の全趣旨)。
(2) 前記のとおり,本件発明においては,熱処理前の「亜鉛ベース合金」に,金 属間化合物が含まれ得るところ,本件出願時に,亜鉛と金属間化合物を形成して「亜 鉛を50重量%以上含む亜鉛ベースの金属間化合物」を構成し得る元素としては,\n鉄の他に,ニッケル,銀,金,クロム,マンガンなどが知られていた(甲2,23, 24,乙5,弁論の全趣旨)。
3 取消事由1(サポート要件についての認定判断の誤り)について
(1) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否 か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のであり,サポート要件の存在については,特許権者(被告)がその証明責任を負 うものである。 そして,前記のとおり,本件では熱処理前の「亜鉛ベース合金」が「亜鉛ベース の金属間化合物」である場合にもサポート要件が充足されているかどうかが争点と なっているところ,以下,この争点について,上記のような証明責任が果たされて いるかどうかについて判断する。
(2) ア 前記1のとおり,本件明細書には,亜鉛又は亜鉛合金で被覆した鋼板 を熱処理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の鋼と合 金化した層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度を持つ ようになるという新たな知見が得られたことに基づき,熱間成形や熱処理の前に, 鋼板を亜鉛又は亜鉛ベース合金で被覆し,その後熱処理を行うことにより,腐食に 対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保しかつ潤滑機能を確保する,亜鉛−鉄\nベース合金化合物又は亜鉛−鉄−アルミニウムベース合金化合物を生じさせ,これ によって,熱処理中または熱間成形中の鋼の腐食防止,脱炭防止,高温での潤滑機 能の確保等の効果を奏することが記載され,実施例1として,鋼板を亜鉛で被膜し\nたものを950℃で熱処理して,亜鉛−鉄合金の被膜を鋼板の表面に生じさせたと\nころ,同被膜が優れた腐食防止効果を有することが確認された旨が記載され,さら に,実施例2として,50−55%のアルミニウム,45−50%の亜鉛及び任意 に少量のケイ素を含有する被膜を熱処理したところ,極めて優れた腐食防止効果を 有する亜鉛−アルミニウム−鉄合金の被膜が得られたことが記載されている。 これらの記載及び弁論の全趣旨を総合すると,当業者は,本件明細書の記載から, 鋼板上に被覆された亜鉛又は「亜鉛ベース合金」の固溶体である亜鉛−アルミニウ ム合金を熱処理して,亜鉛−鉄ベース合金化合物(金属間化合物)又は亜鉛−鉄− アルミニウムベース合金化合物(金属間化合物)を生じさせ,高い機械的強度を持 つ鋼板を製造することができることを認識することができるものと認められる。ま た,当業者は,本件発明の合金化合物において,亜鉛が共通する主要な成分である から,本件発明の課題解決には亜鉛が重要な役割を果たしていると認識するものと 認められる。
イ 前記2で認定したとおり,亜鉛と鉄が金属間化合物を形成するものであ ること,熱処理後の「亜鉛−鉄ベース合金化合物」に亜鉛−鉄金属間化合物が含ま れること及び熱処理により鋼板から鉄の拡散が進んで金属間化合物について複数の 相が生じ得る,すなわち,異なる金属間化合物に変化し得ることが,本件出願時の 技術常識であったことからすると,本件明細書の記載に接した当業者は,熱処理前 の被膜が実施例1とは異なり,亜鉛−鉄金属間化合物であったとしても,実施例1 の記載及び上記技術常識を基礎にして,熱処理前の亜鉛−鉄の金属間化合物の組成, 熱処理の温度や時間等を適宜調節して,熱処理後に異なる亜鉛−鉄ベース合金化合 物(金属間化合物)を生じさせ,高い機械的特性を持つ鋼板を製造することができ ると認識することができると認められる。
ウ また,鋼板上に被覆された熱処理前の「亜鉛ベース合金」が金属間化合 物で,それを熱処理して亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物を生じさせ る場合についても,(1)固溶体である亜鉛−アルミニウム合金の被膜を熱処理して, 極めて優れた腐食防止効果を有する亜鉛−鉄−アルミニウム合金の被膜を生じさせ る実施例2が本件明細書に記載されていること,(2)前記2(1)のとおり,亜鉛−鉄− アルミニウムの金属間化合物の存在が,本件出願時,当業者に知られていた上,熱 処理により鋼板から鉄の拡散が進んで異なる金属間化合物が生じるという本件出願 時に知られていた基本的なメカニズムは,出発点が亜鉛−アルミニウムの固溶体で ある場合と,亜鉛−鉄−アルミニウムの金属間化合物である場合で,異なることを 示す根拠となる事情は認められず,基本的には異ならないと考えられることからす ると,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,実施例2に開示された亜鉛―アルミニウ\nムの固溶体からなる合金のみならず,亜鉛−鉄−アルミニウムの金属間化合物であ っても,熱処理前の同金属化合物の組成,熱処理の温度や時間等を適宜調節して, 亜鉛−鉄−アルミニウムベースの合金化合物(金属間化合物)を生じさせ,高い機 械的特性を持つ鋼板を製造できると認識することができると認められる。 エ 次に,その他の熱処理前の「亜鉛ベース合金」についても検討する。「亜 鉛ベース合金」には,前記2(2)で認定したとおり,多種多様な金属間化合物が該当 し得る一方で,本件明細書には,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,それらの「亜 鉛ベースの金属間化合物」である場合についての明示的な記載はない。 しかし,前記2(1)のとおり,本件出願時,本件発明にいう熱処理後に生じる3元 系以上の亜鉛−鉄ベース又は亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物に該当 するものとして,証拠上認定できるものは,(1)亜鉛−ニッケル−鉄,(2)亜鉛−鉄− アルミニウム,(3)亜鉛−鉄−アルミニウム−ニッケルの3種類のみである。 そうすると,上記のような3元系以上の「亜鉛−鉄ベース合金化合物」又は「亜 鉛−アルミニウム合金化合物」を生じさせることのできる熱処理前の「亜鉛ベース 金属間化合物」たる「亜鉛ベース合金」に含まれ得る亜鉛以外の金属元素としては, 鉄,アルミニウム以外にはニッケルが挙げられる。そして,ニッケルについては, 前記2(1)で認定したとおり,亜鉛−ニッケル−鉄や亜鉛−鉄−アルミニウム−ニ ッケルの金属間化合物の存在が本件出願時に知られていた上,本件出願時から,ニ ッケルは亜鉛と合金を形成して鋼板の被膜を形成すること及び亜鉛−ニッケル合金 メッキは優れた耐食性を有することが知られていた(甲2,乙8)から,当業者は, ニッケルがマイナー成分として加えられても本件発明の課題解決には影響はなく, 上記のように亜鉛が重要な役割を果たしていると認識するといえる。そうすると, 本件明細書の記載に接した当業者は,前記の鉄の拡散が進んで異なる金属間化合物 が生じるという技術常識も踏まえて,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,亜鉛−ニ ッケルの金属間化合物やそれに更にアルミニウムや鉄を含む金属間化合物であって も,それらの組成,熱処理の温度や時間を適宜調節して,亜鉛−鉄ベースの合金化 合物又は亜鉛−アルミニウム−鉄ベースの合金化合物を生じさせ,高い機械的特性 を持つ鋼板を製造できると認識することができると認められる。 そして,本件ではアルミニウムとニッケル以外の金属が亜鉛−鉄と3元系以上の 金属間化合物を形成するかどうかは証拠上必ずしも明らかとなっていないのである から,鉄,アルミニウム及びニッケル以外の金属元素と亜鉛からなる「亜鉛ベース の金属間化合物」の被覆が熱処理により3元系以上の亜鉛−鉄ベース金属化合物又 は亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物を生じさせて本件発明の課題を解 決することを被告が積極的に主張立証していないとしてもサポート要件が充足され なくなるものではない。
オ 以上からすると,当業者は,本件明細書の記載と本件出願時の技術常識 とに基づいて,本件明細書の実施例2で開示された亜鉛重量50%−アルミニウム 重量50%の合金以外の「亜鉛ベース合金」として,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛 −鉄−アルミニウム金属化合物,亜鉛−ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニ ウムや鉄が加わった金属間化合物等を想起し,これらからなる鋼板上の被覆を熱処 理することによって亜鉛−鉄ベース合金化合物(金属間化合物)又は亜鉛−鉄−ア ルミニウムベース合金化合物(金属間化合物)を生じさせて本件発明に係る課題を 解決できることを理解することができ,そのことを被告は証明したと認めることが できる。
(3) 原告は,(1)いかなる金属間化合物で鋼板を被覆し,それを熱処理すること で,本件発明の課題を解決できるいかなる金属間化合物が生じるかを,被告が根拠 となる本件明細書の記載と技術常識を明らかにしつつ具体的に主張立証しなければ ならないが,その主張立証が果たされていない,(2)亜鉛−鉄金属間化合物について, δ1相が鋼板用の被膜として望ましいとする従来の技術常識からすると,当業者は 本件明細書の記載及び技術常識に照らして,本件発明の課題をできるとは認識しな い,(3)亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物と亜鉛−ニッケル−鉄金属間化合物に ついて,限られた温度の3元系状態図しか知られていなかったことからすると,当 業者は,熱処理することでどのような金属間化合物を得られるかを予測することは\nできないから,熱処理前の「亜鉛ベース合金」を本件明細書に開示のない「亜鉛ベ ースの金属間化合物」にまで拡張することはできないと主張する。
ア 上記(1)について,当業者が,「亜鉛ベースの金属間化合物」の被覆とし て,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケ ル金属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等からなる被 覆を想起し,これらの被覆を熱処理することによって本件発明に係る課題を解決で きることを理解できることは,前記(2)で判断したとおりである。
イ 上記(2)について,本件発明は,亜鉛又は亜鉛合金で被覆した鋼板を熱処 理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の鋼と合金化し た層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度を持つように なるという新たな知見に基づくものであり,かつ,実施例1,2で優れた腐食防止 効果を持つ被膜が形成されていることが確認できる(実施例1,2と同じ条件で実 験した場合にこのような結果が得られないことを示す証拠はない。)以上,従来の 技術常識にかかわらず,当業者は,本件明細書の記載と本件出願時の技術常識に基 づいて「亜鉛ベース合金」が「亜鉛ベースの金属間化合物」である場合,本件発明 の課題を解決できることを認識するといえ,原告の主張は採用することができない。
ウ 上記(3)について,前記(2)で検討したとおり,当業者は,本件明細書の記 載及び本件出願時の技術常識から,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物又は亜鉛 −ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等の 被覆であっても課題を解決できると認識することができるというべきであって,こ のことは,限られた温度の3元系状態図しか知られていなかったとしても,左右さ れるものではない。
エ 以上からすると,原告の上記主張は,前記(2)の認定判断を左右するもの ではない。
(4) したがって,原告主張の審決取消事由1は理由がない。
4 取消事由2(実施可能要件についての認定判断の誤り)について\n
(1) 本件発明は方法の発明であるところ,方法の発明における発明の実施とは, その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号),方法の発明につい て実施可能要件を充足するか否かについては,当業者が明細書の記載及び出願当時\nの技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その方法の使用をする ことができる程度の記載が明細書の発明の詳細な説明にあるか否かによるというべ きである。そして,実施可能要件についても特許権者(被告)がその証明責任を負\nう。
(2) 前記3で検討したところからすると,当業者は,本件明細書の記載と本件出 願時の技術常識に基づいて,「亜鉛ベースの金属間化合物」からなる被覆として, 亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケル金 属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等からなる被覆を 想起し,これらの被覆を熱処理することによって,高い機械的特性を持つ鋼板を製 造することができると認められるから,本件明細書の詳細な説明には,本件発明の 方法を使用をすることができる程度の記載があり,実施可能要件は充足されている\nと認められる。
(3) 原告は,実施可能要件について,(1)いかなる金属間化合物で被覆して熱処理 をすると,いかなる金属間化合物が生じ,「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対す る保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得」ることについて主張立証がされていない,\n(2)鉄が被覆に拡散して鉄含有率の少ない金属間化合物が鉄含有率の高い金属間化合 物に変化することにより「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且 つ潤滑機能を確保し得る金属間化合物」となるとはいえない,(3)亜鉛−ニッケル金 属間化合物から亜鉛−ニッケル−鉄金属間化合物が形成されるとは理解できないと 主張する。
ア しかし,上記(1)について,前記3で検討したところからすると,当業者 は,「亜鉛ベースの金属間化合物」の被覆として,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛− 鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニ ウムや鉄が加わった金属化合物等からなる被覆を想起し,これらの被覆を熱処理す ることによって本件発明を実施できると認識するものと認められる。
イ 上記(2)について,前記3で検討したとおり,本件発明が新たな知見に基 づくものであることや実施例1,2で優れた腐食防止効果を持つ被膜が形成されて いることからすると,原告が主張するような事情を考慮しても,当業者は実施可能\nであると認識するものと認められる。
ウ 上記(3)について,前記3で検討したところからすると,当業者は,本件 明細書の記載や本件出願時の技術常識から,亜鉛−鉄−ニッケルの金属間化合物を 生じさせることができると認識すると認められる。

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平成30(ワ)5189  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月19日  大阪地方裁判所

 特許権侵害事件です。争点はいろいろありますが、製造したのは共有者か?、また、101条5号の間接侵害が成立するか?について、大阪地裁(21部)は、いずれも否定しました。

 原告は,被告会社による共有特許権の侵害行為として,被告製品を製造販 売したことを主張し,被告会社が被告製品を販売したことは当事者間に争いがない ものの,被告らは被告会社が被告製品を製造したことを否認している。そして,被 告らは,むしろ,被告製品を製造したのは,共有特許の特許権者(共有者)である 被告P2であり,被告会社が販売したのは,被告P2が製造した製品であるとして, 共有特許権についての消尽の抗弁を主張するが,この点については,原告が否認し, 争っている(争点2)。そこで,事案に鑑み,被告製品が共有特許発明の技術的範 囲に属すると仮定して,争点2から判断する。 この点について,被告P2は,上記被告らの主張に沿う供述をしていることから, この供述の信用性について検討する。また,上述するとおり,原告は被告会社によ る被告製品の製造を特許権侵害行為として主張するところ,その事実が認められる かについても,ここで検討する。
・・・・
(ア) まず,原告は,被告会社の決算報告書(損益計算書)や法人事業概況 説明書(甲34,35,53,54)に不自然な点があると主張し,それと同旨の 供述をしているが,被告会社が被告製品を仕入れた旨の記載部分の信用性が認めら れることは,前記判示のとおりであり,これに反する原告の供述は採用できない。 また,原告は,甲39の被告製品の数量が658袋となっており,甲38記載の 526袋との差は被告会社が製造したものであるとも主張する。しかし,被告P2 は数え間違いによるものであると説明しているところ(乙24,被告P2供述), 被告会社が被告製品の原材料や製造装置等を用意していたことをうかがわせる証拠 がないことは前述のとおりであるし,被告会社が被告製品を製造したことをうかが わせる事実も認められない。したがって,数え間違いであるとの被告P2の説明は 否定し難く,上記事実から被告会社が被告製品を製造したと推認することはできな い。 そして,原告が被告会社の書類について指摘するその他の不自然な点については, 被告P2から裏付け証拠(乙3,16の1ないし16の3)を伴う形で説明がされ ており(乙24,被告P2供述),その説明を否定すべき事情は認められないし, その他に以上の判断を左右すべき証拠があるとはいえない。
(イ) 次に,原告は,被告会社が被告P2の一人会社であることなどを指摘 し,被告P2の行為は法人である被告会社の行為とみるのが自然であるなどと主張 する。しかし,被告P2は被告会社の代表取締役を務める一方で,「ケアシェルサ\nポート」という屋号で個人事業を営んでいるのであり,直ちに原告主張のように解 することはできない。むしろ,前記認定の事実によれば,被告P2は,個人の立場 で,解散会社から被告製品の原材料や製造装置を購入したり,従業員を雇用したり, 本件建物を賃借したりするなどしていると認められるから,これらの事実に照らせ ば,被告P2の行為を被告会社の行為と評価することはできず,これらの事実は被 告P2が個人の立場で被告製品を製造していたことを基礎付ける事実といえる。 この点に関し,原告は,甲52に被告会社が本件建物の6か月分の家賃として6 0万円を支払っていたと記載されていることを指摘し,被告製品を製造する本件建 物の家賃を被告会社が支出していたと主張するが,甲52の記載は誤記と認められ (乙23。なお,甲52には平成28年4月から9月までの家賃の支払が記載され ておらず,甲51の記載との連続性からすると,それ自体,不自然なことであるし, 乙19も踏まえると,誤記であるとの乙23の陳述は信用できる。),原告の上記 主張事実を認めることはできない。
(ウ) また,原告は,被告P2が被告製品の原材料等を被告会社の利益を使 って仕入れていたとして,被告製品の所有権を原始取得するのは被告会社である旨 主張する。しかし,被告会社が被告製品の原材料等を自ら仕入れていたことを認め るに足りる証拠はないし,被告らが取引基本契約を締結し,被告P2が被告会社に 被告製品を販売していたことをもって,原告主張のように評価することはできない。 むしろ,前記認定の事実によれば,被告P2は被告製品を被告会社に販売し,そこ から被告製品の製造に係る経費を回収していたと認めるのが相当である。したがっ て,被告製品の所有権は被告P2が製造することによって発生し,被告会社に販売 されることによって,被告会社がその所有権を取得したものと認められるから,原 告の上記主張は採用できない。なお,被告会社は被告P2が全株式を有する一人会 社であるから(被告P2供述,弁論の全趣旨),被告ら間の取引基本契約ないし売 買契約が民法108条本文や会社法356条1項により無効となることはないと解 される(最高裁昭和45年8月20日判決・民集24巻9号1305頁参照)。
(エ) 原告は被告会社の従業員数に照らせば,被告会社が被告製品を製造し ていないのは不自然であることも主張するが,被告会社の従業員は,被告P2自身 を除けば,被告P2の妻と,女性1人で,同人らの勤務時間は少なく,被告会社は 「しおさい」の販売業務等も行っているから(乙24,被告P2供述),原告指摘 の点が特別不自然であるとはいえない。 それだけでなく,原告は,被告P2が自ら被告製品を販売せず,被告会社が販売 している点について不自然である旨指摘しているが,被告P2は,顧客が法人から 仕入れたいと要望することがある旨供述しており,この説明自体,不自然,不合理 なものとはいえない。
(オ) 以上より,原告の主張・供述を採用することはできず,原告供述によ って被告会社が被告製品を製造していたことを認めることはできないし,被告P2 の供述の信用性が否定されるともいえない。 エ 以上のことに加え,被告P2の主張・陳述は本件訴訟の提起以来一貫し ていたことも踏まえると,被告製品を自ら製造し,被告会社に販売していた旨の被 告P2の供述は全体として採用することができる。また,原告は被告会社が被告製 品を製造していたと主張するが,これを認めるに足りる証拠はないから,この原告 の主張は採用できない。
(4) まとめ
共有特許権の共有者である被告P2(ケアシェルサポート)は,原告の同意を 得ることなく,共有特許発明を実施することができるから,被告P2が,仮に共有 特許発明の実施品として被告製品を製造し,これを被告会社に販売した場合には, 共有特許権はその目的を達成したものとして消尽し,共有特許権の共有者である原 告は,被告会社が被告製品を譲渡等することに対し,特許権を行使することはでき ないものと解される。 なお,被告会社は解散会社から購入した被告製品を第三者に販売したこともあっ たが,これは共有特許権の特許権者である原告及び被告P2から実施の許諾を受け て製造され,被告会社に販売されたものであるから,同じくその被告製品について も共有特許権は消尽したと解される。 したがって,被告製品が共有特許発明の構成と均等なものとして,その技術的範\n囲に属するか否かを論ずるまでもなく,被告製品の製造販売による共有特許権の侵 害を理由とする原告の請求には理由がないこととなる。
2 争点3(被告製品の製造販売について甲4特許権に対する特許法101条5 号の間接侵害が成立するか)について
(1) 原告は,甲4特許発明が方法の発明であることを前提として,被告製品の 販売について甲4特許権に対する特許法101条5号の間接侵害が成立すると主張 する(なお,前記1で判示したとおり,被告会社が被告製品を製造したとは認めら れない。)。これに対し,被告らは,甲4特許発明は物の発明であるなどとして, 同号の間接侵害は成立しないと主張する。
(2) そこで原告の主張について検討すると,そもそも,物の発明と方法の発明 とは,明文上判然と区別され(特許法2条3項),与えられる特許権の効力も明確 に異なっているのであるから(例えば,同法101条,104条,175条2項), 物の発明と方法の発明とを同視することはできないし,物の発明に関する特許権に 方法の発明に関する特許権と同様の効力を認めることもできない。そして,当該発 明がいずれの発明に該当するかは,まず,願書に添付した特許請求の範囲の記載に 基づいて判定すべきものである(同法70条1項参照)(最高裁判所平成11年7 月16日判決・民集53巻6号957頁参照)。 そこで,甲4特許の特許請求の範囲の請求項1を見ると,そこには機能的な表\現 がみられるものの,「…透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤」 と明記されており,その文言上,物の発明について記載されたものであることが明 らかである。したがって,甲4特許発明は方法の発明ではなく,物の発明である。 なお,以上のことは,甲4特許の発明の名称が「透析機洗浄排水の中和処理用マ グネシウム系緩速溶解剤」とされていることや,甲4特許明細書の【0001】に 「本発明は個人用透析機排水の中和処理に利用される透析機洗浄排水の中和処理用 マグネシウム系緩速溶解剤に関する。」との記載があること(甲4)からも裏付け られる。また,原告は甲4特許の出願経過に照らし,方法の発明として特許査定さ れたと主張するが,その主張は前述した特許請求の範囲の記載に照らして採用でき ないし,原告は出願当初,マグネシウム系緩速溶解剤の製造方法に係る発明(これ は,物を生産する方法の発明と解される。)についても特許請求の範囲に含めてい たが(乙9),補正によりこれを削除し,さらに用途を限定したところ(乙12, 13),この経緯に照らせば,なおさら採用する余地はないというべきである。
(3) 以上より,甲4特許発明は物の発明であって,方法の発明ということは できないし,これに方法の発明と同様の効力を認める根拠も見出し難い。したがっ て,甲4特許発明が方法の発明であることを前提に特許法101条5号の間接侵害 が成立するとの原告の主張は,その前提を欠き,採用することができない。

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平成31(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月11日  知的財産高等裁判所

 Googleが被告の審決取消訴訟です。知財高裁(3部)は、進歩性なしとした審決を取り消しました。なお、無効審判における利害関係も争点でした。請求人適格ありとの判断は審決と同じです。

 平成26年法律第36号による特許法の改正により,特許無効審判は「利害 関係人」のみが請求できるものとされ(123条2項),代わりに,「何人も」 申立てをすることができる(113条柱書)特許異議の申\\立制度が導入された ことにより,現在においては,特許無効審判を請求できるのは,特許を無効に することについて私的な利害関係を有するもののみに限定されたものと解さざ るを得ない。 しかしながら,特許権侵害を理由に民事責任や刑事責任を追及されるおそれ のある関係にある者は,当該特許を無効にすることについて私的な利害関係を 有し,特許無効審判請求を行う利益を有することは明らかである。
・・・
被告は,インターネット上のサービスの提供を行う会 社であって,原告と一定の競業関係にあるといえるから,過去又は将来の行為 を理由に,本件特許権侵害に係る民事上又は刑事上の責任を追及されるおそれ のある関係にある者に当たるということができる。更に言えば,被告は,原告 が提起した本件特許権の侵害を理由とする不当利得返還請求訴訟(別件特許権 侵害訴訟)において,グーグル合同会社と共同して被疑侵害品を開発した旨主 張されている(乙1)のであるから,原告から本件特許権の侵害を問題にされ るおそれがあることは明らかである。 以上によれば,本件審判の請求人(被告)は,本件特許権を無効にすること について利害関係を有するものと認められる。
・・・・
前記アのとおり,本件発明1の「少なくとも単独の受信者の識別子」と は,「遠隔サーバー」が送信する「操作者により決定された…更なる表現」\nを受信する者を識別するための情報であり,ハンドヘルド装置の操作者が, 同装置に前記識別子を入力することで,当該識別子により識別される特定 の者を,前記更なる表現を受信する者として指定できる機能\\を有するもの と解される。 一方,前記イのとおり,甲1に記載された「ランク」は,本件発明1の 「少なくとも単独の受信者の識別子」により実現している機能を果たすも\nのではないから,これに相当するものとはいえない。 そうすると,本件審決が,「ランク」を「少なくとも単独の受信者の識 別子」と呼ぶことは任意であるとして,両者が実質的に同一であることを 前提に,当業者が相違点1−3に係る本件発明1の構成を容易に想到し得\nると判断したことは,その前提を誤るものといえる。 そして,演奏者から受け取った信号と伴奏とを組み合わせたパフォーマ ンスを,サーバにアクセスしている聴衆に同報通信する構成により,「ウ\nェブ/チャット型サービスによるグループ対話式音楽演奏」を実現した引 用発明1において,「少なくとも単独の受信者の識別子」を,演奏者に入 力させる構成を採用する動機付けとなる記載は,甲1には見当たらず,ま\nた,かかる構成を採用することが,「ウェブ/チャット型サービスによる\nグループ対話式音楽演奏」における周知技術であるとも認められない。 したがって,相違点1−3に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に\n想到できたものであるとは認められない。
エ これに対し被告は,甲1には,ランクが高い演奏者が,参加する演奏グ ループを特定するために,どの演奏グループに参加するかの情報を HumSever に対して送信した後に演奏を開始することが,実質的に開示され ており,かかる情報は演奏グループを特定するものであって,演奏グルー プには少なくとも1人の聴衆が含まれるから,同情報は本件発明1の「少 なくとも単独の受信者の識別子」に相当するものであり,相違点1−3は 甲1に開示されている,あるいは,少なくとも実質的な相違点ではない旨 主張する。 しかしながら,前記ウのとおり,甲1に記載された「ランク」は,本件 発明1の「少なくとも単独の受信者の識別子」により実現している機能を\n果たすものではなく,これに相当するものとはいえない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。

