H17. 2.21 東京高裁 平成15(行ケ)36 特許権 行政訴訟事件

平成15年(行ケ)第36号 審決取消請求事件
口頭弁論終結の日 平成17年1月26日
            判        決
        原       告     アルゼ株式会社
        同訴訟代理人弁護士     熊倉禎男
        同             尾崎英男
        同             松本司
        同             美勢克彦
        同             嶋末和秀
        同             岩坪哲

        同             飯塚暁夫
        同             渡辺光
        同             前田宏
        同     弁理士     上杉浩
        被       告     サミー株式会社
        同訴訟代理人弁護士     牧野利秋
        同                          片山英二
        同             飯田秀郷
        同             栗宇一樹
        同             早稲本和徳

        同             北原潤一
        同             大月雅博
        同             七宇賢彦
        同             鈴木英之
        同             隈部泰正
        同             大友良浩
        同        弁理士  黒田博道
        同             米山淑幸
        同             北口智英
               同             広瀬隆行
            主        文
               1 原告の請求を棄却する。
               2 訴訟費用は原告の負担とする。
            事実及び理由

第1 請求
    特許庁が、無効2001−35267号事件について、平成14年12月25日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
 1 争いのない事実
   (1) 原告は、発明の名称を「スロットマシン」とする発明(以下「本件発明」という。)に関する特許第1855980号(昭和63年3月18日出願、特願昭63−65543号、平成6年7月7日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権を有している。
     本件特許に対し、平成13年6月25日付けで被告より特許無効審判が請求されたところ、原告は、平成14年5月17日付けで訂正請求(以下「本件訂正」という。)をした。
     特許庁は、上記無効審判請求を無効2001−35267号事件として審理した結果、平成14年12月25日、「訂正を認める。特許第1855980号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、平成15年1月4日、原告に送達された。

   (2) 本件訂正後の本件発明の要旨は、以下のとおりである(本件審決に記載のとおり)。
     【請求項1】表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示する複数のリール、これら各リールの回転を停止させるためのストップボタンスイッチ、予め定めた範囲で乱数を発生する手段、前記乱数の範囲を区分し、入賞及び外れを判定するための確率テーブル、前記乱数をサンプリングする手段、サンプリングした乱数値が前記確率テーブルのどの区分に属するかを判定する手段、前記各ストップボタンスイッチをオンしたときの表示位置から4コマ以内の範囲内で、前記判定した乱数値に応じた図柄が表示されるように前記各リールの回転を停止させる停止制御を行う制御装置を備えたスロットマシンにおいて、前記制御装置は遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分、前記乱数値に応じた停止制御を中止して、この停止制御の中止にかかるリールの回転を前記ストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させるように構成したことを特徴とするスロットマシン(以下「本件発明1」という。)。

     【請求項2】表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示する複数のリール、これら各リールの回転を停止させるためのストップボタンスイッチ、予め定めた範囲で乱数を発生する手段、前記乱数の範囲を区分し、入賞及び外れを判定するための確率テーブル、前記乱数をサンプリングする手段、サンプリングした乱数値が前記確率テーブルのどの区分に属するかを判定する手段、前記各ストップボタンスイッチをオンしたときの表示位置から4コマ以内の範囲内で、前記判定した乱数値に応じた図柄が表示されるように前記各リールの回転を停止させる停止制御を行う制御装置を備えたスロットマシンにおいて、前記制御装置は遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分、複数のリールの一部についてのみ前記乱数値に応じた停止制御を中止して、この停止制御の中止にかかるリールの回転を前記ストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させ、他のリールに対しては、前記ストップボタンスイッチをオンしたときの表示位置から4コマ以内の範囲内で、特定の図柄が表示されるように一定の停止制御を行うように構成したことを特徴とするスロットマシン(以下「本件発明2」という。)。
   (3) 本件審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本件発明1が、特開昭57−86373号公報(審決甲3、本訴甲3、以下「引用例」という。)に記載の発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2も、引用例及び実願昭58−128413号(実開昭60−37380号)のマイクロフィルム(審決刊行物A、本訴甲18、以下「刊行物A」という。)に記載の発明(以下「刊行物発明」という。)と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び2についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法123条1項2号の規定に該当するとし、また、本件発明2は、特許を受けようとする発明の構成が不明であるから、本件発明2についての特許は、同法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法123条1項4号の規定に該当するとし、被告主張のその余の無効理由について判断するまでもなく、本件特許は無効にすべきものであるとした。
 2 原告主張の本件審決の取消事由の要点
    本件審決は、引用発明を誤認して同発明と本件発明1との一致点を誤認する(取消理由1)とともに、本件発明1と引用発明との相違点a、bについての判断を誤り(取消理由2、3)、本件発明2についても、同様の誤りを犯す(取消理由4)とともに、刊行物発明を誤認して本件発明2に関する容易想到性の判断を誤り(取消理由5)、さらに、本件発明2が、特許法36条4項1号の規定に違反すると誤って判断した(取消理由6)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
   (1) 引用発明の誤認に基づく本件発明1との一致点の誤認(取消事由1)
     本件審決が、引用発明について、「前記制御装置は、遅延制御信号が発生されていない状態では前記ストップ操作釦7、8、9をオンしたときのストップ信号に応じて前記各回転部材2を直ちに停止させ、また、定期的にまたは必要に応じて遅延制御信号が発生されている状態では前記ストップ操作釦7、8、9をオンしたときのストップ信号を前記ランダム数値に応じた時間だけ遅延させて前記各回転部材2を遅延停止させるように構成した回転式組合せゲーム機」(9〜10頁)と認定したことは、以下のとおり誤りであり(引用発明が、「「即止めゲーム」に対して「定期的にまたは必要に応じて」、乱数値に応じてリールを遅延停止させるゲームを行うようにしたもの」(16頁)と認定したことも同旨)、その結果、本件発明1と引用発明とが、「前記制御装置は、・・・この停止制御の中止にかかるリールの回転を前記ストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させるように構成したスロットマシン」(15頁)の構成において一致すると認定したことも誤りである。

    ア 引用発明の誤認(その1)
       本件審決は、引用発明において、遅延制御信号を発生しているときとは、“H”レベルと“L”レベルを繰り返している状態のとき、遅延制御信号を発生していないときとは、ずっと“L”レベルにあるときと解釈しているようであるが、このような解釈は誤りである。すなわち、引用発明では、ある一定時間継続した正電圧を“H”と呼び、電圧が加えられていないとき(0Vのとき)を“L”と呼んでいるのであって、入力又は出力されるのは“H”レベルのみであり、また、信号と呼ばれているのも“H”レベルのみである。したがって、引用発明においては、パルス状の“H”レベルをもって遅延制御信号と呼び、遅延制御信号発生回路は、このような遅延制御信号をごく短い間隔で繰り返し連続的に発生しており、何ゲームにもわたり遅延制御信号を発生していない状態は存在しないから、「ストップ操作釦7、8、9をオンしたときのストップ信号に応じて前記各回転部材2を直ちに停止させ」るような制御はしないのである。

       被告は、“L”レベルが「遅延制御信号が発生されていない状態」であるとすると、その直前の“H”レベル信号のため、0〜255の数値がセットデータとなるから、引用例の記載と矛盾すると主張するが、このことは、引用例自体に誤りがあることを示すものである。すなわち、“H”レベル信号から“L”レベル信号へと移行したとき、ストップボタンスイッチを操作すると、シフトレジスターのセットデータはほとんど0以外の数値である(0にリセットされることは示されていない。)が、このように遅延制御信号が発生されていない状態では、減算回路において減算が行われないから、この状態が数秒以上継続すると、リールの回転が数秒間停止しないことになり、明らかに当業者の技術常識に反する。
       したがって、引用発明に、「ストップボタンスイッチの操作タイミングでリールを停止させるゲーム」(以下「即止めゲーム」という。)が開示されていないことは明らかであり、定期的に又は必要に応じて「即止めゲーム」と「リールを遅延停止させるゲーム」(以下「遅延ゲーム」という。)を切り換える構成が開示されているとの本件審決の認定も誤りである。

     イ 引用発明の誤認(その2)
       引用発明において、仮に、リールを遅延停止させる制御を行わない状態が開示されているとしても、ある1つのリールについて「即止め」になるという状態にすぎず、「遅延ゲーム」に対置されるゲームの態様として「即止めゲーム」を介在させる構成は開示されていない。このことは、引用例の記載上明らかである。
       すなわち、引用例において、遅延制御信号の入力経路を含む遅延回路は、各リールの機構ごとに設けられているものであり、全リールについて、遅延制御信号を入力する状態としない状態とを切り換える構成ではなく、遅延制御信号は3つのリールのそれぞれについて、定期的に又は必要に応じて発生することによって、各リールごとに、「即止め」にしたり、アトランダムな遅延停止をするというのが、唯一の開示事項である。

