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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

新規性・進歩性

平成31(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月11日  知的財産高等裁判所

 Googleが被告の審決取消訴訟です。知財高裁(3部)は、進歩性なしとした審決を取り消しました。なお、無効審判における利害関係も争点でした。請求人適格ありとの判断は審決と同じです。

 平成26年法律第36号による特許法の改正により,特許無効審判は「利害 関係人」のみが請求できるものとされ(123条2項),代わりに,「何人も」 申立てをすることができる(113条柱書)特許異議の申\\立制度が導入された ことにより,現在においては,特許無効審判を請求できるのは,特許を無効に することについて私的な利害関係を有するもののみに限定されたものと解さざ るを得ない。 しかしながら,特許権侵害を理由に民事責任や刑事責任を追及されるおそれ のある関係にある者は,当該特許を無効にすることについて私的な利害関係を 有し,特許無効審判請求を行う利益を有することは明らかである。
・・・
被告は,インターネット上のサービスの提供を行う会 社であって,原告と一定の競業関係にあるといえるから,過去又は将来の行為 を理由に,本件特許権侵害に係る民事上又は刑事上の責任を追及されるおそれ のある関係にある者に当たるということができる。更に言えば,被告は,原告 が提起した本件特許権の侵害を理由とする不当利得返還請求訴訟(別件特許権 侵害訴訟)において,グーグル合同会社と共同して被疑侵害品を開発した旨主 張されている(乙1)のであるから,原告から本件特許権の侵害を問題にされ るおそれがあることは明らかである。 以上によれば,本件審判の請求人(被告)は,本件特許権を無効にすること について利害関係を有するものと認められる。
・・・・
前記アのとおり,本件発明1の「少なくとも単独の受信者の識別子」と は,「遠隔サーバー」が送信する「操作者により決定された…更なる表現」\nを受信する者を識別するための情報であり,ハンドヘルド装置の操作者が, 同装置に前記識別子を入力することで,当該識別子により識別される特定 の者を,前記更なる表現を受信する者として指定できる機能\\を有するもの と解される。 一方,前記イのとおり,甲1に記載された「ランク」は,本件発明1の 「少なくとも単独の受信者の識別子」により実現している機能を果たすも\nのではないから,これに相当するものとはいえない。 そうすると,本件審決が,「ランク」を「少なくとも単独の受信者の識 別子」と呼ぶことは任意であるとして,両者が実質的に同一であることを 前提に,当業者が相違点1−3に係る本件発明1の構成を容易に想到し得\nると判断したことは,その前提を誤るものといえる。 そして,演奏者から受け取った信号と伴奏とを組み合わせたパフォーマ ンスを,サーバにアクセスしている聴衆に同報通信する構成により,「ウ\nェブ/チャット型サービスによるグループ対話式音楽演奏」を実現した引 用発明1において,「少なくとも単独の受信者の識別子」を,演奏者に入 力させる構成を採用する動機付けとなる記載は,甲1には見当たらず,ま\nた,かかる構成を採用することが,「ウェブ/チャット型サービスによる\nグループ対話式音楽演奏」における周知技術であるとも認められない。 したがって,相違点1−3に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に\n想到できたものであるとは認められない。
エ これに対し被告は,甲1には,ランクが高い演奏者が,参加する演奏グ ループを特定するために,どの演奏グループに参加するかの情報を HumSever に対して送信した後に演奏を開始することが,実質的に開示され ており,かかる情報は演奏グループを特定するものであって,演奏グルー プには少なくとも1人の聴衆が含まれるから,同情報は本件発明1の「少 なくとも単独の受信者の識別子」に相当するものであり,相違点1−3は 甲1に開示されている,あるいは,少なくとも実質的な相違点ではない旨 主張する。 しかしながら,前記ウのとおり,甲1に記載された「ランク」は,本件 発明1の「少なくとも単独の受信者の識別子」により実現している機能を\n果たすものではなく,これに相当するものとはいえない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。

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平成31(行ケ)10022  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月18日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、技術分野と課題が共通するので動機付けありとした無効審決を、維持しました。

 甲12,甲13及び甲15の上記各記載によれば,本件特許の出願当時, 複数の受光素子が2次元的に配列されるとともに,当該受光素子ごとに集光レンズ (マイクロレンズ)が設けられた光学的センサを用いたカメラ装置にあっては,そ の中心部と周辺部とにおける光の入射角の相違による周辺部の光量不足が,集光レ ンズを採用しないものより大きくなるという課題が存在し,その課題を解決するた めに,複数のレンズで構成される結合レンズに対し,絞りを被写体側に配置して中\n心部と周辺部との入射角の差を小さくすることにより,周辺部の光量不足を緩和す ることは,当業者の周知技術であったと認められる。
(イ) 原告は,ビデオカメラ装置とコードリーダとでは技術分野が異なり,ビデ オカメラ装置の技術はコードリーダにも適用することができるような幅広い周知技 術でないと主張する。 しかしながら,コードリーダであるIT4400は,A「複数のレンズで構成さ\nれ,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」と,B 「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光し た光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると 共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた,CCDエリアセンサである,光 学的センサ」と,C「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」とを備 えており,上記周知技術に係るビデオカメラ装置と共通する光学系及び撮像方式を 採用していることからみても,ビデオカメラ装置と全く異なる技術分野に属すると いうことはできない。
(ウ) そして,上記周知技術が解決しようとした課題である周辺部の光量不足とは, 撮像素子の受光素子ごとに,素子開口部より大きい口径のマイクロレンズを配設し, 同レンズで集光する構成を採用したことにより生じる事象であり,用途がカメラ装\n置である場合に特有のものではなく,同様の光学系及び撮像方式を採用したコード リーダであるIT4400においても生じ得る事象であることは,当業者が普通に 認識することができたものというべきである。
ウ 容易想到性
このように技術分野と課題が共通することからすると,公然実施されたIT44 00に上記周知技術を組み合わせて,周辺部の光量不足を緩和するために,「読み取 り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置 することによって,光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し, 前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子に対して入射する前記読み取り対象 からの反射光が斜めになる度合いを小さくして,適切な読取りを実現」することは, 当業者が容易に想到することができたというべきである。
エ 原告の主張について
原告は,訂正によって生じた相違点4に係る本件発明の構成に関連して,IT4\n400は,いわゆるガンタイプのコードリーダで,ある程度の大きさが許容され, 周辺部の光量不足の課題が顕在化しにくいことや,ビデオカメラ装置と2次元コー ドリーダでは求められる機能の優先順位が異なり,発光手段の有無やコンパクト化\nのニーズを含めてレンズや絞りの設計思想自体,根本的に相違していることを挙げ, IT4400に対して,上記周知技術を組み合わせる動機付けを欠く旨主張する。 しかし,周辺部の光量不足は,マイクロレンズ付き撮像素子を採用することに起 因して生じる課題であって,ガンタイプのコードリーダであれば,マイクロレンズ 付き撮像素子を採用しても,当該課題が生じないということはできないから,その 解決手段として,上記周知技術を採用することについて動機付けを欠くということ はできない。また,原告の主張する,装置に求められる機能の優先順位の相違が,上\n記周知技術の採用を阻害する事情に当たるともいえない。 よって,原告の主張は採用できない。
オ 以上によれば,本件審決の相違点1に係る容易想到性の判断に誤りはない。
(5)相違点2に係る容易想到性について
相違点2に係る本件発明の構成は,「前記光学的センサの中心部に位置する受光素\n子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の 比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で, 中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」というものであ\nり,光学的センサの「中心部」と「周辺部」との境界や,出力の比に関する「所定値」 については,具体的に特定されていない。 そして,本件明細書【0042】には,「適切な読み取りを実現するためには,セ ンサ周辺部にある受光素子41aからの出力レベルが所定レベル以上になる必要が ある。そのため,例えば,センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対 するセンサ周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上となるよ う射出瞳位置を設定することが考えられる。つまり,このような射出瞳位置となる ように絞り34aの位置を設定するのである。このようにしておけば,中央部と周 辺部の出力差を考慮しながら,例えば照射光の光量や露光時間などを調整すること が容易となり,中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。」との\n記載がある。
本件明細書の上記記載に照らすと,相違点2に係る本件発明の構成は,その実質\nにおいて,露光時間の調整など所与の調整を行うことを前提とした上で,光学的セ ンサの中心部においても周辺部においても適切に読み取ることが可能となるように\n射出瞳位置を設定することをもって本件発明の構成を特定しているということがで\nきる。 そうすると,公然実施されたIT4400において,相違点1に係る構成を採用\nし,絞りを被写体側に配置するに当たりその位置を具体的に決定する際に,射出瞳 位置を「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光 学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように」 設定し,「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能\nとなるように」することは,当業者において周辺部でも適切に読み取ることを可能\nとする2次元バーコードリーダを構成する上で,適宜に採用する事項にすぎない。\nそうすると,相違点2に係る本件発明の構成も,当業者において容易に想到する\nことができたものというべきである。

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平成30(行ケ)101 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年11月28日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が維持されました。争点は、進歩性で、詳しくは、いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)により,別の活性成分を加える動機付けがあるといえるかです。審決・知財高裁とも動機付け無しと判断しました。

前記(1)の甲1の内容,上記アで認定した本件優先日当時の公知文献の内 容や技術常識に鑑みて,相違点2が容易想到といえるかどうかについて検討する。
(ア) 前記(1)で認定したとおり,甲1には,GAR-トランスホルミラーゼ阻 害剤の治療効果を維持しつつ,その毒性を減少させることを課題とする旨が記載さ れているところ,甲1では葉酸をGAR-トランスホルミラーゼ阻害剤と組み合わせ て投与することによって同課題を解決できるとしており,同課題に関して,更に別 の活性成分,例えば,ビタミンB12を積極的に適用する動機や示唆は甲1には何ら 記載されていない。 これに加えて,上記ア(ア)(イ)の甲2〜4,44からすると,本件優先日前にMT Aの抗腫瘍活性を維持しつつ毒性を低減させるという目的のために,MTAと葉酸 を併用投与することに言及する公知文献は複数存在し,上記目的のためにMTAと 葉酸を併用投与することは技術常識になっていたものと認められるが,いずれの公 知文献にも,上記目的のためには葉酸補充だけでは不十分であるとする指摘はない\nし,葉酸補充に加えて他の活性成分を投与する必要性についても何ら指摘されてい ない。
(イ) 上記ア(イ)(ウ)のとおり,本件優先日当時,(1)ベースライン時のホモシス テイン値が10μM以上であると,MTAの毒性発現が高度に予測されること,(2) ホモシステイン値は,葉酸又は/及びビタミンB12が不足すると上昇すること,(3) 葉酸とビタミンB12を併せて投与すると,葉酸単独投与の場合に比して,より確実 にホモシステイン値を低下させることができることが,本件優先日当時に知られて いたことが認められるものの,以下のa,bからすると,それにより,甲1発明に ビタミンB12を投与することを組み合わせることは動機付けられないというべきで ある。
a 上記ア(イ)の各公知文献が指摘しているのは,本件優先日当時,ベー スライン時のホモシステイン値がMTAの毒性発現を予測させる指標であったとい\nうことだけであり,原告が主張するような「ベースライン時のホモシステイン値を 低下させておくとMTAの毒性発現が抑制される」ということまでが読み取れると はいえない。この点について,原告は,「ベースライン時のホモシステイン値」と「M TA投与後の毒性」との間に因果関係があると主張する。ベースライン時のホモシ ステイン値とMTAの毒性発現との間に単純な比例関係があれば,原告が主張する ようにいうことも可能であるが,本件証拠上,本件優先日当時,単純な比例関係に\nあることが知られていたとは認められない(かえって,甲115[212頁左欄5 行〜6行]には,葉酸の機能している状態と血漿ホモシステイン濃度とは,非線形\n的な逆相関を示す旨記載されている。)から,「ベースライン時のホモシステイン値 が高い場合にMTAの毒性発現を予測させる指標であること」から直ちに「ベース\nライン時のホモシステイン値を低下させておくとMTAの毒性発現が抑制されるこ と」ということができないことは明らかであり,原告の上記主張は理由がない。 また,「ベースライン時のホモシステイン値を低下させておくことで抗腫瘍活性が 維持される。」ということについても,甲44に葉酸補充により抗腫瘍活性が維持さ れて毒性が低減される旨の記載があるほかは,上記各公知文献は何も述べていない から,この点が技術常識であったとまでは認められない。 そうすると,原告が主張するような,「ベースライン時のホモシステイン値を低下 させておくと,毒性の発現が抑制され,かつ抗腫瘍活性が維持される。」ということ が,本件優先日当時に技術常識として存在していたとまで認めることはできないか ら,その点から動機付けがあるということはできない。
b 葉酸又はビタミンB12の欠乏により上昇するホモシステイン値とは 異なり,メチルマロン酸値はビタミンB12の欠乏により上昇するところ(上記ア(ウ) b),上記ア(イ)のとおり,本件優先日当時,ニイキザ文献は,ベースライン時のホ モシステイン値と毒性発現の間には相関関係があるものの,メチルマロン酸値と毒 性発現の間には相関関係がない旨を指摘していたのであるから,当業者は,ここか ら患者のビタミンB12の状態と毒性発現との間には相関関係がなく,むしろ,葉酸 の欠乏がベースライン時のホモシステイン値の上昇や毒性発現に関係していると考 え,葉酸を補充する方向へと進むものと推認される。現に,上記ア(イ)d のとおり, その注52でニイキザ文献を引用している甲44は,ベースライン時のホモシステ イン値10μMが毒性発現の閾値であると指摘しておきながら,葉酸補充にしか言 及していないし,ホモシステイン値を葉酸状態の指標であるととらえている。 また,葉酸とビタミンB12が併用されると,上記ア(ウ)aの図の左側にあるメチオ ニンを生成するためのメチル化反応が促進され,テトラヒドロ葉酸が再生されやす くなるから,ビタミンB12の投与は葉酸単独投与に比して葉酸の機能的状態の改善\nにより資するものといえるが,そのようなテトラヒドロ葉酸の再生の亢進が具体的 にどの程度葉酸の機能的状態に影響を与えるものなのかは本件証拠上不明であり,\nがん患者における葉酸の機能的状態を正常化するためには,葉酸を外部から補充す\nるだけでは不十分であり,ビタミンB12を補充することまでもが必要であったと本\n件優先日当時に当業者に認識されていたとは認められない。 そうすると,仮に当業者がMTAの毒性リスクを低減させるためにベースライン 時のホモシステイン値を10μMより低下させる必要があると考えたとしても,そ こからビタミンB12を追加することを動機付けられるとは認められない。
(ウ) 原告は,いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ (アンメット・メディカル・ニーズ)により,更なる高い効果を求めて別の活性成 分を加えることが動機付けられると主張する。 しかし,上記(ア)(イ)で検討したところからすると,葉酸代謝拮抗薬の抗腫瘍活性 の維持と毒性の低減という目的のためには葉酸の予備的処置だけでは十\分ではない ということが当業者に認識されていたとは認められないのであり,原告が主張する ようなアンメット・メディカル・ニーズが存在するからといって,そこから直ちに 上記目的のために甲1発明を更に改良する必要があると当業者が認識するとは認め られない。 また,仮にアンメット・メディカル・ニーズにより上記目的のために甲1発明を 改良することが動機付られるとしても,上記イ(イ)で検討したところに照らすと,そ こから更にビタミンB12を併用することが動機付られるということはできないので あり,原告の主張はその点からしても採用することができない。

◆判決本文

以下は、関連事件です。

◆平成30(行ケ)10116

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平成30(行ケ)1017 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月4日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反、進歩性違反が争われました。知財高裁(1部)は、サポート要件違反無し、進歩性違反ありとして、拒絶審決を維持しました。審決はサポート要件、進歩性違反とも無効理由ありと判断していました。

 前記1(1)によれば,本件明細書には,「課題を解決するための手段」として,「本 発明の一の態様による自動注入可能なアクセスポートは,コンピュータ断層撮影走\n査プロセスに用いられ,隔膜を保持するよう構成される本体と,皮下埋め込み後,\n前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構\築される,前 記アクセスポートの少なくとも1つの,前記自動注入可能なアクセスポートの,自\n動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報と相関がありX線 で可視の,識別可能な特徴とを具え,前記自動注入可能\なアクセスポートは,機械 的補助によって注入され,かつ加圧されることができ,前記隔膜は,前記本体内に 画定された空洞内に,前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜である。」 (【0009】)との記載があることに加え,アクセスポートは,機械的補助(自動注 入可能ポート)によって注入され,かつ加圧されることができること(【0013】),自動注入可能\ポートは,コンピュータ断層撮影(「CT」)走査プロセスにおいて使 用することができること(【0014】),典型的なアクセスポート10は,キャップ 14とベース16の間で隔膜18を保持するために構成することができ,これらが\n集合して,本体20に吐出ステム31の内腔29と流体連通している空洞36を画 定することができること(【0017】,【0018】,図1A,図1B),識別可能な特徴は,アクセスポートが患者の中に埋め込まれた後に知覚可能\であり,自動注射 可能であるアクセスポートと相関関係を有することができること(【0015】),識\n別可能な特徴は,金属プレートのサイズや形状等,X線の画像化を通じて知覚する\nことができるものでもよいこと(【0016】,【0046】)が記載されている。 これらの記載によれば,特許請求の範囲請求項1に記載された本件発明1は,本 件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
(3) 当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであること 前記1(1)のとおり,本件明細書の「発明が解決しようとする課題」には,従来の アクセスポートは,異なる製造業者または型式であっても,互いに区別することが できない実質的に同様の外形を有することがあり,一度アクセスポートが埋め込ま れると,アクセスポートの型式,様式またはデザインを見つけ出すのが難しくなり, 交換タイミング等の目的にとって好ましくないという問題があり(【0007】),皮 下埋め込み後に検知される,少なくとも1つの識別可能な特徴を設けたアクセスポ\nートを提供することは有利であること(【0008】)の記載がある。 また,「課題を解決するための手段」には,アクセスポートは,(例えば,針を含む 注射器を介して)手で注入されることができ,または,機械的補助(例えば,いわゆ る自動注入可能ポート)によって注入され,かつ加圧されることができること(【0\n013】,【0014】),アクセスポートの識別可能な特徴は,アクセスポートに関\n連する情報(例えば製造業者の型式またはデザイン)と相関関係を有することがで き,自動注射可能であるアクセスポートと相関関係を有することができること(【0\n015】)の記載がある。 以上の記載によれば,本件発明1の課題は,自動注入可能なアクセスポートを埋\nめ込んだ後に,そのアクセスポートが自動注入可能なアクセスポートであるのかを\n識別可能とすることであると認められ,その課題の解決手段として,「皮下埋め込み\n後,前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構\築される, 前記アクセスポートの少なくとも1つの,前記自動注入可能なアクセスポートの,\n自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報と相関がありX 線で可視の,識別可能な特徴」を備えるようにしたものであることが認められる。\nそして,本件明細書には,「識別可能な特徴」に関し,触診又は目視観察によって\n知覚することができるもののほか,プレート又は他の金属形状の金属的な特徴のよ うにX線の画像化を通じて知覚できるものでもよく,その金属的特徴は,X線感光 フィルムを,アクセスポートを通過するX線エネルギーに曝すと同時に,X線エネ ルギーへのアクセスポートの露出によって生じるX線で示されること(【0016】, 【0046】),識別可能な特徴が,ひとたび観察され,または別の方法で決定され\nると,アクセスポートのそのような少なくとも1つの特徴の相関関係を達成するこ とができ,アクセスポートに関連する情報を得ることができること(【0015】) の記載がある。 これらの記載に接した当業者は,本件発明1の「識別可能な特徴」を採用したア\nクセスポートは,X線に曝すことで「識別可能な特徴」が知覚でき,これにより「自\n動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報」との相関関係を 達成し,「自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報」を得 ることができ,その結果,皮下埋め込み後に自動注入可能と識別できるものである\nことを認識することができるというべきである。 よって,特許請求の範囲請求項1に記載された本件発明1は,本件明細書の発明 の詳細な説明の記載により,当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できる 範囲のものである。
(4) 被告らの主張について
被告らは,本件明細書には,「X線で可視の,識別可能な特徴」と「自動注入可能\ なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\ な情報」をどのように「相関」させるかという点について記載も示唆もないから,本 件発明1はサポート要件を欠いていると主張する。 しかし,本件明細書には,「識別可能な特徴は,前記アクセスポートに関連する情\n報・・・と相関関係を有することができる」ものであり,「アクセスポートからの識別可能な特徴は,異なる型式またはデザインの,別のアクセスポートの他の識別可能\な 特徴の,すべてではないにしても大部分に関して唯一のものである」(【0015】) との記載があり,触診によって知覚される識別可能な特徴の例として,本体を部分\n的な略ピラミッド状の形状とすること(【0020】,【0021】,図1A,図1B),X線の画像化を通じて知覚することができる識別可能な特徴の例として,アクセス\nポートの金属的な特徴のサイズ,形状,又はサイズと形状の両方が,アクセスポー トの識別のため選択的に調整されること(【0046】)が記載されている。 これらの記載によれば,「識別可能な特徴」を,当該アクセスポートに固有の形状\nやサイズにすることによりアクセスポートを特定可能にし,もって,「アクセスポー\nトに関連する情報…と相関関係を有することができる」ようにすることが開示され ている。そして,本件発明1の「自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能\に 定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」は,「アクセスポートに関連す\nる情報」であるから,上記記載は,「自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可\n能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報」と「X線で可視の,識別 可能な特徴」との「相関」の具体的態様の1つとして理解することができるという\nべきである。
・・・
(4) 相違点1の容易想到性
ア 各文献の記載事項
本件出願の優先日当時の各文献には,次の記載がある(下記記載中の甲11図1 0,甲12図2−1,2−3,2−4は別紙周知例図面目録のとおり。)。
(ア) 米国特許第5851221号明細書(甲11)には,(1)予め形成されたヘッ\nダモジュール12を機密封止筐体14に取り付けて製造される埋め込み型の医療機 器において,ヘッダモジュール12のハウジング20がX線不透過性のIDプレー ト60を備えること(第8欄23行〜34行,図10),(2)埋め込み型医療機器には, 埋め込み可能な薬剤供給装置,IPG(心臓ペースメーカ,ペースメーカ‐心臓除\n細動器,神経,筋肉及び神経刺激器,心筋刺激器など),埋め込み型心臓信号モニタ 及びレコーダなどが含まれること(第6欄39行〜54行)が開示されている。
(イ) IsoMedの説明書(甲12)は,肝動脈の注入治療のための臨床のレフ ァレンスガイドであり ,(1)IsoMed注入システムは,IsoMed定量ポンプ と,メドトロニック血管カテーテルを含み,化学療法用薬剤の肝動脈注入に使用す る場合,まずカテーテルをポンプに接続し,ポンプは腹部の皮下腔に配置し,カテ ーテルは腹壁内にくぐらせその端部は胃十二指腸動脈等に配置すること(2−2頁\n1行〜8行,図2−1),(2)IsoMed定量ポンプは,化学療法薬剤またはヘパリ ン化液剤を貯蔵するリザーバーと,セルフシーリング隔膜を有し,リフィル針によ りリザーバーにアクセス可能なセンターリザーバフィルポートとを備えること(2\n−3頁14行〜18行,2−4頁1行〜6行,図2−3),(3)IsoMed定量ポン プはさらに,X線識別タグ等を備え,X線識別タグは,メドトロニック識別子,ポン プの型番,リザーバーの体積及び流量を記録していること(2−4頁10行〜14 行,図2−4)が開示されている。
(ウ) Robert M. Steiner ほか「心臓ペースメーカの放射線学(The radiology of ca rdiac pacemakers)」と題する論文(RadioGraphics,Vol.6,No.3,p373−39 9。乙1)には,ジェネレーターのX線画像は,ペースメーカの製造業者,タイプ及 び作用機序を識別するために有用であるが,何十もの製造業者が何百ものモデルを\n製造しており,流通している全てのペースメーカに精通している医師はいないため, 製造業者から通常提供される,X線画像上の外観やX線不透過性コードを示す参照 チャートが利用可能であることが開示されている(379頁)。\n
(エ) Sergio L. Pinski ほか「植込み型除細動器:非電気生理学者への影響(Implan table Cardioverter-Defibrillators: Implications for the Nonelectrophysiologist)」と題す る論文(Annals of Internal Medicine Vol.122, No.10,p770−777。乙 2)には,全ての製造業者の植込み型除細動器は,X線不透過性の識別子を有する ので,緊急時にはX線を透過させることによりデバイスの識別が可能になることが\n開示されている(771頁左欄14行〜26行)。
(オ) John L. Atlee ほか「心調律管理装置(第2部)(Cardiac Rhythm Managemen t Devices (Part II) Perioperative Management)」と題する論文(Anesthesiology, Vol.95,No.6,p1492−1506。乙3)には,既存のほとんどのペースメーカ 及びICD には,これらのデバイスが埋め込まれている領域の胸部X線写真をみれ ば,デバイスの製造業者及びモデルが識別できる固有のX線不透過性コード(X線 又はX線画像上の署名)が刻印されていることが開示されている(1502頁左欄 11行〜右欄15行)。
(カ) 米国特許第4863470号明細書(甲14)には,(1)乳房用,ペニス,膀 胱,失禁用装置等のインプラントは,体内への埋め込み前及び後の両方において容 易に識別可能であると好都合であること(第1欄14行〜35行),(2)皮下移植用の インプラントについて,X線不透過性の識別マーカーを囲むX線透過部を含むよう にすることで,識別マーカーは埋め込み前において視認可能であるとともに,埋め\n込み後はX線撮影によって判読可能であること(第1欄49行〜57行),(3)識別マ ーカーは,インプラントのサイズのほか,製造業者,製造年,種類等を示すことがで きること(第2欄30行〜46行)が開示されている。
イ 周知技術の認定
(ア) 上記アの記載事項によれば,本件優先日当時,心臓用の医療装置(甲11, 乙1〜3),皮下埋込型の薬液注入装置(甲12),人工乳房(甲14)等の,人体に 埋め込まれて使用される医療機器において,人体に埋め込まれた後に当該装置を特 定する情報を含むX線不透過性の識別子,すなわち,X線で可視の識別可能な特徴\nを備えることは,既に臨床レベルで採用された,周知の技術であったと認められる。
(イ) 原告の主張について
原告は,甲11,甲12の各文献に記載されたわずか2件の発明を根拠に,人体 に埋め込まれて使用される医療機器一般について,X線で可視な特徴を備えること が周知技術と認定することはできず,また,乙1〜3,甲14の各文献の記載を考 慮したとしても,これらに開示されているのは,人体に埋め込まれて使用される心 臓用医療機器であるから,アクセスポートを含む皮膚埋込型の医療機器全般におけ る周知技術を認定することはできないと主張する。 しかし,装置の型番を示すX線で可視な特徴を備えることは,心臓用医療機器の みならず,人工乳房,肝動脈に抗がん剤を投入するポンプなど,人体に埋め込まれ て使用される多様な医療装置において行われていたことは,上記アのとおりである。 そして,甲12には,化学療法用薬剤の肝動脈注入ポンプを腹部の皮下腔に配置 し,体外から薬剤を注入することが記載されていること,甲11には,X線で可視 な特徴としてX線不透過性のIDプレート60を備える医療機器の例として,心臓 ペースメーカ,植込み型除細動器などのほかに薬剤供給装置が挙げられており,薬 剤供給の用途が示唆されていることに照らすなら,装置の型番を示すX線で可視な 特徴を備えることは,アクセスポートを含む皮膚埋込型の医療機器においても,周 知技術であったと認められ,原告の上記主張は採用できない。
ウ 容易想到性の判断
(ア) 引用発明は,造影CTにおいて,造影剤を注入するために用いられる皮下埋 込型のアクセスポートであって,人体に埋め込まれて使用される医療機器の分野に おける上記イの周知技術と同一の技術分野に属している。また,引用発明に上記周 知技術を適用することについて,阻害要因があることは認められない。そうすると, 引用発明に上記周知技術を適用し,人体に埋め込まれた後に当該装置を特定する情 報を含む,X線で可視の識別可能な特徴を備えるようにすることは,当業者が適宜\nなし得ることであるというべきである。 そして,引用発明である「自動注入可能なアクセスポート」を特定する情報は,自\n動注入可能なアクセスポートを自動注入可能\に定格されていないアクセスポートと 区別可能な情報である。そうすると,引用発明を特定する情報を含む,X線で可視\nの識別可能な特徴によって,上記「情報」を識別することができるから,上記識別可\n能な特徴は,「前記アクセスポートの少なくとも一つの,前記自動注入可能\なアクセ スポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報」 と「相関」があるということができる。 よって,引用発明に上記周知技術を適用し,相違点1に係る構成とすることは,\n当業者が適宜なし得ることである。
(イ) 原告の主張について
原告は,本件発明の「相関」は,添付文書に記載された情報に基づいて,「識別可 能な特徴」に,「自動注入可能\」であることを示すものとしての意味が直接的に付与 されていることが必要であり,医師等が添付文書などに基づいて,その「識別可能\nな特徴」の意味を理解できることを要し,単に「ポートの型式」が示されているだけ では,それ自体に「自動注入可能」かどうかの直接的な意味付けはない以上,「自動\n注射可能である前記アクセスポートと相関関係」があるとはいえないから,「前記自\n動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能\に定格されていないアクセスポート と区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能\な特徴」に該当するとはい えない旨主張する。 しかし,本件発明1の特許請求の範囲には,「相関」の具体的態様について限定は ない上,本件明細書にも,「相関」について,添付文書に記載された情報に基づいて, 「識別可能な特徴」に,「自動注入可能\」であることを示すものとしての意味が直接 的に付与されていることが必要であり,医師等が添付文書などに基づいて,その「識 別可能な特徴」の意味を理解できることを要することの記載や示唆はない。\nそして,本件明細書の「識別可能な特徴が,ひとたび観察され,または別の方法で\n決定されると,アクセスポートのそのような少なくとも1つの特徴の相関関係を達 成することができ,そして,前記アクセスポートに関連する情報を得ることができ る」(【0015】)との記載によれば,「識別可能な特徴」と「アクセスポートに関連する情報」との「相関」が達成されると,「識別可能\な特徴」から「アクセスポート に関連する情報を得ることができる」ようになって,そのアクセスポートを特定で きるようになることを理解することができるところ,その具体的態様については, 当業者が適宜設定できるものと解される。

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平成30(ワ)9909  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月23日  東京地方裁判所

 特許権侵害について、公然実施の無効主張がなされ、東京地裁(40部)は新規性違反(発明1,3)および進歩性違反(発明2,4)の無効主張を認めました。

 被告は,上記ア記載のA邸工事の施工方法又は防水構造は本件各発明の構\ 成要件をすべて具備すると主張するのに対し,原告は,同方法又は構造は構\ 成要件D等を充足せず,本件各発明と相違点1において相違するので新規性 は欠如しないと主張する。
(ア) 構成要件D等における「封止する状態にして固定」の意義\n
そこで,まず,構成要件D等の「封止する状態にして固定」の意義につ\nいて検討する。 本件発明1及び3の特許請求の範囲の記載(構成要件D及びK)によれ\nば,内部水切り部材は,その固定板下面と屋根に設けた開口部周囲の野地 板上面又は防水シート上面との間で液体の流通を封止する状態にして固 定して,水が開口部に侵入することを防止する機能を有するものであるか\nら,ここにいう「封止」とは,液体の流通を封じ,止めること,すなわち, 水等の液体が開口部に侵入しない状態にすることをいうものと解される。 また,本件明細書等の記載をみても,「開口部を固定板で直接的且つ内 外液密的に覆うように内部水切り部材(インナーフラッシング)を配置す る」(段落【0011】),「内部水切り部材の固定板を野地板又は防水 シート上に密着した状態で固定するものとした本発明」(段落【0017】), 「開口部12を完全に覆うことのできるサイズの固定板21を,その下面 端縁側が密着する状態で内部水切り部材20を固定」(段落【0022】), 「密着状態で接着・固定して,固定板21下面と防水シート11上面との 間で水が流通しない状態に封止する。」(段落【0031】),「固定板 21の防水シート11側への密着性(封止性)が極めて高いものとなり優 れた防水機能を実現」(段落【0035】)などとされているから,内部\n水切り部材は,その固定板の下面端縁側を野地板等に密着させることで, 水等の液体の開口部への侵入を防止する機能を有するものであると解さ\nれる。 そうすると,構成要件D等における「封止する状態にして固定」とは,\n内部水切り部材の固定板の下面と野地板等を,水等の液体が開口部に侵入 しない程度に密着させて固定する状態をいうものと解するのが相当であ る。 これに対し,原告は,構成要件D等の「封止」とは,「精密部品などを\n外気に触れないように,隙間なく包むこと。または,その技術。」を意味 すると主張するが,この定義は精密機械等に外気が接することを念頭に置 いたものであり,外気ではなく液体の流通が問題となる本件各発明におい ては妥当しない。
(イ) 構成要件F等における「前記固定板外周に沿って防水テープが貼\付され ている」の意義
更に進んで,構成要件F等における「前記固定板外周に沿って防水テー\nプが貼付されている」の意義について検討する。\n本件発明2及び4に係る特許請求の範囲の記載によれば,内部水切り部 材の固定板外周に沿って防水テープを貼付するのは,同固定板下面と開口\n部周囲の野地板上面等との間で液体の流通を封止する状態にして固定す るためであり,また,構成要件F等においては,「固定板外周に沿って」\n防水テープを貼付するものとされているから,「前記固定板外周に沿って\n防水テープが貼付されている」とは,内部水切り部材の固定板の外周全体\nに防水テープが貼付されていることを意味すると解するのが自然である。\n本件明細書等の記載をみても,防水テープ15で固定板21の外周に沿っ てその全周にわたって貼付する態様の実施例のみが記載されている(段落\n【0032】,【図4】)。 そうすると,構成要件F等の「前記固定板外周に沿って防水テープが貼\ 付されている」とは,内部水切り部材の固定板の外周全体に防水テープが 貼付されていることを意味するものと認められる。\n
(ウ) A邸工事と本件発明1及び3との対比
上記(ア)及び(イ)の解釈を前提として,A邸工事の方法等と本件各発明と を対比すると,A邸工事は,アルミフラッシングの「固定板の下面が開口 部周囲の野地板上面に密着して配置され」,かつ,「上記アルミフラッシ ングの四角形状の固定板の縁部分の棟側及び左右両側には,粘着剤層を有 する防水テープを貼付する」構\成を有するのであるから,A邸工事は,上 記固定板の下面が,野地板上面と,水等の液体が開口部に侵入しない程度 に密着して固定されている構成,すなわち「アルミフラッシングの固定板\n下面と開口部周囲の野地板上面との間で液体の流通を封止する状態にし て固定する」構成を有するものと推認することができる。\n したがって,A邸工事は構成要件D等を具備し,本件発明1及び3は新\n規性を欠くこととなる。
(エ) A邸工事と本件発明2及び4との対比
前記のとおり,本件発明2及び4の構成要件F及びMの「前記固定板外\n周に沿って防水テープが貼付されている」とは,内部水切り部材の固定板\nの外周全体に防水テープが貼付されていることを意味するところ,A邸工\n事においては,アルミフラッシングの四角形状の固定板の縁部分の棟側及 び左右両側には防水テープが貼付されているが,その軒側にはこれが貼\付 されていないから,この点で両者は相違することとなる。 したがって,本件発明2及び4が新規性を欠くということはできない。
ウ 進歩性の有無について
前記判示のとおり,A邸工事の方法と本件発明2及び4の構成要件F等は,\n固定板の外周のうち軒側に防水テープが貼付されているかどうかにおいて\n相違するところ,防水テープは,開口部に水が浸入しないようにするために 内部水切り部材の固定板に貼付するものであるから,四角形状の固定板の縁\n部分の上記3辺に防水テープを貼付した上,更に念を入れて軒側の下辺にも\n防水テープを貼付することについて,当業者であれば当然に想到し得たもの\nと考えられる。 これに対し,原告は,インナーフラッシングの固定板の3辺に防水テープ を貼付して固定していた構\成を,全周にわたり防水テープを貼付する構\成に 置き換えると,部材や工数が増加して過剰なコストや手間を要することにな るから,阻害要因があると主張するが,A邸工事の開口部は1辺が40cm程 度であること(乙12資料3)からして,軒側の1辺に防水テープの貼付す\nる部材のコストや工数の負担はごくわずかなものと考えられるので,原告の 主張するような阻害要因があるということはできない。 したがって,本件発明2及び4は,公然実施されたA邸工事に基づき当業 者が本件特許出願当時に容易に想到し得たものであるというべきである。
エ 小括
前記イのとおり,本件各発明に係る特許出願より前である平成19年6月 28日に公然と実施されたA邸工事は,本件発明1及び3の構成要件を全て\n充足するから,本件発明1及び3は新規性を欠く。 また,前記ウのとおり,A邸工事は,アルミフラッシングの四角形状の固 定板の軒側縁部分に防水テープが貼付されていない点で本件発明2及び4\nと相違するが,当業者は,同部分にも防水テープを貼付する構\成に容易に想 到し得るといえるから,本件発明2及び4は進歩性を欠く。 したがって,本件各発明は,いずれも特許無効審判により無効にされるべ きものと認められる。

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平成30(行ケ)10178  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月24日  知的財産高等裁判所

 インターネット上のブログの証拠能力が争われました。アーカイブのウェイバックマシンに保存された資料の公知日の認定が争われました。公知日の認定に誤りなしとして、無効とした審決を維持しました。\n

 前記アの記載によれば,甲1は,2017年(平成29年)9月 1 日に インターネットで検索して表示された「ドラコレ旅日記 GREE のアプリ 「ドラゴンコレクション」を楽しむ管理人の日記」と題する「FC2ブロ グ」のコピーであること,同ブログは,広告欄の「スポンサーサイト」, ブログ本文の「11/25 更新情報」,「最新コメント」,「関連記事」等の 各項目で構成されていること,「11/25 更新情報」の項目の右横には「20 11.11.25 23:18 Cat:旅日記」(画像3)との表示があること,同項目欄\nに掲載された記事(本件更新情報)には,「「友情のきずな」キャンペー ンを開催中です。」,「期間:11/25(金)14:00〜11/29(火)14:00」と の記載があること(画像4)が認められる。 上記記載から,本件更新情報は,「11/25 更新情報」の項目の右横に表\n示された「2011.11.25 23:18」(2011年11月25日23時18分) に更新され,保存されたことが認められる。 したがって,本件更新情報は,本件出願前(出願日平成25年9月27 日)の平成23年(2011年)11月25日,電気通信回線を通じて公 衆に利用可能となったものと認められる。\nそうすると,本件決定が本件更新情報に基づいて認定した引用発明1は, 本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に該当す\nるものと認められる。
ウ 原告の主張について
原告は,(1)甲1の「スポンサーサイト」の項目欄の直下には,本件出願 後の平成29年(2017年)7月21日に制作発表されたゲーム「みん\nなでにゃんこ大戦争」(甲20)の画像が表示されているから,本件更新\n情報が公衆に利用可能となったのは,早くても同日である,(2)甲1におい ては,少なくとも,ゲーム「みんなでにゃんこ大戦争」の画像が表示され\nた部分,「最新コメント」の項目欄の各コメント部分,「関連記事」の項 目欄の「【バトルイベント】神獣の魂【予告】(2011/12/09)」及び「エ レボスの坑道結果報告(2011/12/06)」の部分は,平成23年11月25 日より後に書き換えられたものであるから,本件更新情報についても,同 日より後に書き換えられた可能性を否定できない旨主張する。\nしかしながら,上記(1)の点については,甲1の「スポンサーサイト」の 項目欄には,「みんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」の画像の下に「上\n記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。」,「新し\nい記事を書く事で広告が消せます。」と表示されていること,「FC2ブ\nログ」の仕様等を定めた「FC2ブログマニュアル」(甲10)には,「ロ グの有効期間」の項目に,「(1か月新規投稿がない場合は,記事部にス ポンサー広告が表示されます。)」との記載があること,平成30年5月\n2日及び平成31年3月13日に甲1の URL を検索した際,本件更新情報 の記載がある一方で,スポンサーサイトの項目欄に表示された画像は,「み\nんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」とは異なる画像が表\示されたこと (甲11ないし13,乙1)に照らすと,甲1の「スポンサーサイト」の 項目欄に表示される広告は,甲1の URL を検索した時点で1か月以上ブロ グの更新がされていない場合に,FC2ブログの運営者であるFC2が契 約しているスポンサー広告が表示されるものであって,ブログの記載内容,\n更新日時とは関係しないことが認められる。 また,上記(2)の点については,甲1を構成する「11/25 更新情報」の項 目欄とは異なる他の項目欄に掲載された情報が平成23年11月25日よ り後に更新された事実があるからといって本件更新情報が同日より後に書 き換えられた可能性があることを基礎付けることはできない。\nしたがって,原告の上記主張は理由がない。

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平成30(行ケ)10092  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月30日  知的財産高等裁判所

 無効理由無し(サポート要件、実施可能要件、進歩性)とした審決が維持されました。

 上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク 質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結 合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使 用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は, かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって, PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより, 対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症 などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することにあると理解することができる。\n本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用 してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体 を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体 について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合 しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること, また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含 まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。 21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21 B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗 体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細 書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個 の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同 様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体 を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認 識できると認められる。 さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免 疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や 31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業 者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって, 本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗 体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら れる。 以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル 抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成 物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できることを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に\n適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結 合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定 される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照 抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし, 参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。そして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特\n定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために, その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない(甲34,35)。\n前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し, 本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参 照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。(4) 本件各訂正発明のサポート要件適合性 なお,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,本件各訂正発明も,いずれもサポート要件に適合するものと認められ る。
(5) 小括
以上によれば,本件各発明及び本件各訂正発明は,いずれもサポート要件に適合するというべきである。
4 争点(2)イ(実施可能要件違反)について\n
(1) 前記3(1)の認定事実によれば,本件各明細書の記載から,本件発明1−1及 び2−1の抗体及び本件発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し,使用するこ とができるものと認められるから,本件各明細書の発明の詳細な説明の記載は,当 業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができる。\nしたがって,本件各発明は,いずれも,実施可能要件に適合するものと認められる。\n
(2) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な\n時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能要件を満たさない旨主張する。\nしかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求められるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程\n度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる\nからである。 本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ, PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗 体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そして,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す\nることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離 されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度 の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ\nることまで記載されている必要はない。 また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない 抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認 識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に記載されているかどうかは,実施可能\要件とは関係しないというべきである。そして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細 書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範 囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得 る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 よって,控訴人の主張は採用できない。
(3) 本件各訂正発明の実施可能要件の適合性\n
なお,前記3(4)のとおり,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,当業者は,本件各明細書の記載から,本件訂正発明1 −1及び2−1の抗体及び本件訂正発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し, 使用することができるものと認められ,本件各訂正発明も,いずれも実施可能要件に適合するものと認められる。\n

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平成30(ネ)10006等  特許権侵害行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月11日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 ゲームの特許について、約1.7億円の損害賠償が認められました。1審よりも損害賠償額が上がりました。これは1審では、A事件は特許無効と判断されましたが、知財高裁はA事件の特許に無効理由無しと判断したためです。

