知財みちしるべロゴマーク
知財みちしるべトップページへ

更新メール
購読申し込み
購読中止

知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

新規性・進歩性

平成29(行ケ)10058  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年12月21日  知的財産高等裁判所(4部)

 審決は、進歩性違反無しとしましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は、「当業者は,引用例に記載された凹部のピッチと凹部の深さ及び直径Dについて,放熱効果を向上させるという観点からその関係を理解する」というものです。
 引用発明と甲2技術は,いずれも空気入りタイヤに関するものであり,技術分野 が共通する。 また,引用発明は,ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強ゴムから発生 した熱をより早く表面部に移動させて放熱効果を高め,カーカスやサイド補強ゴム\nの破壊を防止することを課題とする。甲2技術は,空気入りタイヤのブレーカ端部 の熱を逃がし,ブレーカ端部に亀裂が生じるのを防止することを課題とする。した がって,引用発明と甲2技術の課題は,空気入りタイヤの内部に発生した熱を迅速 に逃すことにより当該部位の破壊を防止するという点で共通する。 さらに,引用発明は,タイヤの外側表面の一定部位を,適当な表\面パターン形状 にすることによって,タイヤの回転軸方向の投影面積の表面積を大きくし,サイド\n補強層ゴムから発生した熱をより早く外部表面に移動させ,外気により効果的に拡\n散させるものである。甲2技術は,タイヤの外側表面の一定の領域に,多数の凹部\nを形成することによって,その領域で広い放熱面積を形成して,温度低下作用を果 たさせるものである。したがって,引用発明と甲2技術の作用効果は共通する。 加えて,甲2技術は,多数の凹部を形成することによって温度低下作用を果たさ せるに当たり,引用発明のように表面積の拡大だけではなく,乱流の発生も考慮す\nるものである。 よって,引用発明に甲2技術を適用する動機付けは十分に存在するというべきで\nある。
イ 引用発明における凹凸のパターン12の具体的な構造として,甲2技術を適\n用した場合,その凹凸部の構造は,「5≦p/h≦20,かつ,1≦(p−w)/\nw≦99の関係を満足する」ことになり,これは,相違点2に係る本件発明1の構\n成,すなわち「10.0≦p/h≦20.0,かつ,4.0≦(p−w)/w≦3 9.0の関係を満足する」という構成を包含する。\nそして,本件明細書(【0078】【0079】)には,「乱流発生用凹凸部で は,1.0≦p/h≦50.0の範囲が良く,好ましくは2.0≦p/h≦24. 0の範囲,更に好ましくは10.0≦p/h≦20.0の範囲がよい」「1.0≦ (p−w)/w≦100.0,好ましくは4.0≦(p−w)/w≦39.0の関 係を満足することが熱伝達率を高めている」との記載があり,「1.0≦p/h≦ 50.0」「1.0≦(p−w)/w≦100.0」というパラメータを満たす場 合においても放熱効果が高まる旨説明されている。「10.0≦p/h≦20.0」 「4.0≦(p−w)/w≦39.0」という数値範囲に特定する根拠は,「好ま しくは」と,単に好適化である旨説明するにとどまる。 また,本件明細書の【表1】【表\2】には,p/h及び(p−w)/wと耐久性 の関係についての実験結果が記載されているところ,本件発明1の数値範囲のうち p/hのみを満たさない実施例3(p/h=8)の耐久性は,本件発明1の数値範 囲を全て満たす実施例8,11,12,18,19の耐久性よりも高く,本件発明 1の数値範囲のうち(p−w)/wのみを満たさない実施例13,15,16((p −w)/w=44,99,59)の耐久性は,本件発明1の数値範囲を全て満たす 実施例8,11,12,18,19の耐久性よりも高いという結果が出ている。 加えて,本件明細書の【図29】には,p/hと熱伝達率の関係についてのグラ フが記載され,【図30】には,(p−w)/wと熱伝達率の関係についてのグラ フが記載されているところ,これらのグラフは,p/h又は(p−w)/wの各パ ラメータと熱伝達率の関係を示すにとどまり,両パラメータの充足と熱伝達率の関 係を示すものではない。そして,タイヤ表面の凹凸部によって発生する乱流により,\n流体の再付着点部分の放熱効果の向上に至るという機序によれば,凹凸部のピッチ (p),高さ(h)及び幅(w)の3者の相関関係によって放熱効果が左右される というべきであって,本件発明1において特定されたピッチと高さ,ピッチと幅と いう2つの相関関係のみを充足する凹凸部の放熱効果が,これらを充足しない凹凸 部の放熱効果と比較して,向上するといえるものではない。そうすると,p/h又 は(p−w)/wの各パラメータと熱伝達率の相関関係を示すグラフ(【図29】 【図30】)から,「10.0≦p/h≦20.0,かつ,4.0≦(p−w)/ w≦39.0の関係を満足する」凹凸部の構造が,これを満足しない凹凸部の構\造 に比して,熱伝達率を向上させるということはできない。 そうすると,本件発明1は,凹凸部の構造を,「10.0≦p/h≦20.0,\nかつ,4.0≦(p−w)/w≦39.0」の数値範囲に限定するものの,当該数 値範囲に限定する技術的意義は認められないといわざるを得ない。 よって,引用発明に甲2技術を適用した構成における凹凸部の構\造について,パ ラメータp/hを,「10.0≦p/h≦20.0」の数値範囲に特定し,かつ, パラメータ(p−w)/wを,「4.0≦(p−w)/w≦39.0」の数値範囲 に特定することは,数値を好適化したものにすぎず,当業者が適宜調整する設計事 項というべきである。
・・・
(ア) 被告は,引用例2は,放熱効果を向上させるための凹部のピッチと凹部の 深さ及び直径Dとの関係について全く開示しないと主張する。 しかし,引用例2には,多数の凹部によって生じる乱流によって温度低下作用が 果たされる旨記載があり(【0007】【0014】),また,引用例2はそのよ うな凹部について,ピッチ(p),深さ(d)及び直径(D)のサイズの範囲が具 体的に記載されている(【0009】【0010】【0012】)。そして,前記 (3)ウ(ア)のとおり,本件特許の優先日当時,当業者は,乱流による放熱効果の観点 から,タイヤ表面の凹凸部における,突部のピッチ(p)と突部の高さ(h)との\n関係及び溝部の幅(p−w)と突部の幅(w)との関係について,当然に着目する ものである。したがって,当業者は,引用例2に記載された凹部のピッチと凹部の 深さ及び直径Dについて,放熱効果を向上させるという観点からその関係を理解す るというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10225  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年11月29日  知的財産高等裁判所

 特許異議が申し立てられ、取消決定の審決がなされましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は公知文献に記載されているとは認められないというものです。異議が認められる率が低く(15%程度)、かつ、それが取り消されるというレアなケースです。
 前記(2)イのとおり,乙1,乙2及び甲1の各記載から,ジヨード化合物 と固体硫黄と,更に「重合停止剤」とを含む混合物を溶融重合させること によって製造されるPAS樹脂について,ヨウ素含有量が1,200pp m以下のものが得られること,上記のいずれの例においても重合禁止剤(重 合停止剤)が添加されていることが理解でき,このような,ヨウ素含有量 が少ないPAS樹脂を製造することができること自体は,優先日において 周知の技術的事項であったといえる。 しかしながら,上記各文献からは,このような,1,200ppm以下 の低ヨウ素量のPAS樹脂を製造するために必要な条件,すなわち,重合 時の温度や圧力,重合時間等は必ずしも明らかでない。また,前記(2)ウの 技術常識からは,重合禁止剤の種類や添加の割合のみならず,添加の時期 (タイミング)によっても,得られる樹脂の重合度や不純物としてのヨウ 素含有量が異なることが予測されるところ,それらとの関係についても一\n切明らかにされていない。してみると,これらの各文献に記載された事項 から,直ちに先願明細書(甲5)にヨウ素含有量が1,200ppm以下 であるPAS樹脂組成物が記載されているとの結論を導くことはできない というべきである。 この点,被告は,1)先願明細書発明Bも本件発明4と同様の目的・問題 意識の下で,ジヨード芳香族化合物と硫黄元素とを含む反応物を溶融重合 する方法を改良するものであり,重合禁止剤を添加してポリマー鎖末端の ヨウ素量を減じることで低ヨウ素含有量を達成していること,2)重合禁止 剤の添加時期はヨウ素含有量と無関係であること(本件発明4において特 定されているヨウ素含有量の範囲が,重合開始直後から重合禁止剤を添加 する製造方法により得られるとの原告主張は誤りであること),3)先願明 細書発明Bでは,重合禁止剤(実施例においては,4−ヨード安息香酸, 2,2’−ジチオビス安息香酸など)に加えて,(重合鎖の成長を止める という点において重合禁止剤と同じ機能を有する)重合中止剤(ベンゾチ\nアゾール類など。実施例においては,2,2’−ジチオビスベンゾトリア ゾール。ただし,被告は,「2,2’−ジチオビスベンゾチアゾール」の 誤記であると主張する。)を併用したことによってヨウ素量がより減少し ていると考えられること等を挙げて,先願明細書発明Bに係るPAS樹脂 のヨウ素含有量は,本件発明4と同程度に少ないものであると主張する。 しかしながら,上記1)については,例えば,上記各文献(乙1,乙2及 び甲1)から,ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を溶融重合 するPAS樹脂の製造方法において,重合禁止剤を添加することのみによ って必ず相違点1に係る低ヨウ素含有量を実現できることが導き出せると はいえず,ほかにこれを認めるに足る証拠もない。したがって,先願明細 書発明Bと本件発明4は,必ずしも,同じ方法で,同じ程度に低ヨウ素含 有量を実現しているとはいえず,その前提自体に誤りがある。 上記2)についても,被告自身,「本件明細書の記載からは,本件発明4 のヨウ素含有量が得られるのは,重合禁止剤の添加時期によらないと理解 される」と述べているように,飽くまで,本件明細書の記載からは関係が 読み取れないというだけで,およそ重合禁止剤の添加時期がヨウ素含有量 に影響を与えないことについての主張立証まではなされていない。むしろ, 前記のとおり,技術常識を踏まえると,重合禁止剤の種類や添加の割合の みならず,添加の時期(タイミング)によっても,得られる樹脂の重合度 や不純物としてのヨウ素含有量が異なることが予測されるのであって,こ\nれによれば,重合禁止剤の添加時期と本件発明4のヨウ素含有量が無関係 であるとは,直ちに断定できない(本件発明の製造方法で起こる化合物等 の反応工程として原告が説明する工程が本件明細書に記載されている反応 工程とは異なるとの被告の主張も,この点を左右するものではない。)。 上記3)についても,被告の主張は,本件明細書の実施例1ないし4で重 合禁止剤(4,4’−ジチオビス安息香酸)の使用量(添加量)が増えれ ばPAS樹脂中の残留ヨウ素量が減るとの関係があることを前提とするも のであると解されるが,先願明細書発明Bと本件明細書の実施例とでは, (重合禁止剤に関する誤記の点は措くとしても)少なくとも重合禁止剤の 添加時期が異なることから,先願明細書発明Bにおいても重合禁止剤の添 加量とヨウ素含有量との間に(本件発明4におけるそれと)同様の関係が 導き出せるとは限らない。 結局のところ,先願明細書発明Bに記載されたPAS樹脂のヨウ素含有 量を具体的に推測できるだけの根拠は,先願明細書の記載や本件特許の出 願時における技術常識を参酌しても導き出すことができず,ほかに先願明 細書発明Bに係るPAS樹脂のヨウ素含有量が本件発明4と同程度に少な いことを認めるに足りる証拠はない。 イ 実験報告書(甲9実験)について 決定は,甲9の実験報告書によれば,甲5の実施例5と同様に製造した PAS樹脂のヨウ素含有量が850ppmであると認められることから, 本件発明4で特定するPAS樹脂組成物のヨウ素含有量は,先願明細書発 明BにおけるPAS樹脂のヨウ素原子含有量と重複一致する蓋然性が高い と判断している。 しかしながら,まず,異議申立人による上記実験報告書では,重合反応\nが80%程度進んだ段階で,「重合禁止剤2,2’−ジチオビスベンゾト リアゾル」を25g添加したとされているが,異議申立人自身が,先願の\n国内移行出願において,かかる物質名で定義される化合物は存在せず,誤 記である旨を主張(自認)して,当初明細書である甲5の記載を正しい記 載に訂正する手続補正を行っており(甲30),それにもかかわらず,な ぜ追試である上記実験報告書にあえて存在しない化合物名がそのまま記載 されているのか,疑問がないとはいえない(この点は,上記実験報告書を 作成するに当たり,当初明細書の誤記をそのまま引き写してしまっただけ の単純ミスである可能性も否定できないが,重合禁止剤として実在しない\n化合物名が記載されているということは,その内容の杜撰さを示す一例と みざるを得ないのであって,実験報告書全体の信用性を疑わせる一つの事 情となることは否定できない。)。 また,この点は措くとしても,上記実験報告書の「1.実験方法」の欄 には,「「5)Chip cutting:反応完了した樹脂をN2加圧して,小型スト ランドカッターを使用したpellet形態に製造。」との記載があり,かかる 記載が,甲5の実施例5における,「反応が完了した樹脂を,小型ストラ ンドカッター機を用いてペレット形態で製造した。」との記載に対応する ものであって,同実施例と同様に,反応が完了した樹脂を小型ストランド カッターによってペレット形態とすることを示すものであることは理解で きるが,「N2加圧」処理を行うことの技術的な意味は明らかではないし (すなわち,いかなる状態の樹脂に対して,何のために行うのか,例えば, 溶融状態の樹脂に対して加圧処理を行うのか,ストランド〔細い棒状〕に 形成するための押し出しをN2による加圧で行うのか,形成されたストラ ンドに対して行うのかなどの点が不明である。),少なくともカッティン グの前に樹脂を「N2加圧」することが当該技術分野における技術常識で あるとはいえない。また,高温の樹脂に対しN2加圧を行うことによって, 樹脂中のヨウ素が抜ける可能性がないとはいえず(少なくともその可能\性 が全くないことを示す証拠はない。),かかる「N2加圧」がヨウ素含有 量に対してどのような影響を及ぼすのかも不明である。 この点,被告は,上記ストランド押し出しを窒素加圧下で行うことが記 載されている乙9ないし12を引用して,N2加圧が周知の技術的事項で ある旨反論するが,仮にストランドを形成するための押し出しをN2加圧 によって行うことが周知の手段であっても,上記実験報告書における「N 2加圧」がこれらの乙号証に記載された工程と同じものを意味するものと は限らないし,結局,かかる「N2加圧」がヨウ素含有量に対してどのよ うな影響を及ぼすのかが不明であることに変わりはない。 以上によれば,実験報告書(甲9)は,必ずしも甲5の実施例5を忠実 に追試したものであるとはいえず,かかる実験報告書(甲9実験)に基づ いて,甲5の実施例5と同様に製造したPAS樹脂のヨウ素含有量が85 0ppmであるとか,本件発明4で特定するPAS樹脂組成物のヨウ素含 有量は,先願明細書発明BにおけるPAS樹脂のヨウ素原子含有量と重複 一致する蓋然性が高いなどと認めることはできないというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(行ケ)10003  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年11月21日  知的財産高等裁判所

 審決は顕著な効果があると判断しましたが、知財高裁はこれを取り消しました。なお、先の取消訴訟の拘束力に反するような主張を許すことは訴訟経済で、最後に、付言がなされています。

 本件審決は,確定した前訴判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により, 相違点1及び相違点2については,いずれも引用例1及び引用例2に接した当業者 が容易に想到することができたものであるとされ,相違点3については,単なる設 計事項にすぎないとしつつ,化合物Aは「ヒト結膜肥満細胞」に対して優れた安定 化効果(高いヒスタミン放出阻害率)を有すること,また,AL−4943A(化 合物Aのシス異性体)は最大値のヒスタミン放出阻害率を奏する濃度の範囲が非常 に広いことは,いずれも引用例1,引用例3及び本件特許の優先日当時の技術常識 から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であり,進歩性を判断するにあたり,引用発明1と比較した有利な効果として参酌すべきものであるとして,本件各発明は\n当業者が容易に発明できたものとはいえないと判断したものである。
・・・
以上のとおり,本件特許の優先日において,化合物A以外に,ヒト結膜肥満細胞 からのヒスタミン放出に対する高い抑制効果を示す化合物が存在することが知られ ていたことなどの諸事情を考慮すると,本件明細書に記載された,本件発明1に係 る化合物Aを含むヒト結膜肥満細胞安定化剤のヒスタミン遊離抑制効果が,当業者 にとって当時の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著なものであるということはできない。なお,本件発明1の顕著な効果の有無を判断す\nる際に,甲39の内容を参酌することができないことについては,前記イのとおり であるが,仮にその内容を参酌したとしても,上記のとおり,本件特許の優先日に おいて,化合物A以外に,高いヒスタミン放出阻害率を示す化合物が複数存在し, その中には2.5倍から10倍程度の濃度範囲にわたって高いヒスタミン放出阻害 効果を維持する化合物も存在したことを考慮すると,甲39に記載された,本件発 明1に係る化合物Aを含むヒト結膜肥満細胞安定化剤のヒスタミン遊離抑制効果が, 当業者にとって当時の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著なものであるということもできない。\nしたがって,本件発明1の効果は,当業者において,引用発明1及び引用発明2 から容易に想到する本件発明1の構成を前提として,予\測し難い顕著なものである ということはできず,本件審決における本件発明1の効果に係る判断には誤りがあ る。
・・・・
なお,本件審判の審理について付言する。 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定し たときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審 理,審決をするが,再度の審理,審決には,行政事件訴訟法33条1項の規定によ り,取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるの に必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定 判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続に おいて,審判官は,取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤 りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと,あるいは上記主張を裏付けるた めの新たな立証をすることを許すべきではない。また,特定の引用例から当該発明 を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとの理由により,容易に発明 することができたとはいえないとする審決の認定判断を誤りであるとしてこれが取 り消されて確定した場合には,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審 判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することがで きたとはいえないと認定判断することは許されない(最高裁昭和63年(行ツ)第 10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。 前訴判決は,「取消事由3(甲1を主引例とする進歩性の判断の誤り)」と題す る項目において,引用例1及び引用例2に接した当業者は,KW−4679につい てヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用(ヒト結膜肥満細胞安定化 作用)を有することを確認し,ヒト結膜肥満安定化剤の用途に適用することを容易 に想到することができたものと認められるとして,引用例1を主引用例とする進歩 性欠如の無効理由は理由がないとした第2次審決を取り消したものである。特に, 第2次審決及び前訴判決が審理の対象とした第2次訂正後の発明1は,本件審決が 審理の対象とした本件発明1と同一であり,引用例も同一であるにもかかわらず, 本件審決は,本件発明1は引用例1及び引用例2に基づき当業者が容易に発明でき たものとはいえないとして,本件各発明の進歩性を認めたものである。 発明の容易想到性については,主引用発明に副引用発明を適用する動機付けや阻 害要因の有無のほか,当該発明における予測し難い顕著な効果の有無等も考慮して判断されるべきものであり,当事者は,第2次審判及びその審決取消訴訟において,\n特定の引用例に基づく容易想到性を肯定する事実の主張立証も,これを否定する事 実の主張立証も,行うことができたものである。これを主張立証することなく前訴 判決を確定させた後,再び開始された本件審判手続に至って,当事者に,前訴と同 一の引用例である引用例1及び引用例2から,前訴と同一で訂正されていない本件 発明1を,当業者が容易に発明することができなかったとの主張立証を許すことは, 特許庁と裁判所の間で事件が際限なく往復することになりかねず,訴訟経済に反す るもので,行政事件訴訟法33条1項の規定の趣旨に照らし,問題があったといわ ざるを得ない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 審判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10183  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年10月3日  知的財産高等裁判所(4部)

