2025.01.23
令和6(ネ)10038 不当利得返還等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和7年1月15日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
自動二輪車のブレーキに関する特許について、ヤマハ発動機に対して損害賠償等を求めました。原審は、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。なお、本件特許は出願時から弁理士無しの本人出願です。
ア 控訴人は、原判決が「構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、
従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出された、車両の傾
斜走行状態での正確な横Gであると認められる。」と判断しているが、むしろ、本件
明細書において、「正確な横G」は、本件課題との関係で、タイヤでの荷重接地点変
化から生じる戻り角(ρ)を加味した正確な傾斜角及び加速度センサーと角速度セ
ンサーの関連付けにより明らかになったロールによる速度変化の影響を加味して導
かれる、加速度センサーにおいて安定走行時に検出される横G(Gken)のこと
を指すものとして説明されており、他方、「横G(Ghosei)」は、本件課題と
の関係で、正確な横Gの検出が可能となったことを踏まえた、車両を安定化に導く
ブレーキシステムの構成要素の一つとして説明されていると主張する。
そこで、控訴人が主張する「戻り角(ρ)」に着目すると、発明の詳細な説明には
「ハイブリットセンサー20 には、進行方向の加速度を検出する加速度センサー
21、 進行方向ロール速度を検出する傾斜角速度センサー22 及び ロール方
向の加速度を検出する加速度センサー23 が小型に内蔵されおり、ライダーの体
重を含めた合成重心に近いところにレイアウトされる。 ハイブリットセンサー2
0 には、傾斜時に生じる理論バンク角(Φ)及び傾斜によってタイヤでの荷重接
地点変化から生じる戻り角(ρ)が同時に存在している。 (図8も同時参照)セ
ンサー20 に生じる力(ベクトルA)と 実際に生じる力(ベクトルA ’)とは
ずれが生じている。 このずれ角(戻り角(ρ))によって、正確な横Gを検出する
ことが解析された。」(【0060】)、「Gken = g・cosΦ・tanρ-
Ψ・Rhenと変形でき、シンプルな式になる。ここで、表されるΦは 車両の理
論バンク角度であり理論傾斜角でもある、 傾斜角速度センサー22 から検出さ
れる角速度Ψ(rad/sec) を時間積分して得られた角度であり、ρは傾斜
戻り角であり、RはGセンサー#23の実車取付けの高さ(図8b hsen )
をそれぞれ示している。」(【0063】)との記載が認められるが、この記載は、「横
加速度(Gken)」を解析した結果として、傾斜角Φ、傾斜戻り角ρ、傾斜角速度
Ψ等を用いた式で表すことができることを示すに尽きるのであり、他方で、特許請
求の範囲の記載において、本件発明1の「横加速度(Gken)」は「横加速度を検
出する加速度センサー」により検出されたものとの特定がされているものの、傾斜
角Φ、傾斜戻り角ρ、傾斜角速度Ψ及びRhenに基づき、Gken=g・cos
Φ・tanρ−Ψ・Rhenという演算から導き出されたことは特定されていない
から、控訴人の主張はその前提を欠く。
また、仮に「横加速度を検出する加速度センサー」により検出された「横加速度
(Gken)」を正確な横Gであるとするならば、正確な横Gの検出は「横加速度を
検出する加速度センサー」が本来的に備えている機能であり、正確な傾斜角の検出
とは無関係である。そうすると、控訴人が主張する「1)「走行時の横Gセンサーと
角速度センサーを関連付けること」及び「正確な傾斜角の検出」によって、走行状
態での「正確な横G」の検出を可能とすること」という課題とは矛盾することにも
なるから、控訴人の主張は本件明細書の記載とは整合しない独自の見解であって採
用することはできない。
イ 「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ.」への訂正について
(ア) 特許がされた特許請求の範囲、明細書又は図面における訂正について、特許
法126条1項ただし書2号は、「誤記又は誤訳の訂正」を目的とする場合には、願
書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることを認めているが、
ここで「誤記」というためには、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいこと
が、当該明細書、特許請求の範囲若しくは図面の記載全体から客観的に明らかで、
当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという
場合でなければならないものと解され、特許法134条の2第1項ただし書2号の
「誤記又は誤訳の訂正」も同様に解される。
したがって、明細書等の記載について、物理学上意味をなさないことが客観的に
明らかであることが認識できたとしても、物理学上意味をなさないことの一事をも
って、ただちに同号の「誤記」と認められるわけではなく、当該物理学上意味をな
さない記載について訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければ、
同号の「誤記」とは認められないと解するのが相当である。この点、控訴人は、請
求項に記載された計算式に係る誤記の訂正に関して、それを字義通り解すると、次
元の異なる物理量同士の減算となり、その技術的意味が理解困難となること等を理
由として、誤記の訂正が認められることを主張するが、技術的意味が理解困難とな
ることの一事をもって誤記の訂正が認められるものとはいえないから、控訴人の上
記主張は採用できない。
(イ) 以上を踏まえ、本件明細書等の記載について検討する。
控訴人は「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ.」に訂正することを主張する。本件特
許権に係る特許請求の範囲及び本件明細書には、「傾斜角速度(Ψ)」、「角速度検出
値(Ψ)」、「角速度Ψ(rad/sec)」、「角速度(Ψ)」「車両のロールによる角速度」、「ロール方向の角速度」、「角速度出力(Ψ)」、「ロール角速度Ψ」、「ロール速度Ψ」、「傾斜角速度Ψ」及び「ロール角速度(Ψ)」(請求項1〜4、【0055】、【0061】、【0063】、【0066】、【0073】、【0084】、【0085】、【0090】、【0127】、【0130】、【0131】)との記載が認められ、他方で、「該傾斜角速度(Ψ)の時間微分で得られる傾斜角加速度(dΨ/dt)」(請求項2)、「傾斜し始めの傾斜速度(ロール速度Ψ)を時間微分 dΨ/dt した角加速度を検知(図中ΔΨの部位)することにより」(【0131】)との記載も認められるから、本件明細書においては、傾斜角速度を「Ψ」、傾斜角加速度を「dΨ/dt」又は「ΔΨ」と表しているものと認められる。
そして、本件発明1では「横加速度を検出する加速度センサーのロールによる影
響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法」と特定され、
本件発明2では「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正
後の横G(Ghosei)の導出方法として、前記横加速度から前記加速度センサ
ーの車両取り付け高さと前記傾斜角速度(A)または傾斜角速度(B)のいずれか
の積、との差分を求め、」と特定されているところ、請求項1を引用して記載された
請求項4には「前記信号演算として、加速度センサーのロールによる影響を取り除
く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法として、前記検出された
横加速度(Gken)から加速度センサーの車両取り付け高さ(hsen)と前記
検出された傾斜角速度(Ψ)の積、との差分を求めること、の導出方法を有する事」
と記載され、本件明細書には「実際の走行傾斜時に検出される検出横G(Gken)
は、傾斜角の時間的変化である傾斜角速度(Ψ)を用いた補正が必要であることか
ら 補正後の横G(Ghosei)はGhosei = Gken−(Ψ・Rhse
n)として表される。」(【0073】)、「2)、 走行時に変化する実際の検出横G(Gken)を少なくとも傾斜角の時間微分(dΦ/dt)値である傾斜角速度(Ψ)
を用いた補正を行い、補正後の横G(Ghosei)をGhosei= Gken
−(Ψ・Rhsen)の式を用いて補正した値の算出G値」(【0085】)、「項目2)は、走行時の傾斜により検出された検出G(Gken)は車両のロールによる誤差
が重畳されるため ロール成分を取り除くために角速度の補正を行うことが必要と
なる。 すなわち、センサーからの検出G(Gken)から規範G成分の部位を実
際の検出される横G(Gken)に置換え、角速度による補正を行えば 規範同様
にロールによる影響を排除した 補正後の制御で使用できるG(hosei)が導
け、Ghosei=Gken−(Ψ・Rhsen) の様に表される。ここで補正項
として傾斜角速度を加味している理由は、前記したように制御上無視できない要素
になっているためである。」(【0087】)などと記載されている。
以上によると、本件特許権に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載は、傾斜
角加速度は傾斜角速度の時間微分で得られるという認識の下、両者を明確に区別し
た上で、「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横
G(Ghosei)の導出方法」について、加速度の次元の物理量である実際の走
行傾斜時に検出される検出横G(Gken)から、速度の次元の物理量である傾斜
角速度(Ψ)にセンサー取付け高さRhsenを乗じた値を減算することで終始一
貫していると認められる。
そうすると、本件明細書等に記載された「加速度センサーのロールによる影響を
取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法」について、当業
者は本件明細書に物理学上意味をなさない導出方法が記載されていることを理解す
るにとどまり、角速度Ψを角加速度Ψ.の趣旨に理解するのが当然であるとまでは認
められない。
・・・
(エ) 以上のことから、控訴人が主張する「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ.」への
訂正は認められず、本件各発明のいずれについても、特許請求の範囲に記載された
発明が本件明細書に記載された発明であるとはいえない。
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2025.01.15
令和6(ラ)10001 保全異議申立却下決定に対する保全抗告事件 特許権 令和6年10月22日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
薬用の化学物質(ペプチド)に関する特許の差止仮処分命令の取消を求めましたが、抗告棄却されました。
当裁判所も、基本事件における相手方の申立ては、原々決定が認容した限度\nで認容するのが相当であると判断する。その理由は、後記1のとおり補正し、
後記2のとおり当審における抗告人の補充主張に対する判断を、後記3のとお
り当審における抗告人の追加主張に対する判断を、それぞれ付加するほか、原
決定「理由」第4の1から7まで(6頁18行目から33頁7行目まで)に記
載のとおりであるから、これを引用する。当裁判所は、後記1の補正及び後記
2(1)の判断のとおり、乙1発明に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点2
−3、2−5)について、原決定とは異なり、当業者が、相違点1−1に係る
本件発明1の構成を容易に想到するとは認められないことから、本件発明の進\n歩性が欠如するとは認められないと判断するものである。
・・・
乙1公報の発明の詳細な説明には、「さらに、容器2およびその中味
は必ず薬用でなければならないというわけではない。衛生的あるいは
非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体
状の化学物質を充填した他のタイプの容器も本発明の方法によって処
理できる。」との記載がある。このうち「さらに、容器2およびその中
味は必ず薬用でなければならないというわけではない。」という第1文
は、その記載に基づいて、容器2及びその中味について、薬用でもよ
いが、薬用であることが必須であるわけではなく、薬用以外でもよい
という意味と解され、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解さ
れる。そのため、これに引き続く第2文の「衛生的あるいは非酸化性
の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学
物質」についても、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解され、
第1文によって、第2文にいう上記「化学物質」から薬用の物質が排
除されており、薬用以外の化学物質のみが含まれると解すべき根拠は
認められない。そうすると、乙1発明が、薬用の化学物質についての
非酸化性の移送を排除しているとは認められない。
しかしながら、乙1公報の発明の詳細な説明には、PTHペプチド
含有製剤の製造については何も記載されておらず、PTH類縁物質の
含量が低い高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得るとの課題
も開示されていないから、乙1発明に接した当業者が、乙1発明を、
「当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する
いずれのPTH類縁物質量も1.0%以下であり、及びPTHペプチ
ド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.
0%以下」であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用
することを想起するとは認められない。
抗告人は、PTHが酸化しやすい物質であることは本件特許の優先
日前の技術常識であり、当業者は、PTHペプチドを有効成分とする
凍結乾燥注射剤を製造するに当たり、「製剤開発に関するガイドライン」
(乙20)に基づき、酸化を防止して、高純度の医薬品を製造するこ
とができるよう製造工程を確立することを検討するから、乙1発明を
PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造のために使用することを当然
検討すると主張する。
しかし、乙1に、抗告人の主張する上記技術常識を組み合わせ、更
に乙20の文献の記載を組み合わせたとしても、当業者が、典型的製
造過程によりPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しよう
とするとPTH類縁物質を含んだ製剤が製造されてしまうという課題
を認識するとはいえず、乙1発明を「当該製剤中のPTHペプチド量
と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質量も1.
0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に
対する全PTH類縁物質量が5.0%以下」の無菌注射剤であるPT
Hペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用することを想起すると
も認められない。
その他、抗告人が主張する事情を考慮しても、乙1発明に本件特許の優先日前の技術常識を組み合わせることによって、当業者が、相違点1−1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n
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2025.01.14
令和5(ワ)70346 特許権侵害損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年10月10日 東京地方裁判所
特許権侵害事件です。構成要件Fを具備しないとして、非侵害と認定されました。念のため、無効理由についても判断がされています。
前記前提事実に加え、証拠(乙9)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製
品は、ユーザーが自動車のドアを開けることで磁気センサーモジュールがド
アに設置された磁石の磁気を感知しなくなると、バックライトモジュールが
オン状態(点灯状態)になる一方で、ユーザーが自動車のドアを閉じること
で磁気センサーモジュールが磁気を感知すると、バックライトモジュールが
オン状態からオフ状態(消灯状態)になること、そして、バックライトモジ
ュールがオン状態(点灯状態)のまま放置されると、徐々に減光しながら消
灯するが、これは、バックライトモジュールが、接続されているコンデンサ
の充電又は放電による影響を受けるからであり、発光持続時間を正確に調整
するための制御回路や制御プログラムを用いることによって消灯までの時間
が制御されているものではないこと、点灯状態と消灯状態の時間間隔は、コ
ンデンサの性能(静電容量)やその劣化(静電容量の低下)の程度によって\n左右されるため、製品の使用期間が長くなりコンデンサのエイジングが進む
と点灯開始から消灯までの時間間隔が短くなり、所望の時間間隔で消灯させ
ることはできないこと、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、被告各製品の発光持続時間は、コンデンサの性能\nやその劣化の程度によって左右されることになるのであるから、被告各製品
は、発光持続時間を正確に調整することができるものとはいえない。
これに対し、原告の主張は、構成要件Fにいう「調整可能\」の文言解釈に
つき、前記判断とは異なる文言解釈に立つものであり、上記文言解釈に係る
前記説示に照らし、いずれも採用の限りではない。
・・・
前記3のとおり、被告各製品は、本件発明の構成要件Fを充足しないから、\n本件発明の技術的範囲に属するとはいえず、その余の争点を判断するまでもな
く、原告の請求は理由がないことになる。もっとも、本件の事案に鑑み、本件
の中核的争点の一つである争点2−1に限り、念のため、以下判断を示してお
くこととする。
・・・
前記(1)の乙8公報の記載によれば、乙8発明は、外部電源が完全に不要な
自動車スカッフプレートに適用される発光モジュールを提供することを課題
とするものであり(【0004】)、この課題を解決するための発光モジュ
ールは、発光素子及びリードスイッチが設けられた「ランプ板」、及び電線
を介してランプ板に接続される「電池」が、いずれも「導光板」に埋設され
る構成を有し(【0005】、【0015】ないし【0017】)、この構\
成により「導光板10の内部に発光素子20に必要な電力を供給することが
できる電池40を設置するため、完全に外部電源が不要となる」(【001
9】)ことによって、上記の課題を解決するものと認められる。その他に、
乙8公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載されて\nいない。
そして、前記(1)及び前記(2)イのとおり、乙8発明の構成は、外部電源が完\n全に不要な発光モジュールである導光板10に、これに埋設されたランプ板
50、電池40等を密封するための収容溝カバー70を設け、スカッフプレ
ート80の上面には凹部を設け、この凹部に発光モジュールである上記導光
板10を収容するものである。
そうすると、乙8発明においては、導光板10に係る上記構成(電池40\nを導光板10の内部に埋設して、導光板10の底面に電池40を密封する収
容溝カバー70を設け、この導光板10をスカッフプレート80の内部に収
容しているものをいう。)は、乙8発明の課題解決に直結した構成であるか\nら、乙8発明に接した当業者がこれを変更する動機付けを認めることはでき
ない。
のみならず、乙8公報には、電池の交換についての記載はなく、乙8発明
に接した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点8
−1に係る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)\n導光板10に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設
け、当該電池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)当該収容孔を覆
うカバーを設け、当該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)\nスカッフプレート80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設
されているランプ板50等との電気接続を行うという、複数回の変更が必要
になり、しかも、上記の変更内容には、乙8発明の課題解決に直結した構成\nの変更も含まれていることが認められる。
これらの事情の下においては、乙8発明に接した当業者において上記のよ
うに変更する動機付けはないといわざるを得ず、当業者が本件発明を容易に
想到し得たものと認めることはできない。
これに対し、被告は、乙10文献には、無線車両発光ペダルの下表面から\n電池を交換可能にするために背面に取り外し可能\な電池カバーを設けること
が開示されており、乙10文献及び乙11文献によれば、電池を内蔵する機
器一般において、電池を交換可能にするために、取り外し可能\な方式で電池
の収容孔を覆うカバーを設けることは周知技術であるから、乙8発明に乙1
0文献の技術事項や周知技術を組み合わせることにより、乙8発明の収容溝
カバー70を取り外し可能とすることは、当業者にとって容易想到であると\n主張する。
しかしながら、乙8発明に接した当業者において、スカッフプレート80
には、底板が設けられるものと理解するのが相当であることは、前記(2)イに
おいて説示したとおりある。そうすると、底板が設けられるため、収容溝カ
バー70は、スカッフプレート80の下表面に対して露出していないのであ\nるから、被告の主張は、乙10発明や周知技術を組み合わせるための前提を
欠く。
のみならず、乙11公報によれば、表示部を有し電池を電源とする電子機\n器において、表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能\なカバ
ーを設けることは技術常識であるといえるものの、当該技術常識を超えて、
乙8発明のように独立したモジュールが設けられ、底板(スカッフプレート
80)の凹部にモジュールを収容する電子機器において、底板の裏側から底
板に収容されているモジュール内部の電池を交換することまでが技術常識で
あったものと認めるに足りない。
しかも、乙10文献については、乙8発明のスカッフプレート80に相当
する底板に相当する部材がないのであるから、下側から電池カバーを設ける
という単純な技術常識によっては、乙8発明の電池の収容に係る構成と置換\nするなどして相違点8−1に係る構成に容易に想到することはできない。\nそうすると、被告の主張を考慮しても、乙8発明から出発して相違点8−
1の構成に至るための動機付けを認めることはできず、被告の主張は、前記\n判断を左右するものとはいえない。
◆判決本文
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2025.01.12
令和5(ネ)10042 特許権 民事訴訟 令和6年12月9日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
自動車の自動ブレーキの特許についてのホンダvsマツダの特許権侵害事件です。無効主張がなされ、1審と同じく権利行使不能と判断されました。\n
ア 乙9発明と乙10発明は、ともに制動保持装置(乙10においては坂道
発進補助装置)を備え、それらはブレーキがかかった状態を保持する機
能を有するものであることに照らすと、乙9発明及び乙10発明は、そ\nのような機能を用いる車両である点で共通する技術分野に属するといえ\nる。また、乙10発明と同様に、乙9発明においても、制動保持装置の
故障発生が想定され、それに対処する課題が存在することは当業者には
明らかである。
そうすると、乙9発明に触れた当業者は、上記の制動保持装置の故障
発生という課題を認識し、その課題を解決する点において、乙10発明
を乙9発明に適用する動機があるということができる。
イ これに対し、控訴人は、乙9発明は、制動保持装置26が故障している
か否かを検出する技術思想を有しておらず、故障を検知する乙10発明
を適用する動機付けに欠ける旨主張する。
しかし、上記2(1)エのとおり、乙9発明は、エンジンおよび車両各部
の状態を検出するセンサ群を備えるものであり、車速零信号が出力され
ているときに制動保持信号を出力し、エンジン始動後に制動解除信号を
出力する制動保持解除信号発生手段と、制動保持信号に応動して制動装
置を作動状態に保持し、制動解除信号に応動して作動状態にある制動装
置の作動を解除する制動保持手段とを具備している。そして、乙9発明
において制動保持装置の異常が検知された場合には、上記の乙9発明に
おいて求められている状態、すなわち、制動保持装置の作動によりブ
レーキ液圧が作用し、もってブレーキがかかった状態を保持できなくな
ることは明らかである。そうすると、乙9発明に触れた当業者は、上記
の制動保持装置の故障発生という課題を認識し、その課題を解決するた
め、乙10発明における制動保持装置の異常を検出する信号を付加する
動機付けがあるといえる。
ウ 以上によれば、乙9発明に乙10発明の制動保持装置の故障を検知して
運転手へ警報を発する技術を適用することは当業者が容易に想到し得る
といえる。
そして、上記2(1)イ〜エのとおり、乙9発明が、エンジン自動停止に
より発生する問題を、センサ群からの検出信号に基づいて制動保持装置
を作動させることにより解消する技術思想を有することに照らせば、制
動保持装置の故障を検知し、制動保持装置を作動させることができない
故障が生じた場合には、その検知結果をエンジン自動停止条件の一つと
して用い、相違点1に係る「前記故障検出装置によって前記ブレーキ液
圧保持装置の故障を検出した時に前記原動機停止装置の作動を禁止する」
構成とすることは、当業者が容易になし得た事項といえる。\nよって、乙9発明に乙10発明を適用した際に、本件発明の相違点1
に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。\n
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和3年(ワ)28206
対応する審決取消訴訟はこちらです。
◆令和6(行ケ)10018
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2025.01.12
令和5(ワ)70425 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年12月12日 東京地方裁判所
CS関連特許について、被告システムは決済機構は外部のものを採用しており、構\成要件を充足していない&進歩性無しと判断されました。
前記前提事実に加え、証拠(甲5ないし10、14)及び弁論の全趣旨に
よれば、被告プログラムは、GoPayというタクシー料金の決済機能を備\nえており、GoPayは、d払いと連携することによって初めてd払いを利
用することができるようになること、他方、d払いは、訴外ドコモが提供す
る決済機能であり、タクシーを利用した際にその利用したタクシー料金に限\nり利用することができるにとどまり、これ以外の場面では決済手段として使
用することができないこと、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、被告プログラムにおけるd払いは、タクシー料金
の個別の支払ごとにその都度利用されるにとどまるものであるから、被告プ
ログラム自体がd払いという決済機能そのものを提供するものとはいえない。\nしたがって、被告プログラムは、本件発明の構成要件Bにいう「前記アプ\nリケーションで提供されるサービス」を充足するものとはいえない。
(3) 原告の主張に対する判断
原告は、本件発明の特許請求の範囲の文言上「提供するサービス」という
記載にはなっていないから、「サービス」の提供主体と「アプリケーション」
の提供主体とが法的に同一主体でなければならないという限定はなく、本件
明細書等【0030】の記載によれば、各サービスが様々な主体によって提
供されるものであることは、当業者のみならず一般人にとっても技術常識に
属する事項であるから、アプリケーションと各サービスが異なる法的主体に
よって提供される場合も当然に含まれるものである旨主張する。
しかしながら、本件発明の構成要件は、「アプリケーション」と「サービ\nス」の内容及び関係を一義的に規定するものではないから、本件明細書等を
参酌しない限り、その関係等が明らかにならないことは、上記において説示
したとおりである。そして、本件明細書等のうち、「アプリケーション」と
「サービス」の内容及び関係につき記載した部分(【0012】、【001
4】、【0030】)を参酌すれば、「アプリケーション」は、総合サービ
スを提供するものであり、構成要件Bにいう「前記アプリケーションで提供\nされるサービス」は、アプリケーション自体がクレジット機能、クーポン機\n能その他の機能\そのものを提供するものに限られると解するのが相当である
から、タクシー料金の個別の支払ごとにその都度利用されるd払いを含むも
のではないと解するのが相当である。
したがって、サービスの提供主体の同一性についていう原告の上記主張は、
充足性の判断を左右するものとはいえず、採用することができない。
・・・
4 争点2−1−3(乙1−3発明に基づく新規性、進歩性の有無)について
前記2及び3のとおり、被告プログラムは、本件発明の構成要件を充足しな\nいから、本件発明の技術的範囲に属するものとはいえず、その余の争点を判断
するまでもなく、原告の請求は理由がないことになる。もっとも、本件の事案
に鑑み、本件の中核的争点の一つである争点2−1−3に限り、念のため、以
下簡潔に判断を示しておくこととする。
・・・
前記(1)に加え、証拠(乙1、5)及び弁論の全趣旨によれば、乙1−3発
明におけるクーポンを選択・設定するという画面の表示について、「コマン\nドが処理されることで生成される」旨の開示はないものの、乙1−3発明に
よれば、かざすクーポンで選択・設定された「クーポン」は、携帯電話の画
面に表示されるのであるから、当該表\示データは、アプリの利用者がクーポ
ンを選択する操作に基づき生成されていると認めるのが相当である。
そうすると、乙1−3発明に接した当業者は、乙1−3発明に「コマンド
が処理されることで生成される」という記載がないとしても、上記操作をコ
マンドに置き換えて上記画面を表示させる構\成を容易に想到することができ
るといえる。
したがって、乙1−3発明に接した当業者が乙1−3発明から出発して相
違点1−3−1の構成に至ることは、容易であるといえる。\n
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2024.11.13
令和5(ヨ)30402 特許権に基づく差止及び廃棄仮処分命令申立事件 特許権 民事仮処分 令和6年9月20日 東京地方裁判所
特許権に基づく差止等についての仮処分命令がなされました。実施可能要件違反の無効主張は認められませんでした。なお、仮処分の申\し立てではなく、別途本訴があり、そちらで審理されています。被告は裁判所の心証開示後の和解勧告には応答しなかったとのことです。
(1) 疎明資料(疎甲7)によれば、本件債務者製品は、「前記落とし口部の上方
に対向して配置され、水平方向に延びるフランジ状の平板部と、この平板部の
内周側から下方に向かって縮径するように延びるテーパー部と、このテーパー
部の下端から下方に向かって延びる円筒部とを有する落とし口対向部」を備え
ていることが認められ、これらの構成を有すること自体は、当事者間に争いは\nない。
(2) そして、本件発明2−2の構成要件2−2−Dの「蓋部材」は、特許請求の\n範囲の記載上、「落し口部の上方に配置される」ものとされており、その余の
限定はされていない。また、本件明細書2の記載によれば、「鉛直方向の上方
から見て落し口部の開口を塞ぐように配置される形状であれば良い。」(段落
【0081】)との記載があるものの、第1実施例における【表1】のケース\n1及び【表2】のケース11によれば、落とし口部の開口を完全に塞ぐように\n配置されていない形状についても、これを完全に塞ぐように配置された形状と
同様に、サイフォン現象が生じていることが確認されている(段落【0068】)。
上記構成要件及び本件明細書2の各記載によれば、本件構\成要件にいう「蓋部材」は、落とし口部の開口を完全に塞ぐように配置されていない形状も含む
ものであり、落とし口部の上方に配置されれば足りるというべきである。
これを本件債務者製品についてみると、上記認定事実によれば、本件債務者
製品の落とし口対向部は、落とし口部の開口を完全に塞ぐように配置されてい
ないものの、落とし口部の上方に配置されているものと認められる。そうする
と、本件債務者製品の落とし口対向部は、構成要件2−2−Dの「蓋部材」を\n充足するものと認めるのが相当である。
(3) これに対し、債務者らは、「蓋部材」とはその直径が落とし口部外径の直径
より大きく、落とし口部の開口を覆い塞ぐものに限られると主張するものの、
上記において説示したところを踏まえると、採用することができない。
また、債務者らは、「蓋部材」は単なる開口よりも優れたサイフォン効能を\n発揮させる部材でなければならず、本件債務者製品はこれに該当しないと主張
する。しかしながら、本件発明2−2の特許請求の範囲及び本件明細書2の各
記載には、債務者ら主張に係る限定がされているものと認めることはできず、
債務者らの主張は、採用の限りではない。
さらに、債務者らは、本件債務者製品のテーパー部は「誘導ガイド」(本件
特許2の請求項5)に当たるから、「蓋部材」には該当しないと主張する。し
かしながら、上記にいう「誘導ガイド」は、本件発明2−2ではなく、本件特
許2の請求項5で特定される構成にすぎず、仮に、同請求項5の記載をみても\n「前記蓋部材の下面には、誘導ガイドが形成され」と記載されるにとどまるこ
とからすると(疎甲4)、「誘導ガイド」は、「蓋部材」の一部として構成さ\nれ得るものと認めるのが相当である。そうすると、債務者らの主張は、「誘導
ガイド」の構成を正解するものとはいえない。\n したがって、債務者らの主張は、いずれも採用することができない。
その他に、債務者らの主張を改めて検討しても、債務者らの主張は、本件発
明2−2の構成要件及び本件明細書2の各記載に基づかないものに帰し、いず\nれも採用の限りではない。
(4) 以上によれば、本件債務者製品は、構成要件2−2−Dを充足するものと認めるのが相当である。\n
3 争点2(本件債務者製品の縦リブの「前記鍔部の上面と前記蓋部材の下面の外
周部とを連結する」該当性(構成要件2−2−E))\n
(1) 疎明資料(疎甲7、14)によれば、本件債務者製品の整流板(債権者が同
製品における「縦リブ」と呼称する部分をいう。以下同じ。)は、落とし口対
向部のうち平板部の下面に接続しており、当該下面の接続部分は、上記落とし
口対向部の下面の外周部に位置するものと認められる。そして、疎明資料(疎
甲7、14)によれば、整流板は、同製品の鍔部の上面と接続しているものと
認められる。
そうすると、本件債務者製品の構成のうち、構\成要件2−2−Eの「縦リブ」
に相当する整流板は、「鍔部の上面」と、「蓋部材」に相当する落とし口対向部の「下面の外周部」とを連結していることが認められる。
したがって、本件債務者製品は、構成要件2−2−Eを充足するものと認め\nるのが相当である。
(2) これに対し、債務者らは、本件債務者製品の整流板が3つの部材(分割板、
流入促進部、渦流防止部材)に分かれることを前提として、分割板のうち鍔部
上にある部分は落とし口対向部と連結しておらず、渦流防止部材は鍔部に連結
していないから、いずれも構成要件2−2−Eを充足しない旨主張する。しか\nしながら、本件発明2−2の構成要件及び本件明細書2の各記載を踏まえても、\n債務者ら主張に係る「分割板」、「流入促進部」、「渦流防止部材」という概
念が使用されていないことからすると、少なくとも構成要件充足性を検討する\nに当たっては、本件債務者製品の整流板を上記にいう3つの概念で区分するの
は相当ではない。のみならず、債務者パナソニックの販促資料(疎甲14)に\nよっても、債務者パナソニックは、本件債務者製品の整流板を上記3つの概念\nで区別していないのであるから、取引の実情等を踏まえても、債務者らの主張
は、独自の見解というほかない。
また、債務者らは、「縦リブ」は「鍔部上にのみ」配置されるものであると
解した上で、本件債務者製品の整流板は、落とし口部の開口に重なり「鍔部上
のみ」に配置されていないため、「縦リブ」に該当しない旨主張する。しかし
ながら、特許請求の範囲の記載上、債務者主張に係る限定はされていない。そ
して、本件明細書2(段落【0034】)には「上面視で落し口部20に重な
らない位置で周方向に間隔をあけて配置された複数の縦リブ23」という記載
が認められるものの、他方、本件明細書2(段落【0083】)には「縦リブ
23の形状、数量についても本実施の形態に限定されることはなく」と記載さ
れていることからすれば、本件発明2の上記認定に係る技術的特徴に鑑みても、
「縦リブ」は、蓋部材を下方から支持し、雨水を整流する機能を有しているも\nのであれば足り、必ずしも鍔部の真上にある構成に限定されるものとはいえな\nい。そうすると、債務者らの主張は、前記判断を左右するものとはいえない。
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2024.10.22
令和6(ネ)10010 損害賠償請求控訴事件(特許権侵害) 特許権 民事訴訟 令和6年8月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
女性の下着に関する特許権について、原審は102条3項に基づき、約700万円の損害賠償を認めました。1審被告は控訴しましたが、知財高裁は控訴棄却しました。控訴趣意書で新たに行った無効主張については、時機に後れた攻撃防御方法に該当すると判断したものの、判断しても無効理由なしと判断されました。
控訴人は、前記第2の4〔控訴人の主張〕のとおり、原審において主張し
ていた無効理由とは異なる新たな無効理由(当審において新たに提出する乙
31文献による新規性欠如、同文献を主引用例とする進歩性欠如)を主張し、
被控訴人は、これにつき時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下を申し立てている。\n
(2) そこで、まず時機に後れた攻撃防御方法に当たるかについて検討すると、
控訴人による当審における新たな無効理由の主張は、令和6年2月6日付け
控訴理由書においてなされたものであるところ、特許権侵害訴訟において、
無効の抗弁は、特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続
内で迅速に解決するため、特許無効審判手続による無効審決の確定を待つこ
となく主張することができるものとされており、特許無効審判とは別の手続
である民事訴訟手続内でのものであるから、審理の経過に鑑みて、審理を不
当に遅延させるものであるときは、時機に後れた攻撃防御方法に当たるもの
として却下されるべきである。
これを基に原審における審理経過についてみると、一審被告である控訴人
は、原審において、令和3年10月27日提出の同月22日付け答弁書にお
いて、被控訴人製品の本件発明の構成要件該当性を否認するとともに、乙8文献を主引用例とし、これと周知技術との組み合わせないし乙9文献を副引\n用例とする進歩性欠如の無効理由を主張した。これに対する一審原告である
被控訴人の反論等を受け、令和4年3月18日付け準備書面(3)において、乙
8文献による新規性欠如の無効理由を追加し、これに対する被控訴人の更な
る反論を受けて、令和4年5月27日付け準備書面(4)において、更に乙8文
献を主引用例とし、乙10文献を副引用例とする進歩性欠如の無効理由を追
加した。これについての被控訴人の反論に対しては、更に令和4年8月29
日付け準備書面(5)において反論をした。
そして、侵害論について当事事者が主張立証を尽くしたことを前提とし、令
和4年8月31日に行われたウェブ会議の方法による書面準備手続において、
裁判所から損害論に審理を進める旨の心証開示を受けて(令和4年8月31
日の書面準備手続の経過表には、協議の結果欄に、「当事者双方 侵害論につ
いての主張立証は尽くした。」「裁判長 今後、損害論についての審理を進め
る。」との記載がある。)、損害論の審理が進められ、令和5年9月22日に行
われた口頭弁論期日において、控訴人は他に主張立証することはない旨を陳
述し、原審口頭弁論が終結されて原判決が言い渡されたものである。
こうした原審での審理経過に鑑みると、当審における新たな無効理由の主
張は、時機に後れて提出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたこ
とについて控訴人には重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、
被控訴人から、予備的にではあるものの、当審において提出された無効理由についての反論がされており、これに対する控訴人の再反論の主張はなく当\n審の口頭弁論終結に至っていることから、この限度では訴訟の完結を遅延さ
せることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとする。
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2024.09.16
令和5(ネ)10053 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年7月4日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所(原審・東京地方裁判所令和2(ワ)17104号)
マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。1審の東京地裁(40部)は、1審は、102条1項、2項の適用を認めず、損害額は約2015万円と認定しましたが、知財高裁は、同2項の適用を認め、約4400万円と認定しました。なお、推定覆滅の割合については伏せ字となっています。
(1) 特許法102条2項の適用の可否について
ア 特許法102条2項は、「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、
その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権
者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。
同項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害者による特許権侵
害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、
同項の適用が認められると解すべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日特別部判決、知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和
元年6月7日特別部判決)。
イ これを本件についてみると、1審原告の完全子会社(株式会社マネースクエア)
はFX事業を提供しており、「トラリピ」という名称の原告サービスを提供している
ところ、証拠(甲30)によると、トラリピとは、イフダン(新規と決済を同時に
発注する注文)に、リピート(注文を繰り返す機能)とトラップ(一度にまとめて\n発注できる仕組み)を搭載したFXの発注管理機能をいい、トラリピの専用機能\と
して「決済トレール」(決済価格が値動きのトレンドを追いかけることで、利益の極
大化を狙う機能)があることが認められ、被告サービスと競合するものであるとい\nえる。そして、原告サービスを提供しているのは1審原告の完全子会社であって、
特許権者である1審原告とは別法人であるものの、1審原告は、原告子会社の株式
の100%を保有し、会社の目的や主たる業務が子会社の支配・統括管理をするこ
とにあり、その利益の源泉が子会社の事業活動に依存するいわゆる純粋持株会社で
ある(甲33。以下、持株会社である1審原告と原告子会社を併せて「1審原告グ
ループ」ともいう。)。そうすると、原告子会社は、1審原告のグループ会社として
持株会社の保有する多数の特許権を前提として原告サービスを提供しているのであ
り(甲24、27)、本件特許は原告ライセンス契約に含まれていないものの、これ
は国際出願に伴う不都合を回避するためにそのような体裁とすべきであったことに
よるものにとどまり、1審原告が原告子会社に本件発明の実施許諾をしていないこ
とを意味するものとはいえないことも踏まえると、原告子会社が本件発明を実施し
ているものといえ、1審原告グループは、本件特許権の侵害が問題とされている平
成29年7月から平成31年3月までの期間、持株会社である1審原告の管理及び
指示の下で、グループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していたと評価
することができる。
したがって、1審原告グループにおいては、本件特許権の侵害行為である被告サ
ービスの提供がなかったならば利益が得られたであろう事情があるといえる。
そして、1審原告の利益の源泉が子会社の事業活動に依存していること、1審原
告は1審原告グループにおいて、同グループのために、本件特許権の管理及び権利
行使につき、独立して権利を行使することができる立場にあるものといえ、そのよ
うな立場から、同グループにおける利益を追求するために本件特許権について権利
行使をしているということができ、1審原告グループにおいて1審原告のほかに本
件特許権に係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件につ
いて、特許権者に侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたで
あろうという事情が存在するものといえるから、特許法102条2項を適用するこ
とができるというべきである。
ウ 1審被告の主張について
(ア) 1審被告は、1審原告が主張する「グループ全体として特許を保有・管理し、
グループ全体として特許を活用した事業を展開しているという実態」の内容は不明
瞭であると主張する。
しかしながら、上記イで説示するとおり、1審原告と原告子会社は、いわゆる純
粋持株会社と完全子会社の関係にあるところ、実際に持株会社制を採用する企業が
多数存在する実情にあること(甲32)、純粋持株会社と完全子会社は法人格が別で
あるものの、グループ法人の一体的運営が進展している状況を踏まえ、実態に即し
た課税の実現を目的としたグループ法人税制や支配従属関係にある二つ以上の企業
からなる企業集団を単一の組織体とみなして親会社が企業集団の財政状態、経営成
績、キャッシュフローの状況を総合的に報告するための連結財務諸表など、企業グ\nループを、親会社を中心とした経済的一体性に着目して捉える制度が採用されてい
る実情があることも踏まえると、本件事実関係の下においては、1審原告の管理及
び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価
することができるから、1審被告の上記主張は理由がない。
(イ) 1審被告は、持株会社が特許権者であっても、事業会社も共有者として特許
権者となるか、又は専用実施権を設定したり、いわゆる独占的通常実施権を許諾することにより、当該事業会社自身が損害賠償請求の主体として、損害賠償を請求す
ることによって、事業会社の損害賠償請求が認められないとする不都合は回避可能\nであるから、特許法102条2項の適用を認める必要はない旨を主張する。
しかしながら、前記のとおり、本件においては1審原告の管理及び指示の下でグ
ループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価することができ
る以上、1審被告の上記主張に係る事情は特許法102条2項の適用の妨げにはな
るといえず、実施能力を有しないことにより得べかりし利益が存在しない等の個別\nの事情から生じるところは、推定覆滅の問題として考えるのが相当である。
そもそも1審被告の上記主張は、1審原告のほかに原告子会社が本件特許権の侵
害に係る損害賠償請求の主体として認めるべきかどうかの問題に関わる事情であっ
て、本件における1審原告の本件特許権の侵害に係る損害賠償請求における特許法
102条2項の適用を否定すべきものとはいえない。
・・・
(3) 推定の覆滅について
ア 1審被告は、1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本
件発明の貢献は乏しいこと、2)1審原告はそもそも金融商品取引業者としての登録
を受けておらず、FX取引を業として行うことができなかったこと、3)本件発明と
代替性が認められる競合サービスが多数存在したこと、4)被告サービスにおいて一
定の売上げ及び利益を獲得できたのは、1審被告による格別の営業努力があったた
めであることなどを、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張するので、以下におい
て判断する。
イ 1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本件発明の貢献
は乏しいとの主張について
証拠(乙38)及び弁論の全趣旨によると、人気がある五大リピート系注文とし
てトラリピ(原告子会社によるサービス)、ループ・イフダン、iサイクル注文(被
告サービス)、トライオートFX、オートレールが挙げられているところ、それぞれ
のサービスの比較の項目として、取扱い通貨ペアの多さ、注文方法(指値・逆指値
か、成行注文か)、値幅・利益幅の設定の自由度、売買方向(同一通貨ペア・同一売
買方向・同一値幅の複数の注文ができるかなど)、ポジション数、自動損切の仕様、
手数料・スプレッドの金額、スワップ金利の多寡、トレール機能の有無、相場追尾\n機能の有無、スマホ対応の有無、独自コンテンツの有無などが挙げられており、こ\nれらがFX取引のサービスを利用する際の比較項目になるものと認められる。そし
て、本件発明の内容は上記比較項目のうち「相場追尾機能」に相当するものと認め\nられるところ、「リピート系注文で最も大事なのが自動損切りの仕様です」、「サービ
スの特徴が最も出るのがこの値幅と利益幅の設定方法」、「長期運用が基本となるリ
ピート系注文で成績に直結するのがこの手数料とスプレッド」、「スワップ金利は長
期間ポジションを保持し続けるリピート系注文においては大きな収入源となります」
などと「自動損切りの仕様」「値幅と利益幅の設定方法」「手数料とスプレッド」「ス
ワップ金利」を評価する記載がある一方、「相場追尾機能」についてはそれに類する\n記載はない。
そうすると、相場追尾機能をもってFX取引の利用者が重視する項目とまでは認\nめられず、被告サービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であ
るというべきであるから、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額に
は、本件発明が寄与していない部分を含むものと認められる。
以上によると、同部分が含まれることは、本件推定の覆滅事由に該当するものと
認められる。
この点に関し、1審被告は、これに加えて、仮に本件発明が被告サービスの売上
げに寄与していると解するのであれば、被告サービスにおいて実施されていた1審
被告の各発明も被告サービスの売上げに貢献しており、当該各発明の寄与率により
1審被告の利益の額を按分すべきと主張するが、1審被告が主張する1審被告の各
発明が被告サービスの利益に具体的に寄与していたと認めるに足りる証拠はないか
ら、1審被告の上記主張は採用できない。
・・・
カ 以上のとおり、市場において競合するサービスが存在していたこと、被告サ
ービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であるというべきであ
ること、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額には、本件発明が寄
与していない部分を含むものといえることなどを総合考慮すると、1審被告の使用
動機の形成に対する本件発明の寄与割合は●割と認めるのが相当であり、上記寄与
割合を超える部分については、1審被告の限界利益額と1審原告の受けた損害額と
の間に相当因果関係がないものと認められる。
したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるから、特許法
102条2項に基づく控訴人の損害額は、1審被告の限界利益額の●割に相当する
合計●●●●●●●●●円と認められる。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和2(ワ)17104
関連の侵害事件です(当事者が同じ)
◆平成29(ネ)10073
原審
◆平成28(ワ)21346
こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。
◆平成29(ワ)24174
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2024.08.26
令和5(ネ)10052等 特許権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴、民訴法260条2項の申立て事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では約15億円の損害賠償でしたが、知財高裁は約8億としました。
その理由は、原審と異なり、102条1項、および2項の適用は認められたが、その一方102条3項の損害賠償率が一審の30%から、15%と低く認定されました。その結果、102条2項による損害額が一番高いので、結果として約8億と認定されました。
当裁判所は、原審と異なり、本件においても特許法102条1項及び2項の
適用は否定されない一方、同条3項につき原審が適用した相当実施料率30%
は過大であると思料し、これを前提に、当審における請求原因(侵害の対象取
引)の追加も踏まえて、同条2項に基づいて認められる損害8億3191万6
753円の限度で損害賠償請求を認容すべきものと判断する。その理由は、以
下のとおりである。
・・・
(3) 以上の事情を踏まえて検討する。
SDダイサーのメーカーは、国内では、控訴人と、被控訴人からSDエ
ンジンの供給を受けるディスコ社に限られている。
EO社等の国外メーカーの販売実績は明らかではないが、サムスン社が
被控訴人による特許権侵害との指摘を受けてEO社との取引を中止するに至
っていることに鑑みれば、競合メーカーの参入は、不可能とまではいえないまでも、相当限定されたものと推認される。\nそうすると、ステルスダイサーの販売者は、控訴人と上記ディスコ社で
大部分を占める状況にあると認められる。
また、本件において、被控訴人製SDエンジンは、本件訂正発明1並び
に本件発明2−2及び本件発明2−3の技術の中核をなすものであり、そ
の侵害品である被告製品にとっても、その技術の中核的部分に相当すると
いえる。そうすると、被告製品の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する\n部分であり、商品としての競争力の源泉になっているものと解される。
このように、ステルスダイサーの国内市場における販売者は、控訴人と、
被控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社にほぼ限定されてい
ること、被控訴人製SDエンジン自体は、ステルスダイサー製品の部品に
とどまるものではあるが、その技術の中核をなすものであって、被告製品
の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する部分であり、商品としての競争\n力の源泉になっているものと解されることからすると、本件において、侵
害者による特許権侵害行為がなかったならば特許権者に利益が得られたで
あろうという事情が認められるというべきである。
これを他の表現でいえば、被控訴人が主張するとおり、特許権者が販売する部品を用いて生産された完成品と、侵害者が販売する完成品とは、同\n一の完成品市場の利益をめぐって競合しており、完成品市場における部品
相当部分の市場利益に関する限りでは、特許権者による部品の販売行為は、
当該部品を用いた完成品の生産行為又は譲渡行為を介して、侵害品(完成
品)の譲渡行為と間接的に競合する関係にあるということもできる。
(4) 控訴人は、知財高裁令和4年10月20日判決(椅子式マッサージ機事件)
は、特許権者が、侵害品と「需要者を共通」にする「同種の」「競合品」で
あって「市場において・・・競合関係にある製品」を輸出・販売していた場合
に初めて、特許法102条2項による推定が正当化されることを踏まえたも
のである旨主張するが、同判決の事案が、控訴人の指摘する場合であったと
いうにすぎず、そのような場合以外に同項が適用されないことまでは判示す
るものではない。
被控訴人製SDエンジンの1個当たりの利益の額は、(1)の被控訴人製S
Dエンジンの1個当たりの価額から(2)の原価を控除した●●●●円である。
その●●台分は●●●●●●●円であり、前記の特許法102条2項に基づ
き算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件において
同条1項に基づく損害は、採用の限りでない。
・・・
特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度
の損害額を法定した規定であって、同項による損害は、原則として、侵害品
の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべ
きである。そして、平成10年法律第51号による改正により、「通常受け
るべき金銭の額」という同項の規定のうち「通常」の部分が削除された経緯
に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも特許権につい
ての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、
特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべ
き料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと
を考慮すべきである。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し
て、合理的な料率を定めるべきである。
(2) 本件における当てはめ
ア 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らか
でない場合には業界における実施料の相場等(1))、特許権者と侵害者
との競業関係や特許権者の営業方針等(4))
(ア) 前記のとおり、被控訴人は、その開発に係るステルスダイシング技術
の中核的ユニットであるSDエンジン一式の製造については、自社製造
を必須とし、一切製造ライセンスを許諾せず、SDエンジンの販売利益
により先端技術の研究開発を継続するものであり、そのため、被控訴人
は、アライアンスパートナーに対し包括ライセンスを付与するに当たっ
ては、被控訴人製造に係るSDエンジンの販売を大前提として、当該販
売とSD技術関連特許に関する特許発明のロイヤリティの支払を不可分
一体の条件とするものであり、被控訴人は、アライアンスパートナーに
対しては、本件特許発明を含めたSD技術関連特許につき、SDダイサ
ーの最終販売価格の●%という実施料率に基づき、包括ライセンスを行
っており、他方、被控訴人からSDエンジンを購入しないSDメーカー
に対しては、SD技術関連特許を包括ライセンスすることは一切ないも
のである。したがって、被控訴人と控訴人の間では、当初本件業務提携契約に
よりライセンス料が●%とされ、その後、●●●%に値下げされたが
(乙15)、この実施料率を相当実施料率算定の基準とするのは相当
でない。
(イ) 前述のとおり、ステルスダイサーの販売者としては、控訴人と、被
控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社が大きな割合を占
めており、両者の競合関係は明らかである。
・・・
以上のとおり、被控訴人と控訴人の間では、当初ライセンス料が●%と
され、その後、●●●%に値下げされたが、これは、控訴人において被
控訴人製SDエンジンのみを使用してSDダイサーを製造販売すること
が前提となっているから、この前提を欠く場合に、上記ライセンス料の
みをもって受けるべき料率とするのは相当でなく、他方、被控訴人製の
SDエンジンの利益そのものを特許法102条3項の料率の基準とする
ことも相当でないこと、一般的なライセンス料の傾向、控訴人と被控訴
人は競合状態にあること、本件訂正発明1については本件発明2−2や
本件発明2−3により補わなければならない点があるところ、被告製品
(低追従)は本件発明2−2及び本件発明2−3の技術的範囲に属さな
いこと等の事情を総合すれば、本件において被控訴人が実施に対し受け
るべき料率としては、15%と認めるのが相当である。
・・・
本件において特許権の侵害が認められるNo.●●●●の販売額合計は、別紙
6認容額計算表のとおり●●●●●●●●●●●●円であり、これに15%を乗じると、●●●●●●●●●●●円となる。これは、特許法102条2\n項に基づき算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件
において、同条3項に基づく損害は、採用の限りでない。
◆判決本文
1審はこちらです
◆平成30(ワ)28930
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2024.07.29
令和3(ネ)10086 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月25日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟の控訴審判決です。1審は技術的範囲外または新規性なしとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。該当特許は7件あり、判決文は400頁を超えます。
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すると、402W製品は、遅くとも被控訴人
からカナデンに納品された平成24年4月17日頃には、同社に譲渡されたことに
よりその構造が解析可能\な状態に至ったものと認められる。
これに対し、控訴人パナソニックは、上記アの認定事実を認めるに足りる証拠が\nないことを指摘すると共に、仮に平成24年4月17日頃に被控訴人からカナデン
に対して402W製品が納品されたとしても、被控訴人とカナデンとの間に秘密を
保持することが暗黙のうちに求められていたため、公然実施されたとはいえないな
どと主張する。
しかし、本件申請書は、その書面の体裁等に鑑みると、被控訴人において内部的\nに定形化された書式に基づき作成されたものと見られ、日常的な業務の一環として
作成されたものであることがうかがわれる。また、その記載内容並びに「申請者印」\n欄及び「完了印」欄の押印は、平成24年4月16日付け「見本品引取書」(乙7
8)及び同月17日付け「判取票」(乙88)の記載又は押印と一致ないし整合す
ることから、本件申請書の作成日は、上記認定のとおり、同年2月10日と認めら\nれる(なお、同様の理由及び筆跡の字体そのものから、判取票の作成日付は、同年
9月17日ではなく同年4月17日であることも認められる。)。また、上記「判
取票」は、カナデン担当者(乙148)の姓と同一の印影が存在することから、平
成24年4月17日に同社に402W製品が納品されたことを裏付けるものといえ
る。
また、本件申請書には、「処理方法」の「渡し切りサンプル(点灯試験・分解テ\nスト)」欄にチェックがされているものの、カナデンは、電気工事業等の建設業許
可を得ている事業会社であり(乙76)、また、被控訴人による402W製品の商
品開発に共同研究その他の形で関与していたことをうかがわせる事情も見当たらな
いこと、本件チラシ及び本件カタログの記載からは、カナデンに納品された平成2
4年4月頃又はこれに極めて近接した時点で、402W製品は既に一般向けに販売
されていたことがうかがわれることによると、カナデンに対する402W製品の納
品が、その構成等につき同社に守秘義務を負わせることを前提として行われたもの\nであるとは考え難い。その他控訴人パナソニックが主張する点を考慮しても、この点に関する控訴人パナソ\ニックの主張は採用できない。
ウ 小括
以上によると、402W発明は、本件原出願日2より前に日本国内において公然
実施された発明といえる。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成29(ワ)1390
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2024.07.29
令和3(ワ)18031等 特許権 民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日 東京地方裁判所
特許権侵害訴訟において、サブコンビネーション発明の要旨について、”「請求項4記載の携帯電話」との記載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認めることはできない。”として、新規性無しとして権利行使不能(104条の3)と判断されました。
ウ 乙12の各構成が本件発明の構\成要件JないしMの構成にそれぞれ相当\nするか否かを検討する前提として、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電\n話との間で送受信するための」との記載の性質について検討する。
原告らは、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信す\nるための」との記載は、本件発明の受信装置の構造及び機能\を特定して
いるから、請求項1ないし4の解釈を踏まえて請求項5に係る本件発明
の構成を認定すべきであると主張するものと解される。\n
そこで検討すると、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の各記
載によれば、本件発明は、受信装置が、携帯電話との間で送受信するた
めのRFIDインターフェースを介して同携帯電話に対して個別情報の
発信要求をし、これに対し、同携帯電話が、要求された個別情報を送信
し、受信装置が、同携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報
であるか否かを判断し、受信した判断情報が前記要求した個別情報であ
ると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行うという、二つ
以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し、それに組み合わ
される受信装置の発明すなわちサブコンビネーション発明であって、本
件発明に係る特許請求の範囲の請求項5には、受信装置とは別の他の装
置すなわち他のサブコンビネーションである携帯電話に関する事項が記
載されているものと理解できる。
そして、サブコンビネーション発明においては、特許請求の範囲の請求
項中に記載された他の装置に関する事項が、形状、構造、構\成要素、組成、
作用、機能、性質、特性、行為又は動作、用途等の観点から当該請求項に\n係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握し、発明の技術的範囲
を画する必要があるところ、他の装置に関する事項が、当該他の装置のみ
を特定する事項であって、当該請求項に係る発明の構造、機能\等を何ら特
定していない場合には、他の装置に関する事項は当該請求項に係る発明を
特定するために意味を有しないといえる。
本件特許の特許請求の範囲において、構成要件Jの「RFIDインター\nフェースを有し、」との記載は、受信装置が「RFIDインターフェース
を有し」ていることを、構成要件Kの記載は、受信装置が「個別情報の発\n信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を有していることを、構成要\n件Lの記載は、受信装置が「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し
た個別情報であるか否かを判断する判断手段」を有していることを、構成\n要件Mの記載は、受信装置が「前記判断手段で受信した判断情報が、前記
要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理
を行う」ことを、それぞれ特定していると認められるのに対し、構成要件\nJの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するための」との記載は、
上記の構造、機能\等を有する受信装置と送受信をする携帯電話の構造、機\n能等を請求項4記載の構\成に限定するものにすぎず、受信装置の構造、機\n能等自体を何ら特定していないから、「請求項4記載の携帯電話」との記\n載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認
めることはできない。
以上によれば、上記の「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するた
めの」を除外して請求項5に係る本件発明の要旨を認定することが相当で
あるというべきであって、原告らの上記主張を採用することはできない。
・・・
以上によれば、本件発明は、乙12発明と同一の構成を有しているから、\n新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの
と認められ、原告らは被告に対してその権利を行使することができない(特
許法104条の3第1項、123条1項2号、29条1項3号)。
◆判決本文
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2024.06.11
令和3(ワ)22564等 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日 東京地方裁判所
原告は、マザーズへの上場を控えていましたが、被告は、原告の主幹事会社に対して、「被告特許を侵害するとして、原告を提訴しました。上場は慎重にすべき」という旨の通知書を送付しました。実際に提訴自体はしましたが、印紙を貼らずの提訴で、その後、提訴は取り下げています。\n
原告はかかる行為は、不正競争行為(不競法2条1項21号)に該当すると提訴しました。被告も反訴しています。 裁判所は、特許は無効だが、不正競争行為には該当しないと判断しました。
なお、サブコンピネーション発明の「〜のための」という文言も発明を限定するのかが問題となっています。
ウ 甲32発明の各構成が本件発明の構\成要件JないしNの構成にそれぞれ\n相当するかを検討する前提として、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電\n話との間で送受信するための」との記載の性質について検討する。
被告らは、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信す\nるための」との記載は、本件発明の受信装置の構造及び機能\を特定して
いるから、請求項1ないし4の解釈を踏まえて請求項5に係る本件発明
の構成を認定すべきであると主張するものと解される。\n
そこで検討すると、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の各記
載によれば、本件発明は、受信装置が、携帯電話との間で送受信するた
めのRFIDインターフェースを介して同携帯電話に対して個別情報の
発信要求をし、これに対し、同携帯電話が、要求された個別情報を送信
し、受信装置が、同携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報
であるか否かを判断し、受信した判断情報が前記要求した個別情報であ
ると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行うという、二つ
以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し、それに組み合わ
される受信装置の発明すなわちサブコンビネーション発明であって、本
件発明に係る特許請求の範囲の請求項5には、受信装置とは別の他の装
置すなわち他のサブコンビネーションである携帯電話に関する事項が記
載されているものと理解できる。
そして、サブコンビネーション発明においては、特許請求の範囲の請求
項中に記載された他の装置に関する事項が、形状、構造、構\成要素、組成、
作用、機能、性質、特性、行為又は動作、用途等の観点から当該請求項に\n係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握し、発明の技術的範囲
を画する必要があるところ、他の装置に関する事項が、当該他の装置のみ
を特定する事項であって、当該請求項に係る発明の構造、機能\等を何ら特
定していない場合には、他の装置に関する事項は当該請求項に係る発明を
特定するために意味を有しないことになるから,これを除外して当該請求
項に係る発明の要旨を認定することが相当であるといえる。
本件特許の特許請求の範囲において、構成要件Jの「RFIDインター\nフェースを有し、」との記載は、受信装置が「RFIDインターフェース
を有し」ていることを、構成要件Kの記載は、受信装置が「個別情報の発\n信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を有していることを、構成要\n件Lの記載は、受信装置が「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し
た個別情報であるか否かを判断する判断手段」を有していることを、構成\n要件Mの記載は、受信装置が「前記判断手段で受信した判断情報が、前記
要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理
を行う」ことを、それぞれ特定していると認められるのに対し、構成要件\nJの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するための」との記載は
上記の構造、機能\等を有する受信装置と送受信をする携帯電話の構造、機\n能等を請求項4記載の構\成に限定するものにすぎず、受信装置の構造、機\n能等自体を何ら特定していないから、「請求項4記載の携帯電話」との記\n載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認
めることはできない。
以上によれば、上記の「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するた
めの」を除外して請求項5に係る本件発明の要旨を認定することが相当で
あるというべきであって、被告らの上記主張を採用することはできない。
・・・
(2) 小括
以上によれば、本件発明は、甲32発明と同一の構成を有しているから、\n新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの
と認められ、被告モビリティは原告に対してその権利を行使することができ
ない(特許法104条の3第1項、123条1項2号、29条1項3号)。
3 争点1−3(被告らによる虚偽告知の内容)について
前提事実(5)オのとおり、本件通知行為は、原告が被告モビリティの特許権
を侵害しているとの原告の営業上の信用を害する事実を告知するものであると
ころ、前記2のとおり、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの
であり、原告が被告モビリティの特許権を侵害しているとの事実を通知した本
件通知行為は、不正競争防止法2条1項21号の「虚偽の事実を告知」するも
のといえる。
他方で、前提事実(5)オのとおり、本件通知行為により、被告モビリティは、
岡三証券に対し、被告モビリティが別件訴訟を提起した旨も通知したものであ
るが、実際に、本件通知行為の前日である令和3年6月23日、東京地方裁判
所に対し、別件訴訟を提起している以上(前提事実(5)エ)、別件訴訟について
の通知内容は、同条の「虚偽の事実を告知」したものとはいえない。
なお、被告らは、原告の前訴訟代理人であった弁護士Ci作成に係る令和3
年7月26日付け意見書について、文書提出命令を申し立てているところ(東\n京地方裁判所令和4年(モ)第264号)、本訴のいずれの争点との関係でも
取調べの必要性が認められるとはいえないから、上記申立てを却下する。\n4 争点2(被告らと原告との間の競争関係の有無)について
事業者間の公正な競争を確保するという不正競争防止法の目的(不正競争防
止法1条)に照らすと、同法2条1項21号の「競争関係」は、現実の市場に
おける競合が存在しなくとも、市場における競合が生じるおそれがあれば認め
られると解するのが相当である。
そして、前提事実(2)及び(3)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、決済
に利用される通信端末及びインターネットを利用した決済システムを開発して
販売していること、被告モビリティは、決済システムに利用され得る本件発明
に係る特許権を有し、同特許権について実施権を許諾してライセンス収入を得
ることを業としていることが認められ、被告モビリティ自身が決済端末の開発、
販売をしておらず、現実の市場における競合が存在しないとしても、市場にお
ける競合が生じるおそれはあるといえる。
3 争点1−3(被告らによる虚偽告知の内容)について
前提事実(5)オのとおり、本件通知行為は、原告が被告モビリティの特許権
を侵害しているとの原告の営業上の信用を害する事実を告知するものであると
ころ、前記2のとおり、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの
であり、原告が被告モビリティの特許権を侵害しているとの事実を通知した本
件通知行為は、不正競争防止法2条1項21号の「虚偽の事実を告知」するも
のといえる。
他方で、前提事実(5)オのとおり、本件通知行為により、被告モビリティは、
岡三証券に対し、被告モビリティが別件訴訟を提起した旨も通知したものであ
るが、実際に、本件通知行為の前日である令和3年6月23日、東京地方裁判
所に対し、別件訴訟を提起している以上(前提事実(5)エ)、別件訴訟について
の通知内容は、同条の「虚偽の事実を告知」したものとはいえない。
(2) 不正競争行為に係る過失について
本件全証拠によっても、被告らにおいて本件通知行為時までに本件特許が
無効となることを具体的に認識し得たことを基礎付ける事情は認められない。
他方で、前提事実(5)のとおり、被告モビリティは、原告がマザーズ市場に
上場する約2週間前に、岡三証券に対して本件通知行為をしたものであると
ころ、同時点においては、原告から本件特許が無効である旨の主張は一切さ
れておらず、原告が初めて具体的な引用例を示した上で本件特許の新規性又
は進歩性欠如の主張をするに至ったのは、本件訴訟係属中に前訴訟代理人弁
護士らを解任して現在の訴訟代理人弁護士に本件を委任した後であった。以
上の事情に加え、一般に、特許権は特許庁においていったん特許要件ありと
して特許査定を受けた権利であることを考慮すると、本件通知行為時点にお
いて、被告らに本件特許の無効理由を調査する義務まで負わせることが相当
であるとはいい難い。したがって、被告らに不正競争行為につき過失があるとの原告の主張は理由がない。
◆判決本文
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2024.06. 9
令和1(ワ)24736 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月15日 東京地方裁判所
空調服の特許について、進歩性無しとして、権利行使不能と判断されました。\n
前記aないしdの各記載によると、本件出願当時、被服の技術分野
においては、二つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、
そもそも二つの紐状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容
易ではないとの周知かつ自明の課題が存在したものと認められる(な
お、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、本件出願当時に存在した課
題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは
非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調整
することができないとの記載がみられるところである。)。
そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成\n(「前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第\n一の位置に取り付けられた紐1と」、「前記紐1が取り付けられた前記
第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付
けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによって、
空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、\n乙46説明書に「首と襟足の間隔を広くし」との記載及び紐が首の後
ろにある旨の図示(前記(1)イ )があることからすると、本件公然実
施発明に接した本件出願当時の当業者は、上記の課題を認識するもの
と認めるのが相当である。
乙33発明’が解決する課題
前記(3)アの記載のとおり、乙33発明’は、「帯紐6a」に「ボタン
7a」を、「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタ
ン7a」を複数ある「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成\nを採用することにより、「帯紐6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調
整し、もって、個人差のある腰回りの大きさに応じて介護用パンツ1を
装着することを可能にするというものであるところ、乙33公報に装着\nの容易さについての記載(【0008】、【0009】、【0011】)があ
ることや、前記 eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願当時に被
服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願当
時の当業者は、乙33発明’につき、これを二つの紐状部材を結んでつ
ないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手
段として認識するものと認めるのが相当である。
課題の共通性についての結論
前記 及び のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される
課題と乙33発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当であ
る。
ウ 本件公然実施発明に乙33発明’を適用することについての動機付けの
有無
前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実
施発明に接した本件出願当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調
整するための手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調
整することが手間で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するた
め、同じ被服の技術分野に属する乙33発明’を採用するよう動機付けら
れたものと認めるのが相当である。
エ 原告の主張について
原告は、本件公然実施発明は、排出する空気の量に応じて、中に支え
る物体がない、空気を排出するスペースを調整するのに対して、乙33
発明’は、体型等に応じて中に支える物体があるものの周りを調整する
ものであるから、その目的や機能が異なると主張する。\nしかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の
締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし
する。
しかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の
締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし機能\nにおいて異なるものではないから、本件公然実施発明が空調服の首回り
の空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、乙33発
明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すな
わち、両者が何を調整するのかにおいて異なることは、前記ウに係る結
論を左右するものではない。
また、原告は、1)空調服は、世の中に存在しなかった革新的技術であ
ることや、2)本件発明1は従来技術に比して有利な効果を有しており、
本件公然実施発明と異なる技術的意義を有することを主張している。
しかし、上記1)について、本件発明1は、本件公然実施発明等によっ
て既に実用化されている空調服における空気排出口の開口度の調節方法
に係る発明であり、従来技術の延長線上に位置付けられるものと評価で
きるところ、上記の調節方法が被服の技術分野で周知といえることは前
記(3)で説示したとおりである。そうだとすれば、空調服という製品自体
が革新的技術であることは、本件発明1の進歩性を基礎付ける事情とは
ならないというべきである。
上記2)について、本件全証拠によっても、本件発明1がその進歩性を
基礎付けるほどの有利な効果や技術的意義を有しているとは認められな
い。
◆判決本文
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2024.06. 7
令和5(ネ)10063 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年5月15日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特許権侵害について、原審は約4500万円の損害賠償を認めましたが、知財高裁はこれを取り消しました。争点は、主引発明に副引用発明を適用し、さらに周知技術を適用できるかです。知財高裁(2部)は、本件では相互に関連する技術ではなく、適用可能と判断しました。\n
イ 本件適用2に係る動機付けと阻害要因の有無
前記(4)イ(ア)のとおり、乙15発明は、回転駆動源に電動モータを使用したトル
ク制御式パルスツール(ねじ締めツール等)の技術分野に属するものである。また、
前記アによると、本件周知技術は、電動モータに使用される磁石の固定方法に関す
るものであるから、電動モータの技術分野に属するものである。そして、相違点B
に係る本件発明等の構成の内容は、磁石がステータに隙間を設けて貼\設されている
ことであるから、本件適用2との関係では、乙15発明(電動モータに係る部分)
と本件周知技術は、その属する技術分野を共通にするものである。さらに、乙15
発明(乙6発明Aを適用したもの)に接した本件優先日当時の当業者は、磁石をど
のようにして筒状のロータの内周面に保持するかという課題に直面することになる
ところ、接着剤を用いて磁石をロータに隙間を設けて貼設する技術である本件周知\n技術は、当該課題を解決することのできる手段(技術)となる。したがって、本件
優先日当時の当業者において、乙15発明(乙6発明Aを適用したもの)に本件周
知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
本件適用2をするに当たり、阻害要因があることを認めるに足りる証拠はない。
ウ 相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性についての小括\n
(ア) 以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、乙15発明に乙6
発明A及び本件周知技術を適用することにより、相違点Bに係る本件発明等の構成\nに容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(イ) この点、原告は、乙15発明に乙6文献記載の発明を適用し、その後に周
知技術を適用して相違点Bに係る本件発明等の構成を導出することは「容易の容易」\nに当たるから、本件優先日当時の当業者において、相違点Bに係る本件発明等の構\n成に容易に想到し得たとはいえないと主張する。
確かに、前記イのとおり、本件適用2は、乙6発明Aを適用した乙15発明を前
提とするものである。しかしながら、電動式衝撃締め付け工具において、電動モー
タをアウタロータ型のものとすること(相違点A関係)と当該電動モータにおいて
磁石を筒状のロータの内周面に隙間を設けて貼設すること(相違点B関係)は、そ\nれらの内容に照らし、相互に関連する技術ではなく、互いに独立した別個の技術で
あるといえるから、原告の主張は、相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性\nを左右するものではない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和2年(ワ)4913
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2024.05.26
令和5(ネ)10084 特許権侵害損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
個人発明家がアップルを訴えた事件の控訴審判決です。1審は約4400万円の支払いを命じましたが、知財高裁(3部)は、約1800万円に減額しました。これは実施料率が1審0.5%控訴審0.2%となったためです。
当裁判所は、第1審原告の請求のうち、1755万3642円及びうち12
69万1831円に対する平成21年9月27日から、うち25万3585円
に対する平成22年9月26日から、うち170万7608円に対する平成2
4年9月30日から、うち290万0618円に対する平成25年9月29日
から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理
由があるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきで
あると判断する。その理由は、当審における当事者の主張も踏まえて原判決を
後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における第1審原告の補充主張に
対する判断を付加し、後記3のとおり当審における第1審被告の補充主張に対
する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第4(原判決45頁2行目
から94頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
・・・
原判決92頁1行目の・・・、同頁5行目の「0.5%」を「0.2%」に、それぞれ改める。
◆判決本文
原審はこちら。
◆令和2(ワ)13317
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◆平成19(ワ)2525
◆平成25(ネ)10086
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2024.04.22
令和5(ネ)10010 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月27日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審では、技術的範囲に属するが新規性違反の無効理由有りと判断されました。控訴人は訂正審判を請求するとともに、控訴しました。被控訴人は訂正要件違反の無効理由を主張しましたが、知財高裁は訂正要件違反なしと判断し、差止と約50万円の損害賠償を認めました。
(イ) 乙18分析及び乙24分析における分析対象物である公然実施発明
(引用発明)に基づく進歩性欠如の主張について
a 公然実施発明は、公然実施品の具体的な構成又は組成等に基づいて認\n定されるため、通常、その公然実施品自体に課題が記載されていること
はなく、何らかの課題があることを認識することは困難であるから、公
然実施発明に基づく容易想到性の有無を判断するにあたっては、公然実
施品から出願日(優先日)当時の技術常識を前提にして技術的思想や課
題を認識できるかどうか、その構成又は組成を変更する動機付けがある\nか否かを検討すべきである。
・・・
c 被控訴人の主張について
(a) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕イ・ウのとおり、
本件特許の優先日前に公然実施された被控訴人製品「無限七星FIS
H」の重量平均分子量4.5×104との比較において、「1500
0」という上限値が技術的にいかなる意義を有するのかが不明であ
り、本件優先日において、ポリアリルアミンの重量平均分子量上限値
の「15000」と、公然実施発明に係る同「45000」は、いず
れもポリアリルアミンの重量平均分子量として広く知られ、一般的に
利用されている範囲内のものであるから、本件発明は、公然実施発明
に基づいて当業者が当然に予測することができたもので、進歩性を有\nしない旨を主張する。
この点につき、乙13(特開昭58−201811号公報)は、モ
ノアリルアミンの重合体の製造方法について記載されたものである
ところ、アリル化合物が通常のラジカル系開始剤によっては重合し難
いという問題があったことから、ラジカル系開始剤を用いて、モノア
リルアミンの高重合度の重合体を製造する方法を提供することを目
的とするものであり、請求項1に記載の特定のラジカル系開始剤(分
子中にアゾ基とカチオン性の窒素原子を持つ基とを含む。)を用いれ
ば、モノアリルアミンの無機酸塩が、極性溶媒中で極めて容易に重合
し、高収率で高重合度の重合体が得られることを見出したものであっ
て(特許請求の範囲の記載、2頁左上欄及び3頁左下欄)、実施例に
は、乙13記載の製造方法によって製造された数平均分子量(Mn)
が「6500〜45000」のポリアリルアミンが記載されている。
しかし、乙13は、ポリアリルアミンを水に含有した際の機能につい\nて、また、数平均分子量の違いによる機能の差異について記載ないし\n示唆するものではないから、乙13の記載から、公然実施発明(引用
発明)の「無限七星FISH」について、含有成分であるポリアリル
アミンの重量平均分子量等の物性を変更することが動機付けられる
ものとはいえない。
また、乙12の1(メディカル社のウェブサイト)には、「PAA
🄬(ポリアリルアミン)」の製品紹介が記載されており、「日東紡が
世界で初めて工業的製法を確立したポリアリルアミン(PAA🄬)は、
一級アミンを主成分とする機能性カチオンポリマー」であり、「様々\nな素材のカチオン化や高機能化に最適」であることや、「お客様の使\n用目的・用途に応じてのご提案も可能」であることが記載され、「ア\nリルアミン塩酸塩重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量
平均分子量(M.W.)が「1,600」(PAA−HCL−01)、
「15,000」(PAA−HCL−3L)、「100,000」(P
AA−HCL−10L)等の製品が、また、「アリルアミン(フリー)
重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量平均分子量(M.
W.)が「1,600」(PAA−01)、「15,000」(PA
A−15C)、「25,000」(PAA−25)等の製品が、それ
ぞれ記載されている(1/3−2/3頁)。
また、乙12の2には、メディカル社の研究・開発の歴史について
記載され、「PAA🄬」に関して、「1984(昭和59)年 PA
A🄬の(ポリアリルアミン)の重合方法発明および販売開始」、「1
991年(平成3)年 低分子PAA🄬を直接染料用固着剤として用
途開発・販売開始」等の記載がある。
しかし、乙12の1及び乙12の2も、ポリアリルアミンを水に含
有した際の機能や、重量平均分子量の違いによる機能\の差異について
記載ないし示唆するものではないから、乙12の1の記載から、公然
実施発明(引用発明)の「無限七星FISH」について、含有成分で
あるポリアリルアミンの重量平均分子量等の物性を変更することを
動機付けられるものとはいえない。
そうすると、乙13、乙12の1及び乙12の2の各記載を考慮し
ても、前記公然実施発明(公然実施品)の構成又は組成について、技\n術的思想や課題を認識できるような、本件優先日当時の技術常識があ
ったとはいえないから、たとえ、重量平均分子量が「15000」又
は「45000」であるポリアリルアミンが市販されたものであり、
当業者に広く知られ、一般的に利用されているものであったとして
も、そのことを根拠に、当業者が公然実施発明のポリアリルアミンの
重量平均分子量等の物性を変更することを当然に予測できるとはい\nえない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(b) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕エのとおり、本件
明細書にはポリアリルアミンの重量平均分子量につき本件訂正に係
る数値範囲は記載されていないから、当該数値範囲に特別な技術的意
義は認められず、本件明細書には重量平均分子量と発明の効果との間
に因果関係があることも記載されていないから、市販品として容易に
入手可能な重量平均分子量のポリアリルアミンを採用することに困\n難性はなく本件発明は進歩性を有しないと主張する。
そこで本件発明の技術的意義について検討すると、前記アのとお
り、本件明細書には、簡便に調製でき、且つ優れた機能を有する機能\
水を提供することを課題とし(段落【0002】ないし【0010】)、
当該課題を解決するために、機能水に、式(3)(式(3’)を包含\nする。)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含むポリマー
等の多価アミン及び/又はその塩を機能成分として含有することを\n特徴とし、当該機能成分の機能\として、魚介類又は精肉の鮮度保持を
含む種々の機能を有することが開示されている(段落【0012】、\n【0013】、【0015】及び【0026】)。
また、式(3)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含む
ポリマーとして、本件発明のポリアリルアミン又はジアリルアミン重
合体に該当するポリマーBが例示されており、その重量平均分子量が
「例えば100〜200,000、好ましくは300〜100,00
0、さらに好ましくは500〜50,000である」こと(段落【0
052】ないし【0055】)、ポリマーBの市販品として、重量平
均分子量が「1600」であるポリアリルアミン(PAA−01)、
「15,000」であるポリアリルアミン(PAA−15C)及び「5,
000」であるジアリルアミン重合体(PAS−21)が開示されて
いる(段落【0065】)。
そして、実施例において、具体的に、重量平均分子量が「1600」
若しくは「15,000」であるポリアリルアミン又は重量平均分子
量が「5,000」であるジアリルアミン重合体及び精製水を配合し
た試験液を用いて、魚介類又は精肉の鮮度保持を含む種々の機能を確\n認したことが開示されている(段落【0108】ないし【0237】)。
そうすると、本件明細書の記載から、「重量平均分子量500〜1
5000」のポリアリルアミン又はジアリルアミン重合体を含有する
機能水である本件発明には、前記のとおりの機能\を有する点で技術的
意義があることが認められる。
そして、前記(a)のとおり、公然実施発明(引用発明)に基づいて、
その含有成分であるポリアリルアミンの組成に着目し、重量平均分子
量等の物性をあえて変更することについて動機付けがあるとはいえ
ないから、前記本件発明との相違に係る重量平均分子量の数値範囲の
ものに置換することが容易に想到できたものとはいえない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和3(ワ)4920大阪地裁
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2024.04.10
令和5(ワ)70114 不当利得返還等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月27日 東京地方裁判所
自動二輪車のブレーキに関する特許について、ヤマハ発動機に対して損害賠償等を求めました。争点は均等侵害等多数有りますが、東京地裁46部は、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。本件特許は出願時から弁理士無しの本人出願ですが、訂正時に代理人がついてます。無効審判も同時継続しています(無効2023-800055)
2 サポート要件違反があるか(争点4−1)について
本件発明1について
ア 本件発明1の構成要件1Fは、「前記信号演算として、横加速度を検出す\nる加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横
G(Ghosei)の導出方法を少なくとも有し、」というものであり、構\n成要件1Hは、「当該車両において、前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の
横G(Ghosei)の組合せにより、車両挙動が判断され、・・・」とい
うものであり、本件発明1は、算出された補正後の横G(Ghosei)を
利用するECUによって車輪を適切に制動し、これによってロール方向の挙
動の抑制を図る車両ブレーキ制御装置(構成要件1I)であるとされている。\nそして、本件発明1は、前記1のとおり、自動二輪車等の制御装置につ
いて、従来は、正確な傾斜角の検出ができなかったという課題を解決して、
車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたというものである。
これらからすると、構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、\n従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出された、
車両の傾斜走行状態での正確な横Gであると認められる。
ここで、制動指令の前提となる「横G(Ghosei)」は、「横加速度を
検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った」(構\n成要件1F)ものであるとされていることから、「横G(Ghosei)」
は、横加速度を検出する加速度センサーの検出値を基に、これに補正をか
けて得られる値であると理解できる。もっとも、本件発明1の特許請求の
範囲には、「横G(Ghosei)」について、単に加速度センサーの値か
ら「ロールによる影響を取り除く演算を行った」(構成要件1F)と記載す\nるのみで、どのような演算をするかは明示されていない。そうすると、特
許請求の範囲には、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載さ
れ、その解決のための構成は記載されていないといえる。\n
イ 本件明細書には本件発明の意義として前記1のとおりの記載があり、車両
の正確な傾斜角の検出ができず、正確な横Gを検出できなかったという課題
を解決して、車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたという
ものであるとされている。
もっとも、本件明細書には、従前は検出できなかった正確な傾斜角の検出
をどのようにするかや、その傾斜角が判明した場合に正確な横Gを算出する
ためにどのような補正を行うかについての記載はない。
他方、本件明細書には、センサーによる検出結果を補正して横Gを算出す
る方法として、Ghosei = Gken − (Ψ・Rhsen) (式A)
との記載がある(【0073】)。本件明細書の【0073】では、「Gken」
は、実際の走行傾斜時に検出される検出横Gであるとされ、「Ψ」は傾斜角
速度、「Ghosei」はΨを用いたGkenの補正後の横Gであるとされ
ていて(なお、「Rhsen」について、本件明細書には定義がないものの、
「hsen」について路面とセンサとの距離であることを示唆する記載があ
ったり(【0050】【0058】【0061】、図8、9)、「RはGセンサー
#23の実車取付けの高さ(図8b hsen)」(【0063】)との記載、
Ψ・Rhsenについて、Rhsenに1を代入した上で「但し、センサー
取り付け高さ Rを1mとする。」との記載(【0074】)があったりする
ことから、「Rhsen」車体を垂直にしたときのセンサ取り付け位置の高
さであることを一応推測できる。)、その「Ghosei」は、本件発明の課
題として言及されている「正確な横G」であると理解することができる。そ
して、式Aは、その体裁から、本件発明の意義(前記1参照)として記載さ
れている、「横Gセンサー」で検出されたGkenと「角速度センサー」で
検出されたΨを用いて「正確な横G」を算出する方法を記載した式であると
理解できる。
しかしながら、「Ψ・Rhsen」からは、傾斜角は算出されないし、式
Aから、傾斜角を算出することなく「正確な傾斜角の検出ができなかった諸
問題」が解決されていると理解することもできない。さらに、Ghosei
及びGkenは、加速度の次元(長さ/時間2)を有し、Ψ・Rhsenは
速度の次元(長さ/時間)の次元を有していることから、式Aは物理学上、
明らかに意味を持たない式である(弁論の全趣旨)。
そして、本件明細書には、式Aの他に、センサーによる測定値を基に「正
確な横G」を算出する方法についての記載はない。
ウ 本件明細書によれば、本件発明は、車両制御のためには「正確な横G」の
取得が必要であるところ、横加速度を検出する加速度センサーの値をその
まま用いることができないこと、当該値から正確な横Gを算出するために
は傾斜角度を取得することが必要だがそれができないことが課題として記
載され、本件発明はその課題に対して、車両の傾斜走行状態での正確な横
Gを算出したものであるとされており、「横加速度を検出する加速度セン
サーのロールによる影響を取り除く演算を行った」という「横G(Ghos
ei)」についての、当該演算が、本件発明の課題解決の根幹に当たる部分
であるといえるといえる。
しかしながら、特許請求の範囲には、その演算について、従来の課題を
解決するに足りる構成は記載されていない。また、本件明細書の発明の詳\n細な説明をみても、関係する記載は前記イのとおりである。本件明細書の
式A(【0073】)が、一応、上記の演算であると理解することはできる
が、他に、関係する記載はない。そして、前記イのとおり、式Aは本件発明
の課題とされている傾斜角を算出しない上、そもそも物理学上意味をなさな
い式であり、当業者はおよそ式Aを用いて車両制御に利用可能な横G(Gh\nosei)が算出できると理解できるものではない。
エ 原告は、本件明細書の記載は、別紙対比表のとおり誤記があり、正しく\nは同表の「訂正後」欄記載のとおりであると主張する。構\成要件1Fの「演
算」については、式Aのみが当たり得るところ、式Aは前記イで認定した
とおり、次元の異なる物理量の差し引きをしていることから物理学上意
味をなさない式であり、当業者は、式Aに何らかの誤りがあると理解する
ことができるといえる。この点について式Aについて、原告が主張すると
おりGhosei=Gken−(Ψ.・Rhsen) (式A´)(ただし、「Ψ
.」は傾斜角加速度)の誤記であると理解すれば、減算される物理量の次元が異なるという問題については解消される。しかし、次元を整える目的のみであれば、その訂
正の方法は式A´とすることに限られるものではないのであり、他に解消
方法を考え得るのであり、その考え得る解消方法が物理法則やそれを踏ま
えた技術常識等に照らして不合理であることを認めるに足りる証拠はな
い。そうすると、式Aの記載のみから、どのような誤記であるかのかが一
義的に定まるものであるとはいえない。
さらに、原告は、式Aについて「Ψ」を「Ψ.」に訂正するに当たって、
そのままでは式Aに関する説明が記載されている【0073】のその他の
記載と矛盾が生じるため、式Aのみならず、同段落における他の「Ψ」の
記載も「Ψ.」に訂正し、1か所の「傾斜角速度」との記載も「傾斜角加速
度」に訂正するものとしている。
しかし、原告が主張する訂正により、訂正後の【0073】は、「この補
正後の横G(Ghosei)は、(0063)式のGkenから傾斜角加速
度(Ψ.)を用いた補正であり、(0067)の式に対して、傾斜角が変化しない状況である。すなわち、式の「Ψ.・Rhsen」の項については、ゼロとなることから二つの式を整理し記述すると、・・・」との記載を含むことになるが、傾斜角加速度(Ψ.)がゼロであっても、傾斜角速度(Ψ)がゼロでないとき(定速傾斜時)は傾斜角が変化する状況なのだから、傾斜角加速度(Ψ.)に関する項「Ψ.・Rhsen」がゼロであることは直ちに「傾斜角が変化しない状況」を意味するものではないから、原告が主張する訂正をすると同記載部分の趣旨が理解できなくなってしまう。他方で、当該箇所について、「Ψ」を「Ψ.」に訂正しなければ、その内容は理解可能である。\n
同様に、原告が主張する訂正後の【0073】の「・・・この様に、式
の「Ψ.・Rhsen」の項について、ゼロにしたデーターは、定常円旋回
時に得られたデーターと呼ばれることがある。・・・」との記載についても、
定常円旋回時には、傾斜角が一定になるため、「傾斜角速度」が0になると
ころ、「傾斜角加速度」に関する項が0になっても、「傾斜角」が変化しな
いとは限らない(傾斜角加速度が0の場合には、定速傾斜の場合も含まれ
る。)のであるから、訂正すると同記載部分の趣旨が理解できなくなって
しまう。この点についても、当該箇所について訂正しなければその内容は
理解可能である。\n
さらに、式Aは、測定された加速度(Gken)を角速度(Ψ)の値に
よって補正する式であるといえるが、これは、「走行時の横Gセンサーと
角速度センサーを関連付けることによって、従来は、正確な傾斜角の検出
ができなかった諸問題を解決」(前記1)という本件明細書に記載されて
いる課題解決の基本的な方法として明示されている手法に文言上最も沿
うものである。他方、式Aを式A´に訂正すると少なくとも直接的にはこ
れに文言上最も沿うものとはいえない内容になってしまう。
また、原告は、誤記を訂正した後の【0063】の記載によれば、傾斜
走行時に検出される検出横G(Gken)には、ロール速度の変化の影響
である加速度成分(Ψ.・Rhsen)が重畳されていること、重畳された
当該加速度成分は、傾斜角速度センサーの速度変化である傾斜角加速度
(Ψ.)を減算することで取り除くことができることが分かるなどと主張す
る。
しかし、前記イで説示したとおり、本件明細書においてセンサーで取得
した加速度の値を修正して得られる制御に用いる加速度として言及され
ているのは【0073】の横G(Ghosei)のみであり、【0063】
には、本件発明1の「横G(Ghosei)」の算出方法は記載されてい
ない。仮に、【0063】に本件発明1に係る「加速度センサーのロール
による影響を取り除く演算」が「Ψ.・Rhsen」を減算する趣旨であることを示唆する記載があると評価できるとしても、【0073】の方がより直接的な制御に用いる修正後の加速度を算出する方法に関する記載であると評価できるにもかかわらず、式Aについては、前記イで説示した問題がある。
また、【0063】には、Gken=g・cosΦ・tanρ−Ψ・Rhen
(訂正後は「Gken=g・cosΦ・tanρ+Ψ.・Rhsen」)という式が記載されており、訂正後の式には「Ψ.・Rhsen」という項が含まれているものの、これを減算(訂正後は加算)した「g・cosΦ・tanρ」が物理学上、本件発明で算出することが課題とされている「正確な横G」に当たり、同物理量が判明すれば「正確な傾斜角の検出ができなかった諸問題」を解決できるものと理解できると認めるに足りる証拠はない。そうすると、仮に【0063】の記載が原告の主張するとおりの誤記であると認定できるとしても、当該式のみからでは、センサーによる検出値である「Gken」から「Ψ.・Rhsen」を減算することが課題解決につながり、構成要件1Fの「ロールによる影響を取り除く演算」に当たるものであると理解できるとはいえない。\n
また、原告の主張中には、【0063】より前の【0061】、【0062】の記載から【0063】の記載が誤記であることが理解できると主張する部分があるが、【0061】、【0062】にも多数の誤記があり、「Ψ」と「Ψ.」に関する誤記のみならず「−」と「+」に関する誤記まであり、どの部分が誤記であるのか容易に理解できるとは認め難い。もともと、本件明細書では、その全体にわたって、その説明の当初から基本的に一貫して加速度の次元の物理量から角速度(周速度)の次元の物理量を加算ないし減算するという式を前提とする内容で説明が記載されていて、前記エで説示したとおり、当該式に直接関連しない部分についてもこれと矛盾しない内容になっていた。そのような本件明細書について、当該式を訂正すると別の部分と矛盾が生じる内容になっている。これらからすると、当業者は、本件明細書に記載の誤りがあることを理解するとしても、本件明細
書において、本来どのようなことが記載されようとしていたのかや、どの部分がどのような誤記であるかを理解することができるとは認められない。
以上のとおり、当業者は、式Aに含まれる項の次元が異なることから何らかの誤りがあることは理解できるものの、次元の違いによる問題を解消する方法は原告が主張する訂正に限られるものではなく、また、式Aの内容等から、次元の違いによる問題を解消するためには、式A´に訂正する以外の方法はないと当業者が理解できると認めるに足りる証拠はない。さらに、式Aの訂正と整合するように、本件明細書の式Aに関する記載部分を訂正していくと、それまで問題なかった明細書の記載の趣旨が理解できなくなったり、整合しなくなってしまうことが認められる。
これらの事情からすると、本件明細書の記載から、式Aが式A´の誤記であると理解できるとはいえない。よって、式Aについて式A´の誤記であると理解できることを前提とする原告の主張はその前提を欠く。
オ 本件発明1の意義は前記1のとおりである。そして、本件発明1の構成\n要件1Fには、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載され、
その解決のための構成は記載されていないといえるところ、前記ウのと\nおり、その課題の解決のための構成について、本件明細書に記載がある\nとはいえない。また、その記載がないにも関わらず、当該課題について、
当業者がそれを解決できると認識できることを認めるに足りない。そう
すると、本件発明1は、本件明細書に記載された説明で、本件明細書の発
明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認
識できる範囲のものであるとはいえないし、当業者が技術常識に照らし発
明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。よって、本
件発明1は、本件明細書に記載された発明であるとはいえない。
本件発明2について
ア 本件発明2は、算出された補正後の横G(Ghosei)を利用する、自
動二輪車の車両解析装置であるとされており、横G(Ghosei)の算出
方法については、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと傾斜
角速度の積との差分を求めるものとされている。
本件明細書においてこれに関する記載としては式Aに関する記載がある
が、当該記載は本件明細書に記載された課題を解決する発明であると理解で
きないものであることについては、前記 で説示したとおりである。他に本
件明細書には当該部分に係る記載があるとはいえない。よって、本件発明2
は本件明細書に記載されている発明であるとはいえない。
イ この点について、原告は、構成要件2Eの補正後の横G(Ghosei)\nの算出方法について、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと
「傾斜角速度」の積との差分との記載は、横加速度から加速度センサーの
車両取り付け高さと「傾斜角加速度」の積との差分の誤記であると主張す
る。
しかし、本件明細書には、補正後の横Gに関する記載は式Aに関する記
載しかなく、ここには、「傾斜角加速度」の積との記載はない。原告は、式
Aが式A´の誤記であると主張するが、これが誤記であると理解できない
ことについては前記 エで説示したとおりである。そうすると、仮に構成\n要件2Eが2E´の誤記であると理解できるとしても、本件発明2が本件
明細書に記載された発明であるとは認められない。
よって、本件発明のいずれについても、本件明細書に記載された発明であ
るとはいえず、サポート要件を欠くものであると認められる。
◆判決本文
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2024.02.23
令和5(ネ)10026 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年1月31日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特許権侵害訴訟の控訴審判決です。原審は、被告製品は本件発明2の技術的範囲に属さない、本件発明1は公然実施発明Bであって新規性を欠くとして請求棄却しました。控訴審も同様です。
ア 控訴人は、構成要件2Bを「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であることを要する」と解する根拠は、特許請求の範囲の文言にも本件発明2の課題にも
なく、当業者の技術常識等からみても非現実的である旨主張する。
イ しかし、構成要件2Bは「前記排水溝の壁面の表\面粗さが、算術平均粗
さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする」と規定してお
り、本件発明2の特許請求の範囲の文言全体をみても、排水溝壁面の表面粗さについて、一部は2.0μmを超えるが製品の一定範囲や所定の\n測定箇所が2.0μm以下であるものを含む、あるいは全体の算術平均
粗さ(Ra)の平均値が2.0μm以下であるものを含むと解すべき文
言はない。
この点は、本件明細書2の記載をみても同様である。控訴人が指摘す
る本件明細書2の記載や図面は、従来技術や実施例に係る排水溝の性状
等を特に留保なく説明するものであり、控訴人が主張するように、作業
過程で異常(イレギュラー)が発生した箇所があることを前提とし、こ
れを除いた「任意の箇所」を示すものであることを窺わせる記載はない。
控訴人は、1)製紙用弾性ベルトの排水溝は、作業前に設定した加工条
件に基づいて均一的に連続加工されるものであること、2)作業時の諸要
因によって加工結果にばらつきが生じることが避けられないこと、3)排
水溝の壁面を全長にわたって測定する作業は現実的に不可能であり、任意に選定された排水溝の壁面を測定する作業によって製品の性状を把握\nするという、当業者の技術常識を考慮すべき旨主張する。
しかし、上記のとおり明確な構成要件2Bの文言について、明細書にも記載がなく、その範囲も不明確な例外を含むと解することは、不当な\n拡張解釈というべきであって、特許請求の範囲の解釈に当たって当業者
の技術常識を考慮するという枠組みを超えるものといわざるを得ない。
控訴人の主張は、当業者が定める自社製品の品質基準としてはともかく、
独占権が付与される特許請求の範囲の解釈としては採り得ない。
なお、控訴人が指摘する大阪地方裁判所平成15年(ワ)第10959号
同17年2月28日判決は、控訴人の主張を裏付けるものではない。
ウ したがって、原判決判示のとおり、構成要件2Bは「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であること」を要すると解するのが相当である。
そうすると、控訴人が主張する<ステップ1>から<ステップ2の2
B>まで、すなわち「各測定結果に係る9溝ないし18溝のデータ数値
を参照し、特定の溝壁面の表面粗さ数値が他の溝の同一壁面に比して突出して高くなっている」ものを「当業者からみて明らかに溝加工作業時\nに生じた異常(イレギュラー)」として除外すること、及び「測定結果
に係る各壁面の表面粗さの平均値が算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下である結果が得られているか否か」(控訴人の他の主張と併せると、\n任意の測定箇所の算術平均粗さの「平均値」が2.0μm以下であるこ
とを意味すると解される。)により充足性を判断する判断手法は、構成要件2Bを逸脱する独自の解釈に基づくものといわざるを得ず、採用で\nきない。
・・・
(2) 公然実施発明Bに基づく本件発明1の新規性欠如の有無について
イ 公然実施をされた発明に当たるかについて
(ア) 控訴人は、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面にD
MTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可能な分析方法によって知ることができなかった旨主張する。\n
(イ) しかし、まず、証拠(乙37、124、128、129)によれば、
エタキュアー300は、本件特許1の出願前から実用化され、ウレタン
用の硬化剤として注目されていたことが認められる(原判決44頁〜)。
控訴人は、上記文献等はシュープレス用ベルトに使用される硬化剤に
ついて言及するものでないと主張するが、上記文献等はポリウレタン全
般向けの硬化剤としてエタキュアー300を説明するものであるところ、
シュープレス用ベルトに利用される硬化剤が他の一般的なポリウレタン
の硬化剤と異なるとみるべき根拠はない(上記文献等には、代表的な従来品が本件明細書1【0003】に従来のシュープレス用ベルトの硬化\n剤として記載されているMOCAである旨の記載も複数ある。)。
また、被控訴人は、遅くとも平成9年7月時点ではエタキュアー30
0を使用していたところ(原判決45頁)、上記ア(イ)の認定事実によ
れば、被控訴人は硬化剤としてDMTDAを使用することを独自に見出
したのではなく、エタキュアー300を製造販売するアルベマール社の
国内関連会社との取引を契機として知ったと認められる。この事情は、
他の当業者が硬化剤の候補としてエタキュアー300に着目する蓋然性
を裏付ける事情となることは明らかである。
控訴人は、さらに、ポリウレタンの硬化剤はDMTDAの他にも約8
0種類存在し(甲43)、その全てについて標準品を準備して分析依頼
を行うことは非現実的であると主張する。
しかし、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(乙128)に「実用化
されている熱硬化PUエラストマー用芳香族ジアミン架橋剤」として記
載された5種類、あるいは特開2000−248040号公報(乙12
7)にポリウレタンプレポリマーと反応させるアミン硬化剤組成物とし
て記載された芳香族ポリアミンの15種類、その中でも好ましいと記載
された4種類には、いずれもエタキュアー300又はDMTDAが含ま
れており、当業者は、従来用いられているMOCA(本件明細書1【0
003】)と同類であるこれらの硬化剤を想定するとみるのが自然であ
る。
(ウ) 控訴人は、ベルトの外周面に着目し、外周面のみを切り出して分析を
依頼することは、当業者が通常に利用可能な分析技術とはいえない旨主張する。\nしかし、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の
層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤と
を混合してベルトの弾性材料とすることは技術常識であり(原判決44
頁)、自由に解析等をなし得る状態に置かれたベルトを解析して構造等を特定することは可能\であったと認められる(このことは甲25に記載された断面写真から明らかであり、原判決の認定に問題はない。)。
したがって、ベルトBの外周層を切り出して分析を依頼することは、
本件訴訟において控訴人(甲10の1〜4)及び被控訴人(乙1〜3)
が行ったのと同様、本件特許1出願前の当業者にも可能であったと認められる。\n
なお、当業者が仮に外周層と内周層に異なる硬化剤を用いる製造方法
を認識せず、これらを区別せずに分析を依頼した場合、全体について硬
化剤としてDMTDAが使用されているという分析結果を知ることにな
り、この結果はベルトBの正しい構成なのであるから(乙32)、「外周面を構\成するポリウレタンは、」「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている」との構成を含め、本件発明1の内容を知り得たといえることに変わりはない。\n
(エ) したがって、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面に
DMTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可
能な分析方法によって知ることができたと認められる。ベルトBが公然実施された発明とはいえない旨をいう控訴人の主張は採用できない。\n
◆判決本文
原審はこちら。
◆大阪地裁平成29(ワ)4178
原審では、被告は、一旦、損害論に入ってから、2.0μm以下である」との構成要件を充足しないとして、非侵害の主張を行いましたが、これは「時機に後れた」とは認定されませんでした。
原告は、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわ
らず、被告は、被告製品1〜3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁
面の表面粗さの測定結果(乙152〜159)を新たに証拠提出するとともに、非侵害の主張を行ったことが時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を主張する。\nしかし、被告が前記証拠等を提出したのは、原告が、訴状においてはイ号製品
が本件発明2の技術的範囲に属する旨を主張しつつも、被告製品1〜3及び5の
排水溝壁面の表面粗さに限定して立証活動をしていたが、裁判所が本件発明2については損害論に入る旨の心証開示を行ったことを受けて、被告製品1〜3及び\n5の各製品と同じシリーズの製品等についても本件発明2の技術的範囲に属する
旨を改めて主張したことに対応するものであって、必ずしも時機に後れたものと
は認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。
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2024.02. 7
令和3(ワ)18262 損害賠償請求事件(特許権侵害) 特許権 民事訴訟 令和5年12月6日 東京地方裁判所
特102条3項のライセンス料として、通常の5%を根拠に6%の損害が認められました。被告の公式ホームページにおいて、販売数量について「30万着突破!」と記載されていたことは、虚偽であると認定されています。
ア 証拠(乙18、29、30)及び弁論の全趣旨によれば、令和2年1月
22日から令和4年2月22日までの間の被告製品の売上高は、1億17
57万6451円であったと認められる。
イ(ア) 原告は、被告が、令和2年1月1日から同月21日までの間も被告製
品を販売したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(イ) また、原告は、被告の公式ホームページにおいて、被告製品の販売数
量について「27万着突破!」、「30万着突破!」と記載されていたこ
とを指摘して、被告製品の販売数量は少なくとも27万着であり、これ
に1着当たりの単価5980円を乗じると、被告製品の売上高は16億
1460万円を下らないと主張する。
そこで検討すると、確かに、証拠(甲4、14)によれば、被告の公
式ホームページにおいて上記の記載がされていたことが認められるもの
の、同ホームページに記載されていた販売価格(5980円。弁論の全
趣旨によれば、この価格はブラジャーの一般的な販売価格として相当な
ものと認められる。)を前提とすると、前記アにおいて認定した被告製品
の売上高は、請求書記載の被告製品の輸入数量(乙17)、被告製品に係
る販売管理データ記載の販売数量(乙18)、被告の損益計算書記載の売
上高(乙20、21)、被告における被告製品以外の売上高(乙22ない
し24)と整合的であるといえる。これに対し、被告製品の販売数量が
27万着以上であることを示す資料は、被告の公式ホームページの記載
以外に存在しない。
これらの事情に照らせば、令和2年1月22日から令和4年2月22
日までの間の被告製品の売上高は前記アにおいて認定したとおりであっ
て、被告の公式ホームページにおける販売数量の記載は虚偽のものであ
ったと認めるのが相当である。
(ウ) したがって、原告の前記各主張を採用することはできない。
(2) 相当な実施料率について
ア 本件発明の実施に対し受けるべき料率については、1)本件発明の実際の
実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界にお
ける実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)本件発明自体の価値すなわち本
件発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)本件発明を被
告製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者
である原告と侵害者である被告との競業関係や特許権者である原告の営業
方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきで
ある。
イ 本件についてみると、本件発明の実際の実施許諾契約における実施料率
は、5パーセントであることが認められる(甲15ないし18)。
また、本件発明は、多種多様の女性用衣料を個々に用意することなく、
個人差を有する女性のバスト等のサイズや形、あるいはバストアップ等の
補正機能等に対応することが可能\な女性用衣料を低コストで提供すること
を可能とするものであるところ(前記1(2)イ)、被告製品も、女性のバス
トの補正を主たる機能としたものであるから(甲3、4、14)、本件発明\nを被告製品に用いることが被告の売上げ及び利益に大きく貢献していると
認めるのが相当であって、他のものによる代替可能性はうかがわれない。\nさらに、原告と被告は、いずれも女性用衣料を販売しているから(前提
事実(1)、(5)及び(6))、その市場において競業関係にある。
これらの事情に照らすと、特許権侵害をした者に対して事後的に定められ
る本件発明の実施に対し受けるべき料率については、6パーセントと認め
るのが相当である。
(3) 特許法102条3項により算定される額について
以上によれば、特許法102条3項により算定される本件発明の実施に対
し受けるべき金銭の額に相当する額は、705万4587円(1円未満四捨
五入)と認められる。
◆判決本文
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2024.02. 5
令和3(ネ)10084 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年11月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害について、1審の約15億円の損害賠償判決がなされました。双方控訴しましたが、知財高裁は控訴を棄却しました。
【当審における双方の補充的主張に対する判断】
(1) 第1審原告の補充的主張について
ア 第1審原告は、計算鑑定書の別表において、1)対象期間における原反ロー
ルの購入面積が第1審被告製品(1)の販売面積よりも大きかったり、2)原
反ロールの購入面積と第1審被告製品(1)の販売面積が一致するデータが
多かったりするなどといった不自然な結果が記載されていると指摘する。
しかし、1)については、加工する際の歩留まりやロス、仕損じがあること
を考えれば、原反ロールの購入面積よりも販売面積が小さくなることは何
ら不自然ではない。2)についても、計算鑑定書は、第1審被告製品(1)の品
番毎の原反ロールの月毎の面積について、●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●のであ
り(計算鑑定書19頁)、基準量が1であるとき(例えば、原反ロールを特
段加工することなく転売する場合)、原反ロールの購入面積と第1審被告
製品(1)の販売面積が一致したとしても何ら不自然ではない。第1審原告
は、計算鑑定の結果が、第1審被告らが提出する調査報告書(乙58)や
製品説明書(乙1)の売上高等のデータと異なることも指摘するが、計算
鑑定人が中立的な立場からその職責において計算を行ったものであり、第
1審被告らの提出する資料と一部データが異なるとしても、そのことから
信用性が失われるものでもない。
また、第1審原告は、信用調査会社による競合会社の動向調査の結果で
ある甲88を提出して第1審被告らの売上高等について独自の主張をす
るが、外部の調査会社による調査結果にすぎず、その調査結果の信用性が
高いことを認めるに足りる的確な証拠はない。
イ 第1審原告は、第1審原告製品の販売価格には第1審被告製品(1)の●●
●●のものがあることを指摘して、原判決の判断の前提には誤りがあり、
推定覆滅事由が認められないと主張する。しかし、そのような販売価格の
製品があることは、仮に第1審被告製品(1)が販売されなかった場合に、か
えって第1審原告製品の販売の可能性を減少させるにすぎず、むしろ推定\n覆滅を肯定する事情であるにすぎない。
(2) 第1審被告らの補充的主張について
ア 第1審被告らは、限界利益の算定上、原判決別紙「売上高・経費一覧表」\nの番号6〜8、11〜14は第1審被告製品(1)の製造販売に直接関連し
て追加的に必要になった経費であるから控除されるべきであると主張す
る。しかし、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造
販売に直接関連して追加的に必要になった経費には当たらないというべ
きであり、上記各経費を控除の対象とすることは相当でない。
イ 第1審被告らは、第1審被告らの利益額の90%又は少なくとも77%
の推定覆滅を認めるべきであると主張する。しかし、その指摘する根拠と
する理由(第1審被告製品(1)に耐候性等の本件発明の作用効果が確認で
きないこと、設計変更が容易であること、第1審被告らの営業努力・ブラ
ンド力・売上シェア等)については、本件証拠上、その事実が認められな
いか、仮に認められたとしても、原判決が認定した限度を超えて特許法1
02条2項の推定を覆すに足りるものではない。
◆判決本文
1審における推定覆滅の事情は以下です
◆平成30(ワ)1130
b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張
する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当
である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の
印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品
と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ
タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし,
原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明
は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。
しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技
術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域
をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独
立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料…着色
剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る
ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措
定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製
品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実
験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって
直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな
い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の
全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の
技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当
ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら
ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度
等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで
あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き
く変化していないと主張する。
しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして
も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な
証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替
えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧
製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従
前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた
可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら
れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ
ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品
の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi
neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略)
●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売
できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+●
(省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競
合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら
が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード
の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨
によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性
能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告
らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー
ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認
めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー
ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売
上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(d)さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと
しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益
率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省
略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ
く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品
のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10
2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ
ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の
