2024.09. 2
令和5(ネ)10112 損害賠償請求控訴事件 不正競争 民事訴訟 令和6年7月4日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では、不競法の品質誤認表示に該当するとして、約1億4000万円の損害が認定されましたが、控訴審は、5割について覆滅を認めて、約7000万円の損害を認めました。
以上の各事情を総合すれば、控訴人が、控訴人商品の製造元を被控訴人
と表示し、控訴人商品の販売実績として実際よりも多い数値を表示した品
質誤認表示によって、控訴人商品及び被控訴人商品の売上げに影響が及び、被控訴人の営業上の利益が侵害され、損害が発生したものと認められる。
そして、控訴人の品質誤認表示による被控訴人の損害については、不正競争防止法5条2項が適用され、令和元年5月8日から令和5年4月30
日までの期間において控訴人が控訴人表示によって受けた利益の額が被控訴人の受けた損害の額であると推定される。
上記期間における控訴人の限界利益の額は1億2368万8021円
であると認められる(前提事実(4)。なお、被控訴人は、損害が発生した期
間を令和元年5月10日から令和5年4月30日と主張するが、この期間
としても限界利益の額は上記金額となる。)。この限界利益の額は、乙76
に基づくものであるが、乙76に記載された控訴人商品の売上日によれば、
上記限界利益のうち、令和4年2月2日(被控訴人の請求金額のうち49
28万円に対する遅延損害金の起算日)までに発生したものは6355万
9921円、同月3日以降に発生したものは6012万8100円となる。
イ 控訴人の主張について
控訴人は、前記第2の4(3)〔控訴人の主張〕アのとおり、被控訴人は控
訴人との取引終了後における被控訴人商品の販売実績を主張立証してお
らず、被控訴人に売上減少等の逸失利益が生じているのか不明であるから、
損害額が不正競争防止法5条2項によって推定されるということはない
と主張する。
しかし、被控訴人と控訴人との間の販売代理店契約が終了した後の被控
訴人商品の販売台数や売上高が明らかでないとしても、本件で認められる
前記アの各事情を総合すれば、控訴人が控訴人表示をしたことによって被控訴人の営業上の利益が侵害されたものと認定することができるという
べきであり、被控訴人が上記販売台数や売上高を主張立証しないことをも
って、被控訴人の利益が侵害されたと認められないことにはならず、その
他、上記認定を左右する事情は認められない。
また、控訴人は、前記第2の4(3)〔控訴人の主張〕イのとおり、被控訴
人商品には顧客吸引力はなく、控訴人ウェブページ上の記載によって、被
控訴人の販売実績の低下は生じないとか、仮に、被控訴人商品の売上げが
減少したとしても、それは被控訴人による一方的な出荷停止の必然的な結
果であり、控訴人が控訴人表示を掲載したこととの因果関係はないと主張する。
しかし、前記アのとおり、被控訴人商品は、被控訴人と控訴人が販売代
理店契約を締結していた時期において、長期にわたって一定程度の台数の
販売があり、ある程度の市場占有率を獲得していたのであって、被控訴人
商品についてこのような実績が形成されていたことからすれば、控訴人商
品の製造元が被控訴人であるとの表示及び控訴人商品の販売実績を実際よりも多い数値とした表示を控訴人ウェブページに掲載し、控訴人商品の製造元及び販売実績に関する誤認混同を需要者に生じさせたことによっ
て、被控訴人商品の売上げに影響が及んだと認められるのであり、これら
の間に因果関係がないとは解されない。
したがって、控訴人の上記各主張は採用することができない。
(3) 推定の覆滅及び覆滅事由について
ア 不正競争防止法5条2項が適用されるためには、被侵害者に、侵害者に
よる不正競争がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存
在することが必要と解されるから、そのような事情が認められない場合に
は、同項による推定が覆滅されるものと解される。そして、同法2条1項
20号による不正競争においては、市場において競業他社が複数存在する
状況において、侵害者の品質誤認表示がなかったとした場合に、特定の被侵害者の売上げのみが増加するという定型的な関係を認めることは困難
であるから、他の類型の不正競争の場合に比較して、推定の覆滅が広く認
められるべきであり、推定覆滅の事由としては、1)侵害者と被侵害者の業
務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)、2)市場における競合品
の存在及び被侵害者の市場占有率、3)侵害者の営業努力(ブランド力、宣
伝広告等)、4)侵害品の性能(機能、デザイン等品質誤認表示以外の性能)
など、被侵害者の現実の損害が、侵害者の得た利益よりも少ない事情を考
慮すべきである。
イ 控訴人は、本件表示による被控訴人の損害につき、不正競争防止法5条2項による損害の推定が覆滅されると主張する。これに対し、被控訴人は、前記第2の4(3)〔被控訴人の主張〕ウ(ア)のとおり、控訴人は原審において不正競争防止法5条2項の損害の推定の覆滅の主張を撤回しており、当審における推定の覆滅の主張は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして、これを却下するよう申し立てている。
そこで検討するに、控訴人は、原審及び当審を通じ、第一次的には、被
控訴人に損害が発生したことを否認するとともに、損害が発生していると
しても控訴人の行為によって生じたものではないとして、因果関係を否認
しており、不正競争防止法5条2項が適用されないとの主張もしていると
解されるが、原審で提出した令和5年2月9日付け「準備書面(兼求釈明
書)」と題する書面の第1の5の末尾(同書面6頁)において、「『抗弁事由』
というも『積極否認』というも、法定要件充足の主張・立証責任分配の問
題であり、どちらにせよ被告としてはこれを積極的に主張・立証する意思
であることに変わりはない。」と記載するなど、控訴人が原審で提出した準
備書面には、同項が適用されることを前提に、推定の覆滅を主張している
ものと解される記載がある。原審で令和4年12月22日に行われた書面
による準備手続の協議について作成された経過表には、控訴人(第1審被告)の述べた内容として、準備書面(4)に主張した事実は、損害発生の否認
の理由であるとともに同項の推定を覆滅する事由である旨の記載がある
(当裁判所に顕著な事実)。
他方、原審で令和5年2月6日に行われた書面による準備手続の協議に
ついて作成された経過表には、控訴人の述べた内容として、損害は発生していないので、被控訴人(第1審原告)の主張に対して覆滅事由は主張し
ていない旨の記載がある(当裁判所に顕著な事実)。
被控訴人が証拠として提出した、同日の協議に関して被控訴人代理人が
作成したものであるとする「期日報告書(7)」と題する書面(甲43)には、
覆滅事由については主張しない旨控訴人代理人が述べたことを示す記載
がある。
しかし、上記経過表は、口頭弁論期日又は弁論準備手続期日の期日調書と異なり、これに記載された当事者の陳述が法的効果を有することはない。
また、上記経過表及び上記甲43の書面のいずれにも、控訴人代理人が、同日以前における覆滅事由の主張を撤回すると述べた旨の記載は存在し
ない。
。
そして、上記甲43の記載によれば、控訴人代理人は、損害が発生して
いるとの心証が開示されたら覆滅事由について主張したい旨述べ、受命裁
判官から、裁判所の心証次第で反論することは許されないと言われたのに
対し、それであれば覆滅事由については主張しないと述べたとされている。
そうすると、控訴人代理人としては、損害が発生していると認められるの
であれば覆滅事由を主張したいとの考えを有しており、そのことを明らか
にしていたと認められる。
さらに、前記令和5年2月9日付け「準備書面(兼求釈明書)」は、同月
6日の上記協議の後に提出されたものである。
これらの事情を総合すれば、控訴人代理人が、令和5年2月6日に行わ
れた書面による準備手続の協議において、上記甲43の書面に記載された
内容の発言をしたとしても、控訴人が、原審において、不正競争防止法5
条2項による損害の推定の覆滅を主張していないとか、推定覆滅の主張を
撤回したということはできない。
そうすると、控訴人が当審でした推定覆滅の主張が、時機に後れて提出
した攻撃防御方法であるとは認められない。
また、控訴人は、当審において、令和6年4月11日付け準備書面(控
訴審第2)及び同年5月9日付け準備書面(控訴審第3)により推定覆滅
の主張をしているが、これらの準備書面が陳述された同月16日の第2回
口頭弁論期日において弁論が終結されているから(当裁判所に顕著な事
実)、上記各準備書面における推定覆滅の主張によって訴訟の完結が遅延
したとは認められない。以上によれば、控訴人が当審でした推定覆滅の主張が時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下を求める被控訴人の申立ては、理由がないからこれを却下する。
ウ 控訴人が推定覆滅の事由として主張するのは、前記第2の4(3)〔控訴人
の主張〕イの1)ないし9)(主張1)ないし9))である(令和6年4月11日
付け準備書面(控訴審第2)第1)。
そこで検討するに、主張5)及び6)に関し、まず、控訴人商品及び被控訴
人商品の市場においては、前記(2)アのとおり、複数の競業他社が存在し、
被控訴人商品はある程度の市場占有率を獲得していると認められるもの
の、その市場占有率は高いとはいえないから、推定覆滅事由にあたると認
められる。
また、控訴人代表者は保育園業界との人脈を有しており、控訴人は、被控訴人との間で被控訴人商品に関する販売代理店契約を締結していた時
期において、この人脈を生かすとともに、保育関係の研修会等において被
控訴人商品を展示するなどして、保育園に被控訴人商品を販売するための
営業努力を行い、保育園に対して被控訴人商品を販売していたと認められ
る(乙36、39、71、弁論の全趣旨)。そして、このような営業努力は、
被控訴人と控訴人との販売代理店契約が終了し、控訴人がテクノウェーブ
製の控訴人商品を取り扱うようになった後も行われており、控訴人が、保
育関係の研修会等において控訴人商品を展示したこともある(乙40〜4
4、71、弁論の全趣旨)。これらの事実によれば、控訴人による控訴人商
品の販売先には保育園が含まれることが推認される。
以上によれば、控訴人による控訴人商品の販売については、控訴人の営
業努力もこれに寄与したと認められるのであって、品質誤認表示(控訴人表示)のみによってその販売が達成されたとは認められないから、推定覆滅事由にあたると認められる。
もっとも、控訴人が控訴人商品の販売についてした営業努力については、
保育関係の研修会等における控訴人商品の展示以外には、その具体的内容
の主張立証があるとはいえない。また、控訴人が営業努力を行った相手で
ある保育園等において、控訴人商品を購入するか否かの判断に当たり、控
訴人ウェブページに掲載された控訴人商品に関する情報を確認し、控訴人
表示を認識した可能性があるから、控訴人の営業努力があったからといっ
て、控訴人表示が控訴人商品及び被控訴人商品の売上げに影響を与えなかったと認められることにはならない。そして、主張1)ないし4)及び7)ないし9)は、覆滅事由に当たるとは認められず、その他、不正競争防止法5条2項の損害の推定を覆滅する事由の主張立証があるとは認められない。以上の事情を総合すると、控訴人表示による損害額の算定における推定覆滅の割合は、5割と認めるのが相当である。
(4) 前記(2)アのとおり、令和元年5月8日から令和5年4月30日までの期間
における控訴人の限界利益の金額は1億2368万8021円であり、この
うち令和4年2月2日までに発生した分が6355万9921円、同月3日
以降に発生した分が6012万8100円であるところ、上記(3)ウのとおり、
控訴人表示による損害額の算定における推定覆滅の割合を5割と認めるのが相当であるから、控訴人表示による被控訴人の損害の金額は、同月2日までにつき3177万9960円(小数点以下切り捨て)、同月3日以降につき3
006万4050円となる。
また、控訴人の品質誤認表示と相当因果関係のある弁護士費用は、令和4年2月2日までの品質誤認行為に係るものとして317万円、同月3日以降
の品質誤認行為に係るものとして300万円を認めるのが相当である。
したがって、被控訴人は、控訴人に対し、不正競争防止法4条に基づく損
害賠償請求として、6801万4010円及びうち3494万9960円に
対する令和4年2月2日から、うち3306万4050円に対する令和5年
5月27日から、各支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅
延損害金を請求することができると認められる。
4 その他、当事者が主張する内容を検討しても、当審における上記認定判断(原
判決引用部分を含む。)は左右されない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)2551
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2024.09. 2
令和6(行ケ)10009 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年6月18日 知的財産高等裁判所
本件商標「サプリ処方箋(標準文字)」が識別力無し(3条1項6号違反)とした拒絶審決が維持されました。指定商品・役務は、9類「コンピュータプログラム等」、35類「サプリメントの小売又等」44類「栄養の指導等」です。
前記1の認定事実によれば、本願商標の構成である「サプリ処方箋」は、サ\nプリメントの略である「サプリ」の語と「処方箋」の語とを組み合わせた語である。そして、本願商標の需要者は、一般の消費者であると認められるところ、
「サプリ処方箋」が「サプリ」の語と「処方箋」の語とを組み合わせたもので
あることは、本願商標の取引者又は需要者が容易に認識できる事実であるとい
うことができる。
「処方箋」は「医師が患者に与えるべき薬物の種類・量・服用法などを記した書類」を意味する語である。法令上も、医師が患者に対し治療上薬剤を調剤
して投与する必要があると認めた場合に、患者又は現にその看護に当たってい
る者に対して処方箋を交付することとされ(医師法22条1項本文)、薬剤師は
医師等の処方箋によらなければ販売又は授与の目的で調剤してはならないとさ
れており(薬剤師法23条1項)、「処方箋」の語は、医師が患者に与えるべき
薬物(医薬品)の種類・量・服用法等を記載した書類を指すものとして用いら
れている。
しかし、一般的には、「処方箋」という語は、例えば「改革の処方箋」のよう
に広く比喩的に使用される語であって(乙5)、「医師が患者に与えるべき薬物
(医薬品)の種類・量・服用法等を記載した書類」に限定して使用されるもの
ではなく、現に、上記2(2)及び(3)の認定事実によれば、複数のウェブサイトや
新聞の記事において、医師又はそれ以外の者が、患者、顧客等に適切なサプリ
メントの種類や量等を提示、提供することを「サプリメントを処方」、「サプリ
メントの処方」あるいは「サプリを処方」と記載した例があり、医師又はそれ
以外の者がこのようなサプリメントの種類や量等の提示、提供に際して作成す
る書面を「サプリメント処方箋」あるいは「サプリメントの処方箋」と記載した例があると認められる。
これらの事実によれば、本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の
語が本願商標の指定商品及び指定役務のうち第35類役務群又は第44類役務
群に使用された場合には、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を
記載した書類を一般的に指す名称であると認識するものといえ、原告が提供する役務を認識するとは認められない。
したがって、本願商標は、少なくとも本願の指定商品及び指定役務のうち第
35類役務群及び第44類役務群との関係において、自他識別力を有しておら
ず、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商
標であると認められる。
4 原告の主張に対する判断
(1) 原告は、前記第3〔原告の主張〕(1)のとおり、本願商標の「サプリ処方箋」
の語は、本願商標の指定商品及び指定役務に関し、他で一般的に使用されて
いるという実例はないことから、本願商標は造語であり、指定商品及び指定
役務との関係で識別性を有すると主張する。25
しかし、本願商標の「サプリ処方箋」が「サプリ」の語と「処方箋」の語
を組み合わせたものであること及び「サプリ」が「サプリメント」の略であ
ることは、本願商標の取引者又は需要者が容易に認識し得る事実であるから、
本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の語句から「サプリメント
処方箋」あるいは「サプリメントの処方箋」を連想し、「サプリメント」の「処
方」に関する書面であると認識するということができる。そして、上記2(2)
及び(3)のとおり、複数のウェブサイトや新聞の記事において、医師又はそれ
以外の者が、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を提示、提供
することを「サプリメントを処方」、「サプリメントの処方」又は「サプリを
処方」と表現し、これに関して医師又はそれ以外の者が作成する書面を「サ\nプリメント処方箋」又は「サプリメントの処方箋」と表現している事実が認められることからすれば、本願商標の「サプリ処方箋」は、少なくとも本願\nの指定商品及び指定役務のうち、第35類役務群及び第44類役務群との関
係では、識別性を有するとは認められない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は、前記第3〔原告の主張〕(2)のとおり、「処方箋」はサプリメントのような健康食品で用いられる書類ではなく、「サプリ」と「処方箋」とは本来
的に結びつかない用語であり、「サプリメントの処方箋」との意味が生じたと
しても、需要者はこれを造語として捉えるから、本願商標には識別性が認め
られると主張する。
しかし、前記1及び3のとおり、「処方箋」の語は、本来「医師が患者に与えるべき薬物の種類・量・服用法などを記した書類」を意味する語であるが、
広く比喩的に用いられる語であって、現に医師以外の者が医薬品以外のもの
に関して作成する書類についても使用されているものである。そして、栄養
補助食品であるサプリメントについては、医師又はそれ以外の者が、患者、
顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を提示、提供することが想定され
るのであって、この行為について「処方」の語を用いることがあり、かつ、
このようなサプリメントの種類、量等の提示、提供に際して作成される書類
を「処方箋」と称することがあると認められるから、「サプリ」と「処方箋」
が結びつくことのない語であるとはいえず、本願商標に識別性を認めること
もできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 原告は、前記第3〔原告の主張〕(3)のとおり、少なくとも、本願商標の指
定商品及び指定役務のうち、第35類役務群については、本願商標が使用さ
れたとしても識別性が認められると主張する。
しかし、第35類役務群には、「サプリメントの小売又は卸売の業務におい
て行われる顧客に対する便益の提供」の役務が含まれており、前記3の説示に照らせば、本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の語が上記役
務に使用された場合には、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等
を記載した書類を一般的に指す名称であると認識することは明らかであると
いえ、原告が提供する役務を認識することはない。そうすると、仮に、第3
5類役務群のその余の役務の中に、「サプリ処方箋」の語が当該役務に使用された場合に、本願商標の取引者又は需要者が、患者、顧客等に適切なサプリ
メントの種類や量等を記載した書類を一般的に指す名称であると認識すると
はいえないものが含まれていたとしても、第35類役務群との関係において
も本願商標が自他識別力を有しないとの結論は左右されない。
また、前記3のとおり、「サプリメントを処方」、「サプリメントの処方」、「サプリを処方」、「サプリメントの処方箋」及び「サプリメント処方箋」と
の語句が、サプリメントという商品に関し、一般の消費者に含まれる患者や
顧客に適切なサプリメントの量などの情報を提供することに関連して使用さ
れる例があると認められること、サプリメントは栄養補助食品であって、「加
工食料品」、「食餌療法用飲料」及び「食餌療法用食品」とは同一ではないものの、加工して製造される食品である点、あるいは栄養面に配慮した食品で
ある点で類似した面を有していること、医師が上記情報提供に際して「サプ
リメントの処方箋」と称される書類を作成することがあることが認められ、
これらの事実によれば、第35類役務群のその余の役務(前記第2の1(1)イ)
についても、「サプリ処方箋」の語がこれに使用された場合には、本願商標の
取引者又は需要者は、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を記
載した書類を一般的に指す名称であると認識すると解され、原告が提供する
役務を認識するとは認められない。
◆判決本文
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2024.09. 2
令和4(ワ)11921 特許権侵害に基づく差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年7月11日 東京地方裁判所
特許権侵害事件です。原告による同意があったと判断され、差止、損害賠償請求権を有しないと判断されました。
ア 前提事実及び前記認定に係る経緯を併せ考慮すれば、本件に関する一連の経緯については、以下のように要約し得る。
すなわち、原告は、平成 21 年 1 月の本件三社契約締結後間もない時期からリタッ
グ、被告その他会員企業から、原告が供給する製品の品質及び安定供給に関する問
題点等を繰り返し指摘されたものの、これを解消し得ず、むしろ平成 23 年 3 月の東日本大震災の発生や平成 24 年 6 月の原告による民事再生手続開始申立てを受けて、\nより具体的な対応を強く求められるようになった。具体的には、遅くとも平成 24 年
7 月面談において、リタッグが、原告に対し、ヤマウ及び被告を委託先とする OEM
製造による二次蓋の供給を強く求め、原告もこれに応じ、原告はヤマウとの協議を
開始し、リタッグは、被告に対する委託を検討するようになった。しかし、原告とヤマウとの OEM 製造に関する協議は価格面の問題等から契約締結には至らず、原
告自身、平成 年 月会議において、複数社による二次蓋の製造の必要性を認める
発言や、製造に伴う責任と関連付けてその場合の許諾料に関する自己の意見を述べ、
被告による二次蓋の製造販売を許容する趣旨のものと理解し得る発言をした。これ
を受けて、リタッグは、本件三社契約 18 条に基づく措置として、被告との間でリタッグ許諾契約を締結し、被告は、これに基づき、被告製品の製造販売を開始した。
他方、この頃、原告とヤマウとの OEM 製造に関する協議は具体的に進展していな
い状況にあった。このような状況の中で、リタッグは、原告に対し、引き続き原告
による二次蓋の安定的な供給等につき強い懸念を示し、他方、原告は、被告による
被告製品の製造販売を問題視する姿勢を示すようになっていた。ところが、令和 3
年 2 月に原告が二次蓋を製造していた中国工場の閉鎖を関係取引先に通知するとい
う事態を受け、令和 3 年 3 月会議が開催されることとなった。この際、原告は、被
告による被告製品の製造販売という事情をもって、原告中国工場の閉鎖の一因と示
唆しつつも、同事情を閉鎖により取引先に対する商品の供給に支障が生じないこと
を示すものと位置付けて会員企業に説明し、さらに、原告としても、その後の二次
蓋の供給は被告による被告製品の製造販売に依存せざるを得ないとの考えを明示的
に示した。また、同会議において、原告は、被告による被告製品の製造販売と本件
各特許権との関係につき、被告による本件各特許権の侵害の問題ではなく、原告と
リタッグとの契約(原告・リタッグ基本契約)に関する問題であるとの認識を示し
た。
イ こうした一連の経緯を踏まえると、原告は、遅くとも令和 3 年 3 月会議において、リタッグに対し、同社と被告とのリタッグ許諾契約につき、その契約締結時
に遡って同意をしたものとみるのが相当である。
なお、リタッグ許諾契約締結の契機となったとみられるのは、平成 年 月会議
での原告の発言であるが、当時リタッグ許諾契約は未だ締結されておらず、また、
その契約内容に即した検討等がされたといった事情も見当たらないことなどを踏まえると、この時点では、原告は、リタッグが被告に対し二次蓋の OEM 製造を委託
するという方向性の確認ないし承認をしたにとどまるものとみられる。
(2) 原告の主張について
これに対し、原告は、リタッグ許諾契約に係るリタッグに対する同意又は被告製
品の製造販売に係る被告に対する本件各特許権の許諾のいずれも行っていない旨を主張する。
しかし、原告は、令和 3 年 3 月会議の時点で約 年の長きにわたり、リタッグ、
被告その他会員企業から本件工法に係る二次蓋の品質や安定供給に関する問題を指
摘され続けたにもかかわらず、会員企業の納得を十分に得られる対応を実現できな\nいまま、民事再生手続開始申立てや二次蓋の製造を行っていた中国工場の閉鎖に追\nい込まれた状況にあった。このため、原告は、同会議において、本件三社契約(及
び被告以外の会員企業との同様の契約)に基づく二次蓋の供給に係る原告の責任を
免れ、又は軽減するには、当時既に約 年の実績のあるリタッグ許諾契約に基づく
被告による被告製品の製造販売を承認するほかに方法がない立場に置かれていたも
のと推察される。また、被告による被告製品の製造販売につき、本件各特許権の侵
害の問題ではなく、原告・リタッグ基本契約に関する問題であるとする発言も、同
契約ではリタッグが自ら製造し、又は第三者に製造させることを想定していないと
みられること(20条等)を踏まえると、合理的であり首肯し得る問題意識と考えら
れる。
◆判決本文
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2024.08.27
令和4(ワ)22517 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年8月21日 東京地方裁判所
日本製紙クレシアVS大王製紙のトイレットペーパーの特許紛争です。東京地裁は技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害についても主張されていましたが、裁判所はこれを否定しました(第3、第5要件不具備)。
被告は、トイレットペーパーの表面、裏面の各シートをそれぞれ表\面に凹凸
をつけるエンボス処理した後、それぞれのシートの凸部同士を内側にして2プ
ライにするようなダブルエンボスでは、表面と裏面のシートのエンボスが干渉\nし、これらを常に干渉しないようにすることはほぼ不可能であり、付与された\n後のエンボスの形状、深さを明確に測定することができないので、本件発明1
は、シングルエンボスのトイレットロールのみに限定されると主張する。
しかしながら、本件明細書1記載の方法でエンボス深さDを測定することが
でき、そこで測定されたエンボス深さDに本件発明1の技術的意味があるもの
であれば、本件発明1のトイレットロールが、シングルエンボスのトイレット
ロールに限定されるとは認められない。また、トイレットロールにおけるエン
ボスであるという性質上、各エンボスの形状については一定のばらつきがある
ことが想定されているといえる。
もっとも、本件発明1のエンボス深さDは、X−Y平面上のエンボスの高さ
プロファイルを得ることができ(【図5】(a))、エンボスの周縁frやその最
長部aがどこに位置するのかを特定できるトイレットロールについて、【図5】
(b)、【図6】のような断面曲線を得た上で、測定されたものであり、そのよう
にして測定されたものであるエンボス深さDが一定の数値のトイレットロール
について本件発明1の効果を奏するとしているものといえる。各被告製品は、
各シートのエンボスの凹凸の位置関係を特に調整しないまま、プライボンディ
ングした通常の2プライのダブルエンボスである(弁論の全趣旨)。このような
ダブルエンボスのトイレットロールにおいては、表面と裏面にそれぞれ付され\nたエンボスが重なるとは限らず、エンボスの周縁が一致することが保証されて
いないことから、エンボスの周縁が明確にならず、また、エンボスの凹凸の位
置がずれることにより干渉し、その形状が明瞭でないエンボスが生じ得る。そ
して、甲51報告書によれば、各被告製品については、原告がエンボスとして
特定した部分の中央に、断面曲線で上に凸の曲率極大点が認められるなど、そ
のエンボスが本件発明1のエンボス深さDを測定する際に想定されていた凹部
形状のものであるかが必ずしも明らかではないほか、X−Y平面上のエンボス
の高さプロファイルによって、エンボスの周縁frやその最長部aがどこに位
置するのかを確定できるものとは必ずしもいえない。そうすると、そのような
エンボスが付された各被告製品のトイレットロールについてエンボスを10個
選んで測定を行い、それらの平均値として一定の深さDを求めたとしても、本
発明1におけるエンボス深さDが測定できたということはできない。
(7) 以上によれば、原告測定方法は、本件明細書1に記載されたエンボス深さの
測定方法とはいえず、原告測定方法に基づいた甲10報告書によって、各被告
製品が構成要件1Bを充足するとは認めることはできない。甲51報告書その\n他の証拠によっても、各被告製品について、本件発明1におけるエンボス深さ
Dが明らかであってその数値が構成要件1Bを充足するということを認めるに\n足りない。したがって、各被告製品はいずれも構成要件1Bを充足するとはいえない。\n
・・・・
構成要件2Eは、「前記把持部には、ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほ\nぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜部を有して横方向
に沿って並ぶ二個の指掛け穴が形成されており、」というものであり、特許請求
の範囲の「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」
との文言は、その「指掛け穴」が既に「形成」されているものであることから
も、その「形成」されている「指掛け穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」で
あり、また、そのほぼ長円の上部輪郭が非切抜部であると理解することができ
るものであるところ、本件明細書2の上記部分には、そのような理解に沿う構\n成が記載されているということができ、そのような理解を前提として、その「ス
リット状のほぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの
切り抜きにより上方に折り返されるものであることが記載されているといえる。
また、【図1】に記載された指掛け穴も上記の理解に沿ったものである。そうす
ると、構成要件2Eの「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット\n状の指掛け穴」とは、同構成について本件明細書2において記載されている、\n上記に述べたとおりの構成のものであると認められる。\n
(2) 被告製品1の包装袋のスリットは、写真2の左側の写真の赤破線で示された
とおりのものであり、被告製品3の包装袋のスリットは、写真2の右側の写真
の赤破線で示されたとおりのものである。
前記(1)のとおり、構成要件2Eについては、その「指掛け穴」が「ほぼ長円の\n一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭の
非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きにより上方に折り返される
ものであり、その非切抜部は、「スリット状」の「ほぼ長円」の一部を構成する\nものである。そして、非切抜部を固定端とする片部が上方に折り返されるため
には、その非切抜部の固定端が、「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭にあ
る必要がある。
被告製品1及び被告製品3の包装袋のスリットをみると、その両端部はそれ
ぞれ外側に湾曲して下方に向かい、終端が内側に位置しているから、このよう
なスリットの両端部の終端の位置を考慮すると、被告製品1及び被告製品3に
おいては、形成されている「スリット状」の「指掛け穴」の下部輪郭が「非切抜
部」であるともいえ、その非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜き
により上方に折り返されるものではない。また、原告主張の熱融着部(写真3
参照)とスリットとを見ると、スリットは、その中央が、その上方に対しては、
弧状であるとしても、その左右には、上方への折り返しとなる頂点が存在せず、
それ自体「ほぼ長円」を形成しているとはいえず、「スリット状」の「ほぼ長円」
が形成されていないから、原告主張の上記熱融着部の円弧が「スリット状」の
「ほぼ長円」の上部輪郭にあるとはいえず、そこを構成要件2Eの「非切抜部」\nであるということはできない。そうすると、被告製品1及び被告製品3には、
「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」に相当
する構成があるとはいえない。\n
(3) 原告は、被告製品1及び被告製品3のスリットが切り抜かれることで把持部
に下に凸の円弧が生じ、スリットと熱融着部などによって形成される非切抜部
によって、ほぼ長円の形状の指掛け穴が形成されると主張する。
しかし、前記(1)のとおり、構成要件2Eにおいては、形成されている「指掛\nけ穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほ
ぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きによ
り上方に折り返されるのであり、その非切抜部は、「スリット状」の「ほぼ長円」
の一部を構成するものである。被告製品1及び被告製品3においては、「スリッ\nト状」の「ほぼ長円」が形成されているとはいえず、被告製品1及び被告製品
3において、スリットの上方の熱融着部などによって形成される部分が構成要\n件2Eの非切抜部であるとする原告の主張は採用できない。
原告は、本件発明2では指掛け穴の有するスリットが内側に回り込んでいるの
に対し、被告製品1及び被告製品3ではスリットが内側に回り込んでいない点で、
被告製品1及び被告製品3が本件発明2と文言上相違するとした上で、この点に
ついて均等侵害が成立する旨主張する。
しかしながら、被告製品1及び被告製品3においては、スリットは、その中央
部分のみが上方に対して弧状であり、本件発明2の構成とは基本的な形状が異な\nるといえるものなのであって、これが直ちに被告製品1及び被告製品3の製造時
において本件発明2から容易に想到することができたとは認めるに足りず、また、
原告は、本件異議申立事件の決定の予\告後に、指掛け穴を構成要件2Eの構\成に
限定したと述べて構成要件2Eの構\成を加えて、他の構成の指掛け穴の形状を意\n識的に除外したといえる。したがって、均等侵害をいう原告の主張には理由がな
い。
◆判決本文
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2024.08.26
令和5(ネ)10052等 特許権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴、民訴法260条2項の申立て事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では約15億円の損害賠償でしたが、知財高裁は約8億としました。
その理由は、原審と異なり、102条1項、および2項の適用は認められたが、その一方102条3項の損害賠償率が一審の30%から、15%と低く認定されました。その結果、102条2項による損害額が一番高いので、結果として約8億と認定されました。
当裁判所は、原審と異なり、本件においても特許法102条1項及び2項の
適用は否定されない一方、同条3項につき原審が適用した相当実施料率30%
は過大であると思料し、これを前提に、当審における請求原因(侵害の対象取
引)の追加も踏まえて、同条2項に基づいて認められる損害8億3191万6
753円の限度で損害賠償請求を認容すべきものと判断する。その理由は、以
下のとおりである。
・・・
(3) 以上の事情を踏まえて検討する。
SDダイサーのメーカーは、国内では、控訴人と、被控訴人からSDエ
ンジンの供給を受けるディスコ社に限られている。
EO社等の国外メーカーの販売実績は明らかではないが、サムスン社が
被控訴人による特許権侵害との指摘を受けてEO社との取引を中止するに至
っていることに鑑みれば、競合メーカーの参入は、不可能とまではいえないまでも、相当限定されたものと推認される。\nそうすると、ステルスダイサーの販売者は、控訴人と上記ディスコ社で
大部分を占める状況にあると認められる。
また、本件において、被控訴人製SDエンジンは、本件訂正発明1並び
に本件発明2−2及び本件発明2−3の技術の中核をなすものであり、そ
の侵害品である被告製品にとっても、その技術の中核的部分に相当すると
いえる。そうすると、被告製品の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する\n部分であり、商品としての競争力の源泉になっているものと解される。
このように、ステルスダイサーの国内市場における販売者は、控訴人と、
被控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社にほぼ限定されてい
ること、被控訴人製SDエンジン自体は、ステルスダイサー製品の部品に
とどまるものではあるが、その技術の中核をなすものであって、被告製品
の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する部分であり、商品としての競争\n力の源泉になっているものと解されることからすると、本件において、侵
害者による特許権侵害行為がなかったならば特許権者に利益が得られたで
あろうという事情が認められるというべきである。
これを他の表現でいえば、被控訴人が主張するとおり、特許権者が販売する部品を用いて生産された完成品と、侵害者が販売する完成品とは、同\n一の完成品市場の利益をめぐって競合しており、完成品市場における部品
相当部分の市場利益に関する限りでは、特許権者による部品の販売行為は、
当該部品を用いた完成品の生産行為又は譲渡行為を介して、侵害品(完成
品)の譲渡行為と間接的に競合する関係にあるということもできる。
(4) 控訴人は、知財高裁令和4年10月20日判決(椅子式マッサージ機事件)
は、特許権者が、侵害品と「需要者を共通」にする「同種の」「競合品」で
あって「市場において・・・競合関係にある製品」を輸出・販売していた場合
に初めて、特許法102条2項による推定が正当化されることを踏まえたも
のである旨主張するが、同判決の事案が、控訴人の指摘する場合であったと
いうにすぎず、そのような場合以外に同項が適用されないことまでは判示す
るものではない。
被控訴人製SDエンジンの1個当たりの利益の額は、(1)の被控訴人製S
Dエンジンの1個当たりの価額から(2)の原価を控除した●●●●円である。
その●●台分は●●●●●●●円であり、前記の特許法102条2項に基づ
き算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件において
同条1項に基づく損害は、採用の限りでない。
・・・
特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度
の損害額を法定した規定であって、同項による損害は、原則として、侵害品
の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべ
きである。そして、平成10年法律第51号による改正により、「通常受け
るべき金銭の額」という同項の規定のうち「通常」の部分が削除された経緯
に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも特許権につい
ての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、
特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべ
き料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと
を考慮すべきである。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し
て、合理的な料率を定めるべきである。
(2) 本件における当てはめ
ア 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らか
でない場合には業界における実施料の相場等(1))、特許権者と侵害者
との競業関係や特許権者の営業方針等(4))
(ア) 前記のとおり、被控訴人は、その開発に係るステルスダイシング技術
の中核的ユニットであるSDエンジン一式の製造については、自社製造
を必須とし、一切製造ライセンスを許諾せず、SDエンジンの販売利益
により先端技術の研究開発を継続するものであり、そのため、被控訴人
は、アライアンスパートナーに対し包括ライセンスを付与するに当たっ
ては、被控訴人製造に係るSDエンジンの販売を大前提として、当該販
売とSD技術関連特許に関する特許発明のロイヤリティの支払を不可分
一体の条件とするものであり、被控訴人は、アライアンスパートナーに
対しては、本件特許発明を含めたSD技術関連特許につき、SDダイサ
ーの最終販売価格の●%という実施料率に基づき、包括ライセンスを行
っており、他方、被控訴人からSDエンジンを購入しないSDメーカー
に対しては、SD技術関連特許を包括ライセンスすることは一切ないも
のである。したがって、被控訴人と控訴人の間では、当初本件業務提携契約に
よりライセンス料が●%とされ、その後、●●●%に値下げされたが
(乙15)、この実施料率を相当実施料率算定の基準とするのは相当
でない。
(イ) 前述のとおり、ステルスダイサーの販売者としては、控訴人と、被
控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社が大きな割合を占
めており、両者の競合関係は明らかである。
・・・
以上のとおり、被控訴人と控訴人の間では、当初ライセンス料が●%と
され、その後、●●●%に値下げされたが、これは、控訴人において被
控訴人製SDエンジンのみを使用してSDダイサーを製造販売すること
が前提となっているから、この前提を欠く場合に、上記ライセンス料の
みをもって受けるべき料率とするのは相当でなく、他方、被控訴人製の
SDエンジンの利益そのものを特許法102条3項の料率の基準とする
ことも相当でないこと、一般的なライセンス料の傾向、控訴人と被控訴
人は競合状態にあること、本件訂正発明1については本件発明2−2や
本件発明2−3により補わなければならない点があるところ、被告製品
(低追従)は本件発明2−2及び本件発明2−3の技術的範囲に属さな
いこと等の事情を総合すれば、本件において被控訴人が実施に対し受け
るべき料率としては、15%と認めるのが相当である。
・・・
本件において特許権の侵害が認められるNo.●●●●の販売額合計は、別紙
6認容額計算表のとおり●●●●●●●●●●●●円であり、これに15%を乗じると、●●●●●●●●●●●円となる。これは、特許法102条2\n項に基づき算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件
において、同条3項に基づく損害は、採用の限りでない。
◆判決本文
1審はこちらです
◆平成30(ワ)28930
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2024.08.26
令和5(行ケ)10087 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年7月8日 知的財産高等裁判所
商標「三金工業」(標準文字)が、引用商標「三金/Sankin」と類似するか、または、出所混同生ずるか(4条1項11号、15号)について争われました。
裁判所は、一部の指定商品・役務については、類似する、出所混同生ずると判断しました。
前記(イ)の各事実によれば、デ社は、遅くとも昭和23年の設立から
平成13年末までの約53年間「三金工業株式会社」の商号を、平成1
4年から平成28年末までの約15年間「デンツプライ三金株式会社」
の商号を、それぞれ使用し、長年にわたり歯科用材料、歯科用医療機器
等を製造販売しており、その事業実績は少なくとも業界の中堅規模以上
であったと認められる。また、デ社は、歯科医療関係者を中心とする需
要者に会社名を表示する広告宣伝を継続的に行い、「三金」、「サンキ\nン」又は「SANKIN」を商品名に含む商品についても、本件商標が
出願された平成29年まで長年にわたり継続的に製造販売され、年間数
千万円程度の純売上額を恒常的に上げていたことが認められる。
デ社の事業譲渡に係る経緯をみても、被告及びギコウ社は、デ社の歯
科技工所等の事業を譲り受ける価値があるものと判断するとともに、
「三金」、「SANKIN」の知名度、ブランド力をも評価していたと
みるのが相当であり、このことは、歯科医療関係者の認識の程度を裏付
ける事情の一つといえる。
そうすると、本件商標の指定商品に含まれる歯科用材料、義歯等の取
引者、需要者である歯科医療関係者の間では、「三金」の表記及びその\n称呼の表記である「サンキン」、「SANKIN」は、デ社又はその製\n造販売する商品を表すものとして、広く認識されていたと認められる。\n
(エ) 以上の事実を前提に判断すると、本件商標は、「工業」の部分が出所
識別標識としての称呼、観念が生じないのに対し、「三金」の部分は、
取引者、需要者のうち歯科医療関係者に対しては現に出所識別標識とし
ての印象を強く与えているということができる。そうすると、当該部分
は、その他の取引者、需要者からみても同様に出所識別標識としての称
呼、観念が生じ得るものである。これらの点に鑑みると、本件商標の
「三金」と「工業」とは、分離して観察することが取引上不自然である
と思われるほどに不可分的に結合していると認めることはできず、「三
金」の部分を抽出し、引用商標と比較して商標の類否を判断することも
許されると解するのが相当である。
・・・
ア 本件商標とデ社の表示との類似性の程度\n
前記1(1)イ、ウで述べた理由から、「三金」、「サンキン」及び「S
ANKIN」の表示(以下「三金」等の表\示という。)は、歯科医療関係
者の間では、デ社又はその製造販売する商品を表すものとして広く認識さ\nれおり、「三金」等の表示と本件商標「三金工業」は類似し、その類似性\nの程度も相当程度高いといえる。
イ 「三金」等の表示の周知著名性及び独創性の程度\n
前記1(1)イのとおり、「三金」等の表示は、歯科医療関係者の間では\n周知であったと認められるが、これ以外の取引者、需要者の間では、周知
であったとまでは認められない。また、独創性が認められないことは、デ
社及び被告が関係するもの以外にも「とんかつ三金」、「サンキン」又は
「SANKIN」の文字を図案化等した商標、「株式会社三金」、「サン
キン株式会社」等の例が多数存在することからも明らかである(乙1の1
〜3)。
なお、引用商標自体については、「三金」等の表示以上の周知性、独創\n性を有するとは認められない。
ウ 本件商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との関連性等
(ア) デ社は、歯科医療関係者を需要者とする歯科用材料、歯科用医療機器
等を製造販売しており(前記1(1)イ(イ))、少なくとも本件商標の指定
役務のうち「義歯の加工」については、デ社の製造販売する商品との類
似性が認められることは前記のとおりである。しかるところ、証拠(甲
116、117)及び弁論の全趣旨によれば、「金属の加工」「セラミ
ックの加工」は、金属又はセラミックを材料とする歯科用材料及び歯科
用医療機器の製造と関連性が高いこと、近年、歯科用材料等を作製する
ための3Dプリンターの導入が進んでおり、デ社を含む原告グループに
おいても、歯科医療のために設計された3Dプリンターを利用し、自動
化した歯科治療システムを提供していることが認められるところ、この
ような実情は、本件出願日である平成29年10月30日の時点でも存
在していたことが推認され、これに反する証拠はない。これを踏まえる
と、本件商標の指定役務のうち後で述べる「義肢の加工」及び歯科用材
料等との類似性が認められる「義歯の加工」(前記1(2)ア)を除く各
役務(第40 「金属の加工、セラミックの加工、金属加工機械器具の
貸与、化学機械器具の貸与、3Dプリンターの貸与、材料処理情報の提
供」。以下「本件金属加工等役務」という。)は、デ社又はそのグルー
プ会社の業務に係る商品又は役務と密接に関連しているものと認められ、
その取引者及び需要者も歯科医療関係者であるという共通点が認められ
るというべきである。
(イ) 他方、本件商標の指定商品のうち、本件薬剤等商品以外のもの(第5
類「乳幼児用粉乳、食餌療法用飲料、食餌療法用食品、乳幼児用飲料、
乳幼児用食品」、第10類「睡眠用耳栓、防音用耳栓、業務用美容マッ
サージ器、家庭用電気マッサージ器」)及び指定役務のうち「義肢の加
工(「医療材料の加工」を含む。)」の役務については、デ社又はその
グループ会社の業務に係る商品又は役務との性質、用途又は目的におけ
る関連性は乏しく、取引者及び需要者の共通性も認め難い。
原告は、本件薬剤等商品以外の指定商品も医療用品又は衛生用品とい
う歯科用材料及び歯科用医療機器と同じ性質を有し、同一又は類似の商
品である旨主張するが、これらの指定商品が医療又は衛生の用途で通常
用いられることを裏付ける証拠はなく、デ社その他の歯科用材料及び歯
科用医療機器を製造販売する事業者がそれらの商品を通常製造販売して
いる等、商品・役務の出所の混同を生じさせるような事情も認められな
い。
エ 以上の事情を総合すると、本件商標は「三金」等の表示と類似しており、\n「三金」等の表示は、歯科医療関係者の間において、デ社又はその製造販\n売する商品を表すものとして広く認識されている上、デ社又はそのグルー\nプ会社の業務に係る商品又は役務は本件金属加工等役務と密接に関連して
いるのであるから、本件商標を本件金属加工等役務に使用するときは、そ
の取引者及び需要者である歯科医療関係者において、その役務がデ社又は
同社と緊密な関係にある事業者の業務に係る役務であると誤信されるおそ
れがあるということができる。
◆判決本文
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2024.08.26
令和5(ワ)70654 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年7月8日 東京地方裁判所
書籍の題号が、不競法2条1項1号又は2号に定める商品等表示に該当するかが争われました。裁判所は、該当しないと判断しました。問題となった題号は「牧野日本植物圖鑑」です。
(1) 不競法2条1項1号及び2号は、「商品等表示」につき、人の業務に係る\n氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を
表示するものと定義している。そうすると、同各号にいう「商品等表\示」と
は、商品又は営業を表示するものであるから、出所表\示機能を有するものに\n限られるというべきである。そして、書籍には発行者等の表示が付されるの\nが通例であり、書籍の出所は、一般に上記発行者等の表示が示すものである\nから、書籍の題号は、その書籍の内容を示すものにすぎず、出所表示機能\を
有するものとはいえない。
そうすると、書籍の題号は、特段の事情がない限り、同各号にいう「商品
等表示」に該当しないと解するのが相当である。\nこれを本件についてみると、証拠(甲2ないし10、19)及び弁論の全
趣旨によれば、「牧野日本植物圖鑑」という本件題号は、牧野執筆に係る日
本の植物図鑑という書籍の内容を端的に示すものにすぎず、牧野という執筆
者に特徴があるのは格別、書籍の題号としてはありふれたものであるから、
本件題号には出所を示すような顕著な特徴はない。
そして、証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、一般に題号を同じ
くする書籍であっても、別々の発行者等により発行されているものも少なか
らず存在することが認められる。当該認定に係る取引の実情に鑑みると、本
件題号に接した需要者又は取引者が、これを書籍の出所を示すものとして直
ちに理解するものとはいえない。
これらの事情を踏まえると、本件題号は、出所表示機能\を有するものとは
いえず、上記特段の事情があるものと認めることはできない。
したがって、本件題号は、不競法2条1項1号又は2号にいう「商品等表\n示」に該当するものと認めることはできない。
のみならず、被告書籍についてみると、仮に「牧野日本植物圖鑑」という
牧野執筆に係る植物図鑑が全国的に知られていたという立場を採用したとし
ても、本件全証拠によっても、原告が本件図鑑を出版していた事実までも全
国的に知られているものとして著名であると認めるに足りない。
他方、仮に、原告が本件図鑑を出版していた事実が、一部の専門家や研究
者の間で周知であるという立場を採用したとしても、前記前提事実及び証拠
(甲19)によれば、被告書籍の表紙には、本件題号の左下欄に「三四郎書\n館」という発行所を示す表示が付されていることからすると、被告書籍に接\nした需要者又は取引者は、被告書籍の発行所が、原告ではなく「三四郎書館」
であると理解するのは明らかである。
そうすると、被告書籍の出版は、本件図鑑との混同を生じさせる行為とは
いえないことは、明らかである。
◆判決本文
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2024.08.26
令和5(行ケ)10019 特許権 行政訴訟 令和6年8月7日 知的財産高等裁判所
薬の特許について、進歩性・サポート要件・実施可能要件が争われました。特許庁は無効理由無しと判断しました。裁判所も「どの範囲の実施例等の裏付けをもって十\分とするかについては、当該課題解決の認識がいかなるロジックによって導かれるかという点を踏まえて検討されるべき」と、同じ判断です。
以上の本件明細書の記載及び技術常識を総合すると、本件明細書には、
1)mAb1は、抗IL−4Rアンタゴニスト抗体であって、IL−4Rに結
合し、IL−4のシグナルを遮断する作用を有するものであること、2)mA
b1が投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎における臨床症状が改善
したこと、3)mAb1が投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎のバイ
オマーカーであり、IL−4によって産生・分泌が誘導されることが知られ
ているTARC及びIgEのレベルが低下したことが開示されていることか
ら、これに接した当業者は、本件患者にmAb1を投与した際のアトピー性
皮膚炎の治療効果は、mAb1のIL−4Rに結合しIL−4を遮断する作
用、すなわち、アンタゴニストとしての作用により発揮されるものと理解す
るものといえる。そうすると、IL−4Rに結合しIL−4を遮断する作用を有する抗IL
−4Rアンタゴニスト抗体(本件抗体等)であれば、mAb1に限らず、本
件患者に対して治療効果を有するであろうことを合理的に認識でき、前記
(2)に記載した本件訂正発明の課題を解決できるとの認識が得られるものと
認められる。
(6) ところで、本件明細書に開示された薬理試験結果はmAb1に関するも
ののみであることは、原告の指摘するとおりである。しかし、サポート要件
の適合性につき、「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明
に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課
題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」等を判断するに当
たって、どの範囲の実施例等の裏付けをもって十分とするかについては、当\n該課題解決の認識がいかなるロジックによって導かれるかという点を踏まえ
て検討されるべきであり、特許の権利範囲に比して実施例が少なすぎると
いった単純な議論が妥当するものではない。
これを本件についてみるに、本件においては、1)mAb1は、抗IL−
4Rアンタゴニスト抗体であって、IL−4Rに結合し、IL−4のシグナ
ルを遮断する作用を有するものであること、2)mAb1が投与された本件患
者では、アトピー性皮膚炎における臨床症状が改善したこと、3)mAb1が
投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎のバイオマーカーであり、IL
−4によって産生・分泌が誘導されることが知られているTARC及びIg
Eのレベルが低下したことが開示されていることから演繹的に導かれる推論
として、本件患者にmAb1を投与した際のアトピー性皮膚炎の治療効果は、
mAb1のIL−4Rに結合しIL−4を遮断する作用、すなわち、アンタ
ゴニストとしての作用により発揮されるものと理解されるものであって、課
題を解決できると認識できる範囲が幅広い実施例から帰納的に導かれる場合
とは異なる。上記作用機序は、本件抗体の一つであるmAb1がIL−4R
に結合し、IL−4のシグナルを遮断する作用を有するものであり、mAb
1が投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎における臨床症状が改善し、
アトピー性皮膚炎のバイオマーカーも低下したのであるから、mAb1以外
の抗IL−4Rアンタゴニスト抗体である本件抗体等(mAb1以外の32
種)も同様の作用効果を有すると当業者が理解できることは明らかである。
本件明細書に開示された薬理試験結果はmAb1に関するもののみであ
るとの原告の指摘は、上記認定判断を左右するものではない。
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2024.08.26
令和6(行ケ)10007 商標権 行政訴訟 令和6年8月5日 知的財産高等裁判所
「Jimny Fan/ジムニーファン」の2段併記の商標について、
「スズキ社のオフロード車の名称」の「Jimny(ジムニー)」に対して、類似または混同生ずるとの審決(4条1項11号、15号)が維持されました。
これを本件について見るに、確かに、Jimny商標(「Jimny
(ジムニー)」)がスズキ社の製造販売するオフロード車の名称を表示\nするものとして、我が国の幅広い年齢層の自動車ユーザー等の間で広く
知られていたことは上記のとおりであり、したがって、仮に、Jimn
y商標が「自動車」に使用された場合を想定すれば、商品の出所識別標
識として強く支配的な印象を与えると判断することには十分な理由があ\nるといえる。しかし、本件で問題とすべきは、本願商標を本願補正商品
に使用したときに、取引者・需要者が出所識別標識としていかなる認識
を有するかということである。
このような観点から考えると、まず、客観的な事実として、スズキ社
を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、「オフ
ロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」を発行して
いる事実は認められない。のみならず、原告代表者によれば、スズキ社\nを含む自動車メーカーは、前述したジムニーのカスタマイズ市場(上記
2(2)ア参照)等に係る業務に対して、第三者の活動を側面から援助する
ことはあっても、主体的に関わることは避けていることがうかがわれる。
このような中、本願商標を使用した本願補正商品に接した取引者・需要
者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系列ディーラー等
が発行主体となっている(可能性がある)と認識するとは考え難い(そ\nのような認識を基礎づける証拠は一切提出されていない。)。
なお、オフロード車の改造に関心を有しているであろう本願補正商品
の取引者・需要者が本願商標に接した場合、本願商標中の「Jimny」
及び「ジムニー」の部分が、改造のベースとなる車両として強く支配的
な印象を与えることは想像に難くないが(実際、本件雑誌がそれを意図
していることは明らかである。)、それは「出所識別標識」とは次元の
異なる問題であり、「Jimny」及び「ジムニー」の部分を結合商標
の要部として抽出する根拠となるものではない。
本件審決が、「本願商標は、その構成中の『Jimny』の欧文字及\nび『ジムニー』の片仮名が強く支配的な印象を与えるものであり、引用
商標との類否を判断するに当たって、当該文字を本願商標の要部として
抽出し、これを引用商標と比較して商標の類否を判断することも許され
る」とした判断は、「商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を
与える場合」に結合商標の要部認定を認める前記最判の趣旨を正解しな
いものといわざるを得ない。
・・・
(1) 上記1(2)の枠組みに従って判断するに、まず、Jimny商標がスズ
キ社の製造販売するオフロード車の名称を表示するものとして、我が国の幅\n広い年齢層の自動車ユーザー等の間で広く知られていたことは上記のとおり
であり、また、「Jimny(ジムニー)」は普通名詞に由来しない造語と
理解されるものである。したがって、Jimny商標の周知著名性及び独創
性の程度は、いずれも高いものと評価される。
(2) そこで、次に、本願商標の指定商品(本願補正商品)とスズキ社の業務
に係る商品・役務との関連性について検討する。
ア 上記1(3)でも述べたように、自動車メーカーが自ら又は系列ディー
ラー等を通じて自動車の関連グッズを販売したり付随サービスを提供し
たりすることは珍しくないと解され、スズキ社においても、オフロード
車(ジムニー)そのものにとどまらない一定の商品・役務につき、周知
のJimny商標に係る信用を利用して、ジムニー関連ビジネスという
べき業務を展開することは十分考えられる。\n
イ しかし、本願商標の指定商品(本願補正商品)は、第16類「オフロー
ド車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」という極めて
ニッチな商品であるところ、取引の実情として先に認定したとおり、ス
ズキ社を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、
「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」を発
行している事実はなく、また、本願商標を使用した本願補正商品に接し
た取引者・需要者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系
列ディーラー等が発行主体となっている(可能性がある)と認識すると\nも考え難い。
加えて、スズキ社は、原告が本願商標の構成と同じ題名の本件雑誌を\n10年以上にわたって発行していることを知悉しながら、Jimny商
標との関係での誤認混同を生じさせるといった警告、クレームを原告に
伝えたことがないばかりか、原告に広告料を支払って本件雑誌にジム
ニーの広告を掲載するなどして本件雑誌の発行を援助していることも前
述のとおりである。
ウ 以上の事実関係に原告代表者の供述を総合すると、スズキ社がJimn\ny商標の下で展開する業務としては、オフロード車(ジムニー)そのも
のにとどまらない関連グッズ、付随サービスを含み得るものではあるが、
「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」に係
る業務は、スズキ社又はその系列ディーラー等とは直接関係のない第三
者によって提供されているのが実情であり、スズキ社とは抵触関係に立
たない「棲み分け」が成立していると認められる。
(3) 以上によれば、本願商標を本願補正商品に使用したとしても、スズキ社
のJimny商標に係る商品・役務との混同を生ずるおそれは認められない
というべきである。よって、本願商標は、商標法4条1項15号に該当する
ものではない。
◆判決本文
車関係の似た事件では、「スバリスト」事件がありました。
◆平成24(行ケ)10013
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2024.08.26
令和5(ワ)70422 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 令和6年8月1日 東京地方裁判所
契約書がなくても、著作権は譲渡を受けていると判断されました。
ア 前提事実及び上記各認定事実によれば、原告Aは、原告社団代表者との関係性を前提として、原告社団から対価(7 万円)の支払を受けて本件写真を含む写真
の撮影を行い、原告社団は、原告Aから本件写真の納品を受け、その後、原告Aか
ら個別に許諾を得ることなく、本件写真を利用していたといえる。また、上記認定
事実からうかがわれる原告社団とEないし Colabo との関係性を踏まえると、E及
び Colabo による本件写真の利用は、原告社団の包括的又は個別の許諾に基づき行
われたものであることがうかがわれる。
他方、原告社団の原告Aに対する利用許諾料の支払その他原告社団による本件写
真の利用が原告社団と原告Aとの利用許諾契約に基づくものであることをうかがわ
せる具体的な事情は見当たらない。
このような本件写真の利用態様に鑑みると、原告社団による本件写真の利用は、
原告Aによる本件写真の納品及び原告社団によるその対価の支払によって原告社団
が本件写真の著作権を取得したことに基づくものと理解される。このような理解は、
原告社団代表者、原告A及びCの各陳述ないし供述(甲 2〜4、14、証人C)に沿う
ものでもある。また、これらの陳述ないし供述については、いずれもその信用性に
疑義を抱くべき具体的な事情はなく、また、相互に矛盾するものでもない。加えて、
原告社団及び原告Aは、前訴から一貫して、本件写真に係る著作権は原告Aから原
告社団に譲渡された旨主張している。
これらの事情を総合的に考慮すると、本件写真に係る著作権は、原告Aの原告社
団に対する本件写真の納品及び原告社団の原告Aに対するその対価の支払により、
原告Aから原告社団に譲渡されたとみるのが相当である。
イ これに対し、被告は、著作権譲渡を裏付ける契約書等がないことその他の事
情を縷々指摘して、原告Aから原告社団に対し本件写真に係る著作権の譲渡はない
旨主張する。
確かに、原告Aから原告社団に対する著作権譲渡を直接的に裏付ける契約書その
他の客観的な資料は存在しない。また、原告Aは、前訴において、本件写真につき、
原告社団に対して「写真の使用権」を譲渡したとの認識である旨や、被告の本件写
真の利用をもって「私や「のりこえねっと」の著作権を侵害していることになる」
旨陳述したところ、これらの陳述は、原告Aが本件写真の著作権を有することを前
提とする趣旨と理解し得ないものではなく、少なくとも、著作権の帰属につき判然
としない内容のものであるとはいえる。原告社団が原告Aに支払った対価の額も、
Eを含む 3 名の写真撮影に関するものであることや交通費を含むことを考えると、
原告A及び原告社団代表者も陳述するとおり、著作権譲渡の対価としては相当に低廉であると評価し得る。\n
しかし、契約書その他直接的に著作権譲渡を裏付ける客観的な資料がないことは、
もとより直ちに著作権譲渡がなかったことを意味するものではない。原告社団と原
告Aとの関係性に鑑みれば、そのような資料の不存在は必ずしも不自然ないし不合
理とはいえない。同様の理由から、支払われた対価が著作権譲渡の対価としては相
当に低廉であるとしても、これをもって著作権譲渡がなかったことをうかがわせる
事情とは必ずしもいえない。前訴における原告Aの陳述も、趣旨は判然としない部分はあるものの、「譲渡」や「原告社団の著作権の侵害」という表現を含むものである。そもそも、上記陳述は、原告社団が本件動画 33 及び 34 の著作権を主張する前
訴において原告社団により提出されたものであることや、原告社団と原告Aとの関
係性に加え、原告Aは法律の専門家ではなく、法的事項につき不正確な表現をすることも十\分にあり得ることをも考慮すると、前提として原告社団に対する著作権譲渡を含意するものと理解するのが相当である。
◆判決本文
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2024.08.26
令和6(行ケ)10032 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年7月31日 知的財産高等裁判所
クローバ図形と文字「アイデンタルクリニック」の結合商標について、引用商標と類似するのか(4条1項11号)が争われました。裁判所は、要部は文字部分であると判断して、類似するとした審決を維持しました。引用商標1、2は、アルファベット「I」を図形化したロゴと「「I DENTAL CLINIC」または、「アイデンタルクリック」の結合商標です。
ウ 本願文字部分について
本願文字部分中「i」の欧文字は英語アルファベットの第9字であり(乙
6、9)、「i」の欧文字部分の上に配された「アイ」の文字が、同欧文字
部分の読み仮名(ルビ)を表したものであることは明らかであるから、本願\n文字部分からは「アイデンタルクリニック」の称呼が生ずる。
そして、「デンタルクリニック」の文字が「歯科医院」の意味を有する外
来語であることは、現在の日本における英語の普及度合からみて、一般的
に理解されているものと解され(乙7、14、15)、任意の文字と合わせ
て、歯科医院の名称の一部として実際に使用されている実情にある(乙8、
16)。「デンタルクリニック」の文字に関する上記使用の実情から、本願
文字部分は、歯科医院の名称を連想させるものの、本願文字部分全体とし
て一般の辞書等に掲載されているものではなく、具体的な意味合いを認識
させるものであるとはいえない。また、本願商標の指定役務である「歯科医
業」等の需要者は、その役務における他のサービスと区別する目印として、
その提供者に係る歯科医院等の名称に着目してそのサービスの選択に当た
ることが一般的と解され、本願商標に接する需要者は、いかなる植物を図
案化したものか自体明らかでない本願図形部分に着目するのでなく、「歯
科医院の名称」を表していると考えられる本願文字部分に、より一層着目\nし、当該文字(語句)より生ずる称呼によって、取引に当たるのが自然であ
るといえる。
エ 本願商標の要部
以上に認定したところに鑑みれば、本願図形部分からは出所識別標識と
しての称呼、観念が生じないと認められ、また、本願図形部分と本願文字部
分は間隔を大きく開けて配置されており、商標全体としての構成上の一体\n性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、本願文字部分
から生ずる称呼によって取引に当たる結果、本願文字部分が独立した出所
識別標識としての機能を果たすということができるから、本願文字部分が\n本願商標の要部に当たるというべきである。
オ 原告の主張について
(ア) 原告は、本願商標は、本願図形部分の中心部を頂点とし、本願文字部
分の最初の文字と最後の文字が他の2頂点となるような、正三角形状に
間隔を空けて配置されたものであり、外観における全体の配置の一体的
なバランスがあり、また、本願図形部分は、本願文字部分における「i」
を象形様に図形化したもので、本願図形部分に係る五つ葉のクローバー
の花言葉の一つである「愛」・「愛情」と、本願文字部分における「i」
のフリガナ「アイ」とに称呼や観念における関連性があるから、本願商標
について分離観察するのは不適当である旨主張する。
しかし、本願商標に、本件図形部分の一番上でなく中心部が頂点であ
る正三角形の存在を認識するような手がかりは何ら存在しない。
また、原告は、本願図形部分について、「iの上部点丸」が五つ葉のク
ローバーの葉の部分、「iの下部棒」が五つ葉のクローバーの茎の部分を
表すというのであるが、本願図形部分の大きな葉の部分が「iの上部点\n丸」に当たり、これと接着して小さく横に伸びる茎の部分が「iの下部棒」に当たるというのは、「i」の欧文字の構造(上部点丸が下部棒に比\nべ小さく、両者は分離しており、下部棒が直立している。)に鑑み無理が
あるというほかなく、本願図形部分が「i」の図形化であるとは認められ
ない。また、五つ葉のクローバー自体一般に認識されていると認められ
ないことは上述のとおりであるから、ましてその花言葉が一般に認識さ
れているともいえない。原告の主張は採用できない。
(イ) また、原告は、本願文字部分のうちの「デンタルクリニック」は、本願
商標の指定役務との関係において単なる役務の提供の場所等を記述的に
表示するものであり、本願文字部分のうちの「i」は、アルファベット一\n文字で識別力がないから、それらをつなげた本願文字部分についても識
別力がなく、「iデンタルクリニック」(アイデンタルクリニック、I D
ENTAL CLINIC)と称される歯科医院及びこれに類する歯科医
院は、国内に数多く存在する旨主張する。
たしかに、「iデンタルクリニック」は、歯科医院を意味する「デンタ
ルクリニック」にアルファベット1字の「i」を結合させたにすぎないも
のであり、それ自体として、高い識別力を発揮しているとまではいえな
いと解される。しかし、「アイデンタルクリニック」の称呼を生ずる歯科
医院の使用例(甲9の2〔特に、番号21、22、32、34、36、3
7、43〜46、51、61、62、64、69〜71、74、80〕、
乙20〜22)を踏まえても、「i(アイ)デンタルクリニック」が出所
識別機能を有しないといえるほど一般的でありふれたものとまではいえ\nず、少なくとも、本願商標の要部認定という観点から、本願文字部分を要
部と認定するに妨げはないというべきである。
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2024.08.26
令和5(行ケ)10146 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年7月25日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決(拒絶査定不服審判)が維持されました。
原告は、甲1には卵パックの搬送方向を変更することにつき、記載も示唆もない
と主張する。しかし、上記(2)イのとおり、引用発明に係る装置において、コンベア
や関連する装置の配置を最適化することは、当業者において自明の課題といえると
ころ、同一の技術分野及び作用機能に係る甲2には、パックの搬送方向を変更でき\nる旨が明記されているから、引用発明及び甲2に接した当業者が、引用発明におけ
る卵パックの搬送方向につき、甲2に記載された構成を適用する動機付けが認めら\nれる。原告の主張は採用することができない。
原告は、引用発明ではラベルが空気抵抗の影響を受けて挙動が不安定になり落下
位置がずれやすいのに対し、甲2発明ではラベルが空気抵抗の影響をほとんど受け
ないとして、前提の異なる甲2記載の構成を引用発明に採用することはできないと\n主張する。しかし、甲1には、従来の装置の課題として「ラベルを水平方向にしたま
ま落下させるとラベルは空気抵抗でどこに落下するか予測できない」(明細書2頁1\n3〜15行目)ことを挙げ、引用発明は「ラベルを水平方向にしたまま落下させな
いで、ラベルを斜めにした状態で落下させると、ラベルはその傾斜の下方延長方向
に確実に落下すると云う原理に基(づ)いている」(同3頁1〜4行目)として課題
を解決する旨が記載されている。甲1の記載を総合しても、このようにして課題を
解決することとした引用発明において、それにもかかわらず、ラベルが空気抵抗の
影響を受けて挙動が不安定になり、ラベルの落下位置がずれやすいと認められるも
のではなく、少なくとも、引用発明における卵パックの搬送方向を変更することに
阻害要因があるとは認められない。原告の主張は採用することができない。
原告は、引用発明では、ラベルが落下していく傾斜の下方延長方向と、コンベア
による卵パックの搬送方向とが交わるようにすることで、発明の目的を達成してい
るところ、卵パックの搬送方向を変更することはその目的に反することになり、阻
害要因があると主張する。しかし、甲1には、ラベルが落下していく方向と卵パッ
クの搬送方向とが交わるようにすることにより発明の目的を達成している旨の記載
はないし、甲1の記載を総合しても、卵パックの搬送方向が変更された場合に、引
用発明の目的が達成されないと認めることはできない。また、パックが輸送される
タイミングに合わせてラベルを投入することは、当該技術分野における技術常識と
いえ、パックの搬送方向を変更させた上で、タイミングに合わせてラベルを投入で
きるようにすることは、当業者が通常採用し得る事項といえる。引用発明における
卵パックの搬送方向を変更することに阻害要因があるとはいえない。
原告の主張は採用することができない。
・・・
原告は、本件審決が引用発明につき、「ラベルLは、保持を解除された後も、上ベ
ルト3と接してベルトの駆動方向に押し出されるようになる」とした点につき、ラ
ベルLは、上下ベルト3、4の挟持が解除された後、再び上ベルト3に接すること
はないから、本件審決の認定は誤りであると主張する。しかし、本件審決の上記認
定部分は、ラベルLが上ベルト3との接触を離れた後に再び上ベルト3に接触する
旨をいうものとは解されない。引用発明において、ラベルLは、上下ベルト3、4の
運動によって輸送されていくから、その前端部分から後端部分にかけて、徐々に上
下ベルト3、4の挟持から離脱していくこととなるが、その間も、少なくとも後端
部分は上ベルト3に接してその運動により駆動方向に押し出されていく。本件審決
の上記認定部分は、これと同旨をいうものと理解できる。原告の主張は採用するこ
とができない。
原告は、卵パックにラベルを投入する直前にラベルを一旦保持する構成は技術常\n識であるから、引用発明においても、ラベルLの後端部がプーリ7、10の位置に
到達した際、上下ベルト3、4は駆動を止めてラベルLを一旦保持し、その後、上下
ベルト3、4が駆動を再開することで保持が解除され、ラベルLは、傾斜の下方延
長方向(ラベルの短辺に沿った方向)に落下すると主張する。しかし、仮に引用発明
において上下ベルト3、4が駆動を止めてラベルLを保持し、その後駆動を再開し
てラベルLの保持を解除するとしても、上下ベルト3、4の駆動の再開により、ラ
ベルLには上下ベルト3、4の駆動による同駆動方向への駆動力が働くのであるか
ら、ラベルLがその長辺に沿った方向に押し出されることは否定できない。原告の
主張は採用することができない。
◆判決本文
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2024.08.21
令和5(行ケ)10145 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年7月10日 知的財産高等裁判所
補正が新規事項であるとした審決が維持されました。
本件補正は、特許請求の範囲の請求項2に対する「前記開放空間は、前記
封止部材と前記レンズ部材の間において、前記レンズ部材の外縁を環状に一
周することなく前記接着剤が配されることで形成される」との請求項2補正
事項を含むものであり、この請求項2補正事項が、新規事項の追加に当たる
かが問題となっている。そして、請求項2補正事項は、その文言から、開放空
間が「前記レンズ部材の外縁を環状に一周することなく前記接着剤が配され
ること(本件接着剤配置)で」形成されるのであるから、本件接着剤配置が開
放空間の形成に寄与することを要すると解される。そこで、以上の趣旨が、当
初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項といえる
かを、以下検討する。
ア 当初明細書等のうち、まず、実施形態3に係る【0037】〜【0039】
の記載及び図7によれば、接着剤がレンズ部材の外縁を環状に一周して配
されていることが明らかであるから、これが本件接着剤配置、ひいては請
求項2補正事項を開示するものでないことは明らかである。
イ 次に、当初明細書等のうち、実施形態4に係る記載について検討する。
実施形態4では、図8から、レンズアレイ20の外縁と、レンズアレイ2
0が接着剤により封止部材80に固定される領域との関係から、接着剤は
レンズ部材の外縁を環状に一周していないことが理解できるので、本件接
着剤配置については、図8から見て取れる事項といえる。
しかし、当初明細書等の「レンズアレイ20は、平面視において、レンズ
アレイ20の外縁の一部が凹部82bの内側に位置するように配置されて
いるとともに(図8中の開口部Gを参照)、凹部82bの外側において接着
剤により封止部材80に固定されている。」(【0040】)との記載及び
「開口部Gの数及び配置は、レンズアレイ20の外縁の一部を凹部82b
の内側に位置させるものであればよく、図8に図示した数及び配置に限定
されるものではない。」(【0041】)との記載によれば、実施形態4に
係る記載は、レンズアレイ20の外縁の一部を凹部82bの内側に位置さ
せるという位置関係によって開放空間を形成するのであって、そこでは、
そもそも接着剤の配置は問題とされていない。また、当初明細書等の【0042】の記載は、発明が実施形態3、4に限定されないことを示すにすぎない。
ウ 原告は、当初明細書等の【0040】の記載から直接的に「レンズアレイ
20の外縁の一部が凹部82bの内側に位置するように配置されていると
ともに、凹部82bの外側において接着剤により封止部材80に固定され
ている」ことにより、レンズアレイ20と封止部材80との間の空間が開
放空間となっていると理解できる旨主張するところ、これは、「レンズアレ
イ20の外縁の一部が凹部82bの内側に位置するように配置されている」
ことと、「凹部82bの外側において接着剤により封止部材80に固定さ
れている」ことが相まって、レンズアレイ20と封止部材80との間の空間が開放空間となっているとするものである。しかしながら、【0040】
の当該記載は、接着剤がレンズ部材の外縁を環状に一周して配されている
ものであり、本件接着剤配置を前提としない実施形態3を説明する【00
37】の「レンズアレイ20は、平面視において、凹部82bの内側に貫通
孔Fを有するとともに、凹部82bの外側において接着剤により封止部材
80に固定されている。」という記載と、「レンズアレイ20は、平面視に
おいて、・・・とともに、凹部82bの外側において接着剤により封止部材
80に固定されている」という文言で一致しており、接着剤の配置が開放
空間の形成に寄与することを示すものとは認められない。
また、原告は、実施形態3において、レンズアレイ20に貫通孔Fが設けられていない構造は、封止部材80とレンズアレイ20の間の空間は開放空間とはならない構\造であることが理解できることを前提に、当業者は、請求項2補正事項を明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより、導くことができる旨主張する。しかし、実施形態3に係る当初明細書等【0037】〜【0039】及び図7、特に【0038】の「これに対して、接続部24に貫通孔Fを設ければ、レンズアレイ20と封止部材80との間の空間が開放空間となるため、接着剤から気化したガスを当該空間外へと逃がし、有機物の堆積(集塵)を抑制しやすくなる。開放空間とは開放された空間をいう。」との記載に鑑みれば、貫通孔Fを開放空間形成の手段としていることが明らかであり、貫通孔Fが設けられていない構成についての記載や示唆もなく、ほかに、実施形態3に関する記載から貫通孔Fが設けられていない構\成を当業者が理解することができることを示す証拠もないことから、上記前提自体が認められない。
エ 以上のとおり当初明細書等の全ての記載を総合しても、本件接着剤配置が開放空間の形成に寄与するという技術的事項を導くことはできない。
◆判決本文
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2024.08. 9
令和5(行ケ)10084等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年7月17日 知的財産高等裁判所
審判では訂正要件充足、訂正後の発明について進歩性違反無しと判断されました。知財高裁は、訂正自体は有効だが、進歩性無しと判断しました。
被告(特許権者)は、「甲2発明に甲1発明を適用して、甲2発明のインナロータ型モータをアウタロータ型モータに置き換え、さらに周知技術を適用して磁石を筒缶部の内周面に貼設されるようにするという複数のステップを求めるものであり、容易の容易として認められない。」と主張していました。
甲8文献は、平成15年9月19日公開された発明の名称を「ロータおよびその製造方法」とする特許出願の公開公報(特開2003−264963)である。甲8文献に記載された技術は、ロータ軸に接着剤を用いて焼結磁石を固定したロータおよびその製造方法に関するものであり(甲8文献の段落【0001】)、甲8文献の図1(a)及び(b)には、ロータ10は、ロータ軸12の外周面上に周方向に沿って配列された複数の磁石片20と、複数の磁石片20を外周面に固定する接着剤層14とを備えていること(甲8文献の段落【0021】)が記載され、甲8文献の図1において、複数の磁石片20がロータ10に互いに隙間を空けて貼設されていることが記載されている。\n
(エ) 甲9文献(日本接着学会誌 Vol.39、No.9〔2003/9/1〕「構造接着技\n術の応用展開と最適化技術の構築」原賀康介)には、モーターの磁石接\n着について、甲9文献の図7は、モーターのロータ―の構\造を示してお
り、スパイダーにセグメント状の永久磁石が接着されており、磁石の接
着には、従来から加熱硬化型エポキシ系接着剤が使用されてきたが、ネ
オジウム系磁石は線膨張係数が0からマイナスであるため、加熱硬化では熱応力が大きく耐ヒートサイクル性に劣ることや加熱硬化で作業性に劣るため、最近は生産性に優れた2液室温硬化型の耐熱性アクリル系接着剤に変わりつつあることが記載されている。
(オ) 甲5文献は、平成17年6月2日公開された発明の名称を「回転電機
のロータ」とする特許出願の公開公報(特開2005−143248)
である。甲5文献に記載された技術は、発電機やモータ等の回転電機に
使用されるロータに関するものであり(甲5文献の段落【0001】)、
その実施形態である甲5文献の図1及び図3のアウターロータ5は、ロ
ータ本体50と、ロータ本体50に固定された複数個の磁石部7とを有
し、磁石部7は、ロータ本体50のリング部55の内周領域57におい
て周方向に間隔を隔てて保持された永久磁石で形成されていること(甲
5文献の段落【0030】〜【0034】、図3)、磁石部7は接着剤
等により 方向に間隔を隔てて形成された着座溝61に接合されている
(甲5文献の段落【0034】)、上記実施形態は、回転電機として働
くモータのアウターロータ、インナーロータに適用しても良いこと(甲
5文献の段落【0072】)が記載されている。そして、甲5文献の図
1には実施形態の発電機の断面図が、甲5文献の図3には発電機のアウ
ターロータのうち磁石部をリング部が保持している状態の異なる方向の
部分断面図が、それぞれ記載されている(甲5文献の段落【007
8】)。
(カ) すなわち、甲5文献においては、磁石を保持する態様として、アウタ
ロータ型電動モータでは、ステータの外周側(ロータの内周側)に複数
の磁石が相互に隙間を空けて配置されることが記載されている。また、
甲8、9文献においては(甲70、71文献にも同様の記載があること
から、当時の技術常識と認められる。)、接着剤固定法では、通常、エ
ポキシ系やアクリル系などの接着剤で固定する方法により貼設されるこ\nとが、それぞれ記載されている。
イ 以上を踏まえ、相違点II)について検討すると、アウタロータ型電動モー
タにおいて、磁石を保持するために、複数の磁石をステータの外周側(ロ
ータの内周側)に沿って配置し、接着剤固定法等により「貼設」すること\nは、周知技術であると認められる(甲5、8、9)。したがって、上記周知技術を適用して、相違点II)の構成とすることは当業者にとって容易想到であったというべきである。\n
ウ この点について、被告は、主引例の甲1発明と、副引例(甲5、8、9)
の各技術の課題は相互間でも異なるから、組み合わせることに動機付けを
肯定する余地はないなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、これ
らの副引例(甲5、8、9)に記載された磁石の配置及び固定方法は、周
知技術であると認められるから、これを適用することの動機付けを肯定す
ることが困難ということはできない。
◆判決本文
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2024.08. 9
令和5(ワ)5412 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 令和6年7月2日 大阪地方裁判所
コーヒー豆等を収納するガラス製の保存容器について、著作物性無しと判断されました。念のために依拠性についても判断されて、依拠性無しと判断しています。
原告各作品は、コーヒー豆等を収納するガラス製の保存容器(キャニスター)で
あるから(争いなし)、実用目的を有する量産品であるといえる。原告各作品が、
保存容器という実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して、美術
鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているか否かについてみると、原告各作品は、
ストレートガラスカップと木製の蓋から構成されており、ストレートガラスカップ\nに装飾のある木製の蓋を組み合わせること自体はアイデアであるところ、前者(ス
トレートガラスカップ部分)には、保存容器として必要な機能に係る構\成と分離し
て、美術鑑賞の対象となり得る美的特性が備わっているとは認められない(原告も
この部分について、創作的表現が備わっている旨の主張はしていない。)。また、\n後者(木製の蓋部分)は、先端側から順に略球形、円盤型、円錐型からなる3段か
ら構成され、各段の境目はくびれの構\成となっているところ、このような構成は持\nち運びや内容物の収納、ストレートガラスカップに対する蓋の着脱を容易するため
に必要な構成であるから、実用目的を達成するために必要な機能\に係る構成と分離\nして、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとはいえない。また、仮に、
保存容器(キャニスター)の実用目的を達成するために、その蓋部分の構成をフィ\nニアル状にする必然性はないとして部分的には実用目的を達成するために必要とは
いえない構成が含まれると解するとしても、略球形、円盤型及び円錐型を組み合わ\nせていくつかの段を構成し、各段の境目がくびれている木製の装飾は、骨董品に用\nいられるなど、かなり前から家具等で広く用いられていたこと(乙3、4)、原告
がP10を制作する以前の平成25年時点において、略球形や円盤の形状のいくつ
かの段が設けられ、各段の境目がくびれている木製の蓋が細いガラス瓶に接着され
た作品(乙2・5枚目)が存在していたことなどの事情も踏まえると、原告各作品
の上記蓋部分の構成はありふれたものであって、美術鑑賞の対象となり得る美的特\n性である創作的な表現を備えているとはいえない。したがって、原告各作品は、創作性がなく、著作物であると認めることはできな\nい。
2 争点2(複製又は翻案の有無)について
なお、事案にかんがみ、依拠性についても検討する。
原告は、被告各作品は原告各作品に依拠している根拠となる事情として、被告P
2が令和2年1月に原告各作品の取扱いを求めたが原告がこれを断ったこと、令和
4年10月以降に被告店舗で被告各作品が展示、販売されていること、及び、被告
P3が原告のインスタグラムのアカウントをブロックしたことを挙げる。
しかし、上記1のとおり、原告各作品の蓋部分のフィニアル状の装飾は、従来か
ら類似の装飾が広く存在するありふれたものであること、原告各作品と被告作品1
及び同2を比較しても、木製の蓋部分の形状は、先端部分や2段目の円盤部分、3
段目の円錐部分など複数の点において相違し、作品の印象にも相応の差異がもたら
されていること、被告各作品の制作にあたって実施された両被告間の話合いにおい
て、原告各作品に言及された事情はうかがわれないこと(乙8)などを踏まえると、
原告主張の上記各事情を前提としても、依拠性を認めることはできず、他に、依拠
性を認めるに足りる証拠はない。
◆判決本文
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2024.08. 8
令和6(行ケ)10004 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年5月28日 知的財産高等裁判所
商標「あらごしみかん(標準文字)」について、識別力無し(3条1項3号違反)とした審決が維持されました。指定商品は33類「「清酒、日本酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、リキュール、カクテル、中国酒、薬味酒」です。3条2項の主張も否定されました。
上記(4)アによれば、本件審決がされた時点において、本願商標の指定商品
等につき、「商品の原材料が粗くこされたものであること(粗くこした原材料
を使用した商品であること)」を表現するための語として、「あらごし」の文\n字や、「あらごし」の同義語である「粗濾し」「粗ごし」等の文字が広く使用
されている実情があるものと認められる。
その中には、「粗くこしたみかん」を原材料とする商品を含め、原材料であ
る果実(梅、りんご、ゆず及び桃など)をあらくこして、果実の繊維や果肉
などを残した商品の事例も存在する(上記(4)ア(ア)、(エ)、(カ)ないし(ソ)など)。
また、本願商標の指定商品中の「日本酒」に含まれる商品「にごり酒」に
ついては、原材料である醪(もろみ)を「あらごしして」ないし「粗くこし
て」製造するものであること(上記(4)ア(ウ)、(オ)など)からも、「あらごし」
の語が、本願商標の指定商品を取り扱う分野において、広く親しまれている
ものということができる。
さらに、本願商標の指定商品と関連する、ジュース飲料を取り扱う分野に
おいて、「みかん」を原材料とする飲料に「あらごしみかん」の文字が使用さ
れている事例(上記(4)ア(タ))もあることが認められる。
そして、上記(4)イによれば、本願商標の指定商品中の「リキュール」等に
おいて、「みかん」を原材料とする商品が多数販売されていることが認められ
る。
本願商標は、「あらごし」の文字と、「みかん」の文字とを組み合わせてな
るところ、上記のとおりの本願商標の指定商品等についての取引の実情によ
れば、本願商標をその指定商品に使用するときは、それに接する需要者、取
引者において、「粗くこしたみかん(みかんを粗くこしたもの)」ほどの意味
合いが認識されるものということができる。
そうすると、本願商標は、その指定商品に係る需要者及び取引者をして、
単にそれが「商品の原材料であるみかんが粗くこされた商品(粗くこしたみ
かんを使用した商品)」であること、すなわち、商品の品質を表してなるもの\nと理解、認識されるというべきである。
以上によれば、「あらごしみかん」の語は、本願商標の指定商品との関係で、
商品の質を表示するものとして取引に際し必要適切な表\示であり、本願商標
の需要者、取引者によって当該商品に使用された場合には、商品の質を表示\nしたものと一般に認識されるものというべきであるから、本願商標の指定商
品について商品の質を普通に用いられる方法で表示する標章であるといえる。\nしたがって、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質を
普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法\n3条1項3号に該当する。本願商標の商標法3条1項3号該当性について、
本件審決の判断に誤りはないというべきである。
◆判決本文
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2024.07.29
令和3(ネ)10086 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月25日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟の控訴審判決です。1審は技術的範囲外または新規性なしとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。該当特許は7件あり、判決文は400頁を超えます。
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すると、402W製品は、遅くとも被控訴人
からカナデンに納品された平成24年4月17日頃には、同社に譲渡されたことに
よりその構造が解析可能\な状態に至ったものと認められる。
これに対し、控訴人パナソニックは、上記アの認定事実を認めるに足りる証拠が\nないことを指摘すると共に、仮に平成24年4月17日頃に被控訴人からカナデン
に対して402W製品が納品されたとしても、被控訴人とカナデンとの間に秘密を
保持することが暗黙のうちに求められていたため、公然実施されたとはいえないな
どと主張する。
しかし、本件申請書は、その書面の体裁等に鑑みると、被控訴人において内部的\nに定形化された書式に基づき作成されたものと見られ、日常的な業務の一環として
作成されたものであることがうかがわれる。また、その記載内容並びに「申請者印」\n欄及び「完了印」欄の押印は、平成24年4月16日付け「見本品引取書」(乙7
8)及び同月17日付け「判取票」(乙88)の記載又は押印と一致ないし整合す
ることから、本件申請書の作成日は、上記認定のとおり、同年2月10日と認めら\nれる(なお、同様の理由及び筆跡の字体そのものから、判取票の作成日付は、同年
9月17日ではなく同年4月17日であることも認められる。)。また、上記「判
取票」は、カナデン担当者(乙148)の姓と同一の印影が存在することから、平
成24年4月17日に同社に402W製品が納品されたことを裏付けるものといえ
る。
また、本件申請書には、「処理方法」の「渡し切りサンプル(点灯試験・分解テ\nスト)」欄にチェックがされているものの、カナデンは、電気工事業等の建設業許
可を得ている事業会社であり(乙76)、また、被控訴人による402W製品の商
品開発に共同研究その他の形で関与していたことをうかがわせる事情も見当たらな
いこと、本件チラシ及び本件カタログの記載からは、カナデンに納品された平成2
4年4月頃又はこれに極めて近接した時点で、402W製品は既に一般向けに販売
されていたことがうかがわれることによると、カナデンに対する402W製品の納
品が、その構成等につき同社に守秘義務を負わせることを前提として行われたもの\nであるとは考え難い。その他控訴人パナソニックが主張する点を考慮しても、この点に関する控訴人パナソ\ニックの主張は採用できない。
ウ 小括
以上によると、402W発明は、本件原出願日2より前に日本国内において公然
実施された発明といえる。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成29(ワ)1390
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2024.07.29
令和3(ワ)18031等 特許権 民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日 東京地方裁判所
特許権侵害訴訟において、サブコンビネーション発明の要旨について、”「請求項4記載の携帯電話」との記載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認めることはできない。”として、新規性無しとして権利行使不能(104条の3)と判断されました。
ウ 乙12の各構成が本件発明の構\成要件JないしMの構成にそれぞれ相当\nするか否かを検討する前提として、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電\n話との間で送受信するための」との記載の性質について検討する。
原告らは、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信す\nるための」との記載は、本件発明の受信装置の構造及び機能\を特定して
いるから、請求項1ないし4の解釈を踏まえて請求項5に係る本件発明
の構成を認定すべきであると主張するものと解される。\n
そこで検討すると、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の各記
載によれば、本件発明は、受信装置が、携帯電話との間で送受信するた
めのRFIDインターフェースを介して同携帯電話に対して個別情報の
発信要求をし、これに対し、同携帯電話が、要求された個別情報を送信
し、受信装置が、同携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報
であるか否かを判断し、受信した判断情報が前記要求した個別情報であ
ると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行うという、二つ
以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し、それに組み合わ
される受信装置の発明すなわちサブコンビネーション発明であって、本
件発明に係る特許請求の範囲の請求項5には、受信装置とは別の他の装
置すなわち他のサブコンビネーションである携帯電話に関する事項が記
載されているものと理解できる。
そして、サブコンビネーション発明においては、特許請求の範囲の請求
項中に記載された他の装置に関する事項が、形状、構造、構\成要素、組成、
作用、機能、性質、特性、行為又は動作、用途等の観点から当該請求項に\n係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握し、発明の技術的範囲
を画する必要があるところ、他の装置に関する事項が、当該他の装置のみ
を特定する事項であって、当該請求項に係る発明の構造、機能\等を何ら特
定していない場合には、他の装置に関する事項は当該請求項に係る発明を
特定するために意味を有しないといえる。
本件特許の特許請求の範囲において、構成要件Jの「RFIDインター\nフェースを有し、」との記載は、受信装置が「RFIDインターフェース
を有し」ていることを、構成要件Kの記載は、受信装置が「個別情報の発\n信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を有していることを、構成要\n件Lの記載は、受信装置が「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し
た個別情報であるか否かを判断する判断手段」を有していることを、構成\n要件Mの記載は、受信装置が「前記判断手段で受信した判断情報が、前記
要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理
を行う」ことを、それぞれ特定していると認められるのに対し、構成要件\nJの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するための」との記載は、
上記の構造、機能\等を有する受信装置と送受信をする携帯電話の構造、機\n能等を請求項4記載の構\成に限定するものにすぎず、受信装置の構造、機\n能等自体を何ら特定していないから、「請求項4記載の携帯電話」との記\n載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認
めることはできない。
以上によれば、上記の「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するた
めの」を除外して請求項5に係る本件発明の要旨を認定することが相当で
あるというべきであって、原告らの上記主張を採用することはできない。
・・・
以上によれば、本件発明は、乙12発明と同一の構成を有しているから、\n新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの
と認められ、原告らは被告に対してその権利を行使することができない(特
許法104条の3第1項、123条1項2号、29条1項3号)。
◆判決本文
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2024.07.29
令和6(行ケ)10002 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年5月23日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした無効審決が取り消されました。審決では、設計書で定まっている事項を変更することには阻害要因がありと判断されていましたが、裁判所はこれを否定しました。
本件明細書等における、白色繊維と黒色繊維の混合比率を変えた実施例
1ないし7と比較例1及び2による試験によれば、この混合比率と、繊維
の縦及び横の強度及び伸度とは、相関関係はないといえる(段落【004
8】の試験結果)。また、光の反射性は、黒色繊維の混合比率を高めるほど
眩しさを感じにくくなる(段落【0050】)。そして、本件明細書等にお
いて、黒色繊維を10%未満の割合で混合した比較例との対比は行われて
おらず、比較例1及び2は、全て白色繊維のもの及び全て黒色繊維のもの
であるから、白色繊維と黒色繊維の混合比率を、10ないし90%の範囲
とした場合と、10%未満とした場合との効果の差異は、本件明細書等に
記載された実施例及び比較例による試験からは明らかでない。
以上によれば、本件発明2について、黒色繊維の混合比率を高めると、
1)斑が形成され、これを用いて不織布の伸び率を把握することが可能とな\nり、2)光の反射を抑えて眩しさを感じにくくなり、3)耐候性及び耐摩耗性
が高まり、他方、黒色繊維の混合比率を高くしすぎると、全体の色が濃く
なって斑を識別するのが困難になるという結果が生じるが、本件発明2に
おいて黒色繊維の混合比率を10ないし90%の範囲としたことに特段
の技術的意義があるとは認められない。
エ 上記ア及びイのとおり、カーボンブラックが、耐候性、耐摩耗性及び遮
光性の向上、光の反射による作業者への作業上の障害の防止、景観を損な
うことの防止等を目的として、所望の効果が発揮できる量で土木工事用不
織布を含む土木工事用シートに添加されているものであること、及び、土
木工事用の防砂シート(不織布又は織布)として用いられる製品の色の濃
さが一様でなく、白色の製品、灰色の斑模様の製品とともに濃灰色ないし
黒色の製品も使用されていることが、本件出願日の時点における技術常識
であったと認められ、白色繊維と黒色繊維を混合した土木工事用不織布に
おける黒色繊維の混合比率が多様なものであると当業者が認識していた
ということができる。
また、上記ウのとおり、本件発明2についても、黒色繊維の混合比率を
10ないし90%の範囲としたことに特段の技術的意義があるとは認め
られない。
そうすると、引用発明1の土木工事用不織布において、耐候性、耐摩耗
性及び遮光性の向上、光の反射による作業者への作業上の障害の防止、景
観を損なうことの防止、並びに不織布の伸び率測定のための斑模様の明確
さを好適なものとするために、カーボンブラックにより着色した黒色繊維
の比率を増減することは、当業者の設計事項にすぎないというべきである。
また、白色繊維と、カーボンブラックにより着色した黒色繊維を混合し
た土木工事用不織布において、黒色繊維の割合を高めれば、斑模様が濃く
なって、斑点の間の距離の測定に基づく不織布の伸び率の測定が容易にな
るほか、耐候性、耐摩耗性及び遮光性の向上、光の反射の抑制といった効
果があることが、上記のとおり本件出願日の時点における技術常識であっ
たといえるから、黒色繊維の比率を7.5%より高める動機付けがあった
ということができる。
以上によれば、引用発明1について、黒色繊維の混合比率が7.5%と
されているところ、これを10ないし90%の範囲とすることによって、
相違点2に係る構成を導くことは、当業者が容易に想到することができた\nものというべきである。
オ 本件審決は、800Z製品は一定の品質を保って製造されるものであり、
白色繊維と黒色繊維の比率を変えるような設計変更は通常行わないとか、
800Z製品の製品仕様書(甲22)では黒色の綿の混率が5%と記載さ
れていることを指摘した上で、製品仕様における黒色繊維の比率5%を桁
の異なる10%以上にすることには阻害要因があると判断している。
しかし、800Z製品について、製品の同一性あるいはその品質を維持
するために、仕様書で定められた仕様の遵守が求められるとしても、同製
品を基に、仕様の一部を変更して、新たな仕様の土木工事用不織布の製品
を開発、製造しようとすることは当然に行われることであって、800Z
製品の仕様として黒色繊維の比率が特定の値に定められているからとい
って、この値を変更することに阻害要因があると認められることにはなら
ず、800Z製品の使用における黒色繊維の比率が1桁である5%とされ
ていることから、この比率を2桁の10%にすることに阻害要因があると
解することもできない。
そして、前記ウ及びエのとおり、黒色繊維の比率を特定の割合又は特定
の範囲に定めることについて特段の技術的意義があるとは認められず、か
つ、カーボンブラックにより着色した黒色繊維の比率を高める動機付けが
あったといえることからすれば、引用発明1について、その黒色繊維の比
率を、上記仕様書に記載された数値から変更することに阻害要因があると
は認められない。
◆判決本文
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2024.07.21
令和5(行ケ)10123 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年5月21日 知的財産高等裁判所
原告は、被告の保有する商標「世界救世教」が公序良俗違反(4条1項7号)、公益著名商標違反(4条1項6号)、出所混同違反(4条1項15号)に該当するとの無効審判を請求しましたが、棄却されました。知財高裁に出訴しましたが,同様の判断がなされました。
原告は、宗教法人「世界救世教」で、被告は「世界救世教主之光教団」です。一時期、原告を包括宗教法人、被告を被包括宗教法人との関係でしたが、原告がこれを解消したという事情があります。
(2) 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕のとおり、本件商標が商標法4条1
項7号に該当すると主張するが、この主張の根拠の一つとして、被告が、被
告と原告との混同を生じさせる目的で本件商標の登録出願を行ったものであ
り、被告が本件商標を使用することによって被告と原告との混同が生じてい
ることを挙げているので(前記第3の1〔原告の主張〕(1)、(2)、(4)エ、オ)、
まずこの点について検討する。
ア 本件商標は「世界メシア教」の文字を横書きしてなるものであり、「セカ
イメシアキョウ」との称呼が生じ、「教」が宗教を意味し、宗教団体の名称
の末尾に付されることがある事実は周知であるといえるから、何らかの宗
教団体との観念が生じるといえる。
これに対し、引用標章は、「世界救世教」の文字よりなり、「セカイキュ
ウセイキョウ」との称呼が生じ、何らかの宗教団体との観念が生じるとい
える。
本件商標と引用標章の類否について検討する。
まず、外観に関し、両者は、「世界・・・教」という点で外観が共通する
点があるものの、本件商標は6文字で構成され、引用標章は5文字で構\成
されていて、全体の構成文字数が異なる上、本件商標の3文字目から5文\n字目の「メシア」の文字と、引用標章の3文字目及び4文字目の「救世」
の文字が相違していることから、本件商標と引用標章は全体として外観が
相違する。
また、称呼に関して、両者は「セカイ・・・キョウ」という点で称呼が
共通する点があるものの、本件商標から生じる称呼である「セカイメシア
キョウ」と、引用標章から生じる呼称である「セカイキュウセイキョウ」
は、その音の数が異なる上、各呼称を構成する「メシア」の音と「キュウ\nセイ」の音が相違していることから、本件商標と引用標章は、全体として
称呼が相違する。
さらに、観念に関し、本件商標と引用標章は、いずれも何らかの宗教と
の観念が生じるという点で観念において共通する点があるが、どのような
宗教であるかは本件商標及び引用標章からは明らかではなく、また本件商
標の「メシア」の語は世の人々を救う「人物」を意味する語であるのに対
し、引用標章の「救世」の語は「世の人々を苦しみの中から救うこと」と
いうように「行動」を意味する語であるから、観念において類似するとは
いえない。したがって、本件商標と引用標章は、外観及び称呼が異なり、観念にお
いて類似するとはいえないから、その類似性の程度は低い。
イ(ア) 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)及び(2)のとおり、原告を指し
示すものとしての「世界メシヤ教」、「世界メシア教」あるいは「メシヤ
教」、「メシア教」との名称が社会に浸透しており、本件商標はこれらの
名称に類似していると主張する。
しかし、原告が「世界救世教」の「救世」に「メシヤ」と振り仮名を
付して「セカイメシヤキョウ」と称していたのは、Aが宗教団体として
世界救世教を設立した昭和25年から、原告が「世界救世教」を「セカイキュウセイキョウ」と呼ぶように改めた昭和32年までであり、その
期間は約7年にすぎない上、本件商標の登録出願及び登録査定の時点か
ら60年以上も前のことである。
本件商標の需要者は、その指定役務との関係から、宗教に関心のある
者のみならず、広く一般の消費者と認められるところ、上記の事情から
すれば、本件商標の登録出願及び登録査定の時点において、「世界メシヤ
教」が原告を指す名称であるとの事実が本件商標の需要者に周知であっ
たとは認められない。
また、同様に、本件商標の登録出願及び登録査定の時点において、「世
界メシア教」、「メシヤ教」又は「メシヤ教」が原告を指す名称であると
本件商標の需要者に周知であったとも認められない。
(イ) 原告は、原告について記載した書籍、雑誌、インターネット上の記事等
において、「世界メシア教」等の名称が原告を示すものとして表示されて\nいると主張し、複数の書籍の写し等(甲13〜17、78、80〜83、
107〜109)を証拠として提出する。
しかし、書籍、雑誌、インターネット等に宗教法人あるいは宗教団体
に関して説明した記載があったとしても、当該説明に記載された事実が
広く一般に知られた事実であると直ちに認められることにはならない。
また、原告が証拠として提出した各書籍等の内容について検討すると、
まず、甲13の添付資料とされている書籍又は印刷物は、いずれも原告
又は「世界救世教いづのめ教団」が編集したものであり、その信者を対
象として発行された書籍又は印刷物であると認められ、信者以外の者が
これらの書籍又は印刷物に記載された内容を広く認識するに至ったとは
認められない。
甲14ないし16及び107ないし109の書籍等は、いずれも辞典
又は事典(インターネット上の記載を含む。)であり、「世界メシア教」、「メシヤ教」又は「メシア教」の項において、「世界救世教」の項を参照
すべき旨の記載が存在することが認められるものの、これらの記載は、
原告が過去に「世界救世教」を「セカイメシヤキョウ」と称していた事
実を踏まえたものにすぎないと考えられる。
それ以外の書籍の写し等(甲17、78、80〜83)には、「世界救
世教」が「メシア教」若しくは「世界メシヤ教」とも称されている旨の
記載、又は原告を指す名称として「メシア教」の語を用いているものと
解される記載が存在すると認められるが、これらの書籍等については、
その発行日から相当の時間が経過していると認められるか、又は書籍の
発行若しくはインターネット上の記載がされた時期が不明である。
以上を総合すると、原告が証拠として提出する上記書籍等をもって、
「世界メシヤ教」、「世界メシア教」あるいは「メシヤ教」、「メシア教」
の名称が原告を指すものであると広く一般に知られているとは認められ
ない。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば、本件商標の登録出願及び登録査定の時点にお
いて、「世界メシヤ教」、「世界メシア教」あるいは「メシヤ教」、「メシア
教」との名称が原告を指すものであるとの事実が、本件商標の需要者に
周知であったとは認められない。
そうすると、「世界メシヤ教」、「世界メシア教」あるいは「メシヤ教」、
「メシア教」が原告を指す名称であることが社会一般に広く知られてい
るために、本件商標をその指定役務に使用することによって、その出所
が原告であるとの混同が生じるとは認められない。
ウ 上記ア及びイによれば、本件商標をその指定役務に使用することによっ
て、その出所が原告であるとの混同を生じるおそれがあるとは認められな
い。
熱海新聞が、被告に関する記事において、その名称を「世界救世教」と
記載した事例(甲95)をもって、本件商標をその指定役務に使用した場
合に出所の混同が生じると認められることにはならない。
そして、本件商標をその指定役務に使用することによって上記内容の混
同を生じるおそれがあると認められないことからすれば、被告が、上記内
容の混同を生じさせる目的で本件商標の登録出願をしたとも認められな
い。
前記(1)の認定事実によれば、原告が被告との包括・被包括関係を廃止し、
被告がこれを争っており、現在でも原告と被告との間の訴訟が係属してい
るなど、原告と被告との間に対立関係があることが認められるが、このこ
とをもって、被告が被告と原告との混同を生じさせる目的で本件商標の登
録をしたと認められることにはならない。
(3) 原告は、本件商標が商標法4条1項7号に該当するとの主張の根拠の一つ
として、被告が本件商標を使用すれば、取引者及び需要者をして、「世界メシ
ア教」なる名称を有する宗教団体が存在し、その宗教団体が商品又は役務を
提供しているとの誤解を生じさせるとともに、被告がその規則に定めた名称
と異なる「世界メシア教」の名称を用いて活動を行うことは宗教法人法に違
反しており、本件商標の登録を認めることは被告の違法な行為を助長するも
のであって、商取引の秩序を混乱させるものであることを挙げる(前記第3
の1〔原告の主張〕(3)、(4)アないしオ)。
この点について検討すると、被告が本件商標をその指定役務に使用した場
合に、本件商標の取引者及び需要者が、「世界メシア教」という名称の宗教団
体が当該役務を提供していると認識するとしても、被告とは別の「世界メシ
ア教」という名称の宗教団体が存在しており、当該宗教団体が当該役務を提
供していると認識するとは認められない。仮に、被告とは別の「世界メシア
教」という名称の宗教団体が存在するとの認識を有する者がいたとしても、
そのことをもって、本件商標が公正な商標秩序に反し、著しく社会的相当性
を欠くものであると解されることにはならない。
また、宗教法人が、その規則において定める名称と異なる別称を用いて活
動することが宗教法人法に違反するか否かと、当該宗教法人が当該別称と同
一の文字からなる商標の登録を受けることが商標法上許容されるか否かとは、
関連性のない別個の問題であって、仮に前者が違法であると解されるとして
も、そのことによって、当該別称と同一の文字からなる商標が商標法4条1
項7号に該当することにはならない。なお、文化庁による宗教法人の管理運
営に関する書籍(甲85、86)は、宗教法人の規則に定める運営方法と実
際の運営方法が一致することが必要である旨記載しているにすぎないのであ
って、宗教法人の管理運営上、規則で定めた名称と活動名称が一致すること
まで要求しているものではなく、現に、規則上の名称と異なる名称で活動す
る宗教法人は、被告以外にも現実に複数存在することが認められる(乙7〜11)。
原告が挙げる商標審査便覧42.107.36「『会社』等の文字を有する
商標の取扱い」(甲96)については、そもそも商標審査便覧は何ら法規範性
を有するものではないが、この点を措くとしても、上記商標審査便覧42.
