知財みちしるべロゴマーク
知財みちしるべトップページへ

更新メール
購読申し込み
購読中止

知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

新規性・進歩性

令和4(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年12月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。知財高裁は、新規性無しとして、権利行使不能とした1審の判断を維持しました。

(ア) 前記(2)のとおり、本件発明と乙1発明との相違点は、「医薬組成物につ いて、本件発明では、『非外傷性である前腕部骨折を抑制するため』のも のであると特定されているのに対して、乙1発明では、『骨粗鬆症治療薬』 であると特定されている点。」にある(相違点1)ところ、控訴人は、本 件発明につき、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者群において予測されていなかった顕著な効果を奏するものであり、エルデカルシトール\nの新たな属性を発見し、それに基づく新たな用途への使用に適すること を見出した医薬用途発明であるから、相違点1に係る本件発明の用途 (「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」)は乙1発明の「骨粗 鬆症治療薬」の用途とは区別される旨主張する。
(イ) そこで検討するに、公知の物は、原則として、特許法29条1項各号 により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、 その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した 発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公 知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解さ れる。 そして、前記1(2)のとおり、本件発明の医薬組成物は、高齢者や骨粗 鬆症患者等の骨がもろくなっている者が転倒等した際に、前腕部である 橈骨又は尺骨に軽微な外力がかかって生じる骨折のリスク、すなわち前 腕部における非外傷性骨折のリスクに着目して、その用途が「非外傷性 である前腕部骨折を抑制するため」と特定されている(相違点1)もの である。
(ウ) しかしながら、前記(3)イの技術常識によれば、当業者は、乙1発明の 「骨粗鬆症治療薬」につき、椎体、前腕部、大腿部及び上腕部を含む全 身の骨について骨量の減少及び骨の微細構造の劣化による骨強度の低下が生じている患者に対し、各部位における骨折リスクを減少させるた\nめに投与される薬剤であると認識するものといえる。また、前記(3)ア、 エ及びオの各技術常識によれば、当業者は、エルデカルシトールの効果 は海綿骨及び皮質骨のいずれに対しても及ぶと期待するものであり、海 綿骨及び皮質骨からなる前腕部の骨に対してもその効果が及ぶと認識 するものといえる。さらに、前記(3)イ及びウの技術常識によれば、当業 者は、骨粗鬆症においては身体のいずれの部位も外力によって骨折が生 じるものであり、また、前腕部における骨折リスクは、骨強度が低下す ることによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他 の部位における骨折リスクと共通するものであると認識するものとい える。
以上の事情を考慮すると、当業者は、骨粗鬆症患者における前腕部の 骨の病態及びこれに起因する骨折リスクについて、他の部位の骨の病態 及び骨折リスクと異なると認識するものではなく、また、乙1発明の「骨 粗鬆症治療薬」としてのエルデカルシトールを投与する目的及びその効 果についても、前腕部と他の部位とで異なると認識するものではないと いうべきである。
(エ) さらに、本件優先日前に公開された乙12の文献には、エルデカルシ トールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑制す ることが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されているこ とに加え、前記(3)エ及びオの技術常識によれば、エルデカルシトールに よる前腕部を含む全身の骨折リスクの減少作用は、経口投与されて体内 に吸収されたエルデカルシトールが、骨に対して直接的又は間接的に何 らかの作用を及ぼすことによって達成されるものであるといえるとこ ろ、本件明細書には、骨折リスクを減少させようとする部位が前腕部で ある場合と他の部位である場合とで、エルデカルシトールが及ぼす作用 に相違があることを示す記載は存しない。そして、前記(3)ウ及びオの技 術常識を考慮しても、本件明細書の記載から、エルデカルシトールの作 用に関して上記の相違があると把握することはできない。 そうすると、当業者は、前腕部の骨折リスクを減少させるために投与 する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデカルシトールの作 用が相違すると認識するものではないというべきである。
(オ) 以上によれば、エルデカルシトールの用途が「非外傷性である前腕部 骨折を抑制するため」と特定されることにより、当業者が、エルデカル シトールについて未知の作用・効果が発現するとか、骨粗鬆症治療薬と して投与されたエルデカルシトールによって処置される病態とは異な る病態を処置し得るなどと認識するものではないというべきである。 そうすると、本件発明については、公知の物であるエルデカルシトー ルの未知の属性を発見し、その属性により、エルデカルシトールが新た な用途への使用に適することを見出した用途発明であると認めることは できないから、相違点1に係る用途は乙1発明の「骨粗鬆症治療薬」の 用途と区別されるものではない。
(カ) したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 控訴人の原審における主張(原判決「事実及び理由」の第2の4(2)及び
(3))及び当審における補充主張に対する判断
(ア) 前記第2の3(1)〔控訴人の主張〕アの主張について
a 控訴人は、前腕部骨折は他の部位の骨折とは異なる特徴を有するこ と、乙1文献には前腕部骨折を抑制する骨粗鬆症治療薬が開示されて いるものではないことなどを理由に、本件発明の用途は乙1発明の用 途と客観的に区別することができる旨主張する。 しかしながら、前記(3)ウの技術常識によれば、前腕部骨折は、身体 的活動性が比較的高い前期高齢者等において好発する特徴があるとい えるものの、上記アで検討したとおり、前腕部の骨と他の部位の骨と で病態が異なるものとはいえず、また、前腕部の骨折リスクを減少さ せるために投与する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデ カルシトールの作用が相違するともいえないことからすれば、前腕部 骨折に上記の特徴があるからといって、本件発明の用途は乙1発明の 用途と客観的に区別することができるものとはいえない。
また、前記(1)のとおり、乙1文献には、エルデカルシトールにつき、 動物実験において、骨密度増加効果がアルファカルシドールよりも強 力であるところ、骨密度の増加は骨強度の増加を伴っていると考えら れること、第II)相臨床試験において、腰椎骨及び大腿骨の骨密度の増 加が認められ、ビタミンD補充効果に依存せずに強力に骨密度を増加 させたものと考えられること、新規椎体骨折発生頻度を主要評価項目 としてアルファカルシドールの効果と比較する更なる臨床試験が進行 中であることが記載されているところ、前記(3)ウないしオのとおり、 エルデカルシトールがアルファカルシドールに比して有意に優れた骨 強度改善効果等を有していることや、前腕部の骨折リスクは他の部位 と同様に骨強度が低下することによって増加するものであることが技 術常識であったこと、上記ア(エ)のとおり、本件優先日当時、エルデカ ルシトールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑 制することが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されてい る文献(乙12)が存在したことを併せ考慮すれば、当業者は、乙1 文献の記載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前 腕部についても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制 するものであることを、合理的に予測し得たものといえる。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 同イの主張について
a 控訴人は、一般に患者群の特徴に応じて薬剤が選択されており、骨 粗鬆症においても個々の患者の状態に応じて様々な薬剤が使い分けら れているところ、本件発明は、前腕部骨折の抑制が特に求められる患 者という限定された患者群に対して顕著な効果を奏するものとして、 従来技術とは区別された新規性を有する旨主張する。しかしながら、上記アで検討したとおり、前腕部の骨折リスクは、骨強度が低下することによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他の部位における骨折リスクと共通するものであるか ら、骨粗鬆症患者のうち、全身の骨折の抑制が必要とされる者と前腕 部の骨折の抑制が特に必要とされる者とを客観的に区別することはで きないというべきである。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 同ウの主張について
a 控訴人は、本件試験に係る結果において、エルデカルシトールが、 既存薬剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制 が特に求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されている旨主張する。\n
そこで検討するに、本件明細書には、アルファカルシドールを比較 薬とした無作為割付二重盲検群間比較試験である本件試験において、 非外傷性の前腕部骨折の3年間の発生頻度が、アルファカルシドール 投与群においては523例中17例(骨折確率3.63%)であり、 エルデカルシトール投与群においては526例中5例(骨折確率1. 07%)であったこと、これらの骨折発生頻度を層化ログランク検定 及び層化コックス回帰により比較した結果、アルファカルシドール投 与群の骨折確率を1とした際のエルデカルシトール投与群の骨折確率、 すなわちハザード比は0.29であったこと、これにより、エルデカ ルシトール投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したことが 判明したこと、これらの試験結果の結論として、アルファカルシドー ル投与群に対するエルデカルシトール投与群の明らかな優越性が認め られたことが記載されている。
しかしながら、上記アで検討したとおり、当業者は、乙1文献の記 載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前腕部につ いても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制するもの であることを、合理的に予測し得たものといえることからすれば、エルデカルシトール投与群における前腕部骨折危険率が減少することも\n予測し得たというべきである。また、ハザード比を用いた解析においては、対照群におけるイベントの発生率が小さい場合には、臨床上の\nわずかな差が大きな数値に置き換えられてしまうことがあることが知 られているところ(乙20、22)、本件試験においては、対照群であ るアルファカルシドール投与群における骨折確率が3.63%と小さ かったことからすれば、ハザード比の値に基づいてエルデカルシトー ル投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したと算定されたこ とについては、臨床上のわずかな差が大きな数値に置き換えられてし まった結果である可能性を否定することができない。また、本件試験において、アルファカルシドール投与群における骨\n折確率とエルデカルシトール投与群における骨折確率との差(絶対リ スク減少率)は、前腕部骨折については2.56%、椎体骨折につい ては4.1%であり、椎体骨折の方が前腕部骨折よりも大きな値とな る。
以上の事情を考慮すると、上記のハザード比の値のみに基づいて、 エルデカルシトールの前腕部骨折の抑制効果が、アルファカルシドー ルに比して格別顕著であり、当業者の予測し得る範囲を超えるものであると直ちに評価することはできないというべきである。\nb 以上によれば、このほかに控訴人が本件試験に関して縷々主張する 点を考慮しても、本件試験において、エルデカルシトールが、既存薬 剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制が特に 求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されたものということはできない。\n

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和2(ワ)13326

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 0030 新規性
 >> その他特許
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和4(ネ)10008  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年11月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明の侵害訴訟の控訴審判断です。1審は技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断しました。知財高裁も同じです。なお、二審第1回口頭弁論期日においてした訂正の再抗弁は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下されました。

(4) 控訴人らによる訂正の再抗弁の主張について
当裁判所は、令和4年9月22日の当審第1回口頭弁論期日において、控訴人らが同月5日付け控訴人ら第4準備書面に基づいて提出した訂正の再抗弁の主張について、被控訴人の申立てにより、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが、その理由は、以下のとおりである。\n
ア 一件記録によれば、1)被控訴人は、令和元年12月19日の原審第1回弁論準備手続期日において、本件発明5に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点4−1及び4−3)等が存在するとして無効の抗弁を主張し、令和3年7月20日の原審第3回弁論準備手続期日において、本件発明1に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由が存在するとして無効の抗弁を追加して主張したこと、2)その上で、控訴人らが、同年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述した後、同日、原審が、口頭弁論を終結し、同年12月9日、被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めて控訴人らの請求を棄却する原判決を言い渡したこと、3)その後、控訴人らは、当審において、令和4年7月21日に書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったことが認められる。
イ 以上を前提に検討するに、本件特許権の侵害論に関する抗弁の主張は、本来、原審において適時に行うべきものであるところ、控訴人らは、原審において、令和3年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述するまでの間に、当審で主張する訂正の再抗弁の主張をしなかったものである。加えて、控訴人らは、原審が原判決において被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めた判断をしたにもかかわらず、当審における争点整理手続においても、書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったものであることからすると、当審における上記訂正の再抗弁の主張は、控訴人らの少なくとも重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるというべきである。そして、当審において、控訴人らに訂正の再抗弁の主張を許すことは、被控訴人に対し、上記主張に対する更なる反論の機会を与える必要が生じ、これに対する控訴人らの再反論等も想定し得ることから、これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。そこで、当審は、民事訴訟法297条において準用する同法157条1項に基づき、控訴人らの訂正の再抗弁の主張を却下したものである。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和1(ワ)25121

本件特許の審決取消訴訟です。

◆令和3(行ケ)10027

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 補正・訂正
 >> 104条の3
 >> コンピュータ関連発明
 >> 裁判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10163  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月29日  知的財産高等裁判所

 新規事項違反、進歩性違反の無効理由無しとした審決が維持されました。

一方で、本件明細書には、加工対象物の「シリコンウェハ」の表面又は\n裏面に溝が形成されていることについての記載や示唆はない。また、図1、 3、14及び15には、「切断予定ライン5」が示されているが、切断予\定 ライン5に沿った溝の記載はない。 そして、1)甲36(SEMI規格「鏡面単結晶シリコンウェハの仕様」) には、「6.1 標準ウェーハの分類」に「6.1.1.それぞれ標準化さ れたウェーハの寸法、許容寸法及びフラット・ノッチの特性は表3から表\ 9にて分類されている。」との記載があり、「6.1.2」には寸法等の特 性の異なる「鏡面研磨単結晶シリコンウェーハ」及び「鏡面単結晶シリコ ンウェーハ」(分類1.1ないし1.16.3)が掲載され(18頁)、「6. 9 表裏面目視特性」に「ウェーハは、発注仕様に規定された測定可能\な (目視または他の方法による)ウェーハの表裏面の品質要求をみたさなけ\nればならない。」、「表12 鏡面ウェーハ欠陥限度」の「2.8.11 く ぼみ」の項目の「最大欠陥限度」欄には「なし」との記載があること(4 1頁〜42頁)、2)「LSIに用いられるウェーハ表面は無ひずみで凹凸の\nない鏡面であることが必要であり…このような鏡面ウェーハは…鏡面研 磨することによって得られる」こと(「半導体用語大辞典」360頁))か らすると、本件優先日当時、半導体材料に用いられる標準仕様のシリコン ウェハは、単結晶構造であり、その表\面及び裏面に凹凸のない平坦な形状 であることが、技術常識であったことが認められる。 以上の本件明細書の記載(図1、3、14及び15を含む。)及び本件優 先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物: シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準\n仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凹凸のない平坦な形\n状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラ インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明で ある。
そうすると、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合すること により導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入す るものといえないから、本件明細書に記載した事項の範囲内にしたものと 認められる。 したがって、本件訂正事項は、新規事項を追加するものではなく、特許 法134条の2第9項で準用する同法126条5項に適合するとした本 件審決の判断に誤りはない。
イ これに対し、原告は、1)本件明細書には、「シリコン単結晶構造部分に前\n記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の明示\n的な記載がなく、その示唆もないのみならず、溝を形成するかしないか、 形成するとしてどこに、どのように形成するかといった観点からの記載も 示唆もないし、本件明細書を補完するものとして、図面を見ても、「シリコ ン単結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿った溝が形成されていない シリコンウェハ」が記載されているのと同視できるとする根拠も見当たら ない、2)本件明細書の【0027】には、「加工対象物がシリコン単結晶構\n造の場合」との記載があるだけであり、「シリコン単結晶構造部分に前記切\n断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の記載はな\nく、また、図1ないし4に示す「加工対象物1」が「シリコンウェハ」で あるとしても、どの部分が「シリコン単結晶構造部分」にあたるのか不明\nであり、「シリコン単結晶構造部分」が切断予\定ライン5に沿って存在する のかも不明である、3)【0033】は、「シリコンウェハは、溶融処理領域 を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコン ウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。」と記載\nしているだけであり、シリコンウェハの切断部位の形状(溝の有無)に関 係なく、溶融処理領域(改質領域)を起点としてシリコンウェハが切断で きるものであることの記載はないとして、本件訂正事項は新規事項を追加 するものでないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、前記アで説示したとおり、本件明細書の記載及び本件優 先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物: シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準\n仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凸凹のない平坦な形\n状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラ インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明で あり、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合することにより導 かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものと いえない。原告の挙げる1)ないし3)は、いずれも、上記判断を左右するも のではない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項
 >> 新たな技術的事項の導入
 >> 減縮
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10089  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月14日  知的財産高等裁判所

 経緯が複雑です。2つの無効審判が請求され、いったん併合すると通知されましたが、結局、分離されました。1つ目の無効審判では、訂正を認めたうえ、無効理由なしと判断されました。その後、2つ目の無効審判が開始され、特許権者は2回目の訂正をしましたが、審決は訂正を認めず、無効と判断しました。知財高裁はこの審決を維持しました。 無効理由は特段の効果なしです。

c 訂正明細書の【0075】には、基剤として使用可能な多糖類が、少\n量の水に溶解されると糊状になる「曳糸性を有する物質」であるとの記 載はあるが、その技術的意義の記載はない。また、訂正明細書の【00 93】では、引離法による経皮吸収製剤製造の初期段階で、フッ素樹脂 等からなる平板92の上に、目的物質を含有する基剤91を載せたと き、基剤として、水に溶解させると曳糸性を示す物質からなるものを用 い、糊状とすることが好ましいとの記載があるが、これは、目的物質を 含有する基剤を針状又は糸状に成形するという引離法における製造上 の便宜を示したものと解される。さらに、鋳型法による場合について は、訂正明細書の【0095】に、目的物質を含有する基剤が糊状であ れば孔から取り出した後に乾燥又は硬化させることができることが記 載されているところ、これも、粘度が低い場合には鋳型内で乾燥又は硬 化した後に取り出すことを要することと対照した製造上の利便性の記 載であると解される。
したがって、訂正明細書には、経皮吸収剤が「基剤、目的物質及び水 を含む曳糸性を示す糊状物が乾燥した物」であることと、経皮吸収剤そ れ自体の構造や特性との技術的関係についての記載は一切存在しない。\nd 甲2−1文献には、「液体溶液の粘度ならびに他の物理的および化 学的特性に依存して、さらなる力(例えば、遠心分離力または圧縮力) が、鋳型を満たすために必要とされ得る」(【0025】)と記載され、 さらに、粉末形態のマトリクス材料についての記載ではあるが、「粉末 形態がマトリクス材料のために使用される場合、この粉末は、有利に は、鋳型にわたって分離され得る。粉末の化学的および物理的特性に依 存して、次いで、粉末の適切な加熱が適用されて、鋳型内に粘稠性の材 料を融解または挿入し得る。」(【0026】)との記載もある。この ような記載に接した当業者であれば、鋳型で液体溶液を乾燥させる場 合、粘度が1つの重要な要素となり、粘度に応じた製法の調整をして対 応するほか、粘度自体も調整の対象となり得ること、粘稠性の材料であ っても鋳型に充填し得ることを理解するものといえる。
鋳型で乾燥させる液体溶液の粘度の調整については、当業者であれ ば、乾燥するという目的や、鋳型に充填する際の作業効率といった観点 から行うものであり、ヒアルロン酸水溶液が糊状であるか否かは、ヒア ルロン酸水溶液の粘度によって決定され、粘度がある程度以上高けれ ば、糊状になるといえることは前記bのとおりであるところ、上記のよ うに、甲2−1文献の記載から、粘稠性であっても鋳型に充填し得るこ とを理解することができるのであるから、乾燥するという目的も勘案 して、液体溶液の粘度を高いものとすることは容易に想到し得ること である。 そして、そのような液体溶液は粘度によって糊状にも粘稠な液体に もなり得るのであって、その差は相対的であり、いずれの状態になるよ うに調整するにしても、それは、当業者が適宜設定し得た事項にすぎな い。
ヒアルロン酸は曳糸性を有することは前記aのとおり技術常識であ る以上、当業者においてこのように適宜調整された液体溶液は、曳糸性 を示すものになるといえる。なお、甲57実験成績証明書及び乙19実 験報告書からみれば、希薄なヒアルロン酸水溶液は曳糸性を示さない が、鋳型で乾燥させてマイクロニードルを作るに当たって、乾燥させる という目的からみて、そのような希薄な溶液を使用することは想定さ れない。 以上によれば、引用発明2において、甲1−1文献に記載のヒアルロ ン酸を採用する際に、ヒアルロン酸と薬剤を含む液体溶液を、「曳糸性を 示す糊状物」とすることは、当業者が容易になし得たことというべきで ある。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 特段の効果
 >> 補正・訂正
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和4(行ケ)10016 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月21日  知的財産高等裁判所

 「紙破現象を起こし得るように構成している」という発明特定事項が明確性違反かが争われました。知財高裁は、無効理由なしとした審決を維持しました。\n分割出願2件についても同様に判断されています。

