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記載要件 > 明確性

知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

明確性

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和4(行ケ)10127等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月18日  知的財産高等裁判所

 争点は、発明特定事項「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」がPBPクレームか否か、その他、第1次判決の拘束力、不可能・非実際的事情の有無、明確性要件、サポート要件などです。知財高裁(4部)は、「不可能・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の請求項の記載は明確性要件に違反する」と判断しました。

本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2は、「セレコキシブ粒子が、 ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事項 (以下「本件ピンミル構成」ということがある。)を含む(削除された請求 項を除く他の請求項も、請求項1又は2を直接又は間接的に引用することで 本件ピンミル構成を含むことになっている。)ところ、本件ピンミル構成を 巡っては、そのクレーム解釈(PBPクレームといえるか否か、「ピンミル のような」は衝撃式ミルの単なる例示か、衝撃式ミルの一部に限定する構成 かなど)と、当該クレーム解釈を前提とした明確性要件の適合性の議論が重 層的に争われているので、以下、順次検討していく。
(3) まず、本件ピンミル構成がPBPクレームに当たるかについて検討するに、 本件ピンミル構成に関する本件明細書の【0024】、【0190】の記載 が、セレコキシブ粒子を粉砕する製造工程、製造方法を開示していることは 明らかであり、したがって、本件訂正によって特許請求の範囲の発明特定事 項とされるに至った本件ピンミル構成についても、「ピンミルのような衝撃 式ミルで粉砕」するという製造方法をもって物の構造又は特性を特定しよう とするもの(その意図が成功しているかどうかはともかく)と理解される。 この限度では、被告が主張し、本件審決が判断を示しているとおりである。 第1事件原告は、製薬組成物の製造には複数の工程が必要であるなどとし てこれを争うが、そのような工程の全てを特定することがPBPクレームと しての必須条件とはいえない。実質的に製造方法の明確性を問題にしている とすれば、この点からの検討は後に示すこととする。
(4) 次に、本件ピンミル構成の意味するところ(例示か限定か)を検討するに、 「ピンミルのような衝撃式ミル」との特許請求の範囲の文言自体に着目して 考えた場合、1)ピンミルは単なる例示であって衝撃式ミル全般を意味すると いう理解、2)衝撃式ミルに含まれるミルのうち、ピンミルと類似又は同等の 特性を有する衝撃式ミルを意味するという理解のいずれにも解する余地が あり、特許請求の範囲の記載のみから一義的に確定することはできない。 そこで、本件明細書の記載を参照するに、本件明細書の【0024】には、 「セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち、ピンミル(pin mil l)のような衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作 製することは、改善された生物学的利用能を提供するに際して効果的である だけでなく、かかる混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性 と関連する問題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミル を利用して粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネ ルギーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体には容 易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が高くなり、 このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合において、非常に 重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合する際のエアージェッ トミルのような液体エネルギーミルの有用性に予期せぬ結果をもたらす。特 定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕により長い針状からより均一な結 晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質させ、ブレンド目的により適するよ うになるが、長い針状の結晶はエアージェットミルでは残存する傾向が高い と仮定される。」との記載が、【0135】には、「セレコキシブは先ず粉 砕される若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざまな粉砕機若し くは破砕機が利用することが可能であるが、セレコキシブのピンミリングの ような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組成物に改善さ れたブレンド均一性がもたらせる」との記載がある。
以上の記載に上記(3)の解釈を併せて考えると、本件ピンミル構成は、被 告が主張(第3の3(6)ア)するように、本件訂正発明に係る薬剤組成物の含 むセレコキシブ粒子が、ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子に見られる のと同様の、長い針状からより均一な結晶形へと変質されて、凝集力が低下 し、ブレンド均一性が向上した構造、特性を有するものであることを特定す る構成であって、したがって、「ピンミルのような衝撃式ミル」とは、ピン ミルに限定されるものではなく、上記のような構造、特性を有するセレコキ シブ粒子が得られる衝撃式ミルがこれに含まれ得るものと理解するのが相 当である。
(5) 以上を前提に、本件ピンミル構成を含む本件訂正発明の特許請求の範囲の 記載が明確性要件を満たすかどうかを検討する。
ア 衝撃式粉砕機に分類される粉砕機としては、本件審決も認定していると おり、多種多様なものがある(ハンマーミル、ケージミル、ピンミル、デ ィスインテグレータ、スクリーンミル等が知られており、ハンマーの形状 によっても、ナイフ型、アブミ型、ブレード型、ピン型等がある。甲イ1 11、112、136)ところ、上記(4)で示したクレーム解釈によると、 衝撃式粉砕機によって粉砕されたセレコキシブ粒子を含む薬剤組成物で あっても、本件特許の技術的範囲に属するものと属しないものがあること になるが、本件明細書に接した当業者において、「ピンミルで粉砕された セレコキシブ粒子に見られるのと同様の、長い針状からより均一な結晶形 へと変質されて、凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上した構造、特性 を有するセレコキシブ粒子」を製造できる衝撃式粉砕機がいかなるものか を理解できるとは到底認められない。すなわち、一般に、明細書に製造方 法の逐一が記載されていなくても、当業者であれば、明細書の開示に技術 常識を参照して当該製造方法の意味するところを認識できる場合も少な くないと解されるが、本件の場合、本件明細書には、「ピンミルで粉砕さ れたセレコキシブ粒子」の凝集力の小ささ、改善されたというブレンド均 一性が、ピンミルのいかなる作用によって実現されるものかの記載がない ため、衝撃式ミル一般によって実現されるものなのか、衝撃式ミルのうち、 ピンミルと何らかの特性を共通にするものについてのみ達成されるもの なのかも明らかとなっていない。そのため、技術常識を適用しようとして も、いかなる特性に着目して、ある衝撃式ミルが本件ピンミル構成にいう 「ピンミルのような衝撃式ミル」に当たるか否かを判断すればよいのかと いった手掛かりさえない状況といわざるを得ない。
イ そうすると、本件明細書等に加え本件出願日(明確性要件の判断の基準 時)当時の技術常識を考慮しても、「ピンミルのような衝撃式ミル」の範 囲が明らかでなく、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕」するというセ レコキシブ粒子の製造方法は、当業者が理解できるように本件明細書等に 記載されているとはいえないから、本件訂正発明は明確であるとはいえな い。
ウ ところで、PBPクレームは、物自体の構造又は特性を直接特定するこ とに代えて、物の製造方法を記載するものであり、そのような特許請求の 範囲が明確性要件を充足するためには、不可能・非実際的事情の存在が要 求されるのであるが、本件においては、不可能・非実際的事情を検討する 以前の問題として、前記ア、イに示したようにそもそも特許請求の範囲に 記載された製造方法自体が明確性を欠くものである。
(6) 本件審決は、「ピンミルのような衝撃式ミルは、いわゆる衝撃式粉砕機で あり、粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機と は異なる粒度分布の粉体を作製する装置であることが理解できるから明確 である」としており、これは、「ピンミルのような」について、「いわゆる 衝撃式粉砕機」のなかでも、さらに、「粉砕された粉体は、ジェットミルの ような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」こと のできる装置であるとの意味づけを与えた認定であると解される。 そして、「ピンミルによる」粉砕が、「粉砕された粉体は、ジェットミル のような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」も のであることについて、本件審決は、本件明細書の、ピンミルと、エアージ ェットミルのような他のタイプのミルとの粉砕物の凝集力の違いに関する 記載(【0024】)、及び、粉砕装置の粉砕機構が異なれば得られる粒子 の粒度分布が異なるという技術常識を認定したことにより、導き出している ものと認められる。
しかし、本件明細書には、凝集力の違いが、粉砕装置の違いに基づく粒子 の粒度分布の違いに起因するものであるとの記載も示唆もない。粉砕装置の 違いが、粒度分布の違い以外の粒子特性を導くことも当然考えられるところ である(これを否定する技術常識があるとは認められない。)。そうすると、 「ピンミルのような」が、「衝撃式ミル」に対して、さらに「粉砕された粉 体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の 粉体を作製する装置」であるとの意味づけを与えた本件審決の解釈は、本件 明細書等の記載及び技術常識を考慮しても、無理があるものといわざるを得 ない。
(7) 以上より、不可能・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の 請求項1、2、4、5、7〜13、15、17〜19の記載は明確性要件に 違反するものであり、取消事由3は理由がある。
3 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について
上記2のとおり、取消事由3が認められる以上、本件審決(原告らが取消しを 求めている請求項に関する部分)は既に取消しを免れないものである。しかし、 明確性要件違反の原因となった本件ピンミル構成は、前訴判決がサポート要件 違反を肯定する判断をしたことを受けて、その瑕疵を回避するために特許請求 の範囲に加えられたという本件の経過を踏まえると、本件訂正後の特許請求の 範囲を前提としたサポート要件の適合性の問題(取消事由2)についても、併せ て判断を示すことが適切と考えられることから、以下に当裁判所の判断を示し ておくこととする。
なお、その場合、本件ピンミル構成を含む特許請求の範囲は明確性要件を欠 くことが前提となるから、サポート要件の判断においても、本件ピンミル構成 を発明特定事項として考慮しない前提で検討することとする。
(1) 前訴判決がサポート要件違反を認めて第1次審決を取り消したことは前 述のとおりであるところ、本件においては、前訴判決の拘束力がいかなる範 囲に及ぶかが問題となっているので、まずこの点を検討する。
ア 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判 決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判 事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は 行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法3 3条1項の規定により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束 力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる ものであるから、審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断を することは許されない(最高裁判所昭和63年(行ツ)第10号平成4年 4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
この拘束力は、行政庁が裁判所の判断に反して同一の処分を繰り返し、 同一の案件が行政庁と裁判所の間を往復することを避けるためのもので あり、原則として主文についてのみ生ずる既判力と異なり、判決理由中の 判断であっても、主文に直結する認定判断、すなわち主要事実の認定及び その法規範への当てはめの判断にも及ぶものである。他方、判決の結論と 直接関係のない傍論の説示はもとより、主要事実を確定する過程における 間接事実の認定やその評価にまで及ぶものではなく、また、結論に至る推 論過程を基礎づける論拠、反対主張を排斥する理由等の説示についても同 様である。取消判決の理由中の説示の全てが拘束力を有するとした場合、 結論に影響する意味合いや程度も様々な議論が独り歩きを始め、その解 釈・適用を巡って新たな紛争を拡大させることとなり、そのような状況は、 行政事件訴訟法33条1項の想定するところではないというべきである。
イ 以上を前提に、前訴判決(甲イ86)の判断構造をみておく。
(ア) 前訴判決は、まず、サポート要件適合性について、「所定の数値範囲 を発明特定事項に含む発明について、特許請求の範囲の記載が同号所定 の要件(サポート要件)に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な 説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含まれる数値範囲の 全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認識できるか 否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である」とし、「これ を本件発明1についてみると・・・『粒子の最大長において、セレコキ シブ粒子のD90が200µm未満である粒子サイズの分布を有する』こ とを特徴とするものであるから、所定の数値範囲を発明特定事項に含む 発明であるといえる。」としているので、「D90が200µm未満であ る粒子サイズの分布を有する」本件発明1について、その数値範囲の全 体にわたりその課題を解決できるものであるかどうかを検討している。
(イ) そして、前訴判決は、(a)一方で、本件明細書の【0022】、【01 24】、【0135】の記載から、未調合のセレコキシブを粉砕し、「セ レコキシブのD90粒子サイズが約200μm以下」とした場合には、セ レコキシブの生物学的利用能が改善されること、セレコキシブのピンミ リングのような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組 成物に改善されたブレンド均一性がもたらせることを示したものとい えるとしつつ、(b)他方で、1)本件発明1の請求項1には、セレコキシブ を微細化する具体的な方法は記載されておらず、本件発明1の「微粒子 セレコキシブ」が「ピンミリングのような衝撃粉砕」により粉砕された ものに限定する旨の記載もなく、かえって、本件明細書の【0135】 には、さまざまな粉砕機・破砕機が利用可能とされていること、2)本件 明細書の【0008】には、長く凝集した針を形成する傾向を有する結 晶形態を有する未調合のセレコシブは、錠剤成形ダイでの圧縮の際に、 融合して一枚岩の塊になり、他の物質とブレンドさせたときでも、セレ コキシブの結晶は、他の物質から分離する傾向があり、セレコキシブ同 士で凝集し、セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する、非均一なブ レンド組成物になるとの記載があること、3)本件優先日当時、粉砕によ り溶出は改善されるが、難溶性薬物は凝集して溶解速度が遅くなること があることが周知又は技術常識であったことを踏まえると、(c)難溶性 薬物であるセレコキシブについて、「『セレコキシブのD90粒子サイズが 約200μm以下(「未満」の誤記と認められる。)』の構成とするこ とによりセレコキシブの生物学的利用能が改善されることを直ちに理 解することはできない」(以下「説示(c)」という。)とした。 また、本件明細書には、(d)「D90」の値を用いて粒子サイズの分布 を規定することの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係 が説明されていないことを述べた上で、(e)難溶性薬物の原薬の粒子径 分布が化合物によって種々の形態を採ることに照らすと、「200μm 以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分布がどの ようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解するこ とはできない」(以下「説示(e)」という。)とした。そして、(f)本件 明細書の例11及び例11−2の実験結果の記載は、微粉化したセレコ キシブを含有する「組成物A」及び「組成物B」(これらに含まれるセ レコキシブのD90粒子サイズは約30μmと推認される。)の生物学的 利用能は、未粉砕、未調合のセレコキシブである「組成物F」の生物学 的利用能より高いことを示しているが、「組成物A」及び「組成物B」 に加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナトリウムが、生物学的利用能の 実験結果に影響した可能性が高いものと認められ、この実験結果から、 本件発明1の「セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」の数値範囲 の全体にわたり、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善 するものと認識することはできないとした。
(ウ) 前訴判決は、以上を踏まえた結論として、本件明細書の発明の詳細な 説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が、本件発明1 に含まれる「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が200 μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると 認識できるものと認められないから、本件発明1は、サポート要件に適 合するものと認めることはできないとした。
(エ) 前訴判決の本件発明2〜4のサポート要件の適合性に関する判断は、 以下のとおりである。
本件発明2は「前記粒子の最大長において、前記セレコキシブ粒子の D90が100μm未満であること」を、本件発明3は同40µm未満で あることを、本件発明4は同25µm未満であることをそれぞれ発明特 定事項とするものであるところ、セレコキシブ粒子のD90が200µm 未満である本件発明1がサポート要件に適合するものと認めることが できないことは前記のとおりであると指摘した上で、例11及び例11 −2の実験結果も、ラウリル硫酸ナトリウムが生物学的利用能の実験結 果に影響した可能性が高いものと認められることに照らすと、上記実験 結果から、D90が約30µmよりも小さい値とした場合において、未調 合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するものと認識する ことはできないとして、本件発明2〜4はサポート要件に適合するもの と認めることはできないとした。
(オ) 前訴判決は、本件発明5、7〜19については、請求項1記載の製薬 組成物を発明特定事項に含むものであるところ、「本件発明1がサポー ト要件に適合するものと認めることができないことは前記‥のとおり であるから」という理由により、サポート要件に適合するものと認める ことはできないとした。
ウ 取消判決の拘束力の範囲に関し上記アで述べたところに従って、前訴判 決の拘束力の生ずる部分を検討するに、主文に直結する認定判断(主要事 実の認定及びその法規範への当てはめの判断)は、本件訂正前の特許請求 の範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識(主要事実 の認定に当たる。)を前提に、本件訂正前の特許請求の範囲によって特定さ れる発明(本件発明)が特許法36条6項1号の要件に適合しないとした 判断(法規範への当てはめに当たる。)にほかならず、前訴判決中、拘束力 が生ずるのは当該部分であると解される。
他方、前訴判決の判断過程では、結論に至る推論過程を基礎づける論拠 として、説示(c)、(e)等の様々な理由が示されているが、その逐一について 拘束力が生ずるものではないことは、上記アで述べたとおりである。
エ そもそも、サポート要件は、明細書の記載(特許を受けようとする発明の 開示)から見て広すぎる特許請求の範囲を防ぐ役割を果たすものであると ころ、被告は、本件訂正前の本件発明につきサポート要件違反を認めた前 訴判決を受けて、特許請求の範囲の減縮を目的とする本件訂正の請求をし ており、これが訂正要件を充足することは前記1のとおりである。 その結果、本件では、本件訂正後の特許請求の範囲(ただし、本件ピンミ ル構成は発明特定事項として考慮しない。)に基づく本件訂正発明のサポ ート要件の適合性が問題となっているのであって、同じサポート要件の適 合性の問題であっても、本件訂正前の特許請求の範囲を前提とする前訴判 決とは判断対象が異なる。それにもかかわらず、「前訴判決の説示(c)、(e) 等に照らせば、本件訂正後の本件訂正発明についても、前訴判決と同様の 判断が妥当する(はずである)」といった推論を戦わせるのは、取消判決の 拘束力の問題とは異質の議論といわざるを得ない。
オ 本件審決は、前訴判決の説示(e)(難溶性薬物の原薬の粒子径分布は・・・、 200μm以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分 布がどのようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解 することはできない旨の判示)について、これは、生物学的利用能の改善の 観点では、90%の粒子の粒度分布も重要であることを述べたものである との理解を示している。そして、ピンミルのような衝撃式粉砕機(衝撃式ミ ル)により粉砕された粉体と、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕 機により粉砕された粉体は、異なる粒度分布の粉体となるという一般的な 知見をもとに、この粒度分布の差異は粉砕機構の差異に由来するものであ り、本件明細書に記載されたピンミルのような衝撃式ミルでの粉砕は、他 のタイプのミルとは異なる粒度分布を形成することにより、凝集性及びブ レンド均一性の改善に寄与するとして、説示(c)、(e)を本件訂正発明1が サポート要件に適合する理由の1つにしている。 これに対し、原告らは、D90を30μmにし、「セレコキシブ粒子が、 ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事 項を加えても、90%の具体的な粒度分布は明らかにならないとして、説 示(c)、(e)を本件訂正発明1がサポート要件に適合しない理由としている。 これらは、いずれも、前訴判決の説示(c)、(e)を独立して取り上げ、同判 断に拘束力が生じることを前提とするものと解されるが、失当というべき である。
拘束力の問題を離れて考えても、前訴判決の当該部分の判示は、製薬組 成物の特徴が、実質的に「D90が200µm未満である粒子サイズの分布を 有する」ことで特定されていた本件発明1について、未調合のセレコキシ ブに対して生物学的利用能が改善されるという課題を解決できるものであ るかどうかを検討する過程において、上記特定事項で特定しさえすれば、 課題を解決できるものと理解することはできないと判断したものであって、 前訴判決が、本件発明1がサポート要件に適合するには、90%の粒度分 布を示すことが必須の要請であると判断しているとの趣旨まで読み込むこ とには無理がある。
カ よって、前記ウのとおり、前訴判決の拘束力は、本件訂正前の特許請求の 範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識を前提に、本 件訂正前の特許請求の範囲によって特定される発明(本件発明)が特許法 36条6項1号の要件に適合しないとした判断について生じることを前提 に、サポート要件の適合性について判断する。
(2) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細 な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を 定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な 説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な 説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該 発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して 判断すべきものと解される。特に、所定の数値範囲を発明特定事項に含む発 明について、特許請求の範囲の記載が同号の要件に適合するか否かは、当業 者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含ま れる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認 識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
ア 前記第2の2(3)の本件明細書の開示事項によれば、本件訂正発明の課題 は、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経 口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することであり、 取り分け、水溶液に溶解しにくいセレコキシブ粒子の特質から、混合中に セレコキシブ同士で凝集し、非均一なブレンド組成物になるとの問題の解 決にあるものと認められる。
具体的には、本件明細書の【0008】では、「・・・セレコキシブは、 水溶性媒体には異常なほど溶解しない。例えば、カプセル形態で経口投与 させた場合、未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために、 容易には溶解せず、分散もしない。加えて、長く凝集した針を形成する傾 向を有する結晶形態を有する未調合のセレコシブは、通常、錠剤成形ダイ での圧縮の際に、融合して一枚岩の塊になる。・・・」として、セレコキシ ブが、水溶性媒体には異常なほど溶解しないこと、未調合のセレコシブが 長く凝集した針を形成する傾向を有することを解決すべき問題として挙げ ている。
イ 上記課題に関係する技術常識として、証拠(甲イ7、16、23、65〜 68、80、103)及び弁論の全趣旨によれば、本件出願日当時、1)粉砕 によって薬物の粒子径を小さくし、比表面積(有効表面積)を増大させるこ とにより、薬物の溶出が改善されるが、他方で、難溶性薬物については、溶 媒による濡れ性が劣る場合には、粒子径を小さくすると凝集が起こりやす くなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速度が遅くなることがあるこ と、2)疎水性の難溶性物質であっても、界面活性剤が存在すると、微粒子は 凝集せずに均一に溶液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は 大きくなることは、周知又は技術常識であったものと認められる。
ウ 上記技術常識を踏まえて、本件訂正発明が上記課題を解決できると認識 できる記載が本件明細書に開示されているかどうかにつき、さらに検討す る。
(ア) 本件明細書の【0022】には「本発明の組成物は微粒子の形態のセ レコキシブを包含する。セレコキシブの一次粒子は、例えば、製粉若し くは粉砕により、又は溶液から沈殿させて生成させ、凝集して二次の集 合体粒子が形成される。本願で利用する用語「粒子サイズ」とは、特に 本願で指摘しない限り、一次粒子の最長の大きさのことをいう。粒子サ イズは、セレコキシブの臨床的効果に影響を与える重要なパラメータで あると考えられる。よって、別の実施例では、発明の組成物は、粒子の 最長の大きさで、粒子のD90が約200μm以下、好ましくは約100 μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは約40μm 以下、最も好ましくは約25μm以下であるように、セレコキシブの粒 子分布を有する。通常、本発明の上記実施例によるセレコキシブの粒子 サイズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改良される。」、 【0124】には「カプセル及び錠剤中でのセレコキシブの粒子サイズ カプセル若しくは錠剤の形で経口投与されると、セレコキシブ粒子サイ ズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見し た。したがって、セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下、 好ましくは約100μm以下、より好ましくは約75μm以下、さらに 好ましくは約40μm以下、最も好ましくは25μm以下である。例え ば、例11に例示するように、出発材料のセレコキシブのD90粒子サイ ズを約60μmから約30μmに減少させると、組成物の生物学的利用 能は非常に改善される。加えて又はあるいは、セレコキシブは約1μm から約10μmであり、好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均 粒子サイズを有する。」としており、セレコキシブの粒子サイズを減少 させることで、セレコキシブの生物学的利用能が改善されることが記載 されている。
(イ) また、本件明細書の【0024】の「セレコキシブと賦形剤とを混合 するに先立ち、ピンミル(pin mill)のような衝撃式ミルでセ レコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作製することは、改善され た生物学的利用能を提供するに際して効果的であるだけでなく、かかる 混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性と関連する問 題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミルを利用し て粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネルギ ーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体に は容易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が 高くなり、このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合に おいて、非常に重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合す る際のエアージェットミルのような液体エネルギーミルの有用性に予 期せぬ結果をもたらす。特定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕に より長い針状からより均一な結晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質 させ、ブレンド目的により適するようになるが、長い針状の結晶はエア ージェットミルでは残存する傾向が高いと仮定される。」との記載から、 粉砕により粒子サイズを減少させるについて、ピンミルのような衝撃式 ミルを使用して長い針状からより均一な結晶とし、ブレンド目的により 適するものとすることが記載されている。
(ウ) 本件明細書の【0075】には「加湿剤 セレコキシブは水溶液にか なり溶解しにくい。したがって、本発明の製薬組成物は、任意であるが、 好ましくは、キャリア材料として、一つ又はそれ以上の薬剤学的に許容 な加湿剤を含む。かかる加湿剤は、水と親和性があるようにセレコキシ ブを維持させるように選択することが好ましく、その状態が製薬組成物 の相対的生物学的利用能を改善させると考えられる。・・・」、【00 76】には「ラウリル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在す るならば、ラウリル硫酸ナトリウムは、組成物の全重量の対して、約0. 25%から約7%、好ましくは約0.4%から約6%、より好ましくは 約0.5%から約5%の量を含む。」として、セレコキシブは水溶液に かなり溶解しにくいために、水と親和性があるようにセレコキシブを維 持させる加湿剤を含むことが好ましいこと、好ましい加湿剤はラウリル 硫酸ナトリウムであること、そのような加湿剤を添加することにより相 対的生物学的利用能を改善できることが記載されている。
(エ) 例11−2では、犬モデルでの調合の相対的生物学的利用能の試験 がされている。 組成物A、Bは微粉化され、ラウリル硫酸ナトリウムが添加されてい る(【0173】、【0174】、表11−2A)。本件明細書の【0 124】に「・・・例えば、例11に例示するように、出発材料のセレ コキシブのD90粒子サイズを約60μmから約30μmに減少させる と、組成物の生物学的利用能は非常に改善される。・・・」と記載され ていることから、組成物A、BのD90粒子サイズは約30μmと認めら れる。他方、参考例である組成物Fは、未粉砕、未調合のセレコキシブ である(【0172】)。 生物学的利用能は、メス犬について、組成物Fが16.9%であるの に対し、組成物Aは31.2%、組成物Bは24.9%であり(【01 76】、(表11−2C)、オス犬について、組成物Fが16.9%で あるのに対し、組成物Aは49.4%、組成物Bは54.2%である(【0 177】、表11−2D)とされ、D90粒子サイズを約30μmに減少 させた組成物A、Bにおいて生物学的利用能が明らかに高い結果が示さ れている。
エ 以上を総合すると、本件訂正発明1は、粒子の最大長においてD90が3 0μmであるセレコキシブ粒子、及び加湿剤としてのラウリル硫酸ナトリ ウムを含有することを特定するものであるところ、これは、1)セレコキシ ブが長い針状の結晶形態を有することに対応するため、粉砕によって薬物 の粒子径を小さくし、比表面積を増大させることにより、薬物の溶出を改 善させるために、セレコキシブの粒子サイズを「D90が30μm」に減少 させ、また、2)セレコキシブのような難溶性薬物については、粒子径を小さ くすると凝集が起こりやすくなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速 度が遅くなるが、界面活性剤が存在すると、微粒子は凝集せずに均一に溶 液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は大きくなることから、 セレコキシブに、界面活性剤同様水に親和性を持たせる湿潤剤であるラウ リル硫酸ナトリウムを含有させることとしたものである。そして、3)具体 的な実験結果においても、D90粒子サイズは約30μmとし、ラウリル硫 酸ナトリウムを含有させたセレコキシブ組成物が、未粉砕、未調合のセレ コキシブに対して優れた生物学的利用能を示しているのであるから(例1 1−2)、本件訂正発明1は、本件ピンミル構成を発明特定事項として考慮 しなくても、本件明細書及び技術常識から、「未調合のセレコキシブに対し て生物学的利用能が改善された固体の経口運搬可能なセレコキシブ粒子を 含む製薬組成物を提供する」という課題を解決できると当業者が認識でき る範囲の発明であるといえる。
本件訂正発明2は、D90が30μmよりも減少した数値範囲である「D 90が30μm未満」と特定されたものであるから、上記本件訂正発明1に ついて述べたところと同様、本件明細書及び技術常識から、上記課題を解 決できると当業者が認識できる範囲の発明であるといえる。 本件訂正発明4、5、7〜13、15、17〜19も、本件訂正発明1及 び本件訂正発明2を直接的又は間接的に引用してこれらをさらに限定する 発明であるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2と同様に、本件明細 書及び技術常識から、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲の 発明であるといえる。

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令和1(ワ)17622  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月14日  東京地方裁判所

漏れていたのでアップします。特許権侵害訴訟で、差止と10億を超える損害賠償が認められました。特102条2項の覆滅は無しと判断されました。請求項6、9がPBPクレームでしたが、これについては明確性違反と判断されました。

本件発明6は、電鋳管についての物の発明であるところ、特許請求の範囲に おいて、当該電鋳管について、細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物 を形成する工程(メッキ工程)、細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小 さくなるよう変形させる工程(引っ張り工程)、変形させた細線材を除去する工 程(分離工程)を経て製造されることが記載されている。 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合、その発明の要旨は、当該製造方法により製造された物と構造、\n特性等が同一である物として認定される。そして、物の発明についての特許に 係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、 当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表\しているのか、又は 物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限 定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当 該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占 権を有するのかについて予測可能\性を奪うことになる。したがって、出願時に おいて当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、 又はおよそ実際的でないという事情が存在するなどの第三者の利益を不当に 害しない事情が存在するのでない限り、物の発明についての特許に係る特許請 求の範囲にその物の製造方法が記載されている特許請求の範囲の記載は、特許 法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するとは いえない(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷 判決・民集69巻4号700頁参照)。本件発明6の特許請求の範囲において は、物の製造方法が記載されているところ、出願時において製造された物をそ の構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、又はおよそ実際的 でないという事情についての主張はなく、また、同事情を認めるに足りる証拠 もない。
・・・
本件明細書には、本件発明6の電鋳管と同様の形状等を有する電鋳管につい て本件発明6の方法以外の複数の方法で製造できると記載されている【004 1】、【0042】)。そして、本件発明6の引っ張り工程及び分離工程の方法に よった場合の電鋳管の内面精度について、特許請求の範囲、本件明細書、図面 には記載はない。また、原告が主張する本件発明6の技術的範囲に属するとい う場合の電鋳管の客観的な内面精度自体が必ずしも明確ではなく、また、本件 特許の出願当時、引っ張り工程及び分離工程により製造された電鋳管の内面精 度を含む構造又は特性が、技術常識により明らかであったことを認めるに足り\nる証拠はない。
そうすると、電鋳管の発明である本件発明6について、少なくとも引っ張り 工程及び分離工程に関して電鋳管のどのような構造又は特性を表\しているの かが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明らかであるとは いえない。原告の主張は採用することができない。
・・・
被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳 管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後 の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して 製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値 分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、 被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕 入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加 価値は1対1として計算すべきであると主張する。 しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に 切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被 告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、 価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記 イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利 益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控 除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する ことやその額を認めるに足りる証拠はない。 また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅 すべき事情に当たるとはいえない。

◆判決本文
なお、本件については、控訴審判決はなさそうですが、対応する審決取消訴訟にて、請求項6は不可能・非実際的理由がなくても、PBPクレームだから自動的に明確性違反だとはならないと判断されてします(内面精度との技術的関係が不明として明確性違反と判断されています)。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時 において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁 判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集 69巻4号700頁)。 もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許 請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・ プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を 読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、 第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。 そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製 造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願 時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\ しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義 的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不 可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
・・・
そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を 加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着 物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、 3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細 線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱 又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、 これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても 一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記 3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の 内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上 記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し たとも認められない。 そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電 鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n

◆令和3(行ケ)10140

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令和3(行ケ)10140  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

 製法を含む物の発明について、知財高裁は、請求項6、9については、明確性(特36条6項2号)違反で無効と判断しました。
審判における経緯ですが、請求項1、5、6及び9について、無効審判が請求され、無効の予告がなされたので、権利者は、請求項5及び9を訂正しました。かかる訂正が認められ、請求項1、5、6及び9について、無効理由なしとの審決がなされました。知財高裁は、PBP最高裁判決における「不可能\・非実際的事情」については、本件には適用されないが、「内面精度が一義的ではない」として明確性違反と判断しました。

(1) 判断基準
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時 において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁 判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集 69巻4号700頁)。
もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許 請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・ プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を 読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、 第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。 そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製 造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願 時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\ しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義 的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不 可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
ア 本件発明6及び訂正発明9は、「電鋳管」に係る発明であるところ、本件 発明6は、「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層 を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細 線材の一方または両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前 記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた 細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を 残したまま細線材を除去して製造される」という製造方法による特定が、 訂正発明9は、「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導 電層を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成する と共に、前記細線材の両端側に前記電着物または前記囲繞物が形成されて いない部分を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小 さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を 形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞 物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造される」という 製造方法による特定を含む。
イ そこで、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管 の構造又は特性、具体的には被告が主張する電鋳管の内面精度が、一義的\nに明らかであるか否かについて検討する。
まず、特許請求の範囲の記載から本件発明6及び訂正発明9の製造方法 により製造された電鋳管の内面精度が明らかでないことはいうまでもな く、また、本件明細書には、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により 製造された電鋳管の内面精度について、何ら記載も示唆もされていない。 そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を 加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着 物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、 3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細 線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱 又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、 これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても 一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記 3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の 内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上 記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し たとも認められない。そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n
ウ 以上のとおりであるから、本件発明6及び訂正発明9が明確であるとい えるためには、本件出願時において、本件発明6及び訂正発明9の電鋳管 をその構造又は特性により直接特定することについて不可能\・非実際的事 情が存在するときに限られるところ、被告はこのような事情が存在しない ことは認めている。
(3) 被告の主張について
被告は、前記第3の5(2)イのとおり、本件発明6及び9の製造方法により 製造された電鋳管の構造又は特性は、本件明細書の「細線材と電着物または\n囲繞物の間に、細線材を除去するのに十分な隙間が形成できるので、細線材\nが電着物または囲繞物から支障なく除去できる」(【0044】)との記載から 理解できるものであり、文献(甲1、2)の記載や試作分析報告書(甲29) の内容も参酌すれば、良好な内面精度を有するという構造又は特性を表\して いることが、特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかであ る旨主張する。
しかしながら、被告が指摘する本件明細書【0044】の記載からは、細 線材と電着物等の間に、細線材を除去するのに十分な隙間が形成できると細\n線材を支障なく除去できる可能性が高いということが理解できるにすぎず、\n本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管が、良好な内 面精度の電鋳管という構造又は特性を表\していることまでを理解することは できない。また、被告が主張する甲1文献や甲2文献の記載は製造の難易さ を記述するにすぎないものであって内面精度については記載されておらず、 試作分析報告書(甲29)の分析結果は、本件出願時の技術常識それ自体を 示すものではないところ、同報告書に記載された内容が本件出願時の技術常 識であることは何ら明らかにされていない。
以上によれば、本件発明6及び9の製造方法により製造された電鋳管が良 好な内面精度の電鋳管という構造又は特性を表\していることが、特許請求の 範囲、本件明細書の記載及び技術常識から一義的に明らかであるとはいえな い。

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令和4(行ケ)10016 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月21日  知的財産高等裁判所

 「紙破現象を起こし得るように構成している」という発明特定事項が明確性違反かが争われました。知財高裁は、無効理由なしとした審決を維持しました。\n分割出願2件についても同様に判断されています。

ア 本件発明1は、「紙破現象を起こし得るように構成している」との発明特\n定事項を有しているところ、「紙破」又は「紙破現象」とは一般的な用語で はなく、その意義を特定するためには、本件明細書の記載を参照すること になる。 そこで、本件明細書の記載についてみると、本件明細書には、「・・・例 えば被着体を紙類とした場合、粘着製品或いは粘着剤を紙類から剥がそう とする剥離動作を行った際に、紙の表層を確実に損傷させることが要求さ\nれる場合がある。」(【0009】)、「以下本明細書において、このような紙 類の表面を損傷した状態を紙破と記載する。また、粘着製品の粘着剤層を\n剥離させた際に紙類の表層が粘着剤に付着し紙類が厚み方向に破断する\nことを紙破現象と記載することとする。」(【0011】)、「・・・「紙破」: 粘着剤層の表面に紙片の表\層部分を付着させて剥離(図12(a))、「界面 剥離」:粘着剤層と紙片との界面において剥離(同図(b))、「凝集剥離」: 粘着剤が紙類とステンレス板との両方に付着した状態で剥離(同図(c))、 「ナキワカレ」粘着剤層が紙類とステンレス板との両方に付着した状態で 剥離(同図(d))、の何れかに分類して行った。」(【0092】)との記載 があり、【0092】で引用されている図12は、以下のとおりであり、図 12の(a)には、ステンレス板上の粘着剤層の表面に紙類が厚み方向に\n破断した紙片の一部が付着した状態が描かれている。
上記で指摘した本件明細書の記載及び図面を総合すると、本件発明1に おける「紙破現象」とは、粘着製品の粘着剤層を剥離させた際に紙類の表\n層が粘着剤に付着し、紙類が厚み方向に破断する現象をいうものであると 理解することができる。そして、本件発明1の「紙破現象を起こし得るよ うに構成している」との発明特定事項は、その他の構\成要件を充足する「感 圧転写式粘着テープ」のうち、「紙破現象を起こし得る」ように構成されて\nいるものと解することができ、「紙破現象を起こし得ない」構成は、本件発\n明1の技術的範囲に含まれないものと理解することができる。 そうすると、「紙破現象」の発生割合や発生条件について本件発明1に係 る請求項1には特定されていないとしても、特許請求の範囲の記載が第三 者に不測の損害を被らせるほど不明確な記載であるとはいえない。 イ これに対して、原告は、前記第3の1 のとおり、1)「紙破」は、通常 の利用者が視認可能な態様で紙が破れることを指すものであり、「紙破現\n象」とはこうした「紙破」が起こる現象を指すべきものである、2)本件明 細書の記載及び技術常識からすると、「紙破現象を起こし得る」とは、ほぼ 確実に「紙破現象を起こすもの」でなければならないが、いかなる条件の 下で起こるのか不明確であり、同一の接着剤を同一の被着剤に用いた剥離 試験に関する技術常識に照らせば、「紙破現象が起こし得るように構成し\nている」かどうかは条件が特定されなければ不明確である、3)原告による 追実験(甲14)及び被告による「事実実験公正証書」(甲29)の各試験 結果からすると、本件明細書の試験結果は信用することができない旨主張 する。
しかし、前記アのとおり、本件明細書には、「以下本明細書において、こ のような紙類の表面を損傷した状態を紙破と記載する。また、粘着製品の\n粘着剤層を剥離させた際に紙類の表層が粘着剤に付着し紙類が厚み方向\nに破断することを紙破現象と記載することとする。」(【0011】)とあり、 粘着製品の粘着剤層を剥離させたときに紙類の表層が粘着剤に付着し、厚\nみ方向に紙類が破断していることを示す図(図12(a))があることから、 「紙破現象」とは、上記段落で記載されたとおりに解釈されるべきであり、 「通常利用者が視認可能な状態」で紙が破れることという条件を付加して\n解釈する必要はない。また、原告による追実験(甲14)は、紙類の表層\nが粘着剤に付着したかどうかの確認作業について言及がない(むしろ、視 認によって判断している可能性が高い。)ため、この追実験で本件明細書の\n実物剥離試験の結果が信用できないものであると判断することはできな いし、被告による「事実実験公正証書」(甲29)の試験結果において、「目 視では十分に確認できなかった」との記載があるとしても、そのことが「紙\n破現象」が起きていないことを意味するものではないことについては前示 のとおりであるから、上記1)及び3)の各主張は理由がない。
次に、上記2)について検討するに、本件発明1においては、粘着剤層を 介して紙類同士を止着させた後、粘着剤層を剥離させたときの条件及び方 法は発明特定事項には含まれておらず、他の構成要件を充足する「感圧転\n写式粘着テープ」のうち、「紙破現象を起こし得る」ように構成されている\nものが本件発明1として特定されているのであるから、任意の条件及び方 法で「紙破現象」が生じ得る構成であれば、本件発明1の技術的範囲に属\nするものといえ、他方、「紙破現象を起こし得ない」構成は技術的範囲に属\nさないことが明らかにされている。したがって、少なくとも上記 記載の 明確性要件との関係においては、剥離試験における条件や方法等について の特定がないとしても、第三者に不測の不利益を及ぼすものとはいえない から、上記2)の主張も理由がない。

◆判決本文

分割願についての判断です。

◆令和4(行ケ)10017

◆令和4(行ケ)10018

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令和4(行ケ)10019  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、明確性違反の無効理由なし、とした審決を取り消しました。

前記(3)によると、本件各発明が属する技術分野(線材の引抜加工機及びこれに 用いるダイス)においては、従来、多角形の断面を有する線材の製造に際し、ダイ スのベアリング部の開口部(以下「開口部」という。)の角部に潤滑剤がたまって 塊が発生し、その除去のために作業を一旦止める必要があるため、生産量が低下し て製造原価が下がらない一因となっていたところ、本件各発明は、潤滑剤の塊の発 生を極力防ぎ、また、ダイスのメンテナンスに要する時間を極力削減し、その結果、 多角形の断面を有する線材の製造コストの低減を図ることを目的として、当該角部 の全部又は一部につき、これを円弧とし、鈍角の集合とし、又は自由曲線とするこ とにより、当該角部に潤滑剤がたまりにくくなるようにしたものであるといえる。 加えて、本件明細書における「略多角形」の定義(段落【0057】)にも照らす と、本件各発明の「略多角形」とは、本件各発明の効果(開口部の角部に潤滑剤が たまりにくくなること)を得るため、「基礎となる多角形断面」の角部の全部又は 一部を円弧、鈍角の集合又は自由曲線に置き換えた図形(以下、角部を円弧、鈍角 の集合又は自由曲線に置き換えることを「角部を丸める」などといい、角部に生じ た円弧、鈍角の集合又は自由曲線を「角部の丸み」などということがある。)をい うものと解することができる。そして、前記(3)によると、「基礎となる多角形断 面」とは、従来技術における開口部(角部を丸める積極的な処理をしていないもの) の断面を指すものと解されるから、結局、本件各発明の「略多角形」とは、本件各 発明の上記効果を得るため、その角部を丸める積極的な処理をしていない開口部に つき、その角部の全部又は一部を丸める積極的な処理をした図形をいうものと一応 解することができる。なお、これは、前記(2)の字義からみた「略多角形」の意義 とも矛盾するものではない。
(5) 「略多角形」と「基礎となる多角形断面」との区別
前記(4)のとおり、本件各発明の「略多角形」は、「基礎となる多角形断面」の 角部の全部又は一部を丸めた図形をいうものと一応解されるから、両者の意義に従 うと、両者は、明確に区別されるべきものである。 しかしながら、証拠(甲31、32、36、37)及び弁論の全趣旨によると、 ワイヤー放電により、その断面形状が多角形である開口部を形成するくり抜き加工 をした場合、開口部の角部には、不可避的に丸みが生じるものと認められる。そう すると、「基礎となる多角形断面」も、くり抜き加工をした後の開口部の断面であ る以上、角部が丸まった多角形の断面であることがあり、その場合、客観的な形状 からは、「略多角形」の断面と区別がつかないことになる。 この点に関し、本件審決は、本件各発明の「略多角形」には、上記のように加工 に際して角部に不可避的に生じる丸み(例えば、曲率半径が0.3mm程度以下の 小さなもの)を有するにすぎない「基礎となる多角形断面」を含まないと判断し、 被告も、これに沿う主張をする。しかしながら、開口部の角部の丸みの曲率半径が 0.3mm程度以下であれば、当該角部に潤滑剤がたまりにくくなるとの本件各発 明の効果が得られないものと認めるに足りる証拠はなく、当該曲率半径が0.3m m程度以下の場合であっても、本件各発明の上記効果が得られる可能性があるから、\n当該曲率半径がどの程度を超えれば本件各発明の上記効果が得られるようになるの かは、客観的に明らかとはいえない。また、証拠(甲31、32、36、37)及 び弁論の全趣旨によると、上記のようにワイヤー放電加工に際して開口部の角部に 丸みが不可避的に生じるのは、加工に用いるワイヤーの断面形状が一定の直径を有 する円形であるからであると認められ、ワイヤーの断面の直径が小さくなれば、そ の分だけ、不可避的に生じる丸みの曲率半径は小さくなるといえるから、開口部の 角部の丸みについては、その曲率半径がどの程度まで小さければ不可避的に生じる 丸みであるといえ、どの程度より大きければ不可避的に生じる丸みを超えて積極的 に角部を丸める処理をしたものであるといえるのかを客観的に判断する基準はない というほかない。そうすると、客観的な形状からは、「基礎となる多角形断面」と 「略多角形」とを区別するのは困難であるといわざるを得ない。 以上のとおり、本件各発明の「略多角形」は、「基礎となる多角形断面」と区別 するのが困難であり、本件各発明の技術的範囲は、明らかでない。
(6) 「略多角形」の角部の形状
前記(5)のとおり、ワイヤー放電により、その断面形状が多角形である開口部を 形成するくり抜き加工をした場合、開口部の角部には不可避的に丸みが生じるから、 「基礎となる多角形断面」の角部を丸めるための積極的な処理をしようとしまいと、 開口部がくり抜き加工のされた後のものである以上、開口部の角部には、全て丸み があり得ることになる。 そして、前記(5)のとおり、開口部の角部の丸みについては、その曲率半径がど の程度まで小さければ不可避的に生じる丸みであるといえ、どの程度より大きけれ ば不可避的に生じる丸みを超えて積極的に角部を丸める処理をしたものであるとい えるのかを客観的に判断する基準はないし、また、当該曲率半径がどの程度を超え れば本件各発明の効果(開口部の角部に潤滑剤がたまりにくくなること)が得られ るようになるのかは、客観的に明らかとはいえない。 この点に関し、本件審決は、本件各発明の「略多角形」は「基礎となる多角形断 面」に対して潤滑剤がたまる角部がなくなるように更に積極的な処理をした状態の もの(例えば、少なくとも角部の円弧の曲率半径が0.8mm程度のもの)と解さ れると判断し、被告も、これに沿う主張をする。しかしながら、本件明細書には、 開口部の角部に潤滑剤がたまりにくくなるとの本件各発明の上記効果を奏する条件 について、1辺4mmの四角形断面の棒材を作成する場合に、開口部の1つの角部 を曲率半径0.8mm程度の円弧(曲線)で結ぶと、角部にたまっていた潤滑剤の 塊が1か所に固まりづらくなる旨の記載(段落【0055】)があるのみであると ころ、1辺4mmの四角形断面の開口部の角部を曲率半径が0.8mm程度より小 さい円弧とした場合に本件各発明の上記効果が得られないものと認めるに足りる証 拠はないし、その断面形状が1辺4mmの四角形以外の多角形である開口部も含め ると、開口部の角部にどの程度の丸みを帯びさせれば本件各発明の上記効果が得ら れるのかを客観的に明らかにするのは困難であるといわざるを得ない(なお、被告 は、開口部の角部における潤滑剤のたまりやすさは、作成すべき棒材の断面の大き さにかかわらず、当該角部の丸みの曲率半径によって決せられ、当該曲率半径が0. 3mm程度以下であれば、本件各発明の上記効果が得られないと主張する。しかし ながら、開口部の角部における潤滑剤のたまりやすさは、当該角部の丸みの曲率半 径の大きさのみならず、線材の種類、潤滑剤の種類、加工発熱の度合い等の様々な 要素によって左右されるものであると解され、当該曲率半径が0.3mm程度以下 であれば、一律に本件各発明の上記効果が得られないと認めることはできないから、 被告の主張を採用することはできない。)。 以上によると、本件各発明の「略多角形」については、特許請求の範囲の記載、 本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識を踏まえても、「基礎となる多角 形断面」の角部にどの程度の大きさの丸みを帯びさせたものがこれに該当するのか が明らかでなく、この点でも、本件各発明の技術的範囲は、明らかでないというべ きである。
(7) 小括
以上のとおり、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に よると、本件各発明の「略多角形」とは、本件各発明の効果(開口部の角部に潤滑 剤がたまりにくくなること)を得るため、その角部を丸める積極的な処理をしてい ない開口部につき、その角部の全部又は一部を丸める積極的な処理をした図形をい うものと一応解することができるものの、客観的な形状からは、本件各発明の「略 多角形」と「基礎となる多角形断面」とを区別することができず、また、「基礎と なる多角形断面」の角部にどの程度の大きさの丸みを帯びさせたものが本件各発明 の「略多角形」に該当するのかも明らかでなく、本件各発明の技術的範囲は明らか でないというほかないから、本件各発明の「略多角形」は、第三者の利益が不当に 害されるほどに不明確であると評価せざるを得ず、その他、本件各発明の「略多角 形」が明確であると評価すべき事情を認めるに足りる証拠はない。