107.36は、その表題にあるとおり、「会社」等の文字を有する商標に関\nする基準であり、その(2)に「自己の商号と異なる商号を自己の商標として採
択・使用すること」とあるのは、会社の商号と異なるが「株式会社」などの
会社の種類を示す文字が含まれる標章を採択・使用することを指すと解され
るところ、本件商標には会社や法人の種類を示す文字は含まれない。また、
上記商標審査便覧42.107.36は、会社がその商号とは異なる名称(会
社の種類を示す文字を含まない名称)を用いて活動をしている場合に、当該
名称と同一の文字からなる商標が商標法4条1項7号に該当すると述べてい
るものではない。したがって、上記商標審査便覧42.107.36の記載
内容をもって、本件商標が公正な商標秩序に反し、著しく社会的相当性を欠
くものであると解することはできず、本件商標が商標法4条1項7号に該当
すると解すべきということにもならない。
以上によれば、被告が「世界メシア教」の名称を用いて活動することが宗
教法人法に違反するか否かを判断するまでもなく、被告が規則において定め
る名称と異なる「世界メシア教」の名称を用いて活動していることは、本件
商標が商標法4条1項7号に該当すると解する根拠とならないというべきで
ある
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◆令和5(行ケ)10126
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2024.07.21
令和3(ワ)2873 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年5月30日 大阪地方裁判所
大阪地裁は、102条2項の計算のために文書提出命令をしましたが、被告は提出しませんでした。原告の主張の通りだと利益率は6割を超えるものとなって、合理的とは言い難いことから、被告の限界利益率を、約31%としました。
原告は、被告が、本件書類提出命令にもかかわらず、正当な理由なく、本件提出
対象書類を提出しなかったなどとして、民訴法224条3項により、本件証明事実
を真実であると認めるべきであって、前記被告製品10台に係る限界利益を157
3万8528円と認定すべきである旨主張する。
この点、確かに、被告が本件書類提出命令に応じて本件提出対象書類を提出した
とは認められないものの、本件証明事実に係る原告の主張によると、被告製品10
台の利益率は6割を超えるものとなって、合理的とは言い難いことから、被告の限
界利益の額を前記のとおり認定するのが相当である。
(3) 損害の不存在ないし推定覆滅について
ア 被告は、佐賀県畜産公社においては、被告製品の購入に当たって競争入札が
行われたところ、原告と被告が入札して被告が落札したのであって、落札により販
売業者は1社に決定されるから、原告と被告が競合するような市場は存在せず、侵
害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情は存在しないとした上
で、ミヤチク、いわちく及びフードパッカー津軽についても同様であって、原告に
損害はなく、特許法102条2項は適用されない旨主張する。
しかしながら、そもそも、被告が主張する競争入札の存在や具体的内容が明らか
ではないところ、佐賀県畜産公社においては、競争入札自体は行われたとしても、
原告も同じ競争入札に参加していたというのであるし、その他の入札についても原
告に参加資格があり、落札したとされる被告が参加していなければ(本件特許権の
侵害品である被告製品がなければ被告は参加できなかったと考えられる。)、原告
が落札した可能性もあることを考慮すると、原告において被告の侵害行為がなかっ\nたならば利益が得られたであろうという事情は存在しない旨の被告の主張は採用で
きない。
イ 被告は、筒状容器の「内壁が平面視で多角形状に形成される」が本件発明の
唯一の特徴的部分であるといえるところ、仮に被告製品がこの構成要件を充足する\nとしても、利益に対して貢献しているのはその余の侵害品の性能(機能\、デザイン
等特許発明以外の特徴)であって、損害の推定覆滅事情に当たる旨主張する。しか
しながら、筒状容器の「内壁が平面視で多角形状に形成される」部分以外で顧客誘
引力のある被告製品の具体的性能や、その性能\の顧客に対する訴求の程度は明らか
でないから、被告の主張は採用できない。
ウ さらに、被告は、本件発明では旋回流を利用するのに対して(甲5)、被告
製品(乙15)では、突部9(別紙「被告製品写真・図面」の図2参照)が邪魔
板(バッフル)となって旋回流を阻害することで、上下循環流発生を発生させ、豚
足をランダムな動きとするものであり、また軸流においては豚足が下方へ潜り込ん
でいくこと、邪魔板(バッフル)に衝突することによる脱毛、豚足同士の水平方向
及び上下方向の衝突による脱毛の効果が甚だ大きく、性能において本件発明と比較\nして顕著な相違があるから、特許法102条2項の推定は覆滅される旨主張する。
この点、原告製品の動画(甲5)と被告製品の動画(乙15)とを比較すると、
豚足の動きに一定の差があり、被告製品では豚足が下に潜り込むような動きをして
いるように見え、被告が主張する上下方向の動きがあることがうかがわれる。かか
る動きによる豚足の脱毛効果への影響の程度や、その性能の被告製品の売上げへの\n貢献の程度は必ずしも明らかでなく、前記の性能を理由とする推定覆滅が認められ\nるとしても、その割合は、5%を超えるものではないというべきである。
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2024.07.21
令和6(行ケ)10011 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年7月8日 知的財産高等裁判所
商標「デジタル医療モール」が識別力なし(商3条1項6号)とした審決が維持されました。指定商品は9類、35類、44類です。
(1) 本願商標は、「デジタル医療モール」の文字を標準文字で表してなるも\nのであるところ、本願商標の構成中、「デジタル」の文字は「情報や命令を、\n0と1〔=スイッチオフとスイッチオン〕の信号の集まりで表現する<こと\n/もの>」、「コンピュータを(めいっぱい)使うようす」(以上、乙1)
を、「医療」が「医師・看護師が患者の治療やせわをすること」(乙2)、
「モール」が「(屋根つきの)大きな商店街」など(乙3)を意味する平易
な語であるから、本願商標の構成を元に観察すれば、「デジタル」の語と\n「医療モール」の語からなると理解することも、あるいは「デジタル医療」
の語と「モール」の語からなると理解することも不可能ではない。\nしかしながら、証拠(甲17、18、25〜29、乙8〜15)によれ
ば、「デジタル」の文字は、他の語と結合した「デジタル〇〇」の態様で
「デジタル技術を用いた〇〇」ほどの意味合いで汎用的に広く用いられてい
ることが認められ、デジタル技術を利活用した医療や治療に関して、「デジ
タルセラピー」(甲17)、「デジタル医療」(甲18、26〜29、乙8
〜11、14、15)、「デジタル治療」(甲25、乙8、12、13)、
「デジタルヘルス」(乙8)と称されている実情があることが認められる。
また、証拠(甲20〜22、乙16〜23)によれば、「医療モール」
の文字は、「診療科が異なるいくつかのクリニックが1カ所に集まっている
運営形態」(甲20)といった語として広く使用されていることも認められ
る。
(2) 以上のような実情を踏まえると、本願商標は、「デジタル」技術を利活
用して行われる仮想的な「医療モール」、すなわち「様々な医療機関に係る
サービスを、デジタル技術を用いて構築した 1 か所のプラットフォーム上で
提供又は利用できる仕組み」といった意味合いを容易に理解・認識させるも
のと認められる。そして、本願商標に接し、上記意味合いを理解・認識した
需要者は、本願商標について上記の仕組みの下で提供される商品又は役務で
あることを表現するための語句であると理解、認識するにとどまり、自他商\n品役務の識別標識としては認識しないといえる。
(3) これに対し、原告は、本願商標について、「デジタル医療」 と「モール」
との言葉の結合であるのか、「デジタル」と「医療モール」との言葉の結合
であるのか、需要者によって認識が異なる言葉の結合からなる商標であると
する主張する。
しかし、上記(1)のとおり、「デジタル〇〇」の語が、「デジタル技術を
用いた〇〇」という意味で、汎用的に広く用いられているのに対し、「〇〇
モール」の語については、ショッピングモール、医療モールといった定型的
な用法を超えて広範囲な用い方をされているとまでは認められない。そうす
ると、本願商標に接した需要者の一般的な理解としては、上記(2)のとおり、
「デジタル」技術を利活用して行われる仮想的な「医療モール」という意味
合いで認識するのが自然であると解され、これと異なる前提に立つ原告の上
記主張は採用できない。なお、原告が引用する知財高裁の裁判例は、本件と
事案を異にし適切でない。
2 次に、原告は、仮に本願商標を「デジタル」と「医療モール」の結合と理
解し、上記1(2)における意味合いが想起されるとしても、「デジタル技術」
というものは様々に活用されており、一義的な技術ではなく、本願商標もい
ずれの技術を利用したのか明らかでないから、本願商標からは特定の観念が
生じないと主張する。この点、デジタル技術を用いて提供されるものには原告が指摘するようなIoT、ビッグデータ、AI、ICTなどの様々な技術が考えられるが、デジタ
ル技術が様々に活用されているからといって、上記1(2)の認定判断が左右さ
れるものではない。原告の上記主張は、本願商標を造語と理解すべき根拠とな
るものではない。
3 さらに原告は、本願商標である「デジタル医療モール」という語が、本願
商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がない
ことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有する
と主張する。この点、デジタル技術を用いて提供されるものには原告が指摘するようなIoT、ビッグデータ、AI、ICTなどの様々な技術が考えられるが、デジタ
ル技術が様々に活用されているからといって、上記1(2)の認定判断が左右さ
れるものではない。原告の上記主張は、本願商標を造語と理解すべき根拠とな
るものではない。
3 さらに原告は、本願商標である「デジタル医療モール」という語が、本願
商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がない
ことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有する
と主張する。
しかし、商標法3条1項6号は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務
であることを認識することができない商標につき、商標登録を受けることがで
きないとしたものであり、同号の適用において当該商標が現実に使用されてい
ることを要求するものではない。本願商標に関して他の使用例がないことは、
上記2の認定判断を妨げるものではない。
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2024.07.21
令和6(行ケ)10010 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年7月8日 知的財産高等裁判所
商標「オンライン医療モール」が識別力なし(商3条1項6号)とした審決が維持されました。指定商品は9類、35類、44類です。
証拠(甲11〜13、乙10〜20)によれば、「オン
ライン」の文字は、他の語と結合した「オンライン〇〇」の態様で「ネット
ワーク上で提供される〇〇」、「ネットワーク上で利用できる〇〇」ほどの
意味合いで汎用的に広く用いられていることが認められ、「オンラインモー
ル」(乙7)、「オンラインショッピングモール」(乙8)といった用法で
使用されていることも認められる。
特に、上記「オンラインショッピングモール」は、「様々な商品の小売
販売に係るサービスをネットワーク上の1か所のプラットフォーム上で提供
又は利用できる仕組み」といった意味で用いられているものと理解され、本
件の参考になるものといえる。
また、証拠(甲14〜16、乙21〜28)によれば、「医療モール」
の文字は、「診療科が異なるいくつかのクリニックが1カ所に集まっている
運営形態」(甲14)といった語として広く使用されていることも認められ、
「オンライン上で自由診療の医療モールを作る」、「e−メディカルモール」
(いずれも甲17)といった用法で使用されていることも認められる。
(2) 以上のような実情を踏まえると、本願商標は、「オンライン」で行われ
る仮想的な「医療モール」、すなわち「様々な医療機関に係るサービスを、
ネットワーク上の 1 か所のプラットフォーム上で提供又は利用できる仕組み」
といった意味合いを容易に理解、認識させるものと認められる。そして、本
願商標に接し、上記意味合いを理解・認識した需要者は、本願商標について、
上記の仕組みの下で提供される商品又は役務であることを表現するための語\n句であると理解、認識するにとどまり、自他商品役務の識別標識としては認
識しないといえる。
(3) これに対し、原告は、本願商標について、「オンライン医療」 と「モー
ル」との言葉の結合であるのか、「オンライン」と「医療モール」との言葉
の結合であるのか、需要者によって認識が異なる言葉の結合からなる商標で
あると主張する。
しかし、上記(1)のとおり、「オンライン〇〇」の語が、「ネットワーク
上で提供される〇〇」という意味で、汎用的に広く用いられているのに対し、
「〇〇モール」の語については、ショッピングモール、医療モールといった
定型的な用法を超えて広範囲な用い方をされているとまでは認められない。
そうすると、本願商標に接した需要者の一般的な理解としては、上記(2)の
とおり、「オンライン」で行われる仮想的な「医療モール」という意味合い
で認識するのが自然であると解され、これと異なる前提に立つ原告の上記主
張は採用できない。なお、原告が引用する知財高裁の裁判例は、本件と事案
を異にし適切でない。
2 次に、原告は、仮に本願商標を「オンライン」と「医療モール」の結合と
理解し、上記1(2)における意味合いが想起されるとしても、オンライン上で
どのようなサービスが提供されるのか不明であるとして、需要者は本願商標
を造語として理解すると主張する。
この点、関係証拠によれば、オンラインで提供される医療サービスとしては
「オンライン診療」(甲11〜13、18、乙4、5、9〜15、19、20。
スマートフォンなどを使って病院の予約から決裁までをインターネットで行う\nもの。)、「遠隔健康医療相談」(甲13、乙16〜18)、「オンライン服
薬指導」(乙10)、「電子処方箋」(乙10)のほか、自由診療を提供して
いる医療機関を集めて、オンラインメディカル(医療)モールを提供する(検
索・予約・決済・オンライン診療を提供する)もの(甲17)など、様々なも\nのがあることが認められる。
しかし、このようにオンラインで提供される医療サービスの内容が様々なも
のであることは、上記1(2)で認定した「様々な医療機関に係るサービスを
ネットワーク上の 1 か所のプラットフォーム上で提供又は利用できる仕組み」
という概念と何ら矛盾するものではなく、むしろ、当該理解に沿うものである。
原告の上記主張は、本願商標を造語と理解すべき根拠となるものではない。
3 さらに原告は、本願商標である「オンライン医療モール」という語が、本
願商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がないことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有す
ると主張する。
しかし、商標法3条1項6号は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務
であることを認識することができない商標につき、商標登録を受けることがで
きないとしたものであり、同号の適用において当該商標が現実に使用されてい
ることを要求するものではない。本願商標に関して他の使用例がないことは、
上記2の認定判断を妨げるものではない。
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2024.07.16
令和6(ネ)10011 令和6年6月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
ビットトレントのUNCHOKE通信に関する発信者情報開示請求について、1審は請求を棄却しましたが、知財高裁は、これを取消し、開示請求を認めました。
(2) 以上のとおり、本件各発信者は、本件複製ファイルのピースを保有してい
たこと、これが自動公衆送信の可能な状態にあったことは認められるが、当\n該ピースが再生可能なものか、著作物としての表\現の本質的特徴を直接感得
できるものかどうかは明らかでない。被控訴人は、そのような情報を自動公
衆送信し得るようにしても送信可能化権の侵害が明白とはいえない旨主張す\nるので、以下検討する。
ア 著作物たるファイルの自動公衆送信において、元のファイル(デジタル
データ)を分割したり暗号化するなどして送信するという仕組みも想定さ
れるところ、そのような形で自動公衆送信の対象となったデータだけを取
り上げた場合、デジタルデータの特性もあって、映像その他のファイルと
して復元・再生できないことも、十分あり得るものと考えられる。このよ\nうなもの全てについて、当然に公衆送信権の侵害が認められるものでない
としても、少なくとも、送信されるデータが著作物性の認められる元のフ
ァイルの一部を構成するピースであり、かつ、これらピースを集積するこ\nとで元のファイルに復元・再生することが可能なシステムの一環としてピ\nースの送受信が行われていると認められる場合には、当該ピースの送信を
もって公衆送信権の侵害があったと評価すべきである。
このような全体像を踏まえることなく、個々の公衆送信の対象となった
ピースを断片的に取り上げて、著作権(公衆送信権)の侵害が認められる
ためには当該ピース自体での再生が可能で、表\現の本質的特徴を直接感得
できることが必要であるとする解釈は、「木を見て森を見ない」議論とい
わざるを得ず、公衆送信権の保護を形骸化させるものといわざるを得ない。
以上の議論は、送信可能化権の侵害についても妥当するものと解される。\n
イ これを本件について見るに、ビットトレントネットワークは通常一つの
シーダーから始まるところ、本件動画と本件複製ファイルのハッシュ値が
一致することから、本件複製ファイルは本件動画を複製したものであるこ
と、本件各発信者の保有するピースは本件複製ファイルを細分化したもの
であることが認められる。本件各発信者は、ビットトレントネットワーク
を形成するピアとして、本件複製ファイルの必要なピースを転送又は交換
し合うことで、最終的に本件複製ファイルを構成する全てのピースを取得\nするという目的に沿って、そのシステムの一環として、ピースの送受信を
行っているものである。
そうすると、以上のようなビットトレントネットワークの仕組みの下で
本件複製ファイルのピースの送受信が行われている本件においては、当該
ピース自体での再生が可能とはいえず、それだけでは表\現の本質的特徴を
直接感得できないとしても、公衆送信権、送信可能化権の侵害の成立を妨\nげないというべきである。
3 争点3(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)につい
て
(1) 基本的な視点
ア プロバイダ責任制限法5条1項が発信者情報の開示請求を規定している
趣旨は、特定電気通信(同法2条1号)による侵害情報の流通は、これに
より他人の権利の侵害が容易に行われ、ひとたび侵害があれば際限なく被
害が拡大する一方、匿名で情報の発信が行われた場合には加害者の特定す
らできず被害回復も困難となるという、他の情報の流通手段とは異なる特
徴があることを踏まえ、侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、
表現の自由及び通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通\n信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に
対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、
加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解さ\nれる。
ところで、令和3年法律第27号による改正により、従前の発信者情報
開示請求に加え、「特定発信者情報」の開示請求制度が創設された。これ
は、個別の書き込みごとのIPアドレス等が記録されることが多い従来型
の電子掲示板等とは異なり、サービスにログインした際のIPアドレス等
(ログイン時情報)は記録されているものの投稿した際のIPアドレス等
を記録していないタイプのSNSサービスが現れ、そのような場合のログ
イン時情報の開示につき、従来の発信者情報開示請求の枠組みで対応でき
るか解釈上の疑義が生じていたことを踏まえ、立法的な解決を図ったもの
である。上記改正法は、ログイン時情報を含む特定発信者情報についても
開示請求の道を開く一方、その対象となる「侵害関連通信」(プロバイダ
責任制限法5条3項、同法施行規則5条)は、それ自体としては権利侵害
性のない通信であることを踏まえ、一定の補充的な要件を求めることとし
たものである(プロバイダ責任制限法5条1項)。
このような改正法の趣旨も踏まえると、それ自体として権利侵害性のな
い通信を「特定発信者情報以外の発信者情報の開示請求」の手続に安易に
乗せるような運用は、上記改正後のプロバイダ責任制限法5条の予定する\nところではないと解される。
イ 他方、本件においては、送信可能化権が有する特殊な性格についても、\n十分な配慮が必要となる。すなわち、著作権法は、公衆送信権を著作権の\n支分権と定めるところ(同法23条1項)、インターネットのウェブサイ
ト等における公衆送信は、自動公衆送信(同法2条1項9号の4)として
行われることになる。ここでは、閲覧者(公衆)からの閲覧請求信号に応
じてサーバから情報が送信されるが、そのような自動公衆送信が実際に行
われたかどうかを著作権者が把握するのは困難である。そこで、現実の送
信の前段階における準備行為である「送信可能化」を公衆送信権の侵害行\n為類型に含めることとし(同法23条1項括弧書き)、もって権利保護の
実効化を図ったものである。送信可能化権の侵害を理由とする発信者情報開示請求の解釈適用においても、送信可能\化権の上記の意義が没却されないよう留意が必要である。
(2) 以上を踏まえて検討するに、UNCHOKE通信は、送信可能化がされた\nことを前提として、相手方ピアが保有するピースのアップロード(そのピー
スを欲するピアにとってはダウンロード)が可能であることを伝えるもので\nあり、それ自体によって侵害情報の流通がされるわけでないことはもとより、
当該通信が送信可能化惹起行為(著作権法2条1項9号の5イ、ロ)に当た\nるともいえない(この点は、原判決が14頁1行目〜3行目で判断するとお
りである。)。しかし、送信可能化権の侵害とは、将来に向けて想定される自動公衆送信の準備が整ったことをもって公衆送信権の侵害類型と位置付けられたもので\nあるから、自動公衆送信が可能な状態が継続している限り、その違法状態は\n継続していると解するのが相当である。著作権法2条1項9号の5イ、ロは、
上記のような違法状態を招来するいわば入口としての行為を定義したものに
すぎない。
このような送信可能化権の特性に照らすと、送信可能\化権の侵害を理由に
発信者情報の開示を求める場合において、「権利の侵害に係る発信者情報」
(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)を、送信可能化惹起行為そのものの\n通信に係る発信者情報に限定して解釈する必要はないし、それが適切ともい
えない。送信可能化が完了し、その後引き続き送信可能\な状態が継続してい
る限り、そのような状態であることを直接的に示す通信であれば、当該通信
に係る発信者情報を「権利の侵害に係る発信者情報」と認めることができる
というべきである。そのように解さないと、著作権法が送信可能化権の侵害\nを公衆送信権の侵害行為類型として認めた趣旨が没却されることになりかね
ない。他方、開示の対象とする発信者情報を上記の限度にとどめれば、情報
の発信者のプライバシー、通信の秘密等が不当に損なわれることにはならな
いと解される。
SNSでの投稿により名誉毀損等の権利侵害が生ずるような場合であれば、
侵害情報の流通そのものに係る当該投稿に係る通信以外についてまで「権利
の侵害に係る発信者情報」の範囲を安易に拡張解釈すべきではないが、本件
をこれと同列に論ずることはできない。
(3) 以上の枠組みに基づいて検討するに、上述したビットトレントネットワー
クの仕組み(上記第3の1(3)ウ)、本件調査会社による調査結果(同(4)イ)
に照らすと、本件におけるUNCHOKE通信は、本件複製ファイルを共有
するビットトレントネットワークに参加した本件各発信者において、その保
有するピースにつき送信可能化が完了し、引き続き自動公衆送信が可能\な状
態にあることを明らかにする通信にほかならない。そうすると、UNCHO
KE通信をもって特定された本件各通信に係る発信者情報は、「権利の侵害
に係る発信者情報」に該当するというべきである。
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2024.07. 3
令和5(ネ)10105 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和6年6月12日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
写真を自販機に使用した件について、トリミングされたので意に反する改変として、著作者人格権侵害で訴えました。控訴人(1審原告)は、使用料として800万受け取ってます。1審と同様、請求棄却です。
本件各写真(特に本件写真3)、5))が芸術作品と呼ぶにふさわしいもの
であることは、当裁判所も全面的に認めるものであり、その価値が損なわれ
るのは許せないとする控訴人の心情は理解できる。
しかし、当然ながら、被控訴人は、控訴人の芸術作品を紹介したくて本
件各写真の利用を申し出たのではなく、主役である本件たばこを引き立てる道具として本件各写真を利用しようとし、NDCを通じてその対価の支払を\n提案しているのである。そして、自動販売機で最も目に付きやすいガラス面
アイキャッチャー(販売商品の見本〔たばこパッケージ〕が並んでいる部分)
にたばこパッケージと同じ大きさになるようにトリミングした写真を使用す
るという本件各写真の利用方法は、本件販促活動の重要な柱となっていたの
であるから、仮に、控訴人がこのようなトリミングを許諾しないという意思
を明確にしていたとすれば、控訴人の写真作品を本件販促活動に利用すると
いう構想自体が白紙となり、800万円の許諾料の支払合意も合意解除されることが当然予\想されるところ、現実には、本件トリミング手法を使った写真の利用がされ、控訴人は許諾料800万円を受領しているのである。
さらに、控訴人がAから本件販促用写真が使用されている自動販売機の
写真の提供を受けて、自身の写真作品について意に反した改変があったと考
えるに至ったのは令和2年秋頃である(上記1(5)ウ)ところ、その時点ま
でに、控訴人とBらが本件販促活動の内容の打合せを行っていた平成16年
〜17年から15年以上もの年月が経過している。この間、本件各写真の利
用方法を巡る打合せの経過及び内容につき、控訴人の記憶が変容し又はあい
まいになっていたとしてもやむを得ないところである。十数年ぶりに本件販促用写真を見て、原作品とのギャップに強い違和感を抱いたという控訴人の\n心情に偽りはないとしても、これを「意に反した改変」が行われた根拠とす
ることが適切とはいえない。
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2024.06.16
令和4(ワ)2058 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年5月30日 大阪地方裁判所
特許権侵害が認定され、差止と約1890万円の損害賠償が認められました。尚、102条2項の覆滅分についての同3項の適用は否定されました。
(1) 特許法102条2項に基づく主張について
ア 限界利益額
被告は、少なくとも令和2年6月1日から令和5年6月末までの間、被告各製品
を販売し、この間の限界利益額(被告各製品の全体)は合計8557万2953円
(税込)である。(争いなし)
被告は、被告各製品における本件訂正発明2−1、同2−3及び本件発明3の実
施部分は一部であるから、損害額算定における限界利益額は、上記一部に相当する
限界利益額を基準とすべきであると主張するが、被告の指摘する事情は、推定覆滅
事由として考慮すべきであるから、上記主張は採用できない。
イ 推定覆滅事由
特許法102条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得
た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠ける
ことを主張立証した場合には、その限度で前記の推定は覆滅される。
(ア) 部分実施(本件特許2及び同3の寄与の程度等)
被告各製品は、外枠(床開口用枠体及び取付部材)、蓋セット、ビスセット、梱
包ケース、断熱材により構成されるところ、本件訂正発明2−1、同2−3及び本\n件発明3の実施部分は上記外枠のみである。(争いなし)
原告は、原告製品(高気密型床下点検口・収納庫)における本件訂正発明2−1、
同2−3及び本件発明3の実施部分の構成である「スライドコア」は、原告製品の\n使用において不可欠であり、容易かつ精度のよい施工を実現するといった重要かつ
優れた効果を有し、顧客誘引力の源泉となっているところ、「スライドコア」と強
い類似性を有する被告各製品の「外枠」も顧客誘引力の源泉となるから、上記部分
実施による推定覆滅は大きいものではない旨主張する。
確かに、原告製品のパンフレットには「スライドコア方式が簡単施工で高い気密
性を実現する」ことが記載されているが、他にも顧客を誘引するための特徴(例え
ば、耐荷重性に優れていること、蓋枠パッキンによる気密性の確保、肌に優しい樹
脂一体成形品であること、バリアフリープラン対応であることなど)を有すること
が記載されている(甲11の19)。また、被告各製品にも、外枠以外の構成にお\nいて、薄型化・軽量化設計であることやバリアフリー設計であること、抗菌仕様で
あることといった顧客の誘引に影響する特徴がある(甲4)。外枠に関する施工の
容易性や高い気密性は需要者が注目する特徴であると考えられるものの、他の特徴
と比較して特に重視される事項であるとまでは認めるに足りず、原告製品の「スラ
イドコア」ないしこれに相当する部材といえる被告各製品の外枠が、各々の製品に
おいて強い顧客誘引力を有していると評価することはできない。
そうすると、被告各製品における発明の実施部分が外枠のみであるとの点は、相
当程度の推定覆滅事由になると解するのが相当である。
(イ) 市場の同一性及び市場における競合品
被告各製品及び原告製品は、樹脂枠を備えた床下点検口・収納庫である。本件訂
正発明2−1、同2−3及び本件発明3の効果は、施工の容易性や気密性及び断熱
性の確保、ガタ付きの防止であるところ、被告各製品のカタログ(甲4)によれば、
被告各製品は、床開口寸法が606×606mm(外形寸法622×622。高さ
は67.5mm、182.5mm、463mmのものなど複数の型がある。)であ
り、施工が容易でバリアフリー設計であり、気密性及び断熱性等を訴求している。
また、原告製品のカタログ(甲11、12〔枝番を含む。〕)によれば、原告製品
は、床開口寸法が606×606mmのものなどであり(幅広サイズなど複数の型
がある。)、防腐高気密型、高耐久、高断熱、バリアフリー等を訴求している。
これらによれば、被告各製品及び原告製品の需要者は、各製品において、床下点
検口・収納庫の形状、性能や操作の容易性を重視するものと解されるから、被告各\n製品と同程度の形状、性能、機能\及び操作性を実現し、同種の用途に用いられる製
品は競合品に該当するというべきである。
被告が競合品であると主張する製品(甲14ないし18〔各枝番を含む。以下同
じ〕、乙32、33)のうち、少なくとも、Panasonic製の床下収納ユニ
ットの「高気密・高断熱住宅用」(甲14)と、DAIKEN製の「ホーム床点検
口」(甲15)は、被告各製品の寸法と同程度の型であるものがあり、性能や機能\、
操作性において同程度であるといえるから、被告各製品及び原告製品と性能、用途\n等において共通する競合品であると認められる(その余の製品については、形状や
訴求されている性能や機能\、操作性が一部被告各製品と合致するものの、同程度と
までは認められない。)。他方で、床下収納点検口・収納庫の市場における被告各
製品や原告製品の市場占有率が明らかではなく、また、上記競合品の販売価格と乙
第35号証から推知される被告各製品の販売価格との間には一定の差があることは
否定できない。
以上によれば、市場において上記競合品が存在することは推定覆滅事由となるが、
これをもって大幅な推定覆滅を認めることは相当ではない。
(ウ) 被告の営業努力
特許法102条2項の推定を覆滅する事由として認められる被告の営業努力とは、
通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力をいう。被告は、被告各製品の売上につ
いて被告の営業努力によるところが大きいと主張するが、これを認めるに足りる証
拠はないから、この点は覆滅事由として認めることはできない。
(エ) 推定覆滅の程度
被告は、上記のほかにも被告製品の機能や工夫をもって推定覆滅事由に該当する\nなどと主張するが、証拠がなく、当該主張を採用することはできない。
以上の検討した諸事情を総合考慮すると、部分実施であること及び一定数の競合
品が存在することによる推定覆滅が認められるところ、本件においては8割の限度
で損害額の推定が覆滅されると解するのが相当である。これに反する原告及び被告
の主張はいずれも採用できない。
(2) 特許法102条3項に基づく主張について
原告は、同条2項の推定覆滅が一部でも認められたとしても、推定覆滅の理由が
「特許発明が侵害品の部分のみに実施されている」という推定覆滅事由でない限り
は、当該推定覆滅部分については、同条3項を適用することができると主張する。
この点、同条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、特許権者
が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の
売上げの減少による逸失利益に相当するものであるのに対し、同項による推定の推
定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、
特許権者は、売上げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による
実施料相当額の損害を受けたものと評価できるから、同条3項の適用が否定される
ことにはならないと解される(知的財産高等裁判所令和2年 第10024号・令
和4年10月20日特別部判決参照)。
本件においては、上記競合品が存在することは同条2項による推定覆滅事由の一
つとなるが、当該推定覆滅部分について原告に実施許諾の機会があったと認めるに
足りる証拠はない。したがって、当該推定覆滅部分について、同条3項を適用する
ことはできないというべきである。
(3) 以上によれば、上記(1)アの限界利益額8557万2953円から8割の推
定覆滅がされた1711万4590円(税込)が、被告の被告各製品の販売による
原告の損害であると認められる。
また、本件の事案の内容、経過等にかんがみ、原告の弁護士費用及び弁理士費用
171万円は、被告の特許権侵害行為と相当因果関係がある原告の損害と認める。
したがって、原告の損害額は1882万4590円となる。
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2024.06.16
令和5(行ケ)10086 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年6月5日 知的財産高等裁判所
無効理由なし(進歩性、明確性等)とした審決が維持されました。
(2) 原告は、仮に相違点5が認められるとしても、周知技術1(皮膚に電気刺
激を与えるブラシ型の美容機器において、ブラシの櫛歯を肌の形状に合わせ
て屈曲できるようにすること)を考慮して相違点5に係る構成を採用するこ\nとは容易であると主張する。
ア しかし、甲1公報の「動作する際には、通常の髪をとかすように髪をと
かして、シリコンスリーブ9の底端が頭皮に接触すると、ばね8が圧縮
され、スライドスリーブ4がシリコンスリーブ9を収縮させ、シリコン
スリーブ9全体の底端が頭皮に接触し」([0023])の記載などか
ら明らかなように、甲1発明では、櫛としての通常の使用により櫛歯の
底端が頭皮に接触することで櫛歯がスムーズに伸縮することが前提とさ
れているところ、スライドスリーブ4を径方向に屈曲する構成とすると、\nスライドスリーブ4と電流ガイドロッド3及びストッパー5との間の抵
抗・摩擦の増大等により、スライドスリーブ4が電流ガイドロッド3に
沿ってスムーズにスライドすることを妨げることは明らかである。そう
すると、原告主張の周知技術1を甲1発明に適用することには阻害要因
があるというべきである。
イ これに対し、原告は、電流ガイドロッド3及びストッパー5の摺動(ス
ライド)とスライドスリーブ4及びシリコンスリーブ9が径方向に屈曲す
ることは両立する旨主張するが、根拠を欠くものといわざるを得ない。す
なわち、原告が挙げる甲2公報は、「電極41が配設された先端部40」
が上下左右に動くことが可能な「育毛剤導入装置」に係るものであり、軸\n方向に摺動する構成を有するものとは認められない(甲2)。\nまた、原告は、スライドスリーブ4が屈曲できない部材であればストッ
パー5と磁石6の位置を「固定」する必要がないと主張するが、本件審決
が認定する甲1発明のとおり「電流ガイドロッド3の底端にストッパー5
が固定して接続され」ていなければ、シリコンスリーブ9からなる櫛歯が
電流ガイドロッド3から抜けることになるし、製造時の手間を考慮しても
ストッパー5を電流ガイドロッド3に、磁石6をスライドスリーブ9に固
定する方が自然といえるから、スライドスリーブ4が屈曲することの根拠
にはならない。
原告は、その他、髪をとかす動きをする際や「頭部の曲率の変化に応じ
て、シリコンスリーブ9の底部が常に頭皮にフィットするように調整する」
([0022])ためには径方向に屈曲することが必要である等主張する
が、シリコンスリーブ9の屈曲により底部の放電孔が常に頭皮にフィット
するとは認め難いし、いずれにせよ甲1公報の記載に基づく主張ではなく、
上記アの認定を左右するものではない。
(3) したがって、本件発明1は、甲1発明及び原告主張の周知技術1に基づい
て当業者が容易に想到できるものではないから、本件発明1の発明特定事項
を全て含み、更に減縮したものである本件発明2〜10についても同様であ
って、本件審決の甲1発明に基づく進歩性の判断の誤りはなく、原告が主張
する取消事由2には理由がない。
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2024.06.11
令和3(ワ)22564等 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日 東京地方裁判所
原告は、マザーズへの上場を控えていましたが、被告は、原告の主幹事会社に対して、「被告特許を侵害するとして、原告を提訴しました。上場は慎重にすべき」という旨の通知書を送付しました。実際に提訴自体はしましたが、印紙を貼らずの提訴で、その後、提訴は取り下げています。\n
原告はかかる行為は、不正競争行為(不競法2条1項21号)に該当すると提訴しました。被告も反訴しています。 裁判所は、特許は無効だが、不正競争行為には該当しないと判断しました。
なお、サブコンピネーション発明の「〜のための」という文言も発明を限定するのかが問題となっています。
ウ 甲32発明の各構成が本件発明の構\成要件JないしNの構成にそれぞれ\n相当するかを検討する前提として、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電\n話との間で送受信するための」との記載の性質について検討する。
被告らは、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信す\nるための」との記載は、本件発明の受信装置の構造及び機能\を特定して
いるから、請求項1ないし4の解釈を踏まえて請求項5に係る本件発明
の構成を認定すべきであると主張するものと解される。\n
そこで検討すると、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の各記
載によれば、本件発明は、受信装置が、携帯電話との間で送受信するた
めのRFIDインターフェースを介して同携帯電話に対して個別情報の
発信要求をし、これに対し、同携帯電話が、要求された個別情報を送信
し、受信装置が、同携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報
であるか否かを判断し、受信した判断情報が前記要求した個別情報であ
ると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行うという、二つ
以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し、それに組み合わ
される受信装置の発明すなわちサブコンビネーション発明であって、本
件発明に係る特許請求の範囲の請求項5には、受信装置とは別の他の装
置すなわち他のサブコンビネーションである携帯電話に関する事項が記
載されているものと理解できる。
そして、サブコンビネーション発明においては、特許請求の範囲の請求
項中に記載された他の装置に関する事項が、形状、構造、構\成要素、組成、
作用、機能、性質、特性、行為又は動作、用途等の観点から当該請求項に\n係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握し、発明の技術的範囲
を画する必要があるところ、他の装置に関する事項が、当該他の装置のみ
を特定する事項であって、当該請求項に係る発明の構造、機能\等を何ら特
定していない場合には、他の装置に関する事項は当該請求項に係る発明を
特定するために意味を有しないことになるから,これを除外して当該請求
項に係る発明の要旨を認定することが相当であるといえる。
本件特許の特許請求の範囲において、構成要件Jの「RFIDインター\nフェースを有し、」との記載は、受信装置が「RFIDインターフェース
を有し」ていることを、構成要件Kの記載は、受信装置が「個別情報の発\n信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を有していることを、構成要\n件Lの記載は、受信装置が「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し
た個別情報であるか否かを判断する判断手段」を有していることを、構成\n要件Mの記載は、受信装置が「前記判断手段で受信した判断情報が、前記
要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理
を行う」ことを、それぞれ特定していると認められるのに対し、構成要件\nJの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するための」との記載は
上記の構造、機能\等を有する受信装置と送受信をする携帯電話の構造、機\n能等を請求項4記載の構\成に限定するものにすぎず、受信装置の構造、機\n能等自体を何ら特定していないから、「請求項4記載の携帯電話」との記\n載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認
めることはできない。
以上によれば、上記の「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するた
めの」を除外して請求項5に係る本件発明の要旨を認定することが相当で
あるというべきであって、被告らの上記主張を採用することはできない。
・・・
(2) 小括
以上によれば、本件発明は、甲32発明と同一の構成を有しているから、\n新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの
と認められ、被告モビリティは原告に対してその権利を行使することができ
ない(特許法104条の3第1項、123条1項2号、29条1項3号)。
3 争点1−3(被告らによる虚偽告知の内容)について
前提事実(5)オのとおり、本件通知行為は、原告が被告モビリティの特許権
を侵害しているとの原告の営業上の信用を害する事実を告知するものであると
ころ、前記2のとおり、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの
であり、原告が被告モビリティの特許権を侵害しているとの事実を通知した本
件通知行為は、不正競争防止法2条1項21号の「虚偽の事実を告知」するも
のといえる。
他方で、前提事実(5)オのとおり、本件通知行為により、被告モビリティは、
岡三証券に対し、被告モビリティが別件訴訟を提起した旨も通知したものであ
るが、実際に、本件通知行為の前日である令和3年6月23日、東京地方裁判
所に対し、別件訴訟を提起している以上(前提事実(5)エ)、別件訴訟について
の通知内容は、同条の「虚偽の事実を告知」したものとはいえない。
なお、被告らは、原告の前訴訟代理人であった弁護士Ci作成に係る令和3
年7月26日付け意見書について、文書提出命令を申し立てているところ(東\n京地方裁判所令和4年(モ)第264号)、本訴のいずれの争点との関係でも
取調べの必要性が認められるとはいえないから、上記申立てを却下する。\n4 争点2(被告らと原告との間の競争関係の有無)について
事業者間の公正な競争を確保するという不正競争防止法の目的(不正競争防
止法1条)に照らすと、同法2条1項21号の「競争関係」は、現実の市場に
おける競合が存在しなくとも、市場における競合が生じるおそれがあれば認め
られると解するのが相当である。
そして、前提事実(2)及び(3)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、決済
に利用される通信端末及びインターネットを利用した決済システムを開発して
販売していること、被告モビリティは、決済システムに利用され得る本件発明
に係る特許権を有し、同特許権について実施権を許諾してライセンス収入を得
ることを業としていることが認められ、被告モビリティ自身が決済端末の開発、
販売をしておらず、現実の市場における競合が存在しないとしても、市場にお
ける競合が生じるおそれはあるといえる。
3 争点1−3(被告らによる虚偽告知の内容)について
前提事実(5)オのとおり、本件通知行為は、原告が被告モビリティの特許権
を侵害しているとの原告の営業上の信用を害する事実を告知するものであると
ころ、前記2のとおり、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの
であり、原告が被告モビリティの特許権を侵害しているとの事実を通知した本
件通知行為は、不正競争防止法2条1項21号の「虚偽の事実を告知」するも
のといえる。
他方で、前提事実(5)オのとおり、本件通知行為により、被告モビリティは、
岡三証券に対し、被告モビリティが別件訴訟を提起した旨も通知したものであ
るが、実際に、本件通知行為の前日である令和3年6月23日、東京地方裁判
所に対し、別件訴訟を提起している以上(前提事実(5)エ)、別件訴訟について
の通知内容は、同条の「虚偽の事実を告知」したものとはいえない。
(2) 不正競争行為に係る過失について
本件全証拠によっても、被告らにおいて本件通知行為時までに本件特許が
無効となることを具体的に認識し得たことを基礎付ける事情は認められない。
他方で、前提事実(5)のとおり、被告モビリティは、原告がマザーズ市場に
上場する約2週間前に、岡三証券に対して本件通知行為をしたものであると
ころ、同時点においては、原告から本件特許が無効である旨の主張は一切さ
れておらず、原告が初めて具体的な引用例を示した上で本件特許の新規性又
は進歩性欠如の主張をするに至ったのは、本件訴訟係属中に前訴訟代理人弁
護士らを解任して現在の訴訟代理人弁護士に本件を委任した後であった。以
上の事情に加え、一般に、特許権は特許庁においていったん特許要件ありと
して特許査定を受けた権利であることを考慮すると、本件通知行為時点にお
いて、被告らに本件特許の無効理由を調査する義務まで負わせることが相当
であるとはいい難い。したがって、被告らに不正競争行為につき過失があるとの原告の主張は理由がない。
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2024.06. 9
令和1(ワ)30628等 損害賠償請求本訴・損害賠償請求反訴 著作権 民事訴訟 令和6年3月28日 東京地方裁判所
絵柄が付されたタオルについて、著作権侵害なしと判断されました。被告は元原告のライセンシーでした。
(1) 著作物性の有無(争点1−1)
著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、\n美術又は音楽の範囲に属するものであり(著作権法2条1項1号)、美術の
著作物には、美術工芸品が含まれる(同条2項)。そして、美術工芸品以外
の実用目的の美術量産品であっても、実用目的に係る機能と分離して、それ\n自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合には、美術の範
囲に属するものを創作的に表現したものとして、著作物に該当すると解する\nのが相当である。
これを本件についてみると、被告商品は、原告A制作に係る本件絵柄をタ
オルに付して商品化した上、量産されたものであるから、美術工芸品以外の
実用目的の美術量産品であるといえる。そして、被告商品は、先に制作され
た本件絵柄を利用し製作されたタオル商品であるから、被告商品のうち本件
絵柄と共通しその実質を同じくする部分(本件絵柄部分)は、何ら新たな創
作的要素を含むものではなく、本件絵柄とは別個の著作物として保護すべき
理由がない。
このような観点から、被告商品のうち、本件絵柄部分を除き、新たに付与
された部分(本件タオル部分)の創作性の存否につき検討するに、被告商品
は、本件タオル部分において、凹凸、陰影、配色、色合い、風合い、織り方
その他の特徴があったとしても、凹凸、陰影、配色、色合いなどは、本件絵
柄と共通しその実質を同じくする部分であると認めるのが相当であり、また、
風合い、織り方などは、タオルとしての実用目的に係る機能と密接不可分に\n関連する部分であるから、当該機能と分離してそれ自体独立して美術鑑賞の\n対象となる創作性を備えているものとはいえない。
そうすると、被告商品において、美的鑑賞の対象となるのは、飽くまで原
告A制作に係る美術的価値の高い本件絵柄部分であると認めるのが相当であ
り、被告一広の製作に係る本件タオル部分には、タオルとしての実用目的に
係る機能と分離して、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備え\nているものと認めることはできない。
のみならず、仮に被告一広の製作に係る本件タオル部分に著作物性が認め
られるという立場を採用したとしても、本件タオル部分は、原告らの主張を
前提としても、第三者にとって著作権侵害を構成する範囲が明らかになる程\n度に、被告商品ごとに個別具体的に明確に特定されているものとはいえず、
表現、創作活動等の自由の保障という観点からしても、本件タオル部分につ\nいては、そもそも新たに付与されたとされる創作的部分の特定を欠くものと
して、著作物性を認めるための前提を欠く。加えて、原告会社が本件絵柄の
使用を許諾した基本契約の内容をみても、1条5項によれば、被告一広にお
いて許諾された本件絵柄の使用は、著作物を構成するタイトル名、サブタイ\nトル名、登場キャラクター、コレクションの名称、形状、シンボル、ストー
リー、プロット等を、許諾商品の使用価値を高めるために捺染、印刷、彫塑、
撮影その他の技法を用いて、許諾商品に具現化することをいうと規定されて
いるのであるから、上記基本契約に係るその他の条項違反を主張するのは格
別、原告会社は、被告タオル美術館及び被告一広に対し、本件絵柄を複製及
び翻案してタオルとして商品化し、これを製造販売することにつき許諾した
ものと解するのが相当である。したがって、仮に被告商品において新たに付
与された創作的部分を認める立場を採用し、かつ、仮に原告会社が当該創作
的部分を表現したという立場を採用したとしても、原告会社は、そもそも基\n本契約において、被告一広に対し当該創作的部分に係る著作物の使用を許諾
していたものと認めるのが相当である。
以上によれば、本件タオル部分に著作物性を認めることはできず、本件タ
オル部分に係る著作権侵害に基づく原告らの請求は、いずれも理由がない。
(2) 著作者該当性(争点1−2)
仮に、本件絵柄部分を除いた本件タオル部分に著作物性を認める立場を採
用したとしても、証拠(甲7、甲33の2ないし5、甲35の2、3、甲3
8の2、3、甲40の2、3、乙6、乙27、乙113)及び弁論の全趣旨
によれば、原告Aは、配色指示書、配色指示図案等により、配色や糸、織り
方等を指示していることまでは認められるものの、具体的な糸の番手や本数、
密度、織り上がりの重量等を決定し、現実に被告商品のタオルを製作したの
は、タオルの製造に関する専門的技術を有する被告一広であることが認めら
れる。
そうすると、仮に本件タオル部分自体における上記工夫に創作性が認めら
れる立場を採用したとしても、原告Aの上記指示等はアイデアの域を超える
ものとはいえず、美的鑑賞の対象となる創作性を表現した著作者は、被告一\n広であると認めるのが相当である。
したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。
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2024.06. 9
令和4(行ケ)10057等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年4月25日 知的財産高等裁判所
サポート要件違反・実施可能性違反(36条6項1号、同4項))の無効理由なしとした審決が維持されました。
ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲
の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、
発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆によ
り当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、ま
た、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題
を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するものと解す
るのが相当である。
本件明細書における本件各発明の課題及び解決手段は、前記2(2)のとおりであ
る。ここで、前記2(2)のとおり、本件パラメータは、直線近似式であるところ、そ
の統計的な性質上、予測値にすぎないものであることは、当業者の技術常識の範ちゅ\nうであるといえる。
かかる技術常識に照らして、当業者は、本件パラメータが規定する関係を満たす
場合には、1.09≦y/x≦1.21の数値範囲において85%から90%程度
の輝度均斉度が、1.21≦y/x≦1.49の数値範囲において90%から95%
程度の輝度均斉度が、1.49≦y/xの数値範囲において95%程度の輝度均斉
度がおおよそ得られることが期待できることが本件明細書に記載されていると理解
するものであるといえる。
また、輝度均斉度が、おおむね85%程度を超えていると、粒々感は、解消でき
ることも周知の技術であるといえる(甲10【0001】【0024】【0074】)。
そうすると、本件明細書に接した当業者は、上記技術常識も踏まえて、本件パラ
メータが1.09<y/xであれば、粒々感を抑制するという課題を解決できると
認識するものである。
他方、本件訂正後の特許請求の範囲に特定された本件各発明における本件パラ
メータについてみると、1.09<y/xの範囲で、y/xの下限や上限を適宜特
定し、さらには、x値(請求項5〜8)の範囲を特定するものであるから、本件訂
正後の特許請求の範囲に記載された発明は、輝度均斉度がおおよそ85%以上とな
る範囲を特定するものであることを理解できる。
以上を踏まえて、本件訂正後の特許請求の範囲の記載と本件明細書の記載とを対
比すると、同特許請求の範囲に記載された本件各発明が、本件明細書に記載された
発明であって、発明の詳細な説明の記載により、当業者は、同特許請求の範囲に特
定された全数値範囲で、粒々感を抑制するという課題を解決できると認識できる範
囲のものであるといえるから、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法36
条6項1号のサポート要件を満たすものであるといえる。
イ この点、原告は、本件明細書の実験結果【図7A】には、y=1.09xの
段階で輝度均斉度が85%に達していない試料(上段から10番目及び13番目)
が記載されていること等から、実験結果から当業者が課題を解決できると認識でき
ないなどと主張するが、前記2(2)オのとおり、当業者は、直線近似式と実測データ
には残差が存在するという出願時の技術常識を踏まえて、本件各発明を理解すると
ころ、原告が指摘する試料番号10、13等についても、このような技術常識を踏
まえて、おおよそ所望の輝度均斉度が得られ、本件各発明の課題を解決できると理
解できるものである。よって、原告の上記主張には理由がない。
したがって、サポート要件に違反しないとした本件審決の判断に誤りはない。
(2) 実施可能要件について\n
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから
(特許法2条3項1号)、物の発明について実施可能要件を充足するか否かについ\nては、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づい
て、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程
度の記載があるかどうかで判断するのが相当である。
前記2(2)オのとおり、本件パラメータは、直線近似式であって、発光中心間隔x
と半値幅yが、本件パラメータの数式の範囲内にあれば、おおよそ所望の輝度均斉
度が得られるとしたものである。
ここで、粒々感を解消した直管形LEDを得ることは、本願出願前に周知の技術
的課題であるし(甲1の3、甲47、甲52)、この課題を解決して粒々感を抑制す
るためには、輝度均斉度がおおよそ85%程度以上であればよいことは技術常識で
ある(甲10)。
さらに、直管形LEDにおいて、LED素子を選定し、コストの関係でLEDの
個数を適宜決定し(x値を変えること)、その上で、拡散カバーを適宜選択すること
(y値を変えること)で、粒々感を解消することが、本件特許の出願当時の技術常
識であったこと、また、x値やy値の計測やy/x値の計算(【0080】)も格別
困難なものではないことに照らすと、当業者は、本件明細書等の記載及び技術常識
に基づいて、過度の試行錯誤を経ることなく、使用するLED素子、拡散部材、又
は素子と拡散部材の距離などにつき、粒々感を抑制し得るような組合せを適宜選択
して、本件各発明に係る本件パラメータを充足するy値及びx値を備えるランプを
実施することができるというべきである。
この点、原告は、過度な試行錯誤を経なくては、発明の課題とする所望の輝度均
斉度を得ると当業者が理解できないと主張するが、上記判断に照らし、原告の主張
は採用できない。したがって、実施可能要件に違反しないとした本件審決の判断に誤りはない。\n
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2024.06. 9
令和5(行ケ)10101 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年4月25日 知的財産高等裁判所
実施可能性違反(36条4項)の無効理由なしとした審決が維持されました。
上記記載によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、「ユーザー4は、
アプリケーション[B]10を用いて、要鑑定製品1に付与された秘密鍵α1、
およびギャランティカード2に付与された秘密鍵β1を使用して、専用プラッ
トフォーム8のブロックチェーンデータ8bに書き込まれた、要鑑定製品1
の製品情報および取引情報を読み込むことができ」ることが記載されている。
また、上記1のとおりの、「要鑑定製品1およびギャランティカード2を所
有する真のユーザーだけが、信頼性の高い鑑定証明を簡単に行うことができ
る」との本件各発明の奏する効果を考慮すると、本件明細書の発明の詳細な
説明には、「ユーザー4が要鑑定製品1およびギャランティカード2を所有す
る真のユーザーであるという認証を行った後に、認証されたユーザー4だけ
が、専用プラットフォーム8のブロックチェーンデータ8bに書き込まれた、
要鑑定製品1の製品情報および取引情報を読み込むことができ」ることも記
載されているといえる。
(3) 本件特許の出願時の技術常識
本件特許の出願時における技術常識を示す文献である甲2(新版暗号技術
入門 秘密の国のアリス、2012年〔平成24年〕7月25日第7刷発行)
には、「公開鍵信号・・・では、『暗号化の鍵』と『復号化の鍵』を分けます。
送信者は『暗号化の鍵』を使ってメッセージを暗号化し、受信者は『復号化
の鍵』を使って暗号文を復号化します。」、「『復号化の鍵』は・・・あなだだ
けが使うものなのです。ですから、この鍵をプライベート鍵・・・と呼びま
す。」「公開鍵で暗号化した暗号文は、その公開鍵とペアになっているプライ
ベート鍵でなければ復号化できません。」、「デジタル署名では、署名の作成と
検証とで異なる鍵を使います。署名を作成できるのはプライベート鍵を持っ
ている本人だけですが、署名の検証は公開鍵を使いますので、誰でも署名の
検証を行えます」との記載があり、甲1、3、乙2ないし4にもこれと同旨
の記載がある。
そうすると、本件各発明の属する暗号技術分野において、秘密鍵で暗号化
し、その秘密鍵と対の関係にある公開鍵で復号化することにより、本人認証
を行う公開鍵暗号方式によるデジタル署名技術は、本件特許の出願当時の技
術常識であったことが認められる。
(4) 判断
そうすると、上記(2)の本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業
者は、上記(3)の出願当時の技術常識に基づくと、要鑑定製品1に付与された
秘密鍵α1及びギャランティカード2に付与された秘密鍵β1は、それらと対
の関係にある公開鍵と共に、ユーザー4が要鑑定製品1及びギャランティカ
ード2を所有する真のユーザーであるという本人認証に使用されることが自
然であると理解できるから、本件明細書の発明の詳細な説明には、アプリケ
ーション[B]10を用いる許可を得るための本人照合の手段として、要鑑
定製品1に付与された秘密鍵α1及びギャランティカード2に付与された秘
密鍵β1で暗号化し、秘密鍵α1及び秘密鍵β1と対の関係にある公開鍵で復号
化することで本人認証を行うデジタル署名技術により、ユーザー4が要鑑定
製品1及びギャランティカード2を所有する真のユーザーであるという認証
がなされ、認証されたユーザー4だけが、専用プラットフォーム8のブロッ
クチェーンデータ8bに書き込まれた、要鑑定製品1の製品情報および取引
情報を読み込むことができることが記載されていると理解できる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が、本件明細書
の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、
過度の試行錯誤を要することなく、構成要件E、Fを含む本件発明1の鑑定\n証明システムを製造し、使用することができる程度に、明確かつ十分に記載\nされているものと認められる。
よって、本件発明1について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は実
施可能要件を満たしているといえ、本件発明2ないし7についても同様に解\nされる。
したがって、原告の主張する取消事由1は理由がない。
(5) 原告の主張に対する判断
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)のとおり、本件明細書の発明の
詳細な説明には、構成要件E及びFを具現すべき機能\等について記載され
ておらず、不明瞭であり、出願時の技術常識に基づいてもその具現すべき
機能等を当業者が理解できないから実施可能\要件を欠く旨を主張する。
しかし、上記(2)ないし(4)で検討したとおり、本件明細書の発明の詳細な
説明の記載は、当業者において、技術常識に基づいて過度の試行錯誤を要
することなく特許請求の範囲に記載された本件各発明を実施できる程度
に明確かつ十分に記載されているものと認められる。\nしたがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)のとおり、本件審決の挙げる「例」
は誤りであり、秘密鍵を有するユーザーにパスワードが設定された適切な
アプリケーションをダウンロードにより入手させることもできないから、
「例」について実施可能要件違反がある旨を主張する。\nしかし、本件審決は、「例」につき、ユーザーが要鑑定製品1及びギャラ
ンティカード2を所有する真のユーザーであるという認証について実施
可能であることを示す例として示したにすぎず、仮にこの「例」が誤りで\nあったとしても、直ちに本件審決の結論に誤りがあることにはならないか
ら、原告の主張は前提を欠くものである。
また、本件明細書の段落【0023】には、「要鑑定製品1の小型記録媒
体(a1)1aに記録された秘密鍵α1、製品情報を含む情報、および、ギ
ャランティカード2の小型記録媒体(b)2aに記録された秘密鍵β1、製
品情報を含む情報の読み取りは、図2に示すように、パーソナルコンピュ\nータ5−1のリーダー5−2や、スマートフォン6−1を接触させて行う
こともできるし、NFC(NearField Communicati
on)、RFID(Radio Frequency IDenticif
ier)等の近距離無線通信により非接触で行うこともできる。」との記載
があり、要鑑定製品1の小型記録媒体(a1)1a又はギャランティカード
2の小型記録媒体(b)2aから、秘密鍵α1及び秘密鍵β1のほかに、製
品情報も読み取られているから、この記載に接した当業者であれば、秘密
鍵α1及び秘密鍵β1ではなく、製品情報に基づいてアプリケーション[B]
がダウンロードされると考えることも自然であるということができる。
る。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(3)のとおり、仮に、本件審決が想
定する上記「例」が実施可能であるとしても、本件発明1に含まれる当該\n「例」以外の部分について、本件明細書の発明の詳細な説明には記載され
ておらず、暗号化/復号化をすることが、「アプリケーション[B]」、「読
み込み」及び「鑑定証明を行う」等とどのような関係にあるのかも不明で
あり実施可能要件違反がある旨を主張する。\nしかし、上記(2)ないし(4)で検討したとおりであり、本件明細書の発明の
詳細な説明の記載は、当業者において、技術常識に基づいて過度の試行錯
誤を要することなく特許請求の範囲に記載された本件各発明を実施でき
る程度に明確かつ十分に記載されているものと認められる。\nしたがって、原告の上記主張は採用することができない。
3 取消事由2(実施可能要件の判断の論理構\成の誤り)について
原告は、取消事由2として、本件審決の論理構成は、本件明細書とは別の書\n面である本件特許請求の範囲が理解できるとの判断に依拠する誤ったもので
あり、実施可能要件の判断に当たって、本件審決の論理構\成には誤りがある旨
を主張する。
しかし、本件審決は、「第6 当審の判断」として、本件明細書の発明の詳
細な説明の記載を摘記した上で、本件各発明の技術的意義を明らかにし(第6
の1(1)及び(2))、第6の2において、「物の発明について実施可能要件を満たす\nためには、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者において、その記載及
び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明
に係る物を作り、使用することができる程度のものでなければならない。そこ
で、以下、これを前提に判断する。」(本件審決13頁4行目ないし同頁8行目)
との判断の基礎を示した上で、本件各発明の構成要件と本件明細書の発明の詳\n細な説明の記載の対応関係を検討し(第6の2(1))、続く第6の2(2)イにおい
て、「上記(1)アのとおり、本件発明1の構成要件Eと対応する本件明細書の発\n明の詳細な説明の記載は、【0021】、【0022】及び【0036】である。」
(本件審決14頁12行目ないし同頁14行目)、「そうすると、構成要件Eに\n対応する本件明細書の発明の詳細な説明の上記【0021】、【0022】及び
【0036】は、当業者であれば、明確かつ十分に理解し得るものである。」\n(本件審決15頁9行目ないし同頁11行目)とし、これを基に、同第6の2
(2)ウにおいて、「以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者
において、本件発明1に係る物を作り、使用することができる程度に、明確か
つ十分な記載があるから、本件発明1について、本件明細書の発明の詳細な説\n明は、実施可能要件を満たしている。」(本件審決15頁13行目ないし同頁1\n6行目)との結論を示したものである。そうすると、本件審決は、本件明細書
の発明の詳細な説明(特に、段落【0021】、【0022】及び【0036】)
の記載に基づき、実施可能要件を満たす旨を判断する構\成を取っているもので
ある。そして、上記2の検討結果によれば、その判断の内容に誤りはなく、本
件審決の実施可能要件の判断の論理構\成に誤りはない。
したがって、原告の主張する取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(実施可能要件の判断の理由不備(理由不存在)・審理不尽)につ\nいて
原告は、取消事由3として、本件審決には、結論のみがあってそれに対応す
る理由が存在しないから、理由不備(理由不存在)、審理不尽又は判断遺脱など
の手続上の瑕疵が存在し、本件審決は取り消されるべきである旨を主張する。
しかし、上記2のとおり、本件審決には、結論に至る過程において、対応する
理由が記載されており、本件審決には、理由不備(理由不存在)、審理不尽及び
判断遺脱の違法は存せず、上記2、3によれば、その理由付けにも誤りはない。
したがって、原告の主張する取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(本件発明1の認定・解釈の誤り)についいて
原告は、取消事由4として、本件発明1の構成要件Eについて、特許請求の\n範囲の記載の文言に従って解釈すれば足り、それ以上に限定して解釈したり、
特許請求の範囲に記載されていない事項を導入して解釈したりすることは許さ
れないから、本件審決の本件発明1の認定・解釈は誤りである旨主張する。
原告の主張するところの本件審決における本件発明1の認定・解釈の誤りが、
本件審決を直ちに違法とするものであるかについて明確ではないものの、被告
が主張するとおり、本件発明1の実施可能要件を判断するに当たり、本件発明\n1に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することは、法70
条1項・2項の規定に基づき当然に行われるべきことであり、原告の主張は前
提を欠くものである。そして、前記2ないし4のとおり、本件審決の判断に技
術常識に反する点もなく誤りはない。
したがって、原告の主張する取消事由4は理由がない
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2024.06. 9
令和5(行ケ)10002 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年4月25日 知的財産高等裁判所
審決は無効理由無しと判断しましたが、知財高裁は本件発明の認定誤りがあるとして、これを取り消しました。
ア 本件発明1について
まず、本件発明1の要旨認定につき当事者間に争いがあるため、以下検討する。
(ア) 本件発明1の特許請求の範囲の記載によると、「取付部材」は、構成要件B\n「前記LED基板が取り付けられる取付部材と」、構成要件C「拡散性を有し且つ前\n記LED基板を覆うようにして前記取付部材に取り付けられるカバー部材とを備え
た」、構成要件E「前記カバー部材は、前記取付部材に取り付けられる一対の突壁部\nと」、構成要件F「を有し」、構\成要件I「前記取付部材は、前記複数のLEDが前
記収容凹部の外側を向くようにして前記LED基板を前記器具本体に取り付けるた
めの部材であり」と特定されているところ、「取付(け)」とは、「1)機器・器具など
をとりつけること。装置すること。」(広辞苑第六版)を意味する名詞であるから、
「取付部材」とは、機器・器具などをとりつけること、装置することに関わる部材
であると理解できる。
また、「取り付ける」とは、「1)機器などを一定の場所に設置したり他の物に装置
したりする。」(広辞苑第六版)を意味する動詞であり、構成要件Bにおいて、「られ\nる」という受け身を表す文言とともに用いられているから、構\成要件Bにより、「取
付部材」は、LED基板が装置される対象物であると理解できる。
さらに、構成要件Cにおいて、「取付部材」は、LED基板を覆うようにしてカバー\n部材が取り付けられる対象物であることが特定されており、そのための構成として、\n構成要件E及び構\成要件Fによると、カバー部材が一対の突壁部を有することが特
定されている。そして、「にして」とは状態を表すものであり、「ため」とは「目的」を意味するものである(広辞苑第六版)から、構\成要件Iによると、「取付部材」は、複数のLEDが収容凹部の外側を向いた状態でLED基板を器具本体に取り付ける
ことを目的とした部材であることが特定されていると理解できる。
以上によると、本件発明1の各構成要件の特定事項から、本件発明1の「取付部\n材」は、カバー部材が装置されて一体となること、及び、LED基板が取り付けら
れ、それが収容凹部の外側を向く状態で器具本体に取り付けることを目的とした部
材であると認められる。
他方、本件発明1では、カバー部材を取付部材に取り付けるための手段として、
カバー部材が一対の突壁部を有することが特定されている(構成要件E)ものの、\n「取付部材」を器具本体に取り付けるための具体的な構成、例えば、ボルトやフッ\nクなどの構成についての特定はされていないものといえる。\n
そうすると、本件発明1では、「取付部材」を器具本体に取り付けるための具体的
な構成の特定がない以上、当業者は、「取付部材」を器具本体に取り付けるための構\
成として、技術水準を踏まえて任意のものを採用し得るものと解される。例えば、
本件出願日前に公開された甲2の図13の「係止部材4」、甲202(実用新案登録
第3126166号公報)の「取付部材4」、甲204(特開2012−18598
1号公報)の「係止部材40」及び「係止穴84」、甲205(ワイドキャッツアイ
器具ERK8775W/WEHP108Mに係る報告書)の「キックバネ3」、乙1
の「取付ばね18」及び「取付金具13」(乙2、3も同様)の取付部材と器具本体
の間に係止又は嵌合させる手段を介在させる構成を含め、カバー部材を介在するよ\nうな態様を排除するものではないと解することができる。
(イ) もっとも、特許請求の範囲の記載の意味内容が、本件明細書において、通常
の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれば、異なる解釈をする余
地があるため、以下検討する。
この点、本件明細書によると、「取付部材」については、従来技術の説明(【00
03】)、課題を解決するための手段(【0007】、【0008】、【0012】)、実施形態(【0021】、【0024】〜【0028】、【0030】、【0032】〜【0035】、【0037】、【0044】、【0046】、【0047】、【0051】など)に、それぞれ記載があるが、いずれの記載によっても、前記(ア)の特許請求の範囲の記載の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されているものとはいえない。
ここで、更に本件明細書の実施例についてみると、取付部材について以下のよう
に説明されている。図1に係る実施形態における取付部材21は、複数のLED基板22が取り付けられ、LED基板22を覆うようにしてカバー部材23が取り付けられること(【0021】)、板金に曲げ加工を施すことで形成され、所定の形状、穴、LED基板を取り付けるための係止爪(図示せず)を有すること(【0024】〜【0026】)、電源装置24や端子台ブロック25を取付部材21に取り付けるための構成を有す\nること(【0030】、【0032】〜【0035】)、さらに、例示として、器具本体1と取付部材21にそれぞれ設けた嵌合構造(図示せず)により光源ユニット2を\n器具本体に取り付ける(【0037】)ものである。
また、図5に係る実施形態の別の例における取付部材21は、器具本体として構\n成された反射板5及び取付部材にそれぞれ設けた嵌合構造(図示せず)により光源\nユニット2を反射板5(器具本体)に取り付ける(【0044】)ものである。
このように実施形態では、図示はないものの取付部材21と器具本体には嵌合構\n造が設けられていることが理解でき、「嵌合」とは、「〔機〕軸が穴にかたくはまり合ったり、滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語」(甲201)である
から、取付部材21と器具本体とは、はまり合うための構造を有し、これにより取\nり付けられることが記載されているものと理解できる。もっとも、かかる実施形態
における取付部材21と器具本体が、はまり合うための具体的な構造については図\n示されておらず、何ら具体的な構造が開示されていないことに照らすと、実施形態\nにおいて取付部材21と器具本体との間にカバー部材を介する態様も包含している
といえる。
(ウ) 被告は、本件発明における「取付部材」は、特許請求の範囲の文言上、直接
器具本体にLED基板を取り付ける部材として特定されており、この点に関する本
件審決の認定に何ら誤りはないと主張するが、上記(ア)のとおり、かかる主張は首肯
できない。
また、被告は、実施形態において開示されているのは、カバー部材を介すること
なく、取付部材と器具本体に設けられた嵌合構造により両者が取り付けられている\n構造のみであって、カバー部材を介する構\造は存在しないとも主張するが、上記(イ)
のとおり、かかる実施形態における取付部材21と器具本体が、はまり合うための
具体的な構造については図示されておらず、何ら具体的な構\造が開示されていない
ことに照らすと、実施形態において取付部材21と器具本体との間にカバー部材を
介する態様も包含しているといえるから、被告の上記主張も採用できない。
・・・
(ア) 本件審決は、相違点1−1−3(1)として、「LED基板を器具本体に取り付
けるための部材について、本件発明1では、これが「取付部材」であるのに対して、
甲3−1発明では、これが「蓋部3」であって、絶縁板13は基板10をこの蓋部
3に取り付ける部材である点。」を認定しているところ、原告はこの相違点の認定を
争っていることから、以下検討する。
(イ) 相違点1−1−3(1)について
本件審決は、本件発明1と甲3―1発明との対比において「後者の「絶縁板13」\nと前者の「取付部材」とは「部材」において共通する。」としながらも(本件審決8
3頁末から2行目〜末行)、相違点1―1―\3(1)の判断において「甲3−1発明で
は、「絶縁板13」は、基板10を蓋部3に取り付けるためのものであって、器具本
体に取り付けるための部材(取り付ける機能を有する部材)は「蓋部3」である。」\n(同86頁4〜7行目)と認定・判断しており、本件発明1では、「器具本体」と「取
付部材」との間に取り付けに資する構造が介在することが排除されていることを前\n提としている。
しかしながら、前記(1)の本件発明1の要旨認定のとおり、「器具本体」と「取付
部材」との間に取り付けに資する構造が介在することを含むものであってこれが排\n除されていると解することはできない。
以上を前提とすると、本件発明1は、甲3−1発明のように「絶縁板13」と「取
付ベース1」との間に「蓋部3」が介在する取付構造を排除するものではないし、\n甲3−1発明の「絶縁板13」には、LED2を配設した基板10が配設されてい
るのであるから、「絶縁板13」が存在しなければ、LED2は「取付ベース1」に
配設することができないことに照らしても、「絶縁板13」は、「LED基板を器具
本体に取り付けるための部材」に相当するものと認められる。
そうすると、本件発明1と甲3−1発明と対比において、相違点1−1−3(1)は、
相違点とはいえない。
(ウ) 相違点2−1−3(1)について
次に、カバー部材に関して、本件発明1では、「拡散性を有」するのに対して、甲
3−1発明では、「アクリル樹脂やガラス等の透明な絶縁材料からできて」いるもの
の、拡散性を有するか否かは不明であるとの相違点2−1−3(1)についてみると、
LED照明器具のカバー部材が拡散性を備えることは周知技術であり(甲1[00
32]、甲2【0022】、甲6)、甲3−1発明において、適宜採用して相違点2−
1−3(1)に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることで\nある。
(エ) 小括
そうすると、本件発明1は、甲3−1発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものと認められるから、本件審決は、進歩性の判断において、結論に
影響を及ぼす誤りがあったものといえる。
987/092987
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2024.06. 9
令和3(ワ)15964 特許権 民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日 東京地方裁判所
本件発明の作用から、被告製品は本件特許の技術的範囲に属しないと判断されました。
3 被告ダンパは、「入力」を受けるものであるか(構成要件G)(争点1−1)\nについて
ア 本件発明1の構成要件G、Hは、「前記剪断部は、入力により荷重を受けた\nときに、変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とする弾塑性履歴型ダン
パ」というものであり、本件発明1の対象となる「弾塑性履歴ダンパ」につ
いて「剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収
を行うことを特徴とする」ものであるとされている。したがって、本件発明
1のダンパは、上記に記載された特徴を有するダンパであるところ、その「入
力」がどのようなものであるかについて、本件発明1の特許請求の範囲では
何ら定められていない。
イ ここで、前記1 で説示したとおり、本件各発明は、上部構造物、下部構\
造物に分離できる橋梁等の建築物において、地震のときに、その接続部にお
いて橋軸方向に限らず、複数方向の水平力がかかってしまうところ、同接続
部においては、I字形ダンパでは単一方向の入力にしか対応できないという
課題について、同課題を解決するために、複数の剪断面を持ち、かつ、その
向きが異なるダンパを適用するというものであり、本件各発明は、そのよう
なダンパが本件各発明の構成をとることによって、剪断部が、入力により荷\n重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うというものである。
本件明細書に記載された本件各発明の課題は、上記のとおりであり、従来
から知られていた剪断パネル型ダンパである単純なI字形ダンパに対して
単一方向からの入力しか想定されない場面においては、本件各発明における
解決すべき課題は存在しない。単一方向からの入力でなく複数方向からの入
力が想定される場合に、本件各発明が解決すべき課題が存在することとなる。
そして、本件明細書には、前記1 に記載のとおりの本件各発明の意義が記
載されているほか、本件明細書に記載された実施例は、全て、複数方向から
の入力が問題となり、そのような複数方向からの入力に対し、本件発明1の
構成をとることによって対応することができるものであると認められる。本\n件明細書のその他の部分にも、単一方向からの入力に対応することに関する
記載はない。これらの本件明細書の記載及び構成要件G、Hの記載から、本\n件発明1に係るダンパは、ダンパに対して複数方向からの入力が想定される
構造物等の部位に用いられ、ダンパの剪断部に対して複数方向からの入力が\nあり、これに対して対応することができるダンパであると解するのが相当で
ある。
ウ 以上によれば、本件各発明におけるダンパは、その剪断部に複数方向から
の入力があり、その剪断部がそれに対する入力により荷重を受けたときに、
変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするもの(構成要件G、H)で\nあると解するのが相当であり、構成要件Gに係る「入力」は、「複数方向か\nらの入力」を意味し、本件各発明のダンパは、ダンパに対して複数方向から
の入力があることを前提として、その剪断部が複数方向からの入力により荷
重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするダンパ
であると認められる。
被告ダンパについて検討すると、本件において、原告は、被告ダンパ単体の
譲渡等を問題にするのではなく、被告ダンパが住宅である被告製品に用いられ
て、そのような被告製品が販売されていることを特許発明の実施として、被告
製品の販売額を基礎として実施料率相当額の損害を請求する。
被告は、6種の被告ダンパを4種の耐力パネルのいずれかに組み込み、これ
を住宅である被告製品の部材として用いている(前提事実 )。被告ダンパは各
平行板部及び各ウェブ部の一端又は両端が耐力パネルに溶接されているので
あって、耐力パネルから取り外して使用されることはおよそ想定されておらず、
各耐力パネルも、建物の水平方向に延びる梁や土台等にはさまれるように固定
されて設置されており、住宅販売後に耐力パネルのみを取り外して別の用途に
使用するということはおよそ想定されていない(前提事実 )。すなわち、被告
ダンパは、耐力パネルに物理的にも溶接され、取り外されることはおよそ想定
されず、耐力パネルと不可分一体となっているものといえる。
そうすると、本件において問題となる被告の行為は、被告ダンパが不可分一
体の一部となった被告製品の製造、販売等であって、被告ダンパが組み込まれ
た被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか否かが問題になるというべ
きである。
なお、被告は、Σ型の形状の鋼材である被告ダンパを作成し、これを他の部
材に組み込むことで耐力パネルを製造していることがうかがえる。もっとも被
告ダンパ単体には「一対のプレート」は接続されておらず、耐力パネルに組み
込まれることによって初めて、「一対のプレート」の具備が問題になるのである
から、耐力パネルに組み込まれる前の被告ダンパ自体が本件発明1の技術的範
囲に入ることはないと解される。
被告製品に組み込まれ、被告製品と不可分一体となった被告ダンパに対して
加わる力について検討する。
ア 被告ダンパはいずれも4種類の耐力パネルのいずれかに組み込まれてい
るところ、耐力パネルは、その構造上、耐力パネルが接続している梁の方向\nの力(耐力パネルが平行四辺形に変更する方向の力)が加わると、いずれの
耐力パネルについても、被告ダンパに鉛直方向の力が加わり、所定レベル以
上の力が加わると剪断変形によって地震力を吸収する。このとき、被告ダン
パに対しては、鉛直方向の力以外の力は加わらない。他方で、耐力パネルに
梁と垂直方向の力が加わっても、被告ダンパには力が加わらず、地震力を吸
収することができない。地震力のうち、これらの力の合力については、いず
れも上記二つの力に分解できるから、結局、被告ダンパには鉛直方向の力の
みが加わるということになる(乙33)。被告製品においては、建物の特定
の方向に複数の耐力パネルを設置するとともに、これと直交する方向にも複
数の耐力パネルを設置しており、このように複数の耐力パネルを直交方向に
設置することによって、個々のパネルの被告ダンパには鉛直方向の力のみが
加わり、その方向の力のみしか吸収できないとしても、各方向に沿って設置
された耐力パネルが、両方向に対応する地震力の分力を吸収することで建物
全体では任意の方向の地震力を吸収できるように設計されているといえる
(乙3)。
イ 被告ダンパに対しては、一応、前記アのとおりの力のみが加わるといえる
が、耐力パネルが設置されている上下の梁がねじれる(回転する)力が加わ
った場合には、耐力パネルの構造上、被告ダンパに対し鉛直方向とは異なる\n方向の力が加わる可能性がないわけではない。そこで、被告製品において鉛\n直方向からどの程度ずれる力が加わり得るのかについて検討する。
被告は、被告ダンパを搭載した実物大の住宅サンプルに対して、過去最大
級の地震の一つである兵庫県南部地震の際にJR鷹取駅で観測された地震
波(以下「鷹取地震波」という。)を適用して地震時挙動を測定する実験を行
ったところ、その結果によれば、1階に対する2階床の最大回転角は、0.
14°(乙40)、これにより耐力壁に設置されたダンパに対して加わる力
の鉛直方向からのずれは、0.022°であったこと(乙41)が認められ
る。
ウ 以上を前提に、被告ダンパの剪断部に本件発明1における複数方向から
の入力があり、その剪断部が複数方向からの入力により荷重を受けたとき
に変形してエネルギー吸収を行うものといえるか否かについて検討する。
特許請求の範囲にも本件明細書にも、前記の複数方向のうち1つの方
向といえる角度範囲をどの程度のものと想定しているかについての直
接的な記載はない。しかし、そもそも、本件発明1のダンパは、建築物
や橋梁等の建物、建造物で用いられるものであるところ、従来のI字型
ダンパは、想定する角度からわずかでもずれれば機能しなくなるという\nものではない。I字形ダンパは、入力方向のずれが生じている場合でも、
パネルと平行し、面内を通る方向の分力については、入力がパネルと面
内を通る方向と平行だった場合と同様に作用することになるから、実際
の入力と面内を通る方向とのずれがごくわずかであれば、実際の入力と
ほとんど変わらない力が面内を通る分力として剪断パネルに作用する。
例えば、入力方向が0.1°ずれた場合には、
Cos0.1°=約0.9999985
により、約99.99985%の力が面内を通る分力として剪断パネル
に作用することになり、この程度の入力方向のずれでは、I字型ダンパ
に生じる効果に観測できるほどの差は生じないことは明らかである。ま
た、建築の分野において橋梁や住居などの一定の大きさの建造物を建築
するに当たって、施工誤差が生じることは当然であり(原告は、後記の
とおり耐力パネル設置に当たって少なくとも±0.82°の据え付け誤
差が生じると主張している。)、I字型ダンパもそのことを前提に用いら
れるものとして想定されており、施工の限界を超えた小さい角度差は、
単一方向の入力として想定されているというべきである。さらに、I字
型ダンパはパネルと平行し、面内を通る方向から力が加わることによっ
て、平行四辺形に剪断変形することによってその力を吸収するというも
のである(前記2 )が、I字型ダンパの剪断パネルにも一定の厚さが
あり、少なくとも厚さの中に納まるような入力方向の小さなズレであれ
ば、パネルの面内を通る方向からの力と評価し得、少なくともこの程度
の入力方向のずれは、同一方向からの入力として想定されているともい
える。
本件明細細書においても、本件各発明のダンパは、図面上、いずれも一
見して複数の剪断部の方向が異なることが明らかなもののみであり、そ
の入力方向のズレが相当に小さいことを想定した場合の記載、図面はな
い。そのずれが相当に小さく、例えば、0.1°程度の差を複数方向か
らの入力と想定した場合、複数のパネルを連結しながらどのように配置
すれば効率的に入力を吸収できるかは、本件明細書によっても明らかで
はない。上記のような差の入力の場合、厚みのある鋼板を用いて、2枚
の剪断パネルを0.1°程度の角度をつけて接合し、ダンパを作成する
ことを実現することが現実的であるとはいえない。
以上に述べたところに、前記 で記載した本件発明1の意義を考慮す
ると、本件発明1で対象としている複数方向からの入力は異なる方向か
らの入力であるというべきところ、その異なる方向からの入力には、少
なくとも、従来のI字型ダンパにおいて同一方向からの入力として想定
されていたといえる入力を含まないものと認められる。
前記イで認定したとおり、被告製品は、少なくとも鷹取地震波を前提
にすると、これによって剪断パネルに一定のねじれが生じ、被告ダンパ
に鉛直方向からずれた方向からの力も加わることが認められる。しかし、
そのずれは0.022°(なお、cos0.02°=約0.9999999
26)と極めて小さいものである。この程度のずれは、その小ささから
もこれによって被告ダンパに生じる効果に観測できるほどの差が生じ
るとは認めるに足りないし、このずれは、被告製品が用いられる分野の
施工の限界を超える程度であるといえる。また、そのずれは、被告ダン
パのウェブ部を形成する鋼板の厚みの中に収まるような小さなもので
あることがうかがえる。
これらによれば、上記実験結果によれば、本件においてねじれによっ
て加わり得る入力方向の違いは、従来のI字型ダンパにおいて同一方向
からの入力として想定されていたといえる範囲のものであり、前記 で
説示した本件発明1が異なる入力方向として想定しているものではな
いというべきである。
また、被告製品が鷹取地震波を超える地震波に遭遇することは想定さ
れ得る。しかし、上記実験で用いられたのが過去最大級の地震の一つで
ある鷹取地震波であり、その場合であっても上記のとおり入力方向の違
いが極めて小さいことからすると、現実に想定し得る鷹取地震波を超え
る地震においても、被告ダンパに対して本件発明1が想定する程度の鉛
直方向からのずれが生じる剪断パネルのねじれが生じるとも認められ
ない。
以上によれば、被告製品で用いられている被告ダンパの剪断パネルに
対してねじれの影響によって生じる入力方向の違いは、その小ささから、
本件発明1が想定する程度に達するような、異なる方向からの入力であ
ると評価できるものではないというべきである。
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2024.06. 9
令和5(行ケ)10056 承継参加申立事件 特許権 行政訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月25日 知的財産高等裁判所
審決は無効理由無しと判断しましたが、知財高裁は、進歩性なしと判断しました。
d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判断
参加人は、1)甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階
を異にする別個の工程である、2)前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧
条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ
イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の
発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製
品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。
しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(III))
(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン
トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが
あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお
いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの
であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し
て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲
11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性
を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に
つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨
の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、
甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな
い別個の工程であるということはできないから、上記の1)の点を根拠とする参加人
の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ
る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ
ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を
第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証
拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1
の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ
る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌
保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第
1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱
についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される
膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに
足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい
て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、
第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認
識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主
張する工程(III))(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)
を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ
(イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当
時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き
な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が
あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の2)の点を根拠とす
る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定)
に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
(オ) 本件適用に係る阻害要因の有無
a 参加人は、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用いられる膜の孔サ
イズが0.22μmであるのに対し、本件周知技術の予備濾過膜の孔サイズは0.\n45μmであるところ、甲11記載の発明における第1の濾過工程の目的(安定性
を有するエマルジョンのバルクを得るために径が1.2μmを超える大きな粒子を
十分に除去すること)に照らすと、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用\nいられる膜に代えて、孔サイズが2倍以上になる本件周知技術の予備濾過膜を適用\nすることには阻害要因があると主張する。
しかしながら、前記(イ)c(a)のとおり、甲65には、「膜の実際の孔径よりも大
きい粒子や微生物は、効果的に除去される。」との記載があり、孔サイズが0.4
5μmである本件周知技術の予備濾過膜を採用した場合であっても、径が1.2μ\nmを超える大きな粒子を十分に除去し、もって、安定性を有するエマルジョンのバ\nルクを得ることができるものと認められる。また、前記(エ)bのとおり、甲11発
明(認定)は、1)細菌を効果的に保持するとの課題のほか、2)総処理量を大きくす
るとの課題及び3)流速を妥当なものにするとの課題を内在しているところ、当該2)
及び3)の課題の解決のためには、目詰まりの防止等の観点から、適当な範囲で膜の
孔サイズを大きくすることも十分に考え得ることであるから、甲11発明(認定)\nに接した本件優先日当時の当業者は、本件課題を解決するため、甲11発明(認定)
において用いられる各膜の孔サイズを適当な範囲で大きくすることも小さくするこ
とも検討するものと認められる。
以上のとおりであるから、本件周知技術における予備濾過膜の孔サイズが0.4\n5μmであることは、本件適用に係る阻害要因ではない。
b 参加人は、本件製品の膜につき、丙4にはこれをスクアレン含有水中油型エ
マルジョンを含む水中油型エマルジョンの滅菌濾過に用い得る旨の記載がないとし
て、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用いられる膜に代えて、本件周知
技術の予備濾過膜を適用することには阻害要因があるとも主張する。\nしかしながら、甲11発明(認定)と本件周知技術とが技術分野を共通にしてお
り、甲11発明(認定)が本件課題を有しており、かつ、本件製品が備える膜を用
いることにより本件課題を解決することができることは、前記(エ)aからcまでに
おいて説示したとおりであるから、丙4に参加人が主張する記載がないことは、本
件適用に係る阻害要因があることを根拠付けるものではない。
c なお、参加人は、本件製品が製品歩留まりの点で他の製品に劣るとして、本
件優先日当時の当業者による本件適用に阻害要因がある旨の主張をするが、丙4の
102頁及び110頁の各「Highest product yield」の記載は、高価なたんぱく
質溶液や吸着(adsorption)に敏感な医薬品を高い回収率(product recovery
rates)で濾過するのに適した膜に係る記載であると解されるから、これらの記載
が、たんぱく質を含有しないMF59C.1の製造方法に係る甲11発明(認定)
に本件周知技術を適用することを否定したり、その阻害要因になったりするなどと
認めることはできない。
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2024.06. 9
令和1(ワ)24736 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月15日 東京地方裁判所
空調服の特許について、進歩性無しとして、権利行使不能と判断されました。\n
前記aないしdの各記載によると、本件出願当時、被服の技術分野
においては、二つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、
そもそも二つの紐状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容
易ではないとの周知かつ自明の課題が存在したものと認められる(な
お、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、本件出願当時に存在した課
題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは
非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調整
することができないとの記載がみられるところである。)。
そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成\n(「前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第\n一の位置に取り付けられた紐1と」、「前記紐1が取り付けられた前記
第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付
けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによって、
空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、\n乙46説明書に「首と襟足の間隔を広くし」との記載及び紐が首の後
ろにある旨の図示(前記(1)イ )があることからすると、本件公然実
施発明に接した本件出願当時の当業者は、上記の課題を認識するもの
と認めるのが相当である。
乙33発明’が解決する課題
前記(3)アの記載のとおり、乙33発明’は、「帯紐6a」に「ボタン
7a」を、「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタ
ン7a」を複数ある「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成\nを採用することにより、「帯紐6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調
整し、もって、個人差のある腰回りの大きさに応じて介護用パンツ1を
装着することを可能にするというものであるところ、乙33公報に装着\nの容易さについての記載(【0008】、【0009】、【0011】)があ
ることや、前記 eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願当時に被
服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願当
時の当業者は、乙33発明’につき、これを二つの紐状部材を結んでつ
ないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手
段として認識するものと認めるのが相当である。
課題の共通性についての結論
前記 及び のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される
課題と乙33発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当であ
る。
ウ 本件公然実施発明に乙33発明’を適用することについての動機付けの
有無
前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実
施発明に接した本件出願当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調
整するための手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調
整することが手間で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するた
め、同じ被服の技術分野に属する乙33発明’を採用するよう動機付けら
れたものと認めるのが相当である。
エ 原告の主張について
原告は、本件公然実施発明は、排出する空気の量に応じて、中に支え
る物体がない、空気を排出するスペースを調整するのに対して、乙33
発明’は、体型等に応じて中に支える物体があるものの周りを調整する
ものであるから、その目的や機能が異なると主張する。\nしかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の
締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし
する。
しかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の
締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし機能\nにおいて異なるものではないから、本件公然実施発明が空調服の首回り
の空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、乙33発
明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すな
わち、両者が何を調整するのかにおいて異なることは、前記ウに係る結
論を左右するものではない。
また、原告は、1)空調服は、世の中に存在しなかった革新的技術であ
ることや、2)本件発明1は従来技術に比して有利な効果を有しており、
本件公然実施発明と異なる技術的意義を有することを主張している。
しかし、上記1)について、本件発明1は、本件公然実施発明等によっ
て既に実用化されている空調服における空気排出口の開口度の調節方法
に係る発明であり、従来技術の延長線上に位置付けられるものと評価で
きるところ、上記の調節方法が被服の技術分野で周知といえることは前
記(3)で説示したとおりである。そうだとすれば、空調服という製品自体
が革新的技術であることは、本件発明1の進歩性を基礎付ける事情とは
ならないというべきである。
上記2)について、本件全証拠によっても、本件発明1がその進歩性を
基礎付けるほどの有利な効果や技術的意義を有しているとは認められな
い。
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2024.06. 9
令和5(ネ)10037 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月6日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、明細書の記載を参酌して、102条1〜3項による計算を行い、102条3項による計算の方が高いとして、約1億3000万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、102条1項の規定の計算の方が高いとして、1億3700万円の損害賠償を命じました。
(2) 特許法102条2項の適用について
ア 特許権者が特許権侵害を理由に民法709条の不法行為に基づく損害賠償を
請求する場合には、特許権者において、侵害者の故意又は過失、自己の損害の発生、
侵害行為と損害との間の因果関係及び損害額を立証する必要があるところ、特許法
102条2項は、特許権者が故意又は過失により自己の特許権を侵害した者に対し
その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵
害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者が受けた損害
の額と推定すると規定している。
イ この規定の趣旨は、特許権者による損害額の立証等には困難が伴い、その結
果、妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者
が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と
推定し、これにより立証の困難性の軽減を図ったものであり、特許権者に、侵害者
による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在
する場合には、特許権者がその侵害行為により損害を受けたものとして、特許法1
02条2項の適用が認められると解すべきである(知的財産高等裁判所平成25年
2月1日特別部判決(同裁判所平成24年(ネ)第10015号)、同裁判所令和元
年6月7日特別部判決(同裁判所平成30年(ネ)第10063号)、令和4年特別
部判決参照)。
ウ これを本件について、前記(1)の認定事実を前提として検討すると、本件では、
原告のSDエンジンは、SD装置が本件各発明を含むステルスダイシング技術を用
いたレーザ加工機能を実現するために必須となる部品であって枢要な機能\を担うも
のであり、被告による被告旧製品(侵害品)の製造及び輸出・販売行為がなかった
ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ
ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ
とにより、輸出・販売された被告旧製品に対応する利益が得られたであろうという
ことはできる。しかしながら、原告はSDエンジンを販売していたものであって、
侵害品と同種の製品であるSD装置を製造・販売していたものではない。また、原
告において自らSD装置を製造する能力があり、具体的にSD装置を製造・販売す\nる予定があったことを認めるに足りる証拠もない。原告の逸失利益はあくまでもS\nDエンジンの売上喪失によるものであって、SD装置の売上喪失によるものではな
い。そして、SD装置とSDエンジンとは需要者及び市場を異にし、同一市場にお
いて競合しているわけではない。したがって、SD装置の売上げに係る被告の利益
全体をもって、原告の喪失したSDエンジンの売上利益(原告の損害)と推定する
合理的事情はない。
エ この点、原告は、被告旧製品の限界利益のうち、SDエンジン相当部分の限
界利益が原告の損害と推定されるべきであるとも主張する。しかし、SDエンジン
は、SD装置の一部を構成する部品であって、その対価は製造原価を構\成する多数
の項目の一つにすぎない。そして、本件において、SD装置の限界利益のうちのど
の程度の部分が、それぞれの部品に由来するものであるかを特定するに足りる事情
はなく、「SDエンジン」に由来する部分を特定することは困難というほかないので
あって、「SDエンジン相当部分」の限界利益を一義的に特定することはできない。
仮にこれを算出する場合にも、確立した算出方法があるわけではなく、どのような
要素を考慮し、どのような論理操作を行うかによって様々な結論を導くことが可能\nであるから、このように算出された限界利益の「SDエンジン相当部分」をもって
本件における原告の損害を推定し、覆滅事由の主張立証責任を転換するための合理
的な基礎とすることはできないというべきである。したがって、原告の前記主張は
採用することができない。
オ 以上によれば、本件において、侵害者による特許権侵害行為がなかったなら
ば利益が得られたであろうという事情があるとして特許法102条2項の規定の適
用が認められるとはいえるものの、SDエンジン相当部分の限界利益を特定するこ
とができないから、同項の推定規定により本件における原告の損害を認定すること
はできない。前記各知的財産高等裁判所特別部の判決は、いずれも特許権者等にお
いて特許実施品又は侵害品と市場及び需要者を共通にする製品を販売等していたと
いう事情が存在する事案について判断したものであるから、本件について、上記の
ように解することと矛盾するものではない。原告は、知的財産高等裁判所令和4年
8月8日判決(同裁判所平成31年(ネ)第10007号)も引用するが、同判決
の事案は、特許権者が完成品を販売し、侵害者が間接侵害品である部品を販売して
いた事案であって、本件のような完成品の限界利益中の当該部品に相当する部分の
特定が問題になった事案ではないから、同項の適用に関する前記結論を左右するに
足りるものではない。
そうすると、本件における原告の損害の認定は、特許法102条2項の推定規定
の適用以外の方法で行うのが相当である。
(3) 別件訴訟2(965特許)の考慮について
被告は、別件訴訟2の対象特許である965特許による侵害を考慮し、本件と別
件訴訟2において損害額を2分の1とするのが相当であると主張するが、各対象製
品の製造・販売等が965特許を侵害するものであるか否かという点は、本件訴訟
の審理対象となっているものではなく、仮に本件において原告に生じた損害のうち、
965特許の侵害による損害と重なる部分があるとしても、本件において965特
許の侵害が成立することを前提として損害額を算定することは相当ではないから、
損害の算定方法にかかわらず、被告の上記主張は採用することができない。
(4) 特許法102条1項(令和元年法律第3号による改正後のもの。本件は改正
法の施行日(令和2年4月1日)前の事案であるが、経過規定は設けられていない
から、以下においては、改正後の条文を適用する。)による損害額の算定
ア 特許法102条1項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益
の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、侵害者の譲
渡した物の数量(譲渡数量)に特許権者がその侵害行為がなければ販売することが
できた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、特許権者の実施の能力の限度で\n損害額とするが、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売するこ
とができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応
じた額を控除するものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の
立証責任の転換を図ることにより、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規
定である(知的財産高等裁判所令和2年2月28日特別部判決(同裁判所平成31
年(ネ)第10003号)参照)。
特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば、特許権者が「侵害の行為が
なければ販売することができた物」(同項1号)とは、侵害行為によってその販売数
量に影響を受ける特許権者の製品であれば足り、特許権者が特許実施品又は専ら特
許実施品の生産のために用いる物(部品)を販売しており、侵害行為がなければ、
特許権者は自らの製品を販売することができたという関係にある場合には、特許権
者は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品を販売していたというこ
とができるから、同項の適用が是認される。
そして、本件では、前記(2)のとおり、被告の侵害行為がなければ、原告はその製
造する原告エンジンを販売することができ、これにより利益を得ることができたも
のと推認され、原告は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品である
原告エンジンを販売していたということができるから、同項を適用することができ
る。
イ 限界利益
原告は、原告エンジンの限界利益について●●●●●●●●●円であると主張す
るが、前記認定事実のとおり、原告は被告に対し、●●●●●円で原告エンジンを
販売していたのであるから、上記の限界利益額をそのまま採用することはできない。
そして、原告従業員の陳述書(甲73)によると、被告旧製品(対象製品1(2)B)
のSDエンジンの競合品である原告エンジン(800DS一式)の原価は●●●●
●円(1万円未満切り捨て)であり、これを前提とすると、原告エンジンの一台当
たりの限界利益は●●●●●円(=●●●●●円−●●●●●円)、●●台分の限界
利益は4億1280万円となる。
なお、LDモジュールは侵害行為がなければ特許権者である原告が販売できた物
であると認めるに足りないから、LDモジュールに係る部分は考慮しない。
ウ 推定の覆滅
本件各発明は、ステルスダイシング機能そのものに係るものではなく、同機能\を
用いて加工対象物をレーザ加工する際の端部の処理に関するものであること、本件
各発明に係る技術については、AF低追従を用いるという代替技術や、端部におい
てはレーザ加工をしないという手法(エッジオフ)が存在し、現に、被告がAF低
追従を用い、エッジオフ機能を有する被告新製品を販売していることからすると、\n本件各発明自体の顧客吸引力が高いとは認められないこと、原告エンジンを組み込
んだ被告又はディスコ社のSD装置が被告旧製品と全く同じ性能や機能\を有するも
のではないこと、被告が個々のユーザの製造プロセスや加工対象物の形状に応じて
SD装置の仕様を変更し、モジュールを開発して提供するなどして被告製品を販売
していたこと等、本件に表われた事情を総合すると、特許法102条1項1号の「特\n許権者が販売することができないとする事情」に相当する数量は、7割であると認
めるのが相当である。
エ 損害額
以上によると、特許法102条1項により算定される損害額は、1億2384万
円(=4億1280万円×(1−0.7))であり、同条3項により算定される損害
額(後記(5)イ)を上回る。
なお、原告は、同条1項による損害額の算定においては、原告エンジン一台当た
りの限界利益額に侵害品の販売台数を乗じた金額に、1台当たり300万円の実施
料相当額を加算すべきであると主張し、同項2号の規定は、同項1号の実施相応数
量を超える数量又は特定数量がある場合において、一定の条件で実施料相当額の損
害を加算することを認めている。しかし、前記ウで認定した「特許権者が販売する
ことができないとする事情」に相当する数量は、その性質上、特許権者が実施許諾
をし得たものとは認められないから、本件では、同項2号の規定を適用して、実施
料相当額を加算することはできない。したがって、原告の主張は採用することがで
きない。
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2024.06. 9
令和5(ネ)10096 損害賠償請求控訴事件 その他 民事訴訟 令和6年3月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁も原審と同じく、共同発明ではないと判断されました。
原審(東地判令和4年(ワ)10717)はアップされていません。
控訴人は、前記第2の3(1)のとおり、本件準備契約6条は、ステルスダイ
シング技術に関する本成果については、控訴人と被控訴人の共有とする旨を
定めたものである旨を主張する。
しかし、本件準備契約6条の解釈については、補正の上で引用した原判決
第3の1(2)のとおりである。
控訴人は、補正の上で引用した原判決第3の1(1)イの控訴人による修正申\n入れにより、ステルスダイシング技術に関する「本成果」は、控訴人と被控
訴人の共有とする旨定める本件準備契約6条1項(2)に移されて本件準備契約
の締結に至ったものであるから、ステルスダイシング技術に関する「本成果」
も、控訴人と被控訴人の共有となる旨主張する。
しかし、ステルスダイシング技術に関する「本成果」についても控訴人と
被控訴人の共有とする旨の合意の下に、本件準備契約が締結されたと認める
に足りる的確な証拠はない上、補正の上で引用した原判決第3の1(2)アのと
おり、本件準備契約6条1項(1)及び(2)は、いずれも同条柱書に記載された「本
成果」の帰属等について定めるものであるところ、同項(2)は、もともとSD
エンジンに「関しない本成果」を控訴人と被控訴人の共有とする旨定めてい
たものであるから、同項(2)にステルスダイシング技術に関する定めを移すこ
とが、直ちに「ステルスダイシング技術に関する本成果」を控訴人と被控訴
人の共有とする旨定めるに至ったことを意味するものともいえない。「ステル
スダイシング技術」は、被控訴人が作成した契約書の第1ドラフト(甲22)
においても、「乙(判決注:被控訴人)が基本特許を有するレーザを用いたダ
イシング技術」と定義されており、本件準備契約作成時点において被控訴人
に帰属する固有の技術であったのであるから、これが控訴人と被控訴人の共
有になることはないというべきである。
したがって、控訴人と被控訴人の共同開発に至る経緯を考慮しても、上記
解釈を左右するものではないから、控訴人の上記主張は採用することができ
ない。
(2) 控訴人は、前記第2の3(2)、(3)及び(4)アのとおり、SDエンジンに関する
本成果とは、発明・考案等の課題解決のため必須の構成全部を、SDエンジ\nンが備えるものをいうと解すべきと主張する。
しかし、補正の上で引用した原判決第3の1(3)のとおり、本件準備契約の
目的、趣旨や文理等に鑑みると、「SDエンジンに関する本成果」とは、発明
の特徴的部分がSDエンジンに関する発明等(本成果)をいうものと解され
る。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 控訴人は、前記第2の3(4)イ(ア)のとおり、「SDエンジンに関する本成果」
に関し、仮に「発明の特徴的部分」を基準として発明の帰属を判断するもの
と解したとしても、本件発明1は控訴人と被控訴人の共有とすべきものと主
張し、それに沿う証拠として甲51、52を提出する。
しかし、補正の上で引用した原判決第3の1(4)のとおり、本件発明1は、
いずれも発明の特徴的部分がSDエンジンに関するものとして、その成果は
被控訴人に属するものというべきであるところ、控訴人が当審において提出
する甲51、甲52はいずれもCPUボードないしコンピュータソフトウェ\nア設計に係る証拠であり、本件発明1の内容は補正の上で引用した原判決第
2の1(3)及び同第3の1(4)ア(ア)のとおりであって、本件発明1は、レーザ加
工方法の手順をレーザ加工装置のコンピュータに実行させるためのコンピュ
ータソフトウェアに係る発明ではない。そうすると、上記の控訴人の主張及\nびこれに係る証拠は、本件発明1の特徴的部分ないし発明特定事項である特許請求の範囲の記載と関係しないものである。
その点を措いても、本件試作機は、●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」(平
成14年10月2日付け打合議事録。甲26)とされていることから、本件
試作機においては、それまでレーザエンジン側で行っていたことを装置本体
側のCPU162で行えるようにしたものであるところ、控訴人のCPU1
62に係る主張は、レーザ加工装置の制御を行うCPUの所在場所をいうも
のにすぎず、そのプログラムの前提となる本件発明1の前記特徴に係るもの
ではない上、本件準備契約1条(3)の「SDエンジン」の定義には、キーコン
ポーネント部及びソフトウェア設計も含まれているのであるから、CPU1\n62の所在場所及びそのソフトウェアとしての機能\をもって、本件発明1を
控訴人と被控訴人の共有とすべき根拠とすることはできないというべきであ
る。
また、控訴人は、本件発明1は、X軸上のステージの動作とその制御を発
明の特徴的部分に含み、加工対象物の端部というステージのX軸上の特定の
位置においてレンズのZ軸上の所定の動作を行うものであり、これはSDエ
ンジンに関する発明に該当しない旨も主張する。
しかし、805特許に係る明細書(甲48)は補正の上で引用した原判決
別紙3のとおりであるところ、その明細書の段落【0045】、【0058】
及び【0075】の記載によれば(記載内容は原判決別紙3参照)、805特
許において、既にZ軸ステージをZ軸方向に移動させることにより、加工対
象物(シリコンウェハ)の内部にレーザ光の集光点を合わせることができ、
X軸ステージやY軸ステージを移動させることにより、集光点を切断予定ラ\nインに沿って移動させ、これにより、改質領域を切断予定ラインに沿うよう\nに加工対象物の内部に形成することが示されているから、これと本件発明1
の内容(補正の上で引用した原判決第2の1(3)及び第3の1(4)ア)とを対比
すると、805特許に示されたX軸ステージの移動に係る制御と特段異なる
内容は示されておらず、本件発明1の内容にはX軸ステージの移動に係る制
御に関して805特許に示されたX軸ステージの動作を超える新規の技術的
事項は何ら示されていない上、控訴人の主張するX軸上の特定の位置の検出
それ自体は、X軸ステージの制御を意味するものでもないから、これをもっ
て、X軸ステージの制御に本件発明1の特徴的部分があるとはいえない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(4) 控訴人は、前記第2の3(4)イ(イ)のとおり、「SDエンジンに関する本成果」
に関し、仮に「発明の特徴的部分」を基準として発明の帰属を判断するもの
と解したとしても、本件発明2は控訴人と被控訴人の共有とすべきものと主
張する。
しかし、補正の上で引用した原判決第3の1(4)イのとおり、本件発明2は、
いずれも発明の特徴的部分が「SDエンジン」に関するものとして、その成
果は被控訴人に属するものというべきである。
本件発明2に係るパルスピッチは、レーザ光の繰り返し周波数及びX軸な
いしY軸ステージの移動速度との関係により決まるものであるところ(本件
明細書2の段落【0015】及び【0057】)、前記(3)のとおり、805特
許において、既にX軸ステージやY軸ステージを移動させることにより、集
光点を切断予定ラインに沿って移動させ、これにより、改質領域を切断予\定
ラインに沿うように加工対象物の内部に形成することが示されており、これ
と本件発明2の内容(補正の上で引用した原判決第2の1(4)及び第3の1(4)
イ)とを対比すると、805特許に示されたX軸ステージやY軸ステージの
移動に係る制御と特段異なる内容は示されておらず、本件発明2の内容には
X軸ステージやY軸ステージの移動に係る制御に関して805特許に示され
たX軸ステージやY軸ステージの動作を超える新規の技術的事項は何ら示さ
れていない。そうすると、X軸ステージ及びY軸ステージの制御に本件発明
2の特徴的部分があるとはいえない。
また、控訴人の提出に係る証拠において、パルスピッチが明記されている
ものは、甲38(「浜松ホトニクス殿・出張報告―14」と題する文書)に、\n「改質層ピッチ」として本件発明2の数値範囲内である●●●●μmとの記
載があるのみであり、その甲38においても、パルスピッチが記載されてい
る箇所は、「hpk SDL_100V での最新(〜7/11)の加工状況」における「現在の
最適条件」の欄であって、パルスピッチに関し控訴人が知見を得たことを示
すものとはいえないところ、乙12ないし14、16及び18には、例えば
乙12(平成15年6月13日被控訴人作成の「スケジュール」と題する書
面)に、「●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」
などとあり、乙13(平成15年6月13日被控訴人作成の実験資料)には、
パルスピッチごとに改質領域の形成状況が示された実験結果があるように、
被控訴人において、パルスピッチ及び微小空洞に着目して実験を繰り返し、
最適なパルスピッチ等につき検証を行っていたことが認められる。そうする
と、こうしたパルスピッチの最適化に関し、控訴人に具体的な貢献があった
と認めるに足りる証拠はないから、控訴人の主張はその前提を欠くものというべきである。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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2024.06. 9
令和6(行ケ)10003 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年6月3日 知的財産高等裁判所
商標「骨格診断7タイプ」 について、識別力なし(商標3条 1 項3号)とした審決が維持されました。
原告は、法3条1項柱書及び3号は条文上需要者の認識を何ら問題として
いないのに、本件審決は、取引者、需要者の認識を基準として本願商標は役
務の質を表示したものと判断したとして、その誤りを主張する。\nこの点、法3条1項3号は「その役務の質を普通に用いられる方法で表示す\nる標章のみからなる商標」を商標登録できない商標として掲げているところ、
出願商標が何を表示するものであるかを客観的に把握する上では、取引者、需\n要者の認識を基準として判断せざるを得ないことは当然であり、そのような解
釈は、法1条の趣旨にも沿うものといえる。
原告は、法3条 1 項3号と、同項6号及び2項との条文の違いを上記主張の
根拠としているが、同条1項6号の「前各号に掲げるもののほか、需要者が何
人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」と
の文言、同条2項の「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても、
使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識
することができるものについては」の文言に照らすと、同条1項3号の解釈上
も、需要者の認識が判断基準として想定されていると理解することができ、そ
の趣旨をいう本件審決の判断に誤りはない。
2 原告は、1)法3条1項3号における「役務の質」は「『労働勤務』や『他人に利益があるようにする行為』の質」を指すとして、あるいは2)「質」に
ついて「内容、中身」の意味を含むと解釈するのは古い時代の解釈であると
して、本願商標は「役務の質」を表していないと主張する。\n
しかし、同号に掲げる商標が商標登録要件を欠くと規定されている趣旨は、
このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の場所、質等の特
性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表\示として何人もそ
の使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公
益上適当でないなどの理由によるものである。このような趣旨に鑑みれば、
同号の「役務の質」を原告主張のように限定的に解釈すべき理由はない。
しかも、証拠によれば、本願商標「骨格診断7タイプ」がその指定役務に使
用された場合、そうした役務が労働の対価を得て有料でなされ得るもの(乙
6・骨格診断アドバイザー、乙7・骨格診断ファッションアナリスト、乙1
1・骨格診断士〔骨格診断資格〕)があることも認められ、原告の上記主張を
前提にしても、本願商標が同号にいう「役務の質」を表示するものであるとい\nえる。
◆判決本文
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2024.06. 7
令和5(ネ)10063 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年5月15日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特許権侵害について、原審は約4500万円の損害賠償を認めましたが、知財高裁はこれを取り消しました。争点は、主引発明に副引用発明を適用し、さらに周知技術を適用できるかです。知財高裁(2部)は、本件では相互に関連する技術ではなく、適用可能と判断しました。\n
イ 本件適用2に係る動機付けと阻害要因の有無
前記(4)イ(ア)のとおり、乙15発明は、回転駆動源に電動モータを使用したトル
ク制御式パルスツール(ねじ締めツール等)の技術分野に属するものである。また、
前記アによると、本件周知技術は、電動モータに使用される磁石の固定方法に関す
るものであるから、電動モータの技術分野に属するものである。そして、相違点B
に係る本件発明等の構成の内容は、磁石がステータに隙間を設けて貼\設されている
ことであるから、本件適用2との関係では、乙15発明(電動モータに係る部分)
と本件周知技術は、その属する技術分野を共通にするものである。さらに、乙15
発明(乙6発明Aを適用したもの)に接した本件優先日当時の当業者は、磁石をど
のようにして筒状のロータの内周面に保持するかという課題に直面することになる
ところ、接着剤を用いて磁石をロータに隙間を設けて貼設する技術である本件周知\n技術は、当該課題を解決することのできる手段(技術)となる。したがって、本件
優先日当時の当業者において、乙15発明(乙6発明Aを適用したもの)に本件周
知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
本件適用2をするに当たり、阻害要因があることを認めるに足りる証拠はない。
ウ 相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性についての小括\n
(ア) 以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、乙15発明に乙6
発明A及び本件周知技術を適用することにより、相違点Bに係る本件発明等の構成\nに容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(イ) この点、原告は、乙15発明に乙6文献記載の発明を適用し、その後に周
知技術を適用して相違点Bに係る本件発明等の構成を導出することは「容易の容易」\nに当たるから、本件優先日当時の当業者において、相違点Bに係る本件発明等の構\n成に容易に想到し得たとはいえないと主張する。
確かに、前記イのとおり、本件適用2は、乙6発明Aを適用した乙15発明を前
提とするものである。しかしながら、電動式衝撃締め付け工具において、電動モー
タをアウタロータ型のものとすること(相違点A関係)と当該電動モータにおいて
磁石を筒状のロータの内周面に隙間を設けて貼設すること(相違点B関係)は、そ\nれらの内容に照らし、相互に関連する技術ではなく、互いに独立した別個の技術で
あるといえるから、原告の主張は、相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性\nを左右するものではない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和2年(ワ)4913
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2024.06. 6
令和3(ワ)13623 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年4月14日 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。コミュニティサイト運営者が、公衆送信権の侵害主体であると認定され、差止と7万円の損害賠償が認められました。
(2)ア 本件投稿者は、原告写真の複製物であり被告各写真を本件記事の文章と
ともに被告に送信した。
イ もっとも、本件投稿者が被告に上記送信をしたことにより、直ちに、被
告各写真が公衆送信されることになったとは認められない。
本件ウェブサイトでは、会員が被告に送信した記事を被告地域パートナ
ーが承認して、初めて、その記事を本件ウェブサイトの一般の閲覧者が閲
覧できるようになる(前記1(1)ウ )。本件投稿者が被告に送信した被告
各写真を含む本件記事についても、被告の地域パートナーが、その内容等
を審査して、それを承認したことにより、その承認後、被告各写真や本件
記事を本件ウェブサイトの一般の閲覧者が閲覧できるようになったと推認
することができる。
ウ 被告は、旅行に関する情報提供サービス及びそのコンサルティング業等
を目的とする株式会社であり(前記前提事実(1)イ)、本件ウェブサイトに
は、「ジャパントラベルは、日本の魅力を世界に発信するメディアであり、
その他コンサルティングビジネスおよび第二種旅行業登録の訪日専門トラ
ベルエージェンシーを運営」(前記1 ア)、「「インバウンド専門旅行会社
経験豊富な外国人・日本人スタッフがカスタマイズツアーを主力とした
インバウンドツアーをサポートします。」(同イ )と記載されていること、
本件ウェブサイトを通じて、ホテル又は飛行機を予約したり、鉄道切符や\n施設入場券、各種パッケージツアー、体験型ツアーを購入したり、オーダ
ーメイドの旅の予約をしたりすることができること(同イ )からすれ
ば、本件ウェブサイトは、会員から記事の送信を受けて、その記事を表示\nすることで観光地の情報を提供しつつ、それを利用してツアーの企画など
の旅行関連事業を行うことも目的としたものといえる。したがって、本件
ウェブサイトは、被告の旅行関連事業の営業のために設けられているとい
う性質も有するといえる。
本件ウェブサイトでは、被告が利用者コンテンツを審査し、編集等する
旨の規定が設けられている(前記1 ウ )だけではなく、実際に、会員
が記事を被告に送信しても、被告地域パートナーの承認がない限り当該記
事は本件ウェブサイトに掲載されず、会員が被告に送信した写真は、被告
地域パートナーが承認という作業をすることによって、自動公衆送信装置
といえるサーバーに蔵置、記録され、送信可能化されるに至り、公衆送信\nされることになったといえる。また、前記 ウによれば、本件ウェブサイ
トは、被告が行う旅行関連事業の営業のために設けられているという性質
も有するといえる。会員による記事の送信は、そのような被告のための記
事の提供という面も有していた。被告地域パートナーは、本件ウェブサイ
トにおいて、会員から送信された記事の内容について、上記のとおりの本
件ウェブサイトの目的に沿うものであるかやその目的との関係でその質を
維持するものであるかなどを広く審査して、承認の可否を決定し、また必
要な修正を行っていたと推認でき、また、これらの作業を被告の営業のた
めに被告の履行補助者として行っていたと認められる。
これらによれば、本件投稿者が被告に送信した被告各写真は、被告の履
行補助者である被告地域パートナーが被告の営業のために内容を広く審査
して承認という作業をしたことによって、サーバーに蔵置、記録され、送
信可能化されるに至り、公衆送信されたといえる。これらを考慮すると、\n被告が、被告各写真の複製、公衆送信をしたと認めることが相当である。
被告の主張について
被告は、1)記事の修正等をする被告地域パートナーはボランティアであ
ること、2)被告各写真の投稿者は、被告から経済的利益を得たり、また、
指示等を受けておらず、任意に被告各写真を投稿したことを挙げて、被告
は、複製、公衆送信の主体ではないなどと主張する。
ア 上記1)について、被告地域パートナーがボランティアであったとして
も、本件ウェブサイトは被告の旅行関連事業の営業のために設けられて
いるという性質も有し、被告地域パートナーによる記事の承認等は、そ
のような被告の営業のために行われるものと推認できることを併せて考
えれば、被告地域パートナーは、被告からの直接の報酬の支払を受けて
いなかったとしても、被告の履行補助者とみるのが相当である。
したがって、被告の上記1)の主張を採用することはできない。
イ 上記2)について、本件ウェブサイトが前記のとおり被告の営業目的の
ために設けられているという性質も有し、また、被告各写真についても、
他の記事と同様に、被告地域パートナーが内容を広く審査して承認し、
公衆送信されるようになったと認められることに鑑みれば、被告各写真
が被告に対して送信されたのは会員の自由な意思に基づくものであった
としても、被告各写真を複製し公衆送信したのは被告とみるのが相当で
ある。したがって、被告の上記2)の主張も採用することはできない。
(5)著作者人格権侵害について
前提事実 のとおり、本件ウェブサイトにおいて、原告の氏名(ペンネー
ム)を表示せずに被告各写真が表\示され、また、別紙URL目録記載1のウ
ェブページにおいて原告写真の左右が切除されていたと認めることができる。
これらと、本件ウェブサイトにおいて被告各写真が掲載されるに至る過程
に照らせば、前記(3)と同様の理由により、被告は、原告の氏名表示権及び同\n一性保持権を侵害したといえる。
以上によれば、被告は、原告が保有する原告写真の複製権及び公衆送信
権を侵害し、また、氏名表示権及び同一性保持権を侵害したといえる。\n
◆判決本文
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2024.06. 6
令和4(ワ)4104 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和4年12月23日 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。取引の際にそもそも製品の形態自体に着目して購入しない場合には、不競法2条1項1号の商品等表示には該当しないと判断されました。\n
(1) 不競法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示(人の業務に係る氏名、\n商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示\nするものをいう。以下同じ。)と同一又は類似の商品等表示を使用等する\nことをもって、不正競争に該当する旨規定している。この規定は、周知な
商品等表示の有する出所表\示機能を保護するという観点から、周知な商品\n等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧\n客を獲得する行為を防止し、事業者間の公正な競争等を確保するものと解
される。そして、商品の形態は、特定の出所を表示する二次的意味を有す\nる場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能\
を有するものではないから、上記規定の趣旨に鑑みると、その形態が商標
等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能\を発揮するような特
段の事情がない限り、商品等表示には該当しないというべきである。そう\nすると、商品の形態は、1)客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴
(以下「特別顕著性」という。)を有しており、かつ、2)特定の事業者に
よって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強
力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所
を表示するものとして周知(以下「周知性」という。)であると認められ\nる特段の事情がない限り、不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当し\nないと解するのが相当である。
そして、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のも\nのと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止するという同号の上記趣旨
目的に鑑みると、商品の形態が、取引の際に出所表示機能\を有するもので
はないと認められる場合には、特定の出所を表示するものとして特別顕著\n性又は周知性があるとはいえず、上記商品の形態は、不競法2条1項1号
にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。\n
(2) これを本件についてみると、前記認定事実によれば、1)本件製品は、中
圧B供給用ガス遮断弁であるところ、その国内における需要者は、ガスボ
イラーメーカーやガスバーナーメーカーの専門業者約30社に限られ、一
般消費者が店頭において商品を見比べて購入するという性質の製品ではな
いこと、2)本件製品は、その性質上、高度の安全性が求められる製品であ
り、不具合があると、多大な損失が生ずる可能性があるため、需要者であ\nる専門業者は、購入に当たって、製品の安全性、信頼性を重視しているこ
と、3)現に、需要者は、2〜3年かけてテストを繰り返しながら慎重に製
品の採否を検討するのであり、その検討のためには、製品内部の動作や構\n造についても詳細な情報を要求するのが通例であること、4)被告製品自
体、原告製品の機能やアフターサービスに対する需要者の要望を受けて、\n原告製品の互換品として開発されるに至ったものであること、5)被告製品
の価格は、約50万円と高額であり、原告製品も同程度であると推認され
ること、6)原告自身、原告製品に関する宣伝広告に当たって、原告製品の
形態上の特徴それ自体を強調しておらず、被告においても、被告製品の形
態をセールスポイントとするものではないこと、以上の事実が認められ
る。
上記認定事実によれば、本件製品の需要者は、約30社の専門業者に限
られるのであり、当該専門業者は、長期間費やし製品をテストするなどし
て、専ら安全性、信頼性の観点から本件製品を購入していることが認めら
れることからすると、需要者である本件製品の専門業者は、取引の際にそ
もそも製品の形態自体に着目して本件製品を購入するものとはいえない。
上記認定に係る本件製品の取引の実情に鑑みると、原告製品の形態は、
一定程度の周知性があるとしても、出所表示機能\を有するものではなく、
不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当であ\nる。
仮に、原告製品の形態が商品等表示に該当するという見解に立ったとし\nても、上記認定に係る本件製品の取引の実情を踏まえると、需要者である
本件製品の専門業者は、長期間費やし製品をテストするなどして、専ら安
全性、信頼性の観点から本件製品を購入しているのであるから、当該需要
者において原告製品と被告製品の誤認混同が生じないことは、明らかであ
る。
したがって、被告が被告製品を製造又は販売する行為は、不競法2条1
項1号の不正競争行為に該当するものと認めることはできない。
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2024.06. 6
令和3(行ケ)10108 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和4年7月14日 知的財産高等裁判所
漏れていたので、アップしました。審決は、本件商標「チロリアンホルン」が引用商標「チロリアン」と類似しないと判断しました。これに対して、知財高裁は、商標「チロリアン」は周知なので、「チロリアンホルン」から、「チロリアン」の抽出が許されるとして、類似すると判断しました。
ア 本件商標は、「チロリアンホルン」の文字をゴシック体で横書きに書して
なり、「チロリアン」の文字部分と「ホルン」の文字部分とから構成される\n結合商標である。本件商標を構成する文字は、外観上、同書、同大、同間\n隔で一連表記されており、構\成文字に相応して、「チロリアンホルン」の称
呼が生じる。
次に、「チロリアン」の文字部分は、「チロルの人々。オーストリア西部
からイタリア北東部にまたがるチロルの山岳地帯に住む人々の用いる独
特の民族服」(ブリタニカ国際大百科事典)、「チロル地方の。チロル風の」
(広辞苑第七版)といった意味を有する語として、「ホルン」の文字部分は、
「角笛。金管楽器」(広辞苑第七版)といった意味を有する語として、一般
に理解されていることが認められる。このような上記各文字部分の観念及
びそれぞれの称呼に照らすと、本件商標を構成する文字は、外観上、同書、\n同大、同間隔で一連表記されていることを勘案しても、本件商標において、\n「チロリアン」の文字部分と「ホルン」の文字部分とを分離して観察する
ことが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているもの
とは認められない。
そして、前記1(2)認定のとおり、標章「チロリアン」は、本件商標の登
録査定日(平成29年1月10日)当時、福岡県を中心とした九州地方に
おいて、菓子の取引者、需要者の間で、特定の菓子(菓子「チロリアン」)
のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたこ
とに照らすと、本件商標がその指定商品中の「菓子」に使用された場合に
は、本件商標の構成中の「チロリアン」の文字部分は、菓子のブランド名\nを示すものとして注意を惹き、取引者、需要者に対し、相当程度強い印象
を与えるものと認められる。そうすると、本件商標の構成中「チロリアン」の文字部分は、独立して商品の出所識別標識として機能\し得るものと認められるから、本件商標か
ら上記文字部分を要部として抽出し、これと引用商標1とを比較して商標
そのものの類否を判断することも、許されるというべきである。
イ これに対し、被告は、1)本件商標は、「チロリアンホルン」の文字を横書
きしてなり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔
に1行でまとまりよく表されており、その文字構\成は一連一体であること
からすると、「チロリアン」の部分と「ホルン」の部分は、分離して観察す
ることが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合している、2)標章
「チロリアン」、「TIROLIAN」は、本件商標の登録出願時及び登録
査定時において、原告の業務に係る商品を表すものとして、取引者、需要\n者の間に広く認識されていたとはいえないから、本件商標の構成中の「チ\nロリアン」の文字部分が、本件商標の指定商品の取引者、需要者に対し、
原告の商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとはい
えない、3)菓子「チロリアン」については、発売後ほどなくして、標章「チ
ロリアン」を使用して独自に販売を行う事業主体が複数生じ、平成8年以
降は、標章「チロリアン」を使用する事業主体間で多数の紛争が生じてお
り、標章「チロリアン」について統一的な管理が行われていなかったこと
に照らすと、取引者、需要者は、本件商標の構成中の「チロリアン」の文\n字部分が、複数の事業主体のいずれに係る表示であるかを認識することが\n困難であるから、「チロリアン」の文字部分は、原告の出所識別標識として
強く支配的な印象を与えるものに該当しない、4)菓子「チロリアン」を製
造販売する複数の事業主体について、経済的・組織的な一体性を持つグル
ープといったものが形成されたことはないから、「チロリアン」の文字部分
が、上記のようなグループの識別標識として強く支配的な印象を与えると
評価する余地もない、5)「チロリアン」の文字部分に出所識別機能がない\nにもかかわらず、これがあるかのように評価して結合商標の分離観察を行
い、その結果として、標章「チロリアン」について他の事業主体に比べて
不十分な使用実績しか有しない原告に引用商標1ないし3を含む「チロリ\nアン」の登録商標を独占させるような帰結は、社会的妥当性に欠けるなど
と主張して、本件商標から「チロリアン」の文字部分を要部として抽出す
ることは許されない旨主張する。
しかしながら、前記(1)で説示したとおり、商標の各構成部分がそれを分\n離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結
合しているものと認められない商標においては、商標の構成部分の一部が\n取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印
象を与えるものと認められる場合などのほか、商標の構成部分の一部が取\n引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商
品の出所識別標識として機能し得るものと認められる場合においても、商\n標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較し\nて商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当であ
る。
そして、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い\n印象を与えるものであり、独立して商品の出所識別標識として機能し得る\nか否かについての判断は、商標に接した取引者、需要者において、商標の
どのような構成部分について注意を惹き、どのような印象を受けるかなど\nの観点から判断されるべきものであることに照らすと、その判断において
は、取引者、需要者が、当該構成部分を何人かの出所識別標識として認識\nし得るものであれば、当該構成部分に係る出所自体(例えば、特定の事業\n主体の名称、事業形態、事業主体が単数か、複数か等)について正確に認
識することまでは要しないと解するのが相当である。
被告主張の1)については、前記アのとおり、「チロリアン」の文字部分の
観念及び称呼、「ホルン」の文字部分の観念及び称呼に照らすと、本件商標
を構成する文字が、外観上、同書、同大、同間隔で一連表\記されているこ
とを勘案しても、本件商標において、「チロリアン」の文字部分と「ホルン」
の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほ
ど不可分的に結合しているものとは認められない。
被告主張の2)ないし4)は、取引者、需要者において、本件商標の構成中\nの「チロリアン」の文字部分に係る出所自体(特定の事業主体の名称等)
について正確に認識することまで必要であることを前提とし、上記文字部
分が原告の出所を示す出所識別標識として認識されることを求めるもの
であるから、その前提において採用することができない。
また、被告主張の5)については、結合商標の構成部分の一部を要部とし\nて抽出することができるかどうかの判断は、上記のとおり、当該結合商標
に接した取引者、需要者の認識及び印象に係る問題であって、本件商標と
の関係では、原告による標章「チロリアン」の使用実績の規模等によって
その判断が左右されるものではないから、その前提において採用すること
ができない。
◆判決本文
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2024.06. 4
令和5(行ケ)10122 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年5月16日 知的財産高等裁判所
一時期、新聞で騒がれた商標です。商標「雨降」が、商標「AFIRI」から無効か(4条1項11号、同10-15号、19号、7号違反)について争われました。審決は無効理由なしと判断しました。知財高裁も同様です。
本件商標は、「雨降」の文字を筆文字風で、右上方から左斜め下へ書してなるとこ
ろ、当該文字は「[あめふり]雨の降ること。雨が降っている間。」、「[うこう]雨降り。」の意味を有する語であるから、その構成文字に相応して、「アメフリ」又は「ウ\nコー」の称呼を生じ、「雨の降ること。雨が降っている間。雨降り。」の観念を生ず
るものである。
別紙2引用商標目録記載の商標登録第6245408号商標(以下「引用商標」
という。)は、「AFURI」の欧文字を書してなるところ、当該文字は、辞書類に
載録された成語ではなく、特定の意味合いを想起させる語として知られているとも
いい難いことから、特定の観念を生じない造語として看取、把握されるものである。
したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「アフリ」の称呼を生じ、特定\nの観念は生じない。
本件商標と引用商標との類否について、両者は、漢字と欧文字と文字種が異なる
ものであるから、外観において明確に区別できる。また、称呼については、本件商
標から生ずる「アメフリ」の称呼と、引用商標から生ずる「アフリ」の称呼とは、
2音目において「メ」の音の有無に差異を有するものであるが、4音と3音という
比較的短いこれらの称呼を一連に称呼するときは、互いの語調語感が異なり聞き誤
るおそれはない。そして、本件商標から生ずる「ウコー」の称呼と、引用商標から
生ずる「アフリ」の称呼とは、音構成が相違することから、両者は、称呼上、明瞭\nに聴別し得るものである。さらに、観念については、本件商標は「雨の降ること。
雨が降っている間。雨降り。」の観念を生ずるものであるのに対し、引用商標は観念
が生じないものであるから、両者は、観念上、相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても
相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。したがって、本件商標は、
商標法4条1項11号に該当しない。
(2) 商標法4条1項10号及び15号該当性について
原告が、本件商標の登録の無効理由において、商標法4条1項7号、10号、1
5号及び19号に該当するとして引用する商標は、原告の業務に係る「ラーメンの
提供」に使用する「AFURI」の欧文字からなる商標(以下「使用商標」という。)
である。
使用商標は、本件商標の登録出願時において既に、原告の役務を表示するものと\nして需要者の間に広く認識されていたとは認められず、また、使用商標は引用商標
と同じつづりからなるものであるから、本件商標と使用商標とは、前記(1)と同様の
理由により、非類似の商標である。
そうすると、被告が、原告の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして\n需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標を、その商品若しく
は役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものではなく、
また、被告が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者
は、当該商品が原告又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の
業務に係る商品であるかのように連想、想起することはなく、その出所について混
同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法4条1項10号又は同項15号のいずれにも該
当しない。
◆判決本文
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2024.06. 4
令和5(ネ)10110 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和6年5月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
発信者情報開示請求について、主な争点は、(争点1)「権利が侵害されたことが明らかである」(プロ責法5条1項1号)か、(争点2)本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(同5条1項柱書)に当たるかでした。1審はいずれも該当しないとして請求を棄却しましたが、知財高裁は、これを取り消しました。
(1) 前提事実(訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」の第2の2)によると、
共有対象となる特定のファイルに対応して形成されたビットトレントネットワークに
ピアとして参加した端末は、他のピアとの間でハンドシェイクの通信を行って稼働状
況やピース保有状況を確認した上、上記特定のファイルを構成するピースを保有する\nピアに対してその送信を要求してこれを受信し、また、他のピアからの要求に応じて
自身が保有するピースを送信して、最終的には上記特定のファイルを構成する全ての\nピースを取得する。
そして、証拠(甲5〜9、11)及び弁論の全趣旨によると、ビットトレントネッ
トワークで共有されていた本件複製ファイルが本件動画の複製物であること、原判決
別紙動画目録記載の各IPアドレス及びポート番号の組合せは、本件監視ソフトウェ\nアが、本件複製ファイルを共有しているピアのリストとしてトラッカーから取得した
ものであること、同目録記載の発信日時は、上記IPアドレス及びポート番号を割り
当てられていた各ピアが、本件監視ソフトウェアとの間で行ったハンドシェイクの通\n信において応答した日時であることがそれぞれ認められる。
そうすると、上記各ピアのユーザーは、その対応する各発信日時までに、本件動画
の複製物である本件複製ファイルのピースを、不特定の者の求めに応じて、これらの
者に直接受信させることを目的として送信し得るようにしたといえ、他のピアのユー
ザーと互いに関連し共同して、本件動画の複製物である本件複製ファイルを、不特定
の者の求めに応じて、これらの者に直接受信させることを目的として送信し得るよう
にしたといえる。これは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動
公衆送信装置である各ピアの端末の公衆送信用記録媒体に本件複製ファイルを細分化
した情報である本件複製ファイルのピースを記録し(著作権法2条1項9号の5イ)、
又はこのような自動公衆送信用記憶媒体にビットトレントネットワーク以外の他の手
段によって取得した本件複製ファイルが記録されている自動公衆送信装置である各ピ
アの端末について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続を行った(同号ロ)
といえるから、本件動画につき控訴人が有する送信可能化権が侵害されたことが明ら\nかである。
(2) 被控訴人は、各ピアのユーザーが送信可能化権を侵害したことが明らかという\nには、当該ピアのユーザーのピース保持率が100%又はこれに近い状態に達してい
ることを要すると主張する。しかし、上記(1)のとおり、ビットトレントネットワーク
に参加した各ピアは、共有対象となったファイルの一部であるピースをそれぞれ保有
してこれを互いに送受信し、最終的には当該ファイルを構成する全てのピースを取得\nすることが可能な状態を作り出しているのであるから、各ピアのユーザーは、他のピ\nアのユーザーと互いに関連し共同して、当該ファイルを自動公衆送信し得るようにす
るものといえる。そして、ハンドシェイクの通信に応答したピアは、当該ファイルの
一部であるピースを保有してこれを自身の端末に記録し、他のピアの要求に応じてこ
れを送信する用意があることを示したものと認められるから、その保有するピースの
多寡にかかわらず、上記送信可能化行為を他のピアと共同して担ったものと評価でき\nる。被控訴人の主張は採用することができない。
・・・・
(1) 前記1(1)のとおり、原判決別紙動画目録記載のIPアドレス、ポート番号及び
発信日時により特定される通信は、各ピアが本件監視ソフトウェアとの間で行ったハ\nンドシェイクの通信において応答した通信であって、他のピアとの間で本件複製ファ
イルのピースを送受信し、又は本件複製ファイルを記録した端末をネットワークに接
続する通信そのものではない。このような通信に係る発信者情報(本件各発信者情報)
も、法5条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるかが問題となる。
(2) そこで検討すると、法5条1項は、開示を請求することができる発信者情報
を「当該権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅を持たせたものとし、「当該権利の
侵害に係る発信者情報」のうちには、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害
関連通信に係るものとして総務省令で定めるもの。)を含むと規定しているところ、
特定発信者情報に対応する侵害関連通信は、侵害情報の記録又は入力に係る特定電気
通信ではない。上記の各規定の文理に照らすと、「当該権利の侵害に係る発信者情報」
は、必ずしも侵害情報の記録又は入力に係る特定電気通信に係る発信者情報に限られ
ないと解するのが合理的である。
また、法5条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通には、これにより他人の権
利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情
報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他
の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通
によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信\nの秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信
設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することがで
きるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るこ\nとにあると解される(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小
法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。なお、令和3年法律第27号による改正
により、特定発信者情報の開示請求権が新たに創設されるとともに、その要件は、特
定発信者情報以外の発信者情報の開示請求権と比して加重されている。その趣旨は、
SNS等へのログイン時又はログアウト時の各通信に代表される侵害関連通信は、こ\nれに係る発信者情報の開示を認める必要性が認められる一方で、それ自体には権利侵
害性がなく、発信者のプライバシー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性\nが高いことから、侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内において開示を認
めることにあると解される。
さらに、著作権法23条1項は、著作権者が専有する公衆送信を行う権利のうち、
自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含むと規定する。その趣旨は、著作権者\nにおいて、インターネット等のネットワーク上で行われる自動公衆送信の主体、時間、
内容等を逐一確認し、特定することが困難である実情に鑑み、自動公衆送信の前段階
というべき状態を捉えて送信可能化として定義し、権利行使を可能\とすることにある
と解される。
ビットトレントによるファイルの共有は、対象ファイルに対応したビットトレント
ネットワークを形成し、これに参加した各ピアが、細分化された対象ファイルのピー
スを互いに送受信して徐々に行われるから、その送受信に係る通信の数は膨大に及ぶ
ことが推認できる。しかるところ、ピースを現実に送受信した通信に係るものでなく
ては「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとすると、ビットトレントネット
ワークにおいて著作物を無許諾で共有された著作権者が侵害の実情に即した権利行使
をするためには、ネットワークを逐一確認する多大な負担を強いられることとなり、
前記のとおり法5条が加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることとし\nた趣旨や、著作権法23条1項が自動公衆送信の前段階というべき送信可能化につき\n権利行使を可能とした趣旨にもとることになりかねない。\n
他方、ハンドシェイクの通信は、その通信に含まれる情報自体が権利侵害を構成す\nるものではないが、専ら特定のファイルを共有する目的で形成されたビットトレント
ネットワークに自ら参加したユーザーの端末がピアとなって、他のピアとの間で、自
らがピアとして稼働しピースを保有していることを確認、応答するための通信であり、
通常はその後にピースの送受信を伴うものである。そうすると、ハンドシェイクの通
信は、これが行われた日時までに、当該ピアのユーザーが特定のファイルの少なくと
も一部を送信可能化したことを示すものであって、送信可能\化に係る情報の送信と同
一人物によりされた蓋然性が認められる上、当該ファイルが他人の著作物の複製物で
あり権利者の許諾がないときは、ログイン時の通信に代表される侵害関連通信と比べ\nても、権利侵害行為との結びつきはより強いということができ、発信者のプライバシ
ー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性を考慮しても、侵害情報そのもの\nの送信に係る特定電気通信に係る発信者情報と同等の要件によりその開示を認めるこ
とが許容されると解される。
以上によると、本件各発信者情報は、法5条1項にいう「当該権利の侵害に係る発
信者情報」に当たると解するのが相当である。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和5(ワ)70029
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2024.05.26
令和5(ネ)10090 職務発明対価相当請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月25日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
職務発明訴訟において、1審(大阪地裁)は、約400万円の損害賠償を認めましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は、本件発明2の共同発明者ではないといういうものです。
特許法2条1項は、「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想
の創作のうち高度のものをいう。」と定め、「発明」は技術的思想、すなわち、技
術に関する思想でなければならないとしているが、特許制度の趣旨に照らして考え
れば、その技術内容は、当該技術が属する技術分野における当業者が反復実施して
目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして
構成されていなければならないものと解するのが相当であるから(最高裁昭和52\n年10月13日第一小法廷判決(昭和49年(行ツ)第107号)民集31巻6号
805頁)、発明者とは、自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した
者、すなわち、当業者が当該技術的思想を実施することができる程度にまで具体的
・客観的なものとして構成するための創作に関与した者を指すというべきである。\nそして、ある者が発明者であるというためには、必ずしも発明に至る全ての過程に
一人で関与することを要するものではなく、当該過程に共同で関与することでも足
りるというべきであるが、当該者が共同発明者であるというためには、課題を解決
するための着想及びその具体化の過程において、発明の特徴的部分の完成に創作的
に寄与したことを要するものと解される。この場合において、発明の特徴的部分と
は、特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち従来技術にはみられない部分、\nすなわち、当該発明に特有の課題解決手段を基礎付ける部分を指すものと解するの
が相当である。以上を踏まえ、以下、本件について検討する。
(ア) 原告が本件発明2に係る発明者(又は共同発明者)であるというためには、
前記アのとおり、課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、本件
各部分の完成に創作的に寄与することを要するところ、当該着想は、具体的な発明
の完成に向けられたものである以上、単に課題を抽象的に想起するだけでは足りず、
課題及びその解決のための手段又は方法を具体的に認識することを要するものと解
するのが相当である。
・・・
(エ) 検討
a 前記(ウ)のうち、市場調査等に基づいて本件OD錠化を提案するなどした原
告の行為は、その内容に照らし、新製剤の企画や方向性に関する提案であり、経営
判断に資するものではあっても、課題及びその解決のための手段又は方法に関する
具体的提案ではないから、構成3)(塩酸アンブロキソールを含む制御放出微粒子等\nの混合物を配合し、かつ、制御放出微粒子等の平均粒子径を300μm以下とする
との構成を満たした上で、OD錠が従来のカプセル剤の溶出規格に合致する溶出特\n性(シグモイド型溶出)を示すように、制御放出微粒子等及びこれらを配合したO
D錠の各成分や構造を設定したこと)又は構\成4)(同様の構成を満たした上で、錠\n剤を製造する過程の加圧圧縮操作に対し割れにくいプロテクト層を形成したこと)
のいずれに対する関与であるとも認めることはできない(なお、認定事実2による
と、本件OD錠化は、塩酸アンブロキソールに係る医薬品の開発に関し、平成19\n年当時に知られていた手法の一つであり、特段新規の開発方針ではなかったという
べきである。)。
b また、前記(ウ)のうち、本件OD錠化に関して瀬踏み実験を行った原告の行
為についてみるに、当該瀬踏み実験は、「徐放顆粒の粒子径を200μm以下とし
て溶出実験を行ったところ、既存のカプセル剤の溶出に近い徐放顆粒が得られた」
というものにすぎず、原告において、制御放出微粒子等及びこれらを配合したOD
錠の各成分や構造を設定するための具体的な方法を認識するなどしたとはいえない\nから、当該瀬踏み実験の実施をもって、原告が構成3)に係る着想及びその具体化の
過程において創作的な寄与をしたものと認めることはできない。その他、当該瀬踏
み実験の内容に照らし、当該瀬踏み実験を行った原告の行為が本件各部分に対する
関与であると認めることはできない。
c さらに、前記(ウ)のうち、「今後、徐放顆粒に他の原料を混合して打錠し、
錠剤化した場合に溶出に変化が生じるかを検討する」などと発言した原告の行為も、
その発言の内容に照らし、原告において、制御放出微粒子等及びこれらを配合した
OD錠の各成分や構造を設定するための具体的な方法を認識するなどしたとはいえ\nないから、当該発言をもって、原告が構成3)に係る着想及びその具体化の過程にお
いて創作的な寄与をしたものと認めることはできない。その他、当該発言の内容に
照らし、当該発言を行った原告の行為が本件各部分に対する関与であると認めるこ
とはできない。
d なお、本件発明2に係る特許出願をすることを考えている旨の発言をした原
告の行為(前記(ウ)f)及び当該特許出願をするよう提案した原告の行為(認定事
実2エ(オ))が本件各部分に対する原告の関与であると認められないことは明らかで
あるし、当該特許出願に係る明細書の案を作成した原告の行為(認定事実2エ(オ))
についても、当該行為のみをもって直ちに、本件各部分に対する原告の関与があっ
たものと認めることはできない。
e その他、原告が本件チームの行う試験・実験に関与していたことを認めるに
足りる主張立証はなく、原告が本件各部分に対して関与をしたものと認めるに足り
る的確な証拠はない。
◆判決本文
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2024.05.26
令和5(ネ)10078 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審と同じく、「包装容器」の発明について、被告製品は技術的範囲に属さないと判断されました。控訴審では、均等侵害の主張が追加されましたが、本質的要件(第1要件)を満たさないと判断されました。
これを本件において検討するに、前記(1)イのとおり、本件発明1は、「底部
に取り付けられた安定補助板により支えられてテーブルなどの上に立たせら
れる」「折畳式コップ型容器」(段落【0003】)であって「安定補助板が例
えば紙や合成樹脂などから形成され、後から容器本体に取り付けられる構成」\n(段落【0005】)を採用した従来技術を前提とし、「成形が簡便な自立型
の包装容器の提供を目的とする」(段落【0006】)ことを発明が解決しよ
うとする課題とし、当該課題を解決する手段として「前記包装容器を容器と
して形成した状態において、前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自
立片が載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、前記自立片によって前記載
置面に自立させられる」(本件発明1の構成要件B)という構\成を採用するこ
とにより、「包装容器を自立させる自立片が底面片に連なっているため、一体
的な成形が簡便である」(段落【0013】)という効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1において従来技術に見られない特有の技術的思想
を構成する特徴的部分は、従来技術における安定補助板が、底部に一体的に\n成形された構成である、「前記包装容器を容器として形成した状態において、\n前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って前記奥
行の方向に突出し、前記自立片によって前記載置面に自立させられる」こと
にあると考えられる。
そして、本件発明1と被控訴人製品とは、包装容器を容器として形成した
状態において、本件発明1の「底面片」が筒状の底部を形成するのに対し、
被控訴人製品は、包装容器を自立させる舌状片が、包装容器の底部を形成す
る六角片と同一面に連なっておらず別に構成されている点において相違する\nものと認められるところ、この相違に係る本件発明1の構成、すなわち「底\n部を形成する底面片」が「自立片」と同一面に連ねられていることは、これ
までの検討によれば、本件発明1の本質的部分に当たるものということがで
きる。
そうすると、上記相違点に係る本件発明1の構成については、本件発明1\nの本質的部分ではないということはできない。そして、前記(1)ウのとおり、
上記の点については、本件各発明について共通するものということができる。
したがって、被控訴人製品は均等侵害の第1要件を充足しないから、その
要件について検討するまでもなく、均等侵害は成立しない。
イ 控訴人は、前記第2の3(4)ウのとおり、本件各発明の本質的部分は、「自立
片」によって載置面に自立させられる構成を採用した点にあり、当該「自立\n片」が内容物に直接接触してこれを支える片という意味における「底面片」
と、同一面に連なることにあるのではないと主張する。
しかし、本件各発明の本質的部分については上記アのとおりと認められる
から、本件各発明と被控訴人製品とは、その本質的部分において異なるもの
というべきである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)2049
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2024.05.26
令和5(行ケ)10119 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年3月28日 知的財産高等裁判所
腕時計の外観(オーデマ・ピゲのロイヤルオーク)を表した商標について識別力無しとした審決が維持されました。\n
ア 本願商標は、前記第2の1(1)のとおりの構成からなる商標である。\n腕時計においては、文字盤に刻まれた目盛りや数字をインデックスなど
というところ(乙1)、本願商標は、腕時計からベルト及び針(時針等)を
除いた、ラグ(時計本体とベルトを固定する部分、乙1)、ケース、風防、
インデックスの記載がある文字盤、リューズ及びベゼル等より構成され、\nこれらの形状を文字盤の上部方向から平面視して表した図形である。しか\nも、上記図形は、ベゼル、ラグ、リューズ、文字盤の格子状模様等の全て
において陰影が施され、立体的な形状として表現されている。したがって、\n本願商標は、上記時計の構成部分を平面視した図形として表\されてはいる
ものの、時計の一部の形状を出所識別標識とすべく登録出願されたものと
認められる。
これを前提に、本願商標の構成を検討すると、以下のとおりである。\n本願商標のラグには、腕時計において金属ベルトを繋ぐ位置に上下二つ
の凹部がある。ラグの中央には、外側が八角形で内側が円形のベゼルがあ
り、そのベゼルのそれぞれの角に六角形のマイナスネジが配置されており、
全体の色は銀色である。文字盤内のインデックスは、数字ではなく、格子
模様から隆起して見える目盛りからなり、各定時においては1本線であり、
上部中央においては2本線である。文字盤にはリューズ近くの位置に腕時
計において通常日付けが表示されている位置に空白があり、中央上部にブ\nランド名を示す部分があるほかは、文字盤の全面にわたり立体的に見える
ように陰影を施した格子模様が示されている。
イ 本願商標の指定商品は「時計」であるから、腕時計のほか、置時計や掛
け時計等も含まれるものであり、その需要者は一般の消費者であると認め
られる。本願商標は、腕時計からベルト、針を除いたものであるとの形状
に係る上記アの各事情は、需要者がこれを容易に認識することができると
いえる。
ウ 腕時計においては、別掲2の1(1)ないし(4)、2(1)ないし(2
9)及び乙4のとおり、腕時計のバンド及び針(時針等)を除いた部分の
形状として、ラグ、ケース、風防、インデックスのある文字盤、リューズ
及びベゼル等から構成され、八角形のベゼルやビス、文字盤の格子模様な\nどを、それぞれ備えるものが相当数存することが認められる。
エ 上記アないしウの事情を総合すれば、本願商標の形状は、客観的に見て、
商品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであり、か\nつ、本願商標の需要者である一般の消費者において、同種の商品等につい
て、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予\測し得
る範囲のものであると認められる。
そうすると、本願商標に係る形状は、商品等の形状を普通に用いられる
方法で使用する標章のみから成る商標として、商標法3条1項3号に該当
するというべきである。
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2024.05.26
令和5(行ケ)10117 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年4月9日 知的財産高等裁判所
商標「ベスリ会/東京TMSクリニック」が引用商標「東京TMSクリニック」と類似するとした審決が維持されました。争点は、「東京TMSクリニック」が識別力があるか、分離抽出できるのかですが、知財高裁は識別力あり、分離抽出できると判断しました。
本願商標の構成中の「東京TMSクリニック」の文字部分は、前記(1)ア、イのと
おり、我が国の首都を意味する「東京」、経頭蓋磁気刺激のアルファベット略語であ
る「TMS」及び診療所を意味する「クリニック」の語を明朝体風の同書体、同じ
大きさ及び等間隔にて一連に書してなるものである。
ここで、「TMS」(経頭蓋磁気刺激)による治療(経頭蓋磁気刺激療法。以下「T
MS治療」という。)は、成人の鬱病への新たな治療方法として、我が国において、
平成29年に適応が承認され、令和元年には保険適用が認められたものである(甲
1〜5、14、15、21)。もっとも、東京都保健医療局が提供する東京都医療機
関案内サービス「ひまわり」の検索結果(令和5年11月7日及び同月10日実施)
によると、「精神科」の検索ワードにより該当する医療機関が2470件であったの
に対し、「精神科」及び「TMS」の検索ワード(and検索)により該当する医療
機関は4件にとどまった(乙7、8)。また、原告が提出する証拠によっても、令和
5年12月頃時点において、東京都内でTMS治療を提供する医療機関は11か所
程度しか認められない(甲16。原告と被告補助参加人がそれぞれ設置する医療機
関を除く。)。そうすると、TMS治療が平成15年から令和5年にかけて合計23
本の雑誌記事で掲載、紹介されたことや、令和元年7月にNHKクローズアップ現
代で特集、紹介されたこと等、TMS治療について原告が主張する事情を考慮して
も、本願商標の指定役務の取引者、需要者のうち、少なくとも精神疾患等を有する
患者やその関係者等は、本件出願日のみならず現在においても、「TMS」の語から、
直ちに「経頭蓋磁気刺激」や、鬱病の治療方法としての「TMS治療」を想起する
とは認められない。むしろ、精神疾患等を有する患者やその関係者等が必ずしも医
学・医療用語に精通していないと推認されることや、「TMS」が日本語ではなく欧
文字(アルファベット)の並びであることからすると、これを何らかの造語と認識
する可能性が高いと認められる。\n
さらに、医療役務の提供に当たり、「クリニック」の語は、「中目黒○○クリニッ
ク」のように、地名、医師の姓、主たる診療科目等の文字と組み合わせて使用され
ることにより、一連の文字列として特定のクリニック(診療所)の名称を表すもの\nとして使用されている実情が認められる(甲12、16〜18、乙7〜10、16、
18、23〜46、丙5〜7)。
以上のとおり、本願商標の構成中の「東京TMSクリニック」の文字部分は、こ\nれを構成する文字が同書体、同じ大きさ及び等間隔で一連に書されていること、本\n願商標の指定役務の取引者、需要者の一部(精神疾患等を有する患者及びその関係
者等)は「TMS」の語から直ちに「経頭蓋磁気刺激」や「TMS治療」を想起す
るとは認められず、むしろ何らかの造語と認識する可能性が高いこと、「クリニッ\nク」の語が他の語と組み合わされて特定の診療所の名称を表す取引の実情が認めら\nれること等に照らすと、単に提供される役務の場所や方法、内容等を示すにすぎな
いものとはいえず、それ自体が一連となって、役務の提供主体としての診療所の名
称を表すものとして、出所識別標識としての機能\を果たすものといえる。
◆判決本文
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2024.05.26
令和5(ネ)10084 特許権侵害損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
個人発明家がアップルを訴えた事件の控訴審判決です。1審は約4400万円の支払いを命じましたが、知財高裁(3部)は、約1800万円に減額しました。これは実施料率が1審0.5%控訴審0.2%となったためです。
当裁判所は、第1審原告の請求のうち、1755万3642円及びうち12
69万1831円に対する平成21年9月27日から、うち25万3585円
に対する平成22年9月26日から、うち170万7608円に対する平成2
4年9月30日から、うち290万0618円に対する平成25年9月29日
から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理
由があるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきで
あると判断する。その理由は、当審における当事者の主張も踏まえて原判決を
後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における第1審原告の補充主張に
対する判断を付加し、後記3のとおり当審における第1審被告の補充主張に対
する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第4(原判決45頁2行目
から94頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
・・・
原判決92頁1行目の・・・、同頁5行目の「0.5%」を「0.2%」に、それぞれ改める。
◆判決本文
原審はこちら。
◆令和2(ワ)13317
関連事件です。
◆平成19(ワ)2525
◆平成25(ネ)10086
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2024.05.26
令和4(ワ)19222 特許権移転登録手続請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月17日 東京地方裁判所
民法94条2項(善意の第三者に対する虚偽表示の無効主張)の類推適用が\n特許の移転登録手続にも適用可能とは判断されましたが、要件を充足しないと判断されました。\n
(1) 特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合における民法9
4条2項類推適用の可否について
被告は、ライツフォルによる本件特許権の取得について民法94条2項が
類推適用されることにより、原告は本件発明について特許を受ける権利を有
していることを主張することができないと主張する。
これに対し、原告は、特許法74条及び79条の2第1項の趣旨からすれ
ば、特許を受ける権利を有する者が同法74条1項に基づく移転登録手続請
求を行った場合において、冒認者からの譲受人等の関係で民法94条2項を
類推適用することはできないと主張する。
この点について、特許法は、同法123条1項6号等の要件に該当すると
きには、特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、その特許
権者に対し、当該特許権の移転を請求することができると定めつつも(特許
法74条1項)、その特許権の移転の登録前に、同号等に規定する要件に該
当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をし
ているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をして
いる発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権
を有するものと定めている(同法79条の2第1項)。
他方、民法94条2項の類推適用は、権利外観法理を根拠として、虚偽の
外観が作出され、その作出について真の権利者の積極的な関与又は承認があ
る場合のほか、当該権利者にこれらと同視し得るほど重い帰責性が認められ
る場合に、当該権利者は、その外観が虚偽であることについて善意又は善意
無過失である第三者に対し、当該第三者が権利を取得していないと主張する
ことができないとする理論構成である。\n
このように、特許法74条1項及び79条の2第1項は、真の権利者の帰
責性にかかわらず、一定の要件を満たす善意の第三者に通常実施権を認める
ものであり、他方、民法94条2項の類推適用は、虚偽の外観作出に係る真
の権利者の帰責性と第三者の善意又は善意無過失とを要件として、当該権利
者が権利を失ってもやむを得ないと判断できる場合に、当該権利者から当該
第三者への権利主張を許さないとするものであって、両者の要件及び効果は
異なっている。
そして、特許法79条の2第1項は、善意の第三者が通常実施権を有する
と規定するのみであり、民法の第三者保護規定を上書きするような性格であ
ることはうかがわれず、また、特許法全体をみても、同法79条の2第1項
が民法の第三者保護規定に対して優先する関係に立つことを示す規定は見当
たらない。
以上によれば、特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合
においても、冒認者からの譲受人等との関係で民法94条2項を類推適用す
ることは可能であると解される。\n
(2) 本件における民法94条2項類推適用の要件充足性について
・・・・
以上のように、そもそも、Aが本件譲渡契約1)を締結し、Bが本件特
許に係る特許権者であるとの虚偽の外観を作出するに至ったのは、原告
自身の内部事情や行為にその一因があるといえる上、原告の真の代表者\nとされるDが、遅くとも平成28年11月29日の段階で、上記の虚偽
の外観が存在していることを認識していたにもかかわらず、令和3年ま
での約4年間、本件各株主総会決議の不存在確認の訴え等を行っておら
ず、さらに、令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存在を認める
判決が確定してからも、Bからライツフォルに本件特許権が譲渡される
までの約半年の間、Bに対して何らの措置もとっていないのである。
このような事情からすれば、原告には、虚偽の外観作出について、自
ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置し
た場合と同視し得るほど重い帰責性が認められるというべきである。
これに対し、原告は、令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存
在を認める判決が確定してからの行動について、嘱託登記が完了したの
が同年10月中旬頃であり、かつ、同判決の確定後、Bが更に本件特許
権を譲渡することは考え難かったことからすれば、F弁護士に対して資
料の引渡しを求めていた原告(D)の対応に何ら問題はないと主張する。
しかしながら、同年8月5日の段階で、本件譲渡契約1)の締結から既
に約6年が経過していたこと、Bは、Dと面識はなく、Aと協力関係に
あったと考えられることからすれば、本件各株主総会決議の不存在を認
める判決が確定した段階で、Bに対して特許権移転登録手続請求等の法
的な措置を速やかにとる必要性は高かったものといえる。
また、前記 k及びlのとおり、F弁護士は、本件損害賠償請求訴訟
において、その訴えを却下する判決が確定した後も、Dからの資料の引
渡請求に応じなかったこと、本件各株主総会決議不存在確認の訴えにお
いて、原告の代表清算人とされていたF弁護士は、適式な呼出しを受け\nたにもかかわらず、口頭弁論期日に出頭しなかったことが認められ、こ
のようなF弁護士の対応や訴訟態度を踏まえると、本件各株主総会決議
の不存在を認める判決の確定後であっても、同弁護士がDの資料の引渡
請求に応じることは望めない状況であったものと認められる。
以上の事情に加え、原告としては、F弁護士に対して資料の引渡しを
求めつつ、それと並行してBに対して特許権移転登録手続請求等を行う
ことも可能であったといえることからすると、令和3年8月5日に本件\n各株主総会決議の不存在を認める判決が確定してからの原告(D)の対
応に何ら問題はなかったという原告の主張は採用できないというべきで
ある。
さらに、原告は、Bは原告を不正に乗っ取った当事者であり、その代
理人弁理士もBの意向に沿って行動することが想定され、Dに協力する
ことはあり得ないから、仮にDがBやその代理人弁理士に働きかけたと
しても、何ら虚偽の外観を取り除くことにはつながらず、場合によって
は逆効果となる可能性すらあるとも主張する。\n
しかしながら、そもそも、B自身が原告を不正に乗っ取った当事者で
あることを認めるに足りる証拠はない上、DがBに対して接触した事実
がない以上、Dからの働きかけに対してBがどのような態度に出るのか
については、それを示す兆候もなく、虚偽の外観を取り除くことにつな
がらないとか、逆効果となるといった結末に至ると断定するのは無理が
ある。さらに、Bやその代理人弁理士がDからの働きかけに応じないと
いうことであれば、それは本件特許権の帰属について、BとDとの間で
争いがあることを意味するものにほかならず、そのような場合、Dとし
ては、速やかに本件各株主総会決議の不存在の確認の訴え等を行うべき
状況にあったものといえる。
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2024.05.26
令和3(ワ)15964 特許権 民事訴訟 令和6年3月22日 東京地方裁判所
被告ダンパが不可分一体の一部となった被告製品は、特許請求の範囲の「入力により荷重を受けた・・・」という文言に該当しないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。
3 被告ダンパは、「入力」を受けるものであるか(構成要件G)(争点1−1)\nについて
ア 本件発明1の構成要件G、Hは、「前記剪断部は、入力により荷重を受けた\nときに、変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とする弾塑性履歴型ダン
パ」というものであり、本件発明1の対象となる「弾塑性履歴ダンパ」につ
いて「剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収
を行うことを特徴とする」ものであるとされている。したがって、本件発明
1のダンパは、上記に記載された特徴を有するダンパであるところ、その「入
力」がどのようなものであるかについて、本件発明1の特許請求の範囲では
何ら定められていない。
イ ここで、前記1 で説示したとおり、本件各発明は、上部構造物、下部構\
造物に分離できる橋梁等の建築物において、地震のときに、その接続部にお
いて橋軸方向に限らず、複数方向の水平力がかかってしまうところ、同接続
部においては、I字形ダンパでは単一方向の入力にしか対応できないという
課題について、同課題を解決するために、複数の剪断面を持ち、かつ、その
向きが異なるダンパを適用するというものであり、本件各発明は、そのよう
なダンパが本件各発明の構成をとることによって、剪断部が、入力により荷\n重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うというものである。
本件明細書に記載された本件各発明の課題は、上記のとおりであり、従来
から知られていた剪断パネル型ダンパである単純なI字形ダンパに対して
単一方向からの入力しか想定されない場面においては、本件各発明における
解決すべき課題は存在しない。単一方向からの入力でなく複数方向からの入
力が想定される場合に、本件各発明が解決すべき課題が存在することとなる。
そして、本件明細書には、前記1 に記載のとおりの本件各発明の意義が記
載されているほか、本件明細書に記載された実施例は、全て、複数方向から
の入力が問題となり、そのような複数方向からの入力に対し、本件発明1の
構成をとることによって対応することができるものであると認められる。本\n件明細書のその他の部分にも、単一方向からの入力に対応することに関する
記載はない。これらの本件明細書の記載及び構成要件G、Hの記載から、本\n件発明1に係るダンパは、ダンパに対して複数方向からの入力が想定される
構造物等の部位に用いられ、ダンパの剪断部に対して複数方向からの入力が\nあり、これに対して対応することができるダンパであると解するのが相当で
ある。
ウ 以上によれば、本件各発明におけるダンパは、その剪断部に複数方向から
の入力があり、その剪断部がそれに対する入力により荷重を受けたときに、
変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするもの(構成要件G、H)で\nあると解するのが相当であり、構成要件Gに係る「入力」は、「複数方向か\nらの入力」を意味し、本件各発明のダンパは、ダンパに対して複数方向から
の入力があることを前提として、その剪断部が複数方向からの入力により荷
重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするダンパ
であると認められる。
被告ダンパについて検討すると、本件において、原告は、被告ダンパ単体の
譲渡等を問題にするのではなく、被告ダンパが住宅である被告製品に用いられ
て、そのような被告製品が販売されていることを特許発明の実施として、被告
製品の販売額を基礎として実施料率相当額の損害を請求する。
被告は、6種の被告ダンパを4種の耐力パネルのいずれかに組み込み、これ
を住宅である被告製品の部材として用いている(前提事実 )。被告ダンパは各
平行板部及び各ウェブ部の一端又は両端が耐力パネルに溶接されているので
あって、耐力パネルから取り外して使用されることはおよそ想定されておらず、
各耐力パネルも、建物の水平方向に延びる梁や土台等にはさまれるように固定
されて設置されており、住宅販売後に耐力パネルのみを取り外して別の用途に
使用するということはおよそ想定されていない(前提事実 )。すなわち、被告
ダンパは、耐力パネルに物理的にも溶接され、取り外されることはおよそ想定
されず、耐力パネルと不可分一体となっているものといえる。
そうすると、本件において問題となる被告の行為は、被告ダンパが不可分一
体の一部となった被告製品の製造、販売等であって、被告ダンパが組み込まれ
た被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか否かが問題になるというべ
きである。
なお、被告は、Σ型の形状の鋼材である被告ダンパを作成し、これを他の部
材に組み込むことで耐力パネルを製造していることがうかがえる。もっとも被
告ダンパ単体には「一対のプレート」は接続されておらず、耐力パネルに組み
込まれることによって初めて、「一対のプレート」の具備が問題になるのである
から、耐力パネルに組み込まれる前の被告ダンパ自体が本件発明1の技術的範
囲に入ることはないと解される。
被告製品に組み込まれ、被告製品と不可分一体となった被告ダンパに対して
加わる力について検討する。
ア 被告ダンパはいずれも4種類の耐力パネルのいずれかに組み込まれてい
るところ、耐力パネルは、その構造上、耐力パネルが接続している梁の方向\nの力(耐力パネルが平行四辺形に変更する方向の力)が加わると、いずれの
耐力パネルについても、被告ダンパに鉛直方向の力が加わり、所定レベル以
上の力が加わると剪断変形によって地震力を吸収する。このとき、被告ダン
パに対しては、鉛直方向の力以外の力は加わらない。他方で、耐力パネルに
梁と垂直方向の力が加わっても、被告ダンパには力が加わらず、地震力を吸
収することができない。地震力のうち、これらの力の合力については、いず
れも上記二つの力に分解できるから、結局、被告ダンパには鉛直方向の力の
みが加わるということになる(乙33)。被告製品においては、建物の特定
の方向に複数の耐力パネルを設置するとともに、これと直交する方向にも複
数の耐力パネルを設置しており、このように複数の耐力パネルを直交方向に
設置することによって、個々のパネルの被告ダンパには鉛直方向の力のみが
加わり、その方向の力のみしか吸収できないとしても、各方向に沿って設置
された耐力パネルが、両方向に対応する地震力の分力を吸収することで建物
全体では任意の方向の地震力を吸収できるように設計されているといえる
(乙3)。
イ 被告ダンパに対しては、一応、前記アのとおりの力のみが加わるといえる
が、耐力パネルが設置されている上下の梁がねじれる(回転する)力が加わ
った場合には、耐力パネルの構造上、被告ダンパに対し鉛直方向とは異なる\n方向の力が加わる可能性がないわけではない。そこで、被告製品において鉛\n直方向からどの程度ずれる力が加わり得るのかについて検討する。
被告は、被告ダンパを搭載した実物大の住宅サンプルに対して、過去最大
級の地震の一つである兵庫県南部地震の際にJR鷹取駅で観測された地震
波(以下「鷹取地震波」という。)を適用して地震時挙動を測定する実験を行
ったところ、その結果によれば、1階に対する2階床の最大回転角は、0.