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令和1(ネ)10052  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年12月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明についての特許侵害事件です。知財高裁(2部)も、1審と同じく、技術的範囲に属しないと判断しました。

ア 控訴人は,構成要件1Aは,画像情報を取得する機能\の有無に限らず, 「画像情報・・・を対応するパターンに変換するパターン変換器」であると主張する。 本件発明1の構成要件1Aは,「画像情報,音声情報および言語を対応するパター\nンに変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,」というも のであるところ,画像情報を取得する機能の有無に限らないという控訴人の主張に\nよると,本件発明1は,パターンに変換する画像情報が取得されたものでない場合 には,パターン変換器は,予め保持している画像情報を対応するパターンに変換す\nるものということになるが,このとき画像情報は,パターンに変換されることも,ま た,パターンとして記録されることもなく,画像情報として予め保持されていたも\nのということになる。 しかし,本件発明1の特許請求の範囲及び本件明細書等1には,画像情報が,パタ ーンに変換されることも,また,パターンとして記録されることもなく,予め保持さ\nれたものであるとは読み取ることができる記載はない上,かえって,本件明細書等 1の段落【0017】には,「【課題を解決するための手段】(請求項1に対応)」 として,「この発明における思考パターン生成機は画像情報,音声情報および言語を パターンに変換する。画像情報は画像検出器により検出され,対象物に応じたパタ ーンに変換される。・・・」と記載され,画像検出器により検出されるものとされて いる。 したがって,本件発明1の構成要件1Aが,画像情報を取得する機能\の有無に限 らないとの控訴人の主張を採用することはできない。 そして,本件装置が,外部から入力された表情等に関する画像をパターンに変換\nする機能を有していると認めるに足りる証拠がないことは,原判決「事実及び理由」\nの第4の2(2)イに判示するとおりである。 よって,本件装置が構成要件1Aを充足していると認めることはできない。\n
イ 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や被控訴人の主 張によると,本件装置内部で生成したパターン化されている画像に関する情報(画 像情報)からディスプレイに表示するための画素データ(画像パターン)に変換され\nていることが分かると主張する。 しかし,構成要件1Aの「パターン変換器」が行うものとして記載された「画像情\n報・・・を対応するパターンに変換する」処理でいうところの「パターン」とは,画 像,音声及び言語に係る事象の特徴を,計算機たる検出器が識別することができる 「1」,「0」等の何らかの信号の組合せに変換したものを意味すると解されること は,原判決「事実及び理由」の第4の2(1)アが判示するとおりである。 そして,本件装置が,「本件装置内部で生成したパターン化されている画像に関す る情報から,ディスプレイに表示するための画素データを作成する」としても,この\nことが,画像,音声及び言語に係る事象の特徴を,計算機たる検出器が識別すること ができる信号の組合せに変換する処理に当たらないことは明らかである。 したがって,控訴人の主張を採用することはできない。
ウ 以上によると,本件製品が構成1Aを充足すると認めることはできない。\n
(3) 争点2−2(構成要件1Bの充足性)について\n
ア 控訴人は,本件製品の紹介ビデオ(甲79)によると,顧客の銀行口座に 関する情報に対応するデータにパターンの変更が行われているから,本件装置はパ ターンを変更していると主張する。 しかし,「パターン」とは,画像,音声及び言語に係る事象の特徴が計算機たる検 出器が識別することのできる信号の組合せに変換されたものであり,「パターンの 変更」とは,このような信号の組合せ自体を変更するものである(原判決「事実及び 理由」の第4の2(3)ア)。顧客の銀行口座に関する情報に変更が行われているとし ても,このようなことは,パターンとパターンの結合関係を変更することによって も行うことができるから,本件装置の内部において,上記のような意味での「パター ンの変更」が行われていることを示すとは直ちに認められず,控訴人の主張を採用 することはできない。
イ 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や,本件製品の 紹介ビデオ(甲80)の説明によると,本件装置は「質問」に対し,学習の前と後で 回答内容が更新できるため,「回答内容」についてパターンの変更が実施されている と主張する。 しかし,本件装置が回答内容を更新しているということは,入力された言語情報 に対応する回答が変更されたということになるが,「言語に係る事象の特徴が変換 された信号の組合せ」が変更されたのか否かは明らかではないから,控訴人の主張 を採用することはできない。
ウ 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)や本件製品の紹介ペー ジ(甲81)に,「アメリアが文章をパーツに分解して,各単語の役割と,他の単語 との関係を解釈する」とある点について,本件装置は,「文章(=文,パターン)」 を「パーツ(文要素や単語)」に分解するという「変更」を実施していると主張する。 しかし,本件装置が,「文章(=文,パターン)」を「パーツ(文要素や単語)」 に分解するということは,文章を,文要素や単語に分解して認識していることを意 味しているにすぎないとも考えられ,言語の「パターン」を変更しているとは直ちに 認められない。
エ 以上によると,本件装置が構成要件1Bを充足するとは認められない。\n
(4) 争点2−4(構成要件1Dの充足性)について\n
ア 控訴人は,原判決が構成要件1Dについて,「有用と判断した情報のみを\n記録する」として,「のみ」を含むクレーム解釈をしたことが,請求項に記載のない ことを含めたものであり,誤りがあると主張する。 しかし,「有用と判断した情報のみを記録する」と解釈すべきことは,原判決「事 実及び理由」の第4の2(4)アが判示するとおりであり,控訴人の主張を採用するこ とはできない。
イ 控訴人は,甲31及び38に「業務に特化した情報を学習するため,業務 に不要な情報での不必要な学習や成長はしない」との記載があることから,本件装 置が有用な情報のみを記録するとの機能を備えていると主張する。\nしかし,価値ある入力した情報のみを記録するということをしなくても,入力さ れたそれぞれの情報の結合関係を生成しながら知識体系を構築することは可能\であ る上,本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)には,「全ての質問がアメリアの経験 や知識に加えられる」との説明があるから,「業務に特化した情報を学習するため, 業務に不要な情報での不必要な学習や成長はしない」からといって,本件装置が構\n成要件1Dの「有用な情報のみを記録している」とは認められない。
ウ 控訴人は,本件製品の紹介ビデオの説明(甲12の図5,甲79,80) やパンフレットの記載(甲11の2)によると,本件装置は,入力した情報の価値を 分析し,有用な情報を自律的に記録していると主張する。 しかし,上記の紹介ビデオの説明やパンフレットの記載は,アメリアが同僚と顧 客のやりとりを観察し,処理マップを自分で作成するというものや顧客に必要な質 問を投げかけ,それに対する顧客の回答に応答するというものであり,それから直 ちに有用な情報を取捨選択し有用な情報のみを記録しているとは認められない上, 本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)には,「全ての質問がアメリアの経験や知識 に加えられる」との説明があるから,本件製品が構成要件1Dの「有用な情報のみを\n記録している」とは認められない。
エ 以上によると,本件装置が構成1Dを充足すると認めることはできない。\n
(5) 争点3(構成要件2C等の充足性)について\n
ア 控訴人は,構成要件2C等の「評価」と「自律的に知識を獲得」ないし「自\n律的に知識を構築」の関係は並列であると主張するが,控訴人の上記主張を採用す\nることができないことは,原判決「事実及び理由」の第4の3(2)ア及びイが判示す るとおりである。 したがって,構成要件2C等の「評価」と「自律的に知識を獲得」ないし「自律的\nに知識を構築」の関係が並列であるとの控訴人の主張を採用することはできない。\n
イ 控訴人は,前記関係が直列の関係であるとしても,本件装置が構成要件\n2C等を充足すると主張する。 (ア) 意味の評価について
控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や本件製品の紹介ビデオ (甲12の図5)の説明などから,本件装置は,「同じ言葉の異なる用法」の中から 「最も文脈にあてはまる用法」がどれかを評価し,知識を構築しており,本件装置\nは,情報(意味)を評価し,知識の獲得を実施していると主張する。 しかし,本件製品のパンフレット(甲11の2の3頁)の「彼女は同じ言葉の異な る用法を見分けるために文脈をあてはめることで,暗示されている意味を完全に理 解します。」との記載は,本件装置が,文脈をあてはめて言葉の用法を見分けている というにすぎず,本件装置が情報(意味)を評価した上で,その評価を踏まえて妥当 性が確認された情報を知識として獲得していることを示していると認めることはで きない。 また,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質問がアメリア の経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,意味を評価した上で,その 評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得していると認めることは できない。 これに対し,控訴人は,本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)の上記説明につい て,意味を評価し,その結果に基づいて自律的に有益な知識を獲得する機能を有し,\n全ての質問を知識として加えるというケースはあり得ると主張するが,上記の説明 は,単に全ての質問を知識として加えるという意味に理解するほかなく,本件装置 が意味を評価した上で全ての質問を知識として加えるという意味に理解することは できないから,控訴人の主張を採用することはできない。
(イ) 新規性の評価について
a 控訴人は,本件製品のパンフレットの(甲11の2)の記載からする と,本件装置は,遭遇した状況が知識として記録している場面と似ておらず,自分で 問題に対処できないことを識別する機能を有するから,新規性を評価し,知識の獲\n得を実施している旨主張する。 しかし,本件発明2は,「自律的に知識を獲得」するというものであり,人の手を 介することを予定しているものではない。しかるところ,本件製品のパンフレット\n(甲11の2の9頁)には,「自力で問題に対処できない場合,人間の同僚にその問 題を引き継ぎます。」と記載されていて,人間の同僚が介入することが予定されてい\nる上,本件装置がその後同僚の様子を見て特定の状況に対する最善の手順を見つけ ることがあるとしても,本件製品の紹介ビデオ(甲80)では,「生成した処理ステ ップの使用を管理者が了承すると,直ぐに彼女は同様の質問に対して自分自身で対 応できるようになります」と記載されていて,管理者が了承しないと,知識として獲 得されないから,本件装置が「自律的に知識を獲得」するということはできない。 仮に,控訴人が主張するように,新しい処理ステップに関しては,本件装置の管理 者が了承する前に,既に生成し,記録しているとしても,本件装置の管理者が了承し なかった処理ステップまでが知識として獲得されるものではないから,本件装置が 「自律的に知識を獲得」すると認めることはできない。
b なお,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質 問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,新規性を評価 した上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得している と認めることはできないことは,上記(ア)と同様である。
(ウ) 真偽を評価する機能\n
a 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)や紹介ビデオ(甲 12の図5,甲79,80)には,本件装置が的確な質問を発して,「真実を明らか にする」機能(=真偽を評価する機能\)を有していることが示されていると主張す る。 しかし,本件製品のパンフレット(甲11の2)には,「問題の根本を見極めるた めの的確な質問ができる能力を持った」,「問題を明らかにするために必要な質問を\n投げかけることで,答えを提示することができます。」(6頁)との記載や,「事実 を明らかにするための的確な質問を発し,人間と同じように問題の明確な性質を顕 在化させることができるのです。」(11頁)との記載があるところ,これらの記載 と本件製品の紹介ビデオ(甲79,80)によると,本件装置の質問は,顧客の要望 を明らかにするためのものであって,真偽を判断するためのものであるとは認めら れないから,本件装置が,真偽を判断した上で,自律的に知識を獲得していると認め ることはできない。
b 控訴人は,知識に対して論理を当てはめ,プロセス全体の各ステッ プを自律的に進め,論理的な結論を得るためには,本件装置は,何が真であり,何が 偽であるかを評価する必要があると主張する。 しかし,論理的な結論を得るためには,情報間の結合関係を正確にする必要はあ るが,必ずしも入力した言語情報の真偽の妥当性を評価する必要性は認められない。
c なお,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質 問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,真偽を評価し た上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得していると 認めることはできないことは,前記(ア)と同様である。
(エ) 論理の妥当性について
a 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や,本件製 品の紹介ビデオ(甲79)によると,本件装置は,「積極的に論理を当てはめ」,「事 実を明らかにするための明確な質問を発し」,「問題の明確な性質を顕在化し」,「論 理的な結論を得て」,「事実を明らかにするための的確な質問」及び「回答」を記録 して知識を獲得するという一連の動作を実施していることが分かるから,本件装置 は,情報を評価(論理の妥当性)し,知識の獲得を実施していると主張する。 しかし,「論理的な結論」,「知識に対して積極的に論理を当てはめることにより, アメリアは問題を解決することもできます。彼女が知っている情報の本体に立ち返 ることで,自然言語で述べられた質問を元に事実を明らかにするための的確な質問 を発し,人間と同じように問題の明確な性質を顕在化させることができるのです。」 との本件製品のパンフレット(甲11の2の11頁)の記載や,アメリアの「質問」 に対する顧客の「回答」が記録された本件製品の紹介ビデオ(甲79)からは,本件 装置が入力した言語情報の論理の妥当性を確認しているとまでは読み取れないし, また,論理的な結論を得るためには,情報間の結合関係を正確にする必要はあるが, 必ずしも入力した言語情報の論理の妥当性を評価する必要性は認められないから, 控訴人の主張を採用することはできない。
b 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載によると, 本件装置は,論理を適用し(=論理の妥当性を評価し),経験を通して学習している (=記録している),すなわち,言語情報の論理の妥当性を評価し,経験した内容を 知識として獲得していると主張する。 しかし,本件装置が,「・・・論理を適用し,暗示されている内容を推定し,経験 を通して学び,感情すらも察知」(甲11の2の3頁)するものであるとしても,こ のことから本件装置が入力した言語情報の論理の妥当性を評価しているとは直ちに 認められないから,控訴人の主張は採用できない。
c 控訴人は,本件製品の紹介ビデオ(甲79)には,本件装置が条件付 き処理を実施していることから,論理的に対応し,情報を記録していると主張する。 しかし,本件装置が,顧客の回答が「はい(yes)」なら,受取人リストに追加し, 回答が「いいえ(no)」なら,受取人リストに追加しないという処理をするとしても, このことは,顧客の回答に基づいた処理をしていることを示すにすぎず,本件装置 が論理の妥当性を評価しているとは認められない。 d なお,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質 問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,論理性を評価 した上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得している と認めることはできないことは,前記(ア)と同様である。

◆判決本文

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◆平成29(ワ)15518

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平成31(行ケ)10022  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月18日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、技術分野と課題が共通するので動機付けありとした無効審決を、維持しました。

 甲12,甲13及び甲15の上記各記載によれば,本件特許の出願当時, 複数の受光素子が2次元的に配列されるとともに,当該受光素子ごとに集光レンズ (マイクロレンズ)が設けられた光学的センサを用いたカメラ装置にあっては,そ の中心部と周辺部とにおける光の入射角の相違による周辺部の光量不足が,集光レ ンズを採用しないものより大きくなるという課題が存在し,その課題を解決するた めに,複数のレンズで構成される結合レンズに対し,絞りを被写体側に配置して中\n心部と周辺部との入射角の差を小さくすることにより,周辺部の光量不足を緩和す ることは,当業者の周知技術であったと認められる。
(イ) 原告は,ビデオカメラ装置とコードリーダとでは技術分野が異なり,ビデ オカメラ装置の技術はコードリーダにも適用することができるような幅広い周知技 術でないと主張する。 しかしながら,コードリーダであるIT4400は,A「複数のレンズで構成さ\nれ,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」と,B 「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光し た光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると 共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた,CCDエリアセンサである,光 学的センサ」と,C「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」とを備 えており,上記周知技術に係るビデオカメラ装置と共通する光学系及び撮像方式を 採用していることからみても,ビデオカメラ装置と全く異なる技術分野に属すると いうことはできない。
(ウ) そして,上記周知技術が解決しようとした課題である周辺部の光量不足とは, 撮像素子の受光素子ごとに,素子開口部より大きい口径のマイクロレンズを配設し, 同レンズで集光する構成を採用したことにより生じる事象であり,用途がカメラ装\n置である場合に特有のものではなく,同様の光学系及び撮像方式を採用したコード リーダであるIT4400においても生じ得る事象であることは,当業者が普通に 認識することができたものというべきである。
ウ 容易想到性
このように技術分野と課題が共通することからすると,公然実施されたIT44 00に上記周知技術を組み合わせて,周辺部の光量不足を緩和するために,「読み取 り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置 することによって,光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し, 前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子に対して入射する前記読み取り対象 からの反射光が斜めになる度合いを小さくして,適切な読取りを実現」することは, 当業者が容易に想到することができたというべきである。
エ 原告の主張について
原告は,訂正によって生じた相違点4に係る本件発明の構成に関連して,IT4\n400は,いわゆるガンタイプのコードリーダで,ある程度の大きさが許容され, 周辺部の光量不足の課題が顕在化しにくいことや,ビデオカメラ装置と2次元コー ドリーダでは求められる機能の優先順位が異なり,発光手段の有無やコンパクト化\nのニーズを含めてレンズや絞りの設計思想自体,根本的に相違していることを挙げ, IT4400に対して,上記周知技術を組み合わせる動機付けを欠く旨主張する。 しかし,周辺部の光量不足は,マイクロレンズ付き撮像素子を採用することに起 因して生じる課題であって,ガンタイプのコードリーダであれば,マイクロレンズ 付き撮像素子を採用しても,当該課題が生じないということはできないから,その 解決手段として,上記周知技術を採用することについて動機付けを欠くということ はできない。また,原告の主張する,装置に求められる機能の優先順位の相違が,上\n記周知技術の採用を阻害する事情に当たるともいえない。 よって,原告の主張は採用できない。
オ 以上によれば,本件審決の相違点1に係る容易想到性の判断に誤りはない。
(5)相違点2に係る容易想到性について
相違点2に係る本件発明の構成は,「前記光学的センサの中心部に位置する受光素\n子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の 比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で, 中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」というものであ\nり,光学的センサの「中心部」と「周辺部」との境界や,出力の比に関する「所定値」 については,具体的に特定されていない。 そして,本件明細書【0042】には,「適切な読み取りを実現するためには,セ ンサ周辺部にある受光素子41aからの出力レベルが所定レベル以上になる必要が ある。そのため,例えば,センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対 するセンサ周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上となるよ う射出瞳位置を設定することが考えられる。つまり,このような射出瞳位置となる ように絞り34aの位置を設定するのである。このようにしておけば,中央部と周 辺部の出力差を考慮しながら,例えば照射光の光量や露光時間などを調整すること が容易となり,中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。」との\n記載がある。
本件明細書の上記記載に照らすと,相違点2に係る本件発明の構成は,その実質\nにおいて,露光時間の調整など所与の調整を行うことを前提とした上で,光学的セ ンサの中心部においても周辺部においても適切に読み取ることが可能となるように\n射出瞳位置を設定することをもって本件発明の構成を特定しているということがで\nきる。 そうすると,公然実施されたIT4400において,相違点1に係る構成を採用\nし,絞りを被写体側に配置するに当たりその位置を具体的に決定する際に,射出瞳 位置を「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光 学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように」 設定し,「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能\nとなるように」することは,当業者において周辺部でも適切に読み取ることを可能\nとする2次元バーコードリーダを構成する上で,適宜に採用する事項にすぎない。\nそうすると,相違点2に係る本件発明の構成も,当業者において容易に想到する\nことができたものというべきである。

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平成30(ワ)28211  商標権移転登録手続等請求事件  商標権  民事訴訟 令和元年10月9日  東京地方裁判所

 契約に基づく商標権の移転登録は認められませんでした。理由は、新規独占販売契約の締結という条件が成就したとは認められないというものです。

 前記1で検討した両者間の交渉経緯等からすれば,原告と被告との間では, 平成27年12月31日までに,新規独占販売契約の締結に向けての交渉が行われ てそれぞれが作成した草案が交換されているものの,交換された原告と被告の草案 には相違点が存在し,それを巡って両者間に対立が生じていたのであって,同年中 にこれが解消することはなかったというべきである。さらに,前記1(14)ないし (17)のとおり,平成28年以降も新規独占販売契約の締結に向けた交渉が継続され ていたのであり,平成27年12月31日までに原告と被告との間に新規独占販売 契約が成立していたとは認め難く,その他,新規独占販売契約の成立を認めるに足 りる証拠はない。
(2) 原告は,本件条件概要書に沿った内容で新規独占販売契約を締結する旨の原 告と被告の意思表示の合致がある以上,本件条件概要書の基本事項の限度では新規\n独占販売契約が成立していたとも主張するが,同年中にやりとりがされていた原告 と被告の草案は,被告が原告に支払うべきロイヤルティの額に下限を設けるかどう かなどの実質的な点で相違するものであり(甲12,乙4,7),前記1(11)のとお り,それぞれの草案が本件条件概要書に沿ったものであるかどうかについても互い に認識の一致が見られない状況であったことからすれば,原告の上記主張は採用で きない。
3 争点2(本件条件(新規独占販売契約の締結)の成就が擬制されるか)につ いて
(1) 争点2−1(平成27年12月31日時点での条件成就が擬制されるか)に ついて
ア 被告は,平成27年10月9日に本件買戻権の行使の見送りを求める電子メ ールを送っているが(前記1(2)),原告が本件買戻権の書面による正式な行使(前 記 1(4))をする前にされたものであり,これによって本件買戻権行使後の新規独占 販売契約の締結を妨害したとはいえない。 また,被告は,上記電子メールと同日付けの書面で,本件PR契約を平成28年 以降延長しない旨を通知しているが(前記1(3)),本件買戻権の行使によって本件商 標権が被告から原告に移転することが見込まれる状況であったことからすれば,買 戻権行使後の本件商標権に関するプロモーション業務について,被告が本件PR契 約の見直しを希望することは特段不合理とはいえず,実際に本件PR契約を平成2 7年末で終了させたこと(前記1(15))を含め,新規独占販売契約の締結の妨害に 当たるとはいえない。
イ 原告は,被告において,新規独占販売契約の更新拒絶が制限されている上で, 被告のサブライセンシーから受けるロイヤルティ料率に下限を設けていないとの本 件条件概要書の規定内容を利用して,サブライセンスのロイヤルティ料率の引下げ 見込みを通知し(前記1(9)),原告に支払うロイヤルティを半永久的にゼロにでき る旨を示唆して,原告に本件買戻権の撤回を迫った旨主張する。 しかしながら,被告が通知した内容(甲13)には,本件条件概要書の規定内容 を利用して,原告に支払われるべきロイヤルティを半永久的にゼロにできるとの趣 旨の主張をしたことをうかがわせる記載はなく,また,被告が引下げの理由につい て殊更に虚偽の説明をしたと認めるに足りる証拠もない。そして,被告が,ロイヤ ルティ料率の引下げに反対する原告の意見(前記1(10),(12))を受けて,この問 題について原告との協議に応じる用意がある旨の意見を述べていたこと(前記1 (13)),原告と被告とが平成28年以降も新規独占販売契約の締結に向けて協議を継 続していたこと(前記1(14))も考慮すれば,ロイヤルティ料率の引下げ見込みの 通知に係る被告の対応が新規独占販売契約の締結を妨害するものであったとは認め られないというべきである。
ウ 原告は,本件買戻契約第8条(c)では「条件の詳細についても別途協議し決定 する」とされており,本件条件概要書に記載がない規定については,原告と被告と の協議が予定されていたにもかかわらず,被告は,原告の提案について本件条件概\n要書に記載がないことを理由に誠実に対応しなかったと主張する。 しかしながら,前記1(7)のとおり,原告第2草案においても含まれていた被告の 売上目標に関する規定やロイヤルティ額の下限に関する規定等は,単に形式的・手 続的な事項に留まらず,新規独占販売契約における原告及び被告の収支に直接的に 影響しうる条項を含むものであったということができ,このような内容についても 本件買戻契約第8条(c)で定められている協議の対象として許容されていたといえる かについては疑問があるところである。そして,被告は,前記1(11)のとおり,原 告第2草案が本件条件概要書からかい離した内容を含むと具体的に指摘した上で, 本件条件概要書に記載のない原告第2草案の規定を削除等するように求めていたの であるから,本件条件概要書に記載がないことを理由としてこれらの条項の追加に 応じなかった被告の態度をもって本件買戻契約第8条(c)の規定に反するものであっ たとはいえず,新規独占販売契約の締結を妨害したものともいえない。このことは, 被告第2草案に被告から原告へのロイヤルティの支払時期について本件条件概要書 の記載を変更する提案が含まれていたこと(乙4,10)を考慮しても同様である。 エ 以上によれば,原告の指摘する各点を考慮しても,平成27年12月31日 までに新規独占販売契約が締結されなかったことについて,その締結を被告が故意 に妨害したとはいえず,その他,この点を認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件条件の成就について民法130条の適用があるとした場合でも, 平成27年12月31日の時点で本件条件の成就が擬制されるとはいえない。
(2) 争点2−2(本件調停終了時点(平成30年1月16日)での条件成就が擬 制されるか)について
ア 前記(1)で検討したとおり,平成27年中に双方が提示した草案には相違点が あり,原告が提示した草案に対して,被告が本件条件概要書に記載がない条項の追 加に応じないとの対応をしたことをもって,被告が新規独占販売契約の締結を妨害 したものとは認められない。 前記1(14)及び(16)の経緯からすれば,平成28年以降も,原告と被告との間に おいては,新規独占販売契約に向けた交渉や調停手続が継続していたものであるが, 原告と被告は,互いに平成27年中に自らが提示した草案から大きく主張を変更す ることはなく,そのために本件調停を経ても新規独占販売契約の締結に至らなかっ たものと認められる。 また,被告は,前記1(17)のとおり,本件調停終了後も原告が本件訴訟を提起す る直後まで原告親会社との間での協議に応じていたものであり,本件証拠上,平成 28年以降,被告が新規独占販売契約の締結に向けた協議を殊更に拒絶したとの事 情は認められない。 そうすると,前記(1)で検討した平成27年12月31日までの事情に加え,平成 28年以後の協議等の状況を考慮しても,本件調停が終了した平成30年1月16 日までに新規独占販売契約が締結されなかったことについて,その締結を被告が故 意に妨害したとはいえず,その他,この点を認めるに足りる証拠はない。
イ したがって,本件条件の成就について民法130条の適用があるとした場合 でも,本件調停が終了した平成30年1月16日で本件条件の成就が擬制されると はいえない。