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令和3(行ケ)10068  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年4月14日  知的財産高等裁判所

 パチンコ機について明確性違反とした拒絶審決が取り消されました。争点となったのは、「〜状態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く、〜状態とならない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」という記載です。出願時は代理人なしの本人出願です。通常はこのレベルで審取まで争うことはやらないので参考になります。

以上を総合すると、本件発明の「前記演出制御手段は、前記可動体演出 を行う際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に 前記特典遊技状態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く、前記 当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態 とならない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」との記載は、「前記 演出制御手段」が、「前記可動体演出を行う際に、前記当否判定の結果が大 当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合」には、 前記第1操作手段が操作されることを起因に可動体演出を行う選択をす るより、前記第2操作手段が操作されることを起因に可動体演出を行う選 択をする割合が高く、「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の 終了後に前記特典遊技状態とならない場合」には、前記第2操作手段が操 作されることを起因に可動体演出を行う選択をするより、前記第1操作手 段が操作されることを起因に可動体演出を行う選択をする割合が高いこ とを規定したものと理解できる。 したがって、本件発明の「前記演出制御手段は、前記可動体演出を行う 際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特 典遊技状態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く、前記当否判 定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となら ない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」との記載は、その記載内 容が明確である。
(2) これに対し、被告は、1)請求項1の「前記演出制御手段は、所定の前記変 動演出の実行中に、前記第1操作手段又は前記第2操作手段が操作されるこ とを起因に前記可動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行い」 との記載から、第1操作手段又は第2操作手段が操作されることを起因に可 動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行うことを理解できるが、 第1操作手段と第2操作手段の両方が操作される場合や、その他の操作手段 が操作される場合が排除されていないため、上記記載は、「第1操作手段又は 第2操作手段が二者択一で選択される構成」を特定しているとはいえないし、\n仮に「第1操作手段又は第2操作手段が二者択一で選択される構成」を読み\n取れるとしても、そのことから直ちに、記載j1の「前記当否判定の結果が 大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合には前記 第2操作手段の選択率が高く」との記載における「前記第2操作手段の選択 率」の比較対象や、記載j2の「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当 り遊技の終了後に前記特典遊技状態とならない場合には前記第1操作手段の 選択率が高い」との記載における「前記第1操作手段の選択率」の比較対象 が一義的に導かれるわけではない、2)本件明細書の【0012】及び【00 13】の記載は、請求項1の記載Jに対応しておらず、本件発明の解釈の根 拠とはならないから、記載Jを含む本件発明は、明確性要件に適合しない旨 主張する。
しかし、1)については、請求項1の「前記演出制御手段は、所定の前記変 動演出の実行中に、前記第1操作手段又は前記第2操作手段が操作されるこ とを起因に前記可動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行い」 との記載が、「演出制御手段」が、第1操作手段と第2操作手段の両方が操作 される場合や、その他の操作手段が操作される場合について可動体演出を行 うことを規定しているものと読み取ることはできないし、請求項1の記載全 体をみても同請求項がそのように規定しているものと読み取ることはできな い。
また、前記(1)のとおり、本件発明の「演出制御手段」は、当否判定の結果 が大当りである場合、変動演出の実行中、第1操作手段が操作されることを 起因に可動体演出を行うか、又は第2操作手段が操作されることを起因に可 動体演出を行うかを選択するものと理解できることからすると、記載j1は、 「前記可動体演出を行う際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り 遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合」について、「前記第2操作手段 の選択率」が「前記第1操作手段の選択率」よりも高いことを規定するもの と、記載j2は、「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後 に前記特典遊技状態とならない場合」について、「前記第1操作手段の選択率」 が「前記第2操作手段の選択率」よりも高いことを規定するものとそれぞれ 理解できるから、記載j1及びj2のいずれの記載についてもその比較対象 は明確である。 2)については、前記(1)のとおり、記載Jの記載内容が明確であることは、 本件明細書の【0012】及び【0013】を根拠とするものではないから、 被告の主張は前提を欠くものである。

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令和1(行ケ)10173  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月3日  知的財産高等裁判所

 記載要件(サポート要件、実施可能要件、明確性)違反として、異議理由ありとした審決が取り消されました。\n

 本件特許請求の範囲には,複数のピークが生じる場合に,特定のピークを選択す る旨の記載や,全てのピークが140゜C)以上であることの記載が存在しないところ, 上記のとおり,実施例1〜7の発泡体は,比較例2,3と同じ直鎖状低密度ポリエ チレンを20〜60重量%で含有するから,【表1】に記載された141.5〜14\n7.4゜C)(140゜C)以上)の結晶融解温度ピーク以外に,140゜C)未満の結晶融解温度ピークを含むであろうことは,当業者であれば,上記イの技術常識により,容易に理解することができる。このことは,原告による実施例2の追試結果の図(甲8) や甲10の図4とも符合する。 そうすると,本件明細書(【表1】)の実施例1〜7についての結晶融解温度ピー\nクは,複数の結晶融解温度ピークのうち,ポリプロピレン系樹脂を含有させたこと に基づく140゜C)以上のピークを1個記載したものであることが理解できるから, 「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以上」は,複数 の結晶融解温度ピークが測定される場合があることを前提として,140゜C)以上に ピークが存在することを意味するものと解され,このような解釈は,上記アの解釈 に沿うものである。
また,本件発明1は,ポリプロピレン系樹脂の含有量を規定するものではないか ら,ポリプロピレン系樹脂の含有量が,140゜C)未満のピークを示す直鎖状低密度 ポリエチレンの含有量を下回る場合を含むことは,実施例7の記載から明らかであ る。そして,このような場合に,当業者であれば,140゜C)未満に一番大きいピーク (最大ピーク)が生じ得ることを理解することができるのであり,「示差走査熱量計 により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以上である」について,複数のピ ークがある場合のピークの大小は問わないものと解するのが合理的である。
エ 以上のとおり,本件発明1の「示差走査熱量計により測定される結晶融解温 度ピークが140゜C)以上である」とは,示差走査熱量計による測定結果のグラフの ピーク(頂点)が140゜C)以上に存在することを意味し,複数のピークがある場合 のピークの大小は問わないものと解され,その記載について,第三者の利益が不当 に害されるほどに不明確であるということはできない。
(3) 被告の主張について
被告は,「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以上で あり」について,1)結晶融解温度ピークといえるものは140゜C)以上であるという 解釈,2)最も高温側の結晶融解温度ピークが140゜C)以上であるという解釈,3)最 大ピークを示す温度が140゜C)以上である,又は,最大面積の吸熱ピークの頂点温 度が140゜C)以上であるという解釈,4)最も低い結晶融解ピーク温度が140゜C)以上であるという解釈,5)わずかなピークであっても,そのピークが140゜C)以上に 存在すればよいという解釈等複数の解釈が考えられるところ,いずれを示すものか が不明であると主張する。しかし,3)4)の解釈を採るべき場合にはその旨が明記さ れているところ(乙2・【0032】,乙3・【0056】,乙4・【0024】,乙5・[0025],乙6・【0018】,甲5・【0014】,乙7・【0008】,乙8・【0091】,乙9・【0027】),本件明細書にはこのような記載はなく,複数あるピークの大小を問わず,1つのピークが140゜C)以上にあれば「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以上であり」を充足すると解すべきであることは,前記(2)において説示したとおりである。また,5)について,特許請求の範 囲の記載及び本件明細書にピークの大きさを特定する記載はないから,ピークの大 きさを問わず「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以 上であり」に該当するというべきであり,「示差走査熱量計により測定される結晶融 解温度ピークが140゜C)以上であり」との記載が不明確であるという被告の主張は 採用できない。 また,被告は,本件発明1において結晶融解温度ピークが複数ある場合は想定さ れていないと主張する。しかし,本件発明1において,結晶融解温度ピークが複数 ある場合が想定されていることは,前記(2)ウに説示したところから明らかである。
・・・
被告は,本件発明はいわゆるパラメータ発明であり,サポート要件に適合す るためには,発明の詳細な説明は,その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との\n関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理 解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該数式が 示す範囲内であれば所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程\n度に,具体例を開示して記載することを要する(知財高裁平成17年(行ケ)100 42号同年11月11日判決)と主張する。しかし,本件発明は,特性値を表す技術\n的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した 物を構成要件とする発明ではなく,被告が指摘する上記裁判例にいうパラメータ発\n明には当たらないから,被告の主張は前提を欠く。
イ 被告は,本件発明の特許請求の範囲の記載が明確ではなく,また,実施可能\n要件を欠き本件発明1は製造することができない態様を含むものであるから,本件 発明はサポート要件に適合しないと主張する。しかし,明確性要件及び実施可能要\n件についての判断は前記2及び3のとおりであり,被告の主張は採用できない。
ウ 被告は,本件明細書の記載(【0020】)から,厚さ,結晶融解温度ピーク, 発泡倍率及び気泡のアスペクト比の4つの条件のうち耐熱性と関連があるのは結晶 融解温度ピークのみであり,これが高いほど耐熱性が優れている旨説明されている と理解できると主張する。 しかし,本件明細書には,厚さ,結晶融解温度ピーク,発泡倍率及び気泡のアスペ クト比の4つの条件のうち耐熱性と関連があるのは結晶融解温度ピークのみであり, これが高いほど耐熱性が優れている旨の説明は存在しない。かえって,結晶融解温 度ピークが143.9゜C)であっても,気泡のアスペクト比が0.5と0.9〜3の範 囲外である比較例1において,耐熱性に劣る結果となっている(【表1】)ことから\nすれば,4つの条件のうち耐熱性と関連があるのが結晶融解温度ピークのみとは理 解されない。
エ また,被告は,4つの条件のうち耐反発性と関連があるのは結晶融解温度ピ ークを除く3つであり,発泡倍率が15cm3/gに近いほど,気泡のアスペクト比 が0.9あるいは3に近いほど,また,厚さが1500μmに近いほど耐反発性が 劣る旨説明されていることを前提に,実施例1及び5の構成の一部を本件発明1の\n範囲内の境界に近い数値に変更した場合に,本件発明1の課題を解決できると認識 することができないと主張する。 しかし,本件明細書には,発泡倍率が15cm3/gに近いほど,気泡のアスペク ト比が0.9あるいは3に近いほど,また,厚さが1500μmに近いほど耐反発 性が劣ることの記載はない。また,被告の主張する構成の変更により耐反発性が低\n下するとしても,所定の評価方法に基づき耐反発性が◎と評価された実施例1及び 5(【0074】,【表1】)について,本件課題を解決できないほどの耐反発性の低下をもたらすとする根拠は不明であり,被告の主張は採用できない。\nオ 被告は,実施例に記載された「AD571」以外のポリプロピレン系樹脂を 使用した場合や,実施例とは異なる条件で発泡体を製造した場合に,本件発明1の 課題を解決できることが実施例によって裏付けられていないと主張する。
 しかし,ポリプロピレン系樹脂が,耐熱性や機械的強度(耐衝撃性)に優れた樹脂 であることは,本件特許の出願時の技術常識であり(甲10の「はじめに」の項,乙 11[0002],乙12[0002],乙14[0002]),これによれば,当業者は, 「AD571」以外のポリプロピレン系樹脂を使用した場合や実施例と異なる条件 で発泡体を製造した場合についての実施例及び比較例がなくても,本件明細書の記 載や本件特許の出願時の技術常識に照らし,本件発明1の両面粘着テープが,本件 課題を解決できると認識できるというべきである。
カ 被告は,「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以 上であり」について,140゜C)以上の部分にごく小さな結晶融解温度ピークでも存 在しさえすれば良いとすると,そのような,ピークを発現する材料がごく少量の場 合に本件発明1の課題を解決できると認識することはできないと主張する。 しかし,前記ウのとおり,比較例1によれば,耐熱性には結晶融解温度ピークの みならず気泡のアスペクト比が関係していることを理解することができる。そして, 上記オのとおり,ポリプロピレン系樹脂は,耐熱性や機械的強度(耐衝撃性)に優れ た樹脂であるところ,融点が140゜C)よりも低いポリプロピレン系樹脂も本件特許 の出願時の当業者に知られていた(乙11[0008],[0009],乙12[0080],[0097],乙14[0078])。そうすると,ポリプロピレン系樹脂を含有させたこ とに基づく140゜C)以上のピークがごく小さいものであったとしても,ポリプロピ レン系樹脂の含有量を調整すること及び気泡のアスペクト比を調整することにより, 本件課題を解決することができると認識することができるというべきである。

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令和1(行ケ)10174  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年8月26日  知的財産高等裁判所

 電子たばこの特許について、新規性・進歩性、サポート要件・実施可能要件、明確性要件について無効理由があるのかが争われました。審決は理由無しと判断しました。知財高裁(2部)もかかる判断を維持しました。

 (イ) 前記ア(イ)〜(エ)の本件明細書の記載からすると,特許請求の範囲の請求 項1及び15にある第1,第2及び第3段階と第1,第2及び第3の温度の技術的 意義は,次のとおりであると認められる。
1) 第1段階として,加熱要素の温度をエアロゾル形成基材からエアロゾルが発 生する温度であるが許容温度(「エアロゾル形成基材から所望の物質の揮発が開始さ れる温度」から「エアロゾル形成基材から望ましくない物質の揮発が開始される温 度」未満又は「エアロゾル形成基材が燃焼する温度」未満)の範囲内の第1の温度 まで上昇させ,装置及び基材が温まり,凝縮が抑えられてエアロゾルの送達が増加 することに伴い,2)第2段階として,エアロゾルの送達を抑えるため,第1の温度 より低いが,エアロゾル形成基材のエアロゾル揮発温度よりは低くならない,エア ロゾルの送達を軽減する温度である第2の温度へと加熱要素の温度を低下させ,そ の後,エアロゾル形成基材の枯渇及び熱拡散の低下に起因するエアロゾル送達の減 少が生じるため,それを補償するため,3)第3段階として,加熱要素の温度を第2 の温度より高いが許容温度内にある第3の温度に上昇させる。4)これらの構成を採\n用することにより,「ユーザによる複数回の吸煙を含む期間にわたって特性がより一 貫したエアロゾルを提供するエアロゾル発生装置及びシステムを提供すること」と いう本件発明の課題が解決される。
(ウ) 以上の本件発明の課題やその解決手段の技術的意義に照らして,本件特 許の特許請求の範囲の請求項1及び15を見ると,原告が主張する特性がより一貫 したエアロゾルを提供できない態様の時間や温度のもの(前記第3の1(原告の主 張)(1)で原告が例として挙げているようなもの)までが本件特許の特許請求の範囲 に含まれるとは解されない。
(エ) そうすると,本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び15は,発明の 詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。
(2) 原告は,1)本件特許の特許請求の範囲には,第1,第2及び第3の温度の技 術的意義や持続時間又は切替タイミングについて何も規定されていないから,特許 請求の範囲を本件明細書の記載に基づいて限定解釈することは許されない,2)「第 3の温度」に関して,加熱要素の温度を上げることで,エアロゾル送達の減少を抑 制できるという技術常識が存在せず,当業者はそのことを理解できないし,「第2段 階」についても,エアロゾルの送達を抑制するために加熱要素の温度を下げるとい うことは当業者には理解できないと主張する。
ア 上記1)について
(ア) 前記のとおり,サポート要件の判断は,特許請求の範囲の記載と発明 の詳細な説明の記載とを対比して行うものであるが,対比の前提として特許請求の 範囲から発明を認定するに当たり,特許請求の範囲に記載された発明特定事項の意 味内容や技術的意義を明らかにする必要がある場合に,必要に応じて明細書や図面 の記載を斟酌することは妨げられないというべきであり,当事者が引用するリパー ゼ判決は,そのことを禁じるものと解することはできない。 そして,本件においては,本件明細書の記載に照らすと,特許請求の範囲の請求 項1及び15について,前記(1)で認定したとおりのものであると理解できるのであ り,それを基に特許請求の範囲と発明の詳細な説明を対比すると,特許請求の範囲 に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の 記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると いえる。
(イ) 原告は,この点について,サポート要件の判断に当たって,発明の詳 細な説明に基づく特許請求の範囲の限定解釈が許されるとすると,特許請求の範囲 が文言上どれだけ広くてもサポート要件違反になることがなくなり,その趣旨が没 却されるし,侵害の場面で広範な特許請求の範囲に基づき充足を主張でき,二重の 利得を得ることになるから不当であると主張する。 しかし,サポート要件の判断に当たって,発明の詳細な説明を参酌するからとい って,特許請求の範囲に発明の詳細な説明を参酌して認められる発明の内容が,発 明の詳細な説明によってサポートされていないときは,サポート要件違反になるこ と(例えば,特許請求の範囲の文言に発明の詳細な説明を参酌して認められる発明 の内容が,AとBの両方を含むものであるが,実施例等としては,Bしかないとき にAはサポートされていないと判断する場合があることなど)はあり得るのであっ て,常にサポート要件違反を免れるということにはならない。 また,特許発明の技術的範囲を定めるに当たり,明細書及び図面を考慮するとさ れていること(特許法70条2項)からすると,原告のいう二重の利得が発生する とはいえない。したがって,原告の上記主張は,前記(1)の判断を左右するものではない。
イ 上記2)について
「第3の温度」について,本件明細書では,段落【0056】において,【図4】 を示しつつ,成分の送達は,ピークを迎えた後に,「基材の枯渇」及び「熱拡散効果 が弱まること」によって,時間と共に低下すると説明しているところ,同説明は一 般的な科学法則に合致した合理的なものであり,当業者は,ここから吸い終わりに 近い頃に,より高い熱量を加えて,熱拡散効果を高めてエアロゾル形成基材全体の 温度を上げ,エアロゾルの発生量を増やすことで,エアロゾル送達の減少を抑制で きると理解することができると認められる。
また,「第2段階」について,本件明細書では,段落【0019】において,装置 及びエアロゾル形成基材が温まることによって凝縮が抑えられてエアロゾルの送達 が増加するため,第2段階で加熱要素の温度を第2の温度へと低下させると記載さ れている。【図4】は,上記段落【0019】に記載されている一定時間経過後のエ アロゾル送達の増加に沿うものとなっている。これらの本件明細書の記載も一般的 な科学法則に合致した合理的なものであり,これらの記載に接した当業者は,「第2 段階」において,加熱要素の温度を下げることにより,エアロゾル発生基材からの エアロゾルの発生を抑えることで,エアロゾルの送達の増加を抑制することができ ると理解することができると認められる。 そして,このような第3段階におけるエアロゾル送達の減少の抑制や第2段階に おけるエアロゾル送達の増加の抑制が,「特性がより一貫したエアロゾルを提供する エアロゾル発生装置及びシステムを提供する」という本件発明の課題を解決するも のであることも,本件明細書の記載から明らかである。 なお,原告は,「第3段階」の開始タイミングと「第3の温度」についても主張す るが,それらが本件発明の課題やその解決手段の技術的意義に照らして解釈される べきことは,前記(1)のとおりである。 以上のとおり,当業者は,本件明細書の記載から「第3の温度」や「第2段階」 について理解することができると認められ,これらが理解できないとする原告の主 張は採用することができない。
(3) よって,原告が主張する取消事由1は理由がない。
3 取消事由3(実施可能要件違反についての判断の誤り)について\n
(1) 本件発明は物及び方法の発明であるところ,物の発明における発明の実施と は,その物の生産,使用等をいい(特許法2条3項1号),方法の発明における発明 の実施とは,その方法の使用をする行為をいうから(同項2号),物及び方法の発明 について実施可能要件を充足するか否かについては,当業者が明細書の記載及び出\n願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を生産, 使用等することができるか,その方法の使用をすることができるか否かによるとい うべきである。
前記2で認定,判断したとおり,特許請求の範囲の請求項1及び15についての 技術的な意義は明らかであり,また,本件明細書には,設定されるべき許容温度の 範囲の例や三つの具体例を含む発明を実施するための形態が記載されている。また, 従来技術について記載した本件明細書の段落【0002】,【0003】や後述する 甲1の段落【0045】,【0046】,【0048】〜【0050】,甲2の段落[0003],[0027],[0037],[0039]などからすると,加熱式エアロゾル発生装置において,各種のエアロゾル形成基材の種類,香味などを考慮して,加熱温度や時間を適宜設 定することは,本件出願日当時における周知技術であったと認められる。 以上によると,当業者は,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基 づいて,過度の試行錯誤を経ることなく,使用するエアロゾル形成基材に応じて, 「第1の温度」・「第1段階」,「第2の温度」・「第2段階」及び「第3の温度」・「第3段階」を設定し,本件発明を実施することができるものと認められるから,実施 可能要件は充足されていると認められる。\n
(2) 原告は,任意のエアロゾル形成基材に対して最適な温度プロファイルと時 間的プロファイルを実験的に求めるのは過度の試行錯誤に当たり,エアロゾル形成 基材の材料が明らかにならないと本件明細書に開示された三つの実施例すら実施で きないと主張するが,上記(1)で判示したところに照らし,採用することはできない。
(3) よって,原告が主張する取消事由3は理由がない。
4 取消事由2(明確性要件違反についての判断の誤り)について 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみな らず,明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を 基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明 確であるか否かという観点から判断されるべきである。 原告は,本件特許の請求項1及び15の「少なくとも1つの加熱要素」が複数の 加熱要素である場合,請求項1及び15に記載された各「前記加熱要素」が1)複数 の加熱要素のうち一つの加熱要素を意味するのか,2)複数の加熱要素のうちのいく つかを意味するのか,3)全ての複数の加熱要素を意味するのかが不明であると主張 する。
しかし,前記2で認定,判断した特許請求の範囲の請求項1及び15の技術的意 義からすると,これらの発明においては,複数の加熱要素がある場合には,最終的 に複数の加熱要素が協働することにより,「第1の温度」・「第1段階」,「第2の温度」・ 「第2段階」及び「第3の温度」・「第3段階」が実現できるように各加熱要素を適 宜制御するものであることは明らかである。 そうすると,請求項1及び15の「少なくとも 1 つの加熱要素」は,加熱要素が 一つある場合には,その加熱要素を,加熱要素が複数ある場合には,適宜制御され る複数の加熱要素を意味するのであって,原告が主張する1)〜3)のいずれかが特定 されていなくても,請求項1及び15の記載は明確であるといえる。 この点について,原告は,請求項1に5回登場する「前記加熱要素」がどのよう なものを指すか不明であると主張するが,これらの「前記加熱要素」も,上記のと おり,加熱要素が複数ある場合は,適宜制御される複数の加熱要素を意味するので あって,不明確であるということはできない。 よって,原告が主張する取消事由2は理由がない。
・・・
他方,甲2発明は,前記ア,イのとおり,加熱が開始された後,天火の温度が2 40゜C)に達すると,制御部の制御により,電気加熱片による加熱が停止され,天火 の温度が180゜C)を下回ると加熱が再開されることが繰り返され,吸い始めから吸 い終わりまでの間,天火の動作温度が180゜C)〜240゜C)に維持されるように制御 されるというものであり,本件明細書の段落【0056】や【図3】,【図4】にあ るような,動作中に一定の温度をもたらすように構成され,エアロゾル成分の送達\nがピークを迎えた後,エアロゾル形成基材が枯渇して熱拡散効果が弱まるにつれ, 時間と共にエアロゾル成分の送達が低下する従来技術に相当するものといえる。甲 2には,ユーザによる複数回の喫煙を含む期間にわたって,エアロゾルの送達量を 一貫とするために,凝縮が抑えられてエアロゾルの送達量が増加することに応じて 第1の温度から第2の温度へと温度を低下させたり,逆にエアロゾル形成基材の枯 渇及び熱拡散の低下に応じて第2の温度から第3の温度へと温度を上昇させたりす るという技術思想については,記載も示唆もされていない。 以上からすると,甲2発明と本件発明1及び15では,加熱要素の制御方法やそ のための電気回路の構成が異なっているというべきであり,甲2発明と本件発明1\n及び15との間には,本件審決が認定した前記第2の3(5)エ(ア)a及び(ウ)a記載の 相違点1B及び相違点15Bが存在すると認められる。

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平成30(ワ)4851  特許権侵害差止等請求事件  特許権 令和2年5月28日  大阪地方裁判所

 一部のイ号は、記載不備の拒絶に対する補正が均等の第5要件を満たさないとされましたが、一部のイ号は間接侵害が認定されました。

 本件拒絶理由通知記載の拒絶理由は明確性要件違反であり,具体的には,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1の記載につき,「本願発明が如何なるクランプ装置を意図しているのか,その外縁が明確に特定できない」こと,「「第2油路」が具体的に想定できない」こと及び「「流量調整弁」が具体的に想定できない」ことが挙げられている。換言すれば,スイングクランプ,リンククランプいずれのタイプのクランプ装置をも含むと解し得る記載となっていることによって新規性又は進歩性が欠如するとの無効理由は指摘されていないことから,本件第2補正は,こうした無効理由を回避するためにされたものではない。また,明確性要件違反の指摘においても,スイングクランプ,リンククランプいずれのタイプのクランプ装置をも含むと解し得る記載であるが故に不明確とされているわけでもない。 もっとも,上記拒絶理由のうち「本願発明が如何なるクランプ装置を意図しているのか,その外縁が明確に特定できない」とは,より具体的には,油圧シリンダの具体的な規定がなく,その油室の数が不明であり,そのために,第1油路,第2油路及び流量調整弁の機能ないし役割が不明であるといった問題点を指摘するものである。これは,当業者にとって,クランプ装置のタイプを含む装置の前提的な構\成の不明確さを指摘する趣旨のものと理解されると思われる。
(オ) 原告は,本件第2補正の際に提出した意見書(乙2の2)で,請求項1 に係る補正につき,本件拒絶理由通知での審査官の指摘に対して,「補正後の請求項 1では,「前記出力ロッドを退入側に駆動するクランプ用の油圧シリンダ」と規定し ております。…補正後の請求項1に係る本願発明において,「第1油路」及び「第2 油路」や,両流路の接続部にある「流量調整弁」が,何のために在って何をしてい るのかという点については明確であると思料いたします。よって,ご指摘の記載不 備は解消し得たものと思料致します。」との補足説明をしている。
(カ) 以上の事情を踏まえて本件第1補正から本件第2補正に至る経緯を見る と,客観的,外形的には,原告は,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1の記 載によれば,その構成はスイングクランプとリンククランプいずれのタイプのクラ\nンプ装置も含むものであることを認識しながら,本件拒絶理由通知を受けて行った 本件第2補正により,敢えて補正後の特許請求の範囲にリンククランプのタイプの クランプ装置を含むものとして記載しなかった旨を表示したものと理解される。\nそうである以上,本件においては,本件第2補正においてリンククランプのタイ プのクランプ装置が特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるという特 段の事情が存する。 したがって,被告製品群4〜6は,本件発明との関係で,均等の第5要件を充足 しない。この点に関する原告の主位的主張は採用できない。
ウ 原告の予備的主張について\n
原告は,予備的主張として,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1記載\nの「クランプ用の油圧シリンダ」は「アンクランプ用の油圧シリンダ」(本件第2補 正後の特許請求の範囲請求項3)を含まないとの理解を前提として,本件第2補正 後の特許請求の範囲請求項3は補正前の特許請求の範囲に含まれないものを手続補 正により追加したものであり,請求項3については意識的に除外されたものとはい えないなどと主張する。 しかし,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1記載のクランプ装置は,「クラ ンプ本体に進退可能に装着された出力ロッド」及び「出力ロッドを駆動するクラン\nプ用の油圧シリンダ」等を備えることは記載されているものの,「出力ロッド」が退 入側・進出側いずれに駆動することによってワークをクランプするものであるかを うかがわせる記載はない(なお,この時点での請求項2〜4にも,クランプのタイ プに関係する記載はない。)。このことと,従来技術としてはスイングクランプ及び リンククランプの両タイプが挙げられていることに鑑みれば,本件特許に係る明細 書においては出願当初よりリンククランプのタイプのクランプ装置も除外されてい ないといえることを併せ考えると,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1は, スイングクランプのみならずリンククランプのタイプのクランプ装置をも含むもの と理解される。本件第2補正後の特許請求の範囲請求項1において「クランプ用の 油圧シリンダ」とし,請求項3において「アンクランプ用の油圧シリンダ」とされ たのは,本件拒絶理由通知を受けた対応として,クランプ装置の構成をより具体的\nに特定したことに伴うものと理解することができるから,本件第2補正の前後で 「クランプ用の油圧シリンダ」を異なる意味に解することはなお合理的である。 したがって,原告の予備的主張はその前提を欠くから,これを採用することはで\nきない。
エ 小括
以上より,均等侵害として,被告製品群4及び6は本件発明1の技術的範囲 に属するとはいえず,また,被告製品群5は本件発明3の技術的範囲に属するとは いえない。そうである以上,被告らによる被告製品群4〜6の製造,販売等は,本 件特許権を侵害するものとはいえない。 したがって,被告製品群4〜6に係る原告の被告らに対する製造等の差止請求, 廃棄請求及び損害賠償請求は,いずれも理由がない。
3 争点3(被告製品群7及び8の製造,販売等に係る間接侵害の成否)につい て
(1) 前記(第2の2(4)オ)のとおり,被告製品群7及び8は,被告製品群1〜 3のクランプに取り付けて使用される場合にクランプ装置の生産に用いるものであ る。また,特許法101条2号の趣旨によれば,「発明による課題の解決に不可欠なも の」とは,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決 されるような部品等,換言すれば,従来技術の問題点を解決するための方法として, 当該発明が新たに開示する特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特 有の構成等を直接もたらす特徴的な部品等が,これに該当するものと解される。\n本件発明において,作動油の流量の微調整を容易かつ確実に可能とすることなど\nの課題を解決する直接的な手段となるものは,相対移動可能な弁体部を有する弁部\n材をその構成に含む「流量調整弁」である。このため,「流量調整弁」は,本件発明\nが新たに開示する特徴的技術手段における特徴的な部品等ということができる。被 告製品群7及び8(スピードコントロールバルブ)は,この「流量調整弁」に相当 するものであるから,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」(特許法101 条2号)に該当する。
これに対し,被告らは,被告製品群1及び3が本件発明1の構成要件1K及び1Xを 充足せず,被告製品群2が本件発明3の構成要件3K及び3Xを充足しないことから, 被告製品群7及び8は本件発明の課題の解決に不可欠なものではないと主張する。 しかし,前記1のとおり,被告製品群1〜3は本件発明の上記各構成要件を充足す\nる。そうである以上,この点に関する被告らの主張はその前提を欠き,採用できな い。
(2) 被告らが,本件発明が特許発明であることを知っていたことについては,当 事者間に争いがない。 また,被告らは,被告製品群7を被告製品群1及び3の,被告製品群8を被告製 品群2のアクセサリとしてそれぞれ製造,販売していること(甲6,10,11, 乙9,10)に鑑みると,被告製品群7及び8が本件発明の実施品である被告製品 群1〜3に用いられることを知っていたことが認められる。 なお,被告製品群7及び8は,スイングクランプのほか,リンククランプ,リフ トシリンダ,ワークサポートにも使用可能なものである(甲6,10,乙4,5,\n9,10)。
しかし,特許法101条2号の趣旨に鑑みれば,発明に係る特許権の侵害品「の 生産に用いる物…がその発明の実施に用いられること」とは,当該部品等の性質, その客観的利用状況,提供方法等に照らし,当該部品等を購入等する者のうち例外 的とはいえない範囲の者が当該製品を特許権侵害に利用する蓋然性が高い状況が現 に存在し,部品等の生産,譲渡等をする者において,そのことを認識,認容してい ることを要し,またそれで足りると解される。 本件においては,後記6のとおり,被告製品群7及び8に属する製品がスイング クランプと組み合わせて販売される割合が大きいことに鑑みると,これを購入等す る者のうち例外的とはいえない範囲の者が被告製品群7及び8を特許権侵害に利用 する蓋然性が高い状況が現に存在するとともに,被告らはそのことを認識,認容し ていたものといえる。そうである以上,上記事情は本件における間接侵害の成立を 妨げるものではない。 これに対し,被告らは,被告製品群7が本件発明1の実施に,被告製品群8が本 件発明3の実施にそれぞれ用いられることを認識していないなどと主張する。しか し,被告らは,当然に被告製品群1〜3の構成を認識していると考えられるところ,\n被告製品群1〜3が本件特許権侵害を構成する以上,被告製品群7及び8について\nも,本件発明の実施に用いられるものであることを知っていたといえる。この点に 関する被告らの主張は採用できない。
(3) 小括
以上より,被告らが被告製品群7及び8を製造,販売する行為は,本件特許権 の間接侵害(特許法101条2号)を構成する。\n

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関連の審決取消事件です。

◆平成29(行ケ)10076

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令和1(行ケ)10115  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年6月11日  知的財産高等裁判所

 明細書に「略同一面」と記載されており、クレームでは「同一面」とある用語が明確性違反であるとの主張は否定されました。

 ア 特許請求の範囲の記載については,特許を受けようとする発明が明確である ことを要する(特許法36条6項2号。明確性要件)。 明確性要件の適否は,特許請求の範囲の記載,明細書の記載及び図面並びに出願 時の当業者の技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不 利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断するのが相当である。
 イ 特許請求の範囲請求項1及び2にいう「同一面」の意義は,前記(1)のとおり であり,その意義は明確であり,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益 を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
 ウ 原告は,本件明細書の発明の詳細な説明において,「略同一面」という文言に ついて「樹脂部とリードとは略同一面に形成されている。この略同一面とは同じ切 断工程で形成されたことを意味する。」との特別な定義付けがされていることを指摘 し,これと「同一面」という文言が同義であると直ちには理解できないとして,明確 性要件の適合性を争う。 しかし,特許請求の範囲請求項1及び2にいう「同一面」とは,樹脂パッケージの 外側面において樹脂部とリードとが同一面に形成されることを意味するものと解釈 することができることは,前記(1)のとおりである。他方,本件明細書の発明の詳細 な説明の「略同一面」については,「樹脂部とリードとは略同一面に形成されている。 この略同一面とは同じ切断工程で形成されたことを意味する。」(【0042】)とい うものであり,前記「同一面」と同義のものである。よって,特許請求の範囲に記載 された「同一面」という用語と,発明の詳細な説明に記載された「略同一面」という 用語とが,異なる意味で用いられていると解すべき根拠は見当たらず,そうすると, 発明の詳細な説明において専ら「略同一面」という文言が用いられているからとい って,発明の詳細な説明に記載された製造方法により,樹脂パッケージの外側面に おいて樹脂部とリードとが「同一面」に形成されるという当業者の理解が妨げられ るものではない。原告の主張は理由がないというべきである。

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平成31(行ケ)10019等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所

 サポート要件・実施可能性要件違反なしと判断した無効審決が維持されました。\n

ア 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か, また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課 題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもので ある。
イ(ア) 本件発明の課題は,「コリネ型細菌を用いたL−グルタミン酸の製造 において,L−グルタミン酸生産能力を向上させる新規な技術を提供すること」で\nあり,本件発明11の中には,誘導条件下のみならず,非誘導条件下においても生 産能力の向上を図るものが含まれているところ,誘導条件下において,19型変異\nを導入した株であるATCC13869−19株の生産能力が野生株に比して向上\nしていることは,本件明細書の実施例10(段落【0125】〜【0128】,【表\n9】,【表10】)に開示されているといえるから,当業者は,19型変異について,\n誘導条件下でグルタミン酸の生産能力向上がみられるものであることを認識できる\nといえる。
(イ) 次に,非誘導条件下における19型変異の生産能力の向上について検\n討するに,本件明細書の実施例8の培養は,実施例2と同様の方法で実施されたと されていて,その培地には,請求項6などにいう「過剰量のビオチン」に該当する 300μg/lのビオチンが存在していた上,界面活性剤等は添加されていなかっ たと認められるから,実施例8は,非誘導条件下での19型変異株の生産能力向上\nについてした実験である(本件明細書の段落【0120】,【0097】,【0032】)。 そして,実施例8の【表7】には,以下のとおり,19型変異株であるATCC\n13869−19株が,野生株に比して0.2g/L多くのL−グルタミン酸を生 産したことが示されている。そして,それを受けて本件明細書の段落【0120】 には,「ATCC13869−19株は親株のATCC13869株と比べてL−グ ルタミン酸蓄積が大幅に向上していた。」と記載されているから,それらの記載から, 当業者は,19型変異について,非誘導条件下でも本件発明の課題を解決できるも のであることを認識するといえる。
ウ 原告らは,実施例8に関して,(1)実施例2における野生株のグルタミン 酸生産量の値及びブランク値,実施例3におけるブランク値並びに実施例2,3, 5,7,9の値からみて,実施例8における野生株と19型変異株のグルタミン酸 生産量の違いは誤差の範囲内にすぎず,当業者は,実施例8からグルタミン酸の生 産能力が向上したとは認識できない,(2)ブランク値と変異株及び親株の結果とを対 比しないと,実施例8の信用性を評価することはできない,(3)甲28の実験や甲3 4の実験の結果からも19型変異株が非誘導条件下でグルタミン酸を生成しないこ とが裏付けられていると主張する。
(ア) 上記(1)について
本件明細書上,実施例3,6〜9は,いずれも実施例2記載の方法又は同様の方 法で,培地中に300μg/lのビオチンが存在するなどの非誘導条件下で実施さ れたものである(本件明細書の段落【0097】,【0100】,【0109】,【0112】,【0117】,【0120】,【0123】)。そして,実施例2,3,6の【表\n1】,【表2】,【表\4】,【表5】に記載されているブランク値について,本件明細書に明示的な説明はされていないものの,菌体量を示すOD620値がいずれも0.\n002と極めて低い値になっていることからすると,被告が主張するとおり,グル タミン酸生産菌を接種しない培養開始時の培地(初発培地)でのグルタミン酸の濃 度を表すものであると認められる。また,甲36,乙6によると,非誘導条件下で\nの野生株(ATCC13869)のグルタミン酸生産量の値は,培養が進むにつれ てグルタミン酸が分解された後の値であると認められる。 上記四つのブランク値が,それぞれ異なっていること(【表1】が0.4g/L,\n【表2】と【表\4】が0.6g/L,【表5】が0.7g/L)からすると,実施例\n3,6〜9について,実施例2記載の方法又は同様の方法で実施されたと記載され ているものの,初発培地におけるグルタミン酸の濃度などの培養条件は実施例又は 各培養ごとに異なるものであったと認められる。本件明細書の段落【0097】の 記載及び甲36,乙6の記載からすると,上記のような各実施例におけるブランク 値の違いは,天然物を起源とする大豆加水分解物に由来するものであると認められ る。 そもそも,本件明細書のブランク値及び野生株のグルタミン酸生産量の値は,上 記認定のとおりのものであって,これらの値を根拠に,これらの値とは異なる実施 例8における野生株と19型変異株とのグルタミン酸生産量の違いが誤差に基づく ものということはできない。その上,上記認定のとおり,培養条件は,実施例又は 各培養ごとに異なるから,なおさら,実施例2や実施例3に表れた数値を根拠に,\n実施例8における野生株と19型変異株におけるグルタミン生産量の0.2g/L の違いが誤差に基づくものであるということはできない。 さらに,実施例2,3,5,7,9のその他の数値からみても,実施例8の野生 株と19型変異株のグルタミン酸生産量の0.2g/Lの違いが誤差に基づくもの ということはできない。 以上からすると,上記(1)は,前記イの判断を左右するものとはいえない。
(イ) 上記(2)について
本件発明の課題は,「コリネ型細菌を用いたL−グルタミン酸の製造において,L −グルタミン酸生産能力を向上させる新規な技術を提供すること」であるところ,\nここでいう「生産能力の向上」とは,「野生株などの非改変株と比較して,L−グル\nタミン酸生産能が上昇したこと」を意味する(【請求項1】,【請求項4】,【請求項5】\n及び本件明細書の段落【0015】,【0031】)から,実施例8において,19型 変異株が,野生株に比してより多くのグルタミン酸を生産することが示されている 以上,ブランク値が記載されていないとしても,実施例8の結果が信用できないも のということはできない。
・・・・
(4) 小括
以上からすると,19型変異に関して,本件発明11にサポート要件違反や実施 可能要件違反があるとはいえないから,原告らが主張する取消事由1は理由がない。\n

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令和1(行ケ)10095  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月12日  知的財産高等裁判所

 明確性要件を充足しないと判断されました。理由は「出願当時の技術常識を基礎としても,本件発明の「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義を理解することはできず,本件発明の技術的範囲は不明確といわざるを得ない」 というものです。

