2024.07.16
令和6(ネ)10011 令和6年6月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
ビットトレントのUNCHOKE通信に関する発信者情報開示請求について、1審は請求を棄却しましたが、知財高裁は、これを取消し、開示請求を認めました。
(2) 以上のとおり、本件各発信者は、本件複製ファイルのピースを保有してい
たこと、これが自動公衆送信の可能な状態にあったことは認められるが、当\n該ピースが再生可能なものか、著作物としての表\現の本質的特徴を直接感得
できるものかどうかは明らかでない。被控訴人は、そのような情報を自動公
衆送信し得るようにしても送信可能化権の侵害が明白とはいえない旨主張す\nるので、以下検討する。
ア 著作物たるファイルの自動公衆送信において、元のファイル(デジタル
データ)を分割したり暗号化するなどして送信するという仕組みも想定さ
れるところ、そのような形で自動公衆送信の対象となったデータだけを取
り上げた場合、デジタルデータの特性もあって、映像その他のファイルと
して復元・再生できないことも、十分あり得るものと考えられる。このよ\nうなもの全てについて、当然に公衆送信権の侵害が認められるものでない
としても、少なくとも、送信されるデータが著作物性の認められる元のフ
ァイルの一部を構成するピースであり、かつ、これらピースを集積するこ\nとで元のファイルに復元・再生することが可能なシステムの一環としてピ\nースの送受信が行われていると認められる場合には、当該ピースの送信を
もって公衆送信権の侵害があったと評価すべきである。
このような全体像を踏まえることなく、個々の公衆送信の対象となった
ピースを断片的に取り上げて、著作権(公衆送信権)の侵害が認められる
ためには当該ピース自体での再生が可能で、表\現の本質的特徴を直接感得
できることが必要であるとする解釈は、「木を見て森を見ない」議論とい
わざるを得ず、公衆送信権の保護を形骸化させるものといわざるを得ない。
以上の議論は、送信可能化権の侵害についても妥当するものと解される。\n
イ これを本件について見るに、ビットトレントネットワークは通常一つの
シーダーから始まるところ、本件動画と本件複製ファイルのハッシュ値が
一致することから、本件複製ファイルは本件動画を複製したものであるこ
と、本件各発信者の保有するピースは本件複製ファイルを細分化したもの
であることが認められる。本件各発信者は、ビットトレントネットワーク
を形成するピアとして、本件複製ファイルの必要なピースを転送又は交換
し合うことで、最終的に本件複製ファイルを構成する全てのピースを取得\nするという目的に沿って、そのシステムの一環として、ピースの送受信を
行っているものである。
そうすると、以上のようなビットトレントネットワークの仕組みの下で
本件複製ファイルのピースの送受信が行われている本件においては、当該
ピース自体での再生が可能とはいえず、それだけでは表\現の本質的特徴を
直接感得できないとしても、公衆送信権、送信可能化権の侵害の成立を妨\nげないというべきである。
3 争点3(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)につい
て
(1) 基本的な視点
ア プロバイダ責任制限法5条1項が発信者情報の開示請求を規定している
趣旨は、特定電気通信(同法2条1号)による侵害情報の流通は、これに
より他人の権利の侵害が容易に行われ、ひとたび侵害があれば際限なく被
害が拡大する一方、匿名で情報の発信が行われた場合には加害者の特定す
らできず被害回復も困難となるという、他の情報の流通手段とは異なる特
徴があることを踏まえ、侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、
表現の自由及び通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通\n信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に
対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、
加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解さ\nれる。
ところで、令和3年法律第27号による改正により、従前の発信者情報
開示請求に加え、「特定発信者情報」の開示請求制度が創設された。これ
は、個別の書き込みごとのIPアドレス等が記録されることが多い従来型
の電子掲示板等とは異なり、サービスにログインした際のIPアドレス等
(ログイン時情報)は記録されているものの投稿した際のIPアドレス等
を記録していないタイプのSNSサービスが現れ、そのような場合のログ
イン時情報の開示につき、従来の発信者情報開示請求の枠組みで対応でき
るか解釈上の疑義が生じていたことを踏まえ、立法的な解決を図ったもの
である。上記改正法は、ログイン時情報を含む特定発信者情報についても
開示請求の道を開く一方、その対象となる「侵害関連通信」(プロバイダ
責任制限法5条3項、同法施行規則5条)は、それ自体としては権利侵害
性のない通信であることを踏まえ、一定の補充的な要件を求めることとし
たものである(プロバイダ責任制限法5条1項)。
このような改正法の趣旨も踏まえると、それ自体として権利侵害性のな
い通信を「特定発信者情報以外の発信者情報の開示請求」の手続に安易に
乗せるような運用は、上記改正後のプロバイダ責任制限法5条の予定する\nところではないと解される。
イ 他方、本件においては、送信可能化権が有する特殊な性格についても、\n十分な配慮が必要となる。すなわち、著作権法は、公衆送信権を著作権の\n支分権と定めるところ(同法23条1項)、インターネットのウェブサイ
ト等における公衆送信は、自動公衆送信(同法2条1項9号の4)として
行われることになる。ここでは、閲覧者(公衆)からの閲覧請求信号に応
じてサーバから情報が送信されるが、そのような自動公衆送信が実際に行
われたかどうかを著作権者が把握するのは困難である。そこで、現実の送
信の前段階における準備行為である「送信可能化」を公衆送信権の侵害行\n為類型に含めることとし(同法23条1項括弧書き)、もって権利保護の
実効化を図ったものである。送信可能化権の侵害を理由とする発信者情報開示請求の解釈適用においても、送信可能\化権の上記の意義が没却されないよう留意が必要である。
(2) 以上を踏まえて検討するに、UNCHOKE通信は、送信可能化がされた\nことを前提として、相手方ピアが保有するピースのアップロード(そのピー
スを欲するピアにとってはダウンロード)が可能であることを伝えるもので\nあり、それ自体によって侵害情報の流通がされるわけでないことはもとより、
当該通信が送信可能化惹起行為(著作権法2条1項9号の5イ、ロ)に当た\nるともいえない(この点は、原判決が14頁1行目〜3行目で判断するとお
りである。)。しかし、送信可能化権の侵害とは、将来に向けて想定される自動公衆送信の準備が整ったことをもって公衆送信権の侵害類型と位置付けられたもので\nあるから、自動公衆送信が可能な状態が継続している限り、その違法状態は\n継続していると解するのが相当である。著作権法2条1項9号の5イ、ロは、
上記のような違法状態を招来するいわば入口としての行為を定義したものに
すぎない。
このような送信可能化権の特性に照らすと、送信可能\化権の侵害を理由に
発信者情報の開示を求める場合において、「権利の侵害に係る発信者情報」
(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)を、送信可能化惹起行為そのものの\n通信に係る発信者情報に限定して解釈する必要はないし、それが適切ともい
えない。送信可能化が完了し、その後引き続き送信可能\な状態が継続してい
る限り、そのような状態であることを直接的に示す通信であれば、当該通信
に係る発信者情報を「権利の侵害に係る発信者情報」と認めることができる
というべきである。そのように解さないと、著作権法が送信可能化権の侵害\nを公衆送信権の侵害行為類型として認めた趣旨が没却されることになりかね
ない。他方、開示の対象とする発信者情報を上記の限度にとどめれば、情報
の発信者のプライバシー、通信の秘密等が不当に損なわれることにはならな
いと解される。
SNSでの投稿により名誉毀損等の権利侵害が生ずるような場合であれば、
侵害情報の流通そのものに係る当該投稿に係る通信以外についてまで「権利
の侵害に係る発信者情報」の範囲を安易に拡張解釈すべきではないが、本件
をこれと同列に論ずることはできない。
(3) 以上の枠組みに基づいて検討するに、上述したビットトレントネットワー
クの仕組み(上記第3の1(3)ウ)、本件調査会社による調査結果(同(4)イ)
に照らすと、本件におけるUNCHOKE通信は、本件複製ファイルを共有
するビットトレントネットワークに参加した本件各発信者において、その保
有するピースにつき送信可能化が完了し、引き続き自動公衆送信が可能\な状
態にあることを明らかにする通信にほかならない。そうすると、UNCHO
KE通信をもって特定された本件各通信に係る発信者情報は、「権利の侵害
に係る発信者情報」に該当するというべきである。
◆判決本文
関連事件です。
◆令和5(ネ)10099
◆令和5(ネ)10095
◆令和5(ネ)10102
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2024.06. 4
令和5(ネ)10110 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和6年5月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
発信者情報開示請求について、主な争点は、(争点1)「権利が侵害されたことが明らかである」(プロ責法5条1項1号)か、(争点2)本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(同5条1項柱書)に当たるかでした。1審はいずれも該当しないとして請求を棄却しましたが、知財高裁は、これを取り消しました。
(1) 前提事実(訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」の第2の2)によると、
共有対象となる特定のファイルに対応して形成されたビットトレントネットワークに
ピアとして参加した端末は、他のピアとの間でハンドシェイクの通信を行って稼働状
況やピース保有状況を確認した上、上記特定のファイルを構成するピースを保有する\nピアに対してその送信を要求してこれを受信し、また、他のピアからの要求に応じて
自身が保有するピースを送信して、最終的には上記特定のファイルを構成する全ての\nピースを取得する。
そして、証拠(甲5〜9、11)及び弁論の全趣旨によると、ビットトレントネッ
トワークで共有されていた本件複製ファイルが本件動画の複製物であること、原判決
別紙動画目録記載の各IPアドレス及びポート番号の組合せは、本件監視ソフトウェ\nアが、本件複製ファイルを共有しているピアのリストとしてトラッカーから取得した
ものであること、同目録記載の発信日時は、上記IPアドレス及びポート番号を割り
当てられていた各ピアが、本件監視ソフトウェアとの間で行ったハンドシェイクの通\n信において応答した日時であることがそれぞれ認められる。
そうすると、上記各ピアのユーザーは、その対応する各発信日時までに、本件動画
の複製物である本件複製ファイルのピースを、不特定の者の求めに応じて、これらの
者に直接受信させることを目的として送信し得るようにしたといえ、他のピアのユー
ザーと互いに関連し共同して、本件動画の複製物である本件複製ファイルを、不特定
の者の求めに応じて、これらの者に直接受信させることを目的として送信し得るよう
にしたといえる。これは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動
公衆送信装置である各ピアの端末の公衆送信用記録媒体に本件複製ファイルを細分化
した情報である本件複製ファイルのピースを記録し(著作権法2条1項9号の5イ)、
又はこのような自動公衆送信用記憶媒体にビットトレントネットワーク以外の他の手
段によって取得した本件複製ファイルが記録されている自動公衆送信装置である各ピ
アの端末について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続を行った(同号ロ)
といえるから、本件動画につき控訴人が有する送信可能化権が侵害されたことが明ら\nかである。
(2) 被控訴人は、各ピアのユーザーが送信可能化権を侵害したことが明らかという\nには、当該ピアのユーザーのピース保持率が100%又はこれに近い状態に達してい
ることを要すると主張する。しかし、上記(1)のとおり、ビットトレントネットワーク
に参加した各ピアは、共有対象となったファイルの一部であるピースをそれぞれ保有
してこれを互いに送受信し、最終的には当該ファイルを構成する全てのピースを取得\nすることが可能な状態を作り出しているのであるから、各ピアのユーザーは、他のピ\nアのユーザーと互いに関連し共同して、当該ファイルを自動公衆送信し得るようにす
るものといえる。そして、ハンドシェイクの通信に応答したピアは、当該ファイルの
一部であるピースを保有してこれを自身の端末に記録し、他のピアの要求に応じてこ
れを送信する用意があることを示したものと認められるから、その保有するピースの
多寡にかかわらず、上記送信可能化行為を他のピアと共同して担ったものと評価でき\nる。被控訴人の主張は採用することができない。
・・・・
(1) 前記1(1)のとおり、原判決別紙動画目録記載のIPアドレス、ポート番号及び
発信日時により特定される通信は、各ピアが本件監視ソフトウェアとの間で行ったハ\nンドシェイクの通信において応答した通信であって、他のピアとの間で本件複製ファ
イルのピースを送受信し、又は本件複製ファイルを記録した端末をネットワークに接
続する通信そのものではない。このような通信に係る発信者情報(本件各発信者情報)
も、法5条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるかが問題となる。
(2) そこで検討すると、法5条1項は、開示を請求することができる発信者情報
を「当該権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅を持たせたものとし、「当該権利の
侵害に係る発信者情報」のうちには、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害
関連通信に係るものとして総務省令で定めるもの。)を含むと規定しているところ、
特定発信者情報に対応する侵害関連通信は、侵害情報の記録又は入力に係る特定電気
通信ではない。上記の各規定の文理に照らすと、「当該権利の侵害に係る発信者情報」
は、必ずしも侵害情報の記録又は入力に係る特定電気通信に係る発信者情報に限られ
ないと解するのが合理的である。
また、法5条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通には、これにより他人の権
利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情
報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他
の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通
によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信\nの秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信
設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することがで
きるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るこ\nとにあると解される(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小
法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。なお、令和3年法律第27号による改正
により、特定発信者情報の開示請求権が新たに創設されるとともに、その要件は、特
定発信者情報以外の発信者情報の開示請求権と比して加重されている。その趣旨は、
SNS等へのログイン時又はログアウト時の各通信に代表される侵害関連通信は、こ\nれに係る発信者情報の開示を認める必要性が認められる一方で、それ自体には権利侵
害性がなく、発信者のプライバシー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性\nが高いことから、侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内において開示を認
めることにあると解される。
さらに、著作権法23条1項は、著作権者が専有する公衆送信を行う権利のうち、
自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含むと規定する。その趣旨は、著作権者\nにおいて、インターネット等のネットワーク上で行われる自動公衆送信の主体、時間、
内容等を逐一確認し、特定することが困難である実情に鑑み、自動公衆送信の前段階
というべき状態を捉えて送信可能化として定義し、権利行使を可能\とすることにある
と解される。
ビットトレントによるファイルの共有は、対象ファイルに対応したビットトレント
ネットワークを形成し、これに参加した各ピアが、細分化された対象ファイルのピー
スを互いに送受信して徐々に行われるから、その送受信に係る通信の数は膨大に及ぶ
ことが推認できる。しかるところ、ピースを現実に送受信した通信に係るものでなく
ては「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとすると、ビットトレントネット
ワークにおいて著作物を無許諾で共有された著作権者が侵害の実情に即した権利行使
をするためには、ネットワークを逐一確認する多大な負担を強いられることとなり、
前記のとおり法5条が加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることとし\nた趣旨や、著作権法23条1項が自動公衆送信の前段階というべき送信可能化につき\n権利行使を可能とした趣旨にもとることになりかねない。\n
他方、ハンドシェイクの通信は、その通信に含まれる情報自体が権利侵害を構成す\nるものではないが、専ら特定のファイルを共有する目的で形成されたビットトレント
ネットワークに自ら参加したユーザーの端末がピアとなって、他のピアとの間で、自
らがピアとして稼働しピースを保有していることを確認、応答するための通信であり、
通常はその後にピースの送受信を伴うものである。そうすると、ハンドシェイクの通
信は、これが行われた日時までに、当該ピアのユーザーが特定のファイルの少なくと
も一部を送信可能化したことを示すものであって、送信可能\化に係る情報の送信と同
一人物によりされた蓋然性が認められる上、当該ファイルが他人の著作物の複製物で
あり権利者の許諾がないときは、ログイン時の通信に代表される侵害関連通信と比べ\nても、権利侵害行為との結びつきはより強いということができ、発信者のプライバシ
ー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性を考慮しても、侵害情報そのもの\nの送信に係る特定電気通信に係る発信者情報と同等の要件によりその開示を認めるこ
とが許容されると解される。
以上によると、本件各発信者情報は、法5条1項にいう「当該権利の侵害に係る発
信者情報」に当たると解するのが相当である。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和5(ワ)70029
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2024.02.23
令和5(ワ)70028 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和5年12月22日 東京地方裁判所
発信者情報開示請求が棄却されました。理由は、ファイル共有ソフトであるBitTorrentによるファイル共有行為について、”UNCHOKEの通信がされたとされる時点では公衆送信可能\となったとは認められないというものです。同様の判決は、他にもあります(令和4(ワ)23937号、令和5(ワ)70041号など)。
以上のような本件調査会社の説明を前提とし、本件調査結果について本件調
査会社の説明のとおりの事実が認められる場合、本件各通信をしたピアにおい
ては、「UNCHOKE」の通信をする時点より前の時点で、既に本件動画のフ
ァイルの少なくとも一部が複製されて当該ピアに記録された上で、当該ピアが
インターネットに接続されビットトレントのネットワークにも接続されるな
どして、本件動画のファイルのピースが他のピアに自動公衆送信(アップロー
ド)し得る状態になっていたこととなる。
そして、既に述べたとおり、ある行
為により自動公衆送信し得るようにされた著作物について、別途、著作権法2
条1項9号の5のイ又はロに該当する行為がされたときに再び「送信可能化」\nに該当する行為がされたといえると解されるが、本件においては、「UNCH
OKE」の通信がされたとされる時点において、本件動画について、更に、同
号のイ又はロに該当する何らかの行為が行われたことを認めるに足りない。
なお、特定電気通信による情報の流通によって権利が侵害されたことに関し、そ
れ自体では権利侵害性のない通信について、プロバイダ責任制限法は、「侵害
関連通信」(プロバイダ責任制限法5条3項)を総務省令で定めるとして、その
範囲を明らかにしている。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び
発信者情報の開示に関する法律施行規則5条は、侵害関連通信として複数の通
信を定めるところ、そこに上記の「UNCHOKE」に該当する通信が規定さ
れているとは認められず、また、「UNCHOKE」の通信時点において、本件
調査会社の端末に対して本件動画のファイルのピースが送信(自動公衆送信)
されているともいえない。
(3) 原告は、本件各通信が「UNCHOKE」の通信であると特定した上で、本
件各通信に係る発信者情報についてプロバイダ責任制限法5条1項に基づき
その開示を請求しているところ、以上に述べたところによれば、本件調査結果
に至る手法と本件調査会社の説明に基づく「UNCHOKE」の通信の内容に
よると、直ちに本件各通信に係る情報の流通によって、公衆送信権が侵害され
たと認めることはできない。また、その他、本件各通信に係る情報の流通によ
って、公衆送信権が侵害されたことを認めるに足りる事情の主張、立証はない。
◆判決本文
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2023.04.21
令和4(ネ)10104 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和5年4月17日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
発信者情報開示請求事件です。スクリーンショットを添付したツイートについて、原審・知財高裁いずれも、著32条の引用にあたると判断しました。
控訴人は、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイート
をした場合には、引用リツイートによる場合とは異なり、引用元に引
用の事実が通知されないため、ツイートを引用された者は自分が知ら
ないところで議論がされてしまい、また、ブロックした人物からツイ
ートを引用されてしまうことがある旨主張する。
しかしながら、ツイッターにおける上記の通知機能は、ユーザーの\n利便性を高めるための付加的な機能にすぎないというべきである。ま\nた、証拠(甲18)及び弁論の全趣旨によれば、ツイッターにおける
ブロック機能は、ブロック対象のアカウントがツイッターにログイン\nした状態においてのみ、ツイートの閲覧を制限するなどの効果をもた
らすものにすぎず、例えば、ブロック対象者がツイッターにログイン
せずに、又はブロックされた者とは異なるアカウントでアクセスした
場合には、ブロックした者が公開しているツイートを閲覧することが
なお可能である。さらに、ツイッターにおいては、投稿されたツイー\nトがインターネット上で広く共有されて批評の対象となることも当然
に予定されており、ツイートを投稿した者も、自らのツイートが批評\nされることや、その過程においてツイートが引用されることを当然に
想定しているものといえる。
以上の事情を考慮すると、他のツイートのスクリーンショットを添
付したツイートがされた場合に上記の通知機能やブロック機能\が働か
なくなるからといって、控訴人の著作者としての権利が、引用リツイ
ートの場合と比較して殊更に害されるものということはできない。そ
うすると、控訴人が指摘する上記の各事情をもって、本件ツイートに