●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製
品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と
同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一
定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単
価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より
も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e)以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち,
原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし
て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。
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2024.01.24
令和1(ワ)17622 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月14日 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。特許権侵害訴訟で、差止と10億を超える損害賠償が認められました。特102条2項の覆滅は無しと判断されました。請求項6、9がPBPクレームでしたが、これについては明確性違反と判断されました。
本件発明6は、電鋳管についての物の発明であるところ、特許請求の範囲に
おいて、当該電鋳管について、細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物
を形成する工程(メッキ工程)、細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小
さくなるよう変形させる工程(引っ張り工程)、変形させた細線材を除去する工
程(分離工程)を経て製造されることが記載されている。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されている場合、その発明の要旨は、当該製造方法により製造された物と構造、\n特性等が同一である物として認定される。そして、物の発明についての特許に
係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、
当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表\しているのか、又は
物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限
定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当
該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占
権を有するのかについて予測可能\性を奪うことになる。したがって、出願時に
おいて当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、
又はおよそ実際的でないという事情が存在するなどの第三者の利益を不当に
害しない事情が存在するのでない限り、物の発明についての特許に係る特許請
求の範囲にその物の製造方法が記載されている特許請求の範囲の記載は、特許
法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するとは
いえない(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷
判決・民集69巻4号700頁参照)。本件発明6の特許請求の範囲において
は、物の製造方法が記載されているところ、出願時において製造された物をそ
の構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、又はおよそ実際的
でないという事情についての主張はなく、また、同事情を認めるに足りる証拠
もない。
・・・
本件明細書には、本件発明6の電鋳管と同様の形状等を有する電鋳管につい
て本件発明6の方法以外の複数の方法で製造できると記載されている【004
1】、【0042】)。そして、本件発明6の引っ張り工程及び分離工程の方法に
よった場合の電鋳管の内面精度について、特許請求の範囲、本件明細書、図面
には記載はない。また、原告が主張する本件発明6の技術的範囲に属するとい
う場合の電鋳管の客観的な内面精度自体が必ずしも明確ではなく、また、本件
特許の出願当時、引っ張り工程及び分離工程により製造された電鋳管の内面精
度を含む構造又は特性が、技術常識により明らかであったことを認めるに足り\nる証拠はない。
そうすると、電鋳管の発明である本件発明6について、少なくとも引っ張り
工程及び分離工程に関して電鋳管のどのような構造又は特性を表\しているの
かが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明らかであるとは
いえない。原告の主張は採用することができない。
・・・
被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳
管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後
の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して
製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値
分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、
被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕
入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加
価値は1対1として計算すべきであると主張する。
しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に
切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の
ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被
告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で
あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、
価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記
イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利
益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控
除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する
ことやその額を認めるに足りる証拠はない。
また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅
すべき事情に当たるとはいえない。
◆判決本文
なお、本件については、控訴審判決はなさそうですが、対応する審決取消訴訟にて、請求項6は不可能・非実際的理由がなくても、PBPクレームだから自動的に明確性違反だとはならないと判断されてします(内面精度との技術的関係が不明として明確性違反と判断されています)。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に
いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時
において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である
か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁
判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集
69巻4号700頁)。
もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許
請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・
プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され
た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して
いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に
より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を
読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が
その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、
第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。
そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製
造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願
時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\
しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義
的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不
可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
・・・
そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を
加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着
物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける
ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、
3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細
線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す
るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱
又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、
これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても
一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記
3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の
内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上
記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し
たとも認められない。
そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電
鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n
◆令和3(行ケ)10140
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2023.12.14
令和4(ワ)5553 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年12月7日 大阪地方裁判所
特許は公然実施による新規性違反があるとして、権利行使不能と判断されました。時期に後れたとの主張は認められず、また、訂正の再抗弁も認められませんでした。
前記認定事実アによれば、本件プレイヤードの部材Aは本件発明の縦枠に、
部材Bは側面シートに、部材Cは底面シートにそれぞれ相当し、部材Gに固定され
た部材Aの下端部分は、部材Cの六角形の頂点にあたる部分に部材Dを介して固定
され、外側への移動が制限されているものと認められる。そうすると、本件プレイ
ヤードは、「環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材A(縦枠)と、
隣り合う部材Aを渡すように張られメッシュ部B1を有する部材B(側面シート)
と、底面に位置する非伸縮性の部材C(底面シート)と、を備え、部材Cは平面視
において多角形の形状を有しており、各部材Aの下端部分は非伸縮性の部材Cの多
角形の頂点にあたる部分に(部材Dを介して)固定され外側への移動が制限されて
いる、プレイヤード」との構成を有するものということができるから、本件発明の\n各構成要件を充足する。\n
そして、特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多
数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記認定事実イ
のとおり、被告は、本件特許出願前の平成17年頃、カタログに本件プレイヤード
を掲載して需要者に対して販売していたから、その内容を不特定多数の者が知り得
る状況で本件発明を実施したものと認められる。
(4) 原告は、本件無効審判事件の進行状況等に照らすと、被告による乙第12
号証を証拠とする無効理由の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下される
べきである旨の申立て(民訴法157条1項に基づくものと理解される。)をする。\nしかし、攻撃防御方法の提出について時機に後れたかどうかは、本件訴訟の具体的
な進行状況等に即して判断されるべきである。そして、原告の訂正の再抗弁等に対
するものとして、乙第12号証及びこれに基づく無効理由を主張する被告の準備書
面(1)が令和5年2月15日に提出されたところ、その時点では、書面による準備
手続における協議が重ねられ、争点及び証拠の整理手続中(いわゆる心証開示前)
であり、被告が故意又は重大な過失により当該攻撃防御方法を提出したとか、それ
により訴訟の完結が遅延するなどの客観的な事情があったとは認められないから、
原告の前記申立ては理由がないものとして却下する。\n
(5) 以上のとおり、本件発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施
された発明であって、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきものである
から、後記3で検討する訂正の再抗弁が成り立たない限り、原告は、被告に対し、
本件特許権を行使することができない(特許法123条1項、104条の3第1項、
29条1項2号)。
3 訂正の再抗弁の成否(争点3)について
本件訂正により、本件プレイヤードに基づく新規性欠如(前記2)の無効理由が
解消されるか否かにつき検討する。
(1) 原告は、本件訂正発明と本件プレイヤードを対比すると、1)本件訂正発明
の接続テープは各縦枠に対して取外しできるように構成されているのに対し、本件\nプレイヤードの部材Dは部材Aに対して取外しできるように構成されていない点、\n2)本件訂正発明の側面シート及び底面シートは各縦枠に対して取外し可能に構\成さ
れているのに対し、本件プレイヤードの部材B及び部材Cは部材Aに対して取外し
可能に構\成されていない点の2つの相違点があるから、本件訂正により本件プレイ
ヤードに基づく新規性欠如の無効理由は解消される旨主張する。
(2) しかしながら、前記2(2)ア認定のとおり、本件プレイヤードにおいては、
各部材Aの下端部分は、接地部材Gが受けて固定しているところ、部材Cに取り付
けられた部材D(テープバンド)が部材Gに挟み込まれて2か所でねじ止めされて
(以下「本件ねじ止め」という。)、各部材Aの下端部分が(部材Dを介して)部
材Cに固定されている。そして、本件ねじ止めは、タッピングねじによるものであ
るが、ねじの取外しをすることは可能であり、このねじを取り外せば、部材Dを部\n材Aの下端部分が固定されている部材Gから取り外すことができるから、部材Dは、
部材Aに対して取外し可能であると認められる。\nまた、前記のように部材Dを部材Aから取り外せば、部材Dが取り付けられてい
る部材C及びこれと一体に形成されている部材B(前記2(2)ア)も部材Aから取
り外すことができるものと認められる。
そうすると、本件訂正発明と本件プレイヤードの対比において、原告が主張する
前記(1)の1)及び2)の相違点はいずれも認めることができない。
(3) これに対し、原告は、本件ねじ止めはタッピングねじによるものであると
ころ、同ねじは、日常的に繰り返し取り外す必要がある部位には使用されないもの
であるから、本件プレイヤードは、使用者が再組立できなくなる等のリスクを冒し
てまで、部材Dや部材B及び部材Cの「取外し」を行うことは想定されていない旨
主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件Xは「…各縦枠に対して取外しできる\nように構成されている接続テープを備え」、構\成要件Yは「前記側面シート及び前
記底面シートが…各縦枠に対して取外し可能に構\成されている」というものである
ところ、取外しの具体的な態様や頻度等について何ら限定をしていない。そうする
と、タッピングねじによる本件ねじ止めは、その構造上も実際上も取外し可能\であ
る以上、本件プレイヤードの構成につき、本件訂正発明の前記各構\成要件との相違
点を認めることはできず、原告の主張は採用できない。
また、原告は、本件プレイヤードは「WATERPROOF」、つまり防水性の
製品であって、洗濯機での洗濯や脱水は危険であることから、市販製品の一般的な
意味での「取外し」はできず、このような製品を「取外し可能」と評価することは\nできない旨主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件X及びYにおいて、「取外\nし」の目的が特定されているものではないし、本件明細書の段落【0013】の記載
(「この構成によれば、側面シートと底面シートを縦枠から取り外して洗うことが\nできるため、幼児用サークルを清潔に保つことができる。」)を参酌するとしても、
その洗い方が洗濯機によるものに限定されているものではないから、原告の主張は
採用できない。
(4) したがって、本件訂正によっても、本件プレイヤードに基づく新規性欠如
の無効理由は解消されないから、原告の訂正の再抗弁は成り立たない。
◆判決本文
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2023.11.19
令和3(ワ)4061 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月31日 大阪地方裁判所
特許権侵害訴訟です。無効理由あり(進歩性無し)として権利行使不能と判断されました。
ウ 相違点1−3について
「有効スティッチ速度」及び「規定されたスティッチ速度」は、本件発明3の構\n成要件3F2の「効果的ステッチレート」及び「所望の織物ステッチレート」と、
それぞれ同義と解され(前記2(5)ウ)、構成要件1G2は、タフティングされた物\n品の模様の外観が所望の模様となるように、模様として見えるタフトよりも実際に
打ち込むタフトが多くなるようにバッキング給送ロールを制御することを特定する
のであるから(前記2(5)ア(ア))、前記4(1)イと同様の理由で、乙4公報に接した
当業者は、乙4発明から相違点1−3にかかる本件発明1の構成について容易に想\n到し得ると認められる。
エ 相違点1−4について
前記2(6)アのとおり、構成要件1G3は、規定されたスティッチ速度がゲージに\n従って決定されることを特定するものである。
証拠(乙2、13)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許1の優先日前において、
ゲージは、カーペット構造を制御する必須のパラメータの一つであり、タフティン\nグ機の単位当たりのニードル本数のことでもある。また、本件明細書1(【0049】)
には、一部の従来のタフティングシステムにおいては、タフティング模様に対する
スティッチ速度は概してタフティングマシンのゲージと一致し、タフティングマシ
ンのゲージは縦糸方向の1インチ(2.54cm)当たりの針数に相当し、縦糸方
向の1インチ当たりの針数は概して横糸方向の1インチ当たりのスティッチの数に
等しい旨が記載されている。これらによれば、本件特許1の優先日前において、ゲ
ージと模様として見えるタフトの密度を一致させること、すなわち、タフティング
された物品の模様の外観において、横糸方向と縦糸方向の密度を一致させるように
バッキング給送速度を制御することは、従来技術として存在したものと認められる。
そして、前記4(1)イのとおり、乙4発明は、バッキング材料の給送速度を任意に
変更し得る発明であることに照らすと、乙4公報に接した当業者は、乙4発明から、
規定されたスティッチ速度が、少なくともゲージに従って決定されることを容易に
想到し得るものと認められる。
(4) 顕著な効果の有無
原告は、本件発明1は、所望の位置に所望のヤーンをスティッチすることが可能\nであり、織物の見た目がずれることなく正確なゲージ範囲の模様となるという顕著
な効果を奏する旨を主張する。しかし、前記4(1)イと同様の理由で、タフティング
された物品の外観が所望の模様となるように、模様として見えるタフトよりも実際
に打ち込むタフトが多くなるようにバッキング給送ロールを制御する技術である本
件発明1は、実質的に乙4発明に含まれるものであり、その効果についても顕著な
効果があるとは認められない。
(5) 以上から、本件発明1は、乙4発明から容易に発明することができたといえ
るから、本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものと認められ、原告
は被告に対してその権利を行使することができない(特許法104条の3第1項、
123条1項2項、29条2項)。
◆判決本文
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2023.10.25
平成25(ワ)7478 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟__全文__ 平成28年10月14日 東京地方裁判所
随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。東京地裁(40部)は、半導体基板の製造方法について、「第二の割り溝」を有しないとして、文言侵害は否定しましたが、均等と認めました。
また,本件明細書等には,「第二の割り溝」を形成する方法について,
手法は特に問わないとしており,エッチング,ダイシング,スクライブ
等の手法を用いることが可能であるとされ,このうち,線幅を狭くする\nことが可能であるなどの理由から,スクライブが特に好ましいとするに\nとどまっており(段落【0009】),「第二の割り溝」に関して,そ
の形成の方法は特に限定されていない。
そして,本件においては,本件明細書等に従来技術が解決できなかっ
た課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客
観的に見て不十分であるという事情は認められない。\n
以上のような,本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明
細書記載の従来技術との比較から導かれる本件発明の課題,解決方法,
その効果に照らすと,本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思
想を構成する特徴的部分は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物\n半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり,半導体層
側にエッチングにより第一の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部
分を形成し,サファイア基板側にも何らかの方法により第二の割り溝,
すなわち,切断に資する線状の部分を形成するとともに,それらの位置
関係を一致させ,サファイア基板側の線幅を狭くした点にあると認める
のが相当であり,サファイア基板側に形成される第二の割り溝,すなわ
ち,切断に資する線状の部分が,空洞として溝になっているかどうか,
また,線状の部分の形成方法としていかなる方法を採用するかは上記特
徴的部分に当たらないというべきである。
ウ 被告方法は,前記2で認定したように,サファイア基板上に窒化ガリ
ウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当た
り,半導体層側にエッチングにより切断に資する線状の部分を形成し,
サファイア基板側にもLMA法のレーザースクライブによって切断に資
する線状の変質部を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ,
サファイア基板側の線幅を狭くしているのである。
そして,前記2(1)イで説示したとおり,LMA法でサファイア基板
を加工した場合,溶融領域が発生し急激な冷却で多結晶化し,この多結
晶領域は多数のブロックに分かれるが,加工領域中央に実質の幅が極端
に狭い境界が発生し,この表面に垂直な境界線の先端に応力集中するの\nで割れやすくなることが認められる。
そうすると,被告方法は本件発明の従来技術に見られない特有の技術
的思想を構成する特徴的部分を共通に備えているものと認められる。\nしたがって,本件発明と被告方法との相違部分は本質的部分ではない
というべきである。
エ 被告らの主張に対する判断
この点に関して被告らは,LMA法のレーザースクライブについて,
対象と「非接触」であるため,クラック等が発生せず,かつ,ほぼ垂直
に分割されることから,本件発明の課題自体が存在しないことになり,
そのような方法を用いたとしても,本件発明の本質的部分に当たらない
旨主張する。
そして,乙14(再公表特許第2006/062017号。以下「乙\n14文献」という。)の段落【0039】には,【図9】,【図10】
に関して,LMA法により形成された変質領域に隣接する正常領域のブ
レイク面が略垂直である旨の記載がある。
しかしながら,他方で,乙14文献の段落【0043】等には,同じ
【図9】,【図10】に関して,デフォーカス値によっては,正常領域
のブレイク面の垂直方向につき多少の傾斜や段差が存在する旨の記載も
あるのであって,LMA法のレーザースクライブであるからといって,
切断面が斜めになることで不良品が生じるという本件発明の課題が発生
しないと認めることはできない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
オ 以上のとおりで,被告方法は,均等の第1要件を充足すると認められ
る。
◆判決本文
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2023.10.25
平成28(ワ)21762等 特許権侵害差止等請求事件,特許権侵害差止請求事件,特許権侵害に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月28日 東京地方裁判所
随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。東京地裁(47部)は、文言侵害については「サーボバンドを特定するためのデータをエンコードする」との構成を欠くとしたものの、均等と認めて合計約2億円の損害賠償を認めました。
ウ 以上からすれば,前記アのとおり,構成要件Bの「サーボバンドを特定\nするためのデータをエンコードする」とは,「サーボバンドを特定するた
めのデータ」を「0」又は「1」の形式に変換することと解すべきところ,
被告製造方法において,上記の形式の変更を行っていることを示す証拠は
何ら存在しない
・・・
第1要件について
本件明細書に記載された従来技術は,隣接するサーボバンドのサーボパ
ターンをテープ長手方向にオフセットさせ,それらのサーボバンドの信号
を同時に読み取って比較することで,サーボバンドの特定を行うものであ
り(段落【0002】),片側のサーボ信号の読み取りが一時的又は恒久
的にできなくなった場合,サーボバンドの特定を行うことができなかった
という課題があった(段落【0004】)。
そこで,請求項1発明は,隣接するサーボバンドに書かれたサーボ信号
を比較せずに,サーボバンドを特定するために,各サーボバンド内に書き
込まれた各サーボ信号に,そのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定
するためのデータがそれぞれ埋め込まれ,前記各サーボ信号は,一つのパ
ターンが非平行な縞からなり,各データは,前記縞を構成する線の位置を,\nサーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中
に埋め込まれているようにした磁気テープであり(段落【0007】),
本件発明は,その製造方法である(段落【0017】)。
そうすると,本件発明の本質的部分は,構成要件A−3「前記各サーボ信号は,一つのパターンが非平行な縞からなり,各データは,前記縞を構\成する線の位置を,サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれていることを特徴とする磁気テープ」にあるといえ,構成要件B「サーボバンドを特定するためのデータをエンコードする第一工程と,」は本質的部分には当たらないというべきである(被\n告らも特に争っていない。)。よって,被告製造方法は,均等の第1要件を充足する。
◆判決本文
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2023.10.25
平成28(ワ)25436 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年9月24日 東京地方裁判所
随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。争点はたくさんあります。裁判所は、均等の主張を認め、差止と約10億円の損害賠償を認めました。判決文は別紙を入れると400頁ありますので、目次付きです。
前記(2)ウのとおり,本件明細書2記載の従来技術と比較して,本件発明2
における従来技術に見られない特有の技術的思想(課題解決原理)とは,従来,グ
ルタミン酸生産に及ぼす影響について知られていなかったコリネ型細菌のyggB
遺伝子に着目し,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子
を用いてメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変する
ことによって,グルタミン酸の生産能力を上げるための,新規な技術を提供するこ\nとにあったというべきである。また,前記(2)エで検討したとおり,本件明細書2に
おける従来技術の記載が客観的に見て不十分であるとは認められない。\n
(ウ) 前記(3)アのとおり,19型変異使用構成は,本件発明2−5に含まれる,\n本件特許2の請求項1又は4を引用する請求項6のうち(e)の変異型yggB遺
伝子が導入されたコリネ型細菌を使用する構成であり,前記(イ)の本件発明2にお
ける特有の技術的思想ないし課題解決原理に照らせば,19型変異使用構成の本質\n的部分は,「コリネ型細菌由来のyggB遺伝子に,コリネバクテリウム・グルタ
ミカム由来のyggB遺伝子におけるA100T変異に相当する変異を導入し,当
該変異型yggB遺伝子を用いてコリネ型細菌を改変し,ビオチンが過剰量存在す
る条件下においてもグルタミン酸の生産能力を上げる点」にあると認められる。\n
(エ) 被告は,出願経過,本件優先日2当時の技術水準,19型変異使用構成の効\n果から,19型変異使用構成の本質的部分の認定に当たっては,特許請求の範囲の\n記載の上位概念化をすべきでなく,特許請求の範囲に記載された「変異後のygg
B遺伝子の配列である配列番号22という特定のアミノ酸配列におけるA100T
変異」に限定して認定されるべきであると主張する。
しかしながら,前記(2)ア及びイの本件明細書2の記載内容によれば,本件発明2
は,特定の配列のyggB遺伝子を有するコリネ型細菌にのみ存在する課題を対象
とするものではなく,また,その解決原理としても,グルタミン酸生産能力を上げ\nるために,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子を用い
てメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変するという
新規な技術を導入するというものであったから,本件発明2の請求項1や請求項4
において変異を導入する前のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙され,請求項6
において変異後のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙されていることを考慮して
も,本件発明2及びそれに含まれる19型変異使用構成の本質的部分を認定するに\n当たっては,yggB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体
の変異前の具体的配列,あるいは,A100T変異に相当する変異を導入した後の
yggB遺伝子の具体的配列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当で
ある。これは,被告が指摘するように,本件特許2の出願当初の請求項1にはyg
gB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種や変異前後のyggB遺伝子のアミノ酸
配列が特定されていなかったところ,補正によって,現在の請求項1のようにyg
gB遺伝子のアミノ酸配列の配列番号が,コリネバクテリウム・グルタミカム(ブ
レビバクテリウム・フラバムを含む。)又はコリネバクテリウム・メラセコーラに
由来する配列番号6,62,68,84及び85に特定されるようになったこと(【0
033】,乙80〜84),請求項1に記載された配列番号6,62,68,84
及び85のアミノ酸配列が相互に相同性が高いこと(乙85)を考慮しても同様で
ある。また,被告は,出願経過に関連して,本件特許2の再訂正後の請求項の記載
も考慮すべきとも主張するが,当該訂正の内容は,少なくとも訂正前の本件発明2
の本質的部分の認定には影響しないというべきである。
そのほか,本件優先日2当時の技術水準や19型変異使用構成の効果についての\n被告の主張が採用できないことは,前記(2)エ及び(3)イのとおりであり,これらを
理由として,19型変異使用構成の本質的部分を特許請求の範囲に記載された変異\n前後のyggB遺伝子の具体的配列に限定すべきともいえないから,この点の被告
の主張も,前記(ウ)の判断を左右するものではない。
イ 相違点1について
前記ア(エ)のとおり,19型変異使用構成の本質的部分については,yggB遺伝\n子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体の変異前の具体的配列,あ
るいは,A100T変異に相当する変異を導入した後のyggB遺伝子の具体的配
列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当であることに加え,以下の(ア)
及び(イ)の点を考慮すれば,相違点1に係る違い,すなわち,導入されている変異型
yggB遺伝子が由来する細菌の種類の違い及びそれによるyggB遺伝子の具体
的な配列の違いは,19型変異使用構成の本質的部分とはいえない。\n
・・・
(エ) これらの点からすれば,相違点3に係る違い,すなわち相違点2に係るA9
8T変異に加えて,被告製法4の菌株ではV241I変異が導入されているという
点は,本件明細書2で開示された本件発明2の課題解決原理である膜貫通領域の変
異ないしC末端側変異と関連しない部位の1つのアミノ酸に保存的置換を加えるも
のであり,A98T変異に加えることで課題解決に影響するものではないから,1
9型変異使用構成の本質的な部分における相違点ではない。\nオ したがって,19型変異使用構成と被告製法4との相違点1ないし3は,い\nずれも,特許発明の本質的部分ではないから,(12)及び(13)の菌株を使用する被告製法
4は均等の第1要件を充足すると認められる。
◆判決本文
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2023.10.14
令和5(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月3日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、進歩性無しとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。\n
◆本件特許6865989号
については、無効審判で無効判断がなされてますが、確定前に取り下げられています。無効審判請求人は、被告ではありません。
控訴人は、授乳室は最適の場所に設置されるものであり、通常は移動が考
えられないから、乙6発明に授乳室の移動を容易にするという動機付けが内
在しているとはいえない旨主張する。
しかし、乙6文献の記載によれば、乙6発明に係る授乳室は設置場所の
壁と床から独立した部材からなる筐体であり、これを既存の建物内に搬入す
る形で設置したものと認められるから、設置場所の変更や一時的な退避等の
理由による移動を行うことも十分想定されるものである。乙6発明は移動を\n容易にするという動機付けを内在しているというべきであり、控訴人の主張
は採用できない。
(2) 控訴人は、乙6発明と本件各引用文献記載の技術事項は技術分野が異なり、
乙6発明の属する「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」
技術分野においては、筐体にキャスターを付けることが周知技術であるとは
いえない旨主張する。
しかし、本件発明と乙6発明の相違点である「筐体を移動させるキャス
ターを備えること」(本件発明の構成要件E)の技術的意義についてみると、\n本件明細書の記載(【0009】「キャスターを利用して授乳用ユニットを
適切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成された
授乳エリアを設置することができる。」、「キャスターを利用して授乳用ユ
ニットを移動させるだけで…授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ
とができる。」、【0032】「…このように筐体4の底面7にキャスター
36が設けられているため、キャスター36を利用して、地面上で授乳用ユ
ニット1を簡易に移動させることができる。」、【0033】「このように、
本実施形態に係る授乳用ユニット1は、キャスター36を利用して地面上を
移動させることができると共に、固定部材37により任意の位置に固定する
ことができる。この構成のため、以下の効果を奏する。…本実施形態によれ\nば、所定の空間に、授乳用ユニット1を持ち込み、キャスター36を利用し
て、適切な位置に授乳用ユニット1を移動させて、固定部材37で位置を固
定するという簡単な作業を行うのみで、授乳者がプライバシーが完全に保護
された状態で授乳を行うことが可能な授乳用空間3を設けることができ\nる。」、【0034】「さらに、本実施形態によれば、授乳用ユニット1は、
キャスター36を利用して地面上を移動させることができるため、授乳エリ
アのレイアウトの変更も容易である。」)によれば、本件発明においても、
授乳中に筐体を移動させることまで想定しているとは認められず、単に内部
の空間に利用者が入ることが可能な筐体を簡易に移動させることができるよ\nうにすることにあると認められる。
このような構成要件Eの技術的意義からみると、本件各文献記載の技術\n事項において、筐体に人を収容する目的が異なるからといって本件発明と技
術分野が異なるなどということはできない。
さらに、本件各引用文献のうち、乙5公報に記載された発明の内容は、
「少なくとも周囲の人の視線を遮ると共に、内部に保育空間を画成する遮蔽
体からなる本体」と「扉」が取り付けられたものであるから(乙5)、「プ
ライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」ものと認められるし、
その他の本件各引用文献の記載内容も、筐体に人を収容する目的はそれぞれ
異なるものの(乙13公報は感染性疾患を有する患者の治療、乙14文献は
内部で仕事や読書をするためのパーソナル空間、乙15文献は高気圧酸素環\n境での有酸素運動、乙16公報は浴室、乙17公報は居室内の個室)、いず
れも外部の視線を遮り、プライバシーを守る目的又は効果を有する筐体に関
するものである。控訴人の上記主張は、いずれにせよ採用できない。
(3) 控訴人は、乙6発明には、授乳室を当初設置した場所から移動することに
よる利用者の利便性の低下、スペースが十分に確保されていない場所への移\n動による人の動線の悪化、人目の届かない場所等への設置による利用者の安
全性の低下又は巡回のための町役場職員の業務増加等、移動による支障が非
常に大きいという阻害要因がある旨主張する。
しかし、控訴人の主張する内容は不適切な場所に移動した場合の弊害に
すぎないから、乙6発明に適切な場所への移動を容易にするための移動手段
を設けることについての阻害要因があるとはいえない。
(4) 控訴人は、本件発明は予測できない顕著な効果を有する旨主張する。\n しかし、1)簡易迅速な授乳室の移動を可能・容易にすること、2)授乳用空
間の増設やレイアウト変更を実現することは、いずれもキャスターを付ける
ことによる通常の効果であり、3)利用者による授乳室周辺への回遊の促進を
実現すること(例えば、フードコート付近に設置することによるフードコー
トの利用者の増加〔甲33〕)は、適切な場所に授乳室を設置することによ
る効果であり、いずれも予測できない顕著な効果ということはできない。\n
(5) 以上のとおり、控訴人の当審における補充的主張はいずれも採用できず、
原審が判断するとおり、本件発明は、当業者が乙6発明に周知技術を組み合
わせることにより容易に発明をすることができたものと認められ、本件発明
は特許無効審判により無効にされるべきものである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)16934
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2023.10.10
令和4(ネ)10094 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月5日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、分割の遡及効が認められず、親出願から新規性違反の無効理由有りと判断していましたが、知財高裁はサポート要件違反ありとして権利行使不能と判断しました。
当裁判所は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載には、分割出願が適法である
か否かにかかわらず、サポート要件違反があり、本件訂正が有効であったとしても、
サポート要件違反があることが認められるから、結局、本件特許は特許法36条6
項1号違反により無効にされるべきものであり、同法104条の3第1項により、
原告は被告に対し、本件特許権を行使することはできないと判断する。その理由は、
以下のとおりである。
(2) 本件についてみると、本件明細書(以下、原出願当初明細書も同じ。)には、
「発明が解決しようとする課題」として、「出願人は、1234yf等の新たな低地
球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在すること
を見出した。」(【0003】)との記載がある。また、「本発明によれば、HFO−1234yfと、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HCFC−243
db、・・・caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化
合物とを含む組成物が提供される。組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約
1重量パーセント未満を含有する。」(【0004】)、「HFO−1234yfには、いくつかある用途の中で特に、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤
としての用途が示唆されてきた。また、HFO−1234yfは、V.C.Pap
adimitriouらにより、Physical Chemistry Che
mical Physics、2007、9巻、1−13頁に記録されているとお
り、低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である。このよ
うに、HFO−1234yfは、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補である。」
(【0010】)といった記載に、【0013】、【0016】、【0019】、【0022】、【0030】、【図1】の記載を総合すると、本件明細書には、HFO−1234yfが低地球温暖化係数(GWP)を有することが知られており、高GWP飽和HF
C冷媒に替わる良い候補であること、HFO−1234yfを調製する際に特定の
追加の化合物が少量存在すること、本件発明の組成物に含まれる追加の化合物の一
つとして約1重量パーセント未満のHFC−143aがあること、HFO−123
4yfを調製する過程において生じる副生成物や、HFO−1234yf又はその
原料(HCFC−243db、HCFO−1233xf、HCFC−244bb)
に含まれる不純物が、追加の化合物に該当することが記載されているということが
できる。
しかるところ、HFO−1234yfは、原出願日前において、既に低地球温暖
化係数(GWP)を有する化合物として有用であることが知られていたことは、【0
010】の記載自体からも明らかである。したがって、HFO−1234yfを調
製する際に追加の化合物が少量存在することにより、どのような技術的意義がある
のか、いかなる作用効果があり、これによりどのような課題が解決されることにな
るのかといった点が記載されていなければ、本件発明が解決しようとした課題が記
載されていることにはならない。しかし、本件明細書には、これらの点について何
ら記載がなく、その余の記載をみても、本件明細書には、本件発明が解決しようと
した課題をうかがわせる部分はない。本件明細書には、「技術分野」として、「本開
示内容は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニ
ング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよ
びポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にあ
る消火剤として有用な組成物の分野に関する。特に、本開示内容は、2,3,3,
3,−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)また
は2,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243db
または243db)、2−クロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−
1233xfまたは1233xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフ
ルオロプロパン(HCFC−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有
用な組成物に関する。」(【0001】)との記載があるが、同記載は、本件発明が属
する技術分野の説明にすぎないから、この記載から本件発明が解決しようとする課
題を理解することはできない。
そうすると、本件明細書に形式的に記載された「発明が解決しようとする課題」
は、本件発明の課題の記載としては不十分であり、本件明細書には本件発明の課題が記載されていないというほかない。そうである以上、当業者が、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することができるというこ\nともできない。
(3) 仮に、上記【0001】の記載をもって本件発明の課題を説明したものと理
解したとしても、次に述べるとおり、本件明細書の記載をもって、当業者が当該課
題を解決することができると認識することができるとは認められない。
すなわち、この場合の本件発明の課題は、「2,3,3,3,−テトラフルオロプ
ロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)または2,3−ジクロロ−1,
1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243dbまたは243db)、2−ク
ロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xfまたは123
3xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC
−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物を提供すること」
と理解されることとなるはずである。
そして、本件発明は、1)HFO−1234yf、2)0.2重量パーセント以下の
HFC−143a、3)1.9重量パーセント以下のHFC−254ebを含む組成
物によって、当該課題を解決するものということになる。
しかるところ、本件明細書には、上記1)〜3)を含む組成物についての記載がされ
ているとはいえない。すなわち、【0121】〜【0123】(表5(【表\6】))には、実施例15として、HCFC−244bbからHFO−1234yfへ、触媒無しで変換したところ生じた、HFO−1234yf、HFC−143a及びHFC−
254ebを含む組成物が4例記載されており(加熱された温度(゜C))がそれぞれ
550、574、603、626)、当該組成物に含まれるHFC−143aの量が
それぞれ、0.1、0.1、0.2、0.2モルパーセントであること、及び同H
FC−254ebの量がそれぞれ1.7、1.9、1.4、0.7モルパーセント
であることが記載されている。しかしながら、表5(【表\6】)に記載された組成物
には「未知」のものが含まれており、その分子量を知ることができないから、同表において、モルパーセントの単位をもって記載されたHFC−143a及びHFC−254ebの含有量を、重量パーセントの含有量へと換算することはできない。\nそうすると、本件明細書には、上記1)〜3)の構成を有する組成物についての記載がされていないというほかない。それのみならず、本件明細書には、このような構\成を有する組成物が、HFO−1234yfの前記有用性にとどまらず、いかなる意
味において「有用」な組成物になるのか、という点について何ら記載されておらず、
示唆した部分もない。したがって、当業者が、本件明細書の記載から、上記1)〜3)
の構成を有する組成物が、熱伝達組成物として「有用な」組成物であるものと理解することもできない。したがって、当業者は、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することはない。
(4) 以上のとおり、分割出願が有効であり、出願日が原出願日(平成21年5月
7日)となると考えたとしても、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、サポー
ト要件に適合するということができないから、本件発明に係る特許は、無効審判請
求により無効とされるべきものである(特許法123条1項4号、36条6項1号)。
そして、このことは、分割出願が無効であり、出願日が分割出願の日(令和元年9
月4日)となる場合でも同様である。
3 争点3(訂正の再抗弁の成否)について
本件訂正発明についても、本件発明に係る請求項1のHFO−1234yfにつ
いて「77.0モルパーセント以上」という下限が設定されただけで、本件訂正後
の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合しても、当該下限にどのような技術
的意義があり、これによりどのような課題を解決することができるのかは明らかに
されていない。また、前記2(2)及び(3)と同様、本件訂正発明に係る組成物の構成により解決しようとしている課題や、その解決方法が本件明細書に記載されていないことには変わりはない。したがって、訂正が有効だとしても、本件訂正発明に係\nる特許請求の範囲の記載には、前記2(2)及び(3)と同じ理由により、サポート要件
違反の無効理由が存在することとなるので、訂正の再抗弁によりサポート要件違反
の無効理由を解消することはできない。
そうすると、本件訂正の適法性及びその余の争点につき判断するまでもなく、特
許法104条の3第1項により、原告は被告に対し、本件特許権を行使することが
できない。
本件特許の無効審決審決取消訴訟です。
◆令和4(行ケ)10126
◆令和4(行ケ)10125
侵害訴訟の1審はこちらです。
1審は、新規性違反を理由として、権利行使不能と判断していました(特104-3)。
◆令和3(ワ)29388
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2023.09.25
令和2(ワ)13317 特許権侵害損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年7月13日 東京地方裁判所
個人発明家がアップルを訴えた事件です。下記別訴の後の販売分に製品に関する不当利得返還請求事件です。製品の一部に関する特許ですが、東京地裁は実施料として「0.5%をくだらない」として、約4400万円の支払いを命じました。関連訴訟と同じ特許ですが、被告は104条の3の主張をして、有効性を争っています。
特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者又は専用実施権者(以
下「特許権者等」という。)が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定
であって、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そ
こに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして、特許
法102条4項は、上記料率を認定するに当たって、特許権者等が当該特許
権又は専用実施権(以下「特許権等」という。)の侵害があったことを前提
としてこれを侵害した者との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得
ることとなるその対価を考慮することができる旨規定している。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を踏まえ、特
許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提としてこれを侵害した者
との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得ることとなるその対価を
考慮して、合理的な料率を定めるべきである。
なお、被告は、本件各発明は被告各製品を構成する部品の一つであるクリ\nックホイールに関するものにすぎないから、実施料率を乗ずる売上高は、被
告各製品ではなく、クリックホイールの売上高とすべきである旨主張するも
のの、その原価が証拠上必ずしも明らかではない上、本件各発明が被告各製
品を構成する部品の一つであるという事情は、上記において説示した判断基\n準のとおり、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢
献という上記3)に係る考慮事情において、これを十分に斟酌するのが相当で\nある。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
(2) 当てはめ
前記認定事実、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、上記1)ないし4)
に係る考慮事情として、次の事実を認めることができる。
ア 業界における実施料の相場
証拠(甲35、36)によれば、「ラジオ・テレビ・その他の通信音響
機器」に含まれる「電気音響機械器具」の平成4年度ないし平成10年度
の実施料率(イニシャルなし)の平均値は、5.7%であること、平成1
6年ないし平成20年の電気産業における司法決定ロイヤルティ料率の平
均値は3.0%、最大値は7.0%、最小値は1.0%であることが認め
られる。そして、被告が提出した意見書(乙27)においても、本件各発
明に係るロイヤルティ料率を定めるに当たり比較対象となる契約のロイヤ
ルティ料率は、中央値が2.65%、最小値が1.5%、最大値が4.
0%であることが認められることからすれば、本件各発明に係る電気産業
における近年のロイヤルティ料率は、3%程度と解するのが相当である。
イ 本件各発明の技術内容や重要性
上記1によれば、従来技術においては、接触操作するタッチパネル等の
電子部品と、プッシュ操作するスイッチ等を各々別個の部品として配置し
ていたため、機器の小型化に対して不利であり、かつ、2つの別個の部品
を操作することになり使い勝手も極めて不便であるという課題があった。
このような課題を解決するために、本件各発明は、1)リング状に予め特\n定された軌跡上にタッチ位置検出センサーを配置して軌跡に沿って移動す
る接触点を一次元座標上の位置データとして検出し、2)上記軌跡に沿って
タッチ位置検出センサーとは別個にプッシュスイッチ手段の接点を設ける
ものである。このように、本件各発明は、上記検出とは独立してプッシュ
スイッチ手段の接点のオン又はオフを行うことによって、操作性良く薄型
かつ小型でしかも少ない部品点数で電子機器を構成することができるよう\nにし、もって1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接
触操作型電子部品を提供するものであり、この点において重要性を有する
ものである。
これに対し、被告は、本件各発明には、iPod Shuffleに採
用された操作ボタン、iPod Touchに採用されたタッチスクリー
ン等の代替手段が存在する旨主張する。
しかしながら、証拠(乙30、31)及び弁論の全趣旨によれば、iP
od Shuffleの操作ボタンにおいては、音量調節等はボタンを押
すことでしかできないものであって、リング状に指を動かして連続的に音
量調節等をすることができず、iPod Touchについては、タッチ
スクリーンを用いるものであって操作の形態が大きく異なり、コストも高
くなるといえるから、これらが直ちに代替手段となるものと認めることは
できない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害
の態様
本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献
証拠(甲5、24)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品1について
は、「新しいiPod classicではポケットに40,000曲
を入れることができます。より薄型の総金属製のボディと、さらに洗練
されたユーザインターフェイスにより、iPod classicは、
全てをiPodに入れて持ち歩きたい人に最適です。」と宣伝されてい
ることが認められ、被告製品2についても、「さらにiPodが小さく
なりました。鉛筆ほどの薄さのiPod nanoは、(中略)信じら
れないくらい小さなボディ」、「手の中にすっぽりと収まるミニサイズ。
あざやかなカラー液晶ディスプレイ、親指で操作できるクリックホイー
ルも自慢です。ヘッドフォンをつけたら、さっそくボリュームを上げて
みましょう。iPod nanoが、小さくてもまさにiPodだとす
ぐにわかるはず。」と宣伝されていることが認められる。
その上、証拠(甲21)及び弁論の全趣旨によれば、iPodに搭載
されたクリックホイール自体についても、被告は、「親指ひとつでコン
トロール」、「いつでも完全主義を貫くアップルのエンジニアたちは、
iPodの操作ボタンをホイールの下に移動して『究極のシンプルさ』
を目指しました。それが大好評のクリックホイールです。(中略)耐久
性と感度の良さ、ホイール下側に組み込まれた操作ボタンの使いやすさ
はこれまでどおり。この最小限のスペースを最大限に利用したクリック
ホイールで、iTunesのミュージックコレクションから選んだ最大
1,500曲を親指だけで楽々とスクロールできます。このようによく
考えられた仕組みは、アップル製品ならでは。競合メーカーがどんなに
追いつこうとしても追いつけない部分です。」などとして、特に宣伝し
ていることが認められる。
上記認定事実によれば、本件各発明は、操作性良く薄型でしかも少な
い部品点数で電子機器を構成することができるように、1つの部品で複\n数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供す
るものであるところ、被告は、本件各発明の構成の中核であるクリック\nホイールにつき、競合他社の製品と差別化するために特に利用していた
ことが認められる。そうすると、本件各発明を被告各製品に用いた場合
の売上げ及び利益への貢献の程度は、被告各製品の薄型化及び小型化並
びに操作性の向上に寄与するものとして、被告各製品の顧客吸引力の向
上という観点からすれば、少なくないものと認めるのが相当である。
他方、証拠(甲32、乙27)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製
品の人気の理由は、上記において説示したとおり、クリックホイールと
いう指先だけで操作できるインターフェイスを搭載し、携帯音楽プレー
ヤの操作性を向上させたことにあるほか、音楽配信サービスであるiT
unes Music Storeに対応するiTunesを、そのま
ま持ち歩くような環境を備えたことや、デザイン、カラーバリエーショ
ン、大容量のハードディスク及び長時間持続するバッテリーという被告
各製品の特長にもあり、これらのほか、「Apple」という極めて高
いブランド価値、被告の宣伝広告等が、被告各製品の売上げに相当程度
貢献したことが認められる。また、操作性については、上記のとおり、
被告自身がクリックホイールによる操作性の向上を宣伝していることか
ら、クリックホイールの貢献は明らかであるものの、クリックホイール
の機能の割当てや本件各発明とは無関係のセンターボタンの果たす役割\nも少なくないものと解される。
そうすると、被告各製品の本体(ハードウェア)の一部であるクリッ
クホイールに係る本件各発明が、被告各製品の売上げに寄与した程度は、
主要なものとはいえない。
侵害の態様
前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、別件訴訟において、
別件被告各製品の輸入及び販売を行うことが本件特許権の侵害に当たる
旨の第1審判決及び控訴審判決が言い渡された後も、なお別紙別件被告
製品目録記載3の被告製品(本件における被告製品1)を販売し続けた
ことが認められる。したがって、その侵害態様は看過し得ないところが
ある。
エ 特許権者の営業方針等
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各発明を実施するものではなく、
被告に対し、本件各発明の許諾をする旨の申出をし、被告との間で、その\n交渉をしていたことが認められる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る業界における実施料の相場、本件各発明の技術内容や重
要性、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や
侵害の態様、特許権者の営業方針等その他の本件に現れた諸事情を踏まえ、
特許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提として、これを侵害
した者との間で合意をするとしたならば特許権者等が得ることとなるその
対価を考慮すれば、実施に対し受けるべき料率は、少なく見積もっても、
0.5%を下らないというべきである。
◆判決本文
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2023.09.22
令和4(ワ)15678 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年8月30日 東京地方裁判所
技術的範囲に属するものの、無効理由あり(新規性違反)として、権利行使不能と判断されました。この特許は、本件裁判の被告より、「技術的範囲に属さない旨」の判定請求があり、判定では技術的範囲に属すると判断されていました。判定には直リンクができないので、
特許5595570とリンクしておきます。
(1) 「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く」の意義について
構成要件Bの「4枚の略矩形状壁面の内、相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能\に順次連続して連結されるとともに、」との記載から、本件発明の折り畳み式テントには、「4枚
の略矩形状壁面」が設けられていること、その内の「相隣る2枚の略矩形状
壁面」において「互いに対応する側縁」が存在すること、この「互いに対応
する側縁」を「除く」「他の側縁」が存在し、この「他の側縁」が「相互に
折り畳み可能に順次連続して連結され」ていることが理解できる。
また、構成要件Cの「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁は、着脱可能\な接合手段を介して接合されることにより、前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成され、」との記載からは、構\成要件B
の「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「着脱可能な接合手段」を備えていること、この「接合手段を介して接合されることによ\nり」、「前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成される」ことが理解できる。また、このような解釈は、本件明細書の、「また、この筒状周壁\n部1における正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bには、接合・分
離が可能な面ファスナーのような接合手段23が設けられている。図7に図示されるように、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとは前記接\n合手段23により、一体に接合され、または分離される。前記分離された接
合手段23によって、図8に示されるように、両壁面開口部24が構成される。」(【0022】)との記載及び「筒状周壁部1では、図7に図示されるよ\nうに、4枚の壁面2、3、4、5の各両側縁2a、2b、3a、3b、4a、
4b、5a、5bの内、側縁3aと4b、4aと5b、5aと2bとを相互
に折畳み可能に連結し、側縁2aと3bとを後述する接合手段23で接合することで筒状周壁部1が構\成されている」(【0021】)との記載とも整合する。
そして、構成要件Bの「除く」の通常の語義は、「加えない。除外する。別にする。」(広辞苑第七版)であると認められる。\n加えて、上記「除く」は、その直前の「他の側縁」に限定を付す趣旨で
あると理解するのが自然であることを踏まえると、構成要件Bは、「4枚の略矩形状壁面」が有する「側縁」から、「着脱可能\な接合手段を介して接合される」ことになる「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」を
除外又は別にした「他の側縁」が、「相互に折り畳み可能に順次連続して連結される」ことを規定するものであると解するのが相当である。\n
(2) 被告各製品が構成要件Bを充足するか否かについて
前記(1)のとおり、構成要件Bの、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」とは、構\成要件Cにおいて規定された、「着脱可能な接合手段\nを介して接合される」「側縁」であると解するのが相当である。
前提事実(3)イのとおり、被告各製品には、第1板状体10ないし第4板
状体40の4枚の板状体が形成されているところ、本件において、各板状体
が構成要件Bの「略矩形状壁面」に該当する。 また、前提事実(3)イのとおり、被告各製品の第1板状体10と第4板状
体40は、その対向部15a及び45bが、着脱可能な接合部60を介して接合されるから、対向部15a及び45bは、構\成要件Bにおいて除外又は別にするとされ、かつ、構成要件Cにおいて「着脱可能\な接合手段を介して
接合され」ると規定される、「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応
する側縁」に該当する。
そうすると、構成要件Bにおいて、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁」は、被告製品の第1板状体10と第4板状体\n40の対向部15a及び45bを除外した他の側縁、すなわち、第1板状体
10の左右の側縁を構成する対向部15b、第2板状体20の左右の側縁を構\成する対向部25a及び25b、第3板状体30の左右の側縁を構成する\n対向部35a及び35b、第4板状体40の左右の側縁を構成する45aがこれに該当するものと解される。\n そして、証拠(甲6、乙1)によれば、これらの側縁は、相互に折り畳み
可能に順次連続して連結される構\成を有していると認められ、構成要件Bの「他の側縁が相互に折り畳み可能\に順次連続して連結される」に該当する。
(3) 被告の主張について
被告は、「除く」の「別にする」との語義に着目して、「別にする」もの
と「別にされない」ものとでは、異なる性質・構成を有していることに照らすと、構\成要件Bは、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「相互に折り畳み可能」ではなく、「順次連続して」おらず、「連結され」てもいないことを規定するものと解すべきであり、被告各製品は、互いに対\n応する側縁が相互に折り畳み可能に順次連続して連結されるから、構\成要件
Bを充足しない旨主張する。
しかし、仮に、「除く」を「別にする」との意味であると解釈したとして
も、「別」とは、「1)わけること。…2)異なること。そのものではないこと」
(広辞苑第七版)の意味を有するにすぎないから、別にされた「相隣る2枚
の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」とが、一部でも同じ
性質・構成を有していてはならないということにはならない。そして、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の構\成は、構成要件Cによ\nり要件が付加されているのであるから、これにより、「相隣る2枚の略矩形
状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」は、異なる構成を有しているといえる。\n
・・・
(ア) 構成要件Bについて
a 前記2(1)で説示したとおり、構成要件Bは、「着脱可能\な接合手
段を介して接合される」ことにより、「前記4枚の略矩形状壁面でも
って筒状周壁部」を構成する「側縁」を除外した「他の側縁」が、「相互に折畳み可能\に」「順次連続して」「連結」されることを規定している。
そして、乙2発明においては、エンドパネルとサイドパネルの着脱
部となる側縁は、ジッパーや紐等の取付手段を介して取り付けられ
(乙2c)ていることから、構成要件Bの「他の側縁」に相当する側縁は、上記「エンドパネルとサイドパネルの着脱部となる側縁」を除\n外した側縁(乙2c)であるところ、乙2発明においては、この側縁
が、相互に折畳み可能に順次連続して連結されている(乙2b)。したがって、乙2発明と本件発明は、構\成要件Bの構成の点におい\nて一致するものと認められる。
b これに対し、原告は、本件発明の「着脱可能な接合手段を介して接合される」「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が一\n組のみであるのに対し、乙2発明では、テントを容易に折り畳めたり
することができるよう、対向する2枚のエンドパネルが2枚とも取外
し可能な構\成又は2枚とも一端がサイドパネルにヒンジ結合された構成のみが開示されているから、本件発明と乙2発明は、構\成要件Bの点で一致しないと主張する。しかし、本件特許の特許請求の範囲において、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の組数を限定する記載はない上、本
件明細書において、【0022】及び図8には「相隣る2枚の略矩形
状壁面の互いに対応する側縁」が一組である構成についての記載があるものの、これは一実施例にすぎず、そのような構\成に限定する旨の記載は存在しないから、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応す
る側縁」が、一組に限定されると解釈することはできない。
また、原告は、本件発明に係る折り畳み式テントは、災害時に体育
館等の避難所に設置されて利用されることを想定していることなどか
ら、設置の利便性や強度を考慮し、あえて一組のみを分離可能としたと主張する。しかし、本件明細書には、原告の主張する課題や作用効果について\nの記載はない。以上によれば、原告の主張はいずれも採用することができない。
(イ) 構成要件Eについて
a 本件発明は、「前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚
の略矩形状壁面により開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特
徴とする」との構成(構\成要件E)を有しており、乙2発明は、「前
記手段を介して取り付けられる側縁を有する2枚の略矩形状のサイド
パネル及びエンドパネルにより開閉自在な両壁面開口部が設けられた
ことを特徴とする」との構成(乙2e)を有している。そして、本件特許の特許請求の範囲の記載において、「接合手段」\nにつき特段の限定は付されていないことから、壁面と壁面を接合する
手段であれば足りると解されるところ、前記(1)ア(オ)のとおり、乙2
文献においては、乙2発明の「取付手段」は、ジッパーが好ましい手
段であるが、単純な紐や布などの他の取付手段を使用してもよいとさ
れており、それらはいずれも壁面と壁面を接合する手段であるといえ
る。したがって、本件発明と乙2発明は、構成要件Eの構\成の点で一致
するものと認められる。
b 原告は、本件明細書の【0014】や【0028】には、壁面の開
放部分にテントのフレーム等が存在しないために、車椅子等がテント
内外に出入する際にフレームやファスナー等の変形・破れ・土砂の付
着等を阻止できる旨が記載されており、これらの記載に照らすと、構成要件Eの「開閉自在な両壁面開口部」は、壁面の開放部分にフレー\nムやファスナー等が存在しない構成であると解されると主張する。
しかし、本件特許の特許請求の範囲の記載において、4枚の略矩形
状壁面と床面との間の連結手段の有無を含め、「開閉自在な両壁面開
口部」が、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成に限定される旨の記載はない。\n
また、本件明細書の【0014】は、本件発明の効果に関する記載
であり、同【0028】は、本件発明の実施例の効果に関する記載で
あって、本件発明の両壁面開口部の構成を限定するものとは認められないから、構\成要件Eの文言を原告主張のとおり限定解釈する根拠とはならない。
また、仮に、構成要件Eが、底面にフレームやファスナー等が存在しない構\成に限定されるとしても、乙2文献には、ファスナーを紐に変更することも可能である旨が記載されているから(前記(1)ア(オ))、
乙2発明は、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成を含むものであるといえる。よって、原告の主張は理由がない。\n
c 原告は、本件明細書の【0022】及び図8の記載を考慮すると、
構成要件Eは、壁面開口部に設けられている接合手段を外すことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外方に向か\nって開放することができるという構成を示したものであると主張する。 しかし、本件明細書には、本件発明の実施例について「壁面2、3、
4、5の側縁上下端部は、…三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉
塞面19でもってこの上下の空隙部は閉塞されるようになっている。
なお、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとの上下端部を
塞ぐ二等辺三角形状の分割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、
三角形の頂角を通る中心線を境に2分割される。左右に分割された分
割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、前記接合手段23と同様
な上閉塞面接合手段22、下閉塞面接合手段21によって、接合また
は分離可能に接合される。」(【0023】)との記載があるところ、この記載に照らすと、同実施例は、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の\n左側縁3bに設けられた接合手段に加え、上閉塞面接合手段22、下
閉塞面接合手段21を外すことによって初めて、壁面を外方に向かっ
て解放することができる構成を有しているといえる。したがって、上記【0022】及び図8の実施例の記載を根拠として、構\成要件Eが、両壁面開口部について、壁面開口部に設けられている接合手段を外す
ことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外
方に向かって開放することができるという構成を規定していると解釈することはできない。\n また、上記【0023】の記載によれば、「壁面2、3、4、5」
と、「三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉塞面19」は別部材で
あることは明らかであるから、構成要件Eが、接合手段について、「2枚の略矩形状壁面」のみに設けられていることにより、「両壁面\n開口部」が「開閉自在」となることを規定したと解釈することもでき
ない。
以上によれば、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 小括
その他、原告が種々主張するところを検討しても、前記(1)の結論を左右
するものとはいえず、本件発明は、乙2発明と同一の構成を有しているから、新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの\nと認められ、原告は被告に対してその権利を行使することができない(特許
法104条の3第1項、123条1項2項、29条1項)。
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2023.08. 9
令和4(ワ)9716 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年7月28日 東京地方裁判所
特許侵害訴訟で差止請求が認められました(損害賠償請求なし)。無効主張についても「新規化合物については引用例にその製造方法に関する記載がない」として、無効ではなぽしと判断しています。並行進行している無効審判および審決取消訴訟でも、同様です。
(ア) 特許法29条1項は、同項3号の「特許出願前に」「頒布された刊
行物」については特許を受けることができない旨規定する。当該規定の
「刊行物」に物の発明が記載されているというためには、同刊行物に発
明の構成が開示されているだけでなく、発明が技術的思想の創作である\nこと(同法2条1項参照)にかんがみれば、当該刊行物に接した当業者
が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の\n技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技
術的思想が開示されていることを要するというべきである。
特に、当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製
造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないか
ら、刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、
当該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理\n解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして、刊
行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に
接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、\n特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出
すことができることが必要であるというべきである。
ここで、5−ALAホスフェートは、新規の化合物であり、上記アの
とおり、本件引用例には、列挙された化合物の中に5−ALAホスフェ
ートが含まれているものの、本件引用例にその製造方法に関する記載は
見当たらない(乙2)。
したがって、5−ALAホスフェートを引用発明として認定するため
には、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思考や試行錯誤
等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技術常識に基づ\nいて、5−ALAホスフェートの製造方法その他の入手方法を見出すこ
とができたといえることが必要である。
(イ) 被告は、乙16文献から乙18文献の記載からすれば、本件優先日
当時、5−アミノレブリン酸単体の製造方法は周知であった上、5−ア
ミノレブリン酸をリン酸溶液に溶解すれば、弱塩基と強酸の組合せとな
り、5−アミノレブリン酸リン酸塩を得ることができることは技術常識
であり、このことからすれば、本件優先日当時の当業者は、5−ALA
ホスフェートの製造を容易になし得た旨主張する。
確かに、上記第2の1(5)イ及びエのとおり、乙16文献及び乙18文
献には、甲13の1文献を引用しつつ、「ALA生産が確立されてい
る」、「ALAの産生に成功した」、「発酵の下流では、イオン交換樹
脂を使用するALA精製プロセスも確立されて」いるなどと記載されて
いる。しかしながら、甲13の1文献には、同オのとおり、「発酵液か
らのALAの精製」の項において、ALAが塩基性水溶液中では非常に
不安定であり、種々の検討の結果、5−アミノレブリン酸塩酸塩結晶を
得るプロセスを確立することに成功した旨が記載されているにすぎない。
そうすると、乙16文献及び乙18文献においては、細菌を培養して発
酵液中にALA(5−アミノレブリン酸)を産生させる技術は開示され
ているものの、5−アミノレブリン酸単体を得る技術は開示されていな
いといえる。
また、上記第2の1(5)ウのとおり、乙17文献には、発酵液中に培地
成分と混合した状態で存在するALAの濃度が開示されているにすぎな
い。そうすると、乙17文献においても、5−アミノレブリン酸単体を
得る技術は開示されていないといえる。
以上のとおり、乙16文献から乙18文献までにおいて、5−アミノ
レブリン酸単体を得る技術が開示されているとはいえない。これに加え、
上記第2の1(5)アのとおり、本件引用例においても「5−ALAは・・
・化学的にきわめて不安定な物質である」、「5−ALAHClの酸性
水溶液のみが充分に安定であると示される」と記載されていて(【00
07】)、これらの事項が本件優先日当時の技術常識であったと認めら
れることも考慮すると、本件優先日当時において、5−アミノレブリン
酸単体を得る技術が周知であったとは認められない。
この点に関し、原告は、5−アミノレブリン酸リン酸塩を製造する上
で、5−ALAが物質として取り出されている必要はなく、発酵液中に
培地成分等と混合した状態であってもよい旨主張する。
しかしながら、本件優先日当時、種々の成分を含む混合液に酸又は塩
基を添加するという方法が、化合物である塩の製造方法として技術常識
であったとは認められないことからすれば、本件引用例に接した本件優
先日当時の当業者が、化合物である5−アミノレブリン酸リン酸塩を製
造する方法として、培地成分等と混合した状態で5−アミノレブリン酸
が存在する発酵液にリン酸を添加する方法(又はこの発酵液をリン酸溶
液に添加する方法)を、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮することな\nく見出すことができたとはいえない。
また、上記第2の1(5)ウのとおり、乙17文献において、培地に酵母
抽出物やトリプトン等が含まれることが記載されていることからも明ら
かなように、培地成分等と混合した状態にある発酵液には種々のイオン
が夾雑物として含まれているのであるから、このような発酵液にリン酸
を添加したとしても、等しい物質量の酸及び塩基の中和反応によって5
−アミノレブリン酸リン酸塩という化合物が製造されたと評価すること
はできないというべきである。したがって、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。そして、このほか、本件優先日当時の当業者が、5−ALAホスフェー
トの製造方法その他の入手方法を見出すことができたというべき事情は
存しない。
(ウ) 以上によれば、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思
考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技\n術常識に基づいて、5−ALAホスフェートの製造方法その他の入手方
法を見出すことができたとはいえない。したがって、本件引用例から5−ALAホスフェートを引用発明として認定することはできない。
◆判決本文
本件特許についての審決取消訴訟です。
◆令和4(行ケ)10091
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2023.07.10
令和4(ネ)10070 特許権侵害損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年5月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明についての特許権侵害事件です。1審の東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。控訴人は、請求項17に基づく侵害主張、および訂正の再抗弁を追加しました。知財高裁は、時機に後れた攻撃防御方法には該当しないとして判断自体はおこないましたが、最終的には無効として、控訴棄却しました。
事案に鑑み、争点7(乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の当否)について、まず判断する。
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)イ のとおり、乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁は、時機に後れた攻撃防御方法であるとしてその却下を求めるが、この防御方法の提出が訴訟の完結を遅延させるものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討する。
(2) 無効理由の解消の有無等について
事案に鑑み、仮に、本件訂正が適法であり、本件訂正により本件訂正発明と乙22発明との間に当事者の主張に係る相違点が全て生じるとした場合、乙22発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消されるかをまず検討する。
ア 本件訂正発明1
相違点22−6ないし相違点22−8の容易想到性
相違点22−6ないし相違点22−8は、前記第2の4(1)イ aのと
おり、本件訂正発明1において、1)閲覧者がWebブラウザに対して閲
覧指示を行った段階においては、Webブラウザは閲覧指示に対応する
HTMLをサーバに要求するだけであること(相違点22−6)、2)サー
バはWebブラウザからの要求に従い、画像表示に必要な演算を実行す\nる、HTMLに記述されたJavaScriptをWebブラウザに送信すること
(相違点22−7)、3)WebブラウザがHTMLに記述されたJavaScr
iptを受信する前に表示領域内に表\示する分割画像を特定する演算を行
わないこと(相違点22−8)というものであるのに対し、乙22発明
は、地図データの要求をサーバに送信するまでの間に、ディスプレイに
表示する地図データ(メッシュ地図)を特定する演算を行っているとい\nうものである。
Webブラウザを用いた表示では、閲覧者がWebブラウザに対して\n閲覧指示を行うと、Webブラウザが閲覧指示に対応するHTMLをサ
ーバに要求し、サーバが要求に対応するHTMLをWebブラウザに送
信し、Webブラウザが受信したHTMLに基づいて表示を行うという\n表示ステップを経るというようなプログラム上の取決めがあることは顕\n著な事実であるところ、このようなHTMLを用いるWebブラウザの
処理におけるプログラム上の取決めがある以上、閲覧者がWebブラウ
ザに対して閲覧指示を行った段階では、Webブラウザは閲覧指示に対
応するHTMLをサーバに要求するだけであり、WebブラウザがHT
MLを受信する前の段階では、Webブラウザによって当該HTMLに
基づくいかなる処理も実行されることがないことは、上記取決めから生
じる当然の帰結にすぎない。
そして、JavaScriptは、HTMLに直接記述されるか、あるいはHT
MLによって読み出される外部ファイルに記述されるかのいずれでもよ
いものであることは、本件特許出願時の技術常識と認められるから(甲
46、48、49)、当業者は適宜それを使い分ければよく、Webブラ
ウザにおいてJavaScriptを用いたときにJavaScriptがHTMLに直接記述されることは当業者の自然な選択の一つにすぎず、その選択をした場
合、WebブラウザがHTMLを受信する前に当該HTMLに直接記述
されたJavaScriptを実行しないことはいうまでもない。
そうすると、Webブラウザを採用して動的表示をJavaScriptを用い\nて実行しようとするならば、当業者が適宜になす自然な選択の結果、ほ
ぼ必然的に相違点22−6ないし相違点22−8に係る本件訂正発明1
の構成をとることになるのであって、当該構\成についてとりたてて創意
を発揮する余地はない。そうであるところ、前記2(1)のとおり、本件特
許出願当時において、Webクライアントによる動的表示を行う処理を\nWebブラウザでJavaScriptを用いて行うことは周知慣用技術であり、
そして、この周知慣用技術を適用すればそれに起因して相違点22−6
ないし22−8の本件訂正発明1の構成となるというのであれば、上記\n相違点に係る本件訂正発明1の構成は容易に想到し得るものというほか\nない。
・・・
時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)ア のとおり、被告地図表示方法の本件\n発明17の充足性に関する主張は、時機に後れた攻撃防御方法であると
してその却下を求めるが、この攻撃方法の提出が訴訟の完結を遅延させ
るものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討
する。
相違点22−17−1の容易想到性について
a 本件訂正発明17は、本件訂正発明1について、1)同じ内容の画像
データを2)複数の倍率で有すること、3)各倍率の画像を構成する分割\n画像の画素数は表示倍率に関わらず一定であること、4)分割画像の分
割数は倍率が低い画像ほど少なく、倍率が高い画像ほど多いこととの
限定を付したものであるところ、乙22発明は、上記のような構成を\n有するとは特定されていない。
b 乙10文献には別紙9のとおりの記載がある。これによると、乙10技術として、次のような技術が記載されているものと認められる。
クライアントから要求される画像の指定、表示範囲の指定の変化に\n関わらず、高速かつ一定時間内に高精細画像を表示するためのデータ\n構造を備える高精細画像表\示装置を提供することを目的とするもので
あって(【0006】)、
サーバに格納される画像データのデータ構造が、複数段階の解像度\nの画像を有するものであり(【0024】ないし【0026】、【図2】)、
それぞれ解像度の画像はそれぞれpピクセル×pピクセルのブロッ
クに分割されて保持され、個々のブロックを単位としてアクセスされ
るものであって、個々のブロックを構成する画素数は解像度に関わら\nず同じであり(【0028】、【0029】、【図3】)、
ブロックの分割数は解像度が少ない画像ほど少なく、解像度が高い
画像ほぼ多い状態であり(【図3】)、
クライアント側の表示装置において表\示される表示枠に関連する各\nブロックの画像データを、サーバからクライアントに伝送して表示す\nる技術(【0031】、【0032】)。
c 本件訂正発明1が乙22発明により容易に想到できるものであるこ
とは、前記アにおいて判示したとおりであるところ、乙10技術は、
相違点22−17−1の構成に係る分割画像の格納形態を開示するも\nのであり、本件訂正発明17と乙10技術は、分野を同一とするもの
であって表示領域より大きい画像データを領域分割し、表\示装置に対
応する分割画像を送信して表示することにより表\示を高速化するとい
う機能も共通するものであるから、乙22発明の分割画像の格納形態\nとして、乙10文献記載の分割画像の格納形態を採用して、相違点2
2−17−1に係る本件訂正発明17の構成とすることは容易に想到\nできる。
控訴人らの主張について
控訴人らは、前記第2の4(1)イ e(g)のとおり、乙10技術は、個々
の分割画像(ブロック)を送信しているわけでもないし、同じ画像を複
数の倍率でかつ倍率ごとにそれぞれ複数の領域で分割してサーバから送
信しているわけではないから、乙22発明に乙10技術を適用して本件
訂正発明17の構成とすることは容易に想到できない旨主張するが、乙\n10技術の分割画像の送信手法と分割画像の格納形態とは、特に必須に
結合しているわけではなく、それぞれ独立した技術事項であるから、乙
10技術の送信手法までを乙22発明に適用する必要はなく、乙10の
分割画像の格納形態のみを採用することに阻害要因も見当たらない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和1(ワ)21901
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2023.06.28
令和3(ワ)10032 特許権 民事訴訟 令和5年6月15日 大阪地方裁判所
特許権侵害訴訟にて、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時期に後れた主張であるので却下されました。
そして、対象製品等が特許発明の構成要件の一部を欠く場合であっても、当該\n一部が特許発明の本質的部分ではなく、かつ前記均等の他の要件を充足するとき
は、均等侵害が成立し得るものと解される。
これに対し、被告は、対象製品等が構成要件の一部を欠く場合に均等論を適用\nすることは、特許請求の範囲の拡張の主張であって許されない旨を主張するが、
構成要件の一部を他の構\成に置換した場合と構成要件の一部を欠く場合とで区\n別すべき合理的理由はないし、本件において、原告は、被告製品には構成要件 C
の「消弧材部」に対応する消弧作用を有する部分が存在し、置換構成を有する旨\n主張していると解されるから、被告の前記主張を採用することはできない。
イ 第1要件ないし第3要件
原告は、別紙「均等侵害の成否等」の「原告の主張」欄記載のとおり、本件発
明の本質的な構成部分は構\成要件のうち A-1 ないし A-3、B-3 及び B-4 であり、
構成要件 C は本件発明の課題解決方法に資するものではないとして、第1要件は
満たす旨主張するところ、被告もこれを積極的に争っていない。
一方、第2要件及び第3要件に関し、原告は、被告製品の構成 c の「接着剤で
接着することにより形成された密閉された空間26」が本件発明の構成要件 C の
「消弧材部」と同一の作用効果(消弧作用)を有することを示す実験報告書等(甲
13、14、32)を証拠提出する。これらは、被告製品と同じ構造を有する製\n品につき、ヒューズエレメント部が密閉構造である場合と、非密閉構\造である場
合又は端子一体型ヒューズ素子を取り出して遮断試験用基板に実装して遮断試
験を行った場合の、各アーク放電の持続時間を対比した結果、密閉構造のものは、\n非密閉構造等のものに比べ、同持続時間が2分の1ないし3分の1になったとい\nうものである。しかし、これらは、被告製品の「密閉された空間」と本件発明の
「消弧材部」の各作用効果の対比自体を行うものではないことに加え、被告が証
拠提出する試験報告書(乙16)によれば、被告製品、被告製品に消弧材部を設
けたヒューズ及び被告製品のヒューズ素子のみを対象として、アーク放電の持続
時間を記録したところ、被告製品が最も同時間が長かったという結果であったこ
とが認められ、被告製品とヒューズ素子の各アーク放電の持続時間について、原
告が提出する実験報告書(甲14)と相反する結果となっている。そうすると、
原告が提出する前記証拠その他の事情等から、被告製品の構成 c が本件発明の構\n成要件 C と同様の作用効果を有するとまでは認め難いから、少なくとも第2要件
が満たされるとはいえない。
ウ 第4要件
前記イの点は措くとしても、以下のとおり、第4要件も満たさない。
被告は、被告製品の構成は、本件発明の特許出願時における公知技術(乙1発\n明)と同一又は当業者が乙1発明から出願時に容易に推考可能であった旨を主張\nする。
(ア) 乙1公報は、発明の名称を「表面実装超小型電流ヒューズ」とする公開特\n許公報であり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙1)。
・・・・
(イ) 乙1発明の構成\n
乙1発明がα-1、β-1 ないしβ-4 及びδの構成を有することは当事者間に争\nいがなく(別紙「均等侵害の成否等」の「第4要件」欄)、乙1公報の段落【0008】
【0016】【0018】【0020】及び【図2】(A)の記載内容に照らすと、α-2 及び
γの構成を有するものと認められる。\nまた、被告主張のα-3 の構成(金属電極2の可溶線挟持部22に挟み込まれる\nことにより一体形成されている電極一体型ヒューズ)に関し、原告は、電極とヒ
ューズが同一の金属によって一体的に形成されているとの趣旨であれば否認す
ると述べるところ、乙1公報には、可溶線5は、両端部を金属電極2に挟持され
本体1の空間6に架張された可溶線を示す旨(同【0016】)、可溶線5の端部は
第1板部221と第2板部222とにより挟み込まれ、金属電極2に固定される
旨(同【0018】)の記載があることから、可溶線5と金属電極2は異なる部材で
構成され、可溶線5は、可溶線挟持部22において挟持されることによって金属\n電極2に接続されているものと認められる(α-3’)。
以上から、乙1発明の構成は、別紙「裁判所の認定」の「乙1発明の構\成」欄
記載のとおりとなる。
(ウ) 被告製品の構成\n
被告製品が a-1 ないし b-4 及び d の構成を有することは当事者間に争いがな\nく、構成 c を有することも実質的に争いがないから、被告製品の構成は、別紙「裁\n判所の認定」の「被告製品の構成」欄記載のとおりとなる。\n
(エ) 被告製品と乙1発明の対比
被告製品の a-1、a-2 及び b-1 ないし d の各構成は、それぞれ、乙1発明のα1、α-2 及びβ-1 ないしδの各構成と同一であるものと認められる。\nそこで、被告製品の構成 a-3 と乙1発明の構成α-3'が一致するかを検討する。
「一体」の字義は、「一つになって分けられない関係にあること」であるところ
(広辞苑第七版)、被告製品は、別紙「被告製品写真」の3及び4に示されるよ
うに、ヒューズ本体4と2つの平板状部10の部材が連続し、一つになって分け
られないように形成されていることが明らかである。一方、乙1発明の可溶線5
と金属電極2は、異なる部材で構成され、また、可溶線5は、可溶線挟持部22\nにおいて挟持されることによって金属電極2に接続されていることから、可溶線
5と金属電極2は、同一材料で形成されておらず、一つになって分けられないよ
うに形成されてもいない。
したがって、可溶線5と可溶線挟持部22は一体に形成されているとは認めら
れず、乙1発明は構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しており、被告製
品は、公知技術と同一であるとはいえない。
(オ) 乙1発明と乙3発明に基づく容易推考性
被告は、乙1発明が構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しても、被告
製品の構成 a-3 は、乙1発明の構成α-3’を乙3発明の構成に置換することによ\nり、当業者にとって容易に推考可能である旨を主張する。\n
a 乙3公報は、発明の名称を「面実装型電流ヒューズ」とする公開特許公報で
あり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙3)。
(a) 技術分野
「本発明は、過電流が流れると溶断して各種電子機器を保護する面実装型電流
ヒューズに関するものである。」
・・・・
(b) 背景技術
「従来のこの種の面実装型電流ヒューズは、図7に示すように、セラミックか
らなるケース1と、このケース1の内部に形成された空間部2と、前記ケース1
の両端部に形成された外部電極3と、この外部電極3と電気的に接続された断面
が円形のヒューズエレメント部4とを備え、前記ヒューズエレメント部4の溶断
部5を前記ケース1の内部に形成された空間部2内に配設した構成としていた。」\n(【0002】)
(c) 発明が解決しようとする課題
「上記した従来の面実装型電流ヒューズにおいては、ヒューズエレメント部3
として同じ線径のものや同じ材料のものを使用しているため、線径や材料によっ
て決まる溶断電流等の溶断特性を調整することができないという課題を有して
いた。」(【0004】)
「本発明は上記従来の課題を解決するもので、溶断特性の調整ができる面実装
型電流ヒューズを提供することを目的とするものである。」(【0005】)
(d) 課題を解決するための手段
「本発明の請求項1に記載の発明は、絶縁性を有するケースと、このケースの
内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部電極と、この
外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設したヒューズエ
レメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一部を切削する
ことによって設けたもので、この構成によれば、ヒューズエレメント部の切削に\nよって溶断部の線径を調整できるため、溶断特性を調整することができるという
作用効果が得られるものである。」(【0007】)
「本発明の請求項3に記載の発明は、特に、ヒューズエレメント部と外部電極
とを一体の金属で構成したもので、この構\成によれば、ヒューズエレメント部と
外部電極とを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができると
いう作用効果が得られるものである。」(【0009】)
(e) 発明の効果
「以上のように本発明の面実装型電流ヒューズは、絶縁性を有するケースと、
このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部
電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設し
たヒューズエレメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一
部を切削することによって設けているため、この切削によって溶断部の線径を調
整でき、これにより、溶断特性を調整することができるという優れた効果を奏す
るものである。」(【0016】)
(f) 発明を実施するための最良の形態
「図4、図5において、本発明の実施の形態2が上記した本発明の実施の形態
1と相違する点は、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の金属で
構成した点である。この場合、外部電極13はケース11の底部11aの端面お\nよび裏面に沿うように折り曲げている。」(【0035】)
「上記構成においては、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の\n金属で構成しているため、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを接続す\nる必要はなくなり、これにより、生産性を向上させることができるという効果が
得られるものである。」(【0036】)
【図4】 【図5】
b 容易推考性
(a) 乙3公報の発明の詳細な説明によれば、乙3発明は面実装型電流ヒュー
ズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の面実装型電流ヒューズにおいて
は、ヒューズエレメント部4として同じ線径のものや同じ材料のものを使用して
いるため、線径や材料によって決まる溶断電流等の溶断特性を調整することがで
きないという課題を有していたこと(同【0004】)に対し、絶縁性を有するケー
スと、このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成され
た外部電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を
配設したヒューズエレメント部とを備え、ヒューズエレメント部の切削によって
溶断部の線径を調整でき、溶断特性を調整することを可能としたものである(同\n【0007】【0016】)。そして、特に、ヒューズエレメント部と外部電極とを一体
の金属で形成する構成をとることによって、ヒューズエレメント部と外部電極と\nを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができるという効果を
奏すること(同【0009】【0036】)や、発明の実施の形態として、外部電極13
がケース11の底部11a の端面及び裏面に沿うように折り曲げられた形態が記
載されている(同【0035】【図4】【図5】)。
以上によれば、乙3公報には、面実装可能な小型ヒューズにおいて、生産性の\n向上を目的として、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外部電極を一体の
金属で形成するという乙3発明が開示されているといえる。
一方、乙1公報の発明の詳細な説明によれば、乙1発明は表面実装超小型電流\nヒューズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の表面実装小型電流ヒュー\nズは、可溶部あるいは可溶線が合成樹脂や低融点ガラス等の絶縁物に直接接触し
た構造である場合、可溶部等が熱的中立性を保てず本来のヒューズとしての溶断\n性能がおろそかにされている問題(同【0002】〜【0004】)や、電極をケース内
に配置固定した後、電極間に可溶線を架張して半田付けする方式は、半田が固ま
る際に生じる盛り上がりの差により電極間の長さ、すなわち、可溶線の長さにば
らつきが生じるという問題があったこと(同【0005】)に加え、従来の小型ある
いは超小型電流ヒューズは、各部品を一つ一つバッチ工程で加工組立てを行う必
要があり、部品が小さいためその作業は困難を極め、製造し難く、その結果、低
コスト化にも限界があるという問題があった(同【0006】)。これに対し、乙1
発明は、可溶線5を挟持した一対の金属電極2が箱型形状を有する本体1の両端
に取り付けられ、蓋部3を本体1の上面より僅かに沈む位置まで押し込み接着剤
を塗布して蓋部3を本体1に固定して内部を密閉し、可溶線は本体1の内部空間
に浮いた状態で架張されている構成をとることで(同【0008】)、溶断特性のば
らつきを最小限に抑えることや従来型と比べて2倍以上大きい遮断能力を有す\nることを可能としたこと(同【0028】〜【0030】)に加え、連続工程で製作組立
を行うこと、特に、可溶線5を挟持した一対の金属電極2を組み立てた後に鞍部
21を本体1の双方の短側壁11に嵌合させて固定することにより、製造が容易
になって、大幅なコスト削減が可能となるという効果を奏するものである(同\n【0020】【0027】)。
そうすると、乙1発明と乙3発明は、いずれも表面実装型ヒューズに関する発\n明であり、その技術分野は同一である。また、乙1発明と乙3発明は、いずれも
生産性の向上という同一の課題に対し、予めヒューズと電極とを組み合わせた後\nに本体に固定するという技術思想に基づく課題解決手段を提供する発明である
ことに加え、乙1発明の溶断時間のばらつきを抑えるという課題と乙3発明の溶
断特性を調整するという課題は、所望の溶断特性を実現するという点で関連して
いるといえる。
したがって、乙1発明と乙3発明は、技術分野、課題及び解決手段を共通にす
るから、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在するものと認められる。
(b) 原告の主張
原告は、乙1発明と乙3発明とは、その課題等が相違することのほか、乙3発
明において、ヒューズエレメント部の切削を容易にするためには、乙1発明のケ
ース11は上下方向の中央で分割される必要があること、乙1発明の本体1の空
間部6内に乙3発明のヒューズエレメント部15を配置する場合、ヒューズエレ
メント部15を切削する必要があるが、所望の抵抗値が得られるように切削する
ことは実質的に不可能であることから、乙1発明に乙3発明を組み合わせること\nはその構成上不可能\であることなどの阻害要因があるとして、被告製品と乙1発
明の相違部分は、乙3発明から容易に推考できたとはいえない旨を主張する。
しかし、前記(a)のとおり、乙1発明と乙3発明の課題は同一又は関連してい
る。また、乙3公報の発明の詳細な説明によれば、ヒューズエレメント部の切削
は、スクライブやパンチング等の機械的方法によって行うが、予めヒューズエレ\nメント部の切削をした後にケースに固定をしてもよい旨が記載されていること
から(段落【0022】【0027】【0028】)、ヒューズエレメント部を切削するため
に、ケースを上下方向の中央で分割する必要があることにはならない。また、乙
3発明を乙1発明に適用するに当たり、乙1発明の空間部6内に、外部電極と一
体の金属で形成され、溶断部を配設したヒューズエレメント部を配置することと
なるが、空間部6内にヒューズエレメント部を配置する場合に、当該ヒューズエ
レメント部を切削する必要が必ずしもあるともいえない(ヒューズエレメント部
の一部の切削は本体への配置前に行うことができる。)。その他、乙1発明に乙
3発明を組み合わせることについて阻害要因があることをうかがわせる事情は
ない。
したがって、原告の前記主張は採用することができない。
(c) 以上から、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在し、これを阻害
する要因は認められないから、乙1発明の可溶線と金属電極は異なる部材で構成\nされる構成に代えて、乙3発明の、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外\n部電極部を一体の金属で形成する構成を採用して被告製品の構\成とすることは、
当業者が本件特許の出願時に容易に推考し得たものと認められ、被告製品は、均
等の第4要件を満たさない。
・・・
2 争点2(本件追加の可否)について
本件追加は、被告製品が、本件発明に係る請求項とは別の請求項記載の本件発
明2の技術的範囲に属するとして請求原因を主張し、本件特許権の侵害に基づく
各請求を追加するものであるから、訴えの追加的変更に当たると解するのが相当
であるところ、当裁判所は、本件追加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させ
ることとなると認め、これを許さないこととする(民訴法143条1項ただし書、
同条4項)。
すなわち、本件追加に係る請求原因は、原告において、審理の当初から主張す
ることが可能であったところ、令和4年11月28日の書面による準備手続中の\n協議において、当裁判所は、当事者双方に対し、被告製品は本件発明の技術的範
囲に属さないとの心証を開示して、話合いによる解決を検討するよう促し、その
後、和解協議を行ったものの、令和5年1月27日の同協議において、これ以上
の和解協議は行わないこととなり、口頭弁論の終結に向けて、原告は、これまで
の主張の補充及び反論を記載した書面を提出する旨述べたが、同年2月27日付
けの準備書面5において、本件追加を行ったものである(当裁判所に顕著な事実)。
このように、本件追加が行われた時点で、本件訴訟は、被告製品が本件発明の技
術的範囲に属さないとの当裁判所の心証開示を踏まえた和解協議を終え、審理を
終結する直前の段階に至っていた。仮に、本件追加を許した場合、被告製品が本
件発明2の技術的範囲に属するか否かや、本件特許に係る無効理由の有無につい
ても改めて審理を行う必要があり、そのために相当な期間を要することになるこ
とは明らかである。そうすると、本件発明2が本件発明1の従属項であり、構成\n要件の一部が同一であること、その他原告が指摘する事情を考慮しても、本件追
加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることになると認められる。
◆判決本文
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2023.04.12
令和3(ワ)28206 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年3月16日 東京地方裁判所
原告「ホンダ」VS被告「マツダ」の特許権侵害訴訟です。裁判所は進歩性無しの無効理由があるとして、権利行使不能と判断しました(特104-3)
当裁判所は、本件発明は、進歩性を欠くものとして無効であると判断するものであり(争点2−1−2)、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。以下、進歩性については、争点2−1−2(後記7)を先に判断することとし、構成要件充足性については、当事者双方の主張立証の経緯及び内容を踏まえ、次のとおり、念のため必要な限度で判断の理由を示すこととする。なお、原告は、予\備的に訂正の再抗弁を主張するものの、弁論の全趣旨によれば、現実に訂正請求をするものではなくその予定もないというのであるから、その要件を欠くものであり、後記7において説示するところによれば、上記進歩性に係る判断を左右しないことは明らかである。\n
・・・
上記認定事実によれば、乙9発明と乙10発明は、共に安全性の観点から、
原動機付車両における車両停止時にブレーキがかかった状態を保持すると
いう技術思想が共通するものといえる。そして、乙9発明は、安全性の観点
から、エンジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不可分性を
必須の特徴とするものであるところ、乙9(11頁2〜18行)によれば、
「ステツプS24では、ブレーキペダル信号の有無によりブレーキペダルが
踏込まれているか否かが判断される。・・・運転者が車両を停止させる意思
があると判断するためである。」、「更にステツプS25では、エンジンを
自動停止させるための他の停止条件、例えばターンシグナルが出されていな
いこと、ヘツドランプが点灯していないこと、エアコンデイシヨナが作動し
ていないこと、水温が所定以上であること、等が、ターン信号、ライト信号、
エアコン信号、水温信号等により判断される。」、「これらのステツプS2
1〜S25がすべて肯定判断されれば、エンジン自動停止条件が満足された
こととなる・・・」が記載されていることからすると、乙9発明は、エンジ
ン自動停止始動装置を安全な状態で作動させる観点から、各種検出信号を用
いていることが認められる。
そうすると、エンジン自動停止始動装置を安全な状態で作動させるために、
各種検出信号の一つとして、乙9発明に対し、制動保持装置の異常を検出す
る乙10を適用する動機付けを認めるのが相当である。
したがって、エンジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不
可分性を必須の特徴とする乙9発明の技術的思想に鑑みると、制動保持装置
の異常を検出した場合には、安全性を欠くことは自明であるから、安全性の
観点から各作動の一体不可分性を確保するために、エンジン自動停止始動装
置を安全な状態で作動させるための判断用各種検出信号の一つとして制動
保持装置異常検出信号を加えた場合において、制動保持装置の異常が検出さ
れたときは、乙9発明にいうステップS21〜S25が肯定判断されず、エ
ンジン自動停止条件が満足されなくなる。
そのため、上記場合には、制動保持装置異常検出信号が、エンジン自動停
止始動装置を作動させないことになり、もってその作動を禁止することにな
る。したがって、乙9発明に乙10発明を適用してエンジン自動停止始動装置
の作動を禁止することが、当業者の適宜なし得る設計事項の範疇であること
は、上記一体不可分性に照らし、明らかである。
以上によれば、制動保持装置の異常を検出した場合には、エンジン自動停
止始動装置の作動を禁止する構成(相違点1に係る構\成)を容易に想到でき
るものと認めるのが相当である。
実質的にみても、本件発明は、原動機停止装置の実行を判断するための各
種検出信号の一つとしてブレーキ液圧保持装置の故障検出信号を備えるも
のであり、乙9発明に乙10発明を適用した構成との間に、技術思想におい\nて異なるところはない。
◆判決本文
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2023.04.11
平成30(ワ)10590 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月20日 大阪地方裁判所
102条1項の覆滅として15%と判断されました。覆滅分については6%の実施料と判断されました。興味深いのは、特許権は共有でしたが、原告が100%持ち分で、102条1項の適用がされている点です。なお、本件特許については、無効審判も3件あります。無効審判では証人喚問もされています。
◆本件特許
(7) 原告が販売することができないとする事情
ア 競合品の存在
被告が競合品であると主張する製品のうち、アツギが販売する「大人のス
ポパン」(乙60の2の1)、イーゲートが販売するショーツ(乙60の4の
1)、ワコールが販売する「すそピタショーツ」(乙61の1)、千趣会が販売
するショーツ(乙61の2、61の3)及びグンゼが発売する「超立体ぴっ
たりフィットショーツ」(乙61の5)は、脚口(裾口)ないし臀部部分が立\n体的な構造であり、脚口(裾口)部分のずりあがりが防止されることなど本\n件各特徴に相当する作用効果を有することを特徴とする商品であるといえ、
価格帯も、ワコールが販売する製品を除き、概ね同一であり、競合品である
と認められる。ワコールが販売する製品は、3000円前後と原告製品より
も高額であるものの、同社が女性用下着メーカーとして有名でありその商品
に高いブランド力があると認められること等を踏まえると、なお競合品に含
まれるといえる。
したがって、原告製品と被告製品とが販売される市場において、原告製品
と競合する製品が複数存在することが認められ、かかる競合品の存在は、原
告が販売することができない事情に該当するといえる。
もっとも、原告製品のうち、220番製品及び420番製品は、楽天市場
内の「ボックスショーツ」で区分される製品のランキングにおいて、平成2
5年5月15日から令和元年7月7日までの長期間にわたり連続1位を獲
得している(甲50、73)等、原告のブランドは需要者に相応に知られて
おり、かつ需要があると認められることを踏まえると、競合品の存在を理由
とする覆滅の程度が大きいとまではいえない。
イ 被告製品固有の特徴
証拠(甲3〜8、23、24、)によれば、被告製品は、本件各特徴に加え
て被告各特徴(1)ウエスト・脚口にはゴムを使用せず、2)綿の中でも、繊維
長が長く、吸湿性が高く、やわらかい風合い等の特徴を持つスーピマコット
ンを使用し、3)各パーツの縫い目の縫い糸が肌側に当たらない仕様であり、
4)品質表示を記載するタグをタグから製品本体に転写してプリントする方\n法に変更していること)を備えており、かつ当該被告特徴について、本件各
特徴に次いで、需要者に訴求されていることが認められる。
また、証拠(甲48〜50)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品は、1)
少なくともウエスト部分にゴムを使用し、2)スーピマコットンは使用されて
おらず、3)パーツの縫い目の縫い糸が肌側に当たる仕様であり、4)品質表示\nを記載するタグが付けられていることが認められる。
原告商品及び被告商品は、余多ある女性用ショーツの中で、装飾的な意味
でのデザイン性よりも、履き心地、肌触り等の機能面、実質面を重視した商\n品を購入しようとする需要者を販売対象とした商品であると認められ、その
ような需要者にとって、被告各特徴は、購入動機の形成にそれなりに寄与す
るものであるといえる(乙67)。よって、被告製品が原告製品とは異なる被告各特徴を備えることは、原告
が販売することができない事情に該当すると言い得る。
ただし、被告各特徴に基づく顧客誘引力は、商品の形状・機能に直接かか\nわる本件各特徴と比較すると限定的であると考えられること、被告特徴2)に
ついて、素材それ自体で見れば、被告製品と原告製品のうち220番製品及
び420番製品は綿95%、ポリウレタン5%と同一であり、その余の原告
製品も綿92%、ポリウレタン8%と大差がないこと、被告特徴4)について、
本件対象期間中に販売された被告製品の一部はタグ付きである可能性があ\nること(甲40)等をふまえると、その覆滅の程度は限定的に解すべきであ
る。
ウ ハイウエストタイプの存在
被告製品には、原告製品にない、ウエスト丈がハイウエストのもの(被告
製品3−1及び3−2。ハイウエストタイプ)が存在し、当該ハイウエスト
タイプの存在が、原告が販売することができないとする事情に該当すること
は争いがない。被告製品のうちハイウエストタイプは、被告製品の販売数量合計●(省略)
●のうち、●(省略)●であり、約26.8%である(計算鑑定の結果)。
被告製品においてハイウエストタイプを好む需要者が一定程度存在する
と認められることを踏まえると、被告製品にのみハイウエストタイプが存在
するという事情は、特許法102条1項1号に基づく推定を一定程度覆滅す
るものと認められる。
エ 販売価格
証拠(甲3〜8、48〜50、75)によれば、原告のウェブサイトで販
売される107番製品(ローライズ丈)及び407番製品(普通丈)の販売
価格は2500円(税込)、楽天市場で販売される220番製品(セミ丈)及
び420番製品(普通丈)の販売価格は1500円〜1520円(税込)で
あるのに対し、被告製品の一般向けの販売価格はレギュラー丈(被告製品1
−1及び1−2)が1080円(税抜)、ショート丈(被告製品2−1及び2
−2)が平均980円(税抜)、ハイウエストタイプ(被告製品3−1及び3
−2)が平均1280円(税抜)であると認められる。なお、原告製品のロ
ーライズ丈及びセミ丈と被告製品のショート丈、原告製品の普通丈と被告製
品のレギュラー丈が、それぞれ対応関係にある。
同種かつ同程度の機能等の製品相互間で価格が顧客誘引力に影響を与え\nること、これが女性用下着一般及びその中でも原告商品及び被告商品の想定
需要者層に妥当することは明らかである(乙67)。原告商品の販売数量を
見ても、価格以外の要素があり得るといえるものの、高額(2500円)の
407番製品及び107番製品の販売数量が●(省略)●枚、●(省略)●
枚であるのに対し、低価格(約1500円)の220番製品及び420番製
品が●(省略)●枚、●(省略)●枚と非常に高い比率を占める(計算鑑定
の結果)。
もっとも、販売量の多い220番製品及び420番製品と、被告製品(ハ
イウエストタイプを除く)の価格差は、420円〜540円であり、両製品
の価格帯自体が1000円〜1500円程度の範囲であること等を踏まえ
ても、その差が大きいとはいえず、顧客誘引力に大きな影響を及ぼすとまで
はいえない。したがって、被告製品が原告製品よりも低価格であることは、原告が販売
することができないとする事情に該当するといえるものの、当該事情を理由
として推定された損害が覆滅される程度は高いとは言えない。
オ 被告の営業努力
特許権者等が販売することができない事情として認められる侵害者の営
業努力とは、通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力を行い、製品の購買
動機の形成に寄与したと認められるものをいうところ、被告指摘の事情を勘
案しても、このような事情には該当しない。
カ 本件発明の技術的意義が被告製品の利益に貢献する程度
被告は、構成要件Dの「腸骨棘点付近」について、上前腸骨棘を中心とし\nつつ下前腸骨棘付近を含むものと解釈した場合、仮に被告製品が構成要件D\nを充足するとしても、本件発明の作用効果を奏さないため、被告製品に対す
る本件発明の寄与度が零であると主張する。
しかし、「腸骨棘点付近」に下前腸骨棘付近を含む場合でも本件発明の作
用効果を奏するものであることは前記2(1)のとおりであるから、被告の主
張は採用できない。
キ 実際の着用状態からみた本件発明の貢献度
被告は、一定以上の割合の被告製品については、需要者が着用した場合に
身体的個体差等の影響により着用状態において本件発明の技術的範囲に属
しない場合があり得、当該事情をもって原告が販売することができないとす
る事情に該当と主張する。
しかし、被告製品は、その設計時に想定された着用状態において、本件発
明の技術的範囲に属するものであり、実際の個別具体的な着用状況において、
被告製品の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置しない場合
があることをもって販売することができない事情が存すると解することは
相当でない。
ク 推定覆滅の割合(まとめ)
以上によれば、本件においては、競合品の存在、被告製品が被告各特徴を
有すること、ハイウエストタイプが存在すること及び原告製品よりも低価格
であることについて原告が販売することができない事情に該当すると認め
られ、前記イで認定した事情を踏まえると、当該事情に相当する数量は、全
体の15パーセントであると認めるのが相当である。
・・・
証拠(甲11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の実施に対し
受けるべき実施料率は6パーセントと認めるのが相当である。
なお、被告は、原告がそのウェブサイトにおいて本件特許権侵害に基づく
訴訟を被告に提起し、徹底的に争う旨の意思表明をしていることから、ライ\nセンスの機会を自ら放棄したとして、特許法102条1項2号が規定する
「特許権者…が、当該特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しく
は通常実施権の許諾…をし得たと認められない場合を除く」に該当し、同号
に基づく実施料相当額の損害は認められない旨主張する。
しかし、被告が主張する事情は、原告の被告に対するライセンスの機会の
喪失を否定する事情に該当するとはいえず、同号の括弧書に該当する場合で
あるとは認められない。
◆判決本文
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2023.04. 7
令和4(ワ)16934 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年3月28日 東京地方裁判所
実案を基礎としてした特許出願について登録となりました。権利者が権利行使しましたが、無効主張がなされ、進歩性無しと判断されました(特104-3)。
本件特許はこれです。
◆本件特許
「本発明」は、前記アの課題を解決するため、授乳者のプライバシーが
保護された状態で授乳を行うことができる授乳用空間が形成された授乳
エリアを簡易に設置できるようにすると共に、授乳用空間のレイアウト
の変更を容易にできるようにすることを目的とするものであり、「本発明」
の授乳用ユニットは、内部に空間が形成された箱状の筐体と、筐体に形
成された開口状の出入口と、出入口に設けられ、閉状態のときに出入口
を塞ぎ、筐体の内部の空間を遮蔽するドアと、筐体の内部の空間に設け
られ、授乳者が着座可能な1つの一人着座用の椅子と、筐体を移動させるキャスターと、を備えることにより、ドアを閉状態とすれば、筐体の内部の空間が遮蔽され、外部から筐体の内部が視認できない状態となる\nため、授乳者は、筐体の内部で、他人に見られることなく、プライバシ
ーが保護された状態で授乳を行うことができ、授乳エリアとなる空間に
授乳用ユニットを持ち込み、キャスターを利用して授乳用ユニットを適
切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成され
た授乳エリアを設置することができることから、授乳エリアの設置に際
し、綿密な設計の下、各設備を適切な位置に固定的に設ける必要がなく、
授乳エリアの設置が簡易化し、キャスターを利用して授乳用ユニットを
移動させるだけで、授乳エリアにおける授乳空間のレイアウトの変更を
行うことができるため、授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ
とができるとの効果を奏する(【0007】ないし【0009】)。
・・・
a 原告は、乙6発明の技術分野は、「プライバシーに配慮した筐体内
部に保育空間を形成する技術」に関するものであり、前記(ア)の公報
及び文献に記載の発明の技術分野とは異なっているから、筐体の移動
を容易ならしめるため、筐体にキャスターをつけることは、乙6発明
の技術分野における周知技術であるとは認められないと主張する。
しかし、前記(ア)において認定したとおり、少なくとも利用者と機
器等を収納する筐体に係る技術分野においては、当該筐体の具体的な
用途にかかわらず、広く当該筐体の移動を容易ならしめる手段として
のキャスターが利用されている。そのような利用状況からすると、移
動対象が授乳室という「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間
を形成する」用途の筐体であるからといって、当業者において、当該
技術分野における周知慣用技術である筐体にキャスターを設けるとい
う構成を乙6発明に係る授乳室に適用することが困難であるとはいえない。
b 原告は、1)乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付けると、
設置面と授乳室の床面との間に段差が生じ、授乳室の安全な利用を図
るという目的に反する、2)乙6発明に係る授乳室においては、授乳用
チェア等の室内装備が固定・固着されていないから、乙6発明に係る
授乳室にキャスターを取り付けて移動可能にすると、授乳等を安全に行うことができなくなる、3)乙6発明に係る授乳室の安全性を保ちつ
つ、キャスターを取り付けることには技術的ハードルがあるとして、
乙6発明に係る授乳室に、キャスターを適用することを妨げる特段の
事情があると主張する。
しかし、1)については、乙6文献の記載から、乙6発明に係る授乳
室は、ロビーの床面と授乳室の床面との間の段差があり、これによる
弊害を解消するため、乙6発明に係る授乳室の出入口付近の床面から、
ロビーの床面に延びるスロープを備えているものと認められ、段差に
よる弊害は、同スロープの設置により解消することができるといえる。
また、技術常識に照らし、取り付けるキャスターのサイズや取付方法
を工夫することにより、上記のような段差が生じることを抑制するこ
とが困難であるとは考え難い。したがって、段差が生じることが乙6
発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因になるとは認め
られない。
次に、2)については、授乳者を授乳室に収容したまま授乳室を移動
させない限り、乙6発明に係る授乳室内の設備が固定されていない
ことによる授乳者の安全性への影響が生じるとは考え難く、実際に
そのような影響が生じると認めるに足りる証拠もない。むしろ、授
乳者を乙6発明に係る授乳室に収容したまま授乳室を移動させるこ
とは通常の使用方法ではないというべきである。したがって、室内
装備が固定・固着されていないことが乙6発明に係る授乳室にキャ
スターを取り付ける阻害要因になるとは認められない。
さらに、3)については、筐体にキャスターを取り付けることによ
って、不意に筐体が動き出すとの事象が生じ得ることは、容易に想定
できるところ、これによる弊害は、キャスターにストッパーを取り付
けることにより回避することができる。そして、筐体にキャスターを
取り付け、同キャスターにストッパーを取り付ける構成は、前記(ア)
e及び同fのとおり、乙16公報及び17公報において開示されてお
り、周知技術であると認められるから、当業者であれば、筐体にスト
ッパー付きのキャスターを取り付けるという周知技術を適用し、容易
に克服できる弊害であるといえる。したがって、安全性を保つ必要が
あることが乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因
になるとは認められない。
◆判決本文
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2023.03.24
令和4(ネ)10087 特許権侵害損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害として、1審で約800万円の損害賠償が認められました。双方控訴しましたが、控訴棄却されました。原告(控訴人)は代理人なしの本人訴訟です。
(1) 業界における実施料等の相場について
ア 一審原告は、前記第2の4(4)ア aのとおり、原判決が、甲55報告書
の例外的事象における実施料率を理由に、電気等の分野の実施料率の平均
値を採用しなかったのは不当である旨主張する。
しかし、原判決は、一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となると
いう甲55報告書の指摘に着目して、電気等の分野の実施料率の平均値を
採用しないとしたのであり、その判断は首肯できるものである。
イ 一審原告は、前記第2の4(4)ア bのとおり、乙13陳述書における実
施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。
しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙13陳述書は、具体
的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示したものと
理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を吟味する必要
があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や分割出願制度等を
利用した出願を全てまとめて1パテントファミリーとして、パテントファ
ミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、1件当たりのライセンス
料率が過少にならない工夫をしていること等に鑑みると、その信用性が否
定されるべきものとはいえない上、そもそも原判決は、乙13陳述書にお
ける料率をそのまま採用しているのではなく、その他の各種事情を総合勘
案した上で、料率を決定しているのであるから、一審原告の主張は採用で
きない。
(2) 代替品の不存在について
一審原告は、前記第2の4(4)ア のとおり、本件訂正発明によらずに、
本件訂正発明の効果を奏することは経済的に現実的ではなかった旨主張す
る。
しかし、これを的確に裏付けるに足りる証拠はないし、その他の各種事
情を総合考慮すると、そもそもこの点のみをもって本件結論が左右すると
はいい難いから、一審原告の上記主張は採用できない。
・・・
一審被告は、「本来解像度」の用語の意義について、本件明細書等【00
32】に「「本来解像度」とは「本来画像」の解像度をする。」と定義され
ているので、「本来画像」の意義が問題となるところ、「本来画像」の用語
の意義、内容は不明確であるから、本件特許明細書には、構成要件G’にお\nける「本来解像度」の意義を理解するための記載がなく、サポート要件に反
する旨、当審において新たに主張するが、本件明細書等の「本来画像」及び
「本来解像度」に関する関係記載(【0006】、【0032】、【007
9】、【0115】、【0118】、【0119】、【0124】ないし
【0126】、【0128】ないし【0130】等)を総合すれば、当業者
は、「本来画像」及び「本来解像度」が何を意味するかにつき十分に理解で\nきるというべきであるから、本件訂正発明は本件明細書等の発明の詳細な説
明に記載したものといえる。
その他にも、両当事者はるる主張するが、いずれも本件結論を左右し得な
い。
第4 結論
以上によれば、一審原告の請求は、主位的請求である不法行為に基づく損害
賠償請求権に基づき819万9458円及びこれに対する令和元年12月13
日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める限度で理由があり、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由\nがないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、一審原告及
び一審被告の控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとお
り判決する。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和1(ワ)32239
関連審決取消訴訟事件です。
◆令和3(行ケ)10139
◆平成28(行ケ)10257
同一特許についての別侵害訴訟の控訴審と1審です
◆令和4(ネ)10031
◆令和2(ワ)5616
◆令和3(ネ)10023
◆平成30(ワ)36690
◆令和4(ネ)10056
◆令和2(ワ)29604
この事件では、知財高裁は、損害額の算定について以下のように言及されています。
一審原告は、前記第2の3(4)ア aのとおり、甲26報告書の79頁
は、デバイスに関して、クロスライセンスの方式による場合において、
実施料率の相場が1%未満すなわち0.数%であることを示すにすぎ
ないから、原判決のこの点に係る認定には誤りがある旨主張する。
しかし、甲26報告書の79頁によれば、デバイス等においては、製
品が数百ないし数千の要素技術で成り立っていること、互いの代表特\n許をライセンスし合い、実施料率の相場は1%未満であることといっ
た一般的な事情が認められところ、これに加えて、引用に係る原判決
第4の11(3)イ 及び のとおり、一審被告が被告製品の製造販売の
ためにした複数のライセンス契約におけるアプリ特許(標準必須特許
以外の特許)に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率
は平均●●●●●●●%であり、これを画像処理に関連する発明に限
定すると1件当たりのライセンス料率は、平均●●●●●●●●%と
なること等、本件特有の事情も考慮すれば、原判決の相当実施料率の
認定に誤りがあるとはいえない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア bのとおり、ライセンス料は、主
として「代表特許」の価値によって決まるので、乙14陳述書の計算\nにおける標準必須特許を除く「全ての特許の件数で除した1件当たり
のライセンス料率」は不当にディスカウントされたものである旨主張
する。
しかし、乙14陳述書は、代表特許(甲26の79頁にいう「相互\nの代表的な特許」)ではなく、標準必須特許(携帯電話事業分野の標\n準規格の実施に不可欠な特許)と、アプリ特許(通信規格に適合する
ために不可欠とはいえない特許)を分けて扱っているのであり、それ
自体は合理的なことであって、このような方式を採ることが不当なデ
ィスカウントに当たるともいえないから、一審原告の主張は採用でき
ない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア cのとおり、乙14陳述書におけ
る実施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。
しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙14陳述書は、
具体的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示し
たものと理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を
吟味する必要があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や
分割出願制度等を利用した出願を全てまとめて1パテントファミリー
として、パテントファミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、
1件当たりのライセンス料率が過少にならない工夫をしていること等
に鑑みると、その信用性が否定されるべきものとはいえない上、そも
そも原判決は、乙14陳述書における料率をそのまま採用しているの