 請求項1には,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」との 記載があるところ,請求項1の記載自体から,この炭化タングステン粒子は,「少な くとも二個の粉砕工具」の「工具表面」に「含有」されるものであることを理解することができ,また,上記炭化タングステン粒子は,第1の粉砕工具の表\面には95重量%以下含有され,その粒径が1.3μm以上であること,第2の粉砕工具の表面には80重量%以上含有され,その粒径が0.5μm以下であること,粒径はメ\nジアン粒径であること,炭化タングステン粒子のメジアン粒径が1.3μm以上あ るいは0.5μm以下であることは,炭化タングステン粒子を「質量により秤量」し て測定するものであることが理解できる。 しかしながら,請求項1の記載からは,粉砕工具の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義が明らかであ\nるとはいえない。 また,本件特許の出願当時において,炭化タングステンを含んでなる表面を有する粉砕工具の工具表\面に含有される炭化タングステン粒子につき,質量により秤量したメジアン粒径を得ることができたとする当業者の技術常識を認めるに足りる証 拠はない。
イ 本件明細書の記載
本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」のタングステン含有量が95%以下であり,工具表面の材料における\n100%に対する残りは,好ましくはコバルト結合剤であり,好ましくは1%未満 の程度に追加の炭化物が存在する(【0026】〜【0028】),焼結の結果は,炭 素の添加によっても影響を受ける(【0029】)との記載があり,「炭化タングステ ンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子 が,コバルトである結合剤と焼結により一体化していることが開示されている。そ して,本件明細書には,コバルト結合剤と焼結により一体化した「粉砕工具」の「工 具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径について,定義や測定方法の記載はない。\nウ 以上によれば,本件明細書の記載を考慮し,出願当時の技術常識を基礎とし ても,本件発明の「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義を理解することはできず,本件発明の技術的範囲は不明確といわざるを 得ないから,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件を充足しないと いうべきである。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の定義 は,沈降法により測定されるストークス径について,質量を基準に粒子径を表した質量分布におけるメジアン粒径ということで,一義的に明確であり,ストークス径\nはストークスの式により明確に定義されるものである旨主張する。 そこで検討するに,甲18(神保元二ら編「微粒子ハンドブック」初版第1刷,1 991年9月1日)には,ストークス径は,最も広く用いられる代表径であり,静止流体中を重力で落下する粒子の沈降速度v1と同じ沈降速度をもち,また同じ密度を\nもつ球形粒子の直径であり,流体中で運動する粒子の諸現象を考える場合に有用な 代表径であることの記載があり,本件出願当時,粒子の大きさを測定する方法として,ストークス径を得る沈降法があることは,周知であったことが認められる。\nまた,ウェブページ「粒度分布測定の基礎知識」(甲19)には,「主な粒度分布測 定原理」の表の「遠心沈降法」の欄に,「測定粒子径の定義」を「ストークス径」,「基本粒度分布」を「重量基準」との記載があり,「遠心沈降法 液相中の粒子群の沈降 状態を吸光度などから計測して,球と仮定して導かれたストークスの式などと照合 し,有効径(ストークス径)を求める。」との記載がある。ウェブページ「粒径分布 測定[重力/遠心沈降式]」(甲22)には,「[測定原理/測定法]微粒子を水または不溶溶媒中に懸濁させ,重力場にそのまま静置するか遠心場に粒子懸濁液を置くと, 大きな粒子ほど速い速度で沈降していきます。その様子を粒子懸濁液に照射したレ ーザー光の透過光強度によって検出します。粒子サイズは重力沈降の場合,次のS tokesの式から得られます。」との記載があり, とのストークスの式が記載されている。これらによれば,沈降法は,重量(質量)基 準に基づく粒度分布が得られるものであること,液相中の粒子の沈降速度から粒径 を求めるものであり,分離して沈降可能な粒子を測定対象としていることが認められる。\nしかし,前記(2)イのとおり,本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる 表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子が,コバルトで ある結合剤と焼結により一体化していることが開示されている一方,炭化タングス テン粒子が工具表面から分離可能\であることの記載や示唆はない。また,ストーク スの式によりストークス径を算出するためには,ストークスの式に沈降距離h,沈 降時間t等のパラメータを代入することが必要であるところ,本件明細書を見ても, ストークスの式のパラメータの値としてどのような値を採用するかについての記載 はない。 そうすると,粒子の大きさを測定する方法としてストークス径を得る沈降法があ ることが周知であり,沈降法により重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られる としても,「粉砕工具」の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子が,コバルトである結合剤と焼結により一体化している以上,沈降法により炭化タング\nステン粒子のストークス径を測定することは不可能であるから,本件発明の「炭化タングステン粒子の質量により秤量されたメジアン粒径」が,沈降法に基づいて得\nられるストークス径のメジアン粒径であると解することはできない。
イ 原告は,焼結によって炭化タングステン粒子の粒径が変化するか否か,変化 するとしてどの程度変化するかは,焼結条件との兼ね合いで理論的にも実験的にも 十分に予\測が可能であり,その変化分を加味した上で炭化タングステン粒子の粒径を調整し,必要に応じて焼結条件を調整すればよく,また,焼結の前後それぞれの\n炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認するこ とで,ストークス径の粒度分布の変化を予測することは可能\であるから,工具表面に存在する炭化タングステン粒子自体を測定するまでもない,また,本件発明にお\nけるメジアン粒径は,「1.3μm以上」ないし「0.5μm以下」という広い範囲 を規定するものであるから,焼結の有無はそれらの数値範囲の充足性にほとんど影 響を及ぼさないと考えられる旨主張する。 しかし,本件明細書には,焼結条件との兼ね合いで焼結による粒径の変化を予測して炭化タングステン粒子の粒径を調整することや,焼結の前後それぞれの炭化タ\nングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認してストーク ス径の粒度分布の変化を予測することの記載や示唆はないから,本件発明の「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,かかる予\測や調整等を行うことを前提として沈降法により測定されるストークス径のメジアン粒径である とは解されない。また,本件発明におけるメジアン粒径が,広い範囲を規定するも のであるとしても,焼結の有無が数値範囲の充足性に影響を及ぼさないと解すべき 根拠はないから,上記の判断を左右するものではない。
ウ 原告は,焼結後の炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定する必要がある としても,コバルトの融点は1495℃,炭化タングステンの融点は2870℃で あるから,バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し,炭化タングステン 粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である旨主張する。しかし,本件明細書には,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン\n粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取 り出して沈降法で測定することについては,記載も示唆もないから,本件発明の「炭 化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,コバルトを除去して 取り出した炭化タングステン粒子を沈降法により測定したストークス径であるメジ アン粒径であるとは解されない。 仮に,上記測定方法により炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定する ことができたとしても,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子 とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出 すという過程において,炭化タングステン粒子の密度や形状が一切変化しないとい う根拠はないから,そのように取り出して測定した炭化タングステン粒子のストー クス径が,そのまま,コバルトマトリックスと一体化した工具表面の炭化タングステン粒子のストークス径であるということもできない。\n

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平成31(行ケ)10019等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所(2部)

 サポート要件・実施可能要件、さらに進歩性について無効主張をしましたが、理由無しとした審決が維持されました。

 1997年(平成9年)に執筆された甲8の共同執筆者の一人は,クラマー博士 であるところ,甲8は,上記乙39,40を引用し,後述のとおり,甲8の実験で 観察されたグルタミン酸の排出が担体によるものであるとの結論を導いている(甲 8,乙39,40,42)。 イ 上記アに関連し,原告らは,証拠(甲47〜50)からすると,本件優 先日当時,コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて,グルタミン酸が,浸透圧 に応じて浸透圧調節チャネルから排出されることが周知となっていたと主張する。 しかし,甲47には,「特別な条件下で,大腸菌がトレハロースを排出した観察結 果(StyrvoldとStrem 1991)およびコリネバクテリウム・グル タミカムがグルタミン酸を排出した観察結果(Shiioら 1962)は我々の 研究と関連している。」との記載があるにすぎず,これだけで,原告らが主張するよ うな技術常識があったと認めるには足りない。 また,甲48,49はいずれも大腸菌に関する文献であって,そこからコリネバ クテリウム・グルタミカムをはじめとするコリネ型細菌におけるグルタミン酸排出 の技術常識の存在を認めることはできない。 甲50には,その5頁の図に関して,コリネバクテリウム・グルタミカムの低浸 透圧における相溶性溶質の排出が,少なくとも3種類の機械受容チャネル(浸透圧 調節チャネル)を通じて起こる旨の記載がある。しかし,後述する甲8の記載から すると,浸透圧調節チャネルを通じた排出は全ての溶質について等しく行われるも のではなく,特定の溶質について選択的に行われるのであると認められるから,上 記排出されるべき「相溶性の溶質」の中にグルタミン酸が含まれるのかは,上記図 だけからでは必ずしも明らかになっているとはいえず,甲50から原告らの主張す る技術常識の存在を認めることはできない。 以上からすると,原告らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(2) 甲8発明の認定の誤りについて(取消事由2)
前記(1)の事実関係を踏まえて,甲8において,原告らが主張するように,グルタ ミン酸が浸透圧調節チャネルから排出されたと認定できるかについて検討する。
・・・
甲8のTable 1.には,上記のとおり,低浸透圧の状態になった際にグルタ ミン酸が排出されていることが記載されているが,beforeの値を基準にその 排出量を検討すべきとする原告らの主張を前提としても,グルタミン酸は,浸透圧 が540mOsmになるまでほとんど排出されず,540mOsmになって20% が排出されているにすぎないところ,これは,全部で11種類検討されている溶質 の中でATPに次いで小さな値である。そして,上記のようなTable 1.の 結果を受けて,クラマー博士をはじめとする甲8の執筆者らは,グリシンベタイン など多くが排出されている溶質については浸透圧調節チャネルから排出されたとし つつ,グルタミン酸の排出については,浸透圧調節チャネルではなく,担体による 排出であるとの結論を導いている。 Table 1.でグルタミン酸に次いで排出が制限されていることが観察された リジンについては,前記(1)アで認定したとおり,本件優先日当時までに,その輸 送を担う担体がクラマー博士らによって発見されており,グルタミン酸の排出につ いてもリジンなどと同様に担体によるものであるとの説がクラマー博士らによって 提唱されていた。そのクラマー博士が,自ら実験をした上でTable 1.の結果 を分析し,甲8の共同執筆者の一人として上記のような結論を導いていることから すると,甲8に接した当業者が,それと異なる結論を敢えて着想するとは通常は考 え難いところである。
以上からすると,原告らが主張するように,当業者が,Table 1.の結果を 受けて,甲8に記載された浸透圧調節チャネルをグルタミン酸の排出と関連付けて 認識すると認めることはできないというべきである。

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令和1(行ケ)10095  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月12日  知的財産高等裁判所

 「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」とのクレームの記載が不明確であるとした拒絶審決が維持されました。

ア 原告は,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の定義 は,沈降法により測定されるストークス径について,質量を基準に粒子径を表した\n質量分布におけるメジアン粒径ということで,一義的に明確であり,ストークス径 はストークスの式により明確に定義されるものである旨主張する。 そこで検討するに,甲18(神保元二ら編「微粒子ハンドブック」初版第1刷,1 991年9月1日)には,ストークス径は,最も広く用いられる代表径であり,静止\n流体中を重力で落下する粒子の沈降速度v1と同じ沈降速度をもち,また同じ密度を もつ球形粒子の直径であり,流体中で運動する粒子の諸現象を考える場合に有用な 代表径であることの記載があり,本件出願当時,粒子の大きさを測定する方法とし\nて,ストークス径を得る沈降法があることは,周知であったことが認められる。 また,ウェブページ「粒度分布測定の基礎知識」(甲19)には,「主な粒度分布測 定原理」の表の「遠心沈降法」の欄に,「測定粒子径の定義」を「ストークス径」,「基本粒度分布」を「重量基準」との記載があり,「遠心沈降法 液相中の粒子群の沈降 状態を吸光度などから計測して,球と仮定して導かれたストークスの式などと照合 し,有効径(ストークス径)を求める。」との記載がある。ウェブページ「粒径分布 測定[重力/遠心沈降式]」(甲22)には,「[測定原理/測定法]微粒子を水または不溶溶媒中に懸濁させ,重力場にそのまま静置するか遠心場に粒子懸濁液を置くと, 大きな粒子ほど速い速度で沈降していきます。その様子を粒子懸濁液に照射したレ ーザー光の透過光強度によって検出します。粒子サイズは重力沈降の場合,次のS tokesの式から得られます。」との記載があり,
・・・
とのストークスの式が記載されている。これらによれば,沈降法は,重量(質量)基 準に基づく粒度分布が得られるものであること,液相中の粒子の沈降速度から粒径 を求めるものであり,分離して沈降可能な粒子を測定対象としていることが認めら\nれる。 しかし,前記(2)イのとおり,本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる 表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子が,コバルトで ある結合剤と焼結により一体化していることが開示されている一方,炭化タングス テン粒子が工具表面から分離可能\であることの記載や示唆はない。また,ストーク スの式によりストークス径を算出するためには,ストークスの式に沈降距離h,沈 降時間t等のパラメータを代入することが必要であるところ,本件明細書を見ても, ストークスの式のパラメータの値としてどのような値を採用するかについての記載 はない。
そうすると,粒子の大きさを測定する方法としてストークス径を得る沈降法があ ることが周知であり,沈降法により重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られる としても,「粉砕工具」の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子が,\nコバルトである結合剤と焼結により一体化している以上,沈降法により炭化タング ステン粒子のストークス径を測定することは不可能であるから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量されたメジアン粒径」が,沈降法に基づいて得 られるストークス径のメジアン粒径であると解することはできない。 イ 原告は,焼結によって炭化タングステン粒子の粒径が変化するか否か,変化 するとしてどの程度変化するかは,焼結条件との兼ね合いで理論的にも実験的にも 十分に予\測が可能であり,その変化分を加味した上で炭化タングステン粒子の粒径\nを調整し,必要に応じて焼結条件を調整すればよく,また,焼結の前後それぞれの 炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認するこ とで,ストークス径の粒度分布の変化を予測することは可能\であるから,工具表面\nに存在する炭化タングステン粒子自体を測定するまでもない,また,本件発明にお けるメジアン粒径は,「1.3μm以上」ないし「0.5μm以下」という広い範囲 を規定するものであるから,焼結の有無はそれらの数値範囲の充足性にほとんど影 響を及ぼさないと考えられる旨主張する。 しかし,本件明細書には,焼結条件との兼ね合いで焼結による粒径の変化を予測\nして炭化タングステン粒子の粒径を調整することや,焼結の前後それぞれの炭化タ ングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認してストーク ス径の粒度分布の変化を予測することの記載や示唆はないから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,かかる予測や調整等を\n行うことを前提として沈降法により測定されるストークス径のメジアン粒径である とは解されない。また,本件発明におけるメジアン粒径が,広い範囲を規定するも のであるとしても,焼結の有無が数値範囲の充足性に影響を及ぼさないと解すべき 根拠はないから,上記の判断を左右するものではない。
ウ 原告は,焼結後の炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定する必要がある としても,コバルトの融点は1495℃,炭化タングステンの融点は2870℃で あるから,バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し,炭化タングステン 粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である旨主張する。\nしかし,本件明細書には,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン 粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取 り出して沈降法で測定することについては,記載も示唆もないから,本件発明の「炭 化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,コバルトを除去して 取り出した炭化タングステン粒子を沈降法により測定したストークス径であるメジ アン粒径であるとは解されない。 仮に,上記測定方法により炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定する ことができたとしても,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子 とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出 すという過程において,炭化タングステン粒子の密度や形状が一切変化しないとい う根拠はないから,そのように取り出して測定した炭化タングステン粒子のストー クス径が,そのまま,コバルトマトリックスと一体化した工具表面の炭化タングス\nテン粒子のストークス径であるということもできない。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10095 特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月12日  知的財産高等裁判所

 特許異議申し立てで「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」という表\記について、明確性違反として取り消し決定されました。特許権者はこれを不服として取り消しを求めましたが、裁判所も明確性違反と判断しました。

 特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする 発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮 に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許が付与された発 明の技術的範囲が不明確となり,第三者の利益が不当に害されることがあり得るの で,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとす る発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付し た明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基 礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確 であるか否かという観点から判断されるべきである。
・・・・
請求項1には,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」との 記載があるところ,請求項1の記載自体から,この炭化タングステン粒子は,「少な くとも二個の粉砕工具」の「工具表面」に「含有」されるものであることを理解する\nことができ,また,上記炭化タングステン粒子は,第1の粉砕工具の表面には95\n重量%以下含有され,その粒径が1.3μm以上であること,第2の粉砕工具の表\n面には80重量%以上含有され,その粒径が0.5μm以下であること,粒径はメ ジアン粒径であること,炭化タングステン粒子のメジアン粒径が1.3μm以上あ るいは0.5μm以下であることは,炭化タングステン粒子を「質量により秤量」し て測定するものであることが理解できる。 しかしながら,請求項1の記載からは,粉砕工具の「工具表面」に「含有」される\n炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義が明らかであ るとはいえない。 また,本件特許の出願当時において,炭化タングステンを含んでなる表面を有す\nる粉砕工具の工具表面に含有される炭化タングステン粒子につき,質量により秤量\nしたメジアン粒径を得ることができたとする当業者の技術常識を認めるに足りる証 拠はない。
イ 本件明細書の記載
本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の\n「工具表面」のタングステン含有量が95%以下であり,工具表\面の材料における 100%に対する残りは,好ましくはコバルト結合剤であり,好ましくは1%未満 の程度に追加の炭化物が存在する(【0026】〜【0028】),焼結の結果は,炭 素の添加によっても影響を受ける(【0029】)との記載があり,「炭化タングステ ンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子 が,コバルトである結合剤と焼結により一体化していることが開示されている。そ して,本件明細書には,コバルト結合剤と焼結により一体化した「粉砕工具」の「工 具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン\n粒径について,定義や測定方法の記載はない。
ウ 以上によれば,本件明細書の記載を考慮し,出願当時の技術常識を基礎とし ても,本件発明の「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工\n具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン\n粒径の意義を理解することはできず,本件発明の技術的範囲は不明確といわざるを 得ないから,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件を充足しないと いうべきである。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の定義 は,沈降法により測定されるストークス径について,質量を基準に粒子径を表した\n質量分布におけるメジアン粒径ということで,一義的に明確であり,ストークス径 はストークスの式により明確に定義されるものである旨主張する。 そこで検討するに,甲18(神保元二ら編「微粒子ハンドブック」初版第1刷,1 991年9月1日)には,ストークス径は,最も広く用いられる代表径であり,静止\n流体中を重力で落下する粒子の沈降速度v1と同じ沈降速度をもち,また同じ密度を もつ球形粒子の直径であり,流体中で運動する粒子の諸現象を考える場合に有用な 代表径であることの記載があり,本件出願当時,粒子の大きさを測定する方法とし\nて,ストークス径を得る沈降法があることは,周知であったことが認められる。 また,ウェブページ「粒度分布測定の基礎知識」(甲19)には,「主な粒度分布測 定原理」の表の「遠心沈降法」の欄に,「測定粒子径の定義」を「ストークス径」,「基本粒度分布」を「重量基準」との記載があり,「遠心沈降法 液相中の粒子群の沈降 状態を吸光度などから計測して,球と仮定して導かれたストークスの式などと照合 し,有効径(ストークス径)を求める。」との記載がある。ウェブページ「粒径分布 測定[重力/遠心沈降式]」(甲22)には,「[測定原理/測定法]微粒子を水または
・・・
不溶溶媒中に懸濁させ,重力場にそのまま静置するか遠心場に粒子懸濁液を置くと, 大きな粒子ほど速い速度で沈降していきます。その様子を粒子懸濁液に照射したレ ーザー光の透過光強度によって検出します。粒子サイズは重力沈降の場合,次のS tokesの式から得られます。」との記載があり, とのストークスの式が記載されている。これらによれば,沈降法は,重量(質量)基 準に基づく粒度分布が得られるものであること,液相中の粒子の沈降速度から粒径 を求めるものであり,分離して沈降可能な粒子を測定対象としていることが認めら\nれる。
しかし,前記(2)イのとおり,本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる 表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子が,コバルトで ある結合剤と焼結により一体化していることが開示されている一方,炭化タングス テン粒子が工具表面から分離可能\であることの記載や示唆はない。また,ストーク スの式によりストークス径を算出するためには,ストークスの式に沈降距離h,沈 降時間t等のパラメータを代入することが必要であるところ,本件明細書を見ても, ストークスの式のパラメータの値としてどのような値を採用するかについての記載 はない。 そうすると,粒子の大きさを測定する方法としてストークス径を得る沈降法があ ることが周知であり,沈降法により重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られる としても,「粉砕工具」の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子が,\nコバルトである結合剤と焼結により一体化している以上,沈降法により炭化タング ステン粒子のストークス径を測定することは不可能であるから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量されたメジアン粒径」が,沈降法に基づいて得 られるストークス径のメジアン粒径であると解することはできない。
イ 原告は,焼結によって炭化タングステン粒子の粒径が変化するか否か,変化 するとしてどの程度変化するかは,焼結条件との兼ね合いで理論的にも実験的にも 十分に予\測が可能であり,その変化分を加味した上で炭化タングステン粒子の粒径\nを調整し,必要に応じて焼結条件を調整すればよく,また,焼結の前後それぞれの 炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認するこ とで,ストークス径の粒度分布の変化を予測することは可能\であるから,工具表面\nに存在する炭化タングステン粒子自体を測定するまでもない,また,本件発明にお けるメジアン粒径は,「1.3μm以上」ないし「0.5μm以下」という広い範囲 を規定するものであるから,焼結の有無はそれらの数値範囲の充足性にほとんど影 響を及ぼさないと考えられる旨主張する。 しかし,本件明細書には,焼結条件との兼ね合いで焼結による粒径の変化を予測\nして炭化タングステン粒子の粒径を調整することや,焼結の前後それぞれの炭化タ ングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認してストーク ス径の粒度分布の変化を予測することの記載や示唆はないから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,かかる予測や調整等を\n行うことを前提として沈降法により測定されるストークス径のメジアン粒径である とは解されない。また,本件発明におけるメジアン粒径が,広い範囲を規定するも のであるとしても,焼結の有無が数値範囲の充足性に影響を及ぼさないと解すべき 根拠はないから,上記の判断を左右するものではない。
ウ 原告は,焼結後の炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定する必要がある としても,コバルトの融点は1495℃,炭化タングステンの融点は2870℃で あるから,バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し,炭化タングステン 粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である旨主張する。\nしかし,本件明細書には,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン 粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取 り出して沈降法で測定することについては,記載も示唆もないから,本件発明の「炭 化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,コバルトを除去して 取り出した炭化タングステン粒子を沈降法により測定したストークス径であるメジ アン粒径であるとは解されない。 仮に,上記測定方法により炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定する ことができたとしても,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子 とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出 すという過程において,炭化タングステン粒子の密度や形状が一切変化しないとい う根拠はないから,そのように取り出して測定した炭化タングステン粒子のストー クス径が,そのまま,コバルトマトリックスと一体化した工具表面の炭化タングス\nテン粒子のストークス径であるということもできない。

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令和1(行ケ)10103  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月26日  知的財産高等裁判所

 大成建設の特許「コンクリート造基礎の支持構造」に、大林組が無効審判を請求しました。審決は無効理由無しとし、知財高裁2部もこれを維持しました。争点は進歩性、実施可能要件、明確性、サポート要件です。\n

 前記(1)アで認定したとおり,甲3文献は,PHC杭のフーチングへの埋 込み長さと接合部の補強方法が異なる場合における杭頭固定度,接合方法及び終局 耐力を把握することを主目的として,5種類の試験体((1)杭をフーチング内へ単に 埋込む方式で,埋込み長さを10cmとした試験体,(2)杭をフーチング内へ単に埋 込む方式で,埋込み長さを35cmとした試験体,(3)フーチング内で立ち上げ筋と スパイラルフープ筋により補強し,埋込み長さを20cmとした試験体,(4)内径3 5.4cm,長さ35cm,厚さ0.6cmの鋼管をエポキシ樹脂系接着材によっ て杭体と一体化し,定着長35cmのアンカー鉄筋(D10−8本)を鋼管に溶接 して接合部を補強し,埋込み長さを10cmとした試験体,(5)内径35.4cm, 長さ35cm,厚さ0.6cmの鋼管をエポキシ樹脂系接着材によって杭体と一体 化し,定着長35cmのアンカー鉄筋(D10−8本)を鋼管に溶接して接合部を 補強し,埋込み長さを20cmとした試験体)について曲げせん断試験実験を行っ たこと,及び同実験の条件を開示したものであるから,甲3文献は,PHC杭を用 いた剛接合構造によるコンクリート造基礎の支持構\造における杭頭固定度及び終局 耐力を把握する実験であると認められる。そして,甲3発明は,PHC杭を用いた 剛接合構造による支持構\造であることを前提とした上記の実験において,杭をフー チング内へ単に埋込む方式で,埋込み長さを10cmとした試験体について,フー チングのコンクリートの圧縮強度を228kg/cm2,杭体のコンクリートの圧 縮強度を895kg/cm2とするとの条件を設定したものである。 したがって,PHC杭を用いた剛接合構造によるコンクリート造基礎の支持構\造 における杭頭固定度及び終局耐力を把握する実験において,PHC杭を用いた剛接 合構造によるコンクリート造基礎の支持構\造という実験の前提自体を変更すること の動機付けはないというべきである。
イ 前記2(3)ウ(キ)のとおり,剛接合構造と半剛接合構\造とでは,杭の移動 に対する拘束の有無,杭頭部に生じる曲げモーメントの大きさが異なるなどの点で 差異がある。 また,甲37には,「充填コンクリートは,鋼管の拘束度に応じてその圧縮強度が 著しく増大し,プレーンコンクリートの約6〜10倍になる」との記載があること からすると,PHC杭と場所打ちコンクリート杭とでは,求められるコンクリート の強度も異なるというべきである。 このように,剛接合構造と半剛接合構\造とでは,杭頭部に生じる曲げモーメント の大きさが異なる上に,PHC杭と場所打ちコンクリート杭とでは,求められるコ ンクリートの強度も異なるのであるから,甲3発明における杭体とフーチングの圧 縮強度の関係をそのままにして,甲3発明の実験の前提となるPHC杭を用いた剛 接合構造を場所打ちコンクリート杭を用いた半剛接合構\造に置換することを,当業 者が容易に想到するとは認められない。
ウ そして,上記ア,イで判示したところは,杭に基礎を「載置」する構成\nがありふれた構成であり,PHC杭と場所打ち杭は相互に代替的な構\成であり,甲 3文献に,「地震力に対する建築物の基礎の設計指針・・・が示され,実務に供され つつあるが,杭頭接合部の固定度・・・と接合方法および構造耐力の問題が,研究\n課題の一つとして残されている。」と記載されているとしても,左右されることはな い。
また,原告は,PHC杭と場所打ちコンクリート杭の相違が重要であるとすれば, 本件明細書には,鋼管中空杭と場所打ちコンクリート杭の相違を前提としても,な お同様の作用効果が生じることにつき説明がないから,当業者が,課題を解決する ものと理解できず,この点でもサポート要件違反となると主張するが,本件明細書 には,鋼管中空杭と場所打ちコンクリート杭のそれぞれについて本件発明の作用効 果を生じることが記載されており,サポート要件に違反するものではない。
エ したがって,甲3発明に,場所打ちコンクリート杭を用いた半剛接合に よるコンクリート造基礎の支持構造という技術を適用して,本件発明2の相違点ア\n〜ウに係る構成とすることを当業者が容易に想到すると認めることはできない。\nまた,本件発明3は,本件発明2の構成に「コンクリート造基礎と前記杭頭部と\nの間に芯鋼材を配筋したこと」を付加したものであるところ,甲3発明に基づき本 件発明2を容易に発明することができない以上,甲3発明に基づき本件発明3も容 易に発明することはできない。

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平成31(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月28日  知的財産高等裁判所(1部)

 無効理由無しとした審決が維持されました。

 原告は,本件各発明は物の発明であるから,構成要件Hは制御手段の存在に\nよって特定されるべきであり,この解釈を措くとしても,構成要件Hは空気式マッ\nサージ具による挟み動作と施療子による叩き動作という異質の2種類の施療手段を あえて同期させるものであるから,その制御手段を具体的に開示することが要請さ れるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には制御手段の具体的な説明はなく, またかかる制御手段が技術常識であった事実は存在しないから,本件明細書の発明 の詳細な説明の記載は,実施可能要件に違反していると主張する。\n
 しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記(2)アのとおり,機械式マッサ ージ器8の左右の施療子9がマッサージ用モータ10の回転を制御することで叩き 動作を行うことや,空気式のマッサージ具41が内部に備えた袋体(エアセル42) にコンプレッサー61から空気を供給し膨張させることで押圧動作を行うことが記 載されている。そして,機械式のマッサージ器による叩き動作と,空気式マッサー ジ器による押圧動作を「同時」に行うためには,両者の制御をその字義どおり時を 同じくして(甲25の1・2)行えば足り,それぞれを単独で動作させる場合の制御 と格別異なる制御を要するものではないから,このような制御手段について発明の 詳細な説明に記載がないとしても,そのことによって当業者が本件各発明の実施に 過度の試行錯誤を要するとは認められない。 イ 原告は,被告が本件出願の審査過程で主張した,左右の施療子によって使用 者の背中に対し左右交互に前後の叩き動作が繰り返されるという作用効果に関して は,制御手段としてさらに具体的な説明が必要であるのに,本件明細書の発明の詳 細な説明には何らの記載も存在しないとも主張する。 しかし,実施可能要件の適合性は,請求項に係る発明について,明細書の記載と\n出願時の技術常識とに基づいて判断され,その判断が,出願人の審査段階の主張に より左右されるとは解されない。実施可能要件の適合性の判断を,出願人が出願経\n緯において述べた事項が禁反言の法理等により技術的範囲の解釈に影響することが あるということと同様に考えることはできない。

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平成31(行ケ)10042  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月21日  知的財産高等裁判所

 マッサージ機の特許について、無効理由無しとした審決が取り消されました。 争点は補正要件(新規事項)、記載要件などです。裁判所は、明確性について構成要件Fについて実質判断していないとして審決を取り消しました。

 本件審決は,明確性要件の判断において,構成要件G及びLについて判断したの\nみで,構成要件Fについては「請求人の主張の概要」にも「当合議体の判断」にも記\n載がなく,実質的に判断されたと評価することもできない。 したがって,本件審決には,手続的な違法があり,これが審決の結論に影響を及 ぼす違法であるということができる。
(3) 補正要件違反,分割要件違反及びサポート要件について
ア 本件審決には,補正要件違反等の原告の主張する無効理由との関係で,構成\n要件Fについての明示的な記載はない。 しかし,補正要件の適否は,当該補正に係る全ての補正事項について全体として 判断されるべきものであり,事項Fの一部の追加が新規事項に当たるという主張は, 本件補正に係る補正要件違反という無効理由を基礎付ける攻撃防御方法の一部にす ぎず,これと独立した別個の無効理由であるとまではいえない。その判断を欠いた としても,直ちに当該無効理由について判断の遺脱があったということはできない。 また,構成要件Fで規定する「開口」は,構\成要件H(「前記一対の保持部は,各々 の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」) の前提となる構成であって,事項Hの追加が新規事項の追加に当たらないとした本\n件審決においても,実質的に判断されているということができる。 そして,後記のとおり,当初明細書の【0037】,【0038】,【図2】には,断 面視において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載され,「開口部」とは, 「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し,一般的な体格の成人の腕 部の太さよりも若干大きい幅とされ,そこから保持部内に腕部を挿入可能であるこ\nとが記載されているから,構成要件Fで規定する「開口」が,当初明細書に記載され\nていた事項であることは明らかである。
イ また,新規事項の追加があることを前提とした分割要件違反に起因する新規 性・進歩性欠如をいう原告の主張も,同様である。
ウ サポート要件についても,本件審決には,構成要件Fについての明示的な記\n載はない。 しかし,サポート要件の適合性は,後記4(1)のとおり判断すべきものであり,上 記アと同様,事項Fの一部についての判断を欠いたとしても,直ちに当該無効理由 について判断の遺脱があったということはできない。 また,構成要件Fで規定する「開口」は,上記アのとおり,構\成要件Hの前提とな る構成であり,本件審決においても実質的に判断されているということができる。\nそして,後記のとおり,本件発明1は,本件明細書の【0010】に記載された構\n成を全て備えており,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明に より当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであり,加え て,本件明細書にも前記【0037】,【0038】,【図2】と同様の記載があることからすれば,構成要件Fで規定する「開口」が本件明細書の当該記載によってサポ\nートされていることも明らかである。
(4) 小括
以上のとおり,本件審決は,明確性要件についての判断を遺脱しており,この点 の審理判断を尽くさせるため,本件審決は取り消されるべきである。 もっとも,他の無効理由については当事者双方が主張立証を尽くしているので, 以下,当裁判所の判断を示すこととする。
・・・
ア 当初明細書の【0042】,【0044】,【0048】,【図5】,【0066】, 【0072】,【0074】,【図8】には,保持部の内面の略全体に空気袋が設けられている構成の記載がある。これらの記載に加えて,従来のマッサージ機においては,\n肘掛け部に例えばバイブレータ等の施療装置が設けられていないことが多く,被施 療者の腕部を施療することができないことが課題になっていたこと(【0003】) を併せて考えれば,当初明細書の上記各記載から,保持部の内面の対向する部分の 双方でなくとも,対向する部分の一方に空気袋が設けられていれば,腕部が保持部 によって保持され,保持部の内面の一方の側から空気袋の膨張・圧縮に伴う力を受 けることで一定の施療効果が期待できることは明らかというべきである。 そうすると,保持部の内面の互いに対向する部分の双方でなく,対向する部分の 一方に空気袋が設けられていれば,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に 設けた空気袋によって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕 部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題\nの課題解決手段として十分であることが容易に理解できる。\n
イ 当初明細書の【0042】には,保持部の形状について「略C字状」の断面形 状を有することの記載があり,【0037】,【0038】及び【図2】には,断面視 において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載されており,「開口部」と は,「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し,一般的な体格の成人 の腕部の太さよりも若干大きい幅とされ,そこから保持部内に腕部を挿入可能であ\nることが記載されている。そして,【0100】には,腕部を保持する保持部は,【図 13】(a)に示されるものに限定されず,同図(b)〜(e)に示されるものとし てもよいこと,さらに,同図(c)は,開口を「所定角度で傾斜させた」ものであり, 同図(e)は,開口を「上方に開口」させたものであることが記載されている。 以上の記載を踏まえると,【図13】(a)は,開口が所定角度で傾斜せずに横を向 いている保持部を示していると理解するのが自然であり,そうすると,当初明細書 には,所定角度で傾斜したものと傾斜していないものを含めて「開口が横を向」い ている保持部が記載されているといえる。 そして,「開口が横を向」いている保持部であっても,腕部を横方向に移動させる ことで被施療者が腕部を保持部内に挿入することができ,座部に座った被施療者の 腕部を保持部の内面に設けた空気袋によって施療することができることが容易に認 識でき,被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当\n初明細書に記載の課題を解決できることが容易に理解できるというべきである。
ウ 請求項2の「開口が真横を向いている」にいう「開口」とは,そこから保持部 内に腕部を挿入することを可能とするもの(【0038】,【図2】)であることから\nすれば,「開口が真横を向いている」とは,腕部の挿入方向に着目して,被施療者が 座部に座った状態で腕部を「真横」(水平)に移動させることで保持部内に腕部を挿 入することができるという技術的意義を有するものであると理解できる。 そして,当初明細書には,【図13】(a)及び(c)において,所定角度で傾斜し たものと傾斜していないものを含めて「開口が横を向」いている保持部が示され, 同図(a)は,開口が所定角度で傾斜せずに横を向いている保持部,すなわち,「開 口が真横を向」いている保持部を示していると理解するのが自然であるところ,「開 口が真横を向」いていれば,腕部を真横(水平)に移動させることで被施療者が腕部 を保持部内に挿入することができ,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に 設けた空気袋によって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕 部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題\nを解決できることも容易に理解することができるというべきである。
エ 当初明細書には,【0037】,【0044】,【0046】などにも,前腕部を 挿入する第2保持部分の内面において,被施療者の手首又は掌に相当する部分に振 動装置が設けられていることが開示されている。加えて,保持部が,被施療者の上 腕を保持するための第1保持部分と被施療者の前腕を保持するための第2保持部分 とから構成され(【0037】,【図2】),第2保持部分の内面であって被施療者の手首又は掌に相当する部分に振動装置が設けられ,この振動装置が振動することによ\nり,被施療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっていること(【0044】,【図2】)も記載されている。\nそうすると,保持部内に挿入された被施療者の手首又は掌を,保持部の内面であ って,手首又は掌に相当する部分に設けられた振動装置を振動させることで,被施 療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっており,その前提として,保持\n部が,被施療者の手首又は掌を「保持可能」とするような構\成を有していることは 明らかである。
オ 当初明細書のうち,第1保持部分を幅方向へ切断したときの断面図である【図 5】,【図8】には,空気袋(11b,11c,26b,26c)が全体として保持部 の奥側(図の右側)よりも開口側(図の左側)の端部にて高さが高くなるよう盛り上 がる形状が示されており,当初明細書の【0042】の記載も踏まえると,【図5】 には,保持部分の内面の略全体において略一定の厚み幅を有する空気袋11bと, 当該空気袋11bの上に積層する形で空気袋11cが設けられ,当該空気袋11c は奥側から開口側に行くにしたがってその厚み幅が漸増しており,空気袋11bと 空気袋11cをあわせてみたときに,空気袋は開口側の部分の方が奥側の部分より も立ち上がるように構成されていることが記載されているといえる。\nそして,空気袋が保持部の開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がるよう に構成されていれば,空気袋の膨張・圧縮の程度が保持部の奥側の部分よりも開口\n側の部分の方が大きく,腕部がそのような空気袋の構成に応じた膨張・圧縮に伴う\n力を受けることで,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に設けた空気袋に よって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕部を施療するこ とが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題を解決できるこ\nとも容易に理解することができる。 カ 以上によれば,本件補正は,当初明細書の全ての記載を総合することにより 導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものとはいえ ない。
・・・
4 取消事由3(サポート要件に係る判断の誤り)について
(1) サポート要件について
特許請求の範囲の記載が,サポート要件を定めた特許法36条6項1号に適合す るか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請 求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細 な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであ るか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当 該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) 本件発明1について
ア 本件明細書の記載 本件明細書には,(1)椅子型のマッサージ機にあっては,肘掛け部にバイブレータ 等の施療装置が設けられていないことが多く,被施療者の腕部を施療することがで きないという問題があったことから(【0002】,【0003】),被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供することを課題とし(【0007】),(2)当 該課題を解決するための手段として,被施療者が着座可能な座部と,被施療者の上\n半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において,「前記座部の両 側に夫々配設され,被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と,前 記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と,を有し,前記保持部は,\nその幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されて いると共に,その内面に互いに対向する部分を有し,前記空気袋は,前記内面の互 いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ,前記一対の保持部は, 各々の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設され」 ていること(【0010】),(3)本発明に係るマッサージ機によれば,空気袋によって 被施療者の腕部を施療することが可能となること(【0028】)が記載されている。\n
そして,本件明細書には,本件発明の「実施の形態1」の説明において,マッサー ジ機の全体構成やその動作について,保持部の構\成やその内面に設けられた空気袋 の構成や作用とともに記載され(【0037】,【0038】,【0042】〜【0045】,【0048】,【図1】,【図2】,【図5】),本件明細書の【0100】,【010\n1】及び【図13】には,本件発明のマッサージ機の保持部の種々の断面形状につい て説明がされているところ,マッサージ機を扱う当業者であれば,本件明細書の以 上の記載から,(1)の課題を解決するために(2)の解決手段を備え,(3)の効果を奏する 発明を認識することができる。 そして,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2(1)のとおりで あるところ,本件明細書の【0010】には,同発明が記載されている。また,当業 者が,本件明細書の前記記載により本件発明1の課題を解決できると認識すること ができる。そうすると,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明 の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のも のであるということができ,本件発明1の記載についてサポート要件の違反はない。
イ 原告の主張について
原告は,(1)構成要件Gは,空気袋につき,保持部の内面の対向する部分の一方の\n部分のみに設ける構成も含むが,本件明細書には,かかる構\成であっても解決でき る課題につき何らの説明もなく,(2)構成要件Hは,保持部の形状につき,本件明細\n書の【図13】の(a),(c)から導かれる形状とするものであるところ,本件明細 書には,他の形状を示す同図(b),(d),(e)との関係で解決される課題につき,何らの説明もないと主張する。 しかし,本件明細書によれば,保持部の内面の対向する部分の双方でなくとも, 対向する部分の一方に空気袋が設けられていれば,被施療者の腕部を施療すること が可能なマッサージ機を提供するという本件明細書に記載の課題の解決手段として\n十分であることが容易に理解することができる。また,保持部に形成する開口が横\nを向いていれば,腕部を横方向に移動させることで被施療者が保持部内に腕部を挿 入することができ,座部に座った被施療者の腕部を施療することが可能なマッサー\nジ機を提供するという本件明細書に記載の課題を解決できることが容易に理解する ことができる。 したがって,原告の主張は理由がない。
5 取消事由5(引用発明に基づく進歩性判断の誤り)について
・・・
このように,甲13文献に示されるパッド31は,せいぜい,パッド35ととも に肢にフィットするように全体にc字形をしており,開口を患者の側に向けて,パ ッド35とともに椅子21(肘掛け)又は床の上に「置く」ことができることが開示 されているにとどまり,「一対の保持部」について,相違点2に係る,各々の開口が 横を向き,かつ開口同士が互いに「対向するように配設」するという技術思想が開 示されているとはいえない。
(ウ) したがって,引用発明に甲13技術を適用する動機付けはないし,これを 適用しても,相違点2に係る構成に至らないから,これを容易に想到することがで\nきたものとはいえない。

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関連事件です。こちらは無効理由無しとした審決が維持されています。

◆平成31(行ケ)10054

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平成31(行ケ)10015  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年11月11日  知的財産高等裁判所

 争点の一つがPBPクレームの明確性判断です。請求項7について、審決はPBPクレームについて明確性違反ありと判断されました。これに対して、原告は、「製造方法が物のどのような構造又は特性を表\しているのかは明らか」と争いましたが、裁判所は無効審決を維持しました。

 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合) において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明 が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当 該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか,又はお よそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁平成24年 (受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号70 0頁参照)。
(2) 本件発明7について
本件発明7は,「前記溶剤処理が,リード線端部にアルミ芯線を溶接した 直後に行われるものである,請求項6に記載のタブ端子。」として,請求項 6の「前記の酸化スズ形成処理が,溶剤処理により行われる,請求項1また は2に記載のタブ端子。」を引用するものであり,「酸化スズ形成処理が溶 剤処理により行われる」との記載は製造方法であるから,特許請求の範囲に その物の製造方法が記載されている場合に当たる。 そうすると,本件発明7について明確性要件に適合するというためには, 出願時において本件発明7の「タブ端子」を,その構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在することを要するところ,原告はかかる事情について,具体的な主張立証を しない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件明細書の記載(【0026】,【0028】)から,ウィ スカ発生の抑制を目的とした酸化スズが形成されているというタブ端子の 溶接部分の構造ないし特性を示す目的で「溶剤処理」という用語を用いていることが読み取れるとして,製造方法が物のどのような構\造又は特性を表しているのかは,本件発明の記載及び本件明細書の記載から極めて明白であり,上記(1)の不可能又は非実際的事情について検討するまでもなく,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確と\nいえないから,明確性要件に適合すると主張する。 しかし,本件明細書には,請求項3に係る「熱処理」及び請求項6に係 る「溶剤処理」により酸化スズ形成処理が施されたタブ端子についての記 載があるものの,これらの熱処理及び溶剤処理により形成された酸化スズ が,それぞれどのような構造又は特性を有するものであるのかについての記載はない。そうすると,本件明細書の記載から,本件発明7の引用する\n請求項6に係る溶剤処理により形成された酸化スズがどのような構造又は特性を有するかが明らかであるとはいえないし,また,それが技術常識か\nら明らかであるとみるべき証拠もない。 したがって,原告の主張は採用できない。
イ また,原告は,仮に,本件発明において問題としている課題解決手段で ある酸化スズ形成処理を超えてその構造・特性や熱処理や溶剤処理を行うにタブ端子に対して生じる変化を事細かに規定しなければならないとす\nれば,それは上記(1)の最高裁判決に示す不可能又は非実際的事情に該当すると主張する。\nしかし,原告の主張する点は,本件発明7の「タブ端子」を,その構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか,又はおよそ実際的でないことを示す事情を示すものではなく,上記(2)の判断を左右するもので はない。
ウ さらに,原告は,審決が明確性要件の判断に先立ち,本件発明6につい ての進歩性の判断を行っていることは,実質的に本件発明が明確であるこ とを前提としていると主張する。 しかし,進歩性の欠如と明確性要件適合性は,異なる無効理由であり, 進歩性の判断と明確性要件適合性の判断に論理的な先後関係があるわけで はないから,原告の主張は採用できない。

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平成30(行ケ)10092  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月30日  知的財産高等裁判所

