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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

発明該当性

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和5(行ケ)10059  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年11月22日  知的財産高等裁判所

「患者保有分項目を設けた処方 箋と患者保有の医薬品を含めた投与日数算定の一方式」について、人為的取り決めであるので発明該当性なしとした審決が維持されました。

前記(2)のとおり、本願発明は、患者が医師の診察を受ける際に、前回処方 された医薬品が患者の元に残っている場合であっても、医師がこれを考慮す ることなく、診察の日を起算日として医薬品の投与期間を定めて処方をして いたことを課題として、これを解決するため、処方箋に「患者保有分」の項 目、すなわち患者が保有している医薬品に関して記載する項目を設け、既に 患者が保有している医薬品に相当する分を除いた投与期間を算定する方法の 発明であって、これによって、重複処方を防止する効果が得られるとされる ものである。
しかしながら、本願発明のうち、「処方箋」の記載事項は、医師法施行規則 21条で規定されているから、「分量、用法、用量」の記載は法令に基づく規 定、すなわち人為的な取決めと解され、したがって、「分量、用法、用量」と して記載される「投与日数」も人為的な取決めであり、本願発明において、 処方箋に「投与日数」として「患者保有分」の項目を設けることもまた、処 方箋に医師が記載する事項を定めた人為的な取決めにすぎず、自然法則を利 用したものであるとはいえない。 また、本願発明は、患者が保有している医薬品に相当する分を除いた投与 期間を算定する方法として、パターン1及びパターン2に分け、さらにパタ ーン1についてイ、ロa・b・c、パターン2についてイa・b・c、ロa・ b・cにそれぞれ分けて、算定方法を具体化しているが、いずれの算定方法 も、医師が患者に対して医薬品を処方し、投与する際の投与期間の算定の方 法を定めた人為的取決めであって、自然法則を利用したものであるとはいえ ない。 以上によれば、本願発明は、全体として人為的な取決めであって、自然法 則を利用したものとはいえないから、特許法2条1項にいう「発明」には該 当しない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)ないし(4)のとおり、本願発明は、 人為的な取り決めではなく、自然法則を利用したものであると主張する。 しかし、原告が指摘する内容のうち、医薬品の重複なく投与日数と服用 日数が一致することが継続することで自然法則が成り立つとの点は、本願 発明による投与期間の算定を行うことによる結果を述べているにすぎず、 投与期間の算定方法自体が人為的な取決めであって自然法則を利用した ものではないとの結論を左右しない。 また、1年が365日であることについても、これが自然法則に該当す るか否かの問題を措くとしても、本願発明は1年が365日であることを 前提に医薬品の投与日数の算定方法を決めたというにすぎず、1年が36 5日であることを利用して何らかの技術的手段を示したものとはいえな いから、これによって、本願発明が自然法則を利用したものと解すること はできない。
さらに、電子処方箋の時代を想定して、本願発明の算定方法をPC用プ ログラムにして医師のパソコンに取り込んで医薬品及び受診予\約日を入 力すれば自動で処方箋が完成するとの点については、そもそも本願明細書 等には「処方箋」が「電子処方箋」であることについての記載も示唆も一 切ないし、「PC用プログラム」に関する記載も示唆も一切ないから、「電 子処方箋」及び「PC用プログラム」に関する原告の主張は本願発明と関 係がないというべきである。 最後に、本願発明の場合分けによれば医師の判断が入る余地がないとの 点についても、人為的な取決めである本願発明を結果として医師の判断部 分が減少するというにすぎず、この主張によって、本願発明が自然法則を 利用したものであると解すべき理由にはならない。
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)及び(4)のとおり、本願発明が画 期的なものであるから特許として認められるべきであると主張する。 しかし、ある発明が画期的であることによって当該発明が自然法則を利 用したものと解されることにはならず、特許法2条1項の「発明」に該当 するとの結論が導かれることはない。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10072  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月12日  知的財産高等裁判所

 審決は、発明該当性違反、実施可能要件違反として拒絶しました。知財高裁も同じ判断です。

本願発明は、前記第2の2のとおりの構成を有するものであって、前記1(1)の【図 1】のような液体を入れた容器中に浮体を浮かべ、同浮体を鉛直方向に大きなもの とすることにより(同【図2】の3参照)、駆動動力が一定であっても、同浮体が上 下運動することによる発生動力を拡大させることで、「発生動力>駆動動力の関係」 が成立するというものである。 そして、本願明細書の段落【0036】によると、本願発明における駆動動力と は、液位を増減させて、浮体を上下運動に導く駆動方法を実行する装置を駆動する 動力のことをいい、電力が主体であるが、流水、圧縮空気、人力等も利用可能であり、具体的な駆動方法としては、浮体(例えば【図3】の6)を浮かべる容器中に\n物体(例えば【図3】の9)を挿入することが想定されているものと認められる。 次に発生動力についてみると、本願明細書の段落【0035】には、「浮体の上下 運動を「発生動力」とする」との記載があり、同段落【0018】〜【0020】 では、容器中への水の注入量が同一である場合の仕事(W)を、(浮体上の錘の重さ) ×(持ち上げられた距離)により計算しているところ、ここでいう仕事(W)は、 浮体の上下運動をいうものと推認されるから、本願発明における発生動力は、錘を 載せた浮体が移動する運動を指していると理解される。 ところで、本願明細書の段落【0018】〜【0020】に3つの例が記載され ているところ、同段落【0021】の記載と併せると、上記3つの例は、「発生動力 >駆動動力の関係」が成立することを説明するために記載されているものと認めら れる。そこで検討するに、上記3つの例においては、注入した水の量は一定である ものの、どのように水を注入するのか、また、その際に、水を注入するために要し た動力、すなわち本願発明における「駆動動力」に相当する液位を増減させる動力 の大きさや、それが、上記3つの例において一定であるかについては本願明細書に 記載がなく、示唆もない。さらには、【図2】の場合に浮体が浮かぶことが可能な程度に、十\分な浮力が生じているかも明らかではない。そしてその他の本願明細書の記載を総合しても、当業者が、どのようにして、本願発明の「発生動力>駆動動力 の関係」が成立する動力発生装置を製造することができるか理解できるとはいえな い。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施するこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。\n

◆判決本文

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令和3(行ケ)10156  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年9月29日  知的財産高等裁判所

発電方法の発明について、実施可能要件を満たしていないとした審決が維持されました。個人発明です。拒絶理由通知の段階では発明該当性も指摘されていました。\n公開公報は下記です。

◆特願2015-176188

ア 「下方導水路250内の液体がその管内を落下し、その落下により揚水 路200の頂上部が真空域に保たれ、その結果、大気圧によって貯液部1 00の液体が揚水路200に揚水される」との点について
(ア) 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には、「少なくとも下部が液 体で満たされた貯液部(100)と、下部が前記貯液部(100)の前 記液体の液面下部に沈み、上部が該液面上部に出る様に設置され、上端 部近傍の前記液面より所定の高さ位置に液取り出し口が設けられた揚 水路(200)と」、「発電開始前に前記圧縮気体貯蔵タンク(600) に圧縮した気体を貯蔵するとともに、前記ゲート(300)を閉めて前 記揚水路(200)および前記下方導水路(250)内に前記液体を充 填しておき、発電時に前記ゲート(300)を開けて」との記載がある。 また、本願明細書には、「本システムの起動前に不図示の揚水ポンプで水 槽の水を揚水棟200の中全てを満たす様に揚水して揚水棟内を真空 域にしている」との記載(【0040】)がある。 これらの記載によれば、本願発明において、発電の開始前には、揚水 路200等に存在する液体(以下では、「液体」は「水」であるとする。) は、「一端」が貯液部100の水面下にあり、そこから、揚水路200、 (実施例【0038】では上部導水路210を介し)下方導水路250 を経て、「他端」はゲート300まで存在しており、揚水路200等は水 で満たされていることが理解できる。また、本願明細書の「大気圧室4 00の水面は下部導水路260の下部より低く保つ」との記載(【004 1】)から、上記水の「一端」を上流側、「他端」を下流側とすると、ゲ ート300よりも下流側の管内には水が存在しないことが理解できる。
(イ) 前記(ア)を踏まえ、ゲート300を開けたときの前記(ア)の水(「一 端」が貯液部100の水面下にあり、そこから、揚水路200、(上部導 水路210を介し)下方導水路250を経て、「他端」がゲート300ま で存在する水)の挙動を検討する。 揚水路200内にある水と下方導水路250内にある水は、その上部 が(実施例(【0038】)では、上部導水路210内の水を介して)つ ながっている。
そして、乙2に示されている考え方(被告はこれを「サイフォンの原 理」として説明し、原告もその説明を争っていない。)によれば、揚水路 200の下部が存する貯液部100の水面(図1の水槽100の水面) には、大気圧(その圧力を「A」とする。)と貯液部100の水面から揚 水路200の頂部まで存在する水の圧力(水の重さによる圧力。その圧 力を「B」とする。)がかかる。他方、下方導水路250の下端には、水 平導水路260内の平均気圧(その圧力を「C」とする。)と下方導水路 250の下端から頂部までに存在する水の圧力(水の重さによる圧力。 その圧力を「D」とする。)が働く。
ここで、本願発明では、「発電時に前記ゲート(300)を開け」た際 に、「前記圧縮気体貯蔵タンク(600)に貯蔵されている圧縮気体」が 「前記水平導水路(260)から前記集液部(400)に射出される」 ため、水平導水路260内の平均気圧(C)は大気圧(A)より大きく なる(C>A)。また、水による圧力については、貯液部100の水面か ら揚水路200の頂部までの長さの方が下方導水路250の下端から頂 部までの長さよりも長いから、貯液部100の水面から揚水路200の 頂部まで存在する水の圧力の方が大きくなる(B>D)。
そうすると、水を持ち上げる向きを正の向きとして、揚水路200の 下部が存する貯液部100の水面に働く圧力(A−B)と、下方導水路 250の下端に働く圧力(C−D)とを比較すると、後者の方が大きい から、ゲート300を開けると、下方導水路250内の水は、一旦上方 に持ち上がった後、揚水路200に流れ落ちていくものと考えられる。 なお、ゲート300を開けた際に、水平導水路260及び大気室40 0から空気が下方導水路250内に入り込むと、下方導水路250内の ゲート300付近にあった水が水平導水路260側へ落下することがあ り得るが、これは、入り込んだ上記空気と上記水が入れ替わることによ って生じる現象であって、このことによって、下方導水路250や揚水 路200に真空域が生じることはなく、貯液部100から揚水路200 に向かって水が引き揚げられるといった現象も生じないものと理解され る。したがって、本願明細書の記載から、原告が主張する「発電時に、重 力落下エネルギーの作用によって下方導水路250内の液体がその管内 を落下し、その落下により揚水路200の頂上部が真空域に保たれ、そ の結果、大気圧によって貯液部100の液体が揚水路200に揚水され る」ことが起こることを理解することはできない。
イ 「大気圧室400内において大気圧より低い低圧力空間が生成される」 との点について
原告は、本願発明では発電時、圧縮気体供給路670の出口より集液部 (大気圧室)400へ圧縮気体を射出することで、大気圧室400内にお いて、その圧縮気体の体積分の大気圧の気体が押しのけられて、大気圧よ り低い低圧力空間が生成されると主張し、更にその説明として、圧縮空気 の保有エネルギーが、大気圧の気体を押しのけるためのエネルギーよりも 大きいため、圧縮空気を大気圧室400へ連続的に供給することによって、 大気圧室400内の空気を常時押しのけることが可能となる旨主張する。しかしながら、本願明細書には、大気圧より高い圧力を有する圧縮気体\nを大気圧に維持された空間に放出することによって、当該空間に大気圧よ り低い低圧力空間が形成されることについての記載はなく、また、これを 裏付ける技術常識についての立証もない。 さらに、前記アのとおり、ゲート300を開けた場合、下方導水路25 0内の液体は、水平導水路260の方向に流れないものと考えられるとこ ろ、原告が主張する大気圧室400内の低圧力空間が、下方導水路250 内の液体を、水平導水路260を通って大気室400の方向に引き出すほ どの力を生じさせることを認めるに足りる証拠もない。 そうすると、本願明細書の記載から、原告が主張する「大気圧室400 内において大気圧より低い低圧力空間が生成される」ことを理解すること はできず、さらに、その低圧力空間の作用によって下方導水路250内の 液体がその管内を落下することが生じるものと理解することもできない。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10052  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月20日  知的財産高等裁判所