 進歩性違反なしとした審決が維持されました。興味深いのは、引用文献に記載の発明の認定は誤りであるが、いずれにしても容易ではないとして、審決維持です。
 引用例1には,黒鉛粉末とリチウム金属粒子とを混合粉砕することにより,リチ ウム粒子が微粉末になると同時に,その一部が微粉末化された黒鉛の層間にインタ ーカレートし,リチウム元素微粒子をゲストとする層間化合物を形成すること,実 施例3で形成された層間化合物の層間距離が3.71Å(0.371nm)であり, これはリチウムが黒鉛の層間に入って形成された層間化合物の公知の層間距離3. 72Å(0.372nm)にほぼ一致するものであることが記載されている(【0 026】〜【0028】)。また,証拠(甲22)によれば,リチウムをゲストと するステージ1の黒鉛層間化合物における層間距離は3.706Åであることが認 められる。 そうすると,本件引用発明1における「層間化合物」は,ホストである黒鉛の層 間に,リチウム元素微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた, 黒鉛層間化合物であるといえる。 したがって,本件審決が,引用例1には金属の元素微粒子が金属層となっている ことは記載も示唆もされていないとして,相違点1は実質的な相違点であると認定 したことについては,誤りがある。
・・・・
ア 本件各発明は,高容量と長いサイクル寿命とを共に実現することを可能にす\nる負極及びこの負極を用いた二次電池を提供することを目的とし,構成として,負\n極活物質が,ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能なSn,Si,P\nb,Al又はGaから選択される金属の微粒子がゲストとしてインターカレートさ れた,黒鉛層間化合物から成ることにより,リチウムと合金化可能な金属が黒鉛の\n層間という導電性マトリックス内にあるようにし,これにより,金属と黒鉛との電 気的な接触が充分になされ電気伝導性を確保することができ,また金属を微粒子化 しても,導電性マトリックス内に囲われているので,金属の微粒子によって電解液 が分解しないように抑制することができ,そして,負極活物質がリチウムと合金化 可能な金属を有するので,負極を備えた電池の容量を高めることが可能\になる,と いうものである。 これに対し,本件引用発明1は,従来技術である,金属を加熱して気相で黒鉛と 接触反応させる方法や電気化学的な方法を用いて製造された黒鉛複合物には,黒鉛 中に層間化合物と金属とが十分に微細分散されておらず,リチウム二次電池の負極\n材料として使用した場合に,充放電を繰り返すうちに上記金属が剥離して負極活物 質として作用しなくなるという不具合があったことから,粉砕法によって,黒鉛粒 子,金属微粒子及び層間化合物とが微細に分散した黒鉛複合物を形成し,それによ り,層間に多量のリチウムイオンをインターカレート可能な黒鉛粒子を使用可能\と したり,微細化により導電性を高めようとしたりするものである。 このように,本件引用発明1においては,粉砕法によって黒鉛複合物を形成する ことが中核を成す技術的思想ということができる。また,引用例1には,リチウム と合金化可能な金属が黒鉛の層間という導電性マトリックス内にあるようにするこ\nとにより,電気伝導性を確保し,金属を微粒子化しても電解液が分解しないように 抑制することができ,負極を備えた電池の容量を高めるという,本件各発明の技術 思想は開示されていない。 したがって,引用例1に接した当業者が,本件引用発明1におけるゲストとして インターカレートされる「リチウム金属の微粒子」を「リチウムと合金化可能なS\nn,Si,Pb,Al又はGaから選択される金属の微粒子」に置き換えた上で, さらに,黒鉛層間化合物の製造方法について,本件引用発明1において中核を成す 粉砕法に換えて,微細分散工程のない塩化物還元法や気体法その他の方法を採用す ることを容易に想到できたということはできない。
イ また, 前記2(2)のとおり,Si及びAlは,単体金属原子として黒鉛の層間 にインターカレートすることはできないことから,これらの元素微粒子と黒鉛粒子 とを粉砕法により混合粉砕しても,黒鉛層間化合物を製造することはできないもの と認められ,証拠(甲6)によれば,Gaについても,Si及びAlと同様に,こ の元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕しても,黒鉛層間化合物を製造 することはできないものと認められる。そして,Sn及びPbについても,本件特 許の出願当時,これらを単体金属原子として黒鉛の層間にインターカレートするこ とができるなど,これらの元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕するこ とにより,黒鉛層間化合物を製造することができるとの知見が存在したとは認めら れない。 したがって,引用例1に接した当業者が,本件引用発明1におけるゲストとして インターカレートされる「リチウム金属の微粒子」を「リチウムと合金化可能なS\nn,Si,Pb,Al又はGaから選択される金属の微粒子」に置き換えて,これ らの金属の微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕することにより,これらの 金属をゲストとする黒鉛層間化合物を製造することを容易に想到できたということ もできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(行ケ)10001  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年9月19日  知的財産高等裁判所

 引用発明の認定誤りを理由として、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
 引用発明の「柱状物」「柱先端部」「柱状物構造」は,それぞれ,本件補正発明\nの「支柱」「先端部分」「鋼管ポール」に相当する。また,引用発明の「炭素鋼を 使用し」「柱状物を支持する支持基礎」は,本件補正発明の「前記支柱の下端部を 固定する鋼製基礎」に相当する。 そして,前記検討によれば,引用発明の「ベース」及び「平板状の羽根」は,別 の部材により「支柱」を固定し,支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受ける ことにより,「支柱の下端部を固定する」部材であって,引用発明の,「ベースの パイプの取付部に貫通穴を設けることにより,柱状物は,柱先端部が」「ベースを 貫通して土中に突出している」構成は,本件補正発明の「前記支柱は前記基礎体を\n貫通して先端部分が地中に突出していること」に相当し,引用発明の「土中に埋込 んで」は,本件補正発明の「地中に埋設され」に相当し,さらに,これらによれば, 引用発明の「ベース」及び「平板状の羽根」は,本件補正発明の「基礎体」に相当 する。一方,「パイプ」が,本件補正発明の「基礎体」に相当するということはで きない。 したがって,本件補正発明と引用発明とは,「支柱と,前記支柱の下端部を固定 する鋼製基礎とを有する鋼管ポールであって,前記鋼製基礎は基礎体から構成され,\n前記基礎体は地中に埋設され,前記支柱は前記基礎体を貫通して先端部分が地中に 突出している鋼管ポール」である点で一致し,相違点1及び2(前記第2の3(2) イ(イ)及び(ウ))のほか,以下の点で相違する(原告主張に係る相違点3に同じ)。 「基礎体」に関して,本件補正発明は「上下に貫通した筒状」であるのに対し, 引用発明は「中央部にパイプを溶接で強固に突設し」た「ベース」と当該「ベース のパイプ取付面の四隅に配設し」た「平板状の羽根」とからなる点。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成27(ワ)36981等  虚偽事実の告知・流布差止等本訴請求事件特許権侵害差止等反訴請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年8月31日  東京地方裁判所(47部)

 CS関連発明について、29条の2違反の無効理由あり、技術的範囲に属しないので、訴外ニフティへのライセンス契約の申し出通知は、不競法の営業誹謗に該当すると判断されました。29条の2の無効については発明者の例外適用も関係しています。
 上記(ア)の認定事実によれば,本件プロジェクトには,NTTコム のプロジェクトチームメンバーの他,Cをはじめとするベース社のメン バーやAをはじめとする被告のメンバーが関与し,A以外の者(例えば, C)からも新たなパスワード登録方法に関するアイデアが出される中で, 同プロジェクトの成果物として甲11発明が完成し,発明者をBとする 特許出願がされたことが認められる。 そして,甲11発明のパスワードの初期登録に係る部分は,1)認証サ ーバがウェブサーバを介してアクセス元の端末装置に初期ワンタイムパ スワード情報登録URLを通知する電子メールを送信し,2)端末装置の ユーザは,上記URLにおいて,認証サーバからウェブサーバを介して 送られたウェブページを見て,縦4個×横12個のランダムパスワード の中から選択し,選択したパスワードを入力し,3)認証サーバから送ら れた2回目のランダムパスワードに対し,端末装置のユーザがランダム パスワードを入力し,4)認証サーバが,2回の入力によりユーザにより 選択されて確定されたランダムパスワードの位置情報をユーザ情報とし てデータベースに登録し,5)認証サーバが,URLを通知する電子メー ルをウェブサーバを介してアクセス元の端末装置に送信する,というも のであると認められる(甲11発明に係る明細書の段落【0018】な いし【0021】参照)ところ,上記部分を具体的に着想,提示した主 体(甲11発明のパスワードの発明者)がAのみであると認めるに足り る証拠はないから,本件発明1と甲11発明の発明者が同一であるとは 認められない。
(ウ) これに対し,被告は,甲11発明の特徴的部分は「位置情報が確定 されるまで,縦4個×横12個の新たなランダムパスワードを端末装置 1が表示する処理を繰り返し行い,これにより,縦4個×横12個の新\nたなランダムパスワードについての特定の座標位置に配置されているパ スワード(すなわち数字)の入力を促す処理を繰り返すこと」にあると ころ,これと同一の特徴的部分を有する方式Cの記載された本件手順案 をAが作成し,NTTコムに送付したことに照らせば,甲11発明の発 明者はAである旨主張する。 この点,本件手順案のデータに係るプロパティには作成者として 「(省略)」と記載されている(乙31の3)が,これをもって直ちにA のみが本件手順案の内容を着想したと推認することはできず,かえって, 本件手順案より前にCにより作成された本件C文書にも,「3)認証後, OFFICのワンタイムパスワードを登録する画面において,自分のパ スワード位置と順序を指定し,確認後,登録する。4)ワンタイムパスワ ード登録完了したことを,URLと共にe−mailで利用者の携帯端 末へ通知する。(このURLは本番用)」といった記載があることによれ ば,本件手順案の内容の一部は,Aが本件手順案を作成するよりも前に 既に本件プロジェクト内において着想されていたものと認められる。し たがって,被告の上記主張を採用することはできない。
ウ 小括
以上によれば,本件発明1は特許法29条の2によって特許を受けられ ないから,本件特許1には無効理由が認められる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 営業誹謗
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10119  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年8月3日  知的財産高等裁判所

 審決(無効)は進歩性ありと判断しましたが、知財高裁は、当業者なら公報記載事項から相違点に関する技術が読み取れるとして、これを取り消しました。
 甲2には,上記のようにブラシを減らすことができる原理を説明する明示的な記 載はないが,甲2の【0033】における「従来の電動モータ1では,第1のブラ シ11a及び第3のブラシ11cを介して電流が流れるが,この実施の形態では第 1のブラシ89aを介して電流が流れ,ブラシ89aを通じて流れる電流量が従来 のものと比較して2倍となる。」との記載からすると,甲2においてブラシを減らす ことができるのは,均圧線を設けたことの結果として,1個のブラシから供給され た電流が,そのブラシに当接する整流子片に供給されるとともに,均圧線を通じて 同電位となるべき整流子片にも供給されることによって,対となる他方のブラシが なくとも従来モータと同様の電流供給が実現できるためであることが理解できる。 この点について,被告は,甲2には,均圧線の使用とブラシ数の削減とを結び付け る記載がないことを理由に,接続線を使用してブラシの数を半減する技術が開示さ れていない旨主張するが,そのような明示的な記載がなくとも,甲2の記載から上 記のとおりの理解は可能というべきである。また,被告は,甲2の4ブラシモータの電気回路図(図16)と2ブラシモータの電気回路図(図2)を対比すると,そ\nの配線が完全に一致すると主張するが,4ブラシモータの電気回路図(図16)に おいても,2ブラシモータの電気回路図(図2)においても,整流子片1,2,1 2及び13が+電位となり,整流子片6〜8及び17〜19が−電位になっており, その結果,ブラシ以外の電気回路(巻線及び均圧線の接続関係)に変化を加えなく とも両者がモータとして同じ電気的特性を持つことが理解できるところ,2ブラシ モータの電気回路図においては,前記の整流子片が同電位となるために均圧線の存 在が必須であることが理解できるから,甲2の4ブラシモータの電気回路図と2ブ ラシモータの電気回路図との配線が一致することは,均圧線の存在によってブラシ 数の削減が可能になることを示すものであって,このことが,甲2には接続線を使用してブラシの数を半減する技術が開示されていないことの根拠となり得るもので\nはない。
イ そうすると,甲2の記載に接した当業者は,甲2には,4極重巻モータ において,同電位となるべき整流子間を均圧線で接続することにより,同電位に接 続されている2個のブラシを1個に削減し,もって,ブラシ数の多さから生じるロ ストルク,ブラシ音及びトルクリップルが大きくなるという問題を解決する技術が 開示されていることを理解するものといえる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> 阻害要因
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10038  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年7月26日  知的財産高等裁判所(3部)

 無効審判に対して、訂正請求を行いました。審決は訂正は認める、特許は無効とすると判断しました。これに対して、知財高裁は、引用発明の認定誤りによる一致点の認定誤りを理由に、進歩性無しとした審決を取り消しました。
 本件発明1についての一致点の認定の誤り・相違点の看過について
原告は,本件審決が,甲11発明1は,「第一成分」と「第二成分」とを総和 として液晶組成物の全重量に基づき「10重量%から100重量%」含有する ものであるとした上で,「成分として,一般式(II−1)及び(II−2)・・・ で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し,その含\n有量が20から80質量%であり」との構成を本件発明1と甲1発明1の一致\n点と認定したのは誤りであり,その結果,本件審決は相違点を看過している旨 主張するので,以下検討する(ただし,本件審決の「甲1発明1」の認定に不 備があることは上記2のとおりであるから,以下の判断においては,甲1発明 1が上記2(2)ア(ウ)のとおりのものであることを前提に検討を進める。)。 (1) 本件審決は,甲1発明1における「第一成分として式(1−1)及び式(1 −2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」が,\n本件発明1における「第二成分として,・・・一般式(II−1)・・・で表される\n化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物」を包含すること,及び甲 1発明1における「第二成分として式(2−1)で表される化合物の群から\n選択された少なくとも1つの化合物」が,本件発明1における「第二成分と して,・・・一般式・・・(II−2)・・・で表される化合物群から選ばれる1種又は\n2種以上の化合物」を包含することを前提として,甲1発明1において,液 晶組成物の全重量に基づいて,第一成分の重量が「5重量%から60重量%」 であり,第二成分の重量が「5重量%から40重量%」であることは,第一 成分と第二成分の総和としての重量が「10重量%から100重量%」であ ることを意味するから,本件発明1と甲1発明1は,「一般式(II−1) 及び(II−2)・・・で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化\n合物を含有し,その含有量が20から80質量%であり」との点において一 致する旨認定する(別紙審決書48,49頁)。 しかしながら,1)甲1発明1における「式(1−1)及び式(1−2)で 表される化合物」と2)本件発明1における「一般式(II−1)で表される\n化合物」とを対比すると,2)のR1及びR2は,「それぞれ独立的に炭素原子 数1から10のアルキル基,炭素原子数1から10のアルコキシル基,炭素 原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオ キシ基」であるのに対し,1)のR6及びR5は,「R5は,炭素数1から12を 有する直鎖のアルキルまたは炭素数1から12を有する直鎖のアルコキシで あり,R6は,炭素数1から12を有する直鎖のアルキルまたは炭素数2から 12を有する直鎖のアルケニルである」ことから明らかなとおり,両者の関 係は,本件審決がいうように1)の化合物が2)の化合物を包含するという関係 にあるものではなく,1)の化合物の一部と2)の化合物の一部が一致するとい う関係にあるものにすぎない(例えば,式(1−1)又は式(1−2)にお いてR6が炭素数11を有する直鎖のアルキルである1)の化合物は,2)の化合 物には含まれないし,他方,一般式(II−1)においてR1がアルコキシル 基である2)の化合物は,1)の化合物には含まれない。)。そして,このこと は,甲1発明1における「式(2−1)で表される化合物」と,本件発明1\nにおける「一般式(II−2)で表される化合物」の関係にも同様に当ては\nまることである。 してみると,甲1発明1が,「式(1−1)及び式(1−2)で表される\n化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」及び「式(2−1)で 表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」を含有するこ\nとをもって,本件発明1における「一般式(II−1)及び(II−2)… で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有」するこ\nとと一致するということはできないのであって,この点について,本件審決 が本件発明1と甲1発明1の一致点と認定したことは誤りである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10238  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年7月18日  知的財産高等裁判所

 審決における「請求項1・・・」は「請求項2・・・・」の誤記であることは明らかで取り消すべき程度のものではないと主張しましたが、裁判所は誤記とはいえないとして、拒絶審決を取り消しました。判決文の最後に補正の履歴が掲載されています。
   エ 以上のとおり,本件審決が,独立特許要件の検討に当たって認定・判断した 相違点2は,本件補正後の請求項2に係る発明の構成のみによる相違点であり,本\n願発明について認定・判断した相違点2も,平成26年補正後の請求項2に係る発 明のみによるもので,本件補正後の請求項1の発明,平成26年補正後の請求項1 の発明と対応するものではない。 しかしながら,本件審決では,「本件補正発明」を「平成27年7月23日に提 出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明」,「本願発明」 を「平成26年7月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載され た発明」と定義した上で,各請求項1の記載を摘記しているのであって,本件補正 後の請求項1に係る発明を本件補正発明,平成26年補正後の請求項1に係る発明 を本願発明と認定していることが明らかである。 そうすると,本件審決は,本件補正後の請求項1に係る発明を本件補正発明,平 成26年補正後の請求項1に係る発明を本願発明と,それぞれ認定した上で,認定 した発明と対応しない相違点2を認定しているのであり,相違点2の認定を誤った ことになるが,かかる誤った相違点2の認定ないし判断を根拠に,本件補正発明及 び本願発明についての「請求項1」の記載を「請求項2」の誤記と解することはで きない。 被告は,本件における審査の経緯も,上記「請求項1」の記載が「請求項2」の 誤記であるとの理解を促すものであると主張し,前記(2)イのとおり,本件拒絶査定 においては,平成26年補正後の請求項2に係る発明は,本件拒絶理由通知書で提 示した引用例1及び引用例2から当業者が容易に発明をすることができたものであ る旨が記載されている一方で,平成26年補正後の請求項1に係る発明については 拒絶の理由を発見しないと記載されていることが認められるが,かかる審査の経緯 を参酌しても,上記判断が左右されるものではない。 よって,被告の主張は採用できない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 審判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10220  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年7月4日  知的財産高等裁判所(4部)