ア 本件発明1は、「紙破現象を起こし得るように構成している」との発明特\n定事項を有しているところ、「紙破」又は「紙破現象」とは一般的な用語で はなく、その意義を特定するためには、本件明細書の記載を参照すること になる。 そこで、本件明細書の記載についてみると、本件明細書には、「・・・例 えば被着体を紙類とした場合、粘着製品或いは粘着剤を紙類から剥がそう とする剥離動作を行った際に、紙の表層を確実に損傷させることが要求さ\nれる場合がある。」(【0009】)、「以下本明細書において、このような紙 類の表面を損傷した状態を紙破と記載する。また、粘着製品の粘着剤層を\n剥離させた際に紙類の表層が粘着剤に付着し紙類が厚み方向に破断する\nことを紙破現象と記載することとする。」(【0011】)、「・・・「紙破」: 粘着剤層の表面に紙片の表\層部分を付着させて剥離(図12(a))、「界面 剥離」:粘着剤層と紙片との界面において剥離(同図(b))、「凝集剥離」: 粘着剤が紙類とステンレス板との両方に付着した状態で剥離(同図(c))、 「ナキワカレ」粘着剤層が紙類とステンレス板との両方に付着した状態で 剥離(同図(d))、の何れかに分類して行った。」(【0092】)との記載 があり、【0092】で引用されている図12は、以下のとおりであり、図 12の(a)には、ステンレス板上の粘着剤層の表面に紙類が厚み方向に\n破断した紙片の一部が付着した状態が描かれている。
上記で指摘した本件明細書の記載及び図面を総合すると、本件発明1に おける「紙破現象」とは、粘着製品の粘着剤層を剥離させた際に紙類の表\n層が粘着剤に付着し、紙類が厚み方向に破断する現象をいうものであると 理解することができる。そして、本件発明1の「紙破現象を起こし得るよ うに構成している」との発明特定事項は、その他の構\成要件を充足する「感 圧転写式粘着テープ」のうち、「紙破現象を起こし得る」ように構成されて\nいるものと解することができ、「紙破現象を起こし得ない」構成は、本件発\n明1の技術的範囲に含まれないものと理解することができる。 そうすると、「紙破現象」の発生割合や発生条件について本件発明1に係 る請求項1には特定されていないとしても、特許請求の範囲の記載が第三 者に不測の損害を被らせるほど不明確な記載であるとはいえない。 イ これに対して、原告は、前記第3の1 のとおり、1)「紙破」は、通常 の利用者が視認可能な態様で紙が破れることを指すものであり、「紙破現\n象」とはこうした「紙破」が起こる現象を指すべきものである、2)本件明 細書の記載及び技術常識からすると、「紙破現象を起こし得る」とは、ほぼ 確実に「紙破現象を起こすもの」でなければならないが、いかなる条件の 下で起こるのか不明確であり、同一の接着剤を同一の被着剤に用いた剥離 試験に関する技術常識に照らせば、「紙破現象が起こし得るように構成し\nている」かどうかは条件が特定されなければ不明確である、3)原告による 追実験(甲14)及び被告による「事実実験公正証書」(甲29)の各試験 結果からすると、本件明細書の試験結果は信用することができない旨主張 する。
しかし、前記アのとおり、本件明細書には、「以下本明細書において、こ のような紙類の表面を損傷した状態を紙破と記載する。また、粘着製品の\n粘着剤層を剥離させた際に紙類の表層が粘着剤に付着し紙類が厚み方向\nに破断することを紙破現象と記載することとする。」(【0011】)とあり、 粘着製品の粘着剤層を剥離させたときに紙類の表層が粘着剤に付着し、厚\nみ方向に紙類が破断していることを示す図(図12(a))があることから、 「紙破現象」とは、上記段落で記載されたとおりに解釈されるべきであり、 「通常利用者が視認可能な状態」で紙が破れることという条件を付加して\n解釈する必要はない。また、原告による追実験(甲14)は、紙類の表層\nが粘着剤に付着したかどうかの確認作業について言及がない(むしろ、視 認によって判断している可能性が高い。)ため、この追実験で本件明細書の\n実物剥離試験の結果が信用できないものであると判断することはできな いし、被告による「事実実験公正証書」(甲29)の試験結果において、「目 視では十分に確認できなかった」との記載があるとしても、そのことが「紙\n破現象」が起きていないことを意味するものではないことについては前示 のとおりであるから、上記1)及び3)の各主張は理由がない。
次に、上記2)について検討するに、本件発明1においては、粘着剤層を 介して紙類同士を止着させた後、粘着剤層を剥離させたときの条件及び方 法は発明特定事項には含まれておらず、他の構成要件を充足する「感圧転\n写式粘着テープ」のうち、「紙破現象を起こし得る」ように構成されている\nものが本件発明1として特定されているのであるから、任意の条件及び方 法で「紙破現象」が生じ得る構成であれば、本件発明1の技術的範囲に属\nするものといえ、他方、「紙破現象を起こし得ない」構成は技術的範囲に属\nさないことが明らかにされている。したがって、少なくとも上記 記載の 明確性要件との関係においては、剥離試験における条件や方法等について の特定がないとしても、第三者に不測の不利益を及ぼすものとはいえない から、上記2)の主張も理由がない。

◆判決本文

分割願についての判断です。

◆令和4(行ケ)10017

◆令和4(行ケ)10018

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 記載要件
 >> 明確性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10164  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、進歩性なしとした審決を、阻害要因ありとして取り消しました。また、手続き違背についても認めました。

 (1) 引用発明1を含む甲8に記載された発明は、特に、「被膜を有しないSn耐食 性に優れた合金材料、この合金材料からなるコンタクトプローブおよび接続端子を 提供することを目的とする」ものである(甲8の段落[0006])ところ、銀の添加に ついては「Sn耐食性」の向上については触れられていない(同[0018])一方で、 ニッケルの添加は「Sn耐食性の向上・硬度上昇に効果がある」ことが明記されて いる(同[0019])。 そして、実施例においても、硬度等とともに「Sn耐食性」が独立の項目として 評価され(同[0036])、甲8に係る発明の実施例には全てニッケルが添加され、い ずれも「Sn耐食性」において「○」と評価されている(同[0038]及び[表1]。\nなお、同[0003]及び[0047]等の記載のほか、同[0040]〜[0045]の比較例1 〜6に対する評価に係る記載をみても、甲8に係る発明は、硬度とSn耐食性を含 む複数の要請をいずれも満たすことを目的としたものであると認められる。)。 この点、比較例7のみにおいては、ニッケルの添加がされていないが、「Sn耐食 性」において「×」と評価され、かつ、「Snはんだ等低硬度材向けのコンタクトプ ローブ用途として好ましくないといえる」と明記されている(同[0046]及び[表\n1])。 以上の点に照らすと、引用発明1においては、ニッケルの添加が課題解決のため の必須の構成とされているというべきであり、引用発明1の「合金材料」について、\nニッケルの添加を省略して銅銀二元合金とすることには、阻害要因があるというべ きである。そして、甲8の記載に照らしても、引用発明1の「合金材料」について、ニッケルの添加を省略して銅銀二元合金とすることの動機付けとなる記載は認められず、 他にそのようにすることが当業者において容易想到であるというべき技術常識等も 認められない。 したがって、引用発明1に基づいて、相違点1に係る本願補正発明の構成とする\nことについて、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。
(2) 被告の主張について
ア 被告は、一次特性と二次特性の区別を前提として、甲8の記載に接した当業 者においては、導電性と硬度という最優先の二大特性が最低限満たされたベース合 金のコンタクトプローブも意識するはずであるから、相違点1に係る本願補正発明 の構成に容易に想到し得る旨を主張する。\nしかし、一次特性と二次特性についての被告の主張を前提としても、前記(1)で指 摘した諸点に照らすと、甲8の記載に接した当業者においては、導電性と硬度とい う最優先の二大特性を最低限満たした銅銀二元合金に、ニッケルをどのような割合 で添加すること等によって、「Sn耐食性」を向上させ、それや硬度を含めたコンタ クトプローブとしての要請をどのように実現させるかという観点から引用発明1を みるものといえるから、「Sn耐食性」が専ら二次特性に係るものであるという理解 を前提としても、そのことから直ちにニッケルの省略が動機付けられるものとはい えず、相違点1に係る本願補正発明の構成に容易に想到し得るとの被告の主張は採\n用できない。
・・・・
(2) 特許法50条本文や同法17条の2第1項1号又は3号による出願人の防御 の機会の保障の趣旨は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由 を発見した場合にも及ぶものと解される(同法159条2項)。 また、同法53条1項(同法159条1項により読み替えて準用される場合を含 む。)において、同法17条の2第1項3号による補正や審判請求時にされた補正が 独立特許要件に違反しているときはその補正を却下しなければならない旨が定めら れ、同法50条ただし書(同法159条2項により読み替えて準用される場合を含 む。)において、上記により補正の却下の決定をするときは拒絶理由通知を要しない 旨が定められたのは、平成5年法律第26号による特許法の改正によるものである ところ、同改正の際には、審判請求時にされた補正の判断に当たって審査段階にお ける先行技術調査の結果を利用することが想定されていたものとみられるととも に、同改正の趣旨は、再度拒絶理由が通知されて審理が繰り返し行われることを回 避する点にあったものと解される。 以上の点に加え、新たな引用文献に基づいて独立特許要件違反が判断される場合、 当該引用文献に基づく拒絶理由を回避するための補正については当該引用文献を示 されて初めて検討が可能になる場合が少なくないとみられること等も考慮すると、\n特許法159条2項により読み替えて準用される同法50条ただし書に当たる場合 であっても、特許出願に対する審査手続や審判手続の具体的経過に照らし、出願人 の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるようなときには、拒絶理由 通知をしないことが手続違背の違法と認められる場合もあり得るというべきであ る。
(3) 本件においては、次の各事情が認められる。
ア 証拠(甲3、7、13)及び弁論の全趣旨によると、甲16(引用文献5) については、審査段階で指摘されることはなく、本件審判手続に至っても予め指摘\nされることなく、本件審決で初めて指摘された文献であると認められる。
イ 本願の特許請求の範囲の請求項1については、進歩性に関し、1)令和2年6 月22日起案の拒絶理由通知書(甲7)において、甲8が引用文献として指摘され、 「銅銀合金を製造する上で、銅に対する銀の添加量をどのような値とするのかは、 当業者が適宜行う設計的事項にすぎない」という理解が示された上で、甲8に記載 された発明と本願発明との相違点は一点(本件審決にいう相違点2に相当するもの) に限られることが指摘され、その相違点に係る本願発明の構成が容易想到である旨\nが指摘されたこと、2)原告は、同年8月19日付け意見書において、上記拒絶理由 通知書における上記理解が誤りである旨を指摘し、甲8に記載された合金はニッケ ルを含むもので、甲8の銅銀ニッケル合金において銀の添加量を変更しても本願発 明には至らないことなどを主張したこと(甲11)、3)同年10月22日付けで上記 拒絶理由通知書の記載に沿う拒絶査定がされたこと(甲13)、4)原告は、令和3年 2月3日付けで本件審判請求及び合金の組成に係る本件補正をしたこと(甲14、 15)、5)令和元年12月9日付けの補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1に おいても、本願発明の合金は「銅銀合金体」と記載されており、それと上記2)の意 見書における原告の主張を併せて考慮すると、本願発明の「銅銀合金体」がニッケ ルを含むものではないことを原告が前提としていることは、同意見書の提出の時点 で理解できたことが認められるところであり、原告においては、上記のとおり審査 段階において本願発明について進歩性欠如の根拠とされた唯一の文献である甲8に 対し、合金の材料に係る他の相違点が存在するという点に専らその主張を集中させ て争い、本件審判請求の際にもそれに沿う趣旨の本件補正をしたものである。 しかるに、前記2(1)及び(2)のほか、本願発明と引用発明1の対比によると、本 願補正発明と引用発明5との相違点である相違点3は、本願補正発明と引用発明1 の相違点2及び本願発明と引用発明1の相違点4と実質的に全く同一のものである と認められる一方、本願補正発明と引用発明1との相違点1は、本願補正発明と引 用発明5の相違点としては認められないものである。それゆえ、拒絶理由通知をも って甲16(引用文献5)を示されていた場合には、原告においては、審査段階や 審判段階において、引用発明5の認定並びに本願補正発明と引用発明5の一致点及 び相違点について争ったり、相違点2及び相違点3をより重視した反論をしたり、 あるいは相違点3に係る本願発明の構成に関して補正することを検討するなどして\nいた可能性もあるものとみられ、原告の方針には重大な影響が生じていたものとい\nうべきである。
(4) 前記(2)を前提として、前記(3)の諸事情を踏まえた場合、相違点3と同一の 相違点2については審査段階で原告に反論の機会が与えられていたこと等を考慮し ても、なお、引用発明5を主引用例として本願補正発明の進歩性を判断することは、 原告の手続保障の観点から許されないというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 阻害要因
 >> 審判手続

▲ go to TOP

令和4(行ケ)10021  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

「吹矢の矢」の特許についての審決取消請求事件です。特許庁が無効理由無しとした審決が維持されました。侵害訴訟については1審は侵害と認定しましたが、知財高裁は技術的範囲に属しないと判断しています。

ア 事案の内容に鑑み、まず、相違点2−1−cに関する容易想到性について検 討する。
イ 前記4(1)及び(2)によると、甲2及び3には、前記第2の3(3)ア(ア)aのよ うに本件審決が認定する「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方 に延びる円柱部とからなるピンを備えた吹矢に使用する矢」(甲2・3技術事項) が記載されていると認められるが、それら甲2及び3に記載された矢は、いずれも、 (円錐形の)フィルムを備えたものではない。 また、前記4(3)によると、甲4において、重りの釘2)は頭部を矢の後方(プラス ティックフィルム1)が巻かれた側)に位置しており、フィルムに釘の円柱部全てが 差し込まれているものではなく、フィルムの先端部に重りの釘2)の頭部が接続され ているものでもない。 したがって、仮に、甲1発明に甲2〜4を適用しても、相違点2−1−cに係る 本件発明の構成には至らないから、甲2〜4は相違点2−1−cについての容易想\n到性を基礎付けるものではない。
ウ(ア) これに対し、甲5発明の矢については、釘4の円柱状部分全てがスカート 部6に差し込まれて固着されるとともに、スカート部6の先端部に連続して釘4の 丸い頭部4aが接続されているといえる。
(イ) しかし、甲1発明の矢は、矢軸5の後方に中空円錐状の羽根部6が篏合固着 されており、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着することについて、甲1に これを示唆し、又は動機付ける記載があるとは認められない。 この点、甲1において、矢じりは金属製とされ、標的台は台板と紙とクッション ボードから成るものとされ、クッションボードについては所定厚さ(約20mm)が 明記され、全長約10cmの吹矢の約5分の1程度を矢じり4及び矢軸5が占める第 3図が掲載され、吹矢の当たった状態を示すとされる第6図においては矢じり4の 先端が台板8に接している状態が示されていることを考慮すると、甲1において吹 矢が標的面に当たり「小気味の良い音」を発するについては、矢じり4の先端が台 板に到達することが少なからず寄与していることが窺われる。それにもかかわらず、 仮に矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着した場合、第6図のように矢じり4 の先端が台板に到達するかには疑問を差し挟む余地がある。このことは、甲1発明 の矢について、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採用す\nることを阻害する事情となり得るところである。
(ウ) そうすると、甲1発明に甲5発明を適用することについては、示唆も動機付 けもなく、むしろ阻害要因があるともいえるから、甲1及び5に基づいて、当業者 において相違点2−1―cに係る本件発明の構\成とすることが容易になし得たもの とはいえない。
エ したがって、相違点2−1のうちその余の点について判断するまでもなく、 相違点2−1に係る本件発明の構成が容易想到であるとはいえない。\n
オ 原告の主張について
(ア) 原告は、羽根部分がピンから外れ、又は前側(円頭形部分側)にフィルムが ずれてしまうことから、甲1に接した当業者であれば、甲5に開示のようにフィル ムに円柱部を全て差し込む構成とする必要があり、動機付けがある旨を主張する。\n原告の上記主張は、動機付けとして、甲1や甲5の記載を根拠とするものではな く、物理法則ないし技術常識を指摘するものと解されるところ、原告が上記主張の 根拠として提出する実験結果報告書(甲12)については、実験に用いられた吹矢 の矢の素材や寸法等も明らかでなく(なお、甲1においては、羽根は、紙又は合成 樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより形成された最大外径10〜12mmの軽量 なものとされ、矢の全長は約10cmであるとされている。)、甲1発明の矢を適切 に再現した上でされた実験であることが担保されているとはみられない。また、そ の内容に沿わない被告提出の報告書(乙1)も存在する。さらに、接着剤の詳細に ついても不明であり、より強固な接着力を有する接着剤を選択するという方法が存 在しないことも裏付けられていない。したがって、前記報告書(甲12)に基づい て原告の主張するような動機付けがあると認めることはできず、その他、甲1発明 について矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採る動機付け\nとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。 したがって、原告の上記主張は前記イ〜エの判断を左右するものではない。
(イ) 原告は、1)矢軸の途中にフィルムを巻き付ける構成とした場合、ピンの軸が\nフィルムの中央を通るように固定することが困難となり、上下方向で重心のブレを 生じ、命中精度に影響し得ること、2)上記構成とすると、吹矢を量産する際に差し\n込む部分の長さを一定にするための位置決めが困難であるのに対し、フィルムに円 柱部を全て差し込む構成とすると、同じ長さの吹矢を容易に製造することが可能\と なるといった点を踏まえても、甲1発明に甲5発明を適用する動機付けがあると主 張するが、命中精度や製造の容易性に関して甲1に示唆や動機付けというべき記載 は認められず、他に上記1)及び2)の点に関して甲1発明に甲5発明を適用する動機 付けとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。

◆判決本文

侵害訴訟の控訴審はこちら。

◆令和3(ネ)10049等

1審はこちら。

◆平成31(ワ)2675

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> 阻害要因
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10165 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月30日  知的財産高等裁判所

 動機づけなし・阻害要因ありとして、進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。

ア 本件発明1と甲2発明1との相違点1ないし4は、前記第2の3(3)イの とおりであるところ、これらはいずれも本件発明1における伸縮部を備え ているか否かをその内容とするものといえる。 そこで、以下、本件特許が出願された当時の当業者が、甲2発明1、甲 4発明及び甲5公報ないし甲7公報から認定される周知技術に基づいて、 甲2発明1について上記伸縮部を備えることを容易に想到し得たか否か について検討する。
イ まず、主引用発明である甲2発明1について検討するに、甲2公報にお いて、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能なものとすることが記載又は示唆\nされているというべき記載は見当たらない。 また、前記(1)のとおり、甲2発明1は、盗難防止用連結ワイヤの一方を ドアノブや玄関周り固定物に接続し、他方を宅配容器本体に接続するもの であるところ、甲2公報の段落【0022】並びに図3及び図4の記載に よれば、甲2発明1の盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側のドアノブや建 物内部の玄関周り固定物に接続するものであるといえる。さらに、甲2公 報の段落【0022】及び図3の記載によれば、甲2発明1において、配 達物を収納していないときの形態の宅配容器本体をドアノブに掛ける際 には、宅配容器本体に備えられた「宅配容器取っ手」を使用することとさ れている。
このように、甲2発明1においては、配達物を収納していないときの形 態の宅配容器は、「宅配容器取っ手」を使用して玄関外側のドアノブに掛け られ、他方で、宅配容器に接続された盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側 のドアノブや建物内部の玄関周り固定物に接続することとなるのである から、同ワイヤは、これを可能とするのに十\分な長さを確保する必要があ るといえる。そうすると、配達物を収納していないときの形態における甲 2発明1においては、盗難防止用連結ワイヤの長さを、ドアの一部に吊り 下げられるように短縮する構成は採用し得ず、そのような構\成を採る動機 付けは存しないというべきである。
以上によれば、甲2発明1において、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能\nなものとすることは動機付けられないというべきである。なお、上記に照 らすと、甲2発明1においては、少なくとも相違点3に係る本件発明1の 構成を採ることについて、阻害要因が存するというべきである。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> 阻害要因
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和4(ネ)10052  特許権侵害に基づく損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年9月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 興和vs東和薬品の特許権侵害訴訟です。1審は、サポート要件違反の無効理由があるとして請求を棄却しました。知財高裁は、サポート要件違反についてはふれることなく、公知文献(乙12)から進歩性無しとして無効と判断しました。阻害要因も否定されています。

前記(ア)及び(イ)によると、乙12発明における「コーティング」は、酸 化や環境湿度等に敏感なスタチン類(HMG−CoAレダクターゼ阻害剤)を保護 し、これを安定化するために塗布される材料の層であるところ、従来から、固形医 薬品の安定性を高める目的で保護コーティングが施され、その材料として様々なも の(ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体ではないアミノアルキルメタアク リレートコポリマーEを含む。)が開発されていることが周知であり、特に、HM G−CoA還元酵素阻害剤のコーティング材料として、カルメロース及びその塩、 クロスポビドン等の崩壊剤と共に、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE を用い得ることが知られていたものと認めることができる。 そうすると、乙12発明の「コーティング」の材料として、「カルボキシメチル セルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物」に代え、アミノアル キルメタアクリレートコポリマーE等の「ポリビニルアルコール又はセルロース誘 導体」を含まない周知のものを採用することは、乙12公報に接した本件出願日当 時の当業者において適宜なし得たことであると認めるのが相当である。
(エ) 控訴人の主張について
控訴人は、乙12発明は「ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィル ム形成剤として含む材料の層でコーティングされた構成」を必須の構\成とするもの であり、これを従来技術として知られている他のコーティングに変更することは想 定されていないから、上記の必須の構成を相違点2に係る本件訂正発明6の構\成に 変更することには阻害要因がある旨主張する。 しかしながら、乙12公報の記載(前記3(1)キ)を見ても、乙12発明の適切 な「膜形成剤」は、(環境影響に敏感な)粒子又は活性物質を含む医薬剤形のコア にコーティングの形態で塗布され、環境影響(酸化及び/又は環境湿度等)から活 性物質を保護する任意のものであり、最も好ましい「膜形成剤」は、活性物質を酸 化から保護する任意のものであるとまず理解され、当該任意の「膜形成剤」のうち 好適なものがポリビニルアルコール(PVA)及びセルロース誘導体からなる群か ら選択されるものであると理解するのが自然であるから、「ポリビニルアルコール 又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされた 構成」が乙12発明の必須の構\成であると認めることはできない。したがって、こ の構成を相違点2に係る本件訂正発明6の構\成に変更することに阻害要因があると いうことはできない。

◆判決本文

原審はこちら

◆平成30(ワ)17586等

なお、当事者および該当特許が同じ別訴では、侵害が認定されています。

◆平成27(ワ)30872

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10136等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月31日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(2部)は、進歩性判断における動機付けについて「当該構成を得るためにフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用しようとする動機付けはない」として、進歩性無しとした審決を取り消しました。