       なお、上記のことは、遅延制御信号の発生回路が各リールごとに設けられておらず、3つのリールについて共通のものであったとしても何ら変わりはない。すなわち、この種のスロットマシンでは、停止操作は順を追って各リールごとに行うものであり、遅延制御信号が、定期的に又は必要に応じて発生すると、3リールすべての停止操作時と遅延制御信号の不発生がシンクロして「即止めゲーム」が成立する状況はあり得ず、むしろ、「即止め」可能な状況は、回避されているものと考えるのが妥当である。
   (2) 本件発明1と引用発明との相違点aについての判断誤り(取消事由2)
     ア 本件審決認定のとおり、本件発明1と引用発明との相違点aが、「本件発明1は、「乱数値ゲーム」を行う構成であるのに対し、甲第3号証に記載の発明(注、引用発明、以下同じ。)は、「予め定めた範囲で乱数を発生する手段、前記乱数をサンプリングする手段、前記各ストップボタンスイッチをオンしたときに、前記乱数値に応じた時間だけ遅延させて前記各リールの回転を遅延停止させる停止制御を行う」構成である点」(15頁)であること、「一般に、スロットマシンの技術分野において、表示窓内に乱数値に応じた図柄が表示されるように各リールの回転を停止させる停止制御を行うスロットマシンが、周知(例えば、甲第4、5、6、8、9号証、特開昭59−186580号公報参照)であるところ、本件発明1の「乱数値ゲーム」の構成を備えるものは、例えば前記甲第8号証〔実願昭60−74971号(実開昭61−191081号)のマイクロフィルム〕あるいは特開昭59−186580号公報に開示されるように周知技術というべきものである。」(同頁)ことは、いずれも認めるが、本件審決が、「甲第3号証に記載の発明と前記周知技術は、各リールに停止表示される図柄が乱数値に応じて決定されるスロットマシンの構成において共通するから、甲第3号証に記載の発明に示される、各ストップボタンスイッチをオンしたときに、乱数値に応じた時間だけ遅延させて各リールの回転を遅延停止させる停止制御を行う構成に代えて、前記周知技術に示される「乱数値ゲーム」の構成を採用して、前記相違点aにかかる本件発明1の構成のようにすることは、当業者が容易に想到できるものである。」(15〜16頁)と判断したことは、以下のとおり誤りである。
     イ まず、本件発明1と引用発明との相違点aの内容は、上記認定のとおり、本件発明1が「乱数値ゲーム」の構成であるのに対し、引用発明は「遅延ゲーム」であるにもかかわらず、本件審決は、本件発明1の通常のゲームと同じである、周知の「乱数値ゲーム」と、引用発明の「遅延ゲーム」とが、「各リールに停止表示される図柄が乱数値に応じて決定されるスロットマシンの構成において共通する」と認定しており、本件発明1と引用発明の対比では「相違点a」と認定したことを、周知のゲームと引用発明の対比では「共通する」と認定しているのであって、完全に自己矛盾を起している。

       また、本件発明1の「乱数値ゲーム」の構成を備えるものが、実願昭60−74971号(実開昭61−191081号)のマイクロフィルム(甲8)及び特開昭59−186580号公報(甲35)に開示される周知技術である(以下、当該ゲームを「周知のゲーム」という。)ことは認めるが、引用例及び周知のゲームのいずれにも、引用発明の結果判定方式自体は変えることなく、「遅延ゲーム」の部分だけを「乱数値ゲーム」で置換する動機は全く存在しないから、本件審決の上記判断は誤りである。
   (3) 本件発明1と引用発明との相違点bについての判断誤り(取消事由3)
     ア 相違点bの誤認
       本件審決認定のとおり、「本件発明1は、「乱数値ゲーム」の「遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分」につき「即止めゲーム」に移行する構成である」(15頁)ことは認めるが、本件審決が、引用発明について、「「即止めゲーム」に対して、「定期的にまたは必要に応じて」、乱数値に応じてリールを遅延停止させるゲームに切換える構成である」(同頁)と認定したことは、以下のとおり誤りである。

       すなわち、引用例の出願当時、「即止めゲーム」は経営上ゲームとして成り立たないことが当業者によく知られていたから、引用発明は、「即止めゲーム」を含まないことは自明の理である。
       また、「即止めゲーム」であるためには、少なくとも、ゲームの開始に当たって、即止めとなることが機械の内部的制御においてあらかじめ決っていなければならないはずである。しかるに、引用例には、遅延制御信号をどのくらいの時間継続するかについて全く記載がなく、遊技者が1回のゲームを行う数秒の時間よりはるかに短い時間でON、OFFが可能であり、遊技者のリール停止操作時に、第1の遅延回路が動作したランダム遅延制御状態となるか、遅延時間ゼロ(即止め)となるかは、偶然により決まるだけで、ゲームに先立って即止めがあらかじめ決められていないから、「即止めゲーム」を含むものではない。

       さらに、引用発明において、遅延制御信号が発生している状態は、入賞の組合せの成立を阻止する制御が行われている状態であり、遊技者に知られてはならない状態であるから、設計上遊技者に認識されないようにゲーム中に混在されるものである。したがって、引用発明では、遅延制御信号の発生している状態と発生していない状態が異なるゲームを構成するものではなく、本件審決が、引用発明において2種類のゲームが切り換えられると認定しているのは誤りである。
     イ 相違点bの判断誤り
       本件審決認定のとおり、「スロットマシンの技術分野において、「乱数値ゲーム」をゲームの主体に、その遊技中に表示窓内に特定の停止図柄の組合せが表示されたときに特定の条件が達成されたものとして、予め定めたゲーム回数分、遊技者に有利なゲームに移行するようにしたゲーム形態は、例えば前記甲第8号証あるいは特開昭59−186580号公報に開示されているように、周知技術である。また、遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分、遊技者に有利なボーナスゲームに移行するようにしたスロットマシンが、甲第10〜17号証及び刊行物Aに記載されているように周知技術である。」(16頁)ことは認める。

       しかし、本件審決が、相違点bの検討において、「しかして、「乱数値ゲーム」をゲームの主体に、その遊技中に特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分、遊技者に有利なゲームに移行するようにした前記周知のゲーム形態に照らしたときに、甲第3号証に記載の発明における、乱数値に応じてリールを遅延停止させるゲームが前記周知の「乱数値ゲーム」に対比できるとともに、「即止めゲーム」が前記の遊技者に有利なゲームの範疇に属することが明らかである。そうすると、スロットマシンにおける前記周知のゲーム形態に基づいて、甲第3号証に記載の発明に示される、乱数値に応じてリールを遅延停止させるゲームをゲームの主体にするとともに、遊技者に有利なゲームである「即止めゲーム」へと「定期的にまたは必要に応じて」切換えあるいは遊技中に組み合わせて移行する条件として、遊技者に有利なゲームに移行するときの常套手段である「遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分」という条件を採用して、前記相違点bにかかる本件発明1の構成のようにすることは、当業者が容易に想到できるものである。」(同頁)と判断したことは、以下のとおり誤りである。
       まず、本件審決は、引用発明の「遅延ゲーム」が、周知のゲームの「乱数値ゲーム」に対比できると述べているが、両者は全く異なる技術的内容であり、前述のとおり、本件審決は自己矛盾を起している。
       また、本件審決は、引用発明の開示するリールを遅延停止させない「即止めゲーム」が、特開昭61−244383号公報(甲10)、特開昭62−266086号公報(甲11)、特開昭63−11189号公報(甲12)、実願昭55−94808号(実開昭57−17683号)のマイクロフィルム(甲13)、実願昭60−58995号(実開昭61−174993号)のマイクロフィルム(甲14)、実願昭60−175597号(実開昭62−84485号)のマイクロフィルム(甲15)、実願昭61−73060号(実開昭62−183888号)のマイクロフィルム(甲16)、実願昭61−96152号(実開昭63−1580号)のマイクロフィルム(甲17、以下、甲10〜17をまとめて「本件周知例」という。)及び刊行物Aに記載されたボーナスゲームのように、遊技者に有利なゲームの範疇に属することが明らかであると述べている(16頁)が、本件周知例等におけるボーナスゲームは、通常のゲームの遊技中特定の条件が達成されたときに、遊技者にとって容易に入賞しメダルを獲得できるような有利なゲームに移行するものである。これに対し、引用発明では、遅延制御信号が発生している状態は、遊技者が入賞することを阻止する制御が働く状態であり、遅延制御信号が発生しない状態と発生している状態は遊技者に認識されないようにゲーム中に混在されるものであるから、引用発明の通常のゲームと「遅延ゲーム」の関係は、本件周知例における通常のゲームとボーナスゲームの関係に対応するものではない(なお、本件周知例におけるボーナスゲームは、1個のリールに即止めゲームを行うことを開示するものではないし、乱数値に応じた停止制御を中止するものでもない。)。
       さらに、本件審決が述べるように、引用発明の「遅延ゲーム」をゲームの主体とするということは、引用発明において全く意味をなさない。なぜなら、引用発明の「遅延ゲーム」は、入賞の組合せの成立を阻止する制御が行われ、特に第2の遅延回路が作動すると遊技者が入賞しない状態であり、そのような状態がゲームの主体となることはない。しかも、引用発明の、遅延停止制御をした状態としない状態は、いずれも、ゲームにおける内部的制御状態であり、引用発明には2種類のゲームがあるのではないことは、前述したとおりである。