 これに対し控訴人は,本件発明A1の「拡張ゲームプログラムおよび /またはデータ」は,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容 を楽しむことが可能となるものであるから(本件明細書Aの【0020】\n等),標準のゲーム内容を置き換えるゲームプログラム及び/又はデー タを含まないと解され,本件発明A1と公知発明1との間には,相違点 1−1及び1−2のほかに,相違点1−3ないし1−5が存在する旨主 張する。
そこで検討するに,本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記 載によれば,「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は, 「標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラ クタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および\n/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲー ムプログラムおよび/またはデータ」であり,「第2の記憶媒体」に「包 含」されるものであって,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装 填され」,「上記ゲーム装置が」「第1の記憶媒体」が「包含する」「所 定のキーを読み込んでいる場合に」,「上記標準ゲームプログラムおよ び/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの 双方によってゲーム装置を作動させ」ることを理解できる。 一方,上記特許請求の範囲には,「上記標準ゲームプログラムおよび /またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双 方によってゲーム装置を作動させ」た場合に動作する「上記標準ゲーム プログラムおよび/またはデータ」が,「上記標準ゲームプログラムお よび/またはデータ」の全部であると限定して解釈すべき根拠となる記 載はない。そして,本件明細書Aの発明の詳細な説明にも,「上記標準 ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムお よび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」る場合とは, 「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」の一部しか作動し ない場合を含まないものであり,「上記標準ゲームプログラムおよび/ またはデータ」の全部が動作することが必要であると解釈すべき根拠と なる記載はない。 前記(ア)のとおり,本件公知発明1の「勇士の紋章DDII」は,魔洞戦 紀DDIから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以 上であるときには,(1)そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最 初から2となり,(2)神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。 がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され,アイテム「くさのつゆ」\n及び「しろきのこ」が1つ増える,という動作機能を実行するゲームプ\nログラム及び/又はデータを包含するものである。 そうすると,上記(1)の点は,「勇士の紋章」の標準のゲーム内容であ ればレベル1からスタートするゲームキャラクタのレベル(乙A4の2・ 11枚目,乙A8の1・8頁)をレベル2からスタートできるようにす るものであり(乙A4の1・8枚目),上記(2)の点は,標準のゲーム内 容であれば金貨(GOLD)で支払わなければ取得できないアイテム(乙 A4の1・13枚目,乙A4の2・8枚目)を神殿で祈ることで取得で きるようにするものであって(乙A9・2頁,乙A10・3頁),いず れも新たな機能をゲームキャラクタに持たせるものであるから,これが\n「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」に当たることは明らかである。\nまた,上記(2)の点は,「勇士の紋章」の標準のゲームの内容であれば, 神殿で祈ると「あなたのたたかいが ぶじおわりますよう。あくまに わ ざわいを!」とのメッセージのみが表示される場面を,神殿で祈ると「ゆ\nうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが 表示され,アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えると\nいう場面とするものであるから,これが「場面の拡張」に当たることも 明らかである。 以上によれば,本件公知発明1の「勇士の紋章DDII」は,「標準ゲ ーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム及び/又はデータ」に加\nえて,「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面の拡張」を\n達成するためのゲームプログラム及び/又はデータ,すなわち,本件発 明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」を包含するも のといえる。 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 他方,被控訴人は,公知発明1における「所定のキー」に相当する「キ ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」とは, (1)魔洞戦紀DDIが装填されたことを示すデータ及び(2)キャラクタ(じ ゅんく)のレベルが16以上であるセーブデータである旨主張する。 そこで検討するに,証拠(甲A4の1,4の2,13の2)及び弁論 の全趣旨によれば,本件ゲームシステムA1において,まず,勇士の紋 章DDIIを装填し,次いで,「まどうせんきのAメンをいれてください」 というインストラクションに基づき,魔洞戦紀DDIを装填し,キャラ クタ「じゅんく」を選択した後,再度,勇士の紋章DDIIを装填した場 合には,勇士の紋章においてもキャラクタ「じゅんく」でプレイできる ことが認められる。 しかしながら,魔洞戦紀DDIを装填することにより当然に,本件発 明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」に相当する, 本件公知発明1の「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面\nの拡張」を達成するためのゲームプログラム及び/又はデータと,標準 ゲームプログラム及び/又はデータの双方によって,ファミリーコンピ ュータが作動されるものではない。前記(ア)及び(イ)のとおり,本件公知 発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲームプ ログラム及び/又はデータの双方によってファミリーコンピュータを作 動させ」るには,魔洞戦紀DDIから,キャラクタ(じゅんく)のレベ ルが16以上であるセーブデータを読み込むことが必要であり,かかる データを読み込んでいない場合には,上記のようにインストラクション に基づき魔洞戦紀DDIを装填するなどの作業をしたとしても,本件公 知発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによって ファミリーコンピュータを作動させる」こととなる。 以上によれば,上記(1)のデータは,本件公知発明1の「拡張ゲームプ ログラムおよび/またはデータ」を作動させる条件であるとはいえない から,本件発明A1の「所定のキー」に相当する本件公知発明1の「キ ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」には, 上記(1)のデータは含まれないといえる。 したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 本件発明A1と本件公知発明1の対比 本件発明A1と本件公知発明1とを対比すると,以下の相違点が存在す ることが認められる。
(相違点1−1)
一の記憶媒体,二の記憶媒体が,本件発明A1は,「記憶媒体(ただし, セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し,本件公\n知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」である点。\n
(相違点1−2)
本件発明A1の「第1の記憶媒体」は,セーブデータを記憶可能な記憶\n媒体を除くから,「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し,本 件公知発明1では,魔洞戦紀DDIに包含される「所定のキー」が,魔洞 戦紀DDIに記憶されたセーブデータであって,魔洞戦紀DDIにセーブ されたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 本件公知発明1の技術思想
本件公知発明1の内容に加え,前記アに掲記の各証拠及び弁論の全趣 旨を総合すれば,(1)ディープダンジョン(DD)シリーズの後作「勇士 の紋章」は,前作「魔洞戦紀」の続編であって,両者は,魔洞戦紀にお いて,魔王が勇剣士に倒され平和を取り戻したものの,勇士の紋章にお いて,魔王が復活し,勇剣士が再び冒険するという一連のストーリーを 有するゲームであること,(2)「魔洞戦紀」の勇剣士のキャラクタを,「勇 士の紋章」に転送することにより,「魔洞戦紀」の「勇剣士」を,「勇 士の紋章」の「勇士」として復活させることができること,(3)「魔洞戦 紀」において,キャラクタのレベルが16以上であれば,レベル1から ではなく,レベル2のキャラクタとして「勇士の紋章」でプレイできる こと,(4)このような場合に,「魔洞戦紀」から転送されたレベル16以 上のキャラクタは,「勇士の紋章」においては「勇剣士の子孫」として 復活すること,(5)「魔洞戦紀」のキャラクタリストは,「魔洞戦紀」に おいて,特定のキャラクタでゲームをプレイしている途中で中断し,そ の後,中断した場面からゲームを再開してプレイするために,ディスク にセーブされたものと解されることが認められる。 上記認定事実によれば,本件公知発明1は,前作と後作との間でスト ーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲーム のキャラクタでプレイしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作 のゲームのプレイを有利にしたりすることによって,前作のゲームをプ レイしたユーザに対して,続編である後作のゲームもプレイしたいとい う欲求を喚起し,これにより後作のゲームの購入を促すという技術思想 を有するものと認められる。
(イ) 相違点1−1について
前記(ア)のとおり,本件公知発明1は,キャラクタでプレイするゲーム において,セーブされたキャラクタを前作のゲームから後作のゲームに 転送するものであり,前作のゲームにおいて,プレイ途中でセーブして, なおかつ,キャラクタのレベルが16以上である場合に,後作のゲーム において,ゲームのプレイが有利になるという特典が与えられるもので ある。 そうすると,本件公知発明1は,少なくとも,前作において,ゲーム をプレイ途中でセーブするとともに,ゲームをある程度達成した,すな わち,前作のゲームにおいて,キャラクタのレベルが16以上となるま でプレイしたという実績があることが,後作においてプレイを有利にす るための必須の条件であり,「キャラクタ」,「プレイ実績」を示す情 報を前作の記憶媒体にセーブできることが本件公知発明1の前提であっ て,「キャラクタ」,「プレイ実績」の情報をセーブできない記憶媒体 を採用すると,前作のゲームにおける「キャラクタ」,「プレイ実績」 の情報が記憶媒体に記憶されないこととなり,「前作のゲームのキャラ クタで,後作のゲームをプレイする」,「前作のキャラクタのレベルが 16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムを動作させる」 という本件公知発明1を実現することができなくなることは明らかであ る。 したがって,仮に,被控訴人の主張するとおり,ゲームプログラム及 び/又はデータを記憶する媒体としてCD−ROMを用いることが本件 特許Aの出願前において周知技術であり,また,同一タイトルのゲーム をCD−ROMやROMカセットに移植することが一般的に行われてい る事項であったとしても,本件公知発明1において,記憶媒体を,ゲー ムのキャラクタやプレイ実績をセーブできない「記憶媒体(ただし,セ ーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更する動機付けはな\nく,そのような記憶媒体を採用することには,阻害要因がある。 以上のとおりであるから,本件公知発明1において,相違点1−1に 係る本件発明A1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たもの\nであるとは認められない。
(ウ) 相違点1−2について
前記(イ)と同様の理由により,本件公知発明1において,相違点1−2 に係る本件発明A1の構成を採用することは,動機付けを欠き,むしろ\n阻害要因があるというべきであるから,当業者が容易に想到し得たもの であるとは認められない。
(エ) 被控訴人の主張について
これに対し被控訴人は,相違点1−1及び1−2は,本件訂正Aによ り,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」から「セーブデータを 記憶可能な記憶媒体」が除かれ,その結果,「所定のキー」からセーブ\nデータが除かれたこと(「除くクレーム」とされたこと)により生じた ものであることを前提として,除くクレームとする訂正により,形式的 に主引用発明との間に相違点が存在すると認められる場合は,(1)相違点 に係る構成によって,技術的観点から主引用発明と異なる作用効果が存\n在するか否かを検討し,(2)技術的意義が認められない場合には,実質的 な相違点とはいえず新規性が否定されると解すべきであり,(3)技術的意 義が認められた場合には,当業者において適宜なし得る設計事項に過ぎ ないか否かを検討し,設計事項に過ぎない場合には,進歩性が否定され ると解すべきであるところ,本件訂正Aは,シリーズ化された一連のゲ ームソフトを買い揃えていくことにより,豊富な内容のゲームを楽しむ\nことができるようにするという本件発明A1の課題との関係では,技術 的な解決手段を示したものとはいえず,技術的意義がないものであって, 本件発明A1の作用効果や技術的思想は,本件訂正Aの前後で変わらな いから,相違点1−1及び1−2は,実質的に相違点とはいえず,少な くとも,当業者が適宜なし得る設計事項である旨主張する。 しかしながら,前記(イ)及び(ウ)のとおり,本件公知発明1において, 相違点1−1及び1−2に係る本件発明A1の構成を採用することは,\n動機付けを欠き,むしろ阻害要因があるというべきものである。 また,本件発明A1において,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶 媒体」を「セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすること\nは,前作のプレイ実績にかかわらず,後作において拡張ゲームプログラ ム及び/又はデータによってゲームを楽しむことができるという作用効 果を奏するものであって,技術的意義を有するものであることからする と,相違点1−1及び1−2は,実質的な相違点であるといえるし,当 業者が適宜なし得る設計事項であるとは認められない。 したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ) 小括
以上のとおり,本件公知発明1において,相違点1−1及び1−2に 係る本件発明A1の構成とすることには,動機付けがなく,むしろ阻害\n要因があるため,当業者が容易に想到し得たこととは認められない。 したがって,本件発明A1は,当業者が本件公知発明1に基づき容易 に発明をすることができたものであるとは認められない。
・・・・
特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき 金銭の額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改 正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する 額の金銭」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では 侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除 された経緯がある。 特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許 が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最 低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの 実施料の返還を求めることができないなど様々な契約上の制約を受ける のが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術 的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許 権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約 を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項 に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施 許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特 許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受ける べき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろ うことを考慮すべきである。 したがって,実施に対し受けるべき料率は,(1)当該特許発明の実際の 実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界に おける実施料の相場等も考慮に入れつつ,(2)当該特許発明自体の価値す なわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,(3)当 該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の 態様,(4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に 現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) 認定事実
a 本件特許Aについての実際の実施許諾契約の実施料率は,本件訴訟 に現れていない。 そして,証拠(乙A115,116,乙B28)及び弁論の全趣旨 によれば,以下の事実が認められる。
(a) 株式会社帝国データバンクが「知的財産の価値評価を踏まえた特 許等の活用の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価 値及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜(平成22年3月)」 (乙B28。本件調査報告書)を作成するに当たって行った,特許 権に関するロイヤルティ率情報のアンケート(以下「本件アンケー ト」という。)の結果を記載した表2−2には,技術分類を「家具,\nゲーム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%(最大値 4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)(件数14件)と 記載されている。
(b)本件調査報告書には,本件アンケート調査結果の回答及び集計に 当たっての前提条件について,(1)ライセンス・アウト(ライセンス を与える側)の立場での回答であること,(2)国内同業他社へのライ センスを想定していること,(3)通常実施権(ライセンス提供先を独 占的にする訳ではなく,複数の者とライセンスを行うことができる 形態)によるライセンスを想定していること,(4)正味販売高に対す る料率を想定していること,(5)特殊な事情(エンタイアマーケット バリュールール(特許技術が製品の一部に使われているだけだとし ても,侵害された部品を含む製品全体の単価に基づいて損害額を計 算するルール)によるロイヤルティ算定,契約相手の事情など)を 捨象したケースであること,(6)ロイヤルティ料率相場はカテゴリ選 択肢で回答であるが,集計時には各選択肢の中央値をロイヤルティ 料率として集計を行ったことが記載されている。
(C) 経済産業省知的財産政策室編の「ロイヤルティ料率データハンド ブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(平 成22年8月31日発行)の「II 各国のロイヤルティ料率」には, (1)ロイヤルティ算定方式として最も広く採用されているのは,定率 方式であり,そのロイヤルティは,「対象製品の販売価格×ロイヤ ルティ料率」として算定されること,(2)販売価格の対象となるロイ ヤルティベースには,総販売価格,純販売価格(正味販売価格), 小売価格等が使用されるが,実務面では,純販売価格(正味販売価 格)が採用されることが比較的多いとされること,(3)純販売価格(正 味販売価格)は,総販売価格から一定の費用項目を控除した残額と して定義され,控除費用項目としては,一般的に,輸送費,保険料, 倉庫保管費用,リベート,包装梱包費等,販売地によって変動する 可能性のある費用項目が中心となるが,業界慣行や製品種類等によ\nって異なることが記載されている。
b 前記(1)アのとおり,本件発明A1は,ゲームプログラム及び/又は データを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲームシス テムを作動させる方法であって,上記記憶媒体は,少なくとも,所定 のゲームプログラム及び/又はデータと,所定のキーとを包含する第 1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラム及び/又はデータに加 えて所定の拡張ゲームプログラム及び/又はデータを包含する第2の 記憶媒体とが準備され,上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填 されるとき,上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合 には,上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲーム プログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させる ことにより,ユーザにとっては,一回の購入金額が適正なシリーズも のの記憶媒体を買い揃えてゆくことによって,最終的に極めて豊富な 内容のゲームソフトを入手したのと同じになり,メーカにとっては,\n膨大な内容のゲームソフトを,ユーザが購入しやすい方法で提供でき\nるという効果をもたらすものである。 このように,本件発明A1は,ゲームシステム作動方法の発明であ り,その構成及び効果は上記のとおりであるところ,イ−9号方法等\nは本件発明A1の技術的範囲に属するものであり,イ−9号製品等は, ゲーム装置に装填してゲームを実行するためのゲームソフトであって,\n本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当する,同発明を実施するた めに不可欠の物である。そして,前記(1)イのとおり,イ−9号製品等 は,本編ディスク(第1の記憶媒体)から所定のキーを読み込むこと により,アペンドディスク(第2の記憶媒体)に記録された標準のゲ ームプログラム及び/又はデータに加えて,拡張ゲームプログラム及 び/又はデータを作動させることができるものであるから,本件発明 A1は,イ−9号製品等にとって,相応の重要性を有するものといえ る。 また,家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作 動方法に関し,本件発明A1の上記技術についての代替技術が存在す ることはうかがわれない。
c(a) 前記bのとおり,本件発明A1は,イ−9号製品等に記録された 拡張ゲームプログラム及び/又はデータを作動するに当たり不可欠 な技術であるところ,家庭用ゲーム機本体に装着してゲームを楽し むゲームソフトにおけるゲームキャラクタのもつ機能\,場面,音響 が豊富であることは,通常,需要者の購入動機に影響を与えるもの といえる。 そして,被控訴人は,イ−9号製品等を販売するに当たり,製品 解説書(甲A5,7,8,10,11)において,MIXJOY機 能について紹介し,前作のディスク(本編ディスク)があると本作\n(アペンドディスク)とのMIXJOYを楽しむことができ,前作 のシナリオを本作のキャラクタでプレイしたり,前作では特定のキ ャラクタとのみ迎えることができたエンディングを全てのキャラク タと迎えることができたりする旨を説明している。 これらの事情を考慮すると,本件発明A1をイ−9号製品等に用 いることにより被控訴人の売上げ及び利益に貢献するものと認めら れる。
・・・
a 前記(イ)のとおり,本件訴訟において本件特許Aの実際の実施許諾 契約の実施料率は現れていないところ,本件特許Aの技術分野が属す る分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,本件アンケート結果で は2.5%(最大値4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%) であり,同実施料率は正味販売高に対する料率を想定したものである ことが認められる。そして,このことを踏まえた上,侵害品に係るゲ ームソフトにおいては,ゲームのキャラクタや内容,販売方法の工夫\n等が,その売り上げに大きく貢献していることは否定できないとはい え,本件発明A1に係る技術も,売上げの向上に相応の貢献をしてい ると認められることや,本件発明A1の代替となる技術は存在しない こと,控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど,本件訴訟に現れ た事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められ るべき,本件での実施に対し受けるべき料率(以下「本件実施料率A」 という。)は,消費税相当額を含む被控訴人の正味販売価格に対し, 3.0%を下らないものと認めるのが相当である。
b 被控訴人は,別紙1「販売開始日一覧表」記載の販売開始日から本\n件特許権Aの存続期間満了日までのイ−9号製品等の売上高(被控訴 人の卸売価格)が,別紙7「売上高(補正後)」の「売上高」欄記載 のとおりであると主張するところ,イ−9号製品等の売上高(被控訴 人の卸売価格)が上記金額を超えるものであることを認めるに足りる 証拠はない。そこで,同金額に消費税相当額(5%)を加えた金額を, 実施料算定の基礎となる価格とするのが相当である。 もっとも,前記(イ)c(C)のとおり,イ−9号製品等のうちには,本件 発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,1\n個ないし5個の当該ゲームソフトと同一シリーズのゲームソ\フト(記 憶媒体)が含まれるパッケージ商品も存在するところ,これらのゲー ムソフトは,本件発明A1についての本件特許権Aを侵害するもので\nはなく,かつ,イ−9号製品等に含まれなくとも,単体で販売の対象 となる商品である。また,前記(イ)a(b)のとおり,本件調査報告書には, 本件アンケート調査結果の回答及び集計に当たっての前提条件につい て,特殊な事情(エンタイアマーケットバリュールール(特許技術が 製品の一部に使われているだけだとしても,侵害された部品を含む製 品全体の単価に基づいて損害額を計算するルール)によるロイヤルテ ィ算定,契約相手の事情など)を捨象したケースであることが記載さ れている。そうすると,侵害品以外のゲームソフトの価格に相当する\n部分については,本件実施料率Aを乗じるべき販売価格から控除する のが相当というべきであるから,イ−9号製品等の販売価格を侵害品 であるゲームソフトとそれ以外のゲームソ\フトとの合計数で除したも のをもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。 また,前記(イ)c(C)のとおり,イ−19及び23(2)号製品には,本件 発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,「最\n強データ収録CD−ROM」やグッズが同梱されているものもあるが, 上記CD−ROMは,ゲームソフトで使用するデータ(キャラクタの\n能力値等が最大の状態のデータ)が記録されているに過ぎず,それら\nが単独で商品として流通するものではないから,当該製品の販売価格 全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当であ る。 他方,イ−39号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記 プレミ アムBOX」(希望小売価格9800円))は,同日付で発売された イ−35号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記」(希望小売価格\n4980円))に対して,4820円高く価格が設定され,その製品 の相違は同梱グッズのみであって,イ−39号製品に含まれる同梱グ ッズの価格は,おおむね同製品の2分の1に相当するものといえるか ら,同製品の販売価格の2分の1を本件実施料率Aを乗ずべき売上高 とするのが相当である。 さらに,イ−40号製品(「遥かなる時空の中でプレミアムBOX コンプリート」)は,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当する ゲームソフトのほかに,これと同一の「遥かなる時空の中でシリーズ」\nのゲームソフト5個が含まれるところ,同製品についても,イ−39\n号製品と同様に,同梱グッズの価格は,これと対応するゲームソフト\nの価格のおおむね2分の1に相当するものといえる。そうすると,同 製品の販売価格の12分の1をもって,本件実施料率Aを乗ずるべき 売上高とするのが相当である。
c 以上によれば,本件特許権Aの侵害について,特許法102条3項 により算定される損害額は,別紙10のとおり計算され,その合計額 は1億1667万3710円となる。
(エ) 控訴人の主張について
控訴人は,(1)本件発明A1及びA2は,イ号製品のユーザにおいて実 施されるゲームシステム作動方法であること,イ号製品のような本件特 許権Aの間接侵害を構成する製品の製造販売に関する特許権者の許諾は,\n当該製品がユーザに販売されることを当然の前提とすることなどから, 実施料率算定の基礎となるイ−9号製品等の売上高は,被控訴人の卸売 価格ではなく小売価格とすべきである,(2)イ−9号製品等に同梱される アイテムがある場合でも,イ号製品は,同梱されたアイテムを含む製品 全体で一個の商品(販売単位)であり,製品の販売等行為全体が一個の 特許権侵害を構成するから,イ−9号製品等の販売価格全体が本件実施\n料率Aに乗ずべき価格となる旨主張する。 しかしながら,上記(1)の点については,控訴人の主張を裏付けるに足 りる客観的な証拠はない。前記(イ)aのとおり,本件特許Aの技術分野が 属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率は,正味販売高に対する 料率を想定したものであることからすると,実施料算定の元となる売上 高は,被控訴人のイ−9号製品等の販売価格,すなわち卸売価格とする のが相当である。 上記(2)の点については,前記(ウ)bのとおり,イ−9号製品等のうち, 本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフト以外のゲー\nムソフトを含むものや,同梱されたグッズが,商品構\成や価格構成上,\n明らかにゲームソフトとは別の価値を有するもの,すなわち,別個の商\n品として扱われていると判断し得るものについては,これらのゲームソ\nフト及びグッズの価格に相当する金額を本件実施料率Aを乗ずべき価格 から控除するのが相当である。 控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するものでは ない。
(オ) 被控訴人の主張について
被控訴人は,(1)実施料率算定の基礎となるべき正味販売価格に消費税 相当額は含まれない,(2)本件調査報告書によれば,「家具,ゲーム」の 技術分野には,「ビデオゲーム」のような全体の一部に特許発明が実施 されているもの以外に,「家具」,「カードゲーム,盤上ゲーム,ルー レットゲーム;小遊技動体を用いる室内用ゲーム」も含まれるため,本 件特許Aの実施料率は,上記実施料率の平均値(2.5%)より低くな る,(3)同梱グッズについても,別紙7「売上高(補正後)」記載のとお り,そのアイテム数に応じて売上高を補正すべきである,(4)本件発明A 1は,セーブデータを「所定のキー」とする方法,「拡張ゲームプログ ラム等」の一部を「所定のキー」とする方法,第2の記憶媒体に「拡張 ゲームプログラム等」のみを記憶する方法により,同発明と同様の作用 効果を奏しながら,同発明を回避することができる,(5)控訴人は,競業 者と特許クロスライセンス契約を締結し,「ライセンスなどの特許権の 有効活用を促進」するとしたプレスリリースを公開しており(乙A83 の1〜3),むしろ開放的ライセンスポリシーを採用している,(6)イ号 製品は,武将やステージを新規に追加するものというよりは,「違った 遊びを提供するという概念で開発」されたものであり,本編ディスクで はプレイできなかったモードを提供することが主眼となった製品であっ て,それ単体でも十分楽しめる内容である反面,MIXJOYをするこ\nとで可能となるのは,本編ディスクでプレイできたモードやシナリオを\nアペンドディスクでもプレイできるというものであり,MIXJOYを 行う場面は限定されている旨主張する。 しかしながら,上記(1)の点については,消費税相当額も被控訴人の販 売価格の一部としてそれに含まれているものであるから,損害額の算定 に当たって消費税相当額を控除すべき理由はない。 上記(2)の点については,前記(イ)a(a)のとおり,本件アンケート結果 を記載した,本件調査報告書の表2−2には,技術分類を「家具,ゲー\nム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%であり,件数は1 4件である旨が記載されているものの,アンケート回答者の保有する特 許の内容,特許の実施品について,具体的な記載はない。したがって, 本件調査報告書の記載からは,本件特許Aの実施料率が,上記実施料率 の平均値より低くなると認めることはできない。 上記(3)の点については,前記(イ)c(C)のとおり,イ−9号製品等に同梱 されているグッズは,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当するゲ ームソフトの付属物というべきものであって,単独で商品として流通す\nるものではないから,イ−39及び40号製品に同梱されたグッズを除 き,当該製品の販売価格全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上 高とするのが相当である。
上記(4)の点については,i)前記(5)ウ(エ)のとおり,本件発明A1にお いて,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」を「セーブデータを 記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすることは,前作のプレイ実績にか\nかわらず,後作において拡張ゲームプログラム及び/又はデータによっ てゲームを楽しむことができるという技術的意義を有するものであり, セーブデータを「所定のキー」とする方法は,本件発明A1と同様の作 用効果を奏するものではなく,また,記憶媒体をセーブデータを記憶可 能なものにした場合は,大量の記憶容量を有し,安価で大量生産が可能\ なCD−ROM,DVD−ROM等の読み出し専用メモリーを用いるこ とができなくなること,ii)本件発明A1は,第1の記憶媒体に記憶され た「所定のキー」を読み込むだけで,第2の記憶媒体に記録された標準 ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによりゲーム装置を作動さ せるものであって,装置の作動中に第1の記憶媒体を入れ換え可能なも\nのであるが,「拡張ゲームプログラム等」の一部を「所定のキー」とす る方法では,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによるゲ ーム装置の作動中に,第1の記憶媒体を装填し続ける必要があること, iii)第2の記憶媒体に「拡張ゲームプログラム等」のみを記憶する方法 では,第2の記憶媒体単体で,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプ ログラムによりゲーム装置を作動させることができないことから,これ らの方法が本件発明A1の代替技術であるとはいえない。
上記(5)の点については,たとえ,特許権者が開放的ライセンスポリシ ーを有しているとしても,そのことは,特許権侵害者に対して事後的に 定めるべき実施料率を下げる理由にはならないものというべきである。 上記(6)の点については,前記(イ)c(a)のとおり,本件発明A1により ゲームキャラクタのもつ機能,場面,音響が豊富になるという効果は,\n通常,需要者の購入動機に影響を与えるものであるといえ,イ−9号製 品等においても,MIXJOY機能により,前作のシナリオを本作のキ\nャラクタでプレイしたり,前作では特定のキャラクタとのみ迎えること ができたエンディングを全てのキャラクタと迎えることができたりする ものであって,被控訴人は製品解説書でかかる機能を紹介し,宣伝して\nいるものである。そうすると,本件発明A1は,これをイ−9号製品等 に用いることにより被控訴人の売上及び利益に相応の貢献をするものと 認められるものであって,イ−9号製品等が単体でも十分楽しめるもの\nか否かという点や,MIXJOYを行う場面が限定されているか否かと いう点は,上記判断を左右するものではない。 被控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するもので はない。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆判決本文
判決理由は、A、B事件にそれぞれ分けられています。

◆A事件

◆B事件

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平成30(行ケ)10142  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月10日  知的財産高等裁判所(4部)

 デバイスツーデバイス(D2D)に関する発明について、進歩性無しとした拒絶審決が維持されました。出願人は中国企業です。これからはこの種の審取訴訟も増えるのでしょうね。

 これに対し原告は,(1)引用例には,リソース情報をコア情報として含む\nべき「スケジューリング割当て」によるスケジューリング(初期送信のた めのスケジューリング)については何ら記載がないから,引用発明の「受 信成否情報の受信に基づく第2のデバイスへの第1のD2Dリンクのデー タの再送又は次のデータの送信」が「為され」る「サブフレーム」(サブ フレームml+2d+c(1303))は,再送のスケジューリングに関 する情報によってスケジューリングされているサブフレームにすぎず,ス ケジューリング割当てによってスケジュールされている「第3のサブフレ ーム」に該当しないこと,(2)引用例には,引用発明において,「D2Dオ ペレーションのためのスケジューリング割当て」が基地局とデバイスとの 間のD2Cオペレーションとして送受信されることが記載されているにす ぎず,「D2Dオペレーションのためのスケジューリング割当て」が,デ バイス間のD2Dオペレーションとして送受信されることについては,開 示も示唆もないことによれば,引用発明が本件構成E−1の「第3のサブ\nフレームが前記第1のサブフレームにおける前記D2Dオペレーションの ためのスケジューリング割当てによってスケジュールされ」るとの構成を\n備えているといえない旨主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,第3のサブフレームにおけるD 2Dオペレーションのためのスケジューリングは,初期送信のためのスケ ジューリング及び再送のためのスケジューリングの双方が含まれることは 前記(1)ア(イ)のとおりであるから,その前提において理由がない。 また,上記(2)の点については,本件補正発明の特許請求の範囲(請求項 1)の記載中には,「D2Dオペレーションのためのスケジューリング割 当て」が基地局とデバイスとの間のD2Cオペレーションとして送受信さ れることを除外する記載はない。

◆判決本文

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平成31(行ケ)10056  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月8日  知的財産高等裁判所

 外為オンラインVSマネースクエアHDの侵害訴訟(平成29(ワ)2417)の対象特許(6154978号)についての無効審決取消訴訟です。無効理由無しとした審決が維持されました。

 これに対し原告は,(1)甲1には,複数の売り注文の中で最も高い売り注 文価格の売り注文が約定されたことを注文情報生成部の約定検知手段が検 知する構成が開示されていること(【0146】,【0147】,図7A,\n図19),(2)甲2の記載事項([0085],図6,図7)によれば,甲2 発明の1は,1回限りのイフダンオーダー(繰り返さないLOCK注文) を前提として,「相場価格が上昇する状況」にあると予想した投資家が,\n上昇する相場に追従するように,従前のものより所定価格だけ増加させた イフダンオーダーを生成することを繰り返すことで,利益を得ることを可 能にした発明であるといえること,(3)甲1発明は,「複数の売り注文のう ちいずれかの売り注文が約定されたことを検知すると,同じ売り注文価格 の情報を含む売り注文情報を再度生成するものであって,相場価格が一定 の範囲内で変動する状況で利益を得ることを目的とする発明」であり,甲 2発明の1の従来技術に相当するものであるから,甲2発明の1は,甲1 発明に相当する発明に甲2発明の1を適用することを示唆していること, (4)甲1発明と甲2発明の1とは,金融商品の取引に関する技術分野に属し ている点で技術分野が共通すること,「顧客に利益をもたらす装置を提供 する」という目的(課題)が共通し,イフダンオーダーを利用することに よって機会喪失のリスクを低減するという機能においても共通することに\n照らすと,甲1及び甲2に接した当業者は,甲1発明における「約定検知 手段が,複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定 されたことを検知」した場合の「注文情報生成手段」の動作について,甲 2発明の1の「従前のものより所定価格だけ増加させたイフダンオーダー を生成する」という動作を適用する動機付けがあるから,甲1発明におい て,「約定検知手段が,複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の 売り注文が約定されたことを検知」した場合に「複数の売り注文のうち最 も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を 含む売り注文情報」を生成する動作とする構成(相違点1−1に係る本件\n発明1の構成)とすることを容易に想到することができたものである旨主\n張する。
しかしながら,上記(1)の点については,原告の指摘する甲1の記載は, 第一〜第五の注文情報群181s21〜181s25のうち,いずれの第 二注文(181u21〜181u25)が約定した場合においても,当該 第二注文を含む注文情報群を再度生成することを示したものであり,特に 最も高い売り注文価格の売り注文が約定した場合(181u25)に着目 した処理を記載したものではないし,前述のとおり,甲1には,本件明細 書記載の「シフト機能」(【0078】)に関する記載や示唆はない。\n 上記(2)及び(3)の点については,甲2には,甲2発明の1が,1回限りの イフダンオーダー(繰り返さないLOCK注文)を前提として,「相場価 格が上昇する状況」にあると予想した投資家が,上昇する相場に追従する\nように,従前のものより所定価格だけ増加させたイフダンオーダーを生成 することを繰り返すことで,利益を得ることを可能にした発明であること\nの開示があるものといえるが,他方で,甲2には,複数のイフダンオーダ ーによるLOCK処理を行うことについての記載も示唆もないことに照ら すと,甲1発明が甲2発明の1の従来技術に相当するものであるとはいえ ないし,甲2発明の1が,甲1発明に相当する発明に甲2発明の1を適用 することを示唆しているということもできない。また,甲1には,複数の イフダンオーダー(複数の売り注文)のうち,「最も高い売り注文価格の 売り注文」が約定されたことを検知すると,注文情報生成手段が「前記複 数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い 売り注文価格の情報を含む売り注文情報」を生成するという構成(構\成要 件1H)についての記載も示唆もない。
そうすると,甲1及び甲2に接した当業者においては,甲1発明と甲2 発明の1が,金融商品の取引に関する技術分野に属している点で技術分野 が共通し,イフダンオーダーを利用することにより,利便性を高めるなど の機能面においても共通すること(上記(4))を勘案しても,甲1発明にお ける「約定検知手段が,複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の 売り注文が約定されたことを検知」した場合の「注文情報生成手段」の動 作について,甲2発明の1における「インクリメントオプション」に係る 構成あるいは原告のいう「従前のものより所定価格だけ増加させたイフダ\nンオーダーを生成する」という動作を適用する動機付けがあるものと認め ることはできない。また,甲2発明の1の上記構成は,相違点1−1に係\nる本件発明1の構成全部を含むものではないから,甲1発明に甲2発明の\n1の上記構成を組み合わせることを試みたとしても,当業者が,甲1発明\nにおいて,相違点1−1に係る本件発明1の構成とすることを容易に想到\nすることができたものと認めることはできない。

◆判決本文

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◆平成29(ワ)2417

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平成30(行ケ)10108  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月2日  知的財産高等裁判所

  技術分野の関連性、課題の共通性および作用・機能の共通性の全てありだが、阻害要因があるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。\n

(ア) 技術分野の関連性について 引用発明は,「医療系廃棄物,家庭廃棄物,産業廃棄物等に含まれる有機系廃棄物 を高温高圧の蒸気を用いて処理し,処理後には,処理した廃棄物と液体とを分離し た状態で取出せる…液体分離回収方法」に関するものである(甲 1【0001】)。 他方,甲2技術は,「重金属を含有する土壌や焼却灰」のような「廃棄物」の「水 熱処理」を行うものである(甲2【0004】,【0005】)。 そうすると,両者の技術分野はいずれも水熱反応を利用した廃棄物の処理に関す るものであり,互いに関連するものといえる。
(イ) 課題の共通性について
a 引用発明は,一台の装置だけで,廃棄物を高温高圧の蒸気を用いて安全に処 理できるとともに,その処理に連続して処理された廃棄物と液体とを簡単な操作で 分離して回収できるようにするとの課題を解決することを目的とするものであるが (甲1【0004】),引用例1には,処理の対象となる有機系廃棄物として,「合成 樹脂製の注射器,血液の付着したガーゼ,紙おむつ,手術した内臓等の医療関係機 関等から廃棄された医療系廃棄物,生ごみ,プラスチック等の合成樹脂製容器等の 一般家庭から廃棄された家庭系廃棄物,食品加工廃棄物,農水産廃棄物,各種工業 製品廃棄物,下水汚泥等の産業廃棄物等に含まれる有機系廃棄物」(甲1【0035】)が挙げられている。 特開2006−55761号公報(甲3)には「有機廃棄物には,生物に有害な重 金属類を含んでいることが多く重金属類を不溶化あるいは除去する必要がある。」 (【0003】)との記載,特開2011−31180号公報(甲4)には「本発明に よれば,土壌,肥料,水,焼却灰,家畜の糞尿,工場排水,汚泥,下水等に含まれる 重金属,ダイオキシン,硝酸塩,及び農薬を効果的に分解し,無害化することができ る。」(【0011】)との記載,特開2004−24969号公報(甲5)には「重金属は,これらの都市ゴミや産業廃棄物の中に混じっていることが多い。そのため, 都市ゴミや産業廃棄物を焼却すると,燃焼排ガスに同伴して飛散する煤塵や焼却灰 中に,都市ゴミや産業廃棄物中の揮発性金属化合物に由来する重金属,例えば,亜 鉛,鉛,ニッケル,カドミウム,銅などの重金属,…が含まれている。このように, 重金属の拡散による弊害が大きな社会問題として指摘されている…」(【0003】),「従来,廃棄物の焼却時に発生する煤塵や焼却灰の処分には,飛散を防止するため に加湿処理をおこなったり,セメントやアスファルトで固形化して埋め立てに用い るか又は海洋投棄するなどの方法が採られてきた。海洋投棄する場合には,セメン トなどによって固定化するとともに,重金属が溶出しないように処理することが法 律に定められているが,これらの方法によって煤塵や焼却灰からの有害金属の溶出 を完全に抑制するには種々の問題がある。すなわち,上記の方法では,煤塵や焼却 灰中に含まれる重金属は可溶態のままであるため,煤塵や焼却灰を固形化しても重 金属が経時的に溶出し,二次公害が発生する恐れが残っている。…」(【0004】) との記載,特開2006−167509号公報(甲6)には「この発明は食品加工工 程で廃棄される魚介類残渣,鶏糞・豚糞,牛糞などの家畜の糞尿,野菜屑などの農産 廃棄物,更には生ゴミなどの動植物性食品残渣といった有機系廃棄物の処理システ ムに関する」(【0001】),「…魚介類残渣にはカドミウム,水銀,砒素当の重金属類が少なからず含まれており,これが発酵後の堆肥に含まれていると,事実上農作 物に使用することができなくなってしまう。…」(【0005】)との記載,特開20 08−155179号公報(甲7)には「…工場汚泥,工事汚泥,又は下水汚泥,生 活排水汚泥等の汚泥,並びに家畜糞尿等の汚水を含む被処理物…の熱処理方法であ って,…被処理物中の有機物の炭化及び/又は熱分解を介して,該被処理物中の重 金属等の異物を分離貯留するとともに,…ことを特徴とした環境に優しい被処理物 の熱処理方法。」(【請求項1】)との記載がある。 これらの記載によれば,産業廃棄物に限らず,土壌,肥料,水,焼却灰,家畜の糞 尿,工場排水,工場や工事の汚泥,下水や生活排水汚泥,都市ゴミ,魚介類残渣等の 種々の廃棄物が有機系廃棄物とともに重金属を含んでいること,廃棄物に含まれる 重金属を放置すると,堆肥等として使用することもできなくなるばかりか,その拡 散による弊害が大きな社会問題として指摘されていること,廃棄物の焼却時に発生 する煤塵や焼却灰の処分には,飛散を防止するため,加湿処理,固形化,あるいは海 洋投棄が行われてきたが,海洋投棄する場合には,セメントなどによって固定化す るとともに,重金属が溶出しないように処理することが法律に定められていること は,本願出願時において周知の事項であったものと認められる。 そうすると,引用発明において処理の対象となる「有機系廃棄物」にも,重金属が 含まれ得ること,及びその溶出を防止することは,引用発明が属する技術分野にお いて,当業者が当然に考慮すべき課題であると認められ,処理後の廃棄物と液体と の分離に焦点を当てた引用例1にそのことが明示的に記載されていなくても,引用 発明の自明の課題として内在しているものというべきである。
b 他方,甲2技術は,金属を含有する廃棄物の水熱処理の際に発生する重金属 を含有する排水を,排水処理設備を設けることなく,処理することができる廃棄物 の処理方法および処理装置を提供することを目的とするものであり(【0005】), シリカとカルシウム化合物とを反応させ,トバモライトなどの結晶性カルシウムシ リケートを発生させることによって,「重金属は,内部に閉じこめられ(固定化され),外部への溶出が抑制されるようになる」(【0031】)というものであるから,水熱 処理後の重金属含有排水からの重金属の溶出を防止することを課題とするものであ る。
c そうすると,引用発明と甲2技術とは,廃棄物中の重金属の溶出を防止する という点で,解決すべき課題が共通するものといえる。
(ウ) 作用・機能の共通性について\n
引用発明は,閉鎖空間を有する密閉容器内に有機系の廃棄物を収容して,固形状 の有機系廃棄物を破砕しつつ撹拌し,高温高圧の蒸気を噴出して炭化させるもので あるところ,水熱処理の条件として,「温度180〜250℃,圧力15〜35at m程度(判決注:1.5〜3.5MPa)」(【0040】)との開示がある。 一方,甲2技術は,水熱処理によりトバモライトなどの結晶性カルシウムシリケ ートを形成させるものであるところ,水熱処理の条件として,「130〜300℃程 度での飽和蒸気(判決注:同温度での飽和蒸気圧を計算すると0.28〜9.41M Pa)」(【0034】)との開示がある。 そうすると,引用発明では有機物が炭化されるのに対し,甲2技術では,トバモ ライト結晶が形成されるのであって,水熱反応によって起こる現象が異なるから, 引用発明に甲2技術を組み合わせる動機となるような,作用・機能の共通性は認め\nられない。もっとも,水熱処理における温度・圧力の条件自体は重複している以上, 組合せを阻害する要因となるものでもないと解される。
(エ) 以上によれば,引用発明と甲2技術とは,廃棄物の水熱処理という技術分野 において関連性があり,廃棄物から重金属の溶出を防止するという課題が共通して いるということができる。
イ 引用発明への甲2技術の適用
しかしながら,仮に引用発明に甲2技術を適用しても,甲2には,前記有機系廃 棄物の固形物上にトバモライト構造が層として形成されることの記載はないから,\n相違点2’に係る「前記重金属類が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモ ライト)構造」が「前記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されると\nの構成には至らない。\nこの点につき,本件審決は,引用発明に甲2技術が適用されれば,「前記重金属類 が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造」が「前記有機系廃\n棄物の固形物上に」いくらかでも「層」として「形成」されて,重金属の溶出抑制を 図ることができるものになる旨判断し,被告は,生成した造粒物の表面全体をトバ\nモライト結晶層で覆うことになるのは当業者が十分に予\測し得ると主張する。しか しながら,特開2002−320952号公報(甲8)にトバモライト生成によっ て汚染土壌の表面を被覆することの開示があるとしても(【0028】,図1。図1\nは別紙甲8図面目録のとおり。),かかる記載のみをもって,トバモライト構造が「前\n記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されることが周知技術であった とは認められず,被告の主張を裏付ける証拠はないから,引用発明1に甲2技術を 適用して相違点2’に係る本願発明の構成に至るということはできない。\n

◆判決本文

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平成30(行ケ)10161  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月2日  知的財産高等裁判所

 引用文献の認定を争いましたが、記載ありとした審決が維持されました。化学分野でもない発明で新規性違反が争点となるので、珍しいです。

 原告は,引用発明の「押されたか確認」する構成が本願発明の「選択状態検出手\n段」に該当しないと主張する。 そこで検討するに,引用発明の従来の技術(【0002】以下)に係る引用例の記 載は,前記(1)イのとおりであり,このうち【0003】においては,同別紙の図2に 基づき,引用発明のリモコン6が,ベッド本体2の上半身部の昇降動作させるアク チュエータ4にケーブル5によって接続され,アクチュエータ4の動作を操作,制 御するものであることが記載されている。このように,引用例には,リモコン6が アクチュエータ4の動作を操作,制御するものであり,アクチュエータ4がリモコ ン6によって操作,制御されるものであることが記載されている。 また,同別紙の図2は,引用例の実施例の説明においても参照されている(【00 10】【0011】)ところ,そこでいう,リモコン6の任意のキー6aが押されたか の確認とは,アクチュエータ4の動作の操作,制御の内容を構成するものであるか\nら,上記確認動作を行うものはリモコン6であり,そうすると,リモコン6は「押さ れたか確認」(STEP1)するための構成を有しているものということができる。\nそして,本願発明のベッド操作装置における「選択状態検出手段」とは,操作入力 手段が選択されている状態を検出するための構成であることからすれば,本願発明\nの「選択状態検出手段」と引用発明の「押されたか確認」(STEP1)する手段と が異なることはない。よって,原告の主張は理由がないというべきである。
ウ 構成要件E(選択解除検出手段)について\n
(ア) 引用発明の「STEP2」の「リモコン6のキー6aが押された時は,その 後,リモコン6のキー6aが解放されたか確認」することは,本願発明の「前記選択 状態検出手段により選択された状態が解除されたことを検出する」ことに相当し, 引用発明の当該「解放されたか確認」する構成は,本願発明の「選択解除検出手段」\n(構成要件E)に相当する。\n(イ) 本願発明と引用発明との対比判断の誤りをいう原告の主張について 原告は,引用発明の当該「解放されたか確認」する構成は本願発明の「選択解除検\n出手段」に該当しないと主張する。 しかしながら,リモコン6は,前記イ(ウ)で述べたのと同様の理由により,「解放 されたか確認」する構成を有しているということができる。\nしたがって,本願発明の「選択解除検出手段」と引用発明の「解放されたか確認」 (STEP2)する手段とが異なることはなく,原告の主張は理由がない。
エ 構成要件F(遷移手段)について\n
(ア) 引用発明の「キー6aが解放されず押し続けられている場合は,解放され るまで待機し,リモコン6のキー6aが解放され,さらに任意のキー6aを押した ときに,アクチュエータ4を起動する(STEP3)」構成においては,電源を投入\nした後,STEP2で「キー6aが解放され」るまでの間は,本願発明の「待機状 態」に相当する。 そして,引用発明は,「キー6aが解放され」た後に,任意のキー6aを押せばア クチュエータ4を起動できる状態,すなわち,ベッドの操作が可能な状態になるか\nら,キー6aの解放の前後で,「待機状態」から「操作可能状態」に遷移するものと\nいうことができる。 その上で,本願発明の「遷移手段」が,「待機状態」から「操作可能状態」に遷移\nすることを手段として記載したものといえることを踏まえると,引用発明は,キー 6aの解放の前後で,「待機状態」から「操作可能状態」に遷移しているといえるか\nら,引用発明の「リモコン6」は,「遷移手段」に相当する構成も当然に備えている\nということができる。
以上によれば,引用発明の「リモコン6」は,「リモコン6のキー6aが解放され」 たときに,「リモコン6」を待機状態から操作可能状態に遷移させているといえると\nころ,引用発明の「リモコン6のキー6aが解放され」たときは,本願発明の「前記 選択解除検出手段により選択された状態が解除されたことを検出したとき」に相当 し,引用発明の「リモコン6のキー6aが解放され」たときに「リモコン6」を待機 状態から操作可能状態に遷移させる構\成は,本願発明の「前記選択解除検出手段に より選択された状態が解除されたことを検出したときに,前記ベッド操作装置を前 記待機状態から,操作可能状態に遷移させる遷移手段」(構\成要件F)に相当する。

◆判決本文

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平成31(行ケ)10005  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月19日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。出願人は銀行です。取り消し理由は、「引用発明に周知技術を適用することの動機付けがない」というものです。 なお、対象となったクレームは以下です。  携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータに応じて,前記携帯通信端末において実行されるアプリケーションの,前記携帯通信端末の動きに伴う動作を規定する設定ファイルを設定する設定部と,\n前記設定ファイルに基づいてアプリケーションパッケージを生成する生成部と, を有するアプリケーション生成支援システム。

 本件審決は,引用発明に引用文献2〜5及び参考文献1記載の技術(同技術に乙 3文献記載の技術を併せて,以下「被告主張周知技術」という。)を適用することに より,本件補正発明に想到し得ると判断していることから,引用発明に被告主張周 知技術を適用する動機付けの有無について検討する。
ア 引用発明
前記2(1)のとおり,引用文献1には,「近年,コンテンツマネジメントシステム (以下,CMS(Content Management System)という) によりウェブアプリケーションとして公開するコンテンツを構築し,管理すること\nが行われている(例えば,特許文献1参照)。ところで,近年,ネイティブアプリケ ーションをダウンロードしてインストールすることができるスマートフォンが普及 している。スマートフォンのユーザは,ネイティブアプリケーションをインストー ルする場合,アプリケーションを提供する所定のアプリケーションサーバにアクセ スし,所望のネイティブアプリケーションを検索する。しかしながら,CMSによ って構築されるウェブアプリケーションは,ウェブサイトとして構\築されるため, 検索サイトの検索結果として表示されることがあるものの,アプリケーションサー\nバから検索することができない。したがって,アプリケーションサーバにおいてネ イティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開発したウェブアプ リケーションを利用してもらうことができないという問題がある。これに対して, CMSによって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブ アプリケーションを開発し,当該ネイティブアプリケーションをアプリケーション サーバにアップロードすることも考えられる。しかしながら,ネイティブアプリケ ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要であった。本発明は,ネイ ティブアプリケーションを容易に生成することができるアプリケーション生成装置, アプリケーション生成システム及びアプリケーション生成方法を提供することを目 的とする。」(段落【0002】,【0004】〜【0007】)と記載されており,同記載からすると,引用発明は,CMSによって構築されるウェブアプリケーション\nは,アプリケーションサーバから検索することができないため,アプリケーション サーバにおいてネイティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開 発したウェブアプリケーションを利用してもらうことができないこと及びCMSに よって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブアプリケ ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要となることを課題とし,同 課題を解決するためのネイティブアプリケーションを生成する装置であることが認 められる。
引用発明は,上記課題を解決するために,前記(1)アで認定したとおり,既存のウ ェブアプリケーションのロケーションを示すアドレスや所望の背景画像を示すアド レス等の情報を入力するだけで,当該ウェブアプリケーションの表示態様を変更し\nて,同ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブアプリケーシ ョンを生成できるようにしたものと認められる。
イ 被告は,携帯通信端末の動きに伴う動作を行うネイティブアプリケーシ ョンを生成すること,特に,PhoneGapに係る技術が周知であると主張する。
(ア) 前記アのとおり,引用発明は,アプリケーションサーバにおいて検索で きるネイティブアプリケーションを簡単に生成することを課題として,同課題を, 既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入力するだけで,同ウェブア プリケーションが表示する情報を表\示できるネイティブアプリケーションを生成す ることができるようにすることによって解決したものであるから,ブログ等の携帯 通信端末の動きに伴う動作を行わないウェブアプリケーションの表示内容を表\示す るネイティブアプリケーションを生成しようとする場合,生成しようとするネイテ ィブアプリケーションを携帯通信端末の動きに伴う動作を行うようにする必要はな く,したがって,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネ イティブ機能を実行するためのパラメータ」とする必要はない。もっとも,引用文\n献1の段落【0024】には,ブログ等と並んで「ゲームサイト」が掲げられてお り,ゲームにおいては,加速度センサにより横画面と縦画面が切り替わらないよう に制御する必要がある場合が考えられる(引用文献5参照)が,ウェブアプリケー ションとして提供されるゲームは,1)常に携帯通信端末の表示画面を固定する必要\nがあるとはいえないこと,2)加速度センサにより,携帯通信端末の姿勢に対応した 画面回転表示を制御する機能\は携帯通信端末側に備わっており,端末側の操作によ って,表示画面を固定することができ,そのような操作は一般的に行われているこ\nと,3)引用文献1の段落【0024】の「ゲームサイト」は,携帯通信端末の表示\n画面を固定する必要のないブログ,ファンサイト,ショッピングサイトと並んで記 載されており,また,引用文献1には,加速度センサについて何らの記載もないこ とからすると,当業者は,上記の「ゲームサイト」の記載から,パラメータを「携 帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」とすることの必\n要性を認識するとまではいえないというべきである。 また,引用発明によって生成されるネイティブアプリケーションは,HTMLや JavaScriptで記述されるウェブページを表示できるから,引用発明によ\nり,乙4に記載されたHTML5 APIのGeolocationを用いて携帯 通信端末の動きに伴う動作を行うウェブアプリケーションの表示内容を表\示するネ イティブアプリケーションを生成しようとする場合も,生成されるネイティブアプ リケーションは,設定情報に含まれているウェブアプリケーションのアドレスに基 づいて,同ウェブアプリケーションに対応するウェブページを取得し,取得したウ ェブページのHTMLやJavaScriptの記述に基づいて,同ウェブアプリ ケーションの内容を表示でき,したがって,ネイティブアプリケーションの生成に\n際して,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ 機能を実行させるためのパラメータ」とする必要はない。\nさらに,被告主張周知技術に係る各種文献にも,引用発明の上記の構成の技術に\nおいて,「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に\n応じて設定ファイルを設定することの必要性等については何ら記載されていない (甲2〜5,7,8,乙1〜3)。
(イ) 前記アのとおり,引用発明は,簡易にネイティブアプリケーションを生 成することを課題として,既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入 力するだけで,当該ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブ アプリケーションを生成できるようにしたのであり,具体的には,前記(1)アのとお り,入力しようとするウェブアプリケーションのロケーションを示すアドレス及び 表示態様に基づいて,テンプレートアプリケーション111に含まれる設定情報の\n内容を書き換えるだけで目的とするウェブアプリケーションの表示する情報を表\示 できるネイティブアプリケーションを生成でき,テンプレートアプリケーション1 11に含まれるプログラムファイル113については,新たにソースコードを書く\n必要はないところ,証拠(甲3,5,7,乙1〜3)によると,PhoneGap によってネイティブアプリケーションを生成するためには,HTMLやJavaS cript等を用いてソースコード(プログラム)を書くなどする必要があるもの\nと認められるから,引用発明に,上記のように,新たにソースコードを書くなどの\n行為が要求されるPhoneGapに係る技術を適用することには阻害事由がある というべきである。
被告は,1)PhoneGapでは,PhoneGapのプラグインの仕組みを使 って,GPSなど端末のネイティブ部分にアクセス可能であり,端末のGPS機能\ にアクセスすることで,GPSで取得した端末の現在位置が中心となるように地図 を表示することが可能\となるから,引用発明において地図表示アプリケーションを\n生成する際に,PhoneGapのフレームワークを採用することで,ネイティブ 機能であるGPS機能\が利用可能となり,携帯通信端末の動きに伴う動作を設定可\n能となり,また,2)AndroidManifest.xmlに「android: screenOrientation =”landscape”」の1行を追加し たり(Androidの場合),「Landscape Right」又は「Lan dscape Left」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,スマー トフォンの画面を横画面に固定可能となり,縦画面に固定する設定を施す場合,A\nndroidManifest.xmlに「android:screenOri entation =”portrait”」の1行を追加したり(Android の場合),「portrait」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,ス マートフォンの画面を縦画面に固定可能となるから,引用発明において,アプリケ\nーションを生成する際に,PhoneGapのフレームワークを利用することで, 「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に応じて,\n携帯通信端末において実行される「アプリケーションの,携帯通信端末の動きに伴 う動作」を規定する設定ファイルを備えることとなると主張する。 しかし,上記のとおり,引用発明にPhoneGapの技術を適用することの動 機付けはないから,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。

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平成30(行ケ)10151  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月18日  知的財産高等裁判所

 引用発明は,引用文献1に接した当業者が特段の「深読み」を要せずして把握し得る構成を備えたものであるから,引用発明の認定に誤りなしとして、進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。

 原告は,審決で認定した引用発明は,必須の構成要件である1)ないし4) の各事項(上記第3の1(1)に記載)を欠いており,誤りである旨主張する。 確かに,原告が主張するように,引用文献1の【0128】ないし【0 142】で開示される実施例(以下「引用実施例」という。)においては, マットレス装置を構成する複数の部材の堅さの選択及び組合せとして多種\n多様な選択肢があり得るところ,審決は,そのうちの一つを取り出した構\n成を引用発明として認定している。また,この一つの例についても,頭部 と足部を入れ替え,又は表と裏とを入れ替えることによって,当該構\成の マットレス装置は更に4通りの堅さ分布による使用が可能であるところ,\n審決は,このことに言及していない。そして,原告の上記主張は,審決に よるこのような引用発明の認定の手法について,引用発明の課題(目的) を無視し,本願発明1との相違点を予め減らすべく事後分析的な認定をし\nたものであって誤っている旨主張するのである。
イ よって検討するに,引用文献1の記載によれば,引用実施例に係るマッ トレス装置452が上記のように多種多様な部材の選択及び組合せや4通 りの使用方法を開示しているのは,引用実施例が「小売用テスト装置とし て」利用され【0142】,「小売業者は店舗内のテスト用マットレスの 台数を減ずることで床面積を節約し得ると共に,ユーザは小売業者から購 入しようとするマットレスの感触を適合調整し得る」【0128】ように, 店舗内のテスト用マットレスに特化した課題(目的)又は作用効果に関す る事項を強調するためであると解される。しかし,引用文献1には,「マ ットレス装置452は家庭または他の療養施設での個人使用の為にユーザ により購入されることもある」【0142】と記載されており,このよう に個人が使用する場合には,適切な感触を得られる硬さの部材の組合せが 既に決定されているのであるから,多種多様な部材の選択及び組合せ並び に4通りの使用方法があることは想定されない。 したがって,小売用テスト装置(店舗内のテスト用マットレス)に用途 を限定しない引用実施例のマットレス装置452において,多種多様な部 材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは,一体不可分の 必須の技術思想に当たらず,その中から一つの組合せ及び使用方法を抽出 した例を引用発明とすることに支障はない。引用発明は,引用例に記載さ れたひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握可能\であれば足りる ところ,審決で認定された引用発明は,この要件を充たしているといえる。
ウ もっとも,審決が,引用文献1に開示された多種多様な部材の選択及び 組合せ並びに4通りの使用方法の中から,引用文献1に具体的には全く例 示されていない例を抽出したのであれば,原告のいうように,本願発明1 の相違点を予め減らすべく事後分析的な認定をしたといえることもあろう。\nしかしながら,審決が認定した引用発明は,部材の選択及び組合せ(認 定に係る構成のK,O及びQ)については,引用文献1に「所望であれば」\n「好適には」として具体的に例示された構成を採用している。また,使用\n方法については,引用文献1の【図24】に具体的に示された例をそのま ま用いており,頭部と足部とを入れ替えることも,表と裏とを入れ替える\nこともしていない。このように,引用発明は,引用文献1に接した当業者 が特段の「深読み」を要せずして把握し得る構成を備えたものであるから,\n審決に,事後分析的な認定をしたという誤りもない。また,引用文献1の 例示に基づいて具体的に認定した引用発明に,例示であることを示す「所 望であれば」「好適には」という文言を加えなければならない理由もない。
エ なお,部材の選択及び組合せについて審決が認定した構成(K,O及び\nQ)をとるとき,頭部端ブロック490と足部端ブロック492の堅さは 等しいから,頭部側と足部側とを入れ替えたとしてもベッド使用者の身体 の各部位に相当するコア458の各部位の堅さは変わらない。また,引用 文献1において,トッパ発泡体の上側と下側及びキルティングパネルの頂 部と底部につき,厚さ又は堅さを違えることに関する言及は何らみられな いから,マットレス装置452を裏返すことに技術的意義があるとは考え 難い。これらの点からしても,4通りの使用方法があることを引用発明1 の認定において考慮しなかったことに誤りがあるとはいえない。

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平成31(行ケ)10012  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月18日  知的財産高等裁判所

 請求項の「規定動作の指示」とは、文言どおりと判断され、進歩性なしとした審決が維持されました。

 前記(2)アのとおり,甲1には,「本発明」の実施の形態に係る作業機械 である油圧ショベル50は,クローラを備えた下部走行体51,下部走行 体51に旋回可能に設けられた上部旋回体52,上部旋回体52に配置さ\nれた運転室52a,運転室52aに設けられる機械側保守装置30等を備 えること(【0013】,図2)の記載がある。 そして,油圧ショベルが,エンジン,エンジンの動力により作動油を吐 出する油圧ポンプ,及び,油圧ポンプが吐出する作動油によりオペレータ のレバー操作に応じて駆動する油圧アクチュエータを備えることは,甲1 に従来技術として記載されているほか(【0003】,図15),本件出 願前に頒布された複数の刊行物にも記載されていることから(乙1(【0 025】,【0027】,図1),乙2(【0007】,図1),甲12 (2頁19行〜3頁18行,第5図),甲13(【0002】,【000 3】,図4,5)),本件出願当時,当業者にとって技術常識であったも のと認められる。また,かかる構成において,エンジンが油圧ショベルの\n上部旋回体に配置されることは,自明である。 そうすると,当業者であれば,甲1の記載から,甲1の油圧ショベル50 が,上部旋回体52に配置されたエンジンと,エンジンの動力により作動 油を吐出する油圧ポンプと,油圧ポンプが吐出する作動油によりオペレー タのレバー操作に応じて駆動する油圧アクチュエータとを備えるものであ ると理解することができる。 したがって,本件審決が,引用発明について,「オペレータのレバー操 作に応じて駆動する油圧アクチュエータ」を備える旨認定したことに,誤 りはない。
イ これに対し,原告は,1)甲1は,操作レバーにより作業機械を操作する ことによって生じる,保守員の作業現場出向が無駄になり保守効率が著し く低下する等の問題に鑑み,自動運転を行う作業機械を提示しており,自 動運転を前提とするものであるし,また,作業機械の保守管理は高度に専 門的な知識を要することから,オペレータによる保守管理目的の操作レバ ーの操作が従来から回避されてきたことを示唆している,2)甲1の記載に 接した当業者であれば,ショベルの保守管理時の操作方法として,オペレ ータによる操作内容スイッチの押下(【0026】,【0031】,【0 032】),又は,【0012】のスイッチ等の何らかのスイッチの押下 により,運転コントローラ40による自動運転を行うものと解するのが自 然である旨主張する。 そこで検討するに,まず,上記1)の点については,前記(2)イのとおり, 甲1には,i)従来の技術では,保守員がオペレータに所要の態様の運転を 依頼しても,確実にこれを伝えることが困難な場合が多く,また,作業機 械の自動運転は,事故が生じないように予め何らかの手段を講じなければ\nならず手間と時間を要し,そのような手段を講じてもまだ完全に安全では ないなどの課題があったこと,ii)「本発明」は,作業機械の保守を行う 管理部に作業機械の各種操作の内容を指示する手段を設けるとともに,作 業機械にその指示内容を表示する手段を設け,さらに,操作内容報知手段\nを作業機械に設けるとともに,報知された操作内容の表示部を管理部に設\nける構成を採用することにより,上記課題を解決するものであること,iii) これにより,オペレータに所要の態様の操作を確実に行わせ,保守員は正 確な保守用のデータを得ることができるとともに,オペレータが作業機械 の操作を行うために,自動運転におけるような危険を生じることがないと いう効果を奏する旨の記載がある。
以上の記載に照らすと,甲1に記載された発明は,自動運転を前提とす るものではなく,オペレータが作業機械を操作する構成のものであり,か\nかる操作が保守員の指示に従って正確に行われるようにするために,上記 構成を採用したものであると認められる。\nなお,原告は,甲1に問題点が記載された「自動運転」(【0006】) とは,保守員による「遠隔自動運転」(【0005】)を意味するもので あり,オペレータのスイッチ操作により自動運転がされる場合には,上記 問題は生じない旨主張する。しかしながら,【0006】で指摘されてい る上記の問題(課題)は,「遠隔自動運転」についてのみ生じるものでは なく,オペレータのスイッチ操作による自動運転でも起こり得るものであ ると考えられるため,同主張は失当である。 次に,上記2)の点についてみると,甲1には,保守を行うための所要の 態様の操作である,「ブーム上げと上部旋回体の複合操作」は,操作指示 表示部320の表\示により同操作の指示を確認したオペレータが,これに 対応する「操作内容スイッチ33bを押した後,油圧ショベルを操作して」 行うことが記載されている(【0026】)。 そして,操作内容スイッチ33bは,上記複合操作を行ったことを管理 部側に知らせる場合に用いられるものであるから(【0016】),上記 複合操作は,オペレータが操作内容スイッチ33bを押すことで,自動運 転により行われるのではなく,スイッチ33bの押下後に,オペレータが 「油圧ショベルを操作して」行うものであると認められる。 また,【0012】には,運転コントローラ40が各種センサの検出値 や各種スイッチの状態に基づいて油圧ショベルの水平掘削等の「制御」を 行うことの記載があるが,「制御」の契機となる,作業機械のセンサの検 出値やスイッチの状態は,オペレータが操作レバーを操作することでも変 わり得るものであるから(【0003】),【0012】の記載は,油圧 ショベル50の「操作」が,オペレータのスイッチ操作による自動運転で 行われることを示唆するものとはいえない。 そして,甲1の全体をみても,油圧ショベル50の操作がオペレータの スイッチ操作による自動運転で行われることを示唆する記載はない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 相違点の看過の有無について
ア 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,1)本願発明の 「規定動作の指示」は,「運転者が操作して作業を行うショベル」の「下 部走行体に搭載された上部旋回体」「に備えられたキャビン」「に設置さ れ」た「表示部」に「表\示」される「運転者に対」する「指示」であるこ と,2)「運転者」のレバー操作に応じた「前記油圧アクチュエータによる 前記規定動作の実行中における」,「動作に関連する物理量を検出する」 「前記センサからの検出値」が,「前記規定動作と対応付けて」「記憶部」 に記憶され,この「検出値」が「送信部」から「管理装置へ送信」される ことを理解できる。 一方,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「規定動作」の内 容及び「指示」の表示方法につき,定義はされておらず,これを原告主張\nのように限定して解すべき根拠となる記載はない。
イ 次に,本願明細書の発明の詳細な説明には,「本発明」の実施形態とし て,キャビン10内に設置された画像表示装置40に,「姿勢を点線の位\n置に併せてください」,「フルレバーで一気にアームを閉じてください」, 「フルレバーで一気にバケットを閉じて下さい」という指示とともに,現 在の姿勢と規定動作の実行後の目標姿勢とをそれぞれ実線と点線とで表\nした,側面視におけるショベルの外形の画像を表示し,又は,「旋回停止\nの指示がでるまで旋回を続けて下さい」という指示とともに,平面視にお けるショベルの外形の画像と旋回方向を表示することが記載されている\n(【0062】,【0063】,【0070】,【0074】,図5,6, 8,9)。
他方で,本願明細書の「以上,本発明を実施するための形態について詳 述したが,本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく,特 許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において,種々の変形・ 変更が可能である。」(【0086】)との記載に照らすと,本願明細書\nには,「本発明の要旨の範囲内」であれば,「本発明」の実施形態が上記 実施形態に限定されるものではないことの開示がある。 しかるところ,本願明細書には,本願発明の「規定動作」の内容及び「指 示」の表示方法を定義した記載はなく,これらを特定の内容や方法に限定\nする記載もない。 また,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載から理解できる「規 定動作の指示」等の内容(前記ア),本願明細書の発明の詳細な説明に記 載された本願発明の効果等(前記(1)イ(イ))を総合すると,本願発明は, 運転者に対して規定動作の指示を表示し,運転者のレバー操作に応じた油\n圧アクチュエータによる規定動作の実行中における,センサからの検出値 を,規定動作に対応付けて記憶部に記憶し,送信部から管理装置へ送信す ることによって,管理装置側の専門スタッフにおいて,どのような動作条 件で実行されたデータであるかを容易に把握し,ショベルの状態判断を実 効的に行えるようにすることに,技術的意義があるものと認められる。 そして,本願発明の上記技術的意義に照らすと,「規定動作の指示」を, 原告が主張するように,本願明細書の図5,6,8,9に例示されるよう な,「それを見ながらオペレータがレバー操作を行っても個人のスキル等 によるバラツキが抑制されるよう配慮した具体的かつ一義的な操作指示」 に限定する必然性は見いだし難い。
ウ 以上の本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本願明細書の 記載に鑑みると,本願発明の「規定動作の指示」とは,ショベルの上部旋 回体に備えられたキャビンに設置された表示部に表\示されるものであり, 運転者に対し,油圧アクチュエータによる規定の動作を実行するよう指示 するものであれば足り,原告が主張するような操作指示に限定されるもの ではないと解すべきである。 そうすると,引用発明における「保守を行うための所要の態様の操作で ある「ブーム上げ単独操作」,「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合 操作」,「走行の単独操作」等の操作指示」は,油圧ショベル50の上部 旋回体52に配置された運転室52aに備えられた操作指示表示部32\n0に表示されるものであり,オペレータに対し,油圧アクチュエータによ\nる規定の動作の実行を指示するものであるから,本願発明の「規定動作の 指示」に相当するものといえる。 したがって,本件審決が,本願発明と引用発明とは,「キャビン内に設 置され,規定動作の指示を運転者に対して表示する表\示部」を備える点で 一致すると認定した点に誤りはなく,本件審決に相違点の看過はない。
(5)相違点の容易想到性の判断について
ア 前記(4)のとおり,甲1の「本発明」の実施の形態には,保守管理時に, オペレータが,操作指示に従って油圧ショベルを操作し,保守を行うため の所用の態様の操作を実行することが記載されている。 一方,甲1には,操作指示に従ってオペレータが油圧ショベルを操作す る際の操作方法について,明示した記載はない。 しかしながら,前記(3)アのとおり,引用発明は,「オペレータのレバー 操作に応じて駆動する油圧アクチュエータ」を備えるものであること,甲 1には,オペレータが操作指示を見て行う所要の態様の操作の操作時に, 通常時の操作であるレバー操作以外の態様で操作を行うとの記載はない ことに照らすと,甲1に接した当業者は,オペレータが操作指示を見て行 う操作の操作手段として,通常時に用いるために備えられた操作手段であ る操作レバーを用いることを,容易に想到することができたものと認めら れる。 したがって,本件審決における相違点1の容易想到性の判断に誤りはな い。
イ これに対し原告は,甲1には,オペレータによる保守管理目的の操作レ バーの操作が,従来から回避されてきたことが示唆されていることからす ると,引用発明において,オペレータが操作指示を見て行う保守のための 所要の態様の操作を,レバー操作により行わせることについての動機付け はなく,むしろ阻害要因がある旨主張する。 しかしながら,原告の上記主張は,甲1が,操作レバーにより作業機械 を操作することによって生じる問題に鑑み,自動運転を行う作業機械を提 示するものであって,自動運転を前提とするものであることや,甲1には, 操作内容スイッチ,又は,【0012】のスイッチ等の何らかのスイッチ の押下により,運転コントローラ40による自動運転が開始される旨が記 載されていることなどを前提とするものであるところ,かかる主張を採用 できないことについては,前記(3)イのとおりである。 したがって,原告の上記主張は,前提を欠くものであって,採用するこ とはできない。

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平成30(ワ)2554  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年8月27日  大阪地方裁判所

 大阪地裁21部は、技術的範囲に属する、無効理由なしとして、差止請求を認めました。損害賠償請求については、準備手続き中に口頭弁論が分離されています。

 被告は,「挟み込んで保持する」という文言について経時的に解釈し,これを, 第二保持部がブレースボルトをその軸方向に沿って外周側から挟み込み,これを仮 に保持した状態でブレースボルトの軸方向に移動して位置調整を行った後に,ナッ トで締め付けて保持するという操作方法に限定される旨を主張し,ブレースボルト を第二保持部が挿通する場合はこれに含まれないから,ブレースボルトを第二保持 部に挿通する被告製品は,本件発明の構成要件を充足しないと主張する。\nしかしながら,構成要件1Cの「挟み込んで保持する」は,物の発明の一要素と\nして,ブレースボルトが,これを包囲する包囲部によりベース板部に固定されるこ と,すなわち「狭着保持」(本件各明細書の段落【0044】,【0049】ない し【0052】等)を意味すると解するのが相当である(なお,被告は,「挟着」 と「狭着」の違いについて,前者は「挟み込む」という予備的動作を指すのに対し,\n後者は「狭める」という最終的操作を意味する,と主張する。しかし,本件各明細 書においては,「挟み込んで保持する」及び「挟み込んで狭着保持する」という2 通りの言い回しがみられるものの,これらが被告の主張のように明確に区別して用 いられているということはできず,「挟み込んで」,「挟着」及び「狭着」という 文言は基本的に同義であると解すべきである。)。 本件各明細書の段落【0008】に,「この構成によれば,(中略)固定片の孔\n部に第二棒状体を挿通させる必要がなく」との記載がある点については,従来技術 において,ブレースボルトが長過ぎる場合,これを切断する等して調整せざるを得 ないが,本件発明の場合,固定片のナットをゆるめて,外周側からブレースボルト を挟むことができるということを,特別な場合における利点として述べたにすぎず, ベース板部と固定片の間に形成される孔部にブレースボルトを挿通することのでき る通常の場合にまで,外周側からブレースボルトを挟み込むことを要件とする趣旨 とは解し得ない。 そうすると,被告の主張するような上記操作方法は,本件発明における構成要件\n充足性の判断を左右するものではない。
(3) 被告製品の施工方法について(甲19,乙4,22)
被告が,被告製品1の施工に際し,安全性確保等の見地から,ブレースボルトを 第二保持部に外周側から挟み込むことはせずに,第二保持部にあらかじめブレース ボルトを挿通できる程度の間隙を開けておき,ブレースボルトを第二保持部の当該 間隙に挿通させて使用する(被告製品2については,第二保持部が開口部の狭いル —プ状板部で構成されるため,ブレースボルトを第二保持部に挿通して使用するこ\nとは明らかである。)ことは当事者間に争いはないが,上記⑴及び⑵で検討したと ころによれば,上記施工方法の結果は,本件発明の「挟み込んで保持する」に該当 するというべきであり,これに反する被告の主張は採用できない。
・・・
被告は,乙13を適宜設計変更したものとして副引用発明を設定するところ, 乙13発明は,同一平面上に配置された2本の棒状体の交差する箇所において,乙 13に記載された物品(以下「本物品」という。)を2つ,各棒状体をそれぞれ覆 うようにして対向配置させて装着し,それぞれの本物品の角度調整用の弧形状の孔 (角度調整用長穴)を利用してボルトにより緊結することにより,2本の棒状体を 連結・固定するものである。 これに対し,副引用発明は,本物品と,本物品から包囲部を取り除いた状態の平 面の板状部材(以下「平面部材」という。)から構成されているところ,平面部材\nは棒状体を覆うことができないので,本物品と平面部材を組み合わせても乙13に 記載されたような交差連結具として使用することはできない(本物品1個と平面部 材1個を組み合わせた場合,保持可能な棒状体は1本のみである。)。また,本物\n品及び平面部材は互いの角度を調整する必要がないから,両部材に存する上記弧形 状の孔の存在意義がなくなってしまう。 したがって,当業者が,乙13発明から副引用発明を導くことは困難である。 また,被告は,乙13以外にも乙12,14ないし20を引用し,天井から 吊設機器を吊り下げるボルトが交差する部位を連結する揺れ止め用交差連結具も慣 用技術であると主張し,当業者は,乙1発明の両端の外側狭着体の平面域に,斜め 支持体に代えて副引用発明を適用して連結することで,被告製品1(すなわち本件 発明)を容易に発明することができる,と主張する。 しかし,乙12,14ないし20に記載された発明も,乙13発明と同様に,同 一平面上に配置された2本の棒状体を,その交差する箇所を覆うように装着するこ とで,連結・固定して振れ止めするための交差固定金具に係るものであって,被告 の主張するような副引用発明の構成を示唆するものではない。\nなお,被告は,このほかにも,乙8,10,24ないし28を引用して,1本の 棒状体を狭着して固定するにあたって,狭着する一方が棒状体を包囲する包囲部を 備えた部材,他方が平面上の部材である慣用技術である旨主張し,乙8ないし11 を引用して,2本の棒状体を狭着して固定する連結具も慣用技術である旨主張する が,いずれにおいても,一対の部材のうち,一方の部材にのみ包囲部を設け,もう 一方の部材を平面状とする交差固定金具の技術は開示されておらず(乙8及び乙2 6に開示された発明は,2つの固定具の間に平板の基板を挟み込む形を採るが,そ れぞれの固定部が包囲部を備えている点については上記の他の発明と同様である。), 被告が主張するような副引用発明の構成を示唆するものではない。\n以上より,副引用発明は,乙13を含めて乙8ないし20のいずれにも開示 されているとはいえない。
オ 容易想到性について(相違点1)
被告は,本件発明や乙1発明のようなコーナー固定金具と,乙12ないし20に 開示されるような交差固定金具とは,同一の技術分野に属し,また,施工現場で同 じ吊設機器において併用されることが多いから,当業者には,コーナー固定金具の 第二支持部に交差固定金具を適宜設計変更して適用する動機付けがある旨主張する。 乙12ないし20に記載される発明から,被告が主張するような副引用発明が導 けないことは上記エで述べた通りであるが,仮にこの副引用発明の具体的構成を措\nくとしても,交差固定金具とコーナー固定金具は,固定する棒状体の本数も固定の 態様も全く異なるものであるところ,単に吊設機器上の近い位置で用いられる2種 類の金具であるからといって,適用の動機付けを認めることはできない。 したがって,設計変更される副引用発明の具体的構成がどうあれ,乙1発明に上\n記刊行物記載の発明を適用する動機付けがあるとはいえない。

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平成30(行ケ)10047  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年5月23日  知的財産高等裁判所

 訂正を認める、無効理由なしとした審決が維持されました。争点は、新規事項、サポート要件、進歩性です。被告(特許権者)は東芝からメモリ事業を買収した会社ですが、その後東芝メモリと商号変更しています。

 本件訂正事項は,本件訂正前の請求項21の「内層として形成される複 数の配線層」にいう「複数の配線層」を「グランドまたは電源となる3つ のプレーン層」と「信号を送受信する3つの信号層」を備える「配線層」 に限定するものである。そして,本件訂正後の請求項21の文言から,「グ ランドまたは電源となる3つのプレーン層」にいう「電源となる…プレー ン層」は,「配線層」であって,半導体装置の基板に搭載された「ドライ ブ制御回路」や「不揮発性半導体メモリ」に対して,電源電圧が供給され る電源線として機能することを理解できる。\n次に,本件明細書には,「電源回路5は,ホスト1側の電源回路から供 給される外部直流電源から複数の異なる内部直流電源電圧を生成し,これ ら内部直流電源電圧を半導体装置100内の各回路に供給する。」(【0 011】),「略長方形形状を呈する基板8の一方の短辺側には,ホスト 1に接続されて,上述したSATAインタフェース2,通信インタフェー ス3として機能するコネクタ9が設けられている。コネクタ9は,ホスト\n1から入力された電源を電源回路5に供給する電源入力部として機能す\nる。」(【0012】),「図4は,基板8の層構成を示す図である。基\n板8には,合成樹脂で構成された各層(絶縁膜8a)の表\面あるいは内層 に様々な形状で配線層8bとして配線パターンが形成されている。配線パ ターンは,例えば銅で形成される。基板8に形成された配線パターンを介 して,基板8上に搭載された電源回路5,DRAM20,ドライブ制御回 路4,NANDメモリ10同士が電気的に接続される。…」(【0013】), 「基板8の各層に形成された配線層8bは,図5に示すように,信号を送 受信する信号層,グランドや電源線となるプレーン層として機能する。」\n(【0015】)との記載がある。また,図5には,基板8の内層として, 「3層」,「4層」及び「6層」に「信号層」を,「2層」及び「7層」 に「プレーン層(GND)」を,「5層」に「プレーン層(電源)」を配 する層構成が示されている。\nこれらの記載事項によれば,図5の「5層」の「プレーン層(電源)」 は,配線層であって,半導体装置の基板に搭載された「ドライブ制御回路」 や「不揮発性半導体メモリ」である「NANDメモリ」に対して,電源回 路5において外部直流電源から生成した「内部直流電源電圧」が供給され る電源線として機能することを理解できる。\n以上によれば,本件訂正後の請求項21の「グランドまたは電源となる 3つのプレーン層」にいう「電源となる…プレーン層」は,本件明細書に 記載されているものと認められるから(【0011】ないし【0013】, 【0015】,図5),本件訂正は,本件明細書に記載された事項の範囲 内においてしたものであって,新規事項の追加に当たらないものと認めら れる。
イ これに対し原告は,本件明細書の【0015】記載の「電源線」とは, 基板のいずれかの層に設けられた「配線」程度を意味するものであり,「発 電機または電池のように,外部に電気エネルギーを供給しうる源」を意味 する「電源」(甲62,63)とは全く異なる概念であるが,本件訂正事 項は,「電源線」を「電源」とする訂正を含むものであり,本件訂正事項 のとおりに請求項21を訂正した場合には,配線層の中に「電源」がある こととなって,本件明細書の「電源はホスト1にある」旨の記載とも矛盾 するから,本件訂正は,本件明細書に記載されていない新規事項を追加す るものであって,本件明細書に記載された事項の範囲内においてしたもの とはいえない旨主張する。 しかしながら,前記ア認定のとおり,本件訂正後の請求項21の「グラ ンドまたは電源となる3つのプレーン層」にいう「電源となる…プレーン 層」は,半導体装置の基板に搭載された「ドライブ制御回路」や「不揮発 性半導体メモリ」に対して,電源電圧が供給される電源線として機能する\n「配線層」であって,「電源」そのものではないから,原告の上記主張は, その前提において採用することができない。
(3) 小括
以上のとおり,本件訂正は,本件明細書に記載された事項の範囲内におい てしたものであって,新規事項の追加に当たらないから,これと同旨の本件 審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
・・・・
原告は,本件特許発明1,14及び21の「第1の値が7.5%以下」及 び「前記第1の平均値と前記第2の平均値はともに60%以上」並びに本件 特許発明1,2,5,6,17,21及び25の「配線密度が80%以上」 は,いずれも原出願当初明細書に記載されていないから,本件出願は,分割 出願の要件を満たしていない不適法な分割出願であり,これと異なる本件審 決の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 「第1の値が7.5%以下」について
(ア) 前記(1)の記載事項によれば,原出願当初明細書には,「本発明」は, 平面視において長方形形状の基板を用いる場合に,基板の反りを抑える ことができる半導体装置を提供することを目的とし(【0005】), 上層(基板の層構造の中心線よりも表\面層側に形成された層)全体の配 線密度と下層(基板の層構造の中心線よりも裏面層側に形成された層)\n全体の配線密度とが略等しくなることで,基板の上層全体に占める絶縁 膜(合成樹脂)と配線部分(銅)との比率が,基板の下層全体に占める 合成樹脂と銅との比率と略等しくなり,上層と下層とで熱膨張係数も略 等しくなるため,基板に反りが発生するのを抑制するという効果を奏す ること(【0014】,【0015】,【0023】,【0024】, 図5)の開示があることが認められる。
次に,原出願当初明細書には,1)「基板8の各層に形成された配線層 8bは,図5に示すように,信号を送受信する信号層,グランドや電源 線となるプレーン層として機能」し,「各層に形成された配線パターン\nの配線密度,すなわち,基板8の表面面積に対する配線層が占める割合」\nを「図5に示すように構成している」こと(【0015】),2)「本実 施の形態では,グランドとして機能する第8層をプレーン層ではなく網\n状配線層とすることで,その配線密度を30〜60%に抑え」,「基板 8の上層全体での配線密度は約60%となって」おり,「第8層の配線 密度を約30%として配線パターンを形成することで,下層全体での配 線密度を約60%とすることができ,上層全体の配線密度と下層全体の 配線密度とを略等しくすることができる」こと,「なお,第8層の配線 密度は,約30〜60%の範囲で調整することで,上層全体の配線密度 と略等しくなるようにすればよい」こと(【0016】),3)「本実施 の形態では,第8層の配線密度は,約30〜60%の範囲で調整し,上 層全体の配線密度と下層全体の配線密度とを略等しくしているので,熱 膨張係数も略等しくなる」ため,「基板8に反りが発生するのを抑制す ることができる」こと(【0024】)の記載がある。また,図5には, 「第1の実施の形態」に係る8層構造の配線層の上層の配線密度につい\nて,「1層」が「約60%」,「2層」が「約80%」,「3層」が「約 50%」,「4層」が「約50%」,上層全体(「1層」ないし「4層」) で「約60%」であること,下層の配線密度について,「5層」が「約 80%」,「6層」が「約50%」,「7層」が「約80%」,「8層」 が「約30〜60%」,下層全体(「5層」ないし「8層」)で「約6 0%〜67.5%」であることが示されている。 そして,図5,【0016】及び【0024】の記載(上記2)及び3)) から,図5の「8層」の配線密度を「約30%」とした場合には下層全 体の配線密度が「約60%」(計算式(80+50+80+30)÷4) になり,「8層」の配線密度を「約60%」とした場合には下層全体の 配線密度が「約67.5%」(計算式(80+50+80+60)÷4) になること,図5に示す上層全体の配線密度が「約60%」の場合,下 層全体の配線密度が「約60%〜67.5%」であるときは,「上層全 体の配線密度と下層全体の配線密度とを略等しくしているので,熱膨張 係数も略等しくなる」ため,「基板8に反りが発生するのを抑制するこ とができる」ことを理解できる。
さらに,これらの記載事項から,図5の「8層」の配線密度を「約3 0%〜60%」の範囲で調整すると,上層全体の配線密度の平均値(約 60%)と下層全体の配線密度の平均値(約60〜67.5%)の差が 「約0%〜7.5%」の範囲で調整され,両者の配線密度が略等しくな り,熱膨張係数も略等しくなるため,基板8に反りが発生するのを抑制 することができるものと理解できる。
そうすると,原出願当初明細書には,「本発明」の「第1の実施の形 態」として,配線層の上層全体の配線密度の平均値(「第1の平均値」 に相当)と下層全体の配線密度の平均値(「第2の平均値」に相当)と の差を「7.5%以下」とすることが記載されていることが認められる から,本件特許発明1,14及び21の「第1の値が7.5%以下」は, 原出願当初明細書に記載された事項の範囲内の事項であるものと認めら れる。 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(イ) これに対し原告は,原出願当初明細書には,基板の反りが発生する のを抑えることができるための上層全体の配線密度と下層全体の配線密 度との差が何%かについての記載はなく,また,【0016】の「なお, 第8層の配線密度は,約30〜60%の範囲で調整することで,上層全 体の配線密度と略等しくなるようにすればよい。」との記載は,第8層 の配線密度を約30〜60%の範囲で調整することを可能とすることで,\n上層全体の配線密度を67.5%とした場合(例えば,第3層の配線密 度を80%とした場合)であっても,第8層の配線密度を60%とする と,下層全体の配線密度も67.5%となり,上層全体の配線密度と略 等しくすることで,反りを防止していることを意味するものであり,上 層全体の配線密度と下層全体の配線密度とに差を設けて,「第1の値が 7.5%以下」とすることについての記載はないから,本件特許発明1, 14及び21の「第1の値が7.5%以下」は,原出願当初明細書に記 載されていない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)認定のとおり,図5,【0016】及び【0 024】から,図5に示す上層全体の配線密度が「約60%」の場合, 下層全体の配線密度が「約60%〜67.5%」であるときは,「上層 全体の配線密度と下層全体の配線密度とを略等しくしているので,熱膨 張係数も略等しくなる」ため,「基板8に反りが発生するのを抑制する ことができる」ことを理解できるから,原出願当初明細書には,上層全 体の配線密度と下層全体の配線密度とに差を設けて,「第1の値が7. 5%以下」とすることについての記載はあるものと認められる。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。