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平成28(ワ)2067等  特許権侵害差止請求権不存在確認等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月28日  大阪地方裁判所

 均等侵害も主張しましたが、第1要件を具備しないと判断されました。

 特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった 技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基 づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって,特\n許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従 来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解される。\nこの本質的部分については,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許 発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の 記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何で\nあるかを確定することによって認定するのが相当である。その認定に当たっては, 特許発明の実質的価値がその技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応 じて定められることからすれば,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記 載の従来技術との比較から認定することが相当である。 その上で,第1要件の判断,すなわち,対象製品等との相違部分が非本質的部分 であるかどうかを判断する際には,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分 を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められ る場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断することが相当である。
イ 本件の場合
(ア) 本件各発明の本質的部分
a 前記1(1)のとおり,本件明細書によれば,本件各発明は,歯に付着したプラ ークの除去及び歯茎のマッサージに好適なロール歯ブラシの製造方法及びその製造 装置に関するものである。上記製造方法等に関する従来技術は,ナイロン等の多数 の素線を束状に集合させてなる素線群の一端を加熱溶着することにより半球形状の 溶着部を形成し,溶着部を加圧して扁平状とし,扁平部の軸孔となる部分をカット して,加圧することにより素線群の全体を略円形とし,かつ扁平部を略円形とし, その後,扁平部の両端を溶着などにより接合させて環状部を形成し,シート状のブ ラシ単体を製作するというものである。この従来技術には,ブラシ単体の厚みを均 一とするには熟練を要し,ブラシ単体の厚みが不均一の場合は回転ブラシの毛足密 度が不均一となり,工程数が多く複雑な工程を要するので,一貫した連続製造が困 難で回転歯ブラシの製造コストも高くなるという課題があった。そこで,これを解 決するため,本件各発明は,回転歯ブラシの製造方法として本件発明1の構成を,\n回転ブラシのブラシ単体の製造方法として本件発明2の構成を採用することで,各\n工程を画一的に処理することが可能となり,高度な熟練を要することなく均一な厚\nさのブラシ単体の製作を可能とし,また,本件発明1及び2の方法を容易に実施で\nきて,所期の目的を達成するため,回転ブラシのブラシ単体の製造装置として本件 発明3の構成を採用したものである。\n前記1(2)及び(3)のとおり,本件発明2及び3は,素線群の突出端の中央に,エア を素線群が突出させられる方向とは反対方向から吹き込んで素線群を放射方向に開 かせることとしている(構成要件G及びN)。これは,これにより,ブラシ単体を\n構成する素線同士の重なりがほとんどなくなり,均一な厚さのブラシ単体を製作す\nることができるとともに,ブラシ単体の製作速度を早くした場合にも素線を傷付け るおそれが少なくなるため,素線群の開きを高速度で行うことが可能となって,効\n率良くブラシ単体を製作することができるからである。この点に鑑みると,本件発 明2及び3の特許請求の範囲の記載のうち「素線群の突出端の中央にエアを吹き込 んで素線群を放射方向に開く」とある部分は,従来技術には見られない特有の技術 的思想を有する本件発明2及び3の特徴的部分であるといえる。
b これに対し,被告らは,本件発明2及び3の本質的部分が,エアを吹き込む ことにより素線群を簡易に均等に開くことができ,その状態で溶着,切除すること によりブラシ単体の製造を簡易かつ高速に行うことができるという点にあり,吹き 込むエアの方向が,素線群を送り出す方向とは逆方向かという相違部分は,本件発 明2及び3の本質的部分ではないと主張する。 しかし,本件発明2及び3は,上記課題の解決方法として,素線群をノズルから のエアを用いて放射方向に開くという構成を採用し,均一な厚さのブラシ単体を効\n率良く製作するために素線群を高速度で放射方向に開かせるため,素線群の突出端 の中央にエアを意図的に吹き込ませるものである。このような工程の所期の目的を 実現するための構成及び機序は,素線群を送り出す方向を基準としてエアを吹き込\nませる方向が順逆異なるのであれば,必然的に異なるものとならざるを得ない。そ の意味で,本件発明2及び3におけるエアを吹き込ませる方向は,本件発明2及び 3の特徴的部分というべきである。したがって,この点に関する被告らの主張は採用できない。
(イ) 前記1のとおり,原告製造方法は,素線群の突出端の中央にエアを吹き込ん で素線群を放射方向に開かせるという工程を備えておらず,また,原告製造装置は, 素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開かせる装置を備え ていない。すなわち,原告製造方法は本件発明2の,原告製造装置は本件発明3の 本質的部分をいずれも備えていない。このように,本件発明2と原告製造方法との 相違部分,本件発明3と原告製造装置との相違部分はいずれも本質的部分であるか ら,原告製造方法及び原告製造装置は,均等の第1要件を充足しない。

◆判決本文

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令和1(ネ)10053  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年12月18日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 共同研究契約書の「条件」が法的効果を伴うのかが争われました。知財高裁は、1審と同じく、契約等の締結を停止条件とする条件付契約であり契約の効力は発生していない、これと反する主張は、自白の撤回であると判断しました。

 控訴人は,当審において,本件契約第25条にいう「条件」が法的効果を伴う ものであることを争い,仮に,法的効果を伴うとしても,解除条件を定めたものと みるべきであると主張して,それが契約の効力の発生に係る停止条件であることを 争い,さらに,停止条件を定めたものであるとしても,本件においては,その条件が 成就していると主張する。 これに対し,被控訴人は,原審における経緯を踏まえると控訴人が上記のように 主張することは,自白の撤回に当たり,許されず,民訴法2条所定の信義誠実義務 にも反するとして,その適否を争う。
(2) 本件記録によれば,本件の審理の経過について,以下の事実が認められる。
ア 控訴人は,平成29年3月17日,弁護士Aに委任して,ハリマ化成グルー プ及び被控訴人を被告として,本件訴えを提起した。
イ 訴状における請求原因は,(1)ハリマ化成グループの役員が,本件契約の契約 当事者がハリマ化成グループであると控訴人を誤信させて,被控訴人との間の本件 契約を締結させ,この行為が控訴人に対する不法行為を構成するから,ハリマ化成\nグループは,会社法350条により6000万円の損害を賠償すべき責任を負う(主 位的請求1),(2)ハリマ化成グループ及び被控訴人の従業員らが,前記役員と共謀し て,控訴人の特許技術を詐取し,この行為が控訴人に対する不法行為を構成するか\nら,ハリマ化成グループ及び被控訴人は,民法715条により6000万円の損害 を賠償すべき責任を負う(主位的請求2),(3)被控訴人は,本件契約に基づき,約定 の一時金4500万円を支払う義務がある(予備的請求),というものであった。\n
ウ 控訴人は,平成29年8月28日の第1回弁論準備手続期日において,訴状 を陳述した後,上記イの主位的請求1及び同請求に係る主張を全て撤回した。 被控訴人及びハリマ化成グループは,同期日において,第1準備書面(平成29 年8月4日付)を陳述し,被控訴人において本件一時金の支払を拒絶する理由が, (1)本件契約には本件契約第25条所定の「条件」が付され,当該「条件」は停止条件 であり,これが成就していないとする停止条件の未成就,(2)本件契約第21条に基 づく「本件特許権等の実施にあたる事業の中止」を理由とする本件契約の中途解約 及び(3)本件契約第22条第1項に基づく本件契約の解除であることを主張した。
エ 控訴人は,平成29年10月3日付「訴えの取下書」をもって,ハリマ化成グ ループに対する訴えを取り下げ,ハリマ化成グループは,同月16日の第2回弁論 準備手続期日においてその取下げに同意した。また,控訴人は,同期日において,請 求原因の構成を検討する旨陳述した。\n
オ 控訴人は,第4回弁論準備手続期日(平成30年2月1日)において,準備書 面3(平成29年12月7日付)を陳述し,請求原因を,(1)控訴人と被控訴人との間 で本件契約が成立していることを理由とする本件契約所定の本件一時金4500万 円の支払請求(主位的請求),(2)本件特許権の核心的ノウハウを控訴人に提供させて 被控訴人が当該ノウハウを詐取したことが不法行為であるとする4500万円の損 害賠償請求(予備的請求)に変更した。\n
カ 原審裁判所は,第6回弁論準備手続期日(平成30年5月15日)において, これまでにおける当事者双方の主張を踏まえ,主張と争点を書面で整理するとした 上,同年6月19日に「主張の骨子レベルの整理案」と題する書面を当事者双方に 提示した。 同書面では,「(明示的には主張のない内容も含むが,当事者の言わんとするとこ ろを忖度すると,大きな構成として以下のように整理することで争点が明確になる\nのではないか。検討されたい。大きな構成としてこれで良ければ,行為,対象等を特\n定すると共に,争点ごとの主張・反論の詳細な内容の整理に進む。)」との前置きを した上,当事者双方の主張が整理されており,このうち控訴人の主位的請求原因, これに対する被控訴人の反論及び争点については,別紙「主張の骨子レベルの整理 案(抜粋)」のとおりとされた。
キ その後に開かれた弁論準備手続期日と口頭弁論期日において,控訴人は,最 終準備書面(平成31年3月19日付)を含む3通の準備書面を陳述し,口頭弁論 は終結された。 各準備書面での主位的請求原因についての主張の内容は,本件契約第25条所定 の「条件」は停止条件であるところ,本件共同研究契約等が締結されなかったのは 被控訴人が本件一時金の支払を免れるために恣意的に本件共同研究契約等を締結し なかったものであるから,停止条件である本件契約第25条所定の「条件」は成就 したものとして本件共同研究契約等は締結されたものとみなされるべきであるとい うものだけであり,前記「主張の骨子レベルの整理案」の内容に沿っている。
ク 控訴人は,原審裁判所が「主張の骨子レベルの整理案」を提示する前には,本 件契約第25条所定の「条件」は,その条件が単に債務者の意思のみに係る純粋随 意条件である旨主張していたが,法的効果を伴うものではない,当該「条件」が停止 条件でない,あるいは解除条件であるといった主張は一切しておらず,原審裁判所 から「主張の骨子レベルの整理案」を提示された後は,専ら前記キの主張をするに 至っている。
ケ 原判決は,「第4 当裁判所の判断」「1 争点1(被告が故意に本件契約第 25条の停止条件の成就を妨げたか等)について」(1)の冒頭において,次のとおり 摘示している。 「原告が主位的請求において請求しているのは,本件契約に基づく一時金の支払 であるところ,本件契約において,契約が成立してから60日以内に,被告が原告 に一時金4500万円を支払うと定められていること(第4条),本件契約では,共 同研究契約等の締結を条件とする旨規定されており(第25条),これは停止条件を 定めたものであること,及び現在に至るまで共同研究契約等が締結されていないこ とは,当事者間に争いがない。」
(3)上記(2)の原審審理経過を踏まえれば,控訴人が当審において本件契約第25 条にいう「条件」が法的効果を伴う停止条件であることを争い,また,仮に停止条件 を定めたものであるとしても,本件ではその条件が成就していると主張することは, 成立した自白の撤回に当たり,控訴人において自白をしたことにつき錯誤があった とも認められないから,その撤回は許されないというべきである。
(4)なお,念のため付言すると,本件契約は,法人を当事者とし,書面において双 方の意思表示がされている契約であるところ,本件契約第25条の見出しとその文\n言からすれば,これが法的効果を伴わないとか,解除条件であると解する余地はな く,本件契約の効力の発生について停止条件を付すものであると解するほかないも のである。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)3973

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平成31(行ケ)10026  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月11日  知的財産高等裁判所

 無効審判における訂正請求は、新規事項であるとした審決が維持されました。

 本件で主に問題とされているのは実施例2であるが,その検討の前提と して,本件当初発明の意義及び実施例2の変更元である実施例1について まず検討する。 本件当初発明は,特に出力部材が前進限界位置や後退限界位置などの所 定の位置に達した際に,出力部材の動作に連動させてシリンダ本体内のエ ア通路の連通状態を開閉弁機構により切換え,エア圧の変化を介して前記\n出力部材の位置を検知可能にした流体圧シリンダ及びクランプ装置に関す\nるものであり(段落【0001】),流体圧シリンダの小型化,出力部材 の位置検出の信頼性や耐久性の向上等を目的とするものである(段落【0 011】,【0021】ないし【0023】)。 実施例1は,第1エア通路21のエア圧を介して,出力部材4が上昇限 界位置にあることを検出する為の第1開閉弁機構30,第2エア通路22\nのエア圧を介して,出力部材4が下降限界位置にあることを検出する為の 第2開閉弁機構50を備えるクランプ装置1である(段落【0036】)。\n第1開閉弁機構30は,油圧導入室33が,油圧導入路34を介して,ク\nランプ油室14に接続され,クランプ油室14に油圧が供給されると,油 圧導入路34から油圧導入室33に油圧が導入され,その油圧が弁体本体 38を進出方向へ付勢し,閉弁状態から開弁状態となる。逆に,クランプ 装置1がアンクランプ状態になったとき,油圧導入室33の油圧がドレン 圧になり,ピストンロッド部材4aの大径ロッド部4eにより弁体本体3 8がキャップ部材32側へ押動され開弁状態から閉弁状態に切換わる(段 落【0057】ないし【0059】)。第2開閉弁機構50は,クランプ\n装置1がアンクランプ状態のとき,アンクランプ油室15の油圧が,油圧 導入孔(路)54から油圧導入室53へ導入され,油圧導入室53の油圧 により弁体51が上方へ付勢されて上方へ移動して開弁状態となる。逆に, アンクランプ油室15の油圧をドレン圧に切換え,ピストンロッド部材4 aが下降限界位置まで下降すると,弁体本体58がピストン部4pにより 下方へ押動され,開弁状態から閉弁状態に切換わる(段落【0069】, 【0070】)。また,本件当初明細書には,実施例1の効果として,エ ア通路のエア圧を介して,クランプ状態になったこと,又は,出力部材の 所定の位置を確実に検知できること(段落【0070】,【0073】), 第1,第2開閉弁機構をクランプ本体内に組み込むことができるため,油\n圧シリンダ1を小型化することができること(段落【0071】),第1, 第2開閉弁機構では,クランプ油室内(第2開閉弁機構\においてはアンク ランプ油室内)の油圧を油圧導入室に導入し,その油圧を弁体に作用させ て,弁体を出力部材側へ突出状態に保持できるため,信頼性と耐久性の面 で有利であること(段落【0072】)が記載されている。
イ(ア) 次に,本件当初明細書には,実施例2として,実施例1の第2開閉 弁機構50を部分的に変更し,弁体本体58Aの下端部分に形成した凹\n穴58dと油圧導入室53に圧縮コイルスプリング53aを装着するこ とで,弁体本体58Aが,油圧導入室53の油圧によって上方へ付勢さ れると共に,圧縮コイルスプリング53aによって上方へ付勢されるよ うにした第2開閉弁機構50Aが開示されている(段落【0074】,\n【図11】,【図12】)。ここで,圧縮コイルスプリング53aは「ク ランプ状態からアンクランプ状態へ切換える際に,アンクランプ油室1 5に充填される油圧の圧力が立ち上がるまでの過渡時における,弁体5 1の作動確実性を高める」(段落【0075】)ものとされているから, 実施例2において,弁体本体58Aを上方へ付勢する力は,主としてア ンクランプ油室15から油圧導入路54を通じて油圧導入室53に導入 される油圧によるものであって,圧縮コイルスプリング53aは,油圧 による付勢力が立ち上がるまでの間,補助的に用いられるものと認めら れる。
(イ) 発明の効果との関係で,第2開閉弁機構50Aは,「実施例1の油\n圧シリンダと同様の効果を得られる」(段落【0075】)ものである とされている。ここで,実施例1の油圧シリンダの効果の1つとして, アンクランプ油室内の油圧を油圧導入室に導入し,その油圧を弁体に作 用させて,弁体を出力部材側へ突出状態に保持できるため,信頼性と耐 久性の面で有利であることが記載されていることは,前記アのとおりで ある。よって,実施例2における油圧導入室53と油圧導入路54は, 信頼性と耐久性の面で有利という発明の効果を奏するための必須の構成\nといえる。 また,油圧シリンダの小型化という効果について,段落【0071】 には油圧を用いることとの関係は明記されていないものの,段落【00 21】に,「シリンダ本体内のエア通路を開閉する開閉弁機構を設け,\nこの開閉弁機構は,弁体と弁座と流体圧導入室と流体圧導入路とを備え,\n弁体をクランプ本体に形成した装着孔に組み込むことで,開閉弁機構を\nシリンダ本体内に組み込むことができるため,流体圧シリンダを小型化 することができる」と記載されていることからすれば,実施例2におい て油圧導入室53と油圧導入路54とを備えることが,油圧シリンダの 小型化に関係していると考えるのが自然である。原告は,段落【002 1】の記載は,本件当初発明1に規定された「開閉弁機構」の構\成を列 挙したものにすぎないと主張するが,現に記載がある以上,それを無視 することはできない。 このように,実施例2において,油圧導入室53と油圧導入路54は, 発明の効果と結びつけられた構成といえる。\n
ウ 実施例3は,実施例1の第2開閉弁機構50を部分的に変更し,環状部\n材57を省略した第2開閉弁機構50Bとするものである(段落【007\n6】)。 実施例4は,実施例3の第2開閉弁機構50Bを部分的に変更し,キャ\nップ部材52Cの内部にカップ状のカップ部材52cを設けた第2開閉弁 機構50Cとするものである(段落【0080】,【0081】)。\n実施例5は,開閉弁機構を,弁体31D,51を可動弁体なしで弁体本\n体38,58のみで構成するとともに,出力部材の位置と開閉弁機構\の開 閉状態との関係を実施例1の場合と逆にした第1開閉弁機構30D,第2\n開閉弁機構50Dとするものである(段落【0084】,【0085】,\n【0089】,【0090】,【0092】)。 実施例6ないし8は,開閉弁機構については,実施例1または5と同様\nの構造である(段落【0096】,【0106】,【0112】,【01\n13】)。 このように,実施例3ないし8は,いずれも開閉弁機構については,実\n施例1と同様に,流体圧導入室及び流体圧導入路を設けることのみによっ て,弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する構成である。また,実\n施例3ないし8は,いずれも実施例1と同様の効果が得られるとされてい る(段落【0079】,【0083】,【0093】,【0100】,【0 111】,【0118】)
エ 段落【0119】及び【0122】には,前記実施例を部分的に変更す る例として,「本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の開閉弁機構を採用\nすることができる。」とされているが,変更の具体的な内容は記載されて いない。
オ 本件当初発明7は,「前記開閉弁機構は,前記弁体を前記出力部材側に\n弾性付勢する弾性部材を有することを特徴とする請求項1に記載の流体圧 シリンダ。」というものである。 本件当初発明7は,本件当初発明1を引用するところ,本件当初発明1 は,「前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させ た状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連 通させる流体圧導入路とを備え」るものであるから,本件当初発明7も, 流体圧導入室と流体圧導入路を備えるものであることは明らかであり,段 落【0029】の記載も,かかる理解と整合的である。 カ 以上のとおり,本件当初明細書等の記載のうち,実施例2の構成は,油\n圧導入室53と油圧導入路54を備えることによる油圧による付勢を主と し,圧縮コイルスプリング53aによる付勢を補助的に用いるものである (前記イ(ア))。かかる構成から,主である油圧による付勢に係る構\成を あえてなくし,補助的なものに過ぎない圧縮コイルスプリングのみで付勢 するという構成を導くことはできないというべきであり,実施例2におい\nては,油圧導入室53と油圧導入路54が発明の効果と結びつけられて記 載されていること(前記イ(イ))を考慮するとなおさらである。段落【0 119】及び【0122】の記載は,具体的な変更内容を示すものではな いから(前記エ),上記認定を左右しない。また,本件当初明細書のその 他の実施例は,流体圧導入室及び流体圧導入路のみによって弁体を出力部 材側に進出させた状態に保持する構成である(前記ウ)。本件当初明細書\n等のその他の部分にも,流体圧導入室及び流体圧導入路を備えない構成に\nついての開示はない。 そのため,開閉弁機構に流体圧導入室及び流体圧導入路を設けることな\nく,弾性部材のみによって弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する 構成は,当業者によって本件当初明細書等のすべての記載を総合すること\nにより導かれる技術的事項とはいえない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,段落【0122】において開閉弁機構の改変が示唆され,実施\n例2においては弁体を進出させる構成を改変することが示されていること,\nその改変後の進出機構(実施例2)において,弾性部材を用いることも明\n示されていること,「弾性部材単独構造」は当業者にとって周知技術ない\nし技術常識であることから,かかる構造を選択することは当業者にとって\n極めて自然であり,本件当初明細書等の記載を「弾性部材のみで弁体を進 出させる」という技術常識と結び付けて理解しようとするための契機(示 唆)が本件当初明細書等に含まれていると主張する。 しかし,段落【0122】の記載は,変更の具体的な内容を示すもので ないことは前記(3)エのとおりである。また,開閉弁機構の変更は,環状部\n材57の省略,キャップ部材52Cの内部にカップ状のカップ部材52c を設ける,出力部材の位置と開閉弁機構の開閉状態との関係を逆にすると\nいうように,弁体を進出させる構成に係る変更に限られない(前記(3)ウ)。 一方,実施例1及びそれと同様の効果を有するとされている実施例2ない し8においては,流体圧導入室(油圧導入室)と流体圧導入路(油圧導入 路)は,発明の効果と結びつけて記載されているのである(前記(3)アない しウ)。そうだとすれば,段落【0122】の記載から,開閉弁機構を変\n更することは読み取れても,その変更の内容として,流体圧を用いない構\n成とすることは想定しがたい。 そのため,当業者にとって,流体圧を用いず弾性部材のみで弁体を進出 させる開閉弁の構造が周知技術ないし技術常識であるとしても,段落【0\n122】等の記載から,本件当初明細書等に記載された発明に当該構造を\n結びつけ,現在ある流体圧を用いる構成をなくすことを導くことはできな\nい。
イ 原告は,本件当初明細書等には,(1)「出力部材が所定の位置に達したこ とをシリンダ本体内のエア通路のエア圧の圧力変化を介して確実に検知可 能で小型化可能\な流体圧シリンダ及びクランプ装置を提供すること」と, (2)「出力部材の所定の位置を検出する信頼性や耐久性を向上し得る流体圧 シリンダ及びクランプ装置を提供すること」という2つの別個独立の発明 が示されており,前者の発明においては流体圧導入室及び流体圧導入路は 必須の構成ではないから,「弾性部材単独構\造」は,本件当初明細書の段 落【0122】でいうところの「本発明の趣旨を逸脱しない範囲」のもの であると主張する。 しかし,仮に,(1)と(2)が別個独立の発明であると理解できるとしても, 実施例2を含む各実施例は,(1)及び(2)の両者の課題を解決する構成となっ\nているのであり(前記(3)アないしウ),そこから(2)の課題解決のための構\n成をあえてなくすことは,本件当初明細書等の記載から導けることではな い。 また仮に(1)の課題だけが解決できれば良いのだとしても,(1)の効果との 関係でも開閉弁機構が,「流体圧導入室」と「流体圧導入路」とを備える\nことが記載されている(前記(3)イ(イ))一方で,これらを備えない構成で\nの解決手段については何ら記載されていないから,「弾性部材単独構造」\nを採用することにはならない。
ウ よって,原告の主張は採用できない。
2 結論
以上のとおり,本件補正は,当業者によって本件当初明細書等のすべての記 載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的 事項を導入しないものであるとは認められず,この点に関する本件審決の判断 に誤りはないから,取消事由1は理由がない。そして,新規事項を追加する補 正をしたことは,そのこと自体が無効理由とされているから(特許法123条 1項1号),本件特許は,取消事由2(サポート要件)の理由の有無に関わら ず,無効とされるべきものである。