       したがって、相違点bに関する本件発明1の構成が、当業者に容易に想到できるという本件審決の判断は誤りである。
     ウ 作用効果に関する判断の誤り
       本件審決が、「作用効果の検討」として、「本件発明1における、「乱数値ゲーム」による平等性と「即止めゲーム」による技術介入性が調和したゲームができるという作用効果は、甲第3号証に記載の発明に、乱数値に応じてリールを遅延停止させるゲームと「即止めゲーム」とを切換えあるいは遊技中に組合わせるスロットマシンが開示されるとともに、「乱数値ゲーム」を主体に、その遊技中に特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分、遊技者に有利なゲームに移行するようにしたスロットマシンが周知技術であることからすると、甲第3号証に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に予測できるものである。」(17頁)と判断したことも誤りである。

       すなわち、本件発明1は、通常のゲームとしては「乱数値ゲーム」を行い、遊技中特定の条件が達成された時にはあらかじめ定めたゲーム回数分、「即止めゲーム」を行う構成によって、非熟練遊技者と熟練遊技者が通常のゲームにおいては平等に扱われるとともに、熟練遊技者がその技能を発揮して楽しめるゲームも行えるという作用効果を奏するものである。このことは、本件発明1は、熟練遊技者が多量のメダルを獲得するという問題を発生させることなく、スロットマシンに遅延制御を伴わない「即止めゲーム」を導入できるという作用効果を有することを意味する。
       これに対し、引用発明は、リールの停止結果で入賞を判定するゲームであり、リールの遅延停止制御は入賞の組合せの成立を阻止するための機械の内部的動作制御であって、ゲーム中にこのような遅延制御状態を遊技者に認識されないように混在させることによって、熟練遊技者の入賞確率を下げる効果を奏するものである。つまり、引用発明にも、本件審決の引用するどの文献にも、スロットマシンにおいて、性質の異なる「乱数値ゲーム」と「即止めゲーム」とを組み合わせたゲームを構成する技術思想は開示されていないから、本件発明1の作用効果は、引用発明と周知技術に基づいて当業者が容易に予測できるものではない。

   (4) 本件発明2に関する同様の判断誤り(取消事由4)
     本件審決は、本件発明2が、引用発明及び刊行物発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断しているが、上記の判断に対しては、本件発明1に関し述べた上記取消事由1ないし3が、すべてあてはまる。
   (5) 刊行物発明の誤認に基づく本件発明2に関する容易想到性の判断誤り(取消理由5)
     ア 本件審決認定の本件発明2と引用発明との相違点cの前段部分である「本件発明2は、複数のリールの一部についてのみ前記乱数値に応じた停止制御を中止して、この停止制御の中止にかかるリールの回転を前記ストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させ、他のリールに対しては、前記ストップボタンスイッチをオンしたときの表示位置から4コマ以内の範囲内で、特定の図柄が表示されるように一定の停止制御を行う」構成である」(17頁)ことは認めるが、同後段部分の「甲第3号証に記載の発明は、複数のリールの回転をストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させるという「即止めゲーム」を行う構成である点」(17〜18頁)であること及び、本件審決が、上記相違点cに関して、「刊行物Aに記載の発明(注、刊行物発明、以下同じ。)における「第3リールの回転をストップボタンの操作タイミングで任意停止させる」構成は、本件発明2における「一部のリールの回転をストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させ」る構成に相当し」(18頁)と判断したこと、また、「特定の条件が達成された時に本件発明2及び刊行物Aに記載の発明で行われるゲームの本質は、本件発明

2の「一部のリール」、あるいは、刊行物Aに記載の発明の「第3リール」を対象に、該リールに特定の図柄が表示されるようにストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させることで技術介入性を発揮できる即止めゲームを行う構成にある」(同頁)と判断したことは、いずれも誤りである。
     イ すなわち、刊行物発明であるスロットマシンは、第3リールのみをストップボタン操作で停止させる遊技機で、しかも、当該操作時、当該リールは低速回転しているものであって、遊技者の熟練、未熟練を問わず誰もが目押しをすることができるものであるから、本件発明2の技術介入性とは、全く無縁の遊技機である。第1、第2リールの乱数値に基づいた位置決定によってボーナス取得の利益はほぼ確定しており、その上で、ボーナスゲームの回数を遊技者が自ら決定できるようにすることでゲームの興趣を高めるという点に、刊行物Aの開示事項は尽きているのである。

       そして、刊行物発明のスロットマシンは、第1、第2リールを遊技者の停止操作を介さず自動停止させるものであり、明らかに結果判定方式のスロットマシンであって、本件発明が解決しようとする、前段判定方式によって失われた技術介入性をゲームに呼び戻し、熟練遊技者のパチスロ機に対する興趣を高めるという課題目的は何ら示唆されておらず、本件発明2の構成を当業者に教示するものとなり得ないのである。
       なお、被告は、本件周知例においても、スロットマシンのボーナスゲームとして、1個のリールについて即止めゲームを行うものが示されていると主張するが、本件周知例におけるボーナスゲームは、1個のリールに即止めゲームを行うことを開示するものではないし、乱数値に応じた停止制御を中止するものでもない。

   (6) 本件発明2の特許法36条4項1号違反に関する判断の誤り(取消事由6)
     ア 本件審決が、本件発明2の「一定の停止制御」に関して、「本件発明2は、通常ゲームで「乱数値に応じた停止制御」を行うことを前提に、遊技中特定の条件が達成された時に、「複数のリールの一部についてのみ前記乱数値に応じた停止制御を中止して」、「他のリールに対しては一定の停止制御を行う」と規定するから、他のリールに対しては乱数値に応じた停止制御を中止せず、かつ一定の停止制御を行う構成となることは明らかであり、上記訂正によっても、乱数値に応じた停止制御と、一定の停止制御の関係が依然として明確でなく、一定の停止制御の内容は不明である。従って、被請求人の訂正請求による、上記A.の一定の停止制御の具体的内容のみをもってして、発明が明確であるとすることができないから、特許を受けようとする発明の構成が依然として不明であるというべきである。」(20頁)と判断したことは誤りである。

     イ すなわち、本件特許に係る明細書(甲2、以下「本件明細書」という。)には、本件発明2に関して、「そこで、上記のような回転リールの停止制御の中止を全てのリールに対して行うほかに、一部のリール(例えば第3リール3R)に対してのみ停止制御を完全に中止し、他のリール(例えば第1リール3L及び第2リール3C)に対してはある程度の停止制御を行うようにしてもよい。その場合、他のリールに対しては一定の条件下でシンボルが入賞ライン上に並ぶように停止制御を行うことにより、熟練者に対してはコイン払い出し率が高くなり、ゲーム性を更に向上させることができる。第2図に示した動作手順は、このような制御を実行するものである。」(5欄)と記載されており、他のリールに対しては、停止制御を完全に中止するのではなく、熟練者がより有利になるように、(特定の)シンボルが入賞ライン上に並ぶように停止制御をすることが記載されている。つまり、遊技者が3つのリールのシンボルをすべて自力で停止させるのではなく、一部のリールについては、ゲーム機が遊技者に有利となるように停止制御を行うとの趣旨である。本件明細書の上記記載では、「一定の条件下」の内容が具体的に記載されていないが、それはそれぞれのゲームにおける設計事項にすぎない。
     ウ また、本件審決は、「他のリールに対しては一定の停止制御を行う」の意味が不明であると述べているが、本件発明2の構成要件には、特定の条件が達成されたときに、「他のリール」に対して「おいて書き」の停止制御が継続しなければならないとは記載されていない。
       すなわち、本件発明2は、「遊技中特定の条件が達成された時」の停止制御について、「複数のリールの一部についてのみ」適用される停止制御として、「前記乱数値に応じた停止制御を中止して、この停止制御の中止にかかるリールの回転を前記ストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させ」と記載する一方、「他のリールに対して」行われる停止制御については、これと全く別に、「前記乱数値に応じた停止制御」には言及せずに、「前記ストップボタンスイッチをオンしたときの表示位置から4コマ以内の範囲内で、特定の図柄が表示されるように一定の停止制御を行う」と記載しており、他のリールに対してはおいて書きの乱数値に応じた停止制御を継続するなどとは記載されていない。

     エ 以上のとおり、いずれにしても本件発明2については、特許法36条4項1号に基づく無効理由は存在しない。
 3 被告の反論の要点
   本件審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
   (1) 取消事由1について
     ア 引用発明の誤認(その1)について
       本件審決は、引用発明に、「遅延ゲーム」と、遅延制御信号が発生していない状態のゲームが存在することを、引用例の記載に基づき認定しているのであって、遅延制御信号中、パルス状の“L”レベルをもって、遅延制御信号が発生していない状態であると認定しているわけではなく、引用例にもそのようなことを示唆する記載はない。
       原告主張のように、“L”レベルが、遅延制御信号が発生されていない状態であるとすると、その直前と直後には、“H”レベルの遅延制御信号が発生されている状態が存在し、そのため、“H”レベル中にシフトレジスターにはクロックパルス信号が印加され、クロックパルス信号をカウントするから、0〜255の数値がセットデータとなり(セットデータが継続して0ではない。)、本件明細書の記載(4頁右下欄8〜17行)と完全に矛盾することになる。

