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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

裁判手続

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和5(ネ)10103  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 実質的に前訴の蒸し返しであり、本件訴訟は信義則に反すると判断されました。控訴人(1審原告)の本人訴訟です。

前記認定のとおり、原告は、前件訴訟において、被告の代表者であったAの原告 に対する行為(前件主張等に係るパワーハラスメント)が不法行為を構成すると主 張し、会社法350条に基づいて、被告に対し、損害賠償金の支払を求めたところ、 前件訴訟の裁判所は、前件主張について「本件国内移行手続を執ることを中止する 旨決定したAの行為は、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであったとはいえ ず、原告に対するパワーハラスメントに当たるとはいえない」旨認定判断し、原告 の当該損害賠償請求を棄却する旨の判決をした。同判決は、最高裁判所による上告 棄却決定及び上告不受理決定により確定した。
しかるところ、本件訴えは、原告において、被告が本件国内移行手続を執らなかった行為及び本件発明の権利化の機会を原告に与えなかった行為(本件行為)が本件譲渡契約上の債務不履行を構成すると主張し、被告に対して、債務不履行に基づく損害賠償金の支払を求めるものであり、形式的にみれば前件訴訟と訴訟物を異にするものであるが、実質的にみれば、本件発明に係る本件国内移行手続が執られず、これが権利化されることがなかったという同一の社会的事実について、前件訴訟ではこれを被告の代表者であったAの 原告に対する不法行為と構成し、本件訴えでは被告の債務不履行と構成したものに すぎない。本件訴えにおいて原告の主張する債務不履行の成否は、結局のところ、 Aが本件発明について本件国内移行手続を執らない旨決定したことが、当時の状況 に照らし、業務上必要かつ相当な判断であったかによって決まる性質のものであり、 前件訴訟において、この点に関する原告の主張が排斥されることにより、本件訴訟 において原告が主張するような債務不履行が成立しないことについても、実質的な 判断がされているといえる。したがって、前件訴訟について原告の請求を棄却する 旨の判決が確定したにもかかわらず、同一の社会的事実について、請求の法的根拠 を債務不履行に変更して訴えを提起した本件訴えは、前件訴訟の蒸し返しといわざ るを得ない。
また、前記認定事実によると、原告は、前件訴訟において、本件訴えに係る請求 と同様の請求をすることにつき何らの支障もなかったものと認められるにもかかわ らず、更に原告が被告に対して本件訴えを提起することは、前件訴訟において全部 勝訴の確定判決を得た被告の法的地位を不当に長く不安定な状態に置くことになる。 その他、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件訴えの提起は、信義則に反 し許されないものと解するのが相当である。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10069  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所

無効審判の判断について争いましたが、第一次判決の拘束力により、請求理由なしと判断されました。

前記第2の1(特許庁における手続の経緯等)並びに証拠(甲39、乙22)及 び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(1) 原告は、令和元年11月12日、本件各発明に係る本件特許について特許 無効審判の請求をした。
(2) 特許庁は、令和3年10月8日、本件訂正を認めた上、本件発明1等に係 る本件特許を無効とし、本件発明4に係る本件特許に対する審判請求は成り立たな い旨の第一次審決をした。第一次審決においては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて 容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明 をすることができたものとはいえない。
(3) 被告は、令和3年11月13日、第一次審決のうち本件発明1等に係る本 件特許を無効とした部分の取消しを求める訴えを提起し、原告は、同月16日、第 一次審決のうち本件発明4に係る本件特許に対する審判請求は成り立たないとした 部分の取消しを求める訴えを提起した。
(4) 知的財産高等裁判所は、被告の訴えに係る事件及び原告の訴えに係る事件 を併合審理した上、令和4年8月31日、被告の請求を認容し、第一次審決のうち 本件発明1等に係る本件特許を無効とした部分を取り消すとともに、原告の請求を 棄却する旨の第一次判決を言い渡し、第一次判決は、その後確定した。第一次判決 においては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて 容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明 をすることができたものとはいえない。
(5) 特許庁は、令和5年5月22日、本件訂正を認めた上、本件各発明に係る 本件特許についての審判請求は成り立たない旨の本件審決をした。本件審決におい ては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて 容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明 をすることができたものとはいえない。
(6) 原告は、令和5年6月29日、本件審決のうち審判請求を不成立とした部 分の取消しを求めて本件訴えを提起した。本件訴訟における原告の主張は、前記第 3のとおりであるが、結局、次のとおり要約することができる。
ア 本件発明1等と甲1引用発明との間に本件構成に係る相違点2及び相違点4\nは存在しないというべきである。しかるところ、本件審決は、このような相違点が あることを前提に、本件発明1等に係る本件構成は、いずれも本件出願日前に当業\n者が甲1引用発明に基づいて容易に想到し得たとはいえないと判断した点において 判断を誤っている。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明 をすることができたものであるから、その進歩性を認めた判断は誤りである。
2 本件発明1等に係る本件特許について(審決取消判決の拘束力)
(1) 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が 確定したときは、審判官は、特許法181条2項の規定に従い、当該審判事件につ いて更に審理を行って審決をすることとなるが、審決取消訴訟は、行政事件訴訟法 の適用を受けるから、再度の審理又は審決には、同法33条1項の規定により、当 該取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに 必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は、取消判決の当該 認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって、再度の審判手 続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につき、こ れを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは、当該主張を裏 付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束 力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟におい てこれを違法とすることができないのは当然である。
このように、再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決の主文のよ って来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた 再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判 決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消) 事由たり得ない。
以上を特許発明の進歩性判断が問題となる特許無効審判事件の審決の取消訴訟に ついて具体的に考察すると、特許無効審判の対象とされた特許発明が、特許出願前 に当業者において特定の引用例に記載された発明に基づき容易に発明をすることが できたとはいえないとの理由により、当該特許発明に係る特許を無効とした審決の 認定判断が誤りであるとして当該審決を取り消す旨の判決がされ、これが確定した ときは、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は、同一の引用例 に記載された発明に基づく進歩性の判断に当たり、当該判決と異なる認定判断をす ることは許されない。したがって、再度の審決に係る審決取消訴訟において、関係 当事者が、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断が誤りである (当該特許発明は特許出願前に当業者において同一の引用例に記載された発明に基 づき容易に発明をすることができた)として、これを裏付けるための新たな立証を し、また、裁判所が、これを採用して取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決 を違法とすることは許されないと解するのが相当である(前掲最高裁平成4年4月 28日第三小法廷判決参照)。
(2) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、第一次審決(本件発明1 等に係る本件特許を無効とした部分。以下、この(2)及び後記(3)において同じ。) は、本件発明1等につき、これらがいずれも本件出願日前に当業者において甲1引 用発明に基づき容易に発明をすることができたものであると判断して、本件発明1 等に係る本件特許を無効としたところ、第一次判決(第一次審決を取り消した部分。
以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)は、本件発明1等につき、これらがい ずれも本件出願日前に当業者において甲1引用発明に基づき容易に発明をすること ができたものとはいえないと判断して、第一次審決を取り消したものである。また、 第一次判決の確定後にされた本件審決(本件発明1等に係る本件特許に対する審判 請求は成り立たないとした部分。以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)は、 本件発明1等に係る甲1引用発明に基づく進歩性について、第一次判決と同様の判 断をして、本件発明1等に係る本件特許に対する審判請求は成り立たないとしたも のである。
ここで、前記(1)によると、再度の審判請求において、本件発明1等が本件出願 日前に当業者において第一次判決が認定判断した同一の引用例(甲1)に記載され た発明に基づき容易に発明をすることができたか否かにつき、審判官が第一次判決 とは別異の事実を認定して異なる判断を加えることは、第一次判決の拘束力により 許されないのであるから、本件審決は、第一次判決の拘束力に従ってされた限りに おいて適法であるとされなければならない。 そして、前記(1)によると、第一次判決の拘束力に従ってされた本件審決の取消 訴訟(本件訴訟)において、第一次判決の認定判断(本件発明1等が本件出願日前 に当業者において甲1引用発明に基づき容易に発明をすることができたものとはい えないとの認定判断)を否定する関係当事者の主張立証は許されないことになるか ら、原告は、本件訴訟において、このような主張立証(本件発明1等の甲1引用発 明に基づく進歩性欠如の主張立証)をすることができないというべきである。 したがって、甲1引用発明に基づいて本件発明1等が進歩性を欠く旨原告が主張 することは許されない。
(3) 原告は、本件訴訟における原告の主張(取消事由1及び2)につき、これ は「相違点2又は4に係る本件発明1等の構成のうち本件構\成に係る部分は、本件 発明1等と甲1引用発明との相違点ではない」との第一次判決が判断していない事 項についての本件審決の判断の誤りを指摘するものであるから、本件訴訟において 取消事由1及び2を提出することは第一次判決の拘束力に反しないと主張する。 確かに、乙22によると、第一次判決においては、原告が本件訴訟において取消 事由1及び2として指摘する事項(相違点2又は4に係る本件発明1等の構成のう\nち本件構成に係る部分の実質的相違点性)についての判断がされなかったものと認\nめられる。しかしながら、本件発明1等に係る甲1引用発明に基づく進歩性の判断 は、本件発明1等及び甲1引用発明の各認定並びにこれを前提とする一致点及び相 違点の認定を踏まえて行われる法律判断である。前記のとおり、拘束力は、判決主 文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、甲1 引用発明に基づく進歩性欠如を否定した第一次判決の法律判断の前提となった本件 発明1等と甲1引用発明との間の相違点に係る事実認定についても、第一次判決の 拘束力は及ぶというべきである。したがって、本件審決の審判官が、同じ甲1引用 発明に基づく進歩性の判断に当たり、第一次判決とは別異の事実を認定して異なる 判断を加えることは、第一次判決の拘束力により許されず、第一次判決の拘束力に 従ってされた本件審決は適法なものである。原告の主張は、第一次判決の拘束力が 及ぶ事実認定及び法律判断部分について、本件審決が誤りである旨主張し、本件審 決の取消事由とするものにほかならず、前掲最高裁平成4年4月28日第三小法廷 判決に照らし、採用することはできない。
3 本件発明4に係る本件特許について(請求棄却判決の既判力)
行政処分の取消訴訟については、請求棄却判決が確定すると、処分に違法性がな いことについて既判力(行政事件訴訟法7条、民事訴訟法114条)が生じるから、 審決取消訴訟についても、請求棄却判決が確定すると、審決に違法性がないことに ついて既判力が生じる。 しかるところ、最高裁昭和51年3月10日大法廷判決(昭和42年(行ツ)第 28号)民集30巻2号79頁の趣旨を踏まえると、特許発明の進歩性判断が問題 となる特許無効審判事件の審決の取消訴訟における請求棄却判決の既判力は、審決 に違法性一般がないことではなく、特許無効審判事件において審理された特定の引 用例に記載された発明(公知技術)に基づく進歩性の有無について判断した審決に 違法性がないことに関して生じるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前記認定のとおり、第一次判決(原告の請求を棄却 した部分。以下同じ。)は、本件発明4につき、これが本件出願日前に当業者にお いて甲1引用発明に基づき容易に発明をすることができたものとはいえないと判断 して、これと同じ判断をした第一次審決を是認し、原告の請求を棄却したものであ る。そして、第一次判決は、その後確定したのであるから、甲1引用発明に基づき、 本件発明4が進歩性を欠くとはいえないとした第一次審決に違法性がないことは、 既判力をもって確定されているというべきである。
本件で問題となっているのは、本件審決の違法性であって、第一次審決の違法性 ではないが、原告が、本件訴訟において、甲1引用発明に基づき、本件発明4が進 歩性を欠く旨主張(取消事由3)し、進歩性欠如を否定した本件審決の判断部分が 違法である旨主張することは、実質的にみれば、第一次審決の違法性に関し既判力 が生じている部分(同じ引用発明に基づき進歩性がないとはいえないとの判断)に ついて、これと異なる判断を求めるものとして、許されないというべきである。 仮にこの点を措くとしても、甲1発明の半田鏝は、先端部の開口部の径が1.0 mmであり、後端部の貫通孔の径が2.5mmであり、この貫通孔内に半田片が落 下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構成され、これにより、半田片は、途\n中で引っかかって溶融してしまうことなく、そのまま先端まで落下して溶融するも のである(甲1の段落【0006】、【0031】、【0034】)。そうすると、 甲1発明の半田鏝については、甲11から13までに記載されたように半田鏝先端 部の内径を半田鏝後端部の内径より大きくすることには、阻害要因があるというべ きである。したがって、いずれにせよ、本件発明4について、甲1引用発明に基づ いて進歩性を欠くとは認められない旨の本件審決の判断に誤りはない。

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令和4(行ケ)10127等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月18日  知的財産高等裁判所

 争点は、発明特定事項「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」がPBPクレームか否か、その他、第1次判決の拘束力、不可能・非実際的事情の有無、明確性要件、サポート要件などです。知財高裁(4部)は、「不可能\・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の請求項の記載は明確性要件に違反する」と判断しました。

本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2は、「セレコキシブ粒子が、 ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事項 (以下「本件ピンミル構成」ということがある。)を含む(削除された請求\n項を除く他の請求項も、請求項1又は2を直接又は間接的に引用することで 本件ピンミル構成を含むことになっている。)ところ、本件ピンミル構\成を 巡っては、そのクレーム解釈(PBPクレームといえるか否か、「ピンミル のような」は衝撃式ミルの単なる例示か、衝撃式ミルの一部に限定する構成\nかなど)と、当該クレーム解釈を前提とした明確性要件の適合性の議論が重 層的に争われているので、以下、順次検討していく。
(3) まず、本件ピンミル構成がPBPクレームに当たるかについて検討するに、\n本件ピンミル構成に関する本件明細書の【0024】、【0190】の記載\nが、セレコキシブ粒子を粉砕する製造工程、製造方法を開示していることは 明らかであり、したがって、本件訂正によって特許請求の範囲の発明特定事 項とされるに至った本件ピンミル構成についても、「ピンミルのような衝撃\n式ミルで粉砕」するという製造方法をもって物の構造又は特性を特定しよう\nとするもの(その意図が成功しているかどうかはともかく)と理解される。 この限度では、被告が主張し、本件審決が判断を示しているとおりである。 第1事件原告は、製薬組成物の製造には複数の工程が必要であるなどとし てこれを争うが、そのような工程の全てを特定することがPBPクレームと しての必須条件とはいえない。実質的に製造方法の明確性を問題にしている とすれば、この点からの検討は後に示すこととする。
(4) 次に、本件ピンミル構成の意味するところ(例示か限定か)を検討するに、\n「ピンミルのような衝撃式ミル」との特許請求の範囲の文言自体に着目して 考えた場合、1)ピンミルは単なる例示であって衝撃式ミル全般を意味すると いう理解、2)衝撃式ミルに含まれるミルのうち、ピンミルと類似又は同等の 特性を有する衝撃式ミルを意味するという理解のいずれにも解する余地が あり、特許請求の範囲の記載のみから一義的に確定することはできない。 そこで、本件明細書の記載を参照するに、本件明細書の【0024】には、 「セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち、ピンミル(pin mil l)のような衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作 製することは、改善された生物学的利用能を提供するに際して効果的である\nだけでなく、かかる混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性 と関連する問題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミル を利用して粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネ ルギーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体には容 易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が高くなり、 このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合において、非常に 重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合する際のエアージェッ トミルのような液体エネルギーミルの有用性に予期せぬ結果をもたらす。特\n定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕により長い針状からより均一な結 晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質させ、ブレンド目的により適するよ うになるが、長い針状の結晶はエアージェットミルでは残存する傾向が高い と仮定される。」との記載が、【0135】には、「セレコキシブは先ず粉 砕される若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざまな粉砕機若し くは破砕機が利用することが可能であるが、セレコキシブのピンミリングの\nような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組成物に改善さ れたブレンド均一性がもたらせる」との記載がある。
以上の記載に上記(3)の解釈を併せて考えると、本件ピンミル構成は、被\n告が主張(第3の3(6)ア)するように、本件訂正発明に係る薬剤組成物の含 むセレコキシブ粒子が、ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子に見られる のと同様の、長い針状からより均一な結晶形へと変質されて、凝集力が低下 し、ブレンド均一性が向上した構造、特性を有するものであることを特定す\nる構成であって、したがって、「ピンミルのような衝撃式ミル」とは、ピン\nミルに限定されるものではなく、上記のような構造、特性を有するセレコキ\nシブ粒子が得られる衝撃式ミルがこれに含まれ得るものと理解するのが相 当である。
(5) 以上を前提に、本件ピンミル構成を含む本件訂正発明の特許請求の範囲の\n記載が明確性要件を満たすかどうかを検討する。
ア 衝撃式粉砕機に分類される粉砕機としては、本件審決も認定していると おり、多種多様なものがある(ハンマーミル、ケージミル、ピンミル、デ ィスインテグレータ、スクリーンミル等が知られており、ハンマーの形状 によっても、ナイフ型、アブミ型、ブレード型、ピン型等がある。甲イ1 11、112、136)ところ、上記(4)で示したクレーム解釈によると、 衝撃式粉砕機によって粉砕されたセレコキシブ粒子を含む薬剤組成物で あっても、本件特許の技術的範囲に属するものと属しないものがあること になるが、本件明細書に接した当業者において、「ピンミルで粉砕された セレコキシブ粒子に見られるのと同様の、長い針状からより均一な結晶形 へと変質されて、凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上した構造、特性\nを有するセレコキシブ粒子」を製造できる衝撃式粉砕機がいかなるものか を理解できるとは到底認められない。すなわち、一般に、明細書に製造方 法の逐一が記載されていなくても、当業者であれば、明細書の開示に技術 常識を参照して当該製造方法の意味するところを認識できる場合も少な くないと解されるが、本件の場合、本件明細書には、「ピンミルで粉砕さ れたセレコキシブ粒子」の凝集力の小ささ、改善されたというブレンド均 一性が、ピンミルのいかなる作用によって実現されるものかの記載がない ため、衝撃式ミル一般によって実現されるものなのか、衝撃式ミルのうち、 ピンミルと何らかの特性を共通にするものについてのみ達成されるもの なのかも明らかとなっていない。そのため、技術常識を適用しようとして も、いかなる特性に着目して、ある衝撃式ミルが本件ピンミル構成にいう\n「ピンミルのような衝撃式ミル」に当たるか否かを判断すればよいのかと いった手掛かりさえない状況といわざるを得ない。
イ そうすると、本件明細書等に加え本件出願日(明確性要件の判断の基準 時)当時の技術常識を考慮しても、「ピンミルのような衝撃式ミル」の範 囲が明らかでなく、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕」するというセ レコキシブ粒子の製造方法は、当業者が理解できるように本件明細書等に 記載されているとはいえないから、本件訂正発明は明確であるとはいえな い。
ウ ところで、PBPクレームは、物自体の構造又は特性を直接特定するこ\nとに代えて、物の製造方法を記載するものであり、そのような特許請求の 範囲が明確性要件を充足するためには、不可能・非実際的事情の存在が要\n求されるのであるが、本件においては、不可能・非実際的事情を検討する\n以前の問題として、前記ア、イに示したようにそもそも特許請求の範囲に 記載された製造方法自体が明確性を欠くものである。
(6) 本件審決は、「ピンミルのような衝撃式ミルは、いわゆる衝撃式粉砕機で あり、粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機と は異なる粒度分布の粉体を作製する装置であることが理解できるから明確 である」としており、これは、「ピンミルのような」について、「いわゆる 衝撃式粉砕機」のなかでも、さらに、「粉砕された粉体は、ジェットミルの ような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」こと のできる装置であるとの意味づけを与えた認定であると解される。 そして、「ピンミルによる」粉砕が、「粉砕された粉体は、ジェットミル のような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」も のであることについて、本件審決は、本件明細書の、ピンミルと、エアージ ェットミルのような他のタイプのミルとの粉砕物の凝集力の違いに関する 記載(【0024】)、及び、粉砕装置の粉砕機構が異なれば得られる粒子\nの粒度分布が異なるという技術常識を認定したことにより、導き出している ものと認められる。
しかし、本件明細書には、凝集力の違いが、粉砕装置の違いに基づく粒子 の粒度分布の違いに起因するものであるとの記載も示唆もない。粉砕装置の 違いが、粒度分布の違い以外の粒子特性を導くことも当然考えられるところ である(これを否定する技術常識があるとは認められない。)。そうすると、 「ピンミルのような」が、「衝撃式ミル」に対して、さらに「粉砕された粉 体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の 粉体を作製する装置」であるとの意味づけを与えた本件審決の解釈は、本件 明細書等の記載及び技術常識を考慮しても、無理があるものといわざるを得 ない。
(7) 以上より、不可能・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の\n請求項1、2、4、5、7〜13、15、17〜19の記載は明確性要件に 違反するものであり、取消事由3は理由がある。
3 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について
上記2のとおり、取消事由3が認められる以上、本件審決(原告らが取消しを 求めている請求項に関する部分)は既に取消しを免れないものである。しかし、 明確性要件違反の原因となった本件ピンミル構成は、前訴判決がサポート要件\n違反を肯定する判断をしたことを受けて、その瑕疵を回避するために特許請求 の範囲に加えられたという本件の経過を踏まえると、本件訂正後の特許請求の 範囲を前提としたサポート要件の適合性の問題(取消事由2)についても、併せ て判断を示すことが適切と考えられることから、以下に当裁判所の判断を示し ておくこととする。
なお、その場合、本件ピンミル構成を含む特許請求の範囲は明確性要件を欠\nくことが前提となるから、サポート要件の判断においても、本件ピンミル構成\nを発明特定事項として考慮しない前提で検討することとする。
(1) 前訴判決がサポート要件違反を認めて第1次審決を取り消したことは前 述のとおりであるところ、本件においては、前訴判決の拘束力がいかなる範 囲に及ぶかが問題となっているので、まずこの点を検討する。
ア 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判 決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判 事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は 行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法3 3条1項の規定により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束 力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる ものであるから、審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断を することは許されない(最高裁判所昭和63年(行ツ)第10号平成4年 4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
この拘束力は、行政庁が裁判所の判断に反して同一の処分を繰り返し、 同一の案件が行政庁と裁判所の間を往復することを避けるためのもので あり、原則として主文についてのみ生ずる既判力と異なり、判決理由中の 判断であっても、主文に直結する認定判断、すなわち主要事実の認定及び その法規範への当てはめの判断にも及ぶものである。他方、判決の結論と 直接関係のない傍論の説示はもとより、主要事実を確定する過程における 間接事実の認定やその評価にまで及ぶものではなく、また、結論に至る推 論過程を基礎づける論拠、反対主張を排斥する理由等の説示についても同 様である。取消判決の理由中の説示の全てが拘束力を有するとした場合、 結論に影響する意味合いや程度も様々な議論が独り歩きを始め、その解 釈・適用を巡って新たな紛争を拡大させることとなり、そのような状況は、 行政事件訴訟法33条1項の想定するところではないというべきである。
イ 以上を前提に、前訴判決(甲イ86)の判断構造をみておく。\n
(ア) 前訴判決は、まず、サポート要件適合性について、「所定の数値範囲 を発明特定事項に含む発明について、特許請求の範囲の記載が同号所定 の要件(サポート要件)に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な 説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含まれる数値範囲の 全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認識できるか 否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である」とし、「これ を本件発明1についてみると・・・『粒子の最大長において、セレコキ シブ粒子のD90が200µm未満である粒子サイズの分布を有する』こ とを特徴とするものであるから、所定の数値範囲を発明特定事項に含む 発明であるといえる。」としているので、「D90が200µm未満であ る粒子サイズの分布を有する」本件発明1について、その数値範囲の全 体にわたりその課題を解決できるものであるかどうかを検討している。
(イ) そして、前訴判決は、(a)一方で、本件明細書の【0022】、【01 24】、【0135】の記載から、未調合のセレコキシブを粉砕し、「セ レコキシブのD90粒子サイズが約200μm以下」とした場合には、セ レコキシブの生物学的利用能が改善されること、セレコキシブのピンミ\nリングのような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組 成物に改善されたブレンド均一性がもたらせることを示したものとい えるとしつつ、(b)他方で、1)本件発明1の請求項1には、セレコキシブ を微細化する具体的な方法は記載されておらず、本件発明1の「微粒子 セレコキシブ」が「ピンミリングのような衝撃粉砕」により粉砕された ものに限定する旨の記載もなく、かえって、本件明細書の【0135】 には、さまざまな粉砕機・破砕機が利用可能とされていること、2)本件 明細書の【0008】には、長く凝集した針を形成する傾向を有する結 晶形態を有する未調合のセレコシブは、錠剤成形ダイでの圧縮の際に、 融合して一枚岩の塊になり、他の物質とブレンドさせたときでも、セレ コキシブの結晶は、他の物質から分離する傾向があり、セレコキシブ同 士で凝集し、セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する、非均一なブ レンド組成物になるとの記載があること、3)本件優先日当時、粉砕によ り溶出は改善されるが、難溶性薬物は凝集して溶解速度が遅くなること があることが周知又は技術常識であったことを踏まえると、(c)難溶性 薬物であるセレコキシブについて、「『セレコキシブのD90粒子サイズが 約200μm以下(「未満」の誤記と認められる。)』の構成とするこ\nとによりセレコキシブの生物学的利用能が改善されることを直ちに理\n解することはできない」(以下「説示(c)」という。)とした。 また、本件明細書には、(d)「D90」の値を用いて粒子サイズの分布 を規定することの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係\nが説明されていないことを述べた上で、(e)難溶性薬物の原薬の粒子径 分布が化合物によって種々の形態を採ることに照らすと、「200μm 以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分布がどの ようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解するこ\nとはできない」(以下「説示(e)」という。)とした。そして、(f)本件 明細書の例11及び例11−2の実験結果の記載は、微粉化したセレコ キシブを含有する「組成物A」及び「組成物B」(これらに含まれるセ レコキシブのD90粒子サイズは約30μmと推認される。)の生物学的 利用能は、未粉砕、未調合のセレコキシブである「組成物F」の生物学\n的利用能より高いことを示しているが、「組成物A」及び「組成物B」\nに加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナトリウムが、生物学的利用能の\n実験結果に影響した可能性が高いものと認められ、この実験結果から、\n本件発明1の「セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」の数値範囲 の全体にわたり、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善\nするものと認識することはできないとした。
(ウ) 前訴判決は、以上を踏まえた結論として、本件明細書の発明の詳細な 説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が、本件発明1 に含まれる「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が200 μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると 認識できるものと認められないから、本件発明1は、サポート要件に適 合するものと認めることはできないとした。
(エ) 前訴判決の本件発明2〜4のサポート要件の適合性に関する判断は、 以下のとおりである。
本件発明2は「前記粒子の最大長において、前記セレコキシブ粒子の D90が100μm未満であること」を、本件発明3は同40µm未満で あることを、本件発明4は同25µm未満であることをそれぞれ発明特 定事項とするものであるところ、セレコキシブ粒子のD90が200µm 未満である本件発明1がサポート要件に適合するものと認めることが できないことは前記のとおりであると指摘した上で、例11及び例11 −2の実験結果も、ラウリル硫酸ナトリウムが生物学的利用能の実験結\n果に影響した可能性が高いものと認められることに照らすと、上記実験\n結果から、D90が約30µmよりも小さい値とした場合において、未調 合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するものと認識する\nことはできないとして、本件発明2〜4はサポート要件に適合するもの と認めることはできないとした。
(オ) 前訴判決は、本件発明5、7〜19については、請求項1記載の製薬 組成物を発明特定事項に含むものであるところ、「本件発明1がサポー ト要件に適合するものと認めることができないことは前記‥のとおり であるから」という理由により、サポート要件に適合するものと認める ことはできないとした。
ウ 取消判決の拘束力の範囲に関し上記アで述べたところに従って、前訴判 決の拘束力の生ずる部分を検討するに、主文に直結する認定判断(主要事 実の認定及びその法規範への当てはめの判断)は、本件訂正前の特許請求 の範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識(主要事実 の認定に当たる。)を前提に、本件訂正前の特許請求の範囲によって特定さ れる発明(本件発明)が特許法36条6項1号の要件に適合しないとした 判断(法規範への当てはめに当たる。)にほかならず、前訴判決中、拘束力 が生ずるのは当該部分であると解される。
他方、前訴判決の判断過程では、結論に至る推論過程を基礎づける論拠 として、説示(c)、(e)等の様々な理由が示されているが、その逐一について 拘束力が生ずるものではないことは、上記アで述べたとおりである。
エ そもそも、サポート要件は、明細書の記載(特許を受けようとする発明の 開示)から見て広すぎる特許請求の範囲を防ぐ役割を果たすものであると ころ、被告は、本件訂正前の本件発明につきサポート要件違反を認めた前 訴判決を受けて、特許請求の範囲の減縮を目的とする本件訂正の請求をし ており、これが訂正要件を充足することは前記1のとおりである。 その結果、本件では、本件訂正後の特許請求の範囲(ただし、本件ピンミ ル構成は発明特定事項として考慮しない。)に基づく本件訂正発明のサポ\nート要件の適合性が問題となっているのであって、同じサポート要件の適 合性の問題であっても、本件訂正前の特許請求の範囲を前提とする前訴判 決とは判断対象が異なる。それにもかかわらず、「前訴判決の説示(c)、(e) 等に照らせば、本件訂正後の本件訂正発明についても、前訴判決と同様の 判断が妥当する(はずである)」といった推論を戦わせるのは、取消判決の 拘束力の問題とは異質の議論といわざるを得ない。
オ 本件審決は、前訴判決の説示(e)(難溶性薬物の原薬の粒子径分布は・・・、 200μm以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分 布がどのようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解\nすることはできない旨の判示)について、これは、生物学的利用能の改善の\n観点では、90%の粒子の粒度分布も重要であることを述べたものである との理解を示している。そして、ピンミルのような衝撃式粉砕機(衝撃式ミ ル)により粉砕された粉体と、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕 機により粉砕された粉体は、異なる粒度分布の粉体となるという一般的な 知見をもとに、この粒度分布の差異は粉砕機構の差異に由来するものであ\nり、本件明細書に記載されたピンミルのような衝撃式ミルでの粉砕は、他 のタイプのミルとは異なる粒度分布を形成することにより、凝集性及びブ レンド均一性の改善に寄与するとして、説示(c)、(e)を本件訂正発明1が サポート要件に適合する理由の1つにしている。 これに対し、原告らは、D90を30μmにし、「セレコキシブ粒子が、 ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事 項を加えても、90%の具体的な粒度分布は明らかにならないとして、説 示(c)、(e)を本件訂正発明1がサポート要件に適合しない理由としている。 これらは、いずれも、前訴判決の説示(c)、(e)を独立して取り上げ、同判 断に拘束力が生じることを前提とするものと解されるが、失当というべき である。
拘束力の問題を離れて考えても、前訴判決の当該部分の判示は、製薬組 成物の特徴が、実質的に「D90が200µm未満である粒子サイズの分布を 有する」ことで特定されていた本件発明1について、未調合のセレコキシ ブに対して生物学的利用能が改善されるという課題を解決できるものであ\nるかどうかを検討する過程において、上記特定事項で特定しさえすれば、 課題を解決できるものと理解することはできないと判断したものであって、 前訴判決が、本件発明1がサポート要件に適合するには、90%の粒度分 布を示すことが必須の要請であると判断しているとの趣旨まで読み込むこ とには無理がある。
カ よって、前記ウのとおり、前訴判決の拘束力は、本件訂正前の特許請求の 範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識を前提に、本 件訂正前の特許請求の範囲によって特定される発明(本件発明)が特許法 36条6項1号の要件に適合しないとした判断について生じることを前提 に、サポート要件の適合性について判断する。
(2) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細 な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を 定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な 説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な 説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該 発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して 判断すべきものと解される。特に、所定の数値範囲を発明特定事項に含む発 明について、特許請求の範囲の記載が同号の要件に適合するか否かは、当業 者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含ま れる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認 識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
ア 前記第2の2(3)の本件明細書の開示事項によれば、本件訂正発明の課題 は、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経\n口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することであり、\n取り分け、水溶液に溶解しにくいセレコキシブ粒子の特質から、混合中に セレコキシブ同士で凝集し、非均一なブレンド組成物になるとの問題の解 決にあるものと認められる。
具体的には、本件明細書の【0008】では、「・・・セレコキシブは、 水溶性媒体には異常なほど溶解しない。例えば、カプセル形態で経口投与 させた場合、未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために、 容易には溶解せず、分散もしない。加えて、長く凝集した針を形成する傾 向を有する結晶形態を有する未調合のセレコシブは、通常、錠剤成形ダイ での圧縮の際に、融合して一枚岩の塊になる。・・・」として、セレコキシ ブが、水溶性媒体には異常なほど溶解しないこと、未調合のセレコシブが 長く凝集した針を形成する傾向を有することを解決すべき問題として挙げ ている。
イ 上記課題に関係する技術常識として、証拠(甲イ7、16、23、65〜 68、80、103)及び弁論の全趣旨によれば、本件出願日当時、1)粉砕 によって薬物の粒子径を小さくし、比表面積(有効表\面積)を増大させるこ とにより、薬物の溶出が改善されるが、他方で、難溶性薬物については、溶 媒による濡れ性が劣る場合には、粒子径を小さくすると凝集が起こりやす くなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速度が遅くなることがあるこ\nと、2)疎水性の難溶性物質であっても、界面活性剤が存在すると、微粒子は 凝集せずに均一に溶液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は 大きくなることは、周知又は技術常識であったものと認められる。
ウ 上記技術常識を踏まえて、本件訂正発明が上記課題を解決できると認識 できる記載が本件明細書に開示されているかどうかにつき、さらに検討す る。
(ア) 本件明細書の【0022】には「本発明の組成物は微粒子の形態のセ レコキシブを包含する。セレコキシブの一次粒子は、例えば、製粉若し くは粉砕により、又は溶液から沈殿させて生成させ、凝集して二次の集 合体粒子が形成される。本願で利用する用語「粒子サイズ」とは、特に 本願で指摘しない限り、一次粒子の最長の大きさのことをいう。粒子サ イズは、セレコキシブの臨床的効果に影響を与える重要なパラメータで あると考えられる。よって、別の実施例では、発明の組成物は、粒子の 最長の大きさで、粒子のD90が約200μm以下、好ましくは約100 μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは約40μm 以下、最も好ましくは約25μm以下であるように、セレコキシブの粒 子分布を有する。通常、本発明の上記実施例によるセレコキシブの粒子 サイズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改良される。」、\n【0124】には「カプセル及び錠剤中でのセレコキシブの粒子サイズ カプセル若しくは錠剤の形で経口投与されると、セレコキシブ粒子サイ ズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見し\nた。したがって、セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下、 好ましくは約100μm以下、より好ましくは約75μm以下、さらに 好ましくは約40μm以下、最も好ましくは25μm以下である。例え ば、例11に例示するように、出発材料のセレコキシブのD90粒子サイ ズを約60μmから約30μmに減少させると、組成物の生物学的利用 能は非常に改善される。加えて又はあるいは、セレコキシブは約1μm\nから約10μmであり、好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均 粒子サイズを有する。」としており、セレコキシブの粒子サイズを減少 させることで、セレコキシブの生物学的利用能が改善されることが記載\nされている。
(イ) また、本件明細書の【0024】の「セレコキシブと賦形剤とを混合 するに先立ち、ピンミル(pin mill)のような衝撃式ミルでセ レコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作製することは、改善され た生物学的利用能を提供するに際して効果的であるだけでなく、かかる\n混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性と関連する問 題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミルを利用し て粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネルギ ーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体に は容易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が 高くなり、このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合に おいて、非常に重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合す る際のエアージェットミルのような液体エネルギーミルの有用性に予\n期せぬ結果をもたらす。特定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕に より長い針状からより均一な結晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質 させ、ブレンド目的により適するようになるが、長い針状の結晶はエア ージェットミルでは残存する傾向が高いと仮定される。」との記載から、 粉砕により粒子サイズを減少させるについて、ピンミルのような衝撃式 ミルを使用して長い針状からより均一な結晶とし、ブレンド目的により 適するものとすることが記載されている。
(ウ) 本件明細書の【0075】には「加湿剤 セレコキシブは水溶液にか なり溶解しにくい。したがって、本発明の製薬組成物は、任意であるが、 好ましくは、キャリア材料として、一つ又はそれ以上の薬剤学的に許容 な加湿剤を含む。かかる加湿剤は、水と親和性があるようにセレコキシ ブを維持させるように選択することが好ましく、その状態が製薬組成物 の相対的生物学的利用能を改善させると考えられる。・・・」、【00\n76】には「ラウリル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在す るならば、ラウリル硫酸ナトリウムは、組成物の全重量の対して、約0. 25%から約7%、好ましくは約0.4%から約6%、より好ましくは 約0.5%から約5%の量を含む。」として、セレコキシブは水溶液に かなり溶解しにくいために、水と親和性があるようにセレコキシブを維 持させる加湿剤を含むことが好ましいこと、好ましい加湿剤はラウリル 硫酸ナトリウムであること、そのような加湿剤を添加することにより相 対的生物学的利用能を改善できることが記載されている。\n
(エ) 例11−2では、犬モデルでの調合の相対的生物学的利用能の試験\nがされている。 組成物A、Bは微粉化され、ラウリル硫酸ナトリウムが添加されてい る(【0173】、【0174】、表11−2A)。本件明細書の【0\n124】に「・・・例えば、例11に例示するように、出発材料のセレ コキシブのD90粒子サイズを約60μmから約30μmに減少させる と、組成物の生物学的利用能は非常に改善される。・・・」と記載され\nていることから、組成物A、BのD90粒子サイズは約30μmと認めら れる。他方、参考例である組成物Fは、未粉砕、未調合のセレコキシブ である(【0172】)。 生物学的利用能は、メス犬について、組成物Fが16.9%であるの\nに対し、組成物Aは31.2%、組成物Bは24.9%であり(【01 76】、(表11−2C)、オス犬について、組成物Fが16.9%で\nあるのに対し、組成物Aは49.4%、組成物Bは54.2%である(【0 177】、表11−2D)とされ、D90粒子サイズを約30μmに減少\nさせた組成物A、Bにおいて生物学的利用能が明らかに高い結果が示さ\nれている。
エ 以上を総合すると、本件訂正発明1は、粒子の最大長においてD90が3 0μmであるセレコキシブ粒子、及び加湿剤としてのラウリル硫酸ナトリ ウムを含有することを特定するものであるところ、これは、1)セレコキシ ブが長い針状の結晶形態を有することに対応するため、粉砕によって薬物 の粒子径を小さくし、比表面積を増大させることにより、薬物の溶出を改\n善させるために、セレコキシブの粒子サイズを「D90が30μm」に減少 させ、また、2)セレコキシブのような難溶性薬物については、粒子径を小さ くすると凝集が起こりやすくなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速\n度が遅くなるが、界面活性剤が存在すると、微粒子は凝集せずに均一に溶 液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は大きくなることから、 セレコキシブに、界面活性剤同様水に親和性を持たせる湿潤剤であるラウ リル硫酸ナトリウムを含有させることとしたものである。そして、3)具体 的な実験結果においても、D90粒子サイズは約30μmとし、ラウリル硫 酸ナトリウムを含有させたセレコキシブ組成物が、未粉砕、未調合のセレ コキシブに対して優れた生物学的利用能を示しているのであるから(例1\n1−2)、本件訂正発明1は、本件ピンミル構成を発明特定事項として考慮\nしなくても、本件明細書及び技術常識から、「未調合のセレコキシブに対し て生物学的利用能が改善された固体の経口運搬可能\なセレコキシブ粒子を 含む製薬組成物を提供する」という課題を解決できると当業者が認識でき る範囲の発明であるといえる。
本件訂正発明2は、D90が30μmよりも減少した数値範囲である「D 90が30μm未満」と特定されたものであるから、上記本件訂正発明1に ついて述べたところと同様、本件明細書及び技術常識から、上記課題を解 決できると当業者が認識できる範囲の発明であるといえる。 本件訂正発明4、5、7〜13、15、17〜19も、本件訂正発明1及 び本件訂正発明2を直接的又は間接的に引用してこれらをさらに限定する 発明であるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2と同様に、本件明細 書及び技術常識から、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲の 発明であるといえる。

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令和5(ネ)10085 損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  商標権  民事訴訟 令和6年3月7日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審、知財高裁とも、は、DVDのケースの「九鬼神流」などの記載は、商標的使用ではないと判断しました。知財高裁は、消滅時効の追加主張を時期に後れたものとはいえないとして、一部の債権については時効により消滅したと判断し、損害賠償額を減額しました。

被控訴人は、控訴人に対し支払義務を負うとしても、本件訴状が原審裁判所に提 出された令和3年10月14日時点で、平成23年10月14日以前に支払われた 出演料に相当する部分6万9420円(=41万6521円÷(1−0.1)÷7% ×1.05×7%−41万6521円)は消滅時効が成立していると主張し、その 時効を援用していることは記録上明らかであるため、この点について検討する。10 控訴人は、上記主張につき、時機に後れた攻撃防御方法であることや時効援用が 信義則に反することを主張するが、被控訴人の時効主張は、原審での審理経過及び 判断内容を踏まえてされたものであるところ、その主張内容からすると、その審理 のために訴訟の完結を遅延させることとなるものとは認められず、時機に後れたも のとはいえないし、時効援用が信義則に反するものともいえない。 そして、本件訴訟提起時(令和3年10月14日)から遡って10年内に履行期 が到来した債権については、時効期間が経過していないものの、それ以前に履行期 が到来した債権については、本件訴提起時までに時効期間が経過し、かつ、権利行 使が可能であったといえ、時効中断等の事情もうかがわれないことからすると、平\n成23年10月14日以前に支払われた出演料に相当する未払部分6万9420円 (=41万6521円÷(1−0.1)÷7%×1.05×7%−41万6521 円)は消滅時効が完成し、被控訴人の時効の援用によって同額について時効により 消滅したものといえる。
(3) したがって、被控訴人は控訴人に対し、1万5177円(=8万4597円 (訂正の上引用する原判決第5の4(3))−6万9420円(上記(2)))及びこれに 対する履行期の到来後で控訴人の請求する令和3年11月16日から支払済みまで 民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
5 著作権侵害(当審における新たな請求原因の主張)について
控訴人は、当審における令和5年9月20日付け控訴理由書において、新たな請 求原因の追加的変更に当たる主張として、被控訴人の本件大会ビデオ・DVDの制 作・販売が控訴人の演武の著作権を侵害するとの主張を行ったが、被控訴人は、か かる主張は原審において提出できたことは明らかであり、控訴審において更に審理 することは訴訟の完結を遅延することなるため、却下すべきと主張する。 上記請求原因の追加的変更については、原審においてその主張ができなったとい うやむを得ない事情はうかがわれず、上記請求原因の追加的変更を許せば、控訴人 の演武の著作物性、著作権侵害の有無、仮に侵害が認められる場合においては損害 の有無等を新たに審理しなければならず、著しく訴訟手続を遅滞させることとなる から,当該請求原因の追加的変更は不当であると認められる。 したがって、控訴人の著作権侵害に係る請求原因の追加的変更の申立ては、民訴\n法297条、143条1項及び4項に基づき、許さないのが相当である。

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令和5(ネ)10071  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月21日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

1審は、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時機に後れた主張であるとして却下しました。知財高裁も同様です。

当裁判所は、本件請求原因の追加は攻撃方法の提出であって、民事訴訟法 143条ではなく同法157条の規律に服するものではあるが、結論的には 時機に後れたものとして却下を免れないと判断する。その理由は、以下のと おりである。
(1) 控訴人の本件請求は、特許法100条1項、3項に基づく差止請求、廃 棄請求及び不法行為に基づく損害賠償請求である。そのいずれも、被控訴人 による被控訴人製品の譲渡等が控訴人の有する「本件特許権」を侵害すると の請求原因に基づくものである。
そして、特許法は、一つの特許出願に対し一つの行政処分としての特許査 定又は特許審決がされ、これに基づいて一つの特許が付与され、一つの特許 権が発生するという基本構造を前提としており、請求項ごとに個別に特許が\n付与されるものではない。そうすると、ある特許権の侵害を理由とする請求 を法的に構成するに当たり、いずれの請求項を選択して請求原因とするかと\nいうことは、特定の請求(訴訟物)に係る攻撃方法の選択の問題と理解する のが相当である。請求項ごとに別の請求(訴訟物)を観念した場合、請求項 ごとに次々と別訴を提起される応訴負担を相手方に負わせることになりかね ず不合理である。当裁判所の上記解釈は、特許権の侵害を巡る紛争の一回的 解決に資するものであり、このように解しても、特許権者としては、最初か ら全ての請求項を攻撃方法とする選択肢を与えられているのだから、その権 利行使が不当に制約されることにはならない。
(2) 以上によれば、控訴人による本件請求原因の追加は、訴えの追加的変更に 当たるものではなく、新たな攻撃方法としての請求原因を追加するものにと どまるから、本件請求原因の追加が民事訴訟法143条1項ただし書により 許されないとした原審の判断は誤りというべきである。
(3) もっとも、被控訴人は、本件請求原因の追加が攻撃方法に該当する場合に は民事訴訟法157条1項に基づく却下を求める旨の申立てをしている(引\n用に係る原判決の第3の2「被告の主張」欄(2))から、以下この点につい て判断する。
ア まず、本件請求原因の追加に至るまでの原審における手続等の経緯とし て、別紙「本件請求原因の追加に至る経緯」記載の事実が認められる (本件記録から明らかである。)。
すなわち、被控訴人は、答弁書(令和4年2月28日付け)の段階で、 乙1公報及び乙3公報等の公知文献を具体的に示して、均等論の第4要 件の充足を争う詳細な主張を提出した。その後、控訴人と被控訴人は、 同年11月までに、当該争点に関する議論を含む主張書面を2往復させ 主張立証を尽くしてきた。この間の書面準備手続調書には、被控訴人の 「均等論の第4要件を中心に反論書面を提出する」との進行意見が記載 されるなど、均等論の第4要件の充足性は、少なくとも本件の中心的な 争点の一つと認識されていた。そうして、侵害論に関する主張立証が一 応の区切りとなった同月28日のウェブ会議による協議(書面による弁 論準備手続に係るもの。以下同じ。)において、裁判所から双方当事者 に被控訴人製品は本件発明1の技術的範囲に属さないとの心証開示があ り、双方は和解を検討することとなった。その後間もなく和解交渉は不 調に終わったところ、令和5年1月27日の協議において、控訴人は、 消弧作用についての再反論(注・均等論の第2要件関係)及びこれまで の主張の補充等を記載した準備書面を提出すると述べた。ところが、控 訴人は、同年2月27日付け準備書面をもって、本件請求原因の追加の 主張をするに至った。これに対し、被控訴人は、同年4月13日付け準 備書面をもって、時機に後れた攻撃方法としての却下又は著しく訴訟手 続を遅延させる訴えの変更としての不許決定を求める申立てをした。\n
イ 以上に基づいて、まず、本件請求原因の追加が「時機に後れた」ものと いえるかどうかを検討するに、本件において、控訴人が本件請求原因の 追加を求めた理由は、請求項1に係る本件発明1の技術的範囲の属否を 問題とする限り、被控訴人が提出した公知文献(特に乙1公報及び乙3 公報)との関係で均等論の第4要件(公知技術等の非該当)は満たさな いと判断される可能性が高いことを踏まえ、本件付加構\成を備える請求 項3に係る本件発明2を議論の俎上に載せることで、均等論の第4要件 をクリアしようとしたものと理解される。
しかし、上記アのとおり、均等論の第4要件を争う被控訴人の主張は、 既に答弁書の段階で詳細かつ具体的に提出されており、これに対する対 抗手段として、本件請求原因の追加を検討することは可能であったもの\nである。その後、約9か月にわたり双方が主張書面を2往復させてこの 点の主張立証を尽くしていたところ、その後に裁判所からの心証開示を 受けた後に、しかも、控訴人自ら、補充的な書面提出のみを予定する旨\nの進行意見を述べていたにもかかわらず、突然、本件請求原因の追加を 行ったものであって、これが時機に後れた攻撃方法の提出に当たること は明らかである。
ウ 次に、故意又は重過失の要件についてみるに、本件請求原因の追加は、 当初から本件特許の内容となっていた請求項3を攻撃方法に加えるとい う内容であるから、その提出を適時にできなかった事情があるとは考え 難い。外国文献等をサーチする必要があったケースとか、権利範囲の減 縮を甘受せざるを得なくなる訂正の再抗弁を提出する場合などとは異な る。控訴人からも、やむをえない事情等につき具体的な主張(弁解)は されていない。そうすると、時機に後れた攻撃方法の提出に至ったこと につき、控訴人には少なくとも重過失が認められるというべきである。
エ そして、本件請求原因の追加により、訴訟の完結を遅延させることとな るとの要件も優に認められる。すなわち、本件発明2の本件付加構成を\n充足するか否かについては、従前全く審理されていないから、本件請求 原因の追加を許した場合、この点について改めて審理を行う必要が生ず ることは当然である。そして、被控訴人は、仮に本件請求原因の追加が 許された場合の予備的主張として、本件発明2の本件付加構\成のクレー ム解釈及び被控訴人製品の特定に関する詳細な求釈明の申立てをする\n(控訴答弁書19頁〜)などしていることを踏まえると、この点の審理 には相当な期間を要し、訴訟の完結を遅延させることとなることは明ら かである。

◆判決本文

原審はこちら

◆令和3(ワ)10032

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令和5(ネ)10026  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年1月31日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

特許権侵害訴訟の控訴審判決です。原審は、被告製品は本件発明2の技術的範囲に属さない、本件発明1は公然実施発明Bであって新規性を欠くとして請求棄却しました。控訴審も同様です。

ア 控訴人は、構成要件2Bを「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であることを要する」と解する根拠は、特許請求の範囲の文言にも本件発明2の課題にも なく、当業者の技術常識等からみても非現実的である旨主張する。
イ しかし、構成要件2Bは「前記排水溝の壁面の表\面粗さが、算術平均粗 さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする」と規定してお り、本件発明2の特許請求の範囲の文言全体をみても、排水溝壁面の表面粗さについて、一部は2.0μmを超えるが製品の一定範囲や所定の\n測定箇所が2.0μm以下であるものを含む、あるいは全体の算術平均 粗さ(Ra)の平均値が2.0μm以下であるものを含むと解すべき文 言はない。
この点は、本件明細書2の記載をみても同様である。控訴人が指摘す る本件明細書2の記載や図面は、従来技術や実施例に係る排水溝の性状 等を特に留保なく説明するものであり、控訴人が主張するように、作業 過程で異常(イレギュラー)が発生した箇所があることを前提とし、こ れを除いた「任意の箇所」を示すものであることを窺わせる記載はない。 控訴人は、1)製紙用弾性ベルトの排水溝は、作業前に設定した加工条 件に基づいて均一的に連続加工されるものであること、2)作業時の諸要 因によって加工結果にばらつきが生じることが避けられないこと、3)排 水溝の壁面を全長にわたって測定する作業は現実的に不可能であり、任意に選定された排水溝の壁面を測定する作業によって製品の性状を把握\nするという、当業者の技術常識を考慮すべき旨主張する。
しかし、上記のとおり明確な構成要件2Bの文言について、明細書にも記載がなく、その範囲も不明確な例外を含むと解することは、不当な\n拡張解釈というべきであって、特許請求の範囲の解釈に当たって当業者 の技術常識を考慮するという枠組みを超えるものといわざるを得ない。 控訴人の主張は、当業者が定める自社製品の品質基準としてはともかく、 独占権が付与される特許請求の範囲の解釈としては採り得ない。 なお、控訴人が指摘する大阪地方裁判所平成15年(ワ)第10959号 同17年2月28日判決は、控訴人の主張を裏付けるものではない。
ウ したがって、原判決判示のとおり、構成要件2Bは「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であること」を要すると解するのが相当である。
そうすると、控訴人が主張する<ステップ1>から<ステップ2の2 B>まで、すなわち「各測定結果に係る9溝ないし18溝のデータ数値 を参照し、特定の溝壁面の表面粗さ数値が他の溝の同一壁面に比して突出して高くなっている」ものを「当業者からみて明らかに溝加工作業時\nに生じた異常(イレギュラー)」として除外すること、及び「測定結果 に係る各壁面の表面粗さの平均値が算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下である結果が得られているか否か」(控訴人の他の主張と併せると、\n任意の測定箇所の算術平均粗さの「平均値」が2.0μm以下であるこ とを意味すると解される。)により充足性を判断する判断手法は、構成要件2Bを逸脱する独自の解釈に基づくものといわざるを得ず、採用で\nきない。
・・・
(2) 公然実施発明Bに基づく本件発明1の新規性欠如の有無について
イ 公然実施をされた発明に当たるかについて
(ア) 控訴人は、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面にD MTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可能な分析方法によって知ることができなかった旨主張する。\n
(イ) しかし、まず、証拠(乙37、124、128、129)によれば、 エタキュアー300は、本件特許1の出願前から実用化され、ウレタン 用の硬化剤として注目されていたことが認められる(原判決44頁〜)。 控訴人は、上記文献等はシュープレス用ベルトに使用される硬化剤に ついて言及するものでないと主張するが、上記文献等はポリウレタン全 般向けの硬化剤としてエタキュアー300を説明するものであるところ、 シュープレス用ベルトに利用される硬化剤が他の一般的なポリウレタン の硬化剤と異なるとみるべき根拠はない(上記文献等には、代表的な従来品が本件明細書1【0003】に従来のシュープレス用ベルトの硬化\n剤として記載されているMOCAである旨の記載も複数ある。)。
また、被控訴人は、遅くとも平成9年7月時点ではエタキュアー30 0を使用していたところ(原判決45頁)、上記ア(イ)の認定事実によ れば、被控訴人は硬化剤としてDMTDAを使用することを独自に見出 したのではなく、エタキュアー300を製造販売するアルベマール社の 国内関連会社との取引を契機として知ったと認められる。この事情は、 他の当業者が硬化剤の候補としてエタキュアー300に着目する蓋然性 を裏付ける事情となることは明らかである。 控訴人は、さらに、ポリウレタンの硬化剤はDMTDAの他にも約8 0種類存在し(甲43)、その全てについて標準品を準備して分析依頼 を行うことは非現実的であると主張する。
しかし、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(乙128)に「実用化 されている熱硬化PUエラストマー用芳香族ジアミン架橋剤」として記 載された5種類、あるいは特開2000−248040号公報(乙12 7)にポリウレタンプレポリマーと反応させるアミン硬化剤組成物とし て記載された芳香族ポリアミンの15種類、その中でも好ましいと記載 された4種類には、いずれもエタキュアー300又はDMTDAが含ま れており、当業者は、従来用いられているMOCA(本件明細書1【0 003】)と同類であるこれらの硬化剤を想定するとみるのが自然であ る。
(ウ) 控訴人は、ベルトの外周面に着目し、外周面のみを切り出して分析を 依頼することは、当業者が通常に利用可能な分析技術とはいえない旨主張する。\nしかし、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の 層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤と を混合してベルトの弾性材料とすることは技術常識であり(原判決44 頁)、自由に解析等をなし得る状態に置かれたベルトを解析して構造等を特定することは可能\であったと認められる(このことは甲25に記載された断面写真から明らかであり、原判決の認定に問題はない。)。 したがって、ベルトBの外周層を切り出して分析を依頼することは、 本件訴訟において控訴人(甲10の1〜4)及び被控訴人(乙1〜3) が行ったのと同様、本件特許1出願前の当業者にも可能であったと認められる。\n
なお、当業者が仮に外周層と内周層に異なる硬化剤を用いる製造方法 を認識せず、これらを区別せずに分析を依頼した場合、全体について硬 化剤としてDMTDAが使用されているという分析結果を知ることにな り、この結果はベルトBの正しい構成なのであるから(乙32)、「外周面を構\成するポリウレタンは、」「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている」との構成を含め、本件発明1の内容を知り得たといえることに変わりはない。\n
(エ) したがって、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面に DMTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可 能な分析方法によって知ることができたと認められる。ベルトBが公然実施された発明とはいえない旨をいう控訴人の主張は採用できない。\n

◆判決本文

原審はこちら。

◆大阪地裁平成29(ワ)4178
原審では、被告は、一旦、損害論に入ってから、2.0μm以下である」との構成要件を充足しないとして、非侵害の主張を行いましたが、これは「時機に後れた」とは認定されませんでした。
原告は、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわ らず、被告は、被告製品1〜3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁 面の表面粗さの測定結果(乙152〜159)を新たに証拠提出するとともに、非侵害の主張を行ったことが時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を主張する。\nしかし、被告が前記証拠等を提出したのは、原告が、訴状においてはイ号製品 が本件発明2の技術的範囲に属する旨を主張しつつも、被告製品1〜3及び5の 排水溝壁面の表面粗さに限定して立証活動をしていたが、裁判所が本件発明2については損害論に入る旨の心証開示を行ったことを受けて、被告製品1〜3及び\n5の各製品と同じシリーズの製品等についても本件発明2の技術的範囲に属する 旨を改めて主張したことに対応するものであって、必ずしも時機に後れたものと は認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。

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令和4(ワ)5553  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年12月7日  大阪地方裁判所

 特許は公然実施による新規性違反があるとして、権利行使不能と判断されました。時期に後れたとの主張は認められず、また、訂正の再抗弁も認められませんでした。

前記認定事実アによれば、本件プレイヤードの部材Aは本件発明の縦枠に、 部材Bは側面シートに、部材Cは底面シートにそれぞれ相当し、部材Gに固定され た部材Aの下端部分は、部材Cの六角形の頂点にあたる部分に部材Dを介して固定 され、外側への移動が制限されているものと認められる。そうすると、本件プレイ ヤードは、「環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材A(縦枠)と、 隣り合う部材Aを渡すように張られメッシュ部B1を有する部材B(側面シート) と、底面に位置する非伸縮性の部材C(底面シート)と、を備え、部材Cは平面視 において多角形の形状を有しており、各部材Aの下端部分は非伸縮性の部材Cの多 角形の頂点にあたる部分に(部材Dを介して)固定され外側への移動が制限されて いる、プレイヤード」との構成を有するものということができるから、本件発明の\n各構成要件を充足する。\n
そして、特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多 数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記認定事実イ のとおり、被告は、本件特許出願前の平成17年頃、カタログに本件プレイヤード を掲載して需要者に対して販売していたから、その内容を不特定多数の者が知り得 る状況で本件発明を実施したものと認められる。
(4) 原告は、本件無効審判事件の進行状況等に照らすと、被告による乙第12 号証を証拠とする無効理由の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下される べきである旨の申立て(民訴法157条1項に基づくものと理解される。)をする。\nしかし、攻撃防御方法の提出について時機に後れたかどうかは、本件訴訟の具体的 な進行状況等に即して判断されるべきである。そして、原告の訂正の再抗弁等に対 するものとして、乙第12号証及びこれに基づく無効理由を主張する被告の準備書 面(1)が令和5年2月15日に提出されたところ、その時点では、書面による準備 手続における協議が重ねられ、争点及び証拠の整理手続中(いわゆる心証開示前) であり、被告が故意又は重大な過失により当該攻撃防御方法を提出したとか、それ により訴訟の完結が遅延するなどの客観的な事情があったとは認められないから、 原告の前記申立ては理由がないものとして却下する。\n
(5) 以上のとおり、本件発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施 された発明であって、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきものである から、後記3で検討する訂正の再抗弁が成り立たない限り、原告は、被告に対し、 本件特許権を行使することができない(特許法123条1項、104条の3第1項、 29条1項2号)。
3 訂正の再抗弁の成否(争点3)について
本件訂正により、本件プレイヤードに基づく新規性欠如(前記2)の無効理由が 解消されるか否かにつき検討する。
(1) 原告は、本件訂正発明と本件プレイヤードを対比すると、1)本件訂正発明 の接続テープは各縦枠に対して取外しできるように構成されているのに対し、本件\nプレイヤードの部材Dは部材Aに対して取外しできるように構成されていない点、\n2)本件訂正発明の側面シート及び底面シートは各縦枠に対して取外し可能に構\成さ れているのに対し、本件プレイヤードの部材B及び部材Cは部材Aに対して取外し 可能に構\成されていない点の2つの相違点があるから、本件訂正により本件プレイ ヤードに基づく新規性欠如の無効理由は解消される旨主張する。
(2) しかしながら、前記2(2)ア認定のとおり、本件プレイヤードにおいては、 各部材Aの下端部分は、接地部材Gが受けて固定しているところ、部材Cに取り付 けられた部材D(テープバンド)が部材Gに挟み込まれて2か所でねじ止めされて (以下「本件ねじ止め」という。)、各部材Aの下端部分が(部材Dを介して)部 材Cに固定されている。そして、本件ねじ止めは、タッピングねじによるものであ るが、ねじの取外しをすることは可能であり、このねじを取り外せば、部材Dを部\n材Aの下端部分が固定されている部材Gから取り外すことができるから、部材Dは、 部材Aに対して取外し可能であると認められる。\nまた、前記のように部材Dを部材Aから取り外せば、部材Dが取り付けられてい る部材C及びこれと一体に形成されている部材B(前記2(2)ア)も部材Aから取 り外すことができるものと認められる。 そうすると、本件訂正発明と本件プレイヤードの対比において、原告が主張する 前記(1)の1)及び2)の相違点はいずれも認めることができない。
(3) これに対し、原告は、本件ねじ止めはタッピングねじによるものであると ころ、同ねじは、日常的に繰り返し取り外す必要がある部位には使用されないもの であるから、本件プレイヤードは、使用者が再組立できなくなる等のリスクを冒し てまで、部材Dや部材B及び部材Cの「取外し」を行うことは想定されていない旨 主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件Xは「…各縦枠に対して取外しできる\nように構成されている接続テープを備え」、構\成要件Yは「前記側面シート及び前 記底面シートが…各縦枠に対して取外し可能に構\成されている」というものである ところ、取外しの具体的な態様や頻度等について何ら限定をしていない。そうする と、タッピングねじによる本件ねじ止めは、その構造上も実際上も取外し可能\であ る以上、本件プレイヤードの構成につき、本件訂正発明の前記各構\成要件との相違 点を認めることはできず、原告の主張は採用できない。
また、原告は、本件プレイヤードは「WATERPROOF」、つまり防水性の 製品であって、洗濯機での洗濯や脱水は危険であることから、市販製品の一般的な 意味での「取外し」はできず、このような製品を「取外し可能」と評価することは\nできない旨主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件X及びYにおいて、「取外\nし」の目的が特定されているものではないし、本件明細書の段落【0013】の記載 (「この構成によれば、側面シートと底面シートを縦枠から取り外して洗うことが\nできるため、幼児用サークルを清潔に保つことができる。」)を参酌するとしても、 その洗い方が洗濯機によるものに限定されているものではないから、原告の主張は 採用できない。
(4) したがって、本件訂正によっても、本件プレイヤードに基づく新規性欠如 の無効理由は解消されないから、原告の訂正の再抗弁は成り立たない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10070  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明についての特許権侵害事件です。1審の東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。控訴人は、請求項17に基づく侵害主張、および訂正の再抗弁を追加しました。知財高裁は、時機に後れた攻撃防御方法には該当しないとして判断自体はおこないましたが、最終的には無効として、控訴棄却しました。