 前記1(2)のとおり、本件発明1は、溶融前の半田片をノズルの内壁及び端 子の先端に必ず当接させるとともに、溶融した半田片を必ず真球にならないまま端 子の上に載った状態で下方に移動しないように停止させ、ノズルからの熱伝導等に より半田片及び端子を十分に加熱し、これにより適正温度での半田付けを実現する\n結果、半田付け不良の防止という効果を奏するものである。これに対し、甲1には、 ランドに接地した糸半田が貫通孔の周壁から輻射熱、伝導熱及び対流熱により加熱 され、遜色なく溶解され、より的確な半田付けが可能になった旨の記載はみられる\nものの(段落【0023】及び【0042】)、溶融した半田が必ず真球にならな いまま停止すること、すなわち、溶融後も半田がノズルの内壁に当接し続けること により半田片及び端子が十分に加熱されることについての記載及び示唆はないから、\n甲1に接した当業者にとって、溶融した半田が必ず真球にならないとの構成が解決\nしようとする課題及び当該構成が奏する作用効果を知らないまま、当該構\成を得る ためにフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用しようとする動機付け はないものといわざるを得ない。
(6) なお、証拠(甲39)及び弁論の全趣旨によると、フラックスの含有量が 小さい半田を用いると、半田付け不良の原因になるものと認められる。
(7) 以上によると、使用する半田に含有されるフラックスの量についての記載 及び示唆がない甲1に接した当業者にとって、甲1発明においてフラックスの含有 量が1wt%の半田をわざわざ採用し、溶融した半田が必ず真球にならないとの構\n成を得ることが容易になし得たものであったと認めることはできず、その他、当業 者が甲1発明に基づいて溶融した半田が必ず真球にならないとの構成を得ることが\n容易になし得たものであったと認めるに足りる証拠はない。 なお、乙3(技術説明資料・17頁)には、甲1発明においてフラックスの含有 量が2wt%以下の半田を用いても必ず真球にならないとの構成を得ることができ\nる旨の記載があるが、半田が溶融した際に形成される球の直径を求めるに当たって は、フラックスの組成、半田の組成、半田の熱膨張、ノズルの熱膨張等の諸般の要 素につき詳細な検討が必要であるから、乙3が引用する甲33(原告の特許庁審判 長に対する回答書)の計算結果並びに残存するフラックスの影響及び半田の熱膨張 の影響のみを考慮することによっては、甲1発明においてフラックスの含有量が2 wt%以下の半田を用いた場合に必ず真球にならないとの構成を得るものと認める\nことはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10131  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月22日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。原告は阻害要因ありを主張しましたが、「専門の技術者がこれを行うことを常に想定しているということはできない」としてこれを否定しました。

(3) 前記(2)の記載によると、甲4の「スクリーン保護膜30」が本件発明1の 「保護シート」に相当し、「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」が それぞれ本件発明1の「第2剥離部」及び「第1剥離部」に相当することは明らか である。そして、甲4の「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」は、 それぞれ「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」から、「スクリーン 保護膜30」の外側に延びるように設けられ、「第一の離型膜341」及び「第二 の離型膜342」を剥がす際に手で持つ部分であるから(段落【0025】、【0 026】、【図4】〜【図6】)、いずれも本件発明1の「延出部」に相当すると いえる。
ここで、甲4において「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」を設 けたのは、手で「第一の突起部343」又は「第二の突起部344」を持って、そ れぞれ「第一の離型膜341」又は「第二の離型膜342」を便利に剥がせるよう にするためである(段落【0025】)。そうすると、甲4に記載された発明とそ の属する技術分野を同じくする甲3−1発明(その内容は、前記第2の3(2)ア (ア)のとおり)においても、そのような利便性を図るため、甲4に記載された「第 一の突起部343」及び「第二の突起部344」の構成を適用して本件発明1の\n「延出部」を設けることは、本件優先日当時の当業者において容易に想到し得たこ とであると認められる。
(4) この点に関し、原告は、甲3−1発明に甲4に記載された「第一の突起部 343」及び「第二の突起部344」の構成を適用することには、阻害要因がある\n旨主張するが、以下のとおり、これを採用することはできない。
ア 原告は、まず、甲3−1発明はその貼付の対象として超大型のディスプレイ\nパネル(最低でも17インチのものであり、適するのは82インチのものであり、 更にそれより大きいものを含む。)を想定しており、その貼付を行うのは専門の技\n術者であるから、本件発明1の「延出部」のような部材は不要である旨主張する。 そこで検討するに、前記(1)のとおり、甲3には、甲3−1発明の光学フィルム を貼付する対象が「大型ディスプレイパネル」であり、「大型」とは17インチか\nら82インチ程度までのものをいう旨の記載がある(前記(1)イ、ケ等)。また、 特許請求の範囲においては、保護フィルムの貼付の対象となる大型ディスプレイパ\nネルが少なくとも17インチのものである旨の特定がされている(前記(1)ツ)。
さらに、実施例1においては、甲3−1発明の光学フィルムは40インチの大型液 晶テレビに貼付され、実施例2においては、甲3−1発明の光学フィルムは23イ\nンチのコンピュータディスプレイに貼付されている(前記(1)ソ及びタ)。これら\n甲3全体の記載を参酌すると、甲3の「要約」に、「この方法は、対角線208c m(82インチ)の可視領域を有するような大型ディスプレイパネルでの使用に適 している。」との記載があること(前記(1)ア)を考慮しても、甲3−1発明が8 2インチ程度の大型ディスプレイパネルのみをその貼付の対象としていると認める\nことはできず、甲3−1発明は、幅広い大きさの範囲(17インチないし82イン チ程度)のディスプレイパネルをその貼付の対象とするものであると認めるのが相\n当である。そして、17インチ程度の大きさのディスプレイパネルに光学フィルム を貼付することが専門の技術者でなければ行えないとみるべき事情もない。そうす\nると、甲3−1発明の光学フィルムの貼付については、専門の技術者がこれを行う\nことを常に想定しているということはできないから、原告の上記主張は、その前提 を欠くものとして失当である(なお、原告が主張する「把持部」(本件発明1の 「延出部」に相当する部材)は、甲4における「第一の離型膜341」及び「第二 の離型膜342」を剥がすのに便利な「第一の突起部343」及び「第二の突起部 344」と同様の機能を有するものであるところ(甲4の段落【0025】等参\n照)、甲4の「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」は、甲3―1発\n明の分離剥離ライナーである「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」に対 応するものである。専門の技術者であったとしても、分離剥離ライナーを剥がすた めに「把持部」を設けることは便利となるものであって、仮に、甲3−1発明の光 学フィルムがその貼付を専門の技術者が行うことを想定しているとしても、そのこ\nとから直ちに、甲3−1発明の光学フィルムにおいて、分離剥離ライナーである 「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」を剥がすのに便利な「把持部」を 設けることが不要になるわけではない。)。
イ 原告は、また、甲3−1発明の光学フィルムの貼付作業に利用できるように\n「把持部」を形成する場合、最低でも10cm程度の大きさ(これは、「把持部」 と「第1の部分38a」又は「第2の部分38b」が接する部分の長さをいうもの と解される。)が必要になるところ、そのような大きさの「把持部」が形成される と、甲3が想定する精度で貼付作業を行うことができなくなる旨主張する。\nしかしながら、甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を形成する場合、最低 でも10cm程度の大きさを必要とするとの原告の主張は、何ら客観的な根拠を有 するものではないし、上記アのとおり、甲3−1発明の光学フィルムは、17イン チのディスプレイパネルをもその貼付の対象とするものであるから、その場合にも、\n「把持部」を形成するのであれば最低でも10cm程度のものが必要であるという ことはできない(なお、原告の上記主張は、甲3−1発明の光学フィルムの貼付の\n対象として、82インチ程度の超大型ディスプレイパネルのみが想定されているこ とを前提とするものと解されるが、その前提が成り立たないことは、前記アのとお りである。)。したがって、原告の上記主張も、前提を誤るものとして失当である。 ウ 原告は、さらに、甲3−1発明の光学フィルムは、ディスプレイパネルの周 囲に大きな段差のあるフレームがあるような場合に使用されることを想定している ところ(甲3の図面)、そのような場合に「把持部」を形成すると、フレームと 「把持部」が干渉してしまい、甲3−1発明の光学フィルムの位置決めが不可能に\nなる旨主張する。
確かに、甲3の図面の中には、ディスプレイパネルの周囲にフレームがあり、段 差が生じていると見て取れるもの(図7a等)がある。しかしながら、実施例1に おいては、甲3−1発明の光学フィルムは大型液晶テレビに貼付され、実施例2に\nおいては、甲3−1発明の光学フィルムはコンピュータディスプレイに貼付されて\nいるところ(前記(1)ソ及びタ)、大型液晶テレビやコンピュータのディスプレイ\nパネルの周囲に必ず段差のあるフレームが存在するわけではないから、甲3−1発 明の光学フィルムが、常にディスプレイパネルの周囲に大きな段差のあるフレーム があるような場合に使用されることを想定しているということはできない。したが って、原告の上記主張も、その前提を誤るものとして失当である。
エ なお、原告は、実験報告書(甲28の3、甲36)を根拠に、甲3−1発明 の光学フィルムを巨大なディスプレイパネルに貼付する場合、「把持部」があると、\nかえって作業に支障を来す旨主張する。
しかしながら、上記実験において用いられたのは、82インチの光学フィルムの みであるところ、前記アのとおり、甲3−1発明は、常に82インチ程度の光学フ ィルムであることを前提としているわけではないから、82インチよりも小さいサ イズの光学フィルムを用いた実験を省略する上記実験は、17インチないし82イ ンチ程度といった幅広い大きさの範囲でディスプレイパネルに貼付することを前提\nとする甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を設けることの不都合さを示す実 験としては、十分なものではない。加えて、23インチのディスプレイパネル及び\n82インチのディスプレイパネルに貼付することのできる2種類の光学フィルムを\n用いた被告の実験結果(「延出部」を設けても貼付作業に支障を来さず、むしろ有\n用であったとするもの。乙1、2)にも照らすと、原告の上記実験結果によっても、 甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を設けると貼付作業に支障を来すことに\nなると認めることはできず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> 阻害要因
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ワ)20286等 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年6月30日  東京地方裁判所

 任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟です。東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n原告は、本人訴訟です。特許は、特許第3382936号(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-3382936/03A51F6D5F3A043A6242B758D39317CEC3E7966037CD769975997EE07C2C14E4/15/ja)ですが、被告が無効審判(無効2020-800098)を請求しており、職権でサポート要件違反などが指摘されています。2022年8月現在では審決はなされていません。なお、2011/08/30に10年目の登録料を支払わずに存続期間満了による抹消がなされています。

 前記(ア)のとおり、乙4文献には、使用時に表示板2を見易い傾斜角度\nに開くことができる折畳み式の小型電子機器において、表示板2を手で\n回転させると、回転軸8の溝aないしeに回転軸止め用シャフト10が 弾性的に圧入され、回転軸8の溝b、c、d、eのところで、夫々クリ ック音を感触させながら位置II)、III)、IV)、V)で停止して表示板2を固定\nさせることが開示されており、第5図からは、傾斜角度が約120度か ら約170度までの範囲内の予め決められた1つの傾斜角度に対応した\n位置で固定可能なことも理解できる。\nまた、前記(イ)のとおり、乙26文献においても、表示体ケース2を開\n閉可能な小型の電子機器において、回転軸6の凸凹10とクリックツメ\n12を設けることで、表示体ケース2を任意の位置で停止させることが\nできることが開示されている。 そうすると、乙4文献及び乙26文献により、折り畳み式の小型電子 機器において、表示板を含む2つの部材のなす角度が、ユーザーが行う\n表示板の回動により約120度から約170度までの範囲内の予\め決め られた1つの角度に変化させられたとき、前記回動をストップさせて、 前記2つの部材の間を前記予め決められた1つの角度で固定する中間ス\nトッパであって、前記2つの部材のなす角度が折り畳まれた状態から広 げられて行く動作をストップする機能と、広げられた状態から角度を狭\nめて行く動作をストップする機能を有する中間ストッパを設けることは、\n周知の技術(以下「本件周知技術」という。)であると認めることができ る。
(エ) 本件相違点への本件周知技術の適用
乙1発明’は、前記(1)イのとおり、第1のパネル12と第2のパネル 14が蝶番手段16によって接続され、ユーザーが座ったり、立ったり、 又は、歩いたりする位置にあるときに、片手でコンピュータを保持し、 もう片方の手でデータを入力することを許容するコンピュータノートブ ック10の発明であり、これは、折り畳み式の小型電子機器に関する技 術であるという点で、本件周知技術と共通する。したがって、乙1発明’ において、「第1のパネル12及び第2のパネル14の両方が蝶番手段1 6を中心とした多数の角度において配向する」場合に、本件周知技術の 中間ストッパを採用することにより、本件相違点に係る本件発明1の構\n成とすることは、当業者において容易に想到し得たことである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 補正・訂正
 >> 減縮
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10069  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年6月22日  知的財産高等裁判所

 薬について、無効審判において、訂正請求がなされ無効理由なしと判断されました。知財高裁は、予測できない効果ではないとして、これを取り消しました。\n

 本件明細書を見ると、実施例1において、高リスク患者 では、100単位週1回投与群における新規椎体骨折の発生率は、い ずれも実質的なプラセボである5単位週1回投与群における発生率に 対して有意差が認められるが、低リスク患者では、100単位週1回 投与群における新規椎体骨折の発生率は、いずれも、5単位週1回投 与群における発生率に対して有意差が認められなかったと記載されて いるのにとどまる(【0086】ないし【0096】、【表6】ないし【表\ 11】)ところ、誤記等を修正して再解析したとする数値(前記1(2)オ) に基づいても、低リスク患者の新規椎体骨折についていえば、100 単位週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人について、それ ぞれ、ただ1人の骨折例数があったというものであり、このような少 ない症例数のもとでは、上記プラセボ投与群の骨折発生率と対比した 場合の骨折発生率の低下割合(RRR)は、骨折例数が1件増減した だけでその値が大きく変動することは明らかであるし、そもそも、低 リスク患者を対象とした場合は、5単位週1回投与群であっても骨折 例数が少なく、5単位週1回投与群の骨折発生率に対する、100単 位週1回投与群の骨折発生率の低下割合であるRRRの値が、高リス ク患者に対するそれに対して小さいのは当然のことといえる。
この点、被告は、3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボ に対する関係で有意差があり、非3条件充足患者における骨折抑制効 果がプラセボに対する関係で有意差が無ければ、直ちに、本件発明1 の骨粗鬆症治療剤が3条件充足患者に対して優れた効果を有するとい える旨主張する。しかしながら、有意差が無いということは効果が優れているかどうか不明であるということにすぎず、効果が優れていないということを直ちに意味するものではないし、有意差が無かったことが症例数が不足していることによることも否定できない(甲30、35)から、上記のような結論の導出は適当でない。したがって、実施例1をみても、高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が、低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和3(行ケ)10115

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 特段の効果
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10070 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年6月28日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決を取り消しました。理由は引用文献の認定誤りです。

 本件審決は、甲2において、制御端末110から複数の家電機器に対す る制御命令は、家電機器の制御部に対して実行されるものであるから、制 御端末110は家電機器の駆動部に接続して制御する装置ではなく、また、 甲3において、AV用集中制御装置(12)から複数のAV用機器(14)に対す る制御命令は、家電機器の制御部に対して実行されるものであるから、A V用集中制御装置(12)はAV用機器の駆動部に接続して制御する装置では ないので、いずれも、本件発明1の「駆動部に接続されたマイクロコント ローラ」に相当するものではないと解釈した。しかし、甲2及び甲3に記 載された技術的事項は、前記(3)ア(イ)、イ(イ)のとおり認定されるものであ って、本件審決のように、制御端末110が家電機器の駆動部に接続して 制御する装置ではないこと、AV用集中制御装置(12)がAV用機器の駆動 部に接続して制御する装置ではないことと限定的に解釈すべき根拠はな く、本件審決による甲2及び甲3の記載事項から把握される技術の認定に は誤りがある。したがって、被告の上記主張は採用することはできない。
イ 以上のとおり、甲2及び甲3に記載された技術的事項は、前記(3)ア(イ)、 イ(イ)のとおり認定されるものであって、本件審決による認定は誤りであ るから、取消事由8は理由がある。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)13326  特許権侵害差止等請求事件 令和4年5月27日  東京地方裁判所

 用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。東京地裁46部は、新規性無しとして、権利行使不能と判断しました。\n

ア 本件発明1は、「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部 骨折を抑制するための医薬組成物」であるところ、前記(1)によれば、乙1文 献には、エルデカルシトールを骨粗鬆症治療薬として用いることが記載され ており、本件発明1と乙1発明とは、構成要件1A、1Cにおいて一致して\nいる。他方、本件発明1は、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」 (構成要件1B)医薬組成物であるところ、乙1発明は骨粗鬆症治療薬であ\nり、この点において本件発明1と乙1発明が相違するといえるかが問題にな る。 イ 本件明細書によれば、「非外傷性骨折とは、転倒などの一般的な日常生活 で起こる軽微な外力により生じた骨折を示す」(【0035】)とあり、「前腕 部は、橈骨と尺骨からなる」(【0022】)とされ、また、「抑制あるいは予\n防は、骨粗鬆症にり患していない者あるいは骨粗鬆症患者のいずれにおいて も、新たな骨折が発生しないことを意味する。」(【0022】)とされている。 したがって、本件発明1の「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」とは、 骨粗鬆症にり患していない者及び骨粗鬆症患者のいずれについても、転倒な どの一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨又は尺骨に新たな 骨折が発生しないようにすることを意味しているといえる。
ここで、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴として骨折のリスクが増大しや すくなる骨格疾患であり(前記2(1)ア)、骨粗鬆症治療薬は、骨粗鬆症を治療 することを目的とする薬物なのであるから、骨折のリスクを低下させること、 すなわち、新たな骨折を発生させないようにすることを目的としているとい える。そして、本件優先日当時、骨粗鬆症においては、骨強度の低下により、 通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで生ずる骨折である脆弱性骨折 が生ずることが問題とされており、骨折が生ずることがある具体的な部位と しては、大腿骨、椎体等と並んで、橈骨が含まれていたことが知られていた と認められる(前記2(1)イ)。 そうすると、乙1発明の骨粗鬆症治療薬とは、骨強度の低下によって通常 は骨折を生じさせない些細なきっかけで大腿骨、椎体、橈骨等に新たな骨折 を発生させないようにすることを目的とする治療薬であり、この中には、骨 粗鬆症患者に対する、通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで橈骨に新 たな骨折を発生させないようにすることについても用途として含まれるこ とは明らかである。
これに対し、乙1発明の骨粗鬆症治療薬について、原告は、エルデカルシ トールに骨折抑制効果があることは知られていなかったと主張する。しかし、 乙1文献の表題は「骨粗鬆症治療薬」というものであり、その表\題からも、 そこに記載されたエルデカルシトールが骨粗鬆症の治療薬であること、すな わち、エルデカルシトールが骨粗鬆症患者に対する骨折抑制効果があること に関する文献であることが理解できる。そして、乙1発明のエルデカルシト ールは活性型ビタミンDの誘導体であり、活性型ビタミンDが体内のビタミ ンD受容体と結合して作用するのと同様にビタミンD受容体に結合して作 用するという、活性型ビタミンDと同一の機序によって骨粗鬆症に作用する ことが想定されていた。活性型ビタミンDは、前腕部を含む骨における骨形 成を促進し、骨破壊を抑制することによって骨量を増やして骨密度骨強度を 増加させるとともに、転倒自体を抑制するといった作用を有することが知ら れており(前記2(3)ア、(4))、実際に、乙1文献には、エルデカルシトール が骨密度を上昇させる効果を有することが記載されている。さらに、当時、 一般に、骨量が多いほど骨折しにくくなり、骨量の多寡が骨折リスクの指標 になると考えられていた(前記2(2) )。これらからすると、当業者は、乙1 発明の骨粗鬆症治療薬について、前腕部骨折予防効果があると理解すると認\nめられる。原告が指摘する文献や記載は、上記技術常識等に照らし、当業者 に対して乙1発明のエルデカルシトールが上記骨折抑制効果を有すること に対して疑念を抱かせるものとは認められない。
以上によれば、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において一般的な日常生 活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用 途とする構成は、乙1発明のエルデカルシトールの用途と一致すると認めら\nれる。
ウ 原告は、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認 められると主張する。 しかし、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において、一般的な日常生活で 起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途と する構成について、前記イに述べたところにより、乙1発明のエルデカルシ\nトールにおいても、当然に当該部位に係る骨折予防についても有効であるこ\nとが具体的に想定されていたと認められる。また、乙1文献には、エルデカ ルシトールを活性型ビタミンD3製剤であると記載されていて、乙1発明に おいても、既存の活性型ビタミンD製剤と同様の機序、すなわち、ビタミン D受容体への作用による骨強度の上昇及び転倒防止(前記2 ア、 )が想 定されていたと認められる。本件明細書には、本件発明1について、技術常 識から認められる上記機序と異なる機序によって作用していることについ ての記載もなく、本件発明1も、乙1発明と同一の作用機序を前提にしてい ると認められる。仮に年齢等によって第1選択として投与される薬剤の種類 が異なるとしても、エルデカルシトールが投与されたとき、乙1発明のエル デカルシトールが投与されたのか、本件発明1のエルデカルシトールが投与 されたのかを区別することができるものではない。本件発明1の一部の用途 は、作用機序の点からも、乙1発明の用途と区別することはできない。
なお、原告は、本件発明1において、エルデカルシトールの前腕部骨折抑 制に関する顕著な効果が初めて見出されたとも主張する。原告が本件明細書 で明らかにされた医学的に有用であると主張する具体的な知見は、1)前腕部 の骨折予防の観点からは、アルファカルシドールよりもエルデカルシトール\nの方が顕著に優れていること、2)前腕部以外の部位においては、エルデカル シトールとアルファカルシドールの効果の差は前腕部における差ほど顕著 ではないという2点である。しかし、仮に原告が主張する上記評価が統計学 上正当であると認められるとしても、1)については、本件明細書で明らかに されているのは、エルデカルシトールがアルファカルシドールに比べて骨折 抑制効果が高いことのみであり、このことのみからは、エルデカルシトール がプラシーボに比べて顕著に優れている可能性も、アルファカルシドールが\nプラシーボに比べて顕著に劣っている可能性も、どちらともいえない可能\性 もある。さらに、乙1発明において、エルデカルシトールの骨折抑制効果が アルファカルシドールを上回ること自体が想定されていたことも認められ る(前記3)。2)についても、本件明細書の実施例で記載されている前腕部 骨折以外に関する分析結果は椎体骨折に関するもののみ(【0069】)であ り、前腕部についてのみ良好な結果が得られたのか、椎体についてのみ良好 とはいえない結果が得られたのかすら明らかにされていない。これらによれ ば、何らかの顕著な効果の存在を理由に乙1発明に対する新規性等が認めら れる場合があるか否かは措くとしても、本件においてはその前提となる顕著 な効果を認めることはできない。
さらに原告は、65歳の患者群やI型骨粗鬆症患者群においては前腕部に おける骨折抑制が特に求められており、独立の用途を構成するなどと主張す\nる。しかし、乙1発明のエルデカルシトールにおいても、一般的な日常生活 で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことに有効 であることが具体的に想定されていたと認められるなど、上記に述べた事情 に照らせば、原告が主張する上記知見は、本件において、乙1発明の用途を 前腕部の骨折予防に限定することに新規性を付与すべき事情に当たるとは\nいえない。
エ 以上によれば、本件発明1は、乙1発明で想定される橈骨の骨折抑制、大 腿骨の骨折抑制といった複数の骨折抑制部位に係る用途のうち、前腕部の効 果に着目したものと認められる。本件発明1において「非外傷性である前腕 部骨折を抑制するための」と限定した部分は乙1発明との相違点になるとは いえず、本件発明1は、乙1発明と同一であり、本件発明1は、新規性が欠 如しているといえる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 0030 新規性
 >> その他特許
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和4(ワ)3374  特許権侵害行為差止等請求事件(承継参加)  特許権  民事訴訟 令和4年6月20日  大阪地方裁判所