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平成30(行ケ)10164  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年8月28日  知的財産高等裁判所

 審決は、請求項1についての無効理由なしとしましたが、知財高裁はこれを取り消しました。審決は「スクラロースを甘味の閾値以下の量で添加することにより酸味を緩和することができることについてはそのような記載はない」と判断していました。

 前記(3)イのとおり,各文献には,ショ糖の約650倍の甘味を有する非代謝 性のノンカロリー高甘味度甘味料であるスクラロースが,アスパルテーム,ステビ ア,サッカリンナトリウム等の他の高甘味度甘味料と比較して,甘味の質において ショ糖に似ているという特徴があることから,多くの種類の食品において嗜好性の 高い甘味を付与することが見込まれているとの記載があり,加えて,前記(3)アのと おり,本件出願前に,ショ糖や,アスパルテーム,ステビア,サッカリンといった慣 用の高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えることが,当業者に\n周知であったことからすると,引用発明のアスパルテームに代えてスクラロースを 採用してみることは,当業者が容易に想到することができたというべきである。
イ また,前記(3)イのとおり,各文献には,スクラロースをその甘さが感じられ る閾値より低い濃度で用いた場合でも,塩なれ効果,卵風味の向上効果を奏するこ と,製品100重量部に対して0.0001〜0.1重量部(製品に対して0.00 01〜0.1重量%)のスクラロースを用いた実施例によれば,カプサイシン0.0 01%のとき,甘味度が0である0.0001重量部(同0.0001重量%)又は 0.005重量部(同0.005重量%)で辛味増強効果を奏すること,スクラロー スの甘味を感じさせない0.0025重量%のアルコール/スクラロース水溶液で エチルアルコールの苦味の抑制効果を奏することの各記載がある。 以上の記載によれば,スクラロースの添加については,向上させようとする風味 や製品によって使用量は上下するものの,下限値として,製品に対して0.000 1重量%,0.0025重量%,0.005重量%で用いたものなどが知られてお り,スクラロースの甘味を感じさせない量であっても製品の風味の向上が可能であ\nることを当業者は認識していたものと認められる。 他方,引用例には,アスパルテームによる酸味緩和効果を得るための下限値とし て1mg%(0.001重量%),1.5mg%(0.0015重量%),5mg% (0.005重量%)が挙げられ,上記のスクラロースと同様のレベルの使用量で 酸味のマスキングが行えることが記載され,更に,アスパルテームの甘味により, 食品・調味料の呈味バランスが崩れないようアスパルテームの添加量は食品・調味 料の種類に応じ,適宜設定すべきであるとされている。 また,酸味のマスキングは,甘味の付与を目的とするものではなく,所望の酸味 のマスキング効果を奏する場合には,甘味がつきすぎて味のバランスが崩れること がないように,甘味料の使用を減らすことは考えても,増量することは考えないか ら,スクラロースを酸味のマスキング剤に使用する場合であっても,当業者は,酸 味のマスキングが実現可能な低い濃度でスクラロースを使用することを指向する。\nそうすると,スクラロースを,引用発明の食酢を含む食品(ドレッシング,ソー\nス,漬物,及び調味料などの製品)における,酸味のマスキング剤として使用するに あたり,酸味緩和効果が得られるものの,スクラロースの甘味により前記製品の旨 味バランスを崩さない濃度範囲のうち低い濃度を,製品ごとに選択して,スクラロ ースの従来の使用濃度である0.0001〜0.005重量%に重複する0.00 28〜0.0042重量%という濃度範囲に至ることは,当業者に容易であったと いうことができる。
ウ そして,本件明細書の実施例2〜4を参照しても,0.0028〜0.004 2重量%の濃度範囲を境にして,当業者の期待,予測を超える格別顕著な効果を奏\nしているとは評価できない。
エ 以上によれば,アスパルテームを製品濃度1〜200mg%(=0.001 〜0.2重量%)で添加する引用発明から,スクラロースを製品の0.0028〜 0.0042重量%で添加することは,容易に想到することができたものである。
(5) 被告の主張について
ア 被告は,トレハロースや甘味料であるネオヘスペリジンジヒドロカルコンが, 酸味の増強作用を有することを指摘して,相違点2は容易に想到できないと主張す る。 しかし,証拠(甲48)によれば,トレハロースは,食品の低甘味化に使用される ものであるから,アスパルテーム,ステビア,サッカリン等の高甘味度甘味料と同 様に論じることはできない。また,同じ文献(甲48)には,トレハロースを添加し た際に,酸味料の種類や他の呈味物質の存在によって,酸味が強調されたり,マス キングされたりすることを,不可解な現象であると説明されていることからすると, 高甘味度甘味料一般が酸味を緩和させる効果を有すると認定する上での支障となる とまではいえない。 また,ネオヘスペリジンジヒドロカルコンが,レモネードの酸味を増強する作用 を有する旨を理由中で説示した判決(甲15)があるものの,前記のとおり,ショ糖 やアスパルテームを含めた複数の慣用の高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤とし ての機能を備えることが,当業者に広く知られていたと認められることからすると,\n特定の酸味飲料(レモネード)のみを対象にし,実験内容及び実験結果の詳細が証 拠上明らかでないネオヘスペリジンジヒドロカルコンの酸味増強作用に基づいて, 高甘味度甘味料一般の酸味緩和効果を否定する判断には至らない。 この点について,本件審決は,トレハロースのように醸造酢の酸味を増強する甘 味料も存在することを根拠の1つに挙げて,引用発明並びに甲2文献,甲3文献, 甲7文献及び甲8文献の記載から,高甘味度甘味料一般が酸味を緩和させる効果を 有することまで導き出すことはできないと判断しているが,上記説示したところに 照らし,誤りというべきである。
イ 被告は,甘味料の酸味マスキング効果とされるもののうちほとんどは,甘み という別の呈味によって酸味を覆い隠すものであり,甘味の閾値以下で酸味のマス キング効果を示す甘味料は,本件発明以前には,アスパルテームのみであったから, 甘味料一般について知られていたのは,甘味という別の呈味によって酸味を覆い隠 すことができるということであり,甘味の閾値以下でも酸味のマスキング効果のあ ることが技術常識になっていたものではないとして,本件発明が容易に想到できな かった旨を主張する。 しかしながら,被告の主張するように甘味料の酸味マスキング効果とされるもの のほとんどが甘味の閾値を超えた条件で甘みという別の呈味によって酸味を覆い隠 すものであることを明示的に示す証拠はない。かえって,既に説示したとおり,ス クラロースが甘味閾値以下でも所望の風味改善効果を奏することは,複数の文献(甲 4,23,80,81)に示されているから,甘味料一般に関して甘味の閾値以下で 酸味のマスキング効果を奏することが技術常識であったか否かにかかわらず,スク ラロースを,アスパルテームと同様に甘味の閾値以下で用いることは,当業者に格 別の創意工夫を要するものではなかったというべきである。
ウ 被告は,アスパルテームとスクラロースは,アミノ酸系甘味料と合成甘味料 という別のカテゴリーに分類されていたものであり,アスパルテームと単に「高甘 味度甘味料」というカテゴリーが同じなだけのスクラロースが酸味をマスキングで きるかもしれないなどとは考えない,そもそもショ糖の600倍も甘く(アスパル テームですら200倍),ごく少量添加しただけで味のバランスを大きく崩すことが 予想され,扱いの難しいスクラロースを,あえて酸味のマスキングに使用する動機\n付けは存在しない,とも主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件出願日当時,ショ糖,アスパルテーム,ステビ ア,サッカリンといった,化学構造において別のカテゴリーに分類され,甘味の大\nきく異なる複数の甘味料が,酸味のマスキング剤に用いられていたことからすれば, アスパルテーム等と比べて各種の風味改善効果に優れているスクラロースを添加す ることによっても酸味のマスキングが可能であると予\測し,スクラロースを,添加 する製品ごとの味のバランスが崩れにくい濃度範囲で使用して,その酸味マスキン グ効果を確認しようとすることは,当業者が容易に想到することができたというべ きである。

◆判決本文

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平成30(行ヒ)69  審決取消請求事件 令和元年8月27日  最高裁判所第三小法廷  判決  破棄差戻  知的財産高等裁判所

 最高裁は、知財高裁の判決を破棄し、知財高裁に差戻しました。争点は、進歩性判断です。審決は予測し難い顕著な効果ありとして、進歩性ありと判断。、知財高裁は、顕著な効果無しとして審決を取り消していました。\n

 上記事実関係等によれば,本件他の各化合物は,本件化合物と同種の効果であるヒスタミン遊離抑制効果を有するものの,いずれも本件化合物とは構造の異なる化合物であって,引用発明1に係るものではなく,引用例2との関連もうかがわれない。そして,引用例1及び引用例2には,本件化合物がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用を有するか否か及び同作用を有する場合にどの程度の効果を示すのかについての記載はない。このような事情の下では,本件化合物と同等の効果を有する本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということから直ちに,当業者が本件各発明の効果の程度を予\測することができたということはできず,また,本件各発明の効果が化合物の医薬用途に係るものであることをも考慮すると,本件化合物と同等の効果を有する化合物ではあるが構造を異にする本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということのみをもって,本件各発明の効果の程度が,本件各発明の構\成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであることを否定することもできないというべきである。しかるに,原審は,本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということ以外に考慮すべきとする諸事情の具体的な内容を明らかにしておらず,その他,本件他の各化合物の効果の程度をもって本件化合物の効果の程度を推認できるとする事情等は何ら認定していない。\n そうすると,原審は,結局のところ,本件各発明の効果,取り分けその程度が,予測できない顕著なものであるかについて,優先日当時本件各発明の構\成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か,当該構\成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から十\分に検討することなく,本件化合物を本件各発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提として,本件化合物と同等の効果を有する本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということのみから直ちに,本件各発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定して本件審決を取り消したものとみるほかなく,このような原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。\n
5 以上によれば,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法 令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を 免れない。そして,本件各発明についての予測できない顕著な効果の有無等につき\n更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(行ケ)10003

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平成30(行ケ)10094  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年4月25日  知的財産高等裁判所

 引用文献の発明認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。

 前記2(1)で認定した引用文献3の記載によると,引用文献3には以下の 発明(引用発明)が開示されているものと認められる。 「医療用ガイドワイヤを摺動可能に受け入れるガイドワイヤ内腔を備える遠位ス\nリーブと,遠位スリーブに結合され,患者の生理的パラメータを測定して生理的パラメータを表す信号を生成するように適合されたセンサと,
遠位スリーブに結合され,患者の外部の位置へのセンサからの信号を通信するた めの通信チャネルを成し,患者の解剖学的構造内のセンサの位置決めを容易にする\nために適用される近位部分と,
近位部分を移動させるための手段と,
を備え,
センサは,遠位スリーブを,医療用ガイドワイヤ上を所望の位置に摺動させるこ とによって,患者内に配置することができ,
センサは,遠位血圧Pdを測定する狭窄病変部の下流の位置に配置することがで き,次いでセンサは,近位血圧Ppを測定する狭窄病変部の上流の位置に配置する ことができ,
処理装置が,センサからの生理的パラメータ信号を処理し,
FFRは,単に遠位血圧の近位血圧に対する比,すなわちFFR=(Pd/Pp) とされ,
FFRをPdの平均値とPpの平均値に基づいて求め,
FFRにより血管中の狭窄病変部の重症度の評価が行われるシステム。」
(2) したがって,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとな る。
ア 一致点 「流体で満たされた管内の狭窄部を評価するシステムであって, 前記管に沿った様々な位置で圧力測定を行う第1の測定センサを有する消息子と, 前記管を通して前記消息子を牽引する機構と,\n前記圧力測定から,前記管に沿った様々な位置で行われた圧力測定の比を計算す るプロセッサと を含む,システム。」
イ 相違点
(ア) 相違点1
血管内の二つの位置の血圧の比の計算において,本願発明は,一つの測定センサ によって,瞬間的に各位置の血圧の測定を行い,同測定によって得られた各血圧の 比を計算するのに対して,引用発明は,一つ又は複数の測定センサによって,継続 して遠位血圧Pdと近位血圧Ppの測定を行い,各血圧の平均値を測定し,同測定 によって得られたPdの平均値のPpの平均値に対する比を計算する点。
(イ) 相違点2
血管内の二つの位置の血圧の比の計算において,本願発明は,薬剤を投与して血 流を最大に増加させた状態ではない通常の状態で,各位置の血圧を測定するのに対 して,引用発明は,薬剤を投与して血流を最大に増加させた状態で,各位置の血圧 を測定する点。
(ウ) 相違点3
本願発明は,第1の測定センサにより各即時圧力測定が行われる位置に対する位 置データを供給する位置測定器を有するのに対して,引用発明は,その点が不明で ある点。
(エ) 相違点4
管を通して前記消息子を牽引する機構に関して,本願発明は,前記機構\は電動機 構であるのに対して,引用発明は,その点が不明である点。\n
(3) 相違点1の容易想到性について検討する。
ア 前記(2)イ(ア)のとおり,引用発明は,Pdの平均値とPpの平均値の比を 計算するものであるところ,本願発明は,各位置における瞬間の血圧を測定し,そ の比を計算するものである。しかるところ,当業者において,引用文献3に記載さ れた事項から,引用発明の構成について,血管の各位置の瞬間の血圧を測定し,そ\nの比を計算するという構成を具備するものとすることを容易に想到できるというべ\nき事情は認められない。
イ 被告は,引用文献3の段落【0073】の「システム1200は,時間 平均やその他の信号処理を用いてFFR計算の数学的な変形(例えば,平均,最大, 最小,等)を生成できる。」,段落【0096】の「FFR=Pp/Pdであり,P pとPdは平均値,又は他の統計学的表現又は数値表\現であってよい」との記載か らすると,引用文献3には,引用発明に加えて,Pd及びPpの瞬間的な圧力(収 縮期血圧及び拡張期血圧)を求めることが記載されており,FFR計算のPpとP dがPpとPdの最大値(収縮期血圧)又は最小値(拡張期血圧)でもよいことが 示唆されているといえるから,Pdの平均値とPpの平均値に代えて,即時圧力測 定されたPd及びPpの内の最大値(収縮期血圧)又は最小値(拡張期血圧)を採 用することは,引用文献3の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たと主張する。 しかし,被告が指摘する引用文献3の上記各段落のPd及びPpの最大値又は最 小値を測定するには,血圧が最大又は最小となるタイミングを特定するために,1 心周期以上継続して血圧を測定し続ける必要があるから,この場合の血圧測定は, 1心周期以上継続した測定であり,瞬間的な測定ということはできない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。

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平成30(行ケ)10091  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年8月22日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした不服審決が維持されました。争点は、本願発明の「三次元リア ルタイムMR画像下での手術システム」とは何か?です。

 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,本願発明の「三次元リア ルタイムMR画像下での手術システム」にいう「三次元リアルタイムMR 画像」の意義を規定した記載はないが,その文言上,「三次元」の「リア ルタイムMR画像」であることを理解できる。そして,本願発明の特許請 求の範囲(請求項1)の記載から,「リアルタイムMR画像」は,「MR I装置からのMR画像を連続的に伝送することにより」生成される画像で あること,「三次元リアルタイムMR画像下での手術システム」は,術者 がリアルタイムに生体の内部状況とマイクロ波デバイスの位置を画像(「三 次元リアルタイムMR画像」)によって確認し,処置する生体物及びマイ クロ波デバイスの位置を確認しながら手術できる手術システムであること を理解できる。 次に,本願明細書には,「三次元リアルタイムMR画像」の用語を定義 した記載はないが,【0015】には,「例えば特許文献「特開2008− 167793」が開示する画像ソフトでは,縦型オープンMRI装置の術\n前3Dデータをリアルタイム画像と組み合わせ,デバイス位置のリアルタ イム情報として,三次元画像とともにモニターにして手術支援に用いる画 像ナビゲーションを可能とする。この場合の3次元とは生体や臓器表\面の 立体化だけでなく,内部構造を透視状態でみられる(深部情報)立体化で\nある。これにより,MR画像を身体のどの位置においても立体的にリアル タイムモニター画像として使うことができる。…」との記載がある。本願 明細書の上記記載によれば,本願明細書では,「三次元画像」にいう「三 次元」とは,生体や臓器表面の立体化だけでなく,「内部構\造を透視状態 でみられる(深部情報)立体化」を意味する語として用いていることを理 解できる。また,本願明細書の【0021】には,「実施例2」に関し, 「加えて,3DリアルタイムMR画像にて…手術機器の位置確認が可能で\nあり,さらに軟性導体内視鏡下に直接術野が見え,デバイスの先端部分の 生体内位置と共に隣接内部構造もMR画像として同時に確認できる。」,\n「加えて,実施例1で示したように,本発明のシステムでは,臓器の内部 構造も切る前に確認できる。」との記載がある。\n
イ 以上の本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本願明細書の 開示事項を総合すると,本願発明の「三次元リアルタイムMR画像下での 手術システム」は,手術機器の位置,生体や臓器の表面のみならず,臓器\nの内部構造を透視状態でみられる立体的なリアルタイムMR画像によって,\n術者がリアルタイムに生体の内部状況とマイクロ波デバイスの位置を画像 (「三次元リアルタイムMR画像」)によって確認し,処置する生体物及 びマイクロ波デバイスの位置を確認しながら手術できる手術システムを意 味するものと解するのが相当である。
(2) 引用発明の手術支援装置について,
引用文献5の記載事項(【0023】,【0028】,【0033】)に よれば,引用発明の「術具815を含む Volume Rendering 画像814」は, 「患者60をMRI装置10の撮像空間に配置し」,「術具位置を含む断面 の撮像を行」うことで得られたMR画像であって,「手術時には,三次元位 置検出装置を用いて術具位置を追随することにより,時系列的に変化」(【0 033】)するから,リアルタイム画像である。 次に,乙1(笠井俊文ほか「診療画像機器学」平成18年12月5日第1 版第1刷発行)には,1)「(b)ボリュームレンダリング法(VR)…体内 の三次元表示である,三次元表\示の主役であり,SR処理も行える。」(2 03頁),2)「「3) 三次元表示(3D表\示)」 三次元表示(画像)とい\nってもホログラフィなどとは異なり,あくまでも二次元であるモニタやフィ ルム上で立体的に見えるよう表示するものである。厳密には疑似三次元表\示, 2.5次元表示とでもいうべきものである。三次元表\示作成手順は一般に「モ デリング…」と「レンダリング…」という作業が必要である。モデリング→ 三次元の立体形状のデータを作成,編集する作業,レンダリング→三次元立 体形状データをもとに立体的に見える二次元画像を作成する作業。」(20 5頁),3)「(b)ボリュームレンダリング法(VR) VR法 volume rendering は物体の表面形状ばかりか内部形状をも三次元的に表\示する方法である。… さらに,不透明度や色・色彩の情報もボクセルに与えられるためデータが膨 大となる。高性能のコンピュータが必要となるが内部形状を透かして表\現す ることができ,しかもボリュームレンダリング法で作成した表面像はSR法\nよりも緻密で優れている処理法である。」,「処理手順 ア) モデリング(ボ リュームデータを作成する) イ) 不透明度の設定:ボリュームレンダリン グ法では不透明度(オパシティ opacity)が導入される。ボリュームデータ を構成するボクセルすべてに対し不透明度が設定される。不透明度とはボク\nセルに背後から光を当てたときに光を通す程度を表すもので,0〜1までの\n数値で示される。… ウ) レンダリング(投影変換):観察する視点を決め, 視点から見た形状の位置や前後関係を計算する。そして投影経路上に存在す るボクセル全てについて不透明度や色彩が計算される。この操作をα−ブレ ンディングと呼ぶ。投影方向として平行投影法と遠近投影法がある。エ) 画 像表示処理:処理が完了すれば,拡大表\示や視点を変えて表示することも可\n能である(図6.109)」(207頁〜208頁)との記載がある。上記\n記載によれば,「Volume Rendering 画像」は,「物体の表面形状ばかりか内\n部形状をも三次元的に表示」し,「内部形状を透かして表\現することができ」 るボリュームレンダリング法で作成した画像であるから,生体や臓器の表面\nのみならず,「臓器の内部構造を透視状態でみられる」三次元画像であるも\nのと認められる。
以上によれば,引用発明の「術具815を含む Volume Rendering 画像81 4」は,本願発明の「三次元リアルタイムMR画像」に相当するものと認め られる。 したがって,引用発明の手術支援装置は,術具の位置,生体や臓器の表面\nのみならず,臓器の内部構造を透視状態でみられる三次元リアルタイムMR\n画像である「術具815を含む Volume Rendering 画像814」によって,術 者がリアルタイムに生体の内部状況と術具の位置を確認し,処置する生体物 及び術具の位置を確認しながら手術できる手術システムであるものと認めら れる。 そして,本願発明のマイクロ波デバイスも術具の一種であることに照らす と,術具の位置,生体や臓器の表面のみならず,臓器の内部構\造を透視状態 でみられる立体的なリアルタイムMR画像によって,術者がリアルタイムに 生体の内部状況と術具の位置を確認し,処置する生体物及び術具の位置を確 認しながら手術できる手術システムである点において,本願発明と引用発明 は,実質的に一致するものと認められるから,両発明が「三次元リアルタイ ムMR画像下での手術システム」である点で一致するとした本件審決の認定 に誤りはない。
(3) 原告の主張について
原告は,1)本願発明の「三次元リアルタイムMR画像下での手術システム」 とは,術者(医師等)が,処置する生体物の位置及びマイクロ波デバイス の位置を,予め取得した生体内画像と比較しながら,生体の内部構\造を透 視状態でみられる立体画像でリアルタイムに確認しながら手術できる手術 システムをいうものである,2)引用発明の「術具」は,引用発明の課題を 解決するための手段である「警告手段」を達成するために,術具の処理によ り目的物の位置や形状を大きく変化させない,マイクロ波デバイスではなく かつ先端の形状が単純な穿刺針・カテーテルであることを要すること,引用 発明の「術具815を含む Volume Rendering 画像814」は,術前画像を含 まない,術中の3軸2次元画像を単に結合した Volume Rendering 画像であっ て,生体の内部構造を透視状態で見られる立体画像ではないことからすると,\n引用発明の手術支援装置は,術具の種類,警告手段の有無,術前画像の有 無及び立体画像の種類が本願発明と異なるから,本願発明の「三次元リア ルタイムMR画像下での手術システム」であるとはいえない旨主張する。 しかしながら,上記1)の点については,本願発明の特許請求の範囲(請求 項1)の記載には,「術者がリアルタイムに生体の内部状況とマイクロ波デ バイスの位置を画像によって確認し,処置する生体物及びマイクロ波デバイ スの位置を確認しながら手術できる手術システム」との記載はあるが,処置 する生体物の位置及びマイクロ波デバイスの位置を「予め取得した生体内\n画像と比較しながら」との記載はない。また,本件明細書の実施例1に は,「好ましくは,術者は,「前もって撮像した画像をもとに,メインワー クステーションに術中の画像を再構成して得られた三次元リアルタイム画\n像」を確認しながら,内視鏡・手術デバイスの操作・制御を実視できる。」 (【0020】)との記載があるところ,この記載から,「三次元リアルタ イム画像」は,「前もって撮像した画像をもとに」再構成して得られたこと\nを理解することができるが,術者が生体の内部状況とマイクロ波デバイスの 位置を「前もって撮像した画像」自体と比較しながら,手術を行うことを示 したものとはいえない。 したがって,上記1)の点は,本願発明の特許請求の範囲の記載に基づか ないものであって採用することはできない。
次に,上記2)の点については,前記(2)認定のとおり,術具の位置,生 体や臓器の表面のみならず,臓器の内部構\造を透視状態でみられる立体的な リアルタイムMR画像によって,術者がリアルタイムに生体の内部状況と術 具の位置を確認し,処置する生体物及び術具の位置を確認しながら手術でき る手術システムであれば,術具がマイクロ波デバイスでなくても,本願発明 の「三次元リアルタイムMR画像下での手術システム」であるものと認めら れ,また,引用発明の「術具815を含む Volume Rendering 画像814」は, 本願発明の「三次元リアルタイムMR画像」に相当するものと認められるか ら,上記2)の点は理由がない。

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平成30(行ケ)10131等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年7月22日  知的財産高等裁判所

 無効と判断された請求項についての判断が、相違点の認定の誤りがあるとして、取り消されました。

 以上によれば,本件発明1と引用発明3の一致点及び相違点は次のとお りであると認められる。
(ア) 対比
a 前記ア(イ)のとおり,本件発明1の「相互作用マスタ」は,「一の医 薬品」及び「他の一の医薬品」が販売名(商品名)か一般名かこれを 特定するコードや,薬効,有効成分及び投与経路を特定することがで きるコードのレベルの概念で統一して格納され,1)A薬品から見たB 薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報と,2)B薬品か ら見たA薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報とは, データとして個々別々のものとして格納され,また,1)A薬品から見 たB薬品に関する相互作用が発生する組み合わせについての情報と, 3)A薬品から見たC薬品の相互作用が発生する組み合わせについての 情報とも,データとして個々別々のものとして格納されるものである。 これに対し,前記イ(ア)のとおり,引用発明3の相手テーブル部の一般 名コード,薬効分類コード,BOXコードの各欄には,必ずしもすべ てにコードが格納されているとは限らない。
したがって,引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル10 5」と,本件発明1の「相互作用マスタ」とは,「一の医薬品から見 た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互 作用をチェックするためのマスタ」である点で共通するが,本件発明 1が「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医 薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用 が発生する組み合わせを格納する」のに対し,引用発明3では,「一 の医薬品から見た他の医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BO Xコードかの少なくともいずれかについて,相互作用が発生する組み 合わせを格納し,また,他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コー ド,薬効分類コード,BOXコードかの少なくともいずれかについて, 相互作用が発生する組み合わせを格納する」点で相違する。
b 本件発明1は「自己医薬品と相手医薬品との組み合わせ」と, 「相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせ」についての合 致の有無を判断するものであるのに対し,前記第2の3ウ(ア)及び上 記イ(イ)によれば,引用発明3は,1)医薬品相互作用チェックテーブル 105において,「自己テーブル部」に,「自己医薬品」に係る「一 般名コード」,「薬効分類コード」,「BOXコード」が存在するか をそれぞれ検索し,2)いずれかのコードが存在していれば,処方医薬 品相互作用チェックテーブルTの形態で「一時記憶テーブル110」 に記憶し,3)「一時記憶テーブル110」に記憶したデータの「相手 テーブル部」に,「相手医薬品」に係る「一般名コード」,「薬効分 類コード」,「BOXコード」が存在するかをそれぞれ検索し,4)い ずれかのコードが存在していれば,「自己医薬品」と「相手医薬品」 とが相互作用を有する組み合わせが存在すると判断するものである。 そうすると,引用発明3の「検索処理」と本件発明1の「相互 作用チェック処理」とは,いずれも,「入力された新規処方データ の各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし,自己医薬品と相手 医薬品の組み合わせについて,相互作用をチェックするためのマ スタに基づいて相互作用をチェックするための処理」を実行する 点で共通するものの,引用発明3の「検索処理」は,自己医薬品 と相手医薬品と間で,一般名コード,薬効分類コード,BOXコ ードのいずれかの組み合わせが存在すれば相互作用を有する組み 合わせであると判断するものであり,自己医薬品と相手医薬品と の組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと の,医薬品の組み合わせ同士の合致を判断しているとはいえない から,本件発明1の「自己医薬品と相手医薬品との組み合わせと 相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせが合致するか否か を判断することにより,相互作用チェック処理を実行する」「相 互作用チェック処理」とは相違する。
(イ) 一致点及び相違点
以上によれば,本件発明1と引用発明3は,次の一致点において一致 し,前記第2の3(2)ウ(ウ)記載の相違点4−1のほか次の相違点におい て相違することが認められる。
a 一致点
「一の医薬品から見た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個 別に格納する相互作用をチェックするためのマスタを記憶する記憶手 段と, 入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品 とし,自己医薬品と相手医薬品の組み合わせについて,上記マスタに 基づいて相互作用をチェックするための処理を実行する制御手段と, 前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用をチェ ックするための処理の結果を,表示する表\\示手段と, を備えたことを特徴とする医薬品相互作用チェック装置」
b 相違点
〔相違点4−8〕
相互作用をチェックするためのマスタが,本件発明1では,「一の 医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医薬品から見 た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用が発生する 組み合わせを格納する」のに対し,引用発明3では,「一の医薬品か ら見た他の医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BOXコードか の少なくともいずれかについて,相互作用が発生する組み合わせを格 納し,また,他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コード,薬効分 類コード,BOXコードかの少なくともいずれかについて,相互作用 が発生する組み合わせを格納する」点。
〔相違点4−9〕
相互作用をチェックするための処理が,本件発明1では,自己医薬 品と相手医薬品との組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の 組み合わせが合致するか否かを判断するのに対し,引用発明3では, 「自己テーブル部」に「自己医薬品の一般名コードが存在するか」, 「自己医薬品の属する薬効分類コードが存在するか」,「自己医薬品 に付与されたBOXコードが存在するか」をそれぞれ検索して,いず れかのコードが存在していれば,処方医薬品相互作用チェックテーブ ルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶し,一時記憶テーブル1 10に記憶したデータの「相手テーブル部」に,「相手医薬品の一般 名コードが存在するか」,「相手医薬品の属する薬効分類コードが存 在するか」,「相手医薬品に付与されたBOXコードが存在するか」 をそれぞれ検索して,いずれかのコードが存在していれば,「自己医 薬品」と「相手医薬品」とが相互作用を有する組み合わせが存在する と判断するものである点。
エ 以上のとおりであるから,審決は,本件発明1と引用発明3の相違点の 認定に際し,相違点4−8,4−9を看過したものであり,相違点の認定 の誤りがあるというべきである。

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平成30(行ケ)10055  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年7月22日  知的財産高等裁判所(3部)

 引用文献の認定誤りを理由として、進歩性違反とした審決が取り消されました。

 2 取消事由1(引用発明の認定の誤りに基づく相違点の看過)について
(1) 甲1文献の記載
甲1文献には,次の記載がある
・・・
しかし,仮にα<0.3に近い領域においては散乱光強度が粒径の 3乗に比例する関係が成立し,α>5に近い領域においては散乱光強 度が粒径に反比例する関係が成立するとしても,その間における散乱 光強度と粒径との関係については,審決は何ら明らかにしていないの であるから,これによって,常に長波長光に比べ短波長光は,相対的 に等しい振幅信号を生成するといえるかどうかは明らかではないとい わざるを得ない。この点について,被告は,「レイリー散乱領域から ミー散乱領域よりもαが大きい条件の領域に向かって,レイリー散乱 領域に近い側では,αが大きくなるに従って散乱強度が大きくなり, いずれかで必ず極大値に達し,その後αが大きくなるに従って散乱強 度が小さくなって,ミー散乱領域よりも大きい条件の領域に近づく。」 と主張するが,この主張は,散乱強度の大きさの変化を説明している のにとどまるから,散乱強度と粒径と間の定量的な関係について説明 がないという問題は,依然として解消されていない。
また,審決の見解は,散乱角の違いによるばらつきを考慮していな いという点においても問題があるものといわざるを得ない。すなわち, レイリー散乱領域よりαが大きい領域においては,上記(ア)b,cのと おり,散乱光強度は散乱角に依存して大きく変化し,αが変化した場 合の散乱光強度の変化の仕方や程度は,散乱角θによってまちまちで あることがわかる。そうすると,散乱光強度に対する粒径の影響は, 散乱角θによって異なるといわざるを得ないのであるから,この点を 考慮していない審決の見解には問題があるものといわざるを得ないの である(なお,引用発明の争いのない構成においては,第1の照明か\nら照射される光と第2の照明から照射される光とでは,散乱角が異な ることになるから,散乱角θによる影響はより一層複雑なものになら ざるを得ないものと予想される。)。\nそうすると,審決の上記理解には問題があるといわざるを得ないか ら,ミー散乱領域を考慮したとしても,「長波長光が,小さな粒子の 場合に小さな振幅信号を生成し,大きな粒子の場合に大きな振幅信号 を生成するのに対し,短波長光が,大小の粒子いずれの場合にも相対 的に等しい振幅信号を生成する」ということはできない。
c そして,他に記載4)が成り立つことを裏付けるに足りるような根拠 を見出すこともできないから,結局,記載4)を記載3)及び記載5)と整 合的に説明することはできないものといわざるを得ない。
そうすると,当業者は,甲1文献から,引用発明の争いのない構成\nにおいて「長波長光からの振幅信号と短波長光からの振幅信号との比 を比較することにより煙粒子の大きさを判定」するという技術的思想 を認識することはできないものというべきである。

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平成30(行ケ)10160  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年7月30日  知的財産高等裁判所

 動機付けなしとした審決が維持されました。

 原告は,「甲1発明は,『芯材13』の存在により,『外装カバー15』が, 『表面から内方に窪んだ凹部』を有しない構\成となっており,この点が,本件特許 発明1と甲1発明の相違点1となっている」ことを前提に,本件特許発明1の甲1 発明との相違点1の容易想到性は,甲1発明から芯材13を取り除くことが容易で あるか否かに帰着すると主張する。 しかし,相違点1は,前記第2,3(6)のとおりであって,芯材13の有無のみが 相違点ではないから,この点において原告の主張は失当である。 本件特許発明は,前記1(2)のとおり,棒状のハンドル本体に表面から内方に窪ん\nだ凹部を形成し,該凹部をハンドルカバーによって覆うことで,ハンドルを上下又 は左右に分割した場合に比べて,ハンドルの成形精度や強度を高く維持することが できるとともに,ハンドルの内部を容易に密閉できるようにして組立て作業性を向 上したものであるところ,このような課題は,甲1にも甲2にも記載されておらず, 技術常識であったとも認められない上,甲1発明においては,上下に分割された一 対の外装カバー14,15の表面がハンドル12の表\面を構成しているのに対し,\n甲2事項においては,透明窓部6が設けられた背面カバー部材5により,凹部のう ちヘッド部3の部分を覆い,ハンドルカバーにより凹部のうち把持部2の部分を覆 い,本体ケース4の把持部2の表面及びハンドルカバーの表\面により,把持部2の 表面を構\成しているのであって,ハンドルの構成が大きく異なる。\nまた,甲1の段落[0018]及び[0019]の記載によると,甲1発明の芯 材13は,1)その外周に外装カバー14,15が被覆されて,複数のネジ16によ り固定されるものであること,2)二叉部12aに対応する部分において,一対のロ ーラ支持軸17が設けられて,ローラ支持軸17の基端部は芯材13の中心部に形 成された空間に嵌入され,同ローラ支持軸17の先端部は,二叉部12aから突出 していること,3)このような構成としたことによって,ハンドル12の外表\面(外 装カバー)の導電金属メッキされた導電部と,ローラ支持軸17とは,電気的に絶 縁されていることが認められ,甲1発明において,芯材13は,外装カバー14, 15が被覆されて,ネジ16により固定されるものであるから,ハンドルの外装カ バーの文字どおりの芯材としての機能を有するとともに,ローラ支持軸を保持し,\n外装カバーの外表面の導電メッキされた導電部と,ローラ支持軸との間の電気的絶\n縁が保たれるように離間させる,絶縁材としての機能を有するものと認められる。\nこのような機能を有する芯材13を甲1発明から取り除くことは容易とはいえず,\n芯材13に代えて,甲2に示された背面カバー5の一部に相当する部材(背面カバ ー相当部材)を用いることはできない。 したがって,甲1発明に甲2事項を適用する動機付けがあると認めることはでき ない。
イ 原告は,仮に,本件特許発明1が,ハンドルが上下に分割されるものを 除外するものであったとしても,甲1発明において,ハンドル本体に相当する外装 カバーの大きさは,設計事項の範囲で任意に選択可能であるため,甲1発明の外装\nカバー15の縁部分を甲1の図3の上側にまで伸長し,外装カバー14を,当該凹 部を覆う大きさに構成した上で,甲2事項の結合方法を採用すれば,相違点1は,\n容易に想到することができると主張する。しかし,甲1発明の外装カバー14,1 5は上下に分割されたものとなっており,そのような外装カバー15の縁部分を甲 1の図3の上半分の側にまで伸長することが容易想到と認めるべき事情はない。し たがって,原告の上記主張を採用することはできない。
ウ よって,甲1発明に甲2事項を適用することによって,相違点1を容易 に想到することができたとは認められないから,相違点2及び3の容易想到性につ いて判断するまでもなく,本件特許発明1は,甲1発明及び甲2事項から容易に想 到できたとは認められない。
なお,以上の判断は,甲1発明において,「芯材13及び一対の外装カバー14, 15がそれぞれ別のパーツ」であることや,甲2に「把持部2の内部には,背面カ バー5の一部が存在し,ネジなどの締結手段で背面カバー5が本体ケース4に固定 されており,把持部2の内部の背面カバー5には,ハンドルカバーが,差し込まれ ることで,本体カバー4とハンドルカバーとによって,把持部2の表面が構\成され ている。」という技術的事項が含まれるかどうかによって左右されるものでないこ とは,既に判示したところから明らかである。 また,甲4〜10に記載されている事項は,いずれも,一対の分岐部をハンドル 本体の長手方向の一端に一体的に形成するという技術を,甲16〜19に記載され ている事項は,いずれも太陽電池パネルとローラシャフトを電気的に接続する技術 を開示するにすぎないから,これらに基づき相違点1に係る構成を容易想到とする\nことはできない。

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平成30(行ケ)10145 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年7月18日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。取消理由は、相違点についての判断誤りです。

 前記(ア)及び(イ)によれば,甲1ないし3,5に接した当業者は, 過酸化水素と有効塩素剤とを組み合わせて使用する甲1発明には,有効 塩素剤の添加により有害なトリハロメタンが生成するという課題があ ることを認識し,この課題を解決するとともに,使用する薬剤の濃度を 実質的に低下せしめることを目的として,甲1発明における有効塩素剤 を,トリハロメタンを生成せず,有効塩素発生剤である次亜塩素酸ナト リウムよりも少量で付着抑制効果を備える海生生物の付着防止剤であ る甲2記載の二酸化塩素に置換することを試みる動機付けがあるもの と認められるから,甲1及び甲2,3,5に基づいて,冷却用海水路の 海水中に「二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順でまたは同 時に添加して,前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」 構成(相違点1に係る本件発明1の構\\成)を容易に想到することができ たものと認められる。
イ これに対し被告らは,1)甲1記載の有効塩素発生剤は,過酸化水素との 酸化還元反応によって一重項酸素を発生させる化合物であるから,甲1発 明における有効塩素発生剤を,過酸化水素と反応しても一重項酸素を発生 しない二酸化塩素に置換する動機付けはない,2)二酸化塩素は,不安定か つ酸化力の強い化合物であるため,本件優先日当時,過酸化水素と組み合 わせた場合,両者が反応して消費され,共存できないと考えられており, また,両者の反応により二酸化塩素は,海生生物の付着防止効果が劣る亜 塩素酸イオンとなるので,二酸化塩素を単独で使用した方が,二酸化塩素 と過酸化水素を併用するよりも海生生物の付着防止効果は高いことから すると,当業者においては,過酸化水素に二酸化塩素を組み合わせること についての動機付けがなく,むしろ阻害要因がある旨主張する。 しかしながら,上記1)の点については,甲1には,過酸化水素と有効塩 素発生剤との組み合わせについて,「特に有効塩素との組み合わせの場合 には,次式に示す酸化−還元反応によって一重項の酸素(OI)が発生し て相乗的に抑制効果が高まるものと考えられる。H2O2+ClO−→H2 O+C1−+OI」(前記(2)ア(ウ))との記載があるが,一重項酸素の発生 により「相乗的に抑制効果が高まるものと考えられる。」と推論している に過ぎず,一重項酸素による付着抑制効果の有無及びその程度を実証的な データ等により確認したものではない。 また,甲1には,過酸化水素と有効塩素発生剤との併用以外にも,過酸 化水素とヒドラジンとを併用した「実施例3」として,過酸化水素とヒド ラジンとの併用の結果,過酸化水素と有効塩素発生剤との併用の結果と同 様の抑制効果が得られたことの記載があり(前記(2)ア(オ)),過酸化水素 とヒドラジンとの併用によって一重項酸素が発生することは想定できな いことに照らすと,二酸化塩素が過酸化水素との併用により一重項酸素を 発生しないとしても,そのことから直ちに甲1発明における有効塩素発生 剤を二酸化塩素に置換する動機付けを否定することはできない。
次に,上記2)の点については,二酸化塩素は,不安定かつ酸化力の強い 化合物であるため,本件優先日当時,過酸化水素と組み合わせた場合にお いて,両者が反応して消費され,およそ共存できないと考えられていたこ とを具体的に裏付ける証拠はない。もっとも,甲3には,「二酸化塩素は, 極めて不安定な化学物質であるため,その貯蔵,輸送は非常に困難である が,このように二酸化塩素発生器を用いた場合には,現場での二酸化塩素 の製造が可能であり,取り扱いが非常に簡単である。」(【0018】)\nとの記載があるが,この記載から,海水中で,二酸化塩素と過酸化水素を 併用した場合,両者が反応して消費され,およそ共存できないと読み取る ことはできない。また,本件明細書の【0010】には,「二酸化塩素と 過酸化水素との併用は,塩素剤と過酸化水素との併用と同様に酸化還元反 応により両薬剤が消費され,水系において安定に共存できないという技術 常識が存在していたためと考えられる。」,「実際に本発明者らが試験した ところによると,…当業者であれば,次亜塩素酸ナトリウムより酸化還元 電位が高い二酸化塩素は過酸化水素と安定に共存できるはずがないと考 えるのが自然である。」,【0012】には,「…その結果,これまで共存が 不可能と考えられてきた二酸化塩素が海水中で過酸化水素剤と準安定的\nに共存できることを意外にも見出し…」との記載があるが,当業者は,本 件優先日前に本件出願後に公開された本件明細書の記載に接することが できないのみならず,酸化還元電位については,「一方の系の標準酸化還 元電位が,他方の系のそれより高い(正である)場合,前者の方がより強 い酸化剤となり,前者が還元され,後者が酸化される方向に進みうる。」 こと,「酸化還元電位によって予言できるのは反応方向であり,反応速度\nではない」ことは,技術常識であること(「化学大辞典3」縮刷版904 頁・共立出版2003年)に照らすと,酸化還元電位から反応速度まで予\n測できるものとはいえないから,本件明細書の上記記載をもって,海水中 で,二酸化塩素と過酸化水素を併用した場合,両者が反応して消費され, およそ共存できないということはできない。

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平成30(行ケ)10166  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年6月20日  知的財産高等裁判所