14°(乙40)、これにより耐力壁に設置されたダンパに対して加わる力
の鉛直方向からのずれは、0.022°であったこと(乙41)が認められ
る。
以上を前提に、被告ダンパの剪断部に本件発明1における複数方向から
の入力があり、その剪断部が複数方向からの入力により荷重を受けたとき
に変形してエネルギー吸収を行うものといえるか否かについて検討する。
・・・
前記イで認定したとおり、被告製品は、少なくとも鷹取地震波を前提
にすると、これによって剪断パネルに一定のねじれが生じ、被告ダンパ
に鉛直方向からずれた方向からの力も加わることが認められる。しかし、
そのずれは0.022°(なお、cos0.02°=約0.9999999
26)と極めて小さいものである。この程度のずれは、その小ささから
もこれによって被告ダンパに生じる効果に観測できるほどの差が生じ
るとは認めるに足りないし、このずれは、被告製品が用いられる分野の
施工の限界を超える程度であるといえる。また、そのずれは、被告ダン
パのウェブ部を形成する鋼板の厚みの中に収まるような小さなもので
あることがうかがえる。
これらによれば、上記実験結果によれば、本件においてねじれによっ
て加わり得る入力方向の違いは、従来のI字型ダンパにおいて同一方向
からの入力として想定されていたといえる範囲のものであり、前記(ア)で
説示した本件発明1が異なる入力方向として想定しているものではな
いというべきである。
また、被告製品が鷹取地震波を超える地震波に遭遇することは想定さ
れ得る。しかし、上記実験で用いられたのが過去最大級の地震の一つで
ある鷹取地震波であり、その場合であっても上記のとおり入力方向の違
いが極めて小さいことからすると、現実に想定し得る鷹取地震波を超え
る地震においても、被告ダンパに対して本件発明1が想定する程度の鉛
直方向からのずれが生じる剪断パネルのねじれが生じるとも認められ
ない。
以上によれば、被告製品で用いられている被告ダンパの剪断パネルに
対してねじれの影響によって生じる入力方向の違いは、その小ささから、
本件発明1が想定する程度に達するような、異なる方向からの入力であ
ると評価できるものではないというべきである。
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2024.05.26
令和5(行ケ)10141 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年4月10日 知的財産高等裁判所
商標「知財実務オンライン」(標準文字)について、識別力無しとした審決が維持されました。
(3) 本願商標の構成中の「知財実務」の文字は「知的財産に関する実務」を意\n味する一般的な用語であり、また、「オンライン」の文字は「コンピュータ
ーの入出力装置などが、中央処理装置と直結している状態。また、通信回線
などによって、人手を介さず情報を転送できる状態。」を意味する用語であ
り(大辞泉第2版)、英語の「online」とともに、「インターネットに接続
した状態」、「インターネットを利用した」等を意味する用語として一般的
に用いられていると認められる(乙1〜4、弁論の全趣旨)。
さらに、「〇〇オンライン」と「オンライン」の文字を末尾に配する標章
(「〇〇オンライン」標章)の一般的な実情をみると、当事者が主張におい
て挙げるものに限っても、別紙2「『オンライン』を末尾に付す標章の一覧
表」に記載の用例がある。これらの用例を大別すると、1)「オンライン」の
前の文字が、提供される商品又は役務の一般的名称と理解されるもの(事例
1〜5、16,18,20〜25、27〜29)と、2)「オンライン」の前
の文字が、それ自体としても識別力を有する標章として機能すると同時に、\n「オンライン」の文字と組み合わされて全体として一つの標章ともなってい
るもの(事例6〜11、14,15、26、30、34、35)に分けられ
る(分類の部妙なものは例示から除いた。)。
このような標章に接した需要者の一般的な認識としては、上記1)の事例で
あれば、「オンライン」の前の一般的な名称に係る商品又は役務をオンライ
ンで提供するものと認識し、上記2)の事例であれば、「オンライン」の文字
の前に示される識別標識に係る商品又は役務をオンラインで提供するものと
認識するものと認めるのが相当であり、いずれにおいても、「〇〇オンライ
ン」標章中の「オンライン」の文字が果たす意味合いは本質的に同じといっ
てよい。
そうすると、「オンライン」の前に「知的財産に関する実務」を意味する
一般的な用語である「知財実務」を結合させた本願商標は、上記の一般的な
取引の実情からみて、「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供す
るもの」、すなわち商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されると\nともに、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであ\nると認められる。そして、本願指定商品役務の取引の分野において、これと
異なる取引の実情があることを窺わせる証拠はない。
(4) 上記認定と異なる原告らの主張は、以下の理由により、いずれも採用でき
ない。
ア 原告らは、本願商標が第三者に使用されていない事実を取引の実情とし
て考慮すべきであると主張する。
しかし、上記のとおり、本願商標は「知財実務」と「オンライン」の文
字の意義及び「オンライン」の文字を末尾に付する標章の一般的な実情か
らみて、商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されると認められ、\nこの認定は、第三者が使用する事実があれば更に裏付けられるということ
はできても、第三者が使用する事実がないからといって左右されるもので
はない。
イ 原告らは、本願商標は商品又は役務の特徴等を間接的に表示するもので\nある、あるいは一定の意味を有しない造語であると主張する。
しかし、本願商標は「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供
するもの」として需要者に認識され、その内容に一定の幅があるとしても、
いずれにせよ商品の品質又は役務の質を表示したものと理解されることに\n変わりはなく、一定の意味を有しない造語であるとはいえない。
ウ 原告らは、商品、役務名又はブランド名の語尾に「オンライン」の文字
を付した標章は、ウェブサイトやYouTubeのチャンネルにおいて出
所識別標識として認識される態様で使用されていると主張する。
しかし、別紙2の各事例は、「オンライン」の前の文字がそれ自体とし
て出所識別標識として機能しているものを除き、「オンライン」の文字を\n付すことによって出所識別標識として認識される態様で使用されていると
は認められない。事例16の「神社仏閣オンライン」に係る甲3のSNS
の投稿は、この認定を左右するものではない。
エ 原告らは、本願指定商品役務の性質及び取引の実情は定期刊行物と共通
するから、本願商標については定期刊行物の題号と同様に自他商品役務識
別力を認めるべきである旨主張する。
しかし、新聞、雑誌等の定期刊行物の商品については、個人の著作物で
ある書籍と異なり、主として特定の新聞社・出版社が継続的に編集・発行
するものであって、その内容は新聞社・出版社ごとに異なり(題号と関わ
りの薄い記事が掲載されることも含まれる。)、その題号が品質・内容を
示すものであっても出所識別標識としての機能を果たし得るという、他の\n商品と異なる取引の実情が認められるものである(原告らの引用する大審
院昭和7年6月16日判決も、これと同旨と解される。)。
そして、このような定期刊行物を電子化した電子定期刊行物については
ともかく、本願指定商品役務について、定期刊行物と同様の取引の実情が
あると認めるに足りる証拠はない。
例えば、オンラインによる映像等の提供を内容とする指定役務10)、11)に
ついていえば、YouTubeなどに代表されるインターネット上の動画\n投稿・共有サービスは原則として誰もが簡便に動画を投稿できるものであ
るから、「知的財産に関する」、「各回異なる内容のものが定期的又は逐
次的に提供される」といった限定が付されたからといって、新聞、雑誌等
の定期刊行物と同様の取引の実情があると認めることはできない。
原告らは、商標審査基準改訂における放送番組の番組名に係る議論に言
及して、「番組」に関する商品・役務のうち「各回異なる内容のものが定
期的又は逐次的に提供されること」が明確になっているものは定期刊行物
と同様であると主張するが、そもそもオンラインによる映像等の提供につ
いては、映像等の内容、性質に多様なものが含まれることからすれば、
「放送番組」の一部がオンラインでも提供されている現状を考慮しても、
放送番組そのものと同様の取引の実情があるとは認められない。
また、知的財産に関する定期的に発行される電子出版物(指定商品5))
についても、このうち個人の著作する書籍に相当するものについては、直
ちに新聞、雑誌等の定期刊行物と同視することはできない。
なお、近年の電子技術や通信技術の発達に伴い、情報コンテンツ及びそ
の伝達手段が拡大・多様化しており、新聞社・出版社による「定期刊行
物」、テレビ局・ラジオ局による「放送番組」といった従来からの商品役
務とそれ以外のオンラインにより伝達される情報コンテンツとの境界も変
容しつつあることは事実であるが、そうであるからといって、従来からの
取引において長年にわたり形成された「定期刊行物」に係る取引の実情が、
オンラインによる映像等の提供について直ちに認められることにはならな
い。
(5) 以上のとおり、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決
の判断に誤りはなく、原告らの取消事由1の主張は理由がない。
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2024.05.26
令和4(ワ)70009 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年5月15日 東京地方裁判所
神棚の形状について、周知の商品形態なので、不正競争行為であると主張しましたが、周知性無しと判断されました。
(2) 原告が主張する原告神棚板の特徴1)から7)のうち、特徴7)は、商品の機能を\nいうものであり、また、特徴6)も金具の形状を問題とするものではなく商品の
機能をいうものといえる。このような機能\自体が商品の形態による商品等表示\nとなることはないと解される。
特徴1)から5)のうち、特徴1)から3)は壁面に取り付け可能な棚としては基本\n的な形態のものであることがうかがわれ、また、特徴4)、5)も、商品の一部分
の特徴で、かつ、それぞれの形態自体は独特のものとはいえないことがうかが
われる。もっとも、本件証拠上、原告神棚板の販売が開始された平成16年よ
り前の同種の商品の形態についての証拠はない。しかし、仮に、特徴1)から5)
の組合せが他の同種の商品と異なる顕著な特徴であったと認められるとしても、
後記(3)のとおり、原告神棚板の特徴1)から5)の組合せが原告の出所を示すもの
として周知になったことはなく、遅くとも令和2年10月までに原告神棚板の
形態が原告の出所を示すものとして周知となっていたとの原告の主張には理由
がない。
(3) 原告が主張する原告神棚板の特徴が原告の出所を示すものとして周知になっ
ていたか否かについて検討する。
平成27年4月には、NHKの番組で原告神棚板が取り上げられた。しかし、
他に、全国的なテレビ番組で原告神棚板が取り上げられたことがあったことを
認めるに足りず、この一回の放送によって、原告神棚板の特徴1)から5)の組合
せが原告の出所を示すものとして需要者に周知になったとはいえない。また、
原告の神棚が写っている写真が、日刊紙、雑誌等に掲載されたことが認められ
るが、それらは合計数回であり、これらによって、原告神棚板の特徴1)から5)
の組合せが原告の出所を示すものとして需要者に周知になったとはいえない。
さらに、原告神棚板は、ホームセンター、神具店、仏具店、神社、原告の直
営店及びオンラインショップで販売されていた。主な販売先であるホームセン
ターでは、原告の商品が多く取り扱われ(原告代表者は、ホームセンターの実\n店舗での原告の神棚、神具の展示、販売のシェアは70%を下回ることはなく、
80%を超えていると推計している。甲122)、原告の商品が、まとまって
展示、販売されている店舗もあった。しかし、原告は、神棚や関係する商品と
して多種類の商品を販売していて、ホームセンターでもそのような多種類の商
品が販売されていた。原告神棚板は、原告が販売する複数の種類の神棚のうち
の一つであり、その展示、販売に際しても、多種類の商品の中の一つとして展
示、販売されているのであって、原告神棚板の上記特徴が他の同種の商品とは
異なることを述べる宣伝文言によって強調されて展示、販売されていることも
認めるには足りない。これらからすると、原告神棚板の展示、販売によって、
原告神棚板の特徴1)から5)の組合せが原告の出所を示すものとして需要者に周
知になったとはいえない。
また、前記1(3)によれば、原告が主張する特徴1)から5)のうちの複数の特徴
を備える神棚板も販売されていて、原告が主張する特徴のいくつかやその組合
せについては原告が長期間独占的に使用していたと認めることもできない。
以上によれば、原告神棚板について、各報道や公刊物の記載、展示、販売に
よって原告神棚板の特徴1)から5)の組合せが原告の出所を示すものとして需要
者に周知になったとは認められず、また、報道等の回数の少なさや、展示、販
売の際も多種類の商品の一つとして展示、販売されているにすぎないことから
も、関係する事情を総合して考慮しても、原告神棚板の特徴1)から5)の組合せ
が、原告の出所を示す表示として周知になったことはないと認められる。\n
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2024.05.22
令和5(行ケ)10109 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年4月24日 知的財産高等裁判所
商標「奇跡のラカンカ」が識別力なしとした審決が維持されました。指定商品は、「ラカンカ」ではなく、30類「ラカンカを加味した菓子等」です。なお、審査官は、3条1項3号違反で拒絶査定にしましたが、審決では拒絶理由通知なしで、同6号違反で拒絶審決としました。手続きとしては違法だが、結果に影響がないのでそれを理由には取り消さないとしています。
本件において、拒絶の原査定及びこれに先立つ拒絶理由通知の根拠条文と
しては3条1項3号が掲げられていたのに対し、本件審決は同項6号を拒絶
の理由としているが、本件審決に先立って新たな拒絶理由通知は行われてい
ない(以上は争いがない。)。そこで、本件審決の理由が55条の2第1項
にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由」に当たるか否かを検討する必要が
ある。
(2) 商標法は、商標登録出願に対して拒絶査定をすべき場合を15条各号に
おいて限定的に列挙し、法定の期間内に拒絶の理由を発見しないときは商標
登録の査定をしなければならない旨を定める(16条)。このような商標法
の構造に照らして、拒絶理由通知にいう「拒絶の理由」とは、商標法が定め\nる具体的な登録拒絶事由(根拠条文)を示して、これに該当することの説明
をするものと解すべきであり、根拠条文が異なれば、原則として、それのみ
をもって「異なる拒絶の理由」に当たるというべきである。
この点、被告は、3条1項は出所表示機能\を欠く商標を列挙するところ、
例示的列挙である1号〜5号による拒絶と総括規定である6号による拒絶と
では、判断内容が実質的に相違するものでないから、本件審決の理由と査定
の理由は「異なる拒絶の理由」に当たらない旨主張している。しかし、3条
1項各号の実定法上の意義としては、それぞれが独立した別個の登録拒絶事
由を定めるものであり、同項6号の「前各号に掲げるもののほか」の文言か
らも明らかなように、同項6号と同項1号〜5号との間に概念上の上下関係、
包摂関係があるわけではない(参考までに、本来的な意味での例示列挙の立
法例として、著作権法30条の4、同法47条の4第1項があるが、3条1
項がこれらと異なることは明らかである。)。
被告の上記主張は、3条1項の全体としての趣旨、各号の担う実質的な
役割・機能を説明する文脈であれば、誤りとはいえないが、行政庁による公\n権力の行使(本件では商標登録出願の拒絶)は、具体的な根拠条文に基づい
て行われるのが法治国家の基本であり、「拒絶の理由」の異同についても、
拒絶の根拠条文が第一義的な基準になると考えるべきである。根拠条文の異
なる拒絶について、その背景にある立法趣旨において共通性があるからと
いって、「異なる拒絶の理由」に当たらないなどということはできない。
(3) 以上の原則を踏まえつつも、個別具体的な事情により、査定と審決とで
拒絶の根拠条文は異なっても、両者の判断内容が実質的に同一(大が小を兼
ねる関係を含む。)であり、改めて弁明の機会を付与する必要がないといえ
る特段の事情が認められる場合には、「異なる拒絶の理由」に当たらないと
解釈する余地もあり得るので、以下、この点について検討する。
本件において、原査定を不服として本件審判を請求した原告の立場で考
えると、原査定で示された理由(上記1(3))を争うべく、「本願商標の
『奇跡の』は『栄養素が豊富な』という意味を表すものではなく、したがっ\nて品質等表示(3条1項3号)に該当するものではない」という反論に注力\nするのが自然な対応と解される。現に原告は審判請求書でその趣旨を含む主
張をしている一方、3条1項6号が適用される可能性まで視野に入れた主張\nはしていない。これに対し、本件審決の判断(上記第2の2)は、本願商標
の「奇跡の」について、「常識では考えられないような」程の意味合いで理
解されるとして、原査定と異なる前提に立って、同項6号に当たるとの判断
をしている。これらは、大きな意味において、出所表示機能\を欠く商標かど
うかという議論として括れないわけではないが、議論の出発点となるべき
「奇跡の」の意味するところの認定に変更が生じているため、出願人・審判
請求人に求められる防御の対象及び範囲も大きく異なったものとなっている。
そうすると、原査定と本件審決の理由を対比する限りにおいて、その判断内
容が実質的に同一であるなどということはできず、改めて弁明の機会を付与
する必要があったと考えざるを得ない。本件において、上記特段の事情は認
められないというべきである。
なお、本件において、本件審尋書面の送付により反論の機会が事実上付
与されているという事情は認められるものの、原査定の理由と本件審決の理
由が客観的に同一といえるかという議論とは次元の異なる問題であるから、
手続上の違法が審決に結論に影響を及ぼすか否かの場面(後記3参照)で考
慮されることは格別、「拒絶の理由」の異同に関する上記判断を左右するも
のではない。
(4) 被告は、本件審判の手続を正当化する理由として、3条1項の適用上、
識別力を有しない商標であること自体は明らかであっても、同項のいずれの
類型に分類することが適切か明らかでなく、複数の号に重複して分類し得る
商標もあり得る点を挙げる。
しかし、そのような問題があるとすれば、最初の拒絶理由通知・拒絶査
定において、複数の根拠条文を掲げておけば(本件に即していえば「3条1
項3号又は6号」など)足りることであり、「異なる拒絶の理由」に当たる
場合を限定的に解釈すべき根拠となるものではない。
なお、この点につき、被告はさらに、多数の拒絶理由を列挙することに
なり、拒絶理由相互の関係が不明確で複雑なものとなり、出願人にとっても
防御の観点から不利益となるとも主張する。しかし、本件で問題となってい
る3条1項各号の選択に関していえば、合理的に適用が考えられる複数の号
の組合せは限定的と解されるし、出願人の防御という観点からいっても、被
告が主張するように3条1項各号の拒絶理由はどれも実質的に異ならないと
いう前提での運用よりも、防御の範囲はむしろ明確になるといえる。
以上のとおり、被告の上記各主張は失当である。
(5) 次に、被告は、拒絶査定に対する審判の段階においては、実際上、16
条(商標法施行令3条1項)の期間を経過しているのが大半であるから、新
たな拒絶理由通知が必要になるとすると、実体上は登録要件に適合しない商
標の登録も自動的に認めざるを得なくなり、不当である旨主張する。
仮に、被告が述べる上記のような実情が避け難いものだとすれば、拒絶理
由通知の手続(15条の2)が審判手続について準用(55条の2第1項)
される際に、16条所定の期間制限がどのように作用するのかを再検討する
ことを含めた吟味が必要になると解されるが、それ以前の問題として、上記
(4)で述べたように、最初の拒絶理由通知・拒絶査定において複数の根拠条
文を掲げておくという実務上の運用による対応をまずは行うべきものであり、
かつ、それで基本的に対処可能と考えられる。いずれにせよ、被告の上記主\n張は、「今更新たな拒絶理由通知ができないから異なる拒絶の理由ではない
と強弁する」というに等しいものであり、採用することはできない。
(6) 以上に述べたところをまとめると、原査定の理由と本件審決の理由は、
そもそも拒絶の根拠条文が異なる上、両者の判断内容が実質的に同一で改め
て弁明の機会を付与する必要がないといえる特段の事情も認められないから、
両者は「異なる拒絶の理由」に当たると認めるのが相当である。
そうすると、本来、55条の2第1項、15条の2所定の新たな拒絶理由
通知が必要であったところ、この手続を履践することなく本件審決に進んだ
本件審判の手続には瑕疵があるというべきである(仮に16条の期間制限の
ために新たな拒絶理由通知をすることが許されなかったという事情があると
しても、瑕疵があることに変わりはない。)。
3 審決の結論に影響すべき瑕疵といえるか
審判手続に瑕疵(違法)があっても、それが審決の結論に影響を及ぼすよう
なものと認められない場合には、審決取消事由とはなり得ないと解される(手
続上の違法に限らず、実体上の違法がある場合であっても、この理に変わりは
ない。)。
そこでこの点を検討するに、本件審判手続においては、本件審尋書面が原告
に送付され、本件審決の理由が事前に明らかにされ、曲がりなりにも弁明の機
会が与えられていたということができる。もちろん、本件審尋書面の送付を
もって法定の手続である拒絶理由通知と同視することはできず、適式な弁明の
機会が付与されていたということはできないが、審決の理由について何らの予\n告のないまま、不意打ち的に判断が示された場合とは状況が大きく異なる。
加えて、本件審尋書面及び本件審決で示された拒絶の理由は、原告が本件意
見書中で主張していた内容(本願商標は「常識では考えられない神秘的な果
物:ラカンカ」という意味を普通に用いられる方法で表示している標章である\nとの趣旨)を逆手に取って、本願商標の意味するところについては原告の主張
を全面的に採用した上で、そのような意味に理解される本願商標は3条1項6
号に該当することになると切り返したものである。そして、当裁判所は、後記
4で判断するとおり、取引者、需要者が理解・認識するであろう本願商標の意
味内容について原告が本件意見書で主張したところを前提とすれば、やはり3
条1項6号に該当することになると判断する。そうすると、仮に、原告に適式
な弁明の機会が付与されていたとしても、本件意見書で自ら主張していた内容
を覆すのでない限り有効な反論はなし得ないし、本件意見書と矛盾する内容と
なることを承知の上であえて反論をしたとしても、禁反言の原則に反する主張
又は合理的理由のない場当たり的な対応と受け止められる状況が容易に予想さ\nれたところである。
本件における以上の事情を総合すれば、本件審判の手続に上記2で述べた瑕
疵はあるものの、その手続上の違法は、審決の結論に影響を及ぼすものではな
いと解するのが相当である。よって、原告主張の取消事由は採用できない。
4 本願商標の3条1項6号該当性について
念のため、本願商標の3条1項6号該当性についても検討しておく。
本願商標は、「奇跡のラカンカ」の文字を横書きしてなるところ、その構成\n中の「奇跡」や「ラカンカ」の文字の意味を一般に理解し得る意味(乙3〜5)
として理解すれば、「ラカンカ」は中国に産するウリ科の植物「羅漢果」の片
仮名表記であり、本願商標は全体として「常識では考えられない神秘的な羅漢\n果」程の意味合いを認識させるものである。以上は、原告自身が本件意見書の
中で主張しているとおりである。
そして、証拠(乙6〜35)によれば、「奇跡」の文字は、「奇跡の果物」、
「奇跡の野菜」、「奇跡のブドウ」、「奇跡のイチゴ」などといったように、「常
識では考えられないような」といった程度の意味合いで広く一般に使用されて
おり、飲食料品を取り扱う業界において商品ないしその原材料の宣伝広告に使
用されていることが認められる。
そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、
需要者は、商品の宣伝広告に一般に使用されるような「常識では考えられない
ような羅漢果」程の意味合いを表示したものと認識するにすぎず、何人かの業\n務に係る商品であることを表示したものと認識することはないといえる。した\nがって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識する
ことができない商標であるから、3条1項6号に該当する。
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2024.05.16
令和5(行ケ)10091 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年4月22日 知的財産高等裁判所
特許異議申立がなされて取消審決がなされましたが、知財高裁は、相違点1−2と相違点1−3は一体として検討すべきとして、これを取り消しました。
(2) 相違点の容易想到性についての判断の誤りについて
ア 原告は、本件決定が相違点1−1から同1−3までを関連付けずに判断
している点が誤りであると主張するところ、当裁判所は、相違点1−1は
ともかく、少なくとも相違点1−2と相違点1−3は一体として検討する
必要があると判断する。その理由は、以下のとおりである。
本件発明の内容は前記第2の2のとおりであって、ポリプロピレンフィ
ルムと蒸着膜との間に、密着性に優れた極性基を有する樹脂材料を含む表\n面コート層を備えることにより、層間の剥離を防止し、また、シランカッ
プリング剤とともに用いられる場合も含め金属アルコキシドと水溶性高
分子との樹脂組成物からなるバリアコート層を蒸着膜上に設けることで、
蒸着膜のクラック発生をも防止し、さらには、ボイル又はレトルト処理が
行われる場合であってもガスバリア性の低下の抑制が図られるように、バ
リアコート層表面の珪素原子と炭素原子との割合を特定の範囲にしたも\nのであって、高いガスバリア性を有するボイル又はレトルト用バリア性積
層体を提供するという技術的意義を有するといえる。そして、本件明細書
によれば、珪素原子と炭素原子の比(Si/C)の上限は、バリア性積層
体を屈曲させてもガスバリア性の低下を抑制できるという観点から定め
られ、下限は、バリア性積層体を加熱してもガスバリア性の低下を抑制で
きるという観点から定められているのであるから(【0076】、表5〜\n表7)、ボイル又はレトルト用であるか否かに係る相違点1−3と、珪素\n原子と炭素原子の比の数値範囲に係る相違点1−2は、一体として検討さ
れるべきものである。
イ 以上を前提に、相違点1−2と相違点1−3に係る容易想到性につき一
括して判断するに、まず、本件決定が副引用例とする甲4には、別紙6の
記載があり、ここから本件決定の認定に係る甲4記載事項(別紙4の1(2))
を認定できることについては争いがない。
甲4は、電気製品等の機器の消費エネルギーを削減するための真空断熱
材用外包材等に関するもので、外包材により形成された袋体内に芯材を配
置し、上記芯材が配置された袋体の内部を減圧して真空状態とし、上記袋
体の端部を熱溶着して密封し、上記袋体内部を真空状態とすることにより、
気体の対流が遮断されるため、真空断熱材は高い断熱性能を発揮すること\nができるというものである(【0001】〜【0003】)。
甲4記載事項は、第1フィルム(金属酸化物リン酸層付きフィルム。第
1樹脂基材と金属酸化物リン酸層から成る。)、オーバーコート層付きフ
ィルム(樹脂基板、無機層、オーバーコート層から成る。)、熱溶着可能\nなフィルムから構成される真空断熱材用外包材のうち、オーバーコート層\n付きフィルムの中のオーバーコート層及び無機層をもとに抽出されたも
のである。
ウ 本件決定は、甲3発明に、甲4記載事項のオーバーコート層における炭
素原子に対する珪素原子の比率を適用するものである。
しかし、甲4記載事項は、前提とする積層構造が、甲3発明と異なる上、\n以下のとおり、甲4は、甲3発明とは技術分野が共通するものとはいい難
く、さらに、相違点1−3に係る構成(ボイル又はレトルト用)を開示又\nは示唆するものでもない。すなわち、甲4は、高温高湿な環境においても
長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材用外包材等の提供を\n目的とするものであるが(【0008】)、高温多湿な「環境」を想定す
るにとどまり、物を入れて積極的に加熱殺菌処理をする行為であるレトル
トやボイル(一例として、優先日前の公知文献である特開2007−13
7438号公報〔乙4〕では、レトルト処理について110゜C)〜130゜C)
位、圧力、1〜3Kgf/cm 2 ・G位で約20〜60分間程度の加熱加
圧殺菌処理、ボイルについて90゜C)位で30分間位の加熱殺菌処理〔【0
002】〕等が挙げられている。)を想定しているとはおよそ考えられず、
実際、甲4には、レトルトやボイルを前提とする記載はない。
その上、甲3の【0044】には、「炭素の割合が50%より多い場合、
バリア性が温度、湿度の影響を受け易く、15%より少ない場合、バリア
性が悪くなり、膜質が脆くなる。」として、炭素が少なすぎると膜質が脆
くなることが示唆されているのに対し、甲4の【0111】には、「オー
バーコート層を構成する原子における、炭素原子に対する金属原子の比率\n(金属原子数/炭素原子数)は、0.1以上、2以下の範囲内であり、中
でも0.5以上、1.9以下の範囲内、特には0.8以上、1.6以下の
範囲内であることが好ましい。」という炭素原子に対する金属原子の比率
(金属原子数/炭素原子数)を示す記載に引き続いて、「比率が上記範囲
に満たないと、オーバーコート層の脆性が大きくなり、得られるオーバー
コート層の耐水性および耐候性等が低下する場合がある。一方、比率が上
記範囲を超えると、得られるオーバーコート層のガスバリア性が低下する
場合がある。」として、金属原子に対して炭素原子の数が過剰に多くなる
とオーバーコート層の脆性が大きくなって、ガスバリア性の低下につなが
る旨の記載があるところ、これは、上記甲3の【0044】の記載と正反
対の内容である。
そうすると、当業者において、甲3発明の食品包装材料についてボイル
又はレトルト用途とすることを想起したとしても、甲4におけるオーバー
コート層を構成する原子における金属原子の比率は加熱によってもガス\nバリア性が維持されるかどうかとは関わりのないものであること、甲4に
は、炭素原子と金属原子の比率と、膜質の脆性について、甲3と正反対の
記載があることに鑑みても、甲3発明とは技術分野も積層構造も異なる真\n空断熱材用外包材に関する甲4の積層体の中から、オーバーコート層付き
フィルムの中のオーバーコート層及び無機層に関する記載に着目した上、
オーバーコート層における炭素原子に対する金属原子の比率(金属原子数
/炭素原子数)を参酌して、甲3発明に適用する動機付けを導くには無理
があるというほかなく、本件決定の判断には誤りがある。
エ 被告は、Si/Cの数値範囲に特段の技術的意義はなく、層構成に係る\n共通の技術について「Si/C」を用いて数値範囲を検討することが甲4
にあるとおり公知であることを併せると、甲3発明において甲4記載事項
を参考にして、相違点1−2に係る本件発明の構成とすることは、当業者\nが容易に想到し得た旨主張する。
被告が、Si/Cの数値範囲に特段の技術的意義はないと主張する根拠
は、1)本件発明1の発明特定事項が「バリアコート層が、金属アルコキシ
ドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜で\nあるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリ
ング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜」と択一的なも\nのになっており、シランカップリング剤には珪素が含まれるにもかかわら
ず、本件明細書上効果が確認されているのはシランカップリング剤を含む
バリアコート層だけであるという点、2)本件発明1の数値範囲は甲3から
簡単に算出でき、甲4にも同数値範囲内のものが例示されているという点
にある。
しかし、上記1)についていえば、シランカップリング剤が珪素を含むと
いうような一般論だけで、シランカップを含むものであるバリアコート層
の効果に係る【表4】〜【表\7】の結果、及びSi/Cの数値範囲の効果
に係る【表5】〜【表\7】が、シランカップ剤を含まないバリアコート層
について技術的意義がないとは直ちにいえないし、そもそも、技術的意義
が裏付けられているかどうかと、構成が容易想到といえるかどうかの問題\nは直結するものではない。
また、上記2)についていえば、甲3発明の「X線光電子分光分析法」の分
析における「炭素と酸素と珪素が、それぞれ15〜50%、30〜65%、
5〜30%の割合で存在すること」から、珪素原子と炭素原子の比(Si/
C)は、0.1以上、2以下と算出することができ、この数値範囲は、本件
発明1の数値範囲である「0.90以上1.60以下」を包含するからとい
って、炭素と酸素と珪素の数値範囲で一定の技術的意義を示している甲3
の記載から、炭素と珪素だけを抽出すべき合理的な理由、技術的な必然性
は認められない。
甲4の表1には、30質量部(Si/C比率1.58)、38.5質量部\n(同比率1.25)及び50質量部(同比率1.03)という、本件発明1
の数値範囲内のものが開示されているが、同表では膜特性は示されておら\nず、このSi/C比率で、本件発明1の数値範囲外の他の質量部より優れ
ていることが示されているわけでもないから、当業者が当該数値に着目す
るともいえない。
そして、甲3とは「層構成に係る発明である」という程度の共通性しかな\nい甲4に「Si/C」を用いて数値範囲を検討することが記載されていた
からといって、当業者において甲4記載事項を参考にして相違点1−2、
相違点1−3に係る構成とすることが容易に想到できるとはいえない。\n
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2024.05.16
令和5(行ウ)5001 出願却下処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年5月16日 東京地方裁判所
発明者をAIと記載した国際特許出願の国内書面が却下されました。出願人はこれを不服として裁判所に不服申し立てを行いましたが、東京地裁(40部)は、AIは発明者になれないとの判断を維持しました。最後に付言があります。
1 我が国における「発明者」という概念
知的財産基本法2条1項は、「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、
意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明
がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、\n商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘\n密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいうと規定している。
上記の規定によれば、同法に規定する「発明」とは、人間の創造的活動により
生み出されるものの例示として定義されていることからすると、知的財産基本法
は、特許その他の知的財産の創造等に関する基本となる事項として、発明とは、
自然人により生み出されるものと規定していると解するのが相当である。
そして、特許法についてみると、発明者の表示については、同法36条1項2\n号が、発明者の氏名を記載しなければならない旨規定するのに対し、特許出願人
の表示については、同項1号が、特許出願人の氏名又は名称を記載しなければな\nらない旨規定していることからすれば、上記にいう氏名とは、文字どおり、自然
人の氏名をいうものであり、上記の規定は、発明者が自然人であることを当然の
前提とするものといえる。また、特許法66条は、特許権は設定の登録により発
生する旨規定しているところ、同法29条1項は、発明をした者は、その発明に
ついて特許を受けることができる旨規定している。そうすると、AIは、法人格
を有するものではないから、上記にいう「発明をした者」は、特許を受ける権利
の帰属主体にはなり得ないAIではなく、自然人をいうものと解するのが相当で
ある。
他方、特許法に規定する「発明者」にAIが含まれると解した場合には、AI
発明をしたAI又はAI発明のソースコードその他のソ\フトウェアに関する権
利者、AI発明を出力等するハードウェアに関する権利者又はこれを排他的に管
理する者その他のAI発明に関係している者のうち、いずれの者を発明者とすべ
きかという点につき、およそ法令上の根拠を欠くことになる。のみならず、特許
法29条2項は、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識
を有する者(以下「当業者」という。)が前項各号に掲げる発明に基いて容易に
発明をすることができたときは、進歩性を欠くものとして、その発明については
特許を受けることができない旨規定する。しかしながら、自然人の創作能力と、\n今後更に進化するAIの自律的創作能力が、直ちに同一であると判断するのは困\n難であるから、自然人が想定されていた「当業者」という概念を、直ちにAIに
も適用するのは相当ではない。さらに、AIの自律的創作能力と、自然人の創作\n能力との相違に鑑みると、AI発明に係る権利の存続期間は、AIがもたらす社\n会経済構造等の変化を踏まえた産業政策上の観点から、現行特許法による存続期\n間とは異なるものと制度設計する余地も、十分にあり得るものといえる。\nこのような観点からすれば、AI発明に係る制度設計は、AIがもたらす社会
経済構造等の変化を踏まえ、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねるこ\nととし、その他のAI関連制度との調和にも照らし、体系的かつ合理的な仕組み
の在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方と
みるのが相当である。グローバルな観点からみても、発明概念に係る各国の法制
度及び具体的規定の相違はあるものの、各国の特許法にいう「発明者」に直ちに
AIが含まれると解するに慎重な国が多いことは、当審提出に係る証拠及び弁論
の全趣旨によれば、明らかである。
これらの事情を総合考慮すれば、特許法に規定する「発明者」は、自然人に限
られるものと解するのが相当である。
したがって、特許法184条の5第1項2号の規定にかかわらず、原告が発明
者として「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載して、発明者の\n氏名を記載しなかったことにつき、原処分庁が同条の5第2項3号に基づき補正
を命じた上、同条の5第3項の規定に基づき本件処分をしたことは、適法である
と認めるのが相当である。
2 原告の主張に対する判断
(1) 原告は、我が国の特許法には諸外国のように特許を受ける権利の主体を発明
者に限定するような規定がなく、特許法の制定時にAI発明が想定されていな
かったことは、AI発明の保護を否定する理由にはならない旨主張する。しか
しながら、自然人を想定して制度設計された現行特許法の枠組みの中で、AI
発明に係る発明者等を定めるのは困難であることは、前記において説示したと
おりである。この点につき、原告は、民法205条が準用する同法189条の
規定により定められる旨主張するものの、同条によっても、果実を取得できる
者を特定するのは格別、果実を生じさせる特許権そのものの発明主体を直ちに
特定することはできないというべきである。その他に、原告の主張は、AI発
明をめぐる実務上の懸念など十分傾聴に値するところがあるものの、前記にお\nいて説示したところを踏まえると、立法論であれば格別、特許法の解釈適用と
しては、その域を超えるものというほかない。
(2) 原告は、AI発明を保護しないという解釈はTRIPS協定27条1項に違
反する旨主張する。しかしながら、同項は、「特許の対象」を規律の内容とす
るものであり、「権利の主体」につき、加盟国に対し、加盟国の国内特許法に
いう「発明者」にAIを含めるよう義務付けるものとまでいえず、また、原告
主張に係る欧州特許庁の見解も、特許法に関する判断の国際調和という観点か
ら一つの見解を示すものとして十分参考にはなるものの、属地主義の原則に照\nらし、我が国の特許法の解釈を直ちに左右するものとはいえず、本件に適切で
はない。
(3) 原告は、知的財産基本法2条1項は「その他」と「その他の」の用法を混同
しており、「発明」が「人間の創造的活動により生み出されるもの」に包含さ
れると規定するものではない旨主張する。しかしながら、特許法がAI発明を
想定していなかったことは、原告も認めるとおりであり、知的財産基本法2条
1項も、立法経緯に照らし、文言どおり、AI発明を想定していなかったもの
と解するのが相当である。そして、当時想定していなかったAI発明について
は、現行特許法の解釈のみでは、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏ま\nえた的確な結論を導き得ない派生的問題が多数生じることは、前記において繰
り返し説示したとおりである。
・・・
その他に、原告提出に係る準備書面及び提出証拠を改めて検討しても、前記に
おいて説示したところを踏まえると、いずれも前記判断を左右するに至らない。
したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
なお、被告は、当裁判所の審理計画の定め(第2回弁論準備手続調書参照)に
かかわらず、原告主張に係るAI発明をめぐる実務上の懸念に対し、具体的な反
論反証(令和5年11月6日提出予定の被告の再々反論、再々反証をいう。上記\n手続調書参照)をあえて行っていないものの、特許法にいう「発明者」が自然人
に限られる旨の前記判断は、上記実務上の懸念までをも直ちに否定するものでは
なく、原告の主張内容及び弁論の全趣旨に鑑みると、まずは我が国で立法論とし
てAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発
明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されているものであることを、
最後に改めて付言する。
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2024.05.15
令和5(ワ)691 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟 令和6年4月18日 大阪地方裁判所
大阪地裁(26部)は、本件商標「子供と母親のための歯医者さん」と、被告標章「香椎照葉/こどもとママの歯科医院」(2段併記)とは、非類似と判断しました。
被告標章1は、別紙被告標章目録記載1のとおり、「香椎照葉こどもとママ
の歯科医院」の同一字体の文字を1行の横書きにて配して成るものである。こ
のうち、「こどもとママの歯科医院」の部分は、母子を歯科治療の対象としてい
る意味合いを伝えるにすぎないことに加え、証拠(乙10ないし17)及び弁
論の全趣旨によれば、同趣旨の商標又は歯科治療の対象となる特定の属性を表\n現した商標は、多くの歯科医院において使用されていることが認められる。そ
うすると、被告標章1のうち「こどもとママの歯科医院」の部分は、自他役務
の識別力が弱いというべきであるから、同部分が、取引者又は需要者に対し、
役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできず、同
部分だけを抽出して本件各商標と比較して類否を判断することは相当でない。
そこで、本件各商標と被告標章1全体を比較して類否を判断するに、別紙商
標目録及び同被告標章目録1記載のとおり、本件各商標と被告標章1の外観は、
少なくとも「香椎照葉」の有無という明らかな相違がある。また、本件各商標
からは「子供と母親のための歯医者さん」という観念が生じるのに対し、被告
標章1からは「香椎照葉にある子供と母親のための歯科医院」という観念が生
じる。そして、本件各商標は「コドモトママノハイシャサン」又は「ママトコ
ドモノハイシャサン」という称呼が生じるのに対し、被告標章1は「カシイテ
リハコドモトママノシカイイン」という称呼が生じる。したがって、本件各商
標と被告標章1は、外観、観念及び称呼のいずれをみても、明確に相違をして
おり、取引の実情を考慮しても、需要者がその出所につき誤認混同を生じるお
それがあるとはいえない。
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2024.05. 1
令和5(ネ)10078 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審で文言侵害不成立と判断されましたので、控訴審で均等侵害の主張を追加しましたが、第1要件を満たさないと判断されました。
(4) 当審における控訴人による均等侵害の主張に対する判断
ア 控訴人は、仮に被控訴人製品が、本件各発明に文言上はその技術的範囲に
属しないものとしても、これと均等なものとして、特許権侵害に当たる旨を
主張する。
特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用い\nる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、
1)同部分が特許発明の本質的部分ではなく、2)同部分を対象製品等における
ものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果
を奏するものであって、3)上記のように置き換えることに、当該発明の属す
る技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製
造等の時点において容易に想到することができたものであり、4)対象製品等
が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同
出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、5)対象製品等が特許発明の
特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる
などの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載さ
れた構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解する\nのが相当である。
そして、上記1)の要件(第1要件)における特許発明における本質的部分
とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない
特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきであり、特許請求\nの範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効
果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見
られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定するこ\nとによって認定されるべきである(最高裁平成6年(オ)第1083号同1
0年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成28
年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号
359頁参照)。
これを本件において検討するに、前記(1)イのとおり、本件発明1は、「底部
に取り付けられた安定補助板により支えられてテーブルなどの上に立たせら
れる」「折畳式コップ型容器」(段落【0003】)であって「安定補助板が例
えば紙や合成樹脂などから形成され、後から容器本体に取り付けられる構成」\n(段落【0005】)を採用した従来技術を前提とし、「成形が簡便な自立型
の包装容器の提供を目的とする」(段落【0006】)ことを発明が解決しよ
うとする課題とし、当該課題を解決する手段として「前記包装容器を容器と
して形成した状態において、前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自
立片が載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、前記自立片によって前記載
置面に自立させられる」(本件発明1の構成要件B)という構\成を採用するこ
とにより、「包装容器を自立させる自立片が底面片に連なっているため、一体
的な成形が簡便である」(段落【0013】)という効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1において従来技術に見られない特有の技術的思想
を構成する特徴的部分は、従来技術における安定補助板が、底部に一体的に\n成形された構成である、「前記包装容器を容器として形成した状態において、\n前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って前記奥
行の方向に突出し、前記自立片によって前記載置面に自立させられる」こと
にあると考えられる。
そして、本件発明1と被控訴人製品とは、包装容器を容器として形成した
状態において、本件発明1の「底面片」が筒状の底部を形成するのに対し、
被控訴人製品は、包装容器を自立させる舌状片が、包装容器の底部を形成す
る六角片と同一面に連なっておらず別に構成されている点において相違する\nものと認められるところ、この相違に係る本件発明1の構成、すなわち「底\n部を形成する底面片」が「自立片」と同一面に連ねられていることは、これ
までの検討によれば、本件発明1の本質的部分に当たるものということがで
きる。
そうすると、上記相違点に係る本件発明1の構成については、本件発明1\nの本質的部分ではないということはできない。そして、前記(1)ウのとおり、
上記の点については、本件各発明について共通するものということができる。
したがって、被控訴人製品は均等侵害の第1要件を充足しないから、その
要件について検討するまでもなく、均等侵害は成立しない。
イ 控訴人は、前記第2の3(4)ウのとおり、本件各発明の本質的部分は、「自立
片」によって載置面に自立させられる構成を採用した点にあり、当該「自立\n片」が内容物に直接接触してこれを支える片という意味における「底面片」
と、同一面に連なることにあるのではないと主張する。
しかし、本件各発明の本質的部分については上記アのとおりと認められる
から、本件各発明と被控訴人製品とは、その本質的部分において異なるもの
というべきである。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和4(ワ)2049
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2024.05. 1
令和3(ワ)11358 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年3月19日 東京地方裁判所
被告は、魚介類及び水産加工品の輸出入等の事業を行う会社で、日本での食材の仕入れ及び東南アジアのダイショーグループ各社への輸出を行っていました。ダイショーグループは、シンガポール・マレーシア・インドネシアなどで「寿司」、「和食レストラン」などの店舗を展開していました。本件各ウェブページは、日本語によって記載された主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブページであり、被告が管理していること、本件各ウェブページには、スーパースシが展開する本件すし店に関するものとして被告各表示が掲載されていました。裁判所は、指定商品・役務が類似する、&商標も類似するとして、差止と約600万円の損害賠償を認めました。また、不正競争行為にも該当すると判断されています。
原告は「すしざんまい」です。
ア 本件各掲載行為のうち本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為について\n
前提事実(1)イ及びウ、(4)ア、証拠(甲4、23ないし25)並びに弁
論の全趣旨によれば、原告各商標の指定役務は「すしを主とする飲食物
の提供」であること、被告は、魚介類及び水産加工品の輸出入等の事業
を行う株式会社であり、日本での食材の仕入れ及び東南アジアのダイシ
ョーグループ各社への輸出を行っていること、ダイショーグループは、
シンガポール・マレーシア・インドネシアなどで「寿司」、「和食レスト
ラン」などの店舗を展開していること、本件各ウェブページは、日本語
によって記載された主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブペ
ージであり、被告が管理していること、本件各ウェブページには、スー
パースシが展開する本件すし店に関するものとして被告各表示が掲載さ\nれており、被告各表示とともに「手頃な価格で幅広い客層が楽しめる回\n転寿司。厳選した食材と豊富なメニューで、人気を集めています。」と
の説明が掲載されていることが認められる。
このような事情からすれば、本件各ウェブページにおける被告各表示\nは、すしを主とする飲食物の提供を行う本件すし店を紹介するために掲
載されたものであり、「すしを主とする飲食物の提供」と類似の役務に
係るものといえるから、原告各商標の指定役務と被告各表示に係る役務\nとは類似するものといえる。
そして、被告が本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は、\n「役務に関する広告…を内容とする情報に標章を付して電磁的方法によ
り提供する行為」(商標法2条3項8号)に該当するといえ、被告は原
告各商標を「使用」したものと認められる。
被告の主張について
被告は、被告各表示はスーパースシがマレーシアにおいて展開する本\n件すし店に関するものにすぎず、被告自身は「すしを主とする飲食物の
提供」を行っていないことなどから、被告各表示に係る役務は、原告各\n商標の指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」とは類似してお
らず、また、被告が原告各商標を「使用」したとはいえないと主張する。
そこで検討すると、商標法は、「商標を保護することにより、商標の
使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、
あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と定めており、こ
の目的を達成するため、商標は、標章をある者の商品又は役務に付する
ことにより、その商品又は役務の出所を表示する機能\(出所表示機能\)
や、取引者及び需要者が同一の商標の付された商品又は役務には同一の
品質を期待しており、商標がその期待に応える作用をする機能(品質保\n証機能)を有するものと解される。本件においては、前記 で説示した
とおり、本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向け
たウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の\n提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの\n本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各
表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表\示機能及び品\n質保証機能を害し、ひいては、上記の商標法の目的にも反するものであ\nるといえる。
そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとし\nても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行った\nものと認められ、上記のとおり、そのような被告の行為によって日本に
おける原告各商標の出所表示機能\及び品質保持機能が害されている以上、\n被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。
そうだとすれば、被告の上記主張はいずれも役務の類否や使用行為の
有無を左右するものではないというべきである。
・・・・
被告は、被告各表示はスーパースシがマレーシアにおいて展開する本\n件すし店に関するものにすぎず、被告自身は「すしを主とする飲食物の
提供」を行っていないことなどから、被告各表示に係る役務は、原告各\n商標の指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」とは類似してお
らず、また、被告が原告各商標を「使用」したとはいえないと主張する。
そこで検討すると、商標法は、「商標を保護することにより、商標の
使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、
あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と定めており、こ
の目的を達成するため、商標は、標章をある者の商品又は役務に付する
ことにより、その商品又は役務の出所を表示する機能\(出所表示機能\)
や、取引者及び需要者が同一の商標の付された商品又は役務には同一の
品質を期待しており、商標がその期待に応える作用をする機能(品質保\n証機能)を有するものと解される。本件においては、前記 で説示した
とおり、本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向け
たウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の\n提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの\n本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各
表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表\示機能及び品\n質保証機能を害し、ひいては、上記の商標法の目的にも反するものであ\nるといえる。
そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとし\nても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行った\nものと認められ、上記のとおり、そのような被告の行為によって日本に
おける原告各商標の出所表示機能\及び品質保持機能が害されている以上、\n被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。
そうだとすれば、被告の上記主張はいずれも役務の類否や使用行為の
有無を左右するものではないというべきである。
イ 本件各掲載行為のうち本件各アカウント写真として被告表示2を掲載し\nた行為について
前提事実(1)ウ、証拠(甲20、21)及び弁論の全趣旨によれば、スー
パースシは、マレーシアにおいて本件すし店を展開していること、本件各
アカウントは、本件すし店に係るアカウントであることが認められるが、
本件全証拠によっても、被告が本件各アカウントを管理していると認める
ことはできない。
したがって、本件各アカウント写真の掲載行為については、被告が行っ
たものと認めることができないから、被告が原告各商標を「使用」したと
はいえない。
なお、本件では、不競法違反に関して被告が原告各表示と類似の商品等\n表示を「使用」(不競法2条1項1号)したといえるか(争点2−3)も\n問題となっているが、上記で説示したとおり、本件各アカウント写真の掲
載行為は被告が行ったとは認められないから、被告が原告各表示と類似の\n商品等表示を「使用」したともいえない。\n
・・・
商標法38条2項による損害額の算定について
商標法38条2項は、商標権者等が侵害行為による損害の額を立証するこ
とが困難であることから、その立証を容易にするために設けられたものであ
ると解される。そうすると、同項の適用が認められるためには、侵害者によ
る侵害行為がなかったならば商標権者等が利益を得られたであろうという事
情が存在する必要があるものと解される。
証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、原告はマレーシアにおいてすし
店を展開していないことが認められるところ、本件全証拠によっても、日本
国内における原告すし店とマレーシアにおける本件すし店の市場が競合する
と認めることはできないから、被告による侵害行為(本件各ウェブページに
被告各表示を掲載した行為)がなかったならば原告(原告すし店)が利益を\n得られたであろうという事情が存在すると認めることはできない。
したがって、本件では、商標法38条2項を適用することはできない。
(2) 商標法38条3項よる損害額の算定について
ア 前提事実(5)のとおり、平成26年から令和5年までの被告の本件すし
店に対する売上げは合計1億4475万8151円である。
そして、証拠(甲44、乙3)及び弁論の全趣旨によれば、株式会社
帝国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用
の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤル
ティ料率に関する実態把握〜」には、商標権における使用料率(ロイヤ
ルティ料率)全体の平均値は2.6パーセント、第43類「飲食物の提
供及び宿泊施設の提供」に関する平均値は3.8パーセントであると記
載されていることが認められる。
この点について、前提事実(1)のとおり、被告は、スーパースシを含め
たダイショーグループ各社に対して、日本で仕入れた食材の輸出を行っ
ているところ、被告が本件各ウェブページに被告各表示を掲載すること\nによって本件すし店(スーパースシ)の売上げが増加した場合、それに
伴って被告の本件すし店に対する売上げ(輸出)も増加する関係にある
ものと認められる。
他方で、前記(1)で説示したとおり、日本国内における原告すし店とマ
レーシアにおける本件すし店の市場が競合すると認めることはできない
ことに照らすと、本件各ウェブページへの被告各表示の掲載が被告の売\n上げに与えた影響は限定的なものであったことがうかがわれる。
このような事情に加え、本件各ウェブページにおける被告各表示は遅\nくとも平成26年12月頃から相当長期にわたって掲載されていたと認
められること(前提事実(4)及び弁論の全趣旨)及び商標権侵害があった
場合に事後的に定められるべき登録商標の使用に対し受けるべき金銭の
額は通常の使用料と比べて高額となることを考慮すると、被告による原
告各商標の使用に対し原告が受けるべき金銭の額に相当する額を算定す
るための使用料率については、3.8パーセントと認めるのが相当であ
る。
そうすると、上記の金銭の額は、被告の本件すし店に対する売上げで
ある1億4475万8151円に使用料率3.8パーセントを乗じた5
50万0809円であると認められる。
イ これに対し、原告は、前記アの金銭の額を算定するに当たっては、被
告が被告各表示を被告各ウェブサイトに掲載することにより自己の取引\n上の信頼を高めて事業全般に及ぶメリットを享受していることから、被
告の全売上高をその基礎とすべきであると主張する。
しかしながら、上記の金銭の額を算定する際に基礎とすべきは、侵害
行為に関する売上高であると解されるところ、別紙被告ウェブページ目
録記載のとおり、本件各ウェブページに掲載された被告各表示は本件す\nし店に関するものであり(甲4及び弁論の全趣旨)、それを超えて被告の
事業全体に関するものであると認めるに足りる証拠はないから、原告の
上記主張は採用できない。
◆判決本文
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2024.04.30
令和4(ネ)10117 商標使用料等請求控訴事件 商標権 民事訴訟 令和6年4月10日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、権利濫用として棄却判決でしたが、知財高裁は、権利濫用ではないとして、約3200万円の支払いを命じました。
原告商標1についての商標登録出願につき、その登録前の平成17年12月6日
に、被告から原告へと出願人名義変更がされている(甲A419、乙113〜11
5)。原告商標1の商標登録出願により生じた権利を被告から原告に移転すること
は、被告の取締役でありかつ原告代表者であるDが、原告のために行った取引であ\nるから、被告からみて利益相反取引に当たるところ、同取引について被告の取締役
会における承認はされていないから、被告は、原告に対し、当該移転に係る取引の
無効を主張することができることになる。しかしながら、原告商標1は平成18年
1月27日に設定の登録がされ(甲A203、204)、既に同日から5年が経過し
ていることから、これを無効審判請求により無効とすることはできない(商標法4
7条1項、46条1項4号)。そうすると、被告は、原告商標1の登録について、無
効の抗弁(同法39条、特許法104条の3第1項)を提出することはできない(最
高裁平成27年(受)第1876号同29年2月28日第三小法廷判決・民集71
巻2号221頁参照)。
そして、本件において原告が原告商標1を取得した目的は、被告に使用許諾をし
て足立物件に係る事業に用いるためであり、また、被告から原告に移転をしたのは
出願当初に予定していたとおりの帰属とするためであったと認められるから、原告\n商標1の出願により生じた権利の移転について被告の取締役会決議を経ていないこ
とのみをもって、原告による原告商標権1に係る権利行使を制限すべきとは認めら
れない。
(3) 原告各商標権について
原告各商標権の行使が権利の濫用に当たるか検討する。
まず、前記(1)のとおり、A、B、C及びDは、Aを被相続人とする相続時の税金
対策のために、被告において不動産事業を営むこととし、被告の株式の評価額を減
少させようとしていたところ、節税等の目的で、知的財産権を含む資産を関係会社
や子会社に分配して保有させるなどして利益を関係会社等に分散させることは、企
業経営者の経営判断として一般に採用し得る手法であって、商標権を、事業主体で
ある被告ではなく、その事業運営を請け負う原告が取得し、被告からその商標使用
料の支払を受けることは直ちに不自然であるとはいえない。また、原告と被告との
間の本件商標使用許諾契約において定められた商標使用料は、平成25年9月期か
ら平成27年9月期までの3年間の本件各物件に係る事業の売上額(甲A421)
の平均に対し、商標権の全分類平均の使用料率2.6%(甲A422)を乗じた額
と比べても相当程度に低廉であり(本判決別紙「本件各物件売上額等」参照)、原告
各商標が一般的な普通名詞から構成されるものであってそれ自体の顧客吸引力が高\nいとまではいえないことを考慮しても、不相当に高額であるとはいえない。そして、
本件商標使用許諾契約の効力が認められないのは、Dが利益相反取引についての会
社法所定の手続を経ていなかったからであって、D以外の他の取締役らが、被告の
不動産事業の経営を事実上Dに任せていたという事情が認められる本件において、
本件商標使用許諾契約書が作成された平成20年10月当時、Dが当該手続に従っ
て被告の取締役会の承認を得ることが困難であったような事情は見当たらないし、
仮に取締役会の承認を得ておれば、原告は、被告に対し、本件商標使用許諾契約に
基づき原告各商標の使用料を請求することができたはずである。しかも、平成21
年8月20日から平成28年2月10日までの間、被告は原告に対し、現に本件商
標使用許諾契約に定められた原告各商標の使用料の支払を行っていたことが認めら
れ(補正の上引用した原判決の第2の2(7))、取締役であるA、B及びCは上記支
払について容易に知り得たといえるところ、この間、平成25年11月に死亡した
Aが生前異議を述べていた事実は認められないし、B及びCにおいても、平成28
年5月に被告が本件各業務委託契約(原告と被告との間で締結された、被告が本件
各物件の管理等の事業全般に関する業務を原告に委託する旨の契約)等を解除する
旨の意思表示をするまでの間、本件商標使用許諾契約が有効であるという前提で行\n動していたことが推認され、これに反する証拠はない。
これらの事情及び前記(2)の事情を総合すると、原告が被告に対し、原告各商標権
の侵害を主張することが権利濫用に当たり許されないものと認めることはできない。
そして、被告は、少なくとも過失により、契約上の権限を取得することなく原告各
商標の使用を開始し、継続したことになるというべきであるから、被告は、原告に
対し、不法行為に基づき、使用料相当額の損害を賠償する義務があるというべきで
ある。
なお、原告が使用料相当額の損害賠償金を請求する期間は平成28年4月1日か
ら令和元年9月30日までであって、原告商標3の登録後であるから、本件商標使
用許諾契約書が作成された平成20年10月1日当時に原告商標3の商標登録出願
がされていなかったことは、上記判断を左右しない。
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2024.04.30
令和5(ワ)70001 特許専用実施権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月17日 東京地方裁判所
構成要件Dを充足せず、記述的範囲に属さないと判断されました。\n
以上のような本件明細書等から認められる本件各発明の目的、課題の解決手
段からすれば、本件各発明は、オゾンによる殺菌等を行った処理後の被処理水
に含まれる残オゾンの低減と、被処理水の生物処理の促進とを両立させること
ができる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することを目的としており、そ
の解決手段としては、第1の収容槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供
給するオゾン供給手段を有するとともに、第1の収容槽とは別に、被処理水の
生物処理を行う第2の収容槽を設けることとした上で、そこに第1の収容槽に
おいてオゾンによって処理された被処理水を残オゾンとともに収容し、生物処
理能力を低減させる原因となる残オゾンを積極的に酸素分子に化学変化させる\nために、第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給
手段と、所定の担体を有するというものである。
したがって、本件各発明においては、オゾンによる殺菌等を行った後の被処
理水に含まれる残オゾンの低減をも目的として第2の収容槽とそれに関する構\n成を設けているのであり、残オゾンを低減させるための構成ともいえる第2の\n収容槽内に、少なくとも積極的にオゾンを供給することは、課題の解決に至ら
ず、本件各発明において第2の収容槽とそれに関する構成を有することとした\nことと相容れないものといえる。
そして、オゾン発生装置で製造されるオゾンは、純度100%のオゾンガス
が製造されるものでないことは技術常識である上、本件明細書【0031】に
おいて、オゾン発生装置29によって発生し、このオゾン発生装置29に接続
され吸気管を介し吸気されたオゾンは、複数分岐した枝管24を通って圧縮部
22内に噴出されるようになっていて、この圧縮部22内に噴出された気泡が
オゾンを含むマイクロナノバブルとされていることからしても、第1収容槽内
に供給される「オゾンを含むマイクロナノバブル」については、当然に酸素(空
気)を含むものも想定されていたといえる。
以上に照らせば、本件各発明の特許請求の範囲の「第1の収容槽内にオゾン
を含むマイクロナノバブルを供給するオゾン供給手段」と、「第2の収容槽内に
酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」の記載は、特にオゾ
ン供給の有無という点において上記課題の解決のための対照的なマイクロナノ
バブルの供給手段として記載されているものと解するのが相当であり、「第2の
収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」は、第1
の収容槽への供給手段と異なり、そのマイクロナノバブルにはオゾンが積極的
に加えられているものではなく、その供給手段には、オゾンが積極的に加えら
れたマイクロナノバブルを供給する供給手段を含まないというべきである。し
たがって、第2の収容槽内にオゾンが積極的に加えられたマイクロナノバブル
を供給する酸素供給手段を有する装置は、構成要件Dを充足しないと解される。\n
(3) 被告システムは、前記第2の1(6)のとおり、構成要件Dの第2の収容槽に当\nたる曝気槽内に、酸素及びオゾンを含むマイクロナノバブルを供給する被告装
置を有しており、そのマイクロナノバブルには、オゾン発生装置から得られた
オゾンガス、すなわちオゾンと酸素の混合ガスが用いられていて、オゾンが意
図的、積極的に加えられていると認められるから(甲16、18、21、弁論の
全趣旨)、構成要件Dを充足しない。\n
(4) 原告は、被告装置は、オゾンよりも多くの酸素が残存して含まれている上、
当該オゾン自体も活性炭により化学変化させて酸素となることにより、好気性
微生物及び通性嫌気性微生物を活性化させており、十分効果的である旨主張す\nる。
しかし、本件明細書に記載された本件各発明の目的、課題の解決手段等から
すれば、本件各発明における「酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素
供給手段」は、前記(2)のとおり解するのが相当である。
また、原告は、オゾンは微量であるが、大気中に存在するし、「オゾン発生装
置」で生成されたオゾンは自然に消滅して酸素に置き換わるものなので、「第2
収容槽内においてはオゾンの量を早期に低減」させることは、2次的な効果に
すぎない旨主張するが、前記(1)及び(2)で述べたところによれば、残オゾンを早
期に低減させることが本件各発明の2次的な効果にすぎないといえない。
(5) 以上によれば、被告システムは構成要件Dを充足せず、本件発明1の技術的\n範囲に属しない。
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2024.04.30
令和5(行ケ)10115 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年4月11日 知的財産高等裁判所
商標「Nepal Tiger」が識別力なしとした審決が取り消されました。指定商品は 第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」です。令和5(行ケ)10116では、商標「Tibet Tiger」が識別力なしとした審決は維持されています。
商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されて
いるのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の産地、販売
地その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表\示と
して何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を
認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、
多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される(最
高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・集
民126号507頁)。
そうすると、出願に係る商標が、その指定商品について商品の産地、販売
地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である\nというためには、審決がされた時点において、当該商標が当該商品との関係
で商品の産地、販売又は品質を表示記述するものとして取引に際し必要適切\nな表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場\n合に、将来を含め、商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認\n識されるものであるか否かによって判断すべきである。そして、当該商標の
取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に商品の産地、販売地又
は品質を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構\成やそ
の指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。
(2) 本願商標の構成\n
本願商標は「Nepal Tiger」の文字を標準文字で表してなる商\n標である。
「Nepal Tiger」は「Nepal」の文字及び「Tiger」
の文字を組み合わせたものであって、「Nepal」は国家(ネパール)を示
す語であり、「Tiger」は「トラ」を意味する語である(乙1〜4)。
(3) 本願商標及び本願の指定商品に関する取引の実情
ア 以下の新聞記事及びウェブサイトには、ネパールで手織りのじゅうたん
の生産がされていることや、我が国で開催された展示会等においてネパー
ルで生産された、又はネパールから輸入された手織りのじゅうたん、ラグ
が展示、販売されたことに関する記載が存在する。
・・・・
イ 以下の新聞記事、書籍及びウェブサイトには、チベットにおいてじゅう
たんの生産が行われている旨の記載、チベットで生産されたじゅうたんを
「チベットじゅうたん」又は「チベタンじゅうたん」と称する旨の記載と
ともに、ネパールで生産されるじゅうたんも「チベットじゅうたん」「チベ
タンラグ」などと称する旨の記載、又は、チベットからネパールに亡命し
た者あるいはネパールに居住するチベット難民がネパールにおいてじゅ
うたんの生産を行っている旨の記載が存在する。
・・・・
ク 上記アないしキに掲げた新聞記事、書籍及びウェブサイトのいずれにも、
「Nepal Tiger」又は「ネパールタイガー」との記載は存在し
ない。
(4) 検討
ア 上記(3)に掲げた新聞記事、雑誌、ウェブサイトの記載によれば、以下の
事実が認められる。
(ア) ネパールにおいてじゅうたんの生産が行われていること。
(イ) チベットからネパールに移住した者、あるいはチベット難民がネパー
ルにおいてじゅうたんの生産に従事しているとするウェブサイト等の
記載が複数存在すること。
(ウ) ネパールで生産されたじゅうたんを「チベットじゅうたん」あるいは
これに類する「チベタンじゅうたん」「チベタンラグ」などの名称で表示\nするウェブサイト等の記載が複数存在すること。
(エ) トラの図柄が描かれたじゅうたん又はトラの形状を模したじゅうた
んを紹介するに当たって「タイガー」の語を用いているウェブサイトの
記載が複数存在すること。
(オ) トラの形状を模した「チベットじゅうたん」(あるいは「チベタンじゅ
うたん」「チベタンラグ」)を「チベタンタイガーラグ」又は「チベタン
タイガーカーペット」との名称で表示するウェブサイト等の記載が複数\n存在すること。
(カ) ネパールで生産されたもの又はネパールから輸入したものであるト
ラの形状を模したじゅうたんを紹介するウェブサイト等の記載が複数
存在すること。
イ しかし、上記(3)クのとおり、上記(3)アないしキに掲げた新聞記事、書籍
及びウェブサイトのいずれにも、「Nepal Tiger」又は「ネパー
ルタイガー」との記載は存在せず、その他本件の全証拠によっても、本願
の指定商品に関連するウェブサイト等の記載において「Nepal Ti
ger」又は「ネパールタイガー」の文字が一体として用いられたものが
あるとは認められない。
したがって、「Nepal Tiger」の語句が、一体として「ネパー
ルで生産された、トラの図柄を描いた、あるいはトラの形状を模した、じ
ゅうたん、ラグ」を意味するものとして、じゅうたんの取引者等によって
使用されている取引の実情が存在するとは認められず、その他の本願の指
定商品に関連して「Nepal Tiger」の語句が一体として用いら
れる取引の実情が存在するとも認められない。
そして、「Nepal Tiger」は、前記(2)のとおりの意味を有する
「Nepal」の語及び「Tiger」の語を組み合わせたものであると
いえるところ、「Nepal Tiger」の語句が一体のものとして辞書
等に採録されているとは認められず、トラに関する亜種の名称や通称名等
として「Nepal Tiger」、「ネパールタイガー」又は「ネパール
トラ」と呼ばれるものがあるとも認められない。
そうすると、「Nepal Tiger」の語句は、通常は組み合わされ
ることのない「Nepal」の語と「Tiger」の語とが組み合わされ、
まとまりよく一体的に表されたものであるといえることからすれば、これ\nを一体として組み合わされた一種の造語とみるのが相当である。
ウ 本願商標の指定商品は前記第2の1(1)のとおりであり、この指定商品の
内容からすれば、本願商標の取引者はじゅうたん類の製造業者及び販売業
者であり、需要者は一般の消費者であると認められる。
そして、前記イのとおり、「Nepal Tiger」の語句は、これが
本願の指定商品に関連して用いられる取引の実情があるとは認められず、
かつ、一体として組み合わされた一種の造語であるとみるのが相当である
ことからすれば、本願商標の取引者及び需要者は、「Nepal Tige
r」の語句について、指定商品に係る商品の産地、販売地又は品質を表示\nしたものであると直ちに認識するものではないというべきである。
そうすると、本願商標の取引者、需要者は、「Nepal Tiger」
の語句について「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、
あるいは、トラ形状を模したじゅうたん」、「ネパールで生産又は販売され
る、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模した敷物」又は「ネ
パールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形
状を模したラグ」を表示するものであると必ずしも認識するものではない\nから、本願商標は、その指定商品に使用された場合に、本願商標の取引者、
需要者によって、商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認\n識されるものであるとは認められない。
エ 以上によれば、本願商標は、取引に際し必要適切な表示として何人もそ\nの使用を欲するものとはいえず、指定商品の産地、販売地又は品質を普通
に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえないから、商\n標法3条1項3号に該当するものとは認められない。
◆判決本文
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◆令和5(行ケ)10116
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2024.04.23
令和4(ワ)18776 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和6年4月18日 東京地方裁判所
既に新聞報道がなされていますが、判決がアップされました。漫画村に対する損害賠償について、東京地裁は、約17億円の損害賠償を認めました。
(1) 著作権法 114 条 3 項に基づく損害について
ア 原告らは、原告らが有する本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害行
為を行った被告に対し、出版権の侵害については著作権法 114 条 3 項に基づき、ま
た、独占的利用権の侵害については同項の類推適用により、本件作品の出版権又は
独占的利用権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の
額として、その損害賠償を請求することができるといえる。
イ 利用料率について
(ア) 本件サイトにおいては、ユーザーは無償で本件作品の閲覧が可能であり、ユ\nーザーから閲覧可能とすることの対価を得ていないという意味では、侵害による売\n上高は観念できない。
もっとも、本件作品は、原告らが、別紙作品目録 1〜3 の各「販売価額(税込)」
欄記載の金額で、原告ら又は原告 KADOKAWA の完全子会社の電子配信サイトで電
子配信され、又は、コミック単行本等として販売されていたものである(前提事実
(2))。そうすると、原告らは、本件作品に係る出版権又は独占的利用権に基づき、これらの販売による利益を受けていたものと認められる。
また、本件サイトでは、ファイルをユーザーの端末にダウンロード(複製(いわ
ゆる端末のキャッシュは除く。))することなく、いわゆるストリーミング形式によ
り無償で閲覧することが想定されていた。もっとも、閲覧にあたり、ユーザーは、
広告の視聴等の制約を受けることなく閲覧することが可能であった。また、本件サ\nイトにおいては、閲覧した画像ファイルの保存操作を制限するような技術や機能は\n採用されておらず、ユーザーにおいて、各画像ファイルをユーザーの端末の記録媒
体に保存することも可能であった(以上につき、前記 1(1)イ)。これらの事情に鑑み
ると、ユーザーにとっては、ストリーミング形式での閲覧が想定されているとはい
え、本件サイトを通じて本件作品の閲覧が可能である限り、本件サイトにアクセス\nしさえすれば何らの制限なく本件作品を無償で閲覧可能な状態に置かれるといえる。\nこれは、実質的には、ユーザーが本件サイトにアクセスする都度、電子配信された
本件作品を購入したのと異ならない状態が実現されているものと評価することがで
きる。
これらの事情その他本件に表れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件におい\nて、被告による侵害行為に対し、原告らが本件作品に係る出版権又は独占的利用権
の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法 114 条 3 項)の算定
にあたっては、別紙作品目録 1〜3 の「裁判所認定損害額」欄記載のとおり、「販売
価額(税込)」欄の金額から 10%を控除した金額に、各作品の閲覧数を乗じた額とす
ることが相当である。これに反する原告らの主張は採用できない。
(イ) 被告の主張について
被告は、本件サイトと同規模の漫画閲覧サイト運営者(漫画定額読み放題サービ
スサイト)と原告らとの間で締結されるべきライセンス利用契約のライセンス料を
基礎に損害額を算定すべきである旨主張する。
しかし、そもそも、本件作品のうち電子配信の対象となっていない作品(別紙作
品目録 3 の番号 174〜221)については、この主張が妥当する余地はない。
また、その他の本件作品についても、上記のとおり、原告らは、自ら又は完全子
会社が管理・運営する電子配信サイトを通じて有償でのみ電子配信しているのであ
って、これらの作品が漫画定額読み放題サービスの対象とされていることを認める
に足りる証拠はない。そうすると、原告らにとっては、本件作品を同サービスの対
象とする動機はなく、仮に本件作品を同サービスの対象として利用許諾契約を締結
するとすれば、本件作品の販売価格と同額ないしこれに近い額を利用料として設定
すると考えることには合理性がある。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 閲覧数
本件調査によれば、平成 29 年 6 月〜平成 30 年 4 月の間の本件サイトへのアクセ
ス総数は 億 3781 万超と推計される。また、本件サイトの平均滞在時間は約 分程度でされるところ(前記 1(3)イ)、この平均滞在時間は、漫画作品 1 巻を閲覧する
のに一応十分な時間といえる。これを踏まえ、本件サイトにアクセスしたユーザー\nが 1 アクセス当たり漫画 1 巻を閲覧したとすると、上記期間中、本件サイトにおい
ては、合計 億 3781 万巻の閲覧があったと推計されるとみてよい。
また、本件調査時に本件サイトに掲載されていた作品巻数は 7 万 2577 巻とされ
るから、本件サイトにおける本件作品 1 巻当たりの平均閲覧数は、74回を下回ら
ないものとみられる。
この点、被告は、SimilarWeb によるアクセス数の推計は不正確である旨を指摘し
て、これを損害額算定の基礎とすることはできないと主張する。
確かに、本件調査の推計が依拠する SimilarWeb による調査結果の信頼性について
は、これを疑問視する見解も見受けられるが(例えば乙 6)、本件において、その調
査手法ないし結果の信頼性を疑わせる具体的な事情は証拠上見当たらない。その点
を措くとしても、本件調査においては、平成 29 年 6 月〜平成 30 年 4 月の間におけ
る本件サイトへの月平均サイトアクセス数は 4889 万 2057 回とされている(前記
1(3)イ)。他方、被告は本件サイトの管理・運営に関与し、利用者数の状況を把握し
得る立場にあり、現に把握していたと考えられるところ(前記 1(2)、(4))、被告によ
れば、令和 4 年 7 月時点の投稿ではあるものの、月間利用者は 8500 万人とされ(前
記 1(4)ア)、また、平成 30 年 2 月時点の本件サイトの月間アクセス数は 1 億 6000 万とされている(前記 1(4)イ)。被告の本件サイト利用者数に関する上記各言及には誇
張が含まれている可能性も否めないものの、上記各数値と本件調査での推計に係る\n数値との乖離の程度等を考慮すると、その可能性を考慮してもなお、少なくとも、\n本件調査結果として推計された閲覧数が本件サイトの現実の閲覧数を上回るものと
はうかがわれない。したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
エ 著作権法 114 条 3 項に基づき算定される損害額
以上によれば、本件において、原告らが「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法 114 条 3 項)は、別紙作品目録 1〜3 の「裁判所認定損害額」欄記載のと
おり、「販売価額(税込)」欄記載の金額から 10%を控除した金額に、各作品の閲覧
数 74回を乗じた金額と認めるのが相当である。
このような損害額の合計額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3 億 6886 万 9059 円
・原告集英社につき 3 億 90万 9859 円
・原告小学館につき 8 億 1968 万 6790 円
(2) 弁護士費用相当損害金
原告らは、本件訴訟の提起に当たり訴訟代理人弁護士に委任せざるを得なかったものであり、本件に表れた一切の事情を考慮すると、被告の不法行為と相当因果関\n係のある弁護士費用相当損害金の額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3688 万 690円
・原告集英社につき 3902 万 098円
・原告小学館につき 8196 万 8679 円
(3) 小括
したがって、本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害の不法行為に係る原告らの損害額の合計は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 4 億 057万 5964 円
・原告集英社につき 4 億 2923 万 0844 円
・原告小学館につき 9 億 016万 5469 円
なお、原告らは、予備的に著作権法 114 条 1 項に基づき算定される損害額をも主
張する。しかし、原告らの主張を前提としても上記認定に係る損害額を上回ること
はないから、この点に関して判断する必要はない。
◆判決本文
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2024.04.22
令和5(ネ)10010 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月27日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審では、技術的範囲に属するが新規性違反の無効理由有りと判断されました。控訴人は訂正審判を請求するとともに、控訴しました。被控訴人は訂正要件違反の無効理由を主張しましたが、知財高裁は訂正要件違反なしと判断し、差止と約50万円の損害賠償を認めました。
(イ) 乙18分析及び乙24分析における分析対象物である公然実施発明
(引用発明)に基づく進歩性欠如の主張について
a 公然実施発明は、公然実施品の具体的な構成又は組成等に基づいて認\n定されるため、通常、その公然実施品自体に課題が記載されていること
はなく、何らかの課題があることを認識することは困難であるから、公
然実施発明に基づく容易想到性の有無を判断するにあたっては、公然実
施品から出願日(優先日)当時の技術常識を前提にして技術的思想や課
題を認識できるかどうか、その構成又は組成を変更する動機付けがある\nか否かを検討すべきである。
・・・
c 被控訴人の主張について
(a) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕イ・ウのとおり、
本件特許の優先日前に公然実施された被控訴人製品「無限七星FIS
H」の重量平均分子量4.5×104との比較において、「1500
0」という上限値が技術的にいかなる意義を有するのかが不明であ
り、本件優先日において、ポリアリルアミンの重量平均分子量上限値
の「15000」と、公然実施発明に係る同「45000」は、いず
れもポリアリルアミンの重量平均分子量として広く知られ、一般的に
利用されている範囲内のものであるから、本件発明は、公然実施発明
に基づいて当業者が当然に予測することができたもので、進歩性を有\nしない旨を主張する。
この点につき、乙13(特開昭58−201811号公報)は、モ
ノアリルアミンの重合体の製造方法について記載されたものである
ところ、アリル化合物が通常のラジカル系開始剤によっては重合し難
いという問題があったことから、ラジカル系開始剤を用いて、モノア
リルアミンの高重合度の重合体を製造する方法を提供することを目
的とするものであり、請求項1に記載の特定のラジカル系開始剤(分
子中にアゾ基とカチオン性の窒素原子を持つ基とを含む。)を用いれ
ば、モノアリルアミンの無機酸塩が、極性溶媒中で極めて容易に重合
し、高収率で高重合度の重合体が得られることを見出したものであっ
て(特許請求の範囲の記載、2頁左上欄及び3頁左下欄)、実施例に
は、乙13記載の製造方法によって製造された数平均分子量(Mn)
が「6500〜45000」のポリアリルアミンが記載されている。
しかし、乙13は、ポリアリルアミンを水に含有した際の機能につい\nて、また、数平均分子量の違いによる機能の差異について記載ないし\n示唆するものではないから、乙13の記載から、公然実施発明(引用
発明)の「無限七星FISH」について、含有成分であるポリアリル
アミンの重量平均分子量等の物性を変更することが動機付けられる
ものとはいえない。
また、乙12の1(メディカル社のウェブサイト)には、「PAA
🄬(ポリアリルアミン)」の製品紹介が記載されており、「日東紡が
世界で初めて工業的製法を確立したポリアリルアミン(PAA🄬)は、
一級アミンを主成分とする機能性カチオンポリマー」であり、「様々\nな素材のカチオン化や高機能化に最適」であることや、「お客様の使\n用目的・用途に応じてのご提案も可能」であることが記載され、「ア\nリルアミン塩酸塩重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量
平均分子量(M.W.)が「1,600」(PAA−HCL−01)、
「15,000」(PAA−HCL−3L)、「100,000」(P
AA−HCL−10L)等の製品が、また、「アリルアミン(フリー)
重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量平均分子量(M.