     イ 引用発明の誤認(その2)について
       引用例には、上記記載に加え、「このように遅延制御信号が発生されていない状態では、遊技者がストップ釦を押すと直ちにストップソレノイド23が駆動されて回転円板2は停止される。」(5頁左上欄)と記載されており、遅延制御信号が発生されていない状態のゲームでは、回転部材は即止めされることが明記されており、「即止めゲーム」が存在することは明らかである。
       また、あるリールには遅延停止制御信号が入力され、他のリールには遅延停止制御信号が入力されないという振り分けをするような機能は、引用例には全く記載されていない。引用発明では、3つの遅延回路がリールごとに別に設けられているところに、1つの遅延制御信号発生回路からの遅延制御信号が発せられるのだから、3つの遅延回路に同時に遅延制御信号が入力され、遅延制御信号が発せられなければ、同時に3つの遅延回路とも遅延制御信号は入力されない。

       そして、遅延制御信号が発せられたときは、第2の遅延回路が動作し、その結果特定の図柄の組合せが成立しないように遅延制御されるのであるから、その制御は係る目的のもとに一貫しなければならず、あるリールについては特定の図柄の組合せの成立を阻止し、他のリールについては特定の図柄の組合せの成立を阻止しないという矛盾した状態を惹起することは、その目的に反する。
  (2) 取消事由2について
      引用発明の「遅延ゲーム」は、遅延制御信号によってストップ釦が操作されたタイミングより、乱数値に応じた時間だけ遅延して回転部材が停止されるものであるが、乱数値に応じた時間は、等速で回転する回転部材に等間隔で複数のシンボルが付されているため、当該シンボルの所定個数分に相当する。つまり、引用発明においては、「回転円板が回転していると停止しているとを問わず、常にシンボルデータ信号が発生され」(甲3、5頁右下欄)、当該回転部材に付されたシンボルの配列が確定している以上、当該回転部材に停止表示される図柄は、乱数値に応じて決定されるといえる。

      本件審決は、周知のゲームの「乱数値ゲーム」と引用発明の「遅延ゲーム」とは、本件発明1との関係で「各リールに停止表示される図柄が乱数値に応じて決定されるスロットマシンの構成において共通する」と認定したのであって、自己矛盾など起していない。
   (3) 取消事由3について
     ア 相違点bの誤認について
       原告は、本件審決の相違点bの認定自体に誤りがあると主張するが、引用例には、前記のとおり、遅延制御信号が発生されていない状態のゲームでは、回転部材が即止めされることが記載されており、本件審決は、相違点bを認定する前提として、引用発明においては「即止めゲーム」が存在し、定期的に又は必要に応じて「遅延ゲーム」に切り換える構成であると認定したものであり、その認定に誤りはない。
       なお、「定期的に」に関して、引用例には具体的な記載はないが、一定時間間隔で遅延制御信号を発し、特定のゲーム機から大量の賞品メダルが排出されることを防ぐことなどが考えられ、また、「必要に応じて」に関しては、そのゲーム機で大量のメダルが排出されている時に、遅延制御信号を発することで、特定のゲーム機から大量の賞品メダルが排出されることを防ぐことが考えられる。そこで、この引用発明の効果を発揮させるために、通常は遅延制御信号を発生させない「即止めゲーム」を行っており、定期的に又は必要に応じて(大量のメダルが排出されている時など)、遅延制御信号を発して、「遅延ゲーム」を行うことで入賞の阻止をするものである。

       したがって、引用発明は、遅延制御信号の発生している状態と発生していない状態が異なるゲームを構成するものであり、2種のゲームが遊技者に認識されるか否かにかかわらず、遅延制御信号の発生しているゲームとこれが発生していないゲームとが存在することには変わりはない。
     イ 相違点bの判断誤りについて
       原告は、引用発明の「遅延ゲーム」と、周知のゲームの「乱数値ゲーム」とは全く異なる技術的内容であると主張するが、前記のとおり、本件審決は、両者を同一の技術的内容と判断しているわけではない。
       引用発明は、熟練遊技者がシンボルの組合せを正確に行うことができ、大量のメダルを獲得することから、これを防止するために、遅延制御信号による遅延制御を行うものであり、遅延制御信号が発生されないゲームは、熟練遊技者にとって、ストップ操作釦をタイミングよく押すことによりシンボルの組合せを正確に行うことができるゲームとなるから、それは熟練遊技者に有利なゲームの範疇に属することは明らかであり、本件審決の認定に誤りはない。

       原告は、引用発明における「遅延ゲーム」では、入賞の組合せの成立を阻止する制御が行われていると主張するところ、引用発明において、第1の遅延回路による遅延制御が行われると、第2の遅延回路の作動により、特定の組合せの成立を阻止するように制御することになるが、すべての入賞となる組合せの成立を阻止するなどとは記載されず、また、すべての入賞となる組合せの成立を阻止するのであれば、そもそもゲーム機として成り立たないことは明らかである。
       しかも、引用発明においては、前記のとおり、遅延制御信号が発生しているゲームと発生していないゲームとが存在することは明らかである。
     ウ 作用効果に関する判断の誤りについて
       本件発明1における「乱数値ゲーム」は、熟練遊技者の入賞確率を下げる効果を奏し、特定条件成就による乱数値に応じた停止制御を中止したゲームは、「即止めゲーム」として熟練した遊技者に有利であるところ、引用発明においても、「遅延ゲーム」は、熟練遊技者の入賞確率を下げる効果を奏し、遅延制御信号が発生されないゲームは、「即止めゲーム」として熟練遊技者に有利であるのであって、両者とも同様の作用効果を奏する。

   (4) 取消事由4について
     本件発明1に関する取消事由1ないし3に理由がないことは、前記のとおりである。
   (5) 取消事由5について
      刊行物発明のボーナスゲームでは、第3リールが通常ゲームにおけるリールの回転速度に比較して低速回転となって即止めが行われるが、非熟練者に比べて熟練者の有する優位性には変わりがない。また、本件発明2では、一部のリールについて乱数値に応じた停止制御を中止し「即止め」を実現するが、当該一部のリールの回転速度に関する限定はされていない以上、リールの回転速度が、通常時に行われる「乱数値ゲーム」と同一であっても、遅くなってもかまわないのであり、刊行物発明とこの点で一致する。
      なお、本件周知例においても、スロットマシンのボーナスゲームにおいて、通常ゲームの遊技中、回転停止された際に表示窓内に特定の組合せの絵柄が表示されるという特定の条件が達成されると、所定のゲーム回数分、3つのリールを回転させてから、ストップボタンにより1個のリールを停止させ、特定の絵柄が表示されると入賞となるように構成したもの、すなわち、1個のリールについて即止めゲームを行うものが示されている。

   (6) 取消事由6について
      本件審決は、「@複数のリールの一部についてのみ前記乱数値に応じた停止制御を中止するのだから、A論理必然として、他のリールは「前記乱数値に応じた停止制御」をしなければならず、B他のリールに対しては乱数値に応じた停止制御を中止せず、かつ一定の停止制御を行う構成となることは明らかであり、Cその他のリールに対して一定の停止制御をするという場合の一定の停止制御とは何を意味するのか、乱数値に応じた停止制御と一定の停止制御の関係が依然として明確でなく、一定の停止制御の内容は不明である」と認定判断した(20頁)のであり、まさにそのとおりである。
      原告は、他のリールについては、乱数値に応じた停止制御を完全に中止するのではないなどと主張するが、乱数値に応じた制御は、これをを行うか中止するかのいずれかであって、完全に中止しない状態などを問題にする余地はない。

第3 当裁判所の判断
 1 引用発明の誤認に基づく本件発明1との一致点の誤認(取消事由1)について
   (1) 引用発明の誤認(その1)
     ア 原告は、本件審決が、引用発明について、「前記制御装置は、遅延制御信号が発生されていない状態では前記ストップ操作釦7、8、9をオンしたときのストップ信号に応じて前記各回転部材2を直ちに停止させ、また、定期的にまたは必要に応じて遅延制御信号が発生されている状態ではストップ操作釦7、8、9をオンしたときのストップ信号を前記ランダム数値に応じた時間だけ遅延させて前記回転部材2を遅延停止させるように構成した回転式組合せゲーム機」(9〜10頁)と認定したことが誤りであると主張し、その理由として、引用発明においては、パルス状の“H”レベルをもって遅延制御信号と呼び、遅延制御信号発生回路は、このような遅延制御信号を極短い間隔で繰り返し連続的に発生しており、何ゲームにもわたり遅延制御信号を発生していない状態は存在しないから、「ストップ操作釦7、8、9をオンしたときのストップ信号に応じて前記各回転部材2を直ちに停止させ」るような制御はしない、すなわち、「即止めゲーム」は開示されていないと述べる。

     イ そこで検討するに、引用例(甲3)には次の記載がある。
     (a)「従来より、表面にそれぞれ数種のシンボルを付した複数個の回転部材をスタート操作部の作動に応じて回転させ、個々のストップ操作部の作動によって前記複数個の回転部材の回転を直ちに停止させ、停止時における回転部材のシンボルの組合せに応じて賞品メダルを排出する組合せゲーム機が知られており、回転部材としては同軸に回転するリール状のものや、互いに平行な軸の回りに回転する回転円板状のものなどが用いられている。このような組合せゲーム機では、遊技者がストップ操作部の操作に熟練すると、ストップ操作釦をタイミングよく押すことによりシンボルの組合せをかなり正確に行なうことが出来るようになるので、遊技が単調化するとともに特定の組合せゲーム機からのみ極めて多量の賞品メダルが排出されることとなる。ところで、このような組合せゲーム機を多数設置する遊技場では、その総賞品メダル排出量を経営上の理由から制限することが一般であるので、多数の遊技者に楽しんでもらうためには特定者のみが特に多量の賞品メダルを獲得することは望ましくない。本発明は、これらの点に鑑み、なるべく多くの遊技者にゲームを楽しんでもらうために、ストップ操作部による回転部材の

