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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

記載要件

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和5(行ケ)10056  承継参加申立事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反および進歩性違反の無効理由無しとした審決について、知財高裁は後者の無効理由有りとして審決を取り消しました。

(エ) 本件適用に係る動機付けの有無
a 技術分野
(a) 前記アの甲11の記載によると、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュ バントのエマルジョンを製造する技術の分野に属する発明であると認められる。 他方、前記(イ)のとおり、甲65には、「導入」として、「合成ポリマーの微小 多孔性膜を使用する通常のフローフィルタ等は、多種多様なバイオ医薬液体の濾過 用途に広く使用され、これらのフィルタの主な目的は、製品中の細菌汚染の可能性\nを減らすことである」旨の記載、「濾過膜は、血液分画、血清の処理、大容量非経 口剤(LVP)等の従来の製薬用途でも日常的に使用され、ここでの目標は、バイ オ医薬品プロセスと同じであり、製品の細菌汚染の可能性を低減させることである」\n旨の記載等があり、甲65は、これらの膜を備えた具体的な製品として、本件製品 に言及している。また、前記(ア)のとおり、丙4には、本件製品が「広範囲の医薬 製品を濾過できるように設計されたものであり、広範囲の化学的適合性を備えるも のである」旨の記載がある。これらによると、本件製品は、少なくとも上記の「従 来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも 当然に適用し得るものであると認められるから(なお、前記(ア)のとおり、丙4に は、本件製品の用途の例として「バルク医薬品」が挙げられている。)、本件周知 技術は、甲11発明(認定)が属する技術分野を包む技術分野に属する技術である と認めるのが相当である。
以上のとおりであるから、甲11発明(認定)と本件周知技術とは、その属する 技術分野を共通にするといえる。
(b) 参加人は、甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用いて製造 したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであるところ、ワ クチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらない、丙4には本 件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンの滅菌フィルタに使用し得る旨の記 載がないとして、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知技術が属する技 術分野とが異なる旨主張するものと解される。 しかしながら、前記(a)のとおり、本件製品は、少なくとも甲65にいう「従来 の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも当 然に適用し得るものであるから、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知 技術が属する技術分野とが異なるとはいえない。参加人の主張は失当である。
b 甲11発明(認定)が有する課題
(a) 甲11には、前記アにおいて認定した箇所を含め、本件適用を動機付ける ような課題の記載はみられない。 しかしながら、甲20(日本ワクチン学会編「ワクチンの事典」(平成16年)) の「無菌性の保証 ワクチンは通常、…無菌製造、無菌充填が行われる。」との記 載、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「プレフィルタと最終フィルタの組合せを 正しく選択することで、流速、濾過時間及び全体的な濾過コストの最適なバランス が得られる」旨の記載、「膜濾過の主な目標である滅菌濾液の提供を評価する基準 として、1)細菌の効果的な保持がされること、2)高い総処理量を有することによる 濾過コストの削減がされること、3)許容可能な範囲の流速による妥当な時間枠にお\nけるバッチ全体の濾過がされることなどが挙げられる」旨の記載、「本件製品の製 造業者が製造する本件製品と同種の製品のプレフィルタ層は、非常に高い処理量を 実現し、10インチエレメント当たりの有効濾過面積を30%以上向上させ、0. 2μmの最終フィルタ層は、本件製品の組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を 提供する」旨の記載等)に加え、甲11発明(認定)と本件周知技術とがその属す る技術分野を共通にすること(前記a)に照らすと、ワクチンアジュバントのエマ ルジョンの製造に用いられる濾過膜については、その品質を向上させるため、1)細 菌を効果的に保持すること、2)総処理量が大きいこと及び3)流速が妥当なものであ ることが求められているものと認められる。それのみならず、そもそもワクチンア ジュバントのエマルジョンの製造に用いられる濾過膜において、上記1)から3)まで の要請が達成されることにより当該濾過膜の品質の向上につながることは、これら の要請の内容に照らし、本件優先日の当業者にとって自明であったというべきであ る。したがって、甲11発明(認定)には、これらの要請を達成するとの課題(以 下「本件課題」という。)が内在しており、甲11発明(認定)に接した本件優先 日当時の当業者は、甲11発明(認定)が本件課題を有していると認識したものと 認めるのが相当である。
(b) 参加人は、ここでも甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用 いて製造したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであり、 ワクチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらないから、甲6 5の記載をもって甲11記載の発明の課題を認定することはできないと主張する。 しかしながら、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュバントのエマルジョンを 製造する技術の分野に属する発明であり、甲65は、従来の製薬用途でも日常的に 使用され、製品の細菌汚染の可能性を低減させることを目的とする濾過膜について\n述べた文献であるから、甲65記載の事項(本件課題)は、少なくとも甲65にい う「従来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製 造にも当然に当てはまるものというべきである。それのみならず、そもそもワクチ ンアジュバントのエマルジョンの製造に用いられる膜において、本件課題が本件優 先日当時の当業者にとっての自明の課題であったことは、前記(a)のとおりである。 参加人の主張を採用することはできない。
c 本件課題の解決手段
(a) 前記(ア)のとおりの丙4の記載(「本件製品のフィルタカートリッジは、現 存する滅菌フィルタカートリッジのいずれと比較しても優れた特性を持ち、広範囲 の化学的適合性、高耐熱性、高処理量、高流速の特性を全て備えている」旨の記載、 「本件製品のカートリッジは、0.45μm膜を用いた「組み込み予備濾過」によ\nる分画濾過のため、非常に高い総処理能力を持ち合わせている。ポリエーテルスル\nホン膜の非対称的孔構造は、低い圧力下で、高い流速を提供する」旨の記載、「本\n件製品のフィルタカートリッジは、HIMAやASTM F−838−83ガイド ラインに従う滅菌グレードのフィルタエレメントとして十分検証されている」旨の\n記載、95%閉塞時における総処理量において本件製品が最も優れている旨のグラ フ等)、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「本件製品の製造業者が製造する本件 製品と同種の製品の0.2μmの最終フィルタ層は、本件製品の0.45μm/0. 2μmの組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を提供する」旨の記載等)及び弁 論の全趣旨によると、本件製品が備える親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜 をワクチンアジュバントのエマルジョンの製造(濾過)に用いることにより、本件 課題をいずれも解決することができるものと認めるのが相当である。
(b) 参加人は、丙4の記載は本件製品の特性に関する一般論を述べるものにす ぎず、丙4には本件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンを含む水中油型エ マルジョンの滅菌濾過を用途とし得るものである旨の明記がないとして、丙4記載 の本件製品の特性をもって甲11記載の発明が有する課題を解決することができる ものであると認めることはできないと主張する。 しかしながら、本件製品は、広範囲の医薬製品を濾過することができるように設 計され、広範囲の化学的適合性を備えるものであり(前記(ア))、また、ワクチン アジュバントのエマルジョンの製造にも当然に適用し得るものである(前記a)と ころ、甲65及び丙4には、本件製品をワクチンアジュバントのエマルジョンの製 造に用いた場合に、本件製品が持つ本来の性能が十\分に発揮されないものとうかが わせる記載は一切なく、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はないから、 甲65及び丙4に記載された本件製品の性能は、本件製品をワクチンアジュバント\nのエマルジョンの製造に用いた場合にも発揮されるものと認めるのが相当である。 参加人の主張を採用することはできない。
d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判 断
参加人は、1)甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階 を異にする別個の工程である、2)前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧 条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の 発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製 品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。 しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(III)) (アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲 11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性 を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨 の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、 甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな い別個の工程であるということはできないから、上記の1)の点を根拠とする参加人 の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を 第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証 拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1 の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌 保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第 1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱 についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される 膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに 足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、 第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認 識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主 張する工程(III))(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程) を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ (イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当 時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の2)の点を根拠とす る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定) に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。

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令和5(ワ)70114  不当利得返還等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月27日  東京地方裁判所

自動二輪車のブレーキに関する特許について、ヤマハ発動機に対して損害賠償等を求めました。争点は均等侵害等多数有りますが、東京地裁46部は、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。本件特許は出願時から弁理士無しの本人出願ですが、訂正時に代理人がついてます。無効審判も同時継続しています(無効2023-800055)

2 サポート要件違反があるか(争点4−1)について
本件発明1について
ア 本件発明1の構成要件1Fは、「前記信号演算として、横加速度を検出す\nる加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横 G(Ghosei)の導出方法を少なくとも有し、」というものであり、構\n成要件1Hは、「当該車両において、前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の 横G(Ghosei)の組合せにより、車両挙動が判断され、・・・」とい うものであり、本件発明1は、算出された補正後の横G(Ghosei)を 利用するECUによって車輪を適切に制動し、これによってロール方向の挙 動の抑制を図る車両ブレーキ制御装置(構成要件1I)であるとされている。\nそして、本件発明1は、前記1のとおり、自動二輪車等の制御装置につ いて、従来は、正確な傾斜角の検出ができなかったという課題を解決して、 車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたというものである。 これらからすると、構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、\n従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出された、 車両の傾斜走行状態での正確な横Gであると認められる。 ここで、制動指令の前提となる「横G(Ghosei)」は、「横加速度を 検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った」(構\n成要件1F)ものであるとされていることから、「横G(Ghosei)」 は、横加速度を検出する加速度センサーの検出値を基に、これに補正をか けて得られる値であると理解できる。もっとも、本件発明1の特許請求の 範囲には、「横G(Ghosei)」について、単に加速度センサーの値か ら「ロールによる影響を取り除く演算を行った」(構成要件1F)と記載す\nるのみで、どのような演算をするかは明示されていない。そうすると、特 許請求の範囲には、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載さ れ、その解決のための構成は記載されていないといえる。\n
イ 本件明細書には本件発明の意義として前記1のとおりの記載があり、車両 の正確な傾斜角の検出ができず、正確な横Gを検出できなかったという課題 を解決して、車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたという ものであるとされている。
もっとも、本件明細書には、従前は検出できなかった正確な傾斜角の検出 をどのようにするかや、その傾斜角が判明した場合に正確な横Gを算出する ためにどのような補正を行うかについての記載はない。
他方、本件明細書には、センサーによる検出結果を補正して横Gを算出す る方法として、Ghosei = Gken − (Ψ・Rhsen) (式A) との記載がある(【0073】)。本件明細書の【0073】では、「Gken」 は、実際の走行傾斜時に検出される検出横Gであるとされ、「Ψ」は傾斜角 速度、「Ghosei」はΨを用いたGkenの補正後の横Gであるとされ ていて(なお、「Rhsen」について、本件明細書には定義がないものの、 「hsen」について路面とセンサとの距離であることを示唆する記載があ ったり(【0050】【0058】【0061】、図8、9)、「RはGセンサー #23の実車取付けの高さ(図8b hsen)」(【0063】)との記載、 Ψ・Rhsenについて、Rhsenに1を代入した上で「但し、センサー 取り付け高さ Rを1mとする。」との記載(【0074】)があったりする ことから、「Rhsen」車体を垂直にしたときのセンサ取り付け位置の高 さであることを一応推測できる。)、その「Ghosei」は、本件発明の課 題として言及されている「正確な横G」であると理解することができる。そ して、式Aは、その体裁から、本件発明の意義(前記1参照)として記載さ れている、「横Gセンサー」で検出されたGkenと「角速度センサー」で 検出されたΨを用いて「正確な横G」を算出する方法を記載した式であると 理解できる。
しかしながら、「Ψ・Rhsen」からは、傾斜角は算出されないし、式 Aから、傾斜角を算出することなく「正確な傾斜角の検出ができなかった諸 問題」が解決されていると理解することもできない。さらに、Ghosei 及びGkenは、加速度の次元(長さ/時間2)を有し、Ψ・Rhsenは 速度の次元(長さ/時間)の次元を有していることから、式Aは物理学上、 明らかに意味を持たない式である(弁論の全趣旨)。 そして、本件明細書には、式Aの他に、センサーによる測定値を基に「正 確な横G」を算出する方法についての記載はない。
ウ 本件明細書によれば、本件発明は、車両制御のためには「正確な横G」の 取得が必要であるところ、横加速度を検出する加速度センサーの値をその まま用いることができないこと、当該値から正確な横Gを算出するために は傾斜角度を取得することが必要だがそれができないことが課題として記 載され、本件発明はその課題に対して、車両の傾斜走行状態での正確な横 Gを算出したものであるとされており、「横加速度を検出する加速度セン サーのロールによる影響を取り除く演算を行った」という「横G(Ghos ei)」についての、当該演算が、本件発明の課題解決の根幹に当たる部分 であるといえるといえる。 しかしながら、特許請求の範囲には、その演算について、従来の課題を 解決するに足りる構成は記載されていない。また、本件明細書の発明の詳\n細な説明をみても、関係する記載は前記イのとおりである。本件明細書の 式A(【0073】)が、一応、上記の演算であると理解することはできる が、他に、関係する記載はない。そして、前記イのとおり、式Aは本件発明 の課題とされている傾斜角を算出しない上、そもそも物理学上意味をなさな い式であり、当業者はおよそ式Aを用いて車両制御に利用可能な横G(Gh\nosei)が算出できると理解できるものではない。
エ 原告は、本件明細書の記載は、別紙対比表のとおり誤記があり、正しく\nは同表の「訂正後」欄記載のとおりであると主張する。構\成要件1Fの「演 算」については、式Aのみが当たり得るところ、式Aは前記イで認定した とおり、次元の異なる物理量の差し引きをしていることから物理学上意 味をなさない式であり、当業者は、式Aに何らかの誤りがあると理解する ことができるといえる。この点について式Aについて、原告が主張すると おりGhosei=Gken−(Ψ.・Rhsen) (式A´)(ただし、「Ψ .」は傾斜角加速度)の誤記であると理解すれば、減算される物理量の次元が異なるという問題については解消される。しかし、次元を整える目的のみであれば、その訂 正の方法は式A´とすることに限られるものではないのであり、他に解消 方法を考え得るのであり、その考え得る解消方法が物理法則やそれを踏ま えた技術常識等に照らして不合理であることを認めるに足りる証拠はな い。そうすると、式Aの記載のみから、どのような誤記であるかのかが一 義的に定まるものであるとはいえない。 さらに、原告は、式Aについて「Ψ」を「Ψ.」に訂正するに当たって、 そのままでは式Aに関する説明が記載されている【0073】のその他の 記載と矛盾が生じるため、式Aのみならず、同段落における他の「Ψ」の 記載も「Ψ.」に訂正し、1か所の「傾斜角速度」との記載も「傾斜角加速 度」に訂正するものとしている。
しかし、原告が主張する訂正により、訂正後の【0073】は、「この補 正後の横G(Ghosei)は、(0063)式のGkenから傾斜角加速 度(Ψ.)を用いた補正であり、(0067)の式に対して、傾斜角が変化しない状況である。すなわち、式の「Ψ.・Rhsen」の項については、ゼロとなることから二つの式を整理し記述すると、・・・」との記載を含むことになるが、傾斜角加速度(Ψ.)がゼロであっても、傾斜角速度(Ψ)がゼロでないとき(定速傾斜時)は傾斜角が変化する状況なのだから、傾斜角加速度(Ψ.)に関する項「Ψ.・Rhsen」がゼロであることは直ちに「傾斜角が変化しない状況」を意味するものではないから、原告が主張する訂正をすると同記載部分の趣旨が理解できなくなってしまう。他方で、当該箇所について、「Ψ」を「Ψ.」に訂正しなければ、その内容は理解可能である。\n
同様に、原告が主張する訂正後の【0073】の「・・・この様に、式 の「Ψ.・Rhsen」の項について、ゼロにしたデーターは、定常円旋回 時に得られたデーターと呼ばれることがある。・・・」との記載についても、 定常円旋回時には、傾斜角が一定になるため、「傾斜角速度」が0になると ころ、「傾斜角加速度」に関する項が0になっても、「傾斜角」が変化しな いとは限らない(傾斜角加速度が0の場合には、定速傾斜の場合も含まれ る。)のであるから、訂正すると同記載部分の趣旨が理解できなくなって しまう。この点についても、当該箇所について訂正しなければその内容は 理解可能である。\n
さらに、式Aは、測定された加速度(Gken)を角速度(Ψ)の値に よって補正する式であるといえるが、これは、「走行時の横Gセンサーと 角速度センサーを関連付けることによって、従来は、正確な傾斜角の検出 ができなかった諸問題を解決」(前記1)という本件明細書に記載されて いる課題解決の基本的な方法として明示されている手法に文言上最も沿 うものである。他方、式Aを式A´に訂正すると少なくとも直接的にはこ れに文言上最も沿うものとはいえない内容になってしまう。 また、原告は、誤記を訂正した後の【0063】の記載によれば、傾斜 走行時に検出される検出横G(Gken)には、ロール速度の変化の影響 である加速度成分(Ψ.・Rhsen)が重畳されていること、重畳された 当該加速度成分は、傾斜角速度センサーの速度変化である傾斜角加速度 (Ψ.)を減算することで取り除くことができることが分かるなどと主張す る。
しかし、前記イで説示したとおり、本件明細書においてセンサーで取得 した加速度の値を修正して得られる制御に用いる加速度として言及され ているのは【0073】の横G(Ghosei)のみであり、【0063】 には、本件発明1の「横G(Ghosei)」の算出方法は記載されてい ない。仮に、【0063】に本件発明1に係る「加速度センサーのロール による影響を取り除く演算」が「Ψ.・Rhsen」を減算する趣旨であることを示唆する記載があると評価できるとしても、【0073】の方がより直接的な制御に用いる修正後の加速度を算出する方法に関する記載であると評価できるにもかかわらず、式Aについては、前記イで説示した問題がある。
また、【0063】には、Gken=g・cosΦ・tanρ−Ψ・Rhen (訂正後は「Gken=g・cosΦ・tanρ+Ψ.・Rhsen」)という式が記載されており、訂正後の式には「Ψ.・Rhsen」という項が含まれているものの、これを減算(訂正後は加算)した「g・cosΦ・tanρ」が物理学上、本件発明で算出することが課題とされている「正確な横G」に当たり、同物理量が判明すれば「正確な傾斜角の検出ができなかった諸問題」を解決できるものと理解できると認めるに足りる証拠はない。そうすると、仮に【0063】の記載が原告の主張するとおりの誤記であると認定できるとしても、当該式のみからでは、センサーによる検出値である「Gken」から「Ψ.・Rhsen」を減算することが課題解決につながり、構成要件1Fの「ロールによる影響を取り除く演算」に当たるものであると理解できるとはいえない。\n
また、原告の主張中には、【0063】より前の【0061】、【0062】の記載から【0063】の記載が誤記であることが理解できると主張する部分があるが、【0061】、【0062】にも多数の誤記があり、「Ψ」と「Ψ.」に関する誤記のみならず「−」と「+」に関する誤記まであり、どの部分が誤記であるのか容易に理解できるとは認め難い。もともと、本件明細書では、その全体にわたって、その説明の当初から基本的に一貫して加速度の次元の物理量から角速度(周速度)の次元の物理量を加算ないし減算するという式を前提とする内容で説明が記載されていて、前記エで説示したとおり、当該式に直接関連しない部分についてもこれと矛盾しない内容になっていた。そのような本件明細書について、当該式を訂正すると別の部分と矛盾が生じる内容になっている。これらからすると、当業者は、本件明細書に記載の誤りがあることを理解するとしても、本件明細 書において、本来どのようなことが記載されようとしていたのかや、どの部分がどのような誤記であるかを理解することができるとは認められない。
以上のとおり、当業者は、式Aに含まれる項の次元が異なることから何らかの誤りがあることは理解できるものの、次元の違いによる問題を解消する方法は原告が主張する訂正に限られるものではなく、また、式Aの内容等から、次元の違いによる問題を解消するためには、式A´に訂正する以外の方法はないと当業者が理解できると認めるに足りる証拠はない。さらに、式Aの訂正と整合するように、本件明細書の式Aに関する記載部分を訂正していくと、それまで問題なかった明細書の記載の趣旨が理解できなくなったり、整合しなくなってしまうことが認められる。
これらの事情からすると、本件明細書の記載から、式Aが式A´の誤記であると理解できるとはいえない。よって、式Aについて式A´の誤記であると理解できることを前提とする原告の主張はその前提を欠く。
オ 本件発明1の意義は前記1のとおりである。そして、本件発明1の構成\n要件1Fには、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載され、 その解決のための構成は記載されていないといえるところ、前記ウのと\nおり、その課題の解決のための構成について、本件明細書に記載がある\nとはいえない。また、その記載がないにも関わらず、当該課題について、 当業者がそれを解決できると認識できることを認めるに足りない。そう すると、本件発明1は、本件明細書に記載された説明で、本件明細書の発 明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認 識できる範囲のものであるとはいえないし、当業者が技術常識に照らし発 明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。よって、本 件発明1は、本件明細書に記載された発明であるとはいえない。
本件発明2について
ア 本件発明2は、算出された補正後の横G(Ghosei)を利用する、自 動二輪車の車両解析装置であるとされており、横G(Ghosei)の算出 方法については、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと傾斜 角速度の積との差分を求めるものとされている。 本件明細書においてこれに関する記載としては式Aに関する記載がある が、当該記載は本件明細書に記載された課題を解決する発明であると理解で きないものであることについては、前記 で説示したとおりである。他に本 件明細書には当該部分に係る記載があるとはいえない。よって、本件発明2 は本件明細書に記載されている発明であるとはいえない。
イ この点について、原告は、構成要件2Eの補正後の横G(Ghosei)\nの算出方法について、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと 「傾斜角速度」の積との差分との記載は、横加速度から加速度センサーの 車両取り付け高さと「傾斜角加速度」の積との差分の誤記であると主張す る。 しかし、本件明細書には、補正後の横Gに関する記載は式Aに関する記 載しかなく、ここには、「傾斜角加速度」の積との記載はない。原告は、式 Aが式A´の誤記であると主張するが、これが誤記であると理解できない ことについては前記 エで説示したとおりである。そうすると、仮に構成\n要件2Eが2E´の誤記であると理解できるとしても、本件発明2が本件 明細書に記載された発明であるとは認められない。 よって、本件発明のいずれについても、本件明細書に記載された発明であ るとはいえず、サポート要件を欠くものであると認められる。

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令和4(行ケ)10127等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月18日  知的財産高等裁判所

 争点は、発明特定事項「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」がPBPクレームか否か、その他、第1次判決の拘束力、不可能・非実際的事情の有無、明確性要件、サポート要件などです。知財高裁(4部)は、「不可能\・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の請求項の記載は明確性要件に違反する」と判断しました。

本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2は、「セレコキシブ粒子が、 ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事項 (以下「本件ピンミル構成」ということがある。)を含む(削除された請求\n項を除く他の請求項も、請求項1又は2を直接又は間接的に引用することで 本件ピンミル構成を含むことになっている。)ところ、本件ピンミル構\成を 巡っては、そのクレーム解釈(PBPクレームといえるか否か、「ピンミル のような」は衝撃式ミルの単なる例示か、衝撃式ミルの一部に限定する構成\nかなど)と、当該クレーム解釈を前提とした明確性要件の適合性の議論が重 層的に争われているので、以下、順次検討していく。
(3) まず、本件ピンミル構成がPBPクレームに当たるかについて検討するに、\n本件ピンミル構成に関する本件明細書の【0024】、【0190】の記載\nが、セレコキシブ粒子を粉砕する製造工程、製造方法を開示していることは 明らかであり、したがって、本件訂正によって特許請求の範囲の発明特定事 項とされるに至った本件ピンミル構成についても、「ピンミルのような衝撃\n式ミルで粉砕」するという製造方法をもって物の構造又は特性を特定しよう\nとするもの(その意図が成功しているかどうかはともかく)と理解される。 この限度では、被告が主張し、本件審決が判断を示しているとおりである。 第1事件原告は、製薬組成物の製造には複数の工程が必要であるなどとし てこれを争うが、そのような工程の全てを特定することがPBPクレームと しての必須条件とはいえない。実質的に製造方法の明確性を問題にしている とすれば、この点からの検討は後に示すこととする。
(4) 次に、本件ピンミル構成の意味するところ(例示か限定か)を検討するに、\n「ピンミルのような衝撃式ミル」との特許請求の範囲の文言自体に着目して 考えた場合、1)ピンミルは単なる例示であって衝撃式ミル全般を意味すると いう理解、2)衝撃式ミルに含まれるミルのうち、ピンミルと類似又は同等の 特性を有する衝撃式ミルを意味するという理解のいずれにも解する余地が あり、特許請求の範囲の記載のみから一義的に確定することはできない。 そこで、本件明細書の記載を参照するに、本件明細書の【0024】には、 「セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち、ピンミル(pin mil l)のような衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作 製することは、改善された生物学的利用能を提供するに際して効果的である\nだけでなく、かかる混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性 と関連する問題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミル を利用して粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネ ルギーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体には容 易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が高くなり、 このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合において、非常に 重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合する際のエアージェッ トミルのような液体エネルギーミルの有用性に予期せぬ結果をもたらす。特\n定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕により長い針状からより均一な結 晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質させ、ブレンド目的により適するよ うになるが、長い針状の結晶はエアージェットミルでは残存する傾向が高い と仮定される。」との記載が、【0135】には、「セレコキシブは先ず粉 砕される若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざまな粉砕機若し くは破砕機が利用することが可能であるが、セレコキシブのピンミリングの\nような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組成物に改善さ れたブレンド均一性がもたらせる」との記載がある。
以上の記載に上記(3)の解釈を併せて考えると、本件ピンミル構成は、被\n告が主張(第3の3(6)ア)するように、本件訂正発明に係る薬剤組成物の含 むセレコキシブ粒子が、ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子に見られる のと同様の、長い針状からより均一な結晶形へと変質されて、凝集力が低下 し、ブレンド均一性が向上した構造、特性を有するものであることを特定す\nる構成であって、したがって、「ピンミルのような衝撃式ミル」とは、ピン\nミルに限定されるものではなく、上記のような構造、特性を有するセレコキ\nシブ粒子が得られる衝撃式ミルがこれに含まれ得るものと理解するのが相 当である。
(5) 以上を前提に、本件ピンミル構成を含む本件訂正発明の特許請求の範囲の\n記載が明確性要件を満たすかどうかを検討する。
ア 衝撃式粉砕機に分類される粉砕機としては、本件審決も認定していると おり、多種多様なものがある(ハンマーミル、ケージミル、ピンミル、デ ィスインテグレータ、スクリーンミル等が知られており、ハンマーの形状 によっても、ナイフ型、アブミ型、ブレード型、ピン型等がある。甲イ1 11、112、136)ところ、上記(4)で示したクレーム解釈によると、 衝撃式粉砕機によって粉砕されたセレコキシブ粒子を含む薬剤組成物で あっても、本件特許の技術的範囲に属するものと属しないものがあること になるが、本件明細書に接した当業者において、「ピンミルで粉砕された セレコキシブ粒子に見られるのと同様の、長い針状からより均一な結晶形 へと変質されて、凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上した構造、特性\nを有するセレコキシブ粒子」を製造できる衝撃式粉砕機がいかなるものか を理解できるとは到底認められない。すなわち、一般に、明細書に製造方 法の逐一が記載されていなくても、当業者であれば、明細書の開示に技術 常識を参照して当該製造方法の意味するところを認識できる場合も少な くないと解されるが、本件の場合、本件明細書には、「ピンミルで粉砕さ れたセレコキシブ粒子」の凝集力の小ささ、改善されたというブレンド均 一性が、ピンミルのいかなる作用によって実現されるものかの記載がない ため、衝撃式ミル一般によって実現されるものなのか、衝撃式ミルのうち、 ピンミルと何らかの特性を共通にするものについてのみ達成されるもの なのかも明らかとなっていない。そのため、技術常識を適用しようとして も、いかなる特性に着目して、ある衝撃式ミルが本件ピンミル構成にいう\n「ピンミルのような衝撃式ミル」に当たるか否かを判断すればよいのかと いった手掛かりさえない状況といわざるを得ない。
イ そうすると、本件明細書等に加え本件出願日(明確性要件の判断の基準 時)当時の技術常識を考慮しても、「ピンミルのような衝撃式ミル」の範 囲が明らかでなく、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕」するというセ レコキシブ粒子の製造方法は、当業者が理解できるように本件明細書等に 記載されているとはいえないから、本件訂正発明は明確であるとはいえな い。
ウ ところで、PBPクレームは、物自体の構造又は特性を直接特定するこ\nとに代えて、物の製造方法を記載するものであり、そのような特許請求の 範囲が明確性要件を充足するためには、不可能・非実際的事情の存在が要\n求されるのであるが、本件においては、不可能・非実際的事情を検討する\n以前の問題として、前記ア、イに示したようにそもそも特許請求の範囲に 記載された製造方法自体が明確性を欠くものである。
(6) 本件審決は、「ピンミルのような衝撃式ミルは、いわゆる衝撃式粉砕機で あり、粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機と は異なる粒度分布の粉体を作製する装置であることが理解できるから明確 である」としており、これは、「ピンミルのような」について、「いわゆる 衝撃式粉砕機」のなかでも、さらに、「粉砕された粉体は、ジェットミルの ような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」こと のできる装置であるとの意味づけを与えた認定であると解される。 そして、「ピンミルによる」粉砕が、「粉砕された粉体は、ジェットミル のような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」も のであることについて、本件審決は、本件明細書の、ピンミルと、エアージ ェットミルのような他のタイプのミルとの粉砕物の凝集力の違いに関する 記載(【0024】)、及び、粉砕装置の粉砕機構が異なれば得られる粒子\nの粒度分布が異なるという技術常識を認定したことにより、導き出している ものと認められる。
しかし、本件明細書には、凝集力の違いが、粉砕装置の違いに基づく粒子 の粒度分布の違いに起因するものであるとの記載も示唆もない。粉砕装置の 違いが、粒度分布の違い以外の粒子特性を導くことも当然考えられるところ である(これを否定する技術常識があるとは認められない。)。そうすると、 「ピンミルのような」が、「衝撃式ミル」に対して、さらに「粉砕された粉 体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の 粉体を作製する装置」であるとの意味づけを与えた本件審決の解釈は、本件 明細書等の記載及び技術常識を考慮しても、無理があるものといわざるを得 ない。
(7) 以上より、不可能・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の\n請求項1、2、4、5、7〜13、15、17〜19の記載は明確性要件に 違反するものであり、取消事由3は理由がある。
3 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について
上記2のとおり、取消事由3が認められる以上、本件審決(原告らが取消しを 求めている請求項に関する部分)は既に取消しを免れないものである。しかし、 明確性要件違反の原因となった本件ピンミル構成は、前訴判決がサポート要件\n違反を肯定する判断をしたことを受けて、その瑕疵を回避するために特許請求 の範囲に加えられたという本件の経過を踏まえると、本件訂正後の特許請求の 範囲を前提としたサポート要件の適合性の問題(取消事由2)についても、併せ て判断を示すことが適切と考えられることから、以下に当裁判所の判断を示し ておくこととする。
なお、その場合、本件ピンミル構成を含む特許請求の範囲は明確性要件を欠\nくことが前提となるから、サポート要件の判断においても、本件ピンミル構成\nを発明特定事項として考慮しない前提で検討することとする。
(1) 前訴判決がサポート要件違反を認めて第1次審決を取り消したことは前 述のとおりであるところ、本件においては、前訴判決の拘束力がいかなる範 囲に及ぶかが問題となっているので、まずこの点を検討する。
ア 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判 決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判 事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は 行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法3 3条1項の規定により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束 力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる ものであるから、審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断を することは許されない(最高裁判所昭和63年(行ツ)第10号平成4年 4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
この拘束力は、行政庁が裁判所の判断に反して同一の処分を繰り返し、 同一の案件が行政庁と裁判所の間を往復することを避けるためのもので あり、原則として主文についてのみ生ずる既判力と異なり、判決理由中の 判断であっても、主文に直結する認定判断、すなわち主要事実の認定及び その法規範への当てはめの判断にも及ぶものである。他方、判決の結論と 直接関係のない傍論の説示はもとより、主要事実を確定する過程における 間接事実の認定やその評価にまで及ぶものではなく、また、結論に至る推 論過程を基礎づける論拠、反対主張を排斥する理由等の説示についても同 様である。取消判決の理由中の説示の全てが拘束力を有するとした場合、 結論に影響する意味合いや程度も様々な議論が独り歩きを始め、その解 釈・適用を巡って新たな紛争を拡大させることとなり、そのような状況は、 行政事件訴訟法33条1項の想定するところではないというべきである。
イ 以上を前提に、前訴判決(甲イ86)の判断構造をみておく。\n
(ア) 前訴判決は、まず、サポート要件適合性について、「所定の数値範囲 を発明特定事項に含む発明について、特許請求の範囲の記載が同号所定 の要件(サポート要件)に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な 説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含まれる数値範囲の 全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認識できるか 否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である」とし、「これ を本件発明1についてみると・・・『粒子の最大長において、セレコキ シブ粒子のD90が200µm未満である粒子サイズの分布を有する』こ とを特徴とするものであるから、所定の数値範囲を発明特定事項に含む 発明であるといえる。」としているので、「D90が200µm未満であ る粒子サイズの分布を有する」本件発明1について、その数値範囲の全 体にわたりその課題を解決できるものであるかどうかを検討している。
(イ) そして、前訴判決は、(a)一方で、本件明細書の【0022】、【01 24】、【0135】の記載から、未調合のセレコキシブを粉砕し、「セ レコキシブのD90粒子サイズが約200μm以下」とした場合には、セ レコキシブの生物学的利用能が改善されること、セレコキシブのピンミ\nリングのような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組 成物に改善されたブレンド均一性がもたらせることを示したものとい えるとしつつ、(b)他方で、1)本件発明1の請求項1には、セレコキシブ を微細化する具体的な方法は記載されておらず、本件発明1の「微粒子 セレコキシブ」が「ピンミリングのような衝撃粉砕」により粉砕された ものに限定する旨の記載もなく、かえって、本件明細書の【0135】 には、さまざまな粉砕機・破砕機が利用可能とされていること、2)本件 明細書の【0008】には、長く凝集した針を形成する傾向を有する結 晶形態を有する未調合のセレコシブは、錠剤成形ダイでの圧縮の際に、 融合して一枚岩の塊になり、他の物質とブレンドさせたときでも、セレ コキシブの結晶は、他の物質から分離する傾向があり、セレコキシブ同 士で凝集し、セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する、非均一なブ レンド組成物になるとの記載があること、3)本件優先日当時、粉砕によ り溶出は改善されるが、難溶性薬物は凝集して溶解速度が遅くなること があることが周知又は技術常識であったことを踏まえると、(c)難溶性 薬物であるセレコキシブについて、「『セレコキシブのD90粒子サイズが 約200μm以下(「未満」の誤記と認められる。)』の構成とするこ\nとによりセレコキシブの生物学的利用能が改善されることを直ちに理\n解することはできない」(以下「説示(c)」という。)とした。 また、本件明細書には、(d)「D90」の値を用いて粒子サイズの分布 を規定することの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係\nが説明されていないことを述べた上で、(e)難溶性薬物の原薬の粒子径 分布が化合物によって種々の形態を採ることに照らすと、「200μm 以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分布がどの ようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解するこ\nとはできない」(以下「説示(e)」という。)とした。そして、(f)本件 明細書の例11及び例11−2の実験結果の記載は、微粉化したセレコ キシブを含有する「組成物A」及び「組成物B」(これらに含まれるセ レコキシブのD90粒子サイズは約30μmと推認される。)の生物学的 利用能は、未粉砕、未調合のセレコキシブである「組成物F」の生物学\n的利用能より高いことを示しているが、「組成物A」及び「組成物B」\nに加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナトリウムが、生物学的利用能の\n実験結果に影響した可能性が高いものと認められ、この実験結果から、\n本件発明1の「セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」の数値範囲 の全体にわたり、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善\nするものと認識することはできないとした。
(ウ) 前訴判決は、以上を踏まえた結論として、本件明細書の発明の詳細な 説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が、本件発明1 に含まれる「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が200 μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると 認識できるものと認められないから、本件発明1は、サポート要件に適 合するものと認めることはできないとした。
(エ) 前訴判決の本件発明2〜4のサポート要件の適合性に関する判断は、 以下のとおりである。
本件発明2は「前記粒子の最大長において、前記セレコキシブ粒子の D90が100μm未満であること」を、本件発明3は同40µm未満で あることを、本件発明4は同25µm未満であることをそれぞれ発明特 定事項とするものであるところ、セレコキシブ粒子のD90が200µm 未満である本件発明1がサポート要件に適合するものと認めることが できないことは前記のとおりであると指摘した上で、例11及び例11 −2の実験結果も、ラウリル硫酸ナトリウムが生物学的利用能の実験結\n果に影響した可能性が高いものと認められることに照らすと、上記実験\n結果から、D90が約30µmよりも小さい値とした場合において、未調 合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するものと認識する\nことはできないとして、本件発明2〜4はサポート要件に適合するもの と認めることはできないとした。
(オ) 前訴判決は、本件発明5、7〜19については、請求項1記載の製薬 組成物を発明特定事項に含むものであるところ、「本件発明1がサポー ト要件に適合するものと認めることができないことは前記‥のとおり であるから」という理由により、サポート要件に適合するものと認める ことはできないとした。
ウ 取消判決の拘束力の範囲に関し上記アで述べたところに従って、前訴判 決の拘束力の生ずる部分を検討するに、主文に直結する認定判断(主要事 実の認定及びその法規範への当てはめの判断)は、本件訂正前の特許請求 の範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識(主要事実 の認定に当たる。)を前提に、本件訂正前の特許請求の範囲によって特定さ れる発明(本件発明)が特許法36条6項1号の要件に適合しないとした 判断(法規範への当てはめに当たる。)にほかならず、前訴判決中、拘束力 が生ずるのは当該部分であると解される。
他方、前訴判決の判断過程では、結論に至る推論過程を基礎づける論拠 として、説示(c)、(e)等の様々な理由が示されているが、その逐一について 拘束力が生ずるものではないことは、上記アで述べたとおりである。
エ そもそも、サポート要件は、明細書の記載(特許を受けようとする発明の 開示)から見て広すぎる特許請求の範囲を防ぐ役割を果たすものであると ころ、被告は、本件訂正前の本件発明につきサポート要件違反を認めた前 訴判決を受けて、特許請求の範囲の減縮を目的とする本件訂正の請求をし ており、これが訂正要件を充足することは前記1のとおりである。 その結果、本件では、本件訂正後の特許請求の範囲(ただし、本件ピンミ ル構成は発明特定事項として考慮しない。)に基づく本件訂正発明のサポ\nート要件の適合性が問題となっているのであって、同じサポート要件の適 合性の問題であっても、本件訂正前の特許請求の範囲を前提とする前訴判 決とは判断対象が異なる。それにもかかわらず、「前訴判決の説示(c)、(e) 等に照らせば、本件訂正後の本件訂正発明についても、前訴判決と同様の 判断が妥当する(はずである)」といった推論を戦わせるのは、取消判決の 拘束力の問題とは異質の議論といわざるを得ない。
オ 本件審決は、前訴判決の説示(e)(難溶性薬物の原薬の粒子径分布は・・・、 200μm以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分 布がどのようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解\nすることはできない旨の判示)について、これは、生物学的利用能の改善の\n観点では、90%の粒子の粒度分布も重要であることを述べたものである との理解を示している。そして、ピンミルのような衝撃式粉砕機(衝撃式ミ ル)により粉砕された粉体と、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕 機により粉砕された粉体は、異なる粒度分布の粉体となるという一般的な 知見をもとに、この粒度分布の差異は粉砕機構の差異に由来するものであ\nり、本件明細書に記載されたピンミルのような衝撃式ミルでの粉砕は、他 のタイプのミルとは異なる粒度分布を形成することにより、凝集性及びブ レンド均一性の改善に寄与するとして、説示(c)、(e)を本件訂正発明1が サポート要件に適合する理由の1つにしている。 これに対し、原告らは、D90を30μmにし、「セレコキシブ粒子が、 ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事 項を加えても、90%の具体的な粒度分布は明らかにならないとして、説 示(c)、(e)を本件訂正発明1がサポート要件に適合しない理由としている。 これらは、いずれも、前訴判決の説示(c)、(e)を独立して取り上げ、同判 断に拘束力が生じることを前提とするものと解されるが、失当というべき である。
拘束力の問題を離れて考えても、前訴判決の当該部分の判示は、製薬組 成物の特徴が、実質的に「D90が200µm未満である粒子サイズの分布を 有する」ことで特定されていた本件発明1について、未調合のセレコキシ ブに対して生物学的利用能が改善されるという課題を解決できるものであ\nるかどうかを検討する過程において、上記特定事項で特定しさえすれば、 課題を解決できるものと理解することはできないと判断したものであって、 前訴判決が、本件発明1がサポート要件に適合するには、90%の粒度分 布を示すことが必須の要請であると判断しているとの趣旨まで読み込むこ とには無理がある。
カ よって、前記ウのとおり、前訴判決の拘束力は、本件訂正前の特許請求の 範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識を前提に、本 件訂正前の特許請求の範囲によって特定される発明(本件発明)が特許法 36条6項1号の要件に適合しないとした判断について生じることを前提 に、サポート要件の適合性について判断する。
(2) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細 な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を 定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な 説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な 説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該 発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して 判断すべきものと解される。特に、所定の数値範囲を発明特定事項に含む発 明について、特許請求の範囲の記載が同号の要件に適合するか否かは、当業 者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含ま れる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認 識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
ア 前記第2の2(3)の本件明細書の開示事項によれば、本件訂正発明の課題 は、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経\n口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することであり、\n取り分け、水溶液に溶解しにくいセレコキシブ粒子の特質から、混合中に セレコキシブ同士で凝集し、非均一なブレンド組成物になるとの問題の解 決にあるものと認められる。
具体的には、本件明細書の【0008】では、「・・・セレコキシブは、 水溶性媒体には異常なほど溶解しない。例えば、カプセル形態で経口投与 させた場合、未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために、 容易には溶解せず、分散もしない。加えて、長く凝集した針を形成する傾 向を有する結晶形態を有する未調合のセレコシブは、通常、錠剤成形ダイ での圧縮の際に、融合して一枚岩の塊になる。・・・」として、セレコキシ ブが、水溶性媒体には異常なほど溶解しないこと、未調合のセレコシブが 長く凝集した針を形成する傾向を有することを解決すべき問題として挙げ ている。
イ 上記課題に関係する技術常識として、証拠(甲イ7、16、23、65〜 68、80、103)及び弁論の全趣旨によれば、本件出願日当時、1)粉砕 によって薬物の粒子径を小さくし、比表面積(有効表\面積)を増大させるこ とにより、薬物の溶出が改善されるが、他方で、難溶性薬物については、溶 媒による濡れ性が劣る場合には、粒子径を小さくすると凝集が起こりやす くなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速度が遅くなることがあるこ\nと、2)疎水性の難溶性物質であっても、界面活性剤が存在すると、微粒子は 凝集せずに均一に溶液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は 大きくなることは、周知又は技術常識であったものと認められる。
ウ 上記技術常識を踏まえて、本件訂正発明が上記課題を解決できると認識 できる記載が本件明細書に開示されているかどうかにつき、さらに検討す る。
(ア) 本件明細書の【0022】には「本発明の組成物は微粒子の形態のセ レコキシブを包含する。セレコキシブの一次粒子は、例えば、製粉若し くは粉砕により、又は溶液から沈殿させて生成させ、凝集して二次の集 合体粒子が形成される。本願で利用する用語「粒子サイズ」とは、特に 本願で指摘しない限り、一次粒子の最長の大きさのことをいう。粒子サ イズは、セレコキシブの臨床的効果に影響を与える重要なパラメータで あると考えられる。よって、別の実施例では、発明の組成物は、粒子の 最長の大きさで、粒子のD90が約200μm以下、好ましくは約100 μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは約40μm 以下、最も好ましくは約25μm以下であるように、セレコキシブの粒 子分布を有する。通常、本発明の上記実施例によるセレコキシブの粒子 サイズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改良される。」、\n【0124】には「カプセル及び錠剤中でのセレコキシブの粒子サイズ カプセル若しくは錠剤の形で経口投与されると、セレコキシブ粒子サイ ズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見し\nた。したがって、セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下、 好ましくは約100μm以下、より好ましくは約75μm以下、さらに 好ましくは約40μm以下、最も好ましくは25μm以下である。例え ば、例11に例示するように、出発材料のセレコキシブのD90粒子サイ ズを約60μmから約30μmに減少させると、組成物の生物学的利用 能は非常に改善される。加えて又はあるいは、セレコキシブは約1μm\nから約10μmであり、好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均 粒子サイズを有する。」としており、セレコキシブの粒子サイズを減少 させることで、セレコキシブの生物学的利用能が改善されることが記載\nされている。
(イ) また、本件明細書の【0024】の「セレコキシブと賦形剤とを混合 するに先立ち、ピンミル(pin mill)のような衝撃式ミルでセ レコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作製することは、改善され た生物学的利用能を提供するに際して効果的であるだけでなく、かかる\n混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性と関連する問 題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミルを利用し て粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネルギ ーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体に は容易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が 高くなり、このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合に おいて、非常に重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合す る際のエアージェットミルのような液体エネルギーミルの有用性に予\n期せぬ結果をもたらす。特定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕に より長い針状からより均一な結晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質 させ、ブレンド目的により適するようになるが、長い針状の結晶はエア ージェットミルでは残存する傾向が高いと仮定される。」との記載から、 粉砕により粒子サイズを減少させるについて、ピンミルのような衝撃式 ミルを使用して長い針状からより均一な結晶とし、ブレンド目的により 適するものとすることが記載されている。
(ウ) 本件明細書の【0075】には「加湿剤 セレコキシブは水溶液にか なり溶解しにくい。したがって、本発明の製薬組成物は、任意であるが、 好ましくは、キャリア材料として、一つ又はそれ以上の薬剤学的に許容 な加湿剤を含む。かかる加湿剤は、水と親和性があるようにセレコキシ ブを維持させるように選択することが好ましく、その状態が製薬組成物 の相対的生物学的利用能を改善させると考えられる。・・・」、【00\n76】には「ラウリル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在す るならば、ラウリル硫酸ナトリウムは、組成物の全重量の対して、約0. 25%から約7%、好ましくは約0.4%から約6%、より好ましくは 約0.5%から約5%の量を含む。」として、セレコキシブは水溶液に かなり溶解しにくいために、水と親和性があるようにセレコキシブを維 持させる加湿剤を含むことが好ましいこと、好ましい加湿剤はラウリル 硫酸ナトリウムであること、そのような加湿剤を添加することにより相 対的生物学的利用能を改善できることが記載されている。\n
(エ) 例11−2では、犬モデルでの調合の相対的生物学的利用能の試験\nがされている。 組成物A、Bは微粉化され、ラウリル硫酸ナトリウムが添加されてい る(【0173】、【0174】、表11−2A)。本件明細書の【0\n124】に「・・・例えば、例11に例示するように、出発材料のセレ コキシブのD90粒子サイズを約60μmから約30μmに減少させる と、組成物の生物学的利用能は非常に改善される。・・・」と記載され\nていることから、組成物A、BのD90粒子サイズは約30μmと認めら れる。他方、参考例である組成物Fは、未粉砕、未調合のセレコキシブ である(【0172】)。 生物学的利用能は、メス犬について、組成物Fが16.9%であるの\nに対し、組成物Aは31.2%、組成物Bは24.9%であり(【01 76】、(表11−2C)、オス犬について、組成物Fが16.9%で\nあるのに対し、組成物Aは49.4%、組成物Bは54.2%である(【0 177】、表11−2D)とされ、D90粒子サイズを約30μmに減少\nさせた組成物A、Bにおいて生物学的利用能が明らかに高い結果が示さ\nれている。
エ 以上を総合すると、本件訂正発明1は、粒子の最大長においてD90が3 0μmであるセレコキシブ粒子、及び加湿剤としてのラウリル硫酸ナトリ ウムを含有することを特定するものであるところ、これは、1)セレコキシ ブが長い針状の結晶形態を有することに対応するため、粉砕によって薬物 の粒子径を小さくし、比表面積を増大させることにより、薬物の溶出を改\n善させるために、セレコキシブの粒子サイズを「D90が30μm」に減少 させ、また、2)セレコキシブのような難溶性薬物については、粒子径を小さ くすると凝集が起こりやすくなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速\n度が遅くなるが、界面活性剤が存在すると、微粒子は凝集せずに均一に溶 液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は大きくなることから、 セレコキシブに、界面活性剤同様水に親和性を持たせる湿潤剤であるラウ リル硫酸ナトリウムを含有させることとしたものである。そして、3)具体 的な実験結果においても、D90粒子サイズは約30μmとし、ラウリル硫 酸ナトリウムを含有させたセレコキシブ組成物が、未粉砕、未調合のセレ コキシブに対して優れた生物学的利用能を示しているのであるから(例1\n1−2)、本件訂正発明1は、本件ピンミル構成を発明特定事項として考慮\nしなくても、本件明細書及び技術常識から、「未調合のセレコキシブに対し て生物学的利用能が改善された固体の経口運搬可能\なセレコキシブ粒子を 含む製薬組成物を提供する」という課題を解決できると当業者が認識でき る範囲の発明であるといえる。
本件訂正発明2は、D90が30μmよりも減少した数値範囲である「D 90が30μm未満」と特定されたものであるから、上記本件訂正発明1に ついて述べたところと同様、本件明細書及び技術常識から、上記課題を解 決できると当業者が認識できる範囲の発明であるといえる。 本件訂正発明4、5、7〜13、15、17〜19も、本件訂正発明1及 び本件訂正発明2を直接的又は間接的に引用してこれらをさらに限定する 発明であるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2と同様に、本件明細 書及び技術常識から、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲の 発明であるといえる。

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令和4(行ケ)10081  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟__全文__知的財産裁判例 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

パラメータ特許について、異議申立があり、特許庁は、サポート要件違反として特許を取り消しまし。裁判所は、審決を維持しました。\n

クレームは、「・・・前記バイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8を満たす・・
本件明細書(【0014】)には、B/(B+S)を構成3の数値範囲(0.5\n≦B/(B+S)≦0.8)とすることにより所与の効果(技量が高いゴルファー やスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクを生み出 し、シャフトがねじれすぎること又はねじれないためにシャフトが折損してしまう ことを防止するとの効果(以下「【0014】記載の効果」という。))が得られ ると記載されているのみであって、【0014】記載の効果が得られる理由は記載 されていないし、B/(B+S)を構成3の数値範囲とすることで被告主張の課題\nを解決できるとする理由も記載されておらず、当該数値範囲のいずれの点において も被告主張の課題を解決できるとする理由も記載されていない。特に、B/(B+ S)の境界値を0.5及び0.8としたときに【0014】記載の効果が得られる 根拠並びに被告主張の課題を解決できるとする根拠については、本件明細書に何ら の記載もない。原告は、本件出願日当時の当業者はストレート層の重量の割合を2 0%以上としておけば、シャフトが曲げにより折損すること(ねじれがないために シャフトが折損すること)を防ぎ得るものと理解できると主張するが、ストレート 層の重量の割合を20%以上とする根拠はなく、本件出願日当時の当業者であって も、当該割合につき20%以上を選択することが容易であるとはいえない。また、 【0014】記載の効果と被告主張の課題との関係及びストレート層の重量の割合 を20%以上とすることと被告主張の課題との関係も不明である。さらに、実施例 1及び比較例1をみても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とする理由は理解で\nきない(なお、比較例1におけるバイアス層の重量の割合は40%であり、実施例 1におけるバイアス層の重量の割合は60%であるところ、原告は、B/(B+S) の下限値が0.5であることの根拠を示していない。)。原告が挙げる証拠(甲1 2、21、23)をみても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とする理由は理解\nできないし、これらの証拠には、当該数値範囲とすることで被告主張の課題を解決 できるとする理由及び当該数値範囲のいずれの点においても被告主張の課題を解決 できるとする理由は記載されておらず、当該数値範囲とすることで【0014】記 載の効果が得られることについても記載されていない。
以上のとおり、本件明細書の記載に加え、原告が技術常識であると主張する内容 を踏まえても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とすることで被告主張の課題を\n解決できるとは理解できず、また、当該数値範囲のいずれの点においても被告主張 の課題を解決できるものと評価することもできない。当該数値範囲により【001 4】記載の効果が得られる理由も不明である。

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令和1(ワ)17622  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月14日  東京地方裁判所

漏れていたのでアップします。特許権侵害訴訟で、差止と10億を超える損害賠償が認められました。特102条2項の覆滅は無しと判断されました。請求項6、9がPBPクレームでしたが、これについては明確性違反と判断されました。

本件発明6は、電鋳管についての物の発明であるところ、特許請求の範囲に おいて、当該電鋳管について、細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物 を形成する工程(メッキ工程)、細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小 さくなるよう変形させる工程(引っ張り工程)、変形させた細線材を除去する工 程(分離工程)を経て製造されることが記載されている。 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合、その発明の要旨は、当該製造方法により製造された物と構造、\n特性等が同一である物として認定される。そして、物の発明についての特許に 係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、 当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表\しているのか、又は 物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限 定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当 該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占 権を有するのかについて予測可能\性を奪うことになる。したがって、出願時に おいて当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、 又はおよそ実際的でないという事情が存在するなどの第三者の利益を不当に 害しない事情が存在するのでない限り、物の発明についての特許に係る特許請 求の範囲にその物の製造方法が記載されている特許請求の範囲の記載は、特許 法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するとは いえない(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷 判決・民集69巻4号700頁参照)。本件発明6の特許請求の範囲において は、物の製造方法が記載されているところ、出願時において製造された物をそ の構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、又はおよそ実際的 でないという事情についての主張はなく、また、同事情を認めるに足りる証拠 もない。
・・・
本件明細書には、本件発明6の電鋳管と同様の形状等を有する電鋳管につい て本件発明6の方法以外の複数の方法で製造できると記載されている【004 1】、【0042】)。そして、本件発明6の引っ張り工程及び分離工程の方法に よった場合の電鋳管の内面精度について、特許請求の範囲、本件明細書、図面 には記載はない。また、原告が主張する本件発明6の技術的範囲に属するとい う場合の電鋳管の客観的な内面精度自体が必ずしも明確ではなく、また、本件 特許の出願当時、引っ張り工程及び分離工程により製造された電鋳管の内面精 度を含む構造又は特性が、技術常識により明らかであったことを認めるに足り\nる証拠はない。
そうすると、電鋳管の発明である本件発明6について、少なくとも引っ張り 工程及び分離工程に関して電鋳管のどのような構造又は特性を表\しているの かが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明らかであるとは いえない。原告の主張は採用することができない。
・・・
被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳 管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後 の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して 製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値 分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、 被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕 入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加 価値は1対1として計算すべきであると主張する。 しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に 切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被 告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、 価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記 イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利 益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控 除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する ことやその額を認めるに足りる証拠はない。 また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅 すべき事情に当たるとはいえない。

◆判決本文
なお、本件については、控訴審判決はなさそうですが、対応する審決取消訴訟にて、請求項6は不可能・非実際的理由がなくても、PBPクレームだから自動的に明確性違反だとはならないと判断されてします(内面精度との技術的関係が不明として明確性違反と判断されています)。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時 において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁 判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集 69巻4号700頁)。 もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許 請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・ プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を 読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、 第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。 そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製 造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願 時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\ しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義 的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不 可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
・・・
そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を 加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着 物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、 3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細 線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱 又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、 これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても 一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記 3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の 内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上 記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し たとも認められない。 そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電 鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n

◆令和3(行ケ)10140

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令和4(行ケ)10081  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟__全文__知的財産裁判例 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

 ゴルフシャフトの数値限定発明(バラメータ)について、サポート要件違反とした審決が維持されました。

a バイアス層の合計重量(B(g))をバイアス層の合計重量とシャフト全体 にわたって位置するストレート層(以下、単に「ストレート層」という。)の合計 重量の和(B(g)+S(g))の50%以上とすることにより得られる効果等に 関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のゴルフクラブ用シャフトは、 シャフトに使用するバイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置 するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦ 0.8・・・(1)を満たすことが重要である。(1)は、技量が高いゴルファー やスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクTq(°) を生み出す要素を示している。つまり、(1)を満たさないゴルフクラブ用シャフ トは、シャフトが捩じれすぎたり、または捩じれないがためにシャフトが折損して しまう原因につながる。」との記載(【0014】)があり、また、本件効果が得 られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1における 各B/(B+S)がそれぞれ0.6及び0.4であるとの記載(【表4】)がある。\nしかしながら、これらの記載は、本件各発明におけるB/(B+S)に係る0.5 との数値が実施例1における0.6及び比較例1における0.4の中間値であるこ とを含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重 量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切 に説明するものとはいえず、したがって、構成3のうちバイアス層の合計重量をバ\nイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とするとの点につ いては、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本 件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、バイアス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小 さくできることは自明であり本件出願日当時の技術常識であるとして、本件出願日 当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、バイアス層の合計重量をバイア ス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上としておけば、その他 の条件を技術常識の範囲内で適宜調整して決定することで、容易にTq≦4.0° の構成(構\成2)が得られるものと理解し得ると主張する。しかしながら、バイア ス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小さくできることが本件 出願日当時の技術常識であったとしても、原告の上記主張は、実施例1と比較例1 を比較する点を含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート 層の合計重量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかに ついて適切に説明するものとはいえず、その他、バイアス層の合計重量をバイアス 層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とすることにより本件課 題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、 構成3のうちバイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計\n重量の和の50%以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当 時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるという ことはできない。

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令和4(行ケ)10109  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年11月30日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件・サポート要件違反があるとの異議理由を認め、特許を取り消す旨の審決がなされましたが、知財高裁は、かかる審決を取り消しました。\n

(1) 特許法36条4項1号は、特許による技術の独占が発明の詳細な説明をも って当該技術を公開したことへの代償として付与されるという仕組みを踏 まえ、発明の詳細な説明の記載につき実施可能要件を定める。このような同\n号の趣旨に鑑みると、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足するた\nめには、当該発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、 当業者が過度の試行錯誤を要することなく、特許を受けようとする発明の実 施をすることができる程度の記載があることを要するものと解される。
(2) そこで検討するに、まず前提として、本件明細書記載の第1実施形態によ り本件3条件を満たす防眩フィルムを製造することができることは争いが ないところ、被告は、本件特許発明は第2実施形態に係る防眩フィルムであ って、第1実施形態は本件特許発明に含まれない旨主張する。 しかし、本件明細書で第1実施形態を説明する【0056】の「防眩層3 は、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子(フィラー)を含んでいて もよい。」との記載、【0058】の「微粒子の平均粒径は特に限定されず、 例えば、0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定できる。」との記載 及び【0059】の「微粒子の平均粒径が小さすぎると、防眩性が得られに くくなり、大き過ぎると、ディスプレイのギラツキが大きくなるおそれがあ るため留意する。」との記載を参酌すれば、第1実施形態には、スピノーダ ル分解による凝集と微粒子の凝集の両方により表面に凹凸の分布構\造が形 成されている防眩層を備える防眩フィルムが含まれているといえる。したが って、本件特許発明においては、スピノーダル分解による凝集のみにより表\n面に凹凸の分布構造が形成されている防眩層は含まないが、スピノーダル分\n解による凝集と微粒子の凝集の両方により表面に凹凸の分布構\造が形成さ れている防眩層は排除されていないのであり、第1実施形態に係る防眩フィ ルムが本件特許発明に含まれないとする被告の主張は採用できない。
(3) 以上を前提に実施可能要件の充足性について検討するに、第1実施形態は、\n防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を 急峻化するとともに、凹凸の数を増やすことにより、ディスプレイのギラツ キを抑制しながら防眩性を向上させるものである(【0078】)。第1実 施形態と、第2実施形態とは、上記原理を共通にし、第1実施形態では、ス ピノーダル分解によって凹凸を防眩層に形成するのに対し、第2実施形態で は、複数の微粒子を使用し、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶 剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことで、微粒子の適度 な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形成\nするという点において異なる(【0079】、【0080】)。 そして、本件明細書には、第1実施形態に関して本件3条件に係る防眩層 の特性は、溶液中の樹脂組成物の組み合わせや重量比、調製工程、形成工程、 硬化工程の施工条件等を変化させることで形成できるものであることが記 載されており(【0068】)、第2実施形態について、微粒子や、防眩層 を構成するマトリクス樹脂の材料(【0086】〜【0094】)、マトリ\nクス樹脂と微粒子との屈折率差(【0081】)、粒径(【0082】)、 防眩層におけるマトリクス樹脂と微粒子の割合(【0085】)、製造方法 (【0095】〜【0102】)、調製に使用する溶剤(【0096】)が 具体的に記載されるとともに、実施例5においては、シリカ粒子がブタノー ルに対して斥力相互作用を生じたことにより、凹凸構造が強調されること\n(【0188】)が、記載されているから、当業者は、第1実施形態に係る 【0186】及び【0187】の記載に加え、【0068】及び【0079】 の記載を併せ考えれば、各生産工程における条件の適切な設定や、アクリル 系紫外線硬化樹脂とアクリル系ハードコート配合物Aを共存させること等 の調整を行うことによって、第2実施形態に関して、実施例として記載され た防眩フィルムをはじめとする様々な特性の防眩フィルムを得られること を理解するものということができる。したがって、仮に本件特許発明が、微 粒子の凝集のみにより表面に凹凸の分布構\造が形成された防眩層を備える 防眩フィルムであるとしても、当業者は本件特許発明に係る防眩フィルムを 製造することができるといえる。
被告は、凹凸を形成する方法(原理)が異なれば凹凸の形成に適した材料 は異なり、それに伴い斥力相互作用が生じる材料の組み合わせも異なるから、 微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選 定についての手がかりは本件明細書に開示されていないと主張する。しかし、 微粒子の凝縮によって形成される凹凸構造の形状は、スピノーダル分解の凝\n集が進行したことによる上記液滴相構造の形状と同様のものであると解さ\nれるから、第1実施形態の凹凸構造を参考にできるものと解される。そして、\n上記のとおり、本件明細書には、本件特許発明に係る特性を導く上で主要な 構造となる凹凸の急峻性を生み出す原理とその具体的方法、原材料から製造\nの工程に係る記載があり(特に【0079】)、当業者は、微粒子の凝集を 用いてより急峻な凹凸を形成する場合には、微粒子の重量部を大きくし、さ らに必要に応じてブタノールの重量部を大きくし、斥力を大きくするなどし て、通常の試行錯誤の範囲内で、シリカ粒子やブタノールの量などを具体的 に決定し、その実施品を作ることができるものというべきである。
(4) 被告は、本件明細書の【0005】、【0008】の記載から、本件特許 発明の目的のうち、「高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルム を提供すること」とは、外光の映り込みを防止すること(高いヘイズ値とす ること)と、ディスプレイの表示性能\を維持すること(高い透過像鮮明度と すること)とのトレードオフの相関関係に起因して、従来、透過像鮮明度の 設計自由度が制約を受けていたところ、ギラツキを所定の範囲にまで抑制さ れるとともに、前記制約を克服した領域ともいうべき領域である本件高ヘイ ズ・高鮮明度領域における透過像鮮明度を備えた防眩フィルムを提供するこ とであると当業者は理解するから、本件高ヘイズ・高鮮明度領域について製 造方法の記載が求められると主張する。 しかし、まず、本件明細書の【0005】の記載からは、外光の映り込み の防止とディスプレイの表示性能\の維持の間に厳格なトレードオフの関係 があるとまで認めることはできない。本件特許発明の第1実施形態に係る実 施例1〜4、比較例2〜3、10及び11、第2実施形態に係る実施例5、 比較例1、4〜9における防眩フィルムのヘイズ値及び透過像鮮明度の数値 (本件明細書【0183】の【表1】、【0184】の【表\2】)からは、 ヘイズ値が同程度であっても透過像鮮明度が異なる防眩フィルムや、透過像 鮮明度が同程度であってもヘイズ値が異なる防眩フィルムが製造できるこ とが示されている。なお、被告は、本件明細書には本件特許発明に対応する 実施例としては実施例5しか記載されていない旨主張するが、これは、第1 実施形態が本件特許発明に対応するものでないという誤った前提に基づく ものであるし、仮に被告の前提によるとしても、ここで問題となるのはヘイ ズ値と透過像鮮明度の相関関係であるから、実施例5以外の実施例を排除す る理由はない。また、被告は、比較例1に関しては、「平均粒径が0.5μ m以上5.0μm以下の範囲の値に設定された」本件特許発明の前提条件で あるμmオーダーの表面凹凸構\造を備えた防眩層ではなく、nmオーダーの 表面凹凸構\造を備えた防眩層を有するから、参酌すべきではない旨主張する が、仮に比較例1を参酌しなかったとしても、上記認定が左右されるもので はない。
加えて、JIS規格(K7374)(甲43)の「附属書(参考)像鮮明 度測定例」では、像鮮明度の透過測定例として「ヘーズ値によって像の鮮明 さを評価できないアンチグレアフィルムなどのフィルムの測定例」があり、 附属書表1の試料1−2「ヘーズ値14.11、像鮮明度80.0%」と試\n料1−4「ヘーズ値14.67、像鮮明度5.9%」を示すとともに、ヘー ズ値は像の鮮明度とは異なり視感を反映していないのに対して、像鮮明度は 視感と一致していることが記載されていることからみて、防眩フィルムのヘ イズと透過像鮮明度の間には一定の相関関係があるものの、強い相関性まで 認められているものではなく、製造条件などで調整が可能であり、設計自由\n度があるといえる。
さらに、本件明細書の【0008】には「そこで本発明は、ディスプレイ のギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しな がらディスプレイのギラツキを抑制できると共に、高い透過像鮮明度の設計 自由度を有する防眩フィルムを提供することを目的としている。」と記載さ れ、本件特許発明は、防眩性、ギラツキの抑制、高い透過像鮮明度の設計自 由度という三条件の均衡を目的とするものと理解される。そして、本件明細 書の【0011】の「また、前記標準偏差を所定値に設定すると共に、防眩 層のヘイズ値を50%以上99%以下の範囲の値に設定することにより、デ ィスプレイのギラツキを抑制しながら、良好な防眩性を得ることができる。 また、防眩フィルムの光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度を0%以上60% 以下の範囲の値に設定することで、防眩フィルムの透過像鮮明度の設計自由 度を広く確保できる。」との記載は、良好な防眩性を示すヘイズ値が50% 以上であることを示すものであり、したがって、ヘイズ値は、ギラツキの抑 制や高い透過像鮮明度という他の条件との関係で上記数値範囲内で変動し てよいものである。上記のとおり、高いヘイズ値とすることとディスプレイ の表示性能\を維持することとの厳格なトレードオフの関係は認められず、甲 13添付の実験成績証明書3頁ではサンプル1(ヘイズ値96%、透過像鮮 明度65%)とサンプル2(ヘイズ値45%、透過像鮮明度2.0%)の防 眩フィルムが製造できたことが示されており、本件高ヘイズ・高鮮明度領域 の製造方法が具体的に記載されていなければ、本件特許発明が実施可能要件\nを欠くなどということはできない。
(5) 以上によれば、本件明細書には、当業者がその記載及び出願当時の技術常 識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明に係る物を 製造し、使用することができる程度の記載があるものと認められ、当業者が 本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載された\nものであると認められる。したがって、本件明細書につき実施可能要件を充足しないとした本件決定の判断には誤りがあり、取消事由2には理由がある。\n
3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)について
(1) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細 な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を 定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な 説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な 説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該 発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して 判断すべきものと解される。
(2) 本件特許発明は、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑 制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提 供することを目的とする(【0008】)。 ヘイズ値が50%以上あれば良好な防眩性は確保でき(【0011】)、 ヘイズ値と透過像鮮明度との間には一定の相関関係があるから、適宜ヘイズ 値を変動させることにより、透過像鮮明度も調整することができる。 ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させるには、 防眩 層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻 化すると共に、凹凸の数を増やせばよい(【0078】)。 そして、上記のような防眩フィルムについて、本件明細書には、凹凸の急 峻性を生み出す原理とその具体的方法、原材料から製造の工程、実施例等が 記載されていることは前記2(3)のとおりであるから、当業者は、その記載 及び技術常識に基づき、特許請求の範囲に記載された範囲において、本件特 許発明の課題を解決できると認識できるということができる。

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令和4(ネ)10094  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年10月5日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

原審は、分割の遡及効が認められず、親出願から新規性違反の無効理由有りと判断していましたが、知財高裁はサポート要件違反ありとして権利行使不能と判断しました。

当裁判所は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載には、分割出願が適法である か否かにかかわらず、サポート要件違反があり、本件訂正が有効であったとしても、 サポート要件違反があることが認められるから、結局、本件特許は特許法36条6 項1号違反により無効にされるべきものであり、同法104条の3第1項により、 原告は被告に対し、本件特許権を行使することはできないと判断する。その理由は、 以下のとおりである。
(2) 本件についてみると、本件明細書(以下、原出願当初明細書も同じ。)には、 「発明が解決しようとする課題」として、「出願人は、1234yf等の新たな低地 球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在すること を見出した。」(【0003】)との記載がある。また、「本発明によれば、HFO−1234yfと、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HCFC−243 db、・・・caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化 合物とを含む組成物が提供される。組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約 1重量パーセント未満を含有する。」(【0004】)、「HFO−1234yfには、いくつかある用途の中で特に、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤 としての用途が示唆されてきた。また、HFO−1234yfは、V.C.Pap adimitriouらにより、Physical Chemistry Che mical Physics、2007、9巻、1−13頁に記録されているとお り、低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である。このよ うに、HFO−1234yfは、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補である。」 (【0010】)といった記載に、【0013】、【0016】、【0019】、【0022】、【0030】、【図1】の記載を総合すると、本件明細書には、HFO−1234yfが低地球温暖化係数(GWP)を有することが知られており、高GWP飽和HF C冷媒に替わる良い候補であること、HFO−1234yfを調製する際に特定の 追加の化合物が少量存在すること、本件発明の組成物に含まれる追加の化合物の一 つとして約1重量パーセント未満のHFC−143aがあること、HFO−123 4yfを調製する過程において生じる副生成物や、HFO−1234yf又はその 原料(HCFC−243db、HCFO−1233xf、HCFC−244bb) に含まれる不純物が、追加の化合物に該当することが記載されているということが できる。
しかるところ、HFO−1234yfは、原出願日前において、既に低地球温暖 化係数(GWP)を有する化合物として有用であることが知られていたことは、【0 010】の記載自体からも明らかである。したがって、HFO−1234yfを調 製する際に追加の化合物が少量存在することにより、どのような技術的意義がある のか、いかなる作用効果があり、これによりどのような課題が解決されることにな るのかといった点が記載されていなければ、本件発明が解決しようとした課題が記 載されていることにはならない。しかし、本件明細書には、これらの点について何 ら記載がなく、その余の記載をみても、本件明細書には、本件発明が解決しようと した課題をうかがわせる部分はない。本件明細書には、「技術分野」として、「本開 示内容は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニ ング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよ びポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にあ る消火剤として有用な組成物の分野に関する。特に、本開示内容は、2,3,3, 3,−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)また は2,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243db または243db)、2−クロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO− 1233xfまたは1233xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフ ルオロプロパン(HCFC−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有 用な組成物に関する。」(【0001】)との記載があるが、同記載は、本件発明が属 する技術分野の説明にすぎないから、この記載から本件発明が解決しようとする課 題を理解することはできない。
そうすると、本件明細書に形式的に記載された「発明が解決しようとする課題」 は、本件発明の課題の記載としては不十分であり、本件明細書には本件発明の課題が記載されていないというほかない。そうである以上、当業者が、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することができるというこ\nともできない。
(3) 仮に、上記【0001】の記載をもって本件発明の課題を説明したものと理 解したとしても、次に述べるとおり、本件明細書の記載をもって、当業者が当該課 題を解決することができると認識することができるとは認められない。
すなわち、この場合の本件発明の課題は、「2,3,3,3,−テトラフルオロプ ロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)または2,3−ジクロロ−1, 1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243dbまたは243db)、2−ク ロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xfまたは123 3xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC −244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物を提供すること」 と理解されることとなるはずである。
そして、本件発明は、1)HFO−1234yf、2)0.2重量パーセント以下の HFC−143a、3)1.9重量パーセント以下のHFC−254ebを含む組成 物によって、当該課題を解決するものということになる。 しかるところ、本件明細書には、上記1)〜3)を含む組成物についての記載がされ ているとはいえない。すなわち、【0121】〜【0123】(表5(【表\6】))には、実施例15として、HCFC−244bbからHFO−1234yfへ、触媒無しで変換したところ生じた、HFO−1234yf、HFC−143a及びHFC− 254ebを含む組成物が4例記載されており(加熱された温度(゜C))がそれぞれ 550、574、603、626)、当該組成物に含まれるHFC−143aの量が それぞれ、0.1、0.1、0.2、0.2モルパーセントであること、及び同H FC−254ebの量がそれぞれ1.7、1.9、1.4、0.7モルパーセント であることが記載されている。しかしながら、表5(【表\6】)に記載された組成物 には「未知」のものが含まれており、その分子量を知ることができないから、同表において、モルパーセントの単位をもって記載されたHFC−143a及びHFC−254ebの含有量を、重量パーセントの含有量へと換算することはできない。\nそうすると、本件明細書には、上記1)〜3)の構成を有する組成物についての記載がされていないというほかない。それのみならず、本件明細書には、このような構\成を有する組成物が、HFO−1234yfの前記有用性にとどまらず、いかなる意 味において「有用」な組成物になるのか、という点について何ら記載されておらず、 示唆した部分もない。したがって、当業者が、本件明細書の記載から、上記1)〜3) の構成を有する組成物が、熱伝達組成物として「有用な」組成物であるものと理解することもできない。したがって、当業者は、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することはない。
(4) 以上のとおり、分割出願が有効であり、出願日が原出願日(平成21年5月 7日)となると考えたとしても、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、サポー ト要件に適合するということができないから、本件発明に係る特許は、無効審判請 求により無効とされるべきものである(特許法123条1項4号、36条6項1号)。 そして、このことは、分割出願が無効であり、出願日が分割出願の日(令和元年9 月4日)となる場合でも同様である。
3 争点3(訂正の再抗弁の成否)について
本件訂正発明についても、本件発明に係る請求項1のHFO−1234yfにつ いて「77.0モルパーセント以上」という下限が設定されただけで、本件訂正後 の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合しても、当該下限にどのような技術 的意義があり、これによりどのような課題を解決することができるのかは明らかに されていない。また、前記2(2)及び(3)と同様、本件訂正発明に係る組成物の構成により解決しようとしている課題や、その解決方法が本件明細書に記載されていないことには変わりはない。したがって、訂正が有効だとしても、本件訂正発明に係\nる特許請求の範囲の記載には、前記2(2)及び(3)と同じ理由により、サポート要件 違反の無効理由が存在することとなるので、訂正の再抗弁によりサポート要件違反 の無効理由を解消することはできない。 そうすると、本件訂正の適法性及びその余の争点につき判断するまでもなく、特 許法104条の3第1項により、原告は被告に対し、本件特許権を行使することが できない。
本件特許の無効審決審決取消訴訟です。

◆令和4(行ケ)10126

◆令和4(行ケ)10125
侵害訴訟の1審はこちらです。 1審は、新規性違反を理由として、権利行使不能と判断していました(特104-3)。

◆令和3(ワ)29388

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令和3(行ケ)10152  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年9月20日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しした審決について、知財高裁は、サポート要件違反ありと認定し、審決を取り消しました。

(4) 本件発明についてのサポート要件の検討
ア 従来技術の問題2を解決するための手段として、本件発明1は、前記2(2)ア のとおり、回転子積層鉄心を押圧する際の上型及び下型に対する回転子積層鉄心の 配置及び上型と下型との位置関係又は状態を特定する発明であるのに対し、本件明 細書の発明の詳細な説明に記載された発明は、前記2(3)ウのとおり「回転子積層鉄 心12の下面25が当接する矩形板状のトレイ部26と、トレイ部26の中心部に 立設され、回転子積層鉄心12の軸孔11に嵌入する直径固定型で棒状のガイド部 材27とを有している搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を下型1 7上に搬送し」、「搬送トレイ16を回転子積層鉄心12と共に、下型17から取り 外し、回転子積層鉄心12が搬送トレイ16から取り外される」ものであるから、 本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると、搬送トレイを不可欠の構成として\nいるものと解される。そうすると、本件発明1には、回転子積層鉄心を搭載する搬 送トレイを含む構成の発明だけでなく、この搬送トレイを含まない構\成の発明も含 まれており、搬送トレイを構成に含まない特許請求の範囲の記載を前提にした場合、\n上記発明の詳細な説明の記載から、当業者が、積層鉄心を下型の有底穴部に嵌挿し、 加熱後、積層鉄心を下型の有底穴部から取り出す作業は、人手又は機械によっても、 時間を要するもので、作業性が極めて悪いこと(従来技術の問題2)を解決して、 生産性及び作業性に優れており、安価に作業ができる永久磁石の樹脂封止方法を提 供するという本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。 そして、この点は本件発明2及び本件発明3も搬送トレイを構成に含まない発明を\n含むため、同様であるといえる。
イ また、段落【0010】には、「本発明に係る永久磁石の樹脂封止方法におい て、前記回転子積層鉄心は中央に軸孔を有し、前記回転子積層鉄心を前記軸孔に嵌 入するガイド部材を備えた搬送トレイに載せて、前記上型及び前記下型の間に配置 してもよい。」との記載があり、搬送トレイを不可欠の構成とはしていないことを前\n提とした発明の詳細な説明の記載があるが、前記2(4)アのとおり、本件明細書の発 明の詳細な説明の記載によると、従来技術の問題2を解決するために搬送トレイを 不可欠の構成としているから、搬送トレイを用いずに本件発明の課題を解決するた\nめには搬送トレイに代わる構成が必要となるものと解されるところ、本件明細書の\n記載によっても搬送トレイの具体的構造に関する記載(【0047】【0048】)は\nあるものの搬送トレイに代わる構成を具体的に示唆する記載はなく、これに代わる\n構成が当業者にとって明らかであることを認めるに足りる証拠もないから、当業者\nが出願時の技術常識に照らしてみたとしても、発明の詳細な説明に具体的な記載が ないまま、回転子積層鉄心を下型上に固定し、また下型から取り外す工程に係る課 題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。この点、本件発明2 及び本件発明3も同様である。
ウ そうすると、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていな い発明を含むから、特許法36条6項1号の要件を満たさない。
エ この点、本件審決は、本件発明の課題は、本件発明1に係る特許請求の範囲 に記載された「前記回転子積層鉄心を、上型及び下型の間に配置して、前記上型及 び前記下型同士が当接することなく、前記下型及び前記上型で前記回転子積層鉄心 を押圧し・・・前記永久磁石を樹脂封止する」ことにより、解決すると認識できる から、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであると判断し、 被告も、搬送トレイを備えなくとも、サポート要件を満たすとした本件審決の認定 に誤りはないと主張する。 しかしながら、上記判断の前提は、本件明細書において、「このような課題を解決 する発明の実施の形態として、「(a)前工程から送られてきた、永久磁石14が磁 石挿入孔13に挿入され搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を別途 搬送手段等を用いて下型17上に搬送し、上型21(以下、キャビティブロック7 4も含む)に対して位置決めして固定」(【0039】)し、「(b)下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下型17を少し上昇し、回転子積層鉄心12とキャ ビティブロック74とを密着させ・・・」(【0040】)、「(c)原料18が加熱されて粘度が下がると、更に、下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下 型17を上昇して、搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を上型21 に押し付け」(【0041】、熱硬化性樹脂によって永久磁石を磁石挿入口に固定させ た上で、「下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下型17を下降させ」 (【0044】)、「その後、搬送トレイ16を回転子積層鉄心12と共に、下型17 から取り外し、回転子積層鉄心12が搬送トレイ16から取り外され、搬送トレイ 16は別途搬送手段により後工程に送」(【0044】)ることが記載されており、こ れにより、「複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心に形成された複数の磁石挿入 孔に挿入された永久磁石を、樹脂部材を磁石挿入孔に注入して固定する際、上型及 び下型により回転子積層鉄心を押圧し、樹脂部材を磁石挿入孔に充填することによっ て、・・・簡単な工程で、短時間に行うことができ、生産性及び作業性に優れており、安価に作業ができる」(【0011】)との効果を奏する発明が記載されている。」といえるものであるから、本件審決は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された 上記工程からなる本件発明の実施の形態が課題を解決できることを判断しているも のと認められる。
そうすると、本件審決は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された本件発明 の実施の形態について、当業者が課題を解決できると認識できることをいうにとど まり、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範 囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当 業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、 その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解 決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断したものとはいえな い。したがって、本件審決は、特許法36条6項1号に規定される「特許を受けよう とする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を判断したものとはい えない。

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令和4(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反・サポート違反として無効審判を請求しました。審決は無効理由無し、裁判所も同様です。進歩性については、「非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを考慮すると、・・・結晶の平均粒径を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであったと認めることはできない」と判断しました。

(イ) また、甲7、9、52、61、63、71及び73並びに乙7によると、 薬物の安定性を高める方法として、結晶の結晶化度を高めること、遮光、湿気の遮 断等を目的として薬剤に保護コーティングを形成すること、遮光を目的として遮光 剤(酸化チタン)を含むコート液をコーティングすることなどは、本件優先日当時 の周知技術であったと認められる。
(ウ) しかしながら、甲5、7、52、54及び61によると、本件優先日当時、 非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在し、そのため、水難溶 性の薬物の溶解性を改善するとの目的で、かえって結晶化度を低くすることが一般 に行われていたものと認められるところ、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件優先日当 時、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術として、結晶 の粒子径を小さくすること以外の方法も存在し、また、薬物の安定性を高めるため の周知技術として、結晶の結晶化度を高めること以外の方法も存在していたのであ るから、化合物1の溶解性及び安定性を高めるとの課題を認識していた本件優先日 当時の当業者において、化合物1の溶解性を追求するとの観点から、経口投与され る水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術(結晶の粒子径を小さくすると の周知技術)を採用し、かつ、化合物1の安定性を追求するとの観点から、薬物の 溶解性を低下させる結果となり得る周知技術(結晶の結晶化度を大きくするとの周 知技術)をあえて採用することが容易に想到し得たことであったと認めることはで きない。
(エ) この点に関し、原告らは、結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持するこ とは特段の処理が不要で薬剤をそのまま使用するという最も基本的な態様を含むも のであり、他の手段よりはるかに容易な態様のものであると主張する。しかしなが ら、前記(ア)のとおり、本件優先日当時、結晶の粒子径を小さくするための主たる 手段として、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル等を利用した粉砕が考えら れていたところ、甲52によると、粉砕により結晶の結晶化度が低下し、結晶が非 晶質化することは、よく経験される事象であったものと認められるから、結晶の結 晶化度を一定の数値以上に維持することが特段の処理を要しないものであるという ことはできず、原告らの上記主張は、前提を誤るものというべきである。
また、原告らは、本件優先日の当業者であれば、薬物の安定性を向上させるとの 課題に基づいて結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持することを検討しつつ、粒 子の微細化等の手段により溶解度を向上させるなど、結晶の結晶化度や平均粒径と いったパラメータを適宜調整することを十分に動機付けられると主張するが、上記\nのとおり、非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを 考慮すると、原告らの上記主張によっても、本件優先日当時の当業者において、相 反する効果を生ずる事項同士であると認識されていた、化合物1の結晶の平均粒径 を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであっ たと認めることはできないといわざるを得ない(この点に関し、本件明細書には、 実施例(試験例2、実施例2)として、化合物1の微細結晶Aの結晶化度が84. 6%であり、粒径がD100=8.7μmである場合(後記5(4)ア(ア)のとおり、化 合物1の平均粒径が数μmである場合)においても、結晶が凝集することなく、良 好な溶解性及び分散性を示したとの記載があるが、前記(2)イ(ウ)において認定した 技術常識(非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識)並びに甲6及び 52によって認められる技術常識(特に薬物が疎水性のものである場合には、結晶 の粒子径を小さくすればするほど凝集が起こやすくなり、その有効表面積がかえっ\nて小さくなる結果、溶解性が低下することがあるとの技術常識)に照らすと、上記 実施例が示す効果は、甲1結晶発明及び本件優先日当時の技術常識から予測し得な\nかったものといえる。)。

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令和4(行ケ)10081  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

 特許異議申立にて、サポート要件違反として取り消された特許の取消を求めました。知財高裁はサポート要件違反とした審決を維持しました。発明はゴルフクラブのシャフトで、\n「・・・シャフトのトルクをTq(°)とした場合に、1.6≦Tq≦4.0を満たし、前記バイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8を満たす」 というパラメータ発明です。

前記(2)アによると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件各発明について、 次のとおりの記載がされているということができる。すなわち、本件各発明は、繊 維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト(以下、単に「シャフト」ということがあ る。)に関するものである。ゴルフのスコアを良くするためには、打球の飛距離の 安定性及び左右への方向安定性を得ることが非常に重要であり、そのためには、三 つの要素(ボールの初速、打ち出し角度及びスピン量)のばらつきを減少させてこ れらを安定させる必要があるところ、ボールを打撃する瞬間のシャフトの変形(特 にシャフトの細径部の変形)がこれらの要素の安定性に大きな影響を及ぼすため、 シャフトの細径部のねじり剛性を上げることによりこれらの要素を安定させ得るこ とが従来から知られていた。しかしながら、単にシャフトの細径部のねじり剛性を 上げると、フィーリングが硬くなったり、ヘッドの返りが極端に悪くなったり、ヘ ッドのトゥダウンが抑制されすぎて飛距離が小さくなったりするなどのデメリット が生じるほか、弾性率の高い炭素繊維の使用量を多くしすぎることによるシャフト の強度の低下を招き、シャフトの折損が生じやすくなるという問題があった。本件 各発明は、このような問題を解決し、特にねじり剛性が高いシャフトにおいても、 スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されること なく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたシャフト(ねじり剛性の高いシャ フト(ロートルクのシャフト))を提供することを目的とするものである。本件各 発明は、前記第2の2のとおりの構成とすることにより、プレーヤーの力量に左右\nされることなく、飛距離の安定性及び左右へのばらつきの少ない方向安定性の双方 に優れたシャフトが得られるとの効果を奏する。
以上によると、本件各発明の課題は、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴル フクラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)で あって、スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右さ れることなく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたものを提供すること」 (以下「本件課題」という。)であると認めるのが相当である。
(4) 決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)について\n
ア 構成2について\n
(ア) Tq≦4.0°について
a シャフトのトルク(Tq)を4.0°以下とすることにより得られる効果等 に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「トルク(Tq)を4.0°以下と することによって、ゴルファーの力量が飛距離の安定性や左右への方向安定性に与 える影響を低減させることができ、これらの両立を達成できる傾向にある。」との 記載(【0021】)があり、また、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴルフ クラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)であ って、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されることなく飛距離の安定性 と方向安定性の双方に優れたものが得られる」との効果(以下「本件効果」とい う。)が得られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例 1の各トルク(°)がそれぞれ2.4及び4.8であるとの記載(【表4】)があ\nる。しかしながら、これらの記載は、シャフトのトルクを4.0°以下とすること によりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、し たがって、構成2のうちシャフトのトルクを4.0°以下とするとの点については、\n本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を 解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安定 性及び方向安定性において優れていることは本件出願日当時の技術常識であり、本 件出願日当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、シャフトのトルクを4. 0°以下とすることにより飛距離の安定性及び方向安定性(比較例1よりも優れた 飛距離の安定性及び方向安定性)が得られるものと理解し得ると主張する。しかし ながら、原告の上記主張並びに原告が上記技術常識に係る証拠として提出する甲1 2及び21ないし23は、シャフトのトルクを4.0°以下とすることによりなぜ 本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、シャ フトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願 日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成2のうちシャフトのトル\nクを4.0°以下とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の 技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということ はできない。
c なお、原告は、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明であって、発\n明の実施方法や作用機序等を理解することが比較的困難な技術分野(薬学、化学等) に属する発明ではないとして、構成2の境界値の厳密な根拠が本件明細書に記載さ\nれている必要はないと主張するが、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明\nであることをもって、シャフトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題 が解決される理由を本件明細書の発明の詳細な説明において適切に説明する必要が ないということはできないから、原告の上記主張を採用することはできない(この 点については、以下の構成2のうちシャフトのトルクを1.6°以上とするとの点\n及び構成3ないし5についても同じである。)。\n
・・・
b 原告は、本件各発明は細径部のトルクを小さくすることが飛距離の安定性及 び方向安定性を高めるとした甲6発明の効果を前提としつつ、更に非熟練ゴルファ ーにとってのデメリット(フィーリングが硬くなったりヘッドの返り(トゥダウン) が悪くなったりすること)を克服するとの課題を解決するものであり、加えて、本 件各発明におけるA/Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1 におけるA/B(0.08)をほぼ中央値とするものであることも併せ考慮すると、 本件出願日当時の当業者は細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5% 以上とすることで、上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方向安定 性を高め得るものと理解し得ると主張する。しかしながら、甲6によっても、本件 出願日当時の当業者において、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の 5%以上とすることにより上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方 向安定性を高め得るものと理解し得たとの事実を認めることはできず、その他、そ のような事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件各発明におけるA/ Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1におけるA/B(0. 08)をほぼ中央値とするものであることを考慮しても、原告の上記主張は、細径 側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることによりなぜ本件 課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、細径側バ イアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることにより本件課題が解 決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成4\nのうち細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とするとの点に ついては、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決 できると認識できる範囲のものであるということはできない。
オ 原告のその余の主張(決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)に関\n連するもの)について
(ア) 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安 定性及び方向安定性において優れているとの技術常識並びにバイアス層を増やすこ とにより低トルクのシャフトが得られるとの技術常識を有する本件出願日当時の当 業者が本件明細書を読めば、実施例1及び比較例1における各トルクから、トルク を比較例1のそれよりも有意に小さい4.0°以下とし、実施例1及び比較例1に おける各バイアス層の割合(B/(B+S))から、バイアス層の割合(B/(B +S))を比較例1のそれよりも有意に大きい0.5以上とすることにより、比較 例1よりも良好な飛距離の安定性及び方向安定性が得られるであろうことを当然に 理解し得ると主張する。しかしながら、実施例1及び比較例1の記載から、本件出 願日当時の当業者において、トルクを比較例1のそれ(4.8°)よりも有意に小 さい角度とすること及びバイアス層の割合(B/(B+S))を比較例1のそれ (0.4)よりも有意に大きい値とすることにより、比較例1よりも良好な飛距離 の安定性及び方向安定性を示すであろうと推測し得るとしても、当該当業者におい て、トルクを具体的に(1.6°以上)4.0°以下とすること及びバイアス層の 割合(B/(B+S))を具体的に0.5以上(0.8以下)とすることにより、 本件課題を解決できると認識できるとは認められない。
(イ) 原告は、本件出願日当時の当業者は本件明細書の記載により、本件各発明 の構成要件を充足し、その他の条件につき当該当業者が技術常識の範囲内で決定し\nたシャフトであれば、その飛距離及び方向が比較例1のシャフトにおける飛距離及 び方向と比較してより安定したものとなることを容易に理解し得ると主張する。し かしながら、前記アないしエにおいて説示したところに照らすと、仮に本件各発明 の課題が飛距離及び方向において比較例1のシャフトよりも安定したシャフトを得 ることであるとしても、実施例1及び比較例1を含む本件明細書の発明の詳細な説 明の記載により、本件出願日当時の当業者において、本件各発明の構成要件を充足\nするシャフトであれば当該課題を解決できると認識できると認めることはできない というべきである。

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令和4(行ケ)10059  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年6月15日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(4部)は、サポート要件違反の無効理由なしとした審決を維持しました。

前記1(2)に下線を付したように、本件発明1の各構成要件の数値範囲は、いずれも発明の詳細な説明に記載されたものである。ただし、構\成要件A7) の上限値である「0.828」は、本件明細書【0026】の【表2】に記載された最も好ましい上限である「0.85」を下回るものであるから、や\nはり好ましい上限値といえ(【0020】参照)、構成要件A(12)の上限値であ る「0.50」は、本件明細書【0063】の【表22】に記載された最も好ましい上限である「0.6」を下回るものであるから、やはり好ましい上限値といえる(【0020】参照)。\n なお、本件発明は本件明細書に記載の数値範囲から望ましい数値範囲を請 求項に記載したにすぎないと認められるから、数値範囲の上限及び下限が本 件明細書に記載の上限及び下限と一致しなければサポート要件に適合しない とはいい得ず、上限値及び下限値として、本件明細書に記載の数値範囲に含 まれる数値が記載されていれば足りると解される。
(3) 前記 2)について
ア 本件発明の課題について
前記1(1)の本件明細書の記載によれば、本件発明の課題は、次のとおり のものと理解できる。色収差の補正、光学系の高機能化、コンパクト化のために有用な光学素子用の材料となる、屈折率ndが1.800ないし1.850の範囲であり、 かつアッベ数 νdが41.5ないし44の範囲にあり(【0004】、【00 05】)、安定供給可能とするため、希少価値の高いGd、Taのガラス組成に占める割合が低減されており(【0006】)、近赤外域に吸収を有し、\nガラスの比重を増大させる成分であるYbのガラス組成において占める 割合が低減されており(【0007】)、熱的安定性に優れていてガラスを製 造する過程での失透が抑制され(【0008】)、機械加工に適するガラスを 提供すること(【0012】)。
イ 本件発明1の課題解決手段について
本件明細書には、Gd、Taがガラス組成に占める割合を低減させるた め、Ta2O5の含有量を5%以下とすること(【0034】)、La2O3、 Y2O3、Gd2O3及びYb2O3の合計含有量に対するGd2O3含有量 の質量比を0ないし0.05の範囲とすること(【0042】)を定め、Yb のガラス組成において占める割合を低減させるため、上記の、Yb2O3含 有量を3%以下とすること(【0038】)、熱的安定性に優れたガラスを提 供するため、液相温度が1150°C)以下であることがより一層好ましいと すること(【0206】)、機械加工に適するガラスを提供するため、ガラス 転移温度が640°C)以上であることが好ましいこと(【0198】)が記載 されており、これら本件明細書に記載からみて、本件組成要件及び本件物 性要件を満たすガラスは本件発明の課題を解決し得るものと認められる。 ところで、本件明細書には、本件組成要件及び本件物性要件の全部を満 たす実施例がそもそも記載されていない。さらに、本件発明の光学ガラス は多数の成分で構成されており、その相互作用の結果として特定の物性が実現されるものであるから、個々の成分の含有量と物性との間に直接の因\n果関係を措定するのが困難であることは顕著な事実である。そうすると、 前記(2)の好ましい数値範囲等の開示事項から直ちに、本件組成要件と本件 物性要件とを満たすガラスが製造可能であると当業者が認識できるものではなく、具体例により示される試験結果による裏付けを要するものとい\nうべきである。 そこで、そのような裏付けがされているといえるのかとの観点から、具 体例として掲記されている参考例1ないし33について検討を加える。
ウ 参考例について
本件明細書に記載された参考例1ないし33のうち、参考例1、5、1 6、21ないし24、27、28、30ないし32の12例は、本件組成 要件の全てと、本件物性要件のうち、構成要件C(ガラス転移温度)以外の3つの構\成要件を満たす具体例である。ここで、本件出願当時、光学ガラス分野においては、ターゲットとなる 物性を有する光学ガラスを製造する通常の手順として、既知の光学ガラス の配合組成を基本にして、その成分の一部を当該物性に寄与することが知 られている成分に置き換える作業を行い、ターゲットではない他の物性に 支障が出ないよう複数の成分の混合比を変更するなどして試行錯誤を繰 り返すことで、求める配合組成を見出すという手順を行うことは技術常識 であったと認められ(乙3ないし6)、また、この手順を行うに当たって、 当業者が、なるべく変更の少ないものから選択を開始することは、技術分 野を問わず該当する効率性の観点からみて自明な事項である。そして、前 記1(2)のとおり、本件明細書には、本件発明1の各組成要件に係る成分の 物性要件に対する作用について記載されており、当業者であれば、本件明 細書には本件発明1の物性要件を満たすような成分調整の方法が説明さ れていると理解できる。そうすると、当業者において、本件明細書で説明 された成分調整の方法に基づいて、参考例を起点として光学ガラス分野の 当業者が通常行う試行錯誤を加えることにより本件発明1の各構成要件を満たす具体的組成に到達可能\であると理解できるときには、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし 課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
そこで、次に、参考例の成分調整について具体的にみてみる。
エ 参考例の成分調整について
そうすると、本件明細書には、各成分と作用についての説明を基に、A 1)及びA7)のSiO2を増量し、又はA(12)のZnOを減量する成分調整す ることにより、上記各参考例のガラス転移温度を本件物性要件を充足する 範囲内に調整できることが説明されているといえ、光学ガラス分野の当業 者であれば、上記いずれかの方法に沿って技術常識である通常の試行錯誤 手順を行うことで本件組成要件及び本件物性要件を満たすガラスが得ら れ、それにより本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。 なお、実際に、甲11実験成績証明書には、(i)参考例5のガラスについ て、ZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb2O5に置換する改変例 (5改α)又はB2O3とSiO2に0.5質量%ずつ置換する改変例(5 改β)、(ii)参考例16のZnO(3.8質量%)の1質量%分を、Nb2 O5に置換する改変例(16改α)又はB2O3とSiO2に0.5質量% ずつ置換する改変例(16改β)、(iii)、参考例24のZnO(3.6質量%) の1質量%分を、Nb2O5に置換する改変例(24改α)又はB2O3と SiO2に0.5質量%ずつ置換する改変例(24改β)が、乙1実験成績 証明書には、(iv)参考例22のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、N b2O5に置換する改変例(22改α)又はB2O3とSiO2に0.5質 量%ずつ置換する改変例(22改β)、(v)参考例30のZnO(3.5質 量%)の1質量%分を、Nb2O5に置換する改変例(30改α)又はB2 O3とSiO2に0.5質量%ずつ置換する改変例(30改β)、(vi)参考例 31のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb2O5に置換する改変 例(31改α)又はB2O3とSiO2に0.5質量%ずつ置換する改変例 (30改β)、(vii)参考例32のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、 Nb2O5に置換する改変例(32改α)又はB2O3とSiO2に0.5 質量%ずつ置換する改変例(32改β)のように、いずれもZnOを減量 してSiO2を増量する改変において、本件組成要件と本件物性要件を全 て満たすガラスが得られたことが示されている。
・・・
原告の上記主張は当を得たものとはいえず、採用することができない(な お、原告は、知的財産高等裁判所がした別件判決(甲7)で示された「組 成要件で特定される光学ガラスが高い蓋然性をもって当該物性要件を満 たし得るものであることを、発明の詳細な説明の記載や示唆又はその出願 時の技術常識から当業者が認識できること」を本件におけるサポート要件 充足の判断基準とすべき旨を指摘するが、サポート要件の充足の有無は、 発明の課題との関係において認定されるべきものであるところ、同判決で は発明の課題を「所定の光学定数を有し、高屈折率高分散であって、かつ、 部分分散比が小さい光学ガラスを提供すること」としているのであり、こ のような、異なる発明における異なる課題において事例判断として示され た別件の理由中の判断を、そのまま本件に適用することは相当ではない。)。
エ 原告は、前記第3の1(4)イ及びウのとおり、本件明細書には、ガラス転 移温度や液相温度の測定条件等が十分には開示されておらず、本件明細書\nにおける試験の結果と甲11実験成績証明書又は乙1実験成績証明書に おける試験の結果とを単純に比較することはできない旨主張する。確かに、本件明細書には、ガラス転移温度の測定については、「示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、昇温速度を10°C)/分にして測定した。」(【0224】)と、液相温度については、「ガラスを所定温度に加熱された炉内に入れて2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無から液相温度を決定した。」(【0224】)と記載されており、その余の測定条件、判定条件等についての記載をうかがうことはできない。
しかしながら、本件明細書において、測定条件、判定条件等に特に記載 がなければ、それは技術常識に従い標準的な測定方法によってされたもの と理解されるべきものであるといえる。他方、甲11実験成績証明書及び 乙1実験成績証明書におけるガラス転移温度の測定は、ネッチ・ジャパン 株式会社製の示差走査熱量計「DSC3300SA」を用い、昇温速度を 10°C)/分にし、その他の測定条件については同熱量計の取扱説明書に記 載された条件において測定し、液相温度については、光学ガラスを5cc ずつ白金製坩堝に入れ、1140°C)に加熱された炉内に入れて2時間保持 し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無を 確認して測定したものと認められる(甲11、乙1、2)から、標準的な 機器を用いて標準的な手法を用いたものということができる。そうすると、 本件明細書における試験と甲11実験成績証明書及び乙1実験成績証明 書における試験とは当業者が自然において選択する同一の測定条件・判定 条件の下に行われたと推認することができるのであり、これと異なる認定 をすべき事情もうかがわれない。したがって、本件明細書に試験条件、判 定条件の詳細の記載がないからといって甲11実験成績証明書又は乙1 実験成績証明書と対比ができないものではないし、本件明細書の記載から 課題が解決できる範囲と認められる当業者の認識を左右するものでもな い。よって、原告の上記主張を採用することはできない(なお、1140°C) で結晶が析出したにせよ、その後の冷却過程で結晶が析出したにせよ、い ずれにせよ、少なくとも1140°C)を超える温度では結晶が析出したとは 判定できない以上、液相温度を1140°C)以下と判定することの支障にな るとはいい難い。)。
・・・
(5) 小括
以上のとおり、本件明細書で説明された成分調整の方法をもとに、光学ガ ラス分野の当業者が通常行う試行錯誤により参考例を起点として本件発明1 の各構成要件を満たす具体的組成に到達可能\であると理解できるといえるか ら、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術 常識に照らし課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
4 本件発明2、3、6、7、9、10、12ないし14について
上記各発明は、本件発明 1 の従属項に係る発明であるところ、原告は、これ ら発明について、引用に係る本件発明1についてサポート要件違反がある旨主 張し、これら各発明が本件発明 1 を限定した固有の部分に対する別個のサポー ト要件違反の主張はしていないから、本件発明 1 にサポート要件違反がないの であれば、これら発明についてもサポート要件違反は認められない。

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令和4(行ケ)10010 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年4月6日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁も結論は同様です。なお、審判では基礎出願2に基づく優先権は認められていましたが、知財高裁はこれを否定しました。

6 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り)について
(1) 優先権について
ア 本件出願について、被告が基礎出願1又は2に基づく優先権を主張できるか 否かについて検討する。
イ(ア) 基礎出願1及び2がされた平成22年6月ないし7月頃時点で、一定のリ ソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素の一定量をリソソ\ーム蓄積症の患者のし かるべき組織等に送達することができれば、治療効果を生ずること自体は技術常識 となっていた一方で、どのような方法で補充酵素を有効に送達することができるか について検討が重ねられており、本件出願がされた平成29年9月においても、そ のような状況がなお継続していたものと認められる(甲1〜4、16、17、55、 56、弁論の全趣旨)。
本件発明1は、リソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物 であって、脳室内投与されることを特徴とするものであるところ、上記の技術常識 及び前記1(2)の本件発明の概要を踏まえると、本件発明1の薬学的組成物につい ても、中枢神経系(CNS)への活性作用物質の送達をいかに有効に行うかという 点がその技術思想において一つの重要部分を占めているものというべきである。
(イ) この点、本件明細書の【0005】には、「髄腔内(IT)注射または脳脊髄 液(CSF)へのタンパク質の投与・・・の処置における大きな挑戦は、脳室の上 衣内張りを非常に堅く結合する活性作用物質の傾向であって、これがその後の拡散 を妨げた」、「脳の表面での拡散に対するバリア・・・は、任意の疾患に関する脳に\nおける適切な治療効果を達成するには大きすぎる障害物である、と多くの人々が考 えていた」との記載があり、【0009】には、「リソソ\ーム蓄積症のための補充酵 素が高濃度・・・での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導 入され得る、という予期せぬ発見」という記載がある。\nまた、甲17の「発明の背景」においても、高用量の治療薬を必要とする疾患に ついて髄腔内ルートの送達に大きな制限があり、濃縮された組成物の調製にも問題 がある旨が記載されていた(前記5(2)カ及びキ)。
さらに、基礎出願2がされた翌年である平成23年に発行された乙6(「Drug transport in brain via the cerebrospinal fluid」Pardridge et al., Fluids and Barriers of the CNS 2011 8:7)においても、CSFから脳実質への薬物浸透 は極めて僅かであり、脳への薬物の浸透がCSF表面からの距離とともに指数関数\n的に減少するため、高濃度の薬物を投与する必要があるが、上位表面は非常に高い\n薬物濃度にさらされており有毒な副作用を示す可能性があることなどが記載されて\nいた。その更に翌年である平成24年に発行された乙13(「CNS Penetration of Intrathecal-Lumbar Idursulfase in the Monkey, Dog and Mouse: Implications for Neurological Outcomes of Lysosomal Storage Disorder」 Calias P. et al. PLoS One, Volume 7, Issue 1, e30341)には、「本研究は、組換えリソソ\ームタン パク質の直接的なCNS投与によって、投与されたタンパク質の大多数が脳に送達 され、カニクイザル、イヌ両方の脳および脊髄のニューロンに広範囲に沈着するこ とを、初めて示した研究である。」と記載されている。
そうすると、少なくとも基礎出願2がされた平成22年7月頃においては、CN S送達のための組成物として特定の組成物の組成等が開示された場合であっても、 当該組成等から直ちにその脳への送達の程度や治療効果を推測等することは困難で あることが技術常識であったものと認められる。 このことは、甲17に、「本明細書で用いる場合、「中枢神経系への送達に適して いる」という語句は、それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、この ような組成物の安定性、耐(忍)容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例 えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのよう な組成物の能力を指す。」(前記5(5)ナ)として、「標的送達部位(例えば、CSF または脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能\n力」が「送達に適している」ということの意味内容に含まれることが明記されてい ることとも整合するものといえる。
(ウ) 他方で、本件明細書の【0085】には、「いくつかの実施形態では、本発明 による髄腔内送達は、末梢循環に進入するのに十分な量の補充酵素を生じた。その\n結果、いくつかの場合には、本発明による髄腔内送達は、肝臓、心臓および腎臓の ような末梢組織における補充酵素の送達を生じた。この発見は予期せぬものであ・・・\nる。」との記載があり、標的組織への送達について、【0132】には、「本発明の意 外な且つ重要な特徴の1つは、本発明の方法を用いて投与される治療薬、特に補充 酵素、ならびに本発明の組成物は、脳表面全体に効果的に且つ広範囲に拡散し、脳\nの種々の層または領域、例えば深部脳領域に浸透し得る、という点である。さらに、 本発明の方法および本発明の組成物は、現存するCNS送達方法、例えばICV注 射では標的化するのが困難である脊髄の出の組織、ニューロンまたは細胞、例えば 腰部領域に治療薬(例えば、補充酵素)を効果的に送達する。さらに、本発明の方 法および組成物は、血流ならびに種々の末梢器官および組織への十分量の治療薬(例\nえば、補充酵素)を送達する。」との記載があり、【0133】においては、実施形 態により、「治療用タンパク質(例えば、補充酵素)」が、対象の「中枢神経系」に 送達され、あるいは「脳、脊髄および/または末梢期間の標的組織のうちの1つ以 上」に送達され、また、「標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末 梢標的組織であり得る。」などと記載された上で、【0134】以下で特に「脳標的 組織」について説明がされ、そして、実施例においても、例えば、実施例1ではI T投与が、実施例3ではICV投与及びIP(腹腔内)投与が、実施例5、実施例 10及び実施例13ではIT投与及びICV投与が用いられるなどしている。
そして、証拠(甲2〜5。後記7(1)〜(4)参照)のほか、本件明細書の記載内容 に照らしても、CNSへの酵素の送達においては、ICV投与とIT投与とは、そ れぞれ別個の投与態様として取り扱われ、組織への酵素の送達に関する実験やその 結果の評価においても、それらは別個に取り扱われること、換言すると、ICV投 与とIT投与の相応に密接な関連性を考慮しても、ICV投与による実験データと IT投与による実験データとを直ちに同一視することはできないことが、平成22 年7月頃における技術常識であったことが認められるというべきである。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)の技術常識を踏まえると、本件発明1が甲17に記載されて いた発明であると認められるためには、甲17に、本件発明1の組成物が実質的に 記載されていたものと認められるのみならず、甲17に、本件発明1の組成物によ る送達の効果が、ICV投与した場合のものとして、実質的に記載されていたと認 められる必要があるというべきである。
ウ(ア) その上で、甲17の記載を見るに、まず、「発明の背景」の記載(前記5(2)) は、専ら背景技術について説明するものである。「発明の概要」の記載(同(3))に は、本件発明1の組成物に含まれる組成物の記載があるといえるが、当該組成物が どのように送達されて治療効果を奏するのかについては記載がない。そして、「発明 の詳細な説明」(同(5))を見ても、組成物の構成やその使用方法に関する一般的な\n記載はみられるものの、どのように送達されて治療効果を奏するのかについて具体 的な記載はない。
(イ) 甲17の実施例1(前記5(6))には、15mg/mLのタンパク質濃度のリ ソソ\ーム酵素を含む組成物で、pH6〜7であってリン酸塩を含むものが記載され ていると見ることができるが、具体的にどのような酵素が用いられたかは不明であ り、また、どのような領域まで送達されて治療効果を奏するかについても記載がな い。
(ウ) 甲17の実施例2(前記5(7))には、「酵素治療薬の使用による繰り返しI T−脊椎投与の毒性及び安全性薬理を評価」や「酵素投与群」との記載はあるが、 酵素の種類も濃度も不明であり、また、どのような領域まで送達されて治療効果を 奏するかについても記載がない(なお、対照群との差異もみられていない。)。
(エ) 甲17の実施例3(前記5(8))には、用量1.0mL中酵素14mgとして 調製された酵素と、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0. 005%のポリソルベート20をpH7.0で含むビヒクルにより作成された製剤\nが髄腔内投与されたことの記載があるが、図5を含めて見ても、主に有害な副作用 の有無等が検討されたものと解され、治療効果については記載がない。
(オ) なお、甲17の図2には、30mg用量の髄腔内投与後のリソソ\ーム酵素の ニューロンへの分布が示され、尾状核のニューロンにリソソ\ーム酵素が認められた ことが示されているが、どのような組成物が投与されたのかも不明である。
(カ) さらに、甲17には、投与の態様としてICV投与とIT投与とが選択的な ものである旨は記載されているといえる一方で、いずれの方法によっても同様に送 達され得る旨等を明らかにする記載もないから、前記(ウ)〜(オ)は、ICV投与した 場合のものとして、本件発明1の組成物による送達の効果を記載するものでもない。
エ 以上によると、甲17には、本件発明1が記載されているものとは認められ ず、本件発明2〜8及び12についてこれと異なって解すべき事情も認められない から、本件出願について、基礎出願2に基づく優先権を主張することはできない。 基礎出願1についても、基礎出願2と異なって解すべき事情はない。
これと異なる被告の主張は、いずれも採用することができない。ICV投与とI T投与において、組成物はいずれの場合でもCSFに投与されるものであり、その ためそれらの間に処方としての共通性や標的組織等への送達における相応の関連性 があるということができたとしても、そのことをもって、具体的な送達の程度や治 療効果についてまで、一方の投与態様についての実験結果等の記載をもって直ちに 他方についての記載と実質的に同視することができるとの技術常識は認められない。 被告の主張は、甲16及び17の記載内容を、本件明細書の記載内容を前提にしな がら解釈しようとするものであって相当でない。
(2) 甲6が公知文献とされなかったことが直ちに取消事由に当たるかについて
ア 原告は、取消訴訟の審理範囲を根拠として、本件審決に当たり甲6を副引用 例として考慮しなかった本件審決は、優先権に係る判断の誤りによって直ちに取り 消されるべきである旨を主張するので検討する。
イ(ア) 証拠(甲61、62)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件審判請求においては、本件発明1の進歩性に係る無効理由として、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ甲5〜10を適用すること(甲5の適用については、甲5技術と実質的に同一の内容が主張されていた。)により容易想到である旨を主張し、その中で、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を主張する一方、甲6発明(ビヒクル)については主張していなかったことが認められる。本件審決は、基礎出願2に基づく優先権の主張を認めたことから、副引用例としての甲6記載の発明の適用について検討するには至らなかったが、上記のとおり、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を副引用例とする範囲で、審判手続においても審理の対象となっていたものであって、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ上記副引用例を組み合わせることにより進歩性を欠くという無効理由自体は、審判手続において審理対象となっていたものである。
(イ) そして、本件審決は、甲2発明ないし甲4発明と本件発明の相違点について、 甲5及び7〜10を適用して容易想到であるといえるか否かについて判断した一方、 優先権主張を認めたことから甲6は除外し、それゆえ相違点に係る本件発明の構成\nについての甲6発明(製剤)の適用について具体的には判断しなかったものの、甲 2発明ないし甲4発明に甲6発明(製剤)を適用することにより本件発明は容易想 到であるという旨の原告の主張自体については、これを認めることができないとの 判断を示したものである。
(ウ) 原告は、本件訴訟において、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とした上で、 前記(ア)及び(イ)のとおり本件審決で排斥された甲5技術の適用による容易想到性の 主張のほか、甲6に基づき、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を副引用 例として主張するとともに、甲6が技術常識(エリオットB溶液の技術常識及び高 濃度化の技術常識)を補足するものである旨を主張しているところ、本件訴訟にお いて、容易想到性が争いとなっている本件発明の構成(甲2発明ないし甲4発明と\nの間の各相違点)は、本件審決で判断されたものと基本的に同じであり、甲6発明 (製剤)や甲6発明(ビヒクル)の適用に当たり、本件審決で判断されたもの以外 の相違点が問題になるなどといった事情はない。
(エ) 前記(ア)のとおり、甲6の適用については審判手続においても問題とされ、当 事者双方において攻撃防御を尽くす機会はあったといえる。この点、証拠(甲6、 16、17、乙14、24。なお、訳文として甲6の2・3、乙36)及び弁論の 全趣旨によると、甲6は、基礎出願1及び2がされて間もない平成22年7月2日 に公衆に利用可能となった雑誌「注射可能\なドラッグデリバリー2010:製剤フ ォーカス」に掲載された「CNSが関与する遺伝学的疾患を治療するためのタンパ ク質治療薬の髄腔内送達」と題する論文であるところ、同論文は、基礎出願1及び 2に関わった研究者も関与して行われた研究発表に係るものであって、本件発明と\n同様の技術分野に属するもの、すなわち、酵素補充療法において、中枢神経系(C NS)病因を有する疾患の処置に係るリソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素 を含む薬学的組成物に関連するもの(前記1(2)ア)と解されるほか、その記載内容 は、かなりの部分甲16及び17と重なり合うものである。そのような甲6の性質 や、甲16及び17と本件発明との関係についても優先権主張の可否という形では あるが各当事者において攻撃防御を尽くす機会があったというべきことを考慮する と、上記のように審判手続において各当事者に与えられていた甲6の適用について 攻撃防御を尽くす機会は、実質的な機会であったといえる。
(オ) 以上の事情の下では、本件審決においては副引用例としての甲6発明(製剤) の適用が具体的には判断されるに至らず、また、甲6発明(ビヒクル)については そもそも審判段階で問題となっていなかったこと(この点、被告は、甲6発明(ビ ヒクル)を適用しての容易想到性に係る原告の主張について、特にそれが審理範囲 外であるとして争ってはいない。)を考慮しても、本件訴訟において、審判手続にお いて審理判断されていた甲2発明ないし甲4発明との対比における無効原因の存否 の認定に当たり、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を適用することによ って容易想到性の有無を判断することが、当事者に不測の損害を与えるものではな く、違法となるものではない。最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月1 0日大法廷判決・民集30巻2号79頁は、本件のような場合について許されない とする趣旨とは解されない。
(3) 以上によると、取消事由1は、優先権の判断の誤りという限度において理由 があるが、それをもって直ちに本件審決を取り消すべきという結論において、理由 がない。そこで、以下、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とする容易想到性の主張に係る取消事由5〜7について、検討する。

◆判決本文

当事者が同じ関連事件です。

◆令和4(行ケ)10022

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令和4(行ケ)10029  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月27日  知的財産高等裁判所

特許異議申し立てにより、取り消された特許権について、知財高裁は、審判の判断を破棄しました。特許異議申\立で取り消しが成立することも珍しいですが、さらにその審決が取り消されることも珍しいです。争点は、進歩性、サポート要件・実施可能要件です。\n

発明の詳細な説明が物の発明について実施可能要件を満たすためには、当\n業者が発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の 試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の 記載があることを要するものと解される。
(2) 本件では、長細状凸部ループ構造を有し、光学三特性を有する防眩層を備\nえる第1実施形態に係る防眩フィルムにより本件各発明を実施できることは 当事者間に争いはない。しかし、本件各発明は、光学三特性を満たす防眩層 を備えることを要するものの、特許請求の範囲においては、その構造は限定\nされておらず、長細状凸部ループ構造以外の構\造のものも本件各発明に含ま れるものと解される。そこで、本件明細書等の記載に長細状凸部ループ構造\n以外の構造のものが含まれているといえるか否かを検討する。\nまず、本件明細書等の段落【0034】には、[防眩層の構造]として、「第\n1実施形態の防眩層3は、複数の樹脂成分の相分離構造を有する。防眩層3\nは、一例として、複数の樹脂成分の相分離構造により、複数の長細状(紐状\n又は線状)凸部が表面に形成されている。長細状凸部は分岐しており、密な\n状態で共連続相構造を形成している。」と記載されている。それに続く段落\n【0035】には、「防眩層3は、複数の長細状凸部と、隣接する長細状凸部 間に位置する凹部とにより防眩性を発現する。防眩フィルム1は、このよう な防眩層3を備えることで、ヘイズ値と透過像鮮明度(写像性)とのバラン スに優れたものとなっている。防眩層3の表面は、長細状凸部が略網目状に\n形成されることにより、網目状構造、言い換えると、連続し又は一部欠落し\nた不規則な複数のループ構造を有する。」として、長細状凸部ループ構\造につ いて記載されているが、この段落【0035】の記載は、第1実施形態の防 眩層として、長細状凸部ループ構造以外の相分離構\造を否定しているものと は認められない。
また、本件明細書等には、第1実施形態において、共連続相構造だけから\nなる形状のほかに、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構\造(球 状、真球状、円盤状や楕円体状等の独立相の海島構造)との中間的構\造も形 成できることが記載されているし(段落【0072】)、相分離により層表面\nに微細な凹凸を形成することで、防眩層中に微粒子を分散させなくても防眩 層のヘイズ値を調整できることが記載されており(段落【0073】)、共連 続相構造に限定しない微細な凹凸を形成することが示唆されているといえる。\nそして、本件明細書等の段落【0134】には「実施例1〜6は、相分離 構造を基本構\造として防眩層3を形成するものである。」と記載されている ものの、全ての実施例が長細状凸部ループ構造であるとは記載されていない\nし、甲47(実施例3及び6の防眩フィルムの顕微鏡写真)の実施例3の防 眩フィルムの表面形状・構\造を撮影した写真からは、長細状凸部ループ構造\nとまではいえない凹凸形状が形成されていることが認められるから、第1実 施形態の凹凸構造として、長細状凸部ループ構\造以外の凹凸構造をも製造す\nることができると認められる。さらに、長細状凸部ループ構造以外の凹凸構\ 造が形成され、かつ光学三特性を備える防眩フィルムとして、甲47の実施 例3の凹凸構造しか製造できないことを示す証拠はない。\nそうすると、第1実施形態の防眩層には、長細状凸部ループ構造以外の凹\n凸構造のものが含まれており、そのようなものも含め、当業者であれば、少\nなくとも第1実施形態により、光学三特性を満たす本件各発明に係る防眩層 を、過度の試行錯誤なく製造できるものと認められる。 したがって、本件明細書等には、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出 願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を 製造し、使用することができる程度の記載があると認められる。
(3) この点に関し、被告は、本件各発明は、第1構造防眩層を備えた防眩フィ\nルムのみならず、第2構造防眩層及び第3構\造防眩層を備えた防眩フィルム を含むにもかかわらず、本件明細書等には、実施例として第1構造防眩層に\nついて示されているにすぎず、第2構造防眩層及び第3構\造防眩層について は、具体的製造例や光学三特性の測定結果等の記載はなく、凹凸をどのよう に形成すればよいか等について何らの示唆もない旨、原告が光学三特性を得 るための構造として主張する構\造は、第1構造防眩層を上位概念化したもの\nであり、それによって直ちに光学三特性を得られるものではない旨主張し、
そのため、光学三特性のパラメータの数値範囲を満たす第2構造防眩層及び\n第3構造防眩層を製造するには過度の試行錯誤を要すると主張する(前記第\n3の2〔被告の主張〕)。
しかし、第2実施形態または第3実施形態により、第1実施形態では製造 できない防眩フィルムを製造することは、本件明細書等には記載されていな い。むしろ、本件明細書等の段落【0079】には、「第1実施形態において 前述したスピノーダル分解によって、このような凹凸を防眩層に形成できる が、その他の方法によっても、このような凹凸を防眩層に形成できる。例え ば第2実施形態のように、防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒\n子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤と の斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適 度な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形\n成できる。」と記載され、第1実施形態のような凹凸を他の方法で形成できる とした上で、その一例として第2実施形態の方法で形成することが示されて いるし、また、本件明細書等の段落【0079】には、上記の記載に続けて、 「そこで以下では、その他の実施形態の防眩層について、第1実施形態との 差異を中心に説明する。」と記載され、以下に、第2実施形態(段落【008 0】ないし【0102】)、第3実施形態(段落【0103】ないし【011 5】)の説明が続けてされているから、第3実施形態は、第1実施形態によっ て得られる凹凸を形成する「その他の方法」の一つであると解するのが自然 である。そして、本件各発明に含まれる防眩フィルムであって、第1実施形 態以外の方法により作成できない防眩フィルムの存在やその態様を裏付ける 証拠はない。そうすると、第1実施形態により作成できる防眩フィルムを、 第2実施形態や第3実施形態によっても作成できるものと認められ、仮に、 第1実施形態により作成できる防眩フィルムの中に、第2実施形態や第3実 施形態により作成できないものがあったとしても、それにより、第1実施形 態により本件各発明が実施可能であることが否定されるものではない。\n
なお、第2実施形態により製造された第2構造防眩層、第3実施形態によ\nり製造された第3構造防眩層の中に、第1構\造防眩層とは異なる形状・構造\nを有するものがあり、それらが本件各発明の光学三特性を満たさなかったと しても、それらは本件各発明を実施するものではないというにとどまり、そ れによって本件各発明の実施可能性が否定されるわけではない。\n

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令和3(行ケ)10094 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月26日  知的財産高等裁判所

無効理由無し(サポート要件)とした審決が取り消されました。なお、別訴と結論が異なる点については付言で、鑑定書等の新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたので問題ないと説明されています。

これらの開示事項を踏まえると、本件明細書の発明の詳細な説明には、 31H4抗体と競合するものであり、かつ、PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和する抗体として、31H4抗体とアミノ酸配列が異 なる互いにアミノ酸配列の同一性が高いグループの抗体が開示されてい ることが認められる。
ア 以上を前提に検討すると、前記 において説示したとおり、サポート要 件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載 とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記 載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示 唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決で きると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ ると解するのが相当であるところ、前記1 において示したとおり、本件 発明は、LDLRタンパク質の量を増加させることにより、対象中のLD Lの量を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を 奏し、また、この効果により、高コレステロール血症などの上昇したコレ ステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを\n低減すること、そのために、LDLRタンパク質と結合することにより、 対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるP CSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医 薬組成物を提供することを課題とするものであり、PCSK9とLDLR タンパク質との結合を強く遮断する中和抗体である参照抗体と競合する抗 体は、PCSK9への参照抗体の結合を妨げ、又は阻害する単離されたモ ノクローナル抗体であることを明らかにするものであると理解される。
そして、前記 によれば、本件発明における「中和」とは、タンパク質 結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作 用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節する以外に、間接的な手段(リ ガンド中の構造的又はエネルギー変化等)を通じてLDLRタンパク質に\n対するPCSK9の結合能を変化させる態様を含むものであるが、前記1\nのとおり、参照抗体自体が、結晶構造上、LDLRのEGFaドメイン\n(PCSK9の触媒ドメインに結合するものであり、その領域内に存在す るPCSK9残基のいずれかと相互作用し、又は遮断する抗体は、PCS K9とLDLRとの間の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る とされるもの)の位置と部分的に重複する位置でPCSK9とLDLRタ ンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体であ ると認められることを踏まえると、本件発明における「PCSK9との結 合に関して、31H4抗体と競合する」との発明特定事項も、31H4抗 体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、L DLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して(具体的には、抗体が結晶構\n造上、LDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置でPCSK9に 結合して)、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮 断し、低下させ、又は調節することを明らかにする点に技術的意義がある ものというべきであり、逆に言えば、参照抗体と競合する抗体は、このよ うな位置で結合するからこそ、中和が可能になるということもできる。こ\nの点は、被告自身が、前記第3の3 ウにおいて、本件明細書の発明の詳 細な説明によれば、当業者は、出願時の技術常識に照らし、参照抗体との 競合によってPCSK9上の複数の結合面のうち特定の領域内の特定の 位置(LDLRのEGFaドメインと結合する部位と重複する位置(又は 同様の位置))に結合する抗体は、PCSK9とLRLRタンパク質の結合 を中和することができると理解するものであり、発明の技術的範囲の全体 にわたって発明の課題を解決できると認識することができたといえる旨 主張していることからも裏付けられるところである。
また、前記1 において認定した甲1文献の開示事項によれば、家族性 高コレステロール血症は、血漿中のLDLコレステロールレベルの上昇に 起因するものであるところ、PCSK9は、細胞表面に存在するLDLR\nタンパク質の存在量を低下させるものであるため、PCSK9が治療のた めの魅力的な標的であり、血漿中のPCSK9に結合し、そのLDLRタ ンパク質との結合を阻害する抗体等が効果的な阻害剤となり得ることが 既に示されていたものと認められるのであるから、このような観点から見 ても、本件発明の技術的意義は、31H4抗体と競合する抗体であれば、 31H4抗体と同様のメカニズムにより、上記のようなLDLRタンパク 質との結合を阻害する抗体、すなわち結合中和抗体としての機能的特性を\n有することを特定した点にあるということもできる。そもそも本件発明の 課題は、前記1 イにおいて認定したとおり、LDLRタンパク質と結合 することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの 量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗 体又はこれを含む医薬組成物を提供することであり、このような課題の解 決との関係では、参照抗体と競合すること自体に独自の意味を見出すこと はできないから、このような観点からも、上記のとおり、本件発明の技術 的意義は、31H4抗体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同様の メカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有することを特定\nした点にあるというべきである。
イ さらに検討すると、前記 イ のとおり、本件明細書の発明の詳細な説 明には、エピトープビニングを行った結果、31H4抗体と同一性が高い とはいえないアミノ酸配列を有するグループの抗体が31H4抗体と競 合するものとして同定されたことが開示されている。本件明細書には、上 記競合する抗体として同定された抗体の中で中和活性を有すると記載さ れる抗体がPCSK9上へ結合する位置についての具体的な記載はなさ れておらず、31H4抗体とアミノ酸配列が異なるグループの抗体につい ては、エピトープビニングのようなアッセイで競合すると評価されたこと をもって、抗体がPCSK9上に結合する位置が明らかになるといった技 術常識は認められない以上、PCSK9上で結合する位置が明らかとはい えない。
また、本件発明の「PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する」 との性質を有する抗体には、上記本件明細書の発明の詳細な説明に具体的 に記載される数グループの抗体以外に非常に多種、多様な抗体が包含され ることは自明であり、また、前記2 イのとおり、このような抗体には、 被告が主張するように、31H4抗体がPCSK9と結合するPCSK9 上の部位と重複する部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻 害する(例えば、低下させる)抗体にとどまらず、参照抗体とPCSK9 との結合を立体的に妨害する態様でPCSK9に結合し、様々な程度で参 照抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下 させる)抗体をも包含するものである。そうすると、その中には、例えば、 31H4抗体がPCSK9と結合する部位と異なり、かつ、結晶構造上、\n抗体がLDLRのEGFaドメインの位置とも異なる部位に結合し、31 H4抗体に軽微な立体的障害をもたらして、31H4抗体のPCSK9へ の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)もの等も含ま れ得るところ、このような抗体がPCSK9に結合する部位は、抗体が結 晶構造上、LDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置ではないの\nであるから、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して、PCSK9 とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は 調節するものとはいえない。
なお、本件明細書には「例示された抗原結合タンパク質と同じエピトー プと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質及び断片は、類似の機能的\n特性を示すと予想される。」(【0269】)との記載があるが、上記のとお\nり、「PCSK9との結合に関して31H4抗体と競合する」とは、31H 4抗体と同じ位置でPCSK9と結合することを特定するものではない から、31H4抗体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同じエピト ープと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質(抗体)であるとはいえ ず、このような抗体全般が31H4抗体と類似の機能的特性を示すことを\n裏付けるメカニズムにつき特段の説明が見当たらない以上、本件発明の 「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する抗体」が31H 4抗体と「類似の機能的特性を示す」ということはできない。\n前述のとおり、本件発明の技術的意義は、31H4抗体と競合する抗体 であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とLDL Rタンパク質との結合を中和する抗体としての特性を有することを特定 する点にあるというべきところ、前記のとおり、31H4抗体と競合する 抗体であれば、LDLRのEGFaドメインと相互作用する部位(本件明 細書の記載からは、EGFaドメインの5オングストローム以内に存在す るPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相 互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残基(コア残基)、EGFaド メインの5オングストロームから8オングストロームに存在するPCS K9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相互作用界 面の境界PCSK9アミノ酸残基と理解され得る。)に結合してPCSK 9とLDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖するとはいえず、他には、 31H4抗体と競合する抗体であれば、どのようなものであっても、PC SK9とLDLRのEGFaドメイン(及び/又はLDLR一般)との間 の相互作用(結合)を阻害する抗体となるメカニズムについての開示がな い以上、当業者において、31H4抗体と競合する抗体が結合中和抗体で あるとの理解に至ることは困難というほかない。
ウ 以上のとおり、「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する 抗体」であれば、31H4抗体と同様に、LDLRタンパク質の結合部位 を直接封鎖して(具体的には、抗体が結晶構造上、LDLRのEGFaド\nメインの位置と重複する位置でPCSK9に結合して)、PCSK9とL DLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節 するものであるとはいえないから、「PCSK9との結合に関して、31H 4抗体と競合する抗体」であれば、結合中和抗体としての機能的特性を有\nすると認めることもできない。なお、前記 アのとおり、本件発明におけ る「中和」とは、PCSK9とLDLRタンパク質結合部位を直接封鎖す るものに限らず、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー変化\n等)を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させ\nる態様を含むものではあるが、「PCSK9との結合に関して、31H4抗 体と競合する抗体」であれば、上記間接的な手段を通じてLDLRタンパ ク質に対するPCSK9の結合能を変化させる抗体となることが、本件出\n願時の技術常識であったとはいえないし、本件明細書の発明の詳細な説明 に開示されていたということもできない。
エ こうした点は、前記1 においてその信頼性を認定した【A】博士の実 証実験の結果及び同実証実験を踏まえた【B】博士の供述書 からも裏付 けられる。すなわち、この実証実験は、リジェネロンの63の抗体につい て参照抗体との競合及び結合中和性を実験したものであるが、競合に関し て50%の閾値を用いた結果、34の抗体が参照抗体と競合するが、うち 28の抗体(80%よりも多く)は結合中和性を有しないことが確認され ており(別紙3の資料B1及び前記1 ア b)、参照抗体と競合する抗体 であれば結合中和性を有するものとはいえないことが具体的な実験結果 として示されている。さらに、この実験結果に加え、「本件特許によれば、 31H4抗体の結合部位はhPCSK9上のLDLRの結合部位と部分 的にしか重複しないから・・別の抗体の結合部位は、LDLRの結合部位 と重複することなく31H4結合部位と重複し得るのであり、このように して、別の抗体は、hPCSK9−LDLRの結合部位と重複することな く31H4結合部位と重複し得」る(前記1 ア b)として、【B】博士 が、「31H4抗体と競合する抗体・・・の全てが結合を中和する効果を有 するだろうというのは確実に誤りである。」旨の意見を述べているところ である(前記1 ア c)。
オ 被告は、前記第3の3 ウにおいて、31H4抗体(参照抗体)と競合 するが、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和できない抗体が 仮に存在したとしても、そのような抗体は、本件発明1の技術的範囲から 文言上除外されているなどとして、本件発明がサポート要件に反する理由 とはならない旨主張する。しかし、既に説示したとおり、31H4抗体と 競合する抗体であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、PCS K9とLDLRタンパク質との結合中和抗体としての機能的特性を有す\nることを特定した点に本件発明の技術的意義があるというべきであって、 31H4抗体と競合する抗体に結合中和性がないものが含まれるとする と、その技術的意義の前提が崩れることは明らかである(本件のような事 例において、結合中和性のないものを文言上除けば足りると解すれば、抗 体がPCSK9と結合する位置について、例えば、PCSK9の大部分な どといった極めて広範な指定を行うことも許されることになり、特許請求 の範囲を正当な根拠なく広範なものとすることを認めることになるから、 相当でない。)。なお、被告が主張するように、本件発明1の特許請求の範 囲は、PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する抗体のうち、「P CSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」る抗体のみ を対象としたものであると解したとしても、前示のとおり、本件発明のP CSK9との競合に関して、参照抗体と競合するとの発明特定事項は、被 告が主張するような、参照抗体が結合する位置と同一又は重複する位置に 結合する抗体にとどまるものではなく、PCSK9とLDLRタンパク質 の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体をも含 むものであるから、このような抗体についても結合中和抗体であることが サポートされる必要があるところ、参照抗体が結合する位置と同一又は重 複する位置に結合する抗体の場合とは異なり、PCSK9とLDLRタン パク質の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体 が結合を中和するメカニズムについては本件明細書には何らの記載はな く、また、ビニングによる実験結果(前記 イ )に基づく結合中和抗体 は、いずれも結合中和に係るメカニズムが開示されている、参照抗体が結 合する位置と同一又は重複する位置に結合する抗体である可能性が高く、\nその点を措くとしても、少なくともこれらが立体的に妨害する抗体である ことを示唆する記載はない。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明 には、参照抗体と競合する抗体のうちPCSK9とLDLRタンパク質と の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体が結合 中和活性を有することについて何らの開示がないというほかなく、この点 からも、本件発明はサポート要件を満たさない。
また、前記第2の3 のとおり、本件審決は、本件明細書には、本件明 細書記載の免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウ スの作製及び選択、選択された免疫化マウスを使用したハイブリドーマの 作製、本件明細書記載のPCSK9とLDLRとの結合相互作用を強く遮 断する抗体を同定するためのスクリーニング及びエピトープビニングア ッセイを最初から繰り返し行うことによって、十分に高い確率で本件発明\nの抗体をいくつも繰り返し同定することが具体的に示される旨判断する が、【F】(【F】)教授(【F】教授という。)の第2鑑定書(甲230)に 「特定のマウスが特定の抗体を生成するかどうかは運に支配されるため、 候補となり得る抗体を全て生成しスクリーニングすることは不可能であ\nる」と記載されているように、本件明細書に記載された抗体の作製過程を 経たとしても、免疫化されたマウスの中でPCSK9上のどのような位置 に結合する抗体が得られるかは「運に支配される」ものであって、抗体の 抗原タンパク質への結合を立体的に妨害する態様で抗原タンパク質に結 合する抗体を製造する方法が本件出願時における技術常識であったとも いえないことからすると、本件明細書に記載された抗体の作製方法に関す る記載をもって、本件発明に含まれる多様な抗体が本件明細書の発明の詳 細な説明に記載されていたとはいえない。
カ そして、本件発明1のモノクローナル抗体を含む医薬組成物に係る発明 である本件発明5も、上記同様の理由から、サポート要件を満たすもので はない。
以上によれば、本件発明1及び5は、いずれもサポート要件に適合するも のと認められないから、これと異なる本件審決の判断は誤りである(なお、 原告の主張のうち前記第3の3 イ の「EGFaミミック抗体」に係る点 は首肯するに値するものを含み、サポート要件が満たされているとする被告 の主張に疑義を生じさせるものと考えるが、この点に関する判断をするまで もなく、上記のとおり、本件発明1及び5は、いずれもサポート要件に適合 するものとは認められないから、更なる判断を加えることは差し控えること とする。)。
以下、念のために付言する。
ア 本件発明を巡る国際的状況について、原告は、欧州では、異議申立抗告\n審において、令和2年に、本件発明と実質的に同じ対応欧州特許について、 進歩性欠如により無効であると判断されており、また、米国では、合衆国 連邦巡回区控訴裁判所において、令和3年2月11日に、本件発明より限 定された対応米国特許につき、実施可能要件違反により無効であると判断\nされており、現在、我が国は、本件特許の有効性が裁判所により維持され ている世界で唯一の国である旨主張し、他方、被告は、上記連邦巡回区控 訴裁判所の判断につき、連邦最高裁判所は、令和4年11月4日に、裁量 上告受理申立てを認めたので、上記判断が覆される可能\性が極めて高い旨 主張するが、もとより、他国における判断が本件判断に直ちに影響を与え るものではないことは明らかである(なお、米国については、仮に、連邦 巡回区控訴裁判所の無効判断が覆されたとしても、対応米国特許は、参照 抗体との「競合」を発明特定事項とするものではないと認められるから(例 えば、米国特許8829165特許の請求項1は、「PCSK9に結合する とき、次の残基:配列番号3のS153、I154、P155、R194、 D238、A239、I369、S372、D374、C375、T37 7、C378、F379、V380、又はS381の少なくとも1つに結 合し、PCSK9がLDLRに結合するのを阻害する、単離されたモノク ローナル抗体」との発明特定事項である(甲19)。)、いずれにしても本件 発明に係る判断に直接関係しない。)。
イ 本件発明に係る別件審決取消訴訟においては、前記第2の1 のとおり、 サノフィによるサポート要件違反に関する主張は退けられている。しかし、 これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、31H4抗体と競合する抗体は、 31H4抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し31H4抗体と 同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによるもの\nと理解することも可能である。これに対し、本訴においては、【A】博士や\n【B】博士の各供述書、【F】教授の鑑定書等(甲18、230)による構\n造解析、「EGFaミミック抗体」に係る関係書証(甲4の1及び2)等の 新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたにもかかわらず、 この前提を支える判断材料が見当たらないのであるから、別件判決の結論 と本件判断が異なることには相応の理由があるというべきである。

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令和4(行ケ)10011  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年2月15日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反で拒絶審決がなされました。知財高裁は審決を維持しました。\n

原告は、本願明細書等の段落【0222】及び【0223】の記載のほ か、段落【0014】の記載によれば、本願明細書等には、本願各発明 が従来のジョセフソン効果の原則を超越する存在であることが示唆され\nており、その他の段落において発明の構成例や各実施例も開示されてい\nるから、当業者は、電子対の生成過程や巨視的波動関数の位相特定の情 報が不明であっても、本願明細書等の記載を参照して、本願各発明を容 易に実施することができる旨主張する。 そこで検討するに、上記イで検討したとおりの本願明細書等の段落 【0014】の記載からすれば、本願各発明においては、「第1導体」及 び「第2導体」の抵抗値がゼロではない場合であっても、上記のような 範囲の抵抗率であれば、ジョセフソン効果を得ることができる旨が記載\nされているとみることもできる。 しかしながら、前記(2)のとおり、ジョセフソン接合が超伝導体である\n二つの導体を用いた接合であることは、本件原出願日当時の技術常識で あったと認められることからすれば、導体の抵抗値がゼロではない場合 であっても、上記のような範囲の抵抗率であればジョセフソン効果が得\nられるというのは、技術常識に反する現象である。そうすると、本願明 細書等において、このような現象が生じ得ることを裏付ける試験結果等 が記載されていなければ、当業者は、本願各発明を実施することができ ると認識するものではないというべきである。そして、上記イで検討し たとおり、本願明細書等の段落【0051】ないし【0068】及び図 14Aないし21Bには、いずれも各実施例における導体が段落【00 14】に記載されているような範囲の抵抗率であることを示す試験結果 は記載されていないというべきである。そして、このほか、本願明細書 等において、導体の抵抗値がゼロではない場合であっても、上記のよう な範囲の抵抗率であればジョセフソン効果が得られることを裏付ける試\n験結果等は記載されていない。
以上によれば、本願明細書等において、本願各発明が従来のジョセフ ソン効果の原則を超越する存在であることが示唆されているとはいえな\nいし、当業者が、本願明細書等の記載を参照して、本願各発明を容易に 実施することができるともいえない。
・・・
(ア) 原告は、本願明細書等の図7、15ないし21から明らかなとおり、本 願各発明は、従来の技術常識としてのジョセフソン接合ではなく、抵抗\n値をゼロにしなくとも、極めて低い抵抗値の範囲内でジョセフソン接合\nを実現することを目的とする発明であるから、本願明細書等に抵抗値が ゼロの場合の記載がないことは当然の帰結であり、当業者は、本願各発 明につき、電流が非常に低い抵抗状態で流れる条件でジョセフソン接合\nを実現したものとして捉えることにより、本願各発明を実施することが 可能である旨主張する。\nしかしながら、上記ウで検討したところに照らせば、本願明細書等に おいて、本願各発明が、従来の技術常識としてのジョセフソン接合では\nなく、抵抗値をゼロにしなくとも、極めて低い抵抗値の範囲内でジョセ フソン接合を実現することは、何ら試験結果等により裏付けられていな\nいというべきである。そうすると、当業者が、本願各発明につき、電流 が非常に低い抵抗状態で流れる条件でジョセフソン接合を実現したもの\nとして捉えることにより、本願各発明を実施することが可能であると認\n識するものではないというべきである。

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令和4(行ケ)10072  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月12日  知的財産高等裁判所

 審決は、発明該当性違反、実施可能要件違反として拒絶しました。知財高裁も同じ判断です。

本願発明は、前記第2の2のとおりの構成を有するものであって、前記1(1)の【図 1】のような液体を入れた容器中に浮体を浮かべ、同浮体を鉛直方向に大きなもの とすることにより(同【図2】の3参照)、駆動動力が一定であっても、同浮体が上 下運動することによる発生動力を拡大させることで、「発生動力>駆動動力の関係」 が成立するというものである。 そして、本願明細書の段落【0036】によると、本願発明における駆動動力と は、液位を増減させて、浮体を上下運動に導く駆動方法を実行する装置を駆動する 動力のことをいい、電力が主体であるが、流水、圧縮空気、人力等も利用可能であり、具体的な駆動方法としては、浮体(例えば【図3】の6)を浮かべる容器中に\n物体(例えば【図3】の9)を挿入することが想定されているものと認められる。 次に発生動力についてみると、本願明細書の段落【0035】には、「浮体の上下 運動を「発生動力」とする」との記載があり、同段落【0018】〜【0020】 では、容器中への水の注入量が同一である場合の仕事(W)を、(浮体上の錘の重さ) ×(持ち上げられた距離)により計算しているところ、ここでいう仕事(W)は、 浮体の上下運動をいうものと推認されるから、本願発明における発生動力は、錘を 載せた浮体が移動する運動を指していると理解される。 ところで、本願明細書の段落【0018】〜【0020】に3つの例が記載され ているところ、同段落【0021】の記載と併せると、上記3つの例は、「発生動力 >駆動動力の関係」が成立することを説明するために記載されているものと認めら れる。そこで検討するに、上記3つの例においては、注入した水の量は一定である ものの、どのように水を注入するのか、また、その際に、水を注入するために要し た動力、すなわち本願発明における「駆動動力」に相当する液位を増減させる動力 の大きさや、それが、上記3つの例において一定であるかについては本願明細書に 記載がなく、示唆もない。さらには、【図2】の場合に浮体が浮かぶことが可能な程度に、十\分な浮力が生じているかも明らかではない。そしてその他の本願明細書の記載を総合しても、当業者が、どのようにして、本願発明の「発生動力>駆動動力 の関係」が成立する動力発生装置を製造することができるか理解できるとはいえな い。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施するこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。\n

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令和3(行ケ)10093  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月26日  知的財産高等裁判所

無効理由なしとした審決を、サポート要件違反の無効理由ありとして取り消しました。最後に、別件判決の結論と本件判断が異なることには相応の理由ありと付言されています。

以上を前提に検討すると、前記 において説示したとおり、サポート要 件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載 とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記 載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示 唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決で きると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ ると解するのが相当であるところ、前記1 において示したとおり、本件 発明は、LDLRタンパク質の量を増加させることにより、対象中のLD Lの量を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を 奏し、また、この効果により、高コレステロール血症などの上昇したコレ ステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを\n低減すること、そのために、LDLRタンパク質と結合することにより、 対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるP CSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医 薬組成物を提供することを課題とするものであり、PCSK9とLDLR タンパク質との結合を強く遮断する中和抗体である参照抗体と競合する抗 体は、PCSK9への参照抗体の結合を妨げ、又は阻害する単離されたモ ノクローナル抗体であることを明らかにするものであると理解される。
そして、前記 によれば、本件発明における「中和」とは、タンパク質 結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作 用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節する以外に、間接的な手段(リ ガンド中の構造的又はエネルギー変化等)を通じてLDLRタンパク質に\n対するPCSK9の結合能を変化させる態様を含むものであるが、前記1\nのとおり、参照抗体自体が、結晶構造上、LDLRのEGFaドメイン\n(PCSK9の触媒ドメインに結合するものであり、その領域内に存在す るPCSK9残基のいずれかと相互作用し、又は遮断する抗体は、PCS K9とLDLRとの間の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る とされるもの)の位置と部分的に重複する位置でPCSK9とLDLRタ ンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体であ ると認められることを踏まえると、本件発明における「PCSK9との結 合に関して、21B12抗体と競合する」との発明特定事項も、21B1 2抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムによ り、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して(具体的には、結晶構\n造上、抗体がLDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置でPCS K9に結合して)、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨 害し、遮断し、低下させ、又は調節することを明らかにする点に技術的意 義があるものというべきであり、逆に言えば、参照抗体と競合する抗体は、 このような位置で結合するからこそ、中和が可能になるということもでき\nる。この点は、被告自身が、前記第3の3 ウにおいて、本件明細書の発 明の詳細な説明によれば、当業者は、出願時の技術常識に照らし、参照抗 体との競合によってPCSK9上の複数の結合面のうち特定の領域内の 特定の位置(LDLRのEGFaドメインと結合する部位と重複する位置 (又は同様の位置))に結合する抗体は、PCSK9とLRLRタンパク質 の結合を中和することができると理解するものであり、発明の技術的範囲 の全体にわたって発明の課題を解決できると認識することができたとい える旨主張していることからも裏付けられるところである。
また、前記1 において認定した甲1文献の開示事項によれば、家族性 高コレステロール血症は、血漿中のLDLコレステロールレベルの上昇に 起因するものであるところ、PCSK9は、細胞表面に存在するLDLR\nタンパク質の存在量を低下させるものであるため、PCSK9が治療のた めの魅力的な標的であり、血漿中のPCSK9に結合し、そのLDLRタ ンパク質との結合を阻害する抗体等が効果的な阻害剤となり得ることが 既に示されていたものと認められるのであるから、このような観点から見 ても、本件発明の技術的意義は、21B12抗体と競合する抗体であれば、 21B12抗体と同様のメカニズムにより、上記のようなLDLRタンパ ク質との結合を阻害する抗体、すなわち結合中和抗体としての機能的特性\nを有することを特定した点にあるということもできる。そもそも本件発明 の課題は、前記1 イにおいて認定したとおり、LDLRタンパク質と結 合することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDL の量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する 抗体又はこれを含む医薬組成物を提供することであり、このような課題の 解決との関係では、参照抗体と競合すること自体に独自の意味を見出すこ とはできないから、このような観点からも、上記のとおり、本件発明の技 術的意義は、21B12抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と 同様のメカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有すること\nを特定した点にあるというべきである。
イ さらに検討すると、前記 イ のとおり、本件明細書の発明の詳細な説 明には、エピトープビニングを行った結果、21B12抗体と同一性が高 いとはいえないアミノ酸配列を有する数グループの抗体のみならず、21 B12抗体と同一性が高いアミノ酸配列を有する抗体群が21B12抗 体と競合するものとして同定されたことが開示されている。本件明細書に は、上記競合する抗体として同定された抗体の中で中和活性を有すると記 載される抗体がPCSK9上へ結合する位置についての具体的な記載は なされていないものの、21B12抗体と同一性の高いアミノ酸配列を有 する抗体群については、21B12抗体と同様の位置でPCSK9に結合 する蓋然性が高いといえるとしても、それ以外のアミノ酸配列を有する数 グループの抗体については、エピトープビニングのようなアッセイで競合 すると評価されたことをもって、抗体がPCSK9上に結合する位置が明 らかになるといった技術常識は認められない以上、PCSK9上で結合す る位置が明らかとはいえない。
また、本件発明の「PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する」 との性質を有する抗体には、上記本件明細書の発明の詳細な説明に具体的 に記載される数グループの抗体以外に非常に多種、多様な抗体が包含され ることは自明であり、また、前記2 イのとおり、このような抗体には、 被告が主張するように、21B12抗体がPCSK9と結合するPCSK 9上の部位と重複する部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は 阻害する(例えば、低下させる)抗体にとどまらず、参照抗体とPCSK 9との結合を立体的に妨害する態様でPCSK9に結合し、様々な程度で 参照抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低 下させる)抗体をも包含するものである。そうすると、その中には、例え ば、21B12抗体がPCSK9と結合する部位と異なり、かつ、結晶構\n造上、抗体がLDLRのEGFaドメインの位置とも異なる部位に結合し、 21B12抗体に軽微な立体的障害をもたらして、21B12抗体のPC SK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)もの 等も含まれ得るところ、このような抗体がPCSK9に結合する部位は、 結晶構造上、抗体がLDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置で\nはないのであるから、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して、P CSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下さ せ、又は調節するものとはいえない。
なお、本件明細書には「例示された抗原結合タンパク質と同じエピトー プと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質及び断片は、類似の機能的\n特性を示すと予想される。」(【0269】)との記載があるが、上記のとお\nり、「PCSK9との結合に関して21B12抗体と競合する」とは、21 B12抗体と同じ位置でPCSK9と結合することを特定するものでは ないから、21B12抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同 じエピトープと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質(抗体)である とはいえず、このような抗体全般が21B12抗体と類似の機能的特性を\n示すことを裏付けるメカニズムにつき特段の説明が見当たらない以上、本 件発明の「PCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合する抗体」 が21B12抗体と「類似の機能的特性を示す」ということはできない。\n前述のとおり、本件発明の技術的意義は、21B12抗体と競合する抗 体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とL DLRタンパク質との結合を中和する抗体としての特性を有することを 特定する点にあるというべきところ、前記のとおり、21B12抗体と競 合する抗体であれば、LDLRのEGFaドメインと相互作用する部位 (本件明細書の記載からは、EGFaドメインの5オングストローム以内 に存在するPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメイ ンとの相互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残基(コア残基)、E GFaドメインの5オングストロームから8オングストロームに存在す るPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相 互作用界面の境界PCSK9アミノ酸残基と理解され得る。)に結合して PCSK9とLDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖するとはいえず、 他には、21B12抗体と競合する抗体であれば、どのようなものであっ ても、PCSK9とLDLRのEGFaドメイン(及び/又はLDLR一 般)との間の相互作用(結合)を阻害する抗体となるメカニズムについて の開示がない以上、当業者において、21B12抗体と競合する抗体が結 合中和抗体であるとの理解に至ることは困難というほかない。
ウ 以上のとおり、「PCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合す る抗体」であれば、21B12抗体と同様に、LDLRタンパク質の結合 部位を直接封鎖して(具体的には、結晶構造上、抗体がLDLRのEGF\naドメインの位置と重複する位置でPCSK9に結合して)、PCSK9 とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は 調節するものであるとはいえないから、「PCSK9との結合に関して、2 1B12抗体と競合する抗体」であれば、結合中和抗体としての機能的特\n性を有すると認めることもできない。なお、前記 アのとおり、本件発明 における「中和」とは、PCSK9とLDLRタンパク質結合部位を直接 封鎖するものに限らず、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギ\nー変化等)を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変\n化させる態様を含むものではあるが、「PCSK9との結合に関して、21 B12抗体と競合する抗体」であれば、上記間接的な手段を通じてLDL Rタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させる抗体となること\nが、本件出願時の技術常識であったとはいえないし、本件明細書の発明の 詳細な説明に開示されていたということもできない。
エ こうした点は、前記1 においてその信頼性を認定した【A】博士の実 証実験の結果及び同実証実験を踏まえた【B】博士の供述書 からも裏付 けられる。すなわち、この実証実験は、リジェネロンの63の抗体につい て参照抗体との競合及び結合中和性を実験したものであるが、競合に関し て50%の閾値を用いた結果、13の抗体が参照抗体と競合するが、うち 10の抗体(約80%)は結合中和性を有しないことが確認されており(別 紙3の資料B1及び前記1 ア b)、参照抗体と競合する抗体であれば 結合中和性を有するものとはいえないことが具体的な実験結果として示 されている。さらに、この実験結果に加え、「本件特許によれば、21B1 2抗体の結合部位はhPCSK9上のLDLRの結合部位と部分的にし か重複しないから・・別の抗体の結合部位は、LDLRの結合部位と重複 することなく21B12結合部位と重複し得るのであり、このようにして、 別の抗体は、hPCSK9−LDLRの結合部位と重複することなく21 B12結合部位と重複し得」る(前記1 ア b)として、【B】博士が、 「21B12抗体と競合する抗体がLDLRに対する結合を中和」するだ ろうと言うのは、科学的に誤りである旨の意見を述べているところである (前記1 ア c)。
オ 被告は、前記第3の3 ウにおいて、21B12抗体(参照抗体)と競 合するが、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和できない抗体 が仮に存在したとしても、そのような抗体は、本件発明1の技術的範囲か ら文言上除外されているなどとして、本件発明がサポート要件に反する理 由とはならない旨主張する。しかし、既に説示したとおり、21B12抗 体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムにより、 PCSK9とLDLRタンパク質との結合中和抗体としての機能的特性\nを有することを特定した点に本件発明の技術的意義があるというべきで あって、21B12抗体と競合する抗体に結合中和性がないものが含まれ るとすると、その技術的意義の前提が崩れることは明らかである(本件の ような事例において、結合中和性のないものを文言上除けば足りると解す れば、抗体がPCSK9と結合する位置について、例えば、PCSK9の 大部分などといった極めて広範な指定を行うことも許されることになり、 特許請求の範囲を正当な根拠なく広範なものとすることを認めることに なるから、相当でない。)。なお、被告が主張するように、本件発明1の特 許請求の範囲は、PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する抗体 のうち、「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」 る抗体のみを対象としたものであると解したとしても、前示のとおり、本 件発明のPCSK9との競合に関して、参照抗体と競合するとの発明特定 事項は、被告が主張するような、参照抗体が結合する位置と同一又は重複 する位置に結合する抗体にとどまるものではなく、PCSK9とLDLR タンパク質の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する 抗体をも含むものであるから、このような抗体についても結合中和抗体で あることがサポートされる必要があるところ、参照抗体が結合する位置と 同一又は重複する位置に結合する抗体の場合とは異なり、PCSK9とL DLRタンパク質との結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で 競合する抗体が結合を中和するメカニズムについては本件明細書には何 らの記載はなく、また、ビニングによる実験結果(前記 イ )に基づく 結合中和抗体は、いずれも結合中和に係るメカニズムが開示されている、 参照抗体が結合する位置と同一又は重複する位置に結合する抗体である 可能性が高く、その点を措くとしても、少なくともこれらが立体的に妨害\nする抗体であることを示唆する記載はない。そうすると、本件明細書の発 明の詳細な説明には、参照抗体と競合する抗体のうちPCSK9とLDL Rタンパク質との結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合 する抗体が結合中和活性を有することについて何らの開示がないという ほかなく、この点からも、本件発明はサポート要件を満たさない。
また、前記第2の3 のとおり、本件審決は、本件明細書には、本件明 細書記載の免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウ スの作製及び選択、選択された免疫化マウスを使用したハイブリドーマの 作製、本件明細書記載のPCSK9とLDLRとの結合相互作用を強く遮 断する抗体を同定するためのスクリーニング及びエピトープビニングア ッセイを最初から繰り返し行うことによって、十分に高い確率で本件発明\nの抗体をいくつも繰り返し同定することが具体的に示される旨判断する が、【F】教授(【F】教授という。)の第2鑑定書(甲230)に「特定の マウスが特定の抗体を生成するかどうかは運に支配されるため、候補とな り得る抗体を全て生成しスクリーニングすることは不可能である」と記載\nされているように、本件明細書に記載された抗体の作製過程を経たとして も、免疫化されたマウスの中でPCSK9上のどのような位置に結合する 抗体が得られるかは「運に支配される」ものであって、抗体の抗原タンパ ク質への結合を立体的に妨害する態様で抗原タンパク質に結合する抗体 を製造する方法が本件出願時における技術常識であったともいえないこ とからすると、本件明細書に記載された抗体の作製方法に関する記載をも って、本件発明に含まれる多様な抗体が本件明細書の発明の詳細な説明に 記載されていたとはいえない。
カ そして、本件発明1のモノクローナル抗体を含む医薬組成物に係る発明 である本件発明9も、上記同様の理由から、サポート要件を満たすもので はない。
以上によれば、本件発明1及び9は、いずれもサポート要件に適合するも のと認められないから、これと異なる本件審決の判断は誤りである(なお、 原告の主張のうち前記第3の3 イ の「EGFaミミック抗体」に係る点 は首肯するに値するものを含み、サポート要件が満たされているとする被告 の主張に疑義を生じさせるものと考えるが、この点に関する判断をするまで もなく、上記のとおり、本件発明1及び9は、いずれもサポート要件に適合 するものとは認められないから、更なる判断を加えることは差し控えること とする。)。
以下、念のために付言する。
ア 本件発明を巡る国際的状況について、原告は、欧州では、異議申立抗告\n審において、令和2年に、本件発明と実質的に同じ対応欧州特許について、 進歩性欠如により無効であると判断されており、また、米国では、合衆国 連邦巡回区控訴裁判所において、令和3年2月11日に、本件発明より限 定された対応米国特許につき、実施可能要件違反により無効であると判断\nされており、現在、我が国は、本件特許の有効性が裁判所により維持され ている世界で唯一の国である旨主張し、他方、被告は、上記連邦巡回区控 訴裁判所の判断につき、連邦最高裁判所は、令和4年11月4日に、裁量 上告受理申立てを認めたので、上記判断が覆される可能\性が極めて高い旨 主張するが、もとより、他国における判断が本件判断に直ちに影響を与え るものではないことは明らかである(なお、米国については、仮に、連邦 巡回区控訴裁判所の無効判断が覆されたとしても、対応米国特許は、参照 抗体との「競合」を発明特定事項とするものではないと認められるから(例 えば、米国特許8829165特許の請求項1は、「PCSK9に結合する とき、次の残基:配列番号3のS153、I154、P155、R194、 D238、A239、I369、S372、D374、C375、T37 7、C378、F379、V380、又はS381の少なくとも1つに結 合し、PCSK9がLDLRに結合するのを阻害する、単離されたモノク ローナル抗体」との発明特定事項である(甲19)。)、いずれにしても本件 発明に係る判断に直接関係しない。)。 イ 本件発明に係る別件審決取消訴訟においては、前記第2の1 のとおり、 サノフィによるサポート要件違反に関する主張は退けられている。しかし、 これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、21B12抗体と競合する抗体 は、21B12抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し21B12 抗体と同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによ\nるものと理解することも可能である。これに対し、本訴においては、【A】\n博士や【B】博士の各供述書、【F】教授の鑑定書等(甲18、230)に よる構造解析、「EGFaミミック抗体」に係る関係書証(甲4の1及び2)\n等の新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたにもかかわら ず、この前提を支える判断材料が見当たらないのであるから、別件判決の 結論と本件判断が異なることには相応の理由があるというべきである。

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令和3(行ケ)10156  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年9月29日  知的財産高等裁判所

発電方法の発明について、実施可能要件を満たしていないとした審決が維持されました。個人発明です。拒絶理由通知の段階では発明該当性も指摘されていました。\n公開公報は下記です。

◆特願2015-176188

ア 「下方導水路250内の液体がその管内を落下し、その落下により揚水 路200の頂上部が真空域に保たれ、その結果、大気圧によって貯液部1 00の液体が揚水路200に揚水される」との点について
(ア) 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には、「少なくとも下部が液 体で満たされた貯液部(100)と、下部が前記貯液部(100)の前 記液体の液面下部に沈み、上部が該液面上部に出る様に設置され、上端 部近傍の前記液面より所定の高さ位置に液取り出し口が設けられた揚 水路(200)と」、「発電開始前に前記圧縮気体貯蔵タンク(600) に圧縮した気体を貯蔵するとともに、前記ゲート(300)を閉めて前 記揚水路(200)および前記下方導水路(250)内に前記液体を充 填しておき、発電時に前記ゲート(300)を開けて」との記載がある。 また、本願明細書には、「本システムの起動前に不図示の揚水ポンプで水 槽の水を揚水棟200の中全てを満たす様に揚水して揚水棟内を真空 域にしている」との記載(【0040】)がある。 これらの記載によれば、本願発明において、発電の開始前には、揚水 路200等に存在する液体(以下では、「液体」は「水」であるとする。) は、「一端」が貯液部100の水面下にあり、そこから、揚水路200、 (実施例【0038】では上部導水路210を介し)下方導水路250 を経て、「他端」はゲート300まで存在しており、揚水路200等は水 で満たされていることが理解できる。また、本願明細書の「大気圧室4 00の水面は下部導水路260の下部より低く保つ」との記載(【004 1】)から、上記水の「一端」を上流側、「他端」を下流側とすると、ゲ ート300よりも下流側の管内には水が存在しないことが理解できる。
(イ) 前記(ア)を踏まえ、ゲート300を開けたときの前記(ア)の水(「一 端」が貯液部100の水面下にあり、そこから、揚水路200、(上部導 水路210を介し)下方導水路250を経て、「他端」がゲート300ま で存在する水)の挙動を検討する。 揚水路200内にある水と下方導水路250内にある水は、その上部 が(実施例(【0038】)では、上部導水路210内の水を介して)つ ながっている。
そして、乙2に示されている考え方(被告はこれを「サイフォンの原 理」として説明し、原告もその説明を争っていない。)によれば、揚水路 200の下部が存する貯液部100の水面(図1の水槽100の水面) には、大気圧(その圧力を「A」とする。)と貯液部100の水面から揚 水路200の頂部まで存在する水の圧力(水の重さによる圧力。その圧 力を「B」とする。)がかかる。他方、下方導水路250の下端には、水 平導水路260内の平均気圧(その圧力を「C」とする。)と下方導水路 250の下端から頂部までに存在する水の圧力(水の重さによる圧力。 その圧力を「D」とする。)が働く。
ここで、本願発明では、「発電時に前記ゲート(300)を開け」た際 に、「前記圧縮気体貯蔵タンク(600)に貯蔵されている圧縮気体」が 「前記水平導水路(260)から前記集液部(400)に射出される」 ため、水平導水路260内の平均気圧(C)は大気圧(A)より大きく なる(C>A)。また、水による圧力については、貯液部100の水面か ら揚水路200の頂部までの長さの方が下方導水路250の下端から頂 部までの長さよりも長いから、貯液部100の水面から揚水路200の 頂部まで存在する水の圧力の方が大きくなる(B>D)。
そうすると、水を持ち上げる向きを正の向きとして、揚水路200の 下部が存する貯液部100の水面に働く圧力(A−B)と、下方導水路 250の下端に働く圧力(C−D)とを比較すると、後者の方が大きい から、ゲート300を開けると、下方導水路250内の水は、一旦上方 に持ち上がった後、揚水路200に流れ落ちていくものと考えられる。 なお、ゲート300を開けた際に、水平導水路260及び大気室40 0から空気が下方導水路250内に入り込むと、下方導水路250内の ゲート300付近にあった水が水平導水路260側へ落下することがあ り得るが、これは、入り込んだ上記空気と上記水が入れ替わることによ って生じる現象であって、このことによって、下方導水路250や揚水 路200に真空域が生じることはなく、貯液部100から揚水路200 に向かって水が引き揚げられるといった現象も生じないものと理解され る。したがって、本願明細書の記載から、原告が主張する「発電時に、重 力落下エネルギーの作用によって下方導水路250内の液体がその管内 を落下し、その落下により揚水路200の頂上部が真空域に保たれ、そ の結果、大気圧によって貯液部100の液体が揚水路200に揚水され る」ことが起こることを理解することはできない。
イ 「大気圧室400内において大気圧より低い低圧力空間が生成される」 との点について
原告は、本願発明では発電時、圧縮気体供給路670の出口より集液部 (大気圧室)400へ圧縮気体を射出することで、大気圧室400内にお いて、その圧縮気体の体積分の大気圧の気体が押しのけられて、大気圧よ り低い低圧力空間が生成されると主張し、更にその説明として、圧縮空気 の保有エネルギーが、大気圧の気体を押しのけるためのエネルギーよりも 大きいため、圧縮空気を大気圧室400へ連続的に供給することによって、 大気圧室400内の空気を常時押しのけることが可能となる旨主張する。しかしながら、本願明細書には、大気圧より高い圧力を有する圧縮気体\nを大気圧に維持された空間に放出することによって、当該空間に大気圧よ り低い低圧力空間が形成されることについての記載はなく、また、これを 裏付ける技術常識についての立証もない。 さらに、前記アのとおり、ゲート300を開けた場合、下方導水路25 0内の液体は、水平導水路260の方向に流れないものと考えられるとこ ろ、原告が主張する大気圧室400内の低圧力空間が、下方導水路250 内の液体を、水平導水路260を通って大気室400の方向に引き出すほ どの力を生じさせることを認めるに足りる証拠もない。 そうすると、本願明細書の記載から、原告が主張する「大気圧室400 内において大気圧より低い低圧力空間が生成される」ことを理解すること はできず、さらに、その低圧力空間の作用によって下方導水路250内の 液体がその管内を落下することが生じるものと理解することもできない。

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令和3(行ケ)10140  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

 製法を含む物の発明について、知財高裁は、請求項6、9については、明確性(特36条6項2号)違反で無効と判断しました。
審判における経緯ですが、請求項1、5、6及び9について、無効審判が請求され、無効の予告がなされたので、権利者は、請求項5及び9を訂正しました。かかる訂正が認められ、請求項1、5、6及び9について、無効理由なしとの審決がなされました。知財高裁は、PBP最高裁判決における「不可能\・非実際的事情」については、本件には適用されないが、「内面精度が一義的ではない」として明確性違反と判断しました。

(1) 判断基準
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時 において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁 判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集 69巻4号700頁)。
もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許 請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・ プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を 読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、 第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。 そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製 造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願 時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\ しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義 的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不 可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
ア 本件発明6及び訂正発明9は、「電鋳管」に係る発明であるところ、本件 発明6は、「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層 を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細 線材の一方または両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前 記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた 細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を 残したまま細線材を除去して製造される」という製造方法による特定が、 訂正発明9は、「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導 電層を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成する と共に、前記細線材の両端側に前記電着物または前記囲繞物が形成されて いない部分を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小 さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を 形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞 物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造される」という 製造方法による特定を含む。
イ そこで、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管 の構造又は特性、具体的には被告が主張する電鋳管の内面精度が、一義的\nに明らかであるか否かについて検討する。
まず、特許請求の範囲の記載から本件発明6及び訂正発明9の製造方法 により製造された電鋳管の内面精度が明らかでないことはいうまでもな く、また、本件明細書には、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により 製造された電鋳管の内面精度について、何ら記載も示唆もされていない。 そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を 加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着 物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、 3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細 線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱 又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、 これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても 一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記 3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の 内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上 記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し たとも認められない。そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n
ウ 以上のとおりであるから、本件発明6及び訂正発明9が明確であるとい えるためには、本件出願時において、本件発明6及び訂正発明9の電鋳管 をその構造又は特性により直接特定することについて不可能\・非実際的事 情が存在するときに限られるところ、被告はこのような事情が存在しない ことは認めている。
(3) 被告の主張について
被告は、前記第3の5(2)イのとおり、本件発明6及び9の製造方法により 製造された電鋳管の構造又は特性は、本件明細書の「細線材と電着物または\n囲繞物の間に、細線材を除去するのに十分な隙間が形成できるので、細線材\nが電着物または囲繞物から支障なく除去できる」(【0044】)との記載から 理解できるものであり、文献(甲1、2)の記載や試作分析報告書(甲29) の内容も参酌すれば、良好な内面精度を有するという構造又は特性を表\して いることが、特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかであ る旨主張する。
しかしながら、被告が指摘する本件明細書【0044】の記載からは、細 線材と電着物等の間に、細線材を除去するのに十分な隙間が形成できると細\n線材を支障なく除去できる可能性が高いということが理解できるにすぎず、\n本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管が、良好な内 面精度の電鋳管という構造又は特性を表\していることまでを理解することは できない。また、被告が主張する甲1文献や甲2文献の記載は製造の難易さ を記述するにすぎないものであって内面精度については記載されておらず、 試作分析報告書(甲29)の分析結果は、本件出願時の技術常識それ自体を 示すものではないところ、同報告書に記載された内容が本件出願時の技術常 識であることは何ら明らかにされていない。
以上によれば、本件発明6及び9の製造方法により製造された電鋳管が良 好な内面精度の電鋳管という構造又は特性を表\していることが、特許請求の 範囲、本件明細書の記載及び技術常識から一義的に明らかであるとはいえな い。

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令和4(行ケ)10016 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月21日  知的財産高等裁判所

 「紙破現象を起こし得るように構成している」という発明特定事項が明確性違反かが争われました。知財高裁は、無効理由なしとした審決を維持しました。\n分割出願2件についても同様に判断されています。

ア 本件発明1は、「紙破現象を起こし得るように構成している」との発明特\n定事項を有しているところ、「紙破」又は「紙破現象」とは一般的な用語で はなく、その意義を特定するためには、本件明細書の記載を参照すること になる。 そこで、本件明細書の記載についてみると、本件明細書には、「・・・例 えば被着体を紙類とした場合、粘着製品或いは粘着剤を紙類から剥がそう とする剥離動作を行った際に、紙の表層を確実に損傷させることが要求さ\nれる場合がある。」(【0009】)、「以下本明細書において、このような紙 類の表面を損傷した状態を紙破と記載する。また、粘着製品の粘着剤層を\n剥離させた際に紙類の表層が粘着剤に付着し紙類が厚み方向に破断する\nことを紙破現象と記載することとする。」(【0011】)、「・・・「紙破」: 粘着剤層の表面に紙片の表\層部分を付着させて剥離(図12(a))、「界面 剥離」:粘着剤層と紙片との界面において剥離(同図(b))、「凝集剥離」: 粘着剤が紙類とステンレス板との両方に付着した状態で剥離(同図(c))、 「ナキワカレ」粘着剤層が紙類とステンレス板との両方に付着した状態で 剥離(同図(d))、の何れかに分類して行った。」(【0092】)との記載 があり、【0092】で引用されている図12は、以下のとおりであり、図 12の(a)には、ステンレス板上の粘着剤層の表面に紙類が厚み方向に\n破断した紙片の一部が付着した状態が描かれている。
上記で指摘した本件明細書の記載及び図面を総合すると、本件発明1に おける「紙破現象」とは、粘着製品の粘着剤層を剥離させた際に紙類の表\n層が粘着剤に付着し、紙類が厚み方向に破断する現象をいうものであると 理解することができる。そして、本件発明1の「紙破現象を起こし得るよ うに構成している」との発明特定事項は、その他の構\成要件を充足する「感 圧転写式粘着テープ」のうち、「紙破現象を起こし得る」ように構成されて\nいるものと解することができ、「紙破現象を起こし得ない」構成は、本件発\n明1の技術的範囲に含まれないものと理解することができる。 そうすると、「紙破現象」の発生割合や発生条件について本件発明1に係 る請求項1には特定されていないとしても、特許請求の範囲の記載が第三 者に不測の損害を被らせるほど不明確な記載であるとはいえない。 イ これに対して、原告は、前記第3の1 のとおり、1)「紙破」は、通常 の利用者が視認可能な態様で紙が破れることを指すものであり、「紙破現\n象」とはこうした「紙破」が起こる現象を指すべきものである、2)本件明 細書の記載及び技術常識からすると、「紙破現象を起こし得る」とは、ほぼ 確実に「紙破現象を起こすもの」でなければならないが、いかなる条件の 下で起こるのか不明確であり、同一の接着剤を同一の被着剤に用いた剥離 試験に関する技術常識に照らせば、「紙破現象が起こし得るように構成し\nている」かどうかは条件が特定されなければ不明確である、3)原告による 追実験(甲14)及び被告による「事実実験公正証書」(甲29)の各試験 結果からすると、本件明細書の試験結果は信用することができない旨主張 する。
しかし、前記アのとおり、本件明細書には、「以下本明細書において、こ のような紙類の表面を損傷した状態を紙破と記載する。また、粘着製品の\n粘着剤層を剥離させた際に紙類の表層が粘着剤に付着し紙類が厚み方向\nに破断することを紙破現象と記載することとする。」(【0011】)とあり、 粘着製品の粘着剤層を剥離させたときに紙類の表層が粘着剤に付着し、厚\nみ方向に紙類が破断していることを示す図(図12(a))があることから、 「紙破現象」とは、上記段落で記載されたとおりに解釈されるべきであり、 「通常利用者が視認可能な状態」で紙が破れることという条件を付加して\n解釈する必要はない。また、原告による追実験(甲14)は、紙類の表層\nが粘着剤に付着したかどうかの確認作業について言及がない(むしろ、視 認によって判断している可能性が高い。)ため、この追実験で本件明細書の\n実物剥離試験の結果が信用できないものであると判断することはできな いし、被告による「事実実験公正証書」(甲29)の試験結果において、「目 視では十分に確認できなかった」との記載があるとしても、そのことが「紙\n破現象」が起きていないことを意味するものではないことについては前示 のとおりであるから、上記1)及び3)の各主張は理由がない。
次に、上記2)について検討するに、本件発明1においては、粘着剤層を 介して紙類同士を止着させた後、粘着剤層を剥離させたときの条件及び方 法は発明特定事項には含まれておらず、他の構成要件を充足する「感圧転\n写式粘着テープ」のうち、「紙破現象を起こし得る」ように構成されている\nものが本件発明1として特定されているのであるから、任意の条件及び方 法で「紙破現象」が生じ得る構成であれば、本件発明1の技術的範囲に属\nするものといえ、他方、「紙破現象を起こし得ない」構成は技術的範囲に属\nさないことが明らかにされている。したがって、少なくとも上記 記載の 明確性要件との関係においては、剥離試験における条件や方法等について の特定がないとしても、第三者に不測の不利益を及ぼすものとはいえない から、上記2)の主張も理由がない。

◆判決本文

分割願についての判断です。

◆令和4(行ケ)10017

◆令和4(行ケ)10018

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令和3(ワ)11507  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年10月28日  東京地方裁判所

 構成要件Biiを充足しない、無効理由ありと判断しました。

ア 「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために・・・本体両側面に設けた側面圧 迫領域を具備し」の意義について
本件特許の特許請求の範囲には、「低伸縮領域として」、「大腿骨及び周 囲筋腱を圧迫するために、上記ほぼU字型の正面吊り領域の左右両端から上 方へ連続して伸びる方向に、本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」(構\n成要件Bii)と記載されている。上記記載によれば、「側面圧迫領域」は「大 腿骨及び周囲筋腱」自体を圧迫するものであると解される。 そして、本件明細書等には、「膝部に着用する従来の筒状の伸縮性サポー ターは、サポーター本体に織り込まれているゴムのパワー(ゴムの収縮力、 即ち筋肉に対する圧迫強度)を変え、或いは織り方を変えることで患部に対 する圧迫力、押圧力変化させる方式を取っている。しかしそれでは、膝関節 の任意の箇所に必要な押圧力を加えることができないという問題があった。」 (段落【0002】)、「・・・また、本発明によれば、上記に加え大腿骨、 脛骨及び周囲筋腱を圧迫することにより関節裂隙部に作用して、痛みを軽減 し得るコンプレッションサポーターを提供することができる。」(段落【0 020】)と記載されている。上記各記載によれば、本件発明は、膝関節の 任意の箇所に必要な押圧力を加えることができない従来のサポーターの課 題を解決するために、大腿骨、脛骨及び周囲筋腱を圧迫するサポーターを提 供するものであることが認められる。 そうすると、上記の構成要件Bii及び本件明細書等の各記載内容によれば、 構成要件Biiの「側面圧迫領域」は、大腿骨自体及び周囲筋腱自体を圧迫す るものと解するのが相当である。
イ 被告製品17の構成要件充足性について\n
これを被告製品17についてみると、前提事実及び証拠(甲6)によれ ば、被告製品部分2は、被告製品部分2と接触する部分や大腿骨の周囲筋 腱を圧迫することまでは一応認められるものの、これを超えて、本件全証 拠によっても、被告製品部分2が大腿骨自体までをも圧迫することまで認 めることはできない。 したがって、被告製品17は、構成要件Biiを充足するものとはいえな い。
・・・
「固着」について 本件特許の特許請求の範囲には、「上記低伸縮領域は、樹脂より成る低 伸縮性材料を本体に固着した構成を有している」(構\成要件C)と記載さ れている。上記記載によれば、低伸縮性材料を本体に「固着」させる方法 を格別限定するものではない。 そして、証拠(甲11)によれば、「固着」という用語について、一般 的に「かたくしっかりとつくこと」という意味を有することが認められる。 また、本件明細書等には、「本発明において、上記低伸縮領域は低伸縮 性材料を本体に固着一体化することによって構成されている。・・・低伸\n縮性材料を本体に固着一体化する方法としては、例えば接着、貼着或いは\n印刷等の方法を取ることができる。また、低伸縮性材料の固着方法として、 あらかじめ樹脂を用いて低伸縮領域の形状に作りそれを本体に転写する ような方法も取り得る。・・・」(段落【0012】)、「正面吊り領域 22を始めとして上記のように説明した各低伸縮領域は、樹脂より成る低 伸縮性材料34を本体20に固着した構成を有している。より詳細に図示\nした図4を参照して説明すると、図4において、35、36は縦糸と横糸 などから成る編織構造を示しており、37は固着手段を示している。樹脂\nより成る低伸縮性材料34は、本体20に固着すると固着手段37が上記 編織構造35、36の組織内に入り込んで密着状態になり、一体化するこ\nとにより、本体本来の伸縮性を制限して、低伸縮性を備えた領域に変える ことになる。」(段落【0031】)、「低伸縮性材料34は、例えば上 記正面吊り領域22の形状にあらかじめ形成され、それを本体20の表面\nに固着手段37を用いて固着する。図4Aに示す例では、低伸縮性材料3 4の下面に固着手段37があらかじめ固着されている。そして、図示の例 の場合、本体20は綿糸及び合成繊維糸を周方向に伸縮性を持つように編 織したもので、低伸縮性材料34はウレタン系樹脂材料のフィルムより成 る多層構造を有し、固着手段37には上記ウレタンフィルムより成る多層\n構造の内の一部を用いて本体20に固着させている。しかしこれは一例で\nあり、固着手段37として接着剤を本体20の表面に塗布すること、また、\nシート状の接着剤を用いることは普通に行われる。さらに、本体20の材 質と低伸縮性材料34の材質に親和性があり、かつ熱溶着性樹脂を用いる 場合には直接本体20に低伸縮性材料34を熱溶着する手段も選択し得 る周知の事項である。このように本発明においては何れの固着手段を採用 しても良い。」(段落【0032】)と記載されている。そうすると、本 件明細書等の上記記載においても、低伸縮性材料を本体に「固着」させる 方法が例示されているものの、何らかの限定をしているものと解すること はできない。 上記の構成要件C及び本件明細書等の各記載内容に加えて、「固着」と\nいう用語の一般的な意味内容を踏まえると、本件発明における「固着」の 方法について、固くしっかりと付くこと以上に、何らかの限定がされてい るものと解することはできない。
・・・
「樹脂より成る」について
本件特許の特許請求の範囲には、上記 のとおり記載されている。そし て、証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば、樹脂の一種である「合成 樹脂」は、「合成高分子化合物」とほぼ同義で用いられることがあり、「合 成繊維」とは合成高分子化合物を紡いで繊維としたものをいうことが認め られる。そうすると、「合成樹脂」は、常に繊維状のもの(合成繊維)を 除く意味で用いられるものではなく、むしろ、合成繊維は、その材料が合 成樹脂であるから、「樹脂より成る」ということができる。 これに対して、被告は、証拠(乙1、2、7)によれば、「合成樹脂」 に「合成繊維」が含まれないと主張する。しかしながら、上記において説 示したとおり、「合成樹脂」が、常に「合成繊維」を除く意味で用いられ るものとは認められず、被告の主張は、採用することができない。 また、被告は、本件明細書等において、本体に用いる合成繊維(段落【0 032】)と低伸縮性材料に用いる樹脂材料(段落【0012】)が明確 に書き分けられていることからすれば、「合成繊維」は構成要件Cの「樹\n脂」に含まれないと主張する。しかしながら、上記の記載をもって「樹脂」 に「合成繊維」が含まれないとまで解することはできず、被告の主張は、 採用することができない。
・・・
これを本件発明についてみると、本件特許の特許請求の範囲の記載は、前提 事実(2)イのとおりであり、本件発明の意義は、前記1(2)のとおり、従来技術で は、サポーター本体に織り込まれているゴムの収縮力や織り方を変えることで 患部に対する圧迫、押圧の強度を変化させていたものの、それでは、膝関節の 任意の箇所に必要な押圧を加えることができないという技術的課題を解決す るために、伸縮性素材より成り膝部に着用し得る形態の本体に、本体よりも伸 縮性の低い低伸縮領域を設け、低伸縮領域として、1)本体の正面に、膝蓋靱帯 を圧迫し、かつ、膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋の機能を補助するために、膝\n蓋骨の下部を取り囲むほぼU字型の領域と、2)上記ほぼU字型の領域の左右両 端から上方へ連続して伸びる方向に、大腿骨及び周囲筋腱を圧迫する領域を具 備し、低伸縮領域について樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着するという 構成を採用することにより、膝蓋靱帯を圧迫し、膝蓋骨を保持して、膝関節を\n良好に固定するとともに、大腿骨及び周囲筋腱を圧迫することにより、関節裂 隙部に作用して、痛みを抑制することを可能にするという効果を実現し、もっ\nて上記技術的課題を解決するものであることが認められる。
(3) 他方、本件発明において、「低伸縮性材料を本体に固着」(構成要件C)す\nる方法が、いわゆる別材料固着構造(膝を筒状に覆うサポーター本体の表\面の 一部に、本体とは別の低伸縮性材料を熱溶着、接着、縫着等によって固着し、 伸縮性等の異なる部位を配置した構造)以外に、被告製品17が採用する一体\n編成・織成構造(サポーターを織り上げ、又は、編み上げるに当たり、部分に\nよって折り方や編み方を変化させることにより、伸縮性等の異なる部位を配置 した構造(本件明細書等の段落【0002】記載の「サポーター本体に織り込\nまれているゴムのパワー(ゴムの収縮力、即ち筋肉に対する圧迫強度)を変え、 或いは織り方を変えることで患部に対する圧迫力、押圧力変化させる方式」を 含む。))をも含むと解されることは、前記2(4)ア において説示したとおり である。
しかしながら、本件明細書等によれば、当業者が一体編成・織成構造のサポ\nーターによって本件発明の課題を解決できるとする記載は一切なく、かえって、 本件明細書の段落【0002】によれば、一体編成・織成構造のサポーターに\nよっては、膝関節の任意の箇所に必要な押圧を加えることができず、本件発明 の課題を解決することができない旨明記されていることが認められる。 そうすると、本件明細書等の記載内容を踏まえると、一体編成・織成構造の\nサポーターが、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし 本件発明の課題を解決できると認識できるものと認めることはできない。 これに対して、原告は、本件発明の課題は本件発明の構成を備えることで解\n決することができるから、本件発明は、サポート要件に違反しない旨主張する。 しかしながら、本件明細書等によれば、本件発明は、一体編成・織成構造の\nサポーターが必要な押圧を欠くという課題を解決するものであるから、当該サ ポーターが本件発明の課題を解決し得ないことは、本件明細書等の記載自体か らも自明であって、原告の主張は、採用することができない。

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令和4(行ケ)10019  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、明確性違反の無効理由なし、とした審決を取り消しました。

前記(3)によると、本件各発明が属する技術分野(線材の引抜加工機及びこれに 用いるダイス)においては、従来、多角形の断面を有する線材の製造に際し、ダイ スのベアリング部の開口部(以下「開口部」という。)の角部に潤滑剤がたまって 塊が発生し、その除去のために作業を一旦止める必要があるため、生産量が低下し て製造原価が下がらない一因となっていたところ、本件各発明は、潤滑剤の塊の発 生を極力防ぎ、また、ダイスのメンテナンスに要する時間を極力削減し、その結果、 多角形の断面を有する線材の製造コストの低減を図ることを目的として、当該角部 の全部又は一部につき、これを円弧とし、鈍角の集合とし、又は自由曲線とするこ とにより、当該角部に潤滑剤がたまりにくくなるようにしたものであるといえる。 加えて、本件明細書における「略多角形」の定義(段落【0057】)にも照らす と、本件各発明の「略多角形」とは、本件各発明の効果(開口部の角部に潤滑剤が たまりにくくなること)を得るため、「基礎となる多角形断面」の角部の全部又は 一部を円弧、鈍角の集合又は自由曲線に置き換えた図形(以下、角部を円弧、鈍角 の集合又は自由曲線に置き換えることを「角部を丸める」などといい、角部に生じ た円弧、鈍角の集合又は自由曲線を「角部の丸み」などということがある。)をい うものと解することができる。そして、前記(3)によると、「基礎となる多角形断 面」とは、従来技術における開口部(角部を丸める積極的な処理をしていないもの) の断面を指すものと解されるから、結局、本件各発明の「略多角形」とは、本件各 発明の上記効果を得るため、その角部を丸める積極的な処理をしていない開口部に つき、その角部の全部又は一部を丸める積極的な処理をした図形をいうものと一応 解することができる。なお、これは、前記(2)の字義からみた「略多角形」の意義 とも矛盾するものではない。
(5) 「略多角形」と「基礎となる多角形断面」との区別
前記(4)のとおり、本件各発明の「略多角形」は、「基礎となる多角形断面」の 角部の全部又は一部を丸めた図形をいうものと一応解されるから、両者の意義に従 うと、両者は、明確に区別されるべきものである。 しかしながら、証拠(甲31、32、36、37)及び弁論の全趣旨によると、 ワイヤー放電により、その断面形状が多角形である開口部を形成するくり抜き加工 をした場合、開口部の角部には、不可避的に丸みが生じるものと認められる。そう すると、「基礎となる多角形断面」も、くり抜き加工をした後の開口部の断面であ る以上、角部が丸まった多角形の断面であることがあり、その場合、客観的な形状 からは、「略多角形」の断面と区別がつかないことになる。 この点に関し、本件審決は、本件各発明の「略多角形」には、上記のように加工 に際して角部に不可避的に生じる丸み(例えば、曲率半径が0.3mm程度以下の 小さなもの)を有するにすぎない「基礎となる多角形断面」を含まないと判断し、 被告も、これに沿う主張をする。しかしながら、開口部の角部の丸みの曲率半径が 0.3mm程度以下であれば、当該角部に潤滑剤がたまりにくくなるとの本件各発 明の効果が得られないものと認めるに足りる証拠はなく、当該曲率半径が0.3m m程度以下の場合であっても、本件各発明の上記効果が得られる可能性があるから、\n当該曲率半径がどの程度を超えれば本件各発明の上記効果が得られるようになるの かは、客観的に明らかとはいえない。また、証拠(甲31、32、36、37)及 び弁論の全趣旨によると、上記のようにワイヤー放電加工に際して開口部の角部に 丸みが不可避的に生じるのは、加工に用いるワイヤーの断面形状が一定の直径を有 する円形であるからであると認められ、ワイヤーの断面の直径が小さくなれば、そ の分だけ、不可避的に生じる丸みの曲率半径は小さくなるといえるから、開口部の 角部の丸みについては、その曲率半径がどの程度まで小さければ不可避的に生じる 丸みであるといえ、どの程度より大きければ不可避的に生じる丸みを超えて積極的 に角部を丸める処理をしたものであるといえるのかを客観的に判断する基準はない というほかない。そうすると、客観的な形状からは、「基礎となる多角形断面」と 「略多角形」とを区別するのは困難であるといわざるを得ない。 以上のとおり、本件各発明の「略多角形」は、「基礎となる多角形断面」と区別 するのが困難であり、本件各発明の技術的範囲は、明らかでない。
(6) 「略多角形」の角部の形状
前記(5)のとおり、ワイヤー放電により、その断面形状が多角形である開口部を 形成するくり抜き加工をした場合、開口部の角部には不可避的に丸みが生じるから、 「基礎となる多角形断面」の角部を丸めるための積極的な処理をしようとしまいと、 開口部がくり抜き加工のされた後のものである以上、開口部の角部には、全て丸み があり得ることになる。 そして、前記(5)のとおり、開口部の角部の丸みについては、その曲率半径がど の程度まで小さければ不可避的に生じる丸みであるといえ、どの程度より大きけれ ば不可避的に生じる丸みを超えて積極的に角部を丸める処理をしたものであるとい えるのかを客観的に判断する基準はないし、また、当該曲率半径がどの程度を超え れば本件各発明の効果(開口部の角部に潤滑剤がたまりにくくなること)が得られ るようになるのかは、客観的に明らかとはいえない。 この点に関し、本件審決は、本件各発明の「略多角形」は「基礎となる多角形断 面」に対して潤滑剤がたまる角部がなくなるように更に積極的な処理をした状態の もの(例えば、少なくとも角部の円弧の曲率半径が0.8mm程度のもの)と解さ れると判断し、被告も、これに沿う主張をする。しかしながら、本件明細書には、 開口部の角部に潤滑剤がたまりにくくなるとの本件各発明の上記効果を奏する条件 について、1辺4mmの四角形断面の棒材を作成する場合に、開口部の1つの角部 を曲率半径0.8mm程度の円弧(曲線)で結ぶと、角部にたまっていた潤滑剤の 塊が1か所に固まりづらくなる旨の記載(段落【0055】)があるのみであると ころ、1辺4mmの四角形断面の開口部の角部を曲率半径が0.8mm程度より小 さい円弧とした場合に本件各発明の上記効果が得られないものと認めるに足りる証 拠はないし、その断面形状が1辺4mmの四角形以外の多角形である開口部も含め ると、開口部の角部にどの程度の丸みを帯びさせれば本件各発明の上記効果が得ら れるのかを客観的に明らかにするのは困難であるといわざるを得ない(なお、被告 は、開口部の角部における潤滑剤のたまりやすさは、作成すべき棒材の断面の大き さにかかわらず、当該角部の丸みの曲率半径によって決せられ、当該曲率半径が0. 3mm程度以下であれば、本件各発明の上記効果が得られないと主張する。しかし ながら、開口部の角部における潤滑剤のたまりやすさは、当該角部の丸みの曲率半 径の大きさのみならず、線材の種類、潤滑剤の種類、加工発熱の度合い等の様々な 要素によって左右されるものであると解され、当該曲率半径が0.3mm程度以下 であれば、一律に本件各発明の上記効果が得られないと認めることはできないから、 被告の主張を採用することはできない。)。 以上によると、本件各発明の「略多角形」については、特許請求の範囲の記載、 本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識を踏まえても、「基礎となる多角 形断面」の角部にどの程度の大きさの丸みを帯びさせたものがこれに該当するのか が明らかでなく、この点でも、本件各発明の技術的範囲は、明らかでないというべ きである。
(7) 小括
以上のとおり、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に よると、本件各発明の「略多角形」とは、本件各発明の効果(開口部の角部に潤滑 剤がたまりにくくなること)を得るため、その角部を丸める積極的な処理をしてい ない開口部につき、その角部の全部又は一部を丸める積極的な処理をした図形をい うものと一応解することができるものの、客観的な形状からは、本件各発明の「略 多角形」と「基礎となる多角形断面」とを区別することができず、また、「基礎と なる多角形断面」の角部にどの程度の大きさの丸みを帯びさせたものが本件各発明 の「略多角形」に該当するのかも明らかでなく、本件各発明の技術的範囲は明らか でないというほかないから、本件各発明の「略多角形」は、第三者の利益が不当に 害されるほどに不明確であると評価せざるを得ず、その他、本件各発明の「略多角 形」が明確であると評価すべき事情を認めるに足りる証拠はない。

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令和3(行ケ)10133  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年9月7日  知的財産高等裁判所

 分割要件違反等の無効主張をしましたが、知財高裁は無効理由なしとした審決を維持しました。

(ア) 原告は、最初の親出願の明細書等について、発明が解決しようとする課題、 課題を解決するための手段、発明の効果及び実施形態に係る明細書の記載からする と、あくまで、かしめ部・逃げ空間あり構成に係る技術的事項が導かれるのであっ\nて、特に、発明が解決しようとする課題に照らし、かしめ以外の固定手段を用いる ことは同明細書等には記載されておらず、明細書の段落【0018】に、かしめ部 あり構成を前提とした逃げ空間あり構\成を必須とする旨の記載があることも考慮す ると、同明細書等に記載された発明は、逃げ空間あり構成を必須とするものである\nなどと主張する。 しかし、最初の親出願の明細書中、発明が解決しようとする課題等において、か しめ部・逃げ空間あり構成に係る事項が特に取り上げられて深く検討されていると\nしても、そのことから直ちに、最初の親出願の明細書等に記載された発明が上記構\n成を含むものに限定されるものではない。
前記(1)アのとおり、最初の親出願の出願当時、固定手段として溶接や接着も選択 肢として存在していたことが認められるのであるから、同明細書等における記載も それを前提に理解すべきものである。そして、前記ア(ア)〜(ウ)のように最初の親出 願の明細書に記載されていたといえる本件発明1に係る構成や、当該構\成における 上板部材及び下板部材による回転子積層鉄心の上下からの押圧並びに樹脂ポット内 の樹脂の磁石挿入孔への充填といった機序自体が、かしめ部あり構成であるか、か\nしめ部なし構成であるかによって影響を受けるものともみられない。そうすると、\n最初の親出願の明細書等には、1)本件発明1を含む発明が記載された上で、2)かし め部あり構成の場合に当該発明を用いる際の問題点等について、逃げ空間あり構\成 などが更に記載されているというべきであって、上記2)の記載の存在によって上記 1)の記載が存在しないものとはいえないところである。
(イ) 上記に関し、原告は、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の積層され た鉄心片の固定手段として、かしめが技術常識となっていたことから、最初の親出 願の明細書等の記載について固定手段を特定の手段に限定するものではないとはい えない旨を主張するが、原告が主張する上記技術常識が認められないことは、前記 (1)イのとおりである。
(ウ) また、原告は、「かしめ積層されていても回転子積層鉄心の鉄心片の板厚が0. 5mm以下でないもの」(鉄心片の板厚が0.5mm超のもの)について、当業者は 通常想定しないなどと主張するところ、かしめ積層された回転子積層鉄心の鉄心片 の板厚が0.5mm以下でないものは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下い ずれかの面から少しの範囲で突出してしまうことをもって、同板厚が0.5mmを 超える全てにおいて、直ちに、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの 面から少しの範囲で突出するとはいえないと理解できるものではないとしても、本 件全証拠をもってしても、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の鉄心片につ いて、板厚0.5mm以下のものが用られる場合が多かったという事情を超えて、 板厚0.5mm超のものが選択肢となっていなかったといった事情は認められない。 この点、板厚0.5mm超のものを用いる例があったことは、乙5の記載(前記2 (1))やその他の証拠(乙7〜10、17、18)からも認められるところである。 さらに、最初の親出願の明細書の段落【0004】には、「この特許文献1記載の 技術においては、回転子積層鉄心を形成する各鉄心片がかしめ積層された特に鉄心 片の板厚が0.5mm以下の薄いものでは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上 下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう」と記載されており、「鉄心片の板 厚が0.5mm以下の薄いもの」が全体の中から特に取り上げられた例であること が明記され、それ以外の場合(鉄心片の板厚が0.5mmを超えるもの)の存在が 示唆されているから、仮に、通常は板厚0.5mm以下のものを想定している当業 者においても、同段落の記載に接した場合には板厚0.5mm超のものを選択肢と して考慮し得るといえる。

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令和3(行ケ)10144  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年10月17日  知的財産高等裁判所

 無効審判にて訂正をしましたが、無効と判断されました。知財高裁は訂正要件(減縮)、サポート要件違反の無効理由ありとして、審決を維持しました。
訂正されたクレームは下記です。
媒体面上に形成され、且つデータ内容が定義できる情報ドットが配置されたドットパターンであって、
前記ドットパターンは、縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に、前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に、どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し、
前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように、前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上と、該第一方向ラインと交差するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方向ライン上とにおいて、該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配置されたことを特徴とするドットパターン。\n

ア 訂正事項1について 訂正事項1は、前記第2の2(1)のとおり、本件発明1の「縦横方向に等 間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に、前記情報ドットを 前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの 方向に、どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し」との構成を、本\n件訂正発明1の「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子 点を中心に、前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°の2 倍である90°ずつずらした前記縦横方向のうちいずれかの方向に、どの 程度ずらすかによってデータ内容を定義し」との構成に訂正するものであ\nる。
本件訂正前の上記構成は、任意の45°間隔による8方向をドットの配\n置に利用できる方向として、情報の内容を表現するものである一方、本件\n訂正後の上記構成は、縦横の4方向をドットの配置に利用できる方向とし\nて、情報の内容を表現するものであるから、情報の内容を定義する情報ド\nットの種類やデータの表現方法を異にするものであり、端的に、両者は異\nなる構成というべきものであって、包含ないしは上位下位概念の関係には\n立たない。したがって、訂正事項1は、特許法134条の2第1項ただし 書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1による請求項1の訂正に伴い、特許請求の範 囲の記載と明細書の記載との整合を図るため、対応する本件明細書【00 09】の記載を訂正事項1と同様の内容で訂正するものであるところ、前 記アのとおり、請求項1に係る訂正事項1が認められない以上は、訂正事 項2は、その訂正に係る請求項について訂正をしないものと帰すから、訂 正事項2も訂正要件を充足しない(特許法134条の2第9項、126条 4項参照)。
ウ 原告の主張について
原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、1)訂正事項1は、8方向のう ちの「いずれかの方向」とする選択肢についてこれを4方向にする制限 を直列的に付加するものである、2)「いずれかの方向に、どの程度ずら すか」というのは、ずらす方向の数を意味しており、このずらすことの できる各方向の選択肢の数を減らす択一的要素の削除であって、「特許請 求の範囲の減縮」に当たる旨主張する。
しかしながら、原告が自らも前記第3の1(1)ア にて主張するように、 本件発明1の「いずれかの方向に、どの程度ずらすかによってデータ内 容を定義し」との構成は、1つの単一な構\成としてデータ内容を定義し ているのであって、ある格子点を基準にして「いずれかの方向」とされ る全ての各方向にドットをずらすか、ずらさないかによって当該格子点 を基準として定義し得る情報を特定するものであるから、ドットがずら されていない方向も、ドットがずれていないという意味で当該情報の定 義に用いられているのであって、ドットがずらされている方向のみが情 報の定義に利用されているというものではない。この点、原告は、「縦横 方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に、前記情 報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のう ちいずれかの方向に、どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し」 との記載の「いずれかの方向に、どの程度ずらすか」を、ずらす方向の 数を規定するものである旨主張する。しかしながら、「方向の数」との趣 旨を「どの程度」との文言で表現したとするのは文言解釈として不自然\nであって、「等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に、 どの程度ずらすか」とは、ある格子点を基準にして「いずれかの方向」 とされる全ての各方向にドットをずらすか、ずらさないかによって当該 格子点を基準として定義し得る情報を特定する際に、ドットをずらすの は等距離で45°ずつずらした各方向のうちどの方向にするのか、ずら されるドットは等心円上に配置されることになるが、この等心円の半径 をどの程度にするのかによってデータ内容を定義する趣旨であると理解 するのが自然である。また、本件明細書(本件訂正後)にも、1)「デー タは、図103に示すように、ドット605を格子領域内の中心点から どの程度ずらすかによってデータ内容が定義できるようになっている。 同図では、中心から等距離で45度ずつそれぞれずらした点を8個定義 することによって単一の格子領域で8通り、すなわち3ビットのデータ を表現できるようになっている。」(【0191】の前半)、2)「なお、さ らに中心点から距離を変更した点をさらに8個定義すれば16通り、す なわち4ビットのデータを表現できる。」(【0191】の後半)との記載\nがある(本件訂正前にも、別紙記載のとおり、「格子領域」とある部分の 一部が「格子ブロック」となっているほかは同旨の記載がある。)のであ るから、特許請求の範囲の「いずれかの方向に、どの程度ずらすか」は、 これらの記載に対応するものと解するのが自然であるし、上記1)及び2) のどちらも中心点からの距離についての記載であって、「どの程度ずらす か」が方向の数をいうものでないことは明らかである。 そうすると、それぞれの各方向を取り出してそれぞれに独立した意味 があるというものではなく、8方向全部が一体となり、中心点からの距 離と相まって、データ内容の定義に用いられているのであるから、8方 向を4方向に変更することは、ある格子ドットについて用いることので きる方向の数に制限が付されたとか、あるいは、ある格子ドットについ て選択できる選択肢の数を制限したとかという単純なものではなく、端 的に、異なる情報定義体系を採用したことを意味するものというべきで ある。以上によれば、訂正事項1を発明特定事項の直列的付加又は択一的要 素の削除であるとすることができないから、「特許請求の範囲の減縮」と 解する余地はない。したがって、原告の上記主張を採用することはでき ない。
原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、数値による限定は、数値によ って限定される範囲が小さくなるほど対象が具体的になるから、8方向 から4方向への限定は、下位概念化である旨主張するが、前記 におい て説示したところによれば、本件発明において量的な大小で包含関係又 は上位下位概念の関係を論じることが適切でないことは明らかであるか ら、その主張を採用することはできない。
なお、本件審決には、「(逆に、4個しか定義できない構成を8個定義\nできる構成に変更する場合であれば、そのための構\成を付加し、上位概 念から下位概念に限定したといえる余地もある。)」(6頁)旨の説示がみ られるが、単なる傍論にすぎないから、その説示の当否が前記判断を左 右するものではない。
エ 小括
以上のとおりであるから、その他の点について検討するまでもなく、本 件訂正は訂正要件を満たさないものであるから、これを認めなかった本件 審決の判断には誤りがない。
(2) 取消事由について
前記(1)のとおり、本件訂正を認めなかった本件審決の判断には誤りはない ところ、原告は、本件訂正が認められなかった場合の本件審決の誤りを主張 するものではないから、本件訂正が認められた場合についての予備的請求の\n当否について判断するまでもなく、取消事由は理由がないことになる。
(3) サポート要件の充足について
ア 原告の予備的主張中には、前記第3の1 アのとおり、本件発明がサポ ート要件を充足する旨の記載があり、その趣旨や内容は判然としないもの ではあるものの、これは、本件訂正を認めず、その上で本件発明がサポー ト要件を充足しないとした本件審決の判断の誤りを主張する趣旨と善解 する余地もないではないから、念のために、同主張についての判断を示す。
前記2(2)及び(3)のとおり、本件明細書には、図5ドットパターンと図1 05ドットパターンについての記載がある。原告は、本件発明1のドット パターンは縦横4方向の図5ドットパターンに斜め4方向を付け加えた 設計上の微差でしかないドットパターンであるか、あるいは、8方向にド ットをずらす本件発明1のドットパターンの一例として図5ドットパタ ーンを位置付けることができるとして、本件発明1のドットパターンが図 5ドットパターンに基づくものである旨主張するので、以下、これを前提 に、本件発明1がサポート要件を充足するか検討する。
前記(1)アのとおり、縦横4方向をドットの配置に利用できる方向として 情報の内容を表現する図5ドットパターンの構\成と、任意の45°間隔に よる8方向をドットの配置に利用できる方向として情報の内容を表現す\nる本件発明1の構成は、情報の内容を定義する情報ドットの種類やデータ\nの表現方法を異にするものであるから、両者の差異が微差であるというこ\nとはできない。また、同ウ のとおり、本件発明1の構成は、8方向全部\nが一体となり、中心点からの距離と相まって、データ内容の定義に用いら れているのであり、縦横4方向の図5ドットパターンの構成とは異なる情\n報定義体系を採用するものであるから、図5ドットパターンを本件発明1 のドットパターンの一例として位置付けることもできない。以上からする と、図5ドットパターンに基づき、本件発明1のドットパターンが発明の 詳細な説明に記載されたものということはできないから、本件発明1はサ ポート要件に適合しない。したがって、本件発明1の構成を全て含む本件\n発明2及び3もサポート要件を充足しない。
イ これに対して、原告は、前記第3の1(3)アのとおり、るる主張するとこ ろ、前示のとおり、いずれの点もその趣旨、内容は判然としないが、本件 訂正が認められるべきものであることを前提にする主張が採用できない ことは明らかであるし、本件明細書の記載が本件発明をサポートする内容 を含むものとは認められないことも前記アのとおりである。したがって、 この点に係る原告の主張はいずれも当を得ないものというほかない。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和3(行ケ)10145

◆令和3(行ケ)10146

◆令和3(行ケ)10147

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令和4(ネ)10052  特許権侵害に基づく損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年9月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 興和vs東和薬品の特許権侵害訴訟です。1審は、サポート要件違反の無効理由があるとして請求を棄却しました。知財高裁は、サポート要件違反についてはふれることなく、公知文献(乙12)から進歩性無しとして無効と判断しました。阻害要因も否定されています。

前記(ア)及び(イ)によると、乙12発明における「コーティング」は、酸 化や環境湿度等に敏感なスタチン類(HMG−CoAレダクターゼ阻害剤)を保護 し、これを安定化するために塗布される材料の層であるところ、従来から、固形医 薬品の安定性を高める目的で保護コーティングが施され、その材料として様々なも の(ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体ではないアミノアルキルメタアク リレートコポリマーEを含む。)が開発されていることが周知であり、特に、HM G−CoA還元酵素阻害剤のコーティング材料として、カルメロース及びその塩、 クロスポビドン等の崩壊剤と共に、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE を用い得ることが知られていたものと認めることができる。 そうすると、乙12発明の「コーティング」の材料として、「カルボキシメチル セルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物」に代え、アミノアル キルメタアクリレートコポリマーE等の「ポリビニルアルコール又はセルロース誘 導体」を含まない周知のものを採用することは、乙12公報に接した本件出願日当 時の当業者において適宜なし得たことであると認めるのが相当である。
(エ) 控訴人の主張について
控訴人は、乙12発明は「ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィル ム形成剤として含む材料の層でコーティングされた構成」を必須の構\成とするもの であり、これを従来技術として知られている他のコーティングに変更することは想 定されていないから、上記の必須の構成を相違点2に係る本件訂正発明6の構\成に 変更することには阻害要因がある旨主張する。 しかしながら、乙12公報の記載(前記3(1)キ)を見ても、乙12発明の適切 な「膜形成剤」は、(環境影響に敏感な)粒子又は活性物質を含む医薬剤形のコア にコーティングの形態で塗布され、環境影響(酸化及び/又は環境湿度等)から活 性物質を保護する任意のものであり、最も好ましい「膜形成剤」は、活性物質を酸 化から保護する任意のものであるとまず理解され、当該任意の「膜形成剤」のうち 好適なものがポリビニルアルコール(PVA)及びセルロース誘導体からなる群か ら選択されるものであると理解するのが自然であるから、「ポリビニルアルコール 又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされた 構成」が乙12発明の必須の構\成であると認めることはできない。したがって、こ の構成を相違点2に係る本件訂正発明6の構\成に変更することに阻害要因があると いうことはできない。

◆判決本文

原審はこちら

◆平成30(ワ)17586等

なお、当事者および該当特許が同じ別訴では、侵害が認定されています。

◆平成27(ワ)30872

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令和3(行ケ)10137  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月23日  知的財産高等裁判所

 先の審取で、実施可能要件違反はないと判断され、再度、実施可能\要件要件の無効を主張しましたが、「一次審決取消訴訟において行った主張と同じ」と判断されました。

(1) 審決取消訴訟の拘束力
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が 確定したときは、審判官は法181条2項の規定に従い当該審判事件につい て更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟 法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定 により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が 導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審 判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。 したがって、再度の審判手続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ 判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰 り返すこと、あるいはかかる主張を裏付けるための新たな立証をすることを 許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限 りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすること ができない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号2 45頁)。
(2)ア 一次審決取消訴訟の判断
(ア) 本件訴訟におけると同様に、一次審決取消訴訟においても、実施可能\n要件(法36条4項1号)に関して、本件明細書の発明の詳細な説明の 記載は、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加す る所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成(構\成要件G)を 当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているか否かという\nことが争点となり、原告(一次審決取消訴訟の被告)は、本件発明に係 る作業機を自ら開発した被告(一次審決取消訴訟の原告)ですら、本件 明細書等の図7のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業 機」を再現できないのであるから、構成要件Gが実施不可能\であること は明らかであると主張した(甲47〔20頁〕)。
(イ) この点について、一次判決は、特許発明が実施可能であるか否かは、\n実施例に示された例をそのまま具体的に再現することができるか否か によって判断されるものではないから、本件特許の原出願時に当業者が 本件明細書の記載に基づいて本件発明を実施することができたか否か は、本件明細書等の図7のグラフのデータを得た「当時の作業機」自体 を再現できるか否かによって判断されるものではなく、甲60(審判乙 14)、甲64(審判乙18)によれば、構成要件Gが実施可能\であるこ とが認められるから、原告の上記主張は採用することができない、と判 断した(甲47〔51〜52頁〕)。
イ 本件審決の判断
原告は、本件審決においても、前記ア(ア)と同様の主張を行ったが(本件 審決第4の3(4)カ)、本件審決は、一次審決取消訴訟のとおりの判断(前記 ア(イ))をし、そのような判断によれば、「一次審決は、図7のグラフを得た という作業機(実施品)が当時存在していたかについて審理判断していな いが、図7のグラフを得たという作業機が当時存在していたことを示す証 拠は皆無であり、架空の構成Gは当業者であっても実施不可能\である。」と いう原告の主張をもって、構成要件Gが実施可能\であるとの判断が左右さ れるものでないことは明らかであると判断した(本件審決第6の2(5)イ(イ) c〔本件審決111頁〕)。
(3) 原告は、本件訴訟において、取消事由3として、本件発明が、構成要件G\nの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角 度範囲内において徐々に減少し」という構成を備えるものとして実施可能\で あるというためには、本件明細書等の図7のグラフに示された結果を得るた めの実測に用いられた本件発明に係る当時の作業機(本件発明の実施品)が 実際に存在していたことが前提であるとし、それにもかかわらず、構成要件\nGの根拠である図7のグラフを得たという当時の作業機自体及びそれに関す る資料が現在存在しないから、図7のグラフは、一体どのような作業機を用 いた実測結果であるのか全く理解できず、構成要件Gの根拠になり得ず、そ\nのため、構成要件Gは根拠がなく、当業者であっても実施不可能\であると主 張する(前記第3の9〔原告の主張〕)。 しかし、原告の取消事由3についての上記主張は、本件明細書等の図7の グラフのデータの実測に用いられた作業機に関する資料の存否に言及するも のの、資料がないためにそのような作業機の存在が認められなければ、構成\n要件Gは実施不可能であるとの趣旨の主張であり、実施可能\要件との関係に おいては、本件明細書等の図7のグラフのデータの実測に用いられた作業機 の存在が明らかにならなければ実施可能要件は認められないとの主張であっ\nて、原告が一次審決取消訴訟において行った主張(前記(2)ア(ア))と同じ内容 の主張であると認められる。そして、原告が一次審決取消訴訟においてした 主張は(前記(2)ア(ア))、一次審決取消訴訟の判決理由中で理由がないと判断 され(前記(2)ア(イ))、その判断には行政事件訴訟法33条1項の拘束力が生 じたものと認められ、本件審決は、一次審決取消訴訟の拘束力に従って、原 告の上記主張に理由がないと判断したものと認められる。 したがって、原告は、本件審決が一次審決取消訴訟の拘束力に従ってした 判断をもはや争うことはできないものというべきであるから、原告の取消事 由3の主張は理由がない。

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令和4(ネ)10021  特許権侵害差止請求控訴事件 特許権  民事訴訟 令和4年7月7日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

令和4(ネ)10021  医薬品の特許権侵害について、原審は、請求項1,2についてはサポート要件違反の無効理由あり、また請求項3,4については技術的範囲に属しないと判断していました。 原告(特許権者)が控訴し、知財高裁は原審の判断を維持しました。

 本件発明2の特許請求の範囲の請求項2(「化合物が、式IにおいてR3およびR2はいずれも水素であり、R1は−(CH2)0−2−iC4H9である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の鎮痛剤」)の記載に照らすと、本件発明2の化合物は、本件発明1の化合物の範囲に含まれるものである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2の化合物を線維筋痛症や神経障害等の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについての一般的な記載があるが(前記1(2)及び(4))、一方で、本件発明2の化合物を神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについて明示の記載はない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2の化合物に該当するCI−1008及び3−アミノメチル−5−メチル−ヘキサン酸を用いたラットホルマリン足蹠試験結果、CI−1008を用いたラットカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験結果、本件発明2の化合物に該当するS−(+)−3−イソブチルギャバを用いたラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験結果の記載がある(前記1(3)、(6)、(7)及び(9))。
しかし、前記(1)オ(ア)dの認定事実に照らすと、上記試験結果は、いずれも神経障害又は線維筋痛症による痛みの処置に本件発明2の化合物を使用した試験に関するものといえないから、上記試験結果から、本件発明2の化合物が、「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に対して鎮痛効果を有することを認識することはできない。 そうすると、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識から、本件発明1の化合物の範囲に含まれる本件発明2の化合物が、本件発明1及び2の「痛み」の範囲に含まれるすべての「痛み」に対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供するという本件発明1及び2の課題を解決できるものと認識することはできないから、本件発明1及び2は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものと認めることはできない。 ・・・・ 控訴人は、本件発明3は、慢性疼痛に対する画期的処方薬として、抗てんかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだしたものであり、その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用いる点にあるから、対象となる痛みが侵害受容性疼痛か、神経障害性疼痛や線維筋痛症かは本質的部分ではなく、効能・効果を神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とし、慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告ら医薬品は、均等論の第1要件を満たすと主張する。しかし、本件明細書の記載(前記1(4))によれば、本件発明3は、本件発明3の「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」の範囲に含まれるすべての「痛み」に対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供することを課題とするものと認められること、痛みは、その基礎となる病態生理に著しい差異があり、「侵害受容性疼痛」、「神経障害性疼痛」、「心因性疼痛」の3つに大別されることは、本件出願当時の技術常識であったこと(前記2(1)オ(ア)a)に照らすと、いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは、本件発明3において本質的部分であるというべきであり、その鎮痛効果の対象を異にする被告ら医薬品は、本件発明3の本質的部分を備えているものと認めることはできない。したがって、本件発明3に係る特許請求の範囲(本件訂正後の請求項3)に記載された構成中の被告ら医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でないということはできないから、被告ら医薬品は均等論の第1要件を満たさない。\n

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原審

◆令和2(ワ)19925等

特許権は同じで、被告(被控訴人)が異なる事件(1)です。 令和4(ネ)10009

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原審

◆令和2(ワ)19927


被告(被控訴人)が異なる事件(2)です。 令和4(ネ)10002

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原審

◆令和2(ワ)22283

被告(被控訴人)が異なる事件(3)です。 令和4(ネ)10012

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原審

◆令和2(ワ)19924

被告(被控訴人)が異なる事件(4)です。 令和4(ネ)10020

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◆令和2(ワ)19929

被告(被控訴人)が異なる事件(5)です。 令和4(ネ)10013

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◆令和2(ワ)19917

被告(被控訴人)が異なる事件(6)です。 令和4(ネ)10016

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◆令和2(ワ)19918等

被告(被控訴人)が異なる事件(7)です。 令和4(ネ)10039

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◆令和2(ワ)19919

被告(被控訴人)が異なる事件(8)です。 令和4(ネ)10028

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◆令和2(ワ)19920等

被告(被控訴人)が異なる事件(9)です。 令和4(ネ)10015

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原審。

◆令和2(ワ)19922等

被告(被控訴人)が異なる事件(10)です。 令和4(ネ)10036

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◆令和2(ワ)19923等

被告(被控訴人)が異なる事件(11)です。 令和4(ネ)10017

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◆令和2(ワ)19926

被告(被控訴人)が異なる事件(12)です。 令和4(ネ)10003

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19928

被告(被控訴人)が異なる事件(13)です。 令和4(ネ)10037

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◆令和2(ワ)19931等

被告(被控訴人)が異なる事件(14)です。 令和4(ネ)10025

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原審

◆令和2(ワ)19932


被告(被控訴人)が異なる事件(15)です。 令和4(ネ)10026

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)22290等

本件特許の無効審判事件の審取です。 令和2(行ケ)10135 審決は、「訂正後の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効、請求項3,4に係る発明についての本件審判の請求は,成り立たない。」と判断していました。 知財高裁は、審決維持です。

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令和4(ネ)10015 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年6月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 医薬品特許について、原告特許権者、被告ジェネリック医薬品メーカです。1審は36条違反(実施可能要件)として権利行使不能\と判断していました。知財高裁も同様の判断をしました。

前記1(1)オ、カ及びクのとおり、本件明細書には、薬理データ又はこれと 同視し得る程度の事項として、本件化合物がホルマリン試験、カラゲニン試験及び 術後疼痛試験において効果を奏した旨の記載がある。しかしながら、後記(5)にお いて説示するとおり、本件出願日当時、慢性疼痛は全て末梢や中枢の神経細胞の感 作という神経の機能異常により生じる痛覚過敏や接触異痛の痛みであり、原因にか\nかわらず神経細胞の感作を抑制することにより痛みを治療できるとの控訴人主張の 技術常識が存在していたとは認められないから、本件化合物がホルマリン試験、カ ラゲニン試験及び術後疼痛試験において引き起こされた各痛みの処置において効果 を奏した旨の記載があるからといって、そのことをもって、当業者において、本件 化合物が原因を異にするあらゆる「痛み」の処置においても効果を奏すると理解し たとは到底いえない。したがって、ホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛 試験の結果に係る上記記載をもって、本件明細書の発明の詳細な説明において、本 件化合物が「あらゆる全ての痛みの処置における鎮痛剤」の用途に使用できること につき薬理データ又はこれと同視し得る程度の事項が記載され、本件出願日当時の 当業者において、本件化合物が当該用途の医薬として使用できることを理解できた と認めることはできない。 その他、本件明細書の発明の詳細な説明に、本件化合物が「あらゆる全ての痛み の処置における鎮痛剤」の用途に使用できることにつき、薬理データ又はこれと同 視し得る程度の事項が記載され、本件出願日当時の当業者において、本件化合物が 当該用途の医薬として使用できることを理解できたと認めるに足りる的確な証拠は ない。

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令和2(行ケ)10143  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年6月23日  知的財産高等裁判所

 数値限定発明についてサポート要件違反などを理由にした無効審判が請求されました。審決は無効理由無しと判断しました。裁判所も同様です。

ウ 原告は、本件発明の「引張弾性率」の数値範囲は、「250〜600MP a」であるが、「250MPaから500MPaまで」の範囲については、 実施例による裏付けを欠いているから、本件明細書の発明の詳細な説明の 記載から、本件発明の「引張弾性率」の数値範囲うち、少なくとも上記範 囲については、本件発明の課題を解決できると認識することはできないと して、本件発明はサポート要件に適合しない旨主張する。 しかしながら、前記イ(ア)bのとおり、本件明細書の【0039】の記載 から、「MD方向の引張弾性率」が、「250MPa以上」であれば、「鋸刃 でフィルムをカットするために力を加える際、フィルムのMD方向への延 びを抑制でき、鋸刃がフィルムに食い込みやすくでき、カット性が向上」 し、「600MPa以下」であれば、「フィルムが軟らかく、鋸刃の形状に 沿ってフィルムをきれいにカットでき、切断端面に多数の裂け目が発生す るのを抑制できる」ことから、「本実施形態のラップフィルム」(本件発明) の「MD方向の引張弾性率」を「250〜600MPa」の範囲としたこ とを理解できる。また、本件明細書には、MD方向の引張弾性率が「51 0MPa」ないし「540MPa」の範囲の本件発明の実施例(実施例1 ないし6)では、「裂けトラブル抑制効果」の評価結果が「◎」又は「○」、 「カット性」の評価結果がいずれも「◎」であったことが示されており、 「塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムのフィルム切断刃によるカット 性を維持しつつ、巻回体からのフィルム引き出し時、及び化粧箱の中に巻 き戻ったフィルム端部の摘み出し時の裂けトラブルを低減する」という本 件発明の効果が確認されている。
一方、本件明細書には、「250MPaから500MPaまで」の範囲に ついては実施例の記載がないが、上記【0039】の記載が不合理である ことをうかがわせる証拠はないから、上記【0039】の記載から、上記 範囲のものについても、本件発明の上記効果を奏するものと理解できる。 以上によれば、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、 本件発明の「引張弾性率」の「250〜600MPa」の数値範囲全体に わたり、本件発明の上記効果を奏するものと認識できるものと認められる から、上記効果を奏する塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを提供する という本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められる。 したがって、原告の上記主張は理由がない。
エ 原告は、1)「低温結晶化開始温度」の「塩化ビニリデン系樹脂」への影 響について、公然知られた知見がないことを踏まえると、当業者は、本件 明細書の発明の詳細な説明の記載から、「低温結晶化開始温度」を「40〜 60度」の数値範囲とすることにより、本件発明が裂けトラブル抑制効果 を奏することを認識することができない、2)本件明細書の記載によれば、 本件発明の「低温結晶化開始温度」は、「流通・保管時」の値と解されるが、 一方で、本件明細書の記載において、ラップフィルムが製造された後の「流 通・保管時」の低温結晶化開始温度の挙動は一切明らかではないし、「製造 時」から「流通・保管時」を経て、低温結晶化開始温度を「40〜60度」 に調節する方法についても明らかではないこと、本件明細書記載の実施例 1ないし6は、いずれも「流通・保管時」の条件が「28度に設定した恒 温槽にて1ヶ月間保管したもの」という特定の条件におけるものであり、 それ以外の「流通・保管時」の条件下においては、低温結晶化開始温度が 「40〜60度」の範囲になるとは限らないこと、本件明細書の記載から は、ラップフィルムの製造後の「流通・保管時」における流通・保管条件 なども不明であり、かつ、それらの流通・保管条件による「低温結晶化開 始温度」の挙動に与える影響も不明であることからすると、当業者は、本 件明細書の記載に基づいて、ラップフィルムの低温結晶化開始温度が、「流 通・保管時」において、「40〜60度」に属するかどうかを予測すること\nができないから、裂けトラブルの抑制やカット性の向上という本件発明の 課題を解決することができると認識することも困難であるとして、本件発 明は、サポート要件に適合しない旨主張する。
しかしながら、1)については、前記イ(イ)bで説示したとおり、本件明細 書の記載から、本件発明の「低温結晶化開始温度」の意味、「低温結晶化開 始温度」を「40〜60度」の範囲に制御することにより、「巻回体からの フィルム引き出し時、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部の摘み出 し時の裂けトラブル」の発生を抑制する機序を理解できるから、原告主張 の1)は、採用することができない。 次に、2)については、本件明細書の【0044】には、「ラップフィルム 製造後にガラス転移温度以下である−30度で保管した場合」、「すなわち、 ラップフィルムが製造後に全く熱を受けていないとみなせる場合の低温 結晶化開始温度は40度」であったことの記載がある。この記載から、低 温結晶化開始温度は、ラップフィルムが製造された後、外部から熱を受け ることによって「40度」から変化するものと理解できる。そして、本件 明細書の実施例1ないし6は、製造直後のラップフィルムの巻回体を2 8度に設定した恒温槽で1か月保管したものであるが、低温結晶化開始温 度が43度から53度までの範囲にあり、本件発明の数値範囲を満たすも のである。 そして、上記各実施例の上記の保管条件は、「ラップフィルムの出荷後の 流通、及び家庭での保管を想定」した(【0059】)ものであり、この条 10件の設定自体は、出荷後の流通及び家庭での保管を想定したものとして自 然なものである。
そうすると、当業者は、上記【0044】及び【0059】の記載と上 記各実施例の記載から、ラップフィルムが出荷後の流通及び家庭での保管 の過程で熱を受けると、低温結晶化開始温度が40度から上昇することを 理解し、上記各実施例の上記保管条件のみならず、他の保管条件であって も、一般的な流通及び家庭での保管の条件(温度及び保管する時間)の範 囲に沿うものであれば、低温結晶化開始温度が「40〜60度」の範囲内 に収まるラップフィルムを作成することができると認識できると認めら れる。

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令和3(行ケ)10068  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年4月14日  知的財産高等裁判所

 パチンコ機について明確性違反とした拒絶審決が取り消されました。争点となったのは、「〜状態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く、〜状態とならない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」という記載です。出願時は代理人なしの本人出願です。通常はこのレベルで審取まで争うことはやらないので参考になります。

以上を総合すると、本件発明の「前記演出制御手段は、前記可動体演出 を行う際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に 前記特典遊技状態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く、前記 当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態 とならない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」との記載は、「前記 演出制御手段」が、「前記可動体演出を行う際に、前記当否判定の結果が大 当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合」には、 前記第1操作手段が操作されることを起因に可動体演出を行う選択をす るより、前記第2操作手段が操作されることを起因に可動体演出を行う選 択をする割合が高く、「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の 終了後に前記特典遊技状態とならない場合」には、前記第2操作手段が操 作されることを起因に可動体演出を行う選択をするより、前記第1操作手 段が操作されることを起因に可動体演出を行う選択をする割合が高いこ とを規定したものと理解できる。 したがって、本件発明の「前記演出制御手段は、前記可動体演出を行う 際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特 典遊技状態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く、前記当否判 定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となら ない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」との記載は、その記載内 容が明確である。
(2) これに対し、被告は、1)請求項1の「前記演出制御手段は、所定の前記変 動演出の実行中に、前記第1操作手段又は前記第2操作手段が操作されるこ とを起因に前記可動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行い」 との記載から、第1操作手段又は第2操作手段が操作されることを起因に可 動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行うことを理解できるが、 第1操作手段と第2操作手段の両方が操作される場合や、その他の操作手段 が操作される場合が排除されていないため、上記記載は、「第1操作手段又は 第2操作手段が二者択一で選択される構成」を特定しているとはいえないし、\n仮に「第1操作手段又は第2操作手段が二者択一で選択される構成」を読み\n取れるとしても、そのことから直ちに、記載j1の「前記当否判定の結果が 大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合には前記 第2操作手段の選択率が高く」との記載における「前記第2操作手段の選択 率」の比較対象や、記載j2の「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当 り遊技の終了後に前記特典遊技状態とならない場合には前記第1操作手段の 選択率が高い」との記載における「前記第1操作手段の選択率」の比較対象 が一義的に導かれるわけではない、2)本件明細書の【0012】及び【00 13】の記載は、請求項1の記載Jに対応しておらず、本件発明の解釈の根 拠とはならないから、記載Jを含む本件発明は、明確性要件に適合しない旨 主張する。
しかし、1)については、請求項1の「前記演出制御手段は、所定の前記変 動演出の実行中に、前記第1操作手段又は前記第2操作手段が操作されるこ とを起因に前記可動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行い」 との記載が、「演出制御手段」が、第1操作手段と第2操作手段の両方が操作 される場合や、その他の操作手段が操作される場合について可動体演出を行 うことを規定しているものと読み取ることはできないし、請求項1の記載全 体をみても同請求項がそのように規定しているものと読み取ることはできな い。
また、前記(1)のとおり、本件発明の「演出制御手段」は、当否判定の結果 が大当りである場合、変動演出の実行中、第1操作手段が操作されることを 起因に可動体演出を行うか、又は第2操作手段が操作されることを起因に可 動体演出を行うかを選択するものと理解できることからすると、記載j1は、 「前記可動体演出を行う際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り 遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合」について、「前記第2操作手段 の選択率」が「前記第1操作手段の選択率」よりも高いことを規定するもの と、記載j2は、「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後 に前記特典遊技状態とならない場合」について、「前記第1操作手段の選択率」 が「前記第2操作手段の選択率」よりも高いことを規定するものとそれぞれ 理解できるから、記載j1及びj2のいずれの記載についてもその比較対象 は明確である。 2)については、前記(1)のとおり、記載Jの記載内容が明確であることは、 本件明細書の【0012】及び【0013】を根拠とするものではないから、 被告の主張は前提を欠くものである。

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令和2(ワ)19920等  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年1月19日  東京地方裁判所

 医薬品の用途発明について、請求項1,2については、実施可能要件・サポート要件違反として訂正が認められず、請求項3,4については均等侵害も否定されました。

医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されるこ\nとのみによっては,当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該\n医薬を当該用途に使用することができないから,医薬の用途発明において 実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明にその医薬の\n有用性を当業者が理解できるような薬理試験結果を記載する必要がある が,前記判示のとおり,本件明細書等には,本件化合物が神経障害性疼痛 又は心因性疼痛による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの治療に有効である と当業者が理解し得るような薬理試験結果の記載は存在しない。
(3) 本件特許出願当時の技術常識
ア 本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛による痛覚過敏又は接 触異痛に対して有効であれば,神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接 触異痛についての薬理試験を要することなく治療効果が予測されること\nを明示又は示唆する技術常識の記載は存在しない。また,侵害受容性疼痛, 神経障害性疼痛,心因性疼痛などの種類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛 などの痛みの発症原因や機序が同一であり,いずれかの種類の痛みに対し て有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても有効であることが本 件特許出願当時の当業者に知られていたなどの記載もない。
・・・・
上記各文献は,本件の技術分野に属する専門家により執筆されたもので あり,その当時の技術常識を反映した書籍であるというべきところ,上記 に摘示した各記載によれば,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性 疼痛は,その発症原因,痛みの態様・程度及び治療方法がそれぞれ異なる というのが本件特許出願当時の技術常識であり,痛みの種類を問わず,痛 覚過敏又は接触異痛などの痛みの発症原因や機序は同一であり,いずれか の種類の痛みに対して有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても 有効であるとの技術常識が存在したということはできない。
ウ 以上によれば,本件化合物が神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接 触異痛の痛みの治療に有効であることを示す薬理試験結果の記載もなく, 本件明細書等の記載に接した当業者が,本件化合物がこれらの痛みの治療 に有効であると認識し得たとは考えられない。
(4) したがって,本件明細書等の記載は訂正前発明1及び2を当業者が実施で きる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできず,実施可\n能要件を充足しない。\n
(5) 原告の主張について
これに対し,原告は,本件特許出願当時,慢性疼痛は,それが侵害受容性 疼痛,神経障害性疼痛又は心因性疼痛のいずれによるものであっても,末梢 や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛\nの痛みであるとの技術常識が存在したので,当業者は,本件明細書等の記載及 び同明細書等に記載された薬理試験から,本件化合物が同明細書等に記載さ れた各種の痛みに有用であると認識することができたと主張する。
・・・・
(オ) 以上によれば,上記(ア)ないし(ウ)の各記載から,侵害受容性疼痛,神 経障害性疼痛等で出現する痛覚過敏と,脊髄のNMDA受容体の活性化 による中枢性感作との間に関連性があるといい得るとしても,本件特許 出願当時,本件明細書等に記載された侵害受容性疼痛(炎症性疼痛,術 後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,痛風,火傷痛等)や神経障害性 疼痛(三叉神経痛,急性疱疹性神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギ ー等)により出現する痛覚過敏がすべて末梢や中枢の神経細胞の感作と いう神経の機能異常により生じるとの技術常識が存在したとは認め難\nく,まして,これらの記載から,当業者が,薬理試験結果の記載もなく, 本件化合物が神経障害性疼痛の治療に有効であると認識し得たという ことはできない。
・・・・
原告は,被告医薬品が構成要件3B及び4Bの文言を充足しない場合であっ\nても,均等侵害が成立すると主張する。 しかし,相手方が製造等をする製品(対象製品)が,特許請求の範囲に記載 された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属すると認められる\nためには,当該対象製品が特許請求の範囲に記載された構成と異なる部分が特\n許発明の本質的部分ではないことを要する(第1要件)。 本件発明3及び4と被告医薬品との相違部分は,その用途にあるところ,同 各発明は,既知の薬物である本件化合物が,侵害受容性疼痛の治療に有効であ ることを新たに見出したことにあるので,その用途が同各発明の本質的部分を 構成することは明らかである。\nしたがって,被告医薬品は,第1要件を充足しないので,均等侵害は成立し ない。
7 まとめ
以上によれば,訂正前発明1及び2に係る特許は,実施可能要件及びサポー\nト要件の各違反を理由に特許無効審判により無効にされるべきものであり,本 件訂正は訂正要件を具備せず,同訂正によっても上記各無効理由が解消されな い。また,被告医薬品は,本件発明3及び4の技術的範囲に属しない。

◆判決本文

特許権は同じく、被告が異なる事件です。

◆令和2(ワ)19932

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令和2(ワ)19931等  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月16日  東京地方裁判所

 医薬用途発明の特許権侵害訴訟です。東京地裁(29部)は、本件発明1,2については実施可能要件・サポート要件違反の無効理由ありと判断しました。また、本件発明3,4について、均等侵害も否定しました。本件発明1,2は特許庁で訂正要件を満たさないと判断されており、審決取消訴訟に係属しています。本件発明3,4は特許庁で訂正が認められています。

 いわゆる医薬用途発明においては,一般に,当業者にとって,物質名, 化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのた\nめの当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該発明に係る医薬\nを当該用途に使用することができないから,そのような発明において実施 可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの\n記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,当該用途の 有用性及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載を要するものと解 するのが相当である。 本件発明1及び2の特許請求の範囲においては,本件化合物が「痛みの 処置における」(構成要件1B)「鎮痛剤」(構\成要件1C)及び「鎮痛 剤」(構成要件2C)として作用することが記載されているところ,いず\nれも本件化合物の鎮痛効果が認められる痛みは特定されていない。しかし, 本件明細書には,本件化合物について,「痛みの処置とくに慢性の疼痛性 障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定さ れるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み, 三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザ ルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー, 線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障 害および特発性疼痛症候群が包含される。」(前記1(1)イ)と記載されて いることに照らすと,本件発明1及び2は,本件化合物が少なくとも上記 各痛みに対して鎮痛効果を有することを内容とするものと解される。 したがって,本件発明1及び2について実施可能要件を満たすというた\nめには,本件明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと 同視し得る程度の記載をすることなどにより,上記各痛みに対して鎮痛効 果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載が必要であ るというべきである。
・・・
前記(ア)の各文献の記載によれば,本件出願当時,術後疼痛試験は,ラ ットの皮膚,筋膜及び足蹠の足底側面の筋肉を切開することにより,痛 覚過敏を引き起こし,これに対する薬剤の効果を確かめる試験であるこ とが,技術常識であったと認められる。 そして,本件明細書には,「S−(+)−3−イソブチルギャバ」\n(弁論の全趣旨によれば,構成要件3Aを充足する本件化合物の一種で\nあると認められる。)が術後疼痛試験において有効であったことが記載 されており,さらに,「ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触 異痛を生じた。いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達 し,3日間維持された。実験期間中,動物はすべて良好な健康状態を維 持した。」(前記1(1)キ(キ)),「ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉 の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏および接触異痛を誘発するこ とを示している。本試験の主要な所見は,ギャバペンチンおよびS− (+)−3−イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対して\nも等しく有効なことである。」(同(コ))との記載がある。 以上によれば,本件出願当時,本件明細書の術後疼痛試験の結果に接 した当業者は,本件化合物について,侵害受容性疼痛としての熱痛覚過 敏及び接触異痛に対して有効であると理解し,その他の痛みに対して有 効であると理解することはなかったというべきである。
・・・
ア 被告医薬品が本件発明3の構成と均等なものであるかについて\n
(ア) 原告は,本件発明3は,慢性疼痛に対する画期的処方薬として,抗て んかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだ したものであり,その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用い る点にあるから,対象となる痛みが侵害受容性疼痛か,神経障害性疼痛 や線維筋痛症かは本質的部分ではなく,効能・効果を神経障害性疼痛や\n線維筋痛症に伴う疼痛とし,慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告 医薬品は,均等侵害の第1要件を満たすと主張する。
しかし,前記1(1)アのとおり,本件特許に係る発明は,てんかん,ハ ンチントン舞踏病等の中枢性神経系疾患に対する抗発作療法等に有用な 薬物である本件化合物が,痛みの治療における鎮痛作用及び抗痛覚過敏 作用を有し,反復使用により耐性を生じず,モルヒネと交叉耐性がない ことに着目した医薬用途発明であるところ,前記2(1)イのとおり,本件 出願当時,痛みには種々のものがあり,その原因や機序も様々であるこ とが技術常識であった。
そうすると,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発明 3において本質的部分というべきであり,その鎮痛効果の対象を異にす る被告医薬品は,本件発明3の本質的部分を備えているものと認めるこ とはできない。したがって,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載さ れた構成中の被告医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でない\nということはできないから,被告医薬品は均等の第1要件を満たさない。
(イ) また,前記(1)アによれば,原告は,本件訂正前発明3においては鎮痛 の対象となる痛みを限定していなかったところ,本件訂正により「炎症 を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」に限定していること からすると,本件発明3との関係においては,被告医薬品の効能・効果\nである神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を意図的に除外したと 認めるのが相当である。 したがって,被告医薬品は均等の第5要件も満たさない。
(ウ) 以上によれば,被告医薬品は,本件発明3の特許請求の範囲に記載さ れた構成と均等なものとは認められない。\n
イ 被告医薬品が本件発明4の構成と均等なものであるかについて\n
前記アと同様に,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発 明4の本質的部分というべきであり,被告医薬品は均等の第1要件を満た さず,また,本件発明4との関係においては,被告医薬品の効能・効果で\nある神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛が意図的に除外されている から,均等の第5要件も満たさない。 したがって,被告医薬品は,本件発明4の特許請求の範囲に記載された 構成と均等なものとは認められない。\n

◆判決本文

関連事件です。本件特許は同じですが、被告が異なります。なお、原告代理人はなぜか異なります。

◆令和2(ワ)19923等

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令和2(ワ)22071  特許権に基づく損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月18日  東京地方裁判所

 ユーグレナに対して、個人発明家が特許権侵害と300万円の損害賠償を求めました。早期審査と分割出願を繰り返しています。親出願は代理人がついていますが、分割出願は代理人無しです。本人訴訟です。裁判所はサポート要件違反として権利行使不能と判断しました。\n

2 争点2−3(サポート要件違反)について
事案にかんがみ,サポート要件に関する争点2−3から判断する。
(1) 判断枠組み
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特 許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲 に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な 説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の ものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術 常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか 否かを検討して判断すべきであり,明細書のサポート要件の存在は特許権者 が証明責任を負うと解するのが相当である。
(2) 本件発明の課題
ア 【0006】には,本件発明の目的が「タンパク質を抽出できる液状化 粧品を提供すること」と記載されているにとどまり,界面活性剤の含有の 有無や含有量,界面活性剤がタンパク質の抽出に与える作用に関する記載 はない。 しかし,本件明細書において,【0006】は,【0005】とともに 「発明が解決しようとする課題」についての記載と位置付けられるとこ ろ,【0005】には,「界面活性剤は,皮膚に負担をかけ,荒れ等を生 じさせ得るため,界面活性剤を使用していないか,又は,界面活性剤の 使用量が極少量である方法が求められていた。」との記載が存在する。そ うすると,【0006】に記載された本件発明の目的は,【0005】に 記載された従来技術の課題の解決を踏まえたものと解釈するのが合理的 である。 加えて,【0011】には,本件発明に係る液状化粧品は,「有効成分を 所定量にて含有してなるタンパク質抽出剤の一態様を指すもの」である との記載がある。そして,本件発明に対応する「第2のタンパク質抽出 剤」の「有効成分」について,【0037】では,「第2の高級アルコー ル」及び「炭化水素」が挙げられている一方,界面活性剤は挙げられて おらず,かえって,【0038】には,「本発明の第2のタンパク質抽出 剤は,界面活性剤を含まなくともよい。」との記載がある。また,上記の 「所定量」について,【0060】には,「第2のタンパク質抽出剤を液 状化粧品として使用する場合,「炭化水素」の含量としては,タンパク質 抽出剤(液状化粧品)の「全量」に対して3体積%以上含まれているこ とが好適である。」,「炭化水素の濃度が低い場合には,タンパク質抽出剤 (液状化粧品)をより多く使用することにより,タンパク質の抽出は可 能である。しかし,炭化水素の含有量が全量に対して3体積%を下回る\nと,化粧品として実用的な範囲を上回る量を使用しなければならなくな るため,好適ではない。」,「第2のタンパク質抽出剤を液状化粧品として 使用する場合,「第2の高級アルコール」の含量としては,「炭化水素」 の体積に対して1体積%以上含まれていることが好適である。」,「第2の 高級アルコールの濃度が低い場合には,タンパク質抽出剤(液状化粧品) をより多く使用することによりタンパク質の抽出は可能である。しかし,\n第2の高級アルコールの含有量が炭化水素に対して1体積%を下回ると, 化粧品として実用的な範囲を上回る量を使用しなければならなくなるた め,好適ではない。」との記載がある。 さらに,【0044】には,「第2の高級アルコール」を「炭化水素」と 組み合わせることによってタンパク質を抽出できる機序が記載されてい るほか,【0065】には,本件発明の「タンパク質抽出剤は,界面活性 剤等を含まなくとも,優れたタンパク質抽出効果を奏する。したがって, 本発明のタンパク質抽出剤によれば,皮膚への負担を低減しつつ,所望 の洗浄効果が得られる。」との記載が存在する一方,界面活性剤がタンパ ク質を抽出する作用ないし機序についての記載はない。 以上によれば,本件発明の課題は,単にタンパク質を抽出できる液状化 粧品を提供することと解することはできず,界面活性剤を使用していな いか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出で きる液状化粧品を提供することであると認めるのが相当である。
イ 原告は,本件発明の課題は,【0006】記載のとおり,タンパク質を 抽出できる液状化粧品を提供することであると解釈すべき旨を主張するが, 前記アで説示したところに照らし,採用することができず,このことは, 本件特許の出願経過において,原告が【0006】にあった「上記課題を 解決するためになされたものであり,」との記載を削除する補正をした事 実によっても左右されるものではない。
・・・
ウ 本件明細書に記載された実施例のうち,実施例13(【0149】)は, 角栓のある皮膚に対する洗浄効果に関するものであり,第2のタンパク質 抽出剤Aとして,約30体積%のオクチルドデカノールと,約60体積% のスクアラン(スクワラン)を含むものが用いられている(【0141】)。 なお,実施例13の結果として,実際に毛穴に詰まった角栓を除去できた ことに関する記載や示唆はない。 また,本件明細書に記載されたその余の実施例は,いずれも,角栓のあ る皮膚に関するものではない。
エ 本件明細書には,炭化水素の含有量が全量に対して3体積%を下回る場 合及び第2の高級アルコールの含有量が炭化水素に対して1体積%を下回 る場合において,角栓除去の効果を奏することができるか否かに関する記 載や示唆はない。
(5) 検討
前記(2)のとおり,本件発明の課題は,界面活性剤を使用していないか又 は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化 粧品を提供することにあると認められるところ,前記(2)のとおり,本件明 細書の特許請求の範囲にはオクチルドデカノール及び炭化水素の含有量に関 する記載がないから,特許請求の範囲の記載上,上記課題を解決するために 必要となるオクチルドデカノール及び炭化水素の含有量について何ら限定は ないと理解できる。
しかるに,前記(4)のとおり,本件明細書においては,タンパク質を抽出 する効果を奏する有効成分として,第2の高級アルコールであるオクチルド デカノールと,リモネン,スクアレン,及びスクアランからなる群から選ば れる1種類以上の炭化水素が特定されているところ,炭化水素の含有量がタ ンパク質抽出剤の全量に対して3体積%を下回る場合及び第2の高級アルコ ールの含有量が炭化水素に対して1体積%を下回る場合には,化粧品として 実用的なものではないことが記載されており,かつ,炭化水素及び第2の高 級アルコールの含有量が上記の数値を下回った場合に角栓を除去する効果を 奏することができるか否かについては何らの記載も示唆もない。 また,本件明細書には,本件発明に係る角栓除去用液状クレンジング剤に よって実際に角栓を除去することができた旨の記載は見当たらない。これに 加えて,角栓のある皮膚を対象とする実施例13において用いられた,角栓 除去用液状クレンジング剤に相当する「第2のタンパク質抽出剤A」に含ま れるスクアラン及びオクチルドデカノールの含有量は,それぞれ,全量の3 体積%及び炭化水素(スクアラン)に対する1体積%を大きく上回るもので ある。
以上によれば,本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件明細書の発明の 詳細な説明の記載により,当業者が,本件発明に係る角栓除去用液状クレン ジング剤のうち炭化水素の配合量が全量の3体積%未満又はオクチルドデカ ノールの配合量が炭化水素の1体積%未満の範囲であっても,角栓除去作用 があり,前記(2)の課題を解決できることについて,認識することはできな いというべきであり,本件全証拠によっても,本件明細書の発明の詳細な説 明の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし上記の本件発 明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めることはできな い。
(6) 原告の主張について
ア 原告は,【0002】ないし【0005】の記載は,本件発明をするに 至った契機を記載したものにすぎず,【0006】は,こうした認識に端 を発して「タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供することを目的と」 してなされたものであることが記載されているものにすぎない旨を主張す る。 しかし,前記(2)アで説示したところによれば,本件発明の課題が単に タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供することに限定されると解す ることはできない。
イ 原告は,【0061】には液状化粧品に含まれるオクチルドデカノール 及びスクアランの含有量が少なくてもよいことが記載されているから,本 件発明が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている旨を主張する。 しかし,【0061】には,第2のタンパク質抽出剤を「液状化粧品」 に使用した場合の各成分の含有量について,実際の使用態様において 「好適な量」よりも薄い濃度で使用することを許容する旨が記載されて いるにすぎず,オクチルドデカノール及びスクアランを「好適な量」含 有しない濃度において,タンパク質を抽出する作用及び角栓除去作用を 奏することができるかについては,何ら記載も示唆もされていない。し たがって,【0061】の記載をもって,本件発明が本件明細書の発明の 詳細な説明に記載されたものであると認めることはできない。
ウ 原告は,【0061】には,水を含有する態様の第2のタンパク質抽出 剤(液状化粧品)において,炭化水素の配合量は水への溶解度以上の量で あり,第2の高級アルコールの配合量は,炭化水素の体積に比し,1体 積%以上から200体積%以下の範囲内の量であると記載されているとこ ろ,炭化水素であるスクアランは水に溶けないから,スクアランがわずか でも含まれていればよいことが本件明細書の発明の詳細な説明に記載され ている旨を主張する。
しかし,【0061】の直前の段落である【0060】には,第2のタ ンパク質抽出剤を液状化粧品として使用する場合に,水を含有する態様 と含有しない態様とを区別することなく,炭化水素の配合量を定めるこ とが記載されている。そして,これに続く【0061】も,【0060】 と同様,第2のタンパク質抽出剤を液状化粧品として使用する場合につ いて説明したものであり,かつ,【0060】の記載内容を排斥する記載 はない。そうすると,【0061】は,【0060】の記載のとおり,炭 化水素が全量の3体積%以上含まれていることを前提とした記載と解釈 するのが相当である。
エ 原告は,本件明細書の実施例13には,スクワランとオクチルドデカノ ールが含まれる第2のタンパク質抽出剤Aは,角栓のある皮膚に対する洗 浄効果,すなわち角栓除去効果が市販の石けんより高かったことが明らか にされているから,その記載により当業者は本件発明の課題が解決できる ことを認識できる旨を主張する。 しかし,実施例13には,角栓のある皮膚に対する洗浄効果の高さにつ いての記載が存在するにとどまり,実際に毛穴に詰まった角栓が除去さ れたことについては記載されていない。

◆判決本文

◆本件特許

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令和3(行ケ)10072  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月21日  知的財産高等裁判所

 記載不備、進歩性なしとして拒絶審決が成されました。記載不備については理由ありとされましたが、進歩性欠如として審決維持です。

(1) 特許出願における特許請求の範囲の記載については,「特許を受けようとす る発明が明確であること」という要件に適合することが求められるが(特許法36 条6項2号),これは,特許制度が,発明を公開した者に独占的な権利である特許権 を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者に ついては特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図るこ とを通じて発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであ ることを踏まえたものである(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月 5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁)。同要件については,同目的の見地 を踏まえ,請求項の記載のほか,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識 を考慮して判断されることになる。 これを本願発明についてみると,前記第2の2の本願の請求項1の記載及び本願 明細書の図1の内容に加え,本願明細書中,本願発明の特徴について説明する段落 において,「増幅器の出力回路」(又は「アナログ増幅器の出力回路」)という表現が\nひとまとまりの語として用いられていること(本願明細書の段落[0001],[0002], [0007]〜[0009],[0012]。同[0017],[0020]も参照。なお,本願明細書[甲11]中に,本願発明の内容に関して,「出力回路」の語が単体で用いられている個所 はない。),前記1(2)の本願発明の概要からすると,本願発明の技術的特徴の最たる 部分は,出力電流に相関した消費電流の変化がないという点にあり,その旨が本願 の請求項1にも明記されているところ,本願明細書の段落[0009]の記載からする と,本願発明が上記の技術的特徴を回路の構成によって実現するものであることは\n明らかであることのほか,実施例についても,「信号に相関した電流を電源回路に流 さない出力部」という記載がある(本願明細書の段落[0015]。同[0018],[0023] も参照)一方で,前段の増幅部については図示されていない旨の記載があること(同 [0016]。同[0019]も参照)を踏まえると,本願の請求項1中,「・・・を特徴と するオーディオ用増幅器の出力回路」という記載において,「・・・を特徴とする」 という部分は,「オーディオ用増幅器の出力回路」,すなわち,「オーディオ用増幅器」におけるものであるという特定の付加された「出力回路」を修飾するものであるこ とが,明確であるというべきである。 そうすると,本願の請求項1の記載は,第三者が特許に係る発明の内容を把握す ることを困難にするものとはいえず,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確 なものであるとは認められず,本願発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法3 6条6項2号に規定する要件を満たしている。
(2) 前記(1)の判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。被 告の主張は,本願の請求項1の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明 確なものであることを根拠づけるものとはいえない。
(3) したがって,取消事由1には理由がある。
もっとも,前記第2の3(2)の本件審決の進歩性についての判断は,本願の請求項 1の記載の明確性についての前記(1)の判断を前提としても,なお問題となるもの であって,前記進歩性についての判断に誤りがない場合には,本件審決の結論に誤 りはないこととなるから,次に,取消事由2について検討する。
5 取消事由2(進歩性について)について
・・・
以上を踏まえると,相違点アを認定しなかった点で本件審決に誤りがあるとはい えない。なお,仮に,形式的に引用発明と本願発明を対比して,相違点アを認定し たとしても,引用発明におけるショットキーバリアダイオードが高抵抗素子として 機能するものであることを含めて既に述べた点のほか,本願発明についても3端子\n増幅素子の入力端子より信号SIG側にバイアス回路として抵抗R1及びR2を設け ることが示されていること(本願明細書の段落[0015],図1)に照らし,相違点ア が本願発明の進歩性を基礎付けるものとはいえない。
c 前記bは,あくまで本願発明がショットキーバリアダイオードの構成を付加\nすることを排除していない旨をいうものにすぎず,同構成を本願発明の構\成要素と して追加するものではない。後者の理解を前提とする原告の主張(それゆえにそれ が前者の理解と矛盾しているという主張を含む。)は,採用することができない。 また,特に入出力電圧の点で引用発明と本願発明が異なるという原告の主張は, 本願発明の発明特定事項に含まれていない構成を前提に本願発明についていうもの\nであって,その前提を欠き,採用することができない。引用発明との対比のために, 本願発明の入出力電圧の範囲を具体的に検討する必要がある旨をいう原告の主張も, 同様に,本願発明の発明特定事項に含まれていない構成をいうもので,採用するこ\nとができない。

◆判決本文

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令和2(ワ)22290等  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年1月19日  東京地方裁判所

 医薬用途発明について、「各痛みに対して鎮痛効果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載がない」として、実施可能要件違反なので権利公使不能\と判断されました。

ア 実施可能要件違反の判断基準について
いわゆる医薬用途発明においては,一般に,当業者にとって,物質名, 化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予\測することは困難であり,当該発明に係る医薬を当該用途に使用することができないから,そのような発明において実施 可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載を要するものと解\nするのが相当である。 本件発明1及び2の特許請求の範囲においては,本件化合物が「痛みの 処置における」(構成要件1B)「鎮痛剤」(構\成要件1C)及び「鎮痛 剤」(構成要件2C)として作用することが記載されているところ,いずれも本件化合物の鎮痛効果が認められる痛みは特定されていない。しかし,本件明細書には,本件化合物について,「痛みの処置とくに慢性の疼痛性\n障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定さ れるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み, 三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザ ルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー, 線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障 害および特発性疼痛症候群が包含される。」(前記1(1)イ)と記載されて いることに照らすと,本件発明1及び2は,本件化合物が少なくとも上記 各痛みに対して鎮痛効果を有することを内容とするものと解される。 したがって,本件発明1及び2について実施可能要件を満たすというためには,本件明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,上記各痛みに対して鎮痛効\n果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載が必要であ るというべきである。
イ 痛みの分類及び機序について
(ア) 痛みの分類及び機序について,証拠(甲15の1,甲26,39,4 1,42,46,55,59,77ないし84,86,88)によれば, 本件出願当時,以下の文献が存在したことが認められる。
・・・
(イ) 前記(ア)aないしgの文献の記載によれば,痛みは,その機序により大 きく分けると,1)炎症や組織損傷による侵害レセプターへの刺激により 生じる侵害受容性疼痛,2)末梢神経又は中枢神経が圧迫されたり,絞扼 されたり,遮断されたりすることにより生じる神経障害性疼痛,3)直接 末梢からの侵害刺激がないにもかかわらず存在し,心因性のもので,特 発性疼痛とも呼ばれる心因性疼痛の三つに分類することができること, 線維筋痛症は,上記3)の心因性疼痛に分類されること,上記のとおりに 分類された痛みの中にも様々なものがあり,それぞれの痛みについて機 序や症状,治療方法が存在することが,本件出願当時,技術常識であっ たと認めるのが相当である。
(ウ) これに対して,原告は,痛覚過敏及び接触異痛は,通常の痛みとは異 なり,末梢性感作や中枢性感作による神経の機能異常で生じる痛みであると主張し,その根拠として,本件出願当時に前記(ア)hないしlのとお りの文献が存在したことを指摘する。 しかし,前記(ア)h,i,k及びlの各文献は,マスタードオイル,カ プサイシン及び切開による侵害刺激を与える実験の結果に基づくもので あるから,これらの実験により,痛覚過敏及び接触異痛が,その原因に かかわらず,末梢性感作や中枢性感作による神経の機能異常により生じると,直ちにいうことはできない。
また,前記(ア)jの文献では,「NメチルDアスパラギン酸(NMDA) 受容体の過剰活性は,神経障害性疼痛の発生における要因の1つである 可能性がある。」,「動物の神経障害性疼痛モデルにおいて示唆されるように…,痛覚過敏は NMDA 受容体によって介在される「ワインドアップ 現象」の提示である可能性がある。」などと記載されているところ,これらの記載は,NMDA受容体の過剰活性が神経障害性疼痛の要因となること,あるいは痛覚過敏がNMDA受容体によって介在されるワイン\nドアップ現象(神経細胞の感作)によるものであることの可能性を指摘したにすぎず,これをもって,上記文献の記載内容が本件出願当時の技術常識であったということはできない。そして,他に,本件出願当時,痛覚過敏及び接触異痛がその原因にかかわらず末梢性感作や中枢性感作による神経の機能\異常で生じる痛みであることが技術常識であったと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
・・・
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明においては,ホルマリン 試験,カラゲニン試験及び術後疼痛試験の各薬理データの記載により,本 件化合物が侵害受容性疼痛に分類される痛みに対して鎮痛効果があること 及びそのための当該医薬の有効量は裏付けられているといえる。しかし, 本件発明1及び2がその内容とする「痛み」,すなわち,少なくとも「炎 症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急性疱 疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢 捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風, 幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛 症候群」(前記1(1)イ)の各痛みに対して鎮痛効果があること及びそのた めの当該医薬の有効量を裏付ける記載はない。したがって,本件発明1及 び2は,実施可能要件に違反するものと認められる。\n

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令和2(行ケ)10080等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月27日  知的財産高等裁判所

 医薬用途発明の「実施可能要件」について、患者に投与した場合に,著しい副作用又は有害事象の危険が生ずるため投与を避けるべきことが明白であるなどの特段の事由がない限り,治療効果を有することを当業者が理解できるものであれば足りると判断しました。

(3) 本件出願当時の5−HT1A 受容体部分作動薬の双極性障害のうつ病エピ ソードに対する治療効果に関する技術常識について\n
ア 前記(1)イの記載事項を総合すると,本件出願当時,1)大うつ病(単極性 うつ病)の症状の一つである「大うつ病エピソード」(うつ病エピソ\ード) と双極性障害(双極性障害I)型及びII)型)の症状の一つである「大うつ病 エピソード」(うつ病エピソ\ード)の定義及び診断基準は同一であったこと, 2)大うつ病性障害の患者に有効であることが立証されているすべての抗う つ薬は双極性障害のうつ病エピソードの患者にも有効であると考えられて\nいたこと,3)一方で,双極性障害の患者に対する抗うつ薬の投与によって, 躁病エピソードを誘発し,躁転や急速交代化を引き起こす可能\性があるが, このような可能性がある場合には,抗うつ薬の投与量の調整,気分安定薬\nとの併用等により対応していたことが認められる。 上記認定事実と5−HT1A 受容体部分作動薬が,脳内のシナプス後5− HT1A 受容体に結合することによって発現する5−HT1A 受容体部分作 動作用に基づいて抗うつ作用を有することは,本件出願当時の技術常識で あったこと(前記(2))によれば,本件出願当時,5−HT1A 受容体部分 作動薬一般がその抗うつ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対\nして治療効果を有することは技術常識であったことが認められる。
イ この点に関し本件審決は,本件出願時において,各種の抗うつ薬を双極 性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用することができることは,技\n術常識であるが,一方で,双極性障害の患者に抗うつ薬を使用した場合, 躁病エピソードの誘発,軽躁エピソ\ードの誘発,急速交代化の誘発,及び 混合状態の悪化等の様々な有害事象が生じる危険性があることを考慮する と,全ての抗うつ薬が双極性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用す\nることができるという技術常識があるとは言い難く,5−HT1A 部分作動 薬を双極性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用できることが技術常\n識であるとはいえないなどとして,5−HT1A 部分作動薬を双極性障害の 治療に使用することができることは,本件出願時の技術常識であるとはい えない旨判断した。
(ア) ところで,医薬品の開発は,基礎研究として対象疾患の治療の標的 分子(受容体等)を探索し,標的分子(受容体等)に対する薬理作用及び 当該薬理作用を有する化合物を探索する薬理試験(in vitro 試験,動物実 験)が実施され,このような薬理試験の結果として,化合物が有する薬 理作用が疾患に対する治療効果を有すること(「医薬の有効性」)につい て合理的な期待が得られた段階で医薬用途発明の特許出願がされるのが 一般的であるものと認められる。 一方で,薬機法は,医薬品の製造販売をしようとする者は,その品目 ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければなら ない旨規定し(14条1項),その承認審査においては,申請に係る医薬\n品の名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,\n有効性及び安全性に関する事項を審査し,その審査の結果,申請に係る\n医薬品又は医薬部外品が,その申請に係る効能\又は効果を有すると認め られないとき,申請に係る医薬品が,その効能\又は効果に比して著しく 有害な作用を有することにより,医薬品又は医薬部外品として使用価値 がないと認められるときは,承認を与えない旨規定し(同条2項3号), 厚生労働省令で定める医薬品の承認を受けようとする者は,申請書に,\n厚生労働省令で定める基準に従って収集され,かつ,作成された臨床試 験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければなら\nない旨規定している(同条3項)。この臨床試験は,臨床試験第1相(少 数の健常人に対する投与であり,副作用などの有無をみる。),臨床試験 第2相(少数の患者に対する投与であり,効果などが見込まれるかをみ る。),臨床試験第3相(多数の患者に対する投与であり,効果などがあ ることを確認する。)の3段階の試験で実施される。このように医薬品の 承認審査では,申請に係る化合物の薬効及び安全性(副作用,有害事象\nの有無及び程度等)を総合的に考慮し,「医薬の有用性」について審査し ている。
以上のような医薬品の開発の実情,医薬品の承認審査制度の内容,特 許法の記載要件(実施可能要件,サポート要件)の審査は,先願主義の下\nで,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業 の発達に寄与するとの特許法の目的を踏まえてされるべきものであるこ とに鑑みると,物の発明である医薬用途発明について「その物の使用す る行為」としての「実施」をすることができるというためには,当該医薬 をその医薬用途の対象疾患に罹患した患者に対して投与した場合に,著 しい副作用又は有害事象の危険が生ずるため投与を避けるべきことが明 白であるなどの特段の事由がない限り,明細書の発明の詳細な説明の記 載及び特許出願時の技術常識に基づいて,当該医薬が当該対象疾患に対 して治療効果を有することを当業者が理解できるものであれば足りるも のと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,本件審決が述べる「双極性障害の患者に 抗うつ薬を使用した場合,躁病エピソードの誘発,軽躁エピソ\ードの誘 発,急速交代化の誘発,及び混合状態の悪化等」の「様々な有害事象が生 じる危険性」については,本件出願当時,抗うつ薬と気分安定薬とを併 用することにより,躁転のリスクコントロールが可能であり,躁転発生\n時には抗うつ薬の中止又は漸減により対応可能であると考えられていた\nこと(前記ア3))に照らすと,上記特段の事由に当たるものと認められない。 そして,本件出願当時,5−HT1A 受容体部分作動薬一般がその抗う つ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対して治療効果を有する\nことが技術常識であったことは,前記ア認定のとおりである。
(イ) 以上によれば,本件審決の前記判断は誤りである。
ウ この点に関し被告らは,双極性障害については,鬱病相と躁病相があり, 双極性障害の鬱病相を治療するために抗鬱薬を投与すると,躁転の可能性\nを有意に高め,双極性障害の症状を悪化させる可能性が高いという固有の\n事情が存在し(甲A1,2,31の1,乙A98,106,),臨床上も,双 極性障害の鬱病相の治療において抗鬱薬の使用は慎重に行うべきとされて いることからすれば,全ての抗鬱薬を双極性障害の鬱病相(うつ病エピソ\nード)の治療に用いることができるなどという技術常識は存在しない旨主 張する。 しかしながら,前記イで説示したところに照らすと,被告ら主張の上記 固有の事情があるとしても,本件出願当時,5−HT1A 受容体部分作動薬 一般がその抗うつ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対して治療\n効果を有することが技術常識であったことを否定する根拠にならない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。

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令和2(ネ)10029  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審はサポート要件違反として無効と判断しましたが、控訴審は約360万円の損害賠償を認めました。

イ 原告は,1)本件発明1の「該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2. 5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベ ルオフ重合度より5〜300高いこと」との要件(差分要件)は,「該セル ロース粉末」に関するレベルオフ重合度との差分であるにもかかわらず, 本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたレベルオフ重合度は,いずれ も「原料パルプ」のレベルオフ重合度であって,実施例及び比較例の「該 セルロース粉末」のレベルオフ重合度は不明であること,BATTIST A論文の記載に照らすと,「該セルロース粉末」と「原料パルプ」のレベル オフ重合度が同じであるとは認められないことからすると,本件明細書の 発明の詳細な説明の記載から,差分要件の数値範囲において,本件発明の 1の課題を解決できると当業者が認識することはできない,2)仮に本件審 決が認定するように「該セルロース粉末」のレベルオフ重合度は,「原料パ ルプ」のレベルオフ重合度より100低いと仮定した場合,実施例2ない し6において示されている差分の範囲は150〜255であり,その下限 値は150であること,差分5ないし10という数値は,粘度法による重 合度測定の誤差の範囲のレベルであり,実質的にはレベルオフ重合度との 差分を技術的有意性をもって認識することはできないこと,当業者は,差 分要件の作用機序の技術的意味を理解できないことからすると,本件明細 書記載の差分が150以上の実施例のデータのみをもって,測定誤差のレ ベルである差分5ないし10を下限とする差分要件の数値範囲の全体に わたり本件発明1の課題を解決できると認識することはできないとして, 本件発明1はサポート要件に適合しない旨主張するので,以下において判 断する。
(ア) 本件発明1の「レベルオフ重合度」の意義について
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明1の「レベ ルオフ重合度」の意義について規定した記載はないが,本件明細書の【0 015】に,「本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温 度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法) により測定される重合度をいう。」との記載がある。 上記記載は,本件発明1の「レベルオフ重合度」を定義したものとい えるから(前記6(1)イ),本件発明1の「レベルオフ重合度」とは,2. 5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチ レンジアミン法)により測定される重合度」をいうものと解される。 なお,本件明細書の【0015】には,レベルオフ重合度に関し,「セ ルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶 以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,レベル オフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(I NDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMIST RY,Vol.42,No.3,p.502−507(1950)),その 後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはなら ない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分 の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合 度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合 度でないと判断できる。」との記載がある。上記記載中の「乾燥後のセ ルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時, 重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき, 重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。」と の記載部分は,本件出願当時,「レベルオフ重合度」とは,セルロースを 酸加水分解すると,その重合度は,酸加水分解初期に急激に200−3 00に低下した後ほぼ一定になり,このほぼ一定になった重合度を意味 することは技術常識であったこと(前記(1)イ(ア))に照らすと,レベルオ フ重合度に達しているか否かの一般的な判断基準を示したものではない ものと理解できる。
(イ) 1)について
a 本件明細書には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセル ロース粉末について,それぞれの原料パルプ(市販SPパルプ,市販 KPパルプ等)のレベルオフ重合度が記載されている(【0039】な いし【0047】)。 前記(1)イ(ア)のとおり,本件出願当時,酸加水分解時に,非結晶部 分は酸で分解されやすいが,結晶部分は分解されず残り,残った部分 の化学構造と結晶構\造は,原料セルロースのままであって,分解され ずに残った部分の結晶領域の長さが「レベルオフ重合度」に対応する ことは技術常識であったことを踏まえると,本件明細書の上記実施例 及び比較例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度は,原料パルプ のレベルオフ重合度とおおむね等しいものと理解できる。 この点に関し磯貝明作成の令和2年9月11日付け意見書(乙72) 中には,「3桁のLODPを報告するときの有効数字は2桁とするのが 一般的であるが,実際のところ,2桁目,3桁目の精度は無いといっ ていほどバラバラになるので,LODPについて十の桁,一の桁を議\n論することは技術的に意味がない。そして,同一のセルロースでもL ODPは酸加水分解条件等によって変化することも常識である,その ため,例えば,市販の木材パルプのLODPを測定したとしても,そ の木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉末のLODP については,やはり実際に測定してみなければわからず,原料である 木材パルプと同一になるとは推測できないばかりか,具体的にいかな る値になるかも推測することはできない。」との記載部分がある。 しかしながら,他方で,上記意見書中には,「LODPとは「セルロ ース試料を酸で加水分解処理した残渣の重合度が一定時間(・・・)経過 しても”ほぼ”一定になる現象」であると述べる部分や,「BATTI STA論文でも同様であるが,「ほぼ一定になる」という現象を示す以 上に,例えば,「平均重合度が下がりきっている(これ以上全く低下し ない)」という含意はない。」,「「一定」といっても過酷な条件であれば 少なくとも2時間程度は更なる酸加水分解によって平均重合度が緩や かに低下していくことは常識である。」,「こうした変化も含めて200 〜300程度の粗い幅で「ほぼ一定」と言っているのである。」と述べ る部分がある。
これらを総合すると,上記意見書の上記記載部分は,市販の木材パ ルプのLODPとその木材パルプを原料として酸加水分解したセルロ ース粉末のLODPとの間における「かなり程度の高い同一性」を問 題とした上で,木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉 末のLODPについては,原料である木材パルプと同一になるとは推 測できない旨を述べたにとどまるものというべきであるから,上記記 載部分によって,本件明細書の実施例及び比較例記載のセルロース粉 末のレベルオフ重合度が原料パルプのレベルオフ重合度とおおむね等 しいものと理解できるとの上記判断を左右するものではない。
b 加えて,本件明細書の表4には,実施例2ないし7及び比較例1な\nいし11のセルロース粉末の平均重合度の記載があることからすると, 本件明細書に接した当業者は,上記セルロース粉末が差分要件を満た すかどうかを把握できるものと解される。 また,本件明細書の表4には,「平均重合度」,「粒子の平均L/D(長\n径短径比)」,「平均粒子径」,「見掛け比容積」,「見掛けタッピング比容 積」,「安息角」及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」(差分 要件)のいずれもが本件発明1の数値範囲内にある実施例2ないし7 のセルロース粉末の円柱状成形体とそのいずれかが本件発明1の数値 範囲外である比較例1ないし11とのセルロース粉末の円柱状成形体 について,平均降伏圧[MPa],錠剤の水蒸気吸着速度Ka,硬度[N] 及び崩壊時間[秒]が示されている。 そして,実施例2ないし7のセルロース粉末は,いずれも,安息角 が55°以下,錠剤硬度が170N以上,崩壊時間が130秒以下で あり,ここで,安息角は,55°を超えると,流動性が著しく悪くな り(【0018】),錠剤硬度は成形性を示す実用的な物性値であり,1 70N以上が好ましく(【0019】),崩壊時間は崩壊性を示す実用的 な物性値であり,130秒以下が好ましい(【0019】)のであるか ら,実施例2ないし7のセルロース粉末は,成形性,流動性及び崩壊 性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であるということ\nができる。
したがって,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び 本件出願時の技術常識から,実施例2ないし7のセルロース粉末は, 本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから, 1)は採用することができない。
(ウ) 2)について
本件明細書には,「平均重合度はレベルオフ重合度ではないことが好ま しい。レベルオフ重合度まで加水分解させてしまうと製造工程における 攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくな い。」(【0015】),「レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めて おく必要があるかということについては,5〜300程度であることが 好ましい。さらに好ましくは10〜250程度である。5未満では粒子 L/Dを特定範囲に制御することが困難となり成形性が低下して好まし くない。300を超えると繊維性が増して崩壊性,流動性が悪くなって 好ましくない。」(【0016】),「セルロース質物質をレベルオフ重合 度まで加水分解してしまうと,製造工程における攪拌操作で粒子L/D が低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。・・・セルロース分散 液の粒子は乾燥により凝集し,L/Dが小さくなるので,乾燥前の粒子 の平均L/Dを一定範囲に保つことで高成形性でかつ崩壊性の良好なセ ルロース粉末が得られる。」(【0021】)との記載がある。 これらの記載から,セルロース粉末がレベルオフ重合度まで加水分解 されてしまうと,乾燥前のセルロース粒子のL/Dが低下しやすく,そ の後の乾燥工程でセルロース粒子が凝集して,得られるセルロース粉末 のL/Dが小さくなり,L/Dが小さくなると,成形性が低下すること を理解できる。 そして,本件発明1の差分要件は,レベルオフ重合度まで重合度が低 下しないように加水分解することを,セルロース粉末の平均重合度とレ ベルオフ重合度の差分(差分要件)で表し,その下限を「5」としたこ\nとを理解できるから,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全 体にわたり,本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認めら れる。 したがって,2)は採用することができない。
(エ) まとめ
以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願時 の技術常識から,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全体に わたり,本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められるか ら,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであることが認め られる。 また,これと同様の理由により,本件発明2も,発明の詳細な説明に 記載したものであることが認められる。

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1審はこちら

◆東京地裁平成29年(ワ)24598号
キ 以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度 と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるところ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの 本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく,また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しい とはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求 の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された 本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえない。\n

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令和2(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月16日  知的財産高等裁判所

 原告は、訂正発明は、進歩性違反、新規事項、委任省令違反などの無効理由があるとして、無効理由無しとした審決の取消を求めました。知財高裁は審決を維持しました。

特許法36条4項1号の委任する特許法施行規則24条の2は,発明の詳細な説 明の記載について,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発 明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解 するために必要な事項を記載することによりしなければならない」と規定するとこ ろ,原告は,本件明細書からはオルニチンを用いた本件訂正発明が,どのような課 題をどのように解決したか明らかでないこと,「発酵物の乾燥重量1g当たり」「8 mg 以上のオルチニン」という数値限定に対応する課題も効果も,本件明細書に記載 がなく,当業者において本件訂正発明の課題やその解決手段を認識することはでき ないから,上記委任省令要件違反である旨主張する。
(2) 本件明細書の記載について
そこで検討するに,前記1(1)のとおり,本件明細書の段落【0226】には,「ア ルギニンについては,発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。 従って,大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス 20-92 株で発酵処理する ことにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成させ得ることが明らかと なった。」との記載があり,本件明細書の段落【0228】【表3】にも,発酵によ\nり,アルギニンからオルニチンが生成することが示されている。また,本件明細書 の段落【0050】には,「ダイゼイン類を含む原料」の一例である「大豆胚軸」を 用いた場合のオルニチンの含有量について,「エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥 重量1g当たりオルニチンが5〜20mg,好ましくは8〜15mg,更に好ましくは 9〜12mg 程度が例示される。」と記載されており,当業者は,本件訂正発明は,こ の好ましい量の下限を採用したものであると理解できる(前記5(5)参照)。
これらからすると,当業者は,本件訂正発明の技術上の意義は,ラクトコッカス 20-92 株で発酵処理することにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成さ せ得ることを明らかにし,エクオール及びオルニチンを含有する発酵物(オルニチ ンの含有量は乾燥重量1g当たり8mg 以上)の製造方法を提供したことにあること 及び発酵処理によりこれを解決することが理解できるから,本件明細書の発明の詳 細な説明の記載には,当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が 記載されているということができる。
(3) 原告の主張について
原告は,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】段落【0010】におい てオルニチンに係る記載がないことを指摘するが,上記のとおり,特許法施行規則 24条の2は,「発明の詳細な説明の記載」に係る規定であるから,本件明細書全 体の記載から理解できれば足り,必ずしも,発明の技術上の意義を理解するために 必要な事項が「発明が解決しようとする課題」の項目に記載されている必要はない。

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令和2(行ケ)10144  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年11月16日  知的財産高等裁判所

 無効理由(進歩性、サポート要件など)は無しとした審決が維持されました。

ア 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許 請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載さ れた発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載によ り当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,ま た,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当で ある。
イ 本件訂正発明の課題について
(ア) 前記1(2)によると,本件訂正発明は,連通可能な隔壁手段で区画された複数\nの室を有する輸液容器が病院で使用されているところ,輸液中には通常微量金属元 素が含まれていないことから投与が長期になると微量金属元素欠乏症を発症するが, 微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると品質劣化が問題となるため,依然 として輸液の投与直前に混合されているという現状に鑑み,外部からの押圧によっ て連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い,用時に細菌\n汚染の可能性なく微量金属元素を混入することができ,かつ,保存安定性にも優れ\nた輸液製剤の創製研究が開始されたものの,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一 室に充填して微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量 金属元素が隔離してあっても微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が 生じることを知見し,その上で,微量金属元素が安定に存在していることを特徴と する含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを目的とするものであ る。
(イ) 上記(ア)からすると,本件訂正発明1及び2は,微量金属元素が安定に存在し ていることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを 課題とするものであるが,より具体的には,外部からの押圧によって連通可能な隔\n壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用いて,あらかじめ微量金属元素 を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤であって,含硫化合物を含む溶液を\n一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を提供 することを課題とするものと解される。同様に,本件訂正発明10及び11の課題 は,そのような輸液製剤の保存安定化方法を提供することを課題とするものである。
ウ 本件訂正発明1について
(ア) 本件訂正発明の請求項1は,前記イの課題に関し,「外部からの押圧によって 連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において」,「室\nに・・・微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されて」 いるとして,あらかじめ微量金属元素を用時に混入可能な形で保存することを特定\nしつつ,「一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも 1種を含有する溶液が充填され,他の室に・・・微量金属元素を含む液が収容され た微量金属元素収容容器が収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂 フィルム製の袋であ」り,「前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液で あり」,「前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており」,「前記外袋内の 酸素を取り除いた」ものであるとして,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場 合であっても微量金属元素が安定に存在している構成を特定しているものといえる。\n
(イ) 本件明細書の発明の詳細な説明をみると,段落【0006】及び【0007】 で輸液製剤の大枠が示された上で,輸液容器の構造や材料(同【0012】,【00\n13】),微量金属元素,特に銅イオンを安定化することができるという効果(同【0 014】),硫黄原子を含む化合物及びこれを含む溶液の例示(同【0015】,【0 016】),微量金属元素を含有する液を収容する容器の具体的な収納方法や態様(同 【0020】),微量金属元素の例示(同【0021】)や,微量金属元素の組成(同 【0022】),微量金属元素収容容器を収納している室の態様(同【0024】)や 当該室に充填され得る輸液やその組成等(同【0025】〜【0030】)が,それ ぞれ具体的に記載されている。 そして,本件訂正発明1に係る構造や材質に対応した輸液製剤の好ましい態様で\nある本件明細書の【図1】について,その構造(段落【0031】)や,微量金属元\n素を用時に混入可能とする構\成(同【0032】),輸液の充填の態様(同【003 3】),ガスバリヤー性外袋や脱酸素剤の封入とそれらの材質等(同【0035】〜 【0039】),投与時の混合の態様(同【0046】)がそれぞれ詳細に記載されて いる。
(ウ) その上で,本件訂正発明1に該当する実施例1(同【0052】,【図1】)と, これに該当せず,含硫アミノ酸を含む溶液を充填した室に微量金属元素収容容器を 収納した比較例(同【0060】,【図4】)について,具体的な製造方法や溶液(A)〜(C)の具体的な成分組成(同【0062】【表1】,【0063】【表\2】,【0064】【表3】)が示され,実施例1と比較例の重要な差異が微量金属元素収容容器\nを収納する室の差異であることが示された上で,「安定性試験」として,60゜C)で2 週間保存した後の容器の外観を肉眼で観察したところ,比較例の輸液製剤において のみ微量金属元素収容容器に着色がみられたこと(同【0065】),「銅の安定性」 について,開始時を「100.0%」とした場合,実施例1では,60゜C)で2週間 保存した場合が「100.8%」,60゜C)で4週間保存した場合が「102.6%」 であったのに対し,比較例では,60゜C)で2週間保存した場合が「88.8%」,6 0゜C)で4週間保存した場合が「69.8%」であったことが示されて(【表5】),最後に,発明の効果が記載されている(同【0066】)ところである。\nなお,上記「安定性試験」に関し,輸液製剤の保存時において含硫アミノ酸であ るシステインやその誘導体であるアセチルシステイン等が分解することにより硫化 水素ガスが発生すること,硫化水素ガスが熱可塑性樹脂フィルムを透過すること及 び硫化水素ガスが銅や鉄などの金属と反応して硫化物を生成する(水溶液中におい ては黒色の沈殿を生成する)ことは,技術常識である(甲7〜9,弁論の全趣旨)。 また,微量金属の定量分析法としては,ICP発光分光分析法が慣用技術であって, その測定法等は技術常識であると解される(甲34,35,弁論の全趣旨)。
(エ) 前記(ア)〜(ウ)によると,当業者は,本件訂正発明1の構成を採ることによって,\n同【0065】や【表5】に記載されているように,含硫アミノ酸を含む溶液を充\n填した室に微量金属元素収容容器を収納した場合と比較して,微量金属元素が安定 に存在している輸液製剤を得ることができると認識することができると解され,本 件訂正発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細 な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲内のものであ るといえる。 したがって,本件訂正発明1がサポート要件を欠くものとはいえない。
(オ) 原告の主張について
a 原告は,本件明細書の実施例1において,アセチルシステインから発生した 硫化水素ガスが溶液(C)を充填した小袋に到達することを妨げることのできる実 施例1の構成は,小袋を収納する「第1室4」にブドウ糖を含む溶液(A)が充填\nされているとの構成1)及び外袋に「脱酸素剤9」が封入されているとの構成2)のみ であり,当業者も構成1)及び構成2)によるものであると当然に理解すると主張する。 しかし,本件訂正発明1の構成に係る本件明細書の実施例1では,アセチルシス\nテインを含む溶液(B)が「第2室5」に充填された一方で,溶液(C)を充填し た小袋は,それとは異なる室である「第1室4」に挟着されているのであって,同 小袋を「第2室5」に収納した比較例の場合と比較すると,同小袋の外面が直接溶 液(B)に触れることがないという点と,溶液(B)と溶液(C)との間に,同小 袋の構成素材に加え,「第2室5」の構\成素材及び「第1室4」の構成素材とを介す\nる状態となっている(被告のいう「三重の壁」となっている。)という点で,差異が あることが明らかである。 そして,上記の差異が,アセチルシステインから発生する硫化水素ガスが溶液(C) を充填した小袋に到達することを妨げるに当たり,何らの作用を果たさないという べき技術常識その他の事情は認められないから(なお,被告の実験報告書[甲21, 36,乙1]を排斥して専ら原告の実験報告書[甲19,20,23]の結果の信 用性を認めるべき事情は見当たらない。),当業者の理解に係る原告の上記主張は採 用することができない。 したがって,当業者において,本件明細書の実施例について専ら構成1)及び構成\n2)により微量金属元素の安定が図れたと理解することを前提とする原告の主張は, 本件訂正発明1における「他の室」が空室である場合についての主張も含め,いず れも採用することができない。

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令和2(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月20日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項の追加、および実施可能要件違反であるとした審決が維持されました。

 本件補正によって,当初明細書等の段落【0002】,【0008】及び【0 010】に追加された事項並びに図3〜8には,本願発明の原理に関する事項が記 載されているところ(甲9),これらの事項は,当初明細書等には記載されておらず (甲4,16),また,自明な事項ということもできないから,新規事項を追加する ものといえる。 したがって,本件補正は,当初明細書等に記載された範囲内においてするものと はいえず,特許法17条の2第3項に違反するものである。
(2) 原告は,本件補正は,先行技術文献に記載された内容を「発明の詳細な説 明」の【背景技術】の欄に追加する補正であると主張する。 しかし,本件補正は,「高周波超伝導電磁エンジンは,磁石となるループと超伝導 磁石を重ね合わせたものである。二つの磁石は離れないように固定する。その二つ の磁石の中の一つは,常伝導の磁石である。但し,この常伝導の磁石は一回巻きで 芯が無く,高周波数かつ低電圧の脈流を流す。脈流の周波数は,その波長がループ の一周の長さと一致する程度の高周波数とする。もう一つの磁石は,超伝導磁石で あり,超伝導状態となるので永久電流が流れる。磁石と磁石を重ねたので,磁石と 磁石の間には,図3で上下方向の矢印で表した反発力もしくは吸引力(どちらも磁\n力)が生じる。しかし,この特殊な構造ゆえに生じる打消しの力により,図4のよ\nうに,超伝導磁石に働く反発力もしくは吸引力は打ち消される。従って,常伝導磁 石に働く反発力もしくは吸引力のみが残り,これを推進力として利用する」,「図8 のように,脈流の周波数は,その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周 波数としているので,高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には,各瞬間におい て,脈流により生じるローレンツ力がゼロの部分がある。これにより,電磁力の偏 りが生じる。よって,この電磁力の偏りのために,運動量秩序に従った動きを電子 対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことが できないので,重心運動の運動量に変化せずに,各超電子の散乱を通じて,最終的 には熱エネルギーとして外部に放出される。超伝導磁石の超電流を構成する電子対\nの重心運動が生じないので,超伝導磁石に働く電磁力(ローレンツ力)は磁力となら ず,超伝導磁石の磁力は打ち消された形となる。その結果,常伝導のループに働く 電磁力,即,磁力だけが残り,これを直線的運動エネルギーとして利用できる。」と の記載及び図4,8(以下「本件追加部分」という。)を加えるものであるところ, 本件追加部分は,特許文献1の記載の一部及び甲2文献の記載の一部から成るもの である。当初明細書等には,特許文献1及び甲2文献が先行技術文献として記載さ れているものの,それのどの部分を引用するかは記載されておらず,上記各文献を 見ても,それから直ちに本件追加部分を把握できないことからすると,本件補正は, 新規事項を追加するものということができる。
(3) 原告は,本願発明の原理は,甲2文献に記載されているところ,甲2文献は 出版されてから年数が経過しているため,上記原理は技術常識となっていると主張 する。 しかし,本願発明の原理が甲2文献に記載されており,甲2文献が出版されてか ら相当の年数が経過していたとしても,それだけで,本願発明の原理が技術常識と なっていたと認めることはできない。
(4) したがって,本件補正が,特許法17条の2第3項に違反するとした本件 審決の判断に誤りはない。
3 実施可能要件違反について\n
(1) 本願発明は,磁気シールドで半分程度を覆った「超伝導磁石」に対して固 定された位置にあるループに直流電流を流して,同ループに電磁力を発生させ,「超 伝導磁石」の永久電流に働く電磁力を無効とすることにより,ループに発生する電 磁力を推進力,制動力,浮力として利用するというものであるところ,当初明細書 等には,「超伝導磁石」の永久電流に働く電磁力を無効とすることにより,ループに 発生する電磁力を推進力,制動力,浮力として利用する原理についての説明が記載 されておらず,また,このような原理が技術常識であるということもできない。 なお,本件補正によって追加された事項では,上記の原理について説明されてい るが,磁石となるループと超伝導磁石を固定した場合,仮に,超伝導磁石に働く磁 力が常伝導ループに働く磁力より小さいとしても,互いに固定された超伝導磁石と ループ間の力は,作用・反作用の法則によって釣り合うことになり,結局,本願発 明の装置を動かす力は発生しないと考えるのが自然であるから,本件補正後の明細 書及び図面を前提としても,本願発明の原理について,当業者が理解し実施できる 程度に裏付けがされているとはいえない。この点について,原告は,作用・反作用 の法則が保障するのは,超伝導磁石に働く電磁力と常伝導ループに働く電磁力が釣 り合うことまでであり,発生した電磁力がそのまま磁力となって,釣り合うことま では保障しないと主張するが,上記のとおり,作用・反作用の法則により,超伝導 磁石に働く力と常伝導ループに働く力は釣り合うと解されるから,原告の上記主張 は理由がない。 また,原告は,本願発明の原理を利用して製造されたストレンジクラフトが存在 すると主張して,その証拠として写真集「ストレンジクラフトの写真」(甲3)を提 出するところ,甲3には,飛行する物体を撮影した写真が掲載されているものの, 同物体が,本願発明の原理を利用したものであると認めるに足りる証拠はないから, 原告の上記主張は理由がない。

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令和2(ネ)10045 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審と同様に、104条の3の無効理由(新規事項、サポート要件違反)があるので、権利行使不能と判断されました\n

(ア) 図105ドットパターンにおいては,情報ドットは,四隅を格子ドッ トで囲まれた領域の中心からずれた位置に置かれるところ,本件補正1 1)部分に当たる構成要件B1の情報ドットは,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点の中心」からずれた位置に置かれる。\n図105には,水平又は垂直の格子線の中間に各格子線と平行な線が引 かれているが,当初明細書1に,「格子状に配置されたドットで構成されている。」(【0185】),「格子ブロックの四隅(格子線の交点\n(格子点)上)には格子ドットLDが配置されている」(【0186】), 「4個の格子ドットLDの正中心に配置したドットである(図106(a) 参照)」(【0197】)と記載されているとおり,格子ドットは等間 隔に配置されたドットにより構成された水平ラインと垂直ラインの交点であり,格子線は格子ドットを結ぶラインであるから,図105に示さ\nれた各格子線の中間に引かれた線は格子ドットで囲まれた領域の中心を 示すために参考として引かれた補助線にすぎず,格子線とは認められな い(図106(a)のように,格子ドット同士を対角線で結べば,その 交点は「格子線の交点」となるが,その線は構成要件B1に規定する「縦横方向」のラインではない。)。\n そうすると,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格 子点の中心」を基点として情報ドットが位置付けられることを構成要件とする本件補正11)部分は,図105のドットパターンとは似て非なる ものであり,そもそも図105ドットパターンに基づく補正であるとは 認められない。
(イ) 図5ドットパターンにおいては, 情報を表現するドットは,格子ドットから上下左右の格子線上にずらした位置に配置されるところ,構\成要件B1の情報ドットは「格子点の中心から等距離で45°ずつずらし た方向のうちいずれかの方向」に配置されるものであるから,本件補正 11)部分は,図5ドットパターンに基づく補正であるとは認められない。
(ウ) そのほか,当初明細書1に本件補正11)部分に対応する記載は認め られないから,本件補正前発明1の本件補正11)部分に対応する部分と 構成要件B1とを対比するまでもなく,本件補正11)部分は新たな技術 的事項を導入するものというべきである。
・・・・
(ア) 本件発明3の特許請求の範囲の記載(分説後のもの)は,次のとおり である(引用に係る原判決の「事実及び理由」第2の2(5)ウ参照)。
A3 等間隔に所定個数水平方向に配置されたドットと,
B3 前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから 等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドットと,
C3 前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ライ ンと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定さ れた水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方でデータ 内容が定義された情報ドットと,からなるドットパターンであって,
D3 前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位置 からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している E3 ことを特徴とするドットパターン。
(イ) 構成要件B3の「前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」と,\n構成要件C3の「前記垂直方向に配置されたドット」と,構\成要件D3 の「前記垂直方向に配置されたドット」とは同じものを指すと解される から,この一つの「垂直方向に配置されたドット」は,垂直方向に「等 間隔」に配置される一方で(構成要件B3),「本来の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味するとされており,その「ず\nらし方」について特に限定はされていない。同一方向に等間隔に配置さ れながらその位置がずれているのは文言上整合していないが,これを合 理的に解釈するならば,「等間隔」はこの一つの「垂直方向に配置され たドット」以外のドットに係り,この一つの「垂直方向に配置されたド ット」は他のドットと異なり「等間隔」に配置されなくてもよいもので あり,そのずらされる方向,距離とも何ら限定はないと解するほかない。 また,本件発明3は,「ずらし方によって前記ドットパターンの向き を意味している」(構成要件D3)としているから,「ずらし方」,すなわち,本来の位置からずらされた別の位置に配置された一つの「垂直\n方向に配置されたドット」が当該位置に配置されていることが認識され, 本来の位置とその実際の位置との間の位置関係に基づいてドットパター ンの向きが意味されることを規定していると解釈すべきものである。
イ 図105ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図103ないし106のほか,次の記載がある。
「【0239】 また,本発明のドットパターンでは,キードットのずらし方を変更す ることにより,同一のドットパターン部であっても別の意味を持たせる ことができる。つまり,キードットKDは格子点からずらすことでキー ドットKDとして機能するものであるが,このずらし方を格子点から等距離で45度ずつずらすことにより8パターンのキードットを定義でき\nる。
【0240】 ここで,ドットパターン部をC−MOS等の撮像手段で撮像した場合, 当該撮像データは当該撮像手段のフレームバッファに記録されるが,こ のときもし撮像手段の位置が紙面の鉛直軸(撮影軸)を中心に回動され た位置,すなわち撮影軸を中心にして回動した位置(ずれた位置)にあ る場合には,撮像された格子ドットとキードットKDとの位置関係から 撮像手段の撮像軸を中心にしたずれ(カメラの角度)がわかることにな る。この原理を応用すれば,カメラで同じ領域を撮影しても角度という 別次元のパラメータを持たせることができる。そのため,同じ位置の同 じ領域を読み取っても角度毎に別の情報を出力させることができる。
【0241】 いわば,同一領域に角度パラメータによって階層的な情報を配置でき ることになる。
【0242】 この原理を応用したものが図74,図76,図78に示すような例で ある。図74では,ミニフィギュア1101の底面に設けられたスキャ ナ部1105でこのミニフィギュア1101を台座上で45度ずつ回転 させることでドットパターン部の読取り情報とともに異なる角度情報を 得ることできるため,8通りの音声内容を出力させることができる。」 (図74,76及び78については本判決への添付を省略する。)
(イ) 上記(ア)の記載は,構成要件D3との関係においては,確かに,格子ドットとキードットとの位置関係によってドットパターンの向きを意味\nすることを記載するものといえる。 しかしながら,構成要件C3との関係について見れば,本件発明3は,「格子点からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」との構\成を有するところ,前記2(1)ウのとおり(引用に係る原判決の「事実及び 理由」第3の1(補正後のもの)のとおり,当初明細書1と本件明細書 3の関連部分の記載はいずれも同じである。),図105ドットパター ンにおいては,情報ドットを四隅を格子ドットで囲まれた領域の中心か らずらすことによってデータ内容を定義するものであって,格子ドット からのずらし方によってデータ内容を定義するものではない(構成要件C3は格子点を垂直ラインと水平ラインの交点と定義しているから,構成要件 C3が図105ドットパターンに基づくものと仮定する余地はな い。)。 そうすると,本件発明3は,図105ドットパターンに関する記載に 係るものとはいえない。
ウ 図5ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図2,5ないし8のほか,次の記載がある。 「【0069】 ・・・図5から図8は他のドットパターンの一例を示す正面図である。
【0070】 上述したようにカメラ602で取り込んだ画像データは,画像処理ア ルゴリズムで処理してドット605を抽出し,歪率補正のアルゴリズム により,カメラ602が原因する歪とカメラ602の傾きによる歪を補 正するので,ドットパターン601の画像データを取り込むときに正確 に認識することができる。
【0071】 このドットパターンの認識では,先ず連続する等間隔のドット605 により構成されたラインを抽出し,その抽出したラインが正しいラインかどうかを判定する。このラインが正しいラインでないときは別のライ\nンを抽出する。
【0072】 次に,抽出したラインの1つを水平ラインとする。この水平ラインを 基準としてそこから垂直に延びるラインを抽出する。垂直ラインは,水 平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識する。\n
【0073】 最後に,情報領域を抽出してその情報を数値化し,この数値情報を再 生する。」 (イ) また,引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の4(2)(補正後のも の)とおり,図5及び図7では,左端の垂直ラインに配置されたドット の一つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ライ ンに沿って左側に配置され,「x,y座標フラグ」とされていることが 示され,図6及び図8では,左端の垂直ラインに配置されたドットの一 つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ラインに 沿って右側に配置され,「一般コードフラグ」とされていることが示さ れている。
(ウ) 本件発明3は,「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ド ット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意 味している」(構成要件D3)ことを特徴とするドットパターンであるところ,図5ドットパターンに関し,本件明細書3には,前記(ア)のとお り,「垂直ラインは,水平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識す\nる。」(【0072】)との記載がある。しかしながら,これは,垂直 ライン上の特定位置(本来の位置)にドットがないことによってドット パターンの上下方向を認識するとの意味の記載であって,「ドット本来 の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味する記載 とはいえない。 また,前記(イ)のとおり,図5ないし8には,他のドットから形成され る垂直ラインから左右にずれたドットが示され,それらドットが「x, y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」との意味を有するフラグ であることが記載されている。しかしながら,引用に係る原判決の「事 実及び理由」第3の4(2)(補正後のもの)によれば,「x,y座標フラ グ」(図5及び7)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはXY平面上の特定の座標値を示し,「一般コードフラグ」(図6\n及び8)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはある特定のコード(番号)を示すものと認められる。そうすると,「x,y\n座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」とされたドットは,情報を 表現する部分のドットパターンのデータ内容の定義方法を示すというデータ内容を定義するドットの一つにすぎず,フラグとしてその位置を認\n識され,ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によって ドットパターンのデータの内容を定義しているが,ドットパターンの向 きを意味しているものではない。そして,そのほか,図5ないし8には, ドットパターンの向きを意味するドットは記載されていないし,データ の内容を定義しているドットがドットパターンの向きを意味するドット を兼ねるとの記載もない。
さらに,「垂直方向に配置されたドット」の一つにつき,その本来の 位置からのずらし方によってドットパターンの向きを意味することを特 徴とする本件発明3の実施形態について,上記ドットがどのような方向, 距離において配置されるのかについては,本件明細書3にはその記載は ない。 以上によると,図5ドットパターンは,「ずらし方によって前記ドッ トパターンの向きを意味している」(構成要件D3)との構\成を有しな い。 そうすると,本件発明3は,図5ドットパターンに関する記載に係る ものともいえない。
エ 控訴人は,1)図5ないし8において,「x,y座標フラグ」又は「一 般コードフラグ」はドットパターンの向きを意味するドットと兼用され ている,2)本件明細書3の段落【0239】ないし【0241】,【図 105】,【図106】の(d)の記載を参酌すれば,キードットにデータ 内容を定義する機能とドットパターンの向き(角度)を意味するという機能\を持たせ得ることが示されている,3)本件明細書の段落【0230】 の記載から,「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」もキード ットと同様の機能が備わると理解できる,4)本件明細書3の【0072】 では格子ドットを非回転対称の配置にして上下方向も認識できるように しているし,本件明細書3の図5ないし8には「x,y座標フラグ」又 は「一般コードフラグ」が本来の位置からずれることで本来の位置と実 際に配置されたドットの位置関係に基づいてドットパターンの向きが表現されている,5)「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」 がキードットと同一の機能を有するものであることは当業者にとって自明である旨を主張する。\n
しかしながら,前記ウで認定したとおり,図5ないし8においては, ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によってドットパ ターンの向きを認識することについては何ら説明されておらず,控訴人 主張のドットの兼用を認めるに足りる根拠は見当たらないないから,上 記1)の主張は採用することができない。 また,【0239】ないし【0241】,【図105】,【図106】 の(d)の記載は,図105ドットパターンに関する記載であり,図105 ドットパターンと図5ドットパターンを組み合わせることは新規事項の 追加となることは前記2にて判断したとおりであるから,そのような組 み合わせをしたのであれば,それ自体からしてサポート要件を欠くこと になり,上記2)の主張は失当である。
次に,図105ドットパターンに関する記載である段落【0230】 (引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の2の【0230】III)部分 参照)には「本発明におけるドットパターンの仕様について図103〜 図106を用いて説明する。」との記載があるだけであり,これにより 「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」が図105ドット パターンのキードットと同様の機能が備わると理解することはできないから,上記3)の主張は採用することができない。 さらに,控訴人の上記4)及び5)の主張については,確かに,ドットパ ターンの方向を意味するドット又はドット群を設けてこれらを非回転対 称の配置にすればドットパターンの向きを認識できることは明らかであ り,また,図5ないし8に記載された「x,y座標フラグ」又は「一般 コードフラグ」は非回転対称の位置に配置されているとはいえるから, これをドットパターンの向きを意味するドットとして兼用することも可 能である。しかしながら,本件明細書3は,そのような構\成としたもの と理解すべき記載となっておらず,「本来の位置からのずらし方」とし てどのような選択に従い本件発明3を構成したのかがそもそも記載されているとはいえないことは,前記ウで示したとおりである。したがって,\n上記4)及び5)の主張も採用することができない。
オ 以上のとおり,技術常識を踏まえても,当業者において,本件発明3 が本件明細書3の発明の詳細な説明に記載したものと理解することはで きないというべきであるから,本件発明3に係る本件特許3は,特許法 36条6項1号に違反し,特許無効審判により無効とされるべきもので ある。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成30(ワ)10126

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令和2(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所

 機械系の発明について、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」というクレームの文言が実施可能要件を満たすのかが争われました。地裁高裁3部は、実施可能要件を具備していないとした審決を取り消しました。

 本件審決は,前記2(1)イ〔本判決22頁〕のとおり,原告が主張する式及 び説明に基づいて本件発明を実施するとしても,当業者に過度の試行錯誤を 要するものと判断した。
(2) 判断の誤りの有無とその理由
ア しかし,本件審決の前記(1)の判断は誤りである。その理由は,次のイの とおりである。
イ(ア) 前記2(3)イ(エ) 〔本判決27頁〕のとおり,前記2(3)イ(ウ) 〔本判 決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項目を適宜設定し,Fsが, θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成を実\n現することにより,構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要\nする力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」 するとの構成は実現されるものと認められるところ,前記2(3)イ(ウ〔本) 判決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項は複数存在することか ら,それらについて適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作業 機を作成して本件発明を実施するために過度な試行錯誤を要するかを 検討することが必要となる。
この点に関し,原告は,【図2】に記載された各支点の基本的な位置関 係に基づき,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力」と「エ\nプロン角度」の変化曲線をシミュレーションし,甲60(審判乙14) の7頁のグラフ(別紙図4)の結果を得た。そして,同グラフによれば, 【図2】に記載された作業機の位置関係を基礎にして,第3の支点15 2の位置を,第1の支点140を中心として25°下方に移動させた「第 1の作業機」において,「第1の姿勢」(作業機が水平より33°前傾し た状態)の場合(同グラフの青色線)には,エプロンを跳ね上げるのに 要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化する間に,250N から0Nに徐々に減少したことが認められ,「第2の姿勢」(作業機が水 平より18°前傾した状態)の場合(同グラフの黄色線)には,エプロ ンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化 する間に,約230Nから約75Nまで徐々に減少したことが認められ る。また,甲64(審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)によれば, 「第1の作業機」において,「最上姿勢」(トラクタ油圧機構で作業機を\n最も持ち上げた位置,入力軸が水平より30.5°前傾した状態)の場 合,エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から6 0°に変化する間に,約230Nから約20Nまで徐々に減少したこと が認められる。そして,前記4(2)イ(ア)〔本判決43頁〕のとおり,これ らの場合は,エプロンを跳ね上げるのに要する力が,一般的な作業者が 感じることができる程度に徐々に減少したものと認められる。そうする と,これらのシミュレーションにより,構成要件Gの実施が可能\である ことが立証されたものと認められる。 これらのシミュレーションは,コンピュータを用いたものと推認され るが,その実施が特に困難であったとは認められず,上記の結果を得る ために過度の試行錯誤が必要であったことを窺わせる事情はない。 したがって,前記2(3)イ(ウ)〔本判決27頁〕の式中の各項目のうち, θ以外の項目について適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作 業機を作成して構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,\nエプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの 構成を実施するために,当業者は過度の試行錯誤を要しないものと認め\nられる。
(イ)a 被告は,本件明細書の【0028】には「上記実施例の各支点の位 置関係からこのような荷重の傾向が観察される。」と記載されており, 【図2】の作業機の支点の位置により【図7】のグラフが得られたこ とが明らかにされているとした上,原告が,力学的なシミュレーショ ンにより「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が 増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する変化曲線を得たと する「第1の作業機」(別紙図2の青色で記載された構造)は,【図2】\nの作業機とは第3の支点(152)の位置が異なり,本件明細書,本 件特許の特許出願の願書に添付された図面に記載されていないもの であるから,「第1の作業機」を用いて得た甲60(審判乙14)の7 頁のグラフ及び甲64(審判乙18)の6頁のグラフに基づいて,本 件発明の構成要件Gが実施可能\であるとする原告の主張は誤りであ ると主張する。
しかし,【図2】の作業機は,本件発明の構成を説明するための作業\n機の一例であるところ(【0016】),本件発明の特許請求の範囲にお いて,支点の位置に関しては,第2の支点及び第3の支点の位置につ いて,アシスト機構が両支点を通る同一軸上で移動可能\であること (構成要件E)が定められているのみであることからすると,その定\nめを充たしていれば,本件発明の作業機における第2の支点及び第3 の支点の位置は,【図2】に示される具体的な位置と同じである必要は ない。そして,特許出願の願書に添付される図面は,設計図のように 寸法等が正確なものが求められるものではなく,発明の技術内容を理 解できる程度の精度で表現されていれば足りるものであり,【図2】も,\n本件発明の構成を説明するために示されたものであって,設計図のよ\nうに厳密な形状や寸法等を具体的に示したものとは認められないか ら,【図2】の作業機とは第3の支点(152)の位置が異なるのみで 全体の構成が同じであり,構\成要件Eも満たしている「第1の作業機」 において,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ\nプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとい う構成が実施可能\であることが示されていれば,本件発明の構成要件\nGは実施可能であると認められる。本件明細書の【0028】には「上\n記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観察され る。」と記載されているが,本件発明の構成が特許請求の範囲により特\n定されていることからしても,上記の【0028】の記載は,本件発 明の作業機における第2の支点及び第3の支点の位置が【図2】に示 される具体的な位置と同じであることまでを要求するものとは認め られない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
b 被告は,「第1の作業機」の計算に用いたガススプリング(甲65(審 判乙19))は,直径をφ16mmにした「オールガスタイプ」のもの であり,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピストンタイプ」 のものでないところ,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピス トンタイプ」のピストンでは【図7】のグラフが得られないことは明 らかであると主張する。
しかし,本件発明におけるアシスト機構で用いるガススプリングに\nついて,本件訂正後の請求項1には,「ガススプリング」と記載されて いるのみであり,「オールガスタイプ」であるか「フリーピストンタイ プ」であるかについての特定がない。また,本件明細書の【0029】 には,「上記実施例においては,ガススプリングとして,フリーピスト ンを有するものを用いたが,フリーピストンを用いない従来型のガス スプリングを用いることも可能である。」と記載されており,本件発明\nのガススプリングが「フリーピストンタイプ」のものに限られない旨 記載されている。そうすると,「オールガスタイプ」のガススプリング (甲65(審判乙19))を計算に用いて,前記(ア)のとおり,「第1の 作業機」により構成要件Gが実施可能\であることが示されていること (甲60(審判乙14)1〜2頁,甲64(審判乙18)1頁,甲6 5(審判乙19))からすれば,構成要件Gは実施可能\であると認めら れる。そして,「オールガスタイプ」のガススプリング(甲65(審判 乙19))は,その構造に照らし,本件特許の原出願時に実施可能\であ ったものと推認され,本件特許の原出願時に実施できなかったことを 裏付ける具体的な証拠はない。したがって,被告の上記主張は,採用 することができない。
c 被告は,本件発明に係る作業機を自ら開発した原告ですら,【図7】 のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業機」を再現で きないのであるから,構成要件Gが実施不可能\であることは明らかで あると主張する。 しかし,特許発明が実施可能性であるか否かは,実施例に示された\n例をそのまま具体的に再現することができるか否かによって判断され るものではないから,本件特許の原出願時に当業者が本件明細書の記 載に基づいて本件発明を実施することができたか否かは,【図7】のグ ラフのデータを得た「当時の作業機」自体を再現できるか否かによっ て判断されるものではない。前記(ア)のとおり,甲60(審判乙14), 甲64(審判乙18)によれば,構成要件Gが実施可能\であることが 認められる。したがって,被告の上記主張は,採用することができな い。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10106  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月4日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明についての無効審判の取消訴訟です。知財高裁も審決同様、無効理由無しと判断しました。無効理由としては進歩性、実施可能要件、サポート要件と全て争点とされています。\n

 原告は,本件発明1において,代入用スクリプトと自ノード変数データと が,同一のノードデータに含まれるのに対し,甲1発明ではそうではないこ とが相違点に当たるとした場合であっても,甲1発明において,直系上位ノ ードに含まれている代入用スクリプトを,直系上位ノードではなく,自ノー ドに含ませることとすることは,当業者の技術常識ないし周知技術に基づく 設計事項であるから,当業者は,相違点2及び相違点3に係る構成を容易に\n想到することができると主張する。 しかし,前記2において判示したとおり,甲1には,本件発明1の構成要\n件Fの代入用スクリプトに相当する事項自体が開示されていないから,原告 が主張するように,単に代入用スクリプトを自ノードに含むか含まないかと いう点のみが相違点となるのではない。
そして,甲1には,ノードデータに当該ノードデータに含まれる変数デー タである自ノード変数データと,当該ノードの直系上位ノードのノードデー タに含まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行っ て,前記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプトが含まれるよう にする方法について記載も示唆もない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,当業者が,甲1発 明において,「スクリプトは「当該ノードデータに含まれる変数データであ る自ノード変数データと,当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含 まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行って,前 記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプト」を含む」という相違 点2に係る本件発明1の構成及び「前記代入用スクリプトの実行により,前\n記自ノード変数データの値を更新する」という相違点3に係る本件発明1の 構成を容易に想到することができたとはいえない。\n
同様に,当業者が,甲1発明において,本件発明1の発明特定事項を全て 含む本件発明14について,前記相違点2に係る本件発明14の構成及び前\n記相違点3に係る本件発明14の構成を容易に想到することができたとはい\nえない。

◆判決本文

侵害訴訟はこちらです。 1審、2審とも技術的範囲に属しないと判断しています。

◆平成31(ネ)10034

◆平成29(ワ)31706

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令和2(ネ)10039  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年12月1日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許侵害事件で、1審ではサポート要件違反として無効と判断されました。知財高裁も同じ判断をしました。発明はアンテナなのでサポート要件違反は珍しいですね。原審(東京地裁平成30年(ワ)5506号)はアップされていません。

 前記(ア)の発明の詳細な説明の記載によれば,発明の詳細な説明に記 載された実施例(第1実施例,第2実施例)は,いずれもアンテナ素子 の下に平面アンテナユニットを配置し,アンテナ素子の下縁と平面アン テナユニットの上面の間隔を約0.25λ 以上としたものであり,それ により,アンテナ素子と平面アンテナユニットについて,相互に影響を 及ぼすことが低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同 等の電気的特性を示すことを具体的に示すものである。発明の詳細な説 明には,第1実施例のアンテナ装置を用いた実験結果が記載されている ところ(【0018】〜【0026】,図7〜図12,図15〜図19), これらは,アンテナ素子と平面アンテナユニットの相互干渉がアンテナ の電気的特性に及ぼす影響を検証したものであると認められ,実施例が, 発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するという効果を生ず るかどうかを確かめるものと認められる。 そうすると,発明の詳細な説明に記載された実施例は,前記認定の発 明の詳細な説明に記載された発明(前記イ(イ))の実施の形態を具体的 に示し,その発明の課題(前記ア(イ))を解決するという効果を生ずる ことを示すものであると認められる。
(3) 請求1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明か ア 請求項1に記載された発明は,前記第2,3(2)のとおりであり,1)アン テナ素子に加えて別のアンテナである平面アンテナユニットを組み込むこ とは構成要件とされてはおらず,また,2)仮にアンテナ素子に加えて平面 アンテナユニットを組み込んだ場合に,アンテナ素子の下縁と平面アンテ ナユニットの上面との間隔が約0.25λ以上であることも構成要件とさ\nれていない。そのため,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加 えて平面アンテナユニットを組み込み,アンテナ素子の下縁と平面アンテ ナユニットの上面との間隔を約0.25λ以上とするアンテナ装置以外に も,1)そもそもアンテナ素子以外に平面アンテナユニットが組み込まれて いないアンテナ装置の発明を含み,また,2)アンテナ素子に加えて平面ア ンテナユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面 アンテナユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置 の発明を含むものである。
イ これに対し,発明の詳細な説明に記載された発明は,前記(2)イ(イ)のと おりであり,アンテナ素子と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテ ナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを 備えるアンテナにおいて,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の 下端との間隔を約0.25λ以上とするものであると認められる。
ウ そうすると,請求項1に記載された発明のうち,1)アンテナ素子以外に 平面アンテナユニットが組み込まれていないアンテナ装置の発明,及び2) アンテナ素子に加えて平面アンテナユニットが組み込まれてはいるもの の,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔が約0. 25λ未満であるアンテナ装置の発明は,発明の詳細な説明に記載された 発明ではない。 したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載さ れた発明以外の発明を含むものであり,発明の詳細な説明に記載された発 明であるとは認められない。
(4)請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は 出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲の ものであるか発明の詳細な説明に記載された発明の課題は,限られた空間しか有してい ないアンテナケースを備えるアンテナ装置に既設の立設されたアンテナ素子 に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込むと相互に他のアンテナの影 響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという課題であり(前記 (2)ア(イ)),このような課題を当業者が認識するためには,限られた空間し か有しないアンテナ装置において,既設の立設されたアンテナ素子に加えて 新たに平面アンテナユニットを組み込むことが前提となる。しかし,請求項 1に記載された発明は,そもそもアンテナ素子以外に平面アンテナユニット が組み込まれていないアンテナ装置の発明を含み(前記(3)ア),そのような 構成の発明の課題は,発明の詳細な説明には記載されていない。そのため,\n請求項1に記載された発明は,当業者が発明の詳細な説明の記載によって課 題を認識できない発明を含むものであり,当業者が課題を解決できると認識 できる範囲を超えたものである。
また,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加えて平面アンテナ ユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面アンテナ ユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置の発明を含 むが(前記(3)ア),発明の詳細な説明には,課題を解決する方法として,平 面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔を約0.25λ 以 上とすることが記載されており,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニッ トの上面との間隔を約0.25λ未満とするならば,発明の詳細な説明に記 載された課題を解決することはできない。そのため,請求項1に記載された 発明は,この点においても当業者が発明の詳細な説明に記載された解決手段 によって課題を解決できると認識できない発明を含むものであり,当業者が 課題を解決できると認識できる範囲を超えたものである。 その他,請求項1に記載された発明が,発明の詳細な説明の記載若しくは 示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識でき る範囲のものであることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若し くは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識 できる範囲のものであるとは認められない。

◆判決本文

関連訴訟(原告被告が同じ)はこちらです。

◆平成27(ワ)22060

◆平成26(ワ)28449

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令和1(行ケ)10136  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年12月15日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反として無効審決がなされ、知財高裁もこれを維持しました。本件発明の課題である24ケ月の貯蔵安定性を有することの具体的裏付けが記載されていないとの判断です。

 上記(1)イ(イ)・(ウ)のとおり,本件明細書においては,パロノセトロン又はそ の塩を含む溶液は,pH及び/又は賦形剤濃度の調整並びにマンニトール及び キレート剤の適切な濃度での添加によって,安定性が向上することが記載さ れ,実施例1〜3において,製剤が最も安定するpHの値,クエン酸緩衝液及 びEDTAの好適な濃度範囲,マンニトールの最適レベルが示され,実施例 4,5に代表的な医薬製剤が示されているが,実施例4,5においては,実\n際に安定性試験が行われていないため,そこに記載された医薬製剤が少なく とも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されているとはいえない。ま た,その他の箇所をみても,安定化に資する要素は挙げられてはいるものの, それらが24ケ月の貯蔵安定性を実現するものであることについての直接的 な言及はないし,どのような要素があればどの程度の貯蔵安定性を実現する ことができるのかを推論する根拠となるような具体的な指摘もなく,結局, 具体的な裏付けをもって,具体的な医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安 定性を有することが記載されているとはいえない。
なお,上記(1)イ(イ)のとおり,本件明細書の一連の実施例は,薬剤の安定化 のための合理的な条件を見出すための要因を探求するものであって,特に, 実施例1〜3は,個々の要因を探求するプレフォーミュレーション(予備処\n方設計,前処方化)に該当し,実施例4,5の代表的な医薬製剤は処方化研\n究(製剤設計)に該当するといえるとしても,上記のとおり,本件明細書に は,pH,賦形剤,マンニトール及びキレート剤の濃度を調整することで,安 定性向上に関し,どのような作用・機序があるのか,どの程度の安定性の向 上,安定性への貢献が見込めるのかが記載されていないため,実施例4,5 の医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されてい るとはいえないし,その他の箇所をみても,合理的な説明をもって,具体的 な医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されてい るとはいえない。 そうすると,本件明細書には,24ケ月要件を備えたパロノセトロン製剤 が記載されているとはいえないし,本件出願時の技術常識に照らしても,当 業者が,本件各発明につき,医薬安定性が向上し,24ケ月以上の保存を可 能にするパロノセトロン製剤とその製剤を安定化する許容される濃度範囲を\n提供するという本件各発明の課題(上記(1)ア)を解決できると認識できる範 囲のものであるとはいえない。 なお,実施例6,7の記載は,(1)イ(エ)のとおり,パロノセトロン塩酸塩以 外の成分(賦形剤,等張剤など)の有無及び濃度についての記載や,pHの 値についての記載を欠くため,本件各発明に該当する製剤に関する実施例で あるとはいえないし,これによって安定性が確認されたのは,最長でも16 日間にすぎないのであるから,上記(2)イの技術常識に照らしてみても,24 ケ月要件を備えたパロノセトロン製剤を提供する等の本件各発明の課題(上 記(1)ア)を解決し得ることの根拠にはなり得ない。
(4) 原告の主張について
ア 上記第4の1(1)及び(2)の主張について
上記(3)のとおり,本件明細書には,pH,賦形剤,マンニトール及びキレ ート剤の濃度を調整することで,安定性向上に関し,どのような作用・機 序があるのか,どの程度の安定性の向上,安定性への貢献が見込めるのか が記載されていないため,本件出願時の技術常識を踏まえても,実施例4, 5の医薬製剤が24ケ月要件を備えたものであることが記載されていると はいえないし,その他の箇所をみても,具体的な医薬製剤が少なくとも2 4ケ月の貯蔵安定性を有することを,具体的な根拠に基づいて合理的に説 明しているとはいえない。そして,24ケ月という期間に直接言及する【 0017】【0037】の記載も,上記(1)イ(ア)のとおり,当該製剤ないし 容器を24ケ月以上保存できることをいかなる方法で確認したか等につい ての具体的な言及を欠くから,これらの段落の記載をもって,24ケ月要 件が本件明細書に実質的に記載されているということもできない。 したがって,原告の上記第4の1(1)及び(2)の主張は採用することができ ない。

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令和1(行ケ)10137  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月28日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が支持されました。争点は進歩性違反、記載不備、手続き違背です。手続き違反について裁量の範囲を逸脱してないと判断しました。

 原告らは,本件審判において,主引用例である甲1に記載された発明と して「シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤としてヒトに経口投与される,3 00mgのセレコキシブを含む経口投与用カプセル」の発明を主張し,当 事者双方は,発明の目的を発明特定事項に含めることについて議論してい なかったが,審判合議体は,本件審決において,審理の過程で当事者が一 切主張しなかった目的を発明特定事項に含む甲1発明を認定し,この認定 について原告らに反論の機会を与えることなく,本件発明1と甲1発明と の相違点に係る容易想到性の判断をし,甲1発明を主引用例とする進歩性 欠如の無効理由は理由がないと判断したものであり,このような審理は, 原告らにとって不意打ちであり,原告らの手続保障を著しく欠くものであ るから,本件審決には審理不尽の手続違背がある旨主張する。
しかしながら,審判合議体が審決で認定する主引用例記載の引用発明の 内容と請求人の主張する引用発明の内容とが異なる場合において,当事者 対し,事前に審決で認定する引用発明の内容を通知し,これに対する意見 を申し立てる機会を与えるかどうかは,審判合議体の審判指揮の裁量に委\nねられていると解されるから,このような機会を与えなかったからといっ て直ちに審判手続に手続違背の違法があるということはできない。 また,原告らの主張する甲1に記載された発明と本件発明1との相違点 は,本件審決が認定した甲1発明と本件発明1との相違点1−1及び1− 2と異なるものではないから,審判合議体が本件審決認定の甲1発明を引 用発明として認定した上で,本件発明1の進歩性について判断をしたこと が,原告らにとって不意打ちであるとはいえず,上記裁量の範囲を逸脱し たということはできない。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月22日  知的財産高等裁判所(3部)

 無効審判の審理で訂正し、無効理由無しとされましたが、これについては、審決取消訴訟(前訴)で取り消されました。再開した審理で、訂正がなされ、無効理由無しと判断されました。知財高裁は審決を維持しました。争点は新規性・進歩性、サポート要件です。概要は、先行公報に記載された事項については前訴の拘束力化あり、また阻害要因ありと判断されました。

   本件訂正発明1と甲1発明の相違点の認定の誤りについて
 ア 甲1の【0016】には,「図1にホットプレスにより作製したターゲッ トの断面組織写真を示す。これによれば,微細な黒い点(SiO2)が均質 に分布しているのが観察され,・・・以上の結果より,このターゲット組織は SiO2がCo−Cr−Ta合金中に分散した微細混合相からなっている ことがわかった。」との記載があるから,甲1の図1の黒い点はSiO2と 認められる。そして,甲1の図1によれば,SiO2の黒い点は粒子状をな しており,いずれも半径2µmの仮想円よりも小さいと認められる。したが って,甲1の図1のSiO2粒子はいずれも,SiO2粒子内の任意の点を 中心に形成した半径2µmの全ての仮想円よりも小さいと認められ,形状2 の粒子の存在を確認することはできないから,本件訂正発明1が必ず形状 2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否かが 一見して明らかではないと認められる。
前訴判決は,審決を取り消す前提として,甲1発明の図1の全ての粒子 は形状1であると認定しており(甲30,61頁),この点について拘束力 が生じているものと認められ,この点からしても,本件訂正発明1が必ず 形状2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否 かが一見して明らかではないということができる。 そうすると,本件訂正発明1が形状2の粒子を含むのに対し甲1発明に おいて形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでないとの本件審 決の相違点(相違点2)の認定に誤りはないものと認められる。 イ(ア) この点につき,原告は,甲3に記載された再現実験は,甲1の実施 例1の再現実験であり,甲3で確認される非磁性材料粒子の組織は,甲 1の実施例1の組織と同じであるとして,甲3の断面組織写真である図 6の画面右下には形状2の粒子が存在するから(甲47),本件訂正発明 1と同じく,甲1発明にも形状2の粒子が存在するということができ, 形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでない点をもって,本件 訂正発明1と甲1発明の相違点ということはできないと主張する。
(イ) 前記2(2)アのとおり,メカニカルアロイングは,高エネルギー型ボ ールミルを用いて,異種粉末混合物と硬質ボールを密閉容器に挿入し, 機械的エネルギーを与えて,金属,セラミックス,ポリマー中に金属や, セラミックスなどを超微細分散化,混合化,合金化,アモルファス化さ せる手法で,セラミックス粒子を金属マトリクス内に微細に分散させる ことを可能とするものであり,このようなメカニカルアロイングの仕組\nみに照らすと,メカニカルアロイングにおいては,ボールミルのボール の衝突により異種粉末混合物にどのような力が加えられるかにより,生 成物の組織が異なってくるものと認められる。また,甲52に「一般に 粉末のミリング時には衝撃,剪断,摩擦,圧縮あるいはそれらの混合し たきわめて多様な力が作用するがメカニカルアロイングにおいて最も重 要なものはミリング媒体の硬質球の衝突における衝撃力とされている。 衝撃圧縮により粉末粒子は鍛造変形を受け加工硬化し,破砕され薄片化 する。・・・薄片化および新生金属面の形成に加え,新生面の冷間圧接およ びたたみ込みが重なるいわゆる Kneading 効果により,次第に微細に混 じり合い,ついには光学顕微鏡程度では成分の見分けがつかないほどに なってしまう。」(前記2(1)オ)との記載があることからすると,メカニ カルアロイングにおいて最も重要なものはミリング媒体の硬質球の衝突 における衝撃力であると認められる。そうすると,ボールミルのボール の材質や大きさ,ボールミルの回転速度等の条件が異なれば,メカニカ ルアロイングによって得られる粉末の物性は異なり,そのような粉末か ら得られるスパッタリングターゲットの研磨面で観察される組織の形態 も異なると認められる。 そうであるとすれば,少なくともボールミルのボールの材質や大きさ, ボールミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件が明らかにされな ければ,どのような組織の生成物ができるかが明らかにならないものと いうべきである。 そこで本件についてみると,甲1には,甲1発明のスパッタリングタ ーゲットを製造する際の,ボールミルのボールの材質や大きさ,ボール ミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件についての記載はなく, 甲3のメカニカルアロイングの条件が,甲1発明のスパッタリングター ゲットを製造する際のメカニカルアロイングの条件と同じであったとい う根拠はない。そうすると,甲3に記載されたスパッタリングターゲッ トが形状2の粒子を含んでいたとしても,このことのみから,甲1発明 のスパッタリングターゲットも形状2の粒子を含むということはできな い。そして,その他に,甲1発明のスパッタリングターゲットが形状2 の粒子を含むことを認めるに足りる証拠はない。
・・・
(2) 本件訂正発明1〜6の進歩性についての判断の誤りについて
ア 本件訂正発明1と甲1発明の相違点2,本件訂正発明2と甲1発明の相 違点2’の容易想到性について検討する。 甲1発明は,ハードディスク用の酸化物分散型 Co 系合金スパッタリン グターゲット及びその製造方法に関する発明であり(【0001】【産業上 の利用分野】),発明の目的は,保磁力に優れ,媒体ノイズの少ない Co 系合 金磁性膜をスパッタリング法によって形成するために,結晶組織が合金相 とセラミックス相が均質に分散した微細混合相であるスパッタリングタ ーゲット及びその製造方法を提供することにある(【0009】【発明が解 決しようとする課題】)。そして,発明者らは,Co 系合金磁性膜の結晶粒界 に非磁性相を均質に分散させれば,保磁力の向上とノイズの低減が改善さ れた Co 系合金磁性膜が得られることから,そのような磁性膜を得るため には,使用されるスパッタリングターゲットの結晶組織が合金相とセラミ ックス相が均質に分散した微細混合相であればよいことに着目し,セラミ ックス相として酸化物が均質に分散した Co 系合金磁性膜を製造する方法 について研究し,甲1記載の発明を発明した(【0010】【課題を解決す るための手段】)。そして,甲1には,急冷凝固法で作製した Co 系合金粉末 と酸化物とをメカニカルアロイングすると,酸化物が Co 系合金粉末中に 均質に分散した組織を有する複合合金粉末が得られ,この粉末をモールド に入れてホットプレスすると非常に均質な酸化物分散型 Co 系合金ターゲ ットが製造できる(【0013】(課題を解決するための手段))と記載され ており,甲1発明のスパッタリングターゲットは,アトマイズ粉末とSi O2粉末を混合した後メカニカルアロイングを行い,その後のホットプレ スにより製造されたものであり,SiO2が Co−Cr−Ta 合金中に分散した 微細混合相からなる組織を有する(【0015】,【0016】(実施例1))。 他方,メカニカルアロイングについては,本件特許の優先日当時,前記 2(2)記載の技術常識が存在したと認められ,当業者は,甲1発明のスパッ タリングターゲットを製造する際も,原料粉末粒子が圧縮,圧延により扁 平化する段階(第一段階),ニーディングが繰り返され,ラメラ組織が発達 する段階(第二段階),結晶粒が微細化され,酸化物などの分散粒子を含む 場合は,酸化物粒子が取り込まれ,均一微細分散が達成される段階(第三 段階)の三段階で,メカニカルアロイングが進行すること自体は理解して いたものと解される。
そして,メカニカルアロイングが上記第一ないし第三の段階を踏んで進 行することからすると,メカニカルアロイングが途中の段階,例えば,第 二段階では,ラメラ組織が発達し,形状2の粒子も存在するものと考えら れ,甲49(実験成績報告書「甲3の混合過程で形状2の非磁性材料粒子 が存在すること(1)」)及び甲50(実験成績報告書「甲3の混合過程で 形状2の非磁性材料粒子が存在すること(2)」)も,メカニカルアロイン グの途中の段階においては,形状2の粒子が存在することを示している。 しかし,甲1には,形状2のSiO2粒子について,記載も示唆もされて いない。むしろ,本件特許の優先日当時のメカニカルアロイングについて の前記技術常識(前記2(2))に照らすと,メカニカルアロイングは,セラ ミックス粒子等を金属マトリクス内に微細に分散させるための技術であ り,第二段階は進行の過程にとどまり,均一微細分散が達成される第三段 階に至ってメカニカルアロイングが完了すると認識されていたものと推 認されるところであり,前記2(1)の技術文献の記載に照らして,メカニカ ルアロイングをその途中の第二段階で止めることが想定されていたとは 認められない。メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階までで終 了することについて,甲1には何ら記載も示唆もされておらず,その他に, これを示唆するものは認められない。むしろ,甲1には,合金相とセラミ ックス相が均質に分散した微細混合相である結晶組織を得ることが,課題 を解決するための手段として書かれており,セラミックス相が均質に分散 した微細混合相を得るためには,均一微細分散が達成される第三段階まで メカニカルアロイングを進めることが必要であるから,甲1は,メカニカ ルアロイングをその途中の第二段階で止めることを阻害するものと認め られる。
そうすると,当業者は,メカニカルアロイングについて前記2(2)記載の 技術常識を有していたものではあるが,甲1発明のスパッタリングターゲ ットを製造する際に,メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階ま でで終了することにより,SiO2粒子の形状を形状2(形状2’)の粒子 を含むようにすることを動機付けられることはなかったというべきであ る。 したがって,相違点2及び相違点2’に係る事項は,当業者が容易に想 到し得たものとは認められない。

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令和1(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月15日  知的財産高等裁判所

 新規性・進歩性違反については、一致点と相違点の認定を誤っているとして取り消しました。その他の記載要件(実施可能要件・サポート要件)については無効理由無しについても判断しています。\n

 イ 本件審決は,引用発明1を前記第2の3(2)アのとおり,低純度酸素の生成に 関し,「高純度酸素が側塔から抜き取られる位置よりも15〜25平衡段高い位置で 側塔から液体として抜き出され,液体ポンプを通過することにより高い圧力に圧送 され,主熱交換器を通過することによって気化され」るものと認定した。 原告は,上記認定を争い,引用発明1は,低純度酸素を専ら液体として抜き出す ものではないと主張し,その根拠として記載Aを指摘する。
ウ 記載Aは,「Either or both of the lower purity oxygen and the higher purity oxygen may be withdrawn from side column 11 as liquid or vapor for recovery.」というものである(甲1の1。5欄8行〜10行)。引用例1の他の箇所 (例えば,5欄11行〜22行,23行〜32行,33行〜39行)において, “recover”の用語が最終的な製品を得ることという意味で用いられていることから すると,記載A文末の“recovery”も最終製品の回収のことを意味し,他方で文中の “withdrawn”は,中間的な生成物の抜き出しのことを意味するものと解される(4 欄40行の“withdrawn”,5欄43行の“withdrawal”も同様である。)。そうすると,記載Aは,前記ア gのとおり,低純度酸素及び高純度酸素のいずれか又は両方は, 回収のために,液体又は気化ガスとして側塔11から抜き出されてもよいと訳すの が相当である。 そうだとすると,記載Aからは,引用発明1が低純度酸素を専ら液体として抜き 出すもので,気体としての抜き出しは排除されている,と理解するのは困難である。 しかも,引用例1の全体をみると,引用発明1が解決しようとする課題は,低純 度酸素及び高純度酸素の両方を高回収率で効果的に精製することができる極低温精 留システムを提供することであり ,課題を解決する手段は,空気成分の 沸点の差,すなわち低沸点の成分は気化ガス相に濃縮する傾向があり,高沸点の成 分は液相に濃縮する傾向があることを利用したものである(同 と認められ,図 1に示されたのは,あくまで,好ましい実施形態にすぎない 。図1の説明 においては,低純度酸素を液体として抜き出し,それにより大量の高純度酸素を得 られるとしても,それは,最も好ましい実施形態を示したものであって,引用例1 に側塔11から低純度酸素を気体として抜き出すことが記載されていないとはいえ ない。
エ また,証拠(甲2,3の1,4,7の1,8)によれば,本件発明1の出願当 時,空気分離装置又は方法において,高純度酸素と区別して低純度酸素を回収する ことができ,その際に,精留塔から,低純度酸素を気体として抜き出す方法も液体 として抜き出す方法もあることは,技術常識であったと認められる。上記認定の技 術常識に照らしても,引用例1には,低純度酸素を液体として抜き出すことのみな らず,気体として抜き出すことが記載されているに等しいというべきである。
オ そうすると,本件審決が,引用発明1を,低純度酸素を専ら液体として抜き 出すものと認定し,これを一致点とせずに相違点1と認定したことは,誤りといわ ざるを得ない。 本件審決は,その余の相違点及び本件発明2〜4と引用発明1との相違点につい て判断せず,原告被告ともにこれを主張立証していないから,これらの点に係る新 規性及び進歩性については,再度の審判により審理判断が尽くされるべきである。
・・・
事案に鑑み,取消事由3についても判断する。
(1) 実施可能要件適合性\n
ア 本件各発明に係る「空気分離方法」のための「空気分離装置」は,2種以上の 純度の酸素を取り出すものであり,そのうち1種を低純度のガス酸素で取り出すこ とによって,低圧精留塔内の主凝縮器に必要な酸素の純度を低減でき,その結果, 空気圧縮機の吐出圧の低減を図り,該圧縮機の消費動力を低減し,「空気分離装置」 の稼動コストを従来よりも小さくすることができるものである。 イ 本件各発明において用いられる装置は,「空気圧縮機」,「吸着器」,「主熱 交換器」,「高圧精留塔」,「低圧精留塔」,「低圧精留塔」内に設けられた「主凝 縮器」,「昇圧圧縮機」,「液酸ポンプ」,「空気凝縮器容器」及び「空気凝縮器容 器」内に設けられた「空気凝縮器」を主として備える「空気分離装置」であり,それ ぞれの意味するところは,図面をもって具体的に示されている(【0023】,図 1)。
工程についても,1)「低圧精留塔」内で精留分離された液体酸素が,「空気凝縮器 容器」内に供給され,「空気凝縮器容器」内で気化したガス酸素(低純度酸素)が, 供給ライン(ガス酸素供給ライン)により「主熱交換器」に送られて常温に戻された 後,必要に応じて空気が混合されて酸素富化燃焼用酸素として外部(酸素富化炉) に供給されること(【0027】〜【0029】),2)「空気凝縮器容器」内の液体 酸素は,供給ラインにより「液酸ポンプ」に送られて必要圧に昇圧された後,「主熱 交換器」で蒸発及び昇温されることによりガス酸素(高純度酸素)となり,酸化用酸 素として外部(酸化炉)に供給されること(【0030】),3)「空気凝縮器容器」 内の液体酸素(高純度酸素)の抜き出し量は,例えば10%〜80%の間とするこ と(【0059】,【表3〜5】),以上のことが,具体的に示されている。\nそして,以上のような「空気分離装置」によれば,必要とされる高純度酸素が全体 の酸素の一部である場合に,必要とされる高純度酸素の純度を確保しつつ,「低圧 精留塔」の「主凝縮器」から取り出す液体酸素の純度を低減し,低減分の酸素の沸点 を下げることが可能となり,また,「低圧精留塔」内で液体酸素とガス窒素との間で\n行われる熱交換の温度差を大きくすることにより,「高圧精留塔」内の必要圧力を 下げることができ,これにより,「空気圧縮機」の吐圧力を低減し,ひいては該圧縮 機の消費動力の低減が可能となるので,「空気分離装置」の稼動コストを従来より\nも抑えることができるとして,効果及びその機序の説明もされている(【0018】, 【0035】,【0036】)。
ウ 本件明細書の発明の詳細な説明には,前記ア,イのことがその具体的な実施 の形態も含めて記載されており,当業者は,これをみれば,過度の試行錯誤を要す ることなく,本件各発明を実施することができる。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合する。\n

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令和1(行ケ)10173  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月3日  知的財産高等裁判所

 記載要件(サポート要件、実施可能要件、明確性)違反として、異議理由ありとした審決が取り消されました。\n

 本件特許請求の範囲には,複数のピークが生じる場合に,特定のピークを選択す る旨の記載や,全てのピークが140゜C)以上であることの記載が存在しないところ, 上記のとおり,実施例1〜7の発泡体は,比較例2,3と同じ直鎖状低密度ポリエ チレンを20〜60重量%で含有するから,【表1】に記載された141.5〜14\n7.4゜C)(140゜C)以上)の結晶融解温度ピーク以外に,140゜C)未満の結晶融解温度ピークを含むであろうことは,当業者であれば,上記イの技術常識により,容易に理解することができる。このことは,原告による実施例2の追試結果の図(甲8) や甲10の図4とも符合する。 そうすると,本件明細書(【表1】)の実施例1〜7についての結晶融解温度ピー\nクは,複数の結晶融解温度ピークのうち,ポリプロピレン系樹脂を含有させたこと に基づく140゜C)以上のピークを1個記載したものであることが理解できるから, 「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以上」は,複数 の結晶融解温度ピークが測定される場合があることを前提として,140゜C)以上に ピークが存在することを意味するものと解され,このような解釈は,上記アの解釈 に沿うものである。
また,本件発明1は,ポリプロピレン系樹脂の含有量を規定するものではないか ら,ポリプロピレン系樹脂の含有量が,140゜C)未満のピークを示す直鎖状低密度 ポリエチレンの含有量を下回る場合を含むことは,実施例7の記載から明らかであ る。そして,このような場合に,当業者であれば,140゜C)未満に一番大きいピーク (最大ピーク)が生じ得ることを理解することができるのであり,「示差走査熱量計 により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以上である」について,複数のピ ークがある場合のピークの大小は問わないものと解するのが合理的である。
エ 以上のとおり,本件発明1の「示差走査熱量計により測定される結晶融解温 度ピークが140゜C)以上である」とは,示差走査熱量計による測定結果のグラフの ピーク(頂点)が140゜C)以上に存在することを意味し,複数のピークがある場合 のピークの大小は問わないものと解され,その記載について,第三者の利益が不当 に害されるほどに不明確であるということはできない。
(3) 被告の主張について
被告は,「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以上で あり」について,1)結晶融解温度ピークといえるものは140゜C)以上であるという 解釈,2)最も高温側の結晶融解温度ピークが140゜C)以上であるという解釈,3)最 大ピークを示す温度が140゜C)以上である,又は,最大面積の吸熱ピークの頂点温 度が140゜C)以上であるという解釈,4)最も低い結晶融解ピーク温度が140゜C)以上であるという解釈,5)わずかなピークであっても,そのピークが140゜C)以上に 存在すればよいという解釈等複数の解釈が考えられるところ,いずれを示すものか が不明であると主張する。しかし,3)4)の解釈を採るべき場合にはその旨が明記さ れているところ(乙2・【0032】,乙3・【0056】,乙4・【0024】,乙5・[0025],乙6・【0018】,甲5・【0014】,乙7・【0008】,乙8・【0091】,乙9・【0027】),本件明細書にはこのような記載はなく,複数あるピークの大小を問わず,1つのピークが140゜C)以上にあれば「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以上であり」を充足すると解すべきであることは,前記(2)において説示したとおりである。また,5)について,特許請求の範 囲の記載及び本件明細書にピークの大きさを特定する記載はないから,ピークの大 きさを問わず「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以 上であり」に該当するというべきであり,「示差走査熱量計により測定される結晶融 解温度ピークが140゜C)以上であり」との記載が不明確であるという被告の主張は 採用できない。 また,被告は,本件発明1において結晶融解温度ピークが複数ある場合は想定さ れていないと主張する。しかし,本件発明1において,結晶融解温度ピークが複数 ある場合が想定されていることは,前記(2)ウに説示したところから明らかである。
・・・
被告は,本件発明はいわゆるパラメータ発明であり,サポート要件に適合す るためには,発明の詳細な説明は,その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との\n関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理 解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該数式が 示す範囲内であれば所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程\n度に,具体例を開示して記載することを要する(知財高裁平成17年(行ケ)100 42号同年11月11日判決)と主張する。しかし,本件発明は,特性値を表す技術\n的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した 物を構成要件とする発明ではなく,被告が指摘する上記裁判例にいうパラメータ発\n明には当たらないから,被告の主張は前提を欠く。
イ 被告は,本件発明の特許請求の範囲の記載が明確ではなく,また,実施可能\n要件を欠き本件発明1は製造することができない態様を含むものであるから,本件 発明はサポート要件に適合しないと主張する。しかし,明確性要件及び実施可能要\n件についての判断は前記2及び3のとおりであり,被告の主張は採用できない。
ウ 被告は,本件明細書の記載(【0020】)から,厚さ,結晶融解温度ピーク, 発泡倍率及び気泡のアスペクト比の4つの条件のうち耐熱性と関連があるのは結晶 融解温度ピークのみであり,これが高いほど耐熱性が優れている旨説明されている と理解できると主張する。 しかし,本件明細書には,厚さ,結晶融解温度ピーク,発泡倍率及び気泡のアスペ クト比の4つの条件のうち耐熱性と関連があるのは結晶融解温度ピークのみであり, これが高いほど耐熱性が優れている旨の説明は存在しない。かえって,結晶融解温 度ピークが143.9゜C)であっても,気泡のアスペクト比が0.5と0.9〜3の範 囲外である比較例1において,耐熱性に劣る結果となっている(【表1】)ことから\nすれば,4つの条件のうち耐熱性と関連があるのが結晶融解温度ピークのみとは理 解されない。
エ また,被告は,4つの条件のうち耐反発性と関連があるのは結晶融解温度ピ ークを除く3つであり,発泡倍率が15cm3/gに近いほど,気泡のアスペクト比 が0.9あるいは3に近いほど,また,厚さが1500μmに近いほど耐反発性が 劣る旨説明されていることを前提に,実施例1及び5の構成の一部を本件発明1の\n範囲内の境界に近い数値に変更した場合に,本件発明1の課題を解決できると認識 することができないと主張する。 しかし,本件明細書には,発泡倍率が15cm3/gに近いほど,気泡のアスペク ト比が0.9あるいは3に近いほど,また,厚さが1500μmに近いほど耐反発 性が劣ることの記載はない。また,被告の主張する構成の変更により耐反発性が低\n下するとしても,所定の評価方法に基づき耐反発性が◎と評価された実施例1及び 5(【0074】,【表1】)について,本件課題を解決できないほどの耐反発性の低下をもたらすとする根拠は不明であり,被告の主張は採用できない。\nオ 被告は,実施例に記載された「AD571」以外のポリプロピレン系樹脂を 使用した場合や,実施例とは異なる条件で発泡体を製造した場合に,本件発明1の 課題を解決できることが実施例によって裏付けられていないと主張する。
 しかし,ポリプロピレン系樹脂が,耐熱性や機械的強度(耐衝撃性)に優れた樹脂 であることは,本件特許の出願時の技術常識であり(甲10の「はじめに」の項,乙 11[0002],乙12[0002],乙14[0002]),これによれば,当業者は, 「AD571」以外のポリプロピレン系樹脂を使用した場合や実施例と異なる条件 で発泡体を製造した場合についての実施例及び比較例がなくても,本件明細書の記 載や本件特許の出願時の技術常識に照らし,本件発明1の両面粘着テープが,本件 課題を解決できると認識できるというべきである。
カ 被告は,「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140゜C)以 上であり」について,140゜C)以上の部分にごく小さな結晶融解温度ピークでも存 在しさえすれば良いとすると,そのような,ピークを発現する材料がごく少量の場 合に本件発明1の課題を解決できると認識することはできないと主張する。 しかし,前記ウのとおり,比較例1によれば,耐熱性には結晶融解温度ピークの みならず気泡のアスペクト比が関係していることを理解することができる。そして, 上記オのとおり,ポリプロピレン系樹脂は,耐熱性や機械的強度(耐衝撃性)に優れ た樹脂であるところ,融点が140゜C)よりも低いポリプロピレン系樹脂も本件特許 の出願時の当業者に知られていた(乙11[0008],[0009],乙12[0080],[0097],乙14[0078])。そうすると,ポリプロピレン系樹脂を含有させたこ とに基づく140゜C)以上のピークがごく小さいものであったとしても,ポリプロピ レン系樹脂の含有量を調整すること及び気泡のアスペクト比を調整することにより, 本件課題を解決することができると認識することができるというべきである。

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令和1(行ケ)10174  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年8月26日  知的財産高等裁判所

 電子たばこの特許について、新規性・進歩性、サポート要件・実施可能要件、明確性要件について無効理由があるのかが争われました。審決は理由無しと判断しました。知財高裁(2部)もかかる判断を維持しました。

 (イ) 前記ア(イ)〜(エ)の本件明細書の記載からすると,特許請求の範囲の請求 項1及び15にある第1,第2及び第3段階と第1,第2及び第3の温度の技術的 意義は,次のとおりであると認められる。
1) 第1段階として,加熱要素の温度をエアロゾル形成基材からエアロゾルが発 生する温度であるが許容温度(「エアロゾル形成基材から所望の物質の揮発が開始さ れる温度」から「エアロゾル形成基材から望ましくない物質の揮発が開始される温 度」未満又は「エアロゾル形成基材が燃焼する温度」未満)の範囲内の第1の温度 まで上昇させ,装置及び基材が温まり,凝縮が抑えられてエアロゾルの送達が増加 することに伴い,2)第2段階として,エアロゾルの送達を抑えるため,第1の温度 より低いが,エアロゾル形成基材のエアロゾル揮発温度よりは低くならない,エア ロゾルの送達を軽減する温度である第2の温度へと加熱要素の温度を低下させ,そ の後,エアロゾル形成基材の枯渇及び熱拡散の低下に起因するエアロゾル送達の減 少が生じるため,それを補償するため,3)第3段階として,加熱要素の温度を第2 の温度より高いが許容温度内にある第3の温度に上昇させる。4)これらの構成を採\n用することにより,「ユーザによる複数回の吸煙を含む期間にわたって特性がより一 貫したエアロゾルを提供するエアロゾル発生装置及びシステムを提供すること」と いう本件発明の課題が解決される。
(ウ) 以上の本件発明の課題やその解決手段の技術的意義に照らして,本件特 許の特許請求の範囲の請求項1及び15を見ると,原告が主張する特性がより一貫 したエアロゾルを提供できない態様の時間や温度のもの(前記第3の1(原告の主 張)(1)で原告が例として挙げているようなもの)までが本件特許の特許請求の範囲 に含まれるとは解されない。
(エ) そうすると,本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び15は,発明の 詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。
(2) 原告は,1)本件特許の特許請求の範囲には,第1,第2及び第3の温度の技 術的意義や持続時間又は切替タイミングについて何も規定されていないから,特許 請求の範囲を本件明細書の記載に基づいて限定解釈することは許されない,2)「第 3の温度」に関して,加熱要素の温度を上げることで,エアロゾル送達の減少を抑 制できるという技術常識が存在せず,当業者はそのことを理解できないし,「第2段 階」についても,エアロゾルの送達を抑制するために加熱要素の温度を下げるとい うことは当業者には理解できないと主張する。
ア 上記1)について
(ア) 前記のとおり,サポート要件の判断は,特許請求の範囲の記載と発明 の詳細な説明の記載とを対比して行うものであるが,対比の前提として特許請求の 範囲から発明を認定するに当たり,特許請求の範囲に記載された発明特定事項の意 味内容や技術的意義を明らかにする必要がある場合に,必要に応じて明細書や図面 の記載を斟酌することは妨げられないというべきであり,当事者が引用するリパー ゼ判決は,そのことを禁じるものと解することはできない。 そして,本件においては,本件明細書の記載に照らすと,特許請求の範囲の請求 項1及び15について,前記(1)で認定したとおりのものであると理解できるのであ り,それを基に特許請求の範囲と発明の詳細な説明を対比すると,特許請求の範囲 に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の 記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると いえる。
(イ) 原告は,この点について,サポート要件の判断に当たって,発明の詳 細な説明に基づく特許請求の範囲の限定解釈が許されるとすると,特許請求の範囲 が文言上どれだけ広くてもサポート要件違反になることがなくなり,その趣旨が没 却されるし,侵害の場面で広範な特許請求の範囲に基づき充足を主張でき,二重の 利得を得ることになるから不当であると主張する。 しかし,サポート要件の判断に当たって,発明の詳細な説明を参酌するからとい って,特許請求の範囲に発明の詳細な説明を参酌して認められる発明の内容が,発 明の詳細な説明によってサポートされていないときは,サポート要件違反になるこ と(例えば,特許請求の範囲の文言に発明の詳細な説明を参酌して認められる発明 の内容が,AとBの両方を含むものであるが,実施例等としては,Bしかないとき にAはサポートされていないと判断する場合があることなど)はあり得るのであっ て,常にサポート要件違反を免れるということにはならない。 また,特許発明の技術的範囲を定めるに当たり,明細書及び図面を考慮するとさ れていること(特許法70条2項)からすると,原告のいう二重の利得が発生する とはいえない。したがって,原告の上記主張は,前記(1)の判断を左右するものではない。
イ 上記2)について
「第3の温度」について,本件明細書では,段落【0056】において,【図4】 を示しつつ,成分の送達は,ピークを迎えた後に,「基材の枯渇」及び「熱拡散効果 が弱まること」によって,時間と共に低下すると説明しているところ,同説明は一 般的な科学法則に合致した合理的なものであり,当業者は,ここから吸い終わりに 近い頃に,より高い熱量を加えて,熱拡散効果を高めてエアロゾル形成基材全体の 温度を上げ,エアロゾルの発生量を増やすことで,エアロゾル送達の減少を抑制で きると理解することができると認められる。
また,「第2段階」について,本件明細書では,段落【0019】において,装置 及びエアロゾル形成基材が温まることによって凝縮が抑えられてエアロゾルの送達 が増加するため,第2段階で加熱要素の温度を第2の温度へと低下させると記載さ れている。【図4】は,上記段落【0019】に記載されている一定時間経過後のエ アロゾル送達の増加に沿うものとなっている。これらの本件明細書の記載も一般的 な科学法則に合致した合理的なものであり,これらの記載に接した当業者は,「第2 段階」において,加熱要素の温度を下げることにより,エアロゾル発生基材からの エアロゾルの発生を抑えることで,エアロゾルの送達の増加を抑制することができ ると理解することができると認められる。 そして,このような第3段階におけるエアロゾル送達の減少の抑制や第2段階に おけるエアロゾル送達の増加の抑制が,「特性がより一貫したエアロゾルを提供する エアロゾル発生装置及びシステムを提供する」という本件発明の課題を解決するも のであることも,本件明細書の記載から明らかである。 なお,原告は,「第3段階」の開始タイミングと「第3の温度」についても主張す るが,それらが本件発明の課題やその解決手段の技術的意義に照らして解釈される べきことは,前記(1)のとおりである。 以上のとおり,当業者は,本件明細書の記載から「第3の温度」や「第2段階」 について理解することができると認められ,これらが理解できないとする原告の主 張は採用することができない。
(3) よって,原告が主張する取消事由1は理由がない。
3 取消事由3(実施可能要件違反についての判断の誤り)について\n
(1) 本件発明は物及び方法の発明であるところ,物の発明における発明の実施と は,その物の生産,使用等をいい(特許法2条3項1号),方法の発明における発明 の実施とは,その方法の使用をする行為をいうから(同項2号),物及び方法の発明 について実施可能要件を充足するか否かについては,当業者が明細書の記載及び出\n願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を生産, 使用等することができるか,その方法の使用をすることができるか否かによるとい うべきである。
前記2で認定,判断したとおり,特許請求の範囲の請求項1及び15についての 技術的な意義は明らかであり,また,本件明細書には,設定されるべき許容温度の 範囲の例や三つの具体例を含む発明を実施するための形態が記載されている。また, 従来技術について記載した本件明細書の段落【0002】,【0003】や後述する 甲1の段落【0045】,【0046】,【0048】〜【0050】,甲2の段落[0003],[0027],[0037],[0039]などからすると,加熱式エアロゾル発生装置において,各種のエアロゾル形成基材の種類,香味などを考慮して,加熱温度や時間を適宜設 定することは,本件出願日当時における周知技術であったと認められる。 以上によると,当業者は,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基 づいて,過度の試行錯誤を経ることなく,使用するエアロゾル形成基材に応じて, 「第1の温度」・「第1段階」,「第2の温度」・「第2段階」及び「第3の温度」・「第3段階」を設定し,本件発明を実施することができるものと認められるから,実施 可能要件は充足されていると認められる。\n
(2) 原告は,任意のエアロゾル形成基材に対して最適な温度プロファイルと時 間的プロファイルを実験的に求めるのは過度の試行錯誤に当たり,エアロゾル形成 基材の材料が明らかにならないと本件明細書に開示された三つの実施例すら実施で きないと主張するが,上記(1)で判示したところに照らし,採用することはできない。
(3) よって,原告が主張する取消事由3は理由がない。
4 取消事由2(明確性要件違反についての判断の誤り)について 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみな らず,明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を 基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明 確であるか否かという観点から判断されるべきである。 原告は,本件特許の請求項1及び15の「少なくとも1つの加熱要素」が複数の 加熱要素である場合,請求項1及び15に記載された各「前記加熱要素」が1)複数 の加熱要素のうち一つの加熱要素を意味するのか,2)複数の加熱要素のうちのいく つかを意味するのか,3)全ての複数の加熱要素を意味するのかが不明であると主張 する。
しかし,前記2で認定,判断した特許請求の範囲の請求項1及び15の技術的意 義からすると,これらの発明においては,複数の加熱要素がある場合には,最終的 に複数の加熱要素が協働することにより,「第1の温度」・「第1段階」,「第2の温度」・ 「第2段階」及び「第3の温度」・「第3段階」が実現できるように各加熱要素を適 宜制御するものであることは明らかである。 そうすると,請求項1及び15の「少なくとも 1 つの加熱要素」は,加熱要素が 一つある場合には,その加熱要素を,加熱要素が複数ある場合には,適宜制御され る複数の加熱要素を意味するのであって,原告が主張する1)〜3)のいずれかが特定 されていなくても,請求項1及び15の記載は明確であるといえる。 この点について,原告は,請求項1に5回登場する「前記加熱要素」がどのよう なものを指すか不明であると主張するが,これらの「前記加熱要素」も,上記のと おり,加熱要素が複数ある場合は,適宜制御される複数の加熱要素を意味するので あって,不明確であるということはできない。 よって,原告が主張する取消事由2は理由がない。
・・・
他方,甲2発明は,前記ア,イのとおり,加熱が開始された後,天火の温度が2 40゜C)に達すると,制御部の制御により,電気加熱片による加熱が停止され,天火 の温度が180゜C)を下回ると加熱が再開されることが繰り返され,吸い始めから吸 い終わりまでの間,天火の動作温度が180゜C)〜240゜C)に維持されるように制御 されるというものであり,本件明細書の段落【0056】や【図3】,【図4】にあ るような,動作中に一定の温度をもたらすように構成され,エアロゾル成分の送達\nがピークを迎えた後,エアロゾル形成基材が枯渇して熱拡散効果が弱まるにつれ, 時間と共にエアロゾル成分の送達が低下する従来技術に相当するものといえる。甲 2には,ユーザによる複数回の喫煙を含む期間にわたって,エアロゾルの送達量を 一貫とするために,凝縮が抑えられてエアロゾルの送達量が増加することに応じて 第1の温度から第2の温度へと温度を低下させたり,逆にエアロゾル形成基材の枯 渇及び熱拡散の低下に応じて第2の温度から第3の温度へと温度を上昇させたりす るという技術思想については,記載も示唆もされていない。 以上からすると,甲2発明と本件発明1及び15では,加熱要素の制御方法やそ のための電気回路の構成が異なっているというべきであり,甲2発明と本件発明1\n及び15との間には,本件審決が認定した前記第2の3(5)エ(ア)a及び(ウ)a記載の 相違点1B及び相違点15Bが存在すると認められる。

◆判決本文

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平成30(ワ)4851  特許権侵害差止等請求事件  特許権 令和2年5月28日  大阪地方裁判所

 一部のイ号は、記載不備の拒絶に対する補正が均等の第5要件を満たさないとされましたが、一部のイ号は間接侵害が認定されました。

 本件拒絶理由通知記載の拒絶理由は明確性要件違反であり,具体的には,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1の記載につき,「本願発明が如何なるクランプ装置を意図しているのか,その外縁が明確に特定できない」こと,「「第2油路」が具体的に想定できない」こと及び「「流量調整弁」が具体的に想定できない」ことが挙げられている。換言すれば,スイングクランプ,リンククランプいずれのタイプのクランプ装置をも含むと解し得る記載となっていることによって新規性又は進歩性が欠如するとの無効理由は指摘されていないことから,本件第2補正は,こうした無効理由を回避するためにされたものではない。また,明確性要件違反の指摘においても,スイングクランプ,リンククランプいずれのタイプのクランプ装置をも含むと解し得る記載であるが故に不明確とされているわけでもない。 もっとも,上記拒絶理由のうち「本願発明が如何なるクランプ装置を意図しているのか,その外縁が明確に特定できない」とは,より具体的には,油圧シリンダの具体的な規定がなく,その油室の数が不明であり,そのために,第1油路,第2油路及び流量調整弁の機能ないし役割が不明であるといった問題点を指摘するものである。これは,当業者にとって,クランプ装置のタイプを含む装置の前提的な構\成の不明確さを指摘する趣旨のものと理解されると思われる。
(オ) 原告は,本件第2補正の際に提出した意見書(乙2の2)で,請求項1 に係る補正につき,本件拒絶理由通知での審査官の指摘に対して,「補正後の請求項 1では,「前記出力ロッドを退入側に駆動するクランプ用の油圧シリンダ」と規定し ております。…補正後の請求項1に係る本願発明において,「第1油路」及び「第2 油路」や,両流路の接続部にある「流量調整弁」が,何のために在って何をしてい るのかという点については明確であると思料いたします。よって,ご指摘の記載不 備は解消し得たものと思料致します。」との補足説明をしている。
(カ) 以上の事情を踏まえて本件第1補正から本件第2補正に至る経緯を見る と,客観的,外形的には,原告は,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1の記 載によれば,その構成はスイングクランプとリンククランプいずれのタイプのクラ\nンプ装置も含むものであることを認識しながら,本件拒絶理由通知を受けて行った 本件第2補正により,敢えて補正後の特許請求の範囲にリンククランプのタイプの クランプ装置を含むものとして記載しなかった旨を表示したものと理解される。\nそうである以上,本件においては,本件第2補正においてリンククランプのタイ プのクランプ装置が特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるという特 段の事情が存する。 したがって,被告製品群4〜6は,本件発明との関係で,均等の第5要件を充足 しない。この点に関する原告の主位的主張は採用できない。
ウ 原告の予備的主張について\n
原告は,予備的主張として,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1記載\nの「クランプ用の油圧シリンダ」は「アンクランプ用の油圧シリンダ」(本件第2補 正後の特許請求の範囲請求項3)を含まないとの理解を前提として,本件第2補正 後の特許請求の範囲請求項3は補正前の特許請求の範囲に含まれないものを手続補 正により追加したものであり,請求項3については意識的に除外されたものとはい えないなどと主張する。 しかし,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1記載のクランプ装置は,「クラ ンプ本体に進退可能に装着された出力ロッド」及び「出力ロッドを駆動するクラン\nプ用の油圧シリンダ」等を備えることは記載されているものの,「出力ロッド」が退 入側・進出側いずれに駆動することによってワークをクランプするものであるかを うかがわせる記載はない(なお,この時点での請求項2〜4にも,クランプのタイ プに関係する記載はない。)。このことと,従来技術としてはスイングクランプ及び リンククランプの両タイプが挙げられていることに鑑みれば,本件特許に係る明細 書においては出願当初よりリンククランプのタイプのクランプ装置も除外されてい ないといえることを併せ考えると,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1は, スイングクランプのみならずリンククランプのタイプのクランプ装置をも含むもの と理解される。本件第2補正後の特許請求の範囲請求項1において「クランプ用の 油圧シリンダ」とし,請求項3において「アンクランプ用の油圧シリンダ」とされ たのは,本件拒絶理由通知を受けた対応として,クランプ装置の構成をより具体的\nに特定したことに伴うものと理解することができるから,本件第2補正の前後で 「クランプ用の油圧シリンダ」を異なる意味に解することはなお合理的である。 したがって,原告の予備的主張はその前提を欠くから,これを採用することはで\nきない。
エ 小括
以上より,均等侵害として,被告製品群4及び6は本件発明1の技術的範囲 に属するとはいえず,また,被告製品群5は本件発明3の技術的範囲に属するとは いえない。そうである以上,被告らによる被告製品群4〜6の製造,販売等は,本 件特許権を侵害するものとはいえない。 したがって,被告製品群4〜6に係る原告の被告らに対する製造等の差止請求, 廃棄請求及び損害賠償請求は,いずれも理由がない。
3 争点3(被告製品群7及び8の製造,販売等に係る間接侵害の成否)につい て
(1) 前記(第2の2(4)オ)のとおり,被告製品群7及び8は,被告製品群1〜 3のクランプに取り付けて使用される場合にクランプ装置の生産に用いるものであ る。また,特許法101条2号の趣旨によれば,「発明による課題の解決に不可欠なも の」とは,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決 されるような部品等,換言すれば,従来技術の問題点を解決するための方法として, 当該発明が新たに開示する特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特 有の構成等を直接もたらす特徴的な部品等が,これに該当するものと解される。\n本件発明において,作動油の流量の微調整を容易かつ確実に可能とすることなど\nの課題を解決する直接的な手段となるものは,相対移動可能な弁体部を有する弁部\n材をその構成に含む「流量調整弁」である。このため,「流量調整弁」は,本件発明\nが新たに開示する特徴的技術手段における特徴的な部品等ということができる。被 告製品群7及び8(スピードコントロールバルブ)は,この「流量調整弁」に相当 するものであるから,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」(特許法101 条2号)に該当する。
これに対し,被告らは,被告製品群1及び3が本件発明1の構成要件1K及び1Xを 充足せず,被告製品群2が本件発明3の構成要件3K及び3Xを充足しないことから, 被告製品群7及び8は本件発明の課題の解決に不可欠なものではないと主張する。 しかし,前記1のとおり,被告製品群1〜3は本件発明の上記各構成要件を充足す\nる。そうである以上,この点に関する被告らの主張はその前提を欠き,採用できな い。
(2) 被告らが,本件発明が特許発明であることを知っていたことについては,当 事者間に争いがない。 また,被告らは,被告製品群7を被告製品群1及び3の,被告製品群8を被告製 品群2のアクセサリとしてそれぞれ製造,販売していること(甲6,10,11, 乙9,10)に鑑みると,被告製品群7及び8が本件発明の実施品である被告製品 群1〜3に用いられることを知っていたことが認められる。 なお,被告製品群7及び8は,スイングクランプのほか,リンククランプ,リフ トシリンダ,ワークサポートにも使用可能なものである(甲6,10,乙4,5,\n9,10)。
しかし,特許法101条2号の趣旨に鑑みれば,発明に係る特許権の侵害品「の 生産に用いる物…がその発明の実施に用いられること」とは,当該部品等の性質, その客観的利用状況,提供方法等に照らし,当該部品等を購入等する者のうち例外 的とはいえない範囲の者が当該製品を特許権侵害に利用する蓋然性が高い状況が現 に存在し,部品等の生産,譲渡等をする者において,そのことを認識,認容してい ることを要し,またそれで足りると解される。 本件においては,後記6のとおり,被告製品群7及び8に属する製品がスイング クランプと組み合わせて販売される割合が大きいことに鑑みると,これを購入等す る者のうち例外的とはいえない範囲の者が被告製品群7及び8を特許権侵害に利用 する蓋然性が高い状況が現に存在するとともに,被告らはそのことを認識,認容し ていたものといえる。そうである以上,上記事情は本件における間接侵害の成立を 妨げるものではない。 これに対し,被告らは,被告製品群7が本件発明1の実施に,被告製品群8が本 件発明3の実施にそれぞれ用いられることを認識していないなどと主張する。しか し,被告らは,当然に被告製品群1〜3の構成を認識していると考えられるところ,\n被告製品群1〜3が本件特許権侵害を構成する以上,被告製品群7及び8について\nも,本件発明の実施に用いられるものであることを知っていたといえる。この点に 関する被告らの主張は採用できない。
(3) 小括
以上より,被告らが被告製品群7及び8を製造,販売する行為は,本件特許権 の間接侵害(特許法101条2号)を構成する。\n

◆判決本文

関連の審決取消事件です。

◆平成29(行ケ)10076

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平成30(ワ)10126  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年6月30日  東京地方裁判所

 104条の3の無効理由(新規事項、サポート要件違反)があるので、権利行使不能と判断されました。

 図103〜106のドットパターンに関係して,前記2のとおり,段落 【0184】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)の記載があ る。これらによれば,そのドットパターンは,格子状に配置されたドット で構成される。そして,格子ドットLDと呼ばれるドットを四隅に配置し,その4つの格子ドットLDで囲まれた領域の中心からどの程度ずらすかに\nよってテータ内容が定義され,例えば,同領域の中心から等距離の位置で 45度ずつずらした点を8個定義することで,8通りのデータを表現でき,このずらす距離を変更した点を8個定義することで16通りのデータを表\現できる。また,格子ドットLDは,本来,縦横方向の格子線の交点上で ある格子点上に配置されるが,その位置をずらしたドットをキードットK Dとして,このキードットKDに囲まれた領域,又は,キードットKDを 中心にした領域が一つのデータを示している。また,キードットKDを格 子点から等距離で45°ずつずらすことにより,その角度ごとに別の情報 を定義することができることなどが記載されている。(以下,図103〜1 06や上記発明の詳細な説明に記載されている技術思想のドットパターン を「図105ドットパターン」ということがある。) 図105について,垂直方向のラインについて,LV1,LV2などの 符号を付し,水平方向のラインについて,LH1,LH2などの符号を付 し,ドットにD1,D2などの番号を付したものが別紙図105その2で ある。
図105においては,例えば,垂直方向の格子線であるLV1,LV3, LV5と,水平方向の格子線であるLH1,LH3,LH5の交点に格子 ドットが配置され,格子ドットが四隅に配置されている領域が示されてい る(例えば,D1,D2,D13,D12(ただし後述)を四隅とするも の,D2,D3,D14,D13を四隅とするもの)。そして,その4個の 格子ドットで囲まれる領域の中心から等距離の位置でいずれかの位置に 1個のドットが配置されていることが示され(例えば,D7,D8),図 105全体では,上記領域の中心から等距離の位置で,45°ずつずれた 位置のいずれか1つの位置にドットが配置されることが記載されている。 また,図103には,交点から45°ずつずれた位置にドットを配置する 構成が記載されている。そして,D12やD56は,垂直方向の格子線であるLV3又はLV11上にあるが,水平方向の格子線であるLH1上に\nはなく,これらは,格子線の交点からずれたキードットKDであることが 示されている。
ア 本件補正1及び2による補正後の構成要件B1・G2は「(前記ドットパターンは,)縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中\n心に,前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした 方向のうちいずれかの方向に,どの程度ずらすかによってデータ内容を定義 し」である。
当初明細書1及び2の記載や図における図105ドットパターンにおい て,4個の格子ドットで囲まれる領域の中心は,それらの格子ドットが配置 されている格子線の中間にそれらと並行して存在するといえる格子線の交 点ともいえるから(例えば,格子点D1,D2,D13,D12で囲まれる 領域の中心は,垂直方向の格子線であるLV1,LV3の間のLV2と,水 平方向の格子線であるLH1,LH3の間のLH2の交点といえ,また,L V2,LV4,LV6,LH2,LH4,LH6は,縦横方向に等間隔に設 けられた格子線ともいえる。),上記構成要件B1・G2に係る構\成は,【01 84】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)及び図105に記載 されているといえる。
他方,図5ドットパターンにおいて,図5〜図8では,縦横方向に等間隔 で設けられた格子線(例えばLV4,LV7,LV10,LH4,LH7, LH10)の交点から等距離に,水平方向及び(又は)垂直方向にずらした 位置に各1〜3個のドットが記載されて情報を示している。これらでは,縦 横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に,情報内容 を定義するドットが格子点の中心からずれることで情報が示されていると いえるが,情報内容を定義するドットは,水平方向及び(又は)垂直方向に ずらされるのであり,等距離で90°ずつずらしているとはいえるとしても, 等距離で45°ずつずらしているものではない。図5〜図8では,格子線の 間に設けられた垂直方向及び水平方向のライン(例えば,LV3,LV5, LH3,LH5)が示された上で,それらのラインや格子線の交点に情報を 示すドットが示されていて(例えば,D9,D14),これは情報を示すド ットを格子点の中心から等距離で90°ずつずらすことを前提としている ものであり,このように交点に情報を示すドットを配置するこの図では情報 を示すドットを等距離で45°ずつずらすことは想定されていない。そうす ると,上記構成要件B1・G2に係る構\成は,【0023】〜【0027】 I),【0067】〜【0071】II)及び図5〜図8に記載されているもので はない。
イ 本件補正1及び2による補正後の構成要件C1・H2は「前記情報ドットが配置されて情報を表\現する部分を囲むように,前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上と,該第一方向ラインと交差 するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方 向ライン上とにおいて,該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配置さ れた(ドットパターンである)」である。
前記アのとおり,当初明細書I),II)には,図105ドットパターンに関す る記載において,本件補正1及び2による補正後の構成要件B1・G2に係る構\成が記載されていた。しかし,図105ドットパターンにおいては,縦横方向の格子線の交点上である格子点上に格子ドットLDが配置され,その 位置をずらしたドットをキードットKDとして,このキードットKDに囲ま れた領域,又は,キードットKDを中心にした領域が一つのデータを示すも のとされている。このようなキードットKDに囲まれた領域又はキードット KDを中心にした領域が一つのデータを示すものであり,「前記情報ドット が配置されて情報を表現する部分」(C1・H2)であるといえるところ,図105ドットパターンでは,前記のようにキードットKDによって,それ\nに囲まれた領域,又はそれを中心にした領域が情報を表現する部分とされているのであり,また,図105では,情報を表\現する部分はキードットKDにより囲まれていることが示されているのであって,そうである以上,「第 一方向ライン」及び「第二方向ライン」(C1・H2)として特定される水 平方向及び垂直方向のラインによって,情報を表現する部分を囲んでいると直ちにいえるものではない。したがって,「第一方向ライン」,「第二方向ラ\nイン」がない以上,情報を示すドットが配置されて情報を表現する部分を囲むような「第一方向ライン」及び「第二方向ライン」上にドットが配置され\nているということもできない。以上によれば,上記構成要件C1・H2に係る構\成は,【0184】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)及 び図105に記載されているとは認められない。 なお,図5ドットパターンについて,補正後の構成要件B1・G2に係る構\成の記載はないのであるが,図5ドットパターンには,情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように,縦方向の所定のドットの間隔ごとに水平方向に引いた水平ラインと,水平ラインと交差するように横方向の所\n定のドットの間隔ごとに垂直方向に引いた垂直ラインが存在し,また,それ らのライン上において,複数の格子点上に格子ドットが配置されているとい える。したがって,上記構成要件C1・H2に係る構\成は,【0023】〜 【0027】I),【0067】〜【0071】II)及び図5〜図8に記載され ているとはいえる。
ア 前記(3)によれば,当初明細書1及び2において,構成要件B1・G2に係る構\成は,【0184】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)及 び図105には記載されているとはいえるが,そこで記載されているドッ トパターンである図105ドットパターンは構成要件C1・H2の構\成を 有するものではない。また,当初明細書1及び2において,構成要件C1・H2に係る構\成は,【0023】〜【0027】I),【0067】〜【007 1】II)及び図5〜図8には記載されているとはいえるが,そこで記載されて いるドットパターンである図5ドットパターンは構成要件B1・G2の構\ 成を有するものではない。
そして,図5ドットパターンと図105ドットパターンは,情報ドットの ずらし方,1つの交点に対する情報ドットの個数,情報ドット以外のドット の配置,格子線又はラインのうち特定のものを「第一方向ライン」等として 特定するか否か,垂直ライン上のドットが本来の位置からのずれ方によって データの種類を表すか否か,1つのデータを区画するキードットKDが存在するか否か等,多くの点で相違しており,これらの相違は,各実施例が開示\nする技術的事項,すなわちドットパターンによる情報の定義方法が相当に異 なることに起因する。当初明細書1及び2は,極小領域であってもコード情 報やXY座標情報が定義可能なドットパターンを提供するとし(【0013】I),【0008】II)),複数のドットパターンを記載しているのであるが,そ こに記載されたドットパターンである図5ドットパターンと図105ドッ トパターンの情報の定義方法は上記のとおり相当に異なるのであり,また, 当初明細書1及び2に,これらの異なる情報定義方法を採用した各ドットパ ターンが採用する情報定義方法を相互に入れ替えたり,重ねて採用したりす ることについては何ら記載されていない。したがって,当初明細書1及び2 に,これらのドットパターンを組み合わせたものについての記載があるとは いえないし,それが当業者に自明であるともいえない。 以上によれば,当初明細書1及び2には,いずれも,本件補正1及び2に よって変更された構成要件B1・G2及び構\成要件C1・H2の構成をいずれも備えるドットパターンについての記載があるとはいえない。\nそうすると,当初明細書1又は2において,全ての記載を総合したとして も,当初明細書1又は2には,本件補正1及び2で補正後のドットパターン が記載されているとはいえず,本件補正は,当初明細書1又は2に開示され ていない新たな技術的事項を導入するものである。 したがって,本件補正1及び2は,当初明細書1又は2の記載等から導か れる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものである から,特許法17条の2第3項の補正要件に違反する。
イ これに対し,原告は,図103〜図106の実施例と図5〜図8の実施例 は,極小領域であってもコード情報やXY座標情報が定義可能なドットパターンを提案するという共通の課題を解決するための異なる実施例であり,こ\nれらを組み合わせることは当業者には自明の範囲のものであるから,構成要件B1・G2及び構\成要件C1・H2の構成は,いずれも当初明細書1及び\n2に記載されていると主張する。しかしながら,図5〜図8の実施例で示される図5ドットパターンと図103〜図106の実施例で示される図105ドットパターンでは,上記のとおり,情報の定義方法が相当に異なり,それを組み合わせることが当業者に 自明とはいえないし,当初明細書1及び2にそのような組み合わせを前提と した記載も存在しない。原告の上記主張には理由がない。
4 争点4−3(サポート要件に違反しているか)について
事案に鑑み,続いて,争点4−3のうち,本件発明3〜5についてのサポート 要件違反について判断する。
本件発明3の構成要件D3及び本件発明4の構\成要件E4の特許請求の範 囲の記載は「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位 置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している」との記 載を含み,本件発明5の構成要件D5の特許請求の範囲の記載は,「前記垂直 方向に配置されたドットの1つにおける当該ドット本来の位置からのずれ方 によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」との記載を含むもので ある。 これらには,垂直方向に配置されたドットの1つについて,本来の位置に配 置せず別の位置に配置すること,そして,「ずらし方によって」「ずれ方によっ て」ドットパターンの向きを示すとしていることからも,本来の位置と実際に 配置された位置との関係に基づいてドットパターンの向きが表現されることが記載されているといえる。\n
(2)ア 本件明細書3及び4には,前記1の記載があり,また,ドットパターンに 関係して前記2の記載がある。 ここで,本件明細書3及び4には,ドットを本来の位置とは違う位置に配 置し,本来の位置と実際に配置された位置のずれ方によってドットパターン の向きを表現することに関係し得るものとして,本件明細書3の【0009】III)に特許請求の範囲と同じ記載があり,後記イのキードットKDのずらし方 に関係する記載があることを除いて,何ら記載がない。 イ 【0240】〜【0242】III),【0234】〜【0236】IV)には,キー ドットKDにつき,撮像された格子ドットとキードットKDとの位置関係か らカメラの角度が分かり,カメラで同じ領域を撮影しても角度という別次元 のパラメータを持たせることができる旨の記載がある。このようにキードッ トKDの配置のずらし方によってドットパターンを撮像するカメラの角度 が分かることが記載されているところ,その角度が分かるためには配置のず らし方があらかじめ定められていることを前提としているはずであり,ドッ トパターンについていうと,キードットKDの配置のずらし方によって,ド ットパターンの向きを示すことが記載されているともいえる。 しかしながら,上記記載は,図105ドットパターンに関するものである (ドットパターンに関する明細書の記載及び図面は,当初明細書1及び2, 本件明細書1〜4では,いずれも同じであり,本件明細書3,4にも,図1 05ドッパターンと図5ドットパターンが記載されているといえる。)。前記 のとおり,図105ドットパターンにおいて,情報を示すドットは4 個の格子ドットLDに囲まれた領域の中心から等距離の位置で45°ずつ ずらしたいずれかの位置に配置されている。しかし,その中心点を交点とす るような垂直ラインと水平ラインを仮想的に想定したとして,それらは水平 方向あるいは垂直方向に配置されたドットから設定されたものではない。す なわち,図105ドットパターンにおいては,4個の格子ドットLDに囲ま れた領域の中心について,そこを交点とする垂直ラインと水平ラインを仮想 的に想定するとしても,それらの垂直ラインと水平ラインを設定するドット はない。そうすると,図105ドットパターンは,少なくとも,「前記水平 方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ラインと,前記垂直方 向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの 交点」である「格子点…からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」 (構成要件C3・D4・C5)に係る構\成を有するものではない。また,図 105,図106においては,キードットKDは,垂直方向の格子線上にあ るが水平方向の格子線上にはないという態様で格子点からずれていて,これ らのキードットKDは「等間隔に所定個数水平方向に配置されたドット」(A 3・B4・A5)の1つであり,「前記水平方向に配置されたドットの端点 に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」 (A3・C4・A5)ではないから,「前記垂直方向に配置されたドットの 1つは,当該ドット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターン の向きを意味している」(構成要件D3・E4・D5)ものには当たらないといえる。\n以上によれば,図105ドットパターンは,少なくとも,構成要件C3・D4・C5に対応する構\成を有するものではない。また,図105,図10 6のキードットKDは,構成要件D3・E4・D5の情報ドットではないともいえる。\n
そうすると,図105ドットパターンは,本件発明3〜5に係るドットパ ターンと異なるドットパターンである。そのような図105ドットパターン に関してキードットKDについて上記記載があるとしても,その記載をもっ て,本件発明3〜5について,「ずらし方によって前記ドットパターンの向 きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」(構\成要件D5)についての記載があるといえるものではないし,また,当業者にとって,その記載があると理解する ことはできない。
ウ 図5ドットパターンについては,水平ライン(図5その2のLH1,LH 13等)上に等間隔に配置されたドット(図5その2のLH1上ではD1, D8,D20,D30等)は「等間隔に所定個数水平方向に配置されたドッ ト」(構成要件A3・B4)「等間隔に所定個数,所定方向に配置されたドットを水平方向に配置されたドット」(構\成要件C5)であるといえ,垂直ライン(図5その2のLV1,LV13等)上に等間隔で配置されたドット(例 えば,図5その2のD2,D3等)は「前記水平方向に配置されたドットの 端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたド ット」(構成要件B3・C4),「前記所定方向に対して垂直方向に等間隔に所定個数配置されたドットを垂直方向に配置されたドットとして抽出し」(構\成要件C5)であるといえる。また,水平ライン及び垂直ライン上に設置さ れた上記各ドットを通過する縦横の格子線の交点から,90°ずつずれたい ずれかの方向にずれた情報ドットは,「前記水平方向に配置されたドットか ら仮想的に設定された垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたドットから 水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点 からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」(構成要件C3・D4・ C5)であるといえる。 しかしながら,「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味して いる」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する」(構\成要件D5)については,本件明細書3及び4には,関係する記載はないといえる。図5ドットパターンの図5〜8において垂直ライン 上にドットがないところがあり,そこにはドットが本来の位置と比べて,図 5では左(図5その2のD2),図6では左又は右,図7では左,図8では右 にずれた位置にドットが配置されているが,【0069】〜【0073】III), 【0063】〜【0067】IV)には,これらのドットについて,その本来の 位置と実際に配置された位置との関係に基づいてドットパターンの向きを 意味することを示す記載は全く存在しない。かえって,上記のドットについ て,図5及び図7では,左にずれたドットについて「x,y座標フラグ」と 記載され,そのドットパターンがx座標,y座標を示すことが記載され,図 6及び図8では,右にずれたドットについて「一般コードフラグ」と記載さ れ,そのドットパターンが「一般コード」を示すことが記載されている。そ うすると,これらのドットは,ドットの本来の位置と実際に配置された位置 との関係によってドットパターンのデータの種類を定義していることがう かがえる。 また,図5ドットパターンについて,【0072】III),【0066】IV)には, 水平ラインから垂直ラインを抽出した後,「垂直ラインは,水平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にない\nことから上下方向を認識する。」という記載があり,垂直ライン上のドット の有無によってドットパターンの上下方向を認識することが記載されてい る。しかし,ここでは,ライン上にドットがあるかないかだけを認識して上 下方向を判断することが記載されているのであって,構成要件D3・E4・D5に係る構\成である,本来のドットの位置と実際に配置されたドットの位 置との関係に基づいてドットパターンの向きが表現されることが記載されているとはいえない。\n
これらによれば,図5ドットパターンについても,本件明細書3及び4は, 「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」\n(構成要件D5)の構\成について,何ら記載はないといえることとなる。そ の他,本件明細書3及び4に,本件発明3〜5における上記構成について説明していると解される記載は存在しない。\n
エ 以上によれば,本件明細書3及び4には,「ずらし方によって前記ドット パターンの向きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」(構\成要件D5)の構成につい\nて,具体的に何ら記載がないといえるし,具体的な記載がないにもかかわら ず,当業者が,技術常識に照らして上記構成を理解したことを認めるに足りる証拠もない。\n したがって,本件発明3の構成要件D3,本件発明4の構\成要件E4,本 件発明5の構成要件D5は,本件明細書3及び4の発明の詳細な説明に記載したものとは認められない。\n ア 原告は,図5〜図8において,「ドットパターンの向きを意味している」ド ットは,「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」と兼用されている と主張する。 しかしながら,図5〜図8の記載は上記のようなものであって,そこでは ドットが「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」として記載されて いるが,それ以外に,ドットパターンの向きに関する記載はない。そして, 明細書の発明の詳細な説明においても,【0071】〜【0073】III),【0 065】〜【0067】IV)においては,ドットの本来の位置と実際に配置さ れた位置との関係によってドットパターンの向いている方向を認識するこ とについては何ら説明されておらず,また本件明細書3及び4のどこにも, ずれ方によってドットパターンの向きを意味するドットと,データ内容を定 義するドットとを兼用するとの説明は記載されていない。原告の上記主張に は理由がない。
イ 原告は,【0239】〜【0241】III),【0233】〜【0235】IV)に は,キードット(KD)につき,データ領域の範囲を定義する第1の機能と,ずらし方を変更することによりドットパターンの向き(角度)を意味すると\nいう第2の機能を有することが示されており,図105及び図106(d)では全てのキードット(KD)を一定の方向にずらすことによってドットパ\nターンの向きを表すことが開示されていると主張する。 しかしながら,これらは,図105ドットパターンに関する記載である。 前記(2)イのとおり,図105ドットパターンの情報の定義方法は本件発明3 〜5の構成要件C3・D4・C5に係る構\成の情報の定義方法と異なる。当 業者において,本件発明3〜5の情報の定義方法と異なる情報の定義方法を 採用する図105ドットパターンに開示された構成をもって,本件発明3〜5の構\成要件D3・E4・D5の各構成が開示されていると理解することは\nできない。原告の上記主張には理由がない。
5 小括
以上によれば,本件発明1及び2に係る本件特許1及び2は特許法17条の2 第3項に違反し,本件発明3〜5に係る本件特許3及び4は同法36条6項1号 に違反し,いずれも特許無効審判により無効にされるべきものである(同法12 3条1項1号,4号)。そうすると,その余を判断するまでもなく,原告は,同法 104条の3第1項により,被告各製品が本件発明1〜5の技術的範囲に属する ことを主張して本件各特許権を行使することはできない。

◆判決本文

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平成30(行ケ)10159等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年7月2日  知的財産高等裁判所

 サポート要件を満たさないとした審決が取り消しました。原告は「アメリカ合衆国」です。

 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許 請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に 記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説 明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識で きる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出 願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のも のであるか否かを検討して判断すべきである。 そして,サポート要件を充足するには,明細書に接した当業者が,特許請 求された発明が明細書に記載されていると合理的に認識できれば足り,また, 課題の解決についても,当業者において,技術常識も踏まえて課題が解決で きるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば足りるのであ って,厳密な科学的な証明に達する程度の記載までは不要であると解される。 なぜなら,まず,サポート要件は,発明の公開の代償として独占権を与える という特許制度の本質に由来するものであるから,明細書に接した当業者が 当該発明の追試や分析をすることによって更なる技術の発展に資することが できれば,サポート要件を課したことの目的は一応達せられるからであり, また,明細書が,先願主義の下での時間的制約の中で作成されるものである ことも考慮すれば,その記載内容が,科学論文において要求されるほどの厳 密さをもって論証されることまで要求するのは相当ではないからである。
(2) 本件化合物発明の課題について
本件明細書の記載によれば,本件化合物発明が解決しようとする課題は, 製剤化したときに安定な医薬となり得て,また,水性媒体への溶解でボロン 酸化合物を容易に遊離する組成物となり得る本件化合物(凍結乾燥粉末の形 態のBME)を提供することである。そして,この課題が解決されたといえ るためには,凍結乾燥粉末の状態のBMEが相当量生成したこと,並びに当 該BMEが保存安定性,溶解容易性及び加水分解容易性を有することが必要 であると解されるから,これらの点が,上記(1)で説示したような意味におい て本件明細書に記載又は示唆されているといえるかについて検討することと する。なお,ここでいう「相当量」とは,医薬として上記課題の解決手段に なり得る程度の量,という意味である。
(3) 凍結乾燥粉末の状態のBMEが相当量生成したことについて
ア 本件明細書の【0084】には,実施例1として,ボルテゾミブとD− マンニトールとの凍結乾燥製剤の調製方法が開示されている。そして,本 件出願日当時の技術常識に照らすと,同調製方法のように,tert−ブ タノールの比率が高く(相対的に水の比率が低く),過剰のマンニトール を含む混合溶液中で,周辺温度より高い温度で攪拌するという条件の下で は,ボルテゾミブとマンニトールとのエステル化反応が進行し,相当量の BMEが生成すると理解し得る。 また,本件明細書の【0086】には,【0084】記載の方法によっ て調製された実施例1FD製剤は,FAB質量分析により,BMEの形成 を示すm/z=531の強いシグナルを示したこと,このシグナルはボル テゾミブとグリセロール(分析時のマトリックス)付加物のシグナルであ るm/z=441とは異なっており,しかも,m/z=531のシグナル の強度は,m/z=441のシグナルと区別されるほど大きいことが開示 されている。これらの事項からすれば,実施例1FD製剤は,相当量のB MEを含むといえる。 したがって,本件明細書には,凍結乾燥粉末の状態のBMEが相当量生 成したことが記載されていると認められる。
イ 請求人ホスピーラの主張について
請求人ホスピーラは,FAB質量分析においては,ピークの大小をもっ て試料に含まれる物質の存在量の大小を評価できないのであるから,実施 例1の記載から凍結乾燥製剤に相当量のBMEが含まれていることを認識 できない旨主張する。 しかしながら,上記(1)に説示したとおり,サポート要件を充足するため には,厳密な科学的な証明までは必要としないと解されるところ,上記ア の凍結乾燥製剤の調製方法に関する知見(相当量のBMEが生成されてい ると考えられるとする甲60(丙教授の鑑定意見書)及び甲61(丁教授 の意見書)の記載を含む。)や,FAB質量分析により,m/z=531 の強いシグナルが確認されていることに照らせば,当業者は本件化合物発 明の対象物質(凍結乾燥粉末の状態のBME)が相当量生成したと合理的 に認識し得るというべきである。 したがって,請求人ホスピーラの上記主張は,上記アの判断を左右しな い。
(4) 保存安定性について
ア 本件明細書の【0094】〜【0096】には,固体や液体のボルテゾ ミブは,2〜8℃の低温で保存しても,3〜6ヶ月超,6ヶ月超は安定で はなかったのに対して,実施例1FD製剤(上記(3)のとおり相当量のBM Eを含む。)は,5℃,周辺温度,37℃,50℃で,いずれの温度でも, 約18ヶ月間にわたって,薬物の喪失は無く,分解産物も産生しなかった との試験結果が開示されている。この記載によれば,本件明細書には,本 件化合物が,ボルテゾミブに比較して優れた保存安定性を有していること を当業者が認識し得る程度に記載されているといえる。
イ 請求人ホスピーラの主張について
請求人ホスピーラは,本件明細書の【0094】〜【0096】に記載 された保存安定性の向上は,マンニトールを賦形剤として用いた凍結乾燥 という周知技術の適用により奏されたものと認識することが自然である旨 主張する。
この点,確かに,実施例1FD製剤において,調製に供したボルテゾミ ブの全量がBMEとなっているとは限らず,マンニトールを賦形剤として 凍結乾燥されたボルテゾミブも含まれていると考えられるから,凍結乾燥 されたボルテゾミブの存在が,保存安定性の向上に寄与しているとも考え られるところである。しかしながら,相当量のBMEを含む製剤が保存安 定性を示している以上,BMEも保存安定性の向上に寄与していると考え るのが通常人の認識であるといえるし,これに反して,凍結乾燥されたボ ルテゾミブのみが保存安定性に寄与していると認めるべき事情は見当たら ない。
そうすると,サポート要件の充足のために必要とされる当業者の認識が 上記(1)のようなもので足りる以上,請求人ホスピーラの上記主張は,上記 アの判断を左右しない。

◆判決本文
こちらは同一特許に関する関連事件です。 原告は同じで被告が異なります。

◆平成30(行ケ)10158等

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令和1(行ケ)10115  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年6月11日  知的財産高等裁判所

 明細書に「略同一面」と記載されており、クレームでは「同一面」とある用語が明確性違反であるとの主張は否定されました。

 ア 特許請求の範囲の記載については,特許を受けようとする発明が明確である ことを要する(特許法36条6項2号。明確性要件)。 明確性要件の適否は,特許請求の範囲の記載,明細書の記載及び図面並びに出願 時の当業者の技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不 利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断するのが相当である。
 イ 特許請求の範囲請求項1及び2にいう「同一面」の意義は,前記(1)のとおり であり,その意義は明確であり,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益 を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
 ウ 原告は,本件明細書の発明の詳細な説明において,「略同一面」という文言に ついて「樹脂部とリードとは略同一面に形成されている。この略同一面とは同じ切 断工程で形成されたことを意味する。」との特別な定義付けがされていることを指摘 し,これと「同一面」という文言が同義であると直ちには理解できないとして,明確 性要件の適合性を争う。 しかし,特許請求の範囲請求項1及び2にいう「同一面」とは,樹脂パッケージの 外側面において樹脂部とリードとが同一面に形成されることを意味するものと解釈 することができることは,前記(1)のとおりである。他方,本件明細書の発明の詳細 な説明の「略同一面」については,「樹脂部とリードとは略同一面に形成されている。 この略同一面とは同じ切断工程で形成されたことを意味する。」(【0042】)とい うものであり,前記「同一面」と同義のものである。よって,特許請求の範囲に記載 された「同一面」という用語と,発明の詳細な説明に記載された「略同一面」という 用語とが,異なる意味で用いられていると解すべき根拠は見当たらず,そうすると, 発明の詳細な説明において専ら「略同一面」という文言が用いられているからとい って,発明の詳細な説明に記載された製造方法により,樹脂パッケージの外側面に おいて樹脂部とリードとが「同一面」に形成されるという当業者の理解が妨げられ るものではない。原告の主張は理由がないというべきである。

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平成31(行ケ)10019等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所

 サポート要件・実施可能性要件違反なしと判断した無効審決が維持されました。\n

ア 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か, また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課 題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもので ある。
イ(ア) 本件発明の課題は,「コリネ型細菌を用いたL−グルタミン酸の製造 において,L−グルタミン酸生産能力を向上させる新規な技術を提供すること」で\nあり,本件発明11の中には,誘導条件下のみならず,非誘導条件下においても生 産能力の向上を図るものが含まれているところ,誘導条件下において,19型変異\nを導入した株であるATCC13869−19株の生産能力が野生株に比して向上\nしていることは,本件明細書の実施例10(段落【0125】〜【0128】,【表\n9】,【表10】)に開示されているといえるから,当業者は,19型変異について,\n誘導条件下でグルタミン酸の生産能力向上がみられるものであることを認識できる\nといえる。
(イ) 次に,非誘導条件下における19型変異の生産能力の向上について検\n討するに,本件明細書の実施例8の培養は,実施例2と同様の方法で実施されたと されていて,その培地には,請求項6などにいう「過剰量のビオチン」に該当する 300μg/lのビオチンが存在していた上,界面活性剤等は添加されていなかっ たと認められるから,実施例8は,非誘導条件下での19型変異株の生産能力向上\nについてした実験である(本件明細書の段落【0120】,【0097】,【0032】)。 そして,実施例8の【表7】には,以下のとおり,19型変異株であるATCC\n13869−19株が,野生株に比して0.2g/L多くのL−グルタミン酸を生 産したことが示されている。そして,それを受けて本件明細書の段落【0120】 には,「ATCC13869−19株は親株のATCC13869株と比べてL−グ ルタミン酸蓄積が大幅に向上していた。」と記載されているから,それらの記載から, 当業者は,19型変異について,非誘導条件下でも本件発明の課題を解決できるも のであることを認識するといえる。
ウ 原告らは,実施例8に関して,(1)実施例2における野生株のグルタミン 酸生産量の値及びブランク値,実施例3におけるブランク値並びに実施例2,3, 5,7,9の値からみて,実施例8における野生株と19型変異株のグルタミン酸 生産量の違いは誤差の範囲内にすぎず,当業者は,実施例8からグルタミン酸の生 産能力が向上したとは認識できない,(2)ブランク値と変異株及び親株の結果とを対 比しないと,実施例8の信用性を評価することはできない,(3)甲28の実験や甲3 4の実験の結果からも19型変異株が非誘導条件下でグルタミン酸を生成しないこ とが裏付けられていると主張する。
(ア) 上記(1)について
本件明細書上,実施例3,6〜9は,いずれも実施例2記載の方法又は同様の方 法で,培地中に300μg/lのビオチンが存在するなどの非誘導条件下で実施さ れたものである(本件明細書の段落【0097】,【0100】,【0109】,【0112】,【0117】,【0120】,【0123】)。そして,実施例2,3,6の【表\n1】,【表2】,【表\4】,【表5】に記載されているブランク値について,本件明細書に明示的な説明はされていないものの,菌体量を示すOD620値がいずれも0.\n002と極めて低い値になっていることからすると,被告が主張するとおり,グル タミン酸生産菌を接種しない培養開始時の培地(初発培地)でのグルタミン酸の濃 度を表すものであると認められる。また,甲36,乙6によると,非誘導条件下で\nの野生株(ATCC13869)のグルタミン酸生産量の値は,培養が進むにつれ てグルタミン酸が分解された後の値であると認められる。 上記四つのブランク値が,それぞれ異なっていること(【表1】が0.4g/L,\n【表2】と【表\4】が0.6g/L,【表5】が0.7g/L)からすると,実施例\n3,6〜9について,実施例2記載の方法又は同様の方法で実施されたと記載され ているものの,初発培地におけるグルタミン酸の濃度などの培養条件は実施例又は 各培養ごとに異なるものであったと認められる。本件明細書の段落【0097】の 記載及び甲36,乙6の記載からすると,上記のような各実施例におけるブランク 値の違いは,天然物を起源とする大豆加水分解物に由来するものであると認められ る。 そもそも,本件明細書のブランク値及び野生株のグルタミン酸生産量の値は,上 記認定のとおりのものであって,これらの値を根拠に,これらの値とは異なる実施 例8における野生株と19型変異株とのグルタミン酸生産量の違いが誤差に基づく ものということはできない。その上,上記認定のとおり,培養条件は,実施例又は 各培養ごとに異なるから,なおさら,実施例2や実施例3に表れた数値を根拠に,\n実施例8における野生株と19型変異株におけるグルタミン生産量の0.2g/L の違いが誤差に基づくものであるということはできない。 さらに,実施例2,3,5,7,9のその他の数値からみても,実施例8の野生 株と19型変異株のグルタミン酸生産量の0.2g/Lの違いが誤差に基づくもの ということはできない。 以上からすると,上記(1)は,前記イの判断を左右するものとはいえない。
(イ) 上記(2)について
本件発明の課題は,「コリネ型細菌を用いたL−グルタミン酸の製造において,L −グルタミン酸生産能力を向上させる新規な技術を提供すること」であるところ,\nここでいう「生産能力の向上」とは,「野生株などの非改変株と比較して,L−グル\nタミン酸生産能が上昇したこと」を意味する(【請求項1】,【請求項4】,【請求項5】\n及び本件明細書の段落【0015】,【0031】)から,実施例8において,19型 変異株が,野生株に比してより多くのグルタミン酸を生産することが示されている 以上,ブランク値が記載されていないとしても,実施例8の結果が信用できないも のということはできない。
・・・・
(4) 小括
以上からすると,19型変異に関して,本件発明11にサポート要件違反や実施 可能要件違反があるとはいえないから,原告らが主張する取消事由1は理由がない。\n

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平成29(ワ)24598  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月26日  東京地方裁判所

 技術的範囲に属しない、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使できないと判断されました。

原告による測定結果
株式会社東洋環境分析センターが,平成30年2月,原告の依頼によ り,宮崎県食品開発センターが保有するPT−Rを用いて,前記イの記載 に従って,同じロットナンバーの被告製品2について,3回測定した結果 によれば,被告製品2(1ロット)の見掛けタッピング比容積は,いずれ も2.4cm3/g(2.45cm3/g,2.46cm3/g,2.46cm3/g)で あった(甲20の1,20の2)。
オ 被告による測定結果
株式会社住化分析センターが,平成30年2月,被告の依頼により, PT−Xを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナ ンバーが異なる5つの被告製品についてそれぞれ1回ずつ測定した結果 によれば,被告製品2(製造時期の異なる5ロット)の見掛けタッピン グ比容積は2.2〜2.3cm3/g(2つの製品について2.2cm3/g, 3つの製品について2.3cm3/g)であった(乙11)。 被告が,平成30年10月頃,宮崎食品開発センターが保有するPT −Rを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナンバ ーが異なる5つの被告製品2について,それぞれ3回ずつ測定した結果 によれば,その見掛けタッピング比容積は2.2〜2.3cm3/g(3つ の製品について3回とも2.3cm3/g,1つの製品について2.2cm3/ g,2.2cm3/g,2.3cm3/g),1つの製品について,2.2cm3/ g,2.3cm3/g,2.3cm3/g)であった(乙34)。
(2)本件明細書の特許請求の範囲には見掛けタッピング比容積の測定方法は記 載されていないが,発明の詳細な説明には,前記(1)イのとおり,実施例・比 較例における見掛けタッピング比容積はPT−Rを用いて測定された値であ る旨の記載がある。
原告は,PT−Rを用いて測定した結果(前記(1)エ)によれば,被告製品 2の見掛けタッピング比容積は2.4cm3/gであるから,構成要件1F及び2Fをいずれも充足すると主張する。\nて測定した結果によれば,製造時期の異なる5ロットの被告製品2につき, いずれも見掛けタッピング比容積が2.4cm3/gに達していなかった。その 実験の信用性が否定されることを裏付ける客観的な証拠はない。上記のとお り,5ロットという複数の被告製品2について,それぞれ3回ずつ検査した 結果,いずれも見かけタッピング比容積が構成要件1F・2Fの下限である2.4cm3/gに達していなかったというのであるから,被告製品2は構成要定対象,測定方法による測定結果に照らして,原告の同エの測定結果によっ\nて被告製品2の見掛けタッピング比容積が2.4cm3/gであることを認める に足りない。
・・・
本件発明1及び2は,前記のとおり,2.5N塩酸,15分,沸騰温 度という具体的な本件加水分解条件で測定された重合度(平均重合度) をレベルオフ重合度とするものである(そのような具体的な本件加水分 解条件で測定されることを前提として実施可能要件を充足する。)。したがって,本件では,本件加水分解条件という具体的な条件で加水分解さ\nれた後に測定されるレベルオフ重合度について,優先日当時,当業者 が,技術常識に基づいて,発明の詳細な説明に記載された原料パルプの レベルオフ重合度と,原料パルプを加水分解して得られたセルロース粉 末のレベルオフ重合度とが同一であると認識することができるかが問題 となるといえる(なお,本件加水分解条件は,レベルオフ重合度を求め るものとして,当該酸濃度温度条件では比較的短時間といえる時間の加 水分解を定めたものであることがうかがえる。)。
ここで,優先日当時,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合 度について,天然セルロースとそれを加水分解して生成されたセルロー ス粉末とが同じレベルオフ重合度となることを直接的に述べた文献があ ったことを認めるに足りる証拠はない。他方,本件明細書においてレベ ルオフ重合度の説明において現に引用されている文献であり,種々の対 象について本件加水分解条件を含む条件で加水分解をした上で本件加水 分解条件(2.5N塩酸,沸騰温度,15分)を提唱したBATTIS TA論文は,(1)木材パプルについて,温和な加水分解条件での加水分解 を経た後に2.5N塩酸,沸騰という過酷な条件で加水分解した重合度 と,温和な加水分解条件での加水分解を経ずに2.5N塩酸,沸騰温度 という条件で加水分解した重合度を実際に測定して,前者の値が後者の 値より低かったこと,(2)セルロースを加水分解した際には結晶化がされ るという他の複数の研究者による研究成果を紹介した上で,上記(1)等の 実験結果は温和な加水分解は重量減少を伴わない結晶化を誘導すること を示しているようであること,(3)温和な加水分解や過酷な加水分解で起 こるメカニズムを提唱した上で,温和な加水分解を経た後に過酷な加水 分解がされた場合には結晶化された短いセルロース鎖の残渣が保持され るため,温和な加水分解を経ずに過酷な加水分解がされた場合よりもレ ベルオフ重合度が低下すると予想されることなどを述べていた。なお,セルロースの加水分解において再結晶化が起こることは他の文献でも紹\n発明の詳細な説明の実施例2ないし7のセルロース粉末は,前記 のとおり,原料パルプを4N塩酸,40°C,48時間という条件,3N 塩酸,40°C,40時間という条件,3N塩酸,40°C,24時間とい う条件などで加水分解したものであり,天然セルロースを温和な条件で 加水分解したものといえる。 前記のとおり,本件では本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が問 題となるところ,本件加水分解条件を提唱し,本件明細書でも引用してい るBATTISTA論文は,上記のとおり,他の複数の研究者による研究 成果を紹介した上で,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度について は,温和な加水分解を経た場合にはその過程を経ていないものに比べて, 値が低下することが予想されると述べていた。その内容とは異なり,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合度について,天然セルロースと,\nそれを温和な条件で加水分解して生成されたセルロース粉末とが同じレ ベルオフ重合度であるという技術常識があったことを認めるに足りる証 拠はない。 に述べられるレベルオフ重合度は本件加水分解 条件により測定されたものではないし,同文献の著者は,優先日頃におい ても,著者が考える「レベルオフ」するためには本件加水分解条件の時間 では足りないと考えられていた旨述べる(同 )。 また,本件明細書に記載された実施例のセルロース粉末は,原料パル プを加水分解した後,攪拌,噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温 度180〜220°C、出口温度50〜70°C)して得られたものであ る。当該セルロース粉末の本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度 の明示的な記載が明細書にない以上は,上記加水分解,攪拌,噴霧乾燥 の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条件下でのレ ベルオフ重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識がある 場合に,当該セルロース粉末のレベルオフ重合度が本件明細書に記載さ れているに等しいといえる。上記の加水分解,攪拌や噴霧乾燥を経たセ ルロース粉末の本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度が原料パルプ のそれとの関係でどのような値になるかについての技術常識を認めるに 足りる証拠はない。 これらを考慮すれば,優先日当時,当業者が,本件明細書に記載され た原料パルプのレベルオフ重合度とそこから加水分解して生成されたセ ルロース粉末の本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が同じである と認識したと認めることはできない。また,発明の詳細な説明の実施例 は,具体的な原料パルプから明細書記載の特定の条件の加水分解,攪 拌,噴霧乾燥を経て得られたセルロース粉末である。当業者が,優先日 当時,技術常識に基づいて,記載されている当該原料パルプのレベルオ フ重合度に基づいて,上記具体的な条件で得られたセルロース粉末につ いて,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度の値を認識することが できたとも認められない。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,セルロース粉末 について,本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度の記載があるの に等しいとは認められない。 カ 原告は,非晶質領域が分解されて結晶領域のみが残った状態に達したと きの重合度であるレベルオフ重合度は,途中に原料パルプから本件セルロ ース粉末という加水分解過程を経ると否とに関わらず同じ値となるのであ り,当業者であれば,原料パルプとそこから温和な加水分解によって得ら れる本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は等しくなると当然に理解す ることができる旨主張し,また,BATTISTA論文における上記実験 結果における温和な加水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプ からセルロース粉末を生成する温和な加水分解の条件と同じものではない ことを指摘する。
しかし,本件においては具体的な本件加水分解条件による加水分解がさ れたセルロースの重合度(平均重合度)が問題となる。本件加水分解条件 を提唱し,発明の詳細な説明でも引用されるBATTISTA論文が,本 件加水分解条件によるレベルオフ重合度について前記のように述べていた ところ,優先日当時,そこに記載されているのと異なる内容の技術常識が あったことを認めるに足りる証拠はない。また,BATTISTA論文 は,セルロースを加水分解した際には結晶化がされるという他の複数の研 究者による研究成果を紹介した上で,前記の予想をしているのであり,そこに記載されているのと異なる技術常識があったことを認めるに足りる証\n拠がない本件で,BATTISTA論文においてされた実験での温和な加 水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプから粉末セルロースを 作成する加水分解の条件と全く同じものではないことは上記の結論を直ち に左右するものではない。
なお,原告は,実験をした結果,原料パルプを本件加水分解条件で加水 分解したときの平均重合度と,当該原料パルプを実施例2と同じ加水分解 条件で加水分解して得たセルロース粉末を本件加水分解条件で加水分解し たときの平均重合度は実質的に同じであったとして,平成30年8月頃に 測定された結果を記載した平成31年3月20日付け報告書(甲56の 1)を提出し,また,上記でセルロース粉末を得る際の写真やセルロース 粉末を得た際に80°Cの熱風を当てる工程を含む24時間の乾燥処理をし たことなどが記載された同年4月9日付け報告書(甲57)を提出する。 しかし,本件では,優先日当時,本件明細書に記載された加水分解,攪 拌,噴霧乾燥の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条 件下での重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識の存否が 問題となるところ,上記時点の上記実験結果によって同技術常識を認める ことはできない。
キ 以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度 と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるとこ ろ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの 本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく, また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しい とはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求 の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。
そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された 本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえ\nない。 以上によれば,本件発明1及び2は,発明の詳細な説明の記載により当業 者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないから,特 許法36条6項1号に違反する。

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令和1(行ケ)10095  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月12日  知的財産高等裁判所

 明確性要件を充足しないと判断されました。理由は「出願当時の技術常識を基礎としても,本件発明の「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義を理解することはできず,本件発明の技術的範囲は不明確といわざるを得ない」 というものです。

 請求項1には,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」との 記載があるところ,請求項1の記載自体から,この炭化タングステン粒子は,「少な くとも二個の粉砕工具」の「工具表面」に「含有」されるものであることを理解することができ,また,上記炭化タングステン粒子は,第1の粉砕工具の表\面には95重量%以下含有され,その粒径が1.3μm以上であること,第2の粉砕工具の表面には80重量%以上含有され,その粒径が0.5μm以下であること,粒径はメ\nジアン粒径であること,炭化タングステン粒子のメジアン粒径が1.3μm以上あ るいは0.5μm以下であることは,炭化タングステン粒子を「質量により秤量」し て測定するものであることが理解できる。 しかしながら,請求項1の記載からは,粉砕工具の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義が明らかであ\nるとはいえない。 また,本件特許の出願当時において,炭化タングステンを含んでなる表面を有する粉砕工具の工具表\面に含有される炭化タングステン粒子につき,質量により秤量したメジアン粒径を得ることができたとする当業者の技術常識を認めるに足りる証 拠はない。
イ 本件明細書の記載
本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」のタングステン含有量が95%以下であり,工具表面の材料における\n100%に対する残りは,好ましくはコバルト結合剤であり,好ましくは1%未満 の程度に追加の炭化物が存在する(【0026】〜【0028】),焼結の結果は,炭 素の添加によっても影響を受ける(【0029】)との記載があり,「炭化タングステ ンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子 が,コバルトである結合剤と焼結により一体化していることが開示されている。そ して,本件明細書には,コバルト結合剤と焼結により一体化した「粉砕工具」の「工 具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径について,定義や測定方法の記載はない。\nウ 以上によれば,本件明細書の記載を考慮し,出願当時の技術常識を基礎とし ても,本件発明の「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義を理解することはできず,本件発明の技術的範囲は不明確といわざるを 得ないから,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件を充足しないと いうべきである。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の定義 は,沈降法により測定されるストークス径について,質量を基準に粒子径を表した質量分布におけるメジアン粒径ということで,一義的に明確であり,ストークス径\nはストークスの式により明確に定義されるものである旨主張する。 そこで検討するに,甲18(神保元二ら編「微粒子ハンドブック」初版第1刷,1 991年9月1日)には,ストークス径は,最も広く用いられる代表径であり,静止流体中を重力で落下する粒子の沈降速度v1と同じ沈降速度をもち,また同じ密度を\nもつ球形粒子の直径であり,流体中で運動する粒子の諸現象を考える場合に有用な 代表径であることの記載があり,本件出願当時,粒子の大きさを測定する方法として,ストークス径を得る沈降法があることは,周知であったことが認められる。\nまた,ウェブページ「粒度分布測定の基礎知識」(甲19)には,「主な粒度分布測 定原理」の表の「遠心沈降法」の欄に,「測定粒子径の定義」を「ストークス径」,「基本粒度分布」を「重量基準」との記載があり,「遠心沈降法 液相中の粒子群の沈降 状態を吸光度などから計測して,球と仮定して導かれたストークスの式などと照合 し,有効径(ストークス径)を求める。」との記載がある。ウェブページ「粒径分布 測定[重力/遠心沈降式]」(甲22)には,「[測定原理/測定法]微粒子を水または不溶溶媒中に懸濁させ,重力場にそのまま静置するか遠心場に粒子懸濁液を置くと, 大きな粒子ほど速い速度で沈降していきます。その様子を粒子懸濁液に照射したレ ーザー光の透過光強度によって検出します。粒子サイズは重力沈降の場合,次のS tokesの式から得られます。」との記載があり, とのストークスの式が記載されている。これらによれば,沈降法は,重量(質量)基 準に基づく粒度分布が得られるものであること,液相中の粒子の沈降速度から粒径 を求めるものであり,分離して沈降可能な粒子を測定対象としていることが認められる。\nしかし,前記(2)イのとおり,本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる 表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子が,コバルトで ある結合剤と焼結により一体化していることが開示されている一方,炭化タングス テン粒子が工具表面から分離可能\であることの記載や示唆はない。また,ストーク スの式によりストークス径を算出するためには,ストークスの式に沈降距離h,沈 降時間t等のパラメータを代入することが必要であるところ,本件明細書を見ても, ストークスの式のパラメータの値としてどのような値を採用するかについての記載 はない。 そうすると,粒子の大きさを測定する方法としてストークス径を得る沈降法があ ることが周知であり,沈降法により重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られる としても,「粉砕工具」の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子が,コバルトである結合剤と焼結により一体化している以上,沈降法により炭化タング\nステン粒子のストークス径を測定することは不可能であるから,本件発明の「炭化タングステン粒子の質量により秤量されたメジアン粒径」が,沈降法に基づいて得\nられるストークス径のメジアン粒径であると解することはできない。
イ 原告は,焼結によって炭化タングステン粒子の粒径が変化するか否か,変化 するとしてどの程度変化するかは,焼結条件との兼ね合いで理論的にも実験的にも 十分に予\測が可能であり,その変化分を加味した上で炭化タングステン粒子の粒径を調整し,必要に応じて焼結条件を調整すればよく,また,焼結の前後それぞれの\n炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認するこ とで,ストークス径の粒度分布の変化を予測することは可能\であるから,工具表面に存在する炭化タングステン粒子自体を測定するまでもない,また,本件発明にお\nけるメジアン粒径は,「1.3μm以上」ないし「0.5μm以下」という広い範囲 を規定するものであるから,焼結の有無はそれらの数値範囲の充足性にほとんど影 響を及ぼさないと考えられる旨主張する。 しかし,本件明細書には,焼結条件との兼ね合いで焼結による粒径の変化を予測して炭化タングステン粒子の粒径を調整することや,焼結の前後それぞれの炭化タ\nングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認してストーク ス径の粒度分布の変化を予測することの記載や示唆はないから,本件発明の「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,かかる予\測や調整等を行うことを前提として沈降法により測定されるストークス径のメジアン粒径である とは解されない。また,本件発明におけるメジアン粒径が,広い範囲を規定するも のであるとしても,焼結の有無が数値範囲の充足性に影響を及ぼさないと解すべき 根拠はないから,上記の判断を左右するものではない。
ウ 原告は,焼結後の炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定する必要がある としても,コバルトの融点は1495℃,炭化タングステンの融点は2870℃で あるから,バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し,炭化タングステン 粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である旨主張する。しかし,本件明細書には,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン\n粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取 り出して沈降法で測定することについては,記載も示唆もないから,本件発明の「炭 化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,コバルトを除去して 取り出した炭化タングステン粒子を沈降法により測定したストークス径であるメジ アン粒径であるとは解されない。 仮に,上記測定方法により炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定する ことができたとしても,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子 とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出 すという過程において,炭化タングステン粒子の密度や形状が一切変化しないとい う根拠はないから,そのように取り出して測定した炭化タングステン粒子のストー クス径が,そのまま,コバルトマトリックスと一体化した工具表面の炭化タングステン粒子のストークス径であるということもできない。\n

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平成31(行ケ)10019等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所(2部)

 サポート要件・実施可能要件、さらに進歩性について無効主張をしましたが、理由無しとした審決が維持されました。

 1997年(平成9年)に執筆された甲8の共同執筆者の一人は,クラマー博士 であるところ,甲8は,上記乙39,40を引用し,後述のとおり,甲8の実験で 観察されたグルタミン酸の排出が担体によるものであるとの結論を導いている(甲 8,乙39,40,42)。 イ 上記アに関連し,原告らは,証拠(甲47〜50)からすると,本件優 先日当時,コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて,グルタミン酸が,浸透圧 に応じて浸透圧調節チャネルから排出されることが周知となっていたと主張する。 しかし,甲47には,「特別な条件下で,大腸菌がトレハロースを排出した観察結 果(StyrvoldとStrem 1991)およびコリネバクテリウム・グル タミカムがグルタミン酸を排出した観察結果(Shiioら 1962)は我々の 研究と関連している。」との記載があるにすぎず,これだけで,原告らが主張するよ うな技術常識があったと認めるには足りない。 また,甲48,49はいずれも大腸菌に関する文献であって,そこからコリネバ クテリウム・グルタミカムをはじめとするコリネ型細菌におけるグルタミン酸排出 の技術常識の存在を認めることはできない。 甲50には,その5頁の図に関して,コリネバクテリウム・グルタミカムの低浸 透圧における相溶性溶質の排出が,少なくとも3種類の機械受容チャネル(浸透圧 調節チャネル)を通じて起こる旨の記載がある。しかし,後述する甲8の記載から すると,浸透圧調節チャネルを通じた排出は全ての溶質について等しく行われるも のではなく,特定の溶質について選択的に行われるのであると認められるから,上 記排出されるべき「相溶性の溶質」の中にグルタミン酸が含まれるのかは,上記図 だけからでは必ずしも明らかになっているとはいえず,甲50から原告らの主張す る技術常識の存在を認めることはできない。 以上からすると,原告らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(2) 甲8発明の認定の誤りについて(取消事由2)
前記(1)の事実関係を踏まえて,甲8において,原告らが主張するように,グルタ ミン酸が浸透圧調節チャネルから排出されたと認定できるかについて検討する。
・・・
甲8のTable 1.には,上記のとおり,低浸透圧の状態になった際にグルタ ミン酸が排出されていることが記載されているが,beforeの値を基準にその 排出量を検討すべきとする原告らの主張を前提としても,グルタミン酸は,浸透圧 が540mOsmになるまでほとんど排出されず,540mOsmになって20% が排出されているにすぎないところ,これは,全部で11種類検討されている溶質 の中でATPに次いで小さな値である。そして,上記のようなTable 1.の 結果を受けて,クラマー博士をはじめとする甲8の執筆者らは,グリシンベタイン など多くが排出されている溶質については浸透圧調節チャネルから排出されたとし つつ,グルタミン酸の排出については,浸透圧調節チャネルではなく,担体による 排出であるとの結論を導いている。 Table 1.でグルタミン酸に次いで排出が制限されていることが観察された リジンについては,前記(1)アで認定したとおり,本件優先日当時までに,その輸 送を担う担体がクラマー博士らによって発見されており,グルタミン酸の排出につ いてもリジンなどと同様に担体によるものであるとの説がクラマー博士らによって 提唱されていた。そのクラマー博士が,自ら実験をした上でTable 1.の結果 を分析し,甲8の共同執筆者の一人として上記のような結論を導いていることから すると,甲8に接した当業者が,それと異なる結論を敢えて着想するとは通常は考 え難いところである。
以上からすると,原告らが主張するように,当業者が,Table 1.の結果を 受けて,甲8に記載された浸透圧調節チャネルをグルタミン酸の排出と関連付けて 認識すると認めることはできないというべきである。

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平成31(行ケ)10018等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月19日  知的財産高等裁判所

 無効理由として、実施可能要件、サポート要件、進歩性が争われました。裁判所は、無効理由無しとした審決を維持しました。\n

 前記(1)イのとおり,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの核酸 配列(図1)が記載されており,コリネ型細菌の染色体上の,GDH 遺伝子のプロモーター配列の−35領域に「TGGTCA」配列及び−10 領域に「CATAAT」配列を有し,CS遺伝子のプロモーター配列の−3 5領域に「TGGCTA」配列及び−10領域に「TAGCGT」配列を有するこ とが示されている。また,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの セットにおいて,最もよく保存されている配列は-35 領域の「ttGcca.a」 及び-10 領域の「ggTA.aaT」であることが記載されている(図5)。 一方,甲2には,コリネ型細菌を用いた発酵法によるグルタミン酸 の製造方法において,グルタミン酸生合成系遺伝子であり,コリネ型 細菌の染色体上の特定の遺伝子であるGDH遺伝子及びCS遺伝子の プロモーター配列について,その−35領域及び−10領域の塩基配 列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することの動機付けとな るような記載はない。 したがって,甲2発明に接した当業者は,甲2の原告ら指摘箇所を 認識していたとしても,甲2発明において,GDH遺伝子のプロモー ター配列の−35領域及び−10領域の配列と目的遺伝子の発現量の 強化の程度及びそれによるグルタミン酸生産能の向上との関係に着目\nし,グルタミン酸を高収率で生産する能力を有する変異株を得るため\nに,GDH遺伝子のプロモーター配列の−35領域及び−10領域の 配列を本件発明1−1の配列に置換する動機付けはないから,当業者 は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。\nb これに対し原告らは,(1)L−グルタミン酸の生産を増強するために は,L−グルタミン酸に至るまでの各反応に関与する酵素(CS,G DH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいことは,本件優 先日前において技術常識であったこと,(2)E.coli において,プロモー ターの−10領域及び−35領域をコンセンサス配列に変更ないし近 づけることによって,目的遺伝子の発現を強化できることも,本件優 先日前において技術常識であったこと,(3)甲2には,コリネ型細菌と E.coli のコンセンサス配列が同等であることや,コリネ型細菌のプロ モーターの−10領域のコンセンサス配列が「TA.aaT」であり,この 3番目の塩基「.」として,相対的に「T」が最も頻度が高いことが記 載されていることからすると,甲2の記載は,当業者に対し,甲2発 明のGDH遺伝子のプロモーター配列の−10領域(CATAAT)の1番 目の塩基「C」を「T」に変異して,コンセンサス配列,すなわち本件 発明1−1の構成(「TATAAT」)とし,同−35領域(「TGGTCA」) の1番目〜3番目の塩基を保存性の高い「TTG」にするために,2番目 の塩基「G」を「T」に変異して,本件発明1−1の構成(「TTGTCA」) とすることを示唆するものである旨主張する。
しかしながら,仮に,本件優先日前において,L−グルタミン酸の 生産を増強するために,L−グルタミン酸の生成反応に関与する酵素 (CS,GDH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいこと が知られていたとしても,当該酵素の遺伝子を増強する具体的な方法 は,相当多数のものが想定し得たものと考えられるのであって,かか る方法として,本件発明1のように,目的遺伝子のプロモーターの特 定の領域に変異を導入する方法が知られていたことは認められない。 また,E.coli において,プロモーターの−10領域及び−35領域 をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子 の発現を強化できる場合があることが,本件優先日前において知られ ていたとしても,コリネ型細菌について,これと同様の知見が存在し ていたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,前記(1)イのとお り,甲2には,C.グルタミカムにおけるプロモーターの活性と-35 及 び-10 のコンセンサス配列との類似性の間には,E.coliと異なり,相 関は確認できなかった旨が記載されている。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

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令和1(行ケ)10095  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月12日  知的財産高等裁判所

 「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」とのクレームの記載が不明確であるとした拒絶審決が維持されました。

ア 原告は,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の定義 は,沈降法により測定されるストークス径について,質量を基準に粒子径を表した\n質量分布におけるメジアン粒径ということで,一義的に明確であり,ストークス径 はストークスの式により明確に定義されるものである旨主張する。 そこで検討するに,甲18(神保元二ら編「微粒子ハンドブック」初版第1刷,1 991年9月1日)には,ストークス径は,最も広く用いられる代表径であり,静止\n流体中を重力で落下する粒子の沈降速度v1と同じ沈降速度をもち,また同じ密度を もつ球形粒子の直径であり,流体中で運動する粒子の諸現象を考える場合に有用な 代表径であることの記載があり,本件出願当時,粒子の大きさを測定する方法とし\nて,ストークス径を得る沈降法があることは,周知であったことが認められる。 また,ウェブページ「粒度分布測定の基礎知識」(甲19)には,「主な粒度分布測 定原理」の表の「遠心沈降法」の欄に,「測定粒子径の定義」を「ストークス径」,「基本粒度分布」を「重量基準」との記載があり,「遠心沈降法 液相中の粒子群の沈降 状態を吸光度などから計測して,球と仮定して導かれたストークスの式などと照合 し,有効径(ストークス径)を求める。」との記載がある。ウェブページ「粒径分布 測定[重力/遠心沈降式]」(甲22)には,「[測定原理/測定法]微粒子を水または不溶溶媒中に懸濁させ,重力場にそのまま静置するか遠心場に粒子懸濁液を置くと, 大きな粒子ほど速い速度で沈降していきます。その様子を粒子懸濁液に照射したレ ーザー光の透過光強度によって検出します。粒子サイズは重力沈降の場合,次のS tokesの式から得られます。」との記載があり,
・・・
とのストークスの式が記載されている。これらによれば,沈降法は,重量(質量)基 準に基づく粒度分布が得られるものであること,液相中の粒子の沈降速度から粒径 を求めるものであり,分離して沈降可能な粒子を測定対象としていることが認めら\nれる。 しかし,前記(2)イのとおり,本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる 表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子が,コバルトで ある結合剤と焼結により一体化していることが開示されている一方,炭化タングス テン粒子が工具表面から分離可能\であることの記載や示唆はない。また,ストーク スの式によりストークス径を算出するためには,ストークスの式に沈降距離h,沈 降時間t等のパラメータを代入することが必要であるところ,本件明細書を見ても, ストークスの式のパラメータの値としてどのような値を採用するかについての記載 はない。
そうすると,粒子の大きさを測定する方法としてストークス径を得る沈降法があ ることが周知であり,沈降法により重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られる としても,「粉砕工具」の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子が,\nコバルトである結合剤と焼結により一体化している以上,沈降法により炭化タング ステン粒子のストークス径を測定することは不可能であるから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量されたメジアン粒径」が,沈降法に基づいて得 られるストークス径のメジアン粒径であると解することはできない。 イ 原告は,焼結によって炭化タングステン粒子の粒径が変化するか否か,変化 するとしてどの程度変化するかは,焼結条件との兼ね合いで理論的にも実験的にも 十分に予\測が可能であり,その変化分を加味した上で炭化タングステン粒子の粒径\nを調整し,必要に応じて焼結条件を調整すればよく,また,焼結の前後それぞれの 炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認するこ とで,ストークス径の粒度分布の変化を予測することは可能\であるから,工具表面\nに存在する炭化タングステン粒子自体を測定するまでもない,また,本件発明にお けるメジアン粒径は,「1.3μm以上」ないし「0.5μm以下」という広い範囲 を規定するものであるから,焼結の有無はそれらの数値範囲の充足性にほとんど影 響を及ぼさないと考えられる旨主張する。 しかし,本件明細書には,焼結条件との兼ね合いで焼結による粒径の変化を予測\nして炭化タングステン粒子の粒径を調整することや,焼結の前後それぞれの炭化タ ングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認してストーク ス径の粒度分布の変化を予測することの記載や示唆はないから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,かかる予測や調整等を\n行うことを前提として沈降法により測定されるストークス径のメジアン粒径である とは解されない。また,本件発明におけるメジアン粒径が,広い範囲を規定するも のであるとしても,焼結の有無が数値範囲の充足性に影響を及ぼさないと解すべき 根拠はないから,上記の判断を左右するものではない。
ウ 原告は,焼結後の炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定する必要がある としても,コバルトの融点は1495℃,炭化タングステンの融点は2870℃で あるから,バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し,炭化タングステン 粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である旨主張する。\nしかし,本件明細書には,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン 粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取 り出して沈降法で測定することについては,記載も示唆もないから,本件発明の「炭 化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,コバルトを除去して 取り出した炭化タングステン粒子を沈降法により測定したストークス径であるメジ アン粒径であるとは解されない。 仮に,上記測定方法により炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定する ことができたとしても,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子 とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出 すという過程において,炭化タングステン粒子の密度や形状が一切変化しないとい う根拠はないから,そのように取り出して測定した炭化タングステン粒子のストー クス径が,そのまま,コバルトマトリックスと一体化した工具表面の炭化タングス\nテン粒子のストークス径であるということもできない。

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令和1(行ケ)10095 特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月12日  知的財産高等裁判所

 特許異議申し立てで「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」という表\記について、明確性違反として取り消し決定されました。特許権者はこれを不服として取り消しを求めましたが、裁判所も明確性違反と判断しました。

 特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする 発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮 に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許が付与された発 明の技術的範囲が不明確となり,第三者の利益が不当に害されることがあり得るの で,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとす る発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付し た明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基 礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確 であるか否かという観点から判断されるべきである。
・・・・
請求項1には,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」との 記載があるところ,請求項1の記載自体から,この炭化タングステン粒子は,「少な くとも二個の粉砕工具」の「工具表面」に「含有」されるものであることを理解する\nことができ,また,上記炭化タングステン粒子は,第1の粉砕工具の表面には95\n重量%以下含有され,その粒径が1.3μm以上であること,第2の粉砕工具の表\n面には80重量%以上含有され,その粒径が0.5μm以下であること,粒径はメ ジアン粒径であること,炭化タングステン粒子のメジアン粒径が1.3μm以上あ るいは0.5μm以下であることは,炭化タングステン粒子を「質量により秤量」し て測定するものであることが理解できる。 しかしながら,請求項1の記載からは,粉砕工具の「工具表面」に「含有」される\n炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義が明らかであ るとはいえない。 また,本件特許の出願当時において,炭化タングステンを含んでなる表面を有す\nる粉砕工具の工具表面に含有される炭化タングステン粒子につき,質量により秤量\nしたメジアン粒径を得ることができたとする当業者の技術常識を認めるに足りる証 拠はない。
イ 本件明細書の記載
本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の\n「工具表面」のタングステン含有量が95%以下であり,工具表\面の材料における 100%に対する残りは,好ましくはコバルト結合剤であり,好ましくは1%未満 の程度に追加の炭化物が存在する(【0026】〜【0028】),焼結の結果は,炭 素の添加によっても影響を受ける(【0029】)との記載があり,「炭化タングステ ンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子 が,コバルトである結合剤と焼結により一体化していることが開示されている。そ して,本件明細書には,コバルト結合剤と焼結により一体化した「粉砕工具」の「工 具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン\n粒径について,定義や測定方法の記載はない。
ウ 以上によれば,本件明細書の記載を考慮し,出願当時の技術常識を基礎とし ても,本件発明の「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工\n具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン\n粒径の意義を理解することはできず,本件発明の技術的範囲は不明確といわざるを 得ないから,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件を充足しないと いうべきである。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の定義 は,沈降法により測定されるストークス径について,質量を基準に粒子径を表した\n質量分布におけるメジアン粒径ということで,一義的に明確であり,ストークス径 はストークスの式により明確に定義されるものである旨主張する。 そこで検討するに,甲18(神保元二ら編「微粒子ハンドブック」初版第1刷,1 991年9月1日)には,ストークス径は,最も広く用いられる代表径であり,静止\n流体中を重力で落下する粒子の沈降速度v1と同じ沈降速度をもち,また同じ密度を もつ球形粒子の直径であり,流体中で運動する粒子の諸現象を考える場合に有用な 代表径であることの記載があり,本件出願当時,粒子の大きさを測定する方法とし\nて,ストークス径を得る沈降法があることは,周知であったことが認められる。 また,ウェブページ「粒度分布測定の基礎知識」(甲19)には,「主な粒度分布測 定原理」の表の「遠心沈降法」の欄に,「測定粒子径の定義」を「ストークス径」,「基本粒度分布」を「重量基準」との記載があり,「遠心沈降法 液相中の粒子群の沈降 状態を吸光度などから計測して,球と仮定して導かれたストークスの式などと照合 し,有効径(ストークス径)を求める。」との記載がある。ウェブページ「粒径分布 測定[重力/遠心沈降式]」(甲22)には,「[測定原理/測定法]微粒子を水または
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不溶溶媒中に懸濁させ,重力場にそのまま静置するか遠心場に粒子懸濁液を置くと, 大きな粒子ほど速い速度で沈降していきます。その様子を粒子懸濁液に照射したレ ーザー光の透過光強度によって検出します。粒子サイズは重力沈降の場合,次のS tokesの式から得られます。」との記載があり, とのストークスの式が記載されている。これらによれば,沈降法は,重量(質量)基 準に基づく粒度分布が得られるものであること,液相中の粒子の沈降速度から粒径 を求めるものであり,分離して沈降可能な粒子を測定対象としていることが認めら\nれる。
しかし,前記(2)イのとおり,本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる 表面を有する」「粉砕工具」の「工具表\面」の炭化タングステン粒子が,コバルトで ある結合剤と焼結により一体化していることが開示されている一方,炭化タングス テン粒子が工具表面から分離可能\であることの記載や示唆はない。また,ストーク スの式によりストークス径を算出するためには,ストークスの式に沈降距離h,沈 降時間t等のパラメータを代入することが必要であるところ,本件明細書を見ても, ストークスの式のパラメータの値としてどのような値を採用するかについての記載 はない。 そうすると,粒子の大きさを測定する方法としてストークス径を得る沈降法があ ることが周知であり,沈降法により重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られる としても,「粉砕工具」の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子が,\nコバルトである結合剤と焼結により一体化している以上,沈降法により炭化タング ステン粒子のストークス径を測定することは不可能であるから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量されたメジアン粒径」が,沈降法に基づいて得 られるストークス径のメジアン粒径であると解することはできない。
イ 原告は,焼結によって炭化タングステン粒子の粒径が変化するか否か,変化 するとしてどの程度変化するかは,焼結条件との兼ね合いで理論的にも実験的にも 十分に予\測が可能であり,その変化分を加味した上で炭化タングステン粒子の粒径\nを調整し,必要に応じて焼結条件を調整すればよく,また,焼結の前後それぞれの 炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認するこ とで,ストークス径の粒度分布の変化を予測することは可能\であるから,工具表面\nに存在する炭化タングステン粒子自体を測定するまでもない,また,本件発明にお けるメジアン粒径は,「1.3μm以上」ないし「0.5μm以下」という広い範囲 を規定するものであるから,焼結の有無はそれらの数値範囲の充足性にほとんど影 響を及ぼさないと考えられる旨主張する。 しかし,本件明細書には,焼結条件との兼ね合いで焼結による粒径の変化を予測\nして炭化タングステン粒子の粒径を調整することや,焼結の前後それぞれの炭化タ ングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認してストーク ス径の粒度分布の変化を予測することの記載や示唆はないから,本件発明の「炭化\nタングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,かかる予測や調整等を\n行うことを前提として沈降法により測定されるストークス径のメジアン粒径である とは解されない。また,本件発明におけるメジアン粒径が,広い範囲を規定するも のであるとしても,焼結の有無が数値範囲の充足性に影響を及ぼさないと解すべき 根拠はないから,上記の判断を左右するものではない。
ウ 原告は,焼結後の炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定する必要がある としても,コバルトの融点は1495℃,炭化タングステンの融点は2870℃で あるから,バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し,炭化タングステン 粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である旨主張する。\nしかし,本件明細書には,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン 粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取 り出して沈降法で測定することについては,記載も示唆もないから,本件発明の「炭 化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,コバルトを除去して 取り出した炭化タングステン粒子を沈降法により測定したストークス径であるメジ アン粒径であるとは解されない。 仮に,上記測定方法により炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定する ことができたとしても,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子 とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出 すという過程において,炭化タングステン粒子の密度や形状が一切変化しないとい う根拠はないから,そのように取り出して測定した炭化タングステン粒子のストー クス径が,そのまま,コバルトマトリックスと一体化した工具表面の炭化タングス\nテン粒子のストークス径であるということもできない。

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平成31(行ケ)10025 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月19日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反の無効理由ありとした審決が取り消されました。審決は「水素水を過飽和の状態とし,かつ,これを安定に維持することができない例が含まれる」と判断していましたが、裁判所は、技術常識から明らかと審決を取り消しました。

 本件審決は,本件明細書の記載から,本件特許発明1ないし4の課題は「気 体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持」する ことであり,当該課題を「降圧移送手段を設け,かつ液体にかかる圧力を調整 す」ることにより,解決できることが理解できるが,一方で,0.8mより長 い細管には,水素水を過飽和の状態とし,かつ,これを安定に維持することが できない例が含まれることは当業者であれば十分に認識しうる事項であるから,過飽和の状態が安定に維持できると認めることができない数値範囲が含まれて\nいる本件特許発明1ないし4は,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題 を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した 範囲を超えて特許を請求するものであり,サポート要件に適合しない旨判断し たが,原告は,本件審決の上記判断は誤りである旨主張するので,以下におい て判断する。
・・・
前記1の本件明細書の記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明に は,(1)「本発明」の気体溶解装置1は,気体を発生させる気体発生手段2 と,この気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解手段3と,気体 を溶解している液体を溶存及び貯留する溶存槽4と,この液体が細管5a を流れることで降圧する降圧移送手段5とを備えること(【0029】, 図1),「本発明の気体溶解方法は,水に水素を溶解させて水素水を生成 し取出口から吐出させる気体溶解方法であって,生成した水素水を導いて 加圧貯留する溶存槽と,前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路と, を少なくとも含む気体溶解装置において,前記取出口からの水素水の吐出 動作による前記管状路内の圧力変動を防止し前記管状路内に層流を形成さ せることを特徴とする」こと(【0023】),(2)「加圧型気体溶解手段」 に関し,「電気分解により発生した水素」は「加圧型気体溶解手段」によ り「加圧されることで,液体吸入口7から吸入した水に加圧溶解」され, 「水素を加圧溶解した水」は,「加圧型気体溶解手段」の吐出口9から吐 出され,溶存槽4に「過飽和の状態」で溶存されること(【0034】), 「20度Cにおける加圧型気体溶解手段3の圧力Yとしては,0.10〜1. 0MPaであることが好ましく,0.15〜0.65MPaであることが より好ましく,0.20〜0.55MPaであることがさらにより好まし く,0.23〜0.50MPaであることが最も好ましい。圧力をかかる 範囲とすることで,気体を液体中に容易に溶解できる」こと(【0036】), (3)「降圧移送手段」に関し,「降圧移送手段5は,溶存槽4及び取出口1 0を接続する管状路5aにおいて,取出口10からの水素水の吐出動作に よる管状路5a内の圧力変動を防止しこの中に層流を形成させる。例えば, 降圧移送手段5の管状路5aは,内部を流れる液体の圧力にもよるが比較 的長尺であり径の小さいことが好まし」いこと(【0030】),「溶存 槽4に溶存された液体は,降圧移送手段5である細管5a内で層流状態を 維持して流れることで降圧され(S6),水素水吐出口10から外部へ吐 出される(S7)」こと(【0034】),「降圧移送手段5である細管 5aの内径Xが,1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましく, 1.0mmより大きく3.0mm以下であることがより好ましく,2.0 mm以上3.0mm以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで, 特開平8−89771号公報記載の技術のように,降圧するために10本 以上の細管を設置する必要が無く,細管5aを1本有することで降圧する ことができるとともに,管内に層流を形成し得る」こと(【0035】), (4)「細管」の内径X及び長さL,「加圧型気体溶解手段」の圧力Yと「層 流」との関係に関し,「細管5aの内径をXmmとし,加圧型気体溶解手 段3により加えられる圧力をYMPaとしたときに,細管5a内に層流を 形成させるようなものであって,X/Yの値が,1.00〜12.00で あることを特徴とするものであり,さらに,X/Yの値が,3.30〜1 0.0であることが好ましく,4.00〜6.67であることがより好ま しい。気体を過飽和で溶存させている液体が,かかる条件で細管5a中を 層流状態で流れて降圧移送されることで,気体を過飽和の状態で液体に溶 解させ,さらに過飽和の状態を安定に維持し移送することができる」こと (【0031】),「上記発明において,前記管状路の内径及び長さをそ れぞれX,Lとし,前記加圧型気体溶解手段に加えられている圧力をYと したときに,前記管状路内の水素水に層流を形成させるようX,Y及びL の値が選択されていることを特徴としてもよい」こと(【0020】)の 記載がある。上記記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本 発明」の気体溶解装置は,「加圧型気体溶解手段」により水素を「過飽和 の状態」で液体に溶解させて水素水を生成し,この水素水が「降圧移送手 段」である管状路内で層流状態を維持して流れることで降圧され,「過飽 和の状態」を維持して水素水吐出口10に移送する構成を採用し,これにより「気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定\nに維持」するという「本発明」の課題を解決できることの開示があるもの と認められる。
ここに「過飽和」とは,「気体の液体への溶解度は温度により異なるが, ある温度A(度C)における気体の液体への溶解量が,その温度A(℃)に おける溶解度より多く存在している状態を示す。」こと(本件明細書の【0 031】),「層流」とは,一般に,速度の方向がそろった規則的な流れ であって,流速が十分遅いときに実現するものであること(甲39の1)をいう。また,細管の内径X及び長さL,加圧型気体溶解手段の圧力Yと\nいう変数に関し,L及びYの2つの変数の値が同じであれば,細管の内径 Xの値が大きいほど,細管内を流れる液体の流速が遅くなり得ること,加 圧型気体溶解手段の圧力Yの値が大きければ,気体を液体に多く溶解させ ることができるが,細管内を流れる液体の流速は速くなり得ること,細管 の長さLの値が大きければ,細管内壁の抵抗により細管内を流れる液体の 流速が遅くなり得ることは,技術常識であるものと認められる。
イ 前記アのとおり,本件明細書には,「上記発明において,前記管状路の 内径及び長さをそれぞれX,Lとし,前記加圧型気体溶解手段に加えられ ている圧力をYとしたときに,前記管状路内の水素水に層流を形成させる ようX,Y及びLの値が選択されていることを特徴としてもよい」(【0 020】)との記載があるが,水素水に層流を形成させるようにするには X,Y及びLの値をどのように選択されるのかについての明示的な記載は ない。 そこで,本件明細書記載の実施例1ないし13及び比較例1及び2に基 づいて,以下において検討する。なお,別紙2は,実施例1ないし13及 び比較例1及び2を一覧表にまとめたものである。
(ア) まず,実施例1ないし3(【0053】ないし【0055】)を比 較すると,別紙2のとおり,3つの実施例で細管の内径Xの値は2mm, 長さLの値は1.6m及び水素水の流量の値は730cm3/minと同 じであるところ,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値は,実施例1は0. 41Mpa,実施例2は0.25Mpa,実施例3は0.30Mpaで ある。加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が最も大きい実施例1の水素濃 度は6.5ppmと最も大きく,圧力Yの値が最も小さい実施例2の水 素濃度の値は2.6ppmと最も小さく,両実施例の差は3.9ppm である。 このような実施例1ないし3の比較の結果は,前記アの技術常識に照 らすと,細管の内径X及び長さLと水素水の流量の各値が同じであれば, 加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が大きいほど,水素が水に多く溶け込 むため,生成時における水素濃度の値が大きくなる結果,測定時におけ る水素濃度の値も大きくなっているものと理解できる。
(イ) 次に,実施例5(【0057】)と実施例7(【0059】)を比 較すると,別紙2のとおり,両実施例で細管の内径Xの値は2mm及び 水素水の流量の値は560cm3/minと同じであるが,加圧型気体溶 解手段の圧力Yの値は,実施例5が0.38Mpa,実施例7が0.4 5Mpaで,実施例7は実施例5の約1.18倍であり,また,細管の 長さLの値は,実施例5が1.6m,実施例7が1.8mで,実施例7 は実施例5の約1.13倍である。水素濃度の値は,実施例5が3.8 ppm,実施例7が4.5ppmであり,両実施例の水素濃度の差は0. 7ppmであり,実施例2と実施例3との水素濃度の差3.9ppmと 比べると,その差はわずかである。このような実施例5と実施例7の比 較の結果は,細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合に おいて,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値と細管の長さの値をそれぞれ おおむね同じ割合で増加させたときは,増加の前後で,水素濃度はおお むね同じであり,水素濃度が高まらないことを示している。 また,実施例10(【0062】)と実施例11(【0063】)を 比較すると,別紙2のとおり,両実施例で細管の内径Xの値は2mm, 水素水の流量の値は550cm3/minと同じであるが,加圧型気体溶 解手段の圧力Yの値は,実施例10が0.20Mpa,実施例11が0. 50Mpaで,実施例11が実施例10の2.5倍であり,細管の長さ Lの値は,実施例10が1.4m,実施例11が3mで,実施例11は 実施例10の約2.14倍である。水素濃度の値は,実施例10が2. 7ppm,実施例11が2.4ppmであり,実施例10が実施例11 よりも0.3ppm高いが,実施例2と実施例3との水素濃度の差3. 9ppmと比べると,その差はわずかである。このような実施例10と 実施例11の比較の結果は,実施例5と実施例7の比較の結果と同様に, 細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合において,加圧 型気体溶解手段の圧力Yの値と細管の長さの値をそれぞれおおむね同じ 割合で増加させたときは,増加の前後で,水素濃度はおおむね同じであ り,水素濃度が高まらないことを示している。 これらの実施例の比較の結果及び前記(ア)の実施例1ないし3の比較 の結果と前記アの技術常識から,細管の内径X及び水素水の流量の各値 が同じである場合に,水素濃度の値を高めるには,加圧型気体溶解手段 の圧力Yの値の増加割合が細管の長さLの値の増加割合よりも大きくな るように各値を選択すればよいことを理解できる。
(ウ) 他方,比較例1及び2については,別紙2のとおり,比較例1は, 細管の内径Xの値が2mm,細管の長さLの値が0.4m,加圧型気体 溶解手段の圧力Yの値が0.05MPa,水素水の流量の値が960c m3/min,水素濃度の値が1.6ppm,比較例2は,細管の内径 Xの値が3mm,細管の長さLの値が0.8m,加圧型気体溶解手段の 圧力Yの値が0.08MPa,水素水の流量の値が900cm3/mi n,水素濃度の値が1.8ppmであって,いずれも過飽和の状態を維 持できなかったものであるところ(【0066】,【0067】),比 較例1及び2は,圧力Yの値が0.05又は0.08MPaであって, 実施例1ないし13における圧力Yの値(0.20ないし0.60MP a)と比べて相当小さかったため,そもそも,加圧型気体溶解手段によ って水素水生成時に過飽和の状態の水素水を得ることができなかったこ とによる可能性もあるものと理解できる。
ウ 前記ア及びイを総合すると,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明 の記載及び技術常識から,本件特許発明1の気体溶解装置は,水に水素を 溶解させて水素水を生成し,取出口から吐出させる装置であって,気体を 発生させる気体発生手段と,この気体を加圧して液体に溶解させる加圧型 気体溶解手段と,気体を溶解している液体を導いて溶存及び貯留する溶存 槽と,この液体が細管からなる管状路を流れることで降圧する降圧移送手 段とを備え,降圧移送手段により取出口からの水素水の吐出動作による管 状路内の圧力変動を防止し,管状路内に層流を形成させることに特徴があ る装置であり,一方,必ずしも厳密な数値的な制御を行うことに特徴があ るものではないと理解し,例えば,細管の内径(X)が1.0mmより大 きく3.0mm以下で,かつ,細管の長さ(L)の値が0.8mより大き く1.4mより小さい数値範囲のときであっても,「細管の内径X及び水 素水の流量の各値が同じである場合に水素濃度の値を高めるには,加圧型 気体溶解手段の圧力Yの値を大きくすればよく,この場合に加圧型気体溶 解手段の圧力Y及び細管の長さLの値をいずれも大きくして,水素濃度の 値を高めるには,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値の増加割合が細管の長 さLの値の増加割合よりも大きくなるように各値を選択すればよいこと」 (前記イ)を勘案し,細管からなる管状路内の水素水に層流を形成させる ようX,Y及びLの値を選択することにより,「気体を過飽和の状態に液 体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持」するという本件特許発 明1の課題を解決できると認識できるものと認められる。
エ これに対し被告は,(1)当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載 及び技術常識から,細管の長さの値が0.8mより大きく1.4mより小 さい場合に,過飽和の状態を安定に維持するとの発明の課題を解決できる と認識することはできないから,本件特許発明1は,サポート要件に適合 しない,(2)過飽和の状態が維持される条件として,降圧移送手段の管状路 (細管5a)の内径や長さのみならず,細管5aの材料,加圧型気体溶解 手段3により加えられる圧力,水素発生量,水の流量等の条件は,過飽和 の状態を安定に維持するという本件特許発明1の課題の解決に不可欠であ るにもかかわらず,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1にはそれらの 条件が記載されていないため,当業者は,細管の内径X及び長さがそれぞ れ本件特許発明1に規定された範囲内であれば,本件特許発明1の上記課 題を解決できると認識することはできないから,この点からも,本件特許 発明1は,サポート要件に適合しない旨主張する。
しかしながら,前記ウ認定のとおり,本件特許発明1において細管の長 さの値が0.8mより大きく1.4mより小さい場合においても,本件明 細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて,当業者が,本件 特許発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから,被告 の上記主張は,いずれも理由がない。

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平成31(行ケ)10025 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月19日  知的財産高等裁判所

 無効理由ありとした審決が取り消されました。争点はサポート要件です。

 前記1の本件明細書の記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明に は,(1)「本発明」の気体溶解装置1は,気体を発生させる気体発生手段2 と,この気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解手段3と,気体 を溶解している液体を溶存及び貯留する溶存槽4と,この液体が細管5a を流れることで降圧する降圧移送手段5とを備えること(【0029】, 図1),「本発明の気体溶解方法は,水に水素を溶解させて水素水を生成 し取出口から吐出させる気体溶解方法であって,生成した水素水を導いて 加圧貯留する溶存槽と,前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路と, を少なくとも含む気体溶解装置において,前記取出口からの水素水の吐出 動作による前記管状路内の圧力変動を防止し前記管状路内に層流を形成さ せることを特徴とする」こと(【0023】),(2)「加圧型気体溶解手段」 に関し,「電気分解により発生した水素」は「加圧型気体溶解手段」によ り「加圧されることで,液体吸入口7から吸入した水に加圧溶解」され, 「水素を加圧溶解した水」は,「加圧型気体溶解手段」の吐出口9から吐 出され,溶存槽4に「過飽和の状態」で溶存されること(【0034】), 「20度Cにおける加圧型気体溶解手段3の圧力Yとしては,0.10〜1.0MPaであることが好ましく,0.15〜0.65MPaであることが より好ましく,0.20〜0.55MPaであることがさらにより好まし く,0.23〜0.50MPaであることが最も好ましい。圧力をかかる 範囲とすることで,気体を液体中に容易に溶解できる」こと(【0036】), (3)「降圧移送手段」に関し,「降圧移送手段5は,溶存槽4及び取出口1 0を接続する管状路5aにおいて,取出口10からの水素水の吐出動作に よる管状路5a内の圧力変動を防止しこの中に層流を形成させる。例えば, 降圧移送手段5の管状路5aは,内部を流れる液体の圧力にもよるが比較 的長尺であり径の小さいことが好まし」いこと(【0030】),「溶存 槽4に溶存された液体は,降圧移送手段5である細管5a内で層流状態を 維持して流れることで降圧され(S6),水素水吐出口10から外部へ吐 出される(S7)」こと(【0034】),「降圧移送手段5である細管 5aの内径Xが,1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましく, 1.0mmより大きく3.0mm以下であることがより好ましく,2.0 mm以上3.0mm以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで, 特開平8−89771号公報記載の技術のように,降圧するために10本 以上の細管を設置する必要が無く,細管5aを1本有することで降圧する ことができるとともに,管内に層流を形成し得る」こと(【0035】), (4)「細管」の内径X及び長さL,「加圧型気体溶解手段」の圧力Yと「層 流」との関係に関し,「細管5aの内径をXmmとし,加圧型気体溶解手 段3により加えられる圧力をYMPaとしたときに,細管5a内に層流を 形成させるようなものであって,X/Yの値が,1.00〜12.00で あることを特徴とするものであり,さらに,X/Yの値が,3.30〜1 0.0であることが好ましく,4.00〜6.67であることがより好ま しい。気体を過飽和で溶存させている液体が,かかる条件で細管5a中を 層流状態で流れて降圧移送されることで,気体を過飽和の状態で液体に溶 解させ,さらに過飽和の状態を安定に維持し移送することができる」こと (【0031】),「上記発明において,前記管状路の内径及び長さをそ れぞれX,Lとし,前記加圧型気体溶解手段に加えられている圧力をYと したときに,前記管状路内の水素水に層流を形成させるようX,Y及びL の値が選択されていることを特徴としてもよい」こと(【0020】)の 記載がある。上記記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本 発明」の気体溶解装置は,「加圧型気体溶解手段」により水素を「過飽和 の状態」で液体に溶解させて水素水を生成し,この水素水が「降圧移送手 段」である管状路内で層流状態を維持して流れることで降圧され,「過飽 和の状態」を維持して水素水吐出口10に移送する構成を採用し,これにより「気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定\nに維持」するという「本発明」の課題を解決できることの開示があるものと認められる。
ここに「過飽和」とは,「気体の液体への溶解度は温度により異なるが, ある温度A(度C)における気体の液体への溶解量が,その温度A(度C)に おける溶解度より多く存在している状態を示す。」こと(本件明細書の【0 031】),「層流」とは,一般に,速度の方向がそろった規則的な流れ であって,流速が十分遅いときに実現するものであること(甲39の1)をいう。また,細管の内径X及び長さL,加圧型気体溶解手段の圧力Yと\nいう変数に関し,L及びYの2つの変数の値が同じであれば,細管の内径 Xの値が大きいほど,細管内を流れる液体の流速が遅くなり得ること,加 圧型気体溶解手段の圧力Yの値が大きければ,気体を液体に多く溶解させ ることができるが,細管内を流れる液体の流速は速くなり得ること,細管 の長さLの値が大きければ,細管内壁の抵抗により細管内を流れる液体の 流速が遅くなり得ることは,技術常識であるものと認められる。
イ 前記アのとおり,本件明細書には,「上記発明において,前記管状路の 内径及び長さをそれぞれX,Lとし,前記加圧型気体溶解手段に加えられ ている圧力をYとしたときに,前記管状路内の水素水に層流を形成させる ようX,Y及びLの値が選択されていることを特徴としてもよい」(【0 020】)との記載があるが,水素水に層流を形成させるようにするには X,Y及びLの値をどのように選択されるのかについての明示的な記載はない。 そこで,本件明細書記載の実施例1ないし13及び比較例1及び2に基 づいて,以下において検討する。なお,別紙2は,実施例1ないし13及 び比較例1及び2を一覧表にまとめたものである。(ア) まず,実施例1ないし3(【0053】ないし【0055】)を比 較すると,別紙2のとおり,3つの実施例で細管の内径Xの値は2mm, 長さLの値は1.6m及び水素水の流量の値は730cm3/minと同 じであるところ,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値は,実施例1は0. 41Mpa,実施例2は0.25Mpa,実施例3は0.30Mpaで ある。加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が最も大きい実施例1の水素濃 度は6.5ppmと最も大きく,圧力Yの値が最も小さい実施例2の水 素濃度の値は2.6ppmと最も小さく,両実施例の差は3.9ppm である。 このような実施例1ないし3の比較の結果は,前記アの技術常識に照 らすと,細管の内径X及び長さLと水素水の流量の各値が同じであれば, 加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が大きいほど,水素が水に多く溶け込 むため,生成時における水素濃度の値が大きくなる結果,測定時におけ る水素濃度の値も大きくなっているものと理解できる。
(イ) 次に,実施例5(【0057】)と実施例7(【0059】)を比 較すると,別紙2のとおり,両実施例で細管の内径Xの値は2mm及び 水素水の流量の値は560cm3/minと同じであるが,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値は,実施例5が0.38Mpa,実施例7が0.4 5Mpaで,実施例7は実施例5の約1.18倍であり,また,細管の 長さLの値は,実施例5が1.6m,実施例7が1.8mで,実施例7 は実施例5の約1.13倍である。水素濃度の値は,実施例5が3.8 ppm,実施例7が4.5ppmであり,両実施例の水素濃度の差は0. 7ppmであり,実施例2と実施例3との水素濃度の差3.9ppmと 比べると,その差はわずかである。このような実施例5と実施例7の比 較の結果は,細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合に おいて,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値と細管の長さの値をそれぞれ おおむね同じ割合で増加させたときは,増加の前後で,水素濃度はおお むね同じであり,水素濃度が高まらないことを示している。 また,実施例10(【0062】)と実施例11(【0063】)を 比較すると,別紙2のとおり,両実施例で細管の内径Xの値は2mm, 水素水の流量の値は550cm3/minと同じであるが,加圧型気体溶 解手段の圧力Yの値は,実施例10が0.20Mpa,実施例11が0. 50Mpaで,実施例11が実施例10の2.5倍であり,細管の長さ Lの値は,実施例10が1.4m,実施例11が3mで,実施例11は 実施例10の約2.14倍である。水素濃度の値は,実施例10が2. 7ppm,実施例11が2.4ppmであり,実施例10が実施例11 よりも0.3ppm高いが,実施例2と実施例3との水素濃度の差3. 9ppmと比べると,その差はわずかである。このような実施例10と 実施例11の比較の結果は,実施例5と実施例7の比較の結果と同様に, 細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合において,加圧 型気体溶解手段の圧力Yの値と細管の長さの値をそれぞれおおむね同じ 割合で増加させたときは,増加の前後で,水素濃度はおおむね同じであり,水素濃度が高まらないことを示している。 これらの実施例の比較の結果及び前記(ア)の実施例1ないし3の比較 の結果と前記アの技術常識から,細管の内径X及び水素水の流量の各値 が同じである場合に,水素濃度の値を高めるには,加圧型気体溶解手段 の圧力Yの値の増加割合が細管の長さLの値の増加割合よりも大きくな るように各値を選択すればよいことを理解できる。
(ウ) 他方,比較例1及び2については,別紙2のとおり,比較例1は, 細管の内径Xの値が2mm,細管の長さLの値が0.4m,加圧型気体 溶解手段の圧力Yの値が0.05MPa,水素水の流量の値が960c m3/min,水素濃度の値が1.6ppm,比較例2は,細管の内径 Xの値が3mm,細管の長さLの値が0.8m,加圧型気体溶解手段の 圧力Yの値が0.08MPa,水素水の流量の値が900cm3/mi n,水素濃度の値が1.8ppmであって,いずれも過飽和の状態を維 持できなかったものであるところ(【0066】,【0067】),比 較例1及び2は,圧力Yの値が0.05又は0.08MPaであって, 実施例1ないし13における圧力Yの値(0.20ないし0.60MPa)と比べて相当小さかったため,そもそも,加圧型気体溶解手段によ って水素水生成時に過飽和の状態の水素水を得ることができなかったこ とによる可能性もあるものと理解できる。
ウ 前記ア及びイを総合すると,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明 の記載及び技術常識から,本件特許発明1の気体溶解装置は,水に水素を 溶解させて水素水を生成し,取出口から吐出させる装置であって,気体を 発生させる気体発生手段と,この気体を加圧して液体に溶解させる加圧型 気体溶解手段と,気体を溶解している液体を導いて溶存及び貯留する溶存 槽と,この液体が細管からなる管状路を流れることで降圧する降圧移送手 段とを備え,降圧移送手段により取出口からの水素水の吐出動作による管 状路内の圧力変動を防止し,管状路内に層流を形成させることに特徴があ る装置であり,一方,必ずしも厳密な数値的な制御を行うことに特徴がある装置であり,一方,必ずしも厳密な数値的な制御を行うことに特徴があ るものではないと理解し,例えば,細管の内径(X)が1.0mmより大 きく3.0mm以下で,かつ,細管の長さ(L)の値が0.8mより大き く1.4mより小さい数値範囲のときであっても,「細管の内径X及び水 素水の流量の各値が同じである場合に水素濃度の値を高めるには,加圧型 気体溶解手段の圧力Yの値を大きくすればよく,この場合に加圧型気体溶 解手段の圧力Y及び細管の長さLの値をいずれも大きくして,水素濃度の 値を高めるには,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値の増加割合が細管の長 さLの値の増加割合よりも大きくなるように各値を選択すればよいこと」 (前記イ)を勘案し,細管からなる管状路内の水素水に層流を形成させる ようX,Y及びLの値を選択することにより,「気体を過飽和の状態に液 体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持」するという本件特許発 明1の課題を解決できると認識できるものと認められる。 エ これに対し被告は,(1)当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載 及び技術常識から,細管の長さの値が0.8mより大きく1.4mより小 さい場合に,過飽和の状態を安定に維持するとの発明の課題を解決できる と認識することはできないから,本件特許発明1は,サポート要件に適合 しない,(2)過飽和の状態が維持される条件として,降圧移送手段の管状路 (細管5a)の内径や長さのみならず,細管5aの材料,加圧型気体溶解 手段3により加えられる圧力,水素発生量,水の流量等の条件は,過飽和 の状態を安定に維持するという本件特許発明1の課題の解決に不可欠であ るにもかかわらず,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1にはそれらの 条件が記載されていないため,当業者は,細管の内径X及び長さがそれぞ れ本件特許発明1に規定された範囲内であれば,本件特許発明1の上記課 題を解決できると認識することはできないから,この点からも,本件特許 発明1は,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかしながら,前記ウ認定のとおり,本件特許発明1において細管の長 さの値が0.8mより大きく1.4mより小さい場合においても,本件明 細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて,当業者が,本件 特許発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから,被告 の上記主張は,いずれも理由がない。

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令和1(行ケ)10122  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月4日  知的財産高等裁判所

 UFO飛行装置について、実施可能要件違反とした拒絶審決が維持されました。本人訴訟です。

 特許法36条4項1号は,発明の詳細な説明の記載は,発明の属する技術 の分野における通常の知識を有する者が,その実施をすることができる程度 に明確かつ十分に記載したものでなければならないことを規定するものであ\nる。本願発明は,物の発明(特許法2条3項1号)であるから,本願発明が実 施可能要件を充足するためには,当業者がこれを生産し,かつ使用すること\nができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならない。そして,\n実施可能要件を満たすことは,出願人が立証責任を負う。\n
(2) 本願発明は「磁石及び対をなす電極が取り付けられた物体であって,それ らの電極間で放電が可能で,放電時に於いて運動する電子が作る磁界から磁\n石が受ける力を物体の推力として利用する もの。」(【請求項1】)とあ るように,本願発明に係る「物体」ないし「もの」(以下,本願発明に係る 「物体」及び「もの」並びに本願明細書に開示された「構造体」を,「「U\nFO飛行装置」」ということがある。)は,電磁力を利用して物体に推進力 を与えることができるものとされている。推進力を与えるものであるから, その速度が変化することは明らかである。なお,段落【0006】によれば, 重力加速度gに等しい大きさの推進力を与えることが可能であるとされてい\nる。
しかるに,本願明細書中には,「UFO飛行装置」内部の電子と磁石の関 係についての記載はあるものの,「UFO飛行装置」が装置の外部の電磁場 から影響を受ける旨の記載はないし,外部の電磁場の状態を特定するような 記載もない。かえって,段落【0006】によれば,「UFO飛行装置」を 取り付けた物体は,地球から月まで行くことができ,その中間地点まで加速 しそれ以降は減速できるとされているから,「UFO飛行装置」は,宇宙空 間においても地球上でも使用可能なものであり,外部の電磁場の状態に関わ\nりなく動作可能なものであることが前提とされていると考えられる。したが\nって,本願明細書に開示された「UFO飛行装置」は,装置の外部にある電 磁場との関係で生じる電磁力により推進力を得るものではないと解される。 また,電磁力以外の力についても,本願明細書には,「UFO飛行装置」 が,外部の物体を押すことによる反作用を受けるなど,何らかの物理的な力 を外部から受けることは記載されていない。さらに,「UFO飛行装置」が, 外部に物質を噴射するなどして質量を変化させることも記載されていない。 なお,原告も,「UFO飛行装置」は,周囲の媒介物等との間に,連続的 な反作用や他の外力が作用しないだけでなく,連続的でない反作用や他の外 力も作用しないこと,質量変化も生じないことを認めている。 以上によれば,本願発明の「UFO飛行装置」は,外部からの何らかの力 を受けることも,質量を変化させることもないにも関わらず,その速度を変 化させることができるとする発明であると解するほかない。これは,外力の 作用なく「UFO飛行装置」の運動量(質量×速度)が変化するということで あるから,運動量保存の法則に反する。また,「UFO飛行装置」の推進力 に対向する反作用の力が見当たらないから,作用反作用の法則にも反する。 このように,本願発明は,当業者の技術常識に反する結果を実現するとす る発明であるが,本願明細書には,本願発明の「UFO飛行装置」が推進し た事実(実験結果)は示されていない。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者が「放電時に於 いて運動する電子が作る磁界から磁石が受ける力を物体の推力として利用す る」「UFO飛行装置」を生産し,かつ使用できる程度に明確かつ十分に記\n載されているとは認められない。
(3) 原告は,自動車の内部で燃料が燃焼を起こすことによりタイヤが回転し 車体が動くが,これが運動量保存の法則に反するとはされていない旨主張す る。 しかし,自動車の場合は,路面とタイヤとの間に摩擦力が働き,タイヤが 路面に及ぼす力と反対方向の力を,路面がタイヤに反作用として及ぼすこと で推進するのであって,自動車は路面という外部からの力を受けている。 これに対し,本願発明は,「UFO飛行装置」の外部との間に何ら力が働 かないにもかかわらず,推進することができるとするものであるから,自動 車の場合と相違することは明らかである。 その他,原告は,本願発明の原理としてるる主張するが,いずれも「UF O飛行装置」内部の現象にとどまり,「UFO飛行装置」全体が外部からの 力を受けることなく運動量を変化させられることを説明するものではないか ら,前記認定を左右しない。

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平成30(行ケ)10170  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月29日  知的財産高等裁判所

 異議申し立てでサポート要件の無効理由ありと認定されましたが、知財高裁4部はこれを取り消しました。

 本件決定は,(1)本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき出願時(本 件出願の優先日当時)の技術常識に照らして,当業者が,本件訂正発明4の 課題を解決できる範囲は,実施例に記載された「エチレンカーボネート(E C)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70) にLiPF6を1mol/Lの割合となるように溶解して調整した基本電解 液にフルオロスルホン酸リチウムを2.98×10−3mol/L以上0.5 96mol/L以下の範囲内で含有している非水系電解液であって,硫酸イ オンの含有量が1.00×10−7mol/L以上1.00×10−2mol/ L以下である,非水系電解液」である,(2)本件訂正発明1の特許請求の範囲 の記載には,実施例に記載された上記非水系電解液以外の非水系電解液も包 含されているが,本件出願の優先日当時の技術常識に照らしても,本件明細 書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明4の課題を,本件訂正発明4によ って解決し得るまでの開示がされているとはいえないから,本件訂正発明4 は,発明の詳細な説明に記載したものとはいえず,サポート要件に適合しな い旨判断した。
原告は,本件決定の上記判断は,当業者が本件訂正発明4の課題を解決で きると認識できる範囲は本件明細書の実施例記載の非水系電解液に限定され ることを前提とするものであるが,「基本電解液」を「エチレンカーボネー ト(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30: 70)とLiPF6を1mol/Lの割合となるように溶解して調整した基 本電解液」以外の一般的な基本電解液とし,フルオロスルホン酸リチウムの 含有量を本件訂正発明4の下限値の0.0005mol/L以上2.98× 10−3mol/L未満の範囲内のものとした場合であっても,本件訂正発明 4の課題を解決できると認識できるものといえるから,本件決定の上記判断 は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 本件明細書記載の実施例について
本件明細書には,実施例1ないし7に係る「試験例B」として,「エチ レンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混 合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF6を1mol/Lの割合と なるように溶解して」調整した「基本電解液」に,「硫酸イオンを含むフ ルオロスルホン酸リチウムを表2に記載の割合となるように混合」して電\n解液を製造し(【0253】) ,表2記載の電解液を用いたシート状電池\nを作製して,「初期放電容量評価」及び「高温保存膨れ保存評価」(高温 保存前後の体積変化から発生したガス発生量の評価)を行ったこと(【0 254】,【0249】,【0250】)が記載されている。 表2には,実施例1ないし7は,電解液中のフルオロスルホン酸リチウ\nムの含有量が「0.025〜5質量%」(「2.98×10−3mol/L 〜0.596mol/L」)及び硫酸イオンの含有量が「9.21×10 −7mol/L〜7.27×10−3mol/L」の範囲内の電解液であり, 比較例2は,電解液中のフルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオンをい ずれも含有しない電解液,比較例3は,電解液中のフルオロスルホン酸リ チウムの含有量が「5質量%」(「0.596mol/L」)及び硫酸イ オンの含有量が「1.67×10−2mol/L」の電解液であることが示 されている。このうち,実施例2ないし7は,本件訂正発明4(フルオロ スルホン酸リチウムのモル含有量が「0.0005mol/L以上0.5 mol/L以下」,硫酸イオン分のモル含有量が「1.0×10−7mol /L以上1.0×10−2mol/L以下」)に含まれる電解液である。 そして,本件明細書には,「表2より,製造された電解液の硫酸イオン\nの量が1.00×10-7×mol/L〜1.00×10-2mol/Lの範 囲内であれば,初期放電容量が向上し,高温保存時のガス発生量が低下す ることから,電池特性が向上することが分かる。」(【0256】)との 記載がある。 また,表2の記載から,実施例2ないし7は,比較例2及び3よりも,\n初期放電容量が向上し,高温保存時のガス発生量が低下し,電池特性が向 上していることを理解できる。 一方で,本件明細書には,本件訂正発明4に含まれる「フルオロスルホ ン酸リチウムのモル含有量が0.0005mol/L以上2.98×10 −3mol/L(0.00298mol/L未満)」の電解液については, 実施例の記載がない。
イ 実施例記載の基本電解液と他の電解液との互換性について
(ア) 本件訂正発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,本件訂正発明 4の非水系電解液の含有する非水系溶媒として「炭素数2〜4のいずれ か1種以上のアルキレン基を有する飽和環状カーボネート」及び「炭素 数3〜7のいずれか1種以上の鎖状カーボネート」を含むことが記載さ れているが,飽和環状カーボネートと鎖状カーボネートの具体的な組成 及び混合割合を特定する記載はない。 次に,本件明細書には,(1)「飽和環状カーボネート」について,「本 発明において非水系溶媒として用いることができる飽和環状カーボネー トとしては,炭素数2〜4のアルキレン基を有するものが挙げられる。 具体的には,炭素数2〜4の飽和環状カーボネートとしては,エチレン カーボネート,プロピレンカーボネート,ブチレンカーボネート等が挙 げられる。」(【0036】),「飽和環状カーボネートの配合量は, 特に制限されず,本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが, 1種を単独で用いる場合の配合量の下限は,非水系溶媒100体積%中, 3体積%以上,より好ましくは5体積%以上である。…また上限は,9 0体積%以下,より好ましくは85体積%以下,さらに好ましくは80 体積%以下である。」(【0036】),(2)「鎖状カーボネート」につ いて,「本発明において非水系溶媒として用いることができる鎖状カー ボネートとしては,炭素数3〜7のものが挙げられる。具体的には,炭 素数3〜7の鎖状カーボネートとしては,ジメチルカーボネート,ジエ チルカーボネート,ジ−n‐プロピルカーボネート,ジイソプロピルカ\nーボネート,n‐プロピルイソプロピルカーボネート,エチルメチルカ\nーボネート…等が挙げられる。」(【0039】),「 鎖状カーボネー トは,1種を単独で用いてもよく,2種以上を任意の組み合わせ及び比 率で併用してもよい。…鎖状カーボネートの配合量は,より好ましくは 20体積%以上,さらに好ましくは25体積%以上であり,また,より 好ましくは85体積%以下,さらに好ましくは80体積%以下である。」 (【0043】),(3)「本発明において,フルオロスルホン酸リチウム, フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を溶解する為の非水系溶 媒の代表的な具体例を以下に列挙する。本発明においては,これらの非\n水系溶媒は単独或いは複数の溶媒を任意の割合で混合した混合液として 使用されるが,本発明の効果を著しく損なわない限りこれらの例示に限 定されない。」(【0035】)との記載がある。これらの記載によれ ば,本件明細書には,「本発明において非水系溶媒として用いることが できる飽和環状カーボネート」の配合量は,「非水系溶媒100体積% 中,3体積%以上,より好ましくは5体積%以上」,「上限は,90体 積%以下,より好ましくは85体積%以下,さらに好ましくは80体積% 以下」であること,「本発明において非水系溶媒として用いることがで きる鎖状カーボネート」の配合量は,「より好ましくは20体積%以上, さらに好ましくは25体積%以上」,「より好ましくは85体積%以下, さらに好ましくは80体積%以下」であること,「鎖状カーボネート」 と「飽和環状カーボネート」の混合割合は,本発明の効果を著しく損な わない限り,実施例記載のものに限定されないことの開示があるものと 認められる。 そうすると,本件明細書の上記記載から,「試験例B」で用いられた 「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC) との混合物(体積比30:70)」以外の組成及び混合割合の「炭素数 2〜4のいずれか1種以上のアルキレン基を有する飽和環状カーボネー ト」及び「炭素数3〜7のいずれか1種以上の鎖状カーボネート」を含 む混合物であっても,本件訂正発明の非水系溶媒として用いることがで きるものと理解できる。
(イ) 本件訂正発明4の特許請求の範囲(請求項4)は,本件訂正発明4 の非水系電解液中のLiPF6の含有量は「0.7mol/L以上1. 5mol/L以下」であることを規定している。 次に,本件明細書には,「LiPF6」の含有量について,「本発明 における非水系電解液は,特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロ硫 酸リチウムを含有するが,さらにその他のリチウム塩を1種以上含有す ることが好ましい。その他のリチウム塩としては,この用途に用いるこ とが知られているものであれば,特に制限はなく,具体的には以下のも のが挙げられる。」(【0024】),「例えば,LiPF6,LiB F4,LiClO4,LiAlF4,LiSbF6,LiTaF6,LiW F7等の無機リチウム塩」(【0025】),「…さらに,これらの中 でも,LiPF6,LiBF4が好ましく,LiPF6が最も好ましい。」 (【0028】)との記載があるが,「LiPF6」の含有量について 一般的に述べた記載はなく,「試験例B」で用いられた基本電解液中の LiPF6の含有量(1mol/L)以外であっても,本件訂正発明4 に用いることができることについて述べた記載もない。 一方で,(1)甲37(特開2000−195546号公報)には,「本 発明で使用される非水溶媒としては,高誘電率溶媒と低粘度溶媒とから なるものが好ましい。高誘電率溶媒としては,例えば,エチレンカーボ ネート(EC),プロピレンカーボネート(PC),ブチレンカーボネ ート(BC)などの環状カーボネート類が好適に挙げられる。これらの 高誘電率溶媒は,1種類で使用してもよく,また2種類以上組み合わせ て使用してもよい。」(【0015】),「本発明で使用される電解質 としては,例えば,LiPF6,LiBF4…などが挙げられる。これら の電解質は,1種類で使用してもよく,2種類以上組み合わせて使用し てもよい。これら電解質は,前記の非水溶媒に通常0.1〜3M,好ま しくは0.5〜1.5Mの濃度で溶解されて使用される。」(【001 7】),(2)甲13(特開2011−054503号公報)には,「非水 電解液としては,リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。 リチウム塩としては,溶媒中で解離してLi+イオンを形成し,電池と して使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こしにくいものであれ ば特に制限はない。例えば,LiClO4,LiPF6,LiBF4 ,L iAsF6 ,LiSbF6 などの無機リチウム塩…などを用いることが できる。」(【0084】),「このリチウム塩の電解液中の濃度とし ては,0.5〜1.5mol/lとすることが好ましく,0.9〜1. 25mol/lとすることがより好ましい。」(【0086】)との記 載がある。上記記載によれば,本件出願の優先日当時,高誘電率溶媒と 低粘度溶媒とからなる非水系溶媒に電解質として用いる「LiPF6」 の濃度は,0.5〜1.5mol/Lの範囲とすることが好ましいこと は技術常識であったものと認められる。 そして,上記技術上常識に照らすと,本件訂正発明4の非水系電解液 中のLiPF6の含有量(「0.7mol/L以上1.5mol/L以下」) は,LiPF6を「炭素数2〜4のいずれか1種以上のアルキレン基を有 する飽和環状カーボネート」及び「炭素数3〜7のいずれか1種以上の 鎖状カーボネート」を含む非水系溶媒に電解質として用いる場合におい て好ましい濃度範囲であることを理解できる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載 及び本件出願の優先日当時の技術常識から,当業者は,試験例Bに用い られた基本電解液(「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカ ーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLi PF6を1mol/Lの割合となるように溶解して」調整した「基本電 解液」)以外の組成及び混合割合の本件訂正発明4に含まれる基本電解 液を用いた場合であっても,試験例Bに示されたように,フルオロスル ホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解液 に対して,「初期放電容量」を改善できるものと理解し,本件訂正発明 4の課題を解決できると認識できるものと認められる。
(エ) これに対し被告は,本件出願の優先日当時の技術常識((1)ECなど の誘電率の大きな溶媒とEMCなどの低沸点の低粘度溶媒とLiPF6 などの支持電解質の組合せやそれらの使用量比の変動に伴う,電解液組 成の変動によって,非水系電解液二次電池の電池特性も変動するため, 電池特性評価試験の結果に基づいて,満足な電池特性が得られない電解 液組成を選別するという最適化を行わなければ,満足な電池特性の非水 系電解液二次電池をもたらす電解液組成が得られないこと(乙1等), (2)非水系電解液の導電性について,電解質伝導度は電池の放電容量など に密接に関係し,電池性能に大きな影響を及ぼすこと(甲15))に照\nらすと,ECとEMCとの体積比やLiPF6の濃度が実施例の範囲内 のもの(試験例B)と異なる非水系電解液については,電池特性評価試 験の結果に基づく電解液組成の選別を行わないと,比較例3のような満 足な電池特性が得られない非水系電解液が含まれてしまうことになるか ら,当業者は,試験例Bに用いられている基本電解液を他の一般的な電 解液に変更したとしても,本件訂正発明4の課題を解決できるとは認識 しない旨主張する。
しかしながら,まず,被告の主張は本件訂正発明4の課題が「初期放 電容量が改善され,容量維持率および/またはガス発生量が改善された 非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液を提供する こと」にあるというものであるが,前記(1)ウのとおり,本件訂正発明4 の課題は,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として 含有しない非水系電解液に対して,初期放電容量等の電池特性を改善す る非水系電解液を提供することにあると認定すべきであるから,その前 提を欠くものである。 また,本件出願の優先日当時,非水電解液は,PC,ECなどの誘電 率の大きな溶媒とジメチルカーボネートなどの低沸点の低粘度溶媒とL iPF6などの支持電解質とから主に構成され,これら3種類の組合せ\nやそれらの使用量比などにより最適化されることは,技術常識であった こと(甲15(「電池ハンドブック」平成22年2月刊行)の373頁 等)に照らすと,当業者は,本件明細書の記載に基づいて最適化を行う ことにより,試験例Bに用いられた基本電解液以外の組成及び混合割合 の本件訂正発明4に含まれる基本電解液を用いた場合であっても,本件 訂正発明4の課題を解決できると認識できるものと認めるのが相当であ る。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
ウ フルオロスルホン酸リチウムの含有量の下限値について 前記アのとおり,本件明細書には,本件訂正発明4に含まれる「フルオ ロスルホン酸リチウムのモル含有量が0.0005mol/L以上2.9 8×10−3(0.00298)mol/L未満」の電解液については,実 施例の記載がない。 しかるところ,本件明細書には,試験例Bの結果を示した表2において,\n本件訂正発明4に含まれる実施例2ないし7(電解液中のフルオロスルホ ン酸リチウムの含有量が「0.025〜2.5質量%」(「2.98×1 0−3mol/L〜2.98×10−1mol/L」)及び硫酸イオンの含有 量が「9.21×10−7mol/L〜8.23×10−3mol/L」の範 囲内の電解液)が電解液中のフルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオン をいずれも含有しない比較例2の電解液よりも,初期発電容量が向上して いること,実施例2ないし7のうち,電解液中のフルオロスルホン酸リチ ウムの含有量が最も少ない実施例7(フルオロスルホン酸リチウムの含有 量2.98×10−3mol/L,硫酸イオンの含有量9.21×10−7 mol/L)の初期発電容量は148.7mAh/g,比較例2の初期発 電容量は145.8mAh/gであることが開示されている。この開示事 項から,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として添加 した非水系電解液は,これらをいずれも添加剤として含有しない非水系電 解液に対して,初期放電容量が改善できるものと理解できる。 そして,本件訂正発明4に含まれる「フルオロスルホン酸リチウムのモ ル含有量の下限値0.0005mol/Lは,実施例7のフルオロスルホ ン酸リチウムの含有量2.98×10−3mol/L(0.00298mo l/L)の約6分の1程度であり,実施例7よりも顕著に少ないとまでは いえないことに照らすと,当業者は,フルオロスルホン酸リチウムの含有 量が0.0005mol/Lの電解液を用いた場合であっても,フルオロ スルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解 液に対して,「初期放電容量」が改善し,本件訂正発明4の課題を解決で きると認識できるものと認められる。 これに反する被告の主張は理由がない。
(3) 小括
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願の優先 日当時の技術常識に基づいて,当業者が,本件訂正発明4の発明特定事項の 全体にわたり,本件訂正発明4の課題を解決できると認識できると認められ るから,本件訂正発明4は発明の詳細な説明に記載したものであることが認 められる。したがって,本件訂正発明4は,サポート要件に適合するものと認められ る。

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平成31(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月28日  知的財産高等裁判所(1部)

 無効理由無しとした審決が維持されました。

 原告は,本件各発明は物の発明であるから,構成要件Hは制御手段の存在に\nよって特定されるべきであり,この解釈を措くとしても,構成要件Hは空気式マッ\nサージ具による挟み動作と施療子による叩き動作という異質の2種類の施療手段を あえて同期させるものであるから,その制御手段を具体的に開示することが要請さ れるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には制御手段の具体的な説明はなく, またかかる制御手段が技術常識であった事実は存在しないから,本件明細書の発明 の詳細な説明の記載は,実施可能要件に違反していると主張する。\n
 しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記(2)アのとおり,機械式マッサ ージ器8の左右の施療子9がマッサージ用モータ10の回転を制御することで叩き 動作を行うことや,空気式のマッサージ具41が内部に備えた袋体(エアセル42) にコンプレッサー61から空気を供給し膨張させることで押圧動作を行うことが記 載されている。そして,機械式のマッサージ器による叩き動作と,空気式マッサー ジ器による押圧動作を「同時」に行うためには,両者の制御をその字義どおり時を 同じくして(甲25の1・2)行えば足り,それぞれを単独で動作させる場合の制御 と格別異なる制御を要するものではないから,このような制御手段について発明の 詳細な説明に記載がないとしても,そのことによって当業者が本件各発明の実施に 過度の試行錯誤を要するとは認められない。 イ 原告は,被告が本件出願の審査過程で主張した,左右の施療子によって使用 者の背中に対し左右交互に前後の叩き動作が繰り返されるという作用効果に関して は,制御手段としてさらに具体的な説明が必要であるのに,本件明細書の発明の詳 細な説明には何らの記載も存在しないとも主張する。 しかし,実施可能要件の適合性は,請求項に係る発明について,明細書の記載と\n出願時の技術常識とに基づいて判断され,その判断が,出願人の審査段階の主張に より左右されるとは解されない。実施可能要件の適合性の判断を,出願人が出願経\n緯において述べた事項が禁反言の法理等により技術的範囲の解釈に影響することが あるということと同様に考えることはできない。

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平成31(行ケ)10042  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月21日  知的財産高等裁判所

 マッサージ機の特許について、無効理由無しとした審決が取り消されました。 争点は補正要件(新規事項)、記載要件などです。裁判所は、明確性について構成要件Fについて実質判断していないとして審決を取り消しました。

 本件審決は,明確性要件の判断において,構成要件G及びLについて判断したの\nみで,構成要件Fについては「請求人の主張の概要」にも「当合議体の判断」にも記\n載がなく,実質的に判断されたと評価することもできない。 したがって,本件審決には,手続的な違法があり,これが審決の結論に影響を及 ぼす違法であるということができる。
(3) 補正要件違反,分割要件違反及びサポート要件について
ア 本件審決には,補正要件違反等の原告の主張する無効理由との関係で,構成\n要件Fについての明示的な記載はない。 しかし,補正要件の適否は,当該補正に係る全ての補正事項について全体として 判断されるべきものであり,事項Fの一部の追加が新規事項に当たるという主張は, 本件補正に係る補正要件違反という無効理由を基礎付ける攻撃防御方法の一部にす ぎず,これと独立した別個の無効理由であるとまではいえない。その判断を欠いた としても,直ちに当該無効理由について判断の遺脱があったということはできない。 また,構成要件Fで規定する「開口」は,構\成要件H(「前記一対の保持部は,各々 の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」) の前提となる構成であって,事項Hの追加が新規事項の追加に当たらないとした本\n件審決においても,実質的に判断されているということができる。 そして,後記のとおり,当初明細書の【0037】,【0038】,【図2】には,断 面視において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載され,「開口部」とは, 「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し,一般的な体格の成人の腕 部の太さよりも若干大きい幅とされ,そこから保持部内に腕部を挿入可能であるこ\nとが記載されているから,構成要件Fで規定する「開口」が,当初明細書に記載され\nていた事項であることは明らかである。
イ また,新規事項の追加があることを前提とした分割要件違反に起因する新規 性・進歩性欠如をいう原告の主張も,同様である。
ウ サポート要件についても,本件審決には,構成要件Fについての明示的な記\n載はない。 しかし,サポート要件の適合性は,後記4(1)のとおり判断すべきものであり,上 記アと同様,事項Fの一部についての判断を欠いたとしても,直ちに当該無効理由 について判断の遺脱があったということはできない。 また,構成要件Fで規定する「開口」は,上記アのとおり,構\成要件Hの前提とな る構成であり,本件審決においても実質的に判断されているということができる。\nそして,後記のとおり,本件発明1は,本件明細書の【0010】に記載された構\n成を全て備えており,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明に より当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであり,加え て,本件明細書にも前記【0037】,【0038】,【図2】と同様の記載があることからすれば,構成要件Fで規定する「開口」が本件明細書の当該記載によってサポ\nートされていることも明らかである。
(4) 小括
以上のとおり,本件審決は,明確性要件についての判断を遺脱しており,この点 の審理判断を尽くさせるため,本件審決は取り消されるべきである。 もっとも,他の無効理由については当事者双方が主張立証を尽くしているので, 以下,当裁判所の判断を示すこととする。
・・・
ア 当初明細書の【0042】,【0044】,【0048】,【図5】,【0066】, 【0072】,【0074】,【図8】には,保持部の内面の略全体に空気袋が設けられている構成の記載がある。これらの記載に加えて,従来のマッサージ機においては,\n肘掛け部に例えばバイブレータ等の施療装置が設けられていないことが多く,被施 療者の腕部を施療することができないことが課題になっていたこと(【0003】) を併せて考えれば,当初明細書の上記各記載から,保持部の内面の対向する部分の 双方でなくとも,対向する部分の一方に空気袋が設けられていれば,腕部が保持部 によって保持され,保持部の内面の一方の側から空気袋の膨張・圧縮に伴う力を受 けることで一定の施療効果が期待できることは明らかというべきである。 そうすると,保持部の内面の互いに対向する部分の双方でなく,対向する部分の 一方に空気袋が設けられていれば,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に 設けた空気袋によって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕 部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題\nの課題解決手段として十分であることが容易に理解できる。\n
イ 当初明細書の【0042】には,保持部の形状について「略C字状」の断面形 状を有することの記載があり,【0037】,【0038】及び【図2】には,断面視 において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載されており,「開口部」と は,「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し,一般的な体格の成人 の腕部の太さよりも若干大きい幅とされ,そこから保持部内に腕部を挿入可能であ\nることが記載されている。そして,【0100】には,腕部を保持する保持部は,【図 13】(a)に示されるものに限定されず,同図(b)〜(e)に示されるものとし てもよいこと,さらに,同図(c)は,開口を「所定角度で傾斜させた」ものであり, 同図(e)は,開口を「上方に開口」させたものであることが記載されている。 以上の記載を踏まえると,【図13】(a)は,開口が所定角度で傾斜せずに横を向 いている保持部を示していると理解するのが自然であり,そうすると,当初明細書 には,所定角度で傾斜したものと傾斜していないものを含めて「開口が横を向」い ている保持部が記載されているといえる。 そして,「開口が横を向」いている保持部であっても,腕部を横方向に移動させる ことで被施療者が腕部を保持部内に挿入することができ,座部に座った被施療者の 腕部を保持部の内面に設けた空気袋によって施療することができることが容易に認 識でき,被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当\n初明細書に記載の課題を解決できることが容易に理解できるというべきである。
ウ 請求項2の「開口が真横を向いている」にいう「開口」とは,そこから保持部 内に腕部を挿入することを可能とするもの(【0038】,【図2】)であることから\nすれば,「開口が真横を向いている」とは,腕部の挿入方向に着目して,被施療者が 座部に座った状態で腕部を「真横」(水平)に移動させることで保持部内に腕部を挿 入することができるという技術的意義を有するものであると理解できる。 そして,当初明細書には,【図13】(a)及び(c)において,所定角度で傾斜し たものと傾斜していないものを含めて「開口が横を向」いている保持部が示され, 同図(a)は,開口が所定角度で傾斜せずに横を向いている保持部,すなわち,「開 口が真横を向」いている保持部を示していると理解するのが自然であるところ,「開 口が真横を向」いていれば,腕部を真横(水平)に移動させることで被施療者が腕部 を保持部内に挿入することができ,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に 設けた空気袋によって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕 部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題\nを解決できることも容易に理解することができるというべきである。
エ 当初明細書には,【0037】,【0044】,【0046】などにも,前腕部を 挿入する第2保持部分の内面において,被施療者の手首又は掌に相当する部分に振 動装置が設けられていることが開示されている。加えて,保持部が,被施療者の上 腕を保持するための第1保持部分と被施療者の前腕を保持するための第2保持部分 とから構成され(【0037】,【図2】),第2保持部分の内面であって被施療者の手首又は掌に相当する部分に振動装置が設けられ,この振動装置が振動することによ\nり,被施療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっていること(【0044】,【図2】)も記載されている。\nそうすると,保持部内に挿入された被施療者の手首又は掌を,保持部の内面であ って,手首又は掌に相当する部分に設けられた振動装置を振動させることで,被施 療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっており,その前提として,保持\n部が,被施療者の手首又は掌を「保持可能」とするような構\成を有していることは 明らかである。
オ 当初明細書のうち,第1保持部分を幅方向へ切断したときの断面図である【図 5】,【図8】には,空気袋(11b,11c,26b,26c)が全体として保持部 の奥側(図の右側)よりも開口側(図の左側)の端部にて高さが高くなるよう盛り上 がる形状が示されており,当初明細書の【0042】の記載も踏まえると,【図5】 には,保持部分の内面の略全体において略一定の厚み幅を有する空気袋11bと, 当該空気袋11bの上に積層する形で空気袋11cが設けられ,当該空気袋11c は奥側から開口側に行くにしたがってその厚み幅が漸増しており,空気袋11bと 空気袋11cをあわせてみたときに,空気袋は開口側の部分の方が奥側の部分より も立ち上がるように構成されていることが記載されているといえる。\nそして,空気袋が保持部の開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がるよう に構成されていれば,空気袋の膨張・圧縮の程度が保持部の奥側の部分よりも開口\n側の部分の方が大きく,腕部がそのような空気袋の構成に応じた膨張・圧縮に伴う\n力を受けることで,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に設けた空気袋に よって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕部を施療するこ とが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題を解決できるこ\nとも容易に理解することができる。 カ 以上によれば,本件補正は,当初明細書の全ての記載を総合することにより 導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものとはいえ ない。
・・・
4 取消事由3(サポート要件に係る判断の誤り)について
(1) サポート要件について
特許請求の範囲の記載が,サポート要件を定めた特許法36条6項1号に適合す るか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請 求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細 な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであ るか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当 該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) 本件発明1について
ア 本件明細書の記載 本件明細書には,(1)椅子型のマッサージ機にあっては,肘掛け部にバイブレータ 等の施療装置が設けられていないことが多く,被施療者の腕部を施療することがで きないという問題があったことから(【0002】,【0003】),被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供することを課題とし(【0007】),(2)当 該課題を解決するための手段として,被施療者が着座可能な座部と,被施療者の上\n半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において,「前記座部の両 側に夫々配設され,被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と,前 記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と,を有し,前記保持部は,\nその幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されて いると共に,その内面に互いに対向する部分を有し,前記空気袋は,前記内面の互 いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ,前記一対の保持部は, 各々の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設され」 ていること(【0010】),(3)本発明に係るマッサージ機によれば,空気袋によって 被施療者の腕部を施療することが可能となること(【0028】)が記載されている。\n
そして,本件明細書には,本件発明の「実施の形態1」の説明において,マッサー ジ機の全体構成やその動作について,保持部の構\成やその内面に設けられた空気袋 の構成や作用とともに記載され(【0037】,【0038】,【0042】〜【0045】,【0048】,【図1】,【図2】,【図5】),本件明細書の【0100】,【010\n1】及び【図13】には,本件発明のマッサージ機の保持部の種々の断面形状につい て説明がされているところ,マッサージ機を扱う当業者であれば,本件明細書の以 上の記載から,(1)の課題を解決するために(2)の解決手段を備え,(3)の効果を奏する 発明を認識することができる。 そして,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2(1)のとおりで あるところ,本件明細書の【0010】には,同発明が記載されている。また,当業 者が,本件明細書の前記記載により本件発明1の課題を解決できると認識すること ができる。そうすると,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明 の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のも のであるということができ,本件発明1の記載についてサポート要件の違反はない。
イ 原告の主張について
原告は,(1)構成要件Gは,空気袋につき,保持部の内面の対向する部分の一方の\n部分のみに設ける構成も含むが,本件明細書には,かかる構\成であっても解決でき る課題につき何らの説明もなく,(2)構成要件Hは,保持部の形状につき,本件明細\n書の【図13】の(a),(c)から導かれる形状とするものであるところ,本件明細 書には,他の形状を示す同図(b),(d),(e)との関係で解決される課題につき,何らの説明もないと主張する。 しかし,本件明細書によれば,保持部の内面の対向する部分の双方でなくとも, 対向する部分の一方に空気袋が設けられていれば,被施療者の腕部を施療すること が可能なマッサージ機を提供するという本件明細書に記載の課題の解決手段として\n十分であることが容易に理解することができる。また,保持部に形成する開口が横\nを向いていれば,腕部を横方向に移動させることで被施療者が保持部内に腕部を挿 入することができ,座部に座った被施療者の腕部を施療することが可能なマッサー\nジ機を提供するという本件明細書に記載の課題を解決できることが容易に理解する ことができる。 したがって,原告の主張は理由がない。
5 取消事由5(引用発明に基づく進歩性判断の誤り)について
・・・
このように,甲13文献に示されるパッド31は,せいぜい,パッド35ととも に肢にフィットするように全体にc字形をしており,開口を患者の側に向けて,パ ッド35とともに椅子21(肘掛け)又は床の上に「置く」ことができることが開示 されているにとどまり,「一対の保持部」について,相違点2に係る,各々の開口が 横を向き,かつ開口同士が互いに「対向するように配設」するという技術思想が開 示されているとはいえない。
(ウ) したがって,引用発明に甲13技術を適用する動機付けはないし,これを 適用しても,相違点2に係る構成に至らないから,これを容易に想到することがで\nきたものとはいえない。

◆判決本文

関連事件です。こちらは無効理由無しとした審決が維持されています。

◆平成31(行ケ)10054

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平成31(行ケ)10060  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月14日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が維持されました。争点は実施可能要件、サポート要件、進歩性です。

 本件明細書によれば,本件発明1に係るスクラブ石けんの製造方法について, 次の事項が記載されていることが認められる。
 微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンをアルカリ溶液に浸漬し て,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加す ることにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中 空内部にも石けんを形成するものであり(【0029】),アルカリ溶液には,界面活 性剤を添加しているため,アルカリ溶液の表面張力が弱められて,シラスバルーン\n表面の微細なクラックからシラスバルーンの内部へ,アルカリ溶液を容易に浸入さ\nせることができ,シラスバルーン内部はアルカリ溶液で満たされることとなる(【0 032】,【0033】)。
通常石けんを製造する場合には,脂肪酸(又は油脂)の溶液に,アルカリ溶液を 徐々に添加するのが一般的であるが,脂肪酸溶液とシラスバルーンとを混合し,次 いで,アルカリ溶液を添加した場合,シラスバルーンの内部にある脂肪酸溶液と, シラスバルーン内に浸入してきたアルカリ溶液とが,シラスバルーンの表面で石け\nんを形成してしまい,アルカリ溶液の更なる浸入を妨げるため,シラスバルーン中 心部の脂肪酸溶液が未反応となりやすく,内包石けんが形成されにくいため,好ま しくない(【0039】,【0040】)。また,固形状又は半固形状の基材石けんに,シラスバルーンを混入させただけでは,単にシラスバルーンの表面に基材石けんが\n付着するのみであり,粘度の高い基材石けんがシラスバルーンの中空内部に入って 内包石けんとなることはない(【0043】)。これに対し,アルカリ溶液とシラスバ ルーンとを混合してアルカリ火山灰溶液を調製し,次いで,アルカリ火山灰溶液に 加温溶融した脂肪酸を添加すると,脂肪酸もまた徐々に表面のクラックを介してシ\nラスバルーン内に浸透することとなり(【0037】),シラスバルーンの表面で石け\nんを形成しても,反応当初は高濃度のアルカリ溶液が脂肪酸溶液に比して多量にあ るため,速やかに石けん分子が分散することとなり,シラスバルーン内部に脂肪酸 溶液が入るのを妨げることがなく,シラスバルーン内部に十分な量の内包石けんを\n形成することができる(【0041】,【0042】)。 具体的な工程は,次のとおりである。すなわち,加温可能で内部を減圧可能\に形 成した調合タンク等で,アルカリ溶液調製工程を行い,27.3重量部の水に,5. 55重量部の水酸化カリウムを徐々に添加して,水酸化カリウムを十分溶解し,ア\nルカリ水溶液をできるだけ室温に近い温度で調製し(【0051】〜【0053】), 界面活性剤添加工程で,3重量部のグリセリン,5重量部の保湿剤,3重量部の増 泡剤,3重量部の界面活性剤をそれぞれアルカリ溶液中に添加して均一になるまで, できるだけ室温に近い温度撹拌を行う(【0054】〜【0056】)。シラスバルー ン添加工程では,22.74重量部の予め膨化処理を施して微細な中空球状に成形し\nた火山灰(シラス),4重量部の白色顔料,0.01重量部の糖類を,界面活性剤を 含有するアルカリ溶液に添加し,この際,まず,プラネタリーミキサー等で液中及 び液面を穏やかに撹拌し,次いで,ディスパー等により,強力な渦流を発生させて 液中に巻き込むように撹拌混合を行ってシラスバルーンや白色顔料が粉塵として宙 に舞うことを防止するとともに,当初の時点で空気を抱き込ませずに撹拌を行うこ とで,シラスバルーンの中空内部まで,効率よく界面活性剤を含有するアルカリ溶 液を浸透させ,撹拌時には,80℃に達するまで徐々に液温を昇温する(【0057】 〜【0065】)。次に,浸透工程で調製した,界面活性剤を含有するアルカリ溶液と シラスバルーンとの混合液(アルカリ火山灰溶液)に,図1に示すB−1(脂肪酸) を添加する脂肪酸添加工程では,炭素数がC12〜C18で直鎖状の飽和又は不飽 和脂肪酸を好適に用い,脂肪酸の組成は,所望する石けんの性状に併せて適宜決定 することができ,本実施形態で用いる脂肪酸(又は脂肪酸塩)は,固体であるため, 70〜90℃に加熱溶融してから添加する(【0066】,【0069】〜【0071】)。 石けん調製工程では,アルカリ火山灰溶液に脂肪酸を混合した直後より,調合タン ク内の減圧を行い,混合液中に含まれる空気を脱気(脱泡)しながら,20分間撹拌 混合し,混合液の温度を75〜85℃,より好ましくは77〜83℃とすることに より,均一で滑らかであり,しかも,白色の際だったスクラブ石けんとすることが できる(【0072】〜【0077】)。 このようにして得られたスクラブ石けんは,シラスバルーンの内部にもペースト 状の石けんを含有している(【0082】)。
イ 以上によれば,本件明細書には,微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシ ラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアル カリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記 シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを 形成するスクラブ石けんを製造する方法について,その実施をすることができる程 度に明確かつ十分に記載されていると認められる。\n
(3) 原告の主張について
原告は,中空状のシラスバルーンの中空内部に石けんが内包(形成)されている か否かを如何なる方法により観察(分析)できるのか,本件発明にかかる明細書に は何ら示されていないことから,本件明細書の記載は実施可能要件に適合しない旨\nを主張する。 しかし,本件明細書の記載から,シラスバルーンの中空内部に石けんが形成され ることが十分に理解できることは,前記(2)のとおりであり,分析方法についての説 明がないことをもって実施可能要件に適合しないとはいえないから,原告の主張は\n採用できない。

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平成31(行ケ)10027  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月25日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。争点は、補正要件、記載要件、進歩性と多くありましたが、知財高裁3部は、実施可能要件違反と判断しました。発明は機械の構\造です。機械分野で実施可能要件違反の無効理由は珍しいです。\n

 ア 本件明細書には,(1)本件発明のマッサージ機は,施療者の臀部または大\n腿部が当接する座部11a,及び施療者の背部が当接する背凭れ部12a を有する椅子本体10aと,該椅子本体10aの両側部に肘掛部14aを 有する椅子式マッサージ機1aであり,前記背凭れ部12aは,座部11 aの後側にリクライニング可能に連結されていること(段落【0022】),\n(2)肘掛部14aは,椅子本体10aに対して前後方向に移動可能に設けら\nれ,背凭れ部12aのリクライニング角度に応じた所定の移動量を保持し ながら背凭れ部12aのリクライニング動作に連動して前記肘掛部14a が椅子本体10aに対して前後方向に移動するようにされていること(段 落【0054】),(3)肘掛部14aの下部に前後方向に回動するための回 動部141aを設けること(段落【0055】),(4)肘掛部14aの後部 で回動可能に背凭れ部12aの側部と連結する連結部142aを設けるこ\nと(段落【0055】)が記載されている。 また,【図4】は,背凭れ部12aが座部に対してリクライニングする と,背凭れ部12aに連結された肘掛部14aが前後方向に回動すること を概略的に図示している(段落【0054】,【0055】)。
イ 上記アによれば,本件明細書には,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側 部とを,「肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して, リクライニングする方向に傾くように」(構成要件E)連結する連結手段\nについては連結部142aによる回動関係が,[2]肘掛部全体を座部に 対して回動させる回動手段については回動部141aによる回動関係が開 示されているが,[3]背凭れ部をリクライニングするように座部に対し 連結する連結手段の具体的な構成は記載されていない。また,本件明細書\nには,「背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身におけ る着座姿勢を保」つように(構成要件F),[1]肘掛部の後部と背凭れ\n部の側部とを,「肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライニング動作に連 動して,リクライニングする方向に傾くように」連結する連結手段(構成\n要件D,E),[2]背凭れ部のリクライニング動作の際に上記の連結手 段を介して肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段(構成要件D)\n及び[3]背凭れ部をリクライニングするように座部に対し連結する連結 手段(構成要件D)の具体的な組み合わせの記載はない。\n
ウ 審決は,本件明細書の【図4】は,背凭れ部が座部に対して回動し,背 凭れ部に連結された肘掛部が回動するという事項(段落【0054】,【0 055】)を概略的に図示したものであり,そのための「適宜の回動手段」 「適宜の連結手段」については当業者が過度の試行錯誤なく適宜に行い得 る程度のことであると認定する。 しかし,上記イのとおり,本件においては,構成要件D〜Fを充足する\nような,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部を連結する連結手段,[2] 肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段及び[3]背凭れ部を座部 に対し連結する連結手段の具体的な組み合わせが問題になっており,した がって,これらの各手段は何の制約もなく部材を連結又は回動させれば足 りるのではなく,それぞれの手段が協調して構成要件D〜Fに示された機\n能を実現する必要がある。そうすると,このような機能\を実現するための 手段の選択には,技術的創意が必要であり,単に適宜の手段を選択すれば 足りるというわけにはいかないのであるから,明細書の記載が実施可能要\n件を満たしているといえるためには,必要な機能を実現するための具体的\n構成を示すか,少なくとも当業者が技術常識に基づき具体的構\成に至るこ とができるような示唆を与える必要があると解されるところ,本件明細書 には,このような具体的構成の記載も示唆もない。\n
エ 被告は,本件明細書の記載から当業者が実施し得る本件発明1の具体的 な構成として,別紙被告主張図面目録記載のとおり動作するマッサージ機\nの具体的構成(以下「被告主張構\成」という。)を主張する。 被告主張構成は,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部とを本件明細書\nの【図4】同様の回動手段により連結し,[2]肘掛部の下部の椅子本体 に設けられた回動部から延びる円柱状部材が肘掛部内に存在する空洞部に 挿入され,[3]座部の後端に軸心を設けて背凭れ部を回動させる回動手 段を設けた構成であり,リクライニング前は,肘掛部の下部に設けられた\n回動部から延びる円柱状部材が肘掛部内に存在する空洞部の奥まで達して おり(【被告参考図(1)−2】),これをリクライニングすると,背凭れ部 のリクライニング動作に連動して肘掛部全体がリクライニングする方向に 傾くに従って,肘掛部全体が円柱状部材から上記空洞部に沿って遠ざかる ように移動する(【被告参考図(2)】から【被告参考図(3)】)というもので ある。 しかし,本件明細書には被告主張構成の記載や示唆はないから,被告主\n張構成が直ちに実施可能\要件適合性を裏付けるものではない上に,当業者 が,上記ア及びイのとおりの本件明細書の記載及び出願当時の技術常識に 基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,被告主張構成を採用し得た\nというべき技術常識ないし周知技術に関する的確な証拠もない。
オ 以上によれば,本件明細書には,当業者が,明細書の発明の詳細な説明 の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要すること なく,本件発明1を実施することができる程度に発明の構成等の記載があ\nるということはできず,この点は,本件発明1を引用する本件発明2につ いても同様である。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。\n

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平成31(ネ)10014  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 少し前のですが、欠落していたのでアップします。薬品特許のクレームが作用的(?)に記載されている場合に、クレーム限定、またはサポート要件・実施可能要件違反が主張されました。知財高裁は、1審と同様に、技術的範囲に属する、無効理由無しと判断しました。

 上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク 質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結 合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使 用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は, かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって, PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより, 対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症 などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患\nのリスクを低減することにあると理解することができる。 本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用 してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体 を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体 について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合 しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること, また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含 まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。 21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21 B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗 体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細 書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個 の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同 様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体 を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認 識できると認められる。 さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免 疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や 31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業 者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって, 本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗 体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら れる。
以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル 抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成 物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できること\nを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に 適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結 合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定 される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照 抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし, 参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。\nそして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特 定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために, その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認め\nられない(甲34,35)。 前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し, 本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参 照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。\n
・・・
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が\n特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な 時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能\n要件を満たさない旨主張する。 しかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求\nめられるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程 度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰\nし,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる からである。
本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ, PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗 体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そし\nて,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す ることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離 されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度 の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発\n明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ ることまで記載されている必要はない。 また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない 抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認 識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に\n記載されているかどうかは,実施可能要件とは関係しないというべきである。\nそして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細 書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範 囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得 る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 よって,控訴人の主張は採用できない

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)16468

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平成30(行ケ)10093  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月19日  知的財産高等裁判所

 サポート要件および実施可能要件について、無効理由無しとした審決が維持されました。

前記(1)及び(2)を踏まえると,本件明細書には,本件発明に関し,次のよ うなことが開示されていると認められる。 従来,高温下の成形又は熱処理を要する鋼板においては,一般に亜鉛の融点を上 回る高い温度で熱処理が行われるため,鋼板に亜鉛被膜があると,亜鉛が溶融,流 動して熱間成形用ツールの働きを妨害し,さらに,急冷中に被膜が劣化すると考え られてきた。そのため,鋼板の被覆処理は,熱処理の前には行われず,熱間成形や 熱処理後の完成部品に対して行われていたが,そうすると,(1)部品の表面及び中空\n部分の十分な清浄化が不可欠であり,その清浄化には酸又は塩基を使用する必要が\nあるため,経済的な負担や作業員及び環境への危険があること,(2)鋼の脱炭及び酸 化を完全に防止するために,熱処理を管理雰囲気下で行う必要があること,(3)熱間 成形の場合に生じるカーボンデポジットが成形用ツールを損傷し,部品の品質を低 下させたり,ツールの頻繁な修理のためにコストが上がったりすること,(4)得られ た部品の耐食性を強化するために,当該部品の後処理が必要であるが,後処理は, 経費も高く作業も難しい上に,中空部分のある部品では不可能であることなどの問\n題があった。(【0002】,【0003】) そこで,本件発明は,熱間成形や熱処理の前に鋼板に被覆を形成することで,熱 処理における鋼板の脱炭や酸化を防止するなど,上記(1)〜(4)の従来技術の問題点を 解決することができる,極めて高い機械的特性値をもつ鋼板を製造する方法を提供 することを課題とするものであり,その解決に当たり,亜鉛又は亜鉛合金で被覆し た鋼板を熱処理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の 鋼と合金化した層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度 を持つようになるという,従来の定説とは異なる新たな知見が得られたことに基づ き,解決手段として,亜鉛又は亜鉛を50重量%以上含む亜鉛ベース合金(前記(2) のとおり,ここには金属間化合物からなる合金も含まれている。)で被覆された熱処 理用鋼板ブランクに対し,部品を得るための熱間型打ち前に,800℃〜1200℃ の高温を2〜10分間作用させる熱処理を行うことにより,腐食に対する保護及び 鋼の脱炭に対する保護を確保しかつ潤滑機能を確保する,亜鉛−鉄ベース合金化合\n物及び亜鉛−鉄−アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化 合物(金属間化合物)を熱処理用鋼板ブランクの表面に生じさせる工程を実施する\nものとしたことを特徴とするものである(【請求項1】,【0004】〜【0008】,
【0014】〜【0016】,【0021】)。 そして,本件発明は,熱処理用鋼板に上記合金化合物(金属間化合物)の被膜を 形成することにより,熱処理中又は熱間成形中の鋼の腐食防止及び脱炭防止,カー ボンデポジットの形成を阻止することによるツールの損耗防止,高温での潤滑機能\nの確保,得られた部品の酸洗い浴が不要となることによる経済的利点,成形部品の 耐疲労性,耐損耗性,耐摩耗性及び耐食性の強化などの効果を奏するものである(【0 024】〜【0027】)。
2 金属間化合物についての本件出願時の技術常識
(1) 金属間化合物とは,2種類以上の金属元素から形成される化合物であり, 本件出願時に,本件発明において熱処理後に生じるとされている(1)亜鉛−鉄ベース の金属間化合物として,亜鉛−鉄及び亜鉛−ニッケル−鉄の金属間化合物が,(2)亜 鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物として,亜鉛−鉄―アルミニウムと亜\n鉛−鉄−アルミニウム―ニッケルの金属間化合物がそれぞれ知られていた(甲3,\n7,8,14〜16,20,25,乙8,弁論の全趣旨)。 また,熱処理をして亜鉛に鉄を拡散させ,金属間化合物を形成することができる こと及び各金属間化合物について,組成の濃度に応じて複数の相が存在することが 本件出願時に知られていた(甲2,3,7,8,15,16,25,弁論の全趣旨)。
(2) 前記のとおり,本件発明においては,熱処理前の「亜鉛ベース合金」に,金 属間化合物が含まれ得るところ,本件出願時に,亜鉛と金属間化合物を形成して「亜 鉛を50重量%以上含む亜鉛ベースの金属間化合物」を構成し得る元素としては,\n鉄の他に,ニッケル,銀,金,クロム,マンガンなどが知られていた(甲2,23, 24,乙5,弁論の全趣旨)。
3 取消事由1(サポート要件についての認定判断の誤り)について
(1) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否 か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のであり,サポート要件の存在については,特許権者(被告)がその証明責任を負 うものである。 そして,前記のとおり,本件では熱処理前の「亜鉛ベース合金」が「亜鉛ベース の金属間化合物」である場合にもサポート要件が充足されているかどうかが争点と なっているところ,以下,この争点について,上記のような証明責任が果たされて いるかどうかについて判断する。
(2) ア 前記1のとおり,本件明細書には,亜鉛又は亜鉛合金で被覆した鋼板 を熱処理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の鋼と合 金化した層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度を持つ ようになるという新たな知見が得られたことに基づき,熱間成形や熱処理の前に, 鋼板を亜鉛又は亜鉛ベース合金で被覆し,その後熱処理を行うことにより,腐食に 対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保しかつ潤滑機能を確保する,亜鉛−鉄\nベース合金化合物又は亜鉛−鉄−アルミニウムベース合金化合物を生じさせ,これ によって,熱処理中または熱間成形中の鋼の腐食防止,脱炭防止,高温での潤滑機 能の確保等の効果を奏することが記載され,実施例1として,鋼板を亜鉛で被膜し\nたものを950℃で熱処理して,亜鉛−鉄合金の被膜を鋼板の表面に生じさせたと\nころ,同被膜が優れた腐食防止効果を有することが確認された旨が記載され,さら に,実施例2として,50−55%のアルミニウム,45−50%の亜鉛及び任意 に少量のケイ素を含有する被膜を熱処理したところ,極めて優れた腐食防止効果を 有する亜鉛−アルミニウム−鉄合金の被膜が得られたことが記載されている。 これらの記載及び弁論の全趣旨を総合すると,当業者は,本件明細書の記載から, 鋼板上に被覆された亜鉛又は「亜鉛ベース合金」の固溶体である亜鉛−アルミニウ ム合金を熱処理して,亜鉛−鉄ベース合金化合物(金属間化合物)又は亜鉛−鉄− アルミニウムベース合金化合物(金属間化合物)を生じさせ,高い機械的強度を持 つ鋼板を製造することができることを認識することができるものと認められる。ま た,当業者は,本件発明の合金化合物において,亜鉛が共通する主要な成分である から,本件発明の課題解決には亜鉛が重要な役割を果たしていると認識するものと 認められる。
イ 前記2で認定したとおり,亜鉛と鉄が金属間化合物を形成するものであ ること,熱処理後の「亜鉛−鉄ベース合金化合物」に亜鉛−鉄金属間化合物が含ま れること及び熱処理により鋼板から鉄の拡散が進んで金属間化合物について複数の 相が生じ得る,すなわち,異なる金属間化合物に変化し得ることが,本件出願時の 技術常識であったことからすると,本件明細書の記載に接した当業者は,熱処理前 の被膜が実施例1とは異なり,亜鉛−鉄金属間化合物であったとしても,実施例1 の記載及び上記技術常識を基礎にして,熱処理前の亜鉛−鉄の金属間化合物の組成, 熱処理の温度や時間等を適宜調節して,熱処理後に異なる亜鉛−鉄ベース合金化合 物(金属間化合物)を生じさせ,高い機械的特性を持つ鋼板を製造することができ ると認識することができると認められる。
ウ また,鋼板上に被覆された熱処理前の「亜鉛ベース合金」が金属間化合 物で,それを熱処理して亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物を生じさせ る場合についても,(1)固溶体である亜鉛−アルミニウム合金の被膜を熱処理して, 極めて優れた腐食防止効果を有する亜鉛−鉄−アルミニウム合金の被膜を生じさせ る実施例2が本件明細書に記載されていること,(2)前記2(1)のとおり,亜鉛−鉄− アルミニウムの金属間化合物の存在が,本件出願時,当業者に知られていた上,熱 処理により鋼板から鉄の拡散が進んで異なる金属間化合物が生じるという本件出願 時に知られていた基本的なメカニズムは,出発点が亜鉛−アルミニウムの固溶体で ある場合と,亜鉛−鉄−アルミニウムの金属間化合物である場合で,異なることを 示す根拠となる事情は認められず,基本的には異ならないと考えられることからす ると,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,実施例2に開示された亜鉛―アルミニウ\nムの固溶体からなる合金のみならず,亜鉛−鉄−アルミニウムの金属間化合物であ っても,熱処理前の同金属化合物の組成,熱処理の温度や時間等を適宜調節して, 亜鉛−鉄−アルミニウムベースの合金化合物(金属間化合物)を生じさせ,高い機 械的特性を持つ鋼板を製造できると認識することができると認められる。 エ 次に,その他の熱処理前の「亜鉛ベース合金」についても検討する。「亜 鉛ベース合金」には,前記2(2)で認定したとおり,多種多様な金属間化合物が該当 し得る一方で,本件明細書には,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,それらの「亜 鉛ベースの金属間化合物」である場合についての明示的な記載はない。 しかし,前記2(1)のとおり,本件出願時,本件発明にいう熱処理後に生じる3元 系以上の亜鉛−鉄ベース又は亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物に該当 するものとして,証拠上認定できるものは,(1)亜鉛−ニッケル−鉄,(2)亜鉛−鉄− アルミニウム,(3)亜鉛−鉄−アルミニウム−ニッケルの3種類のみである。 そうすると,上記のような3元系以上の「亜鉛−鉄ベース合金化合物」又は「亜 鉛−アルミニウム合金化合物」を生じさせることのできる熱処理前の「亜鉛ベース 金属間化合物」たる「亜鉛ベース合金」に含まれ得る亜鉛以外の金属元素としては, 鉄,アルミニウム以外にはニッケルが挙げられる。そして,ニッケルについては, 前記2(1)で認定したとおり,亜鉛−ニッケル−鉄や亜鉛−鉄−アルミニウム−ニ ッケルの金属間化合物の存在が本件出願時に知られていた上,本件出願時から,ニ ッケルは亜鉛と合金を形成して鋼板の被膜を形成すること及び亜鉛−ニッケル合金 メッキは優れた耐食性を有することが知られていた(甲2,乙8)から,当業者は, ニッケルがマイナー成分として加えられても本件発明の課題解決には影響はなく, 上記のように亜鉛が重要な役割を果たしていると認識するといえる。そうすると, 本件明細書の記載に接した当業者は,前記の鉄の拡散が進んで異なる金属間化合物 が生じるという技術常識も踏まえて,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,亜鉛−ニ ッケルの金属間化合物やそれに更にアルミニウムや鉄を含む金属間化合物であって も,それらの組成,熱処理の温度や時間を適宜調節して,亜鉛−鉄ベースの合金化 合物又は亜鉛−アルミニウム−鉄ベースの合金化合物を生じさせ,高い機械的特性 を持つ鋼板を製造できると認識することができると認められる。 そして,本件ではアルミニウムとニッケル以外の金属が亜鉛−鉄と3元系以上の 金属間化合物を形成するかどうかは証拠上必ずしも明らかとなっていないのである から,鉄,アルミニウム及びニッケル以外の金属元素と亜鉛からなる「亜鉛ベース の金属間化合物」の被覆が熱処理により3元系以上の亜鉛−鉄ベース金属化合物又 は亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物を生じさせて本件発明の課題を解 決することを被告が積極的に主張立証していないとしてもサポート要件が充足され なくなるものではない。
オ 以上からすると,当業者は,本件明細書の記載と本件出願時の技術常識 とに基づいて,本件明細書の実施例2で開示された亜鉛重量50%−アルミニウム 重量50%の合金以外の「亜鉛ベース合金」として,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛 −鉄−アルミニウム金属化合物,亜鉛−ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニ ウムや鉄が加わった金属間化合物等を想起し,これらからなる鋼板上の被覆を熱処 理することによって亜鉛−鉄ベース合金化合物(金属間化合物)又は亜鉛−鉄−ア ルミニウムベース合金化合物(金属間化合物)を生じさせて本件発明に係る課題を 解決できることを理解することができ,そのことを被告は証明したと認めることが できる。
(3) 原告は,(1)いかなる金属間化合物で鋼板を被覆し,それを熱処理すること で,本件発明の課題を解決できるいかなる金属間化合物が生じるかを,被告が根拠 となる本件明細書の記載と技術常識を明らかにしつつ具体的に主張立証しなければ ならないが,その主張立証が果たされていない,(2)亜鉛−鉄金属間化合物について, δ1相が鋼板用の被膜として望ましいとする従来の技術常識からすると,当業者は 本件明細書の記載及び技術常識に照らして,本件発明の課題をできるとは認識しな い,(3)亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物と亜鉛−ニッケル−鉄金属間化合物に ついて,限られた温度の3元系状態図しか知られていなかったことからすると,当 業者は,熱処理することでどのような金属間化合物を得られるかを予測することは\nできないから,熱処理前の「亜鉛ベース合金」を本件明細書に開示のない「亜鉛ベ ースの金属間化合物」にまで拡張することはできないと主張する。
ア 上記(1)について,当業者が,「亜鉛ベースの金属間化合物」の被覆とし て,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケ ル金属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等からなる被 覆を想起し,これらの被覆を熱処理することによって本件発明に係る課題を解決で きることを理解できることは,前記(2)で判断したとおりである。
イ 上記(2)について,本件発明は,亜鉛又は亜鉛合金で被覆した鋼板を熱処 理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の鋼と合金化し た層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度を持つように なるという新たな知見に基づくものであり,かつ,実施例1,2で優れた腐食防止 効果を持つ被膜が形成されていることが確認できる(実施例1,2と同じ条件で実 験した場合にこのような結果が得られないことを示す証拠はない。)以上,従来の 技術常識にかかわらず,当業者は,本件明細書の記載と本件出願時の技術常識に基 づいて「亜鉛ベース合金」が「亜鉛ベースの金属間化合物」である場合,本件発明 の課題を解決できることを認識するといえ,原告の主張は採用することができない。
ウ 上記(3)について,前記(2)で検討したとおり,当業者は,本件明細書の記 載及び本件出願時の技術常識から,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物又は亜鉛 −ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等の 被覆であっても課題を解決できると認識することができるというべきであって,こ のことは,限られた温度の3元系状態図しか知られていなかったとしても,左右さ れるものではない。
エ 以上からすると,原告の上記主張は,前記(2)の認定判断を左右するもの ではない。
(4) したがって,原告主張の審決取消事由1は理由がない。
4 取消事由2(実施可能要件についての認定判断の誤り)について\n
(1) 本件発明は方法の発明であるところ,方法の発明における発明の実施とは, その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号),方法の発明につい て実施可能要件を充足するか否かについては,当業者が明細書の記載及び出願当時\nの技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その方法の使用をする ことができる程度の記載が明細書の発明の詳細な説明にあるか否かによるというべ きである。そして,実施可能要件についても特許権者(被告)がその証明責任を負\nう。
(2) 前記3で検討したところからすると,当業者は,本件明細書の記載と本件出 願時の技術常識に基づいて,「亜鉛ベースの金属間化合物」からなる被覆として, 亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケル金 属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等からなる被覆を 想起し,これらの被覆を熱処理することによって,高い機械的特性を持つ鋼板を製 造することができると認められるから,本件明細書の詳細な説明には,本件発明の 方法を使用をすることができる程度の記載があり,実施可能要件は充足されている\nと認められる。
(3) 原告は,実施可能要件について,(1)いかなる金属間化合物で被覆して熱処理 をすると,いかなる金属間化合物が生じ,「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対す る保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得」ることについて主張立証がされていない,\n(2)鉄が被覆に拡散して鉄含有率の少ない金属間化合物が鉄含有率の高い金属間化合 物に変化することにより「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且 つ潤滑機能を確保し得る金属間化合物」となるとはいえない,(3)亜鉛−ニッケル金 属間化合物から亜鉛−ニッケル−鉄金属間化合物が形成されるとは理解できないと 主張する。
ア しかし,上記(1)について,前記3で検討したところからすると,当業者 は,「亜鉛ベースの金属間化合物」の被覆として,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛− 鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニ ウムや鉄が加わった金属化合物等からなる被覆を想起し,これらの被覆を熱処理す ることによって本件発明を実施できると認識するものと認められる。
イ 上記(2)について,前記3で検討したとおり,本件発明が新たな知見に基 づくものであることや実施例1,2で優れた腐食防止効果を持つ被膜が形成されて いることからすると,原告が主張するような事情を考慮しても,当業者は実施可能\nであると認識するものと認められる。
ウ 上記(3)について,前記3で検討したところからすると,当業者は,本件 明細書の記載や本件出願時の技術常識から,亜鉛−鉄−ニッケルの金属間化合物を 生じさせることができると認識すると認められる。

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平成30(行ケ)10110等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年11月14日  知的財産高等裁判所

 無効審判中で訂正がなされて無効理由無しと判断されましたが、知財高裁は、サポート要件を満たしていないとして、審決を取り消しました。

 原告らは,本件明細書の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術常識か ら,本件発明1の「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200 μm未満」という数値範囲の全体にわたり,当業者が本件発明1の課題を解決 できると認識できるものではないから,本件発明1は,サポート要件に適合せ ず,また,本件発明2ないし5,7ないし9も,同様に,サポート要件に適合 しないから,本件発明1〜5,7〜19は,サポート要件に適合するとした本 件審決の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
(1) 本件発明1のサポート要件の適合性について
ア 特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載に際し,発明の詳細な 説明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定したもの であり,その趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明について特 許請求の範囲に記載することになれば,公開されていない発明について独 占的,排他的な権利を請求することになって妥当でないため,これを防止 することにあるものと解される。 そうすると,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明について,特許 請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に適合するか否かは, 当業者が,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から,当該発明 に含まれる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができ ると認識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。 これを本件発明1についてみると,本件発明1の特許請求の範囲(請求 項1)の記載によれば,本件発明1は,「一つ以上の薬剤的に許容な賦形 剤と密に混合させた10mg乃至1000mgの量の微粒子セレコキシ ブ」を含む「固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物」に関す\nる発明であって,「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が2 00μm未満である粒子サイズの分布を有する」ことを特徴とするもので あるから,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる。 そして,前記1(2)の本件明細書の開示事項によれば,本件発明1は,未 調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経口運搬\n可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することを課題とするも\nのであると認められる。
イ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,セレコキシブの生物学的利用 能に関し,「発明の組成物は,粒子の最長の大きさで,粒子のD90が約\n200μm以下,好ましくは約100μm以下,より好ましくは75μ m以下,さらに好ましくは約40μm以下,最も好ましくは約25μm 以下であるように,セレコキシブの粒子分布を有する。通常,本発明の 上記実施例によるセレコキシブの粒子サイズの減少により,セレコキシ ブの生物学的利用能が改良される。」(【0022】),「カプセル若\nしくは錠剤の形で経口投与されると,セレコキシブ粒子サイズの減少に より,セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見した。したが\nって,セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下,好ましくは 約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,さらに好ましくは 約40μm以下,最も好ましくは25μm以下である。例えば,例11 に例示するように,出発材料のセレコキシブのD90粒子サイズを約60 μmから約30μmに減少させると,組成物の生物学的利用能は非常に\n改善される。加えて又はあるいは,セレコキシブは約1μmから約10 μmであり,好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均粒子サイズ を有する。」(【0124】),「湿式顆粒化過程にて,(必要ならば, 一つ又はそれ以上のキャリア材料とともに)セレコキシブは先ず粉砕さ れる若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざまな粉砕器若し くは破砕器が利用することが可能であるが,セレコキシブのピンミリン\nグのような衝撃粉砕により,他のタイプの粉砕と比較して,最終組成物 に改善されたブレンド均一性がもたらせる。例えば,液体窒素を利用し てセレコキシブを冷却することは,セレコキシブを不必要な温度へ加熱 させることを回避するために,粉砕中に必要なことである。前記にて議 論したように,上記粉砕工程中にD90粒子サイズを約200μm以下, 好ましくは約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,さらに 好ましくは約40μm以下,最も好ましくは約25μm以下に小さくす ることは,セレコキシブの生物学的利用能を増加させるためには重要で\nある。」(【0135】)との記載がある。これらの記載は,未調合の セレコキシブを粉砕し,「セレコキシブのD90粒子サイズが約200μ m以下」とした場合には,セレコキシブの生物学的利用能が改善される\nこと,セレコキシブのピンミリングのような衝撃粉砕により,他のタイ プの粉砕と比較して,最終組成物に改善されたブレンド均一性がもたら せることを示したものといえる。
一方で,(1)本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「粒子の 最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子 サイズの分布を有する」構成とする具体的な方法を規定した記載はなく,\n本件発明1の「微粒子セレコキシブ」が「ピンミリングのような衝撃粉 砕」により粉砕されたものに限定する旨の記載もないこと,かえって, 本件明細書の【0135】には,セレコキシブの微細化に関し,「さま ざなま粉砕器若しくは破砕器が利用することが可能である」との記載が\nあること,(2)本件明細書の【0008】には「セレコキシブは,水溶性 媒体には異常なほど溶解しない。例えば,カプセル形態で経口投与させ た場合,未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために, 容易には溶解せず,分散もしない。加えて,長く凝集した針を形成する 傾向を有する結晶形態を有する未調合のセレコシブは,通常,錠剤成形 ダイでの圧縮の際に,融合して一枚岩の塊になる。他の物質とブレンド させたときでも,セレコキシブの結晶は,他の物質から分離する傾向が あり,組成物の混合中にセレコキシブ同士で凝集し,セレコキシブの不 必要な大きな塊を含有する,非均一なブレンド組成物になる。」との記 載があること,(3)本件優先日当時,粉砕によって薬物の粒子径を小さく し,比表面積(有効表\面積)を増大させることにより,薬物の溶出が改 善されるが,他方で,難溶性薬物については,溶媒による濡れ性が劣る 場合には,粒子径を小さくすると凝集が起こりやすくなり,有効表面積\nが小さくなる結果,溶解速度が遅くなることがあり,また,粒子を微小 化することにより粉体の流動性が悪くなり凝集が起こりやすくなること があることは周知又は技術常識であったことに照らすと,難溶性薬物で あるセレコキシブについて,「セレコキシブのD90粒子サイズが約20 0μm以下」の構成とすることにより,セレコキシブの生物学的利用能\ が改善されることを直ちに理解することはできない。
また,本件明細書の記載を全体としてみても,粒子の最大長における セレコキシブ粒子の「D90」の値を用いて粒子サイズの分布を規定する ことの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係について具\n体的に説明した記載はない。
しかるところ,「D90」は,粒子の累積個数が90%に達したときの 粒子径の値をいうものであり,本件発明1の「D90が200μm未満で ある」とは,200μm以上の粒子の割合が10%を超えないように限 定することを意味するものであるが,難溶性薬物の原薬の粒子径分布は, 化合物によって様々な形態を採ること(甲イ72)に照らすと,200 μm以上の粒子の割合を制限しさえすれば,90%の粒子の粒度分布が どのようなものであっても,生物学的利用能が改善されるとものと理解\nすることはできない。 以上によれば,本件明細書の【0022】,【0124】及び【01 35】の上記記載から,「セレコキシブのD90粒子サイズが約200μ m以下」とした場合には,その数値範囲全体にわたり,セレコキシブの 生物学的利用能が改善されると認識することはできない。\n

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平成30(行ケ)1017 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月4日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反、進歩性違反が争われました。知財高裁(1部)は、サポート要件違反無し、進歩性違反ありとして、拒絶審決を維持しました。審決はサポート要件、進歩性違反とも無効理由ありと判断していました。

 前記1(1)によれば,本件明細書には,「課題を解決するための手段」として,「本 発明の一の態様による自動注入可能なアクセスポートは,コンピュータ断層撮影走\n査プロセスに用いられ,隔膜を保持するよう構成される本体と,皮下埋め込み後,\n前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構\築される,前 記アクセスポートの少なくとも1つの,前記自動注入可能なアクセスポートの,自\n動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報と相関がありX線 で可視の,識別可能な特徴とを具え,前記自動注入可能\なアクセスポートは,機械 的補助によって注入され,かつ加圧されることができ,前記隔膜は,前記本体内に 画定された空洞内に,前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜である。」 (【0009】)との記載があることに加え,アクセスポートは,機械的補助(自動注 入可能ポート)によって注入され,かつ加圧されることができること(【0013】),自動注入可能\ポートは,コンピュータ断層撮影(「CT」)走査プロセスにおいて使 用することができること(【0014】),典型的なアクセスポート10は,キャップ 14とベース16の間で隔膜18を保持するために構成することができ,これらが\n集合して,本体20に吐出ステム31の内腔29と流体連通している空洞36を画 定することができること(【0017】,【0018】,図1A,図1B),識別可能な特徴は,アクセスポートが患者の中に埋め込まれた後に知覚可能\であり,自動注射 可能であるアクセスポートと相関関係を有することができること(【0015】),識\n別可能な特徴は,金属プレートのサイズや形状等,X線の画像化を通じて知覚する\nことができるものでもよいこと(【0016】,【0046】)が記載されている。 これらの記載によれば,特許請求の範囲請求項1に記載された本件発明1は,本 件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
(3) 当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであること 前記1(1)のとおり,本件明細書の「発明が解決しようとする課題」には,従来の アクセスポートは,異なる製造業者または型式であっても,互いに区別することが できない実質的に同様の外形を有することがあり,一度アクセスポートが埋め込ま れると,アクセスポートの型式,様式またはデザインを見つけ出すのが難しくなり, 交換タイミング等の目的にとって好ましくないという問題があり(【0007】),皮 下埋め込み後に検知される,少なくとも1つの識別可能な特徴を設けたアクセスポ\nートを提供することは有利であること(【0008】)の記載がある。 また,「課題を解決するための手段」には,アクセスポートは,(例えば,針を含む 注射器を介して)手で注入されることができ,または,機械的補助(例えば,いわゆ る自動注入可能ポート)によって注入され,かつ加圧されることができること(【0\n013】,【0014】),アクセスポートの識別可能な特徴は,アクセスポートに関\n連する情報(例えば製造業者の型式またはデザイン)と相関関係を有することがで き,自動注射可能であるアクセスポートと相関関係を有することができること(【0\n015】)の記載がある。 以上の記載によれば,本件発明1の課題は,自動注入可能なアクセスポートを埋\nめ込んだ後に,そのアクセスポートが自動注入可能なアクセスポートであるのかを\n識別可能とすることであると認められ,その課題の解決手段として,「皮下埋め込み\n後,前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構\築される, 前記アクセスポートの少なくとも1つの,前記自動注入可能なアクセスポートの,\n自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報と相関がありX 線で可視の,識別可能な特徴」を備えるようにしたものであることが認められる。\nそして,本件明細書には,「識別可能な特徴」に関し,触診又は目視観察によって\n知覚することができるもののほか,プレート又は他の金属形状の金属的な特徴のよ うにX線の画像化を通じて知覚できるものでもよく,その金属的特徴は,X線感光 フィルムを,アクセスポートを通過するX線エネルギーに曝すと同時に,X線エネ ルギーへのアクセスポートの露出によって生じるX線で示されること(【0016】, 【0046】),識別可能な特徴が,ひとたび観察され,または別の方法で決定され\nると,アクセスポートのそのような少なくとも1つの特徴の相関関係を達成するこ とができ,アクセスポートに関連する情報を得ることができること(【0015】) の記載がある。 これらの記載に接した当業者は,本件発明1の「識別可能な特徴」を採用したア\nクセスポートは,X線に曝すことで「識別可能な特徴」が知覚でき,これにより「自\n動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報」との相関関係を 達成し,「自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報」を得 ることができ,その結果,皮下埋め込み後に自動注入可能と識別できるものである\nことを認識することができるというべきである。 よって,特許請求の範囲請求項1に記載された本件発明1は,本件明細書の発明 の詳細な説明の記載により,当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できる 範囲のものである。
(4) 被告らの主張について
被告らは,本件明細書には,「X線で可視の,識別可能な特徴」と「自動注入可能\ なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\ な情報」をどのように「相関」させるかという点について記載も示唆もないから,本 件発明1はサポート要件を欠いていると主張する。 しかし,本件明細書には,「識別可能な特徴は,前記アクセスポートに関連する情\n報・・・と相関関係を有することができる」ものであり,「アクセスポートからの識別可能な特徴は,異なる型式またはデザインの,別のアクセスポートの他の識別可能\な 特徴の,すべてではないにしても大部分に関して唯一のものである」(【0015】) との記載があり,触診によって知覚される識別可能な特徴の例として,本体を部分\n的な略ピラミッド状の形状とすること(【0020】,【0021】,図1A,図1B),X線の画像化を通じて知覚することができる識別可能な特徴の例として,アクセス\nポートの金属的な特徴のサイズ,形状,又はサイズと形状の両方が,アクセスポー トの識別のため選択的に調整されること(【0046】)が記載されている。 これらの記載によれば,「識別可能な特徴」を,当該アクセスポートに固有の形状\nやサイズにすることによりアクセスポートを特定可能にし,もって,「アクセスポー\nトに関連する情報…と相関関係を有することができる」ようにすることが開示され ている。そして,本件発明1の「自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能\に 定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」は,「アクセスポートに関連す\nる情報」であるから,上記記載は,「自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可\n能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報」と「X線で可視の,識別 可能な特徴」との「相関」の具体的態様の1つとして理解することができるという\nべきである。
・・・
(4) 相違点1の容易想到性
ア 各文献の記載事項
本件出願の優先日当時の各文献には,次の記載がある(下記記載中の甲11図1 0,甲12図2−1,2−3,2−4は別紙周知例図面目録のとおり。)。
(ア) 米国特許第5851221号明細書(甲11)には,(1)予め形成されたヘッ\nダモジュール12を機密封止筐体14に取り付けて製造される埋め込み型の医療機 器において,ヘッダモジュール12のハウジング20がX線不透過性のIDプレー ト60を備えること(第8欄23行〜34行,図10),(2)埋め込み型医療機器には, 埋め込み可能な薬剤供給装置,IPG(心臓ペースメーカ,ペースメーカ‐心臓除\n細動器,神経,筋肉及び神経刺激器,心筋刺激器など),埋め込み型心臓信号モニタ 及びレコーダなどが含まれること(第6欄39行〜54行)が開示されている。
(イ) IsoMedの説明書(甲12)は,肝動脈の注入治療のための臨床のレフ ァレンスガイドであり ,(1)IsoMed注入システムは,IsoMed定量ポンプ と,メドトロニック血管カテーテルを含み,化学療法用薬剤の肝動脈注入に使用す る場合,まずカテーテルをポンプに接続し,ポンプは腹部の皮下腔に配置し,カテ ーテルは腹壁内にくぐらせその端部は胃十二指腸動脈等に配置すること(2−2頁\n1行〜8行,図2−1),(2)IsoMed定量ポンプは,化学療法薬剤またはヘパリ ン化液剤を貯蔵するリザーバーと,セルフシーリング隔膜を有し,リフィル針によ りリザーバーにアクセス可能なセンターリザーバフィルポートとを備えること(2\n−3頁14行〜18行,2−4頁1行〜6行,図2−3),(3)IsoMed定量ポン プはさらに,X線識別タグ等を備え,X線識別タグは,メドトロニック識別子,ポン プの型番,リザーバーの体積及び流量を記録していること(2−4頁10行〜14 行,図2−4)が開示されている。
(ウ) Robert M. Steiner ほか「心臓ペースメーカの放射線学(The radiology of ca rdiac pacemakers)」と題する論文(RadioGraphics,Vol.6,No.3,p373−39 9。乙1)には,ジェネレーターのX線画像は,ペースメーカの製造業者,タイプ及 び作用機序を識別するために有用であるが,何十もの製造業者が何百ものモデルを\n製造しており,流通している全てのペースメーカに精通している医師はいないため, 製造業者から通常提供される,X線画像上の外観やX線不透過性コードを示す参照 チャートが利用可能であることが開示されている(379頁)。\n
(エ) Sergio L. Pinski ほか「植込み型除細動器:非電気生理学者への影響(Implan table Cardioverter-Defibrillators: Implications for the Nonelectrophysiologist)」と題す る論文(Annals of Internal Medicine Vol.122, No.10,p770−777。乙 2)には,全ての製造業者の植込み型除細動器は,X線不透過性の識別子を有する ので,緊急時にはX線を透過させることによりデバイスの識別が可能になることが\n開示されている(771頁左欄14行〜26行)。
(オ) John L. Atlee ほか「心調律管理装置(第2部)(Cardiac Rhythm Managemen t Devices (Part II) Perioperative Management)」と題する論文(Anesthesiology, Vol.95,No.6,p1492−1506。乙3)には,既存のほとんどのペースメーカ 及びICD には,これらのデバイスが埋め込まれている領域の胸部X線写真をみれ ば,デバイスの製造業者及びモデルが識別できる固有のX線不透過性コード(X線 又はX線画像上の署名)が刻印されていることが開示されている(1502頁左欄 11行〜右欄15行)。
(カ) 米国特許第4863470号明細書(甲14)には,(1)乳房用,ペニス,膀 胱,失禁用装置等のインプラントは,体内への埋め込み前及び後の両方において容 易に識別可能であると好都合であること(第1欄14行〜35行),(2)皮下移植用の インプラントについて,X線不透過性の識別マーカーを囲むX線透過部を含むよう にすることで,識別マーカーは埋め込み前において視認可能であるとともに,埋め\n込み後はX線撮影によって判読可能であること(第1欄49行〜57行),(3)識別マ ーカーは,インプラントのサイズのほか,製造業者,製造年,種類等を示すことがで きること(第2欄30行〜46行)が開示されている。
イ 周知技術の認定
(ア) 上記アの記載事項によれば,本件優先日当時,心臓用の医療装置(甲11, 乙1〜3),皮下埋込型の薬液注入装置(甲12),人工乳房(甲14)等の,人体に 埋め込まれて使用される医療機器において,人体に埋め込まれた後に当該装置を特 定する情報を含むX線不透過性の識別子,すなわち,X線で可視の識別可能な特徴\nを備えることは,既に臨床レベルで採用された,周知の技術であったと認められる。
(イ) 原告の主張について
原告は,甲11,甲12の各文献に記載されたわずか2件の発明を根拠に,人体 に埋め込まれて使用される医療機器一般について,X線で可視な特徴を備えること が周知技術と認定することはできず,また,乙1〜3,甲14の各文献の記載を考 慮したとしても,これらに開示されているのは,人体に埋め込まれて使用される心 臓用医療機器であるから,アクセスポートを含む皮膚埋込型の医療機器全般におけ る周知技術を認定することはできないと主張する。 しかし,装置の型番を示すX線で可視な特徴を備えることは,心臓用医療機器の みならず,人工乳房,肝動脈に抗がん剤を投入するポンプなど,人体に埋め込まれ て使用される多様な医療装置において行われていたことは,上記アのとおりである。 そして,甲12には,化学療法用薬剤の肝動脈注入ポンプを腹部の皮下腔に配置 し,体外から薬剤を注入することが記載されていること,甲11には,X線で可視 な特徴としてX線不透過性のIDプレート60を備える医療機器の例として,心臓 ペースメーカ,植込み型除細動器などのほかに薬剤供給装置が挙げられており,薬 剤供給の用途が示唆されていることに照らすなら,装置の型番を示すX線で可視な 特徴を備えることは,アクセスポートを含む皮膚埋込型の医療機器においても,周 知技術であったと認められ,原告の上記主張は採用できない。
ウ 容易想到性の判断
(ア) 引用発明は,造影CTにおいて,造影剤を注入するために用いられる皮下埋 込型のアクセスポートであって,人体に埋め込まれて使用される医療機器の分野に おける上記イの周知技術と同一の技術分野に属している。また,引用発明に上記周 知技術を適用することについて,阻害要因があることは認められない。そうすると, 引用発明に上記周知技術を適用し,人体に埋め込まれた後に当該装置を特定する情 報を含む,X線で可視の識別可能な特徴を備えるようにすることは,当業者が適宜\nなし得ることであるというべきである。 そして,引用発明である「自動注入可能なアクセスポート」を特定する情報は,自\n動注入可能なアクセスポートを自動注入可能\に定格されていないアクセスポートと 区別可能な情報である。そうすると,引用発明を特定する情報を含む,X線で可視\nの識別可能な特徴によって,上記「情報」を識別することができるから,上記識別可\n能な特徴は,「前記アクセスポートの少なくとも一つの,前記自動注入可能\なアクセ スポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能\な情報」 と「相関」があるということができる。 よって,引用発明に上記周知技術を適用し,相違点1に係る構成とすることは,\n当業者が適宜なし得ることである。
(イ) 原告の主張について
原告は,本件発明の「相関」は,添付文書に記載された情報に基づいて,「識別可 能な特徴」に,「自動注入可能\」であることを示すものとしての意味が直接的に付与 されていることが必要であり,医師等が添付文書などに基づいて,その「識別可能\nな特徴」の意味を理解できることを要し,単に「ポートの型式」が示されているだけ では,それ自体に「自動注入可能」かどうかの直接的な意味付けはない以上,「自動\n注射可能である前記アクセスポートと相関関係」があるとはいえないから,「前記自\n動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能\に定格されていないアクセスポート と区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能\な特徴」に該当するとはい えない旨主張する。 しかし,本件発明1の特許請求の範囲には,「相関」の具体的態様について限定は ない上,本件明細書にも,「相関」について,添付文書に記載された情報に基づいて, 「識別可能な特徴」に,「自動注入可能\」であることを示すものとしての意味が直接 的に付与されていることが必要であり,医師等が添付文書などに基づいて,その「識 別可能な特徴」の意味を理解できることを要することの記載や示唆はない。\nそして,本件明細書の「識別可能な特徴が,ひとたび観察され,または別の方法で\n決定されると,アクセスポートのそのような少なくとも1つの特徴の相関関係を達 成することができ,そして,前記アクセスポートに関連する情報を得ることができ る」(【0015】)との記載によれば,「識別可能な特徴」と「アクセスポートに関連する情報」との「相関」が達成されると,「識別可能\な特徴」から「アクセスポート に関連する情報を得ることができる」ようになって,そのアクセスポートを特定で きるようになることを理解することができるところ,その具体的態様については, 当業者が適宜設定できるものと解される。

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平成31(行ケ)10003  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年11月11日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反が争われました。原告は、「本件発明の課題は,市販品として問題のない口腔内崩壊錠が提供されるかという観点から判断されるべき」と主張しましたが、知財高裁(3部〉は、サポート要件違反とした審決を維持しました。

 原告が本件発明の実施例であると主張する実施例4においては,錠剤硬度 117N,摩損度0.4パーセント(7/12)(ただし,括弧内は明らか なひび・割れ・欠けの個数/試験数),崩壊時間39秒(日局(補助盤な し)),7秒(日局(補助盤あり)),40秒(口腔内(静的))であった ことが記載されている。 他方,本件明細書の実施例の摩損度の評価は,錠剤の摩損度試験法(日局 参考情報)に従って行われるとされているところ(【0062】),日本薬 局方参考情報(乙1)によれば,錠剤の摩損度試験法においては,明らかに ひび,割れ,欠けが見られる錠剤があるときはその試料は不適合であるとさ れている。 そうすると,「明らかなひび・割れ・欠け」の個数が12錠中7錠であ り,摩損度が0.4%とする実施例4の摩損度の評価の記載を,日本薬局方 参考情報における錠剤の摩損度試験法で「明らかなひび・割れ・欠け」が見 られる錠剤があるときはその試料は不適合であるとされていることとの関係 で一義的に整合するように理解することができない。そして,本件明細書に は「明らかなひび・割れ・欠け」の個数が12錠中7錠である実施例4の場 合に,どのような方法で摩損度を測定した結果0.4%という数値を得たの かに関する説明はなく,この点についての当業者の技術常識を示す的確な証 拠もない。 以上によれば,当業者は,本件明細書の実施例4の記載から,当該実施例 において低い摩損度を含む本件課題が実現されていることを理解することが できないし,本件明細書のその余の部分にも,本件発明が,「高い原薬含有 率で,速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩損度を両立した炭酸ランタンの 口腔内崩壊錠を提供する」という本件課題を解決できることを示唆する記載 はなく,この点に関する技術常識を示す的確な証拠もない。 したがって,本件発明について,本件明細書に記載された発明で,発明の 詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できる と認識できる範囲のものであり,また,その記載や示唆がなくとも当業者が 出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の ものであるということができないから,本件発明がサポート要件に適合する ものということはできない。
(5) 原告の主張について
ア 原告は,「明らかなひび・割れ・欠け」は,摩損度とは異なる概念であ り,本件発明の課題には含まれない,また,仮に含まれるとしても,本件 発明の課題は,「速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩損度の両立」であ るから,本件発明はこれを解決するものであると主張する。 前記(3)ア及びイにみたとおり,本件明細書においては,発明を実施する ための形態,実施例の箇所において,それぞれ速やかな崩壊性,高い硬 度,低い摩損度の具体的な評価方法について記載している。特に,摩損度 について,発明を実施するための形態において,「『低い』摩損度とは, 例えば,錠剤の摩損度試験法(日局参考情報)に従い,試験を行うとき, 0.5%未満(明らかなひび・割れ・欠けなし)である。」(【005 0】)とされ,また,実施例において,「摩損度は,錠剤の摩損度試験法 (日局参考情報)に従い,試験を行った。摩損度の目標品質は,通常の錠 剤と変わらない取り扱いを目指し,0.5%未満(明らかなひび・割れ・ 欠けなし)とした。」(【0062】)と記載されている。 そして,本件明細書は,かかる評価方法に従って,崩壊性や硬度につい て,比較例や実施例を評価しており,摩損度については,明らかなひび, 割れ,欠けの個数も含めて評価している(【0068】,【0072】, 【0076】)。
また,摩損度について,本件明細書が引用する日本薬局方の参考情報 は,「試験後の錠剤試料に明らかにひび,割れ,あるいは欠けの見られる 錠剤があるとき,その試料は不適合である。もし結果が判断しにくいと き,あるいは質量減少が目標値より大きいときは,更に試験を二回繰り返 し,三回の試験結果の平均値を求める。多くの製品において,最大平均質 量減少(三回の試験の)が1.0%以下であることが望ましい。」(乙 1)として,摩損度試験の評価の際に,明らかなひび,割れ,欠けがある 場合にそもそも試料が不適合であるとしてかかる概念も含めて評価の対象 とするものである。 そして,前記(3)に引用した本件明細書の記載のほかに,本件明細書中に おいて,本件課題の具体的な評価方法としても,個別の実施例の記載につ いても,本件発明の課題解決をどのように評価するかについての基準や考 え方は窺われない。 以上によれば,本件課題である「速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩 損度の両立」が解決されたといえるためには,「低い摩損度」概念の中に 「明らかなひび・割れ・欠け」がないことも含んだ上で,「速やかな崩壊 性」,「高い硬度」及び「低い摩損度」を実現することが必要であると解 される。
イ 原告は,本件発明の課題が達成されているかどうかは市販品として問題 のない口腔内崩壊錠が提供されているかどうかという観点から判断される ものであるなどと主張する。 しかしながら,本件明細書には,原告の主張する「市販品として問題の ない口腔内崩壊錠が提供されているかどうか」について何らの記載もな く,本件明細書における摩損度試験法に関する明示的な記載に反してこの ような評価をすべき根拠は見当たらない。
ウ 原告は,実施例4の摩損度及び「明らかなひび・割れ・欠け」の記載に 接すると,当業者であれば,日本薬局方の参考情報(乙1)が想定する摩 損度が1パーセントを明らかに超えるようなレベルの「明らかなひび・割 れ・欠け」があるとまではいえないものがカウントされていると理解でき るなどと主張する。 しかしながら,そもそも,本件明細書は,摩損度試験について,日本薬 局方の参考情報(乙1)に従うとした上で,それと同様の表現をした「明\nらかなひび・割れ・欠け」の有無を問題としているのであって,本件明細 書と日本薬局方の「明らかなひび・割れ・欠け」が異なる概念であること は何ら読み取れない。
エ 原告は,本件特許出願時において,打錠圧を上げることによって「明ら かなひび・割れ・欠け」の解消が可能であることや,予\圧をすることによ って「明らかなひび・割れ・欠け」の解消が可能であることが技術常識で\nあったとして,このような技術常識に照らせば,本件発明は本件発明の課 題を解決できると認識できる範囲のものであることを主張する。 しかしながら,本件課題は,「高い原薬含有率で,速やかな崩壊性,高 い硬度及び低い摩損度を両立した炭酸ランタンの口腔内崩壊錠を提供す る」というものであるところ,甲41〜44,54,69〜74(枝番を 含む。)には,本件発明の口腔内崩壊錠について,打錠圧を上げ,あるい は,予圧をすることによって,「速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩損\n度を両立」することができることを示すものではない。本件発明の構成に\nついて,打錠圧を上げ,あるいは,予圧をすることによって本件課題を解\n決することができるとの技術常識があるとは認められない。 そして,かかる技術常識が存在しない以上,それを裏付ける実験データ (甲45,53)を考慮することはできない。 なお,本件明細書には,「適切な硬度が得られる打錠圧で所定の質量の 錠剤を製造する。」(【0059】)と記載されているものの,「ひび・ 割れ・欠け」の解消との関係で,打錠圧の調整をすべきことについては記 載がなく,当業者に対し,課題解決への示唆があるとも認められない。 037/089037

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平成31(行ケ)10015  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年11月11日  知的財産高等裁判所

 争点の一つがPBPクレームの明確性判断です。請求項7について、審決はPBPクレームについて明確性違反ありと判断されました。これに対して、原告は、「製造方法が物のどのような構造又は特性を表\しているのかは明らか」と争いましたが、裁判所は無効審決を維持しました。

 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合) において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明 が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当 該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか,又はお よそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁平成24年 (受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号70 0頁参照)。
(2) 本件発明7について
本件発明7は,「前記溶剤処理が,リード線端部にアルミ芯線を溶接した 直後に行われるものである,請求項6に記載のタブ端子。」として,請求項 6の「前記の酸化スズ形成処理が,溶剤処理により行われる,請求項1また は2に記載のタブ端子。」を引用するものであり,「酸化スズ形成処理が溶 剤処理により行われる」との記載は製造方法であるから,特許請求の範囲に その物の製造方法が記載されている場合に当たる。 そうすると,本件発明7について明確性要件に適合するというためには, 出願時において本件発明7の「タブ端子」を,その構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在することを要するところ,原告はかかる事情について,具体的な主張立証を しない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件明細書の記載(【0026】,【0028】)から,ウィ スカ発生の抑制を目的とした酸化スズが形成されているというタブ端子の 溶接部分の構造ないし特性を示す目的で「溶剤処理」という用語を用いていることが読み取れるとして,製造方法が物のどのような構\造又は特性を表しているのかは,本件発明の記載及び本件明細書の記載から極めて明白であり,上記(1)の不可能又は非実際的事情について検討するまでもなく,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確と\nいえないから,明確性要件に適合すると主張する。 しかし,本件明細書には,請求項3に係る「熱処理」及び請求項6に係 る「溶剤処理」により酸化スズ形成処理が施されたタブ端子についての記 載があるものの,これらの熱処理及び溶剤処理により形成された酸化スズ が,それぞれどのような構造又は特性を有するものであるのかについての記載はない。そうすると,本件明細書の記載から,本件発明7の引用する\n請求項6に係る溶剤処理により形成された酸化スズがどのような構造又は特性を有するかが明らかであるとはいえないし,また,それが技術常識か\nら明らかであるとみるべき証拠もない。 したがって,原告の主張は採用できない。
イ また,原告は,仮に,本件発明において問題としている課題解決手段で ある酸化スズ形成処理を超えてその構造・特性や熱処理や溶剤処理を行うにタブ端子に対して生じる変化を事細かに規定しなければならないとす\nれば,それは上記(1)の最高裁判決に示す不可能又は非実際的事情に該当すると主張する。\nしかし,原告の主張する点は,本件発明7の「タブ端子」を,その構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか,又はおよそ実際的でないことを示す事情を示すものではなく,上記(2)の判断を左右するもので はない。
ウ さらに,原告は,審決が明確性要件の判断に先立ち,本件発明6につい ての進歩性の判断を行っていることは,実質的に本件発明が明確であるこ とを前提としていると主張する。 しかし,進歩性の欠如と明確性要件適合性は,異なる無効理由であり, 進歩性の判断と明確性要件適合性の判断に論理的な先後関係があるわけで はないから,原告の主張は採用できない。

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平成30(行ケ)10092  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月30日  知的財産高等裁判所

 無効理由無し(サポート要件、実施可能要件、進歩性)とした審決が維持されました。

 上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク 質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結 合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使 用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は, かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって, PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより, 対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症 などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することにあると理解することができる。\n本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用 してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体 を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体 について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合 しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること, また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含 まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。 21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21 B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗 体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細 書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個 の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同 様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体 を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認 識できると認められる。 さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免 疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や 31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業 者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって, 本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗 体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら れる。 以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル 抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成 物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できることを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に\n適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結 合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定 される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照 抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし, 参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。そして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特\n定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために, その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない(甲34,35)。\n前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し, 本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参 照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。(4) 本件各訂正発明のサポート要件適合性 なお,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,本件各訂正発明も,いずれもサポート要件に適合するものと認められ る。
(5) 小括
以上によれば,本件各発明及び本件各訂正発明は,いずれもサポート要件に適合するというべきである。
4 争点(2)イ(実施可能要件違反)について\n
(1) 前記3(1)の認定事実によれば,本件各明細書の記載から,本件発明1−1及 び2−1の抗体及び本件発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し,使用するこ とができるものと認められるから,本件各明細書の発明の詳細な説明の記載は,当 業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができる。\nしたがって,本件各発明は,いずれも,実施可能要件に適合するものと認められる。\n
(2) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な\n時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能要件を満たさない旨主張する。\nしかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求められるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程\n度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる\nからである。 本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ, PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗 体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そして,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す\nることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離 されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度 の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ\nることまで記載されている必要はない。 また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない 抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認 識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に記載されているかどうかは,実施可能\要件とは関係しないというべきである。そして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細 書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範 囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得 る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 よって,控訴人の主張は採用できない。
(3) 本件各訂正発明の実施可能要件の適合性\n
なお,前記3(4)のとおり,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,当業者は,本件各明細書の記載から,本件訂正発明1 −1及び2−1の抗体及び本件訂正発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し, 使用することができるものと認められ,本件各訂正発明も,いずれも実施可能要件に適合するものと認められる。\n

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平成30(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月18日  知的財産高等裁判所

 特36条4項「実施可能要件」という。)の無効理由なしとした審決が維持されました。

本件各発明の方法は,1)ラテックスの第一層(請求項1)や織布又はメリヤ スの第一層(請求項2)が形成された型を,水性ラテックスエマルジョン中で浸漬 被覆することによりラテックスの第二層を形成し,2)ラテックスの第二層に離散し た多面的な塩の粒子を塗布することでラテックスの第二層をゲル化し,ラテックス の第二層の中の塩の粒子の形状を固定した上,3)ラテックスの第二層を熱硬化させ る前にラテックスの第二層から離散した多面的な塩の粒子を溶解し,4)その後,形 成した層を熱硬化させ,硬化した第二層を形成し,5)型から硬化したテクスチャー ド加工手袋を外すというものである。 そして,本件各発明の方法に用いられる「型」(【0013】),「凝固剤」(【0014】【0026】),「水性ラテックスエマルジョン」ないし「発泡体」に相当するもの(【0015】【0028】【0032】),「塩」ないし「離散粒子」に相当するもの(【0010】〜【0012】【0018】【0033】),「織布」ないし「メリヤス」(【0022】)については,いずれも本件明細書に具体的にその意義(使用目的),材料名,調合方法又は入手方法等が記載されている。 また,本件各発明の方法に係る具体的手法は,離散した塩粒子のサイズ及び塗布 方法(【0010】【0012】【0018】【0033】)や,塩の粒子の溶解がラテックスの第二層の熱硬化の前に行われること(【0009】【0018】【0034】 〜【0036】)を含めて,いずれも本件明細書に実施例を交えて詳細に記載されて いる(【0009】〜【0016】【0018】【0022】【0026】〜【003 8】)。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明には,これに接した当業者が,本件各発 明の方法の使用を可能とする具体的な記載がある。\nイ また,本件各発明により生産されるのは,テクスチャード加工表面被覆を有\nする手袋であるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,テクスチャード加工 表面被覆は,離散粒子(塩)の逆像が多面的な痕となって残ったものであり,手袋の\n外側又は内側のいずれかに取り入れられることが記載されている(【0007】【0 009】【0011】)。
ウ このように,本件明細書には,その具体的な実施の形態の記載もあることか らすれば,当業者において,発明の詳細な説明の記載内容及び出願時の技術常識に 基づき,その製造方法を使用し,かつ,その製造方法により生産した手袋を使用す ることができる程度の記載があるということができ,使用のために当業者に試行錯 誤を要するものともいえない。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合するもの\nと認められる。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件各発明に係る手袋の生産方法が,甲1,甲2及び甲7に記載さ れた手袋の生産方法よりも優れた作用効果を有する手袋の生産をすることができる ように記載されていないとし,また,本件明細書に記載されたつまみ力試験ではグ リップ力の測定はできず,そこでされている従来の被告の自社製品等との比較も適 切なものでないとして,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件各 発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないと主張す\nる。
イ 甲1,甲2及び甲7には,次の各記載がある。
・・・・
ウ しかしながら,本件各発明の方法により製造される手袋が,原告の引用する 手袋(甲1,甲2及び甲7)よりも優れたグリップ力を有するか否か,及び,つまみ 力試験でグリップ力の測定ができるか否かは,本件明細書の発明の詳細な説明の記 載が実施可能要件を満たしているか否かとは関係がない。\nなお,証拠(甲18)によれば,原告の主張は,本件各発明が,甲1,甲2及び甲 7等の従来技術よりも手袋のグリップ力を向上させることを課題とするにもかかわ らず,その課題の達成が追試可能な形で示されていないという趣旨のものと理解で\nきないわけではない。しかし,そうであれば,結局のところ,本件各発明の上記従来 技術に対する進歩性を問題とするものであり,発明の公開の程度を問題とするもの ではないから,いずれにせよ実施可能要件の充足を争う主張としては失当というほ\nかない。

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平成30(行ケ)10093  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月19日  知的財産高等裁判所

 サポート要件・実施可能要件違反の無効理由なしとした審決が維持されました。\n

 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否 か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のであり,サポート要件の存在については,特許権者(被告)がその証明責任を負 うものである。 そして,前記のとおり,本件では熱処理前の「亜鉛ベース合金」が「亜鉛ベース の金属間化合物」である場合にもサポート要件が充足されているかどうかが争点と なっているところ,以下,この争点について,上記のような証明責任が果たされて いるかどうかについて判断する。
(2) ア 前記1のとおり,本件明細書には,亜鉛又は亜鉛合金で被覆した鋼板 を熱処理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の鋼と合 金化した層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度を持つ ようになるという新たな知見が得られたことに基づき,熱間成形や熱処理の前に, 鋼板を亜鉛又は亜鉛ベース合金で被覆し,その後熱処理を行うことにより,腐食に 対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保しかつ潤滑機能を確保する,亜鉛−鉄\nベース合金化合物又は亜鉛−鉄−アルミニウムベース合金化合物を生じさせ,これ によって,熱処理中または熱間成形中の鋼の腐食防止,脱炭防止,高温での潤滑機 能の確保等の効果を奏することが記載され,実施例1として,鋼板を亜鉛で被膜し\nたものを950℃で熱処理して,亜鉛−鉄合金の被膜を鋼板の表面に生じさせたと\nころ,同被膜が優れた腐食防止効果を有することが確認された旨が記載され,さら に,実施例2として,50−55%のアルミニウム,45−50%の亜鉛及び任意 に少量のケイ素を含有する被膜を熱処理したところ,極めて優れた腐食防止効果を 有する亜鉛−アルミニウム−鉄合金の被膜が得られたことが記載されている。 これらの記載及び弁論の全趣旨を総合すると,当業者は,本件明細書の記載から, 鋼板上に被覆された亜鉛又は「亜鉛ベース合金」の固溶体である亜鉛−アルミニウ ム合金を熱処理して,亜鉛−鉄ベース合金化合物(金属間化合物)又は亜鉛−鉄− アルミニウムベース合金化合物(金属間化合物)を生じさせ,高い機械的強度を持 つ鋼板を製造することができることを認識することができるものと認められる。ま た,当業者は,本件発明の合金化合物において,亜鉛が共通する主要な成分である から,本件発明の課題解決には亜鉛が重要な役割を果たしていると認識するものと 認められる。
イ 前記2で認定したとおり,亜鉛と鉄が金属間化合物を形成するものであ ること,熱処理後の「亜鉛−鉄ベース合金化合物」に亜鉛−鉄金属間化合物が含ま れること及び熱処理により鋼板から鉄の拡散が進んで金属間化合物について複数の 相が生じ得る,すなわち,異なる金属間化合物に変化し得ることが,本件出願時の 技術常識であったことからすると,本件明細書の記載に接した当業者は,熱処理前 の被膜が実施例1とは異なり,亜鉛−鉄金属間化合物であったとしても,実施例1 の記載及び上記技術常識を基礎にして,熱処理前の亜鉛−鉄の金属間化合物の組成, 熱処理の温度や時間等を適宜調節して,熱処理後に異なる亜鉛−鉄ベース合金化合 物(金属間化合物)を生じさせ,高い機械的特性を持つ鋼板を製造することができ ると認識することができると認められる。
ウ また,鋼板上に被覆された熱処理前の「亜鉛ベース合金」が金属間化合 物で,それを熱処理して亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物を生じさせ る場合についても,1)固溶体である亜鉛−アルミニウム合金の被膜を熱処理して, 極めて優れた腐食防止効果を有する亜鉛−鉄−アルミニウム合金の被膜を生じさせ る実施例2が本件明細書に記載されていること,2)前記2(1)のとおり,亜鉛−鉄− アルミニウムの金属間化合物の存在が,本件出願時,当業者に知られていた上,熱 処理により鋼板から鉄の拡散が進んで異なる金属間化合物が生じるという本件出願 時に知られていた基本的なメカニズムは,出発点が亜鉛−アルミニウムの固溶体で ある場合と,亜鉛−鉄−アルミニウムの金属間化合物である場合で,異なることを 示す根拠となる事情は認められず,基本的には異ならないと考えられることからす ると,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,実施例2に開示された亜鉛―アルミニウ\nムの固溶体からなる合金のみならず,亜鉛−鉄−アルミニウムの金属間化合物であ っても,熱処理前の同金属化合物の組成,熱処理の温度や時間等を適宜調節して, 亜鉛−鉄−アルミニウムベースの合金化合物(金属間化合物)を生じさせ,高い機 械的特性を持つ鋼板を製造できると認識することができると認められる。
エ 次に,その他の熱処理前の「亜鉛ベース合金」についても検討する。「亜 鉛ベース合金」には,前記2(2)で認定したとおり,多種多様な金属間化合物が該当 し得る一方で,本件明細書には,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,それらの「亜 鉛ベースの金属間化合物」である場合についての明示的な記載はない。 しかし,前記2(1)のとおり,本件出願時,本件発明にいう熱処理後に生じる3元 系以上の亜鉛−鉄ベース又は亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物に該当 するものとして,証拠上認定できるものは,1)亜鉛−ニッケル−鉄,2)亜鉛−鉄− アルミニウム,3)亜鉛−鉄−アルミニウム−ニッケルの3種類のみである。 そうすると,上記のような3元系以上の「亜鉛−鉄ベース合金化合物」又は「亜 鉛−アルミニウム合金化合物」を生じさせることのできる熱処理前の「亜鉛ベース 金属間化合物」たる「亜鉛ベース合金」に含まれ得る亜鉛以外の金属元素としては, 鉄,アルミニウム以外にはニッケルが挙げられる。そして,ニッケルについては, 前記2(1)で認定したとおり,亜鉛−ニッケル−鉄や亜鉛−鉄−アルミニウム−ニ ッケルの金属間化合物の存在が本件出願時に知られていた上,本件出願時から,ニ ッケルは亜鉛と合金を形成して鋼板の被膜を形成すること及び亜鉛−ニッケル合金 メッキは優れた耐食性を有することが知られていた(甲2,乙8)から,当業者は, ニッケルがマイナー成分として加えられても本件発明の課題解決には影響はなく, 上記のように亜鉛が重要な役割を果たしていると認識するといえる。そうすると, 本件明細書の記載に接した当業者は,前記の鉄の拡散が進んで異なる金属間化合物 が生じるという技術常識も踏まえて,熱処理前の「亜鉛ベース合金」が,亜鉛−ニ ッケルの金属間化合物やそれに更にアルミニウムや鉄を含む金属間化合物であって も,それらの組成,熱処理の温度や時間を適宜調節して,亜鉛−鉄ベースの合金化 合物又は亜鉛−アルミニウム−鉄ベースの合金化合物を生じさせ,高い機械的特性 を持つ鋼板を製造できると認識することができると認められる。 そして,本件ではアルミニウムとニッケル以外の金属が亜鉛−鉄と3元系以上の 金属間化合物を形成するかどうかは証拠上必ずしも明らかとなっていないのである から,鉄,アルミニウム及びニッケル以外の金属元素と亜鉛からなる「亜鉛ベース の金属間化合物」の被覆が熱処理により3元系以上の亜鉛−鉄ベース金属化合物又 は亜鉛−鉄−アルミニウムベースの金属間化合物を生じさせて本件発明の課題を解 決することを被告が積極的に主張立証していないとしてもサポート要件が充足され なくなるものではない。
オ 以上からすると,当業者は,本件明細書の記載と本件出願時の技術常識 とに基づいて,本件明細書の実施例2で開示された亜鉛重量50%−アルミニウム 重量50%の合金以外の「亜鉛ベース合金」として,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛 −鉄−アルミニウム金属化合物,亜鉛−ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニ ウムや鉄が加わった金属間化合物等を想起し,これらからなる鋼板上の被覆を熱処 理することによって亜鉛−鉄ベース合金化合物(金属間化合物)又は亜鉛−鉄−ア ルミニウムベース合金化合物(金属間化合物)を生じさせて本件発明に係る課題を 解決できることを理解することができ,そのことを被告は証明したと認めることが できる。
(3) 原告は,1)いかなる金属間化合物で鋼板を被覆し,それを熱処理すること で,本件発明の課題を解決できるいかなる金属間化合物が生じるかを,被告が根拠 となる本件明細書の記載と技術常識を明らかにしつつ具体的に主張立証しなければ ならないが,その主張立証が果たされていない,2)亜鉛−鉄金属間化合物について, δ1相が鋼板用の被膜として望ましいとする従来の技術常識からすると,当業者は 本件明細書の記載及び技術常識に照らして,本件発明の課題をできるとは認識しな い,3)亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物と亜鉛−ニッケル−鉄金属間化合物に ついて,限られた温度の3元系状態図しか知られていなかったことからすると,当 業者は,熱処理することでどのような金属間化合物を得られるかを予測することは\nできないから,熱処理前の「亜鉛ベース合金」を本件明細書に開示のない「亜鉛ベ ースの金属間化合物」にまで拡張することはできないと主張する。
ア 上記1)について,当業者が,「亜鉛ベースの金属間化合物」の被覆とし て,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケ ル金属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等からなる被 覆を想起し,これらの被覆を熱処理することによって本件発明に係る課題を解決で きることを理解できることは,前記(2)で判断したとおりである。
イ 上記2)について,本件発明は,亜鉛又は亜鉛合金で被覆した鋼板を熱処 理又は熱間成形を行うために温度を上昇させたときに,被膜が鋼板の鋼と合金化し た層を形成し,この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度を持つように なるという新たな知見に基づくものであり,かつ,実施例1,2で優れた腐食防止 効果を持つ被膜が形成されていることが確認できる(実施例1,2と同じ条件で実 験した場合にこのような結果が得られないことを示す証拠はない。)以上,従来の 技術常識にかかわらず,当業者は,本件明細書の記載と本件出願時の技術常識に基 づいて「亜鉛ベース合金」が「亜鉛ベースの金属間化合物」である場合,本件発明 の課題を解決できることを認識するといえ,原告の主張は採用することができない。
ウ 上記3)について,前記(2)で検討したとおり,当業者は,本件明細書の記 載及び本件出願時の技術常識から,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物又は亜鉛 −ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等の 被覆であっても課題を解決できると認識することができるというべきであって,こ のことは,限られた温度の3元系状態図しか知られていなかったとしても,左右さ れるものではない。
エ 以上からすると,原告の上記主張は,前記(2)の認定判断を左右するもの ではない。
(4) したがって,原告主張の審決取消事由1は理由がない。
4 取消事由2(実施可能要件についての認定判断の誤り)について\n
(1) 本件発明は方法の発明であるところ,方法の発明における発明の実施とは, その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号),方法の発明につい て実施可能要件を充足するか否かについては,当業者が明細書の記載及び出願当時\nの技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その方法の使用をする ことができる程度の記載が明細書の発明の詳細な説明にあるか否かによるというべ きである。そして,実施可能要件についても特許権者(被告)がその証明責任を負\nう。
(2) 前記3で検討したところからすると,当業者は,本件明細書の記載と本件出 願時の技術常識に基づいて,「亜鉛ベースの金属間化合物」からなる被覆として, 亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛−鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケル金 属間化合物及びそれにアルミニウムや鉄が加わった金属間化合物等からなる被覆を 想起し,これらの被覆を熱処理することによって,高い機械的特性を持つ鋼板を製 造することができると認められるから,本件明細書の詳細な説明には,本件発明の 方法を使用をすることができる程度の記載があり,実施可能要件は充足されている\nと認められる。
(3) 原告は,実施可能要件について,1)いかなる金属間化合物で被覆して熱処理 をすると,いかなる金属間化合物が生じ,「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対す る保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得」ることについて主張立証がされていない,\n2)鉄が被覆に拡散して鉄含有率の少ない金属間化合物が鉄含有率の高い金属間化合 物に変化することにより「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且 つ潤滑機能を確保し得る金属間化合物」となるとはいえない,3)亜鉛−ニッケル金 属間化合物から亜鉛−ニッケル−鉄金属間化合物が形成されるとは理解できないと 主張する。
ア しかし,上記1)について,前記3で検討したところからすると,当業者 は,「亜鉛ベースの金属間化合物」の被覆として,亜鉛−鉄金属間化合物,亜鉛− 鉄−アルミニウム金属間化合物,亜鉛−ニッケル金属間化合物及びそれにアルミニ ウムや鉄が加わった金属化合物等からなる被覆を想起し,これらの被覆を熱処理す ることによって本件発明を実施できると認識するものと認められる。
イ 上記2)について,前記3で検討したとおり,本件発明が新たな知見に基 づくものであることや実施例1,2で優れた腐食防止効果を持つ被膜が形成されて いることからすると,原告が主張するような事情を考慮しても,当業者は実施可能\nであると認識するものと認められる。
ウ 上記3)について,前記3で検討したところからすると,当業者は,本件 明細書の記載や本件出願時の技術常識から,亜鉛−鉄−ニッケルの金属間化合物を 生じさせることができると認識すると認められる。
エ 以上からすると,原告の上記主張は,前記(2)の認定判断を左右するもの ではない。

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平成30(行ケ)10117  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年4月12日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、明確性違反、サポート要件違反であるとした審決を取り消しました。

 特定事項A及びBは,本願発明が,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり, 当該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数 を「指標」として使用する方法である旨特定するものであるところ,特定事項Cは, 本願発明の方法によって選択される対象物である脂質含有組成物の構成を特定し,\n特定事項D及び特定事項EないしHは,重畳的に,これに更に特定を加えるもので ある。
そうすると,特定事項Iは,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,脂質含 有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち一つ又は複数を「指標」と して使用する方法について,これが,特定事項CないしHによって特定された構成\nを有する脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当該脂質含有配合物を選択す るための方法である旨更に特定するものということができる。
カ 特定事項Aの明確性
以上によれば,特定事項Aは,「脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当 該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数を 「指標」として使用する方法」と解釈するのが合理的であって,特定事項Aを,こ のように解釈することは,その余の特定事項の解釈とも整合するものということが できる。
キ 被告の主張について
(ア) 被告は,本願発明は「年齢」や「性別」のような属性を,ありふれた油脂 を選択するための指標として使用する方法をいうところ,「指標として」という記 載は抽象的であり,いかなる行為までが「指標」として使用する行為に含まれ得る のか明確ではないから,本願発明の外延は明確ではない,要素を何らかの形で脂質 含有配合物を選択するための指標として用いたか否かについては,明確に判別する ことはできない旨主張する。 しかし,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,年齢,性別等の対象の要素 をメルクマールにして,その脂質含有配合物の構成を決定すれば,要素を「指標と\nして」使用したといえる。また,これにより決定される脂質含有配合物の構成があ\nりふれたものであったとしても,ありふれていることを理由に発明の外延が不明確 であると評価されるものではない。そうすると,「指標として」という記載が,第 三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。 また,対象方法が本願発明の特許発明の技術的範囲に属するか否かは,本願発明 の技術的範囲を画定し,対象方法を認定した上で,これらを比較検討して判断する ものである。そして,脂質含有配合物を選択するための指標として本願発明の要素 をメルクマールとして用いたか否かは,対象方法の認定に係る問題であって,本願 発明の技術的範囲の画定の問題,すなわち,明確性要件とは無関係である。 したがって,被告の上記主張は採用できない。
(イ) 被告は,特定事項EないしIは,特定事項Dにおける「ω−6脂肪酸対ω −3脂肪酸の比」及び「それらの量」が「一つ以上の要素」に,どのように基づい ているのかを特定しようとする記載と解すべきである旨主張する。 しかし,特定事項Dと特定事項EないしHは,いずれも特定事項Cによって特定 された本願発明の方法によって選択される対象物の構成について,更に,それぞれ\n異なる観点から特定するものである。特定事項E及びGには「一つ以上の要素」に 関する記載が全くないのであるから,これらと選択関係にある特定事項EないしH との関係から,特定事項Dの技術的意義を解すべきとはいえない。 したがって,被告の上記主張は採用できない。
(ウ) 被告は,本願明細書は「要素」の使用方法を明らかにするものではなく, それが技術常識でもない旨主張する。 被告の上記主張は,本願発明は,対象に投与する脂質含有配合物を選択するため に,どのように「要素」を使用するかについて特定した方法であるという解釈を前 提とするものである。 しかし,特定事項F及びHに係る特許請求の範囲の記載においては,「要素」で ある食餌及び生活圏周囲の温度範囲を,どのように使用するかについて特定されて いるものの,これらの特定事項と選択関係にある特定事項E及びGには,「要素」 の使用方法に関する記載はない。特定事項F及びHは,本願発明の方法によって選 択される対象物である脂質含有組成物の構成を特定するものにすぎないと解すべき\nである。そして,その余の本願発明に係る特許請求の範囲の記載には,「要素」の 使用方法に関する記載はない。 したがって,被告の上記主張は,特許請求の範囲の記載を離れた本願発明の解釈 を前提とするものであるから,採用できない。なお,本願発明の課題を解決するた めには,脂質含有配合物の選択に当たり,特定の「要素」をどのように使用するか についてまで特定しなければならないにもかかわらず,特許請求の範囲に記載され た発明が,脂質含有配合物の選択に当たり,特定の「要素」を使用する方法につい て特定するにとどまるというのであれば,それは,サポート要件の問題であって, 明確性要件の問題ではない。明確性要件は,出願人が当該出願によって得ようとす る特許の技術的範囲が明確か否かについて判断するものであって,それが,発明の 課題を解決するための構成又は方法として十\分か否かについて判断するものではな い。
ク 小括
以上によれば,特定事項Aは,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当該 脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数を「指 標」として使用する方法である旨特定するものである。特定事項Aに係る特許請求 の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということは できない。
・・・
本件審決は,サポート要件について,「ω−6の増加が緩やかおよび/また はω−3の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」と の技術的事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないから,本願 発明の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないと判断した。 そして,本件審決は,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該 発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載 や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる と認識できる範囲のものであるか否かについて,何ら検討判断していない。 (2) しかしながら,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明 の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のである。 そうすると,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課 題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆が なくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識で きる範囲のものであるか否かについて,何ら検討することなく,選択関係にある特 定事項EないしHのうち特定事項G「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との技術的 事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないことの一事をもって, サポート要件に適合しないとした本件審決は,誤りである。
(3) 加えて,以下のとおり,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の中 止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との特定事項G の技術的事項は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されている。 すなわち,まず,本願明細書【0042】には,「長鎖ω−3脂肪酸または免疫 抑制性の植物性化学物質/栄養素の習慣的で多量の供給が宿主に対して突然行われ なくなるか,またはω−6脂肪酸が突然増加すると,全身性の炎症応答(毛細血管 漏出,発熱,頻脈,呼吸促迫),多臓器不全(消化器,肺,肝臓,腎臓,心臓)お よび関節の結合組織損傷を含む重篤な結果を伴うサイトカインストームの応答が生 じることがある。」と記載され,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の 中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも,様々な疾患が生じ得るこ とが記載されている。このように,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであ」る投与方法に関する技術的事項は,本願明細書【0042】 に記載されている。
また,本願明細書には,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜30 歳及び31〜50歳の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以 下とすること(実施例3【表9】),多量のシーフード摂取者であって上記と同年\n齢の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実 施例3【表11】),及び,医学的適応として肥満を有する者に投与する脂質組成\n物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実施例6【表13】)が,それ\nぞれ記載されている。このように,「ω−6の用量が,40グラム以下であ」る投 与方法に関する技術的事項は,本願明細書の実施例3【表9】【表\11】及び実施 例6【表13】のそれぞれ一部の対象に対するものとして記載されている。\nさらに,上記のとおり,本願明細書【0042】には,「ω−6の増加が緩やか および/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも, 様々な疾患が生じ得ることが記載されており,これは,「ω−6の増加が緩やかお よび/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法が,特定の対象に限らず,一 般的に好ましい旨開示するものというべきである。そうすると, このような投与方 法と,実施例3【表9】【表\11】及び実施例6【表13】のそれぞれ一部に記載\nされた「ω−6の用量が,40グラム以下であ」るという投与方法を組み合わせた 投与方法,すなわち,例えば,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜 30歳及び31〜50歳の男性に,40g以下の用量のω−6脂肪酸を投与し,そ の際,ω−6脂肪酸を緩やかに増加させ及び/又はω−3脂肪酸を穏やかに中止す るという,脂質含有組成物の投与方法に関する技術的事項は,本願明細書に記載さ れているということができる。
(4) したがって,本件審決は,サポート要件を形式的に判断した部分について誤 りがあるだけではなく,そもそも同要件を実質的に検討判断しておらず,その判断 枠組み自体に問題がある。よって,取消事由3は,その趣旨をいうものとして理由 がある。

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平成30(行ケ)10084  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年8月29日  知的財産高等裁判所

 進歩性・サポート要件の無効理由ありとした審決が維持されました。

 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明1は,アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法の発明であって,アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして,「35ppm未満の遊離SO2」と,「3 00ppm未満の塩化物」と,「800ppm未満のスルフェート」とを有することを特徴とするワインを意図して製造するステップを含むものであるから,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる。
次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の課題を明示 した記載はないが,【0002】ないし【0004】の記載(前記(1)イ(ア)) から,本件発明1の課題は,アルミニウム缶内にパッケージングした「ワ インの品質」が保存中に著しく劣化しないようにすることであり,ここ にいう「ワインの品質」は,「ワインの味質」を意味するものと理解で きる。 そして,本件明細書の【0038】ないし【0042】及び表1には,\n白ワインの保存評価試験の結果として,パッケージングされた白ワイン を30℃で6ヶ月間保存した後に,味覚パネルによる官能試験により,\n「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された」との記載が\nあることに照らすと,本件明細書の発明の詳細な説明には,ワインの品 質(味質)が劣化したかどうかは味覚パネルによる官能試験によって判\n断されることの開示があることが認められる。
一方,上記の「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認され\nた」ワインについて,表1には,別紙のとおり,保存期間「6ヶ月」に\n対応する「Al mg/L」欄及び「初期に対するAl含有量上昇率(%)」 欄に,アルミニウム含有量0.72mg/L,含有量上昇率44%(「直 立」状態で保存の缶),アルミニウム含有量0.68mg/L,含有量 上昇率36%(「倒立」状態で保存の缶)であったことの記載があるが, 表1を含む本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,当該ワ\nインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃度につ いての具体的な開示はない。
また,本件明細書の【0003】の「ワイン中の物質の比較的攻撃的 な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特に味質 に及ぼす悪影響にあると考えられる。」との記載及び【0034】の「良 好に架橋された不透過性膜によって,保存中に過度のレベルのアルミニ ウムがワイン中に溶解しないことを保証することが重要である。」との 記載から,アルミニウム缶からワイン中に溶出する「過度のレベルのア ルミニウム」がワインの味質に悪影響を及ぼすことは理解できるものの, 本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,アルミニウム缶に 保存されたワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいてワインの味質 が劣化したかどうかを判断できることについての記載も示唆もない。 さらに,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量 とワインの味質の劣化との具体的な相関関係に関する技術常識を示した 証拠は提出されておらず,上記の具体的な相関関係は明らかではない。 もっとも,本件優先日当時,遊離SO2とアルミニウムとの間の酸化還元 反応により硫化水素が発生し,この硫化水素によってワインのフレーバ ーを悪くするという問題があったことは技術常識であったこと(甲50, 51等)が認められるが,かかる技術常識に照らしても,遊離SO2の濃 度にかかわらず,ワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいてワイン の味質が劣化したかどうかを判断できるものとはいえない。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件発明1 の課題(「アルミニウム缶内にパッケージングしたワインの品質(味質) が保存中に著しく劣化しないようにすること」)を解決できるかどうか を確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験結果によらざるを\n得ないことを理解できる。
(イ) しかるところ,前記(ア)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に は,白ワインの保存評価試験(【0038】ないし【0042】及び表\n1)において「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された」\nワインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃度に ついての具体的な開示はなく,仮にこれらの濃度が,本件発明1で規定 するそれぞれの濃度(「300ppm未満の塩化物」及び「800pp m未満のスルフェート」)の範囲内であったとしても,それぞれの上限 値に近い数値であったものと当然には理解することはできないから,上 記保存評価試験の結果から,本件発明1の対象とするワインに含まれる 塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスルフェートの濃度範囲(8 00ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」が保存中に著しく劣 化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により確認された\nものと認識することはできないというべきである。 また,甲1及び甲43(「アルミ缶の特性ならびに腐食問題」200 2年,Zairyo-to-kankyo,51,p.293〜298)によれば,ワインを組成する 一般的な物質のうち,遊離SO2,塩化物イオン(Cl−)及びスルフェ ート(SO4 2−)以外にも,リンゴ酸,クエン酸等の有機酸がアルミニウ ムの腐食原因となることは,本件優先日当時の技術常識であったことが 認められる。このような技術常識に照らすと,本件明細書の発明の詳細 な説明には,白ワインの保存評価試験に用いられたワインの組成につい ての記載はないものの,これらのアルミニウムの腐食原因となる物質も, 当該ワインの組成に含まれており,表1記載の保存期間「6ヶ月」に対\n応するアルミニウム含有量や味覚パネルによる官能試験の試験結果に影\n響を及ぼしている可能性があるものと理解できる。\n以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日 当時の技術常識から,当業者が本件発明1に含まれる塩化物の濃度30 0ppm未満及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全 体にわたり本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められ ないから,本件発明1は,サポート要件に適合するものと認めることは できない。
(3) 原告の主張について
 原告は,本件優先日当時,1)ワイン中の塩化物及びスルフェートの濃度は, 生産国・地域,品種,収穫年,製造条件等の違いによりワイン毎に様々であ り,いずれの濃度分布も広範囲に亘っており,塩化物の濃度は3ppmから 1148ppmの範囲で,スルフェートの濃度は38.6ppmから242 0ppmの範囲で分布していること,及び,「300ppm」以上の塩化物 及び「800ppm」以上のスルフェートを含有するワインが実際に存在す ること(甲31,59ないし63,136の1),2)「淡水」とは塩分濃度 が500ppm以下,塩化物濃度が約300ppm以下の水であること(甲 137の1,2,139,140),3)塩化物イオン(Cl−)及びスルフェ ート(SO4 2−)が,アルミニウムやステンレスの局部腐食(不動態被膜の孔 食)の原因となるイオンであること(甲78,80ないし84,137の1, 2)は,技術常識であったことに加えて,本件明細書の「このような不成功 の理由は,ワイン中の物質の比較的攻撃的な性質,及び,ワインと容器との 反応生成物の,ワイン品質,特に味質に及ぼす悪影響にあると考えられる。」 (【0003】)との記載を考慮すれば,当業者であれば,アルミニウムの 腐食原因であるワイン中の物質が「低い」濃度レベルであることを規定する, 本件発明1の「35ppm未満」の遊離SO2,「300ppm未満」の塩化 物及び「800ppm未満」のスルフェートとの要件を満たすワインをパッ ケージング対象とすることによって,これらの腐食原因物質の濃度が高いワ インがアルミニウム缶にパッケージングされることを確実に防止できるとい う本件発明1の効果を容易に認識可能であり,本件発明1は,この効果によ\nって,「アルミニウム缶内にワインをパッケージングし,これによりワイン の品質が保存中に著しく劣化しないようにする」という課題(「アルミニウ ム缶の腐食によって保存中にワインの中で増加してしまうアルミニウムイオ ン及び硫化水素によって,ワイン品質(味,色,臭い)が保存中に著しく劣 化しないようにする」という課題)を解決するものであることを容易に認識 できること,そして,アルミニウム缶の腐食原因である「塩化物」の濃度を 300ppmよりも低くすればするほど,同腐食原因である「スルフェート」 の濃度を800ppmよりも低くすればするほど,アルミニウム缶の腐食防 止効果がより高まることは容易に認識できることからすると,本件発明1の 上記効果は,特許請求の範囲の全てにおいて奏する効果であることを当業者 が認識できることは明らかであり,本件明細書の【0038】ないし【00 42】記載の試験結果を参酌しなくても,本件優先日当時の技術常識に照ら し,本件明細書のその余の発明の詳細な説明の記載及び本件発明1の特許請 求の範囲の記載から,本件発明1は,当業者が本件発明1の課題を解決でき ると認識できる範囲のものであるといえるから,本件発明1は,サポート要 件に適合する旨主張する。
しかしながら,前記(2)イ(ア)認定のとおり,本件発明1の課題は,アルミ ニウム缶内にパッケージングした「ワインの味質」が保存中に著しく劣化し ないようにすることにあるものと認められるところ, 原告主張の本件優先日 当時の上記1)ないし3)の技術常識に照らしても,当業者が,本件明細書の発 明の詳細な説明の記載から,本件発明1は,「35ppm未満」の遊離SO2, 「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」のスルフェートと の要件を満たすワインをパッケージング対象とすることによる効果によっ て,本件発明1の上記課題を解決するものであることを認識できるものと認 めることはできない。 また,原告が主張するようにアルミニウム缶の腐食原因である「塩化物」 の濃度を300ppmよりも低くすればするほど,同腐食原因である「スル フェート」の濃度を800ppmよりも低くすればするほど,アルミニウム 缶の腐食防止効果がより高まるといえるとしても,前記(2)イ(ア)認定のとお り,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量とワインの 味質の劣化との具体的な相関関係は明らかではなく,本件発明1の上記課題 を解決できるかどうかを確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験\n結果によらざるを得ない。そして,本件明細書の【0038】ないし【00 42】及び表1記載の白ワインの保存評価試験の結果から,本件発明1の対\n象とするワインに含まれる塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスル フェートの濃度範囲(800ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」 が保存中に著しく劣化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果に\nより確認されたものと認識することはできないことは,前記(2)イ(イ)のとお りである。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の 技術常識から,当業者が本件発明1に含まれる塩化物の濃度300ppm未 満及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体にわたり本件 発明1の課題を解決できると認識できるものと認められないから,原告の上 記主張は採用することができない。

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平成30(ネ)10040  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年8月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審では、サポート要件、実施可能要件違反で権利行使不能\と判断されていました。 控訴審は、サポート要件違反と判断しました。

 所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明について,特許 請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に適合するか否かは, 当業者が,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から,当該発明 に含まれる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決できると認識で きるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。 イ(ア) これを本件についてみるに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1) の記載によれば,本件発明は,アルミニウム缶内にワインをパッケージ ングする方法の発明であって,「35ppm未満の遊離SO2」と,「3 00ppm未満の塩化物」と,「800ppm未満のスルフェート」と を有することを特徴とするワインを製造するステップを含むものである から,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる。
次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の課題を明示し た記載はないが,【0002】ないし【0004】の記載(前記(1)イ(ア)) から,本件発明の課題は,アルミニウム缶内にパッケージングした「ワ インの品質」が保存中に著しく劣化しないようにすること,ここにいう 「ワインの品質」は,「ワインの味質」を意味するものと理解できる。 そして,本件明細書の【0038】ないし【0042】及び表1には,\n白ワインの保存評価試験の結果として,パッケージングされた白ワイン を30℃で6ヶ月間保存した後に,味覚パネルによる官能試験により,\n「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された」との記載が\nあることに照らすと,本件明細書の発明の詳細な説明には,ワインの品 質(味質)が劣化したかどうかは味覚パネルによる官能試験によって判\n断されることの開示があることが認められる。
一方,上記の「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認され\nた」ワインについて,表1には,別紙のとおり,保存期間「6ヶ月」に\n対応する「Al mg/L」欄及び「初期に対するAl含有量上昇率(%)」 欄に,アルミニウム含有量0.72mg/L,含有量上昇率44%(「直 立」状態で保存の缶),アルミニウム含有量0.68mg/L,含有量 上昇率36%(「倒立」状態で保存の缶)であったことの記載があるが, 表1を含む本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,当該ワ\nインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃度につ いての具体的な開示はない。
また,本件明細書の【0003】の「ワイン中の物質の比較的攻撃的 な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特に味質 に及ぼす悪影響にあると考えられる。」との記載及び【0034】の「良 好に架橋された不透過性膜によって,保存中に過度のレベルのアルミニ ウムがワイン中に溶解しないことを保証することが重要である。」との 記載から,アルミニウム缶からワイン中に溶出する「過度のレベルのア ルミニウム」がワインの味質に悪影響を及ぼすことは理解できるものの, 本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,アルミニウム缶に 保存されたワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいてワインの味質 が劣化したかどうかを判断できることについての記載も示唆もない。 さらに,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量 とワインの味質の劣化との具体的な相関関係に関する技術常識を示した 証拠は提出されておらず,上記の具体的な相関関係は明らかではない。 もっとも,本件優先日当時,遊離SO2とアルミニウムとの間の酸化還 元反応により硫化水素が発生し,この硫化水素によってワインのフレー バーを悪くするという問題があったことは技術常識であったこと(甲3 9,40等)が認められるが,かかる技術常識に照らしても,遊離SO 2の濃度にかかわらず,ワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいて ワインの味質が劣化したかどうかを判断できるものとはいえない。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件発明の 課題(「アルミニウム缶内にパッケージングしたワインの品質(味質) が保存中に著しく劣化しないようにすること」)を解決できるかどうか を確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験結果によらざるを\n得ないことを理解できる。
(イ) しかるところ,前記(ア)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明 には,白ワインの保存評価試験(【0038】ないし【0042】及び 表1)において「許容可能\なワイン品質が味覚パネルによって確認され た」ワインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃 度についての具体的な開示はなく,仮にこれらの濃度が,本件発明で規 定するそれぞれの濃度(「300ppm未満の塩化物」及び「800p pm未満のスルフェート」)の範囲内であったとしても,それぞれの上 限値に近い数値であったものと当然には理解することはできないから, 上記保存評価試験の結果から,本件発明の対象とするワインに含まれる 塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスルフェートの濃度範囲(8 00ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」が保存中に著しく劣 化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により確認された\nものと認識することはできないというべきである。 また,乙29及び甲175(「アルミ缶の特性ならびに腐食問題」2 002年,Zairyo-to-kankyo,51,p.293〜298)によれば,ワインを組成 する一般的な物質のうち,遊離SO2,塩化物イオン(Cl−)及びスル フェート(SO4 2−)以外にも,リンゴ酸,クエン酸等の有機酸がアル ミニウムの腐食原因となることは,本件優先日当時の技術常識であった ことが認められる。このような技術常識に照らすと,本件明細書の発明 の詳細な説明には,白ワインの保存評価試験に用いられたワインの組成 についての記載はないものの,これらのアルミニウムの腐食原因となる 物質も,当該ワインの組成に含まれており,表1記載の保存期間「6ヶ\n月」に対応するアルミニウム含有量や味覚パネルによる官能試験の試験\n結果に影響を及ぼしている可能性があるものと理解できる。\n以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日 当時の技術常識から,当業者が本件発明に含まれる塩化物の濃度300 ppm未満及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体 にわたり本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められない から,本件発明は,サポート要件に適合するものと認めることはできな い。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件優先日当時,1)ワイン中の塩化物及びスルフェートの濃度 は,生産国・地域,品種,収穫年,製造条件等の違いによりワイン毎に様々 であり,いずれの濃度分布も広範囲に亘っており,塩化物の濃度は3ppm から1148ppmの範囲で,スルフェートの濃度は38.6ppmから2 420ppmの範囲で分布していること,及び,「300ppm」以上の塩 化物及び「800ppm」以上のスルフェートを含有するワインが実際に存 在すること(甲24,41,42,51,57,58,101,乙67), 2)「淡水」とは塩分濃度が500ppm以下,塩化物濃度が約300ppm 以下の水であること(甲167,168,169の1,2),3)塩化物イオ ン(Cl−)及びスルフェート(SO4 2−)が,アルミニウムやステンレスの 局部腐食(不動態被膜の孔食)の原因となるイオンであること(甲88ない し90,115ないし117,169の1,2)は,技術常識であったこと に加えて,本件明細書の「このような不成功の理由は,ワイン中の物質の比 較的攻撃的な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特 に味質に及ぼす悪影響にあると考えられる。」(【0003】)との記載を 考慮すれば,当業者であれば,アルミニウムの腐食原因であるワイン中の物 質が「低い」濃度レベルであることを規定する,本件発明の「35ppm未 満」の遊離SO2,「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」 のスルフェートとの要件を満たすワインをパッケージング対象とすることに よって,これらの腐食原因物質の濃度が高いワインがアルミニウム缶にパッ ケージングされることを確実に防止できるという本件発明の効果を容易に認 識可能であり,本件発明は,この効果によって,「アルミニウム缶内にワイ\nンをパッケージングし,これによりワインの品質が保存中に著しく劣化しな いようにする」という課題(「アルミニウム缶の腐食によって保存中にワイ ンの中で増加してしまうアルミニウムイオン及び硫化水素によって,ワイン 品質(味,色,臭い)が保存中に著しく劣化しないようにする」という課題) を解決するものであることを容易に認識できること,そして,アルミニウム 缶の腐食原因である「塩化物」の濃度を300ppmよりも低くすればする ほど,同腐食原因である「スルフェート」の濃度を800ppmよりも低く すればするほど,アルミニウム缶の腐食防止効果がより高まることは容易に 認識できることからすると,本件発明の上記効果は,特許請求の範囲の全て において奏する効果であることを当業者が認識できることは明らかであり, 本件明細書の【0038】ないし【0042】記載の試験結果を参酌しなく ても,本件優先日当時の技術常識に照らし,本件明細書のその余の発明の詳 細な説明の記載及び本件発明の特許請求の範囲の記載から,本件発明は,当 業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる から,本件発明は,サポート要件に適合する旨主張する。 しかしながら,前記(2)イ(ア)認定のとおり,本件発明の課題は,アルミニ ウム缶内にパッケージングした「ワインの味質」が保存中に著しく劣化しな いようにすることにあるものと認められるところ,控訴人主張の本件優先日 当時の上記1)ないし3)の技術常識に照らしても,当業者が,本件明細書の発 明の詳細な説明の記載から,本件発明は,「35ppm未満」の遊離SO2, 「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」のスルフェートと の要件を満たすワインをパッケージング対象とすることによる効果によって, 本件発明の上記課題を解決するものであることを認識できるものと認めるこ とはできない。
また,控訴人が主張するようにアルミニウム缶の腐食原因である「塩化物」 の濃度を300ppmよりも低くすればするほど,同腐食原因である「スル フェート」の濃度を800ppmよりも低くすればするほど,アルミニウム 缶の腐食防止効果がより高まるといえるとしても,前記(2)イ(ア)認定のとお り,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量とワインの 味質の劣化との具体的な相関関係は明らかではなく,本件発明の上記課題を 解決できるかどうかを確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験結\n果によらざるを得ない。そして,本件明細書の【0038】ないし【004 2】及び表1記載の白ワインの保存評価試験の結果から,本件発明の対象と\nするワインに含まれる塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスルフェ ートの濃度範囲(800ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」が保 存中に著しく劣化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により\n確認されたものと認識することはできないことは,前記(2)イ(イ)のとおりで ある。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の 技術常識から,当業者が本件発明に含まれる塩化物の濃度300ppm未満 及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体にわたり本件発 明の課題を解決できると認識できるものと認められないから,控訴人の上記 主張は採用することができない。

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1審はこちらです。

◆平成27(ワ)21684

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平成30(行ケ)10117  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年4月12日  知的財産高等裁判所(1部)

   明確性・サポート要件違反とした拒絶審決が取り消されました。

 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だ けではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願 当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不 当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで,本願発明に係る特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害され るほどに不明確であるか否かについて,検討する。なお,以下,本願発明の発明特 定事項について,次のとおり分説し,それぞれ「特定事項A」ないし「特定事項I」 ということがある。
A 対象の一つ以上の要素の,前記対象への投与のための脂質含有配合物を選択 するための指標としての使用であって,
B 前記対象の一つ以上の要素は,以下:前記対象の年齢,前記対象の性別,前 記対象の食餌,前記対象の体重,前記対象の身体活動レベル,前記対象の脂質忍容 性レベル,前記対象の医学的状態,前記対象の家族の病歴,および前記対象の生活 圏の周囲の温度範囲から選択され,
C ここで前記配合物が,1又は複数の,相互に補完する一日用量のω−6脂肪 酸およびω−3脂肪酸を含む脂肪酸を含み,
D ここでω−6脂肪酸対ω−3脂肪酸の比,およびそれらの量が,前記一つ以 上の要素に基づいており;
E ここでω−6対ω−3の比が,4:1以上,ここでω−6の前記用量が40 グラム以下であり;
F または前記対象の食餌および/または配合物における抗酸化物質,植物化学 物質,およびシーフードの量に基づいて1:1〜50:1;
G またはここでω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の中止が緩やかで あり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり;
H またはここで前記脂肪酸の含有量は,下記表6:(表\は略)と適合する,
I 前記使用。
(2) 「対象の一つ以上の要素の,前記対象への投与のための脂質含有配合物を選 択するための指標としての使用」との記載(特定事項A)の明確性
ア 特定事項A及びB
本願発明は,「対象の一つ以上の要素の,前記対象への投与のための脂質含有配 合物を選択するための指標としての使用であって,」と特定され(特定事項A), 続いて,「前記対象の一つ以上の要素は,以下:前記対象の年齢,前記対象の性別, 前記対象の食餌,前記対象の体重,前記対象の身体活動レベル,前記対象の脂質忍 容性レベル,前記対象の医学的状態,前記対象の家族の病歴,および前記対象の生 活圏の周囲の温度範囲から選択され,」と特定されている(特定事項B)。 そうすると,特定事項A及びBは,本願発明が,少なくとも,下記の方法である 旨特定するものと解釈するのが合理的である。
 記
脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当該脂質含有配合物を選択するため に,当該対象の「要素」,すなわち,年齢,性別,食餌,体重,身体活動レベル, 脂質忍容性レベル,医学的状態,家族の病歴及び生活圏の周囲の温度範囲のうち, 一つ又は複数を「指標」として使用する方法
イ 特定事項C
本願発明は,「ここで前記配合物が,1又は複数の,相互に補完する一日用量の ω−6脂肪酸およびω−3脂肪酸を含む脂肪酸を含み,」と特定されている(特定 事項C)。そして,「ここで前記配合物」とは,特定事項A及びBで特定された方 法によって選択される対象物である「脂質含有配合物」をいうものである。 そうすると,特定事項Cは,本願発明の方法によって選択される対象物である脂 質含有配合物がω−6脂肪酸及びω−3脂肪酸を含む脂肪酸を含むなどと,本願発 明の方法によって選択される対象物の構成を特定するものということができる。\n
ウ 特定事項DないしHによって特定される目的物
特定事項DないしHは,ω−6脂肪酸とω−3脂肪酸の用量の比率を特定したり (特定事項D,E,F),ω−6脂肪酸及び/又はω−3脂肪酸の用量を特定した り(特定事項D,E,G),脂肪酸に含まれるω−9脂肪酸,ω−6脂肪酸及びω −3脂肪酸の重量%を特定したり(特定事項H),ω−6脂肪酸及び/又はω−3 脂肪酸の摂取量の経時的変化(特定事項G)を特定したりするものである。 そうすると,特定事項DないしHは,特定事項Cによって特定された本願発明の 方法によって選択される対象物の構成,すなわち,対象物である脂質含有配合物が\nω−6脂肪酸及びω−3脂肪酸を含む脂肪酸を含むという構成について,ω−6脂\n肪酸,ω−3脂肪酸又は脂肪酸に含まれるω−9脂肪酸等の比率,用量,重量%又 は摂取量の経時的変化に着目することにより,更に特定するものということができ る。
エ 特定事項DないしHの関係
(ア) 特定事項DないしHは,それぞれ「;」で区切られているから,それぞれ の発明特定事項ごとに,個別の技術的意義を有すると解すべきものである。
(イ) そして,特定事項Dは「ここで」で始まり,特定事項Eは「ここで」で始 まり,特定事項FないしHは「または」で接続されているから,特定事項Dないし Hは,特定事項Dと特定事項EないしHに更に区別され,特定事項EないしHは選 択関係にあるものである。
(ウ) さらに,特定事項Dと特定事項EないしHとの関係について検討する。 これらの特定事項は,特定事項Cによって特定された本願発明の方法によって選 択される対象物の構成について,ω−6脂肪酸,ω−3脂肪酸又は脂肪酸に含まれ\nるω−9脂肪酸等の比率,用量,重量%又は摂取量の経時的変化に着目することに より,更に特定するものである。 そして,特定事項Dは,特定事項Cによって特定された本願発明の方法によって 選択される対象物の構成について,脂質含有配合物が投与される対象の「要素」,\nすなわち,年齢,性別,食餌,体重,身体活動レベル,脂質忍容性レベル,医学的 状態,家族の病歴及び生活圏の周囲の温度範囲のうち,一つ又は複数に基づいて特 定しようとするものである。 一方,特定事項EないしHは,特定事項Cによって特定された本願発明の方法に よって選択される対象物の構成について,客観的な比率,用量,重量%又は摂取量\nの経時的変化に基づいて特定しようとするものである。 このように,特定事項Dと特定事項EないしHは,いずれも特定事項Cによって 特定された本願発明の方法によって選択される対象物の構成について,更に特定す\nるものであるところ,その特定の仕方が異なり,特定事項Dと特定事項EないしH による特定の間で矛盾が生じるものではないから,重畳して適用されるものという べきである。
オ 特定事項I
特定事項A及びBは,本願発明が,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり, 当該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数 を「指標」として使用する方法である旨特定するものであるところ,特定事項Cは, 本願発明の方法によって選択される対象物である脂質含有組成物の構成を特定し,\n特定事項D及び特定事項EないしHは,重畳的に,これに更に特定を加えるもので ある。 そうすると,特定事項Iは,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,脂質含 有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち一つ又は複数を「指標」と して使用する方法について,これが,特定事項CないしHによって特定された構成\nを有する脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当該脂質含有配合物を選択す るための方法である旨更に特定するものということができる。
カ 特定事項Aの明確性
以上によれば,特定事項Aは,「脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当 該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数を 「指標」として使用する方法」と解釈するのが合理的であって,特定事項Aを,こ のように解釈することは,その余の特定事項の解釈とも整合するものということが できる。
・・・
特定事項Cで特定される脂質含有配合物に含まれる脂肪酸の構成は「一日\n用量」の脂肪酸を含むものであるところ,特定事項Cに係る特許請求の範囲の記載 だけからでは,1)脂質含有配合物が,「一日用量」に相当する「ω−6脂肪酸およ びω−3脂肪酸」を含み,更にその余の脂肪酸を含んでもよいのか,それとも2)脂 質含有配合物が,「一日用量」に相当する「脂肪酸」を含み,かつ,当該「脂肪酸」 が「ω−6脂肪酸およびω−3脂肪酸」を含むのか,について,一義的に明らかで はない。
(イ) そこで,本願明細書の記載を考慮する。
a 本願明細書において,対象に投与される脂質含有配合物に含まれる脂肪酸の 量について具体的に明示する記載は,実施例1,3,5及び6のみである。 そして,実施例1には,「この配合物は,およそ10〜100グラムの1日総脂 肪の,均衡のとれた脂肪酸組成物を供給できる。」と記載され,脂質含有配合物に 含まれる「脂肪酸」の「一日用量」について記載されている。一方,「ω−6脂肪 酸」及び「ω−3脂肪酸」の「一日用量」に関する記載はない。 また,実施例3,5及び6には,【表9】ないし【表\13】が記載され,各表に\nついて,「総脂肪酸内容物についての用量範囲(単位:グラム),一価不飽和脂肪 酸対多価不飽和脂肪酸の比率範囲および一価不飽和脂肪酸対飽和脂肪酸の比率範囲, ω−6脂肪酸含有量の範囲(単位:グラム),ω−9脂肪酸対ω−6脂肪酸の比率 範囲,ω−3脂肪酸含有量の範囲(単位:グラム)およびω−6脂肪酸対ω−3脂 肪酸の比率範囲を,性別および年齢群により示すものである。」と説明されている。 実施例3,5及び6の各表は,脂質含有配合物に含まれる「脂肪酸」の「一日用量」\nを示した上で,当該「脂肪酸」の内訳として,一価不飽和脂肪酸,多価不飽和脂肪 酸,飽和脂肪酸,ω−6脂肪酸,ω−9脂肪酸及びω−3脂肪酸の量を示すもので ある。
b 一方,本願明細書には,発明を実施するための形態として「脂質配合物」に ついて開示されている(【0022】〜【0036】)。その中で,「ω−6脂肪 酸およびω−3脂肪酸両方の最適な1日送達量」と記載されているが,同記載は「一 態様」として開示されているものであって(【0022】),「ω−6脂肪酸」及 び「ω−3脂肪酸」以外の「脂肪酸」の均衡について言及する「実施形態」も開示 されている(【0030】)。 また,実施例3,5及び6の各表は,脂質含有配合物に含まれる「ω−6脂肪酸」\n及び「ω−3脂肪酸」の用量を示すものであるが,その余の脂肪酸の用量について も示されている。 そうすると,ω−6脂肪酸及びω−3脂肪酸の用量を開示するこれらの本願明細 書の記載は,その余の脂肪酸の用量を適宜定めてよいとするものではないから,上 記1)を前提とするものではないというべきである。
c したがって,本願明細書は,脂質含有配合物に含まれる脂肪酸の量について, まず「脂肪酸」の「一日用量」に着目した上で説明するものであって,上記2)を前 提とするものということができる。
(ウ) このように,特許請求の範囲の記載に加え,本願明細書の記載を考慮すれ ば,特定事項Cは,2)脂質含有配合物が,「一日用量」に相当する「脂肪酸」を含 み,かつ,当該「脂肪酸」が「ω−6脂肪酸およびω−3脂肪酸」を含む旨特定す るものということができる。
・・・
本件審決は,サポート要件について,「ω−6の増加が緩やかおよび/また はω−3の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」と の技術的事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないから,本願 発明の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないと判断した。 そして,本件審決は,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該 発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載 や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる と認識できる範囲のものであるか否かについて,何ら検討判断していない。
(2) しかしながら,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明 の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のである。 そうすると,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課 題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆が なくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識で きる範囲のものであるか否かについて,何ら検討することなく,選択関係にある特 定事項EないしHのうち特定事項G「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との技術的 事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないことの一事をもって, サポート要件に適合しないとした本件審決は,誤りである。
(3) 加えて,以下のとおり,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の中 止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との特定事項G の技術的事項は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されている。 すなわち,まず,本願明細書【0042】には,「長鎖ω−3脂肪酸または免疫 抑制性の植物性化学物質/栄養素の習慣的で多量の供給が宿主に対して突然行われ なくなるか,またはω−6脂肪酸が突然増加すると,全身性の炎症応答(毛細血管 漏出,発熱,頻脈,呼吸促迫),多臓器不全(消化器,肺,肝臓,腎臓,心臓)お よび関節の結合組織損傷を含む重篤な結果を伴うサイトカインストームの応答が生 じることがある。」と記載され,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の 中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも,様々な疾患が生じ得るこ とが記載されている。このように,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであ」る投与方法に関する技術的事項は,本願明細書【0042】 に記載されている。 また,本願明細書には,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜30 歳及び31〜50歳の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以 下とすること(実施例3【表9】),多量のシーフード摂取者であって上記と同年\n齢の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実 施例3【表11】),及び,医学的適応として肥満を有する者に投与する脂質組成\n物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実施例6【表13】)が,それ\nぞれ記載されている。このように,「ω−6の用量が,40グラム以下であ」る投 与方法に関する技術的事項は,本願明細書の実施例3【表9】【表\11】及び実施 例6【表13】のそれぞれ一部の対象に対するものとして記載されている。\nさらに,上記のとおり,本願明細書【0042】には,「ω−6の増加が緩やか および/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも, 様々な疾患が生じ得ることが記載されており,これは,「ω−6の増加が緩やかお よび/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法が,特定の対象に限らず,一 般的に好ましい旨開示するものというべきである。そうすると, このような投与方 法と,実施例3【表9】【表\11】及び実施例6【表13】のそれぞれ一部に記載\nされた「ω−6の用量が,40グラム以下であ」るという投与方法を組み合わせた 投与方法,すなわち,例えば,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜 30歳及び31〜50歳の男性に,40g以下の用量のω−6脂肪酸を投与し,そ の際,ω−6脂肪酸を緩やかに増加させ及び/又はω−3脂肪酸を穏やかに中止す るという,脂質含有組成物の投与方法に関する技術的事項は,本願明細書に記載さ れているということができる。
(4) したがって,本件審決は,サポート要件を形式的に判断した部分について誤 りがあるだけではなく,そもそも同要件を実質的に検討判断しておらず,その判断 枠組み自体に問題がある。よって,取消事由3は,その趣旨をいうものとして理由 がある。

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平成30(行ケ)10047  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年5月23日  知的財産高等裁判所

 訂正を認める、無効理由なしとした審決が維持されました。争点は、新規事項、サポート要件、進歩性です。被告(特許権者)は東芝からメモリ事業を買収した会社ですが、その後東芝メモリと商号変更しています。

 本件訂正事項は,本件訂正前の請求項21の「内層として形成される複 数の配線層」にいう「複数の配線層」を「グランドまたは電源となる3つ のプレーン層」と「信号を送受信する3つの信号層」を備える「配線層」 に限定するものである。そして,本件訂正後の請求項21の文言から,「グ ランドまたは電源となる3つのプレーン層」にいう「電源となる…プレー ン層」は,「配線層」であって,半導体装置の基板に搭載された「ドライ ブ制御回路」や「不揮発性半導体メモリ」に対して,電源電圧が供給され る電源線として機能することを理解できる。\n次に,本件明細書には,「電源回路5は,ホスト1側の電源回路から供 給される外部直流電源から複数の異なる内部直流電源電圧を生成し,これ ら内部直流電源電圧を半導体装置100内の各回路に供給する。」(【0 011】),「略長方形形状を呈する基板8の一方の短辺側には,ホスト 1に接続されて,上述したSATAインタフェース2,通信インタフェー ス3として機能するコネクタ9が設けられている。コネクタ9は,ホスト\n1から入力された電源を電源回路5に供給する電源入力部として機能す\nる。」(【0012】),「図4は,基板8の層構成を示す図である。基\n板8には,合成樹脂で構成された各層(絶縁膜8a)の表\面あるいは内層 に様々な形状で配線層8bとして配線パターンが形成されている。配線パ ターンは,例えば銅で形成される。基板8に形成された配線パターンを介 して,基板8上に搭載された電源回路5,DRAM20,ドライブ制御回 路4,NANDメモリ10同士が電気的に接続される。…」(【0013】), 「基板8の各層に形成された配線層8bは,図5に示すように,信号を送 受信する信号層,グランドや電源線となるプレーン層として機能する。」\n(【0015】)との記載がある。また,図5には,基板8の内層として, 「3層」,「4層」及び「6層」に「信号層」を,「2層」及び「7層」 に「プレーン層(GND)」を,「5層」に「プレーン層(電源)」を配 する層構成が示されている。\nこれらの記載事項によれば,図5の「5層」の「プレーン層(電源)」 は,配線層であって,半導体装置の基板に搭載された「ドライブ制御回路」 や「不揮発性半導体メモリ」である「NANDメモリ」に対して,電源回 路5において外部直流電源から生成した「内部直流電源電圧」が供給され る電源線として機能することを理解できる。\n以上によれば,本件訂正後の請求項21の「グランドまたは電源となる 3つのプレーン層」にいう「電源となる…プレーン層」は,本件明細書に 記載されているものと認められるから(【0011】ないし【0013】, 【0015】,図5),本件訂正は,本件明細書に記載された事項の範囲 内においてしたものであって,新規事項の追加に当たらないものと認めら れる。
イ これに対し原告は,本件明細書の【0015】記載の「電源線」とは, 基板のいずれかの層に設けられた「配線」程度を意味するものであり,「発 電機または電池のように,外部に電気エネルギーを供給しうる源」を意味 する「電源」(甲62,63)とは全く異なる概念であるが,本件訂正事 項は,「電源線」を「電源」とする訂正を含むものであり,本件訂正事項 のとおりに請求項21を訂正した場合には,配線層の中に「電源」がある こととなって,本件明細書の「電源はホスト1にある」旨の記載とも矛盾 するから,本件訂正は,本件明細書に記載されていない新規事項を追加す るものであって,本件明細書に記載された事項の範囲内においてしたもの とはいえない旨主張する。 しかしながら,前記ア認定のとおり,本件訂正後の請求項21の「グラ ンドまたは電源となる3つのプレーン層」にいう「電源となる…プレーン 層」は,半導体装置の基板に搭載された「ドライブ制御回路」や「不揮発 性半導体メモリ」に対して,電源電圧が供給される電源線として機能する\n「配線層」であって,「電源」そのものではないから,原告の上記主張は, その前提において採用することができない。
(3) 小括
以上のとおり,本件訂正は,本件明細書に記載された事項の範囲内におい てしたものであって,新規事項の追加に当たらないから,これと同旨の本件 審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
・・・・
原告は,本件特許発明1,14及び21の「第1の値が7.5%以下」及 び「前記第1の平均値と前記第2の平均値はともに60%以上」並びに本件 特許発明1,2,5,6,17,21及び25の「配線密度が80%以上」 は,いずれも原出願当初明細書に記載されていないから,本件出願は,分割 出願の要件を満たしていない不適法な分割出願であり,これと異なる本件審 決の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 「第1の値が7.5%以下」について
(ア) 前記(1)の記載事項によれば,原出願当初明細書には,「本発明」は, 平面視において長方形形状の基板を用いる場合に,基板の反りを抑える ことができる半導体装置を提供することを目的とし(【0005】), 上層(基板の層構造の中心線よりも表\面層側に形成された層)全体の配 線密度と下層(基板の層構造の中心線よりも裏面層側に形成された層)\n全体の配線密度とが略等しくなることで,基板の上層全体に占める絶縁 膜(合成樹脂)と配線部分(銅)との比率が,基板の下層全体に占める 合成樹脂と銅との比率と略等しくなり,上層と下層とで熱膨張係数も略 等しくなるため,基板に反りが発生するのを抑制するという効果を奏す ること(【0014】,【0015】,【0023】,【0024】, 図5)の開示があることが認められる。
次に,原出願当初明細書には,1)「基板8の各層に形成された配線層 8bは,図5に示すように,信号を送受信する信号層,グランドや電源 線となるプレーン層として機能」し,「各層に形成された配線パターン\nの配線密度,すなわち,基板8の表面面積に対する配線層が占める割合」\nを「図5に示すように構成している」こと(【0015】),2)「本実 施の形態では,グランドとして機能する第8層をプレーン層ではなく網\n状配線層とすることで,その配線密度を30〜60%に抑え」,「基板 8の上層全体での配線密度は約60%となって」おり,「第8層の配線 密度を約30%として配線パターンを形成することで,下層全体での配 線密度を約60%とすることができ,上層全体の配線密度と下層全体の 配線密度とを略等しくすることができる」こと,「なお,第8層の配線 密度は,約30〜60%の範囲で調整することで,上層全体の配線密度 と略等しくなるようにすればよい」こと(【0016】),3)「本実施 の形態では,第8層の配線密度は,約30〜60%の範囲で調整し,上 層全体の配線密度と下層全体の配線密度とを略等しくしているので,熱 膨張係数も略等しくなる」ため,「基板8に反りが発生するのを抑制す ることができる」こと(【0024】)の記載がある。また,図5には, 「第1の実施の形態」に係る8層構造の配線層の上層の配線密度につい\nて,「1層」が「約60%」,「2層」が「約80%」,「3層」が「約 50%」,「4層」が「約50%」,上層全体(「1層」ないし「4層」) で「約60%」であること,下層の配線密度について,「5層」が「約 80%」,「6層」が「約50%」,「7層」が「約80%」,「8層」 が「約30〜60%」,下層全体(「5層」ないし「8層」)で「約6 0%〜67.5%」であることが示されている。 そして,図5,【0016】及び【0024】の記載(上記2)及び3)) から,図5の「8層」の配線密度を「約30%」とした場合には下層全 体の配線密度が「約60%」(計算式(80+50+80+30)÷4) になり,「8層」の配線密度を「約60%」とした場合には下層全体の 配線密度が「約67.5%」(計算式(80+50+80+60)÷4) になること,図5に示す上層全体の配線密度が「約60%」の場合,下 層全体の配線密度が「約60%〜67.5%」であるときは,「上層全 体の配線密度と下層全体の配線密度とを略等しくしているので,熱膨張 係数も略等しくなる」ため,「基板8に反りが発生するのを抑制するこ とができる」ことを理解できる。
さらに,これらの記載事項から,図5の「8層」の配線密度を「約3 0%〜60%」の範囲で調整すると,上層全体の配線密度の平均値(約 60%)と下層全体の配線密度の平均値(約60〜67.5%)の差が 「約0%〜7.5%」の範囲で調整され,両者の配線密度が略等しくな り,熱膨張係数も略等しくなるため,基板8に反りが発生するのを抑制 することができるものと理解できる。
そうすると,原出願当初明細書には,「本発明」の「第1の実施の形 態」として,配線層の上層全体の配線密度の平均値(「第1の平均値」 に相当)と下層全体の配線密度の平均値(「第2の平均値」に相当)と の差を「7.5%以下」とすることが記載されていることが認められる から,本件特許発明1,14及び21の「第1の値が7.5%以下」は, 原出願当初明細書に記載された事項の範囲内の事項であるものと認めら れる。 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(イ) これに対し原告は,原出願当初明細書には,基板の反りが発生する のを抑えることができるための上層全体の配線密度と下層全体の配線密 度との差が何%かについての記載はなく,また,【0016】の「なお, 第8層の配線密度は,約30〜60%の範囲で調整することで,上層全 体の配線密度と略等しくなるようにすればよい。」との記載は,第8層 の配線密度を約30〜60%の範囲で調整することを可能とすることで,\n上層全体の配線密度を67.5%とした場合(例えば,第3層の配線密 度を80%とした場合)であっても,第8層の配線密度を60%とする と,下層全体の配線密度も67.5%となり,上層全体の配線密度と略 等しくすることで,反りを防止していることを意味するものであり,上 層全体の配線密度と下層全体の配線密度とに差を設けて,「第1の値が 7.5%以下」とすることについての記載はないから,本件特許発明1, 14及び21の「第1の値が7.5%以下」は,原出願当初明細書に記 載されていない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)認定のとおり,図5,【0016】及び【0 024】から,図5に示す上層全体の配線密度が「約60%」の場合, 下層全体の配線密度が「約60%〜67.5%」であるときは,「上層 全体の配線密度と下層全体の配線密度とを略等しくしているので,熱膨 張係数も略等しくなる」ため,「基板8に反りが発生するのを抑制する ことができる」ことを理解できるから,原出願当初明細書には,上層全 体の配線密度と下層全体の配線密度とに差を設けて,「第1の値が7. 5%以下」とすることについての記載はあるものと認められる。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。

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平成31(ネ)10005  特許権侵害行為差止請求控訴事件  特許権  行政訴訟 令和元年7月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 骨切術用開大器について、1審では、補正によって追加された事項を充足しない被疑侵害品について、第5要件問題なしとして均等を認めました。知財高裁は、文言侵害と判断しました。
なお、「原判決30頁17行目から31頁3行目までを次のとおり改める。」とありますが、原審のどの部分を改めるのか?は、上記範囲とはズレていますので、不明です。

 また,請求項1においては,係合部が設けられている揺動部材と他方の揺動部材が,それぞれ開閉機構を有することが規定されるのみで,いずれの開閉機構\をどのような手順で操作するかについては何ら特定がなく,前述の本件発明の技術的意義からもかかる点につき限定する理由はないから,係合部を設けた揺動部材の側に力を加えることによって,他の揺動部材が同時に開く仕組みになっていることは,本件発明において必須の構成ではない。\n以上を踏まえると,構成要件Eの「係合部」とは,これによって外力を伝達し,その結果,いずれか一方の揺動部材の開操作をもって,2対の揺動部材を同時に開くことを可能\にするものであるというべきである。
イ 「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」の意義
次に,かかる係合部の意義を踏まえて,「揺動部材の一方に…係合部 が設けられている」の意義について検討する。 まず,「設けられている」との文言の一般的な意味は,「そなえてこ しらえる。設置する。しつらえる。」というものにすぎず(広辞苑・甲 13),当該文言自体からは,「係合部」が一方の揺動部材と一体であ るのか,別の部品であるのかを読み取ることはできない。前記の本件発 明の技術的意義に照らしても,「係合部」が一方の揺動部材と一体のも のでなければその機能を果たせないとはいえず,別の部品によって係合\n部を設けることを除くべき根拠は見当たらない。そうすると,係合部が 揺動部材に「設けられている」という構成が,係合部が揺動部材の一部\nを構成しているものに限定されるとはいえない。\nそして,「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」という特許 請求の範囲の文言に照らすと,係合部が,「一方の」揺動部材に設けら れていることを要することは明らかである。このことは,特許請求の範 囲における請求項3及び4が,2対の揺動部材について,いずれに「係 合部」が設けられているかを区別できることを前提としていることから も裏付けられる。 以上によれば,「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」とは, 「係合部」が,揺動部材に設けられており,かつ,それが2対のいずれ の揺動部材に設けられているのか区別できることを要し,またそれをも って足りると解される。
・・・
被告製品の構成eは,「揺動部材1,2の各下側揺動部には後部に開\n口部が設けられ,各上側揺動部にはその後部側に角度調整器のピンを挿 通させるためのピン用孔が設けられている。揺動部材1と揺動部材2が 組み合わせられたときに,開口部に留め金の突起部がはめ込まれ,ピン 用孔に角度調整器の2本のピンを挿通された状態で揺動部材2の上側揺 動部と下側揺動部を相互に開いていくと,留め金の突起部と角度調整器 のピンがそれぞれ揺動部材1の下側揺動部と上側揺動部を押圧して,揺 動部材2と一緒に開くようになっている」ものである(前記第2の3に おいて引用した原判決「事実及び理由」の第2の2⑸)。 このように,被告製品における角度調整器の2本のピンと留め金の突 起部は,外力の伝達により,いずれか一方の揺動部材の開操作をもって, 2対の揺動部材を同時に開くことを可能にするものであるから,角度調\n整器のピン及び留め金の突起部は,構成要件Eの「係合部」を充足する。\nまた,上記のとおり,角度調整器のピン及び留め金の突起部は,開操 作の前に,組み合わせられた揺動部材1及び2の開口部に留め金の突起 部がはめ込まれ,ピン用孔に角度調整器の2本のピンが挿通された状態 に固定されるものである。このような固定態様に照らすと,「係合部」 である角度調整器のピン及び留め金の突起部が,揺動部材1又は2に設 けられているといえる。そして,証拠(甲3,乙6,10)によれば, 角度調整器は,施術者から視認できるように揺動部材1側からピンが挿 通されて揺動部材1に固定されることが認められるから,少なくとも角 度調整器のピンは,揺動部材1に設けられていると認識できることは明 らかである。そして,留め金の突起部も,角度調整器のピンと一体とな って揺動部材の開操作に関わっているのであるから,この両者は,全体 として揺動部材1に設けられていると評価するのが素直である。したが って,「係合部」である角度調整器のピン及び留め金の突起部をもって, 構成要件Eの「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」との要件\nは充足されることになる。 そして,「係合部」である角度調整器のピン及び留め金の突起部が, 2対の揺動部材の開操作の前にこれらの揺動部材に固定されることは上 記のとおりであって,これらを同時に開いていく間にかかる固定が解除 されることはない(乙6,10)。したがって,構成要件Eの「他方の\n揺動部材と組み合わせられたときに」揺動部材の一方に係合する係合部 が設けられているといえる。 控訴人は,被告製品の角度調整器のピン及び留め金の突起部が,揺動 部材1及び2と別の部品であることから,直ちにいずれの揺動部材に上 記ピン及び上記突起部が固定されているのかの区別ができなくなるとい う前提で主張するが,上記説示したところに照らし,採用できない。
カ 結論
以上のとおり,被告製品は構成要件Eを充足し,他の構\成要件を充足 することについては既に説示したとおりであるから,被告製品は,本件 発明1及び2の技術的範囲に属する。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)18184

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平成29(ワ)44053  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年5月29日  東京地方裁判所

 争点は、分割要件違反など色々ありますが、発明1,3についてはサポート要件違反なので権利行使不要、発明2については構成要件不充足と判断されました。\n

(3) 本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載
ア 本件明細書1及び3の【0015】,【0017】
本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載は,前記1(1)のとおりであり,発 明を実施するための形態として,「本発明の併用療法は,治療法が同時に行われ, すなわち抗CD20抗体は,同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進 んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)で投与される。本発明の 抗CD20抗体はまた,他の治療法の前または後に投与されてよい。」(【001 5】),「また本発明には,化学療法の前,その最中,または後に,治療上有効量 のキメラ抗CD20抗体を患者に投与することを含んでなる,B細胞リンパ腫の治 療法が含まれる。そのような化学療法は,少なくとも,CHOP,ICE,ミトザ ントロン,シタラビン,DVP,ATRA,イダルビシン,ヘルツァー(hoelzer) 化学療法,ララ(LaLa)化学療法,ABVD,CEOP,2−CdA,FLAG& IDA(以後のG−CSF治療有りまたは無し),VAD,M&P,C−Week ly,ABCM,MOPP,およびDHAPよりなる群から選択される。」(【0 017】)と記載されている。 しかしながら,上記において,抗CD20抗体ないしキメラ抗CD20抗体とし て示されるリツキシマブの投与時期について,【0015】では,「他の治療法の 前または後」と「同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが, 薬剤は全く同時に投与されるわけではない)」が併記されるにとどまり,また, 【0017】では,「化学療法の前…または後」と「その最中」が併記されるにと どまっており,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る説明はされ ていないから,これらの記載をもって,リツキシマブをCHOP療法の各薬剤の投 薬期間中に投与するという本件発明1の用途を認識することは困難であり,もとよ り,リツキシマブを含む医薬組成物と化学療法に用いられる各薬剤を化学療法の各 サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を認識することもできない。 このことに加えて,前記のとおり,本件発明1及び3は,いずれも,リツキシマ ブを含む医薬組成物について,対象疾患,併用される化学療法及び投与時期を特定 した用途発明であるところ,【0015】では,対象疾患及び併用される化学療法 が特定されておらず,【0017】でも,対象疾患が特定されておらず,併用され る化学療法であるCHOP療法も多数の選択肢の一つとして挙げられるにとどまっ ているから,その意味でも,これらが本件発明1及び3の用途を記載又は示唆する ものと認めるに足りない。
イ 本件明細書1の【0069】ないし【0071】,【0092】
(ア) また,本件明細書1の【0069】ないし【0071】及び【0092】の SWOGによる臨床試験に係る部分において,本件発明1の対象疾患である「低グ レード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」の患者に対するリツキシマブとC HOP療法の併用療法に係る実施例が記載されているものの,次のとおり,これら は,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与す るという本件発明1の用途を記載又は示唆するものであるとは認められない。 a すなわち,まず,本件明細書1の【0069】ないし【0071】には, 「新に診断された再発性低悪性度NHLまたは濾胞性NHLにおけるCHOPとリ ツクシマブ(登録商標)との併用を評価するために第II相試験」(【0069】) について,「CHOPは,標準用量で3週間毎にリツクシマブ(登録商標)(37 5mg/m3)を6回注入する6サイクルを行った。リツクシマブ(登録商標)注入 1と2は,最初のCHOPサイクル(これは8日目に開始した)の前の1日目と6 日目に投与した。リツクシマブ(登録商標)注入3と4は,それぞれ第3および第 4のCHOPサイクルの2日前に投与し,注入5と6は,6回目のCHOPサイク ル後のそれぞれ134日目と141日目に投与した。」(【0070】)と記載さ れており,参考文献21として甲38文献が参照されていること(【0071】) などに照らすと,これらは,甲38文献に記載されているCzuczmanらによる臨床試 験を記載したものと認められる(なお,【0070】の「第3および第4のCHO Pサイクルの2日前」は「第3及び第5のCHOPサイクルの2日前」の誤記であ ると認められる。)。 そうすると,【0070】の「リツクシマブ(登録商標)注入1と2」及び「注 入5と6」は,CHOP療法全体の開始前及び終了後の投与であり,また,「注入 3と4」も,Czuczmanらによる臨床試験の3回目及び4回目のリツキサンの投与と 同様に,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中の投与であって,当業者は,いずれに ついても,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するものではないと認識する と認められる。 したがって,【0069】ないし【0071】は,リツキシマブを含む医薬組成 物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を記載 又は示唆するものではない。
b また,本件明細書1の【0092】には,「SWOGにより行われた新に診 断された濾胞性リンパ腫でCHOPの後にリツクシマブ(登録商標)を使用する第 II相試験もまた,完了している。」として,SWOGによる臨床試験について記載 されているものの,同臨床試験においてリツキシマブが投与されたのは「CHOP の後」であるから,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬 期間中に投与するという本件発明1の用途を記載又は示唆するものではない。 (イ) さらに,本件明細書1の【0092】には,「マントル細胞リンパ腫が未治 療の40人の患者でリツクシマブ(登録商標)とCHOPの第III相試験も,ダナ ファーバー研究所(Dana Farber Institute)で行われている。21日毎の6サイ クルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与され,CHOPは1〜3日目に 投与される。この試験の発生項目は完了している。」として,ダナファーバー研究 所による臨床試験について記載されているものの,本件明細書1には,同臨床試験 の対象とされたマントル細胞リンパ腫が本件発明1の対象疾患である「低グレード /濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」に含まれることは記載されておらず,そ のように認めるに足る証拠もないから,上記の臨床試験に係る記載部分が本件発明 1の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。
ウ 本件明細書3の【0090】,【0092】
(ア) また,本件明細書3の【0090】において,本件発明3の対象疾患である 「中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」の患者に対するリツキ シマブとCHOP療法の併用療法に係る実施例が記載されているものの,その内容 は,「別の試験では,中または高悪性度NHLを有する31人の患者(女性19人, 男性12人,平均年齢49才)に,6回の21日サイクルのCHOPの1日目にリ ツクシマブ(登録商標)を投与した(35)。」というものであり,CHOP療法 の各薬剤の投与時期は記載されていない。 また,本件明細書3の発明の詳細な説明に,参考文献35として記載されている 乙9文献においても,前記1(2)イのとおり,Linkらによる臨床試験で,1サイクル 21日間(3週間)のCHOP療法を繰り返し実施するに当たり,リツキシマブは CHOP療法の各サイクルの1日目に投与されたのに対し,シクロホスファミド, ドキソルビシン及びビンクリスチンは各サイクルの3日目に投与され,プレドニソ\ ンは各サイクルの3日目から7日目まで投与されたことが認められる。 したがって,【0090】は,リツキシマブとCHOP療法の各薬剤をCHOP 療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を記載又は示唆する ものとは認められない。
(イ) さらに,本件明細書3の【0092】には,前記のとおり,ダナファーバー 研究所による臨床試験について記載されているものの,本件明細書3には,同臨床 試験の対象とされたマントル細胞リンパ腫が本件発明3の対象疾患である「中悪性 度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」に含まれることは記載されてお らず,そのように認めるに足る証拠もない。 また,「21日毎の6サイクルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与さ れ,CHOPは1〜3日目に投与される。」というだけでは,CHOP療法の各薬 剤が全て各サイクルの1日目に投与されたかは必ずしも明らかでないから,いずれ にしても,上記の臨床試験に係る記載部分がリツキシマブとCHOP療法の各薬剤 をCHOP療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を記載又 は示唆するものとは認められない。
(4)原告らの主張について
ア 本件発明1
原告らは,本件原出願日当時の化学療法とリツキシマブの併用療法は,化学療法 の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間の前又は後にリツキシマブを投与する 異日投与レジメンによっていたところ,本件明細書1の【0015】,【0017】 には,異日投与レジメンと区別して,化学療法の各サイクルにおける化学療法薬の 投薬期間中にリツキシマブを投与する同日投与レジメンが記載されていると主張す る。 しかしながら,本件原出願日当時,原告らが主張する異日投与レジメンによって リツキシマブと化学療法が併用されていたとしても,前記のとおり,【0015】, 【0017】には,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る記載は なく,化学療法の開始前,終了後,化学療法に用いられる薬剤の休薬期間中にリツ キシマブを投与するレジメンと区別して,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間中 にリツキシマブを投与するレジメンが記載されているとはいえないから,これらの 記載が本件発明1の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。
・・・
被告製剤についてみると,前記第2の2⑸ウのとおり,被告製剤の添付文書には, 用法・用量欄に「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合」が記載され,用法・用量に関 連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ 医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成 績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」 と記載されている。また,臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,未治療 の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品がR−CVP レジメンによって投与されたことが記載されているほか,先行バイオ医薬品の臨 床成績として,国外臨床第III相試験(PRIMA試験)において,ろ胞性非ホジ キンリンパ腫(NHL)の患者に,R−CVPレジメンによる寛解導入療法等が 実施されたことが記載されている。 そして,証拠(甲12,35)及び弁論の全趣旨によれば,被告製剤の添付文書 に記載されているR−CVPレジメンは,リツキシマブを1日目に投与するととも に,シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目,プレ ドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメン\nであると認められる。 そうすると,被告製剤は,添付文書に記載されたR−CVPレジメンがシクロホ スファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するも のでない点で,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。\n
・・・
以上のとおり,本件特許1及び3は特許法36条6項1号に違反しており,いず れも特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,同法104条の 3第1項により,本件特許1及び3に係る専用実施権者である原告による権利行使 は認められない。 また,被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属するとはいえないから,被告製剤 の製造販売等が本件専用実施権2を侵害するとはいえない。

◆判決本文

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平成30(行ケ)10134  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年6月27日  知的財産高等裁判所

 請求項1,2,7,8についてサポート要件違反と判断した無効審決が維持されました。

 (2) 以上を前提に,サポート要件の具備の有無について検討する。 本件発明の各特許請求の範囲は,いずれも,「正または負の誘電異方性を有する極 性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって」と記載されているから,いずれも, n型の液晶化合物に基づく液晶媒体を含んでいる。 ところが,前記(1)のとおり,本件明細書には,p型の液晶化合物が用いたディス プレイを前提として,しきい値電圧の低減をK1を減少させることにより実現する ことが記載されているのみである。本件明細書には,n型の液晶化合物が用いられ るディスプレイについて,K1を減少させることによってしきい値電圧を低減させ ることができるとの記載はなく,また,そのような技術常識があったとは認められ ないし,本件明細書の実施例にも,n型の液晶化合物は一切含まれていない。した がって,n型の液晶化合物については,当業者は,本件明細書から,発明の課題を 解決できるものと認識することはできないというべきである。以上のとおり,本件発明は,いずれも,発明の詳細な説明の記載により,発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えているというべきである。
なお,原告は,甲54実験,甲59実験,甲90実験について主張する。 しかし,上記のとおり,本件明細書には,n型の液晶化合物を用いたディスプレ イにおいてK1を減少させることによって,しきい値電圧を低減できることは記載 されておらず,また,上記実験結果が,本件特許の出願日当時,当事者の技術常識 であったとも認められないから,上記実験結果を参照して,n型液晶化合物を用い たディスプレイにおいて,K1を減少させることによって,しきい値電圧を低減でき ることをサポート要件の判断に当たって考慮することはできないというべきである。 また,その他,原告が主張するところによっても,サポート要件に関する上記判

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平成31(ネ)10009  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年6月27日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審と同じく、明確性、サポート要件違反無しと判断されました。

 前記第2の1の前提事実と一件記録によれば,本件訴訟の経過等として, 次の事実が認められる。
(ア) 控訴人日進は,平成26年12月頃から,調剤薬局等に対し,控訴 人日進と控訴人セイエーが共同開発した被告製品を販売するようになっ た。 控訴人日進,控訴人OHU及び控訴人セイエーの3者間には,被告製 品に関し,控訴人日進が控訴人OHUに対して被告製品を発注し,この 発注を受けた控訴人OHUが控訴人セイエーに対して被告製品の製造を 委託し,この委託を受けた控訴人セイエーが被告製品を製造して,控訴 人日進に供給し,これにより,控訴人セイエーは控訴人OHUに対し, 控訴人OHUは控訴人日進に対し被告商品をそれぞれ販売するという継 続的な取引関係があった。
(イ) 被控訴人は,平成28年7月4日,控訴人らによる被告製品の製造, 販売が被控訴人の有する本件特許権の間接侵害等に当たる旨主張して, 控訴人らに対し,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金の連帯 支払を求める本件訴訟を原審に提起した。 控訴人らは,同年12月8日の原審第2回弁論準備手続期日において, 準備書面(2)(無効論)に基づき,明確性要件違反,乙22を主引用例と する新規性欠如,乙23を主引用例とする新規性欠如の無効理由による 無効の抗弁を主張し,平成29年3月16日の原審第4回弁論準備手続 期日において,準備書面(5)(無効論)に基づき,上記無効理由に加えて, 乙22を主引用例とする進歩性欠如,乙23を主引用例とする進歩性欠 如,補正要件違反,サポート要件違反,明確性要件違反(「2つ折りさ れたシート」に係るもの)の無効理由による無効の抗弁を主張した。 その後,控訴人らは,同年6月30日の原審第6回弁論準備手続期日 において,準備書面(7)(無効論)に基づき,新たに乙23(乙23’発 明)を主引用例,乙22(乙22発明)を副引用例とする進歩性欠如の 無効理由による無効の抗弁を主張した。
(ウ) 控訴人日進は,平成29年7月10日,本件特許の設定登録時の請 求項1及び2に係る発明についての特許を無効にすることを求める別件 無効審判を請求した。控訴人日進が別件無効審判で主張した無効理由は, 明確性要件違反(「無効理由1」),「審判甲1」(乙22)を主引用 例とする新規性欠如(「無効理由2」),「審判甲1」(乙22)を主 引用例とし,「審判甲7」(乙49)に記載された事項(「甲7事項」) を副引用例とする進歩性欠如(「無効理由3」),「審判甲2」(乙2 3)を主引用例とし,「審判甲1」(乙22)に記載された事項(「甲 1事項」)等を副引用例とする進歩性欠如(「無効理由4」),「審判 甲2」(乙23)を主引用例とし,「甲7事項」等を副引用例とする進 歩性欠如(「無効理由5」)である。上記「無効理由3」は,乙22を 主引用例とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理由と,上記「無効理 由4」及び「無効理由5」は,乙23を主引用例とする本件訂正発明の 進歩性欠如による無効理由と実質的に同一の事実及び同一の証拠に基づ くものである。
被控訴人は,同年10月6日,別件無効審判において,本件訂正をし た後,同月19日の原審第9回弁論準備手続期日において,第7準備書 面に基づき,本件訂正と同一内容の訂正に係る訂正の再抗弁の主張をし た。また,控訴人らは,上記弁論準備手続期日において,別件無効審判 の審判請求書(乙46)を書証として提出した。 控訴人らは,同年12月11日の原審第10回弁論準備手続期日にお いて,準備書面(9)に基づき,被控訴人の訂正の再抗弁に対する反論をし た。
原審の受命裁判官は,平成30年1月29日の原審第11回弁論準備 手続期日において,本件の侵害論の審理を終了し,損害論の審理を進め ると述べた。
控訴人らは,同年3月12日の原審第12回弁論準備手続期日におい て,別件無効審判に係る被控訴人作成の同年2月2日付け「口頭審理陳 述要領書(2)」(乙56)を書証として提出した。
(エ) 特許庁は,平成30年6月26日,本件訂正を認めた上で,控訴人 日進主張の「無効理由1」ないし「無効理由5」により本件特許を無効 とすることはできないとして,別件無効審判の請求は成り立たないとの 別件審決をした。その後,控訴人日進は,出訴期間内に別件審決に対す る審決取消訴訟を提起しなかったため,別件審決は,確定し,同年8月 28日,その旨の確定登録が経由された。 原審は,同月24日,原審第2回口頭弁論期日において,口頭弁論を 終結した後,同年12月18日,被控訴人の請求を一部認容する原判決 を言い渡した。原判決は,控訴人ら主張の無効の抗弁はいずれも理由が ないものと判断した。
(オ) 控訴人は,平成30年12月28日,本件控訴を提起した。 その後,控訴人は,平成31年2月15日付け控訴理由書において, 原判決には,乙22を主引用例とする進歩性欠如,乙23を主引用例と する進歩性欠如,明確性要件違反及びサポート要件違反の無効理由の判 断に誤りがあることを主張するとともに,新たに本件出願に分割要件違 反があることを前提とした乙60を主引用例とする進歩性欠如の無効理 由を主張した。 当審は,令和元年5月16日の本件第1回口頭弁論期日において,口 頭弁論を終結した。
イ 特許法167条は,特許無効審判の審決が確定したときは,当事者及び 参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求すること ができないと規定している。この規定の趣旨は,先の審判の当事者及び参 加人は先の審判で主張立証を尽くすことができたにもかかわらず,審決が 確定した後に同一の事実及び同一の証拠に基づいて紛争の蒸し返しができ るとすることは不合理であるため,同一の当事者及び参加人による再度の 無効審判請求を制限することにより,紛争の蒸し返しを防止し,紛争の一 回的解決を実現させることにあるものと解される。このような紛争の蒸し 返しの防止及び紛争の一回的解決の要請は,無効審判手続においてのみ妥 当するものではなく,侵害訴訟の被告が同法104条の3第1項に基づく 無効の抗弁を主張するのと併せて,無効の抗弁と同一の無効理由による無 効審判請求をし,特許の有効性について侵害訴訟手続と無効審判手続のい わゆるダブルトラックで審理される場合においても妥当するというべきで ある。 そうすると,侵害訴訟の被告が無効の抗弁を主張するとともに,当該無 効の抗弁と同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由による無効審判請 求をした場合において,当該無効審判請求の請求無効不成立審決が確定し たときは,上記侵害訴訟において上記無効の抗弁の主張を維持することは, 訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2条の趣旨に照らし許さ れないと解するのが相当である。 これを本件についてみるに,前記アの認定事実によれば,1)控訴人らは, 本件訴訟の原審において,本件特許について,明確性要件違反,サポート 要件違反,乙22を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如,乙23を 主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如等の無効理由による無効の抗弁 を主張したこと,2)控訴人らのうち,控訴人日進のみが本件特許を無効に することを求める別件無効審判を請求し,本件特許の設定登録時の請求項 1及び2に係る発明の無効理由として「無効理由1」ないし「無効理由5」 を主張し,被控訴人は別件無効審判手続において本件訂正をしたところ, 特許庁は,本件訂正を認めた上で,控訴人日進主張の「無効理由1」ない し「無効理由5」により本件特許を無効とすることはできないとして,別 件無効審判の請求は成り立たないとの別件審決をしたこと,3)控訴人日進 が別件審決に対する審決取消訴訟を提起しなかったため,別件審決は,原 判決の言渡し前に確定したことが認められる。 加えて,控訴人日進が原審及び当審において主張する乙22を主引用例 とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理由は,確定した別件審決で排斥 された「無効理由3」と実質的に同一の事実及び同一の証拠に基づくもの と認められるから(前記ア(ウ)),被控訴人日進が当審において乙22を 主引用例とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理由による無効の抗弁を 主張することは,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2条の 趣旨に照らし許されないと解すべきである。
ウ 次に,控訴人セイエー及び控訴人OHUについて検討するに,1)控訴人 セイエー及び控訴人OHUは,別件無効審判の請求人又は参加人のいずれ でもないが,控訴人日進,控訴人OHU及び控訴人セイエーの3者間には, 被告製品に関し,控訴人セイエーは控訴人OHUに対し,控訴人OHUは 控訴人日進に対し被告商品をそれぞれ販売するという継続的な取引関係が あり,本件特許が別件無効審判で無効とされた場合には,被控訴人の控訴 人らに対する請求はいずれも理由がないことに帰するので,別件無効審判 に関する利害は,控訴人ら3者間で一致していること,2)控訴人セイエー 及び控訴人OHUは,原審において,控訴人日進の主張する無効の抗弁と 同一の無効の抗弁を主張し,また,控訴人日進とともに,別件無効審判の 審判請求書(乙46)及び被控訴人作成の「口頭審理陳述要領書(2)」(乙 56)を書証として提出していることからすると,控訴人セイエー及び控 訴人OHUは,別件無効審判の内容及び経緯について十分に認識し,別件\n無効審判における被告日進の主張立証活動を事実上容認していたものと認 められること,上記1)及び2)の事実関係の下においては,控訴人セイエー 及び控訴人OHUは,別件無効審判の請求人の控訴人日進と同視し得る立 場にあるものと認めるのが相当であるから,確定した別件審決で排斥され た「無効理由3」と実質的に同一の事実及び同一の証拠に基づく乙22を 主引用例とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理由による無効の抗弁の 主張をすることを控訴人セイエー及び控訴人OHUに認めることは,紛争 の蒸し返しができるとすることにほかならないというべきである。 したがって,控訴人セイエー及び控訴人OHUにおいても,控訴人日進 と同様に,当審において乙22を主引用例とする進歩性欠如の無効理由に よる無効の抗弁を主張することは,訴訟上の信義則に反するものであり, 民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないと解すべきである。 エ 以上によれば,被控訴人の前記主張は理由があるから,その余の点につ いて判断するまでもなく,乙22を主引用例とする本件訂正発明の進歩性 欠如をいう控訴人らの主張は理由がない。
(6) 争点(4)カ(乙23を主引用例とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理 由の有無)について
被控訴人は,控訴人ら主張の乙23を主引用例とする進歩性欠如の無効理 由は,別件無効審判における「無効理由4」及び「無効理由5」と実質的に 同一の事実及び同一の証拠に基づくものであるから,別件無効審判の請求人 である控訴人日進並びに控訴人日進と密接な取引関係にある控訴人セイエ ー及び控訴人OHUの3者が,当審において,上記無効理由による無効の抗 弁を主張することは,訴訟上の信義則に反し,許されない旨主張する。 そこで検討するに,控訴人らが原審及び当審において主張する乙23を主 引用例とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理由は,前記(5)ア(ウ)認定 のとおり,控訴人日進及び被控訴人間の確定した別件審決で排斥された「無 効理由4」及び「無効理由5」と実質的に同一の事実及び同一の証拠に基づ くものと認められる。 そうすると,前記(5)ウ及びエで説示したのと同様の理由により,控訴人 らが当審において乙23を主引用例とする進歩性欠如の無効理由による無 効の抗弁を主張することは,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟 法2条の趣旨に照らし許されないと解すべきであるから,被控訴人の上記主 張は理由がある。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,乙23を主引用例 とする本件訂正発明の進歩性欠如をいう控訴人らの主張は理由がない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成28(ワ)6494

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平成30(行ケ)10043  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年6月26日  知的財産高等裁判所(3部)

 医薬品の発明について、実施可能要件を満たしていないとして、無効理由なしとした審決が取り消されました。\n

 被告は,【0029】及び【0116】を含む本件明細書の記載並びに 技術常識からすれば,当業者は,1) ヒスチジンの置換箇所を特定するた めに,抗体の可変部位のアミノ酸残基220個について1つずつ網羅的に ヒスチジン置換した抗体を作製し,そのKD値を測定して置換位置を特定 する試験(以下「前半の試験」という。),及び2) 上記1)により所望のp H依存性を示す(有望であることないしpH依存的結合特性がもたらされ たことが判明した)場合に血中動態の試験(以下「後半の試験」という。) を行うことにより,本件発明1を実施することができると主張する(被告 主張ヒスチジンスキャニング)。 そこで検討するに,本件明細書の【0029】にはアラニンスキャニン グに関する記載があり,本件出願日当時,アミノ酸配列の各残基を1つず つアラニンに置換して各残基の役割を解析する手法としてアラニンスキャ ニングは技術常識であったと認められる(乙19〜23)。したがって, 本件明細書に接した当業者は技術常識に基づき,抗体の可変部位のアミノ 酸残基220個について1つずつ網羅的にヒスチジン置換をした抗体を作 製することは可能であるということができる。\n被告は,抗体を作製した後のヒスチジン置換位置の特定について,「所 望のpH依存性を示す(有望であること,ないし,pH依存的結合特性が もたらされたことが判明した)箇所」という基準により行うことを主張し ているが,本件明細書にはこのような記載はないし,本件明細書や証拠上 現れた技術常識によってもどのような基準に基づいてヒスチジン置換位置 を特定すれば,本件発明1に含まれる医薬組成物全体について実施するこ とができるのかが明らかではない。 このように,本件明細書には,被告主張ヒスチジンスキャニングによっ て,どのようにヒスチジン置換位置を特定するかの情報が不足しており, 本件明細書の発明の詳細な説明に,当業者が,明細書の発明の詳細な説明 の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要すること なく,本件発明1を実施することができる程度に発明の構成等の記載があ\nるということはできない。
イ 仮に,被告主張ヒスチジンスキャニングの前半の試験におけるヒスチジ ン置換位置の特定について,1)本件明細書の【0029】に記載された「変 異前と比較してKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が大きくなった」箇所,あるいは, 2)特許請求の範囲に記載された「所定のpH依存的結合特性を有する」箇 所を意味すると理解するとしても,次のとおり,このような被告主張ヒス チジンスキャニングにより本件発明1に係る医薬組成物全体を実施できる とはいえない。
(ア) 本件発明1の「少なくとも可変領域の1つのアミノ酸がヒスチジンで 置換され又は少なくとも可変領域に1つのヒスチジンが挿入されている ことを特徴とする」「抗体」は,複数のヒスチジン置換がされた抗体を含 むものであるところ,被告は,複数のヒスチジン置換がされた抗体のヒ スチジン置換位置の特定については,前半の試験により特定された単独 のヒスチジン置換位置を組み合わせれば足りると主張する。
(イ) そこで,被告の主張する単独の置換位置を組み合わせる方法により, 本件発明1の複数のヒスチジン置換がされた抗体における,ヒスチジン 置換位置を常に特定することができるかを検討する。 a 本件明細書には,本件発明1の,複数のヒスチジン置換がされたこ とを特徴とする,所定のpH依存的結合特性を有する抗体におけるヒ スチジン置換箇所について,必ず被告主張ヒスチジンスキャニングの 前半の試験により特定できることを示す記載は見当たらない。また, このことについての本件出願日当時の技術常識を示す的確な証拠もな い。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明に,複数のヒスチジン 置換がされた場合について実施することができる程度に発明の構成等\nの記載があるということはできない。

◆判決本文

関連事件です。いずれも同じように実施可能要件を満たしていないと判断されています。

◆平成30(行ケ)10044

◆平成30(行ケ)10045

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平成30(行ケ)10117  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年4月12日  知的財産高等裁判所(1部)

 拒絶審決が取り消されました。理由は、明確性、サポート要件違反ではないというものです。なお、第1回の拒絶理由通知に対してクレームを追加する補正をしたのに、そのクレームには新たな拒絶理由通知がなされなかった点も争いましたが、こちらは理由なしと判断されました。

 原告は,拒絶査定不服審判事件において,本件拒絶理由通知を受けたことか ら,新たに請求項19ないし47を追加する本件補正をしたところ,審判合議体が, 本件補正で追加した請求項について,新たに拒絶理由通知をせず,また本件審決に おいて判断しなかったことが,特許法47条に実質的に違反する旨主張する。 しかし,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又 は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生す るという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるもので\nはない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許\n出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定 又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし, 他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは 予定されていない。このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の\n分割という制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成19年(行ヒ) 第318号同20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。 そうすると,審判合議体は,拒絶査定不服審判において,一の請求項について拒 絶理由があると判断すれば,それのみで請求不成立審決をすることができ,その余 の補正で追加された請求項について判断しなくても,違法ではないというべきであ る。 なお,特許出願人は,請求項の数を増加する補正をする際には,手続補正書を提 出する際に手数料を納付しなければならない(特許法施行規則11条4項)。そし て,拒絶査定不服審判請求後において請求項の数を増加する補正の場合,手続補正 書の提出によって,審査の続審である審判手続が,その増加した請求項について潜 在的に係属するといえる。そうすると,その際に納付すべき手数料を,出願審査の 請求に当たり必要な手数料及び審判の請求に当たり必要な手数料とすることは,不 合理なものといえず,また,手数料の納付時期を,手続補正書の提出時点とする同 規則の規定は,立法政策の問題というべきである。 本件において,審判合議体は,特許請求の範囲【請求項1】の記載は明確性要件 及びサポート要件に適合しないなどとする本件拒絶理由通知(甲11)をし,本件 補正により補正された同請求項の記載も,明確性要件及びサポート要件に適合しな いとして,本件審決をしたものである。審判合議体が,本件補正で追加した請求項 について,新たに拒絶理由通知をせず,また本件審決について判断しなかったこと をもって,審判手続に違法があるということはできない。
(2) 原告は,審判合議体が本件拒絶査定における理由の一部についてしか判断し ていないこと,審判官が専門とする技術分野が本願発明の技術分野とは異なること などから,本件は実質的に審理されたものということはできず,審理不尽の違法が あると主張する。 しかし,審判合議体は,特許請求の範囲【請求項1】の記載は明確性要件及びサ ポート要件に適合しないなどとする本件拒絶理由通知をし,本件補正により補正さ れた同請求項の記載も,明確性要件及びサポート要件に適合しないとして,本件審 決をしたものである。審判合議体は,拒絶査定不服審判において,拒絶査定に挙げ られた全ての理由について判断することが求められているものではない。また,本 件審決をした審判官につき除斥又は忌避事由があったことを窺わせる証拠はない。 その他,審判合議体が本件を実質的に審理しなかったことを認めるに足りる証拠も ない。 したがって,本件につき審理不尽の違法がある旨の原告の主張は採用できない。
・・・
以上によれば,特定事項Aは,「脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当 該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数を 「指標」として使用する方法」と解釈するのが合理的であって,特定事項Aを,こ のように解釈することは,その余の特定事項の解釈とも整合するものということが できる。
キ 被告の主張について
(ア) 被告は,本願発明は「年齢」や「性別」のような属性を,ありふれた油脂 を選択するための指標として使用する方法をいうところ,「指標として」という記 載は抽象的であり,いかなる行為までが「指標」として使用する行為に含まれ得る のか明確ではないから,本願発明の外延は明確ではない,要素を何らかの形で脂質 含有配合物を選択するための指標として用いたか否かについては,明確に判別する ことはできない旨主張する。 しかし,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,年齢,性別等の対象の要素 をメルクマールにして,その脂質含有配合物の構成を決定すれば,要素を「指標と\nして」使用したといえる。また,これにより決定される脂質含有配合物の構成があ\nりふれたものであったとしても,ありふれていることを理由に発明の外延が不明確 であると評価されるものではない。そうすると,「指標として」という記載が,第 三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。 また,対象方法が本願発明の特許発明の技術的範囲に属するか否かは,本願発明 の技術的範囲を画定し,対象方法を認定した上で,これらを比較検討して判断する ものである。そして,脂質含有配合物を選択するための指標として本願発明の要素 をメルクマールとして用いたか否かは,対象方法の認定に係る問題であって,本願 発明の技術的範囲の画定の問題,すなわち,明確性要件とは無関係である。 したがって,被告の上記主張は採用できない。
・・・・
本件審決は,サポート要件について,「ω−6の増加が緩やかおよび/また はω−3の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」と の技術的事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないから,本願 発明の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないと判断した。 そして,本件審決は,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該 発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載 や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる と認識できる範囲のものであるか否かについて,何ら検討判断していない。
(2) しかしながら,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明 の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のである。 そうすると,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課 題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆が なくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識で きる範囲のものであるか否かについて,何ら検討することなく,選択関係にある特 定事項EないしHのうち特定事項G「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との技術的 事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないことの一事をもって, サポート要件に適合しないとした本件審決は,誤りである。
(3) 加えて,以下のとおり,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の中 止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との特定事項G の技術的事項は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されている。 すなわち,まず,本願明細書【0042】には,「長鎖ω−3脂肪酸または免疫 抑制性の植物性化学物質/栄養素の習慣的で多量の供給が宿主に対して突然行われ なくなるか,またはω−6脂肪酸が突然増加すると,全身性の炎症応答(毛細血管 漏出,発熱,頻脈,呼吸促迫),多臓器不全(消化器,肺,肝臓,腎臓,心臓)お よび関節の結合組織損傷を含む重篤な結果を伴うサイトカインストームの応答が生 じることがある。」と記載され,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の 中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも,様々な疾患が生じ得るこ とが記載されている。このように,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであ」る投与方法に関する技術的事項は,本願明細書【0042】 に記載されている。
また,本願明細書には,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜30 歳及び31〜50歳の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以 下とすること(実施例3【表9】),多量のシーフード摂取者であって上記と同年\n齢の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実 施例3【表11】),及び,医学的適応として肥満を有する者に投与する脂質組成\n物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実施例6【表13】)が,それ\nぞれ記載されている。このように,「ω−6の用量が,40グラム以下であ」る投 与方法に関する技術的事項は,本願明細書の実施例3【表9】【表\11】及び実施 例6【表13】のそれぞれ一部の対象に対するものとして記載されている。\nさらに,上記のとおり,本願明細書【0042】には,「ω−6の増加が緩やか および/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも, 様々な疾患が生じ得ることが記載されており,これは,「ω−6の増加が緩やかお よび/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法が,特定の対象に限らず,一 般的に好ましい旨開示するものというべきである。そうすると, このような投与方 法と,実施例3【表9】【表\11】及び実施例6【表13】のそれぞれ一部に記載\nされた「ω−6の用量が,40グラム以下であ」るという投与方法を組み合わせた 投与方法,すなわち,例えば,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜 30歳及び31〜50歳の男性に,40g以下の用量のω−6脂肪酸を投与し,そ の際,ω−6脂肪酸を緩やかに増加させ及び/又はω−3脂肪酸を穏やかに中止す るという,脂質含有組成物の投与方法に関する技術的事項は,本願明細書に記載さ れているということができる。
(4) したがって,本件審決は,サポート要件を形式的に判断した部分について誤 りがあるだけではなく,そもそも同要件を実質的に検討判断しておらず,その判断 枠組み自体に問題がある。よって,取消事由3は,その趣旨をいうものとして理由 がある。

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平成30(行ケ)10034  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反として無効とした審決が維持されました。また、「第2予告により,上記無効理由に関しては,実質的に見て原告に訂正の機会が与えられたものといえる。よって,新規性及び進歩性との関係では,第2予\告の後更に審決の予告をすべき場合には当たらない」として、審決の予\告も不要と判断しました。

2 取消事由1(手続違背)について
(1) 審判長は,特許無効審判の事件が審決をするのに熟した場合,審判の請求に 理由があると認めるときその他の経済産業省令で定めるときは,審決の予告を当事\n者等にしなければならない(特許法164条の2第1項)。上記「経済産業省令で 定めるとき」として,特許法施行規則50条の6の2が規定されている。同条3号 は,同条1号又は2号に掲げる審決の予告をした後であって事件が審決をするのに\n熟した場合にあっては,「当該審決の予告をしたときまでに当事者…が申\し立てた 理由又は特許法153条第2項の規定により審理の結果が通知された理由(当該理 由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないものに限る。)に\nよって,審判官が審判の請求に理由があると認めるとき」は,審決の予告をしなけ\nればならない旨規定する。 この規定によれば,先に行われた審決の予告までに当事者が申\し立てた理由のう ち,当該予告において判断が留保され又は有効と判断された理由につき特許を無効\nにすべきものと判断する場合のように,「当該理由により審判の請求を理由がある とする審決の予告をしていない」場合は,実質的に訂正の機会が与えられなかった\nものであり,再度の審決の予告をしなければならない。他方,そうでない場合,す\nなわち,先に行われた審決の予告と実質的に同じ内容の理由により特許を無効にす\nべきものと判断する場合のように,実質的に訂正の機会が与えられていた場合は,審判長は,更に審決の予告をする必要はないものと解される。審決予\告の制度は, 特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求につき,それに 起因する特許庁と裁判所との間の事件の往復による審理の遅延ひいては審決の確定 の遅延を解消する一方で,特許無効審判の審判合議体が審決において示した特許の 有効性の判断を踏まえた訂正の機会を得られるという利点を確保するために,審決 取消訴訟提起後の訂正審判の請求を禁止することと併せて設けられたものであると ころ,上記の解釈は,この制度趣旨にかなうものである。
(2)第1予告及び第2予\告の内容等
ア 第1予告\n
第1予告で示された認定判断のうち,サポート要件に係る部分は,以下のとおり\nである。
(ア) 本件特許に係る発明の課題
「補償膜において,広い視野範囲にわたり,例えば輝度の増大といった光学的性 質を改善すること」,及び「補償膜を構成する重合性液晶組成物を製造するにあた\nり,配向,及び重合に高温を要しないものとすること」である。
(イ) 判断
a 「補償膜において,広い視野範囲にわたり,例えば輝度の増大といった光学 的性質を改善する」という課題は,「ホメオトロピック配向または傾斜したホメオ トロピック配向を有する補償膜」とすることにより解決されるものである。
b 当時の請求項1記載の発明は,「補償膜において,広い視野範囲にわたり, 例えば輝度の増大といった光学的性質を改善する」という課題を解決するものであ る。 また,当該発明の発明特定事項は全文訂正明細書に記載されている。 したがって,当該発明は,発明の詳細な説明において,発明の課題が解決できる ことを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえない。
c 当時の請求項4〜14記載の発明についても同様である。
d したがって,当時の請求項1,4〜14記載の発明は,発明の詳細な説明に 記載されたものではないとはいえない。
イ 第2予告\n
第1予告を受け,原告は,平成28年2月8日付け訂正請求を行った。第2予\告 は,これを受けて行われた。
(ア) サポート要件について
a 当時の請求項1,4〜14及び25〜32の解決しようとする課題
上記ア(ア)に同じ。
b 当該課題を解決するための手段
「重合性メソゲン物質の混合物の重合あるいは共重合によって得られる少なくと\nも1つのアニソトロピックポリマー層がホメオトロピックまたは傾斜したホメオト\nロピック分子配向を有する補償膜,および該補償膜を備えた液晶表示デバイスの提\n供」をするものである。
c 判断
(a) 当時の請求項1記載の発明の「式 I」の定義を満たすメソゲンの全てが\n「ホメオトロピック又は傾斜したホメオトロピック分子配向を有する補償膜」を好 適に作製できる範囲にあるとは認められない。 当該発明の「式 I」を満たすメソゲンの中には,置換基における炭素数が1つ違\nうだけでも,その液晶としての物性が大きく異なる場合が存在しており,メソゲン\nの分子量や立体構造や極性基の有無などによっても,その液晶としての物性が大き\nく異なることも当業者の技術常識であるから,当時の全文訂正明細書の例1A〜例 2において試験された化合物(1)〜(6)以外のメソゲンの全てが「ホメオトロピックま\nたは傾斜したホメオトロピック分子配向を有する補償膜」を好適に作製できる範囲 にあるとは認められない。
(b) 当時の請求項4〜14及び25〜32記載の発明についても同様である。
(c)したがって,当時の請求項1,4〜14及び25〜32記載の発明は,発明 の詳細な説明に記載されたものではない。
(イ) 新規性及び進歩性について
a 引用発明の認定
第2予告において認定された甲1記載の発明(以下「甲1の2発明」,「甲1の\n3発明」という。)は,以下のとおりである。
(a) 甲1の2発明
偏光板と液晶セルの間に光学補償板として使用できる光学異方フィルムを配置す る液晶表示素子であって,前記光学異方フィルムは,下記の式(I)の化合物25 重量部,
下記の式(m)の化合物25重量部,
下記の式(a)の化合物50重量部
からなる重合性液晶組成物99重量部と光重合開始材1重量部から成る重合性液晶組成物を光重合させて得られた,ホモジニアス配向の光学異方フィルムである, 前記液晶表示素子(判決注:上記式(I),(m)及び(a)は,別紙2「引用発 明」記載1のものと同一である。)。
(b) 甲1の3発明
重合性液晶組成物を光重合させて得られた,光学補償板として使用することがで きるホメオトロピック配向の光学異方フィルムであって,下記の式(a)の化合物 50重量部, 及び下記の式(d)の化合物50重量部 からなる重合性液晶組成物100重量部と光重合開始剤1重量部からなる重合性 液晶組成物を,2枚のガラス基板の間に挟持させ,ホメオトロピック配向している ことを確認した後,紫外線を照射して光重合させて得られた,前記光学異方フィル ム(判決注:上記式(a)及び(d)は,別紙2「引用発明」記載2のものと同一 である。)。
b 当時の請求項14記載の発明について
当時の請求項14記載の発明は,甲1の2発明であるから,特許法29条1項3 号に該当する。
(ウ) 第2予告を受け,原告は,本件訂正請求を行った。\n
(3) サポート要件について
ア 本件審決と第2予告は,いずれもサポート要件につき,特許請求の範囲の記\n載は,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件訂正発明の課題を解決できると 認識できる範囲のものであるとは認められず,また,その記載や示唆がなくとも当 業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の ものであるとも認められないとして,サポート要件に適合しないと判断したもので ある。
イ 本件訂正発明の解決しようとする課題
(ア) 本件審決が認定した本件訂正発明の解決しようとする課題は,前記第2の 3(2)アのとおりである。また,第2予告が認定した本件訂正発明の解決しようとす\nる課題は,前記(2)イ(ア)aのとおりである。
(イ) 本件審決と第2予告がそれぞれ認定した本件訂正発明の解決しようとする課題は,表\現こそ異なるものの,実質的には同じ内容を意味するものと理解される。
ウ 以上によれば,サポート要件との関係では,サポート要件違反により審判の 請求を理由があるとする第2予告の後,原告には実質的に訂正の機会が与えられた\nものといえるから,更に審決の予告をすべき場合には当たらない。\n
(4) 新規性及び進歩性について
ア 本件審決及び第2予告において判断の対象とされた新規性・進歩性の判断に\n当たり対比される主引用例は,いずれも甲1(引用例)であり,同一である。
イ 引用発明の認定
(ア) 本件審決の認定した引用発明1A及び1Bは,前記第2の3(3)のとおりで ある。また,第2予告が認定した甲1の2発明及び甲1の3発明は,前記(2)イ(イ) aのとおりである。
(イ) 引用発明1Bと甲1の3発明とを対比すると,本件審決の認定と第2予告\nの認定は同一である。他方,引用発明1Aと甲1の2発明については,本件審決で は式(N−a)の化合物を含むのに対し,第2予告ではこれを含まない点その他の\n点で,液晶表示素子に係る混合物を構\成する重合性液晶組成物の一部が相違する。 しかし,甲1を主引用例として認定された引用発明に基づき,新規性又は進歩性 が欠如するとの無効理由により審判の請求を理由があるとする第2予告により,上\n記無効理由に関しては,実質的に見て原告に訂正の機会が与えられたものといえる。 よって,新規性及び進歩性との関係では,第2予告の後更に審決の予\告をすべき 場合には当たらない。
(5) まとめ
以上のとおり,本件審決は,第2予告をしたときまでに当事者が申\し立てた理由 で,当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしたものを判断の\n対象としたものであり,「当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予\n告をしていないとき」に該当しないから,第2予告の後更に審決の予\告をしなけれ ばならない場合には当たらない。 したがって,再度の審決の予告をしないまま審決をしたことにつき,本件審決に\n違法はない。
(6) 原告の主張について
ア 原告は,本件審決が認定した本件訂正発明の課題は第2予告で認定されたも\nのと異なるなどと主張する。 しかし,本件訂正明細書においては,液晶表示デバイスの補償膜に係る従来技術\n及びそれが抱える欠点等につき前記1(1)ア(イ)のとおり説明し,これを受ける形で, 「本発明の課題の一つは」などとして,前記1(1)ア(ウ)のとおり,解決しようとす る課題及び本件訂正発明がこの課題を解決できる旨が記載されている。本件審決は, これを踏まえ,本件訂正発明の課題を認定したものと理解される。 他方,第2予告においても,これらと同旨の記載が当時の全文訂正明細書にある\nことを根拠に,発明の課題の認定が行われている。 このことと,第2予告の認定において,「補償膜において,・・・光学的性質を改善\nすること」と「補償膜を構成する・・・高温を要しないものとすること」とは「及び」\nにより接続されていることを踏まえると,本件審決と第2予告とがそれぞれ認定した発明の課題が異なるものということはできない。\nなお,原告は,課題の認定につき,第1予告では,第2予\告と同様の認定がされ ながらサポート要件を満たすものとして通知されていたために,それ以降サポート 要件についての議論はさほどされなかったなどといった経緯から,第2予告のサポ\nート要件違反の理由につき,本件審決において変化する理由は推測できないなどと 指摘する。
しかし,上記のとおり,本件審決と第2予告とで認定した発明の課題が異なると\nはいえない上,特許法施行規則50条の6の2第3号に基づく審決の予告と理解さ\nれる第2予告においてサポート要件違反とする理由が明確に示され,原告もこれに\n対する反論を現に行っていること(甲68−1)に鑑みると,第1予告の内容がど\nうであれ,第1予告から第2予\告,その後の本件審決へと至る経緯を考慮しても, 本件審決に先立ち,第3の審決の予告を行って原告に主張立証や訂正の機会を与え\nなければならないとはいえない。
イ 原告は,本件審決が第2予告で指摘していない式Iの例をサポート要件違反\nの根拠とし,また,審尋における質問に対する回答によって一旦解消した問題を不 意打ち的に蒸し返して判断したなどと主張する。 しかし,本件審決が括弧書で示した化合物は,実施例記載の具体的な化合物(1)〜 (6)以外のメソゲンが本件訂正発明の課題を解決しないことを説明するための例示に\nすぎず,その記載の有無が結論に影響を及ぼすものではない。その意味で,これら が第2予告において示されていなかったとしても,再度の審決の予\告を行い訂正の 機会を与える必要性を裏付けるものとはいえない。 また,原告主張に係る審尋における審判合議体の質問で例示された化合物に関し ては,「その「重合性基(P)」がアクリレート基であるとした場合に,その「P −Sp−」の選択肢として,例えば「CH2CHCOO−O−(CH2)m−」や 「CH2CHOO−OCOO−(CH2)m−」のような化学構造のものまでもが本\n件第2訂正発明1の範囲に含まれてしまいます。」とされている。他方,本件審決 で例示されたものは,「Pがプロペニルエーテル基又はエポキシ基であり,Spが −O−CH2−C≡CH2−O−であり,Xが−O−である場合のメソゲン物質」(本件訂正発明1)や「Pがプロペニルエーテル基であり,Spが−O−CH2−C≡C−CH2−O−CH2−O−COO−CH2−CO−S−であり,Xが−O−である場合のメソ\ゲン物質」(本件訂正発明4,5,7,8,10〜14,25〜34),「Pがプロペニルエーテル基であり,Spが−O−CH2−O−であり, Xが−O−である場合のメソゲン物質」(本件訂正発明6)であり,第2予\告で例 示された化合物と一致しない。そうである以上,上記「解決済み」との原告の主張 は,その前提を欠く。
ウ 原告は,本件訂正発明に係る好適なホメオトロピック配向の効果の有無を認 定することがないまま審決に至った点で,本件審決には審理不尽があるなどと主張する。
しかし,本件審決は,本件訂正発明のうち進歩性を欠くとしたものについては, いずれもその判断において,発明の効果につき「当業者が予測し得る範囲内のもの\nである。」旨の判断を示している。そうである以上,本件審決に至る審理において 本件訂正発明の効果に関する検討が行われていないとはいえない。
エ 原告は,第2予告における引用発明が本件審決において別の発明にすり替わ\nっており,その変更の理由も述べられていないことと併せ,本件審決には手続違背 があるなどと主張する。 しかし,本件審決における引用発明1Aと第2予告における甲1の2発明とで相\n違があるとしても,実質的に見て,第2予告により原告には訂正の機会が与えられ\nたものといえることは,前記のとおりである。
オ 原告は,本件訂正発明14につき,第2予告では新規性欠如との理由が示さ\nれていたのに対し,本件審決では新規性及び進歩性欠如の理由が示されており,無 効理由が実質上も形式上も一致していないなどと主張する。 しかし,第2予告においても,その当時の訂正発明14につき新規性欠如及び進\n歩性欠如がいずれも無効理由として主張され,判断の対象とされていた(甲66)。 このこと及び第2予告後に請求項14の訂正を含む本件訂正請求が行われたことに\n鑑みると,審判合議体が審決に当たり新規性についてのみならず進歩性についても 判断を示す必要があると考えたとしても,再度更に審決の予告をして原告に訂正の\n機会を与える必要があるとはいえない。
・・・・
3 取消事由2(サポート要件違反の判断の誤り)について
(1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲 の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が, 発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当 該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課 題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもので ある。そして,サポート要件の存在は,特許権者が証明責任を負うものと解される。
・・・・
ア 前記のとおり,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには, 明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において 認識できるように記載しなければならない。そして,本件訂正発明におけるメソゲ\nン化合物a,a1,a2を定義する式 I ないし I’は,請求項によってその具体的 内容を多少異にするものの,いずれも当該式を構成する重合性基P,スペーサー基\nSp,結合基X,メソゲン基MG,末端基Rといった基本骨格部分において非常に\n多くの化合物を含む表現である上,これらに結合する置換基の選択肢も考慮すれば,\nその組合せによって膨大な数の化合物を表現し得るものとなっている。\nこのような場合に,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合する ためには,発明の詳細な説明は,上記式が示す範囲と得られる効果との関係の技術 的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該式が示す範囲内で あれば,所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示 して記載することを要するものと解するのが相当である。換言すれば,発明の詳細 な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に,具体例を開 示せず,特許出願時の当業者の技術常識を参酌しても,特許請求の範囲に記載され た発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できる とはいえない場合,サポート要件に適合するとはいえない。
イ 前記のとおり,本件訂正発明におけるメソゲン化合物a,a1,a2を定義\nする式 I ないしI’は,その組合せによって膨大な数の化合物を表現し得るものと\nなっている。 他方,本件訂正発明の実施例である例1A〜例3においてメソゲン化合物として\n用いられている化合物(1)〜(8)は,いずれも式 I において,重合性基Pがアクリレー ト基(CH2=CHCOO−),Sp(スペーサー基)が炭素数3又は6個の直鎖 状アルキレン基,Xが−O−,nが1という,化学構造が類似するごく限られた化\n合物に限られる。 例えば,重合性基Pがメタクリレート基であるモノマーを含むと安定な配向を得 にくくなる場合が生じてくることが知られている(乙4)。また,例えばスペーサ ー基Spを構成する(その一部の置換えも含む。)アルキレン基として炭素数が1\nの場合と20の場合とでは化合物の特性が大きく異なることが予測されることなど配合するメソ\ゲン化合物の化学構造がその配向性や配向膜の特性に影響することは,\n現に引用例において様々な構造の化合物につき検討されていることからもうかがわ\nれるように,本件優先日当時における当業者の認識であったと考えられる。そうす ると,本件訂正明細書の発明の詳細な説明における他の記載を参酌しても,補償膜 の調製に用いる混合物につき,上記具体例として示された化合物とは構造が異なる\n化合物を成分とする混合物に係る本件訂正発明の範囲にまで拡張ないし一般化した 場合,すなわち本件訂正発明に係る式 I で表される広範な重合性メソ\ゲン化合物の いずれかを含む混合物とした場合に,これによって,前記認定に係る本件訂正発明 の課題を解決するような補償膜として好適なフィルムが得られるとはいえない。 したがって,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に開示されている内容からは, 本件特許の特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発 明であり,本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえない。そのように認識できる範囲のものというべき本件特許出願時の技術常識 を認めるに足りる証拠もない。
ウ 本件訂正発明の解決しようとする課題のうち,「高融点を示し配向および重 合に高温を要するという欠点を有していない」点について,本件訂正明細書の発明 の詳細な説明には,「低融点,好ましくは100℃またはそれ以下,特に60℃ま たはそれ以下の融点を有する重合性混合物を使用すると好ましく,これにより低温 で混合物の液晶相において硬化を行うことができる。…60℃以下の硬化温度は特 に好ましい。」との記載がある。加えて,実施例(例1A)には,基板に塗布し, 50℃で溶剤を蒸発させることによってホメオトロピック配向膜を得られることが 示されている。もっとも,「高温を要するという欠点」を回避し得る融点を具体的 に特定する記載はない。
他方,本件訂正明細書で液晶の配向に高温を要する例として掲げたJP05−1 42531(乙1)の【化2】で表される化合物について,引用例には,「108〜211℃という非常に高い温度範囲でネマチック相を示し,実際にこの化合物を\n含有する重合性組成物を液晶状態で重合して作製した光学異方フィルム(カラー偏 光板)は外観も不均一であり,むらが生じる欠点があった。」と記載されている。 また,本件訂正明細書で同様に「高融点を有し,従って配向および重合に高温を要」 するものとして例示された Heynderickx, Broer 等の刊行物(乙2)に記載されて いる‘Scheme 1’の化合物については,引用例にも,「一般式(R−2)において, R5がメチル基の化合物80重量部及びR5が水素原子の化合物20重量部から成 る液晶組成物は,80〜121℃と室温よりかなり高い温度範囲でネマチック層を 示し,また予期しない熱重合に起因してこのような重合性液晶組成物を用いて作製される光学異方フィルムのメソ\ゲンの配向が不均一となるという欠点があった。」 と記載されている。ところが,これらの化合物はいずれも,本件訂正発明に係る式 I で定義される広範な化合物に含まれるのであって,本件訂正明細書の内部でいわ ば記載内容に矛盾を生じている。
そうすると,本件訂正発明に係る式 I で定義されるメソゲン化合物を含む混合物\nは,その全てが本件訂正発明の課題を解決し得る「高融点を示し配向および重合に 高温を要するという欠点を有していない」ものとはいえない。その点からも,本件 訂正明細書の発明の詳細な説明に開示されている内容からは,本件特許の特許請求 の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明であり,本件訂正 発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえず,また,その ように認識できる範囲のものというべき本件特許出願時の技術常識を認めるに足り る証拠もない。

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平成30(ネ)10060  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 UI関連の発明について、1審では、新規性無しの無効理由ありとして請求棄却されました。1審では、訂正審判がなされ審決が確定しましたが、時期に後れた主張であるして、口頭弁論は再開しませんでした。知財高裁は、構成要件Fが不明瞭のため要件を具備しないと判断されました。被告はAppleです。

 まず,構成要件Fの「入力」との文言の意味について検討する。
 (ア) 本件明細書には,構成要件Fの「入力」の意味を直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらない。\n他方で,本件明細書には,複数の箇所で「入力」との文言が使用され ているところ,例えば,段落【0008】の「摩擦力による入力を,直 接的または間接的に検出する」のように「物理的な力を加えること」と の意味や,段落【0012】の「図14は,…文字を入力する例を示し た図である。」のように「コンピュータに情報を与えること」との意味 など,同一の文言であるにもかかわらず文脈によって異なる意味で使用 されている。 なお,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び【006 2】の記載に基づいて,本件発明の「『当該変更結果を当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に\n記憶させる』とは,(背景の変更などの)変更結果を,(フォルダYに 保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味しているといえる。」と判断しているが,これは構\成要件Fの「入力」 は「コンピュータに情報を与えること」を意味すると解したものといえ る。
(イ) この点について,控訴人は,構成要件Fの「入力」は,「力入力検出手段」により検出された当該表\示対象に対する「力入力」,すなわち「物理的な力を加えること」を意味すると主張する。 しかし,この解釈は,構成要件H,A及びDでは,「物理的な力を加えること」として「力入力」との文言が明示的に使用されているにもか\nかわらず,構成要件Fでは敢えて「入力」のように異なる文言が使用されていることと整合しない。\n
また,構成要件Fの「入力」は,「当該変更結果」,すなわち,「保持された表\示対象以外の表\示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」を目的語としていると解し得るところ,こ の場合に「入力」を「物理的な力を加えること」と解釈することは不自 然である。さらに,「として」は,前に置かれた語を受けて,その状態, 資格,立場等であることを表す語であるところ,「入力」を「物理的な力を加えること」と解すると,「入力として・・・記憶させる」との文言が\n意味するところを理解できないというべきである。
(ウ) 控訴人は,本件訂正審決が「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として・・・記憶部に記憶させる」とは,「(背景の変更などの)変更結\n果を,(フォルダYに保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味している」と判断したことを指摘して,当該判断\nは控訴人の上記主張と整合するとも主張する。 しかし,「物理的な力を加えること」と「コンピュータに情報を与え ること」とは別個の概念であるから,構成要件Fの「入力」を「物理的な力を加えること」と解した上で,本件訂正審決の判断のように「コンピュータに情報を与えること」との意味をも有すると直ちに理解することは困難である(物理的な力が加わったことをコンピュータに検出させる場合には,両者の意味が重なっているともいい得るが,本件においては,上記説示のとおり,少なくとも「物理的な力を加えること」と解することは不自然であるから,両者の意味が重なっている場合と断ずることもできない。)。\n
(エ) 以上によれば,控訴人の主張によっては,構成要件Fの「入力」の意味を一義的に理解することは困難であるというほかない。\n
イ 仮に,構成要件Fの「入力」を,本件訂正審決が判断したように,「コンピュータに情報を与えること」と解したとしても,次のとおり,構\成要件Fの意義は依然として不明確であるというべきである。
(ア) 構成要件Fの「当該表\示対象」は,構成要件Cの「前記位置入力手段にて検出された位置の表\示対象」をいうと解される。本件明細書には,この「表示対象」の意味についても,直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらないものの,発明の詳細な説明の記載に照らせば,アイコン等(【0021】),アイコンや文字列等(【0029】),アイコンや文字,記号,図形,立体表\示対象など(【0035】)がこれに当たるものと解される。 しかし,表示画面にアイコン等を表\示させ,利用者が当該表示画面に接触した位置を検出し,当該接触位置に応じて処理を行う入出力装置においては,表\示画面に表示するアイコン等のデータそのもの(例えば,スマートフォンの画面に表\示されているカメラ様の画像データ)と,当該アイコン等と紐づけされた実体(例えば,カメラアプリケーション) とは,別個のものとされていることが多いと解されるところ,本件明細 書の記載を精査しても,本件発明における「表示対象」が具体的にどのようなものであるのかは明らかといえない。\n
(イ) また,上記ア(イ)のとおり,構成要件Fの「当該変更結果」は,「保持された表\示対象以外の表示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」と解し得るところ,「相対的に変更させた結果」についても,背景として設定されている画像が移動したピクセル数や,保持された表示対象と重なることとなったアイコン等の有無及びその種類など,さまざまなものがあり得る。\n そして,構成要件Fによれば,この「相対的に変更させた結果」は,「当該表\示対象」に対する情報として与えるものであるが,ある対象に与え得る情報は,当該対象がアプリケーションかデータかや,その実装方法によっても大きく異なるものと解される。 そうすると,上記(ア)のとおり,「当該表示対象」が具体的に意味するところが明らかでない上に,「相対的に変更させた結果」の意味内容も特定されていないことを考え合わせると,「当該変更結果を当該表\示対象に対する入力として記憶部に記憶させる」の意義も明らかでないというべきである。
(ウ) この点に関し,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び 【0062】の記載に基づいて,「当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に記憶させる」とは,「表\示要素『B』のデータをフォルダXからフォルダYに移動させて保存することを意味している」と判断した。しかし,本件訂正審決の説示においても,「表示要素『B』のデータ」がいかなるデータであるのかが具体的に特定されているとはいい難い。\n また,本件明細書の段落【0035】記載の「フォルダX」及び「フォルダY」と段落【0062】記載の「WINDOW1」及び「WINDOW2」の関係も明らかでなく,いかなる情報が「相対的に変更させた結果」に該当し,「フォルダXからフォルダYに移動させ」ると理解することになるのかについても具体的な指摘がされているとはいえない。
ウ 以上検討したところによれば,結局のところ,構成要件Fの意義は不明確というべきである。そして,構\成要件Fの意義が不明確である以上,被告各製品が構成要件Fを充足すると認めることはできない。\n

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1審はこちらです。

◆平成29(ワ)14142

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平成30(行ケ)10086  審決取消請求事件  実用新案権  行政訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所

 実用新案権について、サポート要件、明確性要件が争われました。知財高裁は、無効理由なしとした審決を維持しました。争点は、連結固定の手法が特定されていない「介して」の用語が明確か否かです。

 本件考案1の実用新案登録請求の範囲の分説Bには,「前記底座体の前 部に回動自在に設置された第一駆動ホイールが第一モータに連結され,前 記第一駆動ホイールに第一偏心軸の入力端部が固定されると共に,前記第 一偏心軸の出力端部は第三8字形リンクロッドを介して前記上板の前部に 連結され,」(第一駆動系)と,分説Cには,「前記底座体の後部に回動 自在に設置された第二駆動ホイールが第二モータに連結され,第二駆動ホ イールに第二偏心軸の入力端部が固定されると共に,第二偏心軸の出力端 部はリンクロッドを介して前記中心軸に連結された」(第二駆動系)と記 載されている。そして,「介して」は「間におく。さしはさむ。中に立て る。」といった意味であるが(甲6,7),このような実用新案登録請求 の範囲の記載のみからは,「第一偏心軸の出力端部」と「上板の前部」と が「第三8字形リンクロッド」を「介して」どのように連結固定されるの か,「第二偏心軸の出力端部」と「中心軸」とが「リンクロッド」を「介 して」どのように連結固定されるのかが必ずしも明らかではない。 そこで,本件考案の技術的意義について,本件明細書の記載をみるに, 本件明細書の【0007】〜【0009】,【図1】及び【図2】には, 「底座体4」,「上板1」,「中心軸2」,「第一8字形リンクロッド8 1」,「第二8字形リンクロッド82」,「第一モータ91」,「第一駆 動ホイール61」,「第一偏心軸71」,「第三8字形リンクロッド83」, 「第二モータ92」,「第二駆動ホイール62」,「第二偏心軸72」, 「リンクロッド3」の本件考案の各機械要素の位置関係又は連結固定関係 が記載されている。また,【0010】〜【0012】には,本件考案の 振動器が上記の機械要素を用いて,上板に,1) 上下振動,2) 前後振動, 3) 両者を複合した振動を発生させるものであり,1)は,「第二モータ9 2」は停止させ,「第一モータ91」を作動させて「第一駆動ホイール6 1」を回転させると当該「第一駆動ホイール61」に固定された「第一偏 心軸71」が回転し,当該「第一偏心軸71」が「第三8字形リンクロッド83」を動かすことで「上板1」を上下方向に振動させるものであるこ と(【0010】),2)は,「第一モータ91」は停止させ,「第二モー タ92」を作動させて「第二駆動ホイール62」を回転させると当該「第 二駆動ホイール62」に固定された「第二偏心軸72」が回転し,当該「第 二偏心軸72」が「上板1」に設けた「中心軸2」に連結されている「リ ンクロッド3」を動かすことで,「上板1」に前後方向に振動させるもの であること(【0011】),3)は,「第一モータ91」と「第二モータ 92」を同時に作動させたときに「上板1」を上下方向と前後方向に同時 に移動することで生じる1)と2)を複合した弧形の振動であること(【00 12】)が記載されている。また,これ以外の態様は記載されていない。 以上に照らせば,本件考案の技術的意義は,第一駆動系により上板を上 下方向に振動させ,第二駆動系により上板を前後方向に振動させることで, 複数方向の振動を発生させることにあるといえる。そうすると,本件考案 1の分説B及び分説Cにおける「介する」は,第一駆動系により上板を上 下振動させ,第二駆動系により上板を左右振動させるような連結固定関係 としたものを意味するものであることは,明らかである。
イ 以上によれば,実用新案登録請求の範囲の記載は,その記載それ自体に 加え,本件明細書の記載及び図面並びに当業者の技術常識を基礎にすると,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものとは認められないから, 明確性要件関する本件審決の判断の結論に誤りはなく,この点に関する原 告の主張は採用することができない。
(3) 原告の主張について
原告は,分説B及び分説Cは,「介して」という「間におく。さしはさむ。 中に立てる。」という意味の用語を用いているのに止まり,本件考案を特定 するために必要不可欠な技術的事項の記載が欠落しており,原告指摘振動器 1及び原告指摘振動器2を含み得るように広く記載されているから,請求項 1の記載が不明確である旨主張する。 しかし,上記(2)に説示したとおり,分説B及びCの「介して」の用語の意 義を理解できるから,請求項1の記載は,第三者に不測の不利益を及ぼすほ どに不明確なものとは認められない。
3 取消事由1(サポート要件違反についての判断の誤り)について
(1) サポート要件に適合するかどうかは,実用新案登録請求の範囲の記載と考 案の詳細な説明の記載とを対比し,実用新案登録請求の範囲に記載された考 案が,考案の詳細な説明に記載された考案で,考案の詳細な説明の記載によ り当業者が当該考案の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否 か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当 該考案の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のである。
(2) 以上を前提に,本件考案1のサポート要件適合性について判断するに,本 件考案の技術的意義については,上記2(2)アのとおりであり,本件考案の採 用する課題解決手段もそのとおりに理解することができる。 そうすると,実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載は,考案の詳細な 説明に記載された考案で,当業者が,技術常識に照らし,考案の詳細な説明 の記載により当該考案の課題(美容あるいは運動用の振動器において,複数 方向の振動を発生させ,様々なニーズに応じた美容効果を得ることができる 振動器を提供すること)を解決できると認識できる範囲のものであるといえ る。 よって,本件考案1は,サポート要件に適合しているから,サポート要件 関する本件審決の判断の結論に誤りはなく,この点に関する原告の主張は採 用することができない。 したがって,取消事由2は理由がない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件考案1には,上下方向の振動しかしない原告指摘振動器1 と前後方向の振動しかしない原告指摘振動器2が含まれると主張する。 しかし,上記2(2)アで述べたところに照らせば,原告指摘振動器1及び 原告指摘振動器2は,本件考案1には含まれないというべきであるから, 原告の主張は前提を欠く。

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平成29(行ケ)10200  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月18日  知的財産高等裁判所

 無効理由なしとした審決が取り消されました。理由は、相違点については、技術常識から容易である、さらに、サポート要件を満たしていないことです。

 相違点1に係る,本件発明1の「回転数適応型の動吸振器(5)が, 油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセッ ト値qFだけ大きい有効次数qeffに設計されている」ことの意義につい てみると,本件発明1の特許請求の範囲には,「所定の次数オフセット qF」をいかに設定するかについて,「油影響に関連して」されるもので あること以上に特定する記載はないから,「油影響」について何らかの 関連を有し,何らかの次数オフセットqFだけ大きい有効次数qeffに設 計されているという程度の意味であると理解できる。 さらに,本件明細書についてみると,1) 図3に関する【0038】 〜【0039】の記載から,同じ設計の動吸振器であれば,回転する油 質量体の下では次数値が低くオフセットされるため,その抑制次数qFに 相当する分だけ高い次数値への次数オフセットをすることが,遠心力に 抵抗する油影響から結果的に生じる作用を考慮することになることが示 されているといえる。また,2) 【0043】によれば,qFは自由に選 択可能な値として規定されていてもよいし,励振の個々の次数に対して,\nそれぞれ固定の値が設定されていてもよいとされているから,次数オフセットqF自体は,任意に設定し得る値であることが読み取れる。
(イ) 以上によれば,qFは,1)のような実験的な測定に基づき設定される ものに限られず,2)のような任意の値も採り得るものであるといえる。 そして,動吸振器の幾何学的次数が,駆動装置の励振の次数(q)より も任意の値(qF)の分だけ大きい数値(qeff)になるように設計され ているということは,オーバーチューニングに当たるといえる。そうす ると,本件発明1の「回転数適応型の動吸振器(5)が,油影響に関連 して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値qFだけ大 きい有効次数qeffに設計されていること」は,「油影響」を受ける状況 下においては,動吸振器の次数が低下することから,任意の値の次数オ フセットにより,動吸振器をオーバーチューニングしたという程度の意 味と解される。
ウ 「油影響に関連して…設計されている」構成の容易想到性\n
上記ア(イ)の技術常識によれば,油中に浸漬され,油という液体の影響を 受ける遠心振り子のような動吸振器にあっても,回転する油中であるか否 かにかかわらず,その固有振動数(又は次数)に何らかの影響,特に,そ の固有振動数(又は次数)が低下するような影響が生じるであろうことは, 当業者にとって当然に予測し得ることといえる。\nそして,回転数適応型の動吸振器において,理論上最も効果的に駆動装 置側の振動を減衰できるのは,遠心振り子の固有振動数が駆動装置の励振 の振動数と一致する場合なのであるから(上記ア(ア)),油の影響を受ける 回転数適応型の動吸振器において,効果的に駆動装置の振動を減衰させる ためには,油の影響によって固有振動数(又は次数)が低下することから, 動吸振器の固有振動数(又は次数)について,任意の値の次数オフセット によりオーバーチューニングするという,相違点1に係る構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。\nよって,相違点1に係る構成は,甲4発明及び技術常識から容易に想到\nすることができたものである。
・・・
(2) 上記を前提に,サポート要件違反について検討する。
ア 上記2(3)イのとおり,本件発明1の特許請求の範囲には,「所定の次数 オフセットqF」について,「油影響に関連して」設定されるものであるこ とのほかに具体的な設定の手法等についての特定はないから,「回転数適 応型の動吸振器(5)が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよ りも所定の次数オフセット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計されてい る」とは,「油影響」を受ける状況下においては,動吸振器の次数が低下することから,任意の値の次数オフセットにより,動吸振器をオーバーチ ューニングしたという程度の意味に解される。 そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,1) 図3に関連する【0 038】,【0039】の記載から,同じ設計の動吸振器であれば,回転 する油質量体の下では,次数値が低くオフセットされるから,その抑制次 数に相当する分だけ高い次数値への次数オフセットをすることが,遠心力 に抵抗する油影響から結果的に生じる作用を考慮することになることが示 され,この記載の対応する限度では,当業者は,本件発明の課題(上記1(3)ウ)を解決できるものと認識できるといえる。 しかし,上記のとおり,特許請求の範囲には,次数オフセットqFについ ての具体的な設定の手法等を特定する記載はなく,2) 本件明細書【00 43】のとおり,任意に設定された次数オフセットqFだけ高い次数値への 次数オフセットをする場合も含まれるというべきであるが,このような任 意に設定した次数オフセットqFをとった場合については,本件明細書の記 載から当業者が本件発明の課題を解決できるものと認識できるとはいえな い。 そうすると,本件発明1は,当業者が発明の課題を解決できると認識で きる範囲のものであるとはいえないから,サポート要件に適合するとはい えない。

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平成30(行ケ)10073  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月7日  知的財産高等裁判所

 インクカートリッジICチップの制御に関する本願発明1のうち一部の実施例については課題を解決できると認識できないとして、サポート要件違反とした拒絶審決が維持されました。
 ウ 本願発明1は,インクカートリッジICチップに関し,前記イのような インクカートリッジ位置の検出過程における誤報率を減らすことを課題とする(【0 001】,【0006】)。
(3) 前記1によると,「課題を解決するための手段」欄のインクカートリッジI Cチップに係る記載(【0007】〜【0009】)には,本願発明1に含まれるイ ンクカートリッジICチップの構成が記載されているが,このようなインクカートリッジICチップの構\成とすることにより,前記(2)ウのインクカートリッジ位置の 検出過程における誤報率を減らすことができる理由については何らの記載も示唆も なく,当業者が本願出願日当時の技術常識に照らしても,上記記載のみによって, 本願発明1の課題を解決できると認識できるものとは認められない。 そこで,実施例の記載を見ると,本願明細書には,具体的な実施例として,少な くともインタフェースユニットと制御ユニットを含み,インタフェースユニットは, イメージング装置に電気的に接続され,イメージング装置から送られる光制御指令 の受信に用いられ,前記光制御指令は,インクカートリッジICチップ上の発光ユ ニットを発光させるのに用いられる発光指令を含み(本願発明1とは異なり,消光 指令を含むか否かは明らかでない。),制御ユニットは,前記インタフェースユニッ トが光制御指令を受信したときに,インクカートリッジICチップの状態に応じて その光制御指令を実行するかどうかを制御するのに用いられるインクカートリッジ ICチップにおいて,前記インクカートリッジICチップの状態は,実行可能な状\n態と実行不可能な状態を含み,前記制御ユニットは,前記インタフェースユニット\nが発光指令を受信したときに,前記インクカートリッジICチップが実行可能な状\n態にある場合,前記発光ユニットを発光させるのに用いられる実施例が記載されて いる(【0016】,【0017】)。この実施例は,発光指令を受信したときに, インクカートリッジICチップが実行可能な状態にある場合には,その発光指令を実行\nするものであるが,これを含む上記実施例のように構成することにより,前記(2)ウ のインクカートリッジ位置の検出過程における誤報率を減らすことができる理由に ついては何らの記載も示唆もなく,当業者が本願出願日当時の技術常識に照らして も,上記実施例の記載のみによって,本願発明1の課題を解決できると認識できる ものとは認められない。上記実施例記載のインクカートリッジICチップを用いて も,前記(2)ア・イの従来技術と同じ機会に同じインクカートリッジのみが発光する ように,発光指令が実行可能な状態において受信される構\成では,本願発明1の課 題が解決できないことは明らかである。
 また,本願明細書には,本願発明1に含まれる実施例として,第1種のインクカ ートリッジICチップ(【0021】〜【0033】),第2種のインクカートリッジ ICチップ(【0035】〜【0042】),第5種のインクカートリッジICチップ (【0056】〜【0057】)が記載されており,発光指令を受信したときに,イ ンクカートリッジICチップが実行可能な状態にある場合には,その発光指令を実\n行し,実行不可能な状態にある場合には,その発光指令を実行しないものであるが\n(【0021】,【0026】,【0035】,【0056】),これを含む上記各実施例のように構成することにより,前記(2)ウのインクカートリッジ位置の検出過程におけ る誤報率を減らすことができる理由については何らの記載も示唆もなく,当業者が 本願出願日当時の技術常識に照らしても,上記各実施例の記載のみによって,本願 発明1の課題を解決できると認識できるものとは認められない。なお,第3種のイ ンクカートリッジICチップ(【0044】〜【0050】)及び第4種のインクカ ートリッジICチップ(【0051】〜【0055】)は,インクカートリッジIC チップの状態はインクカートリッジICチップの指令受信状態であり,指令受信統 計ユニットに記録された指令受信状態に応じて,インタフェースユニットが受信し た光制御指令を実行するかどうかを制御するものであるから,本願発明7及びこれを更に限定した本願発明8〜13に係る実施例であって,インクカートリッジIC チップの状態が実行可能な状態と実行不可能\な状態とを含むものではない点におい て,本願発明1に含まれる実施例とは認められない。 さらに,本願明細書には,正対位置検出とそれに引き続く隣接光検出とからなる インクカートリッジ位置検出について,初期状態で発光指令を実行できる状態とさ れているインクカートリッジICチップにおいて,1)インクカートリッジの正対位 置検出のために,そのインクカートリッジを発光させる発光指令を受信した場合に は,発光指令を実行できる状態に応じて,その発光指令を実行して,そのインクカ ートリッジを発光させる(発光指令を実行できる状態のその余のインクカートリッ ジも発光させる。)とともに,そのインクカートリッジを発光させる発光指令を実行不可能な状態とし,2)次いで受信する消光指令を実行してそのインクカートリッジ を消光し(前記1)で発光させたその余のインクカートリッジも消光させる。),3)以 後,隣接光検出等のために,発光指令を受信した場合には,実行不可能な状態に応\nじて,その発光指令を実行しないように制御する実施例が記載されている(【002 0】,【0024】,【0084】〜【0091】)。上記実施例の記載によると,正対位置検出時に比し,隣接光検出時に一部の隣接インクカートリッジの発光をカット することにより,正対位置検出時に受光部に届く光の量が条件を満たすようにしな がら,隣接光検出時には受光部に光が届かない又はわずかな光しか届かないように して,イメージング装置の誤報率を減らすことができ,本願発明1の課題を解決で きると認識することができる。 そして,本願明細書には,「イメージング装置の種類によっては,そのインクカー トリッジの数,インクカートリッジ装着方法,検出順番と検出方法等も異なるため, 上記のインクカートリッジ検出に関する説明はあくまでも参考例に過ぎ」ない旨記 載されているが(【0092】),検出順番や検出方法等が異なるイメージング装置に ついて,適切な制御手順を構築する方法についての記載や示唆はないし,上記実施\n例(【0020】,【0024】,【0084】〜【0091】)以外に,前記(2)ウのインクカートリッジ位置の検出過程における誤報率を減らすことができ,本願発明1 の課題を解決できると認識することができる実施例は見当たらない。
 そうすると,本願明細書に接した当業者は,本願発明1のうち,上記実施例(【0 020】,【0024】,【0084】〜【0091】)に該当するものについては,本願発明1の課題を解決できると認識するが,本願発明1のうち,その余の構成のも\nのについては,本願発明1の課題を解決できると認識することはできないと認めら れる。
(4) 本願発明1は,前記第2の2(1)のとおりであり,「前記制御ユニットは,前 記インタフェースユニットが光制御指令を受信したときに,インクカートリッジI Cチップの状態に応じて当該光制御指令を実行するかどうかを制御する」について,「インクカートリッジICチップの状態」である「実行可能な状態」と「実行不可\n能な状態」のそれぞれに応じて,「光制御指令を実行するかどうか」をどのように制\n御するのかが特定されておらず,また,「インクカートリッジICチップの状態」の 設定や変更についても特定されていないから,上記実施例(【0020】,【0024】,【0084】〜【0091】)のものに限定されていないことは明らかである。 そうすると,本願発明1は,発明の詳細な説明の記載及び本願出願日当時の技術 常識により発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであり,本願発 明1に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号(サポート要件)に適 合するものとは認められない。
 (5) 前記1によると,本願明細書の【0084】,【図5】においては,発光指令 を受信したときは,発光標識部の状態に応じて,発光標識部が実行可能な状態にあ\nる場合には,発光指令を実行することにより発光ユニットを発光させ,発光標識部 が実行不可能な状態にある場合には,発光指令を実行しないことにより発光ユニッ\nトを発光させない一方,消光指令を受信したときは,発光標識部の状態にかかわら ず,消光指令を実行することにより発光ユニットを消光させることが記載されてい る。また,本願発明1に含まれる【0095】,【図10】においても,判断の手順 こそ違うものの,同様に,発光指令を受信したときは,発光標識部の状態に応じて, 発光標識部が実行可能な状態にある場合には,発光指令を実行することにより発光\nユニットを発光させ,発光標識部が実行不可能な状態にある場合には,発光指令を\n実行しないことにより発光ユニットを発光させない一方,消光指令を受信したときは,発光標識部の状態にかかわらず,消光指令を実行することにより発光ユニット を消光させることが記載されている。このような実施例の存在を参酌すると,本願 発明1に係る特許請求の範囲請求項1の記載から,インクカートリッジICチップ の状態が実行可能な状態にある場合には,光制御指令(発光指令と消光指令を含む)\nを実行し,インクカートリッジICチップの状態が実行不可能な状態にある場合に\nは,光制御指令(発光指令と消光指令を含む)を実行しないものと一義的に解釈することはできず,この点からしても,インクカートリッジICチップの状態である 実行可能な状態と実行不可能\な状態のそれぞれに応じて,光制御指令を実行するか どうかをどのように制御するのかは特定されていないというべきである。この点に ついて,原告は,本願明細書の【0099】の実施例には,インクカートリッジI Cチップの状態が実行不可能な状態であれば,消光指令を実行しないことが記載さ\nれているなどと主張するが,前記1のとおり,上記実施例は,「発光カウントユニッ トを設置し,発光ユニットが発光したときにカウントを開始し,発光カウントユニ ットがある所定値までカウントすると,自動的に発光ユニットを消光させる」もの であり,発光指令,消光指令の実行の有無の制御という本願発明1の発明特定事項 とは異なる方法を付加して発光ユニットの消光を達成するものである上,上記実施 例を考慮したとしても,本願発明1に係る特許請求の範囲請求項1の記載が多義的 であることが示されるにすぎず,上記判断を左右するものではない。 そうすると,本願発明1は,発明の詳細な説明の記載及び本願出願日当時の技術 常識により発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであり,本願発 明1に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合するものとは認められない。
(6) 原告は,本願発明1の制御ユニットは,インクカートリッジICチップが実 行可能状態にある際に,発光指令を含む光制御指令を受け付けた場合,これに応じ\nて発光ユニットを発光させる制御を実行し,実行不可能状態にある際に,発光指令\nを含む光制御指令を受け付けても,発光ユニットの発光を実行しないから,本願明 細書の【図8a】〜【図8c】,【0087】〜【0090】に記載した検出を行う ことができ,ひいては「誤報率を減らす」という課題を解決することができること を当業者であれば理解することができるなどと主張する。 しかし,本願発明1の特許請求の範囲の記載が本願明細書の【図8a】〜【図8 c】,【0087】〜【0090】の実施例のものに限定されていないことは,前記 (4)認定のとおりであるから,本願発明1は,サポート要件に適合しないものである。

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平成30(行ケ)10104  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年1月31日  知的財産高等裁判所

 記載不備(実施可能要件、サポート要件)、新規事項違反などの無効主張をしましたが、知財高裁は、無効理由なしとした審決を維持しました。\n
 ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明が,「断熱性に優れた発泡 積層シートを成形してなる容器において,端縁部での怪我を防止しつつ蓋体を強固 に止着させうる容器の提供」(【0009】)を「発明が解決しようとする課題」とし ていることが,当該課題に直面するに至った背景(【0002】〜【0007】)と ともに記載され,当該課題を解決するために容器に係る本件発明が備えている「解 決手段」が,【0010】に記載され,これにより,本件発明の容器が,「断熱性に 優れ,上面側に凹凸形状を形成させて熱可塑性樹脂フィルムの端縁を上下にジグザ グとなるように形成させることにより利用者の怪我などを抑制させ,下面側が平坦 に形成されていることから蓋体を外嵌させる際に強固な係合状態を形成できる」 (【0012】)という効果を奏し,上記課題を解決することが記載されているから, 本件明細書の発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題及びその解決手 段が記載されており,当業者は,その技術上の意義を理解することができる。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法施行規則24条の 2で定めるところにより,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十\n分に記載したものということができ,特許法36条4項1号に規定する要件を満た している。
イ(ア) 原告は,断熱性に優れた発泡積層シートを成形してなる容器におい て,その端縁部で指等を裂傷するといった怪我が生じること自体,本件明細書の発 明の詳細な説明には,客観的・科学的な証明や事実が一切記載されていないし,仮 に怪我が生じ得るとしても,本件発明における凹凸形状によればその怪我を防止で きることが,発明の詳細な説明において,何ら客観的・科学的な証明はされていな い旨主張する。 しかし,「断熱性に優れた発泡積層シートを成形してなる容器において,その端縁 部で指等を裂傷するといった怪我が生じること」については,発泡積層シートの熱 可塑性樹脂発泡シートや熱可塑性樹脂フィルムとしてどのような材料を用いたのか, 発泡積層シートが圧縮前はどの程度の厚みがあり圧縮後にどのような厚みとなった か(圧縮の程度),発泡積層シートの切断面の状態,発泡積層シートに対して指先等 がどのように接触するか(指を押し当てる強さ,指を移動させる方向・早さ等)に 応じて,怪我が生じる可能性があることは,当業者において,客観的・科学的な証明がなくとも容易に理解でき,「凹凸形状によればその怪我を防止できること」も,\n端縁部の上面側に形成する凹凸形状の形状に応じて指と端縁部の端面との接触面積 が異なる結果,怪我を防止することができることも,当業者において,客観的・科 学的な証明がなくとも容易に理解できるから,原告の上記主張には理由がない。
(イ) 原告は,1)「熱可塑性樹脂発泡シートと熱可塑性樹脂フィルムとの硬 さの差により,切断面(外側端面)に於いて硬い熱可塑性樹脂フィルムが柔らかい 熱可塑性樹脂発泡シートよりも外側に突き出た状態となり,且つ熱可塑性樹脂フィ ルムの切断面の形状が鋭利になりやすく,容器に触れた際に,硬いフィルムで指等 を裂傷する虞があり」(【0005】)との記載には根拠がない,2)「フィルム端縁で 指等を裂傷するという課題を解決するために,突出部の上下面にジグザグとなる凹 凸を形成させる」(【0007】)との記載は,特許文献3(甲21)に記載されてい る,それ自体で形状を維持できる程度の厚さ・硬さを有する薄手シートのみで構成\nされた容器に関するもので,本件発明が対象とする積層発泡シートの薄い樹脂フィ ルムとは異なると主張する。 しかし,上記1),2)については,前記(ア)のとおりであって,特許文献3(甲21) に記載されているのが薄手のシートの成形品で,本件発明が熱可塑性樹脂発泡シー トに非発泡の熱可塑性樹脂フィルムを積層した発泡積層シートの成形品であることをもって,前記(ア)の認定は左右されない。

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平成30(行ケ)10100  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月6日  知的財産高等裁判所

 請求項1についての無効理由なしとした審決が維持されました。本件は第4次審決の取消訴訟です。第1次審決は無効理由なしであり、審取にて取消されて、審判にて訂正がなされて無効理由なしと審決されました。これを第3次審決まで繰り返しています。また、別途無効審判がありますが、一旦併合されて、その後分離され、中断しています。争点は明確性違反などです。
 本件訂正事項1は,要するに,請求項1における「皮膚」を「皮膚(但し, 皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)」に訂正するものである。\n原告が指摘するとおり,「皮膚」がどのような組織を意味するのかという点 について,本件明細書中に定義や示唆はない。そこで,証拠として提出されて いる各種辞典類(甲40・広辞苑,甲41・生化学辞典,甲77・化粧品辞典) の記載を総合的に検討すれば,通常,「皮膚」なる用語には,「表皮・真皮」\nを指す場合と,「表皮・真皮・皮下組織」を指す場合の二通りの意味があるも\nのと認められる。 すなわち,甲40(広辞苑)には,「【皮膚】後生動物の体を包む外被。体 の保護,体温・水分蒸発などの調節,各種の感覚の受容のほか,皮膚呼吸も営 む。動物によりさまざまに変形適応する。高等脊椎動物では表皮・真皮・皮下\n組織,および各種の付属器官から成る。」の後に「表皮と真皮のみを指す場合\nもある。」と明記されている。 甲41(生化学辞典)には,「皮膚[cutis,skin] 表層にある上皮性の表\ 皮とその下の結合組織性の真皮から成る.その下は皮下組織で多くの場所で脂 肪組織に変わっている.…」とある。 甲77(化粧品辞典)には,「皮膚は大きく3層(表皮,真皮,皮下組織)\nからなる」という記載がある一方で,「皮膚の厚さ(表皮と真皮を足した厚さ)\nは1.0〜4mmで,一般に女性よりも男性が厚く,幼児よりも成人が厚い.…たんなる物理的な壁ではなく,生体の保護を中心とする絶対不可欠な機能を\nもった組織である.」という記載もある。 以上のとおり,「皮膚」は,広義では,動物(高等脊椎動物)の表皮・真皮\nのみならず皮下組織をも含むものとして観念されるものの,その機能の多様性\nに照らし,表皮・真皮のみを指す場合もあるといえ,文脈を離れて一義的にそ\nの意味するところを決することはできない。 本件訂正事項1は,このうち後者の場合,すなわち,皮下組織を含まないも のと定義することによって技術的に明瞭な記載とすることを意図したものであ り,不明瞭な記載の釈明を目的とするものに該当する。また,かかる訂正によ って本件発明の解釈に支障や混乱を来すとは認められない。 以上に反して,(皮下組織をも含むものとして)皮膚概念は一義的に明確で あるとする原告の主張は,一面的な見方であって,直ちに採用できないというべきである。
・・・
本件訂正事項4は,本件訂正前の請求項1に記載された「経皮吸収製剤」か ら「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦 孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤」(除外製剤) を除外するものであるところ,原告の主張は,要するに,この除外製剤が物と して技術的に明確でないとするものである。 そこで検討するに,除外製剤における「医療用針」が,目的物質を注入する ための注射針やランセット,マイクロニードルなどを意味することは,出願時 の技術常識に照らして明らかであるといえる。また,「チャンバ」又は「縦穴」 が当該「医療用針」内に設けられたものであること,及び「目的物質」が「チ ャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持さ れている」ことは,いずれも除外製剤の構造を特定するものであって,その特\n定に不明確な点があるとは認められない。 そうすると,上記除外製剤が,特定の構造を有する「医療用針」である「経\n皮吸収製剤」を意味していることは明らかであるから,上記除外製剤は物とし て技術的に明確であり,さらには,かかる除外製剤を除く「経皮吸収製剤」に ついても,発明の詳細な説明の記載,例えば,【0070】の「基剤に目的物 質を保持させる方法としては特に限定はなく,種々の方法が適用可能である。\n例えば,目的物質を基剤中に超分子化して含有させることにより,目的物質を 基剤に保持させることができる。その他の例をしては(判決注:「その他の例 としては」の誤記と認める。),溶解した基剤の中に目的物質を加えて懸濁状 態とし,その後に硬化させることによっても目的物質を基剤に保持させること ができる。」に接した当業者であれば,出願時の技術常識を考慮して,物とし て明確に理解することができるといえる。
 そうである以上,本件訂正事項4によって訂正された請求項1の記載は明確 であるというべきであって,これに反する(あるいは前提を異にする)原告の 主張はいずれも採用できない。

◆判決本文

第3次までの取消訴訟は以下です。

◆平成25(行ケ)10134

◆平成26(行ケ)10204

◆平成28(行ケ)10160

侵害訴訟事件です。

◆平成26(ネ)10109

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平成30(ワ)3018  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年11月29日  東京地方裁判所(46部)

 サポート要件などの無効理由なし、技術的範囲に属すると判断されました。
 前記(2)のとおり、本件各名作書には、本件参照抗体と競合する,PCSK 9−LDLR結合中和抗体を同定,取得するための,免疫プログラムの手順 及びスケジュールに従った免疫化マウスの作製方法,ハイブリドーマの作製 方法,スクリーニング方法及びエピトープビニングアッセイの方法等が記載 されている。そして,当該方法によれば,本件各明細書で具体的に開示され た以外の本件参照抗体と競合する抗体も得ることができるといえる。 そうすると,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範囲が,本件各\n明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1 若しくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限られる とはいえない。したがって,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範\n囲が本権各明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定のアミノ酸 の1もしくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限ら れることを前提として,本件各発明の技術的範囲が本件各明細書記載の具体 的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは数個のア ミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限定されるとの被告の主張 は採用することができない。
(4)また,被告は,1)本件各明細書では,本件参照抗体と競合する抗体であれ ば,PCSK9とLDLRの結合を中和することができるという技術思想を 読み取ることはできない,2)本件各明細書の実施例に記載された3グループ ないし2グループの抗体のみによって,本件参照抗体と競合する膨大な数の 抗体全てがPCSK9−LDLR結合中和抗体であるとはいえず,本件各明 細書には,本件参照抗体と競合する膨大な数の抗体がPCSK9−LDLR 結合中和抗体であることの根拠は全く示されていないと主張する。 しかしながら,前記 のとおり,本件各明細書には,本件参照抗体がP CSK9−LDLR結合中和抗体であること,本件参照抗体がPCSK9に 結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体,又は,本件参照抗体 とPCSK9との結合を立体的に妨害するような上記エピトープに隣接する エピトープに結合する抗体である,本件参照抗体と競合する抗体は,本件参 照抗体と類似した機能的特性を有すると予\想されることが記載されている。 そして,前記 のとおりのスクリーニング等によって得られた本件各明細書の表2記載の30の抗体(21B12参照抗体と31H4参照抗体を除く。)\nのうち,24の抗体はPCSK9−LDLR結合中和抗体であり,かつ,本 件参照抗体と競合する抗体であること,表37.1.のビン1(21B12\n参照抗体と競合し,31H4参照抗体と競合しない抗体)に属する19の抗 体のうち16個,ビン2(21B12参照抗体とも,31H4参照抗体とも 競合する抗体)に属する抗体のうち2個及びビン3(31H4参照抗体と競 合し,21B12参照抗体と競合しない抗体)に属する10の抗体のうちの 7個は,表2に記載された抗体であり,これら16個と2個と7個の抗体の\nうち,27B2抗体並びに21B12参照抗体及び31H4参照抗体を除く 少なくとも20個はPCSK9−LDLR結合中和抗体であることが記載さ れている。そうすると,本件各明細書には,特定のスクリーニング等を経て 得られた抗体のうち,本件参照抗体と競合する複数の抗体がPCSK9−LDLR結合中和抗体であることが示されているといえる。 なお,この点に関係し,被告は,本件参照抗体と競合する膨大な数の抗体 がPCSK9−LDLR結合中和抗体であることの根拠は全く示されていな いと主張するが,本件各明細書に記載された抗体以外に,本件参照抗体と競 合するがPCSK9−LDLR結合中和抗体ではない具体的な抗体が示され ているものではなく,また,本件参照抗体と競合する抗体中,PCSK9− LDLR結合中和抗体でないものの割合が大きいことも明らかではない。 さらに,被告は,本件参照抗体と競合する抗体は,PCSK9−LDLR 結合中和抗体であるとは限らないとも主張する。しかし,本件各発明は,P CSK9−LDLR結合中和抗体であることを構成要件とするものであるか\nら(構成要件1A,2A),上記のような例外的な抗体は本件各発明の技術\n的範囲に含まれない。
(5)証拠(甲5,7の1,2,甲8〜10)及び弁論の全趣旨によれば,本件 各発明について,被告が主張する限定的な解釈を採らない限り,被告モノク ローナル抗体は,本件発明1−1及び本件発明2−1の各構成要件を全て充\n足し,被告製品は,本件発明1−2及び本件発明2−2の各構成要件を全て\n充足すると認められるから,被告モノクローナル抗体は,本件発明1−1及 び本件発明2−1の技術的範囲に属し,被告製品は,本件発明1−2及び本 件発明2−2の技術的範囲に属すると認められる。なお,被告モノクローナ ル抗体は,本件訂正発明1-1及び本件訂正発明2−1の技術的範囲にも属 し,被告製品は,本件訂正発明1−2及び本件訂正発明2−2の技術的範囲 にも属すると認められる。

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平成28(ワ)25956等  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年12月27日  東京地方裁判所(46部)

 SONY VS 富士フイルムの特許侵害事件です。サポート要件違反の無効理由があるとして104条の3の規定により、権利行使不能と判断されました。\n
 以上によれば,式(1)には上限値は定められておらず,下限値である2 30以上の数値の全てにわたり式(1)を満たすことになるにもかかわらず, 本件明細書記載の実施例において課題を解決できることが裏付けられるH c×(1+0.5×SFD)の範囲は,230.1〜245.8(又は24 7.5)に限られることになる。そして,本件明細書にはこの範囲よりも大 きい数値の磁気録媒体の記録電流値の裕度を大きくすることができること に関する記載はない。 これらによれば,式(1)には,Hc×(1+0.5×SFD)の値の上 限値がないところ,実施例で示されているのは前記の範囲であって,その値 が実施例で示されたものよりも大きくなった場合などを含めた,式(1)の 関係が満たされることとなる場合において,当業者が,前記の課題を解決で きると認識できたとはいえないとするのが相当である。
エ 更に,本件発明においては,Hcの上限値やSFDの下限値は定められて いないから,ΔH,ひいてはSFDの値を大きくせず,Hcの値を例えば2 30以上の数値にすると,SFDの値が実施例を大きく下回る場合も式(1) の関係を満たすこととなる。しかし,このように実施例を大きく下回るSF Dの値の場合に当業者が前記課題を解決できると認識できるとはいえない。 原告は,文献(乙9),実施例2及び実施例4の記載に接することで,SFD が実施例の数値を大きく下回るなどの場合でも,式(1)によって課題を解 決できると認識することできると主張するが,式(1)の技術的意義,実施 例が示す範囲や本件明細書の記載は前記のとおりであり,採用することがで きない。
オ したがって,当業者は,本件明細書の記載から,式(1)によって記録電 流値の裕度を確保するという課題を解決できると認識できるとはいえず,ま た,本件出願当時の技術常識から,上記課題を解決できると認識できるとも いえない。 以上によれば,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が,本件明細書の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである とはいえず,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照 らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえな いから,本件発明にはいわゆるサポート要件違反がある。
3 本件訂正発明によるサポート要件違反の解消の有無について(争点 )
原告は,本件訂正によって,いわゆるサポート要件違反が解消したと主張す るので,以下,この点について検討する。
訂正事項1−1は,保持力Hcを210以上,221以下とするものである (構成要件F2)。
前記2 アのとおり,式(1)について,磁気記録媒体の技術分野で広く 知られている式であることを認めるに足りる証拠はなく,本件明細書におい て,式(1)の意義に関する記載はない。また,同イのとおり,原告の主張 は,式(1)の意義に関して,オーバーカレント状態において,磁性粒子自 体のHcのばらつきが大きくなることによって,そのばらつきが大きくない 場合に比べ,再生出力が大きくなり記録電流値の裕度が大きくなることをい うものといえるが,本件明細書にそのことを述べる記載がなく,また,本件 出願当時,当業者にとってそのことが技術常識であったことを認めるに足り る証拠はない。
イ 本件明細書をみると,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記2 アの とおり,実施例1ないし4及び比較例1及び2の数値が記載されている。 そして,Hcが210以上という本件訂正事項1−1によって,実施例2 は本件訂正発明の実施例でなくなる。したがって,実施例は,実施例3及び 実施例4のみであり,また,前記2 のとおり,「最適記録電流」の点から 実施例3が実施例とならないとすると,実施例は,実施例4のみとなる。 そうすると,式(1)には上限値は定められておらず,下限値である23 0以上の数値の全てにわたり式(1)を満たすことになるにもかかわらず, 本件明細書記載の実施例において課題を解決できることが裏付けられるH c×(1+0.5×SFD)の数値(範囲)は,245.8(又は245. 8〜247.5)に限られることになる。そして,本件明細書にはこの数値 (範囲)よりも大きい数値の磁気録媒体の記録電流値の裕度を確保すること ができることに関する記載はない。
 これらによれば,式(1)には,Hc×(1+0.5×SFD)の値の上 限値がないところ,実施例で示されているのは前記の数値(範囲)であり, その値が実施例で示されたものよりも大きくなった場合なども含めた,式 (1)の関係が満たされるといえる場合において,当業者が,前記の課題を 解決できると認識することができたとはいえないとするのが相当である。
ウ 更に,本件訂正発明においては,Hcの上限値は定められたが,SFDの 下限値は定められていない。そして,例えば,Hcが上限値である221の 場合,SFDが0.082であっても,式(1)を満たすこととなるが,実 施例4のSFDは0.341であり,実施例よりも大幅に小さいSFDの値 の場合に,当業者が前記の課題を解決できると認識できたとはいえない。被告は,上記のような場合でも,文献(乙9),実施例2及び実施例4の記載に 接することで,式(1)によって課題を解決できると認識することできると 主張するが,式(1)の技術的意義,実施例が示す範囲や本件明細書の記載 は前記のとおりであり,採用することができない。 以上によれば,当業者は,本件訂正後も,本件明細書の記載から,式(1) によって記録電流値の裕度を確保するという課題を解決できると認識できる とはいえず,また,本件出願当時の技術常識から,上記課題を解決できると認 識できるともいえない。
そうすると,本件特許には特許法123条1項4号の事由があり(前記2), 本件訂正によってもその事由が解消したとは認められないから,本件訂正請求 が訂正要件を満たすか(争点 )など,その他の争点を検討するまでもな く,原告は,特許法104条の3第1項により,本件特許権を行使することが できない。

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平成30(ワ)3018  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年11月29日  東京地方裁判所(46部)

 美容器について、特許権に基づく差止が認められました。争点は、「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」の技術的意義の解釈です。
 本件発明は,前記1のとおり,「ホルダ」に該当する部材によって回転体を支 持する支持軸を固定するものであるところ,原告は,被告製品のソーラーパネ\nル取付台が支持軸を固定していると主張するのに対し,被告はこれを否定する。 証拠(甲10,14)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,回転体の支 持軸の本体側先端部分にフランジが形成されていること,被告製品の本体内部 のソーラーパネル取付台の支持軸側先端部分には一対の段差及び半円形状の\n凹部が形成され,それらは回転体の支持軸及び支持軸に形成されたフランジの 形状に係合すること,ソーラーパネル取付台の先端部で回転体の支持軸を覆っ\nてソーラーパネル取付台を被告製品本体にネジで固定するとソ\ーラーパネル 取付台に支持軸のフランジが引っかかり,支持軸の先端部分がソーラーパネル\n取付台の段差及び半円形状の凹部に組み付けられること,その組付け後は回転 体を支持する支持軸に接着剤の塗布などはなかった被告製品においても支持 軸が本体から直ちには外れることがなかったことが認められる。これらによれ ば,被告製品のソーラーパネル取付台の先端部分の段差及び半円形状の凹部は,\n回転体の支持軸を固定するための構成であり,同部分が回転体の支持軸を覆い,\n支持軸を押し付けることによって支持軸を固定し,支持軸が抜けないようにし ていると認められる。
そうすると,被告製品のソーラーパネル取付台は構\成要件B及び構成要件C\nの「ホルダ」に該当し,被告製品は構成要件Bの「前記各支持軸の基端側をホ\nルダの両端部で押さえる」及び構成要件Cの「ホルダ」を充足するといえる。\nこれに対し,被告は,ソーラーパネル取付台の半円形状の凹部はリード線の\nハンダ付け部分をカバーするためのものであり,ソーラーパネル取付台をかぶ\nせただけでは支持軸は固定されず,支持軸を接着剤で被告製品本体内部に接着 固定しなければ,支持軸は簡単に抜けることからもソーラーパネル取付台は支\n持軸を固定する機能を有していないなどと主張する。\nしかしながら,ソーラーパネル取付台の段差及び半円形状の凹部の形状は,\n回転体の支持軸に係合する形状に形成されていて,リード線のハンダ付け部分 をカバーするために形成されていると認めるに足りる証拠はない。また,回転 体の支持軸を固定するために接着剤が塗布されている被告製品があるとして も,その塗布がされたことをもってソーラーパネル取付台が回転体の支持軸を\n固定する機能を有していることが直ちに否定されるものではなく,前記のとお\nりのソーラーパネル取付台の先端部の構\造,接着剤の塗布がなかった場合の回 転体の支持軸の被告製品本体からの着脱の状況等からすれば,ソーラーパネル\n取付台は回転体の支持軸を固定する機能を有しているということができ,被告\nの主張は採用することができない。

3 争点 −ア(乙11文献に基づく新規性欠如)
争点を検討するに当たり,まず,本件発明の「前記各支持軸の基端側をホル ダの両端部で押さえる」(構成要件B)の意義について検討する。\nア 「押さえる」とは,物に力を加えて,動かないように固定するという意味 を一般的に有する(乙3の1ないし3)。 そして,本件明細書には,前記1 アないしオの記載のほか,「発明を実施 するための形態」として,「図4及び図5に示すように,前記ベース体13の 両支持筒18には,金属製の一対の支持軸20がシールリング21を介して, 交差軸線L1,L2上に位置するとともに外側に突出した状態で嵌合支持さ れている。このシールリング21は,支持軸20の周りからハンドル12の 内部へ向かう水の侵入を防止している。各支持軸20の基端には,大径状の 抜け止め頭部20aが形成されている。図4及び図9に示すように,両支持 軸20の基端部間においてベース体13上には,ホルダ22が配置されてい る。このホルダ22の両端部には,各支持軸20の基端側を押さえるための ほぼ半円筒状の押さえ部22aが形成されている。ホルダ22の中間部には, 円筒状のネジ止め部22bが形成されている。そして,ホルダ22の両端の 押さえ部22aにより両支持軸20の基端が押さえられた状態で,ホルダ2 2の中間のネジ止め部22bがネジ23によりベース体13に固定される ことによって,各支持軸20がベース体13の支持筒18に対する嵌合支持 状態に抜け止め固定されている。すなわち,支持軸20の組み付け時には, ハンドル12のベース体13に形成された一対の支持筒18に外側(図4の 左側)から支持軸20をそれぞれ嵌挿して,交差軸線L1,L2上に位置す るように配置する。次に,図5及び図9に示すように,両支持軸20の基端 間におけるベース体13上にホルダ22を配置し,そのホルダ22の両端の 押さえ部22aにより両支持軸20の基端側を押さえる。これにより,図4 及び図9に示すように,各支持軸20の基端の抜け止め頭部20aが押さえ 部22aの端縁に係合される。この状態で,ホルダ22の中間のネジ止め部 22bをネジ23によりベース体13に固定すると,一対の支持軸20がベ ース体13に対して同時に抜け止め固定される。」(段落【0013】),「従っ て,この実施形態によれば,以下のような効果を得ることができる。(1)こ の美容器においては,ハンドル12の先端部に交差軸線L1,L2上に位置 する一対の支持軸20が設けられている。各支持軸20の先端側には回転体 27が回転可能に支持され,それらの回転体27により身体に対して美容的\n作用が付与されるようになっている。前記ハンドル12における両支持軸2 0の基端部間の位置には,ホルダ22がその中間部において固定されている。 そして,このホルダ22の両端の押さえ部22aにより,各支持軸20の基 端側がハンドル12に対して押し付け保持されるようになっている。このた め,1つのホルダ22からなる簡単な固定構成により,一対の支持軸20を\nハンドル12に対して容易に固定することができて,製造コストの低減を図 ることができる。」(段落【0019】)との記載がある。
上記のとおり,本件明細書の段落【0013】,【0019】には,ホルダ の両端部に各支持軸の基端側を押さえるためのほぼ半円筒状の押さえ部が 形成され,この押さえ部が支持軸の基端に接し,それをハンドルに押し付け ることによって支持軸を保持し,支持軸が抜けることがないように固定する という実施形態が記載されており,これは,前記のとおりの「押さえる」の 一般的な意味とも整合する。 そうすると,本件発明の「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さ える」とは,支持軸の基端部をホルダの両端部に接するようにし,ホルダの 両端部から支持軸の基端部に対して押し付けること,すなわち力を加えるこ とによって,支持軸を抜けることがないように固定することを意味するもの と解するのが相当である。
イ これに対し,被告は,本件明細書の【図4】や段落【0013】の記載か ら,「押さえる」とは,支持軸の基端に設けられた抜け止め頭部や押さえ部, その他支持筒等の部材との勘合・係合によって固定される構成を包含するも\nのであると主張する。 しかし,本件明細書の段落【0013】の記載は前記アのとおりであり, ホルダが支持軸に力を加えずに,部材の勘合・係合のみによって固定する態 様が記載されているとはいえず,本件明細書のその他の記載中にも被告の主 張するような固定態様に関する記載はない。また,本件明細書の【図4】か らもそのような固定態様を看取することはできない。被告の主張は,「押さ える」の一般的な意味と一致するものでは必ずしもなく,かつ,本件明細書 にその主張を裏付ける記載はないといえるのであり,採用することができな い。
(2)。乙11発明と本件発明の対比
ア 本件特許の出願日前に公開されていた乙11文献には,1)ハンドルの先端 部に交差軸上に位置する一対の支持軸が設けられていること(乙11文献の 【図6】〜【図8】),2)腕部の先端側にマッサージを行うためのローラが回 転可能に支持されていること(乙11文献の段落【0001】【0013】),\n3)ローラ取付部材の左右両端部にそれぞれ腕部を含むローラ連結部の一端 を回転軸により軸支固定すること及び当該回転軸をローラ取付部材の穴に 挿通してEリングによって抜け止めすること(乙11文献の段落【0008】 〜【0010】),4)ローラ取付部材の中間部をローラ連結部を介してハンド ルに固定すること(乙11文献の段落【0008】【図1】【図2】),5)以上 の構成を有する美容器である乙11発明が開示されていることは当事者間\nで争いはない。 そこで,本件発明と乙11発明を対比すると,本件発明は,支持軸の基端 部をホルダの両端部で力を加えて支持軸を抜けないように固定する構成で\nあるのに対し(構成要件B),乙11発明の支持軸の固定方法はそのような\n構成を有していない点で相違する。
イ 被告は,本件発明の構成要件Bの「押さえる」とは支持軸の基端に設けら\nれた抜け止め頭部や押さえ部,その他支持筒等の部材との勘合・係合によっ て固定される構成を包含するものであることを前提として,本件発明の構\成 要件Bと乙11発明の構成3)とが同一であると主張する。 しかし,構成要件Bの「押さえる」に関する被告の主張を採用することが\nできないことは とおりであり,乙11発明の構成3)が本件発明の構\n成要件Bと同じであるということはできない。 したがって,乙11文献には構成要件Bの構\成が開示されているとはいえず, 乙11発明と本件発明は同一ではないから,本件発明が新規性を欠くというこ とはできない。

◆判決本文

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平成30(行ケ)10041  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年12月6日  知的財産高等裁判所

 サポート要件および進歩性について、いずれも誤りであるとして拒絶審決を取り消しました。
 (1) 審決は,本願発明1は,少なくともセシウム及びストロンチウムを含む放 射性物質を,1382℃未満の温度(例えば1000℃)で焼成する場合を 含むと解され得るが,1382℃未満の温度で焼成をすると,「前記放射性 物質として含まれるセシウム及びストロンチウム」のうちのセシウム(沸点 671℃)が気化するため,本願発明1の効果である「放射性物質の気化温 度未満で焼成」し,「放射性物質や灰分が残渣として残り,放射性物質が気 化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しく は無機化させること」を実現できないとして,特許請求の範囲の記載はサポ ート要件に適合しないと判断した。
(2)ア そこで検討するに,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか 否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対 比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載され た発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記 載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を 解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のと解される。
イ 本件についてみると,本願発明1は,焼成汚染材を「測定下限値を超え る放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海\n洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂のうちの何 れか一つ以上を含む汚染材を,前記放射性物質として含まれるセシウム及 び/又はストロンチウムの気化温度未満で焼成した放射性物質を含有する」 ものと特定するものである。 そうすると,本願の請求項1にいう,「汚染材に放射性物質として含ま れるセシウム及び/又はストロンチウム」には,汚染材に放射性物質とし て「セシウム及びストロンチウム」の両者が含まれる場合のみならず,「セ シウム又はストロンチウム」,すなわち「セシウム」,「ストロンチウム」 のいずれか一方のみが含まれる場合も含まれているというべきである。
ウ また,本願明細書には,前記1(1)カのとおり,「前処理工程1001で は,図15に示すように,汚染材を地殻様組成体20の原料として使用す る前に,汚染材の焼成処理を行う。ここでの焼成温度は,放射性物質の気 化温度未満とし,放射性物質や灰分が残渣として残り,放射性物質が気化 されて大気中に放出されないようにする。このように,汚染材は,焼成処 理されることで,有機物を気化若しくは無機化させることが出来る。」(【0 133】),「セシウム−134は,沸点が671℃である。従って,例 えば,焼成温度を671℃未満としたときには,大分部分(判決注:原文 のまま)の放射性物質が気化することを防止することが出来る。」(【0 135】)と,焼成温度を汚染材に含まれる放射性物質の気化温度未満と することにより,放射性物質の気化を防止できることが記載されている。 これに対し,本願明細書には,汚染材に含まれる放射性物質の気化温度以 上の温度で焼成することについての記載はない。 このような本願明細書の記載に鑑みれば,本願発明1の上記特定事項に ついては,セシウム及びストロンチウムを放射性物質として含む,すなわ ち,セシウムとストロンチウムの両者を同時に放射性物質として含む場合 には,セシウム及びストロンチウムの気化温度未満で汚染材を焼成,すな わち,両者の気化温度に共通する部分となる(より低い気化温度である) セシウムの気化温度未満で焼成するものと解するのが自然である。また, セシウム又はストロンチウムのいずれか一方のみを放射性物質として含む 場合には,当該放射性物質の気化温度未満で焼成するものと解される。
エ したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載さ れた発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解 決できると認識できる範囲のものであるというべきである。
4 取消事由2(引用発明の認定の誤り)について
(1) 審決は,引用文献には引用発明が記載されていると認定し,本願発明1は 引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたと判断した。
(2)ア そこで検討するに,進歩性の判断に際し,本願発明と対比すべき特許法 29条1項各号所定の発明は,通常,本願発明と技術分野が関連し,当該 技術分野における当業者が検討対象とする範囲内のものから選択されると ころ,同条1項3号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時 の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたかどうか を判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し 得る具体的な技術的思想でなければならない。
イ 本件についてみると,引用文献は,その表題から,放射性物質が検出さ\nれた下水汚泥焼却灰等の処分に向けた検討状況を1枚の資料にまとめたも のと認められる。 そして,引用文献の「1 これまでの経緯と今後の予定」の項の記載か\nら,1)平成23年9月から,「放射性物質対策検討特別部会」において下 水汚泥焼却灰等の安全な処分に向けた検討が開始されたこと,2)同年10 月から,下水汚泥焼却灰等の処分に関する安全性評価検討業務委託がされ, 委託先の有識者委員会である汚染焼却灰等処分安全性評価委員会が3回開 催されたこと,3)平成24年3月に東日本大震災対策本部会議が開催又は 予定され,処分に向けた検討の方向性について確認されること,4)同年4 月以降,実現に向けた課題の抽出や整理が行われる予定であることが理解\nできる。
また,「2 第1〜3回汚染焼却灰等処分安全性評価委員会での有識者 からの主な意見」の項の記載は,上記有識者委員会での主な意見をまとめ たものと理解できるところ,「(前提)」の欄に,「今回の安全性評価の 中では,セシウム(Cs134,Cs137)を対象としたことを前提条 件として明示することが望ましい」との記載があることから,放射性物質 としてセシウムが検討対象になっていたことが把握できる。 さらに,「(方針)」の欄に,「再利用(下水汚泥焼却灰のセメント原 料化)の再開を目指すことは望ましい」,「めやす値より低いからそれで 良しとするのではなく,さらに,できる限り影響が小さくなるよう対策す る姿勢が重要」との記載があることから,上記有識者委員会において,放 射性物質としてセシウムを含む下水汚泥焼却灰のセメント原料化の再開を 目指すこと,放射線の影響はできる限り小さくするよう対策すべきことが, 方針に関する有識者の意見として存在したことをそれぞれ理解できる。 その一方で,引用文献には,放射性物質が検出された下水汚泥をどのよ うに焼却するか,下水汚泥焼却灰はどの程度の放射性物質を含むものであ るか,下水汚泥焼却灰をセメント原料化する際,できる限り影響が小さく なるようにどのような対策をするのか等,下水汚泥焼却灰を処分するに当 たっての具体的な方法,手順,条件など,技術的思想として観念するに足 りる事項についての記載は一切存在しない。
そうすると,引用文献には,単に放射性物質が検出された下水汚泥焼却 灰等の処分に向けた方針,及び当該方針に関する有識者の意見が断片的に 記載されているにすぎず,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法というひと まとまりの具体的な技術的思想が記載されているとはいえない。
ウ したがって,その余の点について認定,判断するまでもなく,引用文献 に審決が認定した引用発明が記載されているとはいえない。
(3) 被告の主張について
被告は,引用文献の記載から,「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」が再 開されていないことがうかがわれるからといって,引用文献に「下水汚泥焼 却灰のセメント原料化」を行う方法が開示されていないことにはならないし, 「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法は一般的に確立されていた 技術といえるから,原告の主張は失当であると主張する。 しかし,引用文献中の「再開を目指すことが望ましい」との記載からは, 下水汚泥焼却灰のセメント原料化が引用文献の作成時点において中止されて いたことが明らかであるところ,上記(2)のとおり,引用文献には下水汚泥焼 却灰を処分するに当たっての具体的な方法など,技術的思想として観念する に足りる事項についての記載は一切存在しないのであるから,同文献に「下 水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法が開示されているとはいえない。 また,被告が証拠として提出した乙4〜6は,いずれも「下水汚泥焼却灰 のセメント原料化」技術に関する刊行物であるものの,放射性物質を含む下 水汚泥焼却灰のセメント原料化についての記載はないから,これらの証拠を もって,引用文献が対象とする「放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等」 におけるセメント原料化が確立された技術ということはできない。

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平成29(行ケ)10191  審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成30年10月29日  知的財産高等裁判所

 審決は、記載不備(明確性、サポート要件、実施可能要件)と判断しましたが、知財高裁(2部)は、これを取り消しました。
 イ(ア) 本願明細書には,前記(1)イのとおり,中間水について,少なくとも− 40度付近の温度において,規則化(コールドクリスタリゼーション)する傾向を 強く有するものと推察されること,規則化する強い傾向の存在により,不規則な状 態で凝固した状態からの加熱において,−40度付近で規則化に伴う発熱がみられ ること,規則化に伴う発熱量は,規則化を生じている水の量,すなわち,中間水の 量に比例するものと推察されることが記載されている。 (イ) 前記(1)ウの甲1〜5の記載によると,中間水の量(Wfb)は,次の式 のとおり,低温結晶化した水におけるエンタルピー変化量(ΔHcc)と,水の融解熱 (Cp)から得ることができることが理解される。
Wfb=ΔHcc/Cp
この式を変形すると,ΔHcc=Cp×Wfb となり,低温結晶化した水におけるエン タルピー変化量(ΔHcc),すなわち,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量 は,比例定数を Cp として,中間水の量(Wfb)に比例するといえる。 このことも,前記アと同様の理由により,日本バイオマテリアル学会の構成員や\n関係者には,平成21年の時点において,知られていたと認められるのであって, 本願明細書に記載された内容の「中間水」の量の計算方法は,本願出願時において, 当業者の技術常識になっていたと認められることができるというべきである。 そして,Cp は,純水の融解熱と等しいと考えられ,純水の融解熱が 334J / g であ ることも,前記ウの甲2及び甲4の記載並びに証拠(甲11)及び弁論の全趣旨に よると,当業者の技術常識であったと認められる。 したがって,当業者は,中間水の量の算出方法については,本願明細書の記載及 び本願出願時の技術常識に基づいて明確に理解することができたというべきである。
(3)ア 被告は,本願明細書から,「コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量 は,中間水の量に比例するものと推察される。」という認定aだけではなく,「中間 水の量は,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱ピークの挙動(コールドクリ スタリゼーションに伴う発熱量は含水量の増加に伴って増加するが,ある含水量以 上では変化しなくなること)と,全含水量とから求めることができる。」という認定 b及び「中間水の量は,各含水量におけるコールドクリスタリゼーションに伴う発 熱量と0度付近の吸熱量の関係から中間水の最大量を求めてW0(試料の乾燥重量) で除することにより求められる。」という認定cも認定できるところ,これらの認定 が共存するため,本願明細書から,当業者が中間水の量をどのように算出したらよ いのか明確に理解することはできない旨主張する。 認定bは,前記(1)イ(イ)b(b)の本願明細書の記載に基づくものであり,認定cは, 前記(1)イ(イ)b(c)の本願明細書の記載に基づくものであるが,いずれも,中間水の量 を求める方法についての具体的な内容の説明はされていない。 一方,認定aは,前記(1)イ(イ)b(a)の本願明細書の記載に基づくものであるが,前 記(2)イのとおり,上記記載を含む本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から, 中間水の量の算出方法を明確に理解することができる。 そうすると,当業者は,本願明細書に前記(1)イ(イ)b(b)及び(c)の記載があるからと いって,本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から明確に理解できる中間水 の算出方法を理解できなくなるというものではないというべきである。 イ 被告は,当業者は,発明の詳細な説明の記載に基づき,中間水のコール ドクリスタリゼーションは通常の水の凍結とは異なる相転移であると理解されるか ら,中間水のコールドクリスタリゼーションの単位潜熱(中間水の量を算出するた めの比例定数)は,通常の水の凍結の場合の単位凝固潜熱334J/gとは異なる 値であると考えるのが自然である旨主張する。 しかし,前記(2)イのとおり,比例定数(Cp)は,純水の融解熱に等しいと考えら れている。本願明細書に記載されたPMEAのコールドクリスタリゼーションに伴 う発熱量の最大値を中間水量で除した値が313J/gであるとしても,純水の融 解熱が334J/gであることは,当業者の技術常識である以上,当業者は,31 3J/gの方が誤差を含む数値であると考えるのか通常であると解されるのであっ て,このことにより,当業者が,中間水のコールドクリスタリゼーションの単位潜 熱(中間水の量を算出するための比例定数)が,純水の単位凝固潜熱334J/g とは異なる値であると考えるとはいい難い。 ウ 被告は,甲1〜5は,本願発明者やその共同研究者による文献であり, 中間水の概念は,本願発明者らの研究グループが独自に提唱したもので,本願発明 者らの研究グループ以外の当業者に,本願出願時までに広く知れ渡り,技術常識に なっていたことを示す証拠はない旨主張する。 「中間水」の概念が本願発明者であるAにより構築されたことは,前記(2)アのと おりであるが,前記(2)ア,イのとおり,「中間水」の概念及びその量の算出方法は当 業者の技術常識となったことが認められる。
エ 被告は,甲5は本願明細書で引用したものではなく,仮に当業者が甲5 を本願明細書の記載から探し当てることができたとしても,その記載内容が実質的 に発明の詳細な説明に記載されたに等しいものであるということはできない旨主張 する。
しかし,本願明細書の【0007】には【先行技術文献】として,「【非特許文献 1】バイオマテリアル 28−1,2010」と記載されているから,当業者であれ ば,これは,バイオマテリアルという雑誌の28巻1号(出版年2010年)とい うものであると理解する。そして,甲5は,その雑誌のその号に掲載されている。 しかも,上記の「非特許文献1」は,本願明細書の【0013】においても,「所定 量の水を含水した水和性組成物を一旦十分に冷却し,その後に比較的ゆっくりした\n速度で加熱した場合に,0℃以下の特定の温度域において所定の発熱を生じると共 に,−10度近辺から0度までの広い温度範囲において吸熱が観察されることが明 らかにされている(例えば,非特許文献1等を参照)。」という形で引用されている。 そうすると,当業者は,本願明細書の記載から,容易に甲5に行き着くものと考え られるから,甲5は本願の発明の詳細な説明【0007】で引用されたものである と認められる。
そして,甲5が,「中間水」の概念及びその量の算出方法が当業者の技術常識とな ったことを裏付け得るものであることは,前記(2)ア,イのとおりである。 オ 被告は,本願発明の「中間水の量が1wt%以上,且つ30wt%以下」 がどの時点の中間水の量を意味するかについて,発明の詳細な説明に,発熱量が最 大値になる含水量の場合と飽和含水になった時点での含水量の場合という,相異な る二通りの記載があるから,本願発明の技術的範囲が定まらない旨主張する。 しかし,前記(2)イのとおり,当業者は,本願明細書の記載及び出願当時の技術常 識に基づいて,中間水の量は,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量と水の 融解熱から得ることができることが理解されるから,当業者が本願補正発明を実施 するに当たり,水和性組成物について,発熱量が最大値の中間水の量と,飽和含水 になった時点の中間水の量の二通りが記載されているとしても,水和性組成物の中 間水の量は,含水量にかかわらず,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量と 水の融解熱から一義的に決まるものであって,本願補正発明の技術的範囲が定まら ないということはできない。
・・・
本件審決は,当業者が本願出願時の技術常識に照らしても本願明細書の記載から 中間水の量の算出方法を理解することができないから,表2に中間水量が記載され\nた具体的な組成物以外のものについては課題が解決できると認識することはできな い旨判断したが,当業者が本願出願時の技術常識に照らして本願明細書の記載から 中間水の量の算出方法を理解することができることは,前記2のとおりであるから, 本件審決のサポート要件の有無の判断は,前提を欠き,誤りがある。
4 取消事由3(実施可能要件違反)について
本件審決は,当業者が本願出願時の技術常識に照らしても本願明細書の記載から 中間水の量の算出方法を理解することができないから,本願補正発明1及び4を当

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平成29(行ケ)10129  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年5月24日  知的財産高等裁判所

 少し前の事件ですが漏れていたのでアップします。サポート要件を判断する前提としての課題の認定について誤りがあるとして、知財高裁第3部は、サポート要件違反ありとした審決を取り消しました。注目は「出願時の技術水準等との比較は,行うとすれば進歩性の問題として行うべき」という判断です。
 前記のとおり,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否か は,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請 求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発 明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決 できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がな くとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると 認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 また,発明の詳細な説明は,「発明が解決しようとする課題及びその解 決手段」その他当業者が発明の意義を理解するために必要な事項の記載が 義務付けられているものである(特許法施行規則24条の2)。 以上を踏まえれば,サポート要件の適否を判断する前提としての当該発 明の課題についても,原則として,技術常識を参酌しつつ,発明の詳細な 説明の記載に基づいてこれを認定するのが相当である。 かかる観点から本件発明について検討するに,本件明細書の発明の詳細 な説明には,米糖化物含有食品であるライスミルクの製造時に各種酵素を 制御することなく加えると,プロテアーゼによりアミノ酸,オリゴペプチ ドが生成し,うまみ調味料様の雑味がついてしまい,用途が限られたこと (【0002】),食感が滑らかで雑味がなくすっきりした味を持つ米糖 化液としてアミノ酸濃度が一定範囲である米糖化液が開発されたが,甘味, コク(ミルク感)等の風味は十分に改善されておらず,必ずしも満足でき\nるものではなかったこと,さらに,グラノーラ,パンケーキ等が流行する 一方,牛乳アレルギー,大豆アレルギーの人口は増加傾向にあり,風味が 改善された牛乳や豆乳の代用品が求められていたこと(【0003】)な どが背景技術として記載されている。その上で,発明の詳細な説明には, 発明が解決しようとする課題として,「本発明は,米糖化物含有食品のコ ク,甘味,美味しさ等を改善するという課題を解決すべく鋭意研究を重ね た結果見出されたものである。すなわち,本発明は,コク,甘味,美味し さ等を有する米糖化物含有食品を提供することを目的とする。さらに,従 来牛乳や大豆を用いて製造又は調理されていた多数の食品を作ることを可 能にする食品を提供することも目的とする。」との記載がある(【000\n6】)。
これらの記載からすれば,本件発明は,「コク,甘味,美味しさ等を有 する米糖化物含有食品を提供すること」それ自体を課題とするものである ことが明確に読み取れるといえる。 イ これに対し,異議決定は,「本件発明1の課題は,本件特許明細書の『コ ク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること』(【0 006】)との記載及び実施例(【0031】〜【0043】)において, 『コク(ミルク感)』,『甘み』及び『美味しさ』の各評価項目について 評価を行っていることから,『コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物 含有食品を提供すること』と認められる。」と,一旦は上記アと同様に本 件発明1の課題を認定しながら,最終的なサポート要件の適否判断に際し ては,「本件発明1の課題は,上記aのとおり,具体的には,実施例1− 1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて 優位な差を有するものを提供することであ(る)」とその課題を認定し直 し,課題の解決手段についても,「本件発明1が課題を解決できると認識 できるためには,…実施例1−1のライスミルクに比べてコク(ミルク感), 甘味及び美味しさについて優位な差を有することを認識できることが必要 である。」としている(異議決定12頁16〜25行)。 この点について,被告は,発明が解決しようとする課題とは,出願時の 技術水準に照らして未解決であった課題であるから,本件発明1の「コク, 甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」という課題 は,本件出願時の技術水準を構成する米糖化物含有食品(具体的には,実\n施例1−1のライスミルク)に比べて,コク,甘味,美味しさ等を有する 米糖化物含有食品を提供することであり, したがって,異議決定において は,本件発明1の課題について,「具体的には,実施例1−1のライスミ ルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有 するものを提供すること」としたものである(したがって,異議決定の課 題の認定に誤りはない)と主張する。 確かに,発明が解決しようとする課題は,一般的には,出願時の技術水 準に照らして未解決であった課題であるから,発明の詳細な説明に,課題 に関する記載が全くないといった例外的な事情がある場合においては,技 術水準から課題を認定するなどしてこれを補うことも全く許されないでは ないと考えられる。
しかしながら,記載要件の適否は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明 の記載に関する問題であるから,その判断は,第一次的にはこれらの記載 に基づいてなされるべきであり,課題の認定,抽出に関しても,上記のよ うな例外的な事情がある場合でない限りは同様であるといえる。 したがって,出願時の技術水準等は,飽くまでその記載内容を理解する ために補助的に参酌されるべき事項にすぎず,本来的には,課題を抽出す るための事項として扱われるべきものではない(換言すれば,サポート要 件の適否に関しては,発明の詳細な説明から当該発明の課題が読み取れる 以上は,これに従って判断すれば十分なのであって,出願時の技術水準を\n考慮するなどという名目で,あえて周知技術や公知技術を取り込み,発明 の詳細な説明に記載された課題とは異なる課題を認定することは必要でな いし,相当でもない。出願時の技術水準等との比較は,行うとすれば進歩 性の問題として行うべきものである。)。 これを本件発明に関していえば,異議決定も一旦は発明の詳細な説明の 記載から,その課題を「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食 品を提供すること」と認定したように,発明の詳細な説明から課題が明確 に把握できるのであるから,あえて,「出願時の技術水準」に基づいて, 課題を認定し直す(更に限定する)必要性は全くない(さらにいえば,異 議決定が技術水準であるとした実施例1−1は,そもそも公知の組成物で はない。)。 したがって,異議決定が課題を「実施例1−1のライスミルクに比べて コク(ミルク感),甘味及び美味しさについて有意な差を有するものを提 供すること」と認定し直したことは,発明の詳細な説明から発明の課題が 明確に読み取れるにもかかわらず,その記載を離れて(解決すべき水準を 上げて)課題を再設定するものであり,相当でない。 以上によれば,異議決定における課題の認定は妥当なものとはいえず, 被告の主張は採用できない。

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平成29(行ケ)10113  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年10月25日  知的財産高等裁判所

 記載不備(明確性、サポート要件、実施可能要件)の無効理由無しとした審決が維持されました。
 特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確 でない場合に,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となることによ り生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで,特許を受 けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず, 願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時にお ける技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不 利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものと解 される。
(3)ア そこで検討するに,本件明細書には,泡に関し,「本明細書で用いられ る「泡」は,混合されて,可変長の時間持続する構造を有する小さい気泡\nのマスを形成する液体及び気体を意味する。」(【0036】),「気泡 は,液体のフィルムで取り囲まれた気体のセルである。」(【0037】) との定義が記載されている。また,本件発明の発泡性組成物の作用効果に 関し,本件発明の組成物は,発泡性であるために,適用された部分に留ま ることができ(【0015】),表面上に容易に広がる泡として分配でき\nる(【0018】)ものであって,空気と混合されるときに安定な泡を与 え,この泡は,個人的洗浄用又は消毒目的のために使用でき,例えばユー ザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れること(【0\n041】),本発明の重要かつ驚くべき成果は,消毒に適する組成物が40% v/vより多量のアルコールを含有すること,そして低圧容器及びエアゾール 包装容器の両者から化粧品として魅力的な泡として分配され得ること(【0 044】)がそれぞれ記載されている。
イ この点に関連して,泡に関する技術常識についてみると,「入門講座 泡 の化学」と題する論文(オレオサイエンス第1巻第8号。2001年発行。 甲12)には,「深い井戸からくみ上げた水に生ずる泡はきわめて微小な 気泡が多数水中に分散している。このように気体が液体または固体に包ま れた状態を気泡(Bubble)という。泡は各種界面活性物質,または界面活 性剤の気・液界面への吸着によって起こる現象であって,洗濯時の洗濯機 の中の液やビールの泡のようにこれが多数集まって薄膜を隔てて密接に存 在するものを泡沫(Foam)と呼ぶ。気泡と泡沫の区別は形態的であるが前 者はただ一つの界面を有するのに対し,後者は2つの界面を有する。」(8 63頁左欄)との記載がある。 この論文の公開時期に鑑みれば,泡には,形態的に区別される気泡と泡 沫とがあり,気泡(Bubble)は,気体が液体又は固体に包まれた状態を指 し,ただ1つの界面を有するのに対し,泡沫(Foam)は,気泡が多数集ま って薄膜を隔てて密接に存在し,2つの界面を有するものであることは, 親出願の出願日当時における当業者の技術常識であったと認められる。
ウ 以上のとおり,上記アに摘示した本件明細書に記載された定義と,本件 発明における泡の作用効果に関する記載からすると,本件発明における「泡」 との語は,上記イ記載の泡沫を意味するものであることは明らかである。 そして,本件明細書の記載及び親出願の出願日当時における当業者の技 術的常識を基礎とすると,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載が,第 三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(4) 原告の主張について
原告は,本件明細書の段落【0036】における1)「可変長の時間持続す る構造」が表\す時間の長さ,2)「構造」とは,気泡と気泡のマスのいずれを\n指すのか,3)「小さい気泡」とは,何と比較して小さいのか,がいずれも不 明であるから,請求項1の記載が不明確であると主張する。 しかし,上記(3)において説示したとおり,当業者は,本件発明における「泡」 との語が泡沫を意味すること,泡沫とは,気泡が多数集まって薄膜を隔てて 密接に存在するものであるから,これはすなわち気泡のマスであること,そ して,本件明細書の段落【0036】における「構造」とは気泡のマスであ\nることをそれぞれ理解できるというべきである。 また,当該段落の「可変長の時間持続する」との語については,本件発明 の組成物が発泡性組成物であることによる作用効果に関する本件明細書の記 載からすると,本件発明の組成物は,適用された部分に留まることができ, かつ,表面上に容易に広がる泡として分配できるものであって,例えばユー\nザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れる程度の安定\n性を有するほどに,泡の持続時間が様々であることと理解できる。 さらに,「小さい」との語についても,上記本件明細書における本件発明 の作用効果に関する記載に照らせば,化粧品として魅力的な泡といえる程度 の大きさをいうものと解するのが相当である。 したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。

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平成29(行ケ)10045  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月18日  知的財産高等裁判所

 異議申立について応答せずに取消決定がなされました。これに対する取消訴訟です。\n知財高裁は、実施可能要件違反、サポート要件違反として異議決定を維持しました。なお、審決書に理由が記載されていなかったことは、取消理由通知に対する応答がなかったという特殊性もあり、実質問題なしと判断されました。\n
ア 実施可能要件適合性について
(ア) 原告は,「当業者が,エピトープについて具体的に特定する記載がな い本件明細書の記載に基づいて,エピトープを決定してLRP6結合分 子を得るためには,過剰な実験を行う必要がある。」との本件異議申立\n書記載の主張に対し,本件明細書には,LRP6に関連するエピトープ が示されており,当業者であれば,本件特許の優先日当時に利用可能な\n技術を用いることにより,インビトロで,エピトープを含む特定のペプ チド(すなわち,プロペラ1領域又はプロペラ3領域のアミノ酸配列) に結合する本件発明の候補となるLRP6抗体を十分な数で特定するこ\nとができ,また,本件明細書の記載及び本件特許の優先日当時の周知技 術を用いることにより,製造された結合分子の結合性及び活性を調べ, その有用性を確認することができたと主張する。 (イ) 検討 a 物の発明について,明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要\n件に適合するというためには,当業者が,明細書及び図面の記載並び に出願時の技術常識に基づいて,その物を生産でき,かつ,使用する ことができるように具体的に記載されていることが必要であると解す るのが相当である。
b 本件明細書の記載について
上記1(2)において認定したとおり,本件明細書には,本件発明に係 るLRP6結合分子のLRP6上の結合部分や結合によるWntリガ ンドの結合阻害についての説明(【0015】,【0033】等)と ともに,実施例1には,優先的にWnt1又はWnt3a誘導Wnt シグナル伝達を阻害する抗LRP6アンタゴニストFabs(実験時 のプライベートネームであるFab003,Fab004,Fab0 15など7つのFabで記載)が同定された旨が記載されている(【0 226】〜【0228】)。 しかし,本件明細書には,上記各Fabがいかなる抗原結合部分を 含んでいるのか,すなわち,抗原結合部分やそれが認識するエピトー プがいかなるアミノ酸配列等によって特定されるのかについて,これ を具体的に示す記載はなく,その手掛かりとなる記載も見当たらない。 また,実験結果が記載されていたと推測される図は,全て欠落してい る。
c 本件発明1〜22,31〜33は特定のアミノ酸配列の抗原結合部 分を含むLRP6結合分子,すなわち化学物質の発明である。そして, 上記bにおいて説示したとおり,本件明細書の記載から,実施例で得 られた各Fabのアミノ酸配列等の化学構造や認識するエピトープを\n把握することはできない。また,本件明細書には,Wnt1特異的等 の機能的な限定に対応する具体的な化学構\造等に関する技術情報も記 載されていない。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明におけ る他の記載及び本件特許の出願時の技術常識を考慮しても,特許請求 の範囲に規定されている300程度のアミノ酸の配列に基づき,Wn t1に特異的である等の機能を有するLRP6結合分子を得るために\nは,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要があると認 めるのが相当である。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,本件明 細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,本件発明に 係る物を生産でき,かつ,使用することができるように具体的に記載 されているとはいえない。
(ウ) 原告の主張について
a 原告は,特定のエピトープに対応する抗原結合部分を有する抗体は, 汎用のファージディスプレイ法により取得することができるから,本 件発明に係る結合分子を得るために,当業者が期待し得る程度を超え る試行錯誤は要しないし,本件明細書記載の機能アッセイにより得ら\nれた抗体の機能(Wnt特異性)についても,当業者は容易に確認す\nることができると主張する。 確かに,原告が主張する技術は,いずれも本件発明が属する技術分 野における一般的な技術である,抗体類の製造方法やリガンド・受容 体の結合アッセイ法であって,例えば,抗原又はエピトープが特定さ れている場合に,ファージディスプレイ法等の周知の技術を適用する ことによって,それに対応する抗体が得られることは技術常識である といえる(この点,当事者間に争いはない)。しかし,本件発明に係 る「モノクローナル抗体の抗原結合部分がWnt1特異的であり,優 先的にWnt1誘導シグナル伝達経路を阻害するが,Wnt3a誘導 シグナル伝達経路を阻害しない」「LRP6結合分子」を生産するた めには,まず,本件発明に係るLRP6の第1又は第3プロペラに相 当するそれぞれ300程度のアミノ酸の配列から,本件発明に係る特 異性を満たすエピトープになり得ると予想される特定の塩基配列を選\n定した上で,ファージディスプレイ法などの周知の手法によってそれ らに対応する化学構造(アミノ酸配列)を有するペプチド(すなわち\nFab)を取得し,得られた多数のFabの中から,「Wnt1特異 的であり,優先的にWnt1誘導シグナル伝達経路を阻害するが,W nt3a誘導シグナル伝達経路を阻害しない」との機能を有するFa\nbを特定することが必要である。 これに対し,本件明細書には,本件発明に係る特異性を満たすエピ トープとなり得ると予想される特定の塩基配列の具体的な選定方法に\nついて何ら記載がないから,本件明細書に基づいて本件発明のLRP 6結合分子を得ようとする当業者は,結局,発明者が本件発明を発明 した際に行ったのと同程度の試行錯誤をしなければならないところ, これは当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を強いるものという べきである。
すなわち,エピトープを特定すれば,それに対応する抗体は周知の 手法により得ることができるとはいえるものの,本件明細書には,そ のエピトープについて,具体的なアミノ酸配列等のその構造に関する\n技術的特徴が実施例として開示されておらず,また,本件明細書にお ける他の記載及び出願時の技術常識に基づいても,エピトープ又はそ れに対応する抗体結合部分の具体的構造等を特定することができない\n以上,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて本 件発明に係る結合分子を容易に生産することができるとはいえない。
・・・
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請 求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範 囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明 の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認 識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも 当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認 識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解する のが相当である。
b これを本件についてみると,本件発明1の技術的特徴は,原告が主 張するとおり,特定のWntとLRP6におけるその特定の結合部位 との関係(例えば,Wnt1の結合部位はプロペラ1の領域であるこ と等)を有し,具体的な抗原結合部分(Fab)を備える「Wnt1 アンタゴニスト抗体」及び「Wnt3aアンタゴニスト抗体」にある と認められる。そして,特許請求の範囲に記載されているとおり,「抗 原結合部分が,配列番号:1のアミノ酸20−326;または…のい ずれかに含まれるか,またはいずれかと重複しているヒトLRP6(配 列番号:1)のエピトープに結合し」,「モノクローナル抗体の抗原 結合部分がWnt1特異的であり,優先的にWnt1誘導シグナル伝 達経路を阻害するが,Wnt3a誘導シグナル伝達経路を阻害しない」 等の主として機能によって特定される広範な化学物質の発明について\n特許を受けようとするものである。
一方,上記ア(イ)bにおいて説示したとおり,本件明細書には,具 体的な抗体の抗原結合断片Fabを得たことをうかがわせるプライベ ート番号(Fab003,Fab015など)が記載されているもの の,それらの具体的なFabの構造(アミノ酸配列)も,当該抗原結\n合断片が認識するエピトープ(LRP6中の数個のアミノ酸配列)も 記載されていない(なお,上記のとおり,実験結果が記載されていた と推測される図が全て欠落しているため,これらのFabが有する詳 細な機能・特性の検証自体が事実上不可能\である。)。そして,特許 請求の範囲には,「モノクローナル抗体の抗原結合部分がWnt1特 異的であり,優先的にWnt1誘導シグナル伝達経路を阻害するが, Wnt3a誘導シグナル伝達経路を阻害しない」という機能的な特徴\nを有することが記載されているものの,これらの機能と得られたFa\nbの構造上の特徴等を関連づける情報も何ら記載されていない。\n
そうすると,本件発明1について,特許請求の範囲に記載された発 明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記 載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のも のであるとも,また,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の 課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。 このことは,本件発明2〜22,31〜33についても同様である。
・・・
そこで検討するに,特許異議の申立てについての決定には,決定の結論及\nび理由を記載しなければならない(特許法120条の6第1項4号)。 この点に関連して,特許法157条2項4号は,審決をする場合には審決 書に理由を記載しなければならないと定めている。この趣旨は,審判官の判 断の慎重,合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること, 当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与 えること及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることにあ るというべきであり,したがって,審決書に記載すべき理由としては,当該 発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術上の常識又は 技術水準とされる事実などこれらの者にとって顕著な事実について判断を示 す場合であるなど特段の事由がない限り,前示のような審判における最終的 な判断として,その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示 することを要するものと解するのが相当である(最高裁昭和59年3月13 日第三小法廷判決・集民141号339頁)ところ,このことは特許異議の 申立てに係る決定についても同様と解される。\n
(3) 本件についてみると,上記第2の5において認定したとおり,本件取消決 定に係る決定書そのものには,結論に至った具体的な判断過程も,その根拠 となるべき証拠による認定事実も何ら記載されていない。 しかし,当該決定書には,「平成28年5月13日付けで取消理由を通知 し」,「上記の取消理由は妥当なものと認められる」との記載がされており, 本件取消理由通知書には,取消理由の要旨と,詳細については本件異議申立\n書を参照のこととの記載がされ,本件異議申立書には,本件特許が取り消さ\nれるべきであることについての理由が,証拠を具体的に摘示して,詳細に記 載されているのであるから,本件異議申立書,本件取消理由通知書及び本件\n取消決定に係る決定書の全体をみれば,当該決定書の記載が,審決の公正を 保障し,当事者が決定に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに 便宜を与え,決定の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にするという趣 旨に反するものとはいえない。また,本件異議申立手続において,被告が本\n件取消理由通知をしたのに対し,原告が応答をしなかったという経緯も踏ま えれば,本件取消決定に係る決定書そのものに,結論に至った具体的な判断 過程や,その根拠となるべき証拠による認定事実が何ら記載されていないと しても,上記の結論に変わりはないものというべきである。

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平成29(行ケ)10172  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月4日  知的財産高等裁判所(1部

 無効審判において、原告は訂正をしましたが、訂正後のクレームについて実施可能要件およびサポート要件違反として無効と判断されました。知財高裁は、サポート要件違反であるので無効と判断しました。
   特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の 記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が, 発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当 該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か,また,発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課 題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 (2) 特許請求の範囲の記載 本件各発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2【請求項1】ないし【請求項 3】のとおりである。
・・・
そうすると,当業者は,原出願日時点において,キレート配位子となり得る構造\nを有する分子が,何らかの方法により,インテグラーゼ阻害作用に関与する可能性\nがあることは認識していたものの,キレート配位子となり得る構造を有する分子が\nインテグラーゼ阻害作用を有するとは限らないとの技術常識を有していたというべ きである。
(6) 当業者が本件各発明の課題を解決できると認識し得るかについて 本件各発明の課題は,インテグラーゼ阻害作用を有する化合物を含有する医薬組 成物を新たに提供するというものである。 しかし,本件明細書には,本件各発明に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を 有することを示す薬理データは,一つも記載されておらず,本件各発明に係る化合 物がインテグラーゼ阻害作用を示すに至る機序についても記載されていない。 また,原出願日時点におけるインテグラーゼ阻害剤の構造に対するわずかな修飾\n変化によって,そのインテグラーゼ阻害作用に大きな差異が生じ得るとの前記の技 術常識に照らせば,A群等試験例化合物及びB群等試験例化合物がインテグラーゼ 阻害作用を有することを示す薬理データをもって,当業者が,本件各発明に係る化 合物についてもインテグラーゼ阻害作用を有すると認識することはできない。 さらに,原出願日時点におけるキレート配位子となり得る構造を有する分子がイ\nンテグラーゼ阻害作用を有するとは限らないとの前記の技術常識に照らせば,本件 各発明に係る化合物がキレート配位子となり得る構造を有することをもって,当業\n者が,本件各発明に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有すると認識すること はできない。 その他,本件各発明に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有すると当業者に 認識させ得るような原出願日時点における技術常識も見当たらない。 したがって,本件各発明に係る化合物は,当業者がインテグラーゼ阻害作用を有 する化合物を含有する医薬組成物を新たに提供するという本件各発明の課題を解決 できると認識し得る範囲のものとはいえないというべきである。

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こちらは対応の侵害訴訟です。

◆平成29(ネ)10105

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平成29(行ケ)10189  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月4日  知的財産高等裁判所(3部)

 「概ね面一」との用語が不明確性(36条6項2号)違反が争われました。第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確ではないとして、無効理由なしとした審決が維持されました。判決の最後に図面があります。
 特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確 でない場合に,特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となることによ り生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで,特許を受 けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず, 願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時に おける技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不 利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであ る。
(2) この点,原告は,審決が,特許請求の範囲の「カバーが水槽の底部面に概 ね面一」について,「面一」とは,止水時において,水槽の底部面とカバー の頂部とがつまずくことを防止できる程度にほぼ同じ高さになることを意味 するものと解釈できると説示したのに対して,「止水時において,水槽の底 部面とカバーの頂部とがつまずくことを防止できる程度」というのは,排水 口のために水槽の底部面に形成された円筒状陥没部のR面を含む傾斜面の形 状等やカバー自体の形状でも異なるほか,当該傾斜面の形状や傾斜角度とカ バーの形状の組合せによっても異なり,さらには,使用者の年齢や性別,体 格等によっても異なる以上,「カバー(特にカバーの頂部)が水槽の底部面 に概ね面一」が「つまずくことを防止できる程度」という趣旨であるとすれ ば,権利の及ぶ範囲が不明確であり,本件発明に接した第三者は不測の不利 益を被る,などと主張する。 しかしながら,本件明細書の【0013】には,「カバーにつまづくこと を防止するため,カバーの頂面60が水槽の底部1面と概ね面一になるよう 円筒状陥没部10の縁とカバー6の縁との位置を略一致させることがよい。」 との記載があるものの,【0008】には,「カバーが水槽の底部面と概ね 面一にされ,排水口部を覆うことになって排水口部内の汚れを覆い隠すこと ができ,見栄え良くできる。」との記載もあり,かかる記載を根拠にすると, 「概ね面一」とは,「排水口部を覆うことになって排水口部内の汚れを覆い 隠すことができ,見栄え良くできる程度」と定義していると理解することも 可能である。\nそもそも,本件発明の排水栓装置は,洗面化粧台,浴槽,流し台などあら ゆる水槽が含まれるところ,「カバーにつまづくことを防止できる程度」と いうのは,飽くまで浴槽の観点からみた理解であるから(この定義が明確と いえるかどうかの点はひとまず措く。),このように理解できたとしても, 浴槽以外の,例えば,洗面化粧台における「概ね面一」の範囲が直ちに明ら かになるわけではない。 したがって,原告の主張は,「カバー(特にカバーの頂部)が水槽の底部 面に概ね面一」が「つまずくことを防止できる程度」を意味するとの理解を 前提とする限りにおいて正当な指摘を含んでいるが,それでは足りないとい うべきである。
(3) そこで,さらに進んで検討するに,本件明細書には,「概ね面一」の意味 するところを説明する確たる定義はないけれども,本件明細書の図1には, 水槽の底部面とカバーの頂部(頂面60)とがほぼ同じ高さになる状態が示 されており,この状態をもって「カバーが水槽の底部面に概ね面一」と理解 することは自然である。そして,寸法誤差,設計誤差等により,水槽の底部 面とカバーの頂部(頂面60)とが完全に同じ高さとならない場合が存する ことは技術常識であるといえるから,カバーと水槽の底部面との高さの差が, このような範囲にとどまるものを「概ね面一」と理解するなら,洗面化粧台, 浴槽,流し台などあらゆる水槽について,「カバーが水槽の底部面に概ね面 一」の意味内容を統一的に理解することができる。 審決の,「概ね面一」とは,「止水時に,カバーを水槽の底部面に対し積 極的に出没させた位置に設けようとするものではない」との説示もこうした 趣旨と理解できる。 そうとすれば,「概ね面一」の語を用いているがゆえに特許請求の範囲の 記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず,これ に反する原告の主張は採用できない。

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平成29(行ケ)10210  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月6日  知的財産高等裁判所(3部)

 経緯がややこしいです。無効理由無しの第1次審決が第1次審取で取り消され、本件原告は訂正をしました。第2次審決は訂正を認めた上、無効と判断しました。裁判所は、明確性違反なしと判断しました。
 本件訂正後の特許請求の範囲にいう「平均分子量が2万〜4万のコンド ロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,重量 平均分子量,粘度平均分子量,数平均分子量等のいずれを示すものである かについては,本件訂正明細書において,これを明らかにする記載は存在 しない。もっとも,このような場合であっても,本件訂正明細書における コンドロイチン硫酸又はその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を 合理的に解釈し,当業者の技術常識も参酌して,その平均分子量が何であ るかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきで ある。
イ 上記1(2)カのとおり,本件訂正明細書には,「本発明に用いるコンドロ イチン硫酸又はその塩は公知の高分子化合物であり,平均分子量が0.5 万〜50万のものを用いる。より好ましくは0.5万〜20万,さらに好 ましくは平均分子量0.5万〜10万,特に好ましくは0.5万〜4万の コンドロイチン硫酸又はその塩を用いる。かかるコンドロイチン硫酸又は その塩は市販のものを利用することができ,例えば,生化学工業株式会社 から販売されている,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万, 平均分子量約2万,平均分子量約4万等)が利用できる。」(段落【00 21】)と記載されている。 上記の「生化学工業株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナ トリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)」 については,本件出願日当時,生化学工業株式会社は,同社製のコンドロ イチン硫酸ナトリウムの平均分子量について重量平均分子量の数値を提供 しており,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として当 業者に公然に知られた数値は重量平均分子量の数値であったこと(上記(3) イ(ア))からすれば,その「平均分子量」は重量平均分子量であると合理的 に理解することができ,そうだとすると,本件訂正後の特許請求の範囲の 「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平 均分子量も重量平均分子量を意味するものと推認することができる。加え て,本件訂正明細書の上記段落に先立つ段落に記載された他の高分子化合 物の平均分子量は重量平均分子量であると合理的に理解できること(上記 (2)イ),高分子化合物の平均分子量につき一般に重量平均分子量によって 明記されていたというのが本件出願日当時の技術常識であること(上記(2) ウ)も,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万〜4万のコン ドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が重量平均分子量である という上記の結論を裏付けるに足りる十分な事情であるということができ\nる。
ウ よって,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明確性要件を充足するも のと認めるのが相当である。

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平成29(行ケ)10143  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年7月5日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件およびサポート要件に違反するとした無効審決が維持されました。\n
 ところで,本件訂正発明のような有機アンモニウム化合物を含有するレジ スト除去・洗浄剤では,レジスト除去は塩基の作用によるものであって,塩 基の濃度が高い,あるいは,pHが高いほど,その除去作用が強いという傾向 にあることは当業者における技術常識である(弁論の全趣旨)。また,回路 に用いられる代表的な導電性金属である銅やアルミニウムの腐食性が,接触\nする組成物・溶液の種類とそのpHに依存することも,当業者における技術常 識であり,例えば,アルミニウムは,接触する溶液の種類によるものの, pH が12以上で不安定化する傾向にあることは周知の技術常識である(甲48)。
これらの技術常識に照らせば,当業者は,一般論として,塩基の濃度とpH を調整することにより,レジスト除去に代表されるポリマー,エッチング・\nアッシング残渣の除去作用の強弱と,回路材料である金属の腐食作用の強弱 とを変化させることが可能であると一応理解できるというべきである。さら\nに,当業者は,本件明細書の段落【0089】の記載から,レジスト除去を より高温で,より長時間行うと,より完全となる傾向があることも理解する ことができる。 しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,実際のpHが明らかにされた 具体的な組成物の記載は一切存在しないし(例えば,W3,W11〜W13 はpH<7,W5及びW6はpH>12であることが記載されているものの,具体的に pHがいかなる値であったのかは明らかでない。),上記(3)において説示した とおり,訂正後発明1に係る成分を含有し,基板からのポリマー,エッチン グ・アッシング残渣除去と金属で形成された回路の損傷量を許容し得る範囲 に抑えることが両立している具体的な組成物の例も記載されていない。 また,本件明細書に記載されているその余の組成物についても,基板から のポリマー,エッチング・アッシング残渣の除去作用と回路材料である金属 の腐食作用の各程度を,同一の組成物について具体的に評価した例は発明の 詳細な説明に記載されておらず,実際のpHの値が具体的に明らかにされた組 成物すら記載されていない。
(5) 以上検討したところによれば,本件明細書に接した当業者は,塩基の濃度 及びpHと,基板からのポリマー,エッチング・アッシング残渣の除去作用, 及び回路材料である金属の腐食作用との間に関係性があるとの技術常識を考 慮して,pHを調整することにより,ポリマー,エッチング・アッシング残渣 の除去と金属で形成された回路の損傷量を許容し得る範囲に抑えることの両 立が可能であることを一応理解できるとはいえるものの,反面,本件明細書\nの発明の詳細な説明においては,当該調整の出発点となるべき具体的組成物 の実際のpHの値が一切明らかにされていない上,基板からのポリマー,エッ チング・アッシング残渣の除去作用と回路材料である金属の腐食作用との関 係において,どの程度のpHの調整が必要であるのかについての具体的な情報 が余りにも不足しているといわざるを得ない。そのため,当業者が,本件明 細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,本件訂正発明に係る組成物を生 産しようとする場合,具体的に使用するレジストや回路材料等を念頭に置い て,基板からのポリマー,エッチング・アッシング残渣の除去と回路の損傷 量を許容し得る範囲に抑えることとが両立した適切な組成物を得るためには, 的確な手掛かりもないまま,試行錯誤によって各成分の配合量を探索せざる を得ないところ,このような試行錯誤は過度の負担を強いるものというべき である。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,訂正後発明1〜7 の組成物を生産でき,かつ,使用することができるように具体的に記載され ているものとはいえない。
・・・
しかし,上記2において説示したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明 には,上記2つの性質が両立していると具体的に評価された実施例に関する 記載はなく,技術常識を併せ考慮したとしても,当業者が本件訂正発明に係 る組成物を生産しようとする場合,過度の試行錯誤によって各成分の配合量 を探索せざるを得ない。 したがって,本件訂正発明1〜7に係る特許請求の範囲の記載は,技術常 識を考慮しても,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,集 積回路基板等から,ポリマー,エッチング残渣,アッシング残渣,又はそれ らの組合せの除去と回路の損傷量を許容し得る範囲に抑えることとを両立さ せることのできる組成物と認識できる範囲内のものであるとはいえない。

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平成29(行ケ)10178  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年6月27日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反、サポート要件違反、明確性違反の無効主張について、「無効理由無し」とした審決が維持されました。
(1) サポート要件の適合性について
ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に関し,「医薬品や食品 のような経口投与用組成物等の品質を損なわずに優れた識別性を有する経 口投与用組成物を得ることができ,かつ,生産性にも優れたマーキング方 法を開発するという課題」を解決するための手段として,「本発明」は,酸 化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少な くとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面に,所\n定のレーザー光を走査することにより,変色誘起酸化物を凝集させること に起因した変色が生じるようにした構成を採用したことの記載があること\nは,前記1(1)イ認定のとおりである。
イ 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,1)実施例1ないし16にお いて,表1のレーザー装置及び照射条件(波長355nm,平均出力8W),\n表3のレーザー装置及び照射条件(波長266nm,平均出力3W)又は表\ 4のレーザー装置及び照射条件(波長532nm,平均出力12W)で,酸 化チタン,黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄錠剤を配合した,フィルムコー ト錠等に対し,文字又は中心線をマーキングしたこと(【0038】〜【0 056】,表1,表\3及び表4),2)表1のレーザー装置及び照射条件かつ\n走査速度1000mm/secで,実施例13のフィルム錠にレーザー照 射を行い,レーザー照射前後の二酸化チタンの粒子の状態を透過型電子顕 微鏡(TEM)により観測した結果,レーザー照射後に二酸化チタンの粒子 が凝集していることが確認されたこと(【0057】〜【0059】,図3, 図4),3)レーザー波長に関し,レーザーは,その波長が200〜1100 nmを有するものを用いることができ,好ましくは1060〜1064n m,527〜532nm,351〜355nm,263〜266nm又は2 10〜216nmの波長であり,より好ましくは527〜532nm,3 51〜355nm又は263〜266nmの波長であること(【0022】), 4)レーザー出力に関し,レーザーを走査する際の平均出力は,対象とする 経口投与用組成物の表面がほとんど食刻されない範囲で使用することがで\nき,例えば,その平均出力は,0.1W〜50Wであり,好ましくは1W〜 35Wであり,より好ましくは5W〜25Wであるが,単位時間あたりの レーザー照射エネルギーが強すぎると,アブレーションにより錠剤表面で\n食刻が発生し,変色部分まで剥がれてしまい,また,出力が弱いと変色が十\n分ではないこと(【0023】),5)レーザーの走査速度(スキャニング速 度)に関し,スキャニング速度は,特に限定されるものではないが,20m m/sec〜20000mm/secであり,また,スキャニング速度は, 高いほどマークの識別性に影響を与えることなく生産性を上げることがで きることから,例えば,レーザー出力5Wでは,スキャニング速度は,80 mm/sec〜10000mm/sec,好ましくは90mm/sec〜 10000mm/sec,より好ましくは100mm/sec〜1000 0mm/secであり,レーザー出力が8Wの場合には,スキャニング速 度は,250mm/sec〜20000mm/sec,好ましくは500 mm/sec〜15000mm/sec,より好ましくは1000mm/ sec〜10000mm/secであること(【0024】),6)単位面積 当たりのエネルギーに関し,単位面積当たりのレーザーのエネルギーは, マーキングの可否及び経口投与用組成物の食刻の有無の観点から,390 〜21000mJ/cm2であり,好ましくは400〜20000mJ/c m2,より好ましくは450〜18000mJ/cm2であり,また,390 mJ/cm2より低い場合には,マークを施すことができないのに対し,2 1000mJ/cm2より大きい場合には,食刻が生じるため,好ましくな いこと(【0025】)の記載がある。 上記1)ないし6)の記載を総合すると,本件明細書に接した当業者は,請 求項1記載の波長(200nm〜1100nm),平均出力(0.1W〜5 0W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec〜8000mm/se c)の各数値範囲内で,波長,平均出力及び走査速度を適宜設定したレーザ ー光で,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択 される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の 表面を走査することにより,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させ\nてマーキングを行い,「医薬品や食品のような経口投与用組成物等の品質 を損なわずに優れた識別性を有する経口投与用組成物を得ることができ, かつ,生産性にも優れたマーキング方法を開発する」という本件発明1の 課題を解決できることを認識できるものと認められる。 したがって,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載され たものといえるから,請求項1の記載は,サポート要件に適合するものと 認められる。同様に,請求項2ないし22の記載も,サポート要件に適合す るものと認められる。

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平成29(行ケ)10153  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年6月19日  知的財産高等裁判所

 「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の明確性、本件発明の課題が解決できるのかについてサポート要件違反が争われました。
 上記記載事項によれば,めっき処理を行った亜鉛又は亜鉛系め っき鋼板において,酸化性雰囲気中で加熱を行うことによって,亜鉛の蒸 発を阻止するバリア層として酸化皮膜層が形成されるが,亜鉛又は亜鉛系 めっきの共通成分は亜鉛であり,亜鉛又は亜鉛系めっき鋼板がいずれも均 一な酸化皮膜を形成し,塗膜密着性,耐食性が良好という共通の性質を有 することが理解できる。そうだとすれば,当業者であれば,当然,本件発 明1の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「亜鉛の酸化皮膜」 であると理解すると認められる。 してみると,本件発明1の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」 が,亜鉛系めっきに由来する亜鉛の酸化皮膜を意味することは明確である といえる。このことは,本件発明1を引用する本件発明2ないし6及び(同 様の文言を有する)本件発明7についても同様である。
ウ 原告の主張について
原告は,本件訂正によって,特許請求の範囲の記載にあった「亜鉛また は亜鉛系合金のめっき層」に代えて,「スズ−亜鉛合金めっき層」などの 具体的な合金めっき層が記載されたこと,本件明細書においては,「スズ −亜鉛合金めっき」の具体例としては,「スズ−8%亜鉛合金めっき」の みが記載されている(【0038】)こと,「スズ−8%亜鉛合金めっき」 を加熱した場合に生ずる変化については本件明細書に全く記載がないこと などを挙げて,「亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」が亜鉛の酸化皮膜でな ければならないと当然に解釈できるとはいえないから,金属酸化物の種類 が不明確であると主張する。 しかしながら,本件明細書の記載から,亜鉛又は亜鉛系めっき鋼板がい ずれも均一な酸化皮膜を形成し,塗膜密着性,耐食性が良好という共通の 性質を有することが理解でき,当業者であれば,本件発明1の「加熱時の 亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「亜鉛の酸化皮膜」であると理解する と認められることは,前記ア,イのとおりである。他方,「スズ−8%亜 鉛合金めっき」についてのみ,これと異なる理解をすると認めるべき合理 的事情はない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(2) 酸化皮膜の形成時期について
ア 原告は,本件訴訟におけるのと同様に,先行事件訴訟においても,「亜 鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期が明らかでないと主張して明確 性要件を争っており,その結果,原告の主張を排斥する先行事件判決がな され,同判決は既に確定しているものである(当裁判所に顕著な事実)。 そうすると,原告が本件訴訟において再びこの点を争うことは,実質的 に前訴の蒸し返しに当たり,訴訟上の信義則に反するものとして許されな いというべきである。
よって,この点に関する原告の主張も採用できない。
イ 念のため,中身について検討してみても,この点に関しては,先行事件 判決が示すとおり,本件明細書の【0018】には,酸化皮膜は熱間プレ スに先立つ加熱前にある程度形成されることが必要で,その後熱間プレス 加工のための700〜1000℃の加熱によっても形成が進むと推測され ることが記載され,【0042】及び【0043】には,酸化皮膜は,熱 間プレス加工のため700〜1000℃に加熱する前に,予め形成されて\nいる場合と形成されていない場合があることを前提として,予め酸化皮膜\nが形成されている材料の場合には,酸化皮膜の維持に悪影響がない限り熱 間プレスのための加熱方法については特に制限がないことが記載され,さ らに,【0064】及び【表5】には,実施例No.2,3として,電気\nめっきを施した後,熱間プレスに先立つ加熱を大気炉で850℃,3分間 行ったものについて均一な酸化皮膜が形成されたことが記載されていると ころ,電気めっきにおいては,めっき層は加熱されないことから,上記実 施例はいずれも熱間プレスに先立つ加熱前に予め酸化皮膜が形成されてい\nない場合であって,この場合の酸化皮膜は,熱間プレスのための加熱(大 気炉で850℃,3分間)により形成されたものと理解することができる。 そうすると,本件発明の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は, 熱間プレスの加熱前に,予め形成されている場合,ある程度形成されてい\nてその後熱間プレスの加熱時に形成が進む場合,予め形成されていないが\n熱間プレスの加熱により形成される場合のいずれでもよいことから,その 形成時期は熱間プレスの直前までであればよいと解するのが相当である。 したがって,本件発明1及びこれを引用する本件発明2ないし6並びに 本件発明7の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期は, 本件明細書の発明の詳細な説明を参照すれば明確というべきであるから, 原告の主張はいずれにしても失当である。
(3) 「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス 用」について
ア 本件明細書の【0016】ないし【0018】,【0029】,【00 34】,【0042】,【0044】,【0048】,【0050】及び 【0064】には,熱間プレスは700〜1000℃という温度で加熱す ることを意味すること,熱間プレス成形の特徴として成形と同時に焼き入 れを行うことから,そのような焼き入れを可能とする鋼種を用いること,\n熱間成形後に急冷して高強度,高硬度となる焼き入れ鋼,例えば表1にあ\nるような鋼化学成分(鋼種A等)の高張力鋼板が実用上は特に好ましいこ と,700〜1000℃の温度で加熱してから熱間プレスを行い,めっき 層表面に亜鉛の酸化皮膜が,下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層\nとして全面的に形成されていること,具体的には,表1に示す鋼種Aを,\n大気雰囲気の加熱炉内で950℃×5分加熱して,加熱炉より取り出し, このままの高温状態で円筒絞りの熱間プレス成形を行うこと,また,熱間 プレスに先立つ加熱を,大気炉で850℃,3分間行うことが記載されて いる。 そして,これらの記載によれば,本件発明1の「700〜1000℃に 加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用」という文言において, 1)「700〜1000℃に加熱されて」は,熱間プレスの加熱条件であり, 2)「プレスされ焼き入れされる」は,成形と同時に焼き入れを行う熱間プ レス成形の特徴であり,3)「用」という文言の意味は,「(接尾語的に) …に使うためのものの意を表す」(広辞苑第六版)であることからすると,\n「熱間プレス用」は,後に続く,本件発明1の「鋼板」を修飾し,鋼板が 熱間プレスに使うためのものであることを意味するものと理解できる。 してみれば,「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れさ れる」は,「熱間プレス」の加熱条件及び特徴を表現するものと理解でき\nるから,本件発明1の「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き 入れされる熱間プレス用」という文言は明確である。このことは,本件発 明1を引用する本件発明2〜6及び(同様の文言を有する)本件発明7に ついても同様である。
イ 原告の主張について
原告は,本件発明は用途発明であるとした上で,種々理由を述べて,「7 00〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用」 という記載の意味が不明確であると主張する。 しかしながら,前記アのとおり,「700〜1000℃に加熱されてプ レスされ焼き入れされる」は,「熱間プレス」の加熱条件及び特徴を表現\nするものと認められるから,その余の点について判断するまでもなく,本 件発明1の「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる 熱間プレス用」という文言の意味は明確である。 また,本件発明1が用途発明であるか否かは,その結論を左右するもの ではない。

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◆平成26(行ケ)10201

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平成29(行ケ)10129  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年5月24日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(3部)は、サポート要件の判断の前提となる課題の認定自体を誤ったとして、サポート要件違反の異議理由ありとした審決を取り消しました。
 前記のとおり,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否か は,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請 求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発 明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決 できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がな くとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると 認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 また,発明の詳細な説明は,「発明が解決しようとする課題及びその解 決手段」その他当業者が発明の意義を理解するために必要な事項の記載が 義務付けられているものである(特許法施行規則24条の2)。 以上を踏まえれば,サポート要件の適否を判断する前提としての当該発 明の課題についても,原則として,技術常識を参酌しつつ,発明の詳細な 説明の記載に基づいてこれを認定するのが相当である。
かかる観点から本件発明について検討するに,本件明細書の発明の詳細 な説明には,米糖化物含有食品であるライスミルクの製造時に各種酵素を 制御することなく加えると,プロテアーゼによりアミノ酸,オリゴペプチ ドが生成し,うまみ調味料様の雑味がついてしまい,用途が限られたこと (【0002】),食感が滑らかで雑味がなくすっきりした味を持つ米糖 化液としてアミノ酸濃度が一定範囲である米糖化液が開発されたが,甘味, コク(ミルク感)等の風味は十分に改善されておらず,必ずしも満足できるものではなかったこと,さらに,グラノーラ,パンケーキ等が流行する一方,牛乳アレルギー,大豆アレルギーの人口は増加傾向にあり,風味が改善された牛乳や豆乳の代用品が求められていたこと(【0003】)などが背景技術として記載されている。その上で,発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題として,「本発明は,米糖化物含有食品のコ\nク,甘味,美味しさ等を改善するという課題を解決すべく鋭意研究を重ね た結果見出されたものである。すなわち,本発明は,コク,甘味,美味し さ等を有する米糖化物含有食品を提供することを目的とする。さらに,従 来牛乳や大豆を用いて製造又は調理されていた多数の食品を作ることを可 能にする食品を提供することも目的とする。」との記載がある(【000\n6】)。
これらの記載からすれば,本件発明は,「コク,甘味,美味しさ等を有 する米糖化物含有食品を提供すること」それ自体を課題とするものである ことが明確に読み取れるといえる。
イ これに対し,異議決定は,「本件発明1の課題は,本件特許明細書の『コ ク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること』(【0 006】)との記載及び実施例(【0031】〜【0043】)において, 『コク(ミルク感)』,『甘み』及び『美味しさ』の各評価項目について 評価を行っていることから,『コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物 含有食品を提供すること』と認められる。」と,一旦は上記アと同様に本 件発明1の課題を認定しながら,最終的なサポート要件の適否判断に際し ては,「本件発明1の課題は,上記aのとおり,具体的には,実施例1− 1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて 優位な差を有するものを提供することであ(る)」とその課題を認定し直 し,課題の解決手段についても,「本件発明1が課題を解決できると認識 できるためには,…実施例1−1のライスミルクに比べてコク(ミルク感), 甘味及び美味しさについて優位な差を有することを認識できることが必要 である。」としている(異議決定12頁16〜25行)。
この点について,被告は,発明が解決しようとする課題とは,出願時の 技術水準に照らして未解決であった課題であるから,本件発明1の「コク, 甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」という課題 は,本件出願時の技術水準を構成する米糖化物含有食品(具体的には,実\n施例1−1のライスミルク)に比べて,コク,甘味,美味しさ等を有する 米糖化物含有食品を提供することであり, したがって,異議決定において は,本件発明1の課題について,「具体的には,実施例1−1のライスミ ルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有 するものを提供すること」としたものである(したがって,異議決定の課 題の認定に誤りはない)と主張する。 確かに,発明が解決しようとする課題は,一般的には,出願時の技術水 準に照らして未解決であった課題であるから,発明の詳細な説明に,課題 に関する記載が全くないといった例外的な事情がある場合においては,技 術水準から課題を認定するなどしてこれを補うことも全く許されないでは ないと考えられる。
しかしながら,記載要件の適否は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明 の記載に関する問題であるから,その判断は,第一次的にはこれらの記載 に基づいてなされるべきであり,課題の認定,抽出に関しても,上記のよ うな例外的な事情がある場合でない限りは同様であるといえる。 したがって,出願時の技術水準等は,飽くまでその記載内容を理解する ために補助的に参酌されるべき事項にすぎず,本来的には,課題を抽出す るための事項として扱われるべきものではない(換言すれば,サポート要 件の適否に関しては,発明の詳細な説明から当該発明の課題が読み取れる 以上は,これに従って判断すれば十分なのであって,出願時の技術水準を\n考慮するなどという名目で,あえて周知技術や公知技術を取り込み,発明 の詳細な説明に記載された課題とは異なる課題を認定することは必要でな いし,相当でもない。出願時の技術水準等との比較は,行うとすれば進歩 性の問題として行うべきものである。)。
これを本件発明に関していえば,異議決定も一旦は発明の詳細な説明の 記載から,その課題を「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食 品を提供すること」と認定したように,発明の詳細な説明から課題が明確 に把握できるのであるから,あえて,「出願時の技術水準」に基づいて, 課題を認定し直す(更に限定する)必要性は全くない(さらにいえば,異 議決定が技術水準であるとした実施例1−1は,そもそも公知の組成物で はない。)。 したがって,異議決定が課題を「実施例1−1のライスミルクに比べて コク(ミルク感),甘味及び美味しさについて有意な差を有するものを提 供すること」と認定し直したことは,発明の詳細な説明から発明の課題が 明確に読み取れるにもかかわらず,その記載を離れて(解決すべき水準を 上げて)課題を再設定するものであり,相当でない。 以上によれば,異議決定における課題の認定は妥当なものとはいえず, 被告の主張は採用できない。
(2) 課題を解決できると認識できる範囲について
ア 上記のとおり,本件発明の課題は,コク,甘味,美味しさ等を有する米 糖化物含有食品を提供することであると認められるので,本件発明が,発 明の詳細な説明の記載から,「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物 含有食品を提供する」という課題を解決することができると認識可能な範\n囲のものであるか否かについて検討する。
・・・
(エ) そして,上記試験例1,2及び4の結果を総合すれば,本件発明4に ついても,課題が解決できる範囲のものであることが裏付けられている といえる。
エ 以上によれば,本件発明は,いずれも,発明の詳細な説明の記載から, 「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供する」という 課題を解決することができると認識可能な範囲のものであるといえる。\n

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平成27(ワ)21684  特許権  民事訴訟 平成30年4月20日  東京地方裁判所(40部)

 特許権侵害事件です。争点は、本件発明「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法」は製造方法の発明か、サポート要件違反、実施可能要件違反などです。製造会社だけでなく、商社、コンビニが被告とされています。裁判所は、製造方法の発明かについては判断することなく、サポート要件違反・実施可能\要件違反として無効と判断しました。
 ところで,耐食コーティングに用いる材料の種類や成分の違いにより, 缶内の飲料に与える影響に大きな差があることは,本件特許の出願日当時, 当業者に周知であるということができる(乙34〜36)。例えば,特開平 7−232737号公開特許公報(乙36)には,「エポキシ系樹脂組成物 を被覆した場合,ワイン系飲料に含まれる亜硫酸ガス(SO2)をはじめと するガスに対するガスバリヤー性が劣っており,かつフレーバー成分の収 着性が高い。例えば,ワイン系飲料等を充填した場合,含有する亜硫酸ガ ス(SO2)が塗膜を通過して下地の金属面を腐食する虞があり,場合によ っては内容物が漏洩することもある。この亜硫酸ガスは下地の金属と反応 して硫化水素(H2S)を発生させるが,この硫化水素(H2S)は悪臭の 主要因となるばかりでなく,飲料の品質保持のため必要な亜硫酸ガス(S O2)を消費するため飲料の品質を劣化させフレーバーを損なうこととな る。また,この樹脂組成物は飲料中のフレーバーを特徴付ける成分を収着 しやすく,飲料用金属容器の内面に被覆するには官能的に充分満足のでき\nるものではない。」(段落【0004】),「一方,ビニル系樹脂組成物を被覆 した場合,…エポキシ系樹脂組成物と同様に亜硫酸ガス(SO2)等に対す るガスバリヤー性に乏しく,やはり腐食や漏洩の危険性及び官能的な問題\nがある。」(段落【0005】)との記載がある。これによれば,耐食コーテ ィングに用いる材料や成分が,ワイン中の成分と反応してワインの味質等 に大きな影響を及ぼすことは,本件特許の出願日当時の技術常識であった ということができる。
上記のとおり,耐食コーティングに用いる材料の成分が,ワイン中の成 分と反応してワインの味質等に大きな影響を及ぼし得ることに照らすと, 本件明細書に記載された「エポキシ樹脂」以外の組成の耐食コーティング についても本件発明の効果を実現できることを具体例等に基づいて当業 者が認識し得るように記載することを要するというべきである。 この点,原告は,本件発明の課題は,ワイン中の遊離SO2,塩化物及び スルフェートの含有量を所定値以下にすることにより達成されるのであ り,耐食コーティングの種類によりその効果は左右されない旨主張する。 しかし,塗膜組成物の組成を変えることにより塗膜の物性が大きく変動し, 缶内の飲料に大きな影響を及ぼすことは周知であり(乙34の第1表,乙\n35の第2,3表等),ワイン中の遊離SO2,塩化物及びスルフェートの\n含有量を所定値以下にすれば,コーティングの種類にかかわらず同様の効 果を奏すると認めるに足りる証拠はない。
(4) 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,具体例の開示がなく とも当業者が本件発明の課題が解決できると認識するに十分な記載があると\nいうことはできない。そこで,本件明細書に記載された具体例(試験)によ り当業者が本件発明の課題を解決できると認識し得たかについて,以下検討 する。
ア 本件明細書には,「パッケージングされたワインを,周囲条件下で6ヶ 月間,30℃で6ヶ月間保存する。50%の缶を直立状態で,50%の缶 を倒立状態で保存する。」(段落【0038】)との方法で試験が行われ た旨の記載がある。しかし,本件明細書には,当該「パッケージングされ たワイン」の「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度,そ の他の成分の濃度,耐食コーティングに用いる材料や成分等については何 ら記載がなく,その記載からは,当該「パッケージングされたワイン」が 本件発明に係るワインであることも確認できない。
イ また,本件明細書には,試験方法について,「製品を2ヶ月の間隔を置 いて,Al,pH,°ブリックス(Brix),頭隙酸素及び缶の目視検査に関 してチェックする。…目視検査は,ラッカー状態,ラッカーの汚染,シー ム状態を含む。…官能試験は,味覚パネルによる認識客観システムを用い\nる。」(段落【0039】)との記載がある。「頭隙酸素」については, 乙29文献(4頁下から2行〜末行)に「ヘッドスペースの酸素は,アル ミニウムの放出に関して非常に重大である」との記載があるとおり,ワイ ンの品質に大きな影響を与え得る因子であり,「官能試験」はワインの味\n質の検査であるから,いずれもその方法や結果は効果の有無を認識する上 で重要である。しかし,本件明細書には,「頭隙酸素」のチェック結果や 「目視検査」の結果についての記載はなく,「官能試験」についても「味\n覚パネルによる認識客観システム」についての説明や試験結果についての 記載は存在しない。
ウ さらに,本件発明に係る特許請求の範囲はワイン中の三つの成分を特定 した上でその濃度の範囲を規定するものであるから,比較試験を行わない と本件発明に係る方法により所望の効果が生じることが確認できないが, 本件明細書の発明の詳細な説明には比較試験についての記載は存在しな い。このため,当業者は,本件発明で特定されている「遊離SO2」,「塩 化物」及び「スルフェート」以外の成分や条件を同程度としつつ,「遊離 SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度を特許請求の範囲に記載 された数値の範囲外とした場合には所望の効果を得ることができないか どうかを認識することができない。 加えて,耐食コーティングについては,試験で用いられたものが本件明 細書に記載されている「エポキシ樹脂」かどうかも明らかではなく,まし て,エポキシ樹脂以外の材料や成分においても同様の効果を奏することを 具体的に示す試験結果は開示されていない。
エ 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された「試験」は, ワインの組成や耐食コーティングの種類や成分など,基本的な数値,条件 等が開示されていないなど不十分のものであり,比較試験に関する記載も\n一切存在しない。また,当該試験の結果,所定の効果が得られるとしても, それが本件発明に係る「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の 濃度によるのか,それ以外の成分の影響によるのか,耐食コーティングの 成分の影響によるのかなどの点について,当業者が認識することはできな い。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明に実施例として記載された 「試験」に関する記載は,本件発明の課題を解決できると認識するに足り る具体性,客観性を有するものではなく,その記載を参酌したとしても, 当業者は本件発明の課題を解決できるとは認識し得ないというべきであ る。
オ この点,原告は,本件発明の特徴的な部分は,従来存在しなかった技術 思想であり,「塩化物」等の濃度には臨界的な意義もないので,その裏付 けとなる実験結果等の記載がないとしてもサポート要件には違反しない と主張する。 しかし,前記判示のとおり,特許請求の範囲に記載された構成の技術的\nな意義に関する本件明細書の記載は不十分であり,具体例の開示がなくて\nも技術常識から所望の効果が生じることが当業者に明らかであるという ことはできない。また,「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」 に係る濃度については,その範囲が数値により限定されている以上,その 範囲内において所望の効果が生じ,その範囲外の場合には同様の効果が得 られないことを比較試験等に基づいて具体的に示す必要があるというべ きである。
・・・
(5) 以上のとおり,本件発明に係るワインを製造することは困難ではないが, 本件発明の効果に影響を及ぼし得る耐食コーティングの種類やワインの組成 成分について,本件明細書の発明の詳細な説明には十分な開示がされている\nとはいい難いことに照らすと,本件明細書の発明の詳細の記載は,当業者が 実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできず,特許\n法36条4項1号に違反するというべきである。

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平成29(行ケ)10138  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年4月18日  知的財産高等裁判所

 サポート要件、実施可能要件について、無効理由なしとした審決が維持されました。\n
 原告は,図1に示された気体溶解装置は,加圧型気体溶解手段3によって生成さ れ,溶存槽4に貯留された水素水を気体溶解装置の内部で循環させるようには構成\nされておらず,図3に示された気体溶解装置は,その内部に,「溶存槽4(41,4 2)」に貯留された水素水を「加圧型気体溶解手段3」に送出する「加圧送水通路」 を備えてはいないから,本件発明1は,図1に示された気体溶解装置,図3に示さ れた気体溶解装置のいずれによってもサポートされていない旨主張する。 しかし,本件明細書には,図1に示された気体溶解装置について,「溶存槽4に保 存された液体は,降圧移送手段5である細管5a内で層流状態を維持して流れるこ とで降圧され(S6),水素水吐出口10から外部へ吐出される(S7)。」(【003 4】)との記載がある一方で,「本発明の気体溶解装置1は,加圧型気体溶解手段3 で加圧して気体を溶解した液体を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段3に送 り,循環した後に,降圧移送手段5に送る」(【0037】)との記載がある。したが って,図1に示された気体溶解装置は,加圧型気体溶解手段3によって生成され, 溶存槽4に貯留された水素水を気体溶解装置の内部で循環させるように構成されて\nいると認められる。 また,本件明細書には,前記イのとおり,本件発明1の「溶存槽」と「加圧型気体 溶解手段」との間に水素水を循環させる経路として,ウォーターサーバーを用いる 場合,水槽を用いる場合,加圧型気体溶解手段で加圧して気体を溶解した液体を, 排出せずに循環して加圧型気体溶解手段に送る経路を用いる場合の開示がある一方, これらの場合に循環の経路が限定されるとの記載や示唆はない。したがって,当業 者であれば,本件発明1においては,水素水が,これらの場合を含む何らかの経路 で循環すればよく,図3に示された気体溶解装置は,水素水を「送出し加圧送水し て循環させ」る経路の例示にすぎないことを理解できる。 よって,原告の主張は採用することができない。
・・・
原告は,請求項1及び8はウォーターサーバーを発明特定事項としていないが, 実施例1,3ないし13には,図3に示すウォーターサーバーに気体溶解装置を接 続した場合の実験条件しか記載されていない,また,実施例2は,図1に示す気体 溶解装置を用いたものであるが,どのように水素水を生成,循環させたのか不明で あるから,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1及び8を実施できる程度 に明確かつ十分に記載されているとはいえない旨主張する。\nしかしながら,本件発明1及び8は,本件明細書に例示された,ウォーターサー バーを用いる場合,水槽を用いる場合,加圧型気体溶解手段で加圧して気体を溶解 した液体を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段に送る場合を含む,何らかの 経路により水素水を循環させるものであることは,前記2(3),(4)で検討したとおり である。そして,本件明細書には,ウォーターサーバーを用いた実施例1,3ないし 13の実験条件が,他の経路により循環させる構成について当てはまらないと解す\nべき根拠となる記載はない。 また,実施例2についても,加圧型気体溶解手段で加圧して気体を溶解した液体 を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段に送る場合を含む,何らかの経路によ り水素水を循環させるものであると理解することができる。 そうすると,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明を参考にして,本件発明 1及び8を実施することができるといえるから,原告の主張は採用できない。

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平成29(行ケ)10051  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年4月12日  知的財産高等裁判所(3部)

 暗号化回路について、実施可能要件違反とした審決が維持されました。\n
 そうすると,本願発明の目的である「サイドチャネルを利用した攻撃 から回路を保護すること」は,段落【0009】,【0010】及び 【0041】で言及されているサイドチャネルを利用した攻撃から関数 鍵 kc を保護することを意味し,この保護は関数鍵 kc を第2の鍵(又は 非機能の鍵)ki でマスクする,すなわち kc と ki を XOR 演算することに よって達成されるものと理解される。換言すれば,本願発明の暗号回路 においてサイドチャネルを利用した攻撃の目標として想定されているの は関数鍵 kc であり,この関数鍵 kc をそのような攻撃から保護するため に第2の鍵 ki を必要とし,関数鍵 kc を第2の鍵 ki と XOR 演算すること によってマスクする(マスク鍵 kc(+)ki とする)という方法によって,関 数鍵 kc の保護が達成されるものと把握される。 さらに,本願明細書等には,サイドチャネルを利用した攻撃の具体的 な目標として関数鍵 kc 以外のものは記載されていない。 このように,本願発明が想定している攻撃目標は関数鍵 kc であり, それ以外の攻撃目標を想定しない以上,本願発明の暗号回路が出力する 暗号文 y の秘密性は関数鍵 kcに依拠し,暗号文の計算手順(すなわち本 願発明の「暗号化アルゴリズム」)に依拠するものではないと認められ る。そうであれば,関数鍵 kc が判明すれば,本願発明により出力され る暗号文 y を解読し得ることになる。これは,本願発明の暗号回路が出 力する暗号文 y の暗号鍵が関数鍵 kcであることを意味する。すなわち, 本願発明は,秘密情報である関数鍵 kcを用いて平文 x から暗号文 y を計 算する関数を F で表したとき,y=F(x,kc)を満たす暗号文 y を出力す る暗号回路であると認められる(以下,この技術思想を「本願技術思想 1)」という。)。 このように理解することは,本願明細書等の「関数鍵 kc が回路21 の暗号化を実施する役割を果たす。この暗号化は例えばレジスタ22の 内部で入力変数 x を暗号化された変数 y=DES(x,kc)に変換する DES アルゴリズム23である。」(【0040】)との記載とも整合する。
・・・
上記本願技術思想1)及び2)によれば,本願発明の暗号回路を具現化 するためには,暗号回路によって実際に計算された暗号文と,暗号化ア ルゴリズム F に基づいて計算された暗号文とが等しいこと,すなわち G(x,kc(+)ki)=F(x,kc) を満たすことが要求される(以下,この要求を「本願発明の技術的要求」 という。)。 しかし,本願発明の技術的要求を満たす関数 G を構成する計算方法\nが,当業者の技術常識に鑑みて自明であると認めるに足りる証拠はない。 そこで,G(x,kc(+)ki)の具体的な計算方法が本願明細書等に示されて いるかについて,以下検討する。
・・・
以上のとおり,本願明細書等の図1及び2に示される回路において は,そもそもマスク鍵 kc(+)ki が計算されているとは認められないこと から,両図の回路をもって関数 G(x,kc(+)ki)の具体的態様を開示し たものということはできない。 d また,段落【0028】記載の「【数2】K(+)M」は,2つの値が XOR 演算されているという点で本願発明のマスク鍵と共通するもの の,記号が異なることから,本願発明を説明したものとは認められな い。

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平成29(行ケ)10127  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月29日  知的財産高等裁判所

 明確性違反および実施可能要件違反の無効を主張しましたが、審決、知財高裁とも無効理由無しと判断しました。
 原告は,平成13年(2001年)以降でさえ,先行技術(甲20)と 技術常識に基づいて,外部から侵入した水分による劣化を防止しているとはいえ ない程度に蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布の実現は不可能であったのであり,\n本件明細書の「フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材,形成温度,粘度やフ ォトルミネセンス蛍光体の形状,粒度分布などを調整することによって種々の分 布を実現することができ」(【0047】)との記載は,本件構成に対応する技\n術的手段が単に抽象的に記載されているだけで,当業者が発明の実施をすること ができない記載にすぎないことを意味するものに他ならないから,実施可能要件\nを欠くというべきであって,審決の結論には明らかな違法がある旨主張する。 明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができ る程度に明確かつ十分に記載したものであることを要する(特許法36条4項1号)。\n本件発明は,「発光装置と表示装置」(発光ダイオード)という物の発明であるとこ\nろ,物の発明における発明の「実施」とは,その物の生産,使用等をする行為をい うから(特許法2条3項1号),物の発明について実施をすることができるとは,そ の物を生産することができ,かつ,その物を使用することができることであると解 される。 本件明細書には,「蛍光体の分布は,フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材, 形成温度,粘度やフォトルミネセンス蛍光体の形状,粒度分布などを調整すること によって種々の分布を実現することができ,発光ダイオードの使用条件などを考慮 して分布状態が設定される。」(【0047】)との記載があることから,蛍光体の濃 度分布を適宜調整することにより,本件発明の「コーティング樹脂中のガーネット 系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高く\nなっている」発光ダイオードを生産することができ,かつ,使用することができる ことは,本件明細書に接した当業者にとって明らかであると認められる。 したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明を実施することがで きる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められるから,その旨の審決の\n判断に誤りはない。 これに対し,原告が主張する,外部から侵入した水分による劣化を防止している とはいえない程度に蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布とは,本件構成に係る「コ\nーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側から\nLEDチップ側に向かって高くなっている」ものではない状態を示すものである。 そうすると,仮に,このような濃度分布について,発明の詳細な説明や出願時の 技術常識を考慮しても実現することができない,又は,その実現に過度の試行錯誤 を要するとしても,このことは,本件明細書の発明の詳細な説明が,当業者が本件 発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとの前記認定を左右するも\nのではない(発光ダイオードの製造工程において,蛍光体がコーティング樹脂中を 沈降することによって,本件構成を満足するものを製造することができることにつ\nいては,当事者間に争いがないものと解される。)

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平成29(行ケ)10085  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月26日  知的財産高等裁判所(4部)

 異議理由ありとした審決が取り消されました。訂正は新規事項であるとした審決の判断は維持されましたが、訂正前の発明について、明確性違反および進歩性違反との判断は取り消されました。
 本件決定は,本件発明1の特許請求の範囲のうち「寄生ダイオード(131)の 立ち上がり電圧」は「上記ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高」いとの記載が, いかなる電流が流れる場合のことを表したものであるか不明であるから,明確性要\n件に適合しないと判断した。
(2) 前記2(3)イのとおり,請求項1において,寄生ダイオード(131)の「立 ち上がり電圧は,上記ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高く」と特定されてい るのは,本件発明1の構成として,同期整流を行う際,寄生ダイオード(131)\nの立ち上がり電圧を,ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高くするという技術的 事項を採用する旨特定するものである。 そして,本件発明1に係る電力変換装置において使用される還流電流の程度が限 定されていないことと,同期整流を行う際には,常に,寄生ダイオード(131) の立ち上がり電圧を,ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高くすることとは,関 係がない。
(3) したがって,「寄生ダイオード(131)の立ち上がり電圧」は「上記ユニ ポーラ素子本体のオン電圧よりも高」いとの本件発明1の特許請求の範囲の記載が, 第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。同記載 が明確ではないから,本件各発明の特許請求の範囲の記載は,明確性要件に適合し ないとする本件決定の判断は誤りである。
・・・・
引用発明は,モータの回生モードにおいて,回生電力の消費能力を高めると\nいう課題に対して,順方向電圧降下が高いボディダイオードに電流を流し,回生電 力を消費させるというものである。 このように,引用発明は,モータの回生モードにおいて,ボディダイオードに電 流を流し,ボディダイオードにおいて回生電力を損失させるという課題解決手段を 採用したものである。一方,本件周知技術は,寄生ダイオード側に電流を流さず, 発熱損失を低減させるというものであるから,引用発明の課題解決手段と正反対の 技術思想を有するものである。したがって,当業者は,引用発明におけるモータの 回生モードにおいて,正反対の技術思想を有する本件周知技術を適用することはな い。 そして,引用例には,引用発明の電力変換装置において,力行モードを回生モー ドから切り離し,力行モードの動作のみを変更することを示唆するような記載はな いから,当業者は,力行モードにおける動作のみを変更することを容易に想到する ことはない。 したがって,引用発明に本件周知技術を適用する動機付けはないというべきであ る。

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平成28(行ケ)10218  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年1月30日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件、サポート要件違反とした拒絶審決が取り消されました。なお、意見を述べる機会を与えなかった点について、手続違背もありと認定されています。
 本願明細書の上記記載によれば,同配列アンタゴニスト化合物は, アゴニスト作用を示していたIMOについて,「GACG」部分に化学修飾を導入し て同部分をN2N1CGモチーフにすることにより,アンタゴニスト作用を示すに至 ったことが認められる(以下,当該作用変化を「本件反転作用」という。)。 このような記載に接した当業者は,本件反転作用を生じさせた原因となる部分は, その他の配列が同一である以上,化学修飾を導入したN2N1CGモチーフに存在す るものと理解するのが自然である。のみならず,本願明細書の前記a(c)の記載に接 した当業者は,細菌性及び合成DNAの塩基配列には様々なものがあるにもかかわ らず,TLR9がそれらに存在する非メチル化CpGモチーフを認識するのである から,IMOの「GACG」部分にある非メチル化CpGモチーフがTLR9に結 合するものと理解するといえる。そのため,本件反転作用の原因は,TLR9に結 合する「GACG」部分に化学修飾を導入し,これをN2N1CGモチーフとするこ とによって,上記の結合部分に何らかの変化が生じたことによるものと理解するの が自然である。 そうすると,12種類化合物の配列は,N2N1CGモチーフの5’末端側に隣接 するオリゴヌクレオチド部分配列(以下「5’末端側隣接配列」という。)が全て「C TATCT」という一つの配列のみであり,かつ,N2N1CGモチーフの3’末端 側に隣接するオリゴヌクレオチド部分配列(以下「3’末端側隣接配列」という。) が「TTCTCTGT」又は「TTCTCUGU」という類似する二つの配列のみ であるものの,当業者は,本件反転作用を生じさせた部分は,N2N1CGモチーフ 自体であって,5’末端側隣接配列又は3’末端側隣接配列ではないと理解するの であるから,N2N1CGモチーフを有する本願IRO化合物も,12種類化合物と 同様に,アンタゴニスト作用を奏する蓋然性が高いものと論理的に理解するのが自 然である。そして,当業者は,TLR9のアンタゴニストとして作用し得る本願I RO化合物が,少なくともTLR9のアゴニスト作用が原因となる癌,自己免疫疾 患,気道炎症,炎症性疾患,感染症,皮膚疾患,アレルギー,ぜんそく又は病原体 により引き起こされる疾患を有する脊椎動物を治療的に処置し得ることを十分に理\n解することができるといえる。 したがって,本願明細書に接した当業者は,本願IRO化合物が高い蓋然性をも ってTLR9のアンタゴニスト作用を奏し,かつ,TLR9のアンタゴニストとし て作用し得る本願IRO化合物がTLR9のアゴニスト作用を原因とする上記各疾 患を治療的に処置し得ることを理解することができるのであるから,本願明細書中 の発明の詳細な説明の記載は,当業者によって本願出願当時に通常有する技術常識 に基づき本願発明の実施をすることができる程度の記載であると認めるのが相当で ある。
以上によれば,本願明細書の記載により,本願IRO化合物が全て,TLR9の アンタゴニスト作用を有するものであることを当業者が認識できるとはいえないな どとして,本願発明が実施可能要件に適合するものではないとした審決の判断には\n誤りがあり,TLR9についての原告の取消事由3は,理由がある。
c これに対し,被告は,実施例11に示されている同配列アンタゴニス ト化合物につき,5’末端側隣接配列が「CTATCT」であり,かつ,「N1N2N 3−Nm」が「TTCTCTGT」である化合物が示されるのみであって,それ以外 の本願IRO化合物は示されていないことからすると,アンタゴニスト作用が「C pGジヌクレオチド」に結合した結果であるのか,あるいは,それ以外の共通する 部分に結合した結果であるのかは定かでなく,また,本願明細書の発明の詳細な説 明には,本願IRO化合物のうち,実施例11に示された化合物以外のものが,実 施例11に示された化合物と同様にアンタゴニスト作用を有することを示唆する記 載もなく,この点が技術常識であるともいえないなどと主張する。 しかしながら,同配列アンタゴニスト化合物は,上記bにおいて説示するとおり, アゴニスト作用を示していたIMOについて,「GACG」部分についてのみ化学修 飾を導入して同部分をN2N1CGモチーフにすることにより,本件反転作用を奏す るに至ったのであるから,このような記載に接した当業者は,本件反転作用を生じ させた部分は,化学修飾を導入したN2N1CGモチーフに存在するものと論理的に 理解するのが自然であるといえる。そうすると,当業者は,実施例11に示された 化合物以外のものであっても,少なくともTLR9については,N2N1CGモチー フが存在すれば,高い蓋然性をもってアンタゴニスト作用を示すものと理解すると 認めるのが相当である。 したがって,被告の主張は,その他の主張を含め,本件反転作用の技術的意義を 正解しないものに帰し,採用することができない。
このような適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,複数の発明が同時に 出願されている場合の拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定の理由が解消さ れている一方,複数の発明に対する上記拒絶査定の理由とは異なる拒絶理由につい て,一方の発明に対してはこれを通知したものの,他方の発明に対しては実質的に これを通知しなかったため,審判請求人が補正により特許要件を欠く上記他方の発 明を削除する可能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充\n足する上記一方の発明についてまで拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れ る機会を失ったといえるときにも,当然妥当するものであって,このようなときに は,当該審決に,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手続違背の 違法があるというべきである。 イ これを本件についてみると,前提となる事実に後掲各証拠及び弁論の全 趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
・・・
(ウ) 原告は,本件拒絶査定不服審判において,平成27年9月16日付け の拒絶理由通知(甲16)を受けた(以下,当該拒絶理由通知を「本件拒絶理由通 知」といい,本件拒絶理由通知に係る拒絶理由を「本件拒絶理由」という。)。請求 項1,請求項8及び請求項13に対する本件拒絶理由は,大要次のとおりである。 a 請求項1,3,4及び7ないし17(請求項3を追加する前のもの) 証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,本件拒絶理由通知では,実施例にお いてアンタゴニスト作用を有することが証明された化合物のうち,本願IRO化合 物に含まれるものは,IRO5,10,17,25,26,33,34,37,3 9,41,43及び98であるとして,これらの12種類化合物に限定して検討を 加えていること,12種類化合物は,いずれもTLR9に対してアンタゴニスト作 用を有するものであるが,IRO5に限り,TLR9のほか,TLR7及び8に対 してもアンタゴニスト作用を有するものであること,本件拒絶理由通知では,12 種類化合物を全体として比較して,N2N1CGモチーフの5’末端側に隣接する部分 の塩基配列及びN2N1CGモチーフの3’末端側に隣接する部分の塩基配列が,それ ぞれ類似の二通りのみであることを根拠として,請求項1,3,4及び7ないし1 7に係る各発明の実施可能要件及びサポート要件違反を示していること,そのため,\n本件拒絶理由通知では,IRO5に固有の問題を検討するものではなく,TLR9 に対するアンタゴニスト作用を有する12種類化合物のみの問題を検討しているこ と,以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば,本件拒絶理由通知は,TLR9に対してアンタゴニスト 作用を有する12種類化合物のみの問題を検討するにとどまり,TLR7及び8に 対してもアンタゴニスト作用を有するIRO5に固有の問題を検討した上で拒絶理 由を通知するものではないから,実質的にはTLR7及び8に対する拒絶理由を示 すものではないと認めるのが相当である。
b 請求項8,13,16及び17(請求項3を追加する前のもの) 証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,本件拒絶理由通知は,請求項8に係 る発明につき,「本願明細書ではTLRとして「TLR7」,「TLR8」及び「TL R9」に対する各種IROのアンタゴニスト作用を確認しただけであって,他のT LRに対してもアンタゴニスト作用を有することは確認されていない。」,「請求項 8の「TLR媒介免疫反応」のうち,「TLR7」,「TLR8」又は「TLR9」の 媒介免疫反応以外の免疫反応については,本願発明のIRO化合物が阻害効果を示 すことが確認できない。」と記載し,また,請求項13に係る発明につき,「請求項 13の「TLRにより媒介される疾患」のうち,「TLR7」,「TLR8」又は「T LR9」によって媒介される疾患以外の疾患については,本願発明のIRO化合物 が治療効果を示すことが確認できない。」と,それぞれ記載していることが認められ る。 上記認定事実によれば,本件拒絶理由通知は,文言上,少なくとも,TLR7な いし9については,アンタゴニスト作用及びその治療効果を有することが確認され たことをいうものと理解するのが自然である。
・・・
(オ) その後,特許庁は,原告に対し,改めて拒絶理由を通知することなく, 平成28年5月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。 ウ 前記イ(ウ)aによれば,本件拒絶理由通知は,TLR9に対してアンタゴ ニスト作用を有する12種類化合物のみの問題を検討するにとどまり,TLR7及 び8に対してアンタゴニスト作用を有するIRO5に固有の問題を検討した上で拒 絶理由を通知するものではないから,実質的にはTLR7及び8に対する拒絶理由 を示すものではないことが認められる。のみならず,TLR7及び8については, 本件反転作用を裏付ける実施例はない上,そもそも認識するアゴニストの対象が, TLR9とは異なり,一本鎖RNAウイルスであると認められるのであるから,T LR7及び8の拒絶理由には,TLR9の拒絶理由とは異なる固有の理由が存在す ることは明らかであるにもかかわらず,本件拒絶理由通知は,これを通知していな いことが認められる。
そして,前記イ(エ)によれば,原告は,本件拒絶理由を受けて,その理由を解消す るために,TLR1ないし6に係る発明部分を削除しているのであり,このような 経緯に鑑みると,原告は,TLR7及び8についても拒絶理由を実質的に通知され ていた場合には,TLR7及び8に係る発明部分についても,TLR1ないし6に 係る発明部分と併せて補正によって削除した可能性が高いものと認められる。\nのみならず,前記イ(ウ)bによれば,請求項8,13,16及び17に係る各発明 に対する本件拒絶理由通知は,文言上,少なくとも,TLR7ないし9については, アンタゴニスト作用及びその治療効果を有することが確認されたことをいうものと 理解するのが自然であるから,このような記載に接した原告が,少なくともTLR 7ないし9については,アンタゴニスト作用を有することが確認されたため,実施 可能要件及びサポート要件違反はないものと理解したのもやむを得ないところであ\nる。現に,原告は,前記イ(エ)によれば,本件拒絶理由通知を踏まえ,請求項9及び 14においては,TLR1ないし6を削除して,TLR7ないし9に限定する補正 をしている事実が認められるのであるから,このような事実からも,上記の原告の 理解が十分に裏付けられるといえる。そうすると,TLR7ないし9についてもア\nンタゴニスト作用を有するものであるとすることはできないとして,本願発明が実 施可能要件及びサポート要件に適合しないとした審決の判断は,実質的にみれば,\n上記の経過に照らし,原告にとっては,不意打ちというほかなく,不当であるとい うほかない。
これらの事情の下においては,本件拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定 の理由とは異なる拒絶理由について,TLR9に係る発明に対してはこれを通知し たものの,TLR7及び8に係る各発明に対しては実質的にこれを通知しなかった ため,原告が補正により特許要件を欠くTLR7及び8に係る各発明を削除する可 能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充足するTLR9\nに係る発明についてまで本件拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れる機会 を失ったものと認められる。 したがって,審決には,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手 続違背の違法があるというべきであり,当該手続違背の違法は,審決の結論に影響 を及ぼすというべきであるから,取消事由1は,理由があるものと認められる。
エ これに対し,被告は,前記イ(ウ)aのとおり,サポート要件違反と実施可能\n要件違反をいう請求項1に係る本件拒絶理由は,旧請求項3及び4,7なしい17 についても存在する旨通知されているのであるから,審決が本件拒絶理由とは異な る新たな拒絶理由に基づき実施可能要件及びサポート要件に適合しないと判断した\nとする原告の主張は,前提を欠くものであるなどと主張する。 しかしながら,上記ウで説示したとおり,本件拒絶査定不服審判において,本件 拒絶理由通知では,TLR9に関する拒絶理由のみを通知し,実質的にはTLR7 及び8に関する拒絶理由を通知しなかったため,原告はTLR7及び8に係る各発 明を削除するなどの補正をする機会を失うことになり,実施可能要件及びサポート\n要件をいずれも充足するTLR9に係る発明まで最終的に特許を受けることができ ないことになったものと認められる。このような結果は,原告にとって,不意打ち となるため,原告に過酷というほかなく,審判請求人の手続保障を規定する特許法 159条2項の趣旨に照らし,相当ではないというべきである。 かえって,被告は,本件訴訟に至っては,そもそもTLR7及び8が認識するも のと,TLR9が認識するものが異なるという技術常識に基づけば,TLR9に対 して本願IRO化合物がアンタゴニスト作用を奏するとする原告の作用機序の説明 が,TLR7及び8には妥当し得ないことは明らかであるなどとして,現にTLR 7及び8に固有の拒絶理由を具体的に主張しているのであるから(準備書面(第1 回)13頁),実質的にみても,上記のように,本件拒絶査定不服審判においてTL R7及び8に固有の拒絶理由を通知することが,審判合議体にとって困難なもので あったとは認められない。 したがって,被告の主張は,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2 項の意義を正解しないものに帰し,採用することができない。
なお付言するに,本願IRO化合物が治療効果を有するかどうかの点につき,本 件拒絶理由では,TLR7ないし9によって媒介される疾患以外の疾患については 治療効果を示すことが確認できないとしているところ,原告は,本件拒絶査定不服 審判においては,TLR7ないし9によって媒介される疾患については治療効果を 示すことが確認されたものと理解した上,本件拒絶理由を踏まえてTLR1ないし 6を削除する補正をし,さらに,その後の意見書において,この点に係る拒絶理由 が解消されたとまで述べているのであるから,審決においてTLR7ないし9によ って媒介される疾患についても治療的に処置することができるといえる根拠がない と判断するのであれば,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の法 意に照らすと,本件拒絶査定不服審判において,この点についても改めて拒絶理由 を通知することが相当であったものと認められる。

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平成28(行ケ)10278  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年1月15日  知的財産高等裁判所(4部)

 異議理由ありとした審決が取り消されました。理由は、新規事項か、サポート要件違反か、実施可能要件違反かです。知財高裁は、当初明細書の範囲内と判断しました。\n
ア 本件出願当初明細書等の記載
結晶多形Aについて,本件出願当初明細書等には,おおむね,次のとおり記載が ある。
・・・・
イ 本件出願当初明細書等に開示された結晶多形Aに関する技術的事項
(ア) 本件出願当初明細書等にいう結晶多形Aは,本件出願当初明細書等におい て名付けられたものである(【0007】)。
(イ) そして,本件出願当初明細書等【0008】には,結晶多形Aに該当する具体的な結晶多形として,【0008】(1)は,本件出願時の特許請求の範囲【請求 項1】で特定される結晶多形を挙げるほか,【0008】(5)は,2θで表して,構\ 成要件Eで特定されるのと同様の26個の角度において,ピークを有する特徴的な X線回析図形を示し,FT−IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量 が3〜15%であるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を挙げており,後者の結 晶多形は,構成要件Eで特定される結晶多形を含むものである。このように,本件\n出願当初明細書等【0008】の記載は,結晶多形Aには,構成要件Eで特定され\nる結晶多形だけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定される 結晶多形も,該当する旨説明するものである。
(ウ) また,本件出願当初明細書等【0009】は,「結晶多形Aの一つの具体 的形態」として,2θで表して,構\成要件Eで特定されるのと同様の26個無偏差 相対強度図形を示す結晶多形を例示しており,この結晶多形は,構成要件Eで特定\nされる結晶多形を含むものである。そうすると,本件出願当初明細書等【0009】 の記載は,構成要件Eで特定される結晶多形は,結晶多形Aの具体的な態様の一つ\nである旨説明するものである。
(エ) さらに,本願出願当初明細書等【0047】には,【0047】に記載さ れた製造方法によって,結晶多形Aが得られること,当該結晶多形AのX線粉末回 析図形は,構成要件Eと同様の26個無偏差相対強度図形を示したことが記載され\nている。本件出願当初明細書等【0047】の記載は,特定の製造方法によって生 成された結晶多形AのX線粉末回析図形を説明するにとどまり,構成要件Eで特定\nされる結晶多形のみが結晶多形Aである旨説明するものではない。
(オ) したがって,本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,構成要件Eで特\n定される結晶多形Aだけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特 定される結晶多形Aも,導くことができる。
(4) 新規事項の追加の有無
本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,構成要件Eで特定される結晶多形A\nだけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定される結晶多形A も,導くことができるから,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定され る結晶多形Aから,構成要件Eで特定される結晶多形Aを除くものを,本件出願当\n初明細書等の全ての記載を総合することにより導くことができるというべきである。 したがって,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】に,構成要件Eを追加す\nる本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件出願当初明細書等 に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
(5) 被告の主張について
被告は,本件出願当初明細書等に記載された結晶多形Aを,26個のピークの回 折角2θ及びその相対強度で特定しなくても,6個のピークの回析角2θ等によっ て特定し得るということは技術常識ではないと主張する。 しかし,本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,26個のピークの回折角2 θ及びその相対強度で特定される結晶多形Aだけではなく,6個のピークの回析角 2θ等によって特定される結晶多形Aも導くことができる。本件補正は,26個の ピークの回折角2θ及びその相対強度で特定される結晶多形を,6個のピークの回 析角2θ等によって特定することを前提としてなされたものではないから,被告の 上記主張は,前提を欠く。
(6) 小括
以上のとおり,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】に,構成要件Eを追加\nする本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではない。そして,本件補正の その余の部分について,被告は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件 出願当初明細書等に記載した範囲内においてしたものであることを争わない。した がって,本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たす。

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平成29(ネ)10027  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年12月21日  知的財産高等裁判所(2部)  東京地方裁判所

CS関連発明について、控訴審で差止請求が認められました。無効理由については「時機に後れた」として採用されませんでした。1審は、均等侵害も第1、第2、第3要件を満たさない、分割要件違反、および一部のクレームについてサポート要件違反があると判断していました。
 引用発明1は,前記ア(イ)のとおり,「毎度の自動売買では自動売買テーブルでの 約定価より真下の安値の買取り及び約定価より真上の高値の売込みが同時に発注さ れるよう設定されたものであって,それにより,先に約定した注文と同種の注文を 含む売込み注文と買取り注文を同時に発注することで,株価が最初の売買価の値段 の範囲から上下に変動する場合に,所定の収益を発生させることに加え,口座の残 高及び持ち株の範囲において,株の現在価を無視して株の値段への変動を一向に予\n測することなく,従前の株の買取り値より株価が下落すると所定量を買い取り,買 取り値より株価が上がると所定量を売り込むこと」を特徴とするものである。 このように,引用発明1において,従前の株の買取り値より株価が下落すると所 定量を買い取り,買取り値より株価が上がると所定量を売り込む,という,連続し た買取り又は売込みによる口座の残高又は持ち株の増大をも目的とするものである から,このような設定に係る構成を,約定価と同じ価格の注文を含む注文を発注対\n象に含めるようにし,それを「繰り返し行わせる」設定に変更することは,「約定価 より真下の安値の買取り」及び「約定価より真上の高値の売込み」を同時に発注す ることにより,「従前の株の買取り値より株価が下落すると所定量を買取り,買取り 値より株価が上がると所定量を売込む」という,引用発明1の特徴を損なわせるこ とになる。 そうすると,引用発明1を本件発明の構成1Hに係る構\成の如く変更する動機付 けあるといえないから,構成1Hに相当する構\成は,引用発明1から当業者が容易 に想到し得たものとはいえない。
エ 被控訴人の主張について
被控訴人は,本件発明1と引用発明1との相違点は,引用発明1が本件発明1の 構成1Fのうち「前記一の注文価格を一の最高価格として設定し」ていない点であ\nり,その余の点では一致していることを前提に,本件発明1は,引用発明1から容 易想到である,と主張する。 しかし,前記イのとおり,本件発明1と引用発明1とは,引用発明1が本件発明 1の構成1Hの構\成を有していない点について相違している。被控訴人の主張は, その前提を欠き,理由がない。
・・・・
4 なお,被控訴人は,口頭弁論終結後に,本件発明1が無効とされるべきであ ることが明白である事由があるとして,口頭弁論再開を申し立てるが,無効事由の\n根拠となるべき資料は10年以上前に作成されていたものであり,上記無効事由は, 被控訴人が重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法であって, これによって訴訟の完結を遅延させることとなるから,却下されるべきものである から,口頭弁論を再開しない。

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◆1審はこちらです。平成27(ワ)4461

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平成29(行ケ)10029  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年12月26日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。理由は、サポート要件違反・委任省令違反、進歩性違反です。委任省令違反である以上、サポート要件違反でもあるという理由です。
   前記アのとおり,本件明細書には,「EVOH層の界面での乱れに起因す るゲル」は,ロングラン成形により発生するゲルとは異なる原因で発生するゲルで あると記載されているものの,本件明細書には,「EVOH層の界面での乱れに起因 するゲル」が,乙15における「ゲル状ブツ」の原因となるゲルと,その形状,構\n造等がどのように異なるのかを明らかにする記載は見当たらない。 また,本件明細書においては,前記イのとおり,「EVOH層の界面での乱れに起 因するゲル」は,目視観察できるものであるとされ,乙15における「ゲル状ブツ」 は,前記ウのとおり,肉眼で見ることができるものとされているところ,本件明細 書には,「目視観察」の定義は見当たらず,後者は肉眼で見分けられ,前者は肉眼で 見分けられないものを含む旨の特段の記載はないから,本件発明における「EVO H層の界面での乱れに起因するゲル」と背景技術(乙15)における「ゲル」を, 観察方法において区別することができるとは,理解できない。 このように,本件明細書には,本件発明における「EVOH層の界面での乱れに 起因するゲル」は,本件特許出願前の技術により抑制することができるとされてい るロングラン成形により発生するゲルとは異なる原因で発生する旨の記載があるも のの,その記載のみでは,ロングラン成形により発生するゲルと区別できるかどう かは,明らかでないというほかない。 この点について,被告は,「不完全溶融EVOH」が発生する機序について主張し, これは,従来から知られていた「熱架橋ゲル」とは異なる旨主張する。しかし,本 件明細書には,被告が本訴において主張するようなことは何ら記載されておらず, 被告が本訴において主張するような技術常識が存したとも認められないから,本件 発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」が被告が本訴において 主張するようなものと認めることはできない。 そうすると,本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」の 意義は明らかでないというほかなく,本件特許出願時の技術常識を考慮しても,「成 形物に溶融成形したときにEVOH層の界面での乱れに起因するゲルの発生がなく, 良好な成形物が得られ」るという本件発明の課題は,理解できないというほかない。 オ したがって,本件明細書の記載には,本件発明の課題について,当業者 が理解できるように記載されていないから,「特許法第三十六条第四項第一号の経\n済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解 決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明 の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければなら ない。」と定める特許法施行規則24条の2の規定に適合するものではない。
(2) 以上のとおり,本件発明についての本件明細書の発明の詳細の説明の記 載は,特許法36条4項1号の規定に適合しないから,審決のこの点に係る判断に は誤りがあり,取消事由3には理由がある。
・・・
前記2(1)オのとおり,本件明細書には,本件発明の課題について,当業者が理解 できるように記載されていないから,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の 詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲の ものであると認めることはできないし,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも, 当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲 のものであるとも認められない。 この点について,被告は,「本件発明は,粒径500μm(0.5mm)未満の微 粉の含有量を0.1重量%以下に制御すること(新規な解決手段)により,『不完全 溶融EVOH』に起因する界面での乱れによるゲル(点状に分布する透明な粒状の 不完全溶融ゲルであり,EVOHの一部が極端な場合には他の樹脂層に突出するよ うな形態)の発生(斬新な課題)を抑制することができる(新規課題解決効果の奏 効)という特別な効果を得る」ものであると主張するが,前記2(1)のとおり,この 課題は,本件明細書及び技術常識から理解することができない。

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平成29(行ケ)10083  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年12月21日  知的財産高等裁判所

 「摩擦式精米機により搗精され」という用語について、クレームが明確でない(36条6項2号)とした審決が取り消されました。
 以上のような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば,本件訂正後の 特許請求の範囲請求項1の「摩擦式精米機により搗精され」という記載は,本件発 明に係る無洗米の前段階である前記ウ(a)(b)の構造又は特性を有する精白米を製造す\nる際に摩擦式精米機を用いることを意味するものであり,「無洗米機(21)にて」 という記載は,上記精白米から前記ウ(c)の構造又は特性を有する無洗米を製造する\n際に無洗米機を用いることを意味するものであって,前記ウ(a)ないし(c)のほかに本 件発明に係る無洗米の構造又は特性を表\すものではないと解するのが相当である。 そして,本件発明に係る無洗米とは,玄米粒の表層部から糊粉細胞層までが除去さ\nれ,亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出し,米粒の50%以上に「胚芽の表\面部を削 りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っており,糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に 粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」が分離除去された米で\nあるといえる。 そうすると,請求項1に「摩擦式精米機により搗精され」及び「無洗米機(21) にて」という製造方法が記載されているとしても,本件発明に係る無洗米のどのよ うな構造又は特性を表\しているのかは,特許請求の範囲及び本件明細書の記載から 一義的に明らかである。よって,請求項1の上記記載が明確性要件に違反するとい うことはできない。

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平成27(ワ)23087  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年12月6日  東京地方裁判所

 医薬品について、薬理データが記載されていないとして、実施可能性違反、サポート要件違反で無効と判断されました。\n
 特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は「その発明 の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることが できる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めると\nころ,この規定にいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明にかか る物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,\n明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が当該発明に係る物を生産し, 使用することができる程度のものでなければならない。 そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示さ\nれることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効 量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができ\nないから,医薬の用途発明において実施可能要件を満たすためには,明細書\nの発明の詳細な説明は,その医薬を製造することができるだけでなく,出願 時の技術常識に照らして,医薬としての有用性を当業者が理解できるように 記載される必要がある。
(2) 本件の検討
本件についてこれをみるに,本件発明1では,式(I)のRAが−NHC O−(アミド結合)を有する構成(構\成要件B)を有するものであるところ, そのようなRAを有する化合物で本件明細書に記載されているものは,「化 合物C−71」(本件明細書214頁)のみである。そして,本件発明1は インテグラーゼ阻害剤(構成要件H)としてインテグラーゼ阻害活性を有す\nるものとされているところ,「化合物C−71」がインテグラーゼ阻害活性 を有することを示す具体的な薬理データ等は本件明細書に存在しないことに ついては,当事者間に争いがない。 したがって,本件明細書の記載は,医薬としての有用性を当業者が理解で きるように記載されたものではなく,その実施をすることができる程度に明 確かつ十分に記載されたものではないというべきであり,以下に判示すると\nおり,本件出願(平成14年(2002年)8月8日。なお,特許法41条 2項は同法36条を引用していない。)当時の技術常識及び本件明細書の記 載を参酌しても,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業 者が理解し得たということもできない。
・・・
すなわち,上記各文献からうかがわれる本件優先日当時の技術常識と しては,ある種の化合物(ヒドロキシル化芳香族化合物等)がインテグ ラーゼ阻害活性を示すのは,同化合物がキレーター構造を有しているこ\nとが理由となっている可能性があるという程度の認識にとどまり,具体\n的にどのようなキレーター構造を備えた化合物がインテグラーゼ阻害活\n性を有するのか,また当該化合物がどのように作用してインテグラーゼ 活性が阻害されるのかについての技術常識が存在したと認めるに足りる 証拠はない。
・・・
以上の認定は本件優先日当時の技術常識に係るものであるが,その ほぼ1年後の本件出願時にこれと異なる技術常識が存在したことを認め るに足りる証拠はなく,本件出願当時における技術常識はこれと同様と 認められる。このことに加え,そもそも本件明細書には,本件特許化合 物を含めた本件発明化合物がインテグラーゼの活性部位に存在する二つ の金属イオンに配位結合することによりインテグラーゼ活性を阻害する 2核架橋型3座配位子(2メタルキレーター)タイプの阻害剤であると の記載はないことや,本件特許化合物がキレート構造を有していたとし\nても,本件出願当時インテグラーゼ阻害活性を有するとされていたヒド ロキシル化芳香族化合物等とは異なる化合物であることなどに照らすと, 本件明細書に接した当業者が,本件明細書に開示された種々の本件発明 化合物が,背面の環状構造により配位原子が同方向に連立した2核架橋\n型3座配位子構造(2メタルキレーター構\造)と末端に環構造を有する\n置換基とを特徴として,インテグラーゼの活性中心に存在する二つの金 属イオンに配位結合する化合物であると認識したと認めることはできな い。 以上によれば,本件出願当時の技術常識及び本件明細書の記載を参酌して も,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業者が理解し得 たということもできない。 したがって,本件明細書の記載は本件発明1を当業者が実施できる程度に 明確かつ十分に記載したものではなく,本件発明1に係る特許は特許法36\n条4項1号の規定に違反してされたものであるので,本件発明1に係る特許 は特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきも のである。
3 争点(1)イ(イ)(サポート要件違反)について
上記2で説示したところに照らせば,本件明細書の発明の詳細な説明に本件 発明1が記載されているとはいえず,本件発明1に係る特許は特許法36条6 項1号の規定に違反してされたものというべきである。

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平成28(行ケ)10222  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年11月29日  知的財産高等裁判所(3部)

 サポート要件違反とした無効審決が取り消されました。
 前記(2(1)〜(3))のとおり,本件各発明は,焼鈍分離剤用の酸化マグネ シウム及び方向性電磁鋼板に関するものであるところ,方向性電磁鋼板の磁 気特性及び絶縁特性,並びに市場価値は,脱炭焼鈍により鋼板表面に SiO2被 膜を形成し,その表面に焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含むスラリーを塗\n布して乾燥させ,コイル状に巻き取った後に仕上げ焼鈍することにより, SiO2 と MgO が反応して形成されるフォルステライト(MgSiO4)被膜の性能,\n具体的には,その生成しやすさ(フォルステライト被膜生成率),被膜の外 観及びその密着性並びに未反応酸化マグネシウムの酸除去性の4点に左右さ れるものであり,このフォルステライト被膜の性能は,これを形成する焼鈍\n分離剤用酸化マグネシウムの性能に依存するものということができる。\nそこで,焼鈍分離剤用酸化マグネシウム及びこれに含有される微量成分 についての研究が行われ,複数の物性値を制御し,フォルステライト被膜の 形成促進効果を一定化させ,かつフォルステライト被膜の品質を改善する試 みが多く行われてきたが,焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに課せられた要求 を完全に満たす結果は得られていない。 このような状況の下,本件各発明は,磁気特性及び絶縁特性,更にフォ ルステライト被膜生成率,被膜の外観及びその密着性並びに未反応酸化マグ ネシウムの酸除去性に優れたフォルステライト被膜を形成でき,かつ性能が\n一定な酸化マグネシウム焼鈍分離剤を提供すること,更に本件各発明の方向 性電磁鋼板用焼鈍分離剤を用いて得られる方向性電磁鋼板を提供することを 目的としたものである。
(3) 検討
ア 本件各発明は,上記のとおり,方向性電磁鋼板に適用される焼鈍分離剤 用酸化マグネシウム粉末粒子を提供するものであるところ,本件課題を 解決するための手段として,焼鈍分離剤用酸化マグネシウム中に含まれ る微量元素の量を,Ca,P 及び B の成分の量で定義し,更に Ca,Si,P 及 び S のモル含有比率により定義して(前記2(4)イ),本件特許の特許請求 の範囲請求項1に記載された本件微量成分含有量及び本件モル比の範囲 内に制御するものである。 そして,焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに含有される上記各微量元素 の量を本件微量成分含有量及び本件モル比の範囲内に制御することによ り,本件課題を解決し得ることは,本件明細書記載の実施例(1〜19) 及び比較例(1〜17)の実験データ(前記2(5)〜(11))により裏付けら れているということができる。 そうすると,当業者であれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載 に基づき,焼鈍分離剤用酸化マグネシウムにおいて,本件特許の特許請 求の範囲請求項1に記載のとおり Ca,P,B,Si 及び S の含有量等を制御 することによって本件課題を解決できると認識し得るものということが できる。
・・・
これらの記載によれば,焼 鈍分離剤用酸化マグネシウムの CAA とサブスケールの活性度とのバラ ンスが取れていない場合,フォルステライト被膜は良好に形成されない こととなるのは事実であるといえる。
(イ) しかし,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から把握し得る発明 は,焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに含有される Ca,Si,B,P,S の含 有量に注目し,それらの含有量を増減させて実験(実施例1〜19及 び比較例1〜17)を行うことにより,最適範囲を本件特許の特許請 求の範囲請求項1に規定されるもの(本件微量成分含有量及び本件モ ル比)に定めたというものである。その理論的根拠は,Ca,Si,B,P 及び S の含有量を所定の数値範囲内とすることにより,ホウ素が MgO に侵入可能な条件を整えたことにあると理解される(本件明細書の\n【0016】。前記2(4)カ)。
他方,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を見ても,CAA 値を調 整することにより本件課題の解決を図る発明を読み取ることはできない。 むしろ,これらの記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明中に CAA 値に関する記載があるのは,第1の系統及び第2の系統それぞれ において,実施例及び比較例に係る実験条件が CAA 値の点で同一であ ることを示すためであって,フォルステライト被膜を良好にするために CAA 値をコントロールしたものではないことが理解される。 そして,CAA の調整は,最終焼成工程の焼成条件により可能である\n(特開平9−71811号公報(甲7)「この発明の MgO では40% クエン酸活性度を30〜90秒の範囲とする。…かかる水和量,活性度 のコントロールは最終焼成の焼成時間を調整することにより行う。」 (【0026】)との記載参照。)から,焼鈍分離剤用酸化マグネシウ ムにおいて,本件微量成分含有量及び本件モル比のとおりに Ca,P,B, Si 及び S の含有量等を制御し,かつ,焼成条件を調整することによって, 本件各発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムにおいても,実施例におけ る110〜140秒以外の CAA 値を取り得ることは,技術常識から明 らかといってよい。 したがって,本件審決は,本件各発明の課題が解決されているのは CAA40%が前記数値の範囲内にされた場合でしかないと判断した点に おいて,その前提に誤りがある。
(ウ) そもそも,本件明細書によれば,本件特許の出願当時,焼鈍分離剤 用酸化マグネシウムについては,被膜不良の発生を完全には防止でき ていないことなど,十分な性能\を有するものはいまだ見出されておら ず,焼鈍分離剤用酸化マグネシウム及び含有される微量成分について 研究が行われ,制御が検討されている微量成分として CaO,B,SO3,F, Cl等が挙げられ,また,微量成分の含有量だけでなく,微量成分元素を 含む化合物の構造を検討する試みも行われていたことがうかがわれる\n(前記2(2))。
・・・・
そうすると,本件特許の出願当時,フォルステライト被膜の性能改善\nという課題の解決を図るに当たり,焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに含 有される微量元素の含有量に着目することと,CAA 値に着目すること とが考えられるところ,当業者にとって,いずれか一方を選択すること も,両者を重畳的に選択することも可能であったと見るのが相当である\n(なお,微量元素の含有量に着目する発明にあっても,焼鈍分離剤用酸 化マグネシウムの CAA 値とサブスケールの活性度とのバランスが取れ ていない場合には,その実施に支障が生じる可能性があることは前示の\nとおりであるが,この点の調整は,甲1,5〜7,67,乙4等によっ て認められる技術常識に基づいて,当業者が十分に行うことができるも\nのと認められる。)。
(エ) 以上を総合的に考慮すると,当業者であれば,本件明細書の発明の 詳細な説明には,本件微量成分含有量及び本件モル比を有する焼鈍分 離剤用酸化マグネシウムにより本件課題を解決し得る旨が開示されて いるものと理解し得ると見るのが相当である。
ウ 以上によれば,CAA 値について何ら特定がない酸化マグネシウムにお いて,本件微量成分含有量及び本件モル比のみの特定をもってしては, 直ちに本件課題を解決し得るとは認められないとした本件審決には誤り があるというべきである。

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平成28(行ケ)10215  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年10月26日  知的財産高等裁判所(2部)

 審決は、36条違反の無効理由無しと判断しましたが、知財高裁はサポート要件違反として審決を取り消しました。
 前記第2の2の認定事実及び前記(1)の本件明細書の記載によると,本件 発明について,以下のとおり認められる。 高速連続鋳造において,鋳造速度が大きくなると,凝固シェル厚みが薄くなり, これに伴って,バルジングが大きくなることから,バルジング性湯面変動が発生し, モールドパウダーの巻き込みが発生する原因となっている。鋳片表面にモールドパ\nウダーが付着していない方が二次冷却における冷却効率が良く,凝固シェル厚みが 厚くなるので,バルジング性湯面変動を抑制するには,鋳片からの剥離性の良いモ ールドパウダーが望ましい。 そこで,本件発明は,二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能\とす る,鋳片表面からの剥離性に優れる,鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供する\nことを,その目的とするものである。
2 取消事由1(サポート要件についての判断の誤り)について
・・・・ (2) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比すると,前記 1(1)ウの【0010】及び【0011】における第1の発明についての記載は,請 求項1の記載と一致する。 また,同【0012】の記載のうち,「前記モールドパウダー・・・特徴とする」 という部分は,請求項2において,本件発明1をさらに特定する事項の記載と一致 する。
(3)ア 前記1(1)イのとおり,本件発明の課題は,二次冷却帯における鋳片の 冷却能を高めることを可能\とする,鋳片表面からの剥離性に優れる,鋼の連続鋳造\n用モールドパウダーを提供することである(【0009】)。 イ そして,前記(2)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明【0010】, 【0011】及び【0012】には,課題を解決する手段として,「第1の発明」及 び「第2の発明」のモールドパウダー,すなわち,本件発明が記載され,また,前 記1(1)オのとおり,剥離性の試験結果を示した図1及び図2に基づき,請求項1に 記載された式(1)及び(2)を満たすモールドパウダーが,剥離性に優れること が分かったとされている(同【0018】〜【0024】)。
具体的には,
・・・・
この記載は,モデル実験の結果を示す図1及び図2から導かれ た式(1)及び(2)を満たすモールドパウダーは,連続鋳造に用いた場合に,実 際に鋳片からの剥離性に優れ,二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可\n能とするものであるかどうかを,バルジング湯面変動の抑制効果によって評価する\nことを意図したものであると認められる。
ウ 実施例について
(ア) 証拠(甲3,5,7,8,10,19)及び弁論の全趣旨によると, 次の技術常識が認められる。
a バルジング性湯面変動は凝固シェルの厚みが薄くなることに起因し て激しくなる。凝固シェルは溶鋼が鋳型内で冷却されて形成されるものであり,鋳 型内抜熱強度が低い場合(鋳型に抜けていく熱が少なく,鋳型内が冷却されにくい 場合)には凝固シェルの厚みが薄くなる。
b 鋳型内における冷却強度の指標としてモールドパウダーの凝固温度 が用いられる。このパウダーの凝固温度は,一定温度に保持した坩堝中において円 筒を回転するなどして粘性を求め,測定温度に対し粘性をプロットした図において, 温度の低下に伴って急激に粘性が高くなる温度とされている。この急激な粘性の変 化は温度の低下に伴いパウダーが結晶化し,見掛けの粘性が高くなるためであると 考えられており,この凝固温度が高い場合はパウダーフィルム内の結晶相(固着相) 厚みが厚いため鋳型−凝固シェル間の熱抵抗が大きくなり,緩冷却が実現されると されている。
c モールドパウダーの凝固温度は,その組成によって変化する。
(イ) これらの技術常識を考え合わせると,凝固シェルの厚みは,鋳型直下 でのモールドパウダーの鋳片表面からの剥離性及びそれに伴う二次冷却帯での冷却\n効率のみによって決まるものではなく,モールドパウダーの組成によって異なる凝 固温度にも影響されると認められる。
(ウ) 本件明細書記載の実施例において,モールドパウダーBとモールド パウダーAについて,鋳型内における冷却強度の指標となる凝固シェルの厚みに影 響を与え得る凝固温度は記載されていない。また,モールドパウダーAとモールド パウダーBの組成が記載された表1には,化学成分として,SiO2,Al2O3,C\naO,MgO,Na2Oのみが挙げられ,それらの量を合計しても,モールドパウダ ーAで80.6%,モールドパウダーBで78.7%であり,残りの成分が何であ ったのか不明であるから,その組成から凝固温度を推測することもできない。 また,本件明細書記載の実施例において,(1)式及び(2)式を満たすものと満 たさないものについての連続鋳造の際のバルジング性湯面変動の測定は,それぞれ, モールドパウダーBとモールドパウダーAの一つずつで行われたにとどまる。 これらのことから,本件明細書の発明の詳細な説明において,モールドパウダー BがモールドパウダーAよりもバルジング性湯面変動を抑制できたことが示されて いても,モールドパウダーBがモールドパウダーAと比較してバルジング性湯面変 動を抑制することができたのは,モールドパウダーが(1)式及び(2)式を満た す組成であることによるのか否かは,本件明細書の発明の詳細な説明からは,不明 であるといわざるを得ない。

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平成28(行ケ)10189  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年10月25日  知的財産高等裁判所(3部)

 サポート要件違反とした審決が取り消されました。
 ・・・以上のような発明の詳細な説明の記載を総合してみれば, 本願発明における本願組成要件と本願物性要件との関係に関して,次のよ うな理解が可能といえる。すなわち,まず,Nb2O5成分は,屈折率を高\nめ,分散を大きくしつつ部分分散比を小さくし,化学的耐久性及び耐失透性 を改善するのに有効な必須の成分であること(段落【0033】)から,本 願組成要件において,その含有量が40%超65%以下とされ,組成物中で 最も含有量の多い成分とされていることが理解できる。また,ZrO2成分 は,屈折率を高め,部分分散比を小さくする効果があり(段落【0031】), 他方,TiO2成分は,屈折率を高め,分散を大きくする効果がある反面, その量が多すぎると部分分散比が大きくなること(段落【0029】)から, 「部分分散比が小さい光学ガラス」を得るためには,ZrO2及びNb2O5 の含有量に対してTiO2の含有量が多くなりすぎることを避ける必要が あり,そのために,TiO2/(ZrO2+Nb2O5)の値を一定以下とす るものであること(段落【0073】)が理解でき,これが,本願組成要件 において,各成分の含有量とともに規定される「TiO2/(ZrO2+N b2O5)が0.2以下であり」との特定に反映され,本願発明の課題の解決 (高屈折率高分散であって,かつ,部分分散比が小さい光学ガラスを提供す ること)にとって重要な構成となっていることが理解できる。
ウ 他方,本願明細書の発明の詳細な説明における実施例の記載をみると,本 願組成要件を満たす実施例(No.8,9,21,24〜38,41,44, 45,48〜57,60〜66)に係る組成物が,本願物性要件の全てを満 たすことが示されているが,これらの組成物の組成は,本願組成要件に規定 された各成分の含有比率,「TiO2/(ZrO2+Nb2O5)の値」及び 「SiO2,B2O3,TiO2,ZrO2,Nb2O5,WO3,ZnO,Sr O,Li2O,Na2Oの合計含有量」の各数値範囲の一部のもの(具体的に は,別紙審決書4頁23行目から5頁8行目までに記載のとおりである。) でしかなく,上限から下限までの数値範囲を網羅するというものではない。 すなわち,本願組成要件に規定された各数値範囲は,実施例によって本願物 性要件を満たすことが具体的に確認された組成の数値範囲に比して広い数 値範囲となっており,そのため,本願組成要件で特定される光学ガラスのう ち,実施例に示された数値範囲を超える組成に係る光学ガラスについても, 本願物性要件を満たし得るものであることを当業者が認識できるか否かが 問題となる。
そこで検討するに,まず,光学ガラスの製造に関しては,ガラスの物性が 多くの成分の総合的な作用により決定されるものであるため,個々の成分 の含有量の範囲等と物性との因果関係を明確にして,所望の物性のための 必要十分な配合組成を明らかにすることは現実には不可能\であり,そのた め,ターゲットとされる物性を有する光学ガラスを製造するに当たり,当該 物性を有する光学ガラスの配合組成を明らかにするためには,既知の光学 ガラスの配合組成を基本にして,その成分の一部を,当該物性に寄与するこ とが知られている成分に置き換える作業を行い,ターゲットではない他の 物性に支障が出ないよう複数の成分の混合比を変更するなどして試行錯誤 を繰り返すことで当該配合組成を見出すのが通常行われる手順であること が認められ,このことは,本願出願時において,光学ガラスの技術分野の技 術常識であったものと認められる(甲5,6,17,18,21,22。以 上のような技術常識の存在については,当事者間に争いがない。)。 そして,上記のような技術常識からすれば,光学ガラスの製造に当たっ て,基本となる既知の光学ガラスの成分の一部を,物性の変化を調整しなが ら,他の成分に置き換えるなどの作業を試行錯誤的に行うことは,当業者が 通常行うことということができるから,光学ガラス分野の当業者であれば, 本願明細書の実施例に示された組成物を基本にして,特定の成分の含有量 をある程度変化させた場合であっても,これに応じて他の成分を適宜増減 させることにより,当該特定の成分の増減による物性の変化を調整して,も との組成物と同様に本願物性要件を満たす光学ガラスを得ることも可能で\nあることを理解できるものといえる。そして,前記イのとおり,当業者は, 本願明細書の発明の詳細な説明の記載から,本願物性要件を満たす光学ガ ラスを得るには,「Nb2O5成分を40%超65%以下の範囲で含有し, かつ,TiO2/(ZrO2+Nb2O5)を0.2以下とする」ことが特に 重要であることを理解するものといえるから,これらの条件を維持しなが ら,光学ガラスの製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で上記のよ うな成分調整を行うことにより,高い蓋然性をもって本願物性要件を満た す光学ガラスを得ることが可能であることも理解し得るというべきであ\nる。なお,これを具体的な成分に即して説明するに,例えば,本願発明の最 多含有成分であるNb2O5についてみると,当業者であれば,実施例中最 多の含有量(53.61%)を有する実施例50において,TiO2/(Z rO2+Nb2O5)を0.2以下とする条件を維持しながら,必須成分であ るTiO2(6.48%),ZrO2(1.85%)又は任意成分であるNa 2O(9.26%)から適宜置換することによって,本願物性要件を満たし つつ,Nb2O5を増やす調整を行うことも可能であることを理解するもの\nと考えられ,同様に,実施例中Nb2O5の含有量が最少(43.71%)で ある実施例24において,TiO2/(ZrO2+Nb2O5)を0.2以下 とする条件を維持しながら,もう1つの主成分であるSiO2(24.76 %),必須成分であるZrO2(10.48%)又は任意成分であるLi2O (4.76%)への置換により,本願物性要件を満たしつつ,Nb2O5を減 らす調整を行うことも可能であることを理解するものと考えられる(以上\nのことは,本願組成要件に係るNb2O5以外の成分についても,同様にい えることであり,この点については,原告の前記第3の2⑵記載の主張が参 考となる。)。 してみると,本願明細書の実施例に係る組成物の組成が,本願組成要件に 規定された各成分の含有比率,「TiO2/(ZrO2+Nb2O5)の値」 及び「SiO2,B2O3,TiO2,ZrO2,Nb2O5,WO3,ZnO, SrO,Li2O,Na2Oの合計含有量」の各数値範囲の一部のものにす ぎないとしても,本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時に おける光学ガラス分野の技術常識に鑑みれば,当業者は,本願組成要件に規 定された各数値範囲のうち,実施例として具体的に示された組成物に係る 数値範囲を超える組成を有するものであっても,高い蓋然性をもって本願 物性要件を満たす光学ガラスを得ることができることを認識し得るという べきであり,更に,そのように認識し得る範囲が,本願組成要件に規定され た各成分の各数値範囲の全体(上限値や下限値)にまで及ぶものといえるか 否かについては,成分ごとに,その効果や特性を踏まえた具体的な検討を行 うことによって判断される必要があるものといえる。
エ これに対し,本件審決は,本願明細書の実施例に記載されたガラス組成の 数値範囲については,本願物性要件を満たす光学ガラスが得られることを 確認することができるが,実施例に記載されたガラス組成の数値範囲を超 える部分については,本願物性要件を満たす光学ガラスが得られることが, 実施例の記載により裏付けられているとはいえないとし,また,その他の発 明の詳細な説明のうち,部分分散比に影響を与える成分であるTiO2,Z rO2,Nb2O5,WO3及びLi2Oの記載(段落【0029】等)につい ても,好ましい範囲等として記載される数値範囲が実施例に記載されたガ ラス組成の数値範囲より広い範囲となっていることから,実施例の数値範 囲を超える部分について,本願物性要件を満たす光学ガラスが得られるこ とを裏付けるとはいえないとし,更に,本願出願時の技術常識(光学ガラス の物性は,ガラスの組成に依存するが,構成成分と物性との因果関係が明確\nに導かれない場合の方が多いことなど)に照らしても,本願組成要件の数値 範囲にわたって,本願物性要件を満たす光学ガラスが得られることを当業 者が認識し得るとはいえないと判断したものである。 このように,本件審決の判断は,本願組成要件に規定された各成分の含有 比率,「TiO2/(ZrO2+Nb2O5)の値」及び「SiO2,B2O3, TiO2,ZrO2,Nb2O5,WO3,ZnO,SrO,Li2O,Na2O の合計含有量」の各数値範囲のうち,当業者が本願物性要件を満たす光学ガ ラスが得られるものと認識できる範囲を,実施例として具体的に示された ガラス組成の各数値範囲に限定するものにほかならないところ,上記ウで 述べたところからすれば,このような判断は誤りというべきである。本件審 決は,上記ウのとおり,本願のサポート要件充足性を判断するに当たって必 要とされる,本願物性要件を満たす光学ガラスを得ることができることを 認識し得る範囲が本願組成要件に規定された各成分における数値範囲の全 体に及ぶものといえるか否かについての具体的な検討を行うことなく,実 施例として示された各数値範囲が本願組成要件に規定された各数値範囲の 一部にとどまることをもって,直ちに本願のサポート要件充足性を否定し たものであるから,そのような判断は誤りといわざるを得ず(更に言えば, 上記のような具体的な検討の結果に基づく拒絶理由通知がされるべきであ ったともいえる。),また,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすものとい える。

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平成28(行ケ)10236  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年9月21日  知的財産高等裁判所(第2部)

   「無洗米の製造装置」の発明について、審決は明瞭、知財高裁はこれを取消しました。請求項のほとんどの部分が精米方法あるいは装置の使用方法若しくは精米装置の製造方法で表されているので、不明瞭というものです。
 以上の記載事項A〜Iについての検討を総合すると,本件発明1の無洗米 の製造装置は,少なくとも,摩擦式精米機(記載事項F)と無洗米機(記載事項C) をその構成の一部とするものであり,その摩擦式精米機は,全精白構\成の終末寄り から少なくとも3分の2以上の工程に用いられているものである(記載事項E)上, 精白除糠網筒(記載事項F)と精白ロール(記載事項G)をその構成の一部とする\nものであり,その精白除糠網筒の内面は,ほぼ滑面状であって(記載事項F),精白ロ ールの回転数は毎分900回以上の高速回転とするものである(記載事項 G)と認 められる。 したがって,上記の無洗米の製造装置の構造又は特性は,記載事項A〜Iから理\n解することができる。
しかしながら,請求項1の無洗米の製造装置の特定は,上記の装置の構造又は特\n性にとどまるものではなく,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,\n米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前\n後に仕上がるように搗精し(記載事項B),白米の表面に付着する肌ヌカを無洗米機\nにより分離除去する無洗米処理を行う(記載事項C)ものであり,旨味成分と栄養 成分を保持した無洗米を製造するもの(記載事項D,I)である。 このうち,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤\n又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精する(記\n載事項B)ことについては,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明に 係る無洗米の製造装置のミニチュア機で,白度37前後の各白度に搗精した精米を, 洗米するか,公知の無洗米機によって通常の無洗化処理を行い,炊飯器によって炊 飯し,その黄色度を黄色度計で計り,黄色度11〜18の内の好みの供試米の白度 に合わせて搗精を終わらせる時を調整して,本格搗精をすることにより行うこと (【0035】),このようにして仕上がった精白米は,亜糊粉細胞層が米粒表面をほ\nとんど覆っていて,かつ,全米粒のうち,表面が除去された胚芽と胚盤が残った米\n粒の合計数が,少なくとも50%以上を占めていること(【0036】)が記載され ており,結局のところ,ミニチュア機で実際に搗精を行うことにより,本格搗精を 終わらせる時を調整することにより実現されるものであることが記載されている。 したがって,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置につき,その特定の 構造又は特性のみによって,玄米を前記のような精白米に精米することができるこ\nとは記載されておらず,その運転条件を調整することにより,そのような精米がで きるものとされている。そして,その運転条件は,本件明細書において,毎分90 0回以上の高速回転で精白ロールを回転させること以外の特定はなく,実際に上記 のような精米ができる精白ロールの回転数や,精米機に供給される玄米の供給速度, 精米機の運転時間などの運転条件の特定はなく,本件出願時の技術常識からして, これが明らかであると認めることもできない。
ところで,本件明細書の発明の詳細な説明において,亜糊粉細胞層(5)につい ては,「糊粉細胞層4に接して,糊粉細胞層4より一段深層に位置して僅かに薄黄色 をした」,「厚みも薄く1層しかない」ものであり(【0015】),「亜糊粉細胞5は・・・整然と目立って並んでいる個所は少なく,ほとんどは顕微鏡でも確認しにくいほど糊粉細胞層4に複雑に貼り付いた微細な細胞であり,それも平均厚さが約5ミクロ\nン程度の極薄のものである」(【0018】)と記載され,胚芽(8)及び胚盤(9) については,「胚芽7の表面部を除去された」ものが胚芽(8)であり,それを更に\n削り取ると胚盤(9)になる(【0023】)と記載されている。しかるところ,本 件明細書の発明の詳細な説明には,米粒に亜糊粉細胞層(5)と胚芽(8)及び胚 盤(9)を残し,それより外側の部分を除去することをもって,米粒に「旨み成分 と栄養成分を保持」させることができる旨が記載されており(【0017】〜【00 23】),玄米をこのような精白米に精米する方法については,「従来から,飯米用の 精米手段は摩擦式精米機にて行うことが常識とされている」が,その搗精方法では, 必然的に,米粒から亜糊粉細胞層(5)や胚芽(8)及び胚盤(9)も除去されて しまうこと(【0024】,【0025】)が記載されている。また,本件明細書の発 明の詳細な説明には,「摩擦式精米機では米粒に高圧がかかり,胚芽は根こそぎ脱落 する」から,胚芽を残存させるには,研削式精米機による精米が不可欠とされてい た(【0029】)ところ,研削式精米機により精米すると,むらが生じ,高白度に なると,亜糊粉細胞層(5)の内側の澱粉細胞層(6)も削ぎ落とされている個所 もあれば,糊粉細胞層(4)だけでなく,それより表層の糠層が残ったままの部分\nもあるという状態になること(【0027】)が記載されている。 そうすると,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%\n以上において胚盤又は表面を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるよ\nうに搗精することは,従来の技術では容易ではなかったことがうかがわれ,上記の とおり,本件明細書に具体的な記載がない場合に,これを実現することが当業者に とって明らかであると認めることはできない。 本件発明1は,無洗米の製造装置の発明であるが,このような物の発明にあって は,特許請求の範囲において,当該物の構造又は特性を明記して,直接物を特定す\nることが原則であるところ(最高裁判所平成27年6月5日第二小法廷判決・民集 69巻4号904頁参照),上記のとおり,本件発明1は,物の構造又は特性から当\n該物を特定することができず,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても,当該物 を特定することができないから,特許を受けようとする発明が明確であるというこ とはできない。

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平成28(行ケ)10187  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年8月30日  知的財産高等裁判所(第1部)

 明確性違反として無効とされた審決が維持されました。問題となった記載は「平均粒子径は,0.5〜2.0μmの範囲にあり」というものです。
 しかし,仮に「イリュージョン」については測定誤差の範囲内といえるとしても, それは,実際に製造販売された製品である「イリュージョン」のマイクロカプセル 顔料の形状が比較的球形に近かったという一事例を示すにとどまるものであり,本 件発明におけるマイクロカプセル顔料一般の形状が比較的球形に近いことを裏付け るに足りない(なお,前記「第4 被告の反論」の1(1)のとおり,他の原告ら製品 (「フリクション」)には球形とは相当異なった粒子が一定数含まれていたと認めら れる。)。現に,本件発明の想定する技術的範囲には,甲24の図1〜3に示される ような形状のマイクロカプセル顔料も含まれることは前記(1)アのとおりであり,例 えば全てが甲24文献の図3のような形状のマイクロカプセル顔料の場合には,粒 子径(代表径)の規定のし方による差が相当大きくなるものと推認される。\n
・・・・
本件特許請求の範囲及び本件明細書には,粒子径(代表径)の定義に関す\nる明示の記載はない。 当業者の技術常識を検討すると,平成11年11月1日から平成14年10月3 1日までの間に,筆記具用インクの平均粒子径の測定方法が記載された特許出願の 公開特許公報58件のうち,レーザ回折法で測定したものが23件,遠心沈降法で 測定したものが6件,画像解析法で測定したものが8件,動的光散乱法で測定した ものが22件(うち1件は遠心沈降法と動的光散乱法を併用)であった一方,等体 積球相当径を求めることができる電気的検知帯法で測定しているものはなかったこ と(甲20),平成14年6月1日から平成17年5月31日までの間の特許出願に ついて,審判官が職権により甲20と同様の調査したところ,原告ら及び被告以外 の当業者では,電子顕微鏡法,レーザ回折・散乱法,遠心沈降法により平均粒子径 を測定している例があった一方,電気的検知帯法が用いられた例は発見されていな いこと(弁論の全趣旨)が認められる。また,種々の測定方法で得た値から,再度 計算して,等体積球相当径を粒子径(代表径)とする平均粒子径に換算していると\nも考え難い。そうすると,粒子径(代表径)について,等体積球相当径又はそれ以\n外の特定の定義によることが技術常識となっていたとは認められない。 以上のとおり,技術常識を踏まえて本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載を 検討しても,粒子径(代表径)を特定することはできない。\n
(3) 原告らは,本件発明が粒度分布を体積基準で表していること,測定方法の\n記載がないこと,マイクロカプセル顔料の大きさに着目するという本件発明の特徴, 測定の難易から,本件発明の粒子径(代表径)として,光散乱相当径やストークス\n径は不適当である一方,等体積球相当径は適当である旨主張する。 しかし,粒度分布の表し方を体積基準又はそれと等価である質量基準とするのが\n通常である粒子径(代表径)には,審決が指摘するとおり,等体積球相当径の他に\nも,光散乱法による光散乱相当径,光回折法による光の回折相当径,沈降法による ストークス径があると認められる。そして,前記(2)のとおり,筆記具用インキの粒 子の大きさの測定に関する公知発明において,これらの粒子径(代表径)又は測定\n方法が相当程度採用されていたことに照らせば,これらの粒子径(代表径)又は測\n定方法も,マイクロカプセル顔料の大きさに着目する技術分野において,当業者が 採用を検討し得る有用な測定基準であると推認される。なお,原告パイロットイン キによる特許出願でも,インキの吐出性を考慮して粒子の大きさを限定するため, 遠心沈降式の測定装置を用いて体積基準の粒度分布を求めている例がみられる(乙 11【0016】【0040】)。 また,測定方法の記載がない場合に,特定の測定方法に対応しない粒子径(代表\n径)の定義を採用したものと考えるという技術常識を認めるに足りる証拠はない。

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平成29(行ケ)10006等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年8月22日  知的財産高等裁判所

 一部のクレームについては無効とした審決について、双方がその取消を求めました。審判では、請求項6〜13については、サポート要件違反、進歩性違反等は無し、請求項1〜4は明確性違反で無効と判断されていました。前者について無効審判請求人がその部分の取消しを求める訴訟(甲事件)を提起し、後者について、特許権者がその取消しを求める訴訟(乙事件)を提起しました。裁判所は、後者については取り消すと判断しました。
 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だ けではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願 当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不 当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 原告は,本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載のうち,「急激な降下」, 「急激な降下部分の外挿線」及び「ほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線」との各 記載が不明確であると主張するから,以下検討する。
(2) 「急激な降下」,「急激な降下部分の外挿線」との記載
ア 請求項1及び2の記載のうち「急激な降下」部分とは,動的貯蔵弾性率の温 度による変化を示す図において,左から右に向かって降下の傾きの最も大きい部分 を意味することは明らかである(【図2】)。また,傾きの最も大きい部分の傾き の程度は一義的に定まるから,「急激な降下部分の外挿線」の引き方も明確に定ま るものである。
イ これに対し,原告は,動的貯蔵弾性率の傾きが具体的にどのような値以上に なったときに「急激な降下」と判断すればよいか分からない旨主張する。しかし, 「急激な降下」とは,相対的に定まるものであって,傾きの程度の絶対値をもって 特定されるものではないから,同主張は失当である。
(3) 「ほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線」との記載
ア ASTM規格(乙31)は,世界最大規模の標準化団体である米国試験材料 協会が策定・発行する規格であるところ,ASTM規格においては,温度上昇に伴 って変化する物性値のグラフから,ポリマーのガラス転移温度を算出するに当たり, ほぼ直線的に変化する部分を特段定義しないまま,同部分の外挿線を引いている。 また,JIS規格(乙13)は,温度上昇に伴って変化する物性値のグラフから, プラスチックのガラス転移温度を算出するに当たり,「狭い温度領域では直線とみ なせる場合もある」「ベースライン」を延長した直線を,外挿線としている。 そうすると,ポリマーやプラスチックのガラス転移温度の算出に当たり,温度上 昇に伴って変化する物性値のグラフから,特定の温度範囲における傾きの変化の条 件を規定せずに,ほぼ直線的な変化を示す部分を把握することは,技術常識であっ たというべきである。 そして,ポリマー,プラスチック及びゴムは,いずれも高分子に関連するもので あるから,ゴム組成物の耐熱性に関する技術分野における当業者は,その主成分で ある高分子に関する上記技術常識を当然有している。 したがって,ゴム組成物の耐熱性に関する技術分野における当業者は,上記技術 常識をもとに,昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す 図において,特定の温度範囲における傾きの変化の条件が規定されていなくても, 「ほぼ直線的な変化を示す部分」を把握した上で,同部分の外挿線を引くことがで きる。
・・・
このように,外挿線Aと外挿線Bの交点温度として特定された170℃という温 度は,補強用ゴム組成物の180℃から200℃までの動的貯蔵弾性率の変動に着 目したことから導かれたものであって,かかる交点温度は,その引き方によっても 1℃の差が生ずるにとどまる。そうすると,外挿線Aと外挿線Bの交点温度によっ て,ゴム組成物の構成を特定するという特許請求の範囲の記載は,第三者の利益が\n不当に害されるほどに不明確なものとはいえない。
(4) 小括
したがって,本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載のうち,「急激な降 下」,「急激な降下部分の外挿線」及び「ほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線」 との各記載は明確であって,本件特許の特許請求の範囲請求項1及び2の記載が明 確性要件に違反するということはできない。請求項3及び4の各記載も同様である から,明確性要件に違反するということはできない。 よって,取消事由1は理由がある。

◆判決本文

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平成28(ネ)10047  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年10月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 少し前の事件ですが、漏れていたのでアップします。特許侵害事件において、無効理由無かつ技術的範囲に属するとした1審判断を維持しました。同一特許に係る審決取消請求事件の判決の理由中の判断は,侵害訴訟における技術的範囲の確定に対して拘束力を持たないとも言及しました。
 ところで,特許発明の技術的範囲の確定の場面におけるクレーム解釈と,当該特 許の新規性,進歩性等を判断する前提としての発明の要旨認定の場面におけるクレ ーム解釈とは整合するのが望ましいところ,確かに,本件特許2に係る審決取消請 求事件の判決(甲12)には,控訴人が指摘するとおり,「本件特許発明2は,ケ ーブルコネクタの回転のみによって,すなわち,ケーブルコネクタとレセプタクル コネクタ間のスライドなどによる相対位置の変化なしに,ロック突部の最後方位置 が突出部に対して位置変化を起こす構成に限定されていると解される。」旨の記載\nがある(39頁)。しかし,上記判決は,主引用例(本件における乙3)の嵌合過 程について,「…肩部56で形成される溝部49の底面に回転中心突起53が当た り,ここで停止する状態となる。…この状態で相手コネクタ33を回転させるので はなく,回転中心突起53を肩部56に沿って動かすことで,相手コネクタ33を コネクタ31に対してコネクタ突合方向のケーブル44側にずらした状態にして, 相手コネクタ33をコネクタ突合方向に直交する溝部方向に動かすことができない ようにし,その後,回転中心突起53を中心に相手コネクタ33を回転させている」 (36〜37頁)との認定を前提に,本件特許発明2と乙3発明とを対比するに当 たり,乙3発明には,「回転によって,回転中心突起53の最後方位置が回転前に 比較して後方に位置するという技術思想が記載されているとはいえない」,「回転 中心突起53の上方に肩部56の上面が位置するように,相手コネクタ33が傾斜 している状態で肩部56の前側から後側(ケーブル側)へ回転中心突起53を移動 させているものであって,相手コネクタ33の回転により回転中心突起56の最後 方位置が後方(ケーブル側)へ移動するものではない」(38頁)として,乙3発 明は,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケー ブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位 置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に 位置するものではないという点において,本件特許発明2と相違する。」旨認定し ている(38頁)。上記のように,乙3発明においては,ロック突部の突部後縁の 最後方位置の変化に,ケーブルコネクタの上向き傾斜姿勢からコネクタ嵌合終了姿 勢への回転を伴う姿勢の変化が関係していないこと(「回転によって,回転中心突 起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置するという技術思想が記載され ているとはいえない」こと)に照らせば,本件特許発明2と乙3発明とが相違する ことを認定するについては,本件特許発明2におけるロック突部の突部後縁の最後 方位置の変化が,ケーブルコネクタの上向き傾斜姿勢からコネクタ嵌合終了姿勢へ の回転を伴う姿勢の変化によって生じるものであれば足り,「回転のみによって」 生じること,言い換えれば,ケーブルコネクタを上向き傾斜姿勢からコネクタ嵌合 終了姿勢へと変化させる際に,姿勢方向を回転させることに伴って生じる「ケーブ ルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対位置の変位」が一 切あってはならないことを要するものではないというべきである。なお,同一特許 に係る審決取消請求事件の判決の理由中の判断は,侵害訴訟における技術的範囲の 確定に対して拘束力を持つものではない。 したがって,控訴人の上記限定解釈に係る主張は,理由がない。
(イ) 控訴人は,被控訴人が,特許の無効を回避するために,自ら,「本件特許 発明2は,「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が,「ケーブルコネクタが上向 き傾斜姿勢にあるとき」はロック溝部の溝部後縁から溝内方に突出する突出部の最 前方位置よりも前方に位置し,また,「ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢 にあるとき」は上記突出部の最前方位置よりも後方に位置することを規定している」 旨構成要件e及びfを限定解釈すべきことを主張しているのであるから,その技術\n的範囲の解釈に際しては,被控訴人の上記主張が前提にされるべきである旨主張す る。 しかし,特許発明の技術的範囲を解釈するについて,相手方の無効主張に対する 反論として述べた当事者の主張は,必ずしも裁判所の判断を拘束するものではない。 そして,本件特許発明2に係る特許請求の範囲には,控訴人が主張するような限 定は規定されていないし,前記(1)イ記載の本件特許発明2の課題及び作用効果は, ロック突部の突部後縁の最後方位置が,ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にある とき,すなわち,コネクタ嵌合終了姿勢に至る前は,常にロック溝部の溝部後縁か ら溝内方に突出する突出部の最前方位置よりも前方に位置しているのでなければ奏 し得ないというものではない。また,そもそも,本