W.)が「1,600」(PAA−01)、「15,000」(PA
A−15C)、「25,000」(PAA−25)等の製品が、それ
ぞれ記載されている(1/3−2/3頁)。
また、乙12の2には、メディカル社の研究・開発の歴史について
記載され、「PAA🄬」に関して、「1984(昭和59)年 PA
A🄬の(ポリアリルアミン)の重合方法発明および販売開始」、「1
991年(平成3)年 低分子PAA🄬を直接染料用固着剤として用
途開発・販売開始」等の記載がある。
しかし、乙12の1及び乙12の2も、ポリアリルアミンを水に含
有した際の機能や、重量平均分子量の違いによる機能\の差異について
記載ないし示唆するものではないから、乙12の1の記載から、公然
実施発明(引用発明)の「無限七星FISH」について、含有成分で
あるポリアリルアミンの重量平均分子量等の物性を変更することを
動機付けられるものとはいえない。
そうすると、乙13、乙12の1及び乙12の2の各記載を考慮し
ても、前記公然実施発明(公然実施品)の構成又は組成について、技\n術的思想や課題を認識できるような、本件優先日当時の技術常識があ
ったとはいえないから、たとえ、重量平均分子量が「15000」又
は「45000」であるポリアリルアミンが市販されたものであり、
当業者に広く知られ、一般的に利用されているものであったとして
も、そのことを根拠に、当業者が公然実施発明のポリアリルアミンの
重量平均分子量等の物性を変更することを当然に予測できるとはい\nえない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(b) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕エのとおり、本件
明細書にはポリアリルアミンの重量平均分子量につき本件訂正に係
る数値範囲は記載されていないから、当該数値範囲に特別な技術的意
義は認められず、本件明細書には重量平均分子量と発明の効果との間
に因果関係があることも記載されていないから、市販品として容易に
入手可能な重量平均分子量のポリアリルアミンを採用することに困\n難性はなく本件発明は進歩性を有しないと主張する。
そこで本件発明の技術的意義について検討すると、前記アのとお
り、本件明細書には、簡便に調製でき、且つ優れた機能を有する機能\
水を提供することを課題とし(段落【0002】ないし【0010】)、
当該課題を解決するために、機能水に、式(3)(式(3’)を包含\nする。)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含むポリマー
等の多価アミン及び/又はその塩を機能成分として含有することを\n特徴とし、当該機能成分の機能\として、魚介類又は精肉の鮮度保持を
含む種々の機能を有することが開示されている(段落【0012】、\n【0013】、【0015】及び【0026】)。
また、式(3)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含む
ポリマーとして、本件発明のポリアリルアミン又はジアリルアミン重
合体に該当するポリマーBが例示されており、その重量平均分子量が
「例えば100〜200,000、好ましくは300〜100,00
0、さらに好ましくは500〜50,000である」こと(段落【0
052】ないし【0055】)、ポリマーBの市販品として、重量平
均分子量が「1600」であるポリアリルアミン(PAA−01)、
「15,000」であるポリアリルアミン(PAA−15C)及び「5,
000」であるジアリルアミン重合体(PAS−21)が開示されて
いる(段落【0065】)。
そして、実施例において、具体的に、重量平均分子量が「1600」
若しくは「15,000」であるポリアリルアミン又は重量平均分子
量が「5,000」であるジアリルアミン重合体及び精製水を配合し
た試験液を用いて、魚介類又は精肉の鮮度保持を含む種々の機能を確\n認したことが開示されている(段落【0108】ないし【0237】)。
そうすると、本件明細書の記載から、「重量平均分子量500〜1
5000」のポリアリルアミン又はジアリルアミン重合体を含有する
機能水である本件発明には、前記のとおりの機能\を有する点で技術的
意義があることが認められる。
そして、前記(a)のとおり、公然実施発明(引用発明)に基づいて、
その含有成分であるポリアリルアミンの組成に着目し、重量平均分子
量等の物性をあえて変更することについて動機付けがあるとはいえ
ないから、前記本件発明との相違に係る重量平均分子量の数値範囲の
ものに置換することが容易に想到できたものとはいえない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和3(ワ)4920大阪地裁
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2024.04.22
令和5(行ケ)10095 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年3月11日 知的財産高等裁判所
色彩の組合せのみからなる商標について、識別力無しとした審決が維持されました。原告は、エルメスです。最後に、包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について裁判所の意見が付言されています。
2 色彩のみからなる商標と商標法3条2項等について
(1) 平成26年法律第36号による改正(以下「平成26年改正」という。)
前の商標法2条1項は、「商標」の定義として、「文字、図形、記号若しく
は立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」と規定して
おり、文字、図形等と結合していない色彩のみの商標は商標法の保護の対象
外であった。しかし、色彩のみや音といった「新しい商標」を保護対象とす
る諸外国の状況もあり、企業のブランド戦略の多様化が進む中で、我が国に
おいてもこうした「新しい商標」の保護ニーズが高まることとなり、平成2
6年改正により、色彩のみからなる商標が商標法の保護対象として認められ
ることとなった。
しかし、色彩は商品等に自ずと付随する特性という一面を不可避的に有す
るところ、通常はこうした商品特性にすぎない色彩が自他商品役務識別力を
有するといえるためには、使用による識別力の獲得その他の特段の事情が必
要になると解される。この点について平成26年改正は何ら触れておらず、
商標法3条1項3号、6号、同条2項等の解釈・適用に(すなわち、色彩以
外の商品特性と同じ土俵での議論に)ゆだねている。その意味で、平成26
年改正は、色彩商標に係る識別力獲得について例外的な取扱いを定めたもの
ではないが、同改正の背景に、企業の多様なブランド戦略を支援しようとい
う観点があったことを踏まえ、そのような立法趣旨が損なわれないような解
釈運用が求められていると解される。
(2) このような観点から、本願商標の特徴を具体的に検討するに、本願商標は、
別紙商標目録記載のとおり、橙色(RGBの組合せ:R221、G103、
B44)と茶色(RGBの組合せ:R94、G55、B45)の色彩の組合
せからなり、箱全体において橙色、上部周囲に茶色とする構成からなるもの\nである。
願書の商標の詳細な説明の記載に照らすと、本願商標は、全体が橙色の
「箱」状の物品を想定して、その「上部周囲」(上面と側面が接合するライ
ンを指すものと理解される。)に沿って、輪郭を縁取るように茶色が付され
ている構成からなるものと理解され、その意味で、立体的形状と色彩の結合\n商標類似の要素も含まれているといえる。もちろん、同説明中に「商標見本
における破線は、箱の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素\nではない」と明記されていることから、本来的な意味での立体的形状と色彩
の結合商標ではなく、分類としては「色彩の組合せのみからなる商標」であ
ることに変わりはないと解されるが、本願商標が「『立体的形状と色彩の結
合商標』類似の要素も含まれている『色彩の組合せのみからなる』商標」と
いう特徴を有することを正しく理解し、その特徴に即応した判断が求められ
るというべきである。
(3) 被告は、本願商標の橙色と茶色の色彩、組合せ及び色彩の付される位置は
いずれもありふれたものであり、これに近似する表示全般を本願商標と見分\nけることは困難である、本願商標に近似する色彩は、様々な商品の包装箱に
おいて多数の事業者によって使用されている実情がある(包装箱等の色彩に
関する被告提示事例)、などと主張する。
確かに、橙色と茶色は同系色で、ファッションの分野でも橙色と相性がよ
く合わせやすい色とされている(乙16)と認められるほか、色彩のわずか
な違い程度であれば、近似色との識別が困難な場合があること等は、被告の
主張するとおりといえる。
しかし、本願商標は、より商標登録のハードルが高いと考えられる単一色
の色彩商標と異なることはもとより、単なる橙色と茶色の組合せをもって特
定されるものでもなく、上記(2)で述べたとおり、箱全体の橙色とその上部
輪郭を縁取るように付された茶色を組み合わせた特有の構成を有するもので\nある。このような構成は、RGB比率の絶妙なバランスと相まって、明るい\n橙色と落ち着いた茶色のコントラストを通じて橙色の華やかさを強調し、茶
色の縁取りが箱の輪郭のシャープさを印象付けるものであり、特に、茶色を
あえて上部周囲だけに使用するにとどめたことで、シンプルな中に気品を感
じさせる構成になっているといえる。これを単純な「ありふれた色彩の組合\nせ」というのは、適切な理解とはいえない。
また、被告は、本願商標が「ありふれた色彩の組合せ」にすぎないと評価
する根拠の一つとして、包装箱等の色彩に関する被告提示事例を挙げている
が、この点の被告の主張を採用できないことは、後記5(1)に詳述するとお
りである。
・・・
4 本願商標の使用による自他商品役務識別力の獲得について
(1) 前記3の認定事実によれば、原告が展開する「エルメス」ブランドは、我
が国においても相当の長期間にわたる直営店等での商品の販売や公式ウェブ
サイトその他のウェブサイト、全国紙、駅構内や百貨店での屋外掲示、原告\nの店舗内外のディスプレイ等における広告宣伝により、著名なものとなって
いると認められる。その著名の程度は、我が国における歴史の長さ、圧倒的
な販売実績、一般消費者への露出の多い活発な広告宣伝等を通じて、あるゆ
るファッションブランドの中でもトップクラスの地位にあると解される。
また、「エルメス」ブランドの商品の販売時には本願商標を付した本件包
装箱(通称オレンジボックス)が用いられ、「エルメス」ブランドの広告宣
伝においても本件包装箱やその配色をデザイン化したものが意識的・戦略的
に用いられている。
以上の認定に弁論の全趣旨を総合すれば、本件包装箱、ひいては本願商標
は、原告のブランド戦略に明確に位置づけられた「エルメス」の象徴として
用いられているものと認められる。そして、このような本件包装箱の使用及
び宣伝広告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッション
ブランド商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付
した本件包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」ブラ
ンドに係るものであるとの認識が広く浸透しているものと認められる。
(2) しかし、本願の指定商品及び指定役務は別紙商標目録のとおり多岐にわた
り、その中には第3類の革用クリーム、第14類の時計、キーホルダー、第
16類の紙製箱等、文房具類、日記帳、写真立て、第18類のリュックサッ
ク、カード入れ、傘のように、安価な日用品として取引されることが少なく
ないものが含まれているから、その需要者は広く消費者一般であると解する
のが相当であり、「エルメス」のような高級ファッションブランド商品の購
入者やこれに関心を有する消費者に限られないというべきである。
そのような一般消費者を基準に考えた場合、「エルメス」ブランド自体は
広く知られているにしても、これを認識させる具体的な標章としては、著名
な「HERMES」の文字商標や馬車と人を描いた図形商標である可能性も\nあり、これら文字商標や図形商標を離れて、色彩商標である本願商標それ自
体から「エルメス」ブランドを認識できるようになっているとまで、直ちに
認めることはできない。
・・・
(6) 小括
以上に述べたところを要約すると、第1に、本件包装箱の使用及び宣伝広
告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッションブランド
商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付した本件
包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」に係るもので
あるとの認識が広く浸透しているものと認められるが、本願の指定商品及び
指定役務に照らすと、本願商標の需要者としては一般消費者を想定すべきで
あり、そうした需要者を基準に考えた場合、本願商標それ自体から「エルメ
ス」ブランドを認識できるに至っていると即断することはできない。本件各
アンケート調査の結果も、この点の認定証拠として不適当である。第2に、
本願の指定商品のうち第3類の香料及び第16類の紙製箱等並びにこれらの
商品に係る第35類の小売等役務については、本願商標の使用の事実が認め
られず、これら指定商品・役務について、本願商標の使用による自他商品役
務識別力の獲得を認めることはできない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告主張の取消事
由は認められないことに帰する。本件審決が、指定商品との関係で商標法3
条1項3号該当性を認めた上同条2項の適用を否定した判断、指定役務との
関係で同条1項6号該当性を認めた判断に誤りはない。
5 その他の論点について
以下は、本件訴訟の帰趨に影響を及ぼすものではないが、包装箱等の色彩に
関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について、当裁判所の考えを
示しておく。
(1) 包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価について
ア 商品の包装箱等についての取引の実情として、別紙2「商品の包装箱等
についての色彩の事例」にある包装箱等が、原告以外の事業者によって製
造、販売されていることが認められる。
イ そこで、被告提示事例を個別に検討するに、事例イ(イ)(乙39)、事
例イ(ウ)(乙40)及び事例ウ(ア)(乙50、51)は、本願商標の色彩
及びその配色の特徴が比較的類似していると解されるが、このうち、事
例イ(ウ)及び事例ウ(ア)は、本願の指定商品及び指定役務と異なる洋菓子
(キャラメル、パイ)の包装箱に関するものである上、証拠(甲170、
171)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、事例イ(ウ)の商品は原告の
知的財産権を侵害するものであるとして、警告書を送付して相手方事業
者と交渉したところ、相手方事業者は、令和5年10月までに、当該商
品の展示販売を中止するとともに、「本件色彩(箱全体に橙色、上部周
囲に茶色の色彩)がエルメスの商品及び役務を示す表示として広く認識\nされていることを理解し、今後は本件商品(本件色彩と類似する色彩を
付したギフト箱)及び本件色彩と類似の色彩を付したギフト箱を展示販
売しないことを誓約いたします」との誓約書を原告に差し入れたこと、
原告は、これ以外にも、侵害品と判断した商品を発見した場合、同様の
対応をしており、警告書の送付を行うケースは年間30〜40件程度あ
ること、事例イ(イ)についても、対応を検討中であることが認められる。
これに対し、被告は、事例イ(ウ)の商品につき、販売中止の理由は明ら
かでなく、これを模倣品とみるべき根拠はない旨主張するが、当該商品
の形態及び上記誓約書の文言を総合すれば、相手方事業者は、当該商品
の製造販売が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たることを自
認して販売を中止したものと推認できる。
そうすると、このような侵害品が市場に存在するとの事実は、本願商
標の色彩及びその配色の特徴がありふれたものであることを根拠づける
ものではなく、むしろ、本件包装箱(本願商標)の色彩及びその配色の
特徴が高い顧客吸引力を有することを示唆するものといえる。
ウ 包装箱等の色彩に関する被告提示事例のうち、上記イで触れたもの以外
の事例は、本願商標の特徴である茶色の縁取りが全くないか、その範囲
が本願商標と異なり、「上部周囲」以外にも及んでいるようなものであ
って(本願商標が茶色をあえて上部周囲だけに使用していることは上述
のとおりであり、その違いは全体の印象に大きく影響する。)、本願商
標の色彩及びその配色がありふれたものであることを根拠づけるものと
はいえない。
この点に関し、被告は、商標の類否は離隔的観察を前提とすべきこと
からすれば、箱の大部分に橙色、縁等にわずかに茶又は近似する色が使
用されているものも、本願商標と見分けることは困難であると主張する。
しかし、この主張は、前記2(2)で述べた本願商標の特徴を的確に踏まえ
たものといえない上、本願商標の使用、宣伝広告等を通じて需要者の認
識が変化することも踏まえて検討すべきものであって、一概に被告主張
のように決めつけることはできないというべきである。
(2) 独占適応性の問題について
被告は、本願商標の登録を認めた場合、多数の事業者によって広く使用さ
れている色彩について、本願商標に類似すると判断され得る使用態様が事実
上制限されることになり、ファッション分野を中心に、色彩使用の自由が著
しく制限され、他の事業者に著しい委縮効果を及ぼすことになる旨主張する。
しかし、まず、本願商標は、単なる橙色と茶色の組合せをもって特定され
るものではなく、箱全体の橙色とその上部輪郭を縁取るように付された茶色
を組み合わせた特有の構成を有するものであって、その商標登録を認めたか\nらといって、単純に色彩の独占がもたらされるわけではないし、このような
特有の構成を備えた色彩の組合せが多数の事業者によって広く使用されてい\nるという取引の実情が認められるわけでもない(上記(1)参照)。また、仮
に本願商標の登録が認められたとしても、これに類似すると判断される使用
態様は、実際上、不正競争防止法2条1項1号の不正競争にも当たる場合が
少なくないと解され(被告提示事例イ(ウ)の販売中止の経緯参照)、その委
縮効果を過大に評価すべきでない。
◆判決本文
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2024.04.17
令和5(行ケ)10034 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月27日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が取り消されました。知財高裁は、新規性違反、冒認出願違反であると判断しました。
(2) 甲53の1文書について
ア 甲53の1文書は、ベルベット織りの立毛シートの製造工程を示すものとし
て交付されたものであり、別紙2のとおり、「「生機投入」→「スチームセット」→
「ドライセット」→「糊抜き」→「脱水」→「染色」→「脱水」→「乾燥(ブラシ)」
→「ブラシ※ブイテック様」」との工程が記載されている。
イ 「生機投入」の部分により、製織工程と切断工程が開示されているといえる
かという点について争いがあるので検討するに、「生機」とは「織り上げて織機から
はずしたままの織物」を意味するところ(甲114・大辞林第四版)、ベルベット織
りの織り機は、織ると同時に切断も行うことから一度に2枚分が織り上がるもので
あって、「織り機からはずしたままの織物」は、切断後の織物であると認められるか
ら(甲40、112)、「生機投入」との記載から、甲53の1文書を受領した当業
者は、当然に、製織工程と切断工程を経た生機が投入されると理解すると認めるの
が相当である。そして、甲53の1文書の「生機投入」の使用機器欄に記載された
「ZQ40 4mm」はパイル長4mmのポリエステル製パフ用の立毛シートの生
機の品番を意味するものと認められ(証人C〔28頁〕)、ポリエステルは熱可塑性
繊維であるから(本件明細書【0020】等)、甲53の1文書の「生機投入」工程
の記載により、本件各発明の製織工程と切断工程が開示されていると認められる。
ウ そして、甲53の1文書の「スチームセット」は本件各発明の「蒸し工程」
に、「ドライセット」は本件各発明の「プレセット工程」に、「糊抜き」は本件各発
明の「精練工程」にそれぞれ相当する(証人A〔5〕)。また、「染色」は本件各発明の「染色工程」に相当し、「染色」の次に記載された「脱水」は、真空脱水とあるか
ら脱水機を用いたものであることが明らかであって、本件各発明の「脱水機により
前記染料を脱水する脱水工程」に相当する。さらに、「乾燥(ブラシ)」はドライセ
ッターで150゜C)で乾燥させるものであるから、本件各発明の「前記立毛シートを
熱風で乾燥させる乾燥工程」に相当する。なお、特許請求の範囲の記載及び本件明
細書の記載を総合しても、本件発明1の乾燥工程から、ブラシを用いるものが除外
されているとは認められない。
エ そうすると、甲53の1文書に記載された工程は、本件発明1を構成する工\n程を全て含むものであるから、本件発明1を開示するものといえる。
オ この点、被告は、甲53の1文書記載の工程では、精練工程の後に脱水をし
ていること、タンブラー乾燥をしていないこと、使用液剤に酸性の液剤が含まれて
いないこと等から、本件各発明とは異なると主張する。しかしながら、本件発明1
の特許請求の範囲の記載に照らすと、請求項1に記載された工程を全て含む必要が
あるとはいえるものの、同工程のみを含むものに限定されており、別の工程が付加
されたものが除外されているものと理解することはできない。そして、本件明細書
の記載に照らしても、本件発明1は、請求項1に記載された工程のみを含むものに
限定されていると理解することはできない。そうすると、「精練工程の後に脱水」を
していることをもって本件各発明とは異なるということはできない。また、タンブ
ラー乾燥は本件発明3を構成する要素ではあるものの、本件発明1を構\成するもの
ではない(なお、前記2(5)(8)のとおり、タンブラーを利用した乾燥工程は、平成
18年頃から新栄染色で行われていたものと認められるが、当時、当該乾燥工程の
存在及び内容が秘密事項として管理されていたことをうがわせるような主張立証は
ない。そもそも、甲12(パイル織編物の仕上げ方法に関する公開特許公報(昭6
2−191566号))中にもパイル織物の染色加工後、タンブラー乾燥機で乾燥す
る旨の記載があることにも照らすと、本件各発明の出願時において、少なくとも、
熱可塑性繊維のパイル織物についてタンブラーを利用して乾燥する工程自体は公知
であったと考えられる。)。さらに、酸性の液剤を使用することは本件各発明の技術
的範囲に含まれるものではなく、その他の被告の指摘する事項はいずれも本件各発
明を構成する事項ではない。したがって、上記被告の主張はいずれも前記エの判断\nを左右するものではない。
被告は、甲53の1文書の工程は開発途中のものであって技術として確立してい
なかったとも主張するが、前記2(9)のとおり、同工程は、平成23年10月頃、新
栄染色において、現に商品の製造に用いられていた工程なのであるから、これが発
明に当たるとすれば、発明として完成していたのは明白である。
(3) 甲2文書について
甲2文書は、前記2(11)のとおり、ベルベット織りによる立毛シートの製造工程
を示すものとして交付されたものであり、別紙3のとおり、「織り」→「蒸しセット」→「PS」→「精練」→「染色」→「乾燥」の各工程が記載されたものである。甲
2文書に記載された工程について前記(2)と同様に検討すると、甲53の1文書に
記載された工程と同じであり、本件発明1を開示するものであると認められる。な
お、「織り」が製織工程と切断工程を含むことについては前記(2)イと同様であり、
「PS」はプレセットを意味するものと認められる(証人A〔34頁〕)。また、甲
2文書の工程には「乾燥」の前の「脱水」が記載されていないものの、乾燥する前
に脱水を行うことは当然であるから、当業者は、甲2文書により、脱水工程を含む
ものが開示されているものと理解すると認められる。
(4) 小括
そうすると、本件発明1は、平成23年10月頃には公然知られていたと認めら
れるから、本件発明1に係る特許は特許法29条1項1号の規定に違反してされた
ものであって、特許法123条1項2号の無効理由がある。
したがって、甲2生産工程(甲2文書に記載された工程であり、かつ甲53の1
文書に記載された工程)が公然知られたものとはいえず、本件発明1が特許法29
条1項1号に該当しないとする本件審決の判断には誤りがあるから、取消しを免れ
ない。
4 取消事由4(冒認出願についての判断の誤り)について
(1) 冒認出願を理由として無効審判請求をすることができるのは特許を受ける権
利を有する者に限られるから(特許法123条2項、1項6号)、原告は、自らが特
許を受ける権利を有する者であることを証明する必要がある。そして、原告が主張
する本件各発明に係る特許を受ける権利は、Bが発明者として有していた本件各発
明に係る特許を受ける権利に由来するものであるから、原告が特許を受ける権利を
有する者であるといえるためには、Bが本件各発明の発明者であると認められる必
要がある。
(2) ここで、発明者とは、発明の技術的思想の創作行為に現実に加担したもので
あって、課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与した者をいう
ところ、前記1(2)によると、本件各発明の特徴的部分は、蒸し工程と乾燥工程の双
方を用いることにより、高い立毛性を得ることにあり、本件発明3については、こ
れに加えて、タンブラーを使用することでブラッシング付き乾燥機を要しないもの
となったことにあると認められる。
(3) 前記2(9)及び前記3(2)のとおり、本件発明1は平成23年10月までに完
成していたということができる。前記2の経緯及びAが、新栄染色のAとして作成
した平成21年7月1日付け文書(甲128の3)に、「現況のB流を60点とする
と80点迄は持っていける」と記載していたことからすると、新栄染色では、平成
21年7月当時、Bが指導した工程により染色加工が行われていたことが認められ、
これに反する証拠はない。そして、前記2のBの職歴や本件訴訟に提出されたBが
作成したメモ(甲132)、Bが、新栄染色設立以前にも昌和染色に対し染色工程を
指導するなどしていたこと(甲1の1、証人C〔29頁〕)に照らすと、Bは、立毛
シートの染色加工に関し、創意工夫を凝らして発明をするに足る十分な知見を有し\nていたことが推認されるのであり、Bが、その陳述書(甲1の1)において、昭和
40年代の後半、プレセットの前に蒸し工程をするという工程を開発した経緯等と
して、株式会社杣長からポリエステルなど合成繊維のパフ用ベルベット織物(立毛
シートの半製品)の製造委託を受けたが、ポリエステルでは、シルクやレーヨンと
は異なり、ピン式ヒートセッターでピン止めして吊るしてプレセットを行うとピン
付近とそれ以外の部分が不均質になるという問題があったことから、プレセット前
に蒸し工程を行い、ポリエステルを収縮させてからプレセットをしたところ、パイ
ルが立毛になるという効果があったこと、蒸しは蒸し箱内にベルベット織物を垂下
させて高温水蒸気で蒸すものであり、Bが条件を90〜110゜C)、2時間と指示し
て行ったこと、パイル長が2〜3mmであったことなど、開発の経緯及び内容を具
体的に陳述していることは、これと整合するものである。
また、Bは、昭和50年代から、京都において、日本化工有限会社の従業員とし
てハセガワベルベットから委託を受けた染色加工工程に関与し、平成元年に有限会
社新栄テキスタイルを設立した後も、同社において被告から染色加工の委託を受け
ていたこと、同年頃までにBが作成したとされるメモ(甲132の2)には、染色、
脱水後の乾燥をタンブラーで行う旨の記載があること、平成18年に、新栄染色が
設立された際、BはAからの誘いにより代表取締役に就任したこと、その頃、Bが\n京都からタンブラー乾燥機を新栄染色に持ち込んで設置したこと、新栄染色におい
ても、Bは染色加工業務を担当し、被告代表者であったCに対し、染色加工の具体\n的内容を指導していたことは、前記2(3)から(6)までのとおりである。以上を総合
すると、Bは、遅くとも新栄染色を退職する平成21年3月よりも前に、本件各発
明をいずれも完成させていたものと推認するのが相当である。
なお、被告は、Bの陳述書(甲1の1)にパイル長が2〜3mmであったとある
から、Bには短いパイル長のものに係る知見しかなかったと主張するが、本件各発
明の特許請求の範囲(請求項4)には「切断工程後のパイル糸の長さを、織物基布
から3〜10mmの範囲で突出させる」とあるから、パイル長が3mmのものは、
本件各発明の技術的範囲に含まれるものであり、上記被告の主張は、Bが本件各発
明をするに必要な知見を有していたとする上記判断を左右しない。
(4) これに対し、Aは、本件の審判手続における尋問では、本件各発明のキーポ
イントは蒸し工程であり、蒸し工程の後にヒートセット(プレセット)を加えるこ
とにたどり着いた、長い間、蒸し工程をいれないでやっていた(甲74の3・06
4項目、130項目、131項目、149項目)と述べ、本件訴訟においても、被
告は、令和5年11月8日付け被告準備書面(2)2頁においては、本件各発明をする
前の短いパイル糸のベルベットに関する新栄染色の染色工程には蒸し工程及びプレ
セットが含まれておらず、長いパイル糸のベルベットを製造することができなかっ
た旨主張し、それに沿う内容のAの陳述書(乙8)を提出した。ところが、被告は、
同年12月19日付け被告準備書面(3)5頁では、本件各発明をする前にも新栄染
色では長いパイル糸のベルベットの製造をしており、その工程には蒸し工程が含ま
れていたがプレセットが含まれていなかったと主張を変更し、更に、令和6年1月
22日付け被告準備書面(4)では、短いパイル糸の染色工程にも蒸し工程が含まれ
ていたと主張を変更し、変更後の主張に沿う内容のAの陳述書(乙11)を改めて
提出した。この主張内容及び陳述内容の変更は、発明の課題そのものや発明の必要
性、発明の創作過程に極めて大きな影響を与えるものであるから、真にAが発明者
であるのであれば、単なる記憶違いなどによって上記のごとくその内容を変遷させ
るとはおよそ考え難い。なお、前記2(6)のとおり、新栄染色では当初は外注により、
遅くとも平成19年からは自社で蒸し工程を実施していたのであるから、新栄染色
が以前は「蒸し工程をしていなかった」との被告の従前の主張は事実とは認められ
ない。
さらに、被告の主張によると、従前の新栄染色の染色工程においてはプレセット
を行っていなかったことになるが、Aが述べる試行錯誤の内容は、プレセットにつ
いては、それを行う順番を試行錯誤したというものであって、プレセットを入れる
こととした理由については何ら説明をしていない。このことは、当時、既にプレセ
ット工程自体は存在しており、Aは専らその工程の順番について試行錯誤していた
ことをうかがわせるものである。また、Aが蒸し工程について試行錯誤した内容と
して述べる条件は、「90゜C)の蒸気で、0分、30分、60分、120分」と試した
というものであって、「95〜110゜C)で2〜3時間蒸す」(【0022】)という本
件明細書の記載と合致しない。Aは、本件の審判手続の尋問において、自ら発明ノ
ートを作成したことはないことを前提とした発言をしているが(甲74の3・13
5項目)、これは試行錯誤を繰り返していたはずの発明者としておよそ不自然とい
うほかない。
被告は、本件各発明においては乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いることが重要
である旨主張する。しかし、前記2(5)(8)のとおり、新栄染色には、平成18年頃
から既にタンブラー乾燥機が設置されており、平成23年頃にはその台数が3台に
増加していたことが認められる。Bらが作成し、平成21年8月20日に被告大阪
営業所からFAX送信されたものと認められるメモ(甲106)によっても、遅く
とも同日までには、新栄染色では、乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いていたこと
がうかがえる。前記2(10)のとおり、A自身が作成した平成24年1月10日付け
メモ(甲100の3)にも、新栄染色に関し、タンブラー方式はコストが高いこと
から平成24年中旬にテンター方式へ変更する旨の記載がある。これらの点に照ら
すと、遅くとも、平成24年までには、ベルベット織物の製造分野において乾燥工
程にタンブラー乾燥機を利用することは普通に行われていたと認めるのが相当であ
るから、本件各発明において創作されたものとは認められない。Aは、中和剤を用
いることで精練工程の後の脱水工程を省略し、ウィンス機で精練工程と染色工程が
できるようになったと証言しているが(証人A〔6頁〕)、そもそも中和剤を用いる
ことは本件各発明の特許請求の範囲に記載された事項ではなく、本件明細書には「ウ
ィンス機を使用して、」「立毛シートを処理液(例えば、アルカリ剤、非イオン活性
剤)中に順次送り込んで洗浄する」(【0024】)との記載があるものの、中和剤を
用いることで脱水工程を省略することができる旨の記載はないから、結局、上記A
の証言は、それが発明について述べたものだとしても、本件各発明とは関係のない
別の発明について述べるものにすぎない。Aは、小型、大型、中型のタンブラーで
試し、中型のタンブラーを用いることで目的を達成することができたとも証言して
いるが(証人A〔9頁〕)、本件発明3の特許請求の範囲にはタンブラーの大きさに
ついての言及はなく、本件明細書の記載を考慮しても、「タンブラー」の大きさは不
明であり、特許請求の範囲に記載された「タンブラー」が「中型のタンブラー」で
あり、タンブラーの大きさが何らかの技術的意義を有するものであると解すること
ができるような記載もない。
以上を総合すると、Aが染色工程につき様々な工夫をしたことがあったとしても、
いずれも本件各発明に係る特許請求の範囲の内容に含まれるものではないから、本
件各発明の発明者がAであるとの被告の主張を採用することはできない。他にBが
平成21年3月よりも前に本件各発明をいずれも完成させていた旨の前記認定を覆
すに足りる主張立証はない。
(5) したがって、本件各発明に係る発明者はBであると認めるのが相当であるか
ら、本件の出願は冒認出願に当たり、本件特許には特許法123条1項6号の無効
理由がある。また、原告は、Bから特許を受ける権利の一部について譲渡を受け(甲
16)、残部はBの相続人の全員が相続放棄したことにより原告に帰属したから(甲
110、111)、本件各発明に係る特許を受ける権利を有する。
よって、本件特許について冒認出願の無効理由がないとした本件審決の判断には
誤りがある。
◆判決本文
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2024.04.17
令和5(行ケ)10131 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年3月27日 知的財産高等裁判所
商標「hololive Indonesia」について、「インドネシアで生産された商品」あるいは「インドネシアに関連する役務」等と認識されるとして、4条1項16号(品質誤認)違反の拒絶理由があるとして、拒絶審決となりました。知財高裁は審決を維持しました。
(1) 商標法4条1項16号について
商標法4条1項16号の趣旨は、商標を構成する文字、図形等が直接的に\n特定の商品の特性を表示したものであるため、当該商標が特定の商品以外の\n商品に使用された場合に、取引者、需要者が商品の品質を誤認して、商品を
購入することがないように取引者、需要者の保護を図ることにある。取引者
又は需要者において、本願商標の構成から将来を含め一般に認識される特性\nを有する特定の商品と指定商品とが関連し、かつ、本願商標が表示している\n特定の商品の特性と指定商品が有する特性が異なるため、本願商標を指定商
品に使用した場合に、本願商標が使用された「商品の品質の誤認を生ずるお
それ」があることになる。
(2) 本願商標について
ア 本願商標は、「hololive Indonesia」の文字を標準
文字で表してなるものであり、「hololive」の文字と「Indo\nnesia」の文字との間には、1文字分の空白があり、「hololi
ve」の文字と「Indonesia」の文字を組み合わせたものと理解
される。
「hololive」の文字は辞書に載っていない造語であり、自他商
品の識別力を有するものである。「Indonesia」の部分は、我が
国における英語ないしローマ字の普及度からみて、需要者において、「イ
ンドネシア」と読むこと、「東南アジア群島部にある共和国」(乙1)で
あるインドネシアを欧文表記したものであることが容易に理解できるも\nのと認められる。
そして、我が国において、国名としてのインドネシアは広く知られてい
る(乙2〜4)。
イ 各種ウェブサイトによれば、自他商品又は自他役務の識別力を有する文
字と、「インドネシア」あるいは「Indonesia」の文字を組み合
わせたものとして、「(Zalora Indonesia ザローラ・
インドネシア)」(乙8、ファッション)、「(Reebonz Ind
onesia リーボンツ・インドネシア)」(乙8、主にバッグ、靴、
ジュエリー)、「(Ree Indonesia リー・インドネシア)」
(乙8、インドネシアのデザイナーが製作した衣料ブランドを取り扱う。)、
「マクドナルドインドネシア」(乙9、ファストフード)、「丸亀インド
ネシア」(乙10、うどん)がある。そして、これらは、いずれも、イン
ドネシアで生産される物又はインドネシアで提供される役務に関するも
のである。
ウ 本願の指定商品及び指定役務には、例えば、第3類「化粧品」「香料」、
第9類「スマートフォン用ストラップ」「コンピュータ用ゲームソフトウ\nェア(記憶されたもの)」「コンピュータ用ゲームソフトウェア(電気通\n信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)」「眼鏡の部品及び
附属品」、第14類「貴金属,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品」「キ
ーホルダー」「身飾品」「時計」、第16類「文房具類」、第18類「か
ばん類」「傘」、第21類「貯金箱」「お守り」、第24類「布製身の回
り品」「布団」、第25類「被服」「履物」、第26類「頭飾品」、第3
5類「織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対す
る便益の提供」「おもちゃ・人形及び娯楽用具の小売又は卸売の業務にお
いて行われる顧客に対する便益の提供」「楽器及びレコードの小売又は卸
売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」、第41類「電子出
版物の提供」「インターネットを利用して行う映像の提供、映画の上映・
制作又は配給、オンラインによる映像の提供(ダウンロードできないもの
に限る。)」「ビデオオンデマンドによるダウンロード不可能な映画の配\n給、映画の演出(広告用映画の演出を除く。)」「オンラインによるゲー
ムの提供」及び第43類「飲食物の提供」等、一般消費者が需要者となる
ものが含まれている。
各種ウェブサイトには、これらの指定商品又は指定役務に対応する商品
又は役務であって、インドネシアで生産等されたもの、あるいはインドネ
シアに由来するものとして、例えば、化粧品、香水(乙31)、香油(乙
35)、携帯ストラップ(乙38)、コンピュータゲーム(乙32、36)、
眼鏡スタンド(乙37)、宝石(乙39)、キーホルダー(乙24)、宝
飾品(乙28)、時計(乙29)、ペンケース(乙27)、かごバッグ(乙
26)、傘(乙40)、貯金箱(乙43)、お守り石(乙41)、ブラン
ケット、タペストリー、テーブルクロス(乙30)、布製インテリア(乙
42)、クッションカバー(乙44)、被服(乙25)、パンプス(乙4
6)、ヘアアクセサリー(乙47)、電気敷毛布(乙45)、置物(乙4
9)、楽器(乙48)、インドネシア制作の映画(乙34)、インドネシ
ア料理(乙33)等が、我が国で販売ないし提供されていることが示され
ている。
エ 以上のとおり、1)本願商標のうち「hololive」の部分は造語で
あり自他商品又は自他役務の識別力を有するのに対し、「Indones
ia」の部分は、一般に知られた東南アジアの共和国であるインドネシア
を意味することは需要者において容易に理解できること、2)自他商品又は
自他役務の識別力を有する文字と、「インドネシア」あるいは「Indo
nesia」の文字を組み合わせたものがインドネシアで生産される物又
はインドネシアで提供される役務に関して使用されていること、3)本願の
指定商品及び指定役務には一般消費者が需要者となるものが含まれ、これ
に対応する商品又は役務でインドネシアで生産等されたもの、ないしはイ
ンドネシアに由来するものが我が国で販売ないし提供されていることが
認められるのであって、そうすると、本願商標をその指定商品及び指定役
務について使用するときは、これに接する需要者は、その構成中の「In\ndonesia」の文字から、インドネシアで生産又は販売された商品や、
インドネシアに関する役務といった商品の品質又は役務の質を通常理解
するものというべきである。
一方、本願の指定商品及び指定役務は、インドネシアに関するものに限
定されていないから、インドネシアで生産又は販売された商品以外の商品
やインドネシアに関する役務以外の役務も含むことになる。
以上によると、本願商標をその指定商品及び指定役務中、インドネシア
で生産又は販売された商品以外の商品や、インドネシアに関する役務以外
の役務に使用した場合には、商品又は役務の質の誤認を生じさせるおそれ
があるから、本願商標は、商標法4条1項16号に該当するというべきで
ある。
(3) 原告の主張について
ア 原告は、本願商標の使用に係る指定商品及び指定役務は、バーチャルア
イドルであるVTuberグループ関連の商品及び役務、いわゆるキャラ
クターグッズ等であり、当該グループ又はその構成員キャラクターのファ\nン以外の者が、本願商標を構成する「Indonesia」の文字が前記\nグループ及びキャラクターの活動拠点であることを知らずに、「インドネ
シアで生産された商品」あるいは「インドネシアに関連する役務」等と認
識して購入することは考えられず、本願商標の使用に係る指定商品及び指
定役務は、原告のウェブサイトを中心に提供されていることからも、上記
ファン以外の者が本願商標に触れることは考えにくい旨主張する。
しかし、本願商標の指定商品及び指定役務の需要者はVTuberグ
ループのファンに限られるものではなく、また、原告の主張からしても、
原告のウェブサイトのみでこれらの商品が提供されているわけではない
のであって、原告の主張は採用できない。
イ 原告は、本願商標は、仮想的アイドルグループの名称として使用され、
かつ、当該仮想的アイドルグループ関連の商品及び役務に使用されるもの
であるところ、地域的名称を含む芸能人グループの名称の使用に係る商品\n等において、当該地域的名称は、当該商品の生産地等とは認識され得ない
旨主張する。
しかし、一般需要者において、本願商標が芸能人グループの名称である\nと認識するような事情は認められず、原告の主張は前提を欠くものである。
ウ 原告は、YouTubeにおける「hololive」、「holol
ive Indonesia」及び「hololive Indones
ia」に属する個々のVTuberのチャンネルの登録者は延べ806万
人以上になるから(甲14〜24)、本願商標は原告のVTuberのア
バターであるキャラクターのグループ名称を表すものとして需要者に広\nく認識されている旨主張する。
しかし、「hololive」のチャンネルの登録者は185万人である
(甲14)ものの、その他の各チャンネル(甲15〜24)については、映
像等の多くが欧文字で投稿されていることから、登録者のうちどの程度が
日本の需要者であるのかの裏付けはないというべきで、「hololiv
e」、「hololive Indonesia」が原告のVTuberの
アバターであるキャラクターのグループ名称を表すものとして我が国の需\n要者に広く認識されていると認めることはできない。
エ 原告は、商標に国名が含まれる場合に直ちに誤認混同を生じると認定す
る国は日本のみであり、不当である旨主張する。
しかし、本件審決は、商標に「Indonesia」の文字が含まれるこ
との一事をもって本願商標が商標法4条1項16号に該当すると認めたわ
けではなく、本願の指定商品及び指定役務に係る需要者の範囲とその認識
等について個別に検討・判断しているところ、その判断手法は相当である
から、原告の主張は採用できない。
◆判決本文
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2024.04.17
令和5(行ケ)10068 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年3月27日 知的財産高等裁判所
商標「O!OiMAIN」が、マルイの商標「〇|〇|」とは非類似、混同なしと審決が、前者の非類似との判断が間違っているとして、取り消されました。
別紙登録商標目録記載のとおり、本件商標は、「O」、「!」、「O」、「i」、
「M」、「A」、「I」及び「N」の各文字又は符号を同じ書体(やや斜字のゴシ
ック体様の黒の書体)、同じ大きさ及び等しい間隔で一連に横書きしてなるもので
あり、これらの文字又は符号は、まとまりよく一体的に構成されている。もっとも、\nその中の「M」、「A」、「I」及び「N」の各文字は、「主要な」等の意味を有
し、我が国において日常的に広く用いられる「メイン」の語に相当する英単語であ
る「MAIN」の語を構成するものであるから、この「MAIN」の語は、ひとま\nとまりの単語として強く認識されるというべきである。
(ウ) O!Oi部分
「O!Oi」が辞書等に搭載された語であり、又は一般的に用いられている語で
あると認めるに足りる証拠はないから、O!Oi部分は、特定の意味合いを有しな
い一種の造語であり、それゆえに、平易な英単語のみからなるMAIN部分との対
比において視覚的に目立つものである。そして、前記(ア)のとおり、被告が代表者\nを務めるファインドフォーム社は、その製品に「OIOI」、「OiOi」、
「O!Oi」等の標章を付して販売するなどしている。このような取引の実情(な
お、「OIOI」又は「OiOi」の標章と「O!Oi」の標章とが変わりのない
ものと理解し得ることについては、後記ウ(ア)のとおりである。)を併せ考慮する
と、O!Oi部分は、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識としての印象を強
く与えるものであると認めるのが相当である。
(エ) MAIN部分
「MAIN」の語は、前記(イ)のとおり、「主要な」等という意味を有する英単
語であり、かつ、それが多くの場合、形容詞として他の語を修飾するために広く用
いられている語であることは、公知の事実である。「O!Oi」の語が特定の意味
合いを有しない一種の造語であり、視覚的に目立つものであって(前記(ウ))、前
記(ア)の取引の実情において商品の出所識別標識としての印象を強く与えるような
形で使用されているのに対し、「MAIN」の語については、そのような事情は見
当たらない。すなわち、MAIN部分は、「MAIN」の語の通常の意味に照らし
ても、取引の実情においても、商品の出所識別標識としての印象は、O!Oi部分
が与えるそれと比較して、相当程度に弱いというべきである。
(オ) 本件商標の分離観察の可否についての小括
以上によると、本件商標のO!Oi部分は、取引者、需要者に対し商品の出所識
別標識として強く支配的な印象を与えるといえ、前記(イ)の本件商標の構成を考慮\nしても、本件商標の各構成部分(O!Oi部分及びMAIN部分)は、それらを分\n離して観察することが取引上不自然であると思われるほどに不可分的に結合してい
ると認められないから、本件商標については、その構成部分の一部であるO!Oi\n部分を抽出し、O!Oi部分だけを各引用商標と比較して商標の類否を判断するこ
とも許されると解するのが相当である。
ウ 本件商標のO!Oi部分と引用商標3の類否
事案に鑑み、本件商標との類否判断の対象として、引用商標3を取り上げる。
(ア) 外観
別紙登録商標目録記載のとおり、本件商標のO!Oi部分は、「O」、「!」、
「O」及び「i」の各文字又は符号を同じ書体(やや斜字のゴシック体様の黒の書
体)、同じ大きさ及び等しい間隔で一連に横書きしてなるものであり、これらの文
字又は符号は、まとまりよく一体的に構成されている。\n別紙引用商標目録記載3のとおり、引用商標3は、「〇」、「|」、「〇」及び
「|」の各記号を同じ書体(ゴシック体様の赤の書体)、同じ大きさ及び等しい間
隔で一連に横書きしてなるものであり、これらの記号は、まとまりよく一体的に構\n成されている。
ここで、引用商標3の「|」の記号は、「I」の文字を図案化したものとして、
両者は実質的には変わりのないものとの印象を与え得るものであり、また、「I」
の文字と「i」の文字は、互いにアルファベットの大文字・小文字の関係にあるに
すぎないから、これらも、実質的には変わりのないものと理解され得るといえる。
さらに、証拠(甲65〜77)及び弁論の全趣旨によると、企業名、ブランド名、
サービス名、芸名等を表すロゴや文字列の中で、「I」の文字又は「i」の文字に\n代えて「!」の符号又は縦若しくは斜めの棒状の図形の下部に「●」、「■」、
「★」等の図形を配した記号を用いる例が多数あるものと認められ、「!」の符号
も、アルファベットの文字列の中に配されたときは、「I」の文字又は「i」の文
字と変わりのない文字であると理解され得るものである。加えて、「〇」の記号も、
「O」の文字を図案化したものとして、両者は実質的には変わりのないものとの印
象を与え得ること、前記説示したところを踏まえると、その取引者、需要者からみ
れば、本件商標のO!Oi部分と引用商標3の字体の相違(色彩の相違を含む。)
が類否判断に当たって大きな意味合いを有するものとは認め難いことを併せ考慮す
ると、取引者、需要者は、本件商標のO!Oi部分を見た場合、これが「〇|〇|」
と実質的には変わりのないものを指すと理解し得るということができるから、本件
商標のO!Oi部分の構成と引用商標3の構\成との間に厳密には前記のような相違
があるとしても、隔離観察を前提とすると、両者は、外観上極めて相紛らわしいも
のであると認めるのが相当である。
被告は、「F!T」等の文字列の場合と異なり、「O!Oi」の文字列について
は、「!」の符号を「I」の文字等に置換して認識すべきことが強く示唆されてい
ないなどと主張するが、迅速を貴ぶ商取引において、アルファベットの文字列の中
に配された「!」の符号は、その形状(縦棒上の図形とその下部に小さく点様の図
形を配してなるもの)に照らし、当該文字列からの示唆の大小にかかわらず、「I」
の文字等と変わりのないものと理解され得るというべきである。被告の主張を採用
することはできない。
(イ) 称呼
本件商標のO!Oi部分は、途中に感嘆符を含む一種の造語であるが、証拠(甲
37〜41、45、52〜54、56、58)及び弁論の全趣旨によると、O!O
i部分からは、「オーアイオーアイ」又は「オアイオアイ」の称呼が生じるものと
一応認められる。
別紙引用商標目録記載3及び別紙ハウスマーク目録記載のとおり、引用商標3は、
原告標章と外観上同一視し得る形状のものであるところ、前記1のとおり、原告標
章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者の間に広く認識されているものであ
ることからすると、引用商標3からは、「マルイ」の称呼が生ずるものと認めるの
が相当である(この点は、当事者間に争いがない。)。そして、本件商標のO!O
i部分と引用商標3とが、前記のとおり、外観上極めて相紛らわしいことを踏まえ
ると、O!Oi部分についても「マルイ」の称呼が生じ得るというべきである。
(ウ) 観念
本件商標のO!Oi部分は、特定の意味合いを有しない一種の造語である。
別紙引用商標目録記載3及び別紙ハウスマーク目録記載のとおり、引用商標3は、
原告標章と外観上同一視し得る形状のものであるところ、前記1のとおり、原告標
章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者の間に広く認識されているものであ
ることからすると、引用商標3からは、「丸井又はマルイのロゴマーク」などの観
念が生ずるものと認めるのが相当である(この点は、当事者間に争いがない。)。
そうすると、本件商標のO!Oi部分が特定の意味合いを有しないとしても、同部
分は引用商標3と外観上極めて相紛らわしいから、同部分からは、引用商標3と同
様の観念が生じ得るものということができる。
(エ) 検討
以上のとおり、本件商標のO!Oi部分と引用商標3は、外観、称呼及び観念の
点で極めて相紛らわしいものであり、加えて、前記1のとおり、引用商標3と外観
上同一視し得る形状を有する原告標章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者
の間に広く認識されていることなどを併せ考慮すると、本件商標のO!Oi部分と
引用商標3については、両者が同一の商品又は役務について使用された場合、その
商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるものと認めるのが相当で
ある。したがって、本件商標のO!Oi部分と引用商標3は、取引の実情に基づき、
外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し
て全体的に考察すると、互いに類似するものと認められる。
◆判決本文
関連です。
こちらは商標「5252byO!Oi」と「OIOI」の類否です。こちらも商標類似と判断されました。
◆令和5(行ケ)10067
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2024.04.14
令和5(ワ)3375 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月21日 大阪地方裁判所
特許侵害訴訟です。大阪地裁(21部)は、発明の一部の構成について一義的に明らかではないが、当業者の技術常識、明細書の記載に基づいて、被告製品は技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害は主張されていません。
前記(ア)のとおり、構成要件B2は、「縦板部」について、「庇板の開放された\n前端面に当接され」ていることと「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている」
こととをいずれも備える旨規定している。当該当接部分と、「前面が雨水を下方へ
導くガイド面となっている」部分との位置関係については、構成要件B2の文言か\nらは一義的には明らかでないものの、本件明細書において、前記(イ)のように、本
件発明が、庇の全長が必要以上に長くなるなどの従来の庇の問題に着目して小型化
と構造の簡易化を実現し、保守、点検に手数を要さない庇を提供することを目的と\nしていること、その問題を解決するための手段として、前縁板は、「庇板の開放さ
れた前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている縦板部」と、
「庇板の上面に当接され上面が雨水を縦板部のガイド面へ導くガイド面となってい
る横板部」とが一体に形成されて成り、前記縦板部の下部内面には凹部が形成され
るとの構成が示されていること、当該構\成において、庇板の上面に溜まった雨水は、
庇板の上面を伝って前縁板まで導かれ、横板部のガイド面を経て縦板部のガイド面
を伝って縦板部の下端より落下し、庇板と横板部との隙間より浸入した雨水は、縦
板部の内面を伝って下方へ流下して凹部内に流れ込み、凹部から溢れ出て縦板部の
下端より落下する旨が記載されていることからすれば、構成要件B2の「縦板部」\nは、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面が雨水を下方へ導くガ
イド面となっている」ことを要するものと解するのが、当業者にとって合理的であ
る。
そして、「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている」部分と、「庇板の開
放された前端面に当接され」た部分とがいずれも備わっているが、両部分が離間し
て存在し、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面が雨水を下方へ
導くガイド面」となっていない構成が「縦板部」に含まれるとの解釈は、本件明細\n書に示される本件発明の目的(庇の小型化や構造の簡易化)や作用に整合しないし、\n本件明細書上、これを許容するような記載や示唆も見当たらない。したがって、少
なくとも、かかる構成は構\成要件B2の「縦板部」を充足しないものというべきで
ある。
イ 被告製品についてみると、被告製品の構造(形状)の概要は、別紙「イ号製\n品」及び「ロ号製品」の各図面記載のとおりであるところ(前提事実(4)ア)、両
別紙の各【図7】のとおり、庇板102の開放された前端面129に、先端見切1
04(「前縁板」に相当する。)の当接部145の板部が当たって接している、す
なわち当接しているものと認められる。
しかしながら、雨水を下方へ導くガイド面140aは、中間に横方向へ延びる張
出部142を介して当接部145の板部とは離間して存在しており、当接部145
の板部の「前面」が雨水を下方へ導くガイド面となっているとは到底いえない。そ
うすると、被告製品には、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面
が雨水を下方へ導くガイド面となっている」構成が備わっておらず、被告製品は、\n構成要件B2の「縦板部」を充足しない。\n
ウ これに対し、原告は、被告製品の折れ板部140(別紙「図面」の【原告主
張図1】及び【原告主張図2】の橙色部分)は、前端面129に当接する当接部1
45及び前面が雨水を下方へ導くガイド面140aを備えるから、構成要件B2の\n「縦板部」に該当する、構成要件B2の「縦板部」は、雨水を縦方向に導くガイド\n面を備えているから「縦板部」との語が用いられたにすぎず、被告製品が前方へ張
り出す張出部142を有するからといって、非充足になるとはいえない旨主張する。
しかし、前記アに述べたとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項及び本件明
細書の各記載からすると、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面
が雨水を下方へ導くガイド面」となっていない構成を、構\成要件B2の「縦板部」
に含めることはできないというべきであるから、被告製品の折れ板部140が当接
部145及びガイド面140aを備えるとしても、当接部145の板部の前面が、
ガイド面140aとは離間し、雨水を下方へ導くガイド面となっていない以上、折
れ板部140が構成要件B2の「縦板部」に該当するとは認められない。\nしたがって、被告製品が構成要件B2を充足する旨の原告の主張は採用できない。\n
◆判決本文
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2024.04.11
令和5(行ケ)10057 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月26日 知的財産高等裁判所
訂正事項が新規事項か否かについて、知財高裁は新規事項でないとした審決を維持しました。
(4) 本件訂正発明1(害虫忌避成分が「イカリジン」である場合を含む)の要旨
となる技術的事項が、優先権出願1の明細書等に記載された技術的事項の範囲を超
えるものであるか
ア 上記(2)イで認定したとおり、優先権出願1の明細書等には、ディートに代わ
る害虫忌避成分として、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン
酸エチルエステル(EBAAP)、p−メンタン−3,8−ジオール、1−メチルプ
ロピル 2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシレート(イカリ
ジン)に共通して、「使用者の鼻や喉等の粘膜を刺激しやすい害虫忌避成分が配合さ
れているにもかかわらず、粘膜への刺激が低減された噴射製品および噴射方法を提
供する」という課題を有し、前記(2)イ(ウ)に認定した1)〜3)の特徴を有すること、
すなわち、所定量の揮発抑制成分を添加するなどして、50%平均粒子径r30と粒
子径比(r30/r15)がそれぞれ所定の値以上(粒子径比(r30/r15)が0.6以上、50%平均粒子径r30が50μm以上)となるよう調整することにより、上記課題
を解決することが記載されている。
また、前記1(2)ア〜ウ及びオのとおり、本件訂正発明1に関する背景技術、課題、
解決手段に加えて、発明の効果に関するメカニズムや各構成要件の技術的意義につ\nいては、本件明細書の【0001】、【0002】、【0004】〜【0007】、【0009】、【0012】〜【0015】、【0023】及び【0024】等に記載され
ているが、ほぼ同一の記載が、前記(2)イ(ア)〜(ウ)及び(オ)のとおり、優先権出願1
の明細書の【0001】、【0002】、【0004】〜【0008】、【0012】〜【0015】、【0017】、【0018】、【0026】及び【0027】において記載されていたものといえる。
イ また、本件訂正発明1の発明特定事項は、いずれも優先権出願1の特許請求
の範囲の請求項1又は2に記載されており、害虫忌避成分としてEBAAPと同様
にイカリジンも明記されていたものといえる。
ウ 前記(2)イ(エ)及び(3)イ(イ)のとおり、優先権出願1の明細書等において、実
施例として記載されているのは、害虫忌避成分としてEBAAPを含む噴射製品の
みであり、害虫忌避成分としてイカリジンを含む噴射製品に係る実施例は、優先権
出願2の明細書等(実施例5及び7)により追加されたものであるが、当該実施例
は、本件訂正発明1の実施に係る具体例であるとともに、優先権出願1の特許請求
の範囲の請求項1又は2に発明特定事項が記載されていた発明の実施に係る具体例
を確認的に記載したものと理解できるから、優先権出願1の明細書等に記載された
技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
エ したがって、本件訂正発明1の要旨となる技術的事項は、イカリジンを含む
部分も含めて優先権出願1の明細書等において記載された技術的事項の範囲を超え
るものではないから、本件訂正発明1は、害虫忌避成分をイカリジンとする部分に
ついても、優先権出願1に基づく国内優先権主張の効果が認められる。
(5) 原告の主張について
ア 害虫忌避成分をイカリジンとする部分は本件第1優先日時点で完成してい
るかについて(前記第3の1(1)イの主張について)
まず、国内優先権主張の効果が認められるかどうかは、前記2(1)の説示のとおり、
後の出願の特許請求の範囲の文言が、先の出願の当初明細書等に記載されたものと
いえる場合であっても、後の出願の明細書の発明の詳細な説明に、先の出願の当初
明細書等に記載されていなかった技術的事項を記載することにより、後の出願の特
許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が、先の出願の当初明細書
等に記載された技術的事項の範囲を超えることになる場合は、その超えた部分につ
いては優先権主張の効果は認められないと解するのが相当である。
この点、優先権出願1の明細書等において、実施例として記載されているのは、
害虫忌避成分としてEBAAPを含む噴射製品のみであり、害虫忌避成分としてイ
カリジンを含む噴射製品に係る実施例自体は、優先権出願2の明細書等(実施例5
及び7)により追加されたものであるものの、優先権出願1の特許請求の範囲の請
求項1又は2に発明特定事項が記載されていた発明の実施に係る具体例を確認的に
記載したものと理解できるから、優先権出願1の明細書等に記載された技術的事項
との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないことは前記(4)の判
断のとおりである。
そして、前記のとおり、優先権出願1の明細書等には、本件訂正発明1に関する
背景技術、課題、解決手段に加えて、発明の効果に関するメカニズムや各構成要件\nの技術的意義が記載されており、これらはEBAAP、p−メンタン−3,8−ジ
オール及びイカリジンに共通して適用されることも把握できるものといえる。すな
わち、優先権出願1の明細書等には、本件訂正発明1について、害虫忌避成分をイ
カリジンとする部分を含めて、その技術内容が、当該の技術分野における通常の知
識を有する者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる
程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていると認められる。\n
これに対し、原告は、EBAAPとイカリジンとは物質として害虫忌避作用があ
るということのほかには類似性がないこと等により、イカリジンを害虫忌避成分と
する場合にEBAAPと同様の結果となるかどうかは判断できず、優先権出願2の
出願時にイカリジンに関する実施例を追加することで、初めて実験による技術上の
裏付けがされ完成したものであることを主張する。
この点、本件訂正発明1では、害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、成分
の揮発によって小さくなることを抑制するために、蒸気圧が小さい揮発抑制成分(2
0゜C)での蒸気圧が2.5kPa以下)を配合しているところ(本件明細書の【00
14】)、一般に、物質の揮発しやすさ(揮発性、揮発度ともいう。)は、その成分の
蒸気圧によって決定されるものであり(甲64)、蒸気圧が小さいものは揮発しにく
く、蒸気圧が大きいものは揮発しやすいものであるといえる。そこで、20゜C)にお
けるEBAAPやイカリジンの蒸気圧についてみると、EBAAPが0.0001
5kPa(=0.15Pa、甲27)、イカリジンが0.000034kPa(=3.
4×10−4hPa、甲28)であるのに対し、揮発抑制成分の蒸気圧は、1,3−
ブチレングリコールが0.008kPa(=0.08hPa、甲39)、プロピレン
グリコールが0.0107kPa(=0.08mmHg、甲40)、水が2.336
6kPa(甲3の1・2)であり、溶剤の蒸気圧は、無水エタノールが5.8kP
a(甲65)であって、EBAAPとイカリジンの蒸気圧は、揮発抑制成分の蒸気
圧や溶剤の蒸気圧に比べて極めて小さいものといえる。これらのことからすると、
EBAAPとイカリジンはほとんど揮発しないという点では変わりがないから、両
者の蒸気圧の違いは、粒子径比(r30/r15)や50%平均粒子径r30に対して与え
る影響を無視できるものといえる。そうすると、当業者は、EBAAPとイカリジ
ンの蒸気圧を考慮すると、害虫忌避成分としてEBAAPとイカリジンのいずれを
使用しても、害虫忌避成分の揮発による粒子径や粒子径比(r30/r15)への影響は
変わらないものと理解できる。
したがって、本件訂正発明1のうち害虫忌避成分をイカリジンとする部分は、少
なくとも優先権出願2におけるイカリジンに関する実施例を追加することで、初め
て実験による技術上の裏付けがなされ完成したものであるとする原告の主張は採用
できない。
イ 「実施可能であるか」について(前記第3の1(1)ウの主張)
(ア) 前記(1)の「後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨とする技術
的事項が、先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項を超える」ものか否か
という判断は、実施例が追加された後の出願の特許請求の範囲に記載された発明が
先の出願の当初明細書等の記載事項との関係において実施可能であるかを判断する\nものと解される。
(イ) 優先権出願1の明細書等には、EBAAP、p−メンタン−3,8−ジオー
ル又はイカリジンを含む害虫忌避成分について、噴射された粒子が使用者やその周
囲の者の鼻や喉等の粘膜を刺激しやすく、その結果、使用者等は、粘膜に違和感を
感じたり、咳き込んだりしやすいという問題があることから、使用者の鼻や喉等の
粘膜を刺激しやすい害虫忌避成分が配合されているにもかかわらず、粘膜への刺激
が低減された噴射製品及び噴射方法を提供することを課題とするものであり、この
課題を解決するために、優先権出願1の明細書等に記載された発明は、前記害虫忌
避成分を含むものについて、さらに、1)噴射後の揮発を抑制するため、20゜C)での
蒸気圧が2.5kPa以下となる揮発抑制成分を、害虫忌避組成物中10質量%以
上含み、かつ、2)前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌
避組成物の50%平均粒子径rと、前記噴口から30cm離れた位置における噴
射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、
0.6以上となるよう調整され、3)前記噴口から30cm離れた位置における噴射
された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、50μm以上となるよう調
整されたという特徴を有するものであることが記載されている。そして、その効果
を発揮するメカニズムとして、噴射された害虫忌避剤の中には、皮膚や髪等の適用
箇所に付着せずに、適用距離(例えば噴口から15cmの距離)を超えて更に離れ
た位置(例えば噴口から30cm離れた位置)に到達し、浮遊するものがあり、そ
のような離れた位置では、粒子径が小さくなるため、粘膜刺激を起こしやすく、害
虫忌避組成物中に揮発抑制成分を添加して、適用距離における粒子径だけでなく、
それを超えた位置における粒子径にも注意を払い、当該粒子径が小さくなりすぎな
いよう、50%平均粒子径r30と粒子径比(r30/r15)がそれぞれ所定の値以上(粒
子径比(r30/r15)が0.6以上、50%平均粒子径r30が50μm以上)となる
よう調整したことが説明されている。
また、優先権出願1の明細書等の【0013】〜【0031】に、本件訂正発明
1に係る噴射製品の組成物の各成分の説明及びポンプの構造の説明が詳細に記載さ\nれており、【0017】及び【0018】には、揮発抑制成分を配合することで、噴
射後の揮発が抑制され、適用箇所を超えた範囲(例えば、噴口から30cm)にま
で噴射された場合であっても粒子径が小さくなりにくいことや揮発抑制成分の配合
量が記載されており、また、【0027】には、粒子径比(r30/r15)を上記範囲に
調整する方法は特に限定されず、例えば、害虫忌避組成物の処方(例えばそれぞれ
の成分の種類及び含有量、忌避抑制成分の有無、含有量等)、アクチュエータの形状、
寸法(例えば噴口の大きさ、形状等)、又は単位時間当たりの噴射量(噴射速度)、
噴射圧等の各種物性が調整されることにより調整できることも示されている。
さらに、優先権出願1の明細書等の【0051】の表1の実施例及び比較例を見\nると、害虫忌避成分としてEBAAPを、揮発抑制成分として、1,3−ブチレン
グリコール、プロピレングリコール又は水の少なくとも1の成分を10質量%以上
配合した害虫忌避組成物が充填された噴射製品が記載されており、実施例1及び2
並びに比較例1〜3から、揮発抑制成分の含有量が増えるほど揮発による50%平
均粒子径r30の小型化が抑制され、粒子径比(r30/r15)が大きくなっていること
が理解できる。
そして、実施例1〜4においては、揮発抑制成分の含有量が10質
量%以上、粒子径比(r30/r15)が0.6以上、50%平均粒子径r30が50μm
以上の害虫忌避組成物が実現されていることが理解できる。
以上のことからすると、当業者であれば、優先権出願1の明細書の実施例及び比
較例において具体的な製造方法が示されているEBAAPを配合した害虫忌避組成
物及び噴射製品と同様にして、イカリジンを配合し、粒子径比(r30/r15)が0.
6以上、50%平均粒子径r30が50μm以上を満たす噴射製品を製造することが
できると解される。
この点、原告は、EBAAPとイカリジンの蒸気圧が異なることを主張している
が、前記アの各成分の20゜C)における蒸気圧によると、EBAAPやイカリジンの
蒸気圧の違いは、粒子径比(r30/r15)や50%平均粒子径r30に対して与える影
響を無視できるものといえるから、当業者であれば、害虫忌避成分としてEBAA
Pを含む害虫忌避組成物を充填した噴射製品の実施例と同様にして、過度の試行錯
誤を要することなく、イカリジンを含む害虫忌避組成物を作成し、これを充填し、
粒子径比(r30/r15)を0.6以上、50%平均粒子径r30を50μm以上に調整
した噴射製品を製造することができるといえ、原告の上記主張は採用できない。
また、本件訂正発明1の噴射製品は、害虫忌避組成物を含む噴射製品、いわゆる
虫よけスプレーであり、優先権出願1の明細書等の【0006】、【0025】等の
記載を見ると、使用者が、一般的な虫よけスプレーと同様にして、噴口から害虫忌
避組成物を適用箇所に向けて噴射をすることができること、噴口から噴射される害
虫忌避組成物は、所定の粒子径、より具体的には、所定の粒子径比(r30/r15)及
び50%平均粒子径r30に調整され、霧状に噴射されること、及び、所定の粒子径
に調整されているため、粘膜を刺激しやすい害虫忌避成分が配合されている場合で
あっても、粘膜への刺激が低減されることが認められ、このことは、害虫忌避成分
がEBAAPであっても、イカリジンであっても変わることはないものといえるか
ら、本件訂正発明1のうち害虫忌避成分としてイカリジンを含む部分が、優先権出
願1において、過度の試行錯誤を要することなく使用できるように記載されている
ということができる。
この点、原告は、「使用できる」というためには、特許発明に係る物について、例
えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができるなど、技術上
の意義のある態様で使用することができることを要すると主張する。
しかし、原告の上記主張は独自の見解であって採用できない。また、仮にこれを
前提としても、優先権出願1の明細書等には、本件訂正発明1の効果を発揮するメ
カニズムについて、十分な記載があり、さらに、害虫忌避成分としてEBAAPと\nイカリジンのいずれを使用しても、害虫忌避成分の揮発による粒子径や粒子径比(r
30/r15)への影響は変わらないことを理解できるから、当業者は、EBAAPとイ
カリジンのいずれを使用しても、同様に「粘膜への刺激が低減された噴射製品及び
噴射方法を提供することができる」という作用効果を奏する態様で用いることがで
き、技術上の意義のある態様で使用することができるものと理解することもできる。
したがって、当業者であれば、優先権出願1の明細書の実施例及び比較例におい
て具体的な製造及び使用方法が示されているEBAAPを配合した害虫忌避組成物
及び噴射製品と同様にして、過度の試行錯誤を要することなく、イカリジンを配合
した害虫忌避組成物や噴射製品を製造し、粒子径比(r30/r15)を0.6以上、r30を50μm以上とすることができ、かつ、当該噴射製品を使用することができる
といえる。よって、原告の上記主張は理由がない。
(ウ) 以上によると、本件訂正発明1のうち害虫忌避成分をイカリジンとする部分
が、優先権出願1の明細書等の記載事項との関係において実施可能であるといえる\nから、「実施可能であるか」についての原告の主張(前記第3の1(1)ウの主張)は
理由がない。
◆判決本文
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2024.04.11
令和5(ネ)10086 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月27日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
「化合物自体が公知文献に明記されており、当該化合物を初めて製造できたことに技術的意義が認められる物質特許の発明については、化合物自体は公知であるから、その発明は新規性を欠く」と無効主張しましたが、知財高裁は1審と同じく、技術的範囲に属すると判断しました。
控訴人は、化合物自体が公知文献に明記されており、当該化合物を初めて
製造できたことに技術的意義が認められる物質特許の発明については、化合
物自体は公知であるから、その発明は新規性を欠くと解すべきであり、仮に
新規性を有するのであれば、その発明の技術的意義は当該化合物を製造でき
たことについて認められるものであるから、その技術的範囲は、発明者が現
実に発明した製造方法によって製造された物か、単離された高純度の化合物
に限定されるべきであると主張するが、以下に述べるとおり採用できない。
ア 発明が技術的思想の創作であること(特許法2条1項参照)にかんがみ
れば、特許出願前に頒布された刊行物(同法29条1項3号)に物の発
明が記載されているというためには、同刊行物に発明の構成が開示され\nているだけでなく、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の
創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその\n技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されてい
ることを要する。
特に当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製造
方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから、
刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、当
該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理解\nし得る程度の記載があることを要するというべきであり、刊行物に製造
方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業
者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時\nの技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出すことがで
きることが必要であるというべきである。
そして、本件において、公知文献である本件引用例に5−アミノレブ
リン酸リン酸塩の製造方法に関する記載は見当たらず、乙16〜18の
各論文によっても、特許出願時の技術常識に基づいて当業者がその製造
方法その他の入手方法を見出すことができたとは認められない(以上は
原判決「事実及び理由」第3の3(1)イ〔14頁〜〕に同じ。)。
イ 他方、本件明細書には、5−アミノレブリン酸リン酸塩の物質の構成が\n開示されている(【0009】、【0014】〜【0016】)にとど
まらず、当業者がその製造方法を理解し得る程度の記載があるところ
(【0007】、【0019】〜【0028】、【0034】〜【00
36】)、これは、新規の化学物質の発明である本件発明について、当
業者が実施し得る程度の発明の技術的思想を開示するものであって、単
なる製造方法としての技術的意義にとどまるものではない。
そして、特許が物の発明についてされている場合には、その特許権の
効力は、当該物と構造、特性等が同一である物であれば、その製造方法\nにかかわらず及ぶこととなる(最高裁平成24年(受)第1204号同
27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁参照)。
ウ なお、控訴人が指摘するような、本件特許の出願の際に製造等していた
者については先使用による通常実施権(特許法79条)により、本件特
許の出願後に製造方法等の発明をした者については通常実施権の設定の
裁定(同法92条)により、特許権者との利益の調整が図られることに
なる。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)9716
本件特許の無効審判に関する審決取消訴訟です。
結論は本件と同じです。
◆令和4(行ケ)10091
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2024.04.11
令和5(ネ)10103 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
実質的に前訴の蒸し返しであり、本件訴訟は信義則に反すると判断されました。控訴人(1審原告)の本人訴訟です。
前記認定のとおり、原告は、前件訴訟において、被告の代表者であったAの原告\nに対する行為(前件主張等に係るパワーハラスメント)が不法行為を構成すると主\n張し、会社法350条に基づいて、被告に対し、損害賠償金の支払を求めたところ、
前件訴訟の裁判所は、前件主張について「本件国内移行手続を執ることを中止する
旨決定したAの行為は、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであったとはいえ
ず、原告に対するパワーハラスメントに当たるとはいえない」旨認定判断し、原告
の当該損害賠償請求を棄却する旨の判決をした。同判決は、最高裁判所による上告
棄却決定及び上告不受理決定により確定した。
しかるところ、本件訴えは、原告において、被告が本件国内移行手続を執らなかった行為及び本件発明の権利化の機会を原告に与えなかった行為(本件行為)が本件譲渡契約上の債務不履行を構成すると主張し、被告に対して、債務不履行に基づく損害賠償金の支払を求めるものであり、形式的にみれば前件訴訟と訴訟物を異にするものであるが、実質的にみれば、本件発明に係る本件国内移行手続が執られず、これが権利化されることがなかったという同一の社会的事実について、前件訴訟ではこれを被告の代表\者であったAの
原告に対する不法行為と構成し、本件訴えでは被告の債務不履行と構\成したものに
すぎない。本件訴えにおいて原告の主張する債務不履行の成否は、結局のところ、
Aが本件発明について本件国内移行手続を執らない旨決定したことが、当時の状況
に照らし、業務上必要かつ相当な判断であったかによって決まる性質のものであり、
前件訴訟において、この点に関する原告の主張が排斥されることにより、本件訴訟
において原告が主張するような債務不履行が成立しないことについても、実質的な
判断がされているといえる。したがって、前件訴訟について原告の請求を棄却する
旨の判決が確定したにもかかわらず、同一の社会的事実について、請求の法的根拠
を債務不履行に変更して訴えを提起した本件訴えは、前件訴訟の蒸し返しといわざ
るを得ない。
また、前記認定事実によると、原告は、前件訴訟において、本件訴えに係る請求
と同様の請求をすることにつき何らの支障もなかったものと認められるにもかかわ
らず、更に原告が被告に対して本件訴えを提起することは、前件訴訟において全部
勝訴の確定判決を得た被告の法的地位を不当に長く不安定な状態に置くことになる。
その他、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件訴えの提起は、信義則に反
し許されないものと解するのが相当である。
◆判決本文
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2024.04.11
令和5(ワ)893 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年3月18日 大阪地方裁判所
商標権侵害であるとAmazonに申告することは、不正競争行為に該当すると判断されました。\n
不競法2条1項21号の「虚偽」とは、客観的事実に反する事実であるところ、
本件各申告の内容は、原告各標章を付した原告各商品の販売が被告商標権を侵害\nするというものであるから、以下、当該内容が客観的事実に反するか、すなわち、
原告各標章の使用が被告商標権を侵害しないといえるかにつき検討する。
なお、商標権侵害の判断の前提となる商標の類否は、対比される両商標が同一
又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混
同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、使用され
た商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、
連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品又は役務に係る取
引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断される
(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民
集22巻2号399頁参照)。また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と\n解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は\n役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、
それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場
合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると\n思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部\n分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断する
ことも許される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小
法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同
5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年
(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号56
1頁参照)。
(1) 原告標章1ないし同10と被告商標との対比
ア 原告標章1ないし同10について
原告標章1ないし同10は、「Qbit」、「いつでも」、「簡単」、「トイレ」
の文字(同1、4、5、7、8)及びこれらの文字と丸い絵柄(円の外から
中央右下に向けて濃紺から淡い青を経て白色にグラデーションが施され、円
の内部に「Q」の字を模した白抜きがされたもの)から構成される結合商標\nである。これらの標章のうち、「いつでも」、「簡単」の文字部分は、順に、商
品の使用の時期、使用の方法又は効能を表\示するものにすぎず、「トイレ」部
分は普通名称であるから、これらが「いつでも簡単トイレ」と一体として表\n示されていることを踏まえても、これらの文字部分が商品の出所識別機能を\n有しているとはいえず、「Qbit」又は「Qbit」と上記丸い絵柄部分が
強い出所識別機能を有しているといえる。よって、被告商標との類否の判断\nにあたっては、文字部分を抽出するのは相当でなく、上記「Qbit」と丸
い絵柄の部分を抽出して対比することが相当である(なお、これらの標章の
中には、Qbitや上記絵柄部分と他の文字部分が、横並びになる構成のも\nのや上下の構成のものもあるが、これらの構\成の相違は、上記結論に影響し
ないというべきである。)。
そして、「Qbit」及び丸い絵柄からは「きゅーびっと」との称呼が生
じ、特定の観念は生じない。
イ 被告商標について
被告商標は、片手で長い布様のものを所持する赤ちゃん様の絵柄と「いつ
でも」、「どこでも」、「簡単」、「トイレ」との各文字部分から構成される。こ\nのうち、文字部分は、前記長い布様のものの上に「いつでもどこでも」と「簡
単トイレ」が2段に配置され、「いつ」「どこ」がロゴ化され、「トイレ」のレ
の字には、用が足される様子を模式的に示す絵柄が付加されているものの、
商品の使用時期、提供の場所、使用の方法又は効能を表\示するものにすぎず、
「トイレ」部分は普通名称であるから、これらが一体として表示されている\nことをも踏まえても、これらの文字部分が商品の出所識別機能を有している\nとはいえず、赤ちゃん様の絵柄部分が強い出所識別機能を有しているという\nべきである(仮に文字部分の識別力を考慮するとしても、前記の配置やロゴ
化、絵柄の付加といった要素を捨象して考えることはできない。)。よって、
原告標章1ないし同10との類否の判断にあたっては、(標準文字としての)
文字部分を抽出するのは相当でなく、上記赤ちゃん様の絵柄を抽出して対比
することが相当である。そして、当該部分からは特定の称呼、観念は生じない。
ウ 対比
原告標章1ないし同10の「Qbit」又は「Qbit」と丸い絵柄部分
と被告標章の赤ちゃん様の絵柄部分とを比較すると、外観、称呼、観念のい
ずれにおいても類似しない(双方の標章の文字部分と上記図柄の組合せを全
体として観察しても同様である。)。この点、被告商標の商標登録後に出願さ
れた原告商標1及び原告商標2がいずれも商標登録されるに至ったことは、
上記判断と整合する。
(2) 原告標章11ないし同15について
これらの標章は、「いつでも」、「簡単」、「トイレ」の文字から構成されている\nが、上記のとおり、これらの文字部分は、商品の使用の方法や効能を表\示する
ものや普通名称であり、出所識別機能を有しているとはいえないから、商標法\n26条1項2号の商標に該当すると認められる。よって、これらの標章に被告
商標権の効力は及ばない。
(3) 小括
したがって、原告各標章を付した商品の販売は、被告商標権を侵害する行為
に当たらないから、これに反する本件各申告の内容は「虚偽」であると認めら\nれる。
(4) 争点1のまとめ
以上に加え、前記1、2を総合すると、本件各申告は、不競法2条1項21\n号の不正競争に当たる。
◆判決本文
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2024.04.10
令和5(行ケ)10056 承継参加申立事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月25日 知的財産高等裁判所
サポート要件違反および進歩性違反の無効理由無しとした審決について、知財高裁は後者の無効理由有りとして審決を取り消しました。
(エ) 本件適用に係る動機付けの有無
a 技術分野
(a) 前記アの甲11の記載によると、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュ
バントのエマルジョンを製造する技術の分野に属する発明であると認められる。
他方、前記(イ)のとおり、甲65には、「導入」として、「合成ポリマーの微小
多孔性膜を使用する通常のフローフィルタ等は、多種多様なバイオ医薬液体の濾過
用途に広く使用され、これらのフィルタの主な目的は、製品中の細菌汚染の可能性\nを減らすことである」旨の記載、「濾過膜は、血液分画、血清の処理、大容量非経
口剤(LVP)等の従来の製薬用途でも日常的に使用され、ここでの目標は、バイ
オ医薬品プロセスと同じであり、製品の細菌汚染の可能性を低減させることである」\n旨の記載等があり、甲65は、これらの膜を備えた具体的な製品として、本件製品
に言及している。また、前記(ア)のとおり、丙4には、本件製品が「広範囲の医薬
製品を濾過できるように設計されたものであり、広範囲の化学的適合性を備えるも
のである」旨の記載がある。これらによると、本件製品は、少なくとも上記の「従
来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも
当然に適用し得るものであると認められるから(なお、前記(ア)のとおり、丙4に
は、本件製品の用途の例として「バルク医薬品」が挙げられている。)、本件周知
技術は、甲11発明(認定)が属する技術分野を包む技術分野に属する技術である
と認めるのが相当である。
以上のとおりであるから、甲11発明(認定)と本件周知技術とは、その属する
技術分野を共通にするといえる。
(b) 参加人は、甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用いて製造
したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであるところ、ワ
クチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらない、丙4には本
件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンの滅菌フィルタに使用し得る旨の記
載がないとして、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知技術が属する技
術分野とが異なる旨主張するものと解される。
しかしながら、前記(a)のとおり、本件製品は、少なくとも甲65にいう「従来
の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも当
然に適用し得るものであるから、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知
技術が属する技術分野とが異なるとはいえない。参加人の主張は失当である。
b 甲11発明(認定)が有する課題
(a) 甲11には、前記アにおいて認定した箇所を含め、本件適用を動機付ける
ような課題の記載はみられない。
しかしながら、甲20(日本ワクチン学会編「ワクチンの事典」(平成16年))
の「無菌性の保証 ワクチンは通常、…無菌製造、無菌充填が行われる。」との記
載、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「プレフィルタと最終フィルタの組合せを
正しく選択することで、流速、濾過時間及び全体的な濾過コストの最適なバランス
が得られる」旨の記載、「膜濾過の主な目標である滅菌濾液の提供を評価する基準
として、1)細菌の効果的な保持がされること、2)高い総処理量を有することによる
濾過コストの削減がされること、3)許容可能な範囲の流速による妥当な時間枠にお\nけるバッチ全体の濾過がされることなどが挙げられる」旨の記載、「本件製品の製
造業者が製造する本件製品と同種の製品のプレフィルタ層は、非常に高い処理量を
実現し、10インチエレメント当たりの有効濾過面積を30%以上向上させ、0.
2μmの最終フィルタ層は、本件製品の組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を
提供する」旨の記載等)に加え、甲11発明(認定)と本件周知技術とがその属す
る技術分野を共通にすること(前記a)に照らすと、ワクチンアジュバントのエマ
ルジョンの製造に用いられる濾過膜については、その品質を向上させるため、1)細
菌を効果的に保持すること、2)総処理量が大きいこと及び3)流速が妥当なものであ
ることが求められているものと認められる。それのみならず、そもそもワクチンア
ジュバントのエマルジョンの製造に用いられる濾過膜において、上記1)から3)まで
の要請が達成されることにより当該濾過膜の品質の向上につながることは、これら
の要請の内容に照らし、本件優先日の当業者にとって自明であったというべきであ
る。したがって、甲11発明(認定)には、これらの要請を達成するとの課題(以
下「本件課題」という。)が内在しており、甲11発明(認定)に接した本件優先
日当時の当業者は、甲11発明(認定)が本件課題を有していると認識したものと
認めるのが相当である。
(b) 参加人は、ここでも甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用
いて製造したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであり、
ワクチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらないから、甲6
5の記載をもって甲11記載の発明の課題を認定することはできないと主張する。
しかしながら、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュバントのエマルジョンを
製造する技術の分野に属する発明であり、甲65は、従来の製薬用途でも日常的に
使用され、製品の細菌汚染の可能性を低減させることを目的とする濾過膜について\n述べた文献であるから、甲65記載の事項(本件課題)は、少なくとも甲65にい
う「従来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製
造にも当然に当てはまるものというべきである。それのみならず、そもそもワクチ
ンアジュバントのエマルジョンの製造に用いられる膜において、本件課題が本件優
先日当時の当業者にとっての自明の課題であったことは、前記(a)のとおりである。
参加人の主張を採用することはできない。
c 本件課題の解決手段
(a) 前記(ア)のとおりの丙4の記載(「本件製品のフィルタカートリッジは、現
存する滅菌フィルタカートリッジのいずれと比較しても優れた特性を持ち、広範囲
の化学的適合性、高耐熱性、高処理量、高流速の特性を全て備えている」旨の記載、
「本件製品のカートリッジは、0.45μm膜を用いた「組み込み予備濾過」によ\nる分画濾過のため、非常に高い総処理能力を持ち合わせている。ポリエーテルスル\nホン膜の非対称的孔構造は、低い圧力下で、高い流速を提供する」旨の記載、「本\n件製品のフィルタカートリッジは、HIMAやASTM F−838−83ガイド
ラインに従う滅菌グレードのフィルタエレメントとして十分検証されている」旨の\n記載、95%閉塞時における総処理量において本件製品が最も優れている旨のグラ
フ等)、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「本件製品の製造業者が製造する本件
製品と同種の製品の0.2μmの最終フィルタ層は、本件製品の0.45μm/0.
2μmの組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を提供する」旨の記載等)及び弁
論の全趣旨によると、本件製品が備える親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜
をワクチンアジュバントのエマルジョンの製造(濾過)に用いることにより、本件
課題をいずれも解決することができるものと認めるのが相当である。
(b) 参加人は、丙4の記載は本件製品の特性に関する一般論を述べるものにす
ぎず、丙4には本件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンを含む水中油型エ
マルジョンの滅菌濾過を用途とし得るものである旨の明記がないとして、丙4記載
の本件製品の特性をもって甲11記載の発明が有する課題を解決することができる
ものであると認めることはできないと主張する。
しかしながら、本件製品は、広範囲の医薬製品を濾過することができるように設
計され、広範囲の化学的適合性を備えるものであり(前記(ア))、また、ワクチン
アジュバントのエマルジョンの製造にも当然に適用し得るものである(前記a)と
ころ、甲65及び丙4には、本件製品をワクチンアジュバントのエマルジョンの製
造に用いた場合に、本件製品が持つ本来の性能が十\分に発揮されないものとうかが
わせる記載は一切なく、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はないから、
甲65及び丙4に記載された本件製品の性能は、本件製品をワクチンアジュバント\nのエマルジョンの製造に用いた場合にも発揮されるものと認めるのが相当である。
参加人の主張を採用することはできない。
d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判
断
参加人は、1)甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階
を異にする別個の工程である、2)前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧
条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ
イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の
発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製
品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。
しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(III))
(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン
トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが
あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお
いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの
であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し
て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲
11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性
を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に
つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨
の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、
甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな
い別個の工程であるということはできないから、上記の1)の点を根拠とする参加人
の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ
る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ
ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を
第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証
拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1
の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ
る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌
保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第
1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱
についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される
膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに
足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい
て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、
第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認
識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主
張する工程(III))(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)
を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ
(イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当
時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き
な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が
あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の2)の点を根拠とす
る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定)
に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
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2024.04.10
令和5(行ケ)10112 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年3月14日 知的財産高等裁判所
審決(異議申立)は、販売代理店による商標取得行為が、公序良俗に反すると判断しました。指定商品は「動物用のハーネス」です。知財高裁も同様です。
ア 引用商標に関する原告の認識について
原告は、ハキハナ社の販売代理店として本件商品を含む同社の商品を販
売していたのであるから、同社が本件商品を含む同社の商品に引用商標を
使用していることを認識しながら、引用商標と構成文字を共通にする本件\n商標について、引用商標が用いられている商品と同種の商品である第18
類「愛玩動物用引きひも、愛玩動物用のハーネス」を指定商品として、商
標登録出願を行い、登録を受けたものと認められる。
イ 原告が本件商標の登録出願を行った意図及び目的について
(ア) 前記(1)の認定事実によれば、原告がハキハナ社との間で締結した本件
契約は原告に独占的販売権を与える内容ではなかったが、原告は、自ら
が行った本件商品の広告宣伝や、本件商品の販売促進のための方策によ
って、日本国内における本件商品の知名度が上がり、販売が増えたもの
であって、このような貢献を行った原告にはハキハナ社の商品に係る独
占的販売権などの契約条件や待遇が同社から与えられるべきと考えて
いたが、同社はそのような意向を有さず、原告以外の者が並行輸入によ
り入手したハキハナ社の商品を日本において販売することを問題視し
ない販売戦略を採っており、原告にもこれを伝えていたこと、その後、
アブレイズが原告よりも安価で本件商品を販売するようになり、原告は、
アブレイズの販売活動は、原告の宣伝活動や方策によって向上した知名
度にただ乗りするものであって、アブレイズへの対応が必要であると考
え、ハキハナ社に対し、一時的な独占的販売権を原告に与えるなどの手
段によって、原告がアブレイズに対応することに協力するよう求めたが、
ハキハナ社がこれを拒絶したこと、そのわずか数日後、原告は、ハキハ
ナ社が引用商標又はこれに類似する商標につき国際商標登録出願をし
ていたものの、我が国においては商標登録していないことを奇貨として、
同社に一切知らせることなく、秘密裏に本件商標の登録を出願したこと
が認められる。
原告が本件商標の登録を得た後、ハキハナ社が原告との取引を打ち切
ると伝えてきた際、原告は、本件商品が日本の市場に出なくなることは
残念であるとハキハナ社に伝えている。これは、原告が、原告以外の者
による日本国内における本件商品の販売を認めないこと、すなわち、こ
のような者による本件商品の販売を妨害、阻止する意向を有しているこ
とを示したものといえる。
以上の事情に加え、原告が、本件商標の登録を取得したのと近接した
時期に、本件商標権に基づき、アブレイズに対して本件商品の販売を中
止するよう実際に求めたことも考慮すれば、原告は、本件商標の登録出
願の時点から、本件商標の登録を得た後、本件商標権に基づき、アブレ
イズによる本件商品の販売を差し止めるとともに、将来的に、並行輸入
等で入手した本件商品等のハキハナ社の商品を日本国内で販売する者が
現れたときに、その販売活動を差し止めるなどして、原告以外の者が日
本国内においてハキハナ社の商品を販売することを妨害、阻止する意図
を有していたものと認めることができる。
(イ) 原告が本件商標の登録出願をする以前に伝えられていたハキハナ社
の意向の内容からすれば、原告は、ハキハナ社の意向に反して無断で本
件商標の登録を得れば、ハキハナ社が原告に対する信頼関係を喪失し、
原告との取引を打ち切る可能性があることを容易に認識することがで\nきたといえる。
そして、原告は、ハキハナ社から、本件商標権をわずかな費用でハキ
ハナ社に譲渡することなどの条件を満たさない限り原告との取引を打ち
切る旨伝えられたが、これに対する原告の応答(前記(1)ス)は、ハキハ
ナ社との契約あるいは取引の継続を模索するものではなく、原告の貢献
に報いる内容の条件を出すようハキハナ社に迫る内容であるといえ、ハ
キハナ社が原告との取引を終了すると伝えてきたことに対しても、契約
や取引の継続のための交渉を行おうとしなかった。
また、本件商標は引用商標と同一の文字で構成されているから、原告\nは、原告が本件商標の登録を受けた場合、本件商標権をハキハナ社に譲
渡しなければ、同社が、本件商品など引用商標を用いた商品を日本国内
で販売することができなくなると認識していたものと認められる。
これらの事情を総合すれば、原告は、本件商標の登録出願を行った時
点で、原告が本件商標の登録を受ければハキハナ社が引用商標を用いた
本件商品等を日本国内で販売することができなくなる事態が生じ得るこ
とを認識し、そのような事態が生じても構わないと考えていたと認めら\nれ、かつ、原告の本件商標の登録出願は、ハキハナ社との契約関係や取
引における原告の利益を守ることよりも、むしろ原告以外の者による本
件商品の販売を妨害、阻止することに主たる目的があったと認めること
ができる。
ウ 上記ア及びイの事情を総合すると、原告は、ハキハナ社が本件商品を含
む同社の商品に引用商標を使用していることを認識し、かつ、原告が本件
商標の登録を受ければ、ハキハナ社が引用商標を用いた本件商品等を販売
することができなくなることも認識しつつ、そのような事態が生じても構\nわないと考えて、原告以外の者が日本国内で本件商品を販売することを許
容するハキハナ社の意図ないし販売戦略に反し、本件商標権に基づいてア
ブレイズによる本件商品の販売を差し止め、将来的にも、並行輸入等で入
手したハキハナ社の商品を日本国内で販売しようとする者の販売活動を
妨害、阻止することを主たる目的として、本件商標の登録出願を行ったも
のと認められる。
このような原告の本件商標の登録出願は、商標登録出願について先願主
義を採用している我が国の法制度を前提としても、「商標を保護すること
により、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の
発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同
法1条)に反し、公正な商標秩序を乱すものというべきであり、かつ、健
全な法感情に照らし条理上も許されないというべきであるから、本件商標
は同法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商
標」に該当するというべきである。
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2024.04.10
令和5(行ケ)10069 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月25日 知的財産高等裁判所
無効審判の判断について争いましたが、第一次判決の拘束力により、請求理由なしと判断されました。
前記第2の1(特許庁における手続の経緯等)並びに証拠(甲39、乙22)及
び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(1) 原告は、令和元年11月12日、本件各発明に係る本件特許について特許
無効審判の請求をした。
(2) 特許庁は、令和3年10月8日、本件訂正を認めた上、本件発明1等に係
る本件特許を無効とし、本件発明4に係る本件特許に対する審判請求は成り立たな
い旨の第一次審決をした。第一次審決においては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて
容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものとはいえない。
(3) 被告は、令和3年11月13日、第一次審決のうち本件発明1等に係る本
件特許を無効とした部分の取消しを求める訴えを提起し、原告は、同月16日、第
一次審決のうち本件発明4に係る本件特許に対する審判請求は成り立たないとした
部分の取消しを求める訴えを提起した。
(4) 知的財産高等裁判所は、被告の訴えに係る事件及び原告の訴えに係る事件
を併合審理した上、令和4年8月31日、被告の請求を認容し、第一次審決のうち
本件発明1等に係る本件特許を無効とした部分を取り消すとともに、原告の請求を
棄却する旨の第一次判決を言い渡し、第一次判決は、その後確定した。第一次判決
においては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて
容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものとはいえない。
(5) 特許庁は、令和5年5月22日、本件訂正を認めた上、本件各発明に係る
本件特許についての審判請求は成り立たない旨の本件審決をした。本件審決におい
ては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて
容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものとはいえない。
(6) 原告は、令和5年6月29日、本件審決のうち審判請求を不成立とした部
分の取消しを求めて本件訴えを提起した。本件訴訟における原告の主張は、前記第
3のとおりであるが、結局、次のとおり要約することができる。
ア 本件発明1等と甲1引用発明との間に本件構成に係る相違点2及び相違点4\nは存在しないというべきである。しかるところ、本件審決は、このような相違点が
あることを前提に、本件発明1等に係る本件構成は、いずれも本件出願日前に当業\n者が甲1引用発明に基づいて容易に想到し得たとはいえないと判断した点において
判断を誤っている。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものであるから、その進歩性を認めた判断は誤りである。
2 本件発明1等に係る本件特許について(審決取消判決の拘束力)
(1) 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が
確定したときは、審判官は、特許法181条2項の規定に従い、当該審判事件につ
いて更に審理を行って審決をすることとなるが、審決取消訴訟は、行政事件訴訟法
の適用を受けるから、再度の審理又は審決には、同法33条1項の規定により、当
該取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに
必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は、取消判決の当該
認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって、再度の審判手
続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につき、こ
れを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは、当該主張を裏
付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束
力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟におい
てこれを違法とすることができないのは当然である。
このように、再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決の主文のよ
って来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた
再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判
決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消)
事由たり得ない。
以上を特許発明の進歩性判断が問題となる特許無効審判事件の審決の取消訴訟に
ついて具体的に考察すると、特許無効審判の対象とされた特許発明が、特許出願前
に当業者において特定の引用例に記載された発明に基づき容易に発明をすることが
できたとはいえないとの理由により、当該特許発明に係る特許を無効とした審決の
認定判断が誤りであるとして当該審決を取り消す旨の判決がされ、これが確定した
ときは、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は、同一の引用例
に記載された発明に基づく進歩性の判断に当たり、当該判決と異なる認定判断をす
ることは許されない。したがって、再度の審決に係る審決取消訴訟において、関係
当事者が、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断が誤りである
(当該特許発明は特許出願前に当業者において同一の引用例に記載された発明に基
づき容易に発明をすることができた)として、これを裏付けるための新たな立証を
し、また、裁判所が、これを採用して取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決
を違法とすることは許されないと解するのが相当である(前掲最高裁平成4年4月
28日第三小法廷判決参照)。
(2) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、第一次審決(本件発明1
等に係る本件特許を無効とした部分。以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)
は、本件発明1等につき、これらがいずれも本件出願日前に当業者において甲1引
用発明に基づき容易に発明をすることができたものであると判断して、本件発明1
等に係る本件特許を無効としたところ、第一次判決(第一次審決を取り消した部分。
以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)は、本件発明1等につき、これらがい
ずれも本件出願日前に当業者において甲1引用発明に基づき容易に発明をすること
ができたものとはいえないと判断して、第一次審決を取り消したものである。また、
第一次判決の確定後にされた本件審決(本件発明1等に係る本件特許に対する審判
請求は成り立たないとした部分。以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)は、
本件発明1等に係る甲1引用発明に基づく進歩性について、第一次判決と同様の判
断をして、本件発明1等に係る本件特許に対する審判請求は成り立たないとしたも
のである。
ここで、前記(1)によると、再度の審判請求において、本件発明1等が本件出願
日前に当業者において第一次判決が認定判断した同一の引用例(甲1)に記載され
た発明に基づき容易に発明をすることができたか否かにつき、審判官が第一次判決
とは別異の事実を認定して異なる判断を加えることは、第一次判決の拘束力により
許されないのであるから、本件審決は、第一次判決の拘束力に従ってされた限りに
おいて適法であるとされなければならない。
そして、前記(1)によると、第一次判決の拘束力に従ってされた本件審決の取消
訴訟(本件訴訟)において、第一次判決の認定判断(本件発明1等が本件出願日前
に当業者において甲1引用発明に基づき容易に発明をすることができたものとはい
えないとの認定判断)を否定する関係当事者の主張立証は許されないことになるか
ら、原告は、本件訴訟において、このような主張立証(本件発明1等の甲1引用発
明に基づく進歩性欠如の主張立証)をすることができないというべきである。
したがって、甲1引用発明に基づいて本件発明1等が進歩性を欠く旨原告が主張
することは許されない。
(3) 原告は、本件訴訟における原告の主張(取消事由1及び2)につき、これ
は「相違点2又は4に係る本件発明1等の構成のうち本件構\成に係る部分は、本件
発明1等と甲1引用発明との相違点ではない」との第一次判決が判断していない事
項についての本件審決の判断の誤りを指摘するものであるから、本件訴訟において
取消事由1及び2を提出することは第一次判決の拘束力に反しないと主張する。
確かに、乙22によると、第一次判決においては、原告が本件訴訟において取消
事由1及び2として指摘する事項(相違点2又は4に係る本件発明1等の構成のう\nち本件構成に係る部分の実質的相違点性)についての判断がされなかったものと認\nめられる。しかしながら、本件発明1等に係る甲1引用発明に基づく進歩性の判断
は、本件発明1等及び甲1引用発明の各認定並びにこれを前提とする一致点及び相
違点の認定を踏まえて行われる法律判断である。前記のとおり、拘束力は、判決主
文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、甲1
引用発明に基づく進歩性欠如を否定した第一次判決の法律判断の前提となった本件
発明1等と甲1引用発明との間の相違点に係る事実認定についても、第一次判決の
拘束力は及ぶというべきである。したがって、本件審決の審判官が、同じ甲1引用
発明に基づく進歩性の判断に当たり、第一次判決とは別異の事実を認定して異なる
判断を加えることは、第一次判決の拘束力により許されず、第一次判決の拘束力に
従ってされた本件審決は適法なものである。原告の主張は、第一次判決の拘束力が
及ぶ事実認定及び法律判断部分について、本件審決が誤りである旨主張し、本件審
決の取消事由とするものにほかならず、前掲最高裁平成4年4月28日第三小法廷
判決に照らし、採用することはできない。
3 本件発明4に係る本件特許について(請求棄却判決の既判力)
行政処分の取消訴訟については、請求棄却判決が確定すると、処分に違法性がな
いことについて既判力(行政事件訴訟法7条、民事訴訟法114条)が生じるから、
審決取消訴訟についても、請求棄却判決が確定すると、審決に違法性がないことに
ついて既判力が生じる。
しかるところ、最高裁昭和51年3月10日大法廷判決(昭和42年(行ツ)第
28号)民集30巻2号79頁の趣旨を踏まえると、特許発明の進歩性判断が問題
となる特許無効審判事件の審決の取消訴訟における請求棄却判決の既判力は、審決
に違法性一般がないことではなく、特許無効審判事件において審理された特定の引
用例に記載された発明(公知技術)に基づく進歩性の有無について判断した審決に
違法性がないことに関して生じるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前記認定のとおり、第一次判決(原告の請求を棄却
した部分。以下同じ。)は、本件発明4につき、これが本件出願日前に当業者にお
いて甲1引用発明に基づき容易に発明をすることができたものとはいえないと判断
して、これと同じ判断をした第一次審決を是認し、原告の請求を棄却したものであ
る。そして、第一次判決は、その後確定したのであるから、甲1引用発明に基づき、
本件発明4が進歩性を欠くとはいえないとした第一次審決に違法性がないことは、
既判力をもって確定されているというべきである。
本件で問題となっているのは、本件審決の違法性であって、第一次審決の違法性
ではないが、原告が、本件訴訟において、甲1引用発明に基づき、本件発明4が進
歩性を欠く旨主張(取消事由3)し、進歩性欠如を否定した本件審決の判断部分が
違法である旨主張することは、実質的にみれば、第一次審決の違法性に関し既判力
が生じている部分(同じ引用発明に基づき進歩性がないとはいえないとの判断)に
ついて、これと異なる判断を求めるものとして、許されないというべきである。
仮にこの点を措くとしても、甲1発明の半田鏝は、先端部の開口部の径が1.0
mmであり、後端部の貫通孔の径が2.5mmであり、この貫通孔内に半田片が落
下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構成され、これにより、半田片は、途\n中で引っかかって溶融してしまうことなく、そのまま先端まで落下して溶融するも
のである(甲1の段落【0006】、【0031】、【0034】)。そうすると、
甲1発明の半田鏝については、甲11から13までに記載されたように半田鏝先端
部の内径を半田鏝後端部の内径より大きくすることには、阻害要因があるというべ
きである。したがって、いずれにせよ、本件発明4について、甲1引用発明に基づ
いて進歩性を欠くとは認められない旨の本件審決の判断に誤りはない。
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2024.04.10
令和4(行ケ)10084 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月21日 知的財産高等裁判所
治療薬に関する発明について、進歩性無しとした審決が維持されました
(4) 相違点に係る容易想到性について
ア 相違点1について
(ア) 「心不全の患者」及び「心不全の治療薬」について
前記2(1)、(2)、(5)及び(6)のとおり、本件優先日当時、利尿薬は、心不全の症
状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬として、急性心不全(慢
性心不全の急性増悪期を含む。)と慢性心不全とを問わず、また心不全の重症度を問
わず、広く用いられていた薬剤である。また、代表的な利尿薬として用いられるフ\nロセミド等のループ利尿薬は、利尿作用が強い反面、塩化ナトリウムの再吸収を抑
制するために低ナトリウム血症等の電解質異常をきたし得るとの副作用がある上、
利尿薬抵抗性の問題も認識されており、加えて、特に重症心不全患者においては、
体液貯留の管理が重要とされていた。
そして、前記(2)ア(ア)のとおり、甲2には、体液貯留のある心不全患者(NYH
AクラスI)〜III))に対し、フロセミドに上乗せして、異なる部位に作用し、また、
ナトリウムを排泄せずに水のみを排泄する選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬と\nしてのトルバプタンを投与したところ、良好な忍容性とともに、血清電解質の有害
な変化なく、体重減少、尿量増加及び浮腫改善等の効果が得られた旨が記載されて
いる。
そうすると、本件優先日当時、甲2発明及び甲2の記載に接した当業者において、
前記2に認定した技術常識も考慮して、甲2発明のトルバプタンを、「急性心不全ま
たは慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IV)の患者」
における体液貯留等を改善するための治療薬とすることには、十分な動機付けがあ\nり、容易に想到し得たということができる。
(イ) 「活性成分の投与」について
甲2発明における「安定したフロセミド用量(20〜240mg/日)」が、フロ
セミドを必要に応じて投与することを制限する趣旨と読み取れないことは、前記
(2)ウ(イ)bのとおりであるから、この点は実質的な相違点とはいい難い。また、前
記(2)ウ(ウ)のとおり、対象患者の症状や投与方法等を捨象した、単に治療薬を投与
する際に患者が入院下であるか否かという点も、実質的な相違点とはいい難い。
次に、前記2(1)ウのとおり、本件優先日当時、トルバプタンは、経口投与で強力
な水利尿薬として作用する薬物として知られていたのであるから、甲2発明では経
口投与されたか不明であるトルバプタンを本件発明1の対象患者に投与するに当た
り、これを経口投与とすることは、当業者が適宜なし得た事項というべきである。
(ウ) 原告の主張について
原告は、1)医薬分野における容易想到性は、「当該発明の治療及び治療効果につい
て、優先日当時における科学的根拠をもって当業者がこれを容易に評価・確認でき
るか」という観点から判断されるべきであるとした上で、本件優先日当時の技術常
識として、2)ADHFの重症患者と慢性心不全の慢性期の軽症〜中等症患者とは、
その症状、治療内容・態様、治療薬の適応・治療効果が大きく異なっていた、3)同
じ心不全治療薬であっても、NYHAクラスI)〜III)の患者には有効だがクラスIV)の
患者には効果がない又は悪化させる例があった上、NYHAクラスIV)の患者は利尿
薬抵抗性の問題がより深刻であって治療に限界が生じており、トルバプタンにも利
尿薬抵抗性の問題が認識されていた、4)既存の利尿薬の作用機序・薬理作用と、ト
ルバプタンの作用機序・薬理作用は異なるものである、5)ADHFの重症患者に対
して、トルバプタンを含む選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬の投与実績は存在\nしていなかったところ、選択的バソプレシンV2受容体拮抗作用は、内因性バソ\プ
レシンレベルの上昇を誘引し、それがバソプレシンV1a受容体を刺激することに\nより、心血管系や腎臓に悪影響を及ぼすことが理解されていたから、選択的バソプ\nレシンV2受容体拮抗作用を有するトルバプタンを、NYHAクラスIV)のような重
症患者に投与すれば、心不全の症状をさらに悪化させ、最悪の結果にもつながりか
ねないと認識されていた、6)本件試験のような「最適の治療」(併用薬の用量増加、
投与経路変更を含む。)に対する上乗せ試験では、甲2試験のような併用薬の用量固
定・経口投与のみ等の制約されたデザインの試験と比して、上乗せ治療薬の治療効
果が得られにくいと理解されていたなどと主張し、これらの技術常識によると、甲
2発明から相違点1に係る本件発明1の構成に想到する動機付けはなく、又は阻害\n要因があると主張する。
しかし、1)について、進歩性についての判断基準として独自の見解というほかな
く、採用の限りではない。2)について、急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含
む。以下この項において同じ。)と慢性心不全とで、また重症患者と軽症〜中等症患
者とで、治療の内容が異なる点は指摘のとおりであるが、前記2のとおり、利尿薬
に関していえば、急性心不全と慢性心不全とを問わず、また重症と軽症〜中等症と
を問わず、心不全の症状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬
として広く用いられていたのであるから、甲2に記載されたトルバプタンの水利尿
効果が、体液貯留等の症状を呈する急性心不全の患者や重症患者にも得られるであ
ろうことを、当業者は当然に想起するというべきである。3)について、NYHAク
ラスI)〜III)の患者とクラスIV)の患者とで取扱いを異にする例として原告が挙げてい
る例(甲38、43、47、70〜77、88)には、利尿薬とは異なる心不全治
療薬が含まれているほか、利尿薬に関するものであっても、NYHAクラスIV)であ
ることを理由に利尿薬の取扱いを異にすべき旨が記載されているとは読み取ること
はできない。前記2(6)のとおり、重症心不全患者では、特に体液貯留等の管理が重
要とされており、重症度の高さや利尿薬抵抗性の問題から利尿薬が十分に効果を発\n揮しない場合があるとしても、また、仮にトルバプタンにも利尿薬抵抗性の問題が
あるとしても、当業者は、NYHAクラスによる重症度を問うことなく、体液貯留
等の症状を改善するために利尿薬の使用を試みるというべきである。4)について、
既存の利尿薬とトルバプタンとの作用機序・薬理作用が異なることは、上記(ア)のと
おり、むしろ動機付けとなるといえる。5)について、本件優先日前に頒布された刊
行物である甲149(Florence Wongほか「A Vasopression Receptor Antagonist
(VPA-985) Improves Serum Sodium Concentration in Patients With
Hyponatremia: A Multicenter, Randomized, Placebo-Controlled Trial 」37
Hepatology 182 (2003))には、NYHAクラスIV)のうっ血性心不全患者に対し、ト
ルバプタンと同じ選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬である「VPA−985」\nを既存の利尿薬と組み合わせて投与したところ、低用量群(25mgを1日2回投
与)では、起立性血圧、血清クレアチニン値及び血清バソプレシン濃度の有意な変\n化なしに、プラセボ対照群と比して有意な水利尿反応及び血清ナトリウム値の増加
が得られた旨が記載されている。同記載からすると、原告が主張するように、選択
的バソプレシンV2受容体拮抗薬につき、血中バソ\プレシン濃度上昇による悪影響
がある可能性を指摘する文献があったことを考慮しても、適切な用量設定等により\n安全に効果を得られることが示されていたのであるから、トルバプタンをNYHA
クラスIV)の重症患者に、また急性心不全の患者に適用することが禁忌であったとは
いえず、阻害要因となるべきものとは認められない。6)については、前記(3)ウ(ウ)
のとおり、トルバプタンと組み合わされる本件発明1の「最適の治療」と甲2発明
の「水分制限なしの標準治療」に実質的に異なるところはなく、また、前記(2)ウ(イ)
bのとおり、甲2発明における「安定したフロセミド用量(20〜240mg/日)」が、治療の制限を意味するものとは読み取れない。
したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
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2024.04.10
令和5(ワ)70114 不当利得返還等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月27日 東京地方裁判所
自動二輪車のブレーキに関する特許について、ヤマハ発動機に対して損害賠償等を求めました。争点は均等侵害等多数有りますが、東京地裁46部は、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。本件特許は出願時から弁理士無しの本人出願ですが、訂正時に代理人がついてます。無効審判も同時継続しています(無効2023-800055)
2 サポート要件違反があるか(争点4−1)について
本件発明1について
ア 本件発明1の構成要件1Fは、「前記信号演算として、横加速度を検出す\nる加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横
G(Ghosei)の導出方法を少なくとも有し、」というものであり、構\n成要件1Hは、「当該車両において、前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の
横G(Ghosei)の組合せにより、車両挙動が判断され、・・・」とい
うものであり、本件発明1は、算出された補正後の横G(Ghosei)を
利用するECUによって車輪を適切に制動し、これによってロール方向の挙
動の抑制を図る車両ブレーキ制御装置(構成要件1I)であるとされている。\nそして、本件発明1は、前記1のとおり、自動二輪車等の制御装置につ
いて、従来は、正確な傾斜角の検出ができなかったという課題を解決して、
車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたというものである。
これらからすると、構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、\n従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出された、
車両の傾斜走行状態での正確な横Gであると認められる。
ここで、制動指令の前提となる「横G(Ghosei)」は、「横加速度を
検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った」(構\n成要件1F)ものであるとされていることから、「横G(Ghosei)」
は、横加速度を検出する加速度センサーの検出値を基に、これに補正をか
けて得られる値であると理解できる。もっとも、本件発明1の特許請求の
範囲には、「横G(Ghosei)」について、単に加速度センサーの値か
ら「ロールによる影響を取り除く演算を行った」(構成要件1F)と記載す\nるのみで、どのような演算をするかは明示されていない。そうすると、特
許請求の範囲には、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載さ
れ、その解決のための構成は記載されていないといえる。\n
イ 本件明細書には本件発明の意義として前記1のとおりの記載があり、車両
の正確な傾斜角の検出ができず、正確な横Gを検出できなかったという課題
を解決して、車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたという
ものであるとされている。
もっとも、本件明細書には、従前は検出できなかった正確な傾斜角の検出
をどのようにするかや、その傾斜角が判明した場合に正確な横Gを算出する
ためにどのような補正を行うかについての記載はない。
他方、本件明細書には、センサーによる検出結果を補正して横Gを算出す
る方法として、Ghosei = Gken − (Ψ・Rhsen) (式A)
との記載がある(【0073】)。本件明細書の【0073】では、「Gken」
は、実際の走行傾斜時に検出される検出横Gであるとされ、「Ψ」は傾斜角
速度、「Ghosei」はΨを用いたGkenの補正後の横Gであるとされ
ていて(なお、「Rhsen」について、本件明細書には定義がないものの、
「hsen」について路面とセンサとの距離であることを示唆する記載があ
ったり(【0050】【0058】【0061】、図8、9)、「RはGセンサー
#23の実車取付けの高さ(図8b hsen)」(【0063】)との記載、
Ψ・Rhsenについて、Rhsenに1を代入した上で「但し、センサー
取り付け高さ Rを1mとする。」との記載(【0074】)があったりする
ことから、「Rhsen」車体を垂直にしたときのセンサ取り付け位置の高
さであることを一応推測できる。)、その「Ghosei」は、本件発明の課
題として言及されている「正確な横G」であると理解することができる。そ
して、式Aは、その体裁から、本件発明の意義(前記1参照)として記載さ
れている、「横Gセンサー」で検出されたGkenと「角速度センサー」で
検出されたΨを用いて「正確な横G」を算出する方法を記載した式であると
理解できる。
しかしながら、「Ψ・Rhsen」からは、傾斜角は算出されないし、式
Aから、傾斜角を算出することなく「正確な傾斜角の検出ができなかった諸
問題」が解決されていると理解することもできない。さらに、Ghosei
及びGkenは、加速度の次元(長さ/時間2)を有し、Ψ・Rhsenは
速度の次元(長さ/時間)の次元を有していることから、式Aは物理学上、
明らかに意味を持たない式である(弁論の全趣旨)。
そして、本件明細書には、式Aの他に、センサーによる測定値を基に「正
確な横G」を算出する方法についての記載はない。
ウ 本件明細書によれば、本件発明は、車両制御のためには「正確な横G」の
取得が必要であるところ、横加速度を検出する加速度センサーの値をその
まま用いることができないこと、当該値から正確な横Gを算出するために
は傾斜角度を取得することが必要だがそれができないことが課題として記
載され、本件発明はその課題に対して、車両の傾斜走行状態での正確な横
Gを算出したものであるとされており、「横加速度を検出する加速度セン
サーのロールによる影響を取り除く演算を行った」という「横G(Ghos
ei)」についての、当該演算が、本件発明の課題解決の根幹に当たる部分
であるといえるといえる。
しかしながら、特許請求の範囲には、その演算について、従来の課題を
解決するに足りる構成は記載されていない。また、本件明細書の発明の詳\n細な説明をみても、関係する記載は前記イのとおりである。本件明細書の
式A(【0073】)が、一応、上記の演算であると理解することはできる
が、他に、関係する記載はない。そして、前記イのとおり、式Aは本件発明
の課題とされている傾斜角を算出しない上、そもそも物理学上意味をなさな
い式であり、当業者はおよそ式Aを用いて車両制御に利用可能な横G(Gh\nosei)が算出できると理解できるものではない。
エ 原告は、本件明細書の記載は、別紙対比表のとおり誤記があり、正しく\nは同表の「訂正後」欄記載のとおりであると主張する。構\成要件1Fの「演
算」については、式Aのみが当たり得るところ、式Aは前記イで認定した
とおり、次元の異なる物理量の差し引きをしていることから物理学上意
味をなさない式であり、当業者は、式Aに何らかの誤りがあると理解する
ことができるといえる。この点について式Aについて、原告が主張すると
おりGhosei=Gken−(Ψ.・Rhsen) (式A´)(ただし、「Ψ
.」は傾斜角加速度)の誤記であると理解すれば、減算される物理量の次元が異なるという問題については解消される。しかし、次元を整える目的のみであれば、その訂
正の方法は式A´とすることに限られるものではないのであり、他に解消
方法を考え得るのであり、その考え得る解消方法が物理法則やそれを踏ま
えた技術常識等に照らして不合理であることを認めるに足りる証拠はな
い。そうすると、式Aの記載のみから、どのような誤記であるかのかが一
義的に定まるものであるとはいえない。
さらに、原告は、式Aについて「Ψ」を「Ψ.」に訂正するに当たって、
そのままでは式Aに関する説明が記載されている【0073】のその他の
記載と矛盾が生じるため、式Aのみならず、同段落における他の「Ψ」の
記載も「Ψ.」に訂正し、1か所の「傾斜角速度」との記載も「傾斜角加速
度」に訂正するものとしている。
しかし、原告が主張する訂正により、訂正後の【0073】は、「この補
正後の横G(Ghosei)は、(0063)式のGkenから傾斜角加速
度(Ψ.)を用いた補正であり、(0067)の式に対して、傾斜角が変化しない状況である。すなわち、式の「Ψ.・Rhsen」の項については、ゼロとなることから二つの式を整理し記述すると、・・・」との記載を含むことになるが、傾斜角加速度(Ψ.)がゼロであっても、傾斜角速度(Ψ)がゼロでないとき(定速傾斜時)は傾斜角が変化する状況なのだから、傾斜角加速度(Ψ.)に関する項「Ψ.・Rhsen」がゼロであることは直ちに「傾斜角が変化しない状況」を意味するものではないから、原告が主張する訂正をすると同記載部分の趣旨が理解できなくなってしまう。他方で、当該箇所について、「Ψ」を「Ψ.」に訂正しなければ、その内容は理解可能である。\n
同様に、原告が主張する訂正後の【0073】の「・・・この様に、式
の「Ψ.・Rhsen」の項について、ゼロにしたデーターは、定常円旋回
時に得られたデーターと呼ばれることがある。・・・」との記載についても、
定常円旋回時には、傾斜角が一定になるため、「傾斜角速度」が0になると
ころ、「傾斜角加速度」に関する項が0になっても、「傾斜角」が変化しな
いとは限らない(傾斜角加速度が0の場合には、定速傾斜の場合も含まれ
る。)のであるから、訂正すると同記載部分の趣旨が理解できなくなって
しまう。この点についても、当該箇所について訂正しなければその内容は
理解可能である。\n
さらに、式Aは、測定された加速度(Gken)を角速度(Ψ)の値に
よって補正する式であるといえるが、これは、「走行時の横Gセンサーと
角速度センサーを関連付けることによって、従来は、正確な傾斜角の検出
ができなかった諸問題を解決」(前記1)という本件明細書に記載されて
いる課題解決の基本的な方法として明示されている手法に文言上最も沿
うものである。他方、式Aを式A´に訂正すると少なくとも直接的にはこ
れに文言上最も沿うものとはいえない内容になってしまう。
また、原告は、誤記を訂正した後の【0063】の記載によれば、傾斜
走行時に検出される検出横G(Gken)には、ロール速度の変化の影響
である加速度成分(Ψ.・Rhsen)が重畳されていること、重畳された
当該加速度成分は、傾斜角速度センサーの速度変化である傾斜角加速度
(Ψ.)を減算することで取り除くことができることが分かるなどと主張す
る。
しかし、前記イで説示したとおり、本件明細書においてセンサーで取得
した加速度の値を修正して得られる制御に用いる加速度として言及され
ているのは【0073】の横G(Ghosei)のみであり、【0063】
には、本件発明1の「横G(Ghosei)」の算出方法は記載されてい
ない。仮に、【0063】に本件発明1に係る「加速度センサーのロール
による影響を取り除く演算」が「Ψ.・Rhsen」を減算する趣旨であることを示唆する記載があると評価できるとしても、【0073】の方がより直接的な制御に用いる修正後の加速度を算出する方法に関する記載であると評価できるにもかかわらず、式Aについては、前記イで説示した問題がある。
また、【0063】には、Gken=g・cosΦ・tanρ−Ψ・Rhen
(訂正後は「Gken=g・cosΦ・tanρ+Ψ.・Rhsen」)という式が記載されており、訂正後の式には「Ψ.・Rhsen」という項が含まれているものの、これを減算(訂正後は加算)した「g・cosΦ・tanρ」が物理学上、本件発明で算出することが課題とされている「正確な横G」に当たり、同物理量が判明すれば「正確な傾斜角の検出ができなかった諸問題」を解決できるものと理解できると認めるに足りる証拠はない。そうすると、仮に【0063】の記載が原告の主張するとおりの誤記であると認定できるとしても、当該式のみからでは、センサーによる検出値である「Gken」から「Ψ.・Rhsen」を減算することが課題解決につながり、構成要件1Fの「ロールによる影響を取り除く演算」に当たるものであると理解できるとはいえない。\n
また、原告の主張中には、【0063】より前の【0061】、【0062】の記載から【0063】の記載が誤記であることが理解できると主張する部分があるが、【0061】、【0062】にも多数の誤記があり、「Ψ」と「Ψ.」に関する誤記のみならず「−」と「+」に関する誤記まであり、どの部分が誤記であるのか容易に理解できるとは認め難い。もともと、本件明細書では、その全体にわたって、その説明の当初から基本的に一貫して加速度の次元の物理量から角速度(周速度)の次元の物理量を加算ないし減算するという式を前提とする内容で説明が記載されていて、前記エで説示したとおり、当該式に直接関連しない部分についてもこれと矛盾しない内容になっていた。そのような本件明細書について、当該式を訂正すると別の部分と矛盾が生じる内容になっている。これらからすると、当業者は、本件明細書に記載の誤りがあることを理解するとしても、本件明細
書において、本来どのようなことが記載されようとしていたのかや、どの部分がどのような誤記であるかを理解することができるとは認められない。
以上のとおり、当業者は、式Aに含まれる項の次元が異なることから何らかの誤りがあることは理解できるものの、次元の違いによる問題を解消する方法は原告が主張する訂正に限られるものではなく、また、式Aの内容等から、次元の違いによる問題を解消するためには、式A´に訂正する以外の方法はないと当業者が理解できると認めるに足りる証拠はない。さらに、式Aの訂正と整合するように、本件明細書の式Aに関する記載部分を訂正していくと、それまで問題なかった明細書の記載の趣旨が理解できなくなったり、整合しなくなってしまうことが認められる。
これらの事情からすると、本件明細書の記載から、式Aが式A´の誤記であると理解できるとはいえない。よって、式Aについて式A´の誤記であると理解できることを前提とする原告の主張はその前提を欠く。
オ 本件発明1の意義は前記1のとおりである。そして、本件発明1の構成\n要件1Fには、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載され、
その解決のための構成は記載されていないといえるところ、前記ウのと\nおり、その課題の解決のための構成について、本件明細書に記載がある\nとはいえない。また、その記載がないにも関わらず、当該課題について、
当業者がそれを解決できると認識できることを認めるに足りない。そう
すると、本件発明1は、本件明細書に記載された説明で、本件明細書の発
明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認
識できる範囲のものであるとはいえないし、当業者が技術常識に照らし発
明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。よって、本
件発明1は、本件明細書に記載された発明であるとはいえない。
本件発明2について
ア 本件発明2は、算出された補正後の横G(Ghosei)を利用する、自
動二輪車の車両解析装置であるとされており、横G(Ghosei)の算出
方法については、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと傾斜
角速度の積との差分を求めるものとされている。
本件明細書においてこれに関する記載としては式Aに関する記載がある
が、当該記載は本件明細書に記載された課題を解決する発明であると理解で
きないものであることについては、前記 で説示したとおりである。他に本
件明細書には当該部分に係る記載があるとはいえない。よって、本件発明2
は本件明細書に記載されている発明であるとはいえない。
イ この点について、原告は、構成要件2Eの補正後の横G(Ghosei)\nの算出方法について、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと
「傾斜角速度」の積との差分との記載は、横加速度から加速度センサーの
車両取り付け高さと「傾斜角加速度」の積との差分の誤記であると主張す
る。
しかし、本件明細書には、補正後の横Gに関する記載は式Aに関する記
載しかなく、ここには、「傾斜角加速度」の積との記載はない。原告は、式
Aが式A´の誤記であると主張するが、これが誤記であると理解できない
ことについては前記 エで説示したとおりである。そうすると、仮に構成\n要件2Eが2E´の誤記であると理解できるとしても、本件発明2が本件
明細書に記載された発明であるとは認められない。
よって、本件発明のいずれについても、本件明細書に記載された発明であ
るとはいえず、サポート要件を欠くものであると認められる。
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2024.03.28
令和4(行ケ)10127等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月18日 知的財産高等裁判所
争点は、発明特定事項「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」がPBPクレームか否か、その他、第1次判決の拘束力、不可能・非実際的事情の有無、明確性要件、サポート要件などです。知財高裁(4部)は、「不可能\・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の請求項の記載は明確性要件に違反する」と判断しました。
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2は、「セレコキシブ粒子が、
ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事項
(以下「本件ピンミル構成」ということがある。)を含む(削除された請求\n項を除く他の請求項も、請求項1又は2を直接又は間接的に引用することで
本件ピンミル構成を含むことになっている。)ところ、本件ピンミル構\成を
巡っては、そのクレーム解釈(PBPクレームといえるか否か、「ピンミル
のような」は衝撃式ミルの単なる例示か、衝撃式ミルの一部に限定する構成\nかなど)と、当該クレーム解釈を前提とした明確性要件の適合性の議論が重
層的に争われているので、以下、順次検討していく。
(3) まず、本件ピンミル構成がPBPクレームに当たるかについて検討するに、\n本件ピンミル構成に関する本件明細書の【0024】、【0190】の記載\nが、セレコキシブ粒子を粉砕する製造工程、製造方法を開示していることは
明らかであり、したがって、本件訂正によって特許請求の範囲の発明特定事
項とされるに至った本件ピンミル構成についても、「ピンミルのような衝撃\n式ミルで粉砕」するという製造方法をもって物の構造又は特性を特定しよう\nとするもの(その意図が成功しているかどうかはともかく)と理解される。
この限度では、被告が主張し、本件審決が判断を示しているとおりである。
第1事件原告は、製薬組成物の製造には複数の工程が必要であるなどとし
てこれを争うが、そのような工程の全てを特定することがPBPクレームと
しての必須条件とはいえない。実質的に製造方法の明確性を問題にしている
とすれば、この点からの検討は後に示すこととする。
(4) 次に、本件ピンミル構成の意味するところ(例示か限定か)を検討するに、\n「ピンミルのような衝撃式ミル」との特許請求の範囲の文言自体に着目して
考えた場合、1)ピンミルは単なる例示であって衝撃式ミル全般を意味すると
いう理解、2)衝撃式ミルに含まれるミルのうち、ピンミルと類似又は同等の
特性を有する衝撃式ミルを意味するという理解のいずれにも解する余地が
あり、特許請求の範囲の記載のみから一義的に確定することはできない。
そこで、本件明細書の記載を参照するに、本件明細書の【0024】には、
「セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち、ピンミル(pin mil
l)のような衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作
製することは、改善された生物学的利用能を提供するに際して効果的である\nだけでなく、かかる混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性
と関連する問題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミル
を利用して粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネ
ルギーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ
よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体には容
易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が高くなり、
このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合において、非常に
重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合する際のエアージェッ
トミルのような液体エネルギーミルの有用性に予期せぬ結果をもたらす。特\n定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕により長い針状からより均一な結
晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質させ、ブレンド目的により適するよ
うになるが、長い針状の結晶はエアージェットミルでは残存する傾向が高い
と仮定される。」との記載が、【0135】には、「セレコキシブは先ず粉
砕される若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざまな粉砕機若し
くは破砕機が利用することが可能であるが、セレコキシブのピンミリングの\nような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組成物に改善さ
れたブレンド均一性がもたらせる」との記載がある。
以上の記載に上記(3)の解釈を併せて考えると、本件ピンミル構成は、被\n告が主張(第3の3(6)ア)するように、本件訂正発明に係る薬剤組成物の含
むセレコキシブ粒子が、ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子に見られる
のと同様の、長い針状からより均一な結晶形へと変質されて、凝集力が低下
し、ブレンド均一性が向上した構造、特性を有するものであることを特定す\nる構成であって、したがって、「ピンミルのような衝撃式ミル」とは、ピン\nミルに限定されるものではなく、上記のような構造、特性を有するセレコキ\nシブ粒子が得られる衝撃式ミルがこれに含まれ得るものと理解するのが相
当である。
(5) 以上を前提に、本件ピンミル構成を含む本件訂正発明の特許請求の範囲の\n記載が明確性要件を満たすかどうかを検討する。
ア 衝撃式粉砕機に分類される粉砕機としては、本件審決も認定していると
おり、多種多様なものがある(ハンマーミル、ケージミル、ピンミル、デ
ィスインテグレータ、スクリーンミル等が知られており、ハンマーの形状
によっても、ナイフ型、アブミ型、ブレード型、ピン型等がある。甲イ1
11、112、136)ところ、上記(4)で示したクレーム解釈によると、
衝撃式粉砕機によって粉砕されたセレコキシブ粒子を含む薬剤組成物で
あっても、本件特許の技術的範囲に属するものと属しないものがあること
になるが、本件明細書に接した当業者において、「ピンミルで粉砕された
セレコキシブ粒子に見られるのと同様の、長い針状からより均一な結晶形
へと変質されて、凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上した構造、特性\nを有するセレコキシブ粒子」を製造できる衝撃式粉砕機がいかなるものか
を理解できるとは到底認められない。すなわち、一般に、明細書に製造方
法の逐一が記載されていなくても、当業者であれば、明細書の開示に技術
常識を参照して当該製造方法の意味するところを認識できる場合も少な
くないと解されるが、本件の場合、本件明細書には、「ピンミルで粉砕さ
れたセレコキシブ粒子」の凝集力の小ささ、改善されたというブレンド均
一性が、ピンミルのいかなる作用によって実現されるものかの記載がない
ため、衝撃式ミル一般によって実現されるものなのか、衝撃式ミルのうち、
ピンミルと何らかの特性を共通にするものについてのみ達成されるもの
なのかも明らかとなっていない。そのため、技術常識を適用しようとして
も、いかなる特性に着目して、ある衝撃式ミルが本件ピンミル構成にいう\n「ピンミルのような衝撃式ミル」に当たるか否かを判断すればよいのかと
いった手掛かりさえない状況といわざるを得ない。
イ そうすると、本件明細書等に加え本件出願日(明確性要件の判断の基準
時)当時の技術常識を考慮しても、「ピンミルのような衝撃式ミル」の範
囲が明らかでなく、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕」するというセ
レコキシブ粒子の製造方法は、当業者が理解できるように本件明細書等に
記載されているとはいえないから、本件訂正発明は明確であるとはいえな
い。
ウ ところで、PBPクレームは、物自体の構造又は特性を直接特定するこ\nとに代えて、物の製造方法を記載するものであり、そのような特許請求の
範囲が明確性要件を充足するためには、不可能・非実際的事情の存在が要\n求されるのであるが、本件においては、不可能・非実際的事情を検討する\n以前の問題として、前記ア、イに示したようにそもそも特許請求の範囲に
記載された製造方法自体が明確性を欠くものである。
(6) 本件審決は、「ピンミルのような衝撃式ミルは、いわゆる衝撃式粉砕機で
あり、粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機と
は異なる粒度分布の粉体を作製する装置であることが理解できるから明確
である」としており、これは、「ピンミルのような」について、「いわゆる
衝撃式粉砕機」のなかでも、さらに、「粉砕された粉体は、ジェットミルの
ような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」こと
のできる装置であるとの意味づけを与えた認定であると解される。
そして、「ピンミルによる」粉砕が、「粉砕された粉体は、ジェットミル
のような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」も
のであることについて、本件審決は、本件明細書の、ピンミルと、エアージ
ェットミルのような他のタイプのミルとの粉砕物の凝集力の違いに関する
記載(【0024】)、及び、粉砕装置の粉砕機構が異なれば得られる粒子\nの粒度分布が異なるという技術常識を認定したことにより、導き出している
ものと認められる。
しかし、本件明細書には、凝集力の違いが、粉砕装置の違いに基づく粒子
の粒度分布の違いに起因するものであるとの記載も示唆もない。粉砕装置の
違いが、粒度分布の違い以外の粒子特性を導くことも当然考えられるところ
である(これを否定する技術常識があるとは認められない。)。そうすると、
「ピンミルのような」が、「衝撃式ミル」に対して、さらに「粉砕された粉
体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の
粉体を作製する装置」であるとの意味づけを与えた本件審決の解釈は、本件
明細書等の記載及び技術常識を考慮しても、無理があるものといわざるを得
ない。
(7) 以上より、不可能・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の\n請求項1、2、4、5、7〜13、15、17〜19の記載は明確性要件に
違反するものであり、取消事由3は理由がある。
3 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について
上記2のとおり、取消事由3が認められる以上、本件審決(原告らが取消しを
求めている請求項に関する部分)は既に取消しを免れないものである。しかし、
明確性要件違反の原因となった本件ピンミル構成は、前訴判決がサポート要件\n違反を肯定する判断をしたことを受けて、その瑕疵を回避するために特許請求
の範囲に加えられたという本件の経過を踏まえると、本件訂正後の特許請求の
範囲を前提としたサポート要件の適合性の問題(取消事由2)についても、併せ
て判断を示すことが適切と考えられることから、以下に当裁判所の判断を示し
ておくこととする。
なお、その場合、本件ピンミル構成を含む特許請求の範囲は明確性要件を欠\nくことが前提となるから、サポート要件の判断においても、本件ピンミル構成\nを発明特定事項として考慮しない前提で検討することとする。
(1) 前訴判決がサポート要件違反を認めて第1次審決を取り消したことは前
述のとおりであるところ、本件においては、前訴判決の拘束力がいかなる範
囲に及ぶかが問題となっているので、まずこの点を検討する。
ア 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判
決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判
事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は
行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法3
3条1項の規定により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束
力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる
ものであるから、審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断を
することは許されない(最高裁判所昭和63年(行ツ)第10号平成4年
4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
この拘束力は、行政庁が裁判所の判断に反して同一の処分を繰り返し、
同一の案件が行政庁と裁判所の間を往復することを避けるためのもので
あり、原則として主文についてのみ生ずる既判力と異なり、判決理由中の
判断であっても、主文に直結する認定判断、すなわち主要事実の認定及び
その法規範への当てはめの判断にも及ぶものである。他方、判決の結論と
直接関係のない傍論の説示はもとより、主要事実を確定する過程における
間接事実の認定やその評価にまで及ぶものではなく、また、結論に至る推
論過程を基礎づける論拠、反対主張を排斥する理由等の説示についても同
様である。取消判決の理由中の説示の全てが拘束力を有するとした場合、
結論に影響する意味合いや程度も様々な議論が独り歩きを始め、その解
釈・適用を巡って新たな紛争を拡大させることとなり、そのような状況は、
行政事件訴訟法33条1項の想定するところではないというべきである。
イ 以上を前提に、前訴判決(甲イ86)の判断構造をみておく。\n
(ア) 前訴判決は、まず、サポート要件適合性について、「所定の数値範囲
を発明特定事項に含む発明について、特許請求の範囲の記載が同号所定
の要件(サポート要件)に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な
説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含まれる数値範囲の
全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認識できるか
否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である」とし、「これ
を本件発明1についてみると・・・『粒子の最大長において、セレコキ
シブ粒子のD90が200µm未満である粒子サイズの分布を有する』こ
とを特徴とするものであるから、所定の数値範囲を発明特定事項に含む
発明であるといえる。」としているので、「D90が200µm未満であ
る粒子サイズの分布を有する」本件発明1について、その数値範囲の全
体にわたりその課題を解決できるものであるかどうかを検討している。
(イ) そして、前訴判決は、(a)一方で、本件明細書の【0022】、【01
24】、【0135】の記載から、未調合のセレコキシブを粉砕し、「セ
レコキシブのD90粒子サイズが約200μm以下」とした場合には、セ
レコキシブの生物学的利用能が改善されること、セレコキシブのピンミ\nリングのような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組
成物に改善されたブレンド均一性がもたらせることを示したものとい
えるとしつつ、(b)他方で、1)本件発明1の請求項1には、セレコキシブ
を微細化する具体的な方法は記載されておらず、本件発明1の「微粒子
セレコキシブ」が「ピンミリングのような衝撃粉砕」により粉砕された
ものに限定する旨の記載もなく、かえって、本件明細書の【0135】
には、さまざまな粉砕機・破砕機が利用可能とされていること、2)本件
明細書の【0008】には、長く凝集した針を形成する傾向を有する結
晶形態を有する未調合のセレコシブは、錠剤成形ダイでの圧縮の際に、
融合して一枚岩の塊になり、他の物質とブレンドさせたときでも、セレ
コキシブの結晶は、他の物質から分離する傾向があり、セレコキシブ同
士で凝集し、セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する、非均一なブ
レンド組成物になるとの記載があること、3)本件優先日当時、粉砕によ
り溶出は改善されるが、難溶性薬物は凝集して溶解速度が遅くなること
があることが周知又は技術常識であったことを踏まえると、(c)難溶性
薬物であるセレコキシブについて、「『セレコキシブのD90粒子サイズが
約200μm以下(「未満」の誤記と認められる。)』の構成とするこ\nとによりセレコキシブの生物学的利用能が改善されることを直ちに理\n解することはできない」(以下「説示(c)」という。)とした。
また、本件明細書には、(d)「D90」の値を用いて粒子サイズの分布
を規定することの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係\nが説明されていないことを述べた上で、(e)難溶性薬物の原薬の粒子径
分布が化合物によって種々の形態を採ることに照らすと、「200μm
以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分布がどの
ようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解するこ\nとはできない」(以下「説示(e)」という。)とした。そして、(f)本件
明細書の例11及び例11−2の実験結果の記載は、微粉化したセレコ
キシブを含有する「組成物A」及び「組成物B」(これらに含まれるセ
レコキシブのD90粒子サイズは約30μmと推認される。)の生物学的
利用能は、未粉砕、未調合のセレコキシブである「組成物F」の生物学\n的利用能より高いことを示しているが、「組成物A」及び「組成物B」\nに加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナトリウムが、生物学的利用能の\n実験結果に影響した可能性が高いものと認められ、この実験結果から、\n本件発明1の「セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」の数値範囲
の全体にわたり、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善\nするものと認識することはできないとした。
(ウ) 前訴判決は、以上を踏まえた結論として、本件明細書の発明の詳細な
説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が、本件発明1
に含まれる「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が200
μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると
認識できるものと認められないから、本件発明1は、サポート要件に適
合するものと認めることはできないとした。
(エ) 前訴判決の本件発明2〜4のサポート要件の適合性に関する判断は、
以下のとおりである。
本件発明2は「前記粒子の最大長において、前記セレコキシブ粒子の
D90が100μm未満であること」を、本件発明3は同40µm未満で
あることを、本件発明4は同25µm未満であることをそれぞれ発明特
定事項とするものであるところ、セレコキシブ粒子のD90が200µm
未満である本件発明1がサポート要件に適合するものと認めることが
できないことは前記のとおりであると指摘した上で、例11及び例11
−2の実験結果も、ラウリル硫酸ナトリウムが生物学的利用能の実験結\n果に影響した可能性が高いものと認められることに照らすと、上記実験\n結果から、D90が約30µmよりも小さい値とした場合において、未調
合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するものと認識する\nことはできないとして、本件発明2〜4はサポート要件に適合するもの
と認めることはできないとした。
(オ) 前訴判決は、本件発明5、7〜19については、請求項1記載の製薬
組成物を発明特定事項に含むものであるところ、「本件発明1がサポー
ト要件に適合するものと認めることができないことは前記‥のとおり
であるから」という理由により、サポート要件に適合するものと認める
ことはできないとした。
ウ 取消判決の拘束力の範囲に関し上記アで述べたところに従って、前訴判
決の拘束力の生ずる部分を検討するに、主文に直結する認定判断(主要事
実の認定及びその法規範への当てはめの判断)は、本件訂正前の特許請求
の範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識(主要事実
の認定に当たる。)を前提に、本件訂正前の特許請求の範囲によって特定さ
れる発明(本件発明)が特許法36条6項1号の要件に適合しないとした
判断(法規範への当てはめに当たる。)にほかならず、前訴判決中、拘束力
が生ずるのは当該部分であると解される。
他方、前訴判決の判断過程では、結論に至る推論過程を基礎づける論拠
として、説示(c)、(e)等の様々な理由が示されているが、その逐一について
拘束力が生ずるものではないことは、上記アで述べたとおりである。
エ そもそも、サポート要件は、明細書の記載(特許を受けようとする発明の
開示)から見て広すぎる特許請求の範囲を防ぐ役割を果たすものであると
ころ、被告は、本件訂正前の本件発明につきサポート要件違反を認めた前
訴判決を受けて、特許請求の範囲の減縮を目的とする本件訂正の請求をし
ており、これが訂正要件を充足することは前記1のとおりである。
その結果、本件では、本件訂正後の特許請求の範囲(ただし、本件ピンミ
ル構成は発明特定事項として考慮しない。)に基づく本件訂正発明のサポ\nート要件の適合性が問題となっているのであって、同じサポート要件の適
合性の問題であっても、本件訂正前の特許請求の範囲を前提とする前訴判
決とは判断対象が異なる。それにもかかわらず、「前訴判決の説示(c)、(e)
等に照らせば、本件訂正後の本件訂正発明についても、前訴判決と同様の
判断が妥当する(はずである)」といった推論を戦わせるのは、取消判決の
拘束力の問題とは異質の議論といわざるを得ない。
オ 本件審決は、前訴判決の説示(e)(難溶性薬物の原薬の粒子径分布は・・・、
200μm以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分
布がどのようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解\nすることはできない旨の判示)について、これは、生物学的利用能の改善の\n観点では、90%の粒子の粒度分布も重要であることを述べたものである
との理解を示している。そして、ピンミルのような衝撃式粉砕機(衝撃式ミ
ル)により粉砕された粉体と、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕
機により粉砕された粉体は、異なる粒度分布の粉体となるという一般的な
知見をもとに、この粒度分布の差異は粉砕機構の差異に由来するものであ\nり、本件明細書に記載されたピンミルのような衝撃式ミルでの粉砕は、他
のタイプのミルとは異なる粒度分布を形成することにより、凝集性及びブ
レンド均一性の改善に寄与するとして、説示(c)、(e)を本件訂正発明1が
サポート要件に適合する理由の1つにしている。
これに対し、原告らは、D90を30μmにし、「セレコキシブ粒子が、
ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事
項を加えても、90%の具体的な粒度分布は明らかにならないとして、説
示(c)、(e)を本件訂正発明1がサポート要件に適合しない理由としている。
これらは、いずれも、前訴判決の説示(c)、(e)を独立して取り上げ、同判
断に拘束力が生じることを前提とするものと解されるが、失当というべき
である。
拘束力の問題を離れて考えても、前訴判決の当該部分の判示は、製薬組
成物の特徴が、実質的に「D90が200µm未満である粒子サイズの分布を
有する」ことで特定されていた本件発明1について、未調合のセレコキシ
ブに対して生物学的利用能が改善されるという課題を解決できるものであ\nるかどうかを検討する過程において、上記特定事項で特定しさえすれば、
課題を解決できるものと理解することはできないと判断したものであって、
前訴判決が、本件発明1がサポート要件に適合するには、90%の粒度分
布を示すことが必須の要請であると判断しているとの趣旨まで読み込むこ
とには無理がある。
カ よって、前記ウのとおり、前訴判決の拘束力は、本件訂正前の特許請求の
範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識を前提に、本
件訂正前の特許請求の範囲によって特定される発明(本件発明)が特許法
36条6項1号の要件に適合しないとした判断について生じることを前提
に、サポート要件の適合性について判断する。
(2) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細
な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を
定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な
説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な
説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明
の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳
細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該
発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して
判断すべきものと解される。特に、所定の数値範囲を発明特定事項に含む発
明について、特許請求の範囲の記載が同号の要件に適合するか否かは、当業
者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含ま
れる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認
識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
ア 前記第2の2(3)の本件明細書の開示事項によれば、本件訂正発明の課題
は、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経\n口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することであり、\n取り分け、水溶液に溶解しにくいセレコキシブ粒子の特質から、混合中に
セレコキシブ同士で凝集し、非均一なブレンド組成物になるとの問題の解
決にあるものと認められる。
具体的には、本件明細書の【0008】では、「・・・セレコキシブは、
水溶性媒体には異常なほど溶解しない。例えば、カプセル形態で経口投与
させた場合、未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために、
容易には溶解せず、分散もしない。加えて、長く凝集した針を形成する傾
向を有する結晶形態を有する未調合のセレコシブは、通常、錠剤成形ダイ
での圧縮の際に、融合して一枚岩の塊になる。・・・」として、セレコキシ
ブが、水溶性媒体には異常なほど溶解しないこと、未調合のセレコシブが
長く凝集した針を形成する傾向を有することを解決すべき問題として挙げ
ている。
イ 上記課題に関係する技術常識として、証拠(甲イ7、16、23、65〜
68、80、103)及び弁論の全趣旨によれば、本件出願日当時、1)粉砕
によって薬物の粒子径を小さくし、比表面積(有効表\面積)を増大させるこ
とにより、薬物の溶出が改善されるが、他方で、難溶性薬物については、溶
媒による濡れ性が劣る場合には、粒子径を小さくすると凝集が起こりやす
くなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速度が遅くなることがあるこ\nと、2)疎水性の難溶性物質であっても、界面活性剤が存在すると、微粒子は
凝集せずに均一に溶液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は
大きくなることは、周知又は技術常識であったものと認められる。
ウ 上記技術常識を踏まえて、本件訂正発明が上記課題を解決できると認識
できる記載が本件明細書に開示されているかどうかにつき、さらに検討す
る。
(ア) 本件明細書の【0022】には「本発明の組成物は微粒子の形態のセ
レコキシブを包含する。セレコキシブの一次粒子は、例えば、製粉若し
くは粉砕により、又は溶液から沈殿させて生成させ、凝集して二次の集
合体粒子が形成される。本願で利用する用語「粒子サイズ」とは、特に
本願で指摘しない限り、一次粒子の最長の大きさのことをいう。粒子サ
イズは、セレコキシブの臨床的効果に影響を与える重要なパラメータで
あると考えられる。よって、別の実施例では、発明の組成物は、粒子の
最長の大きさで、粒子のD90が約200μm以下、好ましくは約100
μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは約40μm
以下、最も好ましくは約25μm以下であるように、セレコキシブの粒
子分布を有する。通常、本発明の上記実施例によるセレコキシブの粒子
サイズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改良される。」、\n【0124】には「カプセル及び錠剤中でのセレコキシブの粒子サイズ
カプセル若しくは錠剤の形で経口投与されると、セレコキシブ粒子サイ
ズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見し\nた。したがって、セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下、
好ましくは約100μm以下、より好ましくは約75μm以下、さらに
好ましくは約40μm以下、最も好ましくは25μm以下である。例え
ば、例11に例示するように、出発材料のセレコキシブのD90粒子サイ
ズを約60μmから約30μmに減少させると、組成物の生物学的利用
能は非常に改善される。加えて又はあるいは、セレコキシブは約1μm\nから約10μmであり、好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均
粒子サイズを有する。」としており、セレコキシブの粒子サイズを減少
させることで、セレコキシブの生物学的利用能が改善されることが記載\nされている。
(イ) また、本件明細書の【0024】の「セレコキシブと賦形剤とを混合
するに先立ち、ピンミル(pin mill)のような衝撃式ミルでセ
レコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作製することは、改善され
た生物学的利用能を提供するに際して効果的であるだけでなく、かかる\n混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性と関連する問
題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミルを利用し
て粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネルギ
ーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ
よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体に
は容易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が
高くなり、このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合に
おいて、非常に重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合す
る際のエアージェットミルのような液体エネルギーミルの有用性に予\n期せぬ結果をもたらす。特定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕に
より長い針状からより均一な結晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質
させ、ブレンド目的により適するようになるが、長い針状の結晶はエア
ージェットミルでは残存する傾向が高いと仮定される。」との記載から、
粉砕により粒子サイズを減少させるについて、ピンミルのような衝撃式
ミルを使用して長い針状からより均一な結晶とし、ブレンド目的により
適するものとすることが記載されている。
(ウ) 本件明細書の【0075】には「加湿剤 セレコキシブは水溶液にか
なり溶解しにくい。したがって、本発明の製薬組成物は、任意であるが、
好ましくは、キャリア材料として、一つ又はそれ以上の薬剤学的に許容
な加湿剤を含む。かかる加湿剤は、水と親和性があるようにセレコキシ
ブを維持させるように選択することが好ましく、その状態が製薬組成物
の相対的生物学的利用能を改善させると考えられる。・・・」、【00\n76】には「ラウリル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在す
るならば、ラウリル硫酸ナトリウムは、組成物の全重量の対して、約0.