停止タイミングを種々の状態で遅延させることにより、遊技の単調化を防ぎ、また特定の組合せゲーム機から極めて多量の賞品メダルが排出される確率を減らし、多くの遊技者にゲームを楽しんでもらえるような組合せゲーム機を提供することを目的とする。」(1頁右欄〜2頁右上欄)
     (b)「第3図は、ストップ操作部の操作による回転円板2の停止タイミングを種々の状態で遅延させる回路のブロック図である。このような回路は各回転円板の機構ごとに設けられているものである。以下、そのうちの一回路についてのみ説明を行なうが、他の回路についても、その構成、作用は全く同じである。第3図中、<S>で示されるストップ信号は、遊技者が窓4に期待するシンボル3を停止させるべくストップ操作釦を押すことにより発生される信号であり、ある一定時間継続した正電圧(例えば、+5V。以下このような正電圧を“H”、零電圧を“L”で示す。)の直流信号である。」(3頁左上欄〜右上欄)

     (c)「第3図中、<C>で示される遅延制御信号は、定期的に、または必要に応じて遅延制御信号発生回路で発生されるくり返しパルス信号であり、波形整形回路30に入力される。」(3頁右上欄〜左下欄)
     (d)「発振回路34はシフトレジスター27及び減算回路35を作動させるための基準クロックパルス信号を発生する回路であり、“H”、“L”レベル間を振動するくり返しパルス波を発生する。このパルス波のパルス巾は前記した遅延制御信号のパルス巾より小さく設定される。」(3頁左下欄)
     (e)「遊技者が回転円板2を停止させるべくストップ操作釦を押すと“H”レベルのストップ信号が発生され、このストップ信号はアンドゲート26の入力端子bに入力されるが、入力端子aも前記のように“H”レベルにあるためアンドゲート26の出力端子には“H”レベルの出力信号が出る。今、遅延制御信号が発生されていない状態では、シフトレジスター27の入力端子bにはクロックパルス信号が入力されていないので該シフトレジスター27はカウントを行っておらず、そのセットデータは零である。したがって、シフトレジスター27の入力端子aにアンドゲート26から“H”レベルのストップ信号が入力されると零のセットデータが減算回路35の入力端子aに与えられることになる。減算回路35では減算値は零であるため、直ちに、その出力端子cに“H”レベル出力信号が出され、この出力信号は判定回路32の入力端子aに入力される。判定回路32では、遅延制御信号が出されていないのでその入力端子bは“L”レベルにあるため、入力端子aに入力した“H”レベル信号は、その出力端子noに振り分けられ該端子を“H”レベルとする。この結果、オアゲート38は“H”レベル信号を出力

し、これによりソレノイドドライバー40を作動させてストップソレノイド23を駆動する。このように遅延制御信号が発生されていない状態では、遊技者がストップ操作釦を押すと直ちにストップソレノイド23が駆動されて回転円板2は停止される。」(4頁右下欄〜5頁左上欄)
     (f)「第1の遅延回路の動作について述べる。アンドゲート31は、その二つの入力端子a、bが共に“H”のとき“H”を出力する回路であるので、パルス状の遅延制御信号が波形整形回路30を介してアンドゲート31に加えられると、該遅延制御信号と発信回路34からのパルス信号とが重畳された部分の信号がクロックパルス信号としてアンドゲート31から出力される・・・このクロックパルス信号はシフトレジスター27の入力端子bに入力されるので、シフトレジスター27はこのクロックパルス信号を0から255の間でくり返しカウントすることになる。さて、シフトレジスター27の入力端子aにアンドゲート26を介してストップ信号が入力されると、その時のセットデータが減算回路35に与えられる。このセットデータの値はストップ信号が与えられるタイミングで決まる0から255の間のランダムな数である。減算回路35ではこのセットデータをアンドゲート31から受けたクロックパルス信号により一つづつ減算してゆき、減算値が零となった時にその出力端子cに出力信号を出すが、その減算にかかる時間は、セットデータが0から255の間のランダムな数であること、またクロックパルス信号のパルス数も遅延制御信号と発振回路34の出力信号との関係で決まるランダムなものであることから、ランダムな時間となる。したがって、ストップ信号がアンドゲート26に入力されてから減算回路35の出力端子cに出力されるまでの時間は、減算回路35でセットデータを減算するに必要なあるランダムな時間だけ遅れることになる。これが第1の遅延動作である。」(5頁左上欄〜左下欄)
     (g)「次に第2の遅延回路36の動作について述べる。まず、判定回路32の入力端子aに第1の遅延回路33から出力信号を受けたとする。判定回路32の入力端子bに与えられる遅延制御信号が“L”レベルのタイミングの時には、減算回路35からの出力信号は判定回路32の出力端子no、オアゲート38を介して前記停止回路39に入力され、回転円板2を直ちに停止させる。遅延信号が“H”レベルのタイミングのときには、第1の遅延回路33からの出力信号は判定回路32の出力端子yesを介して判定回路37の入力端子1に入力される。」(5頁左下欄)

     (h)「データ比較回路28は、・・・特定の組合せと一致しているかどうかを比較して、シンボルデータ信号が一致した場合にその出力端子cに、“H”レベルの出力信号を出す。このため、データが一致している間は、判定回路37は判定回路32からの“H”レベル出力信号を出力端子yesに振り分けて出力し、データ比較回路28にデータ比較をくり返される。シンボルデータ信号が不一致になるとデータ比較回路28の出力は“L”レベルとなり、判定回路37の出力端子noに“H”レベル出力信号を出し、オアゲート38を介して前記の停止回路39を作動させて回転円板2を停止させる。」(5頁右下欄〜6頁左上欄)
     ウ 以上の記載によれば、従来の、複数個の回転部材をスタート操作部の作動に応じて回転させ、個々のストップ操作部の作動によって上記複数個の回転部材の回転を直ちに停止させ、停止時における回転部材のシンボルの組合せに応じて賞品メダルを排出する組合せゲーム機では、遊技者がストップ操作部の操作に熟練すると、ストップ操作釦をタイミングよく押すことによりシンボルの組合せをかなり正確に行うことが可能となるため、遊技が単調化するとともに特定のゲーム機から極めて多量の賞品が排出されるという問題点があったところ、引用発明は、定期的に又は必要に応じて遅延制御信号を発生させ(遅延制御信号をどのような周期又は継続時間で発生させるかは特に限定されていない。)、ストップ操作部による回転部材の停止タイミングを種々の状態で遅延させることにより、遊技の単調化を防ぐとともに、特定の組合せゲーム機から極めて多量の賞品メダルが排出される確率を減らしたものと認められる。そして、ストップ操作部による回転部材の停止タイミングを遅延させるために、第1の遅延回路及び第2の遅延回路を設けているものと認められる。

       したがって、引用発明は、「即止めゲーム」の問題点を解消するために、定期的に又は必要に応じて、その遊技を「即止めゲーム」から「遅延ゲーム」に切り換えるものであることが明らかである。
     エ 原告は、引用発明において、入力又は出力されるのは“H”レベルのみであり、また、信号と呼ばれているのも“H”レベルのみであるから、パルス状の“H”レベルが遅延制御信号であり、遅延制御信号発生回路は、遅延制御信号をごく短い間隔で繰り返し連続的に発生するから、遅延制御信号を発生しない状態が何ゲームにもわたり継続することはないと主張する。
       しかしながら、引用発明において、上記イの(b)に開示されるストップ信号は、一定時間継続した正電圧“H”の直流信号であると記載されているものの、同(c)に開示される遅延制御信号は、定期的に又は必要に応じて発生される繰返しパルス信号と記載されているのであり、繰返しパルス信号とは、同(d)に記載されるように、“H”、“L”レベル間を振動する繰返しパルス波であるものと認められるから、遅延制御信号を発生しない状態とは、単にこの繰返しパルス信号の“L”レベル状態をいうのではなく、“H”、“L”レベル間を振動する繰返しパルス信号自体を発生しない状態を示すことが明らかである。また、同(e)には、「遅延制御信号が発生されていない状態では、シフトレジスター27の入力端子bにはクロックパルス信号が入力されていない」、「遅延制御信号が発生されていない状態では、遊技者がストップ操作釦を押すと直ちにストップソレノイド23が駆動されて回転円板2は停止される」と記載されているから、この記載からも、遅延制御信号が発生されていない状態では、遊技者がストップ操作釦を押すと直ちに回転円板が停止されるゲーム、すなわち、「即止めゲーム」が行われることが明らかである。
         したがって、原告の上記主張は採用することができない。
     オ また、原告は、“H”レベル信号から“L”レベル信号へと移行したとき、ストップボタンスイッチを操作すると、シフトレジスターのセットデータはほとんど0以外の数値である(0にリセットされることは示されていない。)が、このように遅延制御信号が発生されていない状態では、減算回路において減算が行われないから、この状態が数秒以上継続すると、リールの回転が数秒間停止しないことになり、明らかに当業者の技術常識に反すると主張する。
       しかしながら、原告の上記主張は、遅延制御信号とは“H”レベル信号のことであるとの解釈を前提とするものであるところ、この前提解釈自体が、前判示のとおり誤りである。すなわち、引用発明の遅延制御信号は、前記のとおり、“H”、“L”レベル間を振動する繰り返しパルス波であり、遅延制御信号が発生されている状態においては、“H”、“L”が繰り返されるところ、上記イの(f)の記載によれば、“L”のときストップ信号が入力されると、シフトレジスターのセットデータはほとんど0以外の数値であるが、ごく短期間に繰り返される“H”レベル信号と発振回路からのパルス信号とが重畳された部分のクロックパルス信号が減算回路に入力されて、セットデータを減算して行き、0になったところでリールの回転が止まることになるものと認められ、この遅延制御信号が発生されている状態と、遅延制御信号が発生されていない状態とは、異なる制御状態であるから、引用例の記載には矛盾がない(なお、上記イの(e)においては、遅延制御信号が発生されていない状態では、シフトレジスターにクロックパルス信号は入力されておらず、そのセットデータは0であると記載されているから、遅延制