事案に鑑み、争点7(乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の当否)について、まず判断する。
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)イ のとおり、乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁は、時機に後れた攻撃防御方法であるとしてその却下を求めるが、この防御方法の提出が訴訟の完結を遅延させるものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討する。
(2) 無効理由の解消の有無等について
事案に鑑み、仮に、本件訂正が適法であり、本件訂正により本件訂正発明と乙22発明との間に当事者の主張に係る相違点が全て生じるとした場合、乙22発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消されるかをまず検討する。
ア 本件訂正発明1
相違点22−6ないし相違点22−8の容易想到性
相違点22−6ないし相違点22−8は、前記第2の4(1)イ aのと おり、本件訂正発明1において、1)閲覧者がWebブラウザに対して閲 覧指示を行った段階においては、Webブラウザは閲覧指示に対応する HTMLをサーバに要求するだけであること(相違点22−6)、2)サー バはWebブラウザからの要求に従い、画像表示に必要な演算を実行す\nる、HTMLに記述されたJavaScriptをWebブラウザに送信すること (相違点22−7)、3)WebブラウザがHTMLに記述されたJavaScr iptを受信する前に表示領域内に表\示する分割画像を特定する演算を行 わないこと(相違点22−8)というものであるのに対し、乙22発明 は、地図データの要求をサーバに送信するまでの間に、ディスプレイに 表示する地図データ(メッシュ地図)を特定する演算を行っているとい\nうものである。 Webブラウザを用いた表示では、閲覧者がWebブラウザに対して\n閲覧指示を行うと、Webブラウザが閲覧指示に対応するHTMLをサ ーバに要求し、サーバが要求に対応するHTMLをWebブラウザに送 信し、Webブラウザが受信したHTMLに基づいて表示を行うという\n表示ステップを経るというようなプログラム上の取決めがあることは顕\n著な事実であるところ、このようなHTMLを用いるWebブラウザの 処理におけるプログラム上の取決めがある以上、閲覧者がWebブラウ ザに対して閲覧指示を行った段階では、Webブラウザは閲覧指示に対 応するHTMLをサーバに要求するだけであり、WebブラウザがHT MLを受信する前の段階では、Webブラウザによって当該HTMLに 基づくいかなる処理も実行されることがないことは、上記取決めから生 じる当然の帰結にすぎない。 そして、JavaScriptは、HTMLに直接記述されるか、あるいはHT MLによって読み出される外部ファイルに記述されるかのいずれでもよ いものであることは、本件特許出願時の技術常識と認められるから(甲 46、48、49)、当業者は適宜それを使い分ければよく、Webブラ ウザにおいてJavaScriptを用いたときにJavaScriptがHTMLに直接記述されることは当業者の自然な選択の一つにすぎず、その選択をした場 合、WebブラウザがHTMLを受信する前に当該HTMLに直接記述 されたJavaScriptを実行しないことはいうまでもない。 そうすると、Webブラウザを採用して動的表示をJavaScriptを用い\nて実行しようとするならば、当業者が適宜になす自然な選択の結果、ほ ぼ必然的に相違点22−6ないし相違点22−8に係る本件訂正発明1 の構成をとることになるのであって、当該構\成についてとりたてて創意 を発揮する余地はない。そうであるところ、前記2(1)のとおり、本件特 許出願当時において、Webクライアントによる動的表示を行う処理を\nWebブラウザでJavaScriptを用いて行うことは周知慣用技術であり、 そして、この周知慣用技術を適用すればそれに起因して相違点22−6 ないし22−8の本件訂正発明1の構成となるというのであれば、上記\n相違点に係る本件訂正発明1の構成は容易に想到し得るものというほか\nない。
・・・
時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)ア のとおり、被告地図表示方法の本件\n発明17の充足性に関する主張は、時機に後れた攻撃防御方法であると してその却下を求めるが、この攻撃方法の提出が訴訟の完結を遅延させ るものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討 する。
相違点22−17−1の容易想到性について
a 本件訂正発明17は、本件訂正発明1について、1)同じ内容の画像 データを2)複数の倍率で有すること、3)各倍率の画像を構成する分割\n画像の画素数は表示倍率に関わらず一定であること、4)分割画像の分 割数は倍率が低い画像ほど少なく、倍率が高い画像ほど多いこととの 限定を付したものであるところ、乙22発明は、上記のような構成を\n有するとは特定されていない。
b 乙10文献には別紙9のとおりの記載がある。これによると、乙10技術として、次のような技術が記載されているものと認められる。 クライアントから要求される画像の指定、表示範囲の指定の変化に\n関わらず、高速かつ一定時間内に高精細画像を表示するためのデータ\n構造を備える高精細画像表\示装置を提供することを目的とするもので あって(【0006】)、 サーバに格納される画像データのデータ構造が、複数段階の解像度\nの画像を有するものであり(【0024】ないし【0026】、【図2】)、 それぞれ解像度の画像はそれぞれpピクセル×pピクセルのブロッ クに分割されて保持され、個々のブロックを単位としてアクセスされ るものであって、個々のブロックを構成する画素数は解像度に関わら\nず同じであり(【0028】、【0029】、【図3】)、 ブロックの分割数は解像度が少ない画像ほど少なく、解像度が高い 画像ほぼ多い状態であり(【図3】)、 クライアント側の表示装置において表\示される表示枠に関連する各\nブロックの画像データを、サーバからクライアントに伝送して表示す\nる技術(【0031】、【0032】)。
c 本件訂正発明1が乙22発明により容易に想到できるものであるこ とは、前記アにおいて判示したとおりであるところ、乙10技術は、 相違点22−17−1の構成に係る分割画像の格納形態を開示するも\nのであり、本件訂正発明17と乙10技術は、分野を同一とするもの であって表示領域より大きい画像データを領域分割し、表\示装置に対 応する分割画像を送信して表示することにより表\示を高速化するとい う機能も共通するものであるから、乙22発明の分割画像の格納形態\nとして、乙10文献記載の分割画像の格納形態を採用して、相違点2 2−17−1に係る本件訂正発明17の構成とすることは容易に想到\nできる。
控訴人らの主張について
控訴人らは、前記第2の4(1)イ e(g)のとおり、乙10技術は、個々 の分割画像(ブロック)を送信しているわけでもないし、同じ画像を複 数の倍率でかつ倍率ごとにそれぞれ複数の領域で分割してサーバから送 信しているわけではないから、乙22発明に乙10技術を適用して本件 訂正発明17の構成とすることは容易に想到できない旨主張するが、乙\n10技術の分割画像の送信手法と分割画像の格納形態とは、特に必須に 結合しているわけではなく、それぞれ独立した技術事項であるから、乙 10技術の送信手法までを乙22発明に適用する必要はなく、乙10の 分割画像の格納形態のみを採用することに阻害要因も見当たらない。 したがって、上記主張を採用することはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和1(ワ)21901

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令和3(ワ)10032    特許権  民事訴訟 令和5年6月15日  大阪地方裁判所

 特許権侵害訴訟にて、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時期に後れた主張であるので却下されました。

そして、対象製品等が特許発明の構成要件の一部を欠く場合であっても、当該\n一部が特許発明の本質的部分ではなく、かつ前記均等の他の要件を充足するとき は、均等侵害が成立し得るものと解される。 これに対し、被告は、対象製品等が構成要件の一部を欠く場合に均等論を適用\nすることは、特許請求の範囲の拡張の主張であって許されない旨を主張するが、 構成要件の一部を他の構\成に置換した場合と構成要件の一部を欠く場合とで区\n別すべき合理的理由はないし、本件において、原告は、被告製品には構成要件 C の「消弧材部」に対応する消弧作用を有する部分が存在し、置換構成を有する旨\n主張していると解されるから、被告の前記主張を採用することはできない。
イ 第1要件ないし第3要件
原告は、別紙「均等侵害の成否等」の「原告の主張」欄記載のとおり、本件発 明の本質的な構成部分は構\成要件のうち A-1 ないし A-3、B-3 及び B-4 であり、 構成要件 C は本件発明の課題解決方法に資するものではないとして、第1要件は 満たす旨主張するところ、被告もこれを積極的に争っていない。
一方、第2要件及び第3要件に関し、原告は、被告製品の構成 c の「接着剤で 接着することにより形成された密閉された空間26」が本件発明の構成要件 C の 「消弧材部」と同一の作用効果(消弧作用)を有することを示す実験報告書等(甲 13、14、32)を証拠提出する。これらは、被告製品と同じ構造を有する製\n品につき、ヒューズエレメント部が密閉構造である場合と、非密閉構\造である場 合又は端子一体型ヒューズ素子を取り出して遮断試験用基板に実装して遮断試 験を行った場合の、各アーク放電の持続時間を対比した結果、密閉構造のものは、\n非密閉構造等のものに比べ、同持続時間が2分の1ないし3分の1になったとい\nうものである。しかし、これらは、被告製品の「密閉された空間」と本件発明の 「消弧材部」の各作用効果の対比自体を行うものではないことに加え、被告が証 拠提出する試験報告書(乙16)によれば、被告製品、被告製品に消弧材部を設 けたヒューズ及び被告製品のヒューズ素子のみを対象として、アーク放電の持続 時間を記録したところ、被告製品が最も同時間が長かったという結果であったこ とが認められ、被告製品とヒューズ素子の各アーク放電の持続時間について、原 告が提出する実験報告書(甲14)と相反する結果となっている。そうすると、 原告が提出する前記証拠その他の事情等から、被告製品の構成 c が本件発明の構\n成要件 C と同様の作用効果を有するとまでは認め難いから、少なくとも第2要件 が満たされるとはいえない。
ウ 第4要件
前記イの点は措くとしても、以下のとおり、第4要件も満たさない。 被告は、被告製品の構成は、本件発明の特許出願時における公知技術(乙1発\n明)と同一又は当業者が乙1発明から出願時に容易に推考可能であった旨を主張\nする。
(ア) 乙1公報は、発明の名称を「表面実装超小型電流ヒューズ」とする公開特\n許公報であり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙1)。
・・・・
(イ) 乙1発明の構成\n
乙1発明がα-1、β-1 ないしβ-4 及びδの構成を有することは当事者間に争\nいがなく(別紙「均等侵害の成否等」の「第4要件」欄)、乙1公報の段落【0008】 【0016】【0018】【0020】及び【図2】(A)の記載内容に照らすと、α-2 及び γの構成を有するものと認められる。\nまた、被告主張のα-3 の構成(金属電極2の可溶線挟持部22に挟み込まれる\nことにより一体形成されている電極一体型ヒューズ)に関し、原告は、電極とヒ ューズが同一の金属によって一体的に形成されているとの趣旨であれば否認す ると述べるところ、乙1公報には、可溶線5は、両端部を金属電極2に挟持され 本体1の空間6に架張された可溶線を示す旨(同【0016】)、可溶線5の端部は 第1板部221と第2板部222とにより挟み込まれ、金属電極2に固定される 旨(同【0018】)の記載があることから、可溶線5と金属電極2は異なる部材で 構成され、可溶線5は、可溶線挟持部22において挟持されることによって金属\n電極2に接続されているものと認められる(α-3’)。 以上から、乙1発明の構成は、別紙「裁判所の認定」の「乙1発明の構\成」欄 記載のとおりとなる。
(ウ) 被告製品の構成\n
被告製品が a-1 ないし b-4 及び d の構成を有することは当事者間に争いがな\nく、構成 c を有することも実質的に争いがないから、被告製品の構成は、別紙「裁\n判所の認定」の「被告製品の構成」欄記載のとおりとなる。\n
(エ) 被告製品と乙1発明の対比
被告製品の a-1、a-2 及び b-1 ないし d の各構成は、それぞれ、乙1発明のα1、α-2 及びβ-1 ないしδの各構成と同一であるものと認められる。\nそこで、被告製品の構成 a-3 と乙1発明の構成α-3'が一致するかを検討する。 「一体」の字義は、「一つになって分けられない関係にあること」であるところ (広辞苑第七版)、被告製品は、別紙「被告製品写真」の3及び4に示されるよ うに、ヒューズ本体4と2つの平板状部10の部材が連続し、一つになって分け られないように形成されていることが明らかである。一方、乙1発明の可溶線5 と金属電極2は、異なる部材で構成され、また、可溶線5は、可溶線挟持部22\nにおいて挟持されることによって金属電極2に接続されていることから、可溶線 5と金属電極2は、同一材料で形成されておらず、一つになって分けられないよ うに形成されてもいない。 したがって、可溶線5と可溶線挟持部22は一体に形成されているとは認めら れず、乙1発明は構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しており、被告製 品は、公知技術と同一であるとはいえない。
(オ) 乙1発明と乙3発明に基づく容易推考性
被告は、乙1発明が構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しても、被告 製品の構成 a-3 は、乙1発明の構成α-3’を乙3発明の構成に置換することによ\nり、当業者にとって容易に推考可能である旨を主張する。\n
a 乙3公報は、発明の名称を「面実装型電流ヒューズ」とする公開特許公報で あり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙3)。
(a) 技術分野
「本発明は、過電流が流れると溶断して各種電子機器を保護する面実装型電流 ヒューズに関するものである。」
・・・・
(b) 背景技術
「従来のこの種の面実装型電流ヒューズは、図7に示すように、セラミックか らなるケース1と、このケース1の内部に形成された空間部2と、前記ケース1 の両端部に形成された外部電極3と、この外部電極3と電気的に接続された断面 が円形のヒューズエレメント部4とを備え、前記ヒューズエレメント部4の溶断 部5を前記ケース1の内部に形成された空間部2内に配設した構成としていた。」\n(【0002】)
(c) 発明が解決しようとする課題
「上記した従来の面実装型電流ヒューズにおいては、ヒューズエレメント部3 として同じ線径のものや同じ材料のものを使用しているため、線径や材料によっ て決まる溶断電流等の溶断特性を調整することができないという課題を有して いた。」(【0004】) 「本発明は上記従来の課題を解決するもので、溶断特性の調整ができる面実装 型電流ヒューズを提供することを目的とするものである。」(【0005】)
(d) 課題を解決するための手段
「本発明の請求項1に記載の発明は、絶縁性を有するケースと、このケースの 内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部電極と、この 外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設したヒューズエ レメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一部を切削する ことによって設けたもので、この構成によれば、ヒューズエレメント部の切削に\nよって溶断部の線径を調整できるため、溶断特性を調整することができるという 作用効果が得られるものである。」(【0007】) 「本発明の請求項3に記載の発明は、特に、ヒューズエレメント部と外部電極 とを一体の金属で構成したもので、この構\成によれば、ヒューズエレメント部と 外部電極とを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができると いう作用効果が得られるものである。」(【0009】)
(e) 発明の効果
「以上のように本発明の面実装型電流ヒューズは、絶縁性を有するケースと、 このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部 電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設し たヒューズエレメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一 部を切削することによって設けているため、この切削によって溶断部の線径を調 整でき、これにより、溶断特性を調整することができるという優れた効果を奏す るものである。」(【0016】)
(f) 発明を実施するための最良の形態
「図4、図5において、本発明の実施の形態2が上記した本発明の実施の形態 1と相違する点は、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の金属で 構成した点である。この場合、外部電極13はケース11の底部11aの端面お\nよび裏面に沿うように折り曲げている。」(【0035】) 「上記構成においては、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の\n金属で構成しているため、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを接続す\nる必要はなくなり、これにより、生産性を向上させることができるという効果が 得られるものである。」(【0036】) 【図4】 【図5】
b 容易推考性
(a) 乙3公報の発明の詳細な説明によれば、乙3発明は面実装型電流ヒュー ズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の面実装型電流ヒューズにおいて は、ヒューズエレメント部4として同じ線径のものや同じ材料のものを使用して いるため、線径や材料によって決まる溶断電流等の溶断特性を調整することがで きないという課題を有していたこと(同【0004】)に対し、絶縁性を有するケー スと、このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成され た外部電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を 配設したヒューズエレメント部とを備え、ヒューズエレメント部の切削によって 溶断部の線径を調整でき、溶断特性を調整することを可能としたものである(同\n【0007】【0016】)。そして、特に、ヒューズエレメント部と外部電極とを一体 の金属で形成する構成をとることによって、ヒューズエレメント部と外部電極と\nを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができるという効果を 奏すること(同【0009】【0036】)や、発明の実施の形態として、外部電極13 がケース11の底部11a の端面及び裏面に沿うように折り曲げられた形態が記 載されている(同【0035】【図4】【図5】)。 以上によれば、乙3公報には、面実装可能な小型ヒューズにおいて、生産性の\n向上を目的として、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外部電極を一体の 金属で形成するという乙3発明が開示されているといえる。
一方、乙1公報の発明の詳細な説明によれば、乙1発明は表面実装超小型電流\nヒューズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の表面実装小型電流ヒュー\nズは、可溶部あるいは可溶線が合成樹脂や低融点ガラス等の絶縁物に直接接触し た構造である場合、可溶部等が熱的中立性を保てず本来のヒューズとしての溶断\n性能がおろそかにされている問題(同【0002】〜【0004】)や、電極をケース内 に配置固定した後、電極間に可溶線を架張して半田付けする方式は、半田が固ま る際に生じる盛り上がりの差により電極間の長さ、すなわち、可溶線の長さにば らつきが生じるという問題があったこと(同【0005】)に加え、従来の小型ある いは超小型電流ヒューズは、各部品を一つ一つバッチ工程で加工組立てを行う必 要があり、部品が小さいためその作業は困難を極め、製造し難く、その結果、低 コスト化にも限界があるという問題があった(同【0006】)。これに対し、乙1 発明は、可溶線5を挟持した一対の金属電極2が箱型形状を有する本体1の両端 に取り付けられ、蓋部3を本体1の上面より僅かに沈む位置まで押し込み接着剤 を塗布して蓋部3を本体1に固定して内部を密閉し、可溶線は本体1の内部空間 に浮いた状態で架張されている構成をとることで(同【0008】)、溶断特性のば らつきを最小限に抑えることや従来型と比べて2倍以上大きい遮断能力を有す\nることを可能としたこと(同【0028】〜【0030】)に加え、連続工程で製作組立 を行うこと、特に、可溶線5を挟持した一対の金属電極2を組み立てた後に鞍部 21を本体1の双方の短側壁11に嵌合させて固定することにより、製造が容易 になって、大幅なコスト削減が可能となるという効果を奏するものである(同\n【0020】【0027】)。 そうすると、乙1発明と乙3発明は、いずれも表面実装型ヒューズに関する発\n明であり、その技術分野は同一である。また、乙1発明と乙3発明は、いずれも 生産性の向上という同一の課題に対し、予めヒューズと電極とを組み合わせた後\nに本体に固定するという技術思想に基づく課題解決手段を提供する発明である ことに加え、乙1発明の溶断時間のばらつきを抑えるという課題と乙3発明の溶 断特性を調整するという課題は、所望の溶断特性を実現するという点で関連して いるといえる。 したがって、乙1発明と乙3発明は、技術分野、課題及び解決手段を共通にす るから、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在するものと認められる。
(b) 原告の主張
原告は、乙1発明と乙3発明とは、その課題等が相違することのほか、乙3発 明において、ヒューズエレメント部の切削を容易にするためには、乙1発明のケ ース11は上下方向の中央で分割される必要があること、乙1発明の本体1の空 間部6内に乙3発明のヒューズエレメント部15を配置する場合、ヒューズエレ メント部15を切削する必要があるが、所望の抵抗値が得られるように切削する ことは実質的に不可能であることから、乙1発明に乙3発明を組み合わせること\nはその構成上不可能\であることなどの阻害要因があるとして、被告製品と乙1発 明の相違部分は、乙3発明から容易に推考できたとはいえない旨を主張する。 しかし、前記(a)のとおり、乙1発明と乙3発明の課題は同一又は関連してい る。また、乙3公報の発明の詳細な説明によれば、ヒューズエレメント部の切削 は、スクライブやパンチング等の機械的方法によって行うが、予めヒューズエレ\nメント部の切削をした後にケースに固定をしてもよい旨が記載されていること から(段落【0022】【0027】【0028】)、ヒューズエレメント部を切削するため に、ケースを上下方向の中央で分割する必要があることにはならない。また、乙 3発明を乙1発明に適用するに当たり、乙1発明の空間部6内に、外部電極と一 体の金属で形成され、溶断部を配設したヒューズエレメント部を配置することと なるが、空間部6内にヒューズエレメント部を配置する場合に、当該ヒューズエ レメント部を切削する必要が必ずしもあるともいえない(ヒューズエレメント部 の一部の切削は本体への配置前に行うことができる。)。その他、乙1発明に乙 3発明を組み合わせることについて阻害要因があることをうかがわせる事情は ない。 したがって、原告の前記主張は採用することができない。
(c) 以上から、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在し、これを阻害 する要因は認められないから、乙1発明の可溶線と金属電極は異なる部材で構成\nされる構成に代えて、乙3発明の、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外\n部電極部を一体の金属で形成する構成を採用して被告製品の構\成とすることは、 当業者が本件特許の出願時に容易に推考し得たものと認められ、被告製品は、均 等の第4要件を満たさない。
・・・
2 争点2(本件追加の可否)について
本件追加は、被告製品が、本件発明に係る請求項とは別の請求項記載の本件発 明2の技術的範囲に属するとして請求原因を主張し、本件特許権の侵害に基づく 各請求を追加するものであるから、訴えの追加的変更に当たると解するのが相当 であるところ、当裁判所は、本件追加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させ ることとなると認め、これを許さないこととする(民訴法143条1項ただし書、 同条4項)。
すなわち、本件追加に係る請求原因は、原告において、審理の当初から主張す ることが可能であったところ、令和4年11月28日の書面による準備手続中の\n協議において、当裁判所は、当事者双方に対し、被告製品は本件発明の技術的範 囲に属さないとの心証を開示して、話合いによる解決を検討するよう促し、その 後、和解協議を行ったものの、令和5年1月27日の同協議において、これ以上 の和解協議は行わないこととなり、口頭弁論の終結に向けて、原告は、これまで の主張の補充及び反論を記載した書面を提出する旨述べたが、同年2月27日付 けの準備書面5において、本件追加を行ったものである(当裁判所に顕著な事実)。 このように、本件追加が行われた時点で、本件訴訟は、被告製品が本件発明の技 術的範囲に属さないとの当裁判所の心証開示を踏まえた和解協議を終え、審理を 終結する直前の段階に至っていた。仮に、本件追加を許した場合、被告製品が本 件発明2の技術的範囲に属するか否かや、本件特許に係る無効理由の有無につい ても改めて審理を行う必要があり、そのために相当な期間を要することになるこ とは明らかである。そうすると、本件発明2が本件発明1の従属項であり、構成\n要件の一部が同一であること、その他原告が指摘する事情を考慮しても、本件追 加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることになると認められる。

◆判決本文

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平成29(ネ)10043  特許権侵害差止等請求承継参加申立控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年1月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

かなり前の事件ですが、漏れていたのでアップします。コンピュータ関連発明について、被告製品には構成要件C「格納手段」がないとして、非侵害と判断されました。間接侵害も否定されました。
問題の請求項は以下です。
A ユーザテレビ機器(22)上で動作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって,
B 該システムは,複数の番組を格納するためのユーザ指示を受信したことに応答して,デジタル格納デバイス(31)に格納されるべき該複数の番組をスケジューリングする手段と,
C 双方向テレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,
D 該複数の番組をデジタル的に格納したことに応答して,該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該デジタル格納デバイス(31)に複数の番組データをデジタル的に格納する手段であって,該複数の番組データのそれぞれは,該複数の番組のうちの1つに関連付けられている,手段と,
E 該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストをディスプレイに表示する手段と,
F 該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストから,該デジタル格納デバイス(31)に格納された番組のユーザ選択を受信する手段と,
・・・
J 該双方向テレビ番組ガイドを用いて,現在スケジューリングされている該複数の番組のうちの該選択された番組に対して,選択された番組リスト項目情報画面を該ユーザテレビ機器(22)に表示する手段であって,該選択された番組リスト項目情報画面は,該選択された番組に関連付けられた番組データの1つ以上のフィールドと,1つ以上のユーザフィールドとを含む,手段と,
K 該1つ以上のユーザフィールドにユーザ情報を入力する機会をユーザに提供する手段と
L を備えた,システム。

2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 控訴人は,構成要件Cは,「双方向テレビ番組ガイド」を用いて,「デジタ\nル格納デバイス」に複数の番組をデジタル的に格納する「手段」を備えていれば, 充足することになるものであって,「デジタル格納デバイス」自体を必須の構成要素\nとして規定するものではないと主張するが,本件発明は,デジタル格納部を含むユ ーザテレビ機器を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに係る発明であるから, 被告物件(液晶テレビ製品)が本件発明の技術的範囲に属するというためには,被 告物件が「番組をデジタル的に格納可能な部分」を含むことが必要であることは,\n
前記1のとおり補正して引用する原判決が認定説示するとおりである。 すなわち,本件発明に係る特許請求の範囲は,「ユーザテレビ機器(22)上で動 作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって」(構成要件A),・・・「双方向テ\nレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納 デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,」(構成要件C)・・・「を備えた,システム」(構\成要件L)と記載されているから,本件発明の双方向テ レビ番組ガイドシステムは,ユーザテレビ機器に含まれるデジタル格納デバイスに 番組をデジタル的に格納(録画)する手段という構成を含むものである。\nそして,本件明細書には,「本発明は・・・番組および番組に関連する情報用のデ ジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに関する。」(【0001】) として,双方向テレビ番組ガイドシステムが「デジタル格納部を備えた」ものであ る旨が記載されている。また,従来技術として,「番組ガイド内で選択された番組を 独立型の格納デバイス(典型的にはビデオカセットレコーダ)に格納することを可 能にする双方向番組ガイド」(【0004】)が指摘され,その操作に関し,「ビデオ\nカセットレコーダの操作には通常は,ビデオカセットレコーダ内の赤外線受信器に 結合される赤外線送信器を含む操作経路が用いられる。」(【0004】)と記載され ており,「独立型の格納デバイス」を用いる従来技術について記載されている。その 上で,従来技術の課題として「独立型のアナログ格納デバイスを用いると,デジタ ル格納デバイスが番組ガイドと関連付けられる場合に実施され得るようなより高度 な機能が不可能\になる。」(【0004】)と記載され,これを受けて,本発明の目的 を「デジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドを提供すること」(【0005】)と記載している。以上に加え,「番組ガイドと関連付けられたデジタル格納デバイス の使用は,独立型のアナログ格納デバイスを用いて行われ得る機能よりも,より高\n度な機能をユーザに提供する。」(【0009】)という記載を併せ考慮すると,本件\n発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能であった高度な機能\をユーザに 提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備え ることを目的としたものと認められる。
以上によると,被告物件が構成要件Cを充足するというためには,「番組をデジタ\nル的に格納可能な部分」を含むこと(内蔵すること)が必要というべきである。\nこれに対し,控訴人は,本件明細書の【図2】及び【0016】によると,本件 発明には,「デジタル格納デバイス」が「ユーザテレビ機器」に外部インターフェー スを介して接続されるような構成も当然に含むように説明されていると主張するが,\n控訴人指摘の「デジタル格納デバイス31は,セットトップボックス28内に内蔵 されるか,または出力ポートおよび適切なインターフェースを介してセットトップ ボックス28に接続された外部デバイスであり得る。」(【0016】)との記載は, 「ユーザテレビ機器22の例示的構成を示す」【図2】からも明らかなとおり,「ユ\nーザテレビ機器」の一部を構成する「セットトップボックス」内に内蔵するか,「セ\nットトップボックス」に外付けするかを記載するにとどまり,「ユーザテレビ機器」 に外付けする構成を当然に含むものということはできない。かえって,「ユーザテレ\nビ機器22の例示的構成」において,「オプション」とされている「第2の格納デバ\nイス32」(【0014】)については,「第2の格納デバイス32がユーザテレビ機 器22に内蔵されていない場合」(【0017】)との記載が認められるところ,「デ ジタル格納デバイス」については,これと同旨の記載は見当たらない。
また,控訴人は,本件明細書の【図3】及び【0080】には,デジタル格納デ バイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッピーディスク又は録画可能な\n光ディスク)である場合が説明されていると主張するところ,控訴人指摘の【00 80】には,「デジタル格納デバイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッ ピーディスクまたは録画可能な光ディスク)である場合」との記載がある。しかし,\n本件明細書には,「デジタル格納デバイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フ ロッピーディスクまたは録画可能な光ディスク)を用いる場合」(【0085】)との\n記載もあるほか,「デジタル格納デバイスは,光格納デバイスまたは磁気格納デバイ ス(例えば,書き込み可能なデジタル映像ディスク,磁気ディスク,もしくはハー\nドドライブまたはランダムアクセスメモリ(RAM)等を用いたデバイス)であり 得る。」(【0008】),「第2の格納デバイス32は,任意の適切な種類のアナログまたはデジタル番組格納デバイス(例えば,ビデオカセットレコーダ,DVDディ スクに録画する能力を有するデジタル映像ディスク(DVD)プレーヤ等)であり\n得る。」(【0014】),「デジタル格納デバイス31は,書き込み可能な光格納デバイス(例えば,記録可能\なDVDディスクの処理が可能なDVDプレーヤ),磁気格\n納デバイス(例えば,ディスクドライブまたはデジタルテープ),または他の任意の デジタル格納デバイスであり得る。」(【0015】),「デジタル格納デバイス49において用いられるリムーバブル格納媒体」(【0082】),「例えばデジタル格納デバイス49がフロッピーディスクドライブであり,選択された番組を有するディスク がドライブ内に無い場合」(【0084】),「デジタル格納デバイス49内のリムーバブルデジタル格納媒体上に格納する」(【0104】)との記載もあり,これらの記載 によると,本件明細書においては,「デジタル格納デバイス」は,「リムーバブル格 納媒体」(フロッピーディスク,DVDディスク等)と区別されるものであり,「リ ムーバブル格納媒体」を処理することが可能な機器(フロッピーディスクドライブ,\nDVDプレーヤ等)を指すことが多いものと認められる。そうすると,控訴人指摘 の【0080】の上記記載から,直ちに本件発明にはデジタル格納デバイスがリム ーバブル録画媒体である場合が含まれるということはできない。
(2) 控訴人は,間接侵害を主張するところ,被告物件である液晶テレビ製品は, 単に放送を受信するだけで,いずれもそれ自体に録画できるメモリー部分(デジタ ル格納部)を備えておらず,録画先としては,外付けのUSBハードディスクやレ グザリンク対応の東芝レコーダーとされており,これらを被告物件に接続すること によって初めて,被告物件で受信した番組を上記ハードディスク等に録画すること が可能であるから,デジタル格納部を被告物件に内蔵させる余地はない。そうする\nと,被告物件は,デジタル格納デバイスを含むユーザテレビ機器を備えた双方向テ レビガイドシステムの「生産に用いる物」ということができない。
また,前記(1)のとおり,本件発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能\nであった高度な機能をユーザに提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステム\nがデジタル格納デバイスを備えることを目的としたものであり,従来技術に見られ ない特徴的技術手段は,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイス を備えること,すなわち,これを内蔵することにあるというべきである。そうする と,被告物件は,デジタル格納デバイスを内蔵するものではないから,本件発明に よる「課題の解決に不可欠なもの」であるとはいえない。
したがって,被控訴人による被告物件の製造,輸入,販売及び販売の申出は特許\n法101条2号所定の間接侵害に当たらない。これに対する控訴人の主張が理由のないものであることは,既に説示したところ から明らかである。
なお,被控訴人は,控訴人の間接侵害の主張が時機に後れた攻撃防御方法に当た る旨を主張するが,控訴理由書において,既に提出済みの証拠に基づき判断可能な\n主張をしたものであるから,訴訟の完結を遅延させるものとまではいえず,上記主 張を時機に後れた攻撃防御方法として却下することはしない。

◆判決本文

原審はこちら

◆平成28(ワ)37954

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令和5(ネ)10009  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審は「本件発明の技術的範囲に属さない」と判断しましたが、知財高裁は、そもそも別事件(東京地判令和2年(ワ)第15464号)と重複するとして、訴えを却下しました。

1 本件訴えの適法性(本案前の抗弁)について
(1) 後訴の請求又は後訴における主張が前訴のそれの蒸し返しにすぎない場合に は、後訴の請求又は後訴における主張は、信義則に照らして許されないものと解す るのが相当である(最高裁昭和49年(オ)第331号同51年9月30日第一小 法廷判決・民集30巻8号799頁、最高裁昭49年(オ)第163号、164号 同52年3月24日第一小法廷判決・裁判集民事120号299頁参照)。
(2) 令和2年事件について(乙1、2)
ア 令和2年事件は、控訴人が、スマートフォン(型番SHV39、SHV40、 SHV41、SHV42及びSHV43。以下併せて「前訴被告製品」という。) の被控訴人シャープによる製造、被控訴人KDDIによる販売が、本件特許権を侵 害すると主張して、被控訴人らに対し、特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請 求をした事案である。 令和2年事件においては、前訴被告製品が本件特許の特許請求の範囲の請求項1、 3及び4の各発明の技術的範囲に含まれるかが問題となり、具体的には前訴被告製 品にインストールされた「AQUOS Home」と呼ばれるアプリケーション (以下「前訴アプリ」という。)における「操作メニュー情報」の有無が争点とな った(令和2年事件における争点1−3)。 この争点について、控訴人は、「・・・できるように」という言葉は、目標・目 的・基準等を示すものであるから、「操作メニュー情報」は実行される命令の内容 の全部を利用者において理解することができるものである必要はなく、実行される 命令の内容を利用者が理解できることを目標・目的としている程度の表現があれば\n足りるなどとして、前訴被告製品における前訴アプリによるページ一部表示(本件\nにおける「一部表示画像」に相当する。)が「操作メニュー情報」に当たると主張\nした。
イ 令和2年事件の第一審である東京地方裁判所は、前訴被告製品における前訴 アプリの動作について、「1)利用者が前訴アプリの画面上に表示されたアイコン画\n面に指で触れて一定時間待つ操作(ロングタッチ)をすると、当該アイコンを移動 できる状態に遷移し、2)当該アイコンが指に追随して移動し、アイコンが指に追随 して右又は左に移動した距離が一定距離を超えると、縮小モードとなって、表示中\nの当該ページの画面が90%の大きさに縮小され、画面の左端又は右端に隣接する ページの画面の一部(ページ一部表示)が表\示され、3)更に当該アイコンをその方 向に移動させると、移動方向に隣接するページの画面がスクロールされて表示され\nる」ものであると認定し、ページ一部表示である直方形部分を見た利用者は、それ\nがどのような命令を実行する表示であるのかを理解することができないから、前訴\n被告製品のページ一部表示の画像は、本件発明1及び3の構\成要件Bの「操作メニ ュー情報」を有するとは認められないと判断した(乙2。東京地裁令和2年(ワ) 第15464号同3年7月14日判決)。そして、上記判断は、控訴審である知財 高裁令和4年2月8日判決(乙1)においても維持され、同判決は、上訴されるこ となく確定している(弁論の全趣旨)。
(3) 本件について
ア 本件は、控訴人が、スマートフォン(型番SHV44、SHV45及びSH V46。被告製品)の被控訴人シャープによる製造、被控訴人KDDIによる販売 が、本件特許権を侵害すると主張して、被控訴人らに対し、特許権侵害の不法行為 に基づく損害賠償請求をした事案である。 本件においては、被告製品が本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び3の各発 明(本件発明)の技術的範囲に含まれるかが問題となり、具体的には被告製品にイ ンストールされた「AQUOS Home」と呼ばれるアプリケーション(本件ホ ームアプリ)における「操作メニュー情報」の有無が争点となった。 本件における争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)についての 控訴人の主張は、原判決別紙「技術的範囲に関する当事者の主張」及び前記第2の 3に記載するとおりである。
イ 被告製品における本件ホームアプリの動作は、概要次のとおりである(前提 事実(6)ウ)。
「1)利用者が本件ホームアプリの画面上に表示されたショートカットアイコンを\n長押しすると、当該ショートカットアイコンはタッチパネル上の指等の動きに追随 して移動できる状態になり、2)当該ショートカットアイコンの移動距離が一定距離 になった場合に、縮小モードとなって、表示中の中央ページ画面が縮小表\示され、 画面の左端又は右端に隣接するページの画面の一部(一部表示画像)が表\示され、 3)更に当該ショートカットアイコンを一部表示画像の範囲に入れると、隣のページ\nの画面が表示される。」\nなお、原判決は、一部表示画像を見た利用者は、それが左右のページの一部を表\ 示していることを理解できるとはいえず、仮に理解できたとしても、当該画像の領 域までショートカットアイコンをドラッグすることによって対応するページにスク ロールするという命令が表示されていると理解できるように構\成されているとはい えないから、被告製品の一部表示画像は「操作メニュー情報」に当たらず、被告製\n品が本件発明の構成要件B、E、F、Gの「操作メニュー情報」を有するとは認め\nられないと判断した。
(4) 令和2年事件と本件の比較
令和2年事件と本件は、当事者を同一とし、侵害されたとされる特許権が同一で あり、その特許請求の範囲の請求項1及び3の各発明の技術的範囲への被疑侵害品 の属否が問題となっている点も共通する。 本件の対象製品である被告製品は、令和2年事件の対象製品である前訴被告製品 と同一シリーズの製品であって、前訴被告製品よりも後に発売されたものと推認さ れるものの、前訴被告製品から大きな仕様変更がされたことはうかがえず、特に、 問題とされているアプリケーションは同一(いずれもAQUOS Home)であ って、そのバージョンが異なる可能性はあるとしても、大きな仕様変更がされたこ\nともうかがえず、また、問題となる動作(前記(2)イ及び(3)イ)は同一又は少なく とも実質的に同一である。 そして、令和2年事件と本件における争点は、対象製品(前訴被告製品又は被告 製品)にインストールされた「AQUOS Home」と呼ばれるアプリケーショ ン(前訴アプリ又は本件ホームアプリ)における「操作メニュー情報」の有無であ るから、争点も同一又は少なくとも実質的に同一であり、そればかりか、当該争点 についての控訴人の主張も実質的に同一である。 そうすると、本件における控訴人の主張は、対象製品に「操作メニュー情報」が 存在しないことを理由として、控訴人の被控訴人らに対する本件特許権侵害の不法 行為に基づく損害賠償請求に理由がないとの判断が確定した令和2年事件における 控訴人の主張の蒸し返しにすぎないというほかない。控訴人は、令和2年事件判決 が、「操作メニュー情報」が存在しないと判断した根拠となる前訴被告製品の構成\n(前訴アプリの動作)と、被告製品の構成(本件ホームアプリの動作)が実質的に\n同一であり、そのために、被告製品が、前訴被告製品におけるものと同一の理由に より、本件特許権を侵害しないものであることを十分認識しながら、本件訴えを提\n起したものと推認されるのであって、本件において控訴人の請求を審理することは、 被控訴人らの令和2年事件判決の確定による紛争解決に対する合理的な期待を著し く損なうものであり、訴訟上の正義に反するといわざるを得ない。
(5) 控訴人の主張に対する判断
この点、控訴人は、令和2年事件における対象製品である前訴被告製品の構成\na1 と、本件訴訟における被告製品の構成 a1、a1’、a1”が異なり、また、構成 a3、 a3’、a3”、p1〜p3 が追加されているから、新たな判断が必要であると主張する。 しかしながら、控訴人の主張する被告製品の構成 a1、a1’、a1”及び p1〜p3 は 「一部表示画像」に関するものではなく、構\成 a3、a3’、a3”は、「一部表示画像」\nの画面上の領域(座標)をより具体的に特定したにすぎないものであって、前記 (2)イの前訴アプリの動作を変更するものではないから、控訴人の主張する構成は、\nいずれも、「一部表示画像」が構\成要件B、E、F、Gの「操作メニュー情報」に 該当するかを検討するに当たり、その判断に影響を与え得るものとはいえない。 また、上記控訴人の主張する構成の差異が、前訴被告製品の前訴アプリと被告製\n品の本件ホームアプリにおける実質的な差異であると認めるに足りる証拠はない上、 仮に、当該構成部分において、前訴被告製品の前訴アプリと被告製品の本件ホーム\nアプリに差異があるものと認められたとしても、その差異は、被告製品の本件ホー ムアプリにおける「操作メニュー情報」の有無に係る判断を左右するものとはいえ ず、さらに、控訴人が、控訴審において追加した構成も、上記判断を左右するもの\nではない。 したがって、上記控訴人の主張は採用できない。
(6) 小括
したがって、控訴人が本件において本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償 請求をし、これに係る主張をすることは、令和2年事件における紛争の蒸し返しに すぎないというべきであり、同事件の当事者である控訴人と被控訴人らとの間で、 控訴人の請求について審理をすることは、訴訟上の信義則に反し、許されない。

◆判決本文
原審は令和4年(ワ)第11889号ですが、アップされていません。

上記別事件はこちらです。

◆令和2年(ワ)第15464号

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令和4(ネ)10093 特許権侵害差止請求権及び損害賠償請求権不存在確認請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月10日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

後発薬品の販売者が、販売の承認申請に必要として、不存在確認訴訟の訴えの利益があるのかが争われました。1審は訴えの利益無し、知財高裁も同様です。

なお、仮に二課長通知等に基づく運用によれば、本件各特許が存在するために原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされないことが控訴人にとって問題であるとしても、そのことは、厚生労働大臣が医薬品医療機器等法14条3項に基づく原告医薬品の製造販売についての控訴人の承認申請を認めるかどうかという控訴人と厚生労働大臣(国)との間の公法上の紛争であって、そもそも控訴人と被控訴人らとの私人間の法律上の紛争であるということはできないし、かかる公法上の紛争については承認申\請に対して不作為の違法確認の訴えの提起や厚生労働大臣等に対する不服申立て等の法的手段によって救済を求めるべきであるから、控訴人の有する権利又は法律的地位の危険又は不安を除去するため控訴人と被控訴人らとの間で本件訴訟において確認判決を得ることが必要かつ適切であると解することもできない。\n
(5) 控訴人は、当審において、1)パテントリンケージのシステムが発動するということ自体が、控訴人において、特許権の侵害の有無という法律的地位が問題になっている状況にあることを意味し、現に、「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という「控訴人の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在」している状況にあり、このような状況自体が現在の法的紛争であり、また、パテントリンケージは、あくまでも先発医薬品メーカの特許権が有効で、かつ、後発医薬品がその技術的範囲に含まれることを前提とする制度であり、被控訴人らに対し、裁判所による侵害の有無の判断(確認判決)さえ示されたならば、「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という、控訴人の法律的地位に対する危険は除去されるのであるから、確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に該当する、2)控訴人は承認申請のため原告医薬品を製造しており、承認後に行う製造行為も事実行為としては同じであって、さらに、控訴人は、原告医薬品が承認され薬価収載さえされれば、すぐに原告医薬品の製造販売を行う意思を有しており、他方、被控訴人らは、現状において権利行使をする意思がないとは述べているが、実際に権利行使を行い得る状況にあり、また、確認の利益は客観的な状況によって判断されるべきであって、被控訴人らの主観によって左右されるべきではないから、侵害の有無を判断すべき客観的な状況が存在する以上、本件における確認の利益は認められるべきである、3)二課長通知に基づく実務がTPP11協定(第18・53条2項)に根拠を有するものとして許容されるためには、特許抵触の有無に疑義がある本件のような確認訴訟が提起された場合については、確認の利益を認めて裁判所が実体的な判断を示すことが必要であるなどとして、本件においては確認の利益が認められるべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、前記(4)のとおり、控訴人が主張する「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という「控訴人の有する権利又は法律的地位」の「危険又は不安」とは、控訴人と厚生労働大臣との間で問題となる事柄であり、控訴人と被控訴人らとの間の「請求権の存否に係る法律上の紛争」に係るものではないし、また、かかる危険又は不安を除去するため控訴人と被控訴人らとの間で本件訴訟において確認判決を得ることが必要かつ適切であると解することもできない。
2)については、前記(4)で述べた事情を考慮すると、控訴人と被控訴人らとの間の本件差止請求権及び本件損害賠償請求権の存否について、現に当事者間に紛争が存在し、控訴人の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存しているとは認められないから、本件差止請求権及び本件損害賠償請求権の不存在確認請求に係る本件各訴えについて確認の利益があると認められないと判断したものであって、被控訴人らの主観のみによってこのような結論を導いているわけではない。
3)については、TPP11協定の第18・53条2項は、医薬品の販売承認に当たって、特許抵触の有無に疑義があるとして本件のような特許権侵害に係る確認訴訟が提起された場合に、裁判所が確認の利益を認めて実体的な判断を示さなければならない旨を規定するものではない。したがって、控訴人の上記主張は理由がない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆令和3年(ワ)13905

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令和3(行ケ)10094 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月26日  知的財産高等裁判所

無効理由無し(サポート要件)とした審決が取り消されました。なお、別訴と結論が異なる点については付言で、鑑定書等の新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたので問題ないと説明されています。

これらの開示事項を踏まえると、本件明細書の発明の詳細な説明には、 31H4抗体と競合するものであり、かつ、PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和する抗体として、31H4抗体とアミノ酸配列が異 なる互いにアミノ酸配列の同一性が高いグループの抗体が開示されてい ることが認められる。
ア 以上を前提に検討すると、前記 において説示したとおり、サポート要 件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載 とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記 載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示 唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決で きると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ ると解するのが相当であるところ、前記1 において示したとおり、本件 発明は、LDLRタンパク質の量を増加させることにより、対象中のLD Lの量を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を 奏し、また、この効果により、高コレステロール血症などの上昇したコレ ステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを\n低減すること、そのために、LDLRタンパク質と結合することにより、 対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるP CSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医 薬組成物を提供することを課題とするものであり、PCSK9とLDLR タンパク質との結合を強く遮断する中和抗体である参照抗体と競合する抗 体は、PCSK9への参照抗体の結合を妨げ、又は阻害する単離されたモ ノクローナル抗体であることを明らかにするものであると理解される。
そして、前記 によれば、本件発明における「中和」とは、タンパク質 結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作 用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節する以外に、間接的な手段(リ ガンド中の構造的又はエネルギー変化等)を通じてLDLRタンパク質に\n対するPCSK9の結合能を変化させる態様を含むものであるが、前記1\nのとおり、参照抗体自体が、結晶構造上、LDLRのEGFaドメイン\n(PCSK9の触媒ドメインに結合するものであり、その領域内に存在す るPCSK9残基のいずれかと相互作用し、又は遮断する抗体は、PCS K9とLDLRとの間の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る とされるもの)の位置と部分的に重複する位置でPCSK9とLDLRタ ンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体であ ると認められることを踏まえると、本件発明における「PCSK9との結 合に関して、31H4抗体と競合する」との発明特定事項も、31H4抗 体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、L DLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して(具体的には、抗体が結晶構\n造上、LDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置でPCSK9に 結合して)、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮 断し、低下させ、又は調節することを明らかにする点に技術的意義がある ものというべきであり、逆に言えば、参照抗体と競合する抗体は、このよ うな位置で結合するからこそ、中和が可能になるということもできる。こ\nの点は、被告自身が、前記第3の3 ウにおいて、本件明細書の発明の詳 細な説明によれば、当業者は、出願時の技術常識に照らし、参照抗体との 競合によってPCSK9上の複数の結合面のうち特定の領域内の特定の 位置(LDLRのEGFaドメインと結合する部位と重複する位置(又は 同様の位置))に結合する抗体は、PCSK9とLRLRタンパク質の結合 を中和することができると理解するものであり、発明の技術的範囲の全体 にわたって発明の課題を解決できると認識することができたといえる旨 主張していることからも裏付けられるところである。
また、前記1 において認定した甲1文献の開示事項によれば、家族性 高コレステロール血症は、血漿中のLDLコレステロールレベルの上昇に 起因するものであるところ、PCSK9は、細胞表面に存在するLDLR\nタンパク質の存在量を低下させるものであるため、PCSK9が治療のた めの魅力的な標的であり、血漿中のPCSK9に結合し、そのLDLRタ ンパク質との結合を阻害する抗体等が効果的な阻害剤となり得ることが 既に示されていたものと認められるのであるから、このような観点から見 ても、本件発明の技術的意義は、31H4抗体と競合する抗体であれば、 31H4抗体と同様のメカニズムにより、上記のようなLDLRタンパク 質との結合を阻害する抗体、すなわち結合中和抗体としての機能的特性を\n有することを特定した点にあるということもできる。そもそも本件発明の 課題は、前記1 イにおいて認定したとおり、LDLRタンパク質と結合 することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの 量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗 体又はこれを含む医薬組成物を提供することであり、このような課題の解 決との関係では、参照抗体と競合すること自体に独自の意味を見出すこと はできないから、このような観点からも、上記のとおり、本件発明の技術 的意義は、31H4抗体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同様の メカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有することを特定\nした点にあるというべきである。
イ さらに検討すると、前記 イ のとおり、本件明細書の発明の詳細な説 明には、エピトープビニングを行った結果、31H4抗体と同一性が高い とはいえないアミノ酸配列を有するグループの抗体が31H4抗体と競 合するものとして同定されたことが開示されている。本件明細書には、上 記競合する抗体として同定された抗体の中で中和活性を有すると記載さ れる抗体がPCSK9上へ結合する位置についての具体的な記載はなさ れておらず、31H4抗体とアミノ酸配列が異なるグループの抗体につい ては、エピトープビニングのようなアッセイで競合すると評価されたこと をもって、抗体がPCSK9上に結合する位置が明らかになるといった技 術常識は認められない以上、PCSK9上で結合する位置が明らかとはい えない。
また、本件発明の「PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する」 との性質を有する抗体には、上記本件明細書の発明の詳細な説明に具体的 に記載される数グループの抗体以外に非常に多種、多様な抗体が包含され ることは自明であり、また、前記2 イのとおり、このような抗体には、 被告が主張するように、31H4抗体がPCSK9と結合するPCSK9 上の部位と重複する部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻 害する(例えば、低下させる)抗体にとどまらず、参照抗体とPCSK9 との結合を立体的に妨害する態様でPCSK9に結合し、様々な程度で参 照抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下 させる)抗体をも包含するものである。そうすると、その中には、例えば、 31H4抗体がPCSK9と結合する部位と異なり、かつ、結晶構造上、\n抗体がLDLRのEGFaドメインの位置とも異なる部位に結合し、31 H4抗体に軽微な立体的障害をもたらして、31H4抗体のPCSK9へ の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)もの等も含ま れ得るところ、このような抗体がPCSK9に結合する部位は、抗体が結 晶構造上、LDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置ではないの\nであるから、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して、PCSK9 とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は 調節するものとはいえない。
なお、本件明細書には「例示された抗原結合タンパク質と同じエピトー プと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質及び断片は、類似の機能的\n特性を示すと予想される。」(【0269】)との記載があるが、上記のとお\nり、「PCSK9との結合に関して31H4抗体と競合する」とは、31H 4抗体と同じ位置でPCSK9と結合することを特定するものではない から、31H4抗体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同じエピト ープと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質(抗体)であるとはいえ ず、このような抗体全般が31H4抗体と類似の機能的特性を示すことを\n裏付けるメカニズムにつき特段の説明が見当たらない以上、本件発明の 「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する抗体」が31H 4抗体と「類似の機能的特性を示す」ということはできない。\n前述のとおり、本件発明の技術的意義は、31H4抗体と競合する抗体 であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とLDL Rタンパク質との結合を中和する抗体としての特性を有することを特定 する点にあるというべきところ、前記のとおり、31H4抗体と競合する 抗体であれば、LDLRのEGFaドメインと相互作用する部位(本件明 細書の記載からは、EGFaドメインの5オングストローム以内に存在す るPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相 互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残基(コア残基)、EGFaド メインの5オングストロームから8オングストロームに存在するPCS K9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相互作用界 面の境界PCSK9アミノ酸残基と理解され得る。)に結合してPCSK 9とLDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖するとはいえず、他には、 31H4抗体と競合する抗体であれば、どのようなものであっても、PC SK9とLDLRのEGFaドメイン(及び/又はLDLR一般)との間 の相互作用(結合)を阻害する抗体となるメカニズムについての開示がな い以上、当業者において、31H4抗体と競合する抗体が結合中和抗体で あるとの理解に至ることは困難というほかない。
ウ 以上のとおり、「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する 抗体」であれば、31H4抗体と同様に、LDLRタンパク質の結合部位 を直接封鎖して(具体的には、抗体が結晶構造上、LDLRのEGFaド\nメインの位置と重複する位置でPCSK9に結合して)、PCSK9とL DLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節 するものであるとはいえないから、「PCSK9との結合に関して、31H 4抗体と競合する抗体」であれば、結合中和抗体としての機能的特性を有\nすると認めることもできない。なお、前記 アのとおり、本件発明におけ る「中和」とは、PCSK9とLDLRタンパク質結合部位を直接封鎖す るものに限らず、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー変化\n等)を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させ\nる態様を含むものではあるが、「PCSK9との結合に関して、31H4抗 体と競合する抗体」であれば、上記間接的な手段を通じてLDLRタンパ ク質に対するPCSK9の結合能を変化させる抗体となることが、本件出\n願時の技術常識であったとはいえないし、本件明細書の発明の詳細な説明 に開示されていたということもできない。
エ こうした点は、前記1 においてその信頼性を認定した【A】博士の実 証実験の結果及び同実証実験を踏まえた【B】博士の供述書 からも裏付 けられる。すなわち、この実証実験は、リジェネロンの63の抗体につい て参照抗体との競合及び結合中和性を実験したものであるが、競合に関し て50%の閾値を用いた結果、34の抗体が参照抗体と競合するが、うち 28の抗体(80%よりも多く)は結合中和性を有しないことが確認され ており(別紙3の資料B1及び前記1 ア b)、参照抗体と競合する抗体 であれば結合中和性を有するものとはいえないことが具体的な実験結果 として示されている。さらに、この実験結果に加え、「本件特許によれば、 31H4抗体の結合部位はhPCSK9上のLDLRの結合部位と部分 的にしか重複しないから・・別の抗体の結合部位は、LDLRの結合部位 と重複することなく31H4結合部位と重複し得るのであり、このように して、別の抗体は、hPCSK9−LDLRの結合部位と重複することな く31H4結合部位と重複し得」る(前記1 ア b)として、【B】博士 が、「31H4抗体と競合する抗体・・・の全てが結合を中和する効果を有 するだろうというのは確実に誤りである。」旨の意見を述べているところ である(前記1 ア c)。
オ 被告は、前記第3の3 ウにおいて、31H4抗体(参照抗体)と競合 するが、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和できない抗体が 仮に存在したとしても、そのような抗体は、本件発明1の技術的範囲から 文言上除外されているなどとして、本件発明がサポート要件に反する理由 とはならない旨主張する。しかし、既に説示したとおり、31H4抗体と 競合する抗体であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、PCS K9とLDLRタンパク質との結合中和抗体としての機能的特性を有す\nることを特定した点に本件発明の技術的意義があるというべきであって、 31H4抗体と競合する抗体に結合中和性がないものが含まれるとする と、その技術的意義の前提が崩れることは明らかである(本件のような事 例において、結合中和性のないものを文言上除けば足りると解すれば、抗 体がPCSK9と結合する位置について、例えば、PCSK9の大部分な どといった極めて広範な指定を行うことも許されることになり、特許請求 の範囲を正当な根拠なく広範なものとすることを認めることになるから、 相当でない。)。なお、被告が主張するように、本件発明1の特許請求の範 囲は、PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する抗体のうち、「P CSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」る抗体のみ を対象としたものであると解したとしても、前示のとおり、本件発明のP CSK9との競合に関して、参照抗体と競合するとの発明特定事項は、被 告が主張するような、参照抗体が結合する位置と同一又は重複する位置に 結合する抗体にとどまるものではなく、PCSK9とLDLRタンパク質 の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体をも含 むものであるから、このような抗体についても結合中和抗体であることが サポートされる必要があるところ、参照抗体が結合する位置と同一又は重 複する位置に結合する抗体の場合とは異なり、PCSK9とLDLRタン パク質の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体 が結合を中和するメカニズムについては本件明細書には何らの記載はな く、また、ビニングによる実験結果(前記 イ )に基づく結合中和抗体 は、いずれも結合中和に係るメカニズムが開示されている、参照抗体が結 合する位置と同一又は重複する位置に結合する抗体である可能性が高く、\nその点を措くとしても、少なくともこれらが立体的に妨害する抗体である ことを示唆する記載はない。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明 には、参照抗体と競合する抗体のうちPCSK9とLDLRタンパク質と の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体が結合 中和活性を有することについて何らの開示がないというほかなく、この点 からも、本件発明はサポート要件を満たさない。
また、前記第2の3 のとおり、本件審決は、本件明細書には、本件明 細書記載の免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウ スの作製及び選択、選択された免疫化マウスを使用したハイブリドーマの 作製、本件明細書記載のPCSK9とLDLRとの結合相互作用を強く遮 断する抗体を同定するためのスクリーニング及びエピトープビニングア ッセイを最初から繰り返し行うことによって、十分に高い確率で本件発明\nの抗体をいくつも繰り返し同定することが具体的に示される旨判断する が、【F】(【F】)教授(【F】教授という。)の第2鑑定書(甲230)に 「特定のマウスが特定の抗体を生成するかどうかは運に支配されるため、 候補となり得る抗体を全て生成しスクリーニングすることは不可能であ\nる」と記載されているように、本件明細書に記載された抗体の作製過程を 経たとしても、免疫化されたマウスの中でPCSK9上のどのような位置 に結合する抗体が得られるかは「運に支配される」ものであって、抗体の 抗原タンパク質への結合を立体的に妨害する態様で抗原タンパク質に結 合する抗体を製造する方法が本件出願時における技術常識であったとも いえないことからすると、本件明細書に記載された抗体の作製方法に関す る記載をもって、本件発明に含まれる多様な抗体が本件明細書の発明の詳 細な説明に記載されていたとはいえない。
カ そして、本件発明1のモノクローナル抗体を含む医薬組成物に係る発明 である本件発明5も、上記同様の理由から、サポート要件を満たすもので はない。
以上によれば、本件発明1及び5は、いずれもサポート要件に適合するも のと認められないから、これと異なる本件審決の判断は誤りである(なお、 原告の主張のうち前記第3の3 イ の「EGFaミミック抗体」に係る点 は首肯するに値するものを含み、サポート要件が満たされているとする被告 の主張に疑義を生じさせるものと考えるが、この点に関する判断をするまで もなく、上記のとおり、本件発明1及び5は、いずれもサポート要件に適合 するものとは認められないから、更なる判断を加えることは差し控えること とする。)。
以下、念のために付言する。
ア 本件発明を巡る国際的状況について、原告は、欧州では、異議申立抗告\n審において、令和2年に、本件発明と実質的に同じ対応欧州特許について、 進歩性欠如により無効であると判断されており、また、米国では、合衆国 連邦巡回区控訴裁判所において、令和3年2月11日に、本件発明より限 定された対応米国特許につき、実施可能要件違反により無効であると判断\nされており、現在、我が国は、本件特許の有効性が裁判所により維持され ている世界で唯一の国である旨主張し、他方、被告は、上記連邦巡回区控 訴裁判所の判断につき、連邦最高裁判所は、令和4年11月4日に、裁量 上告受理申立てを認めたので、上記判断が覆される可能\性が極めて高い旨 主張するが、もとより、他国における判断が本件判断に直ちに影響を与え るものではないことは明らかである(なお、米国については、仮に、連邦 巡回区控訴裁判所の無効判断が覆されたとしても、対応米国特許は、参照 抗体との「競合」を発明特定事項とするものではないと認められるから(例 えば、米国特許8829165特許の請求項1は、「PCSK9に結合する とき、次の残基:配列番号3のS153、I154、P155、R194、 D238、A239、I369、S372、D374、C375、T37 7、C378、F379、V380、又はS381の少なくとも1つに結 合し、PCSK9がLDLRに結合するのを阻害する、単離されたモノク ローナル抗体」との発明特定事項である(甲19)。)、いずれにしても本件 発明に係る判断に直接関係しない。)。
イ 本件発明に係る別件審決取消訴訟においては、前記第2の1 のとおり、 サノフィによるサポート要件違反に関する主張は退けられている。しかし、 これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、31H4抗体と競合する抗体は、 31H4抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し31H4抗体と 同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによるもの\nと理解することも可能である。これに対し、本訴においては、【A】博士や\n【B】博士の各供述書、【F】教授の鑑定書等(甲18、230)による構\n造解析、「EGFaミミック抗体」に係る関係書証(甲4の1及び2)等の 新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたにもかかわらず、 この前提を支える判断材料が見当たらないのであるから、別件判決の結論 と本件判断が異なることには相応の理由があるというべきである。

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令和4(ネ)10078  不当利得返還請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟の控訴審判決です。1審の東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n控訴審において、控訴人(1審原告)は訂正の再抗弁をしました。知財高裁(4部)は、「本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加える」として、訂正の再抗弁について、判断がなされています。

ア 時機に後れた攻撃防御方法に当たるかについて
控訴人は、第4次訂正に係る訂正の再抗弁は、特許庁による令和4年4 月21日付けの審決の予告を受けてした第4次訂正請求に係るものであ\nって、本件特許に係る特許権侵害訴訟における手続においても当然に主張 できるものと考えるようである(同主張によって第3次訂正に係る訂正の 再抗弁が取下げ擬制されたとも主張している。)が、特許権侵害訴訟におい て無効の抗弁とその対抗主張ともいうべき訂正の再抗弁は、特許権の侵害 に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決するため、 特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことなく主張することが できるものとされたにすぎず、特許無効審判とは別の手続である民事訴訟 手続内でのものであるから、審理の経過に鑑みて、審理を不当に遅延させ るものであるときは、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下 されるべきである。
そこで、原審における審理経過についてみると、控訴人は、原審におい て、第1回弁論準備手続期日(令和元年11月18日)における本件特許 が新規性及び進歩性を欠く旨の無効の抗弁の主張(被告第1準備書面)を 受けて、第3回弁論準備手続期日(令和2年7月27日)までに、第2次 訂正に係る訂正の再抗弁に係る原告第2準備書面を提出したが、本件無効 審判の手続における訂正請求に合わせて、第3次訂正に係る訂正の再抗弁 を記載した令和3年3月3日付け原告第5準備書面及び同年5月27日 付け原告第6準備書面を提出した(これらの準備書面は、第4回弁論準備 手続期日(令和3年12月16日)において、訂正書面を含めて陳述され た。)。原判決は、第2次訂正及び第3次訂正に係る訂正の再抗弁はいずれ も訂正要件を充足せず、本件特許は特許無効審判により無効とすべきもの と判断したところ、控訴人は、控訴理由書で、第4次訂正に係る訂正の再 抗弁の主張を追加したものである。 こうした原審での審理経過に鑑みると、第4次訂正は、時機に後れて提 出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたことについて控訴人に は重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4 次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る 訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅 延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとす る。

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令和4(ネ)10008  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年11月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明の侵害訴訟の控訴審判断です。1審は技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断しました。知財高裁も同じです。なお、二審第1回口頭弁論期日においてした訂正の再抗弁は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下されました。

(4) 控訴人らによる訂正の再抗弁の主張について
当裁判所は、令和4年9月22日の当審第1回口頭弁論期日において、控訴人らが同月5日付け控訴人ら第4準備書面に基づいて提出した訂正の再抗弁の主張について、被控訴人の申立てにより、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが、その理由は、以下のとおりである。\n
ア 一件記録によれば、1)被控訴人は、令和元年12月19日の原審第1回弁論準備手続期日において、本件発明5に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点4−1及び4−3)等が存在するとして無効の抗弁を主張し、令和3年7月20日の原審第3回弁論準備手続期日において、本件発明1に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由が存在するとして無効の抗弁を追加して主張したこと、2)その上で、控訴人らが、同年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述した後、同日、原審が、口頭弁論を終結し、同年12月9日、被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めて控訴人らの請求を棄却する原判決を言い渡したこと、3)その後、控訴人らは、当審において、令和4年7月21日に書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったことが認められる。
イ 以上を前提に検討するに、本件特許権の侵害論に関する抗弁の主張は、本来、原審において適時に行うべきものであるところ、控訴人らは、原審において、令和3年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述するまでの間に、当審で主張する訂正の再抗弁の主張をしなかったものである。加えて、控訴人らは、原審が原判決において被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めた判断をしたにもかかわらず、当審における争点整理手続においても、書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったものであることからすると、当審における上記訂正の再抗弁の主張は、控訴人らの少なくとも重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるというべきである。そして、当審において、控訴人らに訂正の再抗弁の主張を許すことは、被控訴人に対し、上記主張に対する更なる反論の機会を与える必要が生じ、これに対する控訴人らの再反論等も想定し得ることから、これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。そこで、当審は、民事訴訟法297条において準用する同法157条1項に基づき、控訴人らの訂正の再抗弁の主張を却下したものである。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和1(ワ)25121

本件特許の審決取消訴訟です。

◆令和3(行ケ)10027

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令和3(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 知的財産裁判例 令和4年2月10日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所