 CS関連発明について、認定については誤っていないとしたものの、 引用例には、本願発明の具体的な課題の示唆がなく、相違点5について、容易に想到するものではないとして、進歩性無しとした審決が取り消されました。  確かに,引用例には,発明の目的は,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士 のような専門知識を持った複数の専門家が,給与計算やその他の処理を円滑に行う ことができるようにするものであり(【0005】),同発明の給与計算システム及び 給与計算サーバ装置によれば,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士のような 専門知識を持った複数の専門家を,情報ネットワークを通じて相互に接続すること によって,給与計算やその他の処理を円滑に行うことができること(【0011】), 発明の実施の形態として,複数の事業者端末と,複数の専門家端末と,給与データ ベースを有するサーバ装置とが情報ネットワークを通じて接続された給与システム であり,専門家端末で給与計算サーバ装置にアクセスし,給与計算を行うための固 定項目や変動項目のデータを登録するマスター登録を行い(【0018】〜【002 1】),マスター登録された情報とタイムレコーダ5から取得した勤怠データとに基 づき,給与計算サーバ装置で給与計算を行い,給与担当者が,事業者端末で給与明 細書を確認した上で,給与振り込みデータを金融機関サーバに送信する(【0022】 〜【0025】,【0041】〜【0043】,図7のS11〜S20)ほか,専門家 が専門家端末を介して給与データベースを閲覧し(【0031】〜【0033】),社 会保険手続や年末調整の処理を行うことができる(【0026】〜【0030】,【0 044】,【0045】,図7のS21〜S28)とする構成が記載されていることが\n認められる。 しかし,引用文献が公開公報等の特許文献である場合,当該文献から認定される 発明は,特許請求の範囲に記載された発明に限られるものではなく,発明の詳細な 説明に記載された技術的内容全体が引用の対象となり得るものである。よって,引 用文献の「発明が解決しようとする課題」や「課題を解決するための手段」の欄に 記載された事項と一致しない発明を引用発明として認定したとしても,直ちに違法 とはいえない。 そして,引用例において,社労士端末や税理士端末に係る事項を含まない,給与 計算に係る発明が記載されていることについては,上記(2)のとおりであるから,こ の発明を引用発明として認定することが誤りとはいえない。 ・・・・ ウ 以上のとおり,周知例2,甲7,乙9及び乙10には,「従業員の給与支払 機能を提供するアプリケーションサーバを有するシステムにおいて,企業の給与締\nめ日や給与支給日等を含む企業情報及び従業員情報を入力可能な利用企業端末のほ\nかに,1)従業員の取引金融機関,口座,メールアドレス及び支給日前希望日払いの 要求情報(周知例2),2)従業員の勤怠データ(甲7),3)従業員の出勤時間及び退 勤時間の情報(乙9)及び4)従業員の勤怠情報(例えば,出社の時間,退社の時間, 有給休暇等)(乙10)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」\nが開示されていることは認められるが,これらを上位概念化した「上記利用企業端 末のほかに,およそ従業員に関連する情報(従業員情報)全般の入力及び変更が可 能な従業者の携帯端末機を備えること」や,「上記利用企業端末のほかに,従業員\n入力情報(扶養者情報)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」\nが開示されているものではなく,それを示唆するものもない。 したがって,周知例2,甲7,乙9及び乙10から,本件審決が認定した周知技 術を認めることはできない。また,かかる周知技術の存在を前提として,本件審決 が認定判断するように,「従業員にどの従業員情報を従業員端末を用いて入力させ るかは,当業者が適宜選択すべき設計的事項である」とも認められない。 (3)動機付けについて 本願発明は,従業員を雇用する企業では,総務部,経理部等において給与計算ソ\nフトを用いて給与計算事務を行っていることが多いところ,市販の給与計算ソフト\nには,各種設定が複雑である,作業工程が多いなど,汎用ソフトに起因する欠点も\nあることから,中小企業等では給与計算事務を経営者が行わざるを得ないケースも 多々あり,大きな負担となっていることに鑑み,中小企業等に対し,給与計算事務 を大幅に簡便にするための給与計算方法及び給与計算プログラムを提供することを 目的とするものである(本願明細書【0002】〜【0006】)。 そして,本願発明において,各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業 員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて,同端末から扶養者情報等の給与\n計算を変動させる従業員情報を入力させることにしたのは,扶養者数等の従業員固 有の情報(扶養者数のほか,生年月日,入社日,勤怠情報)に基づき変動する給与 計算を自動化し,給与計算担当者を煩雑な作業から解放するためである(同【00 35】)。 一方,引用例には,発明の目的,効果及び実施の形態について,前記2(1)のとお り記載されており,引用例に記載された発明は,複数の事業者端末と,複数の専門 家端末と,給与データベースを有するサーバ装置とが情報ネットワークを通じて接 続された給与システムとし,専門家端末で給与計算サーバ装置にアクセスし,給与 計算を行うための固定項目や変動項目のデータを登録するマスター登録を行うこと などにより,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士のような専門知識を持った 複数の専門家が,給与計算やその他の処理を円滑に行うことができるようにしたも のである。 したがって,引用例に接した当業者は,本願発明の具体的な課題を示唆されるこ とはなく,専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて,各従業員\nの従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより,相違\n点5に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い。\nなお,引用発明においては,事業者端末にタイムレコーダが接続されて従業員の 勤怠データの収集が行われ,このデータが給与計算サーバ装置に送信されて給与計 算が行われるという構成を有するから,給与担当者における給与計算の負担を削減\nし,これを円滑に行うということが,被告の主張するように自明の課題であったと しても,その課題を解決するために,上記構成に代えて,勤怠データを従業員端末\nのウェブブラウザ上に表示させて入力させる構\成とすることにより,相違点5に係 る本願発明の構成を採用する動機付けもない。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> 相違点認定
 >> 動機付け
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(ネ)10047  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年10月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 少し前の事件ですが、漏れていたのでアップします。特許侵害事件において、無効理由無かつ技術的範囲に属するとした1審判断を維持しました。同一特許に係る審決取消請求事件の判決の理由中の判断は,侵害訴訟における技術的範囲の確定に対して拘束力を持たないとも言及しました。
 ところで,特許発明の技術的範囲の確定の場面におけるクレーム解釈と,当該特 許の新規性,進歩性等を判断する前提としての発明の要旨認定の場面におけるクレ ーム解釈とは整合するのが望ましいところ,確かに,本件特許2に係る審決取消請 求事件の判決(甲12)には,控訴人が指摘するとおり,「本件特許発明2は,ケ ーブルコネクタの回転のみによって,すなわち,ケーブルコネクタとレセプタクル コネクタ間のスライドなどによる相対位置の変化なしに,ロック突部の最後方位置 が突出部に対して位置変化を起こす構成に限定されていると解される。」旨の記載\nがある(39頁)。しかし,上記判決は,主引用例(本件における乙3)の嵌合過 程について,「…肩部56で形成される溝部49の底面に回転中心突起53が当た り,ここで停止する状態となる。…この状態で相手コネクタ33を回転させるので はなく,回転中心突起53を肩部56に沿って動かすことで,相手コネクタ33を コネクタ31に対してコネクタ突合方向のケーブル44側にずらした状態にして, 相手コネクタ33をコネクタ突合方向に直交する溝部方向に動かすことができない ようにし,その後,回転中心突起53を中心に相手コネクタ33を回転させている」 (36〜37頁)との認定を前提に,本件特許発明2と乙3発明とを対比するに当 たり,乙3発明には,「回転によって,回転中心突起53の最後方位置が回転前に 比較して後方に位置するという技術思想が記載されているとはいえない」,「回転 中心突起53の上方に肩部56の上面が位置するように,相手コネクタ33が傾斜 している状態で肩部56の前側から後側(ケーブル側)へ回転中心突起53を移動 させているものであって,相手コネクタ33の回転により回転中心突起56の最後 方位置が後方(ケーブル側)へ移動するものではない」(38頁)として,乙3発 明は,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケー ブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位 置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に 位置するものではないという点において,本件特許発明2と相違する。」旨認定し ている(38頁)。上記のように,乙3発明においては,ロック突部の突部後縁の 最後方位置の変化に,ケーブルコネクタの上向き傾斜姿勢からコネクタ嵌合終了姿 勢への回転を伴う姿勢の変化が関係していないこと(「回転によって,回転中心突 起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置するという技術思想が記載され ているとはいえない」こと)に照らせば,本件特許発明2と乙3発明とが相違する ことを認定するについては,本件特許発明2におけるロック突部の突部後縁の最後 方位置の変化が,ケーブルコネクタの上向き傾斜姿勢からコネクタ嵌合終了姿勢へ の回転を伴う姿勢の変化によって生じるものであれば足り,「回転のみによって」 生じること,言い換えれば,ケーブルコネクタを上向き傾斜姿勢からコネクタ嵌合 終了姿勢へと変化させる際に,姿勢方向を回転させることに伴って生じる「ケーブ ルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対位置の変位」が一 切あってはならないことを要するものではないというべきである。なお,同一特許 に係る審決取消請求事件の判決の理由中の判断は,侵害訴訟における技術的範囲の 確定に対して拘束力を持つものではない。 したがって,控訴人の上記限定解釈に係る主張は,理由がない。
(イ) 控訴人は,被控訴人が,特許の無効を回避するために,自ら,「本件特許 発明2は,「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が,「ケーブルコネクタが上向 き傾斜姿勢にあるとき」はロック溝部の溝部後縁から溝内方に突出する突出部の最 前方位置よりも前方に位置し,また,「ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢 にあるとき」は上記突出部の最前方位置よりも後方に位置することを規定している」 旨構成要件e及びfを限定解釈すべきことを主張しているのであるから,その技術\n的範囲の解釈に際しては,被控訴人の上記主張が前提にされるべきである旨主張す る。 しかし,特許発明の技術的範囲を解釈するについて,相手方の無効主張に対する 反論として述べた当事者の主張は,必ずしも裁判所の判断を拘束するものではない。 そして,本件特許発明2に係る特許請求の範囲には,控訴人が主張するような限 定は規定されていないし,前記(1)イ記載の本件特許発明2の課題及び作用効果は, ロック突部の突部後縁の最後方位置が,ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にある とき,すなわち,コネクタ嵌合終了姿勢に至る前は,常にロック溝部の溝部後縁か ら溝内方に突出する突出部の最前方位置よりも前方に位置しているのでなければ奏 し得ないというものではない。また,そもそも,本件明細書2には,本件特許発明 2に係る実施例の嵌合動作について,「ロック突部21’の下部傾斜部21’B− 2が,ロック溝部57’の後縁突出部59’Bの位置まで達すると,該後縁突出部 59’Bに対して下部傾斜部21’B−2が該後縁突出部59’Bの下方に向けて 滑動しながらケーブルコネクタ10はその前端が時計方向に回転して水平姿勢とな って嵌合終了の姿勢に至る。」(【0053】)と記載されているように,ケーブ ルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるときであっても,嵌合終了姿勢(水平姿勢)に 近づくと,ロック突部の突部後縁の最後方位置が,ロック溝部の溝部後縁から溝内 方に突出する突出部の最前方位置よりも後方に位置することが開示されているとい えるから,構成要件eを,「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるときは,ロ\nック突部の突部後縁の最後方位置が,ロック溝部の溝部後縁から溝内方に突出する 突出部の最前方位置よりも前方に位置する」ことを規定したものと解釈することは, 誤りである。
・・・・・
 ア 控訴人の明確性要件違反並びに新規性及び進歩性欠如に係る主張は,控訴人 が請求した無効審判請求(無効2014−800015)と同一の事実及び同一の 証拠に基づくものであるところ,上記無効審判請求については,請求不成立審決が, 既に確定した(甲8,12)。したがって,控訴人において,本件特許2が,上記 明確性要件違反並びに新規性及び進歩性の欠如を理由として,特許無効審判により 無効にされるべきものと主張することは,紛争の蒸し返しに当たり,訴訟上の信義 則によって,許されない(同法167条,104条の3第1項)。
イ なお,控訴人は,本件特許発明2が「ケーブルコネクタの回転のみによって, すなわち,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対 位置の変化なしに,ロック突部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構\n成に限定されている」ものと解釈されないとすれば,本件特許発明2は進歩性を欠 く旨主張する。 しかし,本件特許発明2の要旨を上記のように限定的に認定しない場合であって も,乙3発明における嵌合動作は,相手コネクタ33の回転中心突起53をコネク タ31の溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入し,次いで,回転中心突起5 3を肩部56に沿って動かし,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56 のケーブル44側に当接している状態にして,その後,回転中心突起53を中心に 相手コネクタ33を回転させ,嵌合終了姿勢に至るというものであり,本件特許発 明2と乙3発明とは,本件特許発明2では,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブル コネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき, 上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌合 終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し」ているのに対し,乙3発明では,コ ネクタ嵌合過程にて相手コネクタ33の前端がもち上がって該相手コネクタ33が 上向き傾斜姿勢にあるときのうち,少なくとも,コネクタ突合方向のケーブル44 側の端までずらした状態で回転中心突起53を中心に相手コネクタ33を回転させ るとき,回転中心突起の突部後縁の最後方位置が,相手コネクタ33がコネクタ嵌 合終了姿勢にあるときと同一の地点に位置している点,すなわち構成要件eの点で\n相違する。そして,乙3には,乙3発明の上記嵌合動作に関し,回転によって,回 転中心突起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置するという技術的思想 が記載されているとはいえず(甲12・38頁),また,乙3発明と乙7ないし1 0に記載された各コネクタとでは,その構造や形状が大きく異なるから,乙3発明\nにおいて,上記各コネクタの嵌合過程における突起部と突出部との位置関係を適用 しようとする動機付けがあるということはできないし,仮に適用を試みたとしても, 乙3発明において,上記相違点に係る本件特許発明2の構成を備えることが容易に\n想到できたとは認められない。

◆判決本文

◆原審はこちら。平成26(ワ)14006

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> 分割
 >> 技術的範囲
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10071  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年6月14日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は、相違点の認定誤りです。
 ア 本件審決は,「保護方法データベース」に記憶された「入力元のアプ リケーション」が保護対象データである「ファイル」を処理するのは自明 であり,機密事項を保護対象データとして扱うことは当該技術分野の技術 常識であることから,引用発明の「入力元のアプリケーション」,「識別 子」はそれぞれ,本願発明の「機密事項を扱うアプリケーション」,「機 密識別子」に相当し,また,引用発明の「保護方法データベース」に「入 力元のアプリケーション」の「識別子」が記憶されていることは明らかで あるから,引用発明の「保護方法データベース」は本願発明の「機密事項 を扱うアプリケーションを識別する機密識別子が記憶される機密識別子記 憶部」に相当する旨認定・判断した。 イ(ア) しかし,前記認定に係る本願明細書及び引用例1の記載によれば, 本願発明における「機密識別子」は「機密事項を扱うアプリケーション を識別する」ものとして定義されている(本願明細書【0006】等) のに対し,引用発明におけるアプリケーションの「識別子」は,アプリ ケーションを特定する要素(アプリケーション名,プロセス名等)とし て位置付けられるものであって(引用例1【0037】等),必ずしも 直接的ないし一次的に機密事項を扱うアプリケーションを識別するもの とはされていない。
(イ) また,本願発明は,「すべてのアプリケーションに関して同じ保護 を行うと,安全性は高くなるが,利便性が低下するという問題が生じ る」(本願明細書【0004】)という課題を解決するために,「当 該アプリケーションが,前記機密識別子記憶部で記憶されている機密 識別子で識別されるアプリケーションであり,送信先がローカル以外 である場合に」「送信を阻止」するという構成を採用したものである。\nこのような構成を採用することによって,「機密事項を含むファイル\n等が送信によって漏洩することを防止することができ」,かつ,「機 密識別子で識別されるアプリケーション以外のアプリケーションにつ いては,自由に送信をすることができ,ユーザの利便性も確保するこ とができる」という効果が奏せられ(本願明細書【0007】),前 記課題が解決され得る。このことに鑑みると,本願発明の根幹をなす 技術的思想は,アプリケーションが機密事項を扱うか否かによって送 信の可否を異にすることにあるといってよい。 他方,引用発明において,アプリケーションは,機密事項を扱うか否 かによって区別されていない。すなわち,そもそも,引用例1には機密 事項の保護という観点からの記載が存在しない。また,引用発明は,柔 軟なデータ保護をその解決すべき課題とするところ(【0008】), 保護対象とされるデータの保護されるべき理由は機密性のほかにも考え 得る。このため,機密事項を保護対象データとして取り扱うことは技術 常識であったとしても,引用発明における保護対象データが必ず機密事 項であるとは限らない。しかも,引用発明は,入力元のアプリケーショ ンと出力先の記憶領域とにそれぞれ安全性を設定し,それらの安全性を 比較してファイルに保護を施すか否かの判断を行うものである。このた め,同じファイルであっても,入力元と出力先との安全性に応じて,保 護される場合と保護されない場合とがあり得る。 これらの点に鑑みると,引用発明の技術的思想は,入力元のアプリケ ーションと出力先の記憶領域とにそれぞれ設定された安全性を比較する ことにより,ファイルを保護対象とすべきか否かの判断を相対的かつ柔 軟に行うことにあると思われる。かつ,ここで,「入力元のアプリケー ションの識別子」は,それ自体として直接的ないし一次的に「機密事項 を扱うアプリケーション」を識別する作用ないし機能は有しておらず,\n上記のようにファイルの保護方法を求める上で比較のため必要となる 「入力元のアプリケーション」の安全性の程度(例えば,その程度を示 す数値)を得る前提として,入力元のアプリケーションを識別するもの として作用ないし機能するものと理解される。\nそうすると,本願発明と引用発明とは,その技術的思想を異にするも のというべきであり,また,本願発明の「機密識別子」は「機密事項を 扱うアプリケーションを識別する」ものであるのに対し,引用発明の 「アプリケーションの識別子」は必ずしも機密事項を扱うアプリケーシ ョンを識別するものではなく,ファイルの保護方法を求める上で必要と なる安全性の程度(例えば,数値)を得る前提として,入力元のアプリ ケーションを識別するものであり,両者はその作用ないし機能を異にす\nるものと理解するのが適当である。
(ウ) このように,本願発明の「機密識別子」と引用発明の「識別子」が 相違するものであるならば,それぞれを記憶した本願発明の「機密識 別子記憶部」と引用発明の「保護方法データベース」も相違すること になる。
ウ 以上より,この点に関する本件審決の前記認定・判断は,上記各相違点 を看過したものというべきであり,誤りがある。
エ これに対し,被告は,相違点AないしBの看過を争うとともに,仮に相 違点Bが存在するとしても,その点については,本件審決の相違点1に 関する判断において事実上判断されている旨主張する。 このうち,相違点AないしBの看過については,上記ア及びイのとお りである。 また,本件審決の判断は,1)引用例2に記載されるように,ファイル を含むパケットについて,内部ネットワークから外部ネットワークへの 持ち出しを判断し,送信先に応じて許可/不許可を判定すること,すな わち,内部ネットワーク(ローカル)以外への送信の安全性が低いとし てセキュリティ対策を施すことは,本願出願前には当該技術分野の周知 の事項であったこと,2)参考文献に記載されるように,機密ファイルを あるアプリケーションプログラムが開いた後は,電子メール等によって 当該アプリケーションプログラムにより当該ファイルが機密情報保存用 フォルダ(ローカル)以外に出力されることがないようにすることも, 本願出願前には当該技術分野の周知技術であったことをそれぞれ踏まえ て行われたものである。 しかし,1)に関しては,本件審決の引用する引用例2には,送信の許 可/禁止の判定は送信元及び送信先の各IPアドレスに基づいて行われ ることが記載されており(【0030】),アプリケーションの識別子 に関する記載は見当たらない。また,前記のとおり,引用発明における 識別子は,アプリケーションが機密事項を扱うものか否かを識別する作 用ないし機能を有するものではない。\n2)に関しては,参考文献記載の技術は,機密情報保存用フォルダ内の ファイルが当該フォルダの外部に移動されることを禁止するものである ところ(【0011】),その実施の形態として,機密情報保存用フォ ルダ(機密フォルダ15A)の設定につき,「システム管理者は,各ユ ーザが使用するコンピュータ10内の補助記憶装置15内に特定の機密 ファイルを保存するための機密フォルダ15Aを設定し,ユーザが業務 で使用する複数の機密ファイルを機密フォルダ15A内に保存する。」 (同【0018】)との記載はあるものの,起動されたアプリケーショ ンプログラムが機密事項を扱うものであるか否かという点に直接的に着 目し,これを識別する標識として本願発明の機密識別子に相当するもの を用いることをうかがわせる記載は見当たらない(本件審決は,参考文 献の記載(【0008】,【0009】,【0064】)に言及するも のの,そこでの着目点は機密ファイルをあるアプリケーションプログラ ムが開いた後の取扱いであって,その前段階として機密ファイルを定め る要素ないし方法に言及するものではない。)。このように,当該周知 技術においては,アプリケーションが機密事項を扱うものであるか否か を識別する機密識別子に相当するものが用いられているとはいえない。 なお,参考文献の記載(【0032】等)によれば,アプリケーショ ンプログラムのハンドル名がアプリケーションの識別子として作用する ことがうかがわれるが,参考文献記載の技術は,アプリケーションが実 際に機密ファイルをオープンしたか否かによって当該アプリケーション によるファイルの外部への格納の可否が判断されるものであり,入力元 と出力先との安全性の比較により処理の可否を判断する引用発明とは処 理の可否の判断の原理を異にする。また,扱うファイルそのものの機密 性に着目して機密ファイルを外部に出すことを阻止することを目的とす る点で,扱うファイルそのものの機密性には着目していない引用発明と は目的をも異にする。このため,引用発明に対し参考文献記載の技術を 適用することには,動機付けが存在しないというべきである。 そうすると,相違点Bにつき,引用発明に,引用例2に記載の上記周 知の事項を適用しても,本願発明の「機密識別子」には容易に想到し得 ないというべきであるし,参考文献記載の周知技術はそもそも引用発明 に適用し得ないものであり,また,仮に適用し得たとしても,本願発明 の「機密識別子」に想到し得るものではない。そうである以上,相違点 Bにつき,本件審決における相違点1の判断において事実上判断されて いるとはいえない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明
 >> 引用文献
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10037  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年6月14日  知的財産高等裁判所

 審決は、新規性無し(29条1項3号違反)で無効と判断しましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
 1 本件審決の判断構造と原告の主張の理解
本件審決が認定した本件発明と引用発明(甲1発明)は,いずれも多数の選 択肢から成る化合物に係る発明であるところ,本件審決は,両発明の間に一応 の相違点を認めながら,いずれの相違点も実質的な相違点ではないとして,本 件発明と甲1発明が実質的に同一であると認定判断し,その結果,本件発明に は新規性が認められないとの結論を採用した。 その理由とするところは,本件発明1に関していえば,相違点に係る構成は\nいずれも単なる選択を行ったにすぎず,相違点に係る化合物の選択使用に格別 の技術的意義が存するものとはいえない(相違点1ないし3),あるいは,引 用発明(甲1発明A)が相違点に係る構成態様を包含していることは明らかで\nあり,かつ,その構成態様を選択した点に格別な技術的意義が存するものとは\n認められない(相違点4)というものであり,本件発明1を引用する本件発明 2ないし14,本件発明14を引用する本件発明15ないし17についても, それぞれ,引用発明(甲1発明A又はB)との間に新たな相違点が認められな いか,新たな相違点が認められるとしても,各相違点に係る構成が甲1に記載\nされているか,その構成に格別な技術的意義が存するものとは認められないか\nら,いずれも実質的な相違点であるとはいえないというものである。 要するに,本件審決は,引用発明である甲1発明と本件発明との間に包含関 係(甲1発明を本件発明の上位概念として位置付けるもの)を認めた上,甲1 発明において相違点に係る構成を選択したことに格別の技術的意義が存するか\nどうかを問題にしており,その結果,本件発明が甲1発明と実質的に同一であ るとして新規性を認めなかったのであるから,本件審決がいわゆる選択発明の 判断枠組みに従って本件発明の特許性(新規性)の判断を行っていることは明 らかである。 これに対し,原告は,取消事由として,引用発明認定の誤り(取消事由A) や一致点認定の誤り(取消事由1)を主張するものの,本件審決が認定した各 相違点(相違点1ないし4)それ自体は争わずに,本件審決には,「特許発明 と刊行物に記載された発明との相違点に選択による格別な技術的意義がなけれ ば,当該相違点は実質的な相違点ではない」との前提自体に誤りがあり(取消 事由2),また,仮にその前提に従ったとしても,相違点1ないし4には格別 な技術的意義が認められるから,特許性の有無に関する相違点の評価を誤った 違法があると主張している(取消事由3)。 これによれば,原告は,本件審決が採用した特許性に関する前記の判断枠組 みとその結論の妥当性を争っていることが明らかであり,取消事由2及び3も そのような趣旨の主張として理解することができる。 また,本件発明2ないし17はいずれも本件発明1を更に限定したものと認 められるから,本件発明1の特許性について判断の誤りがあれば,本件発明2 ないし17についても同様に,結論に重大な影響を及ぼす判断の誤りがあると いえる。 以上の観点から,まず,本件発明1に関し,本件審決が認定した各相違点(相 違点1ないし4)を前提に,各相違点が実質的な相違点ではないとして特許性 を否定した本件審決の判断の当否について検討することとする。
・・・・
本件訂正後の特許請求の範囲の記載(前記第2の2)及び本件明細書の記 載(前記(1))によれば,本件発明は,次の特徴を有すると認められる。
・・・
(1) 特許に係る発明が,先行の公知文献に記載された発明にその下位概念とし て包含されるときは,当該発明は,先行の公知となった文献に具体的に開示 されておらず,かつ,先行の公知文献に記載された発明と比較して顕著な特 有の効果,すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏される効果 とは異質の効果,又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合 を除き,特許性を有しないものと解するのが相当である 。 ここで,本件発明1が甲1発明Aの下位概念として包含される関係にある ことは前記3のとおりであるから,本件発明1は,甲1に具体的に開示され ておらず,かつ,甲1に記載された発明すなわち甲1発明Aと比較して顕著 な特有の効果を奏する場合を除き,特許性を有しないというべきである。 そして,甲1に本件発明1に該当する態様が具体的に開示されているとま では認められない(被告もこの点は特に争うものではない。)から,本件発 明1に特許性が認められるのは,甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を 奏する場合(本件審決がいう「格別な技術的意義」が存するものと認められ る場合)に限られるというべきである。
(2) この点に関し,本件審決は次のとおり判断した。
・・・・
エ 以上によれば,本件審決は, (1) 甲1発明Aの「第三成分」として,甲1の「式(3−3−1)」及び 「式(3−4−1)」で表される重合性化合物を選択すること,\n(2) 甲1発明Aの「第一成分」として,甲1の「式(1−3−1)」及び「式 (1−6−1)」で表される化合物を選択すること,\n(3) 甲1発明Aの「第二成分」として,甲1の「式(2−1−1)」で表さ\nれる化合物を選択すること, (4) 甲1発明Aにおいて,「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」 態様を選択すること, の各技術的意義について,上記(1)の選択と,同(2)及び(3)の選択と,同(4)の 選択とをそれぞれ別個に検討した上,それぞれについて,格別な技術的意 義が存するものとは認められないとして,相違点1ないし4を実質的な相 違点であるとはいえないと判断し,本件発明1の特許性(新規性)を否定 したものといえる。
(3) 本件審決の判断の妥当性
本件発明1は,甲1発明Aにおいて,3種類の化合物に係る前記(1)ないし (3)の選択及び「塩素原子で置換された液晶化合物」の有無に係る前記(4)の選 択がなされたものというべきであるところ,証拠(甲42)及び弁論の全趣 旨によれば,液晶組成物について,いくつかの分子を混ぜ合わせること(ブ レンド技術)により,1種類の分子では出せないような特性を生み出すこと ができることは,本件優先日の時点で当業者の技術常識であったと認められ るから,前記(1)ないし(4)の選択についても,選択された化合物を混合するこ とが予定されている以上,本件発明の目的との関係において,相互に関連す\nるものと認めるのが相当である。 そして,本件発明1は,これらの選択を併せて行うこと,すなわち,これ らの選択を組み合わせることによって,広い温度範囲において析出すること なく,高速応答に対応した低い粘度であり,焼き付き等の表示不良を生じな\nい重合性化合物含有液晶組成物を提供するという本件発明の課題を解決する ものであり,正にこの点において技術的意義があるとするものであるから, 本件発明1の特許性を判断するに当たっても,本件発明1の技術的意義,す なわち,甲1発明Aにおいて,前記(1)ないし(4)の選択を併せて行った際に奏 される効果等から認定される技術的意義を具体的に検討する必要があるとい うべきである。 ところが,本件審決は,前記のとおり,前記(1)の選択と,同(2)及び(3)の選 択と,同(4)の選択とをそれぞれ別個に検討しているのみであり,これらの選 択を併せて行った際に奏される効果等について何ら検討していない。このよ うな個別的な検討を行うのみでは,本件発明1の技術的意義を正しく検討し たとはいえず,かかる検討結果に基づいて本件発明1の特許性を判断するこ とはできないというべきである。 以上のとおり,本件審決は,必要な検討を欠いたまま本件発明1の特許性 を否定しているものであるから,上記の個別的検討の当否について判断する までもなく,審理不尽の誹りを免れないのであって,本件発明1の特許性の 判断において結論に影響を及ぼすおそれのある重大な誤りを含むものという べきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 本件発明
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10168  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年6月12日  知的財産高等裁判所(3部)