おいて原告ツイートが引用されたことにつき、公正な慣行に合致しな
いものであるということはできない。
◆判決本文
原審はこちら
◆令和4(ワ)14375
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2023.04.21
令和4(ネ)10060 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和5年4月13日 知的財産高等裁判所
元ツイートをスクリーンショットで引用するやり方について、原審では著作権侵害と判断されましたが、知財高裁は正当な引用と判断しました。
しかし、そもそも本件規約は本来的にはツイッター社とユーザーとの間の約定であって、その内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではない。また、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が本件規約違反に当たることも認めるに足りない。
他方で、批評に当たり、その対象とするツイートを示す手段として、引用リツイート機能を利用することはできるが、当該機能\を用いた場合、元のツイートが変更されたり削除されたりすると、当該機能を用いたツイートにおいて表\示される内容にも変更等が生じ、当該批評の趣旨を正しく把握したりその妥当性等を検討したりすることができなくなるおそれがあるのに対し、元のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする場合には、そのようなおそれを避けることができるものと解される。そして、弁論の全趣旨によると、現にそのように他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートするという行為は、ツイッター上で多数行われているものと認められる。以上の諸点を踏まえると、スクリーンショットの添付という引用の方法も、著作権法32条1項にいう公正な慣行に当たり得るというべきである。
(イ)これに対し、被控訴人は、引用ツイートによるべきことは、ツイッターの利用者において常識である旨を主張するが、当該主張を裏付けるに足りる証拠はない(なお、前記のとおり、本件規約の内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではないことからすると、ツイッターのユーザーにおいて本件規約の前記の定めを認識しているというべきことから直ちに、引用ツイートによるべきことがユーザーの共通の理解として前記公正な慣行の内容となるということもできない。)。また、被控訴人は、スクリーンショットの添付という方法による場合、著作権者の意思にかかわらず著作物が永遠にネット上に残ることとなり、著作権者のコントロールが及ばなくなるという不都合がある旨を主張するが、そのような不都合があることから直ちに上記方法が一律に前記公正な慣行に当たらないとまでみることは、相当でないというべきである。
(ウ)その上で、訂正して引用した原判決の第4の2(1)アで認定判断した原告投稿1の内容、同(2)アで認定した本件投稿1の内容や原告投稿1との関係等によると、本件投稿1は、Yが、本件投稿者1及び本件投稿者1と交流のあるネット関係者間で知られている人物(「A」なる人物)を訴えている者であることを前提として、更に多数の者に関する発信者情報開示請求をしていることを知らせ、このような行動をしているYを紹介して批評する目的で行われたもので、それに当たり、批判に関係する原告投稿1のスクリーンショットが添付されたものであると認める余地があるところ、その添付の態様に照らし、引用をする本文と引用される部分(スクリーンショット)は明確に区分されており、また、その引用の趣旨に照らし、引用された原告投稿1の範囲は、相当な範囲内にあるということができる。また、訂正して引用した原判決の第4の2(1)イ〜エで認定判断した原告投稿2〜4の内容及びその性質並びに同(2)アで認定した本件投稿2〜4の内容や原告投稿2〜4との関係等によると、本件投稿2〜4は、本件投稿者2を含むツイッターのユーザーを高圧的な表現で罵倒する原告投稿2、他のツイッターのユーザーを嘲笑する原告投稿3及び他のツイッターのユーザーを嘲笑する原告投稿4を受けて、これらに対する批評の目的で行われたものと認められ、それに当たり、批評の対象とする原稿投稿2〜4のスクリーンショットが添付されたものであるところ、その添付の態様に照らし、引用をする本文と引用される部分(スクリーンショット)は明確に区別されており、また、それらの引用の趣旨に照らし、引用された原告投稿2〜4の範囲は、それぞれ相当な範囲内にあるということができる。以上の点を考慮すると、本件各投稿における原告各投稿のスクリーンショットの添付は、いずれも著作権法32条1項の引用に当たるか、又は引用に当たる可能\性があり、原告各投稿に係るYの著作権を侵害することが明らかであると認めるに十分とはいえないというべきである。」\n
◆判決本文
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◆令和3(ワ)15819
令和4(ネ)10044も同趣旨です。
◆令和4(ネ)10044
◆判決本文
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2023.04.17
令和4(ワ)2237 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和5年3月30日 東京地方裁判所
著作権侵害に基づく発信者情報開示請求が棄却されました。著作権法41条の「時事の報道」に該当するというものです。
1 争点1(著作権法41条の適用の可否)について
(1) 本件投稿1について
ア 証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿1は、「『まとめサイ
ト』でのインラインリンクに著作権侵害幇助の判決!:プロ写真家・A公式
ブログ…」との表題及び「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたると\nいう判決が出たそうです。」とのコメントと共に、本件写真が投稿されたも
のであり、本件写真は、上記にいう著作権侵害幇助の判決(以下「別件訴訟
判決」という。)において、著作権侵害の成否が問題とされた写真そのもの
であることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿1は、別件訴訟判決の要旨を伝える目的
で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件訴訟判決という時事の
事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件の主
題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、著作
権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。\nそして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題
性等を踏まえると、本件投稿1において、本件写真は、同条にいう報道の目
的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。
イ これに対し、原告は、「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたると
いう判決が出たそうです。」との記載は、抽象的に、インラインリンクが著
作権の幇助侵害に当たり得るという規範の問題を伝えるにすぎないもので
あるから、本件投稿1は「報道」に当たらないと主張する。しかしながら、
前記認定事実によれば、本件投稿1は、著作物の利用に関して社会に影響を
与える別件訴訟判決の要旨を伝えるものであって、社会的な意義のある時事
の事件を客観的かつ正確に伝えるものであることからすると、これが「報道」
に当たることは明らかである。したがって、原告の主張は、採用することが
できない。
また、原告は、本件元投稿においては本件写真がすぐに削除されたことや、
規範の問題を伝達するに当たり写真の掲載は不要であることからすれば、本
件投稿1における本件写真の掲載は、著作権法41条に規定する「報道の目
的上正当な範囲内」に含まれないと主張する。しかしながら、上記において
説示したとおり、本件写真は、別件訴訟判決という時事の事件の主題となっ
た著作物であることからすれば、原告主張に係る事情を十分に考慮しても、\n原告の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の
主張は、採用することができない。
ウ 以上によれば、本件投稿1における本件写真の掲載は、著作権法41条に
より適法であるものと認められる。
(2) 本件投稿2について
ア 証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿2は、「まとめサイト
発信者情報裁判Line上告棄却 敗訴確定ニュース プロ写真家 A公
式ブログ 北海道に恋して」との記載と共に、本件写真が投稿されたもので
あり、本件写真は、上記にいう発信者情報裁判の上告棄却判決(以下「別件
最高裁判決」という。)において、著作権侵害の成否が問題とされた写真そ
のものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿2は、別件最高裁判決の要旨を伝える目
的で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件最高裁判決という時
事の事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件
の主題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、
著作権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。\nそして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題
性等を踏まえると、本件投稿2において、本件写真は、同条にいう報道の目
的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。
イ これに対し、原告は、本件投稿2は、悪質なスパムブログにユーザーを誘
導するために本件写真を利用するものであるから、「報道」に当たる余地は
ないと主張する。しかしながら、証拠(甲14、15)及び弁論の全趣旨に
よっても、Bloggerがスパムブログに悪用され得ることや、広告収入
を得る目的等でスパムブログが存在することなどが一般的に認められるこ
とが立証され得るにとどまり、本件投稿2自体が悪質なスパムブログにユー
ザーを現に誘導している事実を具体的に認めるに足りないものといえる。そ
の他に、上記 イにおいて説示したところと同様に、上記認定に係る本件写
真の利用目的、利用態様のほか、本件写真が、著作物の利用に関して社会に
影響を与える別件最高裁判決という時事の事件の主題となった著作物であ
ることを踏まえると、原告主張に係る事情を十分に考慮しても、原告の主張\nは、上記判断を左右するものとはいえない。
したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
ウ 以上によれば、本件投稿2における本件写真の掲載は、著作権法41条に
より適法であるものと認められる。
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2023.04.11
令和4(ワ)15136 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和5年2月28日 東京地方裁判所
発信者情報開示事件です。原告がインスタグラムに限定公開した動画が、投稿者により公開されてしまい、発信者情報の開示を求めました。原告の動画は、「原告の夫である歯医者」が麻酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってるというものでした。被告であるGoogleは、医療現場の実態を報道するもので、著41条に該当すると反論しましたが、認められませんでした。
被告は、本件投稿画像につき、医療関係者の男性が患者の麻酔中に当該患者
の下を離れて外出している様子を収めたものであり、その様子を投稿すること
は、医療現場の実態や、医療事故につながりかねない様子を捉えたものとして
ニュース性があるから、「時事の事件」を構成するものである旨主張する。\nしかしながら、前記前提事実、証拠(甲6及び10)及び弁論の全趣旨によ
れば、本件投稿画像は、ある男性が住宅地の道路上を走っている画像に、「麻
酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑」というテロ
ップが付されるにとどまり、いつの出来事であるかどうか一切明らかではなく、
しかも、本件投稿画像は、Googleマップという地図アプリにおいて、本
件歯科医院の上にカーソルを動かし、クリックした場合に表\示されるものにす
ぎないものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿画像で表示された出来事は、これが生じた\n時期すら明らかではなく、地図アプリにおいて本件歯科医院の上にカーソルを\n動かし、クリックした場合に限り表示されるにすぎないことが認められる。\nそうすると、本件投稿画像の出来事は、著作権法41条にいう「時事の事件」
とはいえず、その投稿も、上記認定に係る表示態様に照らし、同条にいう「報\n道」というに足りないものと認めるが相当である。
これに対し、被告は、本件投稿画像で表示された出来事が医療現場の実態や、\n医療事故につながりかねない様子をとらえたものである旨主張するものの、一
般の利用者の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、「麻酔待ちの間
にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑」というテロップの内容
及び上記認定に係る本件投稿画像の内容を踏まえると、本件投稿画像は、医療
現場の実態や、医療事故につながりかねない様子であると理解されるものと認
めることはできず、上記各内容に照らしても、被告が主張するようなニュース
性を認めることもできない。したがって、被告の主張は、その前提を欠くもの
であり、いずれも採用することができない。
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2023.03.31
令和4(ネ)10092 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和5年3月23日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
発信者情報開示請求について、改正法が適用されて、原審の判断が取り消されました。
なお、本件は回答者から控訴人に連絡があり、投稿者と本件ログインをした者が同一であるのは明らかという特殊事情がありました。
1 事案に鑑み、争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」
(プロバイダ責任制限法4条1項)又は「特定発信者情報」(改正法5条1項柱
書)に該当するか)から判断する。
(1) 改正法5条が発信者情報の開示請求を規定している趣旨は、特定電気通信
(改正法2条1号)による侵害情報の流通は、これにより他人の権利の侵害
が容易に行われ、ひとたび侵害があれば際限なく被害が拡大する一方、匿名
で情報の発信が行われた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難と
なるという、他の情報の流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、侵害
を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密に\n配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信
設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求する
ことができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権\n利の救済を図ることにあると解される。
そして、改正法5条1項柱書は、権利の侵害に係る発信者情報のうち、特
定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務
省令で定めるもの)も開示の対象とし、同条3項は、「「侵害関連通信」とは、
侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、
又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符
号・・・その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信
者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものを
いう。」と規定し、同項の委任を受けた改正規則は、「法第5条第3項の総務
省令で定める識別符号その他の符号の電気通信による送信は、次に掲げる識
別符号その他の符号の電気通信による送信であって、それぞれ同項に規定す
る侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」(5条柱書)とした上で、同
条2号で「あらかじめ定められた当該特定電気通信役務を利用し得る状態に
するための手順に従って行った・・・識別符号その他の符号の電気通信によ
る送信」(改正規則5条2号)と規定する。その趣旨は、法4条1項に規定さ
れた「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、侵害情報の送信についての発
信者情報に限られると解するのが文理に忠実であったが、海外法人が運営す
るSNSなどについては、侵害情報の送信について特定電気通信役務提供者
が通信記録を保有しない場合があることから、ログイン情報の送信について
の発信者情報を開示の対象として明記することで、救済の実効性を確保する
一方、ログイン情報の送信は、侵害情報の送信そのものではなく、侵害情報
の発信者以外のログイン情報が開示される可能性があり、また、開示を可能\
とする情報を無限定とすれば、発信者のプライバシーや表現の自由及び通信\nの秘密が侵害されるおそれがあることから、ログイン情報の発信者情報の開
示を、侵害情報の発信者を特定するために必要最小限な範囲であるもの、す
なわち当該権利侵害と相当の関連性を有するものに限定したものと解される。
そして、改正規則案5条1項では、発信者情報の開示が認められるログイ
ン情報の送信については、侵害情報の送信より前で(2号)、侵害情報の送信
の直近に行われたものとする(柱書)旨規定されていたのに対し、改正規則
5条1項柱書が侵害情報の送信との「相当の関連性」を有するものとして、
幅のある文言としていることからすれば、「相当の関連性」の有無は、当該ロ
グイン情報に係る送信と当該侵害情報に係る送信とが同一の発信者によるも
のである高度の蓋然性があることを前提として、開示請求を受けた特定電気
通信役務提供者が保有する通信記録の保存状況を踏まえ、侵害情報に係る送
信と保存されているログイン情報との時間的近接性の程度等の諸事情を総合
勘案して判断されるべきであり、侵害情報の送信とログイン情報の送信との
間に時間的に一定の間隔があることや、ログイン情報の送信が侵害情報の送
信の直近になされたものではないことをもって、直ちに関連性が否定される
ものではないというべきである。
(2) これを前提として本件についてみると、本件IPアドレス等に係る情報の
ログイン日時(令和4年2月10日)と、本件ツイートが投稿された時点(令
和3年10月10日)との間には一定の間隔があることは明らかであるが、
本件のような事案において、控訴人が開示可能なより間近な時点でのIPア\nドレス等に係る情報が存在するかについては、控訴人本人において判断する
ことは困難であるところ、原審において被控訴人や原審裁判所からこの点に
関する指摘があったことをうかがわせる事情も見当たらないことに照らせば、
本件においてこの点を重視することは相当でない。
他方、本件においては、前記第2の2(4)のとおり、被控訴人の意見照会に
対し、本件ログインに係る回線契約者とは別人であるとしつつも、回答者が、
本件ツイートをしたことを認めた上で、本件ツイートが控訴人の著作権や著
作者人格権を侵害するものであることを否定する回答をしているし(甲11)、
本件IPアドレス等に係る情報のログイン日時(令和4年2月10日)の後
の日である令和4年3月には、本件アカウントが削除された上に、同月23
日には、「タピオカちゃんを動かして」いたとする者が、ツイッター内のダイ
レクトメッセージ(以下「本件メッセージ」という。)で控訴人に連絡をとり、
本件ツイートをしたことを前提として謝罪をしている(甲14)ことが認め
られるのであるから、本件投稿者と本件ログインをした者が同一であること
は明らかであるという事情がある。なお、本件回答書にいうように、本件投
稿者が本件ログインに係る回線契約者と別人であるとしても、本件投稿でも
【代/行】と記載され(甲2)、本件メッセージでも本件ツイートは「代行」
したものであることを前提としており、情報の送信は本件ログインに係る回
線契約者によってされたものと認められるから、本件ツイートや、本件ログ
イン自体は、本件ログインに係る回線契約者によってされたものというべき
である。
これらの本件特有の事情を総合勘案するとともに、本件事案のこれまでの
経緯に鑑みれば、本件ログインの通信は、本件ツイートと相当の関連性を有
し、侵害関連通信(改正法5条3項)に当たるものと解するのが相当である。
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2023.03.24
令和4(ネ)10100 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和5年3月9日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、発信者情報開示を認めませんでしたが、知財高裁は、法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断しました。
前記第1のとおり、控訴人は、本件ログインがされた日時である令和3年
6月26日7時47分54秒(時刻の表記は、24時間制による。以下同じ。また、\n令和3年中の日付については、以下、年の記載を省略する。)頃に被控訴人から本
件IPアドレス(省略)が割り当てられていた契約者に係る発信者情報(本件発信
者情報)の開示を求めているところ、前記前提事実(補正して引用する原判決第2
の1(2))のとおり、本件ツイートが投稿されたのは、同月20日20時39分で
あるから、本件ツイートは、上記のとおり控訴人が発信者情報の開示を求める本件
ログインがされた時期にされたものではなく、本件発信者情報は、本件ツイートの
投稿時に利用されたログインに係る発信者情報ではない。そこで、侵害情報である
本件ツイートの投稿時に利用されたログイン以外のログインに係るIPアドレスか
ら把握される発信者情報が法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」
に該当するかが問題となる。
(2) そこで検討するに、法4条の趣旨は、特定電気通信(法2条1号)による
情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性
ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定す
らできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異なる特徴があるこ
とを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情
報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、\n当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供
者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害
者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される(最高裁平\n成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号6
76頁参照)。そうすると、「当該権利の侵害に係る発信者情報」の範囲をむやみ
に拡大することは相当とはいえないものの、これを侵害情報の投稿時に利用された
ログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報に限定するとなると、複数
のログインが同時にされているなどして投稿時に利用されたログインが特定できな
い場合などには、被害者の権利の救済を図ることができないこととなり、上記の法
の趣旨に反する結果となる。そして、法4条1項の文言は、「侵害情報の発信者情
報」などではなく、「当該権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅をもたせたもの
とされていること、証拠(甲33、38)及び弁論の全趣旨によると、令和3年法
律第27号(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示
に関する法律の一部を改正する法律)による改正は、法4条1項の「当該権利の侵
害に係る発信者情報」に侵害情報を送信した後に割り当てられたIPアドレスから
把握される発信者情報が含まれ得ることを前提として行われたものと認められ、上
記の改正の前後を通じ、「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、侵害情報を送信
した際のログインに係る発信者情報のみに限定されるものではないと解されること、
また、このように解したとしても、当該発信者が侵害情報を流通させた者と同一人
物であると認められるのであれば、発信者情報の開示により、侵害情報を流通させ
た者の発信者情報が開示されることになるのであるから、開示請求者にとって開示
を受ける理由があるということができる一方、発信者にとって不当であるとはいえ
ないことなどに照らすと、「当該権利の侵害に係る発信者情報」を侵害情報の投稿
時に利用されたログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報に限定して
解釈するのは相当でなく、それが当該侵害情報を送信した者の発信者情報であると
認められる限り、当該侵害情報を送信した後のログインに係るIPアドレスから把
握される発信者情報や、当該侵害情報の送信の直前のログインよりも前のログイン
に係るIPアドレスから把握される発信者情報も、法4条1項の「当該権利の侵害
に係る発信者情報」に該当すると解するのが相当である。
(3) これを本件についてみるに、本件アカウントのプロフィール欄(アカウン
ト名の下部に表示される自己紹介の文章部分。甲11)には、「感謝するぜ、お前\nと出会えたこれまでの全てに」、「俺の手持ち」、「誕生日:1月8日」などの記
載があり、また、本件アカウントにおいてされた投稿(甲11)の内容は、単にY
ouTubeの動画を引用するもののほか、「泣いてる」、「俺のグラグラの能力\nが発現してモーター」、「愛知県に地震きた」、「エドモンド本田美央」、「エド
モンド本田たのし〜」、「スーパー頭突きじゃあ!!笑笑」、「ガチンコでごわ
す!!笑笑」、「本田やばい」、「アイシールド21は神龍寺戦までね」、「やま
ゆり園真実の名言集 ライフラインはいるだけで士気が下がる」、「これ使うなら
5cで良くね?」などといったものであり、上記プロフィール欄の記載内容や上記
投稿内容に照らすと、本件アカウントが複数の者によって管理されていたことはう
かがわれず、むしろ、本件アカウントは、1名の個人によって管理されていたもの
と推認するのが相当である。また、証拠(甲23、33)及び弁論の全趣旨による
と、ツイッターは、いわゆるログイン型サービスであり、ツイートの投稿を行おう
とする者は、アカウント名及びパスワード(8文字以上)を入力してログインをし
なければならないものと認められるところ、通常、アカウント名やパスワードを第
三者と共有するという事態は余り考えられない。さらに、証拠(甲5、26、27、
35)及び弁論の全趣旨によると、本件アカウントについては、6月26日から9
月21日までの間、合計467回のログインがされているところ、そのうち本件I
Pアドレスからは、毎日のようにログインがされており、ログインの回数(合計1
47回)においても、他の各IPアドレスからのログインの回数(例えば、被控訴
人が携帯電話回線に割り当てた各IPアドレスのうち本件アカウントへのログイン
に使用された回数が最も多かったのは、「IPアドレス省略」及び「IPアドレス
省略」の各10回にとどまる。)を圧倒していたものと認められるから、本件IP
アドレスは、本件アカウントへのログインに使用される最も主要なIPアドレスで
あったと評価することができる。以上に加え、本件ログインが本件ツイートの投稿
の約5日半後にされたものであることも併せ考慮すると、本件発信者情報は、本件
ツイートの投稿の後のログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報では
あるが、本件ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められ、した
がって、法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると認め
るのが相当である。
(4)ア この点に関し、被控訴人は、本件IPアドレスは固定回線に割り当てら
れたものであるのに対し、本件ツイートはiPhoneにより投稿されたものであ
るところ、本件アカウントへのログインに際しては固定回線に割り当てられたIP
アドレスと携帯電話回線に割り当てられたIPアドレスとが別々に使用されている
から、本件IPアドレスに係る契約者と本件ツイートの投稿の際に使用されたIP
アドレスに係る契約者とは異なると主張する。
確かに、証拠(甲1、27、36)及び弁論の全趣旨によると、本件IPアドレ
スは、固定回線に割り当てられたものであるのに対し、本件ツイートには、「Tw
itter for iPhone」との表示がされ、本件ツイートは、iPho\nne向けのアプリケーションである「Twitter for iOS」を利用し
てされたものであると認められる。しかしながら、証拠(甲36)及び弁論の全趣
旨によると、携帯電話を用いてツイッターのアカウントにツイートを投稿する場合、
当該携帯電話が5G回線等の携帯電話回線に接続されているとき又は固定回線を利
用した自宅等のWi−Fiに接続されているときのいずれであっても、当該ツイー
トには「Twitter for iPhone」との表示がされるものと認めら\nれるから、本件IPアドレスが固定回線に割り当てられたものであるのに対し、本
件ツイートに「Twitter for iPhone」との表示がされていると\nの事実は、本件IPアドレスから把握される発信者情報(本件発信者情報)が本件
ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められるとの前記結論を左
右するものではない。
なお、証拠(甲28、29)及び弁論の全趣旨によると、携帯電話を用いてイン
ターネットに接続する場合、携帯電話回線を利用するときには携帯電話回線に割り
当てられたIPアドレスが使用され、自宅等におけるWi−Fi接続によるときに
は固定回線に割り当てられたIPアドレスが使用されるものと認められるから、証
拠(甲5、26、35)によって認められる本件アカウントへのログインの状況に
よっても、本件アカウントへのログインに関し、固定回線に割り当てられたIPア
ドレス(本件IPアドレス)と携帯電話回線に割り当てられたIPアドレス(「省
略」等)とが別人によって使用されていたものと認めることはできない。
◆判決本文
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2023.02.17
令和4(ワ)10443 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和5年1月12日 東京地方裁判所
P-Pソフト「BitTorrent」をインストールしたコンピュータの発信者情報開示請求事件です。裁判所は、本件発信者によるHandshakeに係る情報は、\n「特定電気通信」に該当すると、開示を認めました。
ア 本件調査会社は、原告から指定されたコンテンツの品番を含むファイルを
トラッカーサイトで検索し、著作権侵害が疑われるファイルのハッシュ値
(データ〔ファイル〕を特定の関数で計算して得られる値のこと。ファイル
からハッシュ値は一意に定まるので、ファイルの同一性確認のために用いら
れる。)を取得し、本件検知システムに登録した。
イ 本件検知システムは、上記経緯により同システムの監視対象となった上記
ファイルのハッシュ値について、BitTorrentネットワーク上で監
視を行った。具体的には、本件検知システムは、トラッカーサーバーに対し、
上記ファイル(全部又は一部をいう。以下1において同じ。)のダウンロー
ドを要求し、当該ファイルをダウンロードできる(所持している)ピアのI
Pアドレス、ポート番号等のリストをトラッカーサーバーから受け取って、
本件検知システムのデータベースに記録した(別紙動画目録記載の「IPア
ドレス」及び「ポート番号」欄は、当該IPアドレス及びポート番号である。)。
そして、本件検知システムは、上記リストを受け取った後、同リストに載
っていたユーザーに接続をして、同ユーザーが応答することの確認(Han
dshake)を行っており、別紙動画目録記載の「発信時刻」欄の日時は、
当該Handshake完了時のものである。
もっとも、本件検知システムは、上記Handshakeの時点において、
上記ユーザーが保有している上記ファイルを実際にダウンロードしていな
いものの、上記時点において上記ユーザーから返信された上記ファイルのハ
ッシュ値によって、実際に上記ユーザーが上記ファイルを所持していること
の確認を行っている。そのため、本件検知システムは、上記時点において直
ちに上記ユーザーから上記ファイルのダウンロードができる状態にあった
ことになる。
ウ なお、BitTorrentにおいて、ファイルをダウンロードするよう
になったユーザーは、BitTorrentクライアントソフトを停止させ\nるまで、トラッカーサーバーに対し、当該ファイルが送信可能であることを\n継続的に通知し、他のユーザーからの要求があれば、当該ファイルを送信し
得る状態になっている。
(2) 権利侵害の明白性
前記前提事実記載のBitTorrentの仕組み及び上記認定事実記載
の本件検知システムの仕組み等によれば、本件発信者は、本件動画をその端末
にダウンロードして、本件動画を不特定多数の者からの求めに応じ自動的に送
信し得るようにした上、別紙動画目録記載のIPアドレス及びポート番号の割
当てを受けてインターネットに接続し、Handshakeの時点である別紙
動画目録記載の「発信時刻」欄記載の日時において、不特定の者に対し、Bi
tTorrentのネットワークを介して本件動画に係る送信可能化権が侵\n害されその状態が継続していることを通知したものと認めるのが相当である。
そして、当事者双方提出に係る証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の
違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはで
きない。
これらの事情を踏まえると、本件発信者は、Handshakeの時点にお
いて、不特定の者に対し、BitTorrentのネットワークを介して本件
動画に係る送信可能化権が侵害されその状態が継続していることを通知して\nいるのであるから、本件発信者によるHandshakeに係る情報は、プロ
バイダ責任制限法5条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に該当する
ものと解するのが相当である。また、本件発信者によるHandshakeに
係る情報は、上記のとおり、不特定の者において、本件動画に係る送信可能化\n権が侵害されその状態が継続していることを確認する上で、必要な電気通信の
送信であるといえるから、「特定電気通信」にも該当するものと解するのが相
当である。
(3) 被告の主張
ア 被告は、Handshakeは応答確認にすぎず、本件動画のアップロー
ド又はダウンロードではないから、Handshakeに係る情報は、送信
可能化権の侵害に係る発信者情報には当たらないと主張する。しかしながら、\n本件発信者が、Handshakeの時点において、不特定の者に対し、本
件動画に係る送信可能化権が侵害されその状態が継続していることを通知\nしていることは、上記において説示したとおりであり、当該事実関係を前提
とすれば、Handshakeに係る情報が「権利の侵害に係る発信者情報」
に該当するものと認めるのが相当である。したがって、被告の主張は、採用
することができない。
また、被告は、本件発信者は、Handshake時までに、本件動画の
ファイルのピースさえ保有していない可能性があると主張する。しかしなが\nら、前記認定事実によれば、確かに、本件検知システムは、Handsha
keの時点において、ユーザーが保有しているファイルを実際にダウンロー
ドしていないものの、本件検知システムは、上記時点において上記ユーザー
から返信された上記ファイルのハッシュ値によって、実際に上記ユーザーが
上記ファイルを所持していることの確認を行っていることが認められる。そ
うすると、本件発信者は、Handshakeの時点までに、少なくとも当
該ファイルのピースを所持しているものと推認するのが相当であり、これを
覆すに足りる証拠はない。したがって、被告の主張は採用することができな
い。
イ その他に、被告提出に係る準備書面を改めて検討しても、上記認定に係る
本件検知システムの仕組み等を踏まえると、被告の主張は、上記判断を左右
するに至らない。したがって、被告の主張は、いずれも採用することができ
ない。
(4) 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求を予定し\nていることが認められることからすると、原告には本件発信者情報の開示を受
けるべき正当な理由があるものといえる。
(5) したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、
本件発信者情報の開示を求めることができる。
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2023.01. 6
令和4(ネ)10083 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和4年12月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
本文、ユーザー名のほかアイコンまでをリツートした行為について、引用と認められると判断されました。
ア 控訴人は、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が利用規約に反することは明らかであり、それゆえ利用規約に基づいて本件ツイートによる公衆送信権侵害等について適法となることはないなどと主張する。
しかし、控訴人の上記主張は、利用規約の内容によって直ちに著作権法32条1項にいう公正な慣行の内容が規定されることを前提にするものであって、相当でない。この点、控訴人は、利用規約が遵守されることがツイッターの全ユーザー間の共通認識となっているとも主張するが、当該主張も、結局は利用規約の内容によって直ちに著作権法32条1項にいう公正な慣行の内容が規定されることをいうものに帰し、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。特に、本件ツイート及びそこにおける原告ツイートの引用が批評という表現行為に係るものであることに照らしても、利用規約によってその態様ゆえにその引用としての適法性が直ちに左右されるとみることはできない。\n
イ 控訴人は、ユーザーにおいては、ツイートを削除していなくともプロフィール画像を変更すれば過去のツイートについても変更後のプロフィール画像が表示されること等を前提としてツイッターを利用していることや、プロフィール画像がツイート本文の内容とは独立して自身の個性を表\現するものであるなどと主張する。しかし、訂正して引用した原判決の第4の2(3)で説示したとおり、ユーザーは、自らのツイートの内容が当該ツイートをした時点におけるアイコンと一体的に表現主体及び表\現内容を示すものとして取り扱われ得ることについても、相応の範囲で受忍すべきものであり、控訴人の上記主張も、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。
ウ 控訴人は、本文やユーザー名のほかアイコンまで掲載する必要があるのかには疑問があり、また、現在もツイッター上で閲覧可能な原告ツイートについて、これをあえてスクリーンショットで掲載する必要はないなどと主張する。\nしかし、控訴人においては原告アイコンが原告ツイートの内容と一体的に取り扱われ得ることを相応の範囲で受忍すべきことは既に説示したとおりであり、また、原告ツイートが現在も閲覧可能であるとしても、仮に本件投稿者が引用リツイート機能\を用いていた場合には、原告ツイートを削除等するという専ら控訴人の意思に係る行為によって引用に係る原告ツイートが削除等され、本件ツイートの趣旨等が不明確となるような事態が生じ得ることに照らして、原告ツイートが現在も閲覧可能であるか否かは、本件ツイートにおける引用の適否に直ちに影響すべきものではない。この点、原告ツイートが投稿されてから本件ツイートが投稿されるまでには約7年半という相応の長期間が経過しているところ、原告ツイートが現在も閲覧可能\であり(甲20)、その間に特に控訴人がプロフィール画像を変更したといったことも認められないものであるが、一般的に、引用元ツイートが投稿後変更されることなく相応の長期間が経過した後であっても、引用リツイートの投稿を契機として引用元のツイートが変更や削除等されたりする可能性もあるから、上記相応の長期間の経過をもって直ちに本件ツイートにおける引用の必要性や相当性が否定されるものではなく、また、閲覧可能\性や画像の変更の有無に係る上記各事情は、他方で、原告ツイートの投稿時から本件ツイートの投稿時までの間に、原告において原告アイコンを含む原告ツイートの変更や削除等をしなければならないような事情が他には生じておらず、本件ツイートにおける引用の必要性や相当性を判断するに当たり他に考慮すべき特段の事情がないことをうかがわせるものである。
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2022.12.22
令和3(ワ)24148 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年11月24日 東京地方裁判所
著作権侵害として、発信者情報の特定のための裁判費用も含めて242万円の損害賠償が認められました。引用であるとの主張は否定されました。
被告は、本件各記事による本件各動画の利用は適法な引用(法 32条 1項)に当たる旨を主張する。しかし、証拠(甲 7)及び弁論の全趣旨によれば、本件各記事は、いずれも、約 30 枚〜60 枚程度の本件各動画からキャプチャした静止画を当該動画の時系列に沿ってそれぞれ貼り付けた上で、各静止画の間に、直後に続く静止画に対応する本件各動画の内容を 1 行〜数行程度で簡単に要約して記載し、最後に、本件各動画の閲覧者のコメントの抜粋や被告の感想を記載するという構成を基本的なパターンとして採用している。各静止画の間には、上記要約のほか、被告による補足説明やコメント等が挟まれることもあるが、これらは、関連する動画(URL のみのものも含まれる。)やスクリーンショットを 1 個〜数個張り付けたり、1 行〜数行程度のコメントを付加したりしたものであり、概ね、各静止画及びこれに対応する本件各動画の内容の要約部分による本件各動画全体の内容のスムーズな把握を妨げない程度のものにとどまる。また、本件各記事の最後に記載された被告の感想は、いずれも十数行〜二十\数行程度であり、本件各動画それぞれについての概括的な感想といえるものである。
以上のとおり、本件各記事は、いずれも、キャプチャした静止画を使用
して本件各動画の内容を紹介しつつそれを批評する面を有するものではあ
る。しかし、本件各記事においてそれぞれ使用されている静止画の数は約
30 枚〜60 枚程度という多数に上り、量的に本件各記事のそれぞれにおい
て最も多くの割合を占める。また、本件各記事は、いずれも、静止画と要
約等とが相まって、4分程度という本件各動画それぞれの内容全体の概略
を記事の閲覧者が把握し得る構成となっているのに対し、本件各記事の最\n後に記載された投稿者の感想は概括的なものにとどまる。
以上の事情を総合的に考慮すると、本件各記事における本件各動画の利
用は、引用の目的との関係で社会通念上必要とみられる範囲を超えるもの
であり、正当な範囲内で行われたものとはいえない。
したがって、本件各記事による本件各動画の利用は、適法な「引用」(法
32条1項)とはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 争点(2)(時事の事件の報道の抗弁の成否)について
被告は、本件各記事における本件各動画の利用は、社会において有用で
公衆の関心事となりそうな新しい事業を計画している一般企業家が存在す
る事実及びその事業計画に対する投資家の判断・評価という近時の出来事
を公衆に伝達することを主目的とするものであり、時事の事件の報道(法
41 条)に当たる旨を主張する。
しかし、そもそも、本件各動画は、その内容に鑑みると、一般企業家が
投資家に対して事業計画のプレゼンテーションを行い、質疑応答等を経て、
最終的に投資家が出資の可否を決定するプロセス等をエンタテインメント
として視聴に供する企画として制作されたものというべきであって、それ
自体、「時事の事件」すなわち現時又は近時に生起した出来事を内容とする
ものではない。本件各記事は、前記認定のとおり、このような本件各動画
の内容全体の概略を把握し得るものであると共に、これを視聴した被告の
概括的な感想をブログで披歴したものに過ぎず、その投稿をもって「報道」
ということもできない。
したがって、本件各記事は、そもそも「時事の事件の報道」とは認めら
れないから、適法な「時事の事件の報道のための利用」(法 41 条)とはい
えない。この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 争点(3)(権利濫用の抗弁の成否)について
被告は、原告が「切り抜き動画」制作者による本件各動画の拡散を積極
的に利用して原告チャンネルの登録者数の増加を図り、実際にその恩恵を
享受しているにも関わらず、被告に対して本件各動画の著作権を行使する
ことは権利の濫用に当たる旨を主張する。
しかし、証拠(甲 29)及び弁論の全趣旨によれば、原告が利用する「切
り抜き動画」とは、原告が、特定のウェブサイトで提供されるサービスを
通じて、原告チャンネル上の動画をより個性的に編集して自己のチャンネ
ルに投稿することを希望するクリエイターに対し、その収益を原告に分配
すること等を条件に、当該動画の利用を許諾し、その許諾のもとに、クリ
エイターにおいて編集が行われた動画であると認められる。他方、弁論の
全趣旨によれば、被告は、本件各動画の利用につき、原告の許諾を何ら受
けていないことが認められる。
そうすると、原告が「切り抜き動画」の恩恵を受けているからといって、
被告に対する本件各動画に係る原告の著作権行使をもって権利の濫用に当
たるなどと評価することはできない。他に原告の権利濫用を基礎付けるに
足りる事情はない。したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 争点(4)(原告の損害及びその額)
(1) 「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」
ア 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、映像の使用料又は映像からキャ
プチャした写真の使用料に関し、以下の事実が認められる。
(ア) 映像からキャプチャした写真の使用料
NHK エンタープライズが持つ映像・写真等に係る写真使用の場合の素
材提供料金は、基本的には、メディア別基本料金及び写真素材使用料に
より定められるところ(更にこの合計額に特別料率が乗じられる場合も
ある。)、使用目的が「通信(モバイル含む)」の場合の基本料金は 5000
円(ライセンス期間 3 年)、写真素材使用料は、「カラー」、「一般写真」、
「国内撮影」の場合、1 カットあたり 2 万円とされている(甲 12)。
なお、共同通信イメージズも写真の利用料金に関する規定を公表して\nいるが(乙 12)、ウェブサイト利用についてはニュースサイトでの使用
に限ることとされていることなどに鑑みると、本件においてこれを参照
対象とすることは相当でない。
(イ) 映像の使用料
・・・・
イ 本件各動画については、前記「切り抜き動画」に係る利用許諾と原告へ
の収益の分配がされていることがうかがわれるものの、その分配状況その
他の詳細は証拠上具体的に明らかでない。その他過去に第三者に対する本
件各動画の利用許諾の実績はない(弁論の全趣旨)。そこで、原告が本件各
動画の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(法 114 条 3
項)を算定するに当たっては、本件各動画の利用許諾契約に基づく利用料
に類するといえる上記認定の各使用料の額を斟酌するのが相当である。