特102条2項の覆滅90%は1審と同じです。控訴審の第1回口頭弁論においてした無効主張が時機に後れた抗弁と判断されました。

一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年 7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に「無 効理由5」(別件無効審判の無効理由2と同じ),「無効理由6」(別 件無効審判の無効理由3と同じ),「無効理由7」(別件無効審判の無 効理由4と同じ),「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理 由9」(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加\nし,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。 これに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一 審被告の「無効理由5ないし9」に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の 抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却 下を求める旨の申立てをした。\n
オ なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8 日)において,特許庁に係属中である。
(2)前記(1)の事実関係によれば,1)一審被告は,原審において,平成31年 3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許 に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進 歩性欠如の無効理由(本件の争点2−1ないし2−3)が存在するとして無 効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手 続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年 7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に 入ったこと,2)その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回 弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無 効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の 主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日にお いて,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこ と,3)一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において, 控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理 由2ないし4と同じ無効理由である「無効理由5ないし7」,原審で主張し なかった「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理由9」(実施可 能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権\n利の濫用の抗弁の主張をしたこと,4)別件無効審判は,当審の本件口頭弁論 終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審に おいて適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和 元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証 は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する「無効理由5ないし9」 に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて, やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審におけ る上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重 大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべき である。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗 弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の 機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得るこ とから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。 そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1 項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下 したものである。

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令和3(行ケ)10137  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月23日  知的財産高等裁判所

 先の審取で、実施可能要件違反はないと判断され、再度、実施可能\要件要件の無効を主張しましたが、「一次審決取消訴訟において行った主張と同じ」と判断されました。

(1) 審決取消訴訟の拘束力
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が 確定したときは、審判官は法181条2項の規定に従い当該審判事件につい て更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟 法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定 により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が 導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審 判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。 したがって、再度の審判手続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ 判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰 り返すこと、あるいはかかる主張を裏付けるための新たな立証をすることを 許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限 りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすること ができない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号2 45頁)。
(2)ア 一次審決取消訴訟の判断
(ア) 本件訴訟におけると同様に、一次審決取消訴訟においても、実施可能\n要件(法36条4項1号)に関して、本件明細書の発明の詳細な説明の 記載は、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加す る所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成(構\成要件G)を 当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているか否かという\nことが争点となり、原告(一次審決取消訴訟の被告)は、本件発明に係 る作業機を自ら開発した被告(一次審決取消訴訟の原告)ですら、本件 明細書等の図7のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業 機」を再現できないのであるから、構成要件Gが実施不可能\であること は明らかであると主張した(甲47〔20頁〕)。
(イ) この点について、一次判決は、特許発明が実施可能であるか否かは、\n実施例に示された例をそのまま具体的に再現することができるか否か によって判断されるものではないから、本件特許の原出願時に当業者が 本件明細書の記載に基づいて本件発明を実施することができたか否か は、本件明細書等の図7のグラフのデータを得た「当時の作業機」自体 を再現できるか否かによって判断されるものではなく、甲60(審判乙 14)、甲64(審判乙18)によれば、構成要件Gが実施可能\であるこ とが認められるから、原告の上記主張は採用することができない、と判 断した(甲47〔51〜52頁〕)。
イ 本件審決の判断
原告は、本件審決においても、前記ア(ア)と同様の主張を行ったが(本件 審決第4の3(4)カ)、本件審決は、一次審決取消訴訟のとおりの判断(前記 ア(イ))をし、そのような判断によれば、「一次審決は、図7のグラフを得た という作業機(実施品)が当時存在していたかについて審理判断していな いが、図7のグラフを得たという作業機が当時存在していたことを示す証 拠は皆無であり、架空の構成Gは当業者であっても実施不可能\である。」と いう原告の主張をもって、構成要件Gが実施可能\であるとの判断が左右さ れるものでないことは明らかであると判断した(本件審決第6の2(5)イ(イ) c〔本件審決111頁〕)。
(3) 原告は、本件訴訟において、取消事由3として、本件発明が、構成要件G\nの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角 度範囲内において徐々に減少し」という構成を備えるものとして実施可能\で あるというためには、本件明細書等の図7のグラフに示された結果を得るた めの実測に用いられた本件発明に係る当時の作業機(本件発明の実施品)が 実際に存在していたことが前提であるとし、それにもかかわらず、構成要件\nGの根拠である図7のグラフを得たという当時の作業機自体及びそれに関す る資料が現在存在しないから、図7のグラフは、一体どのような作業機を用 いた実測結果であるのか全く理解できず、構成要件Gの根拠になり得ず、そ\nのため、構成要件Gは根拠がなく、当業者であっても実施不可能\であると主 張する(前記第3の9〔原告の主張〕)。 しかし、原告の取消事由3についての上記主張は、本件明細書等の図7の グラフのデータの実測に用いられた作業機に関する資料の存否に言及するも のの、資料がないためにそのような作業機の存在が認められなければ、構成\n要件Gは実施不可能であるとの趣旨の主張であり、実施可能\要件との関係に おいては、本件明細書等の図7のグラフのデータの実測に用いられた作業機 の存在が明らかにならなければ実施可能要件は認められないとの主張であっ\nて、原告が一次審決取消訴訟において行った主張(前記(2)ア(ア))と同じ内容 の主張であると認められる。そして、原告が一次審決取消訴訟においてした 主張は(前記(2)ア(ア))、一次審決取消訴訟の判決理由中で理由がないと判断 され(前記(2)ア(イ))、その判断には行政事件訴訟法33条1項の拘束力が生 じたものと認められ、本件審決は、一次審決取消訴訟の拘束力に従って、原 告の上記主張に理由がないと判断したものと認められる。 したがって、原告は、本件審決が一次審決取消訴訟の拘束力に従ってした 判断をもはや争うことはできないものというべきであるから、原告の取消事 由3の主張は理由がない。

◆判決本文

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令和3(ネ)10094  特許権に基づく製造販売禁止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審で訂正主張が時期に後れたと判断されましたが、控訴理由書での主張も同じく却下されました。判決文を読む限り、訂正の抗弁は却下対象とされそうです(4部)。

なお、控訴人は、控訴理由書で、本件発明について訂正する(訂正の再抗弁) 旨主張するが、当裁判所は、これを時機に後れた攻撃防御方法に当たるものと して却下した。その理由は、一件記録によると、当該訂正の再抗弁は、原審裁 判所が本件特許は無効であるとの心証開示をした後にされたものであるため、 原審で時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下されたものであると ころ、適宜の時機に原審で主張することができなかった事情は見当たらないか ら、当審における上記主張は、明らかに時機に後れたものであって、そのこと について控訴人には少なくとも重過失があり、また、この攻撃防御方法の主張 を許せば、本件訴訟の完結が著しく遅れることは明らかであるためである。

◆判決本文

原審はこちら(東京地裁40部)

◆令和2(ワ)8506

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令和3(ネ)1005 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月10日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 空調服の特許について、1審は侵害を認めました。1審被告は控訴しましたが控訴は棄却されました。1審(東京地裁29部)は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。控訴審も覆滅割合は同じです。また、1審は、侵害論が終わってからの無効主張について、時期に後れたと判断しましたが、控訴審も同様です。  

前記ア及びイの認定事実によれば,本件各発明が被告各製品の部分 にのみ実施されていること,電動ファン付きウェアの市場において, 他社の販売する被告各製品の競合品が存在していたことは,本件推定 の覆滅事由に該当するものと認められる。 そして,本件推定の上記覆滅事由に加えて,1)前記アで説示した とおり,本件各発明は,空調服の襟後部と首後部との間に形成される 開口部の大きさを襟後部の内表面に設けた一組の調整紐で調整する従来技術における一組の調整紐を,取付部を有する二つの調整ベルトに\n置き換えて,一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数あ る取付部のうちいずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首 後部との間に形成される開口部の大きさを調整することを可能にし,より適切な空調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したもの\nであり,開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の 延長線上に位置づけられるものであること,本件特許の出願当時,ボ タン及びボタンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で 調整することは,周知慣用の技術であったことに照らすと,本件各発 明の技術的意義は必ずしも大きいものとはいえず,その作用効果も従 来技術と比較して大きなものとは認められないから,被告各製品にお いて本件各発明を実施した部分の顧客吸引力は高いものとはいえない こと,2)電動ファン付きウェアの市場における一審原告,一審被告及 び競業他社のシェアの割合(前記イ(ア)),3)一審被告における被告 各製品の広告宣伝の態様(甲3の1,6,乙57等)を総合考慮する と,被告各製品の購買動機の形成に対する本件各発明の寄与割合は1 0%と認めるのが相当であり,上記寄与割合を超える部分については 被告各製品の限界利益の額と一審原告の受けた損害額との間に相当因 果関係がないものと認められる。 したがって,本件推定は上記限度で覆滅されるものと認められる から,特許法102条2項に基づく一審原告の損害額は,被告各製品 の限界利益の額(5652万1465円)の10%に相当する565 万2147円と認められる。
・・・
当裁判所は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,一審 被告が同年7月9日付け控訴理由書に基づいて提出した「無効理由5ないし9」 に基づく無効の抗弁(同理由書第3ないし第6記載)及び権利の濫用の抗弁 (同理由書第8記載)の主張について,一審原告の申立てにより,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが,その理由は,以下のとおりで\nある。
(1) 一件記録により認められる本件訴訟の経緯等は,次のとおりである。
ア 一審原告は,平成30年7月6日,原審に本件訴訟を提起した。 一審被告は,同年11月12日の原審第1回弁論準備手続期日におい て,同年10月31日付け被告第1準備書面に基づいて,本件各発明 (請求項3及び9)に係る本件特許に明確性要件違反の無効理由(本件 の争点2−1)が存在するとして,特許法104条の3第1項の無効の 抗弁を主張した。その後,一審被告は,平成31年3月7日の原審第3 回弁論準備手続期日において,同年2月28日付け被告第3準備書面に 基づいて,上記無効の抗弁について,乙2公報を主引用例とする新規性 欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点2−2及び2−3)を追加 して主張した。 一審原告及び一審被告は,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備 手続期日において,侵害論についての主張立証は終了した旨陳述した。 その後,本件訴訟は,同年7月19日の原審第6回弁論準備手続期日 から,損害論の審理に入った。
イ 株式会社サンエスは,令和2年10月15日,本件特許のうち,請求項 3ないし10に係る特許について,明確性要件違反(無効理由1),冒 認出願又は共同出願要件違反(無効理由2),公然実施発明(結び紐タ イプの空調服に係る発明)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由3), 乙2公報を主引用例とする進歩性欠如(無効理由4)(ただし,本件の 争点2−3とは,乙2公報記載の発明の内容,副引用例等の主張が異な る。)を無効理由として特許無効審判(無効2020−800103号 事件。以下「別件無効審判」という。乙104)を請求した。
ウ 一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回弁論準備手続期日に おいて,同月16日付けの被告第10準備書面に基づいて,本件各発明 に係る本件特許に別件無効審判の無効理由1ないし4と同一の無効理由 が存在するとして,新たな無効の抗弁の主張をした。
原審は,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日において,一 審原告の申立てにより,被告第10準備書面で追加された上記無効の抗弁の主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下した。\n原審は,令和3年1月28日の第16回弁論準備手続期日で弁論準備 手続を終結した後,同年2月26日の原審第2回口頭弁論期日において 口頭弁論を終結し,同年5月20日,一審原告の請求を一部認容する原 判決を言い渡した。
エ 一審被告は,令和3年5月20日,本件控訴を提起し,一審原告は,同 年6月3日,本件附帯控訴を提起した。 一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年 7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に「無 効理由5」(別件無効審判の無効理由2と同じ),「無効理由6」(別 件無効審判の無効理由3と同じ),「無効理由7」(別件無効審判の無 効理由4と同じ),「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理 由9」(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加し,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。\nこれに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一 審被告の「無効理由5ないし9」に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の 抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却 下を求める旨の申立てをした。
オ なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8 日)において,特許庁に係属中である。
(2) 前記(1)の事実関係によれば,1)一審被告は,原審において,平成31年 3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許 に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進 歩性欠如の無効理由(本件の争点2−1ないし2−3)が存在するとして無 効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手 続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年 7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に 入ったこと,2)その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回 弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無 効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の 主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日にお いて,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこ と,3)一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において, 控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理 由2ないし4と同じ無効理由である「無効理由5ないし7」,原審で主張し なかった「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理由9」(実施可 能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権利の濫用の抗弁の主張をしたこと,4)別件無効審判は,当審の本件口頭弁論 終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審に おいて適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和 元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証 は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する「無効理由5ないし9」 に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて, やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審におけ る上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重 大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべき である。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗 弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の 機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得るこ とから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。 そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1 項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下 したものである。

◆判決本文

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◆平成30(ワ)21900

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令和3(ネ)10026  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月30日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

損害賠償不存在確認訴訟です。 国際裁判管轄の有無、訴えの準拠法、確認の利益の有無、など争点はたくさんです。1審の判断が維持されました。

(2) 控訴人の当審における補充主張に対する判断
控訴人は,請求1−1に関し,前記第2の3(1)アのとおり,別件評決ない し別件米国判決は,被控訴人の元従業員であるAの認識や記憶に基づかない 意図的な偽証に基づきされたのであり,被控訴人自身も,そのことを認識し たはずであるにもかかわらず,Aの供述や証言を援用して,自らに有利な架 空のストーリーを主張していたことになり,別件評決及び別件米国判決には, 民事訴訟法338条1項7号の再審事由が存するといえ,我が国の法秩序の 基礎をなす公序,適正手続という観点に照らして到底容認されるべきもので はなく,同法118条3号の要件を欠くほどに重大な瑕疵があると主張する。 しかし,民事訴訟法338条1項7号の再審事由は,証人の虚偽の陳述が 判決の証拠となった場合でなければならず,同号を理由に再審を求める場合 には,まず刑事手続で有罪の判決が確定した後等でなければならないところ (同条2項),本件においてはこのような事情は認められない。したがって, Aの供述・証言に係る事情をもって同号の再審事由が認められるとする控訴 人の主張は失当というほかない。証人の供述の信用性等は,本来,別件米国 訴訟の中で攻撃防御を尽くした上,誤った判断がされたのであれば,最終的 には上告や再審といった手続の中で是正されるべきものであるところ,別件 米国訴訟においては,そのような機会を経た上で,控訴人の敗訴が確定し, 現在に至っているのであるから,請求1−1に係る控訴人の訴えは,別件米 国訴訟の蒸し返しに当たるといわざるを得ない。 なお,念のために付言すれば,Aは,2015年(平成27年)2月15 日付けの宣誓供述書(甲32)で,参加人が宇部興産に本件発明の実施品を 販売するために本件特許のライセンスを被控訴人に要求し,被控訴人は宇部 興産が非競合者であるためライセンスを与えることを許諾したと供述してい るものの,別件米国訴訟における証人尋問においては,A自身はライセンス の交渉自体には関与していないこと,Cから,本件特許により設備を販売で きなくなり参加人としては困るとの話があったので購買部門に話をつないだ こと,参加人が販売対象として考えているのが非競合他社であるかどうかに ついては明確な議論はなく,ただ,その後上級管理者からは,非競合他社で ある宇部興産に販売しようとしているので問題はないだろうと言われたこと を証言し(甲35),別件関連訴訟における陳述書(甲50)では,Cから ライセンスの打診は受けたが上司に話をつないだだけであるとし,別件関連 訴訟の証人尋問では,Cから本件特許が製品の販売に支障をきたすので何と かならないかという話があったので,上司に話をつないだこと,宇部興産と いう具体名は出なかったが,被控訴人の競合相手ではない同社のことだろう と推測したものであることを証言している(甲51)。このような経緯に照 らせば,別件米国訴訟においてAが意図的な偽証をしていたとまで認めるこ とは困難であり,また,その偽証に基づき被控訴人が別件米国訴訟を追行し ていたともいい難い。 その他,控訴人がるる主張する点を考慮しても,日本の裁判所が審理及び 裁判をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情(民事訴訟法3条の9) があるとの判断を覆すに足りるものではない。
2 確認の利益の有無(請求1−2について。争点3)
確認の利益が認められるためには,原告の権利又は法律的地位に危険又は不 安が存在し,これを除去するために,原告と被告の間で,その訴訟物である権 利あるいは法律関係の存否を確認することが必要かつ適切であることを要する。 被控訴人は,令和3年7月20日の当審第1回口頭弁論期日において,仮に, 本件日本特許権の侵害に基づく被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求権が存 在するとしても,請求権自体放棄すると陳述した。 そうすると,請求1−2の対象となる権利については,被控訴人による権利 行使の意思がないことはもちろん,本件口頭弁論終結時におけるその存在自体 が認められないことになり,権利の存否を巡る法律上の紛争は解決されたとい えるから,現に控訴人の法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去する ため被控訴人に対し確認判決を得ることが必要かつ適切であると認めることは できない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,請求1−2に係る訴 えには確認の利益が認められないから,不適法というべきである。
3 訴訟物の特定の有無(請求2について。争点4)
当裁判所も,請求2に係る訴訟物の特定に欠けるところはないものと判断す る。その理由は,原判決の第3の3の説示のとおりであるから,これを引用す る。
4 請求2−1に係る訴えの準拠法(争点2)並びに別件米国訴訟の提起及び追 行の違法性等(争点6)
(1) 日本法に基づく不法行為の成否
ア 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,原則として加害行為の 結果発生地の法による(通則法17条本文)。もっとも,不法行為につい て外国法によるべき場合において,当該外国法を適用すべき事実が日本法 によれば不法とならないときは,当該外国法に基づく損害賠償その他の処 分の請求は,することができない(同法22条1項)。このため,請求2 −1に係る訴えの準拠法をいずれの地の法と考えるとしても,被控訴人に よる別件米国訴訟の提起及び追行につき日本法により不法行為といえる 必要があることになる。そこで,以下,この点につきまず検討する。
イ 別件米国訴訟は,被控訴人が勝訴して確定するに至っており,このよう な場合に,訴えの提起や追行が不法行為となるためには,確定判決の騙取 が不法行為となる要件,すなわち判決の成立過程において,被控訴人が控 訴人の権利を害する意図のもとに,作為又は不作為によって控訴人の訴訟 手続に対する関与を妨げ,あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔す\nる等の不正な行為を行い,その結果,本来あり得べからざる内容の確定判 決を取得したこと(最高裁判所昭和43年(オ)第906号同44年7月 8日第三小法廷判決・民集23巻8号1407頁),ないしはこれに準ず る特段の事情を要すると考えるのが相当である。そもそも,法的紛争の当 事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求め得ることは,法治国家の根幹 に関わる重要な事柄であるから,訴えの提起や追行が不法行為を構成する\nか否かを判断するに当たっては,裁判制度の利用を不当に制限する結果と ならないような慎重な配慮が必要とされるのであり,民事訴訟を提起した 者が敗訴の確定判決を受けた場合ですら,当該訴えの提起が相手方に対す る違法な行為となるには,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法 律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを 知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに あえて訴えを提起し,又はそれを維持したなど,訴えの提起・追行が裁判 制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められることを要す ると理解されている(63年判決)のであるから,民事訴訟を提起した者 が勝訴の確定判決を受けている場合には,前示のとおり,より高次の特段 の事情を要するというべきである。
これを前提にして本件を見れば,引用に係る原判決第2の1(補正後の もの)及び第3の1(2)イで認定された事実関係に照らせば,本件が,確定 判決の騙取が不法行為となる要件ないしはこれに準ずる特段の事情どこ ろか,民事訴訟を提起した者が敗訴した場合の要件すら満たし得ないもの であることは明らかというべきである(なお,別件米国訴訟においてAが 意図的な偽証をしていたとまで認めることは困難であり,また,その偽証 に基づき被控訴人が別件米国訴訟を追行していたともいい難いことは,前 記1(2)において判示したとおりである。)。 以上のとおりであるから,被控訴人による別件米国訴訟の提起・追行が 不法行為となるとはいえない。
(2) 小括
以上によれば,請求2−1に係る訴えの準拠法をいずれの地とした場合 でも,日本法によれば,被控訴人による別件米国訴訟の提起及び追行につ き,控訴人に対する不法行為は成立しない以上,損害賠償その他の処分の 請求をすることはできない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,請求2−1は理 由がない。
5 請求2−2に係る訴えの準拠法(争点2)及び本件許諾契約に基づく被控訴 人の控訴人に対する本件各特許権不行使債務の不履行の有無(争点7)につい て
(1)準拠法について
本件許諾契約には,その成立及び効力に係る準拠法を明示的に定めた規定 はない。もっとも,本件許諾契約により参加人に対する独占的通常実施権の 許諾を行う被控訴人は,日本に主たる事務所を有する日本法人であること等 を踏まえれば,本件許諾契約の効力の準拠法は,その最密接関係地である日 本法とするのが相当である(通則法8条2項,1項)。
(2) 債務不履行の有無について
控訴人は,前記第2の3(4)アのとおり,参加人と被控訴人との間で締結さ れた第三者のためにする契約の効果又は参加人が本件各特許発明について再 実施許諾する権限に基づき控訴人に本件各特許権の再実施を許諾したことに より,控訴人は本件各発明について実施権を有し,被控訴人は控訴人に対し 本件各特許権を行使しない義務を負っているところ,これに反して被控訴人 が別件米国訴訟を提起したことが控訴人に対する債務不履行となると主張す る(なお,控訴人のこの点に係る請求は,被控訴人が別件米国訴訟を提起, 追行したことにより生じた弁護士費用相当額の損害賠償である。)。 しかし,控訴人の特許権者の実施権者に対する提訴が債務不履行となると すれば,それは実質的には訴権の放棄に等しい効果をもたらすものであるか ら,特許権者が実施権者に不提訴義務を負うことが前提となるというべきで ある。仮に参加人からの機械装置の購入者が,本件許諾契約に基づき,本件 各特許発明について実施権を取得し,それが被控訴人に主張できるものであ るとしても,そのことは,被控訴人が購入者に対し差止請求権や損害賠償請 求権を行使して訴えを提起しても,抗弁が成立して請求が棄却されることを 意味するだけで,当然に被控訴人に参加人からの機械装置の購入者に対する 訴えの提起をしない義務を負わせるものとはいえない。 本件許諾契約には,参加人から機械装置を購入して本件各特許発明(製法 特許)を実施した者に対する不提訴義務が規定されていないことはもちろん, 参加人に対する不提訴義務についても規定されていない。事情が変更する可 能性があり,様々な形態をとり得る特許権者と実施権者ないし実施権者から\nの機械装置の購入者の将来の紛争について,明文の規定もなく不提訴の合意 があったと軽々に認めることはできない。控訴人は本件許諾契約の当事者で はなく,当時存在もしていなかったのであるから(控訴人の成立は,原判決 第2の1(1)アのとおり,2008年〔平成20年〕4月頃である。),なお さら,本件許諾契約が控訴人に対する不提訴義務を定めていると認めること はできない。その他に,本件において,不提訴の合意があったことを裏付け るに足りる事情は見当たらない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,本件において被控 訴人の控訴人に対する不提訴義務は認められず,被控訴人が別件米国訴訟の 提起をしたことについて,債務不履行が成立する余地はないというべきであ る。
(3) 小括
以上のとおり,被控訴人が別件米国訴訟を提起したことについて債務不履 行は認められず,請求2−2は理由がない。

◆判決本文

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◆平成30(ワ)5041

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令和3(ネ)10043  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月11日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審と同じく、知財高裁は、明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして権利行使不能\と判断しました。

以上からすると,当業者によって,当初明細書等の全ての記載を総合す ることにより導かれる技術的事項とは,低地球温暖化係数の化合物である HFO−1234yfを調整する際に,不純物や副反応物が追加の化合物 として少量存在し得るという点にとどまるものというほかない。
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,沸点の近い化合物を組み合せて共沸組成物とすることが本件 発明の技術的思想であることや,低コストで有益な組成物を提供すること ができること等を主張するが,当初明細書中には,沸点の近い化合物を組 み合せて共沸組成物とすることや低コストで有益な組成物を提供できる ことについては,記載も示唆もされていないから,その主張は前提を欠く し,このような当初明細書に記載のない観点から本件補正をしたというの であれば,それは新たな技術的事項を導入するものであり,まさしく新規 事項の追加にほかならない。

◆判決本文

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◆令和1(ワ)30991

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令和2(ワ)3247等  損害賠償請求  特許権  民事訴訟 令和3年9月6日  大阪地方裁判所

 原告は被告に対して特許権侵害による損害賠償を求めましたが、被告は提訴自体が不法行為は裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとして、反訴請求しました。裁判所は被告の主張を認め、50万円の損害賠償を認めました。

 (1) 前提事実,争いのない事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば, 次の事実が認められる。 ア 被告は,原告退職後の平成22年9月から漏水探査等を目的とする事業を行 うようになったところ,平成23年頃実施の門川町上水道漏水調査委託業務の入札 に参加し,これを落札した。これについて,原告は,その後,門川町に対し,被告の 指名競争入札参加申請書及び被告が納品した漏水調査結果報告書等を求めて公文書\n公開請求を行った(甲15,16)。
イ 被告は,平成26年10月1日,原告から,平成23年4月26日付け「情 報窃盗に関する記述」と題する部分及び平成25年9月26日付け「情報窃盗及び 機密保持違反に関する刑事告訴に至る記述」と題する部分からなる書面(乙7)を 受領した。同書面のうち,前者の部分には,被告が,原告が「業務を通じ考案した 「エアー加圧工法」を実用新案特許出願中 平成2年6月 その工法さえも盗み出 した」との旨や,書類(結果報告書及び作業計画書等)の無断使用による著作権侵 害,原告の固定客や取引先の横取り等による原告の被害額が推定1500万円以上 に上ること,被告を刑事告訴する旨等が記載されている。後者の部分には,前者の 部分と同趣旨の記載のほか,「虚偽申請による不当なる資格取得」との記載があり,\n原告の被害額が推定3000万円以上に上ること,被告を刑事告訴する旨等が記載 されている。
ウ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,平成27年4月1日付け「質問書」 (乙9)を送付した。同書面には,同協会発行の有資格者認定名簿における被告の 記載に関する質問等が記載されている。
エ 原告は,同月6日,被告に対し,「「漏水調査技術者認定証等」に関する件」 と題する書面(乙8の1)を送付した。同書面には,被告につき,「不正に全国漏 水調査協会の民間資格者として,再登録を行っています。」,「貴殿が行った行為 は,「業務上横領」や「詐欺」に匹敵する許し難い行為だと思います。」,「まず貴\n殿が,「弊社の技術」を盗む目的を持って入社し弊社が長年の研究や試行錯誤の上 で開発した「エア加圧工法」と言う独自工法を盗み」などと記載されていると共に, 「期日までに,何らかのご連絡,若しくは,「漏水調査技術者証の返還」が,無き 場合は,「刑事告訴」及び「法的手段」を取りますので,ご了承下さい。」とも記載 されている。
オ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,同年5月6日付け「勧告書」(甲3 2,乙10)を送付した。同書面は,上記「質問書」に対する回答が得られていな いとして送付されたものであり,ここには,有資格者の調査技師の欄に被告が記載 されているが,その記載内容は虚偽である旨の指摘等が記載されている。また,同 書面(乙10)の余白には,「この書面を提出した事で,彼は責任を取り自から会 長職を辞職した!!」との原告代表者の手書きによる記載がある。\n
カ 原告は,同年6月11日,被告に対し,同日付け「通知書」(甲29,乙11 の1)を送付した。同書面には,「その盗んだ技術の中身には,長年研究開発した 「エア加圧工法」が含まれており,弊社が開発した技術を無断で利用して,平然と 営業利益を上げています。」などとして,原告の損害金総額1億円の支払を求める 旨等が記載されている。 これに対し,被告は,同年9月14日,原告に対し,同日付け「回答書」(甲9, 31,乙12の1)を送付した(同月15日に原告に到達。乙12の2)。同書面に は,「調査内容の「エア加圧工法」は他社企業でも行われている工法で,特許侵害 等の法を犯す工法ではありません」などと記載されていると共に,1億円の支払請 求については,内容が事実に反していることなどから応じられない旨が記載されて いる。
キ 被告は,平成31年2月7日頃,原告から,平成30年2月7日付け「最後 通告書」(乙13の1。なお,同書面の作成日付は,書面全体の記載の趣旨から, 「平成31年」の誤記と思われる。)を受領した(乙13の2)。同書面には,「貴 殿は,…私文書偽造詐欺行為を平然と行って置きながら,…全国漏水調査協会に私\n文書偽造の行為にあたる事を長年繰り返し申請をして,不正に漏水調査士の資格を\n取得しています。」,「弊社の「報告書書式や漏水調査カルテ書式等」を退職時に 何らかの形で持ち出しましたね。」,「「工具は持ち出して居ない」とは思います が,どの様な方法でエアを注入していますか?」,「漏水調査工法のエア加圧工法 は,弊社が開発したものです。…弊社は,昨年5月11日付で,エア加圧工法で, 「特許権」を取得しています。このままだと仕事を失う事になりますよ。速やかに, なんらかの行動を起して下さい。」,「弊社が取得した「エア加圧工法」は,…何人 たりとも勝手に利用して,使用が出来ないのです。それを犯して使用する場合は, 「知的財産権の侵害行為」となり,そこには,処罰の対象になります。…独自の工 法を考えださない限りは,特許権侵害行為になり,この仕事は,出来ません。」な どと記載されていると共に,改めて,総額1億円の技術使用料の支払を求める旨等 が記載されている。 なお,同書面には,被告の使用する工法が原告の「特許権」の侵害にあたると原 告が考える理由等に関する記載はない。
ク 原告は,本件の証拠として提出した令和2年8月22日付け「上申書(5)認否 事項についての反論」(甲21)において,「裁判を提訴するまで,被告の行って居 る工法につては,知る由は無かった。」としている。
ケ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,本訴の提起後である令和2年9月1 1日付けで,同協会の漏水調査技術資格認定者名簿における被告の記載に関して質 問をし,同月28日付けで回答を得たものの,これを不十分として,同年10月1\n日付け「公開質問書」(甲32)を送付して再度質問をし,同月16日付けで回答 を得た。
(2) 法的紛争の当事者が紛争の解決を求めて訴えを提起することは,原則として 正当な行為であり,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴 訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くもので ある上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知 り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的 に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当 である(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・ 民集42巻1号1頁参照)。 前記(1)認定のとおり,原告は,被告が原告を退職して独立開業した後,本訴の提 起に至るまでの間,被告が門川町の業務を落札したことを契機に,被告の事業活動 を問題視するようになり,被告の使用する工法が原告の「エア加圧工法」を無断で 使用するものであるなどとして,刑事告訴の可能性にも言及するなどしつつ,被告\nに対して直接非難する趣旨を含む書面を送付した。他方で,原告は,漏水調査協会 に対しても,有資格者名簿に被告が記載されていることにつき,質問の形式を取り ながら,これを問題視していることをうかがわせる内容の書面を送付した(しかも, 原告は,本訴提起後も改めてこのような行為に及んでいる。)。さらに,本件特許 権の設定登録後には,「エア加圧工法」につき特許権を取得したとの前提ではある ものの,被告の行為は特許権侵害にあたるとして,技術使用料の支払を重ねて求め たものである。 こうした経過を経て本件の本訴が提起されたことを踏まえると,本訴の提起も, 被告がその事業上実施する工法を原告が問題視して行った一連の行動の一環として 行われたものと理解される。
他方,原告と被告との一連のやり取りにおいて,原告は,被告から「特許侵害等 の法を犯す工法ではありません」などと反論されたこともあるにもかかわらず,被 告の使用する工法等が原告の特許権を侵害するものと考える理由に言及したことは なく,また,被告が使用する漏水探査方法の具体的内容やこれに使用する装置につ いて質問等をしたのも,平成30年2月7日付け「最後通告書」におけるものが初 めてである。加えて,本件における原告の主張立証活動,就中,原告自身が「裁判 を提訴するまで,被告の行って居る工法につては,知る由は無かった。」とし,実 際,被告が主張する被告装置の構成等を前提として主張立証を行っていることに鑑\nみると,原告は,本訴の提起に先立ち,被告の使用する漏水探査方法やこれに使用 する装置に関する調査等を自ら積極的には必ずしも行っていなかったことがうかが われる。 このような本訴の提起に至る経緯や訴訟の経過等に加え,前記のとおり,被告装 置につき本件各発明の技術的範囲に属さないことに照らすと,原告は,本訴で主張 する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることにつき,少なく とも通常人であれば容易にそのことを知り得たのに,被告による事業展開を妨げる ことすなわち営業を妨害することを目的として,敢えて本訴を提起したものと見る のが相当である。 そうすると,原告による本訴の提起は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相 当性を欠くものと認められるから,被告に対する不法行為を構成する。これに反す\nる原告の主張は採用できない。

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令和1(ワ)30991 特許権侵害差止等請求事件 令和3年3月30日 東京地方裁判所

 漏れていたので追加します。特許侵害事件において、明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして権利行使不能\と判断されました。
なお、原告の査証命令申立てについては却下されました。\n 

 前記(2)に説示したとおり,前記第2の1(4)アの出願当初の請求項1及び 2の記載からすれば,本件特許に係る特許出願当初の請求項1及び2の記載 は,HFO−1234yfに対する「追加の化合物」を多数列挙し,あるい は当該「追加の化合物」に「約1重量パーセント未満」という限定を付すに とどまり,上記のとおり多数列挙された化合物の中から,特定の化合物の組 合せ(HFO−1234yfに,HFO−1243zfとHFC−245c bとを組み合わせること)を具体的に記載するものではなかったというべき である。
しかして,上記(3)の当初明細書の各記載について見ても,特許出願の当 初の請求項1と同一の内容が記載され(【0004】),新たな低地球温暖化 係数(GWP)の化合物であるHFO−1234yf等を調製する際に,H FO−1234yf又はその原料(HCFC−243db,HCFO−12 33xf,及びHCFC−244bb)に含まれる不純物や副生成物が特定 の「追加の化合物」として少量存在することが記載されており(【0003】, 【0016】,【0019】,【0022】),具体的には,HFO−1234y fを作製するプロセスにおいて,有用な組成物(原料)がHCFC−243 db,HCFO−1233xfおよび/またはHCFC−244bbである ことが記載され(【0005】),HCFC−243db,HCFO−123 3xf及びHCFC−244bbに追加的に含まれ得る化合物が多数列挙さ れてはいる(【0006】ないし【0008】)ものの,そのような記載にと どまっているものである。
そして他方,当初明細書においては,そもそもHFO−1234yfに対 する「追加の化合物」として,多数列挙された化合物の中から特に,HFO −1243zfとHFC−245cbという特定の組合せを選択することは 何ら記載されていない。この点,当初明細書においては,HFO−1234 yf,HFO−1243zf,HFC−245cbは,それぞれ個別に記載 されてはいるが,特定の3種類の化合物の組合せとして記載されているもの ではなく,当該特定の3種類の化合物の組合せが必然である根拠が記載され ているものでもない。また,表6(実施例16)については,8種類の化合\n物及び「未知」の成分が記載されているが,そのうちの「245cb」と 「1234yf」に着目する理由は,当初明細書には記載されていない。さ らに,当初明細書には,特許出願当初の請求項1に列記されているように, 表6に記載されていない化合物が多数記載されている。それにもかかわらず,\nその中から特にHFO−1243zfだけを選び出し,HFC−245cb 及びHFO−1234yfと組み合わせて,3種類の化合物を組み合わせた 構成とすることについては,当業者においてそのような構\成を導き出す動機 付けとなる記載が必要と考えられるところ,そのような記載は存するとは認 められない(なお,本件特許につき,優先権主張がされた日から特許出願時 までの間に,上記各説示と異なる趣旨の開示がされていたことを認めるに足 りる証拠はない。)。
これらに照らせば,当業者によって,当初明細書,特許請求の範囲又は図 面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項としては,低地球 温暖化係数(GWP)の化合物であるHFO−1234yfを調製する際に, HFO−1234yf又はその原料(HCFC−243db,HCFO−1 233xf,及びHCFC−244bb)に含まれる不純物や副反応物が特 定の「追加の化合物」として少量存在する,という点にとどまるものという ほかなく,その開示は,発明というよりはいわば発見に等しいような性質の ものとみざるを得ないものである。そして,当初明細書等の記載から導かれ る技術的事項が,このような性質のものにすぎない場合において,多数の化 合物が列記されている中から特定の3種類の化合物の組合せに限定した構成\nに補正(本件補正)することは,前記のとおり,そのような特定の組合せを 導き出す技術的意義を理解するに足りる記載が当初明細書等に一切見当たら ないことに鑑み,当初明細書等とは異質の新たな技術的事項を導入するもの と評価せざるを得ない。したがって,本件補正は,当初明細書等の記載から 導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したもので あるというほかない。
以上によれば,本件補正は「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範 囲又は図面に記載した事項の範囲内」においてしたものということはできず, 特許法17条の2第3項の補正要件に違反してされたものというほかなく, 本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められ(特許法 123条1項1号),同法104条の3第1項により,特許権者たる原告は, 被告に対しその権利を行使することができないこととなる。
・・・
原告は,令和2年10月19日,原告主張製品のうち,被告から原告に対 し販売された最終製品以外のものに含まれるHFO−1234yf,HFO −1243zf,HFC−245cb及びHFO1234zeの含有量を立 証すべき事項として,査証命令の申立てをした(当庁令和2年(モ)第267 4号)。
(2) しかしながら,前記のとおり,本件特許は特許無効審判により無効にされ るべきものと認められるのであって,原告主張製品であれ,被告主張製品で あれ,対象製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かを問わず,原告は被 告に対し,本件特許権を行使することができないものである。そうすると, 当裁判所としては,本件訴訟において,原告の請求に理由があるかを判断す るために,上記の立証すべき事項たる事実を判断する必要がないものといわ ざるを得ず,ひいては,同事実を判断するため,上記査証命令申立てにより\n得られる証拠を取り調べることが必要であるとも認められない。 以上によれば,上記査証命令の申立ては,必要でない証拠の収集を求める\nものであり,その必要性を欠くものというべきであるから,原告の上記査証 命令申立ては,これを却下することとする。\n

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令和2(ネ)10044 特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年6月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁3部は、非接触式ICカードは本件発明の「記憶媒体」には非該当、また、無効主張は、時期に後れた攻撃防御でないとして、被告の敗訴部分を一部取り消しました。

(2) 非侵害論主張5)について
ア 自白の成否及び時機に後れた攻撃防御方法該当性
一審原告は,非侵害論主張5)は,原審の答弁書記載の認否によって成立 した自白の撤回に当たり,また,時機に後れた主張でもあるから,許され ない旨主張する。 たしかに,一審被告は,原審答弁書における構成要件1A等の認否に際\nし,被告給油装置の電子マネー媒体が本件発明の「記憶媒体」に当たると の対比を明確に争っていたわけではないが,従前から,被告給油装置が本 件発明の技術的思想を具現化したものでないことを主張しており,非侵害 論主張5)は,これを,使用される決済手段の差異(プリペイドカードと非 接触式ICカード)という観点から論じたものであるといえるから,一審 被告が充足論全体について単純に認めるとの認否をしていない以上,自白 を撤回して新たな主張をしているとはいえないし,この主張を時機に後れ たものとして扱うのも相当ではない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
イ 非接触式ICカードの「記憶媒体」該当性
本件明細書において,本件発明の「記憶媒体」の具体的態様としては, 磁気プリペイドカード(【0033】)のほか,「金額データを記憶する ためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」(【0070】)や 「カード以外の形態のもの,例えば,ディスク状のものやテープ状のもの や板状のもの」(【0071】)も開示されている。このように,本件発 明の「記憶媒体」は必ずしも磁気プリペイドカードには限定されない。 しかしながら,本件発明の技術的意義が上記1のとおりであることに照 らして,「媒体預かり」と「後引落し」との組合せによる決済を想定でき る記憶媒体でなければ,本件3課題が生じることはなく,したがって,本 件発明の構成によって課題を解決するという効果が発揮されたことになら\nないから,上記の組合せによる決済を想定できない記憶媒体は,本件発明 の「記憶媒体」には当たらない。 かかる見地にたって検討するに,被告給油装置で用いられる電子マネー 媒体は非接触式ICカードであるから,その性質上,これを用いた決済等 に当たっては,顧客がこれを必要に応じて瞬間的にR/Wにかざすことが あるだけで,基本的には常に顧客によって保持されることが予定されてい\nるといえる。そのため,電子マネー媒体に対応したセルフ式GSの給油装 置を開発するに当たって,物としての電子マネー媒体を給油装置が「預か る」構成は想定し難く,電子マネー媒体に対応する給油装置を開発しよう\nとする当業者が本件従来技術を採用することは,それが「媒体預かり」を 必須の構成とする以上,不可能\である。 そうすると,被告給油装置において用いられている電子マネー媒体は, 本件発明が解決の対象としている本件3課題を有するものではなく,した がって,本件発明による解決手段の対象ともならないのであるから,本件 発明にいう「記憶媒体」には当たらないというべきである。むしろ,電子 マネー媒体を用いる被告給油装置は,現金決済を行う給油装置において, 顧客が所持金の中から一定額の現金を窓口の係員に手渡すか又は給油装置 の現金受入口に投入し,その金額の範囲内で給油を行い,残額(釣銭)が あればそれを受け取る,という決済手順(これは乙4公報の【0002】 に従来技術として紹介されており,周知技術であったといえる。)をベー スにした上,これに電子マネー媒体の特質に応じた変更を加えた決済手順 としたものにすぎず,本件発明の技術的思想とは無関係に成立した技術で あるというべきである。一審被告の非侵害論主張5)は,このことを,被告 給油装置の電子マネー媒体は本件発明の「記憶媒体」に含まれないという 形で論じるものと解され,理由がある。
ウ 一審原告の主張について
(ア) 一審原告は,本件発明の「記憶媒体」は,構成要件1C及び1Fの動\n作に適した「記憶媒体」であれば足りる旨主張する。 しかしながら,発明とは課題解決の手段としての技術的思想なのであ るから,発明の構成として特許請求の範囲に記載された文言の意義を解\n釈するに当たっては,発明の解決すべき課題及び発明の奏する作用効果 に関する明細書の記載を参酌し,当該構成によって当該作用効果を奏し\n当該課題を解決し得るとされているものは何かという観点から検討すべ きである。しかるに,一審原告の上記主張は,かかる観点からの検討を せず,形式的な文言をとらえるにすぎないものであって,失当である。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 一審原告は,本件明細書の【0070】に「記憶媒体」として「金額 データを記憶するためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」を 例示する記載があり,非接触式ICカードもこれに含まれる旨主張する。 しかしながら,上記記載は,【0033】の「プリペイドカード71 は,磁気カードからなり」等の記載を受けて,カードの記憶素子が磁性 材ではなくICメモリであっても良い旨を示すにとどまり,そのカード が非接触で動作することを示す記載ではない。また,上記記載において, ICメモリは「金額データを記憶するための」ものであって,非接触式 ICカードのように演算・通信の機能を有することは開示も示唆もされ\nていないから,上記記載を根拠に非接触式ICカードが本件発明の「記 憶媒体」に当たるとはいえない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 一審原告は,非接触式ICカードが券売機に取り込まれて使用され得 ることは周知であり,本件明細書には設定器内部にカードを取り込んだ ままとしない記憶媒体を用い得ることが示されているから,非接触式I Cカードが本件発明の「記憶媒体」に当たらないとはいえない旨主張す る。 しかしながら,前掲前提事実のとおり,被告給油装置において電子マ ネー媒体を使用する際には,電子マネー媒体(非接触式ICカード)は R/Wにかざされるだけであって装置に「取り込まれ」ることはない。 非接触式ICカード一般に一審原告主張のような使用態様はあり得るも のの,被告給油装置ではそのような使用態様によらずに非接触式ICカ ードが「電子マネー媒体」として用いられているので,被告給油装置に おける「電子マネー媒体」の技術的意義は,本件発明における「記憶媒 体」のそれとは異なる。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(3) 充足論についての小括
以上によれば,一審被告の非侵害論主張4)及び5)は理由があるから,その 余の非侵害論主張の成否について判断するまでもなく,被告給油装置及び被 告プログラムは本件特許を侵害しない。
4 争点4(無効論)について
念のため,仮に,本件発明1の「先引落し」金額は顧客が指定する場合を含 み(上記3(1)イ(イ)参照),また,非接触式ICカードも本件特許の「記憶媒 体」に含まれる(上記3(2)イ参照)とした前提で,無効論につき検討する。 なお,本件において,無効論は,本件発明1及び本件発明3(本件訂正後の もの)について検討すれば足りる。このことは,上記「第3」4の冒頭に説示 したとおりである。
(1) 「時機に後れた攻撃防御方法」該当性について
無効主張A,B,Dは,原審における侵害論の心証開示後に主張されたも のであり,そのため,原審においては時機に後れたものとして取り扱われた わけであるが,既に充足論に関する項で指摘したとおり,構成要件1C1充\n足性(非侵害論主張4))及び構成要件1A,1C,1F3,1F4充足性\n(非侵害論主張5))に関する原審の主張整理には,本来は,争いがあるもの として扱うべき論点を争いのないものとして扱ったという不備があったとい わざるを得ない。そして,無効論に関する主張の要否や主張の時期等は,充 足論における主張立証の推移と切り離して考えることができないのであるか ら,充足論について,本来更に主張立証が尽くされるべきであったと考えら れる本件においては,無効主張が原審による心証開示後にされたという一事 をもって,時機に後れたものと評価するのは相当ではない。 また,上記無効事由に関する当審における無効主張は,控訴後速やかに行 われたといえる。 以上によると,一審被告による上記無効主張は,原審及び当審の手続を全 体的に見た観点からも,また,当審における手続に着目した観点からも,時 機に後れたものと評価することはできない。 したがって,いずれの無効主張も,時機に後れた攻撃防御方法として却下 すべきものではない。
・・・
ウ 相違点の容易想到性
上記の表において一致点とされていない本件発明1の構\成は,相違点と なる。 しかしながら,いずれの構成も,セルフ式GSの給油装置において,審\n判甲B1装置の現金による支払を,電子マネー媒体による支払に置き換え る際には,当然に備わる構成である。すなわち,上記の各相違点をまとめ\nると,本件発明1においては装置がR/Wを備えること,電子マネーの金 額データはR/Wにより電子的に書き換えられること,の2点となるが, いずれの構成も,現金の場合は貨幣という有体物に化体されている金銭的\n価値を,電子的情報という無体物に化体させたことによって必然的に生じ る帰結である。 また,現金による支払を電子マネー媒体による支払に置き換えること自 体は,電子「マネー」という名称自体からも容易に着想することができる し,例えば乙16の12(電子商取引推進協議会「モバイルECに関わる 決済標準モデルの研究中間報告書」平成13年3月発行)には,非接触式 ICカードが「電子マネー」として利用されること,FeliCa内蔵の携帯電 話は「電子財布」になること等が記載されており,これらの記載は,現金 による支払いを電子マネー媒体に置き換えることを動機付ける。 そうすると,当業者にとって,上記各相違点にかかる本件発明1の構成\nに想到することは,通常の創作能力の発揮にすぎず,容易であったといえ\nる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)29228

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令和2(ワ)25127 「オーサグラフ世界地図」の共同著作権確認請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年6月4日  東京地方裁判所

 共同著作者である確認訴訟について、裁判所は訴えの利益無しとして、訴えを却下しました。

 確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,すなわち,現に,原告の有する 権利又は法的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため,被告に対し て確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許される。したがって,そ れが許されるためには,仮に原告の権利又は法的地位に危険又は不安が存在す るとしても,その危険又は不安が被告に起因し,かつ,対象となる権利又は法 的地位について確認判決をすることでその危険又は不安が解消されなければな らないというべきである。
しかし,本件においては,Bによる講義の内容が「オーサグラフ世界地図は Bが発明したものである」というものとなったこと,上記講義と同内容の論文 が学術論文誌に掲載されたこと,本件ウェブサイト内に本件地図とともに本件 地図はBが発明したものである旨の説明文が掲載されたことについて,それら が被告に起因するものであることを認めるに足りる証拠はない。また,被告は, 本件地図に係る著作権又は著作者人格権が自らにあるとは主張しておらず,今 後,被告がこのような主張をすることをうかがわせる事情も認められない。そ うすると,原告の有する権利又は法的地位に存在する危険又は不安が被告に起 因するものであるとはいえない。
さらに,被告が,自らは本件地図の作成に関与しておらず,本件地図に関し て原告及びBのいずれかにいかなる権利が帰属するかを判断し得ないとも主張 していることに照らせば,そのような被告に対して確認判決を得ることにより, 原告の有する権利又は法的地位への危険又は不安を取り除くことができるとは 考え難い。そして,前記前提事実(3)のとおり,原告は,別件訴訟において,B に対し,本件地図と同じくオーサグラフ図法により作成された別件各地図が原 告及びBを発明者とする共同著作物であることの確認を求め(本件と同様に, 原告及びBが別件各地図に係る著作権及び著作者人格権を有することの確認を 求めるものと解される。),これに対して,Bは,別件各地図はBが単独で作 成したものであると主張して争っているが,原告と被告との間で本件地図に係 る著作権及び著作者人格権の帰属を確定したところで,原告とBとの間におい て別件各地図に係る著作権及び著作者人格権の帰属を確定することはできない。 このことは,Bが被告の設置する慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准 教授であり(前記前提事実(1)イ),被告とBは雇用関係にあると認められるこ とを考慮しても変わりはない。さらに,前記前提事実(2)のとおり,本件ウェブ サイトはBが管理運営しており,被告が本件ウェブサイトの内容を変更するこ とができるとは認められないから,被告に対して確認判決を得たとしても,本 件ウェブサイト内において,本件地図につき当該判決に従った取扱いがされる ことが期待できるとはいえない。そうすると,本件において原告の権利又は法 的地位について確認判決をすることにより,原告の権利又は法的地位に存在す る危険又は不安が解消されるとは認められないというべきである。 そのほかに,原告と被告との間で,本件地図に係る原告の権利又は法的地位 に危険又は不安が存在し,これを除去するために被告に対して確認判決を得る ことが必要かつ適切であることをうかがわせる事情は認められない。 したがって,原告と被告との間で原告及びBが本件地図に係る著作権及び著 作者人格権を有することを確認することについては即時確定の利益が認められ ないから,本件においては確認の利益が認められない。

◆判決本文

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令和1(ワ)23033  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年5月21日  東京地方裁判所

 商標権侵害の損害論の審理に入ってから約半年が経過後の被告側の限界利益算出のための調査の申し出は、時期に後れた攻撃防御として却下されました。\n

 (a) 以上に対し,被告は,1)前記(1)イの売上高には,被告が楽天に 支払うべき楽天市場の出店手数料及び広告料が含まれているから, 限界利益を算定する上では,上記の売上高から上記出店手数料や広 告料を差し引くべきである旨を主張し,2)上記1)の主張に関連して, 平成18年8月11日から令和元年8月27日までの間の売上高に 関して被告が楽天に支払った月ごと又は年ごとの金額を調査の趣旨 とする令和2年2月28日付けの調査嘱託を申し立て(以下「本件\n調査嘱託の申立て」という。),さらに,3)楽天市場に出店する際の 月額固定費,売上げに応じた変動費等が支払われており,これらを 差し引くべきであるとの主張を記載した令和3年3月11日付け準 備書面(以下「本件被告準備書面」という。)及び同日作成の書証 (「楽天市場への出店方法の流れと費用,体験談から見るメリッ ト・デメリットを解説」と題するウェブページをプリントアウトし たもの。以下「本件被告書証」という。)を提出した。 これに対し,原告は,前記第2の4(5)(原告の主張)ウのとお り,上記2)及び3)は時機に後れた防御方法に当たるから,民事訴訟 法157条1項により却下されるべきであるとの意見を述べた。
(b) そこで検討すると,本件の審理が以下の経過をたどったことは, 当裁判所に顕著である。
i 本件の訴状は令和元年9月19日に被告に送達された。
ii 本件は,令和元年10月30日の第1回口頭弁論期日の後, 弁論準備手続に付され,令和2年8月28日の第7回弁論準備 手続期日まで,主として,被告による原告各商標権侵害の成否 (いわゆる侵害論)についての争点整理が行われた。
iii 原告は,令和2年8月28日,平成18年8月11日から令 和元年8月27日までの間における本件被告販売商品1−1及 び1−2の売上高等に関する楽天に対する調査嘱託を申し立て\nたところ,同年10月29日,楽天は,上記調査嘱託の回答書 (甲35)を提出した。
なお,上記提出に先立つ同月5日の第8回弁論準備手続期日 において,被告は,調査嘱託の回答があったときには,次回期 日までに,調査嘱託の回答を踏まえて,主張立証の方針につい て検討する旨を陳述した。
iV 被告は,令和2年12月14日の第9回弁論準備手続期日に おいて,前記iiiの回答書(甲35)に関し,月ごとの売上高等 を調査事項とする調査嘱託を申し立てる意向を示すとともに,\n損害論に関する事実調査を尽くす旨を陳述した。 そして,被告は,同月21日,楽天に対する上記調査嘱託を 申し立て,楽天は,令和3年1月21日,同調査嘱託に対する\n回答書(甲36)を提出した。
V 被告は,令和3年1月28日の第10回弁論準備手続期日に おいて,同年3月1日までに,損害論についての認否反論を尽 くす旨を陳述した。
Vi 被告は,前記(a)2)のとおり,令和3年2月28日付けで本件 調査嘱託の申立てをした。これに対し,原告は,本件調査嘱託\nの申立ては,必要性がなく,かつ不適法であるとの意見を記載\nした同年3月5日付け意見書を提出した。
Vii 被告は,前記(a)1)の主張を記載した本件被告準備書面を提出 し,令和3年3月11日の第11回弁論準備手続期日において 同準備書面を陳述した。 また,被告は,前記(a)3)の主張を記載した準備書面(同月1 1日付け)を提出するとともに,本件被告書証を乙第1号証と して提出した。
(c) 本件では,訴状において,商標法38条2項により推定される逸 失利益の額に関する主張が記載されていたから,被告においても, 限界利益の算定に当たって控除すべき経費の項目及び額が争点とな り得ることについては,同訴状送達日である令和元年9月19日の 時点で認識することができたといえる。 そして,前記(b)iiのとおり,本件の審理において,侵害論の争 点整理は令和2年8月28日までにおおむね終了し,同日からは損 害の発生及び額(いわゆる損害論)に関する争点整理に進み,その 後の4回の弁論準備手続期日の中で,被告には,前記iV及びVのと おり,損害論に関する事実調査及び主張立証を尽くす機会が与えら れたというべきである。
以上のような審理経過に加え,被告が楽天に支払った手数料の額 に関する情報は,通常,被告において管理されていてしかるべきも のであって,仮にその情報が被告の元に存在しなかったとしても, そのような事情はさほど期間を要せずとも把握することが可能な性\n質のものであることを考慮すれば,被告は,遅くとも令和2年12 月21日付けの調査嘱託を申し立てた時点において,それと同時に\n本件調査嘱託の申立てをすることが十\分に可能であったというべき\nであるし,そのころ,本件被告準備書面及び本件被告書証を提出す ることも十分に可能\であったというべきである。しかるに,訴状が 送達された日から約1年3か月が経過し,損害論の審理に入ってか らも約半年が経過して,損害論について主張立証を尽くす旨を陳述 した第10回弁論準備手続期日の後,その期限である同年3月1日 の直前になって,本件調査嘱託の申立てがされ,同期限後に作成さ\nれた本件被告準備書面及び本件被告書証が提出されたものであるか ら,これらはいずれも時機に後れた防御方法の提出であり,かつ, このことについて被告に重大な過失があると認めざるを得ない。 そして,本件調査嘱託の申立てを採用すれば,楽天から回答を受\nけるのに相当期間を要した後,その回答を踏まえた主張立証がされ ることとなるから,訴訟の完結を遅延させることとなるのは明らか である。
また,本件被告準備書面を陳述させ,本件被告書証を取り調べる と,これらに対する原告の反論の機会を設ける必要があるほか,損 害論に関する被告の主張の整理に相応の期間を要することとなり, 訴訟の完結を遅延させることとなるのは明らかである。
(d) 以上のとおり,本件調査嘱託の申立て,本件被告準備書面及び本\n件被告書証は,いずれも,被告が重大な過失により時機に後れて提 出した防御の方法に該当し,かつ,訴訟の完結を遅延させることと なるものと認められる。よって,本件調査嘱託の申立て,本件被告\n準備書面及び本件被告書証の提出は,いずれも時機に後れた防御方 法として,却下する(民事訴訟法157条1項)。

◆判決本文

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平成30(ワ)5041  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月21日  大阪地方裁判所

 損害賠償不存在確認訴訟です。 国際裁判管轄の有無、訴えの準拠法、確認の利益の有無、など争点はたくさんです。民訴法3条の9の特別の事情があると認めるとして,訴えは却下されました。

   被告の主たる事務所は日本国内にあることから,本件各請求に係る訴えのい ずれについても,日本の裁判所が管轄権を有する(民訴法3条の2第3項)。 もっとも,その場合でも,事案の性質,応訴による被告の負担の程度,証拠の所 在地その他の事情を考慮して,日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間 の衡平を害し,又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があ ると認めるときは,裁判所は,その訴えの全部又は一部を却下することができる (同法3条の9)。そこで,本件各請求に係る訴えにおいて,それぞれ,上記「特 別の事情」があると認められるかについて,以下検討する。
(ア) 前記イ(ア)のとおり,請求1−1は,別件米国訴訟と同一の訴訟物に関するも のである。 また,本件において,本件各装置が本件米国特許に係る発明の実施品であること, 本件各装置が参加人から SKC 等に販売されたこと及び原告が本件各装置を使用し て本件各製品を製造したことについては,当事者間に争いはない。本件での主要な 争点は,本件許諾契約により参加人が許諾された本件実施権の範囲,すなわち,参 加人の販売先に関する制限の存否といった本件許諾契約の解釈である。他方,別件 米国訴訟においても,その経過(前記イ(イ))から,消尽及び黙示のライセンスの抗 弁は主要な争点として位置付けられ,本件許諾契約の解釈につき,日本法の専門家 の各意見書及び関係者の供述書並びにそれを踏まえた主張の提出,陪審公判での証 人尋問といった形で,原告等と被告とが主張立証を重ね,陪審及び加州裁判所の判 断の対象となっている。その意味で,本件と別件米国訴訟とは,争点を共通にする ものといえる。 しかも,別件米国訴訟の提起は平成22年7月であり,本件の訴え提起までの約 8年間,こうした主張立証が行われ,その結果として,別件評決及び加州裁判所の 別件米国判決に至ったものである。なお,この間,原告が日本において請求1−1 に係る訴えのような訴訟を提起することを妨げる具体的事情があったことはうかが われない。
これらの事情を総合的に考慮すると,別件米国訴訟につき加州裁判所の別件米国 判決がされるまでは,原告は,日本において請求1−1に係る訴えのような訴訟を 提起する考えはなく,別件米国判決を受けたことを契機に,その結論を覆すべく請 求1−1に係る訴えを提起したものと理解される(別件米国判決の基礎となった証 拠方法の重大な瑕疵等を度々指摘する原告の主張からも,原告のこのような意図が うかがわれる。)。他方,請求1−1に係る本件の訴えに応訴すべきものとした場 合,被告は,時期を異にして別件米国訴訟と共通する主張立証活動を重ねて強いら れることとなるのみならず,別件米国判決の結論を本件において覆そうとする以上, 原告は別件米国訴訟では行わなかった主張立証を追加的に行う蓋然性が高いと見ら れるところ,これに対する対応を強いられることで,被告にとっては,更なる応訴 の負担を新たに生じる蓋然性も高いといえる。 そうすると,本件許諾契約はいずれも日本法人である被告と参加人との間で締結 されたものであり,関連する証拠も,多くは日本語で作成されていること又は日本 語を解する者である蓋然性が高く,その所在も多くは日本国内にあると見られるこ とを考慮しても,請求1−1に係る訴えについては,日本の裁判所が審理及び裁判 をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情(民訴法3条の9)があると認め られる。
(イ) これに対し,原告は,日本の裁判所で審理をすることが必要かつ適切である こと,別件米国訴訟の重複・蒸し返しに当たらないこと,別件米国判決は日本にお いて承認されないことなどを指摘して,特別の事情があるとはいえない旨主張する。 しかし,請求1−1に係る訴えに関する限り,日本の裁判所で審理をすることが 必要かつ適切であるとは必ずしもいえないこと,別件米国訴訟の蒸し返しに当たる と見られることは,上記のとおりである。別件関連訴訟が係属しているといっても, 請求1−1に係る訴えとは当事者及び訴訟物を異にする別の事件である以上,その 主張立証の負担をもって本件における主張立証の負担を無視ないし軽視し得ること にはならない。
また,別件米国判決が日本において承認されないとする根拠として,原告は,別 件米国判決が重大な瑕疵のある証拠に依拠するものであることを指摘する。しかし, そのような誤りは本来的には米国の訴訟手続を通じて是正されるべきものであると ころ,かえって,別件米国判決は,CAFC においても承認され,確定している。こ のことと,再審事由(民訴法338条)に該当するような具体的な事情もないこと に鑑みると,日本法に照らしても,原告の上記指摘は別件評決及び別件米国判決の 依拠する証拠評価に対する不満をいうにすぎず,これをもって外国の確定判決の効 力が認められる要件である「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は 善良の風俗に反しないこと」(民訴法118条3号)を欠くとはいえない。 さらに,原告は,別件米国判決が承認された場合に,別件関連訴訟につき参加人 の被告に対する損害賠償請求等の判決が確定すると両者に矛盾が生じることなどを 指摘して,その点からも別件米国判決は承認されるべきものではないとする。しか し,別件関連訴訟が原告の主張するとおりに帰結するか否かは,請求1−1に係る 訴えの提起の時点では不明というほかない。この点を措くとしても,別件関連訴訟 は,本件とも別件米国訴訟とも当事者及び訴訟物を異にするものであるから,その 判決の効力は原告と被告との関係に及ぶものではない。 その他原告が縷々指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用で きない。
(ウ) 以上のとおり,請求1−1に係る訴えについては,日本の裁判所が審理及び 裁判をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情があると認められるから,こ れに係る訴えを却下することとする。

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令和2(ネ)10050  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について1審は技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されていました。控訴審でも同様です。なお、控訴審における乙18に基づく無効主張は1審において主張できたとして、却下されました。乙18が実質あまり強くないのか、気になります。

 なお,控訴人は,当審において,乙第18号証に記載された発明を主引例 とする無効の抗弁を新たに主張した。
しかしながら,この新たな無効の抗弁が時機に後れた攻撃防御方法に当た るかどうかは,原審及び当審における審理の経過を総合的に踏まえて検討す べきものであるところ,一件記録によれば,原審においては,平成31年3 月12日に第1回口頭弁論期日が開かれた後,審理が弁論準備手続に付され たこと,充足論及び無効論について当事者双方の主張立証が行われた後,令 和元年12月20日の第5回弁論準備手続期日において,当事者双方の主張 立証が尽くされたことが確認された上で,裁判所の心証開示が行われたこと が認められる。そして,裁判所の心証開示が行われた上記第5回弁論準備手 続期日までに,乙第18号証に記載された発明を主引例とする無効の抗弁を 主張することが困難であったことをうかがわせるに足りる証拠はない。そう であるとすれば,控訴人としては,上記第5回弁論準備手続期日までに新た な無効の抗弁を主張すること(あるいは,少なくとも,速やかにその主張を する予定である旨を告知すること)が可能\\\であったし,そうすべきものであ ったといえるから,それをしなかったことは時機に後れたものであり,また, 時機に後れたことについて重大な過失があったものといわざるを得ない。そ して,そのような評価は,控訴人が控訴をし,審級が変わったからといって 変わるものではないところ,当審において新たな無効の抗弁の成否を審理す ることになれば,訴訟の完結が遅延することは明らかである。
以上の次第で,当審としては,新たな無効の抗弁を時機に後れた攻撃防御 方法であるとして却下したものである。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成31(ワ)22

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令和2(行ケ)10096  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年12月2日  知的財産高等裁判所