ではなく、その他の各種事情を総合勘案した上で、料率を決定してい
るのであるから、一審原告の主張は採用できない。
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2023.03.22
令和4(ネ)10061 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月9日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審は29-2違反の無効理由有りとして、権利行使不能と判断しました。本件特許1を再訂正しましたが、知財高裁も再訂正後の発明について29-2違反の無効理由有りと判断しました。なお、再訂正発明については、審判では先願との同一性なしと判断されています。
(3) 争点3−1(引用発明1−1に基づく本件再訂正後発明1の拡大先願要件違
反の有無)について
ア 構成要件1D−1及び1D−4−1について\n
(ア) 控訴人は、引用発明1−1の押さえ部は可動であり、仮に可動ではない場合
を含むとしても、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体を巻き出
す又は巻き取る構成は乙10公報に開示されていないと主張する。\n
(イ) しかしながら、乙10公報には、押さえ部を固定する場合を排除するような
記載はない。そして、「スクリーン本体4が被磁着体90に近接した位置にあると、
スクリーン本体4が被磁着体90に磁着しやすくて引き出し操作をスムーズに行い
難いし、スクリーン本体4の表面に傷が付くことがあることから、引き出しを開始\nする前に、図4に示すように、ベース板11に可動片12を重ね合わせた状態(ロ
ック状態)にして、押さえ部5を被磁着体90から離した態様(第1配置態様)に
固定する。」(【0043】)との記載は、特許請求の範囲の請求項3に係る発明の実
施例に係るものと認められる。また、上記記載からすると、スクリーン本体4の引
き出し操作をスムーズに行うことができ、スクリーン本体4の表面に傷が付くおそ\nれがない場合には、引き出し時に、押さえ部を非磁着体(本件再訂正後発明1にお
ける「設置面」)から離す必要がないものと読み取ることができる。さらに、乙1
0公報には、請求項3に係る発明の実施例についての説明として、「前記押さえ部
5を被磁着体90から離した第1配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着
体90との離間間隔(距離)は、20mm〜70mmに設定されるのが好ましい
(図4参照)。」(【0049】)、「前記押さえ部5を被磁着体90に近接させた第2配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着体90との離間間隔(距離)は、
1mm〜15mmに設定されるのが好ましく、中でも2mm〜8mmに設定される
のが特に好ましい(図3、5参照)。」(【0050】)との記載があることからして、引用発明1−1においても、押さえ部と被磁着体との位置関係にはある程度の幅が
あることが想定されているといえるところ、押さえ部と被磁着体との間の距離を調
整することによって、スクリーン本体の引き出し操作をスムーズに行うことができ、
かつ、スクリーン本体の表面に傷が付くおそれがないようにすることが可能\である
ことは、当業者にとって明らかであるといえる。
そうすると、乙10公報には、押さえ部を固定した構成が開示されていると認め\nるのが相当である。
(ウ) 上記を前提とすると、乙10公報の【図5】のような構成で押さえ部を固定\nすることも当然に想定されるから、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリ
ーン本体を巻き出す又は巻き取る構成も、乙10公報に開示されていると認められ\nる。乙10公報の【図1】〜【図6】は、いずれも押さえ部を可動とした場合(す
なわち請求項3に係る発明)の実施例であると認められるのであって、これらの図
をもって、乙10公報に、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体
を巻き出す又は巻き取る構成が開示されていないということはできない。\n
(エ) したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
イ 構成要件1D−4−2について\n
・・・
(ウ) ところで、乙10公報には、「前記可動体24の先端部26の横断面視での
外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面に形成さ
れているので(図10参照)、引き出し操作の際のスクリーン本体4の傷付きを十\n分に防止することができる。」(【0062】)、「前記可動体24の先端部26の横断面視での外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面
に形成されているので(図10参照)、巻き取り操作の際のスクリーン本体4の傷
付きを十分に防止することができる。」(【0066】)との記載があり、これらの記\n載における「稼働体24の先端部26」は引用発明1−1の「押さえ部」に相当す
る部分であることから、引用発明1−1において、押さえ部の横断面視の形状を円
弧面としているのは、引き出し操作及び巻き取り操作の際に、スクリーン本体が傷
付くことを防止するためであるものと認められる。そうすると、乙10公報には、
押さえ部の構成を工夫することによって、引き出し操作及び巻き取り操作の際にス\nクリーン本体が傷付くことを防止することが開示されているといえる。
(エ) そして、シートと接触する部分を回転可能とすることによる効果も、シート\nの移動時にシートが傷付くことを防止するというものである。
そうすると、引用発明1−1において、横断面視の形状が円弧面である押さえ部
を回転可能とし、その結果、押さえ部に接触しながら巻き出され又は巻き取られる\nスクリーンの摺動接触に起因して押さえ部が回転するものとすることは、当業者が
押さえ部の構成の工夫として適宜選択する範囲のものにすぎないと認めるのが相当\nである。
・・・・
ウ 構成要件1D−4−3について\n
・・・
(イ) 乙31(平成24年12月18日付けの株式会社ケイアイシーの商品カタロ
グ)、乙32(特開2006−178916号公報)及び乙33公報には、ケース
から巻き出す形態のスクリーン装置において、ケースに取手が設けられているもの
が開示されており、本件特許1の出願当時、本件再訂正後発明1のようなマグネッ
トスクリーン装置の技術分野において、ケースに取手を設けることは周知・慣用手
段であったと認められる。そして、引用発明1−1において収納ケースに取手を設
けることは、当業者が、運搬の便宜等のため、必要に応じて適宜選択できることで
あると認められる。
(ウ) 控訴人は、本件再訂正後発明1においては、ケーシングを移動させてシート
を巻き出す使用態様のために「取手部」が必須であるのに対し、引用発明1−1で
は収納ケースを移動させてシートを巻き出すような使用形態は想定されていないか
ら、収納ケースに「取手部」に相当する部材を設けることについては開示も示唆も
ないと主張するが、本件再訂正後発明1においても、ケーシングではなく「操作バ
ー」側を移動させてスクリーンを巻き出す態様も想定されているし(本件明細書1
の【0051】、【図12】)、また、取手部ではなく、ケーシング自体を保持して移
動させることが可能であることは明らかであるから、ケーシングを移動させてシー\nトを巻き出すために「取手部」が必須であるという上記控訴人の主張は採用できな
い。
(エ) したがって、引用発明1−1は、構成要件1D−4−3に相当する構\成を含
むものと認めるのが相当である。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和2年(ワ)3297号
本件特許1は以下です。
◆第6422800号
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2023.03.20
令和4(ネ)10078 不当利得返還請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟の控訴審判決です。1審の東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n控訴審において、控訴人(1審原告)は訂正の再抗弁をしました。知財高裁(4部)は、「本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加える」として、訂正の再抗弁について、判断がなされています。
ア 時機に後れた攻撃防御方法に当たるかについて
控訴人は、第4次訂正に係る訂正の再抗弁は、特許庁による令和4年4
月21日付けの審決の予告を受けてした第4次訂正請求に係るものであ\nって、本件特許に係る特許権侵害訴訟における手続においても当然に主張
できるものと考えるようである(同主張によって第3次訂正に係る訂正の
再抗弁が取下げ擬制されたとも主張している。)が、特許権侵害訴訟におい
て無効の抗弁とその対抗主張ともいうべき訂正の再抗弁は、特許権の侵害
に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決するため、
特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことなく主張することが
できるものとされたにすぎず、特許無効審判とは別の手続である民事訴訟
手続内でのものであるから、審理の経過に鑑みて、審理を不当に遅延させ
るものであるときは、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下
されるべきである。
そこで、原審における審理経過についてみると、控訴人は、原審におい
て、第1回弁論準備手続期日(令和元年11月18日)における本件特許
が新規性及び進歩性を欠く旨の無効の抗弁の主張(被告第1準備書面)を
受けて、第3回弁論準備手続期日(令和2年7月27日)までに、第2次
訂正に係る訂正の再抗弁に係る原告第2準備書面を提出したが、本件無効
審判の手続における訂正請求に合わせて、第3次訂正に係る訂正の再抗弁
を記載した令和3年3月3日付け原告第5準備書面及び同年5月27日
付け原告第6準備書面を提出した(これらの準備書面は、第4回弁論準備
手続期日(令和3年12月16日)において、訂正書面を含めて陳述され
た。)。原判決は、第2次訂正及び第3次訂正に係る訂正の再抗弁はいずれ
も訂正要件を充足せず、本件特許は特許無効審判により無効とすべきもの
と判断したところ、控訴人は、控訴理由書で、第4次訂正に係る訂正の再
抗弁の主張を追加したものである。
こうした原審での審理経過に鑑みると、第4次訂正は、時機に後れて提
出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたことについて控訴人に
は重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4
次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る
訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅
延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとす
る。
◆判決本文
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2023.02.17
平成29(ワ)4178 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年1月31日 大阪地方裁判所
出願前に納品されたことにより、公然実施されたとして、特104条3に基づき、権利行使不能と判断されました。\n
被告は、平成11年5月から平成12年4月までの間に、日本製紙八代工場に
ベルト4反(ベルトB)を納品し、ベルトBが同工場において平成11年6月1
1日から平成12年5月9日までの間に使用開始されており、ベルトBの構成は\n本件発明1の構成要件と一致し、納品によってその構\成が日本製紙に知り得る状
態となり、また、当業者はDMTDAの同定が可能であったとして、本件特許1\nの出願前にベルトBに係る発明が公然実施された旨主張するので、以下検討する。
(1)ア 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(なお、
原告は乙32が真に平成11年に作成されたのか不明である旨を主張するが、そ
の体裁等に照らすと、作成日等に関する疑義は認められない。)。
(ア) 被告は、昭和63年からベルトを製造していたところ、平成8年4月に新
工場を新設して、ベルトの製造を集約することとなった。それに伴い、被告では、
品質を一定の水準以上に維持するために、製造工程の一連の流れ、各ステップの
管理項目、品質特性(品質保証項目)及び管理方法を明確にしたルールを作成す
ることとなり、平成11年2月26日、QC工程図が作成された。(以上につき、
乙32、83)
QC工程図には、樹脂コーティング工程に関し、1)ビス(メチルチオ)−2,
4−トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン及びメ
チルチオトルエンジアミンの混合物であるエタキュアー300(硬化剤)のほか、
イソシアネート基を末端に有するプレポリマーである、タケネートL2390及\nびタケネートL2395を受け入れ、10)1)の樹脂を調合し、11)基布(ベース)の
シュー側(内周面側)にコートしてキュアし、その後、15)反転して、18)1)で受け
入れた樹脂を調合し、19)基布(ベース)のフェルト側(外周面側)にもコートし
てキュアする旨の記載がある(乙32〜36、130〜132。なお、数字は工
程番号を指す。)。
(イ) 被告は、QC工程図に従って、平成11年3月1日から同月4日の間に反
番51+01349のベルト、同年8月5日から同月10日の間に反番51+0
4750のベルト、同年10月1日から同月5日の間に反番51+06801の
ベルト及び平成12年2月15日から同月22日の間に反番52+00481の
ベルトの各樹脂コーティング工程作業を行い、その頃、基布面を完全に被覆する
両面樹脂構造であり、かつ、排水溝を有するベルトBの製造を完了させ、日本製\n紙に対し、平成11年5月14日、同年9月3日、同年10月21日及び平成1
2年4月27日、それぞれ納品した(乙25、27〜31、83)。
イ 前記ア(ア)及び(イ)によれば、ベルトBは、ポリウレタンにより基布が完全
に被覆されており、内周面及び外周面のポリウレタンは、末端にイソシアネート\n基を有するウレタンプレポリマーとDMTDAを含有する硬化剤とを含んでおり、
熱硬化性であることが認められる。そうすると、公然実施発明Bは、基布を熱硬
化性ポリウレタンが完全に被覆してなり、前記基布が前記ポリウレタン中に埋設
され(構成B−a)、フェルト側およびシュー側が前記ポリウレタンで構\成され
たシュープレス用ベルトにおいて(構成B−b)、フェルト側を構\成するポリウ
レタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ビス(メ\nチルチオ)−2,4−トルエンジアミンおよびビス(メチルチオ)−2,6−トル
エンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている(構成B−\nc)、シュープレス用ベルト(構成B−d)という構\成を有していることが認め
られ、本件発明1の各構成要件を充足する。\n(2) 特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数
の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)ア(イ)の
とおり、被告は、本件特許1出願前の平成11年5月14日から平成12年4月
27日までの間、日本製紙に対し、ベルトBを納品し、その内容を不特定多数の
者が知り得る状況で公然実施発明Bを実施したものと認められる。
(3) 原告の主張について
原告は、ベルトの現物自体からは当該ベルトが幾つの層によって構成されてい\nるか等を把握することは不可能であること、ベルトを構\成するポリウレタンは様々
な化学物質で構成されているから、外周面を構\成するポリウレタンに含有される
硬化剤に着目した分析が行われたとはいえないこと、当時、硬化剤として考え得
る候補物質は極めて多数存在していた上に、エタキュアー300を用いることで
クラックの発生を抑制できることは当業者においてすら知られていなかったから、
硬化剤としてDMTDAに着目し、これをわざわざ入手してサンプルとして分析
機関に送付し、分析を依頼したとは到底いえないことを指摘して、ベルトBを日
本製紙に納品したとしても、ベルトBの外周面に硬化剤としてDMTDAが含有
されていたことが特定できたとはいえない旨を主張する。
しかし、前記(1)アのとおり、ベルトBは、日本製紙に納品され、自由に解析等
をなされ得る状態におかれたものであり、解析等によりベルトの構造等を特定す\nることは可能であるほか(甲25等参照)、本件特許1の出願日前において、外\n周層、内周層等の複数の層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリ
マーと硬化剤とを混合してポリウレタンとし、ベルトの弾性材料とすることは、
技術常識に属する事項であった(甲2、乙26、27)。これに加え、証拠(乙
37、124、127〜133)及び弁論の全趣旨によれば、1)昭和62年に発
行された書籍において、実用化されている硬化剤として、MOCAのほかにエタ
キュアー300が紹介されていたこと、2)米国の会社が平成2年に発行したエタ
キュアー300のカタログにおいて、エタキュアー300は、新しいウレタン用
硬化剤であり、TDI(トルエンジイソシアナート。主にポリウレタンの原料と\nして使用される化学物質)系プレポリマーに使用した場合、MBCA(MOCA
と同義。乙140、141)の代替品として、現在最も優れたものであると確信
している旨が記載されていたこと、3)米国の別の会社は、平成10年に日本向け
のエタキュアー300のカタログを発行したこと、4)平成11年に日本国内で発
行された雑誌には、MOCAには発がん性があることが指摘されており、より安
全性の高い材料が求められていたが、1980年代後半には、既にMOCAに代
わる新しい硬化剤としてエタキュアー300が開発された旨の記事が掲載されて
いたこと、5)被告は、平成3年頃からエタキュアー300の研究を開始し、遅く
とも平成9年7月時点では、製紙用ポリウレタンベルトの硬化剤としてエタキュ
アー300を使用していたこと、6)本件特許1の出願前に、エタキュアー300
と同様にウレタン用に使用された主要な硬化剤は、10種類前後であったことが
認められる。これらの事実関係に照らすと、本件特許1の出願前に、エタキュアー
300は、ウレタン用の硬化剤として注目され、実用化されていたものと認めら
れ、分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが登録されていなかっ
たとしても(平成29年時点において、ライブラリにDMTDAのマススペクト
ルを登録している分析機関と登録していない分析機関がある(甲11、24)。)、
エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼した蓋然性
があったといえ、当業者は、公然実施発明Bの内容を知り得たものと認められる。
証拠(甲39、40)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、平成30年6月、
分析機関に対し、組成を明らかにすることなく被告製品3及び4のサンプルを送
付し、ポリウレタンの定性分析を依頼したところ、硬化剤について特定すること
ができなかったことが認められる。しかし、同分析機関が硬化剤を特定すること
ができなかったのは、同分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが
登録されていなかったこと(甲24の3)によるものと認められるところ、前記
のとおり、エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼
した蓋然性があったといえることに照らすと、前記結果(甲39、40)は、当
業者が公然実施発明Bの内容を知り得たという結論に影響を与えるものではない。
したがって、原告の前記主張は採用できない。
(4) 以上から、本件発明1は、本件特許1の出願前に日本国内において公然実
施された発明であるから、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきもの
であって、原告は、被告に対し、本件特許権1を行使することができない(特許
法123条1項、104条の3第1項、29条1項2号)。
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2023.01.28
令和3(ネ)10099 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年12月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁は、均等侵害の第1、第2要件は充足するものの第3要件(置換容易性)は充足していないと判断し均等侵害を否定しました。1審では均等主張はしていませんでした。
被告製品1は第3要件を充足するか(争点1−2−3)
ア 被告製品1の製造開始時において、本件訂正発明6における「前記電解
室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」という構成を、被告製品1\nにおける「1)内タンク6の側壁の一部、2)流出孔3を有する内タンク6の
底部、3)4つの高分子膜10」との構成に置換することは、当業者が容易\nに想到し得たかについて検討する。
イ 前記2のとおり、本件訂正発明6においては、構成要件11Aの隔膜に\nよる区画は、隔膜によって電解室の内部と外部とが完全に区画されるもの
であり、電解室の内部と外部とは、水が連通することがない独立した構造\nとなっている。また、本件明細書1においては、電解室の内部と外部を分
ける隔膜は、縦に設置されたもののみが開示され、陽極で発生する水素と
陰極で発生する水素は、別空間に排出されると理解される。
これに対し、被告製品1は、内タンク空間と外タンク空間の間を水が連
通する構成の下で高分子膜10を水平に配置し、高分子膜10の上側に保\n持された陰極電極板11で発生する水素ガスと、高分子膜10の下側に保
持された陽極電極板12で発生する酸素ガスの混合が起こり得る状態を
許容した上で、陽極電極板12で発生した酸素ガスは、枠体5内に集めて
大きな気泡を形成し、流出孔3から内タンク6内に進入するのを防止した
上、内タンク6と外タンク2の隙間内の水内を通って外部に排出するとい
うものである(乙29の1・2)。そうすると、本件訂正発明6と被告製品
1は、その基本的発想を異にするものというべきであって、被告製品1に
おける「1)内タンク6の側壁の一部、2)流出孔3を有する内タンク6の底
部、3)4つの高分子膜10」との構成への置換が本件訂正発明6の単なる\n設計変更とはいえない。
また、本件明細書1においては、「前記電解室の内部と外部とを区画する
一つ以上の隔膜」との構成を、被告製品1のような「1)内タンク6の側壁
の一部、2)流出孔3を有する内タンク6の底部、3)4つの高分子膜10」
との構成に置換した場合に生じ得る事項についての示唆もないから、本件\n明細書1において、上記のような置換をする動機付けとなるものも認めら
れない。
ウ 控訴人は、前記第2の3(7)アのとおり、陽イオン交換膜を用いた固体高
分子水電解において、陰極室と陽極室を貫通孔により水を連通する構成は、\n被控訴人が製造販売を開始した平成29年11月以前から周知の技術で
あるとして、甲36文献、甲37文献、甲40文献を提示するので、以下、
検討する。
甲37文献は、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び
廃水・廃液処理方法に関するものであり(【0001】)、電解反応を利用
した化学物質の製造において、多くの電解セルでは、陽極側と陰極側に
存在する溶液あるいはガスが物理的に互いに分離された構造を採るが、\n一部の電解プロセスにおいては、陽極液と陰極液が互いに混じり合うこ
とを必要とするか、あるいは、混じり合うことが許容されることを前提
として(【0002】)、陽極側と陰極側が固体高分子電解質隔膜により物
理的に隔離され、陽極液と陰極液は互いに隔てられ、混合することなく
電解が行われる従来のオゾン水電解(【0005】)では、電解反応の進
行に伴い液組成が変化し、入側と出側で反応条件が異なるなどの問題点
があったことを踏まえ(【0006】)、電解セルの流入口より流入した原
料水がその流れの方向を変えることなく、直ちに電解反応サイトである
両電極面に到達し、オゾン水を高効率で製造できる等の作用を有するオ
ゾン水製造装置等を提供することを目的としたものである(【001
6】)。
その技術分野(オゾン水製造装置)及び目的(オゾン水を高効率で製
造すること等)のいずれも本件訂正発明6と異なるし、その具体的構成\nも、貫通孔11が設けられた電解セル8(陽極1、陰極2及び固体高分
子電解質隔膜3)に直交して原料水(オゾン水)の流路が設けられると
いうものであって(【0034】及び【0035】)、電極室の内部に被電
解原水が貯留され、電気分解が行われる本件訂正発明6とは異なる。し
たがって、甲37文献に開示された事項を本件訂正発明6に適用する動
機付けは見い出せない。
甲40文献は、電源のない場所に持ち運び、水素の吸入や水素水の飲
用に使用することのできるポータブル型電解装置に係る技術分野に属す
るものであり(【0001】)、電解ユニット3は、ケーシング31、高分
子膜32、電極板33、34、スプリング35からなること(【0028】)、
ケーシング31は、内部に反応室311となる容積が確保されており、
側部に外部と反応室311とを連通するように穿孔された連通孔314
が設けられていること(【0029】)、電解ユニット3の高分子膜32は、
イオンの通過を規制するイオン交換機能を有する薄膜からなるもの(例\nえば、ナフィオン)で、ケーシング31の窓孔311を閉塞する大きさ
の方形に形成されていること(【0030】)が記載され、使用形態とし
て、内部に原水Wが収容されたタンク1にキャップ2、ガイド筒4、水
素吐出管5を一体的に取付けられること(【0034】)、スイッチ9が入
れられると、原水Wが電気分解され、ケーシング31の反応室311の
内部にあるプラス極の電極板34で水素イオンと電子とが生成されて高
分子膜32を通過し、ケーシング31の窓孔312に露出しているマイ
ナス極の電極板33で水素(ガス)が生成され、水素は、微細な気泡H
を形成してタンク1の内部で水素水からなる電解水を生成すること、プ
ラス極の電極板34で生成されたオゾン(ガス)は、高分子膜32を通
過することなくケーシング31の反応室311の内部に滞留され、ケー
シング31の反応室311の内部の滞留圧力が大きくなると連通孔31
4から吐出されること(【0041】)が記載されている。
しかし、甲40文献には、陰極室及び陽極室についての記載はないか
ら、これを見ても、陰極室と陽極室とを貫通孔により水を連通する構成\nが記載されているとはいえない。別紙2の図2において、マイナス極の
電極板33より上側部分を陰極室と、プラス極の電極板34より下側の
反応室を陽極室であると解釈すると、連通孔314は、陽極室とその外
部を貫通するものであって、陽極室と陰極室を貫通するものではない。
マイナス極の電極板33より上側部分と、ケーシング31側面の外側部
分はつながった空間であることから、ケーシング31側面の外側部分も
陰極室であるとみた場合には、連通孔314は、陽極室(反応室)と陰
極室(ケーシング31側面の外側部分)を貫通するものであるといえる
が、酸素と水素が同じ陰極室内に排出されることになり、被告製品1の
構成に至らない。\n甲36文献に係る発明の公開日は平成30年11月22日であり、甲
36文献自体の発行日は令和2年3月11日であるから、その内容や位
置付けについて検討するまでもなく、甲36文献は、被控訴人が被告製
品1の製造販売を開始した平成29年11月時点における周知文献とは
いえない。
エ 以上によれば、控訴人主張の周知技術は、いずれも、本件訂正発明6に
おける「前記電解室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」という構\n成を、被告製品1における「1)内タンク6の側壁の一部、2)流出孔3を有
する内タンク6の底部、3)4つの高分子膜10」との構成に置換する動機\n付けになるものとはいえない。
これらの事実関係によれば、このような置換が容易であったとはいえな
いから、被告製品1は、均等の第3要件を充足しない。
前記(1)ないし(3)によれば、被告製品1は、均等の第1要件及び第2要件を
充足するものの、第3要件を充足しないから、第5要件について判断するま
でもなく、本件訂正発明6の技術的範囲に属しない。
◆判決本文
1審はこちら。
1審では、構成要件を具備せず、また実施可能\要件違反の無効理由有りと判断されていました。
◆令和2(ワ)22768
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2023.01.11
令和3(ワ)4920 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年12月22日 大阪地方裁判所
技術的範囲に属すると認定されたものの、特許権者自らが販売していたとして、新規性違反の無効理由有りと判断されました。
ア 前記(1)アによれば、リベラル社は、平成30年7月5日時点において、別
件特許(「活量調質水溶液及び活量調質媒体の製造方法」)により、水酸化物イ
オン活量調質水溶液を製造し、これを希釈して、旧ATWのほか「ATW−1、
ATW−001」を製造していたことが認められるところ、前記(1)イのとおり、
被告は、当初、リベラル社から購入した旧ATWをそのままボトルに詰め、又は、
ラベルを貼り替える方法により、旧被告製品や無限七星FISHを製造し、販売\nしていたのであるから、これらの製品は、前記水溶液を希釈したものであると認
められる。一方、前記(1)エ及びオのとおり、被告は、原告の本件特許出願の後か
らは、リベラル社から購入した本件特許に規定される組成を有する現ATWを1
0倍希釈して被告製品や無限七星FISHを製造、販売するようになったところ、
本件代理店契約においては、現ATWを含めたATW水溶液は、別件特許の製造
方法による旨の合意がなされている。
また、原告が代表取締役を務めるATW社は、別件訴訟において、旧ATWと\n現ATWは、いずれもアミノ基という原子団を含んだ水溶液で、現ATWを10
倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した準備書面を提出しているところ、リ
ベラル社が発行した請求書では、現ATWの1リットル当たりの単価は旧ATW
の同単価の10倍になっていること、本件代理店契約においてATW水溶液の品
質として標準仕様と10倍濃縮仕様がある旨の記載があることのほか、原告も、
本件訴訟において、現ATWは旧ATWの10倍の濃度である旨を主張している
(原告準備書面(4)第2の2(3)イ)。これらの事実関係に照らすと、旧ATW及び現ATWは、一貫して、同様の製造方法により製造された、アミノ基を含む成分が水溶、濃縮された水酸化物イオン活量調質水溶液を希釈したものであり、本件特許に規定される組成を有する現ATWを10倍希釈したものが旧ATWであると認められる。
イ また、証拠(乙2、18、24、25、33、36、37)及び弁論の全
趣旨によれば、次の事実が認められる。
すなわち、被告が平成30年11月10日にリベラル社に対して発注し同月1
2日に納品された旧ATWのボトル20本のうち、開封せずに保管していたもの
(以下「保管ボトル」という。)について、被告がそのうち1本を開封し、10
0ml分(以下「分析対象物」という。)を小分けにして、愛媛大学のP2名誉
教授に提供した。同教授は、令和3年9月30日、分析対象物について、乙18
分析をした結果、分析対象物の含有成分はポリアリルアミンであることが判明し
た。また、被告は、保管ボトルのうち1本(被告が「無限七星FISH」のラベ
ルを貼付したもの)を、株式会社東ソ\ー分析センターに提供し、前記センターは、
同年10月19日、保管ボトルの内容物について乙24分析をした結果、その重
量平均分子量は、4.5×10⁴であった。
ウ 前記(1)イ及びウのとおり、無限七星FISHは、鮮魚の鮮度を保持する機
能があり、魚の鮮度保持を主な用途として販売されており、また、証拠(乙19)\n及び弁論の全趣旨によれば、リベラル社が被告に販売した旧ATWの成分表記に\nは「重合アミン、水」との記載があったことが認められる。
エ 前記ア〜ウの事実関係に照らすと、現ATWが10倍に希釈化された旧A
TWと同一成分である無限七星FISHに係る引用発明は、ポリアリルアミン又
はその塩を機能成分として含有し、水、ポリアリルアミンの総含有量が95重量%\n以上である水であって(a’)、ポリアリルアミンの重量平均分子量が500〜
50000であって(b’)、魚介類の鮮度保持の機能を有する(c’)、機能\
水(d’)という構成を有するものと認められるから、被告製品のみならず、旧\n被告製品や無限七星FISHも本件発明の各構成要件を充足するものと認められ\nる。したがって、引用発明は、本件発明の各構成要件を充足する。\n
(3) 公然実施について
特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者
が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)イのとおり、
被告は、本件特許の優先日前の平成30年10月から、無限七星FISHを製造
及び販売して、引用発明を実施した。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、旧ATWは、別件特許に基づく方法により製造されているのに対
し、現ATWは、ポリアリルアミンを使用して製造されているから、両者の成分
は異なる旨を主張する。
しかし、両者の成分の違いを明らかにする証拠はなく、前記(1)オ及びキのとお
り、被告は、本件代理店契約において、リベラル社及びATW社との間で、AT
W水溶液の仕様は、別件特許の製造方法によることを合意したことや、ATW社
が、別件訴訟において、旧ATWと現ATWは、いずれもアミノ基という原子団
を含んだ水溶液で、現ATWを10倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した
準備書面を提出したのであるから、旧ATWと現ATWの製造方法が異なる旨や
両者の成分が異なる旨の原告の主張は直ちに採用することはできず、その他、原
告の主張事実を裏付ける証拠はない。
イ また、原告は、乙18分析及び乙24分析は、いずれも、測定対象の水溶
液がどの時期に製造、販売され、どういう形で試験に供されたのか全く不明であ
ることを指摘し、さらに、乙18分析の内容については、1)乙18のFig.1の
スペクトルの面積比を理由に高分子化合物の繰り返し構造をCH₂−CH−CH₂
と推定することが困難なこと、2)3ppm付近のシグナルの変化を理由に当該シ
グナルがアミン(CH₂−NH₂)であると推定できる根拠が不明であること、3)
Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なることといった疑問点があるから、
いずれも信用性がない旨を主張する。
しかし、前記(1)認定の事実からすれば、乙18にいう「2018年10月に販
売が始まった初代無限七星」とは、旧ATWと成分を同じくする旧被告製品又は
無限七星FISHであると理解できるし、乙24は保管ボトルのうち1本を分析
した結果であることが明らかであり、これに反する証拠はない。そして、乙18
分析は、核磁気共鳴分光法及び質量分析法により、分析対象物の含有成分がポリ
アリルアミンであることを推定した上で、それを踏まえて、分析対象物と市販の
ポリアリルアミンの水溶液について核磁気共鳴分光法のスペクトルを比較して、
分析対象物の含有成分がポリアリルアミンであると結論づけているところ、原告
の主張1)について、原告主張のように、ポリマーのNMRはピーク(スペクトル)
がブロードになりやすく、面積比を算出する切断箇所の設定によって面積比の値
が異なり得ることから、Fig.1のスペクトルの面積比「1.00:0.55:
0.80」が完全に「2:1:2」に一致しなくとも、同一環境の水素の数の比
を「2:1:2」とみなし、CH₂−CH−CH₂の部分構造が考えられるとする\nことは不合理ではない。また、原告の主張2)について、3ppm近辺のCH₂に対
応するシグナルの位置は、隣に窒素原子が繋がっていることを示唆するところ、
トリフルオロ酢酸を加えると、2.7〜3.3ppmのシグナルが3.0ppm
のシグナルに変化したというのであるから、分析対象物にトリフルオロ酢酸によ
り塩を形成するアミン(CH₂−NH₂)が存在すると考えて矛盾はないというべ
きである。さらに、原告の主張3)については、確かに、Fig.1とFig.4a)
のスペクトルは一致していないが、一方で、トリフルオロ酢酸塩のスペクトルで
あるFig.2a)とFig.4b)は、ほぼ一致している(乙18、25)。こ
の点について、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、ポリアリルアミンは、
共存物の影響でアミン部位が塩の状態になっている場合、スペクトルのピーク位
置の出現がシフトする可能性があり、ポリアリルアミンの塩の形成状況によって\nスペクトルの形状が変化し、複雑になるものと認められ、一方で、強い酸である
トリフルオロ酢酸を加えて、全てのアミノ基をアンモニウムに変換し、均一な状
況にすることにより、一定の分析結果を得ることができたものと認められるから、
Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なるからといって、乙18分析の信
用性に疑義を生じさせることにはならない。
◆判決本文
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2022.12.24
令和4(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年12月13日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。知財高裁は、新規性無しとして、権利行使不能とした1審の判断を維持しました。
(ア) 前記(2)のとおり、本件発明と乙1発明との相違点は、「医薬組成物につ
いて、本件発明では、『非外傷性である前腕部骨折を抑制するため』のも
のであると特定されているのに対して、乙1発明では、『骨粗鬆症治療薬』
であると特定されている点。」にある(相違点1)ところ、控訴人は、本
件発明につき、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者群において予測されていなかった顕著な効果を奏するものであり、エルデカルシトール\nの新たな属性を発見し、それに基づく新たな用途への使用に適すること
を見出した医薬用途発明であるから、相違点1に係る本件発明の用途
(「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」)は乙1発明の「骨粗
鬆症治療薬」の用途とは区別される旨主張する。
(イ) そこで検討するに、公知の物は、原則として、特許法29条1項各号
により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、
その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した
発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公
知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解さ
れる。
そして、前記1(2)のとおり、本件発明の医薬組成物は、高齢者や骨粗
鬆症患者等の骨がもろくなっている者が転倒等した際に、前腕部である
橈骨又は尺骨に軽微な外力がかかって生じる骨折のリスク、すなわち前
腕部における非外傷性骨折のリスクに着目して、その用途が「非外傷性
である前腕部骨折を抑制するため」と特定されている(相違点1)もの
である。
(ウ) しかしながら、前記(3)イの技術常識によれば、当業者は、乙1発明の
「骨粗鬆症治療薬」につき、椎体、前腕部、大腿部及び上腕部を含む全
身の骨について骨量の減少及び骨の微細構造の劣化による骨強度の低下が生じている患者に対し、各部位における骨折リスクを減少させるた\nめに投与される薬剤であると認識するものといえる。また、前記(3)ア、
エ及びオの各技術常識によれば、当業者は、エルデカルシトールの効果
は海綿骨及び皮質骨のいずれに対しても及ぶと期待するものであり、海
綿骨及び皮質骨からなる前腕部の骨に対してもその効果が及ぶと認識
するものといえる。さらに、前記(3)イ及びウの技術常識によれば、当業
者は、骨粗鬆症においては身体のいずれの部位も外力によって骨折が生
じるものであり、また、前腕部における骨折リスクは、骨強度が低下す
ることによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他
の部位における骨折リスクと共通するものであると認識するものとい
える。
以上の事情を考慮すると、当業者は、骨粗鬆症患者における前腕部の
骨の病態及びこれに起因する骨折リスクについて、他の部位の骨の病態
及び骨折リスクと異なると認識するものではなく、また、乙1発明の「骨
粗鬆症治療薬」としてのエルデカルシトールを投与する目的及びその効
果についても、前腕部と他の部位とで異なると認識するものではないと
いうべきである。
(エ) さらに、本件優先日前に公開された乙12の文献には、エルデカルシ
トールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑制す
ることが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されているこ
とに加え、前記(3)エ及びオの技術常識によれば、エルデカルシトールに
よる前腕部を含む全身の骨折リスクの減少作用は、経口投与されて体内
に吸収されたエルデカルシトールが、骨に対して直接的又は間接的に何
らかの作用を及ぼすことによって達成されるものであるといえるとこ
ろ、本件明細書には、骨折リスクを減少させようとする部位が前腕部で
ある場合と他の部位である場合とで、エルデカルシトールが及ぼす作用
に相違があることを示す記載は存しない。そして、前記(3)ウ及びオの技
術常識を考慮しても、本件明細書の記載から、エルデカルシトールの作
用に関して上記の相違があると把握することはできない。
そうすると、当業者は、前腕部の骨折リスクを減少させるために投与
する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデカルシトールの作
用が相違すると認識するものではないというべきである。
(オ) 以上によれば、エルデカルシトールの用途が「非外傷性である前腕部
骨折を抑制するため」と特定されることにより、当業者が、エルデカル
シトールについて未知の作用・効果が発現するとか、骨粗鬆症治療薬と
して投与されたエルデカルシトールによって処置される病態とは異な
る病態を処置し得るなどと認識するものではないというべきである。
そうすると、本件発明については、公知の物であるエルデカルシトー
ルの未知の属性を発見し、その属性により、エルデカルシトールが新た
な用途への使用に適することを見出した用途発明であると認めることは
できないから、相違点1に係る用途は乙1発明の「骨粗鬆症治療薬」の
用途と区別されるものではない。
(カ) したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 控訴人の原審における主張(原判決「事実及び理由」の第2の4(2)及び
(3))及び当審における補充主張に対する判断
(ア) 前記第2の3(1)〔控訴人の主張〕アの主張について
a 控訴人は、前腕部骨折は他の部位の骨折とは異なる特徴を有するこ
と、乙1文献には前腕部骨折を抑制する骨粗鬆症治療薬が開示されて
いるものではないことなどを理由に、本件発明の用途は乙1発明の用
途と客観的に区別することができる旨主張する。
しかしながら、前記(3)ウの技術常識によれば、前腕部骨折は、身体
的活動性が比較的高い前期高齢者等において好発する特徴があるとい
えるものの、上記アで検討したとおり、前腕部の骨と他の部位の骨と
で病態が異なるものとはいえず、また、前腕部の骨折リスクを減少さ
せるために投与する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデ
カルシトールの作用が相違するともいえないことからすれば、前腕部
骨折に上記の特徴があるからといって、本件発明の用途は乙1発明の
用途と客観的に区別することができるものとはいえない。
また、前記(1)のとおり、乙1文献には、エルデカルシトールにつき、
動物実験において、骨密度増加効果がアルファカルシドールよりも強
力であるところ、骨密度の増加は骨強度の増加を伴っていると考えら
れること、第II)相臨床試験において、腰椎骨及び大腿骨の骨密度の増
加が認められ、ビタミンD補充効果に依存せずに強力に骨密度を増加
させたものと考えられること、新規椎体骨折発生頻度を主要評価項目
としてアルファカルシドールの効果と比較する更なる臨床試験が進行
中であることが記載されているところ、前記(3)ウないしオのとおり、
エルデカルシトールがアルファカルシドールに比して有意に優れた骨
強度改善効果等を有していることや、前腕部の骨折リスクは他の部位
と同様に骨強度が低下することによって増加するものであることが技
術常識であったこと、上記ア(エ)のとおり、本件優先日当時、エルデカ
ルシトールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑
制することが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されてい
る文献(乙12)が存在したことを併せ考慮すれば、当業者は、乙1
文献の記載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前
腕部についても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制
するものであることを、合理的に予測し得たものといえる。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 同イの主張について
a 控訴人は、一般に患者群の特徴に応じて薬剤が選択されており、骨
粗鬆症においても個々の患者の状態に応じて様々な薬剤が使い分けら
れているところ、本件発明は、前腕部骨折の抑制が特に求められる患
者という限定された患者群に対して顕著な効果を奏するものとして、
従来技術とは区別された新規性を有する旨主張する。しかしながら、上記アで検討したとおり、前腕部の骨折リスクは、骨強度が低下することによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他の部位における骨折リスクと共通するものであるか
ら、骨粗鬆症患者のうち、全身の骨折の抑制が必要とされる者と前腕
部の骨折の抑制が特に必要とされる者とを客観的に区別することはで
きないというべきである。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 同ウの主張について
a 控訴人は、本件試験に係る結果において、エルデカルシトールが、
既存薬剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制
が特に求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されている旨主張する。\n
そこで検討するに、本件明細書には、アルファカルシドールを比較
薬とした無作為割付二重盲検群間比較試験である本件試験において、
非外傷性の前腕部骨折の3年間の発生頻度が、アルファカルシドール
投与群においては523例中17例(骨折確率3.63%)であり、
エルデカルシトール投与群においては526例中5例(骨折確率1.
07%)であったこと、これらの骨折発生頻度を層化ログランク検定
及び層化コックス回帰により比較した結果、アルファカルシドール投
与群の骨折確率を1とした際のエルデカルシトール投与群の骨折確率、
すなわちハザード比は0.29であったこと、これにより、エルデカ
ルシトール投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したことが
判明したこと、これらの試験結果の結論として、アルファカルシドー
ル投与群に対するエルデカルシトール投与群の明らかな優越性が認め
られたことが記載されている。
しかしながら、上記アで検討したとおり、当業者は、乙1文献の記
載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前腕部につ
いても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制するもの
であることを、合理的に予測し得たものといえることからすれば、エルデカルシトール投与群における前腕部骨折危険率が減少することも\n予測し得たというべきである。また、ハザード比を用いた解析においては、対照群におけるイベントの発生率が小さい場合には、臨床上の\nわずかな差が大きな数値に置き換えられてしまうことがあることが知
られているところ(乙20、22)、本件試験においては、対照群であ
るアルファカルシドール投与群における骨折確率が3.63%と小さ
かったことからすれば、ハザード比の値に基づいてエルデカルシトー
ル投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したと算定されたこ
とについては、臨床上のわずかな差が大きな数値に置き換えられてし
まった結果である可能性を否定することができない。また、本件試験において、アルファカルシドール投与群における骨\n折確率とエルデカルシトール投与群における骨折確率との差(絶対リ
スク減少率)は、前腕部骨折については2.56%、椎体骨折につい
ては4.1%であり、椎体骨折の方が前腕部骨折よりも大きな値とな
る。
以上の事情を考慮すると、上記のハザード比の値のみに基づいて、
エルデカルシトールの前腕部骨折の抑制効果が、アルファカルシドー
ルに比して格別顕著であり、当業者の予測し得る範囲を超えるものであると直ちに評価することはできないというべきである。\nb 以上によれば、このほかに控訴人が本件試験に関して縷々主張する
点を考慮しても、本件試験において、エルデカルシトールが、既存薬
剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制が特に
求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されたものということはできない。\n
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和2(ワ)13326
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2022.12.16
令和4(ネ)10008 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年11月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明の侵害訴訟の控訴審判断です。1審は技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断しました。知財高裁も同じです。なお、二審第1回口頭弁論期日においてした訂正の再抗弁は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下されました。
(4) 控訴人らによる訂正の再抗弁の主張について
当裁判所は、令和4年9月22日の当審第1回口頭弁論期日において、控訴人らが同月5日付け控訴人ら第4準備書面に基づいて提出した訂正の再抗弁の主張について、被控訴人の申立てにより、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが、その理由は、以下のとおりである。\n
ア 一件記録によれば、1)被控訴人は、令和元年12月19日の原審第1回弁論準備手続期日において、本件発明5に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点4−1及び4−3)等が存在するとして無効の抗弁を主張し、令和3年7月20日の原審第3回弁論準備手続期日において、本件発明1に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由が存在するとして無効の抗弁を追加して主張したこと、2)その上で、控訴人らが、同年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述した後、同日、原審が、口頭弁論を終結し、同年12月9日、被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めて控訴人らの請求を棄却する原判決を言い渡したこと、3)その後、控訴人らは、当審において、令和4年7月21日に書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったことが認められる。
イ 以上を前提に検討するに、本件特許権の侵害論に関する抗弁の主張は、本来、原審において適時に行うべきものであるところ、控訴人らは、原審において、令和3年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述するまでの間に、当審で主張する訂正の再抗弁の主張をしなかったものである。加えて、控訴人らは、原審が原判決において被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めた判断をしたにもかかわらず、当審における争点整理手続においても、書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったものであることからすると、当審における上記訂正の再抗弁の主張は、控訴人らの少なくとも重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるというべきである。そして、当審において、控訴人らに訂正の再抗弁の主張を許すことは、被控訴人に対し、上記主張に対する更なる反論の機会を与える必要が生じ、これに対する控訴人らの再反論等も想定し得ることから、これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。そこで、当審は、民事訴訟法297条において準用する同法157条1項に基づき、控訴人らの訂正の再抗弁の主張を却下したものである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和1(ワ)25121
本件特許の審決取消訴訟です。
◆令和3(行ケ)10027
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2022.11.25
令和3(ワ)11507 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年10月28日 東京地方裁判所
構成要件Biiを充足しない、無効理由ありと判断しました。
ア 「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために・・・本体両側面に設けた側面圧
迫領域を具備し」の意義について
本件特許の特許請求の範囲には、「低伸縮領域として」、「大腿骨及び周
囲筋腱を圧迫するために、上記ほぼU字型の正面吊り領域の左右両端から上
方へ連続して伸びる方向に、本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」(構\n成要件Bii)と記載されている。上記記載によれば、「側面圧迫領域」は「大
腿骨及び周囲筋腱」自体を圧迫するものであると解される。
そして、本件明細書等には、「膝部に着用する従来の筒状の伸縮性サポー
ターは、サポーター本体に織り込まれているゴムのパワー(ゴムの収縮力、
即ち筋肉に対する圧迫強度)を変え、或いは織り方を変えることで患部に対
する圧迫力、押圧力変化させる方式を取っている。しかしそれでは、膝関節
の任意の箇所に必要な押圧力を加えることができないという問題があった。」
(段落【0002】)、「・・・また、本発明によれば、上記に加え大腿骨、
脛骨及び周囲筋腱を圧迫することにより関節裂隙部に作用して、痛みを軽減
し得るコンプレッションサポーターを提供することができる。」(段落【0
020】)と記載されている。上記各記載によれば、本件発明は、膝関節の
任意の箇所に必要な押圧力を加えることができない従来のサポーターの課
題を解決するために、大腿骨、脛骨及び周囲筋腱を圧迫するサポーターを提
供するものであることが認められる。
そうすると、上記の構成要件Bii及び本件明細書等の各記載内容によれば、
構成要件Biiの「側面圧迫領域」は、大腿骨自体及び周囲筋腱自体を圧迫す
るものと解するのが相当である。
イ 被告製品17の構成要件充足性について\n
これを被告製品17についてみると、前提事実及び証拠(甲6)によれ
ば、被告製品部分2は、被告製品部分2と接触する部分や大腿骨の周囲筋
腱を圧迫することまでは一応認められるものの、これを超えて、本件全証
拠によっても、被告製品部分2が大腿骨自体までをも圧迫することまで認
めることはできない。
したがって、被告製品17は、構成要件Biiを充足するものとはいえな
い。
・・・
「固着」について
本件特許の特許請求の範囲には、「上記低伸縮領域は、樹脂より成る低
伸縮性材料を本体に固着した構成を有している」(構\成要件C)と記載さ
れている。上記記載によれば、低伸縮性材料を本体に「固着」させる方法
を格別限定するものではない。
そして、証拠(甲11)によれば、「固着」という用語について、一般
的に「かたくしっかりとつくこと」という意味を有することが認められる。
また、本件明細書等には、「本発明において、上記低伸縮領域は低伸縮
性材料を本体に固着一体化することによって構成されている。・・・低伸\n縮性材料を本体に固着一体化する方法としては、例えば接着、貼着或いは\n印刷等の方法を取ることができる。また、低伸縮性材料の固着方法として、
あらかじめ樹脂を用いて低伸縮領域の形状に作りそれを本体に転写する
ような方法も取り得る。・・・」(段落【0012】)、「正面吊り領域
22を始めとして上記のように説明した各低伸縮領域は、樹脂より成る低
伸縮性材料34を本体20に固着した構成を有している。より詳細に図示\nした図4を参照して説明すると、図4において、35、36は縦糸と横糸
などから成る編織構造を示しており、37は固着手段を示している。樹脂\nより成る低伸縮性材料34は、本体20に固着すると固着手段37が上記
編織構造35、36の組織内に入り込んで密着状態になり、一体化するこ\nとにより、本体本来の伸縮性を制限して、低伸縮性を備えた領域に変える
ことになる。」(段落【0031】)、「低伸縮性材料34は、例えば上
記正面吊り領域22の形状にあらかじめ形成され、それを本体20の表面\nに固着手段37を用いて固着する。図4Aに示す例では、低伸縮性材料3
4の下面に固着手段37があらかじめ固着されている。そして、図示の例
の場合、本体20は綿糸及び合成繊維糸を周方向に伸縮性を持つように編
織したもので、低伸縮性材料34はウレタン系樹脂材料のフィルムより成
る多層構造を有し、固着手段37には上記ウレタンフィルムより成る多層\n構造の内の一部を用いて本体20に固着させている。しかしこれは一例で\nあり、固着手段37として接着剤を本体20の表面に塗布すること、また、\nシート状の接着剤を用いることは普通に行われる。さらに、本体20の材
質と低伸縮性材料34の材質に親和性があり、かつ熱溶着性樹脂を用いる
場合には直接本体20に低伸縮性材料34を熱溶着する手段も選択し得
る周知の事項である。このように本発明においては何れの固着手段を採用
しても良い。」(段落【0032】)と記載されている。そうすると、本
件明細書等の上記記載においても、低伸縮性材料を本体に「固着」させる
方法が例示されているものの、何らかの限定をしているものと解すること
はできない。
上記の構成要件C及び本件明細書等の各記載内容に加えて、「固着」と\nいう用語の一般的な意味内容を踏まえると、本件発明における「固着」の
方法について、固くしっかりと付くこと以上に、何らかの限定がされてい
るものと解することはできない。
・・・
「樹脂より成る」について
本件特許の特許請求の範囲には、上記 のとおり記載されている。そし
て、証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば、樹脂の一種である「合成
樹脂」は、「合成高分子化合物」とほぼ同義で用いられることがあり、「合
成繊維」とは合成高分子化合物を紡いで繊維としたものをいうことが認め
られる。そうすると、「合成樹脂」は、常に繊維状のもの(合成繊維)を
除く意味で用いられるものではなく、むしろ、合成繊維は、その材料が合
成樹脂であるから、「樹脂より成る」ということができる。
これに対して、被告は、証拠(乙1、2、7)によれば、「合成樹脂」
に「合成繊維」が含まれないと主張する。しかしながら、上記において説
示したとおり、「合成樹脂」が、常に「合成繊維」を除く意味で用いられ
るものとは認められず、被告の主張は、採用することができない。
また、被告は、本件明細書等において、本体に用いる合成繊維(段落【0
032】)と低伸縮性材料に用いる樹脂材料(段落【0012】)が明確
に書き分けられていることからすれば、「合成繊維」は構成要件Cの「樹\n脂」に含まれないと主張する。しかしながら、上記の記載をもって「樹脂」
に「合成繊維」が含まれないとまで解することはできず、被告の主張は、
採用することができない。
・・・
これを本件発明についてみると、本件特許の特許請求の範囲の記載は、前提
事実(2)イのとおりであり、本件発明の意義は、前記1(2)のとおり、従来技術で
は、サポーター本体に織り込まれているゴムの収縮力や織り方を変えることで
患部に対する圧迫、押圧の強度を変化させていたものの、それでは、膝関節の
任意の箇所に必要な押圧を加えることができないという技術的課題を解決す
るために、伸縮性素材より成り膝部に着用し得る形態の本体に、本体よりも伸
縮性の低い低伸縮領域を設け、低伸縮領域として、1)本体の正面に、膝蓋靱帯
を圧迫し、かつ、膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋の機能を補助するために、膝\n蓋骨の下部を取り囲むほぼU字型の領域と、2)上記ほぼU字型の領域の左右両
端から上方へ連続して伸びる方向に、大腿骨及び周囲筋腱を圧迫する領域を具
備し、低伸縮領域について樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着するという
構成を採用することにより、膝蓋靱帯を圧迫し、膝蓋骨を保持して、膝関節を\n良好に固定するとともに、大腿骨及び周囲筋腱を圧迫することにより、関節裂
隙部に作用して、痛みを抑制することを可能にするという効果を実現し、もっ\nて上記技術的課題を解決するものであることが認められる。
(3) 他方、本件発明において、「低伸縮性材料を本体に固着」(構成要件C)す\nる方法が、いわゆる別材料固着構造(膝を筒状に覆うサポーター本体の表\面の
一部に、本体とは別の低伸縮性材料を熱溶着、接着、縫着等によって固着し、
伸縮性等の異なる部位を配置した構造)以外に、被告製品17が採用する一体\n編成・織成構造(サポーターを織り上げ、又は、編み上げるに当たり、部分に\nよって折り方や編み方を変化させることにより、伸縮性等の異なる部位を配置
した構造(本件明細書等の段落【0002】記載の「サポーター本体に織り込\nまれているゴムのパワー(ゴムの収縮力、即ち筋肉に対する圧迫強度)を変え、
或いは織り方を変えることで患部に対する圧迫力、押圧力変化させる方式」を
含む。))をも含むと解されることは、前記2(4)ア において説示したとおり
である。
しかしながら、本件明細書等によれば、当業者が一体編成・織成構造のサポ\nーターによって本件発明の課題を解決できるとする記載は一切なく、かえって、
本件明細書の段落【0002】によれば、一体編成・織成構造のサポーターに\nよっては、膝関節の任意の箇所に必要な押圧を加えることができず、本件発明
の課題を解決することができない旨明記されていることが認められる。
そうすると、本件明細書等の記載内容を踏まえると、一体編成・織成構造の\nサポーターが、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし
本件発明の課題を解決できると認識できるものと認めることはできない。
これに対して、原告は、本件発明の課題は本件発明の構成を備えることで解\n決することができるから、本件発明は、サポート要件に違反しない旨主張する。
しかしながら、本件明細書等によれば、本件発明は、一体編成・織成構造の\nサポーターが必要な押圧を欠くという課題を解決するものであるから、当該サ
ポーターが本件発明の課題を解決し得ないことは、本件明細書等の記載自体か
らも自明であって、原告の主張は、採用することができない。
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2022.10.20
令和3(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 知的財産裁判例 令和4年2月10日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特102条2項の覆滅90%は1審と同じです。控訴審の第1回口頭弁論においてした無効主張が時機に後れた抗弁と判断されました。
一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年
7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に「無
効理由5」(別件無効審判の無効理由2と同じ),「無効理由6」(別
件無効審判の無効理由3と同じ),「無効理由7」(別件無効審判の無
効理由4と同じ),「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理
由9」(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加\nし,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。
これに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一
審被告の「無効理由5ないし9」に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の
抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却
下を求める旨の申立てをした。\n
オ なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8
日)において,特許庁に係属中である。
(2)前記(1)の事実関係によれば,1)一審被告は,原審において,平成31年
3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許
に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進
歩性欠如の無効理由(本件の争点2−1ないし2−3)が存在するとして無
効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手
続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年
7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に
入ったこと,2)その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回
弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無
効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の
主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日にお
いて,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこ
と,3)一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,
控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理
由2ないし4と同じ無効理由である「無効理由5ないし7」,原審で主張し
なかった「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理由9」(実施可
能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権\n利の濫用の抗弁の主張をしたこと,4)別件無効審判は,当審の本件口頭弁論
終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審に
おいて適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和
元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証
は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する「無効理由5ないし9」
に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて,
やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審におけ
る上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重
大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべき
である。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗
弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の
機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得るこ
とから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。
そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1
項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下
したものである。
◆判決本文
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2022.10. 1
令和4(ネ)10052 特許権侵害に基づく損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年9月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
興和vs東和薬品の特許権侵害訴訟です。1審は、サポート要件違反の無効理由があるとして請求を棄却しました。知財高裁は、サポート要件違反についてはふれることなく、公知文献(乙12)から進歩性無しとして無効と判断しました。阻害要因も否定されています。
前記(ア)及び(イ)によると、乙12発明における「コーティング」は、酸
化や環境湿度等に敏感なスタチン類(HMG−CoAレダクターゼ阻害剤)を保護
し、これを安定化するために塗布される材料の層であるところ、従来から、固形医
薬品の安定性を高める目的で保護コーティングが施され、その材料として様々なも
の(ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体ではないアミノアルキルメタアク
リレートコポリマーEを含む。)が開発されていることが周知であり、特に、HM
G−CoA還元酵素阻害剤のコーティング材料として、カルメロース及びその塩、
クロスポビドン等の崩壊剤と共に、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE
を用い得ることが知られていたものと認めることができる。
そうすると、乙12発明の「コーティング」の材料として、「カルボキシメチル
セルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物」に代え、アミノアル
キルメタアクリレートコポリマーE等の「ポリビニルアルコール又はセルロース誘
導体」を含まない周知のものを採用することは、乙12公報に接した本件出願日当
時の当業者において適宜なし得たことであると認めるのが相当である。
(エ) 控訴人の主張について
控訴人は、乙12発明は「ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィル
ム形成剤として含む材料の層でコーティングされた構成」を必須の構\成とするもの
であり、これを従来技術として知られている他のコーティングに変更することは想
定されていないから、上記の必須の構成を相違点2に係る本件訂正発明6の構\成に
変更することには阻害要因がある旨主張する。
しかしながら、乙12公報の記載(前記3(1)キ)を見ても、乙12発明の適切
な「膜形成剤」は、(環境影響に敏感な)粒子又は活性物質を含む医薬剤形のコア
にコーティングの形態で塗布され、環境影響(酸化及び/又は環境湿度等)から活
性物質を保護する任意のものであり、最も好ましい「膜形成剤」は、活性物質を酸
化から保護する任意のものであるとまず理解され、当該任意の「膜形成剤」のうち
好適なものがポリビニルアルコール(PVA)及びセルロース誘導体からなる群か
ら選択されるものであると理解するのが自然であるから、「ポリビニルアルコール
又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされた
構成」が乙12発明の必須の構\成であると認めることはできない。したがって、こ
の構成を相違点2に係る本件訂正発明6の構\成に変更することに阻害要因があると
いうことはできない。
◆判決本文
原審はこちら
◆平成30(ワ)17586等
なお、当事者および該当特許が同じ別訴では、侵害が認定されています。
◆平成27(ワ)30872
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2022.09.28
平成30(ネ)10077 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月20日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
海外サーバからのサービス提供が特許発明の技術的範囲に属する場合に、1審は属地主義の原則からこれを認めませんでしたが、知財高裁2部は、日本特許の効力を認めました。
我が国は、特許権について、いわゆる属地主義の原則を採用しており、これによれば、日本国の特許権は、日本国の領域内においてのみ効力を有するものである(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷判決参照)。そして、本件配信を形式的かつ分析的にみれば、被控訴人ら各プログラムが米国の領域内にある電気通信回線(被控訴人ら各プログラムが格納されているサーバを含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内にある電気通信回線(ユーザが使用する端末装置を含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内でも米国の領域内でもない地にある電気通信回線上を伝送される場合等を観念することができ、本件通信の全てが日本国の領域内で完結していない面があることは否めない。
しかしながら、本件発明1−9及び10のようにネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。
c これを本件についてみると、本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって(甲3ないし5、44、46、47、丙1ないし3)、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明1−9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1−9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。
d 以上によれば、本件配信は、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当する。
なお、これは、以下に検討する被控訴人らのその余の不法行為(形式的にはその一部が日本国の領域外で行われるもの)についても当てはまるものである。
e 被控訴人らは、被控訴人ら各プログラムは米国内のサーバから自動的に配信されるものであり、提供行為は米国の領域内で完結しているから、本件配信は日本国特許法にいう「提供」に当たらない旨主張するが、上記説示したところに照らすと、これを採用することはできない。
(ウ) 以上のとおりであるから、被控訴人らは、本件配信をすることにより、被控訴人ら各プログラムの提供をしているといえる(特許法2条3項1号)。
イ 被控訴人ら各プログラムの提供の申出被控訴人らは、被控訴人ら各サービス(令和2年9月25日以降は被控訴人らサービス1。以下同じ。)の提供のため、ウェブサイトを設けて多数の動画コンテンツのサムネイル又はリンクを表\示しているところ(甲3ないし5)、これは、「提供の申出」に該当する(特許法2条3項1号)。\n
ウ 被控訴人ら各装置の生産
被控訴人らは、被控訴人ら各サービスの提供に際し、インターネットを介して日本国内に所在するユーザの端末装置に被控訴人ら各プログラムを配信しており、また、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものである(前記3(2)イ、被控訴人らが主張する被控訴人ら各サービスの内容)。そうすると、被控訴人らによる本件配信及びユーザによる上記インストールにより、被控訴人ら各装置(令和2年9月25日以降は被控訴人ら装置1。以下同じ。)が生産されるものと認められる。そして、被控訴人ら各サービス、被控訴人ら各プログラム及び被控訴人ら各装置の内容並びに弁論の全趣旨に照らすと、被控訴人ら各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当であり、また、被控訴人らが業として本件配信を行っていることは明らかであるから、被控訴人らによる本件配信は、特許法101条1号により、本件特許権1を侵害するものとみなされる。
エ 被控訴人ら各装置の使用
上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるし、被控訴人ら各装置を本件発明1の作用効果を奏する態様で用いるのは、動画やコメントを視聴するユーザであるから、被控訴人ら各装置の使用の主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人が主張するように被控訴人ら各装置の使用の主体が被控訴人らであると認めることはできない。
オ 被控訴人ら各プログラムの生産(端末装置における複製)
控訴人は、本件配信によりユーザの端末装置上に被控訴人ら各プログラムが複製され、これをもって、被控訴人らは被控訴人ら各プログラムを生産していると主張する。しかしながら、上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるから、ユーザの端末装置上において被控訴人ら各プログラムを複製している主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人の上記主張は、採用することができない。
カ 被控訴人ら各プログラムの生産(開発)
前記(1)カ及び(2)のとおり、被控訴人HPSは、被控訴人FC2と共同して、被控訴人らプログラム1を開発したものと認められるところ、これが被控訴人らプログラム1の生産に当たることは明らかである(特許法2条3項1号)。他方、前記(1)ケ及びサのとおり、被控訴人FC2は、被控訴人らサービス2及び3を第三者から譲り受け、ユーザに対する提供を開始したものと認められ、その他、被控訴人らが被控訴人らプログラム2又は3を開発したものと認めるに足りる証拠はないから、被控訴人らプログラム2及び3については、被控訴人らがこれを生産したということはできない。この点に関し、控訴人は、証拠(甲29の1及び2、30、36、37)を根拠に、被控訴人らは被控訴人らサービス2及び3につき各種機能の追加をしているのであるから、被控訴人らが被控訴人らプログラム2及び3の開発をしていることは明らかである旨主張する。しかしながら、これらの証拠により認められる被控訴人らサービス2及び3のアップデートの内容が本件発明1−9又は1−10の技術的範囲に属すると認めるに足りる証拠はないから、これらのアップデートをもって、被控訴人らが本件特許権1を侵害する態様で被控訴人らプログラム2又は3を開発したと認めることはできない。\n
キ 被控訴人ら各プログラムの生産(アップデートの際の複製)
控訴人は、被控訴人らは上記カのとおりの各種機能の追加を行う際、被控訴人ら各プログラムを複製して生産したと主張するが、被控訴人らがこれらのアップデートの際に本件特許権1を侵害する態様で被控訴人ら各プログラムを複製したものと認めるに足りる証拠はない。\n
ク 被控訴人ら各プログラムの譲渡及び譲渡の申出(被控訴人HPSによる被控訴人ら各プログラムの納品)\n
前記(1)によると、被控訴人HPSは、被控訴人らプログラム1を開発し、これを被控訴人FC2に納品したものと認められるが、前記(2)のとおり、被控訴人らが互いに意思を通じ合い、相互の行為を利用し、共同して被控訴人らプログラム1を開発し、被控訴人ら各サービスを運営するなどしてきたものと認められることに照らすと、被控訴人HPSが被控訴人FC2に対して被控訴人らプログラム1を納品する行為は、共同侵害者間の内部行為であると評価することができるから、これを独立した実施行為とみるのは相当でない。なお、前記(1)ケ及びサのとおりであるから、被控訴人HPSが被控訴人FC2
に対し被控訴人らプログラム2又は3を納品した事実を認めることはできない。
(5) 小括
以上によると、被控訴人らには、被控訴人らプログラム1の生産並びに被控訴人ら各プログラムの提供及び提供の申出を行うことによる本件特許権1の直接侵害と被控訴人ら各プログラムの提供を行うことによる本件特許権1の間接侵害が成立し、被控訴人らは、これらの侵害行為によって控訴人に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきである。\n
15 争点7(差止請求及び抹消請求の可否)について
(1) 前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人らサービス1に関し、本件特許権1を侵害する者に該当する。
もっとも、前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人ら装置1の生産又は使用をしている者ではなく、そのような行為に及ぶおそれがある者でもないと認められるから、この点については、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置1の生産又は使用の差止請求は理由がない。
そうすると、被控訴人らサービス1については、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人らプログラム1の抹消を命じるのが相当である。\n
(2)ア 前記14(1)トのとおり、被控訴人FC2は、SN社に対し、令和2年9月25日、被控訴人らサービス2及び3に係る事業を譲渡したものである。そうすると、現時点においては、被控訴人らがユーザに対し被控訴人らサービス2及び3の提供をするおそれはなくなったというべきであるから、被控訴人らサービス2及び3について、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置2及び3の生産又は使用並びに被控訴人らプログラム2及び3の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止請求は理由がない。もっとも、前記14(1)の事実及び弁論の全趣旨によると、被控訴人らが現時点においても被控訴人らプログラム2及び3を所持している蓋然性は高いと認められるから、侵害の予防のため、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム2及び3の抹消を命じるのが相当である。\n
イ 控訴人は、被控訴人らサービス2及び3の事業譲渡に係る契約書に多数の不備があることを根拠に、当該事業譲渡はされていない旨主張する。確かに、乙99の1の契約書には英文表記等の観点から幾つかの不備が認められるが、そのことのみをもって、当該事業譲渡の事実を否定することはできない。また、控訴人は、SN社が被控訴人らに対し被控訴人らサービス2及び3の再譲渡をする可能\性があるとも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人のこれらの主張を採用することはできない。
(3) 以上によると、控訴人の被控訴人らに対する差止請求及び抹消請求は、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人ら各プログラムの抹消の限度で認容するのが相当である。\n
なお、被控訴人らは、本件において認容される損害賠償請求の額に照らすと、控訴人が差止め及び抹消を求めることは権利の濫用に該当する旨主張する。しかしながら、当裁判所が認容する損害賠償請求の額(1億円及びこれに対する遅延損害金)に加え、被控訴人らによる本件特許権1の侵害の態様、現在における侵害の危険等にも照らすと、控訴人において差止め及び抹消を求めることが権利の濫用に該当すると評価することはできない。
また、被控訴人らは、被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものについては、公開が停止されたため、これに係る差止め及び抹消を求めることはできない旨主張する。しかしながら、仮に、被控訴人らが被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものの公開を停止したとしても、被控訴人らサービス1に関し、当裁判所が差止めを命じるのは、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出であり、また、当裁判所が抹消を命じるのは、被控訴人らプログラム1であり、被控訴人らプログラム1は、別紙被控訴人らプログラム目録記載1のとおりに特定されるものであるところ、当該特定に当たり、FLASH版であるか否かは問題とされていないのであるから、差止め及び抹消を命じる主文1項(1)及び(2)の対象たる被控訴人らプログラム1からFLASH版に係るものを除外する必要はない。
◆判決本文
1審はこちらです。1審では、第1,第2の表示欄の大きさを特定した構\成が非充足と判断されています。
◆平成28(ワ)38565
以上のとおり,「第1の表示欄」は動画を表\示するために確保された領域(動画表示可能\領域),「第2の表示欄」はコメントを表\示するために確保された領域(コメント表示可能\領域)であり,「第2の表示欄」は「第1の表\示欄」よりも大きいサイズでいずれも固定された領域であると解されるところ,被告ら各装置においては,動画表示可能\領域(被告ら装置1における「StageオブジェクトA」,被告ら装置2及び3における<iflame>要素又は<video>要素)とコメント表示可能\領域(被告ら装置1における「CommentDisplayオブジェクトD」,被告ら装置2及び3における<canvas>要素)は同一のサイズであるから,被告ら各装置は,「第1の表示欄」及び「第2の表\示欄」に相当する構成を有するとは認められない。\n
今回侵害となった特許4734471
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4734471/9085C128B7ED7D57F6C2F09D9BE4FCB496E638331DB9EC7ADE1E3A44999A3878/15/ja
1審と同じく侵害とはならなかった特許4695583
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4695583/7294651F33633E1EBF3DEC66FAE0ECAD878D19E1829C378FC81D26BBD0A4263B/15/ja
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2022.09.15
令和2(ネ)10032 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月20日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
CS関連発明の特許権侵害に対して、原審は約3600万円の損害賠償を認めました。1審原告は、請求を2億円に拡張する控訴をし、知財高裁(2部)は約1億2000万円の損害賠償を認めました。
原審(平成28年(ワ)7678号)はアップされていません。
(ア) 原判決別紙「本件ソフト・ハード機器の売上額(裁判所の認定)」のとお\nり、本件において一審被告が受けた利益として認められる本件ソフト及びハードウ\nェアの売上額が合計2億5714万4027円であるのに対し、後記のとおり、本
件において一審被告が受けた利益として認められる月次利用料(被告システムない
し本件ソフトの導入後5年以内に支払われるもの。以下同じ。)に係る売上額は、\n合計3億9531万1537円であり、月次利用料に係る売上額は、本件ソフト及\nびハードウェアの売上額の約1.5倍にも及ぶ高額のものであって、これを単なる
データベースの更新費用等であるとみることは困難であること、一般に被告システ
ムないし本件ソフトのように内容の更新が絶対に必要なデータベースを用いるシス\nテムないしソフトウェアにおいては、適時のデータベースの更新がなければシステ\nムないしソフトウェアとしての意味をなさないから、当該システムないしソ\フトウ
ェアを導入する際に、更新があることを当然の前提にしてこれを含んだ価格設定を
することには十分な合理性があること、弁論の全趣旨によると、一審被告は、被告\nシステムないし本件ソフトを導入した医療機関が月次利用料を3か月間支払わない\nときは、被告システムないし本件ソフトが起動しないような措置を執っているもの\nと認められること(一審被告第3準備書面5〜7頁)などの事情に照らすと、甲2
0及び48に月次利用料について「データベース更新料等」の記載があるとしても、
月次利用料に係る売上げは、被告システムないし本件ソフトの譲渡の対価(譲渡代\n金の延べ払い)の性質を持つものとして、これを一審被告が得た利益に含めるのが
相当である。
◆判決本文
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2022.08.23
令和2(ワ)33027 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年2月25日 東京地方裁判所
特許侵害事件において、出願経過時の補正が新規事項であるとして、権利行使不能(104条の3)と判断されました。
上記(2)によれば、本件特許の出願当初の請求項においては、本件発明の構成\nとして「有料自動機の動作を検知するセンサー」が含まれており、当該「セン
サーの検知信号に基づいて前記有料自動機の動作状態」についての監視結果を
管理サーバへ送信することが規定されていた。ところが、本件補正により、「有
料自動機の動作を検知するセンサー」が本件特許の構成から除外されるととも\nに、「ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置」によって生成
された「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報」
を管理サーバに送信するという構成に変更されたことが認められる。このよう\nに、本件補正に補正された事項は、管理サーバに送信すべき情報が、有料自動
機の動作を検知するセンサーの検知信号に基づくものに限られることはなく、
当該センサーの検知信号以外の情報に基づくものであっても、これに含まれる
というものと解するのが相当である。
これに対し、上記(2)の当初明細書等の記載内容によれば、有料自動機の動作
を検知するセンサーの検知信号以外の情報に基づき、有料自動機が運転中であ
るか否かを判定したり、当該結果を推測したりする方法については、何ら開示
されていないことが認められる。そして、当初明細書等の記載に接した当業者
において、出願時の技術常識に照らし、上記補正された事項が当初明細書等か
ら自明である事項であるものと認めることはできない。
そうすると、本件補正は、当初明細書等に記載した事項との関係において新
たな技術的事項を導入するものであると認めるのが相当であり、「願書に最初
に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」におい
てするものということはできない。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項に違反するものと認めら
れる。
これに対し、原告らは、本件特許の審査段階において、本件補正が新たな技
術的事項を導入するものと判断されておらず、本件異議申立ての審理において\nも訂正請求が認められているほか、当初明細書(【0038】)には、ICカ
ードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置が接続されている前記ラン
ドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を生成し、出力するという技術内
容が記載されている旨主張する。
しかしながら、本件補正により補正された事項が当初明細書等に記載されて
おらず、これが自明である事項ということもできないことは、上記において説
示したとおりである。そうすると、原告らの主張は、上記審査及び審理の経過
を踏まえても、上記判断を左右するものとはいえない。また、原告らが指摘す
る上記当初明細書の内容は、上記(2)において認定したところによれば、電流セ
ンサーの検知信号に基づき有料自動機の動作状態を監視する構成のみを記載\nするものであり、センサーの検知信号によらずに動作状態を判定する構成を記\n載するものではないから、原告らの主張は、上記認定と異なる前提に立って主
張するものにすぎない。
◆判決本文
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2022.08.18
令和1(ワ)20286等 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年6月30日 東京地方裁判所
任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟です。東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n原告は、本人訴訟です。特許は、特許第3382936号(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-3382936/03A51F6D5F3A043A6242B758D39317CEC3E7966037CD769975997EE07C2C14E4/15/ja)ですが、被告が無効審判(無効2020-800098)を請求しており、職権でサポート要件違反などが指摘されています。2022年8月現在では審決はなされていません。なお、2011/08/30に10年目の登録料を支払わずに存続期間満了による抹消がなされています。
前記(ア)のとおり、乙4文献には、使用時に表示板2を見易い傾斜角度\nに開くことができる折畳み式の小型電子機器において、表示板2を手で\n回転させると、回転軸8の溝aないしeに回転軸止め用シャフト10が
弾性的に圧入され、回転軸8の溝b、c、d、eのところで、夫々クリ
ック音を感触させながら位置II)、III)、IV)、V)で停止して表示板2を固定\nさせることが開示されており、第5図からは、傾斜角度が約120度か
ら約170度までの範囲内の予め決められた1つの傾斜角度に対応した\n位置で固定可能なことも理解できる。\nまた、前記(イ)のとおり、乙26文献においても、表示体ケース2を開\n閉可能な小型の電子機器において、回転軸6の凸凹10とクリックツメ\n12を設けることで、表示体ケース2を任意の位置で停止させることが\nできることが開示されている。
そうすると、乙4文献及び乙26文献により、折り畳み式の小型電子
機器において、表示板を含む2つの部材のなす角度が、ユーザーが行う\n表示板の回動により約120度から約170度までの範囲内の予\め決め
られた1つの角度に変化させられたとき、前記回動をストップさせて、
前記2つの部材の間を前記予め決められた1つの角度で固定する中間ス\nトッパであって、前記2つの部材のなす角度が折り畳まれた状態から広
げられて行く動作をストップする機能と、広げられた状態から角度を狭\nめて行く動作をストップする機能を有する中間ストッパを設けることは、\n周知の技術(以下「本件周知技術」という。)であると認めることができ
る。
(エ) 本件相違点への本件周知技術の適用
乙1発明’は、前記(1)イのとおり、第1のパネル12と第2のパネル
14が蝶番手段16によって接続され、ユーザーが座ったり、立ったり、
又は、歩いたりする位置にあるときに、片手でコンピュータを保持し、
もう片方の手でデータを入力することを許容するコンピュータノートブ
ック10の発明であり、これは、折り畳み式の小型電子機器に関する技
術であるという点で、本件周知技術と共通する。したがって、乙1発明’
において、「第1のパネル12及び第2のパネル14の両方が蝶番手段1
6を中心とした多数の角度において配向する」場合に、本件周知技術の
中間ストッパを採用することにより、本件相違点に係る本件発明1の構\n成とすることは、当業者において容易に想到し得たことである。
◆判決本文
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2022.08.12
令和2(ワ)4331 特許権侵害損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年5月13日 東京地方裁判所
電子たばこの特許について102条3項により、約2200万円の損害賠償が認められました。102条2項の推定覆滅として、別件特許権があることで5割が認定され、3項との重畳適用は否定され、3項により利率10%を認めました。2項侵害よりも3項侵害の方が80万円ほど高額となりました。
同一製品の製造等による別件特許権の侵害について
証拠(乙A80)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、本件各発明の実施品であるとともに、別件発明の実施品であること、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものであること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、別件発明は、安価で耐久性のある製品を提供するものとして、本件各発明と相等しく、被告製品の付加価値を高め、 顧客吸引力を有するものとして、被告製品の売上げに貢献しているものと認めるのが相当である。そうすると、別件発明による上記貢献の事情は、特許法102条2項の推定を覆滅する事情であるといえる。
これに対し、被告らは、別件訴訟において別件発明に係る侵害を理由として認容された損害額につき、本件訴訟で推定された損害額から覆滅されるべき旨主張するが、別件発明が被告製品の売上げに貢献した部分は、上記のとおり本件訴訟における推定覆滅の事情として考慮されているのであるから、被告らの主張は、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告らの主張は、採用することができない。
推定覆滅の割合
以上によれば、本件においては、上記 に掲げる事情の限度で推定を覆滅させるのが相当であり、上記 において認定した事情を踏まえると、推定覆滅の割合は、5割と認めるのが相当である。
ウ まとめ
本件特許権の侵害について、特許法102条2項により算定される損害額は、1853万0467円(3706万0935円×0.5(1円未満切り捨てとする。以下同じ。))となる。
エ 覆滅部分についての特許法102条3項の損害金について
原告は、本件特許権の侵害における特許法102条2項の推定の覆滅部分について同条3項が適用されると主張して、覆滅部分について同項にいう実施料相当損害金を請求する。
しかしながら、本件特許権の侵害における推定の覆滅は、上記において説示したとおり、本件各発明以外にも別件特許権が被告製品の売上げに貢献していた事情を考慮したものである。そのため、本件各発明のみによっては売上げを伸ばせないといえる原告製品の数量について、原告が、被告ジョウズに対し本件各発明の実施の許諾をし得たとは認められないというべきである。そうすると、当該数量について同条3項を適用して、実施料相当損害金を請求する理由を認めることはできない。したがって、原告の主張は、採用することがで
・・・
イ 前提事実及び前記認定事実のほか、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
本件報告書の表II)−3には、アンケートの調査結果として、技術分類を「食料品、たばこ」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は3.8%(最大値5.5%、最小値1.5%)(4件)、「健康;人命救助;娯楽」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は5.3%(最大値14.5%、最小値0.5%)(54件)と記載されている(乙A73)。原告は、被告ジョウズが被告製品の販売等により別件特許権を侵害したと主張して、別件訴訟を東京地方裁判所に提起したところ、同裁判所は、令和4年1月27日、別件発明の実施に対し受けるべき料率を被告製品の売上高の10%と判断した(乙A80)。そして、前記 イ のとおり、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものである。
前記 イ のとおり、本件各発明は、エアロゾル形成基材の加熱中にエアロゾルを均等に送達することを可能にする発明であり、加熱式タバコの香りや味等に直結するものであるから、加熱式タバコにおいて相応の重要性を有し、被告製品の売上げ及び利益にも一定の貢献をしたものである。また、エアロゾルを均等に送達することを可能\にする代替技術 が存在することは、本件全証拠によっても認めるに足りない。
原告と被告らは、いずれも原告製品専用のタバコスティックを使用することができる加熱式タバコ用デバイスを販売していたことからすると、その市場において競業関係にあったといえる。
ウ 前記イ ないし の各事情その他の本件訴訟に現れた諸事情を総合すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は、10%を下らないものと認めるのが相当である。したがって、被告らによる本件特許権の侵害について、特許法102条3項により算定される損害額は、1975万2707円(1億9752万7078円×10%)となる。
◆判決本文
関連事件(1)です。
特許権、当事者同じ
特許権者勝訴
差止のみ請求
◆令和2(ワ)4332
関連事件(2)です。
当事者同じ、対象特許違い
特許権者勝訴
損害額約5200万円
◆令和1(ワ)20074
関連事件(2)の控訴審です
控訴棄却
◆令和3(ネ)10072
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2022.08.12
令和1(ワ)21901 特許権侵害損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年5月31日 東京地方裁判所
CS関連発明についての特許権侵害事件です。東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。本件発明は「〜表\示方法」であり、被告地図プログラムの配信が、特許法101条4号の「その方法の使用にのみ用いる物」に該当するかの争点については無効理由ありとしたことで判断されていません。
原告らは、乙22文献には、「枠要素」に相当する構成や画像を「当\nてはめ」る構成の開示がないと主張する。\n
そこで検討するに、乙22文献には、1)Webクライアントの記憶
装置につき、「記憶装置2は、…表示装置3に地図を表\示するために
必要なデータ種別及びデータ領域を管理する管理テーブルとサーバー
4から送信されてきた地図データを格納するものである。」、「管理
テーブルは、データ種別管理テーブルとデータ領域管理テーブルから
なる。…データ領域管理テーブルは、データ領域のメッシュ番号とデ
ータ種別のレイヤー番号により記憶装置2に格納された地図データを
管理するものであり」(段落【0010】)という記載が認められ、
2)メッシュ番号につき、「図2に示すように地図データを表示する領\n域(メッシュ)が識別できるデータ領域のメッシュ番号」(段落【0
014】)、「メッシュ番号は、地図のデータの範囲を含む矩形領域
を任意の矩形サイズで分割した領域に振られる番号であり、例えば北
海道の地図データを作成する場合の、メッシュ番号の採番状況を示し
たのが図9である。」(段落【0026】)という記載が認められ、
3)表示領域につき、「Webクライアントからの地図データ要求では、\n図8に示すように…1データの表示領域(メッシュ番号)を指定する\n形式で、複数回の要求を行うことによって、必要範囲の地図データを
Webサーバーから取得する。」(段落【0024】)、「1データ
の表示領域の指定には、メッシュ・レイヤーインデックスファイルで\n管理するこのメッシュ番号を指定する。このことにより、表示領域を\n直ちに指示することが可能となる。座標単位は、任意に決定されるマ\nクロ座標であるが、原点位置(座標0,0)の緯度・経度とメッシュ
の矩形サイズ(距離)は地図データ作成時に指定するため、各メッシ
ュ原点(左下座標)の緯度・経度は計算により求められる。」(段落
【0026】)という記載が認められ、4)地図の表示につき、「地図\nデータを取得できたものから地図の描画処理を行うため、画面上の地
図表示領域には徐々に地図が表\示されていく」(段落【0032】)
という記載が認められる。
上記各記載に加えて、【図1】、【図2】、【図8】、【図9】、
【図11】の記載を併せ考慮すれば、表示領域は、原点位置が計算に\nより求められるものであること、Webクライアントは、地図データ
を表示するための矩形領域を識別するメッシュ番号の指定により、必\n要範囲の地図データをWebサーバーから取得し、表示領域を指示す\nること、取得された地図データは、メッシュ番号のある管理テーブル
とは別の場所で記憶され、描画処理により、地図が画面上の表示領域\nに表示されること、以上の内容が乙22文献により理解されるものと\n認められる。
そうすると、乙22文献における「表示領域」は、メッシュ分割し\nた地図データを指定してWebクライアントのディスプレイ表示の所\n定の位置に地図を表示させるためのものであるから、乙22文献には、\n本件各発明における画像を「当てはめ」る「枠要素」に相当する構成\nが開示されていると認めるのが相当である。
b これに対し、原告らは、乙22文献における「地図データ」は、数
値データ(ベクターデータ)であるから、これに基づき表示を行う場\n合に「当てはめ」を行う「領域」をビューアに設定する必要はないと
主張する。しかしながら、上記にいう必要性の問題は、構成が開示さ\nれているかどうかという問題とは、必ずしも同一の事柄ではなく、乙
22文献における「地図データ」がベクターデータであることは、上
記発明の認定を左右するものではない。
●(省略)●
のみならず、乙22文献の「地図データ」がベクターデータである
としても、これをいわゆるラスターデータに置き換えることは、技術
説明会における当事者双方の口頭議論の結果及び専門委員3名の各説
明内容を踏まえると、当時の技術常識に照らし、当業者が適宜になし
得る事項にすぎず実質的相違点に当たらず、又は明らかに容易に想到
することができるものといえる。そうすると、被告の主張はその趣旨
をいうものとして相当であり、原告らの主張は、結論において進歩性
の判断を左右するものとはいえない。
c 原告らは、乙22文献に地図データを「枠要素」に「当てはめ」て
表示する構\成の開示がないことを前提に、乙22文献には「表示でき\nる状態」の開示はないと主張するが、乙22文献には、画像を「当て
はめ」る「枠要素」に相当する構成の開示があることは、上記におい\nて説示したとおりであり、原告らの主張は、前提を欠く。
◆判決本文
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2022.08. 9
令和3(ネ)10088等 特許権侵害差止等請求控訴事件,附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年6月20日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特許侵害事件です。知財高裁第4部は、102条2項の覆滅は5%から15%とし、損害賠償額を減額しました。なお、102条2項と3項の重畳適用は1審と同様に否定しました。
被控訴人は、前記第2の3(2)ウ(イ) のとおり、競合品の存在を理由とする特
許法102条2項の推定覆滅に相応する侵害品の譲渡数量に対して、同条3
項を重畳適用して、被控訴人の許諾機会の喪失に係る逸失利益を想定すべき
である旨主張する。しかし、競合品の存在を理由とする同項の推定の覆滅は、侵害品が販売されなかったとしても、侵害者及び特許権者以外の競合品が販売された蓋然性
があることに基づくものであるところ、競合品が販売された蓋然性があるこ
とにより推定が覆滅される部分については、そもそも特許権者である被控訴
人が控訴人に対して許諾をするという関係に立たず、同条3項に基づく実施
料相当額を受ける余地はないから、重畳適用の可否を論ずるまでもなく、被
控訴人の主張は採用できない。
◆判決本文
1審はこちらです。1審も以下のように、重畳適用を否定しました。
特許法102条2項及び3項の重畳適用については,前記(2)ウのとおり,本件
において同条2項に基づく損害額の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきものは
競合製品の存在のみであるところ,被告による各被告製品の販売実績等と直接の関
わりを有しないこのような事情に基づく覆滅部分に関しては,同条3項適用の基礎
を欠く。
◆令和1(ワ)9113
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2022.07.19
令和4(ネ)10021 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月7日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
令和4(ネ)10021
医薬品の特許権侵害について、原審は、請求項1,2についてはサポート要件違反の無効理由あり、また請求項3,4については技術的範囲に属しないと判断していました。
原告(特許権者)が控訴し、知財高裁は原審の判断を維持しました。
本件発明2の特許請求の範囲の請求項2(「化合物が、式IにおいてR3およびR2はいずれも水素であり、R1は−(CH2)0−2−iC4H9である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の鎮痛剤」)の記載に照らすと、本件発明2の化合物は、本件発明1の化合物の範囲に含まれるものである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2の化合物を線維筋痛症や神経障害等の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについての一般的な記載があるが(前記1(2)及び(4))、一方で、本件発明2の化合物を神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについて明示の記載はない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2の化合物に該当するCI−1008及び3−アミノメチル−5−メチル−ヘキサン酸を用いたラットホルマリン足蹠試験結果、CI−1008を用いたラットカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験結果、本件発明2の化合物に該当するS−(+)−3−イソブチルギャバを用いたラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験結果の記載がある(前記1(3)、(6)、(7)及び(9))。
しかし、前記(1)オ(ア)dの認定事実に照らすと、上記試験結果は、いずれも神経障害又は線維筋痛症による痛みの処置に本件発明2の化合物を使用した試験に関するものといえないから、上記試験結果から、本件発明2の化合物が、「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に対して鎮痛効果を有することを認識することはできない。
そうすると、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識から、本件発明1の化合物の範囲に含まれる本件発明2の化合物が、本件発明1及び2の「痛み」の範囲に含まれるすべての「痛み」に対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供するという本件発明1及び2の課題を解決できるものと認識することはできないから、本件発明1及び2は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものと認めることはできない。
・・・・
控訴人は、本件発明3は、慢性疼痛に対する画期的処方薬として、抗てんかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだしたものであり、その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用いる点にあるから、対象となる痛みが侵害受容性疼痛か、神経障害性疼痛や線維筋痛症かは本質的部分ではなく、効能・効果を神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とし、慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告ら医薬品は、均等論の第1要件を満たすと主張する。しかし、本件明細書の記載(前記1(4))によれば、本件発明3は、本件発明3の「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」の範囲に含まれるすべての「痛み」に対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供することを課題とするものと認められること、痛みは、その基礎となる病態生理に著しい差異があり、「侵害受容性疼痛」、「神経障害性疼痛」、「心因性疼痛」の3つに大別されることは、本件出願当時の技術常識であったこと(前記2(1)オ(ア)a)に照らすと、いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは、本件発明3において本質的部分であるというべきであり、その鎮痛効果の対象を異にする被告ら医薬品は、本件発明3の本質的部分を備えているものと認めることはできない。したがって、本件発明3に係る特許請求の範囲(本件訂正後の請求項3)に記載された構成中の被告ら医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でないということはできないから、被告ら医薬品は均等論の第1要件を満たさない。\n
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19925等
特許権は同じで、被告(被控訴人)が異なる事件(1)です。
令和4(ネ)10009
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19927
被告(被控訴人)が異なる事件(2)です。
令和4(ネ)10002
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)22283
被告(被控訴人)が異なる事件(3)です。
令和4(ネ)10012
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19924
被告(被控訴人)が異なる事件(4)です。
令和4(ネ)10020
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19929
被告(被控訴人)が異なる事件(5)です。
令和4(ネ)10013
◆判決本文
原審。
◆令和2(ワ)19917
被告(被控訴人)が異なる事件(6)です。
令和4(ネ)10016
◆判決本文
原審。
◆令和2(ワ)19918等
被告(被控訴人)が異なる事件(7)です。
令和4(ネ)10039
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19919
被告(被控訴人)が異なる事件(8)です。
令和4(ネ)10028
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19920等
被告(被控訴人)が異なる事件(9)です。
令和4(ネ)10015
◆判決本文
原審。
◆令和2(ワ)19922等
被告(被控訴人)が異なる事件(10)です。
令和4(ネ)10036
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19923等
被告(被控訴人)が異なる事件(11)です。
令和4(ネ)10017
◆判決本文
原審。
◆令和2(ワ)19926
被告(被控訴人)が異なる事件(12)です。
令和4(ネ)10003
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19928
被告(被控訴人)が異なる事件(13)です。
令和4(ネ)10037
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19931等
被告(被控訴人)が異なる事件(14)です。
令和4(ネ)10025
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19932
被告(被控訴人)が異なる事件(15)です。
令和4(ネ)10026
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)22290等
本件特許の無効審判事件の審取です。
令和2(行ケ)10135
審決は、「訂正後の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効、請求項3,4に係る発明についての本件審判の請求は,成り立たない。」と判断していました。
知財高裁は、審決維持です。
◆判決本文
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2022.07.14
令和4(ネ)10015 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年6月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
医薬品特許について、原告特許権者、被告ジェネリック医薬品メーカです。1審は36条違反(実施可能要件)として権利行使不能\と判断していました。知財高裁も同様の判断をしました。
前記1(1)オ、カ及びクのとおり、本件明細書には、薬理データ又はこれと
同視し得る程度の事項として、本件化合物がホルマリン試験、カラゲニン試験及び
術後疼痛試験において効果を奏した旨の記載がある。しかしながら、後記(5)にお
いて説示するとおり、本件出願日当時、慢性疼痛は全て末梢や中枢の神経細胞の感
作という神経の機能異常により生じる痛覚過敏や接触異痛の痛みであり、原因にか\nかわらず神経細胞の感作を抑制することにより痛みを治療できるとの控訴人主張の
技術常識が存在していたとは認められないから、本件化合物がホルマリン試験、カ
ラゲニン試験及び術後疼痛試験において引き起こされた各痛みの処置において効果
を奏した旨の記載があるからといって、そのことをもって、当業者において、本件
化合物が原因を異にするあらゆる「痛み」の処置においても効果を奏すると理解し
たとは到底いえない。したがって、ホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛
試験の結果に係る上記記載をもって、本件明細書の発明の詳細な説明において、本
件化合物が「あらゆる全ての痛みの処置における鎮痛剤」の用途に使用できること
につき薬理データ又はこれと同視し得る程度の事項が記載され、本件出願日当時の
当業者において、本件化合物が当該用途の医薬として使用できることを理解できた
と認めることはできない。
その他、本件明細書の発明の詳細な説明に、本件化合物が「あらゆる全ての痛み
の処置における鎮痛剤」の用途に使用できることにつき、薬理データ又はこれと同
視し得る程度の事項が記載され、本件出願日当時の当業者において、本件化合物が
当該用途の医薬として使用できることを理解できたと認めるに足りる的確な証拠は
ない。
◆判決本文
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◆令和2(ワ)19926
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2022.07. 4
令和2(ワ)13326 特許権侵害差止等請求事件 令和4年5月27日 東京地方裁判所
用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。東京地裁46部は、新規性無しとして、権利行使不能と判断しました。\n
ア 本件発明1は、「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部
骨折を抑制するための医薬組成物」であるところ、前記(1)によれば、乙1文
献には、エルデカルシトールを骨粗鬆症治療薬として用いることが記載され
ており、本件発明1と乙1発明とは、構成要件1A、1Cにおいて一致して\nいる。他方、本件発明1は、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」
(構成要件1B)医薬組成物であるところ、乙1発明は骨粗鬆症治療薬であ\nり、この点において本件発明1と乙1発明が相違するといえるかが問題にな
る。
イ 本件明細書によれば、「非外傷性骨折とは、転倒などの一般的な日常生活
で起こる軽微な外力により生じた骨折を示す」(【0035】)とあり、「前腕
部は、橈骨と尺骨からなる」(【0022】)とされ、また、「抑制あるいは予\n防は、骨粗鬆症にり患していない者あるいは骨粗鬆症患者のいずれにおいて
も、新たな骨折が発生しないことを意味する。」(【0022】)とされている。
したがって、本件発明1の「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」とは、
骨粗鬆症にり患していない者及び骨粗鬆症患者のいずれについても、転倒な
どの一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨又は尺骨に新たな
骨折が発生しないようにすることを意味しているといえる。
ここで、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴として骨折のリスクが増大しや
すくなる骨格疾患であり(前記2(1)ア)、骨粗鬆症治療薬は、骨粗鬆症を治療
することを目的とする薬物なのであるから、骨折のリスクを低下させること、
すなわち、新たな骨折を発生させないようにすることを目的としているとい
える。そして、本件優先日当時、骨粗鬆症においては、骨強度の低下により、
通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで生ずる骨折である脆弱性骨折
が生ずることが問題とされており、骨折が生ずることがある具体的な部位と
しては、大腿骨、椎体等と並んで、橈骨が含まれていたことが知られていた
と認められる(前記2(1)イ)。
そうすると、乙1発明の骨粗鬆症治療薬とは、骨強度の低下によって通常
は骨折を生じさせない些細なきっかけで大腿骨、椎体、橈骨等に新たな骨折
を発生させないようにすることを目的とする治療薬であり、この中には、骨
粗鬆症患者に対する、通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで橈骨に新
たな骨折を発生させないようにすることについても用途として含まれるこ
とは明らかである。
これに対し、乙1発明の骨粗鬆症治療薬について、原告は、エルデカルシ
トールに骨折抑制効果があることは知られていなかったと主張する。しかし、
乙1文献の表題は「骨粗鬆症治療薬」というものであり、その表\題からも、
そこに記載されたエルデカルシトールが骨粗鬆症の治療薬であること、すな
わち、エルデカルシトールが骨粗鬆症患者に対する骨折抑制効果があること
に関する文献であることが理解できる。そして、乙1発明のエルデカルシト
ールは活性型ビタミンDの誘導体であり、活性型ビタミンDが体内のビタミ
ンD受容体と結合して作用するのと同様にビタミンD受容体に結合して作
用するという、活性型ビタミンDと同一の機序によって骨粗鬆症に作用する
ことが想定されていた。活性型ビタミンDは、前腕部を含む骨における骨形
成を促進し、骨破壊を抑制することによって骨量を増やして骨密度骨強度を
増加させるとともに、転倒自体を抑制するといった作用を有することが知ら
れており(前記2(3)ア、(4))、実際に、乙1文献には、エルデカルシトール
が骨密度を上昇させる効果を有することが記載されている。さらに、当時、
一般に、骨量が多いほど骨折しにくくなり、骨量の多寡が骨折リスクの指標
になると考えられていた(前記2(2) )。これらからすると、当業者は、乙1
発明の骨粗鬆症治療薬について、前腕部骨折予防効果があると理解すると認\nめられる。原告が指摘する文献や記載は、上記技術常識等に照らし、当業者
に対して乙1発明のエルデカルシトールが上記骨折抑制効果を有すること
に対して疑念を抱かせるものとは認められない。
以上によれば、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において一般的な日常生
活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用
途とする構成は、乙1発明のエルデカルシトールの用途と一致すると認めら\nれる。
ウ 原告は、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認
められると主張する。
しかし、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において、一般的な日常生活で
起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途と
する構成について、前記イに述べたところにより、乙1発明のエルデカルシ\nトールにおいても、当然に当該部位に係る骨折予防についても有効であるこ\nとが具体的に想定されていたと認められる。また、乙1文献には、エルデカ
ルシトールを活性型ビタミンD3製剤であると記載されていて、乙1発明に
おいても、既存の活性型ビタミンD製剤と同様の機序、すなわち、ビタミン
D受容体への作用による骨強度の上昇及び転倒防止(前記2 ア、 )が想
定されていたと認められる。本件明細書には、本件発明1について、技術常
識から認められる上記機序と異なる機序によって作用していることについ
ての記載もなく、本件発明1も、乙1発明と同一の作用機序を前提にしてい
ると認められる。仮に年齢等によって第1選択として投与される薬剤の種類
が異なるとしても、エルデカルシトールが投与されたとき、乙1発明のエル
デカルシトールが投与されたのか、本件発明1のエルデカルシトールが投与
されたのかを区別することができるものではない。本件発明1の一部の用途
は、作用機序の点からも、乙1発明の用途と区別することはできない。
なお、原告は、本件発明1において、エルデカルシトールの前腕部骨折抑
制に関する顕著な効果が初めて見出されたとも主張する。原告が本件明細書
で明らかにされた医学的に有用であると主張する具体的な知見は、1)前腕部
の骨折予防の観点からは、アルファカルシドールよりもエルデカルシトール\nの方が顕著に優れていること、2)前腕部以外の部位においては、エルデカル
シトールとアルファカルシドールの効果の差は前腕部における差ほど顕著
ではないという2点である。しかし、仮に原告が主張する上記評価が統計学
上正当であると認められるとしても、1)については、本件明細書で明らかに
されているのは、エルデカルシトールがアルファカルシドールに比べて骨折
抑制効果が高いことのみであり、このことのみからは、エルデカルシトール
がプラシーボに比べて顕著に優れている可能性も、アルファカルシドールが\nプラシーボに比べて顕著に劣っている可能性も、どちらともいえない可能\性
もある。さらに、乙1発明において、エルデカルシトールの骨折抑制効果が
アルファカルシドールを上回ること自体が想定されていたことも認められ
る(前記3)。2)についても、本件明細書の実施例で記載されている前腕部
骨折以外に関する分析結果は椎体骨折に関するもののみ(【0069】)であ
り、前腕部についてのみ良好な結果が得られたのか、椎体についてのみ良好
とはいえない結果が得られたのかすら明らかにされていない。これらによれ
ば、何らかの顕著な効果の存在を理由に乙1発明に対する新規性等が認めら
れる場合があるか否かは措くとしても、本件においてはその前提となる顕著
な効果を認めることはできない。
さらに原告は、65歳の患者群やI型骨粗鬆症患者群においては前腕部に
おける骨折抑制が特に求められており、独立の用途を構成するなどと主張す\nる。しかし、乙1発明のエルデカルシトールにおいても、一般的な日常生活
で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことに有効
であることが具体的に想定されていたと認められるなど、上記に述べた事情
に照らせば、原告が主張する上記知見は、本件において、乙1発明の用途を
前腕部の骨折予防に限定することに新規性を付与すべき事情に当たるとは\nいえない。
エ 以上によれば、本件発明1は、乙1発明で想定される橈骨の骨折抑制、大
腿骨の骨折抑制といった複数の骨折抑制部位に係る用途のうち、前腕部の効
果に着目したものと認められる。本件発明1において「非外傷性である前腕
部骨折を抑制するための」と限定した部分は乙1発明との相違点になるとは
いえず、本件発明1は、乙1発明と同一であり、本件発明1は、新規性が欠
如しているといえる。
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2022.07. 4
令和2(ワ)29604 特許権侵害損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年4月27日 東京地方裁判所
携帯電話機の画像表示技術について、102条3項の実施料率として0.01%が認められました。
ア 特許発明の実施に対し受けるべき料率を認定するに当たっては、1)当該
特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない
場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明
自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可
能性、3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献
や侵害の態様、4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等
訴訟に現れた諸事情を総合考慮するのが相当である。
イ そこで検討するに、本件発明に関しては、前記1)ないし4)に係る事情と
して、次のとおりのものが認められる。
「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査
研究報告書」には、以下のような実施料率を報告するが、同時に、関係
特許が多数に上り、クロスライセンスが主流であるデバイスの特許の分
野では、その相場は1%以下であるとも記載されている。(甲26)
ソース 技術分野 平均値 最大値 最小値
国内アンケート調査 器械 3.5% 9.5% 0.5%
コンピュータテクノロジー3.1% 7.5% 0.5%
電気 2.9% 9.5% 0.5%
司法決定 電気 3.0% 7.0% 1.0%
実際、被告補助参加人は、被告製品の製造販売のため、11社とライ
センス契約を締結したが、破産直前という特殊事情のある1社を除くと、
アプリ特許等に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率は、
平均●(省略)●%であると計算された。(乙14)
また、前記 の10社とのライセンス契約のうち、ライセンス料率が
初年度の●(省略)●%から逓減する特殊な規定となっていた1社を除
き、画像処理に関連する発明に限定したとすると、1件当たりのライセ
ンス料率は、平均●(省略)●%と計算された。(乙16)
平成20年5月発行の雑誌「日経エレクトロニクス」には、「携帯電
話の画面サイズには限界がある。」、「HDTV対応によって、大画面
テレビなど周囲のAV機器を接続し、コンテンツをやりとりする機能が\n携帯電話機に必須となる。」との記載がある。(甲29・43頁)
他方、前記雑誌には、「スマートフォンのような両手の操作を前提と
する端末であれば、比較的大きな4〜5型程度のディスプレイを搭載す
る可能性はある。このような端末ならば、「液晶パネルの画素数を高精\n細化してHDTV対応にできる」」との記載もある。(甲29・59頁)
原告は、情報処理・通信システムの考案及び開発を目的とする会社で
あり、自ら実施品の製造販売をすることはせず、その発明を他社に許諾
し、これに対する実施料収入を得るという営業方針をとっているが、本
件発明については、実施許諾をした例はない。(弁論の全趣旨)
ウ これらの事情によれば、1)本件発明の技術分野においては、ライセンス
料率を0.5%ないし9.5%程度とする例はあるが、スマートフォンの
ように多数の特許が関連する分野では、クロスライセンスによる場合に限
らず、特許1件当たりで計算した実施料率が、0.01%を下回ることも
通常であること、2)本件発明で実現される高解像度画像を外部出力する機
能は、携帯電話において早くから望まれていたものではあるが、被告製品\nのようなスマートフォンにおいては、当然に必須の機能であるとはいえず、\nその顧客に対する顧客吸引力は明らかとはいえないこと、3)原告は、その
保有する発明を他社に許諾し、その実施料収入を得るという営業方針をと
っているものの、本件発明を実施するため、原告とライセンス契約を締結
した者はいないこと、以上の事情を認めることができる。
これらの事情を考慮すると、被告補助参加人の売上高に乗じる相当実施
料率は、侵害があったことを前提に通常の実施料率よりも自ずと高くなる
ことをも十分考慮しても、0.01%の限度で認めるのが相当である。\nエ これに対し、原告は、被告補助参加人におけるライセンス例は、大部分
が一時金方式であり、ランニング方式よりも割安となっていることなど
種々の事情を指摘し、これを相当実施料率の認定の参考にすることを争う
ものの、原告の指摘を踏まえても、業界における実施料の相場等として、
当該ライセンス例を上記の限度で参酌することまで妨げられるべきもので
はなく、上記認定を左右するに至らない。
また、原告は、本件発明には代替技術がなかったと主張するが、これを
認めるに足りる証拠はないほか、原告は、本件発明を代替するには、24
00円程度の部品(甲31)を追加する必要があったとも主張するが、当
該部品は、本件発明に係る機能のみを実現するものとは認められず、その\n2400円というのも「サンプル価格」にすぎず、いずれも、上記の結論
を左右するものとはいえない。
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2022.06.30
令和4(ワ)3374 特許権侵害行為差止等請求事件(承継参加) 特許権 民事訴訟 令和4年6月20日 大阪地方裁判所
技術的範囲に属しない、さらに、乙36発明から新規性がないと判断されました。前者については原告被告の双方から実験結果が提出されており、被告のものが採用されました。
このように、甲6食品実験等と乙12実験等の結果は異なっているところ、
前記2(1)において認定したとおり、主たる青色光源であるLED5)が青色
発光するのは、パーシャル室を(チルドではなく)微凍結パーシャル状態と
し、かつオート急冷中のときであって、この場合、パーシャル室内は約−3度
から約−1度に保たれることになるから、乙12ないし乙15の各実験の結
果にみられるとおり、培地の一部や豚肉が凍結していたとする結果と整合的
に理解できるものであり、乙12、13実験における黄色ブドウ球菌や枯草
菌のコロニーが見られなかったという結果も、黄色ブドウ球菌の一般的な増
殖可能温度域は5〜47.8度(至適増殖温度は30〜37度)であり、枯\n草菌の一般的な増殖可能温度域は5〜55度(最適発育温度帯は20〜4\n5度)であること(乙12、13に添付の参考資料)と矛盾なく理解するこ
とができる。
これに対し、甲6実験等は、そもそも本件製品の冷蔵室やパーシャル室内
の温度設定ないし機能設定が明らかでない上、甲15食品実験及び甲15培\n地実験にあっては、試料設置後、冷蔵室扉を封印したというのであるから、
青色光の照射時間は扉の開閉を所定時間行った乙12実験等におけるもの
よりも短いものと推認されるのに、青色光照射区で有意に細菌の生長が抑制
されていると評価されて結果が報告されるなどしており、本件製品の冷蔵室
内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長を抑制する効果があるかを判
定するについての実験条件の統制が的確に取れていたのかについて大きな
疑義を生じさせるものというべきである。
以上によると、本件製品の冷蔵室内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の
生長を抑制する効果があるかを判定するについては、甲6食品実験等を採用
することはできず、乙12実験等によるべきである。
そして、乙12、13実験等によると、そもそも本件製品において青色L
EDが発光する状態となったパーシャル室内では、黄色ブドウ球菌及び枯草
菌は遮光の有無にかかわらず生長しないことが認められ、乙15実験の結果
によると、豚肉中の細菌量が6つに分けた各試料でおおむね一定であり、ま
た結果の判定につき(本件測定器具の精度については議論があるものの)精
度が十分で誤差がないと仮定すると、青色光の照射を受けた豚肉よりも青色\n光の照射を受けなかった豚肉の方が3日後の細菌数が少ないものもあると
いう結果も見て取れる。加えて、そもそも本件製品が食品等に照射する光の
強度(光量子束密度)は、白色光等他の波長域の光も含めて最大7μE/m2/s
程度であって(乙8)、この光は冷蔵庫の扉が開いたときに照射されるが、通
常の用法において冷蔵庫の扉を開けるのは短時間にとどまることからする
と、本件明細書の実施例等で示される光の強度や照射時間と対比するとごく
わずかにすぎないと見込まれること、そもそも冷蔵庫は、一般常識に照らし、
庫内の食品を微生物の活動が抑制される程度の低温に保つことで食品を保
存する機器であることを併せ考えると、本件製品において、LED4)や同5)
の青色光の照射が、黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長が抑制されることに影響
を与えているとは認められないというべきである。
(4) まとめ
以上によると、本件製品が、青色光の照射により枯草菌、黄色ブドウ球菌等
の微生物の生長を抑制しているとは認められず、他に、前記(2)の本件製品の
使用方法による青色光の照射の影響によって微生物の生長が抑制されている
こと(光の照射と微生物の生長抑制させることとの間に直接的な関連性がある
こと)を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件製品の使用方法は、「光
の照射下で」(構成要件B)を充足せず、本件発明の技術的範囲に属しない。\n争点1についての原告の主張(請求原因)は、理由がない。
・・・
(1) 当裁判所は、前記2のとおり、本件製品の使用方法は、本件発明の技術的範
囲に属しないと判断するが、さらに、本件特許は、少なくとも新規性が欠如し
ているから特許無効審判により無効にされるべきものと判断する。以下、事案
に鑑み、争点3−7(乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の有無)
を検討する。
・・・・
これに対し、原告は、乙36公報に記載された「FL-40SB(東芝電気(株))」
は、混在する光を発することを指摘して、乙36公報には青色光に着目した
記載はないから、「およそ400nm から490nm までの光波長領域にある光
の照射下で培養して、この微生物の生長を抑制させる」こと(構成要件B)\nは開示されていない旨や、近紫外線が必須の構成となっていることを主張す\nる。
しかし、前記(2)によれば、乙36公報の特許請求の範囲第2項は「500
nm から近紫外線の波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線」を微生物
に照射することを明示しており、また乙36公報に記載の発明は、「従来の
殺菌及び滅菌方法では、対象菌体のみならず、人体、家畜類及び各種製品を
損傷させるという弊害があり、これらの弊害なく簡便な菌体の繁殖抑制方法」
を課題とし、この課題の解決手段として、「微生物に少くとも500nm から
近紫外線の波長域に含まれる光線を照射することにより、微生物の繁殖を抑
制する」方法を開示したものである。また、「近紫外線」の意義については