 無効理由無し(サポート要件、実施可能要件、進歩性)とした審決が維持されました。

 上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク 質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結 合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使 用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は, かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって, PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより, 対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症 などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することにあると理解することができる。\n本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用 してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体 を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体 について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合 しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること, また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含 まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。 21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21 B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗 体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細 書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個 の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同 様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体 を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認 識できると認められる。 さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免 疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や 31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業 者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって, 本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗 体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら れる。 以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル 抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成 物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できることを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に\n適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結 合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定 される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照 抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし, 参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。そして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特\n定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために, その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない(甲34,35)。\n前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し, 本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参 照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。(4) 本件各訂正発明のサポート要件適合性 なお,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,本件各訂正発明も,いずれもサポート要件に適合するものと認められ る。
(5) 小括
以上によれば,本件各発明及び本件各訂正発明は,いずれもサポート要件に適合するというべきである。
4 争点(2)イ(実施可能要件違反)について\n
(1) 前記3(1)の認定事実によれば,本件各明細書の記載から,本件発明1−1及 び2−1の抗体及び本件発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し,使用するこ とができるものと認められるから,本件各明細書の発明の詳細な説明の記載は,当 業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができる。\nしたがって,本件各発明は,いずれも,実施可能要件に適合するものと認められる。\n
(2) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な\n時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能要件を満たさない旨主張する。\nしかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求められるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程\n度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる\nからである。 本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ, PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗 体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そして,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す\nることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離 されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度 の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ\nることまで記載されている必要はない。 また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない 抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認 識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に記載されているかどうかは,実施可能\要件とは関係しないというべきである。そして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細 書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範 囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得 る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 よって,控訴人の主張は採用できない。
(3) 本件各訂正発明の実施可能要件の適合性\n
なお,前記3(4)のとおり,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,当業者は,本件各明細書の記載から,本件訂正発明1 −1及び2−1の抗体及び本件訂正発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し, 使用することができるものと認められ,本件各訂正発明も,いずれも実施可能要件に適合するものと認められる。\n

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平成30(行ケ)10117  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年4月12日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、明確性違反、サポート要件違反であるとした審決を取り消しました。

 特定事項A及びBは,本願発明が,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり, 当該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数 を「指標」として使用する方法である旨特定するものであるところ,特定事項Cは, 本願発明の方法によって選択される対象物である脂質含有組成物の構成を特定し,\n特定事項D及び特定事項EないしHは,重畳的に,これに更に特定を加えるもので ある。
そうすると,特定事項Iは,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,脂質含 有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち一つ又は複数を「指標」と して使用する方法について,これが,特定事項CないしHによって特定された構成\nを有する脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当該脂質含有配合物を選択す るための方法である旨更に特定するものということができる。
カ 特定事項Aの明確性
以上によれば,特定事項Aは,「脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当 該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数を 「指標」として使用する方法」と解釈するのが合理的であって,特定事項Aを,こ のように解釈することは,その余の特定事項の解釈とも整合するものということが できる。
キ 被告の主張について
(ア) 被告は,本願発明は「年齢」や「性別」のような属性を,ありふれた油脂 を選択するための指標として使用する方法をいうところ,「指標として」という記 載は抽象的であり,いかなる行為までが「指標」として使用する行為に含まれ得る のか明確ではないから,本願発明の外延は明確ではない,要素を何らかの形で脂質 含有配合物を選択するための指標として用いたか否かについては,明確に判別する ことはできない旨主張する。 しかし,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,年齢,性別等の対象の要素 をメルクマールにして,その脂質含有配合物の構成を決定すれば,要素を「指標と\nして」使用したといえる。また,これにより決定される脂質含有配合物の構成があ\nりふれたものであったとしても,ありふれていることを理由に発明の外延が不明確 であると評価されるものではない。そうすると,「指標として」という記載が,第 三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。 また,対象方法が本願発明の特許発明の技術的範囲に属するか否かは,本願発明 の技術的範囲を画定し,対象方法を認定した上で,これらを比較検討して判断する ものである。そして,脂質含有配合物を選択するための指標として本願発明の要素 をメルクマールとして用いたか否かは,対象方法の認定に係る問題であって,本願 発明の技術的範囲の画定の問題,すなわち,明確性要件とは無関係である。 したがって,被告の上記主張は採用できない。
(イ) 被告は,特定事項EないしIは,特定事項Dにおける「ω−6脂肪酸対ω −3脂肪酸の比」及び「それらの量」が「一つ以上の要素」に,どのように基づい ているのかを特定しようとする記載と解すべきである旨主張する。 しかし,特定事項Dと特定事項EないしHは,いずれも特定事項Cによって特定 された本願発明の方法によって選択される対象物の構成について,更に,それぞれ\n異なる観点から特定するものである。特定事項E及びGには「一つ以上の要素」に 関する記載が全くないのであるから,これらと選択関係にある特定事項EないしH との関係から,特定事項Dの技術的意義を解すべきとはいえない。 したがって,被告の上記主張は採用できない。
(ウ) 被告は,本願明細書は「要素」の使用方法を明らかにするものではなく, それが技術常識でもない旨主張する。 被告の上記主張は,本願発明は,対象に投与する脂質含有配合物を選択するため に,どのように「要素」を使用するかについて特定した方法であるという解釈を前 提とするものである。 しかし,特定事項F及びHに係る特許請求の範囲の記載においては,「要素」で ある食餌及び生活圏周囲の温度範囲を,どのように使用するかについて特定されて いるものの,これらの特定事項と選択関係にある特定事項E及びGには,「要素」 の使用方法に関する記載はない。特定事項F及びHは,本願発明の方法によって選 択される対象物である脂質含有組成物の構成を特定するものにすぎないと解すべき\nである。そして,その余の本願発明に係る特許請求の範囲の記載には,「要素」の 使用方法に関する記載はない。 したがって,被告の上記主張は,特許請求の範囲の記載を離れた本願発明の解釈 を前提とするものであるから,採用できない。なお,本願発明の課題を解決するた めには,脂質含有配合物の選択に当たり,特定の「要素」をどのように使用するか についてまで特定しなければならないにもかかわらず,特許請求の範囲に記載され た発明が,脂質含有配合物の選択に当たり,特定の「要素」を使用する方法につい て特定するにとどまるというのであれば,それは,サポート要件の問題であって, 明確性要件の問題ではない。明確性要件は,出願人が当該出願によって得ようとす る特許の技術的範囲が明確か否かについて判断するものであって,それが,発明の 課題を解決するための構成又は方法として十\分か否かについて判断するものではな い。
ク 小括
以上によれば,特定事項Aは,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当該 脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数を「指 標」として使用する方法である旨特定するものである。特定事項Aに係る特許請求 の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということは できない。
・・・
本件審決は,サポート要件について,「ω−6の増加が緩やかおよび/また はω−3の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」と の技術的事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないから,本願 発明の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないと判断した。 そして,本件審決は,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該 発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載 や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる と認識できる範囲のものであるか否かについて,何ら検討判断していない。 (2) しかしながら,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明 の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のである。 そうすると,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課 題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆が なくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識で きる範囲のものであるか否かについて,何ら検討することなく,選択関係にある特 定事項EないしHのうち特定事項G「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との技術的 事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないことの一事をもって, サポート要件に適合しないとした本件審決は,誤りである。
(3) 加えて,以下のとおり,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の中 止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との特定事項G の技術的事項は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されている。 すなわち,まず,本願明細書【0042】には,「長鎖ω−3脂肪酸または免疫 抑制性の植物性化学物質/栄養素の習慣的で多量の供給が宿主に対して突然行われ なくなるか,またはω−6脂肪酸が突然増加すると,全身性の炎症応答(毛細血管 漏出,発熱,頻脈,呼吸促迫),多臓器不全(消化器,肺,肝臓,腎臓,心臓)お よび関節の結合組織損傷を含む重篤な結果を伴うサイトカインストームの応答が生 じることがある。」と記載され,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の 中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも,様々な疾患が生じ得るこ とが記載されている。このように,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであ」る投与方法に関する技術的事項は,本願明細書【0042】 に記載されている。
また,本願明細書には,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜30 歳及び31〜50歳の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以 下とすること(実施例3【表9】),多量のシーフード摂取者であって上記と同年\n齢の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実 施例3【表11】),及び,医学的適応として肥満を有する者に投与する脂質組成\n物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実施例6【表13】)が,それ\nぞれ記載されている。このように,「ω−6の用量が,40グラム以下であ」る投 与方法に関する技術的事項は,本願明細書の実施例3【表9】【表\11】及び実施 例6【表13】のそれぞれ一部の対象に対するものとして記載されている。\nさらに,上記のとおり,本願明細書【0042】には,「ω−6の増加が緩やか および/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも, 様々な疾患が生じ得ることが記載されており,これは,「ω−6の増加が緩やかお よび/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法が,特定の対象に限らず,一 般的に好ましい旨開示するものというべきである。そうすると, このような投与方 法と,実施例3【表9】【表\11】及び実施例6【表13】のそれぞれ一部に記載\nされた「ω−6の用量が,40グラム以下であ」るという投与方法を組み合わせた 投与方法,すなわち,例えば,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜 30歳及び31〜50歳の男性に,40g以下の用量のω−6脂肪酸を投与し,そ の際,ω−6脂肪酸を緩やかに増加させ及び/又はω−3脂肪酸を穏やかに中止す るという,脂質含有組成物の投与方法に関する技術的事項は,本願明細書に記載さ れているということができる。
(4) したがって,本件審決は,サポート要件を形式的に判断した部分について誤 りがあるだけではなく,そもそも同要件を実質的に検討判断しておらず,その判断 枠組み自体に問題がある。よって,取消事由3は,その趣旨をいうものとして理由 がある。

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平成30(行ケ)10117  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年4月12日  知的財産高等裁判所(1部)

   明確性・サポート要件違反とした拒絶審決が取り消されました。

 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だ けではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願 当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不 当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで,本願発明に係る特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害され るほどに不明確であるか否かについて,検討する。なお,以下,本願発明の発明特 定事項について,次のとおり分説し,それぞれ「特定事項A」ないし「特定事項I」 ということがある。
A 対象の一つ以上の要素の,前記対象への投与のための脂質含有配合物を選択 するための指標としての使用であって,
B 前記対象の一つ以上の要素は,以下:前記対象の年齢,前記対象の性別,前 記対象の食餌,前記対象の体重,前記対象の身体活動レベル,前記対象の脂質忍容 性レベル,前記対象の医学的状態,前記対象の家族の病歴,および前記対象の生活 圏の周囲の温度範囲から選択され,
C ここで前記配合物が,1又は複数の,相互に補完する一日用量のω−6脂肪 酸およびω−3脂肪酸を含む脂肪酸を含み,
D ここでω−6脂肪酸対ω−3脂肪酸の比,およびそれらの量が,前記一つ以 上の要素に基づいており;
E ここでω−6対ω−3の比が,4:1以上,ここでω−6の前記用量が40 グラム以下であり;
F または前記対象の食餌および/または配合物における抗酸化物質,植物化学 物質,およびシーフードの量に基づいて1:1〜50:1;
G またはここでω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の中止が緩やかで あり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり;
H またはここで前記脂肪酸の含有量は,下記表6:(表\は略)と適合する,
I 前記使用。
(2) 「対象の一つ以上の要素の,前記対象への投与のための脂質含有配合物を選 択するための指標としての使用」との記載(特定事項A)の明確性
ア 特定事項A及びB
本願発明は,「対象の一つ以上の要素の,前記対象への投与のための脂質含有配 合物を選択するための指標としての使用であって,」と特定され(特定事項A), 続いて,「前記対象の一つ以上の要素は,以下:前記対象の年齢,前記対象の性別, 前記対象の食餌,前記対象の体重,前記対象の身体活動レベル,前記対象の脂質忍 容性レベル,前記対象の医学的状態,前記対象の家族の病歴,および前記対象の生 活圏の周囲の温度範囲から選択され,」と特定されている(特定事項B)。 そうすると,特定事項A及びBは,本願発明が,少なくとも,下記の方法である 旨特定するものと解釈するのが合理的である。
 記
脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当該脂質含有配合物を選択するため に,当該対象の「要素」,すなわち,年齢,性別,食餌,体重,身体活動レベル, 脂質忍容性レベル,医学的状態,家族の病歴及び生活圏の周囲の温度範囲のうち, 一つ又は複数を「指標」として使用する方法
イ 特定事項C
本願発明は,「ここで前記配合物が,1又は複数の,相互に補完する一日用量の ω−6脂肪酸およびω−3脂肪酸を含む脂肪酸を含み,」と特定されている(特定 事項C)。そして,「ここで前記配合物」とは,特定事項A及びBで特定された方 法によって選択される対象物である「脂質含有配合物」をいうものである。 そうすると,特定事項Cは,本願発明の方法によって選択される対象物である脂 質含有配合物がω−6脂肪酸及びω−3脂肪酸を含む脂肪酸を含むなどと,本願発 明の方法によって選択される対象物の構成を特定するものということができる。\n
ウ 特定事項DないしHによって特定される目的物
特定事項DないしHは,ω−6脂肪酸とω−3脂肪酸の用量の比率を特定したり (特定事項D,E,F),ω−6脂肪酸及び/又はω−3脂肪酸の用量を特定した り(特定事項D,E,G),脂肪酸に含まれるω−9脂肪酸,ω−6脂肪酸及びω −3脂肪酸の重量%を特定したり(特定事項H),ω−6脂肪酸及び/又はω−3 脂肪酸の摂取量の経時的変化(特定事項G)を特定したりするものである。 そうすると,特定事項DないしHは,特定事項Cによって特定された本願発明の 方法によって選択される対象物の構成,すなわち,対象物である脂質含有配合物が\nω−6脂肪酸及びω−3脂肪酸を含む脂肪酸を含むという構成について,ω−6脂\n肪酸,ω−3脂肪酸又は脂肪酸に含まれるω−9脂肪酸等の比率,用量,重量%又 は摂取量の経時的変化に着目することにより,更に特定するものということができ る。
エ 特定事項DないしHの関係
(ア) 特定事項DないしHは,それぞれ「;」で区切られているから,それぞれ の発明特定事項ごとに,個別の技術的意義を有すると解すべきものである。
(イ) そして,特定事項Dは「ここで」で始まり,特定事項Eは「ここで」で始 まり,特定事項FないしHは「または」で接続されているから,特定事項Dないし Hは,特定事項Dと特定事項EないしHに更に区別され,特定事項EないしHは選 択関係にあるものである。
(ウ) さらに,特定事項Dと特定事項EないしHとの関係について検討する。 これらの特定事項は,特定事項Cによって特定された本願発明の方法によって選 択される対象物の構成について,ω−6脂肪酸,ω−3脂肪酸又は脂肪酸に含まれ\nるω−9脂肪酸等の比率,用量,重量%又は摂取量の経時的変化に着目することに より,更に特定するものである。 そして,特定事項Dは,特定事項Cによって特定された本願発明の方法によって 選択される対象物の構成について,脂質含有配合物が投与される対象の「要素」,\nすなわち,年齢,性別,食餌,体重,身体活動レベル,脂質忍容性レベル,医学的 状態,家族の病歴及び生活圏の周囲の温度範囲のうち,一つ又は複数に基づいて特 定しようとするものである。 一方,特定事項EないしHは,特定事項Cによって特定された本願発明の方法に よって選択される対象物の構成について,客観的な比率,用量,重量%又は摂取量\nの経時的変化に基づいて特定しようとするものである。 このように,特定事項Dと特定事項EないしHは,いずれも特定事項Cによって 特定された本願発明の方法によって選択される対象物の構成について,更に特定す\nるものであるところ,その特定の仕方が異なり,特定事項Dと特定事項EないしH による特定の間で矛盾が生じるものではないから,重畳して適用されるものという べきである。
オ 特定事項I
特定事項A及びBは,本願発明が,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり, 当該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数 を「指標」として使用する方法である旨特定するものであるところ,特定事項Cは, 本願発明の方法によって選択される対象物である脂質含有組成物の構成を特定し,\n特定事項D及び特定事項EないしHは,重畳的に,これに更に特定を加えるもので ある。 そうすると,特定事項Iは,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,脂質含 有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち一つ又は複数を「指標」と して使用する方法について,これが,特定事項CないしHによって特定された構成\nを有する脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当該脂質含有配合物を選択す るための方法である旨更に特定するものということができる。
カ 特定事項Aの明確性
以上によれば,特定事項Aは,「脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当 該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数を 「指標」として使用する方法」と解釈するのが合理的であって,特定事項Aを,こ のように解釈することは,その余の特定事項の解釈とも整合するものということが できる。
・・・
特定事項Cで特定される脂質含有配合物に含まれる脂肪酸の構成は「一日\n用量」の脂肪酸を含むものであるところ,特定事項Cに係る特許請求の範囲の記載 だけからでは,1)脂質含有配合物が,「一日用量」に相当する「ω−6脂肪酸およ びω−3脂肪酸」を含み,更にその余の脂肪酸を含んでもよいのか,それとも2)脂 質含有配合物が,「一日用量」に相当する「脂肪酸」を含み,かつ,当該「脂肪酸」 が「ω−6脂肪酸およびω−3脂肪酸」を含むのか,について,一義的に明らかで はない。
(イ) そこで,本願明細書の記載を考慮する。
a 本願明細書において,対象に投与される脂質含有配合物に含まれる脂肪酸の 量について具体的に明示する記載は,実施例1,3,5及び6のみである。 そして,実施例1には,「この配合物は,およそ10〜100グラムの1日総脂 肪の,均衡のとれた脂肪酸組成物を供給できる。」と記載され,脂質含有配合物に 含まれる「脂肪酸」の「一日用量」について記載されている。一方,「ω−6脂肪 酸」及び「ω−3脂肪酸」の「一日用量」に関する記載はない。 また,実施例3,5及び6には,【表9】ないし【表\13】が記載され,各表に\nついて,「総脂肪酸内容物についての用量範囲(単位:グラム),一価不飽和脂肪 酸対多価不飽和脂肪酸の比率範囲および一価不飽和脂肪酸対飽和脂肪酸の比率範囲, ω−6脂肪酸含有量の範囲(単位:グラム),ω−9脂肪酸対ω−6脂肪酸の比率 範囲,ω−3脂肪酸含有量の範囲(単位:グラム)およびω−6脂肪酸対ω−3脂 肪酸の比率範囲を,性別および年齢群により示すものである。」と説明されている。 実施例3,5及び6の各表は,脂質含有配合物に含まれる「脂肪酸」の「一日用量」\nを示した上で,当該「脂肪酸」の内訳として,一価不飽和脂肪酸,多価不飽和脂肪 酸,飽和脂肪酸,ω−6脂肪酸,ω−9脂肪酸及びω−3脂肪酸の量を示すもので ある。
b 一方,本願明細書には,発明を実施するための形態として「脂質配合物」に ついて開示されている(【0022】〜【0036】)。その中で,「ω−6脂肪 酸およびω−3脂肪酸両方の最適な1日送達量」と記載されているが,同記載は「一 態様」として開示されているものであって(【0022】),「ω−6脂肪酸」及 び「ω−3脂肪酸」以外の「脂肪酸」の均衡について言及する「実施形態」も開示 されている(【0030】)。 また,実施例3,5及び6の各表は,脂質含有配合物に含まれる「ω−6脂肪酸」\n及び「ω−3脂肪酸」の用量を示すものであるが,その余の脂肪酸の用量について も示されている。 そうすると,ω−6脂肪酸及びω−3脂肪酸の用量を開示するこれらの本願明細 書の記載は,その余の脂肪酸の用量を適宜定めてよいとするものではないから,上 記1)を前提とするものではないというべきである。
c したがって,本願明細書は,脂質含有配合物に含まれる脂肪酸の量について, まず「脂肪酸」の「一日用量」に着目した上で説明するものであって,上記2)を前 提とするものということができる。
(ウ) このように,特許請求の範囲の記載に加え,本願明細書の記載を考慮すれ ば,特定事項Cは,2)脂質含有配合物が,「一日用量」に相当する「脂肪酸」を含 み,かつ,当該「脂肪酸」が「ω−6脂肪酸およびω−3脂肪酸」を含む旨特定す るものということができる。
・・・
本件審決は,サポート要件について,「ω−6の増加が緩やかおよび/また はω−3の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」と の技術的事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないから,本願 発明の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないと判断した。 そして,本件審決は,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該 発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載 や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる と認識できる範囲のものであるか否かについて,何ら検討判断していない。
(2) しかしながら,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明 の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のである。 そうすると,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課 題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆が なくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識で きる範囲のものであるか否かについて,何ら検討することなく,選択関係にある特 定事項EないしHのうち特定事項G「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との技術的 事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないことの一事をもって, サポート要件に適合しないとした本件審決は,誤りである。
(3) 加えて,以下のとおり,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の中 止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との特定事項G の技術的事項は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されている。 すなわち,まず,本願明細書【0042】には,「長鎖ω−3脂肪酸または免疫 抑制性の植物性化学物質/栄養素の習慣的で多量の供給が宿主に対して突然行われ なくなるか,またはω−6脂肪酸が突然増加すると,全身性の炎症応答(毛細血管 漏出,発熱,頻脈,呼吸促迫),多臓器不全(消化器,肺,肝臓,腎臓,心臓)お よび関節の結合組織損傷を含む重篤な結果を伴うサイトカインストームの応答が生 じることがある。」と記載され,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の 中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも,様々な疾患が生じ得るこ とが記載されている。このように,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであ」る投与方法に関する技術的事項は,本願明細書【0042】 に記載されている。 また,本願明細書には,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜30 歳及び31〜50歳の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以 下とすること(実施例3【表9】),多量のシーフード摂取者であって上記と同年\n齢の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実 施例3【表11】),及び,医学的適応として肥満を有する者に投与する脂質組成\n物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実施例6【表13】)が,それ\nぞれ記載されている。このように,「ω−6の用量が,40グラム以下であ」る投 与方法に関する技術的事項は,本願明細書の実施例3【表9】【表\11】及び実施 例6【表13】のそれぞれ一部の対象に対するものとして記載されている。\nさらに,上記のとおり,本願明細書【0042】には,「ω−6の増加が緩やか および/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも, 様々な疾患が生じ得ることが記載されており,これは,「ω−6の増加が緩やかお よび/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法が,特定の対象に限らず,一 般的に好ましい旨開示するものというべきである。そうすると, このような投与方 法と,実施例3【表9】【表\11】及び実施例6【表13】のそれぞれ一部に記載\nされた「ω−6の用量が,40グラム以下であ」るという投与方法を組み合わせた 投与方法,すなわち,例えば,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜 30歳及び31〜50歳の男性に,40g以下の用量のω−6脂肪酸を投与し,そ の際,ω−6脂肪酸を緩やかに増加させ及び/又はω−3脂肪酸を穏やかに中止す るという,脂質含有組成物の投与方法に関する技術的事項は,本願明細書に記載さ れているということができる。
(4) したがって,本件審決は,サポート要件を形式的に判断した部分について誤 りがあるだけではなく,そもそも同要件を実質的に検討判断しておらず,その判断 枠組み自体に問題がある。よって,取消事由3は,その趣旨をいうものとして理由 がある。

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平成31(ネ)10009  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年6月27日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審と同じく、明確性、サポート要件違反無しと判断されました。

 前記第2の1の前提事実と一件記録によれば,本件訴訟の経過等として, 次の事実が認められる。
(ア) 控訴人日進は,平成26年12月頃から,調剤薬局等に対し,控訴 人日進と控訴人セイエーが共同開発した被告製品を販売するようになっ た。 控訴人日進,控訴人OHU及び控訴人セイエーの3者間には,被告製 品に関し,控訴人日進が控訴人OHUに対して被告製品を発注し,この 発注を受けた控訴人OHUが控訴人セイエーに対して被告製品の製造を 委託し,この委託を受けた控訴人セイエーが被告製品を製造して,控訴 人日進に供給し,これにより,控訴人セイエーは控訴人OHUに対し, 控訴人OHUは控訴人日進に対し被告商品をそれぞれ販売するという継 続的な取引関係があった。
(イ) 被控訴人は,平成28年7月4日,控訴人らによる被告製品の製造, 販売が被控訴人の有する本件特許権の間接侵害等に当たる旨主張して, 控訴人らに対し,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金の連帯 支払を求める本件訴訟を原審に提起した。 控訴人らは,同年12月8日の原審第2回弁論準備手続期日において, 準備書面(2)(無効論)に基づき,明確性要件違反,乙22を主引用例と する新規性欠如,乙23を主引用例とする新規性欠如の無効理由による 無効の抗弁を主張し,平成29年3月16日の原審第4回弁論準備手続 期日において,準備書面(5)(無効論)に基づき,上記無効理由に加えて, 乙22を主引用例とする進歩性欠如,乙23を主引用例とする進歩性欠 如,補正要件違反,サポート要件違反,明確性要件違反(「2つ折りさ れたシート」に係るもの)の無効理由による無効の抗弁を主張した。 その後,控訴人らは,同年6月30日の原審第6回弁論準備手続期日 において,準備書面(7)(無効論)に基づき,新たに乙23(乙23’発 明)を主引用例,乙22(乙22発明)を副引用例とする進歩性欠如の 無効理由による無効の抗弁を主張した。
(ウ) 控訴人日進は,平成29年7月10日,本件特許の設定登録時の請 求項1及び2に係る発明についての特許を無効にすることを求める別件 無効審判を請求した。控訴人日進が別件無効審判で主張した無効理由は, 明確性要件違反(「無効理由1」),「審判甲1」(乙22)を主引用 例とする新規性欠如(「無効理由2」),「審判甲1」(乙22)を主 引用例とし,「審判甲7」(乙49)に記載された事項(「甲7事項」) を副引用例とする進歩性欠如(「無効理由3」),「審判甲2」(乙2 3)を主引用例とし,「審判甲1」(乙22)に記載された事項(「甲 1事項」)等を副引用例とする進歩性欠如(「無効理由4」),「審判 甲2」(乙23)を主引用例とし,「甲7事項」等を副引用例とする進 歩性欠如(「無効理由5」)である。上記「無効理由3」は,乙22を 主引用例とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理由と,上記「無効理 由4」及び「無効理由5」は,乙23を主引用例とする本件訂正発明の 進歩性欠如による無効理由と実質的に同一の事実及び同一の証拠に基づ くものである。
被控訴人は,同年10月6日,別件無効審判において,本件訂正をし た後,同月19日の原審第9回弁論準備手続期日において,第7準備書 面に基づき,本件訂正と同一内容の訂正に係る訂正の再抗弁の主張をし た。また,控訴人らは,上記弁論準備手続期日において,別件無効審判 の審判請求書(乙46)を書証として提出した。 控訴人らは,同年12月11日の原審第10回弁論準備手続期日にお いて,準備書面(9)に基づき,被控訴人の訂正の再抗弁に対する反論をし た。
原審の受命裁判官は,平成30年1月29日の原審第11回弁論準備 手続期日において,本件の侵害論の審理を終了し,損害論の審理を進め ると述べた。
控訴人らは,同年3月12日の原審第12回弁論準備手続期日におい て,別件無効審判に係る被控訴人作成の同年2月2日付け「口頭審理陳 述要領書(2)」(乙56)を書証として提出した。
(エ) 特許庁は,平成30年6月26日,本件訂正を認めた上で,控訴人 日進主張の「無効理由1」ないし「無効理由5」により本件特許を無効 とすることはできないとして,別件無効審判の請求は成り立たないとの 別件審決をした。その後,控訴人日進は,出訴期間内に別件審決に対す る審決取消訴訟を提起しなかったため,別件審決は,確定し,同年8月 28日,その旨の確定登録が経由された。 原審は,同月24日,原審第2回口頭弁論期日において,口頭弁論を 終結した後,同年12月18日,被控訴人の請求を一部認容する原判決 を言い渡した。原判決は,控訴人ら主張の無効の抗弁はいずれも理由が ないものと判断した。
(オ) 控訴人は,平成30年12月28日,本件控訴を提起した。 その後,控訴人は,平成31年2月15日付け控訴理由書において, 原判決には,乙22を主引用例とする進歩性欠如,乙23を主引用例と する進歩性欠如,明確性要件違反及びサポート要件違反の無効理由の判 断に誤りがあることを主張するとともに,新たに本件出願に分割要件違 反があることを前提とした乙60を主引用例とする進歩性欠如の無効理 由を主張した。 当審は,令和元年5月16日の本件第1回口頭弁論期日において,口 頭弁論を終結した。
イ 特許法167条は,特許無効審判の審決が確定したときは,当事者及び 参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求すること ができないと規定している。この規定の趣旨は,先の審判の当事者及び参 加人は先の審判で主張立証を尽くすことができたにもかかわらず,審決が 確定した後に同一の事実及び同一の証拠に基づいて紛争の蒸し返しができ るとすることは不合理であるため,同一の当事者及び参加人による再度の 無効審判請求を制限することにより,紛争の蒸し返しを防止し,紛争の一 回的解決を実現させることにあるものと解される。このような紛争の蒸し 返しの防止及び紛争の一回的解決の要請は,無効審判手続においてのみ妥 当するものではなく,侵害訴訟の被告が同法104条の3第1項に基づく 無効の抗弁を主張するのと併せて,無効の抗弁と同一の無効理由による無 効審判請求をし,特許の有効性について侵害訴訟手続と無効審判手続のい わゆるダブルトラックで審理される場合においても妥当するというべきで ある。 そうすると,侵害訴訟の被告が無効の抗弁を主張するとともに,当該無 効の抗弁と同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由による無効審判請 求をした場合において,当該無効審判請求の請求無効不成立審決が確定し たときは,上記侵害訴訟において上記無効の抗弁の主張を維持することは, 訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2条の趣旨に照らし許さ れないと解するのが相当である。 これを本件についてみるに,前記アの認定事実によれば,1)控訴人らは, 本件訴訟の原審において,本件特許について,明確性要件違反,サポート 要件違反,乙22を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如,乙23を 主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如等の無効理由による無効の抗弁 を主張したこと,2)控訴人らのうち,控訴人日進のみが本件特許を無効に することを求める別件無効審判を請求し,本件特許の設定登録時の請求項 1及び2に係る発明の無効理由として「無効理由1」ないし「無効理由5」 を主張し,被控訴人は別件無効審判手続において本件訂正をしたところ, 特許庁は,本件訂正を認めた上で,控訴人日進主張の「無効理由1」ない し「無効理由5」により本件特許を無効とすることはできないとして,別 件無効審判の請求は成り立たないとの別件審決をしたこと,3)控訴人日進 が別件審決に対する審決取消訴訟を提起しなかったため,別件審決は,原 判決の言渡し前に確定したことが認められる。 加えて,控訴人日進が原審及び当審において主張する乙22を主引用例 とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理由は,確定した別件審決で排斥 された「無効理由3」と実質的に同一の事実及び同一の証拠に基づくもの と認められるから(前記ア(ウ)),被控訴人日進が当審において乙22を 主引用例とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理由による無効の抗弁を 主張することは,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2条の 趣旨に照らし許されないと解すべきである。
ウ 次に,控訴人セイエー及び控訴人OHUについて検討するに,1)控訴人 セイエー及び控訴人OHUは,別件無効審判の請求人又は参加人のいずれ でもないが,控訴人日進,控訴人OHU及び控訴人セイエーの3者間には, 被告製品に関し,控訴人セイエーは控訴人OHUに対し,控訴人OHUは 控訴人日進に対し被告商品をそれぞれ販売するという継続的な取引関係が あり,本件特許が別件無効審判で無効とされた場合には,被控訴人の控訴 人らに対する請求はいずれも理由がないことに帰するので,別件無効審判 に関する利害は,控訴人ら3者間で一致していること,2)控訴人セイエー 及び控訴人OHUは,原審において,控訴人日進の主張する無効の抗弁と 同一の無効の抗弁を主張し,また,控訴人日進とともに,別件無効審判の 審判請求書(乙46)及び被控訴人作成の「口頭審理陳述要領書(2)」(乙 56)を書証として提出していることからすると,控訴人セイエー及び控 訴人OHUは,別件無効審判の内容及び経緯について十分に認識し,別件\n無効審判における被告日進の主張立証活動を事実上容認していたものと認 められること,上記1)及び2)の事実関係の下においては,控訴人セイエー 及び控訴人OHUは,別件無効審判の請求人の控訴人日進と同視し得る立 場にあるものと認めるのが相当であるから,確定した別件審決で排斥され た「無効理由3」と実質的に同一の事実及び同一の証拠に基づく乙22を 主引用例とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理由による無効の抗弁の 主張をすることを控訴人セイエー及び控訴人OHUに認めることは,紛争 の蒸し返しができるとすることにほかならないというべきである。 したがって,控訴人セイエー及び控訴人OHUにおいても,控訴人日進 と同様に,当審において乙22を主引用例とする進歩性欠如の無効理由に よる無効の抗弁を主張することは,訴訟上の信義則に反するものであり, 民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないと解すべきである。 エ 以上によれば,被控訴人の前記主張は理由があるから,その余の点につ いて判断するまでもなく,乙22を主引用例とする本件訂正発明の進歩性 欠如をいう控訴人らの主張は理由がない。
(6) 争点(4)カ(乙23を主引用例とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理 由の有無)について
被控訴人は,控訴人ら主張の乙23を主引用例とする進歩性欠如の無効理 由は,別件無効審判における「無効理由4」及び「無効理由5」と実質的に 同一の事実及び同一の証拠に基づくものであるから,別件無効審判の請求人 である控訴人日進並びに控訴人日進と密接な取引関係にある控訴人セイエ ー及び控訴人OHUの3者が,当審において,上記無効理由による無効の抗 弁を主張することは,訴訟上の信義則に反し,許されない旨主張する。 そこで検討するに,控訴人らが原審及び当審において主張する乙23を主 引用例とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理由は,前記(5)ア(ウ)認定 のとおり,控訴人日進及び被控訴人間の確定した別件審決で排斥された「無 効理由4」及び「無効理由5」と実質的に同一の事実及び同一の証拠に基づ くものと認められる。 そうすると,前記(5)ウ及びエで説示したのと同様の理由により,控訴人 らが当審において乙23を主引用例とする進歩性欠如の無効理由による無 効の抗弁を主張することは,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟 法2条の趣旨に照らし許されないと解すべきであるから,被控訴人の上記主 張は理由がある。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,乙23を主引用例 とする本件訂正発明の進歩性欠如をいう控訴人らの主張は理由がない。

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◆平成28(ワ)6494

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平成30(行ケ)10117  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年4月12日  知的財産高等裁判所(1部)

 拒絶審決が取り消されました。理由は、明確性、サポート要件違反ではないというものです。なお、第1回の拒絶理由通知に対してクレームを追加する補正をしたのに、そのクレームには新たな拒絶理由通知がなされなかった点も争いましたが、こちらは理由なしと判断されました。

 原告は,拒絶査定不服審判事件において,本件拒絶理由通知を受けたことか ら,新たに請求項19ないし47を追加する本件補正をしたところ,審判合議体が, 本件補正で追加した請求項について,新たに拒絶理由通知をせず,また本件審決に おいて判断しなかったことが,特許法47条に実質的に違反する旨主張する。 しかし,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又 は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生す るという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるもので\nはない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許\n出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定 又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし, 他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは 予定されていない。このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の\n分割という制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成19年(行ヒ) 第318号同20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。 そうすると,審判合議体は,拒絶査定不服審判において,一の請求項について拒 絶理由があると判断すれば,それのみで請求不成立審決をすることができ,その余 の補正で追加された請求項について判断しなくても,違法ではないというべきであ る。 なお,特許出願人は,請求項の数を増加する補正をする際には,手続補正書を提 出する際に手数料を納付しなければならない(特許法施行規則11条4項)。そし て,拒絶査定不服審判請求後において請求項の数を増加する補正の場合,手続補正 書の提出によって,審査の続審である審判手続が,その増加した請求項について潜 在的に係属するといえる。そうすると,その際に納付すべき手数料を,出願審査の 請求に当たり必要な手数料及び審判の請求に当たり必要な手数料とすることは,不 合理なものといえず,また,手数料の納付時期を,手続補正書の提出時点とする同 規則の規定は,立法政策の問題というべきである。 本件において,審判合議体は,特許請求の範囲【請求項1】の記載は明確性要件 及びサポート要件に適合しないなどとする本件拒絶理由通知(甲11)をし,本件 補正により補正された同請求項の記載も,明確性要件及びサポート要件に適合しな いとして,本件審決をしたものである。審判合議体が,本件補正で追加した請求項 について,新たに拒絶理由通知をせず,また本件審決について判断しなかったこと をもって,審判手続に違法があるということはできない。
(2) 原告は,審判合議体が本件拒絶査定における理由の一部についてしか判断し ていないこと,審判官が専門とする技術分野が本願発明の技術分野とは異なること などから,本件は実質的に審理されたものということはできず,審理不尽の違法が あると主張する。 しかし,審判合議体は,特許請求の範囲【請求項1】の記載は明確性要件及びサ ポート要件に適合しないなどとする本件拒絶理由通知をし,本件補正により補正さ れた同請求項の記載も,明確性要件及びサポート要件に適合しないとして,本件審 決をしたものである。審判合議体は,拒絶査定不服審判において,拒絶査定に挙げ られた全ての理由について判断することが求められているものではない。また,本 件審決をした審判官につき除斥又は忌避事由があったことを窺わせる証拠はない。 その他,審判合議体が本件を実質的に審理しなかったことを認めるに足りる証拠も ない。 したがって,本件につき審理不尽の違法がある旨の原告の主張は採用できない。
・・・
以上によれば,特定事項Aは,「脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当 該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数を 「指標」として使用する方法」と解釈するのが合理的であって,特定事項Aを,こ のように解釈することは,その余の特定事項の解釈とも整合するものということが できる。
キ 被告の主張について
(ア) 被告は,本願発明は「年齢」や「性別」のような属性を,ありふれた油脂 を選択するための指標として使用する方法をいうところ,「指標として」という記 載は抽象的であり,いかなる行為までが「指標」として使用する行為に含まれ得る のか明確ではないから,本願発明の外延は明確ではない,要素を何らかの形で脂質 含有配合物を選択するための指標として用いたか否かについては,明確に判別する ことはできない旨主張する。 しかし,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,年齢,性別等の対象の要素 をメルクマールにして,その脂質含有配合物の構成を決定すれば,要素を「指標と\nして」使用したといえる。また,これにより決定される脂質含有配合物の構成があ\nりふれたものであったとしても,ありふれていることを理由に発明の外延が不明確 であると評価されるものではない。そうすると,「指標として」という記載が,第 三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。 また,対象方法が本願発明の特許発明の技術的範囲に属するか否かは,本願発明 の技術的範囲を画定し,対象方法を認定した上で,これらを比較検討して判断する ものである。そして,脂質含有配合物を選択するための指標として本願発明の要素 をメルクマールとして用いたか否かは,対象方法の認定に係る問題であって,本願 発明の技術的範囲の画定の問題,すなわち,明確性要件とは無関係である。 したがって,被告の上記主張は採用できない。
・・・・
本件審決は,サポート要件について,「ω−6の増加が緩やかおよび/また はω−3の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」と の技術的事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないから,本願 発明の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないと判断した。 そして,本件審決は,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該 発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載 や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる と認識できる範囲のものであるか否かについて,何ら検討判断していない。
(2) しかしながら,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明 の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のである。 そうすると,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課 題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆が なくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識で きる範囲のものであるか否かについて,何ら検討することなく,選択関係にある特 定事項EないしHのうち特定事項G「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との技術的 事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないことの一事をもって, サポート要件に適合しないとした本件審決は,誤りである。
(3) 加えて,以下のとおり,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の中 止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との特定事項G の技術的事項は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されている。 すなわち,まず,本願明細書【0042】には,「長鎖ω−3脂肪酸または免疫 抑制性の植物性化学物質/栄養素の習慣的で多量の供給が宿主に対して突然行われ なくなるか,またはω−6脂肪酸が突然増加すると,全身性の炎症応答(毛細血管 漏出,発熱,頻脈,呼吸促迫),多臓器不全(消化器,肺,肝臓,腎臓,心臓)お よび関節の結合組織損傷を含む重篤な結果を伴うサイトカインストームの応答が生 じることがある。」と記載され,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の 中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも,様々な疾患が生じ得るこ とが記載されている。このように,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであ」る投与方法に関する技術的事項は,本願明細書【0042】 に記載されている。
また,本願明細書には,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜30 歳及び31〜50歳の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以 下とすること(実施例3【表9】),多量のシーフード摂取者であって上記と同年\n齢の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実 施例3【表11】),及び,医学的適応として肥満を有する者に投与する脂質組成\n物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実施例6【表13】)が,それ\nぞれ記載されている。このように,「ω−6の用量が,40グラム以下であ」る投 与方法に関する技術的事項は,本願明細書の実施例3【表9】【表\11】及び実施 例6【表13】のそれぞれ一部の対象に対するものとして記載されている。\nさらに,上記のとおり,本願明細書【0042】には,「ω−6の増加が緩やか および/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも, 様々な疾患が生じ得ることが記載されており,これは,「ω−6の増加が緩やかお よび/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法が,特定の対象に限らず,一 般的に好ましい旨開示するものというべきである。そうすると, このような投与方 法と,実施例3【表9】【表\11】及び実施例6【表13】のそれぞれ一部に記載\nされた「ω−6の用量が,40グラム以下であ」るという投与方法を組み合わせた 投与方法,すなわち,例えば,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜 30歳及び31〜50歳の男性に,40g以下の用量のω−6脂肪酸を投与し,そ の際,ω−6脂肪酸を緩やかに増加させ及び/又はω−3脂肪酸を穏やかに中止す るという,脂質含有組成物の投与方法に関する技術的事項は,本願明細書に記載さ れているということができる。
(4) したがって,本件審決は,サポート要件を形式的に判断した部分について誤 りがあるだけではなく,そもそも同要件を実質的に検討判断しておらず,その判断 枠組み自体に問題がある。よって,取消事由3は,その趣旨をいうものとして理由 がある。

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平成30(ネ)10060  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 UI関連の発明について、1審では、新規性無しの無効理由ありとして請求棄却されました。1審では、訂正審判がなされ審決が確定しましたが、時期に後れた主張であるして、口頭弁論は再開しませんでした。知財高裁は、構成要件Fが不明瞭のため要件を具備しないと判断されました。被告はAppleです。