御信号発生回路からの信号の発生を止めるときにシフトレジスターをリセットする(0に戻る)か、又は、シフトレジスターのカウントが0になったところで遅延制御信号を止めるものと推認される。)。
       したがって、この点に関する原告の上記主張も採用することができない。
   (2) 引用発明の誤認(その2)
     原告は、引用発明において、仮に、リールを遅延停止させる制御を行わない状態が開示されているとしても、ある1つのリールについて「即止め」になるという状態にすぎず、「遅延ゲーム」に対置されるゲームの態様として「即止めゲーム」を介在させる構成は開示されていないと主張し、引用例の遅延制御信号の入力経路を含む遅延回路は、各リールの機構ごとに設けられているものであり、全リールについて、遅延制御信号を入力する状態と入力しない状態とに切り換える構成ではなく、遅延制御信号は3つのリールのそれぞれについて、定期的に又は必要に応じて発生することによって、各リールごとに、「即止め」にしたり、アトランダムな遅延停止をすることが、引用例の開示事項であると主張する。

     しかしながら、引用例においては、上記(1)イの(b)に、遅延回路を各リール(回転円板)ごとに設けるとは記載されているが、各リールごとに独立して遅延制御信号を発生するとは記載されておらず、また、引用発明は、前判示のとおり、「即止めゲーム」から定期的に又は必要に応じて「遅延ゲーム」に切り換えるものであり、遅延制御信号が発生されていない状態では「即止めゲーム」が行われるものと認められるから、遅延制御信号が発生されていない状態が1つのリールに限られ、同時に各リールに適用されることはないと限定的に解する合理的な根拠はなく、当業者は、引用発明が、同時にすべてのリールを直ちに停止させる制御を開示しているものと認識することが明らかである。したがって、原告の上記主張を採用する余地はない。
     また、上記の説示に照らして、この種のスロットマシンでは、停止操作は順を追って各リールごとに行うものであり、遅延制御信号が定期的に又は必要に応じて発生すると、3リールすべての停止操作時と遅延制御信号の不発生がシンクロして「即止めゲーム」が成立する状況はあり得ない旨の原告主張が採用できないことも明らかである。

   (3) 以上のとおり、本件審決における引用発明の認定に誤りはないから、本件発明1と引用発明との一致点の認定にも誤りはなく、この点に反する原告の前記主張は、採用することができない。
 2 本件発明1と引用発明との相違点aの判断誤り(取消事由2)について
   (1) 本件発明1と引用発明との相違点aが、本件審決の認定のとおり、「本件発明1は、「乱数値ゲーム」を行う構成であるのに対し、甲第3号証に記載の発明は、「予め定めた範囲で乱数を発生する手段、前記乱数をサンプリングする手段、前記各ストップボタンスイッチをオンしたときに、前記乱数値に応じた時間だけ遅延させて前記各リールの回転を遅延停止させる停止制御を行う」構成である点」(15頁)であることは、当事者間に争いがない。
     原告は、本件審決が、上記相違点aに関して、「乱数値ゲーム」を通常のゲームとするゲームは周知のゲームと認定した上、「甲第3号証に記載の発明と前記周知技術は、各リールに停止表示される図柄が乱数値に応じて決定されるスロットマシンの構成において共通するから、甲第3号証に記載の発明に示される、各ストップボタンスイッチをオンしたときに、乱数値に応じた時間だけ遅延させて各リールの回転を遅延停止させる停止制御を行う構成に代えて、前記周知技術に示される「乱数値ゲーム」の構成を採用して、前記相違点aにかかる本件発明1の構成のようにすることは、当業者が容易に想到できるものである。」(15〜16頁)と判断したことが誤りであると主張するので、以下検討する。

   (2) 原告は、本件審決の相違点aに係る上記の判断は、本件発明1と引用発明の対比では「相違点a」と認定したことを、周知のゲームと引用発明の対比では「共通する」と認定しているのであって、自己矛盾を起していると主張する。
     しかしながら、本件審決は、引用発明の「遅延ゲーム」と周知のゲームの「乱数値ゲーム」とは、上記相違点aで認定した点で異なるものであることを前提として、引用発明の「遅延ゲーム」は、各リールの回転が乱数値に応じた時間だけ遅延させられるから、各リールに停止表示される図柄が乱数値に応じて決定されるものと解することができ、この点で周知のゲームの「乱数値ゲーム」と共通すると認定したものであって、この認定に誤りはない。そして、引用発明の「遅延ゲーム」と周知のゲームの「乱数値ゲーム」とは、停止表示図柄が乱数値に応じて決定されるという共通点を有し、かつ、「乱数値ゲーム」自体が周知のものである(このことは当事者間に争いがない。)以上、引用発明の「遅延ゲーム」を周知のゲームの「乱数値ゲーム」に変更することが容易想到である旨の本件審決の判断にも、誤りはないというべきである。原告の前記主張は、本件審決の認定判断を正解せずに論難するものであって、これを採用する余地はない。

     また、原告は、引用例及び周知のゲームのいずれにも、引用発明の結果判定方式自体は変えることなく、「遅延ゲーム」の部分だけを「乱数値ゲーム」で置換する動機は全く存在しない旨主張するが、本件特許の出願当時、結果判定方式も乱数値を使用した前段判定方式もスロットマシンにおいて周知の方式であり、引用発明の「遅延ゲーム」と周知のゲームの「乱数値ゲーム」とが上記の共通点を有するばかりでなく、同じ前段判定方式に属する以上、その両者を置換することの動機付けは十分に存することが明らかであり、原告の上記主張も採用することはできない。
   (3) 以上のとおり、本件審決における本件発明1と引用発明との相違点aの判断に誤りはない。
 3 本件発明1と引用発明との相違点bについての判断誤り(取消事由3)について

   (1) 相違点bの誤認について
     ア 本件審決が認定した相違点bのうち、「本件発明1は、「乱数値ゲーム」の「遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分」につき「即止めゲーム」に移行する構成である」(15頁)ことは、当事者間に争いがない。
       原告は、本件審決が、引用発明について、「「即止めゲーム」に対して、「定期的にまたは必要に応じて」、乱数値に応じてリールを遅延停止させるゲームに切換える構成である」(同頁)と認定したことが誤りであると主張するが、前示のとおり、引用発明は、「即止めゲーム」の問題点を解消するため、定期的に又は必要に応じて、「即止めゲーム」から「遅延ゲーム」に切り換えるものであると認められるから、上記主張は採用することができない。
     イ 原告は、引用例の出願当時、「即止めゲーム」は経営上ゲームとして成り立たないことが当業者によく知られていたから、引用発明が「即止めゲーム」を含まないことは自明の理であると主張する。 

       しかしながら、引用発明は、「即止めゲーム」が有する問題点を認識した上、これを解消するため、定期的に又は必要に応じて、「遅延ゲーム」を採用して上記両ゲームを一体のゲームとして構成するものであるから、仮に、当業者において上記の認識が一般的であったとしても、この認識が、引用発明において「即止めゲーム」を含まないことの合理的根拠とならないことは明らかであり、原告の上記主張は失当というほかない。
       また、原告は、引用発明において、遅延制御信号をどのくらいの時間継続するかについて全く記載がなく、遊技者が1回のゲームを行う数秒よりはるかに短い時間でON、OFFが可能であり、ランダム遅延制御となるか即止めとなるかは、偶然により決まるだけであって、引用発明は「即止めゲーム」を含むものではないと主張する。

       しかしながら、引用発明は、前判示のとおり、遅延制御信号が発生されていない状態において「即止めゲーム」を行うものであることが明らかであり、定期的に又は必要に応じて発生する遅延制御信号の周期及び継続時間等は、特に限定されるものではないから、遅延制御信号が短い時間でON、OFFすることを前提とする原告の主張は、引用発明を曲解するものであって、到底、採用することができない。
       さらに、原告は、引用発明において、遅延制御信号が発生している状態は、入賞の組合せの成立を阻止する制御が行われている状態であり、遊技者に知られてはならない状態であるから、設計上遊技者に認識されないようにゲーム中に混在されるものであって、引用発明が、2種類のゲームを切り換えるものではないと主張する。
       しかしながら、引用発明は、前判示のとおり、「即止めゲーム」の問題点を解消するため、遅延制御信号を定期的に又は必要に応じて発生させ、「即止めゲーム」から「遅延ゲーム」に切り換えるものであり、遅延制御信号が発生している状態においても一定の確率で入賞することは後記(2)のエにおいて判示するとおりであるばかりでなく、「遅延ゲーム」を行う状態にあることが遊技者に知られるか否かにより、そのゲームの客観的な性格が左右されるものでないことは明らかであるから、原告の上記主張も採用の余地はない。