「本発明における「近紫外線」とは、(中略)更に好ましくは、360nm か
ら400nm の波長域に含まれる光線を意味する。」とされ、400nm にごく
近い波長の光線が好ましい近紫外線に含まれていることが前提となってい
るし、光源−2についてはおよそ400nm〜500nm で発光する蛍光灯であ
ることがその定義及び分光エネルギー分布図によって明らかである。そして、
実施例−11にあっては、枯草菌に前記光源−2を照射した結果、他の波長
の光源とは有意に異なる微生物の生長抑制効果があったことが記載されて
いる。このような開示がされている乙36公報に接した当業者は、波長が400
nm〜500nm の範囲の青色光が微生物のうち枯草菌の繁殖を抑制するとす
る乙36発明が開示されていると容易に理解し得るものである。
◆判決本文
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>> 0030 新規性
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2022.05.13
令和2(ワ)3297 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年4月22日 大阪地方裁判所
訂正後の特許発明について、技術的範囲に属すると判断されましたが、拡大先願違反(特29-2)の無効理由があるとして、権利行使不能(特104-3)と判断されました。
前記(ア)及び(イ)の「収納」の字義、本件訂正後発明1に係る請求項の記載
内容に照らすと、ケーシングに「収納」するとは、長尺部材の全部がケーシング
内に完全に収まることを要するものではなく、ケーシングと長尺部材の位置関係
として、ケーシングにしまわれている状態(整然と入れられた状態)を意味し、
少なくとも、ケーシングの開口部を含めたケーシングの内部に長尺部材の大部分
が入れられている状態はこれに当たると解するのが相当である。
(エ) 前記(1)のとおり、被告製品の押さえローラーは、マグネットスクリーン
シートの巻き出し及び巻き取りのための開口部付近に、同シートと接するように
配置されている。また、別紙「写真目録」の写真に示されるように、被告製品の
押さえローラーは、本体ケースの内側にその全部が収まっているものではないが、
キャップ(側板)に支持されており、その大部分が本体ケースに覆われているこ
とから、構成要件 1D-1 のケーシングに相当する、本体ケース及びキャップにし
まわれている状態であるといえる。
したがって、被告製品の押さえローラーは、本体ケース及びキャップに収納さ
れていることから、被告製品は、構成要件 1D-1 を充足する。
イ 被告の主張について
(ア) 被告は、本件訂正後発明1において、長尺部材がケーシングの開口部の内
側に位置付けられるのは、スクリーンシートが長尺部材によって局所的に抑え込
まれ、シート全体に張力を与えて端部(特に長手端部)までピンと張った状態で
スクリーンシートを設置面に展張保持できるようにすることを実現するための
ものであるところ、長尺部材がケーシングの縁どりから外側に突出していると、
その作用効果が阻害される旨を主張する。
そこで、長尺部材の技術的意義について検討する。本件訂正後発明1は、マグ
ネットスクリーン装置に関する発明であるところ、従来のマグネットスクリーン
装置には、使用に際して巻き出されたスクリーンシートを設置面に展張保持した
際に“カール”と呼ばれる現象、すなわち、非使用時のスクリーンシートの巻回
形態が“くせ”として残り、巻き出し後も依然として反映される現象が生じ、か
かるカールによってプロジェクターから投影される像を所望に映し出すことが
できない技術的課題があった(【0005】〜【0007】)。これに対し、本件訂正後
発明1は、非使用時ではマグネット面が投影面に対して相対的に内側となるよう
にスクリーンシートがロール部材に巻き取られている構成にすることによって\n(【0009】)、スクリーンシートを巻き出した際、そのシート長手端部では局所
的に湾曲しようとする力が働くものの、その湾曲方向は設置面側となっており、
スクリーンシートが設置面にむしろ貼り付くように作用し、ロール部材に巻かれ\nていた時の“くせ”をスクリーンシートが有する場合であったとしても、それは
設置面に貼り付くように好適に作用するので、スクリーンシートを“カール”の\n発生なく展張保持することを可能とした(【0019】)。一方、かかる構成にする\nことによって、スクリーンシートの巻出し又は巻取りがロール部材の“設置面遠
位側”からなされることになるから(【0036、図6】)、スクリーンシートが設
置面から浮き上がる方向に作用する。すなわち、ロール部材におけるスクリーン
シート巻き出しポイント又はスクリーンシート巻き取りポイント(図7。長尺部
材を設けない場合において、スクリーンシートを巻き出し又は巻き取った際のス
クリーンシートとロール部材の離別箇所又は接触箇所)がロール部材の上側半分
に位置付けられることとなる(【0037】、【0038】)。そこで、長尺部材は、使
用に際して「巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートと接するように」、
「開口部に位置付けられ」、「設置面に対して相対的に近い側に位置付けられる
ロール部材の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」(構成要件 1D-4)ることに
より、スクリーンシートを投影面側から設置面側に向かって局所的に抑え込む機
能を有するものである(【0030】、【0048】)。長尺部材が前記機能を発揮する\nためには、長尺部材がない場合にスクリーンシートが自重や磁着力等により設置
面に自然に接する地点よりもロール部材側でスクリーンシートに接する地点に
存すれば足りるといえる。そうすると、長尺部材の技術的意義からみた場合、必
ずしも、長尺部材はケーシングの内側に完全に位置する必要まではないと解する
のが相当である。加えて、本件明細書1において、「展張保持」は、スクリーン
シートを広げた状態の維持という意で使用されており(【0003】、【0005】、【0019】等)、シート全体に張力を与えながらスクリーンシートを張る作業自体を指すも
のではないし、同作業を経て張られた状態を指すものでもない。したがって、長
尺部材の技術的意義から、「収納」の意義について長尺部材が必然的にケーシン
グの完全な内側に位置づけられることを示すものと解することはできない。
また、被告は、本件明細書1には、「本発明のマグネットスクリーン装置10
0では、スクリーンシート10、ロール部材20および長尺部材30がケーシン
グ40内に収納されている。より具体的には、ロール部材20に対して巻回保持
されたスクリーンシート1がケーシング40の内部に収められており、かかる巻
回状態のスクリーンシート10に隣接して長尺部材30も同様にケーシング4
0内に収められている。」(【0044】)との記載がある旨も指摘する。しかし、
これは、本件特許1に係る発明のスクリーン装置の具体化態様に関するものであ
るから(【0042】)、当該記載があるからといって、「収納」の意義が「内部に
収められていること」に限定されることにはならない。
(イ) 被告は、被告製品において、キャップは「ケーシング」を構成しないこと、\n仮にキャップが「ケーシング」を構成するとしても、被告製品は、キャップの縁\nどりとケーシングの縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラ\nーの半分以上がはみ出した構造であるから、いずれにしても押さえローラーはこ\nれらに「収納」されていない旨を主張する。
確かに、本件明細書1では、「ケーシング40が「第1サブ・ケーシング40
A」と「第2サブ・ケーシング40B」とから構成されている」(【0044】)と
記載されており、ケーシング40の側面を覆う部材がケーシングに含まれること
は明記されていない。しかし、一方で、本件明細書1において、「ロール部材2
0は、その端部がケーシングの内壁に取り付けられており」(【0046】)、「ケ
ーシングに取り付けられた突起具48」(【0058】)などとされており、ケーシ
ング40の側面を覆う部材がケーシングを構成することを前提とした記載がな\nされている。また、本件訂正後発明1に係る請求項1は、ケーシングに関し、「ス
クリーンシート、ロール部材及び長尺部材を収納するケーシングを更に有して成
り、」、「ケーシングはスクリーンシートの巻き出しおよび巻き取りのための開
口部を有し、」と記載されているに留まり、開口部を有することを除いて、ケー
シングの意義について特段の限定を加えるものではない。そうすると、本件訂正
後発明1において、ケーシングとは、スクリーンシート等の部材を外側から覆う
部材であると解するのが相当であり、このうち側面部分についてのみケーシング
から除外するべき理由はない。
また、被告は、被告製品を設置面側から観察することを前提として(別紙「写
真目録」の写真4参照)、被告製品について、キャップの縁どりとケーシングの
縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラーの半分以上がはみ\n出した構造である旨を主張するものと解されるが、同目録の写真1ないし3から\nすると、被告製品の押さえローラーはケーシング(本体ケース及びキャップを含
む。)の開口部を含めたケーシングの内部に大部分が入れられているものと認め
られ、ケーシングにしまわれている状態にあるといえる。押さえローラーがケー
シングにしまわれている状態か否かは、投影面側又は設置状態における側面側を
含む被告製品の全体を観察して判断すべきであって、使用状態において視認され
ない設置面側からの観察に限定すれば押さえローラーがケーシングから多くは
み出しているように見えるからといって、ケーシングにしまわれている状態にな
いと判断する合理的理由はない。
・・・
(3)ア 本件訂正後発明1と引用発明1−1とを比較すると、引用発明1−1
の 1a〜1e の各構成は、本件訂正後発明1の各構\成要件とそれぞれ一致するもの
と認められる。
イ これに対し、原告は、引用発明1−1においては、開口部からスクリーン
本体4を巻き出す又は巻き取る際には、スムーズな巻き出し又は巻き取りを可能\nにし、スクリーンシートを傷付けることを防止するために押さえ部5を、敢えて、
被磁着体90から離した態様(第1配置態様)で行うものであって、押さえ部5
を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体4を巻き出す又は巻き取る
という技術的思想はないことを指摘し、1)本件訂正後発明1では、長尺部材が「非
使用時並びに巻き出し時及び巻き取り時において、ケーシングに収納されて」(構\n成要件 1D-1)いるのに対し、引用発明1−1においては、押さえ部5が収納ケー
ス2に「収納」されていない、2)本件訂正後発明1では、長尺部材が「ロール部
材の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」(構成要件 1D-4)ているのに対し、
引用発明1−1においては、押さえ部5は巻取りロール3の下側ロール胴部分に
隣接した位置から離れないよう設置されているものではないとして、引用発明1
−1は、本件訂正後発明1の構成要件 1D-1 及び 1D-4 において相違する旨を主張
する。
しかし、乙10公報記載の特許請求の範囲請求項2において、「押さえ部」は、
「前記張設されたスクリーン本体における前記巻取りロールに近接した部位を
・・・被磁着体側に向けて押さえ付け得るものとなされている」ところ、同請求項2
では、「前記収納ケースに取り付けられた押さえ部と、を備え」と特定されてい
るに留まり、収納ケースに対し押さえ部が可動か否かについては記載されていな
い。一方、同請求項2に従属する乙10公報記載の特許請求の範囲請求項3では、
「前記押さえ部は、前記収納ケースに対し移動可能に取り付けられ」と押さえ部\nが可動であることが明記されている。また、乙10公報には、請求項2の発明の
効果として、押さえ部によって、巻取りロールに近接した部位をも被磁着体に磁
着させた状態でスクリーン本体を張設することができ、張設されたスクリーン本
体のスクリーン層の略全面を有効面として使用することができる旨が記載され
ている(【0019】)一方、請求項3の発明の効果として、収納ケースに対し移動
可能に取り付けられた押さえ部を移動させ、被磁着体から離れた第1配置態様に\nすることで、スクリーン本体の引き出し操作、巻き取り操作をスムーズに行うこ
とができ、被磁着体に近接した第2配置態様にすることで、スクリーン本体にお
ける巻取りロールに近接した部位を幅全体にわたって被磁着体側に向けて押さ
え付けることができる旨が記載されている(【0020】)。これらの乙10公報の
記載内容に照らすと、引用発明1−1において、押さえ部は、スクリーン本体の
巻取りロールに近接した部位をも被磁着体側に向けて押さえ付けるとの機能を\n有し、被磁着体に磁着させた状態で張設されたスクリーン本体の略全面を有効面
として使用することができるとの効果を奏するものとされるのであるから、引用
発明1−1には、押さえ部5を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体
4を巻き出す又は巻き取るという技術思想が表れているといえるし、また、乙1\n0公報記載の特許請求の範囲請求項2には、押さえ部が移動可能でないものが含\nまれると解するのが相当である。そして、乙10公報の図1、2からすると、押
さえ部5を移動可能でないものとした場合において、押さえ部は収納ケース2に\n収納されているものと認められる。なお、乙10公報上、実施形態や他の実施形
態では、収納ケース又はケース本体に対して押さえ部又は可動体の先端部が可動
なもののみが記載されているが(【0029】)、請求項2との関係においては、付
加的な効果を奏する実施例の一つにすぎず、前記認定を左右するものではない。
以上によれば、引用発明1−1において、押さえ部5が収納ケース2に収納さ
れる構成、及び、押さえ部5が巻取ロール3の下側ロール胴部分に隣接した位置\nに固定して設置された構成を有するものと認められ、本件訂正後発明1の構\成要
件 1D-1 及び 1D-4 と一致する。
◆判決本文
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2022.05.12
令和3(ネ)10072 特許権侵害行為差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年4月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁1部は、共同侵害あり、無効理由なしとした1審判断を維持しました。
前記(1)の認定事実によれば、1)控訴人アンカー及び控訴人ジョウズは、
いずれも中国法人の中国アンカー社を中核企業とする国際的な企業グル
ープ「Ankerグループ」の日本法人であり、控訴人ジョウズの全株
式は、中国アンカー社の完全子会社である POWER MOBILE LIFE、 LLC が
保有していること、2)控訴人ジョウズの設立当時(平成30年2月28
日)の代表取締役は、控訴人アンカーの代表\取締役と同一人(A)であ
ったこと、3)控訴人ジョウズの本店所在地のオフィスの利用契約は、控
訴人アンカーが契約し、同年4月16日、控訴人ジョウズに契約上の地
位が譲渡されたものであり、かつ、利用契約上の利用者はA1名のみで
あること、4)令和元年9月時点の控訴人ジョウズの従業員数は2名であ
り、そのうちの1名のBは、平成30年4月から平成31年4月末まで
控訴人アンカーに在籍し、令和元年5月から控訴人ジョウズに在籍して
いたこと、5)控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、控訴人ジョウズ設立
日の翌日の平成30年3月1日付けで、控訴人ジョウズが控訴人アンカ
ーに対し、控訴人ジョウズの喫煙具製品の開発補助業務及びそれに付随
する一切の業務、喫煙具製品のマーケティング及びそれに付随する一切
の業務、会計事務及び経営管理に関する一切の業務、その他控訴人ジョ
ウズと控訴人アンカーの協議の上決定された業務の全部又は一部を委託
する旨の本件業務委託契約を締結したこと、6)被告製品は、同年6月以
降、控訴人ジョウズのウェブサイトで販売が開始され、同年11月当時
には、アマゾンサイト及び楽天市場のサイトで、控訴人ジョウズを販売
者として販売されており、また、被告製品の輸入手続は、控訴人ジョウ
ズを輸入者として行われたこと(乙14、37)、7)アマゾンサイトでは、
被告商品について、「米国・日本・欧州のEC市場において、スマートフ
ォン・タブレット関連製品でトップクラスの販売実績を誇る『Anke
r』のサポートのもと、精密かつ均一な温度管理と・・・最適な加熱環境を
作り出し、たばこ本来の香りと味を忠実に再現」などと紹介され(甲4
の1、5の1)、また、Ankerグループのオフィシャルストアの海外
のウェブサイトでは、被告製品が「Anker Jouz 20」など
として販売されていたこと(甲14)、8)被告製品1及び2の記者発表に\n関する同年6月20日付け記事等(甲13の1ないし4)には、「Ank
erグループが技術的にサポートしたことから、アンカー・ジャパンの
A社長がジョウズ・ジャパンの代表取締役を兼任する」などと掲載され、\n被告製品3の記者発表に関する2019年(平成31年)4月9日付け\n記事(甲32)には、当時控訴人アンカーの従業員であったBが「ジョ
ウズ・ジャパン株式会社事業戦略本部マネジャー」との肩書きでプレゼ
ンテーションを行ったことが掲載されたことが認められる。
上記認定の控訴人ジョウズと控訴人アンカーの人的及び物的な結合関
係(1)ないし4))、控訴人ジョウズの控訴人アンカーに対する本件業務委
託契約に基づく委託業務の範囲が控訴人ジョウズの業務全般にわたって
いること(5))、被告製品の広告宣伝の態様(7)、8))その他前記(1)認定
の諸事情を総合考慮すると、控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、被告
製品の販売等に関し、緊密な一体関係があるものと認められるから、被
告製品の販売及びその輸入手続が控訴人ジョウズ名義で行われていたこ
と(6))を勘案しても、控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、平成30
年6月以降、共同して被告製品の販売等を行っていたものと認めるのが
相当である。
そして、被告製品は、被告方法の使用に用いる物であって、本件発明
1による「課題の解決に不可欠なもの」に該当することは、前記のとお
りであるところ、控訴人らは、遅くとも、本件仮処分命令の送達により、
本件発明1が特許発明であること及び被告製品が方法の発明である本件
発明1の実施に用いられることを知ったものと認められるから、控訴人
らによる被告製品の上記販売等の行為は、本件発明2に係る本件特許権
の侵害(直接侵害)に該当するとともに、本件発明1に係る本件特許権
の間接侵害(特許法101条5号)に該当するものと認められる。
したがって、控訴人らについて本件特許権侵害の共同不法行為が成立
するものと認められる。
・・・
そこで検討するに、本件業務委託契約書には、控訴人ジョウズは控訴人
アンカーに対し業務委託料として毎月100万円に消費税相当額を加算
した額を支払う旨の条項(5条1項)があり、同条項によれば、控訴人ア
ンカーの業務委託料は固定額であるといえるが、一方で、前記(2)認定のと
おり、控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、被告製品の販売等に関し、緊
密な一体関係があるものと認められるから、控訴人アンカーの業務委託料
が固定額であるからといって、控訴人アンカーが被告製品の販売等に関す
る業務を一切行っていないということはできない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和2(ワ)4332
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◆令和1(行ケ)10174
◆判決本文
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2022.04.23
令和2(ワ)19920等 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年1月19日 東京地方裁判所
医薬品の用途発明について、請求項1,2については、実施可能要件・サポート要件違反として訂正が認められず、請求項3,4については均等侵害も否定されました。
医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されるこ\nとのみによっては,当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該\n医薬を当該用途に使用することができないから,医薬の用途発明において
実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明にその医薬の\n有用性を当業者が理解できるような薬理試験結果を記載する必要がある
が,前記判示のとおり,本件明細書等には,本件化合物が神経障害性疼痛
又は心因性疼痛による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの治療に有効である
と当業者が理解し得るような薬理試験結果の記載は存在しない。
(3) 本件特許出願当時の技術常識
ア 本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛による痛覚過敏又は接
触異痛に対して有効であれば,神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接
触異痛についての薬理試験を要することなく治療効果が予測されること\nを明示又は示唆する技術常識の記載は存在しない。また,侵害受容性疼痛,
神経障害性疼痛,心因性疼痛などの種類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛
などの痛みの発症原因や機序が同一であり,いずれかの種類の痛みに対し
て有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても有効であることが本
件特許出願当時の当業者に知られていたなどの記載もない。
・・・・
上記各文献は,本件の技術分野に属する専門家により執筆されたもので
あり,その当時の技術常識を反映した書籍であるというべきところ,上記
に摘示した各記載によれば,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性
疼痛は,その発症原因,痛みの態様・程度及び治療方法がそれぞれ異なる
というのが本件特許出願当時の技術常識であり,痛みの種類を問わず,痛
覚過敏又は接触異痛などの痛みの発症原因や機序は同一であり,いずれか
の種類の痛みに対して有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても
有効であるとの技術常識が存在したということはできない。
ウ 以上によれば,本件化合物が神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接
触異痛の痛みの治療に有効であることを示す薬理試験結果の記載もなく,
本件明細書等の記載に接した当業者が,本件化合物がこれらの痛みの治療
に有効であると認識し得たとは考えられない。
(4) したがって,本件明細書等の記載は訂正前発明1及び2を当業者が実施で
きる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできず,実施可\n能要件を充足しない。\n
(5) 原告の主張について
これに対し,原告は,本件特許出願当時,慢性疼痛は,それが侵害受容性
疼痛,神経障害性疼痛又は心因性疼痛のいずれによるものであっても,末梢
や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛\nの痛みであるとの技術常識が存在したので,当業者は,本件明細書等の記載及
び同明細書等に記載された薬理試験から,本件化合物が同明細書等に記載さ
れた各種の痛みに有用であると認識することができたと主張する。
・・・・
(オ) 以上によれば,上記(ア)ないし(ウ)の各記載から,侵害受容性疼痛,神
経障害性疼痛等で出現する痛覚過敏と,脊髄のNMDA受容体の活性化
による中枢性感作との間に関連性があるといい得るとしても,本件特許
出願当時,本件明細書等に記載された侵害受容性疼痛(炎症性疼痛,術
後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,痛風,火傷痛等)や神経障害性
疼痛(三叉神経痛,急性疱疹性神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギ
ー等)により出現する痛覚過敏がすべて末梢や中枢の神経細胞の感作と
いう神経の機能異常により生じるとの技術常識が存在したとは認め難\nく,まして,これらの記載から,当業者が,薬理試験結果の記載もなく,
本件化合物が神経障害性疼痛の治療に有効であると認識し得たという
ことはできない。
・・・・
原告は,被告医薬品が構成要件3B及び4Bの文言を充足しない場合であっ\nても,均等侵害が成立すると主張する。
しかし,相手方が製造等をする製品(対象製品)が,特許請求の範囲に記載
された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属すると認められる\nためには,当該対象製品が特許請求の範囲に記載された構成と異なる部分が特\n許発明の本質的部分ではないことを要する(第1要件)。
本件発明3及び4と被告医薬品との相違部分は,その用途にあるところ,同
各発明は,既知の薬物である本件化合物が,侵害受容性疼痛の治療に有効であ
ることを新たに見出したことにあるので,その用途が同各発明の本質的部分を
構成することは明らかである。\nしたがって,被告医薬品は,第1要件を充足しないので,均等侵害は成立し
ない。
7 まとめ
以上によれば,訂正前発明1及び2に係る特許は,実施可能要件及びサポー\nト要件の各違反を理由に特許無効審判により無効にされるべきものであり,本
件訂正は訂正要件を具備せず,同訂正によっても上記各無効理由が解消されな
い。また,被告医薬品は,本件発明3及び4の技術的範囲に属しない。
◆判決本文
特許権は同じく、被告が異なる事件です。
◆令和2(ワ)19932
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2022.04.13
令和3(ネ)1005 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年2月10日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
空調服の特許について、1審は侵害を認めました。1審被告は控訴しましたが控訴は棄却されました。1審(東京地裁29部)は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。控訴審も覆滅割合は同じです。また、1審は、侵害論が終わってからの無効主張について、時期に後れたと判断しましたが、控訴審も同様です。
前記ア及びイの認定事実によれば,本件各発明が被告各製品の部分
にのみ実施されていること,電動ファン付きウェアの市場において,
他社の販売する被告各製品の競合品が存在していたことは,本件推定
の覆滅事由に該当するものと認められる。
そして,本件推定の上記覆滅事由に加えて,1)前記アで説示した
とおり,本件各発明は,空調服の襟後部と首後部との間に形成される
開口部の大きさを襟後部の内表面に設けた一組の調整紐で調整する従来技術における一組の調整紐を,取付部を有する二つの調整ベルトに\n置き換えて,一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数あ
る取付部のうちいずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首
後部との間に形成される開口部の大きさを調整することを可能にし,より適切な空調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したもの\nであり,開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の
延長線上に位置づけられるものであること,本件特許の出願当時,ボ
タン及びボタンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で
調整することは,周知慣用の技術であったことに照らすと,本件各発
明の技術的意義は必ずしも大きいものとはいえず,その作用効果も従
来技術と比較して大きなものとは認められないから,被告各製品にお
いて本件各発明を実施した部分の顧客吸引力は高いものとはいえない
こと,2)電動ファン付きウェアの市場における一審原告,一審被告及
び競業他社のシェアの割合(前記イ(ア)),3)一審被告における被告
各製品の広告宣伝の態様(甲3の1,6,乙57等)を総合考慮する
と,被告各製品の購買動機の形成に対する本件各発明の寄与割合は1
0%と認めるのが相当であり,上記寄与割合を超える部分については
被告各製品の限界利益の額と一審原告の受けた損害額との間に相当因
果関係がないものと認められる。
したがって,本件推定は上記限度で覆滅されるものと認められる
から,特許法102条2項に基づく一審原告の損害額は,被告各製品
の限界利益の額(5652万1465円)の10%に相当する565
万2147円と認められる。
・・・
当裁判所は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,一審
被告が同年7月9日付け控訴理由書に基づいて提出した「無効理由5ないし9」
に基づく無効の抗弁(同理由書第3ないし第6記載)及び権利の濫用の抗弁
(同理由書第8記載)の主張について,一審原告の申立てにより,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが,その理由は,以下のとおりで\nある。
(1) 一件記録により認められる本件訴訟の経緯等は,次のとおりである。
ア 一審原告は,平成30年7月6日,原審に本件訴訟を提起した。
一審被告は,同年11月12日の原審第1回弁論準備手続期日におい
て,同年10月31日付け被告第1準備書面に基づいて,本件各発明
(請求項3及び9)に係る本件特許に明確性要件違反の無効理由(本件
の争点2−1)が存在するとして,特許法104条の3第1項の無効の
抗弁を主張した。その後,一審被告は,平成31年3月7日の原審第3
回弁論準備手続期日において,同年2月28日付け被告第3準備書面に
基づいて,上記無効の抗弁について,乙2公報を主引用例とする新規性
欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点2−2及び2−3)を追加
して主張した。
一審原告及び一審被告は,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備
手続期日において,侵害論についての主張立証は終了した旨陳述した。
その後,本件訴訟は,同年7月19日の原審第6回弁論準備手続期日
から,損害論の審理に入った。
イ 株式会社サンエスは,令和2年10月15日,本件特許のうち,請求項
3ないし10に係る特許について,明確性要件違反(無効理由1),冒
認出願又は共同出願要件違反(無効理由2),公然実施発明(結び紐タ
イプの空調服に係る発明)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由3),
乙2公報を主引用例とする進歩性欠如(無効理由4)(ただし,本件の
争点2−3とは,乙2公報記載の発明の内容,副引用例等の主張が異な
る。)を無効理由として特許無効審判(無効2020−800103号
事件。以下「別件無効審判」という。乙104)を請求した。
ウ 一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回弁論準備手続期日に
おいて,同月16日付けの被告第10準備書面に基づいて,本件各発明
に係る本件特許に別件無効審判の無効理由1ないし4と同一の無効理由
が存在するとして,新たな無効の抗弁の主張をした。
原審は,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日において,一
審原告の申立てにより,被告第10準備書面で追加された上記無効の抗弁の主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下した。\n原審は,令和3年1月28日の第16回弁論準備手続期日で弁論準備
手続を終結した後,同年2月26日の原審第2回口頭弁論期日において
口頭弁論を終結し,同年5月20日,一審原告の請求を一部認容する原
判決を言い渡した。
エ 一審被告は,令和3年5月20日,本件控訴を提起し,一審原告は,同
年6月3日,本件附帯控訴を提起した。
一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年
7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に「無
効理由5」(別件無効審判の無効理由2と同じ),「無効理由6」(別
件無効審判の無効理由3と同じ),「無効理由7」(別件無効審判の無
効理由4と同じ),「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理
由9」(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加し,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。\nこれに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一
審被告の「無効理由5ないし9」に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の
抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却
下を求める旨の申立てをした。
オ なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8
日)において,特許庁に係属中である。
(2) 前記(1)の事実関係によれば,1)一審被告は,原審において,平成31年
3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許
に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進
歩性欠如の無効理由(本件の争点2−1ないし2−3)が存在するとして無
効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手
続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年
7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に
入ったこと,2)その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回
弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無
効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の
主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日にお
いて,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこ
と,3)一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,
控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理
由2ないし4と同じ無効理由である「無効理由5ないし7」,原審で主張し
なかった「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理由9」(実施可
能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権利の濫用の抗弁の主張をしたこと,4)別件無効審判は,当審の本件口頭弁論
終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審に
おいて適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和
元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証
は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する「無効理由5ないし9」
に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて,
やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審におけ
る上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重
大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべき
である。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗
弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の
機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得るこ
とから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。
そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1
項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下
したものである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)21900
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2022.04.10
平成30(ワ)4329等 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月18日 東京地方裁判所
二重まぶた形成用テープの特許権侵害で約2億4000万円の損害賠償が認められました。
◆原告のウェブサイトには本件を含めて経緯が開示されています。
争点は、技術的範囲の属否、無効(104条の3)、損害額の認定、覆滅の程度などです。
被告らは、原告製品の売上げが伸びずに損害が発生したのは、原告製
品及び被告各製品の競合品であるマイクロファイバー及びオリシキの販
売が開始されたからであり、特にマイクロファイバーは販売開始から現
在に至るまでに270万個が販売されるほどの人気商品であると主張す
る。しかし、マイクロファイバー及びオリシキが販売されたのは、平成3
0年3月又は同年11月以降であり、前記(1)イ(ア)のとおり、被告各製
品の販売による本件特許権の侵害が認められた期間の一部にすぎない。
また、証拠(甲82)によれば、ドン・キホーテにおける原告製品の
販売はその販路全体の一部にすぎないと認められるところ、二重瞼形成
用アイテムの市場又はそのうち収縮食い込み型の商品の市場における原
告製品及び被告各製品の各シェアがどの程度のものであったかを認める
に足りる的確な証拠はない。
さらに、証拠(乙75)及び弁論の全趣旨によれば、令和3年1月頃、
マイクロファイバーの広告には「累計販売数270万個突破」と記載さ
れていることが認められるが、二重瞼形成用アイテムの市場又は収縮食
い込み型の商品の市場において販売された商品全体の個数が明らかでは
ないから、上記の記載のみによってシェアを認定することはできないし、
前記(1)イ(ア)のとおり、マクロファイバーの販売が開始されたのは、被
告各製品の販売により本件特許権が侵害されたと認められる期間の半ば
頃である上、マイクロファイバーの販売個数の推移も明らかではない。
以上によれば、マイクロファイバー及びオリシキが販売されていたこ
とのみをもって、推定の覆滅を認めるのは相当でない。
もっとも、前記(ア)a及びdのとおり、二重瞼形成用アイテムには接着
型、シャッター型及び収縮食い込み型が存在し、ドン・キホーテにおけ
る販売数を見ても、原告製品、マイクロファイバー及びオリシキのほか
にも、接着型の二重瞼形成用アイテムが相当数販売されており(ただし、
商品ごとに、これを1個購入することにより、どの程度の期間、二重瞼
を形成することができるかなどの条件が異なると考えられるため、販売
数を単純に比較することはできない。)、需要者は、収縮食い込み型の
被告各製品を購入することができない場合、同じく二重瞼形成用アイテ
ムである接着型の商品やシャッター型の商品を購入することも十分に考えられる。そうすると、原告製品及び被告各製品の競合品が存在することに基づき、法102条2項により推定される損害額の10%について\n推定の覆滅を認めるのが相当である。
◆判決本文
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2022.04. 8
令和1(ワ)5620等 特許権侵害差止等請求事件、不正競争行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月24日 大阪地方裁判所
CS関連発明について、キッティング作業を行うことでいずれかのプログラムが解放されて稼働するコンピュータについて、起動していない製品については、特101条の「その物の生産に用いる物」「その物の生産にのみ用いる物」ではないと判断されました。
イ 特許法101条1号について
間接侵害について検討するに、特許法101条1号の「その物の生産にのみ用い
る物」とは、抽象的ないし試験的な使用の可能性では足らず、社会通念上、経済的、\n商業的ないしは実用的観点からみて、特許発明に係る物の生産に使用する以外の他
の用途がないことをいうと解するのが相当である。
被告製品2)には、被告システムに使用される以外に、社会通念上、経済的、商業
的ないしは実用的であると認められる他の用途があるとはいえないから、被告製品
2)は「その物の生産にのみ用いる物」に該当する。
被告らは、被告製品には、本件仕様2)のみならず、本件仕様1)及び3)があること、
被告製品は蒸気タービン発電システムの計測器として使用されていること、被告製
品のメイン基板として使用されているコンピュータは汎用的な小型コンピュータで
あることから、拡張ボードと組み合わせることにより種々の用途に使用することが
できることを指摘して、被告製品には他の用途がある旨を主張する。
しかし、被告システムに使用され、本件特許権侵害が問題となるのは被告製品のうち本件仕様2)に係るプログラムが現に稼働したものに限られるところ、前提事実(4)及び前記2
(1)のとおり、被告製品にインストールされている本件仕様1)〜3)に係るプログラ
ムに対してキッティング作業を行うことでいずれかのプログラムが解放されて稼働
することになるが、同作業は被告フィールドロジック以外の者が行うことができず、
いったん設定された仕様の変更も、被告フィールドロジックが特殊ツールを使って
同作業を行い、再設定済みの機器を現地に送付するほかないのである。
そうであれば、本件仕様2)が稼働していない被告製品(本件仕様1)ないし3)のいずれも稼働していない製品も含む。)に関しては、被告システムに使用されるとはいえないから、「その物の生産にのみ用いる物」(特許法101条1号)ないし「その物の生産に用いる物」(同条2号)に該当するとはいえない。
また、本件仕様1)ないし3)のいずれも稼働していない被告製品について、顧客の要望に応じて被告フィールドロジックが本件仕様1)又は3)に係るプログラムを解放する可能性はあり、そのような態様での被告製品の使用が、社会通念上、経済的、商業的ないしは実用的な用途でないとも認められない。\n
一方、本件仕様2)に係るプログラムが現に稼働した被告製品2)については、前記のとおり、被告システムに使用されるものと認められるところ、被告製品2)の使用を続けながら、本件仕様1)又は3)に係るプログラムが稼働する使用を行うことはできないから、かかる使用を被告製品2)の他の用途ということはできないし、その他、被告らが指摘する用途は、いずれも被告製品2)の用途以外のものであるから、被告らの主張は採用できない。なお、被告らは、被告製品のうち本件仕様2)を稼働させた場合、太陽光発電システムのほかにも風力発電システム及び小水力発電システムにも使用される旨を主張するが、これを裏付ける証拠はなく、実用的な用途であるとは認められない。
ウ 前記イのとおり、本件仕様2)が稼働していない被告製品は、特許法101条
2号の「その物の生産に用いる物」に該当しない。また、本件仕様2)が稼働してい
る被告製品2)については、同号に基づく間接侵害の成否を検討するまでもなく、前
記イのとおり、同条1号に基づく間接侵害が成立するものと認められる。
◆判決本文
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2022.03.30
令和2(ワ)19931等 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年2月16日 東京地方裁判所
医薬用途発明の特許権侵害訴訟です。東京地裁(29部)は、本件発明1,2については実施可能要件・サポート要件違反の無効理由ありと判断しました。また、本件発明3,4について、均等侵害も否定しました。本件発明1,2は特許庁で訂正要件を満たさないと判断されており、審決取消訴訟に係属しています。本件発明3,4は特許庁で訂正が認められています。
いわゆる医薬用途発明においては,一般に,当業者にとって,物質名,
化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのた\nめの当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該発明に係る医薬\nを当該用途に使用することができないから,そのような発明において実施
可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの\n記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,当該用途の
有用性及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載を要するものと解
するのが相当である。
本件発明1及び2の特許請求の範囲においては,本件化合物が「痛みの
処置における」(構成要件1B)「鎮痛剤」(構\成要件1C)及び「鎮痛
剤」(構成要件2C)として作用することが記載されているところ,いず\nれも本件化合物の鎮痛効果が認められる痛みは特定されていない。しかし,
本件明細書には,本件化合物について,「痛みの処置とくに慢性の疼痛性
障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定さ
れるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,
三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザ
ルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,
線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障
害および特発性疼痛症候群が包含される。」(前記1(1)イ)と記載されて
いることに照らすと,本件発明1及び2は,本件化合物が少なくとも上記
各痛みに対して鎮痛効果を有することを内容とするものと解される。
したがって,本件発明1及び2について実施可能要件を満たすというた\nめには,本件明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと
同視し得る程度の記載をすることなどにより,上記各痛みに対して鎮痛効
果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載が必要であ
るというべきである。
・・・
前記(ア)の各文献の記載によれば,本件出願当時,術後疼痛試験は,ラ
ットの皮膚,筋膜及び足蹠の足底側面の筋肉を切開することにより,痛
覚過敏を引き起こし,これに対する薬剤の効果を確かめる試験であるこ
とが,技術常識であったと認められる。
そして,本件明細書には,「S−(+)−3−イソブチルギャバ」\n(弁論の全趣旨によれば,構成要件3Aを充足する本件化合物の一種で\nあると認められる。)が術後疼痛試験において有効であったことが記載
されており,さらに,「ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触
異痛を生じた。いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達
し,3日間維持された。実験期間中,動物はすべて良好な健康状態を維
持した。」(前記1(1)キ(キ)),「ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉
の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏および接触異痛を誘発するこ
とを示している。本試験の主要な所見は,ギャバペンチンおよびS−
(+)−3−イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対して\nも等しく有効なことである。」(同(コ))との記載がある。
以上によれば,本件出願当時,本件明細書の術後疼痛試験の結果に接
した当業者は,本件化合物について,侵害受容性疼痛としての熱痛覚過
敏及び接触異痛に対して有効であると理解し,その他の痛みに対して有
効であると理解することはなかったというべきである。
・・・
ア 被告医薬品が本件発明3の構成と均等なものであるかについて\n
(ア) 原告は,本件発明3は,慢性疼痛に対する画期的処方薬として,抗て
んかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだ
したものであり,その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用い
る点にあるから,対象となる痛みが侵害受容性疼痛か,神経障害性疼痛
や線維筋痛症かは本質的部分ではなく,効能・効果を神経障害性疼痛や\n線維筋痛症に伴う疼痛とし,慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告
医薬品は,均等侵害の第1要件を満たすと主張する。
しかし,前記1(1)アのとおり,本件特許に係る発明は,てんかん,ハ
ンチントン舞踏病等の中枢性神経系疾患に対する抗発作療法等に有用な
薬物である本件化合物が,痛みの治療における鎮痛作用及び抗痛覚過敏
作用を有し,反復使用により耐性を生じず,モルヒネと交叉耐性がない
ことに着目した医薬用途発明であるところ,前記2(1)イのとおり,本件
出願当時,痛みには種々のものがあり,その原因や機序も様々であるこ
とが技術常識であった。
そうすると,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発明
3において本質的部分というべきであり,その鎮痛効果の対象を異にす
る被告医薬品は,本件発明3の本質的部分を備えているものと認めるこ
とはできない。したがって,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載さ
れた構成中の被告医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でない\nということはできないから,被告医薬品は均等の第1要件を満たさない。
(イ) また,前記(1)アによれば,原告は,本件訂正前発明3においては鎮痛
の対象となる痛みを限定していなかったところ,本件訂正により「炎症
を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」に限定していること
からすると,本件発明3との関係においては,被告医薬品の効能・効果\nである神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を意図的に除外したと
認めるのが相当である。
したがって,被告医薬品は均等の第5要件も満たさない。
(ウ) 以上によれば,被告医薬品は,本件発明3の特許請求の範囲に記載さ
れた構成と均等なものとは認められない。\n
イ 被告医薬品が本件発明4の構成と均等なものであるかについて\n
前記アと同様に,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発
明4の本質的部分というべきであり,被告医薬品は均等の第1要件を満た
さず,また,本件発明4との関係においては,被告医薬品の効能・効果で\nある神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛が意図的に除外されている
から,均等の第5要件も満たさない。
したがって,被告医薬品は,本件発明4の特許請求の範囲に記載された
構成と均等なものとは認められない。\n
◆判決本文
関連事件です。本件特許は同じですが、被告が異なります。なお、原告代理人はなぜか異なります。
◆令和2(ワ)19923等
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2022.03.16
令和2(ワ)22071 特許権に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年2月18日 東京地方裁判所
ユーグレナに対して、個人発明家が特許権侵害と300万円の損害賠償を求めました。早期審査と分割出願を繰り返しています。親出願は代理人がついていますが、分割出願は代理人無しです。本人訴訟です。裁判所はサポート要件違反として権利行使不能と判断しました。\n
2 争点2−3(サポート要件違反)について
事案にかんがみ,サポート要件に関する争点2−3から判断する。
(1) 判断枠組み
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特
許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲
に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な
説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の
ものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術
常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか
否かを検討して判断すべきであり,明細書のサポート要件の存在は特許権者
が証明責任を負うと解するのが相当である。
(2) 本件発明の課題
ア 【0006】には,本件発明の目的が「タンパク質を抽出できる液状化
粧品を提供すること」と記載されているにとどまり,界面活性剤の含有の
有無や含有量,界面活性剤がタンパク質の抽出に与える作用に関する記載
はない。
しかし,本件明細書において,【0006】は,【0005】とともに
「発明が解決しようとする課題」についての記載と位置付けられるとこ
ろ,【0005】には,「界面活性剤は,皮膚に負担をかけ,荒れ等を生
じさせ得るため,界面活性剤を使用していないか,又は,界面活性剤の
使用量が極少量である方法が求められていた。」との記載が存在する。そ
うすると,【0006】に記載された本件発明の目的は,【0005】に
記載された従来技術の課題の解決を踏まえたものと解釈するのが合理的
である。
加えて,【0011】には,本件発明に係る液状化粧品は,「有効成分を
所定量にて含有してなるタンパク質抽出剤の一態様を指すもの」である
との記載がある。そして,本件発明に対応する「第2のタンパク質抽出
剤」の「有効成分」について,【0037】では,「第2の高級アルコー
ル」及び「炭化水素」が挙げられている一方,界面活性剤は挙げられて
おらず,かえって,【0038】には,「本発明の第2のタンパク質抽出
剤は,界面活性剤を含まなくともよい。」との記載がある。また,上記の
「所定量」について,【0060】には,「第2のタンパク質抽出剤を液
状化粧品として使用する場合,「炭化水素」の含量としては,タンパク質
抽出剤(液状化粧品)の「全量」に対して3体積%以上含まれているこ
とが好適である。」,「炭化水素の濃度が低い場合には,タンパク質抽出剤
(液状化粧品)をより多く使用することにより,タンパク質の抽出は可
能である。しかし,炭化水素の含有量が全量に対して3体積%を下回る\nと,化粧品として実用的な範囲を上回る量を使用しなければならなくな
るため,好適ではない。」,「第2のタンパク質抽出剤を液状化粧品として
使用する場合,「第2の高級アルコール」の含量としては,「炭化水素」
の体積に対して1体積%以上含まれていることが好適である。」,「第2の
高級アルコールの濃度が低い場合には,タンパク質抽出剤(液状化粧品)
をより多く使用することによりタンパク質の抽出は可能である。しかし,\n第2の高級アルコールの含有量が炭化水素に対して1体積%を下回ると,
化粧品として実用的な範囲を上回る量を使用しなければならなくなるた
め,好適ではない。」との記載がある。
さらに,【0044】には,「第2の高級アルコール」を「炭化水素」と
組み合わせることによってタンパク質を抽出できる機序が記載されてい
るほか,【0065】には,本件発明の「タンパク質抽出剤は,界面活性
剤等を含まなくとも,優れたタンパク質抽出効果を奏する。したがって,
本発明のタンパク質抽出剤によれば,皮膚への負担を低減しつつ,所望
の洗浄効果が得られる。」との記載が存在する一方,界面活性剤がタンパ
ク質を抽出する作用ないし機序についての記載はない。
以上によれば,本件発明の課題は,単にタンパク質を抽出できる液状化
粧品を提供することと解することはできず,界面活性剤を使用していな
いか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出で
きる液状化粧品を提供することであると認めるのが相当である。
イ 原告は,本件発明の課題は,【0006】記載のとおり,タンパク質を
抽出できる液状化粧品を提供することであると解釈すべき旨を主張するが,
前記アで説示したところに照らし,採用することができず,このことは,
本件特許の出願経過において,原告が【0006】にあった「上記課題を
解決するためになされたものであり,」との記載を削除する補正をした事
実によっても左右されるものではない。
・・・
ウ 本件明細書に記載された実施例のうち,実施例13(【0149】)は,
角栓のある皮膚に対する洗浄効果に関するものであり,第2のタンパク質
抽出剤Aとして,約30体積%のオクチルドデカノールと,約60体積%
のスクアラン(スクワラン)を含むものが用いられている(【0141】)。
なお,実施例13の結果として,実際に毛穴に詰まった角栓を除去できた
ことに関する記載や示唆はない。
また,本件明細書に記載されたその余の実施例は,いずれも,角栓のあ
る皮膚に関するものではない。
エ 本件明細書には,炭化水素の含有量が全量に対して3体積%を下回る場
合及び第2の高級アルコールの含有量が炭化水素に対して1体積%を下回
る場合において,角栓除去の効果を奏することができるか否かに関する記
載や示唆はない。
(5) 検討
前記(2)のとおり,本件発明の課題は,界面活性剤を使用していないか又
は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化
粧品を提供することにあると認められるところ,前記(2)のとおり,本件明
細書の特許請求の範囲にはオクチルドデカノール及び炭化水素の含有量に関
する記載がないから,特許請求の範囲の記載上,上記課題を解決するために
必要となるオクチルドデカノール及び炭化水素の含有量について何ら限定は
ないと理解できる。
しかるに,前記(4)のとおり,本件明細書においては,タンパク質を抽出
する効果を奏する有効成分として,第2の高級アルコールであるオクチルド
デカノールと,リモネン,スクアレン,及びスクアランからなる群から選ば
れる1種類以上の炭化水素が特定されているところ,炭化水素の含有量がタ
ンパク質抽出剤の全量に対して3体積%を下回る場合及び第2の高級アルコ
ールの含有量が炭化水素に対して1体積%を下回る場合には,化粧品として
実用的なものではないことが記載されており,かつ,炭化水素及び第2の高
級アルコールの含有量が上記の数値を下回った場合に角栓を除去する効果を
奏することができるか否かについては何らの記載も示唆もない。
また,本件明細書には,本件発明に係る角栓除去用液状クレンジング剤に
よって実際に角栓を除去することができた旨の記載は見当たらない。これに
加えて,角栓のある皮膚を対象とする実施例13において用いられた,角栓
除去用液状クレンジング剤に相当する「第2のタンパク質抽出剤A」に含ま
れるスクアラン及びオクチルドデカノールの含有量は,それぞれ,全量の3
体積%及び炭化水素(スクアラン)に対する1体積%を大きく上回るもので
ある。
以上によれば,本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件明細書の発明の
詳細な説明の記載により,当業者が,本件発明に係る角栓除去用液状クレン
ジング剤のうち炭化水素の配合量が全量の3体積%未満又はオクチルドデカ
ノールの配合量が炭化水素の1体積%未満の範囲であっても,角栓除去作用
があり,前記(2)の課題を解決できることについて,認識することはできな
いというべきであり,本件全証拠によっても,本件明細書の発明の詳細な説
明の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし上記の本件発
明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めることはできな
い。
(6) 原告の主張について
ア 原告は,【0002】ないし【0005】の記載は,本件発明をするに
至った契機を記載したものにすぎず,【0006】は,こうした認識に端
を発して「タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供することを目的と」
してなされたものであることが記載されているものにすぎない旨を主張す
る。
しかし,前記(2)アで説示したところによれば,本件発明の課題が単に
タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供することに限定されると解す
ることはできない。
イ 原告は,【0061】には液状化粧品に含まれるオクチルドデカノール
及びスクアランの含有量が少なくてもよいことが記載されているから,本
件発明が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている旨を主張する。
しかし,【0061】には,第2のタンパク質抽出剤を「液状化粧品」
に使用した場合の各成分の含有量について,実際の使用態様において
「好適な量」よりも薄い濃度で使用することを許容する旨が記載されて
いるにすぎず,オクチルドデカノール及びスクアランを「好適な量」含
有しない濃度において,タンパク質を抽出する作用及び角栓除去作用を
奏することができるかについては,何ら記載も示唆もされていない。し
たがって,【0061】の記載をもって,本件発明が本件明細書の発明の
詳細な説明に記載されたものであると認めることはできない。
ウ 原告は,【0061】には,水を含有する態様の第2のタンパク質抽出
剤(液状化粧品)において,炭化水素の配合量は水への溶解度以上の量で
あり,第2の高級アルコールの配合量は,炭化水素の体積に比し,1体
積%以上から200体積%以下の範囲内の量であると記載されているとこ
ろ,炭化水素であるスクアランは水に溶けないから,スクアランがわずか
でも含まれていればよいことが本件明細書の発明の詳細な説明に記載され
ている旨を主張する。
しかし,【0061】の直前の段落である【0060】には,第2のタ
ンパク質抽出剤を液状化粧品として使用する場合に,水を含有する態様
と含有しない態様とを区別することなく,炭化水素の配合量を定めるこ
とが記載されている。そして,これに続く【0061】も,【0060】
と同様,第2のタンパク質抽出剤を液状化粧品として使用する場合につ
いて説明したものであり,かつ,【0060】の記載内容を排斥する記載
はない。そうすると,【0061】は,【0060】の記載のとおり,炭
化水素が全量の3体積%以上含まれていることを前提とした記載と解釈
するのが相当である。
エ 原告は,本件明細書の実施例13には,スクワランとオクチルドデカノ
ールが含まれる第2のタンパク質抽出剤Aは,角栓のある皮膚に対する洗
浄効果,すなわち角栓除去効果が市販の石けんより高かったことが明らか
にされているから,その記載により当業者は本件発明の課題が解決できる
ことを認識できる旨を主張する。
しかし,実施例13には,角栓のある皮膚に対する洗浄効果の高さにつ
いての記載が存在するにとどまり,実際に毛穴に詰まった角栓が除去さ
れたことについては記載されていない。
◆判決本文
◆本件特許
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2022.03.15
令和2(ワ)22290等 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年1月19日 東京地方裁判所
医薬用途発明について、「各痛みに対して鎮痛効果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載がない」として、実施可能要件違反なので権利公使不能\と判断されました。
ア 実施可能要件違反の判断基準について
いわゆる医薬用途発明においては,一般に,当業者にとって,物質名,
化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予\測することは困難であり,当該発明に係る医薬を当該用途に使用することができないから,そのような発明において実施
可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載を要するものと解\nするのが相当である。
本件発明1及び2の特許請求の範囲においては,本件化合物が「痛みの
処置における」(構成要件1B)「鎮痛剤」(構\成要件1C)及び「鎮痛
剤」(構成要件2C)として作用することが記載されているところ,いずれも本件化合物の鎮痛効果が認められる痛みは特定されていない。しかし,本件明細書には,本件化合物について,「痛みの処置とくに慢性の疼痛性\n障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定さ
れるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,
三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザ
ルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,
線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障
害および特発性疼痛症候群が包含される。」(前記1(1)イ)と記載されて
いることに照らすと,本件発明1及び2は,本件化合物が少なくとも上記
各痛みに対して鎮痛効果を有することを内容とするものと解される。
したがって,本件発明1及び2について実施可能要件を満たすというためには,本件明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,上記各痛みに対して鎮痛効\n果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載が必要であ
るというべきである。
イ 痛みの分類及び機序について
(ア) 痛みの分類及び機序について,証拠(甲15の1,甲26,39,4
1,42,46,55,59,77ないし84,86,88)によれば,
本件出願当時,以下の文献が存在したことが認められる。
・・・
(イ) 前記(ア)aないしgの文献の記載によれば,痛みは,その機序により大
きく分けると,1)炎症や組織損傷による侵害レセプターへの刺激により
生じる侵害受容性疼痛,2)末梢神経又は中枢神経が圧迫されたり,絞扼
されたり,遮断されたりすることにより生じる神経障害性疼痛,3)直接
末梢からの侵害刺激がないにもかかわらず存在し,心因性のもので,特
発性疼痛とも呼ばれる心因性疼痛の三つに分類することができること,
線維筋痛症は,上記3)の心因性疼痛に分類されること,上記のとおりに
分類された痛みの中にも様々なものがあり,それぞれの痛みについて機
序や症状,治療方法が存在することが,本件出願当時,技術常識であっ
たと認めるのが相当である。
(ウ) これに対して,原告は,痛覚過敏及び接触異痛は,通常の痛みとは異
なり,末梢性感作や中枢性感作による神経の機能異常で生じる痛みであると主張し,その根拠として,本件出願当時に前記(ア)hないしlのとお
りの文献が存在したことを指摘する。
しかし,前記(ア)h,i,k及びlの各文献は,マスタードオイル,カ
プサイシン及び切開による侵害刺激を与える実験の結果に基づくもので
あるから,これらの実験により,痛覚過敏及び接触異痛が,その原因に
かかわらず,末梢性感作や中枢性感作による神経の機能異常により生じると,直ちにいうことはできない。
また,前記(ア)jの文献では,「NメチルDアスパラギン酸(NMDA)
受容体の過剰活性は,神経障害性疼痛の発生における要因の1つである
可能性がある。」,「動物の神経障害性疼痛モデルにおいて示唆されるように…,痛覚過敏は NMDA 受容体によって介在される「ワインドアップ
現象」の提示である可能性がある。」などと記載されているところ,これらの記載は,NMDA受容体の過剰活性が神経障害性疼痛の要因となること,あるいは痛覚過敏がNMDA受容体によって介在されるワイン\nドアップ現象(神経細胞の感作)によるものであることの可能性を指摘したにすぎず,これをもって,上記文献の記載内容が本件出願当時の技術常識であったということはできない。そして,他に,本件出願当時,痛覚過敏及び接触異痛がその原因にかかわらず末梢性感作や中枢性感作による神経の機能\異常で生じる痛みであることが技術常識であったと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
・・・
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明においては,ホルマリン
試験,カラゲニン試験及び術後疼痛試験の各薬理データの記載により,本
件化合物が侵害受容性疼痛に分類される痛みに対して鎮痛効果があること
及びそのための当該医薬の有効量は裏付けられているといえる。しかし,
本件発明1及び2がその内容とする「痛み」,すなわち,少なくとも「炎
症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急性疱
疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢
捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風,
幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛
症候群」(前記1(1)イ)の各痛みに対して鎮痛効果があること及びそのた
めの当該医薬の有効量を裏付ける記載はない。したがって,本件発明1及
び2は,実施可能要件に違反するものと認められる。\n
◆判決本文
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2022.03. 8
平成29(ワ)24942 特許権侵害に基づく不当利得返還等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年1月20日 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。CS関連発明について、広告収入に基づく損害賠償が認められました。
本件特許の請求項1は下記です。
通信ネットワークを介して、ウェブ情報をユーザ端末に提供するウェブ情報提供方法において、
ユーザ端末に接続されたアクセスポイントが該ユーザ端末に割り当てた前記アクセスポイントのIPアドレス、およびIPアドレスとアクセスポイントに対応する地域とが対応したIPアドレス対地域データベースを用いて、前記ユーザ端末に割り当てられたIPアドレスを所有するアクセスポイントが属する地域を判別する第1の判別ステップと、
前記判別された地域に基づいて、該地域に対応したウェブ情報を選択する第1の選択ステップと、
前記選択されたウェブ情報を、前記IPアドレスが割り当てられたユーザ端末に送信する送信ステップと、
を有したことを特徴とするウェブ情報提供方法。
被告方法等は,本件各発明の技術的範囲に属するものであるから,被告が被
告方法等を用いて行う地域ターゲティング広告等のサービスを提供する行為
は,本件特許権を侵害するものである。そして,被告はその侵害行為について
過失があったものと推定されるから(特許法103条),原告は,被告に対し,
その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が
受けた損害の額としてその賠償を請求することができる(同法102条3項)
ところ,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,
実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
また,不当利得返還請求については,同項の「受けるべき金銭の額に相当す
る額」は,本来,侵害者がその特許発明の実施に当たり特許権者に対して支払
うべきであった実施料相当額であるから,侵害者がこれを支払うことなく特許
発明を実施した場合は,その実施により,侵害者は同額の利得を得,特許権者
は同額の損失を受けたものと評価することができるから,同項の「受けるべき
金銭の額に相当する額」が不当利得(民法703条)における受益者の利得の
額に相当し,かつ,権利者の損失の額に相当すると認めるのが相当である(知
財高裁平成27年(ネ)第10488号,同第10088号同年11月12日
判決・判時2287号91頁参照)。
そこで,被告が被告方法等を使用して上げた売上高及び実施に対し受けるべ
き料率(相当実施料率)につき,以下検討する。
(2) YDN及びプレミアム広告について
ア YDN及びプレミアム広告の売上高
YDN及びプレミアム広告の売上高は,以下のとおりであると認められる。
(ア) YDNの売上高
証拠(乙25)によれば,原告主張の損害算定期間(平成19年7月2
5日〜平成30年6月26日)の売上高(消費税抜き。以下,売上高につ
き,特記なき限り同じ。)は,別紙売上高・損害額一覧表のとおりであり,\nYDNのエリアターゲティングを行っている部分の売上高総額は,●省略
●であると認められる(●省略●なお,端数処理の関係で1円の誤差が生
じている。)。
(イ) プレミアム広告の売上高
同様に,同期間のプレミアム広告のエリアターゲティングを行っている
部分の売上高総額は,●省略●であると認められる(●省略●)。
イ 相当実施料算定の基礎となる売上高の範囲
被告は,YDN及びプレミアム広告の売上高のうち,下記(ア)ないし(エ)に
係る各部分については,相当実施料算定の基礎となる売上高から除外すべき
であると主張するので,この点について検討する。
(ア) ●省略●について
被告は,本件各発明の技術的範囲には●省略●から,被告方法等におい
て,本件各発明の技術的範囲に含まれる部分があるとしてもそれは●省略
●であると主張する。
しかし,本件各発明にいう「アクセスポイントに対応する地域」等は,
特に●省略●ものではないので,相当実施料算定の基礎となる売上高を●
省略●理由はないというべきである。
(イ) スマートフォンを利用した売上部分について
被告は,スマートフォンの利用による売上げは相当実施料算定の基礎と
なる売上高から控除すべきであると主張する。
しかし,証拠(甲73・3頁)及び弁論の全趣旨によれば,スマートフ
ォンからインターネットのウェブサイトを閲覧する場合には,モバイル接
続(4G接続ないし3G接続)又はWi−Fi接続の2通りの方法があり,
自宅等のWi−Fi環境がある場所では,通信容量制限のあるモバイル接
続ではなく,Wi−Fi経由の接続を行うのが一般的であるところ,スマ
ートフォンによりWi−Fi接続を行う場合には,接続に用いられるIP
アドレスは自宅のWi−Fiに用いられるIPアドレスであり,この場合
には,本件各発明に基づくIPアドレスからアクセスポイントに対応する
地域を判別しているものと認められる。
他方で,モバイル端末からのインターネット接続(いわゆる4G接続な
いし3G接続)の場合に,IPアドレスからアクセスポイントに対応する
地域を判別することができないことは,原告が自認するところであるから,
相当実施料算定の基礎となる売上高は,かかる接続を利用しない場合(W
i−Fi経由での接続の場合)に限定することが必要であるというべきで
ある。
(ウ) ●省略●について
被告は,●省略●を控除したものとされるべきであると主張する。
a そこで検討するに,証拠(乙27)及び弁論の全趣旨を総合すると,
以下の事実を認めることができる。
●省略●
b 上記aで認定した事実によれば,被告方法等において,●省略●を控
除することが相当であるというべきである。
c これに対して,原告は,●省略●と考えられると主張するが,これを
認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(エ) 他のターゲティング機能に対応する部分について\n
被告は,「年齢」,「性別」,「行動履歴」など「地域」以外のターゲ
ティング機能に対する部分の売上げは,本件における相当実施料額の算定\nの基礎とならないと主張する。
この点,証拠(甲22,26)によれば,被告のYDNやプレミアム広
告においては,地域ターゲティングに加え,「時間帯」,「性別」,「年
代」,「行動履歴」等に基づくターゲティングも行われていることがうか
がわれるが,他方で,プレミアム広告の商品紹介(甲26)においては,
「エリアターゲティング」が最初に紹介され,また,被告の広告本部本部
長が,平成19年11月5日付けの日経マーケティングのウェブ上の記事
(甲27)において,1)被告は地域ターゲティングに力を入れており,I
Pアドレスなどの情報で地域ターゲティング広告ができるようになり,地
域限定のプロモーションや地域限定で企業活動をしている広告主もター
ゲットに入ってきたこと,2)地域ターゲティング広告に性別や年齢別など
によるデモグラフィックターゲティングも組み合わせればより効果的で
あること,3)地域ターゲティング広告は,中小企業,インフラを手がける
大手企業などの需要もあることなどを述べていることが認められる。
そうすると,地域ターゲティングは中心的な機能であり,他のターゲテ\nィング機能に比べてその重要性は高いというべきであり,また,これらの\n機能は重複して利用されることも多く,その寄与の度合いを個別に算定す\nることが困難であることにも照らすと,地域ターゲティング機能と関連の\nある売上高については,その全額を対象とするのが相当である。
ウ 相当実施料算定の基礎とすべき売上高
上記アのYDN及びプレミアム広告の売上高から,上記イに従って控除す
べき分を控除した額は,以下のとおりである。
(ア) YDNについて
証拠(乙25)によれば,YDNについて,●省略●となる。
(イ) プレミアム広告について
同様に,プレミアム広告については,●省略●となる。
(ウ) 以上によれば,本件特許権侵害による損害額の算定に用いるべき売上高
は,YDNにつき●省略●,プレミアム広告につき●省略●となる(それ
ぞれの各年度の内訳は別紙売上高・損害額一覧表の該当欄記載のとおり。)。\n
(3) スポンサードサーチについて
原告は,被告が提供するターゲティング広告に係るサービスのうち,スポン
サードサーチに係る売上高も相当実施料の算定の対象とすべきであると主張
するのに対し,被告は,スポンサードサーチにおいては本件各発明を実施して
いないから,その売上高は相当実施料の算定の対象外であると主張する。
ア そこで検討するに,●省略●ことが認められる。
しかし,他方で,●省略●本件各発明を実施して行われているとは認めら
れないので,スポンサードサーチに係る売上高も損害額算定の対象とすべき
であるとの原告主張を採用することはできない。
イ なお,原告は,スポンサードサーチが本件各発明の実施に当たらないとの
主張は時機に後れた攻撃防御方法に当たると主張するが,被告は,当初から,
原告主張のターゲティング広告の提供サービスが本件各発明の技術的範囲
に属することを否認していたこと,侵害論の審理においては●省略●が中心
的な争点であったこと,損害論の審理に入り,スポンサードサーチが実施料
算定の基礎となるかが争点となり,これを契機としてスポンサードサーチが
本件各発明の実施に当たるかどうかが問題となったことなどの本訴の経緯
に照らすと,被告の上記主張が時機に後れたものということはできない。
(4) 相当実施料率について
ア 相当実施料率の算定基準
特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の
額に相当する額」の算定に当たり,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特
許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合
には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の
価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)
当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の
態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れ
た諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである(知財高裁平成
30年(ネ)第10063号令和元年6月7日特別部判決・判時2430号
34頁参照)。
イ 実施料率等について
(ア) 証拠(甲30,79,100)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
を認めることができる。
a 原告は,あどえりあ社を通じて,本件特許に係るライセンス(通常実
施権の許諾。以下「本件ライセンス」という。)を行っている。
b 本件ライセンスの料金体系は,1)多数のウェブサイトやアプリ等に一
括で広告を配信するアドネットワーク事業を行う企業を対象とするア
ドネットワーク事業社用(甲30・2枚目),2)クライアントに対しシ
ステム等を使ってサービスを提供する企業を対象とするサービス提供
事業社用(同3枚目),3)自社でウェブサイトを運営する企業を対象と
するウェブサイト運営社用(同4枚目)の3種類がある。
c 上記1)(アドネットワーク事業社用)の料金は,登録料1万円(初年
度のみ)と,アドネットワーク事業社のクライアントに対する広告請求
金額に対する1.5%(親会社の業務を子会社が行う場合は3%)の割
合によるライセンス利用料である。
上記2)(サービス提供事業社用)の料金は,クライアントの特許利用
も含めたライセンスを受ける場合は,登録料1万円(毎年)と,サービ
ス提供事業社と各クライアントの間の月額契約料金の3%の割合によ
るライセンス利用料である。
上記3)(ウェブサイト運営社用)の料金は,当該ウェブサイトが50
00万PV以上で,かつ,自社サイト内の広告の地域ターゲティングを
行う場合は,登録料1万円(初年度のみ)及び基本利用料10万円(年
額)に加え,広告売上げの3%の割合によるライセンス利用料となる。
なお,ウェブサイト運営社が,当該ウェブサイト内で物品などの販売を
補助するサービスを行う場合は,更にビジネス利用料5000円〜(年
額)を要するとされている。
d 本件ライセンスの実績としては,アドネットワーク事業社用のライセ
ンス利用料につき1.5%で契約した例,サービス提供事業社用のライ
センス利用料につき3%で契約した例,ウェブサイト運営社用のライセ
ンス利用料につき1.5%で契約した例や,0.75%で契約した例が
ある。
(イ) 甲30のライセンス料金表の各類型の適用に関し,原告は,広告を掲載\nするサイトを基準とするもの,すなわち,自らのウェブサイトにおいて広
告を掲載する場合は3%であるが,他社のウェブサイトに広告を掲載する
場合は1.5%とするものであると主張するのに対し,被告は,広告の主
体を基準とするもの,すなわち,第三者の広告を請け負って掲載する場合
はアドネットワーク事業社用の条件に従って1.5%の料率が適用され,
自社の広告を掲載する場合は3%の料率が適用されると主張する。
甲30のライセンス料金表の各類型が適用される広告掲載サービスに\nついては,本件ライセンスに係る特許権者である原告が当然知悉している
と考えられるところ,アドネットワーク事業社用について他の場合より安
い料率が設定されることについての原告の説明,すなわち,他社のウェブ
サイトに広告を掲載する場合には別途広告枠を媒体社などから購入する
必要がありその費用が掛かるためにアドネットワーク事業社用では料率
を下げているとの説明や,それにもかかわらず親会社の業務を子会社が行
う場合は3%としたのは,アドネットワーク事業社である親会社が広告掲
載を自らの子会社の広告枠で行う場合には広告枠の購入費用は子会社に
支払われるために親子会社全体としてみれば費用支出がないからである
との説明は合理的であるといえる。
被告は,ウェブサイト運営者用のライセンス料金表に「EC(電子商取\n引)を含む,ウェブサイト内で物品などの販売を補助するサービス」が対
象となることが記載されていることをもって,ウェブサイト運営者用の実
施料率が3%であるのは,自社商品の広告表示を切り替えるといったサー\nビスを提供することを念頭に置いたものであると主張する。しかし,同サ
ービスを行う場合に発生するのはビジネス利用料であって,広告利用料で
はないので,上記の記載から,ウェブサイト運営者用のライセンス料金表\nが適用されるのは自社の広告を掲載する場合であると認めることはでき
ない。
むしろ,甲30・4枚目においては,ウェブサイト運営者用の「広告利
用料」は「広告売上の3%」と規定されているところ,ここに「広告売上」
と記載されているのは,他社の広告を自らのサイトで行うことにより広告
売上げを得る場合を想定としているからであると推認するのが自然かつ
合理的である。
そうすると,原告が主張するとおり,本件ライセンスにおけるライセン
ス料率は,自らのウェブサイトにおいて広告を掲載する場合は3%である
が,他社のウェブサイトに広告を掲載するなどして,広告枠を媒体社など
から購入する費用を生ずる場合には1.5%とするものであると認めるの
が相当である。
(ウ) 上記(イ)の説示を踏まえ,被告の地域ターゲティング広告が本件ライセ
ンスのいずれの類型に属するかにつきみるに,YDNのうち被告ウェブサ
イトに広告を掲載する部分及びプレミアム広告はウェブサイト運営社用
に当たるから,ライセンス料率は3%となり,YDNのうち他の提携ウェ
ブサイトに広告を掲載する部分はアドネットワーク事業社用に当たるか
ら,ライセンス料率は1.5%となるものと認められる。
この点につき,被告は,過去にウェブサイト運営社用に当たるにもかか
わらず0.75%や1.5%のライセンス料率が適用されたことがあるこ
とを指摘し,本件においてもこれらの料率を参考とすべきであると主張す
るが,証拠(甲100)及び弁論の全趣旨によれば,これらは原告とライ
センシーとの関係に基づき特別に減額されたものであることがうかがわ
れ,他にサービス提供事業社用の類型ではあるものの,原則どおりライセ
ンス料率を3%として契約した実績もあることからすれば,上記のとおり
認定するのが相当である。
ウ 実施料率を下げるべき他の事情について
●省略●
(イ) 被告は,被告自身の多数の特許を実施することによりウェブ広告の分野
において大きなシェアを獲得することができているのであるから,本件各
発明の相当実施料率の算定に当たってもこの点を考慮すべきであると主
張するが,被告がウェブ広告の分野において多数の特許を実施しているこ
とやそれが売上げに寄与していることは,本件特許の相当実施料率を算定
すべき上で考慮すべき事情ということはできない。
また,被告は,本件特許の相当実施料率の算定に当たり,被告が自身の
努力により●省略●を作成したことを考慮すべきであると主張するが,上
記と同様,この点も本件特許の相当実施料率を算定すべき上で考慮すべき
事情ということはできない。
(ウ) 被告は,甲20公報を引用し,本件各発明の「IPアドレス対地域デー
タベース」は「アクセスポイント側」の情報を用いるものであり,●省略
●含まないとした上で,原告の主張を前提とするのであれば,本件各発明
の価値・技術的意義は低いなどと主張する。
しかし,被告の上記主張は,データベースの構成と●省略●を誤解・混\n同するものであり,その前提において失当であり,また,本件各発明が公
知技術との関係で新たな技術的意義が存在しないということはできない。
むしろ,本件各発明は,IPアドレスを所有するアクセスポイントが属
する地域を判別し,判別した地域に対応したウェブ情報を選択して前記ユ
ーザ端末に送信する方法によって,同一URLにおいてもユーザの発信地
域ごとに異なるウェブ情報を送信することができるという効果を得る発
明であって,他にGPS等のシステムを用いることなく,ユーザ端末に割
り当てられたIPアドレスとIPアドレス対地域データベースを照合す
るという比較的簡易な方法によりユーザの発信地域の判別をすることが
できるものであるから,従来技術にはない新たな技術的意義を有するとい
うことができる。
(エ) 被告は,本件特許の相当実施料率の算定に当たり,地域ターゲティング
以外のターゲティング機能の効用を考慮すべきであると主張する。\nしかし,地域ターゲティングは中心的な機能であり,他のターゲティン\nグ機能に比べてその重要性は高いというべきであり,また,これらの機能\
は重複して利用されることも多く,その寄与の度合いを個別に算定するこ
とが困難であることは,前記(2)イ(エ)のとおりである。このため,YDN
及びプレミアム広告が地域ターゲティング以外のターゲティング機能を\n備えていることを考慮しても,適用すべき実施料率を下げることが相当と
いうことはできない。
(オ) 被告は,YDNのクリック数や売上げは,被告が長年にわたり多大な労
力を積み上げてきたサービスの圧倒的な利用者数及びアクセス数を前提
とするものであり,これらは本件各発明と無関係であるから,本件特許の
相当実施料率の算定に当たってはこの点を考慮すべきであると主張する。
しかし,YDNの売上げにおいて,被告の提供するサービスの利用者数
や被告のウェブサイトへのアクセス数が影響を与えたとしても,本件各発
明の売上げ及び利益への貢献の程度という観点からみると,本件各発明は,
IPアドレス対地域データベースを使用して,アクセスポイントの属する
地域を判別することを通じて,地域によって異なるウェブ情報をユーザ端
末に送信することを可能にするものであるから,エリアターゲティング広\n告に必要不可欠なものであり,本件各発明と同程度に簡易かつ効果的に地
域判別をし得る代替技術の存在を示す証拠のないことに照らすと,本件各
発明を利用することができない場合には,被告のYDNやプレミアム広告
の利用者に対する訴求力は大幅に減殺されたものというべきである。
このような本件各発明のYDN及びプレミアム広告の提供サービスに
おける必要不可欠性や売上げや利益に対する貢献度に照らすと,YDNの
売上げにおいて,被告の提供するサービスの利用者数や被告のウェブサイ
トへのアクセス数が影響を与えたとしても,これをもって,適用すべき実
施料率を下げることが相当であるということはできない。
また,被告は,プレミアム広告においては,被告ウェブサイトへのアク
セス数のみが売上げに貢献するので,本件各発明は売上げに寄与,貢献し
ていないと主張するが,上記と同様の理由から,そのような事情をもって
適用すべき実施料率を下げることが相当であるということはできない。
エ 小括
以上によれば,本件各発明の実施についての相当な実施料率は,YDNの
うち被告ウェブサイトに広告を掲載する部分及びプレミアム広告につき
3%,YDNのうち他の提携ウェブサイトに広告を掲載する部分は1.5%
と認めるのが相当である。
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2022.02.13
令和1(ワ)25121 特許権 令和3年12月9日 東京地方裁判所
CS関連発明について、技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断されました。
このように,乙8発明は,ユーザから入力された情報から抽出したキーワードに
基づいてそれに関連するウェブページを収集し,そのリンク情報を取得して記憶し,
ユーザ端末にキーワードに関連するウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する
ものである。しかして,かかるウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力すること
は,ユーザに対してユーザの関心のある事項に関連するウェブサイトの閲覧を勧め
るものであるといえ,当該リンクを出力することは,ユーザに対する提案を行うも
のということができ,また,当該リンクはウェブ上から取得されるものであるから,
ウェブサイトからユーザに対して提案すべき情報を取得しているということができ
る。
そうすると,乙8発明がユーザコメントに基づいてリンクを出力するアバター管
理部及び情報収集部は,構成要件1Eの「前記第1又は第2受付手段によって受け\n付けられた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行う提案手段」に相当し,
また,乙8発明の,アバター管理部及び情報収集部によりユーザコメントに基づい
てウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する機能は,構\成要件5Eの「前記受
け付けた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行うステップ」に相当する。
さらに,乙8発明における,ウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリ
ンクを取得する情報収集部は,構成要件1Fの「前記個人情報に基づいてウェブサ\nイトから前記ユーザに対して提案すべき情報を取得する手段」に相当し,上記情報
収集部によりウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリンクを取得する
機能は,構\成要件5Fの「前記個人情報に基づいてウェブサイトから前記ユーザに
対して提案すべき情報を取得するステップ」に相当する。
その他,構成要件E及びFと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件E及びFは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
エ 構成要件G(「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段と,を有する」「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促すステップと,を更に有する」)につき,\n乙8発明と対比する。
構成要件Gに関し,本件明細書の記載をみると,「飲みすぎないように!」などの\nアドバイスのメッセージを出力する旨の記載があり(【0119】),かかる記載内容
からすると,構成要件Gにおける「注意を促す」とは,気を付けるように仕向ける,\n気を配るように仕向けるとの意であると解することができる。
しかして,乙8発明は,スケジュールが未完了であることが確認すると,アバタ
ーから,「スケジュールが未完了だよ。代わりのスケジュールを入力してね」のよう
な,スケジュールの修正を依頼するアバターコメントを出力する機能を有する(【0\n043】)。そして,乙8発明の学習・生活支援サーバ内にはアバターコメントを出
力するアバター管理部が実装されている(【0024】等)ところ,上記機能は,ユ\nーザに対してスケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は,
スケジュールに気を配るように仕向けるものであるといえる。
そうすると,乙8発明の,アバターコメントの出力を実行するアバター管理部は,
構成要件1Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段」に相当し,ま\nた,乙8発明の,ユーザに対して上記の趣旨のアバターコメントを出力するアバタ
ー管理部の機能は,構\成要件5Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す
ステップ」に相当する。
その他,構成要件Gと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Gは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
オ 構成要件H(「情報提供装置。」「を情報提供装置に実行させる情報提供プロ\nグラム。」につき,乙8発明と対比する。
乙8発明のアバター管理部によるアバターコメントの出力は,情報の提供に当た
るため,この点をもって既に,アバター管理部を有する乙8発明の学習・生活支援
サーバは,情報を提供する装置(「情報提供装置」)であるということができる。
また,上記サーバは,アバター管理部のほかに,ユーザ情報管理部,テキスト分
析部,情報収集部,コンテンツ管理部で構成される制御部を有しており,制御部は,\n少なくとも一つのCPU等を備え,ROM等に予め記憶されたプログラムを読み込\nんで実行することにより,上記各部の機能を事項することが可能\となるものである
(【0021】等)ことから,乙8発明の学習・生活支援サーバは,情報提供装置で
あって,各種機能を実行させる情報提供プログラムを有しているといえ,乙8発明\nは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プログラム」と同
一であるといえる。
その他,構成要件Hと乙8発明の間に,実質的に相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Hは,乙8発明の構\成と実質的に同一のものといえる。
(4) したがって,本件各発明は,その全ての構成要件が,乙8発明の構\成と実質
的に同一のものであるから,本件各発明は,乙8発明との関係で,新規性を欠くも
のといわざるを得ず,いずれも,特許無効審判により無効にされるべきものと認め
られる(特許法29条1項3号,123条1項2号)。
(5) 原告らの主張について
原告らは,1)乙8公報に記載されている「スケジュールの修正を依頼する」とは,
構成要件Eにおける,議案や意見を提出するという「提案を行う」こととは相違す\nる,2)乙8公報がユーザ端末に出力するウェブサイトのリンクは,ウェブサイトの
所在を示す情報であって,この所在を示す情報が,「提案を行う」内容である議案や
意見であるはずがなく,乙8発明は構成要件Eと相違し,また,ウェブサイトのリ\nンクはユーザに対して提案すべき情報を規定している構成要件Fの「情報」とも相\n違する,3)乙8発明がユーザのスケジュールが未完了であることを確認した場合に
ユーザにスケジュールの修正を依頼することは,構成要件Gの,気を付けるよう仕\n向けることとは相違する,4)乙8発明のユーザ端末は,情報提供をするものではな
いから,構成要件Hと相違する,などとして,本件各発明が乙8発明の構\成と実質
的に相違する旨主張する。
しかしながら,原告らの上記各主張は,次のとおり,いずれも理由がないという
べきである。
まず,上記1)及び3)の点については,乙8発明において「スケジュールの修正」
を依頼されたユーザは,スケジュールが完了していないことを知り,新たなスケジ
ュールを考えて入力するように促されることとなるのであって,「スケジュールの
修正の依頼」も,ユーザに対して新たなスケジュールを組み立てる旨の議案や意見
の提出にも当たるといえるから,構成要件Eの「提案を行う」と実質的に同一の構\
成であるといえる。また,乙8発明の上記のような働きは,まさにユーザに対しス
ケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は,気を配るよう
に仕向けることであるといえるから,乙8発明は,構成要件Gの「注意を促す手段」\nないし「注意を促すステップ」と実質的に同一の構成を有するといえる。\nまた,上記2)の点については,構成要件Eの「提案を行う」との文言について,\n特許請求の範囲及び本件明細書の記載に,ユーザに提案すべき情報の具体的内容を
限定する根拠となるものはなく,ウェブページを出力することに限る旨の示唆もな
い。その上,前記説示のとおり,キーワードに関連するウェブページのリンクをユ
ーザ端末に出力することは,当該リンク先のウェブページを閲覧することをユーザ
に勧めることに該当し,まさに,この点が「提案」といえるというべきである。そ
うすると,乙8発明のアバター管理部が当該リンクをユーザ端末に出力することは,
構成要件Eが規定するユーザに対する「提案を行う」との構\成と,同一であるとい
わなければならない。また,構成要件Fの「情報」との相違を指摘する原告の主張\nも,結局,リンクはあくまでウェブサイトの所在を示す情報に過ぎず,これがユー
ザに対して提案すべき情報には当たらないとの主張であると解されるが,前記のと
おり,ユーザ端末にユーザの個人情報に基づいてこれに関連するウェブページのリ
ンクを出力することは,ユーザに対して当該リンク先のウェブページの閲覧を勧め
るという意味において,ユーザに提案すべき情報を表示するものであり,乙8発明\nにおいてユーザ端末に出力されるリンクは,構成要件Fの「情報」と異なるもので\nはないというべきである。
さらに,上記4)の点は,前記説示のとおり,乙8発明の学習・生活支援サーバ及
びプログラムは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プロ
グラム」と同一であるといえる。
以上によれば,原告らの主張はいずれも採用することができない。
◆判決本文
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2022.01.11
平成31(ワ)647 債務不存在確認請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年8月26日 東京地方裁判所
Appleによる債務不存在確認訴訟です。進歩性無しとして104条の3で権利公使不能と判断されました。\n
ウ そこで,以上の説示を前提として,以下,公然実施発明1への甲5−1発
明の組合せの可否について検討する。
まず,公然実施発明1は,スリープ状態とスリープ解除状態とを有し,スリープ
状態からスリープ解除状態とする際の操作及びその際にロック画面が表示されるス\nマートフォンというものであり,他方,甲5−1発明の技術分野は,生体情報を利
用した電子デバイスの内蔵認証システムに関するものである。そうすると,両発明
の技術分野については関連性が存するものというべきである。
また,公然実施発明1は,スリープ状態において,ホームボタンを押すことによ
り,デバイス機能を有効にするときに,起動して認証を行うというものであるか\nら,ホームボタンの押下によりスリープ状態からスリープ解除状態に切り替わった
ときに,パスコード認証によりユーザを識別するという機能を有するものである。\nこの点,公然実施発明1においては,ホームボタンの押下の後,パスコード認証の
前に,ロック画面においてスライダをドラッグするという操作入力という構成があ\nるが,この構成については,タッチパネル入力による誤作動防止(パスコードによ\nる認証の設定がされている場合は,パスコードやホーム画面の誤作動防止であり,
パスコードによる認証の設定がされていない場合であっても,ホーム画面の誤作動
防止)という,ユーザ識別とは別の技術的意義があるといえるところ,パスコード
認証という構成は,これとは別の,ユーザ識別のための構\成として把握することが
できるものであって,上記スライダをドラッグするという構成とは可分な別個の構\
成であるというべきである。そして,甲5−1発明における「ユーザがデバイスを
オンにする,ロックを解除する,または,起動する」ことは,デバイスの機能を有\n効にすることであるといえ,また,デバイス機能を有効にする前に,生体情報の提\n供をユーザに対して要求する認証方法という構成のものである。そうすると,公然\n実施発明1と甲5−1発明とは,デバイスの機能を有効にするときに,ユーザ識別\nのための認証動作を行う点に関して,その作用機能が共通するものと認められる。\n以上によれば,公然実施発明1と甲5−1発明においては,技術分野の関連性及
び作用機能の共通性が認められるものであって,当業者(その発明の属する技術の\n分野における通常の知識を有する者)において,両者を組み合わせる動機付けがあ
るものと認められるものであり,その他,本件全証拠をみても,両者の組合せを阻
害する事情を認めるに足りる主張立証はない。そうすると,公然実施発明1のデバ
イスの機能を有効にするときのユーザ認証として,甲5−1発明におけるデバイス\nの機能を有効にするときにデバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証するため\nのホームボタンの背後に配置した指紋を検出するセンサによって指紋認証を行う構\n成を組み合わせることは,当業者が容易に想到できたことである。また,公然実施
発明1はパスコードの入力による認証に関して,誤ったパスコードが入力されると,
ロック状態が維持され,ディスプレイに認証を行うよう求めるメッセージが表示さ\nれる構成を有するし,甲5−1発明も,特定されたユーザが許可されていないと判\n断した場合,認証を行うようユーザに指示する構成を有し(甲5文献【0080】),\nかかる指示がディスプレイ部に表示することによってなされること,及びユーザ認\n証のための操作が行われると,認証結果にかかわらずディスプレイがオンにされる
ことは,当該技術の性質・内容に照らし,周知慣用技術といえる。そして,公然実
施発明1は,使用者識別機能による認証の結果,使用者が正当な使用者と認証され\nなければロック状態を維持するものであるところ,公然実施発明1に甲5−1発明
を組み合わせる際に,かかる構成をあえて排除又は変更する理由は,本件全証拠を\nみても見当たらない。
以上からすると,当業者は,相違点1に係る構成を容易に想到することができた\nものといえ,本件発明1−1を容易に発明することができたものと認められる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,公然実施発明1は,パスコードの入力という使用者識別機能を有\nするものの,指紋等の生体情報による内蔵認証システムを有するものではなく,こ
れを有する甲5発明とは技術の点における共通性がない旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,両発明においては,いずれも,デバイスの機能を有\n効にするときにユーザ識別のための認証動作を行う点で共通しているのであって,
パスコードの入力による認証方法と指紋等の生体情報による認証方法というように
認証に用いる情報の内容は異なるものの,両発明の技術分野に相違があるとは認め
られない。そうすると,被告の上記主張は,採用することができない。
(イ) また,被告は,公然実施発明1は,ホームボタンに対する操作入力及びスラ
イダのドラッグ操作を経てから使用者識別機能を実行するものであるところ,これ\nは,デバイス機能を有効とする前あるいはデバイスリソ\ースへのアクセスの前のシ
ームレスな認証という甲5発明の課題と共通しないから,公然実施発明1に甲5発
明を組み合わせる動機付けがないと主張する。
しかしながら,前記説示のとおり,公然実施発明1に係るパスコード認証という
構成については,ユーザ識別のための構\成として,上記のスライダをドラッグする
という構成とは可分な別個の構\成として把握することができるというべきである。
そうすると,公然実施発明1におけるパスコードによる認証という構成と,甲5−\n1発明におけるシームレスな認証処理という構成とは,ユーザにおいて許可されて\nいない人が個人情報にアクセスして閲覧することを防ぐ方法の一つとしての認証方
法を備えている点で共通するものであり,両発明において,デバイス機能を有効に\nするときのユーザ認証の動作に関して,その作用機能が共通するものと認められる\nことに変わりはない。すなわち,ユーザによる誤作動の防止と,スリープ状態にお
いてホームボタンを押してユーザ識別を実行するための動作とは,その性質内容に
照らし,互いに別個のものということができ,公然実施発明1がユーザによる誤作
動防止の意義を有するからといって,これに甲5−1発明を組み合わせることがで
きないことになるとはいえない。
そうすると,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) さらに,被告は,本件発明1−1は,1) 指紋認証による使用者識別機能が,\n非活性状態から活性状態に切り替えるための操作入力により,かつ,使用者による
追加操作なしに行われる,2) 使用者識別機能による認証の結果,使用者が正当な\n使用者と認証されなければ,移動通信端末機のロック状態を維持するとともに,デ
ィスプレイ部にメッセージを表示する,3) 活性化ボタンにおいて非活性状態にあ
るときに操作入力を受け付けると,使用者識別機能による認証の結果にかかわらず,\nディスプレイ部をオンにして活性状態に切り替えるという構成を有するが,公然実\n施発明1にはこれらのいずれも有していないという相違点があるところ,甲5発明
には,上記1)ないし3)に係る構成が開示されていないため,両者を組み合わせても,\n上記相違点を埋めることはできないと主張する。
しかし,被告主張の上記1)については,上記ウで説示したとおり,公然実施発明
1のデバイスの機能を有効にするときにユーザ認証として,甲5−1発明における\nデバイスの機能を有効にするときにデバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証\nするための構成を,公然実施発明1のスライダを備えたロック画面を残したまま組\nみ合わせることは当業者が容易に想到できたことである。
また,公然実施発明1は,パスコードを入力することによる使用者識別機能によ\nる認証の結果,認証されなければロックを維持するものといえるところ,公然実施
発明1に甲5−1発明を組み合わせる際に,かかる構成をあえて排除又は変更する\n理由が認められないこと,ユーザ認証がされなかった場合には,ディスプレイに認
証を行うよう求める旨のメッセージが表示されること,及びユーザ認証のための操\n作が行われると,認証結果にかかわらずディスプレイがオンになることは周知慣用
技術といえることは,前記説示のとおりである。そうすると,被告主張の上記2)及
び3)について,実質的な相違点ということはできないというべきである。
以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。
オ 小括
上記によれば,本件発明1―1は,当業者が公然実施発明1に甲5−1発明を組\nみ合わせることにより,容易に想到することができたものといえ(特許法29条2
項),本件発明1−1は,特許無効審判により無効にされるべきものというべきで
ある(同法123条1項2号)。
・・・
7 争点3−3(無効理由2の解消の有無)
(1) 本件訂正事項2−1,2−2に係る訂正による無効理由2の解消の有無
ア 訂正の概要
本件訂正事項2−1は,本件発明2−1の構成要件2−1Cの活性状態をロック\n画面が表示されたものに限定するものであり,本件訂正事項2−2は,本件発明2\n−2の構成要件2−2Aに,「前記ロック画面には,現在の時間を表\示することがで
きる」と追加するものである。
イ 本件訂正事項2−1,2−2に係る訂正による無効理由2の解消の有無
しかしながら,本件訂正発明2−1及び本件訂正発明2−2と公然実施発明2と
を対比してみたとしても,前記5(2)で認定した公然実施発明2の構成からすれば,\nスリープ状態からスリープ解除状態においてロック画面が表示される点,同画面に\n現在の時間を表示することができる点について,相違するものではない。\n以上によれば,本件訂正事項2−1,2−2に係る訂正によっても,無効理由2
を解消することはできないといわなければならない。
◆判決本文
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2022.01. 7
平成30(ワ)1130 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年8月31日 東京地方裁判所
102条2項について、2割の推定覆滅が認められました。同3項による認定についても触れています。損害額は15億円です。対応EP特許でドイツでも侵害訴訟があります。
ア 前記前提事実によれば,本件発明の構成要件1Eは,「該印刷層は,白色の有機\n顔料,白色または黄色の無機顔料,蛍光染料,および蛍光増白剤のうちの一以上
の着色剤を含有する」である。これに対応する被告製品(1)の構成1eは,「印刷層\nは,●(省略)●と●(省略)●を含有する●(省略)●印刷インキにより形成
されるが,」である。そして,被告製品の印刷層の●(省略)●印刷インキに含有
される●(省略)●は,「白色」の「無機顔料」に当たる。
ここでは,本件発明については,印刷層が「白色の有機顔料・・・着色剤」を含有
すれば,それだけで構成要件1Eを充足するのではなく,これにより「色相を明\nるくすること」を要するかが問題となる。
イ 本件発明の構成要件1Eには,印刷層が「白色の有機顔料,および蛍光増白剤」\nのいずれかを含有するとの記載がされているだけであり,「色相を明るくすること」
が発明特定事項として記載されているわけではない。
また,前記1のとおり,本件発明は,再帰反射シートに関する発明であるとこ
ろ,本件明細書の段落【0004】には,三角錐型キューブコーナー再帰反射シ
ートのうち,反射素子の反射側面に蒸着層が設置されている「蒸着型」三角錐型
キューブコーナー再帰反射シートについては,その再帰反射素子の性質から金属
の色の影響を受けて外観が暗くなってしまうという欠点を有していると記載され
ているものの,それ以外の再帰反射シートについては,外観の暗さが課題になっ
ている旨の記載がない。また,本件明細書の【0014】,【0015】には,本
件発明の技術的意義は「色相の改善」であると記載され,段落【0021】,【0
030】,【0032】には,印刷層の目的は「色相を調節」,「色相の調整」と記
載され,段落【0036】には,「本発明に用いられる着色剤は,特に限定される
ものではないが,・・・色相を明るくすることができ,且つ,隠蔽性が得られるもの
が良く,シートの色相に合わせた明色系の色が好ましく,・・・白色の有機顔料や白
色や黄色の無機顔料,並びに蛍光染料や蛍光増白剤を挙げることができ,中でも,
白色や黄色の無機顔料が好ましい。」と記載されており,「色相を明るくすること」
は,「隠蔽性」を得ることや「シートの色相に合わせた」色であることと並んで,
あくまで好ましい態様であるとされているにすぎない。そのため,本件発明の着
色剤の技術的意義である「色相の改善」は,色相の調節ないし調整を意味するも
のであり,「色相を明るくすること」に限定されるものではないと解される。他方,
本件明細書の実施例では,白色顔料が用いられているものの,その他の着色剤と
比較して明るさが向上するとの趣旨で記載されているものではなく,比較例でも,
実施例とは印刷の模様のみを変えて,「Y値」すなわち「色相(明るさ)」には変
化がないが耐候性が改善することを確認しているにすぎない。このような本件明
細書全体の記載を考慮すれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を\n明るくすること」を要件としたものとは解されない。
以上によれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を明るくするこ\nと」を要しているとはいえないというべきである。
ウ これに対し,被告らは,本件特許の出願経過において,原告が,補正により本
件発明に構成要件1Eを追加し(乙21),本件発明の効果は,「色相,特に昼光\n下での色相(Y値=明るさ)が改善されて」いることであり,同構成要件の着色\n剤を用いることにより色相(Y値=明るさ)を改善したと主張しており(乙3),
同構成要件の「白色」,「黄色」,「蛍光」を用いて「色相(Y値=明るさ)」を改善\nする技術的意義を強調しているから,上記着色剤の意義は,色相を明るくするこ
とにあると主張している。
しかし,原告が提出した乙21の内容を見ても,本件発明の構成要件1Eの技\n術的意義が,「色相を明るくすること」であるとは記載されていない。
むしろ,乙3には,本件発明の効果は,「十分な再帰反射性能\を有し,かつ色相,
特に昼光下での色相(Y値=明るさ)が改善されており,耐候性及び耐水性にも
優れている」ことであると記載され,Y値と同義である「色相(Y値=明るさ)」
と,それに限定されない意味での「色相」とが区別されているため,明るさに限
定されない色相の改善についても主張していると解される。さらに,乙3には,
一般に用いられている着色剤は,再帰反射性の確保のために光透過性を有するが,
光透過性を有する着色剤は光劣化しやすいという欠点があったのに対して,本件
発明の構成要件1Eの着色剤は,光透過性を有するものではないこと,本件発明\nは,構成要件1Eの着色剤を用いることにより,再帰反射シートの昼光下での色\n相(Y値=明るさ)を更に改善したこと,本件発明では,印刷領域が構成要件1\nB〜1Dを具備する独立印刷領域であるため,印刷層が光透過性を有しない構成\n要件1Eの着色剤を含有しても,それ以外の領域を通じて十分な再帰反射性能\を
有することが記載されている。以上によれば,原告は,本件特許の出願経過にお
いて,本件発明の構成要件1Eの着色剤について,明るさの改善だけでなく,そ\nれ以外の効果も主張していると解されるから,そのような主張をもって,本件発
明の着色剤の技術的意義が色相を明るくすることに限定されるとまではいえない
というべきである。
その他,被告らの主張を検討しても,採用すべきものはない。
エ したがって,被告製品(1)の構成1eは,それぞれ本件発明の構\成要件1E及び
これを引用する構成要件2Bを充足する(なお,仮に同構\成要件の着色剤が「色
相を明るくすること」を意味するものとしても,これは相対的に色相を明るくで
きるような所定の着色剤を含有させれば足り,必ずしも絶対的に「色相を明るく
すること」を要するものではないというべきであるところ,証拠(甲17)及び
弁論の全趣旨によれば,被告製品では,「白色」の「無機顔料」に当たる●(省略)
●を含有しない領域よりも,これを含有する領域の方が色相も改善●(省略)●
による色相改善の効果を享受)していることがうかがわれ,被告製品の●(省略)
●印刷インキの色相が暗くなっているのは,●(省略)●で色相が明るくなった
一方で,●(省略)●で色相が暗くなったにすぎないというべきであり,これに
よって本件発明の構成要件1Eの充足性が否定されることにはならないというべ\nきである。)。
・・・
推定覆滅の事情
a 特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の
事情と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益
と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると
解される。例えば,1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること
(市場の非同一性),2)市場における競合品の存在,3)侵害者の営業努力(ブ
ランド力,宣伝広告),4)侵害品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特
徴)などの事情について,特許法102条1項ただし書の事情と同様,同条
2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができ
るものと解される。
b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張
する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当
である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の
印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品
と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ
タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし,
原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明
は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。
しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技
術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域
をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独
立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料・・・着色
剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る
ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措
定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製
品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実
験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって
直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな
い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の
全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の
技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当
ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら
ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度
等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで
あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き
く変化していないと主張する。
しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして
も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な
証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替
えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧
製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従
前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた
可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら
れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ
ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品
の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi
neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略)
●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売
できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+●
(省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競
合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら
が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード
の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨
によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性
能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告
らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー
ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認
めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー
ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売
上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(d) さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと
しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益
率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省
略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ
く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品
のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10
2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ
ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の
●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製
品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と
同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一
定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単
価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より
も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e) 以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち,
原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし
て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。
・・・
ア 次に,原告は,予備的主張として,特許法102条3項の適用を前提とする損\n害額の支払を求めているため,以下検討する。
・・・
a 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の
額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「そ
の特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められ
ていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうと
して,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無
効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額
を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還
を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常であ
る状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該
特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされ
た場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして,上記
のような特許法改正の経緯に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たって
は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づか
なければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対して事後的に定め
られるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べ
て自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し
て,合理的な料率を定めるべきである。
b そこで検討するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)原告は,本
件訴訟の提起前に,被告らを含む3Mグループに対し,本件特許のライセン
ス料率5%を提案していたこと(乙41),他方で,米国3Mは,過去に第三
者に提起した特許権侵害訴訟において,再帰反射シートに関する特許の実施
料率は9%であると主張していたこと(甲71),米国3Mらは,過去に第三
者に提起した訴訟において,ロイヤルティ料率20%での合意をしたこと(甲
72,乙66),株式会社帝国データバンク編「知的財産の価値評価を踏まえ
た特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書 〜知的財産(資産)価値
及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜」(平成22年3月)において,再
帰反射シート(樹脂シート)が該当する「化学」の最小値が0.5%,最大
値が32.5%,平均が4.3%であるとされていること(甲73,乙67),
被告3Mジャパンらは,原告に提起した特許権侵害訴訟において,実施料率
を10%と主張していること等が認められる。
また,2)本件発明は,前記のとおり,再帰反射シートの構成全体に関わる\n発明であり,相応の重要性を有しているといえ,これらの構成を備えた従来\n技術は存在せず,この点についての代替技術が存在することはうかがわれな
い。
そして,3)本件発明は,被告旧製品の全体について実施されており,これ
によって向上される耐水性・耐候性は,需要者の購入動機に影響を与えるも
のであるから,本件発明を被告旧製品に用いることにより,被告らの売上及
び利益に貢献するものと認められる。
さらに,原告と被告らは,いずれも再帰反射シートの製造販売業者であり,
競業関係にある。
c 上記bの諸事情を含む本件訴訟に表れた事業を総合考慮すると,本件特許\n権を侵害した被告らに事後的に定められるべき,本件での実施に対し受ける
べき料率は,10%を下らないものと認めるのが相当である。
したがって,本件特許権侵害について,特許法102条3項により算定さ
れる損害額は,前記(1)で認定した被告旧製品の売上高の10%になる。
◆判決本文
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2022.01. 3
平成31(ワ)7038等 特許権侵害行為差止等請求事件,損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年10月29日 東京地方裁判所
29条1項2号にいう「公然実施」について、出願前から製造していた物と現在製造している物に変化がないとして、公然実施と認定し、権利行使不能と判断されました。\n
29条1項2号にいう「公然実施」とは,発明の内容を不特定多数の
者が知り得る状況でその発明が実施されることをいい,本件各発明のよう
な物の発明の場合には,商品が不特定多数の者に販売され,かつ,当業者
がその商品を外部から観察しただけで発明の内容を知り得る場合はもちろ
ん,外部からそれを知ることができなくても,当業者がその商品を通常の
方法で分解,分析することによって知ることができる場合も公然実施とな
ると解するのが相当である。
・・・
エ 日本黒鉛らについて
(ア) 日本黒鉛各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか
a 日本黒鉛製品2,4及び5に係る日本黒鉛製品結果及び乙A18結
果は近接していること,日本黒鉛製品4及び5に係る乙A18結果の
回折プロファイルにおいて,菱面晶系黒鉛層(3R)の(101)面
及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)面の各ピークが出現すると
される回折線の角度43ないし44°付近のピークは比較的明瞭であ
り,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDXLの自動解析機能を使用しても\n適切な解が得られると考えられること,日本黒鉛製品2に係る乙A1
8結果の回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし44°付
近のピークは明瞭とはいい難いが,このような場合に,PDXLの自
動解析機能を使用して得られた解が常に誤っていることを認めるに足\nりる証拠はないことからすると,日本黒鉛製品2,4及び5のRat
e(3R)については,日本黒鉛製品結果及び乙A18結果のいずれ
も採用することができるというべきである。
他方で,日本黒鉛製品1及び3に係る乙A18結果については,同
じ製品であるにもかかわらず,算出されたRate(3R)にかなり
のばらつきがあること,日本黒鉛製品1及び3に係る乙A18結果の
各回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし44°付近のピ
ークは必ずしも明瞭ではないこと,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDX
Lは,ピークが不明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な解に\n収束したり,解が発散したりすることがあり,このような場合,試料
を考慮した解析条件を手動で入力する必要があること,前記(1)ウ(イ)
aのとおり,原告は,自動解析機能によっては不合理な解に収束した\nり,解が発散したりする場合には適宜の解析条件を手動で入力するこ
とにより,PDXLを用いて解析を行い,日本黒鉛製品結果を得たこ
とからすると,日本黒鉛製品1及び3のRate(3R)については,
日本黒鉛製品結果を採用することができ,乙A18結果は採用するこ
とができないというべきである。
b 日本黒鉛製品結果及び乙A18結果によれば,日本黒鉛製品2は本
件各発明の構成要件1B及び2Bを,日本黒鉛製品4及び5は構\成要
件1Bをそれぞれ充足し,日本黒鉛製品結果によれば,日本黒鉛製品
1及び3は構成要件1B及び2Bを充足することとなり,前記2の本\n件各発明の解釈を前提とすると,日本黒鉛製品1ないし3は本件各発
明の,日本黒鉛製品4及び5は本件発明1の各技術的範囲に属すると
認めるのが相当である。
(イ) サンプルのRate(3R)
a 次に,前記(1)ウ(イ)bのとおり,日本黒鉛工業が保管していた日本
黒鉛製品1,2,4及び5の各サンプルのRate(3R)は,サン
プル結果3)のとおりである。
そして,日本黒鉛工業の証人Zは,日本黒鉛工業においては,平成
13年10月頃からおおむね10年に1回,製品のサンプルを保管す
るようになり,平成20年6月12日に採取した日本黒鉛製品1のサ
ンプル,平成13年10月5日に採取した日本黒鉛製品2のサンプル,
平成20年7月30日に採取した日本黒鉛製品4のサンプル及び同年
12月16日に採取した日本黒鉛製品5のサンプルを保管している旨
証言し,Z証人作成の陳述書(乙A120)にも同旨の記載があると
ころ,証拠(乙A86,94,95)による裏付けがあることからす
ると,Z証人の上記証言は採用することができるというべきである。
したがって,上記日本黒鉛製品1,2,4及び5の各サンプルは上
記各日に採取したものと認めるのが相当である。
b 日本黒鉛製品1に係るサンプル結果3)については,同じ製品である
にもかかわらず,算出されたRate(3R)にかなりのばらつきが
あること,サンプル結果3)の回折プロファイルにおいて,菱面晶系黒
鉛層(3R)の(101)面及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)
面の各ピークが出現するとされる回折線の角度43ないし44°付近
のピークは必ずしも明瞭ではないこと,前記2(1)ウ(イ)のとおり,P
DXLは,ピークが不明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な\n解に収束したり,解が発散したりすることがあり,このような場合,
試料を考慮した解析条件を手動で入力する必要があることからすると,
日本黒鉛製品1のサンプルのRate(3R)について,サンプル結
果3)は採用することができないというべきである。
他方で,日本黒鉛製品4及び5の各サンプルに係るサンプル結果3)
については,複数回算出したRate(3R)にばらつきはほとんど
なく,サンプル結果3)の回折プロファイルにおける回折線の角度43
ないし44°付近のピークは比較的明瞭であり,前記2(1)ウ(イ)のと
おり,PDXLの自動解析機能を使用しても適切な解が得られると考\nえられることからすると,日本黒鉛製品4及び5の各サンプルのRa
te(3R)について,サンプル結果3)を採用することができるとい
うべきである。
日本黒鉛製品2のサンプルに係るサンプル結果3)については,複数
回算出したRate(3R)にばらつきはほとんどないこと,そして,
サンプル結果3)の回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし
44°付近のピークは必ずしも明瞭ではないものの,本件証拠上,こ
のような場合に,PDXLの自動解析機能を使用して得られた解が常\nに誤っているとまでは認められないことからすると,日本黒鉛製品2
のサンプルのRate(3R)について,サンプル結果3)を一応採用
することができるというべきである。
(ウ) 日本黒鉛らが本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属する日
本黒鉛各製品を製造販売していたか
前記イ(イ)のとおり,菱面晶系黒鉛層の増加に影響を及ぼすと考えられ
る要素のほとんどは,黒鉛製品の製造工程及び製造された製品が満たす
べき規格に関わるといえるが,具体的に,どのような条件の下,どのよ
うな操作をすることにより,単に菱面晶系黒鉛層が増加するだけでなく,
六方晶系黒鉛層との総和における菱面晶系黒鉛層の割合であるRate
(3R)がどの程度変動するかは,本件訴訟に現れた全証拠によっても
確定することができない。
そして,前記(1)ウ(ア)のとおり,日本黒鉛工業は,本件特許出願前か
ら日本黒鉛各製品を製造しており,本件特許出願前から現在に至るまで,
その製造工程及び出荷の基準となる規格値に大きな変更はない。
また,前記前提事実(2)及び(7)アのとおり,原告が日本黒鉛製品結果
をもって日本黒鉛らに対して提訴したのは平成31年3月であり,平成
26年9月9日の本件特許出願からそれほど長い年月が経過しているも
のとはいえない。
以上によれば,日本黒鉛らは,本件特許出願前から現在に至るまで,
日本黒鉛各製品の各名称を付した黒鉛製品を製造販売しており,この間,
菱面晶系黒鉛層の増減に影響を与えると考えられるこれらの製品の製造
工程及び規格値に変更はないことから,この間に製造販売された日本黒
鉛各製品は,同じ製造工程を経て,同じ規格を満たすものであると認め
られる。そして,他にこれらの製品に対してRate(3R)の増減に
影響を及ぼす事情が存したとは認められず,前記(ア)のとおり,現時点に
おいて,日本黒鉛製品1ないし3は本件各発明の,日本黒鉛製品4及び
5は本件発明1の各技術的範囲に属する。これらの事情に照らせば,日
本黒鉛らは,本件特許出願前から,このような日本黒鉛各製品を製造販
売していたと認めるのが相当であり,前記(イ)bのとおり,本件特許出願
前の平成20年に採取した日本黒鉛製品4及び5のRate(3R)が
31%以上であることも,この結論を裏付けるというべきである。
なお,日本黒鉛製品2に係るサンプル結果3)は,乙A18結果と相違
しているが,日本黒鉛製品2は土状黒鉛であり,菱面晶系黒鉛層(3R)
の(101)面及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)面の各ピーク
が出現するとされる回折線の角度43ないし44°付近のピークが必ず
しも明瞭ではなく,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDXLは,ピークが不