被告による本件各動画の使用態様は、本件各動画をキャプチャした本件
静止画を本件各記事に掲載したというものである。そうすると、その使用
料相当額の算定に当たっては、映像からキャプチャした写真の使用料を定
める NHK エンタープライズの規定(上記ア(ア))を参照するのが相当とも
思われる。もっとも、当該規定がこのような場合の一般的な水準を定めた
ものとみるべき具体的な事情はない。また、本件各記事は、いずれも、相
秒以上の部分について 500 円(いずれも 1 秒当たりの単価)である(甲 21)。
・・・
当数の静止画を時系列に並べて掲載すると共に、各静止画に補足説明を付
すなどして、閲覧者が本件各動画の内容全体を概略把握し得るように構成\nされたものである。このような使用態様に鑑みると、本件静止画の使用は、
映像(動画)としての使用ではないものの、これに準ずるものと見るのが
むしろ実態に即したものといえる。
そうである以上、原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべき金
銭の額に相当する額(法 114 条 3 項)の算定に当たっては、映像の使用料
に係る各規定(上記ア(イ))を主に参照しつつ、上記各規定を定める主体の
業務や対象となる映像等の性質及び内容等並びに本件各動画ないし原告チ
ャンネルの性質及び内容等をも考慮するのが相当である。加えて、著作権
侵害をした者に対して事後的に定められるべき、使用に対し受けるべき額
は、通常の使用料に比べて自ずと高額になるであろうことを踏まえると、
原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額
(法 114 条 3 項)は、合計 200 万円とするのが相当である。
ウ これに対し、被告は、原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべ
き金銭の額に相当する額は著作権の買取価格を上回ることはないことを前
提とし、本件各動画の著作権の買取価格(3 万円)のうち本件各記事にお
いて静止画として利用された割合(2%)を乗じたものをもって、原告の受
けるべき金銭の額である旨を主張する。
もとより、著作物使用料の額ないし使用料率は、当該著作物の市場にお
ける評価(又はその見込み)を反映して定められるものである。しかし、
その際に、当該著作物の制作代金や当該著作物に係る著作権の譲渡価格が
その上限を画するものとみるべき理由はない。すなわち、被告の上記主張
は、そもそもその前提を欠く。
したがって、その余の点につき論ずるまでもなく、この点に関する被告
の主張は採用できない。
(2) 発信者情報開示手続費用
本件のように、ウェブサイトに匿名で投稿された記事の内容が著作権侵害の不法行為を構成し、被侵害者が損害賠償請求等の手段を取ろうとする場合、権利侵害者である投稿者を特定する必要がある。このための手段として、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律により、発信者情報の開示を請求する権利が認められているものの、これを行使して投稿者を特定するためには、多くの場合、訴訟手続等の法的手続を利用することが必要となる。この場合、手続遂行のために、一定の手続費用を要するほか、事案によっては弁護士費用を要することも当然あり得る。そうすると、これらの発信者情報開示手続に要した費用は、当該不法行為による損害賠償請求をするために必要な費用という意味で、不法行為との間で相当因果関係のある損害となり得るといえる。本件においては、前提事実(5)のとおり、原告は、弁護士費用を含め発信者情報開示手続に係る費用として 167 万 440円を要したが、発信者情報開示手続の性質・内容等を考慮すると、このうち20万円をもって被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
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2022.12. 9
令和4(ネ)10033 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和4年11月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
著作権侵害に関する発信者情報開示請求事件です。1審は、ツイート時のログイン時のIPアドレスに加えてそれ以外のツイート時のIPアドレスも、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断しました。これに対して、知財高裁は、「本件各投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのIPアドレスを使用して情報の送信がされた年月日及び時刻の情報を求める限度で理由有り」と、変更しました。
法4条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通によって権利の
侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密\nに配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通
信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求す
ることができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の\n権利の救済を図ることにあると解されること(最高裁平成21年(受)第1
049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)
に鑑みると、法4条1項の委任を受けた省令1号ないし8号の規定は、開示
の対象となる「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を限定的に列挙した
ものと解される。以上を前提に、本件ログイン時IPアドレス等が省令5号及び8号に該当するかどうかについて判断する。
(2) 認定事実
前記前提事実と証拠(甲32、58ないし63)及び弁論の全趣旨によれ
ば、以下の事実が認められる。
ア 本件各投稿の日時
本件投稿1は、令和2年11月12日午前7時52分にアカウント1を
利用して、本件投稿2は、同月7日午前4時57分にアカウント2を利用
して、本件投稿3は、同年12月18日午後7時3分にアカウント3を利
用して、本件投稿4は、同日午前10時35分にアカウント4を利用して、
本件投稿5は、令和3年3月7日午後5時52分にアカウント5を利用し
て、ツイッターのウェブサイトにそれぞれ投稿された。
イ 本件訴訟に至る経緯等
(ア) 被控訴人は、令和2年11月17日、アカウント1について、控訴
人を債務者とする発信者情報開示仮処分の申立て(東京地方裁判所令和\n2年(ヨ)第22121号)をし、令和3年2月17日、アカウント1
にログインした際のIPアドレスのうち、本件投稿1の直前のログイン
時以降、控訴人が保有するIPアドレス及びそのタイムスタンプの全て
の開示を命じる仮処分決定(以下「本件仮処分決定1」という。)がされ
た。その後、控訴人は、本件仮処分決定1につき本案の起訴命令の申立\nてをし、同月25日、起訴命令が発せられた。
また、被控訴人は、アカウント2ないし4について、控訴人を債務者
とする発信者情報開示仮処分の申立て(令和2年(ヨ)第22125号)\nをし、同年3月2日、控訴人が保有するログイン情報のうち、侵害情報
の投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのタイムスタンプの開示
を命じる旨の仮処分決定(以下「本件仮処分決定2」という。)がされた。
その後、控訴人は、本件仮処分決定2につき本案の起訴命令の申立てを\nし、同月29日、起訴命令が発せられた。
(イ) 被控訴人は、前記(ア)の各起訴命令を受けて、令和3年3月3日、
原審に本件訴訟を提起した。その後、被控訴人は、同年10月12日、
アカウント5について、発信者情報の開示を求める訴えの追加的変更を
した。
(ウ) 被控訴人は、本件仮処分決定1に基づき、間接強制決定を求める申\n立てをし、同月19日、間接強制決定がされた。
また、被控訴人は、本件仮処分決定2に基づき、間接強制決定を求め
る申立てをし、同月24日、間接強制決定がされた。\n
(エ) 原審は、令和3年11月9日、口頭弁論を終結し、令和4年1月2
0日、原判決を言い渡した。
その後、控訴人は、同年3月4日、本件控訴を提起した。
(オ) 控訴人は、令和4年5月26日、被控訴人に対し、アカウント1に
ついて、本件投稿1の直前のログイン時(日本時間令和2年11月12
日午前7時44分49秒)以降、令和4年5月24日午後3時49分5
0秒までのログイン情報に係るIPアドレス及びタイムスタンプを、ア
カウント2ないし4について、本件投稿2ないし4のそれぞれ直前のロ
グイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(アカウント2につき令和
2年11月7日午前4時46分29秒時、アカウント3につき令和2年
12月18日午前8時54分54秒時、アカウント4につき令和2年1
2月18日午前8時54分9秒時の各IPアドレス)を開示した。
(3) 本件ログイン時IPアドレス等の省令5号及び8号該当性について
ア 省令5号及び8号の意義について
(ア) 1)前記(1)のとおり、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アド
レス」は、「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を類型化したもの
であること、2)前記(1)の法4条の趣旨に照らすと、被害者の権利行使
の観点から、開示される情報の幅は広くすることが望ましいが、一方で、
発信者情報は個人のプライバシーに深く関わる情報であって、通信の秘
密として保護されるものであることに鑑みると、被害者の権利行使にと
って有益であるが不可欠ではない情報や開示することが相当とはいえ
ない情報まで開示することは許容すべきではないと考えられ、このこと
は、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報であっても同様
であること、3)省令5号の「侵害情報に係る」との文言を総合考慮する
と、同号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」とは、侵害情報の
送信に使用されたIPアドレス又は侵害情報の送信に関連する送信に
使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために
必要かつ合理的な範囲のものをいうと解するのが相当である。
次に、省令8号の「第5号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた
電気通信設備、…携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定
電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」との文言に鑑み
ると、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とは、「省令
5号」の「アイ・ピー・アドレス」を使用して侵害情報の送信又はその
送信に関連する送信がされた年月日及び時刻をいうものと解するのが相
当である。
(イ) これに対し、被控訴人は、1)ツイッターにおいては、そのセキュリ
ティの高さからログインした者が発信者であるという蓋然性が極めて高
い状況であり、特定のアカウントにログインしている以上、当該ログイ
ンをした者は、発信者と同一人物であることが強く推認されるところ、
法4条の趣旨・規定ぶり、控訴人の提供するサービスの仕組みやセキュ
リティの状況からすれば、ログイン情報等の開示において、発信者と投
稿者との主観的同一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求
められていないというべきであるから、ツイッターへのログイン時のI
Pアドレス等は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に
該当する、2)本件ログイン時IPアドレス等の全面開示を認めないこと
は、被控訴人の知る権利(憲法21条1項、13条、32条)を侵害し
違憲であり、「権利行使を確保するための手続を国内法において確保」し
なければならないとするWIPO著作権条約14条2項の要請にも反す
るから、憲法適合解釈のもと、法及び総務省令を憲法21条1項、13
条、32条に適合的に解釈し、本件ログイン時IPアドレス等を全面的
に開示すべきである、3)令和4年10月1日に施行される規則において
は、投稿前のログアウト情報や投稿後のログイン情報など論理的に投稿
そのものに供された可能性がない通信情報も含めてアカウント開設から\n閉鎖までの全ての情報が理論上開示され得ることが定められ、開示対象
の発信者情報について、侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求め
ておらず、通信情報が侵害情報の発信者のものと認められる場合には開
示を肯定する立場をとっていることからすると、規則施行前の省令にお
いても、ログイン情報等の開示において、発信者と投稿者との主観的同
一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求められていないと
いうべきである旨主張する。
しかしながら、1)及び2)については、法4条1項の委任を受けた省令
1号ないし8号の規定は、開示の対象となる「侵害情報の発信者の特定
に資する情報」を限定的に列挙したものと解されるところ、前記(ア)で
説示したとおり、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」
とは、侵害情報の送信に使用されたIPアドレス又は侵害情報の送信に
関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を
特定するために必要かつ合理的な範囲のものをいうと解するのが相当で
あり、また、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とは、
「省令5号」の「アイ・ピー・アドレス」を使用して侵害情報の送信又
はその送信に関連する送信がされた年月日及び時刻をいうものと解する
のが相当であるから、ツイッターへのログイン時のIPアドレス等であ
れば、省令5号及び8号に該当しないものであっても、法4条1項の「当
該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するということはできない。
そして、前記(ア)のとおり、前記(1)の法4条の趣旨に照らすと、被害
者の権利行使にとって有益であるが不可欠ではない情報や開示すること
が相当とはいえない情報まで開示することは許容すべきではないと考え
られ、このことは、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報
であっても同様である。
また、控訴人が挙げる憲法の規定やそれらの趣旨を考慮したとしても、
被控訴人に、法律に定められていない発信者情報の開示を求める権利が
あると解することもできない。
次に、3)については、ログイン情報に相当する「侵害関連通信」につ
いて規定する規則5条柱書によれば、「法第五条第三項の総務省令で定め
る識別符号その他の符号の電気通信による送信は、次に掲げる識別符号
その他の符号の電気通信による送信であって、それぞれ同項に規定する
侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」と規定し、ログイン情報
の開示において「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に限定
しており、被控訴人が述べるように、開示対象の発信者情報について、
侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求めておらず、通信情報が侵
害情報の発信者のものと認められる場合には開示を肯定する立場をとっ
ているとまでいうことはできない。
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2022.12. 5
令和4(ネ)10019 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和4年10月19日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、同一性保持権侵害と判断しましたが、知財高裁(2部)は「引用」に該当し、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に該当すると判断しました。リツイート最高裁判決(最判令和2年7月21日)とは結論、逆ですが、あの事件はリツートの元自体の侵害があったので、その意味では、事案が異なります。
イ 控訴人は、前記アの本件被控訴人イラスト1の利用について、「引用」に当
たり適法であると主張するので検討するに、適法な「引用」に当たるには、1)公正
な慣行に合致し、2)報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われ
るものでなければならない(著作権法32条1項)。
ウ(ア) 本件ツイート1−1をみると、前記(2)のとおり、乙1の2イラストと本件
被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚とともに、「これどうだろう ww」「ゆ
るーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」と
の文言が投稿されており、これは、被控訴人作成の本件被控訴人イラスト1が、乙
1の2イラストをトレースして作成されたものである旨を主張するものであって、
本件被控訴人イラスト1を検証し、批評しようとするものであると認められるから、
本件投稿者1が本件被控訴人イラスト1を用いた目的は、批評にあるといえる。
(イ)a 次に、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用方法をみ
ると、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせて表示しているも\nの(本件投稿画像1−1−2、1−1−3)と、本件被控訴人イラスト1を含む複
数の被控訴人作成イラストを並べて表示しているもの(本件投稿画像1−1−4)\nがあり、これらの画像が、乙1の2イラストの画像(本件投稿画像1−1−1)と
ともに前記(ア)の文言に添付されている。タイムライン上においては、原判決別紙タ
イムライン表示目録記載1のとおり表\示されるなどしており、上記4枚の画像デー
タは、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様に応じ\nて、その一部のみが表示されているが、各画像をクリックすると、本件投稿画像1\n−1−1〜1−1−4のとおりの画像が表示される。\n
b 本件投稿画像1−1−4は、被控訴人が作成した女性の横顔のイラストを2
枚含むものであるが、この2枚のイラストのうち1枚は本件被控訴人イラスト1で
あり、もう一枚は本件被控訴人イラストと複製又は翻案の関係にあるものと認めら
れるから、本件投稿画像1−1−4をそのまま、本件投稿画像1−1−1(乙1の
2イラスト)とともに利用することは、イラストの類似性を検証するために必要で
あり、かつ、文章のみで表現するよりも客観性を担保できる態様で利用されている\nということができる。
c 本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、乙1の2イラストと本件被控訴
人イラスト1を重ね合わせた画像であるが、2枚のイラストないし画像の類似性を
検討するに当たり、2枚のイラストを、それぞれのイラストが判別可能な態様で重\nね合わせ表示するのは検証のために便宜でかつ客観性を担保できる態様で利用され\nているということができ、加えて、当該画像には下部分に各イラストの色の濃さを
操作したことを示唆するアプリケーションの画面部分が記載されており、閲覧者を
して、これらの画像が、2枚のイラストを重ね合わせたものであることや、色の濃
さが操作されていることが分かるような態様で示されている。本件では、本件投稿
画像1−1−2では乙1の2イラストの方を濃く表示し、本件投稿画像1−1−3\nでは本件被控訴人イラスト2の方を濃く表示しているが、このような表\示方法は、
2枚のイラストを重ね合わせた画像において、それぞれのイラストを判別して比較
するために資するといえる。
d そうすると、本件ツイート1−1の一般の読者にとって、本件ツイート1−
1における被控訴人のイラストの利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜で
かつ客観性を担保することができるものであるということができる。
そして、上記利用態様からすると、本件ツイート1−1において、被控訴人が作
成したイラストが、独立した鑑賞目的等で利用されているというような事情はなく、
本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを比較検証する目的を超えて利用がさ
れているとはいえない。
e したがって、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用方法は、
前記(ア)の引用の目的である批評のために正当な範囲内で行われていると認めるの
が相当である。
(ウ) 証拠(乙5の1〜5、60、63、89、110の1、120の4・5)に
よると、第三者が著作権を有するイラストや写真をトレースすることにより、イラ
スト等を作成した可能性がある旨の事実を主張する場合に、記事中に、1)問題とな
るイラスト等とトレース元と考えられるイラスト等を、比較するためにそのまま又
は比較に必要な部分において示すことや、2)2枚のイラストを重ね合わせて示すこ
とは広く行われていることであり、また、前記(イ)のとおり、このように示すことは、
本件ツイート1−1の一般の読者にとって記事の内容を吟味するために便宜でかつ
客観性を担保することができる手法であるということができる。
上記に加え、後記(5)のとおり同一性保持権侵害の観点からも本件ツイート1−
1における被控訴人のイラストの利用が違法ということはできないことに照らすと、
本件ツイート1−1において、被控訴人作成のイラストを添付したことは、公正な
慣行に合致しているということができる。
(エ) そうすると、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用は「引
用」として適法である。
エ 以上によると、本件ツイート1−1の投稿による著作権侵害について、「権
利侵害の明白性」は認められない。
(5) 著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について
ア 前記(2)のとおり、1)本件ツイート1−1に添付された画像のうち、本件投稿
画像1−1−2及び1−1−3は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを
重ね合わせたものであり、また、2)ツイッターのタイムライン上に表示された本件\nツイート1−1における本件投稿画像1−1−2〜1−1−4は、被控訴人作成の
イラストの一部のみが表示されているから、それぞれ、被控訴人のイラストの改変\n又は切除に当たると解する余地がある。
イ しかしながら、1)については、著作物がイラストであって重ね合わせて用い
ることで、引用の目的である批評のために便宜でありかつ客観性が担保できること
に加え、その利用の目的及び態様に照らすと、著作権法20条2項4号の「やむを
得ないと認められる改変」に当たるといえる。
ウ 次に、2)についてみると、証拠(甲49、乙113〜119、120の1・
2、121の1・2)によると、ツイッターのタイムライン上の表示は、ツイッタ\nーの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様により決定されるもの\nであって、投稿者が自由に設定できるものではなく、投稿者自身も投稿時点では、
どのような表示がされるか認識し得ないこと、投稿後も、ツイッターの仕様又はツ\nイートを表示するクライアントアプリの仕様が変更されると、タイムライン上の表\
示が変更されること、ツイートに添付された画像データ自体は当該ツイートを閲覧
したユーザーの端末にダウンロードされており、タイムライン上の画像をクリック
すると、画像の全体が表示されることが認められることに照らすと、投稿者が改変\n主体に当たるかという点を措くとしても、タイムライン上の表示が画像の一部のみ\nとなることは、ツイッターを利用するに当たり「やむを得ないと認められる改変」
に当たるというべきである。
エ そうすると、本件ツイート1−1の投稿による著作者人格権侵害(同一性保