 特許権の延長登録無効審決の取消訴訟です。本案前に当事者参加適格があるのかが争われました。裁判所は155条1項の参加資格ありと判断しました。

 審判便覧(丙1)によると,1項参加人も3項参加人と同様,被参加人が審判請 求を取り下げない限り,被請求人が答弁書を提出した後でも,被請求人の同意なく 参加を取り下げることができるとされている。また,1項参加の申請に際して,特\n許法施行規則様式第65によると,参加申請書に「請求」を記載することは求めら\nれていない。
しかし,審判便覧の上記取扱いについては,被参加人が取下げをしない限り,特 許法155条2項が保護しようとしている被請求人の利益,すなわち,審決を得て, 審判請求の理由がないことを確定するという利益の保護は図られているのであるか ら,その段階で1項参加人の取下げについて被請求人の同意を要する実益は乏しい ことから,上記のように取り扱われていると解され,上記の取扱いが,1項参加人 が「請求」を定立していないことに基づくものとはいえず,1項参加人が特許法1 79条1項の「請求人」に当たらないことの理由とはならない。 また,特許法施行規則様式65についても,1項参加人の請求は,被参加人の請 求と同一のものであるとの理解の下に上記のような様式が定められていると解され, そのことから1項参加人が「請求」を定立していないということはできず,1項参 加人が,特許法179条の「請求人」に当たらないことの理由とはならない。
(3) 上記4),5)について
特許法148条1項は,被参加人が請求を取り下げた場合に限り,1項参加人が 「請求人」となるとは規定しておらず,1項参加人が同項に基づいて「請求人」と なるのは,被参加人が審判請求を取り下げ,1項参加人が審判手続を続行した場合 に限られると解することはできない。 また,1項参加人に審決取消訴訟の被告適格を認めることが1項参加人の意思に 反する事態を招来するとは認められない。1項参加人が多数いるからといって,そ のことにより,訴訟手続がいたずらに煩雑化したり,遅延を招いたりして,訴訟経 済に反するとは認められない。 さらに,被告ニプロは,審決取消訴訟の係属中に被参加人が無効審判請求を取り 下げた場合,「請求人」として1項参加人が審決取消訴訟を受継することができると 主張するが,いかなる法的根拠に基づいてそのような「受継」ができるのか明らか ではない。また,仮に,このような「受継」をすることができたとしても,1項参 加人が受継した時点での訴訟の進行状況によっては,主張立証が制限されることも あり得るといえ,1項参加人の手続保障に欠けるところがないとはいえない。

◆判決本文

こちらは関連事件です。

◆令和2(行ケ)10097

◆令和2(行ケ)10098

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平成30(ワ)21448  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年7月9日  東京地方裁判所

 被告製品は構成要件を有していない、さらに、進歩性違反の無効理由ありとの判断されました。同時期に継続していた審取の判断については「証拠が異なる」として、審理再開の 必要なしと判断されました。

イ 本件発明の技術思想(課題解決手段)について
前記(1)によれば,本件発明は,鋼管等を回転して圧入する立坑構築機に\n関し,輸送する際に幅を狭くする必要があったところ,従来技術において は,円弧状歯車片同士の端部が当接されず,その隙間から内部の転動体が こぼれ落ちてしまうため,標準的なベアリングを使用することができない という課題が生じていたので,これを解決するため,構成要件Eに係る構\ 成を採用し,円弧状ベアリング片が隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ ングを構成し,もって,分割して幅方向の寸法を狭くすることができると\n共に,転動体がこぼれ落ちなくなり回転を安定させることができ,標準的 なベアリングを使用して装置を安価に構成することができるようにした\nという技術的思想であるものと認められる。すなわち,本件発明において, 円弧状ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付 ベアリングを構成するという技術的意義を有しているものというべきで\nあり,このことは,前記のとおり,課題解決手段の欄(段落【0011】) において,「円弧状ベアリングは隙間なく接続して環状の歯車付ベアリン グを構成し,内輪及び外輪の間に配置された球やころ等の転動体がこぼれ\n落ちない構造になっている。かかる構\成によって,分割して幅方向の寸法 を狭くすることができると共に,標準的なベアリングを使用して回転を安 定させることができる。」と記載されていることからも根拠付けられるも のである。
ウ 構成要件Eへの被告製品の充足性について\n
しかして,構成要件Eには,円弧状ベアリング片が「それぞれの両端部\nを各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する」との文言が記載され\nているところ,「接続」とは「つなぐこと。つながること。続けること。続 くこと。」を意味するものである(広辞苑第7版)。そうすると,その文言 の一般的意義,上記の本件発明の技術的思想(本件発明において,円弧状 ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ ングを構成するという技術的意義を有しているものであること)に照らせ\nば,環状の歯車付ベアリングを構成するために隙間なく接続する部品,す\nなわち,つなぐ部品が円弧状ベアリング片であって初めて,円弧状ベアリ ング片が「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構\n成する」といえるものであると解するのが相当である。そうすると,環状 の歯車付ベアリングを構成した際に,円弧状ベアリング片の両端部に隙間\nが有るならば,「接続」とは評価し難いものというべきである。 しかるに,前記アによれば,被告製品においては,環状の歯車付ベアリ ングは,2つある分割フレーム14に設けられた内外輪部ケースそれぞ れの両端部及び回転リング部材51−3,51−4それぞれの両端部を 隙間なく接続して構成するものであって,分割内輪部23や分割外輪部\n24それぞれの両端部を隙間なく接続するものでも,つなぐものでもな く,円弧状ベアリング片である円弧状部材36,37それぞれの両端部 には,客観的に隙間があるから,被告製品の円弧状部材36,37は 「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成す\nる」ものであるとはいえず,被告製品は,構成要件Eを充足しないもの\nというほかない。
・・・
以上によれば,本件特許は当業者が乙2発明に基づいて容易に発明するこ とができたもの(特許法29条2項)であるから,特許無効審判により無効 にされるべきもの(同法123条1項2号)である。 なお,本件特許については,知的財産高等裁判所令和2年(行ケ)第10 102号事件同2年3月24日判決(裁判所ホームページ)が,特許無効審 判請求の不成立審決に対する取消請求を棄却しているところ,原告は,これ を理由として,口頭弁論再開の申立てをしているが,同判決は,乙2発明を\n主引用発明とし,乙20発明を副引用発明として適用することに基づく進歩 性の欠如については判断しておらず,上記判断は同判決と矛盾するものでは ないから,再開の必要性は認められない。

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令和1(行ケ)10126  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月22日  知的財産高等裁判所

 本件特許についての第三次取消訴訟で無効理由無しの審決が取り消されました。第一次、第二次はいずれも、「無効理由無し、審決維持」でした。

 正規状態での施工の利点(上記(2)ア)及び2枚目クランプ状態での施工の 問題点(同イ)にかんがみると,甲1発明において,400mmの場合に2 枚目クランプ状態で施工すると,地盤が硬い場合や鋼矢板が長い場合には施 工不能となるおそれがあるから,正規状態での施工が可能\になるように構成\nすることを当業者は動機付けられるといえる。 ここで,600mm用のチャック装置のままで400mmの鋼矢板を正規 状態で施工すると,チャック装置が大きすぎるために干渉問題が生じる(上 記(2)ウ)。この干渉問題を解決するために,上記(3)の周知事項を適用して, 必要に応じて圧入機に仕様変更を加えつつ,600mm用のチャック装置よ りも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用のチャック装置を備え\nる一体型チャックフレームに交換することにより,あるいは,600mm用 の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm\n用の着脱式チャック装置に交換することにより,400mmの場合でも正規 状態での施工が可能になるように構\成することは,当業者が容易に想到し得 たことといえる。
なお,本件特許の明細書の【0027】には,従来技術の説明として,溶 接事項記載に相当する記載があるが,溶接の工程にはそれなりの手間や費用 を要する上に,溶接した鋼矢板は,その再利用にも支障が生じ得ることなど を踏まえると,鋼矢板の溶接は,あくまでも次善の策にすぎず,当業者とし ては,より抜本的な解決策の採用に向けて動機付けられるであろうことは否 定できない。そうすると,溶接事項記載の存在により,相違点に係る本件発 明1の構成を採用することが阻害されるとはいえない。\n
2 第2次審決(甲7−1)との関係について
なお,甲7の1,2によれば,本件審判手続と第2次審決に係る無効審判手 続とでは,類似の無効理由が主張されていたことが認められるので,第2次審 決との抵触等が問題にならないではないが,同証拠によれば,両者で主張され た無効理由は,主引例が異なる上に,その根拠として提出された証拠にも違い があることが認められるから,本件において,原告が,甲1発明に基づく進歩 性欠如を主張することが,第2次審決の効力に違反するものではないし,また, その主張が既に決着済みの問題を蒸し返すものであって信義則に違反するとま で認めるに足りる証拠もない。

◆判決本文

1次判決はこちら

◆平成28(行ケ)10161

2次判決はこちら

◆平成30(行ケ)10030

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平成29(ワ)27378  特許権持分一部移転登録手続等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年8月21日  東京地方裁判所

 「オプジーボ」について、原告Xは発明者であるとの確認を求める訴訟にて、東京地裁は、「訴えの利益無し、発明者ではない」と判断sました。原告Xは研究室にいた研究者と小野薬品です。被告Yは本庶教授なのでしょう。

 原告は,本件発明の発明者であることの確認を求める利益を有すると主張す る。しかし,確認の利益は,原告の権利又は法律的地位に危険や不安定が現存し, かつ,その危険や不安定を除去する方法として,当事者間に当該請求について 判決をもって法律関係の存否を確定することが必要かつ適切な場合に認められ ると解されるところ,本件発明の発明者であることの確認請求は,原告が本件 発明の発明者にあるという事実関係についての確認を求めるものにすぎず,給 付の訴えである不法行為に基づく損害賠償請求をすれば足りるのであるから, 原告には本件発明の発明者であることの確認を求める利益があるということは できない。 したがって,本件訴えのうち,原告が本件発明の発明者であることの確認を 求める部分は確認の利益を欠き,不適法である。
・・・
上記(2)ないし(4)によれば,1)本件発明の技術的思想を着想したのは,被 告Y及びZ教授であり,2)抗PD−L1抗体の作製に貢献した主体は,Z教 授及びW助手であり,3)本件発明を構成する個々の実験の設計及び構\築をし たのはZ教授であったものと認められ,原告は,本件発明において,実験の 実施を含め一定の貢献をしたと認められるものの,その貢献の度合いは限ら れたものであり,本件発明の発明者として認定するに十分のものであったと\nいうことはできない。 したがって,原告を本件発明の発明者であると認めることはできない。
(6) 原告の主張について
ア 発明者の認定基準について
(ア) 本件実験のほぼ全てを原告が行ったことについては,当事者間に争い がないところ,原告は,化学の分野においては,発明の基礎となる実験 を現に行い,その検討を行った者が発明者と認められるべきであると主 張する。 しかし,前記判示のとおり,発明者と認められるためには,当該特許 請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分を着 想し,それを具体化することに現実に加担したことが必要であり,仮に, 発明者のために実際に実験を行い,データの収集・分析を行ったとして も,その役割が発明者の補助をしたにすぎない場合には,発明者という ことができないと解すべきである。 原告が本件発明に係る技術的思想に関与せず,抗PD−L1抗体の作 製・選択及び本件発明を構成する実験の設計・構\築に対する貢献もごく 限られたものであったことは,前記判示のとおりであり,これによれば, 原告の本件発明における役割は補助的なものであったというべきであ る。
(イ) また,原告は,特許発明に係る情報を記載した各種文書を作成し,こ れを管理している場合には,いわば発明を占有するものとして発明者性 が推認されるべきであると主張するが,研究の補助者が特許発明に係る 情報を記載した各種文書を作成・保管することもあり得ることに照らす と,特許発明に関する文書の作成・保管主体をもって直ちに発明者であ ると推認することはできない。

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平成31(受)619  特許権侵害による損害賠償債務不存在確認等請求事件 令和2年9月7日  最高裁判所第二小法廷  判決  その他  知的財産高等裁判所

 1審は,確認の利益がないとして本件訴えを却下しました。知財高裁は訴えの利益ありと判断しました。最高裁は知財高裁の判決を取り消ししました。 論点は、不利益の可能性が潜在的にとどまっていても、訴えの利益があるかです。\n

 本件確認請求に係る訴えは,被上告人が,第三者である参加人の上告人に対する 債務の不存在の確認を求める訴えであって,被上告人自身の権利義務又は法的地位 を確認の対象とするものではなく,たとえ本件確認請求を認容する判決が確定した としても,その判決の効力は参加人と上告人との間には及ばず,上告人が参加人に 対して本件損害賠償請求権を行使することは妨げられない。
そして,上告人の参加人に対する本件損害賠償請求権の行使により参加人が損害 を被った場合に,被上告人が参加人に対し本件補償合意に基づきその損害を補償 し,その補償額について上告人に対し本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害 賠償請求をすることがあるとしても,実際に参加人の損害に対する補償を通じて被 上告人に損害が発生するか否かは不確実であるし,被上告人は,現実に同損害が発 生したときに,上告人に対して本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請 求訴訟を提起することができるのであるから,本件損害賠償請求権が存在しない旨 の確認判決を得ることが,被上告人の権利又は法的地位への危険又は不安を除去す るために必要かつ適切であるということはできない。
なお,上記債務不履行に基づく損害賠償請求と本件確認請求の主要事実に係る認定判断が一部重なるからといって,同損害賠償請求訴訟に先立ち,その認定判断を本件訴訟においてあらかじめしておくことが必要かつ適切であるということもできない。 以上によれば,本件確認請求に係る訴えは,確認の利益を欠くものというべきで ある。

◆判決本文

原審(知財高裁)は下記です。

◆平成30(ネ)10059

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)28060

本件についての参考サイト(20200909時点では控訴審まで) https://innoventier.com/archives/2019/03/8058

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令和1(ネ)10066  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年6月17日  知的財産高等裁判所(2部)  東京地方裁判所(40部)

 コンピュータ関連発明の特許権侵害事件で、1審の被告敗訴部分が取り消されました。理由は乙14から新規性無しです。乙14は1審で時期に後れた攻撃防御として採用されなかった証拠です。個人的には、新規性無しというレベルの証拠があるにもかかわらず、時期に後れたとして、1審判決を出すのは引っかかります。

 構成要件6)(「前記識別情報を前記ウェブサーバに向けて送出可能な状\n態から送出不可能な状態へと変化させるステップを,前記ウェブサーバに向けて前\n記識別情報が送出されてから一定期間が満了した場合に,又は前記ウェブサーバへ アクセスされた回数が基準に達した場合に実行する機能とを」)について\n
(ア) 「一定期間」の始期について
a 乙14では,「ウェブページ・・・を顧客のブラウザに表示させる」\n(段落[0032]),「バートの広告は・・・顧客にのみ表示されることになる」(段落[0033],「広告描画エンジン74は,キャンペーン管理インターフェイス・・・を広告主に表\示する」(段落[0042]),「表示ページ中でバートの広告を順位付\nける」(段落[0045]),「クリックして表示する方法」,「広告は,広告主の完全な電話番号を表\示していないが,その代わりに・・・残りの部分を表示するための\nハイパーリンクを含む。」(段落[0059]),「新聞の告知欄は,消費者がかける電話番号を表示するテレビコマーシャルと同様に」(段落[0070]),「歯科医らは\n同業者よりも上に表示されることを望む場合に高い料金を支払うことができる。広\n告会社は,架電単価が最も高いものから最も低いものへと降順に歯科医を表示する。」\n(段落[0089]),「広告会社は,ウェブサイト上に3つの広告を表示するとき,\n広告に現れる固有の電話番号を動的に割り当てる。」(段落[0090]),「広告主 に対応する広告が少なくとも2つの位置の第1の位置に表示された場合に・・・」\n(請求項11)などにおいては,「表示(display)」は,「情報が画面に映される(it shows it on its screen)」,「画面に単語や写真等を見せる(to show words, pictures, etc. on a screen)」,「コンピュータの画面に情報を見せる(to show information on a computer screen)」などの意味で用いられていることが認めら れる。
しかし,乙14には,「広告会社は,ウェブサイト上に3つの広告を表示すると\nき,広告に現れる固有の電話番号を動的に割り当てる。」(段落[0090]), 「広告会社は一日中10人の歯科医を何百もの異なるサイトに絶えず表示してい\nる。」(段落[0092])などのように,「表示」について,ユーザ端末等の画面の\nみに情報を映すという意味に限定されず,システム(広告会社)が要求パートナー のウェブサイトに対して電話番号を割り当てた広告等の情報を提示することをも含 むと理解することができる記載がある。 また,乙14の「一実施形態において,ある特定の広告主の広告がある時間にあ る特定のウェブサイトにある特定の固有の電話番号と共に表示されたことをシステ\nムが記録する。ますます多くの広告が異なるウェブサイトに表示されるため,一実\n施形態において,システムは割り当てられた電話番号がそれぞれ最後に表示された\nのはいつかを記録する。」(段落[0095])との記載では,「システムが記録す る」とされていて,システムが,ユーザ端末等の画面に電話番号が割り当てられた 広告が映されたことを把握し,それを記録に反映することについての記載が全くな いことからすると,ここにいう「表示」は,ユーザ端末等の画面のみに情報を映す\nという意味に限定されず,システム(広告会社)が要求パートナーのウェブサイト に対して電話番号を割り当てた広告等の情報を提示することを含む意味であると理 解することができる。
そして,構成要件(c)のとおり,乙14発明の要求パートナーの検索エンジン\nは,「検索要求に対する検索結果内に,システムから送信された『固有の電話番号が 挿入された広告』を表示する」ものであり,構\成要件(b),(c)のとおり,要求 パートナーの検索エンジンのウェブサイト等に情報を提示することは,システムが 「固有の電話番号が挿入された広告」を当該要求パートナーへ送信することにより 行われるのであるから,乙14発明において「表示」というときに,システムが,\n「固有の電話番号が挿入された広告」を,要求パートナーのウェブサイトに提示さ せるために送出するという意味をも含むと理解することができる。また,構成要件\n(d)の「表示されたことを記録し」についても,システムが,「固有の電話番号が\n挿入された広告」を要求パートナーのウェブサイトに提示させるために送出したこ とを含むと理解することができる。 したがって,乙14発明において,固有の電話番号が再利用のために「電話番号 のプール」に戻されるまでの期間の始期である「表示されてからある一定期間」に\nいう「表示されてから」は,「固有の電話番号が挿入された広告が要求パートナーの\n検索エンジンに送出」されたときを含むものと解することができる。
b これに対し,1審原告は,当業者は,「ウェブページが何時の時点で ユーザ端末に表示されたか」を把握するためのウェブビーコン等の周知技術を参酌\nして乙14の記載を理解するため,ユーザ端末等に電話番号が表示された時期を容\n易に把握することができるから,乙14における「表示してから」は,文字どおり,\nユーザ端末等に電話番号が表示された時点と解すべきであると主張する。\nしかし,上記aのとおり,乙14には,システムが,ユーザ端末等の画面に電話 番号が割り当てられた広告が映されたことを把握することについて記載も示唆もな く,また,乙14のシステムは,「固有の電話番号が挿入された広告」を提供した ことを記録することにより,要求パートナーのウェブサイトに「電話番号が割り当 てられた広告」が提示されたことを把握できるから,乙14発明の出願時に,We bページ(又は電子メール)上にグラフィックを設置し,利用者が当該Webペー ジ(又は電子メール)を開いた際に,自社のサーバに対してGET要求をし,どの IPアドレスのマシンが,いつ,どのWebページにアクセスしたのかについての 情報をトレースすることができるというウェブビーコンなどの技術が周知技術であ ったとしても,乙14発明がこの技術を用いることを前提としたものであると理解 されるとは認められない。
また,乙14発明は,固有の電話番号を提供するには費用がかかるため,広告及 びウェブサイト毎に固有の電話番号を割り当ててペイ・パー・コールの実績型広告 を実施するための架電トラッキングを実施すると,非常に多くの固有の電話番号, すなわち非常に多くの費用が必要になるとの課題(段落[0076])に対して,「当 該方法では,電話番号は,ジャスト・イン・タイム方式で広告に動的に割り当てら れ,所定期間,電話番号が表示されない又は架電されないと,そのとき当該電話番\n号は,割り当て解除されて,再利用される。」(段落[0006])ことにより上記課 題を解決するものである。そうすると,このような乙14発明において,「所定期間」 の始期を,ユーザ端末等に電話番号が表示された時点に限定するような技術的な必\n要性は特に認められない。1審原告は,「一定期間」の始期を「送出されてから」と する本件発明は,ユーザの動作部分を対象としておらず,サーバの側で完結するも のであり,「一定期間の始期」がユーザ端末等に「表示されてから」とする乙14発\n明は技術思想が異なると主張するが,乙14発明の上記のような意義を考慮すると, 乙14発明において,システム設計の便宜(一定期間の計測の容易性)よりも,ユ ーザ側の利益(表示期間の確保)を優先させる必要性は特に認められないから,1\n審原告が主張するような本件発明と乙14発明との技術思想の違いを認めることは できない。 かえって,乙14発明において,「表示」をユーザ端末等に電話番号が表\示された 時点と解すると,通信エラー等で電話番号が送出されたがユーザ端末等に表示され\nなかった場合には,「一定期間」が進行しないことになり,乙14発明の上記の課題 が解決されないことになる。 したがって,1審原告の上記主張を採用することはできない。
c また,1審原告は,乙14の段落[0059]で引用されている米 国公開公報(甲33)によると,乙14発明の構成要件(c)における「表\示」は, ユーザの「コンピュータの画面に情報を見せる(to show information on a computer screen)」という意味を有するものとして使用されていると主張する。 しかし,乙14の段落[0059]には,広告が要求パートナーのウェブサイト を介してユーザに提示されるに当たり,広告が,広告主の電話番号又は電話番号の 残りの部分を表示するためのハイパーリンクを含んでいる方法が記載されており,\nその中で,甲33に記載されている「クリックして表示する方法」が引用されてい\nるにすぎないから,仮に,甲33の「表示」が1審原告主張の「表\示」の意味のみ を有するものとして用いられているとしても,甲33の記載をもって乙14の「表\n示」を1審原告主張のように認めるべき事情があるということはできない。 1審原告は,乙14発明の[0078]の「表示された」の解釈について,1審\n原告の主張に沿った内容を記載した意見書(甲32)を提出するが,上記説示に照 らし,この意見書の記載内容を採用することはできない。
d 以上によると,乙14発明においての「表示されてから」とは,要\n求パートナーの検索エンジンに向けて電話番号が「送出」されたときを含むと認め るのが相当であるから,本件発明と乙14発明には「一定期間」の始期について相 違点がないことになる。
(イ) 「『送出可能な状態』である」ことについて\n
a 前記(2)によると,乙14発明では,エンドユーザから要求パートナ ー(ある検索エンジンのウェブサイト)に対して検索要求がされると,「ジャスト・ イン・タイム方式」で,未割り当ての電話番号のプール内にある電話番号の中から 「固有の電話番号」となる電話番号が検索要求におけるキーワードと関連付けがさ れた特定の広告主の広告に対して直前に動的に割り当てられて,その広告に自動的 に挿入されるものであり(段落[0006],[0033]〜[0035]),そのよ うに「固有の電話番号」が挿入された広告は,検索結果のページ内に表示され,「固\n有の電話番号」は,「表示されてからある一定期間」が経過した場合には,「再利用」\nのために「電話番号のプール」に戻され(段落[0006],[0077]〜[00 81]),また,「問合せをもたらすが架電がない場合」には,この「固有の電話番号」が「表示されてからある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間,「動的に割\nり当てられた電話番号」は「その広告に関連付けられる」(段落[0082])ので あるから,乙14発明の「固有の電話番号」は,広告情報と関連づけられて送出さ れ,「表示されてからある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間は,広告情\n報と関連付けられていることが認められる。
b もっとも,乙14の段落[0078]には,固有の電話番号が表示\nされてから一定時間が経過した場合や固有の番号が架電されてから一定時間が経過 した場合,システムは自動的にその番号を再利用し,番号のプールに戻すことがで きるなどの記載はあるが,乙14には,ある要求パートナー(検索エンジンのウェ ブサイト)に固有の電話番号が表示された後,番号のプールに戻るまでの間に,当\n該電話番号が,同じ要求パートナー(検索エンジンのウェブサイト)で新たに検索 された際に同一の広告に表示されるのか否かについての明示の記載はない。\nしかし,乙14発明は,固有の電話番号を提供するには費用がかかるため,広告 及びウェブサイト毎に固有の電話番号を割り当ててペイ・パー・コールの実績型広 告を実施するための架電トラッキングを実施すると,非常に多くの固有の電話番号, すなわち非常に多くの費用が必要になるとの課題(段落[0076])に対して,「当 該方法では,電話番号は,ジャスト・イン・タイム方式で広告に動的に割り当てら れ,所定期間,電話番号が表示されない又は架電されないと,そのとき当該電話番\n号は,割り当て解除されて,再利用される。」(段落[0006])ことにより上記課 題を解決するものである。 そして,ペイ・パー・コールの実績型広告を実施するための架電トラッキングで は,支払先を特定するために,架電があった電話番号が,どの検索エンジンのウェ ブサイトで表示されたものなのかさえ特定できればよいのであるから,同じ検索エ\nンジンのウェブサイトの第2の顧客の検索に対して,第1の顧客の検索によって割 り当てた電話番号とは異なる電話番号を新たに割り当てて表示する必要はなく,同\nじ電話番号を再び割り当てて表示することにより,管理する電話番号の数を減らす\nことは,乙14発明が当然の前提としていると解される。そうでなければ,所定期 間「固有の電話番号」を広告情報と関連付けておく意義が乏しいことになる。1審 原告は,表示されてから一定期間,当該番号が送出不可能\である場合に,当該期間, 同じ要求パートナーや同じコンテキストで同じ番号が表示されないとしても,一定\n期間の長さなどを適宜調整するなどすれば,発明の課題は十分解決することができ\nると主張するが,1審原告が主張する方法をとるよりも,同じ要求パートナーの同 じコンテキストに同じ番号を表示する方が管理する電話番号の数を減らすことに資\nするのであるから,1審原告の主張を採用することはできない。 そうすると,乙14の段落[0078]の記載は,エンドユーザから要求パート ナーの検索エンジンに対する検索要求に対して,広告に「ジャスト・イン・タイム 方式」でプール内にある電話番号を割り当てるに当たって,同じ要求パートナー又 は同じコンテキストにおいて,広告が表示されてから所定期間内の電話番号は,再\n度「固有の電話番号」として前記「広告」に割り当てられ,前記「所定期間内の電 話番号」が挿入された広告が要求パートナーの検索エンジンに送信されることを示 していると解される。
これに対し,1審原告は,乙14発明において,表示されてから一定期間,電話\n番号が送出不可能であったとしても,すでに送出された電話番号を「ウェブサーバ」\nに表示させ続けることにより,同じ要求パートナーや同じコンテキストについて同\nじ番号を表示することは可能\であるから,乙14発明において,所定の期間,電話 番号が送出可能である必要はない旨主張するが,乙14発明は,ジャスト・イン・\nタイム方式であり,検索された都度,電話番号が割り当てられるものであるから, 1審原告が主張するような構成を採るものであると解することはできない。\n
c 以上によると,乙14発明は,「固有の電話番号」が「表示されてか\nらある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間,識別情報(「固有の電話番号」 は広告情報(「その広告」)と関連づけられており,当該期間内の,エンドユーザか ら要求パートナーの検索エンジンに対する検索要求に対して,同じ要求パートナー 又は同じコンテキストにおいて,広告に関連付けられた電話番号が挿入された広告 が要求パートナーの検索エンジンに送信され前記エンドユーザに対して表示される\nことになるから,本件発明における,「一定期間」が終了して「送出不可能な状態」\nとなるまで「送出可能な状態」である点は,乙14発明との一致点となる。1審原\n告は,乙14の段落[0078],[0086]及び[0098]の記載から,広告 に「ジャスト・イン・タイム方式」で割り当てられたプール内にある電話番号は, 表示されてから所定期間の間「送信可能\状態」が継続しているとの1審被告の主張 は,本件発明の「一定期間」(構成要件6))と乙14発明の「所定期間」を混同する ものであると主張するが,乙14発明の「所定期間」については前記aのとおり認 められるのであり,1審原告の主張するところは前記aの判断を左右するものでは ない。
(ウ) 前記ウによると,乙14発明は,構成要件3)を備えていることが認め られる。そして,前記(ア),(イ)によると,乙14発明の「一定期間」の始期である 「『固有の電話番号』が『表示されてから』」とは,本件発明の「一定期間」の始期\nである「前記ウェブサーバに向けて前記識別情報が送出されてから」に相当し,乙 14発明には,「『一定期間』の間『送出可能な状態』であること」が記載されてい\nることが認められる。 したがって,乙14発明は,本件発明の構成要件6)を備えていると認められる。

◆判決本文

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◆平成28(ワ)16912

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令和2(ラ)10004  訴訟行為の排除を求める申立ての却下決定に対する抗告事件  その他 令和2年8月3日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審は、A弁護士の行為は、弁護士法25条ただし書の「職務の公正を保ち得る事由」があると判断していました。知財高裁は代理人として職務ができないと判断しました。

 ア 前記(1)イのとおり,C弁護士は,平成20年1月11日から令和元年1 2月31日までの間,抗告人塩野義に社内弁護士として在籍し,抗告人塩 野義の知的財産部情報戦略グループのサブグループ長として,他の抗告人 塩野義の従業員とともに,平成29年4月1日以降,抗告人らが有する本 件特許権に対応する外国の特許権侵害を理由とする相手方の親会社に対す る米国及びカナダでの訴訟提起の準備,米国訴訟提起後のディスカバリー 手続への対応,米国訴訟における特許の請求項の解釈の検討,カナダ訴訟 における訴訟戦略の検討等を行い,平成30年2月15日から令和元年1 0月15日までの間,基本事件の追行を委任する弁護士の選定,基本事件 の実体的な内容を含む抗告人ら代理人や関係者との訴訟準備に係る協議, 抗告人ら代理人に対する相談資料の作成等,基本事件の訴訟提起のための 準備を担当していたことが認められる。 上記認定事実によれば,C弁護士は,基本事件の内容について,抗告人 塩野義から法律的な解釈及び解決を求める相談を受けて,具体的な法律的 な見解を示し,法律的手段を教示又は助言をしたものと認められるから, 基本事件は,C弁護士にとって,抗告人塩野義の「協議を受けて,賛助し た事件」(弁護士法25条1号及び本件基本規程27条1号)に該当する。 そうすると,C弁護士は,弁護士法25条1号及び本件基本規程27条 1号により,基本事件について,被告である相手方の訴訟代理人としての 職務を行うことはできないものと認められる。
イ そして,前記(1)ウ,オ,カ及びキ(イ)の認定事実によれば,C弁護士は, 抗告人らが令和元年11月20日に基本事件の訴訟を提起した後の令和2 年1月1日,本件事務所に入所し,同日から同年2月10日までの間本件 事務所に在籍したこと,その間の同年1月16日,相手方は,本件事務所 に所属するA弁護士らに基本事件の訴訟追行を委任する旨の同月8日付け の訴訟委任状を原審裁判所に提出し,A弁護士らは,相手方の訴訟代理人 となったことが認められる。 上記認定事実によれば,基本事件は,本件事務所の所属弁護士のA弁護 士らにとって,所属弁護士であったC弁護士が本件基本規程27条1号に より職務を行い得ない事件であるといえるから,本件基本規程57条本文 に定める「他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が本件基 本規程27条1号の規定により職務を行い得ない事件」に該当するものと 認められる。
(3) A弁護士らの「職務の公正を保ち得る事由」の有無について 相手方は,本件基本規程57条ただし書の「職務の公正を保ち得る事由」 の有無は,職務の公正らしさ,すなわち職務の公正な外観の保護という一律 の基準をもって判断すべきではなく,諸事情を総合考慮して具体的事案に即 して実質的に判断されるべきであるところ,1)A弁護士は,基本事件の受任 後直ちに,C弁護士とA弁護士らを含む本件事務所の弁護士らとの間での基 本事件に関する情報の共有や漏えいを防止するための情報遮断措置を講じた こと,2)C弁護士が本件事務所において勤務した期間は1か月余りの短期間 にとどまり,その間に基本事件の情報の共有や漏えいをしたことはなく,C 弁護士の退職(退所)により基本事件に関する情報の共有や漏えいのおそれ も存在しないこと,3)仮にC弁護士及びA弁護士らが基本事件に関する秘密 保持義務違反行為やそれを唆すような行為に及べば,弁護士として懲戒処分 を受けるのみならず,巨額の損害賠償責任や刑事責任を負う可能性すらあるから,そのような行為に及ぶことはあり得ないこと,4)相手方が基本事件の 訴訟代理人を変更したのは,いったんは相手方の特許出願に主に携わってい るD弁護士の所属する特許法律事務所に相談して委任したが,その後,製薬 特許専門訴訟に特化し,その分野での経験が豊かな訴訟専門弁護士に依頼す べきと考えるに至り,2年前に依頼したことがある本件事務所に訴訟遂行を 委任することにしたからであり,その経緯に特段不自然な点はないこと,5) 基本事件は,医薬品に関する特許関係訴訟であって高度に専門特化された分 野の訴訟であり,かつ,渉外案件である基本事件を取り扱うことができる弁 護士は限られており,抗告人ら及びその関係会社のいずれをも顧客としない 法律事務所を探すことは極めて困難であるという実情があり,本件基本規程 57条によってA弁護士らについて訴訟行為の排除が認められるとすると, 相手方において憲法32条が保障する裁判を受ける権利が十分に満足されない事態に発展することからすると,基本事件について抗告人らと相手方との\n利害対立の程度は小さいとはいえない点を踏まえても,基本事件の情報漏え いとそれによる依頼人の利益の侵害の危険性がなく,また,そのような情報 漏えい及び利益の侵害も現に発生していないから,A弁護士らには「職務の 公正を保ち得る事由」がある旨主張する。
ア 「職務の公正を保ち得る事由」の意義について
前記3(2)ウで説示したとおり,本件基本規程57条が,本件基本規程2 7条1号との関係において,他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を 含む。)が同号により職務を行い得ない事件について,所属弁護士が,「職 務の公正を保ち得る事由」があるときを除き,その職務を行うことを禁止 しているのは,所属弁護士がその事件について職務を行うことは,依頼者 に所属弁護士の職務の公正に対する疑念と不安を生じさせるものであり, 他方で,先に他の所属弁護士又は共同事務所を離脱した他の所属弁護士を 信頼して協議又は依頼をした当事者においても,所属弁護士の職務の公正 に対する疑念を生じさせるものであることから,依頼者の信頼を確保し, 依頼者及び上記当事者の利益を保護するとともに,弁護士の職務執行の公 正を確保し,弁護士の品位を保持することを目的とするものであり,この ような本件基本規程57条の規定の趣旨に照らすと,同条ただし書の「職 務の公正を保ち得る事由」とは,所属弁護士が,他の所属弁護士(所属弁 護士であった場合を含む。)が本件基本規程27条1号により職務を行い 得ない事件について職務を行ったとしても,客観的及び実質的にみて,依 頼者の信頼が損なわれるおそれがなく,かつ,先に他の所属弁護士(所属 弁護士であった場合を含む。)を信頼して協議又は依頼をした当事者にと って所属弁護士の職務の公正らしさが保持されているものと認められる事 由をいうものと解するのが相当である。 以上を前提に,A弁護士らの「職務の公正を保ち得る事由」の有無につ いて判断する。
イ 相手方の1)ないし4)の主張について
(ア) 前記(1)の事実関係を前提に検討するに,1)基本事件は,医薬品に関 する本件特許権に基づく特許侵害訴訟であり,抗告人ら又はその関連会 社は,米国及びカナダにおいて本件特許権に対応する外国の特許権に基 づく特許侵害訴訟を相手方の親会社に対して提起し,これらの訴訟が基 本事件と並行して審理されていることからすると,基本事件は,抗告人 らと相手方との間の利害の対立が大きい事件であると認められること, 2)基本事件において,現時点では,相手方から訴状記載の請求原因に対 する認否及び反論が提出されていないが,訴状の記載内容から,基本事 件の審理では,被告製品及び被告成分が本件発明の構成要件を充足するかどうか,均等論の各要件を満たすかどうかなどが主要な争点となるこ\nとが予想され,更には,相手方が本件特許に関する無効の抗弁を提出し,それが争点となり得ることも予\想されるところ,C弁護士は,本件事務所に入所する前に,抗告人塩野義において,知的財産部情報戦略グルー プのサブグループ長として,基本事件の訴訟提起のための準備に中心的 に関与するとともに,本件特許権に対応する外国の特許権侵害を理由と する相手方の親会社に対する米国及びカナダの特許侵害訴訟に係るディ スカバリー手続への対応,請求項の解釈,訴訟戦略の検討等について深 く関与していたことからすると,本件特許に係る薬剤の開発及び特許出 願の経緯,上記開発過程における薬理試験の結果,薬理試験に供された 候補化合物,インテグラ―ゼ阻害作用を奏する化学構\\造等に関する様々 な情報を知り得る立場にあったものと推認され,これらの情報は,基本 事件の訴訟追行において重要な意味を有するものと解されること,3)相 手方は,基本事件の訴訟が提起された当初の段階では,本件事務所とは 異なる法律事務所に所属するD弁護士らに基本事件の訴訟追行を委任し, 令和元年12月23日の基本事件の第 1 回口頭弁論期日にはD弁護士が 相手方の訴訟代理人として原審裁判所に出頭したが,C弁護士が令和2 年1月1日に本件事務所に入所した後,同月16日,A弁護士らに基本 事件の訴訟追行を委任する旨の訴訟委任状を原審裁判所に提出し,一方 で,D弁護士らは同月18日に相手方の訴訟代理人を辞任する旨の辞任 届を原審裁判所に提出したことに照らすと,C弁護士が本件事務所に入 所した時期と近接する時期に,基本事件の被告である相手方の訴訟代理 人が,本件事務所とは異なる法律事務所に所属するD弁護士らから本件 事務所に所属するA弁護士らに切り替わったものといえること,以上の 1)ないし3)の事情は,抗告人らにとって,A弁護士らが基本事件の相手 方の訴訟代理人として職務を行うことについて,その職務の公正らしさ に対する強い疑念を生じさせるものであるものと認められる。
(イ)a これに対し相手方は,A弁護士は,基本事件の受任後直ちに,C 弁護士とA弁護士らを含む本件事務所の弁護士らとの間での基本事件 に関する情報の共有や漏えいを防止するための情報遮断措置を講じた 旨主張(相手方の1)の主張)する。
そこで検討するに,前記(1)の事実関係によれば,1)A弁護士は,令 和2年1月1日にC弁護士が本件事務所に入所することが内定してい た状況下で,令和元年12月27日,相手方との間で,基本事件を受 任することについて合意をした後,同日,C弁護士と面談した際,C 弁護士が基本事件に担当者として関わっていた旨を述べたことから, C弁護士に対し,それ以上の発言をしないように伝え,C弁護士から 抗告人塩野義で担当した基本事件を含む一切の秘密情報を本件事務所 に漏らさないことを誓約する旨記載された誓約書の提出を受けたこと, 2)同日,A弁護士は,本件事務所に所属するB弁護士及び弁理士及び 事務局の職員に対し,C弁護士から基本事件の情報を一切受け取らず, C弁護士にも漏えいしないようにすること等を指示した上,基本事件 に関するメールでのやり取りはC弁護士以外の本件事務所の所員全員 (本件メンバー)間のみで行い,その際のメールの宛先は本件メンバ ー全員とし,宛先の追加又は削除をしないこと,勤務時間の内外を問 わず,基本事件についてC弁護士からは一切聞かず,C弁護士に一切 伝えないこと,基本事件に関するファイルを本件事務所のサーバコン ピュータ内のC弁護士がアクセスできないように設定された本件フォ ルダにのみ入れるものとし,誤ってC弁護士がアクセスできるように 設定されたフォルダに入れた場合には,直ちに削除するとともに,A 弁護士に報告すること,基本事件に関する打合せ及び会話は,C弁護 士が執務室に不在でも本件事務所の第2会議室のみで行うこと等の指 示をしたこと,3)C弁護士が本件事務所での勤務を開始してからは, A弁護士は,基本事件に関する紙媒体の管理の徹底や基本事件に関す る書類をスキャンしたデータの管理の徹底などをC弁護士が不在の場 で弁護士,弁理士及び事務局に指示をし,また,基本事件の訴訟記録 を弁護士及び弁理士の執務室から離れた事務局の執務室の鍵付きのキ ャビネットに保管させ,A弁護士と事務局のみがその鍵を管理するよ うにしたことが認められ,これらの1)ないし3)の措置は,基本事件に 関する情報の共有や漏えいを防止することを目的とする情報遮断措置 に相当するものと認められる。
しかしながら,他方で,C弁護士が本件事務所での勤務を開始した 令和2年1月2日当時,本件事務所には,A弁護士,B弁護士及びC 弁護士を含む合計8名の弁護士及び弁理士が所属し,同じ執務室で執 務を行っていたが,執務室内の構造としては,各弁護士及び弁理士個人の執務スペースの周囲三方がノートパソ\コンの画面の2倍程度の高さの仕切りが設けられていたにとどまること,本件事務所では,本件 事務所の各弁護士及び弁理士の間で,補助する事務局の職員を別にす るといった態勢は執られていなかったことに照らすと,上記1)ないし 3)の措置は,本件事務所において,C弁護士とA弁護士らを含む本件 事務所の他の弁護士及び弁理士らとの間における口頭による基本事件 に関する情報の伝達,交換,共有等を遮断するには一定の限界があり, 基本事件に関する情報遮断措置として十分なものであったものと認めることはできない。\nそうすると,A弁護士が講じた上記情報遮断措置は,抗告人らにお けるA弁護士らが基本事件の相手方の訴訟代理人として職務を行うこ とについての職務の公正らしさに対する疑念を払拭させるものである ということはできない。
b 次に,相手方は,C弁護士が本件事務所において勤務した期間は1 か月余りの短期間にとどまり,その間に基本事件の情報の共有や漏え いをしたことはなく,C弁護士の退職(退所)により基本事件に関す る情報の共有や漏えいのおそれも存在しない旨,仮にC弁護士及びA 弁護士らが基本事件に関する秘密保持義務違反行為やそれを唆すよう な行為に及べば,弁護士として懲戒処分を受けるのみならず,巨額の 損害賠償責任や刑事責任を負う可能性すらあるから,そのような行為に及ぶことはあり得ない旨主張(相手方の2)及び3)の主張)する。 そこで検討するに,C弁護士が本件事務所に在籍した期間は令和2 年1月1日から同年2月10日までの1か月余りであるが,前記aの とおり,A弁護士が講じた本件事務所内の情報遮断措置は,C弁護士 とA弁護士らを含む本件事務所の他の弁護士及び弁理士らとの間にお ける口頭による基本事件に関する情報の伝達,交換,共有等を遮断す るには一定の限界があり,基本事件に関する情報遮断措置として十分なものであったものといえないことに照らすと,C弁護士が本件事務\n所に在籍した期間が1か月余りの短期間であったことを考慮してもな お,客観的及び実質的にみて,C弁護士の在籍中に,C弁護士とA弁 護士らとの間で基本事件に関する情報の伝達,交換,共有等が行われ たのではないかという抗告人らの疑念は解消されるものではない。 また,C弁護士の本件事務所の退所は,A弁護士とC弁護士の合意 によるものであり,しかも,相手方から,C弁護士作成の令和2年2 月12日付け陳述書(疎乙12)が本件の疎明資料として提出されて いることに照らすと,A弁護士らとC弁護士は,C弁護士が本件事務 所を退所した後も,互いに連絡を取り合うことのできる関係にあると いえるから,C弁護士の上記退所の事実から直ちに,C弁護士とA弁 護士らとの間で基本事件に関する情報の伝達,交換,共有等が行われ るおそれがあるのではないかという抗告人らの疑念を払拭させるもの ではない。 さらに,口頭による基本事件に関する情報の伝達,交換,共有等が 内部的に行われた場合,その事実を外部から把握することは事実上困 難であることに照らすと,弁護士が受任事件に関し秘密保持義務違反 行為やそれを唆すような行為に及べば,懲戒処分を受けるのみならず, 損害賠償責任や刑事責任を負うおそれがあることは,抗告人らにおけ るA弁護士らが基本事件の相手方の訴訟代理人として職務を行うこと についての職務の公正らしさに対する疑念を払拭させるものであると いうこともできない。
c 相手方は,相手方が基本事件の訴訟代理人を変更したのは,いった んは相手方の特許出願に主に携わっているD弁護士の所属する特許法 律事務所に相談して委任したが,その後,製薬特許専門訴訟に特化し, その分野での経験が豊かな訴訟専門弁護士に依頼すべきと考えるに至 り,2年前に依頼したことがある本件事務所に訴訟遂行を委任するこ とにしたからであり,その経緯に特段不自然な点はない旨主張(相手 方の主張4))する。
しかしながら,本件においては,相手方が,2年前に依頼したこと のある本件事務所に対して当初から基本事件の訴訟遂行を委任せずに, 本件事務所とは異なる法律事務所に所属するD弁護士らに委任するに 至った具体的な経緯,その後,製薬特許専門訴訟に特化し,その分野 での経験が豊かな訴訟専門弁護士である本件事務所のA弁護士らに依 頼すべきであると考えるに至った時期及びその具体的理由等について の疎明がないことに照らすと,相手方の4)の主張は,C弁護士が本件 事務所に入所した時期と近接する時期に,基本事件の被告である相手 方の訴訟代理人が,本件事務所とは異なる法律事務所に所属するD弁 護士らから本件事務所に所属するA弁護士らに切り替わったことから 生じる,抗告人らにおけるA弁護士らが基本事件の相手方の訴訟代理 人として職務を行うことについての職務の公正らしさに対する疑念を 払拭させるものであるということはできない。
ウ 相手方の5)の主張について
相手方は,基本事件は,医薬品に関する特許関係訴訟であって高度に専 門特化された分野の訴訟であり,かつ,渉外案件である基本事件を取り扱 うことができる弁護士は限られており,抗告人ら及びその関係会社のいず れも顧客としない法律事務所を探すことは極めて困難であるという実情が あり,本件基本規程57条によってA弁護士らについて訴訟行為の排除が 認められるとすると,相手方において憲法32条が保障する裁判を受ける 権利が十分に満足されない事態に発展する旨主張(相手方の5)の主張)す る。
しかしながら,基本事件が医薬品に関する特許関係訴訟であって高度に 専門特化された分野の訴訟であり,かつ,渉外案件であるとしても,我が 国において,本件事務所に所属する弁護士以外に,基本事件の相手方の訴 訟代理人として訴訟追行を行うことのできる弁護士が存在しないというこ とはおよそ考えられないから,相手方の上記主張は,採用することができ ない。
エ まとめ
以上によれば,相手方主張の1)ないし5)に係る事情は,本件事務所に所 属するA弁護士らが,本件事務所の所属弁護士であったC弁護士が本件基 本規程27条1号により職務を行い得ない事件である基本事件について, 相手方の訴訟代理人として職務を行ったとしても,客観的及び実質的にみ て,先にC弁護士を信頼して協議し,賛助を受けた抗告人塩野義にとって, A弁護士らの職務の公正らしさが保持されているものと認められる事由に 当たるものということはできないから,A弁護士らに本件基本規程57条 ただし書の「職務の公正を保ち得る事由」があるものと認めることはでき ない。

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平成30(ワ)32519等  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和元年10月30日  東京地方裁判所

 YouTubeに対する発信者情報開示請求が一部、認められました。なお、利用者の住所(本件発信者情報2−2)については、動画投稿の際に登録が必要となるアカウントとは独立した異なるものであるとして、認められませんでした。

 原告は,被告グーグルが本件発信者情報2−2を保有している旨主張する。 しかしながら,被告グーグルは,原告の上記主張を否認しており,他に被告グー グルが本件発信者情報2−2を保有していることを認めるに足りる的確な証拠はな い。 この点,証拠(甲6,7,乙5〜8)及び弁論の全趣旨によれば,本件サイトへ の動画投稿により広告収入を得ようとする利用者は,支払を受ける住所を登録して Google AdSenseアカウントを開設する必要があり,同アカウントの 中には被告グーグルが管理するものがあるが,同アカウントは,本件サイトへの動 画投稿の際に登録が必要となるアカウントとは独立した異なるものであることが認 められる。そうすると,本件各投稿者が本件各動画の投稿により広告収入を得る目 的でGoogle AdSenseアカウントへの登録をし,その結果,被告グー グルが本件各投稿者に係る支払先住所に係る情報を管理していたとしても,同情報 は,本件各動画の投稿に用いられた各アカウントを登録するために用いられたもの には該当しないから,被告グーグルが本件発信者情報2-2を保有しているというこ とはできない。 よって,原告の主張は採用することができない。

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令和1(ネ)10053  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年12月18日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 共同研究契約書の「条件」が法的効果を伴うのかが争われました。知財高裁は、1審と同じく、契約等の締結を停止条件とする条件付契約であり契約の効力は発生していない、これと反する主張は、自白の撤回であると判断しました。

 控訴人は,当審において,本件契約第25条にいう「条件」が法的効果を伴う ものであることを争い,仮に,法的効果を伴うとしても,解除条件を定めたものと みるべきであると主張して,それが契約の効力の発生に係る停止条件であることを 争い,さらに,停止条件を定めたものであるとしても,本件においては,その条件が 成就していると主張する。 これに対し,被控訴人は,原審における経緯を踏まえると控訴人が上記のように 主張することは,自白の撤回に当たり,許されず,民訴法2条所定の信義誠実義務 にも反するとして,その適否を争う。
(2) 本件記録によれば,本件の審理の経過について,以下の事実が認められる。
ア 控訴人は,平成29年3月17日,弁護士Aに委任して,ハリマ化成グルー プ及び被控訴人を被告として,本件訴えを提起した。
イ 訴状における請求原因は,(1)ハリマ化成グループの役員が,本件契約の契約 当事者がハリマ化成グループであると控訴人を誤信させて,被控訴人との間の本件 契約を締結させ,この行為が控訴人に対する不法行為を構成するから,ハリマ化成\nグループは,会社法350条により6000万円の損害を賠償すべき責任を負う(主 位的請求1),(2)ハリマ化成グループ及び被控訴人の従業員らが,前記役員と共謀し て,控訴人の特許技術を詐取し,この行為が控訴人に対する不法行為を構成するか\nら,ハリマ化成グループ及び被控訴人は,民法715条により6000万円の損害 を賠償すべき責任を負う(主位的請求2),(3)被控訴人は,本件契約に基づき,約定 の一時金4500万円を支払う義務がある(予備的請求),というものであった。\n
ウ 控訴人は,平成29年8月28日の第1回弁論準備手続期日において,訴状 を陳述した後,上記イの主位的請求1及び同請求に係る主張を全て撤回した。 被控訴人及びハリマ化成グループは,同期日において,第1準備書面(平成29 年8月4日付)を陳述し,被控訴人において本件一時金の支払を拒絶する理由が, (1)本件契約には本件契約第25条所定の「条件」が付され,当該「条件」は停止条件 であり,これが成就していないとする停止条件の未成就,(2)本件契約第21条に基 づく「本件特許権等の実施にあたる事業の中止」を理由とする本件契約の中途解約 及び(3)本件契約第22条第1項に基づく本件契約の解除であることを主張した。
エ 控訴人は,平成29年10月3日付「訴えの取下書」をもって,ハリマ化成グ ループに対する訴えを取り下げ,ハリマ化成グループは,同月16日の第2回弁論 準備手続期日においてその取下げに同意した。また,控訴人は,同期日において,請 求原因の構成を検討する旨陳述した。\n
オ 控訴人は,第4回弁論準備手続期日(平成30年2月1日)において,準備書 面3(平成29年12月7日付)を陳述し,請求原因を,(1)控訴人と被控訴人との間 で本件契約が成立していることを理由とする本件契約所定の本件一時金4500万 円の支払請求(主位的請求),(2)本件特許権の核心的ノウハウを控訴人に提供させて 被控訴人が当該ノウハウを詐取したことが不法行為であるとする4500万円の損 害賠償請求(予備的請求)に変更した。\n
カ 原審裁判所は,第6回弁論準備手続期日(平成30年5月15日)において, これまでにおける当事者双方の主張を踏まえ,主張と争点を書面で整理するとした 上,同年6月19日に「主張の骨子レベルの整理案」と題する書面を当事者双方に 提示した。 同書面では,「(明示的には主張のない内容も含むが,当事者の言わんとするとこ ろを忖度すると,大きな構成として以下のように整理することで争点が明確になる\nのではないか。検討されたい。大きな構成としてこれで良ければ,行為,対象等を特\n定すると共に,争点ごとの主張・反論の詳細な内容の整理に進む。)」との前置きを した上,当事者双方の主張が整理されており,このうち控訴人の主位的請求原因, これに対する被控訴人の反論及び争点については,別紙「主張の骨子レベルの整理 案(抜粋)」のとおりとされた。
キ その後に開かれた弁論準備手続期日と口頭弁論期日において,控訴人は,最 終準備書面(平成31年3月19日付)を含む3通の準備書面を陳述し,口頭弁論 は終結された。 各準備書面での主位的請求原因についての主張の内容は,本件契約第25条所定 の「条件」は停止条件であるところ,本件共同研究契約等が締結されなかったのは 被控訴人が本件一時金の支払を免れるために恣意的に本件共同研究契約等を締結し なかったものであるから,停止条件である本件契約第25条所定の「条件」は成就 したものとして本件共同研究契約等は締結されたものとみなされるべきであるとい うものだけであり,前記「主張の骨子レベルの整理案」の内容に沿っている。
ク 控訴人は,原審裁判所が「主張の骨子レベルの整理案」を提示する前には,本 件契約第25条所定の「条件」は,その条件が単に債務者の意思のみに係る純粋随 意条件である旨主張していたが,法的効果を伴うものではない,当該「条件」が停止 条件でない,あるいは解除条件であるといった主張は一切しておらず,原審裁判所 から「主張の骨子レベルの整理案」を提示された後は,専ら前記キの主張をするに 至っている。
ケ 原判決は,「第4 当裁判所の判断」「1 争点1(被告が故意に本件契約第 25条の停止条件の成就を妨げたか等)について」(1)の冒頭において,次のとおり 摘示している。 「原告が主位的請求において請求しているのは,本件契約に基づく一時金の支払 であるところ,本件契約において,契約が成立してから60日以内に,被告が原告 に一時金4500万円を支払うと定められていること(第4条),本件契約では,共 同研究契約等の締結を条件とする旨規定されており(第25条),これは停止条件を 定めたものであること,及び現在に至るまで共同研究契約等が締結されていないこ とは,当事者間に争いがない。」
(3)上記(2)の原審審理経過を踏まえれば,控訴人が当審において本件契約第25 条にいう「条件」が法的効果を伴う停止条件であることを争い,また,仮に停止条件 を定めたものであるとしても,本件ではその条件が成就していると主張することは, 成立した自白の撤回に当たり,控訴人において自白をしたことにつき錯誤があった とも認められないから,その撤回は許されないというべきである。
(4)なお,念のため付言すると,本件契約は,法人を当事者とし,書面において双 方の意思表示がされている契約であるところ,本件契約第25条の見出しとその文\n言からすれば,これが法的効果を伴わないとか,解除条件であると解する余地はな く,本件契約の効力の発生について停止条件を付すものであると解するほかないも のである。

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1審はこちらです。

◆平成29(ワ)3973

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平成30(行ケ)10178  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月24日  知的財産高等裁判所

 インターネット上のブログの証拠能力が争われました。アーカイブのウェイバックマシンに保存された資料の公知日の認定が争われました。公知日の認定に誤りなしとして、無効とした審決を維持しました。\n

 前記アの記載によれば,甲1は,2017年(平成29年)9月 1 日に インターネットで検索して表示された「ドラコレ旅日記 GREE のアプリ 「ドラゴンコレクション」を楽しむ管理人の日記」と題する「FC2ブロ グ」のコピーであること,同ブログは,広告欄の「スポンサーサイト」, ブログ本文の「11/25 更新情報」,「最新コメント」,「関連記事」等の 各項目で構成されていること,「11/25 更新情報」の項目の右横には「20 11.11.25 23:18 Cat:旅日記」(画像3)との表示があること,同項目欄\nに掲載された記事(本件更新情報)には,「「友情のきずな」キャンペー ンを開催中です。」,「期間:11/25(金)14:00〜11/29(火)14:00」と の記載があること(画像4)が認められる。 上記記載から,本件更新情報は,「11/25 更新情報」の項目の右横に表\n示された「2011.11.25 23:18」(2011年11月25日23時18分) に更新され,保存されたことが認められる。 したがって,本件更新情報は,本件出願前(出願日平成25年9月27 日)の平成23年(2011年)11月25日,電気通信回線を通じて公 衆に利用可能となったものと認められる。\nそうすると,本件決定が本件更新情報に基づいて認定した引用発明1は, 本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に該当す\nるものと認められる。
ウ 原告の主張について
原告は,(1)甲1の「スポンサーサイト」の項目欄の直下には,本件出願 後の平成29年(2017年)7月21日に制作発表されたゲーム「みん\nなでにゃんこ大戦争」(甲20)の画像が表示されているから,本件更新\n情報が公衆に利用可能となったのは,早くても同日である,(2)甲1におい ては,少なくとも,ゲーム「みんなでにゃんこ大戦争」の画像が表示され\nた部分,「最新コメント」の項目欄の各コメント部分,「関連記事」の項 目欄の「【バトルイベント】神獣の魂【予告】(2011/12/09)」及び「エ レボスの坑道結果報告(2011/12/06)」の部分は,平成23年11月25 日より後に書き換えられたものであるから,本件更新情報についても,同 日より後に書き換えられた可能性を否定できない旨主張する。\nしかしながら,上記(1)の点については,甲1の「スポンサーサイト」の 項目欄には,「みんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」の画像の下に「上\n記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。」,「新し\nい記事を書く事で広告が消せます。」と表示されていること,「FC2ブ\nログ」の仕様等を定めた「FC2ブログマニュアル」(甲10)には,「ロ グの有効期間」の項目に,「(1か月新規投稿がない場合は,記事部にス ポンサー広告が表示されます。)」との記載があること,平成30年5月\n2日及び平成31年3月13日に甲1の URL を検索した際,本件更新情報 の記載がある一方で,スポンサーサイトの項目欄に表示された画像は,「み\nんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」とは異なる画像が表\示されたこと (甲11ないし13,乙1)に照らすと,甲1の「スポンサーサイト」の 項目欄に表示される広告は,甲1の URL を検索した時点で1か月以上ブロ グの更新がされていない場合に,FC2ブログの運営者であるFC2が契 約しているスポンサー広告が表示されるものであって,ブログの記載内容,\n更新日時とは関係しないことが認められる。 また,上記(2)の点については,甲1を構成する「11/25 更新情報」の項 目欄とは異なる他の項目欄に掲載された情報が平成23年11月25日よ り後に更新された事実があるからといって本件更新情報が同日より後に書 き換えられた可能性があることを基礎付けることはできない。\nしたがって,原告の上記主張は理由がない。

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平成30(ワ)28391  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年6月12日  東京地方裁判所

 後発医薬品について構成要件Eについて、技術的範囲に属しないと判断されました。興味深いのは、インカメラで該当性が判断されている点です。原告の書類提出命令申立てはインカメラで訂正の範囲外となっていると判断されました。\n

 原告は,平成31年2月21日,被告コーアイセイを相手方として,本件各 製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に含まれることを立証するため,本件製剤 1に関する平成30年2月15日付け医薬品製造販売承認書に記載されてい る「成分及び分量又は本質」に係る部分について,特許法105条1項に基づ く書類提出命令の申立てをした。\n当裁判所は,同年4月11日,同条2項に基づくインカメラ手続を行い被告 コーアイセイから対象書類の提示を受けた上,同書類には本件製剤1にクロス ポビドンが含まれるかどうかや,クロスポビドンの医薬組成物中の含有率等に 関する情報が記載されているが,本件製剤1の組成物又は含有率は本件訂正発 明に規定するものと異なっている一方,同情報は被告コーアイセイにとって秘 密性の高い重要な技術的情報であると認められるから,被告コーアイセイには 書類の提出を拒むことについて正当な理由があるなどと判断して,同申立てを\n却下した。
・・・・
本件訂正発明の構成要件Cは,「前記崩壊剤が,クロスポビドンであり,前記\nクロスポビドンの医薬組成物中の含有率が5.6〜12質量%であり,但し,崩 壊剤がGRANFILLER−D(登録商標)から成る錠剤は除く,」というも のであるところ,原告は,本件各製剤が構成要件Cを充足すると主張する。\n しかし,本件各製剤が,1)崩壊剤としてクロスポビドンを含有すること,2)そ の医薬組成物中の含有率が5.6〜12質量%であること,3)同崩壊剤がGRA NFILLER−D(登録商標)から成る錠剤でないことについては,これを認 めるに足りる証拠がない。 原告は,本件各製剤は原告製剤の後発医薬品であることや,原告による本件製 剤1の分析によっても,本件製剤1がクロスポビドンの含有を否定するデータは 得られていないことなども指摘するが,本件各製剤が原告製剤の後発医薬品であ るとしても,そのことから直ちに本件各製剤が構成要件Cを充足するということ\nはできず,また,本件製剤1がクロスポビドンの含有を否定するデータは得られ ていないことは,むしろ,同製剤が構成要件Cに規定された含有率のクロスポビ\nドンを含有すると認めるに足りる客観的な証拠が存在しないことを示すもので ある。 したがって,本件各製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に属すると認めること はできない。

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平成31(ネ)10001等  特許権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年6月26日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 知財高裁(3部)は、確定した無効審決と実質同じ証拠であるとして、104条の3の無効抗弁を認めませんでした。

 (2)本件において乙17の1及び乙18の1を主引例として無効を主張でき るか。(当審における追加主張)
ア 特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に 基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は,同一の当事者 間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ, その趣旨は,無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものでは ない。そうすると,侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い,審決取消訴 訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には,同一当事者間 の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法 104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは,特段 の事情がない限り,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2 条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。 控訴人は,無効審判手続と特許権侵害訴訟における特許権者が置かれ ている立場の質的相違等から,特許法167条の趣旨は,侵害訴訟に適 用されないと主張するが,上記説示したところに照らし採用できない。 また,控訴人は,第三者の無効審判請求により特許権が無効とされるべ き場合にまで侵害訴訟において無効の抗弁を主張できないのは不当であ るという趣旨の主張もしているが,控訴人自身は,無効審判手続におい て無効主張をする機会を十分に与えられ,かつ無効不成立審判に対して\n審決取消訴訟を提起する機会も与えられていたのであるから,審決取消 訴訟を提起せずに無効不成立審決を確定させた結果,もはや当該審判手 続において主張していた特許の無効事由を主張できないこととなったと しても,その結果を不当ということはできない。
イ 認定事実
(ア) 本件無効審判請求1において,控訴人は,本件発明1は,1)乙1 7の1に記載された発明(乙17発明)に,乙18の1に記載された 発明(乙18発明),乙19又は23,42ないし45,33,34 に記載された技術事項及び従来周知の技術事項に基づいて,当業者が 容易に発明することができたものである,2)乙18発明に,乙17発 明,乙19又は23,42ないし45,33,34に記載された技術 事項及び従来周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明するこ とができたものである,とそれぞれ主張した。(甲14)(本件審決 1における甲1,2,3,7ないし13は,順に本件訴訟における乙 17,18,19,23,42ないし45,33,34に対応する。) このほか,控訴人は,乙20ないし22も証拠として提出していた。
(イ) しかしながら,本件審決1は,主引例である乙17の1及び乙1 8の1には,ローラの直交2方向への移動(及び移動に伴う肌の摘み 上げと押圧)という技術思想が存在せず,また,控訴人が提出した各 種証拠から認められる技術事項及び周知技術を考慮しても,この点を 容易に想到することができるとはいえないとして,上記無効理由のい ずれも認めず,本件発明1は,特許法29条2項の規定により特許を 受けることができないものとはいえないと判断した。(甲14)
ウ 乙17の1又は乙18の1を主引例とする進歩性欠如の無効主張の可 否
本件訴訟において,控訴人は,乙17の1,乙18の1をそれぞれ主 引例とした上,これに,乙17発明(乙18の1を主引例とする場合) 又は乙18発明(乙17の1を主引例とする場合),及び乙19ないし 23,33ないし35,42ないし45,101及び104に記載の副 引例又は周知技術を併せれば,本件発明1は容易想到であると主張して いる。 しかしながら,乙17の1及び乙18の1は,本件審判請求1におい ても主引例とされていたもの,乙19,23,33,34及び42ない し45は,副引例又は周知技術を認定する証拠として提出されていたも のであり,乙20ないし22も,明示的には主張されていないものの, 周知技術を認定する証拠等として提出されていたものと認められるから, 結局,本件審決1と本件訴訟における控訴人の主張立証との間では,主 引例は全く共通である上,副引例又は周知技術,証拠もほとんど共通し, 両者で共通していないのは,副引例ないし周知技術の証拠である乙35, 101及び104のみである(しかも,乙101は,乙35から分割出 願された発明であるから,両者は極めて類似している。)ことになる。 そして,乙35,101及び104は,いずれも4個のローラの直交2 方向への移動ということはおよそ想定していないものであるから,本件 審決1が認定した本件発明1と乙17発明及び乙18発明との相違点を 埋めるものであるとはおよそいい難いものである。
このように,本件訴訟独自の証拠である乙35,101及び104は 価値の乏しいものであるから,結局,本件訴訟における控訴人の主張は, 本件審判1と実質的に「同一の事実及び同一の証拠」(特許法167条) に基づくものと評価されるべきものである。 そして,本件審決1は,控訴人による審決取消訴訟が提起されること なく確定している上,本件において,前記アの特段の事情も窺われない。 したがって,本件訴訟において,控訴人が,乙17の1又は乙18の 1を主引例とする進歩性欠如の無効を主張することは,信義則に反し, 許されないといわざるを得ない。
(3) 結論 よって,控訴人の乙17の1又は乙18の1を主引例とする無効の抗弁 の主張はいずれも許されず,乙104発明を主引例とする無効の抗弁には 理由がない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成28(ワ)4356