明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な解に収束したり,解が発\n散したりすることがあり,同じく土状黒鉛である日本黒鉛製品1に係る
サンプル結果3)及び乙A18結果を見てもばらつきがあることからする
と,日本黒鉛製品2に係るサンプル結果3)と乙A18結果が相違するこ
とは,日本黒鉛らが本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属す
る日本黒鉛製品2を製造販売していたという上記認定を左右するとはい
えない。
◆判決本文
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2022.01. 3
令和3(ネ)10043 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年11月11日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審と同じく、知財高裁は、明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして権利行使不能\と判断しました。
以上からすると,当業者によって,当初明細書等の全ての記載を総合す
ることにより導かれる技術的事項とは,低地球温暖化係数の化合物である
HFO−1234yfを調整する際に,不純物や副反応物が追加の化合物
として少量存在し得るという点にとどまるものというほかない。
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,沸点の近い化合物を組み合せて共沸組成物とすることが本件
発明の技術的思想であることや,低コストで有益な組成物を提供すること
ができること等を主張するが,当初明細書中には,沸点の近い化合物を組
み合せて共沸組成物とすることや低コストで有益な組成物を提供できる
ことについては,記載も示唆もされていないから,その主張は前提を欠く
し,このような当初明細書に記載のない観点から本件補正をしたというの
であれば,それは新たな技術的事項を導入するものであり,まさしく新規
事項の追加にほかならない。
◆判決本文
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◆令和1(ワ)30991
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2021.11.22
令和3(ネ)10007 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年11月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では方法クレームについても、物クレームと同じく「連通可能な室」として、構\成要件を具備しないと判断されました。これに対して、知財高裁は方法クレームについては「室」の意義について「連通可能な」という要件がないものも含むとして、方法クレームの侵害と判断しました。
「室」という語は,一般的には,「へや」すなわち「物を入れる所」などを
意味する語であるところ(甲27),構成要件1A及び2Aの文言のほか,前記2(2)の本件各訂正発明の概要及び前記(1)の本件各訂正発明の課題を踏まえると,構成要件1A及び2Aの「複数の室を有する輸液容器」の要件は,複数の輸液を混合\nするのに用いられる従来技術であるそのような輸液容器を用いる輸液製剤であるこ
とを示すことによって,本件訂正発明1及び2の対象となる範囲を明らかにするも
のである。本件各訂正発明の課題は,そのような輸液容器を用いて,あらかじめ微
量金属元素を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤で,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を\n提供することにあるから,本件各訂正発明における「室」の意義の解釈に当たって
は,上記の一般的な意義のほか,輸液容器における「室」の意義も考慮するのが相
当である。
そこで検討すると,本件特許の出願当時には,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた空間を「室」と呼んだ上で(乙31),その「室」の中に
収納される,薬剤を収容する構成部材を「容器」と呼んだり(甲25,乙17),その「室」の外側に付加して空間を構\成する部材を「被覆部材」と呼んだり(乙16),その「室」に連通される「ポート部材」が薬剤を収容し得る機能を備えるものとしたり(乙12),その「室」を分割したものを「区画室」と呼んだり(乙5)すると\nいった例があった。本件特許の出願後も,上記基礎となる一連の部材によって構成される「室」の中に収納される,薬液を収容する構\成部材を「容器」や「袋」などと呼ぶ例が複数みられるが(甲14,15,乙19),そのように,輸液等を収容す
るという機能を有する部分を指す語として「室」以外の語が加えられている中においても,「室」という語は,基本的に,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくために仕切られた相対的に大きな空間を指すものとして用いられ,「容器」や「袋」の\n付加の有無にかかわらず,そのような「室」が複数あるものが「複室輸液容器」な
どと呼ばれていたことがうかがわれる(なお,上記のうち,甲15は,大きな「隔
室」の中に「内袋」があり,その「内袋」が更に複数の「薬剤収容室」で構成されているというものであり,「室」の中に「室」があるという点では,やや珍しいもの\nともみられるが,各「隔室」と各「薬剤収容室」は,あくまでそれぞれ一連の部材
によって構成されている。)。そして,上記のような「室」の理解は,本件明細書の記載とも整合的である。\n
(イ) 上記(ア)の点を踏まえると,構成要件1A及び2Aにいう「室」についても,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,\n輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間をい
うものと解するのが相当である。
イ 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器」について\n
もっとも,本件訂正発明1の構成要件1A及び本件訂正発明2の構\成要件2Aに
おいては,「複数の室を有する輸液容器」の前に,「外部からの押圧によって連通可
能な隔壁手段で区画されている」との特定が付加されている。そうすると,上記特定により,「室」が「連通可能\な」ものであることが明確にされているというべきであるから,構成要件1A及び2Aにおける「室」については,「外部からの押圧によって連通可能\な」ものであることを要するものである。
ウ 被控訴人製品について
(ア) 「室」について
a 先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)ア及び弁論の全趣旨
によると,被控訴人製品に係る輸液容器について,その構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間は,大室及び中室を直接構成するとともに小室T及\nび小室Vの外側を構成する一連の部材によって構\成される空間であるといえる。
b もっとも,小室Tに関しては,外側の樹脂フィルムによって構成される空間が,上記のとおり輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成さ\nれる空間である一方で,連通時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,小室Tの外側の樹脂フィルムに\nよって構成される空間に輸液が直接触れることがない。そのため,小室Tの外側の樹脂フィルムによって構\成される空間が,前記の「室」の理解のうち,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間に当たるかどう
かが問題となり得る。
しかし,輸液容器全体の構成を踏まえると,被控訴人製品における小室Tは,外側の樹脂フィルムによって構\成される空間の中に,内側の樹脂フィルムによって構\n成される空間(本件袋)を内包するという二重の構造になっているにすぎず,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための空間としての構\成において,外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間に機能の優劣等があるとはみられない。この点,小室Tと中室との間の接着部について,内側の樹脂フィルムの接着を剥離した\n場合のみならず,外側の樹脂フィルムの接着のみを剥離した場合であっても小室T
の外側のフィルムの内側の空間に中室に収容された輸液が流入してこれが本件袋の
外面に直接触れることとなり,中室内の輸液と本件袋の中の液との分離の態様に少
なからず差異が生じるのであり,輸液同士の混合という点では専ら小室Tの内側の
樹脂フィルムの接着部分が意味を持つとしても,隣接する中室内の輸液からの分離
という観点からは,外側の樹脂フィルムにも重要な意義があることは明らかである。
そして,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)は,被控訴人製品に係る輸液容器において基礎となる一連の部材とは別の部材により構\成され,上記基礎となる一連の部材に構成を追加する部分である(このことは,小室Vの内側の樹脂フィルムによって構\成される空間と対比しても,明らかである。)。以上の諸点を踏まえると,小室Tについても,被控訴人製品に係る輸液容器の構成の中で基礎となる一連の部材である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)をもって,「室」に当たるとみるのが相当である。
c ところで,被控訴人製品の小室Tの外側の樹脂フィルムによって区画される
空間のように,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成され
る空間が,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大き
な空間であるといえるか疑問があり得るような場合に,本件各訂正発明の「室」を
どのように理解すべきかについて,本件訂正発明1及び2に係る請求項の文言上は,
必ずしも明らかであるといえないから,そのような場合における「室」の理解につ
いて,本件明細書の内容を踏まえた検討も行うと,本件明細書の段落【0024】
は,「微量金属元素収容容器を収納している室」には,溶液が充填されていてもよ
いし,充填されていなくてもよい旨を明記しており,同【0033】は,「本態様
の輸液製剤では,図1に示す輸液容器の第1室4に,溶液が充填されていてもよい
し,充填されていなくてもよい」と明記しているところであるから,本件各訂正発
明においては,輸液が充填される空間であるか否かという点は,「室」であるか否か
を決定する不可欠の要素ではないと解される。
それゆえ,前記bのような理解は,本件明細書における「室」の理解にも沿うも
のであるといえる。
d 以上に対し,被控訴人らは,被控訴人製品において,小室Tの外側の樹脂フ
ィルムによって構成される空間(本件小室T)は存在しないと主張するが,2枚の樹脂フィルムの間に空間が構\成されている(その空間中には,2枚の内側の樹脂フィルムの間の空間(本件袋)が包摂されている。)こと自体は,明らかであり,被控
訴人らの主張は採用することができない。
(イ) 「連通可能」について
a 前記(ア)のとおり,「室」については理解すべきものであるとしても,前記イ
のとおり,構成要件1A及び2Aにおいては,「室」が「連通可能\」であることが要
件とされているところ,前記(ア)bで既に指摘したとおり,小室Tに関しては,連通
時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,「室」である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)に輸液が通じることはない。
そうすると,結局,被控訴人製品は,「室」が「連通可能」という要件を充足しないから,構\成要件1A及び2Aを充足しないというべきである。
b これに対し,控訴人は,本件小室Tに収納された本件袋に輸液が通じること
は,本件小室Tに輸液が通じることといえる旨を主張する。この点,前記(ア)dのと
おり,本件小室Tという空間が本件袋という空間を包摂していることは確かに認め
られるが,そのことと,本件袋との連通をもって本件小室Tとの連通と評価し得る
かは,別の問題である。本件訂正発明1及び2に係る請求項1及び2が「室」と「容
器」を明確に分けていることや,前記ア(ア)で指摘した「室」と「容器」についての
技術的な関係のほか,本件明細書の段落【0020】の「微量金属元素収容容器は,
それを収納している室と連通可能であることが望ましい。」という記載は,容器の連通が室の連通とは異なるものとみる見方に沿うものであることからすると,控訴人\nの上記主張を採用することはできない。
(3) 争点(4)について
構成要件10A及び11Aの「複室輸液製剤」にいう「室」についても,前記(2)
アと同様に解するのが相当である。
そして,構成要件1A及び2Aと異なり,構\成要件10A及び11Aについては,
「室」が「連通可能」であることは要件とされていない。したがって,先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)イ及び弁論
の全趣旨により,被控訴人方法は,構成要件10A及び11Aを充足するというべきである。\n
4 争点(2)(構成要件10C及び11Cに係る点に限る。)について
前記3(2)及び(3)で指摘した点を踏まえ,先に引用した原判決の「事実及び理由」
中の第2の1(7)イ及び弁論の全趣旨によると,被控訴人方法においては,「含硫ア
ミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収
容している室」である中室とは「別室」である小室Tの外側の樹脂フィルムによっ
て構成される「室」(本件小室T)に,構\成要件10C又は11Cで特定された微
量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器である,小室Tの内側の樹
脂フィルムによって構成される本件袋が収納されていると認められる。したがって,被控訴人方法は,構\成要件10C及び11Cを充足する。
◆判決本文
1審は、構成要件1C、10Cを具備しないので、技術的範囲に属しないと判断していました。
◆平成30(ワ)29802
以上の記載によれば,本件各発明については,次のとおりのものである旨
認めることができる。
すなわち,まず本件各発明の技術分野は,経口・経腸管栄養補給が不能又は不十\分な患者に対して,経静脈からの各種輸液(糖製剤,アミノ酸製剤,電解質製剤,混合ビタミン製剤,脂肪乳剤等)の投与を行うための輸液製剤
に関するものである。この点,当該輸液製剤は,経時変化を受けることなく
保存し,その使用時に細菌による汚染なく混合するため,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器に収容される。\nしかして,輸液中には,通常,銅等の微量金属元素が含まれていないこと
から,患者は,輸液の投与が長期になるときにはいわゆる微量金属元素欠乏
症を発症することとなる。しかるところ,これを予防するために必要な微量金属元素を輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の\n原因になり,これを防ぐべく含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填
し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金
属元素とを隔離していても,微量金属元素を含む溶液が不安定となるという
技術的課題が生じていた。
本件各発明は,このような技術的な課題に対して,連通可能な隔壁手段で区画されている複室の一室に含硫アミノ酸を含有する溶液を充填し,これと\nは他の室に,微量金属元素を収容した容器を収納するという構成を採用することにより,上記技術的な課題を解決し,微量金属元素が安定に存在してい\nることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するとい
う効果を奏するようにしたものであるというべきである。
そうである以上,本件各発明の課題解決の点における特徴的な技術的構成は,微量金属元素収容容器を,含硫アミノ酸を含有する溶液と同じ室ではな\nく,同室と連通可能な他の室に収納するという構\成を採用したところにある
ものというべきである。そして,これは,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器であることを前提として,その複数の各「室」に\nついては,それぞれ異なる輸液を充填して保存するための構造となっており,上記の微量金属元素収容容器を収納する「室」は,含硫アミノ酸を含有する\n溶液とは異なる輸液の充填・保存のための構造となっている「室」であるという技術的構\成が採用されたものということができる。すなわち,本件各発明において,構成要件1Aの「複数の室」及び構\成要
件10Aの「複室」は,各種輸液を充填して保存するための構造となっている各空間を意味すると解されることから,輸液容器に設けられた空間がその\n一室である構成要件1C及び10Cの「室」に当たるためには,当該空間が輸液を充填して保存し得る構\造を備えていることを要すると解するのが相当であり,これに反する原告の前記主張は採用できない。
この点,証拠(甲2)によれば,本件明細書には,発明の詳細な説明とし
て,「(略)また,微量金属元素収容容器は,それを収納している室と連通
可能であることが好ましい。(以下,略)」(段落【0020】)との記載や,「上記『微量金属元素収容容器を収納している室』には,溶液が充填さ\nれていてもよいし,充填されていなくてもよい。(以下,略)」(段落【0
024】)との記載のあることが認められる。しかしながら,前者の記載に
ついては,前記で説示した本件各発明の技術的意義に照らせば,微量金属元
素収容容器が上記のような意味の「室」に収納されていることを前提とする
記載であり,同容器が輸液を充填して保存し得る構造を備えていない構\成の
ものに収納されている場合をも許容する趣旨であるとは解されない。また,
後者の記載についても,同様に,「微量金属元素収容容器を収納している
室」には,輸液が充填されていない構成のものも含まれることを述べたものにすぎず,そもそも輸液を充填して保存するための構\造となっていない構成\nのものまで含まれることを意味したものと解することはできない。
したがって,これらの記載によっては,前記判断は左右されず,その他,
本件明細書の記載内容を詳細に検討しても,前記判断を左右し得る記載は見
当たらない。
そこで,これを被告製品ないし被告方法について見ると,
及び弁論の全趣旨によれば,小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋を
覆っている外側の樹脂フィルム2枚は,中室側及び小室V側の両端部におい
て内側の樹脂フィルムと溶着されており,使用時にも当該溶着部分は剥離し
ないと認められる。
そうすると,小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の
空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではなく,これに照らすと,
同空間が,輸液を充填して保存し得る構造を備えているものとは認められないといわざるを得ず,同空間が「室」に当たるということはできない。\nしたがって,被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を具備するとは認められない。\n
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2021.10.28
平成29(ワ)1390 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年9月16日 大阪地方裁判所
パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟です。技術的範囲に属しないと判断されました。対象特許は7件です。多くは29条1項2号(公然実施)による権利行使不能です。事件番号が平成29・・なので、提訴から判決まで4年かかったことになります。委託者および受託者が原告となっています。
本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲の記載によれば,同発明に係るランプ
は,「基板を保持する金属製の基台」(構成要件 1-1F’)をその構成要素の1つとして備えるところ,「前記基台は,前記長尺状の底部と,前記底部の短手方向の一\n方の端部に設けられた第1壁部と,前記底部の短手方向の他方の端部に設けられた
第2壁部とを有し」(構成要件 1-1I’),「前記第1壁部及び前記第2壁部は,前
記底部の前記基板側に衝立状に形成されて」(構成要件 1-1J’)いることが特定さ
れている。
これによれば,基台の底部の短手方向の両端部にそれぞれ設けられた第1壁部と
第2壁部は,底部に対し基板側に形成されるものであり,その形状ないし状態が
「衝立状」であることが示されている。もっとも,いかなる形状等をもって「衝立
状」とするかについては記載がなく,その意味が一義的に明らかとはいえない。
イ 本件明細書1の記載等
「第1壁部」及び「第2壁部」について,本件明細書1【0055】には,第1基
台 50 が,長尺状の底部(底板部)と,底部における第1基台 50 の短手方向(基板
11 の幅方向)の両端部に形成された第1壁部 51 及び第2壁部 52 とを有すること,
これらの壁部は,第1基台 50 を構成する金属板を折り曲げ加工することによって衝立状に形成されていることが記載されている。また,同段落には,同明細書図\n3B と合わせ,LED モジュール の基板 11 は第1壁部 51 と第2壁部 52 とによっ
て挟持されており,LED モジュール は,第1壁部 51 と第2壁部 52 とによって
基板 11 の短手方向の動きが規制された状態で第1基台 50 に配置されることも記載
されている。本件訂正における本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J'の追加は,こ
の記載等を含む本件明細書1の記載による開示に基づいて行われたものである(甲
83)。
さらに,広辞苑(乙291)においては,「衝立」とは「衝立障子の略」であり,
「衝立障子」とは「屏障具の一。一枚の襖障子または板障子に台をとりつけ,移動
便ならしめたもの。・・・玄関・座敷などに立てて隔てとする。」と説明されている。
加えて,「衝立障子」は,一般に,それが設置される面に対して略直立するものと
把握される。他方,「状」とは,物事の形,姿,有り様,様子を意味し,「○○状」
とは,ある物事の形等を「○○」に例える際に用いられる表現である。以上の本件明細書1の記載等を踏まえると,第1壁部及び第2壁部は,基台の底\n部の基板側に衝立状に形成されることにより基板11を挟持し,短手方向の動きが
規制する機能を果たすものであるところ,その形状等は上記意味での「衝立障子」に例えられるものである必要があることが理解できる。\n
ウ 小括
以上より,本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲及び本件明細書1の記載等
並びに「衝立」の一般的な意味等に鑑みると,第1壁部及び第2壁部が「衝立状」
に形成されるとは,これらの壁部が基台の底部の基板側に,同底部に対して略直立
した形状に形成されていることを意味するものと解される。これに反する原告の主
張は採用できない。
(2) 被告製品1〜5,7〜10及び12の構成要件充足性
被告製品1〜5,7〜10及び12の断面図は,別添「被告製品断面図」のとお
りである。
このうち,被告製品4及び5については,第1壁部及び第2壁部に相当すると見
られる部位は,基台の底部から基板側に形成された基台の一部が内側に向けて鋭角
に傾斜した形状に形成されており,底部に対して略直立した形状とはいえない。
次に,被告製品1〜3,7〜10及び12については,第1壁部及び第2壁部に
相当すると見られる部位には,基台の底部から基板側に略直立といってよい形状に
延出している部分もあるものの,これと一体のものとして,基板とほぼ同じ高さで
基台の底部に平行に形成された部分もあるため,全体としては「コの字」又は「T
字」と表現すべき形状に形成されているものというべきであって,底部に対して略直立した形状に形成されているとはいえない。\nしたがって,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,第1壁部及び第
2壁部に相当すると見られる部位が底部の基板側に「衝立状」に形成されておらず,
本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J’を充足しない。
(3) 小括
以上により,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,本件訂正発明1
−1の技術的範囲に属しない。
4 充足論のまとめ
本件発明1−1,1−3,1−16及び1−17及び並びに本件訂正発明1−1
7につき,対象となる各被告製品が各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属することは,前記(第1の5)のとおりである。\nまた,本件発明1−14並びに本件訂正発明1−18及び1−20については,
前記2のとおり,被告製品1〜5,7〜16は,対応する各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属すると認められる。\n他方,本件訂正発明1−1については,被告製品1〜5,7〜10及び12は,
いずれもその構成要件 1-1J'を充足せず,その技術的範囲に属しない。したがって,
本件訂正発明1−1については,その余の点を論ずるまでもなく,訂正の再抗弁は
認められない。
5 403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10)
事案に鑑み,まず,403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10)について検
討する。
(1) 403W 製品の先使用について
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
(ア) 被告は,平成24年4月23日頃,韓国で製造された 403W 製品480セッ
トを輸入した(乙143,315)。
(イ) 被告は,同月25日,ミツワ電機株式会社関西支社に対し,403W 製品24
台を含む商品の見積書を作成,送付し,同月26日,同社関西特機営業所から受注
して,同月28日,これを井づつやに納品した(乙167,168)。
その後,井づつやに納品された上記 403W 製品24台は,同所のエントランスロ
ビー等において使用されていたところ,被告は,平成30年7月23日までに,井
づつやからこれを入手した。この被告 403W 製品には,製造ロット番号として
「120416」が表示されているところ,これは,当該製品の製造年月日が平成24年4月16日であることを意味する。(乙166,弁論の全趣旨)\n
(ウ) 被告は,本件チラシ(平成24年1月発行)に,平成24年3月初旬発売予定の商品として 403W 製品を掲載した(乙138)。また,被告は,本件カタログ
(同年2月発行)にも 403W 製品を掲載したところ,他の掲載商品には発売予定時期を明記したものが見られるが,403W 製品にはそのような記載はない(乙35)。
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,被告は,遅くとも本件優先日である
平成24年4月25日以前に,403W 発明の実施である事業をしていたことが認め
られる。
(2) 403W 発明の構成等
ア 403W 発明の構成のうち,上記第2「10」(被告の主張)(3)における構成 1-
3a10〜c及び e並びに 1-14a10〜f及び hについては,原告 PIPM も明ら
かには争わないから,これを認める。
上記構成 1-3a10〜c及び eは,本件発明1−1の構成要件 1-1A〜C 及び E,
本件発明1−3の構成要件 1-3A〜C 及び E,本件発明1−16の構成要件 1-16A〜
C 及び F,本件発明1−17の構成要件 1-17A〜C 及び E 並びに本件訂正発明1−
17の構成要件 1-17B’〜D’にそれぞれ相当するものといえる。また,構成 1-14a10
〜f及び hは,本件発明1−14の構成要件 1-14A〜E,G 及び本件訂正発明
1−18の構成要件 1-18B’〜F’,I’にそれぞれ相当するものといえる。
さらに,403W 製品は,直管形 LED ユニットであり,樹脂(ポリカーボネート)
製カバー(筐体)の長手方向の両端に口金が設けられているところ,その一方には
電源内蔵ユニット用専用口金を備え,この口金のみが,電源内蔵用専用ソケット(給電側)を通じて交流電力を受けるものである(乙35,299)。そうすると,\n403W 発明は,本件発明1−16の構成要件 1-16E 並びに本件訂正発明1−17の
構成要件 1-17E’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18G’,H’に相当する構成を備えていることが認められる。\n加えて,403W 製品は,既存の器具本体をそのまま残し,専用ソケット及び直管形LED ユニットをリニューアルして照明装置として使用する製品シリーズに含まれる製
品である(乙35)。したがって,ランプである 403W 製品に係る発明(403W 発明)
は,そのランプが取り付けられた照明装置に係る発明に含まれるといえる。このため,
403W 発明は,本件発明1−17の構成要件 1-17F,本件訂正発明1−17の構成要件 1-17A’及び G’並びに本件訂正発明1−18の構成要件 1-18A’及び K’に相当する構成を備えていることが認められる。
イ 403W 製品の輝度均斉度等
(ア) 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
a LED モジュールの寿命は,製造業者等が指定する条件下で点灯したとき,
LED モジュールが点灯しなくなるまでの総点灯時間,又は全光束が点灯初期に測
定した値の70%に下がるまでの総点灯時間のいずれか短い時間とされているとこ
ろ,高光束 LED を1万時間連続通電してその光出力の変化を調査した実験データ
によれば,1チップ方式の白色 LED の寿命(光出力が70%になる時間)は4万
5000時間と推定されるとの実験データがある。なお,原告パナソニックのカタログ(乙34)には,直管形 LED ランプについて,4万時間経過後の光束維持率
が95%であることが示されている。
また,LED を連続的に点灯し続けると,LED チップを封止する樹脂(以下
「LED 樹脂部」という。)が黄変し,光量の低下を招くことがある。さらに,LED
照明は,使用する場所の環境温度が高くなるほど劣化が加速されると共に,使用環
境下に硫化ガス等の発生要因がある場合,LED 樹脂部及び接合部にダメージを与
えることなどによっても,劣化が加速する場合がある。
(以上につき,上記のほか,甲37〜39)
b 被告 403W 製品は,平成24年4月28日の井づつやへの納品後,被告が平
成30年7月に入手するまで,6年以上の間継続的に使用されていたものと見られ
るところ,その LED 素子の中央部分はやや黄変しており(乙217,218),
カタログに記載された初期値を100%とした場合の被告 403W 製品の全光束(全
ての方向に放出する光束の総和)は89.0%,光効率は92.6%に減少してい
る(乙216)。もっとも,被告 403W 製品の LED1個あたりの配光データは,
新品の LED の配光データが概ね120度(ランバーシアン配光の場合)であるの
に対し,114度及び115度である(乙214,215の3,215の4)。
また,403W 製品のカバーと 402W 製品のカバーは,共通の部材(ポリカーボネ
ート)を使用した同じ仕様のものであると認められるところ(乙35,298,2
99,315),被告 403W 製品と未使用の 402W 製品について,それぞれカバー
を交換して全光束及び y/x 値を測定した結果,いずれも交換せずに測定した結果と
の差は,1%以下(全光束)及び0.01(y/x 値)であった(乙316〜318,
弁論の全趣旨)。
(イ) 以上の事情を踏まえると,被告 403W 製品の LED 素子は,6年以上使用を
継続されているものであり,LED 樹脂部の黄変及び全光束や光効率の減少は生じ
ているものの,その配光特性は,初期値(ランバーシアン配光)と大きく異ならず,
著しい経時変化は見られないものといってよい。403W 製品の光拡散性を有するカ
バー部分についても,被告 403W 製品には,上記継続使用期間にもかかわらず,全
光束や y/x 値の測定値に影響を与えるような劣化等が生じているとはいえない。
そうすると,被告 403W 製品について,被告が平成30年7月23日に測定した
y 値=15.7mm,x 値=11.7mm,y=1.34x との測定結果(乙166)及び令和2年1
月29日に測定した y 値=15.6mm,x 値=11.7mm,y=1.33x との測定結果(乙29
7)は,いずれも 403W 製品の初期値とほぼ同等のものと見るのが相当である。
(ウ) そうすると,403W 発明は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン
プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合
う前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y=15.7mm,x=11.7mm
であり,y=1.34x」との構成すなわち構\成 1-3d及び 1-14g10)を有するといえる。
したがって,403w 発明は,本件発明1−1の構成要件 1-1D,本件発明1−3の
構成要件 1-3D,本件発明1−14の構成要件 1-14F,本件発明1−16の構成要素 1-16D 及び本件発明1−17の構成要件 1-17D 並びに本件訂正発明1−17の
構成要件 1-17F’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18J’に相当する構成を有していると認められる。\n
ウ 以上より,403W 発明は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1
−18の構成要件を充足する構\成を備えたものであり,これらの各発明と同一性が
認められる。
エ 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告 403W 製品について,長時間の使用による経年変化,LED
素子の樹脂やせや黄変,使用環境の影響等により,被告測定時点での被告 403W 製
品の y/x 値等が初期値のものと同等とはいえない旨を主張する。
しかし,上記のとおり,被告 403W 製品については,長時間の使用による経年変
化等により,LED 素子の中央部に黄変が見られ,また,カタログ値と比較して全
光束や光効率が10%程度減少しているという事実は認められるものの,それ以上
に,LED 素子の劣化(凹み)をはじめ,配光特性に影響を及ぼし得るような LED
素子の劣化等を裏付ける具体的な事情は見当たらず,カバー部材についても,y/x
値等に影響を与えるような劣化が生じているといった事実の存在を具体的にうかが
わせる事情は見当たらない。本件交換実験の結果に関しても,上記のとおり,交換
に係る製品が共通の部材を使用した同じ仕様のものであると認められることに鑑み
ると,原告 PIPM が指摘する事情を考慮しても,その結果の信用性を直ちに疑うべ
きものとまではいえない。
その他原告 PIPM が縷々指摘する事情を踏まえても,この点に関する原告 PIPM
の主張は採用できない。
(3) 先使用権の範囲
上記(1)及び(2)によれば,被告は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及
び1−18の内容を知らないで自らこれらに含まれる 403W 発明をし,本件優先日
の際に,日本国内において,その発明の実施である事業をしている者と認められる。
したがって,被告は,403W 発明及び上記事業の範囲内において,本件各発明1並
びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る特許権について,通常実施権を有す
る。
また,403W 製品は,x 値及び y 値の関係性を特定する技術的思想が明示的ない
し具体的にうかがわれるものではないものの,実際にはその x 値及び y 値の関係性
により,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る構成要件に相当する構\成を有し,その作用効果を生じさせている。加えて,403W 発明につき,
照明器具としての機能を維持したまま,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18の特定する x 値及び y 値の関係性を充たす数値範囲に設計変更するこ
とは可能と思われる。このため,被告製品1〜5及び7〜16は,いずれも,403W 発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式であるにとどまる
ものといえる。
そうすると,被告による被告製品1〜5及び7〜16の製造販売は,被告の上記
通常実施権の及ぶ範囲内に含まれる。
(4) 小括
以上のとおり,被告は,403W 発明に基づく上記通常実施権により,業として被
告製品1〜5及び7〜16を製造販売し得ることから,その余の点につき論ずるま
でもなく,原告 PIPM は,被告に対し,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17
及び1−18に係る本件特許権1を行使し得ない。
6 無効理由9(クラーテ製品2)の公然実施による新規性欠如)の有無(争点12)
(1) 公然実施の有無
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
(ア) リコーは,平成23年7月7日,直管形 LED ランプである「クラーテ P シ
リーズ40形」を同月末発売予定である旨をプレスリリースした。また,同社は,平成24年1月現在の製品を掲載したカタログ「<クラーテ>P シリーズ」(乙1
71の1)にクラーテ製品2)を掲載しているところ,同カタログ掲載の仕様は,上
記プレスリリースに係る製品の仕様と概ね同一である。さらに,同社は,遅くとも
同月には,クラーテ製品2)を含むシリーズ製品を販売していた。(上記のほか,乙
170,172,173,368)
(イ) 被告は,令和元年9月12日終了のオークションにより,クラーテ製品2)1
4本(被告クラーテ製品2))を入手したところ,これらの被告クラーテ製品2)には,
いずれも,製造ロット番号として「1203」が表示されている。これは,当該製品の製造年月が平成24年3月であることを意味する。(乙172,174,186,\n288)
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,クラーテ製品2)は,遅くとも平成2
4年1月頃には,リコーから販売されたことによりその構造が解析可能\な状態に至
ったものと認められる。
これに対し,原告 PIPM は,クラーテ製品2)の上市時期が明らかでないこと,仮
に被告クラーテ製品2)の製造日が平成24年3月であっても,製品製造後すぐ出回
るとは考えがたいことなどを主張する。
しかし,上記のとおり,リコーがクラーテ製品2)を平成24年1月には販売して
いたことが認められるのであって,それから約3か月が経過した本件優先日時点で
は,クラーテ製品2)が実際に市場に出回っていたものと見るのが合理的かつ相当で
ある。したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
ウ 小括
以上より,クラーテ発明2)は,本件優先日より前に日本国内において公然実施を
された発明といえる。
(2) クラーテ発明2)の構成等
ア クラーテ発明2)が構成 1-20a’12〜f’12 及び h’12 を有すること,これらの構成がそれぞれ本件訂正発明1−20の構\成要件 1-20A’〜F’及び H’に相当すること
については,原告は明らかに争わないことから,これを認める。なお,本件訂正発
明1−20の構成要件 1-20D’の「「基台の上に実装された」の意義について,
LED チップが実装された容器が基板を介して間接的に実装された構成を含むことは上記2のとおりである。\nイ 被告クラーテ製品2)14本の構成 1-20g’12 に係るパラメータ(y/x)の被告
測定値は,1.208〜1.278 であった(乙289)。また,関連無効審判における検
証手続の結果によれば,被告クラーテ製品2)は,x 値は 8.6mm,y 値は 10.39mm
であり,y≒1.208x であった(乙346,365,弁論の全趣旨)。
そうすると,クラーテ発明2)は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン
プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合う
前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y≒1.208x の関係である」(構成 1-20g’12)の構成を有するものと認められる。この構\成は,本件訂正発明1−20
の構成要件 1-20G’に相当する。
(3) したがって,本件訂正発明1−20は,本件優先日より前に日本国内におい
て公然実施をされた発明であるクラーテ製品2)に係る発明と同一の発明であるから,
法29条1項2号に違反し,無効にされるべきものと認められる。すなわち,本件
訂正発明1−20に係る本件訂正によっては無効理由が解消されないことから,本
件訂正発明1−20に係る訂正の再抗弁は認められない。
(4) 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告測定値のばらつきや経年変化等の事情を指摘して,被告測定
値が初期値と等しいとはいえない旨を主張する。
この点,被告クラーテ製品2)については,オークションの出品者による説明とし
て,中古品であること,商品の状態として「やや傷や汚れ」があること,使用期間
が2年弱であること,電気工事業者による取り外し作業の際に「ざっくりと中性洗
剤で管だけ拭きあげた状態」で丁寧な梱包により発送すること,「RICOH ロゴマ
ークあたり」が黒ずんで見えるものの,LED は使用が進んでも黒ずむことはない
ため元々の仕様であることなどが記載されている(乙288)。
もっとも,クラーテ製品2)は,光束が70%まで低下するまでの定格寿命が4万
時間とされている(乙170の3,171の1)。このため,被告クラーテ製品2)
につき,仮に25%に相当する1万時間使用された事実があったとしても,配光特
性に影響を与えるとは必ずしもいえず,現に,被告クラーテ製品2)のうち2本の配
光特性はいずれも117度である(乙320)。口金ピンやランプマーク側の管端
部の黒ずみについても,その存在から直ちに他の部位にも同様の黒ずみが存在し,
配光特性に影響を与えるとは必ずしも推認し得ないことから,同様である。また,
クラーテ製品2)については,光触媒の膜が剥がれて本来の効果が得られなくなる場
合があるとして,製品の表面を強く擦らないようにとの注意喚起がされているものの(乙170の3),「ざっくりと中性洗剤で」「拭き上げ」るといった態様がこ\nれに含まれるとは考えられない。むしろ,LED ランプの手入れ方法としてこのよ
うな方法が奨励されているとも見られる(乙35)。さらに,被告クラーテ製品1)
(乙169,214,215によれば,未使用品と認められる。)と被告クラーテ
製品2)のカバー部材を交換した測定によっても,両者の半値幅等に有意な差異はな
い(乙370)。
これらの事情等を踏まえると,被告クラーテ製品2)につき,経年変化等によりパ
ラメータの値に変化が生じているとは考えられず,上記(2)での認定に係る被告ク
ラーテ製品2)の被告測定値及び関連無効審判の検証手続における測定値は,初期値
と概ね等しいものと見られる。
したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
7 まとめ
以上のとおり,本件各発明1(並びに本件訂正発明1−17及び1−18)に係
る本件特許権1に基づく原告 PIPM の請求については,被告に 403W 発明に基づく
先使用権が成立することにより,原告 PIPM は,被告に対し,本件特許権1を行使
し得ない。他方,本件訂正発明1−1に係る訂正の再抗弁は,被告製品1〜5,7
〜16がその技術的範囲に属さないことにより,また,本件訂正発明1−20に係
る訂正の再抗弁は,クラーテ発明2)の公然実施を理由とする新規性欠如の無効理由
があり,本件訂正によって無効理由が解消されないことにより,いずれも再抗弁の
成立が認められない。
以上より,その余の点について論ずるまでもなく,被告による本件特許権1の侵
害は認められないから,原告 PIPM の本件特許権1の侵害に基づく請求は,いずれ
も理由がない。
◆判決本文
◆添付1
◆添付2
◆添付3
◆添付4
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2021.10.21
令和3(ネ)10029 特許侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年10月13日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
知財高裁は、1審の「技術的範囲に属する、推定覆滅率2割」を維持し、約7300万円の損害賠償を認めました。1審判決が出たのが2021年3月なので早いですね。また、方法発明について、共同直接侵害の成立を認めています。
足場が不要になることが本件発明の唯一の効果であるとはいえないことは,上記2のとおりである。また,同業他社の製品(乙60の各枝番)の施工方法は,証拠上は必ずしも明らかではなく,本件発明及び被告方法のように,倹鈍式によるガラス板の嵌め込み,ガラス板及び目地枠を摺動させることによる取付け,係止爪と被係止爪との係止,といった工程を可能にするものか否かは定かでない。また,控訴人が引用する裁判例は,本件とは事案を異にし,本件における損害額の算定において参考となるものではない。そうすると,控訴人の当審における上記主張は,原判決を引用して説示したとおり推定覆滅率2割を相当とするとの判断を左右するものではなく,採用することができない。\n
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)10716
以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを
実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ
るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し
ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同
程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について
証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ
ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数
のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認
められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する
ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について
証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ
も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付
枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる
(乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4
辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ
れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。
これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製
目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指
摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的
にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付
強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係
合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し
て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲
14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ
るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等
の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて
も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得
る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について
証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ
製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに
より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。
これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製
目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指
摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程
度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ
ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって,
アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺
笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関
係である。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他
原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可
能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら
の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に
おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す
る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当
である。
もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると
認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全
趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27
製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3
9製品が平成29年10月であることが認められる。
また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ
ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。
これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品
及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2
項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に
よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程
度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的
であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい
ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに
反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。
そうすると,特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は,以下のと
おりとなる。
・・・
したがって,原告の損害額は合計5481万9267円となり(内訳は以下のと
おり),原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づき,同額の損害賠
償請求権を有する。
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2021.10.18
令和3(ネ)10040 差止請求権不存在確認請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年10月14日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
CS関連発明について、均等侵害を認めた大阪地裁の判断を知財高裁も支持しました。
控訴人は,前記第2の3(2)エ(ア)のとおり,本件特許の出願過程の経
緯から客観的,外形的に見るならば,物又は方法の発明として特許出願
している被控訴人が,その補正として「逐次又は一斉に表示」という構\
成を削除したのであるから,画像選択手段を含むコンピューターにより
出力されるという構成においても「逐次又は一斉に表\示」という構成を\n意識的に除外したと主張する。
しかし,当該出願経過によれば,被控訴人は,明確性要件違反の拒絶
理由(甲8)に対し,本件補正により,コンピューターを構成に含む学\n習用具と記載し,また,被控訴人が甲第10号証と併せて提出した意見
書(甲9)3頁の「(4)記載不備の拒絶への対処」では「作業の主体を
「手段」とし,人が行う作業を示す部分を削除致しました。」としている
のであり,他の部分も削除したことを外形的に示す説明はない。
また,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」との構成を付\n加した点について,客観的には,組画を構成する複数の画のうち任意の\n1つの画像データ(ユニット画)を選択すること(例えば第一の関連画
のみを選択すること)が意識的に除外されているとはいい得るとしても,
二以上の組画の画像データを選択することが意識的に除外されたとは
いえない。また,「逐次」の文言が用いられている本件明細書【0037】,
【0038】及び【0052】 において,「逐次」及び「一斉」の両方
が用いられているのは特定の組画を構成するユニット画について記載\nしている【0038】に「特定の組画を構成するユニット画は,全て一\n斉に表示してもよいが,前述のように逐次表\示するほうが,学習効果が
増して好ましい。」とあるのみであるから,本件補正前の「それぞれの前
記記憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対\n象を記憶する」との記載は,特定の組画を構成するユニット画を逐次又\nは一斉に表示することを指していると解するべきであり,「逐次又は一\n斉に表示」という構\成を削除したからといって,複数の組画を選択する
構成を除外する意図であったと認めることはできない。\n
さらに,被控訴人が,上記意見書で進歩性に関して主張したところは,
本件発明が,1)対応する語句が存在する原画の形態を,その形態に対応
する語句と結びつけて記憶することを目的すること,2)関連画の輪郭が,
原画に類似等しており,一定の意味内容を有することから,学習対象者
が,意味内容と原画との関連付けにより,記憶することに苦痛を感じる
ことなく楽しみを感じながら,原画を記憶することができること,3)関
連画及び原画に対応する語句の音声データを再生し,関連画及び原画の
表示は対応する語句の再生と同期して行うこと,4)原画又は原画に対応
する語句を思い出すことを目的とするため,関連画の表示及び関連画に\n対応する語句の再生を行った後に,原画の表示及び原画に対応する語句\nの再生を行うこと,5)第一の関連画,第二の関連画,及び原画の順に表\n示し,しかも,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を,
対応する語句の再生と同期して表示することにより,4通りのルートに\nよって原画及び対応する語句を思い出すことができることを挙げるもの
であるが(甲9),これらの特徴は,複数の組画を選択する構成と矛盾す\nるものではなく,これを意識的に除外する旨を表示したものとはいえな\nい。
(イ) 控訴人は,前記第2の3(2)エ(イ)のとおり,被控訴人が補正において,
構成要件B2の画像選択手段の構\成を加えた点について,複数の組画を
選択する構成を除外しない意図であるならば「一又は複数の組画」や単\nに「組画」等といった記載にすることは極めて容易であり,本件特許の
出願経過を客観的,外形的に見るならば,「一の組画の画像データを選択
する画像選択手段」を付加したことは,複数の組画を選択する構成を意\n識的に除外したことになると主張する。
しかし,仮に,他により容易な記載方法があったとしても,出願人が,
補正時に,これを特許請求の範囲に記載しなかったからといって,それ
だけでは,第三者に,対象製品等が特許請求の範囲から除外されるとの
信頼を生じさせるとはいえない。客観的にみて,「一の組画の画像データ
を選択する」との記載が,組画を構成する画が維持された状態で選択す\nる限りにおいては,二以上の組画の画像データを選択することを意識的
に除外するものとまでは認められないことは,前記(ア)のとおりである。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆大阪地判 平成31年(ワ)第3273号)
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2021.09.18
令和2(ワ)4332 特許権侵害行為差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年8月20日 東京地方裁判所
特許権侵害事件で無効理由無し、技術的範囲に属するとの判断がなされました。被告らは共同関係にないと主張しましたが認められませんでした。
上記認定事実のとおり,被告ジョウズ及び被告アンカーは,いずれもAn
kerグループに属する法人であり,被告ジョウズの設立時の代表者と被告\nアンカーの代表者は同一である上,被告ジョウズの令和元年9月時点での従\n業員数は2名であり,そのうちの1名であるZは令和元年5月に被告アンカ
ーから被告ジョウズに移籍しているとの事実が認められる。また,被告ジョ
ウズの本店所在地のオフィスの利用契約上の地位は被告アンカーから譲り受
けたものであるなど,両社には密接な人的及び物的な関係があるということ
ができる。
また,被告ジョウズは被告製品1及び2の販売に関する記者発表が行われ\nる約4か月前に設立されているが,その人的態勢は,代表者であるYのほか\n従業員が2名にすぎず,その2名についても,令和元年9月1日から同月3
0日までの1人当たりの勤務日数及び勤務時間は通常の事業活動をしている
とは考え難いほど短い。また,被告ジョウズのオフィスはシェアオフィスで
あり,平成30年10月時点において,同オフィスの入居するビル1階の受
付には被告ジョウズの表示はなかったことなどによれば,被告ジョウズが被\n告製品に関する実質的な事業活動を行っていたとは考え難い。
さらに,上記のとおり,楽天における被告製品の販売サイトにおける商品
の返送先住所は被告アンカーの所在地と同じビルであると認められるところ,
被告ジョウズが被告アンカーに対して返品された商品の取扱いを委託すると
ともに,マーケティング業務などを委託していたことについては当事者間に
争いがない。被告らは,被告アンカーが受託したのは上記業務に限定される
と主張するが,マーケティング業務も行いながら,商品については返品取扱
い業務のみを取り扱っていたとは考え難く,上記の被告ジョウズの物的・人
的態勢も考慮すると,被告アンカーは被告製品の販売等に関する業務を被告
ジョウズと共同して行っていたと推認することが相当である。
加えて,被告製品1及び2の記者発表に関する記事等には,「Anker\nグループが技術的にサポートしたことから,アンカー・ジャパンのY社長が
ジョウズ・ジャパンの代表取締役を兼任する」などと記載されていること,\n被告製品3の記者発表は当時まだ被告アンカーの在籍していたZが行ってい\nること,被告商品に関するウェブページには,同製品がAnkerグループ
ないし中国アンカー社のサポートを受けて作られたものである旨の説明がさ
れていること,Ankerグループのオフィシャルストアの海外のウェブサ
イトにおいて被告製品が「Anker Jouz 20」などとして販売さ
れていることなどの事実によれば,被告製品に関する事業には,被告アンカ
ーを含むAnkerグループや中国アンカー社が関与していることがうかが
われる。
以上を総合すると,被告アンカーが被告ジョウズと共同して被告製品の販
売等をしていたと認めるのが相当である。
(3) 被告らの主張について
ア これに対し,被告らは,被告製品に関する業務の委託先の一つにすぎず,
被告製品の返品及びマーケティング業務等の委託を受けていただけであ
り,業務委託の対価も固定額であり,被告製品の販売実績によって金額が
左右されるものではないと主張する。
しかし,被告らからは,被告アンカーから被告ジョウズに宛てた業務委
託料の請求書や担当者名等が黒塗りされた請求書や電子メール等が提出
されているにとどまり,被告ジョウズと被告アンカーとの間の業務委託契
約書,被告製品に関する費用や利益の帰属を示す客観的な証拠,被告アン
カーが行っていた業務の実態やこれに関与した者の氏名や具体的な役割
等を客観的かつ具体的に明らかにする証拠は提出されていない。
前記判示のとおり,被告ジョウズと被告アンカーの人的・物的関係や被
告ジョウズの実態などを考慮すると,被告アンカーは被告ジョウズから一
部の業務を受託していたにとどまらず,被告製品の販売等に関する業務を
同被告と共同して行っていたと推認することが相当であり,これを覆すに
足りる的確な証拠は存在しない。したがって,被告らの上記主張は理由がない。
イ 被告らは,被告ジョウズと被告アンカーには資本関係がなく,取扱製品
も異なる上,代表取締役自らが営業等を行っている会社は多数存在し,商\n品開発において他社と協力することも通常の事業活動にすぎないので,被
告らに相互に相手方の役割等を認識し,これを利用する意思はなかったと
主張する。
しかし,両社はいずれもAnkerグループに属する法人であり,被告
ジョウズの設立時の代表者と被告アンカーの代表\者は同一である上,被告
ジョウズは本店所在地のオフィスの利用契約上の地位を被告アンカーか
ら譲り受けるなど,両社には密接な人的及び物的な関係があることは前記
判示のとおりである。また,被告ジョウズの実態などを考慮すると,被告
アンカーが返品処理業務やマーケティングなど一部の業務を受託してい
たにとどまらず,被告製品の販売等に関する業務を被告ジョウズと共同し
て行っていたと評価し得ることも上記のとおりである。
したがって,被告らの上記主張は理由がない。
(4) 以上によれば,被告アンカーは,被告ジョウズと共同して,被告製品の販
売,輸入及び販売の申出をしてきたと認められる。\n
◆判決本文
関連事件です。
◆令和1(行ケ)10174
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令和1年(ワ)20075特許権侵害差止請求事件
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2021.09. 8
令和1(ワ)30991 特許権侵害差止等請求事件 令和3年3月30日 東京地方裁判所
漏れていたので追加します。特許侵害事件において、明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして権利行使不能\と判断されました。
なお、原告の査証命令申立てについては却下されました。\n
前記(2)に説示したとおり,前記第2の1(4)アの出願当初の請求項1及び
2の記載からすれば,本件特許に係る特許出願当初の請求項1及び2の記載
は,HFO−1234yfに対する「追加の化合物」を多数列挙し,あるい
は当該「追加の化合物」に「約1重量パーセント未満」という限定を付すに
とどまり,上記のとおり多数列挙された化合物の中から,特定の化合物の組
合せ(HFO−1234yfに,HFO−1243zfとHFC−245c
bとを組み合わせること)を具体的に記載するものではなかったというべき
である。
しかして,上記(3)の当初明細書の各記載について見ても,特許出願の当
初の請求項1と同一の内容が記載され(【0004】),新たな低地球温暖化
係数(GWP)の化合物であるHFO−1234yf等を調製する際に,H
FO−1234yf又はその原料(HCFC−243db,HCFO−12
33xf,及びHCFC−244bb)に含まれる不純物や副生成物が特定
の「追加の化合物」として少量存在することが記載されており(【0003】,
【0016】,【0019】,【0022】),具体的には,HFO−1234y
fを作製するプロセスにおいて,有用な組成物(原料)がHCFC−243
db,HCFO−1233xfおよび/またはHCFC−244bbである
ことが記載され(【0005】),HCFC−243db,HCFO−123
3xf及びHCFC−244bbに追加的に含まれ得る化合物が多数列挙さ
れてはいる(【0006】ないし【0008】)ものの,そのような記載にと
どまっているものである。
そして他方,当初明細書においては,そもそもHFO−1234yfに対
する「追加の化合物」として,多数列挙された化合物の中から特に,HFO
−1243zfとHFC−245cbという特定の組合せを選択することは
何ら記載されていない。この点,当初明細書においては,HFO−1234
yf,HFO−1243zf,HFC−245cbは,それぞれ個別に記載
されてはいるが,特定の3種類の化合物の組合せとして記載されているもの
ではなく,当該特定の3種類の化合物の組合せが必然である根拠が記載され
ているものでもない。また,表6(実施例16)については,8種類の化合\n物及び「未知」の成分が記載されているが,そのうちの「245cb」と
「1234yf」に着目する理由は,当初明細書には記載されていない。さ
らに,当初明細書には,特許出願当初の請求項1に列記されているように,
表6に記載されていない化合物が多数記載されている。それにもかかわらず,\nその中から特にHFO−1243zfだけを選び出し,HFC−245cb
及びHFO−1234yfと組み合わせて,3種類の化合物を組み合わせた
構成とすることについては,当業者においてそのような構\成を導き出す動機
付けとなる記載が必要と考えられるところ,そのような記載は存するとは認
められない(なお,本件特許につき,優先権主張がされた日から特許出願時
までの間に,上記各説示と異なる趣旨の開示がされていたことを認めるに足
りる証拠はない。)。
これらに照らせば,当業者によって,当初明細書,特許請求の範囲又は図
面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項としては,低地球
温暖化係数(GWP)の化合物であるHFO−1234yfを調製する際に,
HFO−1234yf又はその原料(HCFC−243db,HCFO−1
233xf,及びHCFC−244bb)に含まれる不純物や副反応物が特
定の「追加の化合物」として少量存在する,という点にとどまるものという
ほかなく,その開示は,発明というよりはいわば発見に等しいような性質の
ものとみざるを得ないものである。そして,当初明細書等の記載から導かれ
る技術的事項が,このような性質のものにすぎない場合において,多数の化
合物が列記されている中から特定の3種類の化合物の組合せに限定した構成\nに補正(本件補正)することは,前記のとおり,そのような特定の組合せを
導き出す技術的意義を理解するに足りる記載が当初明細書等に一切見当たら
ないことに鑑み,当初明細書等とは異質の新たな技術的事項を導入するもの
と評価せざるを得ない。したがって,本件補正は,当初明細書等の記載から
導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したもので
あるというほかない。
以上によれば,本件補正は「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範
囲又は図面に記載した事項の範囲内」においてしたものということはできず,
特許法17条の2第3項の補正要件に違反してされたものというほかなく,
本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められ(特許法
123条1項1号),同法104条の3第1項により,特許権者たる原告は,
被告に対しその権利を行使することができないこととなる。
・・・
原告は,令和2年10月19日,原告主張製品のうち,被告から原告に対
し販売された最終製品以外のものに含まれるHFO−1234yf,HFO
−1243zf,HFC−245cb及びHFO1234zeの含有量を立
証すべき事項として,査証命令の申立てをした(当庁令和2年(モ)第267
4号)。
(2) しかしながら,前記のとおり,本件特許は特許無効審判により無効にされ
るべきものと認められるのであって,原告主張製品であれ,被告主張製品で
あれ,対象製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かを問わず,原告は被
告に対し,本件特許権を行使することができないものである。そうすると,
当裁判所としては,本件訴訟において,原告の請求に理由があるかを判断す
るために,上記の立証すべき事項たる事実を判断する必要がないものといわ
ざるを得ず,ひいては,同事実を判断するため,上記査証命令申立てにより\n得られる証拠を取り調べることが必要であるとも認められない。
以上によれば,上記査証命令の申立ては,必要でない証拠の収集を求める\nものであり,その必要性を欠くものというべきであるから,原告の上記査証
命令申立ては,これを却下することとする。\n
◆判決本文
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2021.07.27
令和2(ネ)10044 特許権侵害損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年6月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁3部は、非接触式ICカードは本件発明の「記憶媒体」には非該当、また、無効主張は、時期に後れた攻撃防御でないとして、被告の敗訴部分を一部取り消しました。
(2) 非侵害論主張5)について
ア 自白の成否及び時機に後れた攻撃防御方法該当性
一審原告は,非侵害論主張5)は,原審の答弁書記載の認否によって成立
した自白の撤回に当たり,また,時機に後れた主張でもあるから,許され
ない旨主張する。
たしかに,一審被告は,原審答弁書における構成要件1A等の認否に際\nし,被告給油装置の電子マネー媒体が本件発明の「記憶媒体」に当たると
の対比を明確に争っていたわけではないが,従前から,被告給油装置が本
件発明の技術的思想を具現化したものでないことを主張しており,非侵害
論主張5)は,これを,使用される決済手段の差異(プリペイドカードと非
接触式ICカード)という観点から論じたものであるといえるから,一審
被告が充足論全体について単純に認めるとの認否をしていない以上,自白
を撤回して新たな主張をしているとはいえないし,この主張を時機に後れ
たものとして扱うのも相当ではない。
したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
イ 非接触式ICカードの「記憶媒体」該当性
本件明細書において,本件発明の「記憶媒体」の具体的態様としては,
磁気プリペイドカード(【0033】)のほか,「金額データを記憶する
ためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」(【0070】)や
「カード以外の形態のもの,例えば,ディスク状のものやテープ状のもの
や板状のもの」(【0071】)も開示されている。このように,本件発
明の「記憶媒体」は必ずしも磁気プリペイドカードには限定されない。
しかしながら,本件発明の技術的意義が上記1のとおりであることに照
らして,「媒体預かり」と「後引落し」との組合せによる決済を想定でき
る記憶媒体でなければ,本件3課題が生じることはなく,したがって,本
件発明の構成によって課題を解決するという効果が発揮されたことになら\nないから,上記の組合せによる決済を想定できない記憶媒体は,本件発明
の「記憶媒体」には当たらない。
かかる見地にたって検討するに,被告給油装置で用いられる電子マネー
媒体は非接触式ICカードであるから,その性質上,これを用いた決済等
に当たっては,顧客がこれを必要に応じて瞬間的にR/Wにかざすことが
あるだけで,基本的には常に顧客によって保持されることが予定されてい\nるといえる。そのため,電子マネー媒体に対応したセルフ式GSの給油装
置を開発するに当たって,物としての電子マネー媒体を給油装置が「預か
る」構成は想定し難く,電子マネー媒体に対応する給油装置を開発しよう\nとする当業者が本件従来技術を採用することは,それが「媒体預かり」を
必須の構成とする以上,不可能\である。
そうすると,被告給油装置において用いられている電子マネー媒体は,
本件発明が解決の対象としている本件3課題を有するものではなく,した
がって,本件発明による解決手段の対象ともならないのであるから,本件
発明にいう「記憶媒体」には当たらないというべきである。むしろ,電子
マネー媒体を用いる被告給油装置は,現金決済を行う給油装置において,
顧客が所持金の中から一定額の現金を窓口の係員に手渡すか又は給油装置
の現金受入口に投入し,その金額の範囲内で給油を行い,残額(釣銭)が
あればそれを受け取る,という決済手順(これは乙4公報の【0002】
に従来技術として紹介されており,周知技術であったといえる。)をベー
スにした上,これに電子マネー媒体の特質に応じた変更を加えた決済手順
としたものにすぎず,本件発明の技術的思想とは無関係に成立した技術で
あるというべきである。一審被告の非侵害論主張5)は,このことを,被告
給油装置の電子マネー媒体は本件発明の「記憶媒体」に含まれないという
形で論じるものと解され,理由がある。
ウ 一審原告の主張について
(ア) 一審原告は,本件発明の「記憶媒体」は,構成要件1C及び1Fの動\n作に適した「記憶媒体」であれば足りる旨主張する。
しかしながら,発明とは課題解決の手段としての技術的思想なのであ
るから,発明の構成として特許請求の範囲に記載された文言の意義を解\n釈するに当たっては,発明の解決すべき課題及び発明の奏する作用効果
に関する明細書の記載を参酌し,当該構成によって当該作用効果を奏し\n当該課題を解決し得るとされているものは何かという観点から検討すべ
きである。しかるに,一審原告の上記主張は,かかる観点からの検討を
せず,形式的な文言をとらえるにすぎないものであって,失当である。
したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 一審原告は,本件明細書の【0070】に「記憶媒体」として「金額
データを記憶するためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」を
例示する記載があり,非接触式ICカードもこれに含まれる旨主張する。
しかしながら,上記記載は,【0033】の「プリペイドカード71
は,磁気カードからなり」等の記載を受けて,カードの記憶素子が磁性
材ではなくICメモリであっても良い旨を示すにとどまり,そのカード
が非接触で動作することを示す記載ではない。また,上記記載において,
ICメモリは「金額データを記憶するための」ものであって,非接触式
ICカードのように演算・通信の機能を有することは開示も示唆もされ\nていないから,上記記載を根拠に非接触式ICカードが本件発明の「記
憶媒体」に当たるとはいえない。
したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 一審原告は,非接触式ICカードが券売機に取り込まれて使用され得
ることは周知であり,本件明細書には設定器内部にカードを取り込んだ
ままとしない記憶媒体を用い得ることが示されているから,非接触式I
Cカードが本件発明の「記憶媒体」に当たらないとはいえない旨主張す
る。
しかしながら,前掲前提事実のとおり,被告給油装置において電子マ
ネー媒体を使用する際には,電子マネー媒体(非接触式ICカード)は
R/Wにかざされるだけであって装置に「取り込まれ」ることはない。
非接触式ICカード一般に一審原告主張のような使用態様はあり得るも
のの,被告給油装置ではそのような使用態様によらずに非接触式ICカ
ードが「電子マネー媒体」として用いられているので,被告給油装置に
おける「電子マネー媒体」の技術的意義は,本件発明における「記憶媒
体」のそれとは異なる。
したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(3) 充足論についての小括
以上によれば,一審被告の非侵害論主張4)及び5)は理由があるから,その
余の非侵害論主張の成否について判断するまでもなく,被告給油装置及び被
告プログラムは本件特許を侵害しない。
4 争点4(無効論)について
念のため,仮に,本件発明1の「先引落し」金額は顧客が指定する場合を含
み(上記3(1)イ(イ)参照),また,非接触式ICカードも本件特許の「記憶媒
体」に含まれる(上記3(2)イ参照)とした前提で,無効論につき検討する。
なお,本件において,無効論は,本件発明1及び本件発明3(本件訂正後の
もの)について検討すれば足りる。このことは,上記「第3」4の冒頭に説示
したとおりである。
(1) 「時機に後れた攻撃防御方法」該当性について
無効主張A,B,Dは,原審における侵害論の心証開示後に主張されたも
のであり,そのため,原審においては時機に後れたものとして取り扱われた
わけであるが,既に充足論に関する項で指摘したとおり,構成要件1C1充\n足性(非侵害論主張4))及び構成要件1A,1C,1F3,1F4充足性\n(非侵害論主張5))に関する原審の主張整理には,本来は,争いがあるもの
として扱うべき論点を争いのないものとして扱ったという不備があったとい
わざるを得ない。そして,無効論に関する主張の要否や主張の時期等は,充
足論における主張立証の推移と切り離して考えることができないのであるか
ら,充足論について,本来更に主張立証が尽くされるべきであったと考えら
れる本件においては,無効主張が原審による心証開示後にされたという一事
をもって,時機に後れたものと評価するのは相当ではない。
また,上記無効事由に関する当審における無効主張は,控訴後速やかに行
われたといえる。
以上によると,一審被告による上記無効主張は,原審及び当審の手続を全
体的に見た観点からも,また,当審における手続に着目した観点からも,時
機に後れたものと評価することはできない。
したがって,いずれの無効主張も,時機に後れた攻撃防御方法として却下
すべきものではない。
・・・
ウ 相違点の容易想到性
上記の表において一致点とされていない本件発明1の構\成は,相違点と
なる。
しかしながら,いずれの構成も,セルフ式GSの給油装置において,審\n判甲B1装置の現金による支払を,電子マネー媒体による支払に置き換え
る際には,当然に備わる構成である。すなわち,上記の各相違点をまとめ\nると,本件発明1においては装置がR/Wを備えること,電子マネーの金
額データはR/Wにより電子的に書き換えられること,の2点となるが,
いずれの構成も,現金の場合は貨幣という有体物に化体されている金銭的\n価値を,電子的情報という無体物に化体させたことによって必然的に生じ
る帰結である。
また,現金による支払を電子マネー媒体による支払に置き換えること自
体は,電子「マネー」という名称自体からも容易に着想することができる
し,例えば乙16の12(電子商取引推進協議会「モバイルECに関わる
決済標準モデルの研究中間報告書」平成13年3月発行)には,非接触式
ICカードが「電子マネー」として利用されること,FeliCa内蔵の携帯電
話は「電子財布」になること等が記載されており,これらの記載は,現金
による支払いを電子マネー媒体に置き換えることを動機付ける。
そうすると,当業者にとって,上記各相違点にかかる本件発明1の構成\nに想到することは,通常の創作能力の発揮にすぎず,容易であったといえ\nる。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成29(ワ)29228
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2021.07.16
平成29(ワ)36506 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年5月19日 東京地方裁判所
LINEのフリフリ機能の特許権侵害について、約1400万円の損害賠償か認められました。広告収入については因果関係無しとして認められず、有料スタンプの売り上げのみでした。
原告は,被告に対し,特許法102条3項に基づく損害賠償を請求していると
ころ,同項は,「特許権者・・・は,故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,
自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定してい
るから,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,
実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
そして,かかる実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許
諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の
相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内
容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場
合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や
特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定め
るべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日大合
議判決参照)。
本件においては,被告アプリが無償で配信されており,被告アプリのユーザが
友だち登録をし,友だち等との間で被告システム等によるメッセージの送受信等
のサービスを享受すること自体により被告に売上げは発生しない(甲73)から,
「侵害品の売上高」をどのように確定すべきかがまず問題となり,次いで,実施
に対し受けるべき料率(相当実施料率)の算定が問題となる。
そこで,それぞれにつき,以下,検討する。
(1) 売上高について
ア 当事者の主張
原告は,被告の事業のうち,本件特許権侵害の対象となる事業は,コア事
業中の「アカウント広告」と「コミュニケーション」の売上げであり,本件
特許登録日である平成29年9月15日から被告が「ふるふる」の提供を終
了した日の前の日である令和2年5月10日までの間(以下「本件損害算定
期間」という。)の売上高(アカウント広告につき合計1519億5800
万円,コミュニケーションにつき767億2800万円)に基づいて損害額
を算定すべきであると主張する。
一方,被告は,主に被告アプリ上でアカウントを有する企業等からの売上
げであるアカウント広告の売上げは損害賠償額算定の対象とならず,仮に,
コミュニケーションの売上げが損害賠償額算定の対象となり得るとしても,
対象となるのは本件機能と関係のある部分に限られると主張する。\n
イ 認定事実
そこで検討するに,前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,
以下の事実を認めることができる。
・・・
(ウ) 企業等のアカウントとの間の「ふるふる」による友だち登録(被告シス
テム等図面【図38】,甲61)
LINE@等のサービスを導入している企業等が住所の位置情報をあ
らかじめ登録している場合,一般ユーザが被告アプリの友だち追加画面で
「ふるふる」を選択して手元のスマートフォンを振ると,半径1km圏内
の上記企業等も友だち登録の候補として表示され,同ユーザが同企業等に\nつき友だち追加処理をすると,同企業等が同ユーザの友だちとして追加登
録される。
ウ 「ふるふる」以外の友だち登録及び海外企業への輸出に係る売上げ等につ
いて
原告は,損害賠償の対象は,「ふるふる」による友だち登録及びこれによ
り友だちとなったユーザとの交流等に限定されず,QRコードやID検索等
の他の友だち登録も含み,また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべき
であると主張する。
(ア) しかし,原告は,本訴提起当初から,一貫して「ふるふる」による友だ
ち登録及びその後の交流が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張を
していたのであり(前記前提事実(5),被告システム等図面【図2】〜【図
4】,【図34】〜【図44】),その余の友だち登録手段による友だち
登録等が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張立証は侵害論の対象
とされていないので,損害賠償の対象となるのは,「ふるふる」による友
だち登録と相当因果関係のある範囲の売上高に限定されるというべきで
ある。
(イ) また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべきとの点については,被
告から海外企業への実施品の輸出に係る売上高を対象とする趣旨と考え
られるが,原告が侵害論において対象としていた被告の実施行為は,被告
システムの使用と,被告アプリの生産,譲渡及び譲渡の申出にとどまって\nおり,仮に被告システム等が輸出されているとしても,当該被告システム
等に本件機能が搭載されているかどうかといった点も本件の証拠上明ら\nかではないから,この点の原告の主張も採用し難い。
エ 損害賠償の対象となる売上高の範囲について
そこで,前記イ(ア)〜(ウ)で認定した事実に基づき,本件において損害賠償
の対象となる売上高の範囲につき検討する。
(ア) アカウント広告の売上げについて
アカウント広告の売上げは,企業等からの売上げに関するものであると
ころ,一般ユーザは,かかる企業等との間でも「ふるふる」による友だち
登録をなし得るものの,この場合は,企業等が住所の位置情報をあらかじ
め登録している必要があり,また,その際,企業等はスマートフォンを操
作するとは考え難いから,そもそも,この場合に,「近くにいるユーザ同
士がスマートフォン(2)を操作して友だち登録することによりコンピュ
ータ(14)を利用してコミュニケーションによる交流」(構成a等)を\n具備するとは認め難く,他にこの場合の被告システム等が本件各発明の技
術的範囲に属するという的確な主張立証はない。
また,前記イ(ア)aに記載されたアカウント広告を構成する各売上げの\n内容に照らすと,これらの売上げは,いずれも,一般のユーザ同士の本件
機能による友だち登録との関係がないか,関係があっても希薄であるとい\nうべきである。
そうすると,アカウント広告の売上げは,本件の損害賠償の対象となら
ないと解するのが相当である。
・・・
b 前記aで認定した売上高は,「ふるふる」以外の友だち登録に関する
分も含まれているところ,被告の侵害行為は,「ふるふる」による友だ
ち登録に関するものであるから,被告の侵害行為と相当因果関係にある
売上高は,上記売上高に,本件損害算定期間中の「ふるふる」による友
だち登録割合を乗じて算出するのが相当である。そして,前記イ(イ)の
とおり,同割合は,●(省略)●であるから,被告の侵害行為と相当因果
関係にある売上高は,●(省略)●となる。
●(省略)●
(ウ) 以上のとおり,被告の侵害行為と相当因果関係にある売上高は,●(省
略)●となる。
・・・
(2) 相当実施料率について
ア 本件各発明の実施許諾契約における実施料率やその相場等
原告は,原告代表者から専用実施権の設定を受けているが,その設定契約\nの詳細は本件の証拠上明らかでなく,また,原告が他人に本件各発明の実施
を許諾したことをうかがわせる証拠はない。
そこで,相場等につきみるに,証拠(甲157〜159,乙82)によれ
ば,電子計算機に係るロイヤルティ(件数719件)は,平均値が33.2%,
最頻値が50.0%,中央値が40.0%とされている一方,「技術分類 コ
ンピュータテクノロジー」,「対象となる製品・技術例 計算;係数,チェ
ック装置等」におけるロイヤルティ料率の相場は,1%未満,1〜2%未満,
2〜3%未満,3〜4%未満がいずれも16.7%であり,4〜5%未満が
25.0%であるとされている。
しかし,本件においては,被告アプリは無償で配信され,被告アプリのユ
ーザが「ふるふる」を使用して友だち登録をし,その後の交流を行うといっ
た行為自体による被告の売上げは発生しないという特殊性があることから
すれば,上記の相場等を重視することはできない。
イ 本件各発明の価値や代替可能性等\n
本件各発明は,前記1(2)に記載のとおり,初対面の人物同士が出会った
後互いにコンタクトを取ることができるようにする際に,極力個人情報を明
かすことなくコンタクトが取れるようにするためのコンピュータシステム
及びプログラムに関する発明であって,相手方に互いの個人情報を通知する
ことなく後々コンタクトを取ることができ,かつ,相手方以外の他人がその
相手方に成りすましてコンタクトしてくる不都合をも防止できる理想的な
連絡可能状態を構\築する手段を提供することを目的として,現実世界で出会
ったユーザ同士がユーザ端末を操作し,コンピュータを利用して交流を行う
に当たり,コンピュータ(サーバ)が各ユーザ端末の位置情報を取得し,該
位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索
されたことを必要条件として,該検索されたユーザ端末を新たな交流先とし
て交流先のリストに追加して表示させ,ユーザが表\示された複数の交流先の
内からコミュニケーションを取りたい相手を選択指定し,指定された相手と
の間でメッセージを送受信できるようにするという手段を採用することで,
互いにコミュニケーションによる交流に同意したユーザ同士が連絡先の個
人情報を知らせ合うことなく交流できるという効果が得られるようにした
ことを特徴とする発明である。
このような発明には一定のニーズが存在するものと考えられるから,本件
各発明には相応の価値があるものと認められる。
もっとも,前提事実(6)のとおり,本件特許に関する無効審判請求におい
て,特許庁は,本件特許が進歩性を欠く旨の職権審理結果通知をしていると
ころ,このことは,実際に本件特許が無効となるか否かはともかく,類似の
技術が存在することを示すものということができる。
ウ 本件各発明の被告の売上げや利益への貢献等
証拠(甲41・3丁)によれば,「ふるふる」を利用する場合の最大の特
長は,複数人と一度に友だちになれることであり,サークルや部活,仕事の
チーム,パーティーなど,複数の人が集まる場で活躍しそうであるとされて
いることが認められ,これらの事実に加え,前記(1)イ(イ)記載の事実関係に
よると,既に友人等であるユーザ同士が友だち登録する方法が多く,実際に
もそのようなユーザ同士により友だち登録がされることが多いことがうか
がわれることからすると,被告システム等においては「ふるふる」による友
だち登録がされる場合であっても,それ以前に相互の個人情報を交換してい
る場合も少なくないものと考えられる。
●(省略)●
被告による企業努力が大きく貢献しているとうかがわれるとこ
ろである。
そうすると,被告システム等に係る売上げや利益についての本件各発明の
貢献の度合いは,かなり限定的なものであると認められる。
エ 以上の諸事情,とりわけ,本件各発明には相応の価値があると認められる
ものの,これと類似の技術が存在することがうかがわれることや,被告シス
テム等に係る売上げや利益についての本件各発明の貢献の程度は限定的な
ものであることなどを総合的に考慮すると,本件における相当実施料率は●
(省略)●と認めるのが相当である。
◆判決本文
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2021.05.31
平成31(ワ)2675 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年5月18日 東京地方裁判所
吹矢に関する特許侵害の損害認定について、101条1項、2項に基づき約3600万円の請求が認められました。
以上によれば,被告製品は,そのほとんどが吹矢協会と関係がある需要
者により購入されたと認めることが相当である。そして,被告製品は,吹
矢協会の関係者において吹矢協会の公認用具であることを理由として購
入された割合が相当に高いと認められる。原告の製造販売する吹矢用具は
令和2年12月1日以降は吹矢協会の公認用具でなかったから上記の理
由で購入された被告製品の需要の全てが原告の製造販売する吹矢の矢に
向かうとは認められない。他方,原告の製造する吹矢の矢については,吹
矢協会の公認がなくとも購入するとする者もいたことがうかがわれ,被告
製品の需要が全く原告の製造販売する吹矢用具に向かわないとはいえな
い。
被告は,原告の吹矢用具が吹矢協会の公認用具でないことを理由として
令和2年12月1日以降の被告の売上げについての推定覆滅を主張する
ところ,上記事情に照らせば,同日以降の利益については,65%の割合
で損害額の推定が覆滅すると認めるのが相当である。
◆判決本文
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2021.03.19
令和2(ネ)10035 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年3月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では約3000万円の損害賠償が認定されました。1審被告が控訴しましたが、控訴棄却されました。ハンドル部分の構造に関する特許ですが、102条2項における寄与率減額なしです。
本件発明の技術的思想(課題解決原理)は,前記2(1)ア(イ)のとおり,二
股の美容器において,ハンドルを,凹部を有するハンドル本体と,その凹部
を覆うハンドルカバーで構成することにより,ハンドルが上下又は左右に分\n割された従来の構成よりも,ハンドルの成形精度や強度を高く維持するとと\nもに,美容器の組み立て作業性が向上するようにしたというものである。そ
して,本件発明に係る美容器は,美容器のハンドルを持ち,ローラを肌に押
し当ててこれを使用するから,本件発明の技術的思想(課題解決原理)によ
って達成されるハンドルの成形精度や強度の維持は,美容器を使用する需要
者一般が関心を有する美容器の基本構造に関するものであり,二股美容器の\n使用やマッサージの施行に影響する事項であって,美容器全体に貢献してい
るものと認められる。本件発明が需要者の商品選択に特段寄与しないとする
根拠はなく,被告各製品の販売に対する本件発明の寄与が限定的であるとす
る根拠もない。したがって,本件において,本件発明の寄与率を考慮して推
定を覆滅すべき理由はない。
控訴人は,被告各製品は特許第5840320号の技術的範囲には属しな
いが,同特許に係る発明の効果を有しており,そのような効果のあることが
被告各製品購入の主な動機になっていることは,本件における損害額算定に
当たっての推定覆滅事由として考慮されなければならないと主張する(前記
第2の5(4)ア(イ))。しかし,被告各製品が特許第5840320号に係る
発明の効果を有しているかどうかは明らかでなく,また,そのような効果の
存在が被告各製品購入の主な動機になっていることを認めるに足りる証拠は
ない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成29(ワ)32839
当事者が同じ関連侵害訴訟および審決取消訴訟です。
◆平成31(ネ)10001等
◆平成30(行ケ)10049
◆平成30(行ケ)10048
◆平成29(ネ)10086
◆平成28(ワ)4356
◆平成30(行ケ)10013
◆平成29(行ケ)10201
◆平成29(行ケ)10095
◆平成28(ワ)6400
◆平成31(行ケ)10032
当事者が同じ審決取消訴訟はこちらです。
◆令和1(行ケ)10090
◆令和1(行ケ)10066
◆平成31(行ケ)10057
◆平成30(行ケ)10160
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>> 賠償額認定
>> 102条2項
>> 104条の3
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2021.03.14
令和2(ネ)10045 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年3月4日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審と同様に、104条の3の無効理由(新規事項、サポート要件違反)があるので、権利行使不能と判断されました\n
(ア) 図105ドットパターンにおいては,情報ドットは,四隅を格子ドッ
トで囲まれた領域の中心からずれた位置に置かれるところ,本件補正1
1)部分に当たる構成要件B1の情報ドットは,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点の中心」からずれた位置に置かれる。\n図105には,水平又は垂直の格子線の中間に各格子線と平行な線が引
かれているが,当初明細書1に,「格子状に配置されたドットで構成されている。」(【0185】),「格子ブロックの四隅(格子線の交点\n(格子点)上)には格子ドットLDが配置されている」(【0186】),
「4個の格子ドットLDの正中心に配置したドットである(図106(a)
参照)」(【0197】)と記載されているとおり,格子ドットは等間
隔に配置されたドットにより構成された水平ラインと垂直ラインの交点であり,格子線は格子ドットを結ぶラインであるから,図105に示さ\nれた各格子線の中間に引かれた線は格子ドットで囲まれた領域の中心を
示すために参考として引かれた補助線にすぎず,格子線とは認められな
い(図106(a)のように,格子ドット同士を対角線で結べば,その
交点は「格子線の交点」となるが,その線は構成要件B1に規定する「縦横方向」のラインではない。)。\n そうすると,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格
子点の中心」を基点として情報ドットが位置付けられることを構成要件とする本件補正11)部分は,図105のドットパターンとは似て非なる
ものであり,そもそも図105ドットパターンに基づく補正であるとは
認められない。
(イ) 図5ドットパターンにおいては, 情報を表現するドットは,格子ドットから上下左右の格子線上にずらした位置に配置されるところ,構\成要件B1の情報ドットは「格子点の中心から等距離で45°ずつずらし
た方向のうちいずれかの方向」に配置されるものであるから,本件補正
11)部分は,図5ドットパターンに基づく補正であるとは認められない。
(ウ) そのほか,当初明細書1に本件補正11)部分に対応する記載は認め
られないから,本件補正前発明1の本件補正11)部分に対応する部分と
構成要件B1とを対比するまでもなく,本件補正11)部分は新たな技術
的事項を導入するものというべきである。
・・・・
(ア) 本件発明3の特許請求の範囲の記載(分説後のもの)は,次のとおり
である(引用に係る原判決の「事実及び理由」第2の2(5)ウ参照)。
A3 等間隔に所定個数水平方向に配置されたドットと,
B3 前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから
等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドットと,
C3 前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ライ
ンと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定さ
れた水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方でデータ
内容が定義された情報ドットと,からなるドットパターンであって,
D3 前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位置
からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している
E3 ことを特徴とするドットパターン。
(イ) 構成要件B3の「前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」と,\n構成要件C3の「前記垂直方向に配置されたドット」と,構\成要件D3
の「前記垂直方向に配置されたドット」とは同じものを指すと解される
から,この一つの「垂直方向に配置されたドット」は,垂直方向に「等
間隔」に配置される一方で(構成要件B3),「本来の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味するとされており,その「ず\nらし方」について特に限定はされていない。同一方向に等間隔に配置さ
れながらその位置がずれているのは文言上整合していないが,これを合
理的に解釈するならば,「等間隔」はこの一つの「垂直方向に配置され
たドット」以外のドットに係り,この一つの「垂直方向に配置されたド
ット」は他のドットと異なり「等間隔」に配置されなくてもよいもので
あり,そのずらされる方向,距離とも何ら限定はないと解するほかない。
また,本件発明3は,「ずらし方によって前記ドットパターンの向き
を意味している」(構成要件D3)としているから,「ずらし方」,すなわち,本来の位置からずらされた別の位置に配置された一つの「垂直\n方向に配置されたドット」が当該位置に配置されていることが認識され,
本来の位置とその実際の位置との間の位置関係に基づいてドットパター
ンの向きが意味されることを規定していると解釈すべきものである。
イ 図105ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図103ないし106のほか,次の記載がある。
「【0239】
また,本発明のドットパターンでは,キードットのずらし方を変更す
ることにより,同一のドットパターン部であっても別の意味を持たせる
ことができる。つまり,キードットKDは格子点からずらすことでキー
ドットKDとして機能するものであるが,このずらし方を格子点から等距離で45度ずつずらすことにより8パターンのキードットを定義でき\nる。
【0240】
ここで,ドットパターン部をC−MOS等の撮像手段で撮像した場合,
当該撮像データは当該撮像手段のフレームバッファに記録されるが,こ
のときもし撮像手段の位置が紙面の鉛直軸(撮影軸)を中心に回動され
た位置,すなわち撮影軸を中心にして回動した位置(ずれた位置)にあ
る場合には,撮像された格子ドットとキードットKDとの位置関係から
撮像手段の撮像軸を中心にしたずれ(カメラの角度)がわかることにな
る。この原理を応用すれば,カメラで同じ領域を撮影しても角度という
別次元のパラメータを持たせることができる。そのため,同じ位置の同
じ領域を読み取っても角度毎に別の情報を出力させることができる。
【0241】
いわば,同一領域に角度パラメータによって階層的な情報を配置でき
ることになる。
【0242】
この原理を応用したものが図74,図76,図78に示すような例で
ある。図74では,ミニフィギュア1101の底面に設けられたスキャ
ナ部1105でこのミニフィギュア1101を台座上で45度ずつ回転
させることでドットパターン部の読取り情報とともに異なる角度情報を
得ることできるため,8通りの音声内容を出力させることができる。」
(図74,76及び78については本判決への添付を省略する。)
(イ) 上記(ア)の記載は,構成要件D3との関係においては,確かに,格子ドットとキードットとの位置関係によってドットパターンの向きを意味\nすることを記載するものといえる。
しかしながら,構成要件C3との関係について見れば,本件発明3は,「格子点からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」との構\成を有するところ,前記2(1)ウのとおり(引用に係る原判決の「事実及び
理由」第3の1(補正後のもの)のとおり,当初明細書1と本件明細書
3の関連部分の記載はいずれも同じである。),図105ドットパター
ンにおいては,情報ドットを四隅を格子ドットで囲まれた領域の中心か
らずらすことによってデータ内容を定義するものであって,格子ドット
からのずらし方によってデータ内容を定義するものではない(構成要件C3は格子点を垂直ラインと水平ラインの交点と定義しているから,構成要件 C3が図105ドットパターンに基づくものと仮定する余地はな
い。)。
そうすると,本件発明3は,図105ドットパターンに関する記載に
係るものとはいえない。
ウ 図5ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図2,5ないし8のほか,次の記載がある。
「【0069】
・・・図5から図8は他のドットパターンの一例を示す正面図である。
【0070】
上述したようにカメラ602で取り込んだ画像データは,画像処理ア
ルゴリズムで処理してドット605を抽出し,歪率補正のアルゴリズム
により,カメラ602が原因する歪とカメラ602の傾きによる歪を補
正するので,ドットパターン601の画像データを取り込むときに正確
に認識することができる。
【0071】
このドットパターンの認識では,先ず連続する等間隔のドット605
により構成されたラインを抽出し,その抽出したラインが正しいラインかどうかを判定する。このラインが正しいラインでないときは別のライ\nンを抽出する。
【0072】
次に,抽出したラインの1つを水平ラインとする。この水平ラインを
基準としてそこから垂直に延びるラインを抽出する。垂直ラインは,水
平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識する。\n
【0073】
最後に,情報領域を抽出してその情報を数値化し,この数値情報を再
生する。」
(イ) また,引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の4(2)(補正後のも
の)とおり,図5及び図7では,左端の垂直ラインに配置されたドット
の一つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ライ
ンに沿って左側に配置され,「x,y座標フラグ」とされていることが
示され,図6及び図8では,左端の垂直ラインに配置されたドットの一
つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ラインに
沿って右側に配置され,「一般コードフラグ」とされていることが示さ
れている。
(ウ) 本件発明3は,「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ド
ット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意
味している」(構成要件D3)ことを特徴とするドットパターンであるところ,図5ドットパターンに関し,本件明細書3には,前記(ア)のとお
り,「垂直ラインは,水平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識す\nる。」(【0072】)との記載がある。しかしながら,これは,垂直
ライン上の特定位置(本来の位置)にドットがないことによってドット
パターンの上下方向を認識するとの意味の記載であって,「ドット本来
の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味する記載
とはいえない。
また,前記(イ)のとおり,図5ないし8には,他のドットから形成され
る垂直ラインから左右にずれたドットが示され,それらドットが「x,
y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」との意味を有するフラグ
であることが記載されている。しかしながら,引用に係る原判決の「事
実及び理由」第3の4(2)(補正後のもの)によれば,「x,y座標フラ
グ」(図5及び7)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはXY平面上の特定の座標値を示し,「一般コードフラグ」(図6\n及び8)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはある特定のコード(番号)を示すものと認められる。そうすると,「x,y\n座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」とされたドットは,情報を
表現する部分のドットパターンのデータ内容の定義方法を示すというデータ内容を定義するドットの一つにすぎず,フラグとしてその位置を認\n識され,ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によって
ドットパターンのデータの内容を定義しているが,ドットパターンの向
きを意味しているものではない。そして,そのほか,図5ないし8には,
ドットパターンの向きを意味するドットは記載されていないし,データ
の内容を定義しているドットがドットパターンの向きを意味するドット
を兼ねるとの記載もない。
さらに,「垂直方向に配置されたドット」の一つにつき,その本来の
位置からのずらし方によってドットパターンの向きを意味することを特
徴とする本件発明3の実施形態について,上記ドットがどのような方向,
距離において配置されるのかについては,本件明細書3にはその記載は
ない。
以上によると,図5ドットパターンは,「ずらし方によって前記ドッ
トパターンの向きを意味している」(構成要件D3)との構\成を有しな
い。
そうすると,本件発明3は,図5ドットパターンに関する記載に係る
ものともいえない。
エ 控訴人は,1)図5ないし8において,「x,y座標フラグ」又は「一
般コードフラグ」はドットパターンの向きを意味するドットと兼用され
ている,2)本件明細書3の段落【0239】ないし【0241】,【図
105】,【図106】の(d)の記載を参酌すれば,キードットにデータ
内容を定義する機能とドットパターンの向き(角度)を意味するという機能\を持たせ得ることが示されている,3)本件明細書の段落【0230】
の記載から,「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」もキード
ットと同様の機能が備わると理解できる,4)本件明細書3の【0072】
では格子ドットを非回転対称の配置にして上下方向も認識できるように
しているし,本件明細書3の図5ないし8には「x,y座標フラグ」又
は「一般コードフラグ」が本来の位置からずれることで本来の位置と実
際に配置されたドットの位置関係に基づいてドットパターンの向きが表現されている,5)「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」
がキードットと同一の機能を有するものであることは当業者にとって自明である旨を主張する。\n
しかしながら,前記ウで認定したとおり,図5ないし8においては,
ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によってドットパ
ターンの向きを認識することについては何ら説明されておらず,控訴人
主張のドットの兼用を認めるに足りる根拠は見当たらないないから,上
記1)の主張は採用することができない。
また,【0239】ないし【0241】,【図105】,【図106】
の(d)の記載は,図105ドットパターンに関する記載であり,図105
ドットパターンと図5ドットパターンを組み合わせることは新規事項の
追加となることは前記2にて判断したとおりであるから,そのような組
み合わせをしたのであれば,それ自体からしてサポート要件を欠くこと
になり,上記2)の主張は失当である。
次に,図105ドットパターンに関する記載である段落【0230】
(引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の2の【0230】III)部分
参照)には「本発明におけるドットパターンの仕様について図103〜
図106を用いて説明する。」との記載があるだけであり,これにより
「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」が図105ドット
パターンのキードットと同様の機能が備わると理解することはできないから,上記3)の主張は採用することができない。
さらに,控訴人の上記4)及び5)の主張については,確かに,ドットパ
ターンの方向を意味するドット又はドット群を設けてこれらを非回転対
称の配置にすればドットパターンの向きを認識できることは明らかであ
り,また,図5ないし8に記載された「x,y座標フラグ」又は「一般
コードフラグ」は非回転対称の位置に配置されているとはいえるから,
これをドットパターンの向きを意味するドットとして兼用することも可
能である。しかしながら,本件明細書3は,そのような構\成としたもの
と理解すべき記載となっておらず,「本来の位置からのずらし方」とし
てどのような選択に従い本件発明3を構成したのかがそもそも記載されているとはいえないことは,前記ウで示したとおりである。したがって,\n上記4)及び5)の主張も採用することができない。
オ 以上のとおり,技術常識を踏まえても,当業者において,本件発明3
が本件明細書3の発明の詳細な説明に記載したものと理解することはで
きないというべきであるから,本件発明3に係る本件特許3は,特許法
36条6項1号に違反し,特許無効審判により無効とされるべきもので
ある。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成30(ワ)10126
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2021.03.12
令和1(ネ)10074 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年2月10日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
CS関連発明についての侵害事件で、知財高裁(3部)は、技術的範囲に属するが無効理由ありと判断しました。1審は一部の構成要件の非充足でした。\n
前記(ア)bのとおり,インタ−ネット広告配信の技術分野において,
同じ広告を必要以上に見せることにより起きる「バナ−バ−ンアウト」
(広告に反応がなくなる状態)を防ぐために,利用者一人一人に対する
広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であった。
乙5発明は,インタ−ネットにおける広告配信という,上記技術と共
通する技術分野に属する。そして,乙5発明は,「モバイル・ウェブ・
クライアントによりウェブにアクセスしているユ−ザ−に対する広告の
効力を高めること」(乙5【0011】)を目的としており,広告の効
力を高めるという課題は,上記周知技術の課題と共通する。そのため,
乙5発明に,技術分野及び課題が共通する上記周知技術を組み合わせる
ことには動機付けがあるものと認められる。
そして,乙5発明において,特定の広告オブジェクトについて各ユ−
ザ−に配信する回数を1回に制限するためには,ウェブ・サ−バが,受
信したモバイル・ウェブ・クライアントの位置情報と広告オブジェクト
(広告情報)に関連付けられた位置情報が一致したことにより(前記ア
(イ)b4)〔本判決74頁〕)一度供給した広告オブジェクト(前記ア(イ)
b5)〔本判決75頁〕)を,その後,上記モバイル・ウェブ・クライア
ントの位置情報と広告オブジェクト(広告情報)に関連付けられた位置
情報が再度一致しても,上記モバイル・ウェブ・クライアントに送信し
ないようにすればよいことは,明らかである。
したがって,乙5発明に,特定の広告を各利用者に配信する回数を1
回に制限するという周知技術を適用することができたものと認められる。
そうすると,乙5発明に,特定の広告を各利用者に配信する回数を1
回に制限するという周知技術を適用し,構成要件E(「広告情報管理サ\n−バが,無線通信装置が一旦指定地域の外に出た後再び指定地域内に戻
った場合であっても,指定地域内にとどまり続けた場合であっても,同
じ広告情報を無線通信装置に送信しないこと」を特徴とする無線通信サ
−ビス提供システム,前記2(1)ア(ア)〔本判決48頁〕)を容易に想到
することができたものと認められる。
エ 控訴人の反論について
控訴人は,一般的に,広告は目に触れる回数が多ければ多いほど効果が
あるので,乙5発明は,広告情報が関連付けられた位置情報及び時刻と一
致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対し,
可能な限り長い時間,繰り返し広告を表\示することを目的としており,回
数は無制限で広告情報を配信する発明であるとし,広告の配信回数を制限
するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することには阻害事
由があると主張する(前記第3の4(2)イ(イ)b(b)〔本判決25頁〕)。
しかしながら,前記ウ(ア)b〔本判決83頁〕のとおり,インタ−ネッ
ト広告配信の技術分野において,本件特許の出願時(平成12年9月5日)
には,同じ広告を必要以上に見せることにより起きる「バナ−バ−ンアウ
ト」(広告に反応がなくなる状態)を防ぐために,利用者一人一人に対す
る広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であったから,本件
特許の出願時において,一般的に,広告は目に触れる回数が多ければ多い
ほど効果があると認識されていたとは認められない。そして乙5発明は,
広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた位置情報及び時刻と一致
する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対して
広告オブジェクト(広告情報)を配信することにより広告の効果を高める
ものであると認めることはできるが(乙5【0011】,【0012】【0
017】),乙5には,広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた
位置情報及び時刻と一致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェ
ブ・クライアントに対し,可能な限り長い時間,繰り返し広告を表\示する
ことが広告の効力を高めることである旨の記載はなく,かえって,広告の
繰り返しは,その効果を減ずるという認識を前提とする上記周知技術が存
在したことからすると,広告の繰り返しによって,その効力を高めること
が乙5発明の唯一の目的であったということはできない。したがって,広
告の配信数を制限することにより広告の効果を高めることを乙5発明が
排斥するものであったと認めることはできないから,広告の配信回数を制
限するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することに阻害事
由があるとは認められず,控訴人の上記主張は,採用することができない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)7123
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2021.03.10
令和2(ネ)10050 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年2月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明について1審は技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されていました。控訴審でも同様です。なお、控訴審における乙18に基づく無効主張は1審において主張できたとして、却下されました。乙18が実質あまり強くないのか、気になります。
なお,控訴人は,当審において,乙第18号証に記載された発明を主引例
とする無効の抗弁を新たに主張した。
しかしながら,この新たな無効の抗弁が時機に後れた攻撃防御方法に当た
るかどうかは,原審及び当審における審理の経過を総合的に踏まえて検討す
べきものであるところ,一件記録によれば,原審においては,平成31年3
月12日に第1回口頭弁論期日が開かれた後,審理が弁論準備手続に付され
たこと,充足論及び無効論について当事者双方の主張立証が行われた後,令
和元年12月20日の第5回弁論準備手続期日において,当事者双方の主張
立証が尽くされたことが確認された上で,裁判所の心証開示が行われたこと
が認められる。そして,裁判所の心証開示が行われた上記第5回弁論準備手
続期日までに,乙第18号証に記載された発明を主引例とする無効の抗弁を
主張することが困難であったことをうかがわせるに足りる証拠はない。そう
であるとすれば,控訴人としては,上記第5回弁論準備手続期日までに新た
な無効の抗弁を主張すること(あるいは,少なくとも,速やかにその主張を
する予定である旨を告知すること)が可能\\\であったし,そうすべきものであ
ったといえるから,それをしなかったことは時機に後れたものであり,また,
時機に後れたことについて重大な過失があったものといわざるを得ない。そ
して,そのような評価は,控訴人が控訴をし,審級が変わったからといって
変わるものではないところ,当審において新たな無効の抗弁の成否を審理す
ることになれば,訴訟の完結が遅延することは明らかである。
以上の次第で,当審としては,新たな無効の抗弁を時機に後れた攻撃防御
方法であるとして却下したものである。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成31(ワ)22
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2021.02.25
令和1(ネ)10078 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年2月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害について、東京地裁(40部)は新規性違反(発明1,3)および進歩性違反(発明2,4)の無効主張を認めました。知財高裁も同じ判断です。
イ A邸工事が「公然」実施されたものではないとの主張について
控訴人は,A邸は塀や草木に囲まれており,容易に外部からA邸をのぞ
き見ることはできないこと,山に囲まれており,近隣の住民もわずかであ
ること,作業が屋根上で行われるものであり,外部から容易にその作業の
内容を確認することができないことから,A邸工事は,公然と行われたも
のとはいえないと主張する。
しかし,被控訴人のために発明の内容を秘密にする義務を負わない不特
定の者によって技術的に理解されるか,そのおそれのある状況で実施され
たのであれば,工事は公然と行われたと評価するのが相当であるところ,
本件においては,まず,A邸の屋根からストーブの煙突が突出している側
(煙突の正面側)の隣地は,本件工事の当時には駐車場であり(乙14の
10),同駐車場には10台を優に超える駐車スペースがあり,敷地もA邸
より高いことが認められるのであって(乙24の2),同駐車場からは煙突
についても十分視認が可能\であるし,当該工事が第三者から視認されるこ
と等を拒むような態様で行われていたことはうかがえない。
また,乙12の資料4は,前記ア(イ)認定のとおり平成19年7月2日
に被告から住友林業に提出されたものであるところ,同図面にはインナー
フラッシングが明記されており,これが,住友林業からニシカネにファッ
クスで転送されている(乙32)。そして,前記ア(イ)において認定したと
おり,住友林業の下請業者であるニシカネがA邸の煙突について不燃材の
装着を行うことになっていたが,その時点では,煙突の屋内からの引き出
し及び立ち上げ部分はまだ設置されておらず,住友林業又はニシカネにお
いて煙突の屋根貫通部の構造を認識することは十\分可能であったといえ\nるところ,A邸工事の施工方法及び防水構造は,引用に係る原判決の「事\n実及び理由」第4の2(3)ア及びイ(ア)記載のとおりであって,いずれも複
雑なものではなく,当業者であれば,乙12の資料4や,II)期工事時の煙
突の屋根貫通部の構造から,これらの発明を技術的に理解できるものと認\nめられる。
以上によれば,A邸工事は,本件特許出願前に,被控訴人のために発明
の内容を秘密にする義務を負わない不特定の者(少なくとも上記住友林業
やニシカネ等の下請業者等)によって技術的に理解されるか,そのおそれ
のある状況で実施されたもので,公然実施された発明に当たるというべき
であるから,控訴人の主張は採用できない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)9909
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2021.02. 8
令和2(ネ)10003 特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年1月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1億円の損害賠償を求めましたが、1審は無効理由あり(29-2および進歩性)として請求棄却しました。特許権者は訂正をしさらに控訴しました。知財高裁(3部)は、被告製品は本件訂正発明の「アクセス制御手段」を充足しないと判断して、控訴を棄却しました。
特許請求の範囲の記載によれば,本件訂正発明の「アクセス制御手段」は,
携帯電話の所有者が第三者による閲覧や使用を制限し,保護することを希望
する被保護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段であって,
RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別できる識別情報を
受け取って,該受け取った識別情報と当該携帯電話に予め記録してある識別\n情報との比較を行う比較手段で,前記アクセス要求を許可するという比較結
果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過す
るまでは前記被保護情報へのアクセスを許可するものである。
一方,被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,上記1のとおり,画面
ロックを解除し,または画面ロックを継続する手段であって,背面にかざさ
れたICカードの固有IDを受信し,その固有IDを用いて,当該ICカー
ドが登録済ICカードであるか否かの比較を行う比較手段で,画面ロックを
解除するという比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定さ
れた場合)は,画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しな
い限り,画面を介して操作することができるものである。
ここで,被告製品の「背面にかざされたICカードの固有ID」が,本件
訂正発明の「RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別でき
る識別情報」に相当することに争いはないから,被告製品の「画面ロック解
除制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に係る構成要件を充\n足するというためには,1)被告製品の「画面ロックを解除し,または画面ロ
ックを継続する手段」が,本件訂正発明の「携帯電話の所有者が第三者によ
る閲覧や使用を制限し,保護することを希望する被保護情報(以下,単に
「被保護情報」という。)に対するアクセス要求を許可または禁止する手
段」に当たるとともに,2)被告製品において「画面ロックを解除するという
比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定された場合)は,
画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しない限り,画面を
介して操作することができる」ことが,本件訂正発明の「アクセス要求を許
可するという比較結果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてか
ら所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」こと
に当たることを要するといえる。
(2) そこで,上記1)及び2)の2点に分けて,被告製品の「画面ロック解除制御
手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するか否かについて
検討する。
ア 上記1)の点につき
(ア) 証拠(甲4など)によれば,被告製品の「画面ロック機能」とは,ス\nマートフォンの画面をロックすることによって画面を介した操作が行え
ないようにするためのものであり,画面ロックの解除とは,スマートフ
ォンの操作(画面を介した操作)が可能な状態にするためのものであっ\nて,これらは被保護情報へのアクセスを許可するとか禁止するといった
ことそのものを意味するわけではないし,それと同視すべき事柄である
ということもできない。このことは,画面を介した操作が可能となった\nからといって,常に被保護情報へのアクセスが行われるわけではなく,
公開された地図の検索等,被保護情報には当たらない情報へのアクセス
に終始する場合もあり得ることや,逆に,被保護情報そのものにパスワ
ードが付されている場合等を想定すると,画面ロックを解除したからと
いって直ちに当該被保護情報にアクセスできるようになるわけではない
ことなどからも明らかである。
もちろん,被保護情報そのものにパスワード等が付されていない場合
には,画面ロックを解除した後,ユーザが画面を介して所定の操作を行
うことにより,スマートフォンに格納された被保護情報へのアクセスが
可能になるし,壁紙として,第三者に見られたくない写真を設定してい\nるような状況の下では,画面ロックの解除と同時に,被保護情報へのア
クセスが起こり得ることとなる。しかしながら,これらは,画面が開か
れたことそのものや,それによって画面を介した操作が可能になったこ\nとに付随して生じた結果というべきものであって,画面ロックやその解
除の直接の目的や効果といえるものではない(なお,1)の構成における\n違いが,2)の構成における違いにも反映していると考えられることにつ\nいては,後述のイ参照。)。
(イ) また,証拠(乙2)によれば,被告製品は,「画面ロック」状態にお
いても,画面を介した操作によらないアクセス要求(例えば,自動改札
機の通過のために乗車券の情報にアクセスすること,電話着信があった
ときに発信者の名前を画面に表示するために電話帳の情報にアクセスす\nること等)に対しては,アクセスを禁止していないことが認められ,こ
の場合には,画面ロックの解除を経ないで被保護情報へのアクセスが可
能になることとなる。このことも,画面ロックやその解除が,被保護情\n報へのアクセスの禁止や許可そのものではないことを裏付ける一事情と
いうべきである。なお,控訴人は,上記の例は,被告製品の構成を認定\nするための対象にはなっていない事例であるから考慮すべきではないと
いう趣旨の主張をするが,画面ロックやその解除の意義を認定するため
の事情として考慮することには何ら妨げはないものというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)に検討したところによれば,被告製品の「画面ロックを
解除し,または画面ロックを継続する手段」が,本件訂正発明の「被保
護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段」に当たるとい
うことはできない。
イ 上記2)の点につき
本件訂正発明の「アクセス制御手段」の「前記アクセス要求が許可され
てから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可す
る」構成は,その記載のみからは,所定期間が経過した後の状態が明らか\nでない。しかしながら,本件明細書の【0009】に,本件訂正発明の目
的は,「個人情報や金銭的価値のある情報を統合して管理する場合に当該
情報の第三者による不正使用を確実に防止するための情報保護システムを
提供することにある。」と記載されていることや,【0039】に,「タ
イマを設けて一定のタイムラグを許容することで,ICアセンブリ130
とICアセンブリ140とを実際に使用するときの距離が比較的長い場合
であっても,通信可能距離の短い通信方式を採用することが可能\にな
る。」と記載されていることからすると,上記の構成の意義は,所定時間\nに限ってアクセスを許容する構成を付加することで,第三者による被保護\n情報の不正使用を確実に防止しつつ,Rバッジと携帯電話とが離間してい
ても,自動改札機等による被保護情報に対するアクセス要求を適切に処理
できるようにしたことにあると解される。そうすると,所定時間経過後に
は,被保護情報の保護のために,再度アクセスを禁止することが必須とさ
れているというべきであり,「前記アクセス要求が許可され」たときを起
点とし,それから所定の時間が経過した後は,たとえ被保護情報へのアク
セスが継続している最中であっても,被保護情報へのアクセスは禁止され
ることになるものと解される。
これに対し,被告製品の構成は,前述のとおり,「画面ロックを解除す\nるという比較結果が得られた場合は,画面ロックが解除された後,無操作
状態が一定期間継続しない限り,画面を介して操作をすることができる」
というものである。その一定期間の起点は,画面ロックが解除された後,
何の操作もしないという例外的な場合には,画面ロックが解除されたとき
となるが,何らかの操作がされる多くの場合には,その操作が終了したと
きとなるのであって,常にアクセス許可がされたときが一定期間の起点と
なる本件訂正発明とは異なる。また,本件訂正発明においては,アクセス
許可がされた後,一定期間が経過すれば,被保護情報へのアクセスが継続
してDいたとしてもアクセスが禁止されることになるのに対し,被告製品に
おいては,画面を介した操作が継続している限り,一定期間がカウントさ
れることはなく,したがって,画面がロックされることはあり得ないので
あり,この点においても違いが存するものというべきである。
そして,両者にこのような違いが生じているのは,本件訂正発明におい
ては,アクセス許可が被保護情報へのアクセスという意味を有するため,
被保護情報の保護という観点から時間制限が設けられているのに対し,被
告製品の画面ロック解除は,単に,画面を介した操作を可能にするという\n意味しか持たないため,被保護情報の保護という観点から時間制限をする
必要はなく,無駄な電力消費を防ぐという観点から時間制限が設けられて
いるのにすぎないからであり,両者の時間制限が持つ技術的意義が全く異
なるからであると解される(このように本件訂正発明におけるアクセス許
可と被告製品における画面ロック解除が持つ技術的意義に違いがあること
は,被告製品が1)の構成要件をも充足しないことをも裏付けるものである\nといえる。)。
ウ 上記ア及びイに検討したところによれば,被告製品の「画面ロック解除
制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するとはいえ
ない。
(3) 控訴人は,本件訂正発明の「アクセス」とは,携帯電話の正当なユーザと
して被保護情報を閲覧・利用・更新することを意味しており,被告製品にお
いては,画面ロック状態では,正当なユーザであることを確認できていない
ため,被保護情報(電子マネー,電話帳,写真などのデータ)の閲覧・使
用・更新は禁止されているとして,被告製品が,本件訂正発明の構成要件を\n充足する旨主張する。
しかしながら,被告製品の画面ロック状態においては,被保護情報の閲
覧・利用・更新に制限があるとはいえ,それが全面的に禁止されているもの
ではなく(上記(2)ア(イ)),画面ロック状態の解除後においても,それだけで
被保護情報へのアクセスが全面的に可能になるものでもない(上記・・・(2)ア(ア))。
被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,まさに文字どおり,画面ロック
解除を制御しているにとどまり,被保護情報へのアクセスの制御との関連は
限定的なものにとどまる。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成30(ワ)39914
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2020.12.21
令和2(ネ)10039 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年12月1日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許侵害事件で、1審ではサポート要件違反として無効と判断されました。知財高裁も同じ判断をしました。発明はアンテナなのでサポート要件違反は珍しいですね。原審(東京地裁平成30年(ワ)5506号)はアップされていません。
前記(ア)の発明の詳細な説明の記載によれば,発明の詳細な説明に記
載された実施例(第1実施例,第2実施例)は,いずれもアンテナ素子
の下に平面アンテナユニットを配置し,アンテナ素子の下縁と平面アン
テナユニットの上面の間隔を約0.25λ 以上としたものであり,それ
により,アンテナ素子と平面アンテナユニットについて,相互に影響を
及ぼすことが低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同
等の電気的特性を示すことを具体的に示すものである。発明の詳細な説
明には,第1実施例のアンテナ装置を用いた実験結果が記載されている
ところ(【0018】〜【0026】,図7〜図12,図15〜図19),
これらは,アンテナ素子と平面アンテナユニットの相互干渉がアンテナ
の電気的特性に及ぼす影響を検証したものであると認められ,実施例が,
発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するという効果を生ず
るかどうかを確かめるものと認められる。
そうすると,発明の詳細な説明に記載された実施例は,前記認定の発
明の詳細な説明に記載された発明(前記イ(イ))の実施の形態を具体的
に示し,その発明の課題(前記ア(イ))を解決するという効果を生ずる
ことを示すものであると認められる。
(3) 請求1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明か
ア 請求項1に記載された発明は,前記第2,3(2)のとおりであり,1)アン
テナ素子に加えて別のアンテナである平面アンテナユニットを組み込むこ
とは構成要件とされてはおらず,また,2)仮にアンテナ素子に加えて平面
アンテナユニットを組み込んだ場合に,アンテナ素子の下縁と平面アンテ
ナユニットの上面との間隔が約0.25λ以上であることも構成要件とさ\nれていない。そのため,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加
えて平面アンテナユニットを組み込み,アンテナ素子の下縁と平面アンテ
ナユニットの上面との間隔を約0.25λ以上とするアンテナ装置以外に
も,1)そもそもアンテナ素子以外に平面アンテナユニットが組み込まれて
いないアンテナ装置の発明を含み,また,2)アンテナ素子に加えて平面ア
ンテナユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面
アンテナユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置
の発明を含むものである。
イ これに対し,発明の詳細な説明に記載された発明は,前記(2)イ(イ)のと
おりであり,アンテナ素子と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテ
ナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを
備えるアンテナにおいて,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の
下端との間隔を約0.25λ以上とするものであると認められる。
ウ そうすると,請求項1に記載された発明のうち,1)アンテナ素子以外に
平面アンテナユニットが組み込まれていないアンテナ装置の発明,及び2)
アンテナ素子に加えて平面アンテナユニットが組み込まれてはいるもの
の,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔が約0.