 進歩性なしとした審決が取り消されました。なお、相違点3については認定は誤りであるが、他の争点で審決の判断は取り消されるべきものとして、取消理由にはならないと判断されています。
 以上のとおり,本件審決には,本件特許発明1と甲1発明の相違点3の一 内容として相違点3−1を認定した点に誤りがあるものといえる。 しかしながら,後記4で述べるとおり,本件審決認定の相違点3のうち, 相違点3-1以外の部分に係る本件特許発明1の構成についての容易想到性\nは否定されるべきであり,そうすると,本件審決の相違点3−1に係る認定 の誤りは,本件特許発明1の進歩性欠如を否定した本件審決の結論に影響を 及ぼすものではない。
・・・・
原告は,相違点3に係る本件特許発明1の構成のうち,「第1(あるいは\n第2)の係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設し枠体の上辺(あるいは 下辺)よりも内側に設けられ」るとの構成についての容易想到性を否定し\nた本件審決の判断は誤りである旨主張する。しかるところ,上記構成のう\nち,「係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設」する構成が本件特許発明1\nと甲1発明の相違点といえないことは,上記3(2)で述べたとおりであるか ら,以下では,上記構成のうち,「第1(あるいは第2)の係止片が枠体の\n上辺(あるいは下辺)よりも内側に設けられ」るとの構成(以下「相違点\n3−2に係る構成」という。)についての容易想到性を否定した本件審決の\n判断の適否について検討することとする。 ア 原告は,部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも 少し内側に設ける構成は,甲1(図39(a)及び図49),16,17及 び63に記載され,審判検甲1及び2が現に有するとおり,スロットマ シンの技術分野において周知な構成であるとした上で,甲1発明に上記\n周知な構成を適用し,相違点3−2に係る構\成とすることは,当業者が 容易に想到し得たことである旨主張するので,以下検討する。 (ア) 甲1の図39(a)及び図49について
甲1の図39(a)(別紙2参照)は,スロットマシンの飾り枠本体に 取り付けられる第4ランプカバーの斜視図であるところ,同図に示さ れた第4ランプカバー423は,側方形状L字状に形成され,その一 辺の両サイドから後方に係止爪424が突設されている(甲1の段落 【0158】)。また,甲1の図49(別紙2参照)は,スロットマシ ンのメダル受皿の分解斜視図であるところ,同図に示されたメダル受 皿12の両サイドには,係止爪620が後方に向かって突設されてい る(甲1の段落【0205】)。 しかしながら,上記係止爪424と第4ランプカバー423の最外周 面との位置関係及び上記係止爪620とメダル受皿12の最外周面との 位置関係については,甲1には記載されておらず,何らの示唆もされて いない。 この点,原告は,これらの図面において,係止片に相当する部分とそ の取付け端の境界に実線が記載されていることから,当業者は,係止片 が部材の最外周面よりも少し内側に設けられていると理解する旨主張す る。しかし,甲1の上記図面は,特許出願の願書に添付された図面であ り,明細書を補完し,特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業 者に理解させるための説明図であるから,当該発明の技術内容を理解す るために必要な程度の正確さを備えていれば足り,設計図面に要求され るような正確性をもって描かれているとは限らない。そして,甲1は, 遊技部品を収容する収容箱と収容箱に固定される連結部材を介して収容 箱の前面に開閉自在に設けられる前面扉とから構成されるスロットマシ\nンについての発明を開示するものであり(段落【0001】),特に,連 結部材を前面扉に取り付ける取付部に載置部及び被載置部を形成するこ とによって前面扉を連結部材に組付ける際の作業性を向上させたスロッ トマシンに係る発明を開示するものであるから(段落【0002】〜 【0008】),甲1の図面において,上記取付部に関係しない部材であ る第4ランプカバー423の係止爪424やメダル受皿12の係止爪6 20の詳細な構造についてまで正確に図示されているものと断ずること\nはできない。してみると,甲1の明細書中に何らの記載がないにもかか わらず,上記図面中の実線の記載のみから,係止片が部材の最外周面よ りも少し内側に設けられている構成の存在を読み取ることはできないと\nいうべきであり,原告の上記主張は採用できない。 したがって,甲1の図39(a)及び図49には,そもそも,部材を取 り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも少し内側に設ける構\n成が記載されているとはいえない。
・・・
以上によれば,原告が,「部材を取り付けるための係止片を当該部材 の最外周面よりも少し内側に設ける構成」が記載されているものとして\n挙げる文献のうち,甲1及び63については,そもそもそのような構成\nが記載されているとはいえない(なお,仮に,原告主張のとおり,甲1 及び63に上記構成が記載されていることを認めたとしても,これらの\n文献には,甲16及び17と同様に当該構成が採用される理由について\nの記載や示唆はないから,後記の結論に変わりはない。)。 他方,甲16及び17には,上記構成が記載され,また,審判検甲1\n及び2のパチスロ機も上記構成を有することが認められる。しかしなが\nら,これらの文献の記載や本件審判における審判検甲1及び2の検証の 結果によっても,これらの装置等において上記構成が採用されている理\n由は明らかではなく,結局のところ,当該構成の目的,これを採用する\nことで解決される技術的課題及びこれが奏する作用効果など,当該構成\nに係る技術的意義は不明であるというほかはない。 してみると,甲16及び17の記載や審判検甲1及び2の存在から, 上記構成がスロットマシンの分野において周知な構\成であるとはいえる としても,その技術的意義が不明である以上,当業者がこのような構成\nをあえて甲1発明に設けようと試みる理由はないのであって,甲1発明 に当該周知な構成を適用すべき動機付けの存在を認めることはできない。\nしたがって,甲1発明に上記周知な構成を適用し,相違点3−2に係\nる構成とすることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(ネ)10083  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年5月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は特許権侵害を認め、無効理由無しと判断しましたが、知財高裁(2部)はこれを取り消しました。結論が変わったのは、引用文献の認定により進歩性欠如です。
(1) 相違点の認定について
被控訴人らは,乙1公報には「治療用マーカー」について何らの記載も示唆もな いから,本件発明が「治療用マーカー」であるのに対し,乙1発明は「治療用マー カー」ではない点も相違点として認定すべきである,と主張する。 しかし,前記1(2)ウのとおり,乙1発明は,皮膚用の入れ墨転写シールを含めた 各種用途の転写シールである。乙1公報には,乙1発明の転写シールが治療用マー カーに用いられることは明示されていないものの,皮膚用の入れ墨転写シールの用 途については限定を設けていないから,乙1発明が治療用マーカーではないとはい えない。本件発明と乙1発明との相違点4として,「本件発明が治療用マーカーであ るのに対し,乙1発明では皮膚用の入れ墨転写シールを含めた各種用途の転写シー ルである点」と認定するのが相当である。
(2) 相違点1,2及び4の判断について
被控訴人らは,乙9発明の「台紙」は「基材」と訳されるべきものであり,患者 の皮膚に接触したままにされるから,治療用の目印となるインク層を皮膚に接着さ せた後すぐに皮膚から剥がされることになる本件発明の「基台紙」とは,構造を全\nく異にし,乙1発明に乙9発明を組み合わせたとしても,本件発明との相違点4に 係る構成に想到するのは容易ではなく,また,乙9発明には「基台紙」がないから,\n乙1発明に乙9発明を組み合わせても,インク層と同一のマークを基台紙に印刷す ることを容易に想到できない,と主張する。 しかし,前記1(4)イ,ウのとおり,乙9発明の装置は,被控訴人ら主張のとおり, 「台紙」を患者の皮膚に接触したままにしておく使用方法もあるが,「台紙」が剥が れた場合のことをも想定しており,「台紙」が剥がれた場合には,「台紙」は,本件 発明において同じく皮膚から剥がされる「基台紙」と同様の機能を有するというこ\nとができる。したがって,乙9発明の「substrate」を「台紙」と訳すこ とは誤りとはいえず,また,本件発明との相違点1,2及び4についての容易想到 性についての被控訴人らの上記主張を採用することはできない。 (3) 相違点3の判断について
ア 被控訴人らは,乙1発明は,「水転写タイプ」を含む従来の入れ墨転写シ ールの課題を解決するために,「粘着転写タイプ」のシールを記載したものであって, 「水転写タイプ」を動機付けるものではなく,むしろ「水転写タイプ」を不具合あ るものとして排除している,と主張する。 しかし,乙1文献に明示的に記載されている実施例は「粘着転写タイプ」である ものの,「粘着転写タイプ」と「水転写タイプ」との違いは,セパレーターを取り除 いた後に,転写シールの粘着層をそのまま皮膚に貼り付けるか,転写シールを水で\n湿してから皮膚に押さえ付けるかの点にある(乙3)にすぎないから,乙1文献記 載の従来技術の問題点である「絵柄がひび割れる,剥離が困難」といった点は,水 転写タイプに特有のものとは認められない。また,乙1発明が課題解決の方法とし て採用した特性を持つ透明弾性層が,転写シールの粘着層を皮膚に貼り付ける前に\n水で湿すことによってその効果を発揮しないとか,その他乙1発明を水転写タイプ とすることが技術的に困難である事情は認められない。したがって,乙1発明が水 転写タイプを排除しているとはいえず,被控訴人らの上記主張を採用することはで きない。
イ 被控訴人らは,乙9発明は「基材」そのものが治療用の目印として皮膚 に転写されるから,水転写タイプを想起させるものではない,と主張する。 しかし,前記(2)のとおり,乙9発明の装置は,「台紙」が剥がれた場合のことを 想定しており,「台紙」が剥がれる場合には,「台紙」の皮膚に接着する側に配置さ れた第1インク層が皮膚に転写され,「台紙」は治療用の目印ではなくなり,インク 層のみが皮膚に転写されることとなるところ,水転写タイプもこのような構成を採\n用するものである(乙3)から,被控訴人らの主張を採用することはできない。

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第21436号

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10151 特許権 行政訴訟 平成29年5月31日  知的財産高等裁判所(3部)

 審決は、進歩性無しを理由として訂正を認めませんでした。知財高裁はこれを取り消しれました。理由は、刊行物1に刊行物2を適用した場合に、あえて、当該構成の技術的意義との関係で凹部を残す理由がないというものです。\n
 本件審決は,刊行物1発明と刊行物2発明が多接点端子を有する電気コネ クタとしての構造を共通にすることから,刊行物1発明に刊行物2発明を適\n用する動機付けがあることを認めた上で,刊行物1発明の側方突出部26, 28に刊行物2発明を適用して,「第一接触部及び第二接触部それぞれの斜 縁の直線部分との接触を通じて相手端子に嵌合側から順次弾性接触するよう になっており,第一弾性腕の第一接触部は,該第一弾性腕の嵌合側端部から 嵌合側と反対側へ延びて相手端子との接触側に向かう斜縁を有し且つ該斜縁 よりも嵌合側と反対側に位置する下縁に凹部が形成され」るようにすること は当業者が容易になし得たことである旨判断し,この判断を前提として,刊 行物1発明と刊行物2発明,周知の技術事項(電気コネクタの技術分野にお いて有効嵌合長を長くすること)及び周知技術(相手コネクタと接触する接 点から接触部の突出基部に向けた直線と,斜縁を通る直線とでなす角度を鋭 角とすること)に基づいて相違点2に係る本件訂正発明の構成とすることは,\n当業者が容易に想到し得たことである旨判断する。 しかしながら,以下に述べるとおり,刊行物1発明に刊行物2記載のコネ クタの弾性舌部に係る構成を適用したとしても,第一弾性腕の第一接触部の\n斜縁よりも嵌合側と反対側に位置する下縁に凹部が形成される構成とするこ\nとを当業者が容易に想到し得たものということはできない。 すなわち,まず,刊行物2記載のコネクタの第一弾性舌部と第二弾性舌部 にそれぞれ形成された突状の第一接触部と第二接触部は,「それぞれの斜縁 の直線部分との接触を通じてプリント回路基板23の電気コンタクトに嵌合 側から順次弾性接触するようになっており,第一弾性舌部と第二弾性舌部 は,プリント回路基板23の電気コンタクトとの接触位置を通り嵌合方向に 延びる接触線に対して一方の側に位置しており,第一弾性舌部の第一接触部 は,該第一弾性舌部の嵌合側端部から嵌合側と反対側へ延びてプリント回路 基板23の電気コンタクトとの接触側に向かう斜縁を有し且つ該斜縁よりも 嵌合側と反対側に位置する下縁を有して」いるものの,当該下縁には「凹 部」が形成されていないから(図9及び18参照),刊行物1発明の側方突 出部26の構成を,刊行物2記載のコネクタの第一接触部に係る構\成に単に 置き換えたとしても,その下縁に「凹部」が形成される構成とならないこと\nは明らかである。
 そこで,刊行物1発明の側方突出部26に刊行物2記載のコネクタの第一 接触部に係る構成を適用することによりその下縁に「凹部」を形成する構\成 とするためには,刊行物1発明の側方突出部26の構成のうち,「下縁に凹\n部が形成され」た構成のみを残した上で,それ以外の構\成を刊行物2記載の コネクタの第一接触部に係る構成と置き換えることが必要となる(本件審決\nも,このような置換えを前提として,その容易性を認めたものと理解され る。)。しかしながら,刊行物1発明の側方突出部26に刊行物2記載のコ ネクタの第一接触部に係る構成を適用するに際し,上記側方突出部26が備\nえる一体的構成の一部である下縁の「凹部」の構\成のみを分離し,これを残 すこととすべき合理的な理由は認められない。そもそも,刊行物1発明の側 方突出部26の下縁に凹部が形成されている理由については,刊行物1に何 ら記載されておらず,技術常識等に照らして明らかなことともいえないか ら,当該構成の技術的意義との関係でこれを残すべき理由があると認められ\nるものではない。したがって,当業者が,刊行物1発明の側方突出部26に 刊行物2記載のコネクタの第一接触部に係る構成を適用するに当たり,刊行\n物1発明の側方突出部26における下縁の「凹部」の構成のみをあえて残そ\nうとすることは,考え難いことというほかない。 してみると,刊行物1発明に刊行物2記載のコネクタの第一接触部に係る 構成を適用したとしても,相違点2に係る本件訂正発明の構\成のうち,第一 接触部の斜縁よりも嵌合側と反対側に位置する下縁に凹部が形成される構成\nとすることを当業者が容易に想到し得たとはいえないから,相違点2に係る 本件審決の上記判断は誤りである。 なお,被告は,刊行物1発明に刊行物2発明を適用すべき動機付けが存在 することについて前記第4の2のとおり主張するが,上記で述べたとおり, 当該動機付けの存在を前提に,刊行物1発明に刊行物2記載のコネクタの第 一接触部に係る構成を適用したとしても,相違点2に係る本件訂正発明の構\ 成とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえないのであるから,被告 の主張は,上記判断を左右するものではない。

◆判決本文

◆関連事件です。平成28(行ケ)10150

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10120  審決取消請求事件  特許権 平成29年5月17日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。技術常識を判断するための証拠の追加についても当然認められるべきであると判断されました。
 そして,以上のような甲2の記載に接した当業者であれば,次のよう な技術的事項を当然に理解するものといえる。
a 均圧線の技術的意義
まず,甲2には,+電位に接続される2個のブラシ及び−電位に接続 される2個のブラシを備える4極重巻モータにおいて,同電位となる べき整流子間を均圧線で接続することによって循環電流の発生を防止 し,それによってブラシ整流作用の悪化等の問題点を解決する技術が, 従来から知られた技術として記載されている(以下,当該技術を「甲2 従来技術」という。)。加えて,電気機器分野に係る教科書と解される 甲11(昭和42年発行の「電気機器各論I(直流機)」)にも,4極 重巻の直流機において,循環電流を防止して整流を容易にするために 均圧結線を用いて巻線中常に等電位である点を導体で接続すること, このような均圧結線は重巻には欠くことのできない重要な結線である こと,均圧結線の好ましい取付け場所は整流子側であることが記載さ れており(87頁19行〜88頁8行),これからすると,甲2従来技 術は,本件原出願前からの電気機器分野における技術常識として当業 者に理解されていたものと認められる(なお,本件の審判手続では,原 告(請求人)による甲11の追加提出が許可されなかった経過がある (甲28の9)。しかし,本件訴訟において,本件審判手続で審理判断 された甲1発明と甲2記載の事項に基づく進歩性欠如の有無について 判断するに当たり,上記甲11に基づいて,判断に必要となる技術常識 を認定することが許されることは明らかである。)。
b ブラシ数削減の原理
甲2記載の発明は,甲2従来技術に係る4極重巻モータ(以下「従来 モータ」という。)において,ブラシの数が4個と多いことに起因して, ロストルク,ブラシ音及びトルクリップルが大きくなるという問題点 があることに鑑み,+側及び−側のブラシをそれぞれ1個のブラシ(合 計2個のブラシ)とすることによって前記問題点を解決したものであ る。
他方,甲2には,上記のようにブラシを減らすことができる原理を説 明する明示的な記載はない。しかし,甲2の段落【0033】における 「従来の電動モータ1では,第1のブラシ11a及び第3のブラシ1 1cを介して電流が流れるが,この実施の形態では第1のブラシ89 aを介して電流が流れ,ブラシ89aを通じて流れる電流量が従来の ものと比較して2倍となる。」との記載からすれば,甲2記載の発明に おいてブラシを減らすことができるのは,均圧線を設けたことの結果 として,1個のブラシから供給された電流が,そのブラシに当接する整 流子片に供給されるとともに,均圧線を通じて同電位となるべき整流 子片にも供給されることによって,対となる他方のブラシがなくとも 従来モータと同様の電流供給が実現できるためであることが理解でき る(この点,被告は,甲2には,均圧線の使用とブラシ数の削減とを結 び付ける記載がないことを理由に,「均圧線を使用してブラシの数を減 らす」技術が記載されているとはいえない旨主張するが,そのような明 示的な記載がなくとも,甲2の記載から上記のとおりの理解は可能と\nいうべきであるから,被告の上記主張には理由がない。)。 してみると,甲2の記載に接した当業者は,甲2には,4極重巻モー タにおいて,同電位となるべき整流子間を均圧線で接続することによ り,同電位に接続されている2個のブラシを1個に削減し,もって,ブ ラシ数の多さから生じるロストルク,ブラシ音及びトルクリップルが 大きくなるという問題を解決する技術が開示されていることを理解す るものといえる。
イ 検討
以上を踏まえて,甲1発明及び甲2の開示事項に基づいて相違点3及び 4に係る本件発明1の構成とすることの容易想到性について検討する。\n(ア) 直流モータが回転力を維持し続けるには,整流子とブラシによって 得られる整流作用が不可欠であることは,直流モータの原理から自明の ことであるから,直流モータにおいて,ブラシ整流作用を良好に保つこと は,当然に達成しなければならない課題である。したがって,当該課題 は,同じく直流モータである甲1発明においても,当然に内在する課題と いうことができる。 しかるところ,前記ア(ウ)aのとおり,+電位に接続される2個のブラ シ及び−電位に接続される2個のブラシを備える4極重巻モータにおい て,ブラシ整流作用の悪化等の問題点を解決するために均圧線を設ける 甲2従来技術が技術常識であることからすれば,同じく同電位に接続さ れた2個のブラシを複数組備える4極重巻モータであり,ブラシの整流 作用を良好に保つという課題が内在する甲1発明においても,甲2従来 技術と同様の均圧線を設けることは,当業者が当然に想到し得ることと いえる。 なお,甲2の記載では,同電位となるべき整流子間を均圧線で接続する ものとされ,本件発明1の均圧部材のように「等電位となるべきコイル間 を接続する」ことが明記されてはいない。しかし,整流子とコイルが接続 されている以上,同電位となるべき整流子間を均圧線で接続することは, 電気的にみて,「等電位となるべきコイル間を均圧線で接続する」ことに ほかならないものといえる。 以上によれば,甲1発明において相違点3に係る本件発明1の構成(コ\nイルのうち等電位となるべきコイル間を接続する均圧部材を備えるこ と)とすることは,甲1発明に甲2の開示事項(甲2従来技術)を適用す ることにより当業者が容易に想到し得たことと認められる。
・・・・
本件審決は,本件発明2について無効理由1の成否の判断を明示しておら ず,この点において判断の遺脱があるとも評価し得るところである。他方,本件発明2が本件発明1に係る請求項1を引用する請求項2に係る発明であり,本件発明1について無効理由1が成り立たない以上,本件発明2 についても当然に無効理由1が成り立たないといえる関係にあることからす ると,本件審決の上記判断には,本件発明1と同様の理由により本件発明2に ついても無効理由1が成り立たないとする趣旨の判断が含まれるものと善解 する余地もある。しかしながら,仮にそうであるとして,上記(4)のとおり, 本件発明1について無効理由1が成り立たないとした本件審決の判断が誤り である以上,本件発明2に係る本件審決の上記判断も誤りであることは明ら かである。したがって,いずれにしても,本件発明2についての無効理由1に係る本 件審決の判断には違法がある。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 審判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(行ケ)10061  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年4月12日  知的財産高等裁判所(3部)

 無効理由なしとした審決が取り消されました。取消理由は、引用文献の認定誤りです。
 そして,上記のように相違点1´を認定した場合,仮に同相違点に係る構\n成(移動体の位置検出を行うために複数の起動信号発信器を出入口の一方側 と他方側に設置する構成)が本件特許の出願時において周知であったとすれ\nば,引用発明Aとかかる周知技術とは,移動体の位置検出を目的とする点に おいて,関連した技術分野に属し,かつ,共通の課題を有するものと認めら れ,また,引用発明Aは,複数の固定無線機の設置位置を特定(限定)しな いものである以上,前記の周知技術を適用する上で阻害要因となるべき事情 も特に存しないことになる(前記のとおり,第1図に関連する「施設の所定 の部屋」を固定無線機の設置位置とする実施例の記載は,飽くまで発明の一 実施態様を示したものにすぎず,そのことにより刊行物1から「施設の各部 屋」を設置位置とする以外の他の態様による実施が読み取れないとはいえな い。)。 したがって,以上の相違点の認定(相違点1´)を前提とすれば,上記技 術分野の関連性及び課題の共通性を動機付けとして,引用発明Aに対し前記 の周知技術を適用し,相違点1´に係る本件訂正発明1の構成を採ることは,\n当業者であれば容易に想到し得るとの結論に至ることも十分にあり得ること\nというべきである。
(3) ところが,本件審決は,かかる相違点を,前記第2の3(3)イ(ア)のとおり, 「第1起動信号発信器が設けられる『第1の位置』及び第2起動信号発信器 が設けられる『第2の位置』に関し,本件訂正発明1では,『第1の位置』 が『出入口の一方側である第1の位置』であり,また,『第2の位置』が『 出入口の他方側である第2の位置』であるのに対し,引用発明Aでは,『第 1の位置』,『第2の位置』の各位置が施設の各部屋に対応する位置である 点」(相違点1。なお,下線は相違点1´との対比のために便宜上付したも のである。)と認定した上,「引用発明Aによる移動体の位置の把握は,ビ ルの各部屋単位での把握に留まる」と断定し,「刊行物1には,移動体の位 置の把握を各部屋の出入口単位で行うこと,即ち,相違点1における本件訂 正発明1に係る事項である,第1起動信号発信器が設けられる第1の位置を 『出入口の一方側』とし,第2起動信号発信器が設けられる第2の位置を『 出入口の他方側』とする点については,記載も示唆もない」から,他の相違 点について検討するまでもなく,本件訂正発明1が刊行物1発明(引用発明 A)から想到容易ではないと結論付けたものである。 これは,本来,複数の固定無線機の設置位置を特定(限定)しない(「施 設の各部屋」は飽くまで例示にすぎない)ものとして認定したはずの引用発 明Aを,本件訂正発明1との対比においては,その設置位置が「施設の各部 屋」に限定されるものと解した上で相違点1を認定したものであるから,そ の認定に誤りがあることは明らかである。 また,本件審決は,上記のように相違点1の認定を誤った結果,引用発明 Aによる移動体の位置の把握が「ビルの各部屋単位での把握に留まる」など と断定的に誤った解釈を採用した上(刊行物1にはそのような記載も示唆も ない。),刊行物1には相違点1に係る構成を適用する動機付けについて記\n載も示唆もない(から想到容易とはいえない)との結論に至ったのであるか ら,かかる相違点の認定の誤りが本件審決の結論に影響を及ぼしていること も明らかである。
(4) 以上によれば,原告が主張する取消事由2は理由がある。
(5) 被告の主張について
これに対し,被告は,刊行物1発明によって実現される作用効果からすれ ば,同発明が実現を意図しているのは,移動体がどの「部屋」(あるいは固 定無線機の設置箇所を含む一定領域)に所在するのかを把握することであり, 言い換えれば,同発明は,「固定無線機からの電波受信可能領域」(検知エ\nリア)と「その固定無線機が置かれた部屋の領域」とが,ほぼイコールであ るという認識を前提とした発明である(取消事由2に関し)とか,刊行物1 発明は大まかな範囲で対象者(物)の所在を把握することを目的とするもの である(取消事由3に関し)などと指摘して,本件訂正発明と刊行物1発明 の違いを強調し,本件審決の認定判断に誤りがない旨を主張する。 しかし,いずれの指摘も刊行物1の記載に基づかないものであり,その前 提が誤っていることは,これまで説示したところに照らして明らかであるか ら,上記被告の主張はその前提を欠くものであって採用できない。
3 以上のとおり,本件審決は,本件訂正発明1に係る相違点1の認定を誤って 同発明が想到容易ではないとの結論を導いているところ,本件審決は,本件訂 正発明2ないし7についても,実質的に同じ理由に基づいて(すなわち,本件 訂正発明2ないし5については,本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むこ とを理由に,本件訂正発明6及び7については,相違点1と実質的に差異がな い相違点が認定できることを理由に),本件訂正発明1におけるのと同じ結論 を導いているのであるから,結局のところ,本件訂正発明全部について本件審 決の判断に取り消すべき違法が認められることは明らかである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 相違点認定
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(ワ)298等  特許権侵害差止等請求事件,債務不存在確認等請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年4月20日  大阪地方裁判所(21民)

 特許権侵害事件で、新規性喪失の例外主張における証明書では提出されていなかった証拠がある(関連したものでない)として、無効(特104-3)と判断されました。商品形態模倣(不競法2条1項3号)も否定されました。よって、取引先への告知は、営業誹謗行為(不競法2条1項15号)が成立すると判断されました。
 1 争点2(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について
(1) 証拠(乙2の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明の実施品で ある原告製品は,本件発明の原出願である実用新案の出願日(平成26年11月2 6日)より前である同年9月22日以前に,Q2コープ連合に対して納品され,ま たQ2コープ連合においてそのチラシに掲載されて販売され,さらに同年10月1 0日には,被告において市場で取得された事実が認められるから,本件発明は,出 願前に日本国内において公然実施された (特許法29条1項2号)というべきこと になる。
(2) 上記(1)の事由は,本件特許を特許無効審判により無効とすべき事由となるが, 原告は,本件発明の原出願において原告が行った手続により,特許法30条2項に 定める新規性喪失の例外が認められる旨主張する。 そこで検討するに,特許法30条2項による新規性喪失の例外が認められるため には,同条3項により定める,同法29条1項各号のいずれかに該当するに至った 発明が,同法30条2項の規定を受けることができる発明であることを証明する書 面(以下「証明書」という。)を提出する必要があるところ,証拠(甲3)によれば, 原告は,本件発明の原出願(実願2014−6265,出願日:同年11月26日) の手続において,同年12月2日,実用新案法11条,特許法30条2項に定める 新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書を提出した事実が認められる(特許 法46条の2,44条4項の規定により,特許出願と同時に提出されたものとみな される。)。 しかし,同証明書は,公開の事実として,平成26年6月2日,原告を公開者, Q1生活協同組合を販売した場所とし,原告が一般消費者にQ1生活協同組合のチ ラシ記載の「ドラム式洗濯機用使い捨てフィルタ(商品名:「ドラム式洗濯機の毛ゴ ミフィルター」)を販売した事実を記載しているだけであって,上記Q2コープ連合 における販売の事実については記載されていないものである。 この点,原告は,上記Q2コープ連合における販売につき,実質的に同一の原告 製品についての,日本生活協同組合連合会の傘下の生活協同組合を通しての一連の 販売行為であるから,新規性喪失の例外規定の適用を受けるために手続を行った販 売行為と実質的に同一の範疇にある密接に関連するものであり,原告が提出した上 記証明書により要件を満たし,特許法30条2項の適用を受ける旨主張する。 しかし,同項が,新規性喪失の例外を認める手続として特に定められたものであ ることからすると,権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在するような 場合には,本来,それぞれにつき同項の適用を受ける手続を行う必要があるが,手 続を行った発明の公開行為と実質的に同一とみることができるような密接に関連す る公開行為によって公開された場合については,別個の手続を要することなく同項 の適用を受けることができるものと解するのが相当であるところ,これにより本件 についてみると,証拠(乙16の1,2)によれば,Q2コープ連合及びQ1生活 協同組合は,いずれも日本生活協同組合連合会の傘下にあるが,それぞれ別個の法 人格を有し,販売地域が異なっているばかりでなく,それぞれが異なる商品を取り 扱っていることが認められる。すなわち,上記証明書に記載された原告のQ1生活 協同組合における販売行為とQ2コープ連合における販売行為とは,実質的に同一 の販売行為とみることができるような密接に関連するものであるということはでき ず,そうであれば,同項により上記Q1生活協同組合における販売行為についての 証明書に記載されたものとみることはできないことになる。
・・・・
上記検討した両製品において同一といえる形態的特徴のうち,本体部の形態 が長方形であるという点は,ドラム式洗濯機のリントフィルタに装着して用いる商 品である原告製品及び被告製品にとっては,リントフィルタの内面に沿って装着す るために必然的にもたらされる形態であるといえ,したがってこれは,その機能を\n確保するために不可欠なことであると認められる。また,もう一つの同一といえる 形態的特徴である本体部にスリットが存在するという点も,本件発明の効果をもた らすことに直接関係した形態であることからすると(上記第2の2(2)(10)),これも 両製品に共通する機能を確保するために不可欠な形態であるといえる。\nしたがって,これらの基本的形態で両製品の形態の同一性が認められたとしても, これによって両製品の形態が実質的に同一ということはできないというべきである (なお被告は,これらの形態の特徴をとらえて原告製品はありふた形態であって保 護されないと主張するが,原告製品が市販される以前に,同種の製品が市場に存し た事実は認められないから,商品の形態がありふれていることで保護されないわけ ではなく,機能確保に不可欠な形態として保護の限界が検討されるべきである。)。\n他方,上記検討したとおり,原告製品と被告製品は,機能確保のため必要とされ\nる形態的特徴以外の部分の細部における特徴的な形態というべき部分において形態 の差異が多数あるというのであるから,両製品の形態が酷似しているとはおよそい えず,結局,原告製品と被告製品は形態が実質的に同一であるとはいえないという べきである。
(5) これに対して原告は,両製品は主として通信販売されており,需要者が商品 を手に取って詳細に観察することがなければ両者の違いを認識し得ないから,両製 品の形態の差異は微細な差異で形態が実質的に同一であるということを妨げないよ うに主張するが,不正競争防止法2条4項に「商品の形態」は「需要者が通常の用 法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の 形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいう。」と定義されてい ることに明らかなように,本件で問題とすべき原告製品及び被告製品の形態とは, 上記検討したような包装袋から取り出された商品そのものの形態であって,これと 異なる前提に立つ原告の主張は失当である。 さらに,原告は,両製品の包装におけるチラシが共通することも指摘するが,原 告製品及び被告製品は,包装と一体となって切り離し得ないものではないから,原 告が指摘する包装のチラシは「商品の形態」とはいえず,原告の指摘は当たらない。
(6) 以上からすると,原告製品と被告製品とは,その形態が実質的に同一とはい えないから,被告製品は原告製品を模倣した商品とはいえず,被告が不正競争防止 法2条1項3号の不正競争をしたことを前提とする原告の請求はその余の判断に及 ぶまでもなく理由がない。
・・・・
(1) 原告は,平成27年6月11日頃,被告の取引先であるP1に対し,被告製 品は原告製品の形態を模倣した商品であり被告製品を販売する行為は不正競争防止 法2条1項3号に該当するとして,被告製品の販売の停止及び廃棄を求める内容を 記載した「申入書」と題する書面を内容証明郵便で送付している(本件告知行為)。\n上記2のとおり,被告製品は原告製品の模倣商品でないから,上記「申入書」の\n記載内容は虚偽の事実であるとともに,被告の営業上の信用を害する事実であると いうべきである。そして,原告と被告は競争関係にあるから,本件告知行為は,「競 争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」する行為といえ,不 正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。
(2) そのほか被告は,原告がした不正競争防止法2条1項15号該当の不正競争 行為として,原告が生活協同組合に対して被告の権利侵害の事実を理由として被告 製品の取扱いをすべきでない旨申し入れた旨主張する。\n確かに証拠(乙14の1ないし3,乙15,乙30)によれば,被告は,P2か ら被告製品の販売を中止された事実,及び,P2が被告に対し,被告製品の販売を 中止する理由として,原告の営業担当者から被告製品の販売企画を中止した方がよ いとの要望を受けたという生活協同組合のバイヤーから,そのことを理由に被告製 品の差替えの要望を受けたことを挙げていたことが認められる。 したがって,これらの事実によれば,P2における被告製品の販売中止が,原告 の営業担当の従業員がもたらした行為に起因することが認められそうであるが,前 掲証拠によれば,原告の営業担当者が生活協同組合のバイヤーに伝えた内容という のは「企画を中止した方が良い的な要望」というにとどまるというのであって,そ れだけでは原告が被告の権利を侵害したといった虚偽の事実が告知されたと認める に足りないものである。また,そもそも原告の営業担当の従業員が何らかの接触を したという生活協同組合のバイヤーは,どの生活協同組合であるかを含めて特定さ れておらず,その生活協同組合のバイヤーが実際に原告の営業担当の従業員から直 接働きかけを受けたのかを確かめようがないものである。これらのことからすれば, 原告の営業担当者の行為に起因してP2が被告製品の販売を中止したとしても,そ れをもって原告の不正競争行為を認定することは困難であるといわなければならな い。
(3) したがって,被告主張に係る原告がした不正競争防止法2条1項15号該当 の不正競争については,原告が,平成27年6月11日頃,被告の取引先であるP 1に対し,被告製品は原告製品の形態を模倣した商品であり被告製品を販売する行 為は不正競争防止法2条1項3号に該当する旨記載した「申入書」と題する書面を\n内容証明郵便で送付した事実の限度で認めるのが相当であって,それ以外の生活協 同組合に対する関係では同号の不正競争のみならず不法行為を構成する事実は認め\nられない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> その他特許
 >> 104条の3
 >> 商品形態
 >> 営業誹謗
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10106  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年4月25日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。動機付けあり、阻害要因もなしとの判断です。
   以上のとおり,引用発明1も,引用発明2も,蒸発(揮発)したニコチンを,肺 へ送給するに当たり,好ましい送給量を実現できるよう調整するという同一の目的 を有するものであり,また,タバコ代替品として用いられる装置に関するものであ って同一の用途を有するものである。そして,引用発明1と引用発明2とは,ニコ チン源の相違という点をもって作用が異なると評価することもできない。 よって,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けはあるというべきである。
キ 阻害事由
原告は,引用発明1の目的は,タバコ(天然物ニコチン源)の使用をやめさせる ことであるとして,引用発明1のニコチン源を,天然物ニコチン源とすることには 阻害事由がある旨主張する。しかし,前記エのとおり,引用発明1に係る装置は, タバコをベースとした製品の代わりになるものであって,タバコ代替品としても用 いられるものであるから,引用発明1の目的を,タバコの使用をやめさせることの みにあるということはできない。原告の阻害事由の主張は,その前提において誤り である。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> 阻害要因
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10155  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年4月18日  知的財産高等裁判所

 特許出願人は「光源が,分解されることのない一体不可分に形成されたものである」との限定解釈を主張しましたが、認められませんでした。
 本願明細書には,前記1(2)のとおり,本願発明は,リフレクタ上に又はリフレク タに光源をガイドする及び/又は固定するための更なる別個の構成要素を必要とす\nることなく,前記光源が,前記リフレクタの反射表面に対してあらかじめ規定され\nた位置において,前記リフレクタの後方の端部におけるリフレクタの頸部に直接的 に固定されることができるような照明装置を提供し,光源が,一方の手のみによっ て,容易に,確実に,速く,リフレクタに固定されるのを可能にすることを目的と\nし,課題の解決手段として,複数のロック部材がリフレクタ上に形成されており, 前記ロック部材は,前記リフレクタの光軸の周りの又は前記光軸に平行な軸の周り の光源の回転運動の動きの経路において,前記光源が前記光軸の方向において前記 リフレクタの頸部内に少なくとも部分的に挿入されている場合,前記光源内に形成 されている対応する穿孔と嵌合し,少なくとも1つの前記ロック部材は,このよう な仕方において前記回転運動の経路における少なくとも1つの穿孔と協働し,前記 光源が前記リフレクタに対する軸方向の規定された位置に保持されるように構成し,\nこれにより,ランプ(光源)のリフレクタへの固定がリフレクタ及びランプ(光 源)とは別個の付加的な留め具を必要とすることなく行われる等の作用効果を奏す るものであることが記載されている。 上記記載によれば,本願発明は,光源をリフレクタに固定する際の作業を念頭に, 当該作業において,光源とは別個の付加的な留め具等の構成を要することなく,光\n源の,光軸の方向におけるリフレクタ内への挿入及び当該光軸周りの又はそれに平 行な軸の周りの回転運動により,リフレクタ上に形成されたロック部材と光源にお いて形成された穿孔とを係合させることにより,リフレクタへのランプの位置決め 及び固定ができるようにしたものであると理解できる。そして,かかる特徴に照ら すと,本願発明における光源が,分解されることのない一体不可分に形成されたも のに限定されると特に解すべき理由はない。 さらに,本願明細書に記載された実施形態においては,「光源」に相当するもの として,「イグナイタ4,ガラス製エンベロープ11及びランプベース18を有す るガス放電ランプ3」が開示されているところ,これも複数の構成要素から組み立\nてられるものであること,並びに,イグナイタ4がガラス製エンベロープ11及び ランプベース18に回転が確実になるような仕方において固定されることが記載さ れる一方で(【0030】,【0035】,【0036】,【0038】),これ らが分解されることのない一体不可分に形成されたものであることについては何ら 記載がない。
(ウ) 以上によれば,本願発明における光源が,分解されることのない一体不可 分に形成されたものに限定されるということはできず,これには,分解可能な複数\nの構成要素から組み立てられるものも含まれるものと解される。\n
・・・
(ア) 原告らは,本願明細書の記載を参酌すれば,本願発明の光源は,一体的固 定的に形成されたものであり,光源3の交換の際にガラスエンベロープ11,ベー ス18及びイグナイタ4が分解されることはなく一体不可分であって,光源をガイ ドする別個の構成要素を要せずに,交換すべき光源を一方の手のみによって,容易\nに速くリフレクタに固定できる光源を意味すると解すべきである旨主張する。 しかし,前記イ(イ)のとおり,本願明細書に記載された本願発明の特徴に照らす と,本願発明における光源を,分解されることのない一体不可分に形成されたもの に限定されると特に解すべき理由はなく,実施形態における「光源」に相当するも のとして記載された「イグナイタ4,ガラス製エンベロープ11及びランプベース 18を有するガス放電ランプ3」についても,複数の構成要素から組み立てられる\nものであることが記載されている一方で,分解されることのない一体不可分に形成 されたものであることについては何ら記載がない。 本願明細書の記載によれば,前記イ(イ)のとおり,本願発明は,光源をリフレク タに固定する際の作業を念頭に,当該作業において,光源とは別個の付加的な留め 具等の構成を要することなく,光源の,光軸の方向におけるリフレクタ内への挿入\n及び当該光軸周りの又はそれに平行な軸の周りの回転運動により,リフレクタ上に 形成されたロック部材と光源において形成された穿孔とを係合させることにより, リフレクタへのランプの位置決め及び固定ができるようにしたものであると理解で きる。そして,光源をリフレクタに固定する際の作業において,光源のリフレクタ への固定がリフレクタ及び光源とは別個の付加的な留め具を必要とすることなく行 われるということは,光源自体がどのように構成されたものであるか(分解される\nことのない一体不可分に形成されたものであるか)を規定するものではない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10207  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月28日  知的財産高等裁判所(4部)

 明確性違反および進歩性無しについて、拒絶審決が維持されました。出願人は株式会社ドクター中松創研です。
【0009】には,前記(3)のとおり,本願発明が,耳より後ろのバッテ リー11の重さや電子回路12の重さW1と,前方のディスプレイ16やカメラ1 8の重量W2とを,「つる」の13を支点として,バランス(釣合い)をとるよう にし,天秤の原理でディスプレイ16やカメラ18が,装着者の顔が動いても水平 になるものであることが記載されているところ,このような,天秤の原理による支 点より前方側と後方側のモーメントのバランス(釣合い)は,一般に「スタティッ クバランス(静的な釣合い)」といわれるものであり,「スタティックバランス」 をとることが,必ずしも「ダイナミックバランス」(運動状態にある物体について, その運動状態によって発生している力をも考慮した釣合い)をもとることにはなら ないことは,技術常識に照らして明らかである。それにもかかわらず,本願明細書 には,【0009】を含め,耳より後ろのバッテリー11の重さや電子回路12の 重さW1と,前方のディスプレイ16やカメラ18の重量W2とを,「つる」の1 3を支点として,バランス(釣合い)をとるようにすることや天秤の原理と,「ダ イナミックバランス」(動的釣合い)がとれることとの関係については,何らの記 載もない。 したがって,本願明細書の記載によっても,耳より後ろの錘W1を「ダイナミッ クバランサー」とすることや本願発明が「ダイナミックバランスドスマホ,PC」 であることの技術的意義を明確に理解することはできず,第三者の利益が不当に害 されるといわざるを得ない。
・・・
原告は,引用発明は,メガネのモーメントWLを,耳の後方に固定するしゃ もじ状部4で吸収するものであるが,引用発明において,引用例2に記載された技 術事項を適用し,PC機能や通話機能\を付加すると,アイウェア側の重さWが重く なるので,モーメントWLは大きくなり,しゃもじ状部4はこのモーメントWLに 耐えることが必要となって,しゃもじ状部4を支える耳の負担を増やしてしまうと いう不具合が生じるから,引用発明において,引用例2に記載された技術事項を適 用し,相違点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは容易に想到できたこ\nとではない旨主張する。 しかし,引用例1には,レンズ1に液晶層を設けたときにその電源となる電池を しゃもじ状部4に埋め込んでもよいことが記載されているから,引用発明において, 引用例1の上記記載に従い,液晶層に情報を表示するために,アイウェア(メガ\nネ)という同一の分野に係る技術である引用例2に記載された技術事項を適用する ことには動機付けがある。 なお,本願発明は,耳の位置を支点として,その後方のバッテリー11や電子回 路12の重さW1と,その前方のディスプレイ16やカメラ18の重さW2とのバ ランスをとるものであるとの原告の主張によれば,本願発明も,引用発明のメガネ も,支点である耳より後の錘をW1として天秤機能をさせ,前方の重さをW2とし\nて顔が止まっても動いてもW1とW2のバランスをとり,鼻などの顔部に荷重がか からないものである点で共通するから,支点である耳に「耳かけダイナミックバラ ンスドスマホ,PC」,又は引用例2に記載された技術事項を適用したアイウェア 11の全荷重がかかるという点で異ならない。よって,この点においても,しゃも じ状部4を支える耳の負担が増えることを問題にする原告の上記主張は,失当であ る。
イ 原告は,引用例2に記載されているのは,単なるディスプレイメガネであっ て,本願発明のようにカウンタウェイトとしてのバッテリーを備えておらず,耳を 支点としてその前後のバランスをとるというような発明ではなく,本願発明とは関 係がないから,引用発明において,引用例2に記載された技術事項を適用し,相違 点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは容易に想到できたことではない\n旨主張する。 しかし,前記アと同様に,引用例1には,レンズ1に液晶層を設けたときにその 電源となる電池をしゃもじ状部4に埋め込んでもよいことが記載されているから, 引用発明において,引用例1の上記記載に従い,液晶層に情報を表示するために,\nアイウェア(メガネ)という同一の分野に係る技術である引用例2に記載された技 術事項を適用することには動機付けがある。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> 記載要件
 >> 明確性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10186  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月21日  知的財産高等裁判所(4部)

 特許庁は進歩性無しと認定しましたが、知財高裁は、容易ではないと判断しました。
 引用発明1は,前記2のとおり,低温側変色点以下の低温域における発色状態又 は高温側変色点以上の高温域における消色状態を特定温度域で記憶保持できる色彩 記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料を水性媒体中に分散させた可逆熱変色 性インキ組成物を充填したペン等の筆記具であり,同筆記具自体によって熱変色像 の筆跡を紙など適宜の対象に形成することができる(引用例1【0004】〜【0 006】【0012】【図4】)。 これに対し,引用発明2は,筆記具と上面に熱変色層が形成された支持体等から 成る筆記材セットであり,前記ウのとおり,同様の色彩記憶保持型の可逆熱変色性 微小カプセル顔料を,バインダーを含む媒体中に分散してインキ等の色材として適 用し,紙やプラスチック等から成る支持体上面に熱変色層を形成させた上で,氷片 や冷水等を充填して低温側変色点以下の温度にした冷熱ペンで上記熱変色層上に筆 記することによって熱変色像の筆跡を形成するものである(引用例2【0005】 【0010】〜【0012】【0014】【0016】〜【0020】【図1】)。 引用発明2は,筆記具である冷熱ペンが,氷片や冷水等を充填して低温側変色点以 下の温度にした特殊なものであり,インキや芯で筆跡を形成する通常の筆記具とは 異なり,冷熱ペンのみでは熱変色像の筆跡を形成することができず,セットとされ る支持体上面の熱変色層上を筆記することによって熱変色像の筆跡を形成するもの である。 このように,引用発明1と引用発明2は,いずれも色彩記憶保持型の可逆熱変色 性微小カプセル顔料を使用してはいるが,1)引用発明1は,可逆熱変色性インキ組 成物を充填したペン等の筆記具であり,それ自体によって熱変色像の筆跡を紙など 適宜の対象に形成できるのに対し,2)引用発明2は,筆記具と熱変色層が形成され た支持体等から成る筆記材セットであり,筆記具である冷熱ペンが,氷片や冷水等 を充填して低温側変色点以下の温度にした特殊なもので,インキや顔料を含んでお らず,通常の筆記具とは異なり,冷熱ペンのみでは熱変色像の筆跡を形成すること ができず,セットとされる支持体上面の熱変色層上を筆記することによって熱変色 像の筆跡を形成するものであるから,筆跡を形成する対象も支持体上面の熱変色層 に限られ,両発明は,その構成及び筆跡の形成に関する機能\において大きく異なる ものといえる。したがって,当業者において引用発明1に引用発明2を組み合わせ ることを発想するとはおよそ考え難い。
オ 相違点5に係る本件発明1の構成の容易想到性について
(ア) 前記エのとおり,当業者が引用発明1にこれと構成及び筆跡の形成に関す\nる機能において大きく異なる引用発明2を組み合わせることを容易に想到し得たと\nは考え難く,よって,相違点5に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たとはい\nえない。
(イ) 仮に,当業者が引用発明1に引用発明2を組み合わせたとしても,前記ウ のとおり,引用例2には,熱変色像を形成する熱変色体2及び冷熱ペン8とは別体 のものとしての摩擦具9のみが開示されていることから,引用発明2の摩擦具9は, 筆記具とは別体のものである。よって,当業者において両者を組み合わせても,引 用発明1の筆記具と,これとは別体の,エラストマー又はプラスチック発泡体を用 いた摩擦部を備えた摩擦具9(摩擦体)を共に提供する構成を想到するにとどまり,\n摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提 供する相違点5に係る本件発明1の構成には至らない。
(ウ) そして,前記イのとおり,引用例1には,そもそも摩擦熱を生じさせる具 体的手段について記載も示唆もされていない。 また,前記ウのとおり,引用例2には,熱変色像を形成する熱変色体2及び冷熱 ペン8とは別体のものとしての摩擦具9のみが開示されており,そのように別体の ものとすることについての課題ないし摩擦具9を熱変色体2又は冷熱ペン8と一体 のものとすることは,記載も示唆もされていない。 引用例3(甲9),甲第10,11号証,引用例4(甲12),甲第13,14, 及び52号証には,筆記具の多機能性や携帯性等の観点から筆記具の後部又はキャ\nップに消しゴムないし消し具を取り付けることが,引用例7(甲80)には,筆記 具の後部又はキャップに装着された消しゴムに,幼児等が誤飲した場合の安全策を 施すことが,引用例8(甲81)には,消しゴムや修正液等の消し具を筆記具のキ ャップに圧入固定するに当たって確実に固定する方法が,それぞれ記載されている。 しかし,これらのいずれも,消しゴムなど単に筆跡を消去するものを筆記具の後部 ないしキャップに装着することを記載したものにすぎない。 他方,引用発明2の摩擦具9は,低温側変色点以下の低温域での発色状態又は高 温側変色点以上の高温域における消色状態を特定温度域において記憶保持すること ができる色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料からなる可逆熱変色性イ ンキ組成物によって形成された有色の筆跡を,摩擦熱により加熱して消色させるも のであり,単に筆跡を消去するものとは性質が異なる。そして,引用例3,4,7, 8,甲第10,11,13,14及び52号証のいずれにもそのような摩擦具に関 する記載も示唆もない。よって,このような摩擦具につき,筆記具の後部ないしキ ャップに装着することが当業者に周知の構成であったということはできない。また,\n当業者において,摩擦具9の提供の手段として,引用例3,4,7,8,甲第10, 11,13,14及び52号証に記載された,摩擦具9とは性質を異にする,単に 筆跡を消去するものを筆記具の後部ないしキャップに装着する構成の適用を動機付\nけられることも考え難い。
(エ) 仮に,当業者において,摩擦具9を筆記具の後部ないしキャップに装着す ることを想到し得たとしても,前記エのとおり引用発明1に引用発明2を組み合わ せて「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ,摩擦熱により筆記時の有 色のインキの筆跡を消色させる摩擦体」を筆記具と共に提供することを想到した上 で,これを基準に摩擦体(摩擦具9)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又は キャップに装着することを想到し,相違点5に係る本件発明1の構成に至ることと\nなる。このように,引用発明1に基づき,2つの段階を経て相違点5に係る本件発 明1の構成に至ることは,格別な努力を要するものといえ,当業者にとって容易で\nあったということはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成27(行ケ)10247  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月16日  知的財産高等裁判所(2部)

 進歩性ありとした審決が取り消されました。
 前記(2)のとおり,本件訂正発明と甲1発明とは,相違点1(架橋剤で架 橋処理される前の対象物であるポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物について, 本件訂正発明は,「架橋体」からなり「2個以上の重合性不飽和基または2個以上の 反応性基を有する内部架橋剤を共重合または反応させた」ものであると特定するの に対し,甲1発明は,「アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩等の水溶性ビニル モノマーに対して,重合開始剤として0.03〜0.4重量%の量の過硫酸カリウ ム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩を使用して重合し」て得られた「生成ポリ マー」と特定する点)において相違するが,甲1発明の「アクリル酸又はアクリル 酸アルカリ金属塩等の水溶性ビニルモノマーに対して,重合開始剤として0.03 〜0.4重量%の量の過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩を使用 して重合し」て得られた「生成ポリマー」は,甲1に「過硫酸塩を用いる場合には, 架橋反応も伴」うことが記載されている(【0020】)ことからすると,自己架橋 型の内部架橋を有するものである。 他方,本件訂正発明は,「2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を 有する内部架橋剤」を用いた内部架橋剤型の内部架橋を有するものである。 そうすると,相違点1は,「架橋剤で架橋処理される前の対象物であるポリアクリ ル酸ナトリウム塩部分中和物について,本件訂正発明は,『2個以上の重合性不飽和 基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤』を用いた内部架橋剤型の内部架 橋を有するものであるのに対し,甲1発明は,自己架橋型の内部架橋を有するもの である点」(相違点1’)において相違するということができる。
イ そして,本件優先日当時,前記(3)イ(イ)のとおり,紙オムツ等に使用され る吸収体を,自己架橋型として製造することと,内部架橋剤型として製造すること とは,当業者が任意に選択可能な技術であり,同ウ(イ)のとおり,自己架橋型の内部 架橋と比較して,内部架橋剤型の内部架橋には,例えば,吸収体の架橋密度を制御 し,吸水諸性能をバランスよく保つことができる等の利点があることが,当業者の\n技術常識であったものと認められる。 そうすると,本件優先日当時の当業者には,甲1発明において,使い捨ておむつ や生理用ナプキン等の吸収性物品に用いられる高吸水性樹脂に一般に求められる, 架橋密度を制御して吸水諸性能をバランスよく保つ等の課題を解決するために,自\n己架橋型の内部架橋に代えて,内部架橋剤型の内部架橋を採用する動機があったも のということができる。 また,相違点1’に係る容易想到性の判断は,「架橋剤で架橋処理される前の対象 物であるポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物」について,自己架橋型の内部架 橋に代えて,内部架橋剤型の内部架橋を採用することが容易想到であるかを検討す べきものであるから,後に「架橋剤で架橋処理される」こと(表面架橋)が予\定さ れていることが内部架橋剤型の内部架橋を採用することの妨げとなるかを検討して も,前記(3)エ(イ)のとおり,本件優先日当時,紙オムツ等に使用される吸収体を,内 部架橋剤と表面架橋剤とを併用して製造することは,当業者の周知技術であったと\n認められるから,後に表面架橋が予\定されていることが内部架橋剤型の内部架橋を 採用することを阻害するとはいえない。同様に,甲1に内部架橋剤と表面架橋剤と\nを併用する旨の記載がなかったとしても,当業者が,甲1発明において,「重合後」 に架橋剤を添加することに加えて,更に架橋剤を「重合前」又は「重合時」にも添 加することを想到することが困難であったとも認められない。 したがって,甲1発明において,自己架橋型の内部架橋とすることに代えて,内 部架橋剤型の内部架橋とすることは,当業者が容易に想到し得るものと認められる。 そして,前記(3)イ(ア)及びウ(ア)のとおり,本件優先日前に頒布された刊行物には, 「2個以上の重合性不飽和基」を有する内部架橋剤を用いること(甲16の5,6, 甲18の2,4,6),「2個以上の反応性基」を有する内部架橋剤を用いること(甲 16の5,6)が記載され,また,「2個以上の重合性不飽和基」を有する内部架橋 剤である「N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド」及び「ポリエチレン グリコールジ(メタ)アクリレート」の一方又は双方が具体的に記載されているこ と(甲16の1〜4,甲18の6)からすれば,内部架橋剤として,「2個以上の重 合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤」を選択することは, 本件優先日当時の当業者が,適宜なし得ることであったということができる。 ・・・ ア 被告は,自己架橋型の架橋構造と内部架橋剤型の架橋構\造とでは,分子 構造や網目の大きさが異なるのが一般的であるから,審決における「分子構\造が異 なる」との認定は正しいものといえ,また,内部架橋剤型であったとしても,使用 する内部架橋剤の構造,属性により大きく吸水諸特性が異なるのであり,「内部架橋\n剤型の架橋構造」同士においても,内部架橋剤の種類の違いによる分子レベルでの\n微細構造の違いによって吸水諸特性が異なるのであるから,いわんや「自己架橋型\nの架橋構造」を「内部架橋剤型の架橋構\造」と同視することは不合理である旨主張 する。 しかしながら,前記(4)イのとおり,本件優先日当時,紙オムツ等に使用される吸 収体を,自己架橋型として製造することと,内部架橋剤型として製造することとは, 当業者が任意に選択可能なものであると共に,当業者が,自己架橋型よりも内部架\n橋剤型を選択する動機があったということができる。当該吸収体において,自己架 橋型の架橋構造と内部架橋剤型の架橋構\造との分子構造が異なり,その結果,双方\nの吸水諸特性に相違が生じることがあるとしても,両者が共に選択可能な製造技術\nである以上,その置換は容易なものといわなければならない。被告が,自己架橋型 の架橋構造と内部架橋剤型の架橋構\造とが同視できる技術でなければ容易に置換で きないと主張するのであれば,それ自体失当といえる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10200  審決取消請求事件  実用新案権  行政訴訟 平成29年3月14日  知的財産高等裁判所

 実用新案について、記載要件および進歩性違反が争われました。知財高裁は無効理由なしとした審決を維持しました。
 構成要件B1,B9,C1及びC2は,1)コンデンシングユニット(20)が「第 一のリード角」を備え,「第一のリード角」が,コンデンシングユニット(20)の 内縁壁(205)周りに環設されること,2)コンデンシングユニットワッシャー(3 0)が,「第二のリード角」を有し,「第二のリード角」が,「第一のリード角」に対 応し,「第一のリード角」に当接することを規定する。 「第一のリード角」は,コンデンシングユニット(20)に「備え」られ,「環設」 されるものであり(構成要件B1,B9),また,「第二のリード角」は,コンデン\nシングユニットワッシャー(30)が「有し」(構成要件C1),さらに,「第一のリ\nード角」と「第二のリード角」とは,「当接」するものである(構成要件C2)から,\nこれらが,コンデンシングユニット(20)又はコンデンシングユニットワッシャ ー(30)の構成部位を示す用語であることは,明らかである。\nもっとも,「…角が…壁周りに環設される」「…角に対応する…角」「…角が…角に 当接している」とあるのは,「角」の通常の用い方とは明らかに異なるから,構成要\n件B1,B9,C1及びC2における「リード角」の意義は,実用新案登録請求の 範囲の記載からは,直ちに明らかにはならない。 そこで,本件明細書の記載を参酌すると,1)本件考案は,従来のワッシャーは, スチームトラップとの密接の度合が劣るため蒸気が漏えいしやすい問題があったこ とから(【0002】),コンデンシングユニットとコンデンシングユニットワッシャ ーとの結合箇所に,それぞれ,「第一のリード角」及び「第二のリード角」を設けて, 互いを密接させることで蒸気の漏えいを防ぐこととし(【0004】【0011】【0 013】),また,2)「図1〜図4に示すように,…第一のリード角206がコンデ ンシングユニット20の内縁壁205周りに環設され,コンデンシングユニットワ ッシャー30は第一のリード角206に対応する第二のリード角301を有する。」 (【0011】)と記載され,図3の断面図において,「206」及び「301」が, 接合方向に対して傾斜する傾斜面として示され,当接していることが認められる。 そうすると,当業者は,構成要件B1,B9,C1及びC2の「第一のリード角」\n「第二のリード角」は,コンデンシングユニットとコンデンシングユニットワッシ ャーとの結合面に互いに対応する角度を有してそれぞれ設けられた傾斜面であり, これにより,従来のワッシャーに比べて相互の密接性を高め ,蒸気の漏えいを防ぐ ものであると理解することができる。 したがって,構成要件B1,B9,C1及びC2の記載は,不明確なものとはい\nえない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 記載要件
 >> 明確性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10076  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月14日  知的財産高等裁判所

 阻害要因ありとして、進歩性ありとした審決が維持されました。
 引用発明及び甲2発明は,共に,建築の際に用いられる羽子板ボルトに関するも のであるから,その技術分野を共通にし,横架材等を相互に緊結するという機能も\n共通している。 しかし,引用発明に回動不能構\成を採用することには,引用発明の技術的意義を 損なうという阻害事由がある。 引用発明は,前記2(2)のとおり,従来の羽子板ボルトが有する,ボルト穴の位置 がずれた場合に羽子板ボルトを適切に使用することができないという課題を解決す るために,ボルト81が摺動自在に係合する係合条孔92を有する補強係合部10b を,軸ボルト4を中心として回動可能にするという手段を採用して,補強係合具10bが軸ボルト4を中心に回動し得る横架材16面上の扇形面積部分19内のいず\nれの部分にボルト穴171が明けられても,補強係合具10bの係合条孔92にボル ト81を挿入することができるようにしたものである。引用発明に相違点2に係る 構成を採用し,引用発明の補強係合具10bを,軸ボルト4を中心として回動可能\ なものから回動不能なものに変更すると,補強係合具10bの係合条孔92にボルト81を挿入することができるのは,ボルト穴171が係合条孔92に沿った位置に\n明けられた場合に限定される。すなわち,引用発明は,横架材16面上の扇形面積 部分19内のいずれの部分にボルト穴171が明けられても,補強係合具10bの 係合条孔92にボルト81を挿入することができるところに技術的意義があるにも かかわらず,回動不能構\\成を備えるようにすると,係合条孔92に沿った位置以外 の横架材16面上の扇形面積部分19内に明けられたボルト穴171にはボルト8 1を挿入することができなくなり,上記技術的意義が大きく損なわれることとなる。 そして,引用発明の技術的意義を損なってまで,引用発明の補強係合具10bを 回動不能なものに変更し,係合条孔92に沿った位置にボルト穴171を明けない限りボルト81を挿入することができないようにするべき理由は,本件の証拠上,認\nめることができない。 そうすると,引用発明の補強係合具10bを回動不能なものに変更することには,阻害要因があるというべきである。したがって,引用発明が相違点2に係る本件発\n明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。\nそして,甲3文献に記載された事項は,「垂直材」(柱)と「横架材」(土台梁)と を接合する「羽子板ボルト」であって,上記阻害事由があるという判断に影響する ものではないから,引用発明に相違点2に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> 阻害要因
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10107  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月28日  知的財産高等裁判所

 新規性違反ありとした拒絶審決が取り消されました。
 以上により,本願優先日当時,「癌ワクチン」について,以下の技術常識 が存在したものと認められる。 ペプチドが「ワクチン」として有効であるというためには,1)当該ペプチドが多 数のペプチド特異的CTLを誘導し, 2)ペプチド特異的CTLが癌細胞へ誘導され, 3)誘導されたCTLが癌細胞を認識して破壊すること,が必要である(上記(1)エ)。 あるペプチドにより,多数のペプチド特異的CTLが誘導されたとしても,誘導さ れたCTLが癌細胞を認識することができない(上記(1)ア,ウ,オ,カ),誘導さ れたCTLが癌細胞を確実に破壊するとは限らない(上記(1)カ)などの理由により, 当該ペプチドに必ずしもワクチンとしての臨床効果があるということはできない。
(3) 引用発明は,上記2のとおり,標準治療後のHLA−A2型のリンパ節転 移陰性乳癌患者について,GP2ペプチドとアジュバントのGM−CSFを6か月 接種したところ,全ての患者においてGP2特異的CTL細胞のレベルが増加した というものであり,GP2ペプチドがワクチンとして有効であるというために必要 な,当該ペプチドが多数のペプチド特異的CTLを誘導したことを示したものであ る。これに対し,本願発明は,上記1のとおり,GP2ペプチドとGM−CSFを 投与した無病の高リスク乳癌患者に,GP2特異的CTLが増大したのみならず, 再発率が低減した,すなわち,誘導されたCTLが腫瘍細胞を認識し,これを破壊 することによって,臨床効果があることを示したものである。 上記(2)のとおり,本願優先日当時,あるペプチドにより多数のペプチド特異的C TLが誘導されたとしても,当該ペプチドに必ずしもワクチンとしての臨床効果が あるとはいえない,という技術常識に鑑みると,ペプチド特異的CTLを誘導した ことを示したにとどまる引用発明は,本願発明と同一であるとはいえない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10103  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月28日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。
 (ア) 引用発明は,前記(1)イによれば,ワイヤーの把持面又はその辺りでの結び や捻れを防止し,かつ絶縁型のワイヤーへの損傷や切断を生じないワイヤー把持具 を提供することを目的とし,かかる課題の解決手段として,ハンドル32が,ピン 33とブラケット35との間に段差状の屈曲する部分を有し,ガイド36の形状と 配置にあわせて,ハンドル32の上記屈曲と枢着接続部33の移動の円弧がよく調 整されるようにした構成を採用し,これにより,引っ張る負荷が目37に適用され\nるとき,ハンドル32がワイヤーに接触せず移動して目37の位置がワイヤーに接 近し,引っ張る動作は常にワイヤーのほぼ軸方向にあるから,ワイヤーが曲がった り,捻れたりしないという作用効果を奏するものである。 そうすると,引用発明は,前記1(2)アの本件発明の課題と共通する課題を,ハン ドル32が,ピン33とブラケット35との間に段差状の屈曲する部分を有し,ガ イド36の形状と配置にあわせて,ハンドル32の上記屈曲と枢着接続部33の移 動の円弧がよく調整されるようにした構成を採用することにより,既に解決してい\nるということができるから,上記構成に加えて,あるいは,上記構\成に換えて,ハ ンドル32を「捻った」部分を有するように構成する必要がない。
(イ) また,前記アの周知例等の記載によっても,掴線器において,長レバーの 移動により,その後端に設けられたリング部がケーブルなど他の部材と干渉するの を避けるために,長レバーを「捻った」部分を有するように構成することが,もと\nの出願日前に,当業者に周知慣用の技術であったとは認められない。すなわち,周 知例1,10ないし14,甲16及び20には,部材を「捻った」構成が記載され\nているものの,周知例1は「耐張碍子を腕金に連結する捻りストラップ」,周知例 10は「六角レンチ」,周知例11は「自動車ボデーの補修工具」,周知例12は 「回転電機巻線」,周知例13は「多穴管」,周知例14は「チューブ」,甲16 は「通い綱ロープの掛け止め補助具」,甲20は「架線走行システムの補助レー ル」に関するものであって,掴線器に関するものではなく,掴線器の長レバーと同 様の作用や機能を有する部材に関するものでもない。なお,周知例2及び甲21は,\nもとの出願日後に公開された文献であって,もとの出願日前の周知慣用の技術を示 す証拠としては失当であるが,この点を措いても,周知例2は「耐張碍子を腕金に 連結する捻りストラップ」,甲21は「引込線等をなす撚り線」に関するものであ って,掴線器に関するものではなく,掴線器の長レバーと同様の作用や機能を有す\nる部材に関するものでもない。同様に,周知例3,甲15,17ないし19及び2 2ないし27は,いずれも掴線器に関するものではないし,そこに記載されている のは,部材を「曲げた」又は「巻き付けた」構成であって,そもそも「捻った」構\ 成でもない。さらに,周知例4ないし9は,掴線器に関するものであるが,長レバ ー又はそれに相当する部材を「捻った」構成とすることについて,記載又は示唆す\nるものではない。
(ウ) したがって,そもそも,掴線器において,長レバーの移動により,その後 端に設けられたリング部がケーブルなど他の部材と干渉するのを避けるために,長 レバーを「捻った」部分を有するように構成することが,もとの出願日前に,当業\n者に周知慣用の技術であったとは認められないし,引用発明において,上記構成を\n備えるようにする動機付けもない。
(エ) むしろ,引用発明の構成に加えて,ハンドル32を「捻った」部分を有す\nるように構成する場合には,引用発明では,目37がワイヤーに近接した位置とな\nるように調整されているため,目37がワイヤーに接触するおそれがあり,目37 がワイヤーに接触しないようにするには,目37とワイヤーとの距離を遠ざけるよ うにガイド36の形状と配置を変更することや,ハンドル32の段差状の屈曲と枢 着接続部の移動の円弧の再調整をすることが必要になるから,引用発明において, その構成に加えて,ハンドル32を「捻った」部分を有するように構\成することに は,阻害要因があるというべきである。
(オ) 以上によれば,引用発明において,周知例等に記載された事項に基づいて 相違点に係る本件発明の構成を備えるようにすることが,容易に想到できたという\nことはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10039  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月23日  知的財産高等裁判所

 引用文献について、課題が明記されていなくても発明として把握ができるとして、進歩性無しとした審決が維持されました。
 (1) 特許法29条2項は,「特許出願前にその発明の属する技術の分野におけ る通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることが できたときは,その発明については,同項の規定にかかわらず,特許を受けること ができない。」と定めるから,引用発明は,本件発明の属する技術分野の当業者が検 討対象とする範囲内の技術的思想であることを要する。また,同法29条1項各号 に掲げる発明から進歩性判断の対象となる発明を容易に発明をすることができたか 否かを判定するに当たっては,前者と後者の構成上の一致点と相違点を見出し,相\n違点に係る上記後者の構成を採用することが当業者にとって容易であるか否かを検\n討するから,上記前者の発明は,上記後者の発明の構成と比較し得るものであるこ\nとを要する。  そこで検討するに,前記1(2)のとおり,本件発明は,2以上の薬剤を投与直前に 混合して患者に投与するための医療用複室容器に関するものであり,前記2(2)のと おり,引用発明も,2以上の薬剤を投与直前に混合して患者に投与するための医療 用複室容器に関するものであるから,本件発明と技術分野を共通にし,本件発明の 属する技術分野の当業者が検討対象とする範囲内の技術的思想であるといえる。ま た,本件発明と引用発明とは,前記3のとおり,「可撓性材料により作製され,内部 空間が剥離可能な仕切用弱シール部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分され\nた容器本体と,該容器本体の下端側シール部に固定され,前記第1の薬剤室の下端 部と連通する排出ポートと,前記第1の薬剤室に収納された第1の薬剤と,前記第 2の薬剤室に収納された第2の薬剤と,前記第1の薬剤室と前記排出ポートとの連 通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部とを備える医療用複室容器であり,\n前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され, 空室となっている空間内および前記空間を形成する内面が滅菌されている医療用複 室容器。」という点で一致するから,引用発明は,本件発明の構成と比較し得るもの\nであるといえる。よって,引用発明は,本件発明の進歩性を検討するに当たっての 基礎となる,公知の技術的思想といえる。
(2) これに対し,原告は,引用文献には,本件明細書に記載された,「連通阻 害用弱シール部を設けることにより形成される空間内を確実に滅菌できる医療用複 室容器を提供する」という課題が記載されていないから,引用発明は,引用発明と しての適格性がない,と主張する。 しかし,引用発明は,上記のとおり,本件発明と,技術分野を共通にし,かつ, 相当程度その構成を共通にするから,引用文献に本件発明の課題の記載がなくとも,\n本件発明の技術分野における当業者が,技術的思想の創作の過程において当然に検 討対象とするものであるといえる。当該課題が引用文献に明示的に記載されていな いことを理由として,引用文献に記載された発明の引用発明としての適格性を否定 することはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成27(行ケ)10190  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月22日  知的財産高等裁判所(3部)

 進歩性無しとした審決が取り消されました。理由は阻害要因ありです。
 そこで,以上の理解を踏まえて,本件審決の相違点2についての判断の当 否につき検討するに,本件審決は,甲1発明1において,エステル交換によ って脂肪酸エステルを含む油組成物を生成することと,本件訂正発明1に おいて,揮発性作業流体を混合物に添加することとは,環境汚染物質を除去 するために分子蒸留に付すべき脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する という操作目的の点で技術的に軌を一にすることを理由として,甲1発明 1における「リパーゼを用いた選択的エステル交換を行って脂肪酸エステ ルを含む油組成物を生成する」構成を,周知技術である「揮発性作業流体を\n油組成物に外部から添加する」構成に置換することの容易想到性を認める\n判断をする。
しかしながら,上記エで述べたとおり,甲1公報に記載された発明は,上 記エ1)ないし3)の各課題を解決することを目的とする発明であると理解さ れるところ,このうち,上記エ1)及び3)の課題の解決のためには,「リパー ゼを用いた選択的エステル交換を行って脂肪酸エステルを含む油組成物を 生成」し,その上で分子蒸留を行うことにより,所望でない飽和および単不 飽和脂肪酸を実質的に有しないグリセリドの残余画分を得ることが不可欠 であり,この工程を,「揮発性作業流体を油組成物に外部から添加」した上 で分子蒸留を行う工程に置換したのでは,上記発明における上記エ2)の課 題は解決できたとしても,これとともに解決すべきものとされる上記エ1) 及び3)の課題の解決はできないことになる。 してみると,甲1公報に記載された発明において,「リパーゼを用いた選 択的エステル交換を行って脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する」構\n成に代えて,周知技術である「揮発性作業流体を油組成物に外部から添加す る」構成を採用することは,当該発明の課題解決に不可欠な構\成を,あえて 当該課題を解決できない他の構成に置換することを意味するものであって,当業者がそのような置換を行うべき動機付けはなく,かえって阻害要因\nがあるものというべきである。
なお,このことは,甲1公報の記載のうち,「トリグリセリドの形態で飽 和および不飽和脂肪酸を含有する油組成物からの環境汚染物質の除去のた めの方法」に係る特許請求の範囲請求項22で特定される発明に専ら着目 してみても,異なるものではない。すなわち,当該発明においても,「(a) 該油組成物を,実質的に無水の条件下,かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエ ステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に,…エステル 交換反応に供する工程」を要し,かつ,「(b)工程(a)において得られ た生成物を…分子蒸留に供して多不飽和脂肪酸のグリセリドに富み,かつ 環境汚染物質が優先的に除去された残余画分を回収する工程」を要するも のとされているのであるから,上記エ2)の課題とともに,上記エ1)及び3)の 課題をも解決するために,「リパーゼを用いた選択的エステル交換を行って 脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する」構成を不可欠の構\成としてい ることは明らかといえる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> 阻害要因
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10102  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月21日  知的財産高等裁判所(第4部)

 阻害要因ありとして、進歩性違反無しとした審決が維持されました。
 そこで,引用発明2において,相違点4に係る本件発明1の構成を備えるように\nすること,すなわち,油圧導入路を備え,油室の油圧によって弁体を出力部材側に 進出させた状態に保持することを,当業者が容易に想到することができたか否かに ついて検討する。
イ 引用例2には,通孔58からの加圧エアの押圧機能に関して,「上記ピスト\nン24が後退(判決注:【図3】の左方へ移動)すると,弁操作具44は,バネ5 0の作用及び/又は従道部分68の対応面積に作用する加圧エアの力によってリリ ースされ,その弁操作具44は,【図3】のノーマル外方位置へ戻る。」(3欄9 〜13行),「図示のように圧力入口と出口及び排気孔が位置されることにより, 入口孔58からの流体圧力は,バネ50の付勢力と協働して,シリンダ12の中空 体の内部から弁操作具44及び弁部材46に作用する圧力流体の力に抗して上記の 操作具44が外方位置へ移動するのを防止する。」(3欄37〜43行)と記載さ れている。 このように弁部材46を左方に押圧する力について,通孔58からの加圧エアに よる作用とバネ50による作用とが並列して記載され,さらに「協働」する旨記載 されていることからすれば,当業者は,通孔58からの加圧エアによる作用には, 弁部材46を左方に押圧するものが含まれていると当然に理解するというべきであ る。そうであるにもかかわらず,引用発明2において,弁部材46に油圧導入路を 備えて,油室の油圧によって弁部材46を押圧するような状態にすることは,通孔 58からの加圧エアによる作用を失わせることになるから,このような状態にする ことには阻害事由があるというべきである。
ウ また,引用発明2において,弁部材46に油圧導入路を備えて,油室の油圧 によって弁部材46を押圧するような状態にすることは,弁孔53などに油圧を導 入することになり,空圧バルブ16の作用が失われることになるから,かかる点か らも,このような状態にすることには阻害事由がある。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 阻害要因
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10100  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月8日  知的財産高等裁判所

 本件は、下記第4次審決の取消訴訟です。知財高裁は進歩性違反について無効理由なし(特許維持)と判断しました。今までの経緯が複雑です。
第1次審決−無効審理において訂正請求をしましたが、認められず無効審決。
第1次取消訴訟+訂正審判がなされたので、特許庁に差し戻し。
第2次審決−訂正審判による訂正認容審決。
第3次審決−無効審判が請求されたが、無効理由なしとの審決。
第2次取消訴訟−無効理由なしとした審決を取り消し(平成26年(行ケ)第10219号)。
第4次審決−無効審判の審理が再開され、再度、無効理由なしとの審決
 本件請求項1の記載によれば,本件発明1の「凸部分は0.07c m(0.0275in)〜0.0889cm(0.0350in)の曲 率半径を持ち」との構成は,ゴルフボールの「表\面から延びる格子構造」\nを成す「格子部材」について,「第1の凹部分と第2の凹部分の間に設 けられた」「頂部を有」する部分である「凸部分」の「曲線の断面」が, 上記数値範囲の曲率半径を有することを特定するものといえるところ, その断面が上記数値範囲の曲率半径を有すべき「凸部分」の範囲(頂部 に相当する部分か,頂部を含まない部分でも足りるか。)については, 本件請求項1の記載自体から一義的に明らかであるとはいえない。 そこで,この点については,本件明細書の記載を考慮して解釈する必 要がある。
(イ) まず,本件明細書において,凸部分に求められる曲率半径の数値に ついて述べた記載としては,段落【0052】に,「…複数の格子 部材40の好ましい断面が図7及び8に示されている。この好まし い断面は,第1の凹面部54と,凸面部56と,第2の凹面部58 を有する湾曲面52を有している。各格子部材40の凸面部56の 半径R2は好ましくは0.0275から0.0350インチの範囲 である。」との記載があり,他にこの点に言及する記載はない。 しかるところ,段落【0052】の上記記載及び同記載に係る図 8によれば,凸面部56の頂部を含む湾曲面について,本件請求項 1と同一の「0.0275から0.0350インチの範囲」の曲率 半径とするものとされている。
(ウ) また,以下に述べるような本件明細書の記載を総合すれば,本 件発明1において凸部分の曲率半径を上記数値範囲と特定すること には,次のような技術的意義があることが理解できる。 すなわち,本件発明1においては,「各格子部材は外側球体を画 定するゴルフボールの中心から最も離れた点において頂部を有する 隆起した断面形状を持つ」(段落【0023】)ものとすることで, 「複数の格子部材の各々の頂部は0.00001インチより小さい 幅を有し」(段落【0024】),「本発明のゴルフボール20は, ゴルフボール20の外側球体のランド領域を画定する各格子部材4 0の頂部50ラインだけを有している」(段落【0048】)もの となり,その結果,「本発明による管状の格子パターンの空気力学 は,より大きな揚力と少ない空気抵抗を与え,これにより在来の同 様な構成のゴルフボールより大きな距離を飛ぶゴルフボールとな」\nり(段落【0063】),「本発明のゴルフボール20はゴルフボ ール20の最大範囲から所定の距離において小さい体積を有する。 この小さい体積は低速時において空気境界層を捕捉するに必要とさ れる最小の量であり,一方,高速時において低い空気抵抗を与える」 (段落【0068】)こととなって,前記1(2)のとおりの本件発 明1の目的(より大きな距離を得るための必要な乱流を生じさせる ため,飛行中にゴルフボールの周りを取り囲む空気の境界層を捕捉 する最小のランド領域を提供することを可能とすること)を達成す\nるものであることが理解できる。そして,本件請求項1及び本件明 細書の上記(イ)の記載においては,上記格子部材に係る「外側球体 を画定するゴルフボールの中心から最も離れた点において頂部を有 する隆起した断面形状」を具体的に特定するものとして,凸部分の 曲率半径を上記数値範囲にすることが特定されているものといえる。 以上のような本件発明1の技術的意義に係る理解及び本件明細書 の前記(イ)の記載を前提とすれば,本件発明1において,その断面 が上記数値範囲の曲率半径を有すべき「凸部分」とは,ゴルフボール の外側球体のランド領域を画定する頂部に相当する部分であると解 するのが相当である。
・・・
 以上によれば,甲8及び9には,相違点2の「凸部分は0.07cm 〜0.0889cmの曲率半径を持つ」との構成が記載されているとは\n認められないから,その記載があることを前提として,甲1発明と甲3, 4,8及び9の記載事項に基づいて,当業者は相違点2に係る凸部分の 曲率半径に係る構成を容易に想到し得たとする原告の前記主張には理由\nがない。

◆判決本文

◆前回の訴訟はこちらです。平成26年(行ケ)第10219号

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成27(行ケ)10163  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年1月18日  知的財産高等裁判所

 争点は、サポート要件違反、進歩性違反など多数ありますが、訂正時における通常実施権者の承諾について、知財部長のハンコ押印が、承諾に当たるのかが争われました。 知財高裁(1部)は、これを認めました。
 原告は,本件特許を含む被告保有の知的財産権について,被告は, ●●●●・・●●●に対し,通常実施権を許諾しているところ,本件訂正について,上記各社から承諾(特許法134条の2第5項で準用する同法127条)を得ていないから,本件訂正は認められない旨主張する。これに対し,被告は,ライセンスの内容について秘密保持義務を負っているから,その内容について明らかにすることはできないと主張する。そこで,検討するに,●●●●・・●●●
以上の事実によれば,被告との間で,提携,クロスライセンス及び和解等をした 企業は,●●●●・・●●●であると認められる。 そして,証拠(乙9,10)及び弁論の全趣旨によれば, ●●●●・・●●●について,本件特許に ついて,最初の訂正審判請求(甲49の1)がされた平成24年12月17日より も前に,被告が保有する特許の訂正に関して包括的な承諾を得ていたものと認めら れる。また, ●●●●・・●●●についても,被告が保有する特許の訂正に関して包括的な承諾を得ていたものと認められる。 ●●●●・・●●● 原告は,事実実験公正証書(乙10)において, ●●●●・・●●●については,いずれも代 表取締役等代表\権を有する者の記名押印はなく,訂正に関する承諾権限があること の立証はない旨主張する。しかし,本件訂正のような特許請求の範囲を減縮する訂 正は,特許権者が特許の無効理由を避けるために,その必要に応じてなすのが通例 であり,訂正の内容は,特許の専門的,技術的事項に関するものが多く,これを承 諾するか否かは,各社の代表取締役等の代表\権者が知的財産部長等に委任してその 判断に委ねるのが合理的であり,通例であると解されるところである。そして,上 記事実実験公正証書は,上記各社が訂正に関し承諾したことを上記各社の知的財産 部長等の担当者が確認した旨をその内容とするものであるから,これによれば,上 記各社とも,その知的財産担当部長等の担当者が訂正に関する承諾という事項につ いて,その代表者から委任を受けており,その上でこれを承諾したと推認するのが\n合理的であり,これらの者が各社代表取締役等の代表\権を有する者でなかったとし ても,それによって上記各社が訂正に関し承諾したとの認定が左右されるものでは ない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。 また,本件特許が●●●●の契約の対象になっているか否かは明らかではないと いわざるを得ないものの,本件特許は,白色LEDを実現するために重要な技術的 意義を有するものと認められ(弁論の全趣旨),これを対象から除外して契約を行う ことは考えにくい(合理的根拠はない。)ものと認められるから,本件特許が,原告 が主張するように●●●●の契約の対象となっているものと推認することができる。 そして,●●●●の各承諾は,いかなる訂正を目的とするかまで明確にした承諾で あるということはできないものの,いずれも訂正審判を請求することを承諾すると いう趣旨でなされたものと解される。
以上によれば,被告は,本件特許の訂正について,●●●●から特許法127条 の承諾を得ていたものと認められる。

◆判決本文

◆関連事件です。平成26(ネ)10032

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 記載要件
 >> 審判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10068  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月7日  知的財産高等裁判所

進歩性なしとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として取り消されました。
 ア 次に,引用例2に記載された技術事項を適用した引用発明は,外側ベルトの 切断端部を,タイヤの赤道面から0.15〜0.35Wの範囲に位置させるという 本願発明の構成を備えるものになるかについて検討する。
イ 引用例2に記載された技術事項における「トレッドのショルダー部」の領域 引用例2には,「トレッドのショルダー部」が航空機タイヤのどの部分を具体的 に指すのかについて記載はない。そして,「ショルダー」が「肩」の意味であるこ とからすれば,「トレッドのショルダー部」とは,トレッドの肩のような形状の部 分を指すと解するのが自然である。そして,引用例2の【図1】によれば,かかる 形状の部分は,トレッドの中でもサイドウォールに近い部分,すなわち,トレッド の端部をいうものと解される。 また,引用例2には,「高速回転時のトレッド部の変形を抑制するための採用す る0°バンドは,トレッド両端部における拘束力が少ないので,トレッドショルダ ー部の膨張変形に対する効果は少ない。」と記載され(【0026】),トレッド 両端部における拘束力とトレッドのショルダー部の膨張変形に対する効果との間に 直接の因果関係がある旨説明されており,引用例2における「トレッドのショルダ ー部」とは,0°バンドによる拘束力が少ない部分である,トレッドの端部と解す るのが自然である。 さらに,航空機用タイヤに関する特開昭63−235106号公報(乙11)に おいては,タイヤのトレッドの端部がショルダー部とされており,それ以外の部分 とは区別されている。すなわち,同公報には,タイヤのトレッドのショルダー部に 2段溝状の縦溝を設けてなる航空機用タイヤに関する発明が記載されているところ (特許請求の範囲(1)),その実施例である航空機用タイヤ1(第1図)では,トレ ッド6に設けられた縦溝20,21,22のうち,サイドウォール部4の最も近く にある縦溝22は(トレッド6の)ショルダー部を通って延びる直線溝であり,2 段溝状をなすとされているのに対し,それ以外の縦溝20,21はトレッド6のク ラウン部を通って延びる直線溝であり,略V字溝状をなす(3頁右下欄1行〜14 行)とされている。このように,航空機用タイヤのトレッド6において,そのサイ ドウォール部4に近い部分であるトレッド6の端部がショルダー部と呼ばれ,それ 以外の部分であるクラウン部から区別されている。 したがって,引用例2に記載された技術事項における「トレッドのショルダー部」 とは,トレッドの端部を意味するものと認められ,同技術事項は,ベルトプライの 両端の折り返し部を,トレッドの端部に位置するように形成するものということが できる。
ウ このように,引用例2に記載された技術事項は,ベルトプライの両端の折り 返し部を,トレッドの端部に位置するように形成するものであって,引用発明に引 用例2に記載された技術事項を適用しても,折り返し部が形成されるのは「トレッ ドゴム26」の端部である。したがって,引用発明に引用例2に記載された技術事 項を適用しても,外側ベルトの切断端部を,タイヤの赤道面から0.15〜0.3 5Wの範囲に位置させるという本願発明の構成には至らないというべきである。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10005  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年1月18日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、主観的評価では予測できない効果があるか不明として、進歩性なしと判断しました。
 審決は「ソフトコンタクトレンズ装用時に生じる特有の問題として、ソ\フトコンタクトレンズ装用中は、清涼感度の低下が起こることがあげられるが、本件特許明細書に記載された実施例19〜21において、ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の清涼感は◎と評価され、かつ、ソ\フトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の刺激も○ないし◎と評価されていることから、本件特許発明1は、ソフトコンタクトレンズを装用中においても、十\分な清涼感を付与でき、かつ、点眼直後に清涼感を超えた強すぎる不快な刺激がない、との効果を奏する」と進歩性ありと判断していました。
 特許出願に係る発明の構成が,公知技術である引用発明に他の公知技術,周知技\n術等を適用することによって容易に想到することができる場合であっても,上記発 明の有する効果が,当該引用発明等の有する効果と比較して,当業者が技術常識に 基づいて従来の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著な\nものであるときは,上記発明はその限度で従来の公知技術等から想到できない有利 な効果を開示したといえるから,当業者は上記発明を容易に想到することができな いものとして,上記発明については,特許を受けることができると解するのが相当 である。 これを本件についてみると,前記(1)の認定事実によれば,本件発明は,ソフトコ\nンタクトレンズ装用者に十分な清涼感を付与し,かつ,刺激がなく安全性が高い眼\n科用清涼組成物を提供するものであり,本件明細書(【0055】【表6】)に記載さ\nれている実施例19ないし21において,ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直\n後の清涼感は◎と評価され,かつ,ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の刺\n激も○又は◎と評価されている。 しかしながら,本件明細書(【0044】)には「各パネラーには,清涼感につい て全く感じない場合を0点,十分に強い清涼感を感じる場合を6点として7段階評\n価してもらった。同様に眼刺激について全く感じない場合を6点,強い刺激を感じ る場合を0点として7段階評価してもらった。パネラー全員の評価点を平均して, その平均値が0〜2点未満を×,2点以上3点未満を△,3点以上4点未満を○, 4点以上6点以下を◎として表に結果を示す。」と記載され,清涼感及び刺激の評価\nにおいて,◎と評価された場合であっても,7段階評価における中央値付近の「4」 の評価が含まれている。そうすると,上記評価から,直ちに本件発明1の奏する効 果が甲1発明と比較して予測できないほど顕著であると推認することはできず,そ\nの他に,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に適用した場合と比較\nして,本件発明1が奏する効果が当業者の予測を超える顕著なものであることを認\nめるに足りる的確な証拠はない。のみならず,前記(2)の認定事実によれば,甲1発 明の点眼剤は,目に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,か つ,清涼感の持続性の高いものであり,前記アのとおり,甲1発明の点眼剤をソフ\nトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ると示唆されているのであるから,これ らの記載に接した当業者は,甲1発明の点眼剤につき,ソフトコンタクトレンズ装\n用時に清涼感を付与するために用いた場合に,裸眼時やハードコンタクトレンズ装 用時と同程度に,眼に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ, 清涼感の持続性が高いものであることを十分に予\測することができる。しかも,甲 1発明の点眼剤の効果と本件発明の効果は,そもそも清涼感を付与し刺激性が低い という同種のものにすぎず,本件明細書には,ハードコンタクトレンズ装用時にお ける清涼感との比較評価等が一切記載されていないのであるから,本件優先日当時 の技術常識を考慮しても,具体的にどの程度の清涼感の差異があるのかは不明であ る。 したがって,本件発明1の有する効果が予測することができる範囲を超えた顕著\nなものであると認めることはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10087  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年1月17日  知的財産高等裁判所