持権侵害)について、「権利侵害の明白性」は認められない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和2年(ワ)24492号
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2022.04.23
令和3(ワ)5668 発信者情報開示請求事件 著作権 令和4年1月20日 東京地方裁判所
著作権侵害がなされたツイート時のログイン時のIPアドレスに加えて、それ以外のツイート時のIPアドレスも、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するかが争われました。東京地裁は該当すると判断しました。
1 争点1(本件ログイン時IPアドレス等の「権利の侵害に係る発信者情報」
(法4条1項)該当性)について
(1) 原告が本件において開示を求める本件発信者情報は,本件各投稿に利用さ
れた本件各アカウントを保有する者の電話番号及び電子メールアドレスのほか,本
件各アカウントにログインした際に割り当てられたIPアドレス及びそのタイムス
タンプに係る情報であり,原告の本件各写真に係る公衆送信権侵害行為を構成する\n情報の送信時に割り当てられたIPアドレス及びそのタイムスタンプではない。そ
こで,本件ログイン時IPアドレス等のようなログインする際に割り当てられたI
Pアドレス及びそれが割り当てられたタイムスタンプが,法4条1項所定の「権利
の侵害に係る発信者情報」に該当するかが問題となる。
(2) 法4条1項は,特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害
されたとする者が開示関係役務提供者に対して開示を請求することのできる情報と
して,「権利の侵害に係る発信者情報」と規定しており,権利侵害行為そのものに使
用された発信者情報に限定した規定ではなく,「係る」という,関係するという意義
の文言が用いられていることからしても,「権利の侵害に係る発信者情報」は,権利
侵害行為に関係する情報を含むと解するのが相当である。そして,法4条の趣旨は,
特定電気通信(法2条1号)による情報の流通には,これにより他人の権利の侵害
が容易に行われ,その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し,匿名で情報の発
信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという,他の情
報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ,特定電気通信による情報の流通に
よって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバシー,表現の自由,通信\nの秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通信の用に供される特定電気通
信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求すること
ができるものとすることにより,加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を\n図ることにあると解され(最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻
3号676頁参照),かかる趣旨からすると,権利侵害行為そのものの送信時点では
なく,その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっ
ても,それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には,「権利の侵害に係
る発信者情報」に当たると解すべきである。
被告は,ログイン行為と侵害情報そのもの送信行為とは全く異なる性質のもので
あること等を理由に,法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」には,ログイ
ン時のIPアドレス等を含まないと主張する。
しかし,ログイン時のIPアドレス等であっても,当該ログインが侵害情報の発
信者のものと認められる場合には,当該ログイン時のIPアドレス等は侵害情報の
送信行為との関連性を有するということができ,したがって,当該ログインに係る
IPアドレス等も法4条1項所定の発信者情報に当たるといえるのであるから,被
告の上記主張は採用することができない。
また,被告は,法4条1項の委任を受けた省令8号が「侵害情報が送信された年
月日及び時刻」と規定していることやログイン情報の送信が1対1の電気通信であ
って,「特定電気通信」(法2条1号)に該当しないことからすると,ログイン時の
タイムスタンプは開示が認められる発信者情報に該当せず,また,省令5号は省令
8号と整合的に解釈すべきであるから,省令5号にいうIPアドレスも侵害情報の
送信時に割り当てられたIPアドレスのみをいうのであって,ログイン時に割り当
てられたIPアドレスを含まないとも主張する。
しかし,省令5号及び8号に開示の対象となる発信者情報の特定を委任した法4
条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」は,権利侵害行為そのものの送信時点で
はなく,その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であ
っても,それが当該侵害情報の発信者のものと認められるものをも含むと解するこ
とができることは前記説示のとおりである。また,省令5号は,法4条1項所定の
発信者情報に該当するIPアドレスにつき,「侵害情報に係る」と規定しており,侵
害情報の送信の際に割り当てられたIPアドレスに限定する規定ぶりとはなってい
ないことからすれば,ログインの際に割り当てられたIPアドレスも「侵害情報に
係るアイ・ピー・アドレス」に該当するというべきである。そして,IPアドレス
の開示を受けるだけでは発信者を特定することが不可能ないし極めて困難であって,\n発信者の特定には,当該IPアドレスを割り当てられた年月日及び時刻(タイムス
タンプ)を必要とすることからすれば,省令8号の規定するタイムスタンプは,ロ
グインの際のIPアドレスが割り当てられた電気通信設備からのログイン情報の発
信時のものを含むと解するのが相当であるというべきであって,被告の上記主張は
採用することができない。また,本件各投稿は不特定の者の投稿・閲覧が認められ
るツイッター上にされたものであり,不特定の者によって受信されることを目的と
する電気通信の送信といえることに照らし,「特定電気通信」該当性を否定する被告
の上記主張も採用の限りではない。
(3) 続いて,本件ログイン時IPアドレス等から把握される発信者情報が本件
各投稿の発信者のものと認められるかどうかを検討する。
弁論の全趣旨によれば,被告が提供するツイッターを利用するには,まず,アカ
ウントを作成する必要があり,アカウントの作成には,ユーザID及びパスワード
の設定が必要となること,ツイッターを利用する際は,ユーザID及びパスワード
を入力して当該アカウントにログインすることが必要であり,当該アカウントの管
理者はスマートフォン等の各種デバイスを利用してツイッターにログインして当該
アカウントにツイート(投稿)していることが認められる。このようなツイッター
の仕組みを踏まえると,法人や団体においてその営業や事業に利用する場合を除き,
複数人が共有して特定のアカウントを利用する可能性は極めて乏しく,また,本件\nにおいて複数人が本件各アカウントを共有して使用していることをうかがわせる事
情は見当たらない。そうすると,本件各アカウントはそれぞれ特定の個人が利用し
ていたものであるというべきであり,本件各アカウントにそれぞれログインした者
と本件各投稿の各発信者とは同一の者であると認められ,本件IPアドレス等から
把握される発信者情報が本件各投稿の発信者のものということができる。
被告は,本件各投稿がされる前のログイン情報もさることながら,本件各投稿が
された後の情報であって,本判決確定の時点で被告が保有する本件各アカウントへ
のログインの際のIPアドレス等から把握される情報(最新ログイン時の情報)ま
でをも「権利の侵害に係る発信者情報」ということはできないと主張する。
しかし,前記認定したツイッターの仕組みからすれば,本件各投稿を本件各アカ
ウントの設定者がこれを第三者に譲渡したことがうかがわれるなどの特段の事情の
ない限り,本件各投稿と開示を求めるログイン時の情報との前後関係,その時間的
間隔の程度等を考慮することなく,本件各アカウントにログインした際のIPアド
レス等は,本件各投稿による権利の侵害に係る発信者の特定に資する情報に該当す
るというべきであるところ,本件全証拠に照らしても,上記特段の事情の存在はう
かがわれない。
以上からすると,本件各アカウントにログインした際のIPアドレス等の情報は,
最新のログインの時のIPアドレス等も「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる
というべきである。
そして,被告は,原告の著作権を侵害する本件各投稿に係る侵害情報の発信者と
同一の者によるものと認められる各通信を媒介し,その際に割り当てられた本件ロ
グイン時IPアドレス等を保有する特定電気通信役務提供者であるから「開示関係
役務提供者」に当たるということができる
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2022.04. 4
令和3(ワ)6266 著作権侵害等に基づく発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年3月30日 東京地方裁判所
被告は、プロ責法の「開示関係役務提供者」には該当しないとして、発信者情報の開示請求が否定されました。
プロバイダ責任制限法は、4条1項において、「開示関係役務提供者」の
意義について「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる
特定電気通信役務提供者」と定め、「特定電気通信による情報の流通によっ
て自己の権利を侵害されたとする者」は、「侵害情報の流通によって当該開
示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであ」り(同項1号)、
かつ、「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使
のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が
あるとき」(同項2号)に限り、開示関係役務提供者に対し、当該開示関係
役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報の開示を請求するこ
とができる旨を規定し、また、同条2項において、開示関係役務提供者がそ
のような請求を受けた場合には、原則として発信者の意見を聴かなければな
らない旨を規定する。
これらの規定の趣旨は、発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自\n由、通信の秘密に関わる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示さ
れるべきものではなく、また、これが一旦開示されると開示前の状態への回
復は不可能となることから、発信者情報の開示請求につき厳格な要件を定め\nた上で、開示請求を受けた開示関係役務提供者に対し、上記のような発信者
の利益の保護のために、発信者からの意見聴取を義務付けて、開示関係役務
提供者において、発信者の意見も踏まえてその利益が不当に侵害されること
がないように十分に意を用い、当該開示請求が同条1項各号の要件を満たす\nか否かを慎重に判断させることとしたものと解される。
こうした「開示関係役務提供者」の意義及びプロバイダ責任制限法の定め
の趣旨に鑑みれば、「開示関係役務提供者」については厳格に解すべきであ
って、ある特定電気通信役務提供者が「開示関係役務提供者」に当たるとい
うためには、当該特定電気通信役務提供者が用いる特定電気通信設備が侵害
情報の流通に供されたことが必要であると解すべきである。
(2) 判断
ア 被告TOKAIについて
(ア) 本件ツイート1の投稿について
原告らが被告TOKAIに対して開示を求める契約者の情報である本
件発信者情報1は、令和2(2020)年6月29日15時56分35
秒(UTC)頃及び同年8月16日7時49分52秒(UTC)頃に被
告TOKAIから(IPアドレスは省略)という発信元IPアドレスを
割り当てられていた契約者に関するものである。
この点、本件ツイート1が投稿されたのは、同年6月29日17時4
5分(JST。これをUTCに換算すると同日8時45分となる。)で
あるから、本件発信者情報1のうち、同日15時56分35秒(UTC)
頃に関するものは、本件ツイート1の投稿から7時間余り後のものであ
り、同年8月16日7時49分52秒(UTC)頃に関するものは、同
投稿から48日余り後のものである。したがって、被告TOKAIから
上記発信元IPアドレスを割り当てられた通信によるログインの状態下
で、本件ツイート1の投稿に係る通信がされたものと認めることはでき
ない。
また、証拠(甲35、36、39、40、乙5の1)によれば、(I
Pアドレスは省略)というIPアドレスに係るドメインには「t−co
m.ne.jp」という文字列が含まれていたと認められるから、被告
TOKAIが割り当てるIPアドレスに係るドメインには、この「t−
com.ne.jp」という文字列が含まれるものと推認される。そし
て、当該文字列を含むドメインに係るIPアドレスが割り当てられた通
信によって本件アカウントにログインされた時刻は、その大半が17時
台から23時台までの間(いずれもUTC)であって、8時台(UTC)
は見当たらない。したがって、本件ツイート1が投稿された令和2(2
020)年6月29日8時45分(UTC)頃に、被告TOKAIの電
気通信設備を経由する通信によって本件アカウントにログインがされた
ものと認めることはできない。
かえって、証拠(甲40)によれば、本件ツイート1の投稿の直前の
ログインに係る通信は「amazonaws.com」を含むドメイン
のものであると認められ、これは、本件ツイート1の投稿に係る通信が、
被告TOKAIの電気通信設備以外の電気通信設備を経由してなされた
ことをうかがわせる事情といえる。
以上によれば、被告TOKAIが用いる電気通信設備が本件ツイート
1の投稿に供されたことは認められないから、本件ツイート1の投稿に
ついて、被告TOKAIが「開示関係役務提供者」に該当するとは認め
られない。
・・・
ウ 原告らの主張について
(ア) 原告らは、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備とログイ
ンの通信に用いられた電気通信設備が同一であれば、当該電気通信設備
を用いる特定電気通信役務提供者は「開示関係役務提供者」に該当する
旨を主張する。しかし、仮に原告らの解釈を前提にしても、前記ア及び
イのとおり、本件各ツイートが被告らの電気通信設備を経由して投稿さ
れたとは認められないから、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通
信設備とログインの通信に用いられた電気通信設備が同一であるとは認
められない。したがって、原告らの上記主張は理由がない。
さらに、原告らは、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備
が厳密に特定できなくとも、そのいずれかの電気通信設備を用いて投稿
されたことが明らかであれば、権利侵害を受けた者の権利回復を図ると
いう観点からも、立証責任を緩和して、いずれの経由プロバイダに対す
る発信者情報開示請求についても認められるべきであるとも主張する。
しかし、前記(1)のとおり、プロバイダ責任制限法4条1項は、情報の
発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件\nの下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特
定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することを認め
たものと解されるから、権利侵害を受けた者の権利回復を図るという観
点のみを根拠として、その者の立証責任を緩和し、複数の経由プロバイ
ダのうちいずれかの経由プロバイダの電気通信設備を用いて投稿された
ことさえ立証されれば、いずれの経由プロバイダに対しても発信者情報
開示請求が認められると解するというのは、相当でないというべきであ
る。原告らの主張は独自の見解というほかはなく、採用の限りではない。
(イ) 原告らは、さくらインターネット株式会社やアマゾンジャパン合同会
社が管理する通信網を経由した本件アカウントへのログイン(「sak
ura.ne.jp」や「amazonaws.com」の文字列を含
むドメインによるIPアドレスが割り当てられた通信によるログインを
指すと解される。)は、本件ツイート1及び2の投稿者とは異なる別事
業者が提供する、本件アカウントと連携したツイッター専用アプリケー
ションを用いて本件アカウントにログインしたものであって、上記投稿
者による通信ではないと主張する。しかし、本件全証拠によっても、原
告が主張する上記事実は認められないから、本件各ツイートの投稿の通
信に関する前記ア及びイの認定を何ら左右するものではない。
(ウ) したがって、原告らの前記(ア)及び(イ)の主張はいずれも採用すること
ができず、その他原告らが種々主張するところを十分に考慮しても、前\n記(2)ア及びイの認定を左右するには至らない。
◆判決本文
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2022.01. 6
令和3(ワ)12332 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和3年10月15日 東京地方裁判所
ログインに関する本件発信者情報がプロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断されました。
上記認定事実によれば,本件アカウントにログインした者が本件各投稿をす
ることによって,下記2において説示するとおり,原告の権利を侵害したもの
と認めるのが相当である。そうすると,ログインに関する本件発信者情報は,
上記侵害の行為をした発信者を特定する情報であるといえるから,「権利の侵
害に係る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。
これに対し,被告は,本件発信者情報が本件アカウントにログインした者の
情報にすぎず,本件各投稿を行った本件発信者の情報ではないことからすると,
本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないと主張する。
しかしながら,本件発信者情報は本件各投稿を行った本件発信者の情報であ
るといえることは,上記において説示したとおりであり,被告の主張は,その
前提を欠く。のみならず,プロバイダ責任制限法4条の趣旨は,特定電気通信
による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバ
シー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通\n信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し
て発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の
特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにある(最高裁平成21年\n(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676
頁参照)。そうすると,アカウントにログインした者が,権利の侵害に係る情
報を送信したものと認められる場合には,侵害情報の送信時点ではなく,アカ
ウントにログインした時点における発信者情報であっても,「権利の侵害に係
る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。そうすると,被告の
主張は,上記判断を左右するに至らない。
◆判決本文
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2022.01. 3
令和3(ワ)15819 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和3年12月10日 東京地方裁判所
ログインに関する本件発信者情報がプロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断されました。
前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ
る。
ア ツイッターの利用者がツイート等の投稿を行うには,事前にアカウントを
登録した上,ユーザー名,パスワード等を入力し,当該アカウントにログイ
ンすることが必要である。そのため,アカウントの使用者は,ツイッターの
仕組み上,当該アカウントにログインした者とされている。
イ ツイッター社により開示された本件IPアドレス等の使用期間(令和3年
3月15日から同年5月7日まで)においても,本件各アカウントは,いず
れも,昼夜を問わず頻繁にログインされるなど,継続的に使用されている。
(甲2ないし6,12)。
「権利の侵害に係る発信者情報」該当性
上記認定事実によれば,ツイッターの上記仕組み及び本件各アカウントの使
用状況を踏まえると,本件各アカウントにログインした者が本件各投稿をする
ことによって,下記2において説示するとおり,原告の権利を侵害したものと
認めるのが相当であり,これを覆すに足りる的確な証拠はない。そうすると,
ログインに関する本件発信者情報は,上記侵害の行為をした発信者を特定する
情報であるといえるから,「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものと
いえる。
これに対し,被告は,本件発信者情報が本件アカウントにログインした者の
情報にすぎず,本件各投稿を行った本件発信者の情報そのものではないことか
らすると,本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない旨
主張する。
しかしながら,本件発信者情報は本件各投稿を行った本件発信者の情報であ
るといえることは,上記において説示したとおりであり,被告の主張は,その
前提を欠く。のみならず,プロバイダ責任制限法4条の趣旨は,特定電気通信
による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバ
シー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通\n信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し
て発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の
特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにある(最高裁平成21年\n(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676
頁参照)。そうすると,アカウントにログインした者が,権利の侵害に係る情
報を送信したものと認められる場合には,侵害情報の送信時点ではなく,アカ
ウントにログインした時点における発信者情報であっても,「権利の侵害に係
る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。
◆判決本文
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2020.10.19
令和2(ワ)910 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和2年9月25日 東京地方裁判所
屋外に恒常的に設置された建物の写真について、著作物性ありと判断され、発信者情報開示が認められました。
前記前提事実,証拠(甲1,6,8,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,
本件写真は,原告が,空気の透明度が高い冬季において,天候が良好な日
の夜間に,約180度の眺望を有する本件展望台から見ることができる夜
景のうち,大阪府内所在のりんくうゲートタワー及びその周辺の建造物の
組合せを被写体として選択し,中でも目を引く建造物であるりんくうゲー
トタワーを構図のほぼ中心に据え,その左右に複数の建造物がそれぞれ配\n置されるようにして,カメラについては,「70−200mm」のレンズを
選択し,レンズ焦点距離を「200.00mm」,シャッター速度を「16.