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平成29(ワ)11147  損害賠償請求事件  特許権 令和元年11月11日  大阪地方裁判所

 構成要件を充足しないとして請求棄却されました。

 原告は,被告各製品の「第2の軸体8」が「流体の流れる方向が周期的に交互に 方向変換して流れる現象」の意味での「フリップフロップ現象」を発生させるため に使用される軸体であることを直接的に裏付け,これを認めるに足りる証拠を提出 しない。 かえって,証拠(乙40)によれば,被告が,「第2の軸体8」を通過するクー ラント液の状況を検証するため,被告製品(3/8inch)について,本来金属製である 接続機構6’を含む筒本体2及び入口側接続部材4を,下記【参考写真】のように\n透明プラスチック製のものにした上で(以下「実験対象物」という。),その内部 にクーラント液を通過させる実験を行ったところ,クーラント液につき,実験対象 物の入口側接続部材から流入し始めてから16分22秒の間,「第2の軸体8」の 軸部の外周面に形成された凸部32の間の交差流路を流れる際,その「流れる方向 が周期的に交互に方向変換して流れる現象」すなわち「フリップフロップ現象」の 発生が観察されなかったことが認められる。この実験結果の信用性につき,本来金 属製の部分を透明プラスチック製のものとしたことを考慮しても,疑義を差し挟む べき具体的な事情はない。
また,前記認定によれば,被告各製品の「第2の軸体8」の構成は,主として凸\n部32の形状につき各製品相互間で異なるものと見られる。もっとも,被告製品 (3/8inch)の「第2の軸体8」がフリップフロップ現象を発生させなかったにもか かわらず,他の被告製品(1/4inch,1/2inch,3/4inch,1inch)の「第2の軸体8」 がフリップフロップ現象を発生させるものであると見るべき具体的な事情はない。 原告自身,被告各製品の構成には,本件各発明の構\成要件充足性を検討するに当た って,有意な相違はないと主張しているところでもある。 以上によれば,被告各製品の「第2の軸体8」は,クーラント液を通過させても 「フリップフロップ現象」を発生させ得るものと認めることはできない。そうであ る以上,被告各製品の「第2の軸体8」は,「フリップフロップ現象発生用軸体」 (構成要件E,F)に当たらない(なお,仮に,被告各製品が,別紙「被告各製品\n構成目録(原告主張)」記載のとおりの構\成を有するとしても,その「第2の軸体 8」が,クーラント液を通過させると「フリップフロップ現象」を発生させ得るも のと認めることはできないことに変わりはないから,上記結論が異なるものではな い。)。 したがって,被告各製品の構成は,本件発明1の構\成要件E,Fを充足しない。 また,前記第2の2(4)のとおり,本件において,原告は,被告各製品の構成が本件\n特許の請求項2に係る発明の構成要件を充足するとの主張を撤回した。そうすると,\n被告各製品の構成は,本件発明3の構\成要件Mを充足しない。
(3) 原告の主張について
原告は,被告各製品の「第2の軸体8」が「フリップフロップ現象発生用軸体」 当たるとする根拠として,被告各製品のパンフレット(甲6)及び被告の特許に係 る特許公報(甲18の2及び3)の各記載を指摘する。 このうち,前者については,被告各製品である「ビックスは『フリップフロップ 流れ』を応用しています。水などの流体を菱型の柱を網目状に配列した四角の管に 通すと,管内に生じる渦により,管体から噴出する液体が,左右に規則正しくスイ ッチングする現象のことをフリップフロップ流れと言います。」などという記載が ある。しかし,ある性能等が製品のパンフレットに記載されているからといって,\n真実当該製品が当該性能等を有するとは限らない(そもそも,上記「フリップフロ\nップ現象」の説明は,原告主張に係る本件各発明での「フリップフロップ現象」の 意味とは異なる。)。 他方,後者については,そもそも被告各製品が後者の特許公報に記載された発明 の実施品であることを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,上記実験結果(乙40)にもかかわらず,これらの記載のみをもっ て,被告各製品の「第2の軸体8」がフリップフロップ現象を発生させ得ることを 認めること,ひいては被告各製品の「第2の軸体8」が「フリップフロップ現象発 生用軸体」であること(構成要件E,F)を認めることはできない。\nしたがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(4) 以上より,被告各製品の構成は,本件発明1の構\成要件E及びFを充足せず, 本件発明3の構成要件Mも充足しないから,被告各製品は,本件各発明の技術的範\n囲に属しない。

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平成30(行ケ)10110等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年11月14日  知的財産高等裁判所

 無効審判中で訂正がなされて無効理由無しと判断されましたが、知財高裁は、サポート要件を満たしていないとして、審決を取り消しました。

 原告らは,本件明細書の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術常識か ら,本件発明1の「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200 μm未満」という数値範囲の全体にわたり,当業者が本件発明1の課題を解決 できると認識できるものではないから,本件発明1は,サポート要件に適合せ ず,また,本件発明2ないし5,7ないし9も,同様に,サポート要件に適合 しないから,本件発明1〜5,7〜19は,サポート要件に適合するとした本 件審決の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
(1) 本件発明1のサポート要件の適合性について
ア 特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載に際し,発明の詳細な 説明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定したもの であり,その趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明について特 許請求の範囲に記載することになれば,公開されていない発明について独 占的,排他的な権利を請求することになって妥当でないため,これを防止 することにあるものと解される。 そうすると,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明について,特許 請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に適合するか否かは, 当業者が,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から,当該発明 に含まれる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができ ると認識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。 これを本件発明1についてみると,本件発明1の特許請求の範囲(請求 項1)の記載によれば,本件発明1は,「一つ以上の薬剤的に許容な賦形 剤と密に混合させた10mg乃至1000mgの量の微粒子セレコキシ ブ」を含む「固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物」に関す\nる発明であって,「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が2 00μm未満である粒子サイズの分布を有する」ことを特徴とするもので あるから,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる。 そして,前記1(2)の本件明細書の開示事項によれば,本件発明1は,未 調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経口運搬\n可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することを課題とするも\nのであると認められる。
イ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,セレコキシブの生物学的利用 能に関し,「発明の組成物は,粒子の最長の大きさで,粒子のD90が約\n200μm以下,好ましくは約100μm以下,より好ましくは75μ m以下,さらに好ましくは約40μm以下,最も好ましくは約25μm 以下であるように,セレコキシブの粒子分布を有する。通常,本発明の 上記実施例によるセレコキシブの粒子サイズの減少により,セレコキシ ブの生物学的利用能が改良される。」(【0022】),「カプセル若\nしくは錠剤の形で経口投与されると,セレコキシブ粒子サイズの減少に より,セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見した。したが\nって,セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下,好ましくは 約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,さらに好ましくは 約40μm以下,最も好ましくは25μm以下である。例えば,例11 に例示するように,出発材料のセレコキシブのD90粒子サイズを約60 μmから約30μmに減少させると,組成物の生物学的利用能は非常に\n改善される。加えて又はあるいは,セレコキシブは約1μmから約10 μmであり,好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均粒子サイズ を有する。」(【0124】),「湿式顆粒化過程にて,(必要ならば, 一つ又はそれ以上のキャリア材料とともに)セレコキシブは先ず粉砕さ れる若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざまな粉砕器若し くは破砕器が利用することが可能であるが,セレコキシブのピンミリン\nグのような衝撃粉砕により,他のタイプの粉砕と比較して,最終組成物 に改善されたブレンド均一性がもたらせる。例えば,液体窒素を利用し てセレコキシブを冷却することは,セレコキシブを不必要な温度へ加熱 させることを回避するために,粉砕中に必要なことである。前記にて議 論したように,上記粉砕工程中にD90粒子サイズを約200μm以下, 好ましくは約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,さらに 好ましくは約40μm以下,最も好ましくは約25μm以下に小さくす ることは,セレコキシブの生物学的利用能を増加させるためには重要で\nある。」(【0135】)との記載がある。これらの記載は,未調合の セレコキシブを粉砕し,「セレコキシブのD90粒子サイズが約200μ m以下」とした場合には,セレコキシブの生物学的利用能が改善される\nこと,セレコキシブのピンミリングのような衝撃粉砕により,他のタイ プの粉砕と比較して,最終組成物に改善されたブレンド均一性がもたら せることを示したものといえる。
一方で,(1)本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「粒子の 最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子 サイズの分布を有する」構成とする具体的な方法を規定した記載はなく,\n本件発明1の「微粒子セレコキシブ」が「ピンミリングのような衝撃粉 砕」により粉砕されたものに限定する旨の記載もないこと,かえって, 本件明細書の【0135】には,セレコキシブの微細化に関し,「さま ざなま粉砕器若しくは破砕器が利用することが可能である」との記載が\nあること,(2)本件明細書の【0008】には「セレコキシブは,水溶性 媒体には異常なほど溶解しない。例えば,カプセル形態で経口投与させ た場合,未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために, 容易には溶解せず,分散もしない。加えて,長く凝集した針を形成する 傾向を有する結晶形態を有する未調合のセレコシブは,通常,錠剤成形 ダイでの圧縮の際に,融合して一枚岩の塊になる。他の物質とブレンド させたときでも,セレコキシブの結晶は,他の物質から分離する傾向が あり,組成物の混合中にセレコキシブ同士で凝集し,セレコキシブの不 必要な大きな塊を含有する,非均一なブレンド組成物になる。」との記 載があること,(3)本件優先日当時,粉砕によって薬物の粒子径を小さく し,比表面積(有効表\面積)を増大させることにより,薬物の溶出が改 善されるが,他方で,難溶性薬物については,溶媒による濡れ性が劣る 場合には,粒子径を小さくすると凝集が起こりやすくなり,有効表面積\nが小さくなる結果,溶解速度が遅くなることがあり,また,粒子を微小 化することにより粉体の流動性が悪くなり凝集が起こりやすくなること があることは周知又は技術常識であったことに照らすと,難溶性薬物で あるセレコキシブについて,「セレコキシブのD90粒子サイズが約20 0μm以下」の構成とすることにより,セレコキシブの生物学的利用能\ が改善されることを直ちに理解することはできない。
また,本件明細書の記載を全体としてみても,粒子の最大長における セレコキシブ粒子の「D90」の値を用いて粒子サイズの分布を規定する ことの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係について具\n体的に説明した記載はない。
しかるところ,「D90」は,粒子の累積個数が90%に達したときの 粒子径の値をいうものであり,本件発明1の「D90が200μm未満で ある」とは,200μm以上の粒子の割合が10%を超えないように限 定することを意味するものであるが,難溶性薬物の原薬の粒子径分布は, 化合物によって様々な形態を採ること(甲イ72)に照らすと,200 μm以上の粒子の割合を制限しさえすれば,90%の粒子の粒度分布が どのようなものであっても,生物学的利用能が改善されるとものと理解\nすることはできない。 以上によれば,本件明細書の【0022】,【0124】及び【01 35】の上記記載から,「セレコキシブのD90粒子サイズが約200μ m以下」とした場合には,その数値範囲全体にわたり,セレコキシブの 生物学的利用能が改善されると認識することはできない。\n

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平成29(ワ)1468 職務発明対価請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月11日  東京地方裁判所

 職務発明の対価として約230万円の請求が認められました。

3 争点2(本件各発明に対する被告の貢献度)について
 特許法35条4項は,従業者等と使用者等の利害を調整する趣旨の規定であり, 同項の「使用者等が貢献した程度」を判断するに当たっては,使用者等が「その発明 がされるについて」貢献した事情のほか,特許の取得・維持●(省略)●に要した労 力や費用等を,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した一切の事情 として考慮し得るものと解するのが相当である。 そこで,検討すると, とおり,被告が,本件各発明に先立 ち,●(省略)●同イ認定のとおり,平成5年には,MらによるHIPEの重合物の 研究を行わせ,その中では,同ウ認定のとおり,平成8年以降の研究開発において用 いられたものと類似する組成の吸水性スポンジを作製するなどするとともに,HIP Eを連続で重合することや二段階で重合することを開示する131号特許を出願す るに至っていること,(2)同ウ認定のとおり,平成8年には,M,N及び原告にHIP Eの研究を指示して平成5年当時よりもより性能の高いFAMの作製を行っており,\n●(省略)●などしていたこと,(3)同エ認定のとおり,●(省略)●平成9年10月 にはFAMプロジェクトを立ち上げ,多数の研究員を研究開発に充てるとともに,同 (6)認定のとおり,FAMの研究に必要な機器や設備の調達を含めた開発費用を提供し, また,特許の取得及び維持の費用を支出し 認定のとおり,●(省 略)●本件各発明についての被告の貢献に係る事情であるといえる。 これに対し,本件各発明の発明者らは,被告の費用負担の下,被告に雇用された後 に得た知識経験に基づき,FAMプロジェクト内で知見を共有しつつ,発明に至った にとどまる。
そうすると,本件各発明が原告ら共同発明者の努力及び創意工夫によって創作され たことは確かであるが,他方で,共同発明者らは,被告による費用負担の下,被告入 社後に得た知識経験に基づき,FAMプロジェクトでの職務を通じて,本件各発明を 完成させるに至ったとみることができる。また,●(省略)●被告が●(省略)●そ のための研究開発を行っていたのみならず,●(省略)●本件各発明の共同発明者の みならず,その他の部署に属する多数の従業員の協力によるものであるということが できる。
以上の事情を総合考慮すると,本件各発明により被告が受けるべき利益につい て,被告の貢献度は高く,その貢献度は95%と認めるのが相当である。
原告の主張について
ア 原告は,(1)被告が平成5年に研究開発していたHIPEの重合物は,FAMと は異なるものであり,しかも,被告は,平成6年2月に同研究開発を中断しているこ と,(2)原告が,平成8年4月から自発的にFAMに関する研究開発を開始してこれを 主導し,同年6月5日,上記の被告の研究開発における原料とは異なるスチレン系の 原料を用いて初めてW/O比が45倍以上のFAMの作製に成功し,実質的な発明者 が原告である2件の特許出願につながっており,かつ上記の成果が,●(省略)●検 討を加速させたのであり,原告の貢献なしに平成9年10月以降のFAMの研究はな し得ないものであって,Mは管理者,Nは補助者として関与したにすぎないこと,(3) FAMプロジェクト立ち上げ後も原告のみがFAMの研究を行っていたこと,(4)原告 が,●(省略)●FAM製造に必要な特殊な攪拌用の羽根の情報を引き出してこれを 特注し,あるいは●(省略)●ほか,平成9年10月以降の被告におけるFAMの研 究に必要な種々の機器・設備の選定,導入等の研究環境の整備も行ったことなどの事 情を指摘して被告の貢献度は50%を超えるものではない旨主張する。
イ しかしながら,次のとおり,原告の指摘する事情は認めることができないか, 左右し得ず,原告の主張を採用することはできない。 原告の指摘する(1)の事情について 確かに131号特許に開示されたHIPE重合物の組成は,平成8年4月以降の研 究開発の対象の組成とは異なるが,前記 のとおり,被告が平成5年当時に得た知 見にも本件各発明に関連するものがある以上,同年当時に行われた研究成果は,その 後の研究開発の基礎となり,本件各発明にも寄与していると推認され,本件各発明に 対する被告の貢献に当たるというべきである。
原告の指摘する(2)の事情について
原告は,FAMの研究開発を自発的に行うこととしたきっかけの一つとして,平成 8年4月19日のミーティングで,Mから,●(省略)●HIPEの供給元を探して いることを聞いたことを認めている(甲23)が,Mがミーティングで●(省略)● 対応をする旨の被告の決定がされていたとみるのが自然であるし,それ以降の被告内 のHIPEの研究状況を見ても, 原告がMの指示を受けて研究 を進めたり,原告のみならずM及びNも,自らHIPE重合物を作製したり,原告と 役割を分担したりするなどして研究を進めるなどし,研究成果を3名で共有するなど もしているほか,これらの研究結果を踏まえてされた特許出願においても,発明者は 原告,M及びNの3名とされている。そうすると,平成8年4月以降に被告において 行われた研究は,被告の指示により上記3名が共同して行ったものというべきであり, 原告が自発的に行い,Mは管理者として,Nは補助者として関与した旨の原告の主張 は認めることができない。
原告の指摘する(3)の事情について
前記1 ないし 認定したとおり,FAMプロジェクト開 始後は,参加した研究員がそれぞれ役割を分担して研究を行い,定期的にミーティン グを行って知見を共有しながら研究を進めていたものということができるから,原告 のみがFAMの研究を行っていた旨の主張は認めることができない。
原告の指摘する(4)の事情について
原告が●(省略)●FAM製造に必要な特殊な攪拌用の羽根の情報を引き出してこ れを特注したり,あるいは●(省略)●が実現したり,原告が,このような情報を得 たことがあったとしても,Mと●(省略)●が話題とされていること(乙26)にも 照らせば,他の被告の従業員も関与する中で,被告の従業員の一員の立場で行われた ものとみるのが自然であり,そうすると,そのことをもって直ちに原告の本件各発明 に対する貢献度が大きいといえるものではない。また,原告が導入すべき機器や設備 を提案していたとしても,最終的にその機器や設備の導入を決定し,その資金を提供 したのは被告である以上,上記の提案の存在をもって,原告の本件各発明に対する貢 献の度合いに大きな影響を与える事情であるとはいえない。
被告の主張について
被告は,●(省略)●全社を挙げてFAMの研究開発を進めたこと,●(省略)● 被告の対応が大きく寄与していることなどを主張して,被告の貢献度は99%を下ら ない旨主張するが,被告の指摘する上記事情が被告の貢献として認められることは前 のとは認められず,被告の主張を採用することはできない。
・・・・
5 相当の対価の額
以上を前提に相当の対価の額を計算すると次のとおりとなる(いずれも1円未 満の端数は切り捨て。)。
ア 144号発明等 各発明につきそれぞれ●(省略)●円(●(省略)●円×0. 05×1/4=●(省略)●円) イ 642号発明等 各発明につきそれぞれ●(省略)●円(●(省略)●円×0. 05×1/9=●(省略)●円) ウ 811号発明等 各発明につきそれぞれ●(省略)●円(●(省略)●円×0. 05×2/5=●(省略)●円) 係る国内
出願及び国内特許登録について,同アの規定に従った出願補償金及び登録補償金の支 払をしている 国内特許に係る発明に係る相当の対価からこれらを控除 する必要がある。そして,同規定の定めに従えば,原告についての支払額は次のとお りと認められる(1円未満の端数があるものはいずれも切り捨て。)。
ア 144号発明 ●(省略)●円 出願補償金 ●(省略)●円(●(省略)●円×2×1/5=●(省略)●円) (乙114の1,2,乙129) 登録補償金 ●(省略)●円(●(省略)●円×1/5=●(省略)●円)
イ 642号発明 ●(省略)●円 出願補償金 ●(省略)●円(●(省略)●円×1/6=●(省略)●円)(乙 120の1,乙130) 登録補償金 ●(省略)●円(●(省略)●万円×1/9=●(省略)●円)
ウ 811号発明 ●(省略)●円 出願補償金 ●(省略)●円(●(省略)●円×1/5=●(省略)●円)(乙 124,131) 登録補償金 ●(省略)●円(●(省略)●円×1/5=●(省略)●円) 国内特許に関し 相当の対価 となる。
ア 144号発明 ●(省略)●円(●(省略)●円−●(省略)●円=●(省略) ●円)
イ 642号発明 ●(省略)●円(●(省略)●円−●(省略)●円=●(省略) ●円)
ウ 811号発明 ●(省略)●円(●(省略)●円−●(省略)●=●(省略) ●円)
以上によれば,相当の対価の額は合計226万4061円である。
ア 144号発明等 ●(省略)●円(●(省略)●円+●(省略)●円×3=● (省略)●円)
イ 642号発明等 ●(省略)●円(●(省略)●円+●(省略)●円×5=● (省略)●円)
ウ 811号発明等 ●(省略)●円(●(省略)●円+●(省略)●円×2=● (省略)●円)
エ アないしウの合計 226万4061円

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令和1(行ケ)10089  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和元年11月26日  知的財産高等裁判所

 知財高裁4部は、「星形の抜き穴を,薄い円形板に千鳥状の配置態様になるように19個形成する」ことは、創作性無しとの審決を維持しました

 意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的モチーフとして意匠登 録出願前に日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色 彩又はこれらの結合を基準として,当業者が容易に創作をすることができ る意匠でないことを登録要件としたものであることに照らすと,意匠登録 出願に係る意匠について,上記モチーフを基準として,その創作に当業者 の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性があるものと認められな い場合には,当業者が容易に創作をすることができた意匠に当たるものと して,同項の規定により意匠登録を受けることができないものと解するの が相当である(最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第 三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和48年(行ツ)第8 2号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号287頁参 照)。
これを本願意匠についてみるに,前記1認定のとおり,本願意匠は,薄 い円形板に,角部に面取りを施した5つの凸部からなる星形の抜き穴を, 同一の方向性に向きを揃え,各抜き穴の中心部を結んだ線のなす角度が6 0°となるような千鳥状(「60°千鳥」)の配置態様で19個形成した 「押出し食品用の口金」の意匠であり,また,本願意匠に係る「押出し食 品用の口金」は,主にステンレス製の薄板で作成され,ハンディーマッシ ャー(押し潰し器)等に装着して使用され,抜き穴から食品を棒状に押し 出すことができるものであり,略円筒形状の底面部内周部分に環状縁部を 設けた上記調理器具に装着して使用されるものである。 しかるところ,前記(1)ア及びイの認定事実によれば,本願意匠に係る「押 出し食品用の口金板」の物品分野においては,抜き穴から食品を棒状に押 し出す調理器具に使用される金属製の円形板の口金板に設けられた,角部 に面取りを施した5つ又は6つの凸部からなる星形の抜き穴の形状は,本 願の出願当時,公然知られていたことが認められる。 加えて,前記(1)エ(エ)認定のとおり,板状の金属材料にデザイン性を持 たせるため,60°千鳥の配置態様で,複数個の「抜き孔」を設けること は,本願の出願当時,ごく普通に行われていたことであり,当業者にとっ てありふれた手法であったこと,19個の抜き穴を千鳥状に配置する形状 は公然知られていたこと(例えば,意匠3)に照らすと,本願意匠は,本 願の出願当時,円形板の抜き穴の形状として公然知られていた角部に面取 りを施した5つの凸部からなる星形の抜き穴(例えば,意匠1)を,当業 者にとってありふれた手法により,薄い円形板に,同一の方向性に向きを 揃えて,60°千鳥の配置態様で19個形成して創作したにすぎないもの といえるから,本願意匠の創作には当業者の立場からみた意匠の着想の新 しさないし独創性があるものとは認められない。 したがって,本願意匠は,本願の出願前に公然知られた形状の結合に基 づいて,当業者が容易に創作をすることができたものと認められる。 これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ これに対し原告は,本願意匠は,星形の抜き穴を1枚の無垢の円形板 に複数個,均等に穿設する際に,円形板と,整列した抜き穴が構成す\nる図形と,抜き穴のない周縁部分が,唯一無二の美感を与えるように, 個々の抜き穴のサイズを決定し,抜き穴の数を19個とし,これを千 鳥状に配置したものであり,本願意匠は,抜き穴のうち外側に配置され た抜き穴が形成する正六角形と,その外側の蒲鉾状の周縁部分及び円 形板の円形の全てが,円形板の中心点を中心として均等に整然と配置 され,落ち着きと,併せてリズム感ないし安定性を表現している,こ\nれにより,本願意匠は,独特の美感をもたらし,これまでにない美感 を看者に与えるものであるから,本願意匠の創作には当業者の立場から みた意匠の着想の新しさないし独創性があるとして,本願意匠は,本願の 出願前に公然知られた形状の結合に基づいて当業者が容易に創作をするこ とができたものとはいえない旨主張する。 しかしながら,前記ア認定のとおり,本願意匠は,本願の出願当時,円 形板の抜き穴の形状として公然知られていた角部に面取りを施した5つの 凸部からなる星形の抜き穴(例えば,意匠1)を,当業者にとってありふ れた手法により,薄い円形板に,同一の方向性に向きを揃えて,60°千 鳥の配置態様で19個形成して創作したにすぎないものである。 そして,前記1(2)認定のとおり,本願意匠に係る物品「押出し食品用の 口金」は,略円筒形状の底面部内周部分に環状縁部を設けた調理器具に装 着して使用され,抜き穴から食品を棒状に押し出すことができるものであ ることに照らすと,調理器具の環状縁部と当接する口金の周縁部分に抜き 穴を形成することができない余白部分が生じ得ることは,当業者であれば, 当然想定するものといえる。また,円形板の口金に,角部に面取りを施し た5つの凸部からなる星形の抜き穴を,同一の方向性に向きを揃えて,6 0°千鳥の配置態様で19個配置する場合には,円形板の直径と円形板に 配置する星形の抜き穴に外接する円形の直径の比率,抜き穴と抜き穴の中 心間隔(ピッチ)等に応じて,口金の周縁部分の余白部分の大きさは一定 の範囲内のものに収まること,円形板の中心に星形の抜き穴を配置し,こ れを中心点として19個の星形の抜き穴を60°千鳥に配置した場合,外 側に配置された星形の抜き穴の周縁部側の凸部先端をそれぞれ直線で結ん だ図形は正六角形となり,この図形と円形板の外周とで形成される余白部 分が蒲鉾状となることは自明であることに照らすと,別紙第1記載の本願 意匠の余白部分の形状の創作に着想の新しさないし独創性は認められない。