25%から約7%、好ましくは約0.4%から約6%、より好ましくは
約0.5%から約5%の量を含む。」として、セレコキシブは水溶液に
かなり溶解しにくいために、水と親和性があるようにセレコキシブを維
持させる加湿剤を含むことが好ましいこと、好ましい加湿剤はラウリル
硫酸ナトリウムであること、そのような加湿剤を添加することにより相
対的生物学的利用能を改善できることが記載されている。\n
(エ) 例11−2では、犬モデルでの調合の相対的生物学的利用能の試験\nがされている。
組成物A、Bは微粉化され、ラウリル硫酸ナトリウムが添加されてい
る(【0173】、【0174】、表11−2A)。本件明細書の【0\n124】に「・・・例えば、例11に例示するように、出発材料のセレ
コキシブのD90粒子サイズを約60μmから約30μmに減少させる
と、組成物の生物学的利用能は非常に改善される。・・・」と記載され\nていることから、組成物A、BのD90粒子サイズは約30μmと認めら
れる。他方、参考例である組成物Fは、未粉砕、未調合のセレコキシブ
である(【0172】)。
生物学的利用能は、メス犬について、組成物Fが16.9%であるの\nに対し、組成物Aは31.2%、組成物Bは24.9%であり(【01
76】、(表11−2C)、オス犬について、組成物Fが16.9%で\nあるのに対し、組成物Aは49.4%、組成物Bは54.2%である(【0
177】、表11−2D)とされ、D90粒子サイズを約30μmに減少\nさせた組成物A、Bにおいて生物学的利用能が明らかに高い結果が示さ\nれている。
エ 以上を総合すると、本件訂正発明1は、粒子の最大長においてD90が3
0μmであるセレコキシブ粒子、及び加湿剤としてのラウリル硫酸ナトリ
ウムを含有することを特定するものであるところ、これは、1)セレコキシ
ブが長い針状の結晶形態を有することに対応するため、粉砕によって薬物
の粒子径を小さくし、比表面積を増大させることにより、薬物の溶出を改\n善させるために、セレコキシブの粒子サイズを「D90が30μm」に減少
させ、また、2)セレコキシブのような難溶性薬物については、粒子径を小さ
くすると凝集が起こりやすくなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速\n度が遅くなるが、界面活性剤が存在すると、微粒子は凝集せずに均一に溶
液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は大きくなることから、
セレコキシブに、界面活性剤同様水に親和性を持たせる湿潤剤であるラウ
リル硫酸ナトリウムを含有させることとしたものである。そして、3)具体
的な実験結果においても、D90粒子サイズは約30μmとし、ラウリル硫
酸ナトリウムを含有させたセレコキシブ組成物が、未粉砕、未調合のセレ
コキシブに対して優れた生物学的利用能を示しているのであるから(例1\n1−2)、本件訂正発明1は、本件ピンミル構成を発明特定事項として考慮\nしなくても、本件明細書及び技術常識から、「未調合のセレコキシブに対し
て生物学的利用能が改善された固体の経口運搬可能\なセレコキシブ粒子を
含む製薬組成物を提供する」という課題を解決できると当業者が認識でき
る範囲の発明であるといえる。
本件訂正発明2は、D90が30μmよりも減少した数値範囲である「D
90が30μm未満」と特定されたものであるから、上記本件訂正発明1に
ついて述べたところと同様、本件明細書及び技術常識から、上記課題を解
決できると当業者が認識できる範囲の発明であるといえる。
本件訂正発明4、5、7〜13、15、17〜19も、本件訂正発明1及
び本件訂正発明2を直接的又は間接的に引用してこれらをさらに限定する
発明であるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2と同様に、本件明細
書及び技術常識から、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲の
発明であるといえる。
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2024.03.27
令和5(行ケ)10111 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年3月11日 知的財産高等裁判所
商標「田中箸店」、指定商品8類「スプーン、フォーク及び洋食ナイフ」及び21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」が識別力無し(3条1項6号違反)とした審決が維持されました。
(1) 「田中」と「箸店」の組合せからの一般的理解について
ア 本願商標は、「田中」の文字と「箸店」の文字を結合した結合商標である
ところ、その構成中の「田中」の文字は、「全国名字大辞典」(平成23年
9月20日発行、乙1)によれば、日本を代表する地形姓で、沖縄を除く西\n日本では全て15位以内、東日本でも全て50位以内に入っていること(乙
1)、2)「名字由来net」のウェブサイト(乙2)において、全国順位が
4位であること、3)「姓名分布&姓名ランキング」のウェブサイト(乙3)
によれば、平成19年10月までに発刊された全国の電話帳に掲載されて
いる世帯を基準にすると、全国で4番目に多い氏であることがそれぞれ認
められ、日本国内ではありふれた氏と認められる。
イ 本願商標の構成中、「箸店」の「箸」の文字は、「中国や日本などで、食\n事などに物を挟み取るのに用いる細長く小さい二本の棒。」(乙4)の意味、
「店」の文字は、「品物を置き並べて商売するところ。その品物を商うみ
せ。」(乙5)の意味をそれぞれ有する語として辞書に登載されている。そ
うすると、本願商標の構成のうち「箸店」の部分は、箸を取り扱う店程度の\n意味を有するものと理解される。
各種ウェブサイトによれば、「箸店」の語が、「箸を取り扱う店」の店舗
名や商号の一部として広く採択、使用されており、「岩多箸店」(乙6、4
2)、「株式会社 伊勢屋箸店」(乙7)、「やまご箸店」(乙8)、「(有)
府中宮崎箸店」(乙9)、「有限会社せいわ箸店」(乙10)、「小山箸店」
(乙11)、「フクイチ箸店株式会社」(乙12)、「タケダ箸店」(乙1
3)、「神戸屋箸店」(乙14)、「坂田箸店」(乙15)等がある。
ウ そうすると、本願商標は、ありふれた氏である「田中」と、箸を取り扱う
店を表すものとして広く使用されている「箸店」を組み合わせた「田中箸\n店」を標準文字で表したものであり、「田中」の氏又は当該氏を含む商号を\n有する法人等が経営主体である箸を取り扱う店というほどの意味を有する
「田中箸店」というありふれた名称を、普通に用いられる方法で表示する\n標章のみからなる商標で、本願商標の指定商品のうち、第21類「台所用品
(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」には、「箸」
が含まれる(乙43、44)ことも考慮すれば、販売実績に基づく識別力の
獲得が認められるなどの特別の事情がない限り(この点は後記(2)において
判断する。)自他商品の識別力を有しないものと解される。
エ 原告は、本願商標は、外観と称呼の一連性により、一体不可分として扱わ
れるべきものである旨主張するが、一連一体の商標であっても、自他商品
の識別力を有するか否かを検討する上では、個々の構成部分の意味を検討\nするプロセスが否定されるものではなく、原告の主張は採用できない。
また、原告は、iタウンページの検索において、東京都では「田中箸店」
に該当するものがなく、原告の本社がある福井県では原告のみが該当する
旨主張するが、上記ウの判断を左右するものではない。
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2024.03.26
令和5(ネ)10085 損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件 商標権 民事訴訟 令和6年3月7日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審、知財高裁とも、は、DVDのケースの「九鬼神流」などの記載は、商標的使用ではないと判断しました。知財高裁は、消滅時効の追加主張を時期に後れたものとはいえないとして、一部の債権については時効により消滅したと判断し、損害賠償額を減額しました。
被控訴人は、控訴人に対し支払義務を負うとしても、本件訴状が原審裁判所に提
出された令和3年10月14日時点で、平成23年10月14日以前に支払われた
出演料に相当する部分6万9420円(=41万6521円÷(1−0.1)÷7%
×1.05×7%−41万6521円)は消滅時効が成立していると主張し、その
時効を援用していることは記録上明らかであるため、この点について検討する。10
控訴人は、上記主張につき、時機に後れた攻撃防御方法であることや時効援用が
信義則に反することを主張するが、被控訴人の時効主張は、原審での審理経過及び
判断内容を踏まえてされたものであるところ、その主張内容からすると、その審理
のために訴訟の完結を遅延させることとなるものとは認められず、時機に後れたも
のとはいえないし、時効援用が信義則に反するものともいえない。
そして、本件訴訟提起時(令和3年10月14日)から遡って10年内に履行期
が到来した債権については、時効期間が経過していないものの、それ以前に履行期
が到来した債権については、本件訴提起時までに時効期間が経過し、かつ、権利行
使が可能であったといえ、時効中断等の事情もうかがわれないことからすると、平\n成23年10月14日以前に支払われた出演料に相当する未払部分6万9420円
(=41万6521円÷(1−0.1)÷7%×1.05×7%−41万6521
円)は消滅時効が完成し、被控訴人の時効の援用によって同額について時効により
消滅したものといえる。
(3) したがって、被控訴人は控訴人に対し、1万5177円(=8万4597円
(訂正の上引用する原判決第5の4(3))−6万9420円(上記(2)))及びこれに
対する履行期の到来後で控訴人の請求する令和3年11月16日から支払済みまで
民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
5 著作権侵害(当審における新たな請求原因の主張)について
控訴人は、当審における令和5年9月20日付け控訴理由書において、新たな請
求原因の追加的変更に当たる主張として、被控訴人の本件大会ビデオ・DVDの制
作・販売が控訴人の演武の著作権を侵害するとの主張を行ったが、被控訴人は、か
かる主張は原審において提出できたことは明らかであり、控訴審において更に審理
することは訴訟の完結を遅延することなるため、却下すべきと主張する。
上記請求原因の追加的変更については、原審においてその主張ができなったとい
うやむを得ない事情はうかがわれず、上記請求原因の追加的変更を許せば、控訴人
の演武の著作物性、著作権侵害の有無、仮に侵害が認められる場合においては損害
の有無等を新たに審理しなければならず、著しく訴訟手続を遅滞させることとなる
から,当該請求原因の追加的変更は不当であると認められる。
したがって、控訴人の著作権侵害に係る請求原因の追加的変更の申立ては、民訴\n法297条、143条1項及び4項に基づき、許さないのが相当である。
◆判決本文
原審はこちら
◆令和3(ワ)26704
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2024.03.25
令和5(ネ)1384等 損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件 不正競争 民事訴訟 令和6年1月26日 大阪高等裁判所
大阪高裁は、アマゾンに対してサイト上に掲載した画像等が被告の著作権を侵害する等の申告をした行為が不正競争防止法(不競法)2条1項21号の不正競争行為に該当すると判断されました。1審の判決維持です。なお、著作物性無しと判断されたのは、芸能人を被写体とする写真が印刷された平面的な表\紙及び裏表紙を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影した画像です。\n
写真集及び卓上カレンダーに係る被告画像1、2及び4ないし10は、
インターネットショッピングサイトにおいて販売する商品がどのような
ものかを紹介するために、芸能人を被写体とする写真が印刷された平面\n的な表紙及び裏表\紙を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影
した画像であり、上記表紙及び裏表\紙以外に背景や余白はないのであっ
て、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、背景\n等に選択の余地がなく、上記表紙及び裏表\紙ひいてはそこに印刷された
芸能人を被写体とする写真を忠実に再現する以外に、その画像の表\現自
体に何らかの形で撮影者の個性が表れているとは認められないから、上\n記各被告画像には創作性が認められない。したがって、上記各被告画像
は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)\nとはいえず、著作物とは認められないから、一審被告が上記各被告画像
について著作権を有するとは認められない。
(イ) 被告画像3について
単語帳に係る被告画像3も、インターネットショッピングサイトにお
いて販売する商品がどのようなものかを紹介するための写真ではあるが、
芸能人を被写体とする写真が印刷された表\紙及び裏表紙を金具のリング\nから取り外し、各写真を表にして平面上に上下に並べ、その右側に一部\n裏表紙と重なる形で、63枚の単語カードを写真側を表\にして金具のリ
ングを要として扇状に広げたものを撮影したものであり、正面から撮影
されたものではあるものの、上記単語カードを扇状に広げることによっ
てその重なり合いによる陰影が表現され、また、2枚目以降の単語カー\nドの白い縁取りからわずかに各写真が垣間見えるように広げることによ
って各単語カードにそれぞれ異なる写真が印刷されていることを表現し\nており、白い背景によって表紙及び裏表\紙の写真等を浮き立たせる効果
も生んでいるといえる。このような手法が商品としての単語帳を紹介す
る際にまま見られるもの(乙62、63)であったとしても、その被写
体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、背景の選択には
複数の余地があり、被告画像3の表現自体に撮影者の個性が表\れている
と認められる。したがって、被告画像3は、「思想又は感情を創作的に
表現したもの」といえ、著作物性が認められるから、その撮影者である\n一審被告は被告画像3について著作権を有すると認められる。
(ウ) 以上に対し、一審被告は、被告画像1、2及び4ないし10についても、
手ブレ補正、露出補正、ホワイトバランス等の細かい調整を行い、光の
入り方に気を配って撮影場所にこだわり、複数の写真を撮影してその中
の一番良い写真について彩度、色合いを編集するなどの独自の工夫を凝
らしている旨主張するが、一審被告が主張するそのような工夫は、商品
である写真集ないし卓上カレンダーの表紙及び裏表\紙、ひいてはそこに
印刷された芸能人を被写体とする写真を忠実に再現するためのものであ\nって、上記工夫の結果、それらが忠実に再現された各被告画像が得られ
たとしても、その表現自体に何らかの形で撮影者である一審被告の個性\nが表れているとは認められない。したがって、上記一審被告の主張は上\n記(ア)の判断を左右しない。
・・・
ア 上記のとおり、被告サイト上の被告各画像及び商品名のうち、そもそも著
作物性が認められるのは被告画像3のみであり、その余については著作物性
自体が認められず、一審被告が著作権を有しないから、一審原告がその著作
権を侵害した事実はおよそ存在しない。そこで、原告画像3の掲載が被告画
像3についての一審被告の著作権侵害に当たるかにつき、以下検討する。
イ 被告画像3の表現上の本質的特徴は、前記(3)ア(イ)のとおり、本件商品3
を撮影する際の被写体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、
背景の選択等を総合した表現に認められるところ、画像テンプレートを利用\nして作成された原告画像3は、単語帳から取り外した一部の表紙等を並べて\nその横に単語帳を扇状に広げて置くなどの点で商品の見せ方に関する基本的
なアイデアに被告画像3との共通点はあるが、取り外して並べられたのが表\n紙や裏表紙の写真面か、単語カードの韓国語単語が記載された面か、その枚\n数、色彩及び配置、金具のリングを要として扇状に広げられた単語帳がその
右側に配置されているか左側に配置されているか等の配置、同単語帳の1枚
目のカードに印刷された写真内容、同単語帳の単語カードの枚数、色彩、扇
状の広がり方及び陰影等で異なっていることが一見して明らかであって、そ
の素材の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、色彩の配合、素
材と背景のコントラスト等において被告画像3と異なるから、被告画像3の
表現上の本質的特徴を直接感得させるものとはいえない。なお、原告画像3\nで選択された素材のうち、本件商品3の表紙を正面から撮影した画像部分の\nみは被告画像3と共通するが、その画像自体は、被告画像1、2及び4ない
し10について検討したと同様、平面的な上記表紙を忠実に再現したのみで\n創作性が認められない部分であるから、同画像部分が共通しているからとい
って、原告画像3が被告画像3と類似しているとは到底認められない。した
がって、一審原告が原告画像3を原告サイトに掲載したことが、被告画像3
に係る一審被告の著作権を侵害するものとは認められない。
以上によれば、一審被告が、本件各申告によってアマゾンに告知した、一\n審原告が被告サイト上の被告各画像及び商品名についての一審被告の著作権
を侵害しているとの本件各申告の内容は、全て虚偽の事実であったというこ\nとになる。そして、前記第2の2で原判決を補正した上で引用した前提事実
(1)によれば、一審原告と一審被告は競争関係にあるといえ、また、上記著
作権侵害の事実を申告する行為は一審原告の営業上の信用を害する虚偽の事\n実を告知する行為といえるから、本件各申告は、客観的に不競法2条1項2\n1号に該当するということになる。
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2024.03.24
令和5(行ケ)10113 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和6年2月19日 知的財産高等裁判所
物品「鞄」について、無効理由有りとした審決が維持されました。
1 原告は、本件南京錠は本件登録意匠の要旨ではなく、意匠の要部を構成しな\nい旨主張する。
しかし、本件登録意匠は、別紙意匠公報のとおり、本件南京錠を付したもの
として登録されているのであるから、他人の業務に係る物品と混同を生ずるお
それ(意匠法5条2号)があるか否かについて、登録された意匠の形状等のう
ち、特に他人の周知・著名な商標に類似する部分が問題となることは当然であ
り、この点は、意匠同士の類否(同法3条1項3号)等の判断に当たって考慮
される意匠の「要部」であるか否かとは別問題であるから、原告の主張は失当
である。なお、本件において、添付図面等の南京錠又は南京錠の正面の態様を削除す
る補正をすることは、添付図面等の要旨を変更するものに当たると解される。
2 原告は、審査段階で意匠法5条2号の拒絶理由を指摘されていない旨主張す
るが、そのような事情は、本件登録意匠が同号に当たるか否かの実体判断を左
右するものでないことはもとより、無効審判手続の違法を根拠づけるものでも
ない。
3 原告は、正面が無地の南京錠を付したかばんを販売しているとして、本件南
京錠を付したかばんを販売していない旨主張するが、仮にそのような事実が認
められるとしても、本件登録意匠が被告の業務に係る物品であるハンドバッグ
等と混同を生ずる意匠であるかの判断において考慮すべき取引の実情に当たる
ものではない。
◆判決本文
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2024.03.24
令和4(ワ)16062 損害賠償請求事件 商標権 民事訴訟 令和6年1月17日 東京地方裁判所
医薬品について、旧字の商標の類似範囲が争われました。
本件登録商標「仙脩」、被告標章「仙修」「仙修六神丸」「御所 仙修」「御所仙修」です。
裁判所は、「御所仙修」は非類似、それ以外は類似すると判断しました。
(1) 被告標章1について
本件商標と被告標章1の外観についてみると、いずれも漢字二文字で一文
字目の字が「仙」の字で同一であり、二文字目の字も本件商標が「脩」、被
告標章1が「修」の字であり、右側下部のみが、本件商標が「月」と同じ形
状をしているのに対し、被告商標1が「彡」の形状をしており、異なってい
るものの、それ以外の左側及び右側上部は同一形状をしており、似た形状を
している。そうすると、本件商標と被告標章1の外観は類似しているといえ
る。
本件商標と被告標章1の称呼についてみると、両者はいずれも「せんしゅ
う」で同一である。
そして、観念についてみると、本件商標も被告標章1もいずれも「せんし
ゅう」としては広辞苑(第7版)に掲載されていない。もっとも広辞苑(第
7版)によれば、「仙」の部分は「仙人」の意味とされる。「脩」は、前記
1(3)のとおり、本来の意味は干し肉を指すものであったが、現代では音が同
じ被告標章1の二文字目の「修」と同じ「おさめる」の意味をも有している
とされ、「修」の簡体字ないし異字体として使用されることもあるものであ
る。これらの事実に照らすと、本件商標も被告標章1も、いずれもそれ自体
で特定の観念を有するとはいえないが、それぞれを構成する漢字は、共通す\nるものと、共通する意味を有するものであり、それらの漢字から想起される
観念も類似していると評価することができる。
被告は、特に医薬品の需要者からは、「脩」の字は乾燥させた生薬や原料
を想起させる文字であり、医薬品として「虎脩六神丸」と「虎修六神丸」の
両商品名を販売している会社も存在していることなどを指摘する。しかし、
「脩」の字には「修」と同じ「おさめる」の意味も有しているとされる。ま
た、原告は医薬品の小売業であり(前記第2の1(1)及び(4))、被告の卸売の
販売先が、被告各商品をインターネット上のサイトで販売していること(前
記第2の1(6))からすると、被告各商品の市場は全国に及び、かつその対象
も消費者に及ぶといえ、被告各商品の需要者には消費者も含まれ、また、医
薬品に精通する者のみが需要者であるとはいえないので、この点に関する被
告の主張は採用できない。
これらの事情を総合的にみれば、本件商標と被告標章1は類似している
といえる。
(2) 被告標章2について
本件商標と被告標章2の外観についてみると、本件商標は漢字二文字であ
るのに対し、被告標章2は漢字5文字であり、「仙」の字が同一であり、
「脩」と「修」の字が類似しているとしても、全体として外観が類似してい
るとはいえない。また、本件商標と被告標章2の称呼についてみても、「せ
んしゅう」と「せんしゅうろくしんがん」であり、一部共通するとしても、
全体として称呼が類似しているともいえない。
もっとも、被告標章2のうちの「六神丸」の部分は、前記1(1)のとおり、
古くから特定の漢方薬を指す用語であるとされ、広辞苑(第7版)において
も「漢方薬の一つ」として説明されているものであり、その他想起される意
味はなく、実際にも、漢方薬として、多くの会社から六神丸という名称の商
品が販売されている。そうすると、需要者にとって、「六神丸」の部分は、
特定の内容の漢方薬を指すものといえる。
そうすると、被告標章2において、「六神丸」の部分は出所識別力を有さ
ず、主に出所識別力を有するのは、「仙修」の部分であるといえる。そこで、
本件商標と被告標章2の「仙修」の部分を被告して商標の類否を検討すると、
本件商標と被告標章2の「仙修」の部分については、前記 のとおり、外観
が類似し、称呼が同一である。また、観念についても、本件商標の「仙修」
と被告標章2の「仙脩」のそれぞれの漢字から想起される観念は類似すると
いえる。
これらの事情を総合的にみれば、本件商標と被告標章2は類似していると
するのが相当である。
(3) 被告標章3について
本件商標と被告標章3の外観についてみると、本件商標は漢字二文字であ
るのに対し、被告標章3は漢字4文字であり、「仙」の字が同一であり、
「脩」と「修」の字が類似しているとしても、全体として観察した場合は、
外観が類似しているとはいえない。
もっとも、被告標章3は、「御所」と「仙修」の間に空白があり、かつ
「御所」の文字は、四角形の枠で囲まれていて、そのような枠がない「仙修」
の部分と「御所」の部分は、外観上、明確に分離して観察することができる
ものといえる。そして、本件商標と被告標章3の「仙修」部分の外観が類似
しているのは、前記アで述べたとおりである。
また、本件商標と被告標章3の称呼についてみても、「せんしゅう」と
「ごせせんしゅう」又は「ごしょせんしゅう」であり、全体の称呼は異なる
ものの、分離して観察することができる「御所」部分を除いた「せんしゅう」
の部分は同一である。
本件商標と被告標章3の観念についてみると、「御所」は、前記1(2)のと
おり、古くからの薬の生産地である奈良県の被告所在地の市を意味するもの
であり、文献等において言及されることはあるが、本件証拠上、言及されて
いる文献は奈良県に関する文献か医薬品に関する論文等の専門誌であり、
「御所」が、需要者に特に広く知られていて、需要者が当然に特定の市を想
起するとまでは認めるに足りない。そして、「御所」は、広辞苑(第7版)
においても、「ごせ」と読ませる場合、「奈良県西部、大阪市に接する市」
と記載されている一方で、「ごしょ」と読ませる場合、「天皇の座所を意味
する」と記載されている。これらの事実からすると、「御所」は、「ごせ」
と読ませる場合は奈良県の市名として理解されるものの、需要者が必ずその
ように理解するとまでは認めるに足りず、「ごしょ」と読む天皇の座所の意
味を想起する者もいるといえる。もっとも、被告標章3では、前記のとおり
「御所」と「仙修」は外観上明確に分離しているところ、本件商標の「仙修」
と被告標章2のうちの「仙脩」のそれぞれの漢字から想起される観念は類似
するといえる。
以上の事情をみると、被告標章3は、全体として不可分一体のものとはい
えず、その構成上、被告標章3の「仙修」の部分も出所識別標識となるもの\nであり、この部分と本件商標との類否を判断することができるというべきで
ある。そして、前記 に述べたのと同じ理由により、本件商標と「仙修」の
部分は類似しているといえるから、本件商標と被告標章3は類似していると
いえる。
(4) 被告標章4について
本件商標と被告標章4の外観についてみると、本件商標は漢字二文字であ
るのに対し、被告標章3は漢字4文字であり、「仙」の字が同一であり、
「脩」と「修」の字が類似しているとしても、全体として観察した場合は、
外観が類似しているとはいえない。そして、被告標章4は、被告標章3とは
異なり、「御所」と「仙修」の間に空白もなく、かつ「御所」の部分も四角
形の枠で囲まれるなどしていないから、外観上、「御所」の部分と「仙修」
とが分離して観察されることはない。
また、本件商標と被告標章4の称呼についてみても、「せんしゅう」と
「ごせせんしゅう」又は「ごしょせんしゅう」であり、一部重なる部分はあ
るものの、全体として観察した場合、称呼は異なる。
そして、本件商標と被告標章4の観念についてみると、前記ウで述べたと
おり、「御所」について、「ごせ」と読ませる場合は奈良県の市名として理
解されるものの、需要者が必ずそのように理解するとまでは認めるに足りず、
「ごしょ」と読む天皇の座所の意味を想起する者もいるといえるものであり、
「御所」の部分にも一定の観念が生ずるものといえる。
そして、被告標章4の「御所仙修」が外観上分離されない一連のものであ
るところ、そのうちの「御所」の部分に出所識別標識としての機能がないと\nは直ちにはいえないし、「仙修」の部分が出所識別標識として強く支配的な
印象を与えるとはいえない。
これらの事情を総合的にみれば、本件商標と被告商標4は類似していると
はいえない。
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2024.03.24
令和4(ネ)10018 職務発明の対価請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月8日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
職務発明の報奨金請求事件です。1審と同様「特許による独占的、排他的な実施により超過して利益を得たと認めることはできない」と判断されました。
「(4) 本件発明A2の自己実施による独占の利益の有無及び額についての検討
ア 被控訴人においては、平成13年頃、CODEX5%ルールの認可や、東南ア
ジアの経済発展等に伴い、国際的なCBEの需要増加が見込まれる一方、国内製造
拠点の生産能力が限界に達しているとの現状認識のもと、米国に所在する子会社で\nあるFVOにおいて、EE技術を利用してヒマワリ油からSOSパーツを製造する
設備を有する工場を新設し、被控訴人グループ内での安定供給を図る方策を立案し
ていたが、当初、当該工場における油脂分別方法としては、溶剤分別法を用いること
を想定していた。しかるところ、控訴人を含むNTメンバーが主導となって、本件各
発明を含む改良された乾式分別法によると、SOSパーツの品質は溶剤分別法によ
るものと比して大差なく、現にパイロットレベルの試作品においては同等以上とな
っていること、分別収率や生産量等の生産効率も溶剤分別法との間にさほどの差は
ないこと、コスト面においては設備費及び比例・加工費ともに大幅な削減が可能で\nあること等が報告された。そこで、被控訴人は、平成14年9月頃、本件乾式分別法
を採用した(本件発明A2を実施する)本件設備を備えた本件工場を米国にてFV
Oに新設、稼働させる旨を意思決定し、平成15年に着工が始まり、平成16年4月
頃から稼働が始まったものである。(前記(3)イ(ア)〜(カ))
ところが、本件設備及び本件工場に係る設備投資については、●●●●●●●●
●であったのに対し、●(省略)●を要することとなった。しかも、本件工場は、稼
働当初、稼働能力や生産効率に課題を抱えていたほか、品質低下も指摘されており、\nその原因として●●●●●●●●●●●●ことが指摘された。このため、FVOは、
平成18年頃から、品質を確保するため、●(省略)●こととし(ただし、平成27
年以降は、●●●●●●●●●●●●●●こととしたが、これが、品質の改良や生産
効率の改善によるものであるかは不明である。)、また、更に●●●●●●●●を負
担して本件増設工事を行うことを余儀なくされたものである。(前記(3)イ(キ)〜(コ
)、ウ(ア)c)
イ FVOパーツ品の品質についてみると、●●●●●●●●●●●●●を予定\nしていたところ、本件増設工事が完了した平成19年3月頃には同程度と報告され
ていることや(前記(3)イ(サ))、現実にFVOがFVOパーツ品を被控訴人グループ
●(省略)●世界CBE市場における被控訴人のシェア獲得にも寄与していると認
められること(前記(3)ウ(イ)e、エ)に照らすと、FVOパーツ品が、そもそも販売
に耐えないほど低品質のものであったということはできない。他方で、FVOパー
ツ品やFVO品が、溶剤分別法により製造されたSOSパーツやこれらを原料とし
たCBEとの比較において、品質面で上回っていることを認めるに足りる証拠もな
い。そうすると、本件発明A2を実施したことにより、被控訴人がその実施品である
FVOパーツ品やFVO品について、品質面で優位に立ったということはできない。
ウ 次に、本件発明A2を実施したことによりFVOが得た利益についてみると、
そもそも、本件乾式分別法を採用したFVOの●(省略)●は、直ちに分別方法によ
る利益の相違を示すものではないが、その算出に際してその時々の相場と過去の実
績等が考慮され、変動費に相当する見込み額として位置付けられるものであり、分
別方法の差異による採算性を考慮する際の参考にすることは妨げられないというべ
きである。
さらに進んで、FVO、FOJ及びFOSにおけるSOSパーツの加工費及び比
例費の各試算を比較すると、●(省略)●るのに対し、●(省略)●、大きな差が発
生しているのに、原料コストや収率等を考慮して試算された比例費では、●(省略)
●相対化されている(前記(3)ウ(イ)b)。しかも、この数値は、約9年間にわたり実
際には支払われていた●●●●●●●●●●●●を考慮していない上、FVOの現
実の収率よりも高い収率である●●●を収率として試算されたものであり、実数値
によると更に差は小さくなるものである。
このことに加え、前記アのとおり、被控訴人内部では、当初、本件乾式分別法を採
用することにより設備費においても大幅なコスト削減が見込まれるとの認識(溶剤
分別法による場合の投資試算額●●●●●に対し、●●●●●の投資試算額と見込
まれていた。)の下で、本件施設及び本件工場の新設に踏み切ったものの、現実には
これに●●●●●●●●●を要し、加えて、本件設備につき、稼働能力、生産効率、\n品質低下等の課題が指摘されたことから、更に●●●●●●●●●を要する本件増
設工事まで余儀なくされたこと等も併せて考慮すると、FVOが本件乾式分別法を
採用したことによる効果として、当初予定していた溶剤分別法による以上に利益率\nを向上させることができたとか、現実に利益を上げることができたとは認められな
い。
エ さらに、本件特許権A2を含む特許権に基づく禁止権の効果により他社を排
除することができたかについてみると、競合他社であったIOFは平成23年に、
LCは平成27年に、それぞれシア脂からSOSパーツを分別できる工場をガーナ
に新設し、稼働させたが、いずれの工場においても溶剤分別法が用いられており、本
件各発明に関連する特許による禁止の効力が及ばない地域においても、競合他社は、
いまだ溶剤分別法を採用している上、本件各特許権がいずれも消滅した現在におい
ても、被控訴人又は競合他社が、本件乾式分別法を採用した施設若しくは工場を新
設、稼働し、又はその準備をした等の事実は認められないのであって(前記(3)オ)、
控訴人が主張するように、溶剤分別法が危険を伴い、時に重大な事故を引き起こし
得るものであるとしても、被控訴人又は新不二製油が、本件特許権A2を含む特許
権に基づく禁止権の効果により、競合他社による本件乾式分別法の採用を排除し、
これにより使用者として有する通常実施権に基づく実施によって得られる利益を超
えた利益を得たと認めることは困難である。
なお、本件施設の稼働後、CBE市場における被控訴人のシェアが増加したのは、
被控訴人が、規制緩和や経済動向をみて国際的なCBEの需要増加を見込み、FV
Oを拠点に生産施設を新設し、これが現実に稼働したことに伴う結果とみられ、本
件乾式分別法を採用したことにより特にシェアを拡大できたことをうかがわせる事
情はないというべきである。
オ 以上を総合すると、被控訴人が、本件特許権A2につき有する通常実施権に
基づいて本件発明A2を実施して得られる利益の額を超えて、特許による独占的、
排他的な実施により超過して利益を得たと認めることはできない。したがって、被
控訴人につき、本件発明A2による独占の利益は認められない。
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◆平成30年(ワ)866
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2024.03.24
令和5(行ウ)5002 特許料納付書却下処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年2月16日 東京地方裁判所
旧特許法112条の2第1項の「正当な理由」があったとはいえないとして、
特許庁による追納期間徒過後の納付書の却下処分に違法性無しと判断しました。
2 原告が本件追納期間を徒過したことについて、旧特許法112条の2第1項の
「正当な理由」があったか(争点2)について
旧特許法112条の2第1項所定の「正当な理由があるとき」とは、特許権者
(代理人を含む。)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的
にみて追納期間内に特許料を納付することができなかったときをいうものと解
するのが相当である。
甲11号証によれば、原告の専務取締役であるBは、遅くとも令和4年2月9
日までに、原告への出資を検討していた会社から、原告が保有している多くの特
許について特許料の不払いによって登録が抹消されているとの連絡を受け、同日、
特許料の支払も含めて原告が原告の保有する特許の管理を委任していた本件弁
理士に連絡をとったところ、本件弁理士から、うつ病等を理由に業務をすること
が難しい状況にあると告げられたことが認められる。
そうすると、原告は、遅くとも令和4年2月9日には、原告が保有し、本件弁
理士がその特許料等の納付を管理していた特許権について本件弁理士において
適切な管理をしていないものがあること、そのため、当時原告が多数保有してい
る特許権について特許料の納付期限が到来しているものについては特許料の納
付が滞っている可能性が高いこと、所定の期間に特許料が納付されなければ特許\n権が消滅することを認識したと認められる。そうすると、原告は、遅くとも同日
の時点で、保有している特許権を今後も維持したいというのであれば、即座に、
原告が保有している特許の特許料の納付状況等について確認すべきであること
や、仮に納付されていない場合にはその対処について速やかに検討すべきである
ことを認識したか、少なくともこれらを極めて容易に認識できる状況にあったと
いえる。そして、本件特許についてこれらの点について検討し、必要な相談(今
後の長期的な特許関係の事務の委任ではなく、このような緊急事態への対処のみ
を委任するのであれば、同日に近い時期に原告が弁理士に相談することは難しく
なかったといえる。)等をしていれば、本件特許について、本件追納期間満了まで
に特許料等を納付すべきことについて容易に知り得て、これを納付することがで
きたといえる。そうであるにもかかわらず、原告は、上記の認識をした令和4年
2月9日から本件追納期間の満了まで1か月以上の期間があったにもかかわら
ず、同期間満了までに特許料等を納付しなかったのであるから、当時、新型コロ
ナウイルスによる感染症が問題になっていたことを考慮しても、その余を判断す
るまでもなく、原告は、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみ
て追納期間内に特許料を納付することができなかったとはいえない。よって、原
告が本件追納期間を徒過したことについて旧特許法112条の2第1項の「正当
な理由」があったとはいえない。
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◆令和5(行ウ)5005
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2024.03.24
令和4(ワ)16072 不正競争防止法に基づく差止請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年2月21日 東京地方裁判所
非たばこ加熱式スティックに関する本件表示は、不競法2条1項20号の品質等誤認惹起行為に該当しないと判断されました。\n
(ア) 判断基準について
不競法2条1項20号は、商品や役務に、その品質や内容を誤認させ
るような表示をし、又はその表\示をした商品を譲渡等することにより、
需要者の需要を不当に喚起するとともに競争上不当に優位に立とうとす
ることを防止する趣旨の規定であるといえるから、本件表示が本件商品\nの品質及び内容について誤認させるような表示に当たるか否かは、本件\n表示によって、本件商品についての需要者の需要を不当に喚起し、被告\nらが不当に競争上優位に立つことになるか否かによって判断すべきと解
される。
(イ) 本件表示の目的について\n
本件商品は、一般消費者向けの茶葉を原料とする非たばこ加熱式ステ
ィックであり(前提事実(2))、本件商品に係る広告においては、本件商
品はたばこであるか否か、有害な成分が入っているか否かについての質
問及び回答が掲載されている(前提事実(3))。このような事実に照らす
と、本件表示の目的は、ニコチンの含有量を科学的な正確さをもって示\nすためのものではなく、本件商品が含有する成分は茶葉と同様であって、
たばこのように身体及び精神に悪影響を与えるような程度の量の成分を
含有していないことを示すためのものと認められる。
・・・・
(カ) まとめ
前記(イ)ないし(オ)のとおり、1)本件表示は、ニコチンの含有量を科学\n的な正確さをもって示す目的のものではなく、本件商品が含有する成分
は茶葉と同様であって、本件商品に身体及び精神に悪影響を与えるよう
な程度の量の成分を含有していないことを示す目的のものと考えられる
こと、2)本件商品が含有するニコチンは、茶葉そのものに含まれていた
内因性由来のものであって、その含有量は、人が摂取しても安全と評価
されており、生理活性がない可能性も指摘されている水準にとどまるこ\nと、3)茶葉を原料とする他の複数の非たばこ加熱式スティックに係る広
告においても、定量下限を1ppmとした分析によりニコチンが検出さ
れなかったことを根拠として「ニコチン0」との記載がされているとこ
ろ、これらの商品にも当該定量下限を下回る量の内因性由来のニコチン
が含まれている可能性を当然に否定することはできないことを指摘する\nことができる。
以上の点に照らせば、本件表示に接した需要者は、本件商品が、ニコ\nチン含有の有無及びその量に関し、身体及び精神に与える影響との観点
から、他の非たばこ加熱式スティックと比較してより優れたものである
と認識するものではないというべきである。
したがって、本件表示が、本件商品についての需要者の需要を不当に\n喚起し、被告らが不当に競争上優位に立つことになるものであるという
ことはできず、よって、本件表示が本件商品の品質及び内容について誤\n認させるような表示に当たると認めることはできない。\n
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2024.03.24
令和5(ネ)10071 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月21日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審は、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時機に後れた主張であるとして却下しました。知財高裁も同様です。
当裁判所は、本件請求原因の追加は攻撃方法の提出であって、民事訴訟法
143条ではなく同法157条の規律に服するものではあるが、結論的には
時機に後れたものとして却下を免れないと判断する。その理由は、以下のと
おりである。
(1) 控訴人の本件請求は、特許法100条1項、3項に基づく差止請求、廃
棄請求及び不法行為に基づく損害賠償請求である。そのいずれも、被控訴人
による被控訴人製品の譲渡等が控訴人の有する「本件特許権」を侵害すると
の請求原因に基づくものである。
そして、特許法は、一つの特許出願に対し一つの行政処分としての特許査
定又は特許審決がされ、これに基づいて一つの特許が付与され、一つの特許
権が発生するという基本構造を前提としており、請求項ごとに個別に特許が\n付与されるものではない。そうすると、ある特許権の侵害を理由とする請求
を法的に構成するに当たり、いずれの請求項を選択して請求原因とするかと\nいうことは、特定の請求(訴訟物)に係る攻撃方法の選択の問題と理解する
のが相当である。請求項ごとに別の請求(訴訟物)を観念した場合、請求項
ごとに次々と別訴を提起される応訴負担を相手方に負わせることになりかね
ず不合理である。当裁判所の上記解釈は、特許権の侵害を巡る紛争の一回的
解決に資するものであり、このように解しても、特許権者としては、最初か
ら全ての請求項を攻撃方法とする選択肢を与えられているのだから、その権
利行使が不当に制約されることにはならない。
(2) 以上によれば、控訴人による本件請求原因の追加は、訴えの追加的変更に
当たるものではなく、新たな攻撃方法としての請求原因を追加するものにと
どまるから、本件請求原因の追加が民事訴訟法143条1項ただし書により
許されないとした原審の判断は誤りというべきである。
(3) もっとも、被控訴人は、本件請求原因の追加が攻撃方法に該当する場合に
は民事訴訟法157条1項に基づく却下を求める旨の申立てをしている(引\n用に係る原判決の第3の2「被告の主張」欄(2))から、以下この点につい
て判断する。
ア まず、本件請求原因の追加に至るまでの原審における手続等の経緯とし
て、別紙「本件請求原因の追加に至る経緯」記載の事実が認められる
(本件記録から明らかである。)。
すなわち、被控訴人は、答弁書(令和4年2月28日付け)の段階で、
乙1公報及び乙3公報等の公知文献を具体的に示して、均等論の第4要
件の充足を争う詳細な主張を提出した。その後、控訴人と被控訴人は、
同年11月までに、当該争点に関する議論を含む主張書面を2往復させ
主張立証を尽くしてきた。この間の書面準備手続調書には、被控訴人の
「均等論の第4要件を中心に反論書面を提出する」との進行意見が記載
されるなど、均等論の第4要件の充足性は、少なくとも本件の中心的な
争点の一つと認識されていた。そうして、侵害論に関する主張立証が一
応の区切りとなった同月28日のウェブ会議による協議(書面による弁
論準備手続に係るもの。以下同じ。)において、裁判所から双方当事者
に被控訴人製品は本件発明1の技術的範囲に属さないとの心証開示があ
り、双方は和解を検討することとなった。その後間もなく和解交渉は不
調に終わったところ、令和5年1月27日の協議において、控訴人は、
消弧作用についての再反論(注・均等論の第2要件関係)及びこれまで
の主張の補充等を記載した準備書面を提出すると述べた。ところが、控
訴人は、同年2月27日付け準備書面をもって、本件請求原因の追加の
主張をするに至った。これに対し、被控訴人は、同年4月13日付け準
備書面をもって、時機に後れた攻撃方法としての却下又は著しく訴訟手
続を遅延させる訴えの変更としての不許決定を求める申立てをした。\n
イ 以上に基づいて、まず、本件請求原因の追加が「時機に後れた」ものと
いえるかどうかを検討するに、本件において、控訴人が本件請求原因の
追加を求めた理由は、請求項1に係る本件発明1の技術的範囲の属否を
問題とする限り、被控訴人が提出した公知文献(特に乙1公報及び乙3
公報)との関係で均等論の第4要件(公知技術等の非該当)は満たさな
いと判断される可能性が高いことを踏まえ、本件付加構\成を備える請求
項3に係る本件発明2を議論の俎上に載せることで、均等論の第4要件
をクリアしようとしたものと理解される。
しかし、上記アのとおり、均等論の第4要件を争う被控訴人の主張は、
既に答弁書の段階で詳細かつ具体的に提出されており、これに対する対
抗手段として、本件請求原因の追加を検討することは可能であったもの\nである。その後、約9か月にわたり双方が主張書面を2往復させてこの
点の主張立証を尽くしていたところ、その後に裁判所からの心証開示を
受けた後に、しかも、控訴人自ら、補充的な書面提出のみを予定する旨\nの進行意見を述べていたにもかかわらず、突然、本件請求原因の追加を
行ったものであって、これが時機に後れた攻撃方法の提出に当たること
は明らかである。
ウ 次に、故意又は重過失の要件についてみるに、本件請求原因の追加は、
当初から本件特許の内容となっていた請求項3を攻撃方法に加えるとい
う内容であるから、その提出を適時にできなかった事情があるとは考え
難い。外国文献等をサーチする必要があったケースとか、権利範囲の減
縮を甘受せざるを得なくなる訂正の再抗弁を提出する場合などとは異な
る。控訴人からも、やむをえない事情等につき具体的な主張(弁解)は
されていない。そうすると、時機に後れた攻撃方法の提出に至ったこと
につき、控訴人には少なくとも重過失が認められるというべきである。
エ そして、本件請求原因の追加により、訴訟の完結を遅延させることとな
るとの要件も優に認められる。すなわち、本件発明2の本件付加構成を\n充足するか否かについては、従前全く審理されていないから、本件請求
原因の追加を許した場合、この点について改めて審理を行う必要が生ず
ることは当然である。そして、被控訴人は、仮に本件請求原因の追加が
許された場合の予備的主張として、本件発明2の本件付加構\成のクレー
ム解釈及び被控訴人製品の特定に関する詳細な求釈明の申立てをする\n(控訴答弁書19頁〜)などしていることを踏まえると、この点の審理
には相当な期間を要し、訴訟の完結を遅延させることとなることは明ら
かである。
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◆令和3(ワ)10032
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2024.03.24
令和5(ネ)10097 営業侵害行為差止請求等控訴事件 不正競争 民事訴訟 令和6年2月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では、営業秘密、限定提供データのいずれではないと判断されました。知財高裁も同様です。利益分配に関する請求についても同様です。
ア 原告は、EL社が営業秘密又は限定提供データの保有者であり、被告AI及
び被告SAIはEL社から営業秘密又は限定提供データの開示を受けたと主張する
が、そうであるとすれば、開示された営業秘密又は限定提供データが原告の営業秘
密又は限定提供データであるということはできないはずである。もともと、前記補
正の上引用した原判決のとおり、スマホ留学の顧客情報は各組合員に帰属するもの
であり(本件組合契約5条1項)、被告AI及び被告SAIが自らに帰属する顧客
情報を使用することは、不正競争行為に当たるものではない。
イ さらに、本件組合契約は、スマホ留学以外の特定の商品又はサービスを「対
象案件」として、その紹介をするため、スマホ留学の顧客情報を用いることを予定\nしている(本件組合契約6条4項等)。したがって、被告らが、顧客情報をケンペ
ネEnglishやオンライン留学の紹介に用いたことをもって、直ちに本件組合
契約に違反すると認めることはできない。
ウ 原告は、本件組合契約7条2項を文字通り解釈すると本件組合契約締結以前
に提供された情報は、同項の「機密情報」には該当しなくなるから不合理である旨
主張する。しかし、原告及び被告らとの間で平成29年3月1日に締結された業務
委託契約書(乙A102)によれば、本件組合契約締結前のスマホ留学事業に関す
る機密情報については、上記業務委託契約書9条に本件組合契約7条2項と同じ内
容の機密保持に関する条項が設けられていることが認められ、本件組合契約の締結
により当該条項の効力が失われたと解すべき理由は見当たらない。したがって、当
事者の合理的意思解釈として、本件組合契約締結前の機密情報については前記業務
委託契約書9条に基づく保護の対象となると解するのが相当であるから、原告の主
張する点は、本件組合契約7条2項をその文言どおり解釈することの妨げとなるも
のではない。
◆判決本文
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◆令和2(ワ)23432
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2024.03.23
令和4(ワ)9521 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月26日 大阪地方裁判所
熱可塑性樹脂組成物について、構成要件1B「・・・分子量700以上・・」について、第1要件充足せずとして、均等侵害が否定されました。ちなみに、被告製品「分子量699」であり、「700」という数値に臨界的意義はありません。
該当特許はこちらです。
◆特許4974971
ア 本件各発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物と、当該
組成物からなる樹脂成形品ならびに樹脂成形品の具体的な一例である偏光
子保護フィルム、樹脂成形品の製造方法に関する発明である(【0001】)。
アクリル樹脂の透明度の低下を防止するためにUVAを添加する方法が
公知であったが、成形時の発泡やUVAのブリードアウト、UVAの蒸散に
よる紫外線吸収能の低下との問題につき、従来技術として、アクリル樹脂に組み合わせるUVAとして、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびベンゾフェノン系化合物が用いられていた(【0003】、【00\n05】、【0006】)。しかし、これらの従来技術として例示されたアクリル
樹脂(【0006】記載の特許文献)には、いずれも分子量が700以上のU
VAは開示されていなかった。
イ 本件各発明は、従来技術の化合物には、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂との相溶性に課題があり、高温成形時の発泡やブリードアウトの発生の抑制が不十\分であったことから、これらの課題を克服するため(【0007】、【0008】)、樹脂組成物を構成要件1B記載の構\成とし、その製造方法を構成要件6B記載の構\成とし(【0009】、【0010】)、これにより11
0゜C)以上という高いTgに基づく優れた耐熱性や高温成形時における発泡
及びブリードアウトの抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少との効果を
奏することとなった(【0015】)。
ウ したがって、本件各発明の本質的部分は、ヒドロキシフェニルトリアジン
骨格を有する、分子量が700以上のUVAが、主鎖に環構造を有する熱可塑性アクリル樹脂と相溶性を有することを見出したことにより、110゜C)以
上という高い優れた耐熱性や高温成形時における発泡及びブリードアウト
の抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少という効果を有する樹脂組成物
を提供することを可能にした点にあると認められる。
エ 数値をもって技術的範囲を限定し(数値限定発明)、その数値に設定する
ことに意義がある発明は、その数値の範囲内の技術に限定することで、その
発明に対して特許が付与されたと考えられるから、特段の事情のない限り、
その数値による技術的範囲の限定は特許発明の本質的部分に当たると解す
べきである。
上記検討によれば、分子量を「700以上」とすることには技術的意義が
あるといえるうえ、本件において、上記特段の事情は何らうかがえない。
オ そうすると、被告UVAの分子量が「700以上」ではないとの相違点は、
本件各発明の本質的部分に係る差異であるというべきであるから、被告製品
及び被告方法について、均等の第1要件が成立すると認めることはできず、
均等侵害は成立しない。
カ 原告は、本件各発明におけるUVAの分子量である「700」に厳格な技
術的意義はなく、本件各発明の本質的部分は、分子量が十分に大きいという上位概念であると主張する。 しかし、このような上位概念化は、前述の数値限定発明の技術的意義に関
する考え方と相容れず権利範囲を不当に拡大するものである。また、本件証
拠上、本件各発明におけるUVAの分子量が十分に大きいということが当業者にとって自明であるとも認められないし、分子量が十\分に大きいことと、被告UVAの分子量との比較における本件各発明の数値の臨界的意義との
関係は何ら明らかにされていない。
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2024.03.23
令和4(ワ)9461 著作権 民事訴訟 令和6年2月7日 東京地方裁判所
不動産売買・賃貸の仲介にもちいる物件写真について、著作権侵害が認定されました。
ただ、損害額は1000円/枚で、約7万円です。
証拠(甲5、11、15、27、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、\n本件各写真は、賃貸物件の外観・内観及び周辺環境等を撮影したものであるこ
と、本件各写真の撮影は、賃貸物件の内容を分かりやすく需要者に伝えるため、
明るさや撮影角度等を調整して行われたものであること、本件各写真の中には、
対象を広く写真に収めるため、パノラマ写真を撮影できるカメラを利用して撮
影されたものも含まれていることが認められる。
このような本件各写真の内容や撮影方法に照らすと、本件各写真は、被写体
の構図、カメラアングル、照明、撮影方法等を工夫して撮影されたものであり、\n撮影者の個性が表現されたものといえる。\nしたがって、本件各写真は、いずれも思想又は感情を創作的に表現したもの\nと認められ、「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当し、これに反する被告
らの主張は採用できない。
・・・
証拠(甲27、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、通常、管理会社\n等を通さずに物件写真を取得する際には、自社の従業員などが現地を訪問し、
賃貸物件の外観や内観等の撮影した上で、必要に応じて写真の加工等を行っ
ていることが認められるところ、被告会社は、本件侵害対象写真を使用する
ことによって、上記の作業に係る支出等を免れたものといえる。
そして、証拠(甲23の3、25、26、乙3、5)及び弁論の全趣旨に
よれば、物件写真の撮影代行サービスの料金については、1)広角一眼レフカ
メラ撮影の外観・内観セット(単発発注)については、3600円から45
00円、360度パノラマ撮影(単発発注)については、3200円から4
000円(写真の加工等には別途オプション料金が必要)とするもの、2)内
観(画像15枚程度)2750円、外観・共用部セット3300円、高品質
撮影5500円、交通費2000円程度とするもの、3)外観・エントラン
ス・看板7枚以上で2750円〜5500円、外観・共用部・室内全て7枚
以上で1万3200円(いずれも一眼レフカメラ、広角カメラで撮影。1回
の撮影枚数は30枚以上。)、シータによる撮影(8枚以上)は1件4400
円(写真の加工等には別途オプション料金が必要で、徒歩15分以上の撮影
の場合は1650円が加算される。)とするもの、4)マンション一眼レフカ
メラ広角レンズ撮影について、外観のみ(10枚程度)3500円、内観の
み(20枚程度)4000円、外観・内観(30枚まで)4500円、オプ
ションとして360度パノラマ撮影について、1枚500円、5枚まで10
00円〜2000円(ただし、駅から徒歩16分以上の場合は1000円が
加 算 さ れ る 。) とするもの、5)外観 の み (5枚 か ら 10枚程度)1
200円から1800円、外観・内観セットについて10枚から15枚程度
の場合は2200円から2500円、30枚程度の場合は2500円から2
800円とするものなどがあることが認められ、このような料金の定めから
すれば、物件写真の撮影代行サービスを利用する場合、写真1枚当たりに換
算すると数百円程度の費用が必要となるほか、交通費や写真の加工等のため
のオプション料金が別途発生し得ることが認められる。
上記の事情に加え、本件侵害対象写真の掲載期間は最大で2か月弱であっ
てさほど長くないこと(前記3)、他方で、著作権侵害があった場合に事後
的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は通常の使
用料に比べて高額となることといった事情を併せ考慮すると、本件侵害対象
写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法11
4条3項)は、写真1枚当たり1000円の合計7万1000円と認めるの
が相当である。
(2) これに対し、原告は、NHKエンタープライズ(甲19)、毎日フォトバ
ンク(甲20)やアマナイメージズ(甲21)の写真使用料の定めからすれ
ば、本件侵害対象写真の使用料相当額は1枚当たり2万円とすべきであると
主張する。
しかし、NHKエンタープライズや毎日フォトバンクの提供する写真は、
報道等のために撮影された写真であり、また、アマナイメージズの提供する
写真はウェブ広告や動画配信広告等に用いられるものであって、その撮影対
象や撮影方法は、賃貸物件の紹介を目的とした物件写真とは大きく異なるも
のといえるから、上記各社の写真使用料の定めを本件で参考にすることは相
当ではない。
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2024.03.23
令和5(行ケ)10108 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年2月27日 知的財産高等裁判所
株式会社アクネスラボが、他社が保有している二段併記商標「アクネスラボ/ACNES LABO」に対して、無効審判を請求しました。審決は、「せっけん類については無効、それ以外の商品(5類 サプリメントなど)ついては理由無し」と判断しました。知財高裁は、審決を維持しました。
証拠(甲7の1〜63)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件商標が
登録出願される前から、使用商標を原告の製造、販売に係る「せっけん類」
及び「化粧品」に用いていることが認められる。
このうち、「せっけん類」については、本件審決が、本件商標の指定商品及
び指定役務のうち第3類「せっけん類」について、商標法4条1項10号に
該当すると判断している。
原告は、本件商標の指定商品及び指定役務のうち第5類「サプリメント」
についても、同号に該当すると主張するので、使用商標が用いられる商品が
上記のとおりであることを前提に、以下検討する。
(3) 特許庁商標課編「商品及び役務の区分解説〔国際分類第10版対応〕」(乙
1)は、指定商品の分類において第5類とされる「サプリメント」について、
「この商品は、人体に欠乏しやすいビタミン・ミネラル・アミノ酸・不飽和
脂肪酸などを、錠剤・カプセル・飲料などの形にしたもので、『医薬品』に該
当しない商品です。」と説明している。また、内閣府消費者委員会による「消
費者の『健康食品』の利用に関する実態調査(アンケート調査)」(甲17)
では、「サプリメント」は「健康食品のうち、錠剤型、カプセル型、又は粉状
のもの」と定義され、「健康食品」は「健康の保持増進に資する食品として販
売・利用される食品(野菜、果物、菓子、調理品等その他外観、形状等から
明らかに食品と認識される物を除く。)」と定義されている。
これに対し、「商品及び役務の区分解説〔国際分類第10版対応〕」は、指
定商品の分類において第3類とされる「化粧品」について、「この商品には、
薬事法(昭和35年法律第145号)に規定する『化粧品』の大部分及び『医
薬部外品』のうち『人体に対する作用が緩和なものであって、身体を清潔に
し、美化し、魅力を増し、容貌を変え又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保
つことを目的として、身体に塗擦、散布等の方法で使用するもの』が含まれ
ます。『化粧品』は、女性用のみならず、男性用又は乳児用の商品も含まれま
す。」と説明している。薬事法は、平成25年法律第84号によってその名称
が「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」
(薬機法)に改められたところ、薬機法2条3項は、「この法律で『化粧品』
とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若
しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似す
る方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和
なものをいう。ただし、これらの使用目的のほかに、第一項第二号又は第三
号に規定する用途に使用されることも併せて目的とされている物及び医薬部
外品を除く。」と定義している。
これらの説明及び法律上の定義によれば、「サプリメント」は、人体に欠乏
しやすいビタミン・ミネラル等の栄養素を経口投与によって体内に摂取する
ための食品であり、その使用の目的は健康の保持増進にあると認められる。
これに対し、「化粧品」は、身体に対して塗擦、散布等をする方法で使用する
ものであり、その使用の目的は人の身体を清潔にし、美化し、容貌を変え、
又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つことにあると認められるから、「サプ
リメント」と「化粧品」とはその使用方法及び使用目的の根本的部分におい
て明確に異なっていると認められる。
(4) 「サプリメント」と「化粧品」については、これら双方を製造する会社及
び双方を販売する会社が複数存在することは認められるものの(甲13の1・
2、14の1〜13、甲20の1〜72)、通常同一の営業主により製造又は
販売されているとの事情があるとは認められない。
また、前記(3)のとおり、「サプリメント」が経口投与によって体内に摂取す
る方法で使用し、「化粧品」が身体に塗擦、散布等をする方法で使用するとい
う違いがあることからすれば、「化粧品」には経口投与による体内への摂取に
は適しない成分を使用することも可能であると認められ、「サプリメント」と\n「化粧品」について、同一の成分を含む商品が存在するとしても、その原材
料が通常一致するといった関係にあるとは認められない。
需要者については、それぞれの使用目的から、「サプリメント」の需要者は
健康の保持増進に関心のある一般消費者であり、「化粧品」の需要者は身体を
清潔にし、美化し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つこと
に関心のある一般消費者であって、これらは一部において一致すると考えら
れるが、完全に一致するとは認められない。
(5) 上記(3)及び(4)の事情を総合すると、本件商標の指定商品のうち第5類「サ
プリメント」と、使用商標が用いられている商品のうち「化粧品」とは、こ
れらの商品に同一又は類似の商標を使用する場合に、同一営業主の製造又は
販売に係る商品と誤認されるおそれがあるとは認められず、商標法4条1項
10号にいう「類似する商品」に当たるとは認められない。
・・・
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)のとおり、本件商標の指定商品
のうち「サプリメント」と原告が製造・販売する「化粧品」に同一又は類
似の商標を使用するときは、同一営業主の製造・販売又は提供に係る商品
又は役務と誤認が生じるから、本件商標の指定商品のうち第5類「サプリ
メント」は商標法4条1項10号に該当すると主張する。
しかし、「サプリメント」と「化粧品」の両方を製造又は販売している企
業が複数存在しており(前記(4))、その中には、当該企業が運営する同一の
ウェブサイトで「サプリメント」と「化粧品」を販売する企業や、「サプリ
メント」と「化粧品」に同一のブランド名を付して販売している企業があ
ることが認められるが(甲13の1・2、甲14の1〜13等)、「サプリ
メント」と「化粧品」が通常同一の営業主により製造又は販売されている
との事情があるとは認められないことは前記(4)のとおりであり、「サプリ
メント」を販売する企業の多くが化粧品を製造又は販売している、あるい
は「化粧品」を販売している企業の多くが「サプリメント」を販売してい
るといった事情があるとも認められない。そうすると、「サプリメント」と
「化粧品」について、使用の目的及び方法の双方について相違があること
(前記(3))からすれば、上記のとおり認められる事実の限度では、これら
の商品に同一又は類似の商標を使用する場合に、同一営業主の製造又は販
売に係る商品と誤認されるおそれがあるとは認めるに足りない。
「サプリメント」と「化粧品」とにおいて、同一の成分を含む商品が販
売されているとしても、通常成分が一致するといった関係にあるとは認め
られず、「サプリメント」は経口投与によって体内に摂取する食品であり、
「化粧品」は身体に塗擦、散布等をする方法で使用するという違いがある
ことによって、含まれる成分にも差異があると考えられる。
「化粧品」の使用の目的は、前記(3)のとおり、人の身体を清潔にし、美
化し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つことにあるので
あり、これらを達成することによって心身の健康維持の効果があると説か
れることがあるとしても、そのような効果はあくまで間接的なものである
といえる。これに対し、「サプリメント」は健康の保持増進が使用の直接の
目的であるといえるから、「サプリメント」と「化粧品」で使用の目的や用
途が一致するとはいえない。
「サプリメント」の需要者と「化粧品」の需要者は、その使用の目的が
異なることからすれば、一部において一致する者があるとしても、完全に
一致しているという事情は認められない(前記(4))。
以上によれば、原告が前記第3の1〔原告の主張〕(2)のとおり主張する
事情を考慮しても、「サプリメント」と「化粧品」について、同一又は類似
の商標を使用する場合には、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認
されるおそれがあると認められる関係があるとは認められない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
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2024.03.23
令和5(ネ)10091 商標権侵害行為差止等請求控訴事件 商標権 民事訴訟 令和6年3月6日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
雑誌「現代の理論」について、9類「電子出版物」の権利により、被告商品(印刷物(16類))に商標権侵害が認められました。判断は原審維持です。
当裁判所は、第1審原告の請求は、当審における請求の拡張を踏まえると、
第1審被告らに対し被告各標章を付した出版物の出版、販売等の差止め、第1
審被告NPOに対し被告出版物1(1)〜(5)の廃棄、第1審被告らに対し被告出
版物2(1)〜(26)の廃棄、第1審被告らに対し24万8570円及びこれに対す
る被告出版物2(26)の発売日以降の遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由
があると判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 争点1〜4に関する当裁判所の判断は、原判決の第3の1〜4(18頁〜)
のとおりであるから、これを引用する。
すなわち、本件各商標及び被告各標章はそれぞれ類似しており(争点1)、
被告各標章を印刷物に付して使用する行為は、本件各商標権の指定商品又はこ
れに類似する商品についての使用ということができる(争点2)。そして、本
件商標2の商標登録無効の抗弁(商標法4条1項19号違反等をいうもの、争
点3)及び第1審被告NPOの先使用の抗弁(争点4)は、「現代の理論」の
標章が第1審被告NPOの業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとはいえない等の本件の事情の下では、いずれも\n理由がない。
2 争点5(権利濫用の抗弁)について
(1) 第1審被告らは、第1審原告が本件各商標を使用して雑誌を発行すること
は一切なかったし、将来においてもその予定はないにもかかわらず、本件各商標権の行使をするのは、第1審被告らによる雑誌「現代の理論」の発行を\n妨害することを主たる目的としたものであることが明白であり、第1審原告
が第1審被告NPOの編集委員会に所属していたことがあり、第1審被告N
POが創刊当時の精神を引き継いで設立されたことを認識していたことを併
せ考えれば、上記権利行使は権利の濫用に当たる旨主張する。
しかし、第1審被告らが被告各標章を印刷物に付して使用する行為は、少
なくとも、本件商標1の指定商品である第9類「電子印刷物」に類似する商
品についての使用ということができるから、第1審原告は、雑誌等「印刷物」
としての「現代の理論」の発行予定がないにしても,「電子印刷物」を指定商品とする商標権に基づき,第1審被告らの上記行為についての差止請求を\nなし得るものである。また、第1審原告において、競合関係となり得る被告
各出版物が販売されている状況において、本件各商標を使用した雑誌を現に
販売していないからといって、将来においても販売することがないとは直ち
にいえない。
また、雑誌「現代の理論」の創刊当時の精神を誰が引き継いでいるか否か
といった事項は、権利関係の帰属の問題と異なり客観的に判断することが困
難であり、本件においてこれを確定するに足りる証拠もない。第1審被告N
POが明石書店に雑誌「現代の理論」の出版権を譲渡した後に発行していた
雑誌「FORUM OPINION」に「NPO現代の理論・社会フォーラ
ム」という名称を付記していたとか、第1審被告NPOの名称に「現代の理
論」が含まれているといった点は、第1審被告NPO側の認識を示すものに
すぎないし、購読者らからのメッセージ(乙13)は、雑誌「現代の理論」
を懐かしむ一定の者がいることを示すものとはいえても、第1審被告NPO
が需要者から雑誌「現代の理論」創刊当初からの精神を引き継いでいると広
く認識されていることを意味するものではない。
(2) 第1審被告らは、第1審原告の権利行使を認めるとすれば、「現代の理論」
という雑誌名がなくなることになり、商標法1条の規定する「産業の発達」
や「需要者の利益」に反する旨主張する。しかし、商標法1条の定めるとこ
ろは、一定の商標を使用した商品等が一定の出所から提供されるという取引
秩序を維持することによって、産業の発達に寄与し、需要者の利益を保護す
ることにあるのであって、伝統ある名称を有する雑誌が存続するかどうかと
いった事項は、これとは異なる問題である。
また、第1審被告らは、差止・廃棄請求を認めることは、経済的自由権で
ある商標権によって、憲法上優越的地位を有する表現の自由を制約することになる旨主張するが、差止・廃棄請求を認めたからといって、被告各標章を\n用いない意見表明や出版の機会が制約されるわけではない。\n
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◆令和4(ワ)19876
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2024.03.23
令和4(ワ)9100 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月21日 東京地方裁判所
技術的範囲に属しない(構成要件F非充足)として、特許権侵害が否定されました。\n
被告方法では、磁性体モールド樹脂で成形されているEコア及びIコア並び
にコイルを合体させたコアを、●(省略)●に形成されたキャビティに配置し、
加圧しつつ加熱して樹脂を硬化させてモールドコイルを作成する(以下「加圧・
加熱過程」という。)ところ、加圧・加熱過程で●(省略)●から磁性体モール
ド樹脂が漏れ出し、これが硬化してバリが形成される(第2の2前提事実 )。
原告は、上記の被告方法において、キャビティに配置されるEコア、Iコア
を形成する磁性体モールド樹脂(以下「磁性体モールド樹脂(コア)」という。)
が構成要件Fの「該キャビティ内に充填した磁性体モールド樹脂」に該当し、\n加圧によって漏れ出してバリを形成する磁性体モールド樹脂(以下「磁性体モ
ールド樹脂(バリ)」という。)が「該排出した磁性体モールド樹脂」に該当
し、磁性体モールド樹脂(バリ)を構成する磁性体粉末の容積比(以下「磁性\n体粉末容積比(バリ)」という。)が磁性体モールド樹脂(コア)を構成する\n磁性体粉末の容積比(以下「磁性体粉末容積比(コア)」という。)よりも小
さいと主張するものと解される。
もっとも、被告方法を用いて被告製品を製造する過程において、磁性体粉末
容積比(コア)と磁性体粉末容積比(バリ)について、これらを直接測定して
比較し、後者の容積比の方が小さいものであったことを示す証拠はない。他方、
被告からは、被告方法で作成されたモールドコイルにおいて、磁性体粉末容積
比(バリ)と磁性体粉末容積比(コア)がほぼ同じである旨の電子顕微鏡で撮
影された画像の分析結果(乙4)が提出されている。
ア 原告は、磁性体粉末容積比(コア)と磁性体粉末容積比(バリ)について、
磁性体粉末の粒子径が、磁性体モールド樹脂が漏れ出す隙間よりも大きけれ
ば、樹脂が隙間から優先的に排出されるために磁性体粉末容積比(バリ)の
方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなるところ、被告方法の加圧・
加熱過程で加圧を続けても樹脂の流出が止まるのは、磁性体粉末が隙間を埋
めることが理由であるから、被告方法においては、樹脂が隙間から優先的に
排出されるといった事象が生じたことが示されていると主張する。これに対
して、被告は、被告方法において加圧・加熱過程で加圧を続けているにもか
かわらず樹脂の流出が止まる理由について、磁性体によって隙間が埋められ
たためではなく、触媒等を利用した上で加熱により樹脂が硬化したためであ
ると主張している。
原告は、被告が主張するような短時間で硬化は生じない旨主張するが、被
告方法における樹脂の硬化につき、この原告主張を裏付けるに足りる証拠は
ない。また、樹脂の流出が止まったのが磁性体粉末が隙間を埋めたものであ
ることを裏付ける証拠はない。被告が実際に使用している被告方法において、
原告が主張するのとは異なる理由により樹脂の流出が止まったことを否定
できず、被告方法において、原告が主張する事象が生じたことによって樹脂
の流出が止まると認めるには足りない。そうすると、原告の主張はその前提
を欠く。
イ(ア)原告は、加圧・加熱過程において磁性体モールド樹脂が漏れ出す隙間が
磁性体粉末の粒子径よりも小さければ、樹脂が優先的に流出するために
磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さく
なるという原理を前提に、被告方法で生じている隙間は十分に小さいも\nのであると主張する。
(イ)しかし、被告方法において隙間に相当するものの幅、形状・構造等は不\n明である。原告は、バレル研磨跡に生じている被告製品の角に生じた研磨
跡に着目し、バリの幅は研磨跡を超えることはないなどとして、研磨跡か
らバリの幅を推計し、バリの厚さは●(省略)●を超えるものではないな
どとも主張する(甲8)。しかし、研磨跡によりバリの幅を正しく把握で
きるかは明らかでなく、原告指摘の事実によっても、隙間に相当するもの
の幅、形状・構造等は不明である。\n
(ウ)被告方法で用いられる磁性体粉末の大きさについても、被告が用いた磁
性体のD99は、●(省略)●D90は、●(省略)●であることは認め
られる(乙3)が、被告方法においては、様々な粒子径、形状の磁性体が
使用され、具体的な粒子径の分布は不明である。そして、被告方法で作成
されたモールドコイル及びバリの電子顕微鏡で撮影された画像(乙4)に
よれば、被告方法で隙間に相当するものの幅に比べて格段に小さな磁性体
粒子が多数含まれていることが認められる。
(エ)原告が前記(ア)で主張する原理について、全磁性体粒子のうちの最小粒子
径が隙間よりも大きい場合には、磁性体は隙間を通過することができない
ため、樹脂のみが隙間から流出することは推測できる。逆に、全磁性体の
粒子径が隙間よりも十分に小さければ、樹脂と共に磁性体も隙間を通過す\nることから磁性体粉末容積比(コア)及び磁性体粉末容積比(バリ)に変
化がないものと推測でき、隙間より大きな磁性体粒子の割合が極めて小さ
い場合にも同様である。他方で、これら以外の場合には、磁性体粉末の具
体的な粒子径の形状・分布、樹脂の性質、隙間の形状・構造、加えられる\n圧力等により、隙間を通過する磁性体の量は変化するものと推測される。
そして、それらについて、どのようなものであった場合に隙間を通過する
磁性体がどの程度あるかについて、これを認めるに足りる証拠はない。
(オ)以上によれば、被告方法においては、様々な粒子径、形状の磁性体が使
用されているところ、その全磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法
で使用されている●(省略)●よりも大きいことを認めるに足りない。ま
た、そのように全磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法で使用され
ている●(省略)●よりも大きいことが認められない場合、被告方法にお
いて、どのような割合で磁性体と樹脂が被告方法における隙間に相当す
る部分を通過するかは明らかではなく、特に本件のように隙間よりも小
さな粒子径を有する磁性体粒子が多数含まれる場合には、原告が主張す
る原理によって、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性
体粉末容積比(コア)よりも小さくなっているという事実を認めるに足り
ない。
ウ 以上によれば、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体
粉末容積比(コア)よりも小さくなっていることを認めるに足りる証拠はな
い。かえって、前記 のとおり、被告からは、被告方法で作成されたモール
ドコイルにおいて、粉末容積比(バリ)と粉末容積比(コア)が変わらない
旨の電子顕微鏡で撮影された画像の分析結果(乙4)が提出されている。
(3)よって、被告方法において粉末容積比(バリ)の方が粉末容積比(コア)よ
りも小さくなっていることを認めることはできず、被告方法が構成要件Fを充\n足するとはいえない。
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2024.03.23
令和5(ワ)70052 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年2月26日 東京地方裁判所
囲碁将棋チャンネルは、YouTubeに、著作権侵害としてYouTuberの動画の削除申請しました。これが違法か否か争われました。争点は棋譜に著作権があるのか否かです。裁判所は約2万円の損害賠償を認めました。
原告は、本件において虚偽の事実を告知等されたことによって、経済的損害に
つき不正競争防止法2条1項21号に基づく損害賠償請求権が発生するほかに、
併せて人格的利益を侵害するものとして、別途不法行為に基づく損害賠償請求権
が発生する旨主張する。そこで検討するに、人格権ないし人格的利益とは、明文上の根拠を有するものではなく、生命又は身体的価値を保護する人格権、名誉権、プライバシー権、肖像権、名誉感情、自己決定権、平穏生活権、リプロダクティブ権、パブリシティ
権その他憲法13条の法意に照らし判例法理上認められるに至った各種の権利
利益を総称するものであるから、人格的利益の侵害を主張するのみでは、特定の
被侵害利益に基づく請求を特定するものとはいえない。しかしながら、原告は、
裁判所の重ねての釈明にもかかわらず、単なる総称としての人格的利益をいうに
とどまることからすると、原告の主張は、請求の特定を欠くものとして失当とい
うほかない。
もっとも、原告は、原告主張に係る人格的利益とは、最高裁平成16年(受)
第930号同17年7月14日第一小法廷判決・民集59巻6号1569頁(平
成17年判決)にいう著作者の人格的利益と同趣旨のものであり、大阪高裁令和
4年(ネ)第265号、第599号同4年10月14日判決(令和4年判決)も、
その趣旨をいうものである旨主張する。
仮に、原告主張に係る人格的利益が、上記判例を引用する限度で特定されてい
るものと善解したとしても、平成17年判決は、著作者の思想の自由,表現の自\n由が憲法により保障された基本的人権であることに鑑み、公立図書館において閲
覧に供された図書の著作者の思想、意見等伝達の利益を法的な利益として肯定す
るものであり、その射程は、公立図書館の職員がその基本的義務に違反して独断
的評価や個人的好みに基づく不公平な取扱によって蔵書を廃棄した場合に限定
されるものである。そうすると、私立図書館その他の私企業における場合は、明
らかにその射程外というべきものであるから、平成17年判決は、私企業である
YouTubeにおける投稿動画に係る伝達の利益が問題とされている本件に
は、適切なものといえない。
また、原告が引用する大阪高裁令和4年(ネ)第265号、第599号同4年
10月14日判決(令和4年判決)は、人格的利益に関わるものと説示しつつも、
投稿者の営業活動を妨害するという側面をも踏まえたものであるから、精神的価
値という法益に限定して法的利益性が主張されている本件には、必ずしも適切で
はない。のみならず、平成17年判決が、上記のとおり、伝達の利益を法的な利
益として肯定する場面を、公立図書館の職員による極めて不公平な取扱等の場合
に制限している趣旨に照らしても、憲法で保障されている表現の自由から、直ち\nにYouTubeにおける投稿動画に係る伝達の利益を肯定するのは相当では
ない。その他に、原告は、著作権法、電気通信事業法その他の法令を縷々指摘して、
原告主張に係る人格的利益が重要性の高い法益である旨主張するものの、原告が
掲げる法令は、原告主張に係る人格的利益を保護するものとはいえず、上記にお
いて説示したところに鑑みると、原告の主張は、その特定及び根拠を欠くもので
あり、採用の限りではない。
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2024.03. 8
令和3(ワ)16043 損害賠償請求事件 商標権 令和6年1月26日 東京地方裁判所
商標「年賀マスク」(指定商標「衛生マスク」)の侵害として、約100万円の損害賠償が認められました。損害額の計算は、38条2項では95%の推定覆滅が認められたものの、その分については3項の適用として5%のライセンス料が認められました。
6 争点4(損害の発生及び数額)について
(1) 前記2のとおり、本件商標と被告標章は類似するから、被告による被告商
品の販売行為は、本件商標権の侵害行為を侵害したものとみなされる(商標
法37条1号)。
(2) 商標権者に、侵害者による商標権侵害行為がなかったならば利益が得られ
たであろうという事情が存在する場合には、商標権者がその侵害行為により
損害を受けたものとして、商標法38条2項の適用が認められると解される。
原告は、前記第2の1(4)のとおり、原告の商品を販売するウェブサイトに
おいて、本件商標を商品名の一部として付した原告商品を法人向けに販売し
ていた。これに対し、被告は、同(3)のとおり、販売サイトや小売店の店頭に
おいて、被告商品を販売していた。もっとも、原告商品も被告商品も新年の
挨拶における贈答品として用いられる衛生マスクであり、一般的な衛生マス
クとは販売のコンセプトが異なることをも踏まえると、原告商品の顧客とな
るべき法人において、被告商品を被告の販売サイトや小売店の店頭から商品
を購入するものがいなかったとはいえない。そうすると、被告の侵害行為に
より原告商品の売上げが減少したものと評価でき、原告に、被告による商標
権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する。
したがって、商標法38条2項の適用がある。
(3)ア 商標法38条2項により侵害者が受けた利益の額が原告の損害と推定さ
れる。もっとも、同規定は推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が
得た利益の一部又は全部について、商標権者が受けた損害との相当因果関
係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は覆滅され
る。
イ 被告は、令和2年8月から令和3年1月までの間に、被告標章が付され
た包装箱に入れた衛生マスク4種類を販売していた。被告商品について、
前記第2の1のとおり、その売上額は合計1596万1281円であり、
そのための経費は1215万0844円であったから、限界利益は381
万0437円である。
ウ 被告は、本件において、推定覆滅の事由に該当する事実がある旨主張す
る。
被告は、原告商品は業者等の法人のみが購入でき、原告商品の想定
される利用方法は、原告商品を購入した法人の従業員や取引先への年始
の贈り物であるのに対し、被告商品は一般消費者が他の衛生マスクと比
較しながら購入するものであり、衛生マスクという物品の性質上最終的
に使用するのが個人であるとしても、当該個人が取得するまでのルート
は両者において全く異なると主張する。
この点に関係し、原告は、原告の販売先が法人であるとした上で、当
該法人は、当該法人の従業員や取引先への年始の贈り物とするノベルテ
ィ商品としてこれを使用するほか、個人に対して販売する旨主張する。
しかし、原告の販売先である法人が、個人に対して販売した数量等につ
いては何ら主張立証されておらず、当該法人が個人に対して販売してい
たことを認めるに足りない。したがって、原告商品は、法人によって、
当該法人の従業員や取引先への新年の挨拶における贈答品とするという
目的で購入されたと認められる。
被告商品は被告の販売サイトや小売店の店頭において販売されていて、
法人だけでなく、一般消費者も自由に購入できた。そうすると、原告商
品の顧客となるべき法人に、被告商品を被告の販売サイトや小売店の店
頭から商品を購入するものがいなかったとはいえないものの(前記 )、
原告商品は上記のとおり法人がそのノベルティ商品として購入するもの
であるのに対し、被告商品は、基本的には、一般の消費者が購入すると
いえ、その市場は異なる部分が非常に大きく、この事情は、前記推定を
覆滅させる事情であると認める。被告は、本件商標の顧客吸引力は皆無に等しく、被告商品が売れたのは、被告商品名や被告商品の品質に関わる表示によるものである旨主\n張する。
しかし、被告商品名を付した商品が一定数販売され、また、報道機関
などで取り上げられたことがあったとしても、極めて多種の製品が大量
に販売されている衛生マスクの需要者において、被告商品名が広く知ら
れていたとは認められないし、また、衛生マスクにおいては品質に関す
る表示がされることも多いところ、被告商品の品質に関する表\示が特に
顧客吸引力を有するものであることを認めるに足りない。他方、被告標
章は、被告商品の包装箱の正面の右上部分及び上面の2か所に目立つよ
うに記載されていて、包装箱の上面においてはその中央部分に記載され
ているのであり、その顧客吸引力がないとはいえない。
本件については、前記 の事情により推定が大きく覆滅すると認めら
れるという事情があるところ、それに加えて被告が主張する上記推定覆
滅についての事情があるとは認められない。
以上のとおり、原告商品と被告商品は、市場が非常に大きく異なっ
た。原告商品の市場は被告商品の市場に比べて小さく、被告商品の市場
のうち、ごく一部が原告商品の市場と重なっていたといえる。このよう
な事情によれば、被告商品を購入した者のうち、被告商品に被告標章が
付されていることによって原告商品に代えて被告商品を購入したといえ
る者の割合はかなり低いと認められ、被告が主張する事由のうち、上記
の理由により、原告は被告商品の販売数量のうちの相当多くのものにつ
いて販売することができたとはいえない事情があり、商標権者が受けた
損害との相当因果関係が欠けると認める。上記の理由により、原告は被
告商品の販売数量の95%について販売することはできたとはいえず、
被告が得られた限界利益のうち、原告の損害との相当因果関係のあるも
のは、5%であったと認めるのが相当である。
エ そうすると、商標法38条2項による原告の損害は次のとおり、19万
0521円である(小数点以下切り捨て)と認められる。
(計算式)381万0437円×0.05=19万0521円(小数点以下
切り捨て)
(4) 商標法38条2項による推定が覆滅される場合であっても、当該推定覆滅
部分について、商標権者が使用許諾をすることができたと認められるときは、
同条3項の適用が認められると解される。
前記(3)によれば、本件の事情の下においては、原告が販売することができ
ない事情があるとされた数量に相当する被告商品については、原告が使用許
諾をすることができたと認められる。
そして、商標法38条3項の使用の対価を算定するにあたっては、当該商
標権の侵害があったことを前提として当該商標権を侵害した者との間で合意
をするとしたらならば、当該商標権者が得ることとなるその対価を考慮する
ことができる(同条4項)。第10類の商標の使用料率の平均値は売上高の
3%とされるが、その最大値は5.5%とされ(乙61)、この使用料率の
平均値には、非侵害者との間の合意による使用料率も含まれており、侵害し
た者との間で合意をする場合平均値より高い使用料率になり得ることを踏ま
えると、原告の使用機会の喪失による得べかりし利益は、対象となる商品の
売上高の5%は下回らないものと認める。そうすると、商標法38条2項による推定が覆滅される部分についての商標法38条3項の損害は、以下のとおり、75万8160円となる。
(計算式)1596万1281円×0.95×0.05=75万8160円(小数点未満切り捨て)
(5) そうすると、原告の損害額は94万8681円となる。
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2024.03. 8
令和5(行ケ)10050 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年2月5日 知的財産高等裁判所
商標「美容医局」が周知であるとして商標法4条1項10号違反の無効理由ありとした審決が維持されました。
ア 被告は、平成24年8月29日、「biyou-ikyoku.com」のドメイン名を取得し、
その頃、「美容医局」の商標(引用商標)が表示された美容クリニック専門の医師転\n職サイトを開設して、本件サービスの事業を開始し、以後、現在に至るまで本件サ
ービスの事業を継続している。(甲5、乙8、11)
イ 令和元年度における医師向けの有料職業紹介事業の総売上高が約212億円
(乙19の1中の「職業紹介事業 運営状況(令和元年度)」の16頁)であり、医
師総数に対する美容外科医及び皮膚科医の数の割合が約4.7%(=(平成30年
12月31日現在の皮膚科医数1万4244人+同日現在の美容外科数1176人
の合計1万5420人)÷同日現在の医師総数32万7210人。乙20の1の4
頁及び11頁。以下、各年の美容外科医及び皮膚科医向けの有料職業紹介事業の売
上高を推計する際の医師数は、同日現在の数字を用いる。)であることからすると、
美容外科医及び皮膚科医向けの有料職業紹介事業の売上高は10億円程度と推計さ
れる。(乙19の1、乙20の1)
そして、令和元年の本件サービスの売上高は●●●●●●万円(乙23の1)で
あるから、美容外科医及び皮膚科医向けの有料職業紹介事業における本件サービス
のシェアは●割近いものであると推認される。(乙23の1)
ウ 同様に令和2年度の医師向けの有料職業紹介事業の総売上高が約227億円
(乙19の6中の「職業紹介事業 運営状況(令和2年度)」の16頁)であること
から、前記美容外科医及び皮膚科医の数の割合を乗ずると、美容外科医及び皮膚科
医向けの有料職業紹介事業の売上高は10億6700万円程度と推計されるところ、
令和2年の本件サービスの売上高は●●●●●●万円(乙23の1)であるから、
そのシェアは●割近いものと推認される。(乙19の6、乙23の1)
エ 平成27年度から平成30年度までの各年の医師向けの有料職業紹介事業の
総売上高は、約154億円、約174億円、約166億円、約197億円であるの
に対し、平成27年から平成30年までの各年の本件サービスの売上高は●●●●
万円、●●●●万円、●●●●●●万円、●●●●●●万円であるから、本件サー
ビスは、医師向けの有料職業紹介事業全体の総売上高の増加率よりも大きな増加率
をもって、売上げが上昇した。(乙19、23)
オ 平成25年から令和2年までの各年において、本件サービスに新規登録した
医師の数は、●●人、●●●人、●●●人、●●●人、●●●人、●●●人、●●
●人、●●●●人であった(令和2年における累計●●●●人)。なお、平成30年
12月31日現在の美容外科又は皮膚科の診療科に従事する医師の数は前記のとお
り合計1万5420人である。(乙20の1、乙25)
カ 被告は、本件サービスの一環として、平成24年9月に、第1回の医師転職
支援セミナーを実施した後、たびたび転職セミナーを開催し、令和2年度には「転
科不安解消セミナー」「研修医向けノウハウセミナー」など合計30回のセミナーを
実施し、令和3年度には「初期研修医のための就活ガイダンス」など合計32回の
セミナーを実施した。被告は、「美容医局」に登録した美容医療関係者のためのスキ
ルアップセミナー、オペ見学・解説セミナーの提供といった役務も行っている。(甲
5の2、甲15、甲18、甲51、甲62の1、2、18及び19)
キ 被告は、Yahoo!ディスプレイアドネットワーク、Facebook、Twitter といっ
たインターネットにおいて、引用商標を用いた本件サービスの広告を出稿しており、
令和2年5月から7月までの間に、●●●万回を超える表示がされ、●万を超える\nクリックがされた。(甲51)
ク 令和3年8月2日付けのインターネット上の「【転職のプロが教える】美容外
科おすすめ医師転職エージェントランキング」と題する記事において、本件サービ
スが、美容外科・美容皮膚科転職エージェントおすすめ求人数ランキングで、全1
2エージェント中1位として掲載されている。同記事によれば、「美容医局」の求人
数3692件は、全12エージェントの合計求人数1万1682件の約31.6%
を占めている。(甲13)。
(3) 前記(2)を総合すると、本件サービスは、遅くとも令和2年頃までには、美容
外科及び美容皮膚科に転職しようとする医師並びに医師を求める美容外科及び美容
皮膚科の医療施設にとって多く利用されているサービスとなっていたということが
でき、本件サービスを表すものとして使用されている引用商標は、本件商標の出願\n時である令和2年7月31日及び登録査定時である令和3年6月2日において、本
件サービスを表すものとして、その需要者である美容外科医、美容皮膚科医及びそ\nの医療施設関係者の間で広く認識されていたと認めるのが相当である。
原告は、医師全体の有料職業紹介事業に対するシェアからすると、本件サービス
に周知性があるとはいえないと主張するが、そもそも本件サービスの対象とする美
容外科又は美容皮膚科の医師の数の医師全体数に占める割合が前記のとおり約4.