     ウ 以上のとおり、本件審決の相違点bの認定に誤りはない。
   (2) 相違点bの判断誤りについて
     ア 原告は、本件審決が、相違点bの検討において、「しかして、「乱数値ゲーム」をゲームの主体に、その遊技中に特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分、遊技者に有利なゲームに移行するようにした前記周知のゲーム形態に照らしたときに、甲第3号証に記載の発明における、乱数値に応じてリールを遅延停止させるゲームが前記周知の「乱数値ゲーム」に対比できるとともに、「即止めゲーム」が前記の遊技者に有利なゲームの範疇に属することが明らかである。そうすると、スロットマシンにおける前記周知のゲーム形態に基づいて、甲第3号証に記載の発明に示される、乱数値に応じてリールを遅延停止させるゲームをゲームの主体にするとともに、遊技者に有利なゲームである「即止めゲーム」へと「定期的にまたは必要に応じて」切換えあるいは遊技中に組み合わせて移行する条件として、遊技者に有利なゲームに移行するときの常套手段である「遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分」という条件を採用して、前記相違点bにかかる本件発明1の構成のようにすることは、当業者が容易に想到できるものである。」(16頁)と判断したことも誤りであると主張するので、以下検討する。
     イ 原告は、引用発明の「遅延ゲーム」と周知のゲームの「乱数値ゲーム」が全く異なる技術的内容であるにもかかわらず、本件審決が、両者を対比できると述べたことが自己矛盾であると主張するが、この主張を採用する余地がないことは、取消事由2の(2)で説示したとおりである。
     ウ また、原告は、本件周知例におけるボーナスゲームが、通常のゲームの遊技中特定の条件が達成されたときに、遊技者にとって容易に入賞できるような有利なゲームに移行するものであるのに対し、引用発明では、遅延制御信号が発生している状態は、遊技者が入賞することを阻止する制御が働く状態であり、遅延制御信号が発生していない状態と発生している状態は遊技者に認識されないようにゲーム中に混在されるものであるから、引用発明の通常のゲームと「遅延ゲーム」との関係は、本件周知例における通常のゲームとボーナスゲームとの関係に対応するものではないと主張する。

       しかしながら、本件審決は、「即止めゲーム」と「遅延ゲーム」とからなる引用発明と、「乱数値ゲーム」と「ボーナスゲーム」とからなる周知のゲームとを、遊技者にとって客観的に有利であるか否かの観点から対比した場合に、乱数値を使用した引用発明の「遅延ゲーム」が周知のゲームの「乱数値ゲーム」に対応し、遊技者が容易に入賞できる引用発明の「即止めゲーム」が周知のゲームの「ボーナスゲーム」に対応すると判断したものであり、この判断自体に誤りはないというべきである。原告の上記主張は、遊技者にとって客観的に有利であるか否かとは異なる観点から本件審決の認定を非難するものであり、採用の限りではない。
     エ さらに、原告は、引用発明の「遅延ゲーム」は、入賞の組合せの成立を阻止する制御が行われ、遊技者が入賞しない状態であるから、そのような状態がゲームの主体となることはないと主張する。

       そこで検討するに、引用発明の「遅延ゲーム」は、上記1(1)イの(f)に記載される第1の遅延制御の動作と、同(g)及び(h)に記載される第2の遅延制御の動作とを組み合わせたゲームであり、第1の遅延制御では、乱数値に基づくランダムな時間だけ遅延するものであるから、一定の確率で入賞するが、第2の遅延制御では、特定の組合せを常に除外するものであるから、入賞することがないものと認められる。そして、上記(g)に記載されるように、第2の遅延回路は、第1の遅延回路から出力信号が出たときに、遅延制御信号が“L”レベルならば機能せずに回転円盤が停止し、“H”レベルならば機能して、シンボルデータ信号が不一致となるまで回転円盤は停止しない。そして、第1の遅延制御のみでは、一定の確率で入賞するのであるから、結局、引用発明の「遅延ゲーム」は、遊技者が入賞しない状態とは認められない(例えば、遅延制御信号の繰返しパルスの“H”レベルと発振回路の出力信号(パルス信号)の重畳された部分のクロックパルス信号の数が256の約数(32や16)の場合、“L”レベルでストップ操作釦を押すと第2の遅延制御は行われず、“H”レベルでストップ操作釦を押すとほとんど遅延制御が行われるから、“H”と“L”とが同じ継続時間であれば、約1/2の確率で、第2の遅延制御は行われないものと認められる。)。
       したがって、引用発明の「遅延ゲーム」は、遊技者が入賞しない状態にあるものではないから、「ゲームの主体」となり得ないものではなく、原告の上記主張は採用できない。
       なお、周知のゲームにおいては、遊技者に有利とはいえない「乱数値ゲーム」がゲームの主体となっている(本件発明1もこれに含まれる。)から、引用発明において、遊技者に有利とはいえないゲームである「遅延ゲーム」をゲームの主体とすることは、当業者ならば容易に想到できるものと認められる。また、引用発明は、「即止めゲーム」を主体とし、定期的に又は必要に応じて、「遅延ゲーム」に切り換えるものであるが、その周期や継続時間に格別の制約も認められないから、「即止めゲーム」より「遅延ゲーム」の継続時間が長くなることも想定されないではなく、この点からも、「遅延ゲーム」をゲームの主体とすることに格別の困難性はないというべきである。

     オ 以上のとおり、引用発明の「遅延ゲーム」を周知のゲームの「乱数値ゲーム」に変更することは容易想到であり、引用発明において、この変更した「乱数値ゲーム」をゲームの主体とすることも容易想到であるものと認められる。そして、周知のゲームは、「乱数値ゲーム」をゲームの主体に、その遊技中に特定の条件が達成された時にはあらかじめ定めたゲーム回数分、遊技者に有利なゲームに移行するようにしたものであるから、引用発明において、「遅延ゲーム」を変更した「乱数値ゲーム」をゲームの主体とし、その遊技中に特定の条件が達成された時に、あらかじめ定めたゲーム回数分、従来、ゲームの主体であった遊技者に有利な「即止めゲーム」を行わせるようにすることも、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
   (3) 作用効果に関する判断の誤り

     原告は、本件審決の「作用効果の検討」における判断(17頁)が誤りであると主張し、本件発明1は、通常のゲームとして「乱数値ゲーム」を行い、遊技中特定の条件が達成された時に「即止めゲーム」を行う構成によって、非熟練遊技者と熟練遊技者が通常のゲームにおいては平等に扱われるとともに、熟練遊技者がその技能を発揮して楽しめるゲームも行えるという作用効果を奏するものであるところ、引用発明にも、本件審決の引用するどの文献にも、スロットマシンにおいて、性質の異なる「乱数値ゲーム」と「即止めゲーム」とを組み合わせたゲームを構成する技術思想は開示されていないと主張する。。
     しかしながら、引用発明においては、上記1(1)イの(f)に記載されるように、シフトレジスタのセットデータが0から255の間のランダムな数であり、減算のためのクロックパルス信号のパルス数もランダムなものであるから、引用発明の「遅延ゲーム」は、減算に要する時間がランダムな時間となる第1の遅延制御と、同(g)に記載されるように、遅延制御信号の繰返しパルスの“H”と“L”との継続時間などを要因として生じる第2の遅延制御とで構成されており、非熟練遊技者と熟練遊技者とが比較的平等に扱われるものと解される。また、引用発明の「即止めゲーム」は、本件発明1と同様に、熟練遊技者がその技能を発揮して楽しめるゲームである。

     したがって、引用発明には、「乱数値ゲーム」と同様の非熟練遊技者と熟練遊技者とが比較的平等に扱われるゲームと、熟練遊技者がその技能を発揮して楽しめる「即止めゲーム」とを組み合わせた技術思想が開示されており、原告の上記主張は、採用することができない。また、前判示のとおり、引用発明及び周知のゲームに基づいて当業者が容易に想到し得た発明は、本件発明1の上記効果を奏することは明らかであるから、本件発明1が、予測できない顕著な効果を奏するとも認められない。
   (4) 以上のとおり、本件審決における本件発明1と引用発明との相違点bの判断に誤りはない。
 4 本件発明2に関する同様の判断誤り(取消事由4)について
   原告は、本件発明2が、引用発明及び刊行物発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの判断に対しては、本件発明1に関し述べた上記取消事由1ないし3があてはまると主張するところ、これらの取消事由がすべて理由がないことは、前示のとおりであるから、取消事由4も理由がないことに帰する。