25λ未満であるアンテナ装置の発明は,発明の詳細な説明に記載された
発明ではない。
したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載さ
れた発明以外の発明を含むものであり,発明の詳細な説明に記載された発
明であるとは認められない。
(4)請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は
出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲の
ものであるか発明の詳細な説明に記載された発明の課題は,限られた空間しか有してい
ないアンテナケースを備えるアンテナ装置に既設の立設されたアンテナ素子
に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込むと相互に他のアンテナの影
響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという課題であり(前記
(2)ア(イ)),このような課題を当業者が認識するためには,限られた空間し
か有しないアンテナ装置において,既設の立設されたアンテナ素子に加えて
新たに平面アンテナユニットを組み込むことが前提となる。しかし,請求項
1に記載された発明は,そもそもアンテナ素子以外に平面アンテナユニット
が組み込まれていないアンテナ装置の発明を含み(前記(3)ア),そのような
構成の発明の課題は,発明の詳細な説明には記載されていない。そのため,\n請求項1に記載された発明は,当業者が発明の詳細な説明の記載によって課
題を認識できない発明を含むものであり,当業者が課題を解決できると認識
できる範囲を超えたものである。
また,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加えて平面アンテナ
ユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面アンテナ
ユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置の発明を含
むが(前記(3)ア),発明の詳細な説明には,課題を解決する方法として,平
面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔を約0.25λ 以
上とすることが記載されており,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニッ
トの上面との間隔を約0.25λ未満とするならば,発明の詳細な説明に記
載された課題を解決することはできない。そのため,請求項1に記載された
発明は,この点においても当業者が発明の詳細な説明に記載された解決手段
によって課題を解決できると認識できない発明を含むものであり,当業者が
課題を解決できると認識できる範囲を超えたものである。
その他,請求項1に記載された発明が,発明の詳細な説明の記載若しくは
示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識でき
る範囲のものであることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若し
くは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識
できる範囲のものであるとは認められない。
◆判決本文
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◆平成27(ワ)22060
◆平成26(ワ)28449
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2020.11.21
平成31(ワ)2210 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年8月11日 東京地方裁判所
東京地裁(46部)は、コンピュータ関連発明について、技術的範囲に属すると判断しました。なお、被告は無効理由を主張しましたが、該当しないと判断しています。
本件発明1−1の特許請求の範囲の記載をみると,本件発明1−1は,
「患者を識別するための第1患者識別情報を端末装置より取得する第1
取得部と」(構成要件1−1A),「前記第1患者識別情報と,患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否\nかを判定する第1判定部と」(構成要件1−1B)を有するものであり,第1判定部において第1判定をする。また,「前記第1判定部で一致すると\n判定された場合に,看護師または医師を識別するための第1医師等識別情
報を前記端末装置から取得する第2取得部と」(構成要件1−1D),「前記第1医師等識別情報と,看護師または医師を識別する情報としてあらか\nじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判
定部と」(構成要件1−1E)を有するものであり,第2判定部において第2判定をする。\n
ここで,第1判定と第2判定の関係について,特許請求の範囲には,「前
記第1判定部で一致すると判定された場合に」(構成要件1−1D),第1医師等識別情報が取得されて第2判定がされることが記載されている。こ\nのことから,第1判定で一致すると判定されることが,第2判定がされる
ことの前提であることが記載されているといえる。もっとも,第1判定と
第2判定との時間的な接着性の有無等についての記載はない。
そこで,本件明細書1をみると,本件明細書1には,実施の形態1ない
し4が記載されている。実施の形態1では,第1判定や,第1判定で一致
するとの判定がされて患者の医療情報を出力することについての実施の
形態(構成要件1−1Aないし1−1C)が記載されているが,第1判定で一致するとの判定がされた直後に第2判定がされるとか,第1判定は,\n第2判定がされる都度にされるものであるなど,第1判定と第2判定の時
間的関係やその機会についての記載はない。そして,実施の形態1では,
患者が,患者の手に巻いており識別情報を含むリストバンドのバーコード
を端末装置の撮像部で撮像することによって第1判定がされる(段落【0
045】)。そして,第1判定で一致するとの判定がされた場合には,「患者
用画面」が生成,表示され(段落【0047】ないし【0050】),患者用画面には検査の予\定や患者への注意事項が表示されるなどし(【004\n3】【図7】,患者はその画面を確認することで患者に対して行われる医療
行為等を知ることができ(段落【0019】),その患者用画面に対し,患
者が,例えば,検査ボタンをタッチすると検査名欄や検査説明欄が表示された検査表\示画面が生成,表示されることが記載されている(段落【00\n51】等)。また,第1判定で一致するとの判定がされて患者用画面が表示(ステップS21)されると検査ボタンや手術ボタンの入力を受け付ける\nようになり,その入力がされた場合には対応する画面の表示処理がされるが,入力がされなかったり,上記対応する画面の表\示処理がされたりした後には,患者用画面の表示に戻ることが記載されている(段落【0065】ないし【0068】,【図12】)。\n
実施の形態2は,看護師が患者の医療情報を確認するための看護師専用
画面を表示部に表\示する実施の形態であり,主に構成要件1−1Dないし1−1Fに対応する実施の形態が記載され,特に説明する構\成等以外は実施の形態1と同じであることが記載されている(段落【0088】)。そこ
では,患者用画面が表示部に表\示された後,看護師が,自身のリストバン
ドに記載されたバーコードを撮像部で撮像し,第2判定がされることが記
載されている(段落【0091】)。また,第2判定が一致した場合には医
療スタッフ用画面が表示されるところ,医療スタッフ用画面である看護師専用画面,バイタル画面等の表\示後に終了処理(ステップS120)がされると,患者用画面の処理(ステップS23)に移ることが記載されてい
る(段落【0122】【図26】【図12】)。そこには,上記の他に,第1
判定と第2判定との関係についての記載はない。
また,実施の形態3は主に第1判定に関係する記載であり(ただし,請
求項2に関する形態),実施の形態4は,第2判定に関係する記載である
が,それらの記載も含めて,本件明細書1に,第1判定と第2判定との時
間的接着性についての記載はない。
本件明細書1における背景技術や発明が解決しようとする課題の記載
によれば,医療情報を医療用サーバから取得し,取得した医療情報に基づ
いてピクトグラムを表示する端末装置という従来技術ではセキュリティを確保することが難しかったところ,本件発明1−1は,セキュリティを\n従来技術より向上させることができるというものである(段落【0003】
ないし【0006】)。本件明細書1には,本件発明1−1について,上記
のとおり,従来技術よりセキュリティを向上させることが記載されている
が,その記載のほかには従来技術と比較した優れた効果についての記載は
ない。
以上の特許請求の範囲の記載や本件明細書1の記載に照らせば,第2判
定は,第1判定で一致すると判定された場合にされるものである。しかし,
本件明細書1には,実施の形態として,患者がその手に巻いているリスト
バンドのバーコードを端末装置の撮像部で撮像することによって第1判
定がされ,一致すると判定された場合に患者用画面が表示され,それに対して患者が一定の操作をする形態が記載されている。そして,患者用画面\nの表示後に,医療スタッフがそのリストバンドのバーコードを撮像部で撮像することで第2判定がされ,そこで一致すると判定されると医療スタッ\nフ用画面が表示されるが,その終了処理後は,患者の医療情報を表\示する
患者用画面の表示に戻ることも記載されている。これらに照らすと,本件発明1−1において,第2判定がされるのは,第1判定で一致すると判定\nされた場合ではあるが,第1判定で一致するとされた後に患者による一定
の操作がされ,その後に第2判定がされることや,第1判定で一致すると
判定されて第2判定がされて第2判定で一致するとされて看護師等が必
要とする医療情報を含む表示画面が出力された後に,第1判定で一致すると判定された後と同じ,患者の医療情報を表\示する患者用画面に戻り,その状態から再び第2判定がされることがあり得ることが記載されている
といい得る。
以上によれば,本件発明1−1において,第2判定がされるのは第1判
定で一致すると判定された場合であるが,第1判定がされるのは第2判定
がされる直前に限られるとか,第2判定がされる前にその都度第1判定が
されるとは限られないと解するのが相当である。このように解したとして
も,第1判定がされてそこで一致すると判定されない限り第2判定はされ
ず,第2判定において一致すると判定されない限り看護師等が必要とする
医療情報を含む表示画面が表\示されることはないから,本件明細書1に記
載されたセキュリティの向上という効果を奏するといえる。
◆判決本文
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2020.11.21
平成30(ワ)21448 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年7月9日 東京地方裁判所
被告製品は構成要件を有していない、さらに、進歩性違反の無効理由ありとの判断されました。同時期に継続していた審取の判断については「証拠が異なる」として、審理再開の 必要なしと判断されました。
イ 本件発明の技術思想(課題解決手段)について
前記(1)によれば,本件発明は,鋼管等を回転して圧入する立坑構築機に\n関し,輸送する際に幅を狭くする必要があったところ,従来技術において
は,円弧状歯車片同士の端部が当接されず,その隙間から内部の転動体が
こぼれ落ちてしまうため,標準的なベアリングを使用することができない
という課題が生じていたので,これを解決するため,構成要件Eに係る構\
成を採用し,円弧状ベアリング片が隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ
ングを構成し,もって,分割して幅方向の寸法を狭くすることができると\n共に,転動体がこぼれ落ちなくなり回転を安定させることができ,標準的
なベアリングを使用して装置を安価に構成することができるようにした\nという技術的思想であるものと認められる。すなわち,本件発明において,
円弧状ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付
ベアリングを構成するという技術的意義を有しているものというべきで\nあり,このことは,前記のとおり,課題解決手段の欄(段落【0011】)
において,「円弧状ベアリングは隙間なく接続して環状の歯車付ベアリン
グを構成し,内輪及び外輪の間に配置された球やころ等の転動体がこぼれ\n落ちない構造になっている。かかる構\成によって,分割して幅方向の寸法
を狭くすることができると共に,標準的なベアリングを使用して回転を安
定させることができる。」と記載されていることからも根拠付けられるも
のである。
ウ 構成要件Eへの被告製品の充足性について\n
しかして,構成要件Eには,円弧状ベアリング片が「それぞれの両端部\nを各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する」との文言が記載され\nているところ,「接続」とは「つなぐこと。つながること。続けること。続
くこと。」を意味するものである(広辞苑第7版)。そうすると,その文言
の一般的意義,上記の本件発明の技術的思想(本件発明において,円弧状
ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ
ングを構成するという技術的意義を有しているものであること)に照らせ\nば,環状の歯車付ベアリングを構成するために隙間なく接続する部品,す\nなわち,つなぐ部品が円弧状ベアリング片であって初めて,円弧状ベアリ
ング片が「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構\n成する」といえるものであると解するのが相当である。そうすると,環状
の歯車付ベアリングを構成した際に,円弧状ベアリング片の両端部に隙間\nが有るならば,「接続」とは評価し難いものというべきである。
しかるに,前記アによれば,被告製品においては,環状の歯車付ベアリ
ングは,2つある分割フレーム14に設けられた内外輪部ケースそれぞ
れの両端部及び回転リング部材51−3,51−4それぞれの両端部を
隙間なく接続して構成するものであって,分割内輪部23や分割外輪部\n24それぞれの両端部を隙間なく接続するものでも,つなぐものでもな
く,円弧状ベアリング片である円弧状部材36,37それぞれの両端部
には,客観的に隙間があるから,被告製品の円弧状部材36,37は
「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成す\nる」ものであるとはいえず,被告製品は,構成要件Eを充足しないもの\nというほかない。
・・・
以上によれば,本件特許は当業者が乙2発明に基づいて容易に発明するこ
とができたもの(特許法29条2項)であるから,特許無効審判により無効
にされるべきもの(同法123条1項2号)である。
なお,本件特許については,知的財産高等裁判所令和2年(行ケ)第10
102号事件同2年3月24日判決(裁判所ホームページ)が,特許無効審
判請求の不成立審決に対する取消請求を棄却しているところ,原告は,これ
を理由として,口頭弁論再開の申立てをしているが,同判決は,乙2発明を\n主引用発明とし,乙20発明を副引用発明として適用することに基づく進歩
性の欠如については判断しておらず,上記判断は同判決と矛盾するものでは
ないから,再開の必要性は認められない。
◆判決本文
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2020.09.26
平成29(ワ)22010 実用新案権侵害差止等請求事件 実用新案権 民事訴訟 令和2年2月5日 東京地方裁判所
実用新案登録に基づいて、損害賠償請求が認められました。争点は、技術的範囲、間接侵害、無効(冒認)、先使用権と多いです。無審査登録の実案なので、訂正したあと評価書請求をして警告後の権利行使です。
ア 構成要件Dは,取出し筒の筒部先端近傍に口紐を設け,「口紐により取出し筒から引き出した命綱の周囲を緊縛して,取出し筒の開口部を密閉する」というも\nのであり,それによって,取出し筒から空気が漏れるのを防止し,冷却効率を損な
わないという作用効果を奏するものであるところ(前記1(1)ア(イ)),上記の「緊
縛」については,「きつくしばること」という一般的な字義(乙1)のとおり,口
紐により命綱の周囲をきつく縛ることを意味すると解するのが相当である。
イ 被告は,「緊縛」は,口紐を取出し筒の先端部に巻き付け,その両端を絡ま
せてつなぎ合わせることを意味すると解すべきであるとし,その理由として,1)
「縛る」に「ひもや縄などを巻き付けて結び,離れたり,動いたりしないようにす
る」という字義があり,「結ぶ」に「ひも・帯などの両端をからませてつなぎ合わ
せる」という字義があること,2)本件明細書の図4に,口紐を筒部先端部に巻き付
け,その両端を絡ませてきつく縛り,筒部の開口部を密閉する態様の実施例が示さ
れていることなどを主張する。
しかしながら,被告が主張するような態様によらなくとも,筒部の開口部を密閉
することによって,取出し筒から空気が漏れるのを防止し,冷却効率を損なわない
という作用効果を奏することは可能であると考えられるところ,上記1)については,
「緊縛」の一般的な字義を離れて,その意味を過度に限定するものであり,上記2)
についても,実施例にすぎず,本件明細書の考案の詳細な説明において,口紐を筒
部先端部に巻き付け,その両端を絡ませてきつく縛る態様のものでなければならな
いとする説明もみられないことなどに照らせば,いずれの主張も採用することはで
きず,「緊縛」がそのような態様のものに限定されると認めることはできない。
(2) 被告製品
これを被告製品についてみると,前記第2の2(6)のとおり,被告製品は,ランヤ
ード取出し筒の筒部先端近傍に口紐を設け,「口紐をランヤード取出し筒から引き
出したランヤードの周囲に巡らせ,コードストッパーを用いて筒部先端部分を収縮
させることにより,ランヤードを固定して,ランヤード取出し筒の開口部を密閉す
る」という構成(構\成d)を有するところ,コードストッパーを用いるものであっ
たとしても,口紐により命綱の周囲をきつく縛ることにより,筒部の開口部を密閉
するものである認められるから,構成要件Dを充足する。したがって,被告製品は,文言上,本件考案の技術的範囲に属する。\n
3 争点3(被告製品3及び6は本件登録実用新案に係る物品の製造にのみ用い
る物か)について
前記第2の2(6)イ認定のとおり,被告製品3及び6は,服本体のみで販売されて
いる製品であり,ファン等を取り付け又は収納することによって,本件考案の技術
的範囲に属する被告製品と同様の構成を備えるものとなると認められるから,被告製品と同様に,構\成要件Dを充足する。
そして,被告製品3及び6は,ハーネス型安全帯を着用できるようにするために
空調服の背中部分にランヤード取出し筒を設けたものであり,そのような構成を有しない通常の空調服と比べて販売単価が高いものであること,具体的には,前記1\n(1)カ(イ)認定のとおり,被告各製品の販売単価とこれらに対応するものとして被告
が販売している通常の空調服の販売単価を対比すると,被告製品1及び4は約1
5%,被告製品2及び5は約23%,被告製品3及び6は約48%割高であること,
同(ウ)認定のとおり,被告の空調服のカタログに,「ウェアのみ」の製品は「洗い
替え用やファン・バッテリーなどをお持ちの方向けのウェアのみです。」と記載さ
れ,被告製品3及び6は「フルハーネス安全帯着用者専用空調服です。背中部分か
らランヤードを取り出すことができます。もちろん空気は逃がしません。・・・」など
と記載されていることなどからすると,被告製品3及び6は,ハーネス型安全帯を
着用するために販売されている製品であると認めるのが相当であり,ハーネス型安
全帯を全く利用しない使用形態は,経済的,商業的,実用的な用途として想定され
ていないというべきであるから,本件登録実用新案に係る物品である被告製品の製
造のみに用いるものと認めるのが相当である。
したがって,被告製品3及び6は本件登録実用新案に係る物品の製造にのみ用い
る物(実用新案法28条1号)に当たる。
・・・
5 争点5(被告は先使用による通常実施権を有するか,又はセフト社の先使用
による通常実施権を援用することができるか)について
(1) 被告各製品の製造等に関し,被告らが先使用による通常実施権を有するとい
うためには,被告らにおいて考案の実施である「事業の準備」(実用新案法26条,
特許法79条)をしていたこと,すなわち,その考案につき,いまだ事業の実施の
段階には至らないものの,即時実施の意図を有しており,かつ,その即時実施の意
図が客観的に認識される態様,程度において表明されていることを要するものと解される(特許法79条に関する最高裁昭和61年(オ)第454号同年10月3日\n第二小法廷判決・民集40巻6号1068頁参照)。
(2) これを本件についてみると,本件出願日までの被告らにおけるフルハーネス
対応空調服の開発状況等は前記1(1)エ認定のとおりである。すなわち,1)被告ら代
表者は,平成27年3月3日頃,背中部分に先端が開口した筒状の出口を設け,その先端部分を紐様のものなどを用いて縛る構\成を有する空調服に係る着想を得て,その構成を手書きで図示した乙11図面を作成し,同月4日,そのデータをゼハロスに送信して,試作品の作成を依頼したこと,2)ゼハロスは,同月31日までに,
背中部分に先端が開口した筒状の出口を設け,その先端部分を紐及びコードストッ
パーを用いて縛る構成を有しており,被告各製品と同様の構\成を有する本件試作品
を作成したこと,3)被告らは,同年4月7日,被告において購入したハーネス型安
全帯を用いて本件試着品の試着をしたことが認められる。
しかしながら,フルハーネス対応空調服の構成に係る手書き図面が作成され,その試作品を作成して,社内でその試着をしたからといって,被告らにおいて,即時\n実施が可能な状況にあったかは必ずしも明らかとはいえないところ,前記第2の2(5)認定のとおり,被告らが被告各製品の製造,販売等を開始したのは平成28年5
月であり,本件試作品が作成され,試着された平成27年3月及び同年4月から1
年以上を要したことにも照らせば,本件出願日の時点では,少なくとも,本件考案
の実施に当たる被告各製品の事業に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識さ
れる態様,程度に表明されていたということはできないというべきである。\n
(3) 被告は,1)被告ら代表者は,平成27年3月4日,本件考案の構\成が記載さ
れた乙11図面のデータをゼハロスに送信し,試作品の作成を依頼しているところ,
フルハーネス対応空調服が顧客のニーズ等を背景として作れば売れる製品であった
こと,その開発又は販売の障害となるような事情は存在しなかったこと,被告らの
社内体制として,被告ら代表者の意思決定が重要な意味を持っていたことなどに照らせば,被告ら代表\者の上記の行為は,フルハーネス対応空調服の事業化を決定する旨の被告らの意思表示であるということができること,2)ゼハロスは,被告ら代
表者の上記の依頼を受け,他社に委託するなどして,平成27年3月31日までに,本件試作品を作成しているところ,被告らが,莫大な時間,労力,資金を投下して,\n既存の空調服を研究,開発し,商品化してきたこと,本件考案は,既存の空調服に
筒を取り付けるだけで完成するシンプルな構成であることなどに照らすと,被告らは,本件試作品の作成によって,フルハーネス対応空調服に係る事業活動のほとん\nどを完了しており,被告らによる即時実施の意図が客観的に表明されていること,3)被告ら代表者は,平成27年3月26日の空調服の会において,必要があればフルハーネス対応空調服のアイディアを提供する旨発言しており,被告らが同空調服\nを販売する意思を有していたことが示されていること,4)被告らは,平成27年4
月7日,本件試作品の試着を行い,被告ら代表者においてフルハーネス対応空調服は完成したと強い手応えを感じ,同空調服の販売の意思はより強固なものになった\nから,遅くともその時点で,被告らによる販売の意思は確定的なものとなったこと
などを主張する。
しかしながら,上記1)について,乙11図面は,手書きの比較的簡略な図面であ
り,そのデータを他社に送信して試作品の作成を依頼したというだけで,即時実施
が可能な状況にあったといえないことは明らかである。被告ら代表\者の意思決定が
重要であったというのは被告らの内部的な事情にすぎないことにも照らせば,ゼハ
ロスへの乙11図面の送信等をもって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施
の意図が客観的に認識される態様,程度に表明されたということはできない。また,上記2),4)について,本件考案は既存の空調服の背中部分の構成を変更するにとどまるものであり,被告らは既存の空調服の研究,開発実績を有していると\n認められたとしても,試作品が一度作成され,社内でその試着がされただけでは,
製品化に耐えるものであるか未だ明らでなく,試着の結果を踏まえて設計の見直し
等の作業が必要になるであろうことは十分に考えられるところである。被告らが被告各製品の製造,販売等を開始したのはその後1年以上が経過した平成28年5月\nであったことなどにも照らせば,本件試作品が作成されたことや試着されたことを
もって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識される態
様,程度に表明されたということはできない。さらに,上記3)について,被告が指摘する空調服の会における被告ら代表者の発言は,必要があればフルハーネス対応空調服のアイディアを提供するというもので\nあり,これをもって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施の意図が客観的に
認識される態様,程度に表明されたということはできない。
(4) 以上によれば,本件出願日である平成27年5月11日当時,本件考案の実
施に当たる事業に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度に
表明されていたと認めることはできないから,被告らにおいて,その「事業の準備」をしていたということはできない。\n
◆判決本文
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2020.09.10
平成29(ワ)28189 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年1月17日 東京地方裁判所
少し前の事件です。漏れていたのでアップします。「略1/2」という限定事項について、中間片の幅の平均比率が1/2の90%〜100%の範囲内にあるものが全80枚のうち3枚の割合なので、技術的範囲に属しないと判断されました。無効理由も主張されてましたが、これについては判断されませんでした。
上記記載によれば,本件発明等の課題は,1)包装体の大きさを従来と同様
に維持しつつ,より大きなサイズのシート状物を積層できる構造を提供する\nこと,2)包装体同士を積み重ねた際の安定感のあるシート状物の積層体を提
供することにあり,本件発明等の効果は,3)従来と比較して第2の折片の面
積分だけ大きいサイズのシート状物によって,従来と変わらないサイズの積
層体を形成することができ,また,第2の折片が設けられた大きさ分だけ肉
厚部分が形成され,積層体同士を重ね合わせた際の安定感を向上することが
できるという効果を得られることにあると認められ,本件発明等においては,
上記1)の課題を解決して上記3)の効果を得るために第2の折片を設けてい
るが,本件発明等に係るシート状物のサイズを従来のものより大きくするた
めには,その前提として,第2の折片以外の部分を可能な限り大きくするこ\nとが必要となるものと解される。
すなわち,本件発明等の第1の中間片の幅は積層体の幅と略同じ長さと規
定されているところ,第2の中間片及びこれと略同じ幅の第1の折片の長さ
を第1の中間片の幅の2分の1より小さくすると,第2の折片を設けたとし
ても,シート状物全体のサイズがその分だけ従来のものよりも小さくなって
しまい,上記1)の課題を解決して上記3)の効果を得ることができなくなる一
方,第2の中間片の幅を第1の中間片の2分の1よりも長くすると,第2の
中間片同士が中央部で重なり合い,全体の嵩高状態が不安定なものになって
しまい,上記2)の課題解決に支障が生じることとなる。そうすると,本件発
明等の上記課題1)及び2)を解決し,所期の効果を奏するには,第2の中間片
の幅を,第1の中間片の1/2を超えない範囲でこれに限りなく近づけるこ
とが望ましいものと認められる。
エ 前記のとおりの「略」という語の通常の意義及び構成要件Cにおいて第2\nの中間片の幅寸法が規定されている技術的意義に照らすと,同構成要件にい\nう「略1/2」とは,正確に2分の1であることは要しないとしても,可能\nな限りこれに近似する数値とすることが想定されているものというべきで
あり,各種誤差,シート状物の伸縮性等を考慮しても,第1の中間片の2分
の1との乖離の幅が1割程度の範囲内にない場合は「略1/2」に該当しな
いと解するのが相当である。
オ これに対し,原告は,本件発明等は,容易に伸縮する素材を用いることを
前提とし,第2の中間片及び第1の折片の幅に誤差が生じた場合にも,第2
の折片によりその誤差を吸収して,積層体が所望とする幅寸法になるように
調整することに主眼があるのであって,本件発明等における「略1/2」の
語は,1/2を超える場合は含まないが,1/2より短いものは広く許容す
る意味と解釈すべきであると主張する。
しかし,本件明細書等には,第2の中間片が第1の中間片の幅の1/2よ
り小さい幅となったときに第2の折片がその誤差を吸収することにより積
層体の幅寸法を維持することが本件発明等の課題である旨の記載は存在し
ない。むしろ,前記判示のとおり,本件明細書等には,積層体の幅を従来と
同様とした上で,第2の折片を設けることにより「第2の折片の面積分だけ
従来と比較して大きいサイズのシート状物」(段落【0011】)を形成す
ることが本件発明等の課題である旨が記載されているのであって,その課題
解決のためには,前記のとおり,第2の中間片の幅を,可能な限り第1の中\n間片の1/2を超えない範囲でこれに近づけることが望ましいものという
べきである。
・・・
3 相違点1の認定の誤りについて
(1) 前記2(1)の甲6の記載事項(図2ないし4を含む。)を総合すれば,甲
6には,本件審決が認定するとおり,甲6(審判甲1)発明が記載されてい
ることが認められる。そして,本件訂正発明と甲6(審判甲1)発明を対比すると,本件訂正発明の第2の折片の幅と甲6(審判甲1)発明における「腰折ウェットテシュ
ー11f,12f」(第2の折片に相当)の幅について,本件訂正発明は,
「上記第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整する
とともに,上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の
幅より短い幅となる」のに対し,甲6(審判甲1)発明は,「腰折ウェット
テシュー11,12の展開長の略五分の一の長さ,又は腰折ウェットテシュ
ー11,12の幅方向の中心線Yを越えず且つこれに接近した長さ」である
点で相違すること(本件審決認定の相違点1)が認められる。したがって,本件審決における相違点1の認定に誤りはない。
(2) これに対し原告は,1)特許法施行規則24条の2は,特許発明の技術上の
意義ある部分は,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他」
により特定される旨規定していることからすると,発明は,解決課題(目的
あるいは作用・効果)と解決手段(構成)とで特定しなければならない,2)
本件訂正発明と甲6に記載された発明の相違点を捉えるには,第2の折片と
他の片との関係性をシート全体の折構造で把握する必要があるなどとして,\n本件審決における甲6(審判甲1)発明の認定は適切ではなく,本件審決認
定の相違点1は,原告主張の相違点1(前記第3の1(1))のとおり認定すべ
きである旨主張する。
しかしながら,特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許出願の願書に添
付した特許請求の範囲の記載に基づいてすべきものであるところ,原告主張
の相違点1は,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項1)記載の発明特定
事項以外の事項(本件明細書記載の「背景技術」,「発明が解決しようとす
る課題」等)をも含めて本件訂正発明の要旨を認定することを前提として,
本件訂正発明と甲6に記載された発明とを対比するものであるから,その前
提において,採用することができない。また,特許法施行規則24条の2は,
特許法36条4項1号の経済産業省令の定めるところによる記載は,発明が
解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分
野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必
要な事項によりしなければならない旨規定し,明細書の発明の詳細な説明の
記載要件を定めた規定であるから,原告主張の相違点1が適切であることの
根拠となるものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
4 相違点1の判断の誤りについて
(1) 本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り返され上記第
1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整するとともに,
上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅より短い
幅となる第2の折片」にいう「調整」の意義について
ア 本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り返され上記
第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整するとと
もに,上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅
より短い幅となる第2の折片とを有するように折り畳まれ」との記載から,
本件訂正発明の「第2の折片」は,「第1の中間片の幅の1/2未満で,
かつ,上記第1の折片の幅より短い幅」であって,「第1の中間片から積
層方向上側に折り返され」,「第2の折片」によって「第1の中間片の幅
が所望とする積層体の幅寸法となるように調整」することができることを
理解できる。
一方で,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「上記第1
の中間片から積層方向上側に折り返され上記第1の中間片の幅が所望とす
る積層体の幅寸法となるように調整する」にいう「調整」について,具体
的な調整方法等について規定した記載はない。
イ 次に,本件明細書には,「調整」に関し,「調整」の語について定義し
た記載はなく,「図1に示すように,シート状物10は,所望とする積層
体の幅寸法と略同じ長さに形成された第1の中間片11と,積層方向下側
に折られ,第1の中間片11の略1/2の幅に第1の中間片11に隣接し
て形成された第2の中間片12と,第2の中間片12から積層方向下側に
折り返され第2の中間片12と略同じ幅に形成された第1の折片13と,
第1の中間片11から積層方向上側に折り返され第1の中間片11の幅が
所望とする積層体の幅寸法となるように調整する第2の折片14とから構\n成されている。」(【0014】)との記載がある。また,本件明細書に
は,「第2の折片」に関し,「第2の折片14は,第1の中間片11と隣
接し,シート状物10の長さ方向に平行な長辺10a,10bと,第3の
折れ線17と短辺10cとによって囲まれる部分である。シート状物10
の長辺10a,10bの第2の折片14の長さにあたる部分,つまり第3
の折れ線17と短辺10cとの距離Dは,D<Cの関係を有する。つまり,
距離Dは,距離Aの半分より小さい値である。」(【0020】),「以
上のように構成されたシート状物積層体1は,従来の積層構\造においては
ない第2の折片14を有することで,従来と変わらない積層体の幅として
も,第2の折片14の面積分だけ従来よりもサイズの大きいシート状物1
0を積層させることができる。具体的には,シート状物10は,従来使用
されるシート状物の大きさと比較して,第2の折片14の面積分,つまり
上述のD<Cの関係を有する範囲内で大きさを変更することができ,約2
5%まで大きいサイズのシート状物を使用することができる。」(【00
26】)との記載がある。
ウ 以上の本件訂正発明の特許請求の範囲の記載,本件明細書の記載及び図
1によれば,本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り
返され上記第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調
整する」にいう「調整」とは,シート状物の第1の中間片の幅が所望とす
る積層体の幅寸法となるように,「第2の折片」の幅を「第1の中間片の
幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅より短い幅」となるように
設定することを意味するものと解される。
・・・
被告製品2)については,上記アの審理経過に照らし,信用性が高いと認め
られる甲25及び乙A39に基づいて検討することが相当であるところ,原
告が被告製品2)(YRC24/3FM13:59)について測定した結果(甲25:別紙6
−2)によれば,同製品の各シート状物の第1の中間片の幅の2分の1に対
する第2の中間片の幅の比率(以下,単に「第2の中間片の比率」というこ
とがある。)が90%〜100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち3
枚にすぎず,その平均値(「平均値(1,80枚目除く)」欄のもの。以下
同じ。)も83%にとどまるものと認められる。また,被告PPJが被告製品2)(YRC24/3FM16:40)について測定した結果(乙A39:別紙6−4)によれば,第2の中間片の比率が90%〜100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち30枚であるものの,同比率がその範囲内にあるものは,いずれも偶数番目のシート状物であって,奇数番目の
シート状物にはこれが存在しない上,全体の平均値も84%にとどまるもの
と認められる。
上記の被告製品2)全体における第1の中間片の幅の2分の1に対する第2の中間片の幅の平均比率,その比率が90%〜100%の範囲内にあるものの割合及びその分布等に照らすと,被告製品2)の第2の中間片が構成要件C「第1の中間片の略1/2の幅」との要件を充足するとは認められない。\n
◆判決本文
対応する審決取消訴訟はこちらです。こちらは、無効審決が維持されています。
◆令和1(行ケ)10088
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2020.08.24
令和1(ネ)10066 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年6月17日 知的財産高等裁判所(2部) 東京地方裁判所(40部)
コンピュータ関連発明の特許権侵害事件で、1審の被告敗訴部分が取り消されました。理由は乙14から新規性無しです。乙14は1審で時期に後れた攻撃防御として採用されなかった証拠です。個人的には、新規性無しというレベルの証拠があるにもかかわらず、時期に後れたとして、1審判決を出すのは引っかかります。
構成要件6)(「前記識別情報を前記ウェブサーバに向けて送出可能な状\n態から送出不可能な状態へと変化させるステップを,前記ウェブサーバに向けて前\n記識別情報が送出されてから一定期間が満了した場合に,又は前記ウェブサーバへ
アクセスされた回数が基準に達した場合に実行する機能とを」)について\n
(ア) 「一定期間」の始期について
a 乙14では,「ウェブページ・・・を顧客のブラウザに表示させる」\n(段落[0032]),「バートの広告は・・・顧客にのみ表示されることになる」(段落[0033],「広告描画エンジン74は,キャンペーン管理インターフェイス・・・を広告主に表\示する」(段落[0042]),「表示ページ中でバートの広告を順位付\nける」(段落[0045]),「クリックして表示する方法」,「広告は,広告主の完全な電話番号を表\示していないが,その代わりに・・・残りの部分を表示するための\nハイパーリンクを含む。」(段落[0059]),「新聞の告知欄は,消費者がかける電話番号を表示するテレビコマーシャルと同様に」(段落[0070]),「歯科医らは\n同業者よりも上に表示されることを望む場合に高い料金を支払うことができる。広\n告会社は,架電単価が最も高いものから最も低いものへと降順に歯科医を表示する。」\n(段落[0089]),「広告会社は,ウェブサイト上に3つの広告を表示するとき,\n広告に現れる固有の電話番号を動的に割り当てる。」(段落[0090]),「広告主
に対応する広告が少なくとも2つの位置の第1の位置に表示された場合に・・・」\n(請求項11)などにおいては,「表示(display)」は,「情報が画面に映される(it
shows it on its screen)」,「画面に単語や写真等を見せる(to show words,
pictures, etc. on a screen)」,「コンピュータの画面に情報を見せる(to show
information on a computer screen)」などの意味で用いられていることが認めら
れる。
しかし,乙14には,「広告会社は,ウェブサイト上に3つの広告を表示すると\nき,広告に現れる固有の電話番号を動的に割り当てる。」(段落[0090]),
「広告会社は一日中10人の歯科医を何百もの異なるサイトに絶えず表示してい\nる。」(段落[0092])などのように,「表示」について,ユーザ端末等の画面の\nみに情報を映すという意味に限定されず,システム(広告会社)が要求パートナー
のウェブサイトに対して電話番号を割り当てた広告等の情報を提示することをも含
むと理解することができる記載がある。
また,乙14の「一実施形態において,ある特定の広告主の広告がある時間にあ
る特定のウェブサイトにある特定の固有の電話番号と共に表示されたことをシステ\nムが記録する。ますます多くの広告が異なるウェブサイトに表示されるため,一実\n施形態において,システムは割り当てられた電話番号がそれぞれ最後に表示された\nのはいつかを記録する。」(段落[0095])との記載では,「システムが記録す
る」とされていて,システムが,ユーザ端末等の画面に電話番号が割り当てられた
広告が映されたことを把握し,それを記録に反映することについての記載が全くな
いことからすると,ここにいう「表示」は,ユーザ端末等の画面のみに情報を映す\nという意味に限定されず,システム(広告会社)が要求パートナーのウェブサイト
に対して電話番号を割り当てた広告等の情報を提示することを含む意味であると理
解することができる。
そして,構成要件(c)のとおり,乙14発明の要求パートナーの検索エンジン\nは,「検索要求に対する検索結果内に,システムから送信された『固有の電話番号が
挿入された広告』を表示する」ものであり,構\成要件(b),(c)のとおり,要求
パートナーの検索エンジンのウェブサイト等に情報を提示することは,システムが
「固有の電話番号が挿入された広告」を当該要求パートナーへ送信することにより
行われるのであるから,乙14発明において「表示」というときに,システムが,\n「固有の電話番号が挿入された広告」を,要求パートナーのウェブサイトに提示さ
せるために送出するという意味をも含むと理解することができる。また,構成要件\n(d)の「表示されたことを記録し」についても,システムが,「固有の電話番号が\n挿入された広告」を要求パートナーのウェブサイトに提示させるために送出したこ
とを含むと理解することができる。
したがって,乙14発明において,固有の電話番号が再利用のために「電話番号
のプール」に戻されるまでの期間の始期である「表示されてからある一定期間」に\nいう「表示されてから」は,「固有の電話番号が挿入された広告が要求パートナーの\n検索エンジンに送出」されたときを含むものと解することができる。
b これに対し,1審原告は,当業者は,「ウェブページが何時の時点で
ユーザ端末に表示されたか」を把握するためのウェブビーコン等の周知技術を参酌\nして乙14の記載を理解するため,ユーザ端末等に電話番号が表示された時期を容\n易に把握することができるから,乙14における「表示してから」は,文字どおり,\nユーザ端末等に電話番号が表示された時点と解すべきであると主張する。\nしかし,上記aのとおり,乙14には,システムが,ユーザ端末等の画面に電話
番号が割り当てられた広告が映されたことを把握することについて記載も示唆もな
く,また,乙14のシステムは,「固有の電話番号が挿入された広告」を提供した
ことを記録することにより,要求パートナーのウェブサイトに「電話番号が割り当
てられた広告」が提示されたことを把握できるから,乙14発明の出願時に,We
bページ(又は電子メール)上にグラフィックを設置し,利用者が当該Webペー
ジ(又は電子メール)を開いた際に,自社のサーバに対してGET要求をし,どの
IPアドレスのマシンが,いつ,どのWebページにアクセスしたのかについての
情報をトレースすることができるというウェブビーコンなどの技術が周知技術であ
ったとしても,乙14発明がこの技術を用いることを前提としたものであると理解
されるとは認められない。
また,乙14発明は,固有の電話番号を提供するには費用がかかるため,広告及
びウェブサイト毎に固有の電話番号を割り当ててペイ・パー・コールの実績型広告
を実施するための架電トラッキングを実施すると,非常に多くの固有の電話番号,
すなわち非常に多くの費用が必要になるとの課題(段落[0076])に対して,「当
該方法では,電話番号は,ジャスト・イン・タイム方式で広告に動的に割り当てら
れ,所定期間,電話番号が表示されない又は架電されないと,そのとき当該電話番\n号は,割り当て解除されて,再利用される。」(段落[0006])ことにより上記課
題を解決するものである。そうすると,このような乙14発明において,「所定期間」
の始期を,ユーザ端末等に電話番号が表示された時点に限定するような技術的な必\n要性は特に認められない。1審原告は,「一定期間」の始期を「送出されてから」と
する本件発明は,ユーザの動作部分を対象としておらず,サーバの側で完結するも
のであり,「一定期間の始期」がユーザ端末等に「表示されてから」とする乙14発\n明は技術思想が異なると主張するが,乙14発明の上記のような意義を考慮すると,
乙14発明において,システム設計の便宜(一定期間の計測の容易性)よりも,ユ
ーザ側の利益(表示期間の確保)を優先させる必要性は特に認められないから,1\n審原告が主張するような本件発明と乙14発明との技術思想の違いを認めることは
できない。
かえって,乙14発明において,「表示」をユーザ端末等に電話番号が表\示された
時点と解すると,通信エラー等で電話番号が送出されたがユーザ端末等に表示され\nなかった場合には,「一定期間」が進行しないことになり,乙14発明の上記の課題
が解決されないことになる。
したがって,1審原告の上記主張を採用することはできない。
c また,1審原告は,乙14の段落[0059]で引用されている米
国公開公報(甲33)によると,乙14発明の構成要件(c)における「表\示」は,
ユーザの「コンピュータの画面に情報を見せる(to show information on a computer
screen)」という意味を有するものとして使用されていると主張する。
しかし,乙14の段落[0059]には,広告が要求パートナーのウェブサイト
を介してユーザに提示されるに当たり,広告が,広告主の電話番号又は電話番号の
残りの部分を表示するためのハイパーリンクを含んでいる方法が記載されており,\nその中で,甲33に記載されている「クリックして表示する方法」が引用されてい\nるにすぎないから,仮に,甲33の「表示」が1審原告主張の「表\示」の意味のみ
を有するものとして用いられているとしても,甲33の記載をもって乙14の「表\n示」を1審原告主張のように認めるべき事情があるということはできない。
1審原告は,乙14発明の[0078]の「表示された」の解釈について,1審\n原告の主張に沿った内容を記載した意見書(甲32)を提出するが,上記説示に照
らし,この意見書の記載内容を採用することはできない。
d 以上によると,乙14発明においての「表示されてから」とは,要\n求パートナーの検索エンジンに向けて電話番号が「送出」されたときを含むと認め
るのが相当であるから,本件発明と乙14発明には「一定期間」の始期について相
違点がないことになる。
(イ) 「『送出可能な状態』である」ことについて\n
a 前記(2)によると,乙14発明では,エンドユーザから要求パートナ
ー(ある検索エンジンのウェブサイト)に対して検索要求がされると,「ジャスト・
イン・タイム方式」で,未割り当ての電話番号のプール内にある電話番号の中から
「固有の電話番号」となる電話番号が検索要求におけるキーワードと関連付けがさ
れた特定の広告主の広告に対して直前に動的に割り当てられて,その広告に自動的
に挿入されるものであり(段落[0006],[0033]〜[0035]),そのよ
うに「固有の電話番号」が挿入された広告は,検索結果のページ内に表示され,「固\n有の電話番号」は,「表示されてからある一定期間」が経過した場合には,「再利用」\nのために「電話番号のプール」に戻され(段落[0006],[0077]〜[00
81]),また,「問合せをもたらすが架電がない場合」には,この「固有の電話番号」が「表示されてからある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間,「動的に割\nり当てられた電話番号」は「その広告に関連付けられる」(段落[0082])ので
あるから,乙14発明の「固有の電話番号」は,広告情報と関連づけられて送出さ
れ,「表示されてからある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間は,広告情\n報と関連付けられていることが認められる。
b もっとも,乙14の段落[0078]には,固有の電話番号が表示\nされてから一定時間が経過した場合や固有の番号が架電されてから一定時間が経過
した場合,システムは自動的にその番号を再利用し,番号のプールに戻すことがで
きるなどの記載はあるが,乙14には,ある要求パートナー(検索エンジンのウェ
ブサイト)に固有の電話番号が表示された後,番号のプールに戻るまでの間に,当\n該電話番号が,同じ要求パートナー(検索エンジンのウェブサイト)で新たに検索
された際に同一の広告に表示されるのか否かについての明示の記載はない。\nしかし,乙14発明は,固有の電話番号を提供するには費用がかかるため,広告
及びウェブサイト毎に固有の電話番号を割り当ててペイ・パー・コールの実績型広
告を実施するための架電トラッキングを実施すると,非常に多くの固有の電話番号,
すなわち非常に多くの費用が必要になるとの課題(段落[0076])に対して,「当
該方法では,電話番号は,ジャスト・イン・タイム方式で広告に動的に割り当てら
れ,所定期間,電話番号が表示されない又は架電されないと,そのとき当該電話番\n号は,割り当て解除されて,再利用される。」(段落[0006])ことにより上記課
題を解決するものである。
そして,ペイ・パー・コールの実績型広告を実施するための架電トラッキングで
は,支払先を特定するために,架電があった電話番号が,どの検索エンジンのウェ
ブサイトで表示されたものなのかさえ特定できればよいのであるから,同じ検索エ\nンジンのウェブサイトの第2の顧客の検索に対して,第1の顧客の検索によって割
り当てた電話番号とは異なる電話番号を新たに割り当てて表示する必要はなく,同\nじ電話番号を再び割り当てて表示することにより,管理する電話番号の数を減らす\nことは,乙14発明が当然の前提としていると解される。そうでなければ,所定期
間「固有の電話番号」を広告情報と関連付けておく意義が乏しいことになる。1審
原告は,表示されてから一定期間,当該番号が送出不可能\である場合に,当該期間,
同じ要求パートナーや同じコンテキストで同じ番号が表示されないとしても,一定\n期間の長さなどを適宜調整するなどすれば,発明の課題は十分解決することができ\nると主張するが,1審原告が主張する方法をとるよりも,同じ要求パートナーの同
じコンテキストに同じ番号を表示する方が管理する電話番号の数を減らすことに資\nするのであるから,1審原告の主張を採用することはできない。
そうすると,乙14の段落[0078]の記載は,エンドユーザから要求パート
ナーの検索エンジンに対する検索要求に対して,広告に「ジャスト・イン・タイム
方式」でプール内にある電話番号を割り当てるに当たって,同じ要求パートナー又
は同じコンテキストにおいて,広告が表示されてから所定期間内の電話番号は,再\n度「固有の電話番号」として前記「広告」に割り当てられ,前記「所定期間内の電
話番号」が挿入された広告が要求パートナーの検索エンジンに送信されることを示
していると解される。
これに対し,1審原告は,乙14発明において,表示されてから一定期間,電話\n番号が送出不可能であったとしても,すでに送出された電話番号を「ウェブサーバ」\nに表示させ続けることにより,同じ要求パートナーや同じコンテキストについて同\nじ番号を表示することは可能\であるから,乙14発明において,所定の期間,電話
番号が送出可能である必要はない旨主張するが,乙14発明は,ジャスト・イン・\nタイム方式であり,検索された都度,電話番号が割り当てられるものであるから,
1審原告が主張するような構成を採るものであると解することはできない。\n
c 以上によると,乙14発明は,「固有の電話番号」が「表示されてか\nらある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間,識別情報(「固有の電話番号」
は広告情報(「その広告」)と関連づけられており,当該期間内の,エンドユーザか
ら要求パートナーの検索エンジンに対する検索要求に対して,同じ要求パートナー
又は同じコンテキストにおいて,広告に関連付けられた電話番号が挿入された広告
が要求パートナーの検索エンジンに送信され前記エンドユーザに対して表示される\nことになるから,本件発明における,「一定期間」が終了して「送出不可能な状態」\nとなるまで「送出可能な状態」である点は,乙14発明との一致点となる。1審原\n告は,乙14の段落[0078],[0086]及び[0098]の記載から,広告
に「ジャスト・イン・タイム方式」で割り当てられたプール内にある電話番号は,
表示されてから所定期間の間「送信可能\状態」が継続しているとの1審被告の主張
は,本件発明の「一定期間」(構成要件6))と乙14発明の「所定期間」を混同する
ものであると主張するが,乙14発明の「所定期間」については前記aのとおり認
められるのであり,1審原告の主張するところは前記aの判断を左右するものでは
ない。
(ウ) 前記ウによると,乙14発明は,構成要件3)を備えていることが認め
られる。そして,前記(ア),(イ)によると,乙14発明の「一定期間」の始期である
「『固有の電話番号』が『表示されてから』」とは,本件発明の「一定期間」の始期\nである「前記ウェブサーバに向けて前記識別情報が送出されてから」に相当し,乙
14発明には,「『一定期間』の間『送出可能な状態』であること」が記載されてい\nることが認められる。
したがって,乙14発明は,本件発明の構成要件6)を備えていると認められる。
◆判決本文
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◆平成28(ワ)16912
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2020.08.14
平成30(ネ)10085 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審で差し止めが認められていました。被告が控訴しましたが知財高裁(4部)を控訴棄却されました。サポート要件については原審でも具備していると判断されています。
争点2−1(本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか)
控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Hに対応する「シ\nフト機能」に係る構\成について,「いったんスルー注文」及び「決済トレー
ル注文」と組み合わせた,複数の新規注文の全て及び複数の決済注文の全て
がそれぞれ1回ずつ約定した場合に複数の新規注文の全て及び複数の決済注
文の全てに対応する個数の新たな複数の新規注文及び新たな複数の決済注文
を発注させることしか記載されておらず,構成要件Hに含まれる「シフト機\n能」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせたも\nの以外の構成のものについては記載されていないことからすれば,構\成要件
Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,特許
法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合する
とはいえない旨主張する。
ア そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に
は,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記\n複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたこ
とを検知すると,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知
の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも
さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成す
る」との記載において,「注文情報生成手段」が生成する「所定価格だけ
高い売り注文価格の情報」を含む「売り注文情報」の個数を規定する記載
はないから,当該「売り注文情報」は,複数の場合に限らず,一つの場合
も含むものと理解できる。
イ(ア) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,1)「シフト機能」につ\nいて,「金融商品取引管理装置1や金融商品取引管理システム1Aにお
いて,既に発注した新規注文と決済注文をそれぞれ約定させたのち,「シ
フト機能」による処理を併用した取引を行うことも可能\である。この「シ
フト機能」による注文は,上述した,「いったんスルー注文」や「決済\nトレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば後述する「リピートイ
フダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)等に基づいて,新
規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文
や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異
なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様
の注文形態である。」こと(【0078】),2)「シフト機能」は,「相\n場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場
価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一注文情報や新たな第二注
文価格の第二注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行う
ことができる」(【0018】)という効果を奏すること,3)「発明の
実施の形態3」は,「この実施の形態3の金融商品取引管理システムに
おいては,「いったんスルー注文」と「決済トレール注文」とを,「ら
くトラ」による注文と組み合わせ,さらに「シフト機能」を行わせる状\n態を示す。」(【0138】)ものであるが,「上記の「シフト機能」\nは,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構成において適\n用することもできる。」こと(【0151】)及び「上記各実施の形態
は本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態のみに限定されるこ
とを意味するものではないことは,いうまでもない。」こと(【016
4】)の記載がある。
上記1)の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少な\nくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される
際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフ
トさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シ
フトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一
方のみの構成又は双方の構\成が含まれること,先に発注済の一つの注文
の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価\n格帯」をシフトさせる構成のものが含まれることを理解できる。\nまた,上記1)ないし3)の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を\n反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いった
んスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例え
ば・・・「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」
等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各\n種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。
ウ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,図35に示す「実施の形態
3」(【0144】ないし【0148】)として,シフト機能に決済\nトレール注文を組み合わせたトラップリピートイフダン注文で行われ,
決済注文S5,S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の
買い注文B5,B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売
り注文S5,S4が再度生成されるが,この時点ではシフトは発生せ
ず,通常のリピートイフダン注文が繰り返され,その後相場価格が変
動して,S1ないしS3の売り注文価格がトレールし,S1ないしS
3が最も高い注文価格の売り注文として同時に約定すると,再度生成
された売り注文S5,S4は約定していないにも関わらずこれをキャ
ンセルして,S1ないしS5のシフトが実行されることが記載されて
いる。上記記載は,構成要件Hに含まれる,「シフト機能\」に「いっ
たんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成の一\nつであることが認められる。
また,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせない場合には,\n図35において,S2及びS3の売り注文価格がトレールしないため,
それぞれの注文情報が生成された時点における価格のとおり,それぞ
れ別々に約定し,その場合,実施の形態3の取引例でS5,S4が約
定した段階ではシフトが生じていないのと同様に,S3,S2が約定
した段階ではシフトが生じず,その後に最も高い売り注文価格の売り
注文であるところのS1が約定した段階でシフトが生じることになる
ことを理解できる。
そうすると,複数の売り注文情報のうち最も高い売り注文価格の売
り注文が約定すると,それよりも所定価格だけ高い売り注文価格の情
報を含む売り注文情報を生成するという構成要件Hに係る構\成は,本
件明細書の上記記載から認識できるから,本件明細書の発明の詳細な
説明に記載されているということができる。
◆判決本文
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◆平成29(ワ)24174
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2020.08.14
平成30(ワ)10126 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年6月30日 東京地方裁判所
104条の3の無効理由(新規事項、サポート要件違反)があるので、権利行使不能と判断されました。
図103〜106のドットパターンに関係して,前記2のとおり,段落
【0184】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)の記載があ
る。これらによれば,そのドットパターンは,格子状に配置されたドット
で構成される。そして,格子ドットLDと呼ばれるドットを四隅に配置し,その4つの格子ドットLDで囲まれた領域の中心からどの程度ずらすかに\nよってテータ内容が定義され,例えば,同領域の中心から等距離の位置で
45度ずつずらした点を8個定義することで,8通りのデータを表現でき,このずらす距離を変更した点を8個定義することで16通りのデータを表\現できる。また,格子ドットLDは,本来,縦横方向の格子線の交点上で
ある格子点上に配置されるが,その位置をずらしたドットをキードットK
Dとして,このキードットKDに囲まれた領域,又は,キードットKDを
中心にした領域が一つのデータを示している。また,キードットKDを格
子点から等距離で45°ずつずらすことにより,その角度ごとに別の情報
を定義することができることなどが記載されている。(以下,図103〜1
06や上記発明の詳細な説明に記載されている技術思想のドットパターン
を「図105ドットパターン」ということがある。)
図105について,垂直方向のラインについて,LV1,LV2などの
符号を付し,水平方向のラインについて,LH1,LH2などの符号を付
し,ドットにD1,D2などの番号を付したものが別紙図105その2で
ある。
図105においては,例えば,垂直方向の格子線であるLV1,LV3,
LV5と,水平方向の格子線であるLH1,LH3,LH5の交点に格子
ドットが配置され,格子ドットが四隅に配置されている領域が示されてい
る(例えば,D1,D2,D13,D12(ただし後述)を四隅とするも
の,D2,D3,D14,D13を四隅とするもの)。そして,その4個の
格子ドットで囲まれる領域の中心から等距離の位置でいずれかの位置に
1個のドットが配置されていることが示され(例えば,D7,D8),図
105全体では,上記領域の中心から等距離の位置で,45°ずつずれた
位置のいずれか1つの位置にドットが配置されることが記載されている。
また,図103には,交点から45°ずつずれた位置にドットを配置する
構成が記載されている。そして,D12やD56は,垂直方向の格子線であるLV3又はLV11上にあるが,水平方向の格子線であるLH1上に\nはなく,これらは,格子線の交点からずれたキードットKDであることが
示されている。
ア 本件補正1及び2による補正後の構成要件B1・G2は「(前記ドットパターンは,)縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中\n心に,前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした
方向のうちいずれかの方向に,どの程度ずらすかによってデータ内容を定義
し」である。
当初明細書1及び2の記載や図における図105ドットパターンにおい
て,4個の格子ドットで囲まれる領域の中心は,それらの格子ドットが配置
されている格子線の中間にそれらと並行して存在するといえる格子線の交
点ともいえるから(例えば,格子点D1,D2,D13,D12で囲まれる
領域の中心は,垂直方向の格子線であるLV1,LV3の間のLV2と,水
平方向の格子線であるLH1,LH3の間のLH2の交点といえ,また,L
V2,LV4,LV6,LH2,LH4,LH6は,縦横方向に等間隔に設
けられた格子線ともいえる。),上記構成要件B1・G2に係る構\成は,【01
84】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)及び図105に記載
されているといえる。
他方,図5ドットパターンにおいて,図5〜図8では,縦横方向に等間隔
で設けられた格子線(例えばLV4,LV7,LV10,LH4,LH7,
LH10)の交点から等距離に,水平方向及び(又は)垂直方向にずらした
位置に各1〜3個のドットが記載されて情報を示している。これらでは,縦
横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に,情報内容
を定義するドットが格子点の中心からずれることで情報が示されていると
いえるが,情報内容を定義するドットは,水平方向及び(又は)垂直方向に
ずらされるのであり,等距離で90°ずつずらしているとはいえるとしても,
等距離で45°ずつずらしているものではない。図5〜図8では,格子線の
間に設けられた垂直方向及び水平方向のライン(例えば,LV3,LV5,
LH3,LH5)が示された上で,それらのラインや格子線の交点に情報を
示すドットが示されていて(例えば,D9,D14),これは情報を示すド
ットを格子点の中心から等距離で90°ずつずらすことを前提としている
ものであり,このように交点に情報を示すドットを配置するこの図では情報
を示すドットを等距離で45°ずつずらすことは想定されていない。そうす
ると,上記構成要件B1・G2に係る構\成は,【0023】〜【0027】
I),【0067】〜【0071】II)及び図5〜図8に記載されているもので
はない。
イ 本件補正1及び2による補正後の構成要件C1・H2は「前記情報ドットが配置されて情報を表\現する部分を囲むように,前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上と,該第一方向ラインと交差
するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方
向ライン上とにおいて,該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配置さ
れた(ドットパターンである)」である。
前記アのとおり,当初明細書I),II)には,図105ドットパターンに関す
る記載において,本件補正1及び2による補正後の構成要件B1・G2に係る構\成が記載されていた。しかし,図105ドットパターンにおいては,縦横方向の格子線の交点上である格子点上に格子ドットLDが配置され,その
位置をずらしたドットをキードットKDとして,このキードットKDに囲ま
れた領域,又は,キードットKDを中心にした領域が一つのデータを示すも
のとされている。このようなキードットKDに囲まれた領域又はキードット
KDを中心にした領域が一つのデータを示すものであり,「前記情報ドット
が配置されて情報を表現する部分」(C1・H2)であるといえるところ,図105ドットパターンでは,前記のようにキードットKDによって,それ\nに囲まれた領域,又はそれを中心にした領域が情報を表現する部分とされているのであり,また,図105では,情報を表\現する部分はキードットKDにより囲まれていることが示されているのであって,そうである以上,「第
一方向ライン」及び「第二方向ライン」(C1・H2)として特定される水
平方向及び垂直方向のラインによって,情報を表現する部分を囲んでいると直ちにいえるものではない。したがって,「第一方向ライン」,「第二方向ラ\nイン」がない以上,情報を示すドットが配置されて情報を表現する部分を囲むような「第一方向ライン」及び「第二方向ライン」上にドットが配置され\nているということもできない。以上によれば,上記構成要件C1・H2に係る構\成は,【0184】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)及
び図105に記載されているとは認められない。
なお,図5ドットパターンについて,補正後の構成要件B1・G2に係る構\成の記載はないのであるが,図5ドットパターンには,情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように,縦方向の所定のドットの間隔ごとに水平方向に引いた水平ラインと,水平ラインと交差するように横方向の所\n定のドットの間隔ごとに垂直方向に引いた垂直ラインが存在し,また,それ
らのライン上において,複数の格子点上に格子ドットが配置されているとい
える。したがって,上記構成要件C1・H2に係る構\成は,【0023】〜
【0027】I),【0067】〜【0071】II)及び図5〜図8に記載され
ているとはいえる。
ア 前記(3)によれば,当初明細書1及び2において,構成要件B1・G2に係る構\成は,【0184】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)及
び図105には記載されているとはいえるが,そこで記載されているドッ
トパターンである図105ドットパターンは構成要件C1・H2の構\成を
有するものではない。また,当初明細書1及び2において,構成要件C1・H2に係る構\成は,【0023】〜【0027】I),【0067】〜【007
1】II)及び図5〜図8には記載されているとはいえるが,そこで記載されて
いるドットパターンである図5ドットパターンは構成要件B1・G2の構\
成を有するものではない。
そして,図5ドットパターンと図105ドットパターンは,情報ドットの
ずらし方,1つの交点に対する情報ドットの個数,情報ドット以外のドット
の配置,格子線又はラインのうち特定のものを「第一方向ライン」等として
特定するか否か,垂直ライン上のドットが本来の位置からのずれ方によって
データの種類を表すか否か,1つのデータを区画するキードットKDが存在するか否か等,多くの点で相違しており,これらの相違は,各実施例が開示\nする技術的事項,すなわちドットパターンによる情報の定義方法が相当に異
なることに起因する。当初明細書1及び2は,極小領域であってもコード情
報やXY座標情報が定義可能なドットパターンを提供するとし(【0013】I),【0008】II)),複数のドットパターンを記載しているのであるが,そ
こに記載されたドットパターンである図5ドットパターンと図105ドッ
トパターンの情報の定義方法は上記のとおり相当に異なるのであり,また,
当初明細書1及び2に,これらの異なる情報定義方法を採用した各ドットパ
ターンが採用する情報定義方法を相互に入れ替えたり,重ねて採用したりす
ることについては何ら記載されていない。したがって,当初明細書1及び2
に,これらのドットパターンを組み合わせたものについての記載があるとは
いえないし,それが当業者に自明であるともいえない。
以上によれば,当初明細書1及び2には,いずれも,本件補正1及び2に
よって変更された構成要件B1・G2及び構\成要件C1・H2の構成をいずれも備えるドットパターンについての記載があるとはいえない。\nそうすると,当初明細書1又は2において,全ての記載を総合したとして
も,当初明細書1又は2には,本件補正1及び2で補正後のドットパターン
が記載されているとはいえず,本件補正は,当初明細書1又は2に開示され
ていない新たな技術的事項を導入するものである。
したがって,本件補正1及び2は,当初明細書1又は2の記載等から導か
れる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものである
から,特許法17条の2第3項の補正要件に違反する。
イ これに対し,原告は,図103〜図106の実施例と図5〜図8の実施例
は,極小領域であってもコード情報やXY座標情報が定義可能なドットパターンを提案するという共通の課題を解決するための異なる実施例であり,こ\nれらを組み合わせることは当業者には自明の範囲のものであるから,構成要件B1・G2及び構\成要件C1・H2の構成は,いずれも当初明細書1及び\n2に記載されていると主張する。しかしながら,図5〜図8の実施例で示される図5ドットパターンと図103〜図106の実施例で示される図105ドットパターンでは,上記のとおり,情報の定義方法が相当に異なり,それを組み合わせることが当業者に
自明とはいえないし,当初明細書1及び2にそのような組み合わせを前提と
した記載も存在しない。原告の上記主張には理由がない。
4 争点4−3(サポート要件に違反しているか)について
事案に鑑み,続いて,争点4−3のうち,本件発明3〜5についてのサポート
要件違反について判断する。
本件発明3の構成要件D3及び本件発明4の構\成要件E4の特許請求の範
囲の記載は「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位
置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している」との記
載を含み,本件発明5の構成要件D5の特許請求の範囲の記載は,「前記垂直 方向に配置されたドットの1つにおける当該ドット本来の位置からのずれ方
によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」との記載を含むもので
ある。
これらには,垂直方向に配置されたドットの1つについて,本来の位置に配
置せず別の位置に配置すること,そして,「ずらし方によって」「ずれ方によっ
て」ドットパターンの向きを示すとしていることからも,本来の位置と実際に
配置された位置との関係に基づいてドットパターンの向きが表現されることが記載されているといえる。\n
(2)ア 本件明細書3及び4には,前記1の記載があり,また,ドットパターンに
関係して前記2の記載がある。
ここで,本件明細書3及び4には,ドットを本来の位置とは違う位置に配
置し,本来の位置と実際に配置された位置のずれ方によってドットパターン
の向きを表現することに関係し得るものとして,本件明細書3の【0009】III)に特許請求の範囲と同じ記載があり,後記イのキードットKDのずらし方
に関係する記載があることを除いて,何ら記載がない。
イ 【0240】〜【0242】III),【0234】〜【0236】IV)には,キー
ドットKDにつき,撮像された格子ドットとキードットKDとの位置関係か
らカメラの角度が分かり,カメラで同じ領域を撮影しても角度という別次元
のパラメータを持たせることができる旨の記載がある。このようにキードッ
トKDの配置のずらし方によってドットパターンを撮像するカメラの角度
が分かることが記載されているところ,その角度が分かるためには配置のず
らし方があらかじめ定められていることを前提としているはずであり,ドッ
トパターンについていうと,キードットKDの配置のずらし方によって,ド
ットパターンの向きを示すことが記載されているともいえる。
しかしながら,上記記載は,図105ドットパターンに関するものである
(ドットパターンに関する明細書の記載及び図面は,当初明細書1及び2,
本件明細書1〜4では,いずれも同じであり,本件明細書3,4にも,図1
05ドッパターンと図5ドットパターンが記載されているといえる。)。前記
のとおり,図105ドットパターンにおいて,情報を示すドットは4
個の格子ドットLDに囲まれた領域の中心から等距離の位置で45°ずつ
ずらしたいずれかの位置に配置されている。しかし,その中心点を交点とす
るような垂直ラインと水平ラインを仮想的に想定したとして,それらは水平
方向あるいは垂直方向に配置されたドットから設定されたものではない。す
なわち,図105ドットパターンにおいては,4個の格子ドットLDに囲ま
れた領域の中心について,そこを交点とする垂直ラインと水平ラインを仮想
的に想定するとしても,それらの垂直ラインと水平ラインを設定するドット
はない。そうすると,図105ドットパターンは,少なくとも,「前記水平
方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ラインと,前記垂直方
向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの
交点」である「格子点…からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」
(構成要件C3・D4・C5)に係る構\成を有するものではない。また,図
105,図106においては,キードットKDは,垂直方向の格子線上にあ
るが水平方向の格子線上にはないという態様で格子点からずれていて,これ
らのキードットKDは「等間隔に所定個数水平方向に配置されたドット」(A
3・B4・A5)の1つであり,「前記水平方向に配置されたドットの端点
に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」
(A3・C4・A5)ではないから,「前記垂直方向に配置されたドットの
1つは,当該ドット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターン
の向きを意味している」(構成要件D3・E4・D5)ものには当たらないといえる。\n以上によれば,図105ドットパターンは,少なくとも,構成要件C3・D4・C5に対応する構\成を有するものではない。また,図105,図10 6のキードットKDは,構成要件D3・E4・D5の情報ドットではないともいえる。\n
そうすると,図105ドットパターンは,本件発明3〜5に係るドットパ
ターンと異なるドットパターンである。そのような図105ドットパターン
に関してキードットKDについて上記記載があるとしても,その記載をもっ
て,本件発明3〜5について,「ずらし方によって前記ドットパターンの向
きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」(構\成要件D5)についての記載があるといえるものではないし,また,当業者にとって,その記載があると理解する
ことはできない。
ウ 図5ドットパターンについては,水平ライン(図5その2のLH1,LH
13等)上に等間隔に配置されたドット(図5その2のLH1上ではD1,
D8,D20,D30等)は「等間隔に所定個数水平方向に配置されたドッ
ト」(構成要件A3・B4)「等間隔に所定個数,所定方向に配置されたドットを水平方向に配置されたドット」(構\成要件C5)であるといえ,垂直ライン(図5その2のLV1,LV13等)上に等間隔で配置されたドット(例
えば,図5その2のD2,D3等)は「前記水平方向に配置されたドットの
端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたド
ット」(構成要件B3・C4),「前記所定方向に対して垂直方向に等間隔に所定個数配置されたドットを垂直方向に配置されたドットとして抽出し」(構\成要件C5)であるといえる。また,水平ライン及び垂直ライン上に設置さ
れた上記各ドットを通過する縦横の格子線の交点から,90°ずつずれたい
ずれかの方向にずれた情報ドットは,「前記水平方向に配置されたドットか
ら仮想的に設定された垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたドットから
水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点
からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」(構成要件C3・D4・ C5)であるといえる。
しかしながら,「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味して
いる」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する」(構\成要件D5)については,本件明細書3及び4には,関係する記載はないといえる。図5ドットパターンの図5〜8において垂直ライン
上にドットがないところがあり,そこにはドットが本来の位置と比べて,図
5では左(図5その2のD2),図6では左又は右,図7では左,図8では右
にずれた位置にドットが配置されているが,【0069】〜【0073】III),
【0063】〜【0067】IV)には,これらのドットについて,その本来の
位置と実際に配置された位置との関係に基づいてドットパターンの向きを
意味することを示す記載は全く存在しない。かえって,上記のドットについ
て,図5及び図7では,左にずれたドットについて「x,y座標フラグ」と
記載され,そのドットパターンがx座標,y座標を示すことが記載され,図
6及び図8では,右にずれたドットについて「一般コードフラグ」と記載さ
れ,そのドットパターンが「一般コード」を示すことが記載されている。そ
うすると,これらのドットは,ドットの本来の位置と実際に配置された位置
との関係によってドットパターンのデータの種類を定義していることがう
かがえる。
また,図5ドットパターンについて,【0072】III),【0066】IV)には,
水平ラインから垂直ラインを抽出した後,「垂直ラインは,水平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にない\nことから上下方向を認識する。」という記載があり,垂直ライン上のドット
の有無によってドットパターンの上下方向を認識することが記載されてい
る。しかし,ここでは,ライン上にドットがあるかないかだけを認識して上
下方向を判断することが記載されているのであって,構成要件D3・E4・D5に係る構\成である,本来のドットの位置と実際に配置されたドットの位 置との関係に基づいてドットパターンの向きが表現されることが記載されているとはいえない。\n
これらによれば,図5ドットパターンについても,本件明細書3及び4は,
「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」\n(構成要件D5)の構\成について,何ら記載はないといえることとなる。そ
の他,本件明細書3及び4に,本件発明3〜5における上記構成について説明していると解される記載は存在しない。\n
エ 以上によれば,本件明細書3及び4には,「ずらし方によって前記ドット
パターンの向きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」(構\成要件D5)の構成につい\nて,具体的に何ら記載がないといえるし,具体的な記載がないにもかかわら
ず,当業者が,技術常識に照らして上記構成を理解したことを認めるに足りる証拠もない。\n したがって,本件発明3の構成要件D3,本件発明4の構\成要件E4,本
件発明5の構成要件D5は,本件明細書3及び4の発明の詳細な説明に記載したものとは認められない。\n
ア 原告は,図5〜図8において,「ドットパターンの向きを意味している」ド
ットは,「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」と兼用されている
と主張する。
しかしながら,図5〜図8の記載は上記のようなものであって,そこでは
ドットが「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」として記載されて
いるが,それ以外に,ドットパターンの向きに関する記載はない。そして,
明細書の発明の詳細な説明においても,【0071】〜【0073】III),【0
065】〜【0067】IV)においては,ドットの本来の位置と実際に配置さ
れた位置との関係によってドットパターンの向いている方向を認識するこ
とについては何ら説明されておらず,また本件明細書3及び4のどこにも,
ずれ方によってドットパターンの向きを意味するドットと,データ内容を定
義するドットとを兼用するとの説明は記載されていない。原告の上記主張に
は理由がない。
イ 原告は,【0239】〜【0241】III),【0233】〜【0235】IV)に
は,キードット(KD)につき,データ領域の範囲を定義する第1の機能と,ずらし方を変更することによりドットパターンの向き(角度)を意味すると\nいう第2の機能を有することが示されており,図105及び図106(d)では全てのキードット(KD)を一定の方向にずらすことによってドットパ\nターンの向きを表すことが開示されていると主張する。 しかしながら,これらは,図105ドットパターンに関する記載である。
前記(2)イのとおり,図105ドットパターンの情報の定義方法は本件発明3
〜5の構成要件C3・D4・C5に係る構\成の情報の定義方法と異なる。当
業者において,本件発明3〜5の情報の定義方法と異なる情報の定義方法を
採用する図105ドットパターンに開示された構成をもって,本件発明3〜5の構\成要件D3・E4・D5の各構成が開示されていると理解することは\nできない。原告の上記主張には理由がない。
5 小括
以上によれば,本件発明1及び2に係る本件特許1及び2は特許法17条の2
第3項に違反し,本件発明3〜5に係る本件特許3及び4は同法36条6項1号
に違反し,いずれも特許無効審判により無効にされるべきものである(同法12
3条1項1号,4号)。そうすると,その余を判断するまでもなく,原告は,同法
104条の3第1項により,被告各製品が本件発明1〜5の技術的範囲に属する
ことを主張して本件各特許権を行使することはできない。
◆判決本文
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2020.05.11
平成29(ワ)24598 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年3月26日 東京地方裁判所
技術的範囲に属しない、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使できないと判断されました。
原告による測定結果
株式会社東洋環境分析センターが,平成30年2月,原告の依頼によ
り,宮崎県食品開発センターが保有するPT−Rを用いて,前記イの記載
に従って,同じロットナンバーの被告製品2について,3回測定した結果
によれば,被告製品2(1ロット)の見掛けタッピング比容積は,いずれ
も2.4cm3/g(2.45cm3/g,2.46cm3/g,2.46cm3/g)で
あった(甲20の1,20の2)。
オ 被告による測定結果
株式会社住化分析センターが,平成30年2月,被告の依頼により,
PT−Xを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナ
ンバーが異なる5つの被告製品についてそれぞれ1回ずつ測定した結果
によれば,被告製品2(製造時期の異なる5ロット)の見掛けタッピン
グ比容積は2.2〜2.3cm3/g(2つの製品について2.2cm3/g,
3つの製品について2.3cm3/g)であった(乙11)。
被告が,平成30年10月頃,宮崎食品開発センターが保有するPT
−Rを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナンバ
ーが異なる5つの被告製品2について,それぞれ3回ずつ測定した結果
によれば,その見掛けタッピング比容積は2.2〜2.3cm3/g(3つ
の製品について3回とも2.3cm3/g,1つの製品について2.2cm3/
g,2.2cm3/g,2.3cm3/g),1つの製品について,2.2cm3/
g,2.3cm3/g,2.3cm3/g)であった(乙34)。
(2)本件明細書の特許請求の範囲には見掛けタッピング比容積の測定方法は記
載されていないが,発明の詳細な説明には,前記(1)イのとおり,実施例・比
較例における見掛けタッピング比容積はPT−Rを用いて測定された値であ
る旨の記載がある。
原告は,PT−Rを用いて測定した結果(前記(1)エ)によれば,被告製品
2の見掛けタッピング比容積は2.4cm3/gであるから,構成要件1F及び2Fをいずれも充足すると主張する。\nて測定した結果によれば,製造時期の異なる5ロットの被告製品2につき,
いずれも見掛けタッピング比容積が2.4cm3/gに達していなかった。その
実験の信用性が否定されることを裏付ける客観的な証拠はない。上記のとお
り,5ロットという複数の被告製品2について,それぞれ3回ずつ検査した
結果,いずれも見かけタッピング比容積が構成要件1F・2Fの下限である2.4cm3/gに達していなかったというのであるから,被告製品2は構成要定対象,測定方法による測定結果に照らして,原告の同エの測定結果によっ\nて被告製品2の見掛けタッピング比容積が2.4cm3/gであることを認める
に足りない。
・・・
本件発明1及び2は,前記のとおり,2.5N塩酸,15分,沸騰温
度という具体的な本件加水分解条件で測定された重合度(平均重合度)
をレベルオフ重合度とするものである(そのような具体的な本件加水分
解条件で測定されることを前提として実施可能要件を充足する。)。したがって,本件では,本件加水分解条件という具体的な条件で加水分解さ\nれた後に測定されるレベルオフ重合度について,優先日当時,当業者
が,技術常識に基づいて,発明の詳細な説明に記載された原料パルプの
レベルオフ重合度と,原料パルプを加水分解して得られたセルロース粉
末のレベルオフ重合度とが同一であると認識することができるかが問題
となるといえる(なお,本件加水分解条件は,レベルオフ重合度を求め
るものとして,当該酸濃度温度条件では比較的短時間といえる時間の加
水分解を定めたものであることがうかがえる。)。
ここで,優先日当時,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合
度について,天然セルロースとそれを加水分解して生成されたセルロー
ス粉末とが同じレベルオフ重合度となることを直接的に述べた文献があ
ったことを認めるに足りる証拠はない。他方,本件明細書においてレベ
ルオフ重合度の説明において現に引用されている文献であり,種々の対
象について本件加水分解条件を含む条件で加水分解をした上で本件加水
分解条件(2.5N塩酸,沸騰温度,15分)を提唱したBATTIS
TA論文は,(1)木材パプルについて,温和な加水分解条件での加水分解
を経た後に2.5N塩酸,沸騰という過酷な条件で加水分解した重合度
と,温和な加水分解条件での加水分解を経ずに2.5N塩酸,沸騰温度
という条件で加水分解した重合度を実際に測定して,前者の値が後者の
値より低かったこと,(2)セルロースを加水分解した際には結晶化がされ
るという他の複数の研究者による研究成果を紹介した上で,上記(1)等の
実験結果は温和な加水分解は重量減少を伴わない結晶化を誘導すること
を示しているようであること,(3)温和な加水分解や過酷な加水分解で起
こるメカニズムを提唱した上で,温和な加水分解を経た後に過酷な加水
分解がされた場合には結晶化された短いセルロース鎖の残渣が保持され
るため,温和な加水分解を経ずに過酷な加水分解がされた場合よりもレ
ベルオフ重合度が低下すると予想されることなどを述べていた。なお,セルロースの加水分解において再結晶化が起こることは他の文献でも紹\n発明の詳細な説明の実施例2ないし7のセルロース粉末は,前記
のとおり,原料パルプを4N塩酸,40°C,48時間という条件,3N
塩酸,40°C,40時間という条件,3N塩酸,40°C,24時間とい
う条件などで加水分解したものであり,天然セルロースを温和な条件で
加水分解したものといえる。
前記のとおり,本件では本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が問
題となるところ,本件加水分解条件を提唱し,本件明細書でも引用してい
るBATTISTA論文は,上記のとおり,他の複数の研究者による研究
成果を紹介した上で,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度について
は,温和な加水分解を経た場合にはその過程を経ていないものに比べて,
値が低下することが予想されると述べていた。その内容とは異なり,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合度について,天然セルロースと,\nそれを温和な条件で加水分解して生成されたセルロース粉末とが同じレ
ベルオフ重合度であるという技術常識があったことを認めるに足りる証
拠はない。 に述べられるレベルオフ重合度は本件加水分解
条件により測定されたものではないし,同文献の著者は,優先日頃におい
ても,著者が考える「レベルオフ」するためには本件加水分解条件の時間
では足りないと考えられていた旨述べる(同 )。
また,本件明細書に記載された実施例のセルロース粉末は,原料パル
プを加水分解した後,攪拌,噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温
度180〜220°C、出口温度50〜70°C)して得られたものであ
る。当該セルロース粉末の本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度
の明示的な記載が明細書にない以上は,上記加水分解,攪拌,噴霧乾燥
の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条件下でのレ
ベルオフ重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識がある
場合に,当該セルロース粉末のレベルオフ重合度が本件明細書に記載さ
れているに等しいといえる。上記の加水分解,攪拌や噴霧乾燥を経たセ
ルロース粉末の本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度が原料パルプ
のそれとの関係でどのような値になるかについての技術常識を認めるに
足りる証拠はない。
これらを考慮すれば,優先日当時,当業者が,本件明細書に記載され
た原料パルプのレベルオフ重合度とそこから加水分解して生成されたセ
ルロース粉末の本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が同じである
と認識したと認めることはできない。また,発明の詳細な説明の実施例
は,具体的な原料パルプから明細書記載の特定の条件の加水分解,攪
拌,噴霧乾燥を経て得られたセルロース粉末である。当業者が,優先日
当時,技術常識に基づいて,記載されている当該原料パルプのレベルオ
フ重合度に基づいて,上記具体的な条件で得られたセルロース粉末につ
いて,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度の値を認識することが
できたとも認められない。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,セルロース粉末
について,本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度の記載があるの
に等しいとは認められない。
カ 原告は,非晶質領域が分解されて結晶領域のみが残った状態に達したと
きの重合度であるレベルオフ重合度は,途中に原料パルプから本件セルロ
ース粉末という加水分解過程を経ると否とに関わらず同じ値となるのであ
り,当業者であれば,原料パルプとそこから温和な加水分解によって得ら
れる本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は等しくなると当然に理解す
ることができる旨主張し,また,BATTISTA論文における上記実験
結果における温和な加水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプ
からセルロース粉末を生成する温和な加水分解の条件と同じものではない
ことを指摘する。
しかし,本件においては具体的な本件加水分解条件による加水分解がさ
れたセルロースの重合度(平均重合度)が問題となる。本件加水分解条件
を提唱し,発明の詳細な説明でも引用されるBATTISTA論文が,本
件加水分解条件によるレベルオフ重合度について前記のように述べていた
ところ,優先日当時,そこに記載されているのと異なる内容の技術常識が
あったことを認めるに足りる証拠はない。また,BATTISTA論文
は,セルロースを加水分解した際には結晶化がされるという他の複数の研
究者による研究成果を紹介した上で,前記の予想をしているのであり,そこに記載されているのと異なる技術常識があったことを認めるに足りる証\n拠がない本件で,BATTISTA論文においてされた実験での温和な加
水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプから粉末セルロースを
作成する加水分解の条件と全く同じものではないことは上記の結論を直ち
に左右するものではない。
なお,原告は,実験をした結果,原料パルプを本件加水分解条件で加水
分解したときの平均重合度と,当該原料パルプを実施例2と同じ加水分解
条件で加水分解して得たセルロース粉末を本件加水分解条件で加水分解し
たときの平均重合度は実質的に同じであったとして,平成30年8月頃に
測定された結果を記載した平成31年3月20日付け報告書(甲56の
1)を提出し,また,上記でセルロース粉末を得る際の写真やセルロース
粉末を得た際に80°Cの熱風を当てる工程を含む24時間の乾燥処理をし
たことなどが記載された同年4月9日付け報告書(甲57)を提出する。
しかし,本件では,優先日当時,本件明細書に記載された加水分解,攪
拌,噴霧乾燥の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条
件下での重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識の存否が
問題となるところ,上記時点の上記実験結果によって同技術常識を認める
ことはできない。
キ 以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度
と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるとこ
ろ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの
本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく,
また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しい
とはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求
の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。
そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された
本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえ\nない。
以上によれば,本件発明1及び2は,発明の詳細な説明の記載により当業
者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないから,特
許法36条6項1号に違反する。
◆判決本文
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2020.03.13
平成29(ワ)27238 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年2月28日 東京地方裁判所
特許を侵害するとして約1800万円の損害賠償が認められました。判決文が200頁を越えてます。論点は技術的範囲の属否、無効の抗弁と多岐に渡ります。平成27年11月以降で1つあたりのライセンス料が1.5倍となっているのは、特許3についても侵害となったためです。
本件では,本件LED又はその製造方法が特許発明の技術的範囲に属するということだけでなく,白色LEDはそれのみで販売の対象となるものであり,原告は白色LEDの製造,販売を行っていることなどから,特許法102条3項の金額の算定に当たって,まず,上記の平均的な価格の24個分の価格に,主として本件特許権1の侵害が問題
となる平成27年10月までの期間については5パーセントを乗じ,本件特許
権1に加えて本件特許権3(登録日平成27年10月23日)の侵害も問題と
なる平成27年11月以降の期間(なお,本件発明2と本件訂正後発明3の内
容に照らし,損害の算定に当たり本件特許権2(登録日平成28年12月16
日)の侵害については特に期間を分けて考慮することをしない。)については
8パーセントを乗じると,それぞれ,10.80円及び17.28円となる(2
16円×5パーセント=10.80円 216円×8パーセント=17.28
円)。
そして,本件で特許権の侵害となるのは本件LEDを使用した被告製品の販
売であること,本件LEDはデジタルハイビジョンテレビである被告製品にと
り不可欠のものであり,その機能,性能\において重要な役割を果たしていると
いえること,原告の白色LEDの市場におけるシェア,原告が主張するライセ
ンスについての方針,その他本件に現れた諸事情を考慮し,本件において,被
告製品1及び2を通じ,特許法102条3項の実施に対し受けるべき金銭の額
は,被告製品1台当たり,消費税相当額を含めて,平成27年10月までの期
間については,20円をもって相当であると認め,平成27年11月以降の期
間については,30円をもって相当であると認める。
以上のとおり,本件において,原告が実施に対し受けるべき実施料として被
告製品1台当たり,20円又は30円とするのが相当であるところ,これらは,
それぞれ,被告製品の平均的な販売価格の0.058パーセント又は0.08
7パーセントである(20円÷3万4129円≒0.00058 30円÷3
万4129円≒0.00087)。これらに基づき,特許法102条3項に基づ
く損害額は,以下のとおり,1645万6641円とするのが相当と認める。
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2020.03. 9
令和1(ネ)10042 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年2月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明の侵害事件です。会計ソフトについて非侵害と判断された1審判断が維持されました。均等侵害も第1要件を満たしていないとして否定されました。
該当特許の公報は以下です。
◆公報
該当特許は無効審判もありますが、2020年1月に、特許は有効と判断されています(無効2018-800140)。
3 争点2(均等論)について
控訴人は,仮に本件発明の構成要件Hは「社会保障給付」が「財源措置(C\n2)」に含まれる構成であると解した場合には,被告製品においては,「社会\n保障給付」が,「財源措置(C2)」に含まれておらず,「純経常費用(C1)」
に含まれている点で本件発明と相違することとなるが,被告製品は,均等の第
1要件ないし第3要件を充足するから,本件発明の特許請求の範囲に記載され
た構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属する旨主張するので,\n以下において判断する。
(1) 前記2(2)認定のとおり,被告製品は,少なくとも構成要件B3及びHを\n充足するものと認められないから,被告製品は,構成要件Hの構\成以外に,
構成要件B3の構\成を備えていない点においても本件発明と相違するものと
認められる。
しかるところ,控訴人の主張は,被告製品に構成要件B3の構\成について
も相違部分が存在し,被告製品と本件発明は構成要件B3及びHにおいて相\n違することを前提とするものではないから,その前提において理由がない。
(2)ア 次に,被告製品の第1要件の充足性について,念のため判断する。
本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記1(2)認定の本件
明細書の開示事項を総合すれば,本件発明は,国民が将来負担すべき負債
や将来利用可能な資源を明確にして,政策レベルの意思決定を支援するこ\nとができる「財務諸表を作成する会計処理のためのコンピュータシステム」\nを提供することを課題とし,この課題を解決するために「純資産の変動計
算書」(「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」)
を新たに設定し,当該年度の政策決定による資産変動を明確にできるよう
にしたことに技術的意義があり,具体的には,構成要件B1ないしIの構\
成を採用し,純資産変動額や将来償還すべき負担の増減額を「処分・蓄積
勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」に表示し,当該年\n度の政策決定による資金変動を明確にすることができるようにしたことに
より,国民の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,そ\nの財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一
目で知ることができ,政策決定者は純資産変動額を勘案して政策を遂行す
ることができるという効果を奏するようにしたこと(【0002】,【0
005】,【0007】ないし【0010】,【0021】,図1)に技
術的意義があるものと認められる。
そして,本件発明の上記技術的意義に鑑みると,本件発明の本質的部分
は,「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)\n及び損益勘定作成・記録手段」から,国家の政策レベルの意思決定を記録
・会計処理するために,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
(C1〜C4)」を作成・記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記
録手段を備え(構成要件B3),損益外純資産変動計算書勘定作成・記録\n手段の記録は,その期における損益外の純資産増加(C3,C4)と純資
産減少(C1,C2)の2つで構成され,損益勘定(行政コスト計算書勘\n定)の収支尻(貸借差額)である「純経常費用(B7)」が処分・蓄積勘
定(損益外純資産変動計算書勘定)の「純経常費用(C1)」に振替えら
れ(構成要件F),「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」\nの貸方と借方の差額(収支尻)が,「当期純資産変動額(C5)」という
形で,最終的には「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」の「純資産(国民\n持分)(B4)」の部に振り替えられて,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘\n定)」の借方(左側)と貸方(右側)がバランスし(構成要件G),「処\n分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」の借方側(勘定の左側)
の「財源措置(C2)」は,具体的には社会保障給付やインフラ資産を整
備した際の資本的支出のような損益外で財源を費消する取引を指し(構成\n要件H),処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の貸方側(勘
定の右側)の「資産形成充当財源(C4)」は,財源措置として支出がさ
れた場合,財源は費消されるが,その一部分は,インフラ資産のように将
来にわたって利用可能な資産形成に充当されるため,その支出の時点で政\n府の純資産(国民持分)が何らかの資源が現金以外の形で会計主体として
の政府の内部に残っていると考えることができ,将来世代も利用可能な資\n産が当期どれだけ増加したかを示している(構成要件I)という構\成を採
用することにより,当該年度の政策決定による資金変動を明確にし,国民
の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,その財源の内\n訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一目で知るこ
とができ,政策レベルの意思決定を支援することができるようにしたこと
にあるものと認めるのが相当である。
しかるところ,被告製品においては,「資金収支計算書勘定記憶手段及
び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定作成・記録手段」から「処\n分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」を作成・
記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段を備えておらず,ま
た,「社会保障給付」が「財源措置(C2)」に含まれていないため,構\n成要件B3及びHを充足せず,当該年度の政策決定による資金変動を明確
にし,財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのか
を一目で知ることができるようにして政策レベルの意思決定を支援するこ
とができるようにするという本件発明の効果を奏するものと認めることは
できない。
したがって,被告製品は, 本件発明の本質的部分を備えているものと認
めることはできず,被告製品の相違部分は,本件発明の本質的部分でない
ということはできないから,均等論の第1要件を充足しない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件発
明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。\n
イ(ア) これに対し控訴人は,本件明細書の記載によれば,本件発明の本質
的部分(課題解決原理)は,(1)(C)の処分・蓄積勘定(純資産変動計
算書勘定)が損益外の純資産増加(C3,C4)(貸方)と純資産減少
(C1,C2)(借方)の2つで構成され(構\成要件F),期末にその
貸方と借方の差額(収支尻)が当期純資産変動額(C5)という形で閉
鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の純資産(国民持分)(B4)の部に振\nり替えられる(構成要件G)ことで,国民が将来負担すべき負債を明確\nにするという点,(2)(C)の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書
勘定)の貸方側において,将来世代も利用可能な資産が当期どれだけ増\n加したかを示している(財源が固定資産などに転化したもの,すなわち
税収等の財源が使用されて減少したが,将来世代が利用可能な資産の形\nで増加したと解釈できるものを計上する)資産形成充当財源(C4)の
金額が,将来利用可能な資源を明確にする(構\成要件I)という点,(3)
処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)と資金勘定(資金収支
計算書勘定),閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定),損益勘定(行政コス\nト計算書勘定)との「勘定連絡(勘定科目間の金額の連動)」がプログ
ラムに設定されていることが,政策レベルの意思決定と将来の国民の負
担をコンピュータ・シミュレーションする会計処理を可能にするという\n点にあり,被告製品は,本件発明の本質的部分を備えている旨主張する。
しかしながら,本件発明の本質的部分は前記アのとおり認めるのが相
当であり,また,上記(3)の点については,本件発明は,請求項2に係る
発明とは異なり,「コンピュータ・シミュレーション」を行うことを発
明特定事項とするものではないから,本件発明の本質的部分であるとい
うことはできない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(イ) また,控訴人は,「財源措置」とは,将来利用可能な資源の増加を\n伴うか否かにかかわらず,「当期に費消する資源の金額」を意味するも
のであり,「純経常費用(C1)」と「財源措置(C2)」を包括する
上位概念であるから,この意味で「純経常費用(C1)」と「財源措置
(C2)」は同質的であり,個別の政府活動が「行政レベルの業務執行
上の意思決定」と「国家の政策レベルの意思決定」のいずれに分類され
たとしても,処分・蓄積勘定(純資産変動計算書勘定)の借方の金額,
すなわち,「当期に費消する資源の金額」には変化はないから,本件発
明の課題解決原理として不可欠の重要部分である処分・蓄積勘定の収支
尻(貸借差額),すなわち「当期純資産変動額」に影響を及ぼすもので
はないことからすると,被告製品の構成要件Hに係る相違部分(被告製\n品においては,「社会保障給付」が,「財源措置(C2)」に含まれて
おらず,「純経常費用(C1)」に含まれている点)は,本件発明の本
質的部分とは無関係な些細な相違にすぎない旨主張する。
しかしながら,本件明細書には,(1)処分・蓄積勘定(損益外純資産変
動計算書勘定)の借方の「純経常費用(C1)」は,「損益勘定(行政
コスト計算書勘定)」の収支尻である「純経常費用」が振り替えられて
計上されるところ(【0026】,【0035】,図1),「損益勘定
(行政コスト計算書勘定)」は,主として行政レベルの業務執行上の意
思決定を対象とするもので,行政コスト(損益)計算区分に計上される
行政コスト(計上損益)は少なければ少ないほど効率的な行政運営であ
ることを意味するものであること(【0036】),(2)処分・蓄積勘定
(損益外純資産変動計算書勘定)の借方の「財源措置(C2)」は,社
会保障給付やインフラ資産を整備した際の資本的支出のような,「損益
外で財源を費消する取引」を指し(【0027】),「財源の使途」(損
益外財源の減少)に属する勘定科目群は,主として国家の政策レベルの
意思決定の対象として,現役世代によって構成される内閣及び国会が,\n予算編成上,どこにどれだけの資源を配分すべきかを意思決定するもの\nであり(【0037】,図2),社会保障給付は,上記勘定科目群の「移
転支出への財源措置」に計上される非交換性の支出(対価なき移転支出)
であること(【0040】)の開示があることに照らすと,本件発明に
おいては,「純経常費用(C1)」と「財源措置(C2)」は同質的な
ものであるとはいえず,「財源措置(C2)」に含まれる社会保障給付
にいくら財源を配分するのかは国家の政策レベルの意思決定の対象であ
るといえるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成30(ワ)10130
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2020.02.27
平成30(ワ)39914 特許権侵害に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年12月25日 東京地方裁判所
1億円の損害賠償を求めましたが、無効理由あり(29-2および進歩性)として請求棄却されました。
上記(ア)によれば,乙12公報には,情報ユニット及び識別ユニット
のそれぞれが有する2個のデータの比較によって,情報ユニットの認証
処理をするという技術的事項が開示されているということができる。そ
して,乙12発明は,乙11発明と技術分野及び課題が共通しているの
であるから,当業者にとって,乙11発明に前記の技術的事項を適用し,
使用者が入力するパスワードを含む3つのデータの演算による認証処理
に代え,本件発明のように,2個のデータの比較による認証処理を採用
することは,容易に想到し得たというべきである。
ウ これに対し,原告は,乙11発明において,パスワードを含む3つのデ
ータを用いた複雑な構成にすることは,その課題解決にとって不可欠なも\nのであるので,乙11発明に乙12発明を組み合わせる動機付けは存在し
ないと主張する。
しかし,乙11発明は,携帯電話等にパスワードを設定するのみでは不
正使用の防止としては十分ではないという課題を解決するため,IDカー\nド等の携帯電話以外の物体に記憶されたデータを利用し,携帯電話等に予\nめ記憶されたデータとの間で比較・照合することにより,不正使用を防止
しようとするものであって,この点において,本件発明及び乙12発明と
その技術的な思想を共通にしているということができる。
もとより,乙11発明は,携帯電話等に記憶されたデータとICカード
に記憶されたデータという二種類のデータを使用するにとどまらず,使用
者が入力したパスワードも加えて比較・照合を行う点で本件発明と異なる
が,これは,比較・照合に使用するデータを更に一種類増やすことにより
安全性を高めようとしたものであって,上記技術思想と基本的に異なるも
のではなく,また,乙11公報には,IDカード6と携帯電話1との間で
データの授受がある限りパスワードの再入力をする必要がないようにする
など(乙11公報の段落【0014】),パスワードの入力作業により生
じる操作の煩瑣性の軽減という課題も示唆されているということができる。
そして,本件明細書等の段落【0028】に記載されているように,3
つのデータを利用する代わりに2つのデータを利用したとしても,一意な
データを複数組み合わせたものやこれを暗号化したものを照合用データと
して利用するなど,様々な工夫をすることにより不正使用の防止という課
題を解決することは可能であるから,乙11公報に接した当業者は,操作\nの煩瑣性を軽減するため,3つのデータを利用する代わりに,乙12公報
に開示されているような2つのデータによる比較・照合する構成を容易に\n想到し得たというべきであり,かかる構成を採用したとしても,上記のと\nおり,不正使用の防止という効果を奏することが可能であることを十\分に
認識し得たものと考えられる。
したがって,相違点Cに係る構成は,乙11発明に乙12発明を適用す\nることにより,当業者が容易に想到し得たものというべきである。
(8) 相違点Dについて
相違点Dに関し,乙11公報には,「携帯電話1の電源を投入した時ある
いは通話のためにキー5を押したときに携帯電話1より第1の電波信号送受
信装置3を介して電波信号Aを送信する。IDカード6は電波信号Aを受信
するとIDカード6にあらかじめ記憶されたデータ9を,電波信号Bを介し
て自動的に送信する。・・・IDカード6より受信したデータ9と,パスワード
として入力されたデータ10と,第1のデータ読み取り装置2内にあらかじ
め記憶されたデータ11とを比較し,データ9とデータ11との和がデータ
10になる場合にのみ携帯電話1が使用可能である。」(段落【001\n2】),「携帯電話1の電源が投入されている状態のとき,計時装置4は電
源が投入されてからの時間を計時する。計時装置4の計時時間をもとに,…
一定時間…ごとに第1のデータ読み取り装置2内にてデータ11を書き換え,
同時にIDカード6に電波信号Aを送信し,IDカード6内のデータ9を書
き換える。携帯電話1とIDカード6との間でデータのやりとりが行われ,
データ9とデータ11の和がデータ10になるときは常に携帯電話1を使用
可能にする。・・・携帯電話1とIDカード6の距離が離れていると,IDカー\nド6からデータ9が送信されることはない。ここでデータ9の送信がなけれ
ば自動的に電源が切れ,携帯電話1の使用を不可能にする。」(段落【00\n13】)との記載がある。
上記記載によれば,乙11発明においては,最初に携帯電話の電源を投入
した際の演算結果を満たせば,少なくとも一定時間,携帯電話の使用が可能\nになるものと認められる。そして,携帯電話1の電源の投入は本件発明の
「アクセス要求」に相当するから,乙11発明は,「アクセス要求が許可さ
れてから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」
構成を備えるということができる。\nしたがって,相違点Dは,実質的な相違点には当たらない。
・・・・
3 争点3−3(乙16に基づく拡大先願違反)
また,念のため,争点3−3も検討するに,以下のとおり,本件発明は,い
わゆる拡大された先願と同一の発明にも当たるということができる。
・・・・
原告は,「本件発明は,被保護情報に対するアクセス要求を許可する
という比較結果が得られた場合は,アクセス要求が許可されてから所定
時間が経過するまでは被保護情報へのアクセスを許可するものであるの
に対し,乙16発明は,動作処理要求に伴った一連の操作が前記携帯電
話機に対して行われると個人認証を行い,個人認証が完了すると当該一
連の操作のみが可能になるのであって,当該処理中に他の処理を行うこ\nとも,当該処理が終了後に他の処理を行うこともできず,また,所定時
間を計時することもなく,所定時間が経過するまで携帯電話機内の情報
に対するアクセスを含む何らかの操作を許可するものではない点」にお
いて相違すると主張する。
(イ) そこで,検討するに,乙16公報の段落【0035】には,「制御部
11は,比較認証の結果が一致していた場合,前記ステップST4にお
けるキー入力は,特定の使用者(使用が許可されている携帯電話機使用
者)によるキー入力であるものと判断し,ロック解除状態とし,前記ス
テップST4にて入力装置14から入力された発信操作及びメモリダイ
ヤル等の操作を有効として(ステップST9),発信処理等を継続する
(一連のキー入力による処理が完了するまでの処理の継続を可能とす\nる)。」との記載がある。これによれば,乙16発明においては,被保
護情報へのアクセスが許可されると,「一連の処理が完了するまでの」
時間,アクセスが許可されるものということができる。
他方,本件発明の構成要件Fは,「前記アクセス制御手段は,当該比\n較手段で前記アクセス要求を許可するという比較結果が得られた場合は,
前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過するまでは前記被保
護情報へのアクセスを許可する」というものであり,「所定期間」に関
する限定は付されていない。
また,本件明細書等の段落【0120】及び【0121】には,アク
セスが許可されると,タイマに所定の時間t2を設定し,時間t2が経
過するまでに開始した処理が終了した場合には,時間t3をタイマに設
定し,時間t3が経過するまでに次の作業を開始した場合には,レッド
バッジの読み込みをすることなく,引き続き次の作業を行うことができ,
更に一つの作業が終了するたびにt3が起動されることが記載されてい
るものと認められる。これによれば,本件発明においても,アクセスが
許可された後,一連の作業が継続している間は,アクセスが許可されて
いるということができる。
以上によれば,乙16発明における「一連の処理が完了するまでの」
時間も,構成要件Fの「所定時間」に当たるというべきである。\n
(ウ) これに対し,原告は,乙16発明は,一連の処理中に他の処理を行う
ことも,当該処理が終了後に他の処理を行うこともできず,また,所定
時間を計時することもなく,所定時間が経過するまで携帯電話機内の情
報に対するアクセスを含む何らかの操作を許可するものではないので,
本件発明と異なると主張する。
しかし,前記判示のとおり,乙16発明においては,「一連の処理が
完了するまでの」時間は,被保護情報へのアクセスが許可されているの
であるから,仮にその間に他の処理を行うことができないとしても,構\n成要件Fの「前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過するま
では前記被保護情報へのアクセスを許可する」との構成を満たすとの結\n論を左右するものではない。
また,構成要件Fの「所定期間」には特段の限定は付されていないの\nで,これを計時された一定の長さの時間に限定されると解することもで
きない。
◆判決本文
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2020.02.25
平成30(ワ)12609 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月9日 東京地方裁判所
原告は、ヤマハです。技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されました。被告は本件アプリを設計変更して、本件新アプリに変更しましたが、本件アプリについては引き続き差止請求が認められました。
被告は,(1)乙2公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音
された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の
関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙2技術を開示しているところ,本件
発明1も乙2技術を採用するものであり,相違点1−1ないし同1−4は,識別対
象,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違にすぎず,当業者が適
宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,乙2技術を乙4課題の
解決に応用して,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成を容易に想到し得た旨主張する。\n
しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記1(2)認定のとおり,
本件発明1は,コンピュータを,(i)放音される「案内音声である再生対象音」と
「当該案内音声である再生対象音の識別情報」を含む音響を収音して識別情報を抽
出する情報抽出手段,(ii)サーバに対し,抽出した識別情報とともに「端末装置に
て指定された言語を示す言語情報」を含む情報要求を送信する送信手段,(iii)「前
記案内音声である再生対象音の発音内容を表」し,情報要求に含まれる識別情報に対応するとともに「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求\nの言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信する受信手段,(iV)受信
手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラムの発明であり,乙2公報等に音響IDとインターネットを利用するという点で本件発明1と\n同様の構成を有する情報提供技術が開示されていたとしても,その手順や方法を具体的に特定し,使用言語が相違する多様な利用者が理解可能\な関連情報を提供できるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるか
ら,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成が当業者において適宜設定できる事項であるということはできない。\nまた,被告の上記(2)の主張については,前記イのとおり,乙4公報に,発明が解
決しようとする課題の一つとして,システムを複数の言語に対応させること(以下,
単に「乙4発明の課題」という。)が記載されているものの,以下のとおり,乙2
発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められず,仮に,乙4発明の
課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加え
たとしても相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成に到達しないから,採用することができない。\n
(ア) 乙2発明1を乙4発明の課題を組み合わせる動機付け
a 前記のとおり,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す
る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり,放送中のテレ
ビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サーバを介して
当該場面に関連する情報を取得するものであるのに対し,前記イ(イ)のとおり,乙
4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館や博物館等の展
示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり,展示物に固有のIDを赤外線
等の無線通信波によって発信し,携帯受信器が発信域に入ると上記IDを受信し,
展示物の音声ガイドが自動的に再生されるものであり,サーバに接続してインター
ネットを介して情報を取得する構成を有しないから,両発明は,想定される使用場面や発明の基本的な構\成が異なっており,乙2発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められない。
b 被告は,(1)乙4発明は,放音装置を利用した情報提供技術という乙2技術と
同じ技術分野に属するものであること,(2)乙2技術は汎用性の高い技術であり,
様々な放音装置を含むシステムに利用されていたこと(乙11ないし13),(3)端
末装置とサーバとの通信システムを利用する情報提供技術は周知のものであったこ
と(乙2,5,6,8,11ないし13等)などによれば,当業者において,乙2
技術を乙4課題の解決に応用する動機付けがある旨主張する。
しかしながら,乙2発明1と乙4発明がいずれも放音装置を利用した情報提供技
術であるという限りで技術分野に共通性が認められ,また,本件優先日1当時,音
響IDとインターネットを利用し,又は端末装置とサーバとの通信システムを利用
する情報提供技術が乙2公報以外の公開特許公報に開示されていたとしても,いず
れも乙4発明とは想定される使用場面や発明の基本的な構成が異なることは前記のとおりであり,乙4発明の課題の解決のみを取り上げて乙2発明1を適用する動機\n付けがあると認めるに足りない。
(イ) 乙2発明1に対する乙4発明等の適用
また,以下のとおり,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加えたとしても,本件発明1の構成に到達しない。\n前記第2の2(2)ア(ウ)認定の特許請求の範囲,前記(1)認定の本件明細書1の発明
の詳細な説明,図面,弁論の全趣旨に照らすと,本件発明1は,概要,以下のとお
りのものであると認められる。
ア 本件発明1は,端末装置の利用者に情報を提供する技術に関する(【0001】)。
イ 従来から,美術館や博物館等の展示施設において利用者を案内する各種の技
術が提案されていたが,各展示物の識別符号が電波や赤外線で発信装置から送信さ
れるものであったため,電波や赤外線を利用した無線通信のための専用の通信機器
を設置する必要があった。本件発明1は,そのような問題を踏まえてされたもので
あり,無線通信のための専用の通信機器を必要とせずに多様な情報を利用者に提供
することを目的とする(【0002】,【0004】)。
ウ 本件発明1は,(1)案内音声である再生対象音を表す音響信号と当該案内音声である再生対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音さ\nれた音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,(2)情報抽出手
段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,(3)情報要求に含まれる
識別情報に対応するとともに案内音声である再生対象音に関連する複数の関連情報
のいずれかを受信する受信手段,(4)受信手段が受信した関連情報を出力する出力手
段としてコンピュータを機能させることにより,赤外線や電波を利用した無線通信に専用される通信機器を必要とせずに,案内音声である再生対象音の識別情報に対\n応する関連情報を利用者に提供することを可能とする(【0005】)。
エ 以上に加えて,本件発明1は,前記送信手段が,当該端末装置にて指定され
た言語を示す言語情報を含む情報要求を送信し,前記受信手段が,情報要求の識別
情報に対応するとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の
言語情報で指定された言語に対応する関連情報を受信するという構成を採用するこ\nとにより,相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の言語情報で指
定された言語に対応する関連情報を受信することができ,使用言語が相違する多様
な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものである(【0\n006】等)。
2 本件アプリの広告等について
証拠(甲6,7)によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告作成の「Sound Insight(サウンドインサイト)」と題す
る本件アプリを用いたシステムに関する広告(甲6。以下「本件広告」という。)
には,次のとおり記載されていた。
ア (1)「映像・音声にのせて,情報配信」,(2)「動画・音楽などの音に人間には
聞こえない音波信号(音波ID)を埋め込み,テレビ・サイネージ・スピーカー等
から再生し,スマートフォンアプリで音波信号(音波ID)を受信する事により,
紐づいた情報をスマートフォン上に自動表示」,(3)(音波信号に紐づく情報を表示\nする手順の一つとして)「映像・音声に重畳した音波信号を発する」
イ (1)「音で情報を配信」,(2)「『Sound Insight』は,人には聞
こえない音波信号(音波ID)を使い,映像や音に合わせてアプリを連動できます。
利用者が信号音を意識することなくスマートフォン上に情報を表示します。」\n
ウ 「多言語で配信可能 日本語のほか,英語,中国語,台湾語,韓国語,ロシ
ア語など多言語で情報配信できます。」
エ (使用例の一つとして)「バスの車内案内では 多国語で停留所情報や地域
の情報を案内できます。」
(2) 本件アプリのダウンロード用のウェブサイト(甲7。「本件ダウンロードサ
イト」という。)には,次のとおり記載されていた。
「『サウンドインサイト』は,空港,駅,電車,バスなどの様々な場所に設置さ
れた各種スピーカーから送信された音波を,専用アプリをインストールしたスマー
トフォンで受信することで,関連する情報を自動で表示させることのできるサービ\nスです。・・・『サウンドインサイト』の活用により,・・・外国人観光客へ空港・駅などのアナウンスに関連する情報を多言語で情報提供する『言語支援用途』・・・などで活
用いただくことができます。」
3 争点1(本件アプリは本件発明1の技術的範囲に属するか)について
(1)争点1−1(本件アプリは構成要件1Bを充足するか)について\n
ア 構成要件1Bに対応する本件アプリの構\成に係る事実認定
(ア) 前記第2の2(5)ア(ア)のとおり,本件アプリは,スピーカー等の放音装置か
ら,識別情報であるIDコードを表す音響IDを含む音響が放音されると,これを\n収音し,当該音響IDからIDコードを検出するものとしてスマートフォンを機能\nさせるものであるところ,前記2(1)のとおり,本件広告には,「映像・音声にのせ
て」,「動画・音楽などの音」に埋め込んで,「映像・音声に重畳」させて音響I
Dを放音することが記載されているほか,使用例の一つとして,バスの車内案内で
は多言語で停留所情報等を提供することができることが記載されていること,同(2)
のとおり,本件ダウンロードサイトには,本件アプリは,空港,駅,電車,バス等
に設置された放音装置から送信された音波を,スマートフォンで受信することで,
関連する情報を自動で表示させることのできるサービスを提供するものであること\nが記載されていることなどからすると,被告から音響IDの提供を受けた顧客にお
いて,案内音声を識別するものとしてIDコードを使用し,これを案内音声ととも
に放音装置から放音することは,本件アプリにつき想定されていた使用形態の一つ
であるというべきである。そうすると,本件アプリは「案内音声と当該案内音声を
識別するIDコードを含む音響IDとを含有する音響を収音し,当該音響からID
コードを抽出する情報抽出手段」(構成1b)を備えていると認めるのが相当であ\nる。
(イ) 被告は,本件アプリが構成1bを備えていることを否認し,その理由として,\n(1)被告サービスにおいて,被告は,放音される音響やIDコードの識別対象を決定
しておらず,これらを選択,決定しているのは顧客であって,いずれも「案内音声」
に限られるものではないこと,(2)本件アプリの利用場面の中で,最も多くの需要が
見込まれているのは商品説明の場合であるが,商品説明において,放音装置から音
声が発せられることは必須ではなく,かえって,音声が放音されるとスマートフォ
ンに表示される情報を理解する妨げになることを主張する。\nしかしながら,被告の上記(1)の主張は,構成要件1B所定の音響が放音されない\n場合があることを指摘するにとどまるものであり,前記(ア)のとおり,本件広告に
おいても,案内音声を収音する使用形態を回避させるような記述はなく,むしろ,
そのような使用形態を想定したものとなっていたというべきであるから,前記認定
を覆すに足りないというべきである。
また,被告の上記(2)の主張について,本件アプリにつき最も多くの需要が見込ま
れていたのが商品説明の場面であったとしても,被告において,そのような使用形
態に特化したものとして本件アプリを広告宣伝していたものでもなく,前記認定を
覆すに足りない。
イ 構成要件1Bに係るあてはめ\n
以上の認定を踏まえて検討すると,構成1bの「案内音声」は,本件発明1の\n「案内音声である再生対象音を表す音響信号」に対応し,構\成1bの「案内音声を
識別するIDコードを含む音響ID」は,本件発明1の「案内音声である再生対象
音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号」に対応する。
そして,本件発明1は,コンピュータを所定の手段として機能させるプログラム\nに係る発明であり,構成要件1Bは,放音された所定の音響を収音した収音信号か\nら識別情報を抽出する情報抽出手段を規定するものであるから,構成要件1B所定\nの音響が放音された場合に,これを収音し,識別信号を抽出する手段としてコンピ
ュータを機能させるプログラムであれば,これと異なる用途でコンピュータを機能\
させ得るとしても,又は音響が放音されない場面があるとしても,同構成要件を充\n足すると解すべきところ,本件アプリは,同所定の音響を収音し,当該音響からI
Dコードを抽出するものとしてスマートフォンを機能させるものであるから,放音\nされる音響やIDコードの識別対象を選択しているのが顧客であり,音響が放音さ
れない使用方法が選択され得るとしても,構成要件1Bを充足する。\n
(2)争点1−2(本件アプリは構成要件1Dを充足するか)について\n
ア 構成要件1Dの「関連情報」の言語の解釈\n
(ア) 構成要件1Dは,「関連情報」について,「前記案内音声である再生対象音\nの発音内容を表す関連情報であって,前記情報要求に含まれる識別情報に対応する\nとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求の言語情報
で指定された言語に対応する関連情報」と規定しているから,「関連情報」の言語
は,相異なる言語に対応するものの中から情報要求の言語情報で指定された言語に
対応するものと解すべきである。
(イ) 被告は,「関連情報」は,第1言語で発音される案内音声の発音内容を第1
言語で表した文字列であると解すべきであるとし,その理由として,原告が本件訂\n正審判請求1の際に訂正事項が明細書の記載事項の範囲内であることを示す根拠と
して本件明細書1の【0041】を挙げていたことを指摘するが,構成要件1Dは\n上記のとおりのものであるから,「関連情報」が案内音声の言語と同一のものであ
ると解するのは文言上無理がある。また,同段落には,第2言語に翻訳することな
く,第1言語の指定文字列のまま関連情報Qとする実施例が開示されているが,こ
れは第1実施形態の変形例の一つ(態様1)にすぎず,原告が本件訂正審判請求1
の際に同段落を指摘したからといって,当該実施例の態様に限定して「関連情報」
の言語について解釈するのは相当でない。
イ 構成要件1Dに対応する本件アプリの構\成に係る事実認定
(ア) 前記第2の2(5)ア(ウ)及び同イのとおり,本件アプリは,管理サーバから,
リクエスト情報に含まれるIDコード及びアプリ使用言語の情報に対応する情報の
所在を示すものとして送信されるアクセス先URLを受信するものとしてスマート
フォンを機能させるものであり,管理サーバには,1個のIDコードに対応させて,\n6個までのアプリ使用言語に対応するURLを記憶することができるところ,前記
2(1)のとおり,本件広告には,日本語のほか,英語,中国語,台湾語,韓国語,ロ
シア語など多言語で情報配信できることが記載されており,使用例の一つとして,
バスの車内案内では多言語で停留所情報等を提供することができることが記載され
ていること,同(2)のとおり,本件ダウンロードサイトには,外国人観光客に対して,
空港・駅等のアナウンスに関連する情報を多言語で情報提供する用途に用いること
ができることが記載されていることなどからすると,顧客において,リクエスト情
報に含まれるIDコードに対応する案内音声の発音内容を表す情報について,当該\n案内音声とは異なる言語に対応する複数の情報を管理サーバに記憶させ,リクエス
ト情報に含まれるアプリ使用言語に対応する情報をスマートフォンに送信するよう
にすることは,本件アプリにつき想定されていた使用態様の一つであるというべき
である。そうすると,本件アプリは,「前記案内音声の発音内容を表す関連情報で\nあって,前記リクエスト情報に含まれるIDコードに対応するとともに,6個まで
のアプリ使用言語に対応する複数の情報のうち,前記リクエスト情報のアプリ使用
言語に対応する情報を受信する受信手段」(構成1d)を備えていると認めるのが\n相当である。
(イ) 被告は,本件アプリが構成1dを備えていることを否認し,その理由として,\n
(1)被告サービスにおいて,被告は,本件スマートフォンが受信する情報を決定して
おらず,これを選択,決定しているのは顧客であって,構成要件1D所定のものに\n限られないこと,(2)被告は,本件アプリに係る実証実験において,本件アプリを用
いて「案内音声である再生対象音の発音内容」を関連情報として出力したことはな
く,外国語に翻訳した内容を関連情報として出力したこともないこと,(3)被告は,
今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語の関連情報\nを提供することを禁ずる旨の約束をする意思があることを主張する。
しかしながら,被告の上記(1)の主張は,本件スマートフォンの受信する情報が構\n成要件1D所定の情報ではない場合があることを指摘するにとどまるものであり,
前記(ア)のとおり,本件広告及び本件ダウンロードサイトにおいても,案内音声の
発音内容を表し,リクエスト情報に含まれるアプリ使用言語に対応する情報を受信\nする使用形態を回避させるような記述はなく,むしろ,そのような使用形態を想定
したものとなっていたというべきであるから,被告の実証実験では同構成要件所定\nの情報を受信しなかったこと(上記(2)),被告が今後も同構成要件所定の使用態様\nで本件アプリを使用しないことを約束する意思を有していること(上記(3))を併せ
考慮しても,前記認定を覆すに足りないというべきである。
ウ 構成要件1Dに係るあてはめ\n
構成要件1Bにおいて規定するとおりにコンピュータを機能\させるものであれば,
同構成要件を充足するとの前記(1)イにおける検討と同様に,構成要件1D所定の情\n報を受信する手段としてコンピュータを機能させるプログラムであれば,受信する\n情報が同構成要件所定のものではない場面があるとしても,同構\成要件を充足する
と解すべきところ,本件アプリは,構成1dを備えており,スマートフォンを「前\n記案内音声の発音内容を表す関連情報であって,前記リクエスト情報に含まれるI\nDコードに対応するとともに,6個までのアプリ使用言語に対応する複数の情報の
うち,前記リクエスト情報のアプリ使用言語に対応する情報を受信する受信手段」
として機能させるものであるから,本件スマートフォンが受信する情報を選択して\nいるのが顧客であるとしても,構成要件1Dを充足する。\n
4 争点4(本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものか)につい
て
(1) 争点4−1(本件発明1は乙2公報により進歩性を欠くか)について
・・・
(イ) 乙2発明1
前記(ア)によれば,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す
る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり(【000
1】),テレビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サ
ーバを介して当該場面に関連する情報を取得することを容易にした携帯端末装置等
を提供することを目的とするものであって(【0005】等),本件発明1に対応
する構成として,次の各構\成を有すると認められる。
「携帯端末装置を,
放送中のテレビ番組の放送音声と重畳して放音される,当該番組の場面を識別す
る音声信号である音響IDを収音し,前記音響IDからIDコードにデコードする
情報抽出手段,
携帯端末装置に記憶されたIDコードをID解決サーバに送信する送信手段,
前記IDコード及び前記ID解決サーバが当該IDコードを受信した時刻に基づ
いて当該ID解決サーバによりID/URL対応テーブルにおいて検索された対応
するURLを受信し,放送されたテレビ番組の場面に関連する情報を当該URLで
指示されるコンテンツサーバから受信する受信手段,及び,
前記受信手段が受信した情報を携帯端末装置上で表示する出力手段として機能\させるプログラム。」