 まず,構成要件Fの「入力」との文言の意味について検討する。
 (ア) 本件明細書には,構成要件Fの「入力」の意味を直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらない。\n他方で,本件明細書には,複数の箇所で「入力」との文言が使用され ているところ,例えば,段落【0008】の「摩擦力による入力を,直 接的または間接的に検出する」のように「物理的な力を加えること」と の意味や,段落【0012】の「図14は,…文字を入力する例を示し た図である。」のように「コンピュータに情報を与えること」との意味 など,同一の文言であるにもかかわらず文脈によって異なる意味で使用 されている。 なお,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び【006 2】の記載に基づいて,本件発明の「『当該変更結果を当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に\n記憶させる』とは,(背景の変更などの)変更結果を,(フォルダYに 保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味しているといえる。」と判断しているが,これは構\成要件Fの「入力」 は「コンピュータに情報を与えること」を意味すると解したものといえ る。
(イ) この点について,控訴人は,構成要件Fの「入力」は,「力入力検出手段」により検出された当該表\示対象に対する「力入力」,すなわち「物理的な力を加えること」を意味すると主張する。 しかし,この解釈は,構成要件H,A及びDでは,「物理的な力を加えること」として「力入力」との文言が明示的に使用されているにもか\nかわらず,構成要件Fでは敢えて「入力」のように異なる文言が使用されていることと整合しない。\n
また,構成要件Fの「入力」は,「当該変更結果」,すなわち,「保持された表\示対象以外の表\示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」を目的語としていると解し得るところ,こ の場合に「入力」を「物理的な力を加えること」と解釈することは不自 然である。さらに,「として」は,前に置かれた語を受けて,その状態, 資格,立場等であることを表す語であるところ,「入力」を「物理的な力を加えること」と解すると,「入力として・・・記憶させる」との文言が\n意味するところを理解できないというべきである。
(ウ) 控訴人は,本件訂正審決が「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として・・・記憶部に記憶させる」とは,「(背景の変更などの)変更結\n果を,(フォルダYに保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味している」と判断したことを指摘して,当該判断\nは控訴人の上記主張と整合するとも主張する。 しかし,「物理的な力を加えること」と「コンピュータに情報を与え ること」とは別個の概念であるから,構成要件Fの「入力」を「物理的な力を加えること」と解した上で,本件訂正審決の判断のように「コンピュータに情報を与えること」との意味をも有すると直ちに理解することは困難である(物理的な力が加わったことをコンピュータに検出させる場合には,両者の意味が重なっているともいい得るが,本件においては,上記説示のとおり,少なくとも「物理的な力を加えること」と解することは不自然であるから,両者の意味が重なっている場合と断ずることもできない。)。\n
(エ) 以上によれば,控訴人の主張によっては,構成要件Fの「入力」の意味を一義的に理解することは困難であるというほかない。\n
イ 仮に,構成要件Fの「入力」を,本件訂正審決が判断したように,「コンピュータに情報を与えること」と解したとしても,次のとおり,構\成要件Fの意義は依然として不明確であるというべきである。
(ア) 構成要件Fの「当該表\示対象」は,構成要件Cの「前記位置入力手段にて検出された位置の表\示対象」をいうと解される。本件明細書には,この「表示対象」の意味についても,直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらないものの,発明の詳細な説明の記載に照らせば,アイコン等(【0021】),アイコンや文字列等(【0029】),アイコンや文字,記号,図形,立体表\示対象など(【0035】)がこれに当たるものと解される。 しかし,表示画面にアイコン等を表\示させ,利用者が当該表示画面に接触した位置を検出し,当該接触位置に応じて処理を行う入出力装置においては,表\示画面に表示するアイコン等のデータそのもの(例えば,スマートフォンの画面に表\示されているカメラ様の画像データ)と,当該アイコン等と紐づけされた実体(例えば,カメラアプリケーション) とは,別個のものとされていることが多いと解されるところ,本件明細 書の記載を精査しても,本件発明における「表示対象」が具体的にどのようなものであるのかは明らかといえない。\n
(イ) また,上記ア(イ)のとおり,構成要件Fの「当該変更結果」は,「保持された表\示対象以外の表示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」と解し得るところ,「相対的に変更させた結果」についても,背景として設定されている画像が移動したピクセル数や,保持された表示対象と重なることとなったアイコン等の有無及びその種類など,さまざまなものがあり得る。\n そして,構成要件Fによれば,この「相対的に変更させた結果」は,「当該表\示対象」に対する情報として与えるものであるが,ある対象に与え得る情報は,当該対象がアプリケーションかデータかや,その実装方法によっても大きく異なるものと解される。 そうすると,上記(ア)のとおり,「当該表示対象」が具体的に意味するところが明らかでない上に,「相対的に変更させた結果」の意味内容も特定されていないことを考え合わせると,「当該変更結果を当該表\示対象に対する入力として記憶部に記憶させる」の意義も明らかでないというべきである。
(ウ) この点に関し,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び 【0062】の記載に基づいて,「当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に記憶させる」とは,「表\示要素『B』のデータをフォルダXからフォルダYに移動させて保存することを意味している」と判断した。しかし,本件訂正審決の説示においても,「表示要素『B』のデータ」がいかなるデータであるのかが具体的に特定されているとはいい難い。\n また,本件明細書の段落【0035】記載の「フォルダX」及び「フォルダY」と段落【0062】記載の「WINDOW1」及び「WINDOW2」の関係も明らかでなく,いかなる情報が「相対的に変更させた結果」に該当し,「フォルダXからフォルダYに移動させ」ると理解することになるのかについても具体的な指摘がされているとはいえない。
ウ 以上検討したところによれば,結局のところ,構成要件Fの意義は不明確というべきである。そして,構\成要件Fの意義が不明確である以上,被告各製品が構成要件Fを充足すると認めることはできない。\n

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1審はこちらです。

◆平成29(ワ)14142

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平成30(行ケ)10086  審決取消請求事件  実用新案権  行政訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所

 実用新案権について、サポート要件、明確性要件が争われました。知財高裁は、無効理由なしとした審決を維持しました。争点は、連結固定の手法が特定されていない「介して」の用語が明確か否かです。

 本件考案1の実用新案登録請求の範囲の分説Bには,「前記底座体の前 部に回動自在に設置された第一駆動ホイールが第一モータに連結され,前 記第一駆動ホイールに第一偏心軸の入力端部が固定されると共に,前記第 一偏心軸の出力端部は第三8字形リンクロッドを介して前記上板の前部に 連結され,」(第一駆動系)と,分説Cには,「前記底座体の後部に回動 自在に設置された第二駆動ホイールが第二モータに連結され,第二駆動ホ イールに第二偏心軸の入力端部が固定されると共に,第二偏心軸の出力端 部はリンクロッドを介して前記中心軸に連結された」(第二駆動系)と記 載されている。そして,「介して」は「間におく。さしはさむ。中に立て る。」といった意味であるが(甲6,7),このような実用新案登録請求 の範囲の記載のみからは,「第一偏心軸の出力端部」と「上板の前部」と が「第三8字形リンクロッド」を「介して」どのように連結固定されるの か,「第二偏心軸の出力端部」と「中心軸」とが「リンクロッド」を「介 して」どのように連結固定されるのかが必ずしも明らかではない。 そこで,本件考案の技術的意義について,本件明細書の記載をみるに, 本件明細書の【0007】〜【0009】,【図1】及び【図2】には, 「底座体4」,「上板1」,「中心軸2」,「第一8字形リンクロッド8 1」,「第二8字形リンクロッド82」,「第一モータ91」,「第一駆 動ホイール61」,「第一偏心軸71」,「第三8字形リンクロッド83」, 「第二モータ92」,「第二駆動ホイール62」,「第二偏心軸72」, 「リンクロッド3」の本件考案の各機械要素の位置関係又は連結固定関係 が記載されている。また,【0010】〜【0012】には,本件考案の 振動器が上記の機械要素を用いて,上板に,1) 上下振動,2) 前後振動, 3) 両者を複合した振動を発生させるものであり,1)は,「第二モータ9 2」は停止させ,「第一モータ91」を作動させて「第一駆動ホイール6 1」を回転させると当該「第一駆動ホイール61」に固定された「第一偏 心軸71」が回転し,当該「第一偏心軸71」が「第三8字形リンクロッド83」を動かすことで「上板1」を上下方向に振動させるものであるこ と(【0010】),2)は,「第一モータ91」は停止させ,「第二モー タ92」を作動させて「第二駆動ホイール62」を回転させると当該「第 二駆動ホイール62」に固定された「第二偏心軸72」が回転し,当該「第 二偏心軸72」が「上板1」に設けた「中心軸2」に連結されている「リ ンクロッド3」を動かすことで,「上板1」に前後方向に振動させるもの であること(【0011】),3)は,「第一モータ91」と「第二モータ 92」を同時に作動させたときに「上板1」を上下方向と前後方向に同時 に移動することで生じる1)と2)を複合した弧形の振動であること(【00 12】)が記載されている。また,これ以外の態様は記載されていない。 以上に照らせば,本件考案の技術的意義は,第一駆動系により上板を上 下方向に振動させ,第二駆動系により上板を前後方向に振動させることで, 複数方向の振動を発生させることにあるといえる。そうすると,本件考案 1の分説B及び分説Cにおける「介する」は,第一駆動系により上板を上 下振動させ,第二駆動系により上板を左右振動させるような連結固定関係 としたものを意味するものであることは,明らかである。
イ 以上によれば,実用新案登録請求の範囲の記載は,その記載それ自体に 加え,本件明細書の記載及び図面並びに当業者の技術常識を基礎にすると,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものとは認められないから, 明確性要件関する本件審決の判断の結論に誤りはなく,この点に関する原 告の主張は採用することができない。
(3) 原告の主張について
原告は,分説B及び分説Cは,「介して」という「間におく。さしはさむ。 中に立てる。」という意味の用語を用いているのに止まり,本件考案を特定 するために必要不可欠な技術的事項の記載が欠落しており,原告指摘振動器 1及び原告指摘振動器2を含み得るように広く記載されているから,請求項 1の記載が不明確である旨主張する。 しかし,上記(2)に説示したとおり,分説B及びCの「介して」の用語の意 義を理解できるから,請求項1の記載は,第三者に不測の不利益を及ぼすほ どに不明確なものとは認められない。
3 取消事由1(サポート要件違反についての判断の誤り)について
(1) サポート要件に適合するかどうかは,実用新案登録請求の範囲の記載と考 案の詳細な説明の記載とを対比し,実用新案登録請求の範囲に記載された考 案が,考案の詳細な説明に記載された考案で,考案の詳細な説明の記載によ り当業者が当該考案の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否 か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当 該考案の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のである。
(2) 以上を前提に,本件考案1のサポート要件適合性について判断するに,本 件考案の技術的意義については,上記2(2)アのとおりであり,本件考案の採 用する課題解決手段もそのとおりに理解することができる。 そうすると,実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載は,考案の詳細な 説明に記載された考案で,当業者が,技術常識に照らし,考案の詳細な説明 の記載により当該考案の課題(美容あるいは運動用の振動器において,複数 方向の振動を発生させ,様々なニーズに応じた美容効果を得ることができる 振動器を提供すること)を解決できると認識できる範囲のものであるといえ る。 よって,本件考案1は,サポート要件に適合しているから,サポート要件 関する本件審決の判断の結論に誤りはなく,この点に関する原告の主張は採 用することができない。 したがって,取消事由2は理由がない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件考案1には,上下方向の振動しかしない原告指摘振動器1 と前後方向の振動しかしない原告指摘振動器2が含まれると主張する。 しかし,上記2(2)アで述べたところに照らせば,原告指摘振動器1及び 原告指摘振動器2は,本件考案1には含まれないというべきであるから, 原告の主張は前提を欠く。

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平成30(行ケ)10100  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月6日  知的財産高等裁判所

 請求項1についての無効理由なしとした審決が維持されました。本件は第4次審決の取消訴訟です。第1次審決は無効理由なしであり、審取にて取消されて、審判にて訂正がなされて無効理由なしと審決されました。これを第3次審決まで繰り返しています。また、別途無効審判がありますが、一旦併合されて、その後分離され、中断しています。争点は明確性違反などです。
 本件訂正事項1は,要するに,請求項1における「皮膚」を「皮膚(但し, 皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)」に訂正するものである。\n原告が指摘するとおり,「皮膚」がどのような組織を意味するのかという点 について,本件明細書中に定義や示唆はない。そこで,証拠として提出されて いる各種辞典類(甲40・広辞苑,甲41・生化学辞典,甲77・化粧品辞典) の記載を総合的に検討すれば,通常,「皮膚」なる用語には,「表皮・真皮」\nを指す場合と,「表皮・真皮・皮下組織」を指す場合の二通りの意味があるも\nのと認められる。 すなわち,甲40(広辞苑)には,「【皮膚】後生動物の体を包む外被。体 の保護,体温・水分蒸発などの調節,各種の感覚の受容のほか,皮膚呼吸も営 む。動物によりさまざまに変形適応する。高等脊椎動物では表皮・真皮・皮下\n組織,および各種の付属器官から成る。」の後に「表皮と真皮のみを指す場合\nもある。」と明記されている。 甲41(生化学辞典)には,「皮膚[cutis,skin] 表層にある上皮性の表\ 皮とその下の結合組織性の真皮から成る.その下は皮下組織で多くの場所で脂 肪組織に変わっている.…」とある。 甲77(化粧品辞典)には,「皮膚は大きく3層(表皮,真皮,皮下組織)\nからなる」という記載がある一方で,「皮膚の厚さ(表皮と真皮を足した厚さ)\nは1.0〜4mmで,一般に女性よりも男性が厚く,幼児よりも成人が厚い.…たんなる物理的な壁ではなく,生体の保護を中心とする絶対不可欠な機能を\nもった組織である.」という記載もある。 以上のとおり,「皮膚」は,広義では,動物(高等脊椎動物)の表皮・真皮\nのみならず皮下組織をも含むものとして観念されるものの,その機能の多様性\nに照らし,表皮・真皮のみを指す場合もあるといえ,文脈を離れて一義的にそ\nの意味するところを決することはできない。 本件訂正事項1は,このうち後者の場合,すなわち,皮下組織を含まないも のと定義することによって技術的に明瞭な記載とすることを意図したものであ り,不明瞭な記載の釈明を目的とするものに該当する。また,かかる訂正によ って本件発明の解釈に支障や混乱を来すとは認められない。 以上に反して,(皮下組織をも含むものとして)皮膚概念は一義的に明確で あるとする原告の主張は,一面的な見方であって,直ちに採用できないというべきである。
・・・
本件訂正事項4は,本件訂正前の請求項1に記載された「経皮吸収製剤」か ら「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦 孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤」(除外製剤) を除外するものであるところ,原告の主張は,要するに,この除外製剤が物と して技術的に明確でないとするものである。 そこで検討するに,除外製剤における「医療用針」が,目的物質を注入する ための注射針やランセット,マイクロニードルなどを意味することは,出願時 の技術常識に照らして明らかであるといえる。また,「チャンバ」又は「縦穴」 が当該「医療用針」内に設けられたものであること,及び「目的物質」が「チ ャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持さ れている」ことは,いずれも除外製剤の構造を特定するものであって,その特\n定に不明確な点があるとは認められない。 そうすると,上記除外製剤が,特定の構造を有する「医療用針」である「経\n皮吸収製剤」を意味していることは明らかであるから,上記除外製剤は物とし て技術的に明確であり,さらには,かかる除外製剤を除く「経皮吸収製剤」に ついても,発明の詳細な説明の記載,例えば,【0070】の「基剤に目的物 質を保持させる方法としては特に限定はなく,種々の方法が適用可能である。\n例えば,目的物質を基剤中に超分子化して含有させることにより,目的物質を 基剤に保持させることができる。その他の例をしては(判決注:「その他の例 としては」の誤記と認める。),溶解した基剤の中に目的物質を加えて懸濁状 態とし,その後に硬化させることによっても目的物質を基剤に保持させること ができる。」に接した当業者であれば,出願時の技術常識を考慮して,物とし て明確に理解することができるといえる。
 そうである以上,本件訂正事項4によって訂正された請求項1の記載は明確 であるというべきであって,これに反する(あるいは前提を異にする)原告の 主張はいずれも採用できない。

◆判決本文

第3次までの取消訴訟は以下です。

◆平成25(行ケ)10134

◆平成26(行ケ)10204

◆平成28(行ケ)10160

侵害訴訟事件です。

◆平成26(ネ)10109

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平成29(行ケ)10191  審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成30年10月29日  知的財産高等裁判所

 審決は、記載不備(明確性、サポート要件、実施可能要件)と判断しましたが、知財高裁(2部)は、これを取り消しました。
 イ(ア) 本願明細書には,前記(1)イのとおり,中間水について,少なくとも− 40度付近の温度において,規則化(コールドクリスタリゼーション)する傾向を 強く有するものと推察されること,規則化する強い傾向の存在により,不規則な状 態で凝固した状態からの加熱において,−40度付近で規則化に伴う発熱がみられ ること,規則化に伴う発熱量は,規則化を生じている水の量,すなわち,中間水の 量に比例するものと推察されることが記載されている。 (イ) 前記(1)ウの甲1〜5の記載によると,中間水の量(Wfb)は,次の式 のとおり,低温結晶化した水におけるエンタルピー変化量(ΔHcc)と,水の融解熱 (Cp)から得ることができることが理解される。
Wfb=ΔHcc/Cp
この式を変形すると,ΔHcc=Cp×Wfb となり,低温結晶化した水におけるエン タルピー変化量(ΔHcc),すなわち,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量 は,比例定数を Cp として,中間水の量(Wfb)に比例するといえる。 このことも,前記アと同様の理由により,日本バイオマテリアル学会の構成員や\n関係者には,平成21年の時点において,知られていたと認められるのであって, 本願明細書に記載された内容の「中間水」の量の計算方法は,本願出願時において, 当業者の技術常識になっていたと認められることができるというべきである。 そして,Cp は,純水の融解熱と等しいと考えられ,純水の融解熱が 334J / g であ ることも,前記ウの甲2及び甲4の記載並びに証拠(甲11)及び弁論の全趣旨に よると,当業者の技術常識であったと認められる。 したがって,当業者は,中間水の量の算出方法については,本願明細書の記載及 び本願出願時の技術常識に基づいて明確に理解することができたというべきである。
(3)ア 被告は,本願明細書から,「コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量 は,中間水の量に比例するものと推察される。」という認定aだけではなく,「中間 水の量は,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱ピークの挙動(コールドクリ スタリゼーションに伴う発熱量は含水量の増加に伴って増加するが,ある含水量以 上では変化しなくなること)と,全含水量とから求めることができる。」という認定 b及び「中間水の量は,各含水量におけるコールドクリスタリゼーションに伴う発 熱量と0度付近の吸熱量の関係から中間水の最大量を求めてW0(試料の乾燥重量) で除することにより求められる。」という認定cも認定できるところ,これらの認定 が共存するため,本願明細書から,当業者が中間水の量をどのように算出したらよ いのか明確に理解することはできない旨主張する。 認定bは,前記(1)イ(イ)b(b)の本願明細書の記載に基づくものであり,認定cは, 前記(1)イ(イ)b(c)の本願明細書の記載に基づくものであるが,いずれも,中間水の量 を求める方法についての具体的な内容の説明はされていない。 一方,認定aは,前記(1)イ(イ)b(a)の本願明細書の記載に基づくものであるが,前 記(2)イのとおり,上記記載を含む本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から, 中間水の量の算出方法を明確に理解することができる。 そうすると,当業者は,本願明細書に前記(1)イ(イ)b(b)及び(c)の記載があるからと いって,本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から明確に理解できる中間水 の算出方法を理解できなくなるというものではないというべきである。 イ 被告は,当業者は,発明の詳細な説明の記載に基づき,中間水のコール ドクリスタリゼーションは通常の水の凍結とは異なる相転移であると理解されるか ら,中間水のコールドクリスタリゼーションの単位潜熱(中間水の量を算出するた めの比例定数)は,通常の水の凍結の場合の単位凝固潜熱334J/gとは異なる 値であると考えるのが自然である旨主張する。 しかし,前記(2)イのとおり,比例定数(Cp)は,純水の融解熱に等しいと考えら れている。本願明細書に記載されたPMEAのコールドクリスタリゼーションに伴 う発熱量の最大値を中間水量で除した値が313J/gであるとしても,純水の融 解熱が334J/gであることは,当業者の技術常識である以上,当業者は,31 3J/gの方が誤差を含む数値であると考えるのか通常であると解されるのであっ て,このことにより,当業者が,中間水のコールドクリスタリゼーションの単位潜 熱(中間水の量を算出するための比例定数)が,純水の単位凝固潜熱334J/g とは異なる値であると考えるとはいい難い。 ウ 被告は,甲1〜5は,本願発明者やその共同研究者による文献であり, 中間水の概念は,本願発明者らの研究グループが独自に提唱したもので,本願発明 者らの研究グループ以外の当業者に,本願出願時までに広く知れ渡り,技術常識に なっていたことを示す証拠はない旨主張する。 「中間水」の概念が本願発明者であるAにより構築されたことは,前記(2)アのと おりであるが,前記(2)ア,イのとおり,「中間水」の概念及びその量の算出方法は当 業者の技術常識となったことが認められる。
エ 被告は,甲5は本願明細書で引用したものではなく,仮に当業者が甲5 を本願明細書の記載から探し当てることができたとしても,その記載内容が実質的 に発明の詳細な説明に記載されたに等しいものであるということはできない旨主張 する。
しかし,本願明細書の【0007】には【先行技術文献】として,「【非特許文献 1】バイオマテリアル 28−1,2010」と記載されているから,当業者であれ ば,これは,バイオマテリアルという雑誌の28巻1号(出版年2010年)とい うものであると理解する。そして,甲5は,その雑誌のその号に掲載されている。 しかも,上記の「非特許文献1」は,本願明細書の【0013】においても,「所定 量の水を含水した水和性組成物を一旦十分に冷却し,その後に比較的ゆっくりした\n速度で加熱した場合に,0℃以下の特定の温度域において所定の発熱を生じると共 に,−10度近辺から0度までの広い温度範囲において吸熱が観察されることが明 らかにされている(例えば,非特許文献1等を参照)。」という形で引用されている。 そうすると,当業者は,本願明細書の記載から,容易に甲5に行き着くものと考え られるから,甲5は本願の発明の詳細な説明【0007】で引用されたものである と認められる。
そして,甲5が,「中間水」の概念及びその量の算出方法が当業者の技術常識とな ったことを裏付け得るものであることは,前記(2)ア,イのとおりである。 オ 被告は,本願発明の「中間水の量が1wt%以上,且つ30wt%以下」 がどの時点の中間水の量を意味するかについて,発明の詳細な説明に,発熱量が最 大値になる含水量の場合と飽和含水になった時点での含水量の場合という,相異な る二通りの記載があるから,本願発明の技術的範囲が定まらない旨主張する。 しかし,前記(2)イのとおり,当業者は,本願明細書の記載及び出願当時の技術常 識に基づいて,中間水の量は,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量と水の 融解熱から得ることができることが理解されるから,当業者が本願補正発明を実施 するに当たり,水和性組成物について,発熱量が最大値の中間水の量と,飽和含水 になった時点の中間水の量の二通りが記載されているとしても,水和性組成物の中 間水の量は,含水量にかかわらず,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量と 水の融解熱から一義的に決まるものであって,本願補正発明の技術的範囲が定まら ないということはできない。
・・・
本件審決は,当業者が本願出願時の技術常識に照らしても本願明細書の記載から 中間水の量の算出方法を理解することができないから,表2に中間水量が記載され\nた具体的な組成物以外のものについては課題が解決できると認識することはできな い旨判断したが,当業者が本願出願時の技術常識に照らして本願明細書の記載から 中間水の量の算出方法を理解することができることは,前記2のとおりであるから, 本件審決のサポート要件の有無の判断は,前提を欠き,誤りがある。
4 取消事由3(実施可能要件違反)について
本件審決は,当業者が本願出願時の技術常識に照らしても本願明細書の記載から 中間水の量の算出方法を理解することができないから,本願補正発明1及び4を当

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平成29(行ケ)10113  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年10月25日  知的財産高等裁判所

 記載不備(明確性、サポート要件、実施可能要件)の無効理由無しとした審決が維持されました。
 特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確 でない場合に,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となることによ り生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで,特許を受 けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず, 願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時にお ける技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不 利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものと解 される。
(3)ア そこで検討するに,本件明細書には,泡に関し,「本明細書で用いられ る「泡」は,混合されて,可変長の時間持続する構造を有する小さい気泡\nのマスを形成する液体及び気体を意味する。」(【0036】),「気泡 は,液体のフィルムで取り囲まれた気体のセルである。」(【0037】) との定義が記載されている。また,本件発明の発泡性組成物の作用効果に 関し,本件発明の組成物は,発泡性であるために,適用された部分に留ま ることができ(【0015】),表面上に容易に広がる泡として分配でき\nる(【0018】)ものであって,空気と混合されるときに安定な泡を与 え,この泡は,個人的洗浄用又は消毒目的のために使用でき,例えばユー ザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れること(【0\n041】),本発明の重要かつ驚くべき成果は,消毒に適する組成物が40% v/vより多量のアルコールを含有すること,そして低圧容器及びエアゾール 包装容器の両者から化粧品として魅力的な泡として分配され得ること(【0 044】)がそれぞれ記載されている。
イ この点に関連して,泡に関する技術常識についてみると,「入門講座 泡 の化学」と題する論文(オレオサイエンス第1巻第8号。2001年発行。 甲12)には,「深い井戸からくみ上げた水に生ずる泡はきわめて微小な 気泡が多数水中に分散している。このように気体が液体または固体に包ま れた状態を気泡(Bubble)という。泡は各種界面活性物質,または界面活 性剤の気・液界面への吸着によって起こる現象であって,洗濯時の洗濯機 の中の液やビールの泡のようにこれが多数集まって薄膜を隔てて密接に存 在するものを泡沫(Foam)と呼ぶ。気泡と泡沫の区別は形態的であるが前 者はただ一つの界面を有するのに対し,後者は2つの界面を有する。」(8 63頁左欄)との記載がある。 この論文の公開時期に鑑みれば,泡には,形態的に区別される気泡と泡 沫とがあり,気泡(Bubble)は,気体が液体又は固体に包まれた状態を指 し,ただ1つの界面を有するのに対し,泡沫(Foam)は,気泡が多数集ま って薄膜を隔てて密接に存在し,2つの界面を有するものであることは, 親出願の出願日当時における当業者の技術常識であったと認められる。
ウ 以上のとおり,上記アに摘示した本件明細書に記載された定義と,本件 発明における泡の作用効果に関する記載からすると,本件発明における「泡」 との語は,上記イ記載の泡沫を意味するものであることは明らかである。 そして,本件明細書の記載及び親出願の出願日当時における当業者の技 術的常識を基礎とすると,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載が,第 三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(4) 原告の主張について
原告は,本件明細書の段落【0036】における1)「可変長の時間持続す る構造」が表\す時間の長さ,2)「構造」とは,気泡と気泡のマスのいずれを\n指すのか,3)「小さい気泡」とは,何と比較して小さいのか,がいずれも不 明であるから,請求項1の記載が不明確であると主張する。 しかし,上記(3)において説示したとおり,当業者は,本件発明における「泡」 との語が泡沫を意味すること,泡沫とは,気泡が多数集まって薄膜を隔てて 密接に存在するものであるから,これはすなわち気泡のマスであること,そ して,本件明細書の段落【0036】における「構造」とは気泡のマスであ\nることをそれぞれ理解できるというべきである。 また,当該段落の「可変長の時間持続する」との語については,本件発明 の組成物が発泡性組成物であることによる作用効果に関する本件明細書の記 載からすると,本件発明の組成物は,適用された部分に留まることができ, かつ,表面上に容易に広がる泡として分配できるものであって,例えばユー\nザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れる程度の安定\n性を有するほどに,泡の持続時間が様々であることと理解できる。 さらに,「小さい」との語についても,上記本件明細書における本件発明 の作用効果に関する記載に照らせば,化粧品として魅力的な泡といえる程度 の大きさをいうものと解するのが相当である。 したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。

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平成29(行ケ)10189  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月4日  知的財産高等裁判所(3部)

 「概ね面一」との用語が不明確性(36条6項2号)違反が争われました。第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確ではないとして、無効理由なしとした審決が維持されました。判決の最後に図面があります。
 特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確 でない場合に,特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となることによ り生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで,特許を受 けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず, 願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時に おける技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不 利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであ る。
(2) この点,原告は,審決が,特許請求の範囲の「カバーが水槽の底部面に概 ね面一」について,「面一」とは,止水時において,水槽の底部面とカバー の頂部とがつまずくことを防止できる程度にほぼ同じ高さになることを意味 するものと解釈できると説示したのに対して,「止水時において,水槽の底 部面とカバーの頂部とがつまずくことを防止できる程度」というのは,排水 口のために水槽の底部面に形成された円筒状陥没部のR面を含む傾斜面の形 状等やカバー自体の形状でも異なるほか,当該傾斜面の形状や傾斜角度とカ バーの形状の組合せによっても異なり,さらには,使用者の年齢や性別,体 格等によっても異なる以上,「カバー(特にカバーの頂部)が水槽の底部面 に概ね面一」が「つまずくことを防止できる程度」という趣旨であるとすれ ば,権利の及ぶ範囲が不明確であり,本件発明に接した第三者は不測の不利 益を被る,などと主張する。 しかしながら,本件明細書の【0013】には,「カバーにつまづくこと を防止するため,カバーの頂面60が水槽の底部1面と概ね面一になるよう 円筒状陥没部10の縁とカバー6の縁との位置を略一致させることがよい。」 との記載があるものの,【0008】には,「カバーが水槽の底部面と概ね 面一にされ,排水口部を覆うことになって排水口部内の汚れを覆い隠すこと ができ,見栄え良くできる。」との記載もあり,かかる記載を根拠にすると, 「概ね面一」とは,「排水口部を覆うことになって排水口部内の汚れを覆い 隠すことができ,見栄え良くできる程度」と定義していると理解することも 可能である。\nそもそも,本件発明の排水栓装置は,洗面化粧台,浴槽,流し台などあら ゆる水槽が含まれるところ,「カバーにつまづくことを防止できる程度」と いうのは,飽くまで浴槽の観点からみた理解であるから(この定義が明確と いえるかどうかの点はひとまず措く。),このように理解できたとしても, 浴槽以外の,例えば,洗面化粧台における「概ね面一」の範囲が直ちに明ら かになるわけではない。 したがって,原告の主張は,「カバー(特にカバーの頂部)が水槽の底部 面に概ね面一」が「つまずくことを防止できる程度」を意味するとの理解を 前提とする限りにおいて正当な指摘を含んでいるが,それでは足りないとい うべきである。
(3) そこで,さらに進んで検討するに,本件明細書には,「概ね面一」の意味 するところを説明する確たる定義はないけれども,本件明細書の図1には, 水槽の底部面とカバーの頂部(頂面60)とがほぼ同じ高さになる状態が示 されており,この状態をもって「カバーが水槽の底部面に概ね面一」と理解 することは自然である。そして,寸法誤差,設計誤差等により,水槽の底部 面とカバーの頂部(頂面60)とが完全に同じ高さとならない場合が存する ことは技術常識であるといえるから,カバーと水槽の底部面との高さの差が, このような範囲にとどまるものを「概ね面一」と理解するなら,洗面化粧台, 浴槽,流し台などあらゆる水槽について,「カバーが水槽の底部面に概ね面 一」の意味内容を統一的に理解することができる。 審決の,「概ね面一」とは,「止水時に,カバーを水槽の底部面に対し積 極的に出没させた位置に設けようとするものではない」との説示もこうした 趣旨と理解できる。 そうとすれば,「概ね面一」の語を用いているがゆえに特許請求の範囲の 記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず,これ に反する原告の主張は採用できない。

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平成29(行ケ)10210  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月6日  知的財産高等裁判所(3部)

 経緯がややこしいです。無効理由無しの第1次審決が第1次審取で取り消され、本件原告は訂正をしました。第2次審決は訂正を認めた上、無効と判断しました。裁判所は、明確性違反なしと判断しました。
 本件訂正後の特許請求の範囲にいう「平均分子量が2万〜4万のコンド ロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,重量 平均分子量,粘度平均分子量,数平均分子量等のいずれを示すものである かについては,本件訂正明細書において,これを明らかにする記載は存在 しない。もっとも,このような場合であっても,本件訂正明細書における コンドロイチン硫酸又はその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を 合理的に解釈し,当業者の技術常識も参酌して,その平均分子量が何であ るかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきで ある。
イ 上記1(2)カのとおり,本件訂正明細書には,「本発明に用いるコンドロ イチン硫酸又はその塩は公知の高分子化合物であり,平均分子量が0.5 万〜50万のものを用いる。より好ましくは0.5万〜20万,さらに好 ましくは平均分子量0.5万〜10万,特に好ましくは0.5万〜4万の コンドロイチン硫酸又はその塩を用いる。かかるコンドロイチン硫酸又は その塩は市販のものを利用することができ,例えば,生化学工業株式会社 から販売されている,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万, 平均分子量約2万,平均分子量約4万等)が利用できる。」(段落【00 21】)と記載されている。 上記の「生化学工業株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナ トリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)」 については,本件出願日当時,生化学工業株式会社は,同社製のコンドロ イチン硫酸ナトリウムの平均分子量について重量平均分子量の数値を提供 しており,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として当 業者に公然に知られた数値は重量平均分子量の数値であったこと(上記(3) イ(ア))からすれば,その「平均分子量」は重量平均分子量であると合理的 に理解することができ,そうだとすると,本件訂正後の特許請求の範囲の 「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平 均分子量も重量平均分子量を意味するものと推認することができる。加え て,本件訂正明細書の上記段落に先立つ段落に記載された他の高分子化合 物の平均分子量は重量平均分子量であると合理的に理解できること(上記 (2)イ),高分子化合物の平均分子量につき一般に重量平均分子量によって 明記されていたというのが本件出願日当時の技術常識であること(上記(2) ウ)も,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万〜4万のコン ドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が重量平均分子量である という上記の結論を裏付けるに足りる十分な事情であるということができ\nる。
ウ よって,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明確性要件を充足するも のと認めるのが相当である。

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平成29(行ケ)10178  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年6月27日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反、サポート要件違反、明確性違反の無効主張について、「無効理由無し」とした審決が維持されました。
(1) サポート要件の適合性について
ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に関し,「医薬品や食品 のような経口投与用組成物等の品質を損なわずに優れた識別性を有する経 口投与用組成物を得ることができ,かつ,生産性にも優れたマーキング方 法を開発するという課題」を解決するための手段として,「本発明」は,酸 化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少な くとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面に,所\n定のレーザー光を走査することにより,変色誘起酸化物を凝集させること に起因した変色が生じるようにした構成を採用したことの記載があること\nは,前記1(1)イ認定のとおりである。
イ 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,1)実施例1ないし16にお いて,表1のレーザー装置及び照射条件(波長355nm,平均出力8W),\n表3のレーザー装置及び照射条件(波長266nm,平均出力3W)又は表\ 4のレーザー装置及び照射条件(波長532nm,平均出力12W)で,酸 化チタン,黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄錠剤を配合した,フィルムコー ト錠等に対し,文字又は中心線をマーキングしたこと(【0038】〜【0 056】,表1,表\3及び表4),2)表1のレーザー装置及び照射条件かつ\n走査速度1000mm/secで,実施例13のフィルム錠にレーザー照 射を行い,レーザー照射前後の二酸化チタンの粒子の状態を透過型電子顕 微鏡(TEM)により観測した結果,レーザー照射後に二酸化チタンの粒子 が凝集していることが確認されたこと(【0057】〜【0059】,図3, 図4),3)レーザー波長に関し,レーザーは,その波長が200〜1100 nmを有するものを用いることができ,好ましくは1060〜1064n m,527〜532nm,351〜355nm,263〜266nm又は2 10〜216nmの波長であり,より好ましくは527〜532nm,3 51〜355nm又は263〜266nmの波長であること(【0022】), 4)レーザー出力に関し,レーザーを走査する際の平均出力は,対象とする 経口投与用組成物の表面がほとんど食刻されない範囲で使用することがで\nき,例えば,その平均出力は,0.1W〜50Wであり,好ましくは1W〜 35Wであり,より好ましくは5W〜25Wであるが,単位時間あたりの レーザー照射エネルギーが強すぎると,アブレーションにより錠剤表面で\n食刻が発生し,変色部分まで剥がれてしまい,また,出力が弱いと変色が十\n分ではないこと(【0023】),5)レーザーの走査速度(スキャニング速 度)に関し,スキャニング速度は,特に限定されるものではないが,20m m/sec〜20000mm/secであり,また,スキャニング速度は, 高いほどマークの識別性に影響を与えることなく生産性を上げることがで きることから,例えば,レーザー出力5Wでは,スキャニング速度は,80 mm/sec〜10000mm/sec,好ましくは90mm/sec〜 10000mm/sec,より好ましくは100mm/sec〜1000 0mm/secであり,レーザー出力が8Wの場合には,スキャニング速 度は,250mm/sec〜20000mm/sec,好ましくは500 mm/sec〜15000mm/sec,より好ましくは1000mm/ sec〜10000mm/secであること(【0024】),6)単位面積 当たりのエネルギーに関し,単位面積当たりのレーザーのエネルギーは, マーキングの可否及び経口投与用組成物の食刻の有無の観点から,390 〜21000mJ/cm2であり,好ましくは400〜20000mJ/c m2,より好ましくは450〜18000mJ/cm2であり,また,390 mJ/cm2より低い場合には,マークを施すことができないのに対し,2 1000mJ/cm2より大きい場合には,食刻が生じるため,好ましくな いこと(【0025】)の記載がある。 上記1)ないし6)の記載を総合すると,本件明細書に接した当業者は,請 求項1記載の波長(200nm〜1100nm),平均出力(0.1W〜5 0W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec〜8000mm/se c)の各数値範囲内で,波長,平均出力及び走査速度を適宜設定したレーザ ー光で,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択 される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の 表面を走査することにより,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させ\nてマーキングを行い,「医薬品や食品のような経口投与用組成物等の品質 を損なわずに優れた識別性を有する経口投与用組成物を得ることができ, かつ,生産性にも優れたマーキング方法を開発する」という本件発明1の 課題を解決できることを認識できるものと認められる。 したがって,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載され たものといえるから,請求項1の記載は,サポート要件に適合するものと 認められる。同様に,請求項2ないし22の記載も,サポート要件に適合す るものと認められる。

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平成29(行ケ)10153  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年6月19日  知的財産高等裁判所

 「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の明確性、本件発明の課題が解決できるのかについてサポート要件違反が争われました。
 上記記載事項によれば,めっき処理を行った亜鉛又は亜鉛系め っき鋼板において,酸化性雰囲気中で加熱を行うことによって,亜鉛の蒸 発を阻止するバリア層として酸化皮膜層が形成されるが,亜鉛又は亜鉛系 めっきの共通成分は亜鉛であり,亜鉛又は亜鉛系めっき鋼板がいずれも均 一な酸化皮膜を形成し,塗膜密着性,耐食性が良好という共通の性質を有 することが理解できる。そうだとすれば,当業者であれば,当然,本件発 明1の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「亜鉛の酸化皮膜」 であると理解すると認められる。 してみると,本件発明1の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」 が,亜鉛系めっきに由来する亜鉛の酸化皮膜を意味することは明確である といえる。このことは,本件発明1を引用する本件発明2ないし6及び(同 様の文言を有する)本件発明7についても同様である。
ウ 原告の主張について
原告は,本件訂正によって,特許請求の範囲の記載にあった「亜鉛また は亜鉛系合金のめっき層」に代えて,「スズ−亜鉛合金めっき層」などの 具体的な合金めっき層が記載されたこと,本件明細書においては,「スズ −亜鉛合金めっき」の具体例としては,「スズ−8%亜鉛合金めっき」の みが記載されている(【0038】)こと,「スズ−8%亜鉛合金めっき」 を加熱した場合に生ずる変化については本件明細書に全く記載がないこと などを挙げて,「亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」が亜鉛の酸化皮膜でな ければならないと当然に解釈できるとはいえないから,金属酸化物の種類 が不明確であると主張する。 しかしながら,本件明細書の記載から,亜鉛又は亜鉛系めっき鋼板がい ずれも均一な酸化皮膜を形成し,塗膜密着性,耐食性が良好という共通の 性質を有することが理解でき,当業者であれば,本件発明1の「加熱時の 亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「亜鉛の酸化皮膜」であると理解する と認められることは,前記ア,イのとおりである。他方,「スズ−8%亜 鉛合金めっき」についてのみ,これと異なる理解をすると認めるべき合理 的事情はない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(2) 酸化皮膜の形成時期について
ア 原告は,本件訴訟におけるのと同様に,先行事件訴訟においても,「亜 鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期が明らかでないと主張して明確 性要件を争っており,その結果,原告の主張を排斥する先行事件判決がな され,同判決は既に確定しているものである(当裁判所に顕著な事実)。 そうすると,原告が本件訴訟において再びこの点を争うことは,実質的 に前訴の蒸し返しに当たり,訴訟上の信義則に反するものとして許されな いというべきである。
よって,この点に関する原告の主張も採用できない。
イ 念のため,中身について検討してみても,この点に関しては,先行事件 判決が示すとおり,本件明細書の【0018】には,酸化皮膜は熱間プレ スに先立つ加熱前にある程度形成されることが必要で,その後熱間プレス 加工のための700〜1000℃の加熱によっても形成が進むと推測され ることが記載され,【0042】及び【0043】には,酸化皮膜は,熱 間プレス加工のため700〜1000℃に加熱する前に,予め形成されて\nいる場合と形成されていない場合があることを前提として,予め酸化皮膜\nが形成されている材料の場合には,酸化皮膜の維持に悪影響がない限り熱 間プレスのための加熱方法については特に制限がないことが記載され,さ らに,【0064】及び【表5】には,実施例No.2,3として,電気\nめっきを施した後,熱間プレスに先立つ加熱を大気炉で850℃,3分間 行ったものについて均一な酸化皮膜が形成されたことが記載されていると ころ,電気めっきにおいては,めっき層は加熱されないことから,上記実 施例はいずれも熱間プレスに先立つ加熱前に予め酸化皮膜が形成されてい\nない場合であって,この場合の酸化皮膜は,熱間プレスのための加熱(大 気炉で850℃,3分間)により形成されたものと理解することができる。 そうすると,本件発明の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は, 熱間プレスの加熱前に,予め形成されている場合,ある程度形成されてい\nてその後熱間プレスの加熱時に形成が進む場合,予め形成されていないが\n熱間プレスの加熱により形成される場合のいずれでもよいことから,その 形成時期は熱間プレスの直前までであればよいと解するのが相当である。 したがって,本件発明1及びこれを引用する本件発明2ないし6並びに 本件発明7の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期は, 本件明細書の発明の詳細な説明を参照すれば明確というべきであるから, 原告の主張はいずれにしても失当である。
(3) 「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス 用」について
ア 本件明細書の【0016】ないし【0018】,【0029】,【00 34】,【0042】,【0044】,【0048】,【0050】及び 【0064】には,熱間プレスは700〜1000℃という温度で加熱す ることを意味すること,熱間プレス成形の特徴として成形と同時に焼き入 れを行うことから,そのような焼き入れを可能とする鋼種を用いること,\n熱間成形後に急冷して高強度,高硬度となる焼き入れ鋼,例えば表1にあ\nるような鋼化学成分(鋼種A等)の高張力鋼板が実用上は特に好ましいこ と,700〜1000℃の温度で加熱してから熱間プレスを行い,めっき 層表面に亜鉛の酸化皮膜が,下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層\nとして全面的に形成されていること,具体的には,表1に示す鋼種Aを,\n大気雰囲気の加熱炉内で950℃×5分加熱して,加熱炉より取り出し, このままの高温状態で円筒絞りの熱間プレス成形を行うこと,また,熱間 プレスに先立つ加熱を,大気炉で850℃,3分間行うことが記載されて いる。 そして,これらの記載によれば,本件発明1の「700〜1000℃に 加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用」という文言において, 1)「700〜1000℃に加熱されて」は,熱間プレスの加熱条件であり, 2)「プレスされ焼き入れされる」は,成形と同時に焼き入れを行う熱間プ レス成形の特徴であり,3)「用」という文言の意味は,「(接尾語的に) …に使うためのものの意を表す」(広辞苑第六版)であることからすると,\n「熱間プレス用」は,後に続く,本件発明1の「鋼板」を修飾し,鋼板が 熱間プレスに使うためのものであることを意味するものと理解できる。 してみれば,「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れさ れる」は,「熱間プレス」の加熱条件及び特徴を表現するものと理解でき\nるから,本件発明1の「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き 入れされる熱間プレス用」という文言は明確である。このことは,本件発 明1を引用する本件発明2〜6及び(同様の文言を有する)本件発明7に ついても同様である。
イ 原告の主張について
原告は,本件発明は用途発明であるとした上で,種々理由を述べて,「7 00〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用」 という記載の意味が不明確であると主張する。 しかしながら,前記アのとおり,「700〜1000℃に加熱されてプ レスされ焼き入れされる」は,「熱間プレス」の加熱条件及び特徴を表現\nするものと認められるから,その余の点について判断するまでもなく,本 件発明1の「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる 熱間プレス用」という文言の意味は明確である。 また,本件発明1が用途発明であるか否かは,その結論を左右するもの ではない。

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◆平成26(行ケ)10201

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平成29(行ケ)10127  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月29日  知的財産高等裁判所