0秒」,絞り値を「f/9」とするなどの設定をした上で,ストロボ発光な
しで撮影したものと認められる。
そうすると,本件写真は,原告において,撮影時期及び時間帯,撮影時
の天候,撮影場所等の条件を選択し,被写体の組合せ,選択及び配置,構\n図並びに撮影方法を工夫し,シャッターチャンスを捉えて撮影したもので
あり,原告の個性が表現されているものと認められる。\nしたがって,原告が撮影した本件写真及びこれに本件文字を付加して作
成した本件写真画像は,いずれも,原告の思想又は感情を創作的に表現し\nたものということができるから,「著作物」(著作権法2条1項1号)に該
当する。
イ 被告は,本件写真の被写体であるりんくうゲートタワー及びその周辺の
建造物は,屋外に恒常的に設置されているものであるから,これを被写体
として撮影しようとすれば,焦点距離や撮影位置,構図等の表\現の選択の
幅は必然的に限定され,本件写真の構図自体ありふれたものであるから,\n撮影者の個性が現れたものとはいえず,本件写真には創作性がない旨主張
する。
しかしながら,別紙4写真画像目録記載の本件写真画像から明らかなよ
うに,本件展望台からの眺望は広く,撮影することができる建造物は多数
あり,それらから発せられる光も様々であるから,どのような位置から,
どのような構図で撮影するか,どの建物に焦点を合わせるかといった選択\nの幅が限定的であるということはできない。
そして,前記アのとおり,原告は,上記の幅の中から1つの撮影位置,
構図及び焦点距離を選択した上,さらに,撮影時期及び時間帯,撮影時の\n天候等の条件についても選択して,撮影方法を工夫し,シャッターチャン
スを捉えて撮影したものであるから,本件写真には,原告の個性が現れて
いるものと認められる。
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2020.09.26
令和1(ワ)30272 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和2年6月25日 東京地方裁判所
発信者情報1(氏名又は名称)は保有していない、発信者情報2は、法4条1項の「発信者情報」に当たらないとして、発信者情報開示請求が棄却されました。
被告が本件発信者情報1(氏名又は名称)を保有しているかを検討するため,
本件サービスに係る会員登録の情報内容についてみるに,証拠(甲11)によ
れば,本件サービスの利用規約には,本件サービスの会員登録希望者は,本件
サービスの利用規約の全てに同意した上,同利用規約及び被告が定める方法に
より会員登録をする旨の定めがある(同利用規約第4条1.)ことが認められ
るにとどまり,同利用規約(甲11)の内容を全て精査しても,会員登録時に
登録すべき情報内容についての定めはなく,本件サービスを利用するためには
会員登録希望者ないし利用者がその氏名又は名称を登録する必要があることを
うかがわせる定めも見当たらない。そうすると,本件登録者において,本件サ
ービスの利用規約の定めに従い,本件発信者情報1(氏名又は名称)を登録し
て被告に提供したと認めることはできず,その他,被告が本件発信者情報1
(氏名又は名称)を保有していると的確に認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告が本件発信者情報1(氏名又は名称)を保有しているとは
認められない。
この点,原告は,本件サービスを利用してホームページ等を作成するために
は,電子メールアドレス等のほかに,氏名又は名称を登録することが必要であ
る旨主張する。しかし,本件の具体的事案に即して本件サービスの利用規約の
定めについて具体的に検討しても,本件登録者において,本件発信者情報1を
登録して被告に提供したと認めることができないことは,上記説示のとおりで
ある。原告の上記主張は,推測の域を出るものではないというほかなく,採用
することができない
2 争点(2)本件発信者情報は法4条1項の「発信者情報」に当たるか)につい
て
(1) 前記1で判示したとおり,本件発信者情報のうち本件発信者情報1(氏
名又は名称)については,被告がこれを保有しているとは認められないから,
本件発信者情報1の開示を求める原告の請求は,争点(2)について判断する
までもなく,既に理由がない。
そこで,争点(2)に関しては,本件発信者情報2(電子メールアドレス)
の開示を求める原告の請求について判断する。
(2) 法4条1項は,開示請求の対象となる「当該権利の侵害に係る発信者情
報」とは,「氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であ
って総務省令で定めるものをいう。」と規定し,これを受けて省令は,その
ような情報の一つとして「発信者の電子メールアドレス」と規定する(省令
3号)ところ,法2条4号は,「発信者」とは,「特定電気通信役務提供者
の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不
特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し,又は当該特定電気通
信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信され
るものに限る。)に情報を入力した者をいう。」と規定する。
しかして,法が,2条4号により「発信者」を上記のように文言上明記し
た趣旨は,法において,他人の権利を侵害する情報を流通過程に置いた者を
明確に定義することにより,それ以外の者であって当該情報の流通に関与し
た者である特定電気通信役務提供者の私法上の責任が制限される場合を明確
にするところにある。そうすると,法4条1項を受けた省令3号の「発信者
の電子メールアドレス」の「発信者」についても,法2条4号の規定文言の
とおりに,特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体
(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)
に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入
力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した本
人に限られると解するのが相当である。
(3) そこで,これを前提に,本件について検討する。
前記のとおり,被告が,本件発信者情報2(本件登録者の電子メールア
ドレス)を保有していることから,本件登録者は,本件サイトを開設した
際に,被告に対し,電子メールアドレスを提供したといえるものの,前記
1の説示に照らせば,氏名又は名称の提供をしたものとは認められない。
このように,本件サイトの開設に当たり本人情報として氏名又は名称が
提供されず電子メールアドレス等が提供されているような場合,本件登録
者が,真に本件登録者本人の電子メールアドレスを被告に提供したことに
は合理的疑いが残るところである。
この点,証拠(甲11)をみても,本件サービスの利用規約には,本件サ
ービスの会員は,本件サービスを利用する際に設定する登録情報に虚偽の情
報を掲載してはならない旨定められている(同利用規約第3条2.)ことが
認められるものの,他方,同利用規約(甲11)の内容を全て精査しても,
登録情報の内容が当該会員本人の情報であることを確認するための方法を定
めた定めはなく,かえって,登録情報に虚偽等がある場合や登録された電子
メールアドレスが機能していないと判断される場合には,被告において,本\n件サービスの利用停止等の措置を講じることができる旨の定めが存する(同
録希望者が他人の情報や架空の情報を登録するおそれのあることがうかがわ
れるところである。特に,本件の場合,本件サイトは平成13年頃開設され
たものである(甲1)ところ,本件サイトには,原告がその頃以降に創作し
たほぼ全てのメールマガジンが原告に無断で転載されている(甲2)ことに
照らせば,本件サイトはそのような違法な行為のために開設されたものであ
ることがうかがわれるから,本件登録者が本件サイトを開設する際に他人の
電子メールアドレスや架空の電子メールアドレスを登録した可能性を否定し\n難いといわざるを得ない。
そして,その他,本件登録者が本件サービスを利用して本件サイトを開設
する際に登録した電子メールアドレスが本件登録者本人のものであると認め
るに足りる証拠はなく,本件登録者が本件サイトを開設する際に登録した電
子メールアドレスが本件登録者本人のものであると認めることは困難という
べきである。
そうすると,被告の保有する電子メールアドレス(本件発信者情報2)は,
法2条4項にいう「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記
録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限
る。)に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装
置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力
した者」の電子メールアドレスであるとはいえず,ひいては,省令3号の
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2020.08.14
令和1(ワ)22576 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和2年2月12日 東京地方裁判所
「侵害情報の送信の後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報であっても,それが侵害情報の発信者のものと認められるのであれば,法4条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に当たると判断されました。
被告は,法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」とは,侵害情報の
発信者についての情報に限られるとの解釈を前提とした上で,本件発信者情
報は,本件アカウントにログインした者についての情報にすぎず,本件各投
稿を行った本件発信者についての情報ではないので,本件発信者情報は「権
利の侵害に係る発信者情報」に当たらないと主張する。
ア 前記第2の2(2)及び(3)記載のとおり,本件各投稿は,平成31年2月
10日及び15日の2日間に合計7回にわたり投稿されたものであり,原
告が同月1日正午(日本標準時)から仮処分決定が相手方に送達された日
の正午時点までの期間に係るものについて,仮の開示を求める仮処分決定
を得てツイッター社に発信者情報の開示を求めたところ,同社は,その保
有している発信者情報として,同年4月11日から令和元年6月4日まで
の間に本件アカウントにログインされた際のIPアドレス及びタイムス
タンプ(本件IPアドレス等)を開示している。このことから明らかなよ
うに,本件IPアドレス等は,本件各投稿の際に使用されたIPアドレス
そのものではない。
イ しかし,法4条1項は,「権利侵害時の発信者情報」あるいは「権利が
侵害された際の発信者情報」など,権利を侵害する行為(本件では本件各
投稿)の際に使用された発信者情報に限定する旨の規定をすることなく,
「権利の侵害に係る発信者情報」と規定しており,「係る」という語は「関
係する」又は「かかわる」との意味を有することに照らすと,法4条1項
の「権利の侵害に係る発信者情報」とは,侵害情報が発信された際に割り
当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報に限定されること
なく,権利侵害との結びつきがあり,権利侵害者の特定に資する通信から
把握される発信者情報を含むと解するのが相当である。
ウ また,法4条の趣旨は,特定電気通信による情報の流通によって権利の
侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバシー,表現の自由,通信の秘 密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通信の用に供される特定電\n気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を
請求することができるものとすることにより,加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解されるところ(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁),侵害情報そのものの送信時点ではなく,その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても,それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には,当該発信者のプライバシ\nー,通信の秘密等の保護の必要性の程度に比べ,被害者の権利の救済を図
る必要性がより高いというべきである。
エ さらに,本件において,ツイッター社は,個々の投稿に係るIPアドレ
ス等のログを保存しておらず,ログインに係る情報についても直近2か月
分程度のログしか保存していないことがうかがわれるが,侵害情報そのも
のの送信を媒介した特定電気通信を媒介した者でなければ開示関係役務提
供者に該当しないとすると,権利を侵害されたことは明白であるにもかか
わらず,サイト運営者のログイン情報の保存方法・期間等により発信者情
報開示請求の成否が左右され,侵害情報が発信された時点のIPアドレス
等又は侵害情報を投稿するためのログイン時のIPアドレス等が保存され
ていない場合には,被害者は権利行使を断念せざるを得なくなる。法4条
が,このような事態,すなわちサイト運営者のログイン情報の保存状況に
より被害者の権利救済の可否が左右されることを想定し,これを容認して
いたとは考え難い。
オ 以上によれば,侵害情報の送信の後に割り当てられたIPアドレスから
把握される発信者情報であっても,それが侵害情報の発信者のものと認め
られるのであれば,法4条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に
当たると解するのが相当である。
(2) 上記(1)の解釈を前提として,本件IPアドレス等によって本件アカウン
トにログインした者と,本件各投稿を行った本件発信者が同一と認められる
かどうかについて検討する。
ア 証拠(甲19)によれば,ツイッターを利用するためには,氏名,電話
番号又はメールアドレスを登録するとともに,パスワードを設定してアカ
ウント登録をすることが必要であり,その上で,作成したアカウントを実
際に利用し,ツイート等の投稿を行うためには,電話番号,メールアドレ
ス又はユーザー名に加え,パスワードを入力してアカウントにログインを
することが必要であると認められる(前記第2の2(4))。
このように,ツイッターは,利用者がアカウント及びパスワードを入力
することによりログインをしなければ利用できないサービスであること
に照らすと,当該アカウントにログインをするのは,そのアカウント使用
者である蓋然性が高いというべきである。
イ また,本件アカウントは,ユーザー名が「B」であり,その投稿内容等
に照らすと,本件各投稿は,特定の個人が継続的に投稿したものであると
認められ(甲1〜6),ツイッター社により開示された本件IPアドレス
等の使用期間(平成31年4月11日から令和元年6月4日まで)におい
ても,昼夜を問わず,毎日本件アカウントにログインされており,本件ア
カウントが継続的に使用されていたことがうかがわれる(甲8)。そして,本件訴訟提起後である令和元年9月5日及び6日にされた本件
アカウントのツイート(甲20)には,「どれだけ嫌なことがあっても ど
れだけ辛いことがあっても …頑張ってこのアカウントを育ててきたの
ですが この度 悪質な嫌がらせに合いまして 暫くの間 別アカウン
ト…で過ごすことになりました」,「赤子を抱えて身動きが取りづらい状
況を狙って私を潰しに来たのであれば 義理も人情もない方なのでしょ
う」,などの投稿がされていることが認められる。これらのツイート内容
等によると,令和元年9月の上記各投稿の投稿者は,特定の個人であり,
原告の行為を非難する旨の本件各投稿をした者と同一であることが推認
される。
ウ 上記アのとおり,ツイッターのアカウントにログインをするのは,その
サービスの仕組みに照らし,当該アカウントの使用者である蓋然性が高い
ところ,上記イのとおり,本件アカウントは,本件各投稿がされた平成3
1年2月頃から令和元年9月頃の間,特定かつ同一の個人が継続して利用
していたものと認めるのが相当であり,法人が営業用に用いるなど複数名
でアカウントを共有し,又はアカウント使用者がその間に変更されたこと
をうかがわせるような事情は存在しない。
そうすると,本件IPアドレスによって本件アカウントにログインした
者と,本件各投稿を行った本件発信者は同一ということができるので,本
件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるというべきであ
る。
エ これに対し,被告は,ツイッターの仕組み上,ユーザーがアカウントを
他人と共有することが禁止されていないことや,本件アカウントには,本
件IPアドレス以外のIPアドレスを用いた被告以外の経由プロバイダ
を利用したログインが複数回行われていることから,本件アカウントは複
数人で共有されている可能性が高く,本件IPアドレスで本件アカウント にログインした者と本件各投稿をした者が同一であるとはいえないと主\n張する。
しかしながら,ツイッターの仕組み上,アカウントの共有が禁止されて
いないとしても,通常は,特定の個人が自分用のアカウントとして継続的
に一つのアカウントを使用することが多く,本件アカウントについても,
その投稿内容等に照らし,個人用のアカウントと認められることは,前記
判示のとおりである。
また,被告以外の異なる経由プロバイダを介して本件アカウントにログ
インされているとの点についても,個人であっても,例えば携帯電話とパ
ソコンのそれぞれについて異なる経由プロバイダと契約することもあり 得るのであるから,そのことから直ちに複数人が本件アカウントを共有し\nている可能性が高いということはできない。 \n
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2020.08.13
平成30(受)1412 発信者情報開示請求事件 令和2年7月21日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 知的財産高等裁判所
アップし忘れましてました。
発信者情報開示事件です。1審では、リツイートはインラインリンクであるので、著作権侵害、人格権侵害に該当しないと判断され、請求は棄却されました。知財高裁(2部)は、著作者人格権侵害があったとして、一部の発信者情報について開示を認めました。最高裁(第3小)も人格権侵害は認めましたが、著作権侵害は否定しました。
自動公衆送信の主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ,情報
を自動的に送信できる状態を作り出す行為を行う者と解されるところ(最高裁平成
23年1月18日判決・民集65巻1号121頁参照),本件写真のデータは,流
通情報2(2)のデータのみが送信されていることからすると,その自動公衆送信の
主体は,流通情報2(2)の URL の開設者であって,本件リツイート者らではないと
いうべきである。著作権侵害行為の主体が誰であるかは,行為の対象,方法,行為
への関与の内容,程度等の諸般の事情を総合的に考慮して,規範的に解釈すべきで
あり,カラオケ法理と呼ばれるものも,その適用の一場面であると解される(最高
裁平成23年1月20日判決・民集65巻1号399頁参照)が,本件において,
本件リツイート者らを自動公衆送信の主体というべき事情は認め難い。控訴人は,
本件アカウント3〜5の管理者は,そのホーム画面を支配している上,ホーム画面
閲覧の社会的経済的利益を得ていると主張するが,そのような事情は,あくまでも
本件アカウント3〜5のホーム画面に関する事情であって,流通情報2(2)のデー
タのみが送信されている本件写真について,本件リツイート者らを自動公衆送信の
主体と認めることができる事情とはいえない。また,本件リツイート行為によって,
本件写真の画像が,より広い範囲にユーザーのパソコン等の端末に表\示されること
となるが,我が国の著作権法の解釈として,このような受け手の範囲が拡大するこ
とをもって,自動公衆送信の主体は,本件リツイート者らであるということはでき
ない。さらに,本件リツイート行為が上記の自動公衆送信行為自体を容易にしたと
はいい難いから,本件リツイート者らを幇助者と認めることはできず,その他,本
件リツイート者らを幇助者というべき事情は認められない。
(ウ) 控訴人は,自動公衆送信にも放送にも有線放送にも当たらない公衆
送信権侵害も主張するが,前記(ア)のとおり自動公衆送信に当たることからすると,
自動公衆送信以外の公衆送信権侵害が成立するとは認められない。
(3) 複製権侵害(著作権法21条)について
前記(2)イのとおり,著作物である本件写真は,流通情報2(2)のデータのみが送
信されているから,本件リツイート行為により著作物のデータが複製されていると
いうことはできない。したがって,複製権侵害との関係でも,控訴人が主張する「
ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTML データ等を「侵害情報」と捉える
ことはできず,「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTML データ等が「侵
害情報」であることを前提とする控訴人の複製権侵害に関する主張は,採用するこ
とができない。
(4) 公衆伝達権侵害(著作権法23条2項)について
著作権法23条2項は,「著作者は,公衆送信されるその著作物を受信装置を用
いて公に伝達する権利を専有する。」と規定する。
控訴人は,本件リツイート者らをもって,著作物をクライアントコンピュータに
表示させた主体と評価すべきであるから,本件リツイート者らが受信装置であるク\nライアントコンピュータを用いて公に伝達していると主張する。しかし,著作権法
23条2項は,公衆送信された後に公衆送信された著作物を,受信装置を用いて公
に伝達する権利を規定しているものであり,ここでいう受信装置がクライアントコ
ンピュータであるとすると,その装置を用いて伝達している主体は,そのコンピュ
ータのユーザーであると解され,本件リツイート者らを伝達主体と評価することは
できない。控訴人が主張する事情は,本件写真等の公衆送信に関する事情や本件ア
カウント3〜5のホーム画面に関する事情であって,この判断を左右するものでは
ない。そして,その主体であるクライアントコンピュータのユーザーが公に伝達し
ているというべき事情も認め難いから,公衆伝達権の侵害行為自体が認められない。
このように公衆伝達権の侵害行為自体が認められないから,その幇助が認められる
余地もない。
(5) 著作者人格権侵害について
ア 同一性保持権(著作権法20条1項) 侵害
前記(1)のとおり,本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている\n画像は,流通情報2(2)の画像とは異なるものである。この表示されている画像は,\n表示するに際して,本件リツイート行為の結果として送信された HTML プログラム
や CSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,上記のとおり
画像が異なっているものであり,流通情報2(2)の画像データ自体に改変が加えら
れているものではない。
しかし,表示される画像は,思想又は感情を創作的に表\現したものであって,文
芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう
著作物ということができるところ,上記のとおり,表示するに際して,HTML プロ
グラムや CSS プログラム等により,位置や大きさなどを指定されたために,本件ア
カウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3〜5のよ\nうな画像となったものと認められるから,本件リツイート者らによって改変された
もので,同一性保持権が侵害されているということができる。
この点について,被控訴人らは,仮に改変されたとしても,その改変の主体は,
インターネットユーザーであると主張するが,上記のとおり,本件リツイート行為
の結果として送信された HTML プログラムや CSS プログラム等により位置や大きさ
などが指定されたために,改変されたということができるから,改変の主体は本件
リツイート者らであると評価することができるのであって,インターネットユーザ
ーを改変の主体と評価することはできない(著作権法47条の8は,電子計算機に
おける著作物の利用に伴う複製に関する規定であって,同規定によってこの判断が
左右されることはない。)。また,被控訴人らは,本件アカウント3〜5のタイム
ラインにおいて表示されている画像は,流通情報2(1)の画像と同じ画像であるから,
改変を行ったのは,本件アカウント2の保有者であると主張するが,本件アカウン
ト3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は,控訴人の著作物である本\n件写真と比較して改変されたものであって,上記のとおり本件リツイート者らによ
って改変されたと評価することができるから,本件リツイート者らによって同一性
保持権が侵害されたということができる。さらに,被控訴人らは,著作権法20条
2項4号の「やむを得ない」改変に当たると主張するが,本件リツイート行為は,
本件アカウント2において控訴人に無断で本件写真の画像ファイルを含むツイート
が行われたもののリツイート行為であるから,そのような行為に伴う改変が「やむ
を得ない」改変に当たると認めることはできない。
イ 氏名表示権(著作権法19条1項)侵害\n
本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像には,控訴人\nの氏名は表示されていない。そして,前記(1)のとおり,表示するに際して HTML プ