(ウ) 乙2発明1と本件発明1の対比
乙2発明1と本件発明1を対比すると,これらは,次のaの点で一致し,少なく
とも,次のbの点で相違すると認められる。
a 一致点
「コンピュータを,再生対象音を表す音響信号と識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音された音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,前記情報抽出手段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,\n前記情報要求に含まれる識別情報に対応する関連情報を受信する受信手段,および,
前記受信手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラム。」\n
b 相違点
(a) 相違点1−1(構成要件1B)\n
本件発明1では,「案内音声・・・を表す音響信号」と「当該案内音声である再生対\n象音の識別情報」が放音されるのに対し,乙2発明1では,「放送中のテレビ番組
の放送音声」と「当該番組に対応し,当該番組の場面を識別する音声信号である音
響ID」が放音される点
(b) 相違点1−2(構成要件1C)\n
本件発明1では,端末装置からサーバに送信される「情報要求」に含まれる情報
は,「識別情報」と「当該端末装置にて指定された言語を示す言語情報」であるの
に対し,乙2発明1では,携帯端末装置からID解決サーバに送信される情報は
「IDコード」のみであり,「端末装置にて指定された言語を示す言語情報」は含
まれない点
(c) 相違点1−3(構成要件1D(1))
本件発明1では,端末装置が受信する「関連情報」は,「案内音声である再生対
象音の発音内容を表す」のに対し,乙2発明1では,「放送されたテレビ番組の場\n面」に関連する内容を表す点\n
(d) 相違点1−4(構成要件1D(2))
本件発明1では,端末装置が受信する「関連情報」は,「相異なる言語に対応す
る複数の関連情報のうち,前記情報要求の言語情報で指定された言語に対応する関
連情報」であるのに対し,乙2発明1では,携帯端末装置がこれに対応する情報を
受信しない点
(エ) 相違点に関する被告の主張について
a 相違点1−1(構成要件1B)\n
被告は,乙2発明1の「IDコード」は,番組と同時に,番組の放送音声という
「再生対象音」も識別しているから,「再生対象音の識別情報」が放音される点で
は本件発明1と相違しない旨主張する。
しかしながら,乙2公報に「この音響IDは,放送中の番組に対応するものであ
り,放送音声に重畳されて放音される。」(【0014】)と記載されており,I
D/URL対応テーブルを示す図4においても,受信時間帯に対応する番組の「シ
ーン」が特定されていること(【0025】)などからすると,乙2発明1の「ID
コード」は,放送中の番組に対応し,当該番組の場面を識別する音声信号であって,
番組の放送音声を識別するものではないから,本件発明1の「再生対象音の識別情
報」に対応する構成を有するものとは認められない。\n
b 相違点1−2(構成要件1C)\n
被告は,乙2発明1では,ユーザがボタンスイッチを押した時刻は「端末装置に
て指定された・・・情報」に該当するから,「端末装置にて指定された・・・情報」が「言
語を示す言語情報」であるか「ボタンスイッチの操作タイミングを示す情報」であ
るかの点でのみ本件発明1と相違する旨主張する。
しかしながら,乙2公報に「番組を視聴しているユーザ6は,番組を視聴し興味
ある場面が映し出されると,スマートフォン2を操作する(たとえばボタンを押下
する)。このときの操作により,スマートフォン2は記憶していたIDコードをI
D解決サーバ4に送信する。」(【0014】)と記載されていることなどからする
と,乙2発明1において,携帯端末装置から送信される情報はIDコードのみであ
り,ID解決サーバは当該IDコード及び受信時刻で対応するURLを検索するも
のであるから,本件発明1の「端末装置にて指定された・・・情報」に対応する構成を\n有するとは認められないというべきである。
c 相違点1−3(構成要件1D(1))
被告は,乙2発明1で,携帯端末装置が受信する情報は,番組の特定の場面に対
応する放送音声に関連するものであるから,端末装置が受信する「関連情報」が
「再生対象音」である点では本件発明1と相違しない旨主張する。
しかしながら,乙2公報に「この対応するURLは,ユーザ6がスマートフォン
2を操作したときに放送されていた(テレビ1の画面に映し出されていた,または
音声で再生されていた)場面に関連する情報を提供するインターネットサイトのU
RLである。」(【0014】)と記載されていることなどからすると,乙2発明1
において,携帯端末装置が受信する情報は,放送されたテレビ番組の場面に関連す
るものであり,放送音声に関連する情報であるとは認められない。
d 相違点1−4(構成要件1D(2))
被告は,乙2発明1では,番組中の相異なる場面に対応する「複数の関連情報」
が存在し,そのうち選ばれた情報を受信しているから,「関連情報」が対応してい
るのが「言語」であるか「場面」であるかの点でのみ本件発明1と相違する旨主張
する。
しかしながら,乙2発明1において,携帯端末装置が受信する放送中の番組の場
面に関する情報は「相異なる言語に対応する」ものでもないから,ID解決サーバ
に番組内の相異なる場面に対応する情報が複数記憶されていたとしても,これを構\n成要件1Dの「相異なる言語に対応する複数の関連情報」との構成に対応するもの\nと認めることはできない。
イ 乙4発明の内容等に係る事実認定
・・・
(イ) 乙4発明の概要
前記(ア)によれば,乙4公報には,概要,次のとおりの内容の乙4発明が開示さ
れていると認められる。
すなわち,乙4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館
や博物館等の展示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり(【000
1】),(1)電波によって情報を伝達する従来技術によると,対象物以外のガイド音
声を受信して利用者に誤った情報を提供するおそれがあったこと(【0005】)
を踏まえ,展示物に固有のIDを赤外線等の無線通信波によって発信するID発信
機を展示物ごとに一定の間隔で設置し,利用者が携帯する携帯受信器が発信域に入
ると上記IDを受信し,展示物の音声ガイドが自動的に再生される構成を採用する\nことにより,情報提供するIDの受信範囲を限定することが容易になり,隣接する
対象展示物との混信を回避した音声ガイドシステムを可能とするという作用効果を\n奏するものであり(【0008】ないし【0010】,【0014】),また,(2)
そのシステムを複数の言語に対応させようとすると,多数のチャンネルの割当てが
必要となり,その選択操作を利用者が行う必要があったこと(【0007】)を踏
まえ,多言語に翻訳された音声ガイドのデータを携帯受信器に蓄積し,その中から
再生する言語を選択するという構成を採用することにより,多くの外国人利用者に\nも携帯受信器を操作することなくガイド音声を提供することができるという作用効
果を奏するものである(【0012】,【0020】)。
ウ 乙5発明の内容等に係る事実認定
・・・
(イ) 乙5発明の概要
前記(ア)によれば,乙5公報には,概要,次のとおりの内容の乙5発明が開示さ
れていると認められる。
すなわち,乙5発明は,公共の場所等に掲載された文書等の掲載物を様々な言語
に翻訳して提供する情報提供装置等に関するものであり(【0001】),文書の
内容を様々な言語で利用者に正しく提供することを主たる課題とし(【000
6】),2次元コードと複数の言語に対応する言語コードをその内容として含むコ
ード画像をユーザ端末装置によって読み取り,ユーザにおいて所望の言語を選択す
るなどして,インターネットを介して,文書等の掲載物の翻訳ファイルにアクセス
というものである(【0015】,【0025】,【0035】,【0038】)。
エ 容易想到性についての判断
被告は,(1)乙2公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音
された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の
関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙2技術を開示しているところ,本件
発明1も乙2技術を採用するものであり,相違点1−1ないし同1−4は,識別対
象,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違にすぎず,当業者が適
宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,乙2技術を乙4課題の
解決に応用して,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成を容易に想\n到し得た旨主張する。
しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記1(2)認定のとおり,
本件発明1は,コンピュータを,(i)放音される「案内音声である再生対象音」と
「当該案内音声である再生対象音の識別情報」を含む音響を収音して識別情報を抽
出する情報抽出手段,(ii)サーバに対し,抽出した識別情報とともに「端末装置に
て指定された言語を示す言語情報」を含む情報要求を送信する送信手段,(iii)「前
記案内音声である再生対象音の発音内容を表」し,情報要求に含まれる識別情報に\n対応するとともに「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求
の言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信する受信手段,(iV)受信
手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラムの発明で\nあり,乙2公報等に音響IDとインターネットを利用するという点で本件発明1と
同様の構成を有する情報提供技術が開示されていたとしても,その手順や方法を具\n体的に特定し,使用言語が相違する多様な利用者が理解可能な関連情報を提供でき\nるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるか
ら,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成が当業者において適宜設\n定できる事項であるということはできない。
また,被告の上記(2)の主張については,前記イのとおり,乙4公報に,発明が解
決しようとする課題の一つとして,システムを複数の言語に対応させること(以下,
単に「乙4発明の課題」という。)が記載されているものの,以下のとおり,乙2
発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められず,仮に,乙4発明の
課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加え
たとしても相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成に到達しないから,\n採用することができない。
(ア) 乙2発明1を乙4発明の課題を組み合わせる動機付け
a 前記のとおり,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す
る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり,放送中のテレ
ビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サーバを介して
当該場面に関連する情報を取得するものであるのに対し,前記イ(イ)のとおり,乙
4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館や博物館等の展
示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり,展示物に固有のIDを赤外線
等の無線通信波によって発信し,携帯受信器が発信域に入ると上記IDを受信し,
展示物の音声ガイドが自動的に再生されるものであり,サーバに接続してインター
ネットを介して情報を取得する構成を有しないから,両発明は,想定される使用場\n面や発明の基本的な構成が異なっており,乙2発明1を乙4発明の課題に組み合わ\nせる動機付けは認められない。
b 被告は,(1)乙4発明は,放音装置を利用した情報提供技術という乙2技術と
同じ技術分野に属するものであること,(2)乙2技術は汎用性の高い技術であり,
様々な放音装置を含むシステムに利用されていたこと(乙11ないし13),(3)端
末装置とサーバとの通信システムを利用する情報提供技術は周知のものであったこ
と(乙2,5,6,8,11ないし13等)などによれば,当業者において,乙2
技術を乙4課題の解決に応用する動機付けがある旨主張する。
しかしながら,乙2発明1と乙4発明がいずれも放音装置を利用した情報提供技
術であるという限りで技術分野に共通性が認められ,また,本件優先日1当時,音
響IDとインターネットを利用し,又は端末装置とサーバとの通信システムを利用
する情報提供技術が乙2公報以外の公開特許公報に開示されていたとしても,いず
れも乙4発明とは想定される使用場面や発明の基本的な構成が異なることは前記の\nとおりであり,乙4発明の課題の解決のみを取り上げて乙2発明1を適用する動機
付けがあると認めるに足りない。
(イ) 乙2発明1に対する乙4発明等の適用
また,以下のとおり,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなど\nして乙2発明1の構成に変更を加えたとしても,本件発明1の構\成に到達しない。
a 相違点1−1(構成要件1B)\n
(a) 前記のとおり,乙4発明は,展示物ごとに設置されたID発信機から赤外線
等の無線通信波によって展示物に固有のIDが発信されるものであり,「案内音声
・・・を表す音響信号」を放音するものではなく,「当該案内音声である再生対象音の\n識別情報」を含む音響信号を放音するものでもないから,乙4発明の構成を参照し\nて乙2発明1の構成に変更を加えたとしても,相違点1−1に係る本件発明1の構\
成に到達しない。
(b) 被告は,乙4発明の音声ガイドは「案内音声」に相当するから,「案内音声」
を識別する構成を採用することは容易であった旨主張するが,上記のとおり,乙4\n発明のIDは展示物を識別するものであり,当該展示物に係る音声ガイドを識別す
るものではないから,乙4発明は「案内音声」を識別する構成を開示するものでは\nない。
b 相違点1−2(構成要件1C)\n
前記のとおり,乙4発明は,サーバに接続してインターネットを介して情報を取
得するという構成を有しないものであり,端末装置からサーバに「識別情報」と\n「当該端末装置にて指定された言語を示す言語情報」が送信されることはないから,
乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照して乙2発明1の構\成に変更を加
えることによって,相違点1−2に係る本件発明1の構成に到達することはない。\n
c 相違点1−3(構成要件1D(1))
前記のとおり,乙4発明は,サーバに接続してインターネットを介して情報を取
得するという構成を有しておらず,IDによって識別される展示物のガイド音声を\n再生するものであって,端末装置が「案内音声である再生対象音の発音内容を表す」\n情報を受信することはないから,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照\nして乙2発明1の構成に変更を加えることによって,相違点1−3に係る本件発明\n1の構成に到達することはない。\n
d 相違点1−4(構成要件1D(2))
前記のとおり,乙4発明は,多言語に翻訳された音声ガイドのデータを携帯受信
器に蓄積し,その中から再生する言語を選択することによって,IDによって識別
される展示物のガイド音声を所定の言語で再生するという構成を有するものの,サ\nーバに接続してインターネットを介して情報を取得するという構成を有していない\nから,端末装置が「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求
の言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信することはなく,乙4発
明の構成を参照して乙2発明1の構\成に変更を加えることによって,相違点1−4
に係る本件発明1の構成に到達することはない。\n
・・・
5 争点6(差止めの必要性は認められるか)について
被告は,本件アプリについて差止めの必要性は認められないとし,その理由とし
て,(1)本件口頭弁論終結時点において,本件アプリに係るサービスは実用化されて
いなかったこと,(2)被告は,平成30年5月以降,本件アプリの配信を中止し,多
言語で情報配信を行う機能を取り除いた本件新アプリを配信しており,本件訴訟の\n結果によって本件アプリに係る事業を再開するか否かを決定する予定であること,\n(3)被告は,今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語\nの関連情報を提供することを禁ずる旨の約束や,案内音声である第1言語の再生対
象音が表す発音内容を第2言語で表\現した情報を提供することを禁ずる旨の約束を
する意思があることを主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本件アプリは,本件発明1の技術的範囲に属
し,本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないから,
前記第2の2(4)のとおり,被告は,少なくとも,平成29年5月頃から平成30年
6月頃まで,本件アプリを作成し,譲渡等及び譲渡等の申出をし,平成28年6月\nから平成29年3月までの間に3回にわたり本件アプリを使用することによって本
件特許権1を侵害していたものである。
これらに加えて,被告が本件訴訟において本件アプリが本件発明1の技術的範囲
に属することを否認して争い,本件特許1について特許無効審判により無効にされ
るべきであると主張していること,弁論の全趣旨によれば,被告は,現在も,ウェ
ブサイトに本件アプリの説明や広告を掲載していると認められ,被告が本件アプリ
の作成等を再開することが物理的に不可能な状況にあるとは認められないことなど\nも考慮すると,被告は,今後,本件特許権1を侵害するおそれがあるものというべ
きであるから,原告が被告に対し,その侵害の予防のため,本件アプリの作成等の\n差止を求める必要性は認められるものというべきである。
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2020.02.14
平成28(ワ)42833等 特許権侵害差止等請求事件,特許権侵害差止請求事件,特許権侵害に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月7日 東京地方裁判所
漏れていたので、アップします。国際裁判管轄、差止請求等に係る訴えの利益、技術的範囲の属否、間接侵害、無効理由など、争点は満載なので、判決文が200頁以上あります。認められた損害額も40億円を超えています。
(1) 特許法102条2項の適用の有無(争点11−1)
原告は,被告らが特許権侵害行為により利益を受けているとして,特許法
102条2項の適用があると主張するのに対し,被告らは,原告が本件発明
1を実施していないこと,また,本件発明1は被告製品の販売に何ら寄与し
ていないことから,被告製品の販売と原告の損害との間には因果関係がなく,
特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られた
であろうという事情が存在しないから,特許法102条2項の適用がないと
主張する。
そこで検討するに,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかった
ならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法10
2条2項の適用が認められると解すべきであり,特許法102条2項の適用
に当たり,特許権者において,当該特許発明を実施していることを要件とす
るものではないというべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015
号同平成25年2月1日判決参照)。
そうすると,原告が本件発明1を実施していないことは,特許法102条
2項の適用を妨げる事情とはいえない。また,原告は,被告製品と同様にL
TO−7規格に準拠する原告製品を販売しており(弁論の全趣旨),原告製
品と被告製品の市場が共通していることからすれば,特許権者である原告に,
侵害者である被告らによる特許権侵害行為がなかったならば利益が得られた
であろうという事情が認められるから,原告の損害額の算定につき,特許法
102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。被告らが主
張する,被告製品の販売における本件特許1の寄与の程度については,推定
覆滅の一事情として考慮すべきである(後記(4)参照)。
以上のとおり,被告らの主張は採用することができず,原告の損害額の算
定については,特許法102条2項の適用による推定が及ぶ。
(2) 輸出を伴う取引形態における利益の範囲(争点11−2)
被告OEM製品の取引形態のうち,取引形態2(被告OEM製品の製造業
者である被告SSMMが被告OEM製品を海外に輸出し,海外において被告
SSMM自身の在庫として保有しているものを,被告ソニー又は被告SSM\nSを介して海外の顧客に販売する取引形態)によって被告らが得た利益につ
いて,特許法102条2項の推定が及ぶか否かについて検討する。この点,
被告らは,取引形態2によって得られた利益は,全て海外での販売行為によ
り発生したものであるから,属地主義の原則から,これには上記推定が及ば
ないと主張する。
弁論の全趣旨(被告準備書面(7))によれば,被告OEM製品の取引形態
2は,具体的には,(1)平成27年12月から平成29年3月までは,被告S
SMMが,被告OEM製品を日本国内で製造して海外に輸出した後に,被告
ソニーに対して販売し,さらに,被告ソ\ニーが,これを顧客に対して販売し
ており,(2)平成29年4月から同年9月までは,被告SSMMが,被告OE
M製品を日本国内で製造して海外に輸出した後に,被告SSMSに対して販
売し,さらに,被告SSMSが,これを被告ソニーに対して販売し,その後,\n被告ソニーが,これを顧客に対して販売しており,(3)平成29年10月以降
は,被告SSMMが,被告OEM製品を日本国内で製造して海外に輸出した
後に,被告SSMSに対して販売し,さらに,被告SSMSが,これを顧客
に対して販売したことが認められる。
上記事実に照らせば,被告OEM製品の取引形態2における販売行為は,
形式的には全て被告SSMMが被告OEM製品を海外に輸出した後に行われ
ているものである。しかしながら,被告OEM製品は,その性質上,被告ら
(本件期間(1)においては被告ソニー及び被告SSMM)が,本件OEM供給\n先(HPE及びQuantum)の発注を受けて製造し,本件OEM供給先に対し
てのみ販売することが予定されていたものであるから,被告SSMMが被告\nOEM製品を日本国内で製造して海外に輸出し,被告ソニーや被告SSMS\nに販売し,さらに被告ソニーや被告SSMSがこれを顧客(本件OEM供給\n先)に販売するという一連の行為が行われた際には,その前提として,当然,
当該製品の内容,数量等について,被告らと本件OEM供給先との密接な意
思疎通があり,それに基づいて上記の被告SSMMによる日本国内での製造
と輸出やその後における被告らによる販売が行われたことを優に推認するこ
とができる。そうであれば,上記一連の行為の一部が形式的には被告OEM
製品の輸出後に行われたとしても,上記一連の行為の意思決定は実質的には
被告OEM製品が製造される時点で既に日本国内で行われていたと評価する
ことができる。被告らは,被告SSMMが本件OEM供給先から提供を受け
たフォーキャストと,実際の被告OEM製品の受注は必ずしも一致しないこ
とから,被告SSMMの製造・輸出と,その後の販売行為は独立した別々の
行為である旨主張するが,被告SSMMは本件OEM供給先から提供される
フォーキャストで示された予想される発注量に基づいて被告OEM製品を製\n造し,被告らはこれを販売していたものであるから,月々のフォーキャスト
と受注が必ずしも一致しないことをもって,被告らの行為ないしその意思決
定の一連性が否定されるものではない。また,被告らは,本件OEM供給先
からの被告OEM製品の受注,被告OEM製品の海外倉庫からの出庫(海外
倉庫の管理を含む)及びOEM顧客への発送,並びにOEM顧客に対する請
求を,各国に本拠地を有する各現地協力会社に委託しており,これらの業務
は全て,日本国内ではなく海外において行われたものであるとも主張するが,
単に事実行為の一部を海外の協力会社に委託していたと主張するにすぎない
ものであって,上記一連の行為の意思決定が実質的に日本国内で行われてい
たと評価することができるという上記結論を何ら左右するものではない。
加えて,少なくとも,本件特許権1の侵害行為である被告OEM製品の国
内での製造及び輸出が被告らによる共同不法行為であると認められる(前記
7参照)以上,被告らによる販売行為が,全て被告SSMMが被告OEM製
品を海外に輸出した後に行われたものであるとしても,被告らの販売行為に
よる利益は,被告らによる国内における上記共同不法行為(被告OEM製品
の国内での製造及び輸出)と相当因果関係のある利益(原告にとっての損害)
ということができ,侵害行為により受けた利益といえる。
したがって,取引形態2によって被告らが得た利益についても,特許法1
02条2項の推定が及ぶと解すべきであり,このように解しても,我が国の
特許権の効力を我が国の領域外において認めるものではないから,属地主義
の原則とは整合するというべきである。これに反する被告らの主張は採用で
きない。
・・・
(4) 推定覆滅事由の存否及びその割合(争点11−4)
ア 被告製品が本件発明1の作用効果を奏していないとの主張について
被告らは,被告製品においては,硬度の高い磁性層表面を形成している\nことにより,裏写りを十分に抑制することができていること,また,本件\n発明1の構成要件1Cを充足する製品としない製品の保存試験(乙204,\n206)の結果などから,被告製品が本件発明1の作用効果を奏していな
いと主張する。
しかしながら,前記5(4),(5)説示のとおり,本件明細書1・表1の記\n載からは,磁性層表面及びバックコート層表\面の10μmピッチにおける
スペクトル密度,磁性層の中心面平均表面粗さ,六方晶フェライト粉末の\n平均板径のそれぞれが本件発明1−1に規定された範囲内である実施例は,
比較例よりも保存前後のSNRの変化が小さいことを読み取ることができ,
そこから,本件発明1により発明の課題を解決することができるものと理
解できるから,そうである以上,本件発明1の技術的範囲に属する被告製
品は本件発明1の作用効果を奏していると認められ,これを覆すに足りる
証拠はない。
これに対し,被告らは,被告製品が本件明細書1の実施例に記載されて
いる磁気テープとは材質・組成等が異なるものであり,構成要件を充足す\nるからといって当然に明細書に記載されている発明の効果を奏すると認め
られるものではないと主張するが,本件明細書1の実施例に記載されてい
る磁気テープと被告製品とは材質・組成等が異なるとしても,そのことに
よって被告製品が本件発明1の発明の効果を奏していないものと認めるに
足りる証拠はない。被告らはその他るる主張するが,いずれも上記結論を
左右しない(なお,原告の製品が本件発明1の実施品でないとする主張に
ついては,その主張の根拠である測定結果(乙116,117)が前記4
(2)イ(ア)の説示に照らして信用できないから,採用できない。)。
なお,被告らが主張する,被告製品が硬度の高い磁性層表面を形成して\nいる点について検討するに,確かに,証拠(乙197ないし199)によ
れば,磁性層表面が硬いほど裏写りが生じにくいことが認められ,また,\n本件発明1の構成要件1Cを充足しないように調整した被告製品において,\n高温保存の前後でエラーレートに有意な変化は生じなかったこと(乙20
4)からすれば,本件発明1の構成要件1Cを充足しないように調整した\n被告製品においては,硬度の高い磁性層表面を形成していること(原告は\n特に争っていない)によって,高温保存後の電磁変換特性の悪化が抑えら
れているものと認められる。
(なお,原告は,甲96の実験を根拠に,磁性層の硬度を高めたとして
も裏写りは防止できないと主張するが,同実験においては,磁気テープの
硬度の指標として引張り強度が用いられているところ,裏写りによる磁気
テープの電磁変換特性の悪化を防止するための磁性層の硬度の指標として
は,押込み強度が用いられるべきである(乙197・段落【0024】,
【0026】,乙205)から,同実験によっても,磁性層の硬度(押込
み強度)を高めた場合に裏写りが防止できないものと認めることはできな
い。また,原告は,エラーレートの検証がなぜ本件発明1の作用効果の検
証につながるのか説明がないなどと主張するが,磁気テープにおいて電磁
変換特性が悪化した場合,エラーレートが上昇すること(乙204)から
すれば,エラーレートの変化を検証することで電磁変換特性の変化も検証
できるものと考えられる。)。
しかしながら,一方,証拠(乙206)によれば,本件発明1の構成要\n件1Cを充足する被告製品においても,高温保存の前後でエラーレートに
有意な変化は生じず,高温保存後の電磁変換特性の悪化が抑制されている
ものと認められるが,上記のとおり,本件発明1の技術的範囲に属する被
告製品は本件発明1の作用効果を奏していると認められるところ,被告製
品において,硬度の高い磁性層表面を形成していることにより,本件発明\n1の作用効果を超えて,独自の作用効果を奏していることを認めるに足り
る証拠はない。
イ 本件発明1の作用効果が被告製品の購入動機となっていないとの主張に
ついて
被告らは,被告製品の顧客は,本件発明1の作用効果に着目して被告製
品を選択しているわけではなく,本件発明1の作用効果が被告製品の購入
動機となっていないと主張する。
そこで検討するに,特許法102条2項の趣旨からすれば,同条項の推
定を覆滅させる事由として認められるためには,特許権侵害がなかったと
しても,被告製品の販売等による利益(の一部)は原告に向かわなかった
であろう事由の存在が必要である。したがって,被告製品の顧客の購入動
機が単に本件発明1の作用効果に着目していなかったというのでは足りず
(ゆえに,被告製品のパンフレットに本件発明1の作用効果がセールスポ
イントとして記載されていないのみでは推定覆滅事由足りえない。),被
告製品の顧客の購入動機が,被告製品の独自の技術や性能に着目したもの\nであったことを具体的に主張立証する必要がある。
そして,被告らは,被告製品の顧客の主要な購入動機として,被告製品
が大記録容量及び高速データ転送速度を実現した製品である点,記録媒体
としての磁気テープの利点(保存時に通電が不要である点等),単一ドラ
イブを用いて時期テープカートリッジへのデータ記録を行った場合におけ
る,記録容量,転送レート及び記録速度の安定性(原告製品と比較してよ
り優れた性能を有すること)を挙げるが,これらの点が被告製品独自のも\nのであることや,仮に独自のものであったとしても,それが原告製品と比
較して異なる程度,及び,これらの点が被告製品の顧客の主要な購入動機
となっていたことを認めるに足りる証拠はないから,仮に本件特許権1の
侵害がなかったとしても,これらの点のために,被告製品の販売等による
利益(の一部)は原告に向かわなかったであろうと認めるには足りない。
なお,前記アのとおり,本件発明1の技術的範囲に属する被告製品は本
件発明1の作用効果を奏していると認められるところ,被告製品において,
硬度の高い磁性層表面を形成していることにより,本件発明1の作用効果\nを超えて,独自の作用効果を奏していることを認めるに足りる証拠はない
し,仮に,被告製品において,磁性層の素材の硬度を高めることにより本
件発明1と同様な独自の作用効果を一部奏しているとしても,そのような
被告製品独自の作用効果がどの程度生じているのかは不明である上,その
点が被告製品独自の購入動機となっていたとも認められない(被告自身が
本件発明1の作用効果は購入動機となっていない旨主張している。また,
被告製品の広告(甲97)では,データの長期保存について記載されてい
るところ,本件発明1の作用効果である長期保存後の裏写りの防止は,デ
ータの長期保存に資するものであるから,被告製品が本件発明1の作用効
果を有していることは,間接的には購入の動機の一因になっているものと
考えられるが,上記のとおり,そのような作用効果ひいては購入の動機が
被告製品独自の構成によって生じたり,高められたりしたものと認めるこ\nとはできない。)。したがって,仮に,被告製品が磁性層の素材の硬度を
高めることで本件発明1の作用効果を一部奏しているとしても,そのこと
によって,仮に本件特許権1の侵害がなかった場合に,被告製品の販売等
による利益(の一部)は原告に向かわなかったであろうと認めることはで
きない。
ウ 以上のほか,被告らは,本件発明1の技術的範囲に属さない代替製品を
製造・販売することできたことも主張するが,現にそのような代替製品を
製造・販売していたものではなく,その可能性にとどまるものであるから,\n推定覆滅事由として認めることはできない。
したがって,特許法102条2項の推定を覆滅させる事由を認めること
はできない。
◆判決本文
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2020.02. 5
平成30(ワ)4901 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年1月23日 大阪地方裁判所
CS関連発明について、技術的範囲に属するものの、特29-2の規定により権利行使不能と判断されました。\n
以上より,乙12−1発明は,1つ又は複数の画像をカメラやネットワーク
を通じて入手し,1つ又は複数の電話番号に対応付けてこれらの画像を記憶し,当
該電話番号から着呼があったときに,これらの画像を切り替えて表示させ,これに\nより,発信者を識別しやすくするという効果を有する,無線携帯端末に関する発明
であるということができる。
(3) 本件発明1と乙12−1発明との対比
ア 乙12−1発明に係る無線携帯端末において,1つの電話番号に2つの画像
を対応付けて記憶させた場合,当該電話番号から着呼があった際,2つの画像が,
時刻や着呼の回数等による一定の規則性に従って表示される。このとき,特定の着\n呼時に表示されない方の画像については,当該電話番号との対応関係を維持したま\nま,画像メモリに記憶され続けており,「表示選択がOFF」にされているといえ\nる(前記2(3)参照。)。乙12−1発明における「メモリ」及び「画像メモリ」は,
それぞれ本件発明1における「電話帳データメモリ」及び「画像データメモリ」に
対応する。
イ そうすると,本件発明1と乙12−1発明との間には,(1)本件発明において
は,画像をメモリ番号に対応付けているが,乙12発明においては,画像を電話番
号に対応付けている点(相違点(1)),(2)本件発明1においては,新たに入手・記憶
された第2画像が優先的に表示されるが,乙12発明においては,新たに入手・記\n憶された画像が優先的に表示されるか否か不明である点(相違点(2)),という相違
点が存するとも考えられるため,これらの相違点が設計上の微差にすぎないか,実
質的な相違点であるかについて,以下検討する。
ウ 相違点(1)について
本件特許1の出願当時,携帯電話やハンドフリー電話の分野においては,携帯電
話等の端末において,特定の電話番号をメモリ番号に対応付けて記憶させることは,
複数の名前や電話番号を含む情報を整理するなどの目的に広く使われる,周知の技
術であったことが認められる(乙13ないし15)。
そうすると,画像を,ある電話番号と対応付けられたメモリ番号に対応付けて記
憶させるか,それとも,直接,当該電話番号と対応付けて記憶させるかという違い
は,設計上の微差にすぎないというべきである。
エ 相違点(2)について
乙12−1発明において,ある特定の電話番号に対して既に1つ又は複数の画像
が対応付けられて記憶されている場合において,新たな画像をカメラやネットワー
クを通じて入手し,当該電話番号に対応付けて記憶させたとして,当該電話番号か
ら着呼があった際,当然に,その新たな画像が優先的に着信画面に表示されるよう\nになるということはできない。
しかし,乙12の段落【0032】の記載(「複数の画像を一つの電話番号と対
応させ,着呼毎に変えたり,時間によって変えたり,着呼時に順番に出したりする
こともできる。」)によれば,乙12−1発明は,複数の画像を一つの電話番号に
対応付ける機能部を有しており,これを使用して,当該電話番号の着呼に応じて,\n複数の画像から一つの画像を選択しており,かかる選択を,着呼毎に変更したり,
時間に応じて変更したり,一回の着呼に対して複数の画像を順番に変更したりする
ことにより,様々な表示を行っているものと認められる。\nしたがって,乙12−1発明において,電話番号と対応する複数の画像からどの
画像を選択するかということは任意に設定することが可能であり,複数の画像のう\nち,新たに入手した画像を優先的に選択することや,上記機能部において,これま\nで記憶されていた複数の画像のうち,表示しない画像と当該電話番号との対応付け\nを削除するか否かということは,必要に応じて,当業者が適宜選択し得る設計的事
項である。また,かかる選択をしたことに伴う顕著な効果も認められない。
よって,乙12−1発明において,複数の画像のうち,新たに入手した画像を選択
して表示し,これまで記憶されていた複数の画像と当該電話番号との対応付けを削\n除せずに,これまで記憶されていた複数の画像と当該電話番号との対応関係を維持
することは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるといえ,奏せられる効果に
著しい差も認められない。したがって,相違点(2)についても,設計上の微差にすぎ
ないということができる。
(4) まとめ
以上より,本件発明1は,実質的に,乙12−1発明と同一であるから,特許法
29条の2により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2
号の無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。
◆判決本文
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2020.01.27
令和1(ネ)10036 特許権侵害差止等請求控訴事件 民事訴訟 令和2年1月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
フランジに特徴がある梁補強金具の発明について、特許法102条2項における推定覆滅を主張しましたが、裁判所は「覆滅すべき事情があるとは認められない」と判断しました。
ア 推定覆滅の事情
特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情と
同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が
受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば,
(1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場
における競合品の存在,(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品の
性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について,特許法102
条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事
情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部分の
みに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することができる
が,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅
が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置
付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相
当である。
イ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,本件各発明等は,その全体が被告各製品の全体を対象とするもの
の,特徴部分は,梁補強金具の外周部の軸方向の「片面側の端部に形成」した「フ
ランジ部」であり,被告各製品においては,ダイヤリングの外周部の軸方向の「片
面側の端部に形成」した「つば状の出っ張り部の外周部」がこれに該当するところ,
侵害製品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合,すなわち特許発明の寄与
度を考慮すべきであり,上記推定は,少なくとも70%の割合で覆滅されるべきで
あると主張する。
前記認定の本件明細書等の記載(引用に係る原判決「事実及び理由」第4の1(1))
によれば,本件各発明等は,各種建築構造物を構\成する梁に形成された貫通孔に固
定され当該梁を補強する梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造に関し\n(【0001】),梁に開設された貫通孔に対する配管の取り付けの自由度を高める
とともに大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補
強することができ,柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔設置を可能とする\n梁補強金具と,前記梁補強金具を用いた梁貫通孔補強構造とを提供するために(【0\n010】),梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁
補強金具であって,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍〜10.0倍と
し,前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成
し(訂正前の請求項1),さらに,フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部
に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周か
ら前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である
という構成を採用したものであって(訂正後の請求項1),梁に外力が加わったとき\n貫通孔の周縁部に生じる応力は,ウェブ部から貫通孔の中心軸に沿って離れるに従
って徐々に小さくなることから,梁補強金具の軸方向長さを必要以上に長くしない
ように規制することにより,大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつ
つ必要な強度まで補強することができ(【0012】),また,フランジ部により軸方
向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができるという効果を奏するものである
(【0048】)。
このように,本件各発明等の特徴部分が,フランジ部のみにあるということはで
きない。
(イ) また,控訴人は,本件各発明等の特徴部分であるフランジ部に特有の効果
は,「軸方向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができる」というものにとどまり,
同効果は,被告各製品の宣伝広告において,需要者に何ら積極的に訴求されていな
いなどと主張する。
しかし,控訴人のウェブサイト(甲3)や被告各製品のカタログ(甲4)におい
て,被告各製品のフランジ状の部分も図示され,被告各製品の特徴として,鉄骨梁
ウェブ開口に被告各製品をはめ込み,片面(つば状の出っ張り部の外周部)のみを
全周溶接することにより,取付けの際に梁の回転が不要となり施工性が大幅にアッ
プするという点が挙げられている。このような施工が可能となるのも,梁補強金具\nにフランジ部に該当するつば状の出っ張り部を設けたからであると考えられ,被告
各製品の特徴は本件各発明等の構成に由来するものであると考えられる。\nこの点,控訴人は,控訴人のウェブサイトや被告各製品のカタログにおいては,
「つば状の出っ張り部の外周部」のみを溶接固定するため,「[梁の反転が不要]とな
り施工性が大幅にアップ」する作用効果が需要者に訴求されているところ,これら
は,控訴人により工夫された独自の工法により奏される顕著な作用効果であって,
本件各発明等の作用効果ではない旨主張する。
しかし,本件各発明等は,梁に形成された貫通孔にリング状の梁補強金具をはめ
込んで,フランジ部を含む外周部が溶接固定される梁補強金具であるところ,被告
各製品の,鉄骨梁ウェブ開口に被告各製品をはめ込み,片面(つば状の出っ張り部
の外周部)のみを全周溶接するという取付方法は,本件各発明等に係る梁補強金具
の取付方法として通常想定される態様の1つにすぎず,控訴人により工夫された独
自の工法とはいえないから,控訴人の主張は採用できない。
ウ 推定覆滅の事情は,侵害者が主張立証責任を負うものであるところ,以上に
よれば,本件においては,損害額の推定を覆滅すべき事情があるとは認められない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)26468
本件特許権の審取事件です。無効理由無しとした審決が維持されました。
◆平成30(行ケ)10163
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2020.01. 8
平成31(ネ)10014 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
少し前のですが、欠落していたのでアップします。薬品特許のクレームが作用的(?)に記載されている場合に、クレーム限定、またはサポート要件・実施可能要件違反が主張されました。知財高裁は、1審と同様に、技術的範囲に属する、無効理由無しと判断しました。
上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク
質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ
れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結
合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使
用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は,
かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって,
PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより,
対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症
などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患\nのリスクを低減することにあると理解することができる。
本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用
してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体
を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体
について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合
しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること,
また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含
まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ
れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD
LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。
21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21
B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗
体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細
書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個
の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え
て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同
様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体
を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認
識できると認められる。
さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免
疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や
31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す
るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業
者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって,
本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗
体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら
れる。
以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン
パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル
抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ
クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成
物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す
る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できること\nを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に
適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結
合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定
される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ
により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。
しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照
抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし,
参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。\nそして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特
定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために,
その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認め\nられない(甲34,35)。
前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し,
本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参
照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と
LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること
を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。\n
・・・
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ
れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が\n特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な
時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能\n要件を満たさない旨主張する。
しかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ
とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求\nめられるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程
度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰\nし,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる
からである。
本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,
PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗
体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そし\nて,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す
ることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離
されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度
の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発\n明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ
ることまで記載されている必要はない。
また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない
抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認
識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に\n記載されているかどうかは,実施可能要件とは関係しないというべきである。\nそして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細
書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範
囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ
るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得
る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。
よって,控訴人の主張は採用できない
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)16468
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2019.12. 4
平成30(ネ)1008 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
外為オンラインVSネースクエアの控訴事件です。1審では差止請求が認められました。知財高裁も同じ判断です。
構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,…さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報\nを含む売り注文情報を生成する」の意義について
(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載から,構成要件Dの「注文情報生成手段」は,「前記金融商品の買い注文を行うた\nめの複数の買い注文情報」を生成する「買い注文情報生成手段」(構成要件B)と「前記買い注文の約定によって保有したポジションを,\n約定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報を
生成」する「売り注文情報生成手段」とから構成され,「売り注文情報」を生成するのは,構\成要件Dの「注文情報生成手段」のうちの「売り注文情報生成手段」であることを理解できるから,構成要件Gの「注文情報生成手段」及び構\成要件Hの「前記注文情報生成手段」は,いずれも「売り注文情報生成手段」を意味するものと理
解できる。
そうすると,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の\n売り注文が約定されたことを検知すると,前記注文情報生成手段は,
前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の売り注文
のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注
文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」にいう「前記注文情
報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」,「前
記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価
格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」と
の記載は,「売り注文情報生成手段」が,「前記約定検知手段」の
「前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が
約定された」との「検知の情報を受けて」,当該「最も高い売り注
文価格」よりも「さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含
む売り注文情報を生成する」ことを規定したものであり,「売り注
文情報生成手段」が行う処理を規定したものと解される。
次に,本件明細書には,「シフト機能」による注文は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文\nや決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯と
は異なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注さ
せる態様の注文形態」であること(【0078】),この「シフト
機能」は,「相場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一\n注文情報や新たな第二注文価格の第二注文情報を生成し,相場価格
を反映した注文の発注を行うことができる」(【0018】)とい
う効果を奏することの開示がある。そして,構成要件Hの文言及び本件明細書の上記記載から,構\成要件Hは,「シフト機能」のうち,\n更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決
済注文」(売り注文)がシフトする構成のものを規定したものであることを理解できる。他方で,本件明細書には,「シフト機能\」のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注
済の「決済注文」(売り注文)がシフトする構成の場合において,新たな「買い注文」の発注やその約定によって,「シフト機能\」の効果等が影響を受け得ることについての記載や示唆はない。
以上の本件発明の特許請求の範囲(請求項1)及び本件明細書の
記載を総合すると,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」,「前記複数の売り注文\nのうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注
文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」とは,「売り注文情
報生成手段」(前記注文情報生成手段)が,「前記約定検知手段」
の「前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文
が約定された」との「検知の情報」を受けたことに基づいて,「さ
らに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生
成する」構成のものであれば,新たな「買い注文情報」の生成や「買い注文」の約定又はその検知に関わりなく,構\成要件Hに含まれるものと解される。
(イ) これに対し控訴人は,(1)本件発明の特許請求の範囲(請求項1)
の記載によれば,構成要件Hの「前記検知の情報を受けて,…さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成\nする」とは,直前の検知の情報を条件として,これに続いて,前記
の売り注文が発生するという意味であって,これらの間に他の処理
が介在する記載はないこと,(2)本件明細書には,従前の新規注文B
1ないしB5及び従前の決済注文S1ないしS5が全部約定したこ
とを検知し,この検知の情報を受けて,新たな新規注文B1ないし
B5及び新たな決済注文S1ないしS5を一括発注するものであり
(【0142】ないし【0154】,図35),「前記検知の情報
を受けて」(構成要件H)と,「さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」(構\成要件H)との間に,他の手続が介在するもの,例えば,新たな新規注文B1ないし
B5と新たな決済注文S1ないしS5とを新規に一括発注せずに,
まずは新たな新規注文B1ないしB5を発注し,その約定を検知し
てから,新たな決済注文S1ないしS5を発注するようなものにつ
いての開示はないこと,(3)本件出願の経過において,被控訴人は,
拒絶理由通知を受けて,本件手続補正書及び本件意見書を提出して,
本件出願に係る旧請求項1に構成要件EないしGを新たに加え,構\
成要件Hを補正する手続補正を行うとともに,本件意見書において,
シフトが生じるための条件として,最も高い売り注文の約定状況の
みを監視することとし,それ以外の処理を監視することを除外する
旨を主張したことを総合すると,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の\n売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高
い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成すること」にいう
「前記検知の情報を受けて」とは,「前記相場価格が変動して,前
記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文
価格の売り注文が約定されたことを検知すると」,他の処理を何も
介在せずに,直ちに「前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文
価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り
注文情報を生成する」ことを意味するものと解すべきである旨主張
する。
しかしながら,上記(1)の点については,本件発明の特許請求の範
囲(請求項1)の記載中には,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」と「前記複数\nの売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ
高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」との間に,
「他の処理を何も介在せずに」とか「直ちに」との文言は存在しな
い。
次に,上記(2)の点については,前記(ア)で説示したとおり,構成要件Hは,「シフト機能\」(【0078】)のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決済注文」(売
り注文)がシフトする構成のものを規定したものであるところ,本件明細書には,「シフト機能\」のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決済注文」(売り注文)が
シフトする構成の場合において,新たな「買い注文」の発注やその約定によって,「シフト機能\」の効果等が影響を受け得ることについての記載や示唆はない。また,控訴人が挙げる本件明細書の記載
(【0142】ないし【0154】,図35)は,「発明の実施の
形態の3」に係るものであるが,本件明細書には,「上記の「シフ
ト機能」は,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構\
成において適用することもできる。」こと(【0151】)及び「上
記各実施の形態は本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態
のみに限定されることを意味するものではないことは,いうまでも
ない。」こと【0164】の記載があることに照らすと,控訴人が
挙げる本件明細書の上記記載から構成要件Hを限定解釈すべき理由はない。\n
さらに,上記(3)の点については,被控訴人は,本件手続補正書(乙
14)により,本件出願に係る旧請求項1について,「前記相場価
格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,
最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると,
前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受
けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさら
に所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成
する」(下線は,補正箇所を示す。)と補正し,本件意見書(乙1
5)において,「本願発明においては,一の注文手続で生成された
複数の売り注文情報に基づく複数の売り注文よりも高い売り注文情
報の生成…は,一の注文手続で生成された複数の売り注文情報に基
づく複数の売り注文のうちの最も高い売り注文の約定…が検知され
たことを基準に行われることになります。そのため,システムにお
いては,特定の注文に係る注文情報(相場の移動方向側である,最
も高い買い注文価格の買い注文に係る買い注文情報や,最も低い売
り注文価格の売り注文に係る売り注文情報)の約定状況のみを監視
すれば,新たな注文情報の生成(一の注文手続で生成された中で最
も高い売り注文価格よりも高い売り注文価格の売り注文情報の生成
…を,ただちに生成することができ,システムの情報保持や情報監
視のための負担が大きくなることはありません。これにより,本願
発明においては,新たな注文情報の生成や,その注文情報に基づく
注文の発注等の処理を,システム負荷の軽い,簡易な手順によって
処理することができるという効果を奏します。」と述べたことが認
められるが,他方で,本件手続補正書及び本件意見書は,平成29
年4月11日付けの拒絶理由通知(乙18)において「引用文献1
に記載された発明に引用文献2に記載の技術を適用し,引用文献1
に記載された発明において,繰り返し注文を行う際,相場価格の上
昇傾向に対応して以前の注文価格よりも高い価格の注文情報を生成
するように構成することは,当業者ならば容易に為し得ることである。」との進歩性欠如の指摘を受けて提出されたものであることに\n照らせば,本件手続補正書及び本件意見書は,本件発明が,複数の
売り注文のうち最も高い売り注文価格の売り注文の約定に基づいて,
同注文価格よりも高い価格の売り注文を生成する点に技術的意義を
有し,進歩性を有する旨を主張したものであって,本件意見書の「約
定状況のみを監視すれば」,「ただちに生成する」といった記載か
ら,両者の間に他の処理を介在させる構成や時間的間隔が存在する構\成を本件発明から除外したものということはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 構成要件Hの充足性について
(ア) 前記2(3)イ(イ)のとおり,(1)ないし(4)の売り注文のうち,最も高
い注文価格の番号113の売りの指値注文(指定価格114.90
円)が約定した後に,番号113の注文価格より「0.62円」高
い番号96の売りの指値注文(指定価格115.52円)がされて
いることに照らすと,被告サーバにおいては,約定検知手段が複数
の売り注文のうち最も高い売り注文価格の売り注文の約定を検知す
ると,注文情報生成手段が,この検知の情報を受けたことに基づい
て,約定した最も高い売り注文の売り注文価格よりもさらに所定価
格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成したこと
が認められる。
したがって,被告サーバは,構成要件Hを充足するものと認められる。\n
・・・・
控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Hに対応する「シフト機能\」に係る構成について,「いったんスルー注文」及び「決済トレー\nル注文」と組み合わせた,複数の新規注文の全て及び複数の決済注文の全て
がそれぞれ1回ずつ約定した場合に複数の新規注文の全て及び複数の決済注
文の全てに対応する個数の新たな複数の新規注文及び新たな複数の決済注文
を発注させることしか記載されておらず,構成要件Hに含まれる「シフト機能\」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせたもの以外の構成のものについては記載されていないことからすれば,構\成要件
Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,特許
法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合する
とはいえない旨主張する。
ア そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に
は,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたこ\nとを検知すると,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知
の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも
さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成す
る」との記載において,「注文情報生成手段」が生成する「所定価格だけ
高い売り注文価格の情報」を含む「売り注文情報」の個数を規定する記載
はないから,当該「売り注文情報」は,複数の場合に限らず,一つの場合
も含むものと理解できる。
イ(ア) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,(1)「シフト機能」について,「金融商品取引管理装置1や金融商品取引管理システム1Aにお\nいて,既に発注した新規注文と決済注文をそれぞれ約定させたのち,「シ
フト機能」による処理を併用した取引を行うことも可能\である。この「シ
フト機能」による注文は,上述した,「いったんスルー注文」や「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば後述する「リピートイ\nフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)等に基づいて,新
規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文
や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異
なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様
の注文形態である。」こと(【0078】),(2)「シフト機能」は,「相場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場\n価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一注文情報や新たな第二注
文価格の第二注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行う
ことができる」(【0018】)という効果を奏すること,(3)「発明の
実施の形態3」は,「この実施の形態3の金融商品取引管理システムに
おいては,「いったんスルー注文」と「決済トレール注文」とを,「ら
くトラ」による注文と組み合わせ,さらに「シフト機能」を行わせる状態を示す。」(【0138】)ものであるが,「上記の「シフト機能\」は,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構成において適用することもできる。」こと(【0151】)及び「上記各実施の形態\nは本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態のみに限定されるこ
とを意味するものではないことは,いうまでもない。」こと(【016
4】)の記載がある。
上記(1)の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される\n際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフ
トさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シ
フトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一
方のみの構成又は双方の構\成が含まれること,先に発注済の一つの注文
の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価格帯」をシフトさせる構\成のものが含まれることを理解できる。また,上記(1)ないし(3)の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いった\nんスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例え
ば…「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」
等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。\n
ウ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,図35に示す「実施の形態
3」(【0144】ないし【0148】)として,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせたトラップリピートイフダン注文で行われ,\n決済注文S5,S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の
買い注文B5,B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売
り注文S5,S4が再度生成されるが,この時点ではシフトは発生せ
ず,通常のリピートイフダン注文が繰り返され,その後相場価格が変
動して,S1ないしS3の売り注文価格がトレールし,S1ないしS
3が最も高い注文価格の売り注文として同時に約定すると,再度生成
された売り注文S5,S4は約定していないにも関わらずこれをキャ
ンセルして,S1ないしS5のシフトが実行されることが記載されて
いる。上記記載は,構成要件Hに含まれる,「シフト機能\」に「いっ
たんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成の一つであることが認められる。\nまた,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせない場合には,図35において,S2及びS3の売り注文価格がトレールしないため,\nそれぞれの注文情報が生成された時点における価格のとおり,それぞ
れ別々に約定し,その場合,実施の形態3の取引例でS5,S4が約
定した段階ではシフトが生じていないのと同様に,S3,S2が約定
した段階ではシフトが生じず,その後に最も高い売り注文価格の売り
注文であるところのS1が約定した段階でシフトが生じることになる
ことを理解できる。
そうすると,複数の売り注文情報のうち最も高い売り注文価格の売
り注文が約定すると,それよりも所定価格だけ高い売り注文価格の情
報を含む売り注文情報を生成するという構成要件Hに係る構\成は,本
件明細書の上記記載から認識できるから,本件明細書の発明の詳細な
説明に記載されているということができる。
(イ) これに対し控訴人は,図35には,S5,S4が約定した後に再
度S5,S4が生成されることの記載はなく,B5,B4には,直後
に「キャンセル」と記載されていることからすれば,S5,S4が約
定しても,元の買い注文B5,B4と同じ注文価格の買い注文B5,
B4がそもそも生成されないか,生成されてもすぐにキャンセルされ
ていると理解できること,加えて,本件明細書の【0144】ないし
【0147】にも,新たな新規注文B5及びB4は,個別に生成され
るのではなく,(従前の)決済注文の全ての約定((従前の)決済注
文S1ないしS3の約定)を待って,新たな新規注文B1ないしB3
とともに新たな新規注文が一括して生成されることが開示されている
ことからすると,図35には,同図右上のS1ないしS3が同時に約
定し,もって,B5ないしB1及びS5ないしS1の全てが1回ずつ
約定した後に,「シフト機能」によるシフトが行われ,新たなB5ないしB1及びS5ないしS1が一括的に生成される場合が示されてい\nるに過ぎず,B5,B4に対応する決済注文S5,S4が約定すると,
元の買い注文B5,B4と同じ注文価格の買い注文B5,B4が再度
生成されることを看取できない旨主張する。
しかしながら,図35には,明示の記載はないが,決済注文S5,
S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の買い注文B5,
B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売り注文S5,S
4が再度生成され,通常のリピートイフダン注文が繰り返されること
は,「図30に示すように,相場価格64が上昇から下落に転じ,1
ドル=100.60円未満になると,約定情報生成部14は,決済注
文S4,S5を約定させる処理を行う。これにより,(新規注文情報
18114,18115に基づく)新規注文B4,B5と,(決済注
文情報18119,18120に基づく)決済注文S4,S5による
イフダン注文の取引がそれぞれ成立する。これにより,注文情報生成
部16は,元の新規注文B4,B5と元の決済注文S4,S5と同じ,
新たな新規注文B4,B5と元の決済注文S4,S5を生成する。」
(【0132】)との記載に照らしても明らかである。
したがって,控訴人の上記主張は,その前提において,採用するこ
とができない。
エ 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「シフト機能」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせた構\成のもの(実施の形態3)のほか,構成要件Hに含まれる,これ以外の構\成の
もの(最も高い売り注文価格の特定の一の売り注文が約定されたことを検
知すると,前記注文情報生成手段が,更に所定価格だけ高い「一の売り注
文情報」を生成するもの)についての開示があることが認められる。
したがって,構成要件Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであることが認められ,本件発明はサポート要件に適合するものと認\nめられるから,これと異なる控訴人の前記主張は理由がない。
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2019.12. 4
平成30(ワ)9909 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月23日 東京地方裁判所
特許権侵害について、公然実施の無効主張がなされ、東京地裁(40部)は新規性違反(発明1,3)および進歩性違反(発明2,4)の無効主張を認めました。
被告は,上記ア記載のA邸工事の施工方法又は防水構造は本件各発明の構\
成要件をすべて具備すると主張するのに対し,原告は,同方法又は構造は構\
成要件D等を充足せず,本件各発明と相違点1において相違するので新規性
は欠如しないと主張する。
(ア) 構成要件D等における「封止する状態にして固定」の意義\n
そこで,まず,構成要件D等の「封止する状態にして固定」の意義につ\nいて検討する。
本件発明1及び3の特許請求の範囲の記載(構成要件D及びK)によれ\nば,内部水切り部材は,その固定板下面と屋根に設けた開口部周囲の野地
板上面又は防水シート上面との間で液体の流通を封止する状態にして固
定して,水が開口部に侵入することを防止する機能を有するものであるか\nら,ここにいう「封止」とは,液体の流通を封じ,止めること,すなわち,
水等の液体が開口部に侵入しない状態にすることをいうものと解される。
また,本件明細書等の記載をみても,「開口部を固定板で直接的且つ内
外液密的に覆うように内部水切り部材(インナーフラッシング)を配置す
る」(段落【0011】),「内部水切り部材の固定板を野地板又は防水
シート上に密着した状態で固定するものとした本発明」(段落【0017】),
「開口部12を完全に覆うことのできるサイズの固定板21を,その下面
端縁側が密着する状態で内部水切り部材20を固定」(段落【0022】),
「密着状態で接着・固定して,固定板21下面と防水シート11上面との
間で水が流通しない状態に封止する。」(段落【0031】),「固定板
21の防水シート11側への密着性(封止性)が極めて高いものとなり優
れた防水機能を実現」(段落【0035】)などとされているから,内部\n水切り部材は,その固定板の下面端縁側を野地板等に密着させることで,
水等の液体の開口部への侵入を防止する機能を有するものであると解さ\nれる。
そうすると,構成要件D等における「封止する状態にして固定」とは,\n内部水切り部材の固定板の下面と野地板等を,水等の液体が開口部に侵入
しない程度に密着させて固定する状態をいうものと解するのが相当であ
る。
これに対し,原告は,構成要件D等の「封止」とは,「精密部品などを\n外気に触れないように,隙間なく包むこと。または,その技術。」を意味
すると主張するが,この定義は精密機械等に外気が接することを念頭に置
いたものであり,外気ではなく液体の流通が問題となる本件各発明におい
ては妥当しない。
(イ) 構成要件F等における「前記固定板外周に沿って防水テープが貼\付され
ている」の意義
更に進んで,構成要件F等における「前記固定板外周に沿って防水テー\nプが貼付されている」の意義について検討する。\n本件発明2及び4に係る特許請求の範囲の記載によれば,内部水切り部
材の固定板外周に沿って防水テープを貼付するのは,同固定板下面と開口\n部周囲の野地板上面等との間で液体の流通を封止する状態にして固定す
るためであり,また,構成要件F等においては,「固定板外周に沿って」\n防水テープを貼付するものとされているから,「前記固定板外周に沿って\n防水テープが貼付されている」とは,内部水切り部材の固定板の外周全体\nに防水テープが貼付されていることを意味すると解するのが自然である。\n本件明細書等の記載をみても,防水テープ15で固定板21の外周に沿っ
てその全周にわたって貼付する態様の実施例のみが記載されている(段落\n【0032】,【図4】)。
そうすると,構成要件F等の「前記固定板外周に沿って防水テープが貼\
付されている」とは,内部水切り部材の固定板の外周全体に防水テープが
貼付されていることを意味するものと認められる。\n
(ウ) A邸工事と本件発明1及び3との対比
上記(ア)及び(イ)の解釈を前提として,A邸工事の方法等と本件各発明と
を対比すると,A邸工事は,アルミフラッシングの「固定板の下面が開口
部周囲の野地板上面に密着して配置され」,かつ,「上記アルミフラッシ
ングの四角形状の固定板の縁部分の棟側及び左右両側には,粘着剤層を有
する防水テープを貼付する」構\成を有するのであるから,A邸工事は,上
記固定板の下面が,野地板上面と,水等の液体が開口部に侵入しない程度
に密着して固定されている構成,すなわち「アルミフラッシングの固定板\n下面と開口部周囲の野地板上面との間で液体の流通を封止する状態にし
て固定する」構成を有するものと推認することができる。\n したがって,A邸工事は構成要件D等を具備し,本件発明1及び3は新\n規性を欠くこととなる。
(エ) A邸工事と本件発明2及び4との対比
前記のとおり,本件発明2及び4の構成要件F及びMの「前記固定板外\n周に沿って防水テープが貼付されている」とは,内部水切り部材の固定板\nの外周全体に防水テープが貼付されていることを意味するところ,A邸工\n事においては,アルミフラッシングの四角形状の固定板の縁部分の棟側及
び左右両側には防水テープが貼付されているが,その軒側にはこれが貼\付
されていないから,この点で両者は相違することとなる。
したがって,本件発明2及び4が新規性を欠くということはできない。
ウ 進歩性の有無について
前記判示のとおり,A邸工事の方法と本件発明2及び4の構成要件F等は,\n固定板の外周のうち軒側に防水テープが貼付されているかどうかにおいて\n相違するところ,防水テープは,開口部に水が浸入しないようにするために
内部水切り部材の固定板に貼付するものであるから,四角形状の固定板の縁\n部分の上記3辺に防水テープを貼付した上,更に念を入れて軒側の下辺にも\n防水テープを貼付することについて,当業者であれば当然に想到し得たもの\nと考えられる。
これに対し,原告は,インナーフラッシングの固定板の3辺に防水テープ
を貼付して固定していた構\成を,全周にわたり防水テープを貼付する構\成に
置き換えると,部材や工数が増加して過剰なコストや手間を要することにな
るから,阻害要因があると主張するが,A邸工事の開口部は1辺が40cm程
度であること(乙12資料3)からして,軒側の1辺に防水テープの貼付す\nる部材のコストや工数の負担はごくわずかなものと考えられるので,原告の
主張するような阻害要因があるということはできない。
したがって,本件発明2及び4は,公然実施されたA邸工事に基づき当業
者が本件特許出願当時に容易に想到し得たものであるというべきである。
エ 小括
前記イのとおり,本件各発明に係る特許出願より前である平成19年6月
28日に公然と実施されたA邸工事は,本件発明1及び3の構成要件を全て\n充足するから,本件発明1及び3は新規性を欠く。
また,前記ウのとおり,A邸工事は,アルミフラッシングの四角形状の固
定板の軒側縁部分に防水テープが貼付されていない点で本件発明2及び4\nと相違するが,当業者は,同部分にも防水テープを貼付する構\成に容易に想
到し得るといえるから,本件発明2及び4は進歩性を欠く。
したがって,本件各発明は,いずれも特許無効審判により無効にされるべ
きものと認められる。
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2019.11.26
平成30(ワ)12609 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月9日 東京地方裁判所
スマホ用のアプリについての特許侵害事件です。東京地裁29部は、無効理由無し、差止の必要性ありとして請求を認容しました。原告はヤマハ(株)です。被告アプリの名称から、下記サービスがヒットしましたが、これかどうかは不明です。https://www.cbnet.co.jp/archives/1978
本件発明1は,(1)案内音声である再生対象音を表す音響信号と当該案内音声である再生対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音さ\nれた音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,(2)情報抽出手
段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,(3)情報要求に含まれる
識別情報に対応するとともに案内音声である再生対象音に関連する複数の関連情報
のいずれかを受信する受信手段,(4)受信手段が受信した関連情報を出力する出力手
段としてコンピュータを機能させることにより,赤外線や電波を利用した無線通信に専用される通信機器を必要とせずに,案内音声である再生対象音の識別情報に対\n応する関連情報を利用者に提供することを可能とする(【0005】)。
エ 以上に加えて,本件発明1は,前記送信手段が,当該端末装置にて指定され
た言語を示す言語情報を含む情報要求を送信し,前記受信手段が,情報要求の識別
情報に対応するとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の
言語情報で指定された言語に対応する関連情報を受信するという構成を採用することにより,相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の言語情報で指\n定された言語に対応する関連情報を受信することができ,使用言語が相違する多様
な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものである(【0006】等)。\n
・・・
被告は,(1)乙9公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音
された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の
関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙9技術を開示しているところ,本件
発明1も乙9技術を採用するものであり,相違点1−5ないし同1−7は,情報要
求に含まれる情報の内容,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違
にすぎず,当業者が適宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,
乙9発明1に,乙10発明又は乙5公報及び乙10公報記載の周知技術,並びに周
知技術(乙14等)を組み合わせるなどして,相違点1−5ないし同1−7に係る
本件発明1の構成を容易に想到し得た旨主張する。しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記(1)エと同様に,乙9
公報等に音響IDとインターネットを用いた同種の情報提供が開示されていたとし
ても,本件発明1は,その手順や方法を具体的に特定し,使用言語が相違する多様
な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるから,相違点1−5ないし同1−7に係る\n本件発明1の構成が当業者において適宜設定できる事項であるということはできない。\n
・・・
5 争点6(差止めの必要性は認められるか)について
被告は,本件アプリについて差止めの必要性は認められないとし,その理由とし
て,(1)本件口頭弁論終結時点において,本件アプリに係るサービスは実用化されて
いなかったこと,(2)被告は,平成30年5月以降,本件アプリの配信を中止し,多
言語で情報配信を行う機能を取り除いた本件新アプリを配信しており,本件訴訟の結果によって本件アプリに係る事業を再開するか否かを決定する予\定であること,
(3)被告は,今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語の関連情報を提供することを禁ずる旨の約束や,案内音声である第1言語の再生対\n象音が表す発音内容を第2言語で表\\現した情報を提供することを禁ずる旨の約束を
する意思があることを主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本件アプリは,本件発明1の技術的範囲に属
し,本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないから,
前記第2の2(4)のとおり,被告は,少なくとも,平成29年5月頃から平成30年
6月頃まで,本件アプリを作成し,譲渡等及び譲渡等の申出をし,平成28年6月から平成29年3月までの間に3回にわたり本件アプリを使用することによって本\n件特許権1を侵害していたものである。
これらに加えて,被告が本件訴訟において本件アプリが本件発明1の技術的範囲
に属することを否認して争い,本件特許1について特許無効審判により無効にされ
るべきであると主張していること,弁論の全趣旨によれば,被告は,現在も,ウェ
ブサイトに本件アプリの説明や広告を掲載していると認められ,被告が本件アプリ
の作成等を再開することが物理的に不可能な状況にあるとは認められないことなども考慮すると,被告は,今後,本件特許権1を侵害するおそれがあるものというべ\nきであるから,原告が被告に対し,その侵害の予防のため,本件アプリの作成等の差止を求める必要性は認められるものというべきである。\n
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2019.11.26
平成30(ワ)16555 特許権侵害差止等請求事件 民事訴訟 令和元年10月29日 東京地方裁判所
特許権侵害事件で、技術的範囲に属しないと判断されました。争点は、「プロカルシトニン3−116を測定する」の意義です。
ア 本件発明の特許請求の範囲の記載は「患者の血清中でプロカルシトニン3
−116を測定することを含む,敗血症及び敗血症様全身性感染を検出する
ための方法。」であり,その構成要件Aは「患者の血清中でプロカルシトニン\n3−116を測定することを含む」というものであるところ,特許請求の範
囲には,その意義について規定する記載はないが,「測定」とは,一般的に,
「長さ,重さ,速さなど種々の量を器具や装置を用いてはかること」(大辞林
(第3版))との意味を有する。
そうすると,特許請求の範囲の記載からは,構成要件Aの「プロカルシト\nニン3−116を測定すること」とは,敗血症等を検出するため,血清中に
含まれるプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味する
ものと解するのが自然である。
イ また,前記1(2)のとおり,本件明細書の記載によれば,敗血症等の患者の
血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンについて,従前プロシ\nカルシトニン1−116と暫定的,一般的にみなされるなどしていたところ,
本件発明は,敗血症等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカル\nシトニンが,プロカルシトニン1−116ではなく,プロカルシトニン3−
116であるという発見に基づき,新規な敗血症等の診断方法を提供するこ
とを目的とするものである。そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,
「プロカルシトニン3−116を測定すること」の意義について,特段の記
載はない。そうすると,本件明細書の記載からも,構成要件Aの「プロカル\nシトニン3−116を測定すること」とは,敗血症の検出のため,上記の発
見に基づきプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味し,
その測定結果が敗血症等の検出に用いられることと理解できる。
ウ 原告は,構成要件Aの「プロカルシトニン3−116を測定すること」と\nは,プロカルシトニン3−116を敗血症等の検出に必要な精度で測定する
ことをいい,プロカルシトニン1−116と区別してプロカルシトニン3−
116を特異的・選択的に測定することを必須とするものではない旨主張し,
その根拠として,本件明細書の実施例において,プロカルシトニン3−11
6を特異的・選択的に測定することが困難なイムノアッセイによりプロカル
シトニンの濃度を測定することが記載されていること,本件明細書の記載等
を踏まえると,患者の血清中でプロカルシトニン1−116とプロカルシト
ニン3−116とを区別することなくプロカルシトニン一般を測定したと
しても,その濃度は,おおよそプロカルシトニン3−116の濃度であり,
測定されたプロカルシトニン3−116の濃度は敗血症等の検出に必要な
精度になっていることを指摘する。
しかし,本件明細書のイムノアッセイによる測定に関する記載について,
正常者及び敗血症患者の血清中のプロカルシトニン濃度の測定結果と,これ
と同時に行われたこれらの者の血清中のプロホルモン濃度の測定結果と対
比することにより,正常者と敗血症患者の間の濃度の差異がプロカルシトニ
ンにおいて際立っていることを示すものである旨の記載があることからす
ると(段落【0059】【0062】【0063】【表3】),上記測定は,「敗\n血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法」の実施例であるとは認
められないから,原告の上記主張の根拠となるとは認められない。
また,仮に,敗血症患者の血清中に含まれるプロカルシトニンの大部分が
プロカルシトニン3−116であるという関係があるとしても,プロカルシ
トニン3−116を測定することとプロカルシトニン一般を測定すること
が同義とはいえないことは明らかである,また,敗血症等であるかどうかが
明らかではない患者については,その血清中のプロカルシトニンの大部分が
プロカルシトニン3−116であるかどうかは明らかではないといえるほ
か,本件明細書には,患者の血清中のプロカルシトニン濃度を測定すること
により敗血症等を検出する技術は本件発明の優先日前に従来技術として存
在したところ,本件発明は,従来技術に対して新規のものである旨が記載さ
れているのであって,原告の主張は採用することはできない。
以上によれば,原告の主張には理由がなく,これを採用することはできな
い。
エ 以上によれば,構成要件Aの「プロカルシトニン3−116を測定する\nこと」とは,プロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味す
るものと解される。
(2)前記前提事実(第2の1(4)のとおり,被告装置及び被告キットを使用する
と,プロカルシトニン3−116とプロカルシトニン1−116とを区別する
ことなく,いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度を測定することができ,
その測定結果に基づき敗血症等の鑑別診断等が行われていると認められる。被
告装置及び被告キットを使用して敗血症等を検出する過程で,プロカルシトニ
ン3−116の量が明らかにされているとは認められない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告方法は,構成要\n件Aを充足するものとは認められない。
◆判決本文
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2019.11.18
平成31(ネ)10031 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月10日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
一審原告製の使用済み中空芯管をそのまま利用して生産された薬剤分包用ロールペーパの特許権・商標権を侵害すると判断されました。1審では、商標権侵害は認められていましたが、差止請求が棄却されていましたが、その点は同じです。
本件訂正発明は,構成要件A〜Dからなる「薬剤分包用ロールペーパ」に係る\n発明であるところ(構成要件E),構\成要件Aには薬剤分包装置に関する事項が,
構成要件B及びDにはロールペーパ及びその中空芯管並びにロールペーパに配\n設される複数の磁石(以下,併せて「本件ロールペーパ等」という。)に関する
事項が,構成要件Cには薬剤分包装置及びロールペーパに関する事項が,それぞ\nれ記載され,構成要件Aにおいて,ロールペーパと薬剤分包装置の関係につき,\n前者が後者に「用いられ」るものとして記載されている。
本件訂正発明は,「薬剤分包用ロールペーパ」という物の発明であると認めら
れるところ,物の発明の特許請求の範囲の記載は,物の構造,特性等を特定する\nものとして解釈すべきであること,「用いられ」が,構成要件Aの中で「・・・\nようにした薬剤分包装置に用いられ,」とされていることからすると,「用いら
れ」とは,本件ロールペーパ等が構成要件Aで特定される薬剤分包装置で使用可\n能なものであることを表\していると解される。
(3) 被告製品の構成要件充足性について\n
ア 前記(2)を前提に検討すると,構成要件Aのうち「ロールペーパの回\n転速度を検出するために支持軸の片端に角度センサを設け」との記載は,本件ロ
ールペーパ等の「複数の磁石」につき,支持軸の片端に設けられた角度センサに
よる検出が可能な位置に配設されるものであることを特定するものと理解でき,\nまた,構成要件Aのうち「ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその\n固定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設
け」との記載は,本件ロールペーパ等について,薬剤分包装置の中空軸と接する
中空芯管の端に,中空軸と着脱自在に固定する手段を設けることで,そのような
態様で回転させられるものであることを特定するものと理解できる。
そうすると,本件訂正発明に係る薬剤分包用ロールペーパの技術的範囲は,構\n成要件B〜Eと,構成要件Aによる上記特定に係る事項によって画されるもの\nであるから,被告製品が構成要件A〜Eで特定される本件ロールペーパ等とし\nての構成を備えていて,構\成要件Aで特定される薬剤分包装置に利用可能なも\nのについては,被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属するものと認められ,
被告製品が構成要件Aで特定される薬剤分包装置に実際に使用されるか否かと\nいうことは,上記構成要件充足の判断に影響するものではないと解される。\n
イ(ア) 被告製品は,前提事実(6)のとおりの構成を有するところ,弁論\nの全趣旨によると,被告製品の構成a,b,c,dは,本件訂正発明の構\成要件
B,C,D,Eをそれぞれ充足するものと認められる。
(イ) 弁論の全趣旨によると,被告製品の中空芯管内部に配設された
3個の磁石は,支持軸の片端に設置された角度センサによる信号の検出が可能\nな位置に配設されたものであり,また,被告製品は,薬剤分包装置の中空軸に着
脱自在に装着されて,固定時に中空軸と一体となって回転し得るものであって,
その手段がロールペーパと中空軸が接する端に設けられているものと認められ
る。
(ウ) したがって,被告製品は,本件訂正発明の構成要件B〜Eと構\成
要件Aによる上記アの特定に係る事項を充足し,構成要件Aで特定される薬剤\n分包装置で使用可能なものであると認められる。\n
ウ よって,被告製品は,本件訂正発明の技術的範囲に属するものと認め
られる。
(4) 一審被告らの主張について
ア 一審被告らは,本件訂正発明が用途発明であり,また,本件訂正発明
において保護されるべき特徴的部分は,薬剤分包装置側の構成又は機能\である
ことなどから,被告製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられては\nじめて本件特許権に対する侵害が成立すると主張する。
しかし,前記(2)で検討したとおり,本件訂正発明は用途発明ではない。また,
本件訂正発明の技術的意義は,前記(1)認定のとおりであって,本件訂正発明の
特徴的部分が薬剤分包装置のみにあるということはできない。
したがって,一審被告らの上記主張は採用することができない。
なお,特許庁の審査基準(甲22)も,サブコンビネーション発明について用
途発明と同様に解釈することを求めているものとは解されない。
イ 一審被告らは,一審原告は,本件補正に際して,本件訂正発明の技術
的特徴が構成要件Aにあることを主張していたと主張する。\n一審原告は,本件補正に際しての意見書(乙9)において,本件補正に先立つ
拒絶理由通知の引用文献記載の技術に対して,「本願発明では『回転角度と測長
センサの検出信号を検出してロールペーパの巻量が検出可能な位置に配置され\nた磁石』の構成を有し,かつ『角度センサの信号とずれ検出センサの信号との不\n一致により上記中空軸に着脱自在に装着されたロールペーパと上記中空軸との
ずれを検出するようにした』薬剤分包装置に用いられることを前提とするロー
ルペーパについての発明であり,部分的な構成部材の抽象的,総論的な構\成が公
知,周知であるという理由だけで,本願発明の全体の構成が全て否定されること\nにはならないと考えます。」と主張しているものの,そのことから直ちに一審原
告が構成要件Aを充足する薬剤分包装置で用いられることが必要であるとまで\n主張していたとは解されないから,一審被告らの上記主張を採用することはで
きない。
ウ 一審被告らは,原審裁判所の暫定的見解について主張するが,原審裁
判所の暫定的見解によって当審の判断が左右されないことは明らかである。
・・・・
一審被告らは,非純正品であることを明示して販売していたことや
購入者が調剤薬局であることなどからすると,購入者は被告製品が非純正品で
あること,すなわち,一審原告の製品ではないことを正確に認識しており,出所
表示機能\や品質保証機能が害されていないから,商標法26条1項6号が適用\nされるか,実質的違法性を欠き,商標権侵害が成立しないと主張する。
しかし,以下の(ア)〜(オ)の各事情を考え併せると,購入者の全てが,被告製
品が非純正品であること,すなわち,一審原告の製品ではないことを正確に認識
していたとは認められず,一審被告らの上記主張はその前提を欠くものであっ
て,採用することができない。
(ア) まず,前記(1)イのとおり,被告製品については,ウェブサイト
のみならず,ダイレクトメールやFAX等による宣伝活動もされており,顧客が
一審被告らのウェブサイトを経由することなく被告製品を購入する場合もあっ
たと認められるところ,ダイレクトメールやFAXにおいて,どのような態様で
宣伝がされていたのかは証拠上必ずしも明らかではない。
(イ) 一審被告らは,顧客に対し,非純正品であることを説明していた
と主張するが,一審被告らの下で稼働していた従業員は,その点に関し,刑事事
件の公判廷において,「電話で口頭で説明するときに,『純正の紙と違うので』
と説明した。」,「電子メールで顧客に説明する際にも電話での説明の場合と同
様に非純正であることを顧客に説明したように思うが,よく覚えてない。」と曖
昧な供述をしている(乙4)上,同供述の裏付けとなるような顧客への対応マニ
ュアルや顧客に送付された電子メールといったようなものは何ら証拠として提
出されていないから,一審被告らの主張するような説明が常に顧客に対してさ
れていたとは認められない。
(ウ) 被告製品の購入を申し込むために顧客が一審被告らに対して送\n付する「注文書兼使用許可書」についても,「非純正」の文字(乙25の1・2)
は,後から記載されるもので,常に記載されていたのかは証拠上明らかではない
し,また,「非純正」の文字が取り立てて大きく表示されたり,強調されたりし\nていないことからすると,仮に記載されていたとしても顧客がこれに気付かな
いこともあり得る。そして,前記(1)イのとおり,顧客から使用済み芯管の送付
を受けることなく,被告製品が販売された事例があることからすると,上記の
「注文書兼使用許可書」が常に使用されるものであったとも認められない。
納品書(乙26)についても,「分包紙はお客様からお預かりした芯で作りま
した。」とだけ記載されており,非純正品であることが明示されているわけでは
ない。
(エ) 前記(1)ウのとおり,一審被告らのウェブサイトには「非純正分
包紙」という記載があったものの,被告ネクストウェブサイトの非純正品ウェブ
ページ1では,「ユヤマ分包機対応」との記載に続いて各種の製品が表示されて\nいるのみで,非純正品であることが明示的に記載されていなかった上,被告ヨシ
ヤウェブサイトの非純正品ウェブページ2でも,「ユヤマ分包機対応」という記
載と共に各種の製品が表示されており,「非純正分包紙」という記載が左欄に小\nさく記載されているにすぎないことからすると,一審被告らのウェブサイトに
接した購入者の全てが,被告製品が非純正品であると正確に認識するとは認め
られない。
(オ) 購入者が調剤薬局であるからといって,その注意力が常に一般
消費者に比して高いとまではいえず,購入者の一人が,被告製品が非純正品であ
ると認識していたことがある(乙19,113)からといって,それにより全購
入者が同じ認識であったとは認められない。
なお,一審被告らは,調剤薬局の薬剤師の間では,当該調剤薬局で使用してい
る薬剤分包用ロールペーパの仕入先や問合せ先に関する情報が共有されている
と主張するが,上記(ア)〜(オ)で検討してきたところによると,そもそも,調剤
薬局において,被告製品を非純正品(一審原告の製品でないもの)として購入す
るとは限らないというべきであるから,仕入先や問合せ先に関する情報が共有
されるかどうかは,本件の結論を左右するものではない。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成28(ワ)7536
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2019.11. 1
平成31(ネ)10014 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審同様、技術的範囲に属する、無効理由無し(サポート要件、実施可能要件、進歩性)と判断されました。
上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク
質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ
れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結
合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使
用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は,
かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって,
PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより,
対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症
などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することにあると理解することができる。\n本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用
してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体
を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体
について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合
しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること,
また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含
まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ
れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD
LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。
21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21
B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗
体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細
書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個
の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え
て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同
様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体
を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認
識できると認められる。
さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免
疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や
31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す
るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業
者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって,
本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗
体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら
れる。
以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン
パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル
抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ
クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成
物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す
る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できることを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に\n適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結
合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定
される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ
により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。
しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照
抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし,
参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。\nそして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特
定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために,
その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない(甲34,35)。\n前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し,
本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参
照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と
LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること
を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。\n
(4) 本件各訂正発明のサポート要件適合性
なお,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,本件各訂正発明も,いずれもサポート要件に適合するものと認められる。
(5) 小括
以上によれば,本件各発明及び本件各訂正発明は,いずれもサポート要件に適合
するというべきである。
4 争点(2)イ(実施可能要件違反)について
(1) 前記3(1)の認定事実によれば,本件各明細書の記載から,本件発明1−1及
び2−1の抗体及び本件発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し,使用するこ
とができるものと認められるから,本件各明細書の発明の詳細な説明の記載は,当
業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができる。\nしたがって,本件各発明は,いずれも,実施可能要件に適合するものと認められる。\n
(2) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ
れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な\n時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能要件を満たさない旨主張する。\nしかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ
とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求められるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程\n度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる\nからである。
本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,
PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗
体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そして,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す\nることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離
されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度
の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ\nることまで記載されている必要はない。
また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない
抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認
識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に記載されているかどうかは,実施可能\要件とは関係しないというべきである。そして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細
書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範
囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ
るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得
る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。
よって,控訴人の主張は採用できない。
(3) 本件各訂正発明の実施可能要件の適合性
なお,前記3(4)のとおり,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,当業者は,本件各明細書の記載から,本件訂正発明1
−1及び2−1の抗体及び本件訂正発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し,
使用することができるものと認められ,本件各訂正発明も,いずれも実施可能要件に適合するものと認められる。\n
◆判決本文
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2019.10.21
平成30(ネ)10006等 特許権侵害行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月11日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
ゲームの特許について、約1.7億円の損害賠償が認められました。1審よりも損害賠償額が上がりました。これは1審では、A事件は特許無効と判断されましたが、知財高裁はA事件の特許に無効理由無しと判断したためです。
これに対し控訴人は,本件発明A1の「拡張ゲームプログラムおよび
/またはデータ」は,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容
を楽しむことが可能となるものであるから(本件明細書Aの【0020】\n等),標準のゲーム内容を置き換えるゲームプログラム及び/又はデー
タを含まないと解され,本件発明A1と公知発明1との間には,相違点
1−1及び1−2のほかに,相違点1−3ないし1−5が存在する旨主
張する。
そこで検討するに,本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記
載によれば,「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は,
「標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラ
クタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および\n/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲー
ムプログラムおよび/またはデータ」であり,「第2の記憶媒体」に「包
含」されるものであって,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装
填され」,「上記ゲーム装置が」「第1の記憶媒体」が「包含する」「所
定のキーを読み込んでいる場合に」,「上記標準ゲームプログラムおよ
び/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの
双方によってゲーム装置を作動させ」ることを理解できる。
一方,上記特許請求の範囲には,「上記標準ゲームプログラムおよび
/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双
方によってゲーム装置を作動させ」た場合に動作する「上記標準ゲーム
プログラムおよび/またはデータ」が,「上記標準ゲームプログラムお
よび/またはデータ」の全部であると限定して解釈すべき根拠となる記
載はない。そして,本件明細書Aの発明の詳細な説明にも,「上記標準
ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムお
よび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」る場合とは,
「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」の一部しか作動し
ない場合を含まないものであり,「上記標準ゲームプログラムおよび/
またはデータ」の全部が動作することが必要であると解釈すべき根拠と
なる記載はない。
前記(ア)のとおり,本件公知発明1の「勇士の紋章DDII」は,魔洞戦
紀DDIから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以
上であるときには,(1)そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最
初から2となり,(2)神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。
がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され,アイテム「くさのつゆ」\n及び「しろきのこ」が1つ増える,という動作機能を実行するゲームプ\nログラム及び/又はデータを包含するものである。
そうすると,上記(1)の点は,「勇士の紋章」の標準のゲーム内容であ
ればレベル1からスタートするゲームキャラクタのレベル(乙A4の2・
11枚目,乙A8の1・8頁)をレベル2からスタートできるようにす
るものであり(乙A4の1・8枚目),上記(2)の点は,標準のゲーム内
容であれば金貨(GOLD)で支払わなければ取得できないアイテム(乙
A4の1・13枚目,乙A4の2・8枚目)を神殿で祈ることで取得で
きるようにするものであって(乙A9・2頁,乙A10・3頁),いず
れも新たな機能をゲームキャラクタに持たせるものであるから,これが\n「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」に当たることは明らかである。\nまた,上記(2)の点は,「勇士の紋章」の標準のゲームの内容であれば,
神殿で祈ると「あなたのたたかいが ぶじおわりますよう。あくまに わ
ざわいを!」とのメッセージのみが表示される場面を,神殿で祈ると「ゆ\nうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが
表示され,アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えると\nいう場面とするものであるから,これが「場面の拡張」に当たることも
明らかである。
以上によれば,本件公知発明1の「勇士の紋章DDII」は,「標準ゲ
ーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム及び/又はデータ」に加\nえて,「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面の拡張」を\n達成するためのゲームプログラム及び/又はデータ,すなわち,本件発
明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」を包含するも
のといえる。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 他方,被控訴人は,公知発明1における「所定のキー」に相当する「キ
ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」とは,
(1)魔洞戦紀DDIが装填されたことを示すデータ及び(2)キャラクタ(じ
ゅんく)のレベルが16以上であるセーブデータである旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲A4の1,4の2,13の2)及び弁論
の全趣旨によれば,本件ゲームシステムA1において,まず,勇士の紋
章DDIIを装填し,次いで,「まどうせんきのAメンをいれてください」
というインストラクションに基づき,魔洞戦紀DDIを装填し,キャラ
クタ「じゅんく」を選択した後,再度,勇士の紋章DDIIを装填した場
合には,勇士の紋章においてもキャラクタ「じゅんく」でプレイできる
ことが認められる。
しかしながら,魔洞戦紀DDIを装填することにより当然に,本件発
明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」に相当する,
本件公知発明1の「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面\nの拡張」を達成するためのゲームプログラム及び/又はデータと,標準
ゲームプログラム及び/又はデータの双方によって,ファミリーコンピ
ュータが作動されるものではない。前記(ア)及び(イ)のとおり,本件公知
発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲームプ
ログラム及び/又はデータの双方によってファミリーコンピュータを作
動させ」るには,魔洞戦紀DDIから,キャラクタ(じゅんく)のレベ
ルが16以上であるセーブデータを読み込むことが必要であり,かかる
データを読み込んでいない場合には,上記のようにインストラクション
に基づき魔洞戦紀DDIを装填するなどの作業をしたとしても,本件公
知発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによって
ファミリーコンピュータを作動させる」こととなる。
以上によれば,上記(1)のデータは,本件公知発明1の「拡張ゲームプ
ログラムおよび/またはデータ」を作動させる条件であるとはいえない
から,本件発明A1の「所定のキー」に相当する本件公知発明1の「キ
ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」には,
上記(1)のデータは含まれないといえる。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 本件発明A1と本件公知発明1の対比
本件発明A1と本件公知発明1とを対比すると,以下の相違点が存在す
ることが認められる。
(相違点1−1)
一の記憶媒体,二の記憶媒体が,本件発明A1は,「記憶媒体(ただし,
セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し,本件公\n知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」である点。\n
(相違点1−2)
本件発明A1の「第1の記憶媒体」は,セーブデータを記憶可能な記憶\n媒体を除くから,「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し,本
件公知発明1では,魔洞戦紀DDIに包含される「所定のキー」が,魔洞
戦紀DDIに記憶されたセーブデータであって,魔洞戦紀DDIにセーブ
されたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 本件公知発明1の技術思想
本件公知発明1の内容に加え,前記アに掲記の各証拠及び弁論の全趣
旨を総合すれば,(1)ディープダンジョン(DD)シリーズの後作「勇士
の紋章」は,前作「魔洞戦紀」の続編であって,両者は,魔洞戦紀にお
いて,魔王が勇剣士に倒され平和を取り戻したものの,勇士の紋章にお
いて,魔王が復活し,勇剣士が再び冒険するという一連のストーリーを
有するゲームであること,(2)「魔洞戦紀」の勇剣士のキャラクタを,「勇
士の紋章」に転送することにより,「魔洞戦紀」の「勇剣士」を,「勇
士の紋章」の「勇士」として復活させることができること,(3)「魔洞戦
紀」において,キャラクタのレベルが16以上であれば,レベル1から
ではなく,レベル2のキャラクタとして「勇士の紋章」でプレイできる
こと,(4)このような場合に,「魔洞戦紀」から転送されたレベル16以
上のキャラクタは,「勇士の紋章」においては「勇剣士の子孫」として
復活すること,(5)「魔洞戦紀」のキャラクタリストは,「魔洞戦紀」に
おいて,特定のキャラクタでゲームをプレイしている途中で中断し,そ
の後,中断した場面からゲームを再開してプレイするために,ディスク
にセーブされたものと解されることが認められる。
上記認定事実によれば,本件公知発明1は,前作と後作との間でスト
ーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲーム
のキャラクタでプレイしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作
のゲームのプレイを有利にしたりすることによって,前作のゲームをプ
レイしたユーザに対して,続編である後作のゲームもプレイしたいとい
う欲求を喚起し,これにより後作のゲームの購入を促すという技術思想
を有するものと認められる。
(イ) 相違点1−1について
前記(ア)のとおり,本件公知発明1は,キャラクタでプレイするゲーム
において,セーブされたキャラクタを前作のゲームから後作のゲームに
転送するものであり,前作のゲームにおいて,プレイ途中でセーブして,
なおかつ,キャラクタのレベルが16以上である場合に,後作のゲーム
において,ゲームのプレイが有利になるという特典が与えられるもので
ある。
そうすると,本件公知発明1は,少なくとも,前作において,ゲーム
をプレイ途中でセーブするとともに,ゲームをある程度達成した,すな
わち,前作のゲームにおいて,キャラクタのレベルが16以上となるま
でプレイしたという実績があることが,後作においてプレイを有利にす
るための必須の条件であり,「キャラクタ」,「プレイ実績」を示す情
報を前作の記憶媒体にセーブできることが本件公知発明1の前提であっ
て,「キャラクタ」,「プレイ実績」の情報をセーブできない記憶媒体
を採用すると,前作のゲームにおける「キャラクタ」,「プレイ実績」
の情報が記憶媒体に記憶されないこととなり,「前作のゲームのキャラ
クタで,後作のゲームをプレイする」,「前作のキャラクタのレベルが
16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムを動作させる」
という本件公知発明1を実現することができなくなることは明らかであ
る。
したがって,仮に,被控訴人の主張するとおり,ゲームプログラム及
び/又はデータを記憶する媒体としてCD−ROMを用いることが本件
特許Aの出願前において周知技術であり,また,同一タイトルのゲーム
をCD−ROMやROMカセットに移植することが一般的に行われてい
る事項であったとしても,本件公知発明1において,記憶媒体を,ゲー
ムのキャラクタやプレイ実績をセーブできない「記憶媒体(ただし,セ
ーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更する動機付けはな\nく,そのような記憶媒体を採用することには,阻害要因がある。
以上のとおりであるから,本件公知発明1において,相違点1−1に
係る本件発明A1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たもの\nであるとは認められない。
(ウ) 相違点1−2について
前記(イ)と同様の理由により,本件公知発明1において,相違点1−2
に係る本件発明A1の構成を採用することは,動機付けを欠き,むしろ\n阻害要因があるというべきであるから,当業者が容易に想到し得たもの
であるとは認められない。
(エ) 被控訴人の主張について
これに対し被控訴人は,相違点1−1及び1−2は,本件訂正Aによ
り,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」から「セーブデータを
記憶可能な記憶媒体」が除かれ,その結果,「所定のキー」からセーブ\nデータが除かれたこと(「除くクレーム」とされたこと)により生じた
ものであることを前提として,除くクレームとする訂正により,形式的
に主引用発明との間に相違点が存在すると認められる場合は,(1)相違点
に係る構成によって,技術的観点から主引用発明と異なる作用効果が存\n在するか否かを検討し,(2)技術的意義が認められない場合には,実質的
な相違点とはいえず新規性が否定されると解すべきであり,(3)技術的意
義が認められた場合には,当業者において適宜なし得る設計事項に過ぎ
ないか否かを検討し,設計事項に過ぎない場合には,進歩性が否定され
ると解すべきであるところ,本件訂正Aは,シリーズ化された一連のゲ
ームソフトを買い揃えていくことにより,豊富な内容のゲームを楽しむ\nことができるようにするという本件発明A1の課題との関係では,技術
的な解決手段を示したものとはいえず,技術的意義がないものであって,
本件発明A1の作用効果や技術的思想は,本件訂正Aの前後で変わらな
いから,相違点1−1及び1−2は,実質的に相違点とはいえず,少な
くとも,当業者が適宜なし得る設計事項である旨主張する。
しかしながら,前記(イ)及び(ウ)のとおり,本件公知発明1において,
相違点1−1及び1−2に係る本件発明A1の構成を採用することは,\n動機付けを欠き,むしろ阻害要因があるというべきものである。
また,本件発明A1において,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶
媒体」を「セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすること\nは,前作のプレイ実績にかかわらず,後作において拡張ゲームプログラ
ム及び/又はデータによってゲームを楽しむことができるという作用効
果を奏するものであって,技術的意義を有するものであることからする
と,相違点1−1及び1−2は,実質的な相違点であるといえるし,当
業者が適宜なし得る設計事項であるとは認められない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ) 小括
以上のとおり,本件公知発明1において,相違点1−1及び1−2に
係る本件発明A1の構成とすることには,動機付けがなく,むしろ阻害\n要因があるため,当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
したがって,本件発明A1は,当業者が本件公知発明1に基づき容易
に発明をすることができたものであるとは認められない。
・・・・
特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき
金銭の額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改
正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する
額の金銭」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では
侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除
された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許
が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最
低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの
実施料の返還を求めることができないなど様々な契約上の制約を受ける
のが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術
的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許
権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約
を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項
に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施
許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特
許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受ける
べき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろ
うことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,(1)当該特許発明の実際の
実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界に
おける実施料の相場等も考慮に入れつつ,(2)当該特許発明自体の価値す
なわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,(3)当
該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の
態様,(4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に
現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) 認定事実
a 本件特許Aについての実際の実施許諾契約の実施料率は,本件訴訟
に現れていない。
そして,証拠(乙A115,116,乙B28)及び弁論の全趣旨
によれば,以下の事実が認められる。
(a) 株式会社帝国データバンクが「知的財産の価値評価を踏まえた特
許等の活用の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価
値及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜(平成22年3月)」
(乙B28。本件調査報告書)を作成するに当たって行った,特許
権に関するロイヤルティ率情報のアンケート(以下「本件アンケー
ト」という。)の結果を記載した表2−2には,技術分類を「家具,\nゲーム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%(最大値
4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)(件数14件)と
記載されている。
(b)本件調査報告書には,本件アンケート調査結果の回答及び集計に
当たっての前提条件について,(1)ライセンス・アウト(ライセンス
を与える側)の立場での回答であること,(2)国内同業他社へのライ
センスを想定していること,(3)通常実施権(ライセンス提供先を独
占的にする訳ではなく,複数の者とライセンスを行うことができる
形態)によるライセンスを想定していること,(4)正味販売高に対す
る料率を想定していること,(5)特殊な事情(エンタイアマーケット
バリュールール(特許技術が製品の一部に使われているだけだとし
ても,侵害された部品を含む製品全体の単価に基づいて損害額を計
算するルール)によるロイヤルティ算定,契約相手の事情など)を
捨象したケースであること,(6)ロイヤルティ料率相場はカテゴリ選
択肢で回答であるが,集計時には各選択肢の中央値をロイヤルティ
料率として集計を行ったことが記載されている。
(C) 経済産業省知的財産政策室編の「ロイヤルティ料率データハンド
ブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(平
成22年8月31日発行)の「II 各国のロイヤルティ料率」には,
(1)ロイヤルティ算定方式として最も広く採用されているのは,定率
方式であり,そのロイヤルティは,「対象製品の販売価格×ロイヤ
ルティ料率」として算定されること,(2)販売価格の対象となるロイ
ヤルティベースには,総販売価格,純販売価格(正味販売価格),
小売価格等が使用されるが,実務面では,純販売価格(正味販売価
格)が採用されることが比較的多いとされること,(3)純販売価格(正
味販売価格)は,総販売価格から一定の費用項目を控除した残額と
して定義され,控除費用項目としては,一般的に,輸送費,保険料,
倉庫保管費用,リベート,包装梱包費等,販売地によって変動する
可能性のある費用項目が中心となるが,業界慣行や製品種類等によ\nって異なることが記載されている。
b 前記(1)アのとおり,本件発明A1は,ゲームプログラム及び/又は
データを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲームシス
テムを作動させる方法であって,上記記憶媒体は,少なくとも,所定
のゲームプログラム及び/又はデータと,所定のキーとを包含する第
1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラム及び/又はデータに加
えて所定の拡張ゲームプログラム及び/又はデータを包含する第2の
記憶媒体とが準備され,上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填
されるとき,上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合
には,上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲーム
プログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させる
ことにより,ユーザにとっては,一回の購入金額が適正なシリーズも
のの記憶媒体を買い揃えてゆくことによって,最終的に極めて豊富な
内容のゲームソフトを入手したのと同じになり,メーカにとっては,\n膨大な内容のゲームソフトを,ユーザが購入しやすい方法で提供でき\nるという効果をもたらすものである。
このように,本件発明A1は,ゲームシステム作動方法の発明であ
り,その構成及び効果は上記のとおりであるところ,イ−9号方法等\nは本件発明A1の技術的範囲に属するものであり,イ−9号製品等は,
ゲーム装置に装填してゲームを実行するためのゲームソフトであって,\n本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当する,同発明を実施するた
めに不可欠の物である。そして,前記(1)イのとおり,イ−9号製品等
は,本編ディスク(第1の記憶媒体)から所定のキーを読み込むこと
により,アペンドディスク(第2の記憶媒体)に記録された標準のゲ
ームプログラム及び/又はデータに加えて,拡張ゲームプログラム及
び/又はデータを作動させることができるものであるから,本件発明
A1は,イ−9号製品等にとって,相応の重要性を有するものといえ
る。
また,家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作
動方法に関し,本件発明A1の上記技術についての代替技術が存在す
ることはうかがわれない。
c(a) 前記bのとおり,本件発明A1は,イ−9号製品等に記録された
拡張ゲームプログラム及び/又はデータを作動するに当たり不可欠
な技術であるところ,家庭用ゲーム機本体に装着してゲームを楽し
むゲームソフトにおけるゲームキャラクタのもつ機能\,場面,音響
が豊富であることは,通常,需要者の購入動機に影響を与えるもの
といえる。
そして,被控訴人は,イ−9号製品等を販売するに当たり,製品
解説書(甲A5,7,8,10,11)において,MIXJOY機