 明確性違反および実施可能要件違反の無効を主張しましたが、審決、知財高裁とも無効理由無しと判断しました。
 原告は,平成13年(2001年)以降でさえ,先行技術(甲20)と 技術常識に基づいて,外部から侵入した水分による劣化を防止しているとはいえ ない程度に蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布の実現は不可能であったのであり,\n本件明細書の「フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材,形成温度,粘度やフ ォトルミネセンス蛍光体の形状,粒度分布などを調整することによって種々の分 布を実現することができ」(【0047】)との記載は,本件構成に対応する技\n術的手段が単に抽象的に記載されているだけで,当業者が発明の実施をすること ができない記載にすぎないことを意味するものに他ならないから,実施可能要件\nを欠くというべきであって,審決の結論には明らかな違法がある旨主張する。 明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができ る程度に明確かつ十分に記載したものであることを要する(特許法36条4項1号)。\n本件発明は,「発光装置と表示装置」(発光ダイオード)という物の発明であるとこ\nろ,物の発明における発明の「実施」とは,その物の生産,使用等をする行為をい うから(特許法2条3項1号),物の発明について実施をすることができるとは,そ の物を生産することができ,かつ,その物を使用することができることであると解 される。 本件明細書には,「蛍光体の分布は,フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材, 形成温度,粘度やフォトルミネセンス蛍光体の形状,粒度分布などを調整すること によって種々の分布を実現することができ,発光ダイオードの使用条件などを考慮 して分布状態が設定される。」(【0047】)との記載があることから,蛍光体の濃 度分布を適宜調整することにより,本件発明の「コーティング樹脂中のガーネット 系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高く\nなっている」発光ダイオードを生産することができ,かつ,使用することができる ことは,本件明細書に接した当業者にとって明らかであると認められる。 したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明を実施することがで きる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められるから,その旨の審決の\n判断に誤りはない。 これに対し,原告が主張する,外部から侵入した水分による劣化を防止している とはいえない程度に蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布とは,本件構成に係る「コ\nーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側から\nLEDチップ側に向かって高くなっている」ものではない状態を示すものである。 そうすると,仮に,このような濃度分布について,発明の詳細な説明や出願時の 技術常識を考慮しても実現することができない,又は,その実現に過度の試行錯誤 を要するとしても,このことは,本件明細書の発明の詳細な説明が,当業者が本件 発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとの前記認定を左右するも\nのではない(発光ダイオードの製造工程において,蛍光体がコーティング樹脂中を 沈降することによって,本件構成を満足するものを製造することができることにつ\nいては,当事者間に争いがないものと解される。)

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平成29(行ケ)10085  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月26日  知的財産高等裁判所(4部)

 異議理由ありとした審決が取り消されました。訂正は新規事項であるとした審決の判断は維持されましたが、訂正前の発明について、明確性違反および進歩性違反との判断は取り消されました。
 本件決定は,本件発明1の特許請求の範囲のうち「寄生ダイオード(131)の 立ち上がり電圧」は「上記ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高」いとの記載が, いかなる電流が流れる場合のことを表したものであるか不明であるから,明確性要\n件に適合しないと判断した。
(2) 前記2(3)イのとおり,請求項1において,寄生ダイオード(131)の「立 ち上がり電圧は,上記ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高く」と特定されてい るのは,本件発明1の構成として,同期整流を行う際,寄生ダイオード(131)\nの立ち上がり電圧を,ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高くするという技術的 事項を採用する旨特定するものである。 そして,本件発明1に係る電力変換装置において使用される還流電流の程度が限 定されていないことと,同期整流を行う際には,常に,寄生ダイオード(131) の立ち上がり電圧を,ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高くすることとは,関 係がない。
(3) したがって,「寄生ダイオード(131)の立ち上がり電圧」は「上記ユニ ポーラ素子本体のオン電圧よりも高」いとの本件発明1の特許請求の範囲の記載が, 第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。同記載 が明確ではないから,本件各発明の特許請求の範囲の記載は,明確性要件に適合し ないとする本件決定の判断は誤りである。
・・・・
引用発明は,モータの回生モードにおいて,回生電力の消費能力を高めると\nいう課題に対して,順方向電圧降下が高いボディダイオードに電流を流し,回生電 力を消費させるというものである。 このように,引用発明は,モータの回生モードにおいて,ボディダイオードに電 流を流し,ボディダイオードにおいて回生電力を損失させるという課題解決手段を 採用したものである。一方,本件周知技術は,寄生ダイオード側に電流を流さず, 発熱損失を低減させるというものであるから,引用発明の課題解決手段と正反対の 技術思想を有するものである。したがって,当業者は,引用発明におけるモータの 回生モードにおいて,正反対の技術思想を有する本件周知技術を適用することはな い。 そして,引用例には,引用発明の電力変換装置において,力行モードを回生モー ドから切り離し,力行モードの動作のみを変更することを示唆するような記載はな いから,当業者は,力行モードにおける動作のみを変更することを容易に想到する ことはない。 したがって,引用発明に本件周知技術を適用する動機付けはないというべきであ る。

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平成29(行ケ)10083  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年12月21日  知的財産高等裁判所

 「摩擦式精米機により搗精され」という用語について、クレームが明確でない(36条6項2号)とした審決が取り消されました。
 以上のような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば,本件訂正後の 特許請求の範囲請求項1の「摩擦式精米機により搗精され」という記載は,本件発 明に係る無洗米の前段階である前記ウ(a)(b)の構造又は特性を有する精白米を製造す\nる際に摩擦式精米機を用いることを意味するものであり,「無洗米機(21)にて」 という記載は,上記精白米から前記ウ(c)の構造又は特性を有する無洗米を製造する\n際に無洗米機を用いることを意味するものであって,前記ウ(a)ないし(c)のほかに本 件発明に係る無洗米の構造又は特性を表\すものではないと解するのが相当である。 そして,本件発明に係る無洗米とは,玄米粒の表層部から糊粉細胞層までが除去さ\nれ,亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出し,米粒の50%以上に「胚芽の表\面部を削 りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っており,糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に 粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」が分離除去された米で\nあるといえる。 そうすると,請求項1に「摩擦式精米機により搗精され」及び「無洗米機(21) にて」という製造方法が記載されているとしても,本件発明に係る無洗米のどのよ うな構造又は特性を表\しているのかは,特許請求の範囲及び本件明細書の記載から 一義的に明らかである。よって,請求項1の上記記載が明確性要件に違反するとい うことはできない。

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平成28(行ケ)10236  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年9月21日  知的財産高等裁判所(第2部)

   「無洗米の製造装置」の発明について、審決は明瞭、知財高裁はこれを取消しました。請求項のほとんどの部分が精米方法あるいは装置の使用方法若しくは精米装置の製造方法で表されているので、不明瞭というものです。
 以上の記載事項A〜Iについての検討を総合すると,本件発明1の無洗米 の製造装置は,少なくとも,摩擦式精米機(記載事項F)と無洗米機(記載事項C) をその構成の一部とするものであり,その摩擦式精米機は,全精白構\成の終末寄り から少なくとも3分の2以上の工程に用いられているものである(記載事項E)上, 精白除糠網筒(記載事項F)と精白ロール(記載事項G)をその構成の一部とする\nものであり,その精白除糠網筒の内面は,ほぼ滑面状であって(記載事項F),精白ロ ールの回転数は毎分900回以上の高速回転とするものである(記載事項 G)と認 められる。 したがって,上記の無洗米の製造装置の構造又は特性は,記載事項A〜Iから理\n解することができる。
しかしながら,請求項1の無洗米の製造装置の特定は,上記の装置の構造又は特\n性にとどまるものではなく,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,\n米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前\n後に仕上がるように搗精し(記載事項B),白米の表面に付着する肌ヌカを無洗米機\nにより分離除去する無洗米処理を行う(記載事項C)ものであり,旨味成分と栄養 成分を保持した無洗米を製造するもの(記載事項D,I)である。 このうち,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤\n又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精する(記\n載事項B)ことについては,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明に 係る無洗米の製造装置のミニチュア機で,白度37前後の各白度に搗精した精米を, 洗米するか,公知の無洗米機によって通常の無洗化処理を行い,炊飯器によって炊 飯し,その黄色度を黄色度計で計り,黄色度11〜18の内の好みの供試米の白度 に合わせて搗精を終わらせる時を調整して,本格搗精をすることにより行うこと (【0035】),このようにして仕上がった精白米は,亜糊粉細胞層が米粒表面をほ\nとんど覆っていて,かつ,全米粒のうち,表面が除去された胚芽と胚盤が残った米\n粒の合計数が,少なくとも50%以上を占めていること(【0036】)が記載され ており,結局のところ,ミニチュア機で実際に搗精を行うことにより,本格搗精を 終わらせる時を調整することにより実現されるものであることが記載されている。 したがって,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置につき,その特定の 構造又は特性のみによって,玄米を前記のような精白米に精米することができるこ\nとは記載されておらず,その運転条件を調整することにより,そのような精米がで きるものとされている。そして,その運転条件は,本件明細書において,毎分90 0回以上の高速回転で精白ロールを回転させること以外の特定はなく,実際に上記 のような精米ができる精白ロールの回転数や,精米機に供給される玄米の供給速度, 精米機の運転時間などの運転条件の特定はなく,本件出願時の技術常識からして, これが明らかであると認めることもできない。
ところで,本件明細書の発明の詳細な説明において,亜糊粉細胞層(5)につい ては,「糊粉細胞層4に接して,糊粉細胞層4より一段深層に位置して僅かに薄黄色 をした」,「厚みも薄く1層しかない」ものであり(【0015】),「亜糊粉細胞5は・・・整然と目立って並んでいる個所は少なく,ほとんどは顕微鏡でも確認しにくいほど糊粉細胞層4に複雑に貼り付いた微細な細胞であり,それも平均厚さが約5ミクロ\nン程度の極薄のものである」(【0018】)と記載され,胚芽(8)及び胚盤(9) については,「胚芽7の表面部を除去された」ものが胚芽(8)であり,それを更に\n削り取ると胚盤(9)になる(【0023】)と記載されている。しかるところ,本 件明細書の発明の詳細な説明には,米粒に亜糊粉細胞層(5)と胚芽(8)及び胚 盤(9)を残し,それより外側の部分を除去することをもって,米粒に「旨み成分 と栄養成分を保持」させることができる旨が記載されており(【0017】〜【00 23】),玄米をこのような精白米に精米する方法については,「従来から,飯米用の 精米手段は摩擦式精米機にて行うことが常識とされている」が,その搗精方法では, 必然的に,米粒から亜糊粉細胞層(5)や胚芽(8)及び胚盤(9)も除去されて しまうこと(【0024】,【0025】)が記載されている。また,本件明細書の発 明の詳細な説明には,「摩擦式精米機では米粒に高圧がかかり,胚芽は根こそぎ脱落 する」から,胚芽を残存させるには,研削式精米機による精米が不可欠とされてい た(【0029】)ところ,研削式精米機により精米すると,むらが生じ,高白度に なると,亜糊粉細胞層(5)の内側の澱粉細胞層(6)も削ぎ落とされている個所 もあれば,糊粉細胞層(4)だけでなく,それより表層の糠層が残ったままの部分\nもあるという状態になること(【0027】)が記載されている。 そうすると,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%\n以上において胚盤又は表面を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるよ\nうに搗精することは,従来の技術では容易ではなかったことがうかがわれ,上記の とおり,本件明細書に具体的な記載がない場合に,これを実現することが当業者に とって明らかであると認めることはできない。 本件発明1は,無洗米の製造装置の発明であるが,このような物の発明にあって は,特許請求の範囲において,当該物の構造又は特性を明記して,直接物を特定す\nることが原則であるところ(最高裁判所平成27年6月5日第二小法廷判決・民集 69巻4号904頁参照),上記のとおり,本件発明1は,物の構造又は特性から当\n該物を特定することができず,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても,当該物 を特定することができないから,特許を受けようとする発明が明確であるというこ とはできない。

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平成28(行ケ)10187  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年8月30日  知的財産高等裁判所(第1部)

 明確性違反として無効とされた審決が維持されました。問題となった記載は「平均粒子径は,0.5〜2.0μmの範囲にあり」というものです。
 しかし,仮に「イリュージョン」については測定誤差の範囲内といえるとしても, それは,実際に製造販売された製品である「イリュージョン」のマイクロカプセル 顔料の形状が比較的球形に近かったという一事例を示すにとどまるものであり,本 件発明におけるマイクロカプセル顔料一般の形状が比較的球形に近いことを裏付け るに足りない(なお,前記「第4 被告の反論」の1(1)のとおり,他の原告ら製品 (「フリクション」)には球形とは相当異なった粒子が一定数含まれていたと認めら れる。)。現に,本件発明の想定する技術的範囲には,甲24の図1〜3に示される ような形状のマイクロカプセル顔料も含まれることは前記(1)アのとおりであり,例 えば全てが甲24文献の図3のような形状のマイクロカプセル顔料の場合には,粒 子径(代表径)の規定のし方による差が相当大きくなるものと推認される。\n
・・・・
本件特許請求の範囲及び本件明細書には,粒子径(代表径)の定義に関す\nる明示の記載はない。 当業者の技術常識を検討すると,平成11年11月1日から平成14年10月3 1日までの間に,筆記具用インクの平均粒子径の測定方法が記載された特許出願の 公開特許公報58件のうち,レーザ回折法で測定したものが23件,遠心沈降法で 測定したものが6件,画像解析法で測定したものが8件,動的光散乱法で測定した ものが22件(うち1件は遠心沈降法と動的光散乱法を併用)であった一方,等体 積球相当径を求めることができる電気的検知帯法で測定しているものはなかったこ と(甲20),平成14年6月1日から平成17年5月31日までの間の特許出願に ついて,審判官が職権により甲20と同様の調査したところ,原告ら及び被告以外 の当業者では,電子顕微鏡法,レーザ回折・散乱法,遠心沈降法により平均粒子径 を測定している例があった一方,電気的検知帯法が用いられた例は発見されていな いこと(弁論の全趣旨)が認められる。また,種々の測定方法で得た値から,再度 計算して,等体積球相当径を粒子径(代表径)とする平均粒子径に換算していると\nも考え難い。そうすると,粒子径(代表径)について,等体積球相当径又はそれ以\n外の特定の定義によることが技術常識となっていたとは認められない。 以上のとおり,技術常識を踏まえて本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載を 検討しても,粒子径(代表径)を特定することはできない。\n
(3) 原告らは,本件発明が粒度分布を体積基準で表していること,測定方法の\n記載がないこと,マイクロカプセル顔料の大きさに着目するという本件発明の特徴, 測定の難易から,本件発明の粒子径(代表径)として,光散乱相当径やストークス\n径は不適当である一方,等体積球相当径は適当である旨主張する。 しかし,粒度分布の表し方を体積基準又はそれと等価である質量基準とするのが\n通常である粒子径(代表径)には,審決が指摘するとおり,等体積球相当径の他に\nも,光散乱法による光散乱相当径,光回折法による光の回折相当径,沈降法による ストークス径があると認められる。そして,前記(2)のとおり,筆記具用インキの粒 子の大きさの測定に関する公知発明において,これらの粒子径(代表径)又は測定\n方法が相当程度採用されていたことに照らせば,これらの粒子径(代表径)又は測\n定方法も,マイクロカプセル顔料の大きさに着目する技術分野において,当業者が 採用を検討し得る有用な測定基準であると推認される。なお,原告パイロットイン キによる特許出願でも,インキの吐出性を考慮して粒子の大きさを限定するため, 遠心沈降式の測定装置を用いて体積基準の粒度分布を求めている例がみられる(乙 11【0016】【0040】)。 また,測定方法の記載がない場合に,特定の測定方法に対応しない粒子径(代表\n径)の定義を採用したものと考えるという技術常識を認めるに足りる証拠はない。

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平成29(行ケ)10006等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年8月22日  知的財産高等裁判所

 一部のクレームについては無効とした審決について、双方がその取消を求めました。審判では、請求項6〜13については、サポート要件違反、進歩性違反等は無し、請求項1〜4は明確性違反で無効と判断されていました。前者について無効審判請求人がその部分の取消しを求める訴訟(甲事件)を提起し、後者について、特許権者がその取消しを求める訴訟(乙事件)を提起しました。裁判所は、後者については取り消すと判断しました。
 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だ けではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願 当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不 当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 原告は,本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載のうち,「急激な降下」, 「急激な降下部分の外挿線」及び「ほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線」との各 記載が不明確であると主張するから,以下検討する。
(2) 「急激な降下」,「急激な降下部分の外挿線」との記載
ア 請求項1及び2の記載のうち「急激な降下」部分とは,動的貯蔵弾性率の温 度による変化を示す図において,左から右に向かって降下の傾きの最も大きい部分 を意味することは明らかである(【図2】)。また,傾きの最も大きい部分の傾き の程度は一義的に定まるから,「急激な降下部分の外挿線」の引き方も明確に定ま るものである。
イ これに対し,原告は,動的貯蔵弾性率の傾きが具体的にどのような値以上に なったときに「急激な降下」と判断すればよいか分からない旨主張する。しかし, 「急激な降下」とは,相対的に定まるものであって,傾きの程度の絶対値をもって 特定されるものではないから,同主張は失当である。
(3) 「ほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線」との記載
ア ASTM規格(乙31)は,世界最大規模の標準化団体である米国試験材料 協会が策定・発行する規格であるところ,ASTM規格においては,温度上昇に伴 って変化する物性値のグラフから,ポリマーのガラス転移温度を算出するに当たり, ほぼ直線的に変化する部分を特段定義しないまま,同部分の外挿線を引いている。 また,JIS規格(乙13)は,温度上昇に伴って変化する物性値のグラフから, プラスチックのガラス転移温度を算出するに当たり,「狭い温度領域では直線とみ なせる場合もある」「ベースライン」を延長した直線を,外挿線としている。 そうすると,ポリマーやプラスチックのガラス転移温度の算出に当たり,温度上 昇に伴って変化する物性値のグラフから,特定の温度範囲における傾きの変化の条 件を規定せずに,ほぼ直線的な変化を示す部分を把握することは,技術常識であっ たというべきである。 そして,ポリマー,プラスチック及びゴムは,いずれも高分子に関連するもので あるから,ゴム組成物の耐熱性に関する技術分野における当業者は,その主成分で ある高分子に関する上記技術常識を当然有している。 したがって,ゴム組成物の耐熱性に関する技術分野における当業者は,上記技術 常識をもとに,昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す 図において,特定の温度範囲における傾きの変化の条件が規定されていなくても, 「ほぼ直線的な変化を示す部分」を把握した上で,同部分の外挿線を引くことがで きる。
・・・
このように,外挿線Aと外挿線Bの交点温度として特定された170℃という温 度は,補強用ゴム組成物の180℃から200℃までの動的貯蔵弾性率の変動に着 目したことから導かれたものであって,かかる交点温度は,その引き方によっても 1℃の差が生ずるにとどまる。そうすると,外挿線Aと外挿線Bの交点温度によっ て,ゴム組成物の構成を特定するという特許請求の範囲の記載は,第三者の利益が\n不当に害されるほどに不明確なものとはいえない。
(4) 小括
したがって,本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載のうち,「急激な降 下」,「急激な降下部分の外挿線」及び「ほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線」 との各記載は明確であって,本件特許の特許請求の範囲請求項1及び2の記載が明 確性要件に違反するということはできない。請求項3及び4の各記載も同様である から,明確性要件に違反するということはできない。 よって,取消事由1は理由がある。

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平成28(行ケ)10059  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年4月12日  知的財産高等裁判所(3部)

 原審は、一部の請求項のみ無効と判断しましたが、知財高裁は無効理由なしとした請求項についても無効(明確性・サポート要件違反)と判断しました。
このような一部認容・一部非認容の場合に、双方が不服がある場合、実際の提訴はどうやるのでしょうか?、第1、第2事件みたいにはなってないし。。。
 以上の検討結果を併せ考えれば,文言解釈のみによるのでは,構成要件\nC−2の「ファンの径方向外側」なる記載は多義的に解釈し得るもので あるというべきである。
(2) 特許発明1の構成要件C−2の技術的意義に基づく解釈
ア 上記(1)のとおり,文言解釈のみによるのでは,構成要件C−2の「フ\nァンの径方向外側」なる記載は多義的に解釈し得るものであるとすれば, 当該構成要件の技術的意義に基づきその解釈を検討すべきこととなる。
イ 本件特許発明は,小型軽量化,高効率化を目的としてブラシレスモータ を使用した携帯用電気切断機において,その回路基板の配置スペースの 確保及び冷却が問題となっていること,また,操作性を妨げないハウジ ング形状である必要があることを背景に,モータを収容するハウジング の形状を大きく変更せず,かつ,操作性を損なわずに,モータ駆動用の 回路基板の配置スペースを確保するとともにその冷却を良好に行うこと を目的とするものである(前記1(3)イ,ウ)。 このような目的を達成するために,本件特許発明は,本件実施例にお いて,ハンドルを把持する作業者による作業の妨げとならないように, 回路基板収容部をハンドルとベースとの間の高さ位置に設け,かつ,フ ァンの回転によりファンガイド内側が負圧になることを利用して回路基 板冷却用窓からファンガイド内側に至る冷却風を発生させるために,回 路基板収容部をファンの径方向外側に配置している(前記1(3)エ,オ)。 このうち前者が小型化の目的を達成するための手段,後者が冷却の目的 を達成するための手段として把握される。
ウ(ア) しかし,これらの手段のみによって実際に上記各目的が達成される か否かは,以下のとおり,本件明細書等の記載からは必ずしも明らかで ない。
(イ) 小型化の目的に関しては,本件明細書には従来の携帯用電気丸鋸の 具体的な構造についての言及がないため,本件実施例の構\造との比較 において目的達成の有無ないし程度を評価することはできない。本件 実施例の構造それ自体から,これらが小型化の目的を達成しているか\n否かを客観的に評価することもできない。 また,仮に本件実施例の構造が小型化の目的を達成しているとしても,\n回路基板収容部をハンドルとベースとの間の高さ位置に設けさえすれば 自ずと目的が達成されるものではなく,前提として当該スペースを有効 活用し得るような合理的な構造を有することが必要と思われるが,本件\n明細書にはこの点に関する説明はない。
(ウ) 冷却の目的に関しては,上記手段により当該目的を達成する上で, 回路基板が冷却風の通路に配置されることは必須と思われるけれども, その具体的方法として回路基板をファンの径方向外側に配置すること は,ファンの径方向外側が冷却風の通路となるような構造を一体的に\n伴わない限り,回路基板の冷却とは直接関係しない。このことは,回 路基板がファンの径方向外側である真横にあったとしても,隔壁その 他により回路基板とファンとの間の冷却風の移動が遮断されているよ うな場合を考えれば明らかである。 ここで,本件実施例においては,回路基板収容部の4側面のうち,そ の2側面に回路基板冷却用風窓が多数形成され,これらとは別の側面に 風通路となる間隔が1つ設けられ,それら以外の側面は隔壁により囲ま れる構造となっている。このうち,上記間隔は,ファンガイドの背面と\nハウジングの外壁部との間に設けられ,これによってモータ収容部と回 路基板収容部とが連通している。このような構造とともに,モータ収容\n部とファンの位置とがファンガイドによって連通する構造が採用されて\nいるからこそ,回路基板収容部内に設置された回路基板がファン風の通 路に位置して冷却の目的が達成されることとなっている。このような回 路基板収容部からファンに至る連通構造が,回路基板の一部が(a)領域 に位置することと無関係に実現し得ることは明らかといってよい。
(エ) これらの点を踏まえると,本件特許発明の目的を達成するための手 段は,本件実施例においてすら合理的に説明されているとはいえない。 そうすると,本件実施例を上位概念化したものである本件特許発明に おいてはなおさら,その目的を達成し得るとは認められないことにな る。したがって,構成要件C−2が本件特許発明の目的を達成するた\nめの構成であるとして,その技術的意義から同構\成要件の示す意味内 容を把握することはできない。 そもそも,小型化の目的に関し,本件実施例における小型化の目的達 成手段である「回路基板収容部をハンドルとベースとの間の高さ位置に 設けること」は,特許発明3及び4並びにその従属発明である特許発明 5にしか具体的には表れておらず,また,構\成要件C−2とは無関係で ある。冷却の目的に関しても,上記(ウ)を踏まえると,その目的を達成 する構成としては,端的に構\成要件C−3「前記回路基板の少なくとも 一部は,前記ファン風の通路内に配置されており,」が設けられている 以上,構成要件C−2は無関係と見られる。
(3) 以上によれば,構成要件C−2の「ファンの径方向外側」は,特許請求\nの範囲の文言によれば(a)領域又は(b)領域のいずれとも解釈し得るものであ り,また,その技術的意義に鑑みてもいずれの解釈が正しいのか判断し得な いものということができる。 したがって,構成要件C−2は不明確というべきである。そうである以\n上,この点に関する本件審決の認定・判断には誤りがあり,取消事由2には 理由がある。
3 取消事由1(記載要件(特許発明6〜8及び10に関するサポート要件)に関する認定,判断の誤り(無効理由1の2))について
更に進んで,取消事由1についても検討する。
(1) 特許発明6は,「モータの側方位置において,前記モータの回転軸と平 行に延びるように配置されている」回路基板(構成要件I)のみを有したも\nのであり,当該回路基板は,さらに,「前記回路基板の少なくとも一部は, 前記ファンの回転軸に直交する方向を径方向としたとき,前記ファンの径方 向外側に配置され」る(構成要件C−2)ものである。\n本件明細書の発明の詳細な説明において,「モータの側方位置」に配置 された回路基板(縦置き基板)としては,第2の実施の形態の第2の回路基 板60B及び第3の実施の形態の第1の回路基板60C(いずれも,モータ 収容部2aの内壁面とモータ1の固定子1B間の隙間に配置されたもの)が 記載されているが(前記1(2)カ),縦置き基板のみを有する発明は明示的 に記載されていない。そこで,縦置き基板のみを有する構成が,本件特許発\n明の課題(前記2(2)イ)を解決できると当業者が認識し得る程度に,本件 明細書の発明の詳細な説明に記載されているか否かを検討する。
(2) 第2の実施の形態について
ア 第2の実施の形態の縦置き基板(第2の回路基板60B)による効果は, 以下の3点に集約される(前記1(3)キ)。
1) 制御回路30を別基板(縦置き基板)としたことで,駆動回路20 及び整流平滑回路40を搭載した第1の回路基板60Aの面積を小さ くし,ハウジング2のソーカバー5側への突出量を少なくでき,操作\n性の面で有利となる。
2)制御回路30を別基板(縦置き基板)としたことで,駆動回路20 や整流平滑回路40の発熱部品の影響を受けないようにできる。
3) 制御回路30を搭載した第2の回路基板60B(縦置き基板)をセ ンサ基板51の近くに配置することで,回転位置検出素子52と制御 回路30との電気接続を短縮して,ノイズ等の影響を受けにくい構造\nにできる。
イ(ア) このうち,前記1)の効果は,ハウジング2に設けられた凸部69A (ソーカバー5側へ突出)が小さくなることをいうものである。しかし,\nこのとき,一方で縦置き基板を収容するためにモータ収容部2aが大き くならざるを得ないことを考えると,前記1)の効果は,一概に小型化に 寄与するといってよいか定かではない。また,凸部69A及びモータ収 容部2aの形状のこのような変化が,それぞれ携帯用電気切断機の操作 性に及ぼす影響については,本件明細書の発明の詳細な説明に記載され ていない。 したがって,第2の実施の形態においては,縦置き基板を設けること により小型化の目的を達成できるとは必ずしも認識し得ないし,まして, 縦置き基板のみとした場合に,携帯用電気切断機の操作性の面で有利で あることないし操作性が損なわれないことを認識することもできない。
(イ) 前記2)の効果は,冷却の目的に関わるものである。この目的の観点 から見ると,制御回路30を別基板である縦置き基板とすることで, 前記2)の効果を期待できるとしても,ブラシレスモータの固定子が熱 源となることは技術常識であるところ,そのモータの側方に縦置き基 板を設置することにより,かえってモータの固定子の発熱の影響を受 けやすくなることも予想される。そうすると,制御回路30を縦置き\n基板としたとしても,必ずしも冷却の目的を達成できるとは認識し得 ない。まして,駆動回路と制御回路の両者を搭載した縦置き基板のみ とした場合に,基板の冷却を効果的に実現し得ると認識することもで きない。
(ウ) 前記3)の効果は,小型化の目的とも冷却の目的とも独立したもので あり,本件特許発明の課題解決に寄与しないことは明らかである。
・・・
(4) そうすると,特許発明6〜8及び10は,本件明細書の発明の詳細な説 明に記載されたものではなく,また,特許発明6〜8及び10が,その課題 を解決できると当業者が認識し得る程度に,本件明細書の発明の詳細な説明 に記載されているともいえない(なお,この点は,本件特許発明において横 置き基板が必須であるか否かとは関わりない。)。 したがって,特許発明6〜8及び10は,いわゆるサポート要件を満た しているとはいえない。

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平成28(行ケ)10190  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年5月30日  知的財産高等裁判所(4部)

 特36条、29条2項の無効理由はそれぞれ無効理由無しと判断されました。なお、「明確性を満たしているかについても、クレームだけでなく明細書を考慮する」との判断基準を示しています。かかる判断基準は、平成21(行ケ)10434(3部)、平成25(行ケ)10335(4部) でも言及されてます。
 (1) 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だ けではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願 当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不 当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 原告は,本件特許の特許請求の範囲請求項1の記載のうち,「当該分離して使用 するもの(4)の上部,下部,左側部(右側部)の内側及び外側に該当する部分(5, 6)((7,8))」の各部分が明確ではない旨主張する。
(2)「内側及び外側に該当する部分」の明確性
ア 「内側及び外側」の範囲
(ア) 請求項1には,分離して使用するもの(4)の上部,下部,左側部(右側 部)の「内側及び外側」に該当する部分との記載がある。 請求項1の記載によれば,印刷物の中央面部(1)の所定の箇所に,所定の大き さを有する分離して使用するもの(4)が印刷されており,分離して使用するもの (4)は,周囲に切り込みが入っているものである。そして,請求項1には,「内 側及び外側」の範囲を直接特定する記載はない。 したがって,分離して使用するもの(4)の上部,下部,左側部(右側部)の「内 側及び外側」に該当する部分とは,印刷物の中央面部(1)における,分離して使 用するものの周囲に設けられた切り込みの「内側及び外側」に該当する部分と特定 され,その範囲は特定されていないものである。 (イ) なお,本件明細書の【0014】ないし【0017】の記載によれば,本 件発明1を実施する際には,一過性の粘着剤が塗布されている部分となる「内側及 び外側」の範囲について,分離して使用するものが欠落することなく,また左側面 部と右側面部を中央面部からはがして開いた場合には左側面部又は右側面部の一方 に分離して使用するものが貼着されるなどして,これを自動的に手にすることがで\nきる程度の範囲に限定されることになる。しかし,当該範囲は,中央面部(1), 左側面部(2),右側面部(3)及び分離して使用するもの(4)の形状や材質, 分離して使用するもの(4)の周囲の切り込みの程度,粘着剤の強度等に応じて, 適宜決定されるにすぎないから,特許を受けようとする発明において,「内側及び 外側」の範囲を特定していないからといって,それが明確性を欠くことにはならな い。
・・・
(4) 小括
以上によれば,本件特許の特許請求の範囲請求項1の記載のうち,「当該分離し て使用するもの(4)の上部,下部,左側部の内側及び外側に該当する部分(5, 6)」とは,印刷物の中央面部の所定の箇所に印刷された所定の大きさを有する, その外形は特定されない分離して使用するもの(4)の,上部,下部又は左側部の いずれかのうち,その周囲に設けられた切り込みの内側及び外側であって,その範 囲は具体的には特定されない部分に該当する部分であって,請求項1の記載のうち, 「当該分離して使用するもの(4)の上部,下部,右側部の内側及び外側に該当す る部分(7,8)」も同様であって,これらの記載が,第三者の利益が不当に害さ れるほどに不明確であるということはできない。 したがって,「当該分離して使用するもの(4)の上部,下部,左側部(右側部) の内側及び外側に該当する部分(5,6)((7,8))」との各記載は明確であ るから,本件特許の特許請求の範囲請求項1の記載が明確性要件に違反するという ことはできない。請求項2及び請求項3の各記載も同様であるから,明確性要件に 違反するということはできない。 よって,取消事由1は理由がない。
(1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲 の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が, 発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当 該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課 題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと 解される。 そして,原告は,一過性の粘着剤が塗布される位置について,分離して使用する ものの上部,下部,左(右)側部の内側及び外側に該当する部分のいずれかでよい とすると,サポート要件に違反すると主張する。
(2) 前記2(4)のとおり,特許請求の範囲請求項1に記載された発明において,左 側面部(2)の裏面の「一過性の粘着剤が塗布されている」部分は,分離して使用 するものの,上部,下部又は左側部のいずれかのうち,その周囲に設けられた切り 込みの内側及び外側であって,その範囲は特定されない部分に該当する部分であっ て,右側面部(3)の裏面についても同様である。 そして,前記1(2)イのとおり,本件発明1は,分離して使用するものについて, その周囲に切り込みが入っているにもかかわらず,広告等の印刷物に付いていて紛 失させることなく,しかも,広告等の印刷物より切り取る手間をかけずに利用する ことができる印刷物を提供することを課題とするものである。そして,前記2(2)イ のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載(【0014】〜【0017】) により,当業者は,一過性の粘着剤の塗布が,左側面部2の裏側のうち,分離して 使用するものの上部,下部,左側部の少なくともいずれかに該当する部分であって, 分離して使用するものの内側及び外側のいずれにも該当する部分にされれば,本件 発明1の上記課題を解決できると認識できるものといえ,右側面部3についても同 様である。 そうすると,一過性の粘着剤が塗布される位置において,本件発明1は,発明の 詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明 1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。

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平成27(行ケ)10242  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年9月20日  知的財産高等裁判所

 審決、知財高裁ともにPBPクレームでないと判断しました。「細いテープ状部材に,粘着剤を塗着する」との記載は、経時的要素を表現したものではなく,状態を示すことにより構\造又は特性を特定しているにすぎないとい判断されました。
 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法 が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレ ームの場合)において,当該特許請求の範囲の記載が法36条6項2 号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるの は,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定するこ\nとが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在する\nときに限られると解される(最高裁判所第二小法廷平成27年6月5 日判決・民集69巻4号700頁)ところ,本件発明1に係る上記記 載は,これを形式的に見ると,確かに経時的な要素を記載するものと いうこともでき,プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当する と見る余地もないではない。 しかし,プロダクト・バイ・プロセス・クレームが発明の明確性との 関係で問題とされるのは,物の発明についての特許に係る特許請求の範 囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の 効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物\nに及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,その 製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\しているのかが不明で あることなどから,第三者の利益が不当に害されることが生じかねない ことによるところ,特許請求の範囲の記載を形式的に見ると経時的であ ることから物の製造方法の記載があるといい得るとしても,当該製造方 法による物の構造又は特性等が明細書の記載及び技術常識を加えて判断\nすれば一義的に明らかである場合には,上記問題は生じないといってよ い。そうすると,このような場合は,法36条6項2号との関係で問題 とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームと見る必要はないと思 われる。
(ウ) ここで,本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には「二重瞼 形成用テープは,図2に示すように,弾性的に伸縮するX方向に任意 長のシート状部材11の表裏前面に粘着剤12を塗着…し,これを多\n数の切断面Lに沿って細片状に切断することにより,極めて容易に製 造することができる。」(甲1の段落【0013】)という態様,す なわち,粘着剤を塗着した後,細いテープ状部材を形成する態様を含 めて「図1及び図2に示す実施例では,弾性的に伸縮する細いテープ 状部材の表裏両面に粘着剤2を塗着している」(同段落【0014】)\nと記載されている。また,本件発明1は,「テープ状部材の形成」と 「粘着剤の塗着」の先後関係に関わらず,テープ状部材に粘着剤が塗 着された状態のものであれば二重瞼を形成し得ること,すなわちその 作用効果を奏し得ることは明らかである。 そうすると,本件発明1の「…細いテープ状部材に,粘着剤を塗着す る」との記載は,細いテープ状部材に形成した後に粘着剤を塗着すると いう経時的要素を表現したものではなく,単にテープ状部材に粘着剤が\n塗着された状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎな\nいものと理解するのが相当であり,物の製造方法の記載には当たらない というべきである。

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平成27(行ケ)10184  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年9月29日  知的財産高等裁判所

 審決、知財高裁ともにPBPクレームでないと判断しました。 「ワックスの残存率が19%〜33%となるようこそぎ落とし又は溶融除去することにより前記燃焼芯を露出させる」が製法が記載されているかどうかでした。
 オ 原告らは,本件発明の「こそぎ落とし又は溶融除去することにより」との記 載は,物の製造方法が記載されているプロダクト・バイ・プロセス・クレームであ るから,明確性要件に適合しないなどと主張する。 しかし,証拠(甲25)及び弁論の全趣旨によれば,原告らの上記主張は,本件 の特許無効審判において無効理由として主張されたものではなく,当該審判の審理 判断の対象とはされていないものと認められるから,もとより本件訴訟の審理判断 の対象となるものではなく(最高裁判所昭和42年(行ツ)第28号同51年3月 10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照),失当というほかない。 なお,この点につき付言するに,PBP最高裁判決は,物の発明についての特許 に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に,出願時におい て当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか又はおよそ 実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という。)が存在するとき\nに限り,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう明確性要件に適 合する旨判示するものである。このように,PBP最高裁判決が上記事情の主張立 証を要するとしたのは,同判決の判旨によれば,物の発明の特許に係る特許請求の 範囲にその物の製造方法が記載されている場合には,製造方法の記載が物のどのよ うな構造又は特性を表\しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む 者において,当該発明の内容を明確に理解することができないことによると解され る。そうすると,特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっ ても,当該製造方法の記載が物の構造又は特性を明確に表\しているときは,当該発 明の内容をもとより明確に理解することができるのであるから,このような特段の 事情がある場合には不可能・非実際的事情の主張立証を要しないと解するのが相当\nである。 これを本件についてみるに,本件発明の「該燃焼芯にワックスが被覆され,かつ 該燃焼芯の・・・先端部に被覆されたワックスを,該燃焼芯の先端部以外の部分に 被覆されたワックスの被覆量に対し,ワックスの残存率が19%〜33%となるよ うこそぎ落とし又は溶融除去することにより前記燃焼芯を露出させる・・・ことを 特徴とするローソク」という記載は,その物の製造に関し,経時的要素の記載があ\nるとはいえるものの,ローソクの燃焼芯の先端部の構\造につき,ワックスがこそぎ 落とされて又は溶融除去されてワックスの残存率が19%ないし33%となった状 態であることを示すものにすぎず,仮に上記記載が物の製造方法の記載であると解 したとしても,本件発明のローソクの構\造又は特性を明確に表しているといえるか\nら,このような特段の事情がある場合には,PBP最高裁判決にいう不可能・非実\n際的事情の主張立証を要しないというべきである。 したがって,原告らの主張は,PBP最高裁判決を正解しないものであり,採用 することができない。

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平成28(行ケ)10207  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月28日  知的財産高等裁判所(4部)

 明確性違反および進歩性無しについて、拒絶審決が維持されました。出願人は株式会社ドクター中松創研です。
【0009】には,前記(3)のとおり,本願発明が,耳より後ろのバッテ リー11の重さや電子回路12の重さW1と,前方のディスプレイ16やカメラ1 8の重量W2とを,「つる」の13を支点として,バランス(釣合い)をとるよう にし,天秤の原理でディスプレイ16やカメラ18が,装着者の顔が動いても水平 になるものであることが記載されているところ,このような,天秤の原理による支 点より前方側と後方側のモーメントのバランス(釣合い)は,一般に「スタティッ クバランス(静的な釣合い)」といわれるものであり,「スタティックバランス」 をとることが,必ずしも「ダイナミックバランス」(運動状態にある物体について, その運動状態によって発生している力をも考慮した釣合い)をもとることにはなら ないことは,技術常識に照らして明らかである。それにもかかわらず,本願明細書 には,【0009】を含め,耳より後ろのバッテリー11の重さや電子回路12の 重さW1と,前方のディスプレイ16やカメラ18の重量W2とを,「つる」の1 3を支点として,バランス(釣合い)をとるようにすることや天秤の原理と,「ダ イナミックバランス」(動的釣合い)がとれることとの関係については,何らの記 載もない。 したがって,本願明細書の記載によっても,耳より後ろの錘W1を「ダイナミッ クバランサー」とすることや本願発明が「ダイナミックバランスドスマホ,PC」 であることの技術的意義を明確に理解することはできず,第三者の利益が不当に害 されるといわざるを得ない。
・・・
原告は,引用発明は,メガネのモーメントWLを,耳の後方に固定するしゃ もじ状部4で吸収するものであるが,引用発明において,引用例2に記載された技 術事項を適用し,PC機能や通話機能\を付加すると,アイウェア側の重さWが重く なるので,モーメントWLは大きくなり,しゃもじ状部4はこのモーメントWLに 耐えることが必要となって,しゃもじ状部4を支える耳の負担を増やしてしまうと いう不具合が生じるから,引用発明において,引用例2に記載された技術事項を適 用し,相違点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは容易に想到できたこ\nとではない旨主張する。 しかし,引用例1には,レンズ1に液晶層を設けたときにその電源となる電池を しゃもじ状部4に埋め込んでもよいことが記載されているから,引用発明において, 引用例1の上記記載に従い,液晶層に情報を表示するために,アイウェア(メガ\nネ)という同一の分野に係る技術である引用例2に記載された技術事項を適用する ことには動機付けがある。 なお,本願発明は,耳の位置を支点として,その後方のバッテリー11や電子回 路12の重さW1と,その前方のディスプレイ16やカメラ18の重さW2とのバ ランスをとるものであるとの原告の主張によれば,本願発明も,引用発明のメガネ も,支点である耳より後の錘をW1として天秤機能をさせ,前方の重さをW2とし\nて顔が止まっても動いてもW1とW2のバランスをとり,鼻などの顔部に荷重がか からないものである点で共通するから,支点である耳に「耳かけダイナミックバラ ンスドスマホ,PC」,又は引用例2に記載された技術事項を適用したアイウェア 11の全荷重がかかるという点で異ならない。よって,この点においても,しゃも じ状部4を支える耳の負担が増えることを問題にする原告の上記主張は,失当であ る。
イ 原告は,引用例2に記載されているのは,単なるディスプレイメガネであっ て,本願発明のようにカウンタウェイトとしてのバッテリーを備えておらず,耳を 支点としてその前後のバランスをとるというような発明ではなく,本願発明とは関 係がないから,引用発明において,引用例2に記載された技術事項を適用し,相違 点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは容易に想到できたことではない\n旨主張する。 しかし,前記アと同様に,引用例1には,レンズ1に液晶層を設けたときにその 電源となる電池をしゃもじ状部4に埋め込んでもよいことが記載されているから, 引用発明において,引用例1の上記記載に従い,液晶層に情報を表示するために,\nアイウェア(メガネ)という同一の分野に係る技術である引用例2に記載された技 術事項を適用することには動機付けがある。

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平成28(行ケ)10200  審決取消請求事件  実用新案権  行政訴訟 平成29年3月14日  知的財産高等裁判所

 実用新案について、記載要件および進歩性違反が争われました。知財高裁は無効理由なしとした審決を維持しました。
 構成要件B1,B9,C1及びC2は,1)コンデンシングユニット(20)が「第 一のリード角」を備え,「第一のリード角」が,コンデンシングユニット(20)の 内縁壁(205)周りに環設されること,2)コンデンシングユニットワッシャー(3 0)が,「第二のリード角」を有し,「第二のリード角」が,「第一のリード角」に対 応し,「第一のリード角」に当接することを規定する。 「第一のリード角」は,コンデンシングユニット(20)に「備え」られ,「環設」 されるものであり(構成要件B1,B9),また,「第二のリード角」は,コンデン\nシングユニットワッシャー(30)が「有し」(構成要件C1),さらに,「第一のリ\nード角」と「第二のリード角」とは,「当接」するものである(構成要件C2)から,\nこれらが,コンデンシングユニット(20)又はコンデンシングユニットワッシャ ー(30)の構成部位を示す用語であることは,明らかである。\nもっとも,「…角が…壁周りに環設される」「…角に対応する…角」「…角が…角に 当接している」とあるのは,「角」の通常の用い方とは明らかに異なるから,構成要\n件B1,B9,C1及びC2における「リード角」の意義は,実用新案登録請求の 範囲の記載からは,直ちに明らかにはならない。 そこで,本件明細書の記載を参酌すると,1)本件考案は,従来のワッシャーは, スチームトラップとの密接の度合が劣るため蒸気が漏えいしやすい問題があったこ とから(【0002】),コンデンシングユニットとコンデンシングユニットワッシャ ーとの結合箇所に,それぞれ,「第一のリード角」及び「第二のリード角」を設けて, 互いを密接させることで蒸気の漏えいを防ぐこととし(【0004】【0011】【0 013】),また,2)「図1〜図4に示すように,…第一のリード角206がコンデ ンシングユニット20の内縁壁205周りに環設され,コンデンシングユニットワ ッシャー30は第一のリード角206に対応する第二のリード角301を有する。」 (【0011】)と記載され,図3の断面図において,「206」及び「301」が, 接合方向に対して傾斜する傾斜面として示され,当接していることが認められる。 そうすると,当業者は,構成要件B1,B9,C1及びC2の「第一のリード角」\n「第二のリード角」は,コンデンシングユニットとコンデンシングユニットワッシ ャーとの結合面に互いに対応する角度を有してそれぞれ設けられた傾斜面であり, これにより,従来のワッシャーに比べて相互の密接性を高め ,蒸気の漏えいを防ぐ ものであると理解することができる。 したがって,構成要件B1,B9,C1及びC2の記載は,不明確なものとはい\nえない。