 対戦ゲームについて進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。

 前記2(1)〜(3)のとおり,周知技術Aは,引用文献1が属する対戦型コ ンピュータゲームの分野における周知技術である。 そして,前記2(2),(3)のとおり,引用文献3には,プレイヤキャラクタと敵キャ ラクタの強さのバランスをとることを目的とし,プレイヤキャラクタの強さに応じ た強さの敵キャラクタを出現させることで,プレイヤキャラクタに対して強すぎた り弱すぎたりすることのないようにして,ゲームの興味を持続させる効果を生じさ せることが記載され,また,引用文献4には,ユーザの競技レベルに相応しい他の ユーザを対戦相手とすることを目的とし,ユーザの競技レベルに応じた競技レベル の対戦相手を選択することで,相手が弱すぎたり強すぎたりすることがなくなり, 各ユーザは実力が伯仲した相手との対戦を楽しむことができるという効果を生じさ せることが記載されていることからすると,周知技術Aは,ゲームに抽出されるキ ャラクタやプレーヤのレベルをキャラクタやプレーヤのレベルに合わせることによ り,ゲームを楽しいものとするという技術思想に基づくものであると認められると ころ,引用発明1も,前記3(1)で認定したとおり,支援すべきプレイヤの支援度合 いに応じた人数の第三者勢力を登場させて,プレイヤ同士の操作経験に基づく優劣 のアンバランスを調整することにより,拮抗かつ緊張感のあるゲームとするという 技術思想に基づくものであると認められるから,周知技術Aと引用発明1とは共通 の技術思想を有しているといえる。 したがって,引用発明1及び周知技術Aは,技術分野及び技術思想が共通するか ら,引用発明1に周知技術Aを適用する動機付けはあるというべきである。
(イ) 原告は,引用文献3,4に記載された技術は,いずれも,第3者登場 型に属する対戦アクションゲームに関する技術ではないし,また,第1のプレーヤ キャラクタの情報及び第2のプレーヤキャラクタの情報の組合せに基づいて第3者 キャラクタが抽出されるというものでもないから,本願発明とは技術分野を異にす ると主張する。 しかし,前記(ア)のとおり,引用発明1に周知技術Aを適用することの動機付けは 認められるというべきであり,動機付けが認められるためには,第三者登場型対戦 ゲームであるという点の共通性は必要ないというべきである。 したがって,周知技術Aが第三者登場型対戦ゲームではないことを前提とする原 告の上記主張は理由がない。
エ(ア) ところで,相違点1は,第3者キャラクタを抽出してマッチングさせ る設定処理に関して,本願発明は,「複数のキャラクタの中から,第3者キャラクタ を抽出」しているのに対して,引用発明1は,「NPC人数を増減設定」している点 である。すなわち,本願発明と引用発明1とは,第3者キャラクタを抽出してマッ チングさせる設定処理に関して,当該第3者キャラクタが,複数のレベルのキャラ クタの中からレベルの合うキャラクタが抽出されるのか,それとも,同一のレベル のキャラクタが抽出され,その人数を増減させることによりレベルを合わせるのか の点で相違するのであるから,第3者キャラクタを抽出してマッチングさせる設定 処理に関して,引用発明1の「NPC人数を増減設定」するという構成(同一のレ\nベルのキャラクタが抽出され,その人数を増減させることによりレベルを合わせる という構成)に代えて,周知技術Aの「複数の種類のキャラクタ又はプレーヤの中\nから,キャラクタ又はプレーヤのレベルに応じて特定のキャラクタ又はプレーヤを 抽出すること」という構成にすることで,本願発明の構\成となるものと認められる。
(イ) 原告は,本願発明の課題は,「対戦者同士の操作経験に基づくゲーム優 劣のアンバランスを第3者キャラクタを登場させることにより調整する従来技術が, 対戦ゲームとしての面白みに欠ける」ことであり,プレーヤのレベル等に応じた相 手側キャラクタを抽出するというものではないから,引用発明1及び周知技術1と は課題が異なる旨主張するが,本願発明の課題が上記のとおりであるとしても,引 用発明1に周知技術Aを適用することが困難となるということはできず,また,引 用発明1に周知技術Aを適用すると,本願発明の構成となるのであるから,原告の\n上記主張は理由がない。
オ 以上より,引用発明1に周知技術Aを適用して,本願発明を容易に想到 することができるというべきである。
カ なお,原告は,本願発明は,第3者キャラクタの参戦により従来にない 白熱した対戦ゲームを楽しむことができるという各引用文献に記載の発明の作用効 果とは異なる格別の作用効果を奏する旨主張するが,同効果は,引用発明1に周知 技術Aを適用した発明にも認められる作用効果であって,格別のものとはいえない から,原告の上記主張は理由がない。

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平成30(行ケ)101 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年6月13日  知的財産高等裁判所

 動機付けありとして進歩性なしとした審決が維持されました。顕著な効果があるとの主張も否定されました。

 そして,引用発明及び引用文献8に記載された技術は,いずれも,Aβ 結合剤をアルツハイマー病等の患者の血液中のAβに結合させることによって,A βを除去し,アルツハイマー病等の疾患を治療するというものであり,技術分野は 同一であること,引用文献8には,四量体ペプチドA及びポリエチレングリコール 架橋キャリアゲルを含む組成物は,Aβに効果的かつ不可逆的に結合し,Aβと最 大の結合能力を示したとの記載があること,前記2(1)のとおり,引用文献1には, 「アミロイドβ結合化合物」の第2部分として,ポリエチレングリコールのような 高分子を用いてもよいことが記載されている(段落[0056])ことからすると, 引用発明に引用文献8に記載された技術を適用する動機付けがあると認められる。 この点について,原告は,引用文献1の段落[0056]は,「全身投与」に関す る記載であり,透析とは無関係であると主張するが,引用文献1の同部分の記載は, 血液中のAβに結合するAβ結合化合物の第2部分がポリエチレングリコールでも よいというものであるところ,このことが,体内への投与の場合と透析の場合で異 なると認めるに足りる証拠はなく,少なくとも,引用文献1の上記部分に接した当 業者は,透析の場合においても,Aβ結合化合物の第2部分としてポリエチレング リコールを用いることも適しているものと認識するというべきである。
ウ したがって,引用発明に引用文献8に記載された技術を適用して,引用 発明におけるアミロイドβ結合化合物を四量体ペプチドA及びポリエチレングリコ ール架橋キャリアゲルを含む組成物とし,かつ,同組成物を調整する工程を含ませ ることは,当業者にとって,容易に想到できると認められる。
(2) 顕著な効果について
原告は,本願発明は,1)β-アミロイドへの特定の結合作用を提供する,2)β-ア ミロイドの除去の物理的特性に依存せず,代わりに,血液の構成要素からβ-アミロ イドを捕捉する結合剤を用いるだけである,3)組織的に高い結合能力を形成するプ\nロセスを提供する,4)体内に外的物質を導入することを含まず,それにより逆のリ スク事象に移行し得る潜在的免疫システム反応を除去したプロセスを提供するとい う顕著な効果を有する旨主張する。 しかし,上記4)については,血液透析によりAβの除去を行う引用発明が当然備 える効果であり,上記1)〜3)については,引用発明において,「Aβ結合化合物」と して,結合能の高い化合物を採用することよって獲得される効果にすぎないから,\n原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,引用文献1に記載されたAβ結合化合物は,すべて天然由来の ものであるから,合成物である四量体ペプチドAを用いる動機付けはないなどと主 張する。 しかし,前記のとおり,引用文献8には,四量体ペプチドAはAβと効果的に結 合する旨の記載がある以上,引用発明において,Aβ結合化合物として四量体ペプ チドAを用いる動機付けはあるというべきであり,このことは,引用文献1に記載 されたAβ結合化合物が天然由来であるか否かに左右されない。
イ 原告は,引用文献1に膨大な数のアミロイドβ結合化合物が記載されて いる中で,引用文献1に記載のない,四量体ペプチドAをわざわざ適用することに は阻害要因があると主張するが,引用文献1に記載されたAβ結合化合物の数が膨 大であることによって,Aβ結合化合物として,引用文献8に明記されている四量 体ペプチドAを用いることが阻害されるということはできない。
ウ 原告は,引用発明は,一般的な透析法によりアミロイドβを除去する発 明であるのに対して,引用文献8に記載された技術は,アミロイドβ化合物と結合 し得る物質(医薬製剤)を生体内に存置するものであるから,技術分野が異なり, また,阻害要因もあると主張する。 しかし,前記のとおり,引用発明及び引用文献8に記載された技術は,いずれも, Aβ結合剤をアルツハイマー病の患者等の血液中のAβに結合させることによって, Aβを除去するというものであり,技術分野は同一である。そして,生体内での使 用が想定されているAβ結合化合物を血液透析で使用することができない理由があ るとは認められないから,阻害要因も認められない。 この点について,原告は,体内で使用する物質を血液透析で使用することに阻害 要因があることの理由について,透析法は,体内使用における患者の負担の軽減の ために採用するものである旨の主張をするが,体内使用における患者の負担の軽減 のために透析法を採用するということが,体内での使用が想定されているAβ結合 化合物を血液透析で使用することの阻害事由となるとは認められず,むしろ,体内 での使用について安全性が確認されている物質であれば,血液透析でも使用しよう と考えるのが通常であるといえる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
エ 原告は,引用文献8に記載された発明は,生体内で使用するデポ剤であ るため,その不活性及び安全性のためにRIペプチドを集めるためのプラットホー ムとして,ポリエチレングリコールが採用されているが,引用発明は,透析法によ りアミロイドβを除去する発明であり,生体内における不活性及び安全性という必 要性がないから,生体内での不活性及び安定性のためのものとして開示されている ポリエチレングリコールを,捕捉結合剤と結合したアミロイドβが透析装置の透析 膜から戻ることを防止して透析法においてアミロイドβを効率よく除去するために キャリアゲルとして使用する動機付けはないと主張する。 しかし,引用発明において,Aβ結合化合物として,四量体ペプチドA及びポリ エチレングリコール架橋キャリアゲルを含む組成物を用いる動機付けが認められる ことは既に判示したとおりである。そして,前記2(2)のとおり,引用文献8には, ポリエチレングリコール(PEG担体)は,RIペプチドの複数のコピーを付着さ せ,Aβとの結合能を向上させると記載されているから,当業者は,引用文献8に\n記載された発明を引用発明に適用するに際し,ポリエチレングリコールを共に用い る動機付けがあるというべきである。引用発明においては,生体内で使用するため の安定性や安全性を考慮する必要がないとしても,上記認定が左右されることはな い。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
オ 原告は,引用発明から出発して,アミロイドβ除去能を向上しようとす\nれば,引用文献1に多数列挙されているアミロイドβ結合化合物からアミロイドβ 結合能力の少しでも高いものを選択するのが通常であって,わざわざキャリアゲル\nで修飾することの動機付けはないと主張する。 しかし,引用発明において,Aβ結合化合物として,四量体ペプチドA及びポリ エチレングリコール架橋キャリアゲルを含む組成物を用いる動機付けが認められる ことは,既に判示したとおりであって,キャリアゲルで修飾することの動機付けも あるというべきである。
カ 原告は,透析液は正常な血液に近い成分・濃度の電解質溶液に調製する のが当業者の常識であるから,引用発明にキャリアゲルを添加することには阻害事 由があると主張する。 しかし,透析液にキャリアゲルを添加することによって,正常な血液に近い成分・ 濃度の電解質溶液に調製することが妨げられることを認めるに足りる証拠はないか ら,透析液(透析緩衝液)にキャリアゲルを添加することに阻害事由があるとは認 められない。
キ 原告は,引用文献1の段落[0080]には,「半透膜は10,000ダ ルトンの分子量カットオフを有する」と記載されているところ,二量体を超える高 分子量種(四量体,八量体,それ以上の高分子量種)のAβの分子量は,10,0 00ダルトンを超えるため,引用文献1記載の透析方法では,半透膜を通ることが できず,透析槽側に拡散し得ないから,二量体を超える高分子量種のAβも含めて 除去する本願発明とは,技術思想が全く異なると主張する。 しかし,本願発明の特許請求の範囲には,除去すべきAβの分子量や半透膜を通 過する分子の大きさについては何ら記載されていないから,本願発明も,半透膜の 仕様によっては,二量体を超える高分子量種のAβは半透膜を通ることができず, これを除去することはできないものである。したがって,二量体を超える高分子量 種のAβも含めて除去できるか否かによって,本願発明と引用発明の技術思想が異 なるということはできない。
ク 原告は,引用文献1のapoE3は極めて高価あるから,引用発明に引 用文献8記載の技術を適用することには阻害要因があると主張する。 しかし,製剤の製造コストを可能な限り削減することは当業者にとって重要な課\n題であるから,apoE3が高価であるということは,これに代えて引用文献8に 記載された四量体ペプチドA及びポリエチレングリコール架橋キャリアゲルを含む 組成物を用いることの阻害事由とはならず,むしろ,動機付けとなるというべきで ある。

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平成30(行ケ)10146  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年6月27日  知的財産高等裁判所(4部)

 パチンコ機の発明について進歩性なしとした拒絶審決が、取り消されました。理由は動機付けがないというものです。

 前記(1)の記載事項によれば,本願明細書には,本願発明に関し,次のよ うな開示があることが認められる。
ア 遊技性を向上させるために,貯留部に遊技領域を流下する遊技球そのも のを物理的かつ一時的に保持して,遊技球の流下タイミングを遅延させる ように構成し,遊技者が手元のボタンを押下することで貯留した遊技球が\n落下可能となるようにした従来のパチンコ機は,例えば,大当たり遊技中\nに遊技者がボタンを操作すれば,貯留部内の遊技球が大入賞口に向かって 一気に放出されるため,多くの遊技球を大入賞口に入賞させることができ たが,遊技球を物理的に貯留する手段を設ける必要があるため,部品点数 が多くなり,コストが嵩むといった課題があり,また,遊技球が流下する 領域を狭めることとなり,好ましくなく,その一方で,大当たり遊技中に 単に遊技球を発射して大入賞口内に入賞させるだけでは,遊技の面白みに 欠けるという実情があった(【0004】,【0006】)。
イ 「本発明」は,上記実情に鑑み,推奨する遊技球のルートを遊技者が容 易に打ち分けることができ,遊技性を向上させることのできるパチンコ機 を提供することを目的とし,この目的を達成するための手段として,遊技 領域に打ち出された遊技球が特別電動役物へ向かう,少なくとも2つのル ートが前記遊技領域内に設けられ,前記2つのルートは,共に遊技球が物 理的に貯留されることなく流下可能に構\成されていると共に,一方のルー トに比べて他方のルートの方が,遊技球が遊技領域に打ち出されてから前 記特別電動役物に到達するまでの時間が短くなるように構成され,前記一\n方のルートは前記遊技領域のうち主に左側の領域が用いられ,前記他方の ルートは前記遊技領域のうち主に右側の領域が用いられ,前記一方のルー トを流下する遊技球を検知する第1遊技球検知センサと,前記他方のルー トを流下する遊技球を検知する第2遊技球検知センサと,前記大入賞口に 入賞した遊技球を検出する大入賞口検知センサと,前記2つのルートのう ち推奨するルートを遊技者に報知する推奨ルート報知手段と,をさらに備 え,大当たり遊技制御手段は,前記大入賞口を開放するよう前記特別電動 役物を作動させた後に,前記大入賞口にM個(ただし,Mは自然数)の遊 技球が入賞したことを条件に前記大入賞口を閉鎖するよう前記特別電動役 物を作動させるラウンド遊技を複数回行う内容の前記大当たり遊技を提供 し,前記推奨ルート報知手段は,遊技球が前記他方のルートを流下してい る状態で,前記第2遊技球検知センサが所定個数の遊技球を検知した後に, 前記一方のルートを推奨するルートとして遊技者に報知するようにした構\n成を採用した(【0007】,【0009】)。 これにより「本発明」は,推奨する遊技球のルートを遊技者が容易に打 ち分けることができ,遊技性を向上させることのできるパチンコ機を提供 することができるという効果を奏する(【0011】)。
・・・
 被告は,引用発明と引用例2に記載された事項は,共に遊技球を流下さ せるルートが複数あり,そのうち片方のルートに遊技球を発射させた方が 有利となる状態がある遊技機に関する発明又は技術であり,技術分野が共 通しているといえるから,引用発明に引用例2に記載された事項を適用す る手がかりがあり,引用発明に引用例2に記載された事項を適用すること ができることからすると,当業者は,引用発明のパチンコ遊技機に,引用 例2に記載された事項を適用して,相違点2及び3に係る本願発明の構成\nとすることを容易に想到することができたものであるから,これと同旨の 本件審決の判断に誤りはない旨主張する。 そこで検討するに,引用例1には,引用発明において,「一方のルート」 に相当する「遊技球滞留部32」を流下する遊技球を検知する遊技球検知 センサ及び「他方のルート」に相当する「遊技球流下部31」を流下する 遊技球を検知する遊技球検知センサを設けることについての記載や示唆は ない。また,引用例1には,遊技球が「遊技球流下部31」を流下してい る状態で,当該遊技球を検知する遊技球検知センサが所定個数の遊技球を 検知した後に,「遊技球滞留部32」を推奨するルートとして遊技者に報 知する手段を設けることについての記載や示唆はない。
 次に,前記2(2)イ認定のとおり,引用例1には,「本発明」は,遊技者 が可変入賞装置の入賞口の開放前に,報知装置による入賞口の開放の予告\nに基づいて,まず「遊技球滞留部」を狙って遊技球を発射し,次に「遊技 球流下部」を狙って遊技球を発射する打ち分けを可能とし,これにより「遊\n技球滞留部」からの遊技球と「遊技球流下部」からの遊技球とが合流して, 可変入賞装置に入賞することとなるため,時間の経過に応じて遊技球を打 ち分けることにより,可変入賞装置への大量の入賞を狙うことを可能とし\nた効果を奏すること(【0009】,【0011】)の開示があるところ, その実施形態である引用発明においては,大入賞口が10秒後に開放され ることを予告する報知用ランプ17aと大入賞口を開放する5秒前に点灯\nする報知用ランプ17bとを設け,遊技者は,報知用ランプ17aの点灯 により大入賞口が10秒後に開放されることを知ったとき,「遊技球滞留 部32」を狙って遊技球を発射し,「遊技球滞留部32」に複数の遊技球 を滞留させ,大入賞口を開放する5秒前に報知ランプ17bが点灯するこ とにより,「遊技球流下部31」を狙って遊技球を発射し,合流地点に設 けられた可変入賞装置11の大入賞口に,短時間で大量の遊技球が入賞す るようにした構成(構\成e,g)を備えている。このように引用発明は, 大入賞口が開放されるまでの時間を報知用ランプ17a又は17bの点灯 により報知することにより,時間の経過に応じて遊技球を打ち分けること を可能とした発明であるといえる。\n
 一方,前記(1)イ認定のとおり,引用例2には,第1の方向側の遊技領域 (例えば,左側の遊技領域)及び第2の方向側の遊技領域(例えば,右側 の遊技領域)にそれぞれ通過ゲート,始動口等が設け,右打ちをすべき遊 技状態のときに,左側の遊技領域に設けられた左通過ゲートに遊技球が通 過すると,左打ちが行われていると判定して,液晶表示装置に右打ちを促\nす画像を表示させ,左打ちをすべき遊技状態(通常遊技状態)のときに,\n右側の遊技領域に設けられた右通過ゲートに遊技球が通過すると,液晶表\n示装置に左打ちを促す画像を表示させていた従来の遊技機においては,遊\n技者が遊技状態に合わせて正しい方向側の遊技領域に遊技球を発射させる 発射操作を行っているにもかかわらず,たまたま少量の遊技球が誤った方 向側の遊技領域を流下し,誤った方向側の遊技領域に設けられた通過ゲー トや始動口等を通過してしまったときに,正しい方向側の遊技領域に遊技 球を発射させることを促すことが報知され,正しい方向側の遊技領域に遊 技球を発射させている遊技者に煩わしさや不快感を与えるという問題があ ったため(【0007】),「本発明」は,第2の方向側の第2通過領域 を進入した遊技球を検出する第2通過領域検出手段により検出された検出 回数の計数を行う第2通過領域計数手段によって予め定められた検出回数\nが計数されると,報知手段により第1の方向側の遊技領域に遊技球を発射 することを促す発射操作情報の報知を行わせる構成を採用し,これにより,\n現在の遊技状態と各遊技領域に設けられた通過領域に遊技球が進入した回 数(検出回数)を参照して発射操作情報の報知を行うので,たまたま少量 の遊技球が誤った方向側の遊技領域を流下したとしても誤差として判定で きるため,遊技者の発射操作に対応したより正確な発射操作に関する報知 を行うことができ,快適な遊技を行わせることができるという効果を奏す ること(【0008】,【0018】)の開示がある。このように引用例 2記載の遊技機は,第1の方向側の遊技領域(左側の遊技領域)を流下す る遊技球を検出する検出手段,第2の方向側の遊技領域(右側の遊技領域) を流下する遊技球を検出する検知手段及び第1の方向側又は第2の方向側 の遊技領域に遊技球を発射することを促す発射操作情報の報知手段を備え, 報知手段による報知を現在の遊技状態と各遊技領域に設けられた検出手段 によって検出された遊技球が進入した回数(検出回数)を参照して行うこ とにより,遊技者が正しい方向側の遊技領域に遊技球を発射させる発射操 作を行っているにもかかわらず,たまたま少量の遊技球が誤った方向側の 遊技領域を流下したとしても誤差として判定し,正しい方向側の遊技領域 に遊技球を発射することを促す発射操作情報の報知を行わないようにして, 遊技者に煩わしさや不快感を与えることのないようにしたものといえる。
 そうすると,引用発明と引用例2記載の遊技機は,共に遊技球を流下さ せるルートが複数あり,そのうち片方のルートに遊技球を発射させた方が 有利となる状態がある遊技機において,上記有利となる状態となった場合 にその有利な方向の遊技領域に遊技球を発射することを促す報知を行うこ とに関する発明又は技術である点において,技術分野が共通しているとい えるが,他方で,引用発明では,遊技者が可変入賞装置の入賞口(大入賞 口)の開放前に,大入賞口が開放されるまでの特定の時間を報知装置によ り予告(報知)することにより,有利な方向の遊技領域に遊技球を発射す\nることを促すものであるのに対し,引用例2記載の遊技機は,遊技者が有 利な方向(正しい方向側)の遊技領域に遊技球を発射させる発射操作を行 っているにもかかわらず,たまたま少量の遊技球が誤った方向側の遊技領 域を流下したとしても誤差として判定し,正しい方向側の遊技領域に遊技 球を発射することを促す発射操作情報の報知を行わないようにしたもので あり,報知の目的及びタイミングが異なるものと認められる。
 また,引用発明において引用例2記載の遊技機の構成(本件審決認定の\n引用例2に記載された事項)を適用することを検討したとしても,具体的 にどのように適用すべきかを容易に想い至ることはできないというべきで ある。そうすると,引用例1及び引用例2に接した当業者は,大入賞口が開放 されるまでの特定の時間を報知装置により予告(報知)する引用発明にお\nいて,報知の目的及びタイミングが異なる引用例2記載の遊技機の構成(本\n件審決認定の引用例2に記載された事項)を適用する動機付けがあるもの と認めることはできない。したがって,当業者は,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,相違点2及び3に係る本願発明の構成を容易に想到することができ\nたものと認めることはできないから,被告の上記主張は理由がない。

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平成30(行ケ)10061  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年4月25日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が取り消されました。理由は、『「医療溶液」を「用時混合型急性血液浄化用薬液」にすることを試みる動機付けがあるというものです。』

 甲3には,引用発明2(実施例4記載の用時混合型の医療溶液)が「急性血液浄化用薬液」であることを明示した記載はない。一方で,甲3には,前記(1)イ(イ)認定のとおり,「本発明」の目的の1つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り良好な安定性を保証する「医療溶液」(血液透析,血液透析濾過,血液濾過及び腹膜透析用の透析液,腎疾患集中治療室内での透析用の溶液,通常は緩衝物質を含む置換液又は輸液,並びに栄養目的のための溶液)を提供することにあることの開示がある。この「医療溶液」中の「腎疾患集中治療室内での透析用の溶液」とは,救急・集中治療領域において,急性腎不全の患者に対して行う持続的な血液浄化のための透析用の溶液を含むことは自明である。
また,甲3には,前記(1)イ(ア)及び(イ)認定のとおり,1)急性腎不全に罹患している患者に適応となる治療法は,数週間を通しての持続的腎機能代替療法(CRRT)であり,血液濾過が用いられるが,血清リンレベルが正常な患者からリンを効率的に除去してしまう結果,定期的な週3回の血液透析治療を受けている患者よりも高い頻度で,低リン血症が起こり得るものであること,2)低リン血症は,リンの投与によって予防,治療されるが,医療溶液にリンを導入する場合,沈殿する様々なリン酸カルシウムの形成の問題があり,生理的pHに等しいpH値を有する生理溶液では,リン酸カルシウムの沈殿の危険性が高くなるという問題があること,3)「本発明」の発明者らは,特定のpH範囲等の如き一定の条件下では,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを重炭酸塩及びリン酸塩重炭酸塩と共に保持し得ることができ,滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したことの開示があることからすると,「本発明」の実施例である引用発明2の「医療溶液」は,急性腎不全に罹患している患者に適応し得るものと理解できる。以上の点に照らすと,甲3に接した当業者においては,甲3記載の実施例4(引用発明2)において,当該「医療溶液」を「用時混合型急性血液浄化用薬液」にすることを試みる動機付けがあるものと認められる。したがって,当業者は,引用発明2において,相違点(甲3−1−4’)に係る本件訂正発明1の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(イ)これに対し,被告らは,引用発明2が具体的に「腎疾患集中治療室内での透析用の溶液」あるいは「急性血液浄化用薬液」である旨示した記載はないこと,引用発明2が,明示的な記載なくして,当然に「急性血液浄化用薬液」であると解すべき技術常識はないことからすると,「医薬溶液」として記載された引用発明2を「急性血液浄化用薬液」にすることは,当業者が容易に想到し得たことではないから,相違点(甲3−1−4’)は当業者が容易に想到し得たものではない旨主張する。しかしながら,前記(ア)のとおり,甲3の記載事項に照らすと,当業者は,引用発明2において,相違点(甲3−1−4’)に係る本件訂正発明1の構成とすることを容易に想到することができたものと認められるから,被告らの上記主張は採用することができない。\n

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平成30(ネ)10082  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年4月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審でも、訂正後の発明について進歩性ナシとして、差止請求などが棄却されました。控訴審で代理人が変更されています。一審後の訂正の再抗弁が時機に後れているかについて、該当するかはともかくとして,訴訟の完結を遅延させることとなるとまでは認められないと判断されています。

 (3) 相違点1−2’に係る容易想到性の判断について
 ア 公然実施品1のサッシュは,断面形状が複雑であるため,製造コストが 掛かること,サッシュ自体の体積に比べて余分なスペースを大きく取るた めに保管や輸送の際に保管コストや輸送コストも掛かることは,当業者に とって自明なことであり,これらのコスト(製造コスト等)を削減するた めに,公然実施品1のサッシュを複数の部品で構成し,公然実施品1の製\n造時に,当該複数の部品を接合してサッシュとすることは,当業者の通常 の創作能力の発揮にすぎない。\nそして,乙13公報に開示されている「誘導加熱調理器において,サッ シュ(枠体2)とは別部材により構成され,かつサッシュ(枠体2)に当\n接させてねじで接合した,金属板からなる補強板(L字金具9)」(以下 「乙13技術事項」という。)は,公然実施品1のサッシュに相当する部 材を複数の部材で構成する技術であり,乙13技術事項の補強板(L字金\n具9)とサッシュ(枠体2)とを接合したものの方が公然実施品1のサッ シュよりも製造コスト等がかからないのは,当業者にとって自明の事項で あるから,誘導加熱調理器という同一の技術分野に属する公然実施品1と 乙13技術事項に接した当業者であれば,製造コスト等を削減する目的で 公然実施品1に乙13技術事項を適用することに格別の困難性があるとは 認められない。 したがって,公然実施品1に乙13技術事項を適用して,相違点1−2’ に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことで\nあるといえる。
イ 控訴人の主張について
控訴人は,1)乙13公報における「断面凸形状9a」の実質は,調理器 本体ケース5内への浸水を防止するためだけの役割を担った「浸水防止部 材」であるから,かかる「断面凸形状9a」は本件発明(構成要件D)の\n「補強板」には当たらないし,乙13公報に記載の構成によれば,「断面\n凸形状9a」は調理プレート1から離れる方向に相当強い力で引っ張られ るのであり,実質的に見ても「断面凸形状9a」が調理プレート1を補強 しておらず「補強板」とはいえないから,公然実施品1及び乙13公報に, 本件発明の構成要件Dに係る構\成は開示されていない,2)公然実施品1と 乙13公報に記載の技術とは,主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆, 技術分野の関連性及び課題や作用・機能の共通性が認められないから,公\n然実施品1に乙13公報に記載の技術を適用する動機付けもない,などと 主張する。
しかしながら,乙13公報において,本件発明の「補強板」に相当する ものは「断面凸形状9a」ではなく「L字金具9」全体であって,あたか もそれが「断面凸形状9a」に限定されるかのような控訴人の主張は,そ もそもその前提において誤解がある。また,たとえ乙13公報における課 題そのものは調理器本体内部の浸水防止を図る点にあったとしても,「L 字金具9」全体の形状を見れば,それが本件発明の「補強板」に相当する 機能を果たし得ることは,当業者であれば容易に想起できるものと認めら\nれる(この点は,「断面凸形状9a」が調理プレート1から離れる方向に 相当強い力で引っ張られるとしても変わりがない。「断面凸形状9a」に どのような方向の力が掛かっているかと,それが補強材としての機能を有\nしているかどうかとは関わりのない事柄だからである。)から,前記1)の 指摘は当を得ているとはいえない。 また,前記アのとおり,公然実施品1のサッシュは,製造コスト等が掛 かるものであるということは,当業者にとって自明のことといえるから, 公然実施品1には,かかる製造コスト等を削減するという自明の課題があ る。そして,誘導加熱調理器という同一の技術分野に属する公然実施品1 と乙13技術事項に接した当業者であれば,公然実施品1に乙13技術事 項を適用すると製造コスト等を削減できるのは明らかであるから,公然実 施品1に乙13技術事項を適用する動機付けはあるといえる。したがって, 前記2)の指摘も当を得ているとはいえない。
(4) 以上によれば,原判決がした,本件発明と公然実施品1との対比(一致点 及び相違点の認定)と認定した相違点(相違点1−2’)に係る容易想到性 の判断はいずれも正当であり,これによれば,本件特許について無効の抗弁 が成立する。 したがって,無効の抗弁の成立を争う控訴人の主張は採用できない。 被控訴人は,本件訂正の再抗弁につき,時機に後れた攻撃防御方法に当たる として,民事訴訟法157条1項に基づく却下を求めている。 しかしながら,本件訴訟の経過に鑑みると,控訴人による本件訂正の再抗弁 の提出が,時機に後れているか否かはともかくとして,訴訟の完結を遅延させ ることとなるとまでは認められないから,同条項に基づきこれを却下するのは 相当でない。 そこで,以下,本件訂正の再抗弁の成否について判断する。
(1) 控訴人は,平成30年12月14日,本件特許の明細書及び特許請求の範 囲を訂正することについて訂正審判を請求した(本件訂正,甲40)。
(2) 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(構成\n要件の分説は控訴人に従う。下線部は訂正箇所を示す。)。
A 誘導加熱をする第1及び第2の加熱器を左右に内設した本体ケースと,
この本体ケースの上面に設けられたトッププレートと,
前記トッププレートの周囲に設けられたサッシュとを具備し,
被組込家具に組み込まれる加熱調理器において,
B’ 前記トッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくし(ただし,トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じものを除く),
C 前記第1及び第2の加熱器の各中心部を,前記本体ケースの左右に等分した両側部の各中心部より外側であって,前記トッププレートの左右に等分した両側部の各中心部より中央側に配置すると共に,
D 前記トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方であって直下に前記被組込家具が位置する箇所に,前記サッシュとは別部材に構成され,かつ前記サッシュに当接させた,金属板から成る補強板を設け,
E この補強板と前記トッププレートとの間,又は補強板の下方に断熱層を形成したこと
F を特徴とする加熱調理器。
(3) 進歩性の判断
事案に鑑み,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1に係る発明(本件訂正 発明)の進歩性から検討する。
ア 本件訂正発明と公然実施品1との対比
(ア) 「トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義 本件訂正事項は,構成要件Bの「前記トッププレートの幅を前記本体\nケースの幅より大きくし,」との構成から「トッププレートの幅と本体\nケースの幅がほぼ同じもの」を除外する,というものである。 控訴人は,本件明細書等の記載や出願時の技術常識等(キッチン設備 のJIS規格等)を踏まえると,本件訂正事項により除外される「トッ ププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義は,本件特許 の出願当時における従来製品の加熱調理器のことと理解すべきであって, 具体的には,トッププレートの幅が約600mm,本体ケースの幅が5 50mm前後の加熱調理器を指していることは,本件明細書等の記載に 接した当業者にとって明らかである,と主張する。 しかしながら,控訴人が主張するトッププレートの幅が約600mm, 本体ケースの幅が550mm前後の加熱調理器やJIS規格(甲25) について,本件明細書等には何ら記載されておらず,示唆もない(本件 明細書等には,例えば,【背景技術】や【発明を実施するための最良の 形態】の欄においても,加熱調理器の寸法について具体的な数値は一切 記載されておらず,JIS規格等の引用もない。)。また,控訴人が主 張するJIS規格(甲25)も,機器を落とし込んで組み込む場合の「ワ ークトップの開口の呼び寸法」と「ワークトップの開口部の開口寸法」 について一定の数式を示しているだけで,「トッププレートの幅と本体 ケースの幅がほぼ同じもの」といえば,当然にトッププレートの幅が約 600mm,本体ケースの幅が550mm前後の加熱調理器を指すとい うことを認めるに足る具体的な記載はない。控訴人は,主要各社の製品 カタログや刊行物等を示して,従来製品の加熱調理器はトッププレート の幅が約600mm,本体ケースの幅が550mm前後のものであった とも主張するが,たとえ本件特許の出願時においてかかる寸法のものが 主流であったとしても,加熱器の配置との関係でトッププレートの幅と 本体ケースの幅の大小の関係を規定する本件訂正発明において,その技 術的範囲から除外される「トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ 同じもの」が当然にトッププレートの幅が約600mm,本体ケースの 幅が550mm前後の加熱調理器に限定されると解すべき理由はないと いうべきであるから,控訴人の主張は失当である。
そこで,本件明細書等の【0002】を見ると,「…図7は,そのも のを平面図で具体的に示しており,第1及び第2の加熱器1,2を左右 に内設した本体ケース3と,これの上面に設けたトッププレート4とは, その各幅W3,W4がほゞ同じで,第1及び第2の加熱器1,2の各中 心部O1,O2は,本体ケース3の左右に等分(W3/2)した両側部 の各中心部RO3,LO3(W3/4)とほゞ合致し,且つ,トッププ レート4の左右に等分(W4/2)した両側部の各中心部RO4,LO 4(W4/4)とも合致している。」と記載されている。この記載は, 前段の「…本体ケース3と,…トッププレート4とは,その各幅W3, W4がほゞ同じで,」に続く後段の部分で,「トッププレートの幅と本 体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義を規定しており,同部分(後段の 部分)は,第1及び第2の加熱器1,2の各中心部が,それぞれ,「ト ッププレート4の両側部の中心部に合致する」状態で,なおかつ,「本 体ケース3の両側部の中心部とほぼ合致する」状態であることを表すも\nのと認められる。ここで,本体ケース3の両側部の中心部と第1及び第 2の加熱器1,2の中心部との距離をDとすると,D=W4/4−W3 /4となり,トッププレート4の幅W4と本体ケース3の幅W3との差 は,W4−W3=4Dとなる。 このDがどの程度の距離であるかについて,本件明細書等には明示的 な記載がないが,1)第1及び第2の加熱器1,2の中心部は,それぞれ, 本体ケース3の両側部の中心部とほぼ合致するものとする【0002】 の記載や図7の記載からは,O1とRO3やO2とLO3が隣接してい ると理解し得ること,2)従来技術の課題を解決する手段の一部として, トッププレートの幅と本体ケースの幅については,単に,(トッププレ ートの幅)>(本体ケースの幅)としていること等の事情を勘案すると, D≒0であり,Dは,製造上や計測上の誤差程度と解するのが相当であ る。そして,加熱調理器に関するJIS規格(甲25)には,公差とし て,2〜5mmとする例が記載されていることを勘案すれば,Dについ ては,0<D≦5(mm),すなわち,大きく見積もっても5mmを超 えない程度のものと解することができる。 そうすると,トッププレートの幅と本体ケースの幅との差4Dは,0 <4D≦20(mm)となり,構成要件B’の「トッププレートの幅と\n本体ケースの幅がほぼ同じもの」は,トッププレートの幅と本体ケース の幅との差が,大きく見積もっても20mmを超えないものとなる。
(イ) 本件訂正発明と公然実施品1との対比
以上のとおり,本件訂正発明における構成要件B’の「トッププレー\nトの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」は,トッププレートの幅と本 体ケースの幅との差が,大きく見積もっても20mmを超えないものを 指すと認められる。 これを踏まえると,トッププレートの幅が599mm,本体ケースの 幅が550mmであって,それらの差が49mmである公然実施品1は, 本件訂正発明における構成要件B’の「トッププレートの幅と本体ケー\nスの幅がほぼ同じもの」とはいえないから,構成要件B’は,本件訂正\n発明と公然実施品1との相違点とはならない。 そうすると,本件訂正発明と公然実施品1との一致点及び相違点は, 以下のとおりになると認められる。
(一致点)
本件訂正発明と公然実施品1とは,構成要件A,B’,C,E及びF\nについて一致する。
(相違点)
本件訂正発明は,サッシュとは別部材に構成され,かつサッシュに当\n接させた,金属板から成る補強板を有するのに対し,公然実施品1はサ ッシュ自体が補強板となっており,サッシュとは別部材に構成され,か\nつサッシュに当接させた,金属板から成る補強板は有しない点。
イ 上記相違点についての判断
上記相違点は,本件訂正前の本件発明と公然実施品1との相違点(相違 点1−2’)と実質的に同じであるから,前記1(3)のとおり,本件発明と 同様に,本件訂正発明についても,公然実施品1及び乙13技術事項に基 づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 以上によれば,本件訂正発明は,そもそも特許を受けることができないも のである(特許法29条2項)から,本件訂正は独立特許要件(特許法12 6条7項)を満たすものではなく,また,本件訂正によって本件特許に係る 無効理由が解消するものでもない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件訂正の再抗弁 は理由がない。

◆判決本文

一審はこちらです。

◆平成29(ワ)22884

こちらは関連事件の控訴審判決です。
「構成要件Eを充足しない」として非侵害です。\n原告被告は同じで、対象特許が異なります。

◆平成30(ネ)10078
構成要件Eのうち,「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」の意義につい\nて検討する。
上記各文言は,調理容器との関係をもって加熱調理器の構成を示すものであり,\n文言のみから一義的にその意義を明らかにすることができないことから,本件明細 書等の発明の詳細な説明の内容を考慮して検討する必要がある。そこで,1⑴にお いてみたとおりの本件明細書等の記載を考慮すると,本件明細書等(【0003】, 【0005】,【0021】,【0028】,【0029】,【0030】,【0 032】)には,リング状枠はトッププレート上に印刷表示され,調理容器を有効\nに加熱できる領域として使用者に示されるものであること(【0003】),リン グ状枠は加熱部の領域を示し,鍋の最大径と同径で,鍋の外殻を表すものであるこ\nと(【0005】,【0021】)及び加熱部は最大の鍋径と同径で,リング状枠 であること(【0028】,【0029】)が示され,これ以外に,上記各文言の 意義の解釈を導くような説明がされていることは認められない。そうすると,「最 大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示され左右の加熱部の領域を示し,\nまた,リング状枠と同径のものであり,また,「調理容器の外殻」と一致するもの であると解するのが一般的かつ自然である。 この点,被告は,構成要件Eの内容は不特定であるなどと主張するが,同主張は,\n前記認定に照らし採用することができない。
(2) 被告製品関連製品の構成\n
ア 原告は,別紙3被告製品説明書(原告)において,被告各製品は,「左IH ヒーター及び右IHヒーター上で,調理容器の鍋底全体を加熱できる最大径である 直径26cmの領域を示す外殻線11,12」という構成を有し,これが「調理容\n器の外殻」であり「最大径の調理容器」である旨主張する。そして,被告各製品を 除く被告製品関連製品も被告各製品と同様の構成を有する旨主張する。\nイ しかしながら,前記(1)において認定したとおり,「調理容器の外殻」及び「最 大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示された加熱部及び有効加熱領域\nの領域を示すリング状枠と同径のものであるところ,原告の主張する外殻線11, 12は,原告において付しているものにすぎず,トッププレート上に表示されてい\nるものではないから,これらを「調理容器の外殻」又は「最大径の調理容器」であ るとみることはできない。そして,本件全証拠によっても,被告各製品には,加熱 部及び有効加熱領域を示す直径26cmのリング状枠が表示されているとは認めら\nれず,加熱部及び有効加熱領域を示すリング状枠と同径である「調理容器の外殻」 及び「最大径の調理容器」が直径26cmであると認めることもできない。 原告は,「調理容器の外殻」は,鍋底の最大径であり,被告は被告各製品におい て鍋底が直径26cmまでの鍋を使用することができる旨説明しているから,被告 各製品の「最大径の調理容器」は26cmのものであると主張する。しかしながら, 被告において上記のように説明することが,被告各製品で使用可能な最大径の鍋底\nを示すものといえるか否かについてひとまず措くとしても,前記(1)において認定し たとおり,「調理容器の外径」及び「最大径の調理容器」と同一であるリング状枠 及び有効加熱領域は,トッププレートに表示される必要があるのであって,表\示さ れていない有効加熱領域に基づく原告の主張はその前提を欠き失当である。
(3) 小括
以上のとおり,被告各製品は,原告主張の「調理容器の鍋底全体を加熱できる最 大径である直径26cmの領域を示す外殻線」という構成を有するとは認められな\nいから,この外殻線を前提に被告各製品が構成要件Eを充足するという原告の主張\nは採用できず,ほかにこれを認めるに足りる証拠もない。また,被告各製品を除く 被告製品関連製品が構成要件Eを充足することを認めるに足りる証拠もない。\nしたがって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品関連製品は,構\n成要件Eを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできな い。
一審はこちらです。

◆平成29(ワ)10742

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平成30(行ケ)10036  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月19日  知的財産高等裁判所