 技術的範囲に属しない、さらに、乙36発明から新規性がないと判断されました。前者については原告被告の双方から実験結果が提出されており、被告のものが採用されました。

このように、甲6食品実験等と乙12実験等の結果は異なっているところ、 前記2(1)において認定したとおり、主たる青色光源であるLED5)が青色 発光するのは、パーシャル室を(チルドではなく)微凍結パーシャル状態と し、かつオート急冷中のときであって、この場合、パーシャル室内は約−3度 から約−1度に保たれることになるから、乙12ないし乙15の各実験の結 果にみられるとおり、培地の一部や豚肉が凍結していたとする結果と整合的 に理解できるものであり、乙12、13実験における黄色ブドウ球菌や枯草 菌のコロニーが見られなかったという結果も、黄色ブドウ球菌の一般的な増 殖可能温度域は5〜47.8度(至適増殖温度は30〜37度)であり、枯\n草菌の一般的な増殖可能温度域は5〜55度(最適発育温度帯は20〜4\n5度)であること(乙12、13に添付の参考資料)と矛盾なく理解するこ とができる。
これに対し、甲6実験等は、そもそも本件製品の冷蔵室やパーシャル室内 の温度設定ないし機能設定が明らかでない上、甲15食品実験及び甲15培\n地実験にあっては、試料設置後、冷蔵室扉を封印したというのであるから、 青色光の照射時間は扉の開閉を所定時間行った乙12実験等におけるもの よりも短いものと推認されるのに、青色光照射区で有意に細菌の生長が抑制 されていると評価されて結果が報告されるなどしており、本件製品の冷蔵室 内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長を抑制する効果があるかを判 定するについての実験条件の統制が的確に取れていたのかについて大きな 疑義を生じさせるものというべきである。 以上によると、本件製品の冷蔵室内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の 生長を抑制する効果があるかを判定するについては、甲6食品実験等を採用 することはできず、乙12実験等によるべきである。 そして、乙12、13実験等によると、そもそも本件製品において青色L EDが発光する状態となったパーシャル室内では、黄色ブドウ球菌及び枯草 菌は遮光の有無にかかわらず生長しないことが認められ、乙15実験の結果 によると、豚肉中の細菌量が6つに分けた各試料でおおむね一定であり、ま た結果の判定につき(本件測定器具の精度については議論があるものの)精 度が十分で誤差がないと仮定すると、青色光の照射を受けた豚肉よりも青色\n光の照射を受けなかった豚肉の方が3日後の細菌数が少ないものもあると いう結果も見て取れる。加えて、そもそも本件製品が食品等に照射する光の 強度(光量子束密度)は、白色光等他の波長域の光も含めて最大7μE/m2/s 程度であって(乙8)、この光は冷蔵庫の扉が開いたときに照射されるが、通 常の用法において冷蔵庫の扉を開けるのは短時間にとどまることからする と、本件明細書の実施例等で示される光の強度や照射時間と対比するとごく わずかにすぎないと見込まれること、そもそも冷蔵庫は、一般常識に照らし、 庫内の食品を微生物の活動が抑制される程度の低温に保つことで食品を保 存する機器であることを併せ考えると、本件製品において、LED4)や同5) の青色光の照射が、黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長が抑制されることに影響 を与えているとは認められないというべきである。
(4) まとめ
以上によると、本件製品が、青色光の照射により枯草菌、黄色ブドウ球菌等 の微生物の生長を抑制しているとは認められず、他に、前記(2)の本件製品の 使用方法による青色光の照射の影響によって微生物の生長が抑制されている こと(光の照射と微生物の生長抑制させることとの間に直接的な関連性がある こと)を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件製品の使用方法は、「光 の照射下で」(構成要件B)を充足せず、本件発明の技術的範囲に属しない。\n争点1についての原告の主張(請求原因)は、理由がない。
・・・
(1) 当裁判所は、前記2のとおり、本件製品の使用方法は、本件発明の技術的範 囲に属しないと判断するが、さらに、本件特許は、少なくとも新規性が欠如し ているから特許無効審判により無効にされるべきものと判断する。以下、事案 に鑑み、争点3−7(乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の有無) を検討する。
・・・・
これに対し、原告は、乙36公報に記載された「FL-40SB(東芝電気(株))」 は、混在する光を発することを指摘して、乙36公報には青色光に着目した 記載はないから、「およそ400nm から490nm までの光波長領域にある光 の照射下で培養して、この微生物の生長を抑制させる」こと(構成要件B)\nは開示されていない旨や、近紫外線が必須の構成となっていることを主張す\nる。 しかし、前記(2)によれば、乙36公報の特許請求の範囲第2項は「500 nm から近紫外線の波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線」を微生物 に照射することを明示しており、また乙36公報に記載の発明は、「従来の 殺菌及び滅菌方法では、対象菌体のみならず、人体、家畜類及び各種製品を 損傷させるという弊害があり、これらの弊害なく簡便な菌体の繁殖抑制方法」 を課題とし、この課題の解決手段として、「微生物に少くとも500nm から 近紫外線の波長域に含まれる光線を照射することにより、微生物の繁殖を抑 制する」方法を開示したものである。また、「近紫外線」の意義については 「本発明における「近紫外線」とは、(中略)更に好ましくは、360nm か ら400nm の波長域に含まれる光線を意味する。」とされ、400nm にごく 近い波長の光線が好ましい近紫外線に含まれていることが前提となってい るし、光源−2についてはおよそ400nm〜500nm で発光する蛍光灯であ ることがその定義及び分光エネルギー分布図によって明らかである。そして、 実施例−11にあっては、枯草菌に前記光源−2を照射した結果、他の波長 の光源とは有意に異なる微生物の生長抑制効果があったことが記載されて いる。このような開示がされている乙36公報に接した当業者は、波長が400 nm〜500nm の範囲の青色光が微生物のうち枯草菌の繁殖を抑制するとす る乙36発明が開示されていると容易に理解し得るものである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 0030 新規性
 >> 技術的範囲
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10082  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年5月31日  知的財産高等裁判所

 引用発明では、本願発明と共通する課題が異なる別の手段によって既に解決されているので、組み合わせの動機付けがないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。。

しかしながら、前記1 で検討したとおり、本願発明は、被覆層を除 去してコア電線を露出させる作業の作業性に関し、コア材の外周面に粉 体が塗布された従来のケーブルには、コア材を取り出す作業の際に粉体 が周囲に飛散し、作業性が低下してしまうという課題があったことから、 コア電線と被覆層との間に、コア電線に巻かれた状態で配置されたテー プ部材を備える構成とすることにより、テープ部材を除去することによ\nって容易にコア電線と被覆層とを分離することができるようにして、上 記課題を解決しようとする点に技術的意義を有するものである。 他方で、前記2 イで検討したとおり、引用発明は、線心の取り出し を容易に行うことができるようにすることを課題の一つとする発明で あり、この点で本願発明と課題を共通にするものといえるが、電源用線 心及び信号用線心の外周をシースで覆うのみの形で被覆する構成とす\nることによって上記課題を解決しようとするものであり、本願発明とは 課題を解決する手段を異にするものといえる。
このように、引用発明においては、本願発明と共通する課題が本願発 明とは異なる別の手段によって既に解決されているのであるから、当該 課題解決手段に加えて、両線心をテープ部材で巻き、その結果、両線心 とシースとの間にテープ部材が配置される構成とする必要はないという\nべきである。そして、引用発明に上記のような構成を加えると、線心を\n取り出そうとする際に、シースを除去する作業のみでは足りず、更にテ ープ部材を除去する作業が必要となることから、かえって作業性が損な われ、引用発明が奏する効果を損なう結果となってしまうものといえる。 加えて、甲1公報をみても、引用発明の効果を犠牲にしてまで両線心を テープ部材で巻くことに何らかの技術的意義があることを示唆するよう な記載は存しない。 以上によれば、引用発明に上記周知技術を適用することには阻害要因 があるというべきであるから、相違点3に係る「前記コア電線のみを巻 くテープ部材」という構成の意義について検討するまでもなく、本件原\n出願日当時の当業者が、引用発明及び上記周知技術に基づいて、相違点 3に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものとはいえない。\n
イ 相違点4に係る容易想到性
相違点4に係る本願発明の構成は、相違点3に係る本願発明の構\成であ る「テープ部材」を含むものであるところ、上記アで検討したところによ れば、相違点4に係る「前記テープ部材上に形成された被覆層」という構\n成の意義について検討するまでもなく、本件原出願日当時の当業者が、引 用発明及び上記周知技術に基づいて、相違点4に係る本願発明の構成を容\n易に想到し得たものとはいえない。
ウ 相違点6に係る容易想到性
相違点6に係る本願発明の構成は、相違点3に係る本願発明の構\成であ る「テープ部材」を含むものであるところ、上記アで検討したところによ れば、本件原出願日当時の当業者が、引用発明及び上記周知技術に基づい て、相違点6に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものとはいえない。\n
エ 相違点3、4及び6に係る被告の主張に対する判断
被告は、相違点3に関し、1)甲1公報には引用発明が簡素な構成を課\n題解決手段としたものであることについては何も記載されていない、2) 甲1公報に記載された電源用線心及び信号用線心の取り出しが容易に行 えるという効果は従来例と比較しての記載にすぎない上、線心がシース 内に埋め込まれている従来例及び線心をシースで覆う引用発明のいずれ が簡素な構成であるかは不明である、3)甲1公報に記載された実施例に ついて、両線心の外周がシースで覆われているのみであるとしても、甲 1公報には両線心の上に何らかの部材を介在させることを排除する記載 はないことを理由に、引用発明にテープ部材を介在させることについて、 原告が主張するような阻害要因があるとはいえない旨主張する(前記第 3の〔被告の主張〕3 エ)。
しかしながら、前記2 イで検討したとおり、引用発明は、線心の取 り出しを容易に行うことができるようにすることを課題の一つとする発 明であり、電源用線心及び信号用線心の外周をシースで覆うのみの形で 被覆する構成とすることによってこの課題を解決しようとするものであ\nるといえることからすれば、上記1)の主張は理由がないというべきであ る。 また、上記周知技術の適用が引用発明の効果に及ぼす影響については、 引用発明の構成を前提に検討すべきものであって、従来例と対比して検\n討すべきものではないから、上記2)の主張は理由がないというべきであ る。 さらに、甲1公報には、線心上に何らかの部材を介在させることを排 除する明示的な記載はないものの、上記アで検討したとおり、引用発明 における課題解決手段及びその効果を考慮すれば、引用発明に上記周知 技術を適用すると、線心の取り出しを容易に行うことができるようにす るという引用発明の効果を損なう結果となってしまうというべきである から、上記3)の主張も理由がないというべきである。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
 被告は、相違点4及び6に係る容易想到性についても縷々主張するが、 これまで検討したとおり、当業者が相違点3に係る本願発明の構成であ\nる「テープ部材」を容易に想到し得たものとはいえない以上、相違点4 及び6に係る本願発明の構成も容易に想到し得たものとはいえないから、\nいずれの主張も前記の判断を左右するものではないというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10080 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年5月11日  知的財産高等裁判所

 審判では無効理由無しと判断されましたが、裁判所は、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているとして、進歩性無しと判断しました。

(3) 上記(1)イ及びウの「Reflective ... Film」との用語に加え、上記(1)エ及 び(2)のとおり通常光下では黒色であった商品サンプルがフラッシュ光下では肌色 様に見えることや弁論の全趣旨も併せ考慮すると、甲4に貼付された黒色の商品サ\nンプルは、「黒色の再帰反射フィルム」であると認めるのが相当である。 また、上記(1)ウの「従来の印刷手法に加え、溶剤及びUVインクジェットに対 応しています」との記載は、甲4の黒色の再帰反射フィルムに溶剤インクジェット 印刷を施すことが可能であることを意味するものと解され、溶剤インクジェット印\n刷が施されれば、黒色の再帰反射フィルムの上に印刷層が形成されることは明らか であるから、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより印刷層を形成す ることができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているといえる。
(4) そこで進んで、甲4に「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性 の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているかに つき検討する。
ア 上記(1)ウのとおり、印刷層の形成に関し、甲4には「従来の印刷手法に加 え、溶剤及びUVインクジェットに対応しています」との記載があるのみであり、 溶剤インクジェット印刷が非透光性のインクを用いたものに限られるとの記載又は 示唆はみられない。
イ ここで、溶剤インクジェット印刷の意義等に関し、下記の各証拠には、それ ぞれ次の記載がある。
(ア) 甲18(全日本印刷工業組合連合会(教育・労務委員会)編「印刷技術」 (平成20年7月発行))
「カラー印刷では基本的にCMYKの4色によって原稿の色を再現している。こ の4色をプロセスセットインキと呼び、このうちCMYは透明インキとなっている ので刷り重ねで印刷した場合、下のインキの色が一緒になり2次色、3次色が発色 する。」
(イ) 甲19(高橋恭介監修「インクジェット技術と材料」(平成19年5月2 4日発行))
「インクの色剤としては染料、顔料を挙げることができる。・・・ 染料は媒体である水に可溶であり、分子状態でインク媒体中に存在している。個 々の分子が置かれた環境はほぼ同一であるため、吸収スペクトルは非常にシャープ であり、透明性の高い印刷物が得られる。・・・ 従来、インクジェットプリンタ用色材としては、上記特徴とインク設計が容易で あるということで、染料が用いられた。」
(ウ) 甲20(Janet Best 編「Colour design Theories and applications」
(2012年発行)) 「CMYK:印刷業界で画像の再現に使用される減法混色プロセスであって、純 度の高い透光性プロセスカラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック) が網点様に重ね刷りされて、様々な色及びトーンを表現する。」\n
(エ) 甲21(特開2012−242608号公報)
「【0033】ここで、第1の装飾層20aを形成する印刷インクとしては、光 透過性を有し、屋外使用にも耐えられる有機溶剤系のアクリル樹脂インク、例えば、 市販のエコソルインクMAXのESL3−CY、ESL3−MG、ESL3−YE、\nESL3−BK(それぞれローランド社製)を用いることが望ましい。 そして、かかる第1の装飾層20aを形成するには、例えば、インクジェットプ リンタなどのインクジェット装置に、印刷インクをセットし、これを微滴化して表\n面フィルム12h上の所定場所に、吹き付け処理して行なうことが好ましい。」
ウ 上記イによれば、本件出願日当時、溶剤インクジェット印刷においては、透 光性(透明性)を有するCMYのインクが広く用いられていたものと認められるか ら、仮に、本件出願日当時、溶剤インクジェット印刷において非透光性のインクが 用いられることがあったとしても、溶剤インクジェット印刷に対応しており、かつ、 前記アのとおり、溶剤インクジェット印刷が非透光性のインクを用いたものに限ら れるとの記載も示唆もみられない甲4の記載に接した当業者は、甲4は透光性を有 するインクを用いた溶剤インクジェット印刷に対応しているものと容易に理解した といえる。
エ 以上によると、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性 の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されていると認 められるから、甲4発明は、そのように認定するのが相当である。これと異なる本 件審決の認定は誤りである。
オ この点に関し、被告は、甲4発明の用途(トラックを始めとする車両に貼付\nされるステッカー等)に照らすと、甲4発明に透光性の印刷層を設けることは考え られないと主張する。確かに、前記(1)ウのとおり、甲4には消防自動車様の車両を撮影した写真が掲 載されているが、車両に貼付して用いる黒色の再帰反射フィルムの上に透光性の印\n刷層を形成すると甲4発明の目的が阻害されるものと認めるに足りる証拠はないし、 また、甲4には甲4発明の用途が車両に貼付して用いるステッカー等に限られると\nする記載も示唆もないから、被告の上記主張を採用することはできない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)3297  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月22日  大阪地方裁判所