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平成30(行ケ)101 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年11月28日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が維持されました。争点は、進歩性で、詳しくは、いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)により,別の活性成分を加える動機付けがあるといえるかです。審決・知財高裁とも動機付け無しと判断しました。

前記(1)の甲1の内容,上記アで認定した本件優先日当時の公知文献の内 容や技術常識に鑑みて,相違点2が容易想到といえるかどうかについて検討する。
(ア) 前記(1)で認定したとおり,甲1には,GAR-トランスホルミラーゼ阻 害剤の治療効果を維持しつつ,その毒性を減少させることを課題とする旨が記載さ れているところ,甲1では葉酸をGAR-トランスホルミラーゼ阻害剤と組み合わせ て投与することによって同課題を解決できるとしており,同課題に関して,更に別 の活性成分,例えば,ビタミンB12を積極的に適用する動機や示唆は甲1には何ら 記載されていない。 これに加えて,上記ア(ア)(イ)の甲2〜4,44からすると,本件優先日前にMT Aの抗腫瘍活性を維持しつつ毒性を低減させるという目的のために,MTAと葉酸 を併用投与することに言及する公知文献は複数存在し,上記目的のためにMTAと 葉酸を併用投与することは技術常識になっていたものと認められるが,いずれの公 知文献にも,上記目的のためには葉酸補充だけでは不十分であるとする指摘はない\nし,葉酸補充に加えて他の活性成分を投与する必要性についても何ら指摘されてい ない。
(イ) 上記ア(イ)(ウ)のとおり,本件優先日当時,(1)ベースライン時のホモシス テイン値が10μM以上であると,MTAの毒性発現が高度に予測されること,(2) ホモシステイン値は,葉酸又は/及びビタミンB12が不足すると上昇すること,(3) 葉酸とビタミンB12を併せて投与すると,葉酸単独投与の場合に比して,より確実 にホモシステイン値を低下させることができることが,本件優先日当時に知られて いたことが認められるものの,以下のa,bからすると,それにより,甲1発明に ビタミンB12を投与することを組み合わせることは動機付けられないというべきで ある。
a 上記ア(イ)の各公知文献が指摘しているのは,本件優先日当時,ベー スライン時のホモシステイン値がMTAの毒性発現を予測させる指標であったとい\nうことだけであり,原告が主張するような「ベースライン時のホモシステイン値を 低下させておくとMTAの毒性発現が抑制される」ということまでが読み取れると はいえない。この点について,原告は,「ベースライン時のホモシステイン値」と「M TA投与後の毒性」との間に因果関係があると主張する。ベースライン時のホモシ ステイン値とMTAの毒性発現との間に単純な比例関係があれば,原告が主張する ようにいうことも可能であるが,本件証拠上,本件優先日当時,単純な比例関係に\nあることが知られていたとは認められない(かえって,甲115[212頁左欄5 行〜6行]には,葉酸の機能している状態と血漿ホモシステイン濃度とは,非線形\n的な逆相関を示す旨記載されている。)から,「ベースライン時のホモシステイン値 が高い場合にMTAの毒性発現を予測させる指標であること」から直ちに「ベース\nライン時のホモシステイン値を低下させておくとMTAの毒性発現が抑制されるこ と」ということができないことは明らかであり,原告の上記主張は理由がない。 また,「ベースライン時のホモシステイン値を低下させておくことで抗腫瘍活性が 維持される。」ということについても,甲44に葉酸補充により抗腫瘍活性が維持さ れて毒性が低減される旨の記載があるほかは,上記各公知文献は何も述べていない から,この点が技術常識であったとまでは認められない。 そうすると,原告が主張するような,「ベースライン時のホモシステイン値を低下 させておくと,毒性の発現が抑制され,かつ抗腫瘍活性が維持される。」ということ が,本件優先日当時に技術常識として存在していたとまで認めることはできないか ら,その点から動機付けがあるということはできない。
b 葉酸又はビタミンB12の欠乏により上昇するホモシステイン値とは 異なり,メチルマロン酸値はビタミンB12の欠乏により上昇するところ(上記ア(ウ) b),上記ア(イ)のとおり,本件優先日当時,ニイキザ文献は,ベースライン時のホ モシステイン値と毒性発現の間には相関関係があるものの,メチルマロン酸値と毒 性発現の間には相関関係がない旨を指摘していたのであるから,当業者は,ここか ら患者のビタミンB12の状態と毒性発現との間には相関関係がなく,むしろ,葉酸 の欠乏がベースライン時のホモシステイン値の上昇や毒性発現に関係していると考 え,葉酸を補充する方向へと進むものと推認される。現に,上記ア(イ)d のとおり, その注52でニイキザ文献を引用している甲44は,ベースライン時のホモシステ イン値10μMが毒性発現の閾値であると指摘しておきながら,葉酸補充にしか言 及していないし,ホモシステイン値を葉酸状態の指標であるととらえている。 また,葉酸とビタミンB12が併用されると,上記ア(ウ)aの図の左側にあるメチオ ニンを生成するためのメチル化反応が促進され,テトラヒドロ葉酸が再生されやす くなるから,ビタミンB12の投与は葉酸単独投与に比して葉酸の機能的状態の改善\nにより資するものといえるが,そのようなテトラヒドロ葉酸の再生の亢進が具体的 にどの程度葉酸の機能的状態に影響を与えるものなのかは本件証拠上不明であり,\nがん患者における葉酸の機能的状態を正常化するためには,葉酸を外部から補充す\nるだけでは不十分であり,ビタミンB12を補充することまでもが必要であったと本\n件優先日当時に当業者に認識されていたとは認められない。 そうすると,仮に当業者がMTAの毒性リスクを低減させるためにベースライン 時のホモシステイン値を10μMより低下させる必要があると考えたとしても,そ こからビタミンB12を追加することを動機付けられるとは認められない。
(ウ) 原告は,いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ (アンメット・メディカル・ニーズ)により,更なる高い効果を求めて別の活性成 分を加えることが動機付けられると主張する。 しかし,上記(ア)(イ)で検討したところからすると,葉酸代謝拮抗薬の抗腫瘍活性 の維持と毒性の低減という目的のためには葉酸の予備的処置だけでは十\分ではない ということが当業者に認識されていたとは認められないのであり,原告が主張する ようなアンメット・メディカル・ニーズが存在するからといって,そこから直ちに 上記目的のために甲1発明を更に改良する必要があると当業者が認識するとは認め られない。 また,仮にアンメット・メディカル・ニーズにより上記目的のために甲1発明を 改良することが動機付られるとしても,上記イ(イ)で検討したところに照らすと,そ こから更にビタミンB12を併用することが動機付られるということはできないので あり,原告の主張はその点からしても採用することができない。

◆判決本文

以下は、関連事件です。

◆平成30(行ケ)10116

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平成30(ネ)10064等  商標権侵害行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和元年10月10日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ウェブサイトおけるタイトルタグ及びメタタグでの使用が不正競争行為であるかが争われた事件です。1審は、「平成28年11月1日から(タイトルタグ及びメタタグでの使用は15日から)平成29年3月22日までの間に被告ウェブページのタイトルタグ及びメタタグ並びに被告ウェブページに被告標章1及び2を記載した行為は,不競法2条1項1号にいう商品等表示の使用に該当するが,その他の被告標章1〜3の使用は,同号における商品等表\示の使用とはいえず,商標としての使用ともいえない」と判断しました。  これに対して、知財高裁(2部)は、「(1)平成28年11月15日から平成29年3月22日までの間,前提事実(4)アで認定した態様で被告ウェブページ1〜4のタイトルタグ及びメタタグで被告標章1及び2を使用した行為,(2)平成28年11月1日から平成29年3月22日までの間,前提事実(5)アで認定した態様で被告ウェブページ1〜4で被告標章2を使用した行為並びに(3)平成28年11月1日から平成30年12月28日までの間,前提事実(6)で認定した態様で被告標章3を使用した行為は,それぞれ不競法2条1項1号にいう商品等表示の使用に該当する。」と判断しました。\n

ア 平成28年11月1日から平成29年3月22日まで
タイトルタグ及びメタタグにおける被告標章1及び2の使用
前提事実(4)アのとおり,一審被告グレイスランドが,平成28年11月15日 から平成29年3月22日までの間,被告ウェブページ1〜4のタイトルタグ及 びメタタグに原判決別紙1−1のタイトルタグ欄及びメタタグ欄のとおり記載し ていたこと,その結果,(1)グーグルや楽天市場でキーワード検索した場合に,検 索結果を表示する画面にタイトルとして被告標章1又は2が表\示され,空白部分 を挟んで「取付互換性のある交換用カートリッジ 浄水器カートリッジ」として 商品の種類が表示され,(2)楽天市場では,タイトルの横に被告商品の画像が表示\nされ,さらに,(3)グーグルでは,場合によって,タイトルの下に被告標章2を含 む「タカギ 取付互換性のある交換用カートリッジ 浄水器カートリッジ 浄水 カートリッジ(標準タイプ)※当製品はメーカー純正品ではございません。ご確 認の上,お買い求めください。」などの表示がされていたことが認められる。\n上記のような態様で被告標章1及び2を使用した場合,需要者は,独立して表\n示された被告標章1及び2及びその後に空白を挟んで表示されている語句(「取付\n互換性のある交換用カートリッジ」,「浄水器カートリッジ」,「浄水カートリッジ」)や被告標章1及び2の近くにある被告商品の写真から,被告標章1及び2が被告 商品の出所を示していると認識するといえる。 そして,このような表示は,タイトルタグやメタタグの記載によって実現され\nているものであるから,タイトルタグやメタタグに被告標章1及び2を記載する ことは,被告標章1及び2を,商品を表示する商品等表\示として使用(不競法2 条1項1号)するものと認められる。
被告ウェブページ1〜4における被告標章2の使用
前提事実(5)アのとおり,平成28年11月1日から平成29年3月22日まで の間,被告ウェブページ1〜4の下方に,原判決別紙2−1のウェブサイトの記 載欄のとおり,上記 と同様に,「タカギ」との被告標章2が表示され,空白部分\nを挟んで「取付互換性のある交換用カートリッジ 浄水器カートリッジ(標準タ イプ)※当製品はメーカー純正品ではございません。ご確認の上,お買い求めく ださい。」などの被告商品の種類に応じた被告標章2を含む表示(本件記載1)が\nされており,さらにその横には被告商品の写真が表示されていたものと認められ\nる。 本件記載1中に独立して表示された被告標章2\nは,被告標章2の後に空白を挟んで記載された語句や被告標章2の近くにある写 真が示す被告商品の出所を示すものとして用いられているものと認められ,商品 等表示に該当するものであると認められる。\n一審被告らは,「取付互換性のある交換用カートリッジ」や「当製品 はメーカー純正品ではございません」といった記載があること及び被告ウェブペ ージ1〜4における被告商品の外観写真が一審原告の純正品とは異なるものであ ることなどを挙げて,タイトルタグ,メタタグ及び被告ウェブページ1〜4にお いて,被告標章1及び2は,商品の出所を表示するものとして使用されていない\nと主張する。 しかし,「互換性」という用語は,製造販売者が同じ商品間でも用いられるもの (甲46)である上,「取付互換性」の語の意味は明確ではなく,需要者が「取付 互換性」という語から直ちに被告標章1及び2が商品の出所を示すものとして使 用されていないと認識するとはいえない。 また,「当製品はメーカー純正品ではございません」という記載については,被 告商品が一審原告の製品とは異なることを端的に述べたものではなく分かりにく い記載となっている上,需要者がウェブサイトの記載を注意深く読むとは限らず, 当該記載が末尾に記載されていることからすると,それが常に認識されるとはい えないし,被告商品と一審原告の製品との外観上の差異(乙10)についても, 本件浄水器に使用される交換用カートリッジが普段露出しているものではなく, 需要者が被告商品と一審原告製品との外観上の差異を明確に認識できるとは限ら ないから,需要者が被告標章1及び2が商品の出所を示すものとして使用されて いないと認識するとはいえない。 したがって,一審被告らの上記主張は上記 の判断を左右するものとはい えない。
イ 平成29年3月23日以降
平成29年3月23日以降の被告ウェブページ並びにそのタイトルタグ及びメ タタグにおける被告標章1及び2の使用は,以下のとおり,そのいずれもが出所 表示機能\,自他商品識別機能を有する態様での使用とはいえず,商品等表\示とし ての使用に該当しない。
平成29年3月23日から同年4月12日まで
前提事実(4)イのとおり,一審被告グレイスランドは,平成29年3月23日か ら同年4月12日までの間,被告ウェブページのタイトルタグ及びメタタグに原 判決別紙1−2のタイトルタグ及びメタタグ欄のとおり記載していたこと,その 結果,楽天市場で「タカギ カートリッジ」とキーワード検索すると,「タカギに 使用出来る取り付け互換性のある交換用カートリッジ」との表現を含むタイトル\nが被告商品の写真と共に検索結果を表示する画面に表\示されるようになっていた ことが認められる。また,弁論の全趣旨によると,グーグルで同様に検索した場 合にも,「【楽天市場】タカギに使用できる出来る取り付け互換性のある交換用カ ートリッジ」という被告標章1を含む記載のあるタイトルが表示されるなどして\nいたと認められる。さらに,前提事実(5)イのとおり,被告ウェブページにおいて は,上記期間,その下方に「タカギに使用出来る取り付け互換性のある交換用カ ートリッジ」との記載を含む表示がされていたことが認められる。\n上記各表示は,いずれも「タカギ」というカタカナ3文字の後に「に」という\n助詞が付加され,当該商品が一審原告製の本件浄水器に使用できるカートリッジ であるという,被告商品の商品内容を説明するまとまりのある文章と理解できる ものである。そうすると,需要者が上記各表示に接したとしても,「タカギ」との\n表示を,当該商品自体の出所を表\示するものとして認識するとは認められない。 したがって,上記各表示における被告標章1及び2の使用が,商品等表\示とし ての使用に該当するとは認められない。
平成29年4月13日以降
前提事実(4)ウのとおり,一審被告グレイスランドは,平成29年4月13日以 降,被告ウェブページのタイトルタグ及びメタタグに原判決別紙1−3及び1− 4のタイトルタグ及びメタタグ欄のとおり記載していたこと,その結果,楽天市 場で「タカギ カートリッジ」とキーワード検索すると,「タカギの浄水器に使用 できる,取付け互換性のある交換用カートリッジ」との表現を含むタイトルが被\n告商品の写真と共に検索結果を表示する画面に表\示されるようになっていること が認められる。また,弁論の全趣旨によると,グーグルで同様に検索した場合に も,「【楽天市場】タカギの浄水器に使用できる,取付け互換性のある交換用カー トリッジ」という被告標章1を含む記載があるタイトルが表示されるなどしてい\nると認められる。さらに,前提事実(5)ウのとおり,平成29年4月13日以降, 被告ウェブページにおいては,その下方で「タカギの浄水器に使用できる,取付 け互換性のある交換用カートリッジ」との表現を含む表\示がされるようになって いることが認められる。 と同様に,「タカギの浄水器に使用できる」という文章は,被告商品が一 審原告製の本件浄水器に使用可能であるという商品内容を説明するものであると\n需要者に理解されるものと認められ,被告商品の出所を表示するものとして使用\nされているとは認められないから,上記各表示における被告標章1及び2の使用\nが,商品等表示の使用に該当するとは認められない。\n
一審原告の主張について
一審原告は,(1)誤認を招きやすいインターネット取引において,キーワード検 索をする需要者は,「タカギ カートリッジ」というキーワードに着目して表示を\n理解してしまう上,検索結果を表示する画面で被告標章1及び2を用いた文章が\n一審原告の製品の写真と共に表示されることからすると,需要者は「タカギ」の\n「カートリッジ」であるという先入観をもって各表示を理解すること,(2)片仮名 で表記されているのが,「タカギ」と「カートリッジ」のみであるところ,片仮名\nは目立ち,語句の切れ目を表示する役割も果たすことからすると,平成29年3\n月23日以降の被告標章1及び2の使用も商品等表示としての使用に当たると主\n張する。 しかし,上記 , で検討した各表示(「タカギに使用出来る取り付け互換性の\nある交換用カートリッジ」,「タカギの浄水器に使用できる,取付け互換性のある 交換用カートリッジ」)は,まとまりのある文章として,それが被告商品の説明で あることが容易に理解できるものであるから,需要者の注意力がそれほど高くな く,かつ「タカギ カートリッジ」というキーワード検索を経ていて,一審原告 の製品が共に表示されることがあるからといって,需要者が,「タカギ」と「カー\nトリッジ」のみに着目して,一審原告の主張するような先入観をもって上記各表\n示を理解するとは認められない。 また, 必ずしも片仮名が平仮名 や漢字に比して注意を引きつけるとまではいえない。 したがって,一審原告の上記主張は,上記 の判断を左右するものではな い。
(2) 被告標章3について
ア 前提事実(6)のとおり,平成28年11月1日から平成30年12月2 8日までの間に,被告ウェブページ及び被告ウェブサイト2の冒頭部分には,被 告標章3を含む本件記載2がされていた。 被告標章3である「タカギ社製」は,それが修飾する商品が「タカギ社」の製 造に係るものであること,すなわち,当該商品が一審原告の出所に係ることを示 す語句であるといえる。 そして,被告標章3(タカギ社製)を含む本件記載2は,「タカギ社製 浄水蛇 口の交換用カートリッジを お探しのお客様へ」と3段に分けて記載されている ものであって,文章の内容だけからしても,「タカギ社製」が,「浄水蛇口」では なく,「交換用カートリッジ」を修飾していると理解することが可能なものである。\nまた,前提事実(6)のとおり,本件記載2の上方及び下方の2か所に,本件記載 2より明らかに大きなサイズの文字で,より目立つように「交換用カートリッジ」, 「交換用カートリッジ ついに発売!!」などと表示され,かつ,交換用のカー\nトリッジそのものである被告商品の写真画像も併せて表示されているから,それ\nらの表示に接した需要者は,冒頭に独立して記載された「タカギ社製」の文字を,\nカートリッジに結びつけて理解しやすいといえる。 以上に加えて,前記2で検討したとおり,被告標章3(タカギ社製)の要部で あるタカギの文字部分が家庭用浄水器及びその関連商品の需要者の間で周知なも のであること並びに需要者の注意力がそれほど高くないことといった事情も併せ 考えると,需要者が,本件記載2の中で独立して最上段に記載されている「タカ ギ社製」が,本件記載2中の「交換用カートリッジ」を修飾する語句であると理 解することは十分にあり得るものと認められる。\nそうすると,本件記載2中の被告標章3(タカギ社製)は,被告商品について, 商品等表示として使用されているものと認められる。\n
イ 一審被告らは,(1)本件記載2が一連の呼びかけといえる文言であるこ と,(2)本件記載2の2行目が「浄水蛇口」から始まり,かつ「浄水蛇口」の次に 「の」という助詞が付されていることからすると,需要者は,被告標章3(タカ ギ社製)は「浄水蛇口」を修飾するものとして理解すると主張する。 しかし,上記(1)について,本件記載2が呼びかけといえる文言であるからとい って,被告標章3が商品等表示として使用されていないということにはならない\nし,上記(2)についても,一審被告らの主張する事情を考慮しても,上記アのとお り,需要者が,被告標章3(タカギ社製)が「交換用カートリッジ」を修飾する 語句であると理解することは十分にあり得るということができるから,一審被告\nらの上記主張は採用することができない。
(3) 小括
以上の検討のとおり,(1)平成28年11月15日から平成29年3月22日ま での間,前提事実(4)アで認定した態様で被告ウェブページ1〜4のタイトルタグ 及びメタタグで被告標章1及び2を使用した行為,(2)平成28年11月1日から 平成29年3月22日までの間,前提事実(5)アで認定した態様で被告ウェブペー ジ1〜4で被告標章2を使用した行為並びに(3)平成28年11月1日から平成3 0年12月28日までの間,前提事実(6)で認定した態様で被告標章3を使用した 行為は,それぞれ不競法2条1項1号にいう商品等表示の使用に該当する。\n
・・・・
以上の検討のとおり,本件不競法該当行為がされた期間は,平成28年 11月1日から平成30年12月28日であるところ,一審原告はそのうち平成 28年11月1日から平成30年11月30日までの間の損害賠償を請求してい る。 証拠(乙26の1〜6,乙27,28,乙29の1・2,乙30,乙31の1 〜7,乙32〜35,乙38の1〜22,乙39の1〜22,乙40の1〜20, 乙41の1〜3,乙43の1〜20)及び弁論の全趣旨によると,上記期間に対 応する各月ごとのパソコン等分利益,パソ\コン等分利益及びスマホ等分利益の合 計額は,別紙2〜4のとおりであると認められる。 また,上記期間に対応する(1)パソコン等分利益の合計額が228万6033円,\n
(2)パソコン等分利益及びスマホ等分利益の合計額が954万0740円であるこ\nとについては当事者間に争いがない。そして,上記パソコン等分利益228万6\n03円については不競法5条2項にいう「侵害行為による利益」に当たるものと 認められる(なお,推定の覆滅については(2)で後述する。)。
イ 一審原告は,スマホ等分利益725万4707円(954万0740 円―228万6033円=725万4707円)のうち5%についても「侵害行為 による利益」に含まれると主張する。 しかし,前提事実(3)イのとおり,スマホ・タブレット向けサイト内のウェブペ ージの最下部には,「表示モード:モバイル|PC」として被告ウェブサイトへの リンクがあり,スマートフォンやタブレットから仮想店舗へとアクセスした者は, 上記リンクを利用することで,被告ウェブサイトを表示させることができ,また,\nスマホ・タブレット向けサイト内のウェブページの最上部にも「PC」という文 字を○で囲んだ記号が表示されており,同表\示も被告ウェブサイトへのリンクと なっているものの,このようなスマホ・タブレット向けウェブサイトにおける被 告ウェブサイトへのリンクの表示位置や表\示の態様からすると,同リンクは需要 者が相当注意しないと気付かないような目立たないものである上,スマホ・タブ レット向けサイトの下方にあるリンクについては,他の表示に隠れてタップでき\nない場合がある(甲87,弁論の全趣旨)。そして,スマホ・タブレット向けウェ ブサイトと本件訴訟の対象となっている被告ウェブサイトとの間に見やすさや情 報量の点で差があることなどにより,スマートフォン及びタブレット経由で仮想 店舗にアクセスした需要者が敢えて被告ウェブサイトを表示させる積極的な要因\nがあるとも認められない。これらのことからすると,スマホ等分利益が,本件不 競法該当行為によって生じたものとは認められず,一審原告の上記主張は採用す ることができない。
ウ 以上からすると,不競法5条2項にいう「侵害行為による利益」に当 たるのはパソコン等分利益228万6033円のみであると認められる。\n
(2) 不競法5条2項における推定の覆滅については,侵害者が主張立証責任を 負うものであり,侵害者が得た利益と周知な商品等表示の主体が受けた損害との\n相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。 この点について,一審被告らは,(1)被告商品を2回以上購入したリピーターに よる購入が全体の売上げの約15%を占めているところ,リピーターについては誤 認混同が生じていないこと,(2)被告標章3の表示回数が1回であり,注意書きや\n打ち消し表示が多数されていることからすると,不競法5条2項に基づく推定が\n全て覆滅されると主張する。
ア 上記(1)について,確かに証拠(乙42)によると,被告商品について リピーターによる購入が一定割合あることは認められるが,リピーターであるか らといって,そのことから直ちに本件不競法該当行為とは無関係に被告商品を購 入したということはできないから,リピーターによる購入であることを理由とし て推定の覆滅を認めることはできない。
イ 次に,上記(2)について,前記4(1)ア及び(2)アのとおり,平成28年 11月1日から平成29年3月22日までは,被告ウェブページ1〜4において, 被告標章2が商品等表示として使用され,かつ被告ウェブページ1〜4及び被告\nウェブサイト2の冒頭部分に被告標章3が商品等表示として使用されていた上,\n平成28年11月15日から平成29年3月22日まではタイトルタグ及びメタ タグにおいて,被告標章1及び2が商品等表示として使用されていたところ,こ\nれに対して,一審被告らが打ち消し表示と主張するものについては,前記5(2)〜 (5)のとおり決して十分なものということはできないから,需要者が本件不競法該\n当行為とは無関係に被告商品を購入したとはいい難く,推定の覆滅は認められな い。
他方,前記4(1)イのとおり,平成29年3月23日以降,被告ウェブページ並 びにそのタイトルタグ及びメタタグにおいて,被告標章1及び2は,商品等表示\nとしては使用されておらず,前記4(2)アのとおり,被告標章3が被告ウェブペー ジ1〜6及び被告ウェブサイト2において商品等表示として使用されたのみであ\nるから,本件不競法該当行為とは無関係に被告標章を購入した者も一定数存在し たものと認められ,一定の推定の覆滅を認めることができる。その割合はこれま で認定した諸般の事情に照らすと,5割と認めるのが相当である。 (3) 以上からすると,不競法5条2項により一審原告の損害として推定される べき額は,以下の計算式とおり,119万1757円であると認められ,弁護士 費用としては,本件に表れた一切の事情を勘案して20万円を相当と認める。\nしたがって,一審被告らによる不正競争行為(本件不競法該当行為)によって 一審原告に生じた損害額の合計は,139万1757円(119万1757円+ 20万円=139万1757円)であると認められる。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)14637