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平成27(行ケ)10226  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月24日  知的財産高等裁判所

 発明未完成、明確性違反、実施可能性違反として拒絶された出願について、審決取消訴訟が提起されました。知財高裁(第1部)は、実施可能要件違反として審決を維持しました。
 ア 前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例1)では,本願マトリ ックスを通過した白昼光に対し蒸留水を24時間常温で暴露する実験を行ったとこ\nろ,水が同期化したことが認められ,この点については当事者間に争いがないとこ ろである。しかしながら,上記実験は,実験条件の詳細が明らかではなく,本願明 細書の表1における「基準」に関する実験条件も具体的に記載されていないことか\nらすると,本願マトリックスを使用した場合とこれを使用しなかった場合における 比較実験を行ったものと認めることはできない。のみならず,水の同期化の理論的 なメカニズムは十分に解明されていない上,特開2004−2514985)公報(乙 2の【要約】,【0006】,【0011】)によれば,かえって,マイクロウェーブ,超音波,マイクロ波超音波,赤外線(遠赤外線,中間赤外線,近赤外線を含む。)な どを使用することによって,水分子の回転運動を促進し,本願水特性のように,凝 固点における水温をマイナス10度以下に降下させることが可能になるとされてお\nり,しかも,上記近赤外線(780nm〜2500nm)は,本願発明にいう入射光の 範囲(360nm〜3600nm)に含まれるのであるから,本願マトリックスを通過 しない入射光であっても水を一定程度同期化し得ることが認められ,水の同期化が 本願マトリックス以外の実験条件によって生じた可能性も残るといわざるを得ない。\nそうすると,本願明細書にいう上記実験は,水が同期化された原因が,その他の実 験条件によるものではなく,専ら入射光が本願マトリックスを通過したことによる ことまでを立証するものとはいえない。 したがって,立証事項Aが立証されたということはできない。
イ また,前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例14)では,男 性2名及び女性2名に対し,本願マトリックスを耳鳴り症状を示す耳の後部の頭蓋 基底部に,皮膚に穏やかな接着剤で局所的に配置する実験を行ったところ,このう ち3名の耳鳴り症状が24時間以内に消失し,1名の耳鳴り症状が1週間以内に消 失したことが認められる。しかしながら,上記実験における被験者は僅か4名にと どまり,しかも本願マトリックスを使用しない場合との比較試験を行うものではな いことからすれば,耳鳴り症状が自然治癒又はいわゆるプラセボ効果(乙11)に より消失した可能性も残るというほかない。のみならず,証拠(乙6ないし9)及\nび弁論の全趣旨によれば,キセノンが発する光のうち近赤外線を利用した耳鳴り治 療法(いわゆるキセノン光線療法)が現に実施されていることが認められることか らすれば,上記実施例における実験においても,被験者の耳の後部に照らされた光 が耳鳴り治療に一定程度有効に作用した可能性も残ることが認められる。したがっ\nて,本願明細書にいう上記実験は,耳鳴り症状が本願マトリックス自体によって消 失したものであることまでを立証するものとはいえない。 したがって,立証事項Bが立証されたものとはいえない。
ウ 以上によれば,本件立証事項が立証されたものと認めることはできず,本願 明細書は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載\nたものとはいえない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,本願明細書にいう上記各実験結果はA宣誓書によって裏付けられて いる旨主張する。しかしながら,本願マトリックスを使用した実験がA教授の研究 室で行われたことはうかがわれないことからすれば,A宣誓書は,本願明細書にい う実験によって同期化された水の性質が,A教授の研究室での実験結果と同一であ るというにとどまり,水を同期化するとされる入射電磁エネルギーが本願マトリッ クスによって形成されることまでを裏付けるものとはいえない。したがって,原告 の上記主張は,A宣誓書を正解しないものであって,採用することができない。
イ 原告は,人に対する治療を目的とする発明に対し,特許出願前のごく僅かな 期間に厳格な実験を行うことを求めるのは困難を強いるものであって現実的ではな く,また,本願明細書の耳鳴り治療に関する実験はA宣誓書によっても裏付けられ ている旨主張する。しかしながら,比較実験の被験者となる耳鳴り患者の人数が少 ないことを認めるに足りる証拠はなく,耳鳴り症状の比較実験の方法についても, 例えば耳鳴り症状を示す両耳のうち片耳に限り本願マトリックスを配置すれば足り るのであるから,格別困難を強いるものとはいえず,原告の主張は,その前提を欠 く。また,A宣誓書は,「例14は,パイロット臨床実験におけるTGMの適用が4 人のヒト被験者における耳鳴り症状に対して有利な効果を有したことを実証してい る」(甲11〔53頁4行目ないし5行目〕参照)として,単に実験結果を追認する ものにすぎず,A教授の研究室で本願マトリックスによる耳鳴り症状の改善に関す る実験が行われていない以上,A宣誓書によっても本願マトリックスによって耳鳴 り症状の改善効果があることを認めることはできない。さらに,原告主張に係る報 告書(甲22)における実験も,上記(3)イで説示するところと同様に,比較試験を 行うものではなく,本件立証事項を裏付けるものとして適切ではない。したがって, 原告の主張は,その裏付けを欠くというほかなく,採用することができない。 (5) まとめ
上記によれば,本願明細書は当業者が本願発明の実施をすることができる程度に 明確かつ十分に記載したものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張\nする取消事由3(特許法36条4項15)〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)は\n理由がない。

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平成28(行ケ)10025  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月8日  知的財産高等裁判所

 審決は、請求項1,2は、製造方法が記載されているので、PBPクレームには該当し、明確性違反と判断しました。裁判所は、製法が記載されていても、この場合は、PBPクレームには該当しないと判断されました。ただ、他の請求項についての明確性違反が残っているので、結論に影響しないとして、拒絶審決が維持されました。
 そこで検討するに,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその 物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・ クレームの場合)において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項 2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは, 出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\ であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると 解するのが相当であるところ(最高裁判所第二小法廷平成27年6月5日判 決・民集69巻4号700頁参照),本願補正発明1及び2に係る前記の各 記載は,いずれも,形式的にみれば,経時的な要素を記載するものといえ, 「物の製造方法の記載」がある,すなわち,プロダクト・バイ・プロセス・ クレームに該当するということができそうである。 しかしながら,前記最高裁判決が,前記事情がない限り明確性要件違反に なるとした趣旨は,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は, 当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定\nされるが,そのような特許請求の範囲の記載は,一般的には,当該製造方法 が当該物のどのような構造又は特性を表\しているのかが不明であり,権利範 囲についての予測可能\性を奪う結果となることから,これを無制約に許すの ではなく,前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。 そうすると,特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっ ても,前記の一般的な場合と異なり,当該製造方法が当該物のどのような構\n造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技\n術常識から明確であれば,あえて特許法36条6項2号との関係で問題とす べきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。
この点,本願補正発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)は,1)透光性 あるシート・フィルムを,80〜100cm長さの稲育苗箱の巻取り開始縁 以外の3方の縁からはみ出させる,2)これを稲育苗箱底面に根切りシートと して敷く,3)その上に籾殻マット等の軽い稲育苗培土代替資材をはめ込む, 4)この表面に綿不織布等を敷いて種籾の芒,棘毛を絡ませて固定し,根上が\nりを防止して,覆土も極少なくする,5)1)ないし4)のとおり育苗した軽量稲 苗マットを,根切りシートと一緒に巻いて,細い円筒とする,という手順を 示すことにより,「内部導光ロール苗」の構造,特性を明らかにしたものと\n理解することが十分に可能\である。 また,本願補正発明2に係る特許請求の範囲(請求項2)も,1)80〜1 00cm長さの稲育苗箱にはめ込んだ,成型した籾殻マット等の軽い稲育苗 培土代替資材の表面に,2)綿不織布等を敷いて種籾の芒,棘毛を絡ませて固 定し,根上がりを防止し,覆土も極少なくして育苗した,軽量稲苗マットに, 3)透光性あるシート・フィルムを,稲育苗箱の巻取り開始縁以外の3方の縁 からはみ出させて被せ一緒に巻いて,細い円筒とする,というように,やは り手順を示すことより,「内部導光ロール苗」の構造,特性を明らかにした\nものということができる。 そうすると,本願補正発明1及び2に係る前記特定事項は,いずれも,物 の構造,特性を明確に表\しており,発明の内容を明確に理解することができ るものである。 したがって,本願補正発明1及び2は,いずれも,特許法36条6項2号 との関係で問題とされるべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームとみる 必要はなく,この点を理由に請求項の記載が明確でない(不可能・非実際的\n事情がなく,同号の要件を満たさない)とした本件審決の判断は誤りである。
(3) 以上によれば,取消事由1に関する原告の主張は正当であり,これに反す る被告の主張は採用できない(ただし,この点に関する本件審決の判断の誤 りが,本件審決の結論に影響を及ぼすものでないことについては,後記4の とおりである。)。

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平成27(行ケ)10098  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年2月8日  知的財産高等裁判所

 審決について、明確性違反ありとして判断は取り消されました。ただ、進歩性なしとの判断は維持されたので、無効であるとした審決は維持されました。
 審決は,本件発明の「地盤に起因する欠点」という用語は,通常「地震,地崩れ, 局所的な液状化」以外の欠点も含むものと解されるところ,本件明細書においては 通常の意義と異なる「地震,地崩れ,局所的な液状化」のみが記載されており,本 件明細書全体をみてもこの「地震,地崩れ,局所的な液状化」以外の欠点を含むか 否かが不明であるため,本件発明が不明確なものとなっていると認定した。 そこで,検討するに,本件特許の請求項1には,「鉄骨などの構造材で強化,形成\nされたテーブルを地盤上に設置し,・・・前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝 材を設け,前記テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対 応するようにしたことを特徴とする地盤強化工法。」と記載されていることからすれ ば,「地盤に起因する欠点」とは,地盤を弱体化させテーブルに影響を及ぼす原因と なり得る事由をいうものと推測できるものの,必ずしも明らかではない。そこで, 本件明細書の記載を参酌すると,【産業上の利用分野】として,「本発明は,地盤強 化工法に関し,特に,地震動や液状化から建築構造物などを保護するための地盤強\n化工法に関するものである。」(【0001】),「・・・テーブルが既存の地盤の関連を絶って,用地固有の欠点を解消することによって,地層,地形,地質,人工造成 地に起因する地震,地崩れ,局所的な液状化から都市,街区,埋立地を改善できる。」 (【0005】),「地形が変動して平衡を欠いても」(【0014】),「【発明の効果】 本発明に係わる地盤強化工法によれば,地盤の地層,地形,地質,造成による欠点, 地震,地崩れによる危険から都市,街区,施設を保護することができる。」(【001 5】)との各記載があり,これらによれば,「地盤に起因する欠点」とは,「地震,地 崩れ,局所的な液状化」や「地形が変動して平衡を欠いた状態」をいうものと理解 することができる。 したがって,請求項1の「地盤に起因する欠点」との記載が明確性要件を欠くと 認めることはできない。 
(2) 「緩衝材」について
審決は,「緩衝材」について,耐震性に関しては,緩衝剤が既存の地盤の振動がテ ーブルに直接伝わらないように関連を断つという技術的意義が導き出せるものの, 「地形が変動して平衡を欠いても,流動性を有する緩衝材を使用することによって, また緩衝材を低い箇所に補うことによって平準化が容易にできる」(【0014】)こ とについては,緩衝材のみで「テーブルが既存の地盤との関連を断」つ機能を生ず\nる,本件発明の「緩衝材」を想定することができないため,本件発明が不明確であ る旨認定した。 しかし,【0012】の記載から,緩衝材は,「砕石,ゴム,発泡スチロール,砂 など」からなることが明らかにされており,【0014】の記載からみて,「地形が 変動して平衡を欠いた状態」において,流動性を持つ緩衝材を使用したり,低い箇 所に緩衝材を補ったりすることが示されていることからすれば,「緩衝材」は,これ により「平準化」することが実施可能であるかはともかく,前記技術思想を実現す\nるための構成部材の一つとして把握される限りにおいて,その文言自体として明確\n性要件を欠くものではない。
(3) したがって,本件特許の請求項1の記載が明確性要件を欠くとした審決の 判断には誤りがあり,原告らの取消事由1には理由がある。

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平成26(行ケ)10047    特許権  行政訴訟 平成27年7月16日  知的財産高等裁判所

 審決は、明確性違反なしとしましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は、本件発明の作用効果を奏するためには,〜との関係でその方向が限定されていなければならないというものです。
 ここで,本件訂正発明1の炭化珪素質複合体は,反り量について, 「穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(Cx;μm)と, それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(Cy;μ m)の関係が,|Cx|≧|Cy|,50≦Cx≦250,且つ−50 ≦Cy≦200である(Cy=0を除く)こと」を発明特定事項とする ものであるが,「穴間方向(X方向)」とはどのような方向を意味する のかについては,特許請求の範囲(請求項1)の記載からは,一義的に 明らかであるとはいえない。 (イ) そこで,本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には,「穴間方 向(X方向)」又は「穴間」につき,「一般にここで,前記穴間方向 (X方向)とは,図9(a)〜(d)に例示した,放熱板表面の一方向\nを示し,Y方向は,前記表面内のX方向と垂直な方向を示している。」\n(段落【0031】)との記載がある。 上記記載から,「穴間方向(X方向)」には,図9に例示されたX方 向が含まれることは理解できるが,「穴間方向(X方向)」は「放熱板 表面の一方向を示」すとしか記載されていないから,図9に例示された\nX方向以外にどのような方向が含まれるのか判然としない。 また,図9に例示されたX方向については,穴と穴とを結ぶ直線とX 方向を示す直線が明らかにずれているもの(図9の左から2番目の図) があるが,このような場合に穴間方向とX方向がどのような関係にある のかについては,これを明らかにする記載も見当たらない。 (ウ) ところで,本件訂正発明1は,「穴間方向」であるX方向の長さ1 0cmに対する反り量(Cx)と,X方向と直交する方向であるY方向 における長さ10cmに対する反り量(Cy)の数値範囲をそれぞれ定 め,さらに,Cxの絶対値とCyの絶対値の関係を,|Cx|≧|Cy |と定めたものである。 そして,本件明細書の段落【0032】に,「本発明者らは,従来技 術における前記課題の解決を図り,いろいろ実験的に検討した結果,反 り量(Cx;μm,並びにCy;μm)が前記特定の範囲にあるときに, 複合体から成る放熱板を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定するこ とができるという知見を得て,本発明に至ったものである。本発明の複 合体から成る放熱板を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定する場合, 一般には,放熱板と放熱部品との間に放熱グリス等を介して固定される。 このため,Y方向の反り量(Cy)に関しては,その絶対値が放熱グリス 厚より小さいことが好ましい。また,締め付け時の放熱板の変形を考慮 した場合,Y方向の反り量(Cy)はX方向の反り量(Cx)より小さ い方が好ましい。前記の反り量が前記特定範囲を満足できないときには, 必ずしも密着性良く放熱板を他の放熱部品にネジ止め固定することがで きないことがある。」と記載され,段落【0035】に「また,板状複 合体の主面内に他の放熱部品にネジ止め固定できように,穴部を有して いる場合,その穴間距離が10cm以下の小型形状では,密着性良く放 熱板を他の放熱部品にネジ止め固定するためには,複合体の主面の長さ 10cmに対しての反り量が100μm以下であることが好ましい。」 と記載されているように,反り量を規定する上記条件は,本件訂正発明 1に係る板状複合体を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定するため の条件であると認められる。 ここで,本件訂正発明の複合体は,特定量の反りを有していて,例え ば,放熱板として用いた場合に,セラミックス基板を放熱フィン等の放 熱部品に密着性良くネジ止め固定することができ,放熱性が安定した, 高信頼性のモジュールを形成することができるという効果を奏するもの であるところ(段落【0081】),板状複合体(放熱板)を放熱部品 に密着性よくネジ止め固定できる長さ10cmに対する反り量であるC x及びCyについて異なる数値範囲が規定されている本件訂正発明1に おいて,本件明細書の段落【0035】の記載から,本件訂正発明にお ける好ましい長さ10cmに対する反り量は穴間距離の影響を受けるも のと解され,X方向(ひいては,Y方向)が,放熱板表面の一方向であ\nればどの方向であっても他の放熱部品と密着性良くネジ止め固定できる とは考えられないことからすると,本件訂正発明1が上記作用効果を奏 するためには,「穴間方向(X方向)」は,板状複合体のネジ穴または 外形との関係でどの方向を示すものであるかが定義されていることを要 するものというべきである。 (エ) しかるに,前記(ア)及び(イ)のとおり,特許請求の範囲(請求項 1)にも,また,本件明細書にも,「穴間方向(X方向)」について, 板状複合体のネジ穴または外形との関係でどのような方向をいうものか が明確に記載されていないことから,「穴間方向」であるX方向の長さ 10cmに対する反り量(Cx)と,X方向と直交する方向であるY方 向における長さ10cmに対する反り量(Cy)の数値範囲をそれぞれ 定め,さらに,Cxの絶対値とCyの絶対値の関係を定めた本件訂正発 明1の技術的意義を理解できないものにしているといわざるを得ない。

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平成26(行ケ)10243  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年7月28日  知的財産高等裁判所

36条違反ではないとした審決が維持されました。その一つが、水洗便器における「棚」という用語です。裁判所は、明細書の記載に基づき合理的に解釈しました。
 「棚」とは,一般的には,「平らで物を載せる機能を有するもの」を意味するが,\n本件発明の「棚」が,これとは異なり,洗浄水を載せて流すとともにその一部を流 下させることを目的としていることは自明であり,また,「棚」が,本件発明の属す る大便器の分野で一般的に使用される用語とも認められない。 そこで,前記1(1)に認定の本件発明の内容を踏まえて,本件明細書の記載全体や 技術常識などにかんがみて,「棚」の意義を合理的に解釈するとすれば,本件発明の 「棚」は,ボウル内面上部に設けられて段差などにより他と区別できる部分があっ て,平らで洗浄水を載せる機能を有し,ノズルより吐出された洗浄水をボウル部の\n全周に導く経路といった程度の意味を有するものと認められる。 原告は,本件発明の「棚」が平らなものである必要はない旨を主張するが,棚の 形状をもって発明特定事項としている以上,その形状を全く考慮しない用語の解釈, すなわち,物を載せる部分が平らである必要はないとする解釈は,相当とはいえな い。また,上記2(2)に判断のとおり,本件発明2の「棚」は,その幅がゼロとなる 場合もあるが,ボウル側の前方部で「棚」の一部をなくすという構成をしたからと\nいって,その余の部分が棚でなくなるものではない(本件発明1の特定事項は,洗 浄水を全周に導くことを規定しているが,棚を全周にわたり設けることは規定して いない。)。 原告の上記主張は,採用することができない。
イ 「棚」及びその構成の開示
上記アにおける「棚」の技術的意義にし照らすと,甲1発明には,本件発明1の 「棚」に相当するものは見当たらない。 原告は,境界部3の下側の乾燥面12の上側部分(領域A)が,本件発明の「棚」 に相当する旨を主張するが,本件発明1の「棚」が,ノズルより吐出された洗浄水 をボウル部の全周に導く経路であればよいとの解釈を前提とするものであるから, その主張は,前提において誤りがある。領域Aに相当する部分は,汚物受け面10 からボウル部導水路16にかけての滑らかに連続する湾曲面の一部にすぎず(明細 書9頁20〜23行目),何らかの段差を有していなければならない「棚」とは,相 容れない形状である。 原告の上記主張は,採用することができない。

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平成24(受)1204  特許権侵害差止請求事件 平成27年6月5日  最高裁判所第二小法廷  判決  破棄差戻  知的財産高等裁判

 一部の構成を製法で特定した物の発明について、知財高裁は「発明の要旨は,当該物をその構\造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときでない限り,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物に限定して認定されるべき」としましたが、最高裁はこれを破棄差戻しました。
 特許法36条6項2号によれば,特許請求の範囲の記載は,「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ(特許法1条参照),同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求しているのは,この目的を踏まえたものであると解することができる。この観点からみると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして発明の要旨を認定するとするならば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問題がある。すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その製造方法が記載されていると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構\\造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予\測可能性を奪うことになり,適当ではない。他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構\造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能\であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑みて,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として発明の要旨を認定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。
以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\\であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁平成24年(受)第1204号平成27年6月5日第二小法廷判決・裁判所時報1629号登載予定参照)。 以上と異なり,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,そのような特許請求の範囲の記載を一般的に許容しつつ,その発明の要旨は,原則として,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本判決の示すところに従い,本件発明の要旨を認定し,更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情が存在するものとして「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

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◆原審はこちらです。 平成22(ネ)10043

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平成25(行ケ)10271  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年11月10日  知的財産高等裁判所

 「アルコールの軽やか風味」という用語が不明瞭として、36条に違反すると判断されました。審決は明瞭性違反はないと判断していました。
被告は,1)「アルコールの軽やか風味を生かしたまま,アルコールに起因する苦味やバーニング感を抑えて風味を向上させる」(本件明細書【0007】)とは,「アルコールの軽やか風味」,すなわち,単物質であるアルコールの単一の風味を希釈等により損なうことなく,苦味やバーニング感という不快な感覚のみを特異的に抑えて,その結果として,アルコール飲料全体の風味を向上させることを意味するものといえ,その内容は,明瞭である,2)当業者も,「アルコールの軽やか風味を生かす」ことは,すなわち,「苦味やバーニング感などの不快な感覚を抑制又は除去してアルコール本来の風味を生かす」ことを意味するものと,容易に理解できるはずである旨主張する。 b しかしながら,前記(ア)のとおり,アルコールは,甘味,苦味,酸味,その混合,「灼く(やく)ような味」など複数の風味を有するところ,本件明細書においては,シュクラロースの添加がアルコールの苦味及びバーニング感を抑えることは確認されているものの,アルコールの有する複数の風味のうちそれら2つの風味のみを特異的に抑えることまでは確認されておらず,しかも,「アルコールの軽やか風味を生かしたまま」であるか否かは明らかにされていない。 また,前記アのとおり,本件明細書は,「アルコールの軽やか風味」を,アルコールに起因する「苦味」及び「バーニング感」と併存するものとして位置付けているものと認められるところ,本件明細書上,これらの関係は不明であり,したがっ て,「苦味」及び「バーニング感」の抑制によって,「アルコールの軽やか風味を生かす」という効果がもたらされるか否かも,不明といわざるを得ない。被告は,「苦味」及び「バーニング感」を抑制することが「アルコールの軽やか風味」の向上であるかのような主張をするが,これは,本件明細書の客観的記載に反する解釈である。 以上によれば,被告の前記主張は,採用できない。
エ 小括
以上によれば,「アルコールの軽やか風味」という用語の意味は,不明瞭といわざるを得ない。そして,前述のとおり,当業者は,本件発明の実施に当たり,「軽やか風味」については「生かしたまま」,すなわち,減殺することなく,アルコール飲料全体の風味を向上させられるか,という点を確認する必要があるところ,「軽やか風味」の意味が不明瞭である以上,上記確認は不可能であるから,本件特許の発明の詳細な説明は,「アルコールの軽やか風味」という用語に関し,実施可能\性を欠くというべきである。 したがって,「アルコールの軽やか風味」の意味するところは明瞭といえる旨の本件審決の判断は,誤りである。
2 取消事由2(シュクラロースの添加量及び試行錯誤に係る実施可能要件違反〔平成6年改正前特許法36条4項違反〕並びに一般化に係るサポート要件違反〔同条5項1号違反〕に関する判断の誤り)について
 前記1において前述したとおり,「アルコールの軽やか風味」という用語の意味が不明瞭であることから,当業者において,「アルコールの軽やか風味を生かしたまま,アルコールに起因する苦味やバーニング感を抑えて,アルコール飲料の風味を向上する」ために必要なシュクラロースの添加量を決めることは不可能といわざるを得ない。\nしたがって,本件明細書は,添加量に関して実施可能性を欠くものといえるから,\n当業者は,本件明細書の記載に基づき,多種多様なアルコール飲料についてシュクラロースの添加量を決めることができるという本件審決の判断は,誤りである。

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平成25(行ケ)10172 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年03月26日 知的財産高等裁判所

 訂正後の発明が明確性違反として、特許庁の判断を取り消しました。特許庁は無効理由無しと判断していました。
 審決が引用した文献である甲10(審判甲10,「スクラロースの味覚特性と他の高甘味度甘味料との比較」日本食品化学学会誌,Vol.2(2),1995,110−114頁),甲26(審判乙15,「新版 官能検査ハンドブック」,398−403頁),甲27(審判乙16,「新甘味料アスパルテームについて」,精糖技術研究会誌第26号,7−17頁)には,閾値の測定法として極限法が記載されていることからみて,「極限法」は,閾値の測定方法として広く一般的に用いられているものと認められ,また,被告が提出した実験報告書である甲25においても極限法が用いられている。しかし,甲51(「新版 官能検査ハンドブック」,395−423頁)及び甲52(「工業における官能\検査ハンドブック」, 333−343頁)には,閾値の測定法として,実験者あるいは被験者自身が刺激を一定のステップで徐々に変化させ,その1ステップごとに被験者の判断を求め,判断の切り替わる点を決定する「極限法」以外にも,実験者あるいは被験者自身が,刺激を任意に変化させながら,被験者に対し特定の感覚を与える刺激の値を探し出し決定する「調整法」や,一組の変化刺激を用意しておき,確率的に1つずつ提示し,それに対し被験者に予め定められた判断範疇のいずれかで反応してもらう「恒常刺激法」等が記載されており,閾値の測定法としては,極限法だけでなく,調整法,恒常刺激法等の複数の一般的な方法が存在していることが認められる。また,甲53(「甘味,酸味,塩から味,苦味刺激閾値の測定」,J. Brew. Soc.Japan, Vol.79,No.9,656−658頁)においては,「刺激閾値の測定法には,Aらの順位法による刺激テスト,調整法,極限法,1対比較法などが報告されているが,本実験ではPfaffmann らの1点識別法により行った。」と記載されていることから,甘味の閾値の測定に当たり極限法以外の方法を採用することもあることが理解できる。そうしてみると,甘味閾値は,他の方法ではなく極限法により測定するものであることが自明であるという技術常識が存在していたとまではいえず,訂正明細書における甘味閾値の測定方法が極限法であると当業者が確定的に認識するとはいえない。一方,甘味閾値の測定法は,人間の感覚によって甘味を判定する方法であって,判定のばらつきを統計処理し感覚を数量化して客観的に表現する官能\検査の一種であり,適切な多数の被験者を用いることにより,主観的な判断や個人による差を極力抑えるものではあるが,一般に,官能検査とは,被験者の習熟度,測定法,データの解析法等により数値が異なるものであり,相互の数値の比較は困難であることが多いものと解される。そこで,スクラロース水溶液におけるスクラロースの甘味閾値が記載されている甲10及び甲54をみると,甲10では,初めにスクラロース溶液の薄い方から濃い方へ(上昇系列)試験した可知の刺激価と,次に濃い方から薄い方へ(下降系列)試験した不可知の刺激価の平均値より算出する極限法により評価した数値は,0.0006±0.00014%であったことが記載され,甲54(「PROGRESS INSWEETENERS」,131−132頁)では,41人の被験者の集団を使用して「上昇濃度系列の極限法」に従い評価したスクラロースの甘味閾値は,0.00038%w/v と記載され,同じ極限法を用いて測定したスクラロース水溶液の甘味閾値として,甲10と甲54とでは約1.6倍異なる数値を記載している。また,甲10と甲54は,水にスクラロースを添加したスクラロース水溶液において甘味閾値を測定したものであるが,本件明細書の段落【0013】に記載するように,飲料中のスクラロースの甘味閾値は,苦味などの他の味覚や製品の保存あるいは使用温度などの条件により変動するものであるから,各種飲料における甘味閾値を正確に測定することは,単なるスクラロース水溶液に比べて,より困難であると認められる。しかも,甘味閾値の測定は,人間の感覚による官能検査であるから,測定方法の違いが甘味閾値に影響する可能\性が否定できないことは,上記のとおりである。そうすると,当業者は,同一の測定方法を用いた極限法によるスクラロース水溶液の甘味閾値であっても,2つの文献で約1.6倍異なる数値が記載されている上,訂正発明における各種飲料における甘味閾値の測定は,スクラロース水溶液に比べてより困難であるから,測定方法が異なれば,甘味閾値はより大きく変動する蓋然性が高いとの認識のもとに訂正明細書の記載を読むと解するのが相当である。したがって,甘味閾値の測定方法が訂正明細書に記載されていなくとも,極限法で測定したと当業者が認識するほど,極限法が甘味の閾値の測定方法として一般的であるとまではいえず,また,極限法は人の感覚による官能検査であるから,測定方法等により閾値が異なる蓋然性が高いことを考慮するならば,特許請求の範囲に記載されたスクラロース量の範囲である0.0012〜0.003重量%は,上下限値が2.5倍であって,甘味閾値の変動範囲(ばらつき)は無視できないほど大きく,「甘味の閾値以下の量」すなわち「甘味を呈さない量」とは,0.0012〜0.003重量%との関係でどの範囲の量を意味するのか不明確であると認められるから,結局,「甘味を呈さない量」とは,特許法36条6項2号の明確性の要件を満たさないものといえる。\n(2) 被告は,「甘味閾値は,一般的で確立した試験方法である極限法によって測定できるものであり,他にもよく知られた試験方法が存在するからといって甘味閾値が不明確になるものではない。極限法でも恒常刺激法でも,試験の原理上,同等の結果が得られることは明白である。測定には,常に誤差が伴い,各条件に応じて適した測定方法が異なるという常識があるが,だからといってこれによって測定される物理量の値が不明確などということもない。したがって,訂正発明は,不明確ではない。」旨主張する。そこで検討するに,被告による試験結果である甲25には,訂正明細書の実施例4を追試した際のコーヒーにおけるスクラロースの甘味閾値は0.00169%と記載されており,この値は,訂正発明の「0.0012〜0.003重量%」の範囲内の数値であるが,渋味のマスキング効果を確認したスクラロースの添加量は0.0016%であり,甘味の閾値と非常に接近している。そうすると,上記のように「0.0012〜0.003重量%」の範囲に甘味閾値が存在する場合には,特に正確に甘味閾値を測定する必要があり,誰が測定しても「甘味を呈さない量」であるか否かが正確に判別できるものでなければならない。しかし,甘味閾値の測定は人の感覚による官能検査である以上,被告が主張するように,測定方法等が異なっても同等の結果が得られることは明白であるとする客観的根拠は存在せず,測定方法の違い等の種々の要因により,甘味閾値は異なる蓋然性が高く,被験者の人数や習熟度等に注意を払ったとしても,当業者が測定した場合に,「甘味を呈さない量」であるか否かの判断が常に同じとなるとはいえない。したがって,被告の主張は採用できない。\n

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平成25(行ケ)10117 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年03月10日 知的財産高等裁判所

 明確性要件及び実施可能要件違反とした審決が取り消されました。\n
 ア 本願発明は,一般式(1)における各原子の組成比が,不定比となる場合を含むものであり,その組成比は変数y,z,u,wを用いて特定されているが,これらの各変数が相互にどのように連関するかは特定されていない。しかし,無機化合物において,格子欠陥等のため,その組成比が不定比となる(自然数でない)ものが存在することは,技術常識であって(甲21),このことは,無機化合物からなる蛍光体についても同様である(乙1,2)。そして,無機化合物は,定常状態では,その全体の電荷バランスが中性であり,無機化合物を構成する各原子の原子価と組成比との積の総和が,実質的にゼロとなっていることは,技術常識である(乙2【0015】,【0016】)。このような技術常識を踏まえると,組成比が不定比となる場合には,各原子の原子価が自然数とはならないことは明らかである。また,不定比を具体的な状況に応じて確定するのは困難である上,一定の数値をとるかどうかも不明である。そうすると,一般式(1)における各原子の組成比が不定比となる場合を含む本願発明においては,上記の各変数が相互にどのように連関するかを特定することは,相当程度困難である。本願明細書(甲1)の段落【0039】,【0040】,【0047】,【0049】,【0059】によると,実施例1,5,7(表\\2)で,実際に不定比組成である蛍光体が合成されている。これらの蛍光体は不定比組成であり,各原子の原子価は自然数ではなく,その具体的な数値は不明であるが,蛍光体の電荷バランスが中性となるように組成比が選択され,化学量論的に成立したものとなっていると解される。以上によれば,本願発明においては,上記の各変数が相互にどのように連関するか特定されていないとしても,一般式(1)における各原子の組成比は,一般式(1)に示される各原子の組成範囲内において,蛍光体の電荷バランスが中性となるように選択され,化学量論的に成立したものとなると認められるから,審決が認定するように,一般式(1)における各原子の組成比が化学量論的に成立するためには,上記の各変数が連関することが必要であるとはいえない。また,一般式(1)が,いかなる化合物を意味するのか不明であるともいえない。

◆判決本文

◆関連事件です。平成25(行ケ)10118

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平成25(行ケ)10063 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月28日 知的財産高等裁判所

 36条6項2号違反(明確性)とした拒絶審決が取り消されました。
 本件審決は,本願発明1において,実測炉壁間距離の平準化変位線を求めるために行う「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」との記載は明確であるとはいえないから,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合せず,同条項に規定する要件を満たしていない旨判断し,被告も同旨の主張をする。しかし,「均す」という言葉自体は「たいらにする。高低やでこぼこのないようにする。」と,「平準」という言葉自体も「物価の均一をはかって,でこぼこのないようにすること。」と一般に理解されており(岩波書店「広辞苑第6版」。甲12),また,いずれの言葉も多数の特許請求の範囲の記載で使用されている技術用語であること(甲13〜23)は当事者間に争いがないことを考慮すれば,本願発明1における「平準化変位線」について,当業者は,実測炉壁間距離変位線に基づいて「カーボン付着や欠損による炉壁表\面の変位」を「たいらにする。高低やでこぼこのないようにする。」ことによって求めるものであると認識し,かつ,本願発明1が,こうして求めた平準化変位線と実測炉壁間距離変位線とによって囲まれた面積の総和をコークス製造毎に求め,上記面積の総和の変化に基づいて,炉壁状態の変遷を診断するものであることを理解することができるから,本願発明1の「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」との記載の技術内容自体は明確である。したがって,本願発明1の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるということができる。
(2) 被告は,この点について,本願明細書の段落【0003】にあるように,炉壁の様々な劣化状態を詳細に観察することやその状態を特定する手段がなかったというこの分野における従来の状況を踏まえれば,「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」際の均し方の方法や基本的な指標等を何ら特定することなく,単に「カーボン付着や欠損による炉壁表\面の変位を均す」と記載しただけでは,本件出願当時の技術常識を考慮しても,具体的にどのような方法,指標・指針・考え方に基づいて行われるのかが明らかではなく,技術的に十分に特定されているということはできない旨主張する。しかし,本願発明1の「カーボン付着や欠損による炉壁表\面の変位を均す」との記載の技術内容自体は明確であり,本願発明1の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるということができることは,前記のとおりである。そして,「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」ための具体的な方法,指標・指針・考え方を発明特定事項としていないからといって,本願発明1が不明確となるものではない。発明の解決課題及びその解決手段,その他当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項(特許法施行規則24条の2)は,特許法36条4項の実施可能\要件の適合性において考慮されるべきものであって,発明の明確性要件の問題ではないと解される。

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平成25(行ケ)10061 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月12日 知的財産高等裁判所

 切り餅事件とは別の特許です。こちらは無効理由無しとした審決が維持されました。
 相対的に強度が低い部分(切り込みが存在する部分)は,一定程度の圧力がかかると,変形して伸びやすいともいえる。切餅の内部空間の圧力は,切り込みが存在する部分に限らず,全方向,例えば上下方向にもかかるから,切り込みが存在する部分が変形して伸びることにより,切り込みの上側が下側に対して持ち上がることになる。その持ち上がりにより,最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態(上下の焼板状部が平行に近い対称な状態で持ち上がる場合もあるが,非平行な片持ち状態に持ち上がる場合も多い。)に自動的に膨化変形する。このような膨化変形によれば,切餅の内部空間の体積は大きくなり,その分だけ圧力が高くなるのを抑えられること,また,それにより,膨化による噴出力(噴出圧)が大きくなるのも抑えられることは明らかであるから,上記のように膨化変形することでも,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを一定程度抑制できることは,当業者にとって明らかといえる。 ウ 以上によれば,本件発明における「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制する」について,以下のとおり認めることができる。側周表面に所定の切り込みを設けた切餅をオーブントースターで焼くと,切餅の内部が軟化するとともに,切餅の内部に含まれる水分が蒸発して水蒸気となる等により,切餅の内部空間の圧力が高くなり,膨化するが,その圧力によって切り込みが存在する部分が変形して伸びることにより,切り込みの上側が下側に対して持ち上がる。その持ち上がりにより,最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い。以下同じ。)に自動的に膨化変形する。切餅の側周表\面に所定の切り込みを設けたことにより,膨化による噴出力(噴出圧)を小さくすることができるため,上記切り込みを設けない場合と比べて,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを抑制できるが,上記のように膨化変形することでも,膨化による噴出力(噴出圧)が大きくなるのを抑えられるため,上記切り込みを設けない場合と比べて,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを一定程度抑制できる。

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◆関連事件です。平成25(行ケ)10062

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平成25(行ケ)10015 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年10月30日 知的財産高等裁判所

特36条は争点になっていませんが裁判所は下記を付言しています。
この程度の誇張が不適切というのはなぜなんでしょう?
付言
本願明細書には,従来技術の一つとして,引用文献が挙げられており(甲1 1の【0005】),図2は,その従来技術のエレベータ用ロープ13を示す ものである(同【0013】)との記載があり,そこには別紙Cの図2のとお り,ロープ被覆が相当厚く,またその断面形状はいびつに変形しており,到底 円とはいいがたい形状のものが記載されている。しかし,実際の引用文献に示 された図1は,別紙BのFIG.1のとおりであり,そこに描かれたロープ被 覆は薄く,その断面の形状は円である。本願明細書の【0013】には「明確- 32 - のため,ポリウレタン層15の厚さおよびロープ断面の変形をやや誇張して示 している。」との記載があるが,本願明細書における従来技術の記載は,「や や誇張」にとどまるものではなく,著しく不正確であり,特許法36条4項2 号の趣旨に照らしても,明細書としては不適切な記載である。

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平成23(行ケ)10418 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月25日 知的財産高等裁判所

 実施可能性要件および明確性要件違反とした審決が維持されました。
まず,実施例1(P/V比:10/100)と比較例2(P/V比:2.6/1 00)をみると,P及びVの屈折率差と溶剤を同一にして,P/V比を減少させる と,内部ヘイズ値は7から1に,表面ヘイズ値は19から14にそれぞれ減少して\nいることが示されているので,P/V比を減少させると,内部ヘイズ値及び表面ヘ\nイズ値の双方が減少する関係にあると推認される。 しかし,実施例1と2をみると,P及びVの屈折率差を同一にして,P/V比を 減少させ,溶剤を変化させると,内部ヘイズ値は7から5に減少し,表面ヘイズ値\nは19から25に増加している。他方,実施例2と比較例2をみると,P及びVの 屈折率差を同一にして,P/V比を減少させ,溶剤を変化させると,内部ヘイズ値 は5から1に,表面ヘイズ値は25から14に減少している。前記の実施例1と比\n較例2での変化の傾向に加えて,これらの比較からは,表面ヘイズ値と内部ヘイズ\n値は溶剤の種類による影響が大きいことが推認されるが,溶剤の種類とP/V比が, 協働して表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の値に影響を与えているのか,それぞれ独立\nして影響を与えているのかは,全く不明である。 また,実施例1とこれに対して溶剤のみを変えた比較例5を比較すると,内部ヘ イズ値は7から9に増加するのに対して,表面ヘイズ値は19から3に減少し,実\n施例2とこれに対して溶剤のみを変えた比較例4を比較しても,内部ヘイズ値は5 から3に減少するのに対して,表面ヘイズ値は25から47に増加している。上記\nの対比結果によれば,溶剤の種類が,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の双方に影響を\n与える重要なファクターであり,溶剤には,表面ヘイズ値を増加させ内部ヘイズを\n減少させる作用を有するものや表面ヘイズ値を減少させ内部ヘイズを増加させる作\n用を有するもの等,様々な種類があると認識できるが,そのような知見を超えて, いかなる種類の溶剤を用いれば表面ヘイズ値・内部ヘイズ値を所望の数値に設定で\nきるかについて,当業者において認識・理解することはできない。 さらに,実施例2と比較例1をみると,P/V比と溶剤を同一にして,P及びV の屈折率差を変化させると,内部ヘイズ値は5から0.7に減少し,表面ヘイズ値\nは25から30に増加していることが示されているが,他の比較例はなく,P及び Vの屈折率差が表面ヘイズ値・内部ヘイズ値にどのような影響を与えるかは不明で\nある。 そうすると,発明の詳細な説明の記載において示された実施例及び比較例に基づ いて,当業者は,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値が,P/V比,P及びVの屈折率差,\n 溶剤の種類の3つの要素により,何らかの影響を受けることまでは理解することが できるが,これを超えて,三つの要素と表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の間の定性的\nな関係や相関的な関係や三つの要素以外の要素(例えば,溶剤の量,光硬化開始剤 の量,硬化特性,粘性,透光性拡散剤の粒径等)によって影響を受けるか否かを認 識,理解することはできない。
ウ 以上のとおり,発明の詳細な説明には,当業者において,これらの3つの要 素をどのように設定すれば,所望の表面ヘイズ値・内部ヘイズ値が得ることができ\nるかについての開示はないというべきである(ただし,発明の詳細な説明中の実施 例に係る本件発明9ないし11を除く。)。したがって,発明の詳細な説明には,当 業者が,本件発明1ないし8,12ないし16を実施することができる程度に明確 かつ十分な記載がされているとはいえない。
・・・・
しかし,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」に おいては,透光性拡散剤が透光性樹脂によって実効的に覆われていないことが想定 され,そのような場合,透光性樹脂と同一の屈折率を有する物質を用いて凹凸を除 去すると,前記凹凸を除去するために用いた透光性樹脂と同一の屈折率の物質と, 透光性樹脂によって実効的に覆われていない透光性拡散剤との界面で新たな内部ヘ イズが生じることになり,新たに生じた内部ヘイズを補償する必要性が生じる。 なお,発明の詳細な説明には,「又,表1において,ヘイズ値は,村上色彩技術研\n究所の製品番号HR−100の測定器により測定し,反射率は,島津製作所製の分 光反射率測定機MPC−3100で測定し,波長380〜780nm光での平均反 射率をとった。」(【0131】)と記載されている。同記載によれば,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値とも,HR−100の測定器によって測定されることが説明されてい\nるが,内部ヘイズ値の測定方法に関する具体的な説明はない。また,HR−100 の取扱説明書(甲14)にも,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂 からなる防眩層」の内部ヘイズ値の測定方法に関する具体的な説明はない。また, この点についての何らかの技術常識が存在すると認めるに足りる証拠もない。 そうすると,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩 層」の内部ヘイズ値を測定する方法は,発明の詳細な説明の記載,及び本件特許の 出願当時の技術常識によって,明らかであるとはいえない。内部ヘイズ値が一義的 に定まらない以上,総ヘイズ値から内部ヘイズ値を減じた値である表面ヘイズ値も\n一義的には定まることはない。内部ヘイズ値・表面ヘイズ値を一義的に定める方法\nが明確ではないから,本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条 6項2号の「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件を充足しない というべきである。

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平成24(行ケ)10040 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月15日 知的財産高等裁判所