 訂正後の特許発明について、技術的範囲に属すると判断されましたが、拡大先願違反(特29-2)の無効理由があるとして、権利行使不能(特104-3)と判断されました。

 前記(ア)及び(イ)の「収納」の字義、本件訂正後発明1に係る請求項の記載 内容に照らすと、ケーシングに「収納」するとは、長尺部材の全部がケーシング 内に完全に収まることを要するものではなく、ケーシングと長尺部材の位置関係 として、ケーシングにしまわれている状態(整然と入れられた状態)を意味し、 少なくとも、ケーシングの開口部を含めたケーシングの内部に長尺部材の大部分 が入れられている状態はこれに当たると解するのが相当である。
(エ) 前記(1)のとおり、被告製品の押さえローラーは、マグネットスクリーン シートの巻き出し及び巻き取りのための開口部付近に、同シートと接するように 配置されている。また、別紙「写真目録」の写真に示されるように、被告製品の 押さえローラーは、本体ケースの内側にその全部が収まっているものではないが、 キャップ(側板)に支持されており、その大部分が本体ケースに覆われているこ とから、構成要件 1D-1 のケーシングに相当する、本体ケース及びキャップにし まわれている状態であるといえる。 したがって、被告製品の押さえローラーは、本体ケース及びキャップに収納さ れていることから、被告製品は、構成要件 1D-1 を充足する。
イ 被告の主張について
(ア) 被告は、本件訂正後発明1において、長尺部材がケーシングの開口部の内 側に位置付けられるのは、スクリーンシートが長尺部材によって局所的に抑え込 まれ、シート全体に張力を与えて端部(特に長手端部)までピンと張った状態で スクリーンシートを設置面に展張保持できるようにすることを実現するための ものであるところ、長尺部材がケーシングの縁どりから外側に突出していると、 その作用効果が阻害される旨を主張する。
そこで、長尺部材の技術的意義について検討する。本件訂正後発明1は、マグ ネットスクリーン装置に関する発明であるところ、従来のマグネットスクリーン 装置には、使用に際して巻き出されたスクリーンシートを設置面に展張保持した 際に“カール”と呼ばれる現象、すなわち、非使用時のスクリーンシートの巻回 形態が“くせ”として残り、巻き出し後も依然として反映される現象が生じ、か かるカールによってプロジェクターから投影される像を所望に映し出すことが できない技術的課題があった(【0005】〜【0007】)。これに対し、本件訂正後 発明1は、非使用時ではマグネット面が投影面に対して相対的に内側となるよう にスクリーンシートがロール部材に巻き取られている構成にすることによって\n(【0009】)、スクリーンシートを巻き出した際、そのシート長手端部では局所 的に湾曲しようとする力が働くものの、その湾曲方向は設置面側となっており、 スクリーンシートが設置面にむしろ貼り付くように作用し、ロール部材に巻かれ\nていた時の“くせ”をスクリーンシートが有する場合であったとしても、それは 設置面に貼り付くように好適に作用するので、スクリーンシートを“カール”の\n発生なく展張保持することを可能とした(【0019】)。一方、かかる構成にする\nことによって、スクリーンシートの巻出し又は巻取りがロール部材の“設置面遠 位側”からなされることになるから(【0036、図6】)、スクリーンシートが設 置面から浮き上がる方向に作用する。すなわち、ロール部材におけるスクリーン シート巻き出しポイント又はスクリーンシート巻き取りポイント(図7。長尺部 材を設けない場合において、スクリーンシートを巻き出し又は巻き取った際のス クリーンシートとロール部材の離別箇所又は接触箇所)がロール部材の上側半分 に位置付けられることとなる(【0037】、【0038】)。そこで、長尺部材は、使 用に際して「巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートと接するように」、 「開口部に位置付けられ」、「設置面に対して相対的に近い側に位置付けられる ロール部材の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」(構成要件 1D-4)ることに より、スクリーンシートを投影面側から設置面側に向かって局所的に抑え込む機 能を有するものである(【0030】、【0048】)。長尺部材が前記機能を発揮する\nためには、長尺部材がない場合にスクリーンシートが自重や磁着力等により設置 面に自然に接する地点よりもロール部材側でスクリーンシートに接する地点に 存すれば足りるといえる。そうすると、長尺部材の技術的意義からみた場合、必 ずしも、長尺部材はケーシングの内側に完全に位置する必要まではないと解する のが相当である。加えて、本件明細書1において、「展張保持」は、スクリーン シートを広げた状態の維持という意で使用されており(【0003】、【0005】、【0019】等)、シート全体に張力を与えながらスクリーンシートを張る作業自体を指すも のではないし、同作業を経て張られた状態を指すものでもない。したがって、長 尺部材の技術的意義から、「収納」の意義について長尺部材が必然的にケーシン グの完全な内側に位置づけられることを示すものと解することはできない。 また、被告は、本件明細書1には、「本発明のマグネットスクリーン装置10 0では、スクリーンシート10、ロール部材20および長尺部材30がケーシン グ40内に収納されている。より具体的には、ロール部材20に対して巻回保持 されたスクリーンシート1がケーシング40の内部に収められており、かかる巻 回状態のスクリーンシート10に隣接して長尺部材30も同様にケーシング4 0内に収められている。」(【0044】)との記載がある旨も指摘する。しかし、 これは、本件特許1に係る発明のスクリーン装置の具体化態様に関するものであ るから(【0042】)、当該記載があるからといって、「収納」の意義が「内部に 収められていること」に限定されることにはならない。
(イ) 被告は、被告製品において、キャップは「ケーシング」を構成しないこと、\n仮にキャップが「ケーシング」を構成するとしても、被告製品は、キャップの縁\nどりとケーシングの縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラ\nーの半分以上がはみ出した構造であるから、いずれにしても押さえローラーはこ\nれらに「収納」されていない旨を主張する。 確かに、本件明細書1では、「ケーシング40が「第1サブ・ケーシング40 A」と「第2サブ・ケーシング40B」とから構成されている」(【0044】)と 記載されており、ケーシング40の側面を覆う部材がケーシングに含まれること は明記されていない。しかし、一方で、本件明細書1において、「ロール部材2 0は、その端部がケーシングの内壁に取り付けられており」(【0046】)、「ケ ーシングに取り付けられた突起具48」(【0058】)などとされており、ケーシ ング40の側面を覆う部材がケーシングを構成することを前提とした記載がな\nされている。また、本件訂正後発明1に係る請求項1は、ケーシングに関し、「ス クリーンシート、ロール部材及び長尺部材を収納するケーシングを更に有して成 り、」、「ケーシングはスクリーンシートの巻き出しおよび巻き取りのための開 口部を有し、」と記載されているに留まり、開口部を有することを除いて、ケー シングの意義について特段の限定を加えるものではない。そうすると、本件訂正 後発明1において、ケーシングとは、スクリーンシート等の部材を外側から覆う 部材であると解するのが相当であり、このうち側面部分についてのみケーシング から除外するべき理由はない。
また、被告は、被告製品を設置面側から観察することを前提として(別紙「写 真目録」の写真4参照)、被告製品について、キャップの縁どりとケーシングの 縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラーの半分以上がはみ\n出した構造である旨を主張するものと解されるが、同目録の写真1ないし3から\nすると、被告製品の押さえローラーはケーシング(本体ケース及びキャップを含 む。)の開口部を含めたケーシングの内部に大部分が入れられているものと認め られ、ケーシングにしまわれている状態にあるといえる。押さえローラーがケー シングにしまわれている状態か否かは、投影面側又は設置状態における側面側を 含む被告製品の全体を観察して判断すべきであって、使用状態において視認され ない設置面側からの観察に限定すれば押さえローラーがケーシングから多くは み出しているように見えるからといって、ケーシングにしまわれている状態にな いと判断する合理的理由はない。
・・・
(3)ア 本件訂正後発明1と引用発明1−1とを比較すると、引用発明1−1 の 1a〜1e の各構成は、本件訂正後発明1の各構\成要件とそれぞれ一致するもの と認められる。
イ これに対し、原告は、引用発明1−1においては、開口部からスクリーン 本体4を巻き出す又は巻き取る際には、スムーズな巻き出し又は巻き取りを可能\nにし、スクリーンシートを傷付けることを防止するために押さえ部5を、敢えて、 被磁着体90から離した態様(第1配置態様)で行うものであって、押さえ部5 を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体4を巻き出す又は巻き取る という技術的思想はないことを指摘し、1)本件訂正後発明1では、長尺部材が「非 使用時並びに巻き出し時及び巻き取り時において、ケーシングに収納されて」(構\n成要件 1D-1)いるのに対し、引用発明1−1においては、押さえ部5が収納ケー ス2に「収納」されていない、2)本件訂正後発明1では、長尺部材が「ロール部 材の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」(構成要件 1D-4)ているのに対し、 引用発明1−1においては、押さえ部5は巻取りロール3の下側ロール胴部分に 隣接した位置から離れないよう設置されているものではないとして、引用発明1 −1は、本件訂正後発明1の構成要件 1D-1 及び 1D-4 において相違する旨を主張 する。
しかし、乙10公報記載の特許請求の範囲請求項2において、「押さえ部」は、 「前記張設されたスクリーン本体における前記巻取りロールに近接した部位を ・・・被磁着体側に向けて押さえ付け得るものとなされている」ところ、同請求項2 では、「前記収納ケースに取り付けられた押さえ部と、を備え」と特定されてい るに留まり、収納ケースに対し押さえ部が可動か否かについては記載されていな い。一方、同請求項2に従属する乙10公報記載の特許請求の範囲請求項3では、 「前記押さえ部は、前記収納ケースに対し移動可能に取り付けられ」と押さえ部\nが可動であることが明記されている。また、乙10公報には、請求項2の発明の 効果として、押さえ部によって、巻取りロールに近接した部位をも被磁着体に磁 着させた状態でスクリーン本体を張設することができ、張設されたスクリーン本 体のスクリーン層の略全面を有効面として使用することができる旨が記載され ている(【0019】)一方、請求項3の発明の効果として、収納ケースに対し移動 可能に取り付けられた押さえ部を移動させ、被磁着体から離れた第1配置態様に\nすることで、スクリーン本体の引き出し操作、巻き取り操作をスムーズに行うこ とができ、被磁着体に近接した第2配置態様にすることで、スクリーン本体にお ける巻取りロールに近接した部位を幅全体にわたって被磁着体側に向けて押さ え付けることができる旨が記載されている(【0020】)。これらの乙10公報の 記載内容に照らすと、引用発明1−1において、押さえ部は、スクリーン本体の 巻取りロールに近接した部位をも被磁着体側に向けて押さえ付けるとの機能を\n有し、被磁着体に磁着させた状態で張設されたスクリーン本体の略全面を有効面 として使用することができるとの効果を奏するものとされるのであるから、引用 発明1−1には、押さえ部5を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体 4を巻き出す又は巻き取るという技術思想が表れているといえるし、また、乙1\n0公報記載の特許請求の範囲請求項2には、押さえ部が移動可能でないものが含\nまれると解するのが相当である。そして、乙10公報の図1、2からすると、押 さえ部5を移動可能でないものとした場合において、押さえ部は収納ケース2に\n収納されているものと認められる。なお、乙10公報上、実施形態や他の実施形 態では、収納ケース又はケース本体に対して押さえ部又は可動体の先端部が可動 なもののみが記載されているが(【0029】)、請求項2との関係においては、付 加的な効果を奏する実施例の一つにすぎず、前記認定を左右するものではない。 以上によれば、引用発明1−1において、押さえ部5が収納ケース2に収納さ れる構成、及び、押さえ部5が巻取ロール3の下側ロール胴部分に隣接した位置\nに固定して設置された構成を有するものと認められ、本件訂正後発明1の構\成要 件 1D-1 及び 1D-4 と一致する。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 104条の3

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10055 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年3月28日  知的財産高等裁判所

 スマホの操作関連の発明について、公然実施発明から進歩性無しと判断した審決が維持されました。無効審判請求人(本件被告)はApple Japanです。

 公然実施発明と甲3発明1は、技術分野や作用機能を共通にし、甲3文献に接した当業者であれば、公然実施発明には、スリープ状態にお\nいてホームボタンを押してから認証を経てデバイスにアクセスできるま での一連の動作に関して、デバイスのホームスクリーン又はメニューを 表示する前に、本人認証のためにパスコードの入力を要求することは、パスコードが知られたり、パスワードを忘れたりするという、甲3発明\n1と共通の技術課題が存在することを想起するものといえ、公然実施発 明において、許可されていない人物がユーザの個人情報にアクセスし、 閲覧することを防ぐため、デバイス機能を有効にする前又はデバイスリソ\ースにアクセスする前の起動時に、デバイスが迅速にユーザを認証することを目的とした甲3発明1を適用する動機付けがあるといえる。
(イ) 原告は、前記第3の1(1)イ(イ)のとおり、公然実施発明では、本件 発明1のように、使用者識別機能を、使用者の操作以外の追加の操作をすることなく、実行するという技術思想は全くない旨主張するが、前記\n(ア)のとおり、甲3発明1に接した当業者であれば、公然実施発明が有 する技術課題及び甲3発明1の適用を想起するものといえ、原告の主張 する当初の技術思想の相違は、その後の技術適用の動機付けの有無と直 接関係するものとはいえないから、原告の上記主張は当を得ないという べきである。
また、原告は、公然実施発明において、ディスプレイがオンにされた 後に、更にディスプレイ上のスライダをドラッグすることで初めて認証 を実行することには、ユーザの誤操作(意図せざる操作等)による誤動 作を防止するという意義があるから、これを改変して本件発明1のよう に構成することは、公然実施発明の技術的意義・機能\を損なう旨の主張 もするが、甲3発明1の使用者識別機能を採用し、指紋によるユーザ認証をしても、認証に係る誤操作は防止できるから、公然実施発明の技術\n的意義・機能を損なうことにはならない。なお、仮に、原告がホーム画面の誤作動防止に係る機能\をも指摘しているとしても、そもそも本件発明1においては、ロック画面からホーム画面への移行の仕方については 何ら規定していないから、操作入力を行った使用者が正当な使用者と認 証された場合に、ディスプレイ上のスライダをドラッグすることで初め てホーム画面に移行する構成も本件発明1の構\成に含まれることにな り(現に本件明細書の図1等においてもスライダが表示されているところである。)、スライダを取り除く改変をしなければ本件発明 1 の構成に至らないわけではないから、原告の主張は前提を誤るものといえる。\nしたがって、原告の主張は、いずれにしても採用できない。
エ 公然実施発明に甲3発明1を適用した場合に、本件発明1の構成に容易に想到するかについて\n
(ア) 甲3発明1において、指紋による認証の結果を得るには一定の時間 を要することは、明らかである。また、公然実施発明に甲3発明1を適 用することで、ホームボタンを押下すると、起動によりディスプレイが オンになり、それと同時に指紋認証を行い(別紙4のA図右及びB図1 左)、認証が成功すれば、追加の操作を要することなく、更にホーム画面 に移行するという構成を得ることが可能\である(別紙4のB図1右)。 そして、本件発明1で特定されるロック画面は、「前記非活性状態の際 になされた前記活性化ボタンに対する使用者の操作に基づいて」「表示され」るものであって、ロックが解除されていない状態を表\示する機能以\n外は特定されていない。そうすると、公然実施発明に甲3発明1を適用 したものにおいて、ホームボタンの押下後、オンになったディスプレイ にホーム画面に移行する前に表示される画面も、客観的にロックが解除されていない状態を表\示するものであり、これを「ロック画面」ということができる。したがって、公然実施発明に甲3発明1を適用した場合、使用者によ る追加の操作なしに、指紋認識による使用者識別機能が、非活性状態からロック画面が表\示された活性状態への切り替えのための操作入力により行われるという、本件発明1の構成に容易に想到するということができる。\n
(イ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)aのとおり、甲3発明1においても、 ロックを解除するために画面上のスライダのドラッグ操作を受け付け る構成となっているから、公然実施発明に甲3発明1を組み合わせた場合には、当業者は、公然実施発明と甲3発明1の共通の技術思想をなす\n上記構成を残しつつ甲3発明1の指紋認証を行うことを想到することになり、ディスプレイが活性化された後にスライダのドラッグという追\n加の操作を要することになるから、本件発明1の構成とはならない旨主張する。しかし、前記イ(ア)aのとおり、甲3文献からは、ホームボタンの背 後にセンサを配置し、ユーザが当該ホームボタンを押下した時に、ユー ザからの明示的な入力を要求することなく、指紋による認証を行う構成も、甲3発明1として認定することができるのであるから、原告の主張\nは採用できない。
(ウ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)bのとおり、公然実施発明の構成においては、ロック状態の画面を表\示させ、その画面上に表示されるスラ\nイダがドラッグされたときに初めて、次のパスコードの入力画面に移行 し、パスコードを入力させて認証を行う、という一連の認証操作を行わ せるものであるから、公然実施発明の使用者識別機能に係る手順のうちロック状態の画面上でのスライダをドラッグする処理を排除するので\nあれば、ロック画面も用いない構成しか想到できない旨主張する。しかし、前記(ア)のとおり、「ロック画面」自体は、ロックが解除さ れていない状態を示す画面であり、スライダのドラッグ操作とロック画 面の表示を不可分一体のものとして捉えなければならない理由はないから、原告の主張は採用できない。\n
(エ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)cのとおり、公然実施発明のロック 画面は、パスコードの入力における意図せぬ誤操作を防止する意義・機 能があるとした上で、甲3発明1の「シームレス」に使用者識別機能\を 行う構成とは両立しない旨主張する。しかし、公然実施発明において、甲3発明1の使用者識別機能\を採用し、ロック解除する時に指紋によるユーザ認証をしても、偶発的な誤操作等は防止できることは前記ウ(イ) のとおりであって、原告の主張は採用できない。
(オ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)dのとおり、別紙4のB図1左には スライダが表示されているところ、指紋認証に成功した場合に「当該成功後に直ちにホーム画面に遷移する構\成」であるとされる以上、スライダの機能は利用されず、当業者がそのように何ら機能\を発揮しないスラ イダをあえて表示させる構\成を考え付くとすれば、本件発明1を見た上 での後知恵である旨主張する。
原告の主張の真意は判然としないが、そもそも本件発明1においては、 ロック画面からホーム画面への移行の仕方については何ら規定してい ない(したがって、この場面におけるスライダの表示の有無やその利用の有無等についても何も限定はない)ことは前記ウ(イ)において説示し たとおりであるところ、被告の主張如何にかかわらず、公然実施発明に 甲3発明1を組み合わせた場合に、正当な使用者と認証されたときに、 スライダを利用しようとしなかろうと、どちらにしてもロック画面から ホーム画面へ移行させることが可能であること自体は明らかであるから、原告の主張は失当というほかない。\n
(4) 小括
その他原告がるる主張する点は、いずれもその前提に誤りがある、あるい は理由がないものであり、採用できない。 以上によれば、相違点1についての容易想到性を認めた本件審決の判断に 誤りはないから、原告主張の取消事由1は理由がない。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和3(行ケ)10054
本件の侵害事件です。

◆令和3(ネ)10081
上記控訴審の1審です。104条の3で権利行使不能と判断されています。

◆平成31(ワ)647

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10058  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年3月23日  知的財産高等裁判所

 コメント表示装置(CS関連発明)について、進歩性違反なしとした審決が維持されました。FC2(無効審判請求人)vsドワンゴ(特許権者)です。争点は引用文献の開示です。

 甲5技術は、コンテンツの映像(主映像)及び主映像を補足するなどの理由で表\n示される字幕等の映像(副映像)を表示することができるようにした復号装置に係\nる技術である。甲5技術においては、主映像及び副映像は、表示装置の画面(甲5\nの第19図参照)上に設けられた各画枠の内部に表示されるところ、主映像の画枠\nのサイズは、表示装置のアスペクト比及び主映像のアスペクト比に基づいて変換さ\nれ、副映像の画枠のサイズも、表示装置のアスペクト比及び副映像のアスペクト比\nに基づいて変換される。このようにしてサイズが変換された主映像及び副映像の各 画枠は、表示装置の画面上に配置されるが、その際、例えば表\示装置のアスペクト 比が16:9であり、主映像のアスペクト比が4:3であるなどの条件を満たす場 合、副映像の画枠の一部は、主映像の画枠と重なり合い、副映像の一部は、主映像 の画枠の内側に表示されるが、その余の部分は、主映像の画枠の外側に表\示される という事象が生じるものである。
そして、甲5技術によると、主映像の画枠は、主映像が表示される領域であると\n解されるから、これが本件発明1の構成1E及び1Fにいう「第1の表\示欄」(動 画を表示する領域)に相当するものであることは明らかである。\nしかしながら、甲5技術によると、副映像の画枠に表示される副映像の例として\n挙げられているのは字幕であり、甲4技術の「データコンテンツ」と同様、主映像 の配信時に既に存在するものである(なお、甲5によると、甲5技術の副映像に当 たる字幕は、映像データであることがうかがわれる。甲5には、字幕がテキストデ ータであるとの開示又は示唆はない。)。これに対し、本件発明1のコメントは、 前記のとおり、動画に対し任意の時間にユーザが付与するものである。 また、甲5の記載(明細書1頁5行目〜2頁11行目)によると、従来、副映像 のアスペクト比は、主映像のアスペクト比に関連付けられており、例えば、表示装\n置のアスペクト比が16:9であり、主映像のアスペクト比が4:3であるとき、 副映像(字幕)のアスペクト比は必ず4:3となるため、小型の電子機器において は字幕が見えづらくなってしまうという問題があったところ、甲5技術は、主映像 のアスペクト比から独立したアスペクト比で副映像を表示することにより、副映像\nを見やすくすることを目的とするものであると認められる。これに対し、本件発明 1は、前記のとおり、動画と重なって表示されたコメントが動画に含まれるもので\nはないこと及びこれがユーザによって書き込まれたものであることをユーザが把握 できるようにすることを目的とするものである。 以上のとおり、甲5技術の「副映像の画枠」は、本件発明1の「コメント」を表\n示する領域ではないから、これが本件発明1の構成1E及び1Fにいう「第2の表\ 示欄」に相当するということはできない。また、甲5技術において、副映像の画枠 の一部が主映像の画枠と重なり、副映像の一部が主映像の画枠の内側に表示され、\nその余の部分が主映像の画枠の外側に表示されるという事象を生じさせるのは、副\n映像のアスペクト比が主映像のアスペクト比と関連付けられていたことから来る副 映像の見づらさを解消するためであり、本件発明1のようにコメントが動画に含ま れるものではないこと及びこれがユーザによって書き込まれたものであることをユ ーザが把握できるようにすることを目的とするものではなく、この点からも、甲5 技術の上記内容が本件発明1の構成1E及び1Fに相当するということはできない。\nしたがって、甲5技術も、本件発明1の構成1E及び1Fに相当する構\成を有する ものではない。
エ 原告の主張について
原告は、甲5技術の「字幕」はユーザが入力するものでないものの、これを端末 に表示させる局面においては本件発明1と同様に文字列データとして処理されるも\nのであるし、本件原出願日当時にWEB2.0が技術常識であったことからしても、 甲5に接した当業者にとって、甲5技術の「字幕」を本件発明1の「コメント」に 置換することは容易であったと主張する。 しかしながら、甲5技術の「字幕」と本件発明1の「コメント」の技術的意義の 相違は、前記ウにおいて説示したとおりであるところ、仮に、甲5技術及び本件発 明1において「字幕」及び「コメント」が文字列データとして処理される場面があ るとしても(ただし、甲5に甲5技術の字幕がテキストデータであるとの開示又は 示唆がないことは、前記ウにおいて説示したとおりである。)、そのことにより上 記相違の本質が解消されるものではない。また、前記(2)エ(ア)において説示した ところに照らすと、仮に、本件原出願日当時、原告が主張するような内容のWEB 2.0という社会現象が生じていたとしても、そのことから直ちに、甲5技術にい う「字幕」(副映像)と本件発明1にいう「コメント」につき、これらが相互に置 換可能であると認めることはできない。よって、原告の上記主張は失当である。\n
(4) 前記(2)及び(3)のとおり、甲4技術及び甲5技術は、いずれも本件発明1 の構成1E及び1Fに相当する構\成を有するものではないから、甲1発明に甲4技 術及び甲5技術を適用しても、相違点1−1に係る本件発明1の構成を得ることは\nできない。
(5) なお、原告は、相違点1−1に係る本件発明1の構成は甲1発明において\nふきだしの大きさ並びにふきだし中のコメント(テキスト注釈)の文字長、フォン トの大きさ及び表示位置を適宜変更することにより得られるものであるから、設計\n的事項にすぎないと主張する。 しかしながら、甲1の図18によると、甲1発明においては、ふきだしが映像表\n示部の枠の外側にはみ出すこととされる一方、テキスト注釈については、それが3 行にわたる場合を含め、ふきだし中の上側、下側、左側及び右側にあえて十分な余\n白を設けて、テキスト注釈が映像表示部の枠の外側にはみ出さないようにしている\nと認められるから、ふきだしの大きさ並びにふきだし中のテキスト注釈の文字長及 びフォントの大きさをどのようにするかが設計的事項であるとしても、ふきだしと 映像表示部との位置関係及びテキスト注釈の表\示位置につき、これを相違点1−1 に係る本件発明1の構成(構\成1E及び1F)とすることについてまで設計的事項 であるということはできない。よって、原告の上記主張を採用することはできない。
(6) 小括
以上のとおりであるから、相違点1−1についての本件審決の判断に誤りはない。 そして、前記2(4)のとおり、本件発明9と甲1プログラム発明との間にも、相違 点1−1と同様の相違点が存在するといえるところ、上記説示したところに照らす と、この相違点についての本件審決の判断にも誤りはない。取消事由5は理由がな い。よって、無効理由2−1は理由がない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10072  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月21日  知的財産高等裁判所