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平成30(行ケ)1017 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月4日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反、進歩性違反が争われました。知財高裁(1部)は、サポート要件違反無し、進歩性違反ありとして、拒絶審決を維持しました。審決はサポート要件、進歩性違反とも無効理由ありと判断していました。

 前記1(1)によれば,本件明細書には,「課題を解決するための手段」として,「本 発明の一の態様による自動注入可能なアクセスポートは,コンピュータ断層撮影走\n査プロセスに用いられ,隔膜を保持するよう構成される本体と,皮下埋め込み後,\n前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構\築される,前 記アクセスポートの少なくとも1つの,前記自動注入可能なアクセスポートの,自\n動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報と相関がありX線 で可視の,識別可能な特徴とを具え,前記自動注入可能\なアクセスポートは,機械 的補助によって注入され,かつ加圧されることができ,前記隔膜は,前記本体内に 画定された空洞内に,前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜である。」 (【0009】)との記載があることに加え,アクセスポートは,機械的補助(自動注 入可能ポート)によって注入され,かつ加圧されることができること(【0013】),自動注入可能\ポートは,コンピュータ断層撮影(「CT」)走査プロセスにおいて使 用することができること(【0014】),典型的なアクセスポート10は,キャップ 14とベース16の間で隔膜18を保持するために構成することができ,これらが\n集合して,本体20に吐出ステム31の内腔29と流体連通している空洞36を画 定することができること(【0017】,【0018】,図1A,図1B),識別可能な特徴は,アクセスポートが患者の中に埋め込まれた後に知覚可能\であり,自動注射 可能であるアクセスポートと相関関係を有することができること(【0015】),識\n別可能な特徴は,金属プレートのサイズや形状等,X線の画像化を通じて知覚する\nことができるものでもよいこと(【0016】,【0046】)が記載されている。 これらの記載によれば,特許請求の範囲請求項1に記載された本件発明1は,本 件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
(3) 当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであること 前記1(1)のとおり,本件明細書の「発明が解決しようとする課題」には,従来の アクセスポートは,異なる製造業者または型式であっても,互いに区別することが できない実質的に同様の外形を有することがあり,一度アクセスポートが埋め込ま れると,アクセスポートの型式,様式またはデザインを見つけ出すのが難しくなり, 交換タイミング等の目的にとって好ましくないという問題があり(【0007】),皮 下埋め込み後に検知される,少なくとも1つの識別可能な特徴を設けたアクセスポ\nートを提供することは有利であること(【0008】)の記載がある。 また,「課題を解決するための手段」には,アクセスポートは,(例えば,針を含む 注射器を介して)手で注入されることができ,または,機械的補助(例えば,いわゆ る自動注入可能ポート)によって注入され,かつ加圧されることができること(【0\n013】,【0014】),アクセスポートの識別可能な特徴は,アクセスポートに関\n連する情報(例えば製造業者の型式またはデザイン)と相関関係を有することがで き,自動注射可能であるアクセスポートと相関関係を有することができること(【0\n015】)の記載がある。 以上の記載によれば,本件発明1の課題は,自動注入可能なアクセスポートを埋\nめ込んだ後に,そのアクセスポートが自動注入可能なアクセスポートであるのかを\n識別可能とすることであると認められ,その課題の解決手段として,「皮下埋め込み\n後,前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構\築される, 前記アクセスポートの少なくとも1つの,前記自動注入可能なアクセスポートの,\n自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報と相関がありX 線で可視の,識別可能な特徴」を備えるようにしたものであることが認められる。\nそして,本件明細書には,「識別可能な特徴」に関し,触診又は目視観察によって\n知覚することができるもののほか,プレート又は他の金属形状の金属的な特徴のよ うにX線の画像化を通じて知覚できるものでもよく,その金属的特徴は,X線感光 フィルムを,アクセスポートを通過するX線エネルギーに曝すと同時に,X線エネ ルギーへのアクセスポートの露出によって生じるX線で示されること(【0016】, 【0046】),識別可能な特徴が,ひとたび観察され,または別の方法で決定され\nると,アクセスポートのそのような少なくとも1つの特徴の相関関係を達成するこ とができ,アクセスポートに関連する情報を得ることができること(【0015】) の記載がある。 これらの記載に接した当業者は,本件発明1の「識別可能な特徴」を採用したア\nクセスポートは,X線に曝すことで「識別可能な特徴」が知覚でき,これにより「自\n動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報」との相関関係を 達成し,「自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報」を得 ることができ,その結果,皮下埋め込み後に自動注入可能と識別できるものである\nことを認識することができるというべきである。 よって,特許請求の範囲請求項1に記載された本件発明1は,本件明細書の発明 の詳細な説明の記載により,当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できる 範囲のものである。
(4) 被告らの主張について
被告らは,本件明細書には,「X線で可視の,識別可能な特徴」と「自動注入可能\ なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\ な情報」をどのように「相関」させるかという点について記載も示唆もないから,本 件発明1はサポート要件を欠いていると主張する。 しかし,本件明細書には,「識別可能な特徴は,前記アクセスポートに関連する情\n報・・・と相関関係を有することができる」ものであり,「アクセスポートからの識別可能な特徴は,異なる型式またはデザインの,別のアクセスポートの他の識別可能\な 特徴の,すべてではないにしても大部分に関して唯一のものである」(【0015】) との記載があり,触診によって知覚される識別可能な特徴の例として,本体を部分\n的な略ピラミッド状の形状とすること(【0020】,【0021】,図1A,図1B),X線の画像化を通じて知覚することができる識別可能な特徴の例として,アクセス\nポートの金属的な特徴のサイズ,形状,又はサイズと形状の両方が,アクセスポー トの識別のため選択的に調整されること(【0046】)が記載されている。 これらの記載によれば,「識別可能な特徴」を,当該アクセスポートに固有の形状\nやサイズにすることによりアクセスポートを特定可能にし,もって,「アクセスポー\nトに関連する情報…と相関関係を有することができる」ようにすることが開示され ている。そして,本件発明1の「自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能\に 定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」は,「アクセスポートに関連す\nる情報」であるから,上記記載は,「自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可\n能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報」と「X線で可視の,識別 可能な特徴」との「相関」の具体的態様の1つとして理解することができるという\nべきである。
・・・
(4) 相違点1の容易想到性
ア 各文献の記載事項
本件出願の優先日当時の各文献には,次の記載がある(下記記載中の甲11図1 0,甲12図2−1,2−3,2−4は別紙周知例図面目録のとおり。)。
(ア) 米国特許第5851221号明細書(甲11)には,(1)予め形成されたヘッ\nダモジュール12を機密封止筐体14に取り付けて製造される埋め込み型の医療機 器において,ヘッダモジュール12のハウジング20がX線不透過性のIDプレー ト60を備えること(第8欄23行〜34行,図10),(2)埋め込み型医療機器には, 埋め込み可能な薬剤供給装置,IPG(心臓ペースメーカ,ペースメーカ‐心臓除\n細動器,神経,筋肉及び神経刺激器,心筋刺激器など),埋め込み型心臓信号モニタ 及びレコーダなどが含まれること(第6欄39行〜54行)が開示されている。
(イ) IsoMedの説明書(甲12)は,肝動脈の注入治療のための臨床のレフ ァレンスガイドであり ,(1)IsoMed注入システムは,IsoMed定量ポンプ と,メドトロニック血管カテーテルを含み,化学療法用薬剤の肝動脈注入に使用す る場合,まずカテーテルをポンプに接続し,ポンプは腹部の皮下腔に配置し,カテ ーテルは腹壁内にくぐらせその端部は胃十二指腸動脈等に配置すること(2−2頁\n1行〜8行,図2−1),(2)IsoMed定量ポンプは,化学療法薬剤またはヘパリ ン化液剤を貯蔵するリザーバーと,セルフシーリング隔膜を有し,リフィル針によ りリザーバーにアクセス可能なセンターリザーバフィルポートとを備えること(2\n−3頁14行〜18行,2−4頁1行〜6行,図2−3),(3)IsoMed定量ポン プはさらに,X線識別タグ等を備え,X線識別タグは,メドトロニック識別子,ポン プの型番,リザーバーの体積及び流量を記録していること(2−4頁10行〜14 行,図2−4)が開示されている。
(ウ) Robert M. Steiner ほか「心臓ペースメーカの放射線学(The radiology of ca rdiac pacemakers)」と題する論文(RadioGraphics,Vol.6,No.3,p373−39 9。乙1)には,ジェネレーターのX線画像は,ペースメーカの製造業者,タイプ及 び作用機序を識別するために有用であるが,何十もの製造業者が何百ものモデルを\n製造しており,流通している全てのペースメーカに精通している医師はいないため, 製造業者から通常提供される,X線画像上の外観やX線不透過性コードを示す参照 チャートが利用可能であることが開示されている(379頁)。\n
(エ) Sergio L. Pinski ほか「植込み型除細動器:非電気生理学者への影響(Implan table Cardioverter-Defibrillators: Implications for the Nonelectrophysiologist)」と題す る論文(Annals of Internal Medicine Vol.122, No.10,p770−777。乙 2)には,全ての製造業者の植込み型除細動器は,X線不透過性の識別子を有する ので,緊急時にはX線を透過させることによりデバイスの識別が可能になることが\n開示されている(771頁左欄14行〜26行)。
(オ) John L. Atlee ほか「心調律管理装置(第2部)(Cardiac Rhythm Managemen t Devices (Part II) Perioperative Management)」と題する論文(Anesthesiology, Vol.95,No.6,p1492−1506。乙3)には,既存のほとんどのペースメーカ 及びICD には,これらのデバイスが埋め込まれている領域の胸部X線写真をみれ ば,デバイスの製造業者及びモデルが識別できる固有のX線不透過性コード(X線 又はX線画像上の署名)が刻印されていることが開示されている(1502頁左欄 11行〜右欄15行)。
(カ) 米国特許第4863470号明細書(甲14)には,(1)乳房用,ペニス,膀 胱,失禁用装置等のインプラントは,体内への埋め込み前及び後の両方において容 易に識別可能であると好都合であること(第1欄14行〜35行),(2)皮下移植用の インプラントについて,X線不透過性の識別マーカーを囲むX線透過部を含むよう にすることで,識別マーカーは埋め込み前において視認可能であるとともに,埋め\n込み後はX線撮影によって判読可能であること(第1欄49行〜57行),(3)識別マ ーカーは,インプラントのサイズのほか,製造業者,製造年,種類等を示すことがで きること(第2欄30行〜46行)が開示されている。
イ 周知技術の認定
(ア) 上記アの記載事項によれば,本件優先日当時,心臓用の医療装置(甲11, 乙1〜3),皮下埋込型の薬液注入装置(甲12),人工乳房(甲14)等の,人体に 埋め込まれて使用される医療機器において,人体に埋め込まれた後に当該装置を特 定する情報を含むX線不透過性の識別子,すなわち,X線で可視の識別可能な特徴\nを備えることは,既に臨床レベルで採用された,周知の技術であったと認められる。
(イ) 原告の主張について
原告は,甲11,甲12の各文献に記載されたわずか2件の発明を根拠に,人体 に埋め込まれて使用される医療機器一般について,X線で可視な特徴を備えること が周知技術と認定することはできず,また,乙1〜3,甲14の各文献の記載を考 慮したとしても,これらに開示されているのは,人体に埋め込まれて使用される心 臓用医療機器であるから,アクセスポートを含む皮膚埋込型の医療機器全般におけ る周知技術を認定することはできないと主張する。 しかし,装置の型番を示すX線で可視な特徴を備えることは,心臓用医療機器の みならず,人工乳房,肝動脈に抗がん剤を投入するポンプなど,人体に埋め込まれ て使用される多様な医療装置において行われていたことは,上記アのとおりである。 そして,甲12には,化学療法用薬剤の肝動脈注入ポンプを腹部の皮下腔に配置 し,体外から薬剤を注入することが記載されていること,甲11には,X線で可視 な特徴としてX線不透過性のIDプレート60を備える医療機器の例として,心臓 ペースメーカ,植込み型除細動器などのほかに薬剤供給装置が挙げられており,薬 剤供給の用途が示唆されていることに照らすなら,装置の型番を示すX線で可視な 特徴を備えることは,アクセスポートを含む皮膚埋込型の医療機器においても,周 知技術であったと認められ,原告の上記主張は採用できない。
ウ 容易想到性の判断
(ア) 引用発明は,造影CTにおいて,造影剤を注入するために用いられる皮下埋 込型のアクセスポートであって,人体に埋め込まれて使用される医療機器の分野に おける上記イの周知技術と同一の技術分野に属している。また,引用発明に上記周 知技術を適用することについて,阻害要因があることは認められない。そうすると, 引用発明に上記周知技術を適用し,人体に埋め込まれた後に当該装置を特定する情 報を含む,X線で可視の識別可能な特徴を備えるようにすることは,当業者が適宜\nなし得ることであるというべきである。 そして,引用発明である「自動注入可能なアクセスポート」を特定する情報は,自\n動注入可能なアクセスポートを自動注入可能\に定格されていないアクセスポートと 区別可能な情報である。そうすると,引用発明を特定する情報を含む,X線で可視\nの識別可能な特徴によって,上記「情報」を識別することができるから,上記識別可\n能な特徴は,「前記アクセスポートの少なくとも一つの,前記自動注入可能\なアクセ スポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報」 と「相関」があるということができる。 よって,引用発明に上記周知技術を適用し,相違点1に係る構成とすることは,\n当業者が適宜なし得ることである。
(イ) 原告の主張について
原告は,本件発明の「相関」は,添付文書に記載された情報に基づいて,「識別可 能な特徴」に,「自動注入可能\」であることを示すものとしての意味が直接的に付与 されていることが必要であり,医師等が添付文書などに基づいて,その「識別可能\nな特徴」の意味を理解できることを要し,単に「ポートの型式」が示されているだけ では,それ自体に「自動注入可能」かどうかの直接的な意味付けはない以上,「自動\n注射可能である前記アクセスポートと相関関係」があるとはいえないから,「前記自\n動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能\に定格されていないアクセスポート と区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能\な特徴」に該当するとはい えない旨主張する。 しかし,本件発明1の特許請求の範囲には,「相関」の具体的態様について限定は ない上,本件明細書にも,「相関」について,添付文書に記載された情報に基づいて, 「識別可能な特徴」に,「自動注入可能\」であることを示すものとしての意味が直接 的に付与されていることが必要であり,医師等が添付文書などに基づいて,その「識 別可能な特徴」の意味を理解できることを要することの記載や示唆はない。\nそして,本件明細書の「識別可能な特徴が,ひとたび観察され,または別の方法で\n決定されると,アクセスポートのそのような少なくとも1つの特徴の相関関係を達 成することができ,そして,前記アクセスポートに関連する情報を得ることができ る」(【0015】)との記載によれば,「識別可能な特徴」と「アクセスポートに関連する情報」との「相関」が達成されると,「識別可能\な特徴」から「アクセスポート に関連する情報を得ることができる」ようになって,そのアクセスポートを特定で きるようになることを理解することができるところ,その具体的態様については, 当業者が適宜設定できるものと解される。

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平成29(ワ)38481  商標権に基づく差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和元年10月2日  東京地方裁判所

 登録商標「MMPI」第44類 心理検査について、「MMPI−1 性格検査」としての使用は、みなし侵害行為であると認定されましたが、商26条によって効力が及ばないと判断されました。

(2)ア 前記(1)ウ(被験者がパソコン画面を見ながら回答)の場合について\n
心理検査は,被験者が質問に回答し,その回答を基準に照らして判定(診 断及び解釈)し,判定結果を一定の目的のために利用するものであるから, 心理検査を役務としてみた場合,その中核は,同検査の実施主体(心理検査 の役務を提供する主体)による回答の判定(診断及び解釈)部分にあると解 される。 前記(1)ウの場合,心理検査の役務を提供するのは被告ソフトの購入者で\nあり,被告ソフトは,同役務の提供を受ける者(被験者)の利用に供する物\nに当たるところ,被告ソフトのパッケージにはそれぞれ本件商標と類似する\n被告標章3が付されており,被告は購入者をして同役務の提供をさせるため に被告ソフトを販売しているのであるから,かかる被告の行為は,少なくと\nも法37条4号のみなし侵害行為に当たる。
イ 前記(1)イ(1)(購入者が被告質問用紙等及び被告ソフトを使用)の場合\n この場合,心理検査の役務を提供する主体は被告各商品の購入者であり, 被告質問用紙等は,同役務の提供を受ける者(被験者)の利用に供する物に 当たるところ,被告質問用紙等にはそれぞれ本件商標と類似する被告標章1 又は2が付されており,被告は上記購入者をして同役務の提供をさせるため に被告質問用紙等を販売しているのであるから,かかる被告の行為は,少な くとも法37条4号のみなし侵害行為に当たる。
ウ 前記(1)イ(2)(被告サービスを利用)の場合につき検討する。 この場合も,心理検査の役務を提供する主体は被験者に受検をさせる被告 回答用紙等の購入者(被告サービスの委託者)と解されるが,上記委託者は, 検査結果の判定部分を被告に委託して心理検査を行っており,被告は,被告 サービスを受託することにより心理検査の役務の一部であるが中核たる判 定業務を実行しているといえるから,被告が被告サービスを提供する行為は, 委託者による心理検査の役務の一部をなす。一方,被告が被告サービスとい う役務を提供する直接の相手方は上記委託者であるが,同委託者は心理検査 の役務の需要者に含まれるし,被告の上記役務があってこそ同委託者の役務 が遂行される関係のものである。そうすると,被告による被告サービスの提 供は,心理検査の役務又はこれに類似する役務に当たるというべきである。 したがって,被告が被告サービスに基づいて委託者に交付する被告診断結 果書に本件商標に類似する被告標章4を付する行為は,「役務の提供に当た りその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務 を提供する行為」(法2条3項4号)に該当するから,かかる行為は,指定 役務又はこれに類似する役務についての登録商標に類似する商標の使用に 当たり,法37条1号のみなし侵害行為に該当する。
エ 広告について 被告は,心理検査の役務に類似する役務に当たる被告サービスの提供に係 る被告ウェブサイト上の広告に被告標章5を掲載しているのであるから,役 務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供す る行為(法2条3項8号)をしているということができる。かかる行為は, 指定役務たる心理検査の役務に類似する役務についての本件商標に類似す る商標の使用に当たるから,法37条1号のみなし侵害行為に該当する。
・・・
(1) 法26条1項3号にいう役務の「質」とは,その語義からして,役務の内容, 中身,価値,性質などを意味するものと解されるところ,「MMPI」は,前 記1のとおり,質問紙法検査に基づいて性格傾向を把握する心理検査の名称で ある「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」(ミネソタ多面的人\n格目録)の略称であり,本件商標の指定役務である心理検査の需要者,取引者 において,心理検査の一手法である本件心理検査又はその略称を示すものとし て周知であると認められるから,心理検査の内容,すなわち「質」を表すもの\nということができる。 また,被告各標章は,いずれも,明朝体様やゴシック体様といったありふれ た書体で構成されているものである。\n そうすると,「MMPI」を含む被告各標章は,いずれも本件商標の指定役 務である心理検査又はこれに類似する役務ないし商品の「質」を,普通に用い られる方法で表示するものということができるから,被告各標章は,法26条\n1項3号に該当し,本件商標権の効力は及ばない。
(2) これに対し,原告は,「MMPI」は,役務の普通名称又は質を表示するも\nのではなく,原告が長年にわたり独占的に提供してきた心理検査等役務を表す\nものとして識別力を獲得していたものであって,被告は,自他を識別する態様 で本件商標に類似する被告各標章を使用していると主張する。 ア この点について,確かに,証拠によれば,原告が,昭和38年以降,原告 版の質問票や回答用紙に「MMPI」の標章を用いていること(甲43〜5 3,74,75),「MMPI」の標章を用いた原告版のカタログを毎年発 行していること(甲39〜42),「MMPI」の標章を用いた原告版のマ ニュアルを販売していること(甲32),原告が精神医学,心理学等の専門 誌,学会誌等に「MMPI」の標章を用いた広告を多数掲載してきたこと(甲 55〜60,100〜145),精神医学,心理学等の専門書等には,原告 版を本件心理検査の日本語版である趣旨の紹介をするものが多数あること (甲7〜9,81〜95)などの事実が認められる。
イ(ア) しかし,原告が昭和38年(1963年)から平成4年(1992年) まで使用していた質問票(甲43)は,表紙上部に「日本版MMPI質問\n票」と記載され,その下に原著がハサウェイとマッキンレーであることな どが記載されているから,「MMPI」の表示は,当該質問票を用いて行\nわれる心理検査の種類・方法としての本件心理検査を示しており,需要者, 取引者にもそのように理解されるものというべきである。 また,平成27年(2015年)以降の新版質問票(甲44〜47,7 4)は,表紙左上部に「Minnesota」,「Multiphasic」,「Personality」, 「Inventory」と4段組みに記載されており,その直下にはハサウェイら の名前が記載され,その右側には「MMPI新日本版研究会」と記載され ているものであるが,同記載も,同様に行われる心理検査の種類・方法と しての本件心理検査を示しており,需要者,取引者にもそのように理解さ れるものというべきである。 新版回答用紙(甲48〜53,75)には,「MMPI III型 回答用 紙」などとあるだけで,原著作者の記載等はないが,回答用紙が通常は質 問票とセットで利用されるものであることからすると,需要者,取引者は 「MMPI」が行われる心理検査の種類・方法としての本件心理検査を意 味するものと理解するものと考えられる。
(イ) 次に,原告版のカタログ(甲39〜42)につきみると,「MMPI」 が単独で表記されている部分もあるものの,昭和43年(1968年),\n昭和48年(1973年),平成5年(1993年)の各カタログ(甲3 9〜41)には,「MMPI」がハサウェイ教授らによって発表された心\n理検査である旨の解説が付されており,平成30年(2018年)のカタ ログ(甲42)にも「MMPIの実施法・まとめ」,「MMPI新日本版」 などと記載されている。これらの記載は,「MMPI」を心理検査の種類・ 方法としての本件心理検査を表示するものであり,需要者,取引者もその\nように理解するものというべきである。
(ウ) さらに,原告のマニュアル(平成5年(1993年)版。甲32)の表\n紙には前記の新版質問票と同様の記載があり,扉の部分には「新日本版M MPIマニュアル」と記載され,本文部分においても,「第1章 MMP Iの概要」に本件心理検査についての説明がされているのであるから,同 マニュアルにおいても,「MMPI」の表示は本件心理検査を意味するも\nのとして用いられているということができる。
(エ) その他,専門誌,学会誌等への広告(甲55〜60,100〜145) 及び精神医学,心理学等の専門書等(甲7〜9,81〜95)においても, 「MMPI」は心理検査の種類・方法であることを前提とした記載がされ ているにすぎず,これが原告の役務であることを示す記載は見当たらない。
(オ) 以上のとおり,原告作成に係る質問票,回答用紙,カタログ及びマニュ アル並びに広告や専門書における「MMPI」の使用は,いずれもこれが 心理検査の種類・方法としての本件心理検査を表示するものにすぎず,他\nに「MMPI」が,原告が提供する心理検査等役務を表すものとして識別\n力を獲得したと認めるに足りる証拠はない。 そうすると,原告が長年にわたり「MMPI」の商標を用いて独占的に 心理検査等役務を提供しており,その質問票,回答用紙,カタログ及びマ ニュアル並びに広告や専門書において「MMPI」との表示をしてきたと\nしても,それをもって,原告が提供する役務を表すものとして識別力を獲\n得したということはできない。 ウ 原告は,原告が行う心理検査等役務は,本件心理検査に由来・関連するが, 質問項目の言語,項目数及び配列,採点基準,実施方式において本件心理検 査と異なる原告独自のものであり,原告の提供する役務として識別力を獲得 したと主張するが,上記のとおり,原告は,質問票やカタログ等において, 「MMPI」の日本版であることを表示し,また,「MMPI」についてミ\nネソタ大学のハサウェイ教授等により発表\された人格目録テストであるな どの説明をしている上,質問項目数の差異も重複した質問を含むかどうかの 違いにすぎない。そうすると,原告が行う心理検査等役務は,我が国の社会, 文化等に合わせて「MMPI」を翻訳・標準化したものであって,原告が独 自に開発した心理検査であるということはできず,また需要者,取引者が原 告の提供する心理検査等役務を原告独自のものと認識していたことを示す 証拠もない。
エ 他方,被告が使用する各標章についてみると,(1)被告標章1は,被告質問 用紙の表紙上部に「MMPI−1 性格検査」と記載されたもの,(2)被告標 章2は,被告回答用紙に「MMPI−1 回答用紙」と記載されたもの,(3) 被告標章3は,被告ソフトのパッケージの表\紙に「MMPI−1性格検査」 と記載されたもの,(4)被告標章4は,診断結果書の1枚目に「MMPI−1 自動診断システム」と記載されたもの,(5)被告標章5は,被告のウェブサイ ト上の被告各商品や被告サービス等の広告において,「MMPI−1性格検 査」と記載されたものである。 原告は,被告各標章が自他の役務を識別する態様で使用されていると主張 するが,上記の被告各標章の表示内容及び態様によれば,被告各標章は,本\n件心理検査による「性格検査」,本件心理検査の質問項目に対する「回答用 紙」,本件心理検査を利用した「自動診断システム」を意味し,いずれも被 告各商品や被告サービスに係る心理検査の種類・方法が本件心理検査である ことを題号等において表示しているにすぎないというべきである。このよう\nに,被告各標章における「MMPI」は,本件心理検査を意味するものとし て使用されているのであるから,これを被告が識別力を有する態様で使用し たものであるということはできない。
(3) 以上のとおり,被告各標章は,いずれも本件商標の指定役務である心理検査 又はこれに類似する役務ないし商品の「質」を,普通に用いられる方法で表示\nするものということができるから,法26条1項3号に該当し,本件商標権の 効力が及ばない。