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平成30(ネ)10082  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年4月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審でも、訂正後の発明について進歩性ナシとして、差止請求などが棄却されました。控訴審で代理人が変更されています。一審後の訂正の再抗弁が時機に後れているかについて、該当するかはともかくとして,訴訟の完結を遅延させることとなるとまでは認められないと判断されています。

 (3) 相違点1−2’に係る容易想到性の判断について
 ア 公然実施品1のサッシュは,断面形状が複雑であるため,製造コストが 掛かること,サッシュ自体の体積に比べて余分なスペースを大きく取るた めに保管や輸送の際に保管コストや輸送コストも掛かることは,当業者に とって自明なことであり,これらのコスト(製造コスト等)を削減するた めに,公然実施品1のサッシュを複数の部品で構成し,公然実施品1の製\n造時に,当該複数の部品を接合してサッシュとすることは,当業者の通常 の創作能力の発揮にすぎない。\nそして,乙13公報に開示されている「誘導加熱調理器において,サッ シュ(枠体2)とは別部材により構成され,かつサッシュ(枠体2)に当\n接させてねじで接合した,金属板からなる補強板(L字金具9)」(以下 「乙13技術事項」という。)は,公然実施品1のサッシュに相当する部 材を複数の部材で構成する技術であり,乙13技術事項の補強板(L字金\n具9)とサッシュ(枠体2)とを接合したものの方が公然実施品1のサッ シュよりも製造コスト等がかからないのは,当業者にとって自明の事項で あるから,誘導加熱調理器という同一の技術分野に属する公然実施品1と 乙13技術事項に接した当業者であれば,製造コスト等を削減する目的で 公然実施品1に乙13技術事項を適用することに格別の困難性があるとは 認められない。 したがって,公然実施品1に乙13技術事項を適用して,相違点1−2’ に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことで\nあるといえる。
イ 控訴人の主張について
控訴人は,1)乙13公報における「断面凸形状9a」の実質は,調理器 本体ケース5内への浸水を防止するためだけの役割を担った「浸水防止部 材」であるから,かかる「断面凸形状9a」は本件発明(構成要件D)の\n「補強板」には当たらないし,乙13公報に記載の構成によれば,「断面\n凸形状9a」は調理プレート1から離れる方向に相当強い力で引っ張られ るのであり,実質的に見ても「断面凸形状9a」が調理プレート1を補強 しておらず「補強板」とはいえないから,公然実施品1及び乙13公報に, 本件発明の構成要件Dに係る構\成は開示されていない,2)公然実施品1と 乙13公報に記載の技術とは,主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆, 技術分野の関連性及び課題や作用・機能の共通性が認められないから,公\n然実施品1に乙13公報に記載の技術を適用する動機付けもない,などと 主張する。
しかしながら,乙13公報において,本件発明の「補強板」に相当する ものは「断面凸形状9a」ではなく「L字金具9」全体であって,あたか もそれが「断面凸形状9a」に限定されるかのような控訴人の主張は,そ もそもその前提において誤解がある。また,たとえ乙13公報における課 題そのものは調理器本体内部の浸水防止を図る点にあったとしても,「L 字金具9」全体の形状を見れば,それが本件発明の「補強板」に相当する 機能を果たし得ることは,当業者であれば容易に想起できるものと認めら\nれる(この点は,「断面凸形状9a」が調理プレート1から離れる方向に 相当強い力で引っ張られるとしても変わりがない。「断面凸形状9a」に どのような方向の力が掛かっているかと,それが補強材としての機能を有\nしているかどうかとは関わりのない事柄だからである。)から,前記1)の 指摘は当を得ているとはいえない。 また,前記アのとおり,公然実施品1のサッシュは,製造コスト等が掛 かるものであるということは,当業者にとって自明のことといえるから, 公然実施品1には,かかる製造コスト等を削減するという自明の課題があ る。そして,誘導加熱調理器という同一の技術分野に属する公然実施品1 と乙13技術事項に接した当業者であれば,公然実施品1に乙13技術事 項を適用すると製造コスト等を削減できるのは明らかであるから,公然実 施品1に乙13技術事項を適用する動機付けはあるといえる。したがって, 前記2)の指摘も当を得ているとはいえない。
(4) 以上によれば,原判決がした,本件発明と公然実施品1との対比(一致点 及び相違点の認定)と認定した相違点(相違点1−2’)に係る容易想到性 の判断はいずれも正当であり,これによれば,本件特許について無効の抗弁 が成立する。 したがって,無効の抗弁の成立を争う控訴人の主張は採用できない。 被控訴人は,本件訂正の再抗弁につき,時機に後れた攻撃防御方法に当たる として,民事訴訟法157条1項に基づく却下を求めている。 しかしながら,本件訴訟の経過に鑑みると,控訴人による本件訂正の再抗弁 の提出が,時機に後れているか否かはともかくとして,訴訟の完結を遅延させ ることとなるとまでは認められないから,同条項に基づきこれを却下するのは 相当でない。 そこで,以下,本件訂正の再抗弁の成否について判断する。
(1) 控訴人は,平成30年12月14日,本件特許の明細書及び特許請求の範 囲を訂正することについて訂正審判を請求した(本件訂正,甲40)。
(2) 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(構成\n要件の分説は控訴人に従う。下線部は訂正箇所を示す。)。
A 誘導加熱をする第1及び第2の加熱器を左右に内設した本体ケースと,
この本体ケースの上面に設けられたトッププレートと,
前記トッププレートの周囲に設けられたサッシュとを具備し,
被組込家具に組み込まれる加熱調理器において,
B’ 前記トッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくし(ただし,トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じものを除く),
C 前記第1及び第2の加熱器の各中心部を,前記本体ケースの左右に等分した両側部の各中心部より外側であって,前記トッププレートの左右に等分した両側部の各中心部より中央側に配置すると共に,
D 前記トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方であって直下に前記被組込家具が位置する箇所に,前記サッシュとは別部材に構成され,かつ前記サッシュに当接させた,金属板から成る補強板を設け,
E この補強板と前記トッププレートとの間,又は補強板の下方に断熱層を形成したこと
F を特徴とする加熱調理器。
(3) 進歩性の判断
事案に鑑み,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1に係る発明(本件訂正 発明)の進歩性から検討する。
ア 本件訂正発明と公然実施品1との対比
(ア) 「トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義 本件訂正事項は,構成要件Bの「前記トッププレートの幅を前記本体\nケースの幅より大きくし,」との構成から「トッププレートの幅と本体\nケースの幅がほぼ同じもの」を除外する,というものである。 控訴人は,本件明細書等の記載や出願時の技術常識等(キッチン設備 のJIS規格等)を踏まえると,本件訂正事項により除外される「トッ ププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義は,本件特許 の出願当時における従来製品の加熱調理器のことと理解すべきであって, 具体的には,トッププレートの幅が約600mm,本体ケースの幅が5 50mm前後の加熱調理器を指していることは,本件明細書等の記載に 接した当業者にとって明らかである,と主張する。 しかしながら,控訴人が主張するトッププレートの幅が約600mm, 本体ケースの幅が550mm前後の加熱調理器やJIS規格(甲25) について,本件明細書等には何ら記載されておらず,示唆もない(本件 明細書等には,例えば,【背景技術】や【発明を実施するための最良の 形態】の欄においても,加熱調理器の寸法について具体的な数値は一切 記載されておらず,JIS規格等の引用もない。)。また,控訴人が主 張するJIS規格(甲25)も,機器を落とし込んで組み込む場合の「ワ ークトップの開口の呼び寸法」と「ワークトップの開口部の開口寸法」 について一定の数式を示しているだけで,「トッププレートの幅と本体 ケースの幅がほぼ同じもの」といえば,当然にトッププレートの幅が約 600mm,本体ケースの幅が550mm前後の加熱調理器を指すとい うことを認めるに足る具体的な記載はない。控訴人は,主要各社の製品 カタログや刊行物等を示して,従来製品の加熱調理器はトッププレート の幅が約600mm,本体ケースの幅が550mm前後のものであった とも主張するが,たとえ本件特許の出願時においてかかる寸法のものが 主流であったとしても,加熱器の配置との関係でトッププレートの幅と 本体ケースの幅の大小の関係を規定する本件訂正発明において,その技 術的範囲から除外される「トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ 同じもの」が当然にトッププレートの幅が約600mm,本体ケースの 幅が550mm前後の加熱調理器に限定されると解すべき理由はないと いうべきであるから,控訴人の主張は失当である。
そこで,本件明細書等の【0002】を見ると,「…図7は,そのも のを平面図で具体的に示しており,第1及び第2の加熱器1,2を左右 に内設した本体ケース3と,これの上面に設けたトッププレート4とは, その各幅W3,W4がほゞ同じで,第1及び第2の加熱器1,2の各中 心部O1,O2は,本体ケース3の左右に等分(W3/2)した両側部 の各中心部RO3,LO3(W3/4)とほゞ合致し,且つ,トッププ レート4の左右に等分(W4/2)した両側部の各中心部RO4,LO 4(W4/4)とも合致している。」と記載されている。この記載は, 前段の「…本体ケース3と,…トッププレート4とは,その各幅W3, W4がほゞ同じで,」に続く後段の部分で,「トッププレートの幅と本 体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義を規定しており,同部分(後段の 部分)は,第1及び第2の加熱器1,2の各中心部が,それぞれ,「ト ッププレート4の両側部の中心部に合致する」状態で,なおかつ,「本 体ケース3の両側部の中心部とほぼ合致する」状態であることを表すも\nのと認められる。ここで,本体ケース3の両側部の中心部と第1及び第 2の加熱器1,2の中心部との距離をDとすると,D=W4/4−W3 /4となり,トッププレート4の幅W4と本体ケース3の幅W3との差 は,W4−W3=4Dとなる。 このDがどの程度の距離であるかについて,本件明細書等には明示的 な記載がないが,1)第1及び第2の加熱器1,2の中心部は,それぞれ, 本体ケース3の両側部の中心部とほぼ合致するものとする【0002】 の記載や図7の記載からは,O1とRO3やO2とLO3が隣接してい ると理解し得ること,2)従来技術の課題を解決する手段の一部として, トッププレートの幅と本体ケースの幅については,単に,(トッププレ ートの幅)>(本体ケースの幅)としていること等の事情を勘案すると, D≒0であり,Dは,製造上や計測上の誤差程度と解するのが相当であ る。そして,加熱調理器に関するJIS規格(甲25)には,公差とし て,2〜5mmとする例が記載されていることを勘案すれば,Dについ ては,0<D≦5(mm),すなわち,大きく見積もっても5mmを超 えない程度のものと解することができる。 そうすると,トッププレートの幅と本体ケースの幅との差4Dは,0 <4D≦20(mm)となり,構成要件B’の「トッププレートの幅と\n本体ケースの幅がほぼ同じもの」は,トッププレートの幅と本体ケース の幅との差が,大きく見積もっても20mmを超えないものとなる。
(イ) 本件訂正発明と公然実施品1との対比
以上のとおり,本件訂正発明における構成要件B’の「トッププレー\nトの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」は,トッププレートの幅と本 体ケースの幅との差が,大きく見積もっても20mmを超えないものを 指すと認められる。 これを踏まえると,トッププレートの幅が599mm,本体ケースの 幅が550mmであって,それらの差が49mmである公然実施品1は, 本件訂正発明における構成要件B’の「トッププレートの幅と本体ケー\nスの幅がほぼ同じもの」とはいえないから,構成要件B’は,本件訂正\n発明と公然実施品1との相違点とはならない。 そうすると,本件訂正発明と公然実施品1との一致点及び相違点は, 以下のとおりになると認められる。
(一致点)
本件訂正発明と公然実施品1とは,構成要件A,B’,C,E及びF\nについて一致する。
(相違点)
本件訂正発明は,サッシュとは別部材に構成され,かつサッシュに当\n接させた,金属板から成る補強板を有するのに対し,公然実施品1はサ ッシュ自体が補強板となっており,サッシュとは別部材に構成され,か\nつサッシュに当接させた,金属板から成る補強板は有しない点。
イ 上記相違点についての判断
上記相違点は,本件訂正前の本件発明と公然実施品1との相違点(相違 点1−2’)と実質的に同じであるから,前記1(3)のとおり,本件発明と 同様に,本件訂正発明についても,公然実施品1及び乙13技術事項に基 づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 以上によれば,本件訂正発明は,そもそも特許を受けることができないも のである(特許法29条2項)から,本件訂正は独立特許要件(特許法12 6条7項)を満たすものではなく,また,本件訂正によって本件特許に係る 無効理由が解消するものでもない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件訂正の再抗弁 は理由がない。

◆判決本文

一審はこちらです。

◆平成29(ワ)22884

こちらは関連事件の控訴審判決です。
「構成要件Eを充足しない」として非侵害です。\n原告被告は同じで、対象特許が異なります。

◆平成30(ネ)10078
構成要件Eのうち,「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」の意義につい\nて検討する。
上記各文言は,調理容器との関係をもって加熱調理器の構成を示すものであり,\n文言のみから一義的にその意義を明らかにすることができないことから,本件明細 書等の発明の詳細な説明の内容を考慮して検討する必要がある。そこで,1⑴にお いてみたとおりの本件明細書等の記載を考慮すると,本件明細書等(【0003】, 【0005】,【0021】,【0028】,【0029】,【0030】,【0 032】)には,リング状枠はトッププレート上に印刷表示され,調理容器を有効\nに加熱できる領域として使用者に示されるものであること(【0003】),リン グ状枠は加熱部の領域を示し,鍋の最大径と同径で,鍋の外殻を表すものであるこ\nと(【0005】,【0021】)及び加熱部は最大の鍋径と同径で,リング状枠 であること(【0028】,【0029】)が示され,これ以外に,上記各文言の 意義の解釈を導くような説明がされていることは認められない。そうすると,「最 大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示され左右の加熱部の領域を示し,\nまた,リング状枠と同径のものであり,また,「調理容器の外殻」と一致するもの であると解するのが一般的かつ自然である。 この点,被告は,構成要件Eの内容は不特定であるなどと主張するが,同主張は,\n前記認定に照らし採用することができない。
(2) 被告製品関連製品の構成\n
ア 原告は,別紙3被告製品説明書(原告)において,被告各製品は,「左IH ヒーター及び右IHヒーター上で,調理容器の鍋底全体を加熱できる最大径である 直径26cmの領域を示す外殻線11,12」という構成を有し,これが「調理容\n器の外殻」であり「最大径の調理容器」である旨主張する。そして,被告各製品を 除く被告製品関連製品も被告各製品と同様の構成を有する旨主張する。\nイ しかしながら,前記(1)において認定したとおり,「調理容器の外殻」及び「最 大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示された加熱部及び有効加熱領域\nの領域を示すリング状枠と同径のものであるところ,原告の主張する外殻線11, 12は,原告において付しているものにすぎず,トッププレート上に表示されてい\nるものではないから,これらを「調理容器の外殻」又は「最大径の調理容器」であ るとみることはできない。そして,本件全証拠によっても,被告各製品には,加熱 部及び有効加熱領域を示す直径26cmのリング状枠が表示されているとは認めら\nれず,加熱部及び有効加熱領域を示すリング状枠と同径である「調理容器の外殻」 及び「最大径の調理容器」が直径26cmであると認めることもできない。 原告は,「調理容器の外殻」は,鍋底の最大径であり,被告は被告各製品におい て鍋底が直径26cmまでの鍋を使用することができる旨説明しているから,被告 各製品の「最大径の調理容器」は26cmのものであると主張する。しかしながら, 被告において上記のように説明することが,被告各製品で使用可能な最大径の鍋底\nを示すものといえるか否かについてひとまず措くとしても,前記(1)において認定し たとおり,「調理容器の外径」及び「最大径の調理容器」と同一であるリング状枠 及び有効加熱領域は,トッププレートに表示される必要があるのであって,表\示さ れていない有効加熱領域に基づく原告の主張はその前提を欠き失当である。
(3) 小括
以上のとおり,被告各製品は,原告主張の「調理容器の鍋底全体を加熱できる最 大径である直径26cmの領域を示す外殻線」という構成を有するとは認められな\nいから,この外殻線を前提に被告各製品が構成要件Eを充足するという原告の主張\nは採用できず,ほかにこれを認めるに足りる証拠もない。また,被告各製品を除く 被告製品関連製品が構成要件Eを充足することを認めるに足りる証拠もない。\nしたがって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品関連製品は,構\n成要件Eを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできな い。
一審はこちらです。

◆平成29(ワ)10742

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平成30(ネ)10060  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 UI関連の発明について、1審では、新規性無しの無効理由ありとして請求棄却されました。1審では、訂正審判がなされ審決が確定しましたが、時期に後れた主張であるして、口頭弁論は再開しませんでした。知財高裁は、構成要件Fが不明瞭のため要件を具備しないと判断されました。被告はAppleです。

 まず,構成要件Fの「入力」との文言の意味について検討する。
 (ア) 本件明細書には,構成要件Fの「入力」の意味を直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらない。\n他方で,本件明細書には,複数の箇所で「入力」との文言が使用され ているところ,例えば,段落【0008】の「摩擦力による入力を,直 接的または間接的に検出する」のように「物理的な力を加えること」と の意味や,段落【0012】の「図14は,…文字を入力する例を示し た図である。」のように「コンピュータに情報を与えること」との意味 など,同一の文言であるにもかかわらず文脈によって異なる意味で使用 されている。 なお,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び【006 2】の記載に基づいて,本件発明の「『当該変更結果を当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に\n記憶させる』とは,(背景の変更などの)変更結果を,(フォルダYに 保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味しているといえる。」と判断しているが,これは構\成要件Fの「入力」 は「コンピュータに情報を与えること」を意味すると解したものといえ る。
(イ) この点について,控訴人は,構成要件Fの「入力」は,「力入力検出手段」により検出された当該表\示対象に対する「力入力」,すなわち「物理的な力を加えること」を意味すると主張する。 しかし,この解釈は,構成要件H,A及びDでは,「物理的な力を加えること」として「力入力」との文言が明示的に使用されているにもか\nかわらず,構成要件Fでは敢えて「入力」のように異なる文言が使用されていることと整合しない。\n
また,構成要件Fの「入力」は,「当該変更結果」,すなわち,「保持された表\示対象以外の表\示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」を目的語としていると解し得るところ,こ の場合に「入力」を「物理的な力を加えること」と解釈することは不自 然である。さらに,「として」は,前に置かれた語を受けて,その状態, 資格,立場等であることを表す語であるところ,「入力」を「物理的な力を加えること」と解すると,「入力として・・・記憶させる」との文言が\n意味するところを理解できないというべきである。
(ウ) 控訴人は,本件訂正審決が「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として・・・記憶部に記憶させる」とは,「(背景の変更などの)変更結\n果を,(フォルダYに保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味している」と判断したことを指摘して,当該判断\nは控訴人の上記主張と整合するとも主張する。 しかし,「物理的な力を加えること」と「コンピュータに情報を与え ること」とは別個の概念であるから,構成要件Fの「入力」を「物理的な力を加えること」と解した上で,本件訂正審決の判断のように「コンピュータに情報を与えること」との意味をも有すると直ちに理解することは困難である(物理的な力が加わったことをコンピュータに検出させる場合には,両者の意味が重なっているともいい得るが,本件においては,上記説示のとおり,少なくとも「物理的な力を加えること」と解することは不自然であるから,両者の意味が重なっている場合と断ずることもできない。)。\n
(エ) 以上によれば,控訴人の主張によっては,構成要件Fの「入力」の意味を一義的に理解することは困難であるというほかない。\n
イ 仮に,構成要件Fの「入力」を,本件訂正審決が判断したように,「コンピュータに情報を与えること」と解したとしても,次のとおり,構\成要件Fの意義は依然として不明確であるというべきである。
(ア) 構成要件Fの「当該表\示対象」は,構成要件Cの「前記位置入力手段にて検出された位置の表\示対象」をいうと解される。本件明細書には,この「表示対象」の意味についても,直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらないものの,発明の詳細な説明の記載に照らせば,アイコン等(【0021】),アイコンや文字列等(【0029】),アイコンや文字,記号,図形,立体表\示対象など(【0035】)がこれに当たるものと解される。 しかし,表示画面にアイコン等を表\示させ,利用者が当該表示画面に接触した位置を検出し,当該接触位置に応じて処理を行う入出力装置においては,表\示画面に表示するアイコン等のデータそのもの(例えば,スマートフォンの画面に表\示されているカメラ様の画像データ)と,当該アイコン等と紐づけされた実体(例えば,カメラアプリケーション) とは,別個のものとされていることが多いと解されるところ,本件明細 書の記載を精査しても,本件発明における「表示対象」が具体的にどのようなものであるのかは明らかといえない。\n
(イ) また,上記ア(イ)のとおり,構成要件Fの「当該変更結果」は,「保持された表\示対象以外の表示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」と解し得るところ,「相対的に変更させた結果」についても,背景として設定されている画像が移動したピクセル数や,保持された表示対象と重なることとなったアイコン等の有無及びその種類など,さまざまなものがあり得る。\n そして,構成要件Fによれば,この「相対的に変更させた結果」は,「当該表\示対象」に対する情報として与えるものであるが,ある対象に与え得る情報は,当該対象がアプリケーションかデータかや,その実装方法によっても大きく異なるものと解される。 そうすると,上記(ア)のとおり,「当該表示対象」が具体的に意味するところが明らかでない上に,「相対的に変更させた結果」の意味内容も特定されていないことを考え合わせると,「当該変更結果を当該表\示対象に対する入力として記憶部に記憶させる」の意義も明らかでないというべきである。
(ウ) この点に関し,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び 【0062】の記載に基づいて,「当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に記憶させる」とは,「表\示要素『B』のデータをフォルダXからフォルダYに移動させて保存することを意味している」と判断した。しかし,本件訂正審決の説示においても,「表示要素『B』のデータ」がいかなるデータであるのかが具体的に特定されているとはいい難い。\n また,本件明細書の段落【0035】記載の「フォルダX」及び「フォルダY」と段落【0062】記載の「WINDOW1」及び「WINDOW2」の関係も明らかでなく,いかなる情報が「相対的に変更させた結果」に該当し,「フォルダXからフォルダYに移動させ」ると理解することになるのかについても具体的な指摘がされているとはいえない。
ウ 以上検討したところによれば,結局のところ,構成要件Fの意義は不明確というべきである。そして,構\成要件Fの意義が不明確である以上,被告各製品が構成要件Fを充足すると認めることはできない。\n

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)14142

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平成30(行ケ)10099  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月6日  知的財産高等裁判所

 一次判決の拘束力について「新証拠に基づく判断は拘束されない」と争いましたが、知財高裁は、新たな証拠による新たな主張をするこは、取消判決の拘束力に反するとして、これを認めませんでした。争点は、発明者は誰か?という点です。一次判決では請求項1,3の発明者は、本件被告であると判断されていました。一次判決と本件で原告被告が入れ替わってますのでややこしいです。
 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確 定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件につい て更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法 の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定によ り,当該取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出 されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取 消判決の当該認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがっ て,再度の審判手続において,審判官は,当事者が,取消判決の拘束力の及ぶ 判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り 返すこと,あるいは当該主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべ きではなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができない。 このように,再度の審決取消訴訟においては,審判官が当該取消判決の主文の よって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上,その拘束力に従って された再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは,確定 した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず,再度の審決 の違法(取消)事由たり得ないと解される(平成4年最高裁判決参照)。
2 これを本件についてみると,上記第2,1(3)及び(4)並びに2において認定 したとおり,一次判決は,本件発明1及び3については,その発明者が原告で あると認めることはできないとして,一次審決のうち,本件特許の請求項1及 び3に係る部分を取り消した。そして,一次判決の確定後にされた本件審決は, 一次判決の拘束力に従って,本件発明1及び3については,その発明者が原告 であると認めることはできないものと判断した。 したがって,本件発明1及び3の発明者についての本件審決の判断は,一次 審決の拘束力に従ってされた適法なものであるから,関係当事者である原告は, 当該判断に誤りがあるとして本件審決の取消しを求めることができないという べきである。
3 原告の主張について
(1) 原告は,平成4年最高裁判決は,「拘束力は,判決主文が導き出されるの に必要な事実認定及び法律判断にわたる」と判示しているから,一次判決の 拘束力が及ぶのは,一次判決のうち,本件発明1及び3に係る部分を取り消 すとの判決主文が導き出される根拠とされた事実(証拠)の認定及び当該事 実(証拠)に基づいてされた法律判断のみであって,新たな証拠に基づく事 実認定や法律判断にまで拘束力は及ばないところ,新たな証拠によれば本件 発明1及び3の発明者は原告であると認定されるべきであるから,これに反 する本件審決の判断は誤りであると主張する。 しかし,平成4年最高裁判決によれば,判決主文が導き出されるのに必要 な事実認定及び法律判断に対して拘束力が及ぶのであるから,当事者として は,この事実認定に反する主張をすることは許されないのであり,したがっ て,新たな証拠を提出して,上記事実認定とは異なる事実を立証し,それに 基づく主張をしようとすることも,取消判決の拘束力に反するものであって 許されないといわなければならない。このことは,上記判決自身が,「再度 の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証をし,更には 裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違 法とすることが許されない。」と明言していることからも明らかである。 そして,本件訴訟における原告の主張は,一次判決において審理の対象と なっていた冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法123 条1項6号),すなわち,本件発明1及び3は,被告が発明したものである にもかかわらず,原告がその名義で出願した,という同一の無効理由に関し, 本件発明1及び3の発明者が原告であると認めることはできない,との一次 判決が認定した事実そのものについて,一次判決に係る訴訟における原告の 主張を補強し,又は,原告に不利な認定を誤りであるとして,確定した一次 判決の当該認定判断を覆そうとするものにすぎないから,そのような主張が 許されないことは明らかである。
(2)ア もっとも,原告が指摘するとおり,取消判決に民事訴訟法338条所定 の再審事由がある場合には,当該取消判決は再審の訴えによって取り消さ れるべきものであるから,これに拘束力を認めるのは相当でないと解する 余地がある。 そして,原告は,一次判決の認定判断の基礎となった被告及びAの陳述 (一次審決に係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者 尋問における陳述を含む。)に,民事訴訟法338条1項6号及び7号の再審事由があると主張するものと解されるが,同条1項ただし書の場合に 該当しないこと,及び同条2項の要件を満たすことについては何ら主張立 証がないから,原告の再審事由に関する主張は,既にこの点において理由 がないものといわざるを得ない。また,念のため内容について検討してみ ても,やはり理由がないものといわざるを得ない。
イ すなわち,一次判決は,本件各発明の発明者を認定判断するに当たり, 被告が主張した,1)平成22年10月5日までに,燃焼室クリーナーの流 量調整等の問題を解決するために,ノズル管を加熱・冷却してその管内に ゲート構造を形成するとの着想を得て,これを具体化した甲33に係るノズル(一次判決における甲26ノズル)を製作しその噴出量のテストを行\nった,2)その後,同月28日ころには,本件各発明を完成させ,同年11 月3日ころには,本件各発明を実施することに用いるゲート構造を備えたノズルを製作するための機器を完成させた,との各事実につき,一次審決\nに係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者尋問の録音 反訳書(甲48。一次判決における甲37)を,その認定の基礎としてい ることが認められる(甲8・29頁)。
この点に関し,原告は,被告との打合せの際,「…誰もやってない時に プライヤーで潰して針金入れたやつ見せたじゃないですか。」との原告の 発言に対し,被告が「…プライヤーで潰した針金?」,「…あれが,これ と何が違うんですか。」,「…あれ持って行った時にはすでに僕は…」と 発言したこと(甲60・40頁)を根拠として,被告は原告が甲33に係るノズルを作製したことを認めていたのであるから,上記の審判手続にお ける被告の陳述は虚偽であると主張する。しかし,被告は,上記のやりと りの直後に「あれ持って行った時にはすでに僕はもうつくってあったじゃ ないですか。」と発言している上に,原告がその発言中で指摘する対象物 を示した時期などを特定するに足りる事情も見当たらないことからすると, 原告が指摘するやりとりをもって,被告が甲33に係るノズルの作製者は 原告であると認めていたと断ずることはできない。
また,原告は,Aとの打合せの際,「そのゲートのそれをやるという, アイディア。そしてあと,熱で刺した,ここに差したのを,熱でやるとい うアイディア。全部,私じゃん」との原告の発言に対し,Aは「ええ。」と発言したこと(甲61の2・2頁)を根拠として,Aは原告が本件各発 明を着想したことを認めていたと主張する。確かに,前後の文脈を踏まえ ると,原告の当該発言部分はノズルのゲートに関する事柄であることがう かがわれる。しかし,当該発言部分で触れられている技術的事項は,それ 自体抽象的である上に,本件各発明が備える構成のごく一部にすぎないから,上記のやりとりから直ちに,Aにおいて,原告が本件各発明の着想者\nであることを認めたとまで認定することは困難である。このほか原告が指摘する種々の証拠を考慮しても,上記の審判手続における被告の陳述が虚偽であると断ずることはできない。
ウ 次に,原告は,一次判決が事実認定の基礎としたA及び被告の陳述書(甲 76,77。一次判決における甲62,63)について論難するが,いず れも私文書である当該各陳述書に記載された内容が虚偽であると主張する にとどまるものであって,これらが偽造又は変造されたものであることを 認めるに足りる証拠はない。 また,原告は,甲55が黒塗りされていたことを指摘して,被告及びA が提出した書類について虚偽報告や変造が常態となっていたとも主張する が,一次判決において判断の基礎とされた証拠が偽造又は変造されたもの であることを具体的に指摘するものであるとはいい難い(そもそも,甲5 5は一次判決において判断の基礎とされたものではない。)。
(3) さらに,原告は,一部の証拠について,一次判決に係る訴訟手続において 提出できなかった事情など,種々の主張をするが,いずれも上記1及び2の判断を左右するに足りないというべきである。

◆判決本文

一次判決はこちらです。

◆平成27(行ケ)10230

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平成30(行ケ)10071  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月26日  知的財産高等裁判所

 前訴で訂正要件とともに、進歩性も判断しており、これに沿ってなされた審決の取消事件です。本件訴訟において、被告は、確定した前訴判決(取消判決)の拘束力が及ぶと主張しましたが、裁判所は、引用発明1に基づく進歩性違反については、本件被告も反論も尽くされているので,甲5を主引用例とする本件訂正発明9の進歩性について判断したことは,裁判所に委ねられている訴訟指揮権の範囲内に属する事柄であると判断しました。
 本件は、経緯が複雑です。前訴では、前件審決が本件訂正のうち,請求項9及び10に係る訂正を認めなかった判断に誤りがあるとした上で,更に本件訂正後の請求項9ないし11に係る発明の容易想到性について審理し,これらの容易想到性を認めることはできない旨の判断をし,前件審決のうち,本件特許の請求項9ないし11に係る部分を取り消すとの判決(以下「前訴判決」という。)をしました。その後,前訴判決は,確定しています。

 被告は,確定した前訴判決(取消判決)の拘束力に従って認定判断した本件 審決の取消しを求める本件訴訟は,前訴判決による紛争の解決を専ら遅延させ る目的で提起されたものであり,本件訴えの提起は,訴権の濫用として評価され るべきものであるから,本件訴えは,不適法であり,却下されるべきである旨主 張する。 そこで検討するに,原告主張の本件審決の取消事由中には,前訴判決が判断し なかった相違点についての本件審決の判断に誤りがあることを理由とするもの (前記第3の3(1)ア)が含まれていることに照らすと,本件訴えの提起が,前訴の蒸し返しであるものと直ちにいうことはできず,訴権の濫用に当たるものと認 めることはできない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。
2 取消事由1−1(甲5を主引用例とする本件訂正発明9の進歩性の判断の誤 り)について
(1) 前訴判決の拘束力等について
確定した前訴判決は,請求項9に係る本件訂正を認めなかった前件審決の 判断に誤りがあるとした上で,1)前訴被告(本件訴訟の原告)は,本件訂正 による請求項9に係る訂正が認められる場合でも,本件訂正発明9は「引用 発明1」(本件審決の引用発明5)に基づき容易に想到できる旨主張し,前 訴原告(本件訴訟の被告)の反論も尽くされているので,進んで,本件訂正 発明9の容易想到性について判断する,2)本件訂正発明9と「引用発明1」 は,前件審決が認定した本件発明9と「引用発明1」との相違点9−2に加 えて,少なくとも相違点9−A及び相違点9−Bの点でさらに相違すること が認められる,3)相違点9−Aに関し,「引用発明1」の製造方法は,本件 訂正発明9の「前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し(但し,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く),それにより発生す る空隙を有する導電性材料を得る方法」とは異なることが明らかであり,甲 5は,銀フレークを端部でのみ焼結させて,端部を融合させる方法を開示す るにとどまり,焼成の際の雰囲気やその他の条件を選択することによって, 銀の粒子の融着する部位がその端部以外の部分であり,端部でのみ融着する 場合は除外された導電性材料が得られることを当業者に示唆するものではないから,「引用発明1」に基づいて,相違点9−Aに係る構成を想到するこ\nとはできない,4)よって,その余の点について判断するまでもなく,本件訂 正発明9は,当業者が,「引用発明1」に基づき容易に想到できるというこ とはできない旨判断し,前件審決のうち,本件発明9は甲5に記載された発 明と周知技術に基づいて容易に発明をすることができたことを理由に,本件 特許の請求項9に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消した。 前訴において,原告は,平成29年5月29日付け準備書面(1)(甲5 6)に基づいて,甲5には,「銀フレークがその端部(銀フレークの周縁部 分)でのみ融着している場合」の記載がないから,甲5に記載された発明は, 銀フレークがその端部(銀フレークの周縁部分)でのみ融着している構成の\nものとはいえず,相違点9−Aは,本件訂正発明9と甲5に記載された発明 の相違点ではない旨主張した。これに対し被告は,同年6月29日付け準備 書面(原告その2)(甲53)に基づいて,甲5には,端部(周縁部分)を 有する銀フレークを用い,該銀フレークの端部(周縁部分)のみで,銀フレ ーク同士を融着させる製造法であり,銀フレークの周縁部分のみ融着した導 電性材料を得られるものであることについて十分にサポートされている旨主\n張し,原告の上記主張を争った。
前訴判決の上記認定判断及び審理経過によれば,前訴判決が前件審決のう ち,本件特許の請求項9に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消すとの結論を導いた理由は,本件訂正を認めなかった前件審決の判断に誤 りがあること,本件訂正後の請求項9に係る発明(本件訂正発明9)は,当 業者が甲5に記載された発明に基づいて相違点9−Aに係る本件訂正発明9 の構成を容易に想到することができないから,甲5に記載された発明に基づ\nき容易に発明をすることができたとはいえないとしたことの両者にあるもの と認められ,かかる前訴判決の理由中の判断には取消判決の拘束力(行政事 件訴訟法33条1項)が及ぶものと解するのが相当である。 そして,前訴判決確定後にされた本件審決は,前訴判決と同様の説示をし, 本件訂正発明9は,当業者が甲5に記載された発明(引用発明5)に基づいて相違点9−3(相違点9−Aと同じ)に係る本件訂正発明9の構成を容易\nに想到することができないから,その余の点について判断するまでもなく, 引用発明5に基づき容易に発明をすることができたとはいえないと判断した ものである。 そうすると,本件審決の上記判断は,確定した前訴判決(取消判決)の拘 束力に従ってされたものと認められるから,誤りはないというべきである。
(2) 原告の主張について
原告は,1)前訴判決は,本来,専門的知識経験を有する審判官の審判手続に より審理判断をすべき本件訂正発明9の無効理由について,審判官の審判手続に よる審決を経ずに,技術常識を無視した認定判断をしたものであり,最高裁昭和 51年3月10日大法廷判決の趣旨に反するものであるから,前訴判決の上記 認定判断に拘束力を認めるべきではなく,前訴判決の拘束力に従った本件審決 の相違点9−3の認定及び判断は誤りである,2)甲5の図3,甲40の【0 033】ないし【0035】及び図5の記載事項に照らすと,甲5記載の銀 粒子融着構造は,本件訂正発明9の銀粒子融着構\\\造と一致するから,本件審 決における引用発明5の認定に誤りがあり,その結果,本件審決は,相違点 9−3の認定及び判断を誤ったものである旨で主張する。 しかしながら,上記最高裁大法廷判決は,特許無効の抗告審判で審理判断さ れなかった公知事実との対比における特許無効原因を審決取消訴訟において新たに主張することは許されない旨を判断したものであるところ,前訴判決 は,前件審決で審理判断された甲5を主引用例として,甲5に記載された発 明と本件訂正発明9とを対比し,本件訂正発明9の進歩性について判断した ものであり,上記最高裁大法廷判決は,前訴判決と事案を異にするから,本件 に適切ではない。 次に,前訴判決が,前記(1)のとおり,前訴被告(本件訴訟の原告)は,本件訂正による請求項9に係る訂正が認められる場合でも,本件訂正発明9は 「引用発明1」に基づき容易に想到できる旨主張し,前訴原告(本件訴訟の 被告)の反論も尽くされているので,進んで,本件訂正発明9の容易想到性 について判断するとした上で,甲5を主引用例とする本件訂正発明9の進歩 性について判断したことは,裁判所に委ねられている訴訟指揮権の範囲内に 属する事柄であるといえるから,相当である。 さらに,原告は,本件審決における相違点9−3の認定及び判断に誤りが あることの根拠として,前訴判決と同一の引用例である甲5とともに,甲4 0を挙げるが,甲40は,甲5の記載事項の認定に関する原告の主張を補強 する趣旨で提出されたものであって,新たな公知事実(引用例)を追加する ものではないから,前訴判決の拘束力を揺るがすものとはいえない。 したがって,本件審決における相違点9−3の認定及び判断に誤りがある との原告の上記主張は,理由がない。

◆判決本文

前訴判決はこちらです

◆平成29(行ケ)10032

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平成30(ネ)10066  損害賠償等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成31年1月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ウェブサイトにおいて,書籍を他人の著作物である旨を表示されたことが,氏名表\示権の侵害に当たるかが争われました。原判決は,「氏名表示権は,著作者が原作品に,又は著作物の公衆への提供,提示に際し,著作者名を表\示するか否か,表示するとすれば実名を表\示するか変名を表示するかを決定する権利であるところ,被控訴人のホームページにおいて,本件各書籍の公衆への提供,提示がされているとはいえないから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の請求には理由がない」と判断しました。なお、時期に後れた攻撃防御であるとの申\立ては認められませんでした。
1 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて
本件は,平成29年12月20日に東京簡易裁判所に訴えが提起され,平成30 年2月9日に東京地方裁判所に移送され,3回の弁論準備手続期日を経て,同年6 月21日の口頭弁論期日において弁論が終結されたところ,弁論の全趣旨によると, 東京地方裁判所は,同年3月30日,控訴人(一審原告)訴訟代理人に対し,被侵 害利益が公表権(著作権法18条),氏名表\示権(著作権法19条),同一性保持 権(同法20条)又は著作権法に定めのない権利利益であるのか,具体的に明らか にすることなどを求めるファックス文書を送付したこと,控訴人(一審原告)訴訟 代理人は,同年4月25日,被侵害利益は「氏名表示権(著作権法19条)」であ\nる旨を記載した同日付け原告第1準備書面を東京地方裁判所に提出し,同書面は同 日の第1回弁論準備手続期日において陳述されたことが認められる。そうすると, 控訴人は,被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の 著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張を, 遅くとも原審の口頭弁論終結日である平成30年6月21日までにすることが可能であったといえるから,これを当審において初めて主張することは「時機に後れて\n提出した攻撃又は防御の方法」(民訴法157条1項)に該当することが認められ る。 しかし,控訴人は,本件の控訴審の第1回口頭弁論期日(平成30年11月21 日)において,被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三 者の著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張 をしたものであって,本件は,第2回口頭弁論期日において弁論が終結されたこと からすると,上記の時点における上記主張により,訴訟の完結を遅延させることと なると認めるに足りる事情があったとはいえない。 したがって,上記主張に係る時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立ては,認め\nられない。
・・・
証拠(甲1,甲1の2)及び弁論の全趣旨によると,本件書籍1は,D VD付きの書籍であり,書籍には,写真,イラスト,文章等が,DVDには映像が 掲載されていることが認められる。そして,前記アのとおり,本件書籍1の奥付に は,控訴人以外の多くの個人又は団体の名が,様々な立場から本件書籍1の成立に 関与したものとして記載されていること,「監修」が「書籍の著述や編集を監督す ること」(広辞苑第7版)を意味することからすると,本件書籍1が編集著作物で あるとしても,前記アの記載から,その編集著作物の著作者が,控訴人であると推 定すること(著作権法14条)はできず,著作者が控訴人であるとは認められない。 また,その他に,控訴人が,本件書籍1につき,素材の選択又は配列によって創 作性を発揮したものと認めるに足りる主張・立証はない。 この点について,控訴人は,株式会社ビックスとの間における作業過程に照らし てみても,控訴人が実態として編集著作物の著作者となる旨主張する。 しかし,控訴人が主張する本件書籍1への控訴人の関与については,控訴人の陳 述書(甲8)以外の証拠はなく,また,上記陳述書によっても,「明確に覚えてい ない」というのであって,控訴人が,「監修」,すなわち,書籍の著述や編集を監 督することを超えて編集著作物の著作者と評価し得る作業を行ったことを認めるこ とはできないから,控訴人の上記主張は,採用できない。 したがって,控訴人が本件書籍1の編集著作者であるとは認められない。
そうすると,本件書籍1については,控訴人の主張する被侵害利益は,その根拠 を欠くから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する被侵害 利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽ら れない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権が存するとは認められない。

◆判決本文

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平成30(ネ)10033  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年1月31日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 大阪高裁は無効理由ありとして、1審の判断を取り消しました。1審では時期に後れた主張とされた無効主張も却下されませんでした。
1 争点3−4(乙64の1を主引用例とする進歩性欠如の無効理由の有無)に ついて
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて\n
被控訴人は,控訴人が当審において追加主張した乙64の1を主引用例と する進歩性欠如(争点3−4)を無効理由とする特許法104条の3第1項 の規定に基づく無効の抗弁(以下「本件無効の抗弁」という。)について, 民事訴訟法157条1項に基づき,時機に後れた攻撃防御方法に当たるもの として却下することを求める申立てをしたので,以下において判断する。\n
ア 前記第2の1(前提事実等)の(6)及び一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 控訴人は,平成27年4月17日の原審第4回弁論準備手続期日に おいて,被告準備書面(2)に基づき,実施可能要件違反の無効理由(争点\n3−1)による無効の抗弁の主張をし,同年9月14日の原審第7回弁 論準備手続期日において,被告準備書面(5)に基づき,明確性要件違反(争 点3−2)の無効理由による無効の抗弁の主張をした。 その後,原審の受命裁判官は,同年10月27日の第8回弁論準備手 続期日において,本件の侵害論の審理を終了し,損害論の審理を進める と述べた上で,控訴人に対し,被控訴人の損害主張に対し具体的に認否 反論し,必要な書面を提出するよう求めた。
(イ) 控訴人は,平成28年5月19日,本件発明1,2,6及び8につ いての本件特許を無効にすることを求める別件無効審判を請求した。 同年12月13日の原審第12回弁論準備手続期日において,控訴人 は,被告準備書面(10)に基づき,別件無効審判と同一の無効理由(サポー ト要件違反(争点3−3)の無効理由及び本件無効の抗弁に係る無効理 由を含む。)による無効の抗弁を追加して主張したのに対し,被控訴人 は,同期日において,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下 することを求める申立てをした。原審の受命裁判官は,被控訴人の上記\n申立てを容れて,控訴人の上記無効の抗弁に係る主張及び証拠を却下した。\n
(ウ) 特許庁は,平成29年12月15日,本件訂正後の請求項1,6及 び8に係る発明についての本件特許には,サポート要件違反(争点3− 3)の無効理由及び本件無効の抗弁に係る無効理由が存在するとして, 上記特許を無効とする別件審決をした。 同月20日の原審第18回弁論準備手続期日において,控訴人は,被 告準備書面(15)に基づき,別件審決が認めたサポート要件違反の無効理 由及び本件無効の抗弁に係る無効理由による無効の抗弁を再度追加して 主張したのに対し,被控訴人は,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法 として却下することを求める申立てをした。原審の受命裁判官は,被控訴人の上記申\立てを容れて,控訴人の上記無効の抗弁に係る主張及び証拠を却下した。 原審は,同日,原審第2回口頭弁論期日において,本件訴訟の口頭弁 論を終結した後,平成30年3月22日,被控訴人の請求を一部認容す る原判決を言い渡した。 この間の同年1月20日,被控訴人は,別件審決の取消しを求める別 件審決取消訴訟を提起した。
(エ) 控訴人は,平成30年4月9日,本件控訴を提起した。控訴人は, 同年6月5日付けの控訴理由書において,被告準備書面(10)及び(15)を 引用して,サポート要件違反(争点3−3)の無効理由による無効の抗弁 及び本件無効の抗弁を記載した。 同年7月24日の当審第1回弁論準備手続期日において,控訴人は, 控訴理由書に基づき,本件無効の抗弁を主張し,被控訴人は,控訴答弁 書に基づき,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下すること を求める申立てをした。\n同年10月15日の当審第2回弁論準備手続期日において,控訴人は, 同年8月31日付けの控訴人準備書面(1)及び同年9月14日付けの控 訴人準備書面(2)に基づき,本件無効の抗弁の主張を補足し,被控訴人は, 同年10月1日付けの被控訴人第1準備書面に基づき,本件無効の抗弁に対する反論及び訂正の再抗弁を主張した。 その後,当裁判所は,同年12月10日の第1回口頭弁論期日におい て,本件口頭弁論を終結した。
イ 前記アの認定事実によれば,控訴人の当審における本件無効の抗弁の主 張は,原審において侵害論の審理を終了し,損害論の審理に入った段階で 提出されたため,時機に後れた攻撃防御方法として却下された主張と同旨 のものであるが,控訴人は,原審口頭弁論終結前に本件無効の抗弁に係る 無効理由の存在等を認めて本件特許を無効とする旨の別件審決がされた のを受けて,当審において再度提出したものであること,控訴人は,控訴 理由書に本件無効の抗弁を記載し,当審の審理の当初から本件無効の抗弁 を主張していたことが認められるから,当審における控訴人による本件無 効の抗弁の主張の提出が時機に後れたものということはできない。また,当審の審理の経過に照らすと,控訴人による本件無効の抗弁の主張の提出 により,訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められない。 したがって,当審における控訴人による本件無効の抗弁の主張を時機に 後れた攻撃防御方法として却下することはしない。
(2) 本件明細書の記載事項等について
ア 本件発明1,2及び6の特許請求の範囲(請求項1,2及び6)の記載 は,前記第2の1(前提事実等)の(2)のとおりである。
・・・
前記aの記載事項によれば,乙64の2には,押しボタン式バルブ の下側で不燃性液体の上側の位置に,通気性を有する「連続気泡状パ ッキング」を挿入した,不燃性液化ガスを充填した噴射口を有する「噴 気式清掃機」の記載があり,その「連続気泡状パッキング」は,缶体 を逆さまにして使用しても不燃性液体がバルブ側の空間に漏れて液体 のまま噴出することを防止するためのものであることの記載があるこ とが認められる。 そして,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」は,連続気泡 を有する多孔質体であり,図2(別紙3)から円筒状の缶体内に挿入 された円板状の形状であることを理解できるから,「円板状多孔質 体」として,本件発明1の「通気性蓋状部材」に該当するものと認め るのが相当である。
(イ) 乙64の1には,スプレー缶を倒立状態で使用した場合や缶を倒立 状態で保管する場合に液漏れの原因となり,可燃性液化ガスの液漏れに より火炎が発生するおそれがあるため,吸収性能・保液性に優れた吸収\n体を提供することが課題であること(【0004】,【0054】)の 記載がある。 一方で,乙64の2には,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」 は,缶体を逆さまにして使用しても不燃性液体がバルブ側の空間に漏れ て液体のまま噴出することを防止するためのものであることの記載があ ることは,前記(ア)bのとおりである。 そうすると,乙64の1及び乙64の2に接した当業者は,乙64の 1の第1発明において,スプレー缶を倒立状態で使用した場合の吸収体 に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防止を確実にするために,乙6 4の1の第1発明に乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」の構成\nを適用する動機付けがあるものと認められる。 また,乙64の1の「具体的には,スプレー缶形状に合わせて,その 内径に適した大きさの円筒状の成形体とすると,充填が容易にできる上, 使用中も安定してスプレー缶内に保持することができる。」(【003 2】)との記載から,スプレー缶の使用中に吸収体を安定して保持する 必要性があることを理解できる。 以上によれば,当業者は,スプレー缶を倒立状態で使用した場合の吸 収体に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防止を確実にし,吸収体を 安定して保持するために,乙64の1の第1発明において,乙64の2 の連続気泡状パッキングを適用する際に,乙64の2記載の連続気泡状 パッキングの構成のものを吸収体の表\面に密接に配置し,相違点2に係 る本件発明1の構成を容易に想到することができたものと認められる。\n
(ウ) これに対し被控訴人は,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング4」は,バルブ2の下側に空間を形成するため缶体1に固定されている 必要があるため,肩部からバルブ側に押し込むように固定され(図2), バルブ2側に十分大きい空間が形成されないので,倒立状態では,比重\nの重い液体が下側(バルブ2側)へ移動し,バルブ側の空間に容易に液 が漏れることになって,倒立状態のまま噴射を継続することができない こと,乙64の2には,図2以外に,「連続気泡状パッキング4」の充 填状態について具体的に説明する記載はないことからすると,乙64の 1の第1発明に乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」を組み合わ せる動機付けはないし,また,乙64の1の第1発明に乙64の2記載 の「連続気泡状パッキング」を組み合わせたとしても,本件発明1の通 気性蓋状部材の構成に至ることはない旨主張する。\nしかしながら,乙64の1の第1発明において,スプレー缶を倒立状 態で使用した場合の吸収体に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防 止を確実にするために,乙64の1の第1発明に乙64の2記載の「連 続気泡状パッキング」の構成を適用する動機付けがあることは,前記\n(イ)のとおりである。 また,乙64の2には,連続気泡状パッキングが図2で示された位置 に配置することが不可欠である旨の記載はなく,連続気泡状パッキング の具体的な設置方法及び設置場所は,当業者が適宜決定すべき事項であると認められる。 さらに,乙64の2の【0012】の「連続気泡状パッキング4を挿 入し,たとえ缶体1を逆さまにして使用しても不燃性液体3が液体のま ま噴出することなく,ガスの整流性が良くなる。」との記載に照らすと, 乙64の2の「噴気式清掃機」が連続気泡状パッキングを挿入したため に倒立状態のまま噴射を継続することができないものと理解すること はできない。 したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。
・・・
(7) まとめ
以上のとおり,本件発明1,2及び6は,乙64の1の第1発明及び乙6 4の2記載の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた ものと認められ,進歩性を欠くものであるから,本件特許には,特許法29 条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判 により無効とされるべきものと認められる。
2 争点3−5(訂正の再抗弁の成否)(本件発明1及び6に関し)について
被控訴人は,本件訂正により,訂正前の請求項1及び6(本件発明1及び6) の無効理由は解消され,かつ,被告製品は,本件訂正発明1及び6の技術的範 囲に属するから,被控訴人は,控訴人に対し,本件特許権を行使することがで きる旨主張する。 そこで検討するに,本件訂正発明1(本件訂正後の請求項1)は,灰分含有 量を「1重量%以上12重量%未満」とするものであり,本件発明2と同一の 構成であるところ,前記1(5)のとおり,本件発明2は,乙64の1の第1発明 及び乙64の2の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで きたものと認められるから,本件発明1の無効理由は,本件訂正により解消されるものとはいえない。 また,前記1(6)で説示したのと同様の理由により,本件発明6の無効理由は, 本件訂正により,解消されるものとはいえない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の上記主張 は理由がない。
3 結論
以上によれば,本件発明1,2及び6は,進歩性を欠くものであり,本件特 許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があ り,特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,被控訴人は, 同法104条の3第1項の規定により,控訴人に対し,本件特許権を行使する ことはできない。

◆判決本文

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◆平成30(行ケ)10012

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平成30(ネ)10027  特許権に基づく損害賠償請求権不存在確認等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年12月12日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 アップルがクアルコムに対して求めた確認訴訟について、訴えの利益がないとした1審判決が維持されました。1審判決はアップされていません。
 イ この点に関し,控訴人らは,1)本件特許権がCMライセンス契約の対象 特許となっていることについて,被控訴人らからこれを裏付ける証拠は提 出されていないこと,2)被控訴人クアルコムは,控訴人アップルと被控訴 人クアルコム間のドイツ訴訟において,2016年(平成28年)第4四 半期以降,CMとの間で,新たな特許や訴訟の対象特許を取り込むための 交渉を一切行っていないことを自認しており,CMライセンス契約の有効 性やその許諾対象特許の範囲について疑義があること,3)被控訴人クアル コムは,台湾の公平交易委員会(TFTC)が2017年(平成29年) 10月20日にCMを含む携帯通信端末の製造販売業者との間で締結し ているライセンス契約について,ライセンス条件の再交渉を行うことを命 じる旨の是正命令を受けて,被控訴人クアルコムとCMとの間でCMライ センス契約の再交渉が開始されており,CMライセンス契約の条件は今後 変更される可能性があること,4)被控訴人クアルコムは,控訴人アップル に対し,自社が保有する必須宣言特許をほぼ完全に網羅する約2000頁 に及ぶ特許リスト(本件特許を含む。)(甲7)及び自社の保有する必須 宣言特許(本件特許を含む)のクレームチャート(甲14)を提示するこ とにより,「直接ライセンスなしでは(absent a direct license)」被控訴人クアルコムの必須宣言特許(本件特許を含む。)が控訴人アップルに よって侵害されているとの認識を示したこと,5)被控訴人クアルコムが, 控訴人アップルの求めに応じて提供した一覧表やクレームチャートに本\n件特許の米国対応特許及び中国対応特許が含まれていたことなどに照ら せば,本件特許権はCMライセンス契約の対象特許となっているとはいえ ず,また,控訴人アップルと被控訴人クアルコム間のライセンス交渉の中 で,被控訴人クアルコムが控訴人アップルに対し原告製品が本件特許権を 含む被控訴人クアルコムの保有する数多くの特許権を侵害していると主 張したことは明らかである旨主張する。
(ア) しかしながら,前記1(7)認定のとおり,被控訴人らは,本件弁論を 終結した当審の第1回口頭弁論期日において,被控訴人クアルコムは, CMに対し,本件特許権を含む特許について,原告製品の生産,譲渡等 に係るライセンスを付与しており,控訴人らは,CMから全ての原告製 品の供給を受けているから,被控訴人らは,控訴人らに対し,現在,本 件特許権に基づく損害賠償請求権及び実施料請求権を行使する意思は ないし,日本法上行使できるものとも考えていない旨を表明しているこ\nとに照らすと,本件の口頭弁論終結時点において,本件特許権が被控訴 人クアルコムとCM間のCMライセンス契約におけるライセンス対象 とされていることが認められる。 控訴人らが述べるように2016年(平成28年)第4四半期以降, 被控訴人クアルコムとCMとの間で,新たな特許や訴訟の対象特許を取 り込むための交渉を行っていないとしても,そのことは,CMライセン ス契約の内容が変更されたり,又は契約自体の効力が喪失したことを直 ちに意味するものではない。また,被控訴人クアルコムがTFTCの是正命令(処分)を受けてCMとの間でCMライセンス契約の再交渉を開 始したことを認めるに足りる証拠はない。 他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(イ) 前記1(2)認定のとおり,控訴人アップルと被控訴人クアルコムのラ イセンス交渉は,CMへの既存のライセンスに依拠することに代えて, 控訴人アップルに直接ライセンスを提供することを目的としていたこ とに照らすと,控訴人アップルが送付した甲9のレター記載の●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●との文中の「absent a license」の語は,「ラ イセンスがない場合に」を意味するものであり,CMに対するライセン スを含め,およそライセンスが存在しない場合を想定したものと認めら れる。 そして,前記1(2)の認定事実によれば,被控訴人クアルコムは,控 訴人アップルから被控訴人クアルコムに対してライセンスがない場合 に原告製品が侵害していると被控訴人クアルコムが考えている特許権 の特定を求められたことを受けて,控訴人アップルに対し,被控訴人ク アルコムがETSI(欧州電気通信標準化機構)に開示した特許の一覧\n表(甲7)及びサンプルクレームチャート(甲14)を提供したことが\n認められることに照らすと,上記一覧表及びクレームチャートに本件特\n許の米国対応特許及び中国対応特許が含まれているからといって,控訴 人アップルと被控訴人クアルコム間のライセンス交渉の中で,被控訴人 クアルコムが控訴人アップルに対し原告製品が本件特許権を侵害して いることを主張したものと認めることはできない。
(ウ) したがって,控訴人らの前記主張は理由がない。
」 (2) 原判決17頁4行目の「(3)」を「(3)ア」と改め,同頁19行目末尾に行 を改めて次のとおり加える。
「イ この点に関し,控訴人らは,被控訴人クアルコムは,本件訴訟では, CMライセンス契約の存在を理由として,本件特許権に基づく損害賠償 請求権及び実施料請求権を有しない又は行使できない旨主張している ものの,米国訴訟においては,CMライセンス契約の存在にかかわらず, 携帯通信SEPポートフォリオに含まれる特許につき,FRAND条件 の適合性やFRAND条件でのロイヤルティの確認を求める申立てを\nするなど,控訴人アップルによる被控訴人クアルコムの保有する特許権 の侵害を前提とする主張を行っており,被控訴人クアルコムの両主張が 矛盾することは明らかであり,このような被控訴人クアルコムの米国訴 訟における本件訴訟と矛盾した主張は本件訴えの確認の利益を基礎付 けるものといえる旨主張する。
しかしながら,前記1(6)認定のとおり,被控訴人クアルコムが,米国 訴訟において,反訴として,被控訴人クアルコムのライセンス提案がF RAND宣言に適合していること及び仮にFRAND宣言に適合しな い場合はFRAND条件によるロイヤルティの確認の申立てを行っていること,被控訴人クアルコムが,同訴訟において,2018年(平成\n30年)6月19日,控訴人アップルが本件特許の米国対応特許を侵害 している旨の専門家意見書を提出したことは,被控訴人クアルコムが, 本件訴訟において,被控訴人クアルコムからライセンスを受けたCMか ら原告製品の供給を受けている控訴人らに対し,本件特許権に基づく損 害賠償請求権及び実施料請求権を行使する意思はないし,日本法上行使 できるものとも考えていない旨主張していることと何ら矛盾するもの ではない。したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。」

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平成30(ネ)10059 特許権侵害による損害賠償債務不存在確認等請求控訴事件 特許権 民事訴訟平成30年12月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所

 原審は,確認の利益がないとして本件訴えを却下しました。知財高裁は訴えの利益ありと判断しました。
2 争点(1)
(被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益)について
(1)前提事実(引用に係る原判決第2の1(5))のとおり,被控訴人は,別件米国訴訟において,控訴人補助参加人に対し,控訴人補助参加人が本件各製品を製造販売した行為について,本件米国特許権の侵害を理由として損害賠償請求をしているものである。そして,前提事実(引用に係る原判決第2の1(3)及び(4))のとおり,本件各製品の製造のために用いられた本件各機械装置を製造し,これを控訴人補助参加人に販売したのは控訴人である。また,当審第1回口頭弁論期日において,被控訴人が,被控訴人は控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有する旨陳述したことは,当裁判所に顕著である。そうすると,控訴人と被控訴人との間に本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権の存否について争いがあり,控訴人は,被控訴人から,上記損害賠償請求権を行使されるおそれが現に存在するというべきである。したがって,被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める訴えは,即時確定の利益を有する。
(2)被控訴人の主張について
ア 被控訴人は,控訴人による本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を行使しない旨明確にしているから,上記損害賠償請求権の不存在を確認する訴えは,即時確定の利益を欠くと主張する。しかし,被控訴人が,本件訴訟の提起前に,控訴人に対し,控訴人による本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を主張し,又はこれを行使したことはなく,さらに,原審第4回弁論準備手続期日において,被控訴人は控訴人に対し,上記損害賠償請求権を将来にわたって主張及び行使しない旨の一部和解に応じられる旨述べていたとしても,控訴人と被控訴人の間では,上記損害賠償請求権の存否については争いが存在するものである。また,被控訴人は,上記のとおり述べたとしても,これにより上記損害賠償請求権を行使しないことについて法的義務を負うに至ったものではなく,将来にわたって確実に権利行使をしないことを保証するものとはいえない。したがって,前記損害賠償請求権の不存在を確認する訴えについて即時確定の利益を欠くとの被控訴人の前記主張は,採用できない。
イ 被控訴人は,控訴人らが,別件大阪訴訟を提起したから,本件訴訟は確認の利益を欠く旨主張する。しかし,別件大阪訴訟は,控訴人らが,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人補助参加人による本件米国特許権の侵害を理由として別件米国訴訟を提起したことについて,不法行為又は本件実施許諾契約の債務不履行に当たるとして損害賠償金の支払等を求めるものである(乙4,5)。一方,本件訴訟の争点(1)に係る部分は,控訴人が,被控訴人に対し,控訴人による本件各特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権が存在しないことの確認を求めるものである。両訴訟の訴訟物が相違するだけではなく,審理の対象となる不法行為ないし債務不履行行為の内容も,全く異なる。よって,控訴人らが原判決後に別件大阪訴訟を提起したからといって,本件訴訟の確認の利益が失われることはなく,被控訴人の上記主張は,採用できない。
(3)以上によれば,被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益は,存するというべきである。 ​
・・・
よって,被控訴人が控訴人及び控訴人補助参加人に対し,本件各特許権の侵害を 理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことを確認するとの訴えに は,確認の利益があるから,原判決のうち,この訴えを却下した部分を取り消し, 当該部分につき本件を東京地方裁判所に差し戻すこととし,また,本件控訴のうち その余の部分は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決す る