 記載不備、進歩性なしとして拒絶審決が成されました。記載不備については理由ありとされましたが、進歩性欠如として審決維持です。

(1) 特許出願における特許請求の範囲の記載については,「特許を受けようとす る発明が明確であること」という要件に適合することが求められるが(特許法36 条6項2号),これは,特許制度が,発明を公開した者に独占的な権利である特許権 を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者に ついては特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図るこ とを通じて発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであ ることを踏まえたものである(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月 5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁)。同要件については,同目的の見地 を踏まえ,請求項の記載のほか,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識 を考慮して判断されることになる。 これを本願発明についてみると,前記第2の2の本願の請求項1の記載及び本願 明細書の図1の内容に加え,本願明細書中,本願発明の特徴について説明する段落 において,「増幅器の出力回路」(又は「アナログ増幅器の出力回路」)という表現が\nひとまとまりの語として用いられていること(本願明細書の段落[0001],[0002], [0007]〜[0009],[0012]。同[0017],[0020]も参照。なお,本願明細書[甲11]中に,本願発明の内容に関して,「出力回路」の語が単体で用いられている個所 はない。),前記1(2)の本願発明の概要からすると,本願発明の技術的特徴の最たる 部分は,出力電流に相関した消費電流の変化がないという点にあり,その旨が本願 の請求項1にも明記されているところ,本願明細書の段落[0009]の記載からする と,本願発明が上記の技術的特徴を回路の構成によって実現するものであることは\n明らかであることのほか,実施例についても,「信号に相関した電流を電源回路に流 さない出力部」という記載がある(本願明細書の段落[0015]。同[0018],[0023] も参照)一方で,前段の増幅部については図示されていない旨の記載があること(同 [0016]。同[0019]も参照)を踏まえると,本願の請求項1中,「・・・を特徴と するオーディオ用増幅器の出力回路」という記載において,「・・・を特徴とする」 という部分は,「オーディオ用増幅器の出力回路」,すなわち,「オーディオ用増幅器」におけるものであるという特定の付加された「出力回路」を修飾するものであるこ とが,明確であるというべきである。 そうすると,本願の請求項1の記載は,第三者が特許に係る発明の内容を把握す ることを困難にするものとはいえず,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確 なものであるとは認められず,本願発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法3 6条6項2号に規定する要件を満たしている。
(2) 前記(1)の判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。被 告の主張は,本願の請求項1の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明 確なものであることを根拠づけるものとはいえない。
(3) したがって,取消事由1には理由がある。
もっとも,前記第2の3(2)の本件審決の進歩性についての判断は,本願の請求項 1の記載の明確性についての前記(1)の判断を前提としても,なお問題となるもの であって,前記進歩性についての判断に誤りがない場合には,本件審決の結論に誤 りはないこととなるから,次に,取消事由2について検討する。
5 取消事由2(進歩性について)について
・・・
以上を踏まえると,相違点アを認定しなかった点で本件審決に誤りがあるとはい えない。なお,仮に,形式的に引用発明と本願発明を対比して,相違点アを認定し たとしても,引用発明におけるショットキーバリアダイオードが高抵抗素子として 機能するものであることを含めて既に述べた点のほか,本願発明についても3端子\n増幅素子の入力端子より信号SIG側にバイアス回路として抵抗R1及びR2を設け ることが示されていること(本願明細書の段落[0015],図1)に照らし,相違点ア が本願発明の進歩性を基礎付けるものとはいえない。
c 前記bは,あくまで本願発明がショットキーバリアダイオードの構成を付加\nすることを排除していない旨をいうものにすぎず,同構成を本願発明の構\成要素と して追加するものではない。後者の理解を前提とする原告の主張(それゆえにそれ が前者の理解と矛盾しているという主張を含む。)は,採用することができない。 また,特に入出力電圧の点で引用発明と本願発明が異なるという原告の主張は, 本願発明の発明特定事項に含まれていない構成を前提に本願発明についていうもの\nであって,その前提を欠き,採用することができない。引用発明との対比のために, 本願発明の入出力電圧の範囲を具体的に検討する必要がある旨をいう原告の主張も, 同様に,本願発明の発明特定事項に含まれていない構成をいうもので,採用するこ\nとができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 記載要件
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ワ)25121 特許権 令和3年12月9日  東京地方裁判所

 CS関連発明について、技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断されました。

 このように,乙8発明は,ユーザから入力された情報から抽出したキーワードに 基づいてそれに関連するウェブページを収集し,そのリンク情報を取得して記憶し, ユーザ端末にキーワードに関連するウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する ものである。しかして,かかるウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力すること は,ユーザに対してユーザの関心のある事項に関連するウェブサイトの閲覧を勧め るものであるといえ,当該リンクを出力することは,ユーザに対する提案を行うも のということができ,また,当該リンクはウェブ上から取得されるものであるから, ウェブサイトからユーザに対して提案すべき情報を取得しているということができ る。 そうすると,乙8発明がユーザコメントに基づいてリンクを出力するアバター管 理部及び情報収集部は,構成要件1Eの「前記第1又は第2受付手段によって受け\n付けられた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行う提案手段」に相当し, また,乙8発明の,アバター管理部及び情報収集部によりユーザコメントに基づい てウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する機能は,構\成要件5Eの「前記受 け付けた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行うステップ」に相当する。 さらに,乙8発明における,ウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリ ンクを取得する情報収集部は,構成要件1Fの「前記個人情報に基づいてウェブサ\nイトから前記ユーザに対して提案すべき情報を取得する手段」に相当し,上記情報 収集部によりウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリンクを取得する 機能は,構\成要件5Fの「前記個人情報に基づいてウェブサイトから前記ユーザに 対して提案すべき情報を取得するステップ」に相当する。 その他,構成要件E及びFと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件E及びFは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
エ 構成要件G(「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段と,を有する」「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促すステップと,を更に有する」)につき,\n乙8発明と対比する。 構成要件Gに関し,本件明細書の記載をみると,「飲みすぎないように!」などの\nアドバイスのメッセージを出力する旨の記載があり(【0119】),かかる記載内容 からすると,構成要件Gにおける「注意を促す」とは,気を付けるように仕向ける,\n気を配るように仕向けるとの意であると解することができる。 しかして,乙8発明は,スケジュールが未完了であることが確認すると,アバタ ーから,「スケジュールが未完了だよ。代わりのスケジュールを入力してね」のよう な,スケジュールの修正を依頼するアバターコメントを出力する機能を有する(【0\n043】)。そして,乙8発明の学習・生活支援サーバ内にはアバターコメントを出 力するアバター管理部が実装されている(【0024】等)ところ,上記機能は,ユ\nーザに対してスケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は, スケジュールに気を配るように仕向けるものであるといえる。 そうすると,乙8発明の,アバターコメントの出力を実行するアバター管理部は, 構成要件1Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段」に相当し,ま\nた,乙8発明の,ユーザに対して上記の趣旨のアバターコメントを出力するアバタ ー管理部の機能は,構\成要件5Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す ステップ」に相当する。 その他,構成要件Gと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Gは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
オ 構成要件H(「情報提供装置。」「を情報提供装置に実行させる情報提供プロ\nグラム。」につき,乙8発明と対比する。 乙8発明のアバター管理部によるアバターコメントの出力は,情報の提供に当た るため,この点をもって既に,アバター管理部を有する乙8発明の学習・生活支援 サーバは,情報を提供する装置(「情報提供装置」)であるということができる。 また,上記サーバは,アバター管理部のほかに,ユーザ情報管理部,テキスト分 析部,情報収集部,コンテンツ管理部で構成される制御部を有しており,制御部は,\n少なくとも一つのCPU等を備え,ROM等に予め記憶されたプログラムを読み込\nんで実行することにより,上記各部の機能を事項することが可能\となるものである (【0021】等)ことから,乙8発明の学習・生活支援サーバは,情報提供装置で あって,各種機能を実行させる情報提供プログラムを有しているといえ,乙8発明\nは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プログラム」と同 一であるといえる。 その他,構成要件Hと乙8発明の間に,実質的に相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Hは,乙8発明の構\成と実質的に同一のものといえる。
(4) したがって,本件各発明は,その全ての構成要件が,乙8発明の構\成と実質 的に同一のものであるから,本件各発明は,乙8発明との関係で,新規性を欠くも のといわざるを得ず,いずれも,特許無効審判により無効にされるべきものと認め られる(特許法29条1項3号,123条1項2号)。
(5) 原告らの主張について
原告らは,1)乙8公報に記載されている「スケジュールの修正を依頼する」とは, 構成要件Eにおける,議案や意見を提出するという「提案を行う」こととは相違す\nる,2)乙8公報がユーザ端末に出力するウェブサイトのリンクは,ウェブサイトの 所在を示す情報であって,この所在を示す情報が,「提案を行う」内容である議案や 意見であるはずがなく,乙8発明は構成要件Eと相違し,また,ウェブサイトのリ\nンクはユーザに対して提案すべき情報を規定している構成要件Fの「情報」とも相\n違する,3)乙8発明がユーザのスケジュールが未完了であることを確認した場合に ユーザにスケジュールの修正を依頼することは,構成要件Gの,気を付けるよう仕\n向けることとは相違する,4)乙8発明のユーザ端末は,情報提供をするものではな いから,構成要件Hと相違する,などとして,本件各発明が乙8発明の構\成と実質 的に相違する旨主張する。
しかしながら,原告らの上記各主張は,次のとおり,いずれも理由がないという べきである。 まず,上記1)及び3)の点については,乙8発明において「スケジュールの修正」 を依頼されたユーザは,スケジュールが完了していないことを知り,新たなスケジ ュールを考えて入力するように促されることとなるのであって,「スケジュールの 修正の依頼」も,ユーザに対して新たなスケジュールを組み立てる旨の議案や意見 の提出にも当たるといえるから,構成要件Eの「提案を行う」と実質的に同一の構\ 成であるといえる。また,乙8発明の上記のような働きは,まさにユーザに対しス ケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は,気を配るよう に仕向けることであるといえるから,乙8発明は,構成要件Gの「注意を促す手段」\nないし「注意を促すステップ」と実質的に同一の構成を有するといえる。\nまた,上記2)の点については,構成要件Eの「提案を行う」との文言について,\n特許請求の範囲及び本件明細書の記載に,ユーザに提案すべき情報の具体的内容を 限定する根拠となるものはなく,ウェブページを出力することに限る旨の示唆もな い。その上,前記説示のとおり,キーワードに関連するウェブページのリンクをユ ーザ端末に出力することは,当該リンク先のウェブページを閲覧することをユーザ に勧めることに該当し,まさに,この点が「提案」といえるというべきである。そ うすると,乙8発明のアバター管理部が当該リンクをユーザ端末に出力することは, 構成要件Eが規定するユーザに対する「提案を行う」との構\成と,同一であるとい わなければならない。また,構成要件Fの「情報」との相違を指摘する原告の主張\nも,結局,リンクはあくまでウェブサイトの所在を示す情報に過ぎず,これがユー ザに対して提案すべき情報には当たらないとの主張であると解されるが,前記のと おり,ユーザ端末にユーザの個人情報に基づいてこれに関連するウェブページのリ ンクを出力することは,ユーザに対して当該リンク先のウェブページの閲覧を勧め るという意味において,ユーザに提案すべき情報を表示するものであり,乙8発明\nにおいてユーザ端末に出力されるリンクは,構成要件Fの「情報」と異なるもので\nはないというべきである。 さらに,上記4)の点は,前記説示のとおり,乙8発明の学習・生活支援サーバ及 びプログラムは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プロ グラム」と同一であるといえる。 以上によれば,原告らの主張はいずれも採用することができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 0030 新規性
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 104条の3
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10071  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月2日  知的財産高等裁判所

 訂正後の発明について無効理由なしとした審決が取り消されました。理由は基準日当時の骨粗鬆症に関する技術常識から動機付けありというものです。

 (イ) 前記(ア)の各記載によると,本件基準日当時の骨粗鬆症に関する技術 常識は,次のとおりである。すなわち,1)骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折の危険性が増大した骨疾患であり,その治療の目的は,骨折を予防し,QOL(qu\nality of life)の維持改善を図ることである,2)骨粗鬆症は,加齢とと もに発生が増加する,3)骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子の中で, わが国では,低骨密度,既存骨折,年齢に関するエビデンスがある,4) 骨粗鬆症の診断基準に関して,1990年当時,厚生省シルバーサイエ ンスプロジェクト「老人性骨粗鬆症の予防および治療に関する総合的研\n究班」により提唱された診断基準(1989年診断基準)があったが, 1996年に診断基準が改訂され(1996年診断基準),その後,20 00年に更に改訂された(2000年診断基準),5)骨強度は骨密度と骨 質の2つの要因からなり,骨密度が骨強度のほぼ70%を,骨質が残り の30%を説明することが知られていたといえる。
イ 本件3条件について
(ア) 甲7発明と本件発明1とは,「1回当たり200単位のPTH(1− 34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする」との用量の点 において一致するが,その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を一応 異にする。
(イ) 甲7発明で投与対象とされた患者は,前記(1)のとおり,1989年診 断基準で骨粗鬆症と診断された患者であるところ,より新しい基準を参 酌しながらその患者を選別することは,当業者がごく普通に行うことで あるから,甲7発明に接した当業者が,甲7発明のPTH200単位週 1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する対象患者を選択するのであれば, 1989年診断基準とともに,より新しい,1996年診断基準又は2 000年診断基準を参酌するといえる。 そして,前記ア(ア)b及びcのとおり,1996年診断基準で骨粗鬆 症と診断される者は,1)骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの8 0%以下の低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か,2)X線上椎体骨折 を認めないが,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAMの70%未 満である者であり,2000年診断基準で骨粗鬆症と診断される者は, 3)骨萎縮度II)度以上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨量が原因で, 軽微な外力による非外傷性椎体骨折等(脆弱性骨折)を有する者か,4) 脆弱性骨折がないものの,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAM の70%未満の者である。
本件条件(2)及び本件条件(3)は,上記1)と同じであるから(「既 存椎体骨折」は「非外傷性椎体骨折」を含む。),当業者が甲7発明の2 00単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件条 件(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。 また,前記ア(イ)のとおり,骨粗鬆症は,加齢とともに発生が増加す るとの技術常識があり,高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らかであ るところ,高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的なことで あり,高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上が高齢者 とされている。したがって,これらを参酌し,骨粗鬆症による骨折の複 数の危険因子として,低骨密度及び既存骨折に並んで年齢が掲げられて いることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上として,本件条 件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1)のように設定する ことはごく自然な選択であって,何ら困難を要しない。 そうすると,甲7発明に接した当業者が,投与対象患者を本件3条件 を全て満たす患者と特定することは,当業者に格別の困難を要すること ではない。
ウ 被告の主張について
(ア) 被告は,前記第3の3(2)ア(イ)a及びbのとおり,本件3条件は, 層別解析により初めて,本件条件(1)ないし本件条件(3)を組み合 わせるとPTHの骨折抑制効果が高いという新規な知見を得たことに基 づくものであり,本件3条件は一般的な指標ではなく,甲7文献の開示 事項からは導かれず,むしろ甲7文献にはサブグループ間で薬物に対す る応答は同程度であった旨の記載があり,甲7発明から本件3条件を選 択する動機付けは否定される旨主張する。
しかしながら,前記イにおいて判示したように,本件基準日における 技術常識に照らせば,甲7発明に接した当業者が投与対象患者を本件3 条件を全て満たす患者とすることに格別の困難はない。また,本件3条 件の組合せについても,客観的観点からその選択において格別なもので ある,あるいは,他の骨折リスク因子等も含めた様々な組合せが想定さ れる中で本件3条件を組み合わせること自体に特別の意味合いがあると 認めるに足りる証拠はない(被告が主張する層別解析は,後述するよう に,あくまで本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグルー プと,本件3条件の全部又は一部を満たさない患者(低リスク患者)の グループのうちごく一部のグループとを比較するものにすぎず,また, その結果自体も被告主張の顕著な効果が認められると即断できるもので はない。)。 そして,確かに甲7文献には,別紙2のとおり,「年齢が64歳以下と 65歳以上,体重が49kg以下と50kg以上,閉経後10年未満,10 から20年,20年以上,および脊椎骨折が0,1および2箇所以上を 有するサブグループに被験者を分類して比較したところ,サブグループ 間で薬物に対する応答は同程度であった。」との記載があることは認めら れるものの(300頁左欄11行ないし右欄6行目),当該記載は,上記 記載中の条件によってサブグループ化されたサブグループ間の薬物効果 の比較について述べているにすぎず,当該記載により,甲7発明の投与 対象患者をサブグループ化すること全般が阻害されるとはいえない。 したがって,被告の上記主張は,いずれも採用することができない。
(イ) また,被告は,前記第3の3(2)ア(イ)cのとおり,甲7発明におけ る200単位投与群には,副作用が多発しており,200単位は副作用 脱落率が高い用量と認識されているから,当業者はこれを試みない旨主 張する。
確かに,別紙2のとおり,甲7文献には,PTH200単位週1回投 与のH群の副作用発生率は42%であり,72人のうち16人(約22%) が副作用により脱落していて,副作用発生率及び副作用による脱落率は, 50単位を投与したL群(副作用発生率19%)及び100単位を投与 したM群(副作用発生率19%)のいずれと比べても高いことが記載さ れており(表6),骨粗鬆症の治療は長期間にわたるため,臨床使用にお\nいて患者の症状や治療継続意思に直接に影響する副作用が起こることは 望ましくはないから(甲70ないし72,100),甲7文献の上記記載 に接した当業者は,この点に限っていえば,200単位の投与よりも1 00単位の投与の方がより適当であると認識することが考えられる。 しかしながら,他方,甲7文献には,重篤な有害事象は認められない と記載されており(301頁左欄1行ないし右欄4行目),さらに,20 0単位の投与が腰椎骨密度を48週間後に8.1%増加させたこと,及び, その増加の程度は,100単位投与の3.6%,及び,50単位投与の0. 6%のいずれよりも高いことが記載され,PTHは腰椎骨密度を48週 という比較的短期間で用量に依存して増加させる極めて有望なものと評 価されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目,301頁右欄5 行ないし303頁右欄23行目。有望とされた対象から200単位の投 与のみが排除されているとは理解し難い。)。そして,前記ア(イ)のとお り,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであるところ,骨密度\nが低いことは,既存骨折,年齢とともに,わが国でエビデンスがある骨 折危険因子であり,骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常 識がある。
以上によれば,甲7文献に接した当業者は,200単位週1回投与と 100単位週1回投与とを対比した場合に,副作用の面と効果の面を総 合考慮して,いずれを選択するか判断するものと考えられ,200単位 週1回投与がその選択が排除されるほど劣位したものと見られるとはい えず,これを選択することもまた十分に動機付けられているというべき\nである。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) さらに,被告は,前記第3の3(2)ア(イ)dのとおり,PTH製剤が 高齢者には効きにくいということは技術常識であったから,PTH製剤 を高齢者に特に使用しようとする積極的な動機付けは生じない旨主張す る。
被告は,関係文献(乙29)を挙げて,PTH製剤が高齢者には効き にくいということは技術常識であるとするが,「フォルテオ皮下注キット 600μg フォルテオ皮下注カート600μg「2.7.3臨床的有 効性の概要」」(乙29)における記載(213頁)として,プラセボ投 与群,テリパラチド20μg投与群(連日投与)及びテリパラチド40 μg投与群(連日投与)に分けてフォルテオを投与をした際の新規椎体 骨折発生率の結果が示されているところ,65歳以上75歳未満の患者, 及び,75歳以上の患者いずれに対しても,テリパラチド投与群におけ る椎体骨折発生率は,プラセボ投与群の椎体骨折発生率より低くなって いるから,これらの記載をもって,フォルテオが高齢者,すなわち65 歳以上の患者に効きにくいなどとはいえない。また,被告は,20μg投与群又は40μg投与群のプラセボ投与群に対する骨折相対リスク減少率は,患者が75歳以上の場合には,65歳以上75歳未満の場合よりも低くなっている旨を指摘するが,75歳 以上の患者群の骨折相対リスク減少率が65歳以上75歳未満の患者群 の骨折相対リスク減少率よりも低いとしても,それは,投与対象を75 歳以上の高齢者とすることの動機付けの有無の問題にはなるとしても, 投与対象を65歳以上の高齢者とすることの動機付けには何らの影響を 与えない。したがって,上記各文献をもって,200単位のPTH製剤を65歳 以上の高齢者に投与することが妨げられ,動機付けが生じないとはいえ ない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 動機付け
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10128  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年1月11日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は引用文献の認定誤りです。