ログラムや CSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,本件
アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3〜5の\nような画像となり,控訴人の氏名が表示されなくなったものと認められるから,控\n訴人は,本件リツイート者らによって,本件リツイート行為により,著作物の公衆
への提供又は提示に際し,著作者名を表示する権利を侵害されたということができ\nる。
ウ 名誉声望保持権(著作権法113条6項)侵害
本件アカウント3〜5において,サンリオのキャラクターやディズニーのキャラ
クターとともに本件写真が表示されているからといって,そのことから直ちに,「\n無断利用してもかまわない価値の低い著作物」,「安っぽい著作物」であるかのよ
うな誤った印象を与えるということはできず,著作者である控訴人の名誉又は声望
を害する方法で著作物を利用したということはできない。そして,他に,控訴人の
名誉又は声望を害する方法で著作物を利用したものというべき事情は認められない
から,本件リツイート者らは,控訴人の名誉声望保持権(著作権法113条6項
)を侵害したとは認められない。
(6) なお,控訴人は,本件アカウント2,4及び5の各保有者が自然人として
は同一人物であり,又はこれらの者が共同して公衆送信権を侵害した旨主張するが,
そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
(7)「侵害情報の流通によって」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)及び
「発信者」(同法2条4号)について
前記(5)ア,イのとおり,本件リツイート行為は,控訴人の著作者人格権を侵害す
る行為であるところ,前記(5)ア,イ認定の侵害態様に照らすと,この場合には,本
件写真の画像データのみならず,HTML プログラムや CSS プログラム等のデータを
含めて,プロバイダ責任制限法上の「侵害情報」ということができ,本件リツイー
ト行為は,その侵害情報の流通によって控訴人の権利を侵害したことが明らかであ
る。そして,この場合の「発信者」は,本件リツイート者らであるということがで
きる。
(8) 争点(2)について
本件アカウント2の流通情報2(3)及び(4)については,流通情報3〜5と同様に,
流通情報2(2)の画像が改変され,控訴人の氏名が表示されていないということが\nできるから,著作者人格権の侵害があるということができる。しかし,本件アカウ
ント1の流通情報1(6)及び(7)については,流通情報1(3)の画像と同じものが表示\nされているから,著作者人格権の侵害があると認めることはできない。これらにつ
いて著作権の侵害を認めることができないことは,流通情報3〜5と同様である。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成28(ネ)10101
原審はこちらです。
◆平成27(ワ)17928
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2020.03.25
令和1(ワ)19689 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和2年2月25日 東京地方裁判所
著作権侵害について発信者情報開示請求が認められませんでした。
(1) 争点2−1(本件発信者情報1は法4条1項1号の「当該権利の侵害に係
る発信者情報」に該当するか)について
原告は,本件投稿動画が投稿されたことにより原告動画に係る原告の公衆
送信権又は送信可能化権が侵害されたと主張しているところ,本件発信者情\n報1は,本件投稿行為から約1年8か月が経過した,平成31年4月28日
午後0時00分34秒(協定世界時)に本件サイトにログインした者の情報
であり,このログイン時に本件投稿行為が行われたものではないから,法4
条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないことは明ら
かである。
この点について,原告は,最終ログイン者が本件投稿動画の投稿者である
可能性が高いと主張するが,同人が,本件投稿動画が投稿された本件サイト\nに,ユーザ名とパスワードを用いてログインした者であるとしても,本件投
稿動画を投稿した者であると直ちに認定することはできず,本件投稿行為か
ら同人のログインまで約1年8か月もの期間が経過していることも考慮すれ
ば,同人と本件投稿動画を投稿した者が同一人物ではない可能性が相当程度\n残っており,その他,本件全証拠を精査しても,最終ログイン者が本件投稿
動画の投稿者であるとは認め難いというほかない。
また,原告は,仮に最終ログイン者が本件投稿動画を投稿した者ではない
としても,投稿した者と密接に関連する者であり,省令が「発信者その他侵
害情報の送信に係る者」の情報も発信者情報に該当することを規定している
ことからすれば,本件発信者情報1は開示の対象になると主張する。しかし,
本件において,最終ログイン者と本件投稿動画の投稿者がどのような関係に
あるのかを的確に認めるに足る証拠はなく,また,法4条1項1号の「当該
権利の侵害に係る発信者情報」との文言,及び省令の「発信者その他侵害情
報の送信に係る者」という文言からは,その文言内容や規定振りに照らして,
本件投稿行為を行った者以外の者である最終ログイン者の情報が,原告が指
摘するような理由によって直ちに,開示の対象となる発信者情報に当たると
いうことはできないというべきである。
以上によれば,原告の主張はいずれも採用することができず,本件発信者
情報1は,法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当し
ない。
(2) 争点2−2(本件発信者情報2又は同3は法4条1項1号の「当該権利の
侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
前記第2の1の前提事実によれば,本件発信者情報2及び同3は,平成3
1年4月28日午後00時00分34秒(協定世界時・最終ログイン時)に
本件サイトにログインがされた際の割当てに係るIPアドレスを,約1年8
か月前である本件投稿行為が行われた日時頃に割り当てられていた者に関す
る情報である。
そして,原告は,このような本件発信者情報2又は同3に関し,本件投稿
行為が行われた日時頃に上記IPアドレスを割り当てられていた者は,本件
投稿行為をした者である可能性が高いものであるから,同人の情報に係る本\n件発信者情報2又は同3は,法4条1項1号の発信者情報に該当する旨主張
する。
しかし,前記(1)で説示したとおり,本件投稿行為から最終ログイン時まで
は約1年8か月の期間があることなどを考慮すれば,最終ログイン者が本件
投稿動画の投稿者であると認め難いというほかなく,ひいては,最終ログイ
ン時から約1年8か月も前である本件投稿行為が行われた日時頃に,本件サ
イトへの最終ログインの際の割当てに係るIPアドレスを割り当てられてい
た者が,本件投稿行為を行った者であるとも認め難いというほかない。
以上によれば,原告の主張はいずれも採用することができず,本件発信者
情報2及び同3は,いずれも法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信
者情報」に該当しない。
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2020.01. 8
平成30(ワ)32519等 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和元年10月30日 東京地方裁判所
YouTubeに対する発信者情報開示請求が一部、認められました。なお、利用者の住所(本件発信者情報2−2)については、動画投稿の際に登録が必要となるアカウントとは独立した異なるものであるとして、認められませんでした。
原告は,被告グーグルが本件発信者情報2−2を保有している旨主張する。
しかしながら,被告グーグルは,原告の上記主張を否認しており,他に被告グー
グルが本件発信者情報2−2を保有していることを認めるに足りる的確な証拠はな
い。
この点,証拠(甲6,7,乙5〜8)及び弁論の全趣旨によれば,本件サイトへ
の動画投稿により広告収入を得ようとする利用者は,支払を受ける住所を登録して
Google AdSenseアカウントを開設する必要があり,同アカウントの
中には被告グーグルが管理するものがあるが,同アカウントは,本件サイトへの動
画投稿の際に登録が必要となるアカウントとは独立した異なるものであることが認
められる。そうすると,本件各投稿者が本件各動画の投稿により広告収入を得る目
的でGoogle AdSenseアカウントへの登録をし,その結果,被告グー
グルが本件各投稿者に係る支払先住所に係る情報を管理していたとしても,同情報
は,本件各動画の投稿に用いられた各アカウントを登録するために用いられたもの
には該当しないから,被告グーグルが本件発信者情報2-2を保有しているというこ
とはできない。
よって,原告の主張は採用することができない。
◆判決本文
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2019.03.15
平成30(ワ)19731 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 平成31年2月28日 東京地方裁判所
脚を写した写真について著作物性ありとして、東京地裁47部は発信者情報の開示を認めました。該当写真は、判決文中にあります。
写真は,被写体の選択・組合せ・配置,構図・カメラアングルの設定,シャ\nッターチャンスの捕捉,被写体と光線との関係(順光,逆光,斜光等),陰影
の付け方,色彩の配合,部分の強調・省略,背景等の諸要素を総合してなる一
つの表現であり,そこに撮影者等の個性が何らかの形で表\れていれば創作性が
認められ,著作物に当たるというべきである。
これを本件についてみると,本件写真2は,別紙写真目録2記載のとおりで
あるところ,フローリング上にスリッパを履いて真っすぐに伸ばした状態の両
脚とテーブルの一部を主たる被写体とし,大腿部の上方から足先に向けたアン
グルで,右斜め前方からの光を取り入れることで陰影を作り出すとともに脚の
一部を白っぽく見せ,また,当該光線の白色と,テーブル,スリッパ及びショ
ートパンツの白色とが組み合わさることで,脚全体が白っぽくきれいに映るよ
うに撮影されたカラー写真であり,被写体の選択・組合せ,被写体と光線との
関係,陰影の付け方,色彩の配合等の総合的な表現において,撮影者の個性が\n表れているものといえる。したがって,本件写真2は,創作的表\現として,写真の著作物であると認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
2 争点2(公衆送信権侵害の成否)
(1) 本質的特徴を感得できるかについて
著作物の公衆送信権侵害が成立するためには,これに接する者が既存の著
作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができることを要する。\nこれを本件についてみると,証拠(甲3の2,9)及び弁論の全趣旨によ
れば,本件画像には,本件写真2の下側の一部がほんの僅かに切り落とされ
ているほかは,本件写真2がそのまま用いられていることが認められる。そ
して,本件画像は,解像度が低く,本件写真と比較して全体的にぼやけたも
のとなっているものの,依然として,上記1で説示した,本件写真2の被写
体の選択・組合せ,被写体と光線との関係,陰影の付け方,色彩の配合等の
総合的な表現の同一性が維持されていると認められる。\nしたがって,本件画像は,これに接する者が,本件写真2の表現上の本質\n的な特徴を直接感得することができるものであると認められる。これに反す
る被告の主張は採用できない。
(2) 本件画像アップロードと本件投稿の関係について
ア 前記前提事実(3),証拠(甲3,5,6,11ないし13)及び弁論の
全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 「たぬピク」は,「up@vpic(省略)」宛てに画像を添付したメール
を送信すると,当該画像がインターネット上にアップロードされたUR
Lが,送信元のメールアドレス宛てに返信され,当該URLを第三者に
送るなどして,当該画像を第三者と共有することができるサービスであ
る。
(イ) 本件掲示板を含むたぬき掲示板(2ch2(省略))をスマートフォンで
表示する場合には,「たぬピク」により取得した,画像のURLが投稿されると,当該URLが表\示されるのではなく,当該URLにアップロ
ードされている画像自体が表示される仕組みとなっている。これにより,\n当該URLをクリックしなくても,たぬき掲示板上において,他の利用
者と画像を共有することが可能となっている。\n
(ウ) 本件画像は,平成30年3月22日午後11時53分41秒に,「up
@vpic(省略)」宛てにメール送信され,本件画像URL上にアップロ
ードされた(本件画像アップロード)。
(エ) 本件画像URLは,同日午後11時54分46秒に,被告の提供する
インターネット接続サービスを利用して,本件掲示板に投稿された(本
件投稿)。
イ 以上の事実関係を前提に,本件投稿によって公衆送信権の侵害が成立す
るか検討する。
まず,本件画像は,前記ア(ウ)のとおり,本件投稿に先立って,インター
ネット上にアップロードされているが,この段階では,本件画像URLは
「up@vpic(省略)」にメールを送信した者しか知らない状態にあり,いま
だ公衆によって受信され得るものとはなっていないため,本件画像を「up
@vpic(省略)」宛てにメール送信してアップロードする行為(本件画像ア
ップロード)のみでは,公衆送信権の侵害にはならないというべきである。
もっとも,本件においては,前記ア(ウ)及び(エ)のとおり,メール送信に
よる本件画像のアップロード行為(本件画像アップロード)と,本件画像
URLを本件掲示板に投稿する行為(本件投稿)が1分05秒のうちに行
われているところ,本件画像URLは本件画像をメール送信によりアップ
ロードした者にしか返信されないという仕組み(前記ア(ア))を前提とすれ
ば,1分05秒というごく短時間のうちに無関係の第三者が当該URLを
入手してこれを本件掲示板に書き込むといったことは想定し難いから,本
件画像アップロードを行った者と本件投稿を行った者は同一人物であると
認めるのが相当である。そして,前記ア(イ)のとおり,本件画像URLが本
件掲示板に投稿されることにより,本件掲示板をスマートフォンで閲覧し
た者は,本件画像URL上にアップロードされている本件画像を本件掲示板上で見ることができるようになる。そうすると,本件投稿自体は,UR
Lを書き込む行為にすぎないとしても,本件投稿をした者は,本件画像を
アップロードし,そのURLを本件掲示板に書き込むことで,本件画像の
データが公衆によって受信され得る状態にしたものであるから,これを全
体としてみれば,本件投稿により,原告の本件写真2に係る公衆送信権が
侵害されたものということができる。以上の認定に反する被告の主張は採
用できない。
3 小括
以上からすれば,本件投稿により,原告の本件写真2に係る著作権(公衆送
信権)が侵害されたことが明らかであると認められる。また,原告がかかる著
作権侵害の不法行為による損害賠償請求権を行使するためには,被告が保有す
る別紙発信者情報目録記載の情報が必要であると認められる。
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2018.05.22
平成28(ネ)10101 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成30年4月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
発信者情報開示事件です。1審では、リツイートはインラインリンクであるので、著作権侵害に該当しないと判断され、請求は棄却されました。知財高裁(2部)は、著作者人格権侵害があったとして、一部の発信者情報について開示を認めました。
前記(1)のとおり,本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている\n画像は,流通情報2(2)の画像とは異なるものである。この表示されている画像は,\n表示するに際して,本件リツイート行為の結果として送信された HTML プログラム
や CSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,上記のとおり
画像が異なっているものであり,流通情報2(2)の画像データ自体に改変が加えら
れているものではない。
しかし,表示される画像は,思想又は感情を創作的に表\現したものであって,文
芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう
著作物ということができるところ,上記のとおり,表示するに際して,HTML プロ
グラムや CSS プログラム等により,位置や大きさなどを指定されたために,本件ア
カウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3〜5のよ\nうな画像となったものと認められるから,本件リツイート者らによって改変された
もので,同一性保持権が侵害されているということができる。
この点について,被控訴人らは,仮に改変されたとしても,その改変の主体は,
インターネットユーザーであると主張するが,上記のとおり,本件リツイート行為
の結果として送信された HTML プログラムや CSS プログラム等により位置や大きさ
などが指定されたために,改変されたということができるから,改変の主体は本件
リツイート者らであると評価することができるのであって,インターネットユーザ
ーを改変の主体と評価することはできない(著作権法47条の8は,電子計算機に
おける著作物の利用に伴う複製に関する規定であって,同規定によってこの判断が
左右されることはない。)。
また,被控訴人らは,本件アカウント3〜5のタイム
ラインにおいて表示されている画像は,流通情報2(1)の画像と同じ画像であるから,
改変を行ったのは,本件アカウント2の保有者であると主張するが,本件アカウン
ト3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は,控訴人の著作物である本\n件写真と比較して改変されたものであって,上記のとおり本件リツイート者らによ
って改変されたと評価することができるから,本件リツイート者らによって同一性
保持権が侵害されたということができる。さらに,被控訴人らは,著作権法20条
4項の「やむを得ない」改変に当たると主張するが,本件リツイート行為は,本件
アカウント2において控訴人に無断で本件写真の画像ファイルを含むツイートが行
われたもののリツイート行為であるから,そのような行為に伴う改変が「やむを得
ない」改変に当たると認めることはできない。
イ 氏名表示権(著作権法19条1項)侵害
本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像には,控訴人\nの氏名は表示されていない。そして,前記(1)のとおり,表示するに際して HTML プ
ログラムや CSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,本件
アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3〜5の\nような画像となり,控訴人の氏名が表示されなくなったものと認められるから,控\n訴人は,本件リツイート者らによって,本件リツイート行為により,著作物の公衆
への提供又は提示に際し,著作者名を表示する権利を侵害されたということができ\nる。
・・・
(7) 「侵害情報の流通によって」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)及び
「発信者」(同法2条4号について
前記(5)ア,イのとおり,本件リツイート行為は,控訴人の著作者人格権を侵害す
る行為であるところ,前記(5)ア,イ認定の侵害態様に照らすと,この場合には,本
件写真の画像データのみならず,HTML プログラムや CSS プログラム等のデータを
含めて,プロバイダ責任制限法上の「侵害情報」ということができ,本件リツイー
ト行為は,その侵害情報の流通によって控訴人の権利を侵害したことが明らかであ
る。そして,この場合の「発信者」は,本件リツイート者らであるということがで
きる。
◆判決本文
一審はこちらです。
◆平成27(ワ)17928
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2017.07.25
平成28(ワ)37610 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 平成29年7月20日 東京地方裁判所(46部)
著作権侵害を理由として発信者情報の開示が認められました。被告は、動画の引用であると反論しましたが、裁判所はこれを否定しました。
被告は,本件発信者動画は本件楽曲の著作権を本件原告動画が侵害して
いることを示して批評する目的で本件原告動画の一部を引用したもので
あり,その引用は公正な慣行に合致し,正当な範囲内で行われたから,本
件投稿行為は著作権法32条1項の適法な引用であると主張する。
イ そこで,まず,本件発信者動画における本件原告動画の利用が被告の主
張する上記批評目的との関係で「正当な範囲内」(著作権法32条1項)
の利用であるという余地があるか否かにつき検討する。
前提事実 ア,イのとおり,1)本件発信者動画は冒頭から順に本件冒頭
部分(約3分38秒),本件楽曲使用部分(約2分18秒)及び本件楽曲
動画(約4分4秒)から構成され,2)本件楽曲使用部分以外に本件原告動
画において本件楽曲が使用された部分がない。ここで,本件原告動画にお
いて本件楽曲が使用されている事実を摘示するためには,本件楽曲使用部
分又はその一部を利用すれば足り
に照らしても,本件原告動画において本件楽曲が使用されている事実を摘
示するために本件冒頭部分を利用する必要はないし,上記の事実の摘示と
の関係で本件楽曲部分の背景等を理解するために本件冒頭部分が必要で
あるとも認められない。そうすると,仮に本件発信者に被告主張の批評目
的があったと認められるとしても,本件発信者動画における本件冒頭部分
も含む本件原告動画の上記利用は目的との関係において「正当な範囲内」
の利用であるという余地はない。
この点につき,被告は,本件楽曲使用部分が本件原告動画に含まれるこ
とを示すために本件冒頭部分を利用したと主張する。しかし,上記各部分
の内容(前提事実 ア)に照らせば,本件楽曲使用部分が本件原告動画に
含まれると判断するために本件冒頭部分の利用が必要であると認めるこ
とはできない。
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2016.10.11
平成27(ワ)17928 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 平成28年9月15日 東京地方裁判所
発信者情報開示請求です。争点は、リツイートする行為が著作権侵害かです。裁判所はリツィートの仕組みから判断して、公衆送信には該当しないと判断しました。
前記前提事実(3)ウ及び(4)記載のとおり,本件写真の画像が本件アカウント
3〜5のタイムラインに表示されるのは,本件リツイート行為により同タイ\nムラインのURLにリンク先である流通情報2(2)のURLへのインラインリ
ンクが自動的に設定され,同URLからユーザーのパソコン等の端末に直接\n画像ファイルのデータが送信されるためである。すなわち,流通情報3〜5
の各URLに流通情報2(2)のデータは一切送信されず,同URLからユーザ
ーの端末への同データの送信も行われないから,本件リツイート行為は,そ
れ自体として上記データを送信し,又はこれを送信可能化するものでなく,\n公衆送信(著作権法2条1項7号の2,9号の4及び9号の5,23条1
項)に当たることはないと解すべきである。
また,このようなリツイートの仕組み上,本件リツイート行為により本件
写真の画像ファイルの複製は行われないから複製権侵害は成立せず,画像フ
ァイルの改変も行われないから同一性保持権侵害は成立しないし,本件リツ
イート者らから公衆への本件写真の提供又は提示があるとはいえないから氏
名表示権侵害も成立しない。さらに,流通情報2(2)のURLからユーザーの
端末に送信された本件写真の画像ファイルについて,本件リツイート者らが
これを更に公に伝達したことはうかがわれないから,公衆伝達権の侵害は認
められないし,その他の公衆送信に該当することをいう原告の主張も根拠を
欠くというほかない。そして,以上に説示したところによれば,本件リツイ
ート者らが本件写真の画像ファイルを著作物として利用したとは認められな
いから,著作権法113条6項所定のみなし侵害についても成立の前提を欠
くことになる。
したがって,原告の主張する各権利ともその侵害が明らかであるというこ
とはできない。
これに対し,原告は,本件リツイート行為による流通情報2(2)のURLか
らクライアントコンピューターへの本件写真の画像ファイルの送信が自動公
衆送信に当たり,本件リツイート者らをその主体とみるべきであるから,本
件リツイート行為が公衆送信権侵害となる旨主張する。
そこで判断するに,本件写真の画像ファイルをツイッターのサーバーに入
力し,これを公衆送信し得る状態を作出したのは本件アカウント2の使用者
であるから,上記送信の主体は同人であるとみるべきものである(最三小判
平成23年1月18日判決・民集65巻1号121頁参照)。一方,本件リ
ツイート者らが送信主体であると解すべき根拠として原告が挙げるものにつ
いてみるに,証拠(甲3,4)及び弁論の全趣旨によれば,ツイッターユー
ザーにとってリツイートは一般的な利用方法であること,本件リツイート行
為により本件ツイート2は形式も内容もそのまま本件アカウント3〜5の各
タイムラインに表示されており,リツイートであると明示されていることが\n認められる。そうすると,本件リツイート行為が本件アカウント2の使用者
にとって想定外の利用方法であるとは評価できないし,本件リツイート者ら
が本件写真を表示させることによって利益を得たとも考え難いから,これら\nの点から本件リツイート者らが自動公衆送信の主体であるとみることはでき