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平成29(ネ)10086  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年12月18日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審は無効理由ありとして権利行使を認めませんでした(特104条の3)(口頭弁論終結H29/6/20)。この1審判決の少し前に、併存していた無効審判について請求理由なしとの審決がなされました(H29/4/18)。1審原告は、知財高裁に控訴しました。知財高裁は無効審判での証拠については、一事不再理の証拠なので、採用できないとして、技術的範囲に属するとの判断をしました。
 無効理由1は,本件無効審判請求と同じく,乙24公報に記載の主引 例と乙25〜31の1公報に記載の副引例ないし周知技術に基づいて進 歩性欠如の主張をしたものであるから,無効理由1は本件無効審判請求 と「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものといえる。そして,本件 審決は確定したから,被控訴人は無効理由1に基づいて本件特許の特許 無効審判を請求することができない(特許法167条)。 特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に 基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は,同一の当事者 間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ, その趣旨は,無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものでは ない。そうすると,侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い,審決取消訴 訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には,同一当事者間 の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法 104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは,特段 の事情がない限り,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2 条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。 そして,本件において上記特段の事情があることはうかがわれないか ら,被控訴人が本件訴訟において特許無効の抗弁として無効理由1を主 張することは許されない。
イ 被控訴人は,特許法104条の3第1項の適用がないとしても,本件 特許は無効理由1により無効にされるべきものであるから,本件特許権 の行使は衡平の理念に反するし,いわゆるキルビー判決は,特許権を対 世的に無効にする手続から当事者を解放した上で衡平の理念を実現する というものであるから,控訴人が被控訴人に対し,本件特許権を行使す ることは権利の濫用として許されないと主張する。 しかし,被控訴人は,本件訴訟と同一の当事者間において特許権を対 世的に無効にすべく無効理由1に基づく無効審判請求を行い,それに対 する判断としての本件審決が当事者間で確定し,上記アのとおり,無効 理由1に基づいて特許法104条の3第1項による特許無効の抗弁を主 張することが許されないのであるから,本件において,控訴人が被控訴 人に対して本件特許権を行使することが衡平の理念に反するとはいえず, 権利の濫用であると解する余地はない。
(3) 無効理由2について
 無効理由2は,無効理由1と主引例が共通であり,本件審決にいう相違 点1A及び相違点2Aについて,「生体に印加する直流電源に太陽電池を 用いること」が周知技術である,あるいは,副引例として適用できること を補充するために,新たな証拠(乙44公報及び乙45公報)を追加した ものといえる。 本件審決は,相違点1B及び相違点2Bに係る構成の容易想到性を否定\nし,相違点1A及び相違点2Aについては判断していないのであるから, 被控訴人が相違点1A及び相違点2Aに関する新たな証拠を追加したとし ても,相違点1B及び相違点2Bに関する判断に影響するものではない。 そうすると,無効理由2は,新たな証拠(乙44公報及び乙45公報)が 追加されたものであるものの,相違点1B及び相違点2Bの容易想到性に 関する被控訴人の主張を排斥した本件審決の判断に対し,その判断を蒸し 返す趣旨のものにほかならず,実質的に「同一の事実及び同一の証拠」に 基づく無効主張であるというべきである。したがって,本件審決が確定し た以上,被控訴人は無効理由2に基づく特許無効審判を請求することがで きない。 そうすると,無効理由2についても上記(2)アにおいて説示したところ が妥当するから,被控訴人が本件訴訟において無効理由2に基づき特許無 効の抗弁を主張することは許されないものというべきである。

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1審はこちら。

◆平成28(ワ)4167

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平成30(行ケ)10057  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年12月18日  知的財産高等裁判所

 無効審判の取消訴訟の請求が却下されました。原告は無効審判で無効理由ありとされた特許権者で、被告は共同で無効審判を請求した一部の請求人です。原告は代理人無しの本人訴訟です。
1 訴えの利益について
(1) 本件審決に係る別紙審決書(写し)の記載及び弁論の全趣旨によれば,本件 審決は,被告及び訴外会社が共同審判請求人となり,原告らを被請求人として請求 された特許無効審判事件に係るものである。また,本件において,原告らは,被告 のみを相手方とし,訴外会社については被告としていないことは,当裁判所に顕著 な事実である。なお,訴外会社との関係では,本件審決の送達日である平成30年 3月29日から30日の出訴期間を既に経過している。 そうすると,本件審決(無効審決)は,訴外会社との関係においては,原告らが 訴外会社に対する審決取消訴訟を提起することのないまま出訴期間を経過したこと により,既に確定したこととなる。その結果,本件特許の特許権は初めから存在し なかったものとみなされるから(特許法125条本文),本件訴えは,訴えの利益 を欠く不適法なものとして却下されるべきである。
(2)原告ら及び被告の主張について
ア これに対し,原告らは,特許無効審判の請求人が複数いたとしても,審決取 消訴訟の提起により対象となる審決の確定は遮断されるから,請求人全てをその被 告とする必要はないなどと主張する。 そこで,共同で特許無効審判が請求され,無効審決がされたのに対し,被請求人 が共同審判請求人の一部の者のみを被告として審決取消訴訟を提起した場合の規律 について検討する。 同一の特許権について特許無効審判を請求する者が二人以上あるときは,これら の者は,共同して審判を請求することができる(特許法132条1項)。これは, 本来,各請求人は,単独で特許無効審判請求をし得るところ,同一の目的を達成す るためにこのような共同での審判請求を行い得ることとし,審判手続及び判断の統 一を図ったものである。もっとも,この場合の審決を不服として提起される審決取 消訴訟につき固有必要的共同訴訟であるとする規定はなく,審決の合一的確定を図 るとする規定もない。 また,同一特許について複数人が同時期に特許無効審判請求をしようとする場合 の特許無効審判手続の態様としては,1)上記の共同審判請求の場合のほか,2)別個 独立に請求された審判手続が併合された場合(同法154条1項),3)別個独立に 請求された審判手続が併合されないまま進行する場合の3つが考えられる。しかる ところ,まず,上記3)の場合において無効審決がされたときは,その取消訴訟をも って必要的共同訴訟と解する余地がないことに鑑みると,事実及び証拠が同一であ るか異なるかに関わりなく,複数の特許無効審判請求につき,請求不成立審決と無 効審決とがいずれも確定するという事態は,特許法上当然想定されているものとい うことができる。また,別個独立に請求された審判手続がたまたま併合された上記 2)の場合において無効審決がされたときも,上記3)の場合と取扱いを異にすべき合 理的理由はない。そうすると,上記1)の場合に,被請求人である特許権者の共同審 判請求人に対する対応が異なった結果として上記と同様の事態が生じることも,特 許法上想定されないこととはいえない。1)及び2)の場合にされた請求不成立審決に 対し,その請求人の一部のみが提起した審決取消訴訟がなお適法とされる(最高裁 平成7年(行ツ)第105号同12年1月27日第一小法廷判決・民集54巻1号 69頁,最高裁平成8年(行ツ)第185号同12年2月18日第二小法廷判決・ 判例時報1703号159頁参照)のも,このためと解される。 このように,共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ることは,法文上 の根拠がなく,その必然性も認められないことに鑑みると,その請求人の一部のみ を被告として審決取消訴訟を提起した場合に,被告とされなかった請求人との関係 で審決の確定が妨げられることもないと解される。
イ なお,この点について,被告は,本案前の答弁として,複数の審判請求人が いる場合の無効審決に対する審決取消訴訟は固有必要的共同訴訟であり,被告のみ を相手方として提起した原告らの本件訴えは不適法であるなどと主張する。 しかし,前記のとおり,共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ること は法文上の根拠がなく,その必然性も認められないことから,当該審決に対する取 消訴訟をもって固有必要的共同訴訟ということはできない。
ウ そうすると,共同での特許無効審判請求に対し無効審決がされたところ,被 請求人である特許権者が,共同審判請求人の一部のみを被告として当該審決の取消 訴訟を提起したにとどまり,被告とされなかった共同審判請求人との関係で出訴期 間を経過した場合には,同人との関係で当該無効審決が確定し,当該特許権は対世 的に遡って無効となることから,上記審決取消訴訟は,訴えの利益を欠く不適法な ものとして却下されるべきこととなる。

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平成29(ネ)10055  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年11月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審で新規性違反の証拠が提出されて、原審の判断が取り消されました。なお、証拠の提出が遅れたことについては、時機に後れた攻撃防御には該当するが、訴訟の完結を遅延させるとはいえないと判断されました。
 争点2−3−1(時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立て)について
ア 証拠(甲4,乙69の4・5)及び弁論の全趣旨によると,控訴人らは, 被控訴人外1名を原告,控訴人ら外3名を被告とする商標権侵害差止等請求事件に おいて,当該事件の原告訴訟代理人弁護士G及び同Hが平成19年5月22日に東 京地方裁判所に証拠として提出した乙69の4及び証拠説明書として提出した乙6 9の5を,その頃受領していること,乙69の5には,乙69の4の説明として, 「被告シンワのチラシ(2006年用)(写し)」,作成日「2006(平成18) 年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業 した事実を立証する。」旨記載されていることが認められる。 したがって,控訴人らは,平成19年5月22日頃には,乙69の4・5の存在 を知っていたものと認められる。
イ 控訴人らは,控訴人シンワ代表者Aが,平成21年1月13日〜19日,\n控訴人シンワが平成17年7月6日〜8日頃に噴火湾の漁民らにサンプルを示して 本件明細書等の図8(a)と同一形状の製品を販売していたことにつき,陳述書(乙 38の1〜13)を集め,控訴人進和化学工業の代表者であった故Eに送付したと\n主張している。 上記主張によると,控訴人らは,平成21年1月頃には,上記陳述書の存在を 知っていたものと認められる。
ウ 本件は,平成28年6月24日に東京地方裁判所に提訴され,平成29 年1月26日に口頭弁論が終結され,その後和解協議が行われたところ,上記ア, イの事実によると,控訴人らは,無効理由3(新規性欠如)に係る抗弁を,遅くと も平成29年1月26日までに提出することは可能であったといえるから,これは\n「時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法」(民訴法157条1項)に該当する ことが認められる。 しかし,控訴人らは,本件の控訴審の第1回口頭弁論期日(平成29年8月3日) において,控訴人シンワは,本件特許が出願されたとみなされる日より前に,本件 各発明の構成要件を充足する製品を販売したので,本件特許は新規性を欠く旨の主\n張をしたものであって,上記期日において,次回期日が指定され,更なる主張,立 証が予定されたことからすると,この時点における上記主張により,訴訟の完結を\n遅延させることとなると認めるに足りる事情があったとは認められない。
エ したがって,上記主張に係る時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立ては,認められない。\n
(3) 争点2−3−2(新規性欠如)について
ア(ア) 前記(2)アのとおり,控訴人らは,被控訴人外1名を原告,控訴人ら 外3名を被告とする商標権侵害差止等請求事件において,当該事件の原告訴訟代理 人弁護士G及び同Hが平成19年5月22日に東京地方裁判所に証拠として提出し た乙69の4及び証拠説明書として提出した乙69の5を,その頃受領しているこ と,乙69の5には,乙69の4の説明として,「被告シンワのチラシ(2006 年用)(写し)」,作成日「2006(平成18)年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。」旨記載され ていることが認められるところ,乙69の4には,「2006年販売促進キャン ペーン」,「キャンペーン期間 ・予約5月末まで ・納品5月20日〜9月末」, 「有限会社シンワ」,「つりピンロールバラ色 抜落防止対策品」,「サンプル価格」, 「早期出荷用グリーンピン 特別感謝価格48000円」などの記載があり,複数 の種類の「つりピン」が添付されており,その中には,5本のピンが中央付近にお いてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を 2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のもの(つりピンロールバラ色 と記載された部分の直近下に写し出されているもの)があることが認められる。 上記「つりピン」の形状は,上記事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月 22日に,乙69の4とともに,上記商標権侵害差止等請求事件において,東京地 方裁判所に証拠として提出した乙69の3に「つりピンロール(バラ色)抜落防止 対策品」として記載されているピンク色の「つりピン」と,その形状が一致してい ると認められる。乙69の3は,乙69の4と同じ証拠説明書による説明を付して, 提出されたものであり,「2006年度 取扱いピンサンプル一覧」,「有限会社シ ンワ」,「早期出荷用」などの記載がある。 また,乙69の4は,上記事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月22日 に,乙69の4とともに,「被告シンワのチラシ(2005年用)(写し)」,作成日 「2005(平成17)年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原 告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。」旨の証拠説明書による説明を付し て,上記商標権侵害差止等請求事件において,東京地方裁判所に提出した乙69の 1と,レイアウトが類似しているところ,乙69の1には,「2005年開業キャ ンペーン 下記価格は2005年4月25日現在の価格(税込)です。」,「有限会 社シンワ」,「当社では売れ残り品は販売しておりません。お客様からの注文後製造 いたします。」などの記載がある。 以上によると,乙69の3及び4は,いずれも,控訴人シンワが,被控訴人の顧 客であった者に交付したものを,平成19年5月22日までに,被控訴人が入手し, 控訴人シンワらが,被控訴人の得意先へ営業した事実を裏付ける証拠であるとして, 上記事件において,提出したものであると認められる。 そして,乙69の4の上記記載内容,特に「販売促進キャンペーン」,「納品5月 20日〜」と記載されていることからすると,乙69の4と同じ書面が,平成18 年5月20日以前に,控訴人シンワにより,ホタテ養殖業者等の相当数の見込み客 に配布されていたことを推認することができる。
(イ) また,前記(ア)の認定事実及び弁論の全趣旨によると,乙69の4に 記載されている,5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の1対 の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通す る形で連結された形状のものは,控訴人シンワにより見込み客に配布されていた前 記(ア)の乙69の4と同じ書面にも添付されていたと認められる。
(ウ) 前記の5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の 1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連 通する形で連結された形状のものの形状は,両端部において折り返した部分の端部 の形状が,乙69の4では,下から上へ曲線を描いて跳ね上がっているのに対し, 本件明細書等の図8(a)では,釣り針状に下方に曲がっている以外は,本件明細 書の図8(a)記載の形状と一致している。 そして,本件明細書等の図8(a)は,本件各発明に係るロール状連続貝係止具 の実施の形態として記載されたものである。
(エ) そうすると,前記(ア)及び(イ)の5本の「つりピン」が中央付近にお いてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を 2本の直線が連通する形で連結された形状のものは,形状については,本件発明1 の構成要件1A〜Hにある形状をすべて充足する。そして,証拠(乙69の1〜5)\n及び弁論の全趣旨によると,その材質は,樹脂であり,「つりピンロール」とされ ていることから,ロール状に巻き取られるものであり,その連結材は,ロール状に 巻き取られることが可能な可撓性を備えているものと認められる。したがって,乙\n69の4に記載されている「つりピン」は,本件発明1の構成要件1A〜Hを,す\nべて充足すると認められる。 また,上記の「つりピン」は,ロープ止め突起の先端と連結部材とが極めて近接 した位置にあり,2本のロープ止め突起の先端の間隔よりも一定程度狭い縦ロープ との関係では,2本の可撓性連結材の間隔が,貝係止具が差し込まれる縦ロープの 直径よりも広くなるから,本件発明2の構成要件である2Aも充足すると認められ\nる。 さらに,上記の「つりピン」が,ロール状に巻き取られるものであることは,上 記のとおりであるから,上記の「つりピン」は,本件発明3の構成要件である3A\n及び3Bも充足すると認められる。
(オ) そうすると,本件発明1〜3は,本件特許が出願されたとみなされ る日である平成18年5月24日よりも前に日本国内において公然知られた発明で あったということができ,新規性を欠き,特許を受けることができない。
イ 被控訴人は,乙69の4につき,平成19年5月22日に手元にあった ことを認めつつ,誰が,いつ,どこで入手したのかは記憶がなく,控訴人ら提出の 証拠によって,本件特許が出願されたとみなされる日前にこれが配布されていたこ とが立証されたとはいえないと主張する。 しかし,乙69の5に記載された立証趣旨に鑑みると,平成19年5月22日当 時,被控訴人は,乙69の4が控訴人シンワにより被控訴人の得意先への営業に用 いられたと認識していたことが認められるのであって,被控訴人がそれ以前にその 顧客から原本又は写しを入手したものと認められる。 乙69の4の記載内容に,販売の申出のためのチラシとして不自然なところはな\nく,上記のとおり,その記載内容によって,平成18年5月20日以前にこれが控 訴人シンワにより見込み客に配布されたことが推認される。 被控訴人は,平成18年5月24日以前に乙69の4のピンと同様の形状のピン が見込み客に配布されたことを裏付けるものとして控訴人らが提出した陳述書等の 書証の成立及び信用性について主張するが,乙69の4が上記の東京地方裁判所に おける事件において平成19年5月22日に上記のとおり被控訴人から提出された ことは動かし難い事実であり,被控訴人がその成立又は信用性を争うその他の書証 が存在しなくとも,前記アのとおりの認定をすることができる。また,被控訴人が その成立又は信用性を争う書証は,前記アの認定と矛盾するものではなく,むしろ, 間接的にこれを裏付けるものということができる。そして,これらに記載された供 述内容について,矛盾や曖昧な点があるとしても,それらは記憶の希薄化等により 起こり得ることであって,これらをもって,乙69の4等に基づき認定し得る前記 アの事実の認定を左右するに足りるものではない。さらに,特許庁における控訴人 シンワ代表者A,証人C,証人Iの各供述(乙146)についても,同様に,矛盾\nや曖昧な点や変遷があるとしても,これらをもって,乙69の4等に基づき認定し 得る前記アの事実の認定を左右するに足りるものではない。

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 原審はこちらです。

◆平成28(ワ)20818

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平成30(ネ)10044  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年9月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審の第1回準備書面における訂正の再抗弁が、時機に後れた攻撃防御と判断されました。
 当裁判所は,平成30年8月8日の当審の第1回口頭弁論期日において, 控訴人が同月3日付け準備書面(1)に基づいて提出した,特許請求の範囲の訂 正により無効理由が解消されることを理由とする訂正の再抗弁の主張につ いて,被控訴人の申立てにより,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものと\nして却下したが,その理由は,以下のとおりである。
ア 一件記録により認められる本件訴訟の経緯等は,次のとおりである。
(ア) 本件特許に係る侵害訴訟と特許無効審判
控訴人は,平成28年8月12日,被控訴人に対し,本件特許権に基 づき,被告製品の販売の差止め等及び損害賠償を求める本件訴訟を提起 した後,カシオ計算機株式会社(以下「カシオ計算機」という。)に対 し,本件特許権に基づき,2次元コードリーダの販売の差止め等及び損 害賠償を求める訴訟(東京地方裁判所平成28年(ワ)第32038号。 以下「別件侵害訴訟」という。)を提起した。 その後,米国法人のハネウェル・インターナショナル・インク(以下 「ハネウェル社」という。)は,平成29年8月3日,本件特許につい て,「IT4400(公然実施コードリーダ)」の発明などを主引用例 とする進歩性欠如の無効理由(特許法29条2項,123条1項2号) が存在することを理由として,特許無効審判(無効2017−8001 03号。以下「別件無効審判」という。)を請求した。
(イ) 本件訴訟の経緯
a 原審における経緯
被控訴人は,平成28年12月26日の原審第2回弁論準備手続期 日において,同月20日付け準備書面(3)に基づいて,乙5を主引用例 とする進歩性欠如,サポート要件違反,明確性要件違反及び実施可能\n要件違反の無効理由が存在するとして,特許法104条の3第1項の 規定に基づく無効の抗弁(以下「無効の抗弁」という。)を主張した。 その後,被控訴人は,平成29年7月25日の原審第6回弁論準備 手続期日において,同月7日付け準備書面(8)に基づいて,IT440 0に係る発明を主引用例とする進歩性欠如の無効理由が存在するとし て,新たな無効の抗弁(以下「本件無効の抗弁」という。)を主張し た。 原審は,合計11回の弁論準備手続期日を経て,平成30年2月1 4日の第2回口頭弁論期日において口頭弁論を終結した。控訴人は, 原審の口頭弁論終結時までに,本件無効の抗弁に対し,訂正の再抗弁 を主張しなかった。なお,控訴人は,原審の口頭弁論終結前に,本件 訴訟のうち,被告製品の販売の差止め等請求に係る部分について訴え の取下げをし,被控訴人は,これに同意した。 原審は,平成30年4月13日,本件無効の抗弁は理由があるもの と認め,控訴人の請求を棄却する旨の原判決を言い渡した。
b 当審における経緯
控訴人は,平成30年4月19日,本件控訴を提起した。当審の第 1回口頭弁論期日は同年8月8日と指定され,控訴理由書の提出期限 は同年6月8日(控訴提起日から50日後の応当日)と定められた。 控訴状等の送達後,控訴理由書に対する被控訴人の準備書面の提出期 限は同年7月26日と定められた。 控訴人は,同年6月8日,控訴理由書を提出し,被控訴人は,同年 7月26日,控訴答弁書及び同日付け準備書面(1)を提出した。なお, 控訴人は,控訴理由書において,本件無効の抗弁に対する訂正の再抗 弁を主張しなかった。 その後,控訴人は,同年8月4日,同月3日付け準備書面(1)を提出 した。上記準備書面(1)には,被控訴人作成の上記準備書面(1)に対する 反論のほか,1)控訴人が,別件無効審判において,「IT4400(公 然実施コードリーダ)」の発明を主引用例とする進歩性欠如の無効理 由は理由があるから,本件発明についての本件特許を無効とする旨の 同年7月9日付けの審決の予告(以下「別件審決の予\告」という。) を受けた旨,2)控訴人が,別件無効審判において,同月31日付けで, 本件特許の特許請求の範囲(請求項1及び2)の訂正を求める訂正請 求(以下「別件訂正請求」という。訂正後の請求項1は,別紙3のと おり。)をした旨,3)当審において,別件訂正請求と同内容の訂正に よる本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁(以下「本件訂正の再抗弁」 という。)を主張する旨の記載がある。 同年8月8日の当審第1回口頭弁論期日において,控訴人は,上記 の同月3日付け準備書面(1)に基づいて,本件訂正の再抗弁を主張し, これに対し被控訴人は,同月7日付け準備書面(2)に基づいて,控訴人 の本件訂正の再抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるも のであるから,却下を求める旨の申立てをするとともに,本件訂正の\n再抗弁の主張が却下されない場合には,追って追加反論する予定であ\nる旨を述べた。
(ウ) 別件侵害訴訟における経緯
東京地方裁判所は,平成29年11月9日,別件侵害訴訟の口頭弁論 を終結し,平成30年1月30日,控訴人のカシオ計算機に対する請求 をいずれも棄却する旨の判決(乙80)を言い渡した。 上記判決の理由は,カシオ計算機が主張したIT4400により実施 (公然実施)された発明を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁(本 件無効の抗弁と同じ抗弁)は理由があると判断したものである。なお, 控訴人は,別件侵害訴訟の口頭弁論終結時までに,上記無効の抗弁に対 し,訂正の再抗弁を主張しなかった。 その後,控訴人は,別件侵害訴訟の上記判決を不服として,控訴を提 起した。
(エ) 別件無効審判における経緯
控訴人は,平成29年11月3日,別件無効審判において,ハネウェ ル社主張の無効理由に対する答弁書を提出した。 その後,特許庁は,平成30年4月23日に口頭審理を行った後,同 年7月9日付けで,「IT4400(公然実施コードリーダ)」の発明 を主引用例とする進歩性欠如の無効理由は理由があるから,本件発明に ついての本件特許を無効とする旨の別件審決の予告(甲24)をした。\nこれに対し控訴人は,同月31日付けで,別件訂正請求(甲25の1 及び2)をした。
イ 前記アの事実関係によれば,1)控訴人は,原審において,平成29年7 月25日の原審弁論準備手続期日において被控訴人から本件無効の抗弁 が主張され,別件侵害訴訟及び別件無効審判においても,本件無効の抗弁 と同じ無効の抗弁又は無効理由が主張され,さらに,平成30年1月30 日に別件侵害訴訟において上記無効の抗弁を容れた請求棄却判決の言渡 しがされたが,同年2月14日の原審口頭弁論終結時までに本件無効の抗 弁に対する訂正の再抗弁を主張しなかったこと,2)その後,同年4月13 日に本件無効の抗弁を容れた原判決がされたが,控訴人は,控訴理由書提 出期限の同年6月8日に提出した控訴理由書においては本件無効の抗弁 に対する訂正の再抗弁を主張せず,その後同年7月26日に被控訴人から 控訴理由書に対する反論の準備書面が提出された後,当審第1回口頭弁論 期日(同年8月8日)の4日前の同月4日になって初めて,本件訂正の再 抗弁の主張を記載した準備書面(準備書面(1))を提出したことが認められ る。
一方で,控訴人において,当審第1回口頭弁論期日の4日前になるまで, 本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張しなかったことについて,や むを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれない。 もっとも,控訴人は,別件無効審判において,平成29年11月3日に 本件無効の抗弁と同じ無効理由を含むハネウェル社主張の無効理由に対す る答弁書を提出した後,平成30年7月9日付けの別件審決の予告を受け\nるまでは,特許法126条2項,134条の2第1項の規定により,本件 無効の抗弁と同じ無効理由を解消するための訂正審判の請求又は別件無効 審判における訂正の請求をすることが法律上できなかったものである。し かしながら,このような事情の下では,本件無効の抗弁に対する訂正の再 抗弁を主張するために,現にこれらの請求をしている必要はないというべ きであるから(最高裁平成28年(受)第632号平成29年7月10日 第二小法廷判決・民集71巻6号861頁参照),当該事情は,特段の事 情に該当しないというべきである。
そして,無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の主張は,本来,原審におい て適時に行うべきものであり,しかも,控訴人は,当審において,遅くと も控訴理由書の提出期限までに訂正の再抗弁の主張をすることができたに もかかわらず,これを行わず,第1回口頭弁論期日の4日前になって初め て,本件訂正の再抗弁の主張を記載した準備書面を提出したのであるから, 本件訂正の再抗弁の主張は,控訴人の少なくとも重大な過失により時機に 後れて提出された攻撃防御方法であるものというべきである。 また,当審において,控訴人に本件訂正の再抗弁を主張することを許す ことは,被控訴人に対し,訂正の再抗弁に対する更なる反論の機会を与え る必要が生じ,これに対する控訴人の再反論等も想定し得ることから,こ れにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。 そこで,控訴人の本件訂正の再抗弁の主張は,民事訴訟法297条にお いて準用する157条1項に基づき,これを却下したものである。

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平成29(行ケ)10174  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年7月19日  知的財産高等裁判所

 ゲームに関する特許について、無効理由なしとした審決が維持されました。審決では、公知技術+周知で無効と主張していたのを、公知技術+公知で無効と主張変更することは認められませんでした。
  原告は,本件審決が甲8発明に相違点1に係る構成が記載されていると認\n定しながら,公知発明(主引用発明)と甲8発明の組合せによる本件発明1 及び8の容易想到性の有無を判断していない点において,判断遺漏の違法が ある,と主張する。 しかしながら,主引用発明が同一であったとしても,主引用発明に組み合 わせる技術が公知発明における一部の構成か,あるいは,周知技術であるか\nによって,通常,論理付けを含む発明の容易想到性の判断における具体的な 論理構成が異なることとなるから,たとえ公知技術や周知技術認定の根拠と\nなる文献が重複するとしても,上記二つの組合せは,それぞれ異なる無効理 由を構成するものと解するのが相当である。\n
しかるところ,本件審判手続において,原告は,「本件発明1及び8は, 公知発明及び周知技術Y1に基づいて,当業者が容易に発明できた」という 無効理由1−2の主張に関連して,「キャラクタの置かれている状況に応じ て間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」技術が「周知技術」である と主張し,その根拠の一つとして甲8発明の内容を主張立証するにとどまっ ており,更に進んで,動機付けを含む公知発明と甲8発明それ自体との組合 せによる容易想到性については一切主張していない。 そうすると,原告が本件訴訟において主張する無効理由(公知発明と甲8 発明の組合せによる容易想到性)は,本件審判手続において主張した無効理 由1−2(公知発明と甲8発明を含む周知技術Y1の組合せによる容易想到 性)とは異なる別個独立の無効理由に当たるというべきである。 したがって,本件審決が,公知発明と甲8発明との組合せによる容易想到 性について判断していないとしても,本件審決の判断に遺漏があったとは認 められない。
(2) これに対し,原告は,審判において審理された公知事実に関する限り,複 数の公知事実が審理判断されている場合に,その組合せにつき審決と異なる 主張をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対 比の枠を超えるということはできず(知財高裁平成28年(行ケ)第100 87号同29年1月17日判決),甲8発明の内容については本件審決にお いて具体的に審理されていることから,被告による防御という観点からも問 題はなく,また,紛争の一回的解決の観点からも,公知発明と甲8発明の組 合せによる容易想到性を本件訴訟において判断することは許される,と主張 する。
しかしながら,この主張が,本件審決の手続上の違法(判断の遺漏)を主 張するものではなく,実体判断上の違法(進歩性の判断の誤り)を主張する ものであるとしても,本件審判手続において,甲8発明の内容を個別に取り 上げて公知発明に適用する動機付けの有無やその他公知発明と甲8発明の組 合せの容易想到性を検討することは何ら行われていない。したがって,かか る組合せによる容易想到性の主張は,専ら当該審判手続において現実に争わ れ,かつ,審理判断された特定の無効原因に関するものとはいえないから, 本件審決の取消事由(違法事由)としては主張し得ないものである(最高裁 昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2 号79頁〔メリヤス編機事件〕参照)。 なお,原告が指摘する上記知財高裁判決は,審判手続で主張されていない 引用例の組合せについて,審決取消訴訟において審理判断することを当事者 双方が認め,なおかつ,その主張立証が尽くされている事案であるから,本 件訴訟とは事案を異にするというべきである。 また,原告は,特許法167条の「同一の事実及び同一の証拠」の意義に ついて,特許無効審判の一回的紛争解決を図るという趣旨をより重視して広 く解釈されてしまうと,本件審決が確定した後に公知発明と甲8発明の組合 せによる容易想到性を争うことが同条により許されないと解釈されるおそれ があり(知財高裁平成27年(行ケ)第10260号同28年9月28日判 決),その場合,原告による本件特許の無効を争う機会を奪うことになり不 当であるから,本件訴訟で公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性に 関する本件審決の判断の遺漏及び違法を争うことは許される,とも主張する。 しかしながら,本件審判手続においても,本件訴訟手続においても,公知 発明と甲8発明の組合せによる容易想到性という無効理由の有無については 何ら審理判断されていないのであるから,特許法167条の「同一の事実及 び同一の証拠」に当たるということはないというべきである。
(3) 以上によれば,本件訴訟手続において,公知発明と甲8発明の組合せによ る本件発明1及び8の容易想到性を判断することは許されないというべきで ある。

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平成29(ワ)14142  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年6月28日  東京地方裁判所(47部)

 Appleに対する特許侵害訴訟です。裁判所は新規性違反の無効理由ありとして、請求棄却しました。また、口頭弁論の再開申し出も、原告にはより早い時期に訂正の再抗弁を主張する機会が十\分にあったとして認めませんでした。
 乙8文献の段落【0053】「検知器32は,感圧方式,電磁誘導方式, 静電容量方式等のセンサにより,ユーザが検知器32に触れたこと,及び, 離れたことを検知することができる。」及び【0056】「ユーザ側に板状 の検知器32が配置され,ユーザが指で触れた操作をその位置と共に検知す ることができるようになっている。」との記載によれば,乙8文献には,構\n成要件A「表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力を,直\n接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」及び構成要件B「前記オ\nブジェクトが前記表示画面に接触した位置を検出する位置入力手段と,」の\n各構成が開示されているといえる。\nまた,乙8文献の段落【0061】の「オンルートスクロールというのは, 経路上を移動する点(移動点)を表示面上の基準点に一致させた地図をスク\nロールさせるものである」,段落【0073】の「ユーザから見れば「指で 触れている自車位置マークCが移動(スクロール)を開始し,経路関連情報 の存在する地点に自車位置マークCが到達したため,自車位置マークCが振 動する」というように感じることができ」との各記載に併せて図7の記載も 考慮すれば,乙8文献記載の発明(図7から認定される発明)は,「地図」 (本件発明の「表示対象以外」に相当)が移動すること(本件発明の「表\示 態様を変更」に相当)で,あたかも「自車位置マーク」(本件発明の「表示\n対象」に相当)が移動しているように見えるよう制御されているといえる。 したがって,乙8文献には,構成要件C「前記位置入力手段にて検出された\n位置の表示対象を前記位置に保持しつつ,」,構\成要件D「前記力入力検出 手段により検出された前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表\示態様を 変更することにより,」及び構成要件E「当該表\示対象を相対的に変更さ せ,」の各構成が開示されているというべきである。\nさらに,乙8文献の段落【0065】には,「検知器32は未検知状態に あると判定した場合に進むS140では,オンルートスクロールを一旦停止 し,上述したS105に処理を戻す」と記載されていることから,乙8文献 記載の発明においても,「自車位置マーク」に対する「地図」の変更結果を 記憶部に記憶していることは自明のことというべきである。したがって,乙 8文献には,構成要件F「当該変更結果を当該表\示対象に対する入力として 記憶部に記憶させる変更手段と,」の構成が開示されているといえる。\nまた,乙8が情報処理装置(構成要件G)を開示していることは明らかで\nある。 以上によれば,乙8文献に記載された発明と本件発明とは同一であると認 められる。
原告の主張について
ア これに対し,原告は,本件明細書の段落【0039】には,表示画面へ\nの接触による力の有無を検出する手段が記載されているが,当該手段は, 表示画面に加えられた力の有無を間接的に検出する手段であって,乙8文\n献に開示されている単なる接触の有無を検出する手段とは異なるから,乙 8文献には,本件発明の構成要件A「表\示画面にスライドせずに接触した オブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段 と,」(ひいては構成要件D及びFも)の構\成が開示されていない旨主張 する。
イ 本件明細書の段落【0039】には,次の記載がある。 「なお,上記のように検出装置112が機械的に直接,摩擦力または押 下力を検出することに限られず,間接的に摩擦力または押下力が検出され てもよい。例えば,後述する制御部102が,タッチパネルへの接触によ る入力位置の占める領域が,所定の形状から変化した場合に,所定の摩擦 力を検出してもよい。(判決注:中略)また,検出装置112は,表示画\n面への接触による力の強さを検出することに限られず,表示画面への接触\nによる力の有無を検出してもよい。この場合,表示画面に対して非接触の\n場合に,所定の押下力または摩擦力が検出されないものとし,表示画面に\n対して接触があった場合に,所定の押下力または摩擦力があったものとし て検出してもよい。」
ウ 原告が主張するように,上記段落【0039】の記載が,「力の強さ又 は有無を間接的に検出する手段」について述べたものであるとしても,該 「力の強さ又は有無を間接的に検出する手段」の一例として,「表示画面\nに対して非接触の場合に,所定の押下力または摩擦力が検出されないもの とし,表示画面に対して接触があった場合に,所定の押下力または摩擦力\nがあったものとして検出」する手段が記載されていることは明らかである。
エ そして,本件発明の構成要件Aは「表\示画面にスライドせずに接触した オブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段 と,」というものであるところ,そこにおいては,「力入力」の「検出」 に関し,それ以上に具体的な規定は何らされておらず,また,上記「力の 強さ又は有無を間接的に検出する手段」の一例である,「表示画面に対し\nて非接触の場合に,所定の押下力または摩擦力が検出されないものとし, 表示画面に対して接触があった場合に,所定の押下力または摩擦力があっ\nたものとして検出」する手段を排除する格別な理由も見当たらないことか らすれば,構成要件Aは,「表\示画面への接触・非接触による力の有無を 検出」することも含むと解すべきである。
オ したがって,乙8文献に開示されている接触の有無を検出する手段が, 本件発明の構成要件A「表\示画面にスライドせずに接触したオブジェクト の力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」の構成\nと異なることを前提とする原告の上記主張は,その前提を欠くものであり, 採用できない。 (4)小括 以上のとおり,乙8文献に記載された発明は本件発明と同一であるから, 本件特許には乙8文献に基づく新規性欠如の無効理由が存すると認められる。
・・・
(なお,原告は,本件特許について訂正審判を請求したとして平成30年6月21日付けで口頭弁論の再開を申し立てたが,当裁判所は,原告にはより早い時期に訂正の再抗弁を主張する機会が十\分にあったこと等を考慮して,口頭弁論を再開しない。)。

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平成29(ネ)10029  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年6月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審における訂正の再抗弁の主張について、時期に後れたとは判断されませんでした。ただ、訂正後のクレームについても進歩性無しと判断されました。
 被控訴人は,本件再訂正に係る訂正審判請求等がされていないし,今後, このような手続が可能であるとはいえないから,本件再訂正がされたこと\nを前提とする本件再訂正発明3に基づく権利主張はできないと主張する。 この点について検討するに,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時まで に訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が 確定したことを理由に事実審の判断を争うことは,訂正の再抗弁を主張し なかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り, 特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして,特許法1 04条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されない。すな わち,特許権侵害訴訟において,特許権者は,原則として,事実審の口頭 弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなければならない。(最高裁平成 29年7月10日第二小法廷判決・民集71巻6号861頁参照)。 本件についてみると,被控訴人は,平成29年8月7日の当審第2回口 頭弁論期日において,甲26(参考資料3)発明に周知技術である基板ア ライナーを直接適用することによっても,相違点4に係る構成が容易に想\n到できるという,新たな組合せに基づく無効の抗弁を主張し,控訴人は, これを踏まえて,同年10月11日の当審第3回口頭弁論期日において, 本件再訂正に係る訂正の再抗弁の主張をした(裁判所に顕著な事実)。そ して,本件審決に係る審決取消訴訟は当裁判所に係属しており,控訴人は, 当審の口頭弁論終結時までに,本件再訂正に係る訂正審判請求等を法律上 することができなかった(特許法126条2項,134条の2第1項)。 そうすると,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手 続内で迅速にかつ一回的に解決することを図るという特許法104条の3 及び104条の4の各規定の趣旨に照らすと,本件の事実関係及び審理経 過の下では,被控訴人による新たな無効の抗弁に対する本件再訂正に係る 訂正の再抗弁を主張するために,現に本件再訂正に係る訂正審判請求等を している必要はないというべきである。 また,仮に,本件審決に係る審決取消訴訟において,本件審決を取り消 す旨の判決がされ,これが確定した場合には,本件無効審判手続が再開さ れるところ,この再開された審判手続等において,控訴人が本件再訂正に 係る訂正請求をすることができないとは直ちにいえない。

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対応する審取です。

◆平成28(行ケ)10250

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平成29(ワ)5274  特許権に基づく損害賠償請求権不存在確認等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年4月26日 東京地方裁判所

 不存在確認の訴訟について、訴えの利益無しと請求が却下されました。 原告はAppleです。
 確認の訴えは,現に,原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が 存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切 な場合に限り許されるものである(最高裁判所昭和27年(オ)第683号 同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照)。
・・・
本件において,原告らは,CM4社から全ての原告製品の供給を受けて いるところ,被告クアルコムとCM4社との間にはCMライセンスが存在 し,本件特許権もその対象である(認定事実 )。 被告らは,これらの事実を認めた上で,このことを理由として,本件訴 訟において,一貫して被告らは原告らによる原告製品の生産,譲渡等に つき,本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件特許権に基づく 実施料請求権を有しないことを表明している。\nそして,上記アないしエのとおり,原告アップルと被告クアルコムとの 従前の交渉において,原告製品が本件特許権を侵害していると被告クア ルコムが主張したことがあるとは認められないし,他の訴訟等において も,被告クアルコムにおいて,被告らによる上記表明を矛盾する行動を\nとったことがあるとは認められない。その他,被告クアルコムにおいて, 原告アップルの有する権利又はその法律上の地位に危険,不安を生じさ せる行動をとったことを認めるに足りる証拠はない。 これらを総合すれば,被告クアルコムとの関係において,原告アップル の有する権利又はその法律上の地位に危険又は不安があるとは認められ ない。

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平成28年(行ケ)第10182号 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年4月13日 知的財産高等裁判所(特別部)

 知財高裁大合議の判断です。「無効審判不成立の審決に対する取消の訴えの利益は,特許権消滅後であっても,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り,失なれない。」および「刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず,これを引用発明と認定できない。」と判断しました。
 本件審判請求が行われたのは平成27年3月31日であるから,審判 請求に関しては同日当時の特許法(平成26年法律第36号による改正前の特許法) が適用されるところ,当時の特許法123条2項は,「特許無効審判は,何人も請求 することができる(以下略)」として,利害関係の存否にかかわらず,特許無効審判 請求をすることができる旨を規定していた(なお,冒認や共同出願違反に関しては 別個の定めが置かれているが,本件には関係しないので,触れないこととする。こ の点は,以下の判断においても同様である。)。 このような規定が置かれた趣旨は,特許権が独占権であり,何人に対しても特許 権者の許諾なく特許権に係る技術を使用することを禁ずるものであるところから, 誤って登録された特許を無効にすることは,全ての人の利益となる公益的な行為で あるという性格を有することに鑑み,その請求権者を,当該特許を無効にすること について私的な利害関係を有している者に限定せず,広く一般人に広げたところに あると解される。 そして,特許無効審判請求は,当該特許権の存続期間満了後も行うことができる のであるから(特許法123条3項),特許権の存続期間が満了したからといって, 特許無効審判請求を行う利益,したがって,特許無効審判請求を不成立とした審決 に対する取消しの訴えの利益が消滅するものではないことも明らかである。
イ 被告は,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する特許権の存続期 間満了後の取消しの訴えについて,東京高裁平成2年12月26日判決を引用して, 訴えの利益が認められるのは当該特許権の存在による審判請求人の法的不利益が具 体的なものとして存在すると評価できる場合のみに限られる旨主張する。 しかし,特許権消滅後に特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの 訴えの利益が認められる場合が,特許権の存続期間が経過したとしても,特許権者 と審判請求人との間に,当該特許の有効か無効かが前提問題となる損害賠償請求等 の紛争が生じていたり,今後そのような紛争に発展する原因となる可能性がある事実関係があることが認められ,当該特許権の存在による審判請求人の法的不利益が\n具体的なものとして存在すると評価できる場合のみに限られるとすると,訴えの利 益は,職権調査事項であることから,裁判所は,特許権消滅後,当該特許の有効・ 無効が前提問題となる紛争やそのような紛争に発展する可能性の事実関係の有無を調査・判断しなければならない。そして,そのためには,裁判所は,当事者に対し\nて,例えば,自己の製造した製品が特定の特許の侵害品であるか否かにつき,現に 紛争が生じていることや,今後そのような紛争に発展する原因となる可能性がある事実関係が存在すること等を主張することを求めることとなるが,このような主張\nには,自己の製造した製品が当該特許発明の実施品であると評価され得る可能性がある構\成を有していること等,自己に不利益になる可能\性がある事実の主張が含ま\nれ得る。 このような事実の主張を当事者に強いる結果となるのは,相当ではない。
ウ もっとも,特許権の存続期間が満了し,かつ,特許権の存続期間中にさ れた行為について,何人に対しても,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われた り,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存する場合,例えば,特許権の存続期間が満了してから既に20年が経過した場合等\nには,もはや当該特許権の存在によって不利益を受けるおそれがある者が全くいな くなったことになるから,特許を無効にすることは意味がないものというべきであ る。したがって,このような場合には,特許無効審判請求を不成立とした審決に対す る取消しの訴えの利益も失われるものと解される。
エ 以上によると,平成26年法律第36号による改正前の特許法の下にお いて,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は,特許 権消滅後であっても,特許権の存続期間中にされた行為について,何人に対しても, 損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り,失われることはない。\nオ 以上を踏まえて本件を検討してみると,本件において上記のような特段 の事情が存するとは認められないから,本件訴訟の訴えの利益は失われていない。
(2) なお,平成26年法律第36号による改正によって,特許無効審判は,「利 害関係人」のみが行うことができるものとされ,代わりに,「何人も」行うことがで きるところの特許異議申立制度が導入されたことにより,現在においては,特許無効審判請求をすることができるのは,特許を無効にすることについて私的な利害関\n係を有する者のみに限定されたものと解さざるを得ない。 しかし,特許権侵害を問題にされる可能性が少しでも残っている限り,そのような問題を提起されるおそれのある者は,当該特許を無効にすることについて私的な\n利害関係を有し,特許無効審判請求を行う利益(したがって,特許無効審判請求を 不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益)を有することは明らかであるから, 訴えの利益が消滅したというためには,客観的に見て,原告に対し特許権侵害を問 題にされる可能性が全くなくなったと認められることが必要であり,特許権の存続期間が満了し,かつ,特許権の存続期間中にされた行為について,原告に対し,損\n害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存することが必要であると解すべきである。\n
・・・
特許法29条1項は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる 発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」と定め,同項3号とし て,「特許出願前に日本国内又は外国において」「頒布された刊行物に記載された発 明」を挙げている。同条2項は,特許出願前に当業者が同条1項各号に定める発明 に基づいて容易に発明をすることができたときは,その発明については,特許を受 けることができない旨を規定し,いわゆる進歩性を有していない発明は特許を受け ることができないことを定めている。
上記進歩性に係る要件が認められるかどうかは,特許請求の範囲に基づいて特許 出願に係る発明(以下「本願発明」という。)を認定した上で,同条1項各号所定の 発明と対比し,一致する点及び相違する点を認定し,相違する点が存する場合には, 当業者が,出願時(又は優先権主張日。以下「3 取消事由1について」において 同じ。)の技術水準に基づいて,当該相違点に対応する本願発明を容易に想到するこ とができたかどうかを判断することとなる。
このような進歩性の判断に際し,本願発明と対比すべき同条1項各号所定の発明 (以下「主引用発明」といい,後記「副引用発明」と併せて「引用発明」という。) は,通常,本願発明と技術分野が関連し,当該技術分野における当業者が検討対象 とする範囲内のものから選択されるところ,同条1項3号の「刊行物に記載された 発明」については,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明 をすることができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行 物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。そして,当該刊 行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する 場合には,当業者は,特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を積極的あるいは優 先的に選択すべき事情がない限り,当該刊行物の記載から当該特定の選択肢に係る 具体的な技術的思想を抽出することはできない。 したがって,引用発明として主張された発明が「刊行物に記載された発明」であ って,当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選 択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に 選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出す ることはできず,これを引用発明と認定することはできないと認めるのが相当であ る。
この理は,本願発明と主引用発明との間の相違点に対応する他の同条 1 項3号所 定の「刊行物に記載された発明」(以下「副引用発明」という。)があり,主引用発 明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができたか どうかを判断する場合において,刊行物から副引用発明を認定するときも,同様で ある。したがって,副引用発明が「刊行物に記載された発明」であって,当該刊行 物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場 合には,特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を積極的あるいは優先的に選択す べき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出すること はできず,これを副引用発明と認定することはできないと認めるのが相当である。 そして,上記のとおり,主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明 を容易に発明をすることができたかどうかを判断する場合には,1)主引用発明又は 副引用発明の内容中の示唆,技術分野の関連性,課題や作用・機能の共通性等を総\n合的に考慮して,主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に至る動機付けがあ るかどうかを判断するとともに,2)適用を阻害する要因の有無,予測できない顕著\nな効果の有無等を併せ考慮して判断することとなる。特許無効審判の審決に対する 取消訴訟においては,上記1)については,特許の無効を主張する者(特許拒絶査定 不服審判の審決に対する取消訴訟及び特許異議の申立てに係る取消決定に対する取\n消訴訟においては,特許庁長官)が,上記2)については,特許権者(特許拒絶査定 不服審判の審決に対する取消訴訟においては,特許出願人)が,それぞれそれらが あることを基礎付ける事実を主張,立証する必要があるものということができる。

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平成29(ワ)14909    不正競争  民事訴訟 平成30年1月23日  東京地方裁判所

 WDSCという権利能力なき社団が原告という珍しいケースです。WDSCについて不競法2条1項1号の周知性は認められませんでした。
 前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は昭和54年に発足 したこと(甲1),学研プラスが平成26年6月に発行した平成26年雑誌に おいて本件原告広告記事と概ね同一内容の原告の広告記事が掲載されたこと, 平成26年雑誌は発行予定部数が10万部であったこと,平成26年12月3\n1日時点での歯科医師の数は10万3972人であること(乙A1),本件雑 誌発行時点における原告の会員は63名であること(甲1)が認められる。 原告は,「WDSC」の表示は原告の商品等表\示であって需要者の間で広く 認識されており,本件雑誌に掲載された本件各記事において被告Aが「WDS C」の表示を自己の広告に使用したことが原告の商品等表\示を使用した不正競 争行為に該当する旨主張する。
本件雑誌は,「本気で探す 頼りになるいい歯医者さん 2016」という 題名の雑誌であって,表紙には「歯科治療の悩み&不安を解消!」という記載\nもあり,多くの歯科医師の紹介欄があり(甲1),歯科治療を受けることを考え ている者を主たる読者とするものである。本件各記事は,いずれも歯科医師で ある被告Aや被告Aが経営する歯科医院を紹介する記事である。これらからす ると,本件における需要者は,歯科治療を受けることを考えている者といえる。 原告は,平成26年雑誌及び本件雑誌を購読した全国の読者が需要者である旨 主張するが,上記に照らし採用することができない。
そこで,歯科治療を受けることを考えている者の間で「WDSC」の表示が\n周知であったかについて検討すると,原告は,昭和54年の発足後,会員であ る歯科医師らによる歯科医療に係る自主学習グループとして,定期的に勉強会 等を開催していたことがうかがわれる(甲1)。しかし,原告の会員数は全国の 歯科医師数の約0.06パーセントにすぎず,原告の会員を通じて「WDSC」 の表示が広く認識されていたとは認めることはできない。また,本件証拠上,\n本件雑誌が発行されるまで,原告が全国誌に取り上げられるなどして「WDS C」の表示が歯科治療を受けることを考えている者に対して広く使用されたの\nは,平成26年雑誌において前記のとおりの記事が掲載されたのみであり(原 告は,「WDSC」の表示の周知性の根拠として本件雑誌のほか平成26年雑\n誌における原告に関する記事の存在のみを主張し,平成29年10月2日の弁 論準備手続期日において「WDSC」の表示の周知性について追加の主張を行\nう予定はない旨述べた。),同雑誌の現実の発行部数も明らかではない。原告は\n平成26年雑誌の発行予定部数10万部が発行されたと主張するが,これを認\nめるに足りる証拠はない。これによれば,平成26年雑誌によって「WDSC」 の表示に接した者は,本件の需要者のうちの限られた者である。\nこれらのことからすると,本件雑誌が発行された平成27年10月29日の 時点までに「WDSC」の表示が,原告の商品等表\示として全国の歯科治療を 受けることを考えている者の間で広く認識されていたと認めることはできな い。

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平成29(ネ)10072  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年1月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について非侵害であるとした1審判断が維持されました。なお、控訴審の控訴理由書で、均等の主張を追加しましたが、時期に後れた主張として、却下されました。
 当裁判所は,当審の第1回口頭弁論期日において,民事訴訟法297条,1 57条1項に従い,上記均等侵害の主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たる ものとして却下した。その理由は次のとおりである。 すなわち,控訴人は,控訴理由書第2の部分(13〜21頁)において,構\n成要件1D,1F及び2Dに関し,原判決の「送信したとき」の文言解釈は明 らかに誤りであるが,仮に原判決のとおりに解釈したとしても,被控訴人サー バが少なくとも本件各発明と均等なものとして,その技術的範囲に含まれるこ とを予備的に主張するとして,新たに均等侵害の主張を追加した。\nしかしながら,前記のとおり,原審における争点整理の経過に鑑みれば,「送 信したとき」に関するクレーム解釈や被控訴人サーバの内部処理の態様如何に よって構成要件充足,非充足の結論が変わり得ることは,控訴人としても当初\nから当然予想できたというべきであり,そうである以上,控訴人は,原審の争\n点整理段階で予備的にでも均等侵害の主張をするかどうか検討し,必要に応じ\nてその主張を行うことは十分可能\であったといえる(特許権侵害訴訟において 計画審理が実施されている実情を踏まえれば,そのように考えるのが相当であ るし,少なくとも控訴人についてその主張の妨げとなるような客観的事情があ ったとは認められない。)。 ところが,控訴人は,原審の争点整理段階でその主張をせず,また,第4回 弁論準備手続期日(平成29年2月14日)において乙25陳述書が提出され た後も,その内容について特に反論することなく,第5回弁論準備手続期日(同 年3月23日)において「侵害論については他に主張・立証なし」と陳述し, そのまま争点整理手続を終了させたものである。 しかるところ,控訴人が,上記のとおり当審に至り均等侵害の主張を追加す ることは,たとえ第1回口頭弁論期日前であっても,時機に後れていることは 明らかであるし,そのことに関し控訴人に故意又は重大な過失が認められるこ とも明らかといえる。 また,予備的にせよ,均等侵害の主張がされれば,均等の各要件についてそ\nれぞれ主張と反論を整理する必要が生じるのであるから,訴訟の完結を遅延さ せることとなることも明らかである。 したがって,当裁判所は,上記のとおり,当審の第1回口頭弁論期日におい て,かかる均等侵害の主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却 下した次第である。

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◆1審はこちらです。平成28(ワ)14868

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平成29(行ケ)10107  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成30年1月15日  知的財産高等裁判所(4部)

 不使用による商標取消訴訟について、共有商標権者の一部が提訴しました。被告は固有必要的共同訴訟として訴えは不適切と主張しましたが、裁判所はかかる主張は認めませんでした。ただ、最終的に使用が証明できず、取消審決は維持されました。これは、登録商標を使用しているとはいえないというものです。登録商標は、漢字、かたかな、ひらがな、ローマ字表記を4段で書しており、使用していたのは、漢字のみを書したものでした。
 被告は,原告といきいき緑健は,本件商標に係る商標権を共有するところ,原告 は,単独で本件審決の取消しを請求するから,本件訴えは不適法であると主張する。 しかし,いったん登録された商標権について,登録商標の使用をしていないこと を理由に商標登録の取消審決がされた場合に,これに対する取消訴訟を提起するこ となく出訴期間を経過したときは,商標権は審判請求の登録日に消滅したものとみ なされることとなり,登録商標を排他的に使用する権利が消滅するものとされてい る(商標法54条2項)。したがって,上記取消訴訟の提起は,商標権の消滅を防 ぐ保存行為に当たるから,商標権の共有者の1人が単独でもすることができるもの と解される。そして,商標権の共有者の1人が単独で上記取消訴訟を提起すること ができるとしても,訴え提起をしなかった共有者の権利を害することはない。 また,商標権の設定登録から長期間経過した後に他の共有者が所在不明等の事態 に陥る場合や,訴訟提起について他の共有者の協力が得られない場合なども考えら れるところ,このような場合に,共有に係る商標登録の取消審決に対する取消訴訟 が固有必要的共同訴訟であると解して,共有者の1人が単独で提起した訴えは不適 法であるとすると,出訴期間の満了と同時に取消審決が確定し,商標権は審判請求 の登録日に消滅したものとみなされることとなり,不当な結果となりかねない。 さらに,商標権の共有者の1人が単独で取消審決の取消訴訟を提起することがで きると解しても,その訴訟で請求認容の判決が確定した場合には,その取消しの効 力は他の共有者にも及び(行政事件訴訟法32条1項),再度,特許庁で共有者全 員との関係で審判手続が行われることになる(商標法63条2項の準用する特許法 181条2項)。他方,その訴訟で請求棄却の判決が確定した場合には,他の共有 者の出訴期間の満了により,取消審決が確定し,商標権は審判請求の登録日に消滅 したものとみなされることになる(商標法54条2項)。いずれの場合にも,合一 確定の要請に反する事態は生じない。なお,各共有者が共同して又は各別に取消訴 訟を提起した場合には,これらの訴訟は,類似必要的共同訴訟に当たると解すべき であるから,併合の上審理判断されることになり,合一確定の要請は充たされる。 以上によれば,商標権の共有者の1人は,共有に係る商標登録の取消審決がされ たときは,単独で取消審決の取消訴訟を提起することができると解するのが相当で ある(最高裁平成13年(行ヒ)第142号同14年2月22日第二小法廷判決・ 民集56巻2号348頁参照)。 よって,原告は,単独で本件審決の取消しを請求することができる。被告の本案 前の抗弁は,理由がない。
・・・・
以上のとおり,甲1カタログ,甲2カタログ及び甲3雑誌は,いずれも要証期間 内に頒布されたものとは認められない。また,そもそも,本件商標は,「緑健青汁」, 「りょくけん青汁」,「リョクケン青汁」及び「RYOKUKEN AOJIRU」 の文字を4段に書して成るものであるのに対し,甲1カタログ,甲2カタログ及び 甲3雑誌に記載された商標は,「緑健青汁」の文字のみを書して成るものである。 このような本件商標と使用商標とは,商標法50条1項にいう「平仮名,片仮名及 びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ず\nる商標…その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標」であると,直 ちに認めることはできない。

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平成29(ネ)10027  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年12月21日  知的財産高等裁判所(2部)  東京地方裁判所

CS関連発明について、控訴審で差止請求が認められました。無効理由については「時機に後れた」として採用されませんでした。1審は、均等侵害も第1、第2、第3要件を満たさない、分割要件違反、および一部のクレームについてサポート要件違反があると判断していました。
 引用発明1は,前記ア(イ)のとおり,「毎度の自動売買では自動売買テーブルでの 約定価より真下の安値の買取り及び約定価より真上の高値の売込みが同時に発注さ れるよう設定されたものであって,それにより,先に約定した注文と同種の注文を 含む売込み注文と買取り注文を同時に発注することで,株価が最初の売買価の値段 の範囲から上下に変動する場合に,所定の収益を発生させることに加え,口座の残 高及び持ち株の範囲において,株の現在価を無視して株の値段への変動を一向に予\n測することなく,従前の株の買取り値より株価が下落すると所定量を買い取り,買 取り値より株価が上がると所定量を売り込むこと」を特徴とするものである。 このように,引用発明1において,従前の株の買取り値より株価が下落すると所 定量を買い取り,買取り値より株価が上がると所定量を売り込む,という,連続し た買取り又は売込みによる口座の残高又は持ち株の増大をも目的とするものである から,このような設定に係る構成を,約定価と同じ価格の注文を含む注文を発注対\n象に含めるようにし,それを「繰り返し行わせる」設定に変更することは,「約定価 より真下の安値の買取り」及び「約定価より真上の高値の売込み」を同時に発注す ることにより,「従前の株の買取り値より株価が下落すると所定量を買取り,買取り 値より株価が上がると所定量を売込む」という,引用発明1の特徴を損なわせるこ とになる。 そうすると,引用発明1を本件発明の構成1Hに係る構\成の如く変更する動機付 けあるといえないから,構成1Hに相当する構\成は,引用発明1から当業者が容易 に想到し得たものとはいえない。
エ 被控訴人の主張について
被控訴人は,本件発明1と引用発明1との相違点は,引用発明1が本件発明1の 構成1Fのうち「前記一の注文価格を一の最高価格として設定し」ていない点であ\nり,その余の点では一致していることを前提に,本件発明1は,引用発明1から容 易想到である,と主張する。 しかし,前記イのとおり,本件発明1と引用発明1とは,引用発明1が本件発明 1の構成1Hの構\成を有していない点について相違している。被控訴人の主張は, その前提を欠き,理由がない。
・・・・
4 なお,被控訴人は,口頭弁論終結後に,本件発明1が無効とされるべきであ ることが明白である事由があるとして,口頭弁論再開を申し立てるが,無効事由の\n根拠となるべき資料は10年以上前に作成されていたものであり,上記無効事由は, 被控訴人が重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法であって, これによって訴訟の完結を遅延させることとなるから,却下されるべきものである から,口頭弁論を再開しない。

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◆1審はこちらです。平成27(ワ)4461

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平成28(受)632  特許権侵害差止等請求事件 平成29年7月10日  最高裁判所第二小法廷  判決  棄却  知的財産高等裁判所

 最高裁(第2小法廷)判決です。特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に特許法104条の4第3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことはできないと判断されました。本件については、別途無効審判が継続(審取中を含む)しており、法上、訂正審判の請求ができなかったという特殊事情があります。この点については、訂正審判を請求しなくても、訂正の抗弁まで禁止されていたわけではないと判断されました。
 特許権侵害訴訟の終局判決の確定前であっても,特許権者が,事実審の 口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂 正審決等の確定を理由として事実審の判断を争うことを許すことは,終局判決に対 する再審の訴えにおいて訂正審決等が確定したことを主張することを認める場合と 同様に,事実審における審理及び判断を全てやり直すことを認めるに等しいといえ る。 そうすると,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張し なかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判 断を争うことは,訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえ るだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させ るものとして,特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許 されないものというべきである。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,上告人は,原審の 口頭弁論終結時までに,原審において主張された本件無効の抗弁に対する訂正の再 抗弁を主張しなかったものである。そして,上告人は,その時までに,本件無効の 抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判の請求又は訂正の請 求をすることが法律上できなかったものである。しかしながら,それが,原審で新 たに主張された本件無効の抗弁に係る無効理由とは別の無効理由に係る別件審決に 対する審決取消訴訟が既に係属中であることから別件審決が確定していなかったた めであるなどの前記1(5)の事情の下では,本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁 を主張するために現にこれらの請求をしている必要はないというべきであるから, これをもって,上告人が原審において本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張 することができなかったとはいえず,その他上告人において訂正の再抗弁を主張し なかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれない。