(2) 引用発明における「検出部ID」の技術的意義
上記認定に係る引用発明の「検出部ID」が,「電源タップ4」の住居内 での設置箇所を識別するものであるか否かについて検討する。 引用発明の「検出部ID」は,住居内で「電源タップ4」を一意に識別す る符号であるものの,引用文献1には,前記「検出部ID」が「電源タップ 4」の設置箇所を表す情報と関連するものであることは一切記載されていな\nい。また,電源タップの一般的な使用形態を参酌すると,電源タップを住居 内のどこに設置してどのような電気機器に接続するかは,当該電源タップを 利用する者が任意に決められるものと解される。 引用文献1では,「電源タップ4」に照明器具が接続される態様も開示さ れているものの(【図6】),照明器具は,居間,トイレ,寝室等,住居内 のあらゆる箇所で用いられるものであり,よって,当該照明器具に接続され る電源タップの設置箇所も住居内のあらゆる場所が想定されるものであるか ら,「検出部ID」により「電源タップ4」を一意に識別しても,それは 「電源タップ4」の識別にとどまるものであって,当該「電源タップ4」の 設置箇所も識別できるとする根拠は見出せない。 すなわち,「電源タップ4」の「検出部ID」から住居内の設置箇所を識 別するためには,「検出部ID」と当該「電源タップ4」の住居内での設置 箇所とを対応付けた何らかの付加的情報が必要である。「電源タップ4」の 「検出部ID」という,電源タップを一意に識別する符号から,当該「電源 タップ4」の設置箇所を識別することができる,と認めることはできない。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,本願明細書等の段落【0024】において,照明装置から発信 されるID番号としては「位置ID番号」のみが開示されているところ, 位置ID番号に紐づけられる位置情報に設置箇所(個々の部屋)が含まれ るか否かが明らかでないと指摘する。 しかしながら,次の(ア)ないし(ウ)に照らすと,本願発明の「位置ID 番号」には,居宅内の各部屋を特定する「内部管理ID番号」が含まれる, と理解されるから,被告の上記指摘は上記認定を覆すものではない。
(ア) 段落【0026】及び【0027】においては,情報を受信するク ラウドサーバの側のデータベース内に,居宅内の各部屋を特定する「内 部管理ID番号」が登録されることが記載されており,段落【002 9】以下では,安否確認システムの動作によって,居宅内のどの部屋 (設置箇所)において異常が生じているのかを判定する仕組みが詳細に 説明されている。そうすると,発信装置から発信される「位置ID番 号」が,クラウドサーバの保有する「内部管理ID番号」を含むものと 解しないと,本願明細書等の記載全体を合理的に理解することができな い。
(イ) 段落【0035】,【0040】及び【0042】には,段落【0 024】と異なり,「位置ID番号」が照明装置の設置箇所(居間,ト イレ,寝室等の各部屋)を特定することが明示されている。
(ウ) 段落【0024】において,「位置ID番号」に紐づけられる「位 置情報」は,「設置箇所が存在する施設の住所,並びに設置箇所の緯度 経度及び施設の設置する階数等」(下線付加)である。この「等」に, 設置箇所となる各部屋の名称(居間,トイレ,寝室等)を含めることに よって,位置ID番号が,設置箇所を特定する情報(クラウドサーバの 「内部管理ID番号」に対応する情報)を含むものと解釈することが許 されないとはいえない。 また,設置箇所となる各部屋の名称を「等」に含めることが許されな い,あるいは位置情報をクラウドサーバへ登録する旨について述べたも のにとどまる,と解釈し,当該施設の中での「設置箇所」(各部屋)の 位置情報は,利用者が照明装置の設置後にアプリを用いてクラウドサー バに登録する,と理解することも可能である。段落【0019】の「利\n用者は,取得したアプリにしたがい,・・・照明装置の設置箇所・・・ の設定登録を行う」との記載も参酌すると,むしろ,かかる理解が本筋 であるともいえる。 前記(1)のとおり,照明装置から発信される「ID番号」とクラウドサ ーバに登録される「ID番号」とを相互に対照することができて初めて 本願発明は所期の作用効果を奏することができるのであるから,本願明 細書等に接する当業者の理解は,上記のいずれかであると考えられる。
イ 被告は,電源タップに接続される電気機器の設置箇所(部屋)は,電気 機器の種別によって通常定まるから,引用発明の「検出部ID」は,単に 「電源タップ4を一意に識別する符号」,すなわち,住居内の「どれ」か ということを識別する符号にとどまるものでもなく,住居内で「どこ」に 設置されているのかを識別する符号であって,位置情報として意味を有し, 本願発明の「内部管理ID番号」と同じ役割を有している旨主張する。
たしかに,被告がその主張の根拠とする引用文献1の【図5】において, 「住居ID」,「検出部ID」(図5の「計測部ID」との記載は「検出 部ID」の誤記と認められる。),「機器種類」,「稼働状況」などから なる機器稼働データが例示されており,たとえば,「検出部ID」が“i d13”の場合は,「住居ID」が“hid7”の場合も“hid2”の 場合も「機器種類」が“電気炊飯器”であること,「検出部ID」が“i d17”の場合は,「機器種類」が“PC”,“アイロン”,あるいは “ポット”であることが例示されており,「検出部ID」と電気機器の種 類,ひいては「電源タップ4」の設置箇所との間に何らかの相関関係があ ることも推測される。 しかしながら,引用文献1の【図5】におけるこれらの例示は,利用者 が住居内に各電源タップを任意に設置して電気機器に接続した結果として 生じる,「検出部ID」と接続されている電気機器との対応関係を示して いるにすぎないというべきであって,たとえば,前記ポットは,台所,居 間,ダイニング,寝室のいずれでも利用されることに鑑みると,【図5】 の記載をもってして,「電源タップ4」の「検出部ID」と当該「電源タ ップ4」の設置箇所との間に何らかの対応関係が定められているとするこ とはできない。
また,引用文献1の段落【0075】ないし【0078】には,実施の 形態3に係る生活状況監視システムにおいて,「電源タップ4」に機器種 類を設定する「スライドスイッチ20a」を設けることが記載されており, 【図16】には,機器種類として,「冷蔵庫」,「炊飯器」,「テレビ」, 「アイロン」,「レンジ」,「その他」が例示されており,「スライドス イッチ20a」がこれらの機器種類の中から任意に機器種類を選択するこ とが示されている。 してみると,引用文献1に記載の「電源タップ4」は,「冷蔵庫」, 「炊飯器」,「テレビ」等を含め,種々の電気機器に接続されることを前 提としたものであり,当該「電源タップ4」が設置される箇所も,台所, 居間等,住居内の様々な箇所が想定されるものであるから,「電源タップ 4」の「検出部ID」と当該「電源タップ4」の設置箇所との間には,元 来関連性はない。
以上によれば,引用文献1に,「電源タップ4」を一意に識別するため の「検出部ID」に基づいて,当該「電源タップ4」の設置箇所を識別す るという技術思想が開示されているとは認められず,被告の上記主張は採 用することができない。
ウ 被告は,住居内の電源タップ及びそれに接続される家電機器は,いった ん設置されれば移動しないのが通常であること,引用発明においては「電 源タップ4」の設置箇所が判明しているからこそ警戒すべき状況か否かの 判定ができること,を考慮すれば,「電源タップ4」の「検出部ID」は 設置箇所を識別し得る情報であり,本願発明の位置情報(設置箇所の情報 を含む。)と相違しない旨主張する。 しかしながら,以下のとおり,被告の上記主張は採用することができな い。
(ア) 引用文献1の【図13】には,警戒すべき状況か否かを判定するた めの条件の例が記載されている。この記載からは,電気機器の種別(テ レビ,炊飯器,アイロン等)と稼働状況(稼働中か停止中か)に応じて 警戒状況を判定するという技術思想は読み取れるものの,電気機器の種 別が同一である場合に,当該電気機器の設置箇所に応じて判定する条件 を異ならせる(例えば,居間と寝室のテレビとで判定条件を異ならせ る)という技術思想を読み取ることはできない。 例えば,【図13】に記載された判定条件のうち,「3日以上,『電 気炊飯器』の『停止』が続いた場合」は,住人が食事をとっていないと いう事態をうかがわせるから,かかる場合をもって段落【0057】等 にいう「警戒すべき稼働状況」として登録する,というのが引用発明の 技術思想であると解される。電気炊飯器の設置箇所は,通常,「台所」 という住居内の特定の部屋であるが,その間に住人が台所に立ち入った か否かが,警戒状況か否かを判定するための条件とされているものでは ない。 このように,引用発明においては,警戒すべき状況か否かを判定する ための情報として,特定の電源タップに接続された電気機器の種別を用 いているが,当該電源タップ及びそれに接続された電気機器の設置箇所 と関連する情報を用いることの開示又は示唆はない。
(イ) 引用文献1の【図6】には,二つの部屋のそれぞれにおいて,同一 の種別の電気機器である照明装置が「電源タップ4」に接続される態様 が開示されており,二つの部屋にそれぞれ設けられた「電源タップ4」 が,「検出部ID」を「遠隔監視装置1」に送信するものと認められる が,この場合であっても,上記(ア)に示したとおり,「検出部ID」は, 各々の電源タップ及びこれに接続された電気機器を一意に識別するため の符号であるにとどまり,「電源タップ4」の設置箇所を示す情報では ないから,「検出部ID」により各部屋を識別できるとする技術的根拠 は見出せない。
(4) 以上によれば,引用発明の「検出部ID」は,「電源タップ4」の住居内 での設置箇所を識別するものではないから,本願発明の位置情報のうち,住 居内における設置箇所を特定する「内部管理ID番号」(具体的には居間, トイレ,寝室等の各部屋)とは技術的意義を異にする。 それにもかかわらず,本件審決は,引用発明の「検出部ID」は本願発明 の「内部管理ID番号」に相当するとして,「施設内での設置箇所に係るI D番号」が安否確認に用いられることを一致点の認定に含めており,この認 定には誤りがあるといわざるを得ない。その結果,本件審決は,原告の主張 に係る相違点5を看過しており,上記一致点の認定誤りは本件審決の結論に 影響を及ぼす誤りである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 引用文献
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10050 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月22日  知的財産高等裁判所

 原告は個人で本人訴訟です。無効審判も代理人無しです。被告は富士フイルムです。 進歩性違反なしとした審決が維持されました。被告は訂正無しでした。

ア 原告の主張(1)について
(ア) 前記1(3)で検討したとおり,従来の撮像装置においては,ヒンジユ ニットを本体に連結する第1ヒンジに係る軸Aが,ディスプレイをヒン ジユニットに支持する第2ヒンジの外側で第2ヒンジに係る軸Bと交 差し,軸A上の一対の第1ヒンジがディスプレイの外側に突出して配置 されているために,ヒンジユニットがディスプレイよりも大きくなって しまうという課題があったところ,本件発明1は,この課題を解決する ために,一対の第1ヒンジの一方が一対の第2ヒンジの間に配置される 構成(構\成要件1Fの構成)を採ったものであり,この点に技術的意義\nがあるということができる。 他方で,前記2(1)及び(2)によれば,甲1発明においては,軸受44 の孔44bを有する支持部44eが,孔44aを有する支持部44dよ りも液晶表示ディスプレイ3に近い側にあり,軸受44の支持部44d\n及び第1回転軸41の他方端が貫通するガイド45が,基台43におけ る第2回転軸42の他方端を軸支するサイドフレーム46と反対側のカ メラ縦方向の一辺に配置されている(構成要件1gの構\成。甲1公報の 段落【0028】ないし【0030】及び図1ないし3)。そうすると, 甲1発明においては,本件発明1における「一対の第1ヒンジ」に相当 する支持部44d及びガイド45の一方が,本件発明1における「一対 の第2ヒンジの間」に相当する支持部44eとサイドフレーム46との 間に配置されているものではないから,甲1発明は,構成要件1Fの構\ 成を備えるものではない。 以上によれば,本件発明1及び甲1発明は,甲1発明が構成要件1F\nの構成を備えていない点に実質的な相違があるといえ,両発明を対比し\nた場合には,この点を相違点として認定するのが相当であるから,両発 明について,ディスプレイ及び中間に位置するプレートが共に動く方向 とディスプレイのみが動く方向とが,縦方向又は水平方向のいずれであ るのかの違いしかないということはできない。 (イ) また,前記2(1)及び(2)によれば,甲1発明2は,甲1発明と構成\n要件1c及び1f以外の構成を共通にするものであるところ,上記(ア) で検討したとおりの構成要件1gの構\成の内容からすれば,甲1発明2 も,構成要件1Fの構\成を備えていないものといえる。 そうすると,甲1公報の段落【0074】において開示されている構\n成どおりの図を描けば,本件発明1及び甲1発明は同じものになるとい うことはできない。
(ウ) 以上によれば,原告の主張(1)は採用することができない。
イ 原告の主張(2)について
(ア) 原告の主張(2)は,善解するに,甲1発明において軸受の方向を90 度ずらして取り付けることにより,構成要件1Fの構\成と同様の構成を\n採ることができること,このことは甲1公報の段落【0074】に開示 されていることを主張するものと解される。 (イ) しかしながら,甲1公報の段落【0074】には,甲1発明におい て,カメラ縦方向回りに左右に回動させるヒンジユニット及びカメラ横 方向回りに上下に回動させる液晶ディスプレイのそれぞれの回動の向 きを,ヒンジユニットをカメラ横方向回りに,液晶ディスプレイをカメ ラ縦方向回りとしてもよいことが記載されているにすぎず,軸受の方向 を90度ずらして取り付けることが開示され,又は示唆されているもの とはいえない。また,上記アで検討したとおり,甲1公報の段落【00 74】には,構成要件1Fの構\成が開示されているものではないという べきである。
(ウ) 以上によれば,原告の主張(2)は採用することができない。
ウ 原告の主張(3)について
(ア) 本件明細書の図3について検討するに,第2ヒンジ24に係るヒン ジブラケット33が支持部21に接している部分の位置を基準とすれば, 第1ヒンジ23の軸B寄りに位置する方のヒンジブラケット31は,一 対の第2ヒンジ24の間に配置されているといえる。ただし,図3にお いては,上記ヒンジブラケット33の先端は,原告が主張するように, 支持部の外側に向かって水平方向に延びており,同ヒンジブラケット3 3に設けられた軸B回りにディスプレイを回動可能に支持する孔が上記\n第1ヒンジ23の外側に位置する形となっているようにもみえる。その ようにみると,本件明細書の図3における軸A及び軸Bは,図6Aと同 様の位置関係となるといえるところ,図6Aは,ヒンジユニットが大き くなってしまうという課題を有する従来技術が「参考例」として記載さ れているものであると解されることからすれば,図3は,本件発明1の 実施形態を説明するための図1Aの分解斜視図であると説明されてはい るものの,本件発明1の実施例を示す図面としては,適切なものではな いといわざるを得ない。 しかしながら,本件明細書においては,本件発明1の実施形態を示す 図面として図4Aが記載されているところ,図4Aは,一対の第1ヒン ジの一方が一対の第2ヒンジの間に配置されるという構成要件1Fの構\ 成を適切に示した図面であるといえる。そして,図4Aは,図3のヒン ジユニットの一対の第1ヒンジ及び一対の第2ヒンジの配置を示す模式 図として説明されているから,図3を上記原告の主張するようにしか読 み取ることができないというものではない。
(イ) そうすると,本件明細書の図3は,原告の主張するようにしか読み 取ることができないというものではないから,図3の記載内容を根拠と して,本件発明1が甲1発明と同じであるなどということはできない。
(ウ) 以上によれば,原告の主張(3)は採用することができない。
エ 原告の主張(4)について
(ア) 前記1(2)によれば,本件明細書の図6A及び図6Bは,ヒンジユニ ットが大きくなってしまうという課題を有する従来技術が「参考例」と して記載されているものである。そうすると,図6A及び図6Bの記載 内容を根拠として,本件発明1が甲1発明と同じであるなどということ はできない。
(イ) 以上によれば,原告の主張(4)は採用することができない。
オ その他 このほか,原告は,本件発明1は甲1発明に対する新規性を欠くとして 種々の主張をするが,これまで検討したところに照らすと,原告の主張は 採用することができない。
(4) 小括
以上によれば,本件発明1ないし5は甲1発明に対する新規性を欠くもの ではないとした本件審決の判断に誤りはない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10069  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月9日  知的財産高等裁判所

 医薬品の特許について、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。

(ア) 検討
a 甲7発明と本件発明1とは,「1回当たり200単位のPTH(1− 34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする」との用量の 点において一致するが,その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を 一応異にする。
b 甲7発明で投与対象とされた患者は,前記(1)のとおり,1989年 診断基準で骨粗鬆症と診断された患者であるところ,甲7発明に接し た当業者が,甲7発明のPTH200単位週1回投与の骨粗鬆症治療 剤を投与する対象患者を選択するのであれば,より新しい基準を参酌 しながらその患者を選別することは,当業者がごく普通に行うことで あるから,1989年診断基準とともに,より新しい,1996年診 断基準又は2000年診断基準を参酌するといえる。 そして,前記ア(ア)b及びcのとおり,1996年診断基準で骨粗 鬆症と診断される者は,1)骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの 80%以下の低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か,2)X線上椎体 骨折を認めないが,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAMの7 0%未満である者であり,2000年診断基準で骨粗鬆症と診断され る者は,3)骨萎縮度II)度以上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨 量で,軽微な外力による非外傷性椎体骨折等(脆弱性骨折)を有する 者か,4)脆弱性骨折がないものの,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度 値がYAMの70%未満の者である。
本件条件(2)及び本件条件(3)は,上記1)と同じであるから(「既 存の骨折」は「非外傷性椎体骨折」を含む。),当業者が甲7発明の2 00単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件 条件(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。 また,前記ア(イ)のとおり,骨粗鬆症は,加齢とともに発生が増加 するとの技術常識があり,高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らか であるところ,高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的な ことであり,高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上 が高齢者とされている。したがって,これらを参酌し,骨粗鬆症によ る骨折の複数の危険因子として,低骨密度及び既存骨折に並んで年齢 が掲げられていることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上 として,本件条件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1) のように設定することはごく自然な選択であって,何ら困難を要しな い。
そうすると,甲7発明に接した当業者が,投与対象患者を本件3条 件を全て満たす患者と特定することは,当業者に格別の困難を要する ことではない

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ワ)7038等  特許権侵害行為差止等請求事件,損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年10月29日  東京地方裁判所

 29条1項2号にいう「公然実施」について、出願前から製造していた物と現在製造している物に変化がないとして、公然実施と認定し、権利行使不能と判断されました。\n

29条1項2号にいう「公然実施」とは,発明の内容を不特定多数の 者が知り得る状況でその発明が実施されることをいい,本件各発明のよう な物の発明の場合には,商品が不特定多数の者に販売され,かつ,当業者 がその商品を外部から観察しただけで発明の内容を知り得る場合はもちろ ん,外部からそれを知ることができなくても,当業者がその商品を通常の 方法で分解,分析することによって知ることができる場合も公然実施とな ると解するのが相当である。
・・・
エ 日本黒鉛らについて
(ア) 日本黒鉛各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか
a 日本黒鉛製品2,4及び5に係る日本黒鉛製品結果及び乙A18結 果は近接していること,日本黒鉛製品4及び5に係る乙A18結果の 回折プロファイルにおいて,菱面晶系黒鉛層(3R)の(101)面 及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)面の各ピークが出現すると される回折線の角度43ないし44°付近のピークは比較的明瞭であ り,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDXLの自動解析機能を使用しても\n適切な解が得られると考えられること,日本黒鉛製品2に係る乙A1 8結果の回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし44°付 近のピークは明瞭とはいい難いが,このような場合に,PDXLの自 動解析機能を使用して得られた解が常に誤っていることを認めるに足\nりる証拠はないことからすると,日本黒鉛製品2,4及び5のRat e(3R)については,日本黒鉛製品結果及び乙A18結果のいずれ も採用することができるというべきである。
他方で,日本黒鉛製品1及び3に係る乙A18結果については,同 じ製品であるにもかかわらず,算出されたRate(3R)にかなり のばらつきがあること,日本黒鉛製品1及び3に係る乙A18結果の 各回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし44°付近のピ ークは必ずしも明瞭ではないこと,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDX Lは,ピークが不明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な解に\n収束したり,解が発散したりすることがあり,このような場合,試料 を考慮した解析条件を手動で入力する必要があること,前記(1)ウ(イ) aのとおり,原告は,自動解析機能によっては不合理な解に収束した\nり,解が発散したりする場合には適宜の解析条件を手動で入力するこ とにより,PDXLを用いて解析を行い,日本黒鉛製品結果を得たこ とからすると,日本黒鉛製品1及び3のRate(3R)については, 日本黒鉛製品結果を採用することができ,乙A18結果は採用するこ とができないというべきである。
b 日本黒鉛製品結果及び乙A18結果によれば,日本黒鉛製品2は本 件各発明の構成要件1B及び2Bを,日本黒鉛製品4及び5は構\成要 件1Bをそれぞれ充足し,日本黒鉛製品結果によれば,日本黒鉛製品 1及び3は構成要件1B及び2Bを充足することとなり,前記2の本\n件各発明の解釈を前提とすると,日本黒鉛製品1ないし3は本件各発 明の,日本黒鉛製品4及び5は本件発明1の各技術的範囲に属すると 認めるのが相当である。
(イ) サンプルのRate(3R)
a 次に,前記(1)ウ(イ)bのとおり,日本黒鉛工業が保管していた日本 黒鉛製品1,2,4及び5の各サンプルのRate(3R)は,サン プル結果3)のとおりである。
そして,日本黒鉛工業の証人Zは,日本黒鉛工業においては,平成 13年10月頃からおおむね10年に1回,製品のサンプルを保管す るようになり,平成20年6月12日に採取した日本黒鉛製品1のサ ンプル,平成13年10月5日に採取した日本黒鉛製品2のサンプル, 平成20年7月30日に採取した日本黒鉛製品4のサンプル及び同年 12月16日に採取した日本黒鉛製品5のサンプルを保管している旨 証言し,Z証人作成の陳述書(乙A120)にも同旨の記載があると ころ,証拠(乙A86,94,95)による裏付けがあることからす ると,Z証人の上記証言は採用することができるというべきである。 したがって,上記日本黒鉛製品1,2,4及び5の各サンプルは上 記各日に採取したものと認めるのが相当である。
b 日本黒鉛製品1に係るサンプル結果3)については,同じ製品である にもかかわらず,算出されたRate(3R)にかなりのばらつきが あること,サンプル結果3)の回折プロファイルにおいて,菱面晶系黒 鉛層(3R)の(101)面及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101) 面の各ピークが出現するとされる回折線の角度43ないし44°付近 のピークは必ずしも明瞭ではないこと,前記2(1)ウ(イ)のとおり,P DXLは,ピークが不明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な\n解に収束したり,解が発散したりすることがあり,このような場合, 試料を考慮した解析条件を手動で入力する必要があることからすると, 日本黒鉛製品1のサンプルのRate(3R)について,サンプル結 果3)は採用することができないというべきである。 他方で,日本黒鉛製品4及び5の各サンプルに係るサンプル結果3) については,複数回算出したRate(3R)にばらつきはほとんど なく,サンプル結果3)の回折プロファイルにおける回折線の角度43 ないし44°付近のピークは比較的明瞭であり,前記2(1)ウ(イ)のと おり,PDXLの自動解析機能を使用しても適切な解が得られると考\nえられることからすると,日本黒鉛製品4及び5の各サンプルのRa te(3R)について,サンプル結果3)を採用することができるとい うべきである。 日本黒鉛製品2のサンプルに係るサンプル結果3)については,複数 回算出したRate(3R)にばらつきはほとんどないこと,そして, サンプル結果3)の回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし 44°付近のピークは必ずしも明瞭ではないものの,本件証拠上,こ のような場合に,PDXLの自動解析機能を使用して得られた解が常\nに誤っているとまでは認められないことからすると,日本黒鉛製品2 のサンプルのRate(3R)について,サンプル結果3)を一応採用 することができるというべきである。
(ウ) 日本黒鉛らが本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属する日 本黒鉛各製品を製造販売していたか
前記イ(イ)のとおり,菱面晶系黒鉛層の増加に影響を及ぼすと考えられ る要素のほとんどは,黒鉛製品の製造工程及び製造された製品が満たす べき規格に関わるといえるが,具体的に,どのような条件の下,どのよ うな操作をすることにより,単に菱面晶系黒鉛層が増加するだけでなく, 六方晶系黒鉛層との総和における菱面晶系黒鉛層の割合であるRate (3R)がどの程度変動するかは,本件訴訟に現れた全証拠によっても 確定することができない。 そして,前記(1)ウ(ア)のとおり,日本黒鉛工業は,本件特許出願前か ら日本黒鉛各製品を製造しており,本件特許出願前から現在に至るまで, その製造工程及び出荷の基準となる規格値に大きな変更はない。 また,前記前提事実(2)及び(7)アのとおり,原告が日本黒鉛製品結果 をもって日本黒鉛らに対して提訴したのは平成31年3月であり,平成 26年9月9日の本件特許出願からそれほど長い年月が経過しているも のとはいえない。
以上によれば,日本黒鉛らは,本件特許出願前から現在に至るまで, 日本黒鉛各製品の各名称を付した黒鉛製品を製造販売しており,この間, 菱面晶系黒鉛層の増減に影響を与えると考えられるこれらの製品の製造 工程及び規格値に変更はないことから,この間に製造販売された日本黒 鉛各製品は,同じ製造工程を経て,同じ規格を満たすものであると認め られる。そして,他にこれらの製品に対してRate(3R)の増減に 影響を及ぼす事情が存したとは認められず,前記(ア)のとおり,現時点に おいて,日本黒鉛製品1ないし3は本件各発明の,日本黒鉛製品4及び 5は本件発明1の各技術的範囲に属する。これらの事情に照らせば,日 本黒鉛らは,本件特許出願前から,このような日本黒鉛各製品を製造販 売していたと認めるのが相当であり,前記(イ)bのとおり,本件特許出願 前の平成20年に採取した日本黒鉛製品4及び5のRate(3R)が 31%以上であることも,この結論を裏付けるというべきである。
なお,日本黒鉛製品2に係るサンプル結果3)は,乙A18結果と相違 しているが,日本黒鉛製品2は土状黒鉛であり,菱面晶系黒鉛層(3R) の(101)面及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)面の各ピーク が出現するとされる回折線の角度43ないし44°付近のピークが必ず しも明瞭ではなく,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDXLは,ピークが不 明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な解に収束したり,解が発\n散したりすることがあり,同じく土状黒鉛である日本黒鉛製品1に係る サンプル結果3)及び乙A18結果を見てもばらつきがあることからする と,日本黒鉛製品2に係るサンプル結果3)と乙A18結果が相違するこ とは,日本黒鉛らが本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属す る日本黒鉛製品2を製造販売していたという上記認定を左右するとはい えない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 0030 新規性
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10089  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月15日  知的財産高等裁判所