能について紹介し,前作のディスク(本編ディスク)があると本作\n(アペンドディスク)とのMIXJOYを楽しむことができ,前作
のシナリオを本作のキャラクタでプレイしたり,前作では特定のキ
ャラクタとのみ迎えることができたエンディングを全てのキャラク
タと迎えることができたりする旨を説明している。
これらの事情を考慮すると,本件発明A1をイ−9号製品等に用
いることにより被控訴人の売上げ及び利益に貢献するものと認めら
れる。
・・・
a 前記(イ)のとおり,本件訴訟において本件特許Aの実際の実施許諾
契約の実施料率は現れていないところ,本件特許Aの技術分野が属す
る分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,本件アンケート結果で
は2.5%(最大値4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)
であり,同実施料率は正味販売高に対する料率を想定したものである
ことが認められる。そして,このことを踏まえた上,侵害品に係るゲ
ームソフトにおいては,ゲームのキャラクタや内容,販売方法の工夫\n等が,その売り上げに大きく貢献していることは否定できないとはい
え,本件発明A1に係る技術も,売上げの向上に相応の貢献をしてい
ると認められることや,本件発明A1の代替となる技術は存在しない
こと,控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど,本件訴訟に現れ
た事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められ
るべき,本件での実施に対し受けるべき料率(以下「本件実施料率A」
という。)は,消費税相当額を含む被控訴人の正味販売価格に対し,
3.0%を下らないものと認めるのが相当である。
b 被控訴人は,別紙1「販売開始日一覧表」記載の販売開始日から本\n件特許権Aの存続期間満了日までのイ−9号製品等の売上高(被控訴
人の卸売価格)が,別紙7「売上高(補正後)」の「売上高」欄記載
のとおりであると主張するところ,イ−9号製品等の売上高(被控訴
人の卸売価格)が上記金額を超えるものであることを認めるに足りる
証拠はない。そこで,同金額に消費税相当額(5%)を加えた金額を,
実施料算定の基礎となる価格とするのが相当である。
もっとも,前記(イ)c(C)のとおり,イ−9号製品等のうちには,本件
発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,1\n個ないし5個の当該ゲームソフトと同一シリーズのゲームソ\フト(記
憶媒体)が含まれるパッケージ商品も存在するところ,これらのゲー
ムソフトは,本件発明A1についての本件特許権Aを侵害するもので\nはなく,かつ,イ−9号製品等に含まれなくとも,単体で販売の対象
となる商品である。また,前記(イ)a(b)のとおり,本件調査報告書には,
本件アンケート調査結果の回答及び集計に当たっての前提条件につい
て,特殊な事情(エンタイアマーケットバリュールール(特許技術が
製品の一部に使われているだけだとしても,侵害された部品を含む製
品全体の単価に基づいて損害額を計算するルール)によるロイヤルテ
ィ算定,契約相手の事情など)を捨象したケースであることが記載さ
れている。そうすると,侵害品以外のゲームソフトの価格に相当する\n部分については,本件実施料率Aを乗じるべき販売価格から控除する
のが相当というべきであるから,イ−9号製品等の販売価格を侵害品
であるゲームソフトとそれ以外のゲームソ\フトとの合計数で除したも
のをもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。
また,前記(イ)c(C)のとおり,イ−19及び23(2)号製品には,本件
発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,「最\n強データ収録CD−ROM」やグッズが同梱されているものもあるが,
上記CD−ROMは,ゲームソフトで使用するデータ(キャラクタの\n能力値等が最大の状態のデータ)が記録されているに過ぎず,それら\nが単独で商品として流通するものではないから,当該製品の販売価格
全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当であ
る。
他方,イ−39号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記 プレミ
アムBOX」(希望小売価格9800円))は,同日付で発売された
イ−35号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記」(希望小売価格\n4980円))に対して,4820円高く価格が設定され,その製品
の相違は同梱グッズのみであって,イ−39号製品に含まれる同梱グ
ッズの価格は,おおむね同製品の2分の1に相当するものといえるか
ら,同製品の販売価格の2分の1を本件実施料率Aを乗ずべき売上高
とするのが相当である。
さらに,イ−40号製品(「遥かなる時空の中でプレミアムBOX
コンプリート」)は,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当する
ゲームソフトのほかに,これと同一の「遥かなる時空の中でシリーズ」\nのゲームソフト5個が含まれるところ,同製品についても,イ−39\n号製品と同様に,同梱グッズの価格は,これと対応するゲームソフト\nの価格のおおむね2分の1に相当するものといえる。そうすると,同
製品の販売価格の12分の1をもって,本件実施料率Aを乗ずるべき
売上高とするのが相当である。
c 以上によれば,本件特許権Aの侵害について,特許法102条3項
により算定される損害額は,別紙10のとおり計算され,その合計額
は1億1667万3710円となる。
(エ) 控訴人の主張について
控訴人は,(1)本件発明A1及びA2は,イ号製品のユーザにおいて実
施されるゲームシステム作動方法であること,イ号製品のような本件特
許権Aの間接侵害を構成する製品の製造販売に関する特許権者の許諾は,\n当該製品がユーザに販売されることを当然の前提とすることなどから,
実施料率算定の基礎となるイ−9号製品等の売上高は,被控訴人の卸売
価格ではなく小売価格とすべきである,(2)イ−9号製品等に同梱される
アイテムがある場合でも,イ号製品は,同梱されたアイテムを含む製品
全体で一個の商品(販売単位)であり,製品の販売等行為全体が一個の
特許権侵害を構成するから,イ−9号製品等の販売価格全体が本件実施\n料率Aに乗ずべき価格となる旨主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,控訴人の主張を裏付けるに足
りる客観的な証拠はない。前記(イ)aのとおり,本件特許Aの技術分野が
属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率は,正味販売高に対する
料率を想定したものであることからすると,実施料算定の元となる売上
高は,被控訴人のイ−9号製品等の販売価格,すなわち卸売価格とする
のが相当である。
上記(2)の点については,前記(ウ)bのとおり,イ−9号製品等のうち,
本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフト以外のゲー\nムソフトを含むものや,同梱されたグッズが,商品構\成や価格構成上,\n明らかにゲームソフトとは別の価値を有するもの,すなわち,別個の商\n品として扱われていると判断し得るものについては,これらのゲームソ\nフト及びグッズの価格に相当する金額を本件実施料率Aを乗ずべき価格
から控除するのが相当である。
控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するものでは
ない。
(オ) 被控訴人の主張について
被控訴人は,(1)実施料率算定の基礎となるべき正味販売価格に消費税
相当額は含まれない,(2)本件調査報告書によれば,「家具,ゲーム」の
技術分野には,「ビデオゲーム」のような全体の一部に特許発明が実施
されているもの以外に,「家具」,「カードゲーム,盤上ゲーム,ルー
レットゲーム;小遊技動体を用いる室内用ゲーム」も含まれるため,本
件特許Aの実施料率は,上記実施料率の平均値(2.5%)より低くな
る,(3)同梱グッズについても,別紙7「売上高(補正後)」記載のとお
り,そのアイテム数に応じて売上高を補正すべきである,(4)本件発明A
1は,セーブデータを「所定のキー」とする方法,「拡張ゲームプログ
ラム等」の一部を「所定のキー」とする方法,第2の記憶媒体に「拡張
ゲームプログラム等」のみを記憶する方法により,同発明と同様の作用
効果を奏しながら,同発明を回避することができる,(5)控訴人は,競業
者と特許クロスライセンス契約を締結し,「ライセンスなどの特許権の
有効活用を促進」するとしたプレスリリースを公開しており(乙A83
の1〜3),むしろ開放的ライセンスポリシーを採用している,(6)イ号
製品は,武将やステージを新規に追加するものというよりは,「違った
遊びを提供するという概念で開発」されたものであり,本編ディスクで
はプレイできなかったモードを提供することが主眼となった製品であっ
て,それ単体でも十分楽しめる内容である反面,MIXJOYをするこ\nとで可能となるのは,本編ディスクでプレイできたモードやシナリオを\nアペンドディスクでもプレイできるというものであり,MIXJOYを
行う場面は限定されている旨主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,消費税相当額も被控訴人の販
売価格の一部としてそれに含まれているものであるから,損害額の算定
に当たって消費税相当額を控除すべき理由はない。
上記(2)の点については,前記(イ)a(a)のとおり,本件アンケート結果
を記載した,本件調査報告書の表2−2には,技術分類を「家具,ゲー\nム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%であり,件数は1
4件である旨が記載されているものの,アンケート回答者の保有する特
許の内容,特許の実施品について,具体的な記載はない。したがって,
本件調査報告書の記載からは,本件特許Aの実施料率が,上記実施料率
の平均値より低くなると認めることはできない。
上記(3)の点については,前記(イ)c(C)のとおり,イ−9号製品等に同梱
されているグッズは,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当するゲ
ームソフトの付属物というべきものであって,単独で商品として流通す\nるものではないから,イ−39及び40号製品に同梱されたグッズを除
き,当該製品の販売価格全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上
高とするのが相当である。
上記(4)の点については,i)前記(5)ウ(エ)のとおり,本件発明A1にお
いて,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」を「セーブデータを
記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすることは,前作のプレイ実績にか\nかわらず,後作において拡張ゲームプログラム及び/又はデータによっ
てゲームを楽しむことができるという技術的意義を有するものであり,
セーブデータを「所定のキー」とする方法は,本件発明A1と同様の作
用効果を奏するものではなく,また,記憶媒体をセーブデータを記憶可
能なものにした場合は,大量の記憶容量を有し,安価で大量生産が可能\
なCD−ROM,DVD−ROM等の読み出し専用メモリーを用いるこ
とができなくなること,ii)本件発明A1は,第1の記憶媒体に記憶され
た「所定のキー」を読み込むだけで,第2の記憶媒体に記録された標準
ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによりゲーム装置を作動さ
せるものであって,装置の作動中に第1の記憶媒体を入れ換え可能なも\nのであるが,「拡張ゲームプログラム等」の一部を「所定のキー」とす
る方法では,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによるゲ
ーム装置の作動中に,第1の記憶媒体を装填し続ける必要があること,
iii)第2の記憶媒体に「拡張ゲームプログラム等」のみを記憶する方法
では,第2の記憶媒体単体で,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプ
ログラムによりゲーム装置を作動させることができないことから,これ
らの方法が本件発明A1の代替技術であるとはいえない。
上記(5)の点については,たとえ,特許権者が開放的ライセンスポリシ
ーを有しているとしても,そのことは,特許権侵害者に対して事後的に
定めるべき実施料率を下げる理由にはならないものというべきである。
上記(6)の点については,前記(イ)c(a)のとおり,本件発明A1により
ゲームキャラクタのもつ機能,場面,音響が豊富になるという効果は,\n通常,需要者の購入動機に影響を与えるものであるといえ,イ−9号製
品等においても,MIXJOY機能により,前作のシナリオを本作のキ\nャラクタでプレイしたり,前作では特定のキャラクタとのみ迎えること
ができたエンディングを全てのキャラクタと迎えることができたりする
ものであって,被控訴人は製品解説書でかかる機能を紹介し,宣伝して\nいるものである。そうすると,本件発明A1は,これをイ−9号製品等
に用いることにより被控訴人の売上及び利益に相応の貢献をするものと
認められるものであって,イ−9号製品等が単体でも十分楽しめるもの\nか否かという点や,MIXJOYを行う場面が限定されているか否かと
いう点は,上記判断を左右するものではない。
被控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するもので
はない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆判決本文
判決理由は、A、B事件にそれぞれ分けられています。
◆A事件
◆B事件
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2019.09.11
平成30(ワ)2554 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年8月27日 大阪地方裁判所
大阪地裁21部は、技術的範囲に属する、無効理由なしとして、差止請求を認めました。損害賠償請求については、準備手続き中に口頭弁論が分離されています。
被告は,「挟み込んで保持する」という文言について経時的に解釈し,これを,
第二保持部がブレースボルトをその軸方向に沿って外周側から挟み込み,これを仮
に保持した状態でブレースボルトの軸方向に移動して位置調整を行った後に,ナッ
トで締め付けて保持するという操作方法に限定される旨を主張し,ブレースボルト
を第二保持部が挿通する場合はこれに含まれないから,ブレースボルトを第二保持
部に挿通する被告製品は,本件発明の構成要件を充足しないと主張する。\nしかしながら,構成要件1Cの「挟み込んで保持する」は,物の発明の一要素と\nして,ブレースボルトが,これを包囲する包囲部によりベース板部に固定されるこ
と,すなわち「狭着保持」(本件各明細書の段落【0044】,【0049】ない
し【0052】等)を意味すると解するのが相当である(なお,被告は,「挟着」
と「狭着」の違いについて,前者は「挟み込む」という予備的動作を指すのに対し,\n後者は「狭める」という最終的操作を意味する,と主張する。しかし,本件各明細
書においては,「挟み込んで保持する」及び「挟み込んで狭着保持する」という2
通りの言い回しがみられるものの,これらが被告の主張のように明確に区別して用
いられているということはできず,「挟み込んで」,「挟着」及び「狭着」という
文言は基本的に同義であると解すべきである。)。
本件各明細書の段落【0008】に,「この構成によれば,(中略)固定片の孔\n部に第二棒状体を挿通させる必要がなく」との記載がある点については,従来技術
において,ブレースボルトが長過ぎる場合,これを切断する等して調整せざるを得
ないが,本件発明の場合,固定片のナットをゆるめて,外周側からブレースボルト
を挟むことができるということを,特別な場合における利点として述べたにすぎず,
ベース板部と固定片の間に形成される孔部にブレースボルトを挿通することのでき
る通常の場合にまで,外周側からブレースボルトを挟み込むことを要件とする趣旨
とは解し得ない。
そうすると,被告の主張するような上記操作方法は,本件発明における構成要件\n充足性の判断を左右するものではない。
(3) 被告製品の施工方法について(甲19,乙4,22)
被告が,被告製品1の施工に際し,安全性確保等の見地から,ブレースボルトを
第二保持部に外周側から挟み込むことはせずに,第二保持部にあらかじめブレース
ボルトを挿通できる程度の間隙を開けておき,ブレースボルトを第二保持部の当該
間隙に挿通させて使用する(被告製品2については,第二保持部が開口部の狭いル
—プ状板部で構成されるため,ブレースボルトを第二保持部に挿通して使用するこ\nとは明らかである。)ことは当事者間に争いはないが,上記⑴及び⑵で検討したと
ころによれば,上記施工方法の結果は,本件発明の「挟み込んで保持する」に該当
するというべきであり,これに反する被告の主張は採用できない。
・・・
被告は,乙13を適宜設計変更したものとして副引用発明を設定するところ,
乙13発明は,同一平面上に配置された2本の棒状体の交差する箇所において,乙
13に記載された物品(以下「本物品」という。)を2つ,各棒状体をそれぞれ覆
うようにして対向配置させて装着し,それぞれの本物品の角度調整用の弧形状の孔
(角度調整用長穴)を利用してボルトにより緊結することにより,2本の棒状体を
連結・固定するものである。
これに対し,副引用発明は,本物品と,本物品から包囲部を取り除いた状態の平
面の板状部材(以下「平面部材」という。)から構成されているところ,平面部材\nは棒状体を覆うことができないので,本物品と平面部材を組み合わせても乙13に
記載されたような交差連結具として使用することはできない(本物品1個と平面部
材1個を組み合わせた場合,保持可能な棒状体は1本のみである。)。また,本物\n品及び平面部材は互いの角度を調整する必要がないから,両部材に存する上記弧形
状の孔の存在意義がなくなってしまう。
したがって,当業者が,乙13発明から副引用発明を導くことは困難である。
また,被告は,乙13以外にも乙12,14ないし20を引用し,天井から
吊設機器を吊り下げるボルトが交差する部位を連結する揺れ止め用交差連結具も慣
用技術であると主張し,当業者は,乙1発明の両端の外側狭着体の平面域に,斜め
支持体に代えて副引用発明を適用して連結することで,被告製品1(すなわち本件
発明)を容易に発明することができる,と主張する。
しかし,乙12,14ないし20に記載された発明も,乙13発明と同様に,同
一平面上に配置された2本の棒状体を,その交差する箇所を覆うように装着するこ
とで,連結・固定して振れ止めするための交差固定金具に係るものであって,被告
の主張するような副引用発明の構成を示唆するものではない。\nなお,被告は,このほかにも,乙8,10,24ないし28を引用して,1本の
棒状体を狭着して固定するにあたって,狭着する一方が棒状体を包囲する包囲部を
備えた部材,他方が平面上の部材である慣用技術である旨主張し,乙8ないし11
を引用して,2本の棒状体を狭着して固定する連結具も慣用技術である旨主張する
が,いずれにおいても,一対の部材のうち,一方の部材にのみ包囲部を設け,もう
一方の部材を平面状とする交差固定金具の技術は開示されておらず(乙8及び乙2
6に開示された発明は,2つの固定具の間に平板の基板を挟み込む形を採るが,そ
れぞれの固定部が包囲部を備えている点については上記の他の発明と同様である。),
被告が主張するような副引用発明の構成を示唆するものではない。\n以上より,副引用発明は,乙13を含めて乙8ないし20のいずれにも開示
されているとはいえない。
オ 容易想到性について(相違点1)
被告は,本件発明や乙1発明のようなコーナー固定金具と,乙12ないし20に
開示されるような交差固定金具とは,同一の技術分野に属し,また,施工現場で同
じ吊設機器において併用されることが多いから,当業者には,コーナー固定金具の
第二支持部に交差固定金具を適宜設計変更して適用する動機付けがある旨主張する。
乙12ないし20に記載される発明から,被告が主張するような副引用発明が導
けないことは上記エで述べた通りであるが,仮にこの副引用発明の具体的構成を措\nくとしても,交差固定金具とコーナー固定金具は,固定する棒状体の本数も固定の
態様も全く異なるものであるところ,単に吊設機器上の近い位置で用いられる2種
類の金具であるからといって,適用の動機付けを認めることはできない。
したがって,設計変更される副引用発明の具体的構成がどうあれ,乙1発明に上\n記刊行物記載の発明を適用する動機付けがあるとはいえない。
◆判決本文
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2019.09. 9
平成30(ネ)10040 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年8月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審では、サポート要件、実施可能要件違反で権利行使不能\と判断されていました。
控訴審は、サポート要件違反と判断しました。
所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明について,特許
請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に適合するか否かは,
当業者が,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から,当該発明
に含まれる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決できると認識で
きるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
イ(ア) これを本件についてみるに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)
の記載によれば,本件発明は,アルミニウム缶内にワインをパッケージ
ングする方法の発明であって,「35ppm未満の遊離SO2」と,「3
00ppm未満の塩化物」と,「800ppm未満のスルフェート」と
を有することを特徴とするワインを製造するステップを含むものである
から,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる。
次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の課題を明示し
た記載はないが,【0002】ないし【0004】の記載(前記(1)イ(ア))
から,本件発明の課題は,アルミニウム缶内にパッケージングした「ワ
インの品質」が保存中に著しく劣化しないようにすること,ここにいう
「ワインの品質」は,「ワインの味質」を意味するものと理解できる。
そして,本件明細書の【0038】ないし【0042】及び表1には,\n白ワインの保存評価試験の結果として,パッケージングされた白ワイン
を30℃で6ヶ月間保存した後に,味覚パネルによる官能試験により,\n「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された」との記載が\nあることに照らすと,本件明細書の発明の詳細な説明には,ワインの品
質(味質)が劣化したかどうかは味覚パネルによる官能試験によって判\n断されることの開示があることが認められる。
一方,上記の「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認され\nた」ワインについて,表1には,別紙のとおり,保存期間「6ヶ月」に\n対応する「Al mg/L」欄及び「初期に対するAl含有量上昇率(%)」
欄に,アルミニウム含有量0.72mg/L,含有量上昇率44%(「直
立」状態で保存の缶),アルミニウム含有量0.68mg/L,含有量
上昇率36%(「倒立」状態で保存の缶)であったことの記載があるが,
表1を含む本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,当該ワ\nインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃度につ
いての具体的な開示はない。
また,本件明細書の【0003】の「ワイン中の物質の比較的攻撃的
な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特に味質
に及ぼす悪影響にあると考えられる。」との記載及び【0034】の「良
好に架橋された不透過性膜によって,保存中に過度のレベルのアルミニ
ウムがワイン中に溶解しないことを保証することが重要である。」との
記載から,アルミニウム缶からワイン中に溶出する「過度のレベルのア
ルミニウム」がワインの味質に悪影響を及ぼすことは理解できるものの,
本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,アルミニウム缶に
保存されたワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいてワインの味質
が劣化したかどうかを判断できることについての記載も示唆もない。
さらに,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量
とワインの味質の劣化との具体的な相関関係に関する技術常識を示した
証拠は提出されておらず,上記の具体的な相関関係は明らかではない。
もっとも,本件優先日当時,遊離SO2とアルミニウムとの間の酸化還
元反応により硫化水素が発生し,この硫化水素によってワインのフレー
バーを悪くするという問題があったことは技術常識であったこと(甲3
9,40等)が認められるが,かかる技術常識に照らしても,遊離SO
2の濃度にかかわらず,ワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいて
ワインの味質が劣化したかどうかを判断できるものとはいえない。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件発明の
課題(「アルミニウム缶内にパッケージングしたワインの品質(味質)
が保存中に著しく劣化しないようにすること」)を解決できるかどうか
を確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験結果によらざるを\n得ないことを理解できる。
(イ) しかるところ,前記(ア)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明
には,白ワインの保存評価試験(【0038】ないし【0042】及び
表1)において「許容可能\なワイン品質が味覚パネルによって確認され
た」ワインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃
度についての具体的な開示はなく,仮にこれらの濃度が,本件発明で規
定するそれぞれの濃度(「300ppm未満の塩化物」及び「800p
pm未満のスルフェート」)の範囲内であったとしても,それぞれの上
限値に近い数値であったものと当然には理解することはできないから,
上記保存評価試験の結果から,本件発明の対象とするワインに含まれる
塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスルフェートの濃度範囲(8
00ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」が保存中に著しく劣
化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により確認された\nものと認識することはできないというべきである。
また,乙29及び甲175(「アルミ缶の特性ならびに腐食問題」2
002年,Zairyo-to-kankyo,51,p.293〜298)によれば,ワインを組成
する一般的な物質のうち,遊離SO2,塩化物イオン(Cl−)及びスル
フェート(SO4 2−)以外にも,リンゴ酸,クエン酸等の有機酸がアル
ミニウムの腐食原因となることは,本件優先日当時の技術常識であった
ことが認められる。このような技術常識に照らすと,本件明細書の発明
の詳細な説明には,白ワインの保存評価試験に用いられたワインの組成
についての記載はないものの,これらのアルミニウムの腐食原因となる
物質も,当該ワインの組成に含まれており,表1記載の保存期間「6ヶ\n月」に対応するアルミニウム含有量や味覚パネルによる官能試験の試験\n結果に影響を及ぼしている可能性があるものと理解できる。\n以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日
当時の技術常識から,当業者が本件発明に含まれる塩化物の濃度300
ppm未満及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体
にわたり本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められない
から,本件発明は,サポート要件に適合するものと認めることはできな
い。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件優先日当時,1)ワイン中の塩化物及びスルフェートの濃度
は,生産国・地域,品種,収穫年,製造条件等の違いによりワイン毎に様々
であり,いずれの濃度分布も広範囲に亘っており,塩化物の濃度は3ppm
から1148ppmの範囲で,スルフェートの濃度は38.6ppmから2
420ppmの範囲で分布していること,及び,「300ppm」以上の塩
化物及び「800ppm」以上のスルフェートを含有するワインが実際に存
在すること(甲24,41,42,51,57,58,101,乙67),
2)「淡水」とは塩分濃度が500ppm以下,塩化物濃度が約300ppm
以下の水であること(甲167,168,169の1,2),3)塩化物イオ
ン(Cl−)及びスルフェート(SO4 2−)が,アルミニウムやステンレスの
局部腐食(不動態被膜の孔食)の原因となるイオンであること(甲88ない
し90,115ないし117,169の1,2)は,技術常識であったこと
に加えて,本件明細書の「このような不成功の理由は,ワイン中の物質の比
較的攻撃的な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特
に味質に及ぼす悪影響にあると考えられる。」(【0003】)との記載を
考慮すれば,当業者であれば,アルミニウムの腐食原因であるワイン中の物
質が「低い」濃度レベルであることを規定する,本件発明の「35ppm未
満」の遊離SO2,「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」
のスルフェートとの要件を満たすワインをパッケージング対象とすることに
よって,これらの腐食原因物質の濃度が高いワインがアルミニウム缶にパッ
ケージングされることを確実に防止できるという本件発明の効果を容易に認
識可能であり,本件発明は,この効果によって,「アルミニウム缶内にワイ\nンをパッケージングし,これによりワインの品質が保存中に著しく劣化しな
いようにする」という課題(「アルミニウム缶の腐食によって保存中にワイ
ンの中で増加してしまうアルミニウムイオン及び硫化水素によって,ワイン
品質(味,色,臭い)が保存中に著しく劣化しないようにする」という課題)
を解決するものであることを容易に認識できること,そして,アルミニウム
缶の腐食原因である「塩化物」の濃度を300ppmよりも低くすればする
ほど,同腐食原因である「スルフェート」の濃度を800ppmよりも低く
すればするほど,アルミニウム缶の腐食防止効果がより高まることは容易に
認識できることからすると,本件発明の上記効果は,特許請求の範囲の全て
において奏する効果であることを当業者が認識できることは明らかであり,
本件明細書の【0038】ないし【0042】記載の試験結果を参酌しなく
ても,本件優先日当時の技術常識に照らし,本件明細書のその余の発明の詳
細な説明の記載及び本件発明の特許請求の範囲の記載から,本件発明は,当
業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる
から,本件発明は,サポート要件に適合する旨主張する。
しかしながら,前記(2)イ(ア)認定のとおり,本件発明の課題は,アルミニ
ウム缶内にパッケージングした「ワインの味質」が保存中に著しく劣化しな
いようにすることにあるものと認められるところ,控訴人主張の本件優先日
当時の上記1)ないし3)の技術常識に照らしても,当業者が,本件明細書の発
明の詳細な説明の記載から,本件発明は,「35ppm未満」の遊離SO2,
「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」のスルフェートと
の要件を満たすワインをパッケージング対象とすることによる効果によって,
本件発明の上記課題を解決するものであることを認識できるものと認めるこ
とはできない。
また,控訴人が主張するようにアルミニウム缶の腐食原因である「塩化物」
の濃度を300ppmよりも低くすればするほど,同腐食原因である「スル
フェート」の濃度を800ppmよりも低くすればするほど,アルミニウム
缶の腐食防止効果がより高まるといえるとしても,前記(2)イ(ア)認定のとお
り,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量とワインの
味質の劣化との具体的な相関関係は明らかではなく,本件発明の上記課題を
解決できるかどうかを確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験結\n果によらざるを得ない。そして,本件明細書の【0038】ないし【004
2】及び表1記載の白ワインの保存評価試験の結果から,本件発明の対象と\nするワインに含まれる塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスルフェ
ートの濃度範囲(800ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」が保
存中に著しく劣化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により\n確認されたものと認識することはできないことは,前記(2)イ(イ)のとおりで
ある。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の
技術常識から,当業者が本件発明に含まれる塩化物の濃度300ppm未満
及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体にわたり本件発
明の課題を解決できると認識できるものと認められないから,控訴人の上記
主張は採用することができない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成27(ワ)21684
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2019.08. 8
平成29(ワ)44053 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年5月29日 東京地方裁判所
争点は、分割要件違反など色々ありますが、発明1,3についてはサポート要件違反なので権利行使不要、発明2については構成要件不充足と判断されました。\n
(3) 本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載
ア 本件明細書1及び3の【0015】,【0017】
本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載は,前記1(1)のとおりであり,発
明を実施するための形態として,「本発明の併用療法は,治療法が同時に行われ,
すなわち抗CD20抗体は,同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進
んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)で投与される。本発明の
抗CD20抗体はまた,他の治療法の前または後に投与されてよい。」(【001
5】),「また本発明には,化学療法の前,その最中,または後に,治療上有効量
のキメラ抗CD20抗体を患者に投与することを含んでなる,B細胞リンパ腫の治
療法が含まれる。そのような化学療法は,少なくとも,CHOP,ICE,ミトザ
ントロン,シタラビン,DVP,ATRA,イダルビシン,ヘルツァー(hoelzer)
化学療法,ララ(LaLa)化学療法,ABVD,CEOP,2−CdA,FLAG&
IDA(以後のG−CSF治療有りまたは無し),VAD,M&P,C−Week
ly,ABCM,MOPP,およびDHAPよりなる群から選択される。」(【0
017】)と記載されている。
しかしながら,上記において,抗CD20抗体ないしキメラ抗CD20抗体とし
て示されるリツキシマブの投与時期について,【0015】では,「他の治療法の
前または後」と「同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが,
薬剤は全く同時に投与されるわけではない)」が併記されるにとどまり,また,
【0017】では,「化学療法の前…または後」と「その最中」が併記されるにと
どまっており,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る説明はされ
ていないから,これらの記載をもって,リツキシマブをCHOP療法の各薬剤の投
薬期間中に投与するという本件発明1の用途を認識することは困難であり,もとよ
り,リツキシマブを含む医薬組成物と化学療法に用いられる各薬剤を化学療法の各
サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を認識することもできない。
このことに加えて,前記のとおり,本件発明1及び3は,いずれも,リツキシマ
ブを含む医薬組成物について,対象疾患,併用される化学療法及び投与時期を特定
した用途発明であるところ,【0015】では,対象疾患及び併用される化学療法
が特定されておらず,【0017】でも,対象疾患が特定されておらず,併用され
る化学療法であるCHOP療法も多数の選択肢の一つとして挙げられるにとどまっ
ているから,その意味でも,これらが本件発明1及び3の用途を記載又は示唆する
ものと認めるに足りない。
イ 本件明細書1の【0069】ないし【0071】,【0092】
(ア) また,本件明細書1の【0069】ないし【0071】及び【0092】の
SWOGによる臨床試験に係る部分において,本件発明1の対象疾患である「低グ
レード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」の患者に対するリツキシマブとC
HOP療法の併用療法に係る実施例が記載されているものの,次のとおり,これら
は,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与す
るという本件発明1の用途を記載又は示唆するものであるとは認められない。
a すなわち,まず,本件明細書1の【0069】ないし【0071】には,
「新に診断された再発性低悪性度NHLまたは濾胞性NHLにおけるCHOPとリ
ツクシマブ(登録商標)との併用を評価するために第II相試験」(【0069】)
について,「CHOPは,標準用量で3週間毎にリツクシマブ(登録商標)(37
5mg/m3)を6回注入する6サイクルを行った。リツクシマブ(登録商標)注入
1と2は,最初のCHOPサイクル(これは8日目に開始した)の前の1日目と6
日目に投与した。リツクシマブ(登録商標)注入3と4は,それぞれ第3および第
4のCHOPサイクルの2日前に投与し,注入5と6は,6回目のCHOPサイク
ル後のそれぞれ134日目と141日目に投与した。」(【0070】)と記載さ
れており,参考文献21として甲38文献が参照されていること(【0071】)
などに照らすと,これらは,甲38文献に記載されているCzuczmanらによる臨床試
験を記載したものと認められる(なお,【0070】の「第3および第4のCHO
Pサイクルの2日前」は「第3及び第5のCHOPサイクルの2日前」の誤記であ
ると認められる。)。
そうすると,【0070】の「リツクシマブ(登録商標)注入1と2」及び「注
入5と6」は,CHOP療法全体の開始前及び終了後の投与であり,また,「注入
3と4」も,Czuczmanらによる臨床試験の3回目及び4回目のリツキサンの投与と
同様に,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中の投与であって,当業者は,いずれに
ついても,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するものではないと認識する
と認められる。
したがって,【0069】ないし【0071】は,リツキシマブを含む医薬組成
物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を記載
又は示唆するものではない。
b また,本件明細書1の【0092】には,「SWOGにより行われた新に診
断された濾胞性リンパ腫でCHOPの後にリツクシマブ(登録商標)を使用する第
II相試験もまた,完了している。」として,SWOGによる臨床試験について記載
されているものの,同臨床試験においてリツキシマブが投与されたのは「CHOP
の後」であるから,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬
期間中に投与するという本件発明1の用途を記載又は示唆するものではない。
(イ) さらに,本件明細書1の【0092】には,「マントル細胞リンパ腫が未治
療の40人の患者でリツクシマブ(登録商標)とCHOPの第III相試験も,ダナ
ファーバー研究所(Dana Farber Institute)で行われている。21日毎の6サイ
クルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与され,CHOPは1〜3日目に
投与される。この試験の発生項目は完了している。」として,ダナファーバー研究
所による臨床試験について記載されているものの,本件明細書1には,同臨床試験
の対象とされたマントル細胞リンパ腫が本件発明1の対象疾患である「低グレード
/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」に含まれることは記載されておらず,そ
のように認めるに足る証拠もないから,上記の臨床試験に係る記載部分が本件発明
1の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。
ウ 本件明細書3の【0090】,【0092】
(ア) また,本件明細書3の【0090】において,本件発明3の対象疾患である
「中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」の患者に対するリツキ
シマブとCHOP療法の併用療法に係る実施例が記載されているものの,その内容
は,「別の試験では,中または高悪性度NHLを有する31人の患者(女性19人,
男性12人,平均年齢49才)に,6回の21日サイクルのCHOPの1日目にリ
ツクシマブ(登録商標)を投与した(35)。」というものであり,CHOP療法
の各薬剤の投与時期は記載されていない。
また,本件明細書3の発明の詳細な説明に,参考文献35として記載されている
乙9文献においても,前記1(2)イのとおり,Linkらによる臨床試験で,1サイクル
21日間(3週間)のCHOP療法を繰り返し実施するに当たり,リツキシマブは
CHOP療法の各サイクルの1日目に投与されたのに対し,シクロホスファミド,
ドキソルビシン及びビンクリスチンは各サイクルの3日目に投与され,プレドニソ\
ンは各サイクルの3日目から7日目まで投与されたことが認められる。
したがって,【0090】は,リツキシマブとCHOP療法の各薬剤をCHOP
療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を記載又は示唆する
ものとは認められない。
(イ) さらに,本件明細書3の【0092】には,前記のとおり,ダナファーバー
研究所による臨床試験について記載されているものの,本件明細書3には,同臨床
試験の対象とされたマントル細胞リンパ腫が本件発明3の対象疾患である「中悪性
度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」に含まれることは記載されてお
らず,そのように認めるに足る証拠もない。
また,「21日毎の6サイクルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与さ
れ,CHOPは1〜3日目に投与される。」というだけでは,CHOP療法の各薬
剤が全て各サイクルの1日目に投与されたかは必ずしも明らかでないから,いずれ
にしても,上記の臨床試験に係る記載部分がリツキシマブとCHOP療法の各薬剤
をCHOP療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を記載又
は示唆するものとは認められない。
(4)原告らの主張について
ア 本件発明1
原告らは,本件原出願日当時の化学療法とリツキシマブの併用療法は,化学療法
の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間の前又は後にリツキシマブを投与する
異日投与レジメンによっていたところ,本件明細書1の【0015】,【0017】
には,異日投与レジメンと区別して,化学療法の各サイクルにおける化学療法薬の
投薬期間中にリツキシマブを投与する同日投与レジメンが記載されていると主張す
る。
しかしながら,本件原出願日当時,原告らが主張する異日投与レジメンによって
リツキシマブと化学療法が併用されていたとしても,前記のとおり,【0015】,
【0017】には,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る記載は
なく,化学療法の開始前,終了後,化学療法に用いられる薬剤の休薬期間中にリツ
キシマブを投与するレジメンと区別して,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間中
にリツキシマブを投与するレジメンが記載されているとはいえないから,これらの
記載が本件発明1の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。
・・・
被告製剤についてみると,前記第2の2⑸ウのとおり,被告製剤の添付文書には,
用法・用量欄に「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合」が記載され,用法・用量に関
連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ
医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成
績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」
と記載されている。また,臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,未治療
の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品がR−CVP
レジメンによって投与されたことが記載されているほか,先行バイオ医薬品の臨
床成績として,国外臨床第III相試験(PRIMA試験)において,ろ胞性非ホジ
キンリンパ腫(NHL)の患者に,R−CVPレジメンによる寛解導入療法等が
実施されたことが記載されている。
そして,証拠(甲12,35)及び弁論の全趣旨によれば,被告製剤の添付文書
に記載されているR−CVPレジメンは,リツキシマブを1日目に投与するととも
に,シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目,プレ
ドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメン\nであると認められる。
そうすると,被告製剤は,添付文書に記載されたR−CVPレジメンがシクロホ
スファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するも
のでない点で,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。\n
・・・
以上のとおり,本件特許1及び3は特許法36条6項1号に違反しており,いず
れも特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,同法104条の
3第1項により,本件特許1及び3に係る専用実施権者である原告による権利行使
は認められない。
また,被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属するとはいえないから,被告製剤
の製造販売等が本件専用実施権2を侵害するとはいえない。
◆判決本文
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2019.08. 2
平成31(ネ)10019 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年7月19日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明について均等主張も否定されました。1審では、構成要件Dについて均等主張をしていませんでした。控訴審では構\成要件Dの均等侵害を主張しましたが、第1要件を満たしていないと判断されました。被控訴人(1審被告)はYAHOO(株)です。
本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記(2)の本件明細
書の開示事項を総合すると,本件発明の技術的意義は,従来の住宅地図に
おいては,建物表示に住所番地及び居住者氏名も全て併記されていたため,\n肉眼でも判別可能な実用性を確保するために縮尺度を低いものにする必要\nがあり,これに伴って全体として地図の大型化や大冊化を招き,この大型
化や大冊化が氏名の記載変更作業の実地調査に係る人件費と相俟って住宅
地図を高価格なものとし,更に氏名の公表を希望しない住人についても住\n宅地図に氏名を登載してしまうこととなるため,プライバシーの保護とい
う点からも問題を有し,また,従来の住宅地図の付属の索引は,住所の丁
目及びそれぞれの丁目に該当するページだけが掲載されていたため,「目
的とする居住地(建物)を探し出す作業」(検索)が,煩雑で面倒であり,
迅速さに欠け,非能率な作業となっていたという課題があったことから,\n本件発明の住宅地図は,この課題を解決するため,検索の目安となる公共
施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については,居住人氏名や建物
名称の記載を省略し,住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すること
により,縮尺度の高い,広い鳥瞰性を備えた構成の地図とし(構\成要件B
及びC),地図の各ページを適宜に分割して区画化した上で,地図に記載
の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建物の記載ページ及び記載区画を特
定する記号番号と一覧的に対応させた付属の索引欄を設ける構成(構\成要
件DないしF)を採用することにより,小判で,薄い,取り扱いの容易な
廉価な住宅地図を提供することができ,また,上記索引欄を付すことによ
って,全ての建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容
易に分かるため,簡潔で見やすく,迅速な検索の可能な住宅地図を提供す\nることができるという効果を奏することにあるものと認められる。
イ この点に関し控訴人は,本件発明の技術的思想(技術的意義)は,「検
索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については
居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみ
を記載すると共に,縮尺を圧縮して」(本件発明の構成要件B及び構\成要
件Cの前半)という構成により,「記載スベースを大きく必要とせず」(本\n件明細書の【0039】),これにより「広い鳥瞰性を備えた地図を構成」\n(構成要件Cの後半)する点にある旨(前記第2の4(1)エの「当審におけ
る控訴人の主張」(ア))を主張する。
しかしながら,発明の技術的意義は,明細書に開示された従来技術の課
題について,特許請求の範囲の記載及び明細書の記載に基づいて,当該発
明がその課題の解決手段として採用した構成及びその構\成による効果を踏
まえて認定すべきものと解されるところ,控訴人の上記主張は,本件明細
書において,従来の住宅地図の付属の索引には,住所の丁目及びそれぞれ
の丁目に該当するページだけが掲載されていたため,「目的とする居住地
(建物)を探し出す作業」(検索)が,煩雑で面倒であり,迅速さに欠け,
非能率であるという課題があったこと(【0003】),本件発明は,上\n記課題を解決するための手段として,地図の各ページを適宜に分割して区
画化した上で,地図に記載の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建物の記
載ページ及び記載区画を特定する記号番号と一覧的に対応させた付属の索
引欄を設ける構成(構\成要件DないしF)を採用したことにより,全ての
建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容易に分かるた
め,簡潔で見やすく,迅速な検索を可能としたという効果を奏すること(【0\n039】)の開示があることを考慮しないものであるから,採用すること
ができない。
・・・
控訴人は,仮に本件発明の構成要件Dの「区画化」の構\成が,地図が記載
されている各ページについて,記載されている地図を線その他の方法によっ
て仕切って複数の区画に分割し,その各区画を特定する番号又は記号番号を
付し,利用者が,線その他の方法及び記号番号により,当該ページ内にある
複数の区画の中の当該区画を認識することができる形で複数の区画に分割す
ることを意味するものと解し,また,仮に構成要件Fの「索引欄に…住宅建\n物の所在する番地を前記地図上における…記載ページ及び記載区画の記号番
号と一覧的に対応させて掲載した」との構成が,索引欄に所在番地の記載ペ\nージ及び区画の記号番号がユーザの目に見える形で掲載される構成に限られ\nると解した場合には,被告地図は,各ページに線その他の方法及び記号番号
が付されていない点及び「特定の緯度・経度を含む地点データと縮尺レベル
19ないし20を含むURL」が画面に「一覧的に」表示されていない点で\n本件発明と相違することとなるが,被告地図は,均等の成立要件(第1要件
ないし第3要件)を満たしているから,本件発明と均等なものとして,本件
発明の技術的範囲に属する旨主張する。
しかしながら,前記1(3)ア認定の本件発明の技術的意義に鑑みると,本件
発明の本質的部分は,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住
宅及び建物については,居住人氏名や建物名称の記載を省略し,住宅及び建
物のポリゴンと番地のみを記載することにより,縮尺度の高い,広い鳥瞰性
を備えた構成の地図とし(構\成要件B及びC),地図の各ページを適宜に分
割して区画化した上で,地図に記載の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建
物の記載ページ及び記載区画を特定する記号番号と一覧的に対応させた付属
の索引欄を設ける構成(構\成要件DないしF)を採用することにより,小判
で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することができ,また,
上記索引欄を付すことによって,全ての建物についてその掲載ページと当該
ページ内の該当区画が容易に分かるため,簡潔で見やすく,迅速な検索の可
能な住宅地図を提供することができる点にあるものと認められる。\n
しかるところ,被告地図においては,前記2(1)ウ及び(2)認定のとおり,
地図を記載した各ページを線その他の方法及び記号番号によりユーザの目に
見える形で複数の区画に仕切られておらず,索引欄に住宅建物の所在番地の
記載ページ及び区画の記号番号がユーザの目に見える形で掲載されていない
ため,構成要件D及びFを充足せず,ユーザが所在番地の記載ページ及び区\n画の記号番号の情報から検索対象の建物の該当区画を探し,区画内から建物
を探し当てることができないから,このような索引欄を利用した迅速な検索
が可能であるということはできない。\nしたがって,被告地図は,本件発明の本質的部分を備えているものと認め
ることはできず,被告地図の相違部分は,本件発明の本質的部分でないとい
うことはできないから,均等論の第1要件を充足しない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)34450
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2019.07.12
平成31(ネ)10001等 特許権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年6月26日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
知財高裁(3部)は、確定した無効審決と実質同じ証拠であるとして、104条の3の無効抗弁を認めませんでした。
(2)本件において乙17の1及び乙18の1を主引例として無効を主張でき
るか。(当審における追加主張)
ア 特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に
基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は,同一の当事者
間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ,
その趣旨は,無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものでは
ない。そうすると,侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い,審決取消訴
訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には,同一当事者間
の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法
104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは,特段
の事情がない限り,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2
条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。
控訴人は,無効審判手続と特許権侵害訴訟における特許権者が置かれ
ている立場の質的相違等から,特許法167条の趣旨は,侵害訴訟に適
用されないと主張するが,上記説示したところに照らし採用できない。
また,控訴人は,第三者の無効審判請求により特許権が無効とされるべ
き場合にまで侵害訴訟において無効の抗弁を主張できないのは不当であ
るという趣旨の主張もしているが,控訴人自身は,無効審判手続におい
て無効主張をする機会を十分に与えられ,かつ無効不成立審判に対して\n審決取消訴訟を提起する機会も与えられていたのであるから,審決取消
訴訟を提起せずに無効不成立審決を確定させた結果,もはや当該審判手
続において主張していた特許の無効事由を主張できないこととなったと
しても,その結果を不当ということはできない。
イ 認定事実
(ア) 本件無効審判請求1において,控訴人は,本件発明1は,1)乙1
7の1に記載された発明(乙17発明)に,乙18の1に記載された
発明(乙18発明),乙19又は23,42ないし45,33,34
に記載された技術事項及び従来周知の技術事項に基づいて,当業者が
容易に発明することができたものである,2)乙18発明に,乙17発
明,乙19又は23,42ないし45,33,34に記載された技術
事項及び従来周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明するこ
とができたものである,とそれぞれ主張した。(甲14)(本件審決
1における甲1,2,3,7ないし13は,順に本件訴訟における乙
17,18,19,23,42ないし45,33,34に対応する。)
このほか,控訴人は,乙20ないし22も証拠として提出していた。
(イ) しかしながら,本件審決1は,主引例である乙17の1及び乙1
8の1には,ローラの直交2方向への移動(及び移動に伴う肌の摘み
上げと押圧)という技術思想が存在せず,また,控訴人が提出した各
種証拠から認められる技術事項及び周知技術を考慮しても,この点を
容易に想到することができるとはいえないとして,上記無効理由のい
ずれも認めず,本件発明1は,特許法29条2項の規定により特許を
受けることができないものとはいえないと判断した。(甲14)
ウ 乙17の1又は乙18の1を主引例とする進歩性欠如の無効主張の可
否
本件訴訟において,控訴人は,乙17の1,乙18の1をそれぞれ主
引例とした上,これに,乙17発明(乙18の1を主引例とする場合)
又は乙18発明(乙17の1を主引例とする場合),及び乙19ないし
23,33ないし35,42ないし45,101及び104に記載の副
引例又は周知技術を併せれば,本件発明1は容易想到であると主張して
いる。
しかしながら,乙17の1及び乙18の1は,本件審判請求1におい
ても主引例とされていたもの,乙19,23,33,34及び42ない
し45は,副引例又は周知技術を認定する証拠として提出されていたも
のであり,乙20ないし22も,明示的には主張されていないものの,
周知技術を認定する証拠等として提出されていたものと認められるから,
結局,本件審決1と本件訴訟における控訴人の主張立証との間では,主
引例は全く共通である上,副引例又は周知技術,証拠もほとんど共通し,
両者で共通していないのは,副引例ないし周知技術の証拠である乙35,
101及び104のみである(しかも,乙101は,乙35から分割出
願された発明であるから,両者は極めて類似している。)ことになる。
そして,乙35,101及び104は,いずれも4個のローラの直交2
方向への移動ということはおよそ想定していないものであるから,本件
審決1が認定した本件発明1と乙17発明及び乙18発明との相違点を
埋めるものであるとはおよそいい難いものである。
このように,本件訴訟独自の証拠である乙35,101及び104は
価値の乏しいものであるから,結局,本件訴訟における控訴人の主張は,
本件審判1と実質的に「同一の事実及び同一の証拠」(特許法167条)
に基づくものと評価されるべきものである。
そして,本件審決1は,控訴人による審決取消訴訟が提起されること
なく確定している上,本件において,前記アの特段の事情も窺われない。
したがって,本件訴訟において,控訴人が,乙17の1又は乙18の
1を主引例とする進歩性欠如の無効を主張することは,信義則に反し,
許されないといわざるを得ない。
(3) 結論
よって,控訴人の乙17の1又は乙18の1を主引例とする無効の抗弁
の主張はいずれも許されず,乙104発明を主引例とする無効の抗弁には
理由がない。
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◆平成28(ワ)4356
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2019.07. 2
平成30(ネ)10024 特許権侵害差止等本訴請求,損害賠償反訴請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では、冒認の無効理由は否定されましたが、知財高裁4部は冒認と認定して、権利行使不能と判断しました。さらに、冒認の無効理由をしりながら権利行使したとして、1審原告に対して、不法行為と相当因果関係に立つ損害約330万円が認められました。
特許法123条2項は,同条1項6号の冒認出願に該当することを理由と
する特許無効審判は,特許を受ける権利を有する者に限り,請求することが
できる旨を規定する。
ところで,同法2条1項は,「発明」とは,「自然法則を利用した技術的
思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定し,同法70条1項は,「特許
発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定め
なければならない。」と規定している。これらの規定によれば,「発明者」
とは,当該発明の創作行為に現実に加担した者をいい,特許発明の「発明者」
といえるためには,特許請求の範囲の記載によって具体化された当該特許発
明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し,又は,その着想
を具体化することに創作的に関与したことを必要とすると解するのが相当
である。
そこで,以上を前提に,1審被告の従業員らが本件出願前に本件発明をし,
1審被告がその特許を受ける権利を承継したかどうかについて判断する。
・・・
(イ)a 1審被告は,FCM−A及びFCM−Cの稼働状況を撮影した動
画として,乙17の1及び乙18の1を提出する。
これらの各動画には,「型式FCM−A」,「取得年月86年9月
30日」,「(株)加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が付さ
れた装置(乙17の1)及び「型式FCM−C」,「取得年月88年
2月29日」,「(株)加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が
付された装置(乙18の1)において,コイル巻き後に切断分離する
方法によるタングレス螺旋状コイルインサートの製造場面が撮影され
ている。上記場面の撮影時期は平成27年12月であるが,上記各装置につ
いて製造方法に関する構成が大きく変えられたことをうかがわせる証\n拠はないことに照らすと,乙17の1及び乙18の1は,昭和61年
ないし63年当時に1審被告がFCM−A及びFCM−Cを使用して
本件発明を実施していたことを裏付けるものといえる。
・・・
(ウ) 前記(ア)及び(イ)の認定事実とFCM−A及びFCM−Cの開発経
緯(前記2(2))によれば,1審被告は,昭和61年ころには,1審被告
らの従業員らの設計したFCM−Aを製造し,本件発明を実施していた
ことが認められる。
そして,1審被告らの従業員らによるFCM−Aの設計は,前記1(2)
認定の本件発明の技術的思想を着想し,その着想の具体化に創作的に関
与する行為に当たるものと認められる。
したがって,1審被告らの従業員は,そのころ,本件発明を完成させ
たものと認められる。
イ FCM−Bは,FCM−Aとサイズ違いのファミリー機種(乙133)
であり,抜き潰し加工が一定間隔で施された線材をコイル巻きしてから加
工部分の中央で切断することを繰り返すもの(乙132)であるから,F
CM−A及びFCM−Cと同様,本件発明を実施する装置であるものと認
められる。
そして,前記2(3)のとおり,昭和62年ころに5台のFCM−Aが福島
工場に移管されて稼働を開始し,同年から昭和63年にかけて5台のFC
M−B及び1台のFCM−Cが福島工場に設置されて稼働を開始したこと,
これらのFCM−A各機種は,平成7年11月,1台のFCM−Bを残し
て,英国子会社に移管されたことが認められる。
したがって,1審被告は,昭和62年ころから平成7年11月までの間,
福島工場において,これらのFCM−A各機種を使用してタングレス螺旋
状コイルインサートを製造することにより,本件発明を実施していたこと
が認められる。
・・・
エ 小括
以上のとおり,1審被告らの従業員は,昭和61年ころ,FCM−Aを
設計することにより本件発明を完成し,1審被告は,昭和62年ころから
平成7年11月までの間,福島工場において,FCM−A各機種を使用し
てタングレス螺旋状コイルインサートを製造することにより,本件発明を
実施していたことが認められる。
上記認定事実によれば,1審被告は,本件発明の発明者である1審被告
らの従業員らから,昭和62年ころまでに,本件発明の特許を受ける権利
を承継したものと認めるのが相当である。
・・・
(ウ) 1審原告の当審における主張と原審における主張とを対比すると,
1)1審原告代表者が本件発明を着想するに至った時期(原審では「平成\n11年ころ」である旨主張していたのに対し,当審では「平成10年こ
ろ」である旨主張している点),2)1審原告代表者の本件発明の着想の\n経緯,3)1審原告代表者が三晃のJに対し線材のサンプルの作製を依頼\nした時期(原審では「平成11年ころ」である旨主張していたのに対し,
当審では「平成10年ころ」である旨主張している点),4)1審原告代
表者が1審被告を訪れて線材の試作サンプルを1審被告のHに示した時\n期(原審では「平成11年5月10日ころ」である旨主張していたのに
対し,当審では「平成10年6月11日」である旨主張している点),
5)1審原告代表者のK弁理士に対する本件出願の依頼の経緯(原審では,\n1審原告代表者が1審被告を訪れた際に応対したHの無礼な態度に驚き,\nその日のうちにK弁理士に対し,1審被告から持ち帰った「試作品の線
材」と「タング無しコイルの実物」を渡して本件出願を依頼した旨主張
していたのに対し,当審では,1審原告代表者が本件発明が将来何かの\n役に立つこともあろうかと考え,「平成11年5月10日」に,K弁理
士に対し,「アキュレイト販売から入手していたタングレス螺旋状コイ
ルインサートの現物」を手渡して,本件出願を依頼した旨主張している
点)などにおいて,大きく変遷し,その変遷の理由について合理的な説
明がされていない。
しかるところ,上記変遷した部分に係る1審原告の当審における主張
に沿う証拠としては,1審原告代表者の手帳(「Business D
iary’98」。甲42)の「予定表\」中の「6月11日」欄に「H
部長 線材渡し タングレス」との記載部分,1審原告のMが2005
年(平成17年)6月9日に1審被告のHに送信した電子メール(甲4
3)中の「(1審原告代表者が)「将来何かの役に立つ事も有ろうかと\n考え特許出願した。」と申しております。」,「提案の日時は1998\n年6月11日」,「提案の場所は株式会社アドバネックス本社社長室」
との記載部分がある。
しかし,これらの証拠からは,1審原告代表者が平成10年6月11\n日に1審被告を訪れてHに対してタングレスの線材を渡した事実を認定
することができるものの,当審における1審原告の主張に係る1審原告
代表者が本件発明を着想するに至った時期及び着想の経緯,1審原告主\n張の上記線材を三晃のJに作製させるに至った経緯,1審原告代表者の\nK弁理士に対する本件出願の依頼の経緯を認めることはできない。他に
これを認めるに足りる証拠はない。
また,1審原告代表者が1審被告のHに渡したタングレスの線材は,\n凹部及びテーパ部が加工済みであったことが認められるものの,上記の
とおり,1審原告主張の上記線材を三晃のJに作製させるに至った経緯
を認めるに足りる証拠はない以上,上記のような形状の線材が存在する
からといって直ちに1審原告代表者が本件発明をしたものと認めること\nはできない。
イ かえって,以下のような事情が認められる。
(ア)a 前記2(5)ア認定のとおり,1審原告代表者が平成10年6月11\n日に1審被告のHに渡した凹部及びテーパ部が加工済みのタングレス
の線材は,1審原告代表者が三晃のJに依頼して作製されたものと認\nめられる。
しかるところ,1審原告代表者が,1審原告を設立し,1審原告が\n1審被告が製造するタング付き螺旋状コイルインサート(商品名「ス
プリュー」)を販売するに至った経緯(前記2(1)),1審原告代表者\nが,1審被告の監査役に在任中に,福島工場をしばしば訪問しており
(前記2(6)イ),その際に,同工場の製造ラインを視察する機会があ
ったものと認められること,1審原告代表者は,本件出願をK弁理士\nに依頼する際に,本件発明の内容を口頭で説明していること(前記2
(5)イ)を総合すると,1審原告代表者は,螺旋状コイルインサートの\n形状,タング付きとタングレスの違い,螺旋状コイルインサートの材
料として用いる線材の形状,螺旋状コイルインサートの一般的な製造
方法等について知識を有していたものと認められる。
そして,1審原告代表者が,福島工場を訪問した際に1審被告の従\n業員から福島工場におけるタングレス螺旋状コイルインサートの製造
状況等について話を聞いたり,取引関係者と話をする中で,福島工場
では,凹部及びテーパ部が加工済みのタングレスの線材を使用してタ
ングレス螺旋状コイルインサートを製造していることを認識するに至
ったものと推認することができる。
そうすると,1審原告代表者が,自ら本件発明をしたものでないと\nしても,三晃のJに対し,凹部及びテーパ部が加工済みのタングレス
の線材のサンプルの作製を依頼することは可能であったものと認めら\nれる。また,三晃は,1審被告に対し,螺旋状コイルインサート用の
線材を供給していたから(前記2(1)イ),タングレス螺旋状コイルイ
ンサート及びその材料の線材の形状,螺旋状コイルインサートの一般
的な製造方法等について知識を有していたものと認められ,1審原告
代表者から詳細な説明を受けたり,具体的な線材のサンプルを示され\nなくても,自社の螺旋状コイルインサート用の線材を加工して1審原
告代表者から依頼のあった上記加工済みサンプルを作製することが可\n能であったものと認められる。\nしたがって,1審原告代表者が上記加工済みのタングレスの線材を\n三晃のJに依頼して作製させたことは,1審原告代表者が本件発明を\nしたことの裏付けとなるものではないというべきである。
・・・
ウ 前記ア及びイの認定事実に照らすと,1審原告代表者の供述及び前記陳\n述書(甲11)中の1審原告代表者が本件発明をした旨の部分は措信する\nことができない。他に1審原告代表者が本件発明の技術的思想(前記1(2))
を着想し,又は,その着想を具体化することに創作的に関与したことを認
めるに足りる証拠はない。
・・・
4 反訴請求−争点(2)ア(本訴の提起及び追行の違法性)及びイ(1審被告の損
・・・
これを本件についてみると,前記2(8)のとおり,1審原告は,本訴提起前
の平成27年3月23日付け回答書をもって,1審被告から,1審原告代表\n者は本件発明者の真の発明者ではなく,1審原告代表者を発明者とする本件\n出願は冒認出願であり,本件特許には冒認出願の無効理由があるから,特許
法104条の3第1項により,本件特許権を行使することができない旨の指
摘を受けていたにもかかわらず,同年11月10日に本訴を提起したもので
あること,前記3(2)で説示したとおり,1審原告代表者が本件発明の発明\n者であることを裏付ける客観的な証拠がないのみならず,1審原告代表者が\n本件発明を着想するに至った時期及び着想の経緯,1審原告代表者のK弁理\n士に対する本件出願の依頼の経緯などの1審原告代表者が本件発明をした\nことに関する重要な部分の主張を大きく変遷させ,変遷後の当審における1
審原告の主張に沿う証拠はほとんど提出されていないものと認められるこ
とに照らすと,1審原告においては,本訴で主張する権利又は法律関係が事
実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常人であれば
容易にそのことを知り得たのにあえて本訴を提起し,これを追行したものと
認められる。
そうすると,1審原告による本訴の提起及び追行は,裁判制度の趣旨目的
に照らして著しく相当性を欠くものといえるから,1審被告に対する違法な
行為に当たるものと認められる。
705/088705
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2019.06.21
平成29(ワ)9201 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年6月20日 大阪地方裁判所
特許権侵害が認定され、102条3項の実施料率として7%が認定されました。大阪地裁はその理由を詳細に認定しています。H31.3の特許法改正規定の施行を先取りする形で、「通常の実施料率に比べておのずと高額になるであろうことを考慮すべき」と一般論を述べています。
特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許権
…を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する
額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨
規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準と
し,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
ここで,特許法102条3項については,「その特許発明の実施に対し通常受け
るべき金銭の額に相当する額」では侵害のし得になってしまうとして,平成10年
法律第51号による改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。また,特
許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許の効力が明らか
ではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合で
あっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなど,様々な契約上の制
約を受けるのが通常である状況の下で,事前に実施料率が決定される。これに対し,
特許権侵害訴訟で特許権侵害に当たるとされた場合,侵害者は,上記のような契約
上の制約を負わない。これらの事情に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たっ
て用いる実施に対し受けるべき料率は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契
約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,むしろ,通常の実施
料率に比べておのずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,特許法102条3項による損害を算定する基礎となる実施に対し受
けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それ
が明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特
許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能\n性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態
様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情
を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) 実施料の相場(1))
「実施料率〔第5版〕」(社団法人発明協会研究センター編,平成15年発行。
甲38)によれば,「医薬品・その他の化学製品」(イニシャル無)の技術分野に
おける平成4年度〜平成10年度の実施料率の平均値は7.1%であり,昭和63
年度〜平成3年度に比較して上昇しているところ,その要因として,「実施料率全
体の契約件数は減少しているものの,8%以上の契約に限れば件数が増加しており,
この結果,…実施料率の平均値が高率にシフトしている。」,「この技術分野が他
の技術分野と比較して実施料率が高率であることと,実施料率の高率へのシフト傾
向は,医薬品が支
れている。また,「バイオ・製薬」の技術分野においては,平均6.0%,最大値
32.5%,最小値0.5%とされている。
(ウ) 本件における実施料率を考えるにあたり考慮すべき事情(2)〜3))
a 原告は,本件各発明の技術的価値は極めて優れたものであり,また,速乾性
手指消毒剤の市場における泡状の製品の占めるシェアの動向から,経済的にもその
価値は高いなどと主張する。
泡状の速乾性手指消毒剤である被告各製品に係る宣伝広告(甲5,7,8),製
品情報(甲6,9)及び医薬品インタビューフォーム(甲10)では,液状の速乾
性手指消毒剤では手に取ったときにこぼれやすく,ジェル状の速乾性手指消毒剤で
は増粘剤が配合されているためにポンプのノズルの詰まりや繰り返し塗布したとき
の使用感が問題になることがあったところ,被告各製品は,これらの問題点を解決
する製品である旨がうたわれていることが認められる。
また,本件各発明の実施品である泡状の速乾性手指消毒剤(平成23年6月発売。
甲39,41の1〜41の5,弁論の全趣旨)の販売業者が医療関係者向けに開設
したウェブサイト(甲40)には,泡が目に見えるので消毒範囲が確認できるとと
もに,泡が消えるまで塗り広げることが消毒時間の目安にもなる点や,増粘剤が入
っていないので,ポンプが詰まらず,手に擦り込んでもヨレ(増粘剤入りの消毒剤
や化粧品を手に擦り込んだ際に出る糊状の剥離物)が出ないことがうたわれている。
さらに,平成30年9月26日付け薬事日報ウェブサイトの新薬・新製品情報に関
する記事(甲44)においては,第三者の販売に係る「医薬品として日本で初めて
承認された低アルコール濃度72vol%の手指殺菌・消毒剤」の出荷開始予定について\n報じる中で,「同品の登場によって,手指消毒剤の課題であったアルコールによる
手肌への刺激が低減され,…このほか,▽きめ細かく弾力のある泡で,手からこぼ
れるリスクを軽減する▽泡が目でしっかり見えるため,手指消毒の状態を確認でき
る−といった使用感も特徴。」,「現在,医療分野における手指消毒剤市場は約1
60億円とされ,構成比は液状が6割,ジェル状が3割,泡状が1割という状況。\nただ,液状の構成比は年々減少しており,今後はジェル状と共に泡状も伸びていく\nことが見込まれている。」とされている。
加えて,被告サラヤが実施したアンケートによれば,アンケート対象者である医
療従事者の施設で使用されている速乾性手指消毒剤の種類は,平成25年にはジェ
ルタイプ67%,液タイプ27%,泡タイプ6%であったものが,平成27年には
それぞれ66%,24%,10%となっている(甲42,43)。
以上の事情を総合的に見ると,被告各製品と本件各発明の実施品に加え,第三者
の製品も,本件各発明の奏する作用効果(前記3(2)ア)と同趣旨と見られる効果を
利点としてうたっていることなどに鑑みれば,泡状の手指消毒剤において本件各発
明が持つ技術的価値は高いものと見られる。また,手指消毒剤の市場において,泡
状の製品のシェアが徐々に高まっていることがうかがわれることに鑑みると,本件
各発明の経済的価値も積極的に評価されるべきものといえる。もっとも,後者に関
しては,ジェル状の製品のシェアはなお維持されているといってよいことに鑑みる
と,その評価は必ずしも高いものとまではいえない。実施料率の決定要因としては,
当該特許発明の技術的価値よりも経済的価値の方がより影響力が強いと推察される
ことに鑑みると,このことは軽視し得ない。
これに対し,被告らは,本件各発明は平均的な発明に比して技術的に優れた発明
ではなく,また,泡状の手指消毒剤のシェアの拡大は直接的には当該製品の販売事
業者の営業努力によるものであり,シェア拡大をもって特許の経済的価値が高いと
はいえないなどと主張する。
しかし,進歩性が認められる本件各発明の奏する作用効果と同趣旨と見られる効
果が実際の製品の利点としてうたわれていることなどに鑑みれば,上記のとおり本
件各発明の技術的価値は高いものと評価するのが相当である。また,販売事業者が
営業活動に当たって相応の営業努力を行うことは当然である上,泡状の手指消毒剤
に係る営業方法等が,ジェル状ないし液状のものに係る営業方法等と比較して,格
別のものであると見るべき事情もない。
これらのことから,この点に関する被告らの主張は採用できない。
b 被告各製品は,被告製品1(500mLの泡ポンプ付が定価1760円,3
00mLの泡ポンプ付が1200円,80mLの泡ポンプ付が670円,600m
Lのディスペンサー用が2000円。甲5,28,乙13),被告製品2(500
mLの泡ポンプ付が1760円,300mLの泡ポンプ付が1200円,200m
Lの泡ポンプ付が930円,80mLのものが670円,600mLのディスペン
サー用が2000円。甲8,29,乙14)いずれも比較的低価格である。反面,
これを踏まえて被告各製品の売上高を見ると,その販売数量は多いといえるから,
被告各製品はいわゆる量産品であり,利益率は必ずしも高くないと合理的に推認さ
れる。この点は,本件各発明を被告各製品に用いた場合の利益への貢献という観点
から見ると,実施料率を低下させる要因といえる。
(エ) 小括
上記(イ)及び(ウ)の各事情を斟酌すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定め
られるべき,本件での実施に対し受けるべき料率については,7%とするのが相当
である。これに反する原告及び被告らの各主張は,いずれも採用できない。
ウ 「特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」
以上によれば,原告が被告らによる本件各発明の実施に対し受けるべき金銭の額
に相当する額は,売上高に7%を乗じて算定すべきこととなる。
◆判決本文
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2019.06.21
平成30(ネ)10017 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年4月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害事件が控訴されましたが、1審と同様に、差止・損害賠償が認められました。損害賠償額は増えています。102条3項の実施料率について判断されています。具体的数値は伏せ字となっているため不明です。控訴審でも平均値である5.9%平均よりも、低く認定されたようですが、1審よりも高くなったと思われます。
(1) 実施料率
ア 1)平成19年に日本で特許出願を行った国内企業・団体のうち,合計出
願件数の上位となっている企業・団体(対象2031件)に加えて,株式会社帝国
データバンク保有データ信用調査報告書ファイルの中からライセンス契約を実施し
ていると判断された企業(対象975件)に対するアンケート調査(有効回答56
3件)において,化学分野(IPC分類のC01〜C14;103件)に係る特許
権のロイヤルティ料率の平均値は4.3%であるとされていること(甲67,乙5
8),2)財団法人経済産業調査会発行の「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特
許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(甲68)において,上記アン
ケート結果をその技術分類と異なる技術分類で新たに分析した結果として,「有機化
学,農薬」分野(IPC分類のA61,C07,C40;54件)のロイヤルティ
率の平均値は5.9%とされていることが認められる。
本件各発明のIPC分類は,C07D,A01N,A01Pである(甲2の2)
から,上記1)よりは2)の方が本件各発明からより遠い技術分野のサンプルが除外さ
れており,2)の54件というサンプル数も少なくないということができるから,本
件各発明の相当実施料率の検討に当たっては,1)よりは2)を念頭に検討することが
相当である。
イ 証拠(甲2の2,乙1〜4)及び弁論の全趣旨によると,本件各発明は,
除草剤の有効成分又はその候補となる新規化合物を提供することを課題として,化
合物の一般式及び置換基の組合せを示したものであるが,発明の詳細な説明におい
て,上記化合物の除草特性に関する個別の実験結果は示されておらず,本件出願日
当時の技術常識に照らして上記化合物が除草作用を有しており,除草剤の有効成分
の候補となり得るものであることが認識できるにとどまるものである。そうすると,
本件各発明の化合物を水稲など特定の作物に用いる農薬として利用するためには,
本件各発明の多数の化合物の中からテフリルトリオンのような特定の化合物を選び
出した上,その化合物が上記作物の栽培に当たり想定される具体的な雑草に対する
除草効果を発揮する一方,上記作物に対する有害性がないことを確認する必要があ
り,相応の試行錯誤を要することは明らかである。
したがって,本件各発明の実施料率は,類似する技術分野の実施料率の分布にお
いて,平均よりも一定程度低く位置付けることが相当である。
ウ 証拠(甲4,5,甲6の1〜4,甲7の1〜3,甲55〜61,72)
及び弁論の全趣旨によると,1)被告製品2は,いずれもテフリルトリオンに加えて
もう1種類の有効成分(被告製品2(1)〜(3)のフェントラザミド,同(4)〜(6)のメフェ
ナセット,同(7)〜(12)のトリアファモン。以下,「フェントラザミド等」という。)を
含有する農薬混合物であること,2)テフリルトリオンは,ノビエを除く幅広い雑草
に対する除草効果に優れ,スルホニルウレア抵抗性雑草(ホタルイ類,アゼナ類,
コナギ等)に高い除草作用を有しているのに対し,フェントラザミド等は,いずれ
もテフリルトリオンの除草効果が十分でないノビエに対して優れた除草効果を有し\nており,テフリルトリオンと相互に除草効果を補完する関係にあること,3)一審被
告が作成した被告製品2の技術資料やパンフレット等の広告宣伝でも,2種類の有
効成分が含まれた農薬混合物であることによってスルホニルウレア抵抗性雑草及び
ノビエに対して優れた除草効果を発揮することが一貫して記載されていること(例
えば,被告製品(4)〜(6)の技術資料〔甲5〕においては,表紙である1頁に「2成分\nで白く枯らす。効きめが見える。」と記載され,4頁の「ポッシブルの特長」におい
ても6項目中の1番目に「2成分で高い除草効果 ノビエをはじめとした一年生雑
草から,ホタルイ,ウリカワ,ミズガヤツリ,ヘラオモダカ,ヒルムシロ,セリ,
オモダカ,クログワイなと〔判決注・「など」の誤記と認める。〕の多年生雑草に対
し高い効果を示します。また,新規成分テフリルトリオンとメフェナセットの2種
混合なので,減農薬栽培にも適しています。」などと記載されている。)が認められ
る。
上記認定の事実によると,被告製品2においては,テフリルトリオンが,ノビエ
を除く幅広い雑草に対する除草効果に優れ,スルホニルウレア抵抗性雑草にも高い
除草作用を有していることから,有効成分として主たる役割を果たすものと認めら
れるが,フェントラザミド等は,テフリルトリオンの除草効果が十分でないノビエ\nに対して優れた除草効果を有しているところ,ノビエに対する除草効果も重要であ
るものと認められる。
そうすると,被告製品2の顧客吸引力は,その過半がテフリルトリオンによるも
のではあるが,その一部はフェントラザミド等によるものであると認められる。
エ 前記ア〜ウに併せて,一審被告が一審原告から本件特許の実施許諾を得
ずに被告製品2の製造販売等を継続していた一方,結果的に本件訂正により解消し
たとはいえ,本件特許は無効理由を有していたことなど,本件に顕れた全ての事情
を総合すると,被告製品2に係る本件特許権侵害の不法行為の損害の額を特許法1
02条3項により算定する際に適用すべき実施料率は●●●●が相当である。
なお,証拠(乙65〜67)によると,OATアグリオ株式会社は,平成28年
8月頃,「サスケ−ラジカルジャンボ」,「半蔵1キロ粒剤」という水稲用一発処理除
草剤を販売していたこと,いずれも,ホタルイ,コナギ,アゼナ類などSU抵抗性
雑草に強いことを宣伝文句としており,有効成分にシクロスルファムロン及びベン
ゾビシクロンを含む(その余の有効成分として,前者はカフェンストロール及びダ
イムロンを,後者はペントキサゾンを含む。)こと,「サスケ」及び「半蔵」はBA
SF社(一審原告又はその関連会社と推認される。)の登録商標であったことが認め
られる。しかし,上記登録商標の使用許諾以外には,これらの除草剤の販売に一審
原告がどのように関わっているかや,これらの除草剤が被告製品2とどの程度競合
関係にあるかは,本件全証拠によっても明らかではないから,これらの事実につい
ては,考慮しないこととする。また,前記認定のとおり,バイエル特許が存することが認められるが,被告製品2は,本件各発明の技術的範囲に属するから,本件特許を実施してはじめてバイエル特許を実施することができるものであり,前記のとおり,本件各発明の化合物を除草剤とするには相応の試行錯誤が必要であることは既に考慮しているから,バイエル特許が存することを,既に判示したところを超えて考慮する必要はない。
◆判決本文
原審では、実施料率について、以下のように認定されています。
◆平成27(ワ)2862
上記のアンケート結果をその技術分類と異なる技術分類で新たに分析した結果
として,「有機化学,農薬」分野のロイヤルティ率の平均値は5.9%とされてい
ることが認められる。
上記事実関係に照らすと,被告製品2は,本件各発明の技術的範囲に含まれるテ
フリルトリオンを有効成分の一つとする農薬混合物ではあるものの,本件各発明の
効果が特に顕著であるとみることはできない。また,被告製品2においては,テフ
リルトリオン以外の有効成分もテフリルトリオンの除草効果を補完する重要な効果
を有しており,技術資料等においても二種類の有効成分が含まれた農薬混合物であ
ることが一貫して記載されていることも実施料率を算定するに当たって十分に考慮\nされる必要がある。
加えて,本件各発明についての特許に上記3(1)及び(2)のとおりの無効理由がある
ことからすると,被告が原告との間でライセンス契約を締結することなく被告製品
2を製造販売等して本件特許権を侵害してきたことをもって,実施料率をそれ程高
額なものと認定するのは相当とはいえない。
以上を総合すると,本件における特許法102条3項所定の損害の額は,被告製
品2の売上高に●(省略)●を乗じて算定するのが相当である。
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2019.06. 7
平成30(ネ)10063 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年6月7日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
知財高裁特別部、いわゆる大合議判決です。争点は充足論、無効論など、多々ありますが、102条2項の推定覆滅事由、同3項の損害額の判断基準について一般論を述べています。
(3) 推定覆滅事由について
ア 推定覆滅の事情
特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情
と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者
が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば,
1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),2)市
場における競合品の存在,3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),4)侵害
品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について,特許法1
02条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅
の事情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部
分のみに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することがで
きるが,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の
覆滅が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における
位置付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するの
が相当である。
イ 控訴人らは,炭酸ガスを利用したパック化粧料全てが競合品であることを
前提に,他の炭酸パック化粧料の存在が推定覆滅事由となると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競合関係
に立つ製品であることを要するものと解される。
被告各製品は,炭酸パックの2剤型のキットの1剤を含水粘性組成物とし,炭
酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生させ,得られた二酸化
炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させる炭酸ガスを利用したパック
化粧料である。そして,化粧料における剤型は,簡便さ,扱いやすさのみならず,
手間をかけることにより得られる満足感等にも影響するものであり,各消費者の必
要や好みに応じて選択されるものであるから,剤型を捨象して広く炭酸ガスを利用
したパック化粧料全てをもって競合品であると解するのは相当ではない。控訴人ら
が競合品であると主張する製品は,その販売時期や市場占有率等が不明であり,市
場において被告各製品と競合関係に立つものと認めるには足りない。
ウ 控訴人らは,被告各製品が利便性に優れているとか,被告各製品の販売は
控訴人らの企画力・営業努力によって成し遂げられたものであると主張する。
しかし,事業者は,製品の製造,販売に当たり,製品の利便性について工夫し,
営業努力を行うのが通常であるから,通常の範囲の工夫や営業努力をしたとしても,
推定覆滅事由に当たるとはいえないところ,本件において,控訴人らが通常の範囲
を超える格別の工夫や営業努力をしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
エ 控訴人らは,被告各製品は原告製品に比べて顕著に優れた効能を有すると\n主張する。
侵害品が特許権者の製品に比べて優れた効能を有するとしても,そのことから\n直ちに推定の覆滅が認められるのではなく,当該優れた効能が侵害者の売上げに貢\n献しているといった事情がなければならないというべきである。
・・・
(ウ) 被告各製品及び原告製品は,いずれも本件発明1−1及び本件発明2−1
の実施品であり,炭酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生さ
せ,得られた二酸化炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚に
適用して二酸化炭素を皮下組織等に供給することにより,美肌,部分肥満改善等に
効果を有するものであると認められるのであり,上記(ア)及び(イ)に認定した事実に
よっても,被告各製品が原告製品に比して顕著に優れた効能を有し,これが控訴人\nらの売上げに貢献しているといった事情を認めるには足りず,ほかにこれを認める
に足りる的確な証拠はない。
オ 控訴人らは,被告各製品が控訴人ネオケミアの有する特許発明の実施品で
あるなどとして,これらの特許発明の寄与を考慮して損害賠償額が減額されるべき
であると主張する。
侵害品が他の特許発明の実施品であるとしても,そのことから直ちに推定の覆
滅が認められるのではなく,他の特許発明を実施したことが侵害品の売上げに貢献
しているといった事情がなければならないというべきである。控訴人ネオケミアが,
二酸化炭素外用剤に関連する特許である,1)特許第4130181号(乙A18),
2)特許第4248878号(乙A19),3)特許第4589432号(乙A20),
4)特許第4756265号(乙B全7)を保有していることは認められるが,被告
各製品が上記各特許に係る発明の技術的範囲に属することを裏付ける的確な証拠は
ないから,そもそも,被告各製品が他の特許発明の実施品であるということができ
ない。よって,これらの特許発明の寄与による推定の覆滅を認めることはできない。
なお,被告各製品の中には,上記特許権の存在や,特許取得済みであることを
外装箱に表示したり,宣伝広告に表\示したりしているものがあったことが認められ
る(甲7,8,17,20)が,特許発明の実施の事実が認められない場合に,そ
の特許に関する表示のみをもって推定覆滅事由として考慮することは相当でないか\nら,この点による推定の覆滅を認めることもできない。
カ 控訴人らは,従来技術との比較の観点から,本件発明1−1及び本件発明
2−1の技術的価値が低いことを主張するが,控訴人らが指摘するジェルと粉末を
組み合わせる化粧料の技術(資生堂614及び日清324)は,炭酸ガスを利用し
た化粧料に係るものではないし(乙A103,乙E全9,35,36),2剤混合
型の気泡状の二酸化炭素を発生する化粧料(石垣発明1及び2)は,炭酸ガスの気
泡の破裂により皮膚等をマッサージするための発泡性化粧料の技術であって,二酸
化炭素を気泡状で保持する二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのものではない
(乙E全4,5,37,38)から,いずれも本件発明1−1及び本件発明2−1
を代替するものではない。そうすると,これらの従来技術の存在は,被控訴人の受
ける損害とは無関係であるから,推定覆滅事由に当たるということはできない。
キ 控訴人らは,乙A3の実験結果によれば,ブチレングリコールが配合され
た被告各製品においては,本件発明1−1及び本件発明2−1の寄与は限定的であ
ると主張する。しかし,本件発明1−1及び本件発明2−1は二酸化炭素含有粘性
組成物を得るための2剤型の化粧料のキットの発明であるところ,被告各製品は,
炭酸塩を含むジェル剤と酸を含む顆粒剤を混合して使用するパック化粧料のキット
であるから,本件発明1−1及び本件発明2−1は被告各製品の全体について実施
されているというべきである。また,被告各製品にブチレングリコールが配合され
たことによる効果が控訴人らの売上げに貢献しているといった事情も認められない
本件において,ブチレングリコールが配合されていることは,被控訴人の受ける損
害とは無関係であるから,控訴人らが指摘する乙A3の実験の結果は,控訴人らの
上記主張を基礎付けるものではない。
・・・
6 損害(特許法102条3項)(争点6−2)
(1) 特許法102条3項について
ア 被控訴人は,選択的に,別紙「損害額一覧表」の「被控訴人主張額」「3\n項による損害額」欄記載のとおり,特許法102条3項により算定される損害額も
主張している。特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最
低限度の損害額を法定した規定である。
イ 特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許
権…を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当す
る額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」
旨規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準
とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
(2) その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
ア 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の
額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「その特許
発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ,
「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして,同改正により
「通常」の部分が削除された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無効に
されるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,
当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることがで
きないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施
料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものと
はいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契
約上の制約を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項
に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約に
おける実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対
して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施
料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許諾
契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場
等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重
要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上
げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の
営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
・・・・
ウ 実施に対し受けるべき金銭の額
上記のとおり,1)本件訴訟において本件各特許の実際の実施許諾契約の実施料
率は現れていないところ,本件各特許の技術分野が属する分野の近年の統計上の平
均的な実施料率が,国内企業のアンケート結果では5.3%で,司法決定では6.
1%であること及び被控訴人の保有する同じ分野の特許の特許権侵害に関する解決
金を売上高の10%とした事例があること,2)本件発明1−1及び本件発明2−1
は相応の重要性を有し,代替技術があるものではないこと,3)本件発明1−1及び
本件発明2−1の実施は被告各製品の売上げ及び利益に貢献するものといえること,
4)被控訴人と控訴人らは競業関係にあることなど,本件訴訟に現れた事情を考慮す
ると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し
受けるべき料率は10%を下らないものと認めるのが相当である。なお,本件特許
権1及び本件特許権2の内容に照らし,一方のみの場合と双方を合わせた場合でそ
の料率は異ならないものと解すべきである。
したがって,本件各特許権侵害について,特許法102条3項により算定され
る損害額は,別紙「損害額一覧表」の「裁判所認定額」「3項による損害額」欄記\n載のとおりとなる。
(3) 控訴人らの主張について
控訴人らは,被告各製品における本件各特許の寄与が限定されることを根拠に
実施に対し受けるべき料率を低くすべきであると主張するが,前記5(3)に説示し
たところに照らし,本件発明1−1及び本件発明2−1を被告各製品に用いたこと
による売上げ及び利益への貢献が限定されるとは認められないから,控訴人らの主
張は前提を欠く。
また,控訴人らは,被控訴人のビジネスモデルが不当に競争を制限するもので
あると主張するが,前記5(1)イにおいて認定したとおり,被控訴人は本件各特許
の実施品を製造販売しているのであるから,被控訴人のビジネスモデルが不当に競
争を制限するものであると解する根拠がない。控訴人らの,MLMによる販売手法
に関する主張は具体的な主張を欠き,失当である。
控訴人らの主張するその余の点も,上記判断を左右するものではない。
7 総括
(1) 被控訴人キアラマキアート(被告製品5)については,上記6で認定した
特許法102条3項に係る損害額が,前記5で認定した同条2項に係る損害額より
も高いから,同条3項に係る損害額をもって被控訴人の損害額と認めるべきことに
なる。
他方,その余の控訴人らについては,いずれも前記5で認定した同条2項に係
る損害額の方が高いから,この金額をもって被控訴人の損害額と認めるべきことに
なる。
なお,控訴人コスメプロらは,被告各製品を製造,販売するに至った経緯等に
照らし控訴人コスメプロらには故意又は重大な過失はなかったとして,同条4項に
基づき,このことを控訴人コスメプロらの損害賠償額を定めるについて参酌すべき
であると主張する。しかし,控訴人コスメプロ,控訴人アイリカ,控訴人ウインセ
ンス,控訴人コスメボーゼ及び控訴人クリアノワールは,化粧品の製造会社であり,
仮に同控訴人らの主張する諸事情があったとしても,同控訴人らにつき,特許権侵
害についての故意又は重大な過失がなかったということはできないから,控訴人ら
の上記主張は採用できない。
◆判決本文
◆要旨
原審はこちら
◆平成27(ワ)4292
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2019.05.13
平成30(ネ)10082 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年4月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
控訴審でも、訂正後の発明について進歩性ナシとして、差止請求などが棄却されました。控訴審で代理人が変更されています。一審後の訂正の再抗弁が時機に後れているかについて、該当するかはともかくとして,訴訟の完結を遅延させることとなるとまでは認められないと判断されています。
(3) 相違点1−2’に係る容易想到性の判断について
ア 公然実施品1のサッシュは,断面形状が複雑であるため,製造コストが
掛かること,サッシュ自体の体積に比べて余分なスペースを大きく取るた
めに保管や輸送の際に保管コストや輸送コストも掛かることは,当業者に
とって自明なことであり,これらのコスト(製造コスト等)を削減するた
めに,公然実施品1のサッシュを複数の部品で構成し,公然実施品1の製\n造時に,当該複数の部品を接合してサッシュとすることは,当業者の通常
の創作能力の発揮にすぎない。\nそして,乙13公報に開示されている「誘導加熱調理器において,サッ
シュ(枠体2)とは別部材により構成され,かつサッシュ(枠体2)に当\n接させてねじで接合した,金属板からなる補強板(L字金具9)」(以下
「乙13技術事項」という。)は,公然実施品1のサッシュに相当する部
材を複数の部材で構成する技術であり,乙13技術事項の補強板(L字金\n具9)とサッシュ(枠体2)とを接合したものの方が公然実施品1のサッ
シュよりも製造コスト等がかからないのは,当業者にとって自明の事項で
あるから,誘導加熱調理器という同一の技術分野に属する公然実施品1と
乙13技術事項に接した当業者であれば,製造コスト等を削減する目的で
公然実施品1に乙13技術事項を適用することに格別の困難性があるとは
認められない。
したがって,公然実施品1に乙13技術事項を適用して,相違点1−2’
に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことで\nあるといえる。
イ 控訴人の主張について
控訴人は,1)乙13公報における「断面凸形状9a」の実質は,調理器
本体ケース5内への浸水を防止するためだけの役割を担った「浸水防止部
材」であるから,かかる「断面凸形状9a」は本件発明(構成要件D)の\n「補強板」には当たらないし,乙13公報に記載の構成によれば,「断面\n凸形状9a」は調理プレート1から離れる方向に相当強い力で引っ張られ
るのであり,実質的に見ても「断面凸形状9a」が調理プレート1を補強
しておらず「補強板」とはいえないから,公然実施品1及び乙13公報に,
本件発明の構成要件Dに係る構\成は開示されていない,2)公然実施品1と
乙13公報に記載の技術とは,主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆,
技術分野の関連性及び課題や作用・機能の共通性が認められないから,公\n然実施品1に乙13公報に記載の技術を適用する動機付けもない,などと
主張する。
しかしながら,乙13公報において,本件発明の「補強板」に相当する
ものは「断面凸形状9a」ではなく「L字金具9」全体であって,あたか
もそれが「断面凸形状9a」に限定されるかのような控訴人の主張は,そ
もそもその前提において誤解がある。また,たとえ乙13公報における課
題そのものは調理器本体内部の浸水防止を図る点にあったとしても,「L
字金具9」全体の形状を見れば,それが本件発明の「補強板」に相当する
機能を果たし得ることは,当業者であれば容易に想起できるものと認めら\nれる(この点は,「断面凸形状9a」が調理プレート1から離れる方向に
相当強い力で引っ張られるとしても変わりがない。「断面凸形状9a」に
どのような方向の力が掛かっているかと,それが補強材としての機能を有\nしているかどうかとは関わりのない事柄だからである。)から,前記1)の
指摘は当を得ているとはいえない。
また,前記アのとおり,公然実施品1のサッシュは,製造コスト等が掛
かるものであるということは,当業者にとって自明のことといえるから,
公然実施品1には,かかる製造コスト等を削減するという自明の課題があ
る。そして,誘導加熱調理器という同一の技術分野に属する公然実施品1
と乙13技術事項に接した当業者であれば,公然実施品1に乙13技術事
項を適用すると製造コスト等を削減できるのは明らかであるから,公然実
施品1に乙13技術事項を適用する動機付けはあるといえる。したがって,
前記2)の指摘も当を得ているとはいえない。
(4) 以上によれば,原判決がした,本件発明と公然実施品1との対比(一致点
及び相違点の認定)と認定した相違点(相違点1−2’)に係る容易想到性
の判断はいずれも正当であり,これによれば,本件特許について無効の抗弁
が成立する。
したがって,無効の抗弁の成立を争う控訴人の主張は採用できない。
被控訴人は,本件訂正の再抗弁につき,時機に後れた攻撃防御方法に当たる
として,民事訴訟法157条1項に基づく却下を求めている。
しかしながら,本件訴訟の経過に鑑みると,控訴人による本件訂正の再抗弁
の提出が,時機に後れているか否かはともかくとして,訴訟の完結を遅延させ
ることとなるとまでは認められないから,同条項に基づきこれを却下するのは
相当でない。
そこで,以下,本件訂正の再抗弁の成否について判断する。
(1) 控訴人は,平成30年12月14日,本件特許の明細書及び特許請求の範
囲を訂正することについて訂正審判を請求した(本件訂正,甲40)。
(2) 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(構成\n要件の分説は控訴人に従う。下線部は訂正箇所を示す。)。
A 誘導加熱をする第1及び第2の加熱器を左右に内設した本体ケースと,
この本体ケースの上面に設けられたトッププレートと,
前記トッププレートの周囲に設けられたサッシュとを具備し,
被組込家具に組み込まれる加熱調理器において,
B’ 前記トッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくし(ただし,トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じものを除く),
C 前記第1及び第2の加熱器の各中心部を,前記本体ケースの左右に等分した両側部の各中心部より外側であって,前記トッププレートの左右に等分した両側部の各中心部より中央側に配置すると共に,
D 前記トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方であって直下に前記被組込家具が位置する箇所に,前記サッシュとは別部材に構成され,かつ前記サッシュに当接させた,金属板から成る補強板を設け,
E この補強板と前記トッププレートとの間,又は補強板の下方に断熱層を形成したこと
F を特徴とする加熱調理器。
(3) 進歩性の判断
事案に鑑み,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1に係る発明(本件訂正
発明)の進歩性から検討する。
ア 本件訂正発明と公然実施品1との対比
(ア) 「トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義
本件訂正事項は,構成要件Bの「前記トッププレートの幅を前記本体\nケースの幅より大きくし,」との構成から「トッププレートの幅と本体\nケースの幅がほぼ同じもの」を除外する,というものである。
控訴人は,本件明細書等の記載や出願時の技術常識等(キッチン設備
のJIS規格等)を踏まえると,本件訂正事項により除外される「トッ
ププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義は,本件特許
の出願当時における従来製品の加熱調理器のことと理解すべきであって,
具体的には,トッププレートの幅が約600mm,本体ケースの幅が5
50mm前後の加熱調理器を指していることは,本件明細書等の記載に
接した当業者にとって明らかである,と主張する。
しかしながら,控訴人が主張するトッププレートの幅が約600mm,
本体ケースの幅が550mm前後の加熱調理器やJIS規格(甲25)
について,本件明細書等には何ら記載されておらず,示唆もない(本件
明細書等には,例えば,【背景技術】や【発明を実施するための最良の
形態】の欄においても,加熱調理器の寸法について具体的な数値は一切
記載されておらず,JIS規格等の引用もない。)。また,控訴人が主
張するJIS規格(甲25)も,機器を落とし込んで組み込む場合の「ワ
ークトップの開口の呼び寸法」と「ワークトップの開口部の開口寸法」
について一定の数式を示しているだけで,「トッププレートの幅と本体
ケースの幅がほぼ同じもの」といえば,当然にトッププレートの幅が約
600mm,本体ケースの幅が550mm前後の加熱調理器を指すとい
うことを認めるに足る具体的な記載はない。控訴人は,主要各社の製品
カタログや刊行物等を示して,従来製品の加熱調理器はトッププレート
の幅が約600mm,本体ケースの幅が550mm前後のものであった
とも主張するが,たとえ本件特許の出願時においてかかる寸法のものが
主流であったとしても,加熱器の配置との関係でトッププレートの幅と
本体ケースの幅の大小の関係を規定する本件訂正発明において,その技
術的範囲から除外される「トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ
同じもの」が当然にトッププレートの幅が約600mm,本体ケースの
幅が550mm前後の加熱調理器に限定されると解すべき理由はないと
いうべきであるから,控訴人の主張は失当である。
そこで,本件明細書等の【0002】を見ると,「…図7は,そのも
のを平面図で具体的に示しており,第1及び第2の加熱器1,2を左右
に内設した本体ケース3と,これの上面に設けたトッププレート4とは,
その各幅W3,W4がほゞ同じで,第1及び第2の加熱器1,2の各中
心部O1,O2は,本体ケース3の左右に等分(W3/2)した両側部
の各中心部RO3,LO3(W3/4)とほゞ合致し,且つ,トッププ
レート4の左右に等分(W4/2)した両側部の各中心部RO4,LO
4(W4/4)とも合致している。」と記載されている。この記載は,
前段の「…本体ケース3と,…トッププレート4とは,その各幅W3,
W4がほゞ同じで,」に続く後段の部分で,「トッププレートの幅と本
体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義を規定しており,同部分(後段の
部分)は,第1及び第2の加熱器1,2の各中心部が,それぞれ,「ト
ッププレート4の両側部の中心部に合致する」状態で,なおかつ,「本
体ケース3の両側部の中心部とほぼ合致する」状態であることを表すも\nのと認められる。ここで,本体ケース3の両側部の中心部と第1及び第
2の加熱器1,2の中心部との距離をDとすると,D=W4/4−W3
/4となり,トッププレート4の幅W4と本体ケース3の幅W3との差
は,W4−W3=4Dとなる。
このDがどの程度の距離であるかについて,本件明細書等には明示的
な記載がないが,1)第1及び第2の加熱器1,2の中心部は,それぞれ,
本体ケース3の両側部の中心部とほぼ合致するものとする【0002】
の記載や図7の記載からは,O1とRO3やO2とLO3が隣接してい
ると理解し得ること,2)従来技術の課題を解決する手段の一部として,
トッププレートの幅と本体ケースの幅については,単に,(トッププレ
ートの幅)>(本体ケースの幅)としていること等の事情を勘案すると,
D≒0であり,Dは,製造上や計測上の誤差程度と解するのが相当であ
る。そして,加熱調理器に関するJIS規格(甲25)には,公差とし
て,2〜5mmとする例が記載されていることを勘案すれば,Dについ
ては,0<D≦5(mm),すなわち,大きく見積もっても5mmを超
えない程度のものと解することができる。
そうすると,トッププレートの幅と本体ケースの幅との差4Dは,0
<4D≦20(mm)となり,構成要件B’の「トッププレートの幅と\n本体ケースの幅がほぼ同じもの」は,トッププレートの幅と本体ケース
の幅との差が,大きく見積もっても20mmを超えないものとなる。
(イ) 本件訂正発明と公然実施品1との対比
以上のとおり,本件訂正発明における構成要件B’の「トッププレー\nトの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」は,トッププレートの幅と本
体ケースの幅との差が,大きく見積もっても20mmを超えないものを
指すと認められる。
これを踏まえると,トッププレートの幅が599mm,本体ケースの
幅が550mmであって,それらの差が49mmである公然実施品1は,
本件訂正発明における構成要件B’の「トッププレートの幅と本体ケー\nスの幅がほぼ同じもの」とはいえないから,構成要件B’は,本件訂正\n発明と公然実施品1との相違点とはならない。
そうすると,本件訂正発明と公然実施品1との一致点及び相違点は,
以下のとおりになると認められる。
(一致点)
本件訂正発明と公然実施品1とは,構成要件A,B’,C,E及びF\nについて一致する。
(相違点)
本件訂正発明は,サッシュとは別部材に構成され,かつサッシュに当\n接させた,金属板から成る補強板を有するのに対し,公然実施品1はサ
ッシュ自体が補強板となっており,サッシュとは別部材に構成され,か\nつサッシュに当接させた,金属板から成る補強板は有しない点。
イ 上記相違点についての判断
上記相違点は,本件訂正前の本件発明と公然実施品1との相違点(相違
点1−2’)と実質的に同じであるから,前記1(3)のとおり,本件発明と
同様に,本件訂正発明についても,公然実施品1及び乙13技術事項に基
づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 以上によれば,本件訂正発明は,そもそも特許を受けることができないも
のである(特許法29条2項)から,本件訂正は独立特許要件(特許法12
6条7項)を満たすものではなく,また,本件訂正によって本件特許に係る
無効理由が解消するものでもない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件訂正の再抗弁
は理由がない。
◆判決本文
一審はこちらです。
◆平成29(ワ)22884
こちらは関連事件の控訴審判決です。
「構成要件Eを充足しない」として非侵害です。\n原告被告は同じで、対象特許が異なります。
◆平成30(ネ)10078
構成要件Eのうち,「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」の意義につい\nて検討する。
上記各文言は,調理容器との関係をもって加熱調理器の構成を示すものであり,\n文言のみから一義的にその意義を明らかにすることができないことから,本件明細
書等の発明の詳細な説明の内容を考慮して検討する必要がある。そこで,1⑴にお
いてみたとおりの本件明細書等の記載を考慮すると,本件明細書等(【0003】,
【0005】,【0021】,【0028】,【0029】,【0030】,【0
032】)には,リング状枠はトッププレート上に印刷表示され,調理容器を有効\nに加熱できる領域として使用者に示されるものであること(【0003】),リン
グ状枠は加熱部の領域を示し,鍋の最大径と同径で,鍋の外殻を表すものであるこ\nと(【0005】,【0021】)及び加熱部は最大の鍋径と同径で,リング状枠
であること(【0028】,【0029】)が示され,これ以外に,上記各文言の
意義の解釈を導くような説明がされていることは認められない。そうすると,「最
大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示され左右の加熱部の領域を示し,\nまた,リング状枠と同径のものであり,また,「調理容器の外殻」と一致するもの
であると解するのが一般的かつ自然である。
この点,被告は,構成要件Eの内容は不特定であるなどと主張するが,同主張は,\n前記認定に照らし採用することができない。
(2) 被告製品関連製品の構成\n
ア 原告は,別紙3被告製品説明書(原告)において,被告各製品は,「左IH
ヒーター及び右IHヒーター上で,調理容器の鍋底全体を加熱できる最大径である
直径26cmの領域を示す外殻線11,12」という構成を有し,これが「調理容\n器の外殻」であり「最大径の調理容器」である旨主張する。そして,被告各製品を
除く被告製品関連製品も被告各製品と同様の構成を有する旨主張する。\nイ しかしながら,前記(1)において認定したとおり,「調理容器の外殻」及び「最
大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示された加熱部及び有効加熱領域\nの領域を示すリング状枠と同径のものであるところ,原告の主張する外殻線11,
12は,原告において付しているものにすぎず,トッププレート上に表示されてい\nるものではないから,これらを「調理容器の外殻」又は「最大径の調理容器」であ
るとみることはできない。そして,本件全証拠によっても,被告各製品には,加熱
部及び有効加熱領域を示す直径26cmのリング状枠が表示されているとは認めら\nれず,加熱部及び有効加熱領域を示すリング状枠と同径である「調理容器の外殻」
及び「最大径の調理容器」が直径26cmであると認めることもできない。
原告は,「調理容器の外殻」は,鍋底の最大径であり,被告は被告各製品におい
て鍋底が直径26cmまでの鍋を使用することができる旨説明しているから,被告
各製品の「最大径の調理容器」は26cmのものであると主張する。しかしながら,
被告において上記のように説明することが,被告各製品で使用可能な最大径の鍋底\nを示すものといえるか否かについてひとまず措くとしても,前記(1)において認定し
たとおり,「調理容器の外径」及び「最大径の調理容器」と同一であるリング状枠
及び有効加熱領域は,トッププレートに表示される必要があるのであって,表\示さ
れていない有効加熱領域に基づく原告の主張はその前提を欠き失当である。
(3) 小括
以上のとおり,被告各製品は,原告主張の「調理容器の鍋底全体を加熱できる最
大径である直径26cmの領域を示す外殻線」という構成を有するとは認められな\nいから,この外殻線を前提に被告各製品が構成要件Eを充足するという原告の主張\nは採用できず,ほかにこれを認めるに足りる証拠もない。また,被告各製品を除く
被告製品関連製品が構成要件Eを充足することを認めるに足りる証拠もない。\nしたがって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品関連製品は,構\n成要件Eを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできな
い。
一審はこちらです。
◆平成29(ワ)10742
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2019.04. 1
平成29(ネ)10090 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年4月4日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。知財高裁も、1審と同様に、数値範囲がその範囲であったとはいえないとして、先使用権を有しないと判断しました。なお、知財高裁は、傍論ですが、仮にその範囲であったとしても、同じ技術思想とはいえないとして、先使用ではないと判断しています。
実際に用いられていたアルミピロー包材と同じ品番のアルミピロー包材の中に
は,底部の折り曲げ部分のアルミが剥がれているものもある(甲18,26)。ま
た,防湿性を確保したアルミピローの製造は,医薬品メーカーの管理方法を含めた
製造方法に大きく依存する旨指摘されている(乙48)。実際に用いられていたア
ルミピロー包材に対して,専門家による立会いの下,リーク試験が行われ,気密性
が担保されていることが確認された旨報告されているものの(乙49),同リーク
試験は,検体を水没させ,一定の減圧条件(槽内圧力−40kPa,保持時間30
秒間)において,気泡が発生しないことを目視検査するというものである。水没試
験による気泡確認によって医薬包装の完全性を試験する方法は,個人の技量による
判別量の差や水槽内の細菌・水の表面張力による検出限界などの問題を有する旨指\n摘されているほか,−40kPaの圧力下において,直径5μmの孔からは5分経
過後も気泡が確認できず,直径10μmの孔においても,気泡の発生にばらつきが
みられるとされている(甲27)。上記リーク試験の結果をもって,実際に用いら
れたアルミピロー包材が気密性を有していたと確定することはできない。そうする
と,サンプル薬が,長期間にわたって,アルミピロー包装下で保管されている間に,
湿気の影響を受けて水分含量が増加した可能性も,十\分にあり得るものである。
なお,サンプル薬の測定時の水分含量と,実生産品の水分含量(後記ウ(ア))や,
203サンプル薬を再製造したとされる錠剤の水分含量(2.18〜2.26質量%。
乙54〜56)は,ほぼ同じである。しかし,そもそも,サンプル薬と,実生産品
や203サンプル薬の再製造品が同一工程により製造されたものとは認められない
から,この事実をもって,サンプル薬の測定時の水分含量が,製造時の水分含量と
ほぼ同じであったということはできない。
(ウ) したがって,サンプル薬の測定時の水分含量が本件発明2の範囲内である
からといって,4年以上も前の製造時の水分含量も本件発明2の範囲内であったと
推認できるものではない。
・・・
以上のとおり,サンプル薬を製造から4年以上後に測定した時点の水分含量
が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の製造時の水分含量も同様
に本件発明2の範囲内であったということはできない。また,実生産品の水分含量
が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の水分含量も同様に本件発
明2の範囲内であったということはできない。かえって,サンプル薬の顆粒の水分
含量を基に算出すれば,サンプル薬の水分含量は本件発明2の範囲内にはなかった
可能性を否定できない。その他,サンプル薬の水分含量が本件発明2の範囲内にあ\nったことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,控訴人が,本件出願日までに製造し,治験を実施していた本件2m
g錠剤のサンプル薬及び本件4mg錠剤のサンプル薬の水分含量は,いずれも本件
発明2の範囲内(1.5〜2.9質量%の範囲内)にあったということはできない。
(3) サンプル薬に具現された技術的思想
ア 仮に,本件2mg錠剤のサンプル薬又は本件4mg錠剤のサンプル薬の水分
含量が1.5〜2.9質量%の範囲内にあったとしても,以下のとおり,サンプル
薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるということはでき
ない。
イ 本件発明2の技術的思想
前記1のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分含
量に着目し,これを2.9質量%以下にすることによってラクトン体の生成を抑制
し,これを1.5質量%以上にすることによって5−ケト体の生成を抑制し,さら
に,固形製剤を気密包装体に収容することにより,水分の侵入を防ぐという技術的
思想を有するものである。
ウ サンプル薬に具現された技術的思想
(ア) 控訴人が,本件出願日前に,サンプル薬の最終的な水分含量を測定したと
の事実は認められない。
(イ) また,203サンプル薬及び303サンプル薬の製造工程では,A顆粒及
びB顆粒の水分含量を乾燥減量法による測定において●●●●●●●●にする旨定
められているものの(乙23の1・2,25の1・2),A顆粒及びB顆粒以外の
添加剤の水分含量は不明である。また,サンプル薬には吸湿性の高い崩壊剤や添加
剤が含まれているにもかかわらず,打錠時の周囲の湿度,気密包装がされるまでの
管理湿度などは不明である。
そうすると,サンプル薬に含有されるA顆粒及びB顆粒の水分含量について,●
●●●●にする旨定められているからといって,控訴人が,サンプル薬の水分含量
が一定の範囲内になるよう管理していたということはできない。
(ウ) さらに,012実生産品及び062実生産品の製造工程では,B顆粒の水
分含量を乾燥減量法による測定において●●●●●●●にすると定められており
(乙24,26の1・2),サンプル薬と実生産品との間で,B顆粒の水分含量の
管理範囲が●●●●●●●●から●●●●●●●●へと変更されている。控訴人は,
サンプル薬の水分含量には着目していなかったというほかない。
(エ) したがって,控訴人は,本件出願日前に本件2mg錠剤のサンプル薬及び
本件4mg錠剤のサンプル薬を製造するに当たり,サンプル薬の水分含量を1.5
〜2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたと
も,1.5〜2.9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していた
とも認めることはできない。
エ 以上のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分
含量を1.5〜2.9質量%の範囲内にするという技術的思想を有するものである
のに対し,サンプル薬においては,錠剤の水分含量を1.5〜2.9質量%の範囲
内又はこれに包含される範囲内に収めるという技術的思想はなく,また,錠剤の水
分含量を1.5〜2.9質量%の範囲内における一定の数値とする技術的思想も存
在しない。
そうすると,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明2と同じ内容の発
明であるということはできない。
オ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,水分含量によってピタバスタチン製剤のラクトン体が生成する
ことは技術常識であったから,控訴人は,本件2mg錠剤及び本件4mg錠剤の治
験薬製造前から,錠剤中の水分含量を管理する必要性を認識していたと主張する。
しかし,一般的に,医薬組成物において製剤中の水分が類縁物質生成の原因にな
るという技術常識(乙8〜10)や,ピタバスタチンについては水分含量を調整し
なければならないという技術常識(乙12〜14,20,57)が認められるとし
ても,水分含量の調整方法は様々であるから,このような技術常識のみから,ピタ
バスタチン又はその塩と特定の崩壊剤から成る錠剤であるサンプル薬について,錠
剤としての水分含量を一定の範囲内となるように管理することを控訴人が認識して
いたといえるものではない。
したがって,本件出願日前の技術常識をもって,控訴人がサンプル薬の水分含量
を管理する必要性を認識していたということはできない。
(イ) 控訴人は,サンプル薬について,水分含量を調整することにより,水分に
よる影響を受ける類縁物質が生成しない,長期安定な薬剤を製造する点は,確定し
ていた旨主張する。
しかし,控訴人が,サンプル薬について,ラクトン体及び5−ケト体の生成の程
度について測定し,安定な製剤であることを確認していたとしても,前記のとおり,
控訴人が,サンプル薬を製造するに当たり,その水分含量を1.5〜2.9質量%
の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたとも,1.5〜2.
9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していたとも認めることは
できない。サンプル薬において,5−ケト体の生成を抑制できていたとしても,こ
れをもって,控訴人が,サンプル薬の水分含量を1.5質量%以上に管理していた
と推認できるものではなく,また,これが,控訴人がサンプル薬の水分含量を1.
5質量%以上に管理するという技術的思想を有していた結果として生じたものと評
価できるものでもない。
したがって,サンプル薬について,何らかの方法を採用することにより,水分に
よる影響を受ける類縁物質が生成しない,長期安定な薬剤を製造する点が確定され
ていたとしても,これをもって,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明
2と同じ内容の発明であるということはできない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成27(ワ)30872 (東京地裁29部)
本件出願日(平成24年8月8日)までに,被
告の社内において,本件発明2の内容を知らないでこれと同じ内容の発明がされて
いた(被告が被告の従業員等から当該発明を知得していた)と認めることは困難で
あるし,この点を措くとしても,後記(3)のとおり,本件出願日までに,本件2mg
製品及び被告製品(本件4mg製品)の内容が,本件発明2の構成要件Eを備える\nものとして,一義的に確定していたと認めることはできず,本件発明2を用いた事
業について,被告が即時実施の意図を有し,かつ,その即時実施の意図が客観的に
認識される態様,程度において表明されていたとはいえないから,被告に先使用権\nが成立したということはできない。
・・・
しかし,被告の提出に係る書証からは,実生産品とサンプル薬が同一の工程によ
り製造されたものであると直ちに認めることは困難である。すなわち,本件で問題
となるのは,「PTP包装してなる医薬品」を構成する「錠剤」の「水分含量」が\n「1.5〜2.9質量%」の範囲となるよう管理されていたか否かであるところ,
水分は,有効成分でないばかりか,積極的な添加物でもなく,不純物として扱われ
るものでもないため,錠剤が製造された後,PTP包装された状態で,錠剤の水分
含量がいかなる値となるかという観点から工程の同一性を論じるためには,被告の
提出に係る全ての書証をもってしても,情報が不足しているというほかはない(少
なくとも,打錠工程の湿度環境や打錠後の保管条件は,PTP包装された錠剤の水
分含量に影響するといわざるを得ないが,被告の提出にかかる書証では,これらの
条件は明らかにされていない。)。
イ 被告は,本件2mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:PTVD−203)及
び本件4mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:TVD−303)の水分含量につい
て,いずれも本件発明2の構成要件Eの数値範囲内にあったと主張し,乙32号証\n(以下「乙32実験報告書」という。)を提出する。
しかし,乙32実験報告書に示される本件2mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:
PTVD−203)及び本件4mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:TVD−30
3)の水分含量の測定値は,これらの錠剤が製造されたとされる日から4年以上が
経過した時点のものである。そして,被告ないし同報告書の説明するところによれ
ば,これらの錠剤は,その製造後,PTP包装とアルミピロー包装がされ,その状
態により,被告の中央研究所の検体保管庫に温度20℃,成り行き湿度(実測値:
75%RH)で保存されていたものであり,検体1錠をPTP包装から取り出して,
乳鉢で粉砕してカールフィッシャー法により水分測定を行ったというのであるが,
上記の条件下で4年以上が経過しても,錠剤の水分含量がそのまま保持されること
を直接裏付ける証拠はない。
かえって,1)本件2mg製品の使用期限が2年6か月とされ,本件4mg製品(被
告製品)の使用期限が3年とされていること(甲4〔52頁〕)からすれば,4年
以上という期間は,予定されている保存期間を大きく超えるものであって,水分含\n量を含む錠剤の状態に影響を及ぼす可能性を否定できないこと,2)ピタバスタチン
からラクトンが生成する反応は,脱水縮合であって,水が脱離することから,水分
含量増加の原因となり得ること,3)アルミピロー包装に使用される材料の防湿性が
高いことがうかがわれる(乙33)としても,PTP包装された上記サンプル薬を
収納したアルミピロー包装には,チャックがついていて(乙32,39),当該材
料のみでは構成されてはおらず,また,湿気等の影響を受けやすい商品の包装には\n充分に注意する必要があるとされていること(甲18),4)PTP包装やアルミピ
ロー包装が施された他の医薬品について,所定の保存期間経過後に水分含量が増加
しているとみられる例があること(甲15,19)などからすれば,PTP包装と
アルミピロー包装により,直ちに上記サンプル薬の水分含量の増加が完全に抑えら
れていたと断ずることは,困難である。
被告は,上記サンプル薬の水分含量がそれぞれ本件2mg錠剤の実生産品(ロッ
ト番号:B062)及び本件4mg錠剤の実生産品(ロット番号:B012)とほ
ぼ同じ値であることから,保存期間中の吸湿の可能性が否定される旨主張するよう\nであるが,かかる被告の立論は,本件2mg錠剤のサンプル薬が本件2mg錠剤の
実生産品と同一の工程により製造され,また,本件4mg錠剤のサンプル薬が被告
錠剤(本件4mg錠剤の実生産品)と同一の工程により製造されていたことを前提
とするものであるところ,既に説示したとおり,本件2mg錠剤のサンプル薬及び
本件4mg錠剤のサンプル薬が,それぞれ本件2mg錠剤の実生産品や本件4mg
錠剤の実生産品(被告錠剤)と同一の工程により製造されたと認めるに足りる証拠
はないものというべきである。
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2019.03.29
平成30(ネ)10060 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月20日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
UI関連の発明について、1審では、新規性無しの無効理由ありとして請求棄却されました。1審では、訂正審判がなされ審決が確定しましたが、時期に後れた主張であるして、口頭弁論は再開しませんでした。知財高裁は、構成要件Fが不明瞭のため要件を具備しないと判断されました。被告はAppleです。
まず,構成要件Fの「入力」との文言の意味について検討する。
(ア) 本件明細書には,構成要件Fの「入力」の意味を直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらない。\n他方で,本件明細書には,複数の箇所で「入力」との文言が使用され
ているところ,例えば,段落【0008】の「摩擦力による入力を,直
接的または間接的に検出する」のように「物理的な力を加えること」と
の意味や,段落【0012】の「図14は,…文字を入力する例を示し
た図である。」のように「コンピュータに情報を与えること」との意味
など,同一の文言であるにもかかわらず文脈によって異なる意味で使用
されている。
なお,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び【006
2】の記載に基づいて,本件発明の「『当該変更結果を当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に\n記憶させる』とは,(背景の変更などの)変更結果を,(フォルダYに
保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味しているといえる。」と判断しているが,これは構\成要件Fの「入力」
は「コンピュータに情報を与えること」を意味すると解したものといえ
る。
(イ) この点について,控訴人は,構成要件Fの「入力」は,「力入力検出手段」により検出された当該表\示対象に対する「力入力」,すなわち「物理的な力を加えること」を意味すると主張する。
しかし,この解釈は,構成要件H,A及びDでは,「物理的な力を加えること」として「力入力」との文言が明示的に使用されているにもか\nかわらず,構成要件Fでは敢えて「入力」のように異なる文言が使用されていることと整合しない。\n
また,構成要件Fの「入力」は,「当該変更結果」,すなわち,「保持された表\示対象以外の表\示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」を目的語としていると解し得るところ,こ
の場合に「入力」を「物理的な力を加えること」と解釈することは不自
然である。さらに,「として」は,前に置かれた語を受けて,その状態,
資格,立場等であることを表す語であるところ,「入力」を「物理的な力を加えること」と解すると,「入力として・・・記憶させる」との文言が\n意味するところを理解できないというべきである。
(ウ) 控訴人は,本件訂正審決が「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として・・・記憶部に記憶させる」とは,「(背景の変更などの)変更結\n果を,(フォルダYに保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味している」と判断したことを指摘して,当該判断\nは控訴人の上記主張と整合するとも主張する。
しかし,「物理的な力を加えること」と「コンピュータに情報を与え
ること」とは別個の概念であるから,構成要件Fの「入力」を「物理的な力を加えること」と解した上で,本件訂正審決の判断のように「コンピュータに情報を与えること」との意味をも有すると直ちに理解することは困難である(物理的な力が加わったことをコンピュータに検出させる場合には,両者の意味が重なっているともいい得るが,本件においては,上記説示のとおり,少なくとも「物理的な力を加えること」と解することは不自然であるから,両者の意味が重なっている場合と断ずることもできない。)。\n
(エ) 以上によれば,控訴人の主張によっては,構成要件Fの「入力」の意味を一義的に理解することは困難であるというほかない。\n
イ 仮に,構成要件Fの「入力」を,本件訂正審決が判断したように,「コンピュータに情報を与えること」と解したとしても,次のとおり,構\成要件Fの意義は依然として不明確であるというべきである。
(ア) 構成要件Fの「当該表\示対象」は,構成要件Cの「前記位置入力手段にて検出された位置の表\示対象」をいうと解される。本件明細書には,この「表示対象」の意味についても,直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらないものの,発明の詳細な説明の記載に照らせば,アイコン等(【0021】),アイコンや文字列等(【0029】),アイコンや文字,記号,図形,立体表\示対象など(【0035】)がこれに当たるものと解される。
しかし,表示画面にアイコン等を表\示させ,利用者が当該表示画面に接触した位置を検出し,当該接触位置に応じて処理を行う入出力装置においては,表\示画面に表示するアイコン等のデータそのもの(例えば,スマートフォンの画面に表\示されているカメラ様の画像データ)と,当該アイコン等と紐づけされた実体(例えば,カメラアプリケーション)
とは,別個のものとされていることが多いと解されるところ,本件明細
書の記載を精査しても,本件発明における「表示対象」が具体的にどのようなものであるのかは明らかといえない。\n
(イ) また,上記ア(イ)のとおり,構成要件Fの「当該変更結果」は,「保持された表\示対象以外の表示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」と解し得るところ,「相対的に変更させた結果」についても,背景として設定されている画像が移動したピクセル数や,保持された表示対象と重なることとなったアイコン等の有無及びその種類など,さまざまなものがあり得る。\n そして,構成要件Fによれば,この「相対的に変更させた結果」は,「当該表\示対象」に対する情報として与えるものであるが,ある対象に与え得る情報は,当該対象がアプリケーションかデータかや,その実装方法によっても大きく異なるものと解される。
そうすると,上記(ア)のとおり,「当該表示対象」が具体的に意味するところが明らかでない上に,「相対的に変更させた結果」の意