7%にすぎないことからすると、本件サービスの医師全体の有料職業紹介事業に対
するシェアが少ないことをもって、本件商標の知名度が低いということはできない。
そして、「美容医局」との商標が本件商標の指定役務である「職業のあっせん、求人
情報の提供、人材派遣による職業のあっせん、人材派遣による求人情報の提供」に
おいて用いられる場合には、美容外科又は美容皮膚科に関係する医療関係者以外を
対象とするものとは考え難いのであるから、美容外科又は美容皮膚科に転職する可
能性のない医師までを需要者とみるのは相当ではなく、上記原告の主張は採用する\nことができない。
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2024.03. 8
令和5(行ケ)10116 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年2月28日 知的財産高等裁判所
商標「Tibet Tiger」が識別力なしとした審決が維持されました。3条2項の適用にについても否定されました。指定商品は
第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」です。
原告は、日本における取引者・需要者にとってチベットという地名は必
ずしも著名ではなく、チベットトラという亜種(分類)も存在しないなどと
して、本願商標は「Tibet Tiger」という造語として認識される
旨主張する。しかし、本願商標の構成中の「Tibet」の文字は「チベット(中国南西部の自治区)」を意味する英語であり(乙1、3)、「Tiger」の文字\nは「トラ」を意味する英語であって(乙2、4)、これらはいずれも平易な
英単語として我が国においても一般に親しまれている。これらの文字を空白
一字分間に挟んで並べた本願商標は、構成全体として「チベットのトラ」ほどの意味合いを容易に理解、認識させるものと認められ、その旨をいう本件\n審決の判断に誤りはない。日本の取引者・需要者にとってチベットという地
名が必ずしも著名でないことを認めるに足りる証拠はなく、また、チベット
トラという亜種(分類)が存在しないことは上記認定を妨げるものではない。
(3) 原告は、本願商標の指定商品はトラの体等を直接的に使用した商品では
ないから、本願商標は指定商品との関係で商品の特徴等を直接的に表示するものではない旨主張するので、以下検討する。\nア 証拠(甲15〜17、乙5〜16)によれば、ウェブサイト上では、本
願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラグ」との関係において、チ
ベットやネパールはじゅうたんの生産地及び販売地として知られており、
じゅうたんはチベット民族の伝統的な手工芸品であるとされ、チベット
民族やネパールに在住しているチベット難民によって手織りされている
じゅうたんは「チベットじゅうたん」と称され、世界4大じゅうたんの
一つに数えられ、丈夫で耐久性に優れているなどと紹介されていること
が認められる。
また、同様にウェブサイト等では(甲6〜9、18〜21、23、2
4、乙23、25〜52)、本願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラ
グ」との関係において、トラ柄又はトラの図柄等を表す語として「Tiger」又は「タイガー」の文字が使用されており、「チベットじゅうた\nん」の中でも、トラのモチーフは、位の高い僧侶のために作られていた
ことから格の高い文様、由緒あるものといわれ、トラの図柄を描いた、
あるいは、トラの形状を模した「チベットじゅうたん」は、生産地及び
販売地の地域を表す語(チベタン〔Tibetan〕、チベット〔Tibet〕)と、トラを意味する「Tiger」とを組み合わせて「Tibe\ntan Tiger(Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チ
ベットタイガー(カーペット)」などと称されて多数販売されていること
も認められる。
イ 上記アのような取引の実情を踏まえると、「Tibet Tiger」
の文字よりなる本願商標をその指定商品中、トラの図柄又はトラの形状
のチベットじゅうたん、チベット製ラグ等に使用した場合、これに接す
る取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地であるチベット、ある
いはトラの図柄又は形状といった品質を表示したものと理解するにとどまるというべきである。\n
ウ この点につき、原告は、本件で提出されている証拠がインターネット上
の情報にすぎず、出所不明の情報であるとも主張するが、前記アの認定
証拠について、その信用性を疑わしめる事情は見当たらない。
そもそも原告が自らの販売実績を示すために提出した証拠(甲6〜9)
からも、ヤフオク(ヤフーオークション)というメジャーなサイトにお
いて原告の取扱商品以外のものも含め、「チベタンタイガーラグ」、「チベ
タンタイガー絨毯」という用語を「商品タイトル」(商品の一般名称)に
掲げた取引が行われている事実が客観的に認められるところである。
(4) 原告は、自身の事業において「チベタンタイガー」という標章を使用し
て商品を販売してきたとして、原告が本願商標に係る商標権を取得すること
は公益的な観点からも許されるべきであると主張する。
しかし、後述する商標法3条2項の規定による識別力の獲得が認められる
場合は別として、公益性の観点から商標法3条1項3号該当性を否定する原
告の主張は独自の見解に基づくものであり、採用できない。
(5) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとし
た本件審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。
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◆令和5(行ケ)10114
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2024.02.24
令和5(行ケ)10054 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年2月13日 知的財産高等裁判所
一致点・相違点の認定に誤りがあるものの、動機付けなしとの審決が維持されました。
カ 甲8発明と本件発明1との相違点として本件審決が認定したもの(前記
第2の4(2)ア(イ))のうち、甲8相違点2は、前記エの説示によれば、甲8
発明と本件発明1との相違点となるとは認められない。
また、甲8相違点3は、甲8発明における台車用安全カバー及び本件発
明1における保護部材の用途を特定する物としての手押部材の違いを述
べるものであって、甲8発明における台車用安全カバーと本件発明1にお
ける保護部材との相違点とはいえない。したがって、甲8発明と本件発明
1との相違点は、甲8相違点1及び取付位置に係る相違点のみであると認
められる。
キ 前記第2の2(3)のとおり、1)本件発明2は、本件発明1の構成要件1A\nないし1Fを全て含み、2)本件発明3は、本件発明1の構成要件のうち、\n1Eを「前記保護部は、円板状である。」(構成要件2E)に変更したもの\nであり、3)本件発明4ないし7は、本件発明1の構成要件1Aないし1F\nを全て含むか、又は本件発明3の構成要件1Aないし1D、2E及び1F\nを全て含むものである。
そうすると、本件発明2ないし7は、いずれも、甲8発明との関係で、
甲8相違点1及び取付位置に係る相違点があると認めることができる。
ク 以上のとおり、甲8発明と本件各発明との一致点及び相違点に係る本件
審決の判断には相当でない部分があるものの、これによって直ちに本件審
決の判断が違法となることはなく、甲8相違点1を前提に、当業者が、本
件優先日の技術水準に基づいて、これらの相違点に対応する本件各発明を
容易に想到することができたかどうかを判断すべきである。
(3) 容易想到性について
前記(1)のとおりである甲8発明の内容によれば、甲8発明の台車用安全カ
バーは、その本体、すなわち甲8発明の全体が保護部を構成しており、作業\n者の手挟み事故を防止するとともに、手押部材の掌握部、すなわち台車のコ
字状のハンドルのグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつもので
あるといえる。このことは、甲8商品2と同一の構成の商品を含む甲8商品\n1に係るパンフレット(甲8の2)に、「台車に取り付けることで、作業員の
手挟み事故を防止!掌握部もわかりやすくなり、安全指導がしやすくなりま
す」との記載があることからも裏付けられる。
このように、甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルの水平部
分をグリップ部とすることを前提として、コ字状のハンドルのカーブ部分に
取り付ける台車用安全カバー(保護部材)であって、これによって手挟み事
故の防止を図るものであるから、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)
にグリップ部を設けることは全く想定されていないといえる。
そうすると、仮に、台車の手押部材にグリップ部を設けること、又は台車
等の保護部をグリップ部と一体化したものとすることが、本件優先日の時点
で周知技術であったとしても、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)に
接した当業者において、これらの周知技術を甲8発明に適用する動機付けが
あったとは認められない。
したがって、引用発明である甲8発明に基づいて、甲8相違点1に係る本
件各発明の構成が容易に想到できたとは認められず、甲8発明を前提とする\n進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとは認められない。
(4) 前記第3の1〔原告の主張〕について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)のとおり、甲8発明の台車用安
全カバーは、直線の棒にも装着可能であり、コ字状のハンドルのカーブ部\n分に対してのみ取り付け可能な製品ではないから、本件審決における甲8\n発明の認定は誤りであると主張する。
この点、長岡産業代表取締役である甲の陳述書(甲53)には、甲8商\n品2は、甲8商品1とともに、カーブ部分に装着することに特化した形状
(特に孔の形状)となっておらず、曲がっていない直線の棒にも装着可能\nなものであった旨の陳述がある。
しかし、甲8商品2の本体及び取付穴の形状から、物理的には直線の棒
に装着することが可能であるとしても、甲8商品2のパンフレット(甲8\nの3)及び甲8商品2と同一の構成の商品が含まれる甲8商品1のパンフ\nレット(甲8の2)の各記載及び掲載された写真からすれば、甲8商品2、
すなわち甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルのカーブ部分
に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に
掛からないように規制し、これによって手挟み事故を防止するものである
と認められる。
上記各パンフレットに掲載された、各商品が台車のハンドルに装着され
た状態の写真は、いずれもコ字状のハンドルのカーブ部分に装着されたも
のを撮影したものであって、直線の部分に装着した写真ではないと認めら
れる。また、甲8の2には、「ハンドルのカーブ部分に挟み込み、テープを
はがして包むだけ!」と表記されているのであって、カーブ部分に挟み込\nむことが単なる使用の一例にすぎない旨の記載はされていない。
以上のとおり、甲8発明に関する本件審決の認定に誤りがあるとは認め
られない。
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2024.02.24
令和5(ネ)10069 職務発明対価請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月1日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
職務発明に基づく対価を請求しましたが、原審(東京地裁)は時効により消滅していると判断しました。知財高裁も同じです。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 前記第2の3(1)の主張について
控訴人は、本件就業規則60条(3)は職務発明に関する規定であると解すべ
きであり、このような規定に基づいて平成24年6月末にクオカードが交付
されている以上、この時点をもって消滅時効の起算点とすべきであると主張
する。
しかし、本件就業規則60条は、「表彰」に関する規定であると明示され、\nその表彰事由は職務発明に関するものだけでなく業務上の功績と認められる\n事情が広範に表彰の対象とされており、表\彰として経済的利益を供与すると
決められていることはなく、表彰の内容や時期についても同条その他本件就\n業規則において定められていないことからすれば、同条(3)が職務発明の対価
に関する規定であると解することができないのは、補正の上で引用した原判
決「事実及び理由」第3の1(1)ウの説示のとおりであり、被控訴人が本件発
明に基づく利益を得たこと及び被控訴人が控訴人に対して金銭的価値を有す
るプリペイドカードの一つであるクオカードを支給したことをもって、同条
(3)を職務発明の対価に関する規定であると解することはできない。
勤務規則等において職務発明に係る対価の支払に関する規定が存在する
場合でも、支払時期の定めがなければ、職務発明について特許を受ける権利
を使用者に承継させた従業者は、権利の承継の時点から使用者に対して職務
発明対価請求権を行使することができるから、原則として同時点が消滅時効
の起算点となる。勤務規則等において支払時期の定めがあるときに、上記支
払請求権の消滅時効の起算点が当該支払時期となるのは、同支払時期までは
権利行使について法律上の障害があり、上記支払請求権を行使することがで
きないことによる(補正後の原判決第3の1(1)ア)。これらの事情からすれば、
本件において控訴人の被控訴人に対する相当の対価の支払請求権の消滅時効
が特許を受ける権利の承継の時点から進行すると解することが、発明者に対
するインセンティブを与えるために職務発明対価請求に関する規定を定めた
使用者に比べ、発明者に対するインセンティブを与えない使用者である被控
訴人に対して消滅時効の起算点に関して手厚い保護を与える結果となって不
当であるとはいえない。
被控訴人において、本件就業規則60条に基づく表彰を毎年6月末に行う\n運用又は慣行があったとして、そのことは、同条(3)の規定が職務発明に係る
対価の支払に関する規定であると解する根拠とはならない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 前記第2の3(2)の主張について
控訴人は、本件において「権利を行使することができる時」(民法166条
1項)とは、控訴人が被控訴人を退職した時点、あるいは、どんなに早くて
も、本件同意書の有効性について検討するのに必要な合理的な検討時間であ
る捺印後6か月経過後であるから、本件では消滅時効は完成していないと主
張する。
しかし、「権利を行使することができる」とは、その権利の行使につき法律
上の障害がないこととともに、権利の性質上、その権利行使が現実に期待の
できるものであることをも必要とすると解されるが(補正の上で引用した原
判決「事実及び理由」第3の1(1)ウ)、権利行使について事実上の障害がある
場合に常に「権利を行使することができる時」に当たらないことにはならな
い。
控訴人が被控訴人の従業員であったことをもって直ちに退職前に職務発
明対価請求権の行使が現実に期待できなかったとはいえない。控訴人の陳述
書(甲13)には、被控訴人は典型的なオーナー企業であって、従業員が会
社に自由な意見を言うことができなかった旨の陳述があるが、客観的裏付け
がなくこの陳述を採用することはできないことは、補正の上で引用した原判
決「事実及び理由」第3の1(3)の説示のとおりである。したがって、控訴人が主張する内容を考慮しても、控訴人が被控訴人を退職するまで、被控訴人に対して職務発明対価請求権を行使することが現実に期待できなかったと解することはできない。
また、本件同意書の有効性について検討する必要があるために、本件同意
書に控訴人が捺印した後6か月が経過するまで、職務発明対価請求権の行使
が現実に期待できなかったと解すべき根拠となる事情は認められない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 前記第2の3(3)の主張について
控訴人は、被控訴人の控訴人に対するクオカードの交付は、職務発明対価
の支払債務の一部承認であり、消滅時効が中断すると主張する。
しかし、本件就業規則60条が表彰制度について定めた規定であり、クオ\nカードはこの規定に基づき交付されたものであること、及び、このクオカー
ドの交付に先立って控訴人が被控訴人に本件同意書を提出しており、控訴人
及び被控訴人のいずれも、控訴人が職務発明対価請求権を放棄したと認識し
ていたのであり、その状況の下でクオカードの交付がされたことからすれば、
クオカードの交付を職務発明の対価の支払であると認めることはできず、職
務発明対価の支払債務の一部承認であると解することもできない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(4) 前記第2の3(4)の主張について
控訴人は、被控訴人が消滅時効の完成を主張することは権利濫用に当たる
と主張する。
しかし、本件同意書の作成に当たり、控訴人が、被控訴人の代表者又は従\n業員から、同意書の作成を強制された事実が認められないこと、控訴人の陳
述書(甲13)には、被控訴人は典型的なオーナー企業であって、従業員が
会社に自由な意見を言うことができなかった旨の陳述があるものの、この陳
述内容について客観的な裏付けはなく、上記陳述の内容を採用することはで
きないことは、補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の1(3)の説
示のとおりであり、被控訴人が従業員である控訴人が在職中に使用者に対し
て自由な意思表示をすることが不可能\である等の状況を利用し、被控訴人が
控訴人に対して在職中に本件同意書に捺印させたとは認められない。
控訴人が、被控訴人の従業員であることにより、心理的・精神的に職務発
明対価請求権の行使が困難であると感じていたとしても、そのことをもって、
被控訴人による消滅時効の援用が権利濫用であるとはいえない。
まして、控訴人は、被控訴人を退職した後に被控訴人に対して内容証明郵
便により本件各発明に係る相当の対価の支払を求めており、この支払請求は
被控訴人の令和3年5月14日付け回答書により拒絶されたが(前提事実(6))、
控訴人が上記回答書を受領した時点では、遅くとも控訴人が本件各発明に係
る特許を受ける権利を被控訴人に承継したと認められる平成23年9月13
日から10年を経過していなかったから、控訴人の被控訴人に対する職務発
明対価請求権の消滅時効が完成していたとは認められない。それにもかかわ
らず、控訴人は、令和4年6月1日まで本件訴訟を提起しなかった(当裁判
所に顕著な事実)。上記内容証明郵便は弁護士(本件の控訴人訴訟代理人弁護
士)が控訴人の代理人として送付しており(甲3の1)、控訴人が、上記内容
証明郵便の送付の時点までに、被控訴人に対する職務発明対価請求に関して
弁護士に相談していたと認められるのであって、これらの事情によれば、控
訴人が、弁護士にも相談した上で、自らの判断で、前記回答書の送付から約
1年後に本件訴訟を提起したものと認められる。控訴人は、陳述書(甲15)
において、本件同意書が無効であるといえるのか自信をもてず、弁護士費用
を払って訴訟を提起することを躊躇していたため、令和4年6月まで訴訟を
提起することができなかったと陳述するが、仮にこの陳述どおりであったと
しても、そのことをもって、被控訴人による消滅時効の援用が権利濫用に当
たるとはいえない。
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◆令和4(ワ)13408
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2024.02.24
令和5(ワ)70454 特許権侵害等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月9日 東京地方裁判所
個人発明家によるAbemaTVを特許権侵害訴訟です。本人訴訟です。裁判所は、構成要件を充足しないと判断しました。\n
(1) 「検査分析装置」及び「検査分析」の意義について
本件発明に係る特許請求の範囲においては、構成要件A、D、F及びGに\n「検査分析装置」との記載があり、構成要件A、B、C、E及びHに「検査\n分析」との記載があるものの、それらの意義は、当該特許請求の範囲の記載
からは明らかではない。
そして、本件明細書には、技術分野に関し、「半導体集積回路装置…の開
発、製造などの検査分析工程で用いられる走査型電子顕微鏡(SEM)、共
焦点レーザ顕微鏡などの検査分析装置の利用方法に関」する(【0001】)
との記載が、背景技術に関し、「半導体ウェハ、半導体チップなどの検査分
析においては、検査分析対象となる試料と検査分析装置の性能が合致しない\nと全く有効な検査分析とならない。」(【0004】)及び「半導体ウェハ、半
導体チップの検査分析においては、そのコスト増が著しく、半導体集積回路
装置の開発、製造コストの増大の要因になっている。」(【0005】)との記
載が、課題に関し、「本発明の目的は、半導体集積回路装置などの開発、製
造を効率的に行うために用いられる検査分析工程において、低コストで効率
的に検査分析が行える技術を提供することである。」(【0015】)との記載
が、課題を解決するための手段に関し、本件発明は、検査分析装置の管理者
側と検査分析を希望するユーザ側のそれぞれにセキュリティ確保手段を講じ
た上、ユーザが、離れた場所にある検査分析装置を、リアルタイムでリモー
ト操作する、又は、ユーザが事前に作成した操作レシピーデータに基づいて
検査分析を行う旨(【0016】ないし【0019】)の記載に加え、「本件
発明の検査分析は、細く絞ったレーザビームを試料面へ照射してその反射光、
散乱光、透過光の少なくとも一つを検出すること、または電子ビームを照射
して二次電子、散乱電子、透過電子の内の少なくとも一つを検出することに
より、試料上の所望の箇所を分析するものである。」(【0024】)との記載
が、発明の効果に関し、「本件発明により、検査分析を所望する複数ユーザ
に対し、ユーザは個別に検査分析装置の導入のための投資することなく、ユ
ーザ試料の検査分析が効率よく行うことが可能となった。」(【0026】)と\nの記載が、それぞれある。これらの記載に照らすと、「検査分析装置」とは、
試料を装填等して、ユーザのリモート操作によりその試料を分析し、検査す
る検査分析ユニットを有する装置を意味し、「検査分析」とは、試料を装填
等して、ユーザのリモート操作によりその試料を分析し、検査する工程を意
味すると理解することができる。
これに対し、原告は、「検査分析装置」について、「インターネットを介し
たリモート操作が検査分析の対象となるコンピュータ装置であり、当該検査
分析に異常がないことを条件とし、リモート操作した情報を提供するコンピ
ュータ装置」と、「検査分析」について、「インターネットを介した検査分析
装置に対するリモート操作に異常がないかの検査分析」と、それぞれ解すべ
きである旨主張し、検査の対象が「リモート操作」であることを前提として
いるものと解されるが、本件明細書には、原告が主張する解釈の根拠となる
記載はないから、同主張は理由がない。
(2) 被告方法の構成要件充足性について\n
原告の主張は明確ではないものの、被告の動画配信サービスを提供するサ
ーバが、「検査分析装置」に該当し、同サービスにおいて、視聴者が動画配
信の内容についてコメントを付したり、高評価ボタンを押下したりすること
が、「検査分析」であると主張するものと理解することができる。
しかし、被告の動画配信サービスを提供するサーバは、検査分析の対象と
なる試料の装填等を想定したものではなく、ユーザからリモート操作される
ことによりその情報等を分析し、検査する検査分析ユニットを備えているも
のと認めることはできないから(弁論の全趣旨)、同サーバは、構成要件A、\nD、F及びGの「検査分析装置」に該当しない。
同様に、被告の動画配信サービスにおいて、視聴者が、動画配信の内容に
ついてコメントを付したり、高評価ボタンを押下したりすることは、試料を
装填等することを前提とするものではなく、ユーザが同試料について情報等
を分析し、検査するものでもないから、構成要件A、B、C、E及びHの\n「検査分析」に該当しない。
その他、原告の主張する被告方法の内容に照らし、被告方法が「検査分析
装置」又は「検査分析」に該当する装置又は工程を備えるものとは認められ
ない。以上のとおり、被告方法が構成要件AないしHを充足すると認めることは\nできない。
◆判決本文
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2024.02.24
令和5(ネ)10070 損害賠償等請求控訴、同附帯控訴事件 商標権 民事訴訟 令和5年12月20日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
商標権侵害事件です。原審は約1400万円の損害賠償を認めました。知財高裁も同様です。論点は、スイスの国旗に似ている商標として無効理由ありかどうかです。
控訴人は、本件商標はスイスの国旗に類似しており、商標法4条1項1号
違反の無効理由があると主張する。
しかし、本件商標の形状は原判決「事実及び理由」第4の1(2)のとおりで
あり、やや丸みを帯びた縁(辺)を有する略四角形(略正方形)と、これに
囲まれた略相似形であるやや丸みを帯びた縁(辺)を有する略四角形と、そ
の内部(中央)に位置する幅広の十字からなり、前者の略四角形の縁と後者\nの略四角形の縁とがなす部分(外縁部分)と、上記十字部分は、いずれも白\n色であり、後者の略四角形の内部は、上記十字部分を除き黒色であり、上記\n十字の幅は外縁部分の3倍程度である。
これに対し、スイスの国旗は、原判決「事実及び理由」第4の2のとおり、
正方形と、その内部(中央)に位置する幅広で白色の十字からなり、正方形\nの内部は、白色である上記十字部分を除いて赤色である。\nしたがって、スイスの国旗は、正方形であって白色の外縁部分がなく、内
部の十字部分を除いた部分が赤色である点において、本件商標と相違してお\nり、本件商標とスイスの国旗は、控訴人が指摘する共通点を考慮しても、中
心的かつ全体的構成を占める図形の形状及び色彩において明らかに相違する。\n被控訴人が、本件商標と同様の形状であるが、地色が赤色で十字部分が白\n色の標章を使用したことがあるとしても、そのことをもって、地色が赤色で
十字部分が白色のものも本件商標に含まれることにはならず、本件商標とス\nイスの国旗がその色において共通するとはいえない。
◆判決本文
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◆令和3(ワ)13895
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◆令和2(ネ)10060
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2024.02.24
令和5(ネ)10038 著作権侵害差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和5年12月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審と同じく、著作物に該当するが、黙示の許諾があったと判断されました。
「確かに、乙14の4から13、乙15ないし20、22によれば、紙
におけるにじみなどの模様は模様付きの和紙としてカタログで販売される
ものにも見られるものではある。しかし、控訴人は、楮を原料とし、にじ
みが良く、染め方に深みを出すことができる和紙に、膠、明礬及び水を混
合した礬砂を刷毛で和紙の片面又は両面に引いて乾かし、その際、礬砂の
配合量や引き方等を調整したり、複数の刷毛を使い分けたりすることによ
り、紙上に、水のにじみにくい部分や染料の染みにくい部分を生み出し、
毛質、長さ、大小が異なり、特別に注文した複数の刷毛を使い分け、主に
柿渋、胡桃、墨、土など自然の染料で和紙を染め、刷毛のあと、にじみに
より紙上に色を配置するなどの手法を用いて和紙に模様や色彩を施し、一
点ずつ異なる模様の染描紙を制作しており、創作ノートに構図のためのス\nケッチ、色、染料の選択、配置、濃淡、線や動き等を記載することもあっ
た(前記1(3))こと、そして、本件染描紙15から20のうち、本件染描
紙18は約65cm×約180cm、それ以外は約74cm×約100c
mという大きさを備えるものであって、控訴人は空の情景を意識して本件
染描紙15から20を制作していること(前記1(2)、(3))、それぞれの模様
は原判決別紙本件染描紙(15〜20)一覧の各写真のとおりであって、
控訴人が、特定の色彩を選択して、構図を考えた上で模様を配置し、全体\nとしてまとまりのある図柄を作り上げたものといえることを考慮すれば、
創作的表現がされていると認められる。これらの事情を総合すれば、本件\n染描紙15から20の上記創作的表現は、模様のついた和紙として通常想\n定される模様とはいえず、実用的な目的のためのものといえる特徴と分離
して、美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備える部分を把握することが
できるといえる。したがって、本件染描紙15から20は、控訴人の著作
物であると認められる。」
(2) 翻案について
翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質な特徴の同一\n性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想\n又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の\n表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行\n為をいう(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法
廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
これを本件において検討すると、被控訴人Y’が制作した本件展示物15
から20は、本件染描紙15から20に依拠し、原判決別紙染描紙(15〜
20)一覧において、四角い枠を付したものとして示した写真における、四
角い枠で囲んだ部分を利用して、補正した上で引用した原判決第3の2(3)で
認定した制作過程を経て制作されたものと認められ、また、本件展示物15
から20は、作品の全体像として、「Yアートワークス/天空図屏風シリーズ」
と題する一連の作品として、屏風様式を取り入れ、上記作品より一回り大き
い茶色のアルミ複合版製の下地とともに設置され、晴天の日の日中は、各展
示場の上方の天井にそれぞれ存在する天窓から日差しが差し込むように配置
され、本件展示物15から20が展示されている各壁面の正面付近の各床に
は、本件展示物15から20について、本件説明とともに、それぞれ各和歌
(原典及び口語訳)が記載された説明書きが埋め込まれていて、これらの構\n成要素が組み合わされて仕立てあげられた作品であることが認められるから、
本件染描紙15から20の具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新た\nに思想又は感情を創作的に表現するものと認められるものの、本件展示物1\n5から20の屏風の部分の表現と本件染描紙15から20の上記四角い枠で\n囲んだ部分の表現とを対比すると、前者は後者と比較して、全体的に青系の\n色彩が強調され、また、刷毛のあとや染色の境目などの輪郭が鋭く明確化さ
れているなど、両者は色合いや色調に多少の相違が認められるものの、刷毛
状の模様、にじみ具合及びこれらの構成や配置は極めて類似しているから、\n本件展示物15から20に接する者が本件染描紙15から20の表現上の本\n質的特徴を直接感得することが十分に可能\であるということができる。
したがって、本件展示物15から20は、本件染描紙15から20を翻案
したものであると認めるのが相当である。
・・・
6 当審における当事者の補充主張に対する判断
(1) 被控訴人Y’の前記第2の5(1)の主張について
被控訴人Y’は、本件染描紙15から20は著作物に当たらないと主張する。
しかし、補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の4(2)のとおり、
本件染描紙15から20については創作的表現がされていると認められる。\n前記のとおり、本件染描紙15から20の模様は、単なる和紙の染みやに
じみではなく、控訴人は、膠、明礬及び水を混合した礬砂を刷毛で和紙の片
面又は両面に引いて乾かし、その際、礬砂の配合量や引き方等を調整したり、
複数の刷毛を使い分けたりすることにより、紙上に、水のにじみにくい部分
や染料の染みにくい部分を生み出し、毛質、長さ、大小が異なり、特別に注
文した複数の刷毛を使い分け、主に柿渋、胡桃、墨、土など自然の染料で和
紙を染め、刷毛のあと、にじみにより紙上に色を配置するなどの手法を用い
て模様や色彩を施すなどして、一点ごとに模様の異なる染描紙を制作してお
り、本件染描紙15から20は空の情景を意識して制作したものである(補
正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の1(3))。
実際、被控訴人Y’も、控訴人店舗以外の店でも和紙を購入したが、控訴人店舗で購入した染描紙の模様が「空」や「雲」の世界観を見出しやすいと認識し、さらに、本件
染描紙15から20の中に「空」や「雲」の世界観を見出すことのできる部
分があると認め(補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の2(3)、
乙24)、その部分を選定して切り出し、染描紙の色合いや色調の変化等を調
整、刷毛のあとを際立たせるといった加工を行い、その上で、紙をスキャナ
で読み込んでスキャンデータを作成し、これを拡大し、電子データ上で色付
けし、縦横比を調整するなどして「天空図屏風シリーズ」と題する一連の作
品を制作したのであって、本件染描紙15から20の模様を変えることなく、
これを強調することによって「空」をイメージさせる作品を作ったといえる。
これらの事情からすれば、本件染描紙15から20については、創作ノート
その他染描紙の構成や色彩に関して控訴人が記載した資料は証拠として提出\nされていないものの、控訴人は、これらの染描紙の制作にあたり、特定の色
彩を選択して、構図を考えた上で模様を配置して図柄を作り上げ、完成した\nこれらの染描紙は、実用的な目的のためのものといえる特徴と分離して、美
的鑑賞の対象となり得る美的特性を備える部分を把握することができる。
原審で行われた控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は、染描紙を制作
する際に用いる刷毛に含まれた水が紙の上でどのように動くのかについて完
全にコントロールすることはできず、染料を紙に染み込ませた後にどのよう
な模様が浮かび上がるのかを事前に完全に予想できるわけではないと認めら\nれる。しかし、上記のとおり、本件染描紙15から20については、控訴人
が空の情景を意識して制作し、実際に空の情景を見出し得る模様が作り出さ
れていると認められるのであって、制作過程の中に一部控訴人のコントロー
ルが及ばない部分があることや、完成した模様が控訴人の事前の想定と完全
には一致しないことがあるとしても、そのことをもって、本件染描紙15か
ら20が著作物と認められないことにはならない。
・・・
控訴人は、染描紙につき、和紙と分離して無体物である「染描」部分だけ
を利用することを包括的に許諾したことはなく、翻案等も含めた利用を包括
的かつ黙示に許諾してはいないと主張する。
しかし、控訴人が控訴人店舗に掲げていた本件注意書きは、「無断転用、模
倣、複写による商業行為」を禁ずるとの内容である。この「無断転用、模倣、
複写」に、控訴人がいう「無体物」としての利用、すなわち、染描紙の購入
者が染描紙の紙自体を使わずに模様をデータ化するなどして絵画等の作品制
作において利用する行為が含まれることが明らかであるとはいえない。控訴
人は、控訴人店舗で販売された染描紙にアーティストが絵を描いたものを控
訴人ウェブサイトに掲載しており(原判決「事実及び理由」第3の1(4))、染
描紙の購入者が染描紙を自らの作品に使用することが可能である旨を示して\nいたといえ、それにもかかわらず控訴人がいう「無体物」としての利用を明
示的に禁じていなかったのであるから、控訴人店舗で染描紙を購入した者が、
本件注意書きを見て、染描紙の模様をデータ化するなどして利用する行為が
禁じられていると理解することはできなかったといえ、かつ、控訴人も、こ
うした行為を禁ずる意図を有していなかったと推認することができる。
また、控訴人は、被控訴人Y’が染描紙を利用して雑誌「和樂」の「源氏
物語」の挿絵を作成して掲載することを被控訴人Y’から伝えられながら、
被控訴人Y’による染描紙の利用を問題とせず(原判決「事実及び理由」第
3の1(5)ク)、被控訴人Y’が染描紙を利用して実際にどのような絵を制作し
て雑誌に掲載したのかを確認しなかった(控訴人本人、弁論の全趣旨)。この
事実からも、控訴人が、染描紙の購入者が染描紙を利用して他の作品を制作
することに関し、染描紙に直接絵を描くことは許諾し、染描紙の模様をデー
タ化するなどして利用することは禁じていたとの区別をしていたとは認めら
れない。
控訴人のいう「無体物」としての利用であっても、それによって作品を制
作しようとする者は和紙である染描紙を購入するのであるから、控訴人が染
描紙を制作する目的が手漉き和紙の販売の促進にあるとしても、控訴人が「無
体物」としての利用も含めて黙示に許諾することと矛盾しない。
控訴人が、染描紙について「無体物」としての利用をしようとする者に対
して明示的な許諾の意思表示をしたことがあるとしても、そのことは控訴人\nが「無体物」としての利用を含めて他の作品制作への染描紙の利用を黙示に
許諾していたことと矛盾しない。控訴人が、明示的な許諾をする際に、「無体
物」としての利用を希望する者と何らかの条件交渉を行ったことがあるのか
否か、どのような条件交渉を行ったのかは不明であり、仮に何らかの条件交
渉を行った上で明示的な許諾の意思表示をしたことがあるとしても、事前に\n利用態様を認識した場合に控訴人がその者に対して一定の条件を求めること
はあり得るといえ、やはり、控訴人が「無体物」としての利用を含めて他の
作品制作への染描紙の利用を黙示に許諾していたことと矛盾しない。
以上の事情に加え、原判決「事実及び理由」第3の5に挙げられた事情も
併せ考慮すれば、控訴人は、複製に当たる場合を除き、「無体物」としての利
用を含め、染描紙を用いて他の作品を制作することを黙示的に許諾していた
と認められる。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)39895等
こちらに、問題となった展示物などがあります。
◆画像
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2024.02.23
令和5(行ケ)10018 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年1月30日 知的財産高等裁判所
不使用取消審判段階では、証拠を提出せず、知財高裁で使用証拠を提出し、不使用取消審決が取り消されました。
ア 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(1)のとおり、平成3年最高裁判決
は、本件において適用されるべきではなく、本件訴訟において、原告によ
る本件訴訟の使用に関する新たな立証を許すべきではないと主張する。
しかし、商標法50条2項本文は、商標登録の不使用取消審判の請求が
あった場合において、被請求人である商標権者が登録商標の使用の事実を
証明しなければ、商標登録は取消しを免れない旨規定しているが、これは、
登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件と
し、その存否の判断資料の収集につき商標権者にも責任の一端を分担させ、
もって審判における審判官の職権による証拠調べの負担を軽減させたも
のであり、商標権者が審決時において使用の事実を証明したことをもって、
商標登録の取消しを免れるための要件としたものではないと解される(平
成3年最高裁判決)。平成3年最高裁判決の事案も、本件と同様、審判手続
段階において、商標登録取消請求の被請求人が商標使用の事実について何
ら主張立証しなかったものであり、本件において原告が本件審判手続の中
で本件商標の使用に関する主張立証をしなかったことにより、平成3年最
高裁判決が説示した商標法50条2項本文の上記趣旨が本件に当てはま
らないとは解されない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。
イ 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(2)アないしエのとおり、本件商標
の使用の事実が立証されたとはいえない旨主張する。
(ア) 前記第3の2〔被告の主張〕(2)アについて
証拠(甲13〜15)及び弁論の全趣旨によって、「Pleasure」の文字
が記載された本件眼鏡フレームを、オリエント眼鏡が原告の下請けとし
て製造し、原告に納入したものであると認められることは、前記(4)のと
おりであり、原告が、本件眼鏡フレームを使用した眼鏡を、原告の経営
する店舗で販売したことは、商標法50条2項にいう「登録商標の使用」
に当たると認められる。
甲1の1ないし3の写真は、本件眼鏡フレームが存在することを立証
するものであり、甲2の1ないし5等その他の証拠と併せて、要証期間
内に原告が商標を使用した事実を立証するものであるから、甲1の1な
いし3の写真の撮影日が要証期間内ではないことをもって、原告が要証
期間内に商標を使用した事実が立証されていないとはいえない。
甲1の1ないし3の写真に撮影されている眼鏡が眼鏡フレームのみな
らずレンズにも「Pleasure」の文字が存在している一方、原告のウェブ
サイトに掲載された「オグラ眼鏡店オリジナル」の商品の中に眼鏡のレ
ンズ部分に商標が刻印されているものが存在しないとしても、甲1の1
ないし3の写真に撮影されている眼鏡が実際に販売されたものであると
認められないことにはならない。
(イ) 前記第3の2〔被告の主張〕(2)イについて
甲2の1ないし5の「お客様カード」は、「Pleasure」の文字が記載さ
れた本件眼鏡フレームを用いた眼鏡の販売の事実を立証する証拠である。
原告は、これらの「お客様カード」に上記商標を記載したことが商標法
2条3項8号にいう「取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し」
た行為に該当するなどとは主張立証していないから、上記「お客様カー
ド」が同号にいう「取引書類」に該当しないとしても、前記(2)ないし(6)
の認定及び判断は左右されない。
ジャーナル(甲7の1ないし4)及び日計表(甲8の1・2)には、\n「オグラ眼鏡店亀有店」との記載があるが、これらの書類に記載された
店舗の電話番号は、原告のウェブサイトに記載されたオグラ眼鏡店イト
ーヨーカドー亀有駅前店の電話番号と同一であるから(乙4の1ないし
6)、上記資料に記載された「オグラ眼鏡店亀有店」はオグラ眼鏡店イト
ーヨーカドー亀有駅前店を指すと認められ、このことからすれば、甲2
の1ないし5の「お客様カード」に記載された「亀有店」もオグラ眼鏡
店イトーヨーカドー亀有駅前店を指すと認めることができるのであって、
これらの「お客様カード」は、オグラ眼鏡店イトーヨーカドー亀有駅前
店における売上げに関する資料であると認められる。
ジャーナル(甲7の1ないし4)は、これのみをもって本件眼鏡フレ
ームを用いた眼鏡の販売の事実を立証するものではなく、甲2の1ない
し5の「お客様カード」等の証拠を併せて上記販売の事実が立証されて
いるといえるから、甲7の1ないし4に本件商標あるいは「Pleasure」
の商標が記載されていないとしても、前記(2)ないし(6)の認定及び判断は
左右されない。
(ウ) 前記第3の2〔被告の主張〕(2)ウについて
前記(2)ないし(6)のとおり、甲4以外の証拠により、「Pleasure」の記載
のある眼鏡フレームを用いた眼鏡の販売の事実が立証されているといえ
るから、甲4に関する被告の主張は前記(2)ないし(6)の判断を左右しない。
なお、被告は、甲4が「商品に関する広告、価格表若しくは取引書類」\n(商標法2条3項8号)に該当しないから、商標の使用を立証するため
の証拠とならないという趣旨の主張をする。しかし、原告は、甲4を同
法2条3項8号にいう「取引書類」に該当すると主張するものではなく、
「Pleasure」の記載のある眼鏡フレームを用いた眼鏡の販売が同法50
条2項の使用に該当する旨主張しているのであり、このような使用を立
証するために証拠として提出する資料が上記「取引書類」に該当する必
要もないから、被告の主張は失当である。
(エ) 前記第3の2〔被告の主張〕(2)エについて
現在の原告のウェブサイトの「オグラ眼鏡店オリジナル」の箇所に
「Pleasure」又は「PLEASURE」という名称の商品が掲載されていない
としても、そのことをもって、前記(2)ないし(6)の認定及び判断は左右さ
れない。
乙3の1ないし6及び乙4の1ないし6のウェブサイトの画面が、甲
2の1ないし5において「Pleasure」の記載のある眼鏡フレームを用い
た眼鏡が販売されたとされる時期(令和2年11月11日から令和3年
3月7日)の原告のウェブサイトの画面であるか否かは、乙3の1ない
し6及び乙4の1ないし6の画面の内容からは明らかでない。また、仮
に上記画面が上記時期における原告のウェブサイトの画面であり、この
ウェブサイトに「Pleasure」又は「PLEASURE」の名称の商品が掲載さ
れていなかったとしても、このことから、上記時期において原告の店舗
で「Pleasure」の記載のある本件眼鏡フレームを用いた眼鏡が販売され
たことがあり得ないということはできない。
「オグラ眼鏡店新宿サブナード店」の店員が、令和5年4月29日、
被告代理人に対し、「『Pleasure』という商品は扱っていない、在庫切れ
ではなく全ての店舗において既にその商品はない、昔はあったが現在は
取り扱いがない。」という趣旨の回答をしたとの事実を裏付ける証拠は何
ら提出されていない。また、仮に、上記店舗の店員が上記発言をしたと
しても、その発言の根拠は明らかでなく、前記(2)ないし(6)の認定及び判
断を左右するものではない。
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2024.02.23
令和5(行ケ)10079 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年12月26日 知的財産高等裁判所
商標「地球グミ」に対して、正式名称「Planet Gummi」が、「地球グミ」として周知であるとして、無効審判を請求しました。特許庁は理由無しと判断しましたが、知財高裁は、4条1項10号違反の無効理由有りと判断しました。
ア 前記1において認定した事実によると、引用標章1の周知性に関し、次の事
情が認められるというべきである。
すなわち、原告商品は、外国の会社が製造する菓子であり、その名称を「Tro
lli Planet Gummi」、「Planet Gummi」などとする
ものであって、原告商品又はその包装若しくは個包装には、日本語からなる「地球
グミ」との文字は記載されていない。しかしながら、原告商品は、平成30年頃、
動画投稿者及びその閲覧者を中心に韓国において大流行したところ、この流行が日
本にも飛び火し、原告商品は、令和2年頃からは、日本においても、動画投稿者及
びその閲覧者を中心に大流行し、遅くとも原告が原告商品の輸入販売を開始した同
年10月までには、全国に店舗を展開する小売業者の中に、原告商品を「地球グミ」
と称してこれを宣伝する者が現れるようになった。原告が原告商品の輸入販売を開
始した後についてみても、原告商品は、大人気を誇り、小売業者の店舗における販
売開始後すぐに完売となるという事態が相次ぎ、その入手が極めて困難な商品とな
った。原告が原告商品の輸入販売を開始して以来、全国に店舗を展開する小売業者
らは、原告商品を「地球グミ」と称してこれを繰り返し宣伝し、また、原告商品は、
動画投稿サイトにおいても、「地球グミ」と称する商品として大人気を博していた。
そのような原告商品は、令和3年6月、「地球グミ」と称する大人気商品として、
全国紙による新聞報道及び在阪の準キー局によるテレビ報道がされるまでに至り、
同テレビ報道においては、同年上半期にはやった飲食物としてZ世代が選ぶランキ
ングにランクインした。原告商品は、翌7月、同様の人気商品として、在京のキー
局によるテレビ報道がされるに至り、20代前半の若者が皆知っていることとして
紹介された(なお、原告は、遅くとも同年6月には、テレビ番組において、原告商
品を「地球グミ」と称しており、また、遅くとも同年9月には、原告商品を「地球
グミ」と称する宣伝をするようになった。)。
さらに、「地球グミ」と称する原告商品は、同年11月、動画投稿サイトへの投稿がきっかけで人気となった作品又は商品の例として、著名作家の小説、有名シンガーソングライターの楽曲等と並べて紹介されるとともに、渋谷区にある著名な商業施設の運営会社による調査(15歳から24歳までの女性545名を対象としたもの)の結果である「SHIBUYA109lab.トレンド大賞2021」なる賞においても、その「カフェ・グルメ部門」の2位に入賞した。このような「地球グミ」と称する原告商品の令和3年までの動向を踏まえ、令和4年1月に発行された「現代用語の基礎知識2022」においては、令和3年中に注目された物(食に係るヒット商品)として、原告商品の俗称たる「地球グミ」の語が取り上げられるに至った。\n
以上の事情に照らすと、「地球グミ」の語(引用標章1)は、遅くとも本件査定
日(令和4年2月22日)までには、原告又は原告商品の製造業者の業務に係る商
品(原告商品)を表示するものとして、需要者(引用標章1が使用される商品の内\n容及び性質並びに前記1の事実に照らすと、若者を始めとするグミキャンディの消
費者であると認められる。)の間に広く認識されている商標に該当していたものと
認めるのが相当である。
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2024.02.23
令和5(行ケ)10015 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年12月11日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が維持されました。甲2発明を組み合わせる動機づけ無しです。
ウ 甲1発明と甲2の技術的事項とを組み合わせる動機付けについて
前記イのとおり、甲2発明の気体吹込羽口の周囲に使用するマグネシ
ア−カーボン煉瓦は、酸素吹込みによって生じるホットスポットによる
高熱や不活性ガス吹込みによる冷却作用により、激しい温度勾配や熱衝
撃が加えられるという過酷な環境下の内張煉瓦として使用される前提に
おいて、目地損傷原因の目地開きを生じせしめるクリープ変形を防ぐこ
とによって、損傷防止が図られるものとなっている。
これに対し、甲1発明のN2ガスを吹き込むガス吹き込み用マグネシ
ア・カーボン質耐火物は、前記第2の2(3)アの[甲1発明の内容]記載の
とおり、それ自体が気体を吹き込む部材となっている点において、甲2
発明の内張煉瓦とは態様が異なる上に、甲2発明の気体吹込羽口のよう
にホットスポットによる高熱を生じさせる酸素を吹き込むことは想定さ
れていないものということができる。
そうすると、温度勾配や熱衝撃の点において、甲2発明の煉瓦のほう
が甲1発明の耐火物よりも損傷しやすい過酷な環境にさらされる蓋然性
が高いということができ、そのような甲2発明の煉瓦では目地開きを生
じせしめるクリープ変形を防ぐことが特性として重要であるとしても、
それとは使用態様や使用環境の異なる甲1発明の耐火物にも、当然同じ
特性が求められるものとはいえないというべきである。
そうすると、当業者であっても、甲1発明と甲2の技術的事項とを組
み合わせて、相違点2に係る特定事項を得る動機付けがあるとはいえな
いということができる。
なお、この点につき、甲3には、前記第2の4記載のとおり、「ごく一
部の大型煉瓦などは800゜C)から1200゜C)程度の還元雰囲気下で焼成
し」、「焼成後に消化防止、低気孔率化のためピッチ含浸されることが多
い。」と記載されているのであって、その記載内容が相違点2に係る特定
事項を得る動機付けについての認定を左右しないというべきである。
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2024.02.23
令和5(ワ)70028 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和5年12月22日 東京地方裁判所
発信者情報開示請求が棄却されました。理由は、ファイル共有ソフトであるBitTorrentによるファイル共有行為について、”UNCHOKEの通信がされたとされる時点では公衆送信可能\となったとは認められないというものです。同様の判決は、他にもあります(令和4(ワ)23937号、令和5(ワ)70041号など)。
以上のような本件調査会社の説明を前提とし、本件調査結果について本件調
査会社の説明のとおりの事実が認められる場合、本件各通信をしたピアにおい
ては、「UNCHOKE」の通信をする時点より前の時点で、既に本件動画のフ
ァイルの少なくとも一部が複製されて当該ピアに記録された上で、当該ピアが
インターネットに接続されビットトレントのネットワークにも接続されるな
どして、本件動画のファイルのピースが他のピアに自動公衆送信(アップロー
ド)し得る状態になっていたこととなる。
そして、既に述べたとおり、ある行
為により自動公衆送信し得るようにされた著作物について、別途、著作権法2
条1項9号の5のイ又はロに該当する行為がされたときに再び「送信可能化」\nに該当する行為がされたといえると解されるが、本件においては、「UNCH
OKE」の通信がされたとされる時点において、本件動画について、更に、同
号のイ又はロに該当する何らかの行為が行われたことを認めるに足りない。
なお、特定電気通信による情報の流通によって権利が侵害されたことに関し、そ
れ自体では権利侵害性のない通信について、プロバイダ責任制限法は、「侵害
関連通信」(プロバイダ責任制限法5条3項)を総務省令で定めるとして、その
範囲を明らかにしている。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び
発信者情報の開示に関する法律施行規則5条は、侵害関連通信として複数の通
信を定めるところ、そこに上記の「UNCHOKE」に該当する通信が規定さ
れているとは認められず、また、「UNCHOKE」の通信時点において、本件
調査会社の端末に対して本件動画のファイルのピースが送信(自動公衆送信)
されているともいえない。
(3) 原告は、本件各通信が「UNCHOKE」の通信であると特定した上で、本
件各通信に係る発信者情報についてプロバイダ責任制限法5条1項に基づき
その開示を請求しているところ、以上に述べたところによれば、本件調査結果
に至る手法と本件調査会社の説明に基づく「UNCHOKE」の通信の内容に
よると、直ちに本件各通信に係る情報の流通によって、公衆送信権が侵害され
たと認めることはできない。また、その他、本件各通信に係る情報の流通によ
って、公衆送信権が侵害されたことを認めるに足りる事情の主張、立証はない。
◆判決本文
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2024.02.23
令和5(ネ)10058 特許権移転登録抹消登録請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年12月11日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権を譲渡した事実はないのに、本件特許権の移転登録手続の抹消登録手続を求めましたが、1審、控訴審とも、請求を棄却しました。
前記認定事実に基づき、控訴人が、被控訴人の取締役会決議がないこと
を知り、又は知ることができたかについて、以下検討する。
本件特許権の譲渡が会社法362条4項1号に規定する「重要な財産」
として、本件特許権の譲渡当時取締役会設置会社であった被控訴人におい
て取締役会決議を経る必要があったことについては当事者間に争いがな
い。
前記認定事実によれば、令和2年10月5日頃に、Dは、Aに対し、本
件特許権の譲渡につき取締役会議事録の提出を要求しているところ(乙1
1)、Dの供述によれば、同日、Aから「Bも了解しているし、社内手続も
大丈夫です」との説明を受けた(原審における控訴人代表者Dの陳述記載\n書面3頁)とするが、仮にDの上記供述が事実であったとしても、Dは、
そもそも本件特許権の譲渡について取締役会の決議が必要であると十分\nに認識していたのであるから、Aの上記説明だけを聞いてそれをうのみに
したというのであればあまりに軽率というほかなく、上記説明を前提とす
れば同日から本件移転登録申請までの間にその提出を求めることも十\分
可能であったし、議事録の提出が得られないのであれば、B本人に確認す\nることも容易であったというべきである。にもかかわらず、そのような行
動に出ることはなく、本来、特許権譲渡の移転登録手続を急がなければな
らない事情は何ら存しないのに、Aとの間で本件特許権の譲渡の話に及ん
だ翌日には、弁理士に譲渡証書の作成を依頼し、その二日後にはAに対し
本件譲渡証書に改印後被控訴人代表者印を押印させ、その翌日には本件移\n転登録申請手続に及ぶというように、移転登録申\請を早急に進めたことは
極めて不自然というほかない。
この点に関して、控訴人は、被控訴人において適時適切に取締役会議事
録を作成していたかは疑わしいから、Dにおいて、本件特許権の移転登録
手続を経る前に取締役会議事録の提出を求めることは現実的ではなかった
し、移転登録手続を急いだ理由は、「早急な解決を図りたい」というAの意
向を受けてそれが妥当だと考えたからにすぎないなどと主張する。
しかし、取締役会議事録が作成されていないとの疑念を抱いていたので
あれば、なおさらのこと、本件特許権の譲渡につき取締役会の承認があっ
たかどうかをA以外の被控訴人の取締役などに確認しなければならないは
ずであるし、ましてや、控訴人はB以外の被控訴人の取締役は名目的な存
在にすぎないと主張するのであるから、Bが本件特許権の譲渡を承認して
いない限り、取締役会の承認は得られないと認識していたはずであるから、
B本人に確認すべきであったというべきである。また、いかに早急な解決
を図りたいといわれたとしても、会社内の十分な意思疎通を確認すること\nなく、被控訴人の取締役会の承認が必要な本件特許権の移転登録手続を上
記のような異常な速さで実現しなければならない理由にはならないという
べきであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。
また、本件特許権が被控訴人にとって重要な財産であることは控訴人も
認めるところであり、前記イ(イ)ないし(エ)に照らせば、控訴人は、被控訴
人が本件特許権を実施することにより収益を得ようと企図していたと認
識していたとするものである。これらの事情に照らすと、控訴人において、
被控訴人が競合他社である控訴人に対し本件特許権を無償で譲渡するこ
とはないと考えるのが通常である。仮に、Bが控訴人に対して競業避止義
務違反となる行為又は海外医療旅行株式会社の代表取締役として本件販\n売業務委託契約違反となる行為を行った事実があるとしても、本件特許権
の特許権者は被控訴人であり、被控訴人がB又は海外医療旅行株式会社の
上記義務違反の責めを負う理由はないし、仮に被控訴人として上記Bの義
務違反に責任を感じ、謝罪の意味で何らかの対応をとるべきと認識したと
しても、たとえ謝罪の意味であったとしても本件特許権を無償で譲渡しな
ければならない必然性はないというべきであるから、Aにおいてこれを理
由として本件特許権を控訴人に譲渡するとDに話したのであれば、Dとし
てはまずはそれが真実なのかを確認するのが当然といえ、D自身もそう思
ったからこそ、Aに対して取締役会議事録を要求したものと認められる。
そして、そのことは、前記イ(エ)のとおり、本件特許権に関し特許情報を検
索して確認していた控訴人においても、当然に認識していたものというべ
きである。
この点に関して控訴人は、被控訴人の実質的な経営者はBであり、被控
訴人の株主や取締役の構成に照らしても、被控訴人の行為はBの行為と同\n視できるから、被控訴人が上記義務違反の責任を負うなどと主張する。
しかしながら、本件全証拠を精査しても、被控訴人の法人格を否認して、
被控訴人の行為をBの行為と同視することを認めるに足りる証拠は存しな
いというべきであるから、被控訴人の上記主張は採用することができない。
加えて、そのような本件特許権の譲渡について、契約当事者双方が署名
し押印する譲渡契約書が作成されていないのは、会社間の契約として著し
く不自然であるし、それを措くとしても、本件譲渡証書の作成に当たり、
Aが被控訴人代表者印を改印したこと自体も極めて不自然というべきであ\nる。なぜなら、当時、改印前被控訴人代表者印はBが保管していたのであ\nるから、もし、Dが、Aから「Bも了解しているし、社内手続も大丈夫で
す」との説明を受けたというのが事実であるならば、本件譲渡証書の押印
に当たり、AがBから改印前被控訴人代表者印を借りるなどして押印すれ\nばよく、特許庁に本件譲渡証書を提出する前日にわざわざ代表者印を改印\nしなければならない必要性は何ら認められないからである。
以上の事実を総合考慮すると、上記のような極めて不自然な本件特許権
の移転に関し、取締役会議事録の提出を受けず、A以外の取締役に取締役
会の承認の事実を確認することもなく、あえて本件移転登録申請を早急に\n進めた控訴人代表者のDは、本件特許権の譲渡がAの単独行為であって、\nBの承諾なしにされたこと、すなわち、取締役会決議が存しないことを知
っていた(悪意)ものと認めるのが相当である。
以上によれば、控訴人は、本件特許権の控訴人への譲渡につき、被控訴
人の取締役会決議を経ていないことについて悪意であったと認められる
から、本件特許権の譲渡は民法93条1項ただし書に準拠して無効となる
と認めるのが相当である。
◆判決本文
原審はこちら。
◆東京地裁令和3(ワ)8940
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2024.02.23
令和5(ネ)10026 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年1月31日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特許権侵害訴訟の控訴審判決です。原審は、被告製品は本件発明2の技術的範囲に属さない、本件発明1は公然実施発明Bであって新規性を欠くとして請求棄却しました。控訴審も同様です。
ア 控訴人は、構成要件2Bを「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であることを要する」と解する根拠は、特許請求の範囲の文言にも本件発明2の課題にも
なく、当業者の技術常識等からみても非現実的である旨主張する。
イ しかし、構成要件2Bは「前記排水溝の壁面の表\面粗さが、算術平均粗
さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする」と規定してお
り、本件発明2の特許請求の範囲の文言全体をみても、排水溝壁面の表面粗さについて、一部は2.0μmを超えるが製品の一定範囲や所定の\n測定箇所が2.0μm以下であるものを含む、あるいは全体の算術平均
粗さ(Ra)の平均値が2.0μm以下であるものを含むと解すべき文
言はない。
この点は、本件明細書2の記載をみても同様である。控訴人が指摘す
る本件明細書2の記載や図面は、従来技術や実施例に係る排水溝の性状
等を特に留保なく説明するものであり、控訴人が主張するように、作業
過程で異常(イレギュラー)が発生した箇所があることを前提とし、こ
れを除いた「任意の箇所」を示すものであることを窺わせる記載はない。
控訴人は、1)製紙用弾性ベルトの排水溝は、作業前に設定した加工条
件に基づいて均一的に連続加工されるものであること、2)作業時の諸要
因によって加工結果にばらつきが生じることが避けられないこと、3)排
水溝の壁面を全長にわたって測定する作業は現実的に不可能であり、任意に選定された排水溝の壁面を測定する作業によって製品の性状を把握\nするという、当業者の技術常識を考慮すべき旨主張する。
しかし、上記のとおり明確な構成要件2Bの文言について、明細書にも記載がなく、その範囲も不明確な例外を含むと解することは、不当な\n拡張解釈というべきであって、特許請求の範囲の解釈に当たって当業者
の技術常識を考慮するという枠組みを超えるものといわざるを得ない。
控訴人の主張は、当業者が定める自社製品の品質基準としてはともかく、
独占権が付与される特許請求の範囲の解釈としては採り得ない。
なお、控訴人が指摘する大阪地方裁判所平成15年(ワ)第10959号
同17年2月28日判決は、控訴人の主張を裏付けるものではない。
ウ したがって、原判決判示のとおり、構成要件2Bは「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であること」を要すると解するのが相当である。
そうすると、控訴人が主張する<ステップ1>から<ステップ2の2
B>まで、すなわち「各測定結果に係る9溝ないし18溝のデータ数値
を参照し、特定の溝壁面の表面粗さ数値が他の溝の同一壁面に比して突出して高くなっている」ものを「当業者からみて明らかに溝加工作業時\nに生じた異常(イレギュラー)」として除外すること、及び「測定結果
に係る各壁面の表面粗さの平均値が算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下である結果が得られているか否か」(控訴人の他の主張と併せると、\n任意の測定箇所の算術平均粗さの「平均値」が2.0μm以下であるこ
とを意味すると解される。)により充足性を判断する判断手法は、構成要件2Bを逸脱する独自の解釈に基づくものといわざるを得ず、採用で\nきない。
・・・
(2) 公然実施発明Bに基づく本件発明1の新規性欠如の有無について
イ 公然実施をされた発明に当たるかについて
(ア) 控訴人は、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面にD
MTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可能な分析方法によって知ることができなかった旨主張する。\n
(イ) しかし、まず、証拠(乙37、124、128、129)によれば、
エタキュアー300は、本件特許1の出願前から実用化され、ウレタン
用の硬化剤として注目されていたことが認められる(原判決44頁〜)。
控訴人は、上記文献等はシュープレス用ベルトに使用される硬化剤に
ついて言及するものでないと主張するが、上記文献等はポリウレタン全
般向けの硬化剤としてエタキュアー300を説明するものであるところ、
シュープレス用ベルトに利用される硬化剤が他の一般的なポリウレタン
の硬化剤と異なるとみるべき根拠はない(上記文献等には、代表的な従来品が本件明細書1【0003】に従来のシュープレス用ベルトの硬化\n剤として記載されているMOCAである旨の記載も複数ある。)。
また、被控訴人は、遅くとも平成9年7月時点ではエタキュアー30
0を使用していたところ(原判決45頁)、上記ア(イ)の認定事実によ
れば、被控訴人は硬化剤としてDMTDAを使用することを独自に見出
したのではなく、エタキュアー300を製造販売するアルベマール社の
国内関連会社との取引を契機として知ったと認められる。この事情は、
他の当業者が硬化剤の候補としてエタキュアー300に着目する蓋然性
を裏付ける事情となることは明らかである。
控訴人は、さらに、ポリウレタンの硬化剤はDMTDAの他にも約8
0種類存在し(甲43)、その全てについて標準品を準備して分析依頼
を行うことは非現実的であると主張する。
しかし、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(乙128)に「実用化
されている熱硬化PUエラストマー用芳香族ジアミン架橋剤」として記
載された5種類、あるいは特開2000−248040号公報(乙12
7)にポリウレタンプレポリマーと反応させるアミン硬化剤組成物とし
て記載された芳香族ポリアミンの15種類、その中でも好ましいと記載
された4種類には、いずれもエタキュアー300又はDMTDAが含ま
れており、当業者は、従来用いられているMOCA(本件明細書1【0
003】)と同類であるこれらの硬化剤を想定するとみるのが自然であ
る。
(ウ) 控訴人は、ベルトの外周面に着目し、外周面のみを切り出して分析を
依頼することは、当業者が通常に利用可能な分析技術とはいえない旨主張する。\nしかし、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の
層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤と
を混合してベルトの弾性材料とすることは技術常識であり(原判決44
頁)、自由に解析等をなし得る状態に置かれたベルトを解析して構造等を特定することは可能\であったと認められる(このことは甲25に記載された断面写真から明らかであり、原判決の認定に問題はない。)。
したがって、ベルトBの外周層を切り出して分析を依頼することは、
本件訴訟において控訴人(甲10の1〜4)及び被控訴人(乙1〜3)
が行ったのと同様、本件特許1出願前の当業者にも可能であったと認められる。\n
なお、当業者が仮に外周層と内周層に異なる硬化剤を用いる製造方法
を認識せず、これらを区別せずに分析を依頼した場合、全体について硬
化剤としてDMTDAが使用されているという分析結果を知ることにな
り、この結果はベルトBの正しい構成なのであるから(乙32)、「外周面を構\成するポリウレタンは、」「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている」との構成を含め、本件発明1の内容を知り得たといえることに変わりはない。\n
(エ) したがって、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面に
DMTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可
能な分析方法によって知ることができたと認められる。ベルトBが公然実施された発明とはいえない旨をいう控訴人の主張は採用できない。\n
◆判決本文
原審はこちら。
◆大阪地裁平成29(ワ)4178
原審では、被告は、一旦、損害論に入ってから、2.0μm以下である」との構成要件を充足しないとして、非侵害の主張を行いましたが、これは「時機に後れた」とは認定されませんでした。
原告は、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわ
らず、被告は、被告製品1〜3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁
面の表面粗さの測定結果(乙152〜159)を新たに証拠提出するとともに、非侵害の主張を行ったことが時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を主張する。\nしかし、被告が前記証拠等を提出したのは、原告が、訴状においてはイ号製品
が本件発明2の技術的範囲に属する旨を主張しつつも、被告製品1〜3及び5の
排水溝壁面の表面粗さに限定して立証活動をしていたが、裁判所が本件発明2については損害論に入る旨の心証開示を行ったことを受けて、被告製品1〜3及び\n5の各製品と同じシリーズの製品等についても本件発明2の技術的範囲に属する
旨を改めて主張したことに対応するものであって、必ずしも時機に後れたものと
は認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。
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2024.02.19
令和5(行ケ)10076 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年1月30日 知的財産高等裁判所
立体商標について、3条2項を主張しましたが、知財高裁はこれを否定しました。
商標法3条2項は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、
「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを
認識することができるもの」については、商標登録を受けることができる旨
を規定している。同条2項の趣旨は、同条1項3号から5号までに該当する
商標であっても、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用
した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて自他商品識別力
又は自他役務識別力をもつに至ることが経験的に認められるので、このよう
な場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。
そして、立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得した
かどうかは、当該商標の形状の斬新性、当該形状に類似した他の商品の存否、
当該商標の使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣
伝のされた期間・地域及び規模等の諸事情を総合考慮し、立体的形状が需要
者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上
で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを
判断するのが相当である。
・・・
ア 本願商標の立体的形状の構成は前記第2の1(1)及び前記1(2)アのとおり
であり、その形状は、ラベルプリンター用テープカートリッジとしての商
品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであると認\nめられる。
しかも、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッ
ジにおいても、印字用テープをロール状にして収納する部分や、印字用テ
ープの巻取りや送り出しをするための輪状の部分を有し、ケースの覆いが
透明又は半透明となっている製品が複数存在し(前記1(2)ウ)、本願商標の
形状と、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッジ
の形状とは、一定の差異はあるが、主要な構成要素が共通しており、本願\n商標の形状の斬新性は乏しく、本願商標の形状に類似した他の商品が存在
すると認められる。
イ 「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターは平成4年から販売さ
れており(前記(2)ア)、同時期に「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ
リンター用テープカートリッジである本件商品も販売が開始されたもの
と推認される。本件商品の形状が販売当初において現在と異なるものであ
ったと認めるに足りる証拠はなく、本件商品はその販売当初から本願商標
の形状が用いられていたと認められる。
しかし、本件商品について、原告カタログに掲載されていることは認め
られるものの、本件商品のみを扱った広告宣伝がされたとは認めるに足り
る証拠はない。
また、本件商品は箱に入った状態で販売されており(前記(2)ウ)、店舗に
おいて本願商標の形状が顧客に示されないと認められる。箱には、原告の
社名を示す「KING JIM」の文字や、「TEPRA」、「PRO」等、
「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター用テープカートリッジで
あることが分かる文字の記載、テープの幅や色等を示す記載等がされてい
る。原告のウェブサイトで本件商品を紹介する画面には、箱から出された
本件商品が表示されており、本願商標の形状が示されているが、「KING\nJIM」、「TEPRA」、「PRO」等の文字が記載されたシールの貼られ\nた状態の写真であり、箱も表示されている上、ウェブサイト上の記載とし\nても「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターであることが示され
ている(甲102〜104)。原告カタログも、箱から出されてシールの貼\nられた状態の本件商品とともに、箱が表示されている(前記(2)ウ)。
そして、本件商品は、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター
用のテープカートリッジであり、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ
リンターを所持する者が、新たなテープカートリッジが必要となった場合
に購入する商品であるといえ、需要者は、「『テプラ』PRO」シリーズの
ラベルプリンター用テープカートリッジであること及びテープの色、幅等
の情報を基に、本件商品の中から特定の商品を購入すると考えられるので
あり、これらの情報は、本件商品の箱やインターネット上の記載において
表示されている。したがって、需要者である一般の消費者は、本願商標の形状からではなく、箱やシールに記載された文字、あるいはウェブサイト上に記載された\n説明の記載から、本件商品を他の商品と識別すると考えられる。
ウ 本件調査の結果は、本願商標の形状が明らかな写真を示した上で回答さ
せたところ、自由回答では、写真に撮影された商品を販売する企業名及び
商品名の両方を誤った者が回答者全体の約6割を占め、選択肢に「テプラ
(TEPRA)」を入れて商品名を選ばせる質問を含めても、自由回答によ
る質問及び選択問題の全てを誤った者が全体の約半数にのぼった。
また、本件調査では、設問の中で、回答の理由を聴取し、その理由から
明らかにいい加減な回答(ノイズ)をしたと判別できる調査対象者を除い
た集計も行ったが、ノイズを除くと、上記写真に撮影された商品を販売す
る企業名又は商品名のいずれか一方を正答した者は回答者全体の31.
0%にすぎず、選択肢を示して回答させる質問でも、ノイズを除くと、上
記写真から「テプラ(TEPRA)」の商品名を選択した者は回答者全体の
35.8%にすぎないという結果となった。
エ 上記アからウまでの事情を総合すれば、本件商品が販売開始から約30
年が経過していること及び販売地域が全国であることを考慮しても、本願
商標が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったということ
はできないから、本願商標が使用により自他商品識別力を有するに至った
と認めることはできず、この判断を覆すに足りる事情は認められない。
◆判決本文
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2024.02.19
令和5(ネ)10089 損害賠償等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和6年1月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、「朝の雀6mmテープ」について、無断複製して持ち出したことが、レコード製作者の権利を侵害するとして、50万円の損害賠償を認めました。知財高裁はこれを維持しました。
これに対し、一審原告は、本件合意書9条1項にいう『著作権を有する
音源又は著作権使用許諾を受けた音源』については、著作権の有無にかか
わらず、一審原告が保有する全ての音源を指すものであると主張する。
しかし、一審被告はこれを否定しているところであり、B’も、本件合
意書締結に向けての2度の面談において、一審原告の上記立場を説明した
とはするものの、これについて一審被告が明確に同意した旨を証言等する
ものではない(原審における B’の尋問調書、甲38(B’の陳述書))。ま
た、一審被告が退職に当たり一審原告のもとにおいて使用した音源データ
の全てを返却したとすることについて、仮に B’と一審被告との間で、一
審原告が著作権を保有し、又は著作権使用許諾を受けた音源に限らず、一
審原告在職中に一審被告が取得した音源のデータの全てを返却する旨の
合意ができた事実に基づくものとしても、これは本件合意書3条に基づく
平成29年12月末日と8条の業務終了日のいずれか早い方までの音源
のデータの返却についてのものであり、これにより直ちに、本件合意書9
条4項の、その使用につき損害賠償義務の発生する音源の対象についても、
上記同旨の合意ができたものとすることはできない。
さらに、一審原告の主張するように、本件合意書9条についても、その
著作権との文言にかかわらず、一審原告の保有する全ての音源を指すもの
として当事者間に合意が成立したのであれば、その旨を本件合意書に加筆
するか訂正をすればよく、この点、一審原告においても、音源について著
作権法上の著作権が成立するか分からないものが含まれていることを明
確に認識していたのであるから(原審における証人 B’の尋問調書)、なお
さら、そのようにするのが自然であるということができる。現に、本件合
意書の作成日付けについては、手書きで訂正がされ、その上に各当事者の
押印がされているところである(甲1)。このような加筆訂正等がされてい
ないことは、そのような合意が存しないことをうかがわせるものである。
そもそも一審原告においても、本件訴え提起の段階においては、本件合意
9条4項の、一審原告が『著作権を保有しまたは著作権使用許諾を受けた
音源』とは、1)一審原告がレコード製作者の権利を有するもの、2)一審原
告が著作権を有するもの、3)一審原告が音の使用につき権利を有する者か
ら使用の許諾を受けたもの(当該音が著作物であればその著作権を有する
者及びレコード製作者の権利を有する者から、効果音等著作物性が明確で
ないものについてはレコード製作者の権利を有する者から許諾を受ける
などして使用が可能となったもの)、の『1)から3)を指していることは容易
に理解できる』(訴状2ないし4頁)と主張していたところであり、一審原
告が保有する全ての音源を指すなどとは主張していなかったものである。
したがって、一審原告の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
一審はこちら。
◆令和3(ワ)17298
被告が、原告が保有していた「朝の雀6mmテープ」について、自身の保有
する記録媒体にこれを複製し、その後、別紙主張整理表作品1記載4の場面の音響に使用するために複製したことについては当事者間に争いがない。\n原告が被告のこの行為について本件合意に違反する旨主張するのに対し、被
告は、「朝の雀6mmテープ」については、被告と原告の間で、被告が原告在籍
時から音響を担当していたアニメ「サザエさん」に使用することを目的として、
被告が原告の音源を被告が保有する記録媒体に複製し、これを音響効果に利用
することが許諾されていて、「朝の雀6mmテープ」を被告が保有する媒体に
複製することは本件合意で禁止される「持ち出し」には当たらないと主張する。
しかし、仮に被告が主張するとおり、原告が被告に対し、アニメ「サザエさ
ん」に使用するために「朝の雀6mmテープ」を使用することを許諾したとし
ても、その許諾は、原告からの退職後に被告がアニメ「サザエさん」を引き続
き担当することについて、当初はこれに難色を示した原告も同作品のクライア
ントが同作品に関する作業を被告に委託すると決定したために最終的にこれ
を了承したという状況(乙20、弁論の全趣旨)の下で、アニメ「サザエさん」
に使用する限度で「朝の雀6mmテープ」を使用することを許諾したと解する
のが合理的である。その許諾が、同音源を、アニメ「サザエさん」に限らず、
自由に使用して良いという趣旨であるとするのは、上記状況に照らしても不合
理である。被告が主張する許諾は、仮にあったとしても、本件合意所定の「持
ち出し」や「音源」の意義を一般的に修正する合意などではなく、上記のとお
り、「朝の雀6mmテープ」をアニメ「サザエさん」に使用する場合には被告が
本件合意で定められた債務不履行責任を問わないという限度で本件合意の内
容を修正する趣旨のものと解される。
被告は、「朝の雀6mmテープ」をアニメ「サザエさん」とは異なる作品であ
る別紙主張整理表作品1記載4の場面の音響に使用した。これは、本件合意書9条1項で禁止された「持ち出し」であり、同4項所定の「音源」の「使用」\nに当たると認められ、本件合意に違反する。
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2024.02.19
令和5(行ケ)10049 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年1月31日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が維持されました。争点は、相違点の認定誤り、動機付け、阻害要因です。
(1) 原告は、引用例2及び引用例3に開示されたイメージファイバを介して照
明光を導く周知の方法はイメージファイバを振動させないものであるのに対
して、引用発明はイメージガイド2の接眼側の端部を振動させるものである
から、イメージファイバの前提構成が異なるものであって、引用発明に上記\nの周知の手法を適用する動機付けがあるとはいえない旨主張する。
(2) しかし、引用例2及び引用例3によれば、集光レンズを介して入射した光
源からの光をイメージファイバにより伝送することは、本件審決が認定する
とおり周知の手法であると認められるところ、引用例3の【0008】、及
び特開2000−121460号公報(乙2)の【0018】、【001
9】、【0029】の記載によれば、内視鏡の技術分野において挿入部を細
径化することは周知の課題であると認められるから、その課題は引用発明に
も内在していると認められる。
そして、本件審決の認定する周知の手法は、引用発明にも内在する上記の
課題の解決手段となるものであるから、引用発明にこれを適用する動機付け
はあるというべきである。
(3) 原告は、さらに、照明光を被観察物体に導くイメージガイド2の接眼側の
端部を振動させると、被観察物体の撮像にどのような影響を与えるのかが不
明であることを考慮すれば、上記周知の方法を引用発明に採用することには
阻害要因がある旨主張する。
しかし、イメージファイバを振動させる技術と、光源からの光をイメージ
ファイバにより伝送する技術とを同時に採用できないとする技術的根拠は見
当たらず、上記(2)のとおり周知の課題を解決する手段である周知の方法を
採用することは、当業者であれば容易に着想して試みるものと認められる。
(4) したがって、引用発明に引用例2及び引用例3の周知の手法を適用するこ
とによって、相違点1及び相違点2に係る構成は容易に想到し得るとした本\n件審決に誤りは認められず、原告主張の取消事由2は理由がない。
◆判決本文
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2024.02.19
令和5(ネ)1657 実験装置使用差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟 令和6年2月9日 大阪高等裁判所
科研費契約に付随する秘密保持義務違反かどうかについて争われました。1審は義務違反無しとし、大阪高裁は、これを維持しました。
1 争点(1)(被控訴人は本件科研費契約に付随する秘密保持義務に違反したか)に
ついて
(1) 前記前提事実(4)アのとおり、本件物件は関係規定に基づき控訴人らから被
控訴人に寄付されたものであるところ、控訴人らは、上記寄付を受け入れた
研究機関である被控訴人としては、本件科研費契約上、補助事業者である研
究者に代わり本件物件を科研費の交付目的に従って適切に管理することが求
められるのであり、本件物件に化体している本件情報に関する権利について
は、同契約に付随して、信義則上、上記目的外で自ら使用したり、第三者に
漏洩・開示等したりしてはならない義務(秘密保持義務)を負っている旨を
主張する。
(2) そこで検討するに、公金である補助金により購入された設備等の取り扱い
については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律を始めとする\n関係各規定により詳細が定められ、本件物件もこれに従い控訴人らから被控
訴人に寄付されたものであるところ、まず寄付とは、一般的に、公共性、公
益性を有する事業や団体などに対し、財産を贈与することであり、その目的
が物であれば、その所有権の無償による譲渡を意味するものである。そして、
大学共同利用機関取扱要領22条によると、寄付を受けた設備等は、固定資
産管理規則に基づき管理するものとされているところ、同規則11条には、
「資産管理責任者は、固定資産等を寄附により取得する場合」との記載があ
ること、平成18年12月26日付けで作成された文部科学省の「研究費の
不正対策検討会報告書」には、「現在の競争的資金等の制度においては、例え
ば機器を購入した場合(中略)個人補助の科学研究費補助金の場合、所有権
はいったん研究者に帰属し、所属する研究機関に寄付することになっており」
との記載があること(甲63の1・2)、振興会作成の科研費ハンドブックに
掲載された「科研費FAQ」には、「直接経費により購入した設備等は、研究
代表者又は研究分担者が所属する研究機関に寄付しなければなりません。【Q\n4405】」、「科研費により購入した設備等は、購入後直ちに研究機関に寄付
することとしていますので、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別
の研究等で使用することは差し支えありません。【Q44071】」との記載
があること(甲21)がそれぞれ認められ、これらの記載はいずれも、科研
費により設備等を購入した研究者がその所属する研究機関に行う寄付が、留
保を伴わない所有権の無償譲渡を意味するものであることを前提としている
と解するのが相当である。これらに加え、平成23年に締結された被控訴人、
RCNP、TRIUMF及びウィニペグ大学の4研究機関によるUCNの共
同研究に係る合意(2011年覚書)には、被控訴人が本件物件の所有権を
有している旨の定めが置かれており(原文は英文)、本件情報に関して控訴人
らが主張する権利について特段の留保は付されていないことも認められる(甲
8)。
そうすると、そもそも控訴人らによる寄付を義務付けた関係各規定にいう
寄付は一般的な寄付と同様の意味に解されるし、本件物件の寄付を受けるこ
とでその所有権を取得した被控訴人が寄付を受けた本件物件の使用、収益及
び処分について制約を受けるべき根拠は関係各規定中に見当たらないから、
控訴人ら主張に係る本件科研費契約なるものが科研費の交付決定に伴い関係
者間に成立するとしても、これに付随して、信義則上、被控訴人が、その一
方的負担となる秘密保持義務を控訴人らに対して負うことになると解する余
地はないというほかない。
(3) この点に関し、控訴人らは、科研費により取得される設備等に関し、設備
等の寄付を行った研究代表者等が他の研究機関に所属することとなる場合に\nおいて、当該研究代表者等に当該設備等の継続使用の希望があるときは、当\n該設備等を研究代表者等に返還しなければならない旨の「返還ルール」が定\nめられている旨を指摘し、同ルールは設備等(本件物件)の寄付を受けた被
控訴人において負担する上記制約の顕れである旨を主張する。
確かに、機関ルール2−3及び3−28には、上記趣旨の記載が存在する
が、他方、上記科研費FAQには、補助事業期間中に他の研究機関に異動す
る場合は、研究機関は研究機関の定めに基づき、当該設備等を当該研究者に
返還する旨【Q4405】、令和2年度以降に購入した設備等に関しては、研
究期間終了後(補助事業を廃止した場合を含む)5年以内の場合も同様に取
り扱う旨【Q4405、44071】、令和2年度以前に購入した設備等に関
しては、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別の研究等で使用する
ことも差し支えない旨【Q44071】がそれぞれ記載されている。
しかし、これらの記載からすると、少なくとも令和2年度以前において、
「返還ルール」は、補助事業期間中のルールであり、研究機関が異動する研
究者の返還請求に応じるべきであるのは、補助事業期間中に限られているこ
とを前提としているものと解するのが相当であるところ、本件物件のうち、
本件物件1に係る基盤研究Aの補助事業期間は平成12年から同14年まで、
本件物件2に係る基盤研究Sの補助事業期間は平成21年から同25年まで、
本件物件3に係る基盤研究Bの補助事業期間は平成18年から同20年まで
というのであって(甲4、16〜18、当審第1回口頭弁論調書)、本件物件
については、いずれも補助事業期間を経過している。
したがって、上記のような「返還ルール」の存在を斟酌しても、寄付によ
り本件物件の所有権を取得した被控訴人が、その使用、収益及び処分に制約
を受けることになる秘密保持義務を、控訴人らに対して信義則上負うべきも
のとは解されない。
(4) なお、本件科研費契約に付随する秘密保持義務違反にいう秘密とは、控訴
人らが本件において営業秘密と主張する本件情報と同じものと主張されてい
るが(当審第1回口頭弁論調書)、後記3(2)でみるとおり、本件情報は、本
件物件の外観を見ただけでは解析が不可能であり、控訴人らの関与なしには\nこれを取得できないというのである。そうであるとすると、本件物件をトラ
イアンフその他の第三者との共同研究の用に供しているとしても、控訴人ら
主張に係る秘密(本件情報)は明らかにされることはないことになる。まして
や、第三者が本件物件を分解して主張に係る秘密(本件情報)を探索するこ
とも想定できないから、仮に秘密保持義務を負うとしても、そもそも第三者
との共同研究の用に供されることをもって、秘密保持義務違反の状態が起き
ることはあり得ないということが指摘できる。
また、控訴人らは、秘密保持義務を根拠づけるものとして、本件物件の所
有権の所在とそれに化体しているノウハウなどの技術情報の所在とは別次元
の問題であり、寄付により本件物件の所有権を被控訴人に無償譲渡したこと
になるとしても、控訴人らにおいて本件情報に係る権利まで譲渡する意思は
なかったから、被控訴人が本件物件に化体したノウハウを自由に使用してよ
いことにはならないとも主張する。しかし、上記説示のとおり、本件物件を
研究の用に供することのみでは秘密保持義務違反の状態が起きないから、本
件物件が価値のあるノウハウを使用したものであるとしても、そのことを理
由に本件物件そのものの使用、収益及び処分に制限を及ぼすことは、結局、
設備等の寄付を無意味ならしめるものであるといわざるを得ず、控訴人らの
上記主張は採用することができない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和2(ワ)12387
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2024.02.19
令和5(ネ)10001等 損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件 著作権 知的財産裁判例 令和5年7月13日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
各動画からキャプチャした静止画をブログ上に投稿した行為について、1審は、著作権侵害として約240万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、「上記の額をそのまま採用することが相当とはいえない」として、約190万と認定しました。
控訴人による本件各動画の利用態様は、本件各動画からキャプチャした本件
静止画を本件各記事に貼り付け、これを本件ブログ上に投稿して掲載するというも\nのである。そうすると、その使用料相当額の算定に当たっては、他に映像からキャ
プチャした写真の使用料に関する証拠がない以上、前記ア(ア)のとおりのNHKエ
ンタープライズの規定を参酌するのが相当である。
なお、本件記事1ないし7は、30枚ないし70枚程度の本件静止画を用い、こ
れらをそれぞれ本件動画1ないし7における時系列に従って貼り付けた上、各静止\n画の間に、直後の静止画に対応する本件動画1ないし7の内容を1行ないし数行で
まとめた要約を記載したものであり、本件記事1ないし7の内容を見ただけで三十\n数分ないし五十数分の本件動画1ないし7の全体をほぼ把握できるようにするもの\nであって、その実質は、映像そのものに準ずるものとも解し得るが、前記アのとお
りの各使用料によると、本来であれば、静止画(写真)を使用する枚数が多くなる
と、その使用料(映像からキャプチャした写真の使用料)も高額になるところ、そ
の枚数が更に多くなり、静止画を利用したコンテンツの実質が映像に準ずる域に達
した場合に、映像の使用料が参酌されることになってかえって使用料が低額になる
というのは不合理であるから、本件記事1ないし7の上記内容を考慮しても、本件
各記事については、上記のとおり、映像からキャプチャした写真の使用料に係るN
HKエンタープライズの規定を参酌するのが相当である。
映像からキャプチャした写真の使用料に係るNHKエンタープライズの規定によ
ると、使用目的が「通信(モバイル含む)」の場合の基本料金は、5000円とさ
れ、また、写真素材使用料は、「カラー」、「一般写真」及び「国内撮影」の場合、
1カット当たり2万円とされ、さらに、証拠(甲7の1ないし8、甲8の1ないし
8)及び弁論の全趣旨によると、控訴人が利用した本件静止画は、合計362枚
(話数♯054は59枚、♯044は45枚、♯043は54枚、♯042は29
枚、♯041は57枚、♯040は73枚、♯039は38枚、♯037は7枚)
であると認められるから、これらによると、同規定に基づく使用料は、合計724
万5000円(2万円×362枚+5000円)となる。
そして、弁論の全趣旨によって認められるNHK(甲12によりNHKエンター
プライズが取り扱う映像の制作者であると認められる。)と原告チャンネルとの相
違(規模、事業内容、社会的影響等)及びNHKが制作した映像と本件各動画との
相違(コンテンツが配信される媒体、視聴者数、映像ないし動画の制作に要する費
用、労力及び時間、コンテンツとしての社会的価値等)が大きく、上記の額をその
まま採用することが相当とはいえないこと等の事情に加え、著作権侵害があった場
合に事後的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」(法11
4条3項)が通常の使用料に比べておのずと高額になることを併せ考慮すると、被
控訴人が本件各動画に係る「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は、これを
150万円と認めるのが相当である。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和3年(ワ)24148
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2024.02.19
令和4(行ケ)10081 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟__全文__知的財産裁判例 令和5年7月13日 知的財産高等裁判所
パラメータ特許について、異議申立があり、特許庁は、サポート要件違反として特許を取り消しまし。裁判所は、審決を維持しました。\n
クレームは、「・・・前記バイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8を満たす・・
本件明細書(【0014】)には、B/(B+S)を構成3の数値範囲(0.5\n≦B/(B+S)≦0.8)とすることにより所与の効果(技量が高いゴルファー
やスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクを生み出
し、シャフトがねじれすぎること又はねじれないためにシャフトが折損してしまう
ことを防止するとの効果(以下「【0014】記載の効果」という。))が得られ
ると記載されているのみであって、【0014】記載の効果が得られる理由は記載
されていないし、B/(B+S)を構成3の数値範囲とすることで被告主張の課題\nを解決できるとする理由も記載されておらず、当該数値範囲のいずれの点において
も被告主張の課題を解決できるとする理由も記載されていない。特に、B/(B+
S)の境界値を0.5及び0.8としたときに【0014】記載の効果が得られる
根拠並びに被告主張の課題を解決できるとする根拠については、本件明細書に何ら
の記載もない。原告は、本件出願日当時の当業者はストレート層の重量の割合を2
0%以上としておけば、シャフトが曲げにより折損すること(ねじれがないために
シャフトが折損すること)を防ぎ得るものと理解できると主張するが、ストレート
層の重量の割合を20%以上とする根拠はなく、本件出願日当時の当業者であって
も、当該割合につき20%以上を選択することが容易であるとはいえない。また、
【0014】記載の効果と被告主張の課題との関係及びストレート層の重量の割合
を20%以上とすることと被告主張の課題との関係も不明である。さらに、実施例
1及び比較例1をみても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とする理由は理解で\nきない(なお、比較例1におけるバイアス層の重量の割合は40%であり、実施例
1におけるバイアス層の重量の割合は60%であるところ、原告は、B/(B+S)
の下限値が0.5であることの根拠を示していない。)。原告が挙げる証拠(甲1
2、21、23)をみても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とする理由は理解\nできないし、これらの証拠には、当該数値範囲とすることで被告主張の課題を解決
できるとする理由及び当該数値範囲のいずれの点においても被告主張の課題を解決
できるとする理由は記載されておらず、当該数値範囲とすることで【0014】記
載の効果が得られることについても記載されていない。
以上のとおり、本件明細書の記載に加え、原告が技術常識であると主張する内容
を踏まえても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とすることで被告主張の課題を\n解決できるとは理解できず、また、当該数値範囲のいずれの点においても被告主張
の課題を解決できるものと評価することもできない。当該数値範囲により【001
4】記載の効果が得られる理由も不明である。
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2024.02.19
令和3(ワ)31840 職務発明対価金請求事件 特許権 民事仮処分 令和5年5月26日 東京地方裁判所
職務発明の対価として約4000万円を請求しました。裁判所は、願書には記載されているが、発明者ではないとして、請求を棄却しました。
3 争点1(原告が本件発明の発明者であるか)について
本件発明は、本件構成を有するストレーナに関する発明である。被告では、平成26年5月22日までに、F向けに本件構\成を含む本件発明の構成が記載\nされた本件図面やその他の図面が作成された上で、原価についての概算見積も
りがされ、平成27年2月13日にはFの甲工場において、実際に本件発明の
構成を有するストレーナの性能\実験がされ、同ストレーナは、実験対象の5件
の中で一番の性能ではないものの、一定の吹き戻し防止効果があることが確認された。そうすると、本件発明は、遅くとも同性能\実験の時点では完成していたと認められる。
ア 本件発明の特徴的部分は、本件構成であるところ(前記1 )、原告は、本
件構成の形状について、原告が発案したものであり、C等は原告の指示に基づいて図面を作成したにすぎないなどと主張する。\nしかし、原告は、前記2 で認定したとおり、本件訴訟の当初、本件発明
が着想され、完成するまでの具体的な経緯を説明せず、本件発明の特徴的部
分の完成に対する原告の具体的な関与の内容、時期が問題となったところ、
令和4年8月の準備書面で、平成25年初めころにジェットエンジンの形状
から着想したと主張したものの、原告が被告の社内において当該形状につい
て言及したことについて、単にC等に図面等の製作を依頼したと主張するの
みで、具体的な状況も、その時期についても明らかにしなかった。また、原
告は、本件特許の出願をした理由を記載するに当たりFに対し別の構成のストレーナの提案をしたことがあったことを述べつつ、本件構\成はDに提案したものであると主張した。しかし、前記2 ウ、エのとおり、本件構成は、Fの依頼に基づいて設計されて平成26年5月にはFに提案されたもので\nあった。また、原告が主張する平成25年初めの着想に関する証拠は何も提
出せず、それと本件図面が平成26年5月に作成されたこととの関係も不明
であった。被告はこれらの点を指摘したが、原告は、上記以上の主張をしな
かった。
その後、原告は、発明者であることについての立証の最終段階として甲2
3陳述書を提出したところ、甲23陳述書には、原告が被告に初めて逆コー
ン型の形状を提案したのは、平成26年8月末から同年9月初め頃にかけて
であり、D向けのストレーナの開発過程において、Dの担当者に逆コーン式
のストレーナを提案したときであると記載され、また、それ以前に本件構成のストレーナの設計がされなかったと記載されていた。原告は、甲23陳述\n書をもって、本件構成を被告において明らかにした時期等について初めて本件訴訟において明示したところ、そこには、その時期は平成26年8月末か\nら同年9月初め頃にかけてであり、Dの担当者に対してであることや、それ
以前には本件構成のストレーナの設計がされなかったことが明確に記載されていた。\n
これに対し、被告が書面による準備手続に係る協議において、改めて、原
告の甲23陳述書の上記記載は本件図面が平成26年5月に作成されたこ
とと矛盾することなど指摘したところ、原告は急遽陳述書を訂正したいとの
申出をし、本件図面が作成される前からもHの相談に応じて逆コーン式を提案していたなどと記載された甲25陳述書を提出した。しかし、甲25陳述\n書にもそのような提案をした具体的な時期についても状況についても記載
はなく、このことを裏付ける証拠も提出されなかった。
上記の原告の主張立証の経過及び原告が主張する原告の着想や具体的な
提案を客観的に裏付ける証拠が全くないことによれば、甲25陳述書の記載
うち、原告が、前記F向けの性能実験までの間に本件発明に実質的に関与していたと記載された部分はにわかに信用できない。\n
イ 他方、本件特許の出願に当たっては、原告がC及びBと共に発明者とされ、
前記2 キのとおり、出願を担当したIも原告を発明者として認識していた。
この点について、前記(1)で認定したとおり、本件発明はFに対するストレ
ーナの開発過程で図面が作成され、実証実験を行って完成したものであると
ころ、被告とFとの取引については本件構成を備えているものとは別の構\成
を備えるストレーナが採用され、本件構成を持つストレーナは採用されなかった。他方、平成26年5月の本件図面の作成後であり平成27年2月にF\nで行われた検証の直後には、被告とDとの取引では本件構成を有するストレーナが採用されたところ(前記2(1)オ)、上記開発過程やその採用の時期を
考えるとDに採用されたストレーナについては、Fとの関係で開発された本
件構成を備えたストレーナの知見が流用されたことが推認できる。なお、当時、本件図面を作成してF向けの実証実験をしていたCも、その開発過程で\nCの活動を承認等していたBも、Fのストレーナの開発を担当しており、D
については担当していなかったことが認められる。また、前記2 エ、オの
原告の陳述書には、Dに本件構成を有するストレーナを採用させる経緯については試作図や3Dモデルの製作を指示したなど、やや具体的に記載されて\nおり、Dにおいて本件構成を有するストレーナが採用されたことについては、原告の指示や尽力が大きかったことがうかがえる。そして、前記2 キ の
メールでのやり取りも考慮すると、被告は、本件構成を備えたストレーナについて、それを納入するDとの取引を始める前に、他人の特許出願にも対応\nすることができるように特許出願をしたことが認められる。
以上によれば、本件発明の構成を備えたストレーナは、Fの依頼に基づき平成26年5月に図面が作成されるなどしたもののFでは採用が見送られ\nた一方、原告の指示や尽力の下、Dとの取引において本件構成を有するストレーナが採用されて販売に至ったことがうかがわれること、Dとの取引の前\nに他人の特許出願にも対応することができるように本件発明が特許出願さ
れたという経緯があること、被告において出願を担当していたIはFとの依
頼に基づき本件発明がされたという経緯について詳しい事情を直接見聞き
したものではないことが推認できることなどから、Iは上記経緯等から原告
が本件発明に関与した者であると考えたか、又は本件構成を有するストレーナをDが採用する過程で尽力した者として発明者として取り扱うこととし、\n被告において、原告も発明者として本件特許の出願がされたことがうかがえ
る。このことは、原告が、当初から、一貫してFではなくDとの関係で自身
が本件構成を提案していたと主張しながら、本件構\成が被告で具体化されて
いった経緯について具体的に主張できなかったこととも整合する。
そうすると、Iが原告を発明者として扱い、被告が原告を本件発明の発明
者として出願したとしても、そのことが、前記 のとおり遅くとも平成27
年2月までに完成した本件発明の発明者が原告であることを裏付けるもの
とはいえない。
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2024.02.19
令和3(ワ)4658 損害賠償等請求事件 その他 民事訴訟知 的財産裁判例 令和5年7月10日 大阪地方裁判所
育成者権の独占的通常実施権者による損害賠償請求事件です。前訴で本件被告は、損害賠償請求義務なしの確認訴訟を提起し、これが否定されていました。裁判所は、前訴の既判力、時効を考慮し、一部の請求を認めました。
当裁判所は、争点1については、26万3368株が被告種苗1であり、被告
らは、これらの出荷について不法行為責任を負うと考えるが、争点4において判
断するとおり、前訴既判力の及ぶ部分を除く不法行為に基づく損害賠償請求権は
時効により消滅したと考える。
その上で、争点3の原告会社の不当利得返還請求権につき、これを肯定する余
地があるが、具体的に被告らが誰にどのような返還義務を負うか(争点2、3)
は、本件においては育成者権者である原告P1も不当利得返還請求を行うことか
ら、これとの相関において定まるものと考える。また、この検討と整合的な被告
らの不法行為に基づく原告P1に対する損害額(前訴既判力の対象となる請求権
等の内容)を算定する。
以下、上記の判断順序に沿って詳述する。
2 争点1(被告らが被告種苗1を使用した被告製品を販売した数量)について
(1) 証拠(甲3、4、6、16、乙1、17、22、44。枝番のあるものは枝
番を含み、認定に沿わない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によると、次の事実
を認めることができる。
ア 平成20年4月ころ、原告会社は、取引先であった商社を介して、被告会
社に本件品種に係る種苗の販売を始め、同年6月23日付けで、被告会社、
前記商社との間で、増殖を行わない、施工現場にて生育した麒麟草をカット
した補植のみ認める、当麒麟草を親とし品種改良等を行わない等の「常緑麒
麟草に関する種苗登録禁止条項を厳守する」旨が記載された覚書を交わした。
イ 被告会社は、アの覚書に従って、原告会社から前記商社を介して本件品種
に係る種苗を仕入れていたが、被告P3に指示して、平成23年5月頃から、
覚書に反する態様で被告種苗1を育成するようになった。
ウ 平成23年11月2日に原告会社から被告会社に本件品種に係る種苗が
納品された後は、覚書に基づく取引がされることはなかった。
エ 被告P3は、被告P2の指示を受け、平成24年2月頃から公知のタケシ
マキリンソウ種の増殖を始め、被告会社において、同種苗をどのように被告\n製品に使うか等の検討がされるようになった。
オ 平成25年4月頃、原告会社代表者は、同業者から、被告P3が本件品種\nに係る種苗を無断で増殖している旨を聞き、同月23日に、同業者の協力を
得て、被告P3の農場を訪問し、原告会社代表者の知見において、本件品種\nに係る種苗が増殖されている実態を見分するとともに、上記同業者が被告P
3に話を聞いた。
その際、被告P3は、前記商社から買ったものを挿し木にして増やしてい
る、常緑キリンソウと言ったら種苗法違反になる、タケシマキリンソ\ウと言
って売っている、被告P2はこのことを知っているとの趣旨の発言をした。
同年5月、被告会社は、被告P3に、被告種苗1を使用した被告製品を廃
棄するよう指示した。
これ以降も、被告会社は、被告製品に用いる公知のタケシマキリンソウ種\nを入手し、被告P3以外の下請先で育成をすすめ、平成26年4月には、被
告製品に被告種苗1が用いられることがなくなった。
カ 鳥取県警察において、被告P3方への原告会社からの本件品種に係る種苗
の入荷状況及び被告P3から出荷されたキリンソウの総数につき捜査がさ\nれ、それらを対比した結果は、当初「P3及び下請け農家のキリンソウ取扱\nい状況について」(甲6調書の添付書面)として把握されていたが、後にこれ
を訂正する捜査報告書(乙80)が作成された。
同報告書によると、平成26年3月末時点で、出荷数は、入荷数を26万
3368株上回る状態であった。
(2) (1)を総合すると、本件において、被告製品に用いられた被告種苗1の株数
は、前訴対象行為に係る被告種苗2である1812株を含め、26万3368
株であると認められる。
原告らは、甲6調書を根拠に、被告種苗1の株数は50万7733株である
と主張するが、前記認定のとおり、被告会社は、公知のタケシマキリンソウ種\nの採用を検討し、平成26年4月には被告種苗1を使用することはなかったも
のと認められるから、これを採用することができない。
被告らは、公知のタケシマキリンソウ種への切替は平成24年9月頃であっ\nたとの主張をするところ、確かに、被告会社が公知のタケシマキリンソウ種の\n採用の検討を始めたのは平成24年2月頃であって、平成25年5月の原告会
社代表者の被告P3の農場への訪問以降は、出荷された被告製品中に被告種苗\n1が使用されていないものが混在する可能性も考えられるが、なお抽象的な可\n能性にとどまり客観的な証拠はなく、公知のタケシマキリンソ\ウ種への切替が
平成26年4月以前に行われたことが的確に立証されたものとは言えないも
のと判断する。
よって、前記数量に反する原告ら及び被告らの主張は、採用しない。
3 争点4(消滅時効が成立するか)について
(1) 認定事実
原告会社代表者は、平成25年4月頃、被告P3の農場に赴き、被告種苗1\nが原告らの許諾なく増殖されていると考え、同年5月頃、鳥取県警察に相談す
るなどした。このことから、前提事実(6)記載の刑事事件に係る捜査が行われ、
平成27年2月8日、甲6調書が作成された。原告らは、同年11月16日ま
でに甲6調書の写しを入手した(弁論の全趣旨)。同供述調書には、被告P2
が、被告P3に対し、平成23年5月頃、被告種苗1を違法に増殖するよう指
示したことが記載されており、同調書に添付の「P3及び下請け農家のキリン
ソウ取扱い状況について」には、納品数と出荷数の差が50万7733株であ\nることが記載されていた。
また、1)原告P1は、平成26年11月11日には、被告会社に対し、無断
で被告種苗1を増殖していることを前提に、生産中止、在庫数及び取引の具体
的内容を照会する通知を発し(乙74)、2)同年12月26日には、被告会社
は、前訴請求を含む前訴を提起し、その頃訴状が原告P1に送達された(乙6
5、弁論の全趣旨)。
(2) 検討
ア 原告P1及び原告会社の当時の代表者(P4、本件品種の育成者)は夫婦\n関係にあり、原告P1と原告会社は、独占的通常利用権の設定者と利用権者
の関係にあって、本件品種に係る種苗に係る事業そのものや、被告らの無断
増殖行為の問題には、一体として対処していたと考えられることから、原告
らの損害及び加害者の認識について差があるとは考えられない。これを前提
とすると、原告らは、甲6調書に接するまでに、被告らが原告らの承諾なく
被告種苗1の増殖をしていること(不法行為該当性は自明である。)につき
疑念を持っており、警察の捜査により、その範囲が甲6調書によっておおむ
ね判明したものであるから、原告らは、遅くとも同調書を入手した時点(遅
くとも平成27年11月16日)で、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を
提起できる程度に、損害及び加害者を知ったものというべきである。
イ 原告らは、損害及び被害者を知ったのは前訴が確定したときであると主張
するが、権利行使に関し抗弁がないことの確証を得ないと時効が起算されな
いとするのは時効制度の趣旨に沿わないものであって、かかる見解は取り得
ない。
原告らの主張を、前訴に応訴したことによる中断(民法147条1号)を
いうものと解したとしても、前訴は、前訴対象行為に限定された不法行為に
基づく損害賠償請求権の不存在確認訴訟であることが明示されているので
あって、それ以外の被告らの行為に係る損害賠償請求権の時効の進行に対し
何らかの法的効果を持つとは考えられない(仮に何らかの効果があり得ると
してもせいぜい催告の効果にとどまる。)から、前訴対象行為以外の行為に
係る請求権の消滅時効に関する再抗弁にもならないと解される。
・・・
(1) 独占的通常利用権者が不当利得返還請求できるかについて
原告会社は、本件育成者権の独占的通常利用権者であり、専用利用権者では
ないものの、本件育成者権を独占的に利用して利益を上げることができる点に
おいて専用利用権者と実質的に異なることはないから、当該利益の得喪につい
ては民法703条の「利益」及び「損失」に該当する場合があると解するのが
相当である。
◆判決本文
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2024.02.19
令和5(ワ)70139 著作権侵害差止請求事件 著作権 民事訴訟 令和5年12月7日 東京地方裁判所
木枯し紋次郎の作者の遺族が、口に長い竹の楊枝をくわえた長脇差を携えた渡世人の図形について、木枯し紋次郎をイメージさせるとして、著作権侵害、不競法2条1項1号該当性を争いました。裁判所は、抽象的アイデアであると判断しました。
さらに念のため、本件渡世人に係る記述自体をみても、原告ら主張に係る
本件渡世人は、1)通常より大きい三度笠を目深にかぶり、2)通常よりも長い
引き回しの道中合羽で身を包み、3)口に長い竹の楊枝をくわえ、4)長脇差を
携えた渡世人というものである。そして、証拠(乙1ないし15)及び弁論
の全趣旨によれば、渡世人が、三度笠を目深にかぶり、引き回しの道中合羽
で身を包み、長脇差を携えていたというのは、江戸時代の渡世人の姿として
ありふれた事実をいうものであり、口に長い竹の楊枝をくわえるという部分
を更に加えたとしても、これがアイデアとして独自性を有するかどうかは格
別、著作権法で保護されるべき創作的表現という観点からすれば、その記述\n自体は明らかにありふれたものである。仮に、本件渡世人に対しその後本件
テレビ作品で加えられた表現をもって二次的著作物とする原告らの主張に立\nって、「通常より大きい」三度笠で、「通常よりも長い」道中合羽で身を包
んでいるという記述を加えて更に検討したとしても、これらの記述も同じく
極めてありふれたものであり、原告らの上記主張の当否を判断するまでもな
く、本件渡世人に係る上記記述は、全体として、ありふれた事実をありふれ
た記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、これを創作的表現であると\n認めることはできない。
・・・・
不正競争防止法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」とは、人の業務\nに係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営
業を表示するものをいう。\nこれを本件についてみると、原告ら主張に係る商品等表示とは、前記1)ない
し4)の特徴を備えた本件渡世人に係る表示をいうところ(第1回口頭弁論調書\n参照)、本件渡世人がありふれた江戸時代の渡世人をいうにすぎないことは、
上記において説示したとおりであり、本件渡世人に係る表示は、そもそも不正\n競争防止法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」に該当するものとはい\nえない。
仮に、原告らの主張が、本件渡世人の図柄又は写真に「紋次郎」という名称
が付された表示をいうものとしても、商品等表\示として具体的な特定を欠くの
みならず、一般に「紋次郎」という名称は、本件書籍、本件漫画作品、本件テ
レビ作品及び本件映画作品に登場する中心人物を示す、いわゆるキャラクター
に関する識別情報であり、本来的に商品又は営業の出所表示機能\を有するもの
ではない。そして、本件全証拠をもっても、原告ら主張に係る上記表示が、キ\nャラクターに関する識別情報を超えて、原告らの営業を表示する二次的意味を\n有するものと認めるに足りず、まして原告ら主張に係る上記表示が、原告らの\n営業等を表示するものとして周知著名であるものとは、本件全証拠\nを踏まえても、明らかに認めるに足りない。
のみならず、証拠(乙20ないし28)及び弁論の全趣旨によれば、被告図
柄は昭和52年に、「紋次郎いか」は昭和57年に、「げんこつ紋次郎」は平
成20年に、それぞれ商標登録を受け、被告がこれらの商標を付するなどして
被告商品を販売し、その信用を長年にわたり蓄積してきた実情及び実績を踏ま
えると、仮に原告らの主張に立ったとしても、原告らの営業等と誤認混同を生
ずるおそれを直ちに認めることはできず、これを覆すに足りる証拠はない。
そうすると、仮に上記キャラクターに関する識別情報に一定の財産的価値が
化体していたとしても、実在の人物としてパブリシティ権侵害をいうなら格別、
被告が被告図柄を付して被告商品を製造販売する行為は、不正競争防止法2条
1項1号又は2号に掲げる「不正競争」に該当するものとはいえない。
したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。
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2024.02.16
令和4(ワ)3577 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和5年12月4日 大阪地方裁判所
通帳ケース、長財布の形態は、商品形態模倣(不競法2条1項3号)に該当するとして、約430万円の損害賠償と差止が認められました。判決文の最後に双方の商品が掲載されています。
原告商品1と被告商品1は、通帳ケースの外側のすべての形態(通常全体
の大きさ及び形状、正面外側部に設けられたポケットの形状、大きさ及び位
置、背面部の形状)、マチ部の上面及び側面部のすべての形態(開閉可能なフ\nァスナーの配置)及び内部の形態の大部分(仕切り板の枚数及び大きさ、内
側ポケットの数)において共通しているから、各商品から受ける商品全体と
しての印象が共通し、両商品の商品全体の形態が酷似しているといえる。他
方で、上記のとおり、両商品は、正面側及び背面側の各外装部裏面の裏面ポ
ケットの有無、各外装部裏面の表面に設けられたカード等を収納するための\n小サイズのポケットの数(原告商品1は6個、被告商品1は4個)及び配置
位置(高さ約1ないし2センチメートルの範囲内)の点で相違するが、いず
れも些細な差異であり、商品の全体的形態について需要者に与える印象に影
響するようなものではない。
したがって、原告商品1と被告商品1の形態は実質的に同一であると認め
られる。
イ これに対し、被告は、原告商品1の販売前から同商品内側の特徴を備えた
商品を販売していたことや、被告の従前の販売商品や伊達衿のデザインが存
在することに照らせば、原告商品1はありふれた形態であり、不競法2条1
項3号により保護すべき形態に該当しないと主張する。
証拠(乙1、2)によれば、被告が、令和元年9月3日以降、楽天市場に
おいて、1)外側の平面視で縦幅約12センチメートル、横幅約18.5セン
チメートルの寸法で、厚み約2.5センチメートルの横長四角形状、2)正面
側外装部及び背面側外装部の各裏面(ケースの内部側の面)には、カード等
の小サイズの収納物を上部から挿入可能な小ポケットが4個設けられてい\nる、3)マチ部の上面及び両側面には、ファスナーにより開閉自在の開口部が
設けられており、開口することにより、底部を軸として側面視扇状に正面部
分と背面部分が展開する、4)内部には、上記小ポケットとは別に、仕切板7
枚により等間隔に8個の内側ポケットが設けられている、との原告商品1に
共通又は類似する構成を有する通帳ケースを販売していた事実、及び、令和\n2年9月29日から、外側に入口部分を斜めの形状にしたカードケースを販
売していた事実、がそれぞれ認められる。
しかしながら、原告商品1には、外側部に入口部分が斜めに交差するポケ
ットが設けられており、これは商品の全体的形態について需要者に与える印
象に影響する形態であるところ、上記通帳ケースには当該構成が設けられて\nいない。また、上記カードケースの外側ポケットの入口部分は斜めに交差す
る形態ではない。また、通帳ケース外装に和装の伊達衿(乙32)のデザイ
ンを採用し得るとしても、態様は多様なものが考えられるのであって、その
ことから直ちにそのような通帳ケース自体がありふれたものといえるわけ
でもない。そして、本件記録上、原告商品1の外側ポケットの形態がありふ
れた形態であると認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
(2) 依拠性について
ア 前記前提事実第2の1(2)アのとおり、原告は、遅くとも令和3年6月2
2日から、第三者が自由に閲覧可能なECサイトである楽天市場で原告商品\n1を販売しており、被告において容易に原告商品1にアクセス可能であった\nといえ、証拠(甲22、23)によれば、実際に、被告代表者が令和3年8\n月7日に原告商品1を購入した事実が認められる。また、前記前提事実第2
の1(3)アのとおり、被告商品1の販売開始時期は原告商品1の販売開始か
ら約8か月後の令和4年2月25日である。
以上によれば、被告商品1は原告商品1に依拠して製造販売されたと認め
られる。
イ これに対し、被告は、原告商品1の販売前から同商品と同様の内部の形態
を有する通帳ケースを販売していたことや、原告の取締役が原告商品1の販
売前に被告の販売する通帳ケースを購入したことから、被告商品1は原告商
品1に依拠していないなどと主張する。
しかしながら、上記(1)イで検討したとおり、原告商品1と同商品の販売
前に被告が販売していた通帳ケースとは需要者に与える印象に影響を与え
る形態である外装部の形態が相違しているから、両商品の内部の形態が同一
又は類似することや原告の取締役による購入履歴がある旨の被告主張の事
情を踏まえても、依拠性に係る上記判断は左右されない。
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2024.02.16
令和5(行ケ)10016 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
車の部品について、進歩性違反無しとした審決が維持されました。理由は動機付け無しです。
原告は、スカッフプレートにおいて電池の交換は必要不可欠であるから、
電池交換のための電池カバーを設ける動機がある、電池カバーを表示部の表\
側に設けることはさまざまな事情から好ましなく、甲8公報の技術常識等を
適用して、裏側に電池カバーを設ける動機がある、本件審決指摘の(a)〜(d)
の変更は、電池交換のため必要であれば当業者は容易に想到し得る旨主張す
る。
しかし、甲1公報によれば、甲1公報の「実用新案登録請求の範囲」に記
載された考案は、外部電源が完全に不要な自動車スカッフプレートに適用さ
れる発光モジュールを提供することを課題とし(【0004】)、この課題
を解決するための発光モジュールは、発光素子及びリードスイッチが設けら
れた「ランプ板」、及び電線を介してランプ板に接続される「電池」が、い
ずれも「導光板」に埋設される構成を有し(【0005】、【0015】〜\n【0017】)、この構成により「導光板10の内部に発光素子20に必要\nな電力を供給することができる電池40を設置するため、完全に外部電源が
不要となる」(【0019】)ことで、上記の課題を解決するものと認めら
れる。
甲1公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載され\nていない。
そして、本件審決が認定した甲1発明の構成は、外部電源が完全に不要な\n発光モジュールである上記「導光板10」に、これに埋設された「ランプ板
50」、「電池40」等を密封するための「収容溝カバー70」を設け、本
件発明1の「底板」に相当する「スカッフプレート80」の上面には「凹部」
を設け、この「凹部」に発光モジュールである上記「導光板10」を収容す
るものである。
そうすると、甲1発明においては、電池40が導光板10内に埋設される
ことを含め、「導光板10」に係る上記構成は課題解決に直結した構\成であ
ると理解するのが自然であり、本件審決のいう「甲1電池収容構成」もこれ\nと同趣旨と認められる。
加えて、甲1公報には、電池の交換についての記載はなく、甲1発明に接
した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点1に係
る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)導光板10
に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設け、当該電
池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)該収容孔を覆うカバーを設け、
該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)スカッフプレート
80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設されているランプ
板50等との電気接続を行うという変更が必要になることは、本件審決が認
定するとおりである。
甲1発明をこのように変更することは、課題解決に直結した構成である\n「甲1電池収容構成」を変更するものであることと併せると、動機付けはな\nいといわざるを得ず、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
また、甲8公報からは、表示部を有し電池を電源とする電子機器において、\n表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能\なカバーを設けるこ
とは技術常識であるといえるが、甲1発明のように独立したモジュールが設
けられ、底板(スカッフプレート80)の凹部にモジュールを収容する電子
機器において、裏側からモジュール内部の電池を交換することまでが技術常
識であったとは認めるに足りない。
甲2公報については、甲1発明のスカッフプレート80、すなわち底板に
相当する部材がないから、下側から電池カバーを設けるという抽象的な点を
もって「甲1電池収容構成」と置換可能\ということはできない。
(2) 原告は、甲1発明において収容溝カバー70の取外しは想定されており、
外部から電池40を交換することは当業者が想起し得る旨主張するが、甲1
発明において収容溝カバー70の取外しが可能か否かは不明であるし、仮に\n取外しが可能であれば、取り外すことにより電池交換が可能\と考えられるか
ら、むしろ、電池交換のため底板(スカッフプレート80)に電池収容孔と
電池カバーを設ける構成に変更する必要性は乏しいといえる。\nそうすると、原告の上記主張を考慮しても、上記の構成変更に係る動機付\nけは否定せざるを得ない。
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2024.02.16
令和4(行ケ)10123 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
周知技術であっても、適用する動機づけがないとした審決が維持されました。
相違点2〜4は密接に関連するものであるから、事案に鑑みこれを一括し、
甲1発明に周知の技術的事項1及び周知の技術的事項2を適用して、相違点
2〜4に係る本件発明1とすることが容易になし得るかについてまず検討
する。
ア 甲1発明への周知の技術的事項1の適用について
(ア) 周知の技術的事項1は、半導体ウェーハの表面を加工する際の焦点の\n位置を調節するものであり、甲3〜5には、半導体ウェーハの表面以外\nの部位を加工する際の課題や解決手段についての記載はない。また、周
知の技術的事項1は、加工対象物に反りがあることを課題とする解決手
段である。
一方、甲1発明は、前記(1)オのとおり、加工対象物の内部に集光点を
合わせて改質領域を形成し、切断予定ラインに沿って加工対象物を割る\nというものである。また、甲1には、加工対象物の反りについての記載
はない。加えて、甲1には、溶融処理領域を切断予定ラインに沿うよう\nに加工対象物の内部に形成する工程において、レーザ光の集光点につい
てZ軸方向の制御をすることについての記載もない。
そうすると、甲1発明に周知の技術的事項1を適用すべき動機付けは
認められないというべきである。
(イ) 原告は、前記第3の1(1)ア(ア)(イ)のとおり、焦点の位置が加工対象
の表面か、内部であるかにかかわりなく、振動などの外的要因により、\n集光が不安定になることから、加工中の集光点のAF制御が必要になる
のは、当業者の技術常識であり、甲1において、周知の技術的事項1(A
F制御)が明示的に記載されていないとしても、当業者であれば記載さ
れているに等しいと認識し、また、シリコンウェハは一般に反るもので
あり、当業者は反ったシリコンウェハが加工対象となることも認識する
旨主張する。
しかし、甲1発明は、加工対象物の内部に集光点を合わせて改質領域
を形成し、切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものであり、\nその目的や機序からして、加工対象物の表面からレーザ加工する従来技\n術と本質的に異なるのであるから、甲1に半導体ウェーハの表面の加工\nの際の技術である周知の技術事項1が記載されているに等しいとはい
えないし、甲1にはシリコンウェハの反りについて何らの言及もないの
であって、原告の主張は採用できない。
(ウ) 原告は、前記第3の1(1)ア(ウ)のとおり、本件審決が、甲1発明にお
ける集光点のZ軸方向のずれの許容幅の大きさを指摘し、これを根拠に
周知の技術的事項1の適用を否定する判断をしたのは誤りであるとし、
その理由として、1)本件出願日の時点において、厚さ30μmまでの薄
型シリコンウェハも甲1発明の加工対象となり得るところ、加工中の集
光点をウェハ内に収める必要があること、2)甲1の105頁15〜23
行に、比較的厚いウェハの場合にも、改質領域のZ方向の位置が割断精
度に影響を与える旨の記載があること、3)セミフルカットでも改質領域
の深度のばらつきによりクラック等の問題が生じることからすれば、セ
ミフルカットより改質領域以外の部分が大きいステルスダイシングに
おいて、改質領域の深度がばらつけば、チップ分割に支障を来すであろ
うことから、当業者がAF制御の必要性を理解する旨を主張する。
しかし、1)に関し、甲38、39は、薄型シリコンウェハがステルス
ダイシングの加工対象となることを示すものであるが、それが直ちに甲
1発明においてZ方向のAF制御の必要性を導くものではない。
また、原告が2)において引用する甲1の記載は、「クラック領域9と
表面3の距離が比較的長いと、表\面3側においてクラック91の成長方
向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が電子デバイス等の
形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等が損傷
する。クラック領域9を表面3付近に形成すると、クラック領域9と表\
面3の距離が比較的短いので、クラック91の成長方向のずれを小さく
できる。よって、電子デバイス等を損傷させることなく切断が可能とな\nる。但し、表面3に近すぎる箇所にクラック領域9を形成すると、クラ\nック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもの\nのランダムな形状が加工対象物の表面に現れ、表\面3のチッピングの原
因となり、割断精度が悪くなる。」というものであるが、これは、改質
領域を形成する深さ方向の位置は加工対象物の表面に近いことが望ま\nしいが、近すぎてもいけないという程度のことを述べるにすぎず、形成
位置を特定したり、それが一定でなければならないとするものではなく、
まして、AF制御の必要性を示すものでもない。また、甲1には、「図
98に示すクラック領域9は、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物
1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位\n置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工対象物1の
内部中の表面3側に形成される。」(105頁1〜4行)、「なお、パ\nルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半
分の位置より表面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成する\nこともできる。この場合、クラック領域9は加工対象物1の内部中の裏
面21側に形成される。」(105頁24行〜106頁1行)等の記載
もあり、甲1発明においては、シリコンウェハ内部の改質領域の位置は
シリコンウェハの厚み方向において厚みの半分の位置より表面に近い\n位置の近くから、厚みの半分の位置より表面に遠い位置まで、ある程度\nの幅をもって設定され得ると理解できるのであり、当業者が、甲1発明
において、X、Y軸ステージの振動やウェハの反りにより、レーザ光の
集光点がずれること、すなわち改質領域の位置がずれることが、直ちに
シリコンウェハの割れに影響を及ぼすと理解することはないというべ
きである。
そして、3)に関し、セミフルカットとステルスダイシングは切断の原
理、機序が異なるのであり、前者で改質領域の深度のばらつきにより問
題が生じるからといって、後者においても同様であると当業者が認識す
るとはいえない。
(エ) 以上のとおりであって、原告の主張するところを踏まえても、甲1発
明に周知の技術的事項1を適用することが当業者にとって容易になし
得たとはいえない。
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2024.02.16
令和5(行ケ)10046 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
除くクレーム「・・全量に対して0〜10体積%であるものを除く。」について、進歩性無しとした審決が維持されました。
以上の甲5の1〜3の記載を総合すれば、角栓除去用クレンジング組成
物において、クレンジング機能(洗浄性)、ウォッシュオフ機能\(水での
洗い流し性)、角栓除去機能、皮膚への負担を考慮して、界面活性剤を1\n0〜20質量%程度、すなわち10体積%を超える量で配合することは、
本件優先日前における当業者の技術常識であったと認められる。
他方、甲5の1には「5〜10質量%」、甲5の2には「10質量%」
の界面活性剤を含むクレンジング剤等が記載されていること自体は、原
告の主張するとおりであるが、本件除く構成における「0〜10体積%\nであるものを除く」との特定は、「0体積%〜100体積%」から「0〜
10体積%であるものを除く」範囲のものであるため、結局、「10体
積%超」の範囲である(「10体積%より多く配合する」)ことを意味す
るものにほかならない。そうすると、構成の容易想到性を判断するに当\nたっては、甲1発明において、界面活性剤の配合量を「10体積%超」
とする(「10体積%より多く配合する」)ことを、当業者が容易に想到
できたことの論理付けができるかを検討すれば足りる。甲5の1〜3が
「0〜10体積%」の界面活性剤を配合したものを含むとしても、その
ことが本件発明と甲1発明との相違点に係る容易想到性を判断する上で、
どのような意味を有するのか、原告の主張によっても明らかでない。
ウ また、本件除く構成の数値限定が顕著な効果を有するものであれば格別、\n本件発明はそのようなものとも認められない。
すなわち、本件明細書によれば、本件発明の効果は、「タンパク質を簡
便に抽出できるため、皮膚に付着したタンパク質を抽出洗浄することが
可能な液状化粧品(「タンパク質洗浄用の液状化粧品」)として好適に使\n用できる」というものであり(【0064】)、「また、本発明のタンパク
質抽出剤は、界面活性剤等を含まなくとも、優れたタンパク質抽出効果
を奏する」ことから、「本発明のタンパク質抽出剤によれば、皮膚への負
担を低減しつつ、所望の洗浄効果が得られる」というものである(【00
65】)。
しかしながら、界面活性剤配合量に関しては、本件明細書の実施例1
6、18及び20が界面活性剤(Tween 80、Span 80)を含む組成の溶液
であるが、「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」量で配合し
たものが存在しないことは前記のとおりである上、試験管内でタンパク
質抽出作用を確認しただけで、皮膚に対する洗浄効果は確認されていな
い。角栓の除去については、実施例13において角栓のある皮膚に対す
る洗浄効果を確認する唯一の実施例が記載されているものの、第2のタ
ンパク質抽出剤Aを含むタンパク質抽出剤を使用した結果、石けんと比
較して「高い洗浄効果を示した」こと、「本発明のタンパク質抽出剤は、
クレンジング剤として好ましく使用できる」ことが示されているのみで
(【0149】)、その組成は界面活性剤を含まないものである(【007
3】、【0138】〜【0141】、【0149】)。そうすると、本件発明
において界面活性剤を「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」
量で配合することにより、「角栓除去用液状クレンジング剤」が具体的に
どのような顕著な効果を奏するのかは不明であるといわざるを得ない。
以上に加え、甲1には「角栓やメラニンを含む古い角質や酸化した汚
れもすっきり。」との角栓の除去機能についての記載があることからする\nと、本件発明による上記程度の効果は、当業者が予測し得たものにすぎ\nない。
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2024.02.16
令和2(ワ)7918 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟 令和5年12月14日 大阪地方裁判所
被告は、ロゴ化された商標「Robot Shop」を用いてオンライン販売をしていました。商標「Robot Shop」(標準文字)の商標権者が、侵害訴訟を提起しました。裁判所は、差止と約1500万円の損害賠償を認めました。争点は、被告の行為は役務「ロボットの提示」か、26条該当性、禁反言などです。判決文の最後に被告標章、原告商標などが掲載されています。
証拠(乙1〜3)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件商標の出願に当
たり、「第7類 工業用ロボット、娯楽用ロボット、研究用ロボット、その他ロボッ