ない。
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2016.04. 5
平成27(ワ)7540 発信者情報開示請求 著作権 民事訴訟 平成28年3月15日 大阪地方裁判所
「アクシスフォーマー.com」のPunycode(ピュニコード)のドメイン名を使用する行為が不競法2条1項12号の不正競争に該当するかが争われました。裁判所は、原告の特定商品等表示と類似のドメイン名であるとして、プロバイダーに発信者情報の開示を命じました。
本件日本語ドメイン名の「アクシスフォーマー.com」のうち,「.com」の
部分はいわゆるトップレベルドメインであって識別力が弱いから,本件日本
語ドメイン名の要部は,「アクシスフォーマー」の部分であるところ,これ
は,不正競争防止法2条1項12号の特定商品等表示に該当する原告製品の\n名称と同一であるから,本件日本語ドメイン名は,認められる。
・・・
ところで原告製品の購入を検討しようとする需要者がインターネットを利
用する場合,原告製品名である「アクシスフォーマー」を検索ワードとして,
グーグル等の検索エンジンを利用して検索するのが一般的と考えられるが,
本件サイトは,本件日本語ドメイン名に「アクシスフォーマー」を含むもの
であるから,本件サイトは検索結果として上位になり,またそのドメイン名
から目的とする検索サイトであると理解されるので,上述のアクシスフォー
マーという原告製品名を手掛かりにしてインターネット検索をした一般的な
需要者は,必然的に本件サイトに誘導されたものと認められる。
そして,一旦,本件サイトにアクセスした場合,本件サイトは,確かに原
告製品を販売商品として取り扱うサイトであるので,その内容に注目して閲
覧することになるが,本件サイトのウェブページの記載内容は,一般的な商
品取扱いサイトのように取扱商品の優秀性を謳うものではなく,上記(2)にみ
られるように,原告製品が問題のある商品というだけでなく,それを製造販
売する原告さえも問題があるようにいうものである。すなわち,被告は,本
件発信者が大量の原告製品を抱えてこれを販売するために本件サイトを開設
したように主張するが,その本件サイトでは,原告製品に興味を持ち,その
購入を検討しようとしてインターネットを利用してアクセスしてきた需要者
に対し,ウェブページの随所において,需要者の購入意欲を損なうことを意
図しているとしか考えられない内容の記載をしているのであり,また,その
記載は,併せて製造者としての原告の信用を損なうことをも意図していると
解さざるを得ないものである。結局,これらのことからすると,本件サイト
は,被告が主張するような原告製品の販売促進を意図したものではなく,む
しろ原告が主張するように,原告に「損害を加える目的」で開設されたサイ
トであると断ぜざるを得ないというべきである。
(4) したがって,本件サイトの契約者である本件発信者は,他人に損害を加え
る目的で,原告の特定商品等表示である原告製品の名称と類似の本件日本語\nドメイン名を使用したものであり,これは不正競争防止法2条1項12号の
不正競争に当たる。
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2016.02.21
平成27(ワ)21233 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 平成28年1月29日 東京地方裁判所
著作権侵害を根拠に発信者情報開示が認められました。
このように,翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物とを対比した場合に同一性を有する部分が,著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要であるところ,「創作的」に表\現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,筆者の個性が何らかの形で表れていれば足りるというべきである。そして,個性の表\れが認められるか否かについては,表現の選択の幅がある中で選択された表\現であるか否かを前提として,当該著作物における用語の選択,全体の構成の工夫,特徴的な言い回しの有無等の当該著作物の表\現形式,当該著作物が表現しようとする内容・目的に照らし,それに伴う表\現上の制約の有無や程度,当該表現方法が,同様の内容・目的を記述するため一般的に又は日常的に用いられる表\現であるか否か等の諸事情を総合して判断するのが相当である。
・・・
(3) また,本件記事2は,これまで台湾における「五術」に関わり,その際に不快な思いもしたものの,新たな試験ができたことで時代が変わり始めたなどと表現した文章であって,一つの文(文字数にして143文字)からなるものである。その表\現においては,用語の選択,全体の構成の工夫,特徴的な言い回しなどにおいて,一見して作者の個性が表\れていることは明らかである。これに対し,本件情報14ないし17は三つの文からなる文章であるが,このうち第1文は,やはり,台湾における「五術」に関わり,その際にあきれたこともあったものの,新たな制度ができたことで時代が変わったなどと表現した文章であって,文字数にして123文字からなるものであり,具体的表\現についてみても,本件情報14ないし17の第1文の表現は本件記事2の表\現と相当程度一致しており,その違いは,本件情報14及び15では31文字,本件情報16及び17では32文字でしかなく(別紙対比表2参照),「台湾における五術」,「江湖派理論」,「宗教による術数を利用した」「金儲けを目撃する度に」など,用語の選択,全体の構\成,文字の
配列,特徴的な言い回しにおいて酷似している。そして,その相違部分の内容をみても,本件記事2のうち「五術」の「学術発表にかかわって」という点を,本件情報14ないし17においては「五術」の「詐欺\発表にかかわって」に,「とても不愉快な文化の冒涜・歪曲」という点を「とても愉快な文化の笑い話・小話」に,「胸くそが悪かったのですが」という点を「呆れたのですが」に,「国家規模での認定試験」という点を「国家機関での検閲制度」に置き換えているにすぎない。\nしたがって,本件情報14ないし17は,本件記事2に依拠したうえで,同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して上記異なる表現を用いたものといえるのであって,仮に上記相違部分について作成者の何らかの個性が表\れていて創作性が認められるとしても,他に異なる表現があり得るにもかかわらず,本件記事2と同一性を有する表\現が一定以上の分量にわたるものであって,本件記事2の表現の本質的な特徴を直接感得することができるものであるから,翻案権侵害に当たることが明らかであるというべきである。
(4) 以上のとおり,本件情報1ないし17は原告の翻案権を侵害することが明らかである。
また,そうである以上,本件情報1ないし17を本件ウェブサイトに発信する行為は,原告の公衆送信権を侵害するものであることも明らかというべきである。
◆判決本文
◆こちらが対象の表現です。
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2015.01. 8
平成26(ワ)18199 発信者情報開示請求事件 不正競争 民事訴訟 平成26年12月18日 東京地方裁判所
プロバイダーに対する発信者情報開示が認められました。
これらの事実を総合考慮すると,本件ドメイン名の現在までの登録者や本件サイト1の契約者は,訴外会社又はその関係者など訴外会社商品の販売に関わる者(以下「訴外会社商品関係者」という。)である蓋然性が高
いと認められるのであって,本件サイト1の契約者は,原告表示と類似する本件ドメイン名を使用して,原告商品との混同を生じさせ,その顧客吸引力を利用して,訴外会社商品に誘引して販売利益を上げようとして,本件ドメイン名を本件サイト1に使用していると認められる。
ウ したがって,本件サイト1の契約者は,不正の利益を得る目的で,原告の特定商品表示である原告表\示と類似の本件ドメイン名を使用するものであり,不正競争防止法2条1項12号の不正競争に当たる。
◆判決本文
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2014.12.18
平成26(ワ)7280 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 平成26年11月26日 東京地方裁判所
本件発信者の行為は原告の複製権及び公衆送信権を侵害するものであるとして、発信者開示が認められました。その前提として、原告プログラムは著作物であると判断されました。
以上のとおり,数値の突合及びそれに伴う条件分岐にいかなるコマンドをどのように組み合わせるか,条件が成立する場合としない場合の処理をどのような順序で記載するか,どのタイミングでテーブルないしメモリ領域間で情報を移動させるか,共通する処理があるときに共通する部分をまとめて記述するかそれとも個別に記述するかなどについて,本件色切替パッチと異なる表現を採用しても,本件色切替パッチにおいて実現される処\n
理と同様の処理を行うことが可能である。そして,使用可能\なコマンドは多数存在すること(甲38),本件色切替パッチのコード数は約100行あることからすれば,全体としてみれば,本件色切替パッチにおいて実現される処理を行うために用いうるコマンド,その組み合わせ及び表現順序の選択の余地は大きいものというべきである。\n原告は,それだけの選択の余地がある中で,工夫を凝らして本件色切替パッチを作成したものであるから(甲14),本件色切替パッチは,ありふれた表現ではなく,何らかの作成者の個性,すなわち,表\現上の創作性が表れていると認められる。\n(3) したがって,本件パッチのうち,少なくとも本件色切替パッチは,プログラムの著作物であると認められる。
◆判決本文
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2014.11.10
平成26(ワ)11026 発信者情報開示等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成26年10月15日 東京地方裁判所
クチコミサイトにおける評価者についての発信者情報の開示請求が認められました。
本件サイト中に存在した,原告に関する2012年8月7日の口コミ(本件口コミ1)は,「関西」とのみ記載された投稿者から投稿された体裁の,「飛び込みの営業で、「キャンペーン価格で」という。/見積もりをとったら、おどろき。単価はそこそこだが、見積もった壁面の面積が実際の面積のおよそ2倍。こちらが我が家の壁面の面積など知らないと思ったのかしら。/足場代等をゼロにするといっても、これではたまらない。見積の盲点だと思う。/依頼するなら気をつけた方がいいでしょう。」というものであった(「/」は改行を示す。甲4の5)。
本件口コミ1は,一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると,原告が,実際の壁面の2倍の面積で(それに単価を乗じた不当に高額の)見積書を作成し,足場代等を無料にすると言って(不当に高額な見積りから割り引いたように見せかけ)不当な営業行為を行っているとの事実を摘示するものであり,原告の社会的評価を低下させるものである。
原告代表者の陳述書(甲8)及び原告の見積書(甲9の1ないし5)によれば,原告の使用している見積書には「仮設足場」の欄があり,これを無料にするとの営業行為は行っていないこと,また,壁の面積については総面積から窓やドア等の開口部を非塗装面として差し引くため,実際の面積より少なくなるのが通常であり,壁面の面積を実際の面積の2倍で見積もるという営業行為も行っていないことが認められるから,本件口コミ1について違法性を阻却する事由も存在しないと認められる。\n
◆判決本文
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2014.08.13
平成26(ワ)3577 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 平成26年7月31日 東京地方裁判所
P-Pプログラムを用いた違法音楽配信起こったものについて、プロバイダに対して発信情報の開示が認められました。
本件システムは,クロスワープ社が開発したインターネット上の著作権侵害を検出するためのシステムであり,平成15年から稼働しており,Gnutellaネットワークには平成20年から対応している。
本件システムは,市販のCDを複製した音楽ファイルのファイル名に含まれていると考えられるキーワードを設定し,これを送信してキー情報を取得し,取得した複数のキー情報から一定の選択をした後,当該ファイルを保持していると考えられるパソコンにダウンロードを要求し,当該ファイルが公開状態にあれば当該パソ\コンから自動的に当該ファイルをダウンロードするものである。ダウンロードされたファイルそのもの及び送信元のパソコンのIPアドレス,ポート番号,ファイルハッシュ値,ファイルサイズ,ダウンロード完了時といったダウンロード時の情報は,自動的にデータベースに記録される。本件システムは,毎日1回,通信により正確な日本標準時を保つように設定されている。\nイ クロスワープ社は,本件システムによるGnutellaネットワークの監視を随時行っており,平成25年4月15日に別紙発信者情報目録記載番号4のファイルを,同月21日に番号3のファイルを,同年6月17日に番号6のファイルを,同月23日に番号5のファイルを,同年7月14日に番号1及び2の各ファイルをそれぞれダウンロードした。
ウ クロスワープ社は,平成26年1月17日午後3時30分から同月28日午後3時30分までの間,プライベートアドレスを「●省略●」,グローバルIPアドレスを「●省略●」とするネットワーク構成の試験用OSから,Gnutellaネットワーク上に,試験ファイルとして50個のファイル(「26eb7b64863890a8」に「_001」から「_050」までの番号を付したmp3ファイル)を公開し,他方,本件システムにおいて,上記50個のファイルの番号部分を除いた部分(「26eb7b64863890a8」)を検索キーワードとして,Gnutellaネットワークの監視及びダウンロードをするという実験をした。\n本件システムは,上記50個のファイルのうち5個のファイルを合計245回ダウンロードした。そのファイルの送信元のIPアドレスはいずれも「●省略●」であり,上記試験用OSのグローバルIPアドレスと一致した。
(3) 上記認定事実によれば,クロスワープ社の実験のとおり,本件システムが検出する音楽ファイルはGnutellaネットワーク上に実際に公開されているものであり,本件システムは当該ファイルを記録している端末のIPアドレスを正確に検出し,当該ファイルをダウンロードするものと認められる。
したがって,別紙発信者情報目録の「ダウンロード日時」欄記載の日時に本件各IPアドレスを用いてインターネットに接続していた本件各契約者は,本件各音楽ファイルをGnutellaネットワークを介して多数の者に対し送信可能な状態にしていたものと認められる。\nそして,本件において,著作権法102条1項により準用される同法30条以下に定める著作隣接権の制限事由が存在することはうかがわれないから,本件各契約者が各原告の本件各レコードに係る送信可能化権を侵害したことは明らかというべきである。\n
◆判決本文
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2014.07. 4
平成26(ワ)3570 著作権 民事訴訟 平成26年06月25日 東京地方裁判所
PtoPソフト(Gnutella互換ソ\フト)による著作権侵害についてレコード会社が、プロバイダに対して、発信者情報の開示を求めました。裁判所はこれを認めました。
被告は,無関係の第三者が契約者のIPアドレスや端末を不正に利用した可能性や,契約者の端末が暴\露ウィルスに感染した場合など,契約者の意思によらず送信可能になった可能\性もあるから,上記IPアドレスの割当てを受けた契約者がプロバイダ責任制限法2条4号にいう「発信者」に該当するとは限らない旨主張するが,被告が主張するような事情は飽くまで一般的抽象的な可能性を述べるものにすぎず,本件全証拠によっても,これら不正利用や暴\露ウイルスへの感染等を疑わせる具体的な事情は認められない。そして,前記1(4)エのとおり,被告から「219.108.203.208」のIPアドレスの割当てを受けた者により,それぞれインターネットに接続され,Gnutella互換ソフトウェアによって,インターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にされ,本件システムにより本件ファイル1及び2がダウンロードされたものであるから,上記IPアドレスを使用してインターネットに接続する権限を有していた契約者を「侵害情報の発信者」であると推認するのが合理的であり,契約者のIPアドレス等の不正利用や暴\露ウィルスへの可能性などの一般的抽象的可能\性の存在が,上記認定の妨げになるものとは認められないというべきである。(4) 以上の検討によれば,本件利用者1及び2は,原告レコード1及び2の複製物である本件ファイル1及び2をコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置した上,当該コンピュータを,被告のインターネット接続サービスを利用して,被告からIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し,Gnutella互換ソフトウェアにより,本件ファイル1及び2をインターネットに接続している不特定の他の同ソ\フトウェア利用者(公衆)からの求めに応じて,インターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にしたことが認められるから,本件利用者1及び2の上記行為は,原告らが原告レコード1及び2について有する送信可能化権を侵害したことが明らかであると認められる。そして,原告らは,原告ら各自が原告レコード1及び2について有する送信可能\化権に基づき,本件利用者1及び2に対して損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるところ,本件利用者1及び2の氏名・住所等は原告らに不明であるため,上記請求を行うことが実際上できない状態にあることが認められる。〔甲1の1,2,甲4,5〕したがって,原告らには,被告から本件利用者1及び2に係る発信者情報(氏名,住所及び電子メールアドレス)の開示を受けるべき正当な理由がある。
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2014.06.12
平成25(ワ)30183 発信者情報開示請求事件 不正競争 民事訴訟 平成26年06月04日 東京地方裁判所
英会話教材「スピードラーニング」を販売している会社が、不競法2条1項14号に基づく発信者情報の開示を求めました。裁判所は、これを認めました。
(1) 本件表示は,「スピードラーニングの口コミって嘘でしょ。効果の無い英会話教材」と表\示したタイトル部分と,冒頭に「スピードラーニングの口コミって嘘でしょ。効果の無い英会話教材」と大きく表示し,その下部に「スピードラーニングの口コミは嘘としか思えません。今話題のステマと言わんばかりの高評価に呆れます。」とやや小さく表\示した説明部分を含むものである(甲1の1)。ここで,「ステマ」とはステルスマーケティングの略であり,消費者に宣伝と気付かれないように宣伝行為を行うことを意味するものである(甲2の3)。(2) 上記(1)の表示は,本件サイトの管理者において,原告教材が口コミにおいて高評価であるにもかかわらず,原告教材に効果を感じられなかったこと及び上記高評価はステルスマーケティングによるものとも思われるほどであり,呆れる旨を表\示したものと解される。しかし,当該表示が名誉又は信用を毀損するものに当たるか否かは,一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきところ,一般読者の普通の注意と読み方によった場合,上記(1)の表示は,原告教材の口コミが原告教材を実際に購入し,使用した者によって作成されたものではなく,原告がステルスマーケティングによって作成した嘘のもの,すなわち原告が自ら又は第三者に依頼して意図的に作出したものの可能\性があるとの印象を与えるものであるということができる。原告が外国語教材の企画・開発及び販売等を業とする法人であることは前記前提事実(1)アのとおりであるところ,原告が,その販売する商品である原告教材につき,高評価の口コミを自ら作出している可能性があるということは,原告の名誉,信用等の社会的評価を低下させるものであるというべきである。(3) 本件表示は,上記(1)の表示に続けて,「実際の購入者しか分からないと思いますが,スピードラーニングの教材内容じゃ,英会話は上達しませんし,効果もありません。」と表\示した説明部分をも含むものであるから(甲1の1),上記(1)の表示は,本件サイトの管理者において,原告教材に効果が感じられなかったことに基づいて記載されているものと認められるところ,本件サイトの体裁等(甲1の1)に照らし,本件サイト管理者は一個人であることがうかがわれるのであるから,このような個人において,原告教材に効果を感じられなかったことは,原告が原告教材につき高評価の口コミを自ら作成している可能\性があることを裏付けるに足るものではない。したがって,本件において,本件表示が真実であり,又は真実であると信ずるにつき相当の理由があるものとは認められず,本件表\示に違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情は存在しないものと認められる。 (4) したがって,本件表示の掲載は,原告の名誉・信用等の社会的評価を低下させるものであって,原告人格権を侵害するものであることが明らかである。\n
◆判決本文
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2013.04. 3
平成24(ワ)16391 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年03月21日 東京地方裁判所
プロバイダに対する発信者情報開示が認められました。
本件メール本文の内容は,別紙対照表の「本件メールの内容」欄に記載のとおり(ただし,下線を除く。)であり,「「人形形代」を書きまくりましょう!」,「やっと「人形ムード」になった方も多いのではないでしょうか?」,「B先生が「伊勢神業」のお取次をしてくださるまでの貴重なこの時間は,私たちに「人形形代」をもっともっと書かせて頂くための時間ではないでしょうか?」などの個性的な表\現を含み,十数文からなる文章であって,誰が作成しても同様の表\現になるものとはいえないから,本件メールは,言語の著作物に該当すると認められる。被告は,本件メールの表現内容は,事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道に当たると主張するが,本件メールは,個性的な表\現を含むのであって,事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道に当たるということはできない。被告の上記主張は,採用することができない。
・・
本件記事と本件メールの各記載内容を対照すると,別紙対照表のとおり,前記のような個性的な表\現を含む本件記事の記載内容の大半が本件メールの記載内容と同一であり,異なる部分は,原告の氏名の一部を伏せ字として表示したり,「皆様の支部での「60万時間祈願」の状況はいかがでしょうか?」における「で」と「の状況」を削除するなど,些細な点に過ぎず,本件記事には本件メールの表\現上の本質的な特徴の同一性が維持され,本件記事に接した者は本件メールの表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,本件記事は,本件メールを有形的に再製したものと認められる。したがって,本件記事をインターネット上のウェブサイトである本件ページにアップロードして掲載する行為は,原告が有する本件メールの複製権及び送信可能\化権を侵害する。なお,被告は,いったん送信可能化された時点で権利侵害が発生し,その後は新たな権利侵害は生じないと主張するが,本件記事を本件ページに初めてアップロードした後においても,本件記事を含むhtmlファイルを再度アップロードして本件記事を自動公衆送信し得るようにすると,その都度送信可能\化権の侵害が生じるというべきである。被告の上記主張は,採用することができない。
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2012.07. 6
平成23(ワ)37057 発信者情報開示請求事件 商標権 民事訴訟 平成24年06月28日 東京地方裁判所
あるサイトにおける表示が、商標権侵害、不正競争行為(2条1項1号)に該当するとして、これを根拠として、プロ責法4条1項に基づき、レンタルサーバ運営者に発信者情報の開示が認められました。
上記(1)の認定事実によれば,平成23年8月までには,原告商品等表示は原告の営業を表\示するものとして需要者の間に広く認識されていたものと認められる。(3) 本件各標章の要部は,「PLUS」あるいは「Plus」の部分であって,本件各標章は周知の原告商品等表示に類似するから(このことは,被告も認めるところである。),本件ウェブページ上でその営業を表\示するものとして本件各標章を使用する行為は,不競法2条1項1号に該当し,原告の営業と混同を生じさせるものということができる。そして,本件において,特段の事情があることは窺えないから,本件ウェブページ上で本件各標章を使用する行為によって原告の営業上の利益が侵害されたものと認められる。(4) 被告のレンタルサーバは,インターネット上で不特定の者に対する送信をするのであるから,本件ウェブページに掲載された情報の流通によって原告の権利が侵害されたことは明らかである。2 上記1に判示したところによれば,原告が損害賠償請求権を行使するためには,被告のレンタルサーバに本件ウェブページの情報を記録した者の発信者情報が必要であるから,原告にはその開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
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