◆判決本文

◆1審はこちら。平成25(ワ)32665

◆2審はこちら。平成26(ネ)10124

◆無効審判の取消訴訟はこちら。平成26(行ケ)10198

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平成29(ラ)10002  文書提出命令申立却下決定に対する即時抗告事件  不正競争 平成29年6月12日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁(4部)は、文書提出命令の申立てに係る文書について「識別することができる事項」を明らかにしていないとして、提出命令を認めることができないとした原決定を維持しました。\n
 文書提出命令の申立ては,申\立てに係る文書の表示及び趣旨を明らかにしてしな\nければならない(民訴法221条1項)。 本件申立てに係る文書は,別紙文書目録記載のとおりであり,高性能\ALPSの 設計書のほかは,高性能ALPSの設計のための試験の内容を記載した文書,高性\n能ALPSで使用されている放射能\廃棄物量削減,核種除去性能に関する技術情報\nが記載されている文書,その他高性能ALPSの設計・製造・運用に関して作成さ\nれた文書というものであって,これらの表示は,文書の記載内容を類型的に示すも\nのではない。本件各文書は,個人名や組織名などで,その作成名義者は特定されて いるものではなく,作成日付や作成期間も特定されておらず,相手方における管理 態様などでも特定されていない。 また,抗告人は,本件申立てに係る文書の趣旨について,設計書には,抗告人が\n相手方に開示した抗告人の営業秘密を用いて,それ以前には相手方が有しなかった 核種除去性能に関する知見,放射能\廃棄物量削減に関する知見を前提とした設計が されており,その他高性能ALPSの設計・製造・運用に関して作成された文書等\nには,上記の各知見を前提とした記載がされているとする。しかし,核種除去性能\nに関する知見,放射能廃棄物量削減に関する知見の内容は,極めて広範囲に及ぶ抽\n象的なものである。各知見を,抗告人の営業秘密であって,相手方に開示した知見 と限定したり,相手方が有しなかった知見と限定したりするだけでは,各知見の内 容が客観的に具体化されるものではない。したがって,本件各文書に上記の記載等 があるとするだけでは,本件申立てに係る文書に記載されている内容の概略や要点\nは明らかではない。 さらに,後記で検討するとおり,本件申立てに係る文書を識別することができ\nる事項も明らかではない。 よって,本件申立ては,本件申\立てに係る文書の表示及び趣旨を明らかにしてな\nされたものということはできない。
(2)識別性について
ア 文書提出命令の申立ては,申\立てに係る文書の表示及び趣旨を明らかにして\nなされなくても,これらの事項に代えて,文書の所持者がその申立てに係る文書を\n「識別することができる事項」を明らかにしてなされれば,当該申立ては適法にな\nり得る(民訴法222条1項)。 そして,「識別することができる事項」とは,文書の所持者において,その事項 が明らかにされていれば,不相当な時間や労力を要しないで当該申立てに係る文書\nあるいはそれを含む文書グループを他の文書あるいは他の文書グループから区別す ることができるような事項を意味し,申立人側の具体的な事情と所持者側の具体的\nな事情を総合的に考慮して判断されるべきものである。
イ 相手方の事情
(ア) 高性能ALPSは,損傷した福島第一原発から発生する放射能\汚染水を処 理するための設備であって,既存ALPSよりも高性能な多核種除去設備であり,\n国が巨額を投じて行う高性能多核種除去設備整備実証事業において採用されたもの\nである。(前記1(2)キ) また,同事業の補助事業者は相手方のほか,東京電力及び東芝であり,相手方だ けでも,高性能ALPSの技術開発を推進するに当たり,設計・施工・材料の納入\n等を行う業者として,少なくとも延べ25社を採択し,相手方の多数の内部部署が, 高性能ALPSに関する業務に関わっている。(前記1(2)キ,(3)ウ) さらに,高性能多核種除去設備タスクフォースに報告された前記各報告内容(前\n記1(3)ア,イ)によれば,高性能ALPSは,フィルタ処理装置及び核種吸着装置\nのほか,様々な装置を統合した設備であって,高性能ALPSの設置・稼働に当た\nっては,吸着材の選定,吸着塔の構成,pH調整などに関して,ラボ試験,検証試\n験,実証試験が並行して行われ,課題に応じて多数の変更が加えられていったこと が認められる。 加えて,これらの事実によれば,相手方は,東京電力及び東芝とともに,高性能\n多核種除去設備整備実証事業において高性能ALPSを共同提案するに際し,多数\nの試験を繰り返し,複数の業者と事前に共同提案内容を協議したことも認められる。 (イ) 本件各文書は,1)高性能ALPSの設計書,2)高性能ALPS設計のため\nの疑似水試験,模擬液試験や実液試験の内容を記載した文書,3)高性能ALPSで\n使用されている放射能廃棄物量削減に関する技術情報が記載されている文書,4)高 性能ALPSで使用されている核種除去性能\に関する技術情報が記載されている文 書,5)その他高性能ALPSの設計・製造・運用に関して作成された文書の5つに\n区分することができる。 そして,前記1)の文書については,その対象とする高性能ALPSが最先端の技\n術が用いられた大規模な設備であること,高性能ALPSを構\成する様々な装置の 設計書を含んでいること,高性能ALPSの設計書の作成に多数の業者及び相手方\nの内部部署が関与していること,高性能ALPSの提案・設置・稼働に当たって複\n数の変更が加えられていること,管理態様も様々であることからすれば,相手方に おいて,1)の文書を区別するに当たり,相当な時間と労力を要するというべきであ る。 前記2)の文書については,そもそも,文書の表示を,「試験の内容を記載した文\n書」とするところ,試験の内容には,実際に行われた試験方法や試験結果のほか, 当該試験方法を設定するに至った経緯,当該試験結果に対する考察など多様なもの が含まれる。また,高性能ALPSの設置・稼働に当たっては,吸着材の選定,吸\n着塔の構成,pH調整などに関して,ラボ試験,検証試験,実証試験が並行して行\nわれており,さらに,各試験の前後には,多数の業者及び相手方の内部部署が関与 したものと認められる。そうすると,相手方において,2)の文書を区別するに当た り,相当な時間と労力を要するというべきである。 前記3)及び4)の文書については,文書の表示を,「高性能\ALPSで使用されて いる放射能廃棄物量削減,核種除去性能\に関する技術情報が記載されている文書」 とするところ,高性能ALPSの開発コンセプトは,フィルタ・吸着材を主体とし\nた除去プロセスの採用により,廃棄物発生量を約95%削減するとともに,フィル タ・吸着材処理技術の開発により処理対象とする62核種に対して,高い除去性能\n(NDレベル)を達成するなどというものである。そうすると,前記3)及び4)の文 書は,高性能ALPSで使用されている技術情報が記載されている文書というもの\nでしかなく,おおよそ高性能ALPSに関する文書が全て含まれるから,相手方に\nおいて,3)及び4)の文書を区別するに当たり,相当な時間と労力を要するというべ きである。 前記5)の文書についても,おおよそ高性能ALPSに関する文書が全て含まれる\nから,相手方において,5)の文書を区別するに当たり,相当な時間と労力を要する というべきである。 また,そもそも,本件各文書の相互の関係は明らかではなく,抗告人は,相手方 からの示唆があるにもかかわらず,それを明らかにしていない。本件各文書の中に は,本件仕様書にいう「重要情報」に当たる情報が記載され,相手方において厳格 に管理されている文書が含まれると認められるものの,本件各文書は,このような 文書に限定されているものでもない。 よって,相手方において,本件各文書を,相手方が所持する他の文書あるいは文 書グループから区別するに当たり,相当な時間と労力を要するというべきである。
・・・
以上のとおり,相手方は,本件各文書を,相手方が所持する他の文書あるいは文 書グループから区別するに当たり,相当な時間と労力を要する。一方,抗告人は, 申立てに係る文書の種別,作成期間,内容の概略や要点等をさらに特定することや,\n申立てに係る文書のおおよその作成部署や管理態様等をさらに特定することは困難\nではない。また,抗告人は,相手方が申立てに係る文書を区別するに当たり,不相\n当な時間や労力を要しないよう,申立てに係る文書群を特定する努力をしていない\nといわざるを得ない。 そうすると,本件申立てにおいて,相手方が,不相当な時間や労力を要しないで\n本件申立てに係る文書あるいはそれを含む文書グループを他の文書あるいは他の文\n書グループから区別することができるような事項は明らかではないというべきであ る。 よって,本件申立ては,相手方がその申\立てに係る文書を「識別することができ る事項」を明らかにしてなされたものということはできない。

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平成29(行ケ)10103  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年6月6日  知的財産高等裁判所(4部)

 出訴期間を経過後の提起として訴えが却下されました。出訴期間の起算日は4/4で、そこから30日だと、5/3が出訴期間の末日です。ただ、その日は、裁判所は休みなので、休み明けの5/8まで延長されます。ただ、裁判所は特許庁と違い、到達主義なので、郵送の場合でも、5/8までに到着しないと、出訴期間経過後として却下されます。
1 本件記録によれば,本件審決の謄本が原告に送達された日は,平成29年4月 3日であり,原告が本件審決取消訴訟の訴状を当裁判所に宛てて郵送し,これが当裁 判所に到達した日は,同年5月9日であることが明らかである。
2 審決取消しの訴えは,審決の謄本の送達があった日から30日を経過した後は 提起することができない(特許法178条3項)ところ,上記1認定の事実によれば, 本件訴えは,本件審決の謄本が原告に送達された平成29年4月3日から既に30日 を経過した同年5月9日(上記期間の満了日は同月8日)に提起されたものと認めら れるから,出訴期間を経過して提起されたものといわざるを得ない。
3 以上によれば,本件訴えは不適法であり,その不備を補正することができない ものであるから,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法140条を適用して,却下するこ ととし,主文のとおり判決する。

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平成28(ネ)10100  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年3月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審における訂正の対抗主張について、「時機に後れた」とは判断されませんでした。ただ、最終的には無効は解消されていないと判断されているので、控訴審における訂正の対抗主張が「時機に後れた」と判断されるおそれもありますね。
 被控訴人は,控訴人が,当審において,訂正の対抗主張を追加したのに対し,上 記主張は,時機に後れた攻撃防御方法の提出として,民訴法157条1項に基づき 却下されるべきである旨主張する。 控訴人は,原審において,弁論準備手続が終結されるまでの間,訂正の対抗主張 を提出することはなかったが,弁論準備手続終結後に提出された準備書面において 初めてこれを主張するに至ったため,原審裁判所により時機に後れたものとして却 下された(なお,原審において主張した訂正の内容は,「片手で」との文言の有無 の点を除き,当審における訂正の内容と同一である。)。控訴人は,平成28年9 月8日に原判決が言い渡されると,同月21日控訴を提起した。他方,同月30日 には,本件特許1ないし3に係る各特許無効審判において,審決の予告がされた。\nそこで,控訴人は,同年11月10日提出に係る控訴理由書において,訂正の対抗 主張を記載した。 上記の原審及び当審における審理の経過に照らすと,より早期に訂正の対抗主張 を行うことが望ましかったということはできるものの,控訴人が原判決や審決の予\n告がされたのを受けて,控訴理由書において訂正の対抗主張を詳細に記載し,当審 において速やかに上記主張を提出していることに照らすと,控訴人による訂正の対 抗主張の提出が,時機に後れたものであるとまでいうことはできない。また,本件 における訂正の対抗主張の内容に照らすと,訂正の対抗主張の提出により訴訟の完 結を遅延させることになるとも認められない。 よって,控訴人の訂正の対抗主張を時機に後れたものとして却下することはしな い。
・・・・
1)乙18公報には,小型化された魚釣用電動リールにおいて,リール本体を保持 した手の指による操作性の向上を考慮して,モータ出力調節体の配置を変更するこ とについての示唆があるということができること,並びに,2)魚釣用電動リールは, 手のひらにのる程度に小型化,軽量化が図られていたところ,このように小型化, 軽量化した魚釣用電動リールでは,釣竿とリール本体とを片手で把持し,その把持 した手の親指で駆動モータの出力を制御する操作部材を操作することが指向される こと及び釣竿とリール本体とを片手で把持した状態で操作することを予定した位置\nに駆動モータの出力を制御する操作部を配設することが,原出願の出願日前に当業 者に周知であったことは,前記2 ウ のとおりである。そうすると,乙18発明 において,操作部材を釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親 指が届く位置に配設することは,当業者が容易に想到できたことである。 また,乙18発明において,周知技術を適用して,相違点1−1に係る本件発明 1の構成とすることは当業者が容易に想到できたものであるところ,上記構\成を備 えた場合,操作部材の前後方向への回転操作は,親指で押え付けるようにして行わ れ得るものであることは明らかである。 そうすると,乙18発明において,相違点1−3に係る本件訂正発明1の構成と\nすることは,当業者が容易に想到できたことである。
・・・
エ 以上のとおり,本件各訂正発明は,乙18発明に基づき容易に発明をするこ とができたものであって,本件各訂正によっても,本件各発明の無効理由(乙18 発明に基づく進歩性欠如の無効理由)は解消しない。

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平成27(受)1876  不正競争防止法による差止等請求本訴,商標権侵害行為差止等請求反訴事件 平成29年2月28日  最高裁判所第三小法廷  判決  その他  福岡高等裁判所

 商標権に関する部分が興味深いです。周知商標に基づく無効審判請求(4条1項10号)は、5年の除斥期間があります(商47条)。よって、侵害訴訟において5年経過すると、無効抗弁(特104条の3)ができないかが論点となります。 最高裁は、原則、無効主張できないが、周知にした本人は除かれると判断しました。ただ、本件の場合、不正競争防止法における周知認定を誤っていると判断されていますので、そもそも、周知でないとの判断となるかもしれません。
 そして,商標法39条において準用される特許法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば,商標権侵害訴訟において,商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,商標権者は相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ,上記のとおり商標権の設定登録の日から5年を経過した後は商標法47条1項の規定により同法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判を請求することができないのであるから,この無効審判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が商標登録の無効理由の存在を主張しても,同訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認める余地はない。また,上記の期間経過後であっても商標権侵害訴訟において商標法4条1項10号該当を理由として本件規定に係る抗弁を主張し得ることとすると,商標権者は,商標権侵害訴訟を提起しても,相手方からそのような抗弁を主張されることによって自らの権利を行使することができなくなり,商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護するものとした同法47条1項の上記趣旨が没却されることとなる。 そうすると,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって,本件規定に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。
・・・・
そこで,商標権侵害訴訟の相手方は,自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている商標との関係で登録商標が商標法4条1項10号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することができるものと解されるところ,かかる抗弁については,商標権の設定登録の日から5年を経過したために本件規定に係る抗弁を主張し得なくなった後においても主張することができるものとしても,同法47条1項の上記(ア)の趣旨を没却するものとはいえない。 したがって,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求 されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても,当該商標登 録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず,商標権侵害訴訟の相 手方は,その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登\n録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標 であるために同号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利 の濫用に当たることを抗弁として主張することが許されると解するのが相当であ る。そして,本件における被上告人の主張は,本件各登録商標が被上告人の業務に 係る商品を表示するものとして商標登録の出願時において需要者の間に広く認識さ\nれている商標又はこれに類似する商標であるために商標法4条1項10号に該当す ることを理由として,被上告人に対する本件各商標権の行使が許されない旨をいう ものであるから,上記のような権利濫用の抗弁の主張を含むものと解される。

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原審はアップされていません。

◆関連判決(商標登録無効審判の取消訴訟)はこちらです。平成27年(行ケ)第10083号

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平成26(ネ)10032  不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 平成29年1月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 提出した証拠について、時機に後れて提出された攻撃防御方法に該当すると判断されました。
 以上の審理の経過に照らすと,被控訴人によりEPMA分析等に関する報告書(乙 73,74)が提出され,これに基づき主張がされたのは平成27年12月21日 の第4回口頭弁論期日であり,その後は,被控訴人による分析結果の内容等を中心 とする控訴人各製品において2種類の蛍光体を使用しているか否か(構成要件E及\nびF’)が重要な争点の一つとして審理が進められ,控訴人及び被控訴人の双方とも, この点に関し,準備書面を提出し,主張と反論を続けてきたこと,また,技術説明 会の実施については,第7回口頭弁論期日までにされた主張,立証とそれに付随す る反論の範囲内で実施することが確認されていたものであり,これに対し,第4回 口頭弁論期日からほぼ1年が経過した平成28年12月6日の第8回口頭弁論期日 の直前に提出された,控訴人の本件追加主張及びこれに関連する証拠(甲177な いし187)は,争点及び証拠の整理を終了し,技術説明会を実施した上で口頭弁 論を終結することを予定していた期日の直前において初めて提出されたものである\nから,その審理経過などからみても,時機に後れて提出された攻撃防御方法に当た るものであることは明らかである。 そして,以上の経過に照らせば,争点の専門性を考慮しても,控訴人及び控訴人 訴訟代理人において,本件追加主張及び証拠(甲177ないし187)の提出をよ り早期に行うことが困難であったとは考えられないから,本件追加主張及び証拠は, 少なくとも重大な過失により時機に後れて提出されたものと認められる。 これに対し,控訴人は,被控訴人が,平成28年11月4日付け被控訴人準備書 面(11)において,1)Raman分析(乙32,33)では,蛍光体1粒子のみを測 定しているため他の組成の蛍光体が含まれる可能性は排除されない,2)EPMAの X−ray mapping分析(乙73,74)に関し「定量分析(濃度換算)」 はしていない,などの新たな事実が初めて開示されたことを理由として,控訴人第 14準備書面において総合的な反論を主張するに至った旨主張する。しかし,乙3 2号証及び乙33号証は,原審において被控訴人から提出された分析結果報告書で あり,また,乙73号証及び乙74号証は,平成27年12月21日の口頭弁論期 日において提出された分析結果報告書であることに加え,上記各書証の内容等を考 慮すれば,控訴人が主張する各事実について控訴人が確信するに至らなかったとし ても,より早期の段階で,本件追加主張及び証拠(控訴人177ないし187)の 提出をすることができたものと認められる。したがって,控訴人の上記主張は採用 することができない。 そして,本件追加主張及び証拠(甲177ないし187)について審理をするこ とになれば,被控訴人の反論を要するとともに,EPMA分析等に関し,さらなる 分析をするなどの追加の書証提出等が必要となり,審理を継続する必要があること は容易に推測することができ,このような手続を行わないままに本件の審理を終結 することはできないといわざるを得ないから,本件追加主張及び証拠(甲177な いし187)の提出は,本件訴訟の完結を遅延させることも明らかである。 したがって,控訴人の本件追加主張及び証拠(甲177ないし187)の提出は, 時機に後れて提出された攻撃防御方法として却下することが相当である。

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◆関連事件です。平成27(行ケ)10163

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平成28(行ケ)10088  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月8日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(3部)は、第1次判決の拘束力が及ばない、新規事項であるとした審決は妥当と判断しました。
 事情が複雑です。本件特許出願について、第1次審決で補正要件違反(新規事項)と判断され、知財高裁にて、それが取り消されました(第1次判決 平成26年(行ケ)第10242号)。審理が再開されましたが、審判官は、再度補正要件違反(新規事項)として判断しました。理由は、現出願である実案出願に開示がなかった技術的事項を導入しているというものです。
 以上を前提に,本件実用新案登録の当初明細書等と本願明細書等の記載事 項を比較すると,次のとおり,本願明細書等には,本件実用新案登録の当初 明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係に おいて,明らかに新たな技術的事項を導入するものというべき記載が認めら れる。
ア 本願明細書等の請求項1の(3)ないし(15)に関する事項 本願明細書等に記載がある,シュレッダー補助器について,材質がプラ スチック製であること(請求項1の(3)及び(9)),色が透明である こと(同(11)),横幅が約35cmであること(同(8))の各事項 について,本件実用新案登録の当初明細書等には明示の記載がなく,また, 本件実用新案登録の出願時において,これらの記載事項が技術常識であっ たとも認められない。 また,シュレッダー補助器に埋め込まれた金属製爪部分及びこれに関す る記載事項(同(4)ないし(7),(10),(12)ないし(15)) については,本件実用新案登録の当初明細書等において,そのような爪部 分の存在自体が明らかでない。 したがって,これらの事項は,本件実用新案登録の当初明細書等の全て の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,明ら かに新たな技術的事項を導入するものというべきである。
イ 本願明細書等の図1及び図2並びに段落【0010】の図1及び図2に 関する事項
本願明細書等の図1(シュレッダー補助器の横断面図)及び図2(シュ レッダー補助器の正面図)並びに段落【0010】の図1及び図2に関す る寸法については,本件実用新案登録の当初明細書等には記載も示唆も一 切認められない。これらの事項は,本件実用新案登録の当初明細書等の全 ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,明 らかに新たな技術的事項を導入するものというべきである。 ウ 本願明細書等の段落【0010】の図3及び図4に関する事項 本願明細書等の段落【0010】には,図3の寸法に関し,「(ム)シ ュレッダー補助器の下部外幅は6mm,」と記載され,「(ヤ)シュレッダ ー補助器が挿入し易いよう,傾斜角を,シュレッダー機本体の水平面から 測って85度とし,」と記載されている。しかしながら,本件実用新案登録 の当初明細書等の対応する図1においては,シュレッダー補助器の下部外 幅は5mmと異なる数値が記載されており,また,傾斜角については記載 も示唆も認められない。 また,本願明細書等の段落【0010】には,図4の寸法に関し,「( ヨ)シュレッダー補助器の横幅約35cm,」と記載されている。しかし ながら,本件実用新案登録の当初明細書等には,この点についての記載も 示唆も認められない。 したがって,これらの事項は,本件実用新案登録の当初明細書等の全て の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,明ら かに新たな技術的事項を導入するものというべきである。
(5) 以上のとおりであるから,本願明細書等に記載した事項は,本件実用新案 登録の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえない。 したがって,本願について出願時遡及を認めることはできないから,本願 は,平成18年8月24日(本件実用新案登録に係る実用新案登録出願の時) に出願したものとみなすことはできないとした本件審決の判断に誤りはなく, 本願出願の時は,本願出願の現実の出願日である平成20年10月10日と なる。
(6) これに対し,原告は,本件実用新案登録は,出願時と同一のものであると 認められたからこそ,登録になったのであり,原告は,本願において,その 登録になったものと同一のものを,そのまま(変更せずに)特許出願したに すぎないから,出願時遡及を認めないのは誤りであると主張する。 しかしながら,実用新案登録制度は,考案の早期権利保護を図るため実体 審査を行わずに実用新案権の設定の登録を行うものであるため,補正により 新規事項が追加され,無効理由を胚胎した出願であっても,実用新案権の設 定の登録はされ得る。そして,このような新規事項が追加されて実用新案登 録になった明細書等と同一のものに基づいて特許出願をした場合,特許出願 の当初明細書等も実用新案登録出願の当初明細書等に対して新規事項が追加 されたものになるから,その後の補正により新規事項が解消されない限り, 出願時遡及は認められないことになる。すなわち,実用新案権の設定の登録 は,登録時の明細書等が実用新案登録出願の当初明細書等と同一でなくとも され得るから,実用新案登録になった明細書等と同一のものをそのまま用い て特許出願をしたとしても出願時遡及が直ちに認められるものではない。し たがって,上記原告の主張はその前提を欠くものであって失当である。
また,原告は,本件実用新案登録の出願後,登録になるまでに何度も手続 補正をしているが,それは,いずれも被告側の指示(手続補正指令書)に従 って手続補正書を提出したものであり,被告側の指示に従って手続補正を繰 り返した結果,ようやく登録が認められたにもかかわらず,本件実用新案登 録の出願時のものとは異なるという理由で,出願時遡及を認めないのは理不 尽であるとも主張する。 しかしながら,証拠(甲2の1,4,6,8の1,8の2,11)によれ ば,手続補正指令書による被告の補正命令は,いずれも実用新案法6条の2 第1号又は第4号に関するものであって,補正後の明細書等の具体的内容を 指示したものではない。また,各手続補正指令書において,その都度,補正 した事項が出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であるように十分\n留意する必要がある旨の注意喚起もなされている(更に付け加えれば,出願 手続には専門知識が要求されるので,専門家である弁理士に相談することの 促しもなされている。)。 それにもかかわらず,本件実用新案登録の登録時における明細書等の内容 が,新規事項の追加によって出願時のそれと異なるものとなり,その結果, 特許法46条の2第2項による出願時遡及が認められないこととなったのは, 原告自身の責任によるものというほかない。したがって,上記原告の主張も また失当である。

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平成28(行ケ)10087  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年1月17日  知的財産高等裁判所

 審判では審理されていない従たる引用例を主たる引用例とし,主たる引用例との組合せによる容易想到性について取消審判で判断することについて、知財高裁(4部)は「当事者双方が,・・・本件訴訟において審理判断することを認め・・・・紛争の一回的解決の観点からも,許されると解する」のが相当であると判断しました。
 ア 引用例2を主たる引用例とする主張の可否について
 特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,審判で審理判断されなかった 公知事実を主張することは許されない(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51 年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁)。 しかし,審判において審理された公知事実に関する限り,審判の対象とされた発 明との一致点・相違点について審決と異なる主張をすること,あるいは,複数の公 知事実が審理判断されている場合にあっては,その組合せにつき審決と異なる主張 をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超 えるということはできないから,取消訴訟においてこれらを主張することが常に許 されないとすることはできない。 前記のとおり,本件審決は,1)引用発明1を主たる引用例として引用発明2を組 み合わせること及び2)引用発明3を主たる引用例として引用発明1又は2を組み合 わせることにより,本件特許発明を容易に想到することはできない旨判断し,その 前提として,引用発明2についても認定しているものである。原告は,上記1)及び 2)について本件審決の認定判断を違法であると主張することに加えて,予備的に,\n引用発明2を主たる引用例として引用発明1又は3を組み合わせることにより本件 特許発明を容易に想到することができた旨の主張をするところ,被告らにおいても, 当該主張について,本件訴訟において審理判断することを認めている。 引用発明1ないし3は,本件審判において特許法29条1項3号に掲げる発明に 該当するものとして審理された公知事実であり,当事者双方が,本件審決で従たる 引用例とされた引用発明2を主たる引用例とし,本件審決で主たる引用例とされた 引用発明1又は3との組合せによる容易想到性について,本件訴訟において審理判 断することを認め,特許庁における審理判断を経由することを望んでおらず,その 点についての当事者の主張立証が尽くされている本件においては,原告の前記主張 について審理判断することは,紛争の一回的解決の観点からも,許されると解する のが相当である。 なお,本判決が原告の前記主張について判断した結果,請求不成立審決が確定す る場合は,特許法167条により,当事者である原告において,再度引用発明2を 主たる引用例とし,引用発明1又は3を組み合わせることにより容易に想到するこ とができた旨の新たな無効審判請求をすることは,許されないことになるし,本件 審決が取り消される場合は,再開された審判においてその拘束力が及ぶことになる。
イ 相違点について
前記(4)イのとおり,引用発明2において,「有色塗装層」は装飾上,必須のもの である。また,引用発明2において,「有色塗装層」の形成対象は,釣竿又はゴル フシャフトに特定されている。 したがって,本件特許発明1と引用発明2との相違点は,「本件特許発明1は, 基材を透光性を有する透明又は半透明とし,基材の表裏に金属被膜層を形成すると\nともに,金属被膜層の一部にレーザー光を照射することにより剥離部を表裏面で対\n称形状に設けるのに対して,引用発明2は,釣竿又はゴルフシャフトにおいて,有 色塗装層を形成された基材の片面に金属被膜層を形成する際にマスキング処理を行 って剥離部を設ける」ものと認められる。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 前記(4)イのとおり,引用発明2は有色塗装層を必須の構成とするのである\nから,引用発明2に,全光線透過率が80%以上である高分子フィルム基材を有す る引用発明1を組み合わせることには阻害要因が認められる。さらに,引用発明2 は,管状の部材の装飾に係るものであって,金属層を管の内側と外側の両面に設け ることは,相応の困難を伴うというべきである。
(イ) また,引用発明3は,前記(5)イ(イ)のとおり,レーザー光を透過し得るよ うな基板の表裏を有するのであるから,有色塗装層を必須の構\成とする引用発明2 に対し,引用発明3を組み合わせることには阻害要因があると認められる。

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平成26(ワ)10534  契約金返還等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成28年5月27日  東京地方裁判所

 差止および損害賠償請求を有しないことの確認訴訟について、訴えの利益なしと判断されました。その他の不当利得返還請求の棄却されました。
1 争点1(原告サーナアルファが,被告に対し,被告が同原告に対して不正競 争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7 号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を請求することにつ いて,確認の利益が認められるか)について 原告サーナアルファは,同原告によるVRC法の実施は,被告が同原告に提供し た不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密の不正使用又は不正開示に当たらな いとして,同原告のVRC法の実施行為について,被告が同原告に対して同法3条 1項に基づく差止請求権及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確 認を求めている。 一般に,確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,換言すれば,現に,原告の 有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対 し確認判決を得ることが紛争の解決のために必要かつ適切な場合に限り,許される と解すべきである。 証拠(甲12,33)によれば,被告は,原告サーナアルファに対し,弁護士を 通じ,内容証明郵便により,平成25年7月19日付け本件警告状及び同年8月2 9日付け通告書(以下「本件通告書」という。)を送付し,被告の「知的財産権 等に対する一切の侵害行為及び妨害行為を停止」するよう求めたことが認められる。 しかし,上記証拠によれば,本件警告状及び本件通告書には,被告が原告サーナ アルファに提供したとされる営業秘密に関する記載は何ら存在せず,同原告による VRC法の実施が不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密の不正使用又は不正 開示に当たる旨の記載も存在しないのであって,被告が,本件警告状又は本件通告 書により,同原告に同法2条1項7号及び3条1項に基づく差止請求権や同法2条 1項7号及び4条に基づく損害賠償請求権を主張したとみることは,困難であり, ほかに,被告が,同原告に対して,同法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差 止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を主張する おそれが,現に存在していると認めるべき事情は見当たらない。 そうすると,現に,同原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し, これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが紛争の解決のために必要かつ 適切であるということはできないから,確認の利益は,これを肯定することができ ない。 したがって,被告が同原告に対して不正競争防止法2条1項7号及び同法3条1 項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求 権を有しないことの確認請求に係る同原告の訴えは,不適法である。

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平成27(行ケ)10180  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年2月9日  知的財産高等裁判所

 指定商品「サプリメント」商標「宮古養命草」について、「養命酒」及び「養命」から4条1項15号違反に認定されました。ただ、欠席裁判です。
(1) 被告は,適式の呼出を受けながら,本件口頭弁論期日に出頭しないし,答弁 書その他の準備書面も提出しないから,原告の主張(請求原因事実)を自白したも のとみなされる。 したがって,15号引用商標の「養命酒」及び「養命」の語は,本件商標の登録 出願時及び査定時において,原告商品の名称として周知著名であり,日本全国にお いて,ユニークな造語として広く一般需要者に認識されていたこと,「養命酒」及び 「養命」の語は,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な 印象を与えるものであり,本件商標の要部は「養命」の部分であること,原告は, 原告商品のほか「養命水」の商標を使用したミネラルウォーターや,サプリメント 等を販売していること,本件商標の指定商品「サプリメント」と原告商品である薬 用酒とは,いずれも広い意味でセルフメディケーションの用途で飲用,食用される 商品であり,需要者を共通にするものであることが認められる。
(2) 以上の事実によれば,被告が取引者及び需要者を原告商品と共通する本件商 標を指定商品に使用した場合,これに接した取引者,需要者は,高い周知著名性の ある「養命酒」,「養命」の表示を連想し,原告の出所に係るものであると誤信する\nか,少なくとも,当該商品が原告との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な 営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある\n営業主の業務に係る商品であると誤信させるおそれがあり,商品の出所につき誤認 を生じさせるものと認められる。 そうすると,本件商標は,商標法4条1項15号所定の「混同を生ずるおそれが ある商標」に当たると解される。本件商標が商標法4条1項15号に該当しないと した審決の判断には誤りがある。

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平成27(ネ)10038  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成27年11月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許3309276号についての差止請求不存在確認訴訟事件(平成20年(ワ)26633)およびその反訴事件(平成21年(ワ)第18950号)の控訴審です。1審途中にて、無効審判(無効2008-800215号)にて無効と判断されましたが、審決取消訴訟中に侵害訴訟で和解が成立し、無効審判は取り下げされました。本件は前記和解に無効理由(錯誤)があるかが争われました。知財高裁はこれを認めませんでした。
 控訴人は,被控訴人が,原審において,実際には被告製品の構成を示すもの\nではない証拠を,被告製品の構成を示すものと偽って提出したことによって,原審\nの受訴裁判所を構成する裁判官が錯誤に陥ったことにより,原判決において被告製\n品の充足性を否定する旨の判断をし,控訴人も錯誤に陥り,被控訴人らに有利な本 件和解に合意した,当審の受命裁判官も錯誤に陥り,それも,本件和解の内容に影 響を与えた旨主張しているものと解される。
(2) この点に関し,原審以来本件で対象となった被告製品は,「内視鏡ビデオス コープシステム『EVIS LUCERA SPECTRUM』にビデオスコープ『EVIS LUCERA OLYMPUS GIF TYPE FQ260Z』を装着してなる蛍光内視鏡観察システム」である。そして,被控 訴人が原審において被告製品の構成を示す証拠として提出した甲第4号証の1・2\nは,いずれも取引先等に配布しているものと推認できるパンフレットであり,「EVIS LUCERA 上部消化管汎用ビデオスコープ OLYMPUS GIF TYPE FQ260Z」という,被告製 品の名称が明記されている。これら甲第4号証の1・2が,被告製品の構成と称し\nて,実際にはそれと異なる構成を示しているという事情は,うかがわれない。
(3)また,原審の裁判官及び当審の受命裁判官は,いずれも本件和解の当事者で はなく,これらの裁判官が錯誤に陥ったか否かは,そもそも本件和解の取消原因に 当たらないし,無効原因にも当たらない。 なお,原審において,被告製品については,その一部の構成に関し,控訴人と被\n控訴人との間で争いがあったところ,控訴人の主張する被告製品の構成は,特許庁\nにおける判定(判定2007−600027)の手続において認定された被告製品 の構成と同一のものであり,特許庁は,被告製品が本件発明の技術的範囲に属する\n旨の判定をした(乙3)。原判決は,控訴人が提出した乙第1号証及び乙第2号証 を摘示し,被控訴人は訴訟係属前に被告製品の構成が控訴人の主張するとおりであ\nることを自認していたことなどから,被告製品は控訴人の主張する構成(前記判定\nの手続で認定されたものと同一の構成)を有するものであることを前提として,被\n告製品が本件発明の技術的範囲に属しない旨の判断をしたものである。以上によれ ば,原審の裁判官及び当審の受命裁判官のいずれも,控訴人主張に係る被控訴人に よる証拠偽装の詐欺行為によって判断を誤ったものと認めるに足りない。
(4)さらに,前記第1の1のとおり,控訴人は,原審において,訴訟代理人とし て弓削田弁護士を選任し,弓削田弁護士は,前記反訴を提起し,その後,平成21 年6月10日の第5回弁論準備手続期日から同年9月30日の原審の口頭弁論終結 (第2回口頭弁論期日)まで全ての期日に控訴人本人と共に出頭し,充足論に関す る控訴人の主張のまとめが記載されている準備書面を含む3通の準備書面を提出し ている。加えて,控訴人は,当審においては,弓削田弁護士に加えて3名の弁理士 を訴訟代理人として選任した。これらの訴訟代理人らは,被告製品の充足性につい て詳細に主張した控訴理由書及びそれを補充する平成22年4月1日付け控訴人第 1準備書面を提出しており,弓削田弁護士及び河野登夫弁理士は,2回にわたる弁 論準備手続期日及び本件和解成立日を含む3回にわたる和解期日の全てに控訴人本 人と共に出頭した。 以上によれば,控訴人は,弁護士ないし弁理士である訴訟代理人の助力も受けな がら,被告製品の構成も含め被告製品の充足性について十\分に検討して主張し,ま た,本件和解に臨んだものと認められ,この点に鑑みれば,被告製品の構成及び本\n件和解の内容に関し,錯誤があったとは考え難い。

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平成27(ネ)10038  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成27年11月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審で均等侵害を主張しましたが、均等侵害なしと判断されました。なお、時機に後れた攻撃防御であるとの主張は認められませんでした。
 被控訴人は,控訴人の均等侵害の主張が時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を 主張するが,既に提出済みの証拠関係に基づき判断可能なものであるから,訴訟の\n完結を遅延させるものとはいえない。 したがって,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下はしない。 (2) 均等論その1について 控訴人は,被控訴人機器又は被控訴人運行管理方法が,本件各特許発明における 「第1記録領」域及び「第2記録領域」との構成を有せず,構\成要件1D又は構成\n要件2C若しくは2Dを充足しないとしても,被控訴人機器又は被控訴人運行管理 方法は,本件各特許発明の構成と均等なものである旨を主張する。\nそこで,以下,検討する。
ア 第1要件の充足について
本件特許発明の内容及び本件明細書の記載事項は,前記1及び同2(2)のとおりで ある。 これらにかんがみると,本件特許発明は,1)従来技術においては,車両等の挙動 特徴に関する計測データを,危険な運転操作の検出等と日常的な運転中の挙動操作 の双方を解析するについては不十分なものであったことから,2)これらの解析に必 要なすべての計測データを効率的に記録媒体に記録する運行管理方法とシステムの 提供を課題とし,3)その解決方法として,[1]日常的な運転における挙動の特徴に関 するデータと,事故につながるような挙動の特徴に関するデータとを所定の条件に より峻別し,[2]それぞれのデータを,記録媒体の別々の記録領域に記録し,4)これ らのことにより,それぞれのデータが常に確保されるようにして,その確保された データを解析することにより,きめ細やかな運行管理を可能としたものと認められ\nる。 このような本件各特許発明の課題,課題解決方法及び作用効果においては,限ら れた容量の記録媒体に,どのようにして複数種の解析されるべきデータを記録する かが,発明を構成する必須の要素であり,その重要な特徴点であるといえる。そう\nであれば,構成要件1D又は2C若しくは2Dの「第1記録領域」及び「第2記録\n領域」は,本件各特許発明の本質的部分に含まれると認められる。 したがって,被控訴人機器又は被控訴人運行管理方法は,いずれも,均等の第1 要件を充足しない。
イ 控訴人の主張に対して
控訴人の主張は,本件各特許発明の本質的部分は,定点観測のデータと危険挙動 のデータとをそれぞれ第1データと第2データとに分けて出力した点にあり,各デ ータをどのように記録させるかの点にはないとの趣旨と解される。 しかしながら,上記アのとおり,本件各特許発明の特徴は,2種類のデータとそ の記録領域とをそれぞれに関連させて別個に記録させたところにあるから,単にデ ータが区別されている点のみがその本質的部分とはいえない。データの記録方法と して,本件各特許発明の方法と作用効果に相違のない構成は,その出願当時におい\nても多々あり得たものといえるが,本件各特許発明は,その中において,あえて, 記録媒体の記録領域が「第1記録領域」と「第2記録領域」を有するとの構成に限\n定したのであり,他に作用効果が同一の構成があることや,当該他の構\成が容易に 想到できるものであるか否かは,発明の本質的部分の認定を左右するものではない。

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◆原審はこちらです。平成25(ワ)10396

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平成26(ネ)10111  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成27年10月8日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 控訴状および控訴理由書でも主張しなかった均等侵害について、知財高裁は、時機に後れた抗弁であるが、被控訴人も反論したので・・として均等侵害か否かについても判断しました。結果は、均等の第1、第2要件を満たさないとのことです。
 被控訴人は,控訴人が,当審において,新たにイ号製品は本件各特許発明の均等 侵害を構成する旨の主張を予\備的に追加したのに対し,上記主張は,時機に後れた 攻撃方法の提出として,民訴法157条1項に基づき却下されるべきである旨主張 する。 控訴人は,平成25年6月3日に本件訴訟を提起し,平成26年9月25日に原 判決が言い渡されると,同年10月8日に控訴を提起したが,均等侵害に係る主張 は,控訴状にも,同年12月16日提出に係る控訴理由書にも記載されておらず, 平成27年2月14日提出に係る第1準備書面において初めて,その主張の骨子が 記載されたものである。 第1審における争点は,専ら構成要件2E及び1Bの充足性であったこと,控訴\n状には控訴理由の記載がなく,控訴理由書には,控訴理由は,前記第3の1(「横 向き管における最下面の延長線」,「延長線の近傍位置または該延長線より上方位 置」の意義),第3の2及び第3の6の4点である旨記載をしながら,均等侵害に 係る主張を記載せず,主張の予告もなかったこと,控訴人の第1準備書面が提出さ\nれたのは,同月19日の当審第1回口頭弁論期日のわずか5日前であったことなど, 本件審理の経過に照らせば,控訴人の均等侵害に係る主張は,時機に後れたものと いわざるを得ない。しかしながら,被控訴人も上記主張に対する認否,反論をした ことに鑑み,均等侵害の成否について以下において判断する。
(2) 本件特許発明2の均等侵害について
ア 本件特許発明2とイ号製品との相違点について
前記1において説示したとおり,イ号製品は,本件特許発明2の構成要件2Eを\n充足しないから,本件特許発明2とイ号製品とは,少なくとも構成要件2E,すな\nわち,本件特許発明2においては,レベル計が,供給管の横向き管における最下面 の延長線の近傍位置又は該延長線より上方位置に設けられているのに対し,イ号製 品においては,レベル計の位置を最も高い位置にしたとしても,横向き管が縦向き 管と接する出口の下端とレベル計の最上面との距離が28.2mm存し,レベル計 が,横向き管の最下面を形成する線を縦向き管に向けて延長した線のうち縦向き管 内の最も高い位置より下方が,その充填された混合済み材料によって満杯の状態に なる位置より少しばかり下に設けられているとは認められない点において相違する。
イ 均等侵害の成立要件について
(ア) 作用効果の同一性(第2要件)について
本件特許発明2は,前記1(1)ウのとおり,吸引輸送される材料が未混合のまま一 時貯留ホッパーへ直接に送られるのを防止することを目的として,流動ホッパーへ の材料の吸引輸送は,前回吸引輸送した混合済み材料が流動ホッパーから一時貯留 ホッパーへと降下する際に,前記混合済み材料の充填レベルが供給管の「横向き管 における最下面の延長線の近傍または該延長線よりも下方」に降下する前に開始す るようにするため,供給管の「横向き管における最下面の延長線の近傍位置または 該延長線より上方位置」に,混合済み材料の充填レベルを検出するためのレベル計 を設けるようにしたものであり,これにより,吸引輸送される材料は,その充填さ れた混合済み材料によって,一時貯留ホッパーへの落下が阻止されるため,未混合 のまま一時貯留ホッパーへ落下することはないという作用効果を奏するものである。 これに対し,イ号製品においては,前記1(3)のとおり,レベル計の位置を最も高 い位置にしたとしても,横向き管が縦向き管と接する出口の下端とレベル計の最上 面との距離が28.2mmあって,横向き管が縦向き管と接する出口の下端とレベ ル計の最上面との間に相当の空間が存し,当該空間は,充填された混合済み材料に よって満たされた状態とはなっていないから,吸引輸送される材料が,充填された 混合済み材料によって,一時貯留ホッパーへの落下が阻止され,未混合のまま一時 貯留ホッパーへ落下することはないという作用効果を奏しない。 したがって,イ号製品は,均等の第2要件を充足しない。
(イ) 非本質的部分(第1要件)について
本件特許発明2の本質的部分,すなわち,技術思想の中核的部分は,前記1(1) ウによれば,構成要件2Eの「供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍位\n置または該延長線より上方位置に」レベル計を設けることにより,流動ホッパーへ の材料の吸引輸送は,前回吸引輸送した混合済み材料の充填レベルが供給管の「横 向き管における最下面の延長線の近傍または該延長線よりも下方」に降下する前に 開始されるため,吸引輸送される材料が,その充填された混合済み材料によって, 一時貯留ホッパーへの落下が阻止されるという作用効果を奏する点にあるものと認 められる。 これに対し,イ号製品は,構成要件2Eの「供給管の横向き管における最下面の\n延長線の近傍位置または該延長線より上方位置に」レベル計を設けたものではない から,レベル計の位置を最も高い位置にしたとしても,横向き管が縦向き管と接す る出口の下端とレベル計の最上面との距離が28.2mmあって,横向き管が縦向 き管と接する出口の下端とレベル計の最上面との間に相当の空間が存し,吸引輸送 される材料が,充填された混合済み材料によって,一時貯留ホッパーへの落下が阻 止されるという作用効果を奏せず,課題の解決手段を異にする。 そうすると,本件特許発明2とイ号製品との前記アの相違点が,本件特許発明2 の本質的部分でないということはできない。
したがって,イ号製品は,均等の第1要件も充足しない。

◆判決本文

◆一審はこちらです。平成25年(ワ)第5600号

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平成26(行ケ)10179等  審決取消請求事件,共同訴訟参加事件  特許権  行政訴訟 平成27年4月13日  知的財産高等裁判所

 共同出願人の一部が欠落した状態でなされた審決取消訴訟が提起され、出訴期間経過後、他方が参加申出を行いましたが、裁判所は、これを認めませんでした。なお、判決では、請求が却下されていますが、手続的にシャットアウトせず、その前に実質上の進歩性判断については審決の判断に誤りはないとの判断をしています。
 前記第2の1認定の事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 本願は,当初は原告の単独出願であったが,後に,原告は,本願に係る特許を受ける権利を参加人との共有となるよう譲渡し,同権利は原告及び参加人の共有となった。その後,原告ら両名を名宛人とした拒絶査定がなされ(丙5),原告らが共同して拒絶査定に対する不服の審判を請求し(丙6),審決も原告ら両名を名宛人としてなされた。
イ 審決時の原告ら代理人弁理士は,アメリカ合衆国における原告ら両名の代理人事務所(以下「現地事務所」という。)を通じて原告らからの指示を受け取っていた(丙7)。
ウ 前記第2の1のとおり,「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決の謄本は,審決時の原告ら代理人弁理士に対し,平成26年3月25日に送達された(附加期間90日)。
審決時の原告ら両名代理人弁理士は,同年4月25日付けのレターにより,現地事務所に対し,審決の内容を報告した。なお,同レターには,原告ら両名のための訴訟委任状フォーム及び資格証明書フォームが同封されていた(丙8ないし12)。 エ これに対し,現地代理人事務所のローレン ディー.アルビン弁護士は,平成26年7月8日,原告ら両名が審決取消訴訟を提起することを指示する内容のメールを,審決時の原告ら代理人弁理士宛てに発信した(丙13)。
オ しかし,本件訴えにおける原告訴訟代理人の過誤により,原告の名称のみが記載された平成26年7月23日(出訴期間満了日)付け訴状が提出された。参加人は,同年8月1日,共同訴訟参加の申出をした。
(2) 民訴法52条に基づく参加申出において,共同原告として参加する第三者は,自ら訴えを起こし得る第三者でなければならないと解されるから,出訴期間の定めがある訴えについては,出訴期間経過後は同条による参加申\出はなし得ないものと解するべきである(最高裁昭和35年(オ)第684号同36年8月31日第一小法廷判決・民集15巻7号2040頁参照)。そして,特許法178条4項は,審決取消訴訟の出訴期間を不変期間と定めている。もっとも,不変期間であっても,参加人の責めに帰することができない理由で出訴期間内に訴訟の提起をなし得なかったときは,一定期間内に追完することができる(行訴法7条,民訴法97条1項)。 しかし,本件においては,上記(1)の経緯のとおり,本件申出は,出訴期間経過後になされたことが明らかであるところ,上記認定の経緯に照らしても,参加人において出訴期間内に訴訟の提起をなし得なかったことについて,その責めに帰することができない事由があったとは認めることができない。\nしたがって,参加人の本件申出は,不適法なものというほかない。
(3) また,特許を受ける権利の共有者が,その共有に係る権利を目的とする特許出願の拒絶査定を受けて共同で審判を請求し,請求が成り立たない旨の審決を受けた場合に,上記共有者の提起する審決取消訴訟は,共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解するべきである(平成7年判決)。 そして,前記(1)オによれば,本件訴えは,本願に係る特許を受ける権利の共有者の一部である原告のみによって提起されたものとみるほかない。 ところで,固有必要的共同訴訟において,共同訴訟人となるべき者が脱落している場合であっても,民訴法52条により脱落者が共同訴訟参加人として参加すれば,必要的共同訴訟における当事者適格の瑕疵は治癒されるものと解される。しかし,上記(2)の説示のとおり,本件申出は不適法であるから,本件においては,当事者適格の瑕疵を適法に治癒するものと解することはできない。\nしたがって,原告の本件訴えも不適法である。
(4) これに対し,原告らは,本件申出は,既に一部の共有者によって提起されている訴訟に加わる性質の訴訟行為であって,かつ,既に出訴期間内に提\n訴された原告の請求と合一確定を求めるためのものであって,法的安定性を害するおそれもないし,訴訟遅延をもたらすものでもない,本件申出を肯定しても,特許を受ける権利という財産権が救われる一方で,誰かに何らかの不都合が生じることは想像できず,逆に,これを否定することによって,拒絶審決取消訴訟を固有必要的共同訴訟と解する立場における保護法益が守られるわけではなく,むしろ肯定した方がその保護法益にかなうなどと主張し,また,原告らは,平成17年知財高裁判決に基づき,本件申\出も適法である旨主張する(前記第3の1(1))。 しかし,前記(2)及び(3)に説示したとおり,原告らの上記主張は,いずれも,当裁判所の採用するところではない。 さらに,原告らは,平成14年判決がなされた以上,平成7年判決の理論は見直されるべきである旨主張するが(前記第3の1(2)),これも独自の見解であり採用の限りではない。

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平成26(行ケ)10179等  審決取消請求事件,共同訴訟参加事件  特許権  行政訴訟 平成27年4月13日  知的財産高等裁判所

 審決取消訴訟について、共有者全員で行わなければならないとして、訴えが却下されました。
ア 本願は,当初は原告の単独出願であったが,後に,原告は,本願に係る 特許を受ける権利を参加人との共有となるよう譲渡し,同権利は原告及び参加人の共有となった。その後,原告ら両名を名宛人とした拒絶査定がなされ(丙5),原告らが共同して拒絶査定に対する不服の審判を請求し(丙6),審決も原告ら両名を名宛人としてなされた。 イ 審決時の原告ら代理人弁理士は,アメリカ合衆国における原告ら両名の代理人事務所(以下「現地事務所」という。)を通じて原告らからの指示を受け取っていた(丙7)。 ウ 前記第2の1のとおり,「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決の謄本は,審決時の原告ら代理人弁理士に対し,平成26年3月25日に送達された(附加期間90日)。 審決時の原告ら両名代理人弁理士は,同年4月25日付けのレターにより,現地事務所に対し,審決の内容を報告した。なお,同レターには,原告ら両名のための訴訟委任状フォーム及び資格証明書フォームが同封されていた(丙8ないし12)。 エ これに対し,現地代理人事務所のローレン ディー.アルビン弁護士は,平成26年7月8日,原告ら両名が審決取消訴訟を提起することを指示する内容のメールを,審決時の原告ら代理人弁理士宛てに発信した(丙13)。 オ しかし,本件訴えにおける原告訴訟代理人の過誤により,原告の名称のみが記載された平成26年7月23日(出訴期間満了日)付け訴状が提出された。参加人は,同年8月1日,共同訴訟参加の申出をした。\n(2) 民訴法52条に基づく参加申出において,共同原告として参加する第三者は,自ら訴えを起こし得る第三者でなければならないと解されるから,出訴期間の定めがある訴えについては,出訴期間経過後は同条による参加申\出はなし得ないものと解するべきである(最高裁昭和35年(オ)第684号同36年8月31日第一小法廷判決・民集15巻7号2040頁参照)。そ して,特許法178条4項は,審決取消訴訟の出訴期間を不変期間と定めている。もっとも,不変期間であっても,参加人の責めに帰することができない理由で出訴期間内に訴訟の提起をなし得なかったときは,一定期間内に追完することができる(行訴法7条,民訴法97条1項)。 しかし,本件においては,上記(1)の経緯のとおり,本件申出は,出訴期間経過後になされたことが明らかであるところ,上記認定の経緯に照らしても,参加人において出訴期間内に訴訟の提起をなし得なかったことについて,その責めに帰することができない事由があったとは認めることができない。\nしたがって,参加人の本件申出は,不適法なものというほかない。
(3) また,特許を受ける権利の共有者が,その共有に係る権利を目的とする特許出願の拒絶査定を受けて共同で審判を請求し,請求が成り立たない旨の審決を受けた場合に,上記共有者の提起する審決取消訴訟は,共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解するべきである(平成7年判決)。 そして,前記(1)オによれば,本件訴えは,本願に係る特許を受ける権利の共有者の一部である原告のみによって提起されたものとみるほかない。 ところで,固有必要的共同訴訟において,共同訴訟人となるべき者が脱落している場合であっても,民訴法52条により脱落者が共同訴訟参加人として参加すれば,必要的共同訴訟における当事者適格の瑕疵は治癒されるものと解される。しかし,上記(2)の説示のとおり,本件申出は不適法であるから,本件においては,当事者適格の瑕疵を適法に治癒するものと解することはできない。\nしたがって,原告の本件訴えも不適法である。
(4) これに対し,原告らは,本件申出は,既に一部の共有者によって提起されている訴訟に加わる性質の訴訟行為であって,かつ,既に出訴期間内に提\n 訴された原告の請求と合一確定を求めるためのものであって,法的安定性を害するおそれもないし,訴訟遅延をもたらすものでもない,本件申出を肯定しても,特許を受ける権利という財産権が救われる一方で,誰かに何らかの不都合が生じることは想像できず,逆に,これを否定することによって,拒絶審決取消訴訟を固有必要的共同訴訟と解する立場における保護法益が守られるわけではなく,むしろ肯定した方がその保護法益にかなうなどと主張し,また,原告らは,平成17年知財高裁判決に基づき,本件申\出も適法である旨主張する(前記第3の1(1))。 しかし,前記(2)及び(3)に説示したとおり,原告らの上記主張は,いずれも,当裁判所の採用するところではない。 さらに,原告らは,平成14年判決がなされた以上,平成7年判決の理論は見直されるべきである旨主張するが(前記第3の1(2)),これも独自の見解であり採用の限りではない。

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平成26(行ケ)10068  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年1月28日  知的財産高等裁判所

 第1次取消判決の拘束力に抵触する判断をしたとして、審決が取り消されました。
 ・・・同審決は,甲1文献の表6中の試料1の記載内容を根拠として,甲1文献において「具体的に示されている発泡剤は,空気,CO2,HFC−245fa,HCFC−141b及びHFC−365mfcの初期体積分率(%)が,それぞれ,1.5,38.5,22.4,16.8及び20.8である混合気体」(以下「甲1混合気体」という。)であるとした上で,「(甲1文献に)具体的に示されている発泡剤組成物は,その成分として,代替物である「HFC−245fa」及び「HFC−365mfc」とともに「HCFC−141b」を依然として含有するものであって,この発泡剤組成物から,さらに熱的性能\,防火性能に優れる「HCFC−141b」を完全に除去することは,当業者が予\測できるとはいえない。」と結論付けたものである。これに対し,前記(2)イのとおり、第1次取り消し審決は、甲1文献には「オゾン層に悪影響を与えるHCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfc(特に,HFC−365mfc)を発泡剤としての使用が提案されていることが認められる」こと,これに対し、「HCFC−141bを,その熱的性能,防火性能\を理由として,依然として含有させるべきであるとの見解が示されているわけではないと解される」ことからすると,甲1文献の「HCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfcが好ましいとの記載から,混合気体からHCFC−141bを除去し,その代替物としてHFC−245faないしHFC−365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に予測できないとした審決の判断は,合理的な理由に基づかないものと解される」として,「甲1に記載された混合気体から,…発泡剤成分事項1又は…2を,当業者といえども容易に想到できないとした審決の判断は誤りである」と結論付けたものである。\nそうすると,第1次取消判決は,要するに,第1次審決が,甲1文献に示されているとする甲1混合気体からHCFC−141bを完全に除去することは,当業者が予測できるとはいえないと判断したのに対し,甲1文献に,HCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfcが好ましいとの記載があること,HCFC−141bを熱的性能\,防火性能を理由に依然として含ませるべきとの見解は示されていないことを理由に,甲1混合気体からHCFC−141bを完全に除去することは当業者が予\測できないとの第1次審決の判断は合理的理由に基づくものではなく,誤りであるとしたものであり,かかる認定判断部分が,同判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を成すものであるということができる。 よって,この認定判断部分が,第1次取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断に当たり,審判官は,再度の審判手続において,この取消判決の拘束力の及ぶ認定判断に抵触する認定判断をすることが許されないというべきである。

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平成26(行ケ)10249  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成26年12月10日  知的財産高等裁判所

本人訴訟で、被告を誤った提訴であるとして請求却下されました。興味深いのは、「原告には,行政事件訴訟法15条1項,40条に基づく被告変更の申立てを行う意思もない」というくだりです。こんな規定があるんですね。
 商標法63条2項の準用する特許法179条ただし書によれば,商標法50条1項に基づく商標登録取消請求に関する審決に対する訴えは,審判の請求人又は被請求人を被告としなければならない。したがって,原告が上記1記載の審決の取消しを求めて訴えを提起するのであれば,取消審判請求の請求人であるTAC株式会社を被告としなければならない。しかしながら,上記の当事者の表示欄のとおり,本件訴えの被告はTAC株式会社となっていない。そして,一件記録によれば,原告には,行政事件訴訟法15条1項,40条に基づく被告変更の申\\立てを行う意思もない。そうすると,本件訴えは,不適法でその不備を補正することができないものである。

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平成25(行ケ)10288  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年7月17日 知的財産高等裁判所

 無効審判で提出したDVDの証拠力について争われました。裁判所は、公然実施されたとした審決を維持しました。
 原告は,甲9号証の1のビデオ映像は重要な部分に関し編集された疑いがあり,その提出経緯も不自然であるから,甲9号証の1には証拠価値が認められないと主張する。 しかし,甲49号証によれば,甲9号証の1のDVDに収録された映像は,もともとビデオカセットに撮影された映像であるところ,甲45号証の映像が収録されていたのは8ミリビデオテープカセットであり,カセットの背面には,「スカーフジョインタ DATE:97.3.14サンテック用」とのラベルが貼り付けられている。甲46,47号証の映像が収録されていたのはデジタルビデオカセットであり,カセットの表\面には,それぞれ「97.3.14サンテックスカーフ」等,「97.6.17サンテックNo.1」と記載されたラベルが貼り付けられている。また,被告の説明によれば,甲9号証の1のビデオ映像は,平成9年10月29日から同年11月2日まで開催された第33回名古屋国際木工機械展において上映する目的等で製作したものであり,甲9の1本体映像には,不鮮明な部分があったため,甲45ないし47号証の映像を差し込んで,甲9号証の1の映像を作成したものとされている(甲119)。これらの作成経緯,差し込まれた甲45ないし47号証の原映像の保存状況,甲9号証の1の内容に照らせば,甲9号証の1の証拠価値を疑わせるような事情は見当たらず,原告の主張を採用することはできない。原告は,先行侵害訴訟や審決における提出経緯が不自然であると主張するが,原告の主張する事情が訴訟や審決の進行に照らして特段不自然なものとは認められないし,先行侵害訴訟において最初に証拠として提出した際に,編集の経緯について説明していなかったことをもって,証拠価値を疑わせる事情とは認められない。\n

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平成25(行ケ)10336 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成26年06月25日 知的財産高等裁判所

 判断自体は注目するようなものではないかもしれませんが、被告である特許庁長官に補助参加人がついてるというのが興味深いです。拒絶査定不服審判の審取に補助参加人がついたという判決は珍しいと思います。被告補助参加人はどうやってこの事件を知ったんでしょうか?、もしかしたら別途無効審判とかが提起されているのかもしれませんね。
第5 被告補助参加人の主張
1 引用商標の周知性に係る識別の対象について
(1) ラーメン店「三代目月見軒」の営業状況
ア 被告補助参加人がラーメン店「三代目月見軒」の経営に携わった経緯は,以下のとおりである。昭和33年に創業されたラーメン店「月見軒」が,二代目であるBの体調不良により20年余り休業した後,Dがレシピを受け継ぎ,平成5年頃,「三代目月見軒」という名称でラーメン店を再開した。同人は,長男である原告月見軒代表者と共に同店を経営してきたが,借金が増えて営業の継続が困難になった。他方,被告補助参加人代表\者は,平成15年5月16日に被告補助参加人を設立し,上記のとおりラーメン店「三代目月見軒」が経営難に陥っていたので,被告補助参加人において同年7月1日付けで同店の営業をDから譲り受けた。なお,甲3号証,すなわち,Dがアルコール離脱せん妄状態のために平成15年8月8日から入院治療を受けた旨が記載された証明書は,上記営業譲渡の当時においてDが常時せん妄状態で意思能力を欠いていたことを示すものではない。以後,現在に至るまで,被告補助参加人は,ラーメン店「三代目月見軒」の経営,広告・宣伝活動,物産展等デパートの催事への出展,お土産ラーメンの販売等の営業活動に継続的に従事し,自らが主体となって「三代目月見軒」の商標を使用しており,商域は日本全国に及ぶ。なお,被告補助参加人は,デパートにおける催事に関し,原告月見軒代表\者に対して催事手数料という名目で金員を支払っていたが,これは当該催事に備えた仕込み等の作業の対価である。イ ラーメン店「三代目月見軒」には,本店(札幌),札幌駅北口店,東京店及び平成17年出店の京都駅ビル店があり,本店,東京店及び京都駅ビル店は被告補助参加人の直営であるが,札幌駅北口店については原告アイズが営業に従事している。原告アイズが同店の営業に携わるようになった経緯は,以下のとおりであり,創業者一族からののれん分けによるものではない。すなわち,平成15年7月頃,被告補助参加人は,原告アイズの元代表者に対し,被告補助参加人による「三代目月見軒」営業の傘下に入ることを条件に,前述の営業譲渡により取得した「三代目月見軒」の商標及びレシピを使用してラーメン店を開業することを許諾した。その後,原告アイズの元代表\者は原告アイズを設立し,前記条件に従って札幌駅北口店を開業した。被告補助参加人は,開業に際して開店広告掲載の手続を行うとともに費用も負担し,また,原告アイズに生めんなどを卸していた。・・・

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平成22(ワ)39627  商標権 民事訴訟 平成26年03月26日 東京地方裁判所

 契約書に、フランスの裁判管轄についての規定があっても、それは、「付加的合意管轄についての定めである」として、我が国の裁判管轄を認めました。また、損害額について、過去の判例に基づき、「外国の通貨をもつて債権額が指定された金銭債権について,最終口頭弁論期日の外国為替相場によって日本の通貨に換算した額とする」と判断されました。
 本件契約における裁判管轄の合意は,解除による契約終了後においても効力を失わない,いわゆる訴訟契約として有効であることにつき,当事者間に争いがない。その上で,被告は,本件契約第14条における管轄合意は,国際的専属管轄の合意である旨主張する。国際的裁判管轄の合意の訴訟法上の効力については,法廷地である我が国の法律における解釈を前提とすべきであり,その合意は特定国の裁判所を管轄裁判所として明示的に指定する少なくとも当事者の一方が作成した書面に基づいて締結されれば足りるところ,ある訴訟事件について我が国の裁判権を排除し特定の外国の裁判所を第一審の専属的管轄裁判所と指定する国際的専属的裁判管轄の合意は,当該事件が我が国の裁判権に専属的に服するものではなく,かつ,指定された外国の裁判所がその外国法上当該事件につき管轄権を有する場合には,原則として有効であると解される(最高裁判所第三小法廷昭和50年11月28日判決・昭和45年(オ)第297号・民集29巻10号1554頁参照)。これを本件についてみると,本件契約における管轄合意条項は,「本契約に関する紛争又は本契約から生じる紛争は,本契約の当事者において友好的に解決するものとする。かかる解決が出来なかったときは,両当事者間の紛争は,フランス国パリの商事裁判所に提起するものとする。」とするものであり,本件訴訟における未払ロイヤルティの支払を含む債務不履行責任に関する紛争は我が国の裁判所が専属管轄を有するものではなく,かつ上記管轄合意条項により指定された裁判所が当該事件につき管轄権を有していると認めることができるから,本件契約における上記管轄合意条項は,裁判管轄の合意として有効であると解される。しかし,上記管轄合意条項が国際的専属管轄の合意であるか否かに関しては,上記管轄合意条項の規定は,文言上,フランス国パリの商事裁判所のみを残して,これを専属管轄裁判所とするものとも,また,我が国の裁判権を排除するなど他の裁判所の管轄権を排除するものともなっていないこと,原告は個人であるものの,商人間のフランチャイズ契約と認められる本件契約に関する紛争について,フランス国パリの商事裁判所は法定管轄を有する裁判所の一つであると解されるところ,フランス国においては,通常裁判所として我が国の地方裁判所に相当する大審裁判所のほかに,我が国に存しない商事紛争を管轄する特別の裁判所である商事裁判所が存することもあって,法定管轄裁判所の一つであるパリの商事裁判所にあえて付加的な裁判管轄の合意をしたものと解しても,当事者の合理的意思解釈として不相当とはいえないこと,さらに,本件契約の準拠法であるフランス法においても,フランス民事訴訟法48条は,「直接的又は間接的に土地管轄に関する定めに抵触するすべての条項は,記載なきものと見なす。ただし,その条項が商人の資格で契約したものの間で合意されており,かつ,それをもって対抗される当事者の契約書において非常に明白に特記されているときは,このかぎりではない。」と規定しており,本件契約の管轄合意について付加的合意管轄の定めであると解しても,特段問題は生じない。以上の点を総合考慮すると,本件契約における管轄合意は,我が国の裁判管轄を排除するものではなく,付加的合意管轄についての定めであると解するのが相当である。以上の検討によれば,原告の主張する管轄利益の放棄の点について判断するまでもなく,本件は,被告の普通裁判籍所在地を管轄する東京地方裁判所に提起されたものであるから,適法であるということができる。
・・・
以上のとおり,被告は,原告に対し,まず,平成22年1月分までの未払ロイヤルティとして17万4680.91ユーロの支払義務を負うが,外国の通貨をもって債権額が指定された金銭債権については,債権者は債務者に対して外国の通貨又は日本の通貨のいずれによってもこれを請求することができるところ,外国の通貨をもつて債権額が指定された金銭債権について日本の通貨により裁判上の請求がされた場合,その債権額は,事実審の最終口頭弁論期日の外国為替相場によって外国の通貨を日本の通貨に換算した額とするのが相当である(最高裁判所第三小法廷昭和50年7月15日判決・昭和48年(オ)第305号・民集29巻6号1029頁参照)。これを本件において検討すると,本件においては,上記のとおり債権はユーロ建てであり,本件口頭弁論終結時の円の対ユーロレートは約142円であると認められる(甲42,平成26年1月15日のレート)から,原告が平成22年1月分までの未払ロイヤルティとして請求する額である2240万6320円を下回ることはない。よって,上記金額を認容することとし,遅延損害金の起算点については,催告後相当期間を経過した,原告の請求する平成22年4月23日とすべきである。

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平成25(ネ)10017等 特許権侵害行為差止請求控訴,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 平成26年03月26日 知的財産高等裁判所