 明確性違反であるとした審決が取り消されました。問題の請求項5は「ロール(110)が反らされていることを特徴とする請求項1記載の製造方法。」です。
 発明の詳細な説明を理解するに際しては,特定の段落の表現のみにこだわるべきではなく,全体を通読して吟味する必要がある。「反らされている」との請求項の文言において,これが技術的意味においてどのような限定をしているのかを特定するに際しても,同様である。上記2で分析したところによれば,請求項5における「ロール(110)が反らされている」について,特許請求の範囲の記載のみでは,具体的にどのように反らされているのか明らかでないものの,発明の詳細な説明の記載及び技術常識を考慮すれば,その意味は明確であるというべきである。発明の詳細な説明に記載された「“反り”の定義」が誤りであるとしても,当業者は,上記「“反り”の定義」が誤りであることを理解し,その上で,本願発明5における「ロール(110)が反らされている」の意味を正しく理解すると解することができるというべきである。上記「“反り”の定義」が誤りであるからといって,請求項5が明確でないということはできない。
・・・・
なお,審査,審判の過程において,出願代理人が本願発明の技術的意味を理解していなかったために,段落【0040】を正確に日本語化しなかった事情がある。(2) すなわち,本件出願の審査・審判の過程につき,以下の事実を認めることができる。ア 平成19年12月25日付け拒絶理由通知書(甲5)において,審査官から本願発明(請求項6)の「反らされている」に関し,「ロールが反らされている」とは,どの方向に反っているのか不明であり,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないとの指摘がなされたのに対し,原告は,請求項の該当箇所については補正することなく(甲7),平成20年6月3日付け意見書(甲6)において,「請求項6(新しい請求項5)の『ロールが反らされている』,ドイツ語で『Walzebombiert ist.』とは,『ロールの縁が丸くなっている』ことを意味します。」と回答した。イ 平成21年3月6日付け拒絶査定(甲8)において,「本願発明6の「反らされている」に関して,「請求項6の『ロールが反らされている』の意味が不明である。意見書では『ロールの縁が丸くなっている』としているが,日本語で『反らされている』と『縁が丸くなっている』とは全く別の意味である。」との指摘がなされたのに対し,原告は,審判請求後の指定期間内になされた平成21年7月9日付け手続補正書(甲11)において,請求項の「ロール(110)が反らされている」を「ロール(110)の縁が丸くなっている」と補正するとともに,発明の詳細な説明において「“反り”の定義 中心に対するロール縁部の放物線状直径増大」を「“反り”の定義 ロール縁部から中心に向かっての放物線上直径の増大」と補正し,平成21年7月9日付け手続補正書(甲10)により補正された審判請求書において,「請求項5(新しい請求項1)の『ロールが反らされている』という意味は,実際には,放物線状のロールがロール縁部からロール中心部に向かって放物線上の直径が増大していることを意味します。」と主張した。なお,審判請求書(甲9)において,補正の根拠については言及されていない。
ウ 平成23年4月14日付け審尋(甲12)において,審判長は,平成21年8月18日付け前置報告書の下記の内容を原告に通知した。「(1)新規事項について(1−1)請求項1の『ロール(110)の縁が丸くなっている』は外国語書面の翻訳文(以下『翻訳文』)に記載した事項ではない。『ロール(110)の縁が丸くなっている』については文言上翻訳文には記載されていない。そして,関連すると考えられる記載として,補正前の請求項5では『ロール(110)が反らされている』とあり,また,【0039】,【0040】にも『反り』について記載されている。しかし,これらの『反り』と『縁が丸い』とは明らかに異なる意味であり,しかも,『反り』は【0039】にあるようにフィルムの全幅にわたり均一な厚さ分布を与えるための形状として記載されていたのに対し,『ロール(110)の縁が丸くなっている』には,ロールの縁部のみが丸くなっているようなものも含まれ,そのようなものは,フィルムの全幅にわたり均一な厚さ分布を与えるという機能を果たさないことは明らかであるから,『ロール(110)の縁が丸くなっている』は『ロール(110)が反らされている』に含まれない範囲を含むものといえる。」上記の指摘に対して,原告は,平成23年7月8日付け回答書(甲13)において,請求項1を「つや出し圧延法を用いて105〜250μmの厚さ範囲の熱可塑性プラスチックからなる両面光沢フィルムを製造する方法において,熱可塑性プラスチックの溶融物を,つや出し機内の2つのロールの間に形成され,かつ,型締め圧力がかけられたロールギャップに供給し,該型締め圧力により,溶融物により惹起される圧力によるロールギャップの開きが阻止されることを特徴とする方法。」とする補正案を提示した。
(3) 上記の経緯によれば,原告は,平成21年7月9日付け手続補正書(甲11)及び平成21年7月9日付け手続補正書(甲10)により補正された審判請求書においてようやく,「ロールが反らされている」の意味は,実際には,放物線状のロールがロール縁部からロール中心部に向かって放物線上の直径が増大していることを意味する旨を主張するに至ったものである。それまでにおいて,原告は,「ロールが反らされている」の意味を平成20年6月3日付け意見書(甲6)において,「ロールが反らされている」(ドイツ語で『Walze bombiert ist.』)とは,「ロールの縁が丸くなっている」ことを意味すると主張していたなど,その主張は一貫していなかった。(4) このような出願代理人の対応の稚拙さが審査官,審判官の判断を正しい方向に導かず,審決の判断を誤ったものと理解される。平成21年7月9日付けの補正(甲11)に至って段落【0040】の記載を「“反り”の定義 ロール縁部から中心に向かっての放物線上直径の増大」とすることによって,明細書の記載が文言上においても矛盾のないものとなったものである。このように出願代理人の対応の稚拙さはあるにしても,請求項5における「ロール(110)が反らされている」の技術的意味については上記2のとおりに解釈すべきであって,上記補正の前にあっても不明確な点はないというべきである。
被告は,原文に基づいて誤訳を訂正するには特許法17条の2第2項の誤訳訂正書によらなければならないと主張するが,明細書における発明の詳細な説明を通読して理解される技術的内容が前記3のとおりである以上,誤訳訂正がなくとも,請求項5における「ロール10が反らされている」についての解釈が上記のとおりとなることに変わりはない。被告の上記主張は理由がない。

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平成23(行ケ)10176 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月29日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反および記載不備違反があるとした拒絶審決が維持されました。記載不備については、違反無しとされたものの、進歩性なしが維持されて、審決維持です。
 ちなみに、記載不備の理由は「磁性筒と磁石板まで含めて『回転軸』と称する」ことはできないというものでした。
 明確性要件違反の判断の誤り)について  確かに,請求項1(本願発明)の特許請求の範囲の記載は「可搬式水中電動ポンプ用DCブラシレスモータの回転軸」で結ばれているが,上記特許請求の範囲の記載を全体的に把握すれば,原告がDCブラシレスモータの回転軸体のみを発明の対象としているのではなく,回転軸体に磁性筒や磁石を取り付けた構成物(いわゆる回転子,ロータ)の全体を発明の対象としていることは明らかであって,原告が特定する「回転軸」も日常用語にいうそれ(軸体)ではなく,上記のとおりの概念で特定されるものをいうと解される。したがって,本願発明の特許請求の範囲の記載が一貫しないとして不明確であるとする審決の判断には誤りがある。もっとも,前記1のとおり,本願発明は進歩性を欠き,原告の不服審判請求を不成立とした審決は,その結論において正当であるから,上記判断の誤りによって審決を取り消すべきものとはならない。\n

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平成23(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年11月15日 知的財産高等裁判所

 明確性違反(36条6項2号)の審決が維持されました。代理人無しの本人出願です。
 請求項1は,「歯科治療を行う時上下顎の石膏模型や義歯等を咬合器にマウントしなければいけませんが,其のとき上下,左右,前後の位置,又咬合平面の角度を手早く調整すること。」というものであるが,その文言や内容に照らすと,「歯科治療を行う時上下顎の石膏模型や義歯等を咬合器にマウントしなければいけませんが,」の部分は,「手早く調整すること」がいかなる場面で行われるかという前提事項を説明したものと解される。また,「其のとき上下,左右,前後の位置,又咬合平面の角度を手早く調整すること。」の部分も,上記1で認定した,「時間と精密度を大きく改善出来る」や「下顎位を変えたいときなど手短に行なうことが出来る」などの記載と同趣旨であって,本願明細書に記載された発明の効果に対応する記載であると解される。そうすると,請求項1には,前提事項と発明の効果に対応する記載がされるのみで,いかなる装置又は方法によって「手早く調整すること」を実現するか,すなわち課題を解決するための手段が一切記載されていないことになるから,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。

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平成21(行ケ)10244等  特許権 行政訴訟 平成22年07月20日 知的財産高等裁判所 

 記載不備について争われましたが、裁判所は無効理由無しとした審決を維持しました。この事件は進歩性違反で一旦無効審決がなされ、訂正によりこれを回避した案件です。
 本件特許発明は,いずれも平成20年1月11日付け訂正審判請求が認められたことにより,ハッチや貫通孔といった構成が加えられ,それによって,進歩性が認められたものである。上記各構\成が加えられる前の本件特許発明は,原告が本訴で問題としている,流路の有効内径の数値限定部分等を発明の本質的事項の一部としていたといえるが,上記訂正により,同部分は,それによって進歩性が認められる事項ではなく,単に望ましい構成を開示しているにすぎないといえる。ウ以上を前提として,本件特許発明につき実施可能\要件違反の有無を検討するに,本件特許発明の目的の1つと解される「溶融金属を容器内から導出するために必要な圧力を小さくすること」を達成するためには,溶融金属の重量,流路の粘性抵抗等の条件を設定する必要があり,そのうち粘性抵抗については,溶融金属の性状,ライニングの性質,表面粗さ等のパラメータによって決定され,溶融金属の重量やそれによる影響は,金属の種類や流路の長さ,流速等のパラメータによって決定されるものである。そうすると,単に「溶融金属を導出するために必要な圧力を小さくする」との目的のみを達成するためであれば,流路の有効内径以外のパラメータも設定する必要があることは自明であり,その限りにおいて,原告の主張は誤りではない。しかしながら,「導出圧力の最小化」は,本件特許発明においては付随的な目的にすぎない。この点を措くとしても,被告が主張するように,公道を介して搬送する取鍋の内径は,取鍋を搬送するトラックの車幅との関係で,一定の限度内に収まらざるを得ないのであり,また,そのトラックの車幅も,公道の幅員等により,自ずから相当の限度内になるものということができる。この点につき,原告は,公道搬送可能\な取鍋の大きさは千差万別である旨主張するが,取鍋の標準的な大きさは一定の範囲で自ずから存在するものであり,逆に,単に「望ましい」事項を記載しているにすぎない部分においても,あらゆる大きさや種類のトラックに対して有効なすべてのパラメータを提供しなければならないとするのでは,特許権者や出願人に過大な要求をするものであって,相当ではない。また,作業に慣れた当業者(本件においては,溶融金属を取鍋等を用いて運搬する者)が出湯を行う場合であれば,その出湯時間や速度に,大きな差があるとは考えられない。そして,溶融アルミニウムを流路や配管を通じて排出する場合に粘性抵抗があること自体は,当業者にとって自明であり,望ましいとされる流路の有効内径が提供されれば,それを最大限に生かすべく,他の条件を設定するよう努めるのは当然であって,ここで必要とされる試行錯誤が過度なものであるとは認められない。また,導出圧力の最小化のみを目的とする場合の数値限定と,これが単に付随的な目的にすぎない場合の数値限定では,必然的に相違が生じ,後者の場合には,他の条件との兼ね合いにより,当該目的達成の程度が変化することは明らかである。
 エ 以上からすれば,本件特許発明における,流路の有効内径に関する数値限定部分において,他のパラメータにつき記載がないことをもって,実施可能要件に違\n反するということはできず,原告の主張は理由がない。
(2) 明確性要件について 原告は,本件特許の明細書において,「溶融金属を導入する圧力を小さくする」との効果を達成する上で必要な条件がすべて記載されていないから,本件特許発明は不明確であると主張するが,前述の訂正によって「溶融金属を導入する圧力を小さくする」ことは,既に本件特許発明の主たる目的ではなくなっている上,特許請求の範囲や発明の詳細な説明に記載すべき事項については,特許出願人において適宜選択すべきものであって,本件特許発明についても,その効果が実際に存在するかどうかはともかくとして,特許請求の範囲に記載された流路の有効内径の記載自体は明確であって,他のパラメータの記載がないからといって直ちに,同発明が不明確になるとはいえない。・・・原告は,本件特許発明が,ストーク等の部品交換を行う必要のない容器を提供することを目的としながら(段落【0005】参照),他方で,配管474は「ストーク」に相当するものと解され(段落【0123】,図11参照),以上からすれば,特許を受けようとする発明が明確ではなく,特許法36条4項違反であると主張する。確かに,明細書の段落【0123】や図11において,「ストーク」に相当する配管474が記載されており,これは,段落【0005】の記載とは整合しないといえる。しかし,本件特許発明は,その特許請求の範囲の記載からすれば,いずれも流路を内在するものを指すことが一義的に明らかであって,流路を有さずストークにより溶湯を外部に供給するものは,本件特許発明の対象に含まれない。そもそも,特許出願人において,必ずしも,発明の詳細な説明に記載したものすべてにつき,特許として出願しなくてはならないものではない上,本件での特許請求の範囲の記載が,この点に関して明確であることからすれば,本件において,発明の詳細な説明の段落【0123】の記載や図11が存在することによって,実施可能要件に違反するとはいえず,原告の主張は理由がない。\n

◆判決本文

◆関連事件です。平成21(行ケ)10024

◆関連事件です。平成21(行ケ)10245

◆関連事件です。平成21(行ケ)10246

◆関連事件です。平成19(ネ)10032

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平成21(行ケ)10222 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年06月29日 知的財産高等裁判所

CS関連発明について、記載不備があるとの審決が取り消されました。
 この点について,被告は,本願発明における「発明を展開している度合いを示す」という記載が明確でない旨主張する。確かに,被告が指摘するとおり,クレーム中の用語「発明を展開している度合い」だけを,単独で解釈すれば,用語の定義が不明確であるとする余地があるともいえないわけでない。しかし,「発明を展開している度合いを示す発明展開度」との請求項2の記載を,全体として解釈すれば,各用語(「発明」,「展開」,「度合い(度)」)の対応関係から,この部分は,本件独自の用語である「発明展開度」を,単に分かりやすく言い換えて説明しているにすぎないと認めるのが自然である。したがって,「発明を展開している度合いを示す」という記載のみを取り出して,それが不明確であるということは適切ではなく,上記のとおり解釈すれば,「発明を展開している度合いを示す」との記載が含まれているとしても,別段請求項2の記載が不明確であるとはいえない。

◆判決本文

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平成21(行ケ)10321 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年05月27日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について新規事項、不明瞭であるとした審決が取り消されました。
 前記当初明細書の記載によれば,サーバ及び端末がそのハードウエア構成として中央処理装置(CPU)を有すること,CPU312は,データの処理又は演算を行うと共に,バス311を介して接続された各種構\成要素を制御するものであること,サーバ又は端末のCPUの処理や制御により図37(A)〜(D)の処理を行うことが示されている。このように,当初明細書においては,サーバ及びその端末の構成が共通性を有するものとして記載されており,補正明細書の各請求項の冒頭に記載された「コンピュータを用いたゲーム情報供給装置であって」との部分は,サーバと端末を含んだ全体の構\成を意味するものと解するのが合理的である。・・・そうすると,当初明細書には,「ゲーム情報供給装置」において,サーバが,「ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表\示手段」を有するとの技術事項が記載されていると解すべきである。本件補正が,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないとした本審決の判断は,誤りである。

◆判決本文

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平成21(行ケ)10158 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月30日 知的財産高等裁判所

 明確性違反および実施可能性違反とした審決が維持されました。
 当裁判所は,本願明細書の発明の詳細な説明には,請求項1,11に係る発明の「補助エステル」の特定に関し,当業者が,同発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載はないので,本件審決には,少なくとも,原告の主張に係る取消事由2及び5の違法はないと判断する。その理由は,以下のとおりである。・・・本願明細書には,本願発明による課題解決をするに当たり,当業者において,本願発明で規定したLogP値の範囲内の化合物群の中から,どのような補助エステルを選定すべきかについて,明確かつ十\分な記載がされていないと解される。その理由は,以下のとおりである。すなわち,エステル化合物については,原告が書証として提出する皮膚外用剤に関する文献について見ただけでも,例えば,甲4の10には,パラヒドロキシ安息香酸エステル類の例が挙げられ,アルコール残基の炭素数1ないし12のエステルとしてメチルパラベン等12種類のエステル化合物が示され,甲4の8には,皮膚軟化剤(25頁,26頁),浸透向上剤(26頁〜29頁),乳化剤(30頁〜34頁),他の化粧品用添加剤(43頁,44頁)として,多種のエステル化合物が示されているように,多種多様なものを含む。なお,本願発明の「補助エステル」について,親油性に関してLogP値がニコチン酸アルキルエステルのLogP値より小さく,その差がLogP値において0.5ないし1.5との条件を充足するエステルとの限定がされている。しかし,本願明細書の【0026】【表1】記載の,微量栄養素としてのニコチン酸アルキルエステルだけでも,LogP値1.0の幅の中に複数の炭素原子数のニコチン酸アルキルエステルが含まれることから明らかなように,本願明細書の補助エステルに関するLogP値(0.5〜1.5)を満たすエステル化合物は,膨大な種類のものを含む。ところで,発明の詳細な説明の【0020】では,「栄養素をヒトに送達する」という解決課題を達成するためには,補助エステルは,i)プロ栄養素の角質層からのフラックス(透過性)が類似するという性質と,ii)生物変換に関してプロ栄養素と効果的に競合するという性質の両者が必要であると記載されている。このうち,ii)の生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合するという性質は,請求項1,11で規定されたLogP値の範囲の補助エステルのすべてが当然に備えているものではなく,当業者が,試行錯誤を繰り返して,生物変換に関して微量栄養素と効果的に競合する補助エステルを選別しない限り,本願発明の目的を達成することができず,本願明細書には,その選別を容易にするための記載はない。この点について,原告は,補助エステルが,LogP値の範囲内であれば,すべて,前記ii)の性質を有するように主張するが,同主張は根拠を欠くものであって,採用できない。・・・・以上のとおり,本願発明1,2を実施しようとする当業者は,本願発明のLogP値を満たし,かつ生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合する補助エステルを選択するためには,過度の試行錯誤を要することになる。本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。\n

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平成21(行ケ)10281 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月24日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反、明確性違反を理由として無効とした審決が取り消されました。
 ところで被告は,本件発明1・2に関する特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない旨主張するが,特許法36条6項2号にいう「特許を受けようとする発明が明確であること」とは,特許請求の範囲における構成の記載からその構\成を一義的に知ることができれば特定の問題としては必要にして十分であると解すべきところ,上記イで認められる技術常識及び上記アの記載に照らせば,本件発明1・2における,フェライト中に体積率で3%以上20%以下のマルテンサイトおよび残留オーステナイトが混在するとの点は,加工性を担うフェライト中におけるマルテンサイトおよびマルテンサイト化せずオーステナイトのまま残った残留オーステナイトの体積率を規定したものであり,強度を担うマルテンサイトと,加工時の変形性及びマルテンサイト化した後の強度を担う残留オーステナイトについて,それらの技術的意義は明確であるから,本件発明1・2の特許請求の範囲の記載において,特許法36条6項2号にいう明確性要件違反はないというべきである。エ この点審決は,「訂正明細書には,金属組織としてフェライトに注目し,これが存在することの技術的意義が,高強度とプレス加工性の良いことの両立にあるとは,記載されていない。…」(17頁4行〜6行)とし,「してみると,訂正明細書には,高強度とプレス加工性の良いことの両立という技術的意義は,本来的に,マルテンサイト及び残留オーステナイトを体積率で3〜20%含む金属組織としたことによるものとして記載していると認められる。」(17頁16行〜19行)とした上で,「してみると,高強度とプレス加工性の良いことの両立という技術的意義は,本来的に,マルテンサイト及び残留オーステナイトを3〜20%含む金属組織としたことによるものであるとの技術的内容を認めることはできず,結局のところ,訂正明細書の記載からは,金属組織として,フェライト中に『体積率で3%以上20%以下のマルテンサイトおよび残留オーステナイトが混在する』としたことの技術的意義を見出すことができない。」(18頁23行〜28行)として,本件発明1・2は不明確であると判断した。しかし,上記ア(イ)で摘記したとおり,訂正明細書(甲41の2)には,「鋼帯は焼鈍後,引き続きめっき浴へ浸漬する過程で冷却されるが,この場合の冷却速度は…650℃までを平均0.5〜10℃/秒とするのは加工性を改善するためにフェライトの体積率を増す…」(段落【0023】),「本発明では…むしろフェライトが緩慢に成長することにより,鋼板の引張強さを安定させている。…」(段落【0027】)等の記載があり,フェライトが鋼板の加工性に寄与している旨が示されていることになる。以上の検討によれば,審決の本件発明1・2の明確性要件に関する判断は誤りというべきである。

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平成21(行ケ)10041 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月30日 知的財産高等裁判所

 ”研磨しうる弾性体”という用語の明瞭性が争われました。知財高裁は、不明瞭とした審決を維持しました。
 「・・原告は,本願補正発明は,除くクレームであり,除くクレームにおいて,引用発明を除くために挿入された用語は,引用発明の記載された特許公報等で使用されたとおりの内容のものとして理解すべきであるとして,大合議判決の判示を引用する。そして,本願補正発明の「研磨しうる弾性体」の語は,特公平3−74380号公報(甲7)記載の発明を除くために挿入されたものであるから,甲7の特許請求の範囲に記載された「研磨しうる弾性体」を意味するものであり,その意味は明確であり,本願補正発明にいう「研磨しうる弾性体」でない「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」の意味も,明確であると主張する。しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。すなわち,本願補正発明が特許法36条6項1,2号の要件を充足するか否かは,本件補正後の特許請求の範囲の記載及び本願補正明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて判断されるべきである。原告(出願人)が,本願補正発明から甲7記載の発明を除く意図で,「研磨しうる弾性体」の語を用いたものであったとしても,本願補正発明における,「研磨しうる弾性体」の語が甲7記載のとおりの技術内容を有するものと理解すべき根拠はない。したがって,この点において,原告の主張は,理由がない。のみならず,仮に甲7を参照したとしても,「研磨しうる弾性体」との文言の意味が明確であるとはいえない。すなわち,甲7の特許請求の範囲の請求項1では,「研磨しうる弾性体」は,定義されることも限定されることもなく用いられ,請求項3ないし7では,「研磨しうる弾性体」が,請求項1等を引用した上で材質,硬度,厚さ等をより限定した内容で示されている。甲7の発明の詳細な説明の6欄3ないし25行には,「研磨しうる弾性体」について,「通常に入手しうるゴム,例えばポリブタジエン,ブタジエン−アクリロニトリル,ブタジエン−スチレン,イソ\プレン−スチレン,シリコーン,又はポリスルフイドゴムのいずれかであつてよい。好ましくは弾性体は天然ゴム,ポリクロルプレンゴム又はポリウレタンゴムである。弾性体は,より容易に研磨しうるために通常の充填剤を含有しうる。弾性体は少くとも30,但し80 を越えないシヨアA硬度を有すべきである。好ましくはその硬度は40 〜 60 シヨアAである。・・・・好ましくは,弾性体は100〜500ミクロンの厚さを有し,最も好ましくは厚さが約400ミクロンである。」と,「研磨しうる弾性体」の材質,硬度,厚さ等の性質から,好ましい実施態様は挙げられているものの,「研磨しうる弾性体」の意義・外延について,これを明確にする定義・規定はない。したがって,甲7を参照してもなお,「研磨しうる弾性体」の意味・外延は明確ではないので,「研磨しうる弾性体ではない」との意味も明確とはいえない。原告の主張は,この点においても,採用することができない。」

◆平成21(行ケ)10041 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月30日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10107 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年10月30日 知的財産高等裁判所

   CS関連発明について、記載不備、進歩性なしとした審決を維持しました。ただ、36条の記載不備については下記のような付言がなされています。
  「なお,審決が特許法36条6項2号該当性の有無について判断した点について付言する。特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載において,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定する。同号がこのように規定した趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許発明の技術的範囲,すなわち,特許によって付与された独占の範囲が不明となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。
 ところで,審決は,請求項1(1)についての「コード番号を付してコード化し」,「暗号化し」,「転送する」などの記載,請求項1(2)についての「平文化できる範囲を設定し」などの記載,請求項1(3)についての「顧客個人情報を登録し」,「再暗号化して登録する」,「階層別に管理する」などの記載,請求項1(5)についての「登録してデーターベース化し」などの記載が,「人間がPCを操作して行う処理であるとも,PCが人間を介さず自動的に行う処理であるとも解することができ,そのいずれを意味しているのかが不明であるため,その特定しようとする事項が明確でないから,特許法36条6項2号に規定する要件を満たさない」と判断した。
 しかし,審決の上記判断は,その判断それ自体に矛盾があり,特許法36条6項2号の解釈,適用を誤ったものといえる。すなわち,審決は,本願発明の請求項1における上記各記載について,「人間がPCを操作して行う処理であるとも,PCが人間を介さず自動的に行う処理であるとも解することができ(る)」との確定的な解釈ができるとしているのであるから,そうである以上,「そのいずれを意味しているのかが不明であるため,その特定しようとする事項が明確でない」とすることとは矛盾する。のみならず,審決のした解釈を前提としても,特許請求の範囲の記載は,第三者に不測の不利益を招くほどに不明確であるということはできない。むしろ,審決においては,自らがした広義の解釈(それが正しい解釈であるか否かはさておき)を基礎として,特許請求の範囲に記載された本願発明が,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものといえるか否か(特許法2条1項),産業上利用することができる発明に当たるか否か(29条1項柱書)等の特許要件を含めて,その充足性の有無に関する実質的な判断をすべきであって,特許法36条6項2号の要件を充足しているか否かの形式的な判断をすべきではない。前記のとおり,その判断の結果にも誤りがあるといえる。」

◆平成20(行ケ)10107 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年10月30日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10299 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月26日 知的財産高等裁判所

  特許法36条6項2号違反のみを理由とした拒絶審決が取り消されました。
   「現明細書の【0033】によれば,「撚成されたモノフィラメント撚糸」について,「撚成されたモノフィラメント」が2本以上で撚られて「シングル撚糸」となったものであると定義されている。そして,これに続く,【0034】ないし【0035】の各記載は,【0033】で定義された趣旨を前提として,「撚成されたモノフィラメントからなるシングル撚糸」の内容の詳細を説明している。そうすると,現明細書の記載によれば,?@「撚成された」の語はそれに続く「モノフィラメント」を修飾し,?A「モノフィラメント」は複数本を意味すると,それぞれ理解するのが合理的である。(イ) この点,請求項1において「撚成されたモノフィラメント」が複数本であることは明示的に示されていない。しかし,上記ア記載のとおり,「撚成されたモノフィラメント」は「モノフィラメント」に撚りをかけたものであるところ,「モノフィラメント」は「1本の繊維」(甲1,乙3)を意味し,また,「シングル撚糸」は1本又は2本以上の糸で撚られたものを意味することは明らかである(甲2,甲3,乙2)。そうすると,「撚成されたモノフィラメント」について,更に撚りをかけて「シングル撚糸」とする場合,仮に「撚成されたモノフィラメント」が1本であることを前提として,その1本のモノフィラメントを対象として再度撚りをかけるということは,およそ技術常識に照らして,意味のない解釈となるから,当業者は,請求項1記載の「シングル撚糸」について,複数本の「撚成されたモノフィラメント」に撚りをかけたものであると理解するのが合理的であるといえる。すなわち,請求項1項の「シングル撚糸」の意義について,「撚成されたモノフィラメントが1本である場合」は,およそ技術常識から離れた解釈であるから,そのような場合を含まないと理解して差し支えない。以上のとおり,請求項1記載の「撚成された・・・シングル撚糸」とは,「撚成されたモノフィラメント」を複数本集めて撚られたシングル撚糸を指すものと理解されるべきである。」

◆平成19(行ケ)10299 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月26日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10403 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年07月23日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明(?)について、「〜手段」の記載がサポート要件違反(36条6項1号)、不明瞭(同2号)、29−2違反が争われましたが、裁判所は、36条6項1号、2号については、審決の判断は誤りであると認定し、一部の審決を取り消しました。  
  「本件請求項1の記載のうち「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」という文言の解釈につき当事者間に争いがあるので,まずこの点について検討する。ア 本件請求項1の記載を全体として捉えると,本件請求項1の「着脱式デバイス」は,「所定の種類の機器が接続されると,その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するコンピュータ」の汎用周辺機器インタフェースに着脱されるものであって,前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に「前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対し,前記所定の種類の機器である旨の信号を返信」するなどして,「前記コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させる手段」を備えるものである。したがって,「自動起動スクリプト」は,「所定の種類の機器」を用いる場合にはその機器に記憶され,コンピュータによって起動されるものであり,同様に,本件請求項1の「着脱式デバイス」を用いる場合には,着脱式デバイスに記憶され,コンピュータによって起動されるものである。そして,本件請求項1の「着脱式デバイス」は,「主な記憶装置としてROM又は読み書き可能\な記憶装置を備え」るものであり,「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する」と記載されていることに照らせば,「自動起動スクリプト」は着脱式デバイスの主な記憶装置であるROM又は読み書き可能\な記憶装置に記憶されるものである。イ ところで,一般に「手段」とは,「目的を達するための具体的なやり方」を意味するものである(広辞苑第6版)ところ,本件請求項1における「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」との記載が,「前記コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させる手段」,「前記コンピュータから前記ROM又は読み書き可能\な記憶装置へのアクセスを受ける手段」とともに併記されたものであることからすれば,上記「記憶する手段」が,「ROM又は読み書き可能な記憶装置に前記自動起動スクリプトを記憶する」という目的を達するための具体的なやり方を意味するのか,それとも本件特許発明1全体の目的を達するための構\成要素の一つを意味するのか,いずれに解することも可能であって,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない場合に当たる。ウそこで,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,本件請求項1の「ROM又は読み書き可能\な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」の解釈につき検討する(なお,被告は,特許法36条6項1号該当性の判断をするに当たって発明の詳細な説明の記載を参酌すべきではないと主張するが,最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決〔民集45巻3号123頁〕も判示するように,特許を受けようとする発明の要旨を認定するのに特許請求の範囲の記載のみではその技術的意義が一義的に明確に理解することができない場合には,発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されると解する。・・・以上の記載によれば,本件特許発明1は,USBメモリ等の着脱式デバイスをコンピュータに接続した際に,煩雑な手動操作を要することなく自動起動スクリプトに記述された所定のプログラムを自動実行させることを課題とするものであり,かかる課題の解決手段として,自動起動スクリプトを着脱式デバイスの記憶装置内に予め記憶し,コンピュータからの問い合わせに対してCD−ROMドライブなど自動起動スクリプト実行の対象機器である旨の信号(擬似信号)を返信することによって,コンピュータが着脱式デバイスの記憶装置内に記憶された自動起動スクリプトを起動させるという構\成を備えたものであることが認められる。そして,かかる解決手段を実現するためには,自動起動スクリプトは,着脱式デバイスがコンピュータに接続されたときにコンピュータから読み出すことが可能な状態でデバイスの記憶装置内に記憶されていることが必要であり,かつ,それで足りる。そうすると,ROM等の記憶装置が,その製造時に自動起動スクリプトを記憶するものであっても,上記解決手段を実現するのに何ら差し支えなく,また,ROM等の記憶装置の製造後に自動起動スクリプトを記憶させなければならないとすることは,上記解決手段の実現にとって特段の意味を有しないものである。(ウ) したがって,本件請求項1の「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」という文言は,「ROM又は読み書き可能\な記憶装置に自動起動スクリプトを記憶する」という目的を達するための具体的なやり方を意味するものと解すべきではなく,本件特許発明1の目的を達するための構成要素の一つとして「自動起動スクリプトがROM又は読み書き可能\な記憶装置に記憶されている状態であること」を意味するものと解釈すべきである。」

◆平成19(行ケ)10403 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年07月23日 知的財産高等裁判所

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◆平成17(行ケ)10704 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成18年10月04日 知的財産高等裁判所

  ビジスネモデル発明(CS関連)について、記載不備が争われました。知財高裁は、不明瞭とした審決を維持しました。
  「これらの記載によれば,本願明細書の発明の詳細な説明には,実施例の説明として,キャッシュの割引率・・・との2つに分離し,【数10】により定式化すること,[0,1]を100等分した各ρの値で,一般化最小2乗法による演算を実行し,100個の平均割引関数オーバーバーD (s)を計測すること,一般化最小2乗和が最小となtるρを求め,その下での平均割引関数を最適解とすることが,開示されている。したがって,本願発明の「国債市場価格と国債理論価格との差額を算出」する手法の一つとして,一般化最小2乗法による演算を実行して,一般化最小2乗和を求めるという手法があり,その場合,請求項1の「複数の国債間の相関を表現するパラメータの最適値を該差額を用いて算出」するとは,一般化最小2乗和が最小となるρを求めることを意味することは,明らかである。しかしながら,一般化最小2乗法は,回帰分析の一手法にすぎず,本願発明の特許請求の範囲の記載は,回帰分析の手法を一般化最小2乗法に限定するものではない。また,一般化最小2乗法のみに限定して解釈するとしても,請求項1は,「複数の国債間の相関」としてどのようなものを想定するかを特定するものではない。しかるに,本願明細書には,一般化最小2乗法以外の回帰分析の手法や,実施例に例示された「λ 」「φ 」以外の相関構造について,全くght ght.jr」記載されていない。また,公知技術や周知技術を参酌することによって,一般化最小2乗法以外の回帰分析の手法や,「λ 」「φ 」以外の相ght ght.jr関構造を採用した場合について,「企業の倒産確率及び回収率を正確に計測する」という本願発明の効果を奏することの立証もされていない。そうすると,一般化最小2乗法以外の回帰分析の手法や,「λ 」「φ 」以ght ght.jr外の相関構造を構\成として含む本願発明は,明確でないというべきである。」

◆平成17(行ケ)10704 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成18年10月04日 知的財産高等裁判所

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◆H18. 2.27 知財高裁 平成17(行ケ)10067 特許権 行政訴訟事件

  36条4項、6項違反に関して無効であるとした審決が取り消されました。
  「出願が平成12年6月5日である本件特許に適用される平成11年法律第160号による改正前の特許法36条4項は,「前項第3号の発明の詳細な説明は,通商産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」と規定し,同法36条6項は,「第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」とし,1号は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」,2号は「特許を受けようとする発明が明確であること。」,3号は「請求項ごとの記載が簡潔であること。」,4号は「その他通商産業省令で定めるところにより記載されていること。」と規定している。そして,特許法36条4項の趣旨は,発明の詳細な説明が発明を公開する機能\を有することから,発明の詳細な説明の記載は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分なものでなければならないとしたことにあり,また,同法36条6項の趣旨は,特許請求の範囲は対世的な絶対権たる特許請求の効力範囲を明確にするためのもので,その記載は正確なものでなければならないことから,特許請求の範囲は,発明の詳細な説明に記載して公開した発明の範囲を超えた部分について記載したものであってはならず(1号),特許を受けようとする発明が明確でなければならない(2号)としたことにあるものと解される。そうすると,明細書の発明の詳細な説明に,当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十\分に記載されているのであれば,特許法36条4項所定の発明の詳細な説明の記載要件を充足するものであり,明細書に「発明における課題を解決すべき手段をその作用効果が関連づけて記載されてい」ないからといって直ちに発明の詳細な説明の記載要件に適合しないものとなるものではなく,これによって特許を受けようとする発明が不明確となり特許請求の範囲の記載要件(特許法36条6項2号)に適合しないことになるものということもできないから,本件審決の前記判断は,この点において是認することができない。」

◆H18. 2.27 知財高裁 平成17(行ケ)10067 特許権 行政訴訟事件

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◆H17.12.20 知財高裁 平成17(行ケ)10451 特許権 行政訴訟事件

   特許請求の範囲が不明瞭か否かが争われました。裁判所は、不明瞭とした審決を取り消しました。
   「確かに,「符号化パターン」について,訂正明細書には,バーコードなどであることのほかに格別の記載はない。しかし,上記1の訂正明細書の記載によれば,被告が主張する「所定情報,所定の情報,付加情報,付加する情報又は固有の情報と表現され,画像形成装置ごとの固有の情報であるとして,画像形成装置の設置場所,管理者,シリアルナンバー,日付又は地域コードが例示されている」ものは,「2次元ビットマップ情報」ではなく,「画像形成に用いた画像形成装置を特定するために,少なくとも画像形成装置ごとに割り当てられた情報を含んだ」ものであって,バーコードなどの「符号化パターン」は,その一つに相当するものである。そして,上記2のとおり,本件発明の「2次元ビットマップ情報」は,「符号化パターン」に対応した画素データであり,「符号化パターンの一部」は,「2次元ビットマップ情報」の黒画素であるから,訂正明細書には,「符号化パターンの一部」がどのような部分であるのかについての説明があるということができる。」

◆H17.12.20 知財高裁 平成17(行ケ)10451 特許権 行政訴訟事件

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◆H17. 1.31 東京高裁 平成16(行ケ)175 実用新案権 行政訴訟事件

 実施例に記載した効果を奏する構成を請求項に記載していないことが無効理由となるかについて争われました。裁判所は、「無効理由に当たらない」とした審決を維持しました。
  「仮に,考案の詳細な説明中に記載された効果(イ)を奏するために必要不可欠な上記各構成が,訂正明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されていないとしても,そのこと自体は,旧実用新案法5条4項2号の規定に違反するものではなく,単に,当該効果が本件訂正考案の効果ではないことを意味するにすぎない。」

◆H17. 1.31 東京高裁 平成16(行ケ)175 実用新案権 行政訴訟事件

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◆H17. 1.18 東京高裁 平成15(行ケ)166 特許権 行政訴訟事件

 薬品に関する発明について、特許庁では無効理由無しと判断されましたが、裁判所はこれを取り消しました。
  「本件発明の技術内容(技術手段)によってその目的とする技術効果を挙げることができるものであることを推認することはできないのであるから,本件発明とされるものは,発明として未完成であり,特許法29条1項柱書きにいう「発明」に当たらず,特許を受けることができないものというべきである。」と判断しました。

◆H17. 1.18 東京高裁 平成15(行ケ)166 特許権 行政訴訟事件

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◆H16.12.27 東京高裁 平成16(行ケ)209 特許権 行政訴訟事件

  CS関連発明についての記載不備が争われました。争点は、「一括変換して再登録する再登録手段」について技術的な矛盾があるかでした。裁判所は、36条4項及び6項違反とした審決を取り消しました。
 

◆H16.12.27 東京高裁 平成16(行ケ)209 特許権 行政訴訟事件

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◆H16. 9.30 東京高裁 平成16(行ケ)37 特許権 行政訴訟事件

 「暗号モード」という文言が不明瞭として36条4項、6項違反として拒絶した審決が維持されました。その他、新規事項に該当するかも争点となっていましたが、こちらについては判断することなく、請求が棄却されました。
  裁判所は「本願明細書の特許請求の範囲に記載される「暗号モード」は、その意味・内容をそれ独自で規定することができないばかりでなく、「暗号」や「暗号等」を手がかりとしても規定することができないことから、不明瞭な記載であると解さざるを得ないところ、本願発明は、この「暗号モード」が適正と判断されると、「監視手段で捕捉したデータを中継側である前記管理コンピュータへセンシング情報として送信するステップ」へと進むものであるから、この「暗号モード」が不明瞭なままでは、該ステップも不明確であって、結局、本願発明の要旨を特定することはできないというべきである」と述べました。

◆H16. 9.30 東京高裁 平成16(行ケ)37 特許権 行政訴訟事件

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◆H16. 9. 6 東京高裁 平成15(行ケ)325 特許権 行政訴訟事件

  プログラムによるデータ演算処理が具体的でないという理由で拒絶した審決が裁判所でも維持されました。
 裁判所は、「”商品に基づく商品コード,商品サイズデータ,デザインデータの一以上と自己の身体のサイズデータをコンピュータにて演算,比較”という記載では,商品コードを用いてどのように演算し,あるいは比較するのか,その処理が不明であるというほかはない」と述べました。  

◆H16. 9. 6 東京高裁 平成15(行ケ)325 特許権 行政訴訟事件

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◆H16. 2. 4 東京高裁 平成15(行ケ)330 特許権 行政訴訟事件

「・・・水性塗料用低汚染化剤」を「・・・水性塗料用低汚染化剤(水溶化されたものを除く)」とする訂正が、訂正要件を満たしているのかが争われました。
 裁判所は、「本件訂正事項に係る「水溶化されたもの」の意義については,訂正明細書の特許請求の範囲の記載だけからは,文言上一義的に明確に理解することができるとはいえない。イ そこで,本件訂正事項の意義を解釈するため,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌する。・・・被告主張のように,「水溶化されたもの」が「水溶化という反応処理を施したものであれば,その反応処理の程度を問わず,すべて含む」ものであると解釈したとすると,本件訂正発明1の水性塗料用低汚染化剤は,「(水溶化されたものを除く)」という本件訂正事項を付加することによって,エマルションを形成する化合物になる場合を含め,規定した物質がすべて除かれてしまうか,又は,登録明細書に記載されていない全く別の方法によって当該低汚染化剤を生成するという新規事項を付加したことによって,本件訂正発明1それ自体が無に帰してしまうという極めて不合理な結果を生ずることになる。これに対し,原告主張のように,「水溶化されたもの」が「水溶性化合物」と同義であると解すれば,上記のアルコキシシランの縮合物とポリオキシアルキレン基を含有する化合物とを反応させる方法によって得られた生成物のうち,水溶性化合物となった場合を除外し,特許請求の範囲を,当該生成物がエマルションを形成する化合物となる場合のみに限定するとの趣旨であると合理的に理解することができ,以上の点は,訂正明細書に接した当業者が容易に理解するところであると認められる。以上によれば,本件訂正事項に係る「(水溶化されたものを除く)」とは,「(水溶性化合物を除く)」の意味であると解するのが相当である。」と訂正を認めなかった審決を取り消しました。

 

◆H16. 2. 4 東京高裁 平成15(行ケ)330 特許権 行政訴訟事件

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◆H15. 3.13 東京高裁 平成13(行ケ)346 特許権 行政訴訟事件

  請求項1で用いた文言「所定の筬打ち角」および「筬打ち角」が、発明の詳細な説明で定義されているにもかかわらず、不明瞭とした審決が維持されました。
 裁判所は、「特許発明の構成に欠くことができない事項を明確に記載することが容易にできるにもかかわらず,殊更に不明確あるいは不明りょうな用語を使用して特許請求の範囲を記載し,特許発明に欠くことができない構\成を不明確なものとするようなことが許されないのは,当然のことというべきである。」と判断しました。
 問題となった請求項
「織機停止信号により,緯入れを阻止しながら制動停止した織機を再起動するに際し,筬が所定の筬打ち角以上となるようなクランク角に織機を停止し,開口装置を主軸から切り離し,主軸の1回転相当だけ開口装置を逆転し,開口装置を主軸に連結することを特徴とする織機の再起動準備方法」というものです。
 審決では以下のように表示するべきであったと述べ、裁判所の上記理由からすると、これを維持したこととなります。
「織機停止信号により,緯入れを阻止しながら制動停止した織機を再起動するに際し,筬が,スレイ上に搭載するサブノズルまたはエアガイドが経糸開口から抜け出るときの筬打ち角以上となるようなクランク角に織機を停止し,開口装置を主軸から切り離し,主軸の1回転相当だけ開口装置を逆転し,開口装置を主軸に連結することを特徴とする織機の再起動準備方法。」

 

◆H15. 3.13 東京高裁 平成13(行ケ)346 特許権 行政訴訟事件

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◆H15. 3. 6 東京高裁 平成12(行ケ)352 特許権 行政訴訟事件

  ブラックスボックス化されたチップの実施例が開示不十分か否かが争われました。
裁判所は「第1実施例における各回路要素の動作及び集積回路チップの動作は,明確であり,ブラックボックスであることをもって,各回路要素の製作,実施が不可能であるとはいえない。したがって,本願明細書の第1実施例に係る記載において,同実施例が不明瞭であるとする点があるとはいえない。」として、審決を取り消しました。

 

◆H15. 3. 6 東京高裁 平成12(行ケ)352 特許権 行政訴訟事件

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◆H15. 1.29 東京高裁 平成13(行ケ)96 特許権 行政訴訟事件

    明細書の文言が特定されているかについて争われましたが、裁判所は、本件発明の技術的意義を考慮して、特定されていると判断しました。
 「確かに,本件明細書の特許請求の範囲中「前方」の記載は,それ自体一義的に明確ということはできないが,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することにより,上記のとおり「カートリッジタンクの前方」の意味であると解釈することができる。また,本件発明は,気化器によって加熱して発生した灯油蒸気をバーナーで燃焼させるものであるから,気化器とバーナーは隣接して配置されることが技術常識であり,この技術常識を無視し,気化器の位置をバーナーから離れたものとして解釈することは不合理である。」と述べました。

 

◆H15. 1.29 東京高裁 平成13(行ケ)96 特許権 行政訴訟事件

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