 髪の毛のカット手法を分析する方法について、発明該当性無しとした審決が維持されました。

以上によれば,本願補正発明の第1のステップないし第4のステップは, 全体として考察すると,分析者が,頭髪の知識等を利用して自然乾燥ヘア スタイルを推定し(第1のステップ),分析の対象となる頭部の領域を選択 し(第2のステップ),セクションに適した分類項目の中から分析者が推定 した分析対象者のヘアスタイルを分類し(第3のステップ),この分類に対 応するカット手法の分析を導出する(第4のステップ)ことを,頭の中で すべて行うことが含まれるものである以上,仮に,分析者が頭の中で行う 分析の過程で利用する頭髪の知識や経験に自然法則が含まれているとして も,専ら人の精神的活動によって前記1(1)で認定した課題の解決すること を発明特定事項に含むものであって,「自然法則を利用した技術的思想の創 作」であるとはいえないから,特許法2条1項に規定する「発明」に該当 するものとはいえない。

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令和2(行ケ)10005 特許権  行政訴訟 令和2年11月10日  知的財産高等裁判所

 特29−2違反に対して、先願は未完成発明と主張しましたが、知財高裁(1部)はこれを退けて、拒絶審決を維持しました。

 ア 原告は,当業者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度に まで具体的・客観的なものとして構成されていないいわゆる「未完成発明」は,特\n許法29条の2における「他の特許出願‥の発明」に当たらず,後願排除効を有さ ないとし,甲1明細書に記載された発明は発明として未完成であると主張する。
イ そこで判断するに,特許法184条の13により読み替える同法29条の2 は,特許出願に係る発明が,当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録 出願であって,当該特許出願後に特許掲載公報,実用新案掲載公報の発行がされた ものの願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書等」という。)に記 載された発明又は考案と同一であるときは,その発明について特許を受けることが できないと規定する。 同条の趣旨は,先願明細書等に記載されている発明は,特許請求の範囲以外の記 載であっても,出願公開等により一般にその内容は公表されるので,たとえ先願が\n出願公開等をされる前に出願された後願であっても,その内容が先願と同一内容の 発明である以上,さらに出願公開等をしても,新しい技術をなんら公開するもので はなく,このような発明に特許権を与えることは,新しい発明の公表の代償として\n発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でない,というものである。 このような趣旨からすれば,同条にいう先願明細書等に記載された「発明」とは, 先願明細書等に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握され る発明をいい,記載されているに等しい事項とは,出願時における技術常識を参酌 することにより,記載されている事項から導き出せるものをいうものと解される。 したがって,特に先願明細書等に記載がなくても,先願発明を理解するに当たっ て,当業者の有する技術常識を参酌して先願の発明を認定することができる一方, 抽象的であり,あるいは当業者の有する技術常識を参酌してもなお技術内容の開示 が不十分であるような発明は,ここでいう「発明」には該当せず,同条の定める後願\nを排除する効果を有しない。また,創作された技術内容がその技術分野における通 常の知識・経験を持つ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術 効果をあげることができる程度に構成されていないものは,「発明」としては未完成\nであり,特許法29条の2にいう「発明」に該当しないものというべきである。
ウ これを本件についてみると,・・・・
エ 以上によれば,ガラス合紙の,シリコーンのポリジメチルシロキサンであ る有機ケイ素化合物の含有量を3ppm以下,好ましくは1ppm以下で,0. 05ppm以上とした先願発明は,ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケ イ素化合物に起因する配線の不良等を大幅に低減でき,特にポリジメチルシロキ サンがガラス板に転写され,より配線や電極の不良等が発生し易くなることを抑 制できるものであって,先願発明の目的とする効果を奏するものであること,そ のようなガラス合紙は,ポリジメチルシロキサンを含有する消泡剤を使用しない で製造したパルプを原料として用い,ガラス合紙の製造工程において,パルプの 洗浄,紙のシャワー洗浄,水槽を用いる洗浄や,これらを2種以上行う方法によ り製造できること,以上のことが理解できる。
そうすると,先願発明は,創作された技術内容がその技術分野における通常の知 識・経験を持つ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果を あげることができる程度に構成されたものというべきである。\nよって,先願発明は,特許法29条の2にいう「発明」に該当し,未完成とは いえないから,同条により,これと同一の後願を排除する効果を有する。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10110 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年6月18日  知的財産高等裁判所

 債権の決済方法は発明ではないと認定されました。出願人は銀行です。問題のクレームは以下のようにシンプルです。別途分割出願もあります。

【請求項1】 電子記録債権の額に応じた金額を債権者の口座に振り込むための第1の振込 信号を送信すること, 前記電子記録債権の割引料に相当する割引料相当料を前記電子記録債権の債 務者の口座から引き落とすための第1の引落信号を送信すること, 前記電子記録債権の額を前記債務者の口座から引き落とすための第2の引落 信号を送信することを含む,電子記録債権の決済方法。

 本願発明の発明該当性について
 前記(2)の観点から,本願発明の発明該当性について検討する。 ア(ア) 前記(1)イ(イ)のとおり,本願発明は,従来から利用されている電子 記録債権による取引決済における割引について,債権者をより手厚く保 護するため,割引料の負担を債務者に求めるよう改訂された下請法の運 用基準に適合し,かつ,債務者や債権者の事務負担や管理コストを増大 させることなく,債務者によって割引料の負担が可能な電子記録債権の決済方法を提供するという課題を解決するための構\成として,本願発明に係る構成を採用したものである。一方,本願発明の構\成のうち,「(所定の)金額を(電子記録債権の)債権者の口座に振り込むための振込信号を送信すること」,及び「(所定 の)金額を電子記録債権の債務者の口座から引き落とすための引落信号 を送信すること」は,電子記録債権による取引決済において,従前から 採用されていたものであり,また,「電子記録債権の額を(電子記録債権 の)債務者の口座から引き落とす」ことは,下請法の運用基準の改訂前 後で,取扱いに変更はないものである。 そうすると,本願発明は,「電子記録債権の額に応じた金額を債権者の 口座に振り込む」ことと,「前記電子記録債権の割引料に相当する割引料 相当料を前記電子記録債権の債務者の口座から引き落とす」こととを, 前記課題を解決するための技術的手段の構成とするものであると理解できる。\n
(イ) また,本願明細書には,「本発明」の効果として,「電子記録債権の 割引が行われる場合,債務者や債権者の事務負担や管理コストを増大さ せることなく,割引料を負担する主体を債務者とすることで,割引困難 な債権の発生を効果的に抑制することが可能となるという効果を奏する」ことが記載されている(前記(1)イ)。 一方,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,電子記録債権の 決済方法として,「電子記録債権の額に応じた金額を債権者の口座に振 り込むための第1の振込信号を送信すること」,「前記電子記録債権の割 引料に相当する割引料相当料を前記電子記録債権の債務者の口座から 引き落とすための第1の引落信号を送信すること」,「前記電子記録債権 の額を前記債務者の口座から引き落とすための第2の引落信号を送信 すること」が記載されているに過ぎないため,かかる構成を採用することにより,「自然法則を利用した」如何なる技術的手段によって,債務者\nや債権者の事務負担や管理コストを増大させないという効果を奏する のかは明確でなく,本願明細書にもこの点を説明する記載はない。 なお,本願明細書には,「本発明」の実施形態1及び2の決裁方法は, 割引料の負担主体が債権者と債務者のいずれの場合にも対応すること ができるため,債権者と債務者は,従来利用してきた電子決済サービス を引き続き利用することができ,支払業務等の負担の軽減と人的資源を 引き続き有効に活用することができる旨の記載があるが(前記(1)イ(カ)),これは,従来から利用されている電子記録債権による取引決済における割引を対象とする発明であることによって,当然に奏する効果であるものと理解できる。
また,本願明細書に記載された本願発明の効果のうち,「割引困難な債 権の発生を効果的に抑制することが可能となる」という点については,「本発明」の実施形態1及び2に関する本願明細書の【0051】及び\n【0082】の記載(「また,電子記録債権を割引した際の割引料を債務 者が負担する場合,債権者は割引の際に一時的に負担した割引料を債務 者から回収することができる。さらに,割引料相当料の負担を軽減する ための方策を構築するための動機づけを債務者に対して与えることができるため,支払遅延や割引困難な債権の発生を効果的に抑制すること\nが可能となる。」)に照らすと,かかる効果は,電子記録債権の割引料を債務者が負担する方式に改めたことによる効果であることを理解でき\nる。
(ウ) 以上によれば,本願発明は,電子記録債権を用いた決済方法におい て,電子記録債権の額に応じた金額を債権者の口座に振り込むとともに, 割引料相当料を債務者の口座から引き落とすことを,課題を解決するた めの技術的手段の構成とし,これにより,割引料負担を債務者に求めるという下請法の運用基準の改訂に対応し,割引料を負担する主体を債務\n者とすることで,割引困難な債権の発生を効果的に抑制することができ るという効果を奏するとするものであるから,本願発明の技術的意義は, 電子記録債権の割引における割引料を債務者負担としたことに尽きると いうべきである。
イ 前記アで認定した技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の 構成及びその構\成から導かれる効果等の技術的意義を総合して検討すれ ば,本願発明の技術的意義は,電子記録債権を用いた決済に関して,電子 記録債権の割引の際の手数料を債務者の負担としたことにあるといえる から,本願発明の本質は,専ら取引決済についての人為的な取り決めその ものに向けられたものであると認められる。 したがって,本願発明は,その本質が専ら人為的な取り決めそのものに 向けられているものであり,自然界の現象や秩序について成立している科 学的法則を利用するものではないから,全体として「自然法則を利用した」 技術的思想の創作には該当しない。 以上によれば,本願発明は,特許法2条1項に規定する「発明」に該当 しないものである。
ウ これに対し原告は,(1)請求項に係る発明が自然法則を利用しているかど うかは,本願発明の構成要件全体を単位として判断すべきものであるから,本件審決のように,本願発明の一部の構\成要件を単位とした判断には意味がなく,本件審決の判断には誤りがある,(2)仮に,本願発明の一部の構成要件を単位とした判断をする場合であっても,本願発明の各処理の実行は,\n全て信号の送受信によって達成されるところ,信号の送受信は,金融取引 上の業務手順そのものを特定するだけで達成できるものではなく,自然法 則を利用することで初めて達成できるものである,(3)本願発明を全体とし てみれば,「第1の引落信号」の送信と「第2の引落信号」の送信とを別々 に行うことができる構成を有していることから,「債務者の口座から割引料相当額を引き落とす時期」と「債務者の口座から電子記録債権の額を引き\n落とす時期」とを分けることができ,その結果,債務者が「割引料」と「電 子記録債権の額」とを区別して管理することが容易になり,例えば,「債務 者は,事務的な負担の増大を伴うことなく,一定期間に支払わなければな らない割引料相当料を容易に,かつ正確に把握することができる。」(本願 明細書【0017】)という効果を奏することができ,また,「第1の引落 信号を送信する」という構成は,債務者が割引料を負担するに当たって,実際の現金を用いなくても電子的な情報のやり取りによって,手続的負担\nを抑制するという効果を奏するから,全体として特許法2条1項の「自然 法則を利用した技術的思想の創作」に該当する,(4)本願発明を「コンピュ ータソフトウエア関連発明」であるとみても,「第1の引落信号」及び「第2の引落信号」を区別して送信する構\成は,コンピュータ同士の間で行われる必然的な技術的事項を越えた技術的特徴であるから,自然法則を利用 した技術的思想の創作である旨主張する。 まず,上記(1)の点について,本願発明を全体として考察した結果,「自然 法則を利用した」技術的思想の創作には該当しないと判断されることにつ いては,前記イのとおりである。 上記(2)の点については,前記アのとおり,本願発明において,「信号」を 「送信」することを構成として含む意義は,電子記録債権による取引決済において,従前から採用されていた方法を利用することにあるのに過ぎな\nい。すなわち,前述のとおり,本願発明の意義は,電子記録債権の割引の 際の手数料を債務者の負担としたところにあるのであって,原告のいう「信 号」と「送信」は,それ自体については何ら技術的工夫が加えられること なく,通常の用法に基づいて,上記の意義を実現するための単なる手段と して用いられているのに過ぎないのである。そして,このような場合には, 「信号」や「送信」という一見技術的手段に見えるものが構成に含まれているとしても,本願発明は,全体として「自然法則を利用した」技術的思\n想の創作には該当しないものというべきである。 上記(3)の点について,本願明細書の記載(【0017】)によれば,原告 が主張する「債務者は,事務的な負担の増大を伴うことなく,一定期間に 支払わなければならない割引料相当料を容易に,かつ正確に把握すること ができる。」との効果は,「金融機関」が,「電子的通信手段を用い,割引料 に相当する金額・・・を定期的・・・に算出し,各債務者に対して割引料相当料が 確定したことを定期的に通知する」ことにより奏するものであることを理 解できるところ,上記の構成は,本願発明の構\成に含まれないものである。 また,「債務者の口座から割引料相当額を引き落とす時期」と「債務者の口 座から電子記録債権の額を引き落とす時期」とを分けることにより,債務 者が「割引料」と「電子記録債権の額」を区別して管理することが容易に なるとの効果については,本願明細書に記載されていないし,本願発明の 特許請求の範囲(請求項1)には,「第1の引落信号を送信すること」と「第 2の引落信号を送信すること」が記載されているに過ぎず,その構成に上記信号を送信する時期や,上記信号に基づきいつどのように引落しが行わ\nれるかを含むものではない。
そして,実際の現金を用いなくても電子的な情報のやり取りによって, 手続的負担を抑制するという効果は,前記ア(イ)で説示したように,電子 記録債権による取引決済における割引を対象とする発明であることによっ て,当然に奏する効果である。
上記(4)の点については,請求項1には,3つの信号を送信することが記 載されるにとどまり,ソフトウエアによる情報処理が記載されているものではない。したがって,本願発明は,コンピュータソ\フトウエアを利用するものという観点からも,自然法則を利用した技術的思想の創作であると はいえない。 以上のとおり,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。
(3) 小括
以上によれば,本件審決が,本願発明は,特許法2条1項の「自然法則 を利用した技術的思想の創作」とはいえないから,同法29条1項柱書に 規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないものである 旨判断した点に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。

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平成29(行ケ)10232  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年10月17日  知的財産高等裁判所(2部)

 「いきなりステーキ」の提供の仕方について、異議申立では発明でないと判断されましたが、知財高裁はこの審決を取消ました。なお、異議申\立では、進歩性は争点となっていないので、判断されていません。
問題の請求項1は下記です。
【請求項1】
A お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと,お客様からステーキの量を伺うステップと,伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと,カットした肉を焼くステップと,焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって,
B 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と,
C 上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と,
D 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え,
E 上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと,
F 上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする,
G ステーキの提供システム。
 以上によると,本件特許発明1は,ステーキ店において注文を受けて配 膳をするまでの人の手順(本件ステーキ提供方法)を要素として含むものの,これ にとどまるものではなく,札,計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機 器(装置)からなる本件計量機等に係る構成を採用し,他のお客様の肉との混同が生じることを防止することにより,本件ステーキ提供方法を実施する際に不可避的\nに生じる要請を満たして,「お客様に好みの量のステーキを安価に提供する」という 本件特許発明1の課題を解決するものであると理解することができる。
(2) 本件特許発明1の発明該当性
前記(1)のとおり,本件特許発明1の技術的課題,その課題を解決するための技術 的手段の構成及びその構\成から導かれる効果等の技術的意義に照らすと,本件特許 発明1は,札,計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(本件計量機 等)を,他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するため の技術的手段とするものであり,全体として「自然法則を利用した技術的思想の創 作」に該当するということができる。 したがって,本件特許発明1は,特許法2条1項所定の「発明」に該当するとい うことができる。
(3) 被告らの主張について
ア 被告らは,本件特許発明1には,「札」から「計量機」へ,「計量機」か ら「印し」又は「シール」へと「テーブル番号」を伝達させる工程や,この「テー ブル番号」を本件特許発明1において特定されている各ステップの間で伝達するた めの工程は明示的に存在せず,例えば,「札」のテーブル番号を計量機に情報として 伝達する主体が何であるのかは,特許請求の範囲において何ら特定されていないな どと主張する。 しかし,前記(1)エのとおり,本件特許発明1は,「札」に「お客様を案内したテー ブル番号が記載され」,「計量機」が,「上記お客様の要望に応じてカットした肉を計 量」し,「計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出 力」し,この「シール」を「お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のも のと区別する印し」として用いることにより,お客様の要望に応じてカットした肉 が他のお客様の肉と混同が生じないようにすることに,その技術的意義がある。本 件ステーキ提供方法の各ステップ間で,誰が,どのような方法によりテーブル番号 を伝達するのかということは,上記技術的意義との関係において必須の構成という\nことはできないから,特許請求の範囲において,上記主体や工程に係る構成が特定\nされていないことは,本件特許発明1の発明該当性についての前記判断を左右する ものではない。 イ 被告らは,本件特許発明1において,「テーブル番号」は,その番号が「テ ーブル」に割り当てられており,お客様がそのテーブル番号のテーブルにおいてス テーキを食べるという人為的な取決めを前提に初めて意味を持つものであるから, そのようなテーブル番号を含む情報が伝達されるからといって,本件特許発明1の 技術的意義が自然法則を利用した技術的思想として特徴付けられるものではないな どと主張する。 しかし,お客様がそのテーブル番号のテーブルにおいてステーキを食べることが 人為的な取決めであることと,そのテーブル番号を含む情報を本件計量機等により 伝達することが自然法則を利用した技術的思想に該当するかどうかとは,別の問題 であり,前者から直ちに後者についての結論が導かれるものではない。そして,本 件計量機等が,他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決す るための技術的手段として用いられており,本件特許発明1が「自然法則を利用し た技術的思想の創作」に該当することは,前記(2)のとおりである。
ウ 被告らは,本件特許発明1において,特定のお客様が要望する量の肉と 他のお客様の肉との混同が生じないのは,「テーブル番号」を「キー情報」として「お 客様」と「肉」とを1対1に対応付けたことによるものであって,「肉の量」そのも のとは何らの関係がないなどと主張する。 確かに,本件明細書には,「この混同が生じないようにカットした肉Aに付すシー ルSに変えて,テーブル番号が記載された旗をカットした肉Aに刺す等の方策によ り,混同を防止する印しとしても良い。」(【0013】)と記載されており,「テーブル番号」を「キー情報」として「お客様」と「肉」とを1対1に対応付けるという 技術的思想をうかがうことができる。 しかし,前記(1)エのとおり,肉の量は,お客様ごとに異なるものである。そして, 本件明細書には,「計量機から打ち出された,ステーキの種類及び量,価格,テーブ ル番号が記された2枚のシールの内の一枚をステーキのオーダー票とし,先のステ ーキ以外のオーダー票に貼着することにより保管し」(【0012】),「焼かれ,加熱した鉄皿に乗せられたステーキを,ライス等の他のオーダー品と共に・・・,保管したオーダー票でその商品を確認し,オーダー票と共にお客様のテーブルに運ぶ」\n(【0014】)ことが記載されており,肉の量を記載したシールによって他のお客 様の肉との混同が生じていないことを確認することが記載されている。 そうすると,本件特許発明1は,本件訂正によりその技術的範囲に含まれないこ ととなった「テーブル番号が記載された旗をカットした肉Aに刺す」ことを混同防 止の印しとする方法とは異なり,計量機が出力したシールに記載された肉の量とテ ーブル番号という複数の情報を合わせて利用して,他のお客様の肉との混同を防止 するものということができるから,肉の量の情報が他のお客様の肉との混同を防止 するという効果に寄与しないものとはいえない。
エ 被告らは,本件特許発明1には,お客様が案内されるテーブルとカット ステージとが店内の別の場所に存在すること,お客様が案内されたテーブルからカ ットステージまで移動し,カットステージにおいてカットされた肉を確認した後, 案内したテーブルに戻るといった手順は,何ら特定されていないから,必ずしも特 定のお客様の肉と他のお客様の肉との混同が生じるものとはいえないなどと主張す る。 しかし,前記(1)エのとおり,他のお客様の肉との混同を防止することは,お客様 に好みの量のステーキを提供することを目的(課題)として,「お客様からステーキ の量を伺うステップ」及び「伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするス テップ」を含む本件ステーキ提供方法を実施する構成(前記(1)ア(イ)1))を採用した ことから,カットした肉とその肉の量を要望したお客様とを1対1に対応付ける必 要が生じたことによって不可避的に生じる要請であり,被告ら主張の上記手順が特 定されなければ,他のお客様の肉との混同を防止する必要が生じないということは できない。
オ 被告らは,本件特許発明1において,「札」,「計量機」,「印し」又は「シ ール」は,それぞれ独立して存在している物であって,単一の物を構成するものではなく,また,本来の機能\の一つの利用態様が特定されているにすぎないなどと主張する。 しかし,「札」,「計量機」及び「シール(印し)」は,単一の物を構成するものではないものの,前記(1)エのとおり,いずれも,他のお客様の肉との混同を防止する という効果との関係で技術的意義を有するものであって,物の本来の機能の一つの利用態様が特定されているにすぎないとか,人為的な取決めにおいてこれらの物を\n単に道具として用いることが特定されているにすぎないということはできない。

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平成28(行ケ)10249  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月23日  知的財産高等裁判所

 永久機関について、発明の成立性違反、実施可能要件違反とした審決が維持されました。本人訴訟です。
 本願明細書を参酌すると,本願発明は,バッテリの電力をDCモータに給電し, 起電コイルから生じた電力の一部をバッテリに充電しながらDCモータに再給電し てDCモータを永久に稼働させ,起電コイルから生じた電力の残りを外部に永久に 供給するとしたものであり,入力した以上の電力(エネルギー)を出力するとした ものであって,明らかに永久機関とみられるものである(なお,本願発明に係る特 許請求の範囲には,トルク脈動レス発電機を「連続的」に稼働させ続ける,電力を 「連続的」に給電し続けるとの記載があるが,この「連続的」が「永久」を意味す ることは,前記1に認定の本願明細書の記載から明らかである。)。 したがって,原告が自認するとおり,本願発明は,エネルギー保存の法則という 物理法則に反するものであるから,自然法則を利用したものではなく,特許法29 条1項柱書の「発明」ではない。
(イ) 原告の主張について
原告は,本願発明がエネルギー保存の法則を破るものであると主張するが,DC モータの銅損若しくは鉄損等の損失又は起動コイルの銅損の損失,あるいは,ネオ ジム磁石と起電コイルとの間で作用する力などを全く考慮しておらず,その主張は 失当である。 また,原告は,DCモータに給電した直流電圧よりも高い交流電圧が起電コイル に発生していると主張し,本願明細書の図4の記載を援用するが,起電コイルから の出力電圧が上がったからといって,DCモータに供給される電力(消費電力)よ りも起電コイルから出力される電力が上回るということはできないから,その主張 は失当である。
(ウ) 小括
以上から,本願発明は,特許法29条1項柱書の「発明」に該当しないから,発 明該当性を欠くとした審決の判断には,誤りはない。
ウ 実施可能要件について
本願発明は,自然法則に反するものであるから,本願明細書の発明の詳細な説明 のいかなる記載をもってしても,当業者が本願発明を実施できないことは明らかで ある。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号の実 施可能要件を欠くとした審決の判断には,誤りはない。\n

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平成27(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年2月24日  知的財産高等裁判所

 特許法上の発明に該当するか争われました。知財高裁は発明でないとした審決を維持しました。
 本願発明は,前記1(2)のとおり,1)省エネ行動をリストアップして箇条書にし た表などを利用する者が,各省エネ行動によってどれくらいの電力量等を節約でき\nるのかを一見して把握することが難しいことや,どの省エネ行動を優先的に行うべ きかを把握することが難しいことを「前提とする技術的課題」とし,2)「建物内の 場所名と,軸方向の長さでその場所での単位時間当たりの電力消費量とを表した第\n三場所軸」,「時刻を目盛に入れた時間を表す第三時間軸」及び「省エネ行動により\n節約可能な単位時間当たりの電力量を第三場所軸方向の軸方向の長さ,省エネ行動\nの継続時間を第三時間軸の軸方向の長さとする第三省エネ行動識別領域」を設けた 「省エネ行動シート」において,「該当する第三省エネ行動識別領域に示される省 エネ行動を取ることで節約できる概略電力量(省エネ行動により節約可能な単位時\n間当たりの電力量と省エネ行動の継続時間との積算値である面積によって把握可能\nな電力量)を示すこと」を「課題を解決するための技術的手段の構成」として採用\nすることにより,3)利用者が,省エネ行動を取るべき時間と場所を一見して把握す ることが可能になり,かつ,各省エネ行動を取ることにより節約できる概略電力量\n等を把握することが可能になるという「技術的手段の構\成から導かれる効果」を奏 するものである。 そうすると,本願発明の技術的意義は,「省エネ行動シート」という媒体に表示\nされた,文字として認識される「第三省エネ行動識別領域に示される省エネ行動」 と,面積として認識される「省エネ行動を取ることで節約できる概略電力量」を利 用者である人に提示することによって,当該人が,取るべき省エネ行動と節約でき る概略電力量等を把握するという,専ら人の精神活動そのものに向けられたもので あるということができる。 なお,本願発明においては,上記のとおり,媒体として「省エネ行動シート」を 構成として含むものであるが,本願明細書の【0065】には,「以上の省エネ行\n動シート作成装置により出力された省エネ行動シートのデータは,プリンタ装置に 対してデータ出力して印刷された状態で取り出すことも可能であるし,ディスプレ\nイ装置に対してデータ出力して画面上に表示させることも可能\である。また,記録 媒体に記録したり,通信装置を利用してネットワーク上の他の装置にデータ送信し たりすることも可能である。」と記載されているように,「省エネ行動シート」とい\nう媒体自体の種類や構成を特定又は限定していないから,本願発明の技術的意義は,\n「省エネ行動シート」という「媒体」自体に向けられたものとはいえない。
・・・
ア 原告は,自然法則の利用があるかどうかは,発明の作用,効果ではなく,特 許請求の範囲の請求項に記載された構成要件自体(発明特定事項)が自然法則に従\nう要素であるか否かによって判断すべきであり,本願発明においては,シートは典 型的には紙であり,領域や領域名は典型的にはインクによって構成されており,請\n求項には,紙とインクという自然物によって線画を所定位置に配置するという工夫 のみが記載され,本願発明の構成要件のいずれにも精神活動等である構\成要件は含 まれていないから,本願発明が自然法則を利用した技術的思想の創作に該当しない ということはできない旨主張する。 しかし,前記(1)のとおり,特許を受けようとする発明が,自然法則を利用した 技術的思想の創作に該当するか否かの判断は,前提とする技術的課題,課題を解決 するための技術的手段の構成及び技術的手段の構\成から導かれる効果等の技術的意 義に照らし,全体として考察した結果,「自然法則を利用した技術的思想の創作」 に該当するといえるか否かによって判断すべきものである。そして,明細書の「発 明の詳細な説明」の記載に関して,特許法36条4項1号が,「発明が解決しよう とする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術分野における通常の知 識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」(特許法施行規 則第24条の2)により「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有す る者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるこ\nと」と定めていることからすれば,特許を受けようとする発明の技術上の意義の把 握は,同法36条5項が定める特許請求の範囲の請求項に記載された発明の発明特 定事項(構成要件)だけではなく,明細書の発明の詳細な説明をも参酌すべきであ\nる。

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平成26(行ケ)10101  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年1月22日  知的財産高等裁判所

 発明でないとした拒絶審決が維持されました。本人訴訟です。
 原告は,仮に,本願発明が人間の精神活動に関するものを含む場合であったとしても,請求項に記載された発明の構成が,人間の精神活動を支援する技術的手段を提供するものであるときは,「発明」に当たらないとしてこれを特許の対象から排除するべきではなく,本願発明は,「自然法則を利用した技術により創作されたもの」すなわち「教材」を利用しており,また,情報(原文文字列)の加工過程において自然法則に基づいた技術が利用されているから,「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当する旨主張する。\nしかしながら,本願発明は,「教材」という媒体をその構成とするものであるが,「教材」という媒体自体の種類や構\成を特定ないし限定しておらず,本願発明の技術的意義が「教材」という媒体自体に向けられたものであるといえないことは、前記(3)エ記載のとおりである。本願発明における「教材」という媒体をその構成として含む意義は,暗記学習の対象となる事項を記録し,表\示するために一般に用いられている媒体を利用するにすぎず,このような内容を付加するにすぎない場合には,全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当するということはできない。 また,原告は,「情報(原文文字列)の加工過程において自然法則に基づいた技術が利用されている」旨主張するものの,「自然法則に基づいた技術」が利用されていると抽象的に述べるのみで,本願発明における,暗記学習用虫食い文字列は,原文文字列を対象として作成され,第1の伏字部分が設けられた第1の虫食い文字列と,同じ原文文字列を対象として第1の虫食い文字列とは別に作成され,第1の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2の伏字部分が設けられた第2の虫食い文字列とを含むようにするという過程に,いかなる「自然法則に基づいた技術」が利用されているものかを具体的に主張するものではない。本願発明は,原文文字列に伏字部分を設けることにより作成された暗記学習用虫食い文字列から成る構成を有するものであるが,かかる構\成を含め,本願発明の技術的課題,課題を解決するための技術的手段の構成及びその構\成から導かれる効果等の技術的意義を総合して検討すれば,本願発明の技術的意義は,暗記学習用教材という媒体に表示された暗記すべき事項の暗記学習の方法そのものにあるといえ,本願発明の本質は,専ら人の精神活動そのものに向けられたものであると認められることは、前記(4)記載の通りである。

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平成26(行ケ)10014  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟  平成26年9月24日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、29条柱書違反とした審決が維持されました。コンピュータ関連発明について自然法則の利用性が争われたのは、久しぶりですね。
そうすると,請求項に記載された特許を受けようとする発明が,特許法2条1項に規定する「発明」といえるか否かは,前提とする技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構\成から導かれる効果等の技術的意義に照らし,全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当するか否かによって判断すべきものである。 そして,上記のとおり「発明」が「自然法則を利用した」技術的思想の創作であることからすれば,単なる抽象的な概念や人為的な取決めそれ自体は,自然界の現象や秩序について成立している科学的法則とはいえず,また,科学的法則を何ら利用するものではないから,「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当しないことは明らかである。また,現代社会においては,コンピュータやこれに関連する記録媒体等が広く普及しているが,仮に,これらの抽象的な概念や人為的な取決めについて,単に一般的なコンピュータ等の機能を利用してデータを記録し,表\示するなどの内容を付加するだけにすぎない場合も,「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当しないというべきである。 そこで,まず,本件補正発明が前提としている課題についてみると,前記1ウの本願明細書の「従来技術では,文字を組み合わせて意味を持つ単語を生成する。単語は言語の中にあり,言語の中だけでその単語の意味を直接持つ。意味を直接持つ単語で物や,性質,特徴,意味,概念などの属性という情報を表わす。物を表\わす単語と属性を表わす単語とから成る単語の並びを作り,単語の並びで物の性質や物と物との関係を表\わす。複数の単語の並びを蓄積し,蓄積された単語の並びを知識としていた。この方法では,単語そのものの意味を持つ単語だけを使って知識を構築している。」(段落【0025】),「本発明は,上記の課題に鑑みてなされたものであり,物や属性の意味内容を言語に依存せずに表\現することのできる知識ベースシステムを提供することが目的とする。」(段落【0026】)との記載によれば,従来技術では言語(単語)に依存して知識のデータベ ース等を構築し,情報処理をしていたところ,本件補正発明では言語に依存せずに知識のデータベース等を構\築し,情報処理をするという目的を有していることは,一応理解することができる。
しかしながら,上記記載からは,従来技術において,知識のデータベース等が言語に依存していることによって生じている技術的課題は明らかではない。本願明細書の【背景技術】(段落【0002】ないし【段落0024】)の記載をみても,ニューラルネットワーク,人工知能,プログラミング言語,コンピュータ,インターネットなど極めて多様な内容が記載されているものの,知識に関するデータベースが言語に依存していることでどのような課題が生じているかについては,「情報を知識として蓄積する方法や,知識として記録された情報をうまく使う方法が開発できていない。」(段落【0005】)などの抽象的な記載があるにすぎず,「情報を知識として蓄積する方法」が具体的にどのような意味を有しているのか(上記段落【0025】の記載等によれば,従来技術においても情報を知識として蓄積していると考えられる。),「知識として記録された情報をうまく使う方法」において,うまく使うとはどのような意味であるのかについては明らかではない。また,PLOROGというプログラミング言語について,「子→父→祖父のような3階層以上の関係を直接的に表\わすことはできない。」(段落【0018】),「この技術で物と属性と関係とをデータベースとして保持できるが,物や属性や関係を表わす単語の並びを保持しているにすぎない。単語の並びで物の性質である属性を表\現し,単語の並びで関連を表現している。属性も関係も,単語の並びという同じ方法で表\現されている。情報を体系化したものを知識とすると,情報を現す単語を幾つか並べたものを複数個保持し,保持された単語の並びを知識としている。この方法では,3階層以上の物同士の関連を直接表わす情報は保持されていない。」(段落【0020】)などの\n記載もあるが,これらの記載をみても,言語に依存したデータベース全般において,3階層以上の物同士の関連を直接表す方法が存在するか否かについては必ずしも明らかではないし,本件補正発明において,このような関係を直接表\すことができるか否かについても不明である。
・・・・
以上を総合して検討すれば,本件補正発明については,そもそも前提としている課題の位置付けが必ずしも明らかではなく,技術的手段の構成としても,専ら概念の整理,データベース等の構\造の定義という抽象的な概念ないしそれに基づく人為的な取決めに止まるものであり,導かれる効果についてみても,自ら定義した構造でデータを保持するという本件補正発明の技術的手段の構\成以上の意味は示されていない。また,その構成のうち,コンピュータ等を利用する部分についてみても,単に一般的なコンピュータ等の機能\を利用するという程度の内容に止まっている。 そうすると,本件補正発明の技術的意義としては,専ら概念の整理,データベース等の構造の定義という抽象的な概念ないし人為的な取決めの域を出ないものであって,全体としてみて,「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当するとは認められない。

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平成24(行ケ)10400 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年08月28日 知的財産高等裁判所 

 人間の筋力増強方法について、成立性、進歩性違反などを主張して無効請求をしましたが、無効理由無しとした審決が維持されました。
 上記の各記載によれば,本件発明は,推測されるべき機序及び効果が示されており,その技術内容は,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして示されているといえる。また,本件発明は,緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に流れる血流の阻害とそれに対する生理反応を利用するものであって,生理反応は自然法則に基くものであるから,発明全体として自然法則を利用しているというべきである。したがって,本件発明が,具体性・客観性を有しないこと,及び自然法則の利用がないことを理由として,特許法2条1項所定の「発明」に該当しないとする原告の主張は,採用の限りでない。(2) 原告は,本件発明は,「筋肉増強」という新たな効果の発見にすぎず,特許法2条1項の「発明」に該当しないとも主張する。しかし,この点の原告の主張も,採用の限りでない。原告の主張は,要するに,本件特許の出願前に,筋肉を加圧するトレーニング運動療法に関連した文献(甲44文献)が存在した点を指摘するにすぎないのであって,同主張に係る事実によっては,本件発明が特許法2条1項所定の「発明」に該当しない根拠とはなり得ない。本件発明は,前記のメカニズムにより,目的筋肉を増強できるとの着想に基づき,特許請求の範囲の請求項1に記載した構成を採用したことによって,一定の効果を得る方法を開示するものであるから,単なる自然法則の発見ではない。この点に係る原告の主張は採用できない。3 取消事由2(本件発明の,特許法1条及び29条1項柱書所定の「産業の発達に寄与する」,「産業上利用することができる」との要件充足性を肯定した判断の誤り)に対して
(1) 産業上利用可能性について
本件発明は,特定的に増強しようとする目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより,疲労を効率的に発生させて,目的筋肉をより特定的に増強できるとともに関節や筋肉の損傷がより少なくて済み,さらにトレーニング期間を短縮できる筋力トレーニング方法を提供するというものであって,本件発明は,いわゆるフィットネス,スポーツジム等の筋力トレーニングに関連する産業において利用できる技術を開示しているといえる。そして,本件明細書中には,本件発明を医療方法として用いることができることについては何ら言及されていないことを考慮すれば,本件発明が,「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)であることを否定する理由はない。
(2) 医療行為方法について
原告は,被告が本件発明を背景にして医療行為を行っている等と縷々主張する。本件発明が,筋力の減退を伴う各種疾病の治療方法として用いられており(甲17,29等),被告やその関係者が本件発明を治療方法あるいは医業類似行為にも用いることが可能であることを積極的に喧伝していたこと(甲63,67,68等)が認められる。しかし,本件発明が治療方法あるいは医業類似行為に用いることが可能\であったとしても,本件発明が「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)であることを否定する根拠にはならない。

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平成24(行ケ)10037 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月19日 知的財産高等裁判所

 発明未完成とした審決が取り消されました。
審決が特許法29条1項柱書にいう「産業上利用することができる発明」に当たらない根拠とする事柄のうちガラススライドの大きさに関しては,本件訂正後の請求項1,8の特許請求の範囲に「溶液Aの0.3mlをガラススライドに付け,20°Cで24時間放置した後にガラススライド上を肉眼で観察した時に観察可能な結晶の数が10個以下あり,」との各記載や請求項21の特許請求の範囲に上記結晶の数がゼロであるとの記載があるほか,訂正明細書(甲16)の段落【0009】に「溶液Aの0.3mlをガラススライドに付け,20°Cで24時間放置した後にガラススライド上を肉眼で観察した時に,観察可能な結晶の数が10個以下,好ましくはゼロである。」との記載があるのみで,その大きさを明示する記載は存しない。しかしながら,構\成要件1F(2)の結晶化阻害試験は,フィプロニル等の殺虫活性物質(a)と結晶化阻害剤(b),有機溶媒(c),有機共溶媒(d)から成る組成物を用いた治療・予防薬が,「動物の体の一部に投与するだけで体全体に拡散し,乾燥し,しかも結晶化現象が起きない」ことや,「乾燥後に毛皮の外観に影響を与え」ず,「特に結晶が残らず,毛皮がべとつかないよう」にすること(訂正明細書の段落【0004】)ができるように,上記(a)ないし(c)の各所定量の混合物である溶液Aを面上に少量滴下して所定時間放置(静置)しても,肉眼でも観察できるような大きな結晶が生じないか,又は10個以下の結晶が生じるにすぎないか否かを確認する趣旨のものである。そうすると,上記結晶化阻害試験の目的ないし技術的性格にかんがみれば,訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許発明の範囲中に「ガラススライド」の大きさを明示した記載がなくても,当業者が適宜「ガラススライド」の大きさを選択して試験を実施し得ることは明らかである。
この点,審決は「ガラススライド」といえばまずは顕微鏡観察用の標準サイズのスライドガラスを想起するとし(66頁),被告は,上記結晶化阻害試験では「ガラススライド」の大きさが特定されていないから,適切な大きさの「ガラススライド」を選択するために試行錯誤を要し,当業者が「ガラススライド」の大きさを選択するのが容易でないなどと主張するが,訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許請求の範囲には,顕微鏡で溶液(試料)を観察することは記載されていないから,上記結晶化阻害試験における「ガラススライド」をいわゆる顕微鏡観察用のスライドガラスと同一視する必要はないし,この種の試験を実施する当業者であれば,溶液の粘度や分量に応じて,適切な大きさを有する「ガラススライド」を適宜選択し得るとして差し支えない。仮に試験を実施する者が見込みを誤り,溶液が「ガラススライド」からはみ出す可能性があるとしても,上記結晶化阻害試験がさほど高度の手法を要求するものではないことに照らせば,上記のような見通しの悪い試験者が試験を繰り返す可能\性や,試験の失敗に備えて予備試験をすることがあり得ることは,前記結論を左右するものではない。\n
(2)また,訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許請求の範囲でも,構成要件1F(2)の結晶化阻害試験の試験系内の相対湿度(RH)の範囲や,空気の流れ(風)の有無,強弱についての規定がないが,当業者であれば,上記結晶化阻害試験に関する記載から,近代的設備を備える実験室(研究室)で,標準的な試験環境の範疇を超えない限りで,格別相対湿度を指定しなくてもよいと認識できることが明らかである。そして,一定の温度環境下で試験を実施するのであれば,当業者は通常恒温装置(恒温槽)を使用するところ,被告自身が提出する試験報告書(甲4〜6)によっても,この種の試験を実施する平均的な技量を有する当業者であれば,必要以上の換気による影響を避ける必要があること,又は試料に直接装置による循環風が当たらないようにする必要があることを容易に理解し得ることが明らかである。そうすると,訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許請求の範囲に記載がなくても,逆さにしたビーカーで試料を覆って無風状態にしたり,恒温装置内に密閉容器であるデシケータを入れ,デシケータ内部に湿度を一定に保つ薬剤とともに試料を放置したりする程度の事柄は,当業者が技術常識に基づいて採用するものにすぎず,かような具体的な試験手法まで記載されていなくても,当業者が前記結晶化阻害試験を実施できないものではない。
・・・
(3)結局,訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許請求の範囲に記載がなくても,当業者は構成要件1F(2)の結晶化阻害試験の目的,技術的性格に従って,1)ガラススライドの大きさ,2)温度・湿度の調節及びこれに伴う空気の流れの制御方法,3)相対湿度を適宜選択することができ,試験条件いかんで試験結果が一定しないわけではないから,訂正発明1ないし34が未完成の発明であるとはいえない。したがって,甲第5,第6号証の試験結果を根拠に,構成要件1F(2)の結晶化阻害試験の試験結果が一定しないなどとして,訂正発明1ないし34が未完成の発明であり,特許法29条1項柱書の「産業上利用することができる発明」に当たらないとした審決の認定・判断には誤りがあり,原告主張の取消事由1は理由がある。
2 取消事由2(実施可能要件違反の判断の誤り)について
前記1で認定したとおり,当業者は,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載や特許請求の範囲の記載及び技術常識に基づいて,構成要件1F(2)の結晶化阻害試験を実施し,殺虫活性物質(a),結晶化阻害剤(b),有機溶媒(c)から成る溶液Aのうちから上記構成要件を充足するものを選別することができるから,訂正発明1ないし34に係る訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が発明を実施可能\な程度に明確かつ十分なものである。したがって,これに反する審決の認定・判断には誤りがあり,原告主張の取消事由2は理由がある。\n

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平成24(行ケ)10043 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月06日 知的財産高等裁判所

 カレンダーの発明について発明の成立性を否定した審決が維持されました。
 本願発明は,1)提示情報を偉人情報とし,2)提示態様を特定の提示項目及び特定の配置とし,3)それを表紙及びカレンダー部によりなるカレンダーに定着させ,これによって,4)毎日見るという特性を有するカレンダーとする,という具体的手段により,ユーザに偉人に関する知識を自然に習得させる,という課題を解決するものである,と認められる。以下,上記1)〜4)について,それぞれ検討する。
1)提示情報を偉人情報とすること本願発明は,社会人として身に付けるべき知識又は学業に役立つ教養として,偉人に関する知識が必要であるとの認識の下,提示すべき情報として偉人情報を採用17した。しかしながら,提示する情報が,社会人として身に付けるべき知識,学業に役立つ教養であるか否かという判断は,自然法則とは無関係な人間の主観に基づく選択にすぎず,その結果として偉人情報を採用することについても,たとえ採用に至る過程で何らかの労力を伴ったとしても,単なる人為的な取決めにすぎない。
2)提示態様を特定の提示項目及び特定の配置とすること本願発明において,偉人カレンダーの表紙は,本願明細書(甲24)の【図1】に例示されているように,西暦年度と,見出しと,1月から12月までのカレンダーに使用する偉人表\示欄とを有し,それぞれの偉人表示欄は,偉人図又は写真と,当該偉人図又は写真の「近傍」に設けられ,当該偉人の読み方を併記した偉人名記載欄と,読み方を示した当該偉人の偉人伝要約欄とを有する。しかしながら,表\紙において偉人情報を提示する際,提示すべき事項としてどのような情報を選択するかは,発明者の主観に基づく単なる人為的な取決めにすぎず,また,その結果として特定された提示項目の集合についても,情報の単なる提示の域を超えるものではない。また,「偉人図又は写真」の近傍に「偉人名記載欄」を配置すれば,これらの情報の関連の視認性(見やすさ,分かりやすさ)が高まるといった一定の効果が認められるものの,そのような提示形態自体は,何ら自然法則を利用した具体的手段を伴うものではなく,情報の単なる提示の域を超えるものではない。また,本願発明のカレンダー部は,本願明細書の【図2】に例示されているように,(a)カレンダー部の「上部」に,当該偉人の読み方を併記した名記載欄と偉人図又は写真,当該偉人に縁のある写真又は絵図表示欄,偉人の出身地を示した地図,偉人の生存期間記載欄を設け,(b)カレンダー部の「中央部」に,代表的な業績を読み方とともに記載した偉人伝要約欄,偉人の生涯,業績,エピソ\ードを読み方とともに記載した偉人伝概説欄を設け,(c)カレンダー部の「下部」に,年度欄,月表示欄,曜日欄,日付欄を設けたものである。18しかしながら,カレンダー部において上記(a)〜(c)の情報を提示する際,提示すべき事項としてどのような情報を選択するかは,発明者の主観に基づく単なる人為的な取決めにすぎず,その結果として特定された提示項目の集合についても,情報の単なる提示の域を超えるものではない。また,偉人情報に関する特定の事項と,カレンダー情報とを「上部」,「中央部」及び「下部」の3段組で配置すれば,情報を外観上整理して提示でき,その結果として,見やすさ,分かりやすさといった一定の効果が認められるものの,そのような提示形態自体は,何ら自然法則を利用した具体的手段を伴うものではなく,情報の単なる提示の域を超えるものではない。したがって,そのような提示形態を上記(a)〜(c)の情報の配置に用いたとしても,情報の単なる提示の域を超えるものではない。
3)表紙及びカレンダー部よりなるカレンダーに定着させること本願発明は,「偉人カレンダー」とされていることから,カレンダーという物品を特定していると認められるが,その構\成については,表紙とカレンダー部とを有することが漠然と特定されているにすぎない。そして,本願明細書の発明が解決しようとする課題(【0006】),課題を解決するための手段(【0007】,【0008】)及び発明の効果(【0009】)の記載によれば,本願発明は,カレンダーを用いて偉人情報を提示するという点に創作性がある発明として出願されたものと認められ,表\紙及びカレンダー部のそれぞれは,偉人情報を提示するための紙面を提供するにすぎず,それ以上の情報提示の具体的手段を特定するものではない。そうすると,本願発明は,「表紙及びカレンダー部よりなるカレンダー」と特定することにより物品を形式的には特定しているものの,実質的には,偉人情報とカレンダー情報とが併記された複数枚の紙面,すなわち,情報を提示するための単なる紙媒体と何ら異なるものではない。そうすると,「表\紙及びカレンダー部とを有するカレンダー」といった,物品の漠然とした特定をもって,本願発明が自然法則を利用したものであると評価することはできない。
4)毎日見るという特性を有するカレンダーとすること本願発明は,偉人情報の提示媒体として「毎日見るという特性を有するカレンダー」を用いること,すなわち,偉人情報を特定の提示形態で提示することによって,偉人に関する知識を自然に習得させるという効果を奏するものである。偉人に関する知識を自然に習得させるために,毎日見るというカレンダーの特性に着目した点については,一定の創作性が認められるとしても,それは,専ら,人間の習慣(人間は日常生活において日にちや曜日を確認すること),及びカレンダーの利用態様(カレンダーは見やすい場所に設置されること)に基づくものにすぎず,自然法則に基づくものではない。また,偉人カレンダーを情報を提示する媒体とすることにより,ユーザに偉人に関する知識を自然に習得させるという効果は,人間の心理現象である認識及び記憶に基づく効果にすぎず,自然法則を利用したものであると評価することはできない。(イ) 以上に検討したとおり,本願発明は,その課題,課題を解決するための具体的手段として特定された構成,効果等の技術的意義を検討しても,自然法則を利用した技術的思想が,課題解決の主要な手段として提示されていると評価することができないから,特許法2条1項に規定された「発明」に該当するということができない。
(3) 原告の主張について
ア 登録されたカレンダーの発明及び考案が過去に多数存在するとの主張につき原告は,刊行物1(甲22)の発明が発明として特許されていること,甲2〜19の登録例等を挙げて,本願発明について,発明であることを否定することは,極めて不公平であり,審査の整合性,統一性がないと主張する。しかしながら,出願に係る発明についての特許要件の判断は,出願ごとに各別になされるものであるから,ほかにカレンダーに係る発明,考案の登録例が存在することは,本願発明の特許要件の判断を左右するものではなく,原告の主張は理由がない。
イ 審査基準によれば本願発明は発明に該当するとの主張につき原告は,審査基準の「第II部 第1章産業上利用することができる発明」(甲21)の判断については,「発明を特定するための事項に自然法則を利用していない部分があっても,請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断されるときは,その発明は,自然法則を利用したものとなる」(2頁)と記載されているが,審決は,審査基準の上記記載と齟齬する判断手法を採用した誤りがあると主張する。しかしながら,審査基準は,特許庁の判断の公平性,合理性を担保するのに資する目的で作成された判断基準であって,法規範ではないから,当裁判所の判断を拘束するものではなく,原告の上記主張は,主張自体失当である。なお,仮に上記審査基準によっても,本願発明が全体として自然法則を利用していると判断することができないことは,上記(2)に説示したところから明らかである。
ウ 本願発明は情報の単なる提示ではないとの主張につき原告は,本願発明は,偉人情報等の集合,情報等の配置(手段・方法)に特徴があり,審査基準が情報の単なる提示に当たらないとするケースに該当すると主張する。しかしながら,審査基準に基づく主張が失当であることは上記イのとおりである。また,仮に上記審査基準によっても,本願発明の特定する提示形態は,情報の単なる提示の域を超えるものでないことは,上記(2)に説示したとおりである。
(4) 以上のとおり,本願発明は特許法2条1項に規定された「発明」に該当するということができないから,本願発明について,特許法2条1項にいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当せず,同法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないとした審決の判断に誤りはない。したがって,取消事由1は理由がない。

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平成24(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月05日 知的財産高等裁判所

 発明の成立性が争われました。裁判所は「発明ではない」とした審決を維持しました。
 前記1(1)の1)ないし5)の構成は,「省エネ行動シート」という図表\のレイアウトについて,軸(「第一場所軸」と「第一時間軸」)と,これらの軸によって特定される領域(「第一省エネ行動配置領域」と「第一省エネ行動識別領域」)のそれぞれに名称を付し,意味付けすることによって特定するものであるから,各「軸」及び各「領域」の名称及び意味,という提示される情報の内容に特徴を有するものである。そして,図表の各「軸」,及び軸によって特定される「領域」に,それぞれ「第一場所軸」,「第一時間軸」,「第一省エネ行動配置領域」及び「第一省エネ行動識別領域」という名称及び意味を付して提示すること自体は,直接的には自然法則を利用するものではなく,本願発明の「省エネ行動シート」を提示された人間が,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することを可能\とするものである。また,本願発明の「省エネ行動シート」は,人間に提示するものであり,何らかの装置に読み取らせることなどを予定しているものではない。そして,人間に提示するための手段として,紙などの媒体に記録したり,ディスプレイ画面に表\示したりする態様などについて,何らかの技術的な特定をするものではないから,一般的な図表を記録・表\示することを超えた技術的特徴が存するとはいえない。
(3) 本願発明の課題と作用効果について
本件明細書の前記記載によれば,本願発明は,従来技術においては,各省エネ行動によってどれくらいの電力量又は電力量料金を節約できるのかを一見して把握することが難しく,どの省エネ行動を優先的に行うべきかを把握することが難しかったという課題を解決し,省エネ行動を取るべき時間と場所を一見して把握することが可能になり,かつ,各省エネ行動を取ることにより節約できる概略電力量を把握することが可能\になるという効果を奏するものである。本願発明の上記作用効果は,一方の軸と,他方の軸の両方向への広がり(面積)を有する「領域」を見た人間が,その領域の面積の大小に応じた大きさを認識し,把握することができること,さらに「軸」や「領域」に名称や意味が付与されていれば,その「領域」の意味を理解することができる,という心理学的な法則(認知のメカニズム)を利用するものである。このような心理学的な法則により,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することは,専ら人間の精神活動に基づくものであって,自然法則を利用したものとはいえない。
(4) 原告の主張について
原告は,本願発明は,その情報の提示の仕方にこそ技術的特徴があり,当該特徴により,見る者に対して「見やすい,理解しやすい」という効果をもたらすものであると主張する。しかしながら,本願発明に係る「省エネ行動シート」が情報の提示に当たるとしても,前記のとおり,図表の「軸」及び軸によって特定される「領域」に,「第一場所軸」等の名称及び意味を付して提示すること自体は,直接的には自然法則を利用するものではないし,人間に提示するための手段として,何らかの技術的な特定をするものではないから,一般的な図表\を記録・表示することを超えた技術的特徴が存するとはいえない。また,見やすい等の効果も,心理学的な法則を利用するもので,自然法則を利用した効果とはいえない。\n

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平成24(行ケ)10001 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年07月11日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、発明の成立性なしとした審決が維持されました。
請求項1は、
 母音「イ」のローマ字表記を“i”と“y”の二字とし,カ行・ダ行・ラ行は,母音と組み合わせる子音を複数化する。ヤ行・ワ行はヤ行のイ段をのぞく全段において,y・wを母音の前に残し,外来語を考慮した「関連音表記」を持つローマ字表\。
です。
 特許法29条1項柱書は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明について特許を受けることができる」と定め,その前提となる「発明」について同法2条1項が,「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定めている。そして,ゲームやスポーツ,語呂合わせといった人間が創作した一定の体系の下での人為的取決め,数学上の公式,経済上の原則に当たるとき,あるいはこれらのみを利用しているときは,自然法則(law of nature)を利用しているとはいえず,「発明」には該当しないと解される。かかる見地から本件出願に係る請求項1〜3をみるに,そこに記載の事項は,いずれも,人為的な取決めないしは人間の精神活動のみに基づく取決めであって,自然法則を利用しているとはいえず,特許法2条1項,29条1項柱書にいう「発明」には該当せず,特許を受けることはできない。3 なお,原告は,本件出願に係る事項は,単語性という統合理念によって要請された取決めであり,人為的取決めではないなどと主張するが,本願請求項,明細書及び図面に記載の事項は,「仮名文字表記」と「ローマ字表\\記」という人間が創作した一定の体系の下で人間が定めた取決めないしルール(人為的取決め)にすぎないことに変わりはない。原告の上記主張は採用することができない。

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平成24(行ケ)10096 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年07月11日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、発明の成立性なしとした審決が維持されました。
請求項は、 【請求項1】
入札による一定条件下での選抜と任意抽選または条件付の抽選による土木・建築工事業者(以下,業者という)の選定方法に関するもの。
です。
 特許法における発明とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」(2条1項)ところ,ここにいう「自然法則を利用した」とは,単なる精神活動,数学上の公式,経済上の原則,人為的な取決めにとどまるものは特許法上の発明に該当しないものとしたものである。請求項1に記載の事項は,入札において一定条件による選抜と抽選を用いて業者を選定することをその構成とするものであって,全体として,人為的取決めに当たることは明らかである。原告は,確率論に基づく抽選が自然法則の利用に当たる旨主張するが,人為的取決めの中に数学上の法則によって説明可能\な部分が含まれているというにすぎず,上記事項が人為的取決めに当たるとする前記判断を左右するものではない。請求項2以下についても,原告が準備書面で主張するところをもってしても,上記判断を超えて,これら請求項記載の事項が人為的取決めではなく自然法則を利用したものに該当するとの判断に至ることはできない。このように,特許請求の範囲に記載の事項は,全体として人為的取決めであり,自然法則を利用したものということはできず,特許法にいう「発明」には該当しないのであって,審決の判断に誤りはない。

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◆平成20(行ケ)10279 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年06月16日 知的財産高等裁判所

 パチンコゲーム機(CS関連発明(?))について、29条1項柱書き違反無しとした審決が維持されました。
   「上記(1)によれば,本件訂正発明1〜5は,いずれも,スロットマシン等の遊技機に関する発明であり,従前の遊技機における高確率再遊技期間は予め定められたゲーム数分継続しそのゲーム数分継続しなければ高確率再遊技が終わることがなかったことから,その遊技も単調になる傾向があり,遊技者は期待感を維持することが困難であったが,本件訂正発明1〜5により,高確率再遊技期間中に所定の内部当選役が決定されたことを条件に,高確率再遊技期間を終了させるとともに,その内部当選役を複数設け,それらの内部当選役毎に終了確率が異なるようにしたもので,終了確率の多様化が図れ,遊技性が広がり面白みが増すという効果が生じるものであることが認められる。・・・・3 特許法29条1項柱書にいう「発明」性の有無について(1) 原告は,前記のような内容を有する本件訂正発明1〜5は特許法29条1項柱書にいう「発明」に該当しないと主張するので,以下,検討する。(2) 特許法29条1項柱書は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明については特許を受けることができる」と定め,その前提となる「発明」について同法2条1項が,「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定めている。そうすると,本件訂正発明1〜5が,i)産業上利用できる発明ではない場合,ii)自然法則を利用した発明でない場合,iii)技術的思想の創作となる発明でない場合,iv)技術的思想の創作のうち高度なものでない場合,のいずれかに該当するときは,同法29条1項柱書にいう「発明」に該当しないことになる(なお原告は,前記のとおり,本件訂正発明1〜5が上記i)及びiv)には該当しないことを自認している)。ところで,本件訂正発明1〜5は,前記のようにスロットマシン等の遊技機に関する発明であって,そこに含まれるゲームのルール自体は自然法則を利用したものといえないものの,同発明は,ゲームのルールを遊技機という機器に搭載し,そこにおいて生じる一定の技術的課題を解決しようとしたものであるから,それが全体として一定の技術的意義を有するのであれば,同発明は自然法則を利用した発明であり,かつ技術的思想の創作となる発明である,と解することができる。そこで,以上の見地に立って本件訂正発明の特許法29条1項柱書にいう発明該当性について検討する。(3) 前記2のとおり,本件訂正発明1〜5は「遊技機」という機器に関する発明であり,上記ゲームのルールを機器に定着させたもの(例えば,実施例として「ゲームを実行するための予め設定されたプログラムに従って制御動作を行うCPU(クロックパルス発生回路,乱数発生器を含む。),スタートレバーを操作(スタート操作)する毎に行われる乱数サンプリングの判定に用いられる確率抽選テーブル,停止ボタンの操作に応じてリールの停止態様を決定するための停止制御テーブル,副制御回路82へ送信するための各種制御指令(コマンド)等を格納(記憶)するROMを含むマイクロコンピュータを主たる構\\成要素とする制御回路を用いて遊技処理動作を制御する技術を用いる」もの)であるから(なお,審決は,本件訂正発明1〜5が前記甲1発明〔特開2001‐314559号公報〕及び〔特開2000‐210413号公報〕との関係で特許法29条2項にいう進歩性があると判断しており,原告も本件訴訟においてこれを争わない),全体として本件訂正発明1〜5は,自然法則を利用した発明であり,かつ技術的思想の創作となる発明であるというべきである。。(4) 原告の主張に対する補足的判断ア原告は,特許法39条,29条の2,29条1項及び2項の特許要件を判断するに際し,2つの発明を対比する場合に,周知慣用技術等を除外して検討することを挙げ,それと同様に特許法29条1項柱書の要件についても,「技術的に意義のある部分」について,自然法則利用の有無や技術的思想の創作該当性を判断すべきであると主張する。しかし,前記のように,特許法2条1項が「『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定め,同法29条1項柱書において,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」とした上で,「次に掲げる発明」として,1〜3号に公知発明等を挙げている。このような特許法の規定の仕方からすると,特許法は,特許を受けようとする発明が自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものであり,かつ産業上利用することができるものであるかをまず検討した上で,これらの要件を満たす発明であっても公知発明等に当たる場合には特許を受けることができないものと定めていると解すべきである。そうすると,特許法29条1項柱書該当性の判断に当たっては,特許法39条,29条の2,29条1項及び2項のように,2つの発明を対比することにより特許要件の有無を判断する場合とは異なり,特許請求の範囲によって特定された発明全体が自然法則を利用した技術的思想の創作に当たるかどうかを全体的に検討すべきであって,公知発明等に当たらない新規な部分だけを取り出して判断すべきではないと解される。原告の主張は独自の論理に基づくものであって,採用することができない。」

◆平成20(行ケ)10279 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年06月16日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10151 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年05月25日 知的財産高等裁判所

 知財高裁がCS関連発明について、自然法則を利用した技術思想であるとした審決を維持しました。積極的に認める判断は初めてです。飯村判事です。
 「当裁判所は,審決が,本件特許発明は自然法則を利用した技術的思想の創作に該当するとした判断に誤りはなく,取消事由2は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。(1) 請求項1に係る発明についてア請求項1に係る発明は,旅行業向け会計処理装置の発明であり,経理ファイル上に,「売上」と「仕入」とが,「前受金」,「未収金」,「前払金」,「未払金」と共に,一旅行商品単位で同日付けで計上されるようにしたことを特徴とする(1P)。その構成は,電子ファイルである経理ファイル(1A),第1の計上要求操作(「売上」及び「仕入」の同日付計上を要求)と第2の計上要求操作(「入金」又は「支払」の計上を要求)があったことをそれぞれ判別する操作種別判定手段(1B),操作種別判定手段により第1の計上要求操作ありと判定されたときに実施される第1の計上処理手段(1C),操作種別判定手段により第2の計上要求操作ありと判定されたときに実施される第2の計上処理手段(1D)を有し,第1の計上処理手段(1C)は,前受金判定手段(1E),売上計上処理手段(1F),前払金判定手段(1G),仕入計上処理手段(1H)を含み,第2の計上処理手段(1D)は,売上仕入済み判定手段(1I),売上仕入前計上処理手段(1J),売上仕入後計上処理手段(1K)を含み,さらに,売上仕入前計上処理手段(1J)は,操作種別判定手段(1L),前受前払金の計上処理手段(1M)を含み,売上仕入後計上処理手段(1K)は,操作種別判定手段(1N),未収未払金の計上処理手段(1O)を含むものである。そして,上記各手段は,コンピュータプログラムがコンピュータに読み込まれ,コンピュータがコンピュータプログラムに従って作動することにより実現されるものと解され,それぞれの手段について,その手段によって行われる会計上の情報の判定や計上処理が具体的に特定され,上記各手段の組み合わせによって,経理ファイル上に,「売上」と「仕入」とが,「前受金」,「未収金」,「前払金」,「未払金」と共に,一旅行商品単位で同日付けで計上されるようにするための会計処理装置の動作方法及びその順序等が具体的に示されている。そうすると,請求項1に係る発明は,コンピュータプログラムによって,上記会計上の具体的な情報処理を実現する発明であるから,自然法則を利用した技術的思想の創作に当たると認められる。\nイ この点,原告は,i)請求項1において特定された「手段」は,本件特許の特許出願の願書に添付された図面の図3ないし5に示された処理手順の各ステップの内容を特定したものであるところ,この処理手順及び各ステップの内容は,請求項1にいう同日付計上の会計処理を,伝票と手計算で実行する際の手順及び内容と同様のものであり,上記特定は,手計算に代えてコンピュータを使用したことに伴い必然的に生じる特定にとどまること,ii)本件特許発明の作用効果である「売上と仕入を一旅行商品単位で同日計上することから,従前の旅行業者向けの会計処理装置では不可能であった,一旅行商品単位での利益の把握が可能\となる。また,同様に従前の旅行業向け会計処理装置では不可能だった債権債務の管理が可能\となるため,不正の防止や正しい経営判断が容易となる。」は,自然法則の利用とは無関係の会計理論又は会計実務に基づく効果にすぎないことなどから,請求項1に係る発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作とはいえない,と主張する。しかし,原告の上記主張は,採用することができない。すなわち,i)本件特許の特許出願の願書に添付された図面の図3は,本件特許発明に係る旅行業向け会計処理装置による処理操作の一例を示す概略フローチャート,図4は,第1計上処理を示す詳細フローチャート,図5は,第2計上処理を示す詳細フローチャートであり(甲10),コンピュータプログラムに従ってコンピュータにより行われるべき情報処理の流れが開示されていること,ii)請求項1においては,それぞれの手段について,その手段によって行われる会計上の情報の判定や計上処理が具体的に特定され,コンピュータに対する制御の内容が具体的に示されていること,iii)その処理手順等は,その性質上,伝票と手計算で実行する際の処理手順等と全く同様ではなく,相違する点があることに照らして,原告の主張は,その前提を欠くものであって,採用の限りでない。また,コンピュータを利用することによって,所定の情報処理を迅速・正確に実現することを目的とする発明の構成中に,伝票と手計算によって実現できる構\成要素が含まれていたとしても,そのことによって,当該発明全体が,自然法則を利用した技術的思想の創作に該当しないとするいわれはないから,この点の原告の主張も採用の限りでない。さらに,本件明細書(【0068】)には,本件特許発明の作用効果として,「売上と仕入を一旅行商品単位で同日計上することから,従前の旅行業者向けの会計処理装置では不可能であった,一旅行商品単位での利益の把握が可能\となる。また,同様に従前の旅行業向け会計処理装置では不可能だった債権債務の管理が可能\となるため,不正の防止や正しい経営判断が容易となる。」と記載されており,本件特許発明は,上記の作用効果を目的とするものであることが認められ,上記の作用効果は,人の精神活動に基づいて体系化された会計理論,会計実務を前提とし又は応用したものを含むといえる。しかし,上記のような作用効果が含まれていたとしても,そのことによって,コンピュータの利用によって実現される発明全体が,自然法則を利用した技術的思想の創作に該当しないとするいわれはないから,この点の原告の上記主張も採用の限りでない。以上のとおり,請求項1に係る発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作に当たる。」

◆平成20(行ケ)10151 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年05月25日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10327 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月28日 知的財産高等裁判所 

  CS関連発明について、成立性違反、進歩性違反で拒絶した審決を維持しました。ただ、29条1項柱書違反について、「当裁判所は,本願補正発明が法2条1項に規定する発明に該当しないとした審決の判断を正当とするものではないが,事案にかんがみ,まず,原告ら主張の取消事由1のうち,進歩性がないとした判断(理由(1)イ)の誤りの有無について検討する。」としたのが気になります。
  補正却下されたクレームです。
【請求項1】商品の販売元が彩色商品カタログのデジタル・データ情報を,インターネット通信販売システムを介して送信し,この商品カタログのデジタル・データを受信した消費者が自己のパソコンのモニタに表\示された商品カタログのデジタル画像を見て,その中から購買希望の商品を選択して,販売元にその選択された商品の注文情報を送信することにより所望の商品を購入するインターネット通信販売システムを介 する商品の販売方法であって, (イ)販売元が少なくとも一つの彩色商品の見本画像と色変化尺度としての基準色画像を組込んだ商品カタログを作成し,この商品カタログのカラー画像データをデジタル商品カタログとしてインターネット通信販売システムを介して消費者に送信し, (ロ)このデジタル商品カタログを受信した消費者が,受信データをパソコンのモニタにデジタル画像として表\示し, (ハ)この消費者が,パソコンを操作してモニタに表\示されたデジタル商品カタログの基準色画像の色を自己が所有する印刷された前記基準色画像の色に実質的に合致させ,同時に色が調整されたモニタ表示のデジタル商品カタログの彩色商品画像の中から所望の商品を選択して,販売元にその選択された商品の注文情報を送信することを特徴とするインターネット通信販売システムを介する商品の販売方法。」

◆平成19(行ケ)10327 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月28日 知的財産高等裁判所 

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◆平成20(行ケ)10001 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月26日 知的財産高等裁判所

   発明成立性なしとして拒絶された審決が取り消されました。審決はCS基準における成立性を満たしていないので成立性無しと判断しましたが、裁判所は、CS基準における成立性の是非については検討することなく、成立性ありと判断しました。
 「のみならず,前記のとおり,本願の特許請求の範囲の記載においては,対象となる対訳辞書の特徴を具体的に摘示した上で,人間に自然に具わった能力のうち特定の認識能\力(子音に対する優位的な識別能力)を利用することによって,英単語の意味等を確定させるという解決課題を実現するための方法を示しているのであるから,本願発明は,自然法則を利用したものということができる。」

◆平成20(行ケ)10001 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月26日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10429 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年07月23日 知的財産高等裁判所

   CS関連発明に関して、発明の成立性、記載不備および進歩性を理由になされた拒絶審決の取り消し訴訟について、裁判所は、周知技術から進歩性なしとして審決を維持しました。
 「審決は,上記第2の3のとおり,請求項1の発明は,?@「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当せず,?A明確であるとも認められず,?B本願明細書の発明の詳細な説明が,当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められないとしたほか,?C本願発明は,引用例に記載された発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断したものであるところ,審決の上記?@〜?Cの判断の関係については,審決が「仮に,請求項1に係る発明が,特許法上の発明である『自然法則を利用した技術思想の創作』に該当し,かつ,明確であるとしても,・・・請求項1に係る発明は,引用例1に記載された発明,引用例2に記載された事項,上記周知技術,上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」としているところから明らかなように,上記?Cの判断は,上記?@〜?Bの判断を前提としないものであり,仮に上記?@〜?Bの判断の誤りをいう取消事由1〜3に理由があったとしても,取消事由4に理由がなければ,本訴請求は棄却されるべき性質のもの,すなわち,審決の取消しに至るためには,上記?Cの判断が誤りであることが不可欠であるという関係にある。そこで,まず,取消事由4について検討する。」

◆平成19(行ケ)10429 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年07月23日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10369 審決取消請求事件 特許権 平成20年06月24日 知的財産高等裁判所

 裁判所は、コンピュータ診断(CS関連発明(?))について、発明ではないとした審決を取り消しました
 「ウ ところで,特許の対象となる「発明」とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であり(特許法2条1項),一定の技術的課題の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものである。したがって,人の精神活動それ自体は,「発明」ではなく,特許の対象とならないといえる。しかしながら,精神活動が含まれている,又は精神活動に関連するという理由のみで,「発明」に当たらないということもできない。けだし,どのような技術的手段であっても,人により生み出され,精神活動を含む人の活動に役立ちこれを助け,又はこれに置き換わる手段を提供するものであり,人の活動と必ず何らかの関連性を有するからである。そうすると,請求項に何らかの技術的手段が提示されているとしても,請求項に記載された内容を全体として考察した結果,発明の本質が,精神活動それ自体に向けられている場合は,特許法2条1項に規定する「発明」に該当するとはいえない。他方,人の精神活動による行為が含まれている,又は精神活動に関連する場合であっても,発明の本質が,人の精神活動を支援する,又はこれに置き換わる技術的手段を提供するものである場合は,「発明」に当たらないとしてこれを特許の対象から排除すべきものではないということができる。・・・・カ 以上によれば,請求項1に規定された「要求される歯科修復を判定する手段」及び「前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段」には,人の行為により実現される要素が含まれ,また,本願発明1を実施するためには,評価,判断等の精神活動も必要となるものと考えられるものの,明細書に記載された発明の目的や発明の詳細な説明に照らすと,本願発明1は,精神活動それ自体に向けられたものとはいい難く,全体としてみると,むしろ,「データベースを備えるネットワークサーバ」,「通信ネットワーク」,「歯科治療室に設置されたコンピュータ」及び「画像表示と処理ができる装置」とを備え,コンピュータに基づいて機能\する,歯科治療を支援するための技術的手段を提供するものと理解することができる。キ したがって,本願発明1は,「自然法則を利用した技術的思想の創作」に当 たるものということができ,本願発明1が特許法2条1項で定義される「発明」に該当しないとした審決の判断は是認することができない。」

◆平成19(行ケ)10369 審決取消請求事件 特許権 平成20年06月24日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10239 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月29日 知的財産高等裁判所

  ハッシュ法によりコンピュータ処理を高速に行うための計算手法(アルゴリズム)に関する発明が,29条1項柱書にいう「発明」に該当するかが争われました。
 裁判所は、CS基準に合致しないとして発明に該当しないとした審決を維持しました。
 「上記数学的課題の解法ないし数学的な計算手順(アルゴリズム)そのものは,純然たる学問上の法則であって,何ら自然法則を利用するものではないから,これを法2条1項にいう発明ということができないことは明らかである。また,既存の演算装置を用いて数式を演算することは,上記数学的課題の解法ないし数学的な計算手順を実現するものにほかならないから,これにより自然法則を利用した技術的思想が付加されるものではない。したがって,本願発明のような数式を演算する装置は,当該装置自体に何らかの技術的思想に基づく創作が認められない限り,発明となり得るものではない(仮にこれが発明とされるならば,すべての数式が発明となり得べきこととなる。)。この点,本願発明が演算装置自体に新規な構成を付加するものでないことは,原告が自ら認めるところであるし,特許請求の範囲の記載(前記第3,1(2))をみても,単に「ビットの集まりの短縮表現を生成する装置」により上記各「演算結果を生成し」これを「出力している」とするのみであって,使用目的に応じた演算装置についての定めはなく,いわば上記数学的なアルゴリズムに従って計算する「装置」という以上に規定するところがない。そうすると,本願発明は既存の演算装置に新たな創作を付加するものではなく,その実質は数学的なアルゴリズムそのものというほかないから,これをもって,法2条1項の定める「発明」に該当するということはできない。」

◆平成19(行ケ)10239 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月29日 知的財産高等裁判所

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◆平成17(行ケ)10698 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成18年09月26日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、成立性なしとした審決が維持されました。
 「したがって,上記旧請求項11の記載からは,本願発明の「ポイント管理方法」として,コンピュータを使ったものが想定されるものの,ソフトウエアがコンピュータに読み込まれることにより,ソ\フトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって,使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより,使用目的に応じた特有の情報処理装置の動作方法を把握し得るだけの記載はない。」

◆平成17(行ケ)10698 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成18年09月26日 知的財産高等裁判所

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◆H17.11.24 知財高裁 平成17(行ケ)10170 特許権 行政訴訟事件

  CS関連発明について、発明の成立性および記載不備が争われました。
  裁判所は、前者については、「こうしたソフトウエアを利用するソ\フトウエア関連発明が,”自然法則を利用した技術的思想の創作”であるためには,発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから,ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって,技術的課題を解決できるような特有の構\成が具体的に提示されている必要がある。」として、審決を維持しました。
 また、後者については、特許庁の「サーバーコンピュータのハードウェア(データベース)に記憶された情報をどのように読み出し,ハードウェア資源を利用してどのような情報処理を行うことにより,当該(オ)の「前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」ことができ,「コンピュータネットワークによる証券化システム」を実現できるのかという点については,一切記載がなく不明である。」とした審決を維持しました。

◆H17.11.24 知財高裁 平成17(行ケ)10170 特許権 行政訴訟事件

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◆H17. 1.26 東京高裁 平成15(行ケ)540

 個性診断情報提供システム(CS関連発明?)について、自然法則を利用した発明でないので、進歩性主張が認められず、特許庁では拒絶審決がなされました。裁判所は、「本願発明が,生年月日という情報のみに基づいて個性因子を決定することを要素とするものである以上,例えば,生日に対応した「本質」の個性因子を決定する過程において自然法則が利用されているということができないのは明らか」と、特許庁の判断を維持しました。
 

◆H17. 1.26 東京高裁 平成15(行ケ)540

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◆H16.12.21 東京高裁 平成16(行ケ)188 特許権 行政訴訟事件

 回路を構成する各素子の電気特性を反映し、回路を構\成する各素子間に成立する自然法則であるキルヒホッフの法則から得られる数学モデルについて、発明か否かが争われました。裁判所は、発明に該当しないと判断しました。
 

◆H16.12.21 東京高裁 平成16(行ケ)188 特許権 行政訴訟事件

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◆H15.11.18 東京高裁 平成15(行ケ)218 特許権 行政訴訟事件

裁判所は、無効理由無しとした審決を取り消しました。争点は、進歩性(29条2項)と記載不備(36条)です。当該特許は、無効審判中の訂正により「伴奏に合わせて歌詞を歌うために、文字情報としてあらかじめ記録された歌詞の文字を表示器の画面に表\示しておき、この文字情報と同期するようにあらかじめ記録された音声情報からの伴奏の進行に伴って、この文字情報としての歌詞の歌うべき文字の色を変化させることを特徴とする歌唱個所指示方法。」とされています。
 裁判所は、「伴奏の進行に伴って映像と共に表示されている歌詞の文字の中の歌うべき部分の光強度を変化させることにより歌唱個所を表\示(指示)するという、歌唱個所指示方法の従来技術を基礎とし、歌唱個所の指示を文字の明暗(白黒)ではなく色の変化によって行うこととし(この点が容易に想到し得ることは審決も認めるとおりである。)、これを、その後に普及して周知となったカラオケビデオの「文字情報と同期するようにあらかじめ記録された音声情報からの伴奏の進行に伴って、文字情報としての歌詞を表示する」という技術と組み合わせることによって、「文字情報と同期するようにあらかじめ記録された音声情報からの伴奏の進行に伴って、文字情報としての歌詞を表\示し、その表示された歌詞の歌うべき文字の色を変化させる」歌唱個所指示方法とすることは、当業者が容易に考えつく程度のことというべきである。そして、映像に重ねて表\示される文字に着色をすることが本件特許出願当時、ビデオ編集における周知技術であったことは前示のとおりであるから、文字情報と音声情報とを同期させて記録したものにおいて表示される文字が適切なタイミングで着色される(変わる)ようにすることも、上記周知技術を前提とするとき、当業者であれば容易になし得たことであるということができる。 (7) 以上によれば、文字情報と同期するようにあらかじめ記録された音声情報からの伴奏の進行に伴って、歌詞の歌うべき文字の色を変化させる、という被告主張の相違点Aに関わる本件発明の構成は、その着想及び実現手段のいずれの点からみても、当業者が容易に想到し得たものというべきである」と取消理由を述べました。

      

◆H15.11.18 東京高裁 平成15(行ケ)218 特許権 行政訴訟事件

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◆H15. 1.28 東京高裁 平成13(行ケ)361 特許権 行政訴訟事件

  永久機関についての進歩性が争われました。
裁判所は認めませんでしたが、一度公報を見てみたいですね

 

◆H15. 1.28 東京高裁 平成13(行ケ)361 特許権 行政訴訟事件

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◆H15. 1.20 東京地裁 平成14(ワ)5502 実用新案権 民事訴訟事件

   特別な項目を有する貸借対照表について実用新案権に対して、裁判所は、「本件考案は,”自然法則を利用した技術的思想”に該当しないから,本件実用新案登録には,法3条1項柱書きに反する無効理由の存することが明らかである」と権利行使を認めませんでした。
 問題となった実案のクレームは以下の通りです。
  A)資金別の貸借対照表であって,この表\は,損益資金の部の欄と,固定資金の部の欄と,売上仕入資金の部の欄と,流動資金の部の欄とを含み,これらの欄は縦方向または横方向に配設してあり,B)上記損益資金の部の欄,固定資金の部の欄,売上仕入資金の部の欄,流動資金の部の欄の各欄は貸方・借方の欄に分けてあり,更に貸方・借方の欄に複数の勘定科目が設けてあり,C)上記損益資金の部の欄,固定資金の部の欄,売上仕入資金の部の欄,流動資金の部の欄の各欄に対応して現在の現金預金の欄が設けてあるD)資金別貸借対照表。

 

◆H15. 1.20 東京地裁 平成14(ワ)5502 実用新案権 民事訴訟事件

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