 訂正発明は、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。

発明の要旨認定は,特許請求の範囲の記載に基づいて行うべきであ り,発明が属する技術分野における優先日前の技術常識を考慮した通 常の意味内容により特許請求の範囲の記載を解釈するのが相当である。 もっとも,特許請求の範囲の記載の意味内容が,明細書又は図面にお いて,通常の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれ ば,通常の意味内容とは異なるものとして解される余地はあるものの, そのような定義又は説明がない場合には,上記のとおり解釈するのが 相当である。
・・・
f 本件審決の解釈の適否
(a) 本件審決の説示
本件審決は,シートシェルについて次のように説示する。 (i) 「ア.本件発明1の『シートシェル』で特定される事項」に おいて「本件発明1の『シートシェル』は,・・・『支持部』と は別個の部材であると解するのが相当である。そうすると, 『シートシェル』の定義は,『シート』の『シェル』であって,『子 供又は乳児を支持する支持部』とは別個の部材であって,『前 記支持部は前記シートシェルの内側にあ』るから,支持部が 内側にある『支持部のための構造要素』である『シェル』とい\nうことができる。」とする(本件審決第5,2(1)(1−2)ア 〔本件審決49頁9〜17行目〕)。 (ii) 前記(i)の「『シートシェル』の定義からみて,甲1発明1の 『側方支持部6を備えた背もたれ5,座部4,ヘッドレスト 10』は子供を支持する部材であるから本件発明1の『支持 部』に相当するものであり」とする(本件審決第5,2(1)(1 −2)イ〔本件審決49頁19〜21行目〕)。 (iii) 「シートシェルが,従来技術とは異なり,子供を支持する 支持部材とは別な部材であることは,以下の明細書の記載か らも明白である。」(本件審決第5,2(1)(1−2)オ(ア)〔本 件審決53頁20〜21行目〕)として,本件明細書の段落【0 008】及び【0019】を挙げる。
(b)本件審決の解釈
前記(a)の本件審決の説示を総合すると,本件審決は,本件発明の 「支持部」が,シートシェルに係る技術常識の(a)ないし(c)(前記c (a)ないし(c)により理解される「シートシェル」及び「子供を支え る柔軟性のある素材」に相当し,本件発明の「シートシェル」は, 「支持部」を内側に配置する,従来技術(技術常識)における「シ ートシェル」及び「子供を支える柔軟性のある素材」とは別異の, それらに更に追加される構造要素と解釈しているものと認められ\nる。
(c) 本件審決の解釈の適否
本件審決は,本件発明の「シートシェルが,従来技術とは異なり, 子供を支持する支持部材とは別な部材である」と解する根拠として, 本件明細書の段落【0008】や【0019】を引用するが(前記 (a) (iii)),これらの段落は,「側面衝突保護部」の配置とその作用又 は効果についての説明にとどまるものであって,「シートシェル」が 従来技術とは別異なものであるとの記載はないし,支持部について は何らの記載もないことからすると,上記段落が本件審決の上記解 釈を裏付けるものとはいえない。そして,本件発明の特許請求の範 囲の記載や本件明細書の発明の詳細な説明の記載において,前記(b) の本件審決の解釈を採用すべき根拠を見出すことはできない。した がって,前記(b)の本件審決の解釈を採用することはできない。
(d)被告の主張の検討
被告は,本件発明の「シートシェル」の解釈について,「背部側か ら支持部を構造的に保持するシェル(外殻)的構\造要素である」,「支 持部とは別個のシェル形状の一構成要素であり,子供を前部側で支\n持する支持部の背部側を外側から構造的に保持する,支持部のため\nのシェル(外殻)的構造要素であって,車両の側部から伝わる横か\nらの力がシートシェルに導かれるように側面衝突保護部を配置し たシェルである」,「シートシェルは,シートシェルの内側にある支 持部の背部側を外側から構造的に保持し,かつ側面衝突保護部を取\nり付けるのに必要とされる程度に剛性(段落【0022】)を備える シェル形状部材である」,「シートシェルはその背部側が露出してお り,シェルの名のとおり曲面形状である」などと主張する(前記第 3,1(1)ア〔被告の主張〕)。確かに,本件図面の図2,5及び6に, シートの背部に曲面形状の構造が示されているようにも見え,実施\n例において,それがシートシェルに該当するとされている。しかし, 本件明細書には,本件発明のシートシェルを,被告が主張するよう な外殻的構造の意味に限定して解釈すべき根拠となるような記載\nはなく,シートシェルという用語の解釈に当たって,本件発明が属 する技術分野における優先日前の技術常識を考慮した通常の意味 内容とは異なるように解釈すべきことを裏付ける根拠もないから, 被告の上記主張は採用することができない。
(イ) 側面衝突保護部の配置について
a 請求項1(本件発明1)により示される側面衝突保護部の配置 本件発明1は「前記シートシェルの外側で前記シートシェルに取り 付けられる側面衝突保護部」(構成要件1D)という構\成を備えるから, 本件発明1の側面衝突保護部は,シートシェルの外側でシートシェル に取り付けられるものである。そして,前記(ア)dのとおり,「シート シェル」は,剛性のある素材から成るチャイルドセーフティシートの 基本構造体であると解されることからすると,このような基本構\造体 である「シートシェル」の側面の外側に取り付けられた「側面衝突保 護部」が受けた力は,自ずと「シートシェル」に伝達されることにな る。
本件発明1は,「前記側面衝突保護部は,前記チャイルドセーフティ シートが前記車両の前記シートに取付けられた状態において,前記車 両の側部から前記チャイルドセーフティシートに伝わる横からの力が 前記シートシェルに導かれるように,配置される」(構成要件1G)と\nいう構成を備えるところ,上記のとおり,側面衝突保護部がシートシ\nェルの外側で前記シートシェルに取り付けられること(構成要件1D),\nシートシェルは剛性のある素材から成るチャイルドセーフティシート の基本構造体であり(前記(ア)d),側面衝突保護部が受けた力は自ず とシートシェルに伝達されることに照らすと,上記の構成(構\成要件 1G)は,シートシェルの外側に取り付けた側面衝突保護部の配置(換 言すれば「取付位置」)が,シートシェルの側面の外側であることを示 すのみであり,その配置について,それ以上に何ら具体的な特定をす るものではないと認められる。
b 被告の主張の検討
被告は,請求項1(本件発明1)の「側面衝突保護部は,・・・横か らの力が前記シートシェルに導かれるように,配置される」(構成要件\n1G)という文言は,機能的限定であるから,本件明細書に記載され\nた具体的構成に基づいて限定的に解釈し,「側面衝突保護部が,チャイ\nルドセーフティシートの座部領域より上方であって,チャイルドセー フティシートの背部に配置される」ことによって,「横からの力が,支 持部(子供)には導かれず,シートシェルにのみ導かれる」ことを意 味するものと解釈すべきであると主張する(前記第3,1(1)イ〔被告 の主張〕)。
しかし,発明の要旨認定は,特許請求の範囲の記載に基づいて行わ れるべきであり,それは,特許請求の範囲の記載の中に作用又は機能\nを用いて物を特定しようとする記載がある場合であっても同様である。 本件発明1の「前記側面衝突保護部は,前記チャイルドセーフティシ ートが前記車両の前記シートに取付けられた状態において,前記車両 の側部から前記チャイルドセーフティシートに伝わる横からの力が前 記シートシェルに導かれるように,配置される」(構成要件1G)とい\nう構成には,「車両の側部からチャイルドセーフティシートに伝わる横\nからの力がシートシェルに導かれる」ということしか記載されておら ず,「横からの力が,支持部(子供)には導かれず,シートシェルにの み導かれる」とは記載されていないから,被告主張のような限定的な 解釈をとることはできない。請求項6(本件発明6)には,側面衝突 保護部の側部要素がチャイルドセーフティシートの座部領域より上に 配置されるチャイルドセーフティシートが記載され,請求項7(本件 発明7)には,側部要素がチャイルドセーフティシートの背部に配置 されるチャイルドセーフティシートが記載されており,また,本件明 細書の段落【0008】及び【0019】には,衝突による横からの 力が子供の体に直接伝わらず,子供の体を迂回してシートシェルに導 かれるように取り付けられる側面衝突保護部材に関する記載があるが, 請求項1(本件発明1)の文言を,従属請求項である請求項6及び7 の記載並びに本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】及び 【0019】の記載によって限定して解釈する理由はないから,被告 の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月16日  知的財産高等裁判所

 原告は、訂正発明は、進歩性違反、新規事項、委任省令違反などの無効理由があるとして、無効理由無しとした審決の取消を求めました。知財高裁は審決を維持しました。

特許法36条4項1号の委任する特許法施行規則24条の2は,発明の詳細な説 明の記載について,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発 明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解 するために必要な事項を記載することによりしなければならない」と規定するとこ ろ,原告は,本件明細書からはオルニチンを用いた本件訂正発明が,どのような課 題をどのように解決したか明らかでないこと,「発酵物の乾燥重量1g当たり」「8 mg 以上のオルチニン」という数値限定に対応する課題も効果も,本件明細書に記載 がなく,当業者において本件訂正発明の課題やその解決手段を認識することはでき ないから,上記委任省令要件違反である旨主張する。
(2) 本件明細書の記載について
そこで検討するに,前記1(1)のとおり,本件明細書の段落【0226】には,「ア ルギニンについては,発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。 従って,大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス 20-92 株で発酵処理する ことにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成させ得ることが明らかと なった。」との記載があり,本件明細書の段落【0228】【表3】にも,発酵によ\nり,アルギニンからオルニチンが生成することが示されている。また,本件明細書 の段落【0050】には,「ダイゼイン類を含む原料」の一例である「大豆胚軸」を 用いた場合のオルニチンの含有量について,「エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥 重量1g当たりオルニチンが5〜20mg,好ましくは8〜15mg,更に好ましくは 9〜12mg 程度が例示される。」と記載されており,当業者は,本件訂正発明は,こ の好ましい量の下限を採用したものであると理解できる(前記5(5)参照)。
これらからすると,当業者は,本件訂正発明の技術上の意義は,ラクトコッカス 20-92 株で発酵処理することにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成さ せ得ることを明らかにし,エクオール及びオルニチンを含有する発酵物(オルニチ ンの含有量は乾燥重量1g当たり8mg 以上)の製造方法を提供したことにあること 及び発酵処理によりこれを解決することが理解できるから,本件明細書の発明の詳 細な説明の記載には,当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が 記載されているということができる。
(3) 原告の主張について
原告は,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】段落【0010】におい てオルニチンに係る記載がないことを指摘するが,上記のとおり,特許法施行規則 24条の2は,「発明の詳細な説明の記載」に係る規定であるから,本件明細書全 体の記載から理解できれば足り,必ずしも,発明の技術上の意義を理解するために 必要な事項が「発明が解決しようとする課題」の項目に記載されている必要はない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 記載要件
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和3(行ケ)10060  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月20日  知的財産高等裁判所

 ブロックチェーン関連技術のCS関連発明について、進歩性無しとした審決が維持されました。

進歩性無しとされた請求項1は以下です。
請求項1(本件補正発明)
管理主体が存在しないパブリック型ネットワークにおいて台帳を分散して記録する複数のノードの少なくとも1つに対し,トランザクションのリクエストを送信する複数のプロセスであって,設定されるプロセス多重度に応じた複数のプロセスを生成する生成部と,
トランザクションの指示を受け付け,前記複数のプロセスのいずれかに当該トランザクションのリクエスト送信を割り当てる割当部と,を備えるシステム。
これらの記載によると,引用文献1の実験においては,スレッド当たり のリクエスト数をセキュリティ機能のOFF又はONの相違に従って固\n定し,並列スレッド数を変化させてスループット(1秒当たりのリクエス ト処理量)を測定しているのであり,「全スレッドによる合計リクエスト件 数」は並列スレッド数にのみ左右されるから,引用文献1は,専ら並列ス レッド数とスループットとの関係を測定したものであり,その測定結果と して,並列スレッド数の増加に対するスループットは,ある程度までは増 加し,一定程度で頭打ちとなり,その後は挙動不安定になるというものが 得られたとするものである。そうすると,引用文献1は,並列スレッド数 を増加させていけばスループットは増加するが,ある程度以降は挙動が安 定しなくなるので,その場合には並列スレッド数の増加による効果がなく なり,「リクエストの流量制限」で対応しなければならないと理解すべきも のであるから,その記載内容は,スレッド数の増加による効果には一定の 最大限度があることを含意するものというべきである。 以上のとおりであるから 原告の前記第3の1(1)アの主張は採用する ことができない。なお,原告は,引用文献1においては,「負荷が大きすぎ ること」,すなわち「単位時間当たりのリクエスト数が大きすぎること」を 認識するための手段としてスレッドの数を増加させてみた測定結果が記 載されているのにすぎず,このような記載をもって,「スレッド数(並列度) の制御」を,「リクエストの流量制御」における課題解決手段として読み取 ることはできないない旨主張するが,前述のとおり,引用文献1の該当部 分の記載は,単に課題認識手段としての測定結果を表示したものとはいえ\nず,スレッドの数を増加させた場合の結果に応じて,課題解決に向けた対 応策の示唆等にも及ぶものであるから,原告の前記主張は前提を欠くもの というべきである。 したがって,引用文献1には,引用発明がスレッド数を制御すること, 少なくとも,スレッドの多重度を設定し,これより,設定されるスレッド 多重度に応じた複数のスレッドを生成するものであるとの記載があると 認められる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(行ケ)10144  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年11月16日  知的財産高等裁判所

 無効理由(進歩性、サポート要件など)は無しとした審決が維持されました。

ア 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許 請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載さ れた発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載によ り当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,ま た,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当で ある。
イ 本件訂正発明の課題について
(ア) 前記1(2)によると,本件訂正発明は,連通可能な隔壁手段で区画された複数\nの室を有する輸液容器が病院で使用されているところ,輸液中には通常微量金属元 素が含まれていないことから投与が長期になると微量金属元素欠乏症を発症するが, 微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると品質劣化が問題となるため,依然 として輸液の投与直前に混合されているという現状に鑑み,外部からの押圧によっ て連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い,用時に細菌\n汚染の可能性なく微量金属元素を混入することができ,かつ,保存安定性にも優れ\nた輸液製剤の創製研究が開始されたものの,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一 室に充填して微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量 金属元素が隔離してあっても微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が 生じることを知見し,その上で,微量金属元素が安定に存在していることを特徴と する含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを目的とするものであ る。
(イ) 上記(ア)からすると,本件訂正発明1及び2は,微量金属元素が安定に存在し ていることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを 課題とするものであるが,より具体的には,外部からの押圧によって連通可能な隔\n壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用いて,あらかじめ微量金属元素 を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤であって,含硫化合物を含む溶液を\n一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を提供 することを課題とするものと解される。同様に,本件訂正発明10及び11の課題 は,そのような輸液製剤の保存安定化方法を提供することを課題とするものである。
ウ 本件訂正発明1について
(ア) 本件訂正発明の請求項1は,前記イの課題に関し,「外部からの押圧によって 連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において」,「室\nに・・・微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されて」 いるとして,あらかじめ微量金属元素を用時に混入可能な形で保存することを特定\nしつつ,「一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも 1種を含有する溶液が充填され,他の室に・・・微量金属元素を含む液が収容され た微量金属元素収容容器が収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂 フィルム製の袋であ」り,「前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液で あり」,「前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており」,「前記外袋内の 酸素を取り除いた」ものであるとして,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場 合であっても微量金属元素が安定に存在している構成を特定しているものといえる。\n
(イ) 本件明細書の発明の詳細な説明をみると,段落【0006】及び【0007】 で輸液製剤の大枠が示された上で,輸液容器の構造や材料(同【0012】,【00\n13】),微量金属元素,特に銅イオンを安定化することができるという効果(同【0 014】),硫黄原子を含む化合物及びこれを含む溶液の例示(同【0015】,【0 016】),微量金属元素を含有する液を収容する容器の具体的な収納方法や態様(同 【0020】),微量金属元素の例示(同【0021】)や,微量金属元素の組成(同 【0022】),微量金属元素収容容器を収納している室の態様(同【0024】)や 当該室に充填され得る輸液やその組成等(同【0025】〜【0030】)が,それ ぞれ具体的に記載されている。 そして,本件訂正発明1に係る構造や材質に対応した輸液製剤の好ましい態様で\nある本件明細書の【図1】について,その構造(段落【0031】)や,微量金属元\n素を用時に混入可能とする構\成(同【0032】),輸液の充填の態様(同【003 3】),ガスバリヤー性外袋や脱酸素剤の封入とそれらの材質等(同【0035】〜 【0039】),投与時の混合の態様(同【0046】)がそれぞれ詳細に記載されて いる。
(ウ) その上で,本件訂正発明1に該当する実施例1(同【0052】,【図1】)と, これに該当せず,含硫アミノ酸を含む溶液を充填した室に微量金属元素収容容器を 収納した比較例(同【0060】,【図4】)について,具体的な製造方法や溶液(A)〜(C)の具体的な成分組成(同【0062】【表1】,【0063】【表\2】,【0064】【表3】)が示され,実施例1と比較例の重要な差異が微量金属元素収容容器\nを収納する室の差異であることが示された上で,「安定性試験」として,60゜C)で2 週間保存した後の容器の外観を肉眼で観察したところ,比較例の輸液製剤において のみ微量金属元素収容容器に着色がみられたこと(同【0065】),「銅の安定性」 について,開始時を「100.0%」とした場合,実施例1では,60゜C)で2週間 保存した場合が「100.8%」,60゜C)で4週間保存した場合が「102.6%」 であったのに対し,比較例では,60゜C)で2週間保存した場合が「88.8%」,6 0゜C)で4週間保存した場合が「69.8%」であったことが示されて(【表5】),最後に,発明の効果が記載されている(同【0066】)ところである。\nなお,上記「安定性試験」に関し,輸液製剤の保存時において含硫アミノ酸であ るシステインやその誘導体であるアセチルシステイン等が分解することにより硫化 水素ガスが発生すること,硫化水素ガスが熱可塑性樹脂フィルムを透過すること及 び硫化水素ガスが銅や鉄などの金属と反応して硫化物を生成する(水溶液中におい ては黒色の沈殿を生成する)ことは,技術常識である(甲7〜9,弁論の全趣旨)。 また,微量金属の定量分析法としては,ICP発光分光分析法が慣用技術であって, その測定法等は技術常識であると解される(甲34,35,弁論の全趣旨)。
(エ) 前記(ア)〜(ウ)によると,当業者は,本件訂正発明1の構成を採ることによって,\n同【0065】や【表5】に記載されているように,含硫アミノ酸を含む溶液を充\n填した室に微量金属元素収容容器を収納した場合と比較して,微量金属元素が安定 に存在している輸液製剤を得ることができると認識することができると解され,本 件訂正発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細 な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲内のものであ るといえる。 したがって,本件訂正発明1がサポート要件を欠くものとはいえない。
(オ) 原告の主張について
a 原告は,本件明細書の実施例1において,アセチルシステインから発生した 硫化水素ガスが溶液(C)を充填した小袋に到達することを妨げることのできる実 施例1の構成は,小袋を収納する「第1室4」にブドウ糖を含む溶液(A)が充填\nされているとの構成1)及び外袋に「脱酸素剤9」が封入されているとの構成2)のみ であり,当業者も構成1)及び構成2)によるものであると当然に理解すると主張する。 しかし,本件訂正発明1の構成に係る本件明細書の実施例1では,アセチルシス\nテインを含む溶液(B)が「第2室5」に充填された一方で,溶液(C)を充填し た小袋は,それとは異なる室である「第1室4」に挟着されているのであって,同 小袋を「第2室5」に収納した比較例の場合と比較すると,同小袋の外面が直接溶 液(B)に触れることがないという点と,溶液(B)と溶液(C)との間に,同小 袋の構成素材に加え,「第2室5」の構\成素材及び「第1室4」の構成素材とを介す\nる状態となっている(被告のいう「三重の壁」となっている。)という点で,差異が あることが明らかである。 そして,上記の差異が,アセチルシステインから発生する硫化水素ガスが溶液(C) を充填した小袋に到達することを妨げるに当たり,何らの作用を果たさないという べき技術常識その他の事情は認められないから(なお,被告の実験報告書[甲21, 36,乙1]を排斥して専ら原告の実験報告書[甲19,20,23]の結果の信 用性を認めるべき事情は見当たらない。),当業者の理解に係る原告の上記主張は採 用することができない。 したがって,当業者において,本件明細書の実施例について専ら構成1)及び構成\n2)により微量金属元素の安定が図れたと理解することを前提とする原告の主張は, 本件訂正発明1における「他の室」が空室である場合についての主張も含め,いず れも採用することができない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP