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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

営業秘密

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和5(ネ)10097  営業侵害行為差止請求等控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和6年2月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審では、営業秘密、限定提供データのいずれではないと判断されました。知財高裁も同様です。利益分配に関する請求についても同様です。

ア 原告は、EL社が営業秘密又は限定提供データの保有者であり、被告AI及 び被告SAIはEL社から営業秘密又は限定提供データの開示を受けたと主張する が、そうであるとすれば、開示された営業秘密又は限定提供データが原告の営業秘 密又は限定提供データであるということはできないはずである。もともと、前記補 正の上引用した原判決のとおり、スマホ留学の顧客情報は各組合員に帰属するもの であり(本件組合契約5条1項)、被告AI及び被告SAIが自らに帰属する顧客 情報を使用することは、不正競争行為に当たるものではない。
イ さらに、本件組合契約は、スマホ留学以外の特定の商品又はサービスを「対 象案件」として、その紹介をするため、スマホ留学の顧客情報を用いることを予定 している(本件組合契約6条4項等)。したがって、被告らが、顧客情報をケンペ ネEnglishやオンライン留学の紹介に用いたことをもって、直ちに本件組合 契約に違反すると認めることはできない。
ウ 原告は、本件組合契約7条2項を文字通り解釈すると本件組合契約締結以前 に提供された情報は、同項の「機密情報」には該当しなくなるから不合理である旨 主張する。しかし、原告及び被告らとの間で平成29年3月1日に締結された業務 委託契約書(乙A102)によれば、本件組合契約締結前のスマホ留学事業に関す る機密情報については、上記業務委託契約書9条に本件組合契約7条2項と同じ内 容の機密保持に関する条項が設けられていることが認められ、本件組合契約の締結 により当該条項の効力が失われたと解すべき理由は見当たらない。したがって、当 事者の合理的意思解釈として、本件組合契約締結前の機密情報については前記業務 委託契約書9条に基づく保護の対象となると解するのが相当であるから、原告の主 張する点は、本件組合契約7条2項をその文言どおり解釈することの妨げとなるも のではない。

◆判決本文


原審はこちら

◆令和2(ワ)23432

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令和5(ネ)1657  実験装置使用差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和6年2月9日  大阪高等裁判所

科研費契約に付随する秘密保持義務違反かどうかについて争われました。1審は義務違反無しとし、大阪高裁は、これを維持しました。

1 争点(1)(被控訴人は本件科研費契約に付随する秘密保持義務に違反したか)に ついて
(1) 前記前提事実(4)アのとおり、本件物件は関係規定に基づき控訴人らから被 控訴人に寄付されたものであるところ、控訴人らは、上記寄付を受け入れた 研究機関である被控訴人としては、本件科研費契約上、補助事業者である研 究者に代わり本件物件を科研費の交付目的に従って適切に管理することが求 められるのであり、本件物件に化体している本件情報に関する権利について は、同契約に付随して、信義則上、上記目的外で自ら使用したり、第三者に 漏洩・開示等したりしてはならない義務(秘密保持義務)を負っている旨を 主張する。
(2) そこで検討するに、公金である補助金により購入された設備等の取り扱い については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律を始めとする\n関係各規定により詳細が定められ、本件物件もこれに従い控訴人らから被控 訴人に寄付されたものであるところ、まず寄付とは、一般的に、公共性、公 益性を有する事業や団体などに対し、財産を贈与することであり、その目的 が物であれば、その所有権の無償による譲渡を意味するものである。そして、 大学共同利用機関取扱要領22条によると、寄付を受けた設備等は、固定資 産管理規則に基づき管理するものとされているところ、同規則11条には、 「資産管理責任者は、固定資産等を寄附により取得する場合」との記載があ ること、平成18年12月26日付けで作成された文部科学省の「研究費の 不正対策検討会報告書」には、「現在の競争的資金等の制度においては、例え ば機器を購入した場合(中略)個人補助の科学研究費補助金の場合、所有権 はいったん研究者に帰属し、所属する研究機関に寄付することになっており」 との記載があること(甲63の1・2)、振興会作成の科研費ハンドブックに 掲載された「科研費FAQ」には、「直接経費により購入した設備等は、研究 代表者又は研究分担者が所属する研究機関に寄付しなければなりません。【Q\n4405】」、「科研費により購入した設備等は、購入後直ちに研究機関に寄付 することとしていますので、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別 の研究等で使用することは差し支えありません。【Q44071】」との記載 があること(甲21)がそれぞれ認められ、これらの記載はいずれも、科研 費により設備等を購入した研究者がその所属する研究機関に行う寄付が、留 保を伴わない所有権の無償譲渡を意味するものであることを前提としている と解するのが相当である。これらに加え、平成23年に締結された被控訴人、 RCNP、TRIUMF及びウィニペグ大学の4研究機関によるUCNの共 同研究に係る合意(2011年覚書)には、被控訴人が本件物件の所有権を 有している旨の定めが置かれており(原文は英文)、本件情報に関して控訴人 らが主張する権利について特段の留保は付されていないことも認められる(甲 8)。
そうすると、そもそも控訴人らによる寄付を義務付けた関係各規定にいう 寄付は一般的な寄付と同様の意味に解されるし、本件物件の寄付を受けるこ とでその所有権を取得した被控訴人が寄付を受けた本件物件の使用、収益及 び処分について制約を受けるべき根拠は関係各規定中に見当たらないから、 控訴人ら主張に係る本件科研費契約なるものが科研費の交付決定に伴い関係 者間に成立するとしても、これに付随して、信義則上、被控訴人が、その一 方的負担となる秘密保持義務を控訴人らに対して負うことになると解する余 地はないというほかない。
(3) この点に関し、控訴人らは、科研費により取得される設備等に関し、設備 等の寄付を行った研究代表者等が他の研究機関に所属することとなる場合に\nおいて、当該研究代表者等に当該設備等の継続使用の希望があるときは、当\n該設備等を研究代表者等に返還しなければならない旨の「返還ルール」が定\nめられている旨を指摘し、同ルールは設備等(本件物件)の寄付を受けた被 控訴人において負担する上記制約の顕れである旨を主張する。
確かに、機関ルール2−3及び3−28には、上記趣旨の記載が存在する が、他方、上記科研費FAQには、補助事業期間中に他の研究機関に異動す る場合は、研究機関は研究機関の定めに基づき、当該設備等を当該研究者に 返還する旨【Q4405】、令和2年度以降に購入した設備等に関しては、研 究期間終了後(補助事業を廃止した場合を含む)5年以内の場合も同様に取 り扱う旨【Q4405、44071】、令和2年度以前に購入した設備等に関 しては、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別の研究等で使用する ことも差し支えない旨【Q44071】がそれぞれ記載されている。 しかし、これらの記載からすると、少なくとも令和2年度以前において、 「返還ルール」は、補助事業期間中のルールであり、研究機関が異動する研 究者の返還請求に応じるべきであるのは、補助事業期間中に限られているこ とを前提としているものと解するのが相当であるところ、本件物件のうち、 本件物件1に係る基盤研究Aの補助事業期間は平成12年から同14年まで、 本件物件2に係る基盤研究Sの補助事業期間は平成21年から同25年まで、 本件物件3に係る基盤研究Bの補助事業期間は平成18年から同20年まで というのであって(甲4、16〜18、当審第1回口頭弁論調書)、本件物件 については、いずれも補助事業期間を経過している。
したがって、上記のような「返還ルール」の存在を斟酌しても、寄付によ り本件物件の所有権を取得した被控訴人が、その使用、収益及び処分に制約 を受けることになる秘密保持義務を、控訴人らに対して信義則上負うべきも のとは解されない。
(4) なお、本件科研費契約に付随する秘密保持義務違反にいう秘密とは、控訴 人らが本件において営業秘密と主張する本件情報と同じものと主張されてい るが(当審第1回口頭弁論調書)、後記3(2)でみるとおり、本件情報は、本 件物件の外観を見ただけでは解析が不可能であり、控訴人らの関与なしには\nこれを取得できないというのである。そうであるとすると、本件物件をトラ イアンフその他の第三者との共同研究の用に供しているとしても、控訴人ら 主張に係る秘密(本件情報)は明らかにされることはないことになる。まして や、第三者が本件物件を分解して主張に係る秘密(本件情報)を探索するこ とも想定できないから、仮に秘密保持義務を負うとしても、そもそも第三者 との共同研究の用に供されることをもって、秘密保持義務違反の状態が起き ることはあり得ないということが指摘できる。 また、控訴人らは、秘密保持義務を根拠づけるものとして、本件物件の所 有権の所在とそれに化体しているノウハウなどの技術情報の所在とは別次元 の問題であり、寄付により本件物件の所有権を被控訴人に無償譲渡したこと になるとしても、控訴人らにおいて本件情報に係る権利まで譲渡する意思は なかったから、被控訴人が本件物件に化体したノウハウを自由に使用してよ いことにはならないとも主張する。しかし、上記説示のとおり、本件物件を 研究の用に供することのみでは秘密保持義務違反の状態が起きないから、本 件物件が価値のあるノウハウを使用したものであるとしても、そのことを理 由に本件物件そのものの使用、収益及び処分に制限を及ぼすことは、結局、 設備等の寄付を無意味ならしめるものであるといわざるを得ず、控訴人らの 上記主張は採用することができない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和2(ワ)12387

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令和3(ワ)11898  保証金返還請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年8月24日  大阪地方裁判所

秘密管理性が否定されて、営業秘密とは認められませんでした。

(1) 被告は、原告が、代理店としての業務の中で被告の営業秘密である本件各情 報を取得し、不正の利益を得る目的で、又は、被告に損害を加える目的で、これを 使用している旨主張する。 そこで、まず、本件各情報が営業秘密に当たるかを検討する。
(2) 本件各情報が被告の営業秘密であるというためには、本件各情報が、秘密と して管理され(秘密管理性)、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって (有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)が必要である(不正競争防止 法2条6項)。そして、秘密管理性が認められるためには、秘密としての合理的な 管理方法が採られており、管理の意思が客観的に認識可能であることを要すると解\nされる。
そこでまず、秘密管理性について検討すると、本件各情報が記載された文書には、 いずれも被告の秘密情報であることを明らかにする表示はなく、むしろ株式会社ワ\nンワールドの資料であるかのような表示がある(乙12〜14)。また、前記1の\nとおり、本件秘密保持契約の定めに従った秘密情報としての特定が行われた事実や、 原告と被告との間で本件各情報が秘密情報であることが前提とされていた事実は認 められない。加えて、本件情報1)は、原告が被告から直接取得したものではなく第 三者から入手したものであるが(争いがない。)、P1の証言からしても図面のど の部分が秘密情報かがあいまいであり、また、本件情報2)及び本件情報3)は、被告 の主張によっても、被告製品の納入先や販売代理店には提供され、被告の営業スタッ フもアクセスすることができたというのであって、本件各情報は、それ自体、秘密 情報としての認識可能性が低いと考えられる。その一方、原告が被告の秘密情報で\nある旨を認識可能であったことを根拠付ける具体的事情は見当たらない。そうする\nと、本件各情報につき、被告による管理の意思が客観的に認識可能であったとは認\nめられない。
また、管理方法につき、被告は、平成30年頃に本件規定を定め、本件各情報を 本件規定の「機密情報」として管理していた旨主張し、これを裏付けるものとする 証拠(乙15、16、19、証人P1)がある。しかし、本件規定には、作成日や 施行日の記載がなく、同年当時の代表取締役はP3であったと考えられる(甲2、\n証人P1)にもかかわらず、「代表取締役社長」として令和3年2月に就任したP\n4氏が記載されているなど、作成時期に関し不自然な点がある。仮に本件規定が平 成30年頃に作成されたとしても、本件各情報が本件規定に沿って管理されていた 旨のP1の証言は、その内容が抽象的である上、客観的な裏付けを欠くから、本件 各情報の具体的管理状況は明らかとはいえず、本件規定に従って「機密情報」とし て管理されていたことを認定することはできないし、他に被告の前記主張を裏付け る証拠はない。したがって、本件各情報が秘密として合理的な管理方法が採られて いたともいえない。
(3) 以上のとおり、本件各情報は、秘密として管理されていたとはいえず、被告 の営業秘密とは認められないから、原告が被告の営業秘密を使用して不正競争行為 を行った旨の被告の主張は理由がない。

◆判決本文

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令和2(ワ)8168  損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年1月26日  大阪地方裁判所

 漏れていたので追加します。つけまつげの装着方法について、秘密管理性無しと判断されました。なお、原告は本件「まつ毛エクステンション人工毛の装着方法」に特許を取得していました。

ア 「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)といえるためには、客観的に秘密 として管理していると認識できる状態にあることが必要であり、管理方法が 適切であって、管理の事実が認識可能であることを要すると解される。\nイ 前記(1)によると、本件では、本件秘密保持等契約書以外に営業秘密を具 体的に明示した文書はなく、原告が被告らに対し「ロングキープラッシュ」 の施術方法を教示するに際して本件特許出願の願書や明細書その他の添付 書類等を示しておらず、まつ毛エクステンションの装着方法に関して具体的 にいかなる範囲が秘密とされるのかを明らかにした書面もない。しかも、「ロ ングキープラッシュ」は、被告らの原告在職当時、原告の各店舗において、 不特定多数人に対して何らの制限もなく公然と施術されていた。また、まつ 毛エクステンションの業界においては、まつ毛エクステンションの装着方法 が全て秘密にされるわけではなく、新規の装着方法であっても、公開され、 他のアイリストに教授されることもあり、装着方法を秘密とするか否かや装 着方法のうち具体的にどこまで秘密にするかは、自明なものではない。 そうすると、本件秘密保持等契約書に規定された「特許技術」以外の本件 特許情報及び本件手技情報は、原告において適切に秘密として管理されてい たとはいえず、秘密として管理されているとは認識できない状態であったと いわざるを得ない。また、原告は、被告らに対し、「ロングキープラッシュ」 を教示したのであって、本件特許出願に係る願書等を示したわけではないか ら、本件秘密保持等契約書の「特許技術」は、その文言どおり、「ロングキー プラッシュ」についての本件特許情報、すなわち、本件特許情報のうち、地 まつ毛の上部に2本又は3本のフラットラッシュを装着し、地まつ毛の下部 に1本のフラットラッシュを装着する実施例に係る情報を意味するものと 解される。
そして、当該情報は、不特定多数の顧客に対して公然と施術される装着方 法であり、施術を受ければ視覚的に認識できるものであるから、やはり秘密 として管理されていたとはいえず、秘密として管理されているとは認識でき ない状態であったということになり、結局、本件秘密保持等契約書上の「特 許技術」も、不正競争防止法上の営業秘密とはいえない。 ウ 原告は、「ロングキープラッシュ」の技術は本件特許情報だけではなく、文 書化されていない非公開の手技があり、それを含めて営業秘密と指定し、秘 密保持契約を締結したので秘密管理性があると主張する。 しかしながら、原告の主張する文書化されていない非公開の手技について は何ら具体的な主張立証がなく、前記イのとおり、本件秘密保持等契約書の 対象は、本件特許情報のうち、地まつ毛の上部に2本又は3本のフラットラ ッシュを装着し、地まつ毛の下部に1本のフラットラッシュを装着する実施 例に係る情報であって、文書化されていない非公開の手技や本件付加情報は 含まれないから、採用できない。

◆判決本文

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令和3(ワ)4439  損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年2月21日  大阪地方裁判所

不競法2条1項7号の不正開示行為として、損害賠償を求めましたが、秘密管理性なしとして、請求棄却されました。

原告は、本件早見表及び本件情報につき、被告P1が小堀鐸二研究所との契\n約上、本件早見表の利用許諾の対象を原告のみとしようとしたこと、原告が小堀鐸\n二研究所との契約上、秘密保持義務を負っていること、本件早見表のデータを保有\nしていたのは限られた人間だけであったこと、外部への持出しが禁止されていたこ と、被告P1が原告代表者として、原告内部で本件情報を共有するにあたり、取扱\nいを十分注意するよう呼び掛けていたこと、個別の現場において本件早見表\を用い るにあたって必要箇所以外はマスキングしていたこと、富士ネット工業において秘 密として管理されていたことから、原告において秘密として管理されていたと主張 する。
しかしながら、証拠(甲9、10)によれば、原告と小堀鐸二研究所との契約は 非独占的利用許諾の形式がとられている上、本件早見表の利用許諾の対象が、当初\n「原告及び原告の登録会員」であったものが、「原告及び原告の協力会社」と修正 されたにすぎないから、この変更が何ら原告や被告P1が本件情報を秘密として管 理していたことを示すものとはいえない。また、小堀鐸二研究所との契約上、原告 が秘密保持義務を負っているとしても、原告が現実に本件情報を秘密として管理し ていたかどうかには直接の関連性がない。前記(1)ア及びエ認定のとおり、本件早 見表を保有していたのは13名ないし14名の原告の従業員のうち、主に営業を行\nう5名ほどの者であったことが認められるものの、業務上必要のある者が保有して いたというにすぎず、他の従業員のアクセスが制限されていたとは認められない。 また、本件早見表の外部への持出しが禁じられていたこと、被告P1が原告におい\nて本件情報の取扱いを十分注意するよう呼び掛けていたことについては、いずれも\n被告P1が否定しているところ、原告の主張を裏付ける客観的な証拠は全くない。
さらに、個別の現場において本件早見表を取引先等に示す場合に必要箇所以外がマ\nスキングされていたからといって、本件情報の一部を担当者の判断で第三者に自由 に開示していることに変わりはなく、これをもって原告が本件情報を秘密として管 理していたとはいえない。加えて、富士ネット工業における本件早見表や本件情報\nの管理体制は、原告において秘密として管理されていたかどうかとは関連性がな く、被告P1が富士ネット工業在籍時に、本件情報の取扱いを注意するよう求める メールを他の従業員に送信していたとしても、富士ネット工業退職後、原告を設立 してからも同様の行動をしたことが推認されるわけではないし、前記(1)エ認定の とおり、被告P1が富士工業ネット工業在籍中に、本件早見表のデータにつき、そ\nの取扱いや電磁的記録媒体の紛失に注意を促す以外に、アクセス制限や拡散防止の 措置を講じていたものとも認められない。 本件情報の内容についても、天井部材落下防止ネットを張る際のいくつかの仕様 の組合せにより各支持部にかかる想定荷重について構造計算をした結果が一覧でき\nるため、便利ではあるが、仕様が異なればそのまま利用することはできないもので あるし、第三者が一級建築士等に依頼して独自に同種の早見表を作成することが困\n難とまではいえないから、本件情報を営業秘密として管理すべき必要性が客観的に 高いとは解されない。 そして、前記認定のとおり、本件早見表のデータは、営業秘密であることの表\示 等の措置のないままに、原告の従業員らの使用するコンピュータや持ち運び可能な\n電磁的記録媒体に保存されていたものであり、その使用後も、情報漏洩を防止する 何らの措置も採られなかったことなどに鑑みると、これらの情報は、いずれも秘密 として適切に管理されているとはいえず、秘密として管理されていると客観的に認 識可能な状態であったともいえない。\nその他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用 できない。
ウ そうすると、その余の点について検討するまでもなく、本件情報は、秘密管 理性が認められず、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当しない。

◆判決本文

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平成30(ワ)33583  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 知的財産裁判例 令和4年1月28日  東京地方裁判所

 秘密保持契約に違反して、営業秘密を用いて製品を製造したとして、約610万円の損害賠償が認められました。損害額の計算には、競合する原告商品が存在する商品は5条2項が、そうでない商品は同3項が採用されています。

イ 不競法5条2項の利益の意義
不競法5条2項所定の不正競争行為により侵害者が受けた利益の額は, 侵害者が不正競争行為によって製造販売した製品の売上高から,侵害者に おいて同製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加 的に必要となった経費を控除した限界利益の額であると解すべきである。
ウ 売上高(限界利益の算定の対象とすべき製品の範囲)
(ア) 1)の製品について
1)の製品の売上高は,前記(1)アのとおりであり,合計4272万36 27円が限界利益の算定の対象とすべき売上高となる。
(イ) 2)の製品及び3)の製品について
a 被告は,1)の製品の売上高のみを対象として限界利益の算定をする のは相当でなく,2)の製品及び3)の製品に関する事情も考慮して,被 告製品の販売による限界利益の計算をすべきであると主張するので, 以下検討する。
b 3)の製品は,製造したが販売されなかった製品であり,前記(1)ウ (イ)のとおり,被告製品の販売を終了する直前の令和2年3月の無償提 供も1)の製品の販売と一体として行われたものとはいえないから,3) の製品の存在やその無償提供に関する事情を被告製品の販売による被 告の限界利益の算定に当たって考慮するのは相当でない。
c 2)の製品は,原価(原材料費)未満の額で販売した製品であるとこ ろ,被告は,このような廉価販売がされた事情について,前記第3の 4(被告の主張)(2)イ(イ)のとおり,新製品のプロモーション等のた めの値引き,レンタル事業者に販売する際の値引き,代理店又は販売 店を通じた販売の際の値引き,無料お試しキャンペーンの際の値引き, 被告製品販売中止の検討時期の在庫処分のための値引きなど,各種の 事情により,被告製品の販売開始当初から販売中止時期までにかけて 廉価販売を行ったと主張する。
しかしながら,上記の各事情によって,いつどの程度の値引きでど の程度の個数を廉価販売したのかについて,具体的な主張立証はなく, 2)の製品の値引きのうち,本件訴訟において原告が差止及び廃棄を請 求したこととは関係なく,1)の製品の販売に伴って不可避的に生じた といえるものがどの程度あったのかは,明らかでない。さらに,前記 (1)アのとおり,1)の製品は,被告製品1が1個当たり平均1万265 9円,被告製品2が1個当たり平均1万2653円で販売されたとこ ろ,前記(1)イのとおり,2)の製品については,被告製品1が4分の1 程度の平均3236円,被告製品2が6分の1程度の平均2020円 で販売されており,1)の製品との販売価格の乖離が大きいこと,被告 製品は廃棄請求の対象となるべきものであるところ,被告の主張を前 提としても,上記のとおり,2)の製品の販売には,本件訴訟が提起さ れた平成30年10月以降の時期に,在庫処分の趣旨で行われたもの があること,証拠(乙42,43)によれば,令和2年2月以降の被 告製品の販売のほとんどは廉価販売であり,同月及び同年3月には被 告製品が合計1640個販売されていると認められ,廉価販売された 被告製品2163個の中で,上記の販売終了に伴う在庫処分の趣旨で 行われたものが大部分であったと考えるのが自然であることも考慮す れば,2)の製品の販売について,1)の製品の販売と一体とみることは できないというべきである。したがって,被告製品の販売による不競 法5条2項の損害の算定に当たっては,2)の製品の販売を考慮せず, 1)の製品の販売のみを対象として被告の限界利益を算定するのが相当 である。
エ 限界利益の算定に当たって売上高から控除すべき経費について
(ア) 原材料費について
1)の製品についての原材料費が以下の金額であることは当事者間に争 いがなく,これは1)の製品の販売による限界利益の算定に当たり控除す べき経費である。
被告製品1 2512万4308円
被告製品2 504万3521円
(イ) 保管費について
証拠(乙61)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品の製造 後から出荷までの保管費用として,平成30年7月から令和2年3月末 日までの間に合計979万6000円を支出したものと認められる。こ のうち1)の製品に係る保管費用が,1)の製品の製造販売に直接関連して 追加的に必要となったものとして,限界利益の算定に当たり控除すべき 経費に該当する。
前記(1)ウのとおり,被告製品の総製造数は7553個であるから,1) の製品に係る費用の額は437万7267円(979万6000円×3 375個/7553個)と認められる。
(ウ) 販売サイト関連費,お問い合わせ窓口に係る費用及びインターネット広告費について
被告は,被告製品のネット販売のサイトに係る費用として合計115 8万5000円を,お問い合わせ窓口に係る費用として合計454万3 375円を,インターネット広告に係る費用として合計1676万79 26円をそれぞれ支出したと主張し,これらの額の請求に係る見積書 (乙62)及び請求書ないし買掛票(乙64)を提出する。 しかしながら,上記の見積書等に係る費用と被告製品の販売との具体 的な関連を示す証拠はなく,また,被告の主張を前提としても,上記の ような費用は,通常,製造販売される製品の個数の影響を受けて変動す ることが想定されないというべきであり,実際にそのような変動が生じ たと認めるに足りる証拠もない。したがって,被告の主張する上記の各 費用は,1)の製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったもの とは認められず,限界利益の算定に当たり控除すべき経費に該当すると はいえない。
(エ) 運搬費について
証拠(乙61)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品の出荷 に係る被告製品の運搬費として,平成30年7月から令和2年3月末日 までの間に合計911万7059円を支出し,そのうち,購入者が送料 を負担した分が78万0610円であったものと認められるから,これ を控除すると,被告が運搬費として実質的に負担した額は833万64 49円と認められる。このうち1)の製品に係る費用は,1)の製品の製造 販売に直接関連して追加的に必要となったものとして,限界利益の算定 に当たり控除すべき経費に該当する。 前記(1)のとおり,1)の製品の販売数は3375個,2)の製品の販売数 は2163個であるほか,3)の製品のうち無償で提供されたものが10 00個あり,証拠(乙68)によれば,その送料は被告が負担したもの と認められるから,上記の運搬費合計のうち,1)の製品に係る費用の額 は430万3382円(833万6449円×3375個/6538個) と認めるのが相当である。
被告は,運搬費として支出した総額は963万9427円であると主 張し,被告作成の「スマポ発送運賃」等の項目や金額が記載された書面 (乙57)には,被告製品に係る運賃の合計額につき同主張に沿う記載 があるが,同書面記載の運賃のうち,請求書(乙61)が提出されてい るものの額は合計911万7059円にとどまる。また,被告は,1)の 製品に係る運搬費の額について,1)の製品の販売数と2)の製品の販売数 のみを考慮して算定すべきと主張するが,3)の製品のうち無償で提供し たものの送料を上記請求書(乙61)とは別途支出したことを認めるに 足りる証拠はないから,1)の製品に係る費用の額は上記認定の限度で認 めるのが相当である。
原告は,上記請求書(乙61)には,被告製品以外のものに係る請求 が含まれているから,その点も考慮すべきであると指摘するが,当該請 求書の件名としてはいずれも「スマポ 保管発送」と被告製品の名称の みが記載されていること,項目として「南京錠 開梱 同梱」等の記載 があるのは被告製品の付属品の取り扱いに関する記載と考えられること からすれば,上記請求書に係る運搬費はその全体が被告製品に係る費用 と認めるのが相当であり,原告の指摘は上記認定を覆すに足りるもので はない。
(オ) 金型費について
証拠(乙46,65)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品 の製造のために新規に金型を製作し,その製作費用及び被告製品の製造 を開始するための改造費用として,被告製品1について金型製作費47 81万円及び金型改造費717万2000円の合計5498万2000 円を,被告製品2について金型製作費5181万8000円及び金型改 造費671万6000円の合計5853万4000円を,それぞれ支出 したことが認められる(総合計1億1351万6000円)。 被告は,上記の金型費が,被告製品の製造・販売のために直接必要と なった直接固定費であり,全額が経費として控除されるべきであると主 張する。
確かに,被告製品の金型は被告製品の製造のために新規に必要 となったものではあるが,証拠(甲33,53,乙30)及び弁論の全 趣旨によれば,被告製品のような樹脂製品の製造に用いる金型には30 万ないし40万回程度使用可能なものがあると認められ,これに対して,1)の製品の製造数は,被告製品1について2813個,被告製品2につ いて562個にすぎないから,金型費の全額が1)の製品の製造販売に直 接関連して追加的に必要となったものということはできない。被告は金 型を廃棄済みであり,今後の使用予定がないことからも金型費の全額を経費と認めるべきと主張するところ,証拠(乙52ないし54)によれ\nば,被告は令和2年2月に被告製品の金型を廃棄していると認められる ものの,本件訴訟における被告製品の生産の差止請求を受けて廃棄され たものと考えられ,本件全証拠によっても,上記の金型の製作当時から 被告製品が少数のみ生産される予定であったとの事情は認められないか\nら,被告製品の金型が廃棄されていることを考慮しても,金型費の全額 が1)の製品の限界利益の算定に当たり控除すべき経費に当たるというこ とはできない。
そして,上記の金型の使用可能回数(少ない方の数値を採用)に対して,1)の製品の製造数が,被告製品1では0.9%程度(2813個÷ 30万回),被告製品2では0.2%程度(562個÷30万回)である ことからすれば,上記の金型の一部は共通部品の金型として被告製品1 と被告製品2の双方に使用されるものであったこと(乙52)を考慮し ても,上記金型費のうち,1)の製品の製造販売に直接関連して追加的に 必要な費用として限界利益の算定に当たり控除すべき経費に該当するの は,その1%に相当する113万5160円(1億1351万6000 円×1%)と認めるのが相当である。
(カ) 経費控除後の限界利益の額
以上によれば,1)の製品の製造販売により,被告が受けた限界利益の 額は,前記ウ(ア)の1)の製品の売上高合計4272万3627円から,前 記(ア)の原材料費合計3016万7829円,前記(イ)の保管費のうち4 37万7267円,前記(エ)の運搬費のうち430万3382円及び前記 (オ)の金型費のうち113万5160円を控除した273万9989円で ある。
オ 推定覆滅事由について
(ア) 不競法5条2項における推定の覆滅については,不正競争行為に及ん だ侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と被侵害 者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解さ れる。そこで,以下,被告が主張する事情について,上記の推定覆滅事 由に該当するか否かを検討する。
(イ) 原告が原告製品を販売していないことについて
被告は,原告製品は(省略)が販売する製品であって,原告は(省略) から請負契約に基づき製造の対価としての報酬を支払われる関係にある にすぎず,被告製品の販売による原告の逸失利益とは,(省略)から支払 われる報酬が喪失したというものであり,被告製品の販売による被告の 限界利益とは性質を大きく異にするものであるから,不競法5条2項の 推定は全部覆滅されると主張する。 しかしながら,原告において,被告による被告製品の製造販売がなか ったならば利益が得られたであろうという事情が存在することは,前記 アのとおりであり,原告製品を販売しているのが(省略)であって,原 告製品の販売による原告の利益が,その本体部分の製造について(省略) から受ける報酬であるとしても,そのような原告の利益の額が被告製品 の販売による被告の限界利益の額と乖離していることについて,具体的 な主張立証はない。したがって,被告の主張する上記の事情をもって, 推定覆滅事由に当たるとは認められない。
(ウ) 広告宣伝の効果について
被告は,GoogleやYahooといった検索サイト等にバナー広 告やリスティング広告を設置しており,被告製品の販売による限界利益 のうち,最低でも28.8%は広告宣伝が寄与したものであるから,不 競法5条2項の推定は28.8%覆滅されると主張する。 しかしながら,本件証拠上,被告が行った上記の広告の具体的な内容 は明らかではなく,競合品の販売における広告と比較して,被告製品の 販売を特に促進するような広告宣伝がなされたといった事情も認められ ないから,被告が主張する被告製品に係る広告宣伝の効果をもって,推 定覆滅事由に当たるとは認められない。
(エ) 原告製品以外の競合品の存在について
被告は,被告製品には原告製品以外の競合品が存在しており,被告製 品が販売されなかったとしても,被告製品の購入者は,原告製品よりも 安い他の競合品を購入し,あえて原告製品を購入する者は現実的にはほ とんどいないと予想されるから,不競法5条2項の損害の推定は少なくとも9割が覆滅されると主張する。\n原告製品と被告製品とが,自宅の玄関前等に設置可能な後付け型の荷\n物受取用樹脂製宅配ボックスという点で同種の製品であり,価格の違い にかかわらず,市場において競合する製品といえることは,前記アのと おりであるところ,被告製品が販売されていた平成30年7月から令和 2年3月までの間において原告製品以外の同種商品が販売されていた状 況やそのシェアについて,具体的な主張立証はない。したがって,被告 が主張する原告製品以外の競合品の存在についても,推定覆滅事由に該 当するとは認められない。
(オ) 以上によれば,1)の製品の製造販売による原告の損害について,不競 法5条2項の推定を覆滅すべき事情が存在するとは認められない。
カ 小括
よって,不競法5条2項によって算定される原告の損害額は,被告製品 のうち1)の製品の販売のみを対象とした被告の限界利益である273万9 989円と認められる。
(3) 不競法5条3項による損害額について
ア 不競法5条3項による損害額は,原則として,営業秘密を使用した侵害 品の売上高を基準とし,そこに営業秘密の使用に対し受けるべき料率を乗 じて算定するのが相当であるが,2)の製品については廉価販売がされ,3) の製品については無償提供又は廃棄がされており,同項の適用の可否及び 算定方法に争いがあることから,以下,まず,1)の製品についての同項に よる損害額を検討し,さらに,2)の製品及び3)の製品について,同項の適 用の可否及び適用される場合の算定方法について検討する。
イ 1)の製品についての不競法5条3項による損害額
(ア) 侵害品の売上高
1)の製品についての売上高は,前記(1)アのとおり,被告製品1につい て3561万2239円(販売数2813個),被告製品2について71 1万1388円(販売数562個)の合計4272万3627円である。
(イ) 使用料率について
a 使用料率の認定方法
不競法2条1項7号及び10号に係る営業秘密の使用及びこれによ って生じた侵害品の譲渡に対して受けるべき料率は,1)当該営業秘密 の実際の使用許諾契約における使用料率や,それが明らかでない場合 には業界における使用料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該営業秘密 自体の価値すなわち営業秘密の内容や重要性,他のものによる代替可 能性,3)当該営業秘密を製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献 や侵害の態様,4)営業秘密保有者と侵害者との競業関係や営業秘密保 有者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率 を定めるべきである。
b 使用料率の認定
(a) 原告による使用許諾の実績について
前記2(1)のとおり,本件データは本件新製品の最終試作品の製作 のための3Dデータであるところ,弁論の全趣旨によれば,原告が 本件データについて他社に使用許諾をしたことはないものと認めら れる。 また,原告が,他社に対して同種の3Dデータの使用を有償で許 諾した事例の有無や,その際の許諾の対価についての主張立証はな い。
(b) 原告による「設計費」等の請求について
証拠(乙1,2,30ないし35)及び弁論の全趣旨によれば, 原告は,通常,他社から受注を受けて樹脂製品を製作する場合に, CADの図面の製作費用を独立に請求することはなく,受注する製 品価格や製造のための金型価格を含めた全体で利益を確保するとの 方針を取っていること,本件新製品の製造については,当初原告に 製品と金型の発注がされる予定であったところ,本件新製品の開発協議の中で,金型を被告が調達することが検討され,その場合には\n原告に設計費を支払うことが協議されたこと,その後,原告におい て金型を調達する場合にも設計費を支払うよう原告が求めたこと, 原告は,前記1(14)のとおり,本件プロジェクトの終了後の平成2 9年10月に,本件新製品の「設計費」として203万2800円 のほか,「機会損失額」として1496万円の合計1699万280 0円を請求したが,当該支払について原告と被告間で合意に至らな かったこと,原告は,上記の「設計費」及び「機会損失額」の請求 に当たり,「設計費」については「設計工数:6,500円/H×2 96H=1,924,000円」,「モックアップ作成費:54,4 00円×2個=108,800円」と記載し,296時間分の設計 工数とモックアップ作成に要した費用の合計として合計203万2 800円を請求する旨を説明しており,「機会損失額」の算定根拠と して「製品:1,600セット/月×12カ月×2,600円× 5%×5年=12,480,000円」,「金型:49,600,0 00×5%=2,480,000円」の合計1496万円を請求す る旨を説明していたことが認められる。
上記の「設計費」及び「機会損失額」の請求は,その経緯からす れば,本件新製品について原告に製品と金型の発注がされる予定であり,原告はそれによる収益を見込んでいたところ,被告から原告\nへの発注がなくなったため,原告が作成した本件データを被告が使 用することの対価も含めて,原告への発注によって原告が得られた 利益に相当する額を算定し,その額を請求したものと認められる。 原告の上記請求内容は,被告との間で最終的な合意には至らなかっ たものの,本件訴訟前における原告の提案内容という限度で,本件 データの使用についての使用料率の算定の参考とすることができる というべきである。
被告は,本件データの使用料相当額について,上記の「設計費」 である203万2800円が上限である旨主張するが,上記のとお り,「設計費」のほか,併せて請求された「機会損失額」にも本件デ ータの使用の対価は含まれていたというべきであるから,原告の提 案内容として「設計費」の額のみを考慮するのは相当でなく,被告 の上記主張は採用することができない。 また,被告は,「機会損失額」の算定に当たり,上記のとおり「1, 600セット/月×12ヶ月×2,600円×5%×5年=12, 480,000円」との計算が示されていたことから,本件データ の使用料相当額について,被告製品1及び被告製品2の1セット当 たり130円(2600円×5%)が使用料相当額の最大値となる 旨も主張する。しかしながら,原告の「機会損失額」の提案は,本 件新製品について,原告が被告から受注する数を合計9万6000 個(1600個×12か月×5年)と想定した上で,1個当たりの 原告の損失を130円(2600円×5%)として算定しているも のであるが,被告製品の製造販売個数に応じて1個当たり130円 を支払うよう請求していたものではなく,また,「機会損失額」とし ては更に金型の受注についての機会損失額248万円を請求し,「設 計費」も併せて請求していたものである。そうすると,「機会損失額」 の算定根拠についての原告の説明内容から,被告製品の製造販売に ついての使用料相当額が1台当たり130円に限られるということ にはならず,被告の上記主張は採用することができない。
(c) 業界における使用料の相場等について
前記(a)及び(b)のとおり,本件データの使用許諾については,こ れを含む趣旨の原告から被告に対する訴訟前の提案があるにとどま り,原告の使用許諾の実績はないため,本件データの使用料率の算 定に当たっては,業界における使用料の相場等を考慮すべきである。 そして,本件報告書には,「技術ノウハウ」についてのロイヤルテ ィ料率の相場等について,アンケート調査結果として,技術分類の うち「成形」の分野においては,ロイヤルティ料率の平均値が3. 8%(最大値14.5%,最小値0.5%,標準偏差3.2%)で あることが記載されており,本件報告書以外に,本件データのよう なCADシステムのデータの使用許諾についての一般的な相場を示 す証拠は双方から提出されていないから,本件報告書に記載された 上記のロイヤルティ料率を本件データの使用料率の算定に当たって 考慮するのが相当である。
・・・
(f) 使用料率の認定
以上によれば,合理的な使用料率の算定に当たっては,前記(c)の 本件報告書に記載されたロイヤルティ料率の相場(平均値3.8%, 最大値14.5%,最小値0.5%,標準偏差3.2%)を考慮す べきであり,さらに,前記(d)の本件データの被告製品による利益へ の貢献や本件データの代替可能性,前記(e)の原告と被告とが競業関 係にあること,前記(b)の本件訴訟前の原告の提案内容といった事情 を総合考慮すれば,不正競争行為をした者に対して事後的に定めら れる,本件データの使用に対して受けるべき使用料率については, 6%と認めるのが相当である。
原告は,本件報告書について最大でロイヤルティ料率を14. 5%とする例があったことを指摘するが,本件報告書における平均 値は3.8%であり,前記(d)のとおり,本件データが同種製品の製 造に必須で代替不可能なほど重要なものであるとまではいえないことからすれば,本件報告書における最大値を基準とすべきとはいえ\nない。
(ウ) 使用料相当額
a 1)の製品についての使用料相当額を算定すると,前記(ア)の売上高合 計4272万3627円の6%に相当する256万3417円と認め られ,これが不競法5条3条による損害額となる。
b 前記aの使用料相当額の内訳は,被告製品1について213万67 34円(3561万2239円×6%),被告製品2について42万6 683円(711万1388円×6%)となり,被告製品1の販売数 が2813個,被告製品2の販売数が562個であるから,製品1個 当たりの使用料相当額を算定すると,次のとおり,被告製品1と被告 製品2のいずれについても759円となる。
213万6734÷2813個≒759円
42万6683円÷562個≒759円
ウ 2)の製品についての不競法5条3項による損害額
(ア) 1)の製品を対象として不競法5条2項による損害を算定する場合に, 2)の製品に同条3項を適用できるかについて
被告は,1)の製品を対象として不競法5条2項による損害を算定する 場合に,別途2)の製品について不競法5条3項による損害を算定して, これらを合算することは,填補賠償の原則に反して許されないと主張す る。 しかしながら,前記(2)ウのとおり,2)の製品の販売は,1)の製品の販 売と一体のものとして行われたものとはいえず,1)の製品の販売のみに 基づいて不競法5条2項による損害額を算定することは認められるとい うべきであるから,同項による損害の算定において対象となっていない 2)の製品について同条3項によって損害額を算定し,これと1)の製品に ついて同条2項により算定した損害額を合算しても,算定の対象とされ た製品が異なっている以上,損害を二重に評価していることにはならず, 填補賠償の原則に反するということにはならない。したがって,そのよ うな算定方法を採用することも認められるというべきである。
(イ) 2)の製品についての損害の算定方法について
2)の製品についての実際の売上高は,前記(1)イのとおりであるが,前 記(2)ウ(イ)cのとおり,2)の製品は平均すると1)の製品の販売価格の5 分の1程度の大幅に値引きされた額で販売されており,また,2)の製品 の販売については,被告製品の販売終了に近い時期に,在庫処分の趣旨 で行われたものが大部分であったと考えられる。さらに,このような在 庫処分の趣旨での廉価販売が,当裁判所により被告の行為が不正競争に 該当する旨の心証が開示された後に行われたことは当裁判所に顕著であ るから,2)の製品の販売の大部分については,本件訴訟における差止め 及び廃棄請求の対象となることを免れる意図に基づいて不相当な廉価に よってされたものと疑われてもやむを得ないというべきである。 しかも,2)の製品の販売は,営業秘密である本件データを使用して被 告製品を製造し,一般消費者向けに譲渡するものであり,その結果,被 告製品が原告製品と競合する市場に出回ってしまうことから,原告が相 当な使用料の支払なくそのような行為を許諾することはないという点に おいて,1)の製品の販売と共通している。 以上の事情を考慮すれば,2)の製品の販売について,原告が受けるべ き金銭の額を事後的に定めるに当たっては,前記(1)イの大幅に値引きさ れた実際の売上高に前記イ(イ)の使用料率を乗じて算定するのは相当では なく,被告製品1個の販売につき,1)の製品を1個販売した場合と同額 の使用料(前記イ(ウ)bのとおり,被告製品1と被告製品2のいずれにつ いても759円)をもって使用料相当額を算定するのが相当というべき である。なお,原告が主張する,2)の製品の売上高について,2)の製品 の1個当たりの販売価格を1)の製品の1個当たりの販売価格と同額とし て算定すべきとの算定方法も,これと同趣旨をいうものと解される。
(ウ) 使用料相当額
2)の製品についての使用料相当額を算定すると,1個当たりの使用料 相当額759円に,前記(1)イの2)の製品の販売個数(被告製品1につき 774個,被告製品2につき1389個の合計2163個)を乗じた1 64万1717円と認められ,これが不競法5条3条による損害額とな る。
エ 3)の製品についての不競法5条3項による損害額
(ア) 1)の製品を対象として不競法5条2項による損害を算定する場合に, 3)の製品に同条3項を適用できるかについて
被告は,1)の製品を対象として不競法5条2項による損害を算定する 場合に,別途3)の製品について不競法5条3項による損害を算定して, これらを合算することは,填補賠償の原則に反して許されないと主張す るが,しかしながら,前記(2)ウのとおり,3)の製品については,無償譲 渡された分を含めて1)の製品の販売と一体のものとはいえないから,前 記ウ(ア)と同様に,1)の製品の販売のみに基づいて不競法5条2項による 損害額を算定する場合に,同項による損害の算定において対象となって いない3)の製品について同条3項によって損害額を算定することも認め られるというべきである。 (イ) 3)の製品についての損害の算定方法について 前記アのとおり,不競法5条3項による損害は,原則として,侵害品 の売上高を基準とし,そこに営業秘密等の使用に対し受けるべき料率を 乗じて算定すべきところ,3)の製品については,販売されていないから, 売上高は存在しない。 しかしながら,被告は,前記(1)ウのとおり,被告製品の販売を終了す る直前の令和2年3月の時期に,3)の製品について,少なくとも,被告 製品1を1000個無償提供したことが認められるところ,当該無償提 供は,営業秘密である本件データを使用して被告製品を製造し,一般消 費者向けに譲渡することにより,被告製品が原告製品と競合する市場に 出回ることから,原告において相当な使用料の支払なく許諾することは ないという点において,1)の製品の販売と共通している。 しかも,その無償提供がされた時期が当裁判所により被告の行為が不 正競争に該当する旨の心証が開示された後であることは当裁判所に顕著 であり,本件訴訟における差止め及び廃棄請求の対象となることを免れ る意図によるものと疑われてもやむを得ないというべきである。 以上の事情に照らすと,被告による上記の行為に対し原告が受けるべ き金銭の額を事後的に定める場合には,3)の製品1個の無償提供につき, 1)の製品(被告製品1)を1個販売した場合と同額の使用料759円 (前記イ(ウ)b)をもって使用料相当額を算定するのが相当というべきで ある。
原告は,3)の製品全体が無償提供されたとして,3)の製品全体につい て不競法5条3項の損害の算定の対象とすべきと主張するが,無償提供 されたと認められるのが被告製品1の1000個に限られることは前記 (1)ウ(イ)のとおりであり,3)の製品のうちそれ以外のものについては, 既に廃棄済みであるか,本件訴訟における廃棄請求の対象となるものと 考えられるから,これを不競法5条3項の損害の算定の対象とするのは 相当ではなく,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 使用料相当額
3)の製品についての使用料相当額を算定すると,被告製品1の1個当 たりの使用料相当額759円に,前記(1)ウ(イ)の無償譲渡された3)の製 品の個数1000個を乗じた75万9000円と認められ,これが不競 法5条3条による損害額となる。
(4) 弁護士費用等を含めた損害のまとめ
ア 1)の製品について不競法5条2項,2)の製品及び3)の製品について不競 法5条3項を適用した損害額(原告の主位的主張)について 1)の製品についての不競法5条2項による損害額は前記(2)カの273万 9989円,2)の製品及び3)の製品についての不競法5条3項による損害 額は前記(3)ウ(ウ)及び同エ(ウ)を合算した240万0717円であり,被告 製品全体についての損害額は514万0706円である。
イ 被告製品全体について不競法5条3項を適用した損害額(原告の予備的主張)について\n
被告製品全体について不競法5条3項による損害額は,前記(3)イ(ウ)a, 同ウ(ウ)及び同エ(ウ)を合算した496万4134円である。 これは前記アの額を下回るから,被告が賠償すべき額は前記アの額に基 づいて算定する。

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令和2(ワ)21047 不正競争  民事訴訟 令和4年10月5日  東京地方裁判所

営業秘密として保護されると認定しつつも、適法にそれを取得し、それを格納したUSBメモリを所持しているだけであれば、不正競争行為に該当しないと判断されました。一部の請求は却下、残りは棄却です。

以上を踏まえて検討するに、原告においては、就業規則により、従業 員に対し、原告の許可なく原告の機密、ノウハウ等に関する書類等を私 的に使用したり、複製したり、原告の施設外に持ち出してはならない義 務を課し、行動規範にも同様の定めがあり、被告が原告を退職するに当 たっては、被告から本件誓約書を徴求しており、原告が情報の管理を徹 底しようとしていたものであり、そのことを従業員も認識可能であった\nということができる。そして、本件ファイル1ないし6には、原告又は 原告を含むグループ会社の販売数量、売上げ、単価、利益率、顧客名等 の、原告の事業遂行に関わる情報が詳細かつ網羅的に記載されていると ころ、これらの情報が他社に知られれば、原告の市場における競争力に 大きな影響を与えかねないことは明らかであるから、上記の各情報が就 業規則等による管理の対象となっていたことも、従業員に認識可能であ\nったといえる。その上で、原告の従業員は、ネットワーク管理システム により管理されたID及びパスワードを入力しなければ、貸与されたパ ソコンにログインすることができず、SharePointを含む原告\nの社内ネットワークにもログインすることもできなかったものであり、 このSharePoint上の電子データは、これを取り扱う部門に属 する従業員のみがアクセスすることができるように設定されており、本 件ファイル1ないし6は、このようなSharePoint上に管理さ れていたものである。
そうすると、原告は、パソコンを貸与し、ID及びパスワードを付与\nした従業員で、かつ、本件ファイル1ないし6を取り扱う部門に属する 者のみに、これらのファイルに対するアクセスを許可し、原告の従業員 は、就業規則等や本件ファイル1ないし6の内容からして、これらのフ ァイルを原告の外部に持ち出すことが禁止されていることを認識するこ とができたといえるから、本件ファイル1ないし6は秘密として管理さ れていたと認めるのが相当である。
(イ) これに対して、被告は、1) 同じビジネスユニット内での異動であれば、 従前所属していた部署のフォルダに継続してアクセスすることができ、 原告はSharePointのアクセス権限を適切に管理していなかっ たこと、2) SharePoint上で管理されていた情報も、その性質 や機密性の程度等は様々であり、「秘密」や「Confidentia l」等の秘密情報であることを示す記載のないものも多数あった上、S harePoint上で管理されている電子データをプリントアウトし たり、貸与されたパソコンに保存したりすることは禁止されていなかっ\nたことから、本件ファイル1ないし6が秘密として管理されていたとは 認められないと主張する。しかし、上記1)については、別の部署に異動した後も、業務上、従前所属していた部署のフォルダにアクセスする必要があることも十分考え\nられ、これをもって、直ちに、原告がSharePointのアクセス 権限を適切に管理していなかったということはできない。また、上記2)については、そのような事情があったとしても、前記(ア)で説示した原告における秘密管理に関する体制並びに本件ファイル1ないし6の内容及びこれらに対して施されていた具体的措置に照らせば、本件ファイル1ないし6について、秘密として管理されていたことが否 定されるものではないというべきである。
・・・
(1) 原告は、被告が、営業秘密である本件ファイル1にアクセスすることがで きなかったにもかかわらず、転職先であるSUDARSHAN社で利用する ことを想定して、本件ファイル1を取得するために、本件プロジェクトを手 伝うと説明するなどの不正の手段によって、Cからこれを取得したものであ るから、不競法2条1項4号の不正競争に該当すると主張する。
しかし、前記1(2)、(3)、(5)及び(6)のとおり、被告がCから本件ファイ ル1を受領したのは令和元年9月2日であり、被告が本件プロジェクトに参 加することになったのは同日頃と考えられるところ、被告がBからSUDA RSHAN社への転職を勧誘された同年8月頃から間もない時期であるし、 実際に被告がSUDARSHAN社と雇用契約を締結したのは、被告が本件 ファイル1を受領してから約1か月半が経過した同年10月15日であるこ とからすると、被告が本件プロジェクトに参加することになった同年9月2 日頃の時点において、被告がSUDARSHAN社に転職することが決まっ ていたとは認められない。このことは、被告が、同月頃、原告の一部の従業 員に対し、SUDARSHAN社への転職を勧誘していたこと(前記1(4)) を考慮しても、同様である。
また、被告が原告から本件プロジェクトに参加するよう指示されたことを 認めるに足りる証拠はないものの、前記1(1)及び(2)のとおり、本件プロジ ェクトは、プラスチックに係る売上げを拡大するために市場の調査分析を行 うものであり、被告が属するマーケティング部門は、顔料事業部門全体の活 動を強化するために設けられた部署で、市場情報を網羅的に収集すること等 の業務を担っていたことからすると、被告が本件プロジェクトに関わること は不自然であるとはいえない。原告代表者(当時は、顔料ビジネスユニット\nの統括責任者)も、被告が本件プロジェクトに多少なりとも関わっているこ とを知りながら、特段注意をしていなかったものと認められる(原告代表者\n本人)。
以上の事情に照らして検討すれば、被告が、原告のプラスチック部門に係 る営業秘密を持ち出し、転職先であるSUDARSHAN社にて使用するな どするために、Cに対して本件プロジェクトを手伝う旨を申し出たと認める\nことはできないというべきであり、他に、被告が不正の手段により本件ファ イル1を取得したことを基礎付ける事情を認めるに足りる証拠はない。したがって、被告が不正の手段により本件ファイル1を取得したとは認められない。
(2) なお、前記1(7)のとおり、被告は、令和元年10月28日、Cから送信さ れた本件ファイル1を、更に自らの私的なメールアドレスに送信している。 しかし、上記のとおり、被告がCから本件ファイル1を受領したことは、 不当な手段によるものとは認められないこと、被告は、本件ファイル1を自 らの私的なメールアドレスに送信したにすぎず、被告の支配下にあるという 状況を変更したものではないこと、被告がいかなる目的で当該送信を行った のかは明らかでないが、本件ファイル1の内容(前記2(1)ア(ア))からする と、マーケティング部門に所属し、同年11月18日までは原告に出勤して いた被告(前記1(1)及び(10))において、本件ファイル1を使用することが 業務上必要でなかったとまではいえないことからすると、上記送信行為も不 正の手段に該当するとは認められないというべきである。
(3) したがって、原告の本件ファイル1に係る不競法2条1項4号並びに3条 1項及び2項に基づく請求は理由がない
・・・
(2) そして、前記前提事実(3)のとおり、本件誓約書の「秘密情報」とは、「会 社又はその関連会社が所有又は使用している経済的に価値のあるすべての専 有情報で、公に知られていないもの」をいうところ、本件ファイル1ないし 6は、前記2(1)のとおり、「営業秘密」(不競法2条6項)に該当すること に鑑みると、本件誓約書の「秘密情報」にも該当すると認めるのが相当であ る。他方で、本件情報7ないし13については、具体的にいかなる内容である かが明らかでなく、また、電子データ、書類等のいかなる形で記録されてい たかも明らかでないから、本件誓約書の「秘密情報」に該当するとは認めら れない。したがって、被告は、原告に対し、本件秘密保持契約に基づき、原告の許 可なく、本件ファイル1ないし6を開示し、又は使用しない義務を負う。
(3) ところで、被告が、現時点までに、本件ファイル1ないし6を開示し、又 は使用したことを認めるに足りる証拠はないことからすると、原告の本件秘 密保持契約に基づき本件ファイル1ないし6の使用等の差止めを求める請求 は、将来における被告の不作為を求める訴えと解すべきであるから、「あら かじめその請求をする必要がある場合」(民事訴訟法135条)に該当する と認められなければならない。
まず、本件ファイル1については、前記1(7)のとおり、被告は、これを自 らの私的なメールアドレスに送信しているが、被告は、同メールアドレスの 利用に係る契約を既に解約し、本件ファイル1を含む電子データにアクセス することはできないと供述しており、これに反する証拠は見当たらない。そ うすると、被告に対して、あらかじめ本件ファイル1の開示又は使用の差止 めを請求する必要があるとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠は ない。
また、本件ファイル2ないし6については、前記4のとおり、被告がこれ らを取得したとは認められず、使用し又は開示したとも認められないから、 やはり、被告に対してあらかじめ開示又は使用の差止めを請求する必要があ るとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(4) 原告は、本件秘密保持契約に基づき、本件ファイル1ないし6が記録され た文書及び電磁的記録媒体(別紙物件目録記載1及び2の各USBメモリを 除く。)の廃棄を求めている。
しかし、本件誓約書の記載を精査しても、これによって締結された本件秘 密保持契約上、被告が原告に対してこのような廃棄義務を負うと解すること はできないし、他に、被告が原告に対して廃棄義務を負う旨の合意が成立し たことを認めるに足りる証拠はない。
(5) 以上によれば、本件秘密保持契約に基づき被告に対して本件ファイル1な いし6を使用し、又は、第三者に開示若しくは使用させてはならないことを 求める部分は、訴えの利益を欠くから不適法である。そして、原告の本件秘 密保持契約に基づくその余の請求は、いずれも理由がない。
6 争点6(被告に本件USBメモリが譲渡されたか)について
(1) 証拠(乙2、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、1) 原告は、販売促進 のために顧客に配布するグッズとして、ボールペン、付箋、傘、水筒等を用 意しており、その中に、販促用USBメモリがあったこと、2) 原告は、これ らの販促用品について、配布した数量や配布先等の管理をしていなかったこ と、3) 原告の従業員はこれらの販促用品のうち余ったものを自由に使用して おり、原告が当該従業員に対して当該販促用品を返還するよう求めたことは 一度もなかったこと、4) 被告は、平成30年頃から、本件USBメモリを使 用していることが認められる。
上記認定事実のとおり、本件USBメモリを含む販促用USBメモリは、 顧客に無償で譲渡する販促用品の一つであるから、さほど高価なものとは考 えられず、原告の従業員は、余った販促用品を自由に使用しており、原告は これに異議を述べていなかったこと、被告は、SUDARSHAN社への転 職を決意したときより前から、本件USBメモリを使用しており、原告は、 他の従業員に対するのと同様に、原告において勤務する被告に対して本件U SBメモリの使用に異議を述べていないことからすると、被告が本件USB メモリの使用を開始したときに、原告と被告との間で、被告に対して本件U SBメモリを無償で譲渡する合意が成立したと認めるのが相当である。 (2) これに対して、原告は、販促用USBメモリは、あくまで販売促進のため に顧客に配布して利用することが前提となっており、従業員が私物として利 用することは予定されておらず、原告の就業規則上、従業員は会社の施設及\nび物品を会社の許可なく私的に使用してはならないとされていると主張する。 しかし、前記(1)の原告における販促用USBメモリの管理や使用の実態か らすると、原告が指摘する上記各事情は、前記(1)の認定の妨げになるものと はいえない。

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令和4(ネ)574  損害賠償請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和4年9月30日  大阪高等裁判所

 営業秘密であるとの控訴人(1審原告)は主張しましたが、1審と同じく「営業秘密」に該当しないと判断しました。

控訴人において、上記コンピューターにログインできる従業員を被控訴人P1 のみに限るとの規制はなく、上記ログインパスワードは、西脇支社の従業員 には周知のものであり、被控訴人P1を除く西脇支社の従業員もこれを知って いた。
・・・
控訴人の就業規則第31条(12)(甲16)には、控訴人の「内外を問わず、 在職中または退職後においても、」控訴人、「取引先等の機密、機密性のあ る情報、企画案、ノウハウ、データ、ID、パスワード、および会社の不利 益となる事項を他に開示、漏洩、提供しないこと、またコピー等をして社外 に持ち出さないこと。」と規定する服務心得があり、控訴人は、被控訴人P1 の入社時に同被控訴人から誓約書(甲17)を徴求しているものの、その内 容は上記就業規則を遵守する旨の内容にとどまるものである。そして、控訴 人において、被控訴人P1に対し、見積書記載の本件顧客情報及び本件価格情 報が、上記規定の対象になることはもとより、これら情報を含む見積書記載 の情報が営業秘密であることに関する注意喚起がされたことはなく、また取 引案件ごとに作成される見積書の取扱いに関する研修等の教育措置が行われ たこともない。
・・・
控訴人本社が直接発注業者に見積書を送付 する場合は、西脇支社に見積書がファックスで参考送信されることもあった が、そうした見積書の紙媒体の取扱いについては、控訴人において保管場所 や廃棄方法が定められていたとの事実はない。
・・・
「控訴人本社から本件見積書のデータが送信され、保存される西脇支社のコン ピューターにはログインパスワードが設定されていたが、控訴人において、 上記コンピューターにログインできる従業員を被控訴人P1のみに限るとの規 制はなく、被控訴人P1を除く西脇支社の従業員も上記ログインパスワードを 知っていた。

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令和2(ワ)3481  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和4年1月20日  大阪地方裁判所

 顧客情報および見積書の価格情報について、秘密管理性無しとして営業秘密に該当しないと判断されました。

ア 「営業秘密」(法2条6項)といえるためには,当該情報が秘密として管理 されていることを要するところ,秘密として管理されているといえるためには,秘 密としての管理方法が適切であって,管理の意思が客観的に認識可能であることを\n要すると解される。 これを本件見積書記載の情報について見るに,前記各認定事実のとおり,本件見 積書には営業秘密である旨の表示がなく,そのデータにはパスワード等のアクセス\n制限措置が施されていなかった。また,原告において,業務上の秘密保持に関する 就業規則の規定はなく,被告P1との間で見積書の内容に関する秘密保持契約等も 締結等していなかった。原告は,発注者との間においても見積書の内容に関する秘 密保持契約を締結していなかった。さらに,原告は,見積書記載の情報が営業秘密 であることなどの注意喚起も,その取扱いに関する研修等の教育的措置も行ってい なかった。本件見積書のデータ管理の点でも,原告は,見積書の使用後にデータを 西脇支社のコンピュータから削除するよう指示しなかった。 このような本件顧客情報及び本件価格情報その他本件見積書記載の情報の管理状 況に鑑みると,当該情報は,原告の企業規模等の具体的状況を考慮しても,原告に おいて,特別な費用を要さずに容易に採り得る最低限の秘密管理措置すら採られて おらず,適切に秘密として管理されていたとはいえず,また,秘密として管理され ていると客観的に認識可能な状態にあったとはいえない。\nしたがって,本件見積書記載の情報は秘密として管理されていたとはいえない。
イ 原告は,本件見積書記載の情報につき,原告代表者が一元的に管理し,その\n了承がなければ従業員や外部業者に対して明らかにされないから,秘密として管理 されていたと主張する。 しかし,前記認定のとおり,本件見積書の各データは,パスワードによる保護等 の措置のないままに,発注者に交付されるべきもの又は参考として被告P1にメー ルにより送信されたものであり,その使用後も,情報漏洩を防止する何らの措置も 採られなかったことなどに鑑みると,これらの情報は,いずれも秘密として適切に 管理されているとはいえず,秘密として管理されていると客観的に認識可能な状態\nであったともいえない。 その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用 できない。
ウ そうすると,その余の点について検討するまでもなく,本件顧客情報及び本 件価格情報は,「営業秘密」に該当しない。

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平成30(ワ)35263  損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和3年9月29日  東京地方裁判所

原告のデータは、営業秘密であるとは認定されましたが、被告がそれを用いたとの事実を認める証拠がないと判断されました。

(1) 秘密管理性
ア 本件データは,気圧の上限・下限,加圧(減圧)に要する時間,チャン バー内を一定の気圧に保っている時間,排気時間及び動作の繰返しの回数 等を内容とし,これらの数値に基づいて酸素チャンバー内の気圧を昇降さ せるためのものであり,本件酸素チャンバーの制御装置内に設置された媒 体に記録されているものであると認められる(原告代表者〔10,11頁〕),\n弁論の全趣旨)。
イ 本件データの上記内容に照らすと,同データは酸素チャンバーの作動を 制御する上で中核をなすものであり,その秘密性は高いと考えられるとこ ろ,証拠(甲2,3,9,11,15,原告代表者〔2,6,23頁〕)\nによれば,1)原告製の酸素チャンバーは,その出荷前に,制御装置内の特 定の箇所をジャンパー線で接続し導通させることにより,本件データ等を 読み出せないようロックがかけられており,それ以降,原告社内でこれに アクセスできるのは,原告代表者のほか限られた人数の役員等であったこ\nと,2)原告の従業員には就業規則第5条(5)により守秘義務を課せられて いたこと,3)原告は,本件データを含む制御装置一式の製作を委託してい た協立電機との間で機密保持契約を締結しており,本件データは同契約第 1条の「秘密情報」に該当すると考えられること,4)原告製の酸素チャン バーの販売代理店であった被告会社も本件データの変更は自由にできな かったこと,5)原告製の酸素チャンバーを購入した顧客も本件データにア クセスすることはできなかったことの各事実が認められ,これを覆すに足 りる証拠はない。 このように,原告社内においても本件データにアクセスすることのでき る者は限られており,取引先等についても秘密保持義務が課せられ,ある いは本件データへのアクセスができない状態とされていたことに照らす と,本件データは原告において秘密として管理されていたというべきであ る。
ウ(ア) これに対し,被告らは,原告が主張するロックの内容は明らかではな く,また,全国的に販売されている原告製の酸素チャンバーの納品や修 理の作業を支障なく行うには本件データの内容を原告の従業員等が知っ ていることが必要であったと主張する。 しかし,原告の主張するロックの内容は上記イ1)のとおり十分に具体\n的であり,かかる措置を講じてもなお本件データへのアクセスが可能で\nあることをうかがわせる証拠はない。また,原告の従業員が,原告製の 酸素チャンバーの納品を行い,あるいは同製品の修理を行うために本件 データにアクセスすることが必要な事例が日常的に生じていたことをう かがわせる証拠はなく,原告製の酸素チャンバーが全国に販売されてい たとしても,そのことから,原告従業員が本件データにアクセスするこ とができたとの事実を推認することはできない。
(イ) また,被告らは,原告との間で,本件データを対象とする秘密保持契 約を締結したことはなく,本件販売代理店契約の契約書(甲3)をみて も,原告製の酸素チャンバー全てについて原告又は原告が委託した者が 修理をする旨の規定はないと主張する。 しかし,上記イ4)のとおり,被告会社が本件データを自由にアクセス し,これを変更し得たことを示す証拠はないことに照らすと,被告会社 との間で本件データは秘密として保護されていたというべきである。ま た,被告会社又は原告の委託者が原告製酸素チャンバーを修理すること があったとしても,これらの業者が本件データにアクセスすることがで きたことをうかがわせる証拠はない。 そうすると,本件データは,被告会社及び原告製酸素チャンバーの修 理を行う業者との間においても,秘密として管理されていたというべき である。
(ウ) さらに,被告らは,本件クラブに納品された本件酸素チャンバーには 本件データのロックがかけられていなかったので,本件データは秘密と して管理されていなかったと主張する。 しかし,本件クラブに納品された本件酸素チャンバーに本件データの ロックがかけられなかったのは,前記前提事実(3)イのとおり例外的な 措置であって,このことは,本件データが秘密として管理されていたと の上記判断を左右しないというべきである。
・・・
本件においては,以下のとおり,被告らが本件データを実際に読 み出して取得し,また,被告会社が取得した本件データを使用して酸素チャ ンバーを製造したことを客観的に示す証拠は存在しない。 ア 被告らが本件制御装置等を保管していた間,本件制御装置に対していか なる作業又は操作を行ったかは証拠上明らかではない。
原告は,本件制御装置等の持ち出し前と返還後とでは,同装置等の側面 にテープ付けしていた鍵の位置が異なっており,明らかに鍵を使用した痕 跡があったことや,原告が本件酸素チャンバーの復旧作業を行った際,本 件制御装置に対する原告のPC以外のPCからのアクセスを確認したこ となどを指摘するが,これを裏付ける客観的な証拠は何ら提出されていな い。 また,原告代表者は,本件クラブには本件データを読み出し,パラメー\nタの設定や変更を行い得る設備や人材等を有していたため,ロックの解除 の方法を伝えたものであり,本件クラブにおいて同ロックを解除したかど うか,また,パラメータ等の変更後のロックをかけたかどうかは承知して いない旨の供述をしているところ(原告代表者〔24,28〜29頁〕),\n同供述を前提にすると,仮に被告らが持ち出した本件制御装置等を使用し て本件データへのアクセスを試みたとしても,奏功したかどうかは明らか ではない。
さらに,原告は,制御装置等の取外しや取付けをしたのみでは酸素チャ ンバーの機能が動作しなくなることはないので,本件制御装置等の返還後\nに本件酸素チャンバーの低圧モードに支障が生じたのは,本件データの複 製等が行われた現れであると主張するが,低圧モードに支障が生じたこと から,直ちに本件データの複製等が行われたと推認することはできない。 そして,他に,被告らが本件制御装置等を保管していた間に本件制御装 置に対して行った具体的な操作や作業の内容を特定し得る証拠はない。 イ 原告は,被告会社が本件データを使用して,酸素チャンバーを製造した と主張するが,被告会社製の酸素チャンバーの開発・製造に当たり,本件 データが使用されたことを客観的に示す証拠はない。
かえって,被告会社の製造した酸素チャンバーの制御装置マニュアル(乙 8)及びW証言〔1,2頁〕によれば,被告会社製の酸素チャンバーにお いては,制御装置のモード選択画面に表示される圧力や運転時間について,\n納品時に所定の設定はされているものの,顧客がこれを変更することも可 能な仕様となっており,顧客がこれらの数値を自由に変更することができ\nない原告製の酸素チャンバーとは仕様が異なるものであると認められる。 なお,原告は,本件酸素チャンバーのラダープログラムと被告会社製の 酸素チャンバーのラダープログラムを対比することにより,被告会社によ る本件データの使用の有無を解析できると主張し,被告らに対し,同プロ グラムの任意提出を求めていたが,その後,被告らが同プログラムを改ざ んしているおそれが高いとして,被告会社の保有するラダープログラムの 提出を求めない旨の意思を表明した(原告第6準備書面)。原告は,被告\nらがラダープログラムを証拠として任意提出しないことから本件データ の使用を推認し得ると主張するが,ラダープログラムを実際に対比するこ となく,そのような推認をすることはできない。
ウ 以上によれば,被告らが本件データを取得し,また,被告会社が取得し た本件データを使用して酸素チャンバーを製造したとの事実を認めるに 足りる証拠はないので,本件持出し行為が不競法2条1項4号の不正競争 行為に該当するとの原告主張は理由がない。

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平成31(ワ)10672等  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和2年11月17日  東京地方裁判所

 秘密管理性がないとして、本件顧客名簿は営業秘密ではないと判断されました。  

 原告は,被告Aが原告で勤務していた平成28年頃から,顧客カルテをファ イリングしているバインダーの背面下部にマル秘シールが貼られていたと主\n張し,その主張の根拠として甲6号証を提出し,証人Gは上記主張に沿う供述 をする。これに対し,被告らは,マル秘シールは被告Aが原告を退職した後に 貼られたものであると主張し,被告Aはそれに沿う供述をする。\n甲6号証のマル秘シールの写真は,本件訴訟の準備のために平成31年3月 27日に撮影されたものであり,これによって,いつからマル秘シールが貼ら\nれていたかが客観的に明らかになるものではない。また,証人Gの供述と整合 する客観的証拠は存在しない。かえって,甲6号証には顧客カルテがファイリ ングされているバインダーが10冊以上写っているところ,そのバインダーの 形や顧客番号を示すと考えられる番号の記載方法などは相互に異なっている ものも多いのに対し,マル秘シールは大きさが同じで,最後の一冊を除き文字 も同じであり,写真撮影時に比較的近接した時期に一斉に貼付されたことと矛\n盾しないことを窺わせるものである。
以上によれば,被告Aが原告で勤務していた平成28年頃から顧客カルテを ファイリングしているバインダーの背面下部にマル秘シールが貼られていた\nという事実を認めるには足りず,被告Aが原告で勤務していた平成28年頃か ら顧客カルテをファイリングしているバインダーの背面下部にマル秘シール が貼られていたという事実は認定できない。\n
顧客カルテとその管理について
ア イのとおり,原告店舗において,施術履歴等を記載した紙である顧 客カルテは,バインダーにつづられ,バックルームに設置された棚にバイン ダーが並べて保管されていた。バックルームは,原告の従業員であれば自由 に入退室することができ,従業員が一人で休憩することもあり,従業員であ れば,顧客カルテは,バックルームで自由に見ることができたものであった。 顧客カルテは,ファスナーがついたファイルに入れて他の店舗に持ち運び することがあった。また,顧客カルテを共有する目的で,原告従業員全員を メンバーとするLINEのカルテ共有用グループが作成されていて,カルテ 共有用グループを使用して顧客カルテを従業員が共有する場合,原告従業員 が私用のスマートフォン等で顧客カルテを撮影し,それをカルテ共有用グル ープの全メンバーに送信していて,撮影した従業員の私用のスマートフォン にその画像が保存されるほか,全従業員のスマートフォン等にも,その画像 が送信され,保存されることとなっていた。このような送信は,原告代表者\nや店長の許可などの特別な手続は必要なく,通常業務として行われていた。 すなわち,原告の従業員は,全ての顧客カルテを少なくとも就業時間中は 誰でも自由に見ることができ,また,その画像は,通常業務の中で,特に上 司の決裁等もなく,私用のスマートフォン等で撮影され,当該カルテを必要 としない者を含む全従業員の私用のスマートフォン等に送信され,保存され ていたといえる。
イ ここで,顧客カルテ自体には,秘密であることを示す記載はなく,また, 本件送信行為の当時,顧客カルテをつづったバインダーに秘密であることを 示す記載等があったとは認められない。
他方,原告は,顧客情報の管理については注意喚起を行っているなどと主 張し,証人Gは,原告店舗では,店長が月に1,2回の頻度で全ての原告従 業員に対して顧客カルテの画像を削除するように口頭で伝え,店長は原告従 業員が私用のスマートフォンを操作して顧客カルテの画像を削除している 姿を見たこともあった旨供述する(甲39,証人G)。しかし,その供述を裏 付ける客観的証拠はないほか,同供述によっても,口頭で削除の指示を述べ ただけであり,前記アのとおり全従業員の私用のスマートフォン等に画像が 送信,保存されているとの状況にもかかわらず,口頭の指示を超えて,同グ ループ上で顧客カルテの画像を削除するようメッセージを送信したりする ことなどもなかった。
原告の顧客カルテの管理マニュアル(前記 )は,顧客カルテについ ての一定の取扱いを定めているが,これは顧客カルテ等の一般的な取扱い等 を定めるものであり,カルテ共有用グループの扱いなど顧客カルテに関する 重要な事項に触れるものでもなかった。また,就業規則や入社時合意では, 職務上知り得た情報の取扱いなどが定められていたが,その対象となる情報 の定義は一般的なものであって,これらによって顧客カルテやその施術利益 が秘密であることが示されているとはいえないものであった。 その他,監視カメラはレジや店舗の入口付近を映すものであって,それが バックルームの棚付近も映していたとしても,一般的な防犯対策や不審者に 対する対策を超えて,それによって,顧客カルテそのものを直ちに秘密とし て管理していたことになるものとはいえない。
ウ 上記のとおりの,顧客カルテの客観的な利用,保存等を含めた管理の状況, 顧客カルテが秘密であることを直接示す記載の欠如やそれが秘密であると 認識させる事情の少なさ等の事情を総合的に考慮すると,原告店舗の顧客カ ルテの施術履歴は,「秘密として管理されている」(不競法2条6項)という ことはできない。
エ 原告は,原告の顧客カルテの管理状況,就業規則や入社時合意の存在等を 挙げて,顧客カルテが秘密として管理されている旨主張するが,上記に照ら し,理由がない。
また,原告は,被告Aが,Dに対し,平成29年12月9日日にLINE で,「Eっていう私の友達のカルテ,もらえたりしないかな?誰にもバレず に」などと送信し,平成30年1月20日日に,LINEで「私に友達のカ ルテ送ったことだけは内緒でお願いします!」「それがバレるかどうかで左 右されるっぽい!」などと送信したことを挙げて,被告Aも顧客カルテを秘 密として認識していた旨主張する。
しかし,平成29年12月9日のLINEは,被告Aが原告を退職する時 点で原告代表者と被告Aの関係が相当悪化していたこと(乙21,弁論の全\n趣旨)や被告Aが原告との間で作成した入社時誓約書などの文言に抵触し得 る形で原告の店舗の近くの被告ら店舗での就業を退職後早々に開始したこ となどから,本件施術履歴が秘密情報であるか否かにかかわらず,被告Aが, 自身のための行為を原告代表者等に知られたくないと思う背景があった状\n況でされたものであり,かえって,Dがそれに対して逡巡する形跡なく程な く本件送信行為を行っていることからも,同日のやり取りは,直ちに,被告 AやDを含む原告の従業員において,顧客カルテを秘密として認識していた ことの根拠となるものではない。また,平成30年1月20日のLINEは, 前日に原告から顧客情報の不正使用等を指摘する通告書が送付され,これに ついて被告Bから顧客情報を持ち出していなければ大丈夫であるとアドバ イスされたものの,被告Bや被告Cには本件送信行為についての報告をして いなかったために本件送信行為を隠そうとしたものとも解され,また,顧客 カルテが当時言及されていた「顧客情報」に含まれることが明らかな一方, それが「営業秘密」など「秘密」であるか否かが当時話題とされていたかは 明らかでなく,上記のLINEにより,被告Aにおいて顧客カルテの情報が 秘密として管理されている情報であるとの認識を有していたことが直ちに 裏付けられるものではない。
以上によれば,顧客カルテの情報の一部である本件施術履歴も秘密管理性を 欠くから,その余を判断するまでもなく,本件施術履歴が営業秘密であるとは 認められない。したがって,本件送信行為は不正競争に該当しないから,本件 送信行為についての原告の被告Aに対する請求は認められない。

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平成28(ワ)4029  不正競争行為に基づく損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和2年10月1日  大阪地方裁判所

 標準構成明細が営業秘密に該当するか?が争われました。大阪地裁(26部)は一部について、営業秘密であると判断しました。

 (ア) 前記(1)ウ(エ)のとおり,被告P1は,被告会社において,パッケージリフォー ム商品の商品開発や仕入交渉等を単独で担当するとともに,原告の標準構成明細を\n使用して本件比較表及びこれに添付された標準構\成明細を作成し,これをP4等に 示した。また,被告P1は,原告の標準構成明細の書式を使用して被告会社の標準\n構成明細のテンプレート(別紙2「営業秘密目録」資料1−1−2)を作成した\n(前記ウ(オ))。当該テンプレートは,原告の標準構成明細の書式とかなりの程度類\n似する上,その備考欄上部の記載は,これが原告の標準構成明細の書式をもとに作\n成されたことをうかがわせる。 被告P1も,当該テンプレート作成に当たり表としては原告の標準構\成明細を使 用したことを認めている(被告P1本人)。 これらの事情に加え,被告P1がP1HDD に原告の標準構成明細のデータを保\n存していること(前記ア(イ))に鑑みると,被告P1は,被告会社のパッケージリフ ォーム商品の開発に当たり,その仕入価格,粗利率,粗利金額の設定のため原告の 標準構成明細記載の原告の仕入価格等の情報を参考にしていたことが合理的に推認\nされる。また,被告P1は,被告会社の標準構成明細の書式作成に当たり,原告の\n標準構成明細の書式を使用したことが認められる。\nしたがって,被告P1による上記原告の標準構成明細の使用は,別紙2「営業秘\n密目録」資料1−1の情報の使用といえる。
また,資料1−1の情報は,被告P1が原告在職中に取得したものであるところ, その当時被告P1がこれにアクセスすることは原告においても許容されていたこと から,その取得に不正の手段は使用されていない。もっとも,被告P1が,被告会 社への転職に向けた就職活動と時期を同じくして,複雑な手順を経て原告データサ ーバの情報をP1私物パソコンやP1HDD に保存したこと,被告会社で現に上記 のとおりその情報を使用したことに鑑みると,被告P1による原告データサーバ上 の情報の取得は,転職後に転職先でリフォーム事業に使用する意図を少なくとも含 んでいたことがうかがわれる。そうすると,被告P1による上記使用行為は,被告 会社のリフォーム事業にこれを使用することで被告会社の利益を増大させ,ひいて は自己の評価を高める等の目的があったものと見られるのであって,不正の利益を 得る目的での使用といえる。 以上より,被告P1による資料1−1の情報の使用及び同情報に基づき作成され た資料1−1−2の情報の使用は,不正競争(不競法2条1項7号)に当たる。
(イ) 前記(1)ウ(エ)及び(1)エのとおり,被告会社共有フォルダ内に原告の標準構成\n明細のデータが保存されており,同フォルダを通じてP4及びP8がこれに含まれ るデータを業務上使用する USB メモリに保存している。しかも,そのフォルダ名 から,当該データが,本来は被告会社にあるはずのない原告のデータであることは 容易に理解し得る。 これらの事情を総合的に考慮すると,被告会社は,資料1−1の情報につき,営 業秘密不正開示行為があることを知り又は少なくとも重大な過失によって知らずに, これを取得したものと認められる。すなわち,被告会社による資料1−1の情報の 取得は,不正競争(不競法2条1項8号)に当たる。 他方,被告P1は,被告会社において,その在籍中は被告会社のパッケージリフ ォーム商品の開発等を単独で担当していたものであり,その際に使用する標準構成\n明細も,原告の標準構成明細のデータ及び原告在籍中の被告P1の経験に基づき,\n他の被告会社従業員の関与のないままに作成されたものとうかがわれる。そうする と,被告会社における標準構成明細(甲86,87)について,被告会社が,被告\nP1の営業秘密不正開示行為により作成されたものと知っていたこと又は知らない ことにつき重大な過失があると認めるに足りる証拠はない。 したがって,資料1−1−2の情報については,被告会社の行為は,不正競争 (2条1項8号)に当たらない。これに反する原告の主張は採用できない。
(ウ) 被告らの主張について 被告らは,被告会社共有フォルダに保存されていた情報であっても,それをもっ て被告P1の被告会社に対する開示行為とはいえない,被告P1が自ら作成又は取 得した情報については,同人による不正取得ではなく,また,原告又はサンキュー から示された情報ともいえない,資料1−1の情報につき,被告P1のそれまでの 知識や経験に鑑みれば原告の標準構成明細やそこに記載された仕入価格等の具体的\n数値に係る情報を使用する必要がないなどと主張する。 しかし,被告P1の被告会社に対する開示が認められることは前記認定のとおり である。また,被告P1が自ら作成した情報が仮にあるとしても,原告及びサンキ ューの企業規模をも考えた場合,被告P1がその作成及び改訂を全て単独で行って いたとは考え難く,これを裏付けるに足りる証拠もない(被告会社の標準構成明細\nの作成等被告会社における商品開発等に関するものは除く。)。被告P1がサンキ ュー在籍時に取得した情報についても,サンキュー等が原告の完全子会社となりそ のグループに属するに至ったことにより原告の情報管理体制の下に置かれた以上, 被告P1もこれに基づく情報管理を行わなければならないことになる。さらに,被 告P1の経験等を考慮するとしても,原告の標準構成明細と被告会社の標準構\成明 細テンプレート(甲86)の類似性は相当に高い。加えて,本件比較表の作成に当\nたっては,そもそも被告P1による原告データサーバからの各種情報の取得は転職 後に被告会社で使用する意図の下に行われたと見られる上,いかに被告P1の経験 等を考慮しても,対応する原告の標準構成明細を実際に確認しなければ正確な数値\nまでは再現できないと思われることから,被告P1は,これを確認したものとうか がわれる。そのような被告P1が,被告会社の標準構成明細の書式作成に当たり原\n告の標準構成明細を敢えて参考にしないと考えることは不合理である。\nその他被告らが縷々主張する点を踏まえても,この点に関する被告らの主張は採 用できない。

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令和1(ネ)10044  損害賠償等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和2年1月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審で、控訴人の元社員が持ち出した技術ノウハウについて、10億を超える損害が認められました。知財高裁もこれを維持しました。事件は、新日鉄のノウハウが「POSCO」に持ち出されたというものです。
 これに対し,控訴人は,本件技術情報1ないし6,8ないし17及び 26には,乙11記載の公知文献等に記載された情報が含まれており, 非公知性は認められない旨主張する(乙11)。 しかしながら,本件技術情報は,電磁鋼板の生産現場で採用されてい る具体的条件を含むものであり,乙11記載の公知文献等に記載されて いる研究開発段階の製造条件とは,技術的位置付けが異なる。また,乙 11記載の公知文献等に記載されている製造条件は,文献毎にばらつき があったり,一定の数値範囲を記載するにとどまるものである。そして, 電磁鋼板は多段階工程で製造され,高品質の電磁鋼板を製造するために は,各工程の最適条件の組合せが必要とされるのであって,一工程の一 条件のみでは高品質の電磁鋼板を製造することはできない。 したがって,乙11記載の公知文献等に本件技術情報の具体的な条件 を含む記載があるというだけでは,生産現場で実際に採用されている具 体的な条件を推知することはできず,非公知性は失われていないという べきである。 そして,以下に述べるとおり,本件技術情報1ないし6,8ないし1 7及び26には,乙11記載の公知文献等に記載された情報が含まれて おり,非公知性は認められない旨の控訴人の主張は理由がない。
(ア) 本件技術情報1について
控訴人は,本件技術情報1は,●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●乙11記載の公知文献等に記載された情報 とは性質を異にするものであるから,大量の情報の中に本件技術情報 1に近い情報が存在しているからといって,非公知性は否定されない。 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

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◆平成29(ワ)29604

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令和元年(ネ)10044 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年1月31日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所(原審・東京地方裁判所平成29年(ワ)第29604号)

日本製鉄のノウハウが「POSCO」に漏洩した事件についての控訴審です。原審維持です。伏せ字だらけです。

 これに対し,控訴人は,本件技術情報1ないし6,8ないし17及び 26には,乙11記載の公知文献等に記載された情報が含まれており, 非公知性は認められない旨主張する(乙11)。 しかしながら,本件技術情報は,電磁鋼板の生産現場で採用されてい る具体的条件を含むものであり,乙11記載の公知文献等に記載されて いる研究開発段階の製造条件とは,技術的位置付けが異なる。また,乙 11記載の公知文献等に記載されている製造条件は,文献毎にばらつき があったり,一定の数値範囲を記載するにとどまるものである。そして, 電磁鋼板は多段階工程で製造され,高品質の電磁鋼板を製造するために は,各工程の最適条件の組合せが必要とされるのであって,一工程の一 条件のみでは高品質の電磁鋼板を製造することはできない。 したがって,乙11記載の公知文献等に本件技術情報の具体的な条件 を含む記載があるというだけでは,生産現場で実際に採用されている具 体的な条件を推知することはできず,非公知性は失われていないという べきである。
そして,以下に述べるとおり,本件技術情報1ないし6,8ないし1 7及び26には,乙11記載の公知文献等に記載された情報が含まれて おり,非公知性は認められない旨の控訴人の主張は理由がない。
(ア) 本件技術情報1について
控訴人は,本件技術情報1は,●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●乙11記載の公知文献等に記載された情報 とは性質を異にするものであるから,大量の情報の中に本件技術情報 1に近い情報が存在しているからといって,非公知性は否定されない。 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(イ) 本件技術情報2について
控訴人は,本件技術情報2は,●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●本件技術情報2が開示されている旨主張する。 しかしながら,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●本件技術情報2の非公知性は失われないから,控訴 人の上記主張は理由がない。
(ウ) 本件技術情報3について
控訴人は,本件技術情報3は,●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●このことは多くの乙11記載 の公知文献等(甲99ないし108)に記載されている旨主張する。 しかしながら,前記(ア)のとおり,●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●乙11記載の公知文献等に記載され た情報とは性質を異にするものであるから,大量の情報の中に本件技 術情報3に近い情報が存在しているからといって,非公知性は否定さ れない。また,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●が開示されているとはいえない。 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(エ) 本件技術情報4について
控訴人は,本件技術情報4は,●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● しかしながら,前記(ア)のとおり,本件技術情報4の操業条件は, ●●●●●●●●●●●●●●●乙11記載の公知文献等に記載され た情報とは性質を異にするものであり,各特許文献において「実施例」 として記載されているからといって,直ちに被控訴人における●●● ●●●●を示すものではない。 したがって,本件技術情報4は,依然として非公知であるというべ きであるから,控訴人の上記主張は理由がない。
(オ) 本件技術情報5について
控訴人は,本件技術情報5は,●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● したがって,本件技術情報5は非公知であるというべきであるから, 控訴人の上記主張は理由がない。
(カ) 本件技術情報6について
控訴人は,本件技術情報6は●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●本件技術情報6が開示されているとはいえない。 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(キ) 本件技術情報8について 控訴人は,本件技術情報8は,●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●乙11記載の公知文献等には ●●●●●●●●●●●技術が多く開示されている旨主張する。 しかしながら,本件技術情報8においては,●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●は乙11記載の公知文献等に 開示されていない。●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●かかる技術情報も乙11記載の公知 文献等に開示されていない。 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(ク) 本件技術情報9について
控訴人は,本件技術情報9は,●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●は乙11記載の 公知文献等に記載されていないから,控訴人の上記主張は理由がない。
(ケ) 本件技術情報10ないし14について
控訴人は,本件技術情報10ないし14は,●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●は,乙11記載の公知文 献等に開示されている旨主張する。 しかしながら,本件技術情報10ないし14を構成する●●●●●\n●●●●●●●●●●●は,控訴人の指摘する乙11記載の公知文献 等に記載されていないから,控訴人の上記主張は理由がない。
(コ) 本件技術情報15ないし17について
控訴人は,本件技術情報15ないし17は,●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●は乙11記載の公知文献等に開 示されている旨主張する。 しかしながら,控訴人の指摘する乙11記載の公知文献等に本件技 術情報15ないし17は記載されていないから,控訴人の上記主張は 理由がない。
(サ) 本件技術情報26について
控訴人は,本件技術情報26は,●●●●●●●●●に関するもの であるところ,乙11記載の公知文献等に開示されている旨主張する。 しかしながら,本件技術情報26の●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●は,控訴人の指摘する乙11 記載の公知文献等に開示されていないから,控訴人の上記主張は理由 がない。」
3 争点2(控訴人による不競法2条1項4号又は7号の不正競争の成否)につ いて
次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第4の3記載のとお りであるから,これを引用する。 原判決28頁5行目から8行目の「開示した。」までを次のとおり改める。 「前記1(5)で認定のとおり,控訴人は,●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●被控訴人の電磁鋼板に関する本件 技術情報を開示したことが認められる。」
4 争点3(被控訴人の損害額)について
次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第4の4記載のとお りであるから,これを引用する。
(1) 原判決30頁23行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「(4) 控訴人は,控訴人が●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●が,HGOの品質改善に大きく寄与した旨主張するが, これを認めるに足りる証拠はない。控訴人は,そのほかにもるる主張す るが,いずれも,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●との上記認定判断を左右するものではな い。」
(2) 原判決30頁24行目の「(4)」を「(5)」と改める。
5 争点4(弁済の抗弁の成否)について
次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第4の5記載のとお りであるから,これを引用する。
原判決31頁6行目から7行目までを次のとおり改める。
「しかしながら,POSCOと控訴人の負う債務は不真正連帯債務であるか ら,POSCOと被控訴人との間でPOSCOの負う債務の額について何らか の合意がされたとしても,合意の効果は控訴人に及ぶものではない。また,P OSCOと被控訴人との間の訴訟は,POSCOらによる営業秘密侵害行為等 を理由として986億円の損害賠償等を求める訴えであるところ,POSCO の支払った和解金300億円がいかなる債務のいかなる額の弁済に充てられた かを認めるに足りる証拠はない。 この点に関し控訴人は,弁済の事実の証明軽減が図られるべきである旨主張 するが,採用することはできない。 したがって,控訴人の弁済の抗弁は認められない。」

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令和1(ネ)10072  販売差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和2年3月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 非公知性及び有用性の要件を満たさず、営業秘密には該当しないと判断されました。

 不正競争防止法にいう「営業秘密」とは,秘密として管理されている生産方 法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と 知られていないもの(同法2条6項)をいう。 ところで,争点1−2との関係で先に述べたところによれば,本件ノウハウ(2)の 完成前から存在する機械において同ノウハウに係る方法を使用することができたと きは,当該機械やそれと同じ性能・機能\を有する機械を販売することが甲5協定書 による規制を受けることはないものと解されるところ,前記認定(引用に係る原判 決第3の1(8))のとおり,被控訴人において,控訴人のいう本件ノウハウ(2)の完成 する前から,型式「WB」の製氷機を用いてマイナス50度程度の条件で冷媒を用 いて濃塩水氷を製氷することが可能であったことや,冷媒蒸発温度がマイナス65度になる冷凍機が一般に流通していたことなどの事情に照らせば,技術的には,本\n件ノウハウ(2)の完成前から同ノウハウに係る方法を用いて濃塩水氷を製氷すること ができたことが認められる。加えて,控訴人が被控訴人に本件ノウハウ(2)を伝えた とする平成29年4月28日時点で,両者の間に有効な秘密保持契約が存在してい たことを認めるに足りる証拠がないなどの事情にも照らせば,本件ノウハウ(2)は, そもそも非公知性及び有用性の要件を欠き,「営業秘密」にも当たらないというべき である。
ウ よって,本件ノウハウ(2)について,被控訴人の不正競争行為を認めることは できない。

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平成28(ワ)3928  製造販売差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月3日  大阪地方裁判所

 ノウハウの使用料ではないと判断されました。被告らは、特許権が消滅した後はロイヤルティ支払を拒否しました。原告は、それなしではWBトランスを製造することのできない有用な情報であり,ノウハウの使用料だと主張しましたが、大阪地裁はこれを否定しました。

 本件技術資料に記載された数値等は,WBトランスを開発した川鉄電設ない しP2が,開発の過程で得られた実験値や実測値,あるいはトランスの容量等に応 じて推測した理論値や計算値を表形式に整理したものが多いと思われる。\nそうすると,WBトランスを製造,販売しようとする者が本件技術情報を入手し た場合,独自に実験を行って必要な値を計測・算出したり,部品の製造元等へ問い 合わせたりすることなく当該トランスの特性を予測したりすることができるという\n点において有用であるといえ,要件を充たせば,営業秘密として保護されるべきも のと解されるから,例えば,被告らが,当初契約を締結して平成7年技術資料を入 手し,未だWBトランスの製品が市場に出ていない段階で,原告の許諾を得ずにこ れを第三者に開示したとすれば,秘密保持義務違反の責めを負うべきものと解され る。 他方,上記検討したとおり,本件技術情報の開示を受けなければWBトラン スを製造することができないといった事情までは認められず,本件技術情報がWB トランスの製造に必須であることを前提に,本件各基本契約の性質を考えることは できない。 また,本件技術情報に記載された数値は,物理的に測定したり,計算によっ て求めることができるものと考えられるから,WBトランスが市場に出回り,リバ ースエンジニアリングを行って計測等ができるようになった段階で,公知になると いわざるを得ない。 本件各特許権の明細書等を参照し,流通に置かれたWBトランスに対するリバー スエンジニアリングを行ってもなお解明することができず,原告よりその開示を受 けない限り,WBトランスの製造はできないというようなノウハウが,本件技術情 報に含まれていると認めるべき証拠は提出されていない。
・・・
(1) 本件各基本契約の内容 本件各基本契約の内容は,前提事実(3)のとおりであり,文言上は,WBトランス 製造及び販売の実施許諾,指定された装置及び資材の使用,技術情報の提供,対価 としてのイニシャルフィー及びランニングロイヤルティの支払,その前提としての 実施報告,特許権等の実施許諾,改良技術の通知,秘密保持といった内容が双方の 権利または義務として定められており,原告が主張する技術情報の提供および秘密 保持も,被告らが主張する特許権の実施許諾も,いずれも本件各基本契約の内容と して定められているのであって,その関係をどのように解するかが問題となる。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,本件各基本契約は,ノウハウライセンス契約であって特許の実施許 諾を内容とするものではなく,イニシャルフィー及びランニングロイヤルティの支 払義務は,ノウハウの使用に対する対価であって,特許の使用許諾に対する対価で はないから,本件各特許権の消滅により影響されない旨を主張する。 しかしながら,ノウハウライセンス契約であるとの主張は,本件技術情報がなけ ればWBトランスを製造することができないとの原告の主張を前提とするものであ るところ,その主張が失当であることは既に述べたとおりである。
イ 既に認定したとおり,WBトランスとして定義されたものは,本件各特許権 の特許請求の範囲の文言と一致する部分が多く,当初契約の際の川鉄電設側の説明 によっても,特許権者の許諾を得ない限り,これを製造,販売することはできない と考えられる。 WBトランスの製造に使用する資材や装置にも,川鉄電設や川崎製鉄の権利が及 ぶものは多いと考えられ,権利者の許諾を得るか,権利者又はその許諾を得た者が 製造した資材や装置を購入等するのでなければWBトランスを製造,販売すること はできず,単に製造に関する技術情報やノウハウの提供を受けるのでは足りないと いうべきである。
ウ 本件各基本契約,特に当初契約の締結に至る経緯を考えても,前記認定のと おり,川鉄電設は工業会の会員に対し,特許の実施許諾であることを前提に,それ に付随するものとして情報提供,技術指導を行う旨を案内しているのであり,その 本質が特許の実施許諾ではなく,ノウハウライセンス契約であるとの説明が行われ た事実は認められない。
エ 前記認定したとおり,被告らの照会やトランスの設計依頼に応じて,川鉄電 設又は原告から情報提供が多数回にわたって行われているが,時期的なところに着 目すると,被告らが当初契約を締結し,WBトランスの設計,製造をしてその販売 を行い始めた平成9年から平成13年までの間になされたものが大部分であり,最 長20年にわたるランニングロイヤルティの支払と技術情報の提供ないし技術情報 とが対価関係に立つと解することは不合理である。 むしろ,従前にはなかった形式のものとして新たに開発したWBトランスについ ての実施許諾を行うに際し,被告らにおけるWBトランスの製造が軌道に乗るまで の間,WBトランスの開発者である川鉄電設又は原告が,技術情報を提供したり, 技術指導を行うというのは,通常予定されるところと考えられること,川鉄電設か\nら原告に契約関係を承継した際に,前記認定のとおり,当初契約に係るイニシャル フィーは承継せず,追加契約に係るイニシャルフィーは,実施分を控除して原告に 承継される扱いであったことからすると,本件各基本契約において,技術情報の提 供や技術指導の対価と認められるのは,契約当初に支払われるイニシャルフィーと 解するのが合理的である。
オ 以上を総合すると,本件各基本契約には,前記(1)で要約した複数の要素が含 まれるものの,その中心となるのは本件各特許権の実施許諾であり,本件技術情報 の提供は,これに付随するものというべきであるから,ランニングロイヤルティの 支払も,本件各特許権の実施許諾に対する対価と位置づけられるべきであり,これ を本件技術情報の提供に対する対価と考えることはできない。 原告は,本件各基本契約の体裁として,第2条にWBトランスの製造,販売の実 施権の許諾を,第3条に技術情報の提供を,第7条に特許権の実施許諾を定めた上 で,第4条の対価は第2条,第3条の対価である旨定めていることをその主張の根 拠とする。しかし,既に検討したとおり,そもそも本件各特許権の実施許諾なしに WBトランスを製造,販売することはあり得ないし,契約の第2条において,鉄心 巻込装置,コイルボビン,フレームについては川鉄電設が特許出願中のものを使用 すべきことが定められていることからしても,同条の実施許諾は,本件各特許権の 実施許諾を含むものであり,第7条の規定は,特許の登録後と出願中の場合とを分 けて規定したものと解されるから,第4条の対価に特許の実施許諾に対するものが 含まれないと解することはできない。

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平成31(ネ)10016  競業差止請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和元年8月7日  知的財産高等裁判所(3部)  東京地方裁判所  立川支部

 元従業員が退職後に同一地域内のまつげエクステサロンで就労したことは競業禁止合意に反せず、不正競争行為(不競法2条1項4号,5号又は8号)にも該当しないと判断されました。争点は、在職中に知り得た秘密情報か否かです。原審はアップされていません。

 本件競業行為が本件各合意に違反するか(争点1)
(1) 退職者に対する競業の制限(以下「競業制限」という。)は,退職者の 職業選択の自由や営業の自由を制限するものであるから,個別の合意あるい は就業規則による定めがあり,かつその内容が,これによって守られるべき 使用者の利益の内容・程度,退職者の在職時の地位,競業制限の範囲,代償 措置の有無・内容等に照らし,合理的と認められる限り,許されるというべ きである。
(2) 就業規則及び退職時合意の効力
ところで,控訴人の就業規則には,1)社員は,退職後も競業避止義務を 守り,競争関係にある会社に就労してはならない,2)社員は,退職または解 雇後,同業他社への就職および役員への就任,その他形態を問わず同業他社 の業務に携わり,または競合する事業を自ら営んではならないとの規定があ るが,この定めは,退職する社員の地位に関わりなく,かつ無限定に競業制 限を課するものであって,到底合理的な内容のものということはできないか ら,無効というほかはない。 また,被控訴人が退職時に提出した「誓約・確認書」には,前述のとおり, 退職後2年間,国分寺市内の競合関係に立つ事業者に就職しないとの約束を することはできない旨の被控訴人の留保文言が付されていたのであるから, これによって競業制限に関する合意が成立したということはできない。 これに対し,控訴人は,控訴人が「誓約・確認書」に「この文言は,当社 が指定した書式ではないので,無効。会社記載文言のみ有効。また,既に入 社時誓約書に記載もあるので,そちらの誓約書を根拠とすることも可能。」\nと記載してその旨説明し,被控訴人も「わかりました」と述べたものである から,「誓約・確認書」の不動文字のとおりの合意が成立したと主張するが, 控訴人の主張する事実を裏付ける的確な証拠はないし,仮に,このような事 実があったとしても,これにより「誓約・確認書」の不動文字どおりの合意 が成立したと解することはできない。
(3) 入社時合意の効力
ア 控訴人は,入社時合意について,被控訴人が,退職後2年間,国分寺市 内でアイリスト業務に従事することを禁止したものであると主張するか ら,入社時合意の効力が問題となる。
イ 入社時誓約書には,1)被控訴人は,退職後2年間は,在職中に知り得た 秘密情報を利用して,国分寺市内において競業行為は行わないこと(13 項),2)秘密情報とは,在籍中に従事した業務において知り得た控訴人 が秘密として管理している経営上重要な情報(経営に関する情報,営業 に関する情報,技術に関する情報…顧客に関する情報等で会社が指定し た情報)であること(10 項),3)被控訴人は,秘密情報が控訴人に帰属 することを確認し,控訴人に対して秘密情報が被控訴人に帰属する旨の 主張をしないこと(12 項)が記載されている(甲3)。 そこで,「秘密情報」の意義が問題となるが,上記入社時誓約書の記 載によれば,入社時合意における「秘密情報」とは「秘密として管理」 された情報であることを要することが理解できる。また,入社時誓約書 の秘密情報に関連する規定は,その内容に照らし,不正競争防止法と同 様に営業秘密の保護を目的とするものと解される。そして,入社時誓約 書には「秘密として管理」の定義規定は存在せず,「秘密として管理」 について同法の「秘密として管理」(2条6項)と異なる解釈をとるべ き根拠も見当たらない。そうすると,入社時誓約書の「秘密として管理」 は,同法の「秘密として管理」と同義であると解するのが相当である。 また,「競業行為」とは,控訴人に在籍中の被控訴人が提供していた 役務の性質に照らせば,他のまつげエクステサロンの経営及び他のまつ げエクステサロンにおけるアイリスト業務への従事を意味すると解され る。 以上によれば,入社時合意は,被控訴人が,退職後2年間は,在職中 に知り得た「秘密情報」を利用して,国分寺市内において他のまつげエ クステサロンの経営をせず,他のまつげエクステサロンにおけるアイリ スト業務に従事しない旨の合意であり,ここにいう「秘密情報」とは秘 密管理性を有する情報であることを要するものと解される。
ウ 被控訴人は,入社時合意は被控訴人の職業選択の自由及び営業の自由を 不当に制限するものであって無効であると主張する。 しかし,上記イのとおり,入社時合意は,2年という期間と国分寺市 内という場所に限定した上で,秘密管理性を有する情報を利用した競業 行為のみを制限するものと解されるから,職業選択の自由及び営業の自 由を不当に制限するものではなく,その制限が合理性を欠くものである ということはできない。

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平成29(ワ)29604  損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成31年4月24日  東京地方裁判所

 POSCOへの技術情報の開示が不正競争行為(4号、7号)であるとして損害賠償が認められました。

(1) 前記認定のとおり,被告が本件技術情報をPOSCOに開示した時期は●(省 略)●までの間であると認められる。
(2) そして,証拠(甲94,95)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認めら れる。
ア 方向性電磁鋼板は,磁束密度が高いほど良好な磁気特性を有すると評価され, 従来型の方向性電磁鋼板に対して,磁束密度が一定以上のものがハイグレードな方向 性電磁鋼板であるHGOとされている。また,方向性電磁鋼板の品質を評価する上で, 磁束密度の他に,「鉄損」という重要な指標があり,鉄損が小さい方が優れた品質であ る。●(省略)●
イ ●(省略)●
ウ ●(省略)●
エ ●(省略)●
オ ●(省略)●
カ 鉄鋼・非鉄金属のライセンス料率の平均値は,イニシャル・ペイメントがある 場合が3.5%であり,イニシャル・ペイメントがない場合が3.3%である。また, 件数としては,ライセンス料率を3%とするものが最も多い。
(3)上記(1)及び(2)の事実関係からすると,POSCOは●(省略)●HGOの生産 販売を開始したところ,●(省略)●販売数量が増加した●(省略)● そうすると,平成19年から平成28年までの10年間において,本件技術情報の ライセンス料相当額を算定すると,少なくとも,41億0400万円(年間●(省略) ●トン×●(省略)●万円/トン×10年×2%)を下回ることはないと認められる。 (4) 以上によれば,被告は原告に対して,不競法4条に基づき,少なくとも損害賠 償金9億3000万円及び弁護士費用相当額9300万円の合計額である10億2 300万円及びこれに対する不正競争後の日である平成24年4月30日から支払 済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うと認められる。

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平成29(ワ)27298  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 平成31年3月19日  東京地方裁判所

 機器を持ち出した人は特定できないが、持ち出されたことは認定できるとして、 当該機器の販売額が損害として認められました。グンマジとは、解錠するための特殊工具です。

 前記オの事実に,本件元従業員らが,平成26年10月以降,原告を順 次退職し,被告会社に転職したこと(前記1)を総合すると,株式会社ジョ ーエイ製機製の製造番号555番及び597番のキーマシン(計2台)は, 本件元従業員らのうちの誰かが,原告内に置かれていたものを持ち出したか, 又は,仕事等のために持ち出し,そのまま返却せずに被告会社に移して,業 務に使用したものと認められる。
イ もっとも,本件元従業員らのうちの誰かが上記キーマシン(2台)を持ち 出したことは認められるものの,その中の誰が上記キーマシン(2台)を持 ち出したかは不明であり,被告B又は被告Cが上記キーマシン(2台)を持 ち出したと認めるに足りる証拠はない。
・・・・
  以上のとおり,原告が主張する各不法行為のうち,本件元従業員らのうちの誰 かがキーマシン及びグンマジを持ち出した行為(前記2(2),(3))は,原告に対す る不法行為を構成するというべきである。また,これらの行為は,遅くとも,本\n件元従業員らのうち,最も遅く原告を退職した被告Cの退職日である平成27年 3月31日までに行われたと認められる。 もっとも,被告B又は被告Cが上記不法行為をしたと認めるに足りず,また, 被告B,被告C及び被告Aが上記不法行為に共謀等によりその不法行為に加担し たとも認めるに足りないから,被告B,被告C及び被告Aが不法行為責任を負う とは認められない。
他方,上記キーマシンやグンマジが原告から持ち出された時期は不明であるも のの,これらの工具等は,原告から持ち出された後,いずれかの時期に,被告所 有の車両や本件倉庫に移され,また,被告会社従業員が使用しているのであるか ら,持ち出した者がその時点で既に被告会社の従業員であったか,又は,少なく とも,持ち出した者と意を通じて,被告会社の管理下に移すことに協力した被告 会社の従業員がいたと推認することができる。 そして,上記工具等は,被告会社が行う開錠業務で使用するために持ち出され たものであると認められるから,工具等を持ち出した者,又は,その協力者は, 被告会社での業務のために,工具等を持ち出し,原告に損害を加えているのであ り,使用者である被告会社は,原告に対し,使用者責任に基づく損害賠償責任を 負うというべきである。 これに対し,被告会社は,本件元従業員らの行動を把握していなかったことな どから使用者責任を負うことはないと主張するが,被告会社が被用者の選定やそ の事業の監督について相当な注意をしたとも,相当な注意をしても損害が生ずべ きであったとも認められず,被告会社は使用者責任に基づく損害賠償責任を免れ ないというべきである。
・・・・
キーマシンを持ち出したことによる損害について 証拠(甲16〜19)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社の車両及び本件 倉庫に置かれていた原告所有の株式会社ジョーエイ製機製の製造番号555 番及び597番のキーマシンの販売価格は32万円であると認められ,2台の 販売価格合計64万円が損害額となる。
グンマジを持ち出したことによる損害について
原告は,本件元従業員らがグンマジを持ち出したことによって,原告がグン マジの開錠方法を独占的に使用することで得られていた市場による優位性を 喪失し,得べかりし利益を喪失したと主張する。 しかし,原告は,本件講座において,原告従業員ではなく,また,原告従業 員になるとは限らない本件講座の受講生にもグンマジの解錠技術を教え,原告 に入社せずに,鍵師として自らで開錠業務を行うことを考えている元受講生に 対してもグンマジを販売していたといえるから,原告がグンマジの開錠方法を 市場において独占的に使用していたとは認められない。また,グンマジによっ て開錠することができるというスイッチサムターンの一般家庭における普及 率は明らかではなく,スイッチサムターンでない鍵はグンマジを使用しなくて も開錠することができるのであり,原告においても,開錠依頼があった案件の 全てでグンマジが使用されていたわけではない。また,被告会社が開錠業務を 行っていた規模が原告の業務に影響を及ぼす程度であったことを認めるに足 りる証拠はない。(甲36,K〔18-20頁〕,被告B〔18-19頁〕,前記 4)。
以上によれば,本件元従業員らがグンマジを持ち出したことによって,原告 が市場による優位性を喪失したことによる損害が生じたとは認められない。も っとも,本件倉庫にあった構成部品と併せて,F及び本件元従業員らのうちの\n誰かが,合計少なくとも2台のグンマジを持ち出したと認められ,被告会社は この行為について使用者責任に基づく損害賠償責任を負うところ,グンマジの 販売価格は1台29万8000円であったから,2台の販売価格相当額の合計 59万6000円が損害となるといえる。

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平成27(ワ)16423    不正競争  民事訴訟 平成30年11月29日  東京地方裁判所(46部)

 漏れてましたのでアップしました。ソフトウェアのソ\ースコードを流用したことが、不正競争行為に該当すると判断されました。問題となったのは、原告ソフトウェアについて、原告外部の技術者としてその開発,制作に携わり,その後,被告から委託を受け,被告ソ\フトウェアの実際の開発,制作を担当したBの行為です。前訴で著作権侵害を争いましたが、1審、2審とも著作権を侵害しないと判断されています。損害認定については、原告の利益*被告の譲渡数量をベースとして95%の滅失事由があると認定されました。

 本件鑑定で用いられたソースコードの分析の手法及びその鑑定結果の概要\nは以下のとおりである。(鑑定の結果〔4頁ないし12頁,17頁,24頁ない し27頁〕)
ア 本件鑑定においては,原告の意見等も踏まえ,本件ソースコードのうち1\n14種類のソースファイルが鑑定対象とされ,本件ソ\ースコードのうち一つ または複数のソースコードに対して被告ソ\フトウェアの複数のソースコー\nドを比較すべき場合があることから,300組のソースコードのペアについ\nて,一致点の有無等が判断された。
イ 前記の300組のソースコードのペアについて,類似性や共通性を判断す\nるため,8種類のコードクローン検出(コードクローンとはソースコード中に相互に一致又は類似したコード断片をいう。)を実施した。\n8種類のコードクローン検出の方法の概要は,1)識別子とリテラルのオー バーラップ係数を用いて名前の包含度合いを確認する,2)識別子とリテラル のコサイン係数を用いて名前の一致度合いを確認する,3)識別子とリテラル の部分文字列のオーバーラップ係数を用いて名前の文字並びの包含度合い を確認する,4)識別子とリテラルの部分文字列のコサイン係数を用いて名前 の文字並びの一致度合いを確認する,5)コメントの部分文字列のオーバーラ ップ係数を用いてコメントの文字並びの包含度合いを確認する,6)コメント の文字列のコサイン係数を用いてコメントの文字並びの一致度合いを確認 する,7)キーワードや記号の系列にSmith−Watermanアルゴリ ズムを適用してソースコードの文字並びの一致度合いを確認する,8)前記ア ルゴリズムをソースコードの長さで正規化してソ\ースコードの構造の一致\n度合いを確認するというものであった。
ウ 前記イの8種類のコードクローン検出を実施し,1種類以上の方法で類似 性についての一定の閾値を超えたものを要注意コード・ペアとして取り扱っ た。この要注意コード・ペアは,300組中57組存在した。
エ 前記ウの結果を参考にしつつ,鑑定人が300組全てのソースコードのペ\nアについて目視確認を行い,共通性や類似性が疑われるソースコードのペア\nを選んだ。その結果,原告ソフトウェアのソ\ースファイルと被告ソフトウェアのソ\ースファイルには,1)「GlobalSettings.h」と「S ourceDefault.h」(順に,原告ソフトウェアのソ\ースファイル と被告ソフトウェアのソ\ースファイル。以下,同じ。),2)「GlobalS ettings.cpp」と「SourceDefault.cpp」,3)「S STDB.cpp」と「Mdb.cpp」,4)「AutoLocker.h」 と「SafeLocker.h」,5)「AutoLocker.cpp」と「S afeLocker.cpp」につき,共通性や類似性が疑われる箇所が発見された(類似箇所1ないし5)。
・・・・
鑑定人は,類似箇所1ないし4について原告と被告のソースコードが不自\n然に類似・共通する箇所が存在すると判断し,類似箇所5については原告と 被告のソースコードに類似性や共通性が見られるがその理由が不自然であ\nるとまではいえないと判断した。
・・・
キ 鑑定人は,類似箇所1ないし5について,原告ソフトウェアを参照せずに\n被告らが独自に作成することが可能であるか否かにつき,以下のとおり判断\nした。
類似箇所1について
原告ソフトウェアのソ\ースコードの一部がサンプルで公開されていた などといった外部要因がないことを前提とすれば,原告ソフトウェアと被\n告ソフトウェアの開発者は必ず同一人物である。被告ソ\フトウェアを開発 する際に原告ソフトウェアを参照した可能\性が高いが,参照せずに開発す ることが全く不可能であるとまでは言い切れない。\nもっとも,原告ソフトウェアと被告ソ\フトウェアの開発者が同一人物で あり,その人物の記憶を手掛かりとしても,原告ソフトウェアのソ\ースコ ードを参照せずに類似箇所1で見られるような細かい特徴まで一致させ ることは難しいと考えることが自然である。
・・・
類似箇所1ないし3について,本件ソースコードの被告\nらによる使用等があったと認められる。そして,Bが,原告ソフトウェアの開\n発に携わった者の一人であり,被告ソフトウェアについて実際の開発,制作を\n担当したこと(前提事実 )及び弁論の全趣旨から,Bは,被告ソフトウェア\nの開発の際,本件ソースコードの類似箇所1ないし3に対応する部分を使用し\nて被告ソフトウェアを制作等し,もって,類似箇所1ないし3を被告フェイス\nに対して開示し,また,被告フェイスにおいてそれを取得して使用したと認め られる。
類似箇所4について
前記1(1)によれば,類似箇所4については,被告ソフトウェアのデータベー\nスで用いられている52件のフィールドの名前が原告ソフトウェアのデータ\nベースで用いられているものと同じであると指摘されており,被告らもTem plate.mdbの複製について認めていることに照らせば,類似箇所4に ついては,類似箇所1ないし3についてと同様の理由から,Bから被告フェイ スに対する開示及び被告フェイスによるその使用があったと認められる。
・・・
イ 原告ソフトウェアが開発されるに至った経緯や原告ソ\フトウェアの開発 の際のBの勤務の形態等に照らしても,原告ソフトウェアの開発,制作は原\n告の指示に基づきされたといえるものであり,本件ソースコードは原告が保\n有すると認められる。そして,原告ソフトウェアの開発,制作に携わった者\nの一人であるBは,類似箇所1ないし3が本件ソースコードの一部であるこ\nとや,販売用ソフトウェアのソ\ースコードという本件ソースコードの性質や\nその開発等の経緯等から,それが原告が保有する営業秘密であることを認識 できたといえる。 これらを考慮すると,Bが原告ソフトウェアと販売上も競合する被告ソ\フ トウェアを開発,制作するに当たって類似箇所1ないし3を使用したことは原告から示された営業秘密を,図利加害目的をもって被告フェイスに開示し たものと認めることが相当である(不競法2条1項7号)。 被告フェイスは,被告ソフトウェアが原告ソ\フトウェアと同種の製品であ り,字幕データファイル等について互換性を有するという特徴を有するもの であることや,上記のような機能を有する被告ソ\フトウェアの開発を具体的 に行うBが原告ソフトウェアの開発に携わった者の一人であったことは認\n識していたと認められる。これらのことから,被告フェイスは,被告ソフト\nウェアの具体的な開発を委託したBによる被告ソフトウェアの開発過程等\nにおいて違法行為が行われないよう特に注意を払うべき立場にあった。不競 法2条1項8号にいう重過失とは,取引上要求される注意義務を尽くせば容易に不正開示行為等が判明するにもかかわらずその義務に違反した場合を いうところ,被告フェイスにおいて,前記の事情に照らせば,前記の注意義 務を尽くせば被告ソフトウェアの開発過程等においてBの不正開示行為が\n介在したことが容易に判明したといえ,被告フェイスは,少なくとも重過失 により,原告の営業秘密である類似箇所1ないし3をBから取得し,それら を被告ソフトウェアに用いて販売したと認めるのが相当である(不競法2条\n1項8号)。 Aについて,被告ソフトウェアの開発,制作に当たって,具体的な本件ソ\ ースコードを被告フェイスに開示した事実を認めるには足りないし,その他, Aにおいて,不正競争行為となる事実を認めるに足りる証拠はない。したが って,Aについて,不正競争行為は認められない。
イ 被告らは,類似箇所1ないし3が被告ソフトウェアのソ\ースコードと一致 ないし類似するに至った原因は,Bが,原告ソフトウェアを開発するに際し\nてライブラリの選択等のために独自に自らのパソコンで作成し,そのパソ\コ ンに残っていた簡易な評価プログラムやそのプログラムに含まれる変数定 義部分を被告ソフトウェアの開発の際にも参照したことにあり,そのような\n行為は非難されるべきものではないなどと主張する。しかしながら,同事実関係を裏付ける証拠はない。また,前記の評価プロ グラムは,それが作成,使用されたとしても,その評価の対象となる本件ソ\nースコードの存在を前提として作成,使用されたものと考えられ,変数定義 部分が前記評価プログラムの作成又は使用によってBのパソコンに残って\nいたとしても,それが本件ソースコードの一部である以上,前記に述べたと\nころと同様の理由により,原告から示された営業秘密であるとするのが相当 であり,また,Bにおいて,そのことを認識することができたといえる。こ れらに照らせば,被告らの主張は,Bにおいて類似箇所1ないし3を被告ソ\nフトウェアの開発の際に使用する行為が不競法2条1項7号にいう不正競 争に該当するなどの前記結論を左右するものではない。
・・・
前記(1)アのとおり,被告ソフトウェアの販売数は,主として業務用として\n利用されるドングル版が●(省略)● ここで,オンライン版とスクール版の前記個数については同一顧客によっ て更新された回数が含まれているところ,オンライン版とスクール版につい ては,価格(更新の価格も含む。)がドングル版に比較して相当安価に設定さ れていて,同一顧客による同内容のソフトウェアの継続利用とその更新を前\n提としている部分があると認められる。このことに原告ソフトウェアの価格\nから推測されるその利用方法を考慮すると,本件においては,オンライン版 とスクール版については,不競法5条1項にいう「譲渡数量」としては,同 一顧客に対する販売を1個とすることが相当であるというべきである。 したがって,不競法5条1項における被告ソフトウェアの譲渡数量は,ド\nングル版が●(省略)●であると認めるのが相当である。
イ 原告ソフトウェアの単位数量当たりの利益の額\n
前記 ウのとおり,主として業務用に利用される原告ソフトウェアの価格は,基本編集機能\を搭載したもので28万円である。また,前記 オのとお り,主として教育用に利用される原告ソフトウェアの価格は,割引を考慮し\nない場合は2万4800円である。 そして,平成21年から平成23年までの間及び平成27年について,減 価償却費や人件費を控除して算出された原告商品の利益率は,最も利益率が 低い期間の利益率においても53.2パーセントを超えること(甲38の2, 甲133)及び弁論の全趣旨から,原告ソフトウェアの限界利益の利益率は,\n少なくとも40パーセントであると認められる。 以上によれば,主として業務用に利用される原告ソフトウェアの前記利益\nの額は11万2000円(28万円×0.4),主として教育用に利用される 原告ソフトウェアの前記利益の額は9920円(2万4800円×0.4)\nであると認められる。 これに対し,原告は,原告ソフトウェアの価格は90万7200円である\nと主張する。しかしながら,前記 廉価版である「SSTG1 Lite」を14万2000円で販売している。 また,90万7200円という金額は高等機能オプションやデータのインポ\nート/エクスポートオプション等の大部分を搭載した場合における金額で あるところ,前記 のとおり,原告ソフトウェアを利用する顧客の中には\n個人の顧客もかなりの割合で存在しており,そのような個人の顧客が基本編 集機能に加えてそれらのオプションを搭載したものを購入しているか否か\nは証拠上明らかではなく,むしろ,証拠(乙5,42)によれば個人の顧客 の97パーセントは基本編集機能のみを購入していることがうかがわれる。\nしたがって,原告の前記主張は採用できない。
ウ 小括
前記ア及びイによれば,以下の計算式のとおり,主として業務用に利用さ れるソフトウェアの関係では2654万4000円が原告の損害額と推定\nされ,主として教育用に利用されるソフトウェアの関係では1123万93\n60円が原告の損害額と推定される(合計3778万3360円)。
(計算式)
●(省略)●
エ 推定覆滅事由についての検討
前記3のとおり,被告ソフトウェアに関連し,原告の営業秘密である類似\n箇所1ないし3についてB及び被告フェイスの不正競争行為が認められる。 ここで,類似箇所1ないし3はいずれも変数定義部分等であり,ソフトウェ\nアの動作に不可欠な有用な部分ではあるが,ソフトウェアの画面表\示,イン ターフェイスや動作といったソフトウェアの利用者に関係する機能\等の制 御に直接的に関係する部分ではなく,また,類似箇所1ないし3の内容に照 らし,それらが被告ソフトウェアに対して他のソ\フトウェアでは一般的とは いえない特別の動作をもたらすものであるとは認められない。他方,前記1 とおり,原告ソフトウェアと被告ソ\フトウェアのソースコードは,類似\n箇所1ないし5以外に類似している箇所があるとは認められず,ソフトウェアの利用者に関係する機能\等の制御に直接的に関係する部分については原 告ソフトウェアと被告ソ\フトウェアの間に共通する部分は存在していない ともいえる。 これらを考慮すると,被告らの不正競争行為が被告ソフトウェアの利用者\nに関係する機能を同種のソ\フトウェアに関する機能と大きく異なるものに\nしたとは直ちにはいえず,被告ソフトウェアの売上げは,基本的には,被告\nソフトウェアの不正競争行為ではない行為により作成された機能\に基づく 商品としての価値や被告フェイスの営業努力等によって実現されていたと するのが相当である。
以上によれば,被告ソフトウェアの譲渡数量のうちの相当程度の数量の原\n告ソフトウェアについて,原告が販売することができなかった事情があると\n認めるのが相当であり,以上のほか,本件にあらわれた一切の事情を総合的 に勘案すれば前記ウの推定は95パーセントの限度で覆滅し,被告フェイス 及びBによる不正競争によって原告に生じた損害は,前記ウ記載の損害の5 パーセントであると認めるのが相当である。また,弁護士費用としては,10万円をもって相当と認める。 なお,被告らは,「おこ助」と称する字幕ソフトウェアがシェアを拡大して\nおり,原告ソフトウェアとの競合品が存在していることが推定覆滅事由に該\n当するなど主張するが,前記「おこ助」の販売台数や機能等の詳細は明らか\nでなく,むしろ,証拠(乙38,39)によれば前記「おこ助」は主として 聴覚障がい者向けの字幕制作のためのソフトウェアであることがうかがわ\nれることに照らせば,前記「おこ助」が原告ソフトウェアの競合品であるこ\nとを理由とした被告らの前記主張は認められない。

◆判決本文

前訴はこちらです。

◆平成25(ワ)181

◆平成27(ネ)10102

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平成30(ネ)960  不正競争行為差止等,損害賠償,損害賠償等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 平成31年2月14日  大阪高等裁判所

 大阪高裁は、秘密管理性を満足していないとした1審判決を維持しました。
 控訴人は,上記のうち秘密管理性の点につき,本件技術情報は,電子デー タと電子データを印刷した紙ベースで保管され,それらの情報にアクセスで きる者を福島工場の従業員18人と役員等の限られた控訴人の従業員に限り, また,就業規則に従業員の秘密保持義務を定めるほか,秘密保持の誓約書の 提出を受けていた旨主張するとともに,それらの従業員は,本件技術情報が 控訴人にとって重要な技術情報であり,社外に持ち出したり,漏洩したりし てはいけない秘密の情報であることは十分に認識できていたから,営業秘密\nとして管理されていたと主張する。 証拠(甲31の1〜31の18,甲32,33,36)によれば,控訴人 主張の情報の管理状況や,就業規則の定め,従業員から誓約書を徴求してい る事実が認められ,その対象の情報が控訴人において重要な技術情報である と認識できるとの点も,そのとおり認めることができる。
(3) 外注先との関係における管理について
証拠(甲93の1〜93の4)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人が外注 先と製作請負契約を締結するに当たり,控訴人が外注先に対して貸与した物 件等を対象とした秘密保持契約を文書により締結することがあったことが認 められる。しかし,証拠として提出された当該秘密保持契約に係る契約書は, 平成14年の作成日付のもの2通と,平成15年の作成日付のもの及び平成 21年の作成日付のもの各1通にとどまる。 また,控訴人代表者の陳述書(甲21)には,控訴人が被控訴人サン・ブ\nリッドから控訴人製品の部品の一部の供給を受けていた旨の記載がある一方, 控訴人は,被控訴人サン・ブリッドではなく,被控訴人太陽工業から控訴人 製品の部品の一部の供給を受けていたことを認めている。控訴人が部品の供 給を受けていたのが被控訴人太陽工業らのうちいずれであれ,その際には, 控訴人から被控訴人太陽工業らに対して,少なくとも当該部品を製造するの に必要な範囲で,控訴人製品の図面等の情報が交付されていたことを推認で きるが,控訴人と被控訴人太陽工業らとの間で秘密保持契約が締結された形 跡はない。
(4) 被控訴人銀座吉田等との関係における管理について
被控訴人銀座吉田は,前提事実(1)エ,(2)アのとおり,平成6年頃から, 香港,シンガポール及び中国における控訴人の唯一の代理店として,控訴人製品の販売及びメンテナンスサービスを担当していたのであるから,控訴人 は,長年にわたり,被控訴人銀座吉田に対し,それらの業務に必要な,控訴 人製品に関する図面等の情報を数多く交付してきたことが推認される。 そして,被控訴人銀座吉田は,控訴人から交付を受けた控訴人製品に関す る図面等の情報で,本件技術情報を含むものの例として,戊1号証から戊6 4号証までを提出する。これらのうち,控訴人が,自ら交付したことを積極 的に争っておらず,かつ,本件訴訟において,控訴人の営業秘密に関する記 述があるとして,民事訴訟法92条1項2号に基づき,閲覧等の制限を申し\n立てた部分の内容は,次のとおりである。
・・・
上述のとおり,控訴人内部における本件技術情報の管理状況については控 訴人の主張どおり認められるものの,控訴人が外注先に対して控訴人製品の 図面等の情報を交付する際には,必ずしも秘密保持契約を締結しておらず, むしろ締結しなかった方が多かったことがうかがわれる。また,控訴人は, 香港,シンガポール及び中国における控訴人の唯一の代理店として,控訴人 製品の販売及びメンテナンスサービスを担当していた被控訴人銀座吉田に対 しても,長年にわたり,少なくとも本件技術情報の一部を含む多くの技術上 の情報を交付しながら,秘密保持契約を締結することも,交付した情報の取 扱いや用済み後の回収について何らかの要請をすることもなかったと認めら れる。控訴人が,被控訴人銀座吉田に対し,控訴人の交付する技術上の情報 を秘密として管理されるべきものであることを表明した形跡はない。\nまた,控訴人は,長年にわたり,被控訴人銀座吉田に対し,香港等におけ る控訴人製品の販売及びメンテナンスサービスの業務に必要な図面等の情報 を数多く交付してきたことが推認されるので,本件技術情報のうち,PLC プログラム等一部のものについてのみ,被控訴人銀座吉田との関係において, 他の情報と異なる管理がされていたと認めることもできない。 そうすると,本件技術情報は,全て,不競法にいう「秘密として管理され ていた」とは認められないというべきである。

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原審はこちらです。

◆平成27(ワ)6555等

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平成29(ワ)1443  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 平成30年4月24日  大阪地方裁判所

 秘密管理のための工場見学の制限としては不十分として、不競法の営業秘密には該当しないと判断されました。
 原告が主張する営業秘密は,訴訟提起段階から変遷しているが,最終的に確 定したところよると,生春巻きを大量に安定的に生産するために,ライン上で全工 程を行うとともに,通常は水で戻すライスペーパーを,状況に応じた適切な温度の 湯で戻すという生春巻きの製造方法であり,ラインの長さ,作業時間,ライスペー パーの質,ラインを流す速度,工場の状況などを踏まえて,温度を管理するもので あって,ライスペーパーを戻す湯の温度は,製造する本数に応じて,ラインの速度 を変え,それに応じて40度から80度までの幅で変えることに特徴があり,具体 的には,温度を40度から50度程度に設定する場合は,ラインの人数を10名程 度にし,一つのラインでの1時間の製造本数を400本から500本程度とし,温 度を60度から80度に設定する場合は,ラインの人数を12名程度に増やし,一 つのラインでの1時間の製造本数を600本から800本程度とするというもので ある。
(2)ア そこで,まず上記主張に係る製造方法が「秘密として管理されている」(不 正競争防止法2条6項)といえるか検討するに,原告は,1)原告工場の立ち入りを 厳重に管理し,食品関係者の工場見学は,紹介により協力工場となる会社の場合な どに限られていること,2)従業員は競業他社の関係者が入社しないよう注意し,退 社時に秘密保持誓約書を作成させ徴求していることを主張している。
イ しかし,前者については,原告の主張する第三者の出入りの管理は,それ自 体は,証拠(乙8,乙9)により認められる食品工場の場合における衛生管理のた めにする人の出入りの管理と何ら変わらないものであるし,食品関係者の工場見学 は紹介により協力工場となる会社に限られるとの点も,現に被告の場合は,前日か 当日かの争いはあるとしても,短い電話による依頼だけで工場見学を許されており, 原告主張のような厳格な扱いがされていたとは認められない。 この点,原告は,被告が協力工場となることを見学の条件とし,被告がこれを承 諾したように主張するが,協力工場となる以上,事業者間で継続的契約が締結され る必要があるから,短時間の電話のやり取りだけで取引条件の詳細を詰めずに確定 的な合意に至ったとはおよそ考えられず,むしろ原告代表者の陳述書(甲6)は,\n工場見学前に協力工場になることの条件を承諾した旨の記載がないだけでなく,か えって工場見学後の被告代表者の話し振りから「私はもうすっかり協力工場になっ\nてくれるものと信じていました。」との記載があり,結局,協力工場になることが 確定的でない状態で原告工場の見学をさせたことを自認する内容になっている。な お,その後,原告担当者が被告の九州工場を視察していることからすると,被告代 表者は,協力工場となることに対して積極的方向で回答をしたことは優に認められ\nるが,そうであったとしても,それをもって事業者間での法的拘束力のある合意と 評価できないことはいうまでもない。 したがって,原告主張の工場見学の条件は,結局,その実質は,当面の競業会社 ではなく協力関係となることが十分期待できるということと変わりがないことにな\nるのであって,秘密管理のための工場見学の制限としては不十分といわなければな\nらない。
ウ また後者の従業員に対する管理の点についても,入社時の選別を実際になし ている点の証拠はないし,退職時の秘密保持誓約書(甲5)が実際に用いられてい るか否かをさておき,少なくとも,入社時に同趣旨の誓約書が徴求されているわけ ではなく,また在職中の守秘義務について定めたものは認められないから,これで は従業員に対する関係でも秘密管理が十分なされていたとはいえない。\nそのほか,証拠(甲6,乙10,乙19)及び弁論の全趣旨によれば,1)被告代 表者は,平成25年7月3日,原告工場を原告代表\者の案内で見学するとともに, 工場内施設の撮影もし,また原告代表者からは,生春巻きの製造方法の説明も受け\nたが,それに先立ち,見学で得られる技術情報について秘密管理に関する合意は原 告と被告間でなされなかったばかりか,原告代表者からその旨の求めもなされなか\nったこと,2)原告のウェブサイトには,原告工場内で商品を生産している状況を説 明している写真が掲載されており,その中には生春巻きをラインで製造している様 子が分かる写真も含まれていることが認められ,これらの事実からも,原告におい て,その主張に係る営業秘密の管理が十分なされていなかったことが推認できる。\n
エ したがって,原告主張の製造方法は,不正競争防止法2条6項の要件にいう 「秘密として管理」されていたとは認められないから,原告主張の製造方法をもっ て同法の「営業秘密」として認められず,「営業秘密」であることを前提とする損 害賠償請求は,その余の点の判断に及ぶまでもなく理由がない。 なお,原告は,被告代表者が工場訪問のお礼のメールに「ノウハウ」を教えても\nらったことを感謝する記載があることを指摘するが,そのメールをした真意はさて おき,ここで問題にしているのは,原告自身が営業秘密の要件を満たす秘密管理を していたか否かであって,被告代表者が「ノウハウ」としての価値を認め,すなわ\nち非公知で有用なノウハウであると評価していたからといって,秘密管理性の欠如 が補えるわけではない。

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平成27(ワ)6555等  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成30年3月15日  大阪地方裁判所

 秘密管理性がなしとして、営業秘密としては認められませんでした。
 原告は,上記のうち秘密管理性の点につき,本件技術情報は,電子データと 電子データを印刷した紙ベースで保管され,それらの情報にアクセスできる者を福 島工場の従業員18人と役員ほかの限られた原告の従業員に限り,また就業規則に 従業員の秘密保持義務を定めるほか,秘密保持の誓約書の提出を受けていた旨主張 するとともに,それらの従業員は,それらの本件技術情報が原告にとって重要な技 術情報であり,持ち出したり,漏洩したりしてはいけない秘密の情報であることは 十分に認識できていたから,営業秘密として管理されていたと主張する。\nこの点,証拠(甲31の1ないし18,甲32,甲33,甲36)によれば,原 告主張の情報の管理状況や,就業規則の定めや,従業員から誓約書を徴求している 事実が認められ,またその対象の情報が,原告において重要な技術情報であると認 識できるとの点も,そのとおりということができる。
(3) しかしながら,原告の取締役であったP1及び原告の代理店としてその販売 のみならず海外でのメンテナンスを担当していた被告銀座吉田は,原告が,何ら秘 密保持義務を負わせることなく,また後日の返還を求めることもなく,原告製品の 図面等,製品に関わる情報を,取引先,製造下請業者,メンテナンスを担当する業 者にも交付していたことを主張しているところ,ゴミ貯溜機の設計図面等の管理に 関して以下のような事実が認められる。 ア 原告が営業秘密と主張する図面の中には,発行者を「日本クリーンシステム (株)福島工場」として,日付け入りの「発行」とするスタンプと「製作用」とのス タンプが押されているもの(別紙営業秘密目録記載1の機械図面中,2の八角部分 の図面に含まれる甲24の2,4のドラム内の分割羽根部分の図面に含まれる甲2 6の1ないし11,甲27の2ないし4,5の蓋ジョイント部分の図面に含まれる 甲28の3,4,5,7)が存し,これら図面が部品を製造する業者に交付されて いたことがうかがわれる。
イ 被告らが本件製品1の製造に関わっていたことを示すものとして原告が証拠 として提出したメール(甲73)の記載内容によれば,原告製品のメンテナンスの ためには,メンテナンス業者において,必要な部品を図面で第三者に請け負わせて 作成させる場合もあることが認められる。そうすると原告は,過去に被告銀座吉田 に対して海外での原告製品の設置やメンテナンスをさせていたというのであるか ら,メンテナンスを担当していた被告銀座吉田に対し,それらの作業に必要な図面 等を交付していたはずと考えられる(なお,被告銀座吉田は,第11回弁論準備手 続期日において陳述した被告銀座吉田準備書面(8)において,本件製品1,2の 製造に関与したことを推認させる事情となり得る過去販売した原告製品の図面等を 保有していることを自認している。)。また,同メールによれば,中国成都におけるゴミ貯溜機の購入設置者は,メンテナンス業者を競争入札により選ぼうとしていることがうかがえるが,このことからは,ゴミ貯溜機を購入した者は,業者を任意に選んで,上記内容のメンテナンスを実施することが可能であるということ,すなわち,ゴミ貯溜機を購入した者は,メンテナンスに必要な図面類等を原告から交付されていたことを推認することができる。
ウ 原告は,過去に被告サン・ブリッドに対して原告製品の部品の一部を供給さ せていた(甲21)というのであるから,それに伴い被告サン・ブリッドに対し, 少なくとも当該部品を製造するに必要な設計図を交付していたことが認められる。
(4) このように,原告が本件において営業秘密として主張する本件技術情報と同 種の技術情報であると考えられる原告製品の図面等が被告銀座吉田はもとより,原 告製品購入者,あるいは部品製造委託先に交付されていた事実が認められることに 加え,そもそも原告は,P1及び被告銀座吉田による秘密管理性を否定する事実関 係の主張について全く沈黙しており,その指摘に係る図面等の技術情報の外部提供 について,営業秘密の管理上,いかなる配慮をしていたか一切明らかにしていない ことも併せ考慮すると,原告のゴミ貯溜機を製造するに必要な設計図面等の多くは, P1及び被告銀座吉田が主張するように,特段の留保もなく購入者はもとより取引 関係者に交付されていたことを認めるのが相当である。 そうすると,別紙営業秘密目録記載1,3の技術情報そのものが,上記図面等に 含まれていると的確に認めるに足りる証拠はないものの,かといって,これら技術 情報についてのみ他の同種技術情報と異なる特別の管理がされていたと認めるに足 りる証拠もない以上,同様の管理状況であったと推認するほかなく,したがって, これでは,上記技術情報が不競法にいう「秘密として管理されていた」ということ はできないということになる。

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平成29(ネ)10007  不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 平成30年3月26日  知的財産高等裁判所(4部) 東京地方裁判所  立川支部

 原告の営業秘密を基にしてできたソフトウェアであるとして、差止および170万円の損害賠償が認められました。原告は、被告のソースコードを別会社経由で入手していました。1審はアップされていません。
   原告製品1のPCソースコード(甲19),原告製品2のPCソ\ースコード (甲21),原告製品3及び4のPCソースコード(甲23)を,それぞれ,被控訴\n人が被告製品1のPCソースコードの一部として提出するもの(甲20),被告製品\n2のPCソースコードの一部として提出するもの(甲22),被告製品3及び4 の PCソースコードの一部として提出するもの(甲24)と対比すると,一致する表\ 現が多数認められる。 そして,被告製品1ないし4のPCソースコードには,以下のとおり,原告製品\n1ないし4のPCソースコードに依拠して作成されたことをうかがわせる記載がある。
1) 原告製品1と被告製品1の対比
a 甲19の1頁3行ないし6行の冒頭には,いずれも,「Private」との 記載があるところ,甲20の1頁3行ないし6行の冒頭は,いずれも「'」を付した 「'Private」との記載であり,甲19の命令文を非実行化するものである。
b 甲19の1頁59行には,「lblCh.Caption=txtRecCh.Text&“ch" '20101016 Ver2.2.3」との記載があるところ,甲20の2頁4行には,「'」を付した「'lblCh.Caption=txtRecCh.Text&“ch" '20101016 Ver2.2.3」との記載であり,甲19の命令文を非実行化するものである。
c 甲19の3頁24行から25行に,「'2010/03/11 メールにて変 更要求−−−−−'『測定停止』の例外処理追加'D」との記載があるところ, 同記載は,2010年3月11日にDが修正を行ったことを示すものである。甲2 0の3頁36行から37行には,これと全く同一の記載があり,Dが被告製品1の PCソフト作成を依頼された日以前に行われた修正の記載が残っている。\n
a 甲23の1頁10行に,「Dim flgExceotion1 As Boolean 'PICバグ対策フラグ 一時使用 2012/10/16追加」との記載があるところ,同記載は,2012年10月16日に追加修正を行ったことを示すものである。甲24の1頁10行には,これと全く同一の記載があり,Dが被告製品3及び4のPCソフト作成を依頼された日以前に行われた修正の記載が残っている。\n
b 甲23の1頁13行に,「'2012/3/6追加」との記載があり,同記載 は,2012年3月6日に追加修正を行ったことを示すものである。甲24の1頁 13行には,これと全く同一の記載があり,Dが被告製品3及び4のPCソフト作\n成を依頼された日以前に行われた修正の記載が残っている。
c 甲23の1頁32行に,「'MRS-23RWTLのPICバグがありPIC 修正まで一時的に補正する2012/10/16」との記載があるところ,同記 載は,2012年10月16日に「MRS-23RWTL」,すなわち原告製品3の バグの一時的補正を行ったことを示すものである。甲24の1頁32行には,これ と全く同一の記載があり,Dが被告製品3及び4のPCソフト作成を依頼された日\n以前に,原告製品3の修正をしたとの記載が残っている。
d このほか,甲23の1頁37行の「'−−−−−64QAM用アプリにする場 合−−−−−'2012/12/26」との記載は,甲24の1頁33行と,甲23 の1頁41行の「'コマンドライン引数を取得しデバッグモード確認 2012/ 3/7追加」との記載は,甲24の1頁38行と,甲23の2頁44行の「'64 QAMで10H Endlessに変更する 2013/1/23」との記載は, 甲24の2頁39行と,甲23の3頁10行の「'64QAMモードのみ〔外部接 点制御〕インジケータを表示する 2013/1/23」との記載は,甲24の3 頁1行と,甲23の3頁56行の「pid=1 'ポート番号は1に固定する 2013/2/14」との記載は,甲24の3頁37行と,それぞれ同一の記載であ り,甲23において,Dが被告製品3及び4のPCソフト作成を依頼された日以前\nに行われた修正等の記載が,そのまま甲24に記載されている。 以上によれば,Dは,被告製品1ないし4のPCソースコードを作成するに当た\nって,原告製品1ないし4のPCソースコードに依拠したことが推認される。\n
1)原告製品1と被告製品1の対比
a 甲19の1頁3行ないし6行の冒頭には,いずれも,「Private」との 記載があるところ,甲20の1頁3行ないし6行の冒頭は,いずれも「'」を付した 「'Private」との記載であり,甲19の命令文を非実行化するものである。

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平成27(ワ)7855  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成30年1月26日  東京地方裁判所

 非公知性を満たさないとして営業秘密でないと判断されました。
 原告は,本件原告製品の1)胴板の板厚,2)内鏡板の形状,3)入口チューブ の直径,4)入口チューブの長さ,5)入口チューブの穴の配置,6)入口チュー ブの穴径,7)入口チューブの穴の個数,8)出口チューブの直径,9出口チュ ーブの穴径,10)出口チューブの穴の個数,11)本体と鏡板の接合部,12)出口チ ューブの穴の配置方法,13)出口チューブの長さ,14)出口チューブの穴の配置 及びこれらの組合せ並びにこれに基づく減音量,圧力損失及び製造コストに 係る本件情報が,原告の営業秘密であると主張する。 (2) しかし,証拠(乙25〜27)によれば,本件原告製品に係る本件情報のう ち上記1)ないし14)は,本件原告製品を構成する部品等の形状,寸法,個数又はその相互の配置に関する情報であり,いずれも本件原告製品の寸法等を測定\nすることにより市場で同製品を購入した者が容易に知り得る情報であるから, 公然と知られていない情報であるということはできない。 また,本件原告製品の減音量及び圧力損失は,本件原告製品が備えるべき 性能として被告が指定し(甲6の2,20の2〜5),そのような性能\を有す るものとして被告の顧客に販売されるものであるから,原告の保有する営業 秘密ということはできず,また,原告製品が注文されたとおりの減音量及び 圧力損失を備えているかどうかは容易に測定し得るものである(甲31の2, 乙33)。 さらに,原告が営業秘密として主張する「製造コスト」(甲35の1の@以 下の数字,甲40の1の「見積金額」,甲41の1〜3)は,製造原価等に関 する情報ではなく,被告に提示される本件原告製品の見積金額又は販売価格 であり,非公知の情報であるということはできない。
上記の点について,原告は,1)本件原告製品は不特定多数の購入者が存在 する市場で販売される最終製品とは異なる特注品である,2)本件原告製品は 被告のブロワに組み込まれるので,被告の顧客はその内部構造等を知り得ない,3)本件原告製品の減音量,圧力損失及び製造コストは製品自体から直接 感得される情報ではない等と主張する。 しかし,被告のブロワが不特定多数の消費者に広く販売されるものではな いとしても,ブロワに関する市場において不特定の需要者を対象とし,国内 外の顧客に販売されているものであり(乙5,23),その需要者が特定少数 者に限定されると認めるに足る証拠はない。また,本件原告製品が被告の製 品に組み込まれているとしても,被告のブロワの購入者がリバースエンジニ アリングにより本件原告製品に係る本件情報を取得することが困難であると 認めるに足りる証拠もない。さらに,本件原告製品の減音量,圧力損失及び製 造コストが非公知といえないことは前記判示のとおりである。
(3) 原告は,本件情報に関し,被告との間において黙示の秘密保持契約を締結 し,又は,本件原告製品の性質上,被告は当然に秘密保持義務を負うと主張 する。 しかし,原告と被告との間で黙示の秘密保持契約が締結されたことをうか がわせる事情は認められない。また,本件情報は,いずれも本件原告製品の寸 法等を測定することにより同製品の購入者等が容易に知り得る情報又は本件 原告製品が備えるべき性能として被告が指定した情報であり,かつ,本件原告製品は被告のブロワに組み込んで第三者であるユーザに売却することを前\n提としたものであるから,その性質上当然に被告及びその顧客が秘密保持義 務を負うべきものということもできない。

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平成28(ワ)7143  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 平成29年10月25日  東京地方裁判所(40部)

 秘密管理性を満たしていないとして、営業秘密とは認定されませんでした。
 本件得意先・粗利管理表(甲9)につき,原告は,原告代表\者のパソコ\nン内に入れられており,他の従業員はアクセスできない状態であったので, 秘密として管理されていたと主張する。 しかし,被告・被告会社代表者甲は,本件得意先・粗利管理表\について も従業員のパソコンからアクセスすることができたと供述しており,従業\n員全てがアクセスすることができないような形で同管理表が保管されてい\nたことを客観的に示す証拠はないから,上記原告の主張は採用できない。 また,原告は,本件得意先・粗利管理表を印刷したものを定例会議の際\nの資料として配布していたが,その際には「社外持出し禁」と表示した書\n面(甲16の1枚目)とともに配布したと主張する。 しかし,被告・被告会社代表者甲は,本件得意先・粗利管理表\につき打 ち合わせの際などに紙媒体で渡されたことはあるが,「社外持出し禁」と 表示した書面とともに本件得意先・粗利管理表\が配布されたことはないと 供述しており,定例会議が開催された際に本件得意先・粗利管理表が「社\n外持出し禁」などの表示が付された甲16の1枚目と同様の書面とともに\n従業員に配布されていたことを裏付ける証拠はないから,上記原告の主張 は採用できない。かえって,本件得意先・粗利管理表(甲9)自体には\n「社外持出し禁」などの表示が一切付されていないことからすると,本件\n得意先・粗利管理表は,定例会議などの打ち合わせの際に,「社外持出し\n禁」という表示を付すことなく,配布されていたと認めるのが相当である。
ウ 以上によれば,本件機密情報が記載された本件得意先・粗利管理表,本\n件規格書,本件工程表,本件原価計算書は,いずれも,原告において,そ\nの従業員が秘密と明確に認識し得る形で管理されていたということはでき ない。 これに対し,原告は,原告のような小規模な会社においては,その事業遂 行のために取引に関する情報を共有する必要があるから,従業員全てが機密 情報に接することができたとしても,秘密管理性が失われるわけではないと 主張する。しかし,原告における本件機密情報の上記管理状況によれば,原 告の会社の規模を考慮しても,同情報が秘密として管理されていたというこ とはできない。 また,原告は,従業員全員から入社時において業務上知り得た情報を漏え い,開示しない旨の誓約書兼同意書を徴求していた上,原告代表者は,会議\nの際などに本件機密情報を漏えい,開示してはならないことを従業員に伝え ていたと主張する。しかし,従業員全員から秘密保持を誓約する書面の提出 を求めていたとの事実は,本件機密情報が秘密として管理されていなかった との上記認定を左右するものではなく,また,原告代表者が定例会議等の際\nに本件機密情報を漏えい,開示してはならないと従業員に伝えていたとの主 張を客観的に裏付けるに足る証拠はない。 エ したがって,本件得意先・粗利管理表,本件規格書,本件工程表\,本件 原価計算書に記載された情報は,被告甲が秘密保持義務を負う機密情報に は当たらない。

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平成28(ワ)35978  営業秘密使用差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成29年7月12日  東京地方裁判所

 準拠法なども争点となりましたが、そもそも不競法2条6項の営業秘密には該当しないと判断されました。
 前記前提事実等のとおり,本件文書1は,原告製品の製品概要, 仕様等が記載された16丁の書面であり,また,本件文書2は,表紙はなく,原告\n製品の露光に関する内容(光源の配置,露光量に関するシミュレーション等)が記 載された4丁の書面であって,いずれも原告が中国企業に対して原告製品を販売す る目的で台湾の代理店及び中国企業に提供したものと認められる。また,その内容 も,被告が自社の製品に取り入れるなどした場合に原告に深刻な不利益を生じさせ るようなものであるとは認められない。そして,被告は,原告の競合企業であり, 同様の営業活動を行っていたものであるから,被告が営業活動の中で原告が営業し ている製品の情報を得ることは当然に考えられるのであり,その一環として,本件 各文書を取得することは不自然とはいえず,被告が通常の営業活動の中で取得する ことは十分に考えられるものである(なお,原告は,競合他社の情報について開示\nを受けること自体が異常事態であり,競争者が少ない光配向装置メーカーの業界で は殊更異常と認識すべきであるとも主張するが,競争者が少ないからこそ,他社の 製品に関する情報に接する機会が多いという側面も考えられるのであるから,原告 の上記主張は,直ちには採用することができない。)。 (2)また,原告と被告が競業関係にあるとしても,原告が取引先との間で本件各 文書に関する秘密保持契約を締結したか否か,本件各文書に記載された内容が取引 先の守秘義務の対象に含まれるか否かについて,被告が直ちに認識できたとは認め られないし,本件各文書のConfidentialの記載をもって,直ちに契約 上の守秘義務の対象文書であることが示されているものともいえない。 (3)したがって,被告が本件各文書を取得した時点で,守秘義務違反による不正 開示行為であること又は不正開示行為が介在したことを疑うべき状況にあったと認 めることはできず,被告に不競法2条1項8号所定の重大な過失は認められない。

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平成27(ネ)10113  不正競争防止法および共有著作物の無断利用控訴事件  不正競争  民事訴訟 平成29年2月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 不競法9条の「相手方から入手した秘密情報」には該当しないとして、控訴人(一審原告)の請求を棄却しました。
 (1)ア 控訴人は,被控訴人による本件秘密情報の使用が本件契約9条2項に違 反すると主張するところ,同条項で目的外使用が禁止されるのは「相手方から入手 した秘密情報」であるから,まず,本件秘密情報が(被控訴人が)控訴人から入手 した秘密情報に当たるかを検討する。
イ 前記認定事実によれば,控訴人代表者は,前職の常光勤務当時から,金\nコロイドイムノクロマト法による各種診断薬の輸入販売等に従事したほか,病院等 に勤務する共同研究者らと共に,イムノクロマト法による血清フェリチン迅速測定 法の研究を行い,既に平成17年9月には同研究についての学会報告を行っていた ことが認められる。そして,控訴人代表者が設立した控訴人が,平成19年には生\n研との間で同社による検査薬及び機器の研究開発等のコンサルタントを引き受ける 旨の研究開発コンサルタント等契約を締結する一方,被控訴人は,平成22年8月 には生研との間で金コロイドイムノクロマト法を用いるPOCT(Point R eader)機器試薬の研究開発についての共同開発契約を締結し,同年9月には 控訴人との間で同社に対し上記機器の基本プログラム開発等を委託する旨の開発委 託契約を締結し,平成23年6月には控訴人との間で同社に対し本件事業に関する コンサルタント,同社が保有するノウハウの提供等の業務を委託する旨の本件旧契 約を締結し,同年9月には控訴人との間で同社に対し上記POCTについて糖化ヘ モグロビン測定キットに対応する専用診断薬の開発(本件開発)を委託することを 目的とする本件開発委託覚書を締結したことが認められる。 これらの事実によれば,控訴人及び被控訴人においては,金コロイドイムノクロ マト法による血清フェリチンの測定機器及び診断薬の開発について,控訴人代表者\nが最も豊富な知識と経験を有していたものであり,金コロイドイムノクロマト法に よる血清フェリチン試薬であるPSフェリチン500及びPSフェリチン100の 開発に当たっても,これに従事した控訴人及び被控訴人の従業員の中で,控訴人代 表者が中心的な役割を果たしたものと推認することができる。\nしかしながら,控訴人と被控訴人との間において,PSフェリチン500及びP Sフェリチン100についての開発委託契約又は共同研究開発契約は締結されてお らず,控訴人及び被控訴人が共に従事したPSフェリチン500及びPSフェリチ ン100の開発に伴う知的財産権やノウハウの帰属に関する明示的な合意は見当た らない。かえって,控訴人と被控訴人との間で締結された書面による合意では,本 件旧契約,本件開発委託覚書,本件契約のいずれにおいても,控訴人がした発明等 であっても,特許等を受ける権利やこれに基づく産業財産権の帰属については,控 訴人及び被控訴人の共有(ただし,持分は別途協議)とするものとされており,知 的財産権については控訴人及び被控訴人の共有とすることが基本的な両者の認識で あったと窺われる。 そうすると,控訴人と被控訴人との間の合意を根拠として,PSフェリチン50 0及びPSフェリチン100の開発に伴う知的財産権やノウハウが控訴人のみに帰 属し,被控訴人がこれを使用することができないものであって,PSフェリチン5 00及びPSフェリチン100の製造手順書に含まれる本件秘密情報が,(被控訴人 が)控訴人から入手した秘密情報に当たるということはできない。 ウ また,前記認定事実によれば,PSフェリチン500及びPSフェリチ ン100の開発に従事した被控訴人従業員(本件駐在員)は,控訴人事業所に駐在 していたものと認められるが,本件旧契約,本件契約の下で,被控訴人が金コロイ ドイムノクロマト法を用いるPOCT(Point Reader)機器及びその 専用試薬を商品化し販売を促進していくという本件事業を行うために,人材が十分\nでない控訴人従業員と共に開発に従事したものと認められ,本件駐在員に対する指 揮命令権が控訴人にあったとは認められないし,控訴人のために労働に従事させて いたとも認められない。前記イのとおり,上記開発の現場において,金コロイドイ ムノクロマト法による血清フェリチンの測定機器及び診断薬の開発について最も豊 富な知識と経験を有していたのは控訴人代表者であったことからすれば,控訴人代\n表者が,本件駐在員に対し,上記開発において行う個別具体的な実験や作業につい\nて指示を行うことが少なからずあったことが推認されるものの,そのような現場に おける個別具体的な作業の指示が控訴人の本件駐在員に対する指揮命令権を直ちに 基礎付けるものということはできないし,控訴人も自認するとおり,本件駐在員で あったC,Dらは,デザインレビューという名目で,たびたび被控訴人事業所に呼 び出されて説明を求められたことがあったほか,Cは,被控訴人の上司から控訴人 代表者とのディスカッションで決まった実験内容に即して今後の開発行為を進める\nように指示を受けていたのであり(甲88),控訴人事業所駐在前と同様に,被控訴 人の指揮命令権になお服していたことが認められる。 そうすると,本件駐在員が派遣労働者として,控訴人のためにPSフェリチン5 00及びPSフェリチン100の開発に従事したものとはいえないから,本件駐在 員が派遣労働者であることを根拠として,PSフェリチン500及びPSフェリチ ン100の開発に伴う知的財産権やノウハウが控訴人のみに帰属し,被控訴人がこ れを使用することができないものであって,PSフェリチン500及びPSフェリ チン100の製造手順書に含まれる本件秘密情報が,(被控訴人が)控訴人から入手 した秘密情報に当たるということはできない。
エ 以上によれば,本件秘密情報が(被控訴人が)控訴人から入手した秘密 情報に当たるということはできないから,その余の点を判断するまでもなく,被控 訴人の本件秘密情報の使用が本件契約9条2項に違反する旨の控訴人の主張は,理 由がない。

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平成26(ワ)1397等  不正競争行為差止等請求事件,請求異議事件  不正競争  民事訴訟 平成29年2月9日  東京地方裁判所

 靴の木型について、営業秘密の3要件について満たしていると判断されました。
 前記1(1)で認定した事実によると,1)原告においては,従業員から,原告に関す る一切の「機密」について漏洩しない旨の誓約書を徴するとともに,就業規則で「会 社の営業秘密その他の機密情報を本来の目的以外に利用し,又は他に漏らし,ある いは私的に利用しないこと」や「許可なく職務以外の目的で会社の情報等を使用し ないこと」を定めていたこと,2)コンフォートシューズの木型を取り扱う業界にお いては,本件オリジナル木型及びそのマスター木型のような木型が生命線ともいう べき重要な価値を有することが認識されており,本件オリジナル木型と同様の設計 情報が化体されたマスター木型については,中田靴木型に保管させて厳重に管理さ れていたこと,3)原告においては,通常,マスター木型や本件オリジナル木型につ いて従業員が取り扱えないようにされていたことを指摘することができる。これら の事実に照らすと,本件設計情報については,原告の従業員は原告の秘密情報であ ると認識していたものであり,取引先製造受託業者もその旨認識し得たものである と認められるとともに,上記1)の誓約書所定の「機密」及び就業規則所定の「営業 秘密その他の機密情報」に該当するものとみられ,原告において上記1)の措置がと られていたことは秘密管理措置に当たるといえる。 なお,原告における木型の管理状況に関し,被告三國らは,原告は,原告の事務 所内やその裏口の屋外に木型を放置していたことがしばしばあり,また,原告の従 業員が,被告三國が貸与を受け返却した木型について特段の管理を行っていた事実 もないなどと主張し,被告Aiもこれに沿った供述等をする。しかしながら,証拠 (甲60,原告代表者〔7〜8頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,原告の事務所の\n屋外に置かれていた木型は,原告が,開発段階で没にした木型を廃棄前に置いてい たにすぎないものと認められる。また,前記1(1)イで認定したとおり,原告におい ては,中田靴木型からの納品書のほか,木型番号,サイズ及び台数を記載した木型 台数管理表で,木型の台数等を管理していたことなどに照らすと,被告Aiの上記 供述等によって直ちに上述の秘密管理性を否定することはできず,他に,秘密管理 性を否定するほどの事情もうかがわれない。 以上によれば,本件設計情報は,秘密として管理されていたものというべきであ る。
イ 非公知性について
前記1(1)で認定した事実によると,本件オリジナル木型及びそのマスター木型自 体を一般に入手することはできなかったものと認められるが,被告三國らは,市販 されている本件原告婦人靴から,その靴に用いた木型を再現して本件設計情報(形 状・寸法)を容易に把握することができる旨主張し,その証拠として,パテを流し 込んで再現木型を作成したとする乙A第7・第8号証を提出する。 しかしながら,前記1(1)イで認定したとおり,靴の皮革は柔軟性を有するため, 市場に出回っている革靴から,その靴の製造に用いた木型と全く同一の形状・寸法 の木型を再現しその設計情報を取得することはできない。乙A第7・第8号証の再 現木型が元の木型と正確に同一の形状・寸法であることの立証はない上,かえって, 被告Aiの本人尋問の結果(7頁)によると,1割程度は再現できていないという のである。さらに,被告Ai自身,別件訴訟の本人尋問において,「流通している 靴から木型を作成するのは,木型の寸法を忠実に再現しない限りは容易にできる。」 旨の供述をしており(乙A9〔15頁〕),これは,「木型の寸法を忠実に再現」 することは困難であることを自認するものといえる。 そうすると,原告主張の方法により元の木型と全く同一の形状・寸法の木型を容 易に再現することはできないというべきであり,他に,特段の労力等をかけずに本 件設計情報を取得することができるとの事情はうかがわれないから,本件設計情報 は,公然と知られていないもの(非公知)であったということができる。
ウ 有用性について
前記1(1)で認定した事実によると,本件設計情報については,コンフォートシュー ズの製造に有用なものであることは明らかであるから,本件設計情報は,生産方法 その他の事業活動に有用な技術上の情報であったということができる。

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平成26(ワ)6372  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成27年10月22日  東京地方裁判所

 本件名刺情報は営業秘密に該当しないと判断されました。
 原告は,本件名刺帳に収納された名刺に記載された情報が原告の営業秘密に当たる旨主張するが,名刺は他人に対して氏名,会社名,所属部署,連絡先等を知らせることを目的として交付されるものであるから,その性質上,これに記載された情報が非公知であると認めることはできない。なお,守秘義務を負うべき状況下で特定の者に対して名刺を手交するような場合には,その記載内容が非公知性を有することもあり得ようが,本件においてそのような事情は見当たらない。 また,本件名刺帳に収納された2639枚の名刺を集合体としてみた場合には非公知性を認める余地があるとしても,本件名刺帳は,上記認定事実によれば,被告Aが入手した名刺を会社別に分類して収納したにとどまるのであって,当該会社と原告の間の取引の有無による区別もなく,取引内容ないし今後の取引見込み等に関する記載もなく,また,古い名刺も含まれ,情報の更新もされていないものと解される(甲16参照)。これに加え,原告においては顧客リストが本件名刺帳とは別途作成されていたというのであるから,原告がその事業活動に有用な顧客に関する営業上の情報として管理していたのは上記顧客リストであったというべきである。そうすると,名刺帳について顧客名簿に類するような有用性を認め得る場合があるとしても,本件名刺帳については,有用性があると認めることはできない。 さらに,上記認定事実によれば,原告においては,従業員又は取締役が業務上入手した名刺の管理や処分につき就業規則等に定めを置いておらず,従業員等に対しこの点に関する指示をすることもなかったというのであるから,上記顧客リストの記載とは別に従業員等が所持する名刺については,その処分を従業員等に委ねていたと認めるのが相当である。本件名刺帳は,上記認定の収納及び管理の状況に照らせば,被告Aが原告から処分を委ねられた名刺を単に自己の営業活動等のために整理していたにすぎないものというべきであり,原告が管理していたとみることはできない。また,原告による管理を認め得るとしても,本件名刺帳が保管された引き出しは施錠されておらず,秘密とする旨の表示もなかったというのであるから,秘密管理性を認めることは困難である。\n

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平成24(ワ)33981  不正競争  民事訴訟 平成27年2月27日  東京地方裁判所

 長嶋氏関連の取材メモやインタビューに基づく原稿について、著作権侵害は認めましたが、営業秘密については否定されました。
 ここで,「創作的」に表現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,作者の何らかの個性が表\れたものであれば足りるというべきであるが,文章自体がごく短く又は表現の選択の幅に制約があるため他の表\現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作者の個性が表\れたものとはいえないから,創作的な表現であるということはできない。\n他方,インタビューを素材としこれを文章としたものであっても,取り上げる素材の選択,配列や具体的な用語の選択,言い回しその他の表現方法に幅があり,かつその選択された具体的表\現が平凡かつありふれた表現ではなく,そこに作者の個性が表\れていたり,作成者の評価,批評等の思想,感情が表現されていれば,創作性のある表\現として著作物に該当するということができる。 以上の観点から検討するに,本件送信原稿1ないし6(甲46の1ないし6)は,Dの付した別紙第一目録記載1ないし6の表題に内容が要約されているとおり,これらはいずれも長嶋氏の生い立ちからプロ野球選手として活躍し,選手としての引退後も読売ジャイアンツの監督として活動した時期について,本件送信原稿8(甲46の8)は「長嶋21世紀の巨人」との表\題に示されるとおり,将来にわたる読売ジャイアンツの展望等について,それぞれインタビューを受けた長嶋氏の返答を素材とし,これを一連の文章としたものである。また,本件送信原稿7(甲46の7)には「長嶋王さん語る」との表題が付されているが,読売ジャイアンツの同僚選手であった王貞治氏が長嶋氏について語っている部分,監督としての両氏についてのほか,王貞治氏自身について天覧試合での出来事やホームラン一般に関してインタ\nビューを受けた際の王貞治氏の返答を素材とし,これを一連の文章としたものである。これらは,前記1(2)で一部認定した公表済みの同旨の文章と対比しても,また文章自体からしても,インタビューに対する応答をそのまま筆記したものではなく,用語の選択,表\現や,文章としてのまとめ方等にそれなりの創意工夫があるものと認められるから,著作物性が認められるというべきである。 また,本件送信原稿12ないし14及び同16(甲46の12なしい14及び同16)については,長嶋氏がメジャーリーグのボンズ選手,柔道家の井上康生氏との対談や,長嶋氏が五輪についてインタビューを受けた内容,長嶋氏が折りにふれ取材記者等に語った内容を文章に表現したものであり,これらについても同様に,前記1(3)で一部認定した公表済みの同旨の文章と対比しても,また文章自体からしても,インタビューに対する応答をそのまま筆記したものではなく,用語の選択,表\現や,文章としてのまとめ方等にそれなりの創意工夫があるものと認められるから,これらについても著作物性が認められるというべきである。 以上によれば,本件送信原稿1ないし8,同12ないし14及び同16については,いずれも著作物性が認められる。
・・・・
不競法2条6項にいう「公然と知られていない」とは,当該情報が刊行物に記載されていない等,保有者の管理下以外では一般に入手することができない状態にあることをいうものと解される。 これを本件についてみると,前記1(2)で認定したとおり,原告は,本件営業秘密とされる内容と同一であるとするDのメモにつき,特段の秘密保持に関する契約等も締結することなく,日本経済新聞社に「私の履歴書」として連載することを予定して提供している。そして,原告が本件営業秘密であると主張する内容の一部につき,これとほぼ同旨の内容が日本経済新聞の「私の履歴書」に連載され,これは「野球は人生そのものだ」として単行本化もされているほか,前記1(3)で認定したとおり,東京読売新聞を含む全国紙の報道により公知となっている内容も存するものである。 そして,原告は,長嶋氏関連原稿は,いずれも原告の営業秘密に該当するものとして記事編集機に保存されたものであるとするところ,前記1(2),(3)で認定したとおり,記事編集機に保存された内容には既に公知となったものも多数含まれていることからすると,記事編集機に保存された内容の全てが非公知であるとは認められないこととなる。 これらを踏まえれば,本件営業秘密のうちの川上氏関連原稿に係る部分に ついても,平成25年10月31日にその一部が新聞記事として公表されるまでの分について非公知であるとの立証がないことに帰するほか,川上氏関連原稿につき,川上氏に対する取材を全く行っていないDにおいて,なぜ本件送信原稿15(甲46の15)の10行の文章を付加することができたのかについても合理的な説明がされていないことからしても,川上氏関連原稿の非公知性については原告による立証がされたものとは認め難い。\n以上の検討によれば,本件営業秘密が不競法2条6項所定の秘密管理性及び有用性を有するか否かはともかく,少なくとも非公知であるとの立証はないというべきである。

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平成24(ワ)35742 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟 平成26年04月17日 東京地方裁判所 

 所属モデルの詳細情報が営業秘密であると認定されました。
 登録モデル情報は,外部のアクセスから保護された原告の社内共有サーバー内のデータベースとして管理され,その入力は,原則として,システム管理を担当する従業員1名に限定し,これへのアクセスは,マネージャー業務を担当する従業員9名に限定して,その際にはオートログアウト機能のあるログイン操作を必要とし,また,これを印刷した場合でも,利用が終わり次第シュレッダーにより裁断している。そして,原告は,就業規則で秘密保持義務を規定しているのであって,モデルやタレントのマネジメント及び管理等という原告の業務内容に照らせば,登録モデル情報について,上記のような取扱いをすることにより,原告の従業員に登録モデル情報が秘密であると容易に認識することができるようにしていたということができる。そうであれば,原告は,登録モデル情報に接することができる者を制限し,かつ,これに接した者に秘密であると容易に認識することができるようにしていたのであるから,登録モデル情報は原告の秘密として管理されていたと認められる。被告らは,原告は,他の従業員も登録モデル情報を入力していたし,従業員であればパソ\コンを起動させるためのログイン操作だけでアクセスすることができた上,特定のソフトウェアを起動させたり時々他の従業員にマウスを動かしてもらったりするなどしてオートログアウト機能\を回避する慣習があったのであり,また,制限なく登録モデル情報を印刷したりすることができ,使用後も印刷物を長期間にわたって机上に放置したりするなどしていたのであって,登録モデル情報は秘密として管理されていたとはいえないと主張する。しかしながら,他の従業員が登録モデル情報の入力をしたことがあるとしても,これが恒常的に行われていたことを認めるに足りる証拠はなく,また,マネージャー業務を担当する従業員でなければ,登録モデル情報にアクセスすることはできないし,仮に従業員にマウスを動かしてもらったりするなどしてオートログアウト機能を回避することがあったとしても,これが恒常的に行われていたとか,このことを原告が容認していたことを認めるに足りる証拠はない。そして,登録モデル情報を印刷した場合には利用が終わり次第シュレッダーにより裁断しているのであって,ことさらにこれを机上に放置したり,裏紙として再利用したりしていたことを窺わせるような証拠はない。被告らの主張は,採用することができない。イ 原告は,モデルやタレントのマネジメント及び管理等を業とする株式会社であり,顧客からモデル募集等の注文があった際に,登録モデル情報を使用すれば,顧客の注文に即した候補モデルを短時間で効率的に選別することができるのは明らかであるから,登録モデル情報は,原告の事業活動に有用な営業上の情報である。ウ 原告の登録モデル情報は,原告に登録された2000名を超えるモデルの個人情報であり,一般には知られていないことが認められるから,公然と知られていないものある。被告らは,登録モデル情報は,公募イベントや口コミ,ウェブサイト等で知ることができるから公然と知られたものであると主張するところ,確かに,証拠(乙13)によれば,登録モデル情報のうち,氏名,年齢,身長,写真等の情報を知ることができることが認められるが,登録モデル情報は,原告に登録された2000名を超えるモデルの個人情報であって,しかも,年齢,身長,写真等のほか連絡先と有機的に結合したものであるから,このような情報を公募イベントや口コミ,ウェブサイト等から知ることはできない。被告らの主張は,採用の限りでない。

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平成25(ワ)7391 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成26年03月18日 大阪地方裁判所 

 不競法の営業秘密に該当せず、競業禁止規定についても合理性がない、と判断されました。
 前提事実記載のとおり,平成20年5月21日,被告P2が,本件合意が記載された本件契約書に署名押印したことは争いがないが,職業選択の自由の制限となる退職後の競業避止義務が有効であるためには,その合理性を支える事情が必要となる。(2) この点,本件合意は,3年間,地域,業務に何ら制限なく,同業者(その関連企業も含む)への就職や起業,コンサルティング業務等までをも禁止する広汎なものであり,およそ情報機器等の販売等に従事すること一切を禁止するものであるところ,前記前提事実のとおり,被告P2は単に営業職であったにすぎず,同被告がこのような競業避止義務を甘受すべき地位,職務にあったとは認められないし,また,原告が,同義務を負わせるに十分な代償措置を講じたことなどについての立証は何らされていない。結局,前記職業選択の自由の制限を正当化するに足る事情は何ら認められないというべきである。(3) したがって,本件合意は,その内容に照らし,真意に基づいて合意されたとは認め難い上に,その合理性を支える事情は何ら認められないから,被告P2に対して効力がないというべきである。

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平成25(ワ)7931 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟 平成26年03月06日 大阪地方裁判所

 不競法の営業秘密かが争われました。裁判所は、秘密管理性無しと判断しました。 また、退職後の競業禁止規定についても合理性が認められないとして、就業規則に拘束されないと判断しました。
 原告は,営業秘密として問題とする本件情報を,原告が被告に貸与したパソコン等で被告が日常業務において作成した見積書等に記載の取引先,業務内容,単価,数量の情報と特定した上で,被告の行為が不正競争防止法2条1項4号に該当すると主張する。しかしながら,原告が主張するところによっても,被告は日本ペイントを含む原告の取引先との取引に従事する過程で,取引先に交付する見積書や請求書を作成する都度,原告の業務に使用するものとして,原告が被告に貸与していたパソ\コン等に保存していたというのであり,原告の主張する上記情報とは,前記見積書に記載されていた事項であるというのであるから,そもそも被告が上記情報を不正の手段により取得したということはできないし,仮に被告が上記情報を何らかの形で所持していたとしても(そのような事実が立証されている訳ではない),不正取得行為により取得した情報の使用とはいえないから,不正競争防止法2条1項4号が適用される余地のないことは,明らかと言わざるを得ない。また,被告が上記情報を取得し使用することが不正競争行為に当たるとするためには,上記情報が不正競争防止法2条6項の営業秘密に当たることが前提となるが,上記情報のうち,産業廃棄物運搬の単価にかかる情報は,従業員や契約の相手方において,通常秘匿することが当然に期待される性質の情報とはいえないし,原告は,上記情報,あるいはそれを記録したパソコンの管理等に関する従業員に対する指示内容や,情報管理に関する規程等の秘密管理の状況,さらに上記情報が非公知であることについて何ら具体的に主張立証せず,被告が大東衛生に対し,本件情報を開示したことについての立証もない。\n
(2) 以上によれば,不正競争防止法違反に基づく原告の請求(請求1)は理由がない。
・・・・
証拠(甲5,9の1・2)によると,平成17年4月1日,原告の就業規則に,「退職後,1年間は同業種の仕事及び得意先に営業行為をしてはならない」との規定が追加されたことが認められる一方,被告が原告に採用されたのが平成15年6月2日であることは当事者間に争いがない。そうすると,就業規則の不利益変更という意味においても,また,そもそも職業選択の自由の制限となる退職後の競業避止義務の有効性という意味においても,同規定が被告に適用されるには,その合理性を支える事情が必要となるというべきところ,同規定は,1年間,地域,業務に何ら制限なく同業者への就職や取引先への営業行為を禁止する広汎なものであるのに対し,このような職業選択の自由の制約を正当化するに足るような事情,すなわち,原告において,被告が競業避止義務を甘受すべき地位,職務にあったこと,また,原告が,同義務を負わせるに十分な代償措置を講じたことなどについての主張立証はされていないから,結局,前記合理性を支える事情は何ら認められないというべきである。したがって,原告の主張する就業規則は,被告を拘束しないというべきであるから,退職後の競業避止義務違反をいう原告の主張(請求3)は理由がない。\n

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平成23(ワ)8221 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成25年07月16日 大阪地方裁判所

 プログラムのソースコードは営業秘密となり得るとしましたが、それはコードそれ自体であると判断されました。
 一般に,商用ソフトウェアにおいては,コンパイルした実行形式のみを配布したり,ソ\ースコードを顧客の稼働環境に納品しても,これを開示しない措置をとったりすることが多く,原告も,少なくとも原告ソフトウェアのバージョン9以降について,このような措置をとっていたものと認められる。そうして,このような販売形態を取っているソ\フトウェアの開発においては,通常,開発者にとって,ソースコードは営業秘密に該当すると認識されていると考えられる。前記1に認定したところによれば,本件ソ\ースコードの管理は必ずしも厳密であったとはいえないが,このようなソフトウェア開発に携わる者の一般的理解として,本件ソ\ースコードを正当な理由なく第三者に開示してはならないことは当然に認識していたものと考えられるから,本件ソースコードについて,その秘密管理性を一応肯定することができる(もっとも,肯定できる部分は,少なくともバージョン9以降のものであるところ,原告はそのような特定はしていないし,また,ソ\フトウェアのバージョンアップは,前のバージョンを前提にされることも多いから,厳密には,秘密管理性が維持されていなかった以前のバージョンの影響も本来考慮されなければならない。)。
・・・
しかし,上記2に説示したとおり,本件において営業秘密として保護されるのは,本件ソースコードそれ自体であるから,例えば,これをそのまま複製した場合や,異なる環境に移植する場合に逐一翻訳したような場合などが「使用」に該当するものというべきである。原告が主張する使用とは,ソ\ースコードの記述そのものとは異なる抽象化,一般化された情報の使用をいうものにすぎず,不正競争防止法2条1項7号にいう「使用」には該当しないと言わざるを得ない。
 (3) 原告は,原告ソフトウェアがdbMagic,被告ソ\フトウェアがVB2008と,全く異なる開発環境で開発されていることから,本件ソースコード自体の複製や機械的翻訳については主張せず,本件仕様書(乙1)に,本件ソ\ースコードの内容と一致する部分が多いことから,被告P2らにおいて,本件ソースコード自体を参照し,原告ソ\フトウェアにおけるプログラムの処理方法等を読み取って,これに基づいて被告ソフトウェアを開発した事実が認められる旨を主張する。しかしながら,前述のとおり,企業の販売,生産等を管理する業務用ソ\フトウェアにおいて,機能や処理手順において共通する面は多いと考えられるし,原告ソ\フトウェアの前提となるエコー・システムや原告ソフトウェアの実行環境における操作画面は公にされている。また,被告P2は,長年原告ソ\フトウェアの開発に従事しており,その過程で得られた企業の販売等を管理するソフトウェアの内部構\造に関する知識や経験自体を,被告ソフトウェアの開発に利用することが禁じられていると解すべき理由は,本件では認められない。\n

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平成22(ワ)7025 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成25年04月11日 大阪地方裁判所

 不競法の営業秘密であると認定されました。
 原告が顧客情報等を管理するために,専用のアプリケーションソフトであるトラッカーを開発していたこと,原告の従業員がトラッカーを利用するためには,ユーザー名及びパスワードの入力が必要であったことは,当事者間に争いがない。また,証拠(甲23〜25,49)によれば,原告の従業員が初期設定からユーザー名及びパスワードを変更していたこと及び被告P1自身もパスワードを変更していたことが認められる。さらに,原告の従業員が私物のパソ\コンにトラッカーをインストールするためには,「プログラム等使用許諾依頼書」に署名することが義務づけられていたこと,同書面には,退職時には必ずアンインストール作業を原告に依頼すること及び「1)無断複製2)機密漏洩3)A/Tに付帯する全てのデーターの譲渡・転売 4)IBC(株)への損害付与」が禁止されていたこと,実際にトラッカーのインストール及びアンインストール作業は,従業員個人ではなく,作業担当者が行っていたことも認められる(甲15,51)。加えて,被告P1が利用していたクライアントコンピュータから原告のデータベースへのアクセス回数は,平成19年10月から平成20年1月までの間に,1か月当たり,順に139回,114回,107回及び107回であったのに対し,平成20年2月には1か月227回と倍増しており,同月1日だけで70回にも及ぶことが認められる(甲19,20)。同様に,証拠(甲21,22)によれば,被告P2が利用していたクライアントコンピュータからのアクセス回数も,平成19年10月から平成20年3月24日までの間に,1か月当たり,順に77回,65回,21回及び13回であったのに,平成20年2月には145回に急増し,同月6日だけで32回にも及ぶことが認められる。このような急激なアクセス回数の増加は,1回当たりのアクセスで入手できる情報が制限されていたところ,被告P1及び被告P2が本件顧客情報を持ち出すためにアクセス回数を増加させたものであるとする原告の主張を裏付けるものである。被告P1及び被告P2はこの点について首肯できる説明をしていない。原告が管理業務等を委託した関連会社の従業員についてみると,証拠(甲16)によれば,原告は,業務委託先との間で,業務委託契約書を締結していたこと,業務委託先の従業員は,ID及びパスワードを付与されてトラッカーへのアクセス権限を付与されていたこと,受託業務等の処理手続以外の目的での利用は禁止されており,利用者が業務中に知り得た原告の情報及び個人情報(顧客情報を含む)を漏洩又は使用して,原告に損害を与えた場合には損害賠償の義務を負うとされていたことが認められる。上記争いのない事実及び証拠によって認定できる客観的事実によると,原告において,本件顧客情報にアクセスできる者は制限されていたことが認められる。 これに対し,被告P1,被告P2,被告P4及び証人P11は,原告において本件顧客情報にアクセスできる者が制限されていなかった旨の供述又は証言をするが,いずれも上記客観的事実と整合しないものであり,採用できない。
イ 本件顧客情報にアクセスする権限を有する者は,本件顧客情報が秘密であることを認識していたこと前記アのような本件顧客情報の管理状況からすれば,本件顧客情報にアクセスする権限を有する者は,本件顧客情報が秘密であることを当然に認識していたものと認めることができる。そして,原告の就業規則(甲14)には,「業務上で知った機密などを,他に漏らすこと」について禁止事項として規定されていたこと,前記アのとおりトラッカーに関する「プログラム等使用許諾依頼書」には「2)機密漏洩3)A/Tに付帯する全てのデーターの譲渡・転売 4)IBC(株)への損害付与」を禁止する旨の記載があったことが認められるところ,本件顧客情報が,これらの禁止事項の対象となる「機密」あるいは「A/Tに付帯する全てのデーター」に含まれることも当然に認識することができたと認められる。
(2)有用性及び非公知性本件顧客情報は,原告のインターネットサイトから会員登録をした顧客の氏名又は名称,担当者名,担当者のEメールアドレス,電話番号並びに国及び地域である。原告のように,インターネットを通じて,日本の中古車を海外の顧客に販売する事業において,顧客に対する営業活動をするに当たり,これらの情報が必要不可欠のものであり,客観的に有用な情報であることは多言を要しない。被告らは,インターネットの検索エンジンを3つ用いて検索したところ,本件顧客情報に含まれるケニアの顧客合計1010名のうち合計176名及びニュージーランドの顧客合計248名のうち82名について,検索結果に表示することが可能\であったから,これらの情報は公知のものであり,本件顧客情報は有用性を欠くものである旨主張する。しかしながら,関連するタームを用いて検索して検索結果に表示することができたからといって,上記顧客らが日本から中古車を輸入する業者であるか,実績があるかなどについては明らかとはならないのであって,これにより本件顧客情報が公知のものであるなどとはいえない。そもそも,複数の検索エンジンを用いて,ようやく検索できたというのであり,しかも,ケニアの顧客については8割以上(乙3),ニュージーランドの顧客については6割以上(乙5)の者について検索が不可能\であったというのであるから,上記被告の主張はおよそ採用しがたいものである。なお,中古車のオークションに参加した場合,オークションで入札した者の一覧を入手することが可能であり,その中には,海外の顧客もいる(乙39)。しかし,日本のオークションに直接海外から入札する者は,もともと,原告や被告39ホールディングスの顧客として予\定されず,原告の顧客となるべき者は,原告を通じて入札しているので,上記一覧からは,原告の顧客となるべき者の情報を知ることはできない。
(3)小括よって,本件顧客情報については,秘密管理性,有用性及び非公知性のいずれについても認めることができるから,原告の営業秘密に当たるものということができる。

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平成24(ネ)10005 プログラム差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

 営業秘密を用いてプログラムが作成されたとして、不競法に基づいて、差止、損害賠償を求めましたが、控訴審も一審と同じく、請求が棄却されました。
 上記認定事実によれば,本件各技術情報のうち,原判決別紙技術情報目録記載1の「多段階モード合成法と並列処理の技術資料」と題する文書,及び,同目録記載2の大規模メモリーの動的管理(プログラムの処理過程での大規模メモリーを動的に再配置する手法)を用いた多段階モード合成法による大規模固有値解析のための「ネクストNVHソルバープログラム」(初期版)は,被控訴人会社による成果物であって,控訴人が,これを保持すべき権原を有するとは認めることができない。控訴人は,「多段階モード合成法と並列処理の技術資料」と題する平成18年7月付けの書面を甲1として提出するが,乙16によれば,控訴人代表\者自身,別件訴訟(乙33がその判決)の本人尋問において,平成18年7月当時,甲1は作成されていなかった趣旨の供述をしていることが認められるから,甲1に基づいて,控訴人が,甲1に記載の技術情報を,その作成日と記載してある時点で作成していたものと認めることはできない。控訴人は,甲33にはAdvance/NextNVHの開発元として控訴人が記載されていると主張するが,被控訴人会社も開発販売元と記載されているから,控訴人のみが同プログラムの開発者であることの根拠にはならない。控訴人は,「多段階モード合成法」こそが控訴人において名称統一し考案した独自のアルゴリズムであり(甲1),乙14の確認書などにおける「多重モード合成法」はそれと異なると主張するが,そもそもそのよって立つ甲1自体作成日付のものと認められないことは前記のとおりであるし,被控訴人会社と控訴人との間で取り交わされた業務委託契約確認書やソフトウェアモジュール開発確認書であり,その成立自体特段の争いのない乙6及び乙14には,控訴人の成果物とされる固有値モジュール・固有値ソ\ルバーについて触れられていない。控訴人が,Advance/NextNVHの開発作業中に,別の固有値計算アルゴリズムを独立に作成したとすれば,これを被控訴人らに対し他用を禁じて引き渡し,かつ,権利範囲を確定することを含めて乙6及び乙14に記載しないものとは考え難い。控訴人の上記主張は,採用できない。
 (2) 上記認定事実によれば,原判決別紙技術情報目録記載4の「Hybrid NextNVH実行ログファイル:PARMCMS.log トヨタ自動車160万自由度車両シェルモデル(理論解との比較検証)」と題する文書(甲6)の内容は,多重モード合成法固有値モジュール・固有値ソルバーの動作をトヨタ自動車の貸与した検証用データに基づいて検証したものと認められ,被控訴人会社の成果物であって,控訴人は,これを保持すべき権原を有するものとは認められない。原判決別紙技術情報目録記載3の「モード合成法固有値ソ\ルバーの固有値精度検証1万自由度ベンチマーク問題(1)」と題する文書(甲5)の内容は,多重モード合成法固有値モジュール・固有値ソルバーの動作を小規模な検証用データに基づいて検証したものと認められ,被控訴人会社の成果物であって,控訴人は,これを保持すべき権原を有するものとは認められない。他に,原判決別紙技術情報目録記載の本件各技術情報が,控訴人の営業秘密であると認めるに足りる証拠はない。\n

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平成23(ネ)10084等 損害賠償請求控訴事件 不正競争 民事訴訟 平成24年07月04日 知的財産高等裁判所

 本件顧客情報が営業秘密であるとした原審が維持されました。
 以上を総合すれば,1審原告らは,本件顧客情報に接し得る者を制限し,本件顧客情報に接した者に本件顧客情報が秘密であると認識し得るようにしていたといえるから,本件顧客情報は,1審原告らの秘密として管理されていたということができる。
 (エ) 以上に対して,1審被告らは,本件顧客情報について,関係書類が机上に放置されていたり,写しが上司等に配布されたり,上司の指導で休日等における営業のために自宅に持ち帰られたり,手帳等で管理されて成約後も破棄されなかったり,本件就業規則が周知されていなかったりするなど,ずさんな方法で管理されていたことから,本件顧客情報は秘密管理性を欠く旨主張する。しかしながら,上記関係書類が上司等に配布されたり自宅に持ち帰られたり手帳等で管理されて成約後も破棄されなかったりしていたとしても,それは営業上の必要性に基づくものである上,1審原告らの営業関係部署に所属する従業員以外の者が上記関係書類や手帳等に接し得たことを窺わせる事情も見当たらず,1審原告らがその従業員に本件顧客情報を秘密であると容易に認識し得るようにしていたことは前記(イ)に認定のとおりである。また,本件顧客情報の関係書類が机上に放置されていたことは,これを認めるに足りる証拠がない。したがって,本件顧客情報が秘密管理性を欠くとの1審被告らの上記主張は,採用することができない。
 (オ) また,1審被告らは,1審原告ネクストの顧客情報である氏名,連絡先又は住所等が単独でも営業秘密として明示されている必要があるのに,そのような明示がされていないとして,当該顧客情報には秘密管理性が認められない旨を主張する。しかしながら,1審原告ネクストは,前記(1)ア(ウ)及び(エ)に認定のとおり,本件顧客情報について厳格に管理を行い,かつ,前記(1)ア(オ)及びイに認定のとおり,従業員に対して,本件顧客情報が秘密であると容易に認識し得るようにしていたから,本件顧客情報の個別の情報について秘密であることを明示するまでもなく,優に秘密管理性を認めることができる。

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◆原審はこちら。H21年(ワ)24860

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平成21(ワ)16761等 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟 平成24年06月01日 東京地方裁判所

 不競法2条6項の営業秘密には当たらないと判断されました。
 原告が主張する本件情報1〜3は,いかにして電気通信事業法9条所定の電気通信事業の登録申請及び電波法27条の5に基づく特定無線局の包括免許申\請の各要件を満たすかに関する,いわば許認可申請のノウハウであり,原告が,「電気通信事業者の登録申\請手続は原告が長年の衛星通信業界における経験と研究により原告が独自に考案した手続であるので不正競争防止法の営業秘密といえる」(平成23年1月31日付け原告準備書面(18)5頁8〜10行目),「上記資格(判決注:電気通信事業者としての資格)取得の手続き,包括免許(判決注:無線局の包括免許)取得手続きは原告の重要な営業秘密である」(平成24年2月29日付け原告準備書面(27)13頁19〜20行目)などと主張していることからしても,原告の主張する営業秘密は,行政における許認可基準及びその手続に関する情報を指すものと解される。
 しかし,行政における許認可基準は,広く国民に開示されるべきものであり,行政庁がこれを公開せずに秘匿できる性質のものではない。そして,本件情報1,2は,いずれも登録電気通信事業者の資格取得要件に関する情報であり,その基準及び手続の概要は,総務省平成18年12月発行の「電気通信事業参入マニュアル」(乙3)に記載されて公開されており,記載されていない部分についても総務省に照会することにより取得することができた情報であると認められる。本件情報3は,電波法による特定無線局の包括免許申請の要件の一つである特定無線局に係る通信の制御に関する事項(無線局免許手続規則20条の8第2項3号)について,第3世代衛星サービスに関しては,インマルサット社からPSA資格の付与を受けることにより,第4世代衛星サービスに関しては,ストラトス社との間でサービスプロバイダ契約を締結することによりインターネット回線を通じて上記要件を満たすことができるとの情報であるが,これらの情報が衛星通信業界において非公知であったことを認めるに足りる的確な証拠はない(原告は,これらの情報が非公知であったことの根拠として,総務省が原告から説明〔甲62,109〕を受けるまでこれらの情報を知らなかったこと,原告とストラトス社(ザンティック社)との間のサービスプロバイダ契約〔甲82〕に秘密保持の定めがあり,他社においてこれを知ることができなかったことを主張する。しかし,たとえこれを総務省が知らなかったとしても,それだけで非公知の情報になるわけではなく,それゆえに総務省が申\請内容について秘匿すべき義務を負うものではない。また,原告とストラトス社(ザンティック社)との間のサービスプロバイダ契約に守秘義務の定めがあったとしても,同契約の内容にとどまらず,ストラトス社(ザンティック社)との間で同様の契約を締結することによりインターネット回線を通じて上記要件を満たすことができるという点〔この点は,上記包括免許申請の要件に係る情報であり,非公開とすべきものではない。〕についてまで守秘義務が及ぶものと解することはできず,非公知であったということはできない。したがって,原告の主張を前提にしても,これらの情報が非公知であったと認めることはできず,ほかにそのように認めるべき的確な証拠はない。)。また,本件情報4は,原告とストラトス社との間のサービスプロバイダ契約におけるサービス料金が従量制であるとの情報であるが,同情報も,衛星通信業界では一般的に知られていた情報であったと認められる(乙41〜43,弁論の全趣旨)。したがって,本件情報1〜4は,非公知性を認めることができず,その余の点について検討するまでもなく,不競法2条6項の営業秘密には当たらない。 \n

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平成21(ワ)38953 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年02月21日 東京地方裁判所

 本件情報は公知であるとして、営業秘密に該当しないと判断されました。
 株式会社の取締役は,当該株式会社からその保有する不正競争防止法2条6項所定の営業秘密を示された場合において,信義則上,取締役を退任した後も,不正の競業その他の不正の利益を得る目的で,又は当該株式会社に損害を加える目的で,当該営業秘密を使用し,又は開示しないという秘密保持義務を負うものと解される。そして,この秘密保持義務にいう「秘密」とは,同項の規定に照らし,公然と知られていないこと,すなわち,不特定の者が公然と知り得る状態にないことを要し,本件誓約書にいう「秘密」も,本件誓約書の規定に照らし,これと同様に解するのが相当である。本件誓約書上の営業秘密は公知事実を含むという原告の主張は,「隠して人に知らせないこと。公開しないこと。また,その内容。」という「秘密」の意味に明らかに反するものであって(乙13),採用することができない。
 (2) 証拠(甲22,23,27,28,乙11,18)及び弁論の全趣旨によれば,原告製品においては,画面上,マウスで「編集」ボタンと属性設定タブ上の「光線変更」ボタンを順次クリックし,現在の光源の方向から照らされた球体が表示されているダイアログウインドウを開いた上で,上記球体をクリックしたままマウスをドラッグし,初期状態である正面以外の光源の方向でマウスボタンを放すと,光源の方向が変更され,程度の差はあれ,画像上,光源の反対方向で陰となるべき部分が明るく描出される現象が現れることが認められる。このため,本件情報は,マウスで3回のクリック操作と1回のドラッグ操作のみで容易に知り得るものであり,不特定の者が公然と知り得る状態にないとはいえないから,原告の取締役であった被告が信義則上保持すべき「秘密」や本件誓約書上の「秘密」に当たる余地はない。この点につき,原告は,原告製品において画像上,陰となるべき部分が明るく描出される現象につき,顧客からの指摘がなかった旨主張するとともに,原告の被用者において,通常,光源の方向を変更する必要がなく,仮に変更する必要があれば,操作がより簡単な画像を回転させる方法によるのが通常であるから,顧客が公然と知り得る状態になかった旨陳述する書面(甲27)を提出する。しかしながら,証拠(甲22,25)によれば,上記現象には,画像の輪郭を明確にする効果もあり,そのために顧客から指摘がなかったとも考えられ,顧客から指摘がなかったことをもって,不特定の者が公然と知り得る状態にないことを根拠付けるものではない。また,証拠(乙18,被告本人)によれば,画像の凹凸を観察するためには,光源の方向を変更する必要が生じることもあること,その場合には,画像を回転させずに観察する必要が生じることもあること,原告製品の取扱説明書には,光源の方向を変更する方法が記載されていることが認められるから,顧客が上記現象を公然と知り得る状態になかったという上記陳述は,採用することができない。
 (3) 以上の点をおくとしても,原告が本件情報を秘密として管理していたことを認めるに足りる証拠はないから,本件情報は,原告の取締役であった被告が信義則上保持すべき不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」や本件誓約書1条所定の「秘密として管理している」情報に当たる余地もない。したがって,本件情報は,原告の取締役であった被告が信義則上保持すべき営業秘密や本件誓約書上の営業秘密に該当しないというべきである。

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平成19(ワ)30603 不正競争行為差止等請求事件 平成23年10月21日 東京地方裁判所

 営業秘密等には該当せずとしましたが、不法行為に基づく損害賠償を認めました。
 本件取引先29について,証拠(甲98,112)によれば,被告Y1は,原告に在職中の平成17年4月11日,それまで本件取引先29から直接商品を受注していたにもかかわらず,その中間に「C印刷」こと被告Y5を介在させるように取引形態を変更させたこと,その結果,本件取引先29との取引により原告が取得すべき利益を減少させたこと,以上の事実が認められる。これは,原告の従業員(当時,原告営業部部付部長)である被告Y1が,原告が得るべき利益の一部を「C印刷」こと被告Y5に取得させたものであり,原告に不利益を与えたもので,社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものというべきであるから,原告に対する不法行為を構成する。\n

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平成20(ワ)35836 業務禁止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成23年09月29日 東京地方裁判所

 秘密管理性なしとして不正競争防止法上の営業秘密では無いと判断されましたが、就業規則等に違反するとして、販売業務の禁止および損害賠償が認められました。
 不正競争防止法上の営業秘密とは,秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないものをいうところ(同法2条6項),ある情報が秘密として管理されているというためには,当該情報に接し得る者が制限され,当該情報に接した者に当該情報が秘密であると認識し得るようにしていることが必要であると解される。証拠(甲1,16,乙15,原告代表者,被告A本人,弁論の全趣旨)によれば,i)原告は,平成20年当時,資本金の額が2400万円で社員数が約30人弱の中小企業であり,大別して「OasisO2」と医学教育関連製品,血圧計等の健康機器をそれぞれ販売する3部門に分かれていたこと,ii)原告では,全社員に秘密保持誓約書を提出させていたこと,もっとも,iii)本件各商品等の取引実績等から構成される顧客情報が蓄積された原告事務所のパーソ\ナルコンピュータは,他のパーソナルコンピュータとLANで接続されるとともに,上記顧客情報にはパスワードが設定されていなかったため,本来は「OasisO2」の販売部門に所属する営業社員だけが上記顧客情報を閲覧したり印刷したりすることが許されていたにもかかわらず,実際には原告の従業員であれば派遣社員やアルバイトでも自由に上記顧客情報を閲覧したり印刷したりすることができていたことが認められる(原告は,営業会議等で顧客情報を流出させないよう注意喚起するなどしていた旨主張するものの,これを認めるに足りる証拠はない。)。\n

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平成22(ワ)3490等 商標権に基づく請求権不存在確認等請求本訴,商標権侵害行為差止請求反訴 平成23年09月15日 大阪地方裁判所

 商標権、意匠権侵害なし、権利者(意匠権)が警告を取引先に配布したことは、営業誹謗行為と認定されました。
 反訴原告は,反訴において,当初,反訴被告による反訴被告商品の製造販売行為が本件意匠権を侵害する旨の主張をしていたものの,第8回弁論準備手続期日において当該主張に基づく訴えを取り下げ,反訴被告はこれに同意している。また,そもそも本件意匠権侵害の主張は,反訴被告の取引先に送付した上記警告書には何ら記載されていない。また,上記警告書には,反訴被告商品の販売が,不正競争防止法2条1項2号に該当する旨の記載もあるが,反訴原告は,反訴において,反訴被告商品の製造販売行為が同号に該当する旨の主張は一切していない。そうすると,反訴原告が,反訴被告商品の製造販売行為が本件意匠権を侵害し,不正競争防止法2条1項2号に該当する旨の告知又は流布に及ぶおそれが今後もあるとは認められない。
(3) したがって,反訴被告の不正競争防止法3条,2条1項14号に基づく差止請求は,反訴原告に対し,本件商標権を侵害し,不正競争防止法2条1項1号に該当する旨の告知又は流布の差止めを求める部分については理由があるが,その余の部分(本件意匠権を侵害し,不正競争防止法2条1項2号に該当する旨の告知又は流布の差止めを求める部分)については,理由がない。

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平成22(ワ)29497 損害賠償等請求事件 平成23年09月14日 東京地方裁判所

 秘密管理性が否定されて、営業秘密とはいえないと判断されました。
 原告の顧客名簿(上記名刺ホルダー,パソコン内の顧客名簿データ及び顧客情報を記載したノート)の内容及び管理状況に照らすと,原告において,上記各情報に接した者が,これらが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理されていた実体があったと認めることはできず,上記情報が,不正競争防止法上保護されるべき営業秘密に当たると認めることはできない。また,原告は,原告の仕入先名簿も営業秘密に該当するところ,上記仕入先名簿は,原告店舗2階の施錠可能\なロッカー内に保管されていたから,営業秘密として管理されていたと主張するが,原告は仕入先名簿を証拠として提出しているものではなく,他方,被告Bは,原告において,仕入先の名刺,納品書の他に,仕入先に関する情報を集約した仕入先名簿等は作成されておらず,原告が仕入先名簿であると主張するファイルは,商品台帳であって仕入先に関する情報が記載されているものではないと供述している。そうすると,仕入先名簿の存在自体が立証されているものとはいえない。また,仮にこれが存在したとしても,原告が仕入先名簿を保管していたとする上記ロッカーの鍵は,従業員が必要に応じて解錠することができ,保管書類を原告店舗内で使用するに当たり,制限等はなかったことがうかがわれる(原告代表者,被告B)のであるから,上記仕入先名簿が,不正競争防止法上保護されるべき営業秘密として保管・管理されていたことを認めるに足りるものではない。\n

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平成22(ワ)5114 損害賠償等請求反訴事件 平成23年08月19日 東京地方裁判所 

 著作権侵害、不競法違反が存在しないとして、営業誹謗行為(不競法2条1項14号)であると判断されました。
 前記前提事実オの本件注意書の記載内容のうち,(ア),(イ),(エ),(ク)及び(ケ)の記載は,反訴被告による反訴被告事業の実施が,反訴原告装置に関する反訴原告の著作権等の権利を侵害する違法なものであることを内容とする記載であると解されるところ,反訴被告による反訴被告事業の実施が,反訴原告の著作権若しくは著作者人格権侵害,不正競争行為又は秘密保持義務違反(債務不履行)のいずれにも当たらないことは前記のとおりであるから,前記(ア),(イ),(エ),(ク)及び(ケ)の記載は虚偽の部分を含むものである。
イ また,本件注意書の記載内容のうち,前記オ(ウ)の記載中で「スペースチューブからの盗作である」と記載された本件イラストは,反訴原告と反訴被告の共同事業として実施された前記前提事実ア記載のイベントにおいて撮影された写真を基に,反訴被告の依頼に基づき描かれたものであると認められるが(甲10の1・2),本件イラストの表現内容が前記前提事実カのとおりのものであることに照らし,本件イラストが反訴原告装置を複製したものに当たらないことは明らかであり,他に本件イラストが反訴原告の権利を侵害するものであることを認めるに足りる証拠はない(なお,反訴原告は,本件イラストが上記のとおり反訴原告装置を撮影した写真を基にして描かれたものであることから,本件イラストが反訴原告の反訴原告装置についての著作権を侵害する旨主張するものであると解されるが,本件イラストは,前記前提事実カのとおり,4人の子供及びその指先や膝先,手首の先などに曲線が描かれたものであり,本件イラストは反訴原告装置を有形的に再製したものでも,反訴原告装置の本質的特徴を感得することができるものでもないことは明らかである。)。したがって,前記(ウ)の記載も虚偽のものに当たる。
ウ さらに,前記オ(オ),(カ)及び(キ)に記載された本件契約の解除の経緯等に関する記載のうち,反訴被告が反訴原告を脅した旨の記載は,前記前提事実イ及びウの反訴原告と反訴被告との間における通知及び回答の各内容に照らし,事実経過に沿わないものであるというべきである。エ 反訴原告と反訴被告は,体験型の展示装置を使用したイベントの実施を行う点で競争関係にあるものと認められるところ,以上のとおり,本件注意書は,前記アないしウの点で,虚偽の内容を含むものであると認められる。そして,本件注意書の前記記載は,反訴被告事業が反訴原告の権利を侵害する違法なものであり,又は,反訴被告が反訴原告を脅すなど不当な経緯により事業をするに至った旨を,本件注意書を見る不特定多数の者に印象付けるものであって,反訴被告の営業上の信用を害するものである。よって,反訴原告による本件注意書のアップロードは,虚偽の事実を流布する行為(不正競争防止法2条1項14号)に当たるものであると認められる。

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平成20(ワ)28364 不正競争行為差止等請求事件 平成23年04月26日 東京地方裁判所

 営業秘密に当たるとして、差止、および約3億の損害賠償が認められました。
 平成18年ないし平成19年の時点における本件情報の管理状況は,前記(1)ウ(イ)認定のとおり,出光基本設計図書(P&ID,PFD及び機器図)及びその電子データ(CADデータ)が記録されたフロッピーディスクが千葉工場のPS・PC計器室内のロッカー内に保管され,上記PS・PC計器室の建物出入口の扉には「関係者以外立入禁止」の表示が付され,上記ロッカー内の上記フロッピーディスクが入れられたケースの表\面には,持ち出しを禁止する旨が記載されたシールが貼付されていたものであり,また,外部の者が千葉工場の構\内に出入りする際には,守衛が駐在する詰所において入出構手続をとる必要があり,許可のない者が入構\することはできなかったものである。平成15年ないし平成16年当時の千葉工場における本件情報の管理状況も,おおむね上記管理状況と同様であったものと推認される。加えて,本件情報の上記管理状況及び弁論の全趣旨によれば,本件情報が,世界的にみても稀少といえる,原告及び出光石油化学が独自に開発したPC樹脂の製造技術に基づいて設計されたPCプラントについての具体的な設計情報であり,その性質上,原告及び出光石油化学にとって秘匿性が高い情報であること(前記ア)は,少なくとも出光石油化学千葉工場の従業員であれば,一般的に認識していたものと推認される。(イ) 以上を総合すれば,本件情報は,平成15年ないし平成16年当時の出光石油化学千葉工場において,従業員以外の者はそもそもアクセスすることができず,また,従業員であっても,特定の関係者以外はアクセスが制限され,さらに,アクセスした従業員においても,それが秘密情報であることを認識し得るような状況の下で管理されていたものと認められるから,本件情報は,その当時,「秘密として管理されている」情報であったことが認められる。・・・しかるところ,上記の持ち出しを行った出光石油化学の従業員は,出光石油化学が保有する営業秘密である出光基本設計図書に記載された情報を示され,少なくとも雇用契約に付随する信義則上の義務として,これを第三者に漏洩しない義務を負っていたものというべきであるから,当該従業員が出光基本設計図書のコピー又は電子データをC1に交付する行為は,営業秘密を守る法律上の義務に違反して当該営業秘密を開示する行為であって,不正競争防止法2条1項8号括弧書き後段に規定する「不正開示行為」に当たるものと認められる。そうすると,被告会社がC1から出光基本設計図書のコピー又は電子データを取得した行為及び出光基本設計図書の複製物である被告基本設計図書をビーシー工業に提供し,更にビーシー工業を介して藍星に提供することによって,出光基本設計図書に記載された情報(本件情報)を開示した行為は,営業秘密について不正開示行為が介在したことを知ってこれを取得し,更にこれを開示する行為であって,不正競争防止法2条1項8号の不正競争行為に当たるものと認められる。

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平成20(ワ)34931 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 平成23年02月03日 東京地方裁判所

 特殊な構造を有する雨戸の構\造について、不競法の営業秘密に該当するとして、差止および損害賠償が認められました。
 証拠(甲21,証人E,原告代表者本人)によれば,東衛産業,デイリー産業及び原告は,本件スラット等図面及び本件部品明細資料を社長室の中にある鍵のかかった金庫の中に保管していたこと,原告代表\者だけがこの金庫の鍵を開閉することができ,従業員は,社長室に入室することさえ許可されていなかったため,これらの情報を目にすることがなかったこと,東衛産業,デイリー産業及び原告は,金型を製造する会社に対しては,同一の金型を製造しないように要請していたこと,東衛産業,デイリー産業及び原告の従業員は,就業規則において,会社の業務上の機密となる事項を他に漏らさないことが義務付けられていたことが認められる。(イ) 上記(ア)の事実によれば,本件スラット等図面及び本件部品明細資料は,秘密として管理されていたと認められる。ウ 本件スラット等図面及び本件部品明細資料の非公知性について上記イのとおり,本件スラット等図面及び本件部品明細資料は,秘密として管理されており,それ自体は公にされていないものである。この点,被告らは,光通風雨戸の各部品について,製品の現物から図面を起こして製造することも,製造業者にとっては容易なことである旨主張する。この主張は,すなわち,光通風雨戸のスラット等アルミ部材やそのほかの部品の形状は,光通風雨戸の製品から把握することができるから,本件スラット等図面及び本件部品明細資料に記載された情報は公然と知られているものであると主張しているものと理解される。しかしながら,本件スラット等図面は,0.1ミリ単位の精密さで作られており,細かな溝や微妙な湾曲があること(甲15,27)からすると,光通風雨戸の製品からスラット等アルミ部材の形状を正確に把握し,図面を起こすことは決して容易ではないというべきである。また,本件部品明細資料についても,光通風雨戸の製品がいかなる部品から構成されているかについて,製品自体を分解して把握するには時間と費用を要する上,各部品の図面は0.1ミリ単位の精密さで作られていることから,特別に注文して作られている部品について,光通風雨戸の製品からその形状を正確に把握して図面に起こすことは決して容易ではないというべきである。・・・オ 以上によれば,本件スラット等図面及び本件部品明細資料は,不競法2条6項の営業秘密に該当する(以下,本件スラット等図面及び本件部品明細資料を併せて「本件営業秘密」ということがある。)。\n

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平成20(ワ)7756等 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成22年06月08日 大阪地方裁判所

 コンピュータで管理している情報について、秘密管理性は満たしていると認定されましたが、共謀しての持ち出しまでは否定されました。
 上記認定のとおり,原告は,ウラデンと称する顧客情報管理ソフトを導入し,「電話番号」,「氏名」,「フリガナ」,「住所」,「何を見て」,「転送区分」,「DM区分」,「コレクト区分」,「備考区分」,「入力担当」,「更新担当」,「入力日時」,「更新日時」等の欄を設けて顧客に関する情報を入力してデータとして保管していたところ,営業時間中はウラデンを起動させた状態にしており,スタッフが顧客情報を閲覧すること自体は制限されていなかった。しかし,ウラデンを起動させるために必要なパスワードについては,勤務年数の長いスタッフにしか知らされていなかった上,F及びH以外のスタッフが使用する原告事務所2階に設置されているパソ\コンは顧客情報のデータのコピー及びプリントアウトができないような設定がされており,スタッフが顧客情報を持ち出すことを困難にする措置が講じられていた。また,原告では,ウラデンで管理されている顧客情報を用いてタックシールを作成し,これを貼付してダイレクトメールを送付していたが,顧客の住所,氏名が記載されるタックシールは,スタッフが使用するパソ\コンでは作成することができず,FあるいはHだけが使用していたマスターパソコンで同人らだけが作成していた上,貼\付前のタックシールについては,事務所2階に設置していた鍵付き引出しのある棚で施錠した上で保管し,鍵については一部のスタッフが管理するとともに,タックシールの枚数についてもノートに記載して管理していたというのである。そして,原告においては,スタッフ及び占い師と契約を締結する際,原告の顧客情報を外部に流出させるなどした場合に,損害賠償金として50万円や100万円といった高額の違約金を支払わせる内容の業務請負契約を締結していたものであり,以上の事情に照らせば,原告のスタッフあるいは占い師としては,原告が顧客情報を他の情報とは区別して,秘密として管理していたことを十分に認識することができたといえる。以上のような原告における管理態様からすれば,原告が営業秘密と主張する本件顧客情報は,これに接した者において,原告が秘密として管理していることを十\分に認識することができる措置が取られていたというべきであり,本件顧客情報にアクセスすることができるスタッフが6名程度であったという原告の規模等も考慮すれば,秘密として管理されているものと認めるのが相当である。・・・上記で認定した事実,とりわけ,Eが,土曜日や日曜日には原告事務所に1人で出勤してダイレクトメールの作成作業に従事しており,顧客の氏名,住所が印刷されたタックシールを持ち出すことが容易な状況にあったこと,Eが原告を退職してオブジェに勤務を開始した直後,オブジェにおいて原告と同様の電話占い業の開業準備が始められたこと,オブジェがハーバースを開業した当時にオブジェと業務請負契約を締結した占い師は,いずれも原告と契約を締結していた被告ら4名だけであること(ただし,被告Aについては,この時点では原告との契約が継続していた。),オブジェがハーバースを開業してからわずか3か月後には,EがHER−BER−SUを設立してその代表者となり,オブジェからハーバースの事業を譲り受けたこと,ハーバースが開業した平成19年5月ころから,原告の顧客のもとにハーバースからダイレクトメールが届くようになったこと,平成19年8月10日(HER−BER−SU設立直後)から同年11月14日までの期間でみると,89名中61名,すなわちHER−BER−SUの利用者の実に約68.5%もの利用者が,原告がウラデンで管理していた顧客名簿に記載されている顧客の氏名と一致することなどの事実を総合すれば,Eにおいて,原告と競業する電話占い業を自ら立ち上げることを企て,原告がダイレクトメール送付用に作成したタックシールを印刷するなどして原告の本件顧客情報を持ち出し,連絡先を把握していた被告らに自らあるいは第三者を通じて接触してオブジェと契約を締結させ,本件顧客情報をオブジェに開示し,オブジェ及びHER−BER−SUが,占い事業を営むに当たり,本件顧客情報を利用して原告の顧客のもとへダイレクトメールを送付するなどしたことが推認されるというべきである。以上のEの行為は,不正の競業をする目的で,営業秘密である本件顧客情報をオブジェ(後のHER−BER−SU)に開示したものであるから,不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争に該当し,Eから開示された本件顧客情報を用いて原告の顧客にダイレクトメールを送付して勧誘等をするHER−BER−SUの行為は,同項8号所定の不正競争行為に該当するというべきである。\n

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