 審判では審理されていない従たる引用例を主たる引用例とし,主たる引用例との組合せによる容易想到性について取消審判で判断することについて、知財高裁(4部)は「当事者双方が,・・・本件訴訟において審理判断することを認め・・・・紛争の一回的解決の観点からも,許されると解する」のが相当であると判断しました。
 ア 引用例2を主たる引用例とする主張の可否について
 特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,審判で審理判断されなかった 公知事実を主張することは許されない(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51 年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁)。 しかし,審判において審理された公知事実に関する限り,審判の対象とされた発 明との一致点・相違点について審決と異なる主張をすること,あるいは,複数の公 知事実が審理判断されている場合にあっては,その組合せにつき審決と異なる主張 をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超 えるということはできないから,取消訴訟においてこれらを主張することが常に許 されないとすることはできない。 前記のとおり,本件審決は,1)引用発明1を主たる引用例として引用発明2を組 み合わせること及び2)引用発明3を主たる引用例として引用発明1又は2を組み合 わせることにより,本件特許発明を容易に想到することはできない旨判断し,その 前提として,引用発明2についても認定しているものである。原告は,上記1)及び 2)について本件審決の認定判断を違法であると主張することに加えて,予備的に,\n引用発明2を主たる引用例として引用発明1又は3を組み合わせることにより本件 特許発明を容易に想到することができた旨の主張をするところ,被告らにおいても, 当該主張について,本件訴訟において審理判断することを認めている。 引用発明1ないし3は,本件審判において特許法29条1項3号に掲げる発明に 該当するものとして審理された公知事実であり,当事者双方が,本件審決で従たる 引用例とされた引用発明2を主たる引用例とし,本件審決で主たる引用例とされた 引用発明1又は3との組合せによる容易想到性について,本件訴訟において審理判 断することを認め,特許庁における審理判断を経由することを望んでおらず,その 点についての当事者の主張立証が尽くされている本件においては,原告の前記主張 について審理判断することは,紛争の一回的解決の観点からも,許されると解する のが相当である。 なお,本判決が原告の前記主張について判断した結果,請求不成立審決が確定す る場合は,特許法167条により,当事者である原告において,再度引用発明2を 主たる引用例とし,引用発明1又は3を組み合わせることにより容易に想到するこ とができた旨の新たな無効審判請求をすることは,許されないことになるし,本件 審決が取り消される場合は,再開された審判においてその拘束力が及ぶことになる。
イ 相違点について
前記(4)イのとおり,引用発明2において,「有色塗装層」は装飾上,必須のもの である。また,引用発明2において,「有色塗装層」の形成対象は,釣竿又はゴル フシャフトに特定されている。 したがって,本件特許発明1と引用発明2との相違点は,「本件特許発明1は, 基材を透光性を有する透明又は半透明とし,基材の表裏に金属被膜層を形成すると\nともに,金属被膜層の一部にレーザー光を照射することにより剥離部を表裏面で対\n称形状に設けるのに対して,引用発明2は,釣竿又はゴルフシャフトにおいて,有 色塗装層を形成された基材の片面に金属被膜層を形成する際にマスキング処理を行 って剥離部を設ける」ものと認められる。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 前記(4)イのとおり,引用発明2は有色塗装層を必須の構成とするのである\nから,引用発明2に,全光線透過率が80%以上である高分子フィルム基材を有す る引用発明1を組み合わせることには阻害要因が認められる。さらに,引用発明2 は,管状の部材の装飾に係るものであって,金属層を管の内側と外側の両面に設け ることは,相応の困難を伴うというべきである。
(イ) また,引用発明3は,前記(5)イ(イ)のとおり,レーザー光を透過し得るよ うな基板の表裏を有するのであるから,有色塗装層を必須の構\成とする引用発明2 に対し,引用発明3を組み合わせることには阻害要因があると認められる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 阻害要因
 >> 裁判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10023  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年12月26日  知的財産高等裁判所(第2部)

 進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。理由は、引用文献の実施例を本件の特徴部分としては認識できないというものです。
 しかしながら,引用例の【0017】の実施例において,「文書処理プログラム 24での低電力消費」と対比して,高いクロック周波数を選択することが考えら れるものは「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な計算\n要求」であって,「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な\n計算要求を必要とするアプリケーションプログラム」などと記載されているもの ではなく,「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な計算要\n求」が「文書処理プログラム24」とは異なるアプリケーションプログラムでの 計算要求であることは記載されていない。そして,本願優先日当時,文書処理プ ログラムにはグラフィック機能が組み込まれているのが一般的であり,文書処理\nプログラムに組み込まれたグラフィック機能において回転する3次元画像の総天\n然色表示の形成が行えないものではないことからすると,高いクロック周波数を\n選択する「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な計算要\n求」は,アプリケーションプログラムの実際の動作に応じた「計算条件」を示す ものであるとみることもでき,引用例の【0017】の記載に接した本願優先日 当時の当業者において,そこに記載された実施例が「アプリケーションプログラ ムのタイプに対応する動作モード」に基づいてクロック周波数を選択するもので あると認識するものということはできない。 また,引用例の【0022】の実施例において,「高度または高速の計算能力を\n必要とするアプリケーションプログラムを検出した場合」と対比して,低いクロ ック周波数を選択することが考えられるものは「タイムアウト周期について活動 していないことを検出」した場合であり,例えば,「高度または高速の計算能力を\n必要としないアプリケーションプログラムを検出した場合」のような類型のアプ リケーションプログラムを検出した場合と対比されているものではないし,「高度 または高速の計算能力を必要とするアプリケーションプログラム」を起動中に,\n「タイムアウト周期について活動していないことを検出」した場合には,高いク ロック周波数が選択されるべき「高度または高速の計算能力を必要とするアプリ\nケーションプログラム」の起動中でありながら,低いクロック周波数を選択する ことになるから,引用例の【0022】の記載に接した本願優先日当時の当業者 において,そこに記載された実施例が「アプリケーションプログラムのタイプに 対応する動作モード」に基づいて「特定の高クロック周波数で前記中央演算処理 装置12を動作させる」ものであると認識するものということはできない。 さらに,引用例の【0012】をみても,低いクロック周波数が選択される「モ デムによる通信,新しい命令が入力されない待機状態,およびその他の日常的で 単純な計算機能を実行する動作の間」と,高いクロック周波数が選択される「回\n転する3次元オブジェクトの表示を形成する,大量のデータベースの検索を実行\nする,などのさらに複雑な計算が要求される場合」とが異なったアプリケーショ ンプログラムに対応したものであることは記載されていないし,「回転する3次元 オブジェクトの表示を形成する」ことができるアプリケーションプログラムにお\nいて「単純な計算機能を実行する動作」のみを行っている間を想定すれば明らか\nなように,両者が異なったアプリケーションプログラムでしか奏し得ないことが 自明であるともいえないから,引用例の【0012】の記載に接した本願優先日 当時の当業者において,引用発明が「アプリケーションプログラムのタイプに対 応する動作モード」に基づいてクロック周波数を選択するものであると認識する ものということはできない。 そうすると,引用例の【0012】,【0017】,【0022】等の記載を総合 しても,これらに接した本願優先日当時の当業者において,引用発明が「アプリ ケーションプログラムのタイプに対応する動作モードを決定し,前記動作モード に応答して,・・・中央演算処理装置12を動作させる」ものであると認識するこ とはできないと認められ,このことは,引用発明が,利用可能な電池電力が限ら\nれており,その有効な管理への要求が最優先課題となっている可搬型コンピュー タにおいて当該課題を解決することを目的とするものであることをも考慮すれば, 一層明らかというべきである。 よって,引用発明が「アプリケーションプログラムのタイプに対応する動作モ ードを決定し,前記動作モードに応答して,・・・中央演算処理装置12を動作さ せる」構成を有するとした審決の認定には誤りがあり,これに起因して,審決は,\n「アプリケーション・プログラムのタイプに対応する動作モードを決定し,前記 動作モードに応答して,・・・回路を動作させる」点を一致点として過大に認定し, 相違点として看過した結果,この点に対する判断をしておらず,結論に影響を及 ぼす違法があるものと認められる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10113  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年12月26日  知的財産高等裁判所(第2部)

 進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。審取訴訟提起後、共有者の一方である産総研が訴訟から脱退しています。争われたクレームの特徴部分は、「 前記レーザ光源は,半導体レーザである励起光源,レーザ共振器及びパルス化手段を備えているマイクロチップレーザである」です。クレームをみる限り、審決取消訴訟まで争うレベルかというと疑問ですが、何か隠れた争点があるのでしょうか?
 審決には,「本願補正発明は,引用発明,周知技術,周知事項1及び周知事項2に 基づいて当業者が容易に発明することができた。」「本願発明も,同様の理由により, 引用発明,周知技術,周知事項1及び周知事項2に基づいて,当業者が容易に発明 をすることができた。」との記載があるが,その相違点の判断の内容を見ると,進歩 性を欠如するとした理由は,前記第2,3(1)エにて整理するとおり,本願補正発明 につき,第1に,引用発明と周知技術及び周知事項1に基づいてその構成は当業者\nにおいて容易に想到でき,顕著な作用効果も認められない(同1)2)3)6)),第2に, 引用発明と周知技術に基づいてその構成を当業者において容易に想到でき,顕著な\n作用効果も認められない(同1)2)4)6)),第3に,引用発明と周知技術及び周知事項 2に基づいてその構成は当業者において容易に想到でき,顕著な作用効果も認めら\nれない(同1)2)5)6))との,独立した3つのものであることは明らかであり(本願 発明についても上記同様である。なお,当事者の主張も,おおむね,この区分に沿 ったものとなっている。),引用発明に,周知技術と周知事項1及び周知事項2の双 方を適用して初めて本願補正発明が進歩性を欠如する,としたものではないと理解 される。 以下,このことを前提に,当裁判所の判断を加える。
・・・・
これに対して,原告は,マイクロチップレーザのエネルギー効率は,レーザ共振 器及びパルス化手段の制御によって左右されるから,これら制御が及ぼす影響を考 慮することなく一概に周知事項1のようにいうことはできないと主張する。 しかしながら,たとえ,レーザ共振器及びパルス化手段の制御によってマイクロ チップレーザのエネルギー効率が左右されるとしても,それを制御することによっ て「小型化可能で,エネルギー効率が高い」マイクロチップレーザが製作されてい\nたのであり,そのことが周知であればよいのであるから,原告が上記に主張するよ うな事項は,周知事項1を認定することの妨げとはならない。 以上のとおりであるから,周知事項1を認めた審決の認定には,誤りはない。
イ 容易想到性の判断の誤りについて
引用発明は,「低消費電力で安定した着火性能を発揮するレーザ点火プラグ,及び\nレーザ着火装置,及びエンジンを提供する」(引用文献の【0006】)という課題 を解決するものであるから,その構成の「パルス信号によって駆動される一般的な\n半導体レーザ装置」に代えて,「半導体レーザ(LD)並みに,小型であり,エネル ギー効率が高い」周知技術のマイクロチップレーザを用いることは,装置の小型化 及び効率化という普遍的な技術課題の解決に当たって,広く知られた技術事項を適 用したというだけであって,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。\n原告は,本願補正発明は,マイクロチップレーザから出射されるレーザ光が,「混 合気に着火するためのプラズマをターゲット部において発生させることができるレ ーザ光の強度範囲を広く確保することが可能となる」との知見に基づいてされたも\nのであるところ,この知見は,引用文献,甲2及び甲4のいずれにも記載がなく, 示唆もされていないと主張する。 しかしながら,相違点に係る本願補正発明の構成は,レーザ光源として周知技術\nのマイクロチップレーザを用いたということであって,上記知見を反映した構成で\nはない。したがって,当業者は,そのような知見がなくても,普遍的な技術課題に 従って相違点に係る本願補正発明の構成を採用することを動機付けられる。上記知\n見が引用文献,甲2及び甲4に記載されているか否かは,容易想到性の判断を左右 しない。 また,原告は,引用発明の基本的技術思想を述べる記載から,レーザ装置が変更 できると解することはできないと主張する。 しかしながら,引用発明は,ターゲットに酸化触媒を含める構成をとり,これを\n特徴点とする一方で,レーザ光源としては,「パルス信号によって駆動される一般的 な半導体レーザ装置」と一般的なものでよいとしているから,引用発明は,レーザ 光源としては,パルスを発生させ着火に適するならばどのようなものを用いてもよ いと当業者に理解される。したがって,原告の上記主張は,採用することができな い。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10040  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年12月26日  知的財産高等裁判所(第2部)

 進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。理由は、そもそも引例と本件周知技術とは技術分野が異なるので組み合わせができない、さらに組み合わせても、本件発明まで想到しないというものです。
 前記a及びbによれば,コンピュータシステムの不正使用防止の技 術分野において,装置Aの記憶媒体に記憶されている情報を,特定の者に利用させ る場合につき,当該特定の者が装置Bを携行することを前提に,装置Aと装置Bと の間の距離測定を行い,その距離が所定の範囲内であるときに限り,装置Bの所持 者に当該情報を利用させることは,本願優先日には周知技術であったと認められる。
ウ(ア) 甲1発明は,前記(1)のとおり,車両側無線装置と携帯型無線装置との 間の距離を測定し,所定の間隔の範囲内である場合に,車両側無線装置が車両の施 解錠実行部に解錠指令を送出するキーレス・エントリーシステムである。 一方,甲3は,前記イ(ウ)aのとおり,携帯通信端末とカードとの距離に応じてカ ードの使用を許可するシステムであって,ここでのカードの使用とは,クレジット カードの情報を用いる電子商取引,すなわち,情報処理である。また,甲4は,同 bのとおり,多端末環境でのユーザのワークステーションへのアクセスを許可する システムであり,ここでのワークステーションへのアクセスは,当然に情報処理を 目的としている。つまり,甲3及び4に記載された技術は,情報処理システムに対 する不正使用防止の技術であるのに対し,甲1発明は,ドアの解錠システムという, 情報処理システムではないシステムに対する不正使用防止の技術であって,両者は, その前提とするシステムが相違しており,技術分野が異なる。
(イ) しかも,装置Aの記憶媒体に記憶されている情報を,特定の者に利用 させる場合につき,当該特定の者に装置Bを携行させ,装置Aと装置Bとの間の距 離測定を行い,その距離が所定の範囲内であるときに限り,装置Bの所持者に当該 情報を利用させるという周知技術を,甲1発明に適用したとしても,距離測定後に, 距離測定の対象である装置の一方から他方へ,当該一方の装置が記憶しているマル チメディアデータを,他方の装置に送信するという構成に至るものではない。
(ウ) したがって,当業者が,甲1発明と甲3又は4に記載された周知技術 を組み合わせることは,容易とはいえず,仮に組み合わせたとしても,本願発明を 発明することができたとはいえない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(行ケ)10026  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年12月26日  知的財産高等裁判所(第2部)

 進歩性違反なしとした審決が取り消されました。理由は、先行技術は周知技術であったというものです。
 上記各記載のとおり,地盤注入の施工前に地盤抵抗圧力(注入圧力)を測定する ことは,通常のことであり,その地盤抵抗圧が工事現場のものでなければならない のは当然であるから,その測定は,注入対象範囲内そのものであるかはともかくと して,工事現場と認められる範囲で行われているといえる(本件発明1も,注入対 象範囲内そのもので地盤抵抗圧力が測定される場合に限定されるものではない。)。 そして,前記(1)のとおり,本件発明1の「流量」は,単位時間当たりの注入量(注 入速度)のことであるところ,建設省(国土交通省)の通達等である上記3)に,施 工計画時に「注入速度」を定めなければならないと記載されていることや,業界団 体の指針である上記5)にも,施工計画時に注入速度が定まっていることを前提とす る記載があることからみて,「流量」(注入速度)は,工事現場の状況等によって変 更される余地はあるとしても,注入施工の前にあらかじめ定まっているものと理解 できる。そして,「流量」(注入速度)と地盤抵抗圧力とは関連しているから(甲1 の【図26】,甲2【図2】【図3】参照)),地盤抵抗圧力を測定することは,所定 の「流量」(注入速度)を前提にしたものである。 また,地盤抵抗圧の測定が,薬液を用いて行うことが通常であるか,あるいは, 水を用いて行うことが通常であるかが上記各記載からは明確ではないにしても,上 記各記載は,薬液を用いて地盤抵抗圧の測定を行うことを排除はしていない。かえ って,上記2)には,「薬液のかわりに水を用いた注入試験における注入圧と注入速度 の関係から注入形態を予測する簡便な方法が近年提案されている。」との記載があり,\nこの記載の当然の前提として,従来から,薬液を用いた注入試験が広く行われてい たことがうかがわれる。 以上からすると,本件発明1の「(a)予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」\nとの構成,すなわち,注入施工に先立ち,同じ注入材(グラウト)を用いて現場試\n験注入を行い,あらかじ流量を決めて注入圧力(地盤抵抗圧力)を測定することは, 本件特許の出願時点において,測定方法の一つとして当業者に広く知られていた周 知の事項であったと認められる。
・・・
(3) 容易想到性について
本件発明1は,前記(1)のとおり,(a)(b1)(b2)の構成を有しているとこ\nろ,試験注入において,地盤抵抗圧力をどのように測定するかという点と,本施工 において,測定された地盤抵抗圧力をどのように用いてグラウト注入を行うかとい う点は,それぞれ独立の技術的事項であるから,少なくとも,地盤抵抗圧力をどの ように測定するかという(a)の構成と,本施工において,測定された地盤抵抗圧\nをどのように用いるかという(b1)(b2)の構成とは,その容易想到性を別々に\n考慮してよいものである。そうすると,上記(2)イのとおり,本件発明1の(a)の 構成は,周知技術であるから,地盤抵抗圧力(注入圧力)を限界注入圧力Prfの\n限界内で設定する甲1発明において,その注入圧力の決定について,周知技術であ る相違点2に係る本件発明1の(a)の構成を採用することは,当業者が適宜なし\n得ることである。 また,前記(1)のとおり,甲1には,審決が甲1発明を構成するものとして認定す\nる(A1)(B1)の構成のほか,(A2)(A3)(B2)の構\成が開示されている。 本件発明1の「地盤抵抗圧力」に相当する甲1発明の分岐圧力計P11の圧力値は, 2kgf/cm2であり,本件発明1の「地盤抵抗圧力よりも高い強制圧力」に相当する 甲1発明の送液圧力計P0の圧力値は,30kgf/cm2であるから,甲1発明において は,地盤抵抗圧力よりも高い強制圧力となるようにグラウトが負荷されている。そ うすると,甲1の(A1)〜(A3)(B1)(B2)の構成は,本件発明1の(b\n1)(b2)の構成を開示しているものといえる(審決も,本件発明2に係る無効理\n由の判断中で,甲1発明の(A1)(B1)に相当する構成が,本件発明1の(b1)\n(b2)に相当する本件発明2の構成に相当すると判断している。)。\n以上によれば,本件発明1の(b1)(b2)の構成が,甲1の記載に基づいて,\n当業者において容易に想到できるものであることも,明らかであり,審決の相違点 2の判断には,誤りがある。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP