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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

技術的範囲

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和6(ネ)10038  不当利得返還等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和7年1月15日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

自動二輪車のブレーキに関する特許について、ヤマハ発動機に対して損害賠償等を求めました。原審は、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。なお、本件特許は出願時から弁理士無しの本人出願です。

ア 控訴人は、原判決が「構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、 従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出された、車両の傾 斜走行状態での正確な横Gであると認められる。」と判断しているが、むしろ、本件 明細書において、「正確な横G」は、本件課題との関係で、タイヤでの荷重接地点変 化から生じる戻り角(ρ)を加味した正確な傾斜角及び加速度センサーと角速度セ ンサーの関連付けにより明らかになったロールによる速度変化の影響を加味して導 かれる、加速度センサーにおいて安定走行時に検出される横G(Gken)のこと を指すものとして説明されており、他方、「横G(Ghosei)」は、本件課題と の関係で、正確な横Gの検出が可能となったことを踏まえた、車両を安定化に導く ブレーキシステムの構成要素の一つとして説明されていると主張する。 そこで、控訴人が主張する「戻り角(ρ)」に着目すると、発明の詳細な説明には 「ハイブリットセンサー20 には、進行方向の加速度を検出する加速度センサー 21、 進行方向ロール速度を検出する傾斜角速度センサー22 及び ロール方 向の加速度を検出する加速度センサー23 が小型に内蔵されおり、ライダーの体 重を含めた合成重心に近いところにレイアウトされる。 ハイブリットセンサー2 0 には、傾斜時に生じる理論バンク角(Φ)及び傾斜によってタイヤでの荷重接 地点変化から生じる戻り角(ρ)が同時に存在している。 (図8も同時参照)セ ンサー20 に生じる力(ベクトルA)と 実際に生じる力(ベクトルA ’)とは ずれが生じている。 このずれ角(戻り角(ρ))によって、正確な横Gを検出する ことが解析された。」(【0060】)、「Gken = g・cosΦ・tanρ- Ψ・Rhenと変形でき、シンプルな式になる。ここで、表されるΦは 車両の理 論バンク角度であり理論傾斜角でもある、 傾斜角速度センサー22 から検出さ れる角速度Ψ(rad/sec) を時間積分して得られた角度であり、ρは傾斜 戻り角であり、RはGセンサー#23の実車取付けの高さ(図8b hsen ) をそれぞれ示している。」(【0063】)との記載が認められるが、この記載は、「横 加速度(Gken)」を解析した結果として、傾斜角Φ、傾斜戻り角ρ、傾斜角速度 Ψ等を用いた式で表すことができることを示すに尽きるのであり、他方で、特許請 求の範囲の記載において、本件発明1の「横加速度(Gken)」は「横加速度を検 出する加速度センサー」により検出されたものとの特定がされているものの、傾斜 角Φ、傾斜戻り角ρ、傾斜角速度Ψ及びRhenに基づき、Gken=g・cos Φ・tanρ−Ψ・Rhenという演算から導き出されたことは特定されていない から、控訴人の主張はその前提を欠く。
また、仮に「横加速度を検出する加速度センサー」により検出された「横加速度 (Gken)」を正確な横Gであるとするならば、正確な横Gの検出は「横加速度を 検出する加速度センサー」が本来的に備えている機能であり、正確な傾斜角の検出 とは無関係である。そうすると、控訴人が主張する「1)「走行時の横Gセンサーと 角速度センサーを関連付けること」及び「正確な傾斜角の検出」によって、走行状 態での「正確な横G」の検出を可能とすること」という課題とは矛盾することにも なるから、控訴人の主張は本件明細書の記載とは整合しない独自の見解であって採 用することはできない。
イ 「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ.」への訂正について (ア) 特許がされた特許請求の範囲、明細書又は図面における訂正について、特許 法126条1項ただし書2号は、「誤記又は誤訳の訂正」を目的とする場合には、願 書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることを認めているが、 ここで「誤記」というためには、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいこと が、当該明細書、特許請求の範囲若しくは図面の記載全体から客観的に明らかで、 当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという 場合でなければならないものと解され、特許法134条の2第1項ただし書2号の 「誤記又は誤訳の訂正」も同様に解される。
したがって、明細書等の記載について、物理学上意味をなさないことが客観的に 明らかであることが認識できたとしても、物理学上意味をなさないことの一事をも って、ただちに同号の「誤記」と認められるわけではなく、当該物理学上意味をな さない記載について訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければ、 同号の「誤記」とは認められないと解するのが相当である。この点、控訴人は、請 求項に記載された計算式に係る誤記の訂正に関して、それを字義通り解すると、次 元の異なる物理量同士の減算となり、その技術的意味が理解困難となること等を理 由として、誤記の訂正が認められることを主張するが、技術的意味が理解困難とな ることの一事をもって誤記の訂正が認められるものとはいえないから、控訴人の上 記主張は採用できない。
(イ) 以上を踏まえ、本件明細書等の記載について検討する。
控訴人は「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ.」に訂正することを主張する。本件特 許権に係る特許請求の範囲及び本件明細書には、「傾斜角速度(Ψ)」、「角速度検出 値(Ψ)」、「角速度Ψ(rad/sec)」、「角速度(Ψ)」「車両のロールによる角速度」、「ロール方向の角速度」、「角速度出力(Ψ)」、「ロール角速度Ψ」、「ロール速度Ψ」、「傾斜角速度Ψ」及び「ロール角速度(Ψ)」(請求項1〜4、【0055】、【0061】、【0063】、【0066】、【0073】、【0084】、【0085】、【0090】、【0127】、【0130】、【0131】)との記載が認められ、他方で、「該傾斜角速度(Ψ)の時間微分で得られる傾斜角加速度(dΨ/dt)」(請求項2)、「傾斜し始めの傾斜速度(ロール速度Ψ)を時間微分 dΨ/dt した角加速度を検知(図中ΔΨの部位)することにより」(【0131】)との記載も認められるから、本件明細書においては、傾斜角速度を「Ψ」、傾斜角加速度を「dΨ/dt」又は「ΔΨ」と表しているものと認められる。
そして、本件発明1では「横加速度を検出する加速度センサーのロールによる影 響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法」と特定され、 本件発明2では「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正 後の横G(Ghosei)の導出方法として、前記横加速度から前記加速度センサ ーの車両取り付け高さと前記傾斜角速度(A)または傾斜角速度(B)のいずれか の積、との差分を求め、」と特定されているところ、請求項1を引用して記載された 請求項4には「前記信号演算として、加速度センサーのロールによる影響を取り除 く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法として、前記検出された 横加速度(Gken)から加速度センサーの車両取り付け高さ(hsen)と前記 検出された傾斜角速度(Ψ)の積、との差分を求めること、の導出方法を有する事」 と記載され、本件明細書には「実際の走行傾斜時に検出される検出横G(Gken) は、傾斜角の時間的変化である傾斜角速度(Ψ)を用いた補正が必要であることか ら 補正後の横G(Ghosei)はGhosei = Gken−(Ψ・Rhse n)として表される。」(【0073】)、「2)、 走行時に変化する実際の検出横G(Gken)を少なくとも傾斜角の時間微分(dΦ/dt)値である傾斜角速度(Ψ) を用いた補正を行い、補正後の横G(Ghosei)をGhosei= Gken −(Ψ・Rhsen)の式を用いて補正した値の算出G値」(【0085】)、「項目2)は、走行時の傾斜により検出された検出G(Gken)は車両のロールによる誤差 が重畳されるため ロール成分を取り除くために角速度の補正を行うことが必要と なる。 すなわち、センサーからの検出G(Gken)から規範G成分の部位を実 際の検出される横G(Gken)に置換え、角速度による補正を行えば 規範同様 にロールによる影響を排除した 補正後の制御で使用できるG(hosei)が導 け、Ghosei=Gken−(Ψ・Rhsen) の様に表される。ここで補正項 として傾斜角速度を加味している理由は、前記したように制御上無視できない要素 になっているためである。」(【0087】)などと記載されている。
以上によると、本件特許権に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載は、傾斜 角加速度は傾斜角速度の時間微分で得られるという認識の下、両者を明確に区別し た上で、「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横 G(Ghosei)の導出方法」について、加速度の次元の物理量である実際の走 行傾斜時に検出される検出横G(Gken)から、速度の次元の物理量である傾斜 角速度(Ψ)にセンサー取付け高さRhsenを乗じた値を減算することで終始一 貫していると認められる。 そうすると、本件明細書等に記載された「加速度センサーのロールによる影響を 取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法」について、当業 者は本件明細書に物理学上意味をなさない導出方法が記載されていることを理解す るにとどまり、角速度Ψを角加速度Ψ.の趣旨に理解するのが当然であるとまでは認 められない。
・・・
(エ) 以上のことから、控訴人が主張する「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ.」への 訂正は認められず、本件各発明のいずれについても、特許請求の範囲に記載された 発明が本件明細書に記載された発明であるとはいえない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆令和5(ワ)70114

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令和6(ラ)10001  保全異議申立却下決定に対する保全抗告事件  特許権 令和6年10月22日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