 1審では、発明1については技術的範囲に属する、発明2については技術的範囲に属しないと判断されました。控訴審にて、原告は、発明2について均等を追加主張しました。発明2については均等侵害が認められました。また、原告の均等の追加主張も時期に後れた抗弁には該当しないと判断されました。 ただ、発明1について無効と判断され、全体としての損害額が減額されました。
 さらに,掬い上げ部材について,本件訂正明細書2には,「尚,該板状の掬い上げ部材5c1及び5c2の傾斜角度は,図示の例では,回転軸5aの中心軸線に対し20°傾斜せしめたものを示したが,一般に10°〜80°の範囲が採用できる。」(段落【0015】)と記載されているから,回転軸5aの中心軸線に対して10°〜80°の傾斜があれば足り,その傾斜角は一定でなければならないものではない。すなわち,回転軸5aの中心軸線に対する角度が小さくなればなるほど,走行方向に対し直交する長矩形の板状で構成される従来の掬い上げ部材に近いものとなり,掬い上げの効果は大きくなる一方,堆積物の外側への拡散が増大するが,回転軸5aの中心軸に対する角度が大きくなると,掬い上げの効果は小さくなるが外側への拡散を防止できることとなるものと推測されるところ,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材において,これらの角度は適宜選択できるものとなっているから,V字状のみに限定されず,より頂点への角度が緩やかな逆への字状のもの等も含まれる。また,段落【0006】には,「本発明のパドルの変形例として,図5に示すようなパドル5b″に構\成しても良い。すなわち,先の実施例のそのV字状の傾斜板5c1及び5c2の一端部を当接し,互いに直接溶接する代わりに,その両傾斜板5c1及び5c2の一端部間を適当な距離離隔し,そのスペース内に板状などの補強梁5jを介在させ,その両端部を傾斜板5c1及び5c2の一端部とを溶接し,その前後一対の板状の掬い上げ板部5c1及び5c2はハの字状に対称的に傾斜した傾斜板に構成しても良い。」との記載もあり,必ずしもV字状の掬い上げ部材に限られるものではないことが明らかである。さらに,段落【0009】には,「また,その本発明のパドル5b′の夫々の傾斜板5c1及び5C2は長矩形状とし,同一形状,寸法であることが一般であり好ましく,また,通常のパドル5bの板状掬い上げ部材5cと同一形状,寸法であることが一般であるが,これに限定する必要はない。また,その各傾斜板5c1及び5C2の長さ又は高さ寸法は所望に設定される。」と記載され,しかも,本件発明1の掬い上げ部材について,本件明細書1の段落【0005】に「その先端には堆積物を掬い上げる板状,爪状などの掬い上げ部材5cを有し,その回転により堆積物の撹拌とその正転,逆転による往復動撹拌を行う作用を有する。」と記載されているから,堆積物を掬い上げるための形状も,平面な「板状」に限られるものではない。\n
(ウ) 以上に照らせば,堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解消するために,前後一対の板状の掬い上げ部材が,それぞれ回転軸の軸方向に対し所定角度内側(オープン式発酵槽の長尺壁の方向)を向くようにし,掬い上げ部材の内側に向いて傾斜した部材の外側が,その前方に堆積する堆積物の長尺開放面側の外端堆積部に当接し,斜め内側に向けてこれを掬い上げるよう,傾斜板を所定角度内側に向けて配置したことが,本件訂正発明2を基礎付ける特徴的部分であると認められる。そして,本件訂正発明2の攪拌機は,往復動走行に伴って正又は逆回転するものであることから,掬い上げ部が外端堆積部に当接する場合は,回転軸に直交する前後方向のいずれの場合もあり得ることから,そのいずれの場合においても,堆積物を掬い上げる必要があり,そのために,掬い上げ部材を前後にかつ前後方向に対し傾斜させて配置し,その前側の傾斜板の外面は斜め1側前方を向き,その後側の傾斜板の外面は斜め1側後方を向くように配向させて配設されたものと認められる。そうすると,掬い上げ部材が前後の両方向に傾斜されて配置されるとの構成も,本件訂正発明2を基礎付ける特徴的部分であるといえる。これに対して,本件訂正明細書2には,掬い上げ部材が2枚であることの技術的意義は,何ら記載されておらず,前記のとおり,傾斜板の外面が正又は逆回転時のそれぞれにおいて,外端堆積部に当接することが重要であるから,本件発明2の掬い上げ部材が2枚で構\成されることに格別の技術的意義があるとはいえず,本件訂正明細書2に記載されるように2枚の部材を直接溶接してV字状を形成することと,1枚の部材を折曲してV字状を形成することとの間に技術的相違はないから,この点は本質的部分であるとはいえない。また,前記のとおり,前後に傾斜させる角度が,回転軸5aの中心軸線に対して10°〜80°の角度であればよく,逆への字状が含まれることや,掬い上げる部材としても,平面な板状に限定されず,外端堆積部に当接して内側に掬い上げることができればよいことに照らすと,掬い上げ部材が,平面な板状で構成されていることも,本質的部分であるとはいえない。そうすると,上記アで述べた,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材が「2枚の板状の部材を傾斜させて配置されるもの」に対し,ロ号装置の掬い上げ部材105dは,「半円弧状の形状を有する1枚の部材から構\成されたもの」であるとの相違点は,本質的部分に係るものであるということはできない。
・・・・
原告日環エンジニアリングによる均等侵害の主張は,原判決において本件発明2の文言侵害が認められなかったことを受けて,平成25年5月23日に行われた当審の第1回口頭弁論期日以前に提出された同年4月30日付けの附帯控訴状において均等侵害に該当する旨が記載され,同年5月16日付け準備書面において均等侵害の5要件に関する主張が記載されていたものであり,その内容は,新たな証拠調べを要することなく判断可能なものであり,訴訟の完結を遅延させるものとはいえない。したがって,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下はしない。なお,被告が,原告らが,原審において,請求原因を明確にせず,被告及び裁判所から1年間にわたり請求原因の補充を促され続けたことにより遅延した旨主張する部分については,仮にそのような事実があったとしても,上記判断を左右するものでない。\n

◆判決本文

◆原審:平成25年01月31日 東京地裁 平成21(ワ)23445

◆関連審取はこちら 平成25(行ケ)10105

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平成25(ワ)13223 実用新案権 平成25年10月18日 東京地方裁判所

 原告が全面的に敗訴した前々訴の請求及び主張の蒸し返しに当たるとして、損害賠償請求が却下されました。
 一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり,債権の特定の一部を請求するものではないから,請求の当否を判断するためには,おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。数量的一部請求を全部棄却する旨の判決は,債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,当該債権が全く現存しないとの判断を示すものであって,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならないから,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した判決が確定した後に,原告が残部請求の訴えを提起することは,実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものとして,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないというべきである。そして,この理は,訴訟物を異にするものの,債権の発生原因として主張する事実関係がほぼ同一であって,前訴等及び本訴の訴訟経過に照らし,実質的には敗訴に終わった前訴等の請求及び主張の蒸し返しに当たる訴えにも及び,その訴えも同様に信義則に反して許されないものというべきである(上記平成10年最判参照)。これを本件についてみると,前々訴は,被告が製造・販売しているテレホンカードの構成につき,「カード式公衆電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードで,縦の辺が横の辺に比して短い長方形であって,表\裏ともに一様に平坦で,その一短辺には,その中央から一側に偏った位置に,一つあるいは二つの半月状の切欠部が形成されており,この切欠部に手,指で触れることにより,カードの表裏及び差込方向の確認をすることができるもので,この内,使用度数が五〇度数のものは切欠部が二個あり,使用度数が一〇五度数のものは切欠部が一個ある」としていたところ,これは本件訴えにおける被告製品の構\成を含むものである。そして,前々訴は,その被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提として,昭和59年9月5日以降,10年分の被告製品の販売にかかる不当利得の返還を求めたものであり,本件訴えは,被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提として,平成8年2月21日から平成11年9月5日までの仮保護に基づく損害賠償請求であるとするところ,訴訟物を異にするものとしても,被告製品が本件考案の技術的範囲に属することにより,原告の有する本件実用新案権が侵害されたことについては,主張立証すべき事実関係はほぼ同一であって,被告製品は本件考案の技術的範囲に属しないことを理由として原告が敗訴した前々訴の訴訟経過に加え,前訴及び本件訴えの訴訟経緯にも照らすと,本件訴えは,被告製品が本件考案の技術的範囲に属しないとして原告が全面的に敗訴した前々訴の請求及び主張の蒸し返しに当たることが明らかである。そうすると,本件訴えは,信義則に反し許されず,これを許容する特段の事情がない限り,不適法として却下すべきこととなる。

◆判決本文

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平成24(ネ)10093 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成25年08月09日 知的財産高等裁判所

 侵害訴訟の控訴審です。地裁では特許権侵害が認定されました。被告が控訴しましたが、控訴棄却されました。被控訴人の追加主張について、時期に後れた抗弁について、却下はされませんでした。
 被控訴人は,控訴人の本件防御方法の提出が時機に後れたものである旨主張する。しかし,本件防御方法のうち,当判決における第2の2(4),(6)及び(9)記載の主張は,既に提出済みの証拠に基づき判断可能なものであるし,同3(1)ア記載の主張についても,直ちに取調べの可能な書証及び既に提出済みの証拠に基づき判断可能\なものである。さらに,当裁判所は,平成25年6月10日の当審第2回口頭弁論期日において,弁論を終結したものである以上,本件防御方法の提出が「訴訟の完結を遅延させる」(民訴法157条1項)ものとはまでは認め難い。よって,本件防御方法を時機に後れたものとして却下する必要はない。

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成23年(ワ)第24355号

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平成24(ネ)10023 製造販売禁止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年11月29日 知的財産高等裁判所

 秘密保持命令について付言がなされています。
 (2) 本件訴訟では原審で秘密保持命令が発令されているが,秘密保持命令に係る手続に関し,以下の2点について付言する。
ア 第1に,控訴人は,その代表者等において秘密記載文書(乙8の1・8の2)を閲覧できなかったことについて問題がある旨主張する。しかし,秘密記載文書については,閲覧等の制限(民事訴訟法92条1項)など秘密保護の規定が存するものの,「当事者」(当事者の法定代理人を含む。)に関する限り,秘密保持命令の発令に至るまでの協議の過程で,当該当事者が営業秘密の開示を受けないことが合意されていたような特段の事情が存在する場合を除き,その閲覧(同法91条1項)が制限されることはない。そこで,特許法は,特許法105条の6第1項所定の「当事者」(民事訴訟法92条1項の「当事者」と同義と解される。)から秘密記載部分の閲覧請求がされた場合に,その者が秘密保持命令を受けていない者であるときは,秘密保護を要する当事者のために,所定の期間を設けて秘密保持命令を申\し立てる機会を付与している(同条2項参照)。本件においても,控訴人代表者は控訴人の法定代理人であると解されるから,かかる特段の事情がない限り秘密記載文書の閲読が許されるのであり,控訴人の指摘は当たらない。イ 第2に,本件訴訟では,準備書面等に,秘密記載文書の写しが添付されている。しかし,このような営業秘密に関する安易な取扱いは,秘密漏洩を防止するための記録管理をいたずらに煩雑にさせ,また,漏洩の危険性を著しく高めることになる。準備書面等に営業秘密の内容に言及する場合には,営業秘密の内容を準備書面等に転記するような方法を避けた,秘密記載文書(原本)における掲載箇所(開始頁及び行と終了頁及び行、図面の番号)の特定にとどめるなどの工夫をすることにより,営業秘密が拡散することのないよう,配慮をすべきである。

◆判決本文

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平成23(行ケ)10333 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年07月25日 知的財産高等裁判所

 拒絶審決が維持されました。1つの争点が、先の判決の拘束力です。
 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理,審決をするが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理,審決には,同法33条1項の規定により,取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,当事者が取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返しあるいはその主張を裏付けるための新たな立証を許すべきではなく,取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできない(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
イ これを本件についてみると,前判決は,前審決が認定した引用例1に記載された発明(本件審決が認定した引用発明と同じものである。)を前提として,前審決が認定した相違点5(本件審決が認定した相違点5と同じものである。)に係る本件発明1の構成のうち,切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,fh<7,fp≦5のとき,0.5<L≦7(単位:mm),fh<7,5<fpのとき,0.5<L≦1(単位:mm),7≦fh,fp≦5のとき,0.5<L≦4.5(単位:mm),又は,7≦fh,5<fpのとき,0.5<L≦1.5(単位:mm)とする構成についても,X=de×L0.14/fh0.18としたときに,相当円直径de及び切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,粒子状物質がインナーフィンに堆積することを抑制するために,1.1≦X≦4.3を満足する大きさになるという構\\成についても,引用発明との間に相違はないと判断して,引用発明に基づいて容易に発明することはできないとした前審決を取り消したものであるから,少なくとも,引用発明の認定及び相違点5に係る判断について,再度の審決に対する拘束力が生ずるものというべきである。また,前判決は,引用発明から算出した関数Xは,本件発明2のXの数値範囲(1.2≦X≦3.9)及び本件発明3のXの数値範囲(1.3≦X≦3.5)についても充足することを示した上で,本件発明2及び3についても,これを容易に発明することができないとした前審決を取り消したものであるから,前判決は,本件審決が認定した相違点6に係る本件発明2の構成についても,相違点7に係る本件発明3の構\\成についても,本件発明1と同様に,引用発明との間に相違はないと判断したものということができる。したがって,前判決のこれらの判断についても再度の審決に対する拘束力が生ずるものというべきである。以上によれば,本件審決による引用発明の認定並びに相違点5ないし7に係る判断は,いずれも前判決の拘束力に従ってしたものであり,本件審決は,その限りにおいて適法であり,本件訴訟においてこれを違法とすることはできない。

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平成23(ネ)10057 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年08月09日 知的財産高等裁判所

 104条の3によって権利行使不要との判断が維持されました。時期に後れた抗弁にも該当しないと判断されました。
 本件は,被告製品が本件特許の技術的範囲に属することについては当事者間に争いがなく,本件特許の無効事由の存否が主たる争点である。原審において,被告は,乙1資料及び乙5公報を主引例とする進歩性欠如等の主張をした(乙5公報には純度99.8パーセントのプラバスタチンナトリウムを得たとの実施例が記載されていたものの,本件特許に記載の製造方法については何らの言及がされていないものである。)。原審は,平成23年7月28日に,被告の主張を採用して,原告の請求を棄却した。
 (イ) 原告は,本件控訴を提起した。ところで,原告は,訴外協和発酵キリン株式会社に対して,本件特許権に基づき,特許権侵害訴訟を提起し,同事件の控訴審が大合議事件となった。当審では,大合議事件の審理等を優先することとし,当審での第1回口頭弁論期日を平成24年4月12日と指定した(その間,被告は,平成23年12月9日に,控訴状に対する答弁書を提出したが,答弁書においては,乙13公報を主引例とする進歩性欠如の無効理由の主張はされていない。)。
 (ウ) 平成24年1月27日,大合議事件において判決の言渡しがされた。その後,当審において同年4月12日に実施した第1 回口頭弁論期日において,被告は,本件特許には,乙13公報を主引例とする進歩性欠如の無効理由が存在する旨主張をした。
 イ 判断以上の経緯に照らし,時機に後れた攻撃防御方法に当たるか否かについて判断する。「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合の発明の要旨認定に関し,原審では,「製造方法」に限定されないとの理解を前提とした審理がされていた。そのような原審の審理を前提として,被告は,より純度の高いプラバスタチンナトリウムについての記載がある乙5公報を主引例とする無効理由を挙げて無効の抗弁をした。しかし,大合議事件判決において,本件発明の要旨の認定について,「製造方法」に限定される旨の判断がされたことから,被告は,当審の第1 回弁論期日において,同一の製造方法が開示された乙13公報に基づく無効事由を主張した。このような経緯に照らすならば,被告が上記の主張をしたことに合理性を欠く点はなく,また時機に後れたと解することもできない。よって,被告の主張が時機に後れているとの原告の主張は採用できない。

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平成22(ワ)26341 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年05月23日 東京地方裁判所

 化粧品について3億円を超える損害賠償が認められました。あとで提出した証拠は、時期に後れたとして、採用却下されました。また、売上高、実施料率などは全て伏せ字になってます。ただ、60億円までは達していないことは、下記の記載から読み取れます。
 裁判所は,平成23年5月31日の第5回弁論準備手続期日において,原告及び被告から,本件の侵害論に関する主張立証は終了した旨を聴取した上で,侵害論に関する審理を終結し,本件に関する裁判所の見解を示して和解を勧告するとともに,損害論に関する審理に入ったものであり,被告の上記準備書面(6)及び(7)は,損害論の審理が相当程度進行した時点で提出されたものである。加えて,被告が,平成22年11月5日付け被告準備書面(1)において,乙2の1文献に基づく無効理由を主張し,同日付けで,上記準備書面におけるものと同様の無効理由に基づき無効審判を請求している(乙3)ことも考慮すると,被告は,平成23年5月31日の上記弁論準備手続期日までの間に,上記補足主張をすることが可能であったというべきであるから,被告が上記(ア)のとおり行った補充主張及び書証(乙32ないし37号証,53号証)の提出の申し出は,重大な過失により時機に後れてなされたものであり,また,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることが明らかである。なお,被告は,損害論に入った後であっても,明白な無効原因があるときには,同無効原因を追加主張することは時機に後れた攻撃防御方法に当たらないところ,特許庁において無効審決がなされた場合には,明白な無効原因があるものとみるべきである旨主張する。しかし,乙2の1発明に基づく無効理由に関する当裁判所の判断,とりわけ前記5 (2)ウ及びエでみたところを考慮すれば,被告の補足主張によっても,本件各発明に明白な無効理由があるとは考えられず,これは,特許庁において無効審決がなされていることを考慮しても同様であるから,被告の当該主張を採用することはできない。したがって,民訴法157条1項に基づき,上記補足主張並びに乙32ないし37号証及び乙53号証の提出の申し出はこれを却下する。\n
 原告は・・・売上高は61億0964万円を下回らないと主張する。しかし,上記書証は,「商品別日別/月別売上照会」をデータ出力したものとして提出されたものであり,注文数量,注文金額等を黒塗りしたものではあるが,その体裁,内容等をみても,その信用性を疑わせるべき事情は直ちには見当たらない。また,証拠(甲43,44)によれば,被告のクレンジングオイル売上高は,平成21年において60.5億円,平成22年において59.5億円であることが認められるが,被告が,被告各製品のほかにも「薬用ディープクレンジングオイル」等のクレンジングオイル製品を販売していることにかんがみれば,被告の開示する金額が信用できないものということはできない。したがって,この点に関する原告の主張は採用できず,被告製品1及び被告化粧品セットの売上高については上記(ア)ないし(カ)のとおりであると認められる。

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平成21(ワ)31535 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年04月27日 東京地方裁判所

 訴訟物は異なるとはいえ、実質的に,同一の争いを繰り返すものであるとして、請求棄却されました。サポート要件違反などの無効理由もありと認定されました。
 前訴と本訴では,原告の請求権を基礎付ける特許権はいずれも本件特許権で同一であるが,前訴は本件特許権に基づく前訴マウスの使用等の差止請求権を訴訟物とするもので,前訴の確定判決により既判力が生じるのは,前訴の控訴審の口頭弁論終結時である平成14年7月9日における上記請求権の存否であるのに対し,本訴は前訴控訴審判決が確定した平成15年3月25日から本訴の提起日までの間における被告の本訴マウスの使用等による本件特許権侵害の不法行為又は共同不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とするものであって,前訴と本訴では訴訟物が異なり,前訴の既判力が本訴に直接に及ぶものではない。
・・・・
イ(ア) 他方で,本訴と前訴は,いずれも本件発明の構成要件Bの充足性が争点となり,その具体的な争点が,構\成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」の解釈及び各マウスのその構成の充足性である点では共通している。もっとも,前訴マウスと本訴マウスとでは,前記アのとおり,構\成が異なる部分があるが,ヌードマウスの皮下で継代したヒト腫瘍組織塊が同所移植された点では共通するので,上記構成が異なる部分があることが,上記争点の判断の結論に影響を及ぼすものではない。そして,前訴1審判決及び前訴控訴審判決は,上記争点について,構\成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」は,ヒト器官から採取した腫瘍組織塊そのもののみならず,ヌードマウスの皮下で継代した腫瘍組織塊を含むと解すべきであるとした原告の主張を排斥し,前訴マウスの構成要件Bの充足性を否定する判断を示し,原告の請求及び控訴をそれぞれ棄却したものである。ところが,原告は,本訴において,上記争点について,前訴でした主張と同様の主張を行い,本訴マウスが構\成要件Bを充足し,ひいては本件発明の技術的範囲に属する旨主張している。前訴1審判決及び前訴控訴審判決が示した構成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」についての解釈は判決における理由中の判断であって,本訴はもとより,前訴においても既判力の対象となるものではないが,本訴において,原告が構\成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」の解釈を再び争い,本訴マウスが本件発明の技術的範囲に属すると主張することは,前訴の判決によって原告と被告との間で既判力をもって確定している前訴マウスの使用等による本件特許権に基づく差止請求権の不存在の判断と矛盾する主張をすることに帰し,実質的に,同一の争いを繰り返すものであるといわざるを得ない。
・・・・
以上の(ア)ないし(ウ)を総合すると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願の優先権主張日当時の技術常識に照らし,当業者が,ヌードマウスでの皮下継代を経た脳以外のヒト器官から採取したヒト腫瘍組織塊が同所移植された本件発明のモデル動物がヒト腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る能力を有するモデル動物を作成するという本件発明の課題を解決できることを認識できるものと認めることはできない。したがって,本件発明の特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合しないというべきである。\n

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平成22(ワ)40331 特権侵害差止等請求事件 平成23年11月30日 東京地方裁判所 

 技術的範囲には属するものの、特許法104条の3により権利行使不能と判断されました。原告の訂正主張について、「審判請求していないという理由で主張の提出自体が許されないわけではない」と言及したものの、「その主張か時期に後れた防御である」として認められませんでした。
 原告は,無効理由4に係る被告の無効主張は時機に後れた攻撃防御方法であるから却下すべきと主張する。しかしながら,当該無効主張は,平成23年7月13日の第4回弁論準備手続において,同月12日付け被告準備書面(4)をもってなされたものであるところ,同時点では,いわゆる二段階審理における侵害論についての審理中であったから,当該無効主張についての審理がなければ直ちに弁論を終結できる段階になく,上記無効主張により訴訟の完結を遅延させることになるものとは認められない。原告は,無効審判請求の審理が終結した後に新たに無効主張を追加することは,侵害訴訟と審決取消訴訟におけるいわゆるダブルトラック問題を引き起こすと指摘するが,上記無効主張により訴訟の完結を遅延させることになるものと認められないことは上記のとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。
 3 訂正を理由とする対抗主張について
原告は,平成23年9月22日付け原告第6準備書面をもって,本件訂正発明には無効理由がなく,かつ,被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属すると主張し,これに対し,被告は,原告の上記主張は,時機に後れた攻撃防御方法であるから却下されるべきであると主張する。そこで検討するに,原告の上記対抗主張は,前記平成23年7月12日付け被告準備書面(4)をもってなされた無効理由2〜4に対するものであるところ,受命裁判官は第5回弁論準備手続期日(同年8月5日)において,原告に対し,上記無効理由についても審理するので,これに対する反論があれば次回までに提出するよう促し,反論の機会を与えたにもかかわらず,原告は,第6回弁論準備手続期日(同年9月9日)までに上記対抗主張をすることなく,同期日で弁論準備手続を終結することについても何ら異議を述べなかったものである。無効理由2及び3は,いずれも既出の証拠(乙2及び乙3)を主引用例とする無効主張であり,無効理由4も,平成14年5月20日付け特許異議申立てにおいて既に刊行物として引用されていた乙6に基づくものであるから,原告は,上記無効理由の主張があった第4回弁論準備手続期日から弁論準備手続を終結した第6回弁論準備手続期日までの間に対抗主張を提出することが可能\\であったと認められる(原告は,乙6に基づく無効理由4を回避するために訂正請求を行うことができるのは第2次無効審判請求の無効審判請求書副本の送達日である平成23年8月19日から答弁書提出期限である同年10月18日までの期間のみであると主張するが,本件訴訟において対抗主張を提出することはできたものというべきである。原告は,対抗主張が認められる要件として現に訂正審判の請求あるいは訂正請求を行ったことが必要とする見解が多数であるとも主張するが,訂正審判請求前又は訂正請求前であっても,訴訟において対抗主張の提出自体が許されないわけではなく,理由がない。)にもかかわらず,これを提出せず,弁論準備手続の終結後,最終の口頭弁論期日になって上記対抗主張に及ぶことは,少なくとも重大な過失により時機に後れて提出したものというほかなく,また,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることも明らかである。

◆判決本文

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平成23(ネ)10004 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成23年11月30日 知的財産高等裁判所

 用語「車載」が争われたナビゲーション特許について、原告は、控訴審で、均等侵害を追加しました。文言侵害については、1審と同じく否定され、均等侵害についても、置換可能でないとして、否定されました。
 原告の上記予備的主張は,控訴審において新たに提出された攻撃方法であり,時機に後れたものと評価されるべきであるが,その点はさておいても,原告の予\備的主張は,以下のとおり失当である。すなわち,本件各特許発明における「車載ナビゲーション装置」における「車載」の意義は,前記のとおり,車両が利用されているか否かを問わず,車両に積載されて,常時その状態に置かれていることを意味する。このような状態に置かれていることにより,ユーザは,ナビゲーションの利用を欲したにもかかわらず,持ち込みを忘れるなどの事情によって,その利用の機会を得られないことを防止できる効果がある。これに対して,被告装置は,前記のとおり,端末等は携帯(保持)されているものであるから,ユーザは,端末等を車内に持ち込まない限り,車両用のナビゲーション装置としては利用することができない。したがって,本件各特許発明における構成要件「車載ナビゲーション装置」を被告装置の「送受信部を含んだ携帯端末」に置換することによって,本件各特許発明が「ナビゲーション装置が車載されたこと」としたことによる課題解決を実現することはなく,本件各特許発明において「車載ナビゲーション装置」としたことによる作用効果が得られず,結局,本件各特許発明の目的を達することができない。以上のとおりであり,被告装置におけるユーザにおいて保持する本件携帯端末が,本件特許発明1の構\成要件1−A及び1−F,本件特許発明2の構成要件2−A及び2−H所定の「車載ナビゲーション装置」と均等であるとする原告の主張は採用できない。\n

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成21(ワ)35184平成22年12月06日東京地裁

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平成23(行ケ)10150 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成23年10月24日 知的財産高等裁判所

 第1次審取にて、公序良俗違反と認定され、差し戻された審決で同様の判断がなされ、それについて、実質的に理由で審決の取消を求めました。裁判所は拘束力により、原告の主張を退けました。
・・前述した前判決の認定判断に照らすと,前判決の拘束力は,被告の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものであり,出願当時,引用商標及び標章「ASRock」が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するとの認定判断について生ずるものというべきであるから,「被請求人の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められるから,・・・,出願当時,引用商標及び標章『ASRock』が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は『公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標』に該当するというべきである。」とした本件審決の認定判断は,上記前判決の拘束力に従ったものであることが明らかである。そうすると,本件訴訟において原告の主張する本件審決の取消事由は,前判決の拘束力に従った本件審決の上記認定判断が誤りであると主張することに帰着するものであるから,それ自体失当というべきである。

◆判決本文

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平成20(許)36 秘密保持命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成21年01月27日 最高裁判所第三小法廷

 かなり前の事件ですが、挙げておきます。仮処分事件にて秘密保持命令の申し立てを認めなかった原審を破棄自判しました。
 特許権又は専用実施権の侵害差止めを求める仮処分事件は,仮処分命令の必要性 の有無という本案訴訟とは異なる争点が存するが,その他の点では本案訴訟と争点 を共通にするものであるから,当該営業秘密を保有する当事者について,上記のよ うな事態が生じ得ることは本案訴訟の場合と異なるところはなく,秘密保持命令の 制度がこれを容認していると解することはできない。そして,上記仮処分事件にお いて秘密保持命令の申立てをすることができると解しても,迅速な処理が求められ\nるなどの仮処分事件の性質に反するということもできない。 特許法においては,「訴訟」という文言が,本案訴訟のみならず,民事保全事件 を含むものとして用いられる場合もあり(同法54条2項,168条2項),上記 のような秘密保持命令の制度の趣旨に照らせば,特許権又は専用実施権の侵害差止 めを求める仮処分事件は,特許法105条の4第1項柱書き本文に規定する「特許 権又は専用実施権の侵害に係る訴訟」に該当し,上記仮処分事件においても,秘密 保持命令の申立てをすることが許されると解するのが相当である。\n

◆判決本文

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平成21(行ケ)10381 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年11月30日 知的財産高等裁判所

 無効審判が請求棄却され、審決取消訴訟に継続中に、別途、特許権者が訂正審判を請求して、訂正が確定した場合に、裁判所は訂正後の発明について無効理由を判断できるかが争われました。また、進歩性については無効理由無しとした原審決と同じ判断をしました。
 当事者双方は,訂正後の発明に基づいて審判請求に係る無効理由の有無を審理判断することを求めているので,まずその当否について検討する。特許庁がなした無効不成立の審決(したがって無効審決は除かれる。)の取消訴訟係属中に特許請求の範囲の減縮を内容とする訂正審決が確定した場合,訂正後発明との関係で上記無効理由の有無が訂正審決において実質的に特許庁の判断が示されており,かつ当事者双方が訂正後発明との関係で裁判所が無効理由の有無につき審理判断することに異議がないときは,裁判所は,相当と認める限り,訂正後発明につき改めて特許庁の特許無効審判の判断を経る必要があるとして原審決を取り消すことなく,訂正後発明との関係における無効理由の有無を判断することができると解される。そこで,以上の見地に立って本件をみると,本件訴訟は,前記のとおり原告らがなした前記無効理由1ないし3に基づく特許無効審判請求につき特許庁がなした請求不成立を内容とする(原)審決の取消しを求める訴訟である。また,その後なされた訂正審決は,別添審決写し(2)(乙2)記載のとおりであって,その内容は,訂正審判における関係無効審判請求人として原告らから提出された上申書において特許法29条関連で前記引用例1,2を含む多数の証拠が引用されたことから,これらを含めて訂正後の発明の独立特許要件を特許法29条及び29条の2の観点から5人の審判官により詳細に検討したものであって,訂正後の発明につき本件無効審判請求における無効理由2及び3(いずれも特許法29条2項に関するもの)について実質的に特許庁の判断を示したものと認めることができる(原告らは,無効理由1に対する原審決の判断については本訴において取消事由として主張していない。)。そして,訂正後の発明につき審判請求に係る無効理由2,3の有無を当裁判所が審理判断することにつき当事者双方が異議を述べない旨陳述していることは,前記のとおりである。そうすると,上記のような事情が認められる本件にあっては,訂正後の発明について改めて上記無効理由2及び3について判断させるまでもなく,当裁判所が訂正後の発明を前提として無効理由の有無を審理判断することができると認めるのが相当である。そこで,進んで訂正後の発明(訂正発明)を前提として,原告ら主張の無効理由の有無を検討する。
・・・
上記(イ),(ウ)のとおり,甲3,甲4は,いずれも注射針がその役割を果たした後に,中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術であるといえるが,医療関係者が使用後の患者の血液等で汚染された針に触れて感染することを防止するという意味における,安全のためのものではない。ところで,本件の無効理由2における周知技術に関する原告ら(無効審判請求人)の主張は,「カニューレまたはカテーテルの分野において,カニューレまたはカテーテルを挿入するための注射針がその役割を果たした後には安全のため,注射針を中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術は周知であった」(無効審判請求書[甲39]の13頁29〜32行)ことを前提とし,「引用発明1においては,使用後にニードルを中空ハンドルに収納する際に,中空ハンドルを移動させるものであり,ニードルを移動させるものではないが,・・・周知の技術であったから,・・・ニードルハブを中空なハンドルに対して移動させるようにすることは当業者が適宜選択し得る設計的事項に過ぎない」(甲39の17頁4〜11行)というものである。前記(3)のとおり,甲1発明において,使用後にニードル(針)を中空ハンドル(さや)に収納する際,中空ハンドル(さや)を移動させるのは,医療関係者が使用後の患者の血液等で汚染された針に触れて感染することを防止するためである。仮に,注射針を中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術が周知であったとしても,その目的や意義が甲1と異なる場合には,これをそのまま甲1に適用することが容易であるとはいえないため,原告ら主張の「安全のため」の意味についても,甲1発明の目的に即して理解するのが合理的である。そして,甲3及び甲4は,医療関係者が使用後の患者の血液等で汚染された針に触れて感染することを防止するという意味における「安全」を目的としたものではないから,審決はこの意味において,原告ら(無効審判請求人)の主張する周知技術は認められないとしたものと解され,審決の同認定に誤りがあるとはいえない。

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平成22(ネ)10040 所有権確認等,特許権移転登録手続等反訴請求控訴事件 その他 民事訴訟 平成22年11月30日 知的財産高等裁判所

 時機に後れた攻撃防御方法であると判断されました。
 当裁判所は,原審第10回弁論準備手続期日(平成21年5月25日)の後に提出された対象攻撃防御方法を,時機に後れた攻撃防御方法として却下した原審の証拠採否の判断に違法はないと解する。その理由は,以下のとおりである。
ア 原告は,対象攻撃防御方法の提出は時機に後れていないと主張する。しかし,原告の主張は,採用できない。すなわち,記録によれば,原審において,平成21年3月25日の第8回弁論準備手続期日に原告が陳述した原告準備書面(6)には「訴状,原告準備書面(1)〜(6)(各訂正書を含む。),反訴答弁書にて,本件本訴・本件反訴につき,主張・立証を尽くした。」と記載されていること,同年4月22日の第9回弁論準備手続期日に,受命裁判官が,本訴・反訴を通じ,原告,被告プランテックの書面提出期限を同年5月20日とし,被告らについて,原告の主張に対する反論の補充があれば同日までに提出するよう述べ,同月25日の第10回弁論準備手続期日に原告が陳述した原告準備書面(7)には,本件訴訟の争点につき,「SHI(判決注原告を指す。)は,原告準備書面(6)の全部,原告準備書面(5)の全部,原告準備書面(4)の全部,原告準備書面(3)の全部,原告準備書面(2)の全部,原告準備書面(1)の第1〜第4において,SHIの主張を尽くしている。」と記載されていること,第11回弁論準備手続期日以降,同手続の終結に至るまでの間,準備書面の陳述及び証拠の取り調べはなされず,和解案の検討のみが行われていること,同年11月13日の第2回口頭弁論期日において,裁判長が,対象攻撃防御方法の準備書面を含む未陳述の準備書面について,「本訴及び反訴当事者双方にこれ以上の主張・立証がないことを確認の後,和解の可能性を検討する期日において提出されたものである。」と述べていることが認められる。一方,原告準備書面(6)及び(7)の上記各部分が和解手続を促進する目的で陳述されたとか,受命裁判官が,原告に対し,和解が成立しなければ新たな攻撃防御方法の提出を許可する旨述べた等の事実を認めるに足りる資料は一切見当たらない。以上の事情を総合すれば,原審の第10回弁論準備手続期日の時点において,担当裁判官及び原告を含む各当事者は,同期日までに争点及び証拠の整理を終え,その後の弁論準備手続では和解案の検討を行うとの認識で一致していたことは明らかであり,原告において,同期日までに対象攻撃防御方法を提出することが困難であったとの事情はうかがえない。そして,このことからすると,受命裁判官が,同年10月21日の第16回弁論準備手続期日において,「当事者双方に対し,主張立証の補充があれば,平成21年11月10日までに提出すること」を命じたのは,第10回弁論準備手続期日までに提出されなかった新たな主張やそれに関する証拠が提出されることを許容する趣旨ではないと解すべきである。したがって,原告が,第10回弁論準備手続期日の後に対象攻撃防御方法を提出したことは,時機に後れたものというべきである。
イ また,原告は,対象攻撃防御方法は,被告らの反論,反証も含めて,第2回口頭弁論期日で直ちに主張し,あるいは,取り調べることができたものであるから,その提出は訴訟の完結を遅延させていない旨主張する。しかし,原告の上記主張も採用できない。すなわち,裁判所及び各当事者が,争点及び証拠の整理を終えたとの認識で一致したにもかかわらず,その後,裁判所が,一方の当事者からの新たな攻撃防御方法の提出を認める場合には,反対当事者による反論やこれを裏付ける立証の機会を付与することによって,適正かつ公平な審理を確保することが必要となり,さらに,再反論及びこれを裏付ける立証の機会を付与することも必要となり,新たな攻撃防御方法の追加等の余地が生じ,訴訟の完結が遅延することになる。本件では,被告らから,平成21年7月8日付け「時機に後れた攻撃防御方法却下の申立書」が提出されており,裁判所が第2回口頭弁論期日において,対象攻撃防御方法の却下をも視野に入れた訴訟指揮を行った結果,同期日において弁論を終結した。本件の事案にかんがみ,対象攻撃防御方法の提出は訴訟の完結を遅延させると解するのが自然である。\n

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平成20(ワ)11245 違約金請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年08月27日 東京地方裁判所

 裁判上の和解における「実施」の定義が争われました。
 本件和解は,原告と被告との間に締結されていた本件特許権についての専用実施権設定契約(甲6の1)及び製造委託契約(甲7)等に関して生じた紛争をめぐる訴訟(当庁平成16年(ワ)第3678号,同年(ワ)第7950号,同年(ワ)第2277号,同年(ワ)第70001号,同年(ワ)第70012号,同年(ワ)第70041号,同年(ワ)第70042号事件)において調ったものであるが,第5項は,本件特許権の専用実施権設定に関する第3項の特約条項として設けられたものであることは,前記第2の2(2)の本件和解条項の文言から明らかである。そして,本件和解条項中には,「実施」の用語についての定義規定はないから,その意味は,特許権の専用実施権設定契約における通常の意味で使用されるところに従って解釈するのが当事者の合理的な意思にかなうものというべきである。そうすると,専用実施権については特許法に規定されているのであるから,これに関する契約中の「実施」の文言も,特許法における「実施」の定義,すなわち,同法2条3項の定義するところに従って解釈するのが相当である。そして,本件特許発明のような物の発明については,本件和解成立時(平成17年4月11日)に適用されていた特許法(平成18年法律第55号による改正前の特許法)2条3項1号によれば,「実施」とは,「その物の生産,使用,譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい,その物がプログラム等である場合には,電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為」と規定されていたのであるから,第5項の「実施」の意味は,上記規定に則して解釈するのが相当である。
 (2) この点,原告は,本件和解に至った経緯や本件和解の趣旨,目的に照らし,本件和解条項中の「実施」については,平成18年法律第55号による改正前の特許法2条3項1号の規定する「実施」よりも広いもので,「特許権者でなければ行い得ない言動・行動によって,独占的実施権を有する者に対して迷惑を被らせる行為その他独占的実施権者との無用の紛争を招来するような行為」を意味するものと解するのが相当である旨主張する。しかしながら,かかる解釈は,「実施」の概念を大きく拡張するものであるから,このような意味を「実施」に盛り込もうとするのであれば,本件和解条項中にその旨の明示の定義が置かれてしかるべきである(本件和解が当庁において特許事件を専門的に扱う知的財産権部において成立したものであること〔当裁判所に顕著な事実〕を考慮すれば, このことは一層妥当するというべきである。)が,本件和解条項上,そのような措置は何ら講じられていない。また,原告の主張する「特許権者でなければ行い得ない言動・行動によって,独占的実施権を有する者に対して迷惑を被らせる行為その他独占的実施権者との無用の紛争を招来するような行為」とは,その外延が甚だ不明確というほかなく,1億円もの高額な違約金の発生がこのように不明確な要件の充足に係っている(本件和解第5項(1),(8)参照)というのも,当事者の予測可能\性を大きく損なうという点において不合理というべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。・・・
 (3) 以上のとおり,本件和解条項中の「実施」は,平成18年法律第55号による改正前の特許法2条3項1号所定の「実施」と同義であり,「その物の生産,使用,譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい,その物がプログラム等である場合には,電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為」を意味するものと解される。そこで,上記解釈を前提として,争点(2)において,被告が本件和解後に本件特許発明を実施したか否かについて検討する。

◆判決本文

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平成21(ワ)6505 損害賠償請求事件 特許権 平成22年01月22日 東京地方裁判所

 原告は最終口頭弁論期日の直前に訂正審判をして104条3の無効理由はないと主張しましたが、時期に後れた抗弁として却下されました。
 そこで検討するに,原告は,既に第1回口頭弁論期日において被告らから乙6刊行物記載の発明が本件特許発明と同一の発明であるとして乙6刊行物を提示されたのに対して,両発明が同一ではないとの主張を終始維持し続けていたにもかかわらず(主張を変更することを妨げる事情は何ら認められない。),弁論準備手続終結後になって訂正審判請求をした上で,最終口頭弁論期日に,この訂正により乙6刊行物記載の発明には本件特許発明と相違点が生じ無効理由がない旨の上記主張に及んだものである。そして,このことについてやむを得ないとみられる合理的な説明を何らしていない。したがって,原告の上記主張は,少なくとも重大な過失により時機に後れて提出したものというほかなく,また,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることも明らかである。よって,原告の上記主張は,民事訴訟法157条により,これを却下する。

◆判決本文

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平成21(行ケ)10242 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年11月26日 知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決がなされ、審判請求人は審決取り消しを求めました。裁判所には、被告は出頭しませんでしたが、審決は維持されました。
 「被告は,上記のとおり本件口頭弁論期日に出頭しないし,答弁書その他の準備書面も提出しないから,請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は明らかに争わないものとして,これを自白したものとみなす。なお,被告が審判手続において提出した平成21年6月3日付け審判事件答弁書(甲15)には,「本特許第3692084号については,年金未払いのため,平成20年6月24日をもって,権利が消滅しております。そのため,本件無効審判の請求に対して,本件特許を防御する必要はありません。ついては,速やかに審決がなされることを希望します。」旨の記載がある。」

◆判決本文

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平成20(行ケ)10464 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年10月29日 知的財産高等裁判所

 経過のうち問題となる部分のみ説明します。H20/10/24に無効審決がなされ、特許権者は本件取消訴訟を提起すると共に、クレームを減縮する訂正審判を別途請求しました(H21/2/24)。この訂正審判は、(H21/9/16)に確定しました。知財高裁は、クレーム減縮する訂正が確定したので、H20/10/24の無効審決を取り消しました。
 「第1次無効審決に対して審取請求するとともに、第1次訂正審判を請求した第2次訂正は,請求項1に係る特許請求の範囲の記載を別紙1から別紙3のとおりとする訂正であって,その訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とすることは,明らかである(甲21,22,30)。また,本件審決が対象とした,請求項1に係る特許請求の範囲の記載を別紙2のとおりとする発明と比較しても,第2次訂正は,打抜加工が可能であることを特許請求の範囲に記載することにより,成形加工及び打抜加工の両方を行うパンチプレス機に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものといわざるを得ない。したがって,無効審決である本件審決の取消訴訟の係属中に本件特許権について特許請求の減縮を目的とする本件訂正審決が確定したのであるから,本件審決は,取り消されなければならない(最高裁平成7年(行ツ)第204号平成11年3月9日第三小法廷判決・民集53巻3号303頁)。」\n

◆平成20(行ケ)10464 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年10月29日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(ネ)10061 損害賠償請求控訴事件 特許権民事訴訟 平成21年01月29日 知的財産高等裁判所

 特許権等に関する訴えは、東京または大阪地裁の専属管轄であるとして原判決を取り消しました。
  「ところで,民訴法6条1項によれば,「特許権…に関する訴え」については,東京地裁又は大阪地裁の専属管轄である旨が規定され,ここにいう「特許権に関する訴え」は,特許権に関係する訴訟を広く含むものであって,特許権侵害を理由とする差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟,職務発明の対価の支払を求める訴訟などに限られず,本件のように特許権の専用実施権や通常実施権の設定契約に関する訴訟をも含むと解するのが相当である。そうすると,一審原告は東京都に住所を有し一審被告らはいずれも埼玉県に住所を有する本件訴訟の第一審の土地管轄は,民訴法6条1項によれば,東京地方裁判所に専属するということになるから,原判決は管轄違いの判決であって,取消しを免れない。」

◆平成20(ネ)10061 損害賠償請求控訴事件 特許権民事訴訟 平成21年01月29日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10094 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年11月27日 知的財産高等裁判所

  知財高裁は、無効審判における訂正手続きについても、請求項毎に判断すべきとして、無効審決を取り消しました。
  「昭和62年法律第27号による改正により,いわゆる改善多項制が導入され,平成5年法律第26号による改正により,無効審判における訂正請求の制度が導入され,平成11年法律第41号による改正により,特許無効審判において,無効審判請求されている請求項の訂正と無効審判請求されていない請求項の訂正を含む訂正請求の独立特許要件は,無効審判請求がされていない請求項の訂正についてのみ判断することとされた。このような制度の下で,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生ずるものというべきである。特許法は,2以上の請求項に係る特許について請求項ごとに特許無効審判請求をすることができるとしており(123条1項柱書),特許無効審判の被請求人は,訂正請求することができるとしているのであるから(134条の2),無効審判請求されている請求項についての訂正請求は,請求項ごとに申立てをすることができる無効審判請求に対する,特許権者側の防御手段としての実質を有するものと認められる。このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないとするならば,無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになるといえる。このように,無効審判請求については,各請求項ごとに個別に無効審判請求することが許されている点に鑑みると,各請求項ごとに無効審判請求の当否が個別に判断されることに対応して,無効審判請求がされている請求項についての訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求することが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるべきと考えるのが合理的である。以上のとおり,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。そうすると,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象になっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない。そして,この理は,特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合,独立特許要件を欠くという理由も含む。)として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない。本件においては,請求項1に係る発明についての特許について無効審判請求がされ,無効審判において,無効審判請求の対象とされている請求項1のみならず,無効審判請求の対象とされていない請求項2及びその他の請求項についても訂正請求がされたところ,本件審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項2についての訂正請求が独立特許要件を欠くことのみを理由として,本件訂正は認められないとした上で,請求項1に係る発明についての特許を無効と判断したのであるから,本件審決には,上記説示した点に反する違法がある。」

 関連判決はこちらです
    ◆平成20(行ケ)10093
    ◆平成20(行ケ)10095
◆平成20(行ケ)10094 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年11月27日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(ラ)10008 特許権侵害差止等仮処分決定取消決定に対する保全抗告事件 特許権民事仮処分 平成20年09月29日 知的財産高等裁判所

 仮処分後に特許庁無効審判で無効とされた特許についての、販売禁止等の仮処分に関する判断です。 裁判所は、無効理由は存在しないとして、販売禁止等の仮処分を維持しました。

  経緯:
 仮処分事件について
本件特許に基づく仮処分について、販売等を禁止する旨の仮処分決定がなされた後、 特許庁が本件特許を無効とする旨の審決をしたので、民事保全法にいう事情変更、特別事情に当たるとして,上記仮処分決定の取消し(平 成19年(モ)第59003号)を申し立てました。大阪地裁は,平成19年7月26日,保全の必要性について事情変更が生じたとして,\n相手方に500万円の担保を立てさせた上,上記仮処分決定を取り消す旨の決定をしました。 特許権者は、本件保全抗告を申し立てました。
 無効審判事件について
上記無効審決には審決取消訴訟が提起され、90日以内の訂正審判請求がなされたので、 上記無効審決は決定により取り消されました。特許庁において再審理され、再度無効審決がなされました。 特許権者は、これについて審決取消訴訟(平成20年(行ケ)10066)を提起したところ、平成20年9月29日に取り消されました。

◆平成19(ラ)10008 特許権侵害差止等仮処分決定取消決定に対する保全抗告事件 特許権民事仮処分 平成20年09月29日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10331 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年10月28日 知的財産高等裁判所

  裁判所が、原告の訴訟活動について、一言述べました。
 「本件取消訴訟をみると,原告は,本件発明1に限っても,審決のした本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点(6個)の認定及び相違点(6個)に関する容易想到性の判断,並びに審判手続のすべてに誤りがあると主張して,審決を取り消すべきであるとしている(原告第1,第2準備書面,合計59頁)。しかし,?@およそ,当事者の主張,立証を尽くした審判手続を経由した審決について,その理由において述べられた認定及び判断のすべての事項があまねく誤りであるということは,特段の事情のない限り,想定しがたい。また,?A本件において,本件発明と引用発明との間の一致点及び相違点の認定に誤りがあるとの原告の主張は,実質的には,相違点についての容易想到性の判断に誤りがあるとの主張と共通するものと解される。そのような点を考慮するならば,本件において,原告が,争点を整理し,絞り込みをすることなく,漫然と,審決が理由中で述べたあらゆる事項について誤りがあると主張して,取消訴訟における争点としたことは,民事訴訟法2条の趣旨に反する信義誠実を欠く訴訟活動であるといわざるを得ない。」

◆平成19(行ケ)10331 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年10月28日 知的財産高等裁判所

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◆平成12(ネ)2147 特許権侵害差止再審請求事件(18(ム)10002,19(ム)10003)平成20年07月14日 知的財産高等裁判所

   侵害訴訟で無効主張が認められず、侵害とされた侵害訴訟判決について、その後、無効審決が確定したことを理由に再審請求ができると知財高裁は認めました。
 「原判決は,無効理由の存在の明白性という権利濫用の抗弁について判断した上で本案請求を認容した一審判決を維持したのであるから,たとえ同抗弁で主張したものとは別個の無効理由であっても,原判決の確定後にこれを主張し,本案に係る訴訟物の存否を争うことができるとすることは,確定判決に求められる紛争解決機能を損ない,法的安定性を害するとともに,確定判決に対する当事者の信頼をも損なうこととなるから,再審被告の前記?@,?Aの主張もそのような趣旨のものとして理解する余地はある。
 しかしながら,そうだとしても,再審被告の前記?@,?Aの主張は,結局,確定判決に認められる既判力に基づく遮断効を主張するものに過ぎないのであって,再審開始決定が確定した後の本案の審理においては,判決の確定力自体が失われているのであるから,再審被告の前記?@,?Aの主張は,その前提を欠くものといわざるを得ない。また,特許権侵害訴訟を審理する裁判所は,キルビー判決後においても,特許が有効であることを前提とした上で,権利濫用の抗弁となる無効理由の存在の明白性を判断するのであり,特許の有効無効それ自体を判断するものではないのであるから,キルビー判決の法理に基づく権利濫用の抗弁と無効審決の確定による権利消滅の抗弁とは別個の法的主張と理解すべきものである。したがって,原判決が再審原告の主張した権利濫用の抗弁について判断したからといって,本件特許の有効性について判断したものとはいえず,また,原判決の確定により本件特許の有効無効問題が決着済みとなったということもできない。加えて,前記(1)のとおり,再審原告が前審控訴審で権利濫用の抗弁として主張した無効理由と本件特許を無効とした無効審決の理由とされた無効理由は異なるものであり,しかも,原判決の当時,無効審決の無効理由とされた公知例の存在を再審原告が認識していなかったことは当事者間に争いがないことからすれば,再審原告が無効審決の確定による権利消滅の抗弁を主張することが無効理由の主張を蒸し返したものであるとは認められないのであり,この点からも再審被告の前記?@の主張は失当である。」

◆平成12(ネ)2147 特許権侵害差止再審請求事件(18(ム)10002,19(ム)10003)平成20年07月14日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(受)1772 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 特許権民事訴訟 平成20年04月24日 最高裁判所第一小法廷(判決棄却 大阪高等裁判所)

  特許法104条の3の無効主張について、訂正審判により防御するのであれば、事実審口頭弁論終結時までに行うべきとの判断がなされました。
  「以上のように,訂正審判の請求をした場合には無効部分を排除することができる こと,及び,被告製品が減縮後の特許請求の範囲に係る発明の技術的範囲に属する ことは,被告の権利行使制限の抗弁が成立するか否かを判断するための要素であっ て,その基礎事実が事実審口頭弁論終結時までに既に存在し,原告においてその時 までにいつでも主張立証することができたものである。原告としては,事実審口頭 弁論終結時までに,上記の主張立証を尽くして権利行使制限の抗弁を排斥すべきで あり,事実審が,当事者双方の主張立証の程度に応じた訴訟状態に基づく自由心証 の結果として,権利行使制限の抗弁の成立を認めた以上,事実審口頭弁論終結後に なって,原告が訂正審判を請求し訂正審決が確定したとしても,訂正審決によって もたらされる法律効果は事実審口頭弁論終結時までに主張することができたもので あるから,訂正審決が確定したことをもって事実審の上記判断を違法とすることは できないのである(なお,最高裁昭和55年(オ)第589号同年10月23日第 一小法廷判決・民集34巻5号747頁,最高裁昭和54年(オ)第110号同5 7年3月30日第三小法廷判決・民集36巻3号501頁参照)。」

◆平成18(受)1772 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 特許権民事訴訟 平成20年04月24日 最高裁判所第一小法廷(判決棄却 大阪高等裁判所)

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◆平成19(行ケ)10358 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年03月27日 知的財産高等裁判所

   別件判決の判決書の理由の記載を唯一の根拠とし,他に本件刊行物の頒布時期を証する証拠を何ら示すことなく,本件刊行物が本件特許の優先日前に頒布された事実を認定した無効審決について、裁判所は無効審決を取り消しました。
  「本件審判における立証の対象となる事実は,本件刊行物が,本件特許の優先日である平成5年9月1日より前に頒布されたか否か,本件刊行物の記載内容がどのようなものであったか,そして,本件発明が特許法29条1項3号に該当するか否か等である。本件審判において,上記の立証対象事実が存在するとの認定をするためには,少なくとも直接的な事実を合理的に認定するに足りる証拠資料又は間接的な事実を合理的に認定するに足りる証拠資料を取り調べた上,審判体自ら,各証拠の信用性を総合的な観点から,吟味検討し,あるいは取捨選択して,立証対象事実の存否に関する心証を形成することを要するというべきであって,そのような審理ないし検討を一切することなく,他者の認定判断に依拠して,事実が存在すると認定することは合理性を欠く。・・・上記(1)イ記載のとおり,本件発明が特許法29条1項3号に該当する事実の存否について,少なくとも,別件訴訟で取り調べられたのと同様の書証,人証を取り調べた上で,それらの証拠の信用性について総合的に検討することを要するというべきであるが,本件審判手続において,その検討はされていない(なお,別件訴訟の終了後に受訴裁判所に保管された書証の写し,証人尋問調書等の訴訟記録は,保存期間経過のため,既に廃棄されている。)。また,原告は,別件判決を不服として控訴し,別件判決のした「本件パンフレット」の頒布時期の事実認定を争っていたこと,別件訴訟は,原告が東京フローメータ研究所に対して提起した本件特許権の侵害に基づく差止め及び損害賠償請求訴訟であり別件訴訟と本件審判とは,当事者が異なること,別件判決は確定していないこと等に照らすならば,別件判決の何らかの効力が本件審判の当事者に及ぶこともない。」

◆平成19(行ケ)10358 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年03月27日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(ワ)22172 損害賠償請求事件 特許権民事訴訟 平成19年09月11日 東京地方裁判所

   特許法104条の3で、無効にされるべきものとして、請求が棄却されました。興味深いのは、弁論終結後に、特許庁で無効不成立とする審決がなされても、裁判所は「無効である」として弁論再開不要と判断した点です
  「(3) 以上によれば,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告両名は,本件特許権を行使することができない(特許法104条の3)。なお,本件については,弁論終結後に,無効不成立とする審決がなされたとして,原告両名から弁論の再開申請がなされている。しかし,本件特許については,本件特許発明の課題解決手段の主要な部分がすでに乙1公報に開示されており,無効にされるべきものと認められることは上記のとおりであるから,本件については弁論の再開は不要と考える。」

◆平成18(ワ)22172 損害賠償請求事件 特許権民事訴訟 平成19年09月11日 東京地方裁判所

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◆平成15(ワ)16924 損害賠償等請求事件 特許権民事訴訟 平成19年02月27日 東京地方裁判所

  本件侵害訴訟では、訂正が認められることを前提にして、約3000万円の損害賠償が認められました。
   争点はいくつかありますが、興味深いのは、併存する無効審判との関係です。本件訴訟の対象である特許権は、無効審決がなされたので、特許権者は取消訴訟を提起するとともに、別途訂正審判を請求をしました。知財高裁は、差し戻し決定をしました。無効審判では、訂正を認めた上で、再度、無効審決がなされました。特許権者は、取消訴訟を提起し、現在、知財高裁に継続中です。
  「本件特許については,その無効審判事件において,本件訂正の請求がなされており,特許庁は,その審決において,本件訂正を認め,本件訂正特許1を無効と判断したものの,原告が同審決に対し審決取消訴訟を提起したために,未だ本件訂正が確定していない状況にある。特許法104条の3第1項における「当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められるとき」とは,当該特許について訂正審判請求あるいは訂正請求がなされたときは,将来その訂正が認められ,訂正の効力が確定したときにおいても,当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められるかどうかにより判断すべきである。したがって,原告は,訂正前の特許請求の範囲の請求項について容易想到性の無効理由がある場合においては,?@当該請求項について訂正審判請求ないし訂正請求をしたこと,?A当該訂正が特許法126条の訂正要件を充たすこと,?B当該訂正により,当該請求項について無効の抗弁で主張された無効理由が解消すること(特許法29条の新規性,容易想到性,同36条の明細書の記載要件等の無効理由が典型例として考えられる,)?C被告製品が訂正後の請求項の技術的範囲に属することを,主張立証すべきである。
 また、間接侵害についても、輸出向け専用品については間接侵害を構成しないと判断しました。
 「特許法101条は,特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその実効性を確保するという観点から,特許権侵害とする対象を,それが生産,譲渡される等の場合には当該特許発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高い物の生産,譲渡等に限定して拡張する趣旨の規定であると解される。そうすると,「その物の生産にのみ使用する物」(1号)という要件が予定する「生産」は,日本国内における生産を意味するものと解釈すべきである。外国におけるイ号物件の生産に使用される物を日本国内で生産する行為についてまで特許権の効力を拡張する場合には,日本の特許権者が,属地主義の原則から,本来当該特許権によっておよそ享受し得ないはずの,外国での実施による市場機会の獲得という利益まで享受し得ることになり,不当に当該特許権の効力を拡張することになるというべきである。」
 また、新規事項であるとの主張についても、これを否定しました。
 「本件訂正前明細書には,搬送部(15,16)を伸縮する際に共通駆動部(13)を回動させる構成及び当該共通駆動部の回動の際,他方の搬送部(16,15)が駆動制御手段における制御により見かけ上静止状態を保持し,共通駆動部(13)上に取り込まれた状態で共通駆動アームと同様に旋回する構\成が記載されていることが認められる。そうすると,本件訂正にかかる本件訂正特許発明1は,本件訂正前明細書に記載されていたといえるから,本件訂正は,願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内の訂正である。被告は,前記b)?@の記載を根拠に本件各特許発明の駆動制御手段は,前記b)?@に記載された構成に限定して解釈すべきであると主張し,かかる限定解釈を前提とすれば,本件訂正は本件各特許発明における駆動制御手段に含まれない構\成を含むことになるから特許法126条3項に違反する旨主張する。しかし,本件訂正前の本件各特許発明の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載から被告が主張するような限定解釈をすべき理由はない。」

◆平成15(ワ)16924 損害賠償等請求事件 特許権民事訴訟 平成19年02月27日 東京地方裁判所

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◆平成17(行ケ)10856 審決取消請求事件 実用新案権行政訴訟 平成18年10月24日 知的財産高等裁判所

   審決取消訴訟にて新たな証拠を提出することが認められるかが1つの争点になりました。
   「審判において,実用新案法3条1項各号に掲げる考案に該当するものと主張され,その存否が審理判断された事実に関し,取消訴訟において,当該事実の存在を立証し,又はこれを弾劾するために,審判での審理に供された証拠以外の証拠の申し出をすることは,審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超えるということはできないから,これが許されないとする理由はない。そして,検甲1,甲19〜35,37,39〜59は,いずれも本件審判における審理に供されなかった証拠ではあるが,本件審判で審理判断の対象とされなかった公知事実を立証しようとするものではなく,本件審判において審理判断され,本件審決においてその存在を認められなかった引用考案1に係る前記?@及び?Aの事実について,その存在を立証しようとするものであるから,これらに基づいて本件審決の誤りを主張することは許されるものというべきである。被告の主張は採用することができない。(3) 被告は,・・・・上記誤りは本件審決の結論に影響するものではないと主張する。しかし,本件審決は,引用考案1において左右のハンドルが弾性ロープによって連接されていることを看過した結果,原告が主張する本件考案に対する無効理由は前提自体が成り立たないとして,引用考案1と本件考案とを対比検討して本件考案の容易想到性の有無について判断しないまま,原告が主張する本件考案1及び2に対する無効理由は根拠がないと結論付けたものであるから,容易想到性の点について検討するまでもなく,上記引用考案1の認定の誤りが,本件審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであり,本件審決は取消しを免れないというべきであって,被告の主張は失当である。」

◆平成17(行ケ)10856 審決取消請求事件 実用新案権行政訴訟 平成18年10月24日 知的財産高等裁判所

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◆平成16(ワ)20374 損害賠償請求事件 平成18年07月06日 東京地方裁判所

 4万5千円の損害賠償が認定された事件です。興味深いのは、額よりも、無効判断です。
 裁判所は、「被告は,平成16年11月4日の本件第1回口頭弁論期日から,平成18年1月19日の本件第8回弁論準備手続期日まで,一貫して,被告各物件が本件特許発明の技術的範囲に属することを争い,平成18年1月末日までに,被告各物件が本件特許発明の技術的範囲に属しないとの主張を終了する予定であったにもかかわらず,平成18年3月23日の本件第10回弁論準備手続期日において,突然,本件特許発明に係る特許が無効である旨の主張を追加したものであり,その防御方法の提出は時機に後れたものといわざるを得ない。しかし,本件訴訟においては,当該期日の約2か月後の本件第2回口頭弁論期日において,口頭弁論が終結されているのであるから,被告による無効主張については,これにより訴訟の完結が遅延したものとまでいうことはできない。したがって,被告による本件特許発明に対する無効の主張を,時機に後れた防御方法の提出として却下するのは相当ではない。」とした上で、無効理由無しと判断しました。

◆平成16(ワ)20374 損害賠償請求事件 平成18年07月06日 東京地方裁判所

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◆平成17(行ケ)10710 審決取消請求事件 平成18年05月31日 知的財産高等裁判所

  拒査不服審判で拒絶理由に示していない引例での拒絶審決が取り消されました。
 特許庁は、「補正により追加された事項は、補正前の請求項2に記載されていた事項を取り込んだものであり,補正前の請求項2に対しては,拒絶理由通知において,審決の引用する刊行物と同じ文献が引用されていたのであるから,本願発明に対しても,同文献が引用されていたというべきである。」と反論しましたが、かかる主張は認められませんでした。  さらに、裁判所は、「再開される審判の適切かつ円滑な審理判断の参考に資するため,審決取消事由2及び3について,一応の判断を示す」として、判断を行い、その判断は妥当と判断しています。

◆平成17(行ケ)10710 審決取消請求事件 平成18年05月31日 知的財産高等裁判所

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◆H15. 4.14 東京高裁 平成13(行ケ)262 特許権 行政訴訟事件

 無効とする審決に対して権利者が取消訴訟をおこし、その係属中に当該特許権について訂正審決が確定した場合には,必ず当該無効審決を取り消されなければならないかが争われました。
裁判所は、最高裁平成11年4月22日第一小法廷判決・裁判集民事193号231頁を判例として、「無効審決取消訴訟の係属中に訂正審決が確定した場合において,当該無効審決を当然に取り消すべきときは,その訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするときに限られるのであって,その余の場合においては,上記判例の射程が及ぶものではない。そして,被告の主張するとおり,その訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするかどうかは,無効審決取消訴訟の係属する裁判所が判断すべき事柄であって,当該裁判所が訂正審決の理由中における特許庁の判断に拘束されると解すべき根拠はない。」として、審決を取り消しました。

 

◆H15. 4.14 東京高裁 平成13(行ケ)262 特許権 行政訴訟事件

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