H16. 7.30 東京高裁 平成15(行ケ)222 特許権 行政訴訟事件

平成15年(行ケ)第222号 審決取消請求事件
平成16年7月30日判決言渡,平成16年7月5日口頭弁論終結


     判    決
  原      告  コナミ株式会社
  訴訟代理人弁護士  牧野利秋,深井俊至,佐久間幸司,弁理士 小栗昌平
  被      告  株式会社セガ
  訴訟代理人弁護士  吉武賢次,弁理士 北野好人


     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。


     事実及び理由
 本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。なお,本件記録中には,「遊戯者」と「遊技者」との表記があるが,本件特許の明細書の記載に従い,「遊戯者」に統一して表記する。


第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が無効2002−35223号事件について平成15年4月21日にした審決を取り消す。」との判決。


第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告を特許権者とする後記本件特許のうち,請求項1,2,9及び10に係る特許について,無効審判の請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 本件特許(甲13)
 特許権者:株式会社セガ(被告)
 発明の名称:「ゲーム装置」
 特許出願日:平成6年8月15日(特願平6−191376号。国内優先権主張,平成5年8月25日)
 設定登録日:平成11年11月5日
 特許番号:第2998096号
 (2) 本件手続
 審判請求日:平成14年5月30日(無効2002−35223号。無効審判請求の対象は,請求項1,2,9及び10。)
 審決日:平成15年4月21日
 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」

 審決謄本送達日:平成15年5月2日(原告に対し)
 2 本件発明の要旨(請求項1,2,9及び10のみ記載し,その余の請求項の記載は省略。以下,請求項1記載の発明を「本件第1発明」,請求項2記載の発明を「本件第2発明」,請求項9記載の発明を「本件第3発明」,請求項10記載の発明を「本件第4発明」という。)
 【請求項1】 遊戯者の操作による操作信号を入力する操作入力手段と,前記操作入力手段からの操作信号に基づいてゲームを制御するゲーム制御手段と,前記ゲーム制御手段により制御されるゲームを表示するゲーム表示手段とを有するゲーム装置において,前記ゲーム制御手段は,前記操作入力手段から入力される操作信号を前記ゲーム表示手段に表示する操作表示手段を有し,前記操作表示手段は,前記操作入力手段による複数の操作信号を表示する複数の表示エレメントを記憶する表示エレメント記憶手段と,前記操作入力手段により入力された操作信号に基づいて,前記表示エレメント記憶手段に記憶された複数の表示エレメントから表示すべき表示エレメントを選択する表示エレメント選択手段とを有し,前記ゲーム表示手段は,前記操作入力手段を表す表示画像を表示し,前記操作入力手段により入力された操作信号に基づいて前記表示エレメント選択手段で選択された表示エレメントを,前記表示画像中に表示し,前記操作入力手段は,第1の遊戯者が操作する第1の操作入力手段と,第2の遊戯者が操作する第2の操作入力手段とを有し,前記表示エレメント記憶手段は,前記第1の前記操作入力手段による複数の操作信号を表示する第1の表示エレメントと,前記第2の前記操作入力手段による複数の操作信号を表示する第2の表示エレメントとを記憶することを特徴とするゲーム装置。
 【請求項2】 請求項1記載のゲーム装置において,前記操作入力手段は,前記遊戯者が操作する複数の操作ボタンを有し,前記複数の表示エレメントは,前記操作入力手段の前記操作ボタンの配置状態に対応して配置されていることを特徴とするゲーム装置。
 【請求項9】 請求項1乃至8のいずれか1項に記載のゲーム装置において,前記複数の表示エレメントは,ゲームを表示する表示画面の所定位置に固定的に表示されていることを特徴とするゲーム装置。
 【請求項10】 請求項1乃至4のいずれか1項に記載のゲーム装置において,前記第1の表示エレメントは,ゲームを表示する表示画面における前記第1の操作入力手段が配置された側の第1の所定位置に固定的に表示され,前記第2の表示エレメントは,前記表示画面における前記第2の操作入力手段が配置された側の第2の所定位置に固定的に表示されていることを特徴とするゲーム装置。

 3 審決の理由
 (1) 審決は,任天堂製ファミリーコンピュータ取扱説明書(審判,本訴ともに甲3)及びゲームROMカセット「ジョイメカファイト」(審判甲1−1,本訴甲1−1A)を両者一体のものとして,本件第1発明と対比し,一致点及び相違点を次のとおり認定した(以下,上記の「任天堂製ファミリーコンピュータ」によって作動するゲームROMカセット「ジョイメカファイト」に係る発明を「引用発明」という。)。
 「【一致点】遊戯者の操作による操作信号を入力する操作入力手段と,前記操作入力手段からの操作信号に基づいてゲームを制御するゲーム制御手段と,前記ゲーム制御手段により制御されるゲームを表示するゲーム表示手段とを有するゲーム装置において,前記ゲーム制御手段は,前記操作入力手段から入力される操作信号を前記ゲーム表示手段に表示する操作表示手段を有し,前記操作表示手段は,前記操作入力手段による複数の操作信号を表示する複数の表示エレメントを記憶する表示エレメント記憶手段と,前記操作入力手段により入力された操作信号に基づいて,前記表示エレメント記憶手段に記憶された複数の表示エレメントから表示すべき表示エレメントを選択する表示エレメント選択手段とを有し,前記ゲーム表示手段は,前記操作入力手段を表す表示画像を表示し,前記操作入力手段により入力された操作信号に基づいて前記表示エレメント選択手段で選択された表示エレメントを,前記表示画像中に表示し,前記操作入力手段は,第1の遊戯者が操作する第1の操作入力手段を有し,前記表示エレメント記憶手段は,前記第1の前記操作入力手段による複数の操作信号を表示する第1の表示エレメントを記憶することを特徴とするゲーム装置。」
 「【相違点】本件第1発明が,第1の遊戯者が操作する第1の操作入力手段と操作信号を表示する第1の表示エレメントを記憶しているのに加え,第2の遊戯者が操作する第2の操作入力手段を有し,表示エレメント記憶手段が第2の操作入力手段による複数の操作信号を表示する第2の表示エレメントを記憶しているのに対し,引用発明では,第1の操作入力手段及び第1の表示エレメントを記憶しているのみである点。」
 (2) 審決は,上記相違点について,次の(a)ないし(d)のとおり判断した。
 (a)「引用発明であるゲームROMカセット『ジョイメカファイト』は,1人プレイ用に加え2人用プレイ用も実現可能なものであることが認められる。」
 「しかし,引用発明の操作入力手段を表す表示画像及び操作信号に対応する表示エレメントを選択して表示する『ソウサモード』は,取扱説明書の機能を有する『マニュアル』モード中の,ゲーム操作を習得するためのモードであり,実際のゲーム進行中に表示することまで考慮されていない。」(判決注:以下「理由@」という。)

 (b)「また,一つのものを単に二つにしたにすぎないというためには,二つにしたことに格別の意味がないから,当然に二つにすることを当業者が考えるか,あるいは二つにしてみようと思うかする必要がある。」
 「引用発明の『ソウサモード』は,操作方法の習得を目的とするものであるから,一つで十分であり,二つにする必然性も,二つにしてみようとする動機も生ずるものではない。」(判決注:以下「理由A」という。)
 「二人で行う対戦型ゲームの場合は,対戦相手に手の内を知られないようにすることが通常であり,操作状況を表示することは,むしろ不利な条件として認識されるもので当業者としては通常考えないことである。」(判決注:以下「理由B」という。)
 「本件第1発明は,上記通常認識しないことを採用することにより,二人の遊戯者によるゲームの場合は,自分の操作状況を視覚により確認できるばかりでなく,相手方の操作状況も視覚により確認することができ,その相手の操作状況も考慮して興趣溢れるゲームを行うことができる効果を奏するものであり,二つにする格別の意味があるといえる。」(判決注:以下「理由C」という。)

 (c)「また,上記相違点について,甲各号証記載の事項から当業者が容易に想到し得たとすることもできない。」(判決注:以下「理由D」という。)
 (d)「したがって,本件第1発明は,引用発明及び他の提出された甲各号証に記載された発明,並びに検甲第1,2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認めることができないから,特許法29条2項の規定に違反してなされたものとすることはできない。」
 (3) 審決は,本件第2発明ないし第4発明について,次のとおり認定判断した。
 「本件第2発明ないし第4発明は,いずれも本件第1発明を引用するものであり,前記のように本件第1発明を無効とすることができないから,同様の理由により,本件第2発明ないし第4発明も無効とすることができない。」


第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
 1 取消事由1(本件第1発明の容易想到性についての判断の誤り)
 (1) 本件第1発明は,本件特許出願当時の周知技術と引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
 (a) 本件特許公報(甲13。以下,この記載内容につき,該当部分に応じ,「本件特許請求の範囲」の記載又は「本件明細書」の記載ということがある。)の発明の詳細な説明欄に記載された本件第1発明の目的,作用効果のうち,段落【0004】及び【0005】のもの,【0012】のもの,並びに【0041】のものは,一人用のゲーム装置においても生ずることのできる効果であり,引用発明の「ソウサモード」においても生ずる効果であることは明らかである。
 したがって,本件第1発明が規定する二人用ゲーム装置の場合の特有の効果として発明の詳細な説明欄に記載されているのは,上記のうち,段落【0035】及び【0043】の効果,すなわち,「2つの操作入力手段を区別して確認することができる」ように構成したことにより,「自分の操作状況を視覚により確認できるばかりでなく,相手方の操作状況も視覚に確認することができ,その相手の操作状況も考慮して高度で興趣溢れるゲームを行うことができる」効果である(判決注:本件明細書の引用部分であるが,上記の「視覚に確認する」は,「視覚により確認する」の誤記と認める。以下,この誤記を訂正の上で引用する。)。

 (b) しかし,上記の効果も本件第1発明特有の効果ではなく,これと同様の効果を生じさせるため,二人の遊戯者の入力操作状況が表示画面に表示される技術及びこれを適用したゲーム装置は,本件特許出願当時,既に当業者にとって,周知の技術であった(このことを示すゲームソフトとして,「マリオオープンゴルフ」,「ナムコクラシックK」,「サイドポケット」,「チャンピオンボクシング」,「ファミリージョッキー」,「スパイ vs スパイ」,「テトリス2+ボンブリス」,「ファイナルラップ」,「ゆうゆのクイズでGo! Go!」がある。)。
 (c) 二人の遊戯者の入力操作それぞれを表示画面に表示する技術は,周知の技術であり,これを適用した周知のゲーム装置は,本件第1発明と同じく,上記効果を奏することとなる。
 そして,引用発明には,遊戯者の入力操作を表示画面に表示するための技術手段として,審決認定のとおり,遊戯者が操作する操作入力手段と当該操作入力手段による複数の操作信号を表示する表示エレメントを記憶し,操作信号に対応する表示エレメントを選択して表示する技術が開示されている。

 本件第1発明は,二人の遊戯者それぞれの入力操作を表示画面に表示する技術を適用した周知のゲーム装置において,この各遊戯者それぞれの入力操作を表示画面に表示する手段として,引用発明に開示されている公知の技術手段を適用したものにほかならない。そして,この公知の技術手段を二人用のゲームにおける第2の遊戯者用に用いることに何らの技術的困難性がないことも自明である。
 そうであれば,上記周知技術に引用発明に開示された技術手段を適用して,審決認定の上記相違点に係る本件第1発明の構成を備えるゲーム装置が得られることは,当業者にとって格別の困難性なく想到できることである。
 (2) 審決は,上記に反し,容易想到性を否定しているが,本件第1発明の内容を曲解した上,当業者の常識に反する認定をしたことによるのであって,取消しを免れないものである。

 (a) 「ソウサモード」に関する認定(前記理由@)の誤り
 まず,審決は,「実際のゲーム進行中に表示することまで考慮されていない。」としているが,「ジョイメカファイト」において,「ソウサモード」と「実際のゲーム」を区別して論じること自体が誤りである。
 そもそも,「ソウサモード」は技の練習を目的としたものであって,審決のいうように「操作を習得するためのモード」ではない。
 また,「実際のゲーム」という別のモードも「ソウサモード」も,遊戯者が操作できるものであり,その操作に対する判定がなされることから,技術的に何ら相違はなく,技の練習という共通の目的を有している。「ソウサモード」自体も,遊戯者がゲームとして楽しむことができる点で,「実際のゲーム」という別のモードとの相違はない。さらに,表示エレメントを用いることに関しても,「ソウサモード」でも,「実際のゲーム」という別のモードでも同じ態様で,技の練習という共通する目的で行い,何ら相違はない。

 したがって,ゲーム制作者は「ソウサモード」も含めて全体で一つのゲームソフトを構成するよう制作するものであり,技術,目的,いずれを勘案してもモードによって審決のような区分をする意味は存在しない。
 仮に,表示エレメントが「実際のゲーム」という「ソウサモード」とは別のモードで表示されているかを考慮する必要があるとしても,「ジョイメカファイト」においては,その点が考慮されていないとはいえない。
 「ソウサモード」における表示エレメントは,技の練習を目的としており,「実際のゲーム進行中」で必要な技の練習部分をピックアップして行っているのであり,また,「実際のゲーム」でも,操作しながら技を練習していくことでゲームの技術を上達させていくのである。「実際のゲーム」以外のモードが設定され,そのモード自体の目的は「実際のゲーム」と異なっていたとしても,技を練習するという目的は,共通して存在する。そして,両者は技の練習を相手と戦いながら行う点でも共通している。

 また,「ソウサモード」は,コンピュータ側のキャラクタが,遊戯者の操作するキャラクタに反撃を加えないため,遊戯者が自分の必殺技等の練習に集中できる点に特徴があるが,「ソウサモード」であれ,「1P vs COM」モードであれ,遊戯者はコンピュータ側のキャラクタを相手として技を練習することを楽しんでいるのである。
 そうであるとすれば,「ソウサモード」において表示エレメントを表示することと,他のモードに表示エレメントを表示することとは,結局同じ目的を有し,同じ構成でその目的の達成を図ることになる。よって,「ソウサモード」において表示した表示エレメントを他のモードにおいても表示することを考慮していないとは到底いえない。
 審決が認めた相違点は,本件第1発明は二人用の構成であり,引用発明は一人用の構成であるという点である。そして,引用発明とは,「ジョイメカファイト」の「ソウサモード」を含んだものである以上,審決は,「ソウサモード」がゲームであることを認めている。よって,「ソウサモード」も「実際のゲーム」もゲームとして同一の技術分野のものであるといえる。

 また,練習用のモードであっても二人で行うという公知技術は,本件発明出願以前に既に存在していた(ゲーム「神経衰弱」)。
 (b) 「ソウサモード」は,「二つにする必然性も,二つにしてみようとする動機も生ずるものではない」との認定(前記理由A)の誤り
 「ソウサモード」の目的は,ゲームにおける技の練習にあるが,例えば,他方のキャラクタをコンピュータが操作するのではなく,もう一人の遊戯者が操作する設定とし,表示エレメントを二つにすれば,二人の遊戯者が同時に技を練習でき,かつ,相手方遊戯者側のキャラクタが遊戯者の操作するキャラクタに反撃を加えてくるという,一人で行う練習とは異なる状況での技の練習ができるようになる。この点で,当業者が容易に考え得るメリットがあり,表示エレメントを二つにする動機が存在する。

 さらに,画面を二つに分割して,二人の遊戯者が各々の画面で「ソウサモード」でキャラクタを操作するようにすれば,二人同時に,「ソウサモード」において技の練習ができるというメリットが生まれる。
 審決では,「ソウサモード」は操作方法の習得を目的とするものであるから,表示エレメントを二つにする必然性がないとしている。しかし,遊戯者の視点からみて必然性がなくても,ゲーム制作者にとって便宜であれば二つにするのであり,表示エレメントを二つ表示することの必然性は存在する(前記「ファイナルラップ」)。 また,前記のとおり,操作方法の習得を目的とするモードでも二人で遊ぶことのできるゲームが存在する(ゲーム「神経衰弱」)。
 (c) 不利な条件に関する認定(前記理由B)の誤り
 操作状況を表示しないことは,ゲーム進行を遊戯者が把握できないことを意味することになるので,操作状況を表示することは当然であって,当業者が通常考えないということはできない。

 なお,審決における「手の内」の意味が,単に「技量」との意味であれば,操作状況を表示して対戦相手に技量を知らせることは,前記のとおり通常行われることである。
 審決における「手の内」が遊戯者の心の中における「計画」という意味であったとしても,「計画」と考えられる操作状況が表示画面に表示されるゲームとしても,前記「スパイ vs スパイ」,「チャンピオンボクシング」がある。よって,上記審決の認定は,誤りである。
 「計画」は,ゲームにおいては,ゲーム性を高めるためにそれをあえて相手に知らせることにより,相手にそれに対する対応をさせるということも存在する。単にルール的な取り決めをしているにすぎない。本件第1発明を実施する上で表示エレメントを表示するか否かは,ゲーム制作者が前述したゲーム性の観点を考慮して決めるものである。遊戯者の視点に立っても,本件第1発明は表示エレメントを二人の遊戯者それぞれに対応して表示しているので,各遊戯者にとって結果として有利不利は存在せず,不利な条件を表示しているわけではない。

 また,審決の「手の内」が「技量」の意味であっても,「計画」の意味であっても,それを対戦相手に表示することは上記ゲーム中において行われており,表示エレメントを表示すること自体は,引用発明(「ジョイメカファイト」)で公知である以上,それを実施する技術自体にも何らの困難性はなく,そもそも有利とか不利とかの議論すること自体が無意味とすらいえる。
 (d) 本件第1発明が通常認識しないことを採用し,二つにする格別の意味があるとの点に関する認定(前記理由C)の誤り
 審決における「手の内」が「計画」との意味であるなら,本件第1発明の目的は「遊戯者のストレスを増加させることなく,複雑なゲーム操作でも簡単に把握することができるゲーム装置を提供すること」にあるのであるから,本件第1発明が表示画面において表示しようとしているのは,遊戯者の現に行った操作状況であって,「計画」ではないことが明らかである。

 二人の遊戯者が視認可能な一つの表示画面上にそれぞれの操作状況を表示する二人用のゲームは周知であり,このゲームにおいて,一方の遊戯者の操作状況は,当然に他方の遊戯者も知ることになっているのであり,表示エレメントを二人用にすることで新たな効果も格別の効果も生じるものではない。
 二人用ゲームにおいて,一方の遊戯者の操作状況のみを一つの表示エレメントで表示した場合であっても,他方の遊戯者は表示エレメントを表示している遊戯者の操作状況を確認して操作できるのである。よって,表示エレメントを二つにすることに格別の意味があるとはいえず,本件第1発明に新たな効果はない。
 (e) 甲各号証記載の事項から当業者が容易に想到し得たとすることもできないとの認定(前記理由D)の誤り
 上述のとおり,審決の指摘する相違点は,引用発明及び本件特許出願当時の周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得る技術にすぎない。

 また,審決は,「ジョイメカファイト」における表示エレメントが「ソウサモード」にあることを前提にし,表示エレメントが表示画面に一つしか表示されないことを理由に結論に至っているが,当該認定も誤りであることは既に詳述したところである。その他,審決の相違点に関する認定は,当業者の技術常識に反し,さらに,本件第1発明の解釈をも誤った上でなされたもので,失当である。
 (3) 被告の主張に対する反論
 (a) 審決は,「操作状況」の意義については全く触れていない。また,本件明細書においても,「操作状況」の意義については触れていない。そうすると,「操作状況」という用語は一般的な解釈のもとに用いられていると考えるべきである。この観点から「操作状況」の意義を考えると,「遊戯者がゲーム装置を操って働かせたありさま」と考えれば十分である。

 被告は,原告主張の周知技術に関し,操作信号を処理した後の「操作の結果」が表示されるというが,本件第1発明においても,表示されるのは,「表示エレメント」であり,被告のいう「操作の結果」等であって,原告主張の周知技術との間に差異はない。
 (b) 表示エレメントを用いることの直接の効果は,操作状況の表示及びそれによる操作状況の確認にほかならない。
 また,本件第1発明には,複数の入力操作でキャラクタなどが一つの動作をする場合における,ゲームの遊戯中に相手がどのような技を出そうとしているかを操作状況から予測できるという効果についての構成は一切なく,また,発明の詳細な説明中にも何らそのような限定した解釈をさせる記載はない。
 仮に,そのように限定して解釈すべきとしても,「ジョイメカファイト」の「ソウサモード」では,自己の操作を確認するために表示エレメントを用い,キャラクタ等が一つの動作をするまでの操作状況を表示するという技術及び構成が開示されており,ゲームを二人用にすれば,当然二人の遊戯者それぞれにキャラクタが動作をするまでの自分の操作を確認させようとの動機が生じ,それを実現するため表示エレメントを二つにする構成になる。つまり,相手の操作状況の予測という効果は,派生的に生じるものであり,単に効果の発見にすぎず,本件第1発明の顕著な効果とはいえない。

 2 取消事由2(本件第2発明ないし第4発明の容易想到性についての判断の誤り)
 (1) 上述したように,本件第1発明は,無効となるべきものである。したがって,本件第1発明を無効とすることができないことを前提にして,本件第2発明ないし第4発明を無効とすることができないとした審決の判断は,誤りである。
 (2) 本件第2ないし第4発明は,これを各別にみても,以下で述べる理由により,本件特許出願当時の周知技術と引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
 (a) 本件第2発明は,前掲第2,2【請求項2】に記載されたものであるが,引用発明においても,操作入力手段であるコントローラは,遊戯者が操作する複数の操作ボタン,すなわち,十字ボタン,Aボタン及びBボタンを有し,表示画面上にこれら操作ボタンの配置状態に対応した表示エレメントが表示されている。

 (b) 本件第3発明は,前掲第2,2【請求項9】に記載されたものであるが,引用発明においても,表示エレメントは,表示画面の中央上部に固定的に表示されている。
 (c) 本件第4発明は,前掲第2,2【請求項10】に記載されたものであるが,二人の遊戯者が同時に行うゲームにおいて,それぞれの遊戯者の入力操作状況に対応した表示エレメントを表示画面に各々表示するのは,周知のゲーム(前記「チャンピオンボクシング」)に示されたとおりである。二人用ゲームにおいて,各遊戯者の操作する各操作入力手段が配置された側の所定位置に固定的に表示エレメントとして表示されることは,見やすさの点からしても自然なことであり,当業者にとって適用容易な周知の技術手段である。


第4 被告の主張の要点
 1 取消事由1(本件第1発明の容易想到性についての判断の誤り)に対して
 (1) 本件第1発明は,本件特許出願当時の周知技術と引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
 (a) 特許請求の範囲請求項1の記載中には「操作状況」なる用語は記載されておらず,ゲーム表示手段への表示に関連して記載されている。これらの記載からわかるように,本件第1発明においてゲーム表示手段に表示されるものは「(操作入力手段から入力される)操作信号」であり,本件第1発明における「操作状況」の意義は,一般的な操作の状況のことではなく「操作信号」そのもののことである。
 これに対し,原告主張の周知技術において,表示画面(ゲーム表示手段)に表示されるのは,操作信号そのものではなく,操作信号を処理した後の「操作の結果」「(操作による)選択の結果」「(操作により進行した)ゲームの進行状況」「(操作により引き起こされた)ゲーム結果」等である。原告主張の周知技術のいずれにも「二人の遊戯者の入力操作状況(操作信号)が表示画面に表示される技術及びこれを適用したゲーム装置」は開示されていない。

 本件第1発明では,「表示エレメント」を操作入力手段を表す表示画像中に表示することにより「操作信号」を表示しているのであって,本件第1発明が「操作信号」そのものを表示していることには変わりがない。原告主張の周知技術における「操作の結果」等の表示とは全く別個のものである。
 (b) 原告主張の周知技術は,上記のとおりのものであるから,審決の判断に誤りはない。
 (2) 審決に誤認はない。
 (a) 「ソウサモード」について
 「操作習得」と「技の練習」とは文言が異なるものの,「ジョイメカファイト」のようなゲームにおいて,実質的に有意な相違があるとは考えられない。
 また,「実際のゲーム」が技の練習を目的とするという原告の主張は,当業者の常識に反する。「実際のゲーム」を技の練習のために行うことはない。「ソウサモード」は「実際のゲーム」とは,目的が異なる明らかに別個のモードである。

 引用発明における「ソウサモード」では,コンピュータが操作するキャラクタは絶対に反撃してこない。相手からの反撃があったのでは技の練習の妨げになるからである。このような「ソウサモード」を二人で行うようにすることは全く考えられない。
 ゲーム「神経衰弱」の練習用のモードとは,通常は毎回ランダムに異なるカードの並びがマニュアルに記載された固定された並びであるというだけのことであり,しかも,操作入力手段は一つだけである。本件発明とは何の接点もない無関係な公知技術である。
 (b) 「ソウサモード」における二つにする必然性,二つにしてみようとする動機について
 「ジョイメカファイト」において,「ソウサモード」の表示エレメントを二つ表示することの必然性は考えられず,また,原告の主張は,その前提となる仮定自体が無意味であり,失当である。

 (c) 不利な条件について
 本件第1発明において,「操作状況」は,「操作信号」を意味し,「手の内」は,「操作信号」そのもののことである。原告の主張は,本来異なる内容のものを同列に論じようとしており,失当である。
 (d) 二つにする格別の意味があることについて
 本件第1発明における「手の内」の意義は,「操作信号」そのもののことであるから,「計画」を知らせるという意味での操作状況表示という限定が特許請求の範囲に記載されていないのは当然のことである。原告の主張は,独自の想定の下でなされた無意味な議論であって,審決の判断に誤りはない。
 (e) 甲各号証記載の事項と容易想到性について
 既に述べたとおり,審決の判断に誤りはない。
 2 取消事由2(本件第2発明ないし第4発明の容易想到性についての判断の誤り)に対して

 本件第1発明には無効とする理由は一切ないから,本件第1発明と同様の理由により,本件第2発明ないし第4発明も無効とすることはできないとの審決の判断に誤りはない。

第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本件第1発明の容易想到性についての判断の誤り)について
 (1) 当事者間には,本件の具体的争点と密接に係わる前提問題として,本件第1発明において「ゲーム表示手段に表示されるもの」の意義について,争いがある。そして,審決が,相違点についての判断において,「操作状況を表示する」との説示を行ったことから,「操作状況」の意義について見解が対立した。そこで,この点についての検討から始めることとする。
 (a) まず,「操作状況」との要件は,前掲請求項1の記載から明らかなように,本件第1発明の構成要件には全く存在しない。「操作状況」との用語は,審決が相違点についての判断を説示するために用いた言葉であり,本件明細書では,段落【0035】における説明として現れるにすぎない。したがって,本件第1発明の要旨認定において検討されるべきは,あくまで「ゲーム表示手段に表示されるもの」の意義である。

 (b) そこで,前掲第2,2の特許請求の範囲請求項1の記載を検討する。
 上記記載の関係部分を抜き出せば,「『操作信号』を入力する『操作入力手段』」,「『操作入力手段』による複数の『操作信号』を表示する複数の『表示エレメント』」,「複数の『表示エレメント』を記憶する『表示エレメント記憶手段』」,「入力された『操作信号』に基づいて,…記憶された複数の『表示エレメント』から表示すべき『表示エレメント』を選択する」,「『ゲーム表示手段』は,…『操作入力手段』を表す『表示画像』を表示し,…選択された『表示エレメント』を,前記『表示画像』中に表示」と記載されている(二重鍵括弧は,裁判所が付した。)。
 これによれば,「ゲーム表示手段」に,「操作入力手段」を表す「表示画像」,すなわち,「操作入力手段」を模した画像を表示した上,その「操作入力手段」を模した画像中に,「操作入力手段」によって現に入力された「操作信号」に基づいて複数のものの中から選択された「表示エレメント」が表示されるものであると理解される。

 さらに,本件明細書(甲13)の発明の詳細な説明欄の記載をも参酌すると,このことは,一層明らかである。
 すなわち,段落【0002】〜【0004】において,ゲーム機のゲーム内容が高度化複雑化して多種多様な操作が必要になると,遊戯者にとってゲーム操作を覚えるのが容易ではなくなってくること,遊戯者が正しいゲーム操作を覚えたとしても,一つの動作をさせるために一連のゲーム操作が必要な複雑なものの場合には,遊戯者自身は正しい操作をしたつもりであるのにもかかわらず,実際に行われたゲーム操作が不完全であると,遊戯者が考えるようにキャラクタが動かないことがあること,このため遊戯者は余計なストレスを感じ,ストレスを増加させるという問題があったとの課題が示されている。そして,段落【0005】において,遊戯者のストレスを増加させることなく,複雑なゲーム操作でも簡単に把握することができるゲーム装置を提供することにあるとの本件発明の目的が示されている。そして,本件特許請求の範囲の記載に沿って,課題を解決するための手段が示された後,段落【0012】及び【0041】において,本件発明によれば,操作入力手段から入力される遊戯者の操作信号をゲーム表示手段に表示する操作表示手段を設けたので,遊戯者は自己が操作したゲーム操作を確認することができ,遊戯者に余分なストレスを与えることがなく,複雑なゲーム操作でも比較的簡単に把握することができるとの作用及び効果が示されている。そして,本件第2発明の構成ではあるが,本件第1発明の構成をさらに限定して,複数の表示エレメントが操作入力手段の操作ボタンの配置状態に対応して配置されているという,いわば,コントローラの操作ボタン配置をそのまま正確に画面表示しようという構成が示されており,段落【0015】及び【0044】では,複数の表示エレメントを操作入力手段の操作ボタンの配置状態に対応して配置すれば,操作入力手段の操作状態を容易に把握することができるとの作用及び効果が記載されている。さらに,本件明細書の実施例に関する記載においては,ゲーム表示手段に操作入力手段を模した表示がなされることが図面とともに記載されている。
 以上からすると,本件第1発明においては,本件第2発明のように忠実に操作入力手段の操作ボタンの配置状態に対応して複数の表示エレメントが配置されていることまでは規定されてはいないものの,「ゲーム表示手段」であるテレビの画面上に,「操作入力手段」であるコントローラ(各種操作ボタンを有する)を模した表示をしておき,遊戯者が「操作入力手段」(コントローラ)を操作した際に,どの操作ボタンが操作されたのかを,上記のコントローラを模した表示画像中に選択された「表示エレメント」を表示することによって示すものであることが認められる。このように構成されることで,本件明細書の上記記載のように,「一つの動作をさせるために一連のゲーム操作が必要な複雑なものの場合」には,一連のゲーム操作,つまり,コントローラの一連のボタン操作が,順次かつ逐一,コントローラを模した状態で表示されることなることが明らかである(「一つの動作をさせるために一連のゲーム操作が必要」という意味は,例えば,引用発明である「ジョイメカファイト」において,「ホノオ」というキャラクタに「ファイアーボール」という一つの動作(攻撃)をさせるには,「十字ボタンの前,下,後とすばやく押した上で,Aボタンを押す。」というように,4回にわたる一連のボタン操作をする必要があるとされるなど,限られたコントローラボタンの数によって,数多くの動作をさせるためには,単に,ある一つのボタンを押す,又は複数のボタンを同時に押すという手法では足りず,一連のボタン操作が必要となることを指すものと理解される。このことは,本件出願当時,既に周知の手法であったものと認められ,本件明細書の上記記載から,本件第1発明でもこの点が前提として認識されていたことは明らかである。)。
 なお,前記のように,本件明細書の段落【0035】に「自分の操作状況を視覚により確認」,「相手方の操作状況も視覚により確認」などという表現があるが,これらは,その直前に,「実行した『操作信号』を視覚により確認することができる」との記載があり,段落【0033】にも同じ表現がされていることなど,本件明細書全体の記載の流れからすると,「『操作信号』を視覚により確認する」とのことと同義の趣旨で,表現されたものであることが明らかであり,上記認定と矛盾するものではない。

 (c) 以上をふまえて,前記の「操作状況」との用語で説示した審決において,本件第1発明の要旨の理解に誤りがないかを検討する。
 審決は,引用発明について,概ね次のように認定している。
 「引用発明には,甲1−1の写し(本訴甲1−1B)及び甲2(判決注:本訴甲2:「ジョイメカファイト」の取扱説明書)を参酌すると,ソウサモード又はマニュアルモード選択画面では,十字ボタン,Aボタン,Bボタンを含むコントローラの表示があり,操作に係る十字ボタン,Aボタン又はBボタンの操作方向を示す矢印の表示がなされることが記録されている。」
 「甲3のコントローラは,本件第1発明の操作入力手段に相当し,テレビがゲーム表示手段に相当することは明らかである。」
 「操作入力手段であるコントローラからの操作信号がゲーム表示手段であるテレビに表示されることから操作表示手段を有することでも両者に相違はない。」

 「甲1−1(本訴甲1−1A)には,コントローラの十字ボタン,Aボタン及びBボタンからなる複数の操作信号に対応する表示がされており,各ボタンの操作状況が画像として示されている。」
 「このことは,コンピュータゲーム等で動きのあるキャラクタを扱う場合,複数の表示エレメントを記憶しておき,操作指示により表示すべきエレメントを選択して表示することが当業者に慣用されていることから,本件第1発明における操作入力手段による複数の操作信号を表示する複数のエレメントが記憶され,かつ,表示エレメント選択手段が示されているに等しいといえる。」
 審決は,上記の認定を経て,前掲第2,3(1)のとおり,引用発明と本件第1発明の一致点及び相違点の認定をした(原告もこの認定を争うものではない。)。そして,前掲第2,3(2)のとおり相違点の判断を示したが,その中で,「操作状況を表示することは,むしろ不利な条件として認識されるもので当業者としては通常考えない」(理由B),「本件第1発明は,上記通常認識しないことを採用することにより,二人の遊戯者によるゲームの場合は,自分の操作状況を視覚により確認できるばかりでなく,相手方の操作状況も視覚により確認することができ,その相手の操作状況も考慮して興趣溢れるゲームを行うことができる効果を奏するものであり,二つにする格別の意味があるといえる。」(理由C)と説示したものである。

 これらの審決の一連の説示に照らせば,審決では,「操作状況」との用語を使用しているが,本件第1発明における「ゲーム表示手段に表示されるもの」の意義について,前認定と同旨の前提に立って説示しているものと理解し得る(換言すれば,審決は,表示されるものが,一般的な意味での「操作状況」であるなどと広く解釈しているものとは認められない。)。よって,審決に誤りはない。
 (d) 原告は,本件において,「操作状況」という用語は一般的な解釈のもとに用いられており,「遊戯者がゲーム装置を操って働かせたありさま」と考えれば十分であること,本件でゲーム表示手段に表示されるのは,「表示エレメント」であって,「操作信号」それ自体ではないこと,「操作信号」に何らかの処理がされたものが表示されるのであるから,「操作の結果」等であるという点で,本件第1発明と原告主張の周知技術との間に差異はないことを主張する。

 確かに,審決や本件明細書において,「操作状況」との用語の意義が明示的に定義されてはいないし,「操作信号」という用語の一般的意義からして,本件明細書における当該用語の使用方法が適切といえるか否かは,原告指摘のように議論の余地はあり得る。しかし,本件第1発明の要旨の認定及び用語の解釈は,前判示のとおりであって,原告の上記主張は,採用の限りではない。
 (2) 原告は,取消事由1として,前記第3,1(1)において,本件第1発明が周知技術と引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことを総括的に主張した上で,同(2)において,審決の説示した理由@ないしDについての誤りを個別具体的に主張する。
 そこで,後者の個別具体的な主張を検討しつつ,原告の取消事由1の主張の当否を検討する。
 (a) 「ソウサモード」に関する認定(前記理由@)の誤りについて

 原告は,まず,「ソウサモード」は技の練習を目的としたものであって,審決がゲームの「操作を習得するためのモード」と認定した点に誤りがあると主張する。
 確かに,甲2(取扱説明書)には,「ソウサモードでは色々な技の練習ができます。」と記載されている。しかし,「ゲーム操作を習得する」ことと,「技の練習」とは,表現が異なるものの,いずれも遊戯者がゲームを行う上で用意された技を用いるのに必要な操作入力手段の操作をどのように行うかを会得することを意味していることに差異はなく,審決の認定に誤りがあるとまではいえない。
 原告は,「ジョイメカファイト」において,「ソウサモード」と「実際のゲーム」とを区別して論じることが誤りであると主張する。
 確かに,証拠(甲1−1A,1−1B,2,3,5−2,6−2,7−2,8−2,10−2,11)によれば,「ジョイメカファイト」においては,「実際のゲーム」も「ソウサモード」も遊戯者が操作できること,その操作に対する判定がされ,「実際のゲーム」を繰り返すことで技の練習にもなること,「ソウサモード」でも,程度の差はあれ,遊戯者が楽しむことはできることが認められる。しかし,上記証拠によれば,「ソウサモード」は,あくまで技の練習が主な目的であり,相手となるのは,コンピュータの操作するキャラクタであり,遊戯者が操作するキャラクタに対して反撃してこない設定となっていることが認められる。そして,本件第1発明と引用発明との間に前掲の相違点が存在することは,原告も認めるところである上,上記証拠によれば,「ジョイメカファイト」において,「操作入力手段を表す表示画像を表示し,操作信号に基づいて表示エレメントを選択して表示画像中に表示する」のは,「マニュアル」モード中の「ソウサモード」のみであり,「実際のゲーム」とされるモードも含めてその他の「モード」においては,そのような表示が行われるものでないことが認められる(原告もこの点自体を争う趣旨ではない。)。
 以上によれば,引用発明の「ソウサモード」において示された表示に関する構成を,「実際のゲーム」の進行中に表示することまで考慮されているか否かについて,審決が論じ,検討したことに誤りはない。
 原告は,さらに,仮に,表示エレメントが「実際のゲーム」という「ソウサモード」とは別のモードで表示されているかを考慮する必要があるとしても,「実際のゲーム」と「ソウサモード」とは,相手と戦いながら技を練習するという共通目的があること,「ソウサモード」では,コンピュータ側である相手が反撃を加えないが,遊戯者は技を練習することを楽しんでいることでは同じであること,そうであれば,「ソウサモード」において表示エレメントを表示することと,他のモードに表示エレメントを表示することとは,同じ目的を有し,同じ構成でその目的の達成を図ることになるので,「ソウサモード」において表示した表示エレメントを他のモードにおいても表示することを考慮していないとは到底いえないことを主張する。

 しかし,前掲証拠のうち,「ジョイメカファイト」の取扱説明書(甲2)では,マニュアル画面の中の「ソウサモード」を技の練習をするためのものと明記し,「実際のゲーム」と区別していることが明らかである。また,コンピュータゲームの情報雑誌(甲6−2)においては,マニュアル画面が「ジョイメカファイト」というゲームの最大の特徴であること,初心者でもすぐに必殺技が出せるように,画面上部に表示されたコントローラで技の出し方を手取り足取り教えてくれるのであり,そのうちの「ソウサモード」では技の強さまで教えてくれることが記載され,「このモードを活用しよう!」と勧めている。また,別のコンピュータゲームの情報雑誌(甲10−2)においては,「ジョイメカファイト」について,「まずは,デモモードをよく見て,必殺技の出し方を覚えよう。次に,ソウサモードを選び,必殺技を出せるようになるまでとことん練習だ。…必殺技をみごとにマスターしたらいよいよ実践!」と記載されている。これらによれば,「ジョイメカファイト」は,最初から「実際のゲーム」に取り組んで,試行錯誤しながら上達しようとする使い方もできるものとは認められるが,情報誌が勧めるのは,マニュアル画面の中の「ソウサモード」において,画面に表示されるコントローラの表示により自らがするコントローラボタンの一連の操作過程ないし状況を順次確認しながら技の練習をし,その上で「実際のゲーム」に取り組む方法であり,前記取扱説明書にも照らせば,そのような使用方法が多分に念頭におかれた設計になっているものと認められる。そうであれば,「ジョイメカファイト」は,「実際のゲーム」においては,「ソウサモード」におけるようなコントローラの画面表示は必要ないものとの前提で設計されているものと理解され,現に,上記のように,そのような表示はされないこととなっている。そして,一般には,「実際のゲーム」の画面においては,臨場感を出すために,背景画像を写し出すなどの設計がされることが多く,コントローラを画面に表示することは,その妨げになることが明らかであるから,「ジョイメカファイト」においては,「実際のゲーム」とは別に「ソウサモード」を設けたものと推測される。
 したがって,原告主張の点を考慮しても,「ジョイメカファイト」においては,「実際のゲーム」の進行中に表示することまで考慮されていないとの審決の認定は,是認し得るものである。
 また,原告は,前掲のとおり,周知技術ないしは技術常識として,種々のゲームを主張し,証拠を提出する。しかし,これらの証拠によれば,原告が主張する周知技術ないしは技術常識は,コントローラの一定のボタン操作によって生じさせるキャラクタの動作につき,キャラクタの一定の動きを表示したり,動作内容を文字によって表示するなどするものである。すなわち,上記周知技術等と主張されるものは,単に,ある一つのボタンが押され,又は複数のボタンが同時に押された場合はもとより,一連のボタン操作がされた場合でも,一つ又は一連の操作の結果として生じる一つの動作ないし状態に関する情報のみを表示するものである。一方,本件第1発明は,「ゲーム表示手段」であるテレビの画面上に,「操作入力手段」であるコントローラ(各種操作ボタンを有する)を模した表示をしておき,遊戯者が「操作入力手段」(コントローラ)を操作した際に,どの操作ボタンが操作されたのかを,上記のコントローラを模した表示画像中に選択された「表示エレメント」を表示することによって示すものであって,一連のボタン操作がされた場合には,そのことが順次かつ逐一,コントローラを模した状態で表示されるものである。このように,両者は,技術思想を異にするものというべきである。原告の上記主張は採用し得ない。
 なお,原告は,審決は,「ソウサモード」がゲームであることを認めているとも主張するが,審決は,引用発明のゲーム装置としての構成を指摘したにすぎないのであって,「ソウサモード」が(実際の)ゲームであるとまで認定した趣旨であるとは解されない。
 また,原告は,ゲーム「神経衰弱」(甲33)を援用するが,同ゲームの操作入力手段は一つである上,そのゲーム内容にも照らせば,原告の主張を考慮して検討しても,「ジョイメカファイト」において,「ソウサモード」と「実際のゲーム」とを区別して論じることが誤りであるということにはならない。
 (b) 「ソウサモード」は,「二つにする必然性も,二つにしてみようとする動機も生ずるものではない」との認定(前記理由A)の誤りについて

 原告は,表示エレメントを二つにすることにつき,当業者であれば容易に考え得るメリットがあり,表示エレメントを二つにする動機が存在すると主張する。
 しかし,原告の主張自体に具体性がなく,主張の裏付けがされているものでもないのであって,採用の限りではない。なお,「ソウサモード」における表示を,実際のゲーム進行中に表示することまで考慮されているとはいえないことは,前判示のとおりである。
 原告は,また,遊戯者の視点からみて必然性がなくても,ゲーム制作者にとって便宜であれば,表示エレメントを二つにする必然性があることを主張し,ゲーム「ファイナルラップ」のテストレースモードを援用する。しかし,上記「ファイナルラップ」において表示されている画像は,あくまでゲームの進行状況を表すものであって,前認定の本件第1発明のゲーム表示手段における表示には相当しないものである。よって,原告の主張は,採用することができない。

 また,前判示の点にかんがみれば,ゲーム「神経衰弱」が存在するからといって,直ちに,「ジョイメカファイト」の「ソウサモード」を二つにしてみようとする動機が生ずるものではないとした審決の認定判断が誤りであるということにはならない。
 (c) 不利な条件に関する認定(前記理由B)の誤り,及び本件第1発明が通常認識しないことを採用し,二つにする格別の意味があるとの点に関する認定(前記理由C)の誤りについて
 原告は,前掲第3,1(2)(c)(d)のとおり主張するところ,理由Cは,理由Bを受けたものであるから,これらを合わせて検討する。
 確かに,原告の主張する意味での「操作状況」を前提とすると,ゲームの進行を遊戯者が把握できず,支障が生じるとの原告の主張は,首肯し得るものである。また,原告の主張するとおり,ゲーム「スパイ vs スパイ」及びゲーム「チャンピオンボクシング」においては,相手の遊戯者の「計画」を知り得るものとなっていることが認められるのであり,これらによれば,ゲームにおいては,原告の主張する意味での「操作状況」を相手に知らせてゲーム性を高める手法が採られることがあることが認められる。

 そうすると,審決の「対戦相手に手の内を知られないようにすることが通常であり…当業者としては通常考えないことである。本件第1発明は,上記通常認識しないことを採用することにより,…興趣溢れるゲームを行うことができる効果を奏する」という説示が意味するところは,必ずしも明確でないが,仮に,対戦者同士が互いに相手の動きを予測し得る表示を一切しないことが通常であるとの意味であるとすれば,その認定判断には疑問がある。
 ところで,原告の主張は,表示されるものが原告の主張する意味での「操作状況」であることを前提としている。そして,原告が上記各ゲームについて指摘する点を参照しつつ,各ゲームの内容を検討すると,上記「スパイ vs スパイ」では,テレビ画面が二分され,対戦者双方の操作するスパイの動きが表示されて,相手がどこにどのような罠や時限爆弾を仕掛けたかなどを認識し得ることになっており(甲20−1,2),原告は,この点をもって,「手の内」が表示されたものと主張する。さらに,上記「チャンピオンボクシング」では,第1遊戯者が操作するボクサーがテレビ画面左側に,第2遊戯者ないしコンピュータが操作するボクサーが画面右側にそれぞれ表示され,各遊戯者がコントローラ(ジョイスティック)のパンチ選択ボタンを押すことでパンチの種類が選択され,パンチ・ボタンを押すことで選択済みのパンチが繰り出されるというルールの下で,上記のようにパンチの種類が選択されると,画面の下に「UPPER」などと選択されたパンチの種類が文字により表示され,パンチ・ボタンが押されて実際にパンチが繰り出される前にパンチの種類を認識することができることになっており(甲18−1,2),原告は,この点をもって,「手の内」が表示されたものと主張する。
 しかしながら,前判示のとおり,本件第1発明のゲーム表示手段における表示に関する技術思想と,原告が主張する周知技術等における表示に関する技術思想とは,異なるものであって,原告主張のように,周知技術等と前認定の引用発明によって,本件第1発明に想到するのが容易であるとはいえない。
 以上によれば,審決の説示する理由B及びCは,理由とするには根拠が薄弱である疑いがあるが,仮にそうであるとしても,本件相違点についての容易想到性を否定した結論に影響を及ぼすものとはいえない。
 (d) 甲各号証記載の事項から当業者が容易に想到し得たとすることもできないとの認定(前記理由D)の誤りについて
 理由Dは,前記各理由を総括するものであって,原告の主張が採用することができないことは,既に判示したところから明らかである。

 2 取消事由2(本件第2発明ないし第4発明の容易想到性についての判断の誤り)について
 本件第2発明ないし第4発明に係る特許請求の範囲の記載は,前掲第2,2のとおりであって,いずれも本件第1発明を引用するものである。
 前判示のとおり,本件第1発明に係る特許は無効とすることができないのであるから,これと同様の理由により,本件第2発明ないし第4発明も無効とすることができないことは,明らかである。
 よって,原告主張の取消事由2も理由がない。
 3 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。


   東京高等裁判所知的財産第4部

            裁判長裁判官   塚  原  朋  一

               裁判官   田  中  昌  利

               裁判官   佐  藤  達  文