ト」、「第28類 ロボットおもちゃ並びにその部品」等、「第35類 工業用ロ
ボットの小売」等を指定商品及び指定役務としていたが、特許庁から、本件商標は、
「ロボットの小売店」程の意味合いを容易に認識させるものであるところ、ロボッ
トの販売及び修理等を取り扱う業界において、「Robot Shop」及び「ロ
ボットショップ」の文字が、ロボットを取扱商品とする小売店であることを示す語
として一般的に使用されている実情があることから、本件商標を第35類の工業用
ロボットの小売等の指定役務に使用することは、商標法3条1項3号に該当するこ
と等を理由とする拒絶理由通知書の送付を受け、前記商品及び役務を指定商品等か
ら除外して、本件商標の登録を受けたことが認められる。
被告は、被告各サイトにおいて、被告販売商品を販売しているところ、このよう
な本件商標の出願経過に照らすと、原告が、被告販売商品のうちロボットと同一又
は類似するものに対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則(民法
1条2項)により許されないと解するのが相当である。
(2) ロボットの字義は、「複雑精巧な装置によって人間のように動く自動人形。
一般に、目的とする操作・作業を自動的に行うことのできる機械又は装置」(広辞
苑第七版)であるほか、証拠(甲24、25、乙31)及び弁論の全趣旨によれば、
日本産業規格(JIS規格)は、ロボットについて、二つ以上の軸についてプログ
ラムによって動作し、ある程度の自律性をもち、環境内で動作をして所期の作業を
実行する運動機構と定義し、産業用ロボットについて、産業オートメーション用途\nに用いるため、位置が固定又は移動し、3軸以上がプログラム可能で、自動制御さ\nれ、再プログラム可能な多用途マニピュレータ(互いに連結され相対的に回転又は\n直進運動する一連の部材で構成され、対象物をつかみ、動かすことを目的とした機\n械)と定義していることが認められる。これらの字義等に照らすと、所定の目的の
ために自律性をもって動作等をする機械又は装置は、少なくともロボットに類似す
るものであるといえる。
別紙「被告商品の指定商品該当性」の「被告サイトにおける説明」欄によれば、
非類似商品を除く被告商品のうち、「被告商品」欄の「2.無人機・ドローン」の
「(1)無人機・ドローンキット/ARF/RTF」、「(2)完成品(RTF)/半完
成品(ARF)」、「(3)無人機・ドローン 完成品(RTF)」、「(4)小型/超小
型無人機」、「(6)Vテール」、「(7)クワッドコプター」、「(8)ヘキサコプター/
オクタコプター」及び「(9)飛行機」(以下、これらを「ロボット類似品」と総称す
る。)は、所定の目的のために自律飛行が可能なものが含まれるものと認められ、\n少なくともロボットに類似するものといえる。一方、ロボット類似品を除くその余の被告商品は、いずれもロボット製作に使用する部品や汎用的な部品、製作機器等であって、ロボットに類似するとはいえない。
(3) 以上から、原告が、ロボット類似品に対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則により許されない。
◆判決本文
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2024.02.16
令和5(ワ)70102 特許権侵害差止及び特許権侵害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年12月4日 東京地方裁判所
半発酵茶葉の発明について、構成要件を充足しないとして、侵害が否定されました。\n裁判所は明細書の記載を参酌して、「茎が取り除かれた」とは、茎を含む半発酵茶葉のポリフェノール等の重量%を測定するための条件を示すものではなく、茎を含まないことを意味すると判断しました。
ア 本件発明の構成要件BないしDは、ポリフェノールの重量、EGCGとE\nCGの合計重量又は総カテキンの重量につき、各構成要件記載の重量%以下\nに限定するものであるが、上記構成要件にいう「茎が取り除かれた」とは、\n本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを意味するのか、あるいは、茎を
含む半発酵茶葉のポリフェノール等の重量%を測定するための条件を示す
ものか、文言上必ずしも明らかではない。そのため、本件明細書の記載を考
慮して、その用語の意味を解釈すると、本件明細書の記載【0079】には、
「サンプリング方法:できた各号のお茶の茎を取り除き、篩い分けて12メ
ッシュパス20メッシュオンの砕茶を各800g採取する。」として、本件
発明の半発酵茶葉は、その茎が取り除かれることが明確に記載されている。
そして、本件明細書の他の実施例をみても、官能試験によって本件発明の効\n果が確認されている茶葉は、いずれもサンプリングの段階で茎が取り除かれ
たものであり、本件明細書全体の記載によっても、茎が含まれた茶葉につい
ては、本件発明の効果を確認するような記載が一切存在せず、本件発明の茶
葉に茎が含まれることを示唆する記載も一切認められない。
上記各構成要件及び本件明細書の記載を踏まえると、上記各構\成要件にい
う「茎が取り除かれた」とは、本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを
意味するものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記認定事実及び弁論の全趣旨(被告各製品
(双方当事者持参に係るもの)に係る茎の有無の確認結果〔第3回弁論準備
手続期日及び第4回弁論準備手続期日〕を含む。)によれば、被告各製品の
茶葉には、いずれも多くの茎が含まれていることが認められる。
したがって、被告各製品は、本件発明の構成要件BないしDを充足するも\nのと認めることはできない。
のみならず、原告による本件各試験は、被告各製品において茎を除いてポ
リフェノール等の重量%を測定していることまで立証するものではなく、上
記構成要件BないしDを立証する前提を欠くものといえる。しかも、原告に\nよる本件各試験は、被告らが釈明したとおり(第1回弁論準備手続調書参照)、
本件各試験に係る具体的な実施条件等が明らかにされていないため、上記構\n成要件BないしDにいう成分重量を的確に立証するものとはいえない。その
上、原告が採用した測定方法は、本件明細書【0082】に記載された測定
方法(カテキンにあってはISO14502、ポリフェノールがGB/T8
313をいう。)とは異なるものであるから、上記構成要件BないしDに各\n規定する成分重量を立証するに適切なものとはいえない。
この理は、原告が時機に後れて提出した本件試験その2(甲19、20)
についても、測定に当たり茎が除かれていない点、具体的な実施条件等を欠
く点において同様に当てはまるものであり、同試験も上記認定判断を左右す
るに至らない。
したがって、原告の立証は、上記各構成要件の充足性を裏付けるに的確な\nものとはいえず、このような観点からしても、被告各製品は、本件発明の構\n成要件BないしDを充足するものと認めることはできない。
イ これに対して、原告は、1)仮に茎を取り除かなければ、被告各製品には全
体の13重量%から18重量%の茎が含まれているはずであり、見た目も悪
くなるはずであるが、実際にはそうではないこと、2)仮に茎が完全には取り
除かれていなかったとしても、少々の茎は、この業界では茎が取り除かれた
ものとみなされていること、3)仮に茎が取り除かれていないとしても、被告
各製品の半発酵茶という性質に何ら変わりはないことを主張する。
しかしながら、本件特許に係る茶葉は、茎が取り除かれているものである
ことは、上記において説示したとおりであり、原告の主張は、本件特許の構\n成要件の用語の意義を正解しないものである。また、被告各製品には、少々
とはいえない茎が含まれていることも、上記において認定したとおりであり、
原告の主張は、その前提を欠くというほかない。
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2024.02.15
令和4(ワ)4903 商標権 民事訴訟 令和5年11月30日 大阪地方裁判所
商標「久宝殿」について、先使用権は認められず、差止請求が認められました。
2 被告標章につき被告に先使用権が認められるか(争点1)について
(1) 被告は、葬儀会社の需要者は、主として葬儀会館の周辺地域に居住する者
であるとした上で、一般に、葬儀会社の商圏は、葬儀会館を中心として半径2km
程度といわれているから、当該地域を周知性が求められる地理的範囲として、被告
標章に係る先使用権の有無を判断すべきである旨主張する。
(2) この点、葬儀はその施行の必要が予測不可能\である一方で、一旦不幸があ
れば直ちにその施行が求められるという性質を有することを踏まえて、主として葬
儀会館の周辺地域に居住する者が需要者として想定されるということについては、
一定の合理性が認められる。
しかしながら、ある標章につき先使用権が認められた場合、未登録でありながら、
登録商標が有する禁止権の効力を排除して当該標章の使用が許されることになり、
商標権の効力に対する重大な制約をもたらすことになる。かかる重大な制約に鑑み
ると、法32条1項前段にいう「需要者の間に広く認識されている」の地理的範囲
につき、法4条1項10号におけるものよりも緩やかに解する余地があるとしても、
独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するウェブサイトにおける「業種別開業\nガイド」の「葬祭業」のページにおいて「斎場事業は、商圏範囲が2キロメートル、
人口3万人に1会館を1つの目安とする。」と記載されていること(乙25)をも
って、葬儀会社の商圏が半径2km程度であるとして、被告標章につき本件会館を
中心として半径2km程度の範囲で周知されていれば足りると判断することは相当
ではない。
前記認定の事実によれば、本件会館における平成28年から令和2年までの葬儀
の全施行件数(567件)のうち、葬儀申込者の居住地が半径2km圏内に存在す\nる件数が約82%(464件)を占めている(認定事実(2)イ)が、上記圏外の件
数が2割弱も存在すること、みと大協が近隣地区のみならず大阪地域ないし東大阪
・八尾の相当程度広い地域を対象とした宣伝広告活動も行っていたこと(認定事実
(5))を考慮すると、みと大協が被告標章と同一の「久宝殿」との標章をその業務
(葬儀業)に使用していた地理的範囲は、おおむね東大阪市及び八尾市の全域(本
件会館から最大で約10km圏内に相当する。乙169)と考えられるから、先使
用権が認められるための要件としての周知性についてはその範囲において検討され
るべきである。
(3) そして、認定事実(2)ア及び(3)によれば、平成28年から令和2年までの
みと大協の葬儀の施行実績(年順に、127件、102件、137件、124件、
77件〔令和2年8月頃まで〕)は、東大阪市及び八尾市における死亡者数の8割
(年順に、6258人〔1人未満切捨て。以下同じ。〕、6211人、6452人、
6522人、4481人〔令和2年8月までとして、年全体の3分の2〕)を基準
とした場合、そのうち約2%にすぎない上、認定事実(4)のとおり、本件会館の半
径2km圏内における他社の葬儀会館の数は、東大阪市内に4件、八尾市内に5件
であって、これらの葬儀会館における本件会館のシェアは明らかではないところ、
上記の範囲が半径3km圏内に拡大するだけでも、他社の葬儀会館の数は東大阪市
内に12件程度、八尾市内に14件程度に増加し、これらの葬儀会館における本件
会館のシェアはより縮小することになる。しかも、認定事実(1)イのとおり、みと
大協は、平成28年頃から経営状況が悪化し、福田商事に支払う本件会館の使用料
も以前より大きく減少していることから、令和2年当時の本件会館のシェアはさら
に縮小していた可能性がある。\n以上のことからすると、仮に、東大阪市及び八尾市全域という地理的範囲におけ
る先使用権の成立が許容され得ることを前提として、本件会館が、平成12年から
「メモリアルホール久宝殿」との名称で約20年にわたり葬儀会館として使用され
てきたこと、「久宝殿」との標章(被告標章)が一定程度の識別力を有すること
(前提事実(4)ア参照)を考慮しても、被告標章は、本件商標の登録出願(令和2
年9月17日出願)の際、当該範囲において、現に需要者の間に広く認識されてい
たとは認められない。
(4) したがって、被告が、みと大協から「当該業務を承継した者」(法32条
1項後段)に当たるか否かを検討するまでもなく、被告標章につき被告に先使用権
が認められるとの被告の主張(抗弁)は理由がない。
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2024.02.15
令和5(ワ)70276 不正競争行為差止請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年1月30日 東京地方裁判所
エッセイの題号について、周知商品等表示かが争われました。裁判所は、周知性が認められないとして請求棄却しました。\n
(2) 原告表示の周知性について\n
ア 原告書籍の需要者について
原告書籍の需要者については、証拠(甲 5、9、10、15)及び弁論の全趣旨によれ
ば、原告書籍が一般的な書店及び書籍販売サイトで販売されていること、電子書籍
の有料配信が行われていること、原告書籍の新聞広告が全国紙、地方紙及びスポー
ツ紙に広く掲載されたこと、一般向けのウェブ記事で紹介されたことなどに鑑みる
と、原告書籍は、広くノンフィクション・エッセイに関心を有する者を需要者とす
るとみるのが相当である。これに反する被告の主張は採用できない。
イ 原告書籍の販売実績等について
原告書籍の販売実績に関し、原告は、シリーズとしての原告書籍の累計発行部数
は 46 万部以上である旨を主張する。これを裏付けるに足りる的確な証拠はないも
のの、令和 4 年 月 31 日付け「DIAMOND online」の記事(甲 の 1)では、同
年 4 月時点での原告書籍(コミカライズ版 2 作を含む。)の発行部数は累計 40.4 万
部とされ、また、原告書籍 1(交通誘導員ヨレヨレ日記)は「7 万 6000 部のベスト
セラー」と紹介されている。令和 2 年 8 月 29 日付け「幻冬舎 GOLD ONLINE」の
記事(甲 の 2)にも、原告書籍 1 につき、「昨年 7 月に発刊するや、1 年余りで
7 万 6000 部を突破した。」と紹介されている。さらに、令和 4 年 月 6 日付け「中央公論.jp」の記事(甲 の 3)では、原告書籍の累計発行部数は 4万部と紹介さ
れている。なお、書籍の一般的な流通形態に鑑みると、販売実績は、発行部数以下
ではあるものの、これに比較的近い数字であることが合理的に推認される。また、
原告書籍は、インターネット上で電子書籍として販売ないし有料配信されているこ
ともうかがわれる。
ウ 原告書籍の宣伝広告等について
前記のとおり、原告書籍についてはインターネット上に複数の紹介記事が掲載さ
れているほか、証拠(甲 9)及び弁論の全趣旨によれば、別紙「原告書籍の広告実
績」のとおり、令和元年 7 月〜令和 年 4 月の間、毎月のように原告書籍に関する
新聞広告が全国紙、地方紙及びスポーツ紙に広く掲載されていたことが認められる。
もっとも、新聞広告につき仔細にみると、令和 2 年 1 月までは原告書籍 1 のみの
広告であり、原告書籍 2 以降は、それぞれの書籍が発売されるたびに個別に又は既
刊の原告書籍と共に広告が掲載された。その広告には「3 段 8 割」がかなりの割合
を占めるところ、「3 段 8 割」とは、新聞の 1 面下部にある文字だけの書籍広告欄を
指すものと理解される(甲 の 3)。「全 段」、「段 2 割」といった広告も少なからず見受けられるが、これらは基本的に原告書籍を含む原告の発行する複数の書籍
を一括して掲載したものとみられる。その具体的態様は必ずしも詳らかではないも
のの、仮に令和 年 3 月 2 日付け読売新聞に掲載された広告(甲 8)と類似するも
のであるとすると、原告書籍の各表紙と共通する一部のイラスト及びコメントは掲\n載されているものの、掲載された原告書籍の全てにつき、原告書籍の表紙(甲 3)
にみられる原告表示の要素全部が掲載されてはいない。上記広告掲載の直近に発売\nされた原告書籍 12 については、原告書籍 12 の表紙(甲 3)と同一書体による題号
並びに同一内容のイラスト及びコメントが示されているものの、原告書籍 12 の表\n紙とは配置(コメントの一部につき、縦書きか、横書きか)が異なり、表紙が白色\nを基調とするものであることをうかがわせる記載等はなく、さらに、原告書籍 12 の
表紙には存在しない読者等のコメントの記載がある。すなわち、「全 段」の新聞広
告において、原告表示の表\紙における要素の全て(1)〜4))が表紙と同じ配置で掲\n載されていることを認めるに足りる証拠はない。
エ 以上の事情を総合的に考慮すると、原告書籍については、仮に原告主張のと
おりシリーズ累計発行部数が 46 万部であったとしても、その需要者が広くノンフ
ィクション・エッセイに関心を有する者であることをも踏まえると、原告書籍それ
自体が周知といえるほどの販売実績があるとまではいい難い。その点を措くとして
も、その販売期間はシリーズを通算しても 4 年半程度に過ぎず、原告表示につき原\n告によって長期間独占的に使用されたものとは認められない。また、その宣伝広告
の実情等をみても、極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者で
あるノンフィクション・エッセイに関心を有する者において、原告表示をもって、\nこれを有する原告書籍の出所が特定の事業者である原告(ないし「原告書籍の発行
者」)であることを表示するものとして周知になっていたとは認められない。\n以上より、原告表示は、一般消費者にとって、原告書籍の出所として原告を表\示
するものとして周知になっているものとはいえないから、「商品等表示」に該当する\nとはいえず、また、「需要者の間に広く認識されている」ということもできない。
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2024.02.15
令和1(ワ)10940 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和6年1月29日 大阪地方裁判所
プログラムの著作物性は認められましたが、複製・翻案については同意があったと認定されました。一方、氏名表示権侵害として10万円が認められました。\n
ア 本件プログラム1は、マンロック(高圧室作業場所への作業員の出入り用
気密扉)内の気圧、二酸化炭素濃度等を記録するペーパーレスレコーダー(最
大10機)を集中管理(レコーダーで記録された情報を遠隔地のパソコンで\nリアルタイムに表示し、データを蓄積するとともに閾値を超えた場合は警告\nを発することが可能)するシステムプログラムであり、統合管理画面(メイ\nンフォーム画面)、個々のレコーダーの監視画面(レコーダーフォーム画面。
表示形式はレコーダーと同様。)、レコーダーの通信ルーチン、データベース\n(レコーダーの情報を集積する部分)などを構成要素とするものである。(甲\n28、弁論の全趣旨)
この点、画面構成や、レコーダーのデータをどのように扱うかについては、\nプログラムの目的、環境規制の態様、ハードウェアやオペレーティングシス
テムなどに由来する制約等により、表現の選択の余地の乏しいものもあると\n考えられるが、データ処理の具体的態様(クラス、サブルーチンの利用等の
構造化処理を含む)、レコーダーとの通信プロトコルの選択及びそれに応じ\nた実装、データベース化の具体的処理手順などについて、各処理の効率化な
ども意識してソースコードを記述する過程においては、相応の選択の幅があ\nるものと認められる。
イ 原告は、このような選択の幅の中から、データ処理の態様を設計した上、
A4用紙で約120頁分(1頁あたり60行程度。以下同様)のソースコー\nドを作成したことからすると、ソースコード(甲28)の具体的記述を全体\nとしてみると、本件プログラム1は、原告の個性が反映されたものであって、
創作性があり、著作物であるということができる。
ウ 被告は、本件プログラム1のソースコードの多くの記述が公開されたサン\nプルプログラムであり、単純な作業を行う機能の複数の記述であり、計測上\nの管理基準に対応させた記述の順序や組合せであるから、ソースコードの記\n述に創作性はない旨を主張する。しかし、ソースコードに既存のサンプルが\n含まれることについて的確な立証はない上、仮にそのような記述が含まれる
としても、プログラム全体としての創作性を直ちに否定するものともいえな
いから、被告の主張は採用できない。
・・・
前提事実及び認定事実によると、本件各プログラムの中には、明示的に
異なる現場で用いることを前提とする仕様が採用されたものがあること、
本件各プログラムはいずれも発注の原因となった現場と異なる現場で用
いることについてプログラムの仕様上の制限はないとうかがわれること、
原告自身、一つの現場が終了したと見込まれる後も、プログラムの修正に
応じるなどしていること、原告自らソースコードを納品したものもあるこ\nとに加え、原告が、平成2年に独立した後、多数回にわたって被告から依
頼されたプログラムを制作、納品し、平成20年12月から平成21年4
月までの間は、被告に採用されてプログラム制作業務に従事していたこと
からすれば、計測業務における被告のプログラムの利用実態(プログラム
を一つの現場で利用するだけでなく他の現場においても複製、変更又は改
変(カスタマイズ)して利用していたことを含む。)から、自己が制作して
納品したプログラムが被告により複数の現場で利用され得ることを認識
していたものとみられることが認められる。これらの本件においてうかが
われる事情からすると、本件各プログラムの開発に係る各請負契約におい
て、成果物が、少なくとも被告の内部で使用される限りにおいては、他の
現場における使用や改変を許容する旨の黙示の合意があったものという
べきである。
・・・
(1) 氏名表示権が侵害されたか(争点3−3、5−2)及び被告に故意又は過失\nがあったか(争点3−4、5−3)
ア 本件プログラム3(争点3−3、3−4)
前記前提事実のとおり、本件プログラム3を複製、変更した被告プログラ
ム3の起動画面やバージョン表示画面においては、被告の社名が表\示され、
原告の氏名は表示されていない(甲9)。そして、本件プログラム3と被告プ\nログラム3を比較すると、ソースコードの大部分において同一であり、被告\nプログラム3には本件プログラム3に時間率評価機能を果たす計算処理や\ndB値の時系列変数の計算処理の機能が追加された点において相違するが\n(甲8の3)、この相違点から被告プログラム3が本件プログラム3と別個
のプログラムであるということはできない。
したがって、被告による上記表記により、本件プログラム3について、原\n告の氏名表示権が侵害され、その態様から、被告に故意があったと認められ\nる。
・・・
(3)損害の有無及び額(争点3−5、5−4)
(1)の被告の行為により原告の被った損害は、本件に顕れた一切の事情を考
慮し、10万円と認め(なお、原告は、本件プログラム5についての氏名表示\n権侵害固有の損害を主張しないが、弁論の全趣旨から、相当の損害賠償を求め
る趣旨と解される。)、被告は、相当因果関係のある弁護士費用1万円を加えた
11万円及びこれに対する遅延損害金を支払う義務を負う。
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2024.02.15
令和5(行ケ)10020等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年1月23日 知的財産高等裁判所
パラメータを含む特許について、無効審決が取り消されました。
クレーム1は「・・外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.39×10−3/Dという関係を満足するものとし、・・・」でした。
(3) 相違点3Aに係る容易想到性についての検討
前記1に認定した本件各発明の概要によると、本件発明3の相違点3Aに係る構\n成は、杭の全塑性の要求性能を満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に\n伴う建設コストの増加との課題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることに\nより解決を図るべく、変形性能の指標として曲率φpを用い、少なくとも陸側に対\n面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ変形性能の\n高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において曲率φpを越えないようにした
ものである。
ここで、前記(2)のとおり、甲1発明が属する鋼管杭式桟橋においては、鋼管杭に
高強度鋼管を採用することは周知技術であって、また、本件出願日当時、技術1)(直
杭式横桟橋の性能照査では、杭に発生する応力、杭の支持力、変形量を適切に設定\nして検討すること、杭の断面力は深さ方向に変化し、地中部の深いところでは小さ
くなるのが一般的であるため、経済性の観点から鋼管杭の板厚又は鋼種を変更する
ことがあること)、技術2)(鋼管杭に生じる軸力及び曲げモーメントに応じて杭の曲
げ剛性を低下させて解析を行うこと)、技術3)(杭の断面力は、深さ方向に変化し、
地中部の深いところで小さくなるため、経済性の観点からは鋼管杭の板厚及び材質
を地中部の発生断面力に応じて変更することが望ましいこと)、技術4)(計画水深が
深い岸壁では、強度の大きいSTK490の鋼管杭を用いている例が多くなるこ
と)、技術5)(陸側の地中部において下杭よりも上杭の板厚を大きくすること)及び
技術6)(鋼管杭の部材として、一般に用いられているSKK400及びSKK49
0よりも基準降伏点の高い鋼管杭が、高支持力杭が普及し始めている建築分野にて
商品化されていること)等の技術が公知であったことが認められるが、いずれの技
術によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コストの増加を回避する\nため、甲1発明の「鋼管杭」を、変形性能の指標として曲率φpを用いた上で、少\nなくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分
にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該部分での発生曲率が曲率φ\npを越えないようにすることは導出できないといわざるを得ないし、このような構\n成を得ることが甲1発明及び上記周知技術又は各公知技術に接した当業者が通常行
うべき試行錯誤の範囲内のものということもできない。
したがって、当業者であっても、甲1発明の「鋼管杭」につき、相違点3Aに係
る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1発\n明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明することがで
きたものということはできない。
(4) 相違点3Bに係る容易想到性についての検討
本件発明3の相違点3Bに係る構成は、前記(3)のとおり、杭の全塑性の要求性能\nを満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に伴う建設コストの増加との課
題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることにより解決を図るべく、変形性\n能の指標として曲率φpを用い、鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分に\nのみ変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において全塑性モーメン\nトに対応する曲率を越えないようにしたものである。
甲13発明の「鋼管杭」は、少なくとも陸側の鋼管杭の地中部は、φ1300m
m×16tのSKK490からなる上杭の下方にφ1300mm×13tのSKK
400からなる下杭で構成されており、技術3)及び4)によると、上杭部分の強度は
下杭部分よりも大きいといえる。しかし、前記(3)と同様に、前記周知技術及び公知
技術(技術1)〜6))によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コスト\nの増加を回避するため、上杭と下杭とからなる甲13発明の「鋼管杭」を、変形性
能の指標として曲率φpを用いた上で、少なくとも陸側に対面して配置された鋼管\n杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭\nを用いて、当該部分での発生曲率が曲率φpを越えないようにすることは導出でき
ないといわざるを得ないし、このような構成を得ることが甲13発明及び上記周知\n技術又は各公知技術に接した当業者が通常行うべき試行錯誤の範囲内のものという
こともできない。
したがって、当業者であっても、甲13発明の「鋼管杭」につき、相違点3Bに
係る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1\n3発明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明すること
ができたものということはできない。
(5) 被告の主張について
ア 被告は、「杭の断面力(曲げモーメントを含む概念である。)は深さ方向に変
化するため、深さや発生断面力に応じ杭の材質・鋼種を変更することがある」との
周知技術が認定でき(技術1)、3)参照)、これは典型的には降伏強度の異なる鋼管杭
を用いることである上、「強度の観点のみならず経済性の観点から鋼管杭の板厚及
び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」、「杭全体のうち、大きい曲げモ
ーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を用いること」、「杭に生じ
る曲げモーメントが大きい箇所において全塑性モーメントに達しないように設計す
ることが望ましいこと」がいずれも技術常識であり、鋼管杭の設計に際しどのくら
いの降伏強度の鋼管杭とするかは周知技術に基づき適宜設計されるものだから、相
違点3A又は3Bに係る構成は、周知技術又は技術常識から導出し得る旨主張する。\nしかし、本件審決が説示するとおり、被告は、「強度の観点のみならず経済性の観
点から鋼管杭の板厚及び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」や「杭全
体のうち、大きい曲げモーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を
用いること」が技術常識であることをいかなる証拠の記載から認定できるかを具体
的に指摘していない上、仮に、これらが技術常識であるとしても、これらを組み合
わせる動機付けや、組み合わせた結果からどのようにして相違点3A又は3Bに係
る構成が導出されるかにつき、技術的視点に基づいた具体的な主張をしていない。\nそして、前記のとおり、周知技術及び公知技術(技術1)〜6))によっても、甲1発
明の「鋼管杭」又は甲13発明の「鋼管杭」を、相違点3A又は3Bに係る構成に\nすることは導出できず、そのような構成を得ることが、当業者が通常行うべき試行\n錯誤の範囲内ということもできない。
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2024.02.15
令和4(ワ)13396 不正競争 民事訴訟 令和6年1月17日 東京地方裁判所
発注した業務に関してインターネット上で行った投稿が、営業上の信用を害する虚偽の事実を流布するもので、不競法2条1項21号所定の不正競争に該当するかが争われました。
裁判所は、これを認めて50万円の損害賠償および投稿削除を命じました。
(イ) 前記(ア)の各事実を前提として、本件投稿部分1が摘示する「何度やり
とりしても、原告は、被告担当者からの質問に明確に回答しない」との
事実が客観的真実に反するものであるか否かについて検討する。
a 前記(ア)aのとおり、本件アナライザー案件において、被告が仕様の
確定を行うべきとされていたことについては、当事者間に争いがない。
また、本件全証拠によっても、原告が、被告の作成した仕様を評価す
る立場にあったと認めることはできない。
そして、前記(ア)cの原告と被告担当者とのやりとりの内容に照らせ
ば、原告は、被告担当者からの質問に対し、一貫して、原告が「課題
管理表」の項番13において指摘した事項の趣旨を説明しつつ、本件アナライザー案件において原告が受注していない業務である仕様の評\n価にわたる事項については回答することができないとの趣旨を明確に
回答していると認めるのが相当である。
b また、原告が、被告担当者に対し、「なんで答える必要あるの?」と
の文言どおりの回答をしていないことも当事者間に争いがない。
この点に関し、被告は、当該回答は、「今回当方へのご依頼は管理画
面の開発で、くじら IT サービス様でご用意される資料の評価は含まれ
ていないという認識です。」との原告の回答を簡潔にまとめた表現であると主張する。\n
そこで検討すると、不競法2条1項21号所定の告知又は流布の内
容は、その相手方の普通の注意と読み方・聞き方を基準として判断す
べきと解されるところ、本件サイトは、ソフトウェアやITシステムの開発業務を営んでいる者や、このような開発業務を依頼しようとす\nる者が専ら閲覧していると考えられる。そして、これらの者の普通の
注意と読み方を基準とすると、「なんで答える必要あるの?」との表現は、理由を一切説明することなく、回答を拒否したとの意味に理解で\nきるものである。これに対し、被告が指摘する原告の上記回答は、原
告が受注した業務の内容について説明した上、被告が用意する資料の
評価にわたる事項については回答することができないとの趣旨を回答
するものといえる。
したがって、「なんで答える必要あるの?」との表現は、原告の上記回答を要約したものとはいえず、被告の上記主張を採用することはで\nきない。
(ウ) 以上によれば、本件投稿部分1が摘示する「何度やりとりしても、原
告は、被告担当者からの質問に明確に回答しない」との事実は、客観的
真実に反するもの、すなわち虚偽のものと認められる。
・・・
(1) 無形損害について
前記1(2)のとおり、ソフトウェアやITシステムの開発において、受注者が、発注者との質疑応答に適切に対応できる資質や能\力を備えているか否かは、受注の可否にも直結する重要な事柄であると考えられるところ、本件投
稿部分1が摘示する事実は、これを閲覧した者に対し、原告がそのような資
質や能力を欠くとの印象を与えるといえるから、本件投稿は、原告の営業上の信用を大きく毀損するものと認められる。\nそして、前記1(1)イのとおり、原告の納品した成果物が、被告と合意した
仕様に合致するものであることについての立証がされているとはいえず、本
件投稿部分2及び3について不正競争及び不法行為が成立するとは認められ
ないものの、被告は、成果物が仕様に合致していないことを意味する他の表現を採用することは極めて容易であると考えられるのに、「ゴミを納品され、\n捨てました。」と、原告による作業や成果物が有する価値のすべてを否定する
かのような表現を敢えて用い、同業者が多数閲覧する可能\性のあるインター
ネット上のマッチングサイトの評価画面に本件投稿をしたものであるところ、
不正競争に該当する本件投稿部分1と上記の表現とが一連一体のものとして本件投稿を構\成している以上、無形損害の額を算定するに当たり、この事情も考慮することができるというべきである。
以上の事情によれば、本件投稿によって原告に生じた無形損害の額につい
ては、50万円と認めるのが相当である。
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2024.02.15
令和5(ワ)6100 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和6年1月30日 大阪地方裁判所
X(旧Twitter)にて、アカウントのアイコンを一部変形して、第三者が使用したことが氏名権、著作権などを侵害するとして、15万円の損害賠償が認められました。
(1) 氏名権侵害について
氏名は、個人の人格の象徴であり、人格権の一内容を構成するものというべきで\nあるから、人は、その氏名を他人に冒用されない権利を有する。
前提事実(3)並びに証拠(甲5〜9)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件
アカウントを通じて本件各投稿を行っているところ、本件投稿1では、本件アカウ
ントにおける名前(原告の氏名である「P1」)及びユーザー名(原告が経営する
法人グループの総称である「(省略)」)が表示されており、本件投稿2ないし4\nでは、「P1」がリツイートした旨が表示されていることに加え、所定の操作によ\nり本件アカウントにおける名前等が表示されることが認められ、本件各投稿に接し\nた閲覧者は、投稿者として原告の氏名を認識するものと認められるから、被告は本
件各投稿において原告の氏名を冒用したといえる。したがって、本件各投稿は、原
告の氏名権を侵害する。
被告は、本件アカウントのプロフィール欄には「フィクションのため実在の人物
とは一切関係がございません」と記載されているから、閲覧者は、実在の人物とは
関係がないとの結論に至り、原告本人ではないと認識をする可能性がある旨を主張\nする。しかし、閲覧者は、アカウントに表示された氏名やユーザー名によって投稿\n者を特定するものと解されるから、被告指摘の記載があったとしても、閲覧者は、
原告がその旨を記載していると理解するにすぎず、前記判示に影響を与えるもので
はない。被告の前記主張は採用できない。
(2) 本件著作権の侵害について
著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美\n術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいう。
本件イラストは、P3氏が、ツイッター上の交流において原告を表すためにふさ\nわしいイラストとして制作したものであり、腹ばいになるアザラシの様子をイラス
トにし、その下部に「(省略)」と記載したものであるところ、全体的に丸みを帯
びた輪郭で、頭部を大きくし、ヒレを頭部付近に小さく描くことにより、親しみや
すくかわいらしい印象を与えている点、大きな頭部いっぱいに両目、鼻及び口を描
くことでアザラシの表情に存在感を与えている点、これらに「(省略)」という表\
記を欧文字で加えることで、その性格(原告の人柄)を示しつつイラストとしての
一体感を感じさせる点において、選択の幅がある中から作成者によってあえて選ば
れた表現であるということができる。したがって、本件イラストは、作成者の思想\n又は感情が創作的に表現された、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えたもの\nであると認められ、「著作物」に該当する。
証拠(甲20、21)及び弁論の全趣旨によれば、P3氏は、本件イラストを制
作し、原告に対し、本件イラストに係る著作権を譲渡したことが認められ、原告
は、本件イラストに係る著作権を有していると認められる。
本件黒塗りイラストは、本件イラストの両目部分に黒の横線が入れられ、「(省
略)」という表記が黒塗りされたものであるが、被告がかかる改変を行ったことを\n認めるに足りる証拠はない。一方、前記改変は、前記目線等を加えたことに限られ
るから、本件黒塗りイラストは、本件イラストに依拠し、かつ、その表現上の本質\n的な特徴の同一性を維持しつつ、これに接する者が本件イラストの表現上の本質的\nな特徴を直接感得することができるものと認められ、本件黒塗りイラストは本件イ
ラストの複製物又は翻案物であって、原告が著作権を有するものといえる。そうで
あるところ、被告は、本件各投稿によって、本件黒塗りイラストに改変等を加える
ことなくツイッター上に投稿して、少なくとも不特定の者に対して閲覧可能な状態\nにしたことから、本件各投稿は、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害す
るといえる。
・・・
(4) 名誉感情侵害について
本件投稿1について検討するに、本件投稿1は、原告の氏名及び原告が経営する
法人グループの名称を表示するとともに、その存在はフィクションであり、実在の\n団体人物とは関係がない旨が記載されたものであるところ、一般閲覧者の普通の注
意と読み方を基準として判断した場合、本件投稿1に接した閲覧者は、原告自身が
原告や(省略)とは関係がない旨を投稿したと認識するものと認められる。したが
って、本件投稿1は、閲覧者に対し、原告は趣旨不明な投稿をする人物であるとの
印象を与え、原告の名誉感情を侵害するものといえる。被告は、本件各投稿は司法
書士として品位に欠ける言動をやめさせる公益目的で行った旨主張するが、仮にそ
のような目的があったとしても、原告になりすまして本件投稿1を行うことが正当
化される理由にはならない。
本件投稿2ないし4について検討するに、原告は、被告がP4アカウントを作成
したことを前提として、本件投稿2ないし4の閲覧者は、原告があたかもP4氏の
名誉権を侵害したり、プライバシー権を侵害したりする投稿を平気で行う人物であ
ると受け止めることから、これらの投稿は原告の名誉感情を侵害する旨を主張す
る。しかし、被告がP4アカウントを作成したことを認めるに足りる証拠はない。
また、P4アカウントによる投稿に接した閲覧者は、P4氏が自身のアカウントで
投稿していると認識するものと認められるところ、仮に被告が同氏になりすまして
P4アカウントを作成し投稿していたとしても、P4アカウントによる投稿をリツ
イートすること自体によって、直ちに同氏の名誉権やプライバシー権が侵害される
ことにはならないから、原告の前記主張はその前提を欠く。そして、本件投稿2
は、名前を「P4」、ユーザー名を「(省略)」とするP4アカウントによる「ば
ればれだよ。ことP4です。」という投稿を本件アカウントでリツイートしたもの
であるところ、一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断した場合、本件
投稿2に接した閲覧者は、P4氏が自身のユーザー名及び氏名を紹介した投稿に対
して原告が注目し閲覧者に伝えようとしたと認識するものと認められる。したがっ
て、本件投稿2は、原告の名誉感情を侵害するものとはいえない。また、本件投稿
3及び4は、P4アカウントによる「ネコではなくタチのP4です。」及び「バリ
タチのP4です。」という投稿を本件アカウントでそれぞれリツイートしたもので
あるところ、「ネコ」、「タチ」及び「バリ」が同性愛者を指す用語として用いら
れることがあること(甲19)を踏まえ、一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準
として判断した場合、本件投稿3及び4に接した閲覧者は、P4氏が自身が同性愛
者であることを摘示した投稿に対して原告が注目し閲覧者に伝えようとしたと認識
するものと認められる。したがって、本件投稿3及び4は、原告の名誉感情を侵害
するものとはいえない。
(5) 以上から、本件各投稿は原告の氏名権及び本件著作権(複製権及び公衆送
信権)を侵害し、本件投稿1は原告の名誉感情を侵害するものとして、不法行為を
構成する。\n
2 争点2(損害の発生及びその額)について
前記1認定の本件各投稿による権利侵害の内容及び態様の一切を考慮すると、本
件各投稿により、原告が被った精神的苦痛を慰藉する金額は、15万円が相当と認
められる。ただし、原告は本件イラストの著作者ではなく、本件著作権(複製権及
び公衆送信権)侵害により原告に精神的苦痛が生じたとは認めるに足りない。
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2024.02. 9
令和5(ワ)73 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和5年12月14日 大阪地方裁判所
厚底ソールの形状について、特別顕著性なし、周知性なしとして、不競法2条1項1号の周知商品等表\示に該当しないと判断されました。具体的なソール形状などは不明です。\n
原告ソール1が、合成樹脂を用いた厚底ソ\ールであり、原告主張の特徴1な
いし特徴4の形態を備えていること、一部の溝の形状が略コの字状となってい
ることについては、当事者間に争いがない。そこで、これらの形態やその組み
合わせが、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴といえるか、以下検討
する。
ア 合成樹脂を用いた厚底のソールであるとの形態について\n証拠(乙20)によれば、イタリアのVibram社(ソールのメーカー)\nが、原告商品1の販売の相当前である昭和59年(1984年)にカジュア
ルシューズ向けの合成樹脂(EVA)製の超軽量ソールの製造を開始したこ\nとが認められるところ、合成樹脂製のソールの厚みを厚くすることが製造技\n術上困難であるような事情は見当たらない(令和5年7月時点では、複数の
他社から合成樹脂製の厚底ソールを使用した婦人靴が販売されていた(乙2\n1、22)。)。そうすると、合成樹脂を用いた厚底ソールである形態が、従来\nの同種商品と異なる形態とはいえない。
イ 特徴1(靴底裏面に複数の縦溝1及び横溝2、3を有することで、裏面視
において全体として略格子状のイメージを奏すること)について
証拠(乙7の1、7の3ないし7の6)によれば、原告商品の販売開始前
に、複数の他社から靴底裏面に複数の縦溝と横溝が施されて全体として略格
子状の形態の靴底の意匠登録出願がされ、その後、いずれも意匠登録がされ
たことが認められるから、特徴1の形態はありふれた形態というべきである。
また、ソールの溝の深さを深くすることによって排水機能\や防滑機能が実現\nされることは一般的な知見といえる(乙8)から、特徴1の形態は技術的機
能に由来する形態といえる。\n
ウ 特徴2(靴底裏面の前方部分に、i)左右一対の2本の前記縦溝1と、i
i)左右端から形成され前記各縦溝1とそれぞれ交差し、先端(中央側端部)
同士が対向する左右3対の前記横溝2と、iii)前記左右3対の横溝2よ
りもつま先側において左端から右端にかけて形成される横溝3とが配され
ていること)について
証拠(乙7の1、7の4、7の5)によれば、原告商品の販売開始前に、
複数の他社から靴底裏面の中央より前方(つま先)部分に概ね2本の縦溝と、
左右端から形成され上記縦溝と交差し、先端同士が対向する左右3ないし5
対の横溝と、同横溝よりつま先側において左端から右端に形成される横溝と
が配された靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたこと
が認められる。また、上記横溝の数を原告ソール1の「横溝2」のように3\n対とすることに特別な意義があると解する理由は見当たらない。そうすると、
特徴2の形態は、ありふれた形態というべきである。また、特徴2の形態は、
上記イと同様の理由から、技術的機能に由来する形態ともいえる。\n
エ 特徴3(靴底裏面において、つま先部分から指の付け根に相当する部分に、
横方向に伸びる畝状の複数の段部4を有し、この段部4が、後方につれて裏
面側に傾斜するテーパー面4aを有すること)について
証拠(乙7の4、7の6、10の1、10の5)によれば、原告商品の販
売開始前に、複数の他社から、1)つま先から指の付け根付近に複数の横方向
の段部が配され、2)この段部が後方につれて裏面側に傾斜するテーパー面を
有する靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認
められる(ただし、乙7の4の登録意匠の靴底には、上記2)の構成は含まれ\nていない。)。そうすると、特徴3に係る形態は、ありふれた形態というべき
である。
オ 特徴4(靴底裏面において、踵に相当する部分に、横方向に伸びる畝状の
複数の段部5を有し、この段部5が、後方につれて表面側に傾斜するテーパ\nー面5aを有すること)について
証拠(乙7の4、10の5)によれば、原告商品の販売開始前に、複数の
他社から、靴底裏面の踵に相当する部分に横方向に伸び、後方につれて表面\n側に傾斜するテーパー面を有する複数の段部が配された靴底の意匠登録出
願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認められる。そうすると、
特徴4に係る形態は、ありふれた形態というべきである。
カ 一部の溝の形状が略コの字状となっているとの形態について
当該形態は、原告の主張によっても、原告代表者の名字の頭文字「F」を\nなぞったデザインの一つにすぎない。また、当該形態が施された範囲は、親
指から薬指にかけた部分及び小指部分であって、原告ソール1全体の約6分\nの1程度と非常に狭く(甲5)、需要者が着目するとは解し難い。
キ 以上によれば、原告ソール1の形態は、客観的に他の同種商品とは異なる\n顕著な特徴を有するとはいえないから、原告ソール1の形態に特別顕著性が\nあると認めることはできず、原告の主張は理由がない。
(3) 周知性又は著名性について
なお、周知性について、念のため検討する。
原告は、原告商品の販売開始後、1)平成30年以降に複数の展示会に原告商
品を出展したことや、2)多数の業界雑誌や業界外雑誌に原告商品が紹介された
こと、3)国内直営店舗や複数のECサイトで原告商品が販売されたこと、4)平
成28年以降の原告の靴製品の売上高が伸び、業界内で上位となったことなど
から、原告ソール1が令和2年秋頃には周知になったと主張する。\n しかしながら、そもそも原告主張の原告商品の販売開始時期をその通り認定
できないことは前記のとおりであるが、原告ソール1の需要者は、婦人靴の購\n入を検討する一般消費者(及びその取引業者)であるところ、当該需要者は、
靴全体のデザイン(中でも人目を引くアッパーの部分)や着用感に着目し、仮
にソールに注意を払うとしても、その注意はおおむね機能\的な観点で向けられ
るものと解され、ソールの形態や材質それ自体から出所を認識するとの一般的\nな経験則は認め難いものと解されるから、原告主張の事情は直ちに原告ソール\n1が周知であることを基礎づけるものではない。
その上で検討すると、上記1)については、各展示会に原告商品が出展された
としても、原告ソール1がどのように展示されていたかは明らかではない。\n上記2)については、令和2年5月号から令和4年1月号の業界雑誌「フット
ウェア・プレスFW」には原告ソール1の画像が掲載されているが(甲22の\n2ないし22の22)、同誌は一般消費者向けの媒体としての性質は薄いもの
と認められるうえ、原告商品が掲載された業界外雑誌(甲26、28、30(い
ずれも枝番を含む。))は、大半において通信販売の媒体としてのものであって、
商品それ自体を紹介するものとは性質を異にするうえ、原告ソール1は掲載さ\nれておらず、掲載されている場合でも掲載範囲は小さく(甲24の1ないし2
4の4、26の1ないし26の4、28の1、28の2、30の1、30の2、
32)、需要者が原告ソール1の形態に着目するとは解し難い。\n上記3)については、原告の国内直営店舗数は10店舗にとどまる(甲53)。
また、複数のECサイトに原告ソール1を用いた商品が掲載されているが、原\n告ソール1の画像が掲載されていない例も多数存在するうえ、掲載されている\n場合も、複数の商品画像中の3枚目以降に掲載されているから、需要者が原告
ソール1の形態に着目するとはいえない。また、ECサイトに掲載された原告\nソール1を用いた商品は、原告とは異なる他社ブランド名で販売されているも\nのが多く、このような掲載方法によって、掲載されたソールが原告のソ\ールで
あると需要者が認識するとはいえない(甲44の1ないし47の6、弁論の全
趣旨)。
上記4)については、原告の主張を前提としても、業界内における売上高が
極めて上位にあるものとはいえない。
以上によれば、原告ソール1の形態が周知であると認めることはできず、\n他に、本件証拠上、原告ソール1の形態が周知性又は著名性を有すると認め\nるに足りる証拠はない。
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2024.02. 9
令和4(ワ)9818 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟 令和5年12月19日 大阪地方裁判所
商標「熱中対策応急キ ット」(標準文字)についての侵害訴訟です。被告は識別力無しの無効理由(商3条1項3号)、効力が及ばない範囲(商26条)を主張しました。裁判所は、識別力無しとして無効と判断しました。
2 本件商標の法3条1項3号に基づく無効理由の有無(争点1)について
(1) 本件商標が、その指定商品について商品の用途を普通に用いられる方法で
表示する標章のみからなる商標であるというためには、本件査定日(令和4年2月28日)の時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の用途を表\示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の用途を表\示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。そして、当該商標の取引者、需要者に
よって当該商品に使用された場合に商品の用途を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構\成やその指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。
(2)ア 本件商標は、「熱中対策応急キット」の文字を標準文字で表してなり、本件商標を構\成する文字は、同じ大きさ及び書体で、等間隔かつ横一列にまとまりのある態様で並べられている。そうすると、本件商標は、取引者及び需要者に、こ
れを構成する文字の全体をもって、一連一体の語を表\すものとして理解されると考
えられる。
イ 本件商標中の「熱中」、「対策」、「応急」及び「キット」の4つの語は、
それぞれ、「物事に心を集中すること。夢中になってすること。また、熱烈に思う
こと。」、「相手の態度や事件の状況に応じてとる方策。」、「急場のまにあわ
せ。」、「組立て模型などの部品一式。工具・用具一式。」といった意味を一般に
有するところ(いずれも広辞苑第七版、平成30年1月発行)、これらの語を字義
どおりに捉えると、「熱中対策応急キット」の語全体から、熱中症の対策又は応急
処置に用いる物品ないしそれらをバッグに入れて一まとめにしたものといった意味
合いが直ちに導かれるものではない。
もっとも、「熱中」との語は、「熱中症」との3文字の語のうち、「症状」を示
すものと解される「症」の文字を除く2文字と一致しており、「熱中症」との語の
一部を示すものとみても不自然とはいえない。
ウ 取引の実情をみると、前記認定事実のとおり、「熱中対策応急キット」との
標章が付された商品(本件商標に係る商品の区分ごとに本件指定商品と同一又は類
似の商品を含んでいるもの)は、平成24年頃から本件査定日(令和4年2月28
日)までに、ミドリ安全を中心とする多数の法人(被告を含む。)において、熱中
症に応急的に対応するための物品一式として広告販売されている状況が認められる。
一方、前記イの「熱中」の語の意味(物事に心を集中すること。夢中になってする
こと。また、熱烈に思うこと。)を踏まえて、これに対応するといった用途に用い
られる商品が、「熱中対策応急キット」ないし「熱中対策」との標章を付して広告
販売されている事実を認めるに足りる証拠はない。なお、原告も、平成31年(令
和元年)から、熱中症に対応するための物品一式が収納されたポーチに「熱中対策
キット」との標章を付して広告販売している上、令和5年には、熱中症に応急的に
対応するための物品一式がポーチに収納された「熱中対策応急キット」との名称の
商品の広告販売を開始している(前記認定事実(7))。
エ 以上を総合すると、「熱中対策」の語は、本件査定日の時点で、「熱中症対
策」との意味でも一般的に理解され、「熱中対策応急キット」の語は、熱中症の対
策又は応急処置に用いる物品一式ないしそのような物品を含む商品との意味を有す
ることが一般に認識されていたことが認められる。そして、本件指定商品は、熱中
症の対策又は応急処置に用いる物品ないしそれらを収納するポーチ等(それらの全
部又は一部を組み合わせたものを含む。)の商品に含まれると認められるところ、
標準文字で表される「熱中対策応急キット」との本件商標がかかる商品に使用された場合、当該商品の取引者又は需要者によって、当該商品の用途を示すものとして\n一般に認識される状態となっていたといえる。そうすると、「熱中対策応急キット」
との本件商標は、指定商品に使用された場合、商品の用途を普通に用いられる方法
で表示する標章のみからなる商標として、法3条1項3号に該当するものと解するのが相当である。\n
(3) したがって、本件商標は、法3条1項3号に違反して登録されたものであ
り、無効審判により無効とされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件
商標権を行使することができない(法46条1項1号、39条、特許法104条の
3第1項)。
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2024.02. 9
令和5(行ケ)10072 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和5年12月14日 知的財産高等裁判所
ハーグ条約に基づく国際意匠出願について、拒絶査定がなされ、期間徒過後に審判請求をしました。出願人は米国在住の在外者です。
前記第2の1の事実によれば、本願は、日本国を指定締約国とする国際出願
であって、令和3年1月22日、本件国際登録について、ジュネーブ改正協定10
条(3)(a)の規定による公表がされた(乙3の1・2)ことにより、意匠法60条の6第1項の規定により、本件国際登録の日である令和元年9月9日にされた意匠登\n録出願とみなされる(なお、原告は在外者であるから、意匠法68条2項において
準用する特許法8条1項の規定により、出願に係る補正書や意見書の提出その他の
手続を行う場合には、意匠管理人を選任して行う必要があったことになる。)。
(2) ジュネーブ改正協定12条(1)本文によれば、指定締約国の官庁は、国際登録
の対象である意匠の一部又は全部が当該指定締約国の法令に基づく保護の付与のた
めの条件を満たしていない場合には、当該指定締約国の領域における国際登録の一
部又は全部の効果を拒絶することができる。国際登録の効果を拒絶する場合、指定
締約国の官庁は、所定の期間内に国際事務局に対しその拒絶を通報し、国際事務局
は、名義人に拒絶の通報の写しを遅滞なく送付する(12条(1)、(2)(a)、(3)(a))。
同条(2)の「拒絶」は、拒絶の最終決定を意味するものではないと解されており、指
定締約国の官庁に要求されているのは、保護拒絶の原因となり得る理由を表示することだけである(乙5)。そして、拒絶の通報の対象となった名義人は、拒絶を通報\nした官庁に適用される法令に基づいて保護の付与のための出願をしたならば与えら
れたであろう救済手段を与えられ、救済手段は、少なくとも拒絶の再審査若しくは
見直し又は拒絶に対する不服の申立ての可能\性から成るものとされている(12条
(3)(b))。指定締約国を日本とした場合、拒絶の通報は、国際登録の公表日から12か月以内にされることになる(乙4、5)。\n
ジュネーブ改正協定上、このような「拒絶の通報」をすること及びこれに対する
指定締約国の国内法令に基づく救済手段を与えるべきことを超えて、指定締約国に
おける最終的な拒絶査定の告知方法や不服申立ての手続等(これらの事項は、ジュネーブ改正協定12条(1)ただし書の「国際出願の形式若しくは記載事項に関する
要件」には該当しないと解される。)について定めた規定は見当たらない。したがっ
て、これらの点については、ジュネーブ改正協定上、指定締約国の国内法に委ねら
れていることになる。前記のとおり、日本の意匠法によれば、本願は、日本の意匠
法に基づく意匠登録出願とみなされるのであるから、これに対する最終的な拒絶査
定の通知方法や不服申立て手続等も意匠法によるべきものと解される。
(3) しかるところ、本件において、特許庁は、本願について、令和3年10月2
2日に国際事務局に対し、「III) 拒絶の理由」の標題を付して具体的な拒絶の理由を
明らかにした本件拒絶の通報を発送しており(甲9)、国際事務局は、同年11月5
日、WIPOのウェブサイトにおいて、本件拒絶の通報を掲載した(乙3)。本件拒
絶の通報には、「国際登録の名義人は、この通報を発送した日から3か月以内に、「III)拒絶の理由」について、意見書を提出することができます。審査官は意見書の内容
を考慮し、保護を付与するかどうかについて決定いたします。なお、日本国内に住
所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない者は、日本国内に住所又は居所
を有する代理人によらなければ、日本国特許庁に対して手続をすることはできませ
ん。」旨の英文の記載があり、本件拒絶の通報に付された注意書(Appendix)にもこ
れと同旨の記載のほか、関連する意匠法の条文の英訳も記載されていた(甲9)。
(4) しかし、原告は、本件拒絶の通報後に意見書を提出せず、特許庁は、令和4
年4月5日付けで本件拒絶査定をした(甲10)。原告は、在外者であり、意匠管理
人を選任していなかったことから、特許庁は、意匠法68条5項において準用する
特許法192条2項の規定により、本件拒絶査定の謄本を、令和4年4月8日、航
空扱いとした書留郵便により発送した(甲10、乙6、7)。この結果、同条3項の
規定により、当該謄本は、発送の時に送達があったものとみなされた。当該書留郵
便は、同月10日には米国の国際交換局に到着していたが、同年9月21日までの
間、同局に保管され、原告に配達されたのは同月26日であった(甲1、2)。
(5) 意匠法上、拒絶査定に対する不服審判請求は、その査定の謄本の送達があっ
た日から3月以内にしなければならない(意匠法46条1項)。本件拒絶査定の謄本
は、令和4年4月8日に原告に送達されたものとみなされたから、原告は、その日
から3か月以内に不服審判請求をすべきであったところ、本件審判請求期間が経過
した後である同年11月18日に本件審判請求をしたものである。
2 以下、本件審判請求期間内に原告が本件審判請求をすることができなかった
ことについて、意匠法46条2項の「その責めに帰することができない理由」があ
ったかどうかについて検討する。
(1) 原告は、本件拒絶査定の謄本を原告が現実に受領した令和4年9月26日に
本件拒絶査定がされているのを知ったのであり、本件審判請求期間の経過後に本件
審判請求をすることになった原因は郵便の配送遅延にあるから、原告の責めに帰す
ることができない理由があると主張する。
しかし、そもそも意匠法68条5項において準用する特許法192条3項の規定
によれば、法律上、原告は現実に受領していなくても本件拒絶査定の謄本の発送の
時である令和4年4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされるのであるか
ら、意匠法46条2項の原告の責めに帰することができない理由の有無は、原告が
同日に当該謄本の送達を受けたことを前提にした上で検討されるべき問題である。
原告が現実に当該謄本を受領した日が本件審判請求期間後であったことや、その理
由が郵便の配送遅延にあったこと(ただし、当該謄本に係る書留郵便が同年4月に
米国交換局に到着した後、同年9月まで原告に配達されなかった理由は、証拠上明
らかではない。)があったとしても、これらの事情が存在することをもって直ちに原
告に「その責めに帰することができない理由」があると解することはできない。な
ぜなら、これらの事情は、みなし送達を定めた法の前記規定の想定範囲外の事態で
あるとは考えられない上、仮に、在外者の場合にこれらの事情のみをもって「その
責めに帰することができない理由」になると解したときは、拒絶査定の謄本が現実
に審判請求期間内に配達されなかったときは、同項所定の期間内(当該理由がなく
なった日から2か月以内で、同条1項の期間の経過後6か月以内)であれば、常に
拒絶査定不服審判を請求することを認めるのと実質的に同じ結果になるからである。
このような解釈は、拒絶査定の謄本等の書類の発送の時に送達を受けたものとみな
し、法律関係の安定を図る法の趣旨に反するものであるから、採用することができ
ない。同条2項の「その責めに帰することができない理由」とは、通常の注意力を
有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認め
られる事由により審判請求期間内に請求することができなかった場合をいうのであ
り、原告が令和4年4月8日に法律上、本件拒絶査定の謄本の送達を受けたことを
前提としたとき、本件審査請求期間の末日である同年7月8日までに原告が通常期
待される注意を尽くしてもなお本件審判請求をすることが困難であったことを示す
ような客観的な事情は見当たらない。したがって、原告の責めに帰することができ
ない理由の存在を認めることはできない。
それのみならず本件においては、前記1のとおり、本件国際登録の公表から12か月以内に拒絶の通報がされる可能\性があることは、ジュネーブ改正協定により国際出願を行った以上、原告又はその代理人において当然知り得たはずである。また、
少なくともWIPOのウェブサイトには本件拒絶の通報が掲載されていたから、原
告は、同ウェブサイトを確認することにより、本件拒絶の通報がされていることを
知り、日本国の意匠法に従って拒絶査定が行われるであろうことを容易に予測することができたはずである。それにもかかわらず、原告は、これらの点に注意を払う\nことなく、本件審判請求期間内に本件審判請求をしなかったのであるから、原告が、
意匠登録出願人として、通常の注意力を有する当事者に通常期待される注意を尽く
していたと認めることはできない。
(2) 原告は、意匠法46条2項の文言から、法定の期間内(同条1項の期間内)
に審判請求をする機会が与えられるに至った経緯については問われていないことが
明らかであると主張する(取消事由1)。原告の主張する「法定の期間内に審判請求
をする機会が与えられるに至った経緯」の意味は、必ずしも明らかではないが、同
条1項によれば、原告は本件拒絶査定の謄本の送達を受けた日から3か月以内に不
服審判を請求することができ、同法68条5項において準用する特許法192条3
項の規定によれば、法律上、原告は本件拒絶査定の謄本の発送の時である令和4年
4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされる。したがって、本件における
意匠法46条2項の「前項に規定する期間」は、その日から3か月以内の期間であ
る。しかるところ、同項の解釈上、当該期間中に原告が本件拒絶査定を受けたとい
う事実を知らなかったというだけで同項の「その責めに帰することができない理由」
に該当すると解することはできない一方、当該理由の存否の判断に当たり、原告が
本件拒絶査定のされたことを知ることができる事実的状況にあったことを考慮する
ことは、何ら同項の文言及びその趣旨に反するものではない。そして、これらの点
を考慮した上で本件審判請求期間を徒過したことにつき原告の責めに帰することが
できない理由の存在が認められないことは、前記(1)のとおりであるから、原告の主
張は採用することができない。
なお、原告代表者の宣誓供述書(甲1)によると、原告は、令和3年10月頃に、知的財産ポートフォリオの管理を、A氏の法律事務所からScheefに移管した\nが、その際、A氏が、本願について、数年先の更新期限まで更なるアクションをす
る必要がない旨の引継ぎをしており、このことが、原告又はScheefをして、
本件拒絶査定を受ける可能性があることを認識しなかった原因であることがうかがえる。しかしながら、前記1のとおり、本願については、国際公表\後に特許庁がその登録を拒絶する可能性があり、このことはジュネーブ改正協定の規定上明らかであったのであるから、上記引継ぎ内容は誤りであったというべきである。A氏及び\nScheefには、知的財産の管理者として意匠の国際登録に係る手続に精通すべ
きところ、これを怠っていたために上記誤りに気が付かなかったという過失がある。
また、日本国内の手続において、在外者に意匠管理人がいない場合には、書留郵便
等により拒絶査定の謄本が送達され、発送の時に送達があったものとみなされるこ
とは、意匠法の規定上明らかであるから(意匠法68条5項において準用する特許
法192条2項、3項)、A氏及びScheefは、現実に本件拒絶査定の謄本を受
領するよりも前に、送達の効力が生じることを認識し、それに備えるべきであった
ところ、これを怠ったという過失もある。そして、原告は、自らの経営判断により、
A氏及びScheefに対し、本願に係る管理を委任していたのであるから、A氏
及びScheefの過失があったことは、本件において原告の責めに帰することが
できない理由の存在は認められない旨の前記判断を左右するに足りるものではない。
(3) 原告は、本件審決の判断について、意匠法68条5項において準用する特許
法192条2項の規定に基づいて拒絶査定の謄本が書留郵便等により在外者に発送
された場合には意匠法46条2項の適用は認められないと述べているのに等しく、
法的根拠を欠くとも主張する(取消事由2)。しかし、拒絶査定の謄本が書留郵便等
により在外者に発送された場合には、みなし送達により原告が現実に謄本を受領し
ていなくても発送日から同条1項に定める法定の期間が開始することになるだけで、
この場合に同条2項の適用が排除されるわけではない。当該法定の期間内に拒絶査
定不服審判請求をすることができないような客観的な事情があるときなど、なお期
間の徒過につき審判請求人の責めに帰することができない理由が存在することはあ
り得る。すなわち、同法68条5項において準用する特許法192条2項の規定に
基づく拒絶査定の謄本の発送がされた場合に、意匠法46条2項を適用して不変期
間の例外が認められる余地がなくなるなどということはできない。したがって、原
告の主張は採用することができない。
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2024.02. 9
令和5(行ケ)10059 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年11月22日 知的財産高等裁判所
「患者保有分項目を設けた処方 箋と患者保有の医薬品を含めた投与日数算定の一方式」について、人為的取り決めであるので発明該当性なしとした審決が維持されました。
前記(2)のとおり、本願発明は、患者が医師の診察を受ける際に、前回処方
された医薬品が患者の元に残っている場合であっても、医師がこれを考慮す
ることなく、診察の日を起算日として医薬品の投与期間を定めて処方をして
いたことを課題として、これを解決するため、処方箋に「患者保有分」の項
目、すなわち患者が保有している医薬品に関して記載する項目を設け、既に
患者が保有している医薬品に相当する分を除いた投与期間を算定する方法の
発明であって、これによって、重複処方を防止する効果が得られるとされる
ものである。
しかしながら、本願発明のうち、「処方箋」の記載事項は、医師法施行規則
21条で規定されているから、「分量、用法、用量」の記載は法令に基づく規
定、すなわち人為的な取決めと解され、したがって、「分量、用法、用量」と
して記載される「投与日数」も人為的な取決めであり、本願発明において、
処方箋に「投与日数」として「患者保有分」の項目を設けることもまた、処
方箋に医師が記載する事項を定めた人為的な取決めにすぎず、自然法則を利
用したものであるとはいえない。
また、本願発明は、患者が保有している医薬品に相当する分を除いた投与
期間を算定する方法として、パターン1及びパターン2に分け、さらにパタ
ーン1についてイ、ロa・b・c、パターン2についてイa・b・c、ロa・
b・cにそれぞれ分けて、算定方法を具体化しているが、いずれの算定方法
も、医師が患者に対して医薬品を処方し、投与する際の投与期間の算定の方
法を定めた人為的取決めであって、自然法則を利用したものであるとはいえ
ない。
以上によれば、本願発明は、全体として人為的な取決めであって、自然法
則を利用したものとはいえないから、特許法2条1項にいう「発明」には該
当しない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)ないし(4)のとおり、本願発明は、
人為的な取り決めではなく、自然法則を利用したものであると主張する。
しかし、原告が指摘する内容のうち、医薬品の重複なく投与日数と服用
日数が一致することが継続することで自然法則が成り立つとの点は、本願
発明による投与期間の算定を行うことによる結果を述べているにすぎず、
投与期間の算定方法自体が人為的な取決めであって自然法則を利用した
ものではないとの結論を左右しない。
また、1年が365日であることについても、これが自然法則に該当す
るか否かの問題を措くとしても、本願発明は1年が365日であることを
前提に医薬品の投与日数の算定方法を決めたというにすぎず、1年が36
5日であることを利用して何らかの技術的手段を示したものとはいえな
いから、これによって、本願発明が自然法則を利用したものと解すること
はできない。
さらに、電子処方箋の時代を想定して、本願発明の算定方法をPC用プ
ログラムにして医師のパソコンに取り込んで医薬品及び受診予\約日を入
力すれば自動で処方箋が完成するとの点については、そもそも本願明細書
等には「処方箋」が「電子処方箋」であることについての記載も示唆も一
切ないし、「PC用プログラム」に関する記載も示唆も一切ないから、「電
子処方箋」及び「PC用プログラム」に関する原告の主張は本願発明と関
係がないというべきである。
最後に、本願発明の場合分けによれば医師の判断が入る余地がないとの
点についても、人為的な取決めである本願発明を結果として医師の判断部
分が減少するというにすぎず、この主張によって、本願発明が自然法則を
利用したものであると解すべき理由にはならない。
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)及び(4)のとおり、本願発明が画
期的なものであるから特許として認められるべきであると主張する。
しかし、ある発明が画期的であることによって当該発明が自然法則を利
用したものと解されることにはならず、特許法2条1項の「発明」に該当
するとの結論が導かれることはない。
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2024.02. 9
令和5(ワ)70056 差止等請求事件 その他 民事訴訟 令和5年11月30日 東京地方裁判所
パブリシティの権利に基づき、使用差止などが認められました。
被告らは、「エンリケ」という用語はスペイン語又はポルトガル語の男性名
に使用される一般用語であり、原告が著名であるとしてもキャバクラのホステ
スという狭い世界で著名性を有するにすぎないため、原告の名称には顧客吸引
力がない旨主張する。
しかしながら、前記前提事実並びに証拠(甲1、16ないし18,21、2
2)及び弁論の全趣旨によれば、1)原告は、キャバクラでホステスの仕事をし
ていたところ、次第に売上げを稼ぐことができるようになり、平成29年には
2日間で1億円以上、平成30年には3日間で2億5000万円以上、令和元
年には引退式4日間で5億円を、それぞれ売り上げた旨周知されたこと、2)原
告は、平成30年には「日本一売り上げるキャバ嬢の指名され続ける力」とい
う書籍を、平成31年には「日本一売り上げるキャバ嬢の億稼ぐ技術」という
書籍を、令和2年には「結局、賢く生きるより素直なバカが成功する 凡人が、
14年間の実践で身につけた億稼ぐ接客術」という書籍を、次々に出版し、令
和3年には著書累計15万部を突破したこと、3)さらに、原告は、あらゆる職
業に役立つコミック実用書として、令和3年には、上記「日本一売り上げるキ
ャバ嬢の億稼ぐ技術」をコミック実用書として出版し、全ての仕事に通じる稼
ぐ技術を広く紹介したこと、4)原告は、伝説のキャバクラ嬢として、テレビの
バラエティ番組にも出演するようになり、平成21年から令和4年にかけて2
0本以上のテレビ番組に出演したこと、5)原告のインスタグラムでは、令和5
年2月4日時点におけるフォロワー数が66万人を超えていること、以上の事
実が認められる。
上記認定事実によれば、原告は、被告らの主張するような一キャバクラ嬢に
とどまらず、書籍を多数出版しテレビにも多数出演しフォロワー数も極めて多
く、日本一稼いだ伝説のキャバクラ嬢として、世の中に広く認知されているこ
とが認められる。
これらの事情を踏まえると、原告名称又は原告肖像には、商品の販売等を促
進する顧客吸引力があるものと認めるのが相当である。
したがって、被告らの主張は、いずれも採用することができない。
(2) 被告らは、当裁判所の釈明にかかわらず、ピンク・レディー判決にいう3類
型該当性につき反論しないものの、念のため、以下検討する。
前記前提事実及び前記認定事実によれば、原告名称及び原告肖像には、商品
の販売等を促進する顧客吸引力があるところ、原告名称及び原告肖像の掲載態
様等を踏まえると、被告らが提供する全てのサービスに共通してエンリケとい
うブランド価値を全面に押し出していることからすれば、被告らは、エンリケ
空間にあっては内装の設計等の事業につき、エンリケスタイルにあってはエス
テティックサロンの経営等の事業につき、エンリケスタッフにあっては労働者
派遣事業等の事業につき、上記顧客吸引力により他の同種事業に係るサービス
との差別化を図るために、商号、標章、ウェブページ、ドメイン名において原
告名称又は原告肖像を付したものと認めるのが相当である。
したがって、被告らが原告名称又は原告肖像を使用する行為は、ピンク・レ
ディー判決の第2類型に該当するものとして、パブリシティ権を侵害するもの
といえる。
2 争点2(原告の同意の有無)について
被告らは、原告が被告らによる原告名称の使用に同意していた旨主張する。し
かしながら、被告らは、同意があった旨抽象的に主張するにとどまり、その同意
の時期、内容等を具体的に主張していないのであるから、その主張自体失当とい
うほかなく、被告らの提出に係る全証拠によっても、上記同意を裏付ける客観的
証拠はない。
仮に、少なくとも原告と訴外Bが婚姻中においては、原告名称の使用の合意を
していたとしても、被告らは、原告と訴外Bが離婚し、原告が被告エンリケ空間
の代表取締役を辞任した後でも、なお原告名称に係る使用の同意が継続する事実\nを具体的に主張立証するものではない。かえって、被告らの主張によっても、訴
外Bが原告と離婚した際に、原告名称を使用しない旨述べたことがうかがわれる
ことからすれば、被告らの主張を前提としても、現在まで上記同意が継続してい
る事実を認めるに足りないことは明らかである。したがって、被告らの主張は、
いずれも採用することができない。
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2024.02. 8
令和5(ワ)3171 損害賠償請求事件 その他 民事訴訟 令和5年12月11日 東京地方裁判所
芸能事務所が契約解除となったタレントの写真をホームページに掲載することは、\nパブリシティ権、肖像権の侵害とはならず、不競法2条1項1号の不正競争行為にも該当しないと判断されました。
1 争点1(パブリシティ権侵害の有無)について
(1)肖像等を無断で使用する行為は、1)肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象
となる商品等として使用し、2)商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等
に付し、3)肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する
顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害する
ものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成
21年(受)第2056号同24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2
号89頁)。
これを本件についてみると、前提事実並びに証拠(甲11、乙1、7)及
び弁論の全趣旨によれば、芸能プロダクションである被告は、被告に所属す\nるタレントを紹介するために、そのホームページにおいて、他の所属タレン
トと併せて原告の氏名及び肖像写真(本件写真等1)をトップページに掲載
するとともに、原告のプロフィール及び肖像写真(本件写真等2)を所属タ
レントのページに掲載したことが認められる。
上記認定事実によれば、被告は、所属タレントを紹介する被告のホームペ
ージにおいて、原告が被告に所属する事実を示すとともに、原告に関する人
物情報を補足するために、本件写真等を使用したことが認められる。
そうすると、本件写真等は、商品等として使用されるものではなく、商品
等の差別化を図るものでもなく、商品等の広告として使用されるものともい
えない。
したがって、被告が本件写真等を使用する行為は、専ら原告の肖像等の有
する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、パブリシティ権を侵害
するものと認めることはできない。
(2)これに対し、原告は、本件写真等の掲載は原告の肖像写真等を写真集等に
利用する行為と同視し得ると主張し、また、被告が取引先を介して原告の肖
像写真等を広告等に利用する行為と同視し得る旨主張する。
しかしながら、本件写真等は、被告が所属タレントを紹介するために使用
されたにすぎないことは、上記において説示したとおりである。
そうすると、本件写真等が写真集等や広告等に利用されたといえないこと
は明らかである。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができ
ない。
2 争点2(肖像権侵害の有無)について
(1)肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するも
のとして、みだりに自己の容ぼう等を撮影等されず、又は自己の容ぼう等を
撮影等された写真等をみだりに公表されない権利を有すると解するのが相当\nである(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷
判決・刑集23巻12号1625頁、最高裁平成15年(受)第281号同
17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁、前掲最高
裁平成24年2月2日判決各参照)。他方、人の容ぼう等の撮影、公表が正\n当な表現行為、創作行為等として許されるべき場合もあるというべきである。\nそうすると、容ぼう等を無断で撮影、公表等する行為は、1)撮影等された
者(以下「被撮影者」という。)の私的領域において撮影し又は撮影された
情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではない\nとき、2)公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合におい\nて、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するもの
であるとき、3)公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合\nにおいて、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を\n超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときなど、
被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、
肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当で
ある。
(2)これを本件についてみると、前記認定事実によれば、被告は、所属タレン
トを紹介する被告のホームページにおいて、原告が被告に所属する事実を示
すとともに、原告に関する人物情報を補足するために、本件写真を使用した
ものである。そして、証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真
の内容は、白色無地の背景において、原告の容ぼうを中心として正面から美
しく原告を撮影したものであることが認められる。
そうすると、本件写真は、私的領域において撮影されたものではなく、原
告を侮辱するものでもなく、平穏に日常生活を送る原告の利益を害するもの
ともいえない。
したがって、被告が本件写真を使用する行為は、原告の肖像権を侵害する
ものと認めることはできない。
これに対し、原告は、自らの意思に反して芸能事務所の所属タレントとし\nて肖像が利用された場合には、精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超
える場合に当たる旨主張する。しかしながら、原告は、肖像権侵害を主張す
るものの、肖像に化体しこれに紐づけられた法律上保護される利益(民法7
09条参照)を具体的に特定して主張するものではなく、主張自体失当とい
うほかない。仮に、原告の主張を前提としても、前記前提事実によれば、本
件契約に係る解除が有効であるとする別件訴訟の棄却判決が、令和5年4月
18日に確定したところ、被告は、同日には、自社のホームページから、本
件写真を削除したことが認められる。そうすると、原告の主張を十分に斟酌\nしても、本件契約の解除の有効性が訴訟で争われていた事情を考慮すれば、
その間に本件写真を掲載した行為が、受忍限度を超える侮辱ということはで
きず、その他に、原告主張に係る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を
超えることを裏付ける的確な証拠はない。したがって、原告の主張は、採用
することができない。
3 争点3(不正競争防止法2条1項1号該当性)について
不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」とは、人の業務に係る氏\n名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示\nするものをいう。
これを本件についてみると、原告の氏名又は肖像は、原告を示す人物識別情
報であり、本来的に商品又は営業の出所表示機能\を有するものではない。そし
て、前記前提事実によれば、原告は、芸能プロダクションである被告に所属す\nる一タレントであったにすぎず、原告自身がプロダクション業務等を行ってい
た事実を認めるに足りない。そして、本件全証拠をもっても、原告の氏名又は
肖像が、その人物識別情報を超えて、原告自身の営業等を表示する二次的意味\nを有するものと認めることはできず、まして、原告の氏名及び肖像が、タレン
トとしての原告自身の知名度とは別に、原告自身の営業等を表示するものとし\nて周知であるものとは、明らかに認めるに足りない。
したがって、原告の氏名又は肖像が周知な商品等表示に該当するものと認め\nることはできない。
これに対し、原告は、原告の氏名又は肖像が商品の出所又は営業の主体を示
す表示である旨主張するものの、原告は、芸能\プロダクションである被告に所
属する一タレントであったにすぎず、本件全証拠によっても、原告自身が営業
等の主体である事実を認めるに足りないことは、上記において説示したとおり
である。したがって、原告の主張は、不正競争防止法2条1項1号にいう「商
品等表示」を正解するものとはいえず、採用することができない。\n
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2024.02. 8
令和5(ワ)4333 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟 令和5年11月29日 東京地方裁判所
使い捨ての衛生マスクについて、外箱のパッケージデザインのセットとして、不競法2条1項3号の商品形態と認定されました。ただ、発生した損害には相当因果関係がないとして損害賠償請求は棄却されました。
1 被告商品の形態は原告商品の形態と実質的に同一か(争点1)について
甲1によれば、原告商品と被告商品の形態等は次のとおりである。
ア 原告商品及び被告商品は、50枚の不織布製の使い捨てマスクが青色の紙
製の直方体のパッケージに入ったものである。原告商品及び被告商品のパッ
ケージの上面(以下「上面」という。)は、いずれも縦長の長方形に構成さ\nれており、上部に商品名、中部にマスクを斜め方向から見た図(商品の説明
をするポップアップが二つ付されている。)、下部に商品の特徴が掲載されて
いる。パッケージの側面のうち、略正方形の面(以下「略正方形面」という。)
には、いずれも、商品名とその特徴が掲載されている。いずれのパッケージ
も、パッケージの側面のうち、長方形の面は、横長に構成されており、その\nうち一方(以下「長方形面1」)については左半分に前記略正方形面とほぼ
同様の記載が、右半分にマスクを斜め方向から見た図が掲載されており、他
方の面(以下「長方形面2」という。)には、左側に商品の特徴及び基本情
報が、右側に使用上の注意事項、保管上の注意事項及び販売元が記載されて
いる。
イ 原告商品と被告商品のパッケージの上面のデザインは、中部のマスクの色
合いが被告商品の方が若干青みかかっており、被告商品のみに小さく「※イ
ラストはイメージです」という文言が付されている点、下部の商品の特徴を
列挙している4つのブロックを貫く青線の太さ及び濃さが多少異なる点を
除いて、基本的に同じデザイン(マスクの形状についても差異が認められな
い。)になっている。上面の上部についても、上から順に、各商品のロゴ、
商品の特徴、「肌にやさしい素材」、「99%カットフィルターでブロック」、
商品の名称となっている点は共通しており、ロゴ、商品の特徴(原告商品は
「−耳にやさしい−」、被告商品は「個包装 携帯に便利」との記載)、商品
名(原告商品は「らくらくマスク」、被告商品は「不織布マスク」)に異なる
部分があるが、文字のデザインは基本的に同じである。
ウ 略正方形面については、原告商品、被告商品のいずれも、上から、前記イ
記載の各上部の記載(ただし、片面について被告商品は商品名の欄に「らく
らくマスク」と記載されている。)があり、基本的に上面の下部分と同じデ
ザインとなっている。
エ 長方形面1については、原告商品、被告商品のいずれも、左側が略正方形
面と基本的に同じデザインで、右側は上面の中部分と基本的に同じデザイン
になっている。
オ 長方形面2については、原告商品、被告商品のいずれも、左上の商品特徴
を記載した4つのブロックを貫く線が、原告商品が白抜きで被告商品が青抜
きである点及び販売元に関する記載と商品バーコードの有無以外の点は、記
載内容が同一である(商品は、原告商品と被告商品のいずれも「らくらくマ
スク」とされている。)。
不正競争防止法2条4項所定の商品の形態とは、「需要者が通常の用法に従
った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の
形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」である。
原告商品及び被告商品につき、パッケージの中の不織布製の多数枚(50枚)
のマスクは、その性状からもそれぞれのマスク単体ではなくパッケージに入っ
た状態で流通し、販売されて消費者がこれを購入することが予定されており、\n原告商品及び被告商品のパッケージ全体は、中に入ったマスクと一体となって
「商品」を構成し、そのパッケージのデザインは、商品の「模様、色彩」に当\nたるとするのが相当と解する。
前記 で認定したとおり、原告商品と被告商品は、そのパッケージの基本的
なデザインが同じであるほか、マスクの写真に付されたポップアップのデザイ
ン及び説明文言、商品特徴の説明文言及び配置、商品の特徴を列挙している4
つのブロックを青色の線が貫くデザイン等の細かい点まで一致している。原告
商品と被告商品のパッケージは、商品名やロゴ、販売元に関する記載等につい
て一部異なる点があるものの、それらの記載等が商品全体において占める部分
は非常に小さく、全体的な印象に与える影響は限定的であり、原告商品と被告
商品の形態は実質的に同一であるというべきである。
被告は、原告商品のパッケージのデザインがありふれたものである旨主張す
る。
原告商品のパッケージにおける個々の模様のデザイン、説明文言等は、その
それぞれに着目すると同種商品に同じデザイン、文言等が記載されているもの
もある(乙4〜9)。しかし、原告商品のパッケージは多数の具体的な模様、表\n示等からなり、それらを組み合わせたデザインがありふれたものであることを
認めるに足りる証拠はなく、原告商品のパッケージのデザインが全体としてあ
りふれたデザインであるとは認めるには足りない。
2 被告商品は原告商品に依拠したものか(争点2)について
被告商品は原告商品の後に発売されたものであり(前提事実 、 )、前記1で
認定したとおり、原告商品と被告商品のパッケージは細部まで一致している。ま
た、原告商品のマスクの画像に付されたポップアップの誤記(「側は肌にやさし
い滑らか素材」との記載について、原告は、「内側は肌にやさしい滑らか素材」と
すべきであったところ誤植したと述べる。)が被告商品にもそのままあり(被告
商品の記載も「側は肌にやさしい滑らか素材」との記載である。)、被告商品では、
商品名として、上面及び長方形面1、略正方形面の一方では「不織布マスク」と
記載されているものの、略正方形面の他方及び長方形面2では「らくらくマスク」
(原告商品の商品名)と記載されていて、これらは、いずれも原告商品の記載を
そのまま利用してしまい、変更することを失念したものと推認できることを考慮
すると、被告商品は原告商品に依拠して製造されたものと認められる。
3 故意、過失(争点3)について
弁論の全趣旨によれば、被告は、別会社にデザインまで含めた商品の内容につ
いて指示を出し、被告商品の製造を委託したことが認められる。前記2で認定し
たとおり、被告商品は原告商品に依拠してデザインされ、製造されたものである。
原告商品のデザインに依拠したパッケージデザインを具体的に発案した者は必
ずしも明らかではないが、被告商品の内容について最終的な決定権を有するのは
被告であったといえ、原告商品に依拠してこれと実質的に同一の被告商品を販売
したことについて、被告には少なくとも過失があったというべきである。
4 損害及び因果関係(争点4)について
証拠によれば次の事実が認められる。
・・・・
イ 本件取引会社は、令和2年10月16日付けで、原告に対し本件売買契約
を解除する旨記載された契約解除通知書(以下「本件通知書」という。)を
送付した。本件通知書には、「貴社と締結いたしました商品売買契約につき
まして、下記の理由をもちまして、本書面をもって解除いたします。」と記
載され、下記の記載があった。当時、被告商品を999円/箱で販売してい
る小売店が存在した。原告は、本件通知書の内容を了承して、本件売買契約
は履行されなかった。(甲5、6、15)
記
「1.雑貨店で同じ包装の商品が安く売られていることが判明しました。
2.雑貨店の定価(税別999円/箱)は貴社からご提示いただいた価格
(税込1400円/箱)よりも低いことが判明しました。
3.貴社は当該商品売買契約(判決注:本件売買契約)の第8条に違反し
ました。」
以上
原告は、被告商品が販売されたことが原因で本件売買契約が解除されたので、
本件売買契約に基づく履行利益(売買代金から経費を控除した額)が損害に当
たると主張する。
前記 で認定したとおり、本件取引会社は、被告商品が、本件売買契約にお
ける単価(1400円/箱)よりも安価に販売されていることを指摘して、本
件通知書を送付したことが認められる。
しかし、本件通知書には、本件売買契約8条に違反したとの記載はあるもの
の、同条のいずれの項に違反したとも特定されていない。この点について、原
告は、本件売買契約は8条 で規定されている「信用状態の悪化」があったた
め解除されたと主張する。しかし、一般的に取引契約における解除原因として
規定される「信用状態の悪化」は、当事者の支払能力等の経済的信用を問題と\nする趣旨で用いられるところ、原告にそのような事情があったことはうかがえ
ず、また、被告商品の販売がこれに関連するとも認められない。仮に「信用状
態の悪化」を、当事者が信頼関係を損なう背信的行為をしたこと(道義的信用
が悪化したこと)を意味するとしても、その趣旨からして少なくとも原告に帰
責性のある事情があることが前提とされるところ、被告が原告商品の形態を模
倣して販売したことは、原告に何の帰責性もない。その他、原告において「信
用状態の悪化」が認められる事情が生じたことを認めるに足りる証拠はなく、
本件売買契約8条のその余の条項に当たる事情があったことを認めるに足り
る証拠もない。原告は、原告代表者の配偶者の陳述書(甲15)を提出し、そ\nこには、令和2年10月、本件取引会社の販売先が原告商品と同じパッケージ
のマスクを見かけ、本件取引会社は、原告は本件取引会社に1400円/箱の
卸価格で提案したのに、店で999円で売られていることがありえないことだ
と怒っていて、これは本件売買契約8条に違反するので、キャンセルするなど
と電話連絡をして、その後本件通知書が送付され、原告は、原告商品と被告商
品の販売価格に乖離があったためやむを得ずキャンセルを了承することとし
たとの記載がある。
この陳述書によっても、本件取引会社は、本件取引会社へ
の販売価格よりも低廉な価格で商品が販売されていたことを問題視している
ことはうかがえるが、それにより、結局本件取引会社が何を問題としていたの
かは必ずしも明らかではなく、原告が原告商品を本件取引会社以外の者に対し
ては本件取引会社に対する価格よりも廉価で販売していたと誤解した可能性\nもうかがわれないではない。原告が本件取引会社以外の者に対して廉価販売し
たと誤解したことについては誤解を解くべき話といえる。なお、被告商品の販
売が本件取引会社による原告商品の販売数量に影響を与えることはあり得る
ものの、そもそも本件売買契約では当該商品について本件取引会社に対しての
み販売することが定められてはおらず(甲4)、他社が同種の商品を販売した
こと自体を本件取引会社は問題視できるものではない。これらによれば、本件売買契約については、契約において定められた解除理由は存在しなかったというべきであり、これが履行されなかったのは、原告と本件取引会社との間の合意によるものといえる。
被告商品を販売することは不正競争行為であり、被告は、これにより原告に
生じたといえる損害を賠償する義務がある。もっとも、侵害者は、侵害行為が
他社間の契約の存続に影響を与えることを当然に予見できるものではなく、ま\nた、他社間の契約の内容は当該他者間で自由に定められるもので侵害者がその
内容を通常は知ることはできず、侵害者にその契約の履行利益を前提とする損
害を負担させることは当事者間の衡平に反する場合があるといえる。少なくと
も本件のように、原告と第三者との間に解除権の発生原因がないが、両者間の
合意によってこれを履行せず、また、本件売買契約における販売価格も当時の
相場に比べて高額といえるような場合(甲11は、マスクの平均価格は、令和
2年4月24日には1枚当たり78円だったが、その後急速に値下がりし、同
年8月13日には1枚当たり12円だったとする。被告の侵害行為の時点(前
記第2の2 )では、本件売買契約のマスクの単価は上記平均価格に比べて相
当に高かった。原告は本件売買契約によって相当多額の利益を得られたはずで
あると主張している(前記第2の3 ))、本件で原告が主張する損害は、通常
生ずべき損害には当たらず、また、被告にはその発生が予見できなかったもの\nということが相当である。
以上の事情を考慮すると、本件において原告が主張する損害は、被告商品の
販売との間の因果関係を欠くというべきであり、被告がそれを賠償すべきであ
るとは認められない。なお、原告は、本件において不正競争防止法5条に基づ
く主張はしない旨述べた(令和5年9月12日付け原告第3準備書面)。
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2024.02. 8
令和2(ワ)29523 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年11月15日 東京地方裁判所
施工方法の特許について、差し止めと損害賠償約300万円が認められました。算定は102条2項ですが、判決文中に控除される経費として具体的に記載されています。一つが下請業者への支給した栄養ドリンク剤です。
(1) 特許法102条2項所定の「その利益の額」について
前記9において説示したとおり、被告とAAによる本件工事の施工に係る
本件特許権侵害について共同不法行為が成立するから、原告が受けた損害の
額と推定される特許法102条2項所定の「その利益の額」は、本件工事に
よって、被告が受けた利益の額とAAが受けた利益の額との合計額となる。
(2) 被告の受けた利益の額
ア 売上高
前提事実(5)イのとおり、被告が受領した本件工事の施工についての請負
代金の額は、377万2224円(税抜代金349万2800円、消費税
相当額27万9424円)と認められる。
そして、消費税法基本通達5−2−5柱書及び(2)によると、「無体財
産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する
損害賠償金」は、資産の譲渡等の対価に該当するものとされていることか
らすれば、特許法102条2項の「侵害の行為により利益を受けていると
き」にいう「利益」には消費税相当分も含まれると解すべきである。
したがって、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎となる売上高
は、377万2224円(消費税込み)というべきである。
イ 控除すべき経費
(ア) 材料費 100万3320円(消費税込み)
当事者間に争いがない。
(イ) 外注費 58万2740円(消費税込み)
証拠(乙64ないし69)によれば、被告は、本件工事の一部の施工
を下請業者に発注し、日当、残業代、ガソリン代及び高速料金代並びに\n飲料水代として、合計58万2740円(消費税込み)を支払ったこと
が認められる。
そして、証拠(乙80)により認められる本件工事の施工期間、施工
内容等に照らせば、上記支払のうち、日当、残業代、ガソリン代及び高\n速料金代は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たる
ものと認められる。
また、証拠(乙80)によれば、上記の下請業者に対する支払のうち、
飲料水代については、暑い現場で作業している下請業者が水分補給でき
るようにとの趣旨で購入されたものと認められるところ、その内容及び
金額の水準に照らせば、当該支払についても、本件工事の施工に直接関
連して必要となった経費に当たると認めるのが相当である。
(ウ) 交際費 7201円(消費税込み)
証拠(乙70、80)によれば、被告は、本件工事の施工期間中、前
記(イ)の下請業者の昼食代として合計7201円(消費税込み)を負担し
たことが認められるところ、その内容及び金額の水準に照らせば、当該
負担は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たるもの
と認められる。
(エ) 消耗品費 1527円(消費税込み)
証拠(乙71)によれば、被告は、ポリ袋及びコピー用紙を合計69
7円(消費税込み)で、ナチ六角軸鉄工ドリル及び「リポビタンD」と
いう商品名の栄養ドリンク剤を合計830円(消費税込み)で、それぞ
れ購入したことが認められる。
そして、証拠(乙80)によれば、上記ポリ袋は、現場において発生
した廃材を処理するため、上記コピー用紙は、現場においてメモをとる
ため、上記ナチ六角軸鉄工ドリルは、母屋材にビス孔を空けるドリルの
交換用として、それぞれ購入したものと認められるから、これらの支払
は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たるものと認
められる。
また、証拠(乙80)によれば、上記「リポビタンD」は、暑い現場
で作業している下請業者が栄養補給できるようにとの趣旨で購入された
ものと認められるところ、その内容及び金額の水準に照らせば、本件工
事の施工に直接関連して必要となった経費に当たると認めるのが相当で
ある。
(オ) 旅費交通費 310円(消費税込み)
当事者間に争いがない。
(カ) 車両費 6000円(消費税込み)
証拠(乙78、80)によれば、被告代表者は、本件工事の施工期間\nである令和元年7月5日から同月9日まで、数名の作業員や様々な工具
類・装備品を同乗・積載させた車両を運転して、当時の被告所在地(省
略)と施工現場との間を往復したこと、当時の被告所在地と施工現場と
の間の道のりは40キロメートル以上であることがそれぞれ認められる。
そして、弁論の全趣旨によれば、1キロメートル当たりのガソリン代\nは15円(消費税込み)を下回らないと認められるから、これらを基礎
として算定したガソリン代相当額6000円(=15円×40キロメー\nトル×2×5日)は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費
に当たるものと認められる。
(キ) 合計 160万1098円(消費税込み)
ウ 小括
前記ア及びイによれば、被告が本件工事の施工により受けた利益の額は、
217万1126円(消費税込み)と認められる。
(3) AAの受けた利益の額
ア 売上高
前提事実(5)アによれば、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎と
なる売上高は、472万3920円(消費税込み)と認められる。
イ 控除すべき経費
前提事実(5)イによれば、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎と
なる控除すべき経費は、377万2224円(消費税込み)と認められる。
ウ 小括
前記ア及びイによれば、AAが本件工事の施工により受けた利益の額は、
95万1696円(消費税込み)と認められる。
(4) 損害額
前記(2)及び(3)によれば、特許法102条2項により算定される原告の損
害額は、312万2822円と認められる。
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2024.02. 7
令和5(行ケ)10014 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年11月29日 知的財産高等裁判所
審決は、文言追加する訂正を実質上変更するものと判断しました。知財高裁(3部)も同様です。
そうすると、訂正前の請求項1の発明においては、地点候補がシンボルマ
ークで表示がされている間は、位置情報を取得し得る地点は、このシンボル\nマークに対応した位置に限られ、それ以外の地点の位置情報は取得し得ない
こととなる。これは、本件明細書の発明の詳細な説明の【発明の効果】に、
「請求項1に記載の発明によれば、候補抽出手段によって地点候補を絞り込
み、絞り込まれた地点候補を地図画面上にシンボルマークで表示するととも\nに、そのシンボルマークの表示のある間、位置情報を取得可能\な地点をシン
ボルマークに対応する位置に制限するので、表示されたシンボルマークを選\n択するだけで、地図画面上から所望の位置情報を取得することができる。」
(段落【0015】)と記載され、シンボルマークが表示されている間に位\n置情報が取得可能な地点は、シンボルマークが表\示されている位置のみとさ
れていることからも明らかである。さらには、前記(1)イのとおり、本件発明
はユーザーに煩雑な操作を強いることなく地図画面上から所望の位置情報
を取得することのできるナビゲーション装置を提供するものとし、そのため
「地図画面上のカーソルで地点を指定することによって対象位置の位置情\n報を取得する位置情報取得手段46を備え」(段落【0030】)、「地点候補
以外のシンボルマークが消失する大縮尺の地図表示になっても、地点候補を\n示すシンボルマークが残るように設定されており、それによって利便性の向
上が図れている」(段落【0038】)、「経由地を設定する際には、シンボル
マークに対応する位置以外は位置情報の取得が制限されるため、縮尺の大き
い地図画面であっても不要な地点を誤って設定してしまうことがない」(段
落【0040】)及び「地図画面上のシンボルマークに対応する地点以外の
位置情報を取得できないようにしているが、単に、取得できないだけでなく、
位置情報の選択カーソルを地点候補(シンボルマーク)以外には移動できな\nいようにしても良い」(段落【0042】)とする本件明細書の各記載の内容
にも沿うものである。
エ 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の発明の意義
これに対し、訂正後の請求項1の発明は、「前記地点候補がシンボルマー
クで表示されている間は、」「地点候補の位置情報を取得し得る地点を前記シ\nンボルマークに対応する位置に制限する」とするものであるところ、前記イ
のとおり、特許請求の範囲の記載によれば、候補抽出手段で抽出された後の
地点候補が地図画面上にシンボルマークで表示されているのであるから、\n「前記シンボルマークに対応する位置」とは、すなわち地図画面上にシンボ
ルマークで表示されている地点候補の地球上の所在地であり、これは、地図\n画面上における「地点候補の位置情報を取得し得る地点」と同じものを意味
している。そうすると、訂正後の請求項1においては、位置情報を取得し得
る地点についての「制限」は何らなされていないこととなる。
加えて、前記イのとおり、位置情報取得手段は地点についての位置情報を
取得するものであり、地点候補についての位置情報を取得するものではない
から、訂正後の請求項1においては、地点候補以外の地図画面上に表示され\nた任意の場所である地点について、地点候補がシンボルマークで表示されて\nいる間、位置情報取得手段により位置情報を取得し得るのか否かについて、
明らかにしないものとなる。
すなわち、訂正後の請求項1の発明では、「地点候補の」との文言を加え
ることにより、位置情報を取得し得る「地点」についての「制限」をなくし、
位置情報を取得できる範囲を不明とするものであり、特許請求の範囲の記載
のうち、「前記表示手段の地図画面上に前記地点候補がシンボルマークで表\
示されている間は、前記位置情報取得手段によって位置情報を取得し得る地
点を、前記シンボルマークに対応する位置に制限する」との文言(構成要件\nG)を無意味とし、発明特定事項の一部を削除するものということができる。
オ 本件訂正前の請求項1の発明と本件訂正後の請求項1の発明の対比
そうすると、訂正事項1により、請求項1に係る発明は、本件訂正前の請
求項1に記載される地点の位置情報を取得し得るのがシンボルマークに対
応した位置に限られ、それ以外の地点の位置情報は取得し得ないこととなる
ものから、位置情報を取得し得る地点についての「制限」をなくし、位置情
報の取得範囲を不明として、発明特定事項の一部を削除するものに変更され
ることになるから、この変更は、特許請求の範囲を変更するものであるとこ
ろ、その変更は、減縮的な変更には当たらず、また、「明瞭でない記載の釈
明」を目的としたものともいえず、本件訂正前の請求項1の記載の表示を信\n頼した第三者に不測の不利益を与えることになることは明らかである。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を変更するものと認め
られるから、特許法126条6項の要件に適合しないというべきである。こ
れと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
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2024.02. 7
令和3(ワ)18262 損害賠償請求事件(特許権侵害) 特許権 民事訴訟 令和5年12月6日 東京地方裁判所
特102条3項のライセンス料として、通常の5%を根拠に6%の損害が認められました。被告の公式ホームページにおいて、販売数量について「30万着突破!」と記載されていたことは、虚偽であると認定されています。
ア 証拠(乙18、29、30)及び弁論の全趣旨によれば、令和2年1月
22日から令和4年2月22日までの間の被告製品の売上高は、1億17
57万6451円であったと認められる。
イ(ア) 原告は、被告が、令和2年1月1日から同月21日までの間も被告製
品を販売したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(イ) また、原告は、被告の公式ホームページにおいて、被告製品の販売数
量について「27万着突破!」、「30万着突破!」と記載されていたこ
とを指摘して、被告製品の販売数量は少なくとも27万着であり、これ
に1着当たりの単価5980円を乗じると、被告製品の売上高は16億
1460万円を下らないと主張する。
そこで検討すると、確かに、証拠(甲4、14)によれば、被告の公
式ホームページにおいて上記の記載がされていたことが認められるもの
の、同ホームページに記載されていた販売価格(5980円。弁論の全
趣旨によれば、この価格はブラジャーの一般的な販売価格として相当な
ものと認められる。)を前提とすると、前記アにおいて認定した被告製品
の売上高は、請求書記載の被告製品の輸入数量(乙17)、被告製品に係
る販売管理データ記載の販売数量(乙18)、被告の損益計算書記載の売
上高(乙20、21)、被告における被告製品以外の売上高(乙22ない
し24)と整合的であるといえる。これに対し、被告製品の販売数量が
27万着以上であることを示す資料は、被告の公式ホームページの記載
以外に存在しない。
これらの事情に照らせば、令和2年1月22日から令和4年2月22
日までの間の被告製品の売上高は前記アにおいて認定したとおりであっ
て、被告の公式ホームページにおける販売数量の記載は虚偽のものであ
ったと認めるのが相当である。
(ウ) したがって、原告の前記各主張を採用することはできない。
(2) 相当な実施料率について
ア 本件発明の実施に対し受けるべき料率については、1)本件発明の実際の
実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界にお
ける実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)本件発明自体の価値すなわち本
件発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)本件発明を被
告製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者
である原告と侵害者である被告との競業関係や特許権者である原告の営業
方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきで
ある。
イ 本件についてみると、本件発明の実際の実施許諾契約における実施料率
は、5パーセントであることが認められる(甲15ないし18)。
また、本件発明は、多種多様の女性用衣料を個々に用意することなく、
個人差を有する女性のバスト等のサイズや形、あるいはバストアップ等の
補正機能等に対応することが可能\な女性用衣料を低コストで提供すること
を可能とするものであるところ(前記1(2)イ)、被告製品も、女性のバス
トの補正を主たる機能としたものであるから(甲3、4、14)、本件発明\nを被告製品に用いることが被告の売上げ及び利益に大きく貢献していると
認めるのが相当であって、他のものによる代替可能性はうかがわれない。\nさらに、原告と被告は、いずれも女性用衣料を販売しているから(前提
事実(1)、(5)及び(6))、その市場において競業関係にある。
これらの事情に照らすと、特許権侵害をした者に対して事後的に定められ
る本件発明の実施に対し受けるべき料率については、6パーセントと認め
るのが相当である。
(3) 特許法102条3項により算定される額について
以上によれば、特許法102条3項により算定される本件発明の実施に対
し受けるべき金銭の額に相当する額は、705万4587円(1円未満四捨
五入)と認められる。
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2024.02. 6
令和4(ワ)70079 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和6年1月24日 東京地方裁判所
新聞社がツイートを全文利用することは、著作権法41条の「報道の目的上正当な範囲内」に該当すると判断されました。
著作権法41条は、時事の事件の報道には、国民の知る権利に資する側面
があり、しかも、速報性が求められるため、事前に著作権者の許諾を得るこ
となく、当該報道に伴う著作物利用を認める必要性があること、他方で、当
該報道に伴い利用することが避け難い著作物をその目的上正当な範囲内にお
いて利用するにとどまれば、著作権者の利益を不当に害するものではないこ
とに鑑み、著作権者の権利制限を認めたものと解される。
上記のような著作権法41条の趣旨に鑑みると、「時事の事件」とは、速
報性の要求される事件、すなわち、現在又は近時に起こった事件をいうと解
するのが相当である。本件において、社会活動家である原告が、社会的に注
目されたB元首相の射殺事件についてコメントをしたことは、本件記事の配
信の前日の出来事であるから、「時事の事件」に該当する。
また、上記著作権法41条の趣旨に照らすと、「当該事件を構成」する著\n作物とは、当該報道に伴い利用することが避け難い著作物、すなわち、事件
の主題となっている著作物をいうと解されるところ、「時事の事件」を社会
活動家である原告が、社会的に注目されたB元首相の射殺事件についてコメ
ントをしたことと捉えると、原告のコメント内容すなわち本件各ツイートの
内容は、事件の主題となっている著作物であるといえる。
さらに、上記のとおり、著作権法41条の正当化根拠が、当該報道に伴い
利用することが避け難い著作物をその目的上正当な範囲内において利用する
にとどまれば、著作権者の利益を不当に害するものではない点にあることに
照らすと、著作物の利用が「報道の目的上正当な範囲内において」行われる
といえるかどうかは、著作物の利用の必要性及びその利用の態様に照らして
著作権者の利益を不当に害しないかどうかという観点から検討されるべきで
ある。
本件において、被告は、本件各ツイートの内容をほぼ全文引用しているも
のであるが、そもそも本件各ツイートは全体で400字前後とさほど長くな
いものであり、原告がコメントした事実をその表現内容とともに正確に伝え\nるという報道の目的に鑑みると、要約や一部の切り取りをすることなく本件
各ツイートのほぼ全文を引用する必要性があったものと認められる。
他方で、本件各ツイートは、前記3のとおり原告の著作物として保護され
るものであるものの、ツイッター上で公開され、誰もが無料で閲覧すること
ができるものであり、原告も、自身の思想や意見をより多くの者に知っても
らうために本件各ツイートを発信していると認められること(弁論の全趣旨)
に照らすと、前記1のとおり、被告による本件見出しの選択に問題があった
としても、本件各ツイートを全文引用すること自体が原告の利益を不当に害
しているとはいい難い。以上によれば、被告による本件各ツイートの利用は、「報道の目的上正当な範囲内」においてされたものといえる。
(2) これに対し、原告は、およそあらゆる著作物をいかなる場合でも無制限に
報道目的で利用できることになってしまい、著作権の保護が無意味となって
しまうから、著作権法41条は、著作物の創作行為や公表行為そのものを\n「時事の事件」として捉え、当該著作物を「当該事件を構成し、又は当該事\n件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」として利用することは
およそ想定していないと主張する。しかし、前記(1)で説示したとおり、著作権法41条は、「当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」であれば、無制限に報道目的で利用することを認めているものではなく、その中で\nも「報道の目的上正当な範囲内」における利用を想定しており、それは、当
該報道に伴い利用することが避け難い著作物をその目的上正当な範囲内にお
いて利用するにとどまれば、著作権者の利益を不当に害するものではないこ
とを根拠とするものである。したがって、同条によって、あらゆる著作物を
いかなる場合でも無制限に報道目的で利用できるわけではないから、原告の
上記主張は、独自の見解であるといわざるを得ず、採用することができない。
◆判決本文
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2024.02. 5
令和3(ネ)10084 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年11月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害について、1審の約15億円の損害賠償判決がなされました。双方控訴しましたが、知財高裁は控訴を棄却しました。
【当審における双方の補充的主張に対する判断】
(1) 第1審原告の補充的主張について
ア 第1審原告は、計算鑑定書の別表において、1)対象期間における原反ロー
ルの購入面積が第1審被告製品(1)の販売面積よりも大きかったり、2)原
反ロールの購入面積と第1審被告製品(1)の販売面積が一致するデータが
多かったりするなどといった不自然な結果が記載されていると指摘する。
しかし、1)については、加工する際の歩留まりやロス、仕損じがあること
を考えれば、原反ロールの購入面積よりも販売面積が小さくなることは何
ら不自然ではない。2)についても、計算鑑定書は、第1審被告製品(1)の品
番毎の原反ロールの月毎の面積について、●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●のであ
り(計算鑑定書19頁)、基準量が1であるとき(例えば、原反ロールを特
段加工することなく転売する場合)、原反ロールの購入面積と第1審被告
製品(1)の販売面積が一致したとしても何ら不自然ではない。第1審原告
は、計算鑑定の結果が、第1審被告らが提出する調査報告書(乙58)や
製品説明書(乙1)の売上高等のデータと異なることも指摘するが、計算
鑑定人が中立的な立場からその職責において計算を行ったものであり、第
1審被告らの提出する資料と一部データが異なるとしても、そのことから
信用性が失われるものでもない。
また、第1審原告は、信用調査会社による競合会社の動向調査の結果で
ある甲88を提出して第1審被告らの売上高等について独自の主張をす
るが、外部の調査会社による調査結果にすぎず、その調査結果の信用性が
高いことを認めるに足りる的確な証拠はない。
イ 第1審原告は、第1審原告製品の販売価格には第1審被告製品(1)の●●
●●のものがあることを指摘して、原判決の判断の前提には誤りがあり、
推定覆滅事由が認められないと主張する。しかし、そのような販売価格の
製品があることは、仮に第1審被告製品(1)が販売されなかった場合に、か
えって第1審原告製品の販売の可能性を減少させるにすぎず、むしろ推定\n覆滅を肯定する事情であるにすぎない。
(2) 第1審被告らの補充的主張について
ア 第1審被告らは、限界利益の算定上、原判決別紙「売上高・経費一覧表」\nの番号6〜8、11〜14は第1審被告製品(1)の製造販売に直接関連し
て追加的に必要になった経費であるから控除されるべきであると主張す
る。しかし、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造
販売に直接関連して追加的に必要になった経費には当たらないというべ
きであり、上記各経費を控除の対象とすることは相当でない。
イ 第1審被告らは、第1審被告らの利益額の90%又は少なくとも77%
の推定覆滅を認めるべきであると主張する。しかし、その指摘する根拠と
する理由(第1審被告製品(1)に耐候性等の本件発明の作用効果が確認で
きないこと、設計変更が容易であること、第1審被告らの営業努力・ブラ
ンド力・売上シェア等)については、本件証拠上、その事実が認められな
いか、仮に認められたとしても、原判決が認定した限度を超えて特許法1
02条2項の推定を覆すに足りるものではない。
◆判決本文
1審における推定覆滅の事情は以下です
◆平成30(ワ)1130
b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張
する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当
である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の
印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品
と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ
タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし,
原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明
は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。
しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技
術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域
をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独
立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料…着色
剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る
ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措
定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製
品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実
験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって
直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな
い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の
全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の
技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当
ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら
ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度
等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで
あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き
く変化していないと主張する。
しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして
も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な
証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替
えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧
製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従
前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた
可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら
れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ
ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品
の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi
neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略)
●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売
できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+●
(省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競
合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら
が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード
の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨
によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性
能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告
らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー
ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認
めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー
ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売
上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(d)さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと
しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益
率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省
略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ
く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品
のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10
2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ
ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の
●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製
品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と
同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一
定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単
価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より
も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e)以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち,
原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし
て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。
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2024.02. 2
令和5(行ケ)10024 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年1月22日 知的財産高等裁判所
審決は、数値限定が「24h」(24時間)当たりの値であるかについては記載が無いし、技術常識ではないので、「24時間当たりの水蒸気透過率」とする補正は、新規事項と判断しました。知財高裁は、審決を取り消しました。
ア(ア) 本願発明2に係る特許請求の範囲の記載は「前記封止要素が、金属箔、金属基材、酸化アルミニウム被覆ポリマー、パリレン、蒸気メタライゼーションにより適用された金属で被覆されたポリマー、二酸化ケイ素被覆ポリマー、または10グラム/100in2未満または好ましくは1グラム/100in2未満の水蒸気透過率を有する任意の材料のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のアプリケータ」というものである。当該記載からは、「10グラム/100in2未満または好ましくは1グラム/100in2未満の水蒸気透過率を有する任意の材料」が封止要素を構成する材料であると理解することができるものの、その余の特許請求の範囲の記載を踏まえても、上記の水蒸気透過率の単位が24時間単位であることをうかがわせる記載はない。\n
(イ) 次に本願明細書をみると、封止要素の水蒸気透過率については、【0008】、【0051】、【0144】、【0164】の各段落において、「水分(例えば、水蒸気)に対して不浸透性の任意の好適な材料、例えば、金属箔(例えば、アルミニウムもしくはチタン)、金属基材、酸化アルミニウム被覆ポリマー、パリレン、蒸気メタライゼーションによって適用された金属で被覆されたポリマー、二酸化ケイ素で被覆されたポリマー」等と同様の不浸透性を有する材料の例として、「10グラム/100in^2未満または好ましくは1グラム/100in^2未満の水蒸気透過率を有する任意の材料」又は「10グラム/100in2未満もしくは好ましくは1グラム/100in2未満の水蒸気透過率を有する任意の物質」との記載がされている。
しかし、これらの記載においても当該任意の材料の水蒸気透過率が24時間単位のものであるかは判然としない。したがって、本願明細書の記載からは、本願発明2の「10グラム/100in2未満または好ましくは1グラム/100in2未満」における「グラム/100in2」が、「グラム/100in2/24h」という24時間単位のものであることを直ちに読み取ることはできない。また、当該任意の材料は、封止要素に用いられるものであって、水分(水蒸気)に対して実質的に不浸透性の材料を意味するものと理解することができるものの、「実質的に不浸透性の材料」であるということから、当該任意の材料の水蒸気透過率を示す「10グラム/100in2」又は「1グラム/100in2」との記載が24時間単位であることを意味するものとは直ちに認めることはできない。
イ 本願の出願日当時の技術常識について検討するに、平成20年3月20日改正の日本工業規格「プラスチック−フィルム及びシート−水蒸気透過度の求め方(機器測定法) JIS K 7129」(甲9)には、エンボスなどのない表面が平滑な、プラスチックフィルム、プラスチックシート及びプラスチックを含む多層材料の感湿センサ法、赤外線センサ法及びガスクロマトグラフ法による水蒸気透過度の求め方について規定した規格について、「水蒸気透過度は、24時間に透過した面積1平方メートル当たりの水蒸気のグラム数〔g/(m2・24h)〕で表\す。」との記載があることが認められるが、本願発明2においては、封止要素の材料はプラスチック又はこれを含むものに限られるものではなく、また、水蒸気透過度の測定方法も特定されていないから、上記日本工業規格をそのまま本願発明2に適用することができるということはできない。
また、本願の出願日以前に公開されていた文献には、シートやフィルム等の水蒸気透過度について、「g/m2/24hr」「g/100in.2/24hr」(甲5・特表2009−503279号公報)、「g/100in2/日」(甲6・国際公開第2016/097951号、特表\2018−501127)、「g/1m2/24時間」「g/100in2/24時間」(甲7・特開2014−148361号公報)、「g/m2・day」(甲8・特開平11−43175号公報)、「g/24h/m2」(甲12・米国特許出願公開第2016/0058380号明細書)、「mg/日」(甲13・特表2012−519038号公報)などと、24時間又は一日当たりの値を示すものがある一方で、水分バリアーポリマーについて「g−mil/100in2/h」を用いるもの(乙1の1・2・米国特許第5799450号明細書)、絶縁基板について「g/m2/h」を用いつつ、樹脂封止シートについては「g/m2・day」を用いるもの(乙2・特開2014−67918号公報)、透明性樹脂シートについて「g/m2・1hr」を用いるもの(乙3・特開2010−284250号公報)、火傷創傷包帯の基材について「グラム/1h/1平方フィート」を用いるもの(乙4の1・2・米国特許第4820302号明細書)があり、1時間単位の値が用いられているものもみられるから、本願の出願日当時、水蒸気透過率について24時間単位で表\すことが通常であったということはできない。原告は、医療分野では24時間又は一日単位が一般的に使用されていると主張するが、そうであるとしても、前記の各文献における使用例に照らすと、本願の出願日当時、医療分野において、水蒸気透過率を表す場合に時間単位が用いられることはなかったということはできない。\n
そうすると、当業者が、本願発明2に係る特許請求の範囲及び本願明細書の「10グラム/100in2未満または好ましくは1グラム/100in2未満」との記載をもって、「10グラム/100in2/24h未満または好ましくは1グラム/100in2/24h未満」を意味するものと当然に理解するとは認められない(なお、本願発明2に係る本件補正は、特許請求の範囲を「10グラム/100in2/24h未満または好ましくは1グラム/100in2未満/24h」とするものであるが、「1グラム/100in2未満/24h」は「1グラム/100in2/24h未満」の誤記であることが自明である。)。
ウ もっとも、前掲各証拠上、水蒸気透過率について1時間単位又は24時間(1日)単位で表すことが通常であると認められ、これを前提とすると、本願発明2の「10グラム/100in2未満または好ましくは1グラム/100in2未満」との記載は、「10グラム/100in2/h未満または好ましくは1グラム/100in2/h未満」又は「10グラム/100in2/24h未満または好ましくは1グラム/100in2/24h未満」のいずれかを意味することが当業者にとって自明であるということはできる。そして、「10グラム/100in2/h未満または好ましくは1グラム/100in2/h未満」を24時間単位に換算すると「240グラム/100in2/24h未満または好ましくは24グラム/100in2/24h未満」となる。\n
そうすると、本願補正発明2は、本願発明2の特許請求の範囲の記載と同じか又はそれよりも狭い範囲で水蒸気透過率を定めたものであり、また、この限定により何らかの技術的意義があることはうかがえないことからすると、本件補正により、本願発明2に関し、新たな技術的事項が付加されたということはできない。
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2024.01.30
令和5(行ケ)10071 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和5年12月25日 知的財産高等裁判所
創作者が公表した意匠にて、新規性喪失の例外をうけました。特許庁は、証明書に記載された意匠と引用意匠とは同一ではないとして、新規性無しと判断しました。出願人は、スタッズの個数及び配置態様などの違いは微差と主張しましたが、知財高裁は審決を維持しました。\n
(2) 意匠法4条2項は、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して同法
3条1項1号又は2号に該当するに至った意匠に関し、その該当するに至った日か
ら1年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条1項及び2項の
規定の適用については、同条1項1号又は2号に該当するに至らなかったものとみ
なすとして、新規性喪失の例外を認めている。
このような新規性喪失の例外の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書
面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、意匠法3条1項1号又は2
号に該当するに至った意匠が同法4条2項の適用を受けることができる意匠である
ことを証明する書面を意匠登録出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなけ
ればならない(同条3項)。
したがって、原告が引用意匠について意匠法4条2項の適用を受けるためには、
原告が引用意匠について同条3項所定の証明書を提出していることがその前提とな
る。
(3) この点、原告は、本件証明書に記載されている証明書記載意匠と引用意匠は
実質同一の意匠であると主張し、原告が特許庁長官に本件証明書を提出したことに
より、引用意匠に係る公開行為は先の証明書記載意匠の公開に基づいてされたもの
と認めるべきである旨を主張する。
そこで検討すると、証明書記載意匠は、甲1(別紙第3の添付画像1及び2)の
とおりであり、これによると、その形状等は、全体としてマチのある略直方体の収
納部と、その収納部の上辺左右両側からアーチ状に持ち手を架橋し、収納部及び持
ち手はいずれも黒色の色彩が施されているものであり、収納部の正面上辺及び左右
辺の三辺を波状に形成し、上辺及び左右辺の山部が左右上角部のものを含めて各辺
三つずつあり、左右上角部には上辺及び左右辺の山部が合わさったように正面視左
右斜め上方向に突出した略半長円形状の山部、左右辺中央部には円弧状の山部、左
右下角部には下辺が直線状の略円弧状の山部と、計七つの山部を形成してなるもの
であり、収納部上辺からやや離れた位置から左右辺に沿って直線状に上から下へ略
小円形状のスタッズを並べてなり、上から一つ目と二つ目の間の間隔よりも上から
二つ目と三つ目の間隔の方を長くして三つずつ配し、各スタッズは上から一つ目の
スタッズが左右上角部の山部と左右辺中央部の山部との間の谷部上方寄りの位置、
上から二つ目のスタッズが左右辺中央部の山部の頂を直線で結んだ線上の位置、上
から三つ目のスタッズが左右下角部の山部の頂を直線で結んだ線上の位置に設けて
なるものであると認められる。
他方、引用意匠は、甲2(別紙第2の2枚目及び3枚目)のとおりであって、上
記認定の証明書記載意匠と対比すると、両意匠の形状等についての相違点は、本件
審決が認定した前記第2の3(5)イのとおり、証明書記載意匠は、正面側のスタッズ
を左右寄りに縦一列縦1列に、三つずつ設け、上から一つ目から二つ目よりも二つ
目から三つ目の間隔をやや長く配し、本体部及び把持部は黒色であるのに対し、引
用意匠は、正面側のスタッズを左右寄りに縦一列ほぼ等間隔に四つずつ設け、本体
部はアイボリーで把持部は茶色で、留め付け側に環状金具を配したものであり、両
意匠は、把持部の環状金具の有無、正面側のスタッズの個数及び配置態様並びに把
持部及び本体部の色彩が相違するものである。
そして、証明書記載意匠と引用意匠とは、以下の(4)において判断するとおり、少
なくとも正面視において、正面側のスタッズの個数及び配置態様の点で相違点を有
し、かかる相違点は、物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であると十\分
理解できる範囲内のものであると認められる場合とはいえないから、同一の意匠と
はいえない。
(4) 原告は、両意匠の共通点の形状が特徴的なものであって、需要者に強い印象