 漏れていたので、アップします。薬剤としての新効能を限定した発明について、その他の構\成が同じでも新規性ありとした審決が維持されました。
 ア 甲5発明には,T細胞を処理するための組成物の用途が,「T細胞による インターロイキン−17(IL−17)産生を阻害する」ためであるとの特定がな いが,前記(2)アのとおり,甲5発明の「T細胞を処理する」とは,IL−12によ るT細胞の処理,すなわちTh1誘導によるT細胞刺激を阻害することを指すもの であって,甲5には,記載も示唆もされていない「T細胞によるインターロイキン −17(IL−17)産生を阻害する」ことを指すものではないことは明らかであ る。 他方,本件特許発明1におけるIL−23のアンタゴニストを含む組成物の用途 は,「T細胞によるインターロイキン−17(IL−17)産生を阻害するため」で あるが,本件明細書(【0071】〜【0081】,【0083】,【表1】,【図2A】,【図4A】)には,従来から知られていたTh1誘導条件(IL−12+抗IL−4)下及びTh2誘導条件(IL−4+抗IFN−γ)下では,いずれもIL−17産\n生が増加しなかったのに対し,IL−23存在下ではIL−17産生が増加したこ とに加え,Th1誘導条件下に比べIFN−γ産生が著しく低かったこと,IL− 23が介在するIL−17の産生は,IL−23のp40サブユニットの中和抗体 によって遮断されたことが記載されている。 これらの記載によると,本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキ ン−17(IL−17)産生を阻害するため」という用途は,IL−23によるT 細胞の処理によってT細胞におけるIL−17の産生が増加するという知見に基づ き,IL−23によるT細胞の処理により引き起こされるIL−17の産生を阻害 することを用途とするものであり,上記知見は,従来から知られていたTh1誘導 やTh2誘導によるT細胞刺激とは異なるものであると認められる。 したがって,本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン−17(I L−17)産生を阻害するため」という用途は,従来から知られていたTh1誘導 によるT細胞刺激とは異なる,IL−23によるT細胞の処理により引き起こされ るIL−17の産生を阻害することを用途とするものであるから,甲5発明の「T 細胞を処理するため」とは明確に異なるものであり,相違点5は,実質的な相違点 であると認められる。
イ 原告は,審決は,甲5発明の抗体含有組成物の用途を「T細胞を処理す るため」と認定したにもかかわらず,本件特許発明1との対比においては,甲5発 明の抗体含有組成物の用途が「Th1誘導によるT細胞刺激の阻害」に限定される ものとして,相違点5を認定しており,そもそも矛盾していると主張する。 しかし,甲5発明の抗体含有組成物の用途を「T細胞を処理するため」と認定し たことにより,甲5発明の「T細胞を処理する」の意義を甲5の記載を離れて解釈 してよいことになるものではないから,審決が,本件特許発明1との対比に当たり, 甲5発明の「T細胞を処理する」の意義を甲5の記載に基づいて解釈することは正 当であって,何らの誤りもない。
ウ 原告は,甲5X発明に係る抗体含有組成物の用途は,「T細胞の処理によ る乾癬治療」であるが,乾癬患者について格別の限定又は選別をすることなく,「T 細胞の処理による乾癬治療」を実施すると,当然に,「T細胞によるインターロイキ ン17(IL−17)産生阻害」も生じるから,甲5X発明の「T細胞の処理によ る乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン17(IL−1 7)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲5X発明と本件特許発明1との間 に相違点はないなどと主張する。この主張を,甲5発明について,甲5に記載され ている用途も考慮して本件特許発明1の新規性を判断すべき旨の主張と解したとし ても,次のとおり理由がない。
(ア) 前記アのとおり,本件特許発明1は,IL−23によるT細胞の処理に よってT細胞におけるIL−17の産生が増加するという知見に基づいて,「IL −23のアンタゴニストを含む組成物」について「T細胞によるIL−17産生を 阻害するための(インビボ処理方法において使用するための)」という用途の限定を 付したものであると認められるところ,慢性関節リウマチの患者であってもIL− 17濃度の上昇がみられなかった者がいるように(甲17〔審判乙1〕),すべての 炎症性疾患においてIL−17濃度が上昇するものではないし,特定の炎症性疾患 においてもすべての患者のIL−17濃度が上昇するものではないと認められるか ら,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,特にIL−17を 標的として,その濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものという ことができる。
(イ) 他方,前記(1)のとおり,甲5には,IL−23のアンタゴニストにより T細胞によるIL−17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされていな\nいから,甲5発明が,「IL−23のアンタゴニストを含む組成物」を,T細胞によ るIL−17産生を阻害するために,IL−17濃度の上昇が見られる患者に対し て選択的に利用するものではないことは,明らかである。このことは,甲5発明の 「IL−23のアンタゴニストを含む組成物」を乾癬治療のために使用することが できるという甲5に記載されている用途を考慮しても,左右されるものではない。
(ウ) そうすると,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン−17 (IL−17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明の「T細胞を処理す るため」という用途とは,明確に異なるものということができる。そして,このこ とは,本件優先日当時,IL−17の発現レベルを測定することが可能であったこ\nとによって左右されるものではない。
エ 原告は,本件特許発明は,せいぜい,IL−23アンタゴニストに備わ った「T細胞によるIL−17産生を阻害する」という性質又は機序を明らかにし て,これを説明する構成要件を付加したにすぎないから,甲5X発明と異なる新規\nな方法(用途)とはいえないなどと主張する。この主張を,甲5発明について,甲 5に記載されている用途も考慮して本件特許発明1の新規性について判断すべき旨 の主張と解したとしても,前記ウのとおり,本件特許発明1の「T細胞によるイン ターロイキン−17(IL−17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明 の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるのであるから,本件特 許発明1の用途が,甲5発明の用途を新たに発見した作用機序で表現したにすぎな\nいものとはいえないことは,明らかである。

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平成29(行ケ)10236等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月14日  知的財産高等裁判所

 1次判決(H26年(行ケ)10202号)にて、一部の請求項について新規性無し、他の請求項については進歩性違反無しと判断されました。原告被告ともこれを争いました。双方とも請求棄却されました。

 ア 前訴判決は,前記(1)のとおり,本件発明7は,第6取引を除く本件各取 引によって公然実施されたと判断しているから,この部分に拘束力が及び,審判手 続においてこれに反する主張をすることは許されないものというべきである。した がって,この点についての第二次審決の判断に誤りがあるということはできない。
イ 被告は,前訴判決は,原告又はY社とα社〜ε社との間の信義則上の秘 密保持義務の有無について判断しておらず,前訴判決の拘束力は,信義則上の秘密 保持義務についての主張立証には及ばないと主張する。 しかし,前訴判決の拘束力が及ぶ範囲は,上記アのとおりであって,前訴判決が 信義則上の秘密保持義務について明示的に判断しているかどうかで,この拘束力が 及ぶ範囲が左右されることはない。
(3) なお,念のため,被告の主張する原告又はY社とα社〜ε社との間の共同 開発に基づく信義則上の秘密保持義務の有無についても検討する。 被告は,1)取引量が少量であること,2)本件各取引において供給されたBPEF が「サンプル」とされ,研究開発部門が受入窓口となるなどしていたこと,3)被告 とδ社との取引経緯,4)原告のBPEFの融点の公表時期,5)原告とY社がα社等 とポリマーに係る発明について●●●●をしていたことなどから,共同開発の事実 及び信義則上の秘密保持義務の存在が推認できると主張する。 ア まず,上記1),2)については,取引量が少量で,かつ対象物のBPEF が「サンプル」で,受入先が研究開発部門などとされている場合でもあっても,例 えば,受入先が,BPEFを原料としたポリマーの研究開発を行っているにすぎず, BPEFについては特に共同開発が行われていないといったことが容易に想定され るのであるから,被告主張の上記1),2)は,そもそも共同開発の事実を推認させる ものではないといえる。Aの供述は,この判断を左右するものではないし,ゼオネ ックスという光学用樹脂の例(乙14)については,BPEFとは異なる物質に関 するものである上,乙14の12頁でも,ゼオネックスが,販売開始後も当初はサ ンプルとしての供給が多く,数百キロ程度しか売れなかったとされていることに照 らすと,上記判断を左右するものではない。 イ 上記3)については,被告とδ社が,平成17年1月頃からBPEFを原 料とするポリマーの共同開発をしていたとしても,そこから,原告及びY社とα社 〜ε社との共同開発の事実が直ちに推認されるというものではない。 また,原告がδ社に提供したBPEFの中に,融点が三つある多形体混合物(ロ ット番号0610209)があったことについても,原告が単体でBPEFの製造 方法の改良を試み,その結果生じたものである(甲120)としても不自然とはい えず,やはりそれをもって共同開発の事実を推認させるものとはいえない。
ウ 上記4)については,証拠(甲186〜189,甲190の1・2)及び 弁論の全趣旨からすると,原告が供給するBPEFについて,その融点(162℃) を含む物性情報が,本件優先日前である平成15年12月頃に東京化成工業株式会 社の試薬データベースに登録されることで第三者に広く開示され得る状態になって いた上,同年頃から,東京化成工業株式会社の代理店を通じて,不特定多数の者が, 原告の供給するBPEFを入手できる状態になっていたと認められるから,原告の ホームページにBPEFの物性が記載されていなかったからといって,それが被告 の主張するBPEFの共同開発の事実に結びつくとはいえない。 エ 上記5)については,被告がその論拠とする各発明(乙7の1の1・2, 乙7の2の1・2,乙7の3・4,乙8の1・2,乙9の1〜8,乙10の1・2, 乙48)の中には,BPEFを原料としたポリマーに関する発明があると認められ るものの,原告又はY社が,ポリマー合成会社等とポリマーに関する共同開発をし ていたからといって,そこから直ちに原料であるBPEFについても共同開発をし ていたと推認することはできない。
オ 以上のとおり,被告が主張する上記1)〜5)の事実は,共同開発及びそれ に基づく信義則上の秘密保持義務の存在を推認させるものではなく,他に信義則上 の秘密保持義務の存在を認めるに足りる証拠はない。

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平成30(行ケ)10090  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月14日  知的財産高等裁判所

 タイヤの発明について、引用文献1および周知技術から、進歩性ナシとした審決が維持されました。

 (6)周知技術の認定 前記(1)〜(5)によると,本願出願日当時,タイヤの技術分野において,クラウン部 の外周にタイヤ周方向に巻き付ける被覆コード部材の断面形状を略四角形状とする こと,また,上記断面形状は略四角形状,円形状又は台形状等から選択可能である\nことが周知技術であったことを認定することができる。
(7) 甲1発明に周知技術を適用することの可否
ア 前記(6)のとおり,本願出願日当時,クラウン部の外周にタイヤ周方向に 巻き付ける被覆コード部材の断面形状は,略四角形状,円形状又は台形状等から選 択可能であることは周知技術であった。\nまた,前記(2),(3)のとおり,周知文献3の【0007】には,「本発明の請求項1 に記載のタイヤでは,タイヤ周方向に螺旋状に巻かれる補強コード部材のタイヤ軸 方向に隣接する部分同士を接合していることから,例えば,補強コード部材のタイ ヤ軸方向に隣接する部分同士を接合しないものと比べて,タイヤ骨格部材に接合さ れる補強コード部材で構成される層(以下,適宜「補強層」と記載する。)の剛性が\n向上する。これにより,上記補強層が接合されるタイヤ骨格部材の剛性を向上させることができる。」と記載され,また,周知文献3の【0049】には,「補強コー ド部材22のタイヤ軸方向に隣接する部分同士の接合は,一部分でも全部でも構わ\nないが,接合面積が広いほど補強コード部材22で構成される補強層28の剛性が\n向上する。」と記載され,周知文献2の【0063】にも,「補強コード部材22の タイヤ軸方向に隣接する部分同士の接合は,一部分でも全部でも構わないが,接合\n面積が広いほど補強コード部材22(補強層28)によるタイヤケース17の補強 効果が向上する。」と記載されている。そうすると,本願出願日当時,タイヤ軸方向 に隣接する補強コード部材同士を接合しないものに比べて,これを接合したものは 補強コード部材で構成される補強層の剛性を向上させることができ,その接合面積\nが広いほど補強層の剛性が向上し,補強層が接合されるタイヤ骨格部材の剛性を向 上させることができることが知られていた。そして,補強コード部材(被覆コード 部材)の断面形状が円形状のものよりも,略四角形状のものの方が,タイヤ軸方向に隣接する補強コード部材同士の接合面積を広くし得ることは,明らかである。
以上によると,タイヤ軸方向に隣接する被覆コード部材同士を溶融接合している 甲1発明において,前記(6)の周知技術を適用して,断面形状が円形状の被覆コード 部材に代えて,これと適宜選択可能な関係にある断面形状が略四角形状の被覆コー\nド部材を採用することは,当業者が容易に想到し得るものと認められる。 イ 前記(2),(3)のとおり,周知文献3には,断面形状が略四角形状であり, タイヤ軸方向に隣接する部分同士が接合(溶着)された補強コード部材22につい て,クラウン部16に一部が埋め込まれても構わないことが記載され(【0046】,\n【0049】,【0050】,【0053】),また,周知文献2には,断面形状が略四角形状であり,タイヤ軸方向に隣接する部分同士が接合(溶着)された補強コード 部材22について,長手方向の両端部22Aがクラウン部16に埋め込まれて長手 方向の中間部22Bよりもクラウン部16の内周面16B側に配置されるのであれ ば,長手方向の中間部22Bがクラウン部16に埋め込まれても構わないことが記\n載されている(【0057】,【0058】,【0061】,【0063】)。 そうすると,タイヤ軸方向に隣接する被覆コード部材同士を溶融接合している甲 1発明において,前記(6)の周知技術を適用して,断面形状が円形状の被覆コード部 材に代えて,これと適宜選択可能な関係にある断面形状が略四角形状の被覆コード\n部材を採用することに,製造上の阻害要因があるものとは認められない。

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平成30(行ケ)10078  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、「甲1発明の目的を達成できなくなるので、阻害要因あり」として、進歩性違反無しとした審決を維持しました。

 前記2(1)イ〜エ,カの記載によれば,甲1発明は,「発泡作用によりマッ サージ効果を得る化粧料について,最高度に気泡が発生することを色によっ て判断できるようにすること」を課題とし,当該課題を,「炭酸水素ナトリ ウムを含む第1剤と,前記炭酸水素ナトリウムと水の存在下で混合したとき に気泡を発生するクエン酸,酒石酸,乳酸及びアスコルビン酸のうちの1又 は2以上の成分を含む第2剤と,前記第1剤と第2剤に夫々分散された異色 のものからなり,混合により色調を変え,使用可能な状態になったことを知\nらせるための2色の着色剤A,Bと,前記第1剤又は第2剤の一方又は双方 に含まれた,化粧料としての有効成分とからなる組成」を有する「常態では 粉状」の化粧料とし,これにより,「2色の着色剤A,Bを第1剤,第2剤 に夫々混合し,使用前,個有(原文のまま)の色分けを行なうとともに使用 時第1,第2両剤を混合し,一定の色調になったときに良く混合したことが 判断できかつ,最適の反応が行なわれる」ようにすることで,解決しようと したものである。すなわち,甲1発明は,最高度に気泡が発生することを色 によって判断できるようにするために,炭酸塩を含む第1剤と酸を含む第2 剤に分けてあえて異色の構成とし,これらを混合することによって色調が変\nわるようにしたものであると認められる。 そうすると,たとえ,アルギン酸ナトリウムが水に溶けにくい性質を持つ ことや,一般的な用時調製型の化粧料において,ジェルと固体(顆粒や粉末 等)の2剤型のものが周知であったとしても,甲1発明において,炭酸塩と 酸が2剤に分離されてそれぞれが異色のものとされている構成を,甲2記載事項の「粉末パーツ」のようにあえていずれか一方(1剤)に統合して複合\n粉末剤等とすると,そもそも甲1発明の目的(2剤の色分けと混合による色 調の変化を利用して最高の発泡状態か否かを判断する)を達成できなくなる ことは明らかであるから,そのような変更を当業者が容易に想到し得るとは いい難く,その意味で,甲1発明に甲2に記載された技術(甲2記載事項) 等を組み合わせようとすることについては動機付けがなく,むしろ阻害要因 があるといえる。
(3) これに対し,原告は,甲1発明は,気泡状の二酸化炭素(炭酸ガス)を経 皮吸収させることを機能の一つとする化粧剤であるから,拡散問題(炭酸ガ\nスが大気中に拡散すること)は甲1発明に内在する自明の課題であるとした上で,甲1発明に対しアルギン酸ナトリウム慣用技術(甲2記載事項)を適 用することについては,自明の課題である拡散問題を軽減するために,閉じ 込め効果(アルギン酸ナトリウムを事前に水に添加して万遍なく行き渡らせ ることにより,網目状の高分子化合物が形成され,気泡状の二酸化炭素〔炭 酸ガス〕を水溶液中に閉じ込めることが可能となること)を利用するという\n積極的な動機付けがある,などと主張する。
しかしながら,甲1発明は,前記のとおり,発泡作用(炭酸ガスの発泡, 破裂作用)によりマッサージ効果を得る化粧料について,最高度に気泡が発 生することを色によって判断できるようにすることを目的とするものであっ て,そこに炭酸ガスを体内に取り込もうとする技術的思想はない(二酸化炭 素の泡がはじけることによる物理的な刺激を効果的に得ようとしているにす ぎない)から,「気泡状の二酸化炭素(炭酸ガス)を経皮吸収させることを 機能の一つとする化粧料」であるとはいえず,原告の主張はそもそもその前\n提において誤りがある。そうである以上,原告主張の拡散問題が甲1発明に 内在する自明の課題であるとはいえないし,甲1発明におけるアルギン酸ナ トリウムは飽くまで気泡発生を助成するための起泡助長剤として添加されて いるにすぎないから(甲1【0013 】),アルギン酸ナトリウムが含まれ ているからといって,それだけで直ちに事前に水に添加して利用する技術(アルギン酸ナトリウム慣用技術)を適用することについての積極的な動機付け があるともいえない。この点,原告は,アルギン酸ナトリウムが増粘剤とし ても機能するものであることを根拠に甲1発明におけるアルギン酸ナトリウ\nムが気泡の発生とその安定化の双方に寄与するものであることを当業者は当 然に認識するとも主張するが,甲1発明の目的を離れた主張であって,論理 に飛躍があり,採用できないというべきである。
また,原告は,阻害要因に関して,甲1は,技術分野の同一性を理由とし て本件発明の課題を解決するための主引例として選択されたものであり,容 易想到性の判断に際して,甲1に記載された目的に反する方向での変更か否 かは関係がない,などとも主張するが,特定の公知文献(公知技術)からの 容易想到性の問題である以上,当該公知文献に記載された目的を度外視した 判断はできないというべきであり,上記主張は,やはり採用できないという べきである。

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◆平成30(行ケ)10077

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平成30(行ケ)10118  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月25日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反の無効理由主張について、知財高裁は動機付けなしとして、無効理由なしとした審決を維持しました。
a 引用発明1の課題は,1)背肩近辺の側面側,特に肩ぐうと呼ばれるつぼをマ ッサージすること,2)背面側にマッサージを行う場合に,身体が施療手段により押 されて前方に動くのを防ぐこと,である。 これに対し,引用発明2の課題は,1)下腿の臑の前外側,特に三里,豊隆と呼ば れるつぼをマッサージすること,2)下腿にマッサージを行う場合に,被施療者の下 腿を拘束しないこと,である。
b まず,引用発明1と引用発明2の課題は,1)身体の側面ないし前面に位置す るつぼのマッサージを行うという限度で共通するが,その対象部位及び対象部位に 位置するつぼの種類が異なる。 そして,引用発明1と引用発明2におけるマッサージの対象部位及び対象部位に 位置するつぼの種類を比較するに,背肩と下腿においては,その形状,重量や椅子 型マッサージ機にかかる荷重,可動範囲などが大きく異なるから,それに応じて椅 子型マッサージ機の構成は異なるものとならざるを得ない。また,定型的な動きし\nかできない椅子型マッサージ機においては,背肩近辺の側面側と下腿の臑の前外側 に位置するつぼをどのような強度,角度及び範囲で押圧するかによって,その施療 子部分の構成も異なるものとならざるを得ない。\nそうすると,椅子型マッサージ機である引用発明1と引用発明2において,マッ サージの対象部位及び対象部位に位置するつぼの種類が異なることは,両発明の課 題が有する意義に差異をもたらすものというべきである。
c 加えて,引用発明1と引用発明2の課題は,2)身体の動作を防止してその自 由度を下げようとするか,身体を拘束しないようにしてその動作の自由度を上げよ うとするかという点では正反対のものということができる。
d よって,引用発明1と引用発明2との課題は,マッサージを行おうとする対 象部位及び対象部位に位置するつぼの種類が異なること,身体の動作の自由度を下 げようとするか上げようとするかで異なることから,相違するものというべきであ る。
(ウ) 作用機能\n
引用発明1は,背もたれ部の左右両側に前方に向かって突出した側壁部の内側面 に配設されたエアバッグが膨出し,身体を左右両側から挟圧するという作用機能を\n有する。 これに対し,引用発明2は,後側空気袋の膨張によって,支持部に枢着されてい る左右の受板が前方へ回動し,受板の前側に配された前側空気袋が膨張することに よって,臑の外側部分を押圧するという作用機能を有する。\nしたがって,引用発明1と引用発明2の作用機能は,膨出(膨張)するエアバッ\nグ(前側空気袋)によって身体を押圧するという点で共通するものの,当該エアバ ッグ(前側空気袋)を配設する部材が,側壁部か,支持部に枢着された回動可能な\n受板かという点で相違する。
(エ) 示唆
引用例1又は引用例2の内容中に,引用発明1に引用発明2を適用することにつ いての示唆は見当たらない。
(オ) 動機付け
以上のとおり,引用発明1と引用発明2とは,椅子型マッサージ機という限度で 技術分野が共通するものの,マッサージを行おうとする対象部位及び対象部位に位 置するつぼの種類が異なることなどから課題が相違し,身体を押圧するエアバッグ を配設する部材のそもそもの可動性が異なることから作用機能も相違するほか,引\n用発明1に引用発明2を適用することについて示唆も見当たらない。 したがって,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けがあるということはできない。
(カ) 原告の主張について
a 原告は,当業者が通常の創作能力を発揮すれば,引用発明1において相違点\nに係る構成を採用することができる旨主張する。\nしかし,前記のとおり,椅子型マッサージ機においては,身体が着座姿勢で固定 され,また身体の各部位の形状等が異なることから,その構成は,マッサージの対象部位に応じて異なるものになる。また,椅子型マッサージ機は定型的な動きしか\nできないから,椅子型マッサージ機の施療子部分の構成は,対象となるつぼの種類\nによっても異なるものになる。 したがって,引用発明1において,椅子型マッサージ機及びその施療子部分の構\n成に関連する相違点を採用することが,通常の創作能力の発揮であるということは\nできない。
b 原告は,引用例2には,引用発明2と同じ機構が下腿だけではなく,足の甲\nの部分にも適用できることが記載されているから,当業者は,引用発明2が下腿だ けではなく,身体の他の部分にも適応可能な機構\であることを理解し,また,他の 部分に適用することを示唆される旨主張する。 しかし,前記のとおり,椅子型マッサージ機の構成は,マッサージの対象部位に\n応じて異なるものになり,その施療子部分の構成も,対象部位に位置するつぼの種\n類に応じて異なるものになる。引用発明2と同じ機構が,下腿だけではなく,足の\n甲の部分にも適用できたとしても,当業者は,これを,身体の形状等が大きく異な り,施療子部分の構成も変更する必要がある背肩近辺にも適用可能\な機構であると\nは理解しないし,背肩近辺に適用することについて示唆を受けるものでもない。

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平成30(行ケ)10095  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月19日  知的財産高等裁判所

 審決は進歩性違反無しと判断しました。知財高裁も、動機付けなしとして、これを維持しました。

 前記ア認定のとおり,建築部材等の工業製品において,面と面との交わ りのかどに斜面又は丸みをつける「面取り」は,本件出願当時,周知であ ったことが認められる。 また,前記イ及びウのとおり,甲16には基台2の下面の両縁部の角が 斜面になっている構成が,甲17には,プラスチック等非腐蝕体(4)の\n下面の両縁部の角が斜面になっている構成がそれぞれ開示されている。\nしかしながら,甲1には,「面取り」に関する記載や,甲1発明の台座 の基盤1の下面縁部と側壁との間に下面又は側壁に対して傾斜する斜面の 記載はなく,ましてや,そのような斜面を基盤1の「延在方向に沿って設 け」ることについての記載も示唆もない。 かえって,甲1発明の台座においては,基盤1の側壁に突部tと凹部h を有し,隣り合う台座間で突部tと凹部hとを係合して接続するものであ ること(前記(2)ア及びエ)からすると,突部tや凹部hの一部を削って斜 面を設けることは考え難いというべきである。 加えて,甲1には,甲1発明の台座において,基盤1等の稜線に人が接 触して怪我をしないようにする措置を講じる必要があることをうかがわせ る記載はない。
そうすると,甲1,甲16及び17に接した当業者において,甲1発明 の台座に上記周知技術,甲16又は17記載の構成を適用して,基盤1の\n下面縁部と側壁との間に下面又は側壁に対して傾斜する斜面を設け,当該 斜面が基盤1の延在方向に沿って設けられる構成(相違点3に係る本件発\n明1の構成)とする動機付けがあるものと認めることはできない。\nしたがって,当業者が,甲1発明において,相違点3に係る本件発明1 の構成とすることを容易に想到することができたものといえないから,こ\nれと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

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平成27(ワ)4292  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年6月28日  大阪地方裁判所

 漏れていたのでアップします。大阪地裁は、特許侵害として、差止請求および総計3.3億円の損害賠償請求を認めました。争点は、間接侵害、サポート要件、進歩性違反などたくさんあります。この事件は控訴されており、知財高裁の特別部での審議が発表されています。大合議事件にされた理由は、下記でしょうか?\n

 「共同不法行為が成立するためには,各侵害者に共謀関係があるなど主観的な関連 共同性が認められる場合や,各侵害者の行為に客観的に密接な関連共同性が認めら れる場合など,各侵害者に,他の侵害者による行為によって生じた損害についても 負担させることを是認させるような特定の関連性があることを要すると解すべきで ある。そして,例えば,製造業者が小売業者に製品を販売し,これを小売業者が消 費者に販売するという取引形態は,極めて一般的なものであり,製造業者と小売業 者双方が,このような取引形態を取っていることを認識し容認しているとしても, これだけでは共同不法行為責任を認めるに足りるだけの十分な関連共同性があると\nはいえない。
・・・
被告アンプリーは,被告ネオケミアから被告製品8を仕入れ,これを被告リズ ムに転売していたところ,被告リズムは設立当初から被告アンプリーに対して販売 する商品の相談をしており,その中で被告製品8を仕入れることになり,被告リズ ムにとって被告アンプリーは特別な取引先であるとの認識であった(乙B12の 1)。これに対し,被告アンプリーは,OEMメーカーではあったが,被告リズム の創業を応援しようと決めて被告リズムと取引を開始し,販路として育成していこ うと考え,被告リズムを「販路育成プログラム」対象企業の第一号という位置付け の企業にし,被告リズムと協力して炭酸ガスパックを売り出していたというのであ る(乙B13の1,弁論の全趣旨)。そして,本件訴訟では,被告アンプリーは被 告リズムとの間で顧客や顧客からの注文等に関する情報交換を密にしていたとまで 主張しているのであり,被告アンプリーと被告リズムとはそのような関係性にあっ たと認められる(以上につき弁論の全趣旨)。そして,被告リズムによる売上額は 3億円を超えており,被告アンプリー自身の売上額も1億円を超えており,他の被 告の他の製品の売上額と比較しても,桁違いに売上額が大きい。このような売上げ を上げることができたのは,以上のような被告アンプリーと被告リズムとの間の関 係性があったからであると推認され,両社は相互に利用補充しながら,被告製品8 の製造,販売をしてきたということができる。したがって,両社の行為には,客観 的に密接な関連共同性があったといえ,共同不法行為が成立するというべきである。 これに対し,被告アンプリーらと被告ネオケミアとの関係性についてみると,被 告アンプリーは被告ネオケミアの取引先ではあるものの,被告ネオケミアは他にも 自ら本件各発明の技術的範囲に属する同種製品(被告製品1,3,4及び15)を 製造するなどし,被告アンプリー以外の者に対しても販売していたのである。この ような実態に照らせば,被告アンプリーが被告ネオケミアの総代理店的な立場にあ ったとはいえないし,同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるな どともいえない。 以上より,被告製品8に関し,被告アンプリーと被告リズムとの間に限って共同 不法行為が成立する。」

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平成30(行ケ)10076  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月13日  知的財産高等裁判所

 審決は訂正を認めた上、進歩性なしと判断しました。知財高裁は審決を維持しました。争点は、特有の効果を訂正後発明が奏するかです。知財高裁は、特有の効果は認められないと判断しました。

 被告は,原告の主位的主張につき,審判段階で審理の対象とされたものではなく 本件審決の違法事由として主張できない旨主張する。 特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,審判で審理判断されなかった 公知事実を主張することは許されないが(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同5 1年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁),審判において審理判断され た公知事実に関する限り,審判の対象とされた発明との一致点・相違点について審 決と異なる主張をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実と の対比の枠を超えるということはできないから,取消訴訟においてこれらを主張す ることが許されないとすることはできない。 本件特許の特許権者である原告は,もとより審判で審理判断されなかった公知事 実を無効原因として主張するものではなく,審判において審理判断された公知事実 と審判の対象とされた発明との相違点について本件審決と異なる主張をするにすぎ ないものであって,これを許されないものとすべき事情はない。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ) 原告の主位的主張について
a 原告は,本件各発明の本質は,豆乳発酵飲料について,pHが4.5未満であり,ペクチンの添加量の割合がペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質 量%に対して20〜60質量%の範囲にあり,かつ,粘度が5.4〜9.0mP a・sの範囲にあるという構成を採用する場合に,タンパク質成分等の凝集の抑制\nと共に,酸味が抑制され,後に残る酸味が少なく後味が優れるという効果が得られ るところにあるから,相違点1−1〜1−4に相当する構成は互いに技術的に関連\nしており,これらを1つの相違点1−Aとして認定すべきであるなどと主張する。 b しかし,本件明細書によれば,本件各発明は,タンパク質成分等の凝集を抑 制するという効果を奏する点では共通するものの,ペクチンの添加量の割合が30 〜60質量%の場合(本件発明6)はこれに加えて「後に残る酸味が低減され,か つ口当たりが滑らかな」ものとなるとの効果を奏し(【0019】),30〜50 質量%とされた場合(本件発明7)は「後に残る酸味が低減されるとともに,酸っ ぱい風味が抑制され,また口当たりがより一層滑らかになる」との効果を奏するこ と(【0020】)が記載されている。また,こうした記載が先行するにもかかわ らず,【発明の効果】としては,「タンパク質成分等の凝集が抑制された豆乳発酵 飲料の提供が可能」,「タンパク質等の凝集が抑制された豆乳発酵飲料の製造が可\n能」といった点が挙げられるにとどまる(【0024】)。これらの記載に照らす\nと,酸味が抑制され,後に残る酸味が少なく後味が優れるという効果は,本件各発 明に共通する効果とは必ずしも位置付けられていないものということができる。 他方,官能評価試験の結果,「ペクチン及び大豆多糖類の混合物中のペクチンの\n割合が60質量%〜0質量%」の範囲では,「酸っぱい風味」及び「後に残る酸味」 の評点がいずれも低く,「酸味が抑制されていた。」,「後味がより優れていた。」 との評価がされている(【0080】,【0081】)。これらの記載によれば, 上記各効果は本件各発明に共通し,そのうち特に優れた効果を奏するものを本件発 明6及び7として取り上げたと理解する余地はあり得る。もっとも,試験結果に係 る上記分析は,本件明細書の記載上,本件各発明の効果の記載(【0024】)に は反映されていない。そして,本件明細書において各評価項目の評価基準,評価手 法等が明らかにされていないことや,試験結果の数値のばらつきを考慮すると,前 記のような理解の合理性ないし客観性には疑問がある。 このように,本件各発明の効果に関しては,本件明細書の内部において不整合が あるといわざるを得ず,原告の上記主張はその前提自体に疑問がある。
c その点を措くとしても,タンパク質成分等の凝集抑制の効果について,本件 明細書によれば,請求項2,【0011】及び【0072】に記載された試験方法 により沈殿量を評価した場合の沈殿量が0cm超かつ11cm未満にある場合,タ ンパク質成分等の凝集がより抑制されると説明されている(【0011】,【00 12】)。また,表4及び図3には,pH4.3及び4.5それぞれの場合におい\nてペクチン添加量の割合を変化させた豆乳発酵飲料の沈殿量を示す実験結果が記載 されているところ,沈殿量が0cm超かつ11cm未満を満たさないものはペクチ ン及び大豆多糖類を共に含まないサンプルNo.1(pH4.3及び4.5),大 豆多糖類のみを含むNo.12(pH4.3及び4.5),ペクチンを10質量% で含むNo.11(pH4.3及び4.5)に止まり,ペクチンを20〜100質 量%で含むNo.2〜No.10は,pHの高低に依拠することなくタンパク質成 分等の凝集の抑制効果を奏することが示されている。 この点に鑑みると,タンパク質成分等の凝集の抑制効果につき,ペクチン添加量 の割合が20〜60質量%の範囲内にあることやpHの高低との関連性を見出すこ とは,必ずしもできない。 また,本件明細書によれば,pH4.5の場合でも,No.2〜No.10ではペクチン及び大豆多糖類の混合物を添加することによりタンパク質成分等の凝集の 抑制効果があるとされているところ(【0076】),このうちペクチンを50〜 20質量%含むNo.7〜No.10は,7℃における粘度が5.4mPa・s未 満である(表3及び図2)。この点に鑑みると,タンパク質成分等の凝集の抑制効\n果と5.4〜9.0mPa・sの粘度範囲との間に何らかの関連性を見出すことは できない。 以上によれば,タンパク質成分等の凝集の抑制効果は,ペクチン添加量,pH及 び粘度の全てが請求項に規定された範囲にある場合に初めて奏する効果であるとは 認められない。
d 酸っぱい風味,後に残る酸味及び口当たりの滑らかさの効果について,pH を4.3で固定した場合である表5及び図4の実験結果によると,酸っぱい風味は,\nペクチンと大豆多糖類を併用したサンプルのうち,おおむね,ペクチンのみを含むNo.2で酸っぱい風味が強く,大豆多糖類の量が増えるに従いこれが低減される 傾向がうかがわれ,No.6〜No.12(ペクチンの割合が60〜0質量%)に つき「酸味が抑制されていた」との評価がされ,中でもNo.7〜No.10(ペ クチンの量が50〜20質量%)で特に抑制されているとの評価がされている (【0080】,図4)。他方,ペクチンを60質量%含むNo.6は,大豆多糖 類のみを含むNo.12やペクチンを10質量%含むNo.11よりも酸っぱい風 味が強いとの評価がされている(【0080】)。 また,後に残る酸味の点では,ペクチンを60〜0質量%で含むNo.6〜No. 12がより優れていると評価され(【0081】,表5,図5),口当たりの滑ら\nかさの点では,ペクチンを60〜30質量%で含むNo.6〜No.9が優れてい ると評価されている(【0082】,表5,図6)。もっとも,ペクチンのみを含\nむNo.2も,後に残る酸味及び口当たりの滑らかさの両面でこれらの範囲内にあ る評点を得ている。また,口当たりの滑らかさの点では,ペクチンを20質量%含 むNo.10は口当たりの滑らかさの評点が低く,逆に,大豆多糖類のみを含むN o.12は口当たりの滑らかさで優れているとされる上記サンプルの数値の範囲内 に含まれる。 このように,pH4.3の場合の官能評価の結果からも,酸味の抑制,後に残る\n酸味の低減,口当たりの滑らかさに係る効果は,ペクチンと大豆多糖類を併用しな い場合やペクチンの添加量が20〜60質量%から外れる場合でも得られることが示されているから,これらの効果は,pH,粘度及びペクチン添加量の全てが請求 項に規定された範囲にある場合に初めて奏する効果であるとは認められない。
e このほか,本件明細書には豆乳発酵飲料以外の豆乳飲料や酸性乳飲料を比較 対象とした実験結果が記載されていないことも考慮すると,本件明細書からは,本 件各発明につき,相違点1−1〜1−4に係る構成を組み合わせ,一体のものとし\nて採用したことで,タンパク質成分等の凝集の抑制と共に,酸味が抑制され,後に 残る酸味が少なく後味が優れるという効果を奏するものと把握することはできない。

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平成30(行ケ)10023  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月14日  知的財産高等裁判所

 異議申立によって取り消された請求項3,4について、取消を求めました。知財高裁は、「本件明細書の記載のとおりの物性値を有していることを確認することができない」として、審決を取り消しました。\n

 被告は,本件決定は,本件出願前に販売されていた日本発条製の商品「ニ ッパレイEXT」と,甲5のカタログ記載のニッパレイEXTの物性値,甲 4及び甲5のカタログ記載のニッパレイEXGの物性値及び日本発条に対す るニッパレイEXTに関する問合せの回答結果に基づいて本件公知発明を認 定したものであり,その認定に誤りはない旨主張するので,以下において判 断する。
ア ニッパレイEXTの構造について\n
被告は,本件決定は,本件明細書の「実施例2」記載のニッパレイEX Tが「非発泡のポリエチレンテレフタレート(PET)シート(厚さ50 μm)上にポリウレタン系樹脂発泡シートが積層一体化されてなる積層シ ート」(【0106】)という構造を有していることを,甲5のカタログ\nを参照し,日本発条に問い合わせて確認して認定したものであり,本件決 定の認定に誤りはない旨主張する。 しかしながら,当業者は,本件出願前に,本件出願後に公開された本件 明細書に接することはできないから,ニッパレイEXTが本件明細書の記 載のとおりの構造を有しているかどうかを確認することはできない。\nまた,本件においては,本件決定の合議体が,本件決定をするに当たり, 日本発条に対してどのような方法で問合せをし,どのような回答が得られ たのか,その問合せ方法が,行政庁等の公的機関とは異なる一般の第三者 でも採り得る通常の方法であることを認めるに足りる証拠はない。もっと も,被告が本件訴訟提起後に日本発条にした問合せに対する同社の回答を 記載した本件回答書(乙2の1)には,ニッパレイEXTは,「PETの 上にEXGを一体発泡させたものがEXTです。(厚さは違いますが)」 との記載がある。この記載によれば,ニッパレイEXTは,上記構造を有\nしているものと認められるが,本件回答書の記載事項は被告が本件出願後 に取得した情報であって,一般の第三者が本件出願前に知り得た情報であ るとは直ちにはいえない。 加えて,前記(1)ウ認定のとおり,甲5のカタログには,ニッパレイEX Tや貼付されたサンプルの具体的な構\造についての記載がないのみならず, 当業者が,貼付されたサンプルを視認し,又は自ら測定することにより,\nニッパレイEXTの上記構造を知り得たことを認めるに足りる証拠はなく,\nましてやニッパレイEXTが,PETフィルム上にニッパレイEXGが積 層一体化されてなる積層シートであることを知り得たことを認めるに足り る証拠はない。 以上によれば,被告主張の本件決定における上記認定手法は相当とはい えず,本件においては,ニッパレイEXTが「非発泡のポリエチレンテレ フタレート(PET)シート(厚さ50μm)上にポリウレタン系樹脂発 泡シートが積層一体化されてなる積層シート」という構造を有しているこ\nとが本件出願前に公然知られ得る状態にあったことを認めるに足りる証拠 はない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イ ニッパレイEXTの物性値について
(ア) 被告は,本件決定は,ニッパレイEXTの物性値のうち,「引張強 さ」,「伸び」及び「ショアA硬度」については,甲5のカタログに記 載がないが,ニッパレイEXTは,ニッパレイEXGの片面に50μm 厚のPETフィルムを沿わせて構成しただけのものと認められるので,\n甲5のカタログ記載のニッパレイEXGの「引張強さ」,「伸び」及び 「ショアA硬度」と同じであるとみて差し支えないと考え,ニッパレイ EXGの各数値に基づいて,本件明細書の「表1」記載のとおりである\nことを確認して認定したものであり,本件決定の認定に誤りはない旨主張する。 しかしながら,前記ア認定のとおり,当業者が,本件出願前にニッパ レイEXTが,PETフィルム上にニッパレイEXGが積層一体化され てなる積層シートであることを知り得たことを認めるに足りる証拠は ない。 また,仮に被告が主張するように当業者がニッパレイEXTの上記構\n造を知り得たとしても,前記アのとおり,当業者は,本件出願前に,本 件出願後に公開された本件明細書に接することはできないから,ニッパ レイEXTが本件明細書の記載のとおりの物性値を有していることを 確認することはできない。 かえって,甲5のカタログに接した当業者においては,ニッパレイE XGについては6項目の物性値の全てについて記載があるのに,ニッパ レイEXTについては,6項目のうち,「引張強さ」,「伸び」及び「A 硬度 Shore−A」が空欄となっているのは,これらの物性値は測 定できないか,あるいはニッパレイEXGの物性値とは異なるものであ ると認識するというべきである。また,ニッパレイEXGのようなポリ ウレタン系樹脂発泡シートはスポンジ状で柔軟な性質を有するのに対し,PETフィルムは結晶性樹脂であるため強靭性を有し,各種ベース フィルムとして用いられること,異なる物性の材料を積層した積層体は, その構成部材の性質や状態によって全体としての物性が変化し得るも\nのであることは,本件出願当時の技術常識であったものと認められる (甲26)。かかる技術常識を踏まえると,甲5のカタログに接した当 業者においては,ニッパレイEXTの「引張強さ」,「伸び」及び「シ ョアA硬度」については,ポリウレタン系樹脂発泡シートであるニッパ レイEXGの各数値と同じ値であることを理解するものとはいえない。 以上によれば,本件決定におけるニッパレイEXTの物性値の「引張 強さ」,「伸び」及び「ショアA硬度」の各数値の上記認定手法は相当 とはいえず,これらの各数値が,甲5のカタログ記載のニッパレイEX Gの値と同じ値であることが,本件出願時に公然知られ得る事項であっ たと認めることはできない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(イ) 被告は,ニッパレイEXTの物性値のうち,甲5のカタログに記載 のない「引張強さ」,「伸び」及び「ショアA硬度」については,当業 者が,日本発条に問い合わせること,カタログに貼付されたサンプルを\nJIS規格等に従って測定すること,日本発条が顧客に製品の納品の際 に提供する「製品検査成績表」を同社から取得することなどにより,極\nめて容易に確認することができるから,公然知られ得る状態にある事項 であり,現に被告は日本発条に対して再度の問合せを行い,日本発条から本件回答書(乙2の1)及び本件データシート(乙3)を得た旨主張 する。 しかしながら,前記アで説示したとおり,本件回答書の記載事項は被 告が本件出願後に取得した情報であって,一般の第三者が本件出願前に 知り得た情報であるとは直ちにはいえないし,また,その問合せ方法が, 行政庁等の公的機関とは異なる一般の第三者でも採り得る通常の方法 であることについての立証はない。 また,本件回答書(乙2の1)は,甲5のカタログの「引張強さ」, 「伸び」及び「ショアA硬度」の3項目に値が記載されていない理由と して,「PETが一体であるため測定できないからです。」と回答して いること,本件データシート(乙3)には「EXTはペットサポートタ イプの為,引張強さ,伸びの物性は測定不能となります。」との記載があることに鑑みれば,当業者が日本発条に問い合わせたとしても,ニッ\nパレイEXTの「引張強さ」,「伸び」及び「ショアA硬度」を容易に 確認することができたものと認めることはできない。 さらに,甲5のカタログに貼付されたサンプルをJIS規格等に従っ\nて測定した場合に,ニッパレイEXTとニッパレイEXGの「引張強さ」, 「伸び」及び「ショアA硬度」が同じ値となることを認めるに足りる証 拠はない。同様に,日本発条が顧客に製品の納品の際に提供する「製品 検査成績表」(ニッパレイEXGについては,甲38の別紙4))を同社 から取得できたとしても,ニッパレイEXTの物性値の「引張強さ」, 「伸び」及び「ショアA硬度」が,甲5のカタログ記載のニッパレイE XGの値と同じ値であることが本件出願時に公然知られ得る事項であ ったことを認めることはできない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
ウ まとめ
以上のとおり,ニッパレイEXTが「非発泡のポリエチレンテレフタレ ート(PET)シート(厚さ50μm)上にポリウレタン系樹脂発泡シー トが積層一体化されてなる積層シート」という構造を有していることが本\n件出願前に公然知られ得る状態にあったことを認めることはできない。ま た,仮にニッパレイEXTの上記構造が公然知られ得る状態にあったとし\nても,ニッパレイEXTの物性値のうち,「引張強さ」,「伸び」及び「シ ョアA硬度」が,甲5のカタログ記載のニッパレイEXGの値と同じ値で あることが,本件出願前に公然知られ得る状態にあったものと認めること はできない。 したがって,本件決定認定の本件公知発明のうち,少なくとも「引張強 さ」,「伸び」及び「ショアA硬度」の認定に誤りがあるというべきであるから,本件決定における本件公知発明の認定は誤りである。
(3) 小括
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件決定は,公 知発明の認定を誤り,その結果本件発明3と本件公知発明との一致点の認定 を誤り,相違点を看過したことが認められる。 したがって,本件発明3は,本件公知発明及び甲7(本件決定・引用文献 1)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた とした本件決定の進歩性の判断は誤りである。同様に,本件決定における本 件発明3の特定事項を全て含む本件発明4の進歩性の判断も誤りである。

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平成30(行ケ)10132  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月7日  知的財産高等裁判所

 原告は、株式会社ドクター中松創研です。進歩性なしとした審決の取消訴訟です。裁判所は、審決を維持しました。

以上の(1)ア,イから明らかなように,太陽電池モジュールを構成するに際\nして,略円形状の半導体ウエハを切断せずにそのまま用いた太陽電池セルを用いる ことで,材料ロスを少なくし,低コストのものとすることは,本願出願前において 周知の技術であると認められる。 太陽電池パネルにおいて低コスト化を図ることは,一般的な課題といえるのであ って,甲1発明に係る「太陽電池パネル材」においても,低コストのものとするこ とは,当然に要求されるものであるところ,甲1発明の「円形状の太陽電池セル3 0」を得るにあたり,同じ形状を持つ太陽電池セルである,略円形状の半導体ウエ ハを切断せずにそのまま用いた上記周知技術の太陽電池セルを採用することは,当 業者が容易に想到し得ることである。
・・・
原告は,1)本願発明は,ソーラーパネルのウエハ間の隙間を透過した日光を利用\nして流体加熱を可能とする発明は,本質的には,流体加熱を可能\とすることであり, ソーラーパネルのウエハ間の隙間を透過した日光を利用して野菜の栽培を可能\とす る発明は,本質的には,野菜の栽培を可能とすることであるから,ウエハ間の空白\n部分から日光を透過させる構成を備える本願発明と甲1発明とは,上記構\成におい て異なる,2)屋根に用いた太陽光パネルにより発電する構成と,屋根に用いた温水\nパネルにより流水を加熱する構成とを一体化するシステム構\成を,周知技術と判断 することには無理があるから,上記システム構成が周知技術であることを理由に,\n当該事項が甲1に記載されているに等しい事項であるとすることは誤りである,3) 甲1において,農業施設の屋根に太陽電池パネル材を用いることは示唆されている としても,ウエハ間の隙間を透過した日光を利用して「野菜の栽培」を可能とすることまで示唆されているとはいえない旨主張する。\nしかし,本願発明の「天窓,縦窓,流体加熱,野菜の栽培を成し得る」の解釈は, 前記3(1)イのとおりであるところ,甲1発明においても太陽電池パネル材を流体加 熱や野菜の栽培の用途に用いることが可能であるから,この点において本願発明と\n相違していない。
なお,乙1(特開2013−2709号公報)には,光透過性を有するソーラー\n発電パネルとソーラー温水パネルを組み合わせたソ\ーラーシステムが,乙2(特開 2004−176982号公報)には,太陽電池パネルの裏面側に通水管を備えた 太陽電池組込み集熱ハイブリッドモジュールが,それぞれ開示されているから,当 業者は,甲1から,甲1発明に係る太陽電池パネル材を使用した建物において,流 水加熱も行い得ることを認識することができ,このことは,甲1発明が,太陽電池 パネル材を流体加熱に用いることが可能である点において,本願発明と相違してい\nないとの上記認定を裏付けるものであるといえる。 また,甲1には,農業用施設についての記載(【0010】)がある上,乙3(国 際公開第2012/128244号公報),乙4(国際公開第2012/04338 1号公報)及び乙5(特開2012−216609号公報)には,それぞれ,屋根 に太陽光を施設内に導入し得る太陽電池パネルを設けた施設内で,植物を栽培する ことが記載されているから,これらのことは,甲1発明が,太陽電池パネル材を野 菜の栽培に用いることが可能である点において,本願発明と相違していないとの上記認定を裏付けるものであるといえる。\n

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平成30(行ケ)1007 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月28日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。新規事項追加の拒絶理由については、判断がされませんでした。

 前記(1)のとおり,甲13には,最適化されたナッツ,種子及びナッ ツ油といった複数の供給源による脂肪酸や抗酸化物質,ポリフェノールなど,それ ぞれの栄養素の量を最適化すること(【請求項3】,【0022】)や,異なる供給源 を使用することにより,過剰の場合は有害な特定の植物性化学物質の高濃度での送 達を回避すること(【0031】)が示唆されている。 そうすると,甲13発明において,植物性化学物質を,複数の異なる供給源に由 来するものとすることは,当業者が適宜採用することができる設計事項であると認 められる。
(イ)a 原告は,甲13の「ω−3脂肪酸に対して比較的高率のω−6脂肪 酸」,「抗酸化剤及び植物性化学物質[原告注:ファイトケミカル]全般を含む組成 物」という教示,又は,「ファイトケミカルの高濃度での送達が回避される」という 教示は,特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤を まとめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用 することを教示するものではない旨主張する。
原告の上記主張は,本願補正後発明1が「特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量 のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源 に由来するファイトケミカルを使用する」との技術思想に基づくものであることを 前提とするものであると解されるが,その主張を採用することができないことは, 前記(2)のとおりであるから,原告の上記主張は,理由がない。
b なお,原告は,ω-6 脂肪酸,抗酸化剤及びポリフェノールの含有量 は,食品供給源や,作物,産地によって異なり,複数の異なる供給源に由来する, ω-6脂肪酸及びポリフェノールを含む抗酸化剤の特定の量を維持しながら,異なる 供給源に由来するファイトケミカルを利用することは技術的に困難である旨主張す る。 ファイトケミカルの供給源であって,ω-6 脂肪酸の前駆体であるリノール酸を含 有するピーナッツ油,コーン油,ヒマワリ油等(甲21の【0004】【表1】,【0\n033】【表2−1】,【0034】【表\2−2】)や,ポリフェノールを含有するオリーブ油(甲21の【0084】),アーモンド・クルミ・ペカン・クリ・ピーナッツ 等の抗酸化物質を含有するナッツ類(甲21の【0024】〜【0026】)は,い ずれも当業者によく知られたものである。そして,ポリフェノールは,抗酸化剤の 例である(甲15,弁論の全趣旨)。
また,証拠(甲1,2,13,14,21)によると,供給源そのものや複数の 供給源から製造される組成物に含まれる ω-6 脂肪酸,ポリフェノールの含有量は, それぞれ測定可能であることが認められる。\nそうすると,ω-6 脂肪酸,抗酸化剤及びポリフェノールの含有量が,供給源によ って異なるとしても,目的とするω-6 脂肪酸,抗酸化剤の配合量とするために植物 由来の栄養素の供給源を適切に組み合わせて各成分の合計量を調節することは,技 術的に困難であるとはいえない。 また,ω-6 脂肪酸,抗酸化剤及びポリフェノールの含有量が,作物,産地等によ って異なるとしても,それは単一の供給源でも生じ得る問題であって,異なる供給 源を組み合わせる場合に固有の問題ではなく,上記のとおり,供給源のω-6 脂肪酸, ポリフェノールの含有量が測定可能であることからすると,上記認定を左右するも\nのではない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
c 原告の相違点 1 に係るその余の主張は,いずれも,本願補正後発明 1が「特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤をま とめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用す る」との技術思想に基づくことを前提とするものであると解されるところ,前記(2) のとおりであって,採用することができない。
イ 相違点2について
(ア) 前記(1)のとおり,甲13には,甲13発明に係る組成物に抗酸化物 質(【0022】,【0023】,【0031】,【0035】),ポリフェノール(【0023】)が含まれることが示唆されており,ポリフェノールが抗酸化剤であることは,本願出願時における技術常識であった(甲15,弁論の全趣旨)から,甲13発明 に係る組成物において,少なくとも一種の処方物をポリフェノールを含む抗酸化剤 を含むものとすることは,当業者が適宜採用することができる設計事項であると認 められる。
(イ) 原告は,「ピーナッツ」は,異なる供給源に由来するファイトケミカ ルを使用した「処方物」ではなく,甲13は,「抗酸化剤」自体を教示しているもの であって,特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤 をまとめて提供することや,当該提供を維持したまま,複数の異なる供給源に由来 するファイトケミカルを使用することを教示するものではないと主張する。 原告の上記主張は,本願補正後発明1が「特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量 のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源 に由来するファイトケミカルを使用する」との技術思想に基づくことを前提とする ものであると解されるところ,前記(2)のとおりであって,採用することができない。

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平成30(行ケ)10162  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月28日  知的財産高等裁判所

 新規性違反なしとした審決が取り消されました。争点は証拠として提出したチラシの証拠能力です。\n
ア 前記第2の3(1)の本件審判における原告らの主張によると,原告らは, 本件審判において,甲55と同一の内容及び同一の添付物のチラシが複数作成され, 頒布されており,甲41の4は,そのうちの一つの写しである旨主張していたので あるから,写しである甲41の4と甲55の原本に当たるものは,同一であること を前提に主張していたものと解される。 そして,本件審決は,甲41の4につき,原告らが「甲41の4に現れているつ りピンロールは公然に頒布された物品に係るもので,本件特許は公然知られた発明 である」旨主張していることを挙げた上,「甲第41号証の4又は同号証で示された つりピンロールが本件特許の遡及日前に頒布されたものと認めることはできない。」 と判断している。 したがって,本件審決は,結論としては,前記第2の3(2)のとおり,甲2に記載された発明,甲4に記載された発明又は甲55に記載された発明を引用発明とする 新規性違反の有無について判断しているが,甲41の4を引用発明とする新規性判 断の誤りについても判断していると認められる。
イ 証拠(甲41の4・5,甲69)及び弁論の全趣旨によると,被告は, 被告外1名を原告,原告ら外3名を被告とする商標権侵害差止等請求事件において, 当該事件の原告訴訟代理人弁護士C及び同Dが平成19年5月22日に東京地方裁 判所に証拠として提出した甲41の4及び証拠説明書として提出した甲41の5を, その頃受領していること,甲41の5には,甲41の4の説明として,「被告シンワ のチラシ(2006年用)」,「写し」,作成日「2006(平成18)年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。」旨記載されていることが認められるところ,甲41の4には,「2006年販売促進キャンペーン」,「キャンペーン期間 ・予約5月末まで ・納品5月20日〜9月 末」,「有限会社シンワ」,「つりピンロールバラ色 抜落防止対策品」,「サンプル価 格」,「早期出荷用グリーンピン 特別感謝価格48000円」などの記載があり, 複数の種類の「つりピン」が記載されており,その中には,5本のピンが中央付近 においてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部 分を2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のもの(つりピンロールバ ラ色と記載された部分の直近下に写し出されているもの)があることが認められる。 上記「つりピン」の形状は,証拠(甲41の3〜5)及び弁論の全趣旨により, 上記事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月22日に,甲41の4とともに, 上記商標権侵害差止等請求事件において,東京地方裁判所に証拠として提出したと 認められる甲41の3に「つりピンロール(バラ色)抜落防止対策品」として記載 されているピンク色の「つりピン」と,その形状が一致していると認められる。証 拠(甲41の3〜5)及び弁論の全趣旨によると,甲41の3は,甲41の4と同 じ証拠説明書による説明を付して,提出されたものであると認められ,「2006年 度 取扱いピンサンプル一覧」,「有限会社シンワ」,「早期出荷用」などの記載がある。 また,証拠(甲41の1〜5)及び弁論の全趣旨によると,甲41の4は,上記 商標権侵害差止等請求事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月22日に,甲 41の4とともに,「被告シンワのチラシ(2005年用)」,「写し」,作成日「2005(平成17)年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原告むつ家 電得意先へ営業した事実を立証する。」旨の証拠説明書による説明を付して,上記商 標権侵害差止等請求事件において,東京地方裁判所に提出したと認められる甲41 の1と,レイアウトが類似しているところ,甲41の1には,「2005年開業キャ ンペーン 下記価格は2005年4月25日現在の価格(税込)です。」,「有限会社 シンワ」,「当社では売れ残り品は販売しておりません。お客様からの注文後製造い たします。」などの記載がある。
以上によると,甲41の3及び4は,いずれも,原告シンワが,被告の顧客であ った者に交付したものを,平成19年5月22日までに,被告が入手し,原告シン ワが,被告の得意先へ営業した事実を裏付ける証拠であるとして,上記商標権侵害 差止等請求事件において,提出したものであると認められる。 そして,甲41の4の上記記載内容,特に「販売促進キャンペーン」,「納品5月 20日〜」と記載されていることからすると,甲41の4と同じ書面が,平成18 年5月20日以前に,原告シンワにより,ホタテ養殖業者等の相当数の見込み客に 配布されていたことを推認することができる。
ウ また,前記イの認定事実及び弁論の全趣旨によると,甲41の4に記載 されている,5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の1対の突 起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通する形 で連結された形状のものは,原告シンワにより見込み客に配布されていた前記イの 甲41の4と同じ書面にも添付されていたと認められる。
エ 前記の5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の1対 の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のものの形状は,両端部において折り返した部分の端部の形 状が,甲41の4では,下から上へ曲線を描いて跳ね上がっているのに対し,本件 特許に係る図面(甲119)の図8(a)では,釣り針状に下方に曲がっている以 外は,上記図8(a)記載の形状と一致している。 そして,上記図8(a)は,本件発明に係るロール状連続貝係止具の実施の形態 として記載されたものである。
オ そうすると,前記イ,ウ及びエの5本の「つりピン」が中央付近におい てそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2 本の直線が連通する形で連結された形状のものは,形状については,本件発明1の 構成要件にある形状をすべて充足する。そして,証拠(甲41の1〜5)及び弁論\nの全趣旨によると,その材質は,樹脂であり,「つりピンロール」とされていること から,ロール状に巻き取られるものであり,その連結材は,ロール状に巻き取られ ることが可能な可撓性を備えているものと認められる。したがって,甲41の4に\n記載されている「つりピン」は,本件発明1の構成要件を全て充足すると認められ\nる。 また,上記の「つりピン」は,ロープ止め突起の先端と連結部材とが極めて近接 した位置にあり,2本のロープ止め突起の先端の間隔よりも一定程度狭い縦ロープ との関係では,2本の可撓性連結材の間隔が,貝係止具が差し込まれる縦ロープの 直径よりも広くなるから,本件発明2の構成要件も全て充足すると認められる。\nさらに,上記の「つりピン」が,ロール状に巻き取られるものであることは,上 記のとおりであるから,上記の「つりピン」は,本件発明3の構成要件も全て充足\nすると認められる。
カ したがって,本件発明1〜3は,本件原出願日である平成18年5月2 4日よりも前に日本国内において公然知られた発明であったということができ,新 規性を欠き,特許を受けることができない。
(2) 被告は,甲41の4から認定できるのは,平成19年5月22日の時点でサンプルシート(甲41の4)が頒布されていたということだけであり,1)甲3及 び5には納品日の記載がないのに,甲41の4に納品日の記載がある点,2)顧客か ら価格が分かるようにしてほしいという要望を受けてサンプルシートを改訂したの であれば,価格だけを追記すれば済むのに,甲41の4には,キャンペーン期間や 納品期間が記載されている点,3)甲5には,価格の記載がない点を挙げて,甲41 の4の記載内容は不自然であるから,甲41の4は,甲41の4のサンプルシート が平成18年5月20日以前に頒布されたことを裏付けるに足りる証拠ではない旨 主張する。 甲3は,「2005年販売ピン一覧」という表題が記載された書面であり,価格の\n記載もキャンペーン期間の記載もない。甲5は,「2009年色が変って新登場 新 色キャンペーン」という表題が記載された書面であり,色の変更についての記載は\nあるが,価格の記載も日や月を区切ったキャンペーン期間の記載もない。そうする と,これらの文書の作成目的は,専ら顧客に原告シンワが取り扱う商品の一覧を示 すことにあると認められる。これに対し,甲41の4は,「2006年販売促進キャ ンペーン」という表題が記載された書面で,「キャンペーン期間」,「早期出荷用グリ\nーンピン 特別感謝価格」という記載もされているのであるから,期間を区切って 特別に有利な価格を提示することを目的に含む,販売促進キャンペーン用のチラシ であると認められる。これらの記載内容,特に表題から認められる文書の目的の違\nいを考えると,1)甲41の4には納品日の記載があり,甲3及び5に納品日の記載がないことは不自然ではないし,また,2)顧客の価格が分かるようにしてほしいと いう要望を受けてサンプルシートを改訂する際に,期間を区切った販売促進キャン ペーンを企画し,そのチラシに価格と共にキャンペーン期間や納品期間を記載して も不自然ではないし,さらに,3)甲5に価格の記載がないことは,不自然ではない。 したがって,被告の上記主張は,前記(1)の認定を左右するものではない。 他に前記(1)の認定判断を覆すに足りる主張,立証はない。

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平成29(行ケ)10200  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月18日  知的財産高等裁判所

 無効理由なしとした審決が取り消されました。理由は、相違点については、技術常識から容易である、さらに、サポート要件を満たしていないことです。

 相違点1に係る,本件発明1の「回転数適応型の動吸振器(5)が, 油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセッ ト値qFだけ大きい有効次数qeffに設計されている」ことの意義につい てみると,本件発明1の特許請求の範囲には,「所定の次数オフセット qF」をいかに設定するかについて,「油影響に関連して」されるもので あること以上に特定する記載はないから,「油影響」について何らかの 関連を有し,何らかの次数オフセットqFだけ大きい有効次数qeffに設 計されているという程度の意味であると理解できる。 さらに,本件明細書についてみると,1) 図3に関する【0038】 〜【0039】の記載から,同じ設計の動吸振器であれば,回転する油 質量体の下では次数値が低くオフセットされるため,その抑制次数qFに 相当する分だけ高い次数値への次数オフセットをすることが,遠心力に 抵抗する油影響から結果的に生じる作用を考慮することになることが示 されているといえる。また,2) 【0043】によれば,qFは自由に選 択可能な値として規定されていてもよいし,励振の個々の次数に対して,\nそれぞれ固定の値が設定されていてもよいとされているから,次数オフセットqF自体は,任意に設定し得る値であることが読み取れる。
(イ) 以上によれば,qFは,1)のような実験的な測定に基づき設定される ものに限られず,2)のような任意の値も採り得るものであるといえる。 そして,動吸振器の幾何学的次数が,駆動装置の励振の次数(q)より も任意の値(qF)の分だけ大きい数値(qeff)になるように設計され ているということは,オーバーチューニングに当たるといえる。そうす ると,本件発明1の「回転数適応型の動吸振器(5)が,油影響に関連 して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値qFだけ大 きい有効次数qeffに設計されていること」は,「油影響」を受ける状況 下においては,動吸振器の次数が低下することから,任意の値の次数オ フセットにより,動吸振器をオーバーチューニングしたという程度の意 味と解される。
ウ 「油影響に関連して…設計されている」構成の容易想到性\n
上記ア(イ)の技術常識によれば,油中に浸漬され,油という液体の影響を 受ける遠心振り子のような動吸振器にあっても,回転する油中であるか否 かにかかわらず,その固有振動数(又は次数)に何らかの影響,特に,そ の固有振動数(又は次数)が低下するような影響が生じるであろうことは, 当業者にとって当然に予測し得ることといえる。\nそして,回転数適応型の動吸振器において,理論上最も効果的に駆動装 置側の振動を減衰できるのは,遠心振り子の固有振動数が駆動装置の励振 の振動数と一致する場合なのであるから(上記ア(ア)),油の影響を受ける 回転数適応型の動吸振器において,効果的に駆動装置の振動を減衰させる ためには,油の影響によって固有振動数(又は次数)が低下することから, 動吸振器の固有振動数(又は次数)について,任意の値の次数オフセット によりオーバーチューニングするという,相違点1に係る構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。\nよって,相違点1に係る構成は,甲4発明及び技術常識から容易に想到\nすることができたものである。
・・・
(2) 上記を前提に,サポート要件違反について検討する。
ア 上記2(3)イのとおり,本件発明1の特許請求の範囲には,「所定の次数 オフセットqF」について,「油影響に関連して」設定されるものであるこ とのほかに具体的な設定の手法等についての特定はないから,「回転数適 応型の動吸振器(5)が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよ りも所定の次数オフセット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計されてい る」とは,「油影響」を受ける状況下においては,動吸振器の次数が低下することから,任意の値の次数オフセットにより,動吸振器をオーバーチ ューニングしたという程度の意味に解される。 そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,1) 図3に関連する【0 038】,【0039】の記載から,同じ設計の動吸振器であれば,回転 する油質量体の下では,次数値が低くオフセットされるから,その抑制次 数に相当する分だけ高い次数値への次数オフセットをすることが,遠心力 に抵抗する油影響から結果的に生じる作用を考慮することになることが示 され,この記載の対応する限度では,当業者は,本件発明の課題(上記1(3)ウ)を解決できるものと認識できるといえる。 しかし,上記のとおり,特許請求の範囲には,次数オフセットqFについ ての具体的な設定の手法等を特定する記載はなく,2) 本件明細書【00 43】のとおり,任意に設定された次数オフセットqFだけ高い次数値への 次数オフセットをする場合も含まれるというべきであるが,このような任 意に設定した次数オフセットqFをとった場合については,本件明細書の記 載から当業者が本件発明の課題を解決できるものと認識できるとはいえな い。 そうすると,本件発明1は,当業者が発明の課題を解決できると認識で きる範囲のものであるとはいえないから,サポート要件に適合するとはい えない。

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平成30(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月28日  知的財産高等裁判所

 無効理由なしとした審決が取り消されました。理由は本件発明の認定誤りです。

 訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の意義等について
(ア) 訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載によれば,訂正発 明2の「庫内差圧検出手段」は,「上記排気量制御手段により制御され る排気処理手段による上記暴露部の暴\露空間内のバイオガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出」する検出手段であり,訂正発明2 においては,「上記庫内差圧検出手段による検出結果から得られる庫内 差圧情報が上記排気量制御手段に帰還され,上記排気量制御手段により 上記暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御することにより,上\n記暴露部の庫内差圧を一定にする」ことを理解できる。\nまた,訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)中の「上記排気処理 部により上記暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御するバイオ\nガスの排気量制御手段」との文言によれば,訂正発明2の「排気量制御 手段」は,「上記排気処理部により上記暴露部から排気するバイオガス\nの排気量を制御」する制御手段であることを理解できる。 そして,訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載によれば, 訂正発明2の核酸分解処理装置は,「暴露部」の「バイオガスのホルム\nアルデヒド成分の濃度」の「ガス濃度情報」が「生成ガス量制御手段」 に帰還され,「上記生成ガス量制御手段」及び「上記排気量制御手段」 により「バイオガス発生部」における「生成ガス量」及び「暴露部」か\nら排気する「バイオガスの排気量」を制御することにより,「暴露部」\nの「庫内ガス濃度」を一定にし,かつ,「庫内差圧情報」が「排気量制 御手段」に帰還され,「上記排気量制御手段」により「暴露部から排気\nするバイオガスの排気量」を制御することにより,「暴露部」の「庫内差圧」を一定にすること,すなわち,「暴\露部」の「ガス濃度情報」及 び「庫内差圧情報」を基に,「生成ガス量」及び「バイオガスの排気量」 を制御し,「暴露部」の「庫内ガス濃度」及び「庫内差圧」の両者を一\n定にする制御を行うものであることを理解できる。 しかるところ,訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)には,「庫 内差圧検出手段」及び「排気量制御手段」の具体的な構造や装置構\成に ついて規定した記載はなく,また,「暴露部」の「庫内差圧」をいかな\nる数値又は数値範囲で一定にするのかについて規定した記載もない。
(イ) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本発明」の実施形態 として,核酸分解処理装置100の制御部150が,暴露部120に設\nけられたガス濃度センサ129から供給された暴露空間内のガス濃度\n情報に基づき,バイオガス発生部110へのエア供給量及びメタノール供給量の制御及び排気処理部140の排気ブロア143の吸入量の制 御により,暴露部120の庫内の濃度を一定にする制御を行うとともに,\n暴露部120に設けられた庫内圧力センサ132から供給された暴\露 空間内の圧力情報に基づき,排気処理部140の外気導入バルブ142 の開閉度及び排気ブロア143の回転数の制御により,陰圧範囲内を目 標値とした暴露部120の庫内差圧を一定にする制御を行うことが記\n載されている(【0028】,【0103】,【0111】,【014 0】〜【0148】,【0150】,【0161】〜【0164】,【0 182】,【0183】,図10)。これらの記載は,制御部150に より暴露部120の庫内差圧を陰圧の数値範囲に制御することを開示\nするものと認められる。 他方で,本件明細書の「本発明の実施の形態について,図面を参照し て詳細に説明する。なお,本発明は以下の例に限定されるものではなく, 本発明の要旨を逸脱しない範囲で,任意に変更可能であることは言うま\nでもない。」(【0026】)との記載に照らすと,本件明細書には, 「本発明の要旨を逸脱しない範囲」であれば,「本発明」の実施形態が 上記実施形態に限定されるものではないことの開示がある。 しかるところ,本件明細書には,「庫内差圧検出手段」及び「排気量 制御手段」を特定の構造や装置構\成のものに限定する記載はないし,また,「暴露部」の「庫内差圧を一定にする」にいう「一定」の数値範囲\nを定義した記載もない。
また,訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載から,訂正発 明2の核酸分解処理装置は,「暴露部」の「ガス濃度情報」及び「庫内\n差圧情報」を基に,「生成ガス量」及び「バイオガスの排気量」を制御 し,「暴露部」の「庫内ガス濃度」及び「庫内差圧」の両者を一定にする制御を行うものであることを理解できること(前記(ア)),本件明細 書の発明の詳細な説明には,「本発明」は,訂正発明2の構成を採用し\nたことにより,フィードバック制御により暴露部の暴\露空間内における 温度,湿度,濃度の定量的制御を行うことができ,検体の種類に対応し た短時間で高効能を発揮する条件を定義することができるという効果を\n奏すること(【0021】,【0196】)の開示があること(前記(1) イ(イ))を総合すると,訂正発明2は,フィードバック制御により暴露\n部の暴露空間内の温度,湿度,「庫内ガス濃度」及び「庫内差圧」の定\n量的制御を行うことにより,検体の種類に対応した短時間で高効能を発\n揮する条件を定義することができるようにしたことに技術的意義がある ことが認められる。 そして,訂正発明2の上記技術的意義に照らすと,「庫内差圧」を陰 圧の数値範囲に制御する必然性は見いだし難い。また,本件明細書全体 をみても,「庫内差圧」を陰圧の数値範囲に制御することによって,陽 圧の数値範囲に制御することと比して有利な効果を生じるなどの技術的 意義があることについての記載も示唆もない。
(ウ) 以上の訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載及び本件明 細書の記載に鑑みると,訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の検出の対 象となる「庫内差圧」は,「庫内」(暴露部の暴\露空間内)の圧力と暴露空間外の圧力との差圧であれば,特定の数値範囲のものに限定される\nものではなく,陰圧の数値範囲のものに限定されるものでもないと解す べきである。 したがって,訂正発明2の「庫内差圧検出手段」は,「滅菌タンク内 がタンク外よりも陰圧であることを検出する庫内差圧検出手段」であっ て,滅菌タンク内のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出するものであると限定解釈した本件審決の判断は誤りである。
イ 甲2の開示事項について
・・・
このように,甲2における「本発明」の第2の実施の形態は,ホルム アルデヒドガスの給排気状況に依存して生じる被殺菌空間の室内と室外 との圧力差を検出する微差圧検出器56を備え,微差圧検出器56によ り検出された検出値がコントロールユニット58に帰還(フィードバッ ク)され,コントロールユニット58により被殺菌空間内の室内から室 外に排気される空気に含まれるホルムアルデヒドガス等の排気量及び室 内に給気する空気の給気量を制御することにより,被殺菌空間の室内の 圧力を一定にするという構成を備えるものである。\nそうすると,甲2における「本発明」の第2の実施の形態の「微差圧 検出器56」,「コントロールユニット58」及び「排気量調整電磁弁 74及び送風機82」は,それぞれ,訂正発明2における「庫内差圧検 出手段」,「上記庫内差圧検出手段による検出結果から得られる庫内差 圧情報が…帰還され」る「上記排気量制御手段」及び「上記排気量制御 手段により制御される排気処理手段」に相当するものと認められる。 したがって,甲2には,相違点2に係る訂正発明2の構成が開示され\nているものと認められる。

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平成30(行ケ)10071  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月26日  知的財産高等裁判所

 前訴で訂正要件とともに、進歩性も判断しており、これに沿ってなされた審決の取消事件です。本件訴訟において、被告は、確定した前訴判決(取消判決)の拘束力が及ぶと主張しましたが、裁判所は、引用発明1に基づく進歩性違反については、本件被告も反論も尽くされているので,甲5を主引用例とする本件訂正発明9の進歩性について判断したことは,裁判所に委ねられている訴訟指揮権の範囲内に属する事柄であると判断しました。
 本件は、経緯が複雑です。前訴では、前件審決が本件訂正のうち,請求項9及び10に係る訂正を認めなかった判断に誤りがあるとした上で,更に本件訂正後の請求項9ないし11に係る発明の容易想到性について審理し,これらの容易想到性を認めることはできない旨の判断をし,前件審決のうち,本件特許の請求項9ないし11に係る部分を取り消すとの判決(以下「前訴判決」という。)をしました。その後,前訴判決は,確定しています。

 被告は,確定した前訴判決(取消判決)の拘束力に従って認定判断した本件 審決の取消しを求める本件訴訟は,前訴判決による紛争の解決を専ら遅延させ る目的で提起されたものであり,本件訴えの提起は,訴権の濫用として評価され るべきものであるから,本件訴えは,不適法であり,却下されるべきである旨主 張する。 そこで検討するに,原告主張の本件審決の取消事由中には,前訴判決が判断し なかった相違点についての本件審決の判断に誤りがあることを理由とするもの (前記第3の3(1)ア)が含まれていることに照らすと,本件訴えの提起が,前訴の蒸し返しであるものと直ちにいうことはできず,訴権の濫用に当たるものと認 めることはできない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。
2 取消事由1−1(甲5を主引用例とする本件訂正発明9の進歩性の判断の誤 り)について
(1) 前訴判決の拘束力等について
確定した前訴判決は,請求項9に係る本件訂正を認めなかった前件審決の 判断に誤りがあるとした上で,1)前訴被告(本件訴訟の原告)は,本件訂正 による請求項9に係る訂正が認められる場合でも,本件訂正発明9は「引用 発明1」(本件審決の引用発明5)に基づき容易に想到できる旨主張し,前 訴原告(本件訴訟の被告)の反論も尽くされているので,進んで,本件訂正 発明9の容易想到性について判断する,2)本件訂正発明9と「引用発明1」 は,前件審決が認定した本件発明9と「引用発明1」との相違点9−2に加 えて,少なくとも相違点9−A及び相違点9−Bの点でさらに相違すること が認められる,3)相違点9−Aに関し,「引用発明1」の製造方法は,本件 訂正発明9の「前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し(但し,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く),それにより発生す る空隙を有する導電性材料を得る方法」とは異なることが明らかであり,甲 5は,銀フレークを端部でのみ焼結させて,端部を融合させる方法を開示す るにとどまり,焼成の際の雰囲気やその他の条件を選択することによって, 銀の粒子の融着する部位がその端部以外の部分であり,端部でのみ融着する 場合は除外された導電性材料が得られることを当業者に示唆するものではないから,「引用発明1」に基づいて,相違点9−Aに係る構成を想到するこ\nとはできない,4)よって,その余の点について判断するまでもなく,本件訂 正発明9は,当業者が,「引用発明1」に基づき容易に想到できるというこ とはできない旨判断し,前件審決のうち,本件発明9は甲5に記載された発 明と周知技術に基づいて容易に発明をすることができたことを理由に,本件 特許の請求項9に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消した。 前訴において,原告は,平成29年5月29日付け準備書面(1)(甲5 6)に基づいて,甲5には,「銀フレークがその端部(銀フレークの周縁部 分)でのみ融着している場合」の記載がないから,甲5に記載された発明は, 銀フレークがその端部(銀フレークの周縁部分)でのみ融着している構成の\nものとはいえず,相違点9−Aは,本件訂正発明9と甲5に記載された発明 の相違点ではない旨主張した。これに対し被告は,同年6月29日付け準備 書面(原告その2)(甲53)に基づいて,甲5には,端部(周縁部分)を 有する銀フレークを用い,該銀フレークの端部(周縁部分)のみで,銀フレ ーク同士を融着させる製造法であり,銀フレークの周縁部分のみ融着した導 電性材料を得られるものであることについて十分にサポートされている旨主\n張し,原告の上記主張を争った。
前訴判決の上記認定判断及び審理経過によれば,前訴判決が前件審決のう ち,本件特許の請求項9に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消すとの結論を導いた理由は,本件訂正を認めなかった前件審決の判断に誤 りがあること,本件訂正後の請求項9に係る発明(本件訂正発明9)は,当 業者が甲5に記載された発明に基づいて相違点9−Aに係る本件訂正発明9 の構成を容易に想到することができないから,甲5に記載された発明に基づ\nき容易に発明をすることができたとはいえないとしたことの両者にあるもの と認められ,かかる前訴判決の理由中の判断には取消判決の拘束力(行政事 件訴訟法33条1項)が及ぶものと解するのが相当である。 そして,前訴判決確定後にされた本件審決は,前訴判決と同様の説示をし, 本件訂正発明9は,当業者が甲5に記載された発明(引用発明5)に基づいて相違点9−3(相違点9−Aと同じ)に係る本件訂正発明9の構成を容易\nに想到することができないから,その余の点について判断するまでもなく, 引用発明5に基づき容易に発明をすることができたとはいえないと判断した ものである。 そうすると,本件審決の上記判断は,確定した前訴判決(取消判決)の拘 束力に従ってされたものと認められるから,誤りはないというべきである。
(2) 原告の主張について
原告は,1)前訴判決は,本来,専門的知識経験を有する審判官の審判手続に より審理判断をすべき本件訂正発明9の無効理由について,審判官の審判手続に よる審決を経ずに,技術常識を無視した認定判断をしたものであり,最高裁昭和 51年3月10日大法廷判決の趣旨に反するものであるから,前訴判決の上記 認定判断に拘束力を認めるべきではなく,前訴判決の拘束力に従った本件審決 の相違点9−3の認定及び判断は誤りである,2)甲5の図3,甲40の【0 033】ないし【0035】及び図5の記載事項に照らすと,甲5記載の銀 粒子融着構造は,本件訂正発明9の銀粒子融着構\\\造と一致するから,本件審 決における引用発明5の認定に誤りがあり,その結果,本件審決は,相違点 9−3の認定及び判断を誤ったものである旨で主張する。 しかしながら,上記最高裁大法廷判決は,特許無効の抗告審判で審理判断さ れなかった公知事実との対比における特許無効原因を審決取消訴訟において新たに主張することは許されない旨を判断したものであるところ,前訴判決 は,前件審決で審理判断された甲5を主引用例として,甲5に記載された発 明と本件訂正発明9とを対比し,本件訂正発明9の進歩性について判断した ものであり,上記最高裁大法廷判決は,前訴判決と事案を異にするから,本件 に適切ではない。 次に,前訴判決が,前記(1)のとおり,前訴被告(本件訴訟の原告)は,本件訂正による請求項9に係る訂正が認められる場合でも,本件訂正発明9は 「引用発明1」に基づき容易に想到できる旨主張し,前訴原告(本件訴訟の 被告)の反論も尽くされているので,進んで,本件訂正発明9の容易想到性 について判断するとした上で,甲5を主引用例とする本件訂正発明9の進歩 性について判断したことは,裁判所に委ねられている訴訟指揮権の範囲内に 属する事柄であるといえるから,相当である。 さらに,原告は,本件審決における相違点9−3の認定及び判断に誤りが あることの根拠として,前訴判決と同一の引用例である甲5とともに,甲4 0を挙げるが,甲40は,甲5の記載事項の認定に関する原告の主張を補強 する趣旨で提出されたものであって,新たな公知事実(引用例)を追加する ものではないから,前訴判決の拘束力を揺るがすものとはいえない。 したがって,本件審決における相違点9−3の認定及び判断に誤りがある との原告の上記主張は,理由がない。

◆判決本文

前訴判決はこちらです

◆平成29(行ケ)10032

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平成30(行ケ)10054  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月4日  知的財産高等裁判所(3部)

進歩性違反無しとした審決が維持されました。知財高裁は、「甲1文献の記載から,経日安定性の改善のために引用発明1の構成を2剤に変更するという解決手段を読み取れるにもかかわらず,さらに,甲2文献記載の技術事項を組み合わせる動機付けは見当たらない。」と述べました。
 原告は,本件発明1は,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合 わせることにより,当業者が容易に想到することができたものであると主 張する。
イ そこで検討するに,甲1文献における「比較例4,8〜10は発泡性, ガス保留性試験においては実施例2同様良好であったが,経日安定性に著 しく劣った。」(上記2(1)ケ)との記載から,引用発明1には経日安定性 に問題があることが理解され,当業者は,経日安定性の改善を課題として 見いだすといえる。 そして,1) 甲1文献に「後記特定組成の発泡性化粧料は,2剤型であ る為経日安定性に優れ,」(同エ)との記載があり,経日安定性試験の結 果が◎又は○である実施例1〜11(第1表)は2剤型の構\成であること (同ク),2) 経日安定性が○である比較例3(第2表)は,同様の第1\n剤と炭酸水素ナトリウムのみをPEGで被覆した粉末の2剤型の構成であ\nること(同ケ)から,炭酸塩と酸とを2剤に分ければ経日安定性が向上す ること,及び酸を水溶液とし,炭酸塩をPEG被覆すればアルギン酸ナト リウムが存在せずとも経日安定性は十分となることが理解できる。そうす\nると,これらの甲1文献に開示された事項に基づき,引用発明1の経日安 定性を改善しようとした場合,炭酸塩と酸との反応で経日安定性が低下す ることを避けるため,引用発明1において,「アルギン酸ナトリウム・炭 酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物」という構\n成を,「アルギン酸ナトリウム・炭酸塩含有PEG被覆粉末1」と「酸含有PEG被覆粉末2」との2剤に分けることは,当業者であれば容易に想 到するといえる。
このように,甲1文献の記載から,経日安定性の改善のために引用発明 1の構成を2剤に変更するという解決手段を読み取れるにもかかわらず,\nさらに,甲2文献記載の技術事項を組み合わせる動機付けは見当たらない。 また,引用発明1は二酸化炭素による血行促進作用によって皮膚を賦活 化させるための化粧料で,アルギン酸ナトリウムは安定な泡を生成し,二 酸化炭素の保留性を高めるために配合されているのに対し,甲2文献には 二酸化炭素の発生についての記載はなく,甲2文献記載の技術事項におけ るアルギン酸ナトリウムは二価以上の金属塩類との反応により皮膜を形成 するためのものであって,化粧料の使用目的もアルギン酸ナトリウムの配 合目的も異なるものである。そして,甲1文献及び甲2文献には,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合わせた場合に引用発明1における 発泡性及びガス保留性を維持することができることを示唆する記載もない から,このことからも,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合わ せる動機付けがあることは否定される。
ウ 以上によれば,本件発明1について,当業者が,引用文献1に甲2文献 記載の技術事項等を適用することによって容易に想到することができたと いうことはできない。また,以上に述べたところは,本件発明9における相違点Dについても妥当する。これによれば,本件発明2〜8,10〜13についても,同様 に,容易に想到することができたとはいえない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,引用発明1にはダマ形成問題及び攪拌問題が存在するから,こ れらの課題を解決するために,甲2文献記載の技術事項を組み合わせる動 機付けがあると主張する。
(ア) ダマ形成問題について
ダマとは粉末の水和が早いことにより起こり,粉末の回りを水分子が 取り囲んで塊となり,粉末の内部まで水が浸透していかず,粉末が均一 に水に分散しない状態をいうと解され,アルギン酸ナトリウムを水に溶 解する際にダマが生じる問題があることが認められる(甲2,59〜6 2)。 しかし,甲1文献にはこのような問題について記載も示唆もない。そ して,引用発明1のように炭酸塩とアルギン酸ナトリウムの混合物がP EGで被覆された粉末においては,アルギン酸ナトリウムは少しずつ水 に溶解することが容易に理解され,このような炭酸塩とアルギン酸ナト リウムとの混合物がPEGで被覆された粉末と,被覆のないアルギン酸 ナトリウム粉末では水和のし易さが異なるから,引用発明1において, アルギン酸ナトリウムを水に溶解する際の一般的な問題が同等に当ては まるということはできず,当業者が,引用発明1につきダマ形成問題の 課題を見出すとは認められない。 また,原告は,甲44文献の記載によれば,PEGの被覆によりダマ 形成問題は解消しないと主張するが,原告の指摘する「主成分(ママコ を生じ易い糊料)の特性が阻害されたり,糊液粘度も変動する等の問題 点を抱えており,ママコの形成方法ないし消失法として効果的でなかっ た」との記載は,PEGの被膜によりママコが消失したとしても,異な る問題が生じ得ることを示したものと解され,引用発明1においてダマ 形成問題があることの根拠とはならないのは明らかであるから,原告の 主張は採用できない。 以上によれば,当業者は,引用発明1においてダマが形成されるとい う問題が生じるとは理解しないというべきである。
(イ) 攪拌問題について
原告は,引用発明1において,アルギン酸ナトリウムがダマを形成し, また,アルギン酸ナトリウムの水溶液濃度の上昇に伴って粘度が飛躍的 に上昇し,これと並行して炭酸塩と酸の反応が進行するから,少しでも 多くの二酸化炭素を取り込むためには難溶解性のアルギン酸ナトリウム の溶解及び均一化をできる限り短時間で行うことが求められ,そのため の徹底的な攪拌が不便かつ煩わしいという問題があると主張する。 しかし,このような問題は甲1文献に記載も示唆もなく,かえって,発泡性及びガス保留性は◎という引用発明の試験結果に照らせば,引用 発明の構成において,少しでも多くの二酸化炭素を取り込むために,素\n早く徹底的な攪拌操作をする必要があり,これが煩わしいという課題が あるとは解し得ない。
イ 以上のとおり,引用発明1において,当業者が原告の主張する課題を見 いだすとは認められないから,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組 み合わせることの動機付けがあるということはできず,原告の主張は採用 できない。

◆判決本文

こちらは分割出願に関する関連事件(審決取消事件)です。

◆平成30(行ケ)10033

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平成30(行ケ)10048  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月6日  知的財産高等裁判所

 動機付けがなく、むしろ阻害要因があるとして、無効理由なしとした審決が維持されました。
(4) 相違点3の容易想到性について
ア 前記認定に係る各文献の記載によれば,まず,甲9の軸受保持部材28は, 鍔部及び係止爪と類似する構成であるフランジ34と突起32とを有するものの,\n当該軸受保持部材28は,回転するカッター軸38を回転自在に支持するものでは なく,オイルシール40と,ころがり軸受であるオイルレスベアリング42とを支 持するものであり,軸受け部材に相当するものではない。 他方,甲5〜8,10〜16及び18は,いずれも,軸受け部材に関する技術が 記載されたものと認められるところ,弾性変形可能な係止爪が外周に突出し,基端\n側に鍔部を有し,また,係止爪は先端側に向かうほど当該軸受け部材における軸の 回転中心との距離が短くなる斜面を有している軸受け部材を,固定された板状体に 対して装着し,当該板状体に設けられた穴に軸を回転自在に支承するものである点 で共通するものの,固定された板状体以外の部材に装着することについての記載や 示唆はない。 また,甲17においては,軸受Aが装着されるボス(6)自体は板状体ではないもの の,ボス(6)は板状のベース(5)に固定されたものであり,軸受Aのフランジ板(1)と爪 片(4)の係合突起(4a)との間にのみボス(6)が配置されるものである。そうすると, 甲17と甲5〜8,10〜16及び18とは,直接に装着する対象そのものが板状 体であるか否かという点で違いはあるものの,いずれも装着される部材は板状体又 は板状のものに固定された部材であり,これをフランジと爪片との間で狭持するよ うにして固定する軸受け部材である点で共通するといえる。 以上を踏まえると,甲5〜8及び10〜18により,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する,滑り軸受けである軸受け部材において,弾性変形可能な\n係止爪が外周に突出しており,基端側に鍔部を有しており,同係止爪は先端側に向 かうほど軸受け部材における軸の回転中心との距離が短くなる斜面を有している軸 受け部材。」を周知技術として認定することができる。これは,本件審決認定に係 る周知軸受け部材に相当する。なお,甲5〜18の全ての文献から,軸受け部材に 関する周知技術というべき共通の技術事項を認めることはできない。
イ また,その余の文献の記載を見ても,まず,甲2〜4は,いずれもY字形を なし,二股に分かれた部分の先端付近に一対の回転体を設けて構成される美容器に\nおいて,回転体が非貫通状態で軸に支持されることを開示するものの,当該回転体 の支持構造として,本件発明1のような「係止爪」及び「段差部」を用いるものではない。\n次に,甲19の1のマッサージローラーは,その内装面に周囲を巡る凹部を備え, 「段差部」に類似する構成を有するものといい得るものの,マッサージローラー自\n体が弾性材料より構成されることにより,鞘の外装面の周囲を巡る隆起との間でス\nナップ結合をすることができるようにしたものである点で,本件発明1とは異なる。 他方,甲20の1のプラグ200は,フランジ201及びラッチアーム204に 突起205を有する点で,本件発明1の軸受け部材に類似する構成を有するものと\nいい得るものの,プラグ200は,2つのモジュールを固定するものであって,支 持軸に設けられる軸受け部材として機能するものではない。加えて,プラグ200\nは,モジュール140の貫通した孔からロックピン240を挿入することにより, プラグ200のラッチアーム204がモジュールの開口のラッチ凹部から離脱する のを防止するものであるから,非貫通状態の回転体を支持するために用いることを 前提としないことは明らかである。 そうすると,軸受け部材を用いて軸に対して非貫通状態の回転体を支持する際に, 回転体の内面に段差部を設けるとともに,軸受け部材には当該段差部に係止する係 合爪を用いる構成が開示されていることを認めるに足りる証拠はない。\n
ウ そもそも引用発明1は,ベアリング12及びL型ベアリング13という2つ の軸受け部材を用いることによって,ローラー4を回転自在に支承するものであるところ,これを1つの軸受け部材に置き換えることが可能であることを記載ないし\n示唆する証拠は見当たらない。 また,仮に引用発明1のベアリング12及びL型ベアリング13を1つの軸受け 部材に置き換えることが可能であったとしても,引用発明1のローラー4は,顔面\nに接触させて回転させるものであり,その長手方向と直交する方向に荷重がかかる ことは明らかであるところ,1つの軸受け部材に置き換えてしまうと,ローラーを その根元の部分でのみ支承することとなってしまい,ローラーを安定して回転させ ることが困難となることは容易に推察される。 そうすると,引用発明1のベアリング12及びL型ベアリング13を1つの軸受 け部材に置き換える動機付けはなく,むしろ阻害要因が存するといえる。
エ 以上より,引用発明1に甲2〜20の1記載の事項を適用することによって, 相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者にとって容易に想到し\n得ることとはいえない。
オ 原告の主張について
(ア) 原告は,甲5〜18記載の事項を引用発明1に適用することが容易である ことを理由として無効理由の主張を行っているのではなく,これらの文献から共通して抽出される構成が周知の軸受け部材であるとし,これを引用発明1に適用する\nことが容易であったと主張しているにもかかわらず,本件審決は,各文献記載の事 項を個別に判断しており,その判断手法に誤りがあるなどと主張する。 しかし,甲5〜18の全ての文献から軸受け部材に関する周知技術というべき共 通の技術事項を見出すことはできないことは,前記のとおりである。本件審決は, その記載を通じて見れば,そのような理解を前提とした上で,個々の証拠における 軸受け部材を引用発明1に適用できるかを検討したものと理解されるのであり,そ の判断手法に違法があるものとはいえない。
(イ) 原告は,本件審決による周知軸受け部材の認定には誤りがある旨主張する けれども,この点に関する本件審決の判断に誤りがないことは前記のとおりである。
(ウ) 原告は,本件審決につき,実施可能要件適合性の判断においては甲5〜1\n8の記載を参酌し,板状体ではない回転体に使用する軸受け部材に係る係止片を弾 性変形させる場合に所定のクリアランスを設けることは技術常識であると認定する 一方で,進歩性の判断においては,甲5〜18の周知技術の認定として,これが技 術常識でないことを前提として判断しており,その認定・判断に矛盾があるなどと 主張する。 この点に関する原告の主張の趣旨は,やや判然としないが,そもそも,本件審決 は,実施可能要件適合性の判断の際,「係止爪を弾性変形させるために所定のクリ\nアランスを設けること」を技術常識として認定するにあたり,甲5〜18を参酌し たものではない。また,上記技術常識が認められるか否かと,甲5〜18の記載か ら原告主張に係る周知軸受け部材を認定し得るか否かとは,直接的な関係はない。 すなわち,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する,滑り軸受けである 軸受け部材において,弾性変形可能な係止爪が外周に突出しており,基端側に鍔部\nを有しており,同係止爪は先端側に向かうほど軸受け部材における軸の回転中心と の距離が短くなる斜面を有している軸受け部材」(本件審決認定に係る周知軸受け 部材)において,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する」ことは,係 止爪が弾性変形するためのクリアランスを設けることを前提とするか否かとは直接 的な関係がないことから,仮に係止爪が弾性変形するためのクリアランスを有する ことが技術常識であることを前提としても,その認定が異なることはない。
(エ) その他原告がるる指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は 採用できない。
(5)小括
以上のとおり,少なくとも,引用発明1に甲2〜20の1記載の事項を適用する ことによって,相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者にとっ\nて容易に想到し得たものとはいえない。そうである以上,その余の点を論ずるまで もなく,本件発明1を容易に発明することができたとはいえない。

◆判決本文

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◆平成30(行ケ)10049

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平成30(ネ)10033  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年1月31日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 大阪高裁は無効理由ありとして、1審の判断を取り消しました。1審では時期に後れた主張とされた無効主張も却下されませんでした。
1 争点3−4(乙64の1を主引用例とする進歩性欠如の無効理由の有無)に ついて
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて\n
被控訴人は,控訴人が当審において追加主張した乙64の1を主引用例と する進歩性欠如(争点3−4)を無効理由とする特許法104条の3第1項 の規定に基づく無効の抗弁(以下「本件無効の抗弁」という。)について, 民事訴訟法157条1項に基づき,時機に後れた攻撃防御方法に当たるもの として却下することを求める申立てをしたので,以下において判断する。\n
ア 前記第2の1(前提事実等)の(6)及び一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 控訴人は,平成27年4月17日の原審第4回弁論準備手続期日に おいて,被告準備書面(2)に基づき,実施可能要件違反の無効理由(争点\n3−1)による無効の抗弁の主張をし,同年9月14日の原審第7回弁 論準備手続期日において,被告準備書面(5)に基づき,明確性要件違反(争 点3−2)の無効理由による無効の抗弁の主張をした。 その後,原審の受命裁判官は,同年10月27日の第8回弁論準備手 続期日において,本件の侵害論の審理を終了し,損害論の審理を進める と述べた上で,控訴人に対し,被控訴人の損害主張に対し具体的に認否 反論し,必要な書面を提出するよう求めた。
(イ) 控訴人は,平成28年5月19日,本件発明1,2,6及び8につ いての本件特許を無効にすることを求める別件無効審判を請求した。 同年12月13日の原審第12回弁論準備手続期日において,控訴人 は,被告準備書面(10)に基づき,別件無効審判と同一の無効理由(サポー ト要件違反(争点3−3)の無効理由及び本件無効の抗弁に係る無効理 由を含む。)による無効の抗弁を追加して主張したのに対し,被控訴人 は,同期日において,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下 することを求める申立てをした。原審の受命裁判官は,被控訴人の上記\n申立てを容れて,控訴人の上記無効の抗弁に係る主張及び証拠を却下した。\n
(ウ) 特許庁は,平成29年12月15日,本件訂正後の請求項1,6及 び8に係る発明についての本件特許には,サポート要件違反(争点3− 3)の無効理由及び本件無効の抗弁に係る無効理由が存在するとして, 上記特許を無効とする別件審決をした。 同月20日の原審第18回弁論準備手続期日において,控訴人は,被 告準備書面(15)に基づき,別件審決が認めたサポート要件違反の無効理 由及び本件無効の抗弁に係る無効理由による無効の抗弁を再度追加して 主張したのに対し,被控訴人は,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法 として却下することを求める申立てをした。原審の受命裁判官は,被控訴人の上記申\立てを容れて,控訴人の上記無効の抗弁に係る主張及び証拠を却下した。 原審は,同日,原審第2回口頭弁論期日において,本件訴訟の口頭弁 論を終結した後,平成30年3月22日,被控訴人の請求を一部認容す る原判決を言い渡した。 この間の同年1月20日,被控訴人は,別件審決の取消しを求める別 件審決取消訴訟を提起した。
(エ) 控訴人は,平成30年4月9日,本件控訴を提起した。控訴人は, 同年6月5日付けの控訴理由書において,被告準備書面(10)及び(15)を 引用して,サポート要件違反(争点3−3)の無効理由による無効の抗弁 及び本件無効の抗弁を記載した。 同年7月24日の当審第1回弁論準備手続期日において,控訴人は, 控訴理由書に基づき,本件無効の抗弁を主張し,被控訴人は,控訴答弁 書に基づき,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下すること を求める申立てをした。\n同年10月15日の当審第2回弁論準備手続期日において,控訴人は, 同年8月31日付けの控訴人準備書面(1)及び同年9月14日付けの控 訴人準備書面(2)に基づき,本件無効の抗弁の主張を補足し,被控訴人は, 同年10月1日付けの被控訴人第1準備書面に基づき,本件無効の抗弁に対する反論及び訂正の再抗弁を主張した。 その後,当裁判所は,同年12月10日の第1回口頭弁論期日におい て,本件口頭弁論を終結した。
イ 前記アの認定事実によれば,控訴人の当審における本件無効の抗弁の主 張は,原審において侵害論の審理を終了し,損害論の審理に入った段階で 提出されたため,時機に後れた攻撃防御方法として却下された主張と同旨 のものであるが,控訴人は,原審口頭弁論終結前に本件無効の抗弁に係る 無効理由の存在等を認めて本件特許を無効とする旨の別件審決がされた のを受けて,当審において再度提出したものであること,控訴人は,控訴 理由書に本件無効の抗弁を記載し,当審の審理の当初から本件無効の抗弁 を主張していたことが認められるから,当審における控訴人による本件無 効の抗弁の主張の提出が時機に後れたものということはできない。また,当審の審理の経過に照らすと,控訴人による本件無効の抗弁の主張の提出 により,訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められない。 したがって,当審における控訴人による本件無効の抗弁の主張を時機に 後れた攻撃防御方法として却下することはしない。
(2) 本件明細書の記載事項等について
ア 本件発明1,2及び6の特許請求の範囲(請求項1,2及び6)の記載 は,前記第2の1(前提事実等)の(2)のとおりである。
・・・
前記aの記載事項によれば,乙64の2には,押しボタン式バルブ の下側で不燃性液体の上側の位置に,通気性を有する「連続気泡状パ ッキング」を挿入した,不燃性液化ガスを充填した噴射口を有する「噴 気式清掃機」の記載があり,その「連続気泡状パッキング」は,缶体 を逆さまにして使用しても不燃性液体がバルブ側の空間に漏れて液体 のまま噴出することを防止するためのものであることの記載があるこ とが認められる。 そして,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」は,連続気泡 を有する多孔質体であり,図2(別紙3)から円筒状の缶体内に挿入 された円板状の形状であることを理解できるから,「円板状多孔質 体」として,本件発明1の「通気性蓋状部材」に該当するものと認め るのが相当である。
(イ) 乙64の1には,スプレー缶を倒立状態で使用した場合や缶を倒立 状態で保管する場合に液漏れの原因となり,可燃性液化ガスの液漏れに より火炎が発生するおそれがあるため,吸収性能・保液性に優れた吸収\n体を提供することが課題であること(【0004】,【0054】)の 記載がある。 一方で,乙64の2には,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」 は,缶体を逆さまにして使用しても不燃性液体がバルブ側の空間に漏れ て液体のまま噴出することを防止するためのものであることの記載があ ることは,前記(ア)bのとおりである。 そうすると,乙64の1及び乙64の2に接した当業者は,乙64の 1の第1発明において,スプレー缶を倒立状態で使用した場合の吸収体 に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防止を確実にするために,乙6 4の1の第1発明に乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」の構成\nを適用する動機付けがあるものと認められる。 また,乙64の1の「具体的には,スプレー缶形状に合わせて,その 内径に適した大きさの円筒状の成形体とすると,充填が容易にできる上, 使用中も安定してスプレー缶内に保持することができる。」(【003 2】)との記載から,スプレー缶の使用中に吸収体を安定して保持する 必要性があることを理解できる。 以上によれば,当業者は,スプレー缶を倒立状態で使用した場合の吸 収体に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防止を確実にし,吸収体を 安定して保持するために,乙64の1の第1発明において,乙64の2 の連続気泡状パッキングを適用する際に,乙64の2記載の連続気泡状 パッキングの構成のものを吸収体の表\面に密接に配置し,相違点2に係 る本件発明1の構成を容易に想到することができたものと認められる。\n
(ウ) これに対し被控訴人は,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング4」は,バルブ2の下側に空間を形成するため缶体1に固定されている 必要があるため,肩部からバルブ側に押し込むように固定され(図2), バルブ2側に十分大きい空間が形成されないので,倒立状態では,比重\nの重い液体が下側(バルブ2側)へ移動し,バルブ側の空間に容易に液 が漏れることになって,倒立状態のまま噴射を継続することができない こと,乙64の2には,図2以外に,「連続気泡状パッキング4」の充 填状態について具体的に説明する記載はないことからすると,乙64の 1の第1発明に乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」を組み合わ せる動機付けはないし,また,乙64の1の第1発明に乙64の2記載 の「連続気泡状パッキング」を組み合わせたとしても,本件発明1の通 気性蓋状部材の構成に至ることはない旨主張する。\nしかしながら,乙64の1の第1発明において,スプレー缶を倒立状 態で使用した場合の吸収体に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防 止を確実にするために,乙64の1の第1発明に乙64の2記載の「連 続気泡状パッキング」の構成を適用する動機付けがあることは,前記\n(イ)のとおりである。 また,乙64の2には,連続気泡状パッキングが図2で示された位置 に配置することが不可欠である旨の記載はなく,連続気泡状パッキング の具体的な設置方法及び設置場所は,当業者が適宜決定すべき事項であると認められる。 さらに,乙64の2の【0012】の「連続気泡状パッキング4を挿 入し,たとえ缶体1を逆さまにして使用しても不燃性液体3が液体のま ま噴出することなく,ガスの整流性が良くなる。」との記載に照らすと, 乙64の2の「噴気式清掃機」が連続気泡状パッキングを挿入したため に倒立状態のまま噴射を継続することができないものと理解すること はできない。 したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。
・・・
(7) まとめ
以上のとおり,本件発明1,2及び6は,乙64の1の第1発明及び乙6 4の2記載の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた ものと認められ,進歩性を欠くものであるから,本件特許には,特許法29 条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判 により無効とされるべきものと認められる。
2 争点3−5(訂正の再抗弁の成否)(本件発明1及び6に関し)について
被控訴人は,本件訂正により,訂正前の請求項1及び6(本件発明1及び6) の無効理由は解消され,かつ,被告製品は,本件訂正発明1及び6の技術的範 囲に属するから,被控訴人は,控訴人に対し,本件特許権を行使することがで きる旨主張する。 そこで検討するに,本件訂正発明1(本件訂正後の請求項1)は,灰分含有 量を「1重量%以上12重量%未満」とするものであり,本件発明2と同一の 構成であるところ,前記1(5)のとおり,本件発明2は,乙64の1の第1発明 及び乙64の2の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで きたものと認められるから,本件発明1の無効理由は,本件訂正により解消されるものとはいえない。 また,前記1(6)で説示したのと同様の理由により,本件発明6の無効理由は, 本件訂正により,解消されるものとはいえない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の上記主張 は理由がない。
3 結論
以上によれば,本件発明1,2及び6は,進歩性を欠くものであり,本件特 許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があ り,特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,被控訴人は, 同法104条の3第1項の規定により,控訴人に対し,本件特許権を行使する ことはできない。

◆判決本文

関連の審決取消し訴訟です。

◆平成30(行ケ)10012

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平成30(行ケ)10027  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年1月28日  知的財産高等裁判所

 訂正の可否が争われて、知財高裁は特許庁の判断を取り消しました。争点は引用発明の認定誤りです。
 本件発明1における揮発性作業流体は,ストリッピング処理過程に付 す前に海産油に添加される液体であって,当該ストリッピング処理過程 において,海産油中に存在するある量の環境汚染物質が当該揮発性作業 流体と一緒に該海産油から分離されるものである。また,当該揮発性作 業流体はC10〜C22の遊離脂肪酸を含む。さらに,当該揮発性作業 流体はストリッピング処理過程で油から分離されるものであるから,「揮 発性」とはトリグリセリド等の油よりも揮発性が高いことを意味すると 解される(本件明細書の段落【0014】,【0021】,【0057】, 【0059】〜【0061】)。
 これに対し,甲2発明1におけるリノール酸は,ストリッピング処理 過程に付す前にサケ頭油に添加される液体であって,当該ストリッピン グ処理過程において,コレステロールと共に蒸留されるものである(上 記(1)ウ)。そして,リノール酸はC18の不飽和脂肪酸であって,トリ グリセリドと比較すると揮発性が高い(上記(1)ア)。 そうすると,本件発明1における揮発性作業流体と,甲2発明1にお けるリノール酸とは,除去対象物質が環境汚染物質であるかコレステロ ールであるかとの点で違いがあるものの,いずれもトリグリセリドと比 較して揮発性が高く,除去対象物質と共に蒸留される液体であるとの点 で共通する。また,リノール酸は,本件明細書において揮発性作業流体 として例示された「C10〜C22の遊離脂肪酸」に該当する。 したがって,甲2発明1におけるリノール酸は,本件発明1における 揮発性作業流体に当たると認めるのが相当である。 よって,この点についての本件審決の認定には誤りがある。
(オ) 小括
以上によれば,本件審決には,相違点6について,リノール酸が揮発 性作業流体といえるのか否かが明らかではないと認定した点において, 誤りがあるというべきである。

◆判決本文

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平成28(ワ)6494  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年12月18日  大阪地方裁判所

 被告製品は,特許権者製の使用済み芯管と一体化すると、本件特許の構成要件を充足するので、「のみ要件」を満たすと判断しました。\n
   イ 構成要件Aの「用いられ」の意味
前記アを前提に検討すると,構成要件Aのうち「ロールペーパの回転速度を\n検出するために支持軸に角度センサを設け」との記載は,本件ロールペーパ等の「複 数の磁石」につき,そのような位置に配置されることを特定するものと理解でき, また,構成要件Aのうち「ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその固\n定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設け」と の記載は,本件ロールペーパ等について,そのような態様で回転させられることを 特定するものと理解できるし,構成要件Cの「測長センサ」も,構\成要件Aの記載 によって特定されると理解できる。 そうすると,本件発明に係る薬剤分包用ロールペーパの技術的範囲は,構成要件\nBないしDと,構成要件Aによる本件ロールペーパ等の上記特定に係る事項とから\n画されるものと解されるから,一体化製品が上記技術的範囲に属すれば本件発明の構成要件を充足するものであって,一体化製品が構\成要件Aを充足する薬剤分包装 置に実際に使用されるか否かは,上記構成要件充足の判断に影響するものではない\nと解される。 被告らは,原告製使用済み芯管に,輪ゴムを介してロールペーパを巻いたプ ラスチック筒部をセットした一体化製品が構成要件Aの「用いられ」を充足するた\nめには,一体化製品に,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられる以外の用\n途が存在しないことが必要であると主張し,予備的に,仮にこれが認められないと\nしても,一体化製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられて初めて作用\n効果を奏するものであるから,現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いら\nれることが必要であると主張する。 しかしながら,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に使用可能\な構成を有し,そ\nの他の構成要件をも充足するものとして薬剤分包用ロールペーパが生産,譲渡され\nれば,その時点で本件特許権の侵害は成立するのであって,その後に構成要件Aを\n充足する薬剤分包装置に当該ロールペーパが使用されるか否かは,特許権侵害の成 否を左右するものではない。 被告らは,本件発明の出願経過に照らし,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に\n一体化製品が使用されることが本件特許権侵害に係る必須の要証事実であると主張 するが,原告が,手続補正の際に提出した意見書(乙25)において,本件発明は 構成要件Aを充足する薬剤分包装置に現実に用いられることを必須とする旨を述べたものと解することはできない。\nさらに,被告らは,本件無効審判において,本件訂正後の発明に新規性が認めら れるための構成が特定されたところ,その中には薬剤分包装置に関するものがある\nので,一体化製品が本件発明の技術的範囲に属するかの判断のために,どのような 薬剤分包装置に用いられているかを確認する必要があると主張するが,前記検討し た構成要件Aと,構\成要件BないしDとの関係に照らし,採用できないといわざる を得ない。
ウ まとめ
以上検討したところによれば,本件発明においては,構成要件Aの「用いられ」\nは,構成要件Aの記載によって構\成要件B以下の内容が特定されることを意味する ものとして使われているというべきであるから,そのように特定された構成要件を\n一体化製品が充足する場合には,構成要件Aの「用いられ」を充足すると解され,\nこれ以上に,構成要件Aの「用いられ」が,一体化製品が構\成要件Aを充足する薬 剤分包装置以外には使用されないこと,あるいは現実に構成要件Aを充足する薬剤\n分包装置が存在することを,要件として定める趣旨と解することはできない。
(2)争点(1)イ(一体化製品は「2つ折りされたシート」(構成要件A)を充足す\nるか。)について
ア 被告らは,構成要件Aの「2つ折りされたシート」とは,ロールペーパを薬\n剤分包装置内で2つ折りにするシングルタイプのロールペーパの使用を前提として おり,あらかじめ2つ折りにされたダブルタイプのロールペーパは含まれない旨を 主張する。
イ そこで,検討するに,本件明細書【0018】には,「分包部は,三角板4 で2つ折りにされた際にホッパ5から所定量の薬剤が投入された後,ミシン目カッ タを有する加熱ローラ6により所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシー ルするように設けられている。」との記載があるが,本件明細書【0011】の記 載によれば,本件発明は,一定の張力を保ったままシートを分包部に供給すること により,シートに耳ずれや裂傷が生じることなく薬剤を分包することを可能とする\nものであり,この技術的思想に関しては,給紙部から分包部に送られてくるシート があらかじめ2つに折り畳まれたダブルタイプであっても,折り畳まれてい ション現象が生じるため,)張力変動により分包部でシートを2つ折りした際にシ ートの縁部が正確に重ならない,いわゆる耳ずれが生じ」るという問題は,シング ルタイプのロールペーパを分包部において2つ折りにしてできた空隙に薬剤を投入 した後シートの両側縁部と幅方向に加熱融着する場合であっても,ダブルタイプの ロールペーパを分包部において折り目を広げてその空隙に薬剤を投入した後同様に 加熱融着する場合であっても,同様に生じ得る。 さらに,原告は,本件特許につき拒絶理由通知(乙24)を受けて本件補正を行 っているが,本件明細書【0018】の記載に基づくものであり,元の記載がシン グルタイプのロールペーパを分包部において折り畳むことのみを指すと解するのは 相当ではない(乙25)。
ウ 以上によれば,ダブルタイプのロールペーパを使用する一体化製品も,「2 つ折りされたシート」(構成要件A)を充足するというべきである。
(3) 争点(1)全体についての判断
ア 被告らは,一体化製品につき,構成要件Aのうち,「測長センサ」,「シー\nトを送りローラで送り出す給紙部」,「上記支持軸と上記中空軸の固定支持板間で」, 「中空軸のずれを検出する」といった要件を充足しない旨を主張するが,原告製造 の特定の薬剤分包装置の構成についての主張であり,構\成要件Aと構成要件B以下\nとの関係を前述のとおり解する以上,意味のない主張といわざるを得ない。
イ 一体化製品は,前記第2の1(5)のとおりの構成を有するところ,被告らは,\n構成要件Aに関し,争点(1)ア及びイについて争うものの,構成要件B以下の充足性\nについては争うことを明らかにしておらず(当初,構成要件B及びDの充足を争っ\nたが,後に撤回した。),弁論の全趣旨によれば,一体化製品の構成aは本件発明\nの構成要件Bを,構\成bは構成要件Cを,構\成cは構成要件Dを充足すると認めら\nれ,一体化製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置において使用されることが可\n能な構\成を有すると認められる。
ウ 以上によれば,一体化製品は,構成要件AないしEをすべて充足するから,\n本件発明の技術的範囲に属すると認められる。
エ なお,原告は,被告日進が前訴において構成要件Aの充足性を争わなかった\nことから,本訴訟において構成要件Aの充足性を争うことは信義則に反する旨を主\n張するが(争点(1)ウ),被告日進は,前訴とは異なる製品の関係で,構成要件Aの\n充足性を本訴訟で主張したと認められるから,この点を争うことが信義則に反する とまではいえない。
3 争点(2)(特許権侵害が成立するか。)について
(1) 問題の所在
ア 前記2によれば,一体化製品を完成して譲渡すれば,その時点において特許 権侵害が成立することになるが,前記第2の1(4)及び(5)のとおり,被告らは,一体 化製品それ自体を生産,譲渡しておらず,プラスチック筒部の外周に薬剤分包用シ ートを巻き回したロールペーパ,すなわち一体化製品のうち原告使用済み芯管のな い物を被告製品として生産,譲渡し,これを入手した利用者が,輪ゴムを介してロ ールペーパに原告製使用済み芯管を挿入し,これを一体化製品とした上で,薬剤分 包装置に使用している。
イ この点について,原告は,1)被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いる物 であるとして,特許法101条1号の間接侵害を主張するほか,2)被告らの行為は, 顧客との共同による特許権の直接侵害に当たること,3)被告らの行為は,顧客の特 許侵害に対する教唆又は幇助に当たることを主張するので,まず間接侵害の成否に ついて検討する。
(2) 争点(2)ア(被告製品は,一体化製品の「生産にのみ用いる物」と認められる か。)について
ア 被告製品の販売方法
証拠(甲4,5,21,36,文中掲記のもの)によれば,以下の事実が認めら れる。
被告日進の販売するロールペーパの製品には,商品名の冒頭に「A」の付く 製品(被告製品。以下「Aタイプ」という。)と「B」の付く製品(以下「Bタイ プ」という。)があり,両タイプは,それぞれ分包紙の材質として「グラシン」紙 又は「セロポリ」紙を選択できるようになっている。 被告日進が平成28年11月に公開していたウェブサイト(甲20)によれ ば,Aタイプの分包紙の芯管内径は67mmであって,「外径65mm前後の分包機用 芯管に装着可能」とされ,Bタイプの分包紙の芯管内径は52mmであって,「外径 50mm前後の分包機用芯管に装着可能」とされた。\n薬剤分包用ロールペーパとして,外径65mm前後の芯管を製造しているのは 原告のみであり,外径50mm前後の芯管を製造しているのは株式会社タカゾノのみ である(弁論の全趣旨)。
前記ウェブサイトの「よくある質問Q&A」の欄には,「Q.他社分包機に 装着するには特別な道具が必要ですか?」という質問に対し,「A.弊社分包紙は, 『使用済み分包機メーカー製芯管』を使用することによって,お客様ご使用の分包 機に装着することができます。つまり,『使用済み分包機メーカー製芯管』が1個 お手元にあれば繰り返し装着することができます。」との回答が記載されていた。 被告日進が平成28年1月頃にユーザである製剤薬局等に配布していた説明 資料(甲9)には,「使用済み分包機メーカー製芯管」に輪ゴム等を取り付け被告 日進が販売する分包紙製品に差し込むことにより,芯管の空回りを防止しながら被 告日進製以外の分包機において使用する方法がイメージ図や注意事項付きで詳細に 説明されている。
まとめ
以上によれば,被告日進が販売する分包紙のうちAタイプ(被告製品)は,原告 製使用済み芯管と一体化して原告製の薬剤分包装置に使用されることを前提として 生産され,原告製の薬剤分包装置を使用し,既に原告製使用済み芯管を保有してい る者に対し,購入の案内がされたものと認められる。
イ 他の用途について
被告日進製の薬剤分包装置
前記被告日進のウェブサイト(甲20)には,「複数メーカー機に装着可能」と\nいう文言と共に,「分包紙は当社分包機の専用分包紙であり,各社分包機メーカー 及び貴社ご使用の分包機メーカーとは無関係で,承認を受けた製品ではありません。」 という記載があり,前記説明資料(甲9)にも同様の記載があることが認められる。 しかし,被告らの主張によっても,被告日進は,経済産業省により「平成25年 度補正中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」に選定され た後,平成26年に被告日進製の薬剤分包装置について営業活動を開始し,平成2 7年にカタログを作成し,平成28年5月12日に1台,同年10月25日に1台 の被告日進製の薬剤分包装置を販売したことが認められるにとどまる(甲17,乙 1,11,36)。 他方,被告製品は平成26年12月から販売されており,原告代理人は,平成2 8年1月頃に,被告らに対し,本件特許権に基づき被告製品の製造販売の中止等を 求める警告書(甲10)を送付し,同年7月4日に本訴を提起したことが認められ る。 前記時系列によれば,被告製品の販売が開始された当初,これを被告日進製 の薬剤分包装置に装着することはおよそ予定されておらず,むしろ,原告との紛争\nが顕在化した後に,わずか2台を製造販売したにとどまる。 エルク製分包装置(甲19,乙2,14〜16) 被告製品を,エルク製分包装置において使用されている芯管(外径約60mm。以 下「エルク製芯管」という。)に挿入してエルク製分包装置に装着し使用するため には,被告製品の空回りを防止するために厚さ3.2mm程度のOリングを2個,エ ルク製芯管に装着することが必要であり,さらに,被告製品の外径(約193mm) が大きすぎるため,そのままではエルク製分包装置に正常に装着できず,使用開始 に当たって長さ330mの分包紙中約88ないし100m分を廃棄する必要がある ことが認められる。 よって,被告製品をエルク製分包装置に装着して使用することは相当の困難と無 駄を伴い,経済的に合理性のある使用とはいえない。
ウエダ製分包装置(甲23,乙17,18)
ウエダ製分包機については,特定の顧客が,その支持軸を独自に製作した支持軸 に取り換えるという改造を施すことにより,被告製品を装着して使用していること が認められる。 しかし,同顧客の保有するウエダ製分包機は20年以上前に販売が終了している 機種であり,ウエダ製分包機を保有する他のユーザが同様の改造を施して被告製品 を使用することは考えにくいし,改造を施さないウエダ製分包装置において,被告 製品を正常に装着して使用できると認めるべき証拠もない。 よって,被告製品をウエダ製分包装置に装着して使用することは,一般的な使用 方法ということはできない。
タカゾノ製分包装置(乙20,21)
株式会社タカゾノ製の薬剤分包装置において使用されている薬剤分包用ロールペ ーパが,被告製品と同様の構成であることを認めるに足りる証拠はない。\n
まとめ
被告日進製の薬剤分包装置については,被告製品の販売が一定期間行われた後に, わずか2台が製造,販売されたにとどまるものであるから,被告製品が使用された としてもごくわずかといわざるを得ないし,被告以外の薬剤分包装置に被告製品を 使用することには困難が伴い,現実的ではないといわざるを得ないから,被告製品 については,原告製薬剤分包装置に使用する以外の用途は,実質的には存在しない といわざるを得ない。
ウ 争点(2)アについての判断
前記ア及びイで検討したところによれば,被告製品は,原告製使用済み芯管と一 体化し,一体化製品として原告製薬剤分包装置に使用することを想定して生産,譲 渡され,これ以外の用途は実質的には存在しないというべきであるから,被告製品 は,一体化製品の生産にのみ用いるものと認めるのが相当である。
(3) 特許権侵害についての判断
被告らが被告製品を生産,譲渡した段階では,回転角度の検出に用いる磁石を配 置した原告製使用済み芯管はこれと共には存在せず,本件特許の構成要件の全部を\n充足するものではないが,前記(2)で検討した通り,被告製品は,原告製使用済み芯 管と一体化して,本件特許の構成要件を充足する状態で使用することが予\定されて おり,他の用途が実質的に存在せず,一体化製品の生産にのみ用いられるものと認 められるのであるから,被告製品の生産,譲渡は,特許権の直接侵害に至る蓋然性 が極めて高いものとして特許法101条 1 号の間接侵害に当たり,本件特許権を侵 害するものとみなすべきものである。

◆判決本文

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平成28(ワ)4759  不当利得返還請求事件  特許権 平成30年12月20日  大阪地方裁判所

 特許の均等侵害における第1要件の判断において、先行の29条の2の先行文献を考慮して、本質的部分の判断がなされました。被告製品は、Amazonの「Kindle paperwhite」です。
(エ) 以上によれば,乙8には,「ホログラムの単位幅における格子部幅/非 格子部幅の比が,導光板の前面出射面から出射する光を効率よく,また,面内で均 一に出射されるように,管状光源から離れる側の方が増大せしめられている」構成\nが開示されているといえる。
ウ したがって,乙8発明は,本件発明の構成要件Bと同一の構\成を備える ものであるから,相違検討点2は相違点とはいえない。
エ 原告の主張について
原告は,乙8には,導光板に設けるホログラムの面積密度を増減させる技術思 想が開示されているだけで,回折格子の単位幅における格子部幅/非格子部幅の比を変化させる技術思想は開示されていないと主張する。 しかし,前記アのとおり,本件発明も,格子部の面積の変化を通じて,導光板の 表面における輝度を増大させ,かつ均一化させるものであり,本件発明と乙8発明\nはその解決課題と解決原理を共通にしている。 そして,上記のとおり,乙8には,本件発明の構成要件Bの構\成を備えたホログ ラムの構成が開示されていると認められるから,本件発明の構\成要件Bはこれを別 の表現で記述したものにすぎず,同一の構\成が開示されていることに変わりはない。 したがって,原告の主張は採用できない。
(6) 小括
以上によれば,本件発明と乙8発明とは,前記の相違検討点1において相違す るから,同一の発明とはいえず,乙8による特許法29条の2違反の無効理由が存 するとは認められないが,本件発明と乙8発明とは,その解決課題及び解決原理を 共通にしており,解決手段たる回折格子の種類についてのみ相違するにすぎないと いうことができる。
・・・
(ア) 本件明細書に記載された従来技術及びその課題
前記認定のとおり,本件明細書では,本件発明に関する従来技術として, 導光板の下面に多数の多面プリズムをもつ透明アクリル樹脂からなり,プリズムに よる光の全反射を利用する導光板が記載されており,その具体例として,特開平5 −127157号公報記載の平面照光装置(本件明細書の図6参照)が挙げられて いる。 そして,その従来技術によっても液晶表示パネルを下方から輝度ムラが少なく明るく照らすことができると記載されているが(【0003】),1)導光板の下面にある 多面プリズムの一辺が例えば0.16mmと,光の波長に比べて相当大きいものである うえ,各プリズムが協同することなく個別に光を全反射するものであるため,導光 板の輝度を全体に高めようとすると,各プリズムの間の谷間にあたる箇所で乱反射 が起きて上面に向かう光量が減り,照光面である上面に極端な明暗のコントラスト が生じるという課題,及び2)このような導光板を設けた平行照光装置を電池で駆動 される液晶表示装置に用いると,照光面に向かう上記光量の減少を補って高輝度を\n得るべく,光源を大電流で照らす必要があるため,電池の寿命が短くなって,長期 使用ができなくなるという課題があったことが記載されている(【0004】)。
(イ) 本件発明の課題解決手段
本件発明は,従来技術の上記課題を解決するため,「光の幾何光学的性質を 利用した従来のプリズムによる全反射でなく,・・・光の波動の性質に基づく回折現象 を利用して,従来より遥かに高く,かつ均一な輝度を照光面全体に亘って得ることが でき,ひいては光源の電力消費の低減による電池の長寿命化も図ることができる導 光板を提供すること」を目的として(【0005】),本件発明の構成を採用したもの\nである。その構成は,(a)透明な板状体である導光板の裏面に回折格子を設け,導光 板の少なくとも一端面から入射する光源からの光をその表面側へ回折させるという点(構\成要件A),(b)上記回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅/非 格子部幅の比の少なくとも1つを,上記導光板の表面における輝度が増大し,かつ\n均一化されるように変化させる点(構成要件B)である。
(ウ) 本件発明の作用効果
本件発明の導光板は,α 少なくとも一端面から光源からの光が入射する透 明な板状体の裏面に設けられた回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅 /非格子部幅の比の少なくとも1つが,上記導光板の表面における輝度が増大し,\nかつ均一化されるように変化せしめられているので,光の波長に比べて寸法が大き く互いに協同することなく個別に光を幾何光学的に全反射する従来の導光板裏面のプリズムと異なり,ミクロン単位の互いに隣接する微細な格子が協同,相乗して波動 としての光を格段に強く回折できるうえ,β 上記一端面から離れて光源から届く光 量が減じるほど,光をより強く回折するように上記断面形状または単位幅における 格子部幅/非格子部幅の比が調整されているので,導光板の表面は高輝度で非常に\n均一に照らされる。 したがって,γ この導光板を電池で駆動される液晶表示装置,液晶テレビ,非常口 を表示する発光誘導板などに適用すれば,従来に比して格段に少ない消費電力で明\nるく均一な照明を得ることができ,光源および電池の寿命を延ばし,長期使用を可 能にすることができる(【0009】,【0023】)
(エ) もっとも,本件の場合,本件明細書に従来技術が解決できなかった課 題として記載されているところは,以下のとおり,出願時の従来技術に照らして客 観的に見て不十分なものと認められる。
a 導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは光量が減るとの課題(上記(ア)1))を,導光板の裏面に回折格子を設け,回折現象を利用して解決する構成(上記(イ)の(a),上記(ウ)α)について
本件明細書では,導光板の従来技術として,プリズムによる全反射を利用したもののみが記載され,回折現象は今まで導光板に用いられることがなかった と記載されている。 しかし,原告は平成6年3月11日に自ら,発明の名称を「回折格子を利用した バックライト導光板」とし,特許請求の範囲(請求項1)を「成形加工及び印刷 (転写を含む)された回折格子を裏面に有する事を特徴とするプラスチック製のバ ックライト導光板。なをここで裏面とは,液晶面と反対側の面と定義する。」とする 特許の出願をし,その明細書では,【課題を解決するための手段】の項において, 「導光板裏面に光と干渉する程度に微細なスリット形状を成形加工ないし印刷(転 写を含む)し,この反射格子により導光板の一端から入射する光を液晶面側に回折 させる。」(【0006】)と記載し,【発明の効果】の項において,この発明によれば蛍光管からの光を回折格子という極小単位の形状(格子スリットのピッチがサブミ クロンから数十ミクロン)の大きさのものの作用により,導光板面を均一に輝らす\n事ができるので,従来からのドット印刷や全反射を利用した導光板裏面加工による 方式に比較して,格段の面輝度とその均一性が可能になる。」(【0017】)と記載\nしていた(特願平6−79172)(乙10,20)。そして,これは本件発明の構\n成要件Aと同じ構成を備えた発明と認められる。\nまた,前記1で技術的意義等を認定した乙8発明も,回折格子の種類は同じとは 認められないものの,導光板の裏面に回折格子を設け,回折現象を利用して光量の 増大を図る発明である(乙8発明のようないわゆる拡大先願発明も参酌すべきこと は後記のとおりである。)。 以上より,導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは光量が減ると の課題は,本件特許の出願日において,本件発明と同じく導光板の裏面に回折格子 を設け,回折現象を利用することによって既に解決されている課題であったと認め られる。
b 導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは照光面に極 端な明暗のコントラストが生じるとの課題(上記(ア)1))を,回折格子の断面形状ま たは単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の少なくとも1つを,上記導光板の 表面における輝度が増大し,かつ均一化されるように変化させることにより解決す\nる構成(上記(イ)の(b),上記(ウ)β)について 先に争点2−2(前記1)について述べたとおり,乙8発明も,導光板 の裏面にホログラムの回折格子を設け,回折現象を利用するものであり,かつ,本 件発明の構成要件Bと同一の構\成を備え,それにより,導光板の表面から出射する\n光を効率よく,また,面内で均一に出射されるようにするものである。もっとも, この乙8発明に係る特許の出願日は平成7年10月27日であり,本件特許の出願 よりも前に出願されたものであるが,乙8発明に係る特許について出願公開がされ たのは平成9年5月16日であり(乙8),本件特許の出願後であるから,乙8発明 はいわゆる拡大先願発明に該当するにすぎない。しかし,特許法29条の2は,特 許出願に係る発明が拡大先願発明と同一の発明である場合を特許要件を欠くものとしているところ,その趣旨の中には,先願の明細書等に記載されている発明は,出 願公開等により一般にその内容が公表されるから,たとえ先願が出願公開等をされ\nる前に出願された後願であっても,その内容が先願と同一内容の発明である以上, さらに新しい技術を公開するものではなく,そのような発明に特許権を与えること は,新しい発明の公開の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみ て妥当でないとの点がある。このように特許法が,先願の明細書等に記載された発 明との関係で新しい技術を公開するものでない発明を特許権による保護の対象から 外している法意からすると,均等侵害の成否の判断のために発明の本質的部分とし て従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を認定するに当た\nっては,拡大先願発明も参酌すべきものと解するのが相当である。 そうすると,導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは照光面に極 端な明暗のコントラストが生じるとの課題は,本件特許の出願日において,回折格 子として刻線溝又はエンボス型のホログラムを用いるか体積・位相型のホログラム を用いるかの違いがあるとはいえ,本件発明と同じく,回折格子の単位幅における 格子部幅/非格子部幅の比を,導光板の表面における輝度が増大し,かつ均一化されるように変化させることによって既に解決されている課題であったと認められる。\n
c そして,本件発明の,少ない消費電力で明るく均一な照明を得るこ とができないとの課題(上記(ア)2))は,上記a及びbで述べた課題が解決されるこ とに伴い解決されるものである(上記(ウ)γ)から,やはり既に解決されている課題 であったと認められる。
d 以上からすると,本件発明が課題とするところは,いずれも本件特 許の出願時の従来技術によって,同様の解決原理によって解決されていたといえる。 本件発明がそれらの従来技術と異なる点は,回折格子の単位幅における格子部幅/ 非格子部幅の比を,導光板の表面における輝度が増大し,かつ均一化されるように変化させることについて,体積・位相型のホログラムではなく,刻線溝又はエンボ\nス型のホログラムを用いた点にあるが,回折格子としては後者の方がむしろ通常で あること(前記1(4)ウ(ア),(エ),(オ))からすると,本件発明の従来技術に対する 貢献の程度は大きくないというべきである。
ウ 以上よりすれば,本件発明の本質的部分については,特許請求の範囲の 記載とほぼ同義のものとして認定するのが相当である。 この点について,原告は,本件発明の本質的部分は,光の波動の性質に基づく回 折現象を利用して,回折格子の断面形状又は単位幅における格子部幅/非格子部幅 の比に着目した点にあると主張するが,これまで述べたことに照らして採用できな い。
エ そうすると,被告製品の導光板では,前記のとおり,微細構造体が回折\nされた光が進行する側に設けられていることから,構成要件Aでいうところの「表\ 面」に微細構造体が設けられ,光源からの光が「表\面」側に回折させられている。 したがって,被告製品の導光板は構成要件Aの「板状体の裏面に設けられた回折格\n子」という部分を充足していない。よって,被告製品が本件発明の本質的部分を備えているということはできず,本件発明と被告製品とは本質的部分において相違すると認められるから,被告製品は,均等の第1要件を充足しない。

◆判決本文

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