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平成30(ネ)1008 特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 外為オンラインVSネースクエアの控訴事件です。1審では差止請求が認められました。知財高裁も同じ判断です。

構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,…さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報\nを含む売り注文情報を生成する」の意義について (ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載から,構成要件Dの「注文情報生成手段」は,「前記金融商品の買い注文を行うた\nめの複数の買い注文情報」を生成する「買い注文情報生成手段」(構成要件B)と「前記買い注文の約定によって保有したポジションを,\n約定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報を 生成」する「売り注文情報生成手段」とから構成され,「売り注文情報」を生成するのは,構\成要件Dの「注文情報生成手段」のうちの「売り注文情報生成手段」であることを理解できるから,構成要件Gの「注文情報生成手段」及び構\成要件Hの「前記注文情報生成手段」は,いずれも「売り注文情報生成手段」を意味するものと理 解できる。
そうすると,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の\n売り注文が約定されたことを検知すると,前記注文情報生成手段は, 前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の売り注文 のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注 文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」にいう「前記注文情 報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」,「前 記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価 格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」と の記載は,「売り注文情報生成手段」が,「前記約定検知手段」の 「前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が 約定された」との「検知の情報を受けて」,当該「最も高い売り注 文価格」よりも「さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含 む売り注文情報を生成する」ことを規定したものであり,「売り注 文情報生成手段」が行う処理を規定したものと解される。 次に,本件明細書には,「シフト機能」による注文は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文\nや決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯と は異なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注さ せる態様の注文形態」であること(【0078】),この「シフト 機能」は,「相場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一\n注文情報や新たな第二注文価格の第二注文情報を生成し,相場価格 を反映した注文の発注を行うことができる」(【0018】)とい う効果を奏することの開示がある。そして,構成要件Hの文言及び本件明細書の上記記載から,構\成要件Hは,「シフト機能」のうち,\n更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決 済注文」(売り注文)がシフトする構成のものを規定したものであることを理解できる。他方で,本件明細書には,「シフト機能\」のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注 済の「決済注文」(売り注文)がシフトする構成の場合において,新たな「買い注文」の発注やその約定によって,「シフト機能\」の効果等が影響を受け得ることについての記載や示唆はない。 以上の本件発明の特許請求の範囲(請求項1)及び本件明細書の 記載を総合すると,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」,「前記複数の売り注文\nのうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注 文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」とは,「売り注文情 報生成手段」(前記注文情報生成手段)が,「前記約定検知手段」 の「前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文 が約定された」との「検知の情報」を受けたことに基づいて,「さ らに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生 成する」構成のものであれば,新たな「買い注文情報」の生成や「買い注文」の約定又はその検知に関わりなく,構\成要件Hに含まれるものと解される。
(イ) これに対し控訴人は,(1)本件発明の特許請求の範囲(請求項1) の記載によれば,構成要件Hの「前記検知の情報を受けて,…さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成\nする」とは,直前の検知の情報を条件として,これに続いて,前記 の売り注文が発生するという意味であって,これらの間に他の処理 が介在する記載はないこと,(2)本件明細書には,従前の新規注文B 1ないしB5及び従前の決済注文S1ないしS5が全部約定したこ とを検知し,この検知の情報を受けて,新たな新規注文B1ないし B5及び新たな決済注文S1ないしS5を一括発注するものであり (【0142】ないし【0154】,図35),「前記検知の情報 を受けて」(構成要件H)と,「さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」(構\成要件H)との間に,他の手続が介在するもの,例えば,新たな新規注文B1ないし B5と新たな決済注文S1ないしS5とを新規に一括発注せずに, まずは新たな新規注文B1ないしB5を発注し,その約定を検知し てから,新たな決済注文S1ないしS5を発注するようなものにつ いての開示はないこと,(3)本件出願の経過において,被控訴人は, 拒絶理由通知を受けて,本件手続補正書及び本件意見書を提出して, 本件出願に係る旧請求項1に構成要件EないしGを新たに加え,構\ 成要件Hを補正する手続補正を行うとともに,本件意見書において, シフトが生じるための条件として,最も高い売り注文の約定状況の みを監視することとし,それ以外の処理を監視することを除外する 旨を主張したことを総合すると,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の\n売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高 い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成すること」にいう 「前記検知の情報を受けて」とは,「前記相場価格が変動して,前 記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文 価格の売り注文が約定されたことを検知すると」,他の処理を何も 介在せずに,直ちに「前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文 価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り 注文情報を生成する」ことを意味するものと解すべきである旨主張 する。
しかしながら,上記(1)の点については,本件発明の特許請求の範 囲(請求項1)の記載中には,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」と「前記複数\nの売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ 高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」との間に, 「他の処理を何も介在せずに」とか「直ちに」との文言は存在しな い。
次に,上記(2)の点については,前記(ア)で説示したとおり,構成要件Hは,「シフト機能\」(【0078】)のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決済注文」(売 り注文)がシフトする構成のものを規定したものであるところ,本件明細書には,「シフト機能\」のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決済注文」(売り注文)が シフトする構成の場合において,新たな「買い注文」の発注やその約定によって,「シフト機能\」の効果等が影響を受け得ることについての記載や示唆はない。また,控訴人が挙げる本件明細書の記載 (【0142】ないし【0154】,図35)は,「発明の実施の 形態の3」に係るものであるが,本件明細書には,「上記の「シフ ト機能」は,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構\ 成において適用することもできる。」こと(【0151】)及び「上 記各実施の形態は本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態 のみに限定されることを意味するものではないことは,いうまでも ない。」こと【0164】の記載があることに照らすと,控訴人が 挙げる本件明細書の上記記載から構成要件Hを限定解釈すべき理由はない。\n
さらに,上記(3)の点については,被控訴人は,本件手続補正書(乙 14)により,本件出願に係る旧請求項1について,「前記相場価 格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち, 最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると, 前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受 けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさら に所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成 する」(下線は,補正箇所を示す。)と補正し,本件意見書(乙1 5)において,「本願発明においては,一の注文手続で生成された 複数の売り注文情報に基づく複数の売り注文よりも高い売り注文情 報の生成…は,一の注文手続で生成された複数の売り注文情報に基 づく複数の売り注文のうちの最も高い売り注文の約定…が検知され たことを基準に行われることになります。そのため,システムにお いては,特定の注文に係る注文情報(相場の移動方向側である,最 も高い買い注文価格の買い注文に係る買い注文情報や,最も低い売 り注文価格の売り注文に係る売り注文情報)の約定状況のみを監視 すれば,新たな注文情報の生成(一の注文手続で生成された中で最 も高い売り注文価格よりも高い売り注文価格の売り注文情報の生成 …を,ただちに生成することができ,システムの情報保持や情報監 視のための負担が大きくなることはありません。これにより,本願 発明においては,新たな注文情報の生成や,その注文情報に基づく 注文の発注等の処理を,システム負荷の軽い,簡易な手順によって 処理することができるという効果を奏します。」と述べたことが認 められるが,他方で,本件手続補正書及び本件意見書は,平成29 年4月11日付けの拒絶理由通知(乙18)において「引用文献1 に記載された発明に引用文献2に記載の技術を適用し,引用文献1 に記載された発明において,繰り返し注文を行う際,相場価格の上 昇傾向に対応して以前の注文価格よりも高い価格の注文情報を生成 するように構成することは,当業者ならば容易に為し得ることである。」との進歩性欠如の指摘を受けて提出されたものであることに\n照らせば,本件手続補正書及び本件意見書は,本件発明が,複数の 売り注文のうち最も高い売り注文価格の売り注文の約定に基づいて, 同注文価格よりも高い価格の売り注文を生成する点に技術的意義を 有し,進歩性を有する旨を主張したものであって,本件意見書の「約 定状況のみを監視すれば」,「ただちに生成する」といった記載か ら,両者の間に他の処理を介在させる構成や時間的間隔が存在する構\成を本件発明から除外したものということはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 構成要件Hの充足性について
(ア) 前記2(3)イ(イ)のとおり,(1)ないし(4)の売り注文のうち,最も高 い注文価格の番号113の売りの指値注文(指定価格114.90 円)が約定した後に,番号113の注文価格より「0.62円」高 い番号96の売りの指値注文(指定価格115.52円)がされて いることに照らすと,被告サーバにおいては,約定検知手段が複数 の売り注文のうち最も高い売り注文価格の売り注文の約定を検知す ると,注文情報生成手段が,この検知の情報を受けたことに基づい て,約定した最も高い売り注文の売り注文価格よりもさらに所定価 格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成したこと が認められる。 したがって,被告サーバは,構成要件Hを充足するものと認められる。\n
・・・・
控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Hに対応する「シフト機能\」に係る構成について,「いったんスルー注文」及び「決済トレー\nル注文」と組み合わせた,複数の新規注文の全て及び複数の決済注文の全て がそれぞれ1回ずつ約定した場合に複数の新規注文の全て及び複数の決済注 文の全てに対応する個数の新たな複数の新規注文及び新たな複数の決済注文 を発注させることしか記載されておらず,構成要件Hに含まれる「シフト機能\」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせたもの以外の構成のものについては記載されていないことからすれば,構\成要件 Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,特許 法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合する とはいえない旨主張する。 ア そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に は,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたこ\nとを検知すると,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知 の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成す る」との記載において,「注文情報生成手段」が生成する「所定価格だけ 高い売り注文価格の情報」を含む「売り注文情報」の個数を規定する記載 はないから,当該「売り注文情報」は,複数の場合に限らず,一つの場合 も含むものと理解できる。
イ(ア) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,(1)「シフト機能」について,「金融商品取引管理装置1や金融商品取引管理システム1Aにお\nいて,既に発注した新規注文と決済注文をそれぞれ約定させたのち,「シ フト機能」による処理を併用した取引を行うことも可能\である。この「シ フト機能」による注文は,上述した,「いったんスルー注文」や「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば後述する「リピートイ\nフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)等に基づいて,新 規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文 や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異 なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様 の注文形態である。」こと(【0078】),(2)「シフト機能」は,「相場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場\n価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一注文情報や新たな第二注 文価格の第二注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行う ことができる」(【0018】)という効果を奏すること,(3)「発明の 実施の形態3」は,「この実施の形態3の金融商品取引管理システムに おいては,「いったんスルー注文」と「決済トレール注文」とを,「ら くトラ」による注文と組み合わせ,さらに「シフト機能」を行わせる状態を示す。」(【0138】)ものであるが,「上記の「シフト機能\」は,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構成において適用することもできる。」こと(【0151】)及び「上記各実施の形態\nは本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態のみに限定されるこ とを意味するものではないことは,いうまでもない。」こと(【016 4】)の記載がある。 上記(1)の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される\n際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフ トさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シ フトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一 方のみの構成又は双方の構\成が含まれること,先に発注済の一つの注文 の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価格帯」をシフトさせる構\成のものが含まれることを理解できる。また,上記(1)ないし(3)の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いった\nんスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例え ば…「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」 等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。\n
ウ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,図35に示す「実施の形態 3」(【0144】ないし【0148】)として,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせたトラップリピートイフダン注文で行われ,\n決済注文S5,S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の 買い注文B5,B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売 り注文S5,S4が再度生成されるが,この時点ではシフトは発生せ ず,通常のリピートイフダン注文が繰り返され,その後相場価格が変 動して,S1ないしS3の売り注文価格がトレールし,S1ないしS 3が最も高い注文価格の売り注文として同時に約定すると,再度生成 された売り注文S5,S4は約定していないにも関わらずこれをキャ ンセルして,S1ないしS5のシフトが実行されることが記載されて いる。上記記載は,構成要件Hに含まれる,「シフト機能\」に「いっ たんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成の一つであることが認められる。\nまた,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせない場合には,図35において,S2及びS3の売り注文価格がトレールしないため,\nそれぞれの注文情報が生成された時点における価格のとおり,それぞ れ別々に約定し,その場合,実施の形態3の取引例でS5,S4が約 定した段階ではシフトが生じていないのと同様に,S3,S2が約定 した段階ではシフトが生じず,その後に最も高い売り注文価格の売り 注文であるところのS1が約定した段階でシフトが生じることになる ことを理解できる。 そうすると,複数の売り注文情報のうち最も高い売り注文価格の売 り注文が約定すると,それよりも所定価格だけ高い売り注文価格の情 報を含む売り注文情報を生成するという構成要件Hに係る構\成は,本 件明細書の上記記載から認識できるから,本件明細書の発明の詳細な 説明に記載されているということができる。
(イ) これに対し控訴人は,図35には,S5,S4が約定した後に再 度S5,S4が生成されることの記載はなく,B5,B4には,直後 に「キャンセル」と記載されていることからすれば,S5,S4が約 定しても,元の買い注文B5,B4と同じ注文価格の買い注文B5, B4がそもそも生成されないか,生成されてもすぐにキャンセルされ ていると理解できること,加えて,本件明細書の【0144】ないし 【0147】にも,新たな新規注文B5及びB4は,個別に生成され るのではなく,(従前の)決済注文の全ての約定((従前の)決済注 文S1ないしS3の約定)を待って,新たな新規注文B1ないしB3 とともに新たな新規注文が一括して生成されることが開示されている ことからすると,図35には,同図右上のS1ないしS3が同時に約 定し,もって,B5ないしB1及びS5ないしS1の全てが1回ずつ 約定した後に,「シフト機能」によるシフトが行われ,新たなB5ないしB1及びS5ないしS1が一括的に生成される場合が示されてい\nるに過ぎず,B5,B4に対応する決済注文S5,S4が約定すると, 元の買い注文B5,B4と同じ注文価格の買い注文B5,B4が再度 生成されることを看取できない旨主張する。 しかしながら,図35には,明示の記載はないが,決済注文S5, S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の買い注文B5, B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売り注文S5,S 4が再度生成され,通常のリピートイフダン注文が繰り返されること は,「図30に示すように,相場価格64が上昇から下落に転じ,1 ドル=100.60円未満になると,約定情報生成部14は,決済注 文S4,S5を約定させる処理を行う。これにより,(新規注文情報 18114,18115に基づく)新規注文B4,B5と,(決済注 文情報18119,18120に基づく)決済注文S4,S5による イフダン注文の取引がそれぞれ成立する。これにより,注文情報生成 部16は,元の新規注文B4,B5と元の決済注文S4,S5と同じ, 新たな新規注文B4,B5と元の決済注文S4,S5を生成する。」 (【0132】)との記載に照らしても明らかである。 したがって,控訴人の上記主張は,その前提において,採用するこ とができない。
エ 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「シフト機能」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせた構\成のもの(実施の形態3)のほか,構成要件Hに含まれる,これ以外の構\成の もの(最も高い売り注文価格の特定の一の売り注文が約定されたことを検 知すると,前記注文情報生成手段が,更に所定価格だけ高い「一の売り注 文情報」を生成するもの)についての開示があることが認められる。 したがって,構成要件Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであることが認められ,本件発明はサポート要件に適合するものと認\nめられるから,これと異なる控訴人の前記主張は理由がない。

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平成30(ワ)9909  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月23日  東京地方裁判所

 特許権侵害について、公然実施の無効主張がなされ、東京地裁(40部)は新規性違反(発明1,3)および進歩性違反(発明2,4)の無効主張を認めました。

 被告は,上記ア記載のA邸工事の施工方法又は防水構造は本件各発明の構\ 成要件をすべて具備すると主張するのに対し,原告は,同方法又は構造は構\ 成要件D等を充足せず,本件各発明と相違点1において相違するので新規性 は欠如しないと主張する。
(ア) 構成要件D等における「封止する状態にして固定」の意義\n
そこで,まず,構成要件D等の「封止する状態にして固定」の意義につ\nいて検討する。 本件発明1及び3の特許請求の範囲の記載(構成要件D及びK)によれ\nば,内部水切り部材は,その固定板下面と屋根に設けた開口部周囲の野地 板上面又は防水シート上面との間で液体の流通を封止する状態にして固 定して,水が開口部に侵入することを防止する機能を有するものであるか\nら,ここにいう「封止」とは,液体の流通を封じ,止めること,すなわち, 水等の液体が開口部に侵入しない状態にすることをいうものと解される。 また,本件明細書等の記載をみても,「開口部を固定板で直接的且つ内 外液密的に覆うように内部水切り部材(インナーフラッシング)を配置す る」(段落【0011】),「内部水切り部材の固定板を野地板又は防水 シート上に密着した状態で固定するものとした本発明」(段落【0017】), 「開口部12を完全に覆うことのできるサイズの固定板21を,その下面 端縁側が密着する状態で内部水切り部材20を固定」(段落【0022】), 「密着状態で接着・固定して,固定板21下面と防水シート11上面との 間で水が流通しない状態に封止する。」(段落【0031】),「固定板 21の防水シート11側への密着性(封止性)が極めて高いものとなり優 れた防水機能を実現」(段落【0035】)などとされているから,内部\n水切り部材は,その固定板の下面端縁側を野地板等に密着させることで, 水等の液体の開口部への侵入を防止する機能を有するものであると解さ\nれる。 そうすると,構成要件D等における「封止する状態にして固定」とは,\n内部水切り部材の固定板の下面と野地板等を,水等の液体が開口部に侵入 しない程度に密着させて固定する状態をいうものと解するのが相当であ る。 これに対し,原告は,構成要件D等の「封止」とは,「精密部品などを\n外気に触れないように,隙間なく包むこと。または,その技術。」を意味 すると主張するが,この定義は精密機械等に外気が接することを念頭に置 いたものであり,外気ではなく液体の流通が問題となる本件各発明におい ては妥当しない。
(イ) 構成要件F等における「前記固定板外周に沿って防水テープが貼\付され ている」の意義
更に進んで,構成要件F等における「前記固定板外周に沿って防水テー\nプが貼付されている」の意義について検討する。\n本件発明2及び4に係る特許請求の範囲の記載によれば,内部水切り部 材の固定板外周に沿って防水テープを貼付するのは,同固定板下面と開口\n部周囲の野地板上面等との間で液体の流通を封止する状態にして固定す るためであり,また,構成要件F等においては,「固定板外周に沿って」\n防水テープを貼付するものとされているから,「前記固定板外周に沿って\n防水テープが貼付されている」とは,内部水切り部材の固定板の外周全体\nに防水テープが貼付されていることを意味すると解するのが自然である。\n本件明細書等の記載をみても,防水テープ15で固定板21の外周に沿っ てその全周にわたって貼付する態様の実施例のみが記載されている(段落\n【0032】,【図4】)。 そうすると,構成要件F等の「前記固定板外周に沿って防水テープが貼\ 付されている」とは,内部水切り部材の固定板の外周全体に防水テープが 貼付されていることを意味するものと認められる。\n
(ウ) A邸工事と本件発明1及び3との対比
上記(ア)及び(イ)の解釈を前提として,A邸工事の方法等と本件各発明と を対比すると,A邸工事は,アルミフラッシングの「固定板の下面が開口 部周囲の野地板上面に密着して配置され」,かつ,「上記アルミフラッシ ングの四角形状の固定板の縁部分の棟側及び左右両側には,粘着剤層を有 する防水テープを貼付する」構\成を有するのであるから,A邸工事は,上 記固定板の下面が,野地板上面と,水等の液体が開口部に侵入しない程度 に密着して固定されている構成,すなわち「アルミフラッシングの固定板\n下面と開口部周囲の野地板上面との間で液体の流通を封止する状態にし て固定する」構成を有するものと推認することができる。\n したがって,A邸工事は構成要件D等を具備し,本件発明1及び3は新\n規性を欠くこととなる。
(エ) A邸工事と本件発明2及び4との対比
前記のとおり,本件発明2及び4の構成要件F及びMの「前記固定板外\n周に沿って防水テープが貼付されている」とは,内部水切り部材の固定板\nの外周全体に防水テープが貼付されていることを意味するところ,A邸工\n事においては,アルミフラッシングの四角形状の固定板の縁部分の棟側及 び左右両側には防水テープが貼付されているが,その軒側にはこれが貼\付 されていないから,この点で両者は相違することとなる。 したがって,本件発明2及び4が新規性を欠くということはできない。
ウ 進歩性の有無について
前記判示のとおり,A邸工事の方法と本件発明2及び4の構成要件F等は,\n固定板の外周のうち軒側に防水テープが貼付されているかどうかにおいて\n相違するところ,防水テープは,開口部に水が浸入しないようにするために 内部水切り部材の固定板に貼付するものであるから,四角形状の固定板の縁\n部分の上記3辺に防水テープを貼付した上,更に念を入れて軒側の下辺にも\n防水テープを貼付することについて,当業者であれば当然に想到し得たもの\nと考えられる。 これに対し,原告は,インナーフラッシングの固定板の3辺に防水テープ を貼付して固定していた構\成を,全周にわたり防水テープを貼付する構\成に 置き換えると,部材や工数が増加して過剰なコストや手間を要することにな るから,阻害要因があると主張するが,A邸工事の開口部は1辺が40cm程 度であること(乙12資料3)からして,軒側の1辺に防水テープの貼付す\nる部材のコストや工数の負担はごくわずかなものと考えられるので,原告の 主張するような阻害要因があるということはできない。 したがって,本件発明2及び4は,公然実施されたA邸工事に基づき当業 者が本件特許出願当時に容易に想到し得たものであるというべきである。
エ 小括
前記イのとおり,本件各発明に係る特許出願より前である平成19年6月 28日に公然と実施されたA邸工事は,本件発明1及び3の構成要件を全て\n充足するから,本件発明1及び3は新規性を欠く。 また,前記ウのとおり,A邸工事は,アルミフラッシングの四角形状の固 定板の軒側縁部分に防水テープが貼付されていない点で本件発明2及び4\nと相違するが,当業者は,同部分にも防水テープを貼付する構\成に容易に想 到し得るといえるから,本件発明2及び4は進歩性を欠く。 したがって,本件各発明は,いずれも特許無効審判により無効にされるべ きものと認められる。

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平成30(ワ)28604  商標移転登録抹消請求事件  商標権  民事訴訟 令和元年11月26日  東京地方裁判所

 東京地裁(46部)は、理事会の承認なしの商標譲渡について、移転請求を認めました。

 一般社団法人法は,理事が自己又は第三者のために一般社団法人と取引をし ようとするときは,理事会において,当該取引について重要な事実を開示し, その承認を受けなければならない旨定める(同法84条1項2号,92条)。 本件譲渡は,前記第2の2(2)のとおり,原告の理事であった被告が,原告か ら,原告の財産である本件商標権を無償で譲り受けたものであり,理事が自 己のために一般社団法人と取引をした場合に当たるから,一般社団法人法8 4条1項2号所定の利益相反取引に該当する。
イ これに対し,被告は,オン社の唯一の株主及び代表取締役が被告であること\nに鑑みれば,本件譲渡は,実質的に本件登録前権利に係る譲渡契約の解除に 伴う原状回復義務の履行として,原告からオン社へ本件商標が返還されたと 評価されるべきであり,利益相反取引に該当しない旨主張する。 しかしながら,オン社は被告とは独立した法人格を有する株式会社であると ころ,原告はオン社に対して本件商標を譲渡したものではないから,そもそ も原状回復の問題ではなく,オン社ではない理事である被告への譲渡が原告 との間で利益相反行為となることは明らかである。被告の上記主張には理由 がない。
ウ 以上によれば,本件譲渡は,仮にこれが成立していたとしても,一般社団法 人法84条1項2号所定の利益相反取引に該当し,これについて原告の理事 会の承認を受けていないから,無効というべきである(最高裁昭和43年1 2月25日大法廷判決・民集22巻13号3511頁参照)。
2 争点2(原告が,理事会の承認又は決議の欠缺を理由に本件譲渡の無効を主張 することが信義則に反して許されないか否か)について
(1)前記前提事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を 認めることができる。
ア 被告は,平成18年7月4日に原告が設立された当初より,専務理事兼事 務局長として原告の事業に従事し,原告の業務の遂行等に大きな役割を果 たしていた。 平成28年11月頃,原告の代表理事はC(以下「C」という。)であっ\nたところ,被告は,情報機器のリユース・リサイクルの促進等の事業を行う 新たな団体を設立することを計画し,これに賛同するBら複数の原告理事 らと共に,新団体の名称を考案したり,経済産業省に提出するための書類を 準備したりするなどした(甲13,乙2の1[4ないし9頁],31)。
イ 被告は,上記新団体の名称の候補として「IoT機器3R協会」を考案し, 平成28年11月25日,自身が代表取締役を務めるオン社を出願人とし\nて商標出願をした(甲10の2,乙1,2の1,2の2,31)。
ウ 平成29年5月23日,BがCに代わり原告の代表理事に就任した。原告\nと別に新たな団体を設立する構想が立ち消えになったところ,被告は,オ\nン社の代表者として,同年7月12日頃,原告に対し,本件登録前権利を\n譲渡した。この際に原告理事会の承認は受けなかった。(乙6,7の1)
エ 被告は,平成29年7月21日頃,原告内部に向けた「今後の当協会の方 向性と取り組みについて(案)」と題する資料を作成し,Bら原告の理事に 配布するなどした(乙29,弁論の全趣旨)。同資料において,被告は,I oT(Internet of Things)について「もはやはやり言葉の領域を超えて いると思われ,当協会としても積極的に対応すべき時代になったと考えて います。」,「IoT対応機器の普及が拡大している幅広い電子機器機械の3 Rへの新たなビジネス参入のチャンスをもっていると思われます。また, 当協会としてもこの分野への積極対応により,新たな会員様獲得のチャン スが生まれると考えます。」と記載して,原告のIoT対応機器分野への積 極的進出を提案すると共に,新しい協会名として「電子機器機械3R協会」 及び「IoT対応機器機械3R協会」を提案し,「なお,IoTからみの商 標申請が多数発生しているため,抑えとして最もシンプルな名前の『Io\nT機器3R協会』の名称については申請中。」と記載した(乙29)。\n
オ Bは,平成29年7月25日に開催された原告の理事会において,原告の 今後の課題として,原告の知名度の向上と組織内部の充実の2点を挙げ, 前者の具体策としてIoTに関連した分野の取り込み及びこれに伴い協会 名を変更すること等を提案し,同議案は可決された。理事会は,同日,上 記2点の課題を検討するために,副代表理事を委員長とする実行委員会を\n設け,同委員会が検討結果を理事会へ報告することとした。(乙9,10)
カ 平成29年8月22日,原告の理事会が開催され,そこで,上記オで設 けられた実行委員会は,組織内部の充実の観点から早急に対応が必要な事 項の一つとして,事務局長と専務理事を兼務する旨の定款の定めを削除す ることや,事務局の給与体系の制定など被告が事務局長を務める事務局の 体制の改革が提案された(甲17,乙11,12,35)。
キ 被告は,平成29年9月11日,本件商標を原告から被告に譲渡した旨の 譲渡証書を作成した(甲4,乙31)。同時点において,被告は,本件譲渡 につき原告の理事会の承認を受けていないことを認識していた(被告本人 [38頁])。
(2)ア 被告は,(1)原告は本件商標の発案・出願に関与していないこと,(2)本件商 標の登録や移転に関する費用を負担していないこと,(3)本件登録前権利の譲 り受けについても理事会の承認又は決議を得ていないこと,(4)Bを除く原告 理事は原告が本件商標を保有していることを認識していなかったこと,(5)本 件譲渡を指示した原告の代表理事であるBが理事会を招集しなかったこと\nを挙げ,原告が理事会の承認の欠缺を理由として本件譲渡の無効を主張する ことは信義則に反して許されない旨主張する。 しかしながら,前記(1)エ及びオによれば,原告は,本件譲渡当時,IoT 対応機器のリユース・リサイクル事業への進出とこれに伴う名称の変更を計 画していた。そして,本件商標はIoTの文字を含み,被告によって原告の 新名称の候補の一つとして提案されたものに類似していた。また,原告が本 件登録前権利を有していることは理事らにも認識されていたと認められる。 そうすると,本件商標は,原告の今後の事業展開にとって非常に重要なも のとなり得るものであった。そのことは原告の理事も理解し得たのであり, また,そのような重要なものとなり得る本件商標に係る本件登録前権利を 原告が有していたことは認識されていた。本件譲渡はそのような本件商標 を無償で被告に譲渡するものであり,原告に大きな不利益をもたらす反面, 被告に利益をもたらし得るものであるから,利益相反の程度は高い。 被告の主張する上記(1)ないし(3)の事情は,本件商標の登録に至る被告の 寄与や本件譲渡前の事情をいうものであるが,被告自身が特段の条件を付 さずにオン社から原告に対して本件登録前権利を譲渡したことも考慮する と,これらはいずれも原告が本件譲渡の無効を主張することが信義則違反 となることを基礎付けるものであるとはいえない。被告の主張する上記(4) の事情は,原告の代表理事であるBが本件商標を保有していることを認識\nしている以上,原告として本件商標を保有していることを認識していたと いえるのであるし,本件商標が客観的に原告にとり非常に重要なものとな り得るものであったことや,それが出願されていることは原告の理事らに も認識されていたことに照らしても,原告が本件譲渡の無効を主張するこ とが信義則違反となることを基礎付けるものであるとはいえない。また,上 記(5)について,被告は,平成29年8月22日の理事会終了後にBから本件 商標を被告に戻すように指示された旨主張し,本人尋問においても,これに 沿う供述をするほか,商標を戻すものであるから理事会の承認は必要ない 旨Bから言われた旨供述する(被告本人〔23ないし25頁〕)。しかし,前 記(1)クのとおり,被告は本件譲渡が理事会の承認を受けていないことにつ き悪意であるところ,法人の代表者と取引の相手方が共謀して理事会の承\n認を受けることなく利益相反取引をした場合,法人は,悪意の当該相手方に 同取引の無効を主張することができるというべきであり,仮に被告が主張, 供述する事実が認められたとしても,原告が信義則上本件譲渡の無効を主 張することができなくなるとはいえない。
イ 以上によれば,原告が本件譲渡の無効を主張することは信義則に反する 旨の被告の主張には理由がない。

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令和1(行ケ)10086  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和元年11月26日  知的財産高等裁判所

 立体商標について、識別力無しとの無効審判請求について、知財高裁(4部)は無効理由なしとした審決を維持しました。

 前記アの認定事実を総合すると,ヘニングセンがデザインした本件商品の立体的形状は,被告による本件商品の販売が日本で開始された1976年(昭和51年)当時,独自の特徴を有しており,しかも,本件商品が上記販売開始後本件商標の登録出願日(平成25年12月13日)までの約40年間の長期間にわたり日本国内において継続して販売され,この間本件商品は,ヘニングセンがデザインした世界のロングセラー商品であり,そのデザインが優れていること及び本件商品は被告(「ルイスポールセン社」)が製造販売元であることを印象づけるような広告宣伝が継続して繰り返し行われた結果,本件商標の登録出願時までには,本件商品が日本国内の広範囲にわたる照明器具,インテリアの取引業者及び照明器具,インテリアに関心のある一般消費者の間で被告が製造販売するランプシェードとして広く知られるようになり,本件商品の立体的形状は,周知著名となり,自他商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得するに至ったものと認められる。そうすると,本件商品の立体的形状である本件商標が本件商品に長年使用された結果,本件商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時(登録審決日・平成27年12月15日)において,被告の業務に係る商品であることを表\示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたことが認められるから,本件商標は,商標法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当するものと認められる。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件商品(「PH5」)は,デンマークのデザイナーであるヘニングセンがデザインした商品として,宣伝され,評価され,販売されてきたものであるから,PH5の立体的形状である本件商標は,ヘニングセンがデザインしたランプシェードの立体的形状として周知であるにとどまり,被告の業務に係る商品であることを表示するものとして,周知であるということはできない旨主張する。\nしかしながら,前記(2)イ認定のとおり,被告は1976年(昭和51年)から本件商標の登録出願日(平成25年12月13日)までの約40年間の長期間にわたり日本国内において本件商品を継続して販売し,その間,本件商品は,ヘニングセンがデザインした世界のロングセラー商品であり,そのデザインが優れていること及び本件商品は被告(「ルイスポールセン社」)が製造販売元であることを印象づけるような広告宣伝が継続して繰り返し行われてきたことに照らすと,本件商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,被告の業務に係る商品であることを表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたことが認められるから,原告の上記主張は採用することができない。\n
イ 原告は,PH5に係る商標権,著作権等の知的財産権は,ヘニングセンに帰属するから,被告は,ヘニングセン及びその相続人から,商標権の譲渡を受け,又は使用許諾を受けていなければ,本件商標の商標登録を受けることはできない,PH5のデザインは,外国において商標登録されておらず,知的財産権の権利者が死亡し,パブリックドメインとなっているから,商標登録をさせてはならず,被告の本件商標の商標登録は無効とすべ きである旨主張する。しかしながら,商標法3条2項は,同条1項3号から5号までに該当する商標であっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」については,商標登録を受けることができる旨を定めたものであるところ,原告の上記主張は,同条2項の文言の解釈に基づかないものであるから,その主張自体理由がないというべきである。

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平成31(ワ)5391  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和元年10月3日  東京地方裁判所

 サーボモーターの外形について周知性が認められないとして、不競法2条1項1号の周知商品等表示ではないと判断されました。\n

 原告は,原告表示1−1ないし同2−3につき,原告の商品等表\示として 需要者の間に広く認識されている旨を主張する。しかしながら,次のとおり,原告主張に係る各表示は,いずれも原告の商品等表\示として需要者の間に広く認識されているとは認められない。
ア 原告表示1−2及び同2−2について\n
原告主張に係る原告表示1−2及び同2−2は,いずれもサーボモータ\nの外観を示したものであるところ,原告は,これらが単に原告表示1−1\n及び同2−1の型番が表示され,又は原告表\示1−3及び同2−3のラベ ルが貼付された状態を説明したものにとどまるものではなく,各サーボモ\nータの形態自体が,原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されて\nいる旨を主張しているものとして,以下検討する。 この点,不競法2条1項1号にいう「商品等表示」とは,人の業務に係\nる氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営 業を表示するものをいい,しかして,商品の形態は,これに付される商標\n等とは異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではな\nい。そうすると,このような商品の形態自体が不競法2条1項1号の「商 品等表示」に該当するためには,(1)商品の形態が客観的に他の同種商品と は異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,(2)その形態が特定 の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な広告宣伝や 爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定 の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を\n要するものと解するのが相当である。 これを本件について見るに,原告表示1−2及び同2−2のいずれにつ\nいても,他のサーボモータの形態と対比して客観的に異なる顕著な特徴を 具体的に含んでいることを的確に認めるに足りる証拠はないものであって, 同形態が上記(1)の特別顕著性を有しているとは認められないというべきで ある。 したがって,原告表示1−2及び同2−2はいずれも不競法2条1項1\n号にいう「商品等表示」に当たるとはいえない。\n
イ その他の表示について\n
原告は,原告表示1−1ないし同2−3の表\示が周知性を有することの 根拠として,原告商品が各種媒体において頻繁に使用例が掲載されている こと,最大手のオンライン通販市場の売上げランキングにおいて上位を独 占していること,(所在地省略)の小売店での販売実績の上位であること等 を挙げる。 しかしながら,各種媒体における掲載状況や小売店での販売実績につい ては,これを具体的に認めるに足りる客観的な証拠はなく,また,オンラ イン通販市場での売上げランキングについても,期間が限定された,断片 的な資料(甲7)が提出されているにすぎず,その他本件全証拠を精査し ても,原告主張に係るその他の表示(原告表示1−1,同1−3,同2−1\n及び同2−3)の付された商品を見た需要者において,商品の出所が原告で あると認識する状況になるまでに至っているものと認めるには足りないと いうべきである。 したがって,原告主張に係るその他の表示は,いずれも原告の商品等表\ 示として需要者の間に広く認識されているとは認められず,不競法2条1 項1号にいう「他人の商品等表示(中略)として需要者の間に広く認識さ\nれているもの」に当たるとはいえない。
(2) 類似性,混同のおそれの有無(争点1−2)について
以上の説示によれば,原告の請求はいずれも既に理由がないものであるが, なお念のため,原告表示1−3及び同2−3と被告表\示1−3及び同2−3 との類似性及び混同のおそれの有無につき検討する。 この点,各表示とも横書き3行の文字列で構\成されており,原告表示1−\n3は1行目が「Towerpro」,2行目が「MG996R」,3行目が「D IGI HI TORQUE」と表示されているのに対し,被告表\示1−3 は1行目が「TZT」と表示されており,2行目及び3行目は原告表\示1− 3と同様の文字が表示されている。\n また,原告表示2−3は1行目が「TowerPro」,2行目が「MG9\n95」,3行目が「DIGI HI−SPEED」と表示されているのに対し,\n被告表示2−3は1行目が「TZT」と表\示されており,2行目及び3行目 は原告表示2−3と同様の文字が表\示されている。 しかして,商標の類否ないし混同のおそれの有無は,同一又は類似の商品 に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象, 記憶,連想等を総合して,その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に 考察して決すべきものであるところ,原告表示1−3と被告表\示1−3及び 原告表示2−3と被告表\示2−3とをそれぞれ対比すると,1行目の表示が\n全く異なる文字列で構成され,この部分の外観,観念,称呼が異なることは\n明らかであり,また,2行目の「MG996R」及び「MG995」や3行 目の「DIGI HI TORQUE」及び「DIGI HI−SPEED」 は一致しているが,これは,上記各表示が使用される商品であるサーボモー\nタの型番や性状を示す部分にすぎないと認められる。 以上に照らし,サーボモータに係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察 すれば,表示全体として,原告表\示1−3と被告表示1−3及び原告表\示2 −3と被告表示2−3とが類似しているとは認め難いというほかなく,混同\nのおそれがあるということもできない。
(3) 以上によれば,被告による被告商品の販売行為等は,不競法2条1項1号 所定の不正競争行為に当たらない。

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令和1(ネ)10043  著作権に基づく差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和元年11月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 テキスト本の解説をネット配信する行為が、テキスト本の著作権侵害(翻案権)かが争われました。知財高裁は1審と同様に、著作物性は認めたものの、本件解説と本質的特徴を同一にするとは認められないと判断しました。

 ア 最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決(同平成11年(受)第9 22号,民集55巻4号837頁)は,言語の著作物に関してであるが, 著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な\n特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,\n新たに思想又は感情を表現することにより,これに接する者が既存の著作\n物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作\nする行為であるとしている。そして,翻案の意義は,本件問題のような編 集著作物についても同様であると解されるから,編集著作物の翻案が行わ れたといえるためには,素材の選択又は配列に含まれた既存の編集著作物 の本質的特徴を直接感得することができるような別の著作物が創作された といえる必要があるものと考えられる。
イ これを本件について検討してみるに,本件問題は,控訴人自身も主張す るとおり,題材となる作品の選択や,題材とされる文章のうち設問に取り 上げる文又は箇所の選択,設問の内容,設問の配列・順序に作者の個性が 現れた編集著作物であり,ここでは,このような素材の選択及び配列等に, その本質的特徴が現れているということができる。これに対し,被告ライ ブ解説は,作成された問題(すなわち,素材の選択及び配列等)を所与の ものとして,これに対する解説,すなわち,問いかけられた問題に対する 回答者の思考過程や思想内容を表現する言語の著作物であって,このよう\nな思考過程や思想内容の表現にその本質的特徴が現れているものである。\nこのように,編集著作物である本件問題と,言語の著作物である被告ライ ブ解説とでは,その本質的特徴を異にするといわざるを得ないのであるか ら,仮に,被告ライブ解説が,本件問題が取り上げた文を対象とし,本件 問題が提起したのと同一の問題を,その配列・順序に従って解説している ものであるとしても,それは,あくまでも問題の解説をしているのであっ て,問題を再現ないし変形しているのではなく,したがって,本件問題の 翻案には当たらないものといわざるを得ない。 この点について,控訴人は,本件問題と被告ライブ解説とはその本質的 特徴を同一にするとして種々主張しているけれども,上記に指摘した点に 照らし,採用することはできない。
(3) 被告ライブ解説は本件解説の翻案に当たるかについて
控訴人は,本件解説と被告ライブ解説とは,本件問題の読解対象文章及び 設問・選択肢の文章を前提としているということでは全く共通であるから, 個々の文言にほとんど共通性がないからといって,表現の本質的特徴に同一\n性がないということにはならない旨主張する。しかしながら,読解対象文章 及び設問・選択肢の文章を前提としていること自体からは,表現にわたらな\nい内容の同一性がもたらされるにすぎないから,表現の本質的特徴の同一性\nの有無は,別途,文言等の共通性等を通じて判断されるべきものである。し たがって,控訴人の上記主張は採用することができない。 また,控訴人は,本件ライブ解説の個々の箇所について,本件解説との間 で表現上の本質的特徴の同一性を有する旨主張する。しかしながら,本件解\n説と被告ライブ解説とがいずれも本件問題に対する解説であることに由来し て内容の類似性・同一性はみられ,被告ライブ解説は,その内容については 部分的に本件解説と本質的特徴を同一にするといえるものの,その表現につ\nいては,控訴人の主張を踏まえて検討しても,本件解説と本質的特徴を同一 にするとは認められない。したがって,控訴人の主張は採用することができ ない。

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原審はこちらです。

◆平成30(ワ)16791

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平成30(ワ)14843  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和元年9月18日  東京地方裁判所

 写真の著作物が無料でアップロードされたとして、約30万円の損害賠償が認められました。

 本件各写真は,本件各商品を販売するために撮影されたものであると認めら れるところ(甲33),以下のとおり,いずれも,商品の特性に応じて,被写体の 配置,構図・カメラアングルの設定,被写体と光線との関係,陰影の付け方,背景\n等の写真の表現上の諸要素につき相応の工夫がされており,撮影者の思想又は感情\nが創作的に表現されているということができる。\n
ア すなわち,本件写真1ないし4は,ト音記号,楽譜又は楽器の柄のネクタイ を被写体とするものであり,ネクタイの下端部を手前にして波打つように配置され, 背景はネクタイの下端部が配置された写真下部を白色,写真上部を暗い灰色又は黒 色とし,陰影が明確に付されるなどして,ネクタイの柄や質感を視覚的に認識しや すいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているという ことができる。
イ 本件写真5ないし10は,弦楽器の柄のコインケース等の商品を被写体とす るものであり,本件写真5,7,9は,商品を中央に配置して全体を撮影したもの, 本件写真6,8,10は,柄の部分を大きく撮影したものであって,商品の配置の 仕方や陰影の付し方により,商品の質感や弦楽器の柄を視覚的に認識しやすいもの となっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということがで きる。
ウ 本件写真11ないし40は,楽器を演奏する動物等の置物を被写体とするも のであり,本件写真11,14,17,20,23,26,29,32,35,3 8は,商品の前方を正面から撮影したもの,本件写真12,15,18,21,2 4,27,30,33,36,39は,商品の後方を斜め上から撮影したもの,本 件写真13,16,19,22,25,28,31,34,37,40は,動物等 の顔を斜め上から大きく撮影したものであって,背景は緑色,白色又はそれらのグ ラデーションとし,陰影を付すなどして,動物等の表情や演奏態様等を視覚的に認\n識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされている ということができる。
エ 本件写真41ないし44は,鍵盤等の柄のフロアマットを被写体とするもの であり,本件写真41及び43は,四角形状の商品の形態に沿って商品のみを大き く撮影したもの,本件写真42及び44は,その一部を大きく撮影したものであっ て,生地の質感や鍵盤等の柄を視覚的に認識しやすいものとなっており,商品の販 売用の写真として相応の工夫がされているということができる。
オ 本件写真45ないし50は,写譜用のペンを被写体とするものであり,本件 写真45,47,49は,商品を中央に配置して全体を撮影したもの,本件写真4 6,48,50は,ペンの先端部分を大きく撮影したものであって,商品に光を反 射させ,背景を白色とし,陰影を付すなどして,商品の質感や細かい模様を視覚的 に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされて いるということができる。
カ 本件写真51及び52は,写譜用のペンの替芯(5本)及びそのケースを被 写体とするものであり,ケースから突出する替芯につき長さを変えた状態で大きく 撮影したものであって,背景を白色とし,陰影を付すなどして,商品の形状を視覚 的に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされ ているということができる。
キ 本件写真53ないし61は,トランペット等の楽器の柄の黒色クリアファイ ルを被写体とするものであり,本件写真53,55,57,59は,商品を中央に 配置して全体を撮影し,柄の部分に光を反射させ,背景は黒色を基調とし,陰影を 付すなどしたもの,本件写真54,56,58,60は,柄の部分を大きく撮影し たものであって,トランペット等の楽器の柄を視覚的に認識しやすいものとなって おり,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということができる。ま た,本件写真61は,商品を中央に配置して柄のない方向から全体を撮影したもの であり,背景を白色と黒色のグラデーションとし,陰影を付すなどして,商品の形 状を視覚的に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工 夫がされているということができる。 ク 以上のとおり,本件各写真には,商品の販売用の写真として相応の工夫がさ れており,撮影者の思想又は感情が創作的に表現されているということができる。\n
(2)被告は,本件各写真が著作物であることを争い,取り分け,本件写真42な いし44は商品を上から撮影しているだけであり,本件写真45,46,50ない し52は商品の販売用の写真として一般的なものであるから,これらに創作性が認 められないことは明らかである旨主張するが,前記のとおり,本件各写真には,商 品の販売用の写真として相応の工夫がされており,撮影者の思想又は感情が創作的 に表現されているということができるのであって,被告の上記主張は採用すること\nができない。
(3) 以上によれば,本件各写真には創作性が認められ,前記前提事実(2)のとおり, これらは原告代表者によって原告の発意に基づき職務上作成されたものであるから,\nいずれも,原告の著作物であると認められる。
前記のとおり,被告は,原告の著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害しており,これらについて,少なくとも,過失があると認められるから,不法行為による損害賠償責任を負っているところ,原告は,本件\n各写真の使用料相当額に係る損害(著作権法114条3項)として,著作権侵害に 係るものにつき合計46万3800円,著作者人格権侵害に係るものにつき合計4 万6800円の損害が生じたと主張する。
(2) そこで検討すると,前記のとおり,被告は,原告が本件各写真を原告ウェブ サイトに掲載することによって販売していた本件各商品を,本件各写真と実質的に 同一の被告各写真を被告ウェブサイトに掲載することによって販売していたもので あり,このような被告各写真の使用態様に加えて,被告各写真の掲載期間は長いも ので1年6か月にわたること,証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,画像素材 の販売業者である「ペイレスイメージズ」のウェブサイトでは,画像素材の単品で の購入価格が432円から5400円までとされていると認められることなど,本 件訴訟に現れた事情を考慮すると,本件各写真の複製及び公衆送信につき受けるべ き金銭の額(著作権法114条3項)は,写真1枚当たり5000円と認めるのが 相当である。もっとも,原告の氏名表示権が侵害されたことによって,別途の財産\n的損害が生じたと認めるに足りない。
(3)ア これに対し,原告は,アマナイメージズの価格表において,画像素材1点\n当たりの使用期間1年までの使用単価は3万8880円,使用期間3年までの使用 単価は6万0480円,無断使用した場合には使用料金の200%を請求できると されていることを主張するが,弁論の全趣旨によれば,アマナイメージズは,画像 素材のレンタルや販売を業とする株式会社であると認められるのに対し,本件各写 真はレンタルや販売を目的として撮影されたものではないから,原告が主張する価 格表について本件各写真の複製及び公衆送信に係る著作権法114条3項所定の損\n害額の算定に当たって大きく考慮することは相当とはいえない。 イ 他方で,被告は,(1)本件各写真の創作性の程度の低さなどに照らせば,販売 用の広告写真1枚当たりの使用料相当額はせいぜい1000円程度である,(2)被告 において学遊社に本件各写真と同じカットでプロカメラマンによる写真撮影の見積 りを依頼したところ,ライティングを施すことを含む見積額が8万円であったから, 本件各写真の使用料相当額に係る損害は高くても合計8万円である旨主張する。 しかしながら,(1)については,前記のとおり,本件各写真は,商品の販売用の写 真として相応の工夫がされているということができるから,創作性の程度が低いこ とを理由として著作権法114条3項所定の損害額を著しく低額にすべきであると いうことはできない。
(2)については,証拠(甲41,乙3)及び弁論の全趣旨によれば,学遊社は,被 告から提供を受けた本件各写真をサンプルとして参照し,本件各写真に対応する6 1カットの写真を半日でまとめて撮影した場合の撮影料を見積もったものと認めら れるところ,学遊社の見積りは,本件各写真をサンプルとして参照しているため, 被写体の配置,カメラアングル・構図等を検討する必要はなく,また,半日でまと\nめて撮影しているため,複数日にわたって撮影されたと認められる本件各写真と比 べて撮影費用が低額となっているとみる余地があることなどからすれば,見積額が 8万円であるからといって,本件各写真の複製及び公衆送信に係る著作権法114 条3項所定の損害額が同程度であるということはできない。
(3) そうすると,本件各写真の複製及び公衆送信につき受けるべき金銭の額(著 作権法114条3項)は,合計30万5000円(5000円×61枚)であると 認められる。

◆判決本文

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平成30(ワ)12609  特許権侵害差