 5 刊行物発明の誤認に基づく本件発明2に関する容易想到性の判断誤り(取消事由5)について
  (1) 原告は、本件審決認定の本件発明2と引用発明との相違点cの前段部分である「本件発明2は、「複数のリールの一部についてのみ前記乱数値に応じた停止制御を中止して、この停止制御の中止にかかるリールの回転を前記ストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させ、他のリールに対しては、前記ストップボタンスイッチをオンしたときの表示位置から4コマ以内の範囲内で、特定の図柄が表示されるように一定の停止制御を行う」構成である」(17頁)ことは認めるが、同後段部分の「甲第3号証に記載の発明は、複数のリールの回転をストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させるという「即止めゲーム」を行う構成である点」(17〜18頁)であることは誤りであると主張する。

    しかしながら、引用発明に、複数のリールの回転をストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させる「即止めゲーム」が開示されていることは、前判示のとおりであるから、上記主張を採用する余地はない。
    また、原告は、本件審決が、上記相違点cに関して、「刊行物Aに記載の発明における「第3リールの回転をストップボタンの操作タイミングで任意停止させる」構成は、本件発明2における「一部のリールの回転をストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させ」る構成に相当し」(18頁)と判断したこと、「特定の条件が達成された時に本件発明2及び刊行物Aに記載の発明で行われるゲームの本質は、本件発明2の「一部のリール」、あるいは、刊行物Aに記載の発明の「第3リール」を対象に、該リールに特定の図柄が表示されるようにストップボタンスイッチの操作タイミングで停止させることで技術介入性を発揮できる即止めゲームを行う構成にある」(同頁)と判断したことは、いずれも誤りであると主張するので、以下検討する。

  (2) まず、原告は、刊行物発明であるスロットマシンが、第3リールのみをストップボタン操作で停止させる遊技機で、しかも、当該操作時、当該リールは低速回転しているものであって、遊技者の熟練、未熟練を問わず誰もが目押しをすることができるものであるから、本件発明2の技術介入性とは無縁の遊技機である旨主張する。
    確かに、刊行物A(甲18)では、ボーナスゲームとして、低速で回転する第3リールのみをストップボタン操作で停止させることを開示しているものと認められるが、その回転速度については、実施例の第4図の説明において「高速時の1/8」と説明されている(9〜10頁)のみであり、具体的な速度の程度は規定されていない上、刊行物発明の技術的内容が実施例の当該記載の速度に限定されるものでないことも明らかである。そうすると、刊行物発明において低速で回転するリールは、その速度の程度が限定されていない以上、遊技者にとって高速回転時よりも目押しをすることが容易であるとしても、熟練の程度を問わずどのような技量の遊技者であっても、必ず意図した図柄を目押しをすることができると断定することはできない。したがって、刊行物発明が、本件発明2の技術介入性とは関係がないとする原告の上記主張は採用の余地がない。

    また、原告は、刊行物発明のスロットマシンは、第1、第2リールを遊技者の停止操作を介さず自動停止させるものであり、明らかに結果判定方式のスロットマシンであって、本件発明が解決しようとする、前段判定方式によって失われた技術介入性をゲームに呼び戻し、熟練遊技者のパチスロ機に対する興趣を高めるという課題目的は何ら示唆されていないと主張する。
    しかしながら、本件審決は、刊行物発明のボーナスゲームとして、第3リールにおいてストップボタン操作で停止させる即止めゲームが行われていることを認定し(この認定が正当であり、また、このゲームに遊技者の技術介入性が肯定されることは、前判示のとおりである。)、これに基づいて本件発明2が容易に想到されるか否かを検討しているのであって、このボーナスゲームの構成と刊行物発明自体が結果判定方式のスロットマシンであるか否かとは関わりのないことであるから、原告の上記主張は、本件審決の判示を正解しないで非難するものであり、採用の限りではない。

  (3) ところで、本件周知例(甲10〜17)に記載されているように、スロットマシンのボーナスゲームにおいて、通常ゲームの遊技中、回転停止された際に表示窓内に特定の組合せの絵柄が表示されるという特定の条件が達成されると、所定のゲーム回数分3つのリールを回転させてから、ストップボタンにより1個のリールを停止させ、特定の絵柄が表示されると入賞となるように構成したものは周知の事項と認められる(ただし、甲11には、ボーナスゲームとして1個のリールのみを停止させることは明示されていない。)。
    この点について原告は、本件周知例が1個のリールについて即止めゲームを行うことを開示するものではないと主張する。
    しかしながら、例えば、実願昭55−94808号(実開昭57−17683号)のマイクロフィルム(甲13)には、「先ずメダル1枚をメダル投入口24から投入し、操作レバー5を手前に引けば、3個のリール2〜4が同時に回転する。このリール2〜4の回転中に、ストップボタン6、7、8を順次押せば、ソレノイドストップ機構が作動してリール2〜4を順次停止させる。」(3〜4頁)、「この条件を満たすと、表示装置13の表示が切り換わって、第3図に示すように「AAA」の表示がなされる。これはボーナスゲームであり、前述したように操作レバー5を引いてリール2〜4を回転させてから、ストップボタン6を押してリール2を停止させ、表示窓9の中央に現れた図形が「A」のときには、ボーナス賞として15枚のメダルが排出される。同様にしてリール3、4を停止させ1回のボーナスゲームを行うことができる。この1回のボーナスゲームが終了すると、ランプ20が点灯する。」(4〜5頁)と記載されており、これらの記載によれば、ボーナスゲームとして、操作レバーを引いて3個のリールを回転させてから、ストップボタンを押すことにより、ソレノイドストップ機構が作動して1つのリールを即止めすることが開示されているものと認められる。その他の本件周知例(甲11を除く。)においても、ボーナスゲームとして、1つのリールについて即止め制御を行っているものと明らかに認められるから、原告の上記主張には理由がない。
    また、原告は、本件周知例におけるボーナスゲームが、乱数値に応じた停止制御を中止するものではないと主張する。
    しかしながら、本件周知例において、特定の組合せの絵柄が表示された場合のボーナスゲームに関して、乱数値に応じた停止制御(遅延制御を含む。)が行われることを開示する記載ないし示唆は全く認められないから、原告の上記主張は、到底、採用することができない。
    そうすると、刊行物発明のボーナスゲームの構成に加えて本件周知例における上記周知事項を考慮した場合、引用発明におけるすべてのリールを対象に「即止めゲーム」を行う構成に代えて、複数のリールの一部についてのみ「即止めゲーム」を行う構成を採用することは、当業者にとって、格別の困難性はないものと認められ、これに反する原告の前記主張も採用することができない。

  (4) また、本件発明2は、本件発明1の3つのリールにおいて即止めゲームを行う構成に代えて、更に遊技者を入賞しやすくするという観点から、一部のリールにおいて即止めゲームを行い、他のリールについて「ストップボタンスイッチをオンしたときの表示位置から4コマ以内の範囲内で、特定の図柄が表示されるように一定の停止制御を行うように構成した」ものである(以下、当該制御を「引き込み制御」という。ただし、本件審決(19〜20頁)は、無効理由2として、この引き込み制御と、本件発明2の「おいて書き」で示される「乱数値に応じた停止制御」との関係が不明確であると指摘しているが、一応、上記両制御は異なる制御方法として明確であると善解しておくこととする。)。一方、本件周知例は、ボーナスゲームとして、遊技者を入賞しやすくするという観点から、1つのリールのみを用いて即止めゲームを行い、他のリールを回転させたまま入賞の対象から除いて、入賞を実現しようとするものである。そうすると、即止めゲームを行わない他のリールについて、遊技者を入賞しやすくするという観点から、回転させたまま入賞の対象から除くか、不自然とならない範囲で入賞の図柄を実現する引き込み制御を行うかは、当業者が任意に選択し得る設計的事項であるといえる。
    したがって、本件発明1が、前判示のとおり、引用発明及び周知技術から容易に想到されることを前提として、刊行物発明及び本件周知例における上記周知事項を考慮した場合、本件発明1を更に入賞しやすくするために、一部のリールで即止めゲームを行い、他のリールを引き込み制御とすることも容易に想到されることであると認められる(なお、原告も、本件審決が、「刊行物Aに記載の発明のボーナスゲームにおいては、全リールのうち第1、第2リールの表示図柄を既に入賞にあたる特定の図柄が表示される停止状態に設定した上で、回転可能な第3リールを任意停止させて入賞ラインに同じ特定の図柄が並ぶことをもって入賞としているものと見なせるものであるから、前記第1、第2リールの入賞ラインに特定の図柄を表示させるにあたって、当初から停止状態にて特定の図柄を表示することを変更して一旦回転させた後に所定の停止操作に応じてその停止位置を制御して前記特定の図柄が表示されるようにすることは、当業者にとって単なる設計的事項のものというべきである。そして、スロットマシンの技術分野において、ストップボタンスイッチをオンしたときの表示位置から所定コマ数の範囲内で、特定の図柄が表示されるようにリールの停止制御を行う構成は、周知技術(例えば、甲第4、5、6、8号証、特開昭59−186580号公報参照)である。」と判断したことを争うものではない。)。
    そうすると、本件審決の本件発明2に関する容易想到性の判断に、誤りはないものといわなければならない。
 6 結論
    以上のとおり、取消事由1ないし5にはいずれも理由がなく、本件発明1及び2は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の取消事由について判断するまでもなく、本件特許は無効であり、これと同旨の本件審決の判断には誤りがなく、その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
    よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。


      東京高等裁判所知的財産第1部

            裁判長裁判官      北  山  元  章

               裁判官         清    水         節

              裁判官         上    田    卓    哉