を与えているため、正面側のスタッズの個数及び配置態様の相違点の印象は共通点
に比べて薄いものにならざるを得ないから、需要者は、スタッズがバッグの正面側
の態様に関わるものであっても、両意匠の相違点からスタッズの個数や配置を明確
に認識するよりも、両意匠からいずれも大雑把な「複数個のスタッズが並んでいる」
程度の印象を持つと考えるのが自然であり、両意匠の相違点から需要者が受ける印
象は異なるものではないから、両意匠は実質同一といえるものであって、同一の意
匠である旨を主張する。
しかしながら、意匠法4条3項は、同法3条1項の例外として、同法4条2項の
新規性喪失の例外の適用を受けるための特別の要件として規定されているもので
あって、原則として意匠登録出願前に意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起
因して公開される意匠ごとに同意匠に係る証明書を提出すべきであり、それゆえ、
証明書に記載される意匠と引用意匠は同一でなければならないと解される。もっと
も、証明書に記載される意匠と引用意匠との間に僅少な相違があるにすぎない場合
にも同一性を欠くとすることは相当ではなく、また、意匠登録出願者の手続的負担
も考慮すると、証明書に記載された意匠と引用意匠の相違点が、物品の性質や機能\nに照らして実質的にみて同一であると十分理解できる範囲内のものであると認めら\nれる場合には、証明書に記載された意匠と引用意匠はなお同一であると認められる
と判断するのが相当である。
しかるところ、両意匠の相違点であるスタッズについては、スタッズを設けるこ
と自体は、バッグという物品の性質上、ありふれたものであるといえるものの(甲
4〜11)、スタッズの数や配置態様は一様ではなく、その数や配置態様によっては
美観に影響を及ぼすものであるところ、両意匠の相違点であるスタッズの態様につ
いては、十分肉眼で看取可能\であって、バッグの正面の意匠の装飾的な構成要素と\nして機能し、「上から一つ目から二つ目よりも二つ目から三つ目の間隔をやや長く」\n三つ配したものと「四つずつ、略等間隔に」配したものとでは、その構成が異なる\n上、両意匠の共通点である収納部の正面上辺及び左右辺の三辺の形状との関係にお
いて、証明書記載意匠は、左右辺の山部三つに対して同数の三つのスタッズが配置
されており、二つ目のスタッズが左右辺中央部の山部の頂を直線で結んだ線上の位
置にあるのに対し、引用意匠は、左右辺の山部三つに対して一つ多い四つのスタッ
ズが配置されており、二つ目のスタッズが左右上角部の山部と左右辺中央部の山部
との間の谷部下方寄りの位置にあり、上から三つ目のスタッズが左右辺中央部の山
部と左右下角部の山部との間の谷部中央やや上方寄りの位置にあることから、両意
匠の共通点である収納部の正面視の左右辺の山部との関係性からも、それぞれ異な
る美観を有するものといえる。
そうすると、両意匠の相違点である正面側のスタッズの個数及び配置態様の点は、
物品の形状等による美観に影響を及ぼす相違点といえることから、証明書に記載さ
れた意匠と引用意匠の相違点が物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であ\nると十分理解できる範囲内のものであると認められる場合とはいえない。\nしたがって、上記判断に反する原告の主張は採用できない。
(5) 以上によると、引用意匠が本件証明書に記載されている証明書記載意匠と同
一の意匠であるとは認められず、したがって、引用意匠の公開行為(甲2)は先の
証明書記載意匠の公開に基づいてされたものと認めることはできない。
そうすると、引用意匠については、意匠法4条3項所定の証明書が提出されてい
ないことに帰するから、原告は引用意匠について同条2項の適用を受けることはで
きない。
よって、本件審決が引用意匠について意匠法4条2項の新規性喪失の例外の適用
を認めなかった点に誤りがあるとは認められない。
2 以上によると、引用意匠は、本願出願前に公開された意匠であり、第2の3
(3)の本件審決の判断のとおり、本願意匠は、その引用意匠に類似するものであるか
ら(なお、この点について原告は争っていない。)、本願意匠は意匠法3条1項3号
に掲げる意匠に該当するものであるとの本件審決の判断に誤りがあるとはいえない。
したがって、原告の主張する取消事由には理由がない。
◆判決本文
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2024.01.30
令和4(ワ)11394 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年1月16日 大阪地方裁判所
棋譜情報をフリーライド利用された被告が、Googleに対して著作権侵害であると申告したことが、不競法2条1項21号の不正競争に当たるとして、争われました。大阪地裁は、「虚偽の事実の告知」に該当すると認定し、約120万円の損害賠償を認めました。\n
本件動画は被告の著作権を侵害するものではない(この点について被告は争って
いない。)にもかかわらず、本件削除申請は、グーグル等に対し、本件動画が被告\nの著作権を侵害する旨を摘示するものであるから、客観的な真実に反する内容を告
知するものとして、「虚偽の事実の告知」に当たると認められる。
これに対し、被告は、本件動画は被告の営業上の利益その他何らかの権利を侵害
する旨を主張するが、本件削除申請が虚偽の事実の告知に当たるかどうかの判断と\nは無関係である上、本件動画により被告の何らかの権利が侵害された事実も明らか
でないから、採用できない。
2 争点2(本件削除申請は原告の「営業上の利益」を侵害するか)について\n
前提事実に加え、証拠(枝番号があるものは各枝番号を含む。以下同じ。甲4〜
13、15、16)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、ユーチューブ及びツイキ
ャスにおいて、本件動画を配信して収益を得ていたところ、本件削除申請は、グー\nグル等のプラットフォーマーに対し、本件動画が被告の著作権を侵害する違法なも
のであることを摘示する内容であり、これによって、原告は、ユーチューブにおい
ては、別紙「原告動画目録」の「配信停止期間」欄記載の期間、動画の配信が停止
されたことが、ツイキャスにおいては、動画配信によって収益を得ることが少なく
とも一定期間停止されたことがそれぞれ認められる。そうすると、本件削除申請は、\n原告が本件動画の配信という営利事業を遂行していく上での信用を害するものとし
て、原告の「営業上の利益」を侵害したと認められる。
これに対し、被告は、原告による本件動画の配信は、被告が配信する棋譜情報を
フリーライドで利用するという著しく不公正な手段を用いて被告ら棋戦主催者の営
業活動上の利益を侵害するものとして不法行為を構成することを指摘して、本件動\n画の配信に係る営業上の利益は法律上保護される利益に当たらない旨を主張し、こ
れを裏付ける証拠として「王将戦における棋譜利用ガイドライン」(乙2)を提出
する。しかし、棋譜は、公式戦対局の指し手進行を再現した「盤面図」及び符号・
記号による「指し手順の文字情報」を含むものと認められるところ(乙2)、本件
動画で利用された棋譜等の情報は、被告が実況中継した対局における対局者の指し
手及び挙動(考慮中かどうか)であって、有償で配信されたものとはいえ、公表さ\nれた客観的事実であり、原則として自由利用の範疇に属する情報であると解される。
同ガイドラインは、棋譜の利用権等を王将戦主催者が独占的に有する旨規定するが、
王将戦主催者が、原告を含めた被告の実況中継の閲覧者の関与なく一方的に定めた
ものであり(乙2)、原告に対して法的拘束力を生じさせるものであるとはいえな
い。また、前記1のとおり、本件動画は被告の著作権を侵害するものではなく、そ
の他、原告が、被告の配信する棋譜情報を利用することが不法行為を構成すること\nを認めるに足りる事情はない。したがって、被告の前記主張は、その前提を欠き、
採用できない。
◆判決本文
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2024.01.30
令和1(ワ)17622 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月14日 東京地方裁判所
特許権侵害の損害賠償として、約11億円が認められました。102条2項の推定覆滅なしと認定されました。
被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳
管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後
の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して
製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値
分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、
被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕
入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加
価値は1対1として計算すべきであると主張する。
しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に
切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の
ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被
告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で
あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、
価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記
イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利
益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控
除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する
ことやその額を認めるに足りる証拠はない。
また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅
すべき事情に当たるとはいえない。
◆判決本文
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2024.01.24
令和1(ワ)17622 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月14日 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。特許権侵害訴訟で、差止と10億を超える損害賠償が認められました。特102条2項の覆滅は無しと判断されました。請求項6、9がPBPクレームでしたが、これについては明確性違反と判断されました。
本件発明6は、電鋳管についての物の発明であるところ、特許請求の範囲に
おいて、当該電鋳管について、細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物
を形成する工程(メッキ工程)、細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小
さくなるよう変形させる工程(引っ張り工程)、変形させた細線材を除去する工
程(分離工程)を経て製造されることが記載されている。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されている場合、その発明の要旨は、当該製造方法により製造された物と構造、\n特性等が同一である物として認定される。そして、物の発明についての特許に
係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、
当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表\しているのか、又は
物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限
定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当
該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占
権を有するのかについて予測可能\性を奪うことになる。したがって、出願時に
おいて当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、
又はおよそ実際的でないという事情が存在するなどの第三者の利益を不当に
害しない事情が存在するのでない限り、物の発明についての特許に係る特許請
求の範囲にその物の製造方法が記載されている特許請求の範囲の記載は、特許
法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するとは
いえない(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷
判決・民集69巻4号700頁参照)。本件発明6の特許請求の範囲において
は、物の製造方法が記載されているところ、出願時において製造された物をそ
の構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、又はおよそ実際的
でないという事情についての主張はなく、また、同事情を認めるに足りる証拠
もない。
・・・
本件明細書には、本件発明6の電鋳管と同様の形状等を有する電鋳管につい
て本件発明6の方法以外の複数の方法で製造できると記載されている【004
1】、【0042】)。そして、本件発明6の引っ張り工程及び分離工程の方法に
よった場合の電鋳管の内面精度について、特許請求の範囲、本件明細書、図面
には記載はない。また、原告が主張する本件発明6の技術的範囲に属するとい
う場合の電鋳管の客観的な内面精度自体が必ずしも明確ではなく、また、本件
特許の出願当時、引っ張り工程及び分離工程により製造された電鋳管の内面精
度を含む構造又は特性が、技術常識により明らかであったことを認めるに足り\nる証拠はない。
そうすると、電鋳管の発明である本件発明6について、少なくとも引っ張り
工程及び分離工程に関して電鋳管のどのような構造又は特性を表\しているの
かが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明らかであるとは
いえない。原告の主張は採用することができない。
・・・
被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳
管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後
の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して
製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値
分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、
被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕
入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加
価値は1対1として計算すべきであると主張する。
しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に
切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の
ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被
告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で
あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、
価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記
イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利
益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控
除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する
ことやその額を認めるに足りる証拠はない。
また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅
すべき事情に当たるとはいえない。
◆判決本文
なお、本件については、控訴審判決はなさそうですが、対応する審決取消訴訟にて、請求項6は不可能・非実際的理由がなくても、PBPクレームだから自動的に明確性違反だとはならないと判断されてします(内面精度との技術的関係が不明として明確性違反と判断されています)。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に
いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時
において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である
か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁
判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集
69巻4号700頁)。
もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許
請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・
プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され
た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して
いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に
より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を
読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が
その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、
第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。
そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製
造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願
時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\
しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義
的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不
可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
・・・
そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を
加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着
物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける
ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、
3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細
線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す
るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱
又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、
これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても
一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記
3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の
内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上
記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し
たとも認められない。
そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電
鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n
◆令和3(行ケ)10140
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2024.01.23
令和5(行ケ)10066 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
瓦の意匠について、知財高裁(4部)は、無効理由無しとした審決を取り消しました。
本件審決は、別紙「本件審決が認定した形状等の共通点と相違点」の2に記載のとおり、本件登録意匠と引用意匠の構成態様の相違点1〜8を認定するので、これらが両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。\n
ア 瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない構成態様について(相違点1、2、6、7関係)\n
相違点1(背面形状)、同2(女瓦の左端部の壁)、同6(男瓦の縮
径段差部の溝の有無及び右側端部の角度)、同7(1)女瓦の上端寄りの
凸部の形状、2)左下端の角度)は、瓦を葺いた施工後の状態からは看取
できない構成態様に関するものである。そこで、本件登録意匠の意匠に係る物品である瓦における、このような相違点の位置づけ、類否判断へ\nの影響の程度について、検討しておく。
そもそも瓦は、本来的に屋根等を葺くための建築部材であって、施工
を前提としない瓦単体のコレクターといった需要者を想定するのは現実
的でない。瓦屋根の建築物を注文し、その所有者等となる施主が中心的
な需要者であり、そうした需要者の求める美観が施工後の外観に係るも
のであることは多言を要しない。瓦屋根を施工する建築業者、瓦の販売
業者等も需要者ではあるものの、そうした立場の需要者であっても、最
終的には施主の満足を得させる施工後の外観が最も重視されるものと考
えられる。そうすると、瓦を葺いた施工後の状態から看取できない構成態様が意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまると\nいうべきである。
被告は、瓦の需要者である建築業者等は葺き上がった状態で見えなく
なる部分についても瓦の重要な機能につながる形状に注意を払い形状全体に目を通して選定する旨主張する。しかし、意匠の類否は基本的に\n「需要者の視覚を通じて起こさせる美観」に基づいて判断されるべきも
のであり、機能と造形は両立し得るものではあるが、機能\のみに着眼し
た被告の主張をそのまま採用することはできない。
よって、瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない相違点1、2、
6、7が、類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまるとい
うべきである。なお、相違点6、7に関しては、本葺一体瓦において採
用される公知の形状のバリエーションの範囲内の違いにすぎないもので
あるから(前記1(3)ア〜ウ)、この点においても、当該相違点が類否判
断に及ぼす影響は限定的なものと解される。
・・・
ウ 男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態等について(相違点3、5
関係)
(ア)本件審決は、本件登録意匠と引用意匠の各対応図面ごとに相違点を認
定しているため、立体形状として認識・把握すれば同じ特徴を、各方
向視ごとに別々に表現するような形式になっており分かりにくいので、相違点3、5に含まれる男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態\nに係る相違点を整理・再構成すると、下記1)〜3)のとおりとなる(な
お、本件審決は、相違点3、5として、下記1)〜3)以外の要素にも言
及している部分があるが、本件登録意匠と引用意匠のそれぞれの図面
における角度の違いや作図方法の違いによる見え方の違いにすぎない
ものであり、実質的な相違点ということはできない。)。
1) 本件登録意匠の男瓦は上方に向かって逆ハの字状に広がる円筒形であるのに対し、引用意匠の男瓦は少なくとも真上から見る幅が均一の円筒形である。2) 本件登録意匠においては、引用意匠と比べて、本件コの字模様の両側部の幅が若干広く、本件長方形模様の幅は若干狭い。3) 本件登録意匠の本件コの字模様の部分は本件長方形部分と面一であるが、引用意匠の本件コの字模様はわずかに段差状に隆起している。
(イ)上記相違点1)〜3)は、いずれも、本件登録意匠及び引用意匠の構成態様のうち、看者の注意を強く引く部分である男瓦の連なりの形状及び\n模様に関するもの(上記(3))であるから、その相違点が、両意匠の類
否判断に一定の影響を及ぼすことは否定できない。
しかし、相違点1)は、本葺一体瓦において採用される公知の形態のバ
リエーションの範囲内の違いにすぎないし(前記1(3)エ)、相違点2)、
3)は、従前の意匠には見られなかった新規な創作部分である本件コの
字模様に係る共通点を備えた上での、当該模様の些末な違いにすぎな
い。もちろん、新規な形態を創作した先行意匠を下敷きとして踏襲し
つつも、それにプラスして需要者の注意を一層強く引くような新しい
美観を取り入れたという評価ができれば、当該新しい美観に係る印象
が共通点に係る印象を覆し、類否判断にも相対的に強い影響を及ぼす
ということもあり得るところであるが、相違点2)、3)が、両意匠の共
通点である本件コの字模様の持つ強い訴求力を覆すほどの新しい美観
を生じさせるものとは到底認められない。
よって、上記相違点1)〜3)は、類否判断に一定の影響を及ぼすもので
はあるが、本件コの字模様に係る共通点4と比較して、意匠の類否判
断に及ぼす影響は相対的に小さいものと解すべきである。
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2024.01.19
令和4(行ケ)10081 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟__全文__知的財産裁判例 令和5年7月13日 知的財産高等裁判所
ゴルフシャフトの数値限定発明(バラメータ)について、サポート要件違反とした審決が維持されました。
a バイアス層の合計重量(B(g))をバイアス層の合計重量とシャフト全体
にわたって位置するストレート層(以下、単に「ストレート層」という。)の合計
重量の和(B(g)+S(g))の50%以上とすることにより得られる効果等に
関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のゴルフクラブ用シャフトは、
シャフトに使用するバイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置
するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦
0.8・・・(1)を満たすことが重要である。(1)は、技量が高いゴルファー
やスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクTq(°)
を生み出す要素を示している。つまり、(1)を満たさないゴルフクラブ用シャフ
トは、シャフトが捩じれすぎたり、または捩じれないがためにシャフトが折損して
しまう原因につながる。」との記載(【0014】)があり、また、本件効果が得
られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1における
各B/(B+S)がそれぞれ0.6及び0.4であるとの記載(【表4】)がある。\nしかしながら、これらの記載は、本件各発明におけるB/(B+S)に係る0.5
との数値が実施例1における0.6及び比較例1における0.4の中間値であるこ
とを含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重
量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切
に説明するものとはいえず、したがって、構成3のうちバイアス層の合計重量をバ\nイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とするとの点につ
いては、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本
件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、バイアス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小
さくできることは自明であり本件出願日当時の技術常識であるとして、本件出願日
当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、バイアス層の合計重量をバイア
ス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上としておけば、その他
の条件を技術常識の範囲内で適宜調整して決定することで、容易にTq≦4.0°
の構成(構\成2)が得られるものと理解し得ると主張する。しかしながら、バイア
ス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小さくできることが本件
出願日当時の技術常識であったとしても、原告の上記主張は、実施例1と比較例1
を比較する点を含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート
層の合計重量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかに
ついて適切に説明するものとはいえず、その他、バイアス層の合計重量をバイアス
層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とすることにより本件課
題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、
構成3のうちバイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計\n重量の和の50%以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当
時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるという
ことはできない。
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2024.01.19
令和5(行ケ)10079 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年12月26日 知的財産高等裁判所
知財高裁(2部)は、未登録周知商標に類似する商標であると認定し、無効理由無しとした審決を取り消しました。
ア 前記1において認定した事実によると、引用標章1の周知性に関し、次の事
情が認められるというべきである。
すなわち、原告商品は、外国の会社が製造する菓子であり、その名称を「Tro
lli Planet Gummi」、「Planet Gummi」などとする
ものであって、原告商品又はその包装若しくは個包装には、日本語からなる「地球
グミ」との文字は記載されていない。しかしながら、原告商品は、平成30年頃、
動画投稿者及びその閲覧者を中心に韓国において大流行したところ、この流行が日
本にも飛び火し、原告商品は、令和2年頃からは、日本においても、動画投稿者及
びその閲覧者を中心に大流行し、遅くとも原告が原告商品の輸入販売を開始した同
年10月までには、全国に店舗を展開する小売業者の中に、原告商品を「地球グミ」
と称してこれを宣伝する者が現れるようになった。原告が原告商品の輸入販売を開
始した後についてみても、原告商品は、大人気を誇り、小売業者の店舗における販
売開始後すぐに完売となるという事態が相次ぎ、その入手が極めて困難な商品とな
った。原告が原告商品の輸入販売を開始して以来、全国に店舗を展開する小売業者
らは、原告商品を「地球グミ」と称してこれを繰り返し宣伝し、また、原告商品は、
動画投稿サイトにおいても、「地球グミ」と称する商品として大人気を博していた。
そのような原告商品は、令和3年6月、「地球グミ」と称する大人気商品として、
全国紙による新聞報道及び在阪の準キー局によるテレビ報道がされるまでに至り、
同テレビ報道においては、同年上半期にはやった飲食物としてZ世代が選ぶランキ
ングにランクインした。原告商品は、翌7月、同様の人気商品として、在京のキー
局によるテレビ報道がされるに至り、20代前半の若者が皆知っていることとして
紹介された(なお、原告は、遅くとも同年6月には、テレビ番組において、原告商
品を「地球グミ」と称しており、また、遅くとも同年9月には、原告商品を「地球
グミ」と称する宣伝をするようになった。)。さらに、「地球グミ」と称する原告
商品は、同年11月、動画投稿サイトへの投稿がきっかけで人気となった作品又は
商品の例として、著名作家の小説、有名シンガーソングライターの楽曲等と並べて\n紹介されるとともに、渋谷区にある著名な商業施設の運営会社による調査(15歳
から24歳までの女性545名を対象としたもの)の結果である「SHIBUYA
109lab.トレンド大賞2021」なる賞においても、その「カフェ・グルメ
部門」の2位に入賞した。このような「地球グミ」と称する原告商品の令和3年ま
での動向を踏まえ、令和4年1月に発行された「現代用語の基礎知識2022」に
おいては、令和3年中に注目された物(食に係るヒット商品)として、原告商品の
俗称たる「地球グミ」の語が取り上げられるに至った。
以上の事情に照らすと、「地球グミ」の語(引用標章1)は、遅くとも本件査定
日(令和4年2月22日)までには、原告又は原告商品の製造業者の業務に係る商
品(原告商品)を表示するものとして、需要者(引用標章1が使用される商品の内\n容及び性質並びに前記1の事実に照らすと、若者を始めとするグミキャンディの消
費者であると認められる。)の間に広く認識されている商標に該当していたものと
認めるのが相当である。
イ なお、被告は、引用標章1は商標として使用されていなかったと主張するが、
前記1(13)、(15)、(16)及び(25)によると、原告は、原告商品に関する広告を内容
とする情報に引用標章1を付して電磁的方法により提供していたと認められるから、
被告の主張を採用することはできない。
(2) 本件商標と引用標章1の類否
前記第2の1(5)のとおり、本件商標は、「地球グミ」の文字を標準文字で表し\nてなるものである。これに対し、前記第2の3(1)ア(ア)のとおり、引用標章1は、
「地球グミ」の文字を書してなるものである。
このように、本件商標と引用標章1は、その外観において、極めて相紛らわしい
ものである。
また、本件商標及び引用標章1からは、いずれも「チキュウグミ」の称呼が生じ
るから、両者は、称呼を同じくする。
さらに、前記(1)アにおいて説示したところに照らすと、「地球グミ」は、需要
者の間において原告商品を指す語であると認識されるといえるから、本件商標及び
引用標章1からは、いずれも、「地球のグミキャンディ」などの観念のほか、「原
告商品」(商品名を「Trolli Planet Gummi」、「Plane
t Gummi」などとするグミキャンディ)の観念が生じるといえ、両者は、観
念を同じくする。
以上によると、本件商標は、引用標章1と称呼及び観念を同じくし、外観におい
て極めて相紛らわしいから、引用標章1に類似する商標であると認めるのが相当で
ある。
◆判決本文
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2024.01.19
令和5(行ケ)10083 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
電気スイッチの図形商標について、その形状に過ぎないとして、識別力なしとした審決が維持されました。
そして、商品の形状は、本来、商品の機能をより効果的に発揮させたり、\n美観を向上させるために選択されるものであるから、商品の形状からなる商
標は、その形状が、需要者において、その機能又は美観上の理由から選択さ\nれると予測し得る範囲を超えたものである等の特段の事情のない限り、商品\n等の形状そのものの範囲を出るものでなく、商品の形状を普通に用いられる
方法で表示する標章のみからなるものとして、商標法3条1項3号に該当す\nるものと解される。
(2) 本願商標は、白色の長方形を縦長に描き、その内側の中央に、辺の長さが
外側長方形部分の約半分程度の、影様の黒色の線で縁取りされた白色の縦長
の長方形を配し、内側長方形部分の右側長辺に影様の薄い灰色の直線を配し、
その左に上端から下端までの長さよりやや短く、縦に緑色の直線を描いてな
るものである。そして、本願商標同様の形状を有する原告製造に係る「電気
スイッチ」に係るカタログ(甲3の1)には、「シンプルで、明瞭な要素で
構成されること。ミニマルで、偏りのない美しさを持つこと。ひとつの空間\nを超えて、建築が持つ思想へと向かう存在になること。」との記載があり、
JIS大角連用形スイッチとの取付互換性の確保も強調されている。
一方、メーカー、施工会社、ユーザ等のウェブサイト(乙1〜8、10〜
13)によれば、本願商標の指定商品である「電気スイッチ」を取り扱う業
界において、外側の縦長の略長方形の内側に、表示灯を施した縦長の長方形\nの押しスイッチを配した構成の電気スイッチは、広く使用されていること、\n表示灯の形状、位置、点灯した際の色彩は様々なものが採用されていること\nが認められる。そして、これらの電気スイッチの形状は、「もっと美しく、
使いやすく。/これからのくらしのスタンダード」(乙2)、「インテリア
と響きあう/住まいに必要なものだから“美しさ”にこだわりたい。みんな
が使うものだから“使いやすさ”を求めたい。」(乙6)といった謳い文句
からも理解されるとおり、商品の機能や美観を発揮させるために選択されて\nいるものと解される。
上記のような実情に鑑みると、本願商標の形状は、指定商品である「電気
スイッチ」の用途、機能、美観から予\測できないようなものということはで
きず、需要者は、本願商標から、「電気スイッチ」において採用し得る機能\n又は美感の範囲内のものであると感得し、「電気スイッチ」の形状そのもの
を認識するにすぎないというべきである。
原告は、前記第3の1(1)のとおり、アイコン等としての使用が予定され\nる図形商標(平面商標)について、立体商標と同様の厳格な基準を適用する
べきではない旨主張するが、前記(1)に説示したところは立体商標か図形商
標かによって左右されるものではなく、採用できない。なお、本願商標が指
定商品の形状を表すのでなく、アイコン等としてのみ使用されるものと認識\nされると認めるに足りる証拠もない。
また、原告は、前記第3の1(1)のとおり、商品の形状のみからなる図形商
標が、当該商品を指定商品に含めて商標登録されている事例は、多々存在す
る旨主張するが、登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するもの
であるか否かの判断は、個別具体的にされるべきものである上、原告引用に
係る事例は、ゲームコントローラやタブレット端末であって(甲1、2)、
需要者層や商品形状の有する意味合いに関し本願商標と大きく異なる点が
あると考えられるものであり、採用できない。
さらに、原告は、前記第3の1(2)のとおり、原告の電気スイッチは、幅広
な操作スイッチを持たず、表示灯を操作スイッチの右端において上端から下\n端まで一直線に設けるという独自の構成を有し、数々の受賞歴を有し、こだ\nわりのあるユーザに高い評価を得ている旨主張するが、視覚を通じて美観を
起こさせる物品の形状等の創作を奨励、保護する意匠法による保護の対象と
すべき根拠とはなっても、自他商品の識別標識としての商標を対象とする商
標法の保護とは次元が異なる問題である。
(3) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした
本件審決の判断に誤りはない。
◆判決本文
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2023.12.19
令和5(行ケ)10067 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年12月4日 知的財産高等裁判所
商標「5252byO!Oi」が、黒色の丸ゴシック体で表した商標「OIOI」と類似するかが争われました。知財高裁は、商標「OIOI」は著名であったとして分離抽出を認め、非類似とした審決を取り消しました。\n
ア 本件商標は、前記第2の1(1)のとおり、「5252byO!Oi」の数字、
欧文字及び感嘆符を黒色のゴシック体にて同じ大きさ、等しい間隔で一連に横書き
してなるものである。もっとも、このうち「by」という語は、一般に「by 〇
〇〇」との用法により「商品や役務の出所が〇〇〇」であることを表す英語の前置\n詞として我が国において広く用いられ、親しまれていることや、「by」が小文字で
書されていることからすると、本件商標は、全体として、「by」の後の「O!Oi」
の部分を、独立して、見る者の注意を引くように構成されているといい得るもので\nある。また、本件商標のうち「5252」の部分は単に数字を羅列するものであっ
て格別の識別力を有しないのに対し、「O!Oi」の部分は、欧文字を用いながらも
辞書等に載録される語ではない上、「オーオイ」又は「オーオーアイ」との称呼を生
じ得るものではあるが、感嘆符を用いていることからその称呼も一様に定まるもの
ではなく、丸と縦線とが交互に用いられている点において視覚的に際立った印象を
与え、造語とも図形とも理解できる特徴的なものといえる。これらに加えて、上記
のとおり、「商品や役務の出所が○○〇」であることを示すものとして「by〇〇〇」
との用法が広く用いられ、親しまれていることからすると、「by」の後に配された
「O!Oi」の部分は、本件商標の構成の中でも、出所識別標識として強く支配的\nな印象を与えるというべきである。そうすると、「O!Oi」の部分は、本件商標の
一部分ではあるものの、商標全体の出所識別標識としての機能を果たしていると認\nめられるから、この部分を本件商標の要部として抽出し、この部分(以下「本件要
部」という。)だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許されると
いうべきである。
被告は、前掲最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決を引用し、同じ書体、同
じ大きさで隙間なく一連に横書きしてなる本件商標の構成部分の一部である本件要\n部のみを他人の商標と比較することは許されない旨主張する。しかし、上記のとお
り、本件要部は、その後に続く語が商品等の出所であることを示す英語の前置詞と
して我が国で広く用いられ、親しまれている「by」の後に配されていることによ
り、独立して、商品等の出所を示すものとして、見る者の注意を引くように構成さ\nれているといい得るものである上、造語とも図形とも理解できる特徴的な形状を有
し、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる一方、本件商
標の他の部分である「5252」「by」の部分は格別の識別力を有しないのである
から、本件要部だけを他人の商標と比較することは許されるというべきである。被
告の主張は採用することができない。
イ 本件要部は、「O!Oi」の欧文字及び感嘆符を黒色のゴシック体にて同じ大
きさ、等しい間隔で一連に横書きしてなるものである。また、本件要部からは、そ
の構成文字に相応して「オーオイ」「オーオーアイ」の称呼を生じ得る。他方、これ\nらの欧文字の配列は辞書等に載録されている語等を構成するものではなく、上記の\nとおり生じ得る称呼からも特段の意味合いを見いだせないことからすれば、本件要
部からは特定の観念を生じないものといえる。
ウ 本件商標の指定商品は前記第2の1(1)のとおりであり、被服やかばん類等
のファッション・アパレル関連商品や、携帯電話機用アクセサリー、ヘッドフォン、
眼鏡等の一般消費者が身に付ける物が中心となっている。
(3) 引用商標3について
ア 引用商標のうち、引用商標3の構成は別紙2の3の「商標の構\成」のとおり
であり、赤色の丸ゴシック体にて同じ大きさ、等しい間隔で「OIOI」と書して
なるものである。引用商標3からは、その構成文字に相応して「オーアイオーアイ」\n「オイオイ」の称呼を生じるほか、前記1に認定した事実関係によると、原告標章
は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、一般消費者を含むファッショ
ン・アパレル関係の取引者、需要者において著名な商標であったと認められるから、
色彩のほかは原告標章と同一の構成を有する引用商標3からは、「マルイ」との称呼\nも生じ、「マルイのロゴマーク」との観念も生じるものと認められる。
イ 引用商標3の指定商品には、被服やかばん類等のファッション・アパレル関
連商品や、キーホルダーや眼鏡等の一般消費者が身に付ける物が含まれている。
(4) 本件商標と引用商標3の類否について
本件要部からは特段の観念を生じないのに対して、引用商標3からは「マルイの
ロゴマーク」との観念を生じるので、両者の観念は同一とはいい難い。
次に、本件要部からは「オーオイ」「オーオーアイ」の称呼を生じ得るのに対し、
引用商標3からは「オーアイオーアイ」「オイオイ」及び「マルイ」の称呼を生じ得
るところ、本件要部に「!」が含まれていることの関係で厳密には称呼が異なるも
のの、多くの音を共通にしており、相応に類似しているというべきである。
また、両者の外観についてみると、本件要部及び引用商標3は、いずれもゴシッ
ク体にて四つの文字又は記号を書してなり、1字目と3字目はいずれも「O」で共
通している。2字目は「!」と「I」、4字目は「i」と「I」と異なる文字又は記
号が使用されているが、いずれも1本の縦線又は1本の縦線とその延長線上にある
点により構成される点において形状が類似している。加えて、各文字の字間を含め\nた配列も近似している。そうすると、両者の外観は、子細にみると異なる部分はあ
るが、時と場所とを異にする隔離的観察の下では、互いに相紛らわしいというべき
である。
以上に加え、本件商標及び引用商標の各指定商品は、いずれもファッション・ア
パレル関連商品や一般消費者が身に付ける物であるから、その取引者、需要者には
一般消費者が含まれるところ、本件要部からは特段の観念を生じず、本件要部及び
引用商標3から生じ得る称呼は同一ではないが相応に類似している上、いずれも単
一の確たる称呼が生じるといい難いことから、取引者、需要者にとってみれば称呼
が出所識別標識として決め手とはなりにくいとうかがわれること、一般消費者は、
アパレル・ファッションや身に付ける物の出所につき、主として対象商品やロゴマ
ークの外観等に注目するとみられること等も総合すると、上記のとおり、引用商標
3との関係で、称呼について相応に類似し、外観において互いに相紛らわしい本件
要部を持つ本件商標は、その構成全体が引用商標3と同一ではないことを考慮して\nも、両商標が本件商標の各指定商品に使用された場合には、取引者、需要者が両者
の出所を見誤る可能性は否定できず、その商品の出所において誤認混同が生じるお\nそれがあるものと認められる。
したがって、本件商標は、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、
その商品に係る取引の実情を踏まえて全体的に考察すると、引用商標3に類似する
商標と認められる。
◆判決本文
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2023.12.14
令和4(ワ)5553 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年12月7日 大阪地方裁判所
特許は公然実施による新規性違反があるとして、権利行使不能と判断されました。時期に後れたとの主張は認められず、また、訂正の再抗弁も認められませんでした。
前記認定事実アによれば、本件プレイヤードの部材Aは本件発明の縦枠に、
部材Bは側面シートに、部材Cは底面シートにそれぞれ相当し、部材Gに固定され
た部材Aの下端部分は、部材Cの六角形の頂点にあたる部分に部材Dを介して固定
され、外側への移動が制限されているものと認められる。そうすると、本件プレイ
ヤードは、「環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材A(縦枠)と、
隣り合う部材Aを渡すように張られメッシュ部B1を有する部材B(側面シート)
と、底面に位置する非伸縮性の部材C(底面シート)と、を備え、部材Cは平面視
において多角形の形状を有しており、各部材Aの下端部分は非伸縮性の部材Cの多
角形の頂点にあたる部分に(部材Dを介して)固定され外側への移動が制限されて
いる、プレイヤード」との構成を有するものということができるから、本件発明の\n各構成要件を充足する。\n
そして、特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多
数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記認定事実イ
のとおり、被告は、本件特許出願前の平成17年頃、カタログに本件プレイヤード
を掲載して需要者に対して販売していたから、その内容を不特定多数の者が知り得
る状況で本件発明を実施したものと認められる。
(4) 原告は、本件無効審判事件の進行状況等に照らすと、被告による乙第12
号証を証拠とする無効理由の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下される
べきである旨の申立て(民訴法157条1項に基づくものと理解される。)をする。\nしかし、攻撃防御方法の提出について時機に後れたかどうかは、本件訴訟の具体的
な進行状況等に即して判断されるべきである。そして、原告の訂正の再抗弁等に対
するものとして、乙第12号証及びこれに基づく無効理由を主張する被告の準備書
面(1)が令和5年2月15日に提出されたところ、その時点では、書面による準備
手続における協議が重ねられ、争点及び証拠の整理手続中(いわゆる心証開示前)
であり、被告が故意又は重大な過失により当該攻撃防御方法を提出したとか、それ
により訴訟の完結が遅延するなどの客観的な事情があったとは認められないから、
原告の前記申立ては理由がないものとして却下する。\n
(5) 以上のとおり、本件発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施
された発明であって、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきものである
から、後記3で検討する訂正の再抗弁が成り立たない限り、原告は、被告に対し、
本件特許権を行使することができない(特許法123条1項、104条の3第1項、
29条1項2号)。
3 訂正の再抗弁の成否(争点3)について
本件訂正により、本件プレイヤードに基づく新規性欠如(前記2)の無効理由が
解消されるか否かにつき検討する。
(1) 原告は、本件訂正発明と本件プレイヤードを対比すると、1)本件訂正発明
の接続テープは各縦枠に対して取外しできるように構成されているのに対し、本件\nプレイヤードの部材Dは部材Aに対して取外しできるように構成されていない点、\n2)本件訂正発明の側面シート及び底面シートは各縦枠に対して取外し可能に構\成さ
れているのに対し、本件プレイヤードの部材B及び部材Cは部材Aに対して取外し
可能に構\成されていない点の2つの相違点があるから、本件訂正により本件プレイ
ヤードに基づく新規性欠如の無効理由は解消される旨主張する。
(2) しかしながら、前記2(2)ア認定のとおり、本件プレイヤードにおいては、
各部材Aの下端部分は、接地部材Gが受けて固定しているところ、部材Cに取り付
けられた部材D(テープバンド)が部材Gに挟み込まれて2か所でねじ止めされて
(以下「本件ねじ止め」という。)、各部材Aの下端部分が(部材Dを介して)部
材Cに固定されている。そして、本件ねじ止めは、タッピングねじによるものであ
るが、ねじの取外しをすることは可能であり、このねじを取り外せば、部材Dを部\n材Aの下端部分が固定されている部材Gから取り外すことができるから、部材Dは、
部材Aに対して取外し可能であると認められる。\nまた、前記のように部材Dを部材Aから取り外せば、部材Dが取り付けられてい
る部材C及びこれと一体に形成されている部材B(前記2(2)ア)も部材Aから取
り外すことができるものと認められる。
そうすると、本件訂正発明と本件プレイヤードの対比において、原告が主張する
前記(1)の1)及び2)の相違点はいずれも認めることができない。
(3) これに対し、原告は、本件ねじ止めはタッピングねじによるものであると
ころ、同ねじは、日常的に繰り返し取り外す必要がある部位には使用されないもの
であるから、本件プレイヤードは、使用者が再組立できなくなる等のリスクを冒し
てまで、部材Dや部材B及び部材Cの「取外し」を行うことは想定されていない旨
主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件Xは「…各縦枠に対して取外しできる\nように構成されている接続テープを備え」、構\成要件Yは「前記側面シート及び前
記底面シートが…各縦枠に対して取外し可能に構\成されている」というものである
ところ、取外しの具体的な態様や頻度等について何ら限定をしていない。そうする
と、タッピングねじによる本件ねじ止めは、その構造上も実際上も取外し可能\であ
る以上、本件プレイヤードの構成につき、本件訂正発明の前記各構\成要件との相違
点を認めることはできず、原告の主張は採用できない。
また、原告は、本件プレイヤードは「WATERPROOF」、つまり防水性の
製品であって、洗濯機での洗濯や脱水は危険であることから、市販製品の一般的な
意味での「取外し」はできず、このような製品を「取外し可能」と評価することは\nできない旨主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件X及びYにおいて、「取外\nし」の目的が特定されているものではないし、本件明細書の段落【0013】の記載
(「この構成によれば、側面シートと底面シートを縦枠から取り外して洗うことが\nできるため、幼児用サークルを清潔に保つことができる。」)を参酌するとしても、
その洗い方が洗濯機によるものに限定されているものではないから、原告の主張は
採用できない。
(4) したがって、本件訂正によっても、本件プレイヤードに基づく新規性欠如
の無効理由は解消されないから、原告の訂正の再抗弁は成り立たない。
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2023.12.14
令和2(ワ)25892 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年11月29日 東京地方裁判所
電子たばこの特許について、被告製品は技術的範囲に属しないと判断されました。
イ 本件明細書には、「本発明の物品は、カートリッジの嵌合端部と嵌合す
る受容端部を有する制御ハウジングも含むことができる。したがって、制
御ハウジングとカートリッジ本体は、機能可能\に連結されるものとして特
徴づけることができる。このような受容端部は特に、カートリッジの嵌合
端部を受容する開口端部を有するチャンバーを含んでよい。・・・特有の
実施形態では、カートリッジの嵌合端部を制御ハウジングの受容端部と嵌
合させると(カートリッジの嵌合端部を制御ハウジングのチャンバーの中
まで所定の距離だけスライドさせるなどすると)、吸引可能な物質媒体と\n電気加熱部材が整列して、吸引可能な物質媒体の少なくとも一部分を加熱\nできるようになる。」(【0008】)、「カートリッジ本体305は、
制御ハウジング200の受容チャンバー210と嵌合する嵌合端部310
と、」(【0040】)との記載がある。また、図4、図7、図9等には、
吸引可能な物質を消費者の方に運ぶように構\成された反対側の吸い口端と、
外面および内面を有する壁とを有する実質的に筒状のカートリッジの嵌合
端部310が示されるとともに、電気加熱部材に電力を供給する電気エネ
ルギー源を含む制御ハウジングの端部として、中央部の円筒状の突出部を
取り囲むように、円筒形のカートリッジの外壁の外径よりやや大きい内径
を有する円筒形の受容チャンバー壁があり、カートリッジを受容チャンバ
ーに挿入することで、カートリッジの外壁であり嵌合端部の外側が、受容
チャンバーの外壁の内側に、ほとんど隙間なく接する状態が示されている。
すなわち、本件明細書には、カートリッジの嵌合端部と制御ハウジング
の嵌合端部(受容端部)が嵌合すると記載され、その実施形態として、カ
ートリッジが制御ハウジングの受容チャンバーに挿入されることで、相補
形状を有するといえる、円筒形の外壁という形状を有するカートリッジの
嵌合端部と、円筒形の受容チャンバー壁という形状を有する制御ハウジン
グの嵌合端部(受容端部)とが、カートリッジの外壁の外側の嵌合端部が
受容チャンバーの外壁の内側に接することで、ほとんど隙間なく配置され
るという状態ではまり合っていることが示されているといえる。これは、
上記の「嵌合」についての一般的な意義に沿ったものである。他方、本件
明細書には、制御ハウジングの「受容端部」あるいは「受容チャンバー」
については、【0008】、【0040】以外に、本件明細書の【001
2】、【0018】、【0027】、【0059】、【0061】、【0
102】等にも記載があるが、カートリッジの嵌合端部の端面に接触又は
近接するのみで、それを制御ハウジングの「受容端部」とする記載はない
し、上記アの一般的な意義と異なる意味で「嵌合」が使われていることを
示唆する記載もない。
ウ 本件発明は、前記1 のような技術的意義を有するところ、制御ハウジ
ングとカートリッジの関係として、想定し得る様々な構成のうち、構\成要
件Dにおいて「前記制御ハウジングは、前記カートリッジに機能可能\に連
結されている嵌合端部を有する」として、それぞれの嵌合端部が「嵌合」
するものであることを明確に定めている。そして、そのような構成の下で、\n制御ハウジングとカートリッジが「機能可能\に連結され」、また、「吸引
可能な物質媒体と電気加熱部材が整列して、吸引可能\な物質媒体の少なく
とも一部分を加熱できるように」なることがあるとしている。
本件発明においては、制御ハウジングとカートリッジの関係が上記のと
おり定められているところ、「嵌合」の語句の一般的な意義(前記ア)
や本件明細書の記載(前記イ)もその一般的な意義を前提としていると
解されることからも、「前記カートリッジに機能可能\に連結されている
嵌合端部」とは、その嵌合端部自体が一定の形状を有するとともに、ハ
ウジングの嵌合端部も一定の形状を有し、それら両嵌合端部の形状が、
相補形状であり、それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくは
まり合うものをいうと解される。
(3) 被告製品の構成dについて\n
ア 被告製品の構成dは、「加熱式デバイスは、加熱式タバコスティックを\n受け入れるエンドキャップと、エンドキャップの底面に形成されたスリッ
トを貫通してエンドキャップ内まで延びるヒータブレードのベース部上に
形成された導電トラックに電力を供給するバッテリーを含むメインボディ
と、を有する加熱式喫煙デバイスであって、使用者はエンドキャップの底
面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であり、該挿入によっ\nてヒータブレードのベース部が加熱式タバコスティックに挿入され、加熱
式喫煙デバイスのスイッチが入れられると、タバコロッドを加熱するため
に、ヒータブレードの導電トラックがバッテリーと通電し、」である。
そして、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり得るのは加熱式タバコ\nスティックであり、当該加熱式タバコスティックの篏合端部に当たり得る
のは、加熱式タバコスティックの吸い口とは反対の先端部である。
イ 原告らは、エンドキャップに加熱式タバコスティックがぴったりとはま
るから、エンドキャップの底面と、加熱式タバコスティックの先端面は、
ほぼ同径の円形であり、「形状が合った物」であり、「エンドキャップの
底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であ」ることは「は\nめ合わせる」ことである旨主張する。
しかしながら、加熱式タバコスティックの先端面の形状とエンドキャッ
プの底面の形状自体はほぼ同径の円形であるとしても、エンドキャップ
の底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入した状態は、加熱式
タバコスティックの先端面がエンドキャップの底面に突き当たって接し
た状態になっているのみである。加熱式タバコスティックの先端面とエ
ンドキャップの底面のそれぞれの形状は、相補形状ではなく、それぞれ
の形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものであるとはい
えない。
なお、制御ハウジングは、構成要件Dの文言上、「前記電技加熱部材に\n電力を供給する電気エネルギー源を含(む)」(構成要件D)ものであ\nるところ、被告製品における制御ハウジングはメインボディであるから、
エンドキャップそれ単独では、制御ハウジングに当たることはない。
ウ 原告らは、ヒータブレードのベース部が「篏合端部」に当たるとも主張
する。
しかしながら、前記のとおり、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり\n得るのは加熱式タバコスティックであり、当該加熱式タバコスティックの
篏合端部に当たり得るのは、円筒状の形状を有する加熱式タバコスティッ
クの吸い口とは反対の先端部であるが、当該先端部は、原告らが「篏合端
部」と主張するヒータブレードのベース部の形状と、相補形状ではなく、
それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものである
とはいえない、なお、このことは、ヒータブレードのベース部とエンドキャップ底面と
を合わせた構成を考えても同様である。\n
エ 以上によれば、被告製品の構成dのヒータブレードのベース部とエンド\nキャップ底面は、いずれも構成要件Dの「篏合端部」に当たらず、その他、\nこれに該当する部分はないといえる。
そうすると、被告製品は、構成要件Dを充足する部分を有せず、その余\nを判断するまでもなく本件発明の技術的範囲に属さない。
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2023.12.12
令和4(行ケ)10109 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年11月30日 知的財産高等裁判所
実施可能要件・サポート要件違反があるとの異議理由を認め、特許を取り消す旨の審決がなされましたが、知財高裁は、かかる審決を取り消しました。\n
(1) 特許法36条4項1号は、特許による技術の独占が発明の詳細な説明をも
って当該技術を公開したことへの代償として付与されるという仕組みを踏
まえ、発明の詳細な説明の記載につき実施可能要件を定める。このような同\n号の趣旨に鑑みると、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足するた\nめには、当該発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、
当業者が過度の試行錯誤を要することなく、特許を受けようとする発明の実
施をすることができる程度の記載があることを要するものと解される。
(2) そこで検討するに、まず前提として、本件明細書記載の第1実施形態によ
り本件3条件を満たす防眩フィルムを製造することができることは争いが
ないところ、被告は、本件特許発明は第2実施形態に係る防眩フィルムであ
って、第1実施形態は本件特許発明に含まれない旨主張する。
しかし、本件明細書で第1実施形態を説明する【0056】の「防眩層3
は、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子(フィラー)を含んでいて
もよい。」との記載、【0058】の「微粒子の平均粒径は特に限定されず、
例えば、0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定できる。」との記載
及び【0059】の「微粒子の平均粒径が小さすぎると、防眩性が得られに
くくなり、大き過ぎると、ディスプレイのギラツキが大きくなるおそれがあ
るため留意する。」との記載を参酌すれば、第1実施形態には、スピノーダ
ル分解による凝集と微粒子の凝集の両方により表面に凹凸の分布構\造が形
成されている防眩層を備える防眩フィルムが含まれているといえる。したが
って、本件特許発明においては、スピノーダル分解による凝集のみにより表\n面に凹凸の分布構造が形成されている防眩層は含まないが、スピノーダル分\n解による凝集と微粒子の凝集の両方により表面に凹凸の分布構\造が形成さ
れている防眩層は排除されていないのであり、第1実施形態に係る防眩フィ
ルムが本件特許発明に含まれないとする被告の主張は採用できない。
(3) 以上を前提に実施可能要件の充足性について検討するに、第1実施形態は、\n防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を
急峻化するとともに、凹凸の数を増やすことにより、ディスプレイのギラツ
キを抑制しながら防眩性を向上させるものである(【0078】)。第1実
施形態と、第2実施形態とは、上記原理を共通にし、第1実施形態では、ス
ピノーダル分解によって凹凸を防眩層に形成するのに対し、第2実施形態で
は、複数の微粒子を使用し、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶
剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことで、微粒子の適度
な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形成\nするという点において異なる(【0079】、【0080】)。
そして、本件明細書には、第1実施形態に関して本件3条件に係る防眩層
の特性は、溶液中の樹脂組成物の組み合わせや重量比、調製工程、形成工程、
硬化工程の施工条件等を変化させることで形成できるものであることが記
載されており(【0068】)、第2実施形態について、微粒子や、防眩層
を構成するマトリクス樹脂の材料(【0086】〜【0094】)、マトリ\nクス樹脂と微粒子との屈折率差(【0081】)、粒径(【0082】)、
防眩層におけるマトリクス樹脂と微粒子の割合(【0085】)、製造方法
(【0095】〜【0102】)、調製に使用する溶剤(【0096】)が
具体的に記載されるとともに、実施例5においては、シリカ粒子がブタノー
ルに対して斥力相互作用を生じたことにより、凹凸構造が強調されること\n(【0188】)が、記載されているから、当業者は、第1実施形態に係る
【0186】及び【0187】の記載に加え、【0068】及び【0079】
の記載を併せ考えれば、各生産工程における条件の適切な設定や、アクリル
系紫外線硬化樹脂とアクリル系ハードコート配合物Aを共存させること等
の調整を行うことによって、第2実施形態に関して、実施例として記載され
た防眩フィルムをはじめとする様々な特性の防眩フィルムを得られること
を理解するものということができる。したがって、仮に本件特許発明が、微
粒子の凝集のみにより表面に凹凸の分布構\造が形成された防眩層を備える
防眩フィルムであるとしても、当業者は本件特許発明に係る防眩フィルムを
製造することができるといえる。
被告は、凹凸を形成する方法(原理)が異なれば凹凸の形成に適した材料
は異なり、それに伴い斥力相互作用が生じる材料の組み合わせも異なるから、
微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選
定についての手がかりは本件明細書に開示されていないと主張する。しかし、
微粒子の凝縮によって形成される凹凸構造の形状は、スピノーダル分解の凝\n集が進行したことによる上記液滴相構造の形状と同様のものであると解さ\nれるから、第1実施形態の凹凸構造を参考にできるものと解される。そして、\n上記のとおり、本件明細書には、本件特許発明に係る特性を導く上で主要な
構造となる凹凸の急峻性を生み出す原理とその具体的方法、原材料から製造\nの工程に係る記載があり(特に【0079】)、当業者は、微粒子の凝集を
用いてより急峻な凹凸を形成する場合には、微粒子の重量部を大きくし、さ
らに必要に応じてブタノールの重量部を大きくし、斥力を大きくするなどし
て、通常の試行錯誤の範囲内で、シリカ粒子やブタノールの量などを具体的
に決定し、その実施品を作ることができるものというべきである。
(4) 被告は、本件明細書の【0005】、【0008】の記載から、本件特許
発明の目的のうち、「高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルム
を提供すること」とは、外光の映り込みを防止すること(高いヘイズ値とす
ること)と、ディスプレイの表示性能\を維持すること(高い透過像鮮明度と
すること)とのトレードオフの相関関係に起因して、従来、透過像鮮明度の
設計自由度が制約を受けていたところ、ギラツキを所定の範囲にまで抑制さ
れるとともに、前記制約を克服した領域ともいうべき領域である本件高ヘイ
ズ・高鮮明度領域における透過像鮮明度を備えた防眩フィルムを提供するこ
とであると当業者は理解するから、本件高ヘイズ・高鮮明度領域について製
造方法の記載が求められると主張する。
しかし、まず、本件明細書の【0005】の記載からは、外光の映り込み
の防止とディスプレイの表示性能\の維持の間に厳格なトレードオフの関係
があるとまで認めることはできない。本件特許発明の第1実施形態に係る実
施例1〜4、比較例2〜3、10及び11、第2実施形態に係る実施例5、
比較例1、4〜9における防眩フィルムのヘイズ値及び透過像鮮明度の数値
(本件明細書【0183】の【表1】、【0184】の【表\2】)からは、
ヘイズ値が同程度であっても透過像鮮明度が異なる防眩フィルムや、透過像
鮮明度が同程度であってもヘイズ値が異なる防眩フィルムが製造できるこ
とが示されている。なお、被告は、本件明細書には本件特許発明に対応する
実施例としては実施例5しか記載されていない旨主張するが、これは、第1
実施形態が本件特許発明に対応するものでないという誤った前提に基づく
ものであるし、仮に被告の前提によるとしても、ここで問題となるのはヘイ
ズ値と透過像鮮明度の相関関係であるから、実施例5以外の実施例を排除す
る理由はない。また、被告は、比較例1に関しては、「平均粒径が0.5μ
m以上5.0μm以下の範囲の値に設定された」本件特許発明の前提条件で
あるμmオーダーの表面凹凸構\造を備えた防眩層ではなく、nmオーダーの
表面凹凸構\造を備えた防眩層を有するから、参酌すべきではない旨主張する
が、仮に比較例1を参酌しなかったとしても、上記認定が左右されるもので
はない。
加えて、JIS規格(K7374)(甲43)の「附属書(参考)像鮮明
度測定例」では、像鮮明度の透過測定例として「ヘーズ値によって像の鮮明
さを評価できないアンチグレアフィルムなどのフィルムの測定例」があり、
附属書表1の試料1−2「ヘーズ値14.11、像鮮明度80.0%」と試\n料1−4「ヘーズ値14.67、像鮮明度5.9%」を示すとともに、ヘー
ズ値は像の鮮明度とは異なり視感を反映していないのに対して、像鮮明度は
視感と一致していることが記載されていることからみて、防眩フィルムのヘ
イズと透過像鮮明度の間には一定の相関関係があるものの、強い相関性まで
認められているものではなく、製造条件などで調整が可能であり、設計自由\n度があるといえる。
さらに、本件明細書の【0008】には「そこで本発明は、ディスプレイ
のギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しな
がらディスプレイのギラツキを抑制できると共に、高い透過像鮮明度の設計
自由度を有する防眩フィルムを提供することを目的としている。」と記載さ
れ、本件特許発明は、防眩性、ギラツキの抑制、高い透過像鮮明度の設計自
由度という三条件の均衡を目的とするものと理解される。そして、本件明細
書の【0011】の「また、前記標準偏差を所定値に設定すると共に、防眩
層のヘイズ値を50%以上99%以下の範囲の値に設定することにより、デ
ィスプレイのギラツキを抑制しながら、良好な防眩性を得ることができる。
また、防眩フィルムの光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度を0%以上60%
以下の範囲の値に設定することで、防眩フィルムの透過像鮮明度の設計自由
度を広く確保できる。」との記載は、良好な防眩性を示すヘイズ値が50%
以上であることを示すものであり、したがって、ヘイズ値は、ギラツキの抑
制や高い透過像鮮明度という他の条件との関係で上記数値範囲内で変動し
てよいものである。上記のとおり、高いヘイズ値とすることとディスプレイ
の表示性能\を維持することとの厳格なトレードオフの関係は認められず、甲
13添付の実験成績証明書3頁ではサンプル1(ヘイズ値96%、透過像鮮
明度65%)とサンプル2(ヘイズ値45%、透過像鮮明度2.0%)の防
眩フィルムが製造できたことが示されており、本件高ヘイズ・高鮮明度領域
の製造方法が具体的に記載されていなければ、本件特許発明が実施可能要件\nを欠くなどということはできない。
(5) 以上によれば、本件明細書には、当業者がその記載及び出願当時の技術常
識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明に係る物を
製造し、使用することができる程度の記載があるものと認められ、当業者が
本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載された\nものであると認められる。したがって、本件明細書につき実施可能要件を充足しないとした本件決定の判断には誤りがあり、取消事由2には理由がある。\n
3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)について
(1) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細
な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を
定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な
説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な
説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明
の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳
細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該
発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して
判断すべきものと解される。
(2) 本件特許発明は、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑
制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提
供することを目的とする(【0008】)。
ヘイズ値が50%以上あれば良好な防眩性は確保でき(【0011】)、
ヘイズ値と透過像鮮明度との間には一定の相関関係があるから、適宜ヘイズ
値を変動させることにより、透過像鮮明度も調整することができる。
ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させるには、 防眩
層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻
化すると共に、凹凸の数を増やせばよい(【0078】)。
そして、上記のような防眩フィルムについて、本件明細書には、凹凸の急
峻性を生み出す原理とその具体的方法、原材料から製造の工程、実施例等が
記載されていることは前記2(3)のとおりであるから、当業者は、その記載
及び技術常識に基づき、特許請求の範囲に記載された範囲において、本件特
許発明の課題を解決できると認識できるということができる。
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2023.12.12
令和5(行ケ)10074 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年11月30日 知的財産高等裁判所
商標「ブランディングDX」(標準文字)が、識別力無しとした審決が維持されました。
本願商標は、「ブランディングDX」の文字を標準文字で表してなると\nころ、構成中の「ブランディング」の文字は、「顧客や消費者にとって価値\nのあるブランドを構築するための活動」等の意味を有する語であり(乙1〜\n7)、「DX」の文字は、「情報通信技術の浸透に伴うビジネスや社会の構造\n的変革」、「デジタル変革」を意味する「デジタルトランスフォーメーション」
を表す語である(乙8〜10)と認められる。\nそして、日本政府によって平成30年5月に「デジタルトランスフォー
メーションに向けた研究会」が発足し、同年12月に同研究会によって「D
X推進ガイドライン」が発表されて以降、政府による「DX推進指標」が公\n表され(令和元年7月)、閣議決定された「骨太の方針」に「民間における\nDXの加速」が盛り込まれ(令和3年6月)、その頃、総務省によって「自
治体DX推進計画」が策定されるなど、様々な業務や事業活動、業種等にお
いて、デジタル技術の活用を促進することによる業務の変革(DX、デジタ
ルトランスフォーメーション(化))の取組がなされている(乙11〜22、
28、47〜50)。また、そのような取組を表す際に、「○○DX」と表\す
ことがしばしば行われている実情があり(乙13、14、21〜37)、ブ
ランディングに関わる業務においても、こうした取組に対して、端的に「ブ
ランディングDX」と称する事例がある(甲28〜40、乙43、44、4
7〜50)。
(3) そうすると、本件関連役務に関し本願商標に接した取引者・需要者は、
「ブランディング」についてのデジタル技術の活用による業務の変革である
「デジタルトランスフォーメンション」であること、すなわち「ブランディ
ングのデジタルトランスフォーメーション(化)」を表したものと認識し、\n理解するものというべきである。
よって、本願商標は、役務の特徴、質(内容)を普通に用いられる方法
で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号に該当す\nると解するのが相当である。
(4) これに対し、原告は、「DX」の文字の理解が浸透していないと主張す
るが、上記(2)の事実は、本件審決時までに「デジタルトランスフォーメー
ション」を意味する「DX」の取組が広く啓発され、用語例として定着・普
及していたことを示すものにほかならず、上記主張は採用できない。原告は、
アンケートにおいて「DX」や「ブランディング」の理解が広がっていない
結果が出ていると主張するが(甲3〜5、18〜20、22、23)、例え
ば甲3のアンケートでは、75%の回答者が少なくとも「DX」の言葉の意
味を理解しているとの結果が出ているなど、本件で証拠提出されたアンケー
ト結果は必ずしも原告の主張を根拠づけるものとはいえない。
また、原告は、「ブランディングDX」の用語を使用する際、「プラン」
や「ソリューション」などの言葉で意味合いを補足している例がほとんどで\nあると主張するが、そうだとしても、「DX」の用語が本件関連役務の取引
者・需要者に理解されないと解すべき根拠になるものではない。
(5) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとし
た本件審決の判断に誤りはない。
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2023.12. 7
令和5(行ケ)10063 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年11月30日 知的財産高等裁判所
本件商標は標準文字「VENTURE」です。先行商標は「遊」の漢字の下部に「VENTURE」を配した結合商標です。争点は「VENTURE」部分を要部として、類否判断ができるかです。特許庁は要部抽出可能と判断しましたが、裁判所は、分離観察については可能\としましたが、「VENTURE」の文字部分は要部ではないとして、審決を取り消しました。判決文の最後に引用商標があります。
ア 引用商標は、中央上部に筆文字風の書体による「遊」の漢字を大きく配
し、底辺部にゴシック体風の書体による「VENTURE」の欧文字を配
した構成からなる結合商標である。\n
(ア) この外観に着目して具体的に観察すると、中央上部の「遊」の文字
は、「VENTURE」を構成する各文字よりも縦横とも約5倍の大き\nさで、面積にして約25倍相当となる。「遊」の文字と「VENTUR
E」文字部分(7文字分)全体の面積を比較しても、前者が後者の約3.
5倍ということになり、「遊」の文字部分が「VENTURE」の文字
部分に対して圧倒的な存在感を示している。
また、「遊」の文字の書体は、勢いのある行書の筆文字風であり、
「遊」の語義と相まって、看者に躍動感と趣味感を印象づける書体で
あるのに対し、「VENTURE」は、太目の文字をわずかに右に傾け
たゴシック体風の書体という以上の特徴はみられない。
そして、「遊」の文字部分は、中央上部に配置され、これが商標の全
体構成の中心部分をなすとの位置づけを否応なくアピールするのに対\nし、「VENTURE」の文字部分は、底辺部で「遊」を支える台座の
ような印象を与える外観となっている。
(イ) 次に、称呼及び観念に着目して検討するに、引用商標の構成中、「V\nENTURE」の文字部分からは、 (2)で述べたところと同様、「ベン
チャー」の称呼及び「冒険」の観念を生ずる。そして、「遊」の文字部
分からは、「ゆう」又は「あそ」(び、ぶ)の称呼を生じ、「あちこち
出歩いてあそぶ」等の観念を生ずる(乙5)。
したがって、これを全体として観察した場合、一応は「ユウベンチャ
ー」又は「アソベンチャー」の称呼を生ずるといえるが、一義的に明確\nとはいえず、一連一体の文字商標としての読み方は定まらない(よく
分からない)という印象を取引者、需要者に与えることも否定できな
い。
また、「遊」の部分から生ずる観念(あちこち出歩いてあそぶ)と
「VENTURE」の部分から生ずる観念(冒険)とを統合する単一の
観念を見出すことは困難であり、造語としての「ユウベンチャー」又は
「アソベンチャー」から特定の観念が生ずるとも認められない。\nこの点、原告は、上記各部分を通じて、「気ままに冒険する」といっ
た観念上のつながりが理解される旨主張するが、連想の域を出ない希
薄なつながりにすぎず、ここに商標の出所識別機能の根拠を求めるに\nは無理がある。
イ 以上の認定を踏まえ、上記(1)の3)で例示したところを参考に、引用商
標における分離観察の可否及び要部認定について検討する。
引用商標は、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分からな
る結合商標であり、原則として全体観察をすべきことは前述のとおりであ
るが、上記各構成部分を比較すると、文字の大きさの違いからくる「遊」\nの文字部分の圧倒的な存在感に加え、書体の違いからくる訴求力の差、全
体構成における配置から自ずと導かれる主従関係性といった要素を指摘\nすることができ、称呼及び観念において一連一体の文字商標と理解すべき
根拠も見出せない等の事情を総合すると、引用商標に接した取引者、需要
者は、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分を分離して理解
・把握し、中心的な構成要素として強い存在感と訴求力を発揮する「遊」\nの文字部分を略称等として認識し、これを独立した出所識別標識として理
解することもあり得ると解される。
他方、「VENTURE」の文字部分は、商標全体の構成の中で明らか\nに存在感が希薄であり、従たる構成部分という印象を拭えず、これに接し\nた取引者、需要者が、「VENTURE」の文字部分に着目し、これを引
用商標の略称等として認識するということは、常識的に考え難い。したが
って、「VENTURE」の文字部分を引用商標の要部と認定することは
できないというべきである。本件審決の判断中、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分との分離観察が可能という点は正当であるが、「VENTURE」の文字\n部分を要部と認めた部分は是認できない。
ウ 被告は、「遊」の文字部分が比較的大きく書されているとしても、「V
ENTURE」の文字も需要者、取引者が認識するに十分な大きさで書さ\nれており、文字の大きさをもって「VENTURE」の文字部分が要部と
なり得ないとはいえない旨主張する。確かに、相対的な文字の大小関係が
あるにすぎない場合であれば、被告の上記立論も首肯できるものであるが、
本件における「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分との大き
さの違いは、相対的な大小関係とは次元の異なるものである上、書体の違
いからくる訴求力の差、配置上の位置関係からくる主従関係性などの要素
も総合すれば、被告の立論は本件に妥当するものとはいえない。
なお、「VENTURE」という文字が引用商標の指定商品(被服)と
の関係で出所識別標識としての機能を一般的に果たすかどうかという問\n題は、上記判断とは関係がない。
◆判決本文
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2023.12. 1
令和5(行ケ)10060 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年11月15日 知的財産高等裁判所
赤色の図形内部に、「POPPO」の欧文字を白抜きした結合商標から、文字部分だけを抽出して類似判断ができるかが争われました。知財高裁は抽出できるとした審決を維持しました。
イ 本願商標の全体を観察すると、文字部分は、図形部分の内部に配置されてい
るものの、図形部分の中央の目立つ位置に、白抜きの読み取りやすい書体で明瞭に
記載されているから、外観上、図形部分とは明確に区別して認識できるものであっ
て、図形部分と文字部分がそれぞれ視覚的に分離、独立した印象を与えるものとい
える。
ウ 本願商標の図形部分は、一見して何を表すものであるか看取することは困難\nであり、直ちに特定の観念及び称呼が生じると認めることはできない。他方、本願
商標の文字部分は、当該文字は辞書等に掲載のないものであって、特定の意味合い
を認識させることのない一種の造語として認識されるものであって、特定の観念を
生じさせず、ローマ字読みした場合、「ポッポ」の称呼を生じるものといえる。
エ 以上を総合すると、本願商標は、図形部分と「POPPO」の文字部分とか
らなる結合商標であるところ、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上\n不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないから、
その構成部分の一部であり、「ポッポ」の称呼を生じる文字部分である「POPPO」の部分を抽出し、当該部分(以下「本願要部」という。)だけを他人の商標と比較し\nて商標の類否を判断することも許されるというべきである。
・・・・
(3) 本願商標の指定役務は第43類「鳥から揚げを主とする飲食物の提供」を含
むものであり、引用商標1の指定役務は第42類「らーめん・お好み焼・たい焼・
フライドポテト・アイスクリーム及び清涼飲料を主とする飲食物の提供」であり、
引用商標2の指定役務は第43類「飲食物の提供」である。しかるところ、これら
を提供する者はいずれも飲食サービス業者であって業種が一致する。また、飲食サー
ビス業者においては、同一店舗において、ラーメンと空揚げとフライドポテト、お
好み焼きと空揚げなどを提供することも行われており(乙34〜39)、さらに、提
供する飲食物が相違する様々な店舗を同一経営者が飲食店グループとして運営する
ことも一般的に行われているところである。
(4) 以上によると、本願商標と各引用商標は、それぞれの指定役務において使用
された場合、営業主体、すなわち役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあ
るというべきであって、互いに類似するものであり、また、本願商標と各引用商標
は、「飲食物の提供」の役務との点で共通するから、指定役務が類似するといえる。
◆判決本文
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2023.11.29
令和3(ワ)26704 損害賠償請求事件 商標権 民事訴訟 令和5年7月26日 東京地方裁判所
DVDのケースの「九鬼神流」などの記載は、商標的使用ではないと判断されました。
請求原因イ、ウ及び抗弁 (商標的使用)について
ア 甲18、34〜37によれば、本件大会ビデオ・DVDのケースの表紙・\n裏表紙、本件大会ビデオ・DVDの映像におけるテロップ、本件雑誌に掲載\nされた本件大会ビデオの広告、各種ウェブサイト上の店舗における商品であ
る本件大会DVDのケースの表紙の画像やその説明において、「九鬼神流」、\n「九鬼神」、「高木揚心流」との記載があることが認められる。
もっとも、本件大会ビデオ・DVDのケースの表紙・裏表\紙における上記
「九鬼神流」等の記載の態様は前記1 ア 、 のとおりであり、本件大会
ビデオ・DVDの映像におけるテロップにおける「九鬼神流」等の記載の態
様は同 のとおりであり、本件雑誌に掲載された本件大会ビデオの広告にお
ける上記「九鬼神流」等の記載の態様は同 のとおりである。「月刊 秘伝
WEB SHOP」における上記「九鬼神流」等の記載の態様は同 のとお
りであり、甲34〜37によれば、各種ウェブサイト上の店舗における商品
である本件大会DVDの画像は前記1 ア の本件大会DVDのケースの
表紙のものであり、また、その説明文は、上記「月刊 秘伝 WEB SH
OP」におけるものと同様のものであったと認められる。
そうすると、前記1と同様の理由により、それらの「九鬼神流」、「九鬼神」、
「高木揚心流」との表示は、関係する各記載やその使用態様から、日本武道\n国際連盟が主催した本件大会における演武を収録した本件大会ビデオ・DV
Dに収録されている対象に関する説明をするものであり、本件大会ビデオ・
DVDの出所を示すものとはいえないから、これらの表示は需要者が何人か\nの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用され
ていないものといえる。
◆判決本文
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2023.11.29
令和4(行ケ)10035 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 知的財産裁判例 令和5年7月19日 知的財産高等裁判所
「GODZILLA」は周知著名商標であるので、「GUZZILLA」は、4条1項15号違反として、無効であるとした審決が維持されました。
(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を
生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使
用したときに,当該指定商品又は指定役務が他人の業務に係る商品又は役務
であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該指定商品又は指定役
務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係
又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主\nの業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標を含むもの
と解するのが相当である。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,
当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表\示の周知著名性及び独創
性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は
役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務
の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指
定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基
準として,総合的に判断されるべきものである(平成12年最判参照)。
そして、この「同一の表示による商品化事業を営むグループ」には、表\示
を指定された商品に付し役務に用いるなどして商品の販売等の事業を営む他
の営業主のように、他人の表示に係る使用許諾(ライセンス)契約を締結し\nて事業を営む者をも含むと解すべきであるから、そこにいう「誤信されるお
それがある商標」(広義の混同のおそれのある商標)には、使用許諾に係る
他人の表示と同一ないし類似の商標であって、これが商品に付され又は役務\nに用いられることにより、他人の表示に関するライセンス契約を締結して事\n業を営むグループに属する関係にある複数の営業主のうちに、この同一ない
し類似の商標を用いて事業を営む者に属する関係にあると誤信されるおそれ
がある商標を含むものというべきである。
以下、この観点から判断する。
(2) 商標の類似性の程度
ア 外観
本件商標は、「GUZZILLA」と、8文字の欧文字から成る。本件
商標において、「G」と「A」の字体は、やや丸みを帯び、「U」と3文
字目の「Z」の上端及び7文字目の「L」と「A」の下端は、それぞれ結
合し、3文字目及び4文字目の「Z」は、両文字の左下が前下方に鋭く突
尖しているほか、やや縦長の太文字で表されることによって、デザイン化\nされている。
引用商標は、「GODZILLA」と、8文字の欧文字から成る。被告
が引用した引用商標の文字は、標準文字であって、デザイン化されていな
いが、実際には、様々な書体で使用されている。
本件商標と引用商標の外観とを対比すると、いずれも8文字の欧文字か
らなり、語頭の「G」と語尾の5文字「ZILLA」を共通にする。2文
字目において、本件商標は「U」から成るのに対し、引用商標は「O」か
ら成るが、本件商標において「U」と3文字目の「Z」の上端は結合し、
やや縦長の太文字で表されているから、見誤るおそれがある。もっとも、\n本件商標と引用商標は、3文字目において相違するほか、本件商標は前記
のとおりデザイン化され、全体的に外観上まとまりよく表されている。\nそうすると、本件商標と引用商標とは、外観において相紛らわしい点を
含むものということができる。
イ 称呼
本件商標の語頭の2文字「GU」は、ローマ字の表記に従って発音すれ\nば「グ」と称呼され、我が国において、なじみのある「GUM」などの英
単語と同様に発音すれば「ガ」と称呼される。したがって、本件商標は、
「グジラ」又は「ガジラ」と称呼され、語頭音は「グ」と「ガ」の中間音
としても称呼されるものである。
・・・
ウ 観念
本件商標からは特定の観念が生じず、引用商標からは怪獣映画に登場す
る怪獣「ゴジラ」との観念が生じる。
エ 本件商標と引用商標の類似性
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼において相紛らわしいも
のであって、外観においても相紛らわしい点を含むことから、類似性の程
度は高いものということができる。
◆判決本文
関連の審決取消訴訟事件です。
◆平成29(行ケ)10214
◆令和1(行ケ)10167
関連の不競法違反の事件です。
◆令和4(ネ)10063
1審です。
◆令和1(ワ)26105
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2023.11.29
令和5(行ケ)10028 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年9月6日 知的財産高等裁判所
商標「梅水晶」について、識別力なしとした審決が維持されました。理由は、「鶏軟骨等を梅肉で和えた惣菜の商品として一般的名称であった」というものです。
前記(3)に挙げた各事実によれば、本件審決がされた当時、1)インターネッ
ト上の商品販売サイトにおいて、原告以外の者が製造したサメ軟骨(又はそ
の代替として用いられる鶏軟骨等)を梅肉で和えた惣菜商品に、「梅水晶」の
名称が付されて販売されていたこと、2)多数の飲食店において、サメ軟骨を
梅肉で和えた料理の名称として「梅水晶」の語が用いられ、客に提供されて
いたこと、3)料理レシピを掲載しているウェブサイトにおいて、サメ軟骨の
代わりに鶏軟骨等を用い、これを梅肉で和えた料理が「梅水晶」の名称で複
数紹介されていたことが認められる。
これらの事実によれば、本願の指定商品の需要者は、「梅水晶」の語が本願
商標の指定商品に使用された場合には、サメ軟骨又はその代替として用いら
れる鶏軟骨等を梅肉で和えた惣菜の料理名又はこのような惣菜の商品を一般
的に指す名称であると認識するものといえ、原告の製造販売する商品を認識
するとは認められない。したがって、本願商標は、本願の指定商品との関係において、自他識別力を有しておらず、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識するこ
とができない商標であると認められる。
(5) 原告の主張に対する判断
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)のとおり、1)原告が原告商品の
商品名として独自に考案した「梅水晶」の名称を付し、現在まで25年以
上にわたって販売しており、原告の取引先は平成27年当時で1000社
を超え、これら多くの取引先を通じ、「梅水晶」標章を付した原告商品が全
国のホテルや飲食店に納入されていること、2)全国の原告の取引先が、「梅
水晶」の標章を付した原告商品の出所が原告であると認識できることを証
明する旨の書面に押印していること、3)原告商品を紹介した複数のテレビ
番組において、「梅水晶」の標章を付した原告商品の出所が原告であること
が紹介されたこと、4)「大阪府珍味協同組合」が発行した冊子「食の都 大
阪 五十年の歩み」に掲載された年表\において、平成15年の「珍味組合
員の売筋商品」の欄に「梅水晶(サブ水産)/TVでの紹介があり人気商
品となる」との記載があること、5)原告よりも規模の大きい会社で、原告
商品と競合商品を販売する二つの会社が、「梅水晶」とは異なる標章を付し
て商品を販売していることから、本願商標は、本件審決の時点で、原告の
業務に係る商品を示すものとして、原告商品を取り扱う業界の取引者、需
要者の間に広く知られるに至っていたと主張する。
しかし、原告の主張は、本願の指定商品の需要者が、ホテルや飲食店等
の事業者のみであることを前提としているところ、上記需要者には一般消
費者が含まれると解すべきことは前記(2)のとおりであり、原告の主張には
その前提に誤りがある。
また、前記1)については、「梅水晶」の名称は原告が考案し、原告がサメ
軟骨に梅肉を和えた惣菜商品に本願商標を付して販売を開始した事実が
認められるが(甲93、弁論の全趣旨)、当初は特定の商品の名称として使
用されていた語が、一定期間使用され、当該商品と同種の商品等を指す一
般名称となり、自他商品を識別する標章としての機能を喪失することはあ\nり得るのであって、上記事実があることをもって、本願商標が商標法3条
1項6号に該当すると解し得ないことにはならない。前記2)については、原告が証拠として提出している「証明願」は、一般消費者を含まず、原告の取引先である業者のみの「証明願」にすぎないから、これをもって、「梅水晶」の名称が、原告の商品の出所表示として本願の指定商品の需要者の間で、全国的に認識されるに至ったことを示すもの\nとは認められない。前記3)から5)についても、本願の指定商品の需要者の一部の認識を窺わせる事情にすぎず、一般消費者を含む本願の指定商品の需要者において、
「梅水晶」の名称が原告の商品を表示するものと一般的に認識していたこ\nとを示すものとはいえない。
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(4)のとおり、「楽天市場」や「アマ
ゾン」において「梅水晶」の語で検索して出てくる商品で、本願の指定商
品と関連するもののうち、原告の出所に係る商品であることが明らかなも
のが、「楽天市場」については約38%、「アマゾン」については50%に
及んでおり、本件審決が別掲1として挙げた事例は少数のデータを恣意的
に抽出したものであって、これらの事例によって一般消費者の間で「梅水
晶」の名称が付された商品が原告の出所に係るものであると理解されてい
るとは認められないと本件審決が判断したのは不当である旨主張する。
しかし、原告の主張を前提としても、「楽天市場」及び「アマゾン」にお
いて「梅水晶」の語で検索して出てくる本願の指定商品と関連する商品の
うち、原告の商品でないものが半数又はそれ以上を占めるのであって、こ
のことからすれば、本件審決が少数のデータを恣意的に抽出して不当な判
断をしたとは解されない。同様に、本判決の前記(3)において挙げた事例も、
少数のデータを恣意的に抽出したものであるとはいえず、これらの事例に
照らし、本願商標が本願の指定商品との関係において自他識別力を有して
いないと判断できることは、前記(4)のとおりである。
ウ 以上のとおり、原告の主張はいずれも採用することができない。
その他、原告がるる主張する事情を考慮しても、本願商標は、本願の指
定商品との関係において自他識別力を有しないとの結論は左右されない。
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2023.11.28
令和4(ワ)2551 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟 令和5年11月10日 東京地方裁判所
被告の行為は、不競法の品質誤認表示に該当するとして、約9200万円(損害額自体は約1億4000万円と認定)の損害賠償が認められました。
(1) 不正競争防止法2条1項20号の誤認惹起行為が不正競争に該当し違法と
されるのは、事業者が商品等の品質、内容などを偽り、又は誤認を与えるよ
うな表示を行って、需要者の需要を不当に喚起した場合、このような事業者\nは適正な表示を行う事業者より競争上優位に立つことになる一方、適正な表\
示を行う事業者は顧客を奪われ、公正な競争秩序を阻害することになるから
である。
このような趣旨に照らすと、「品質」について「誤認させるような表示」に\n該当するか否かを判断するに当たっては、需要者を基準として、商品の品質
についての誤認を生ぜしめることにより、商品を購入するか否かの合理的な
判断を誤らせる可能性の有無を検討するのが相当である。\n
(2) 被告表示が「品質」について「誤認させるような表\示」に該当するかにつ
いて
ア 令和元年5月8日から令和3年8月30日までの表示について\n
前提事実(5)ア4)の「全国導入実績2,500台以上」との表示は、被告\nが販売している業務用生ごみ処理機、すなわち被告商品は、全国で250
0台以上が販売されているとの事実を、「ゴミサー/ゴミサポーターはその
処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で\n2,300台以上が稼働しています。」との表示は、被告商品は、その処理\n方法及び性能が多くの企業や施設で認められたため、全国で2300台以\n上が販売されたとの事実を、「全国・海外での導入実績は3,500台以
上。」との表示は、被告商品は、全国及び海外で3500台以上が販売され\nたとの事実を需要者に対し認識させるものであると認められる。
他方で、前提事実(5)エによれば、被告が令和元年5月8日以降販売して
いる被告商品の過去の累計販売数は2300台に達するものではないこと
が認められ、少なくとも、上記「全国導入実績2,500台以上」、「ゴミ
サー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認めら\nれ、おかげ様で現在、全国で2,300台以上が稼働しています。」及び
「全国・海外での導入実績は3,500台以上。」の表示(以下、これらを\n併せて「本件誤認惹起表示1)」という。)は、いずれも、実際の販売実績と
は異なるにもかかわらず、多数の被告商品が販売されており、このような
販売実績は、被告商品のごみ処理方法及びその性能が他の同種商品に比べ\nて優れたものであることに起因することを強調するものであって、その結
果、需要者に対し、被告商品がその品質において優れた商品であるとの権
威付けがされ、また、他の需要者も購入しているという安心感を与えるこ
とになるため、需要者が商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる
可能性があるというべきである。そうすると、本件誤認惹起表\示1)は、「品
質」について「誤認させるような表示」に該当すると認められる。\n
この点について、被告は、本件誤認惹起表示1)は、原告と被告との間の
取引が終了した後、一時的かつ短期的に残存していたものにすぎず、かつ、
被告が販売した原告商品の販売実績を記載したものであるから、虚偽では
なく真実そのものであると主張する。しかし、前記のとおり、需要者は、
本件誤認惹起表示1)が被告が過去に販売していた製品についての記載であ
ると認識することはなく、現在(被告ウェブページ掲載時)販売している
被告商品についての記載であると認識するといえるから、その表示の残存\nが一時的かつ短期的であったとしても、需要者が購入するか否かを決断す
る時点において、その合理的な判断を誤らせる可能性は否定できない。し\nたがって、被告の上記主張は採用することができない。
・・・
(3) 被告の主張について
被告は、販売実績の違いは、商品の品質の違いを推認するものにすぎず、
原告商品及び被告商品の間に、性能及び機能\における違いがない本件におい
ては、原告商品と被告商品の品質の違いが推認されるものではないと主張す
る。
しかし、前記(1)で説示した不正競争防止法2条1項20号の誤認惹起行為
が不正競争に該当し違法とされる趣旨に照らすと、客観的な性能及び機能\に
おける違いがないとしても、前記(2)のとおり、本件誤認惹起表示1)ないし3)
は、いずれも、販売実績について事実と異なる表示をするとともに、同販売\n実績が品質の優位性に起因するものであるとの表示をすることによって、そ\nのような販売実績をもたらす「品質」であるとの誤解を需要者に与え、その
結果、公正な競争秩序を阻害するものである以上、同号の「品質」について
「誤認させるような表示」に該当すると認めるのが相当である。\n
◆判決本文
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2023.11.28
令和5(ネ)10041 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年11月16日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
本件商品の輸入が本件特許権を侵害すると主張して税関に輸入差止の申立てをしたことが不法行為に該当するとして、約4000万円の損害賠償請求がなされました。知財高裁は1審と同じく、無効理由がないとして請求を棄却しました。
原告は、甲7公報に記載されたバー10が独立した運動器具の発明である
といえるかに関し、1)甲7公報記載の発明は、従来技術であるバーベル装置(バー
部分と重り部分からなるもの)における問題(バーが長いことによってバランスを
とることが困難であるとの問題)を解消するため、バー部分を短く改良した三頭筋
運動器具であるところ、バーベル装置においては、重りを着けずにバー部分のみで
運動を行うことが想定されているのであるから、バーベル装置を改良した甲7公報
記載の発明においても、バー10単独での使用が可能である、2)甲7公報には、発
明の目的及び別の目的に係る記載があるところ、前者の記載にある「中央に位置す
る重り支持セクションを有する」との文言が後者の記載からあえて削除されている
から、甲7公報記載の発明は、重り支持プラットフォーム及び重りを備えない状態
で使用することを当然の前提にしている、3)甲7公報記載の発明は、バー10を単
独で使用することによっても一定の作用効果を奏する、4)バー10は、三頭筋運動
において非常に重要な役割を果たしているとして、甲7公報記載の発明においては、
バー10を独立して捉えることが可能であり、それ自体が独立した運動器具の発明\nであると主張する。
そこで検討するに、1)甲7公報には、「比較的長いバーを有しバランスをとるこ
とが困難であるなどの従来のバーベル装置が有していた問題を解消するため、本件
各発明は、両側にあるハンドルを備える中央の重り支持セクションを有し、各ハン
ドルが複数の握持位置を有する」旨の記載があるが、補正して引用した原判決第4
の1(4)アにおいて説示したところに照らすと、仮に、従来のバーベル装置が重り
を着けない状態で使用されることがあるとしても、そのことは、甲7公報記載の発
明においても、バー10のみの状態(重りのみならず支持クランプ組立体をも取り
外した状態)での使用が想定されていることの根拠となるものではない。
また、2)甲7公報には、「本発明の目的は、中央に位置する重り支持セクション
を有する、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフティング装置
を提供することである。本発明の別の目的は、複数の握持位置を備える両側にある
ハンドルを有する、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフティ
ング装置を提供することである。本発明の別の目的は、end to endの手
の配置を可能にする、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフテ\nィング装置を提供することである。最後に、本発明の全体的な目的は、安価であり、
高い信頼性を有し、その意図される目的を達成するのに高い有効性を有する、説明
した目的のための装置内にある改善された要素及び機材を提供することである。」
との記載があるが、これらの記載は、甲7公報記載の発明の目的について述べるも
のであり、その具体的な構成について詳述するものではなく、補正して引用した原\n判決第4の1(2)イ(オ)のとおりの甲7公報記載の発明の具体的な構成に係る記載に\nも照らすと、「本発明の別の目的」及び「本発明の全体的な目的」に係る各記載中
に「本発明の目的」に係る記載中の「中央に位置する重り支持セクションを有する
…ウエイトリフティング装置」などの記載がないことをもって、甲7公報記載の発
明において、バー10のみの状態での使用が想定されているということはできない。
さらに、3)前記1)において説示したのと同様、補正して引用した原判決第4の1
(4)アにおいて説示したところに照らすと、仮に、重りを取り外した状態で使用す
ることによっても甲7公報記載の発明の効果を奏する場合があるとしても、そのこ
とは、甲7公報記載の発明において、バー10のみの状態(重りのみならず支持ク
ランプ組立体をも取り外した状態)での使用が想定されていることの根拠となるも
のではない。なお、4)甲7公報記載の発明においてバー10が重要な役割を果たしているとしても、そのことは、原告の主張を直ちに根拠付けるものではない。以上のとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。
(2) 原告は、相違点1)に係る本件各発明の構成の容易想到性に関し、リング状\nの器具をトレーニング器具として用いることは慣用技術であるから、リング状のバ
ー10をトレーニング器具とすることは、単にスポーツ器具用部品であるバー10
に慣用技術を適用するだけのことであり、当業者にとって極めて容易な事柄である
と主張する。しかしながら、これまで説示したとおり、本件においては、バー10のみ(甲7発明)が独立した引用発明であると認定することはできず、バー10のみならず重
り支持部分をも備えた甲7発明(被告)が引用発明であると認定するのが相当であ
るから、甲7公報記載の発明を引用発明とする本件各発明の進歩性の判断(相違点
1)に係るもの)に当たっては、そのような甲7発明(被告)から重り支持部分を取
り除くことについての容易想到性が問題となるところ、甲7発明(被告)における
バー10は、甲7発明(被告)を構成する部材の一部であり、重り支持部分と不可\n分の部材であるから、バー10のみをもって、原告が主張するリング状の器具であ
るとみることはできない(なお、原告の主張も、リング状の器具として、甲8公報
記載のトレーニング用器具、甲9公報記載の体育器具のほか、ラタンリング、ピラ
ティスリング、ヨガリング、フープ等を念頭に置いている。)。
以上によると、原告が慣用技術であると主張する技術の適用により当業者が相違
点1)に係る本件各発明の構成に容易に想到することができたとは認められない。\n
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)3847
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2023.11.28
令和4(行ケ)10112 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年10月30日 知的財産高等裁判所
争点となった無効理由の1つが新規事項か否かです。知財高裁は審決と同じく、新規事項ではないと判断しました。
特許法17条の2第3項は、特許請求の範囲等の補正については、願書に最初に
添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなけ
ればならない旨規定するところ、ここでいう「最初に添付した明細書、特許請求の
範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又
は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味するものとい
うべきである。そして、第三者に対する不測の損害の発生を防止し、出願当初にお
ける発明の開示が十分に行われることを担保して先願主義の原則を実質的に確保し\nようとするとの見地からすれば、当該補正が、上記のようにして導かれる技術的事
項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正
は「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するもの
に当たるというべきである(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563
号同20年5月30日特別部判決参照)。
・・・
上記(3)のとおり、本件補正前の「前記有料自動機の動作状態を監視し、結果を前
記管理サーバへ送信する」こと(以下「監視して送信」という。)は、本件補正後の
「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を出力」す
ること(以下「情報を出力」という。)に対応し、両者はともに当初明細書等に記載
された事項である。
ここで、監視のためには監視対象の情報を取得する必要があり、情報を出力する
ためには出力したい情報に関するデータの入力が必要なことは自明のことであるか
ら、上記「監視して送信」及び「情報を出力」のいずれの処理においても、その前
提として、ランドリー装置の動作に関係する何らかの信号を検知すること自体は当
然に行われることであり、当初明細書等において自明の前提であるといえる。そし
て、この自明の前提は、検知する信号の種類(電流値、コイン信号等)や監視の具
体的な方法(計測値に基づく判断か、推測か等)を問わないものであり、本件補正
の前後で何ら変わることのないものであるといえる。
そうすると、本件補正前の請求項1の記載は、上記自明の前提を「前記有料自動
機の動作を検知するセンサーとを含み、」及び「前記センサーの検知信号に基づいて」
との事項によって更に特定したものであり、補正事項1において当該事項を削除す
ることで、センサーの検知信号以外の情報に基づくものが含まれることになったと
しても、上記自明の前提に照らせば、当初明細書等に記載された事項であって、新
たな技術的事項を導入するものとはいえない。またこの点は、上記自明の前提の具
体的な態様が「電流センサー」から他の手段に変わったとしても、「監視して送信」
や「情報を出力」する処理が行われる限り、本件発明1の課題(各設置場所を巡回
することなく有料自動機の動作状態を容易に確認することが可能な有料自動機の制\n御システムを提供する(甲2の【0005】))は解決され、効果に顕著な差が生じ
ることがないことからも裏付けられる。
したがって、補正事項1は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導
かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないと
いえる。
そして、本件補正の内容に照らすと、上記検討した補正事項1及び2のほかにお
いても、当初明細書等に記載した範囲を超えるものはないと認められる。
(5) 原告主張について
原告は、1)当初明細書等には、センサーの検知信号に基づく構成が具体的に記載\nされており、他の構成は記載されていないから、センサーの検知信号に基づく構\成
は単なる例示ではない、2)本件審決の判断と異なり、有料自動機内の有料自動機制
御部10内の動作状態を示す回路の監視結果を示す信号を送信する方法は自明とは
いえない、3)補正要件違反を認めないとすれば、センサーを含まず、料金収受情報
から有料自動機が動いているかを推測する方法が含まれることになる旨を主張する。
上記1)の主張について検討すると、センサーの検知信号に基づく構成は、上記自\n明の前提を具体化した態様の一つではあるものの、本件発明1は「監視して送信」
又は「情報を出力」により巡回せずにランドリー装置の動作状態を確認するという
課題を解決するものであるから、センサーの検知信号でなければ課題を解決し得な
いということはなく、「監視して送信」又は「情報を出力」するために必要な情報が
入力されていれば足りる。当初明細書等にセンサーの検知信号に基づく構成しか例\n示がないとしても、上記自明な前提に対応する構成がそれのみに限定されることに\nはならない。
上記2)の主張について検討すると、本件審決は、有料自動機制御部10内にある
回路や素子からの信号が、センサー以外の検知信号に基づくものを説明のために例
示したものであって、当該例示が自明であることを補正の根拠として評価したもの
ではないから、当該例示が自明であるか否かは、本件補正の適否の判断を左右する
ものではない。
◆判決本文
関連事件です(当事者が同じ)。
◆令和5(行ケ)10040
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2023.11.19
令和4(ワ)6582 販売差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和5年10月31日 大阪地方裁判所
服の形状について、商品形態模倣(不競法2条1項3号)を主張しましたが、裁判所は、模倣とは認めませんでした。
イ 実質的同一性について
(ア) 原告商品4の形態と被告商品4の形態を比較すると、両者は、形態A及びE、
並びに、形態B及びGの各一部(形態Bのうちウエスト部を絞ったとの形態、形態
Gのうちパンツのセンタープレスの折り目を中心に、左右に3個ずつ、計6個のパー
ルの装飾が連なって施されている形態)において共通する。他方、両者は、1)ウエ
ストのゴムの有無(形態B)、2)フロントのチャックの有無(形態C)、3)フロン
トのタックの有無及びウエストから臀部のシルエット(形態D)、4)臀部のポケッ\nトの個数(形態F)、5)パールの大きさ(形態G)、6)パールの止め方(形態H)
において相違する。
(イ) 原告は、両商品の全体的なシルエット及び裾のパール装飾があることにおい
て同一であり、パールの大きさの差異はわずかであり、両商品の形態は実質的に同
一であると主張する。
上記4)の相違点については、上記(3)イ(イ)の検討と同様の理由から、上記6)の相
違点については、上記(2)イ(イ)の検討と同様の理由から、いずれも商品全体から見
ると些細な相違点である。また、上記5)の相違点については、上記(2)イ(イ)と同様
の理由から、商品全体に対する需要者の受ける印象に強く影響するものとはいえな
い。しかしながら、上記1)及び2)の相違点は、上記(3)イ(イ)と同様の理由から、ま
た、上記3)の相違点は、腰回り全体のシルエットの相違であり、いずれも需要者が
判別でき着目する点であるといえるから、いずれも商品全体に対して需要者の受け
る印象に大きく影響するものといえる。
以上によれば、原告商品4と被告商品4の形態が実質的に同一であると認めるこ
とはできない。
ウ ありふれた形態であるかについて
仮に、原告商品4と被告商品4の形態が実質的に同一であるとしても、次の理由
から、上記イの両商品の共通点に係る形態は、いずれもありふれた形態であると認
められる。すなわち、形態A及びE、並びに、形態Bの一部(ウエスト部を絞った
との形態)については、従前から多数存在する商品形態である(弁論の全趣旨)。
また、形態G(裾のパールの装飾)については、上記ア(ウ)のとおり、原告商品4の
販売以前に裾にパール装飾を施したガウチョパンツが販売されていたところ、当該
商品と原告商品4とはパンツの形状やパールの配置、大きさが異なるが、上記(1)ア
(ウ)bないしdのとおり、平成30年から平成31年当時、パール装飾のある商品が
人気となって複数の商品が販売されていたことからすれば、ストレートパンツの裾
に形態Gのパールを施すことは容易に着想し制作することができる。
◆判決本文
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2023.11.19
令和3(ワ)4061 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月31日 大阪地方裁判所
特許権侵害訴訟です。無効理由あり(進歩性無し)として権利行使不能と判断されました。
ウ 相違点1−3について
「有効スティッチ速度」及び「規定されたスティッチ速度」は、本件発明3の構\n成要件3F2の「効果的ステッチレート」及び「所望の織物ステッチレート」と、
それぞれ同義と解され(前記2(5)ウ)、構成要件1G2は、タフティングされた物\n品の模様の外観が所望の模様となるように、模様として見えるタフトよりも実際に
打ち込むタフトが多くなるようにバッキング給送ロールを制御することを特定する
のであるから(前記2(5)ア(ア))、前記4(1)イと同様の理由で、乙4公報に接した
当業者は、乙4発明から相違点1−3にかかる本件発明1の構成について容易に想\n到し得ると認められる。
エ 相違点1−4について
前記2(6)アのとおり、構成要件1G3は、規定されたスティッチ速度がゲージに\n従って決定されることを特定するものである。
証拠(乙2、13)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許1の優先日前において、
ゲージは、カーペット構造を制御する必須のパラメータの一つであり、タフティン\nグ機の単位当たりのニードル本数のことでもある。また、本件明細書1(【0049】)
には、一部の従来のタフティングシステムにおいては、タフティング模様に対する
スティッチ速度は概してタフティングマシンのゲージと一致し、タフティングマシ
ンのゲージは縦糸方向の1インチ(2.54cm)当たりの針数に相当し、縦糸方
向の1インチ当たりの針数は概して横糸方向の1インチ当たりのスティッチの数に
等しい旨が記載されている。これらによれば、本件特許1の優先日前において、ゲ
ージと模様として見えるタフトの密度を一致させること、すなわち、タフティング
された物品の模様の外観において、横糸方向と縦糸方向の密度を一致させるように
バッキング給送速度を制御することは、従来技術として存在したものと認められる。
そして、前記4(1)イのとおり、乙4発明は、バッキング材料の給送速度を任意に
変更し得る発明であることに照らすと、乙4公報に接した当業者は、乙4発明から、
規定されたスティッチ速度が、少なくともゲージに従って決定されることを容易に
想到し得るものと認められる。
(4) 顕著な効果の有無
原告は、本件発明1は、所望の位置に所望のヤーンをスティッチすることが可能\nであり、織物の見た目がずれることなく正確なゲージ範囲の模様となるという顕著
な効果を奏する旨を主張する。しかし、前記4(1)イと同様の理由で、タフティング
された物品の外観が所望の模様となるように、模様として見えるタフトよりも実際
に打ち込むタフトが多くなるようにバッキング給送ロールを制御する技術である本
件発明1は、実質的に乙4発明に含まれるものであり、その効果についても顕著な
効果があるとは認められない。
(5) 以上から、本件発明1は、乙4発明から容易に発明することができたといえ
るから、本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものと認められ、原告
は被告に対してその権利を行使することができない(特許法104条の3第1項、
123条1項2項、29条2項)。
◆判決本文
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2023.11.19
令和5(ネ)10048 販売差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟 令和5年11月9日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
ブーツ「Dr.Martens」について、原審は、商標権侵害と不競法の周知商品等表示に該当するとして、差止を認めました。1審被告は控訴しましたが、知財高裁も周知商品等表示に該当すると判断しました。
これに対し、控訴人は、黒を含む暗色系のウェルトと明るい色合いの縫
合糸との組合せによって明暗のコントラストを演出する靴製品にさしたる個
性や特異性はない旨主張する。確かに「黒色のウェルトと明るい黄色の糸の
ステッチ」という形態だけを単独で取り上げれば、靴製品のパーツ(ウェル
ト、ステッチ糸)において普通に使用されることが想定される、ありふれた
色彩のうちの任意の組合せにとどまるものであり、それだけから特別顕著性
を認めることは、過剰な独占を認める結果になり相当でない。黒と明るい黄
色とのコントラストによってウェルトステッチが明瞭に視認できるという効
果があるにしても、控訴人の主張するとおり、これに類する明暗のコントラ
ストが採用されている靴製品は他にも普通に見受けられるところ(乙32、
33)である。
しかし、本件において、被控訴人は、被控訴人商品を「被控訴人主張形態
(ア)ないし(ク)の形態的特徴を全て有するもの」として定義し(原判決別紙
「原告商品目録」)、これらの「形態上の特徴を全て備える被控訴人商品の
全体の形態」が被控訴人の周知の商品等表示であるとして、不競法2条1項\n1号の不正競争に係る請求を組み立てているところである(原判決15頁2
3行目〜24行目)。
当裁判所は、被控訴人のこの主張を前提に、黄色のウェルトステッチ(形
態(ア))だけでなく、形態(ア)〜(ク)を全て備える被控訴人商品の全体の形態
が商品等表示に該当するかどうかを検討し、そのような観点から、被控訴人\n商品の特別顕著性を肯定したものである。控訴人の主張は、黄色のウェルト
ステッチ(形態(ア))だけに着目した議論としては首肯できるにしても、当裁判所の上記判断を左右するものではない。
(4) なお、これに関連して、原審の判断について付言しておく。
原審は、被控訴人商品が備える形態のうち、黄色のウェルトステッチ(形
態(ア))だけを取り上げて、これが周知の商品等表示に当たると判断してい\nるところ、この判断は、控訴人が控訴理由で批判しているとおり、弁論主義
に反するものであったといわざるを得ない。もっとも、被控訴人は、当審に
おいて、原審の判断は被控訴人の主張と異なるものではないとの趣旨を述べ
ているから、その瑕疵は治癒されていると解されるが、実体判断として採用
できないことは上述のとおりである。
3 被控訴人商品の形態の周知の商品等表示該当性その2(周知性の有無)に\nついて
(1) 上記1の認定事実のとおり、被控訴人商品を含む「1460 8ホール
ブーツ」は、昭和60年以降現在に至るまで、被控訴人の日本子会社である
ドクターマーチンジャパンを通じて我が国において販売されていること、そ
の販売チャンネルは、同社の運営する実店舗72店舗及び公式オンラインス
トアのほか、靴小売りチェーン、セレクトショップ等の正規取扱店が含まれ
ること、「1460」シリーズの売上げは、令和3年度だけで10万足近く、
販売額で14億円余りに上ること、ドクターマーチンジャパンは、ファッ
ション雑誌を中心に「ドクターマーチン」の広告を継続的に掲出しており、
被控訴人商品の写真が掲載されたものもあること、被控訴人商品は、雑誌等
メディアにも再三取り上げられており、その中には、「一目でドクターマー
チンだとわかる黄色のウェルトステッチやロゴ入りのヒールループなど…も
特徴」、「ドクターマーチンのトレードマークともいえるイエローステッチ」
など、特に形態(ア)に具体的に言及し、これがドクターマーチンのブーツの
最大の特徴であるとの趣旨のコメントをするものが多いことが認められる。
さらに、被控訴人の依頼により行われたアンケート調査(本件被控訴人
調査)では、「店舗、通信販売サイト、雑誌等で革靴やブーツを見たり、過
去1年以内に革靴やブーツを購入した15歳から59歳までの全国の男女」
を対象に(1019人から回答)、被控訴人商品の写真を示した上で、当該
写真のように靴の外周に沿って黄色のステッチのある革靴やブーツはどこの
ブランドの商品だと思うかと質問したところ、「ドクターマーチン」を想起
できた者は、30.7%(自由回答式)〜37.6%(選択式)であったと
いうのである(前記引用に係る認定事実)。
以上によれば、形態(ア)〜(ウ)の特徴を備える被控訴人商品の形態は、需
要者の間に広く認識されており、周知の商品等表示に該当するものと優に認\nめられる。
(2) これに対し、アンケートの対象者を「15歳から69歳までの全国の男
女」とする本件控訴人調査の結果では、アンケートで示された写真から「ド
クターマーチン」を想起できた者は全回答者の5.47%などとされている
(乙15〜18)ところ、控訴人は、これは周知性を否定するものであり、
アンケートの対象者として、控訴人各商品及び被控訴人商品の需要者である
一般消費者を広く対象とする本件控訴人調査の結果を採用すべきであると主
張する。
しかし、本件控訴人調査は、被控訴人商品の全体の形態を示すことなく、
ウェルト、黄色のウェルトステッチ及びアウトソールが写っている部分のみ\nを切り取った写真を示して質問が行われている(乙15の2〔2頁〕)とこ
ろ、被控訴人商品全体の形態の周知性が問題となっている本件において、適
切な質問方法とはいえない。また、需要者の範囲に関しても、革靴又はブー
ツに関心のある消費者という属性を求めるのが適切というべきであり、この
点、本件被控訴人調査の対象者はやや絞りすぎ(特に「過去 1 年以内」の要
件)のきらいはあるものの、本件控訴人調査よりは、実際の需要者に近い対
象者の選定になっていると評価できる。
◆判決本文
原審はこちら。
◆令和2(ワ)31524
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2023.11.13
平成27(ネ)10069 売買代金請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成27年12月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
かなり前の判決ですが、漏れていたのでアップします。
部品メーカが完成品メーカに対してした特許保証条項について、どのような義務があったのかが争われました。1審では、そもそも特許権侵害ではなかったのだから、払ったライセンス料相当額の損害との間に相当因果関係が認められないと判断しました。知財高裁は、侵害判断については同様ですが、相当因果関係ありとして、一定の範囲の損害賠償を認めました。ただ、過失相殺7割としました。
確かに,前記1のとおり,本件口頭弁論終結時においても,本件チップセットが
本件各特許権を侵害するものであると認めるに足りる証拠がない以上,結果的に見
れば,本件ライセンス契約が締結された時点において,控訴人がWi−LAN社と
の間でライセンス契約を締結し,ライセンス料として2億円を支払う必要性があっ
たということはできない。
イ しかし,以下の事情を総合すれば,被控訴人による本件基本契約18条2項
違反と,控訴人のライセンス料相当額の損害との間には,相当因果関係を認めるこ
とができる。
(ア) 控訴人は,Wi−LAN社から本件各特許のライセンスの申出を受けたこ\nとから,被控訴人に対し協力を依頼した平成22年12月9日以後,継続して,被
控訴人又はイカノス社に対して,本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否
かについての回答を求めていたところ(前記2(1)ア,ウ,エ,サ),イカノス社か
らは,平成23年3月22日には,コネクサント社等が詳細な技術分析の結果とし
て,Wi−LAN社とライセンス契約を締結していることから,Wi−LAN社の
主張が妥当なものである可能性が高く,イカノス社において,多くの時間とリソ\ー
スを費やして技術的分析を行うことは望んでおらず,コネクサント社製のチップ
セットに比べてイカノス社製のチップセットの供給量は少ないことから,控訴人と
Wi−LAN社とのライセンス契約が最良の解決であると考えていることが述べら
れ(前記2(1)セ),同年8月には,技術分析の結果(乙20)に基づき,別件特許
については,これらの技術を使用していないとの報告がされたものの,本件特許1,
2,4,6及び9については,これらの特許がDSLAMに関連する特許であり,
イカノス社が提供したCPEの機能に必要な技術とは無関係であるとの報告がされ\nたのみで,これらの技術を使用しているのか否かについての報告がなく,本件特許
3,5,7及び8については何らの報告もなく,かえって,Wi−LAN社に対し
て支払うロイヤルティを3社で分担することが提案され(前記2(1)ト),同年10
月には,イカノス社の技術は,コネクサント社の技術と基本的に同じであって,コ
ネクサント社が取得したライセンスでカバーされていない技術が残っているのか疑
問があり,Wi−LAN社の主張が妥当である部分については,掘り下げるつもり
はないことが述べられ(前記2(1)ヌ),同年11月には,再度の技術分析の結果(乙
21)に基づき,別件特許については,これらの技術を使用していないとの報告が
されたものの,本件各特許については,DSLAM送信機の請求項である,CPE
の請求項と思われる,DSLAMの実装に固有の要素であり,CPEの実装には見
られない要素であるなどと,本件各特許の請求項についての簡単な報告がされたの
みで,本件チップセットが本件各特許発明を充足しているのか否かについての報告
がされていない(前記2(1)ノ)。チップ・ベンダーであるイカノス社が,本件チッ
プセットが本件各特許権を侵害するか否かについての調査依頼に対して,上記のよ
うな対応をしたことから,控訴人は,同年12月には,ADSL Annex.C
については明らかに本件各特許権を侵害するもので,技術的にこれが非侵害である
ことを立証することはできない旨の認識を有するに至ったものである(前記2(1)
ハ)。
(イ) また,同年4月には,被控訴人,控訴人及びイカノス社の間において,W
i−LAN社とのライセンス契約締結に当たっては,ライセンス料,算定根拠等の
観点からの検討が必要であることが確認された。その際,控訴人からイカノス社に
対してロイヤルティ率の提示を要請し,イカノス社は,本件各特許のような特許権
に対する標準的な料率に関する情報を準備し,提示する旨述べたものの(前記2(1)
タ,チ),同年7月13日には,合理的なロイヤルティ率については,具体的な数
字を提示することは困難であるとして,提示することができなかった(前記2(1)
ツ,テ)。次に,イカノス社は,コネクサント社製のチップセットに適用されるロ
イヤルティ率に基づく検討を提案し,同ロイヤルティ率を突き止めるよう努力して
結果を報告する旨述べたものの,これについても新たな情報を発見することができ
なかったと報告するにとどまり(前記2(1)テ),結局,被控訴人又はイカノス社か
ら,控訴人に対し,ライセンス料の算定に関する情報は何ら提供されなかった。
(ウ) そして,控訴人は,同年2月24日,Wi−LAN社に対し,チップ・ベ
ンダーの一社であるコネクサント社がWi−LAN社との間でライセンス契約を締
結しているのであれば,ライセンス交渉の前提が変わるとしてその確認をしたい旨
通知したところ,同年3月1日には,Wi−LAN社から,コネクサント社にライ
センス済みのものは控訴人とのライセンス交渉の対象外であること,控訴人に対す
るライセンス料の提案額480万USドルは既に大幅に減額したものであって,コ
ネクサント社とのライセンス契約の事実が影響するものではない旨の回答を受けた
(前記2(1)コ)。さらに,控訴人は,同年3月13日,Wi−LAN社に対し,控
訴人のイカノス社からの購入数量に見合ったライセンス条件の再提示を求めたとこ
ろ,同月23日には,Wi−LAN社から,コネクサント社に対するライセンス済
みの製品があることについては控訴人に対するライセンス料の提示において大幅減
額をした際に織り込み済みであること,控訴人が妥当であると考える数字を提案さ
れたい旨の回答を受けた(前記2(1)ス,ソ)。控訴人は,同年4月頃に,Wi−L\nAN社に対し,コネクサント社とイカノス社から購入した各製品の数量を開示し(後
者は前者に比べて非常に小さい。),これらの数値を検討して新たな提案をするよ
う求めたところ,その後,Wi−LAN社からは請求額を430万USドルに引き
下げる旨の回答を受け(前記2(1)タ,チ),さらに,同年7月ないし8月頃に,W
i−LAN社に対し,ロイヤルティはチップセット数量に基づいて算出されるべき
であり,現実的ロイヤルティ額は,例えば11万USドルから12万USドルの範
囲内にあるべきことを主張したところ,同年10月6日には,Wi−LAN社から,
控訴人とWi−LAN社の本件紛争の解決に対する見解には大きな隔たりがあると
して,早期の解決をする場合にはどの程度の金額の提示が可能かを2週間以内に連\n絡するよう,Wi−LAN社は,控訴人からの提案を受け取った時点で,現在提示
している早期ライセンスのオファーを取り下げるか否かを決定し,2週間以内に回
答がない場合には,自動的に早期ライセンス交渉は終了することなどの回答を受け
た(前記2(1)ナ)。さらに,控訴人は,同月7日には,Wi−LAN社に対し,W
i−LAN社の要求する300万ないし400万USドルのロイヤルティは非ライ
センス製品であるイカノス社からの控訴人の実際の購入量が小さいため適切でない
旨を説明したところ,同年12月には,Wi−LAN社からの提示額は290万U
Sドルまで減額され(前記2(1)ハ),その後,本件ライセンス契約締結時には2億
円に減額されている。
このように,控訴人は,イカノス社からの購入数量は,コネクサント社からの購
入数量と比較して非常に小さいことから,イカノス社からの実際の購入数量に応じ
てライセンス料も大幅に減額すべきであることを継続して主張していたが,Wi−
LAN社からは,控訴人に対するライセンス料の提示に当たり考慮済みであるとさ
れ,Wi−LAN社による提示額も漸減していたとはいえ,被控訴人及びイカノス
社からは,ライセンス料の算定に関する情報は何ら提供されなかったことから,こ
れ以上は,減額交渉の材料が他に見当たらない状況であった。
(エ) 他方において,控訴人は,平成22年12月27日,Wi−LAN社から,
1)早期ライセンス,2)交渉された又は遅延したライセンス及び3)訴訟後のライセン
スの3段階のライセンシングがあることを示され,平成23年3月15日までにラ
イセンス契約を締結しない限り,早期ライセンスのオファーは撤回され,その後,
交渉された又は遅延したライセンス(第2ラウンド)(早期ライセンスが拒否され
た場合又は遅延作戦が行われた場合,オファーは撤回され,ポートフォリオ全体に
つき詳細な違反調査が行われ,ロイヤルティ率が著しく増加し,条件及び賠償金の
過去分について柔軟な対応を行いにくくなる。),さらには,訴訟後のライセンス
(訴訟終了後,全ての既存のオファーは撤回され,交渉は振出しに戻り,ライセン
スのオファーは裁判所により課された料率等でされ,全額賠償,増額賠償等の全て
の費用を含み,裁判所により課された料率と係争中の条件を変更する柔軟性はほと
んどない。)に進む可能性がある旨の申\出を受けた(前記2(1)イ)。控訴人は,同
年3月13日には,Wi−LAN社に対して,期限の猶予を求めたが(前記2(1)
ス),同年10月6日には,Wi−LAN社から,控訴人とWi−LAN社の見解
には大きな隔たりがあり,早期解決のための金額提示が2週間以内になければ早期
ライセンス交渉は終了し,その後,特許権者としてのあらゆるオプションを留保す
る旨の通知を受ける(前記2(1)ニ)などして,平成22年12月27日のライセン
ス交渉以来,継続して,早期ライセンスのオファーが終了すれば,次のステージに
移行する可能性を告げられていた。そして,Wi−LAN社は,自らは保有する特\n許を実施しないNPE(Non Practicing Entity)として,
それまで大手企業等を相手に差止請求を含めた多数の訴訟を提起し,結果としてラ
イセンス料を得るなどの実績を有していたことから(甲8,9,乙2,5),早期
ライセンス交渉が決裂すれば,差止請求訴訟が提起される可能性があり,もし侵害\nの事実が認定された場合には,設計変更等を行うに当たっての損害額は2億円をは
るかに超える可能性があった(前記2(1)ヘ)。
(オ) 以上のとおり,前記(ア)のとおりの