薬用の化学物質(ペプチド)に関する特許の差止仮処分命令の取消を求めましたが、抗告棄却されました。

当裁判所も、基本事件における相手方の申立ては、原々決定が認容した限度\nで認容するのが相当であると判断する。その理由は、後記1のとおり補正し、 後記2のとおり当審における抗告人の補充主張に対する判断を、後記3のとお り当審における抗告人の追加主張に対する判断を、それぞれ付加するほか、原 決定「理由」第4の1から7まで(6頁18行目から33頁7行目まで)に記 載のとおりであるから、これを引用する。当裁判所は、後記1の補正及び後記 2(1)の判断のとおり、乙1発明に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点2 −3、2−5)について、原決定とは異なり、当業者が、相違点1−1に係る 本件発明1の構成を容易に想到するとは認められないことから、本件発明の進\n歩性が欠如するとは認められないと判断するものである。
・・・
乙1公報の発明の詳細な説明には、「さらに、容器2およびその中味 は必ず薬用でなければならないというわけではない。衛生的あるいは 非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体 状の化学物質を充填した他のタイプの容器も本発明の方法によって処 理できる。」との記載がある。このうち「さらに、容器2およびその中 味は必ず薬用でなければならないというわけではない。」という第1文 は、その記載に基づいて、容器2及びその中味について、薬用でもよ いが、薬用であることが必須であるわけではなく、薬用以外でもよい という意味と解され、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解さ れる。そのため、これに引き続く第2文の「衛生的あるいは非酸化性 の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学 物質」についても、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解され、 第1文によって、第2文にいう上記「化学物質」から薬用の物質が排 除されており、薬用以外の化学物質のみが含まれると解すべき根拠は 認められない。そうすると、乙1発明が、薬用の化学物質についての 非酸化性の移送を排除しているとは認められない。
しかしながら、乙1公報の発明の詳細な説明には、PTHペプチド 含有製剤の製造については何も記載されておらず、PTH類縁物質の 含量が低い高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得るとの課題 も開示されていないから、乙1発明に接した当業者が、乙1発明を、 「当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する いずれのPTH類縁物質量も1.0%以下であり、及びPTHペプチ ド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5. 0%以下」であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用 することを想起するとは認められない。
抗告人は、PTHが酸化しやすい物質であることは本件特許の優先 日前の技術常識であり、当業者は、PTHペプチドを有効成分とする 凍結乾燥注射剤を製造するに当たり、「製剤開発に関するガイドライン」 (乙20)に基づき、酸化を防止して、高純度の医薬品を製造するこ とができるよう製造工程を確立することを検討するから、乙1発明を PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造のために使用することを当然 検討すると主張する。
しかし、乙1に、抗告人の主張する上記技術常識を組み合わせ、更 に乙20の文献の記載を組み合わせたとしても、当業者が、典型的製 造過程によりPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しよう とするとPTH類縁物質を含んだ製剤が製造されてしまうという課題 を認識するとはいえず、乙1発明を「当該製剤中のPTHペプチド量 と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質量も1. 0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に 対する全PTH類縁物質量が5.0%以下」の無菌注射剤であるPT Hペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用することを想起すると も認められない。 その他、抗告人が主張する事情を考慮しても、乙1発明に本件特許の優先日前の技術常識を組み合わせることによって、当業者が、相違点1−1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n

◆判決本文

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令和5(ワ)70607  特許権  民事訴訟 令和6年10月22日  東京地方裁判所

 構成要件Jを充足しない、さらに均等侵害も第5要件を満たさないと判断されました。

ア 本件発明に係る特許請求の範囲の記載によれば、「第 1 制御装置」(構成要\n件 J)は、自動回帰発動条件1)(「前記第 1 送受信アンテナにより一定時間以 上前記遠隔操縦装置からの信号を受信しなかったと判断された場合」)、又は、 同2)(「前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合」)のうち、「少 なくともいずれか一方の判断が行われた場合」に、本件発明の遠隔操縦無人 ボートを、「前記初期位置に自動回帰させるため、前記現在位置および前記 初期位置に基づいて、前記推進動力源と前記操舵装置との動作を制御する」 ものである(いずれも構成要件 J)。
もっとも、この記載によっても、本件発明の「第 1 制御装置」は、自動回 帰発動条件1)及び2)の各場合に自動回帰のための動作制御を行い得る構成\nをいずれも備えたものである必要があるか、いずれか一方の構成を備えた装\n置であれば足りるかについては、必ずしも明らかでない。
イ そこで、本件明細書の記載を参酌すると、本件発明は、「ボートが波に乗っ て、リモコン(遠隔操縦装置)の電波が届かないような遠くまで流されてし まった場合」、「波により船体が激しく揺れて、遠隔操縦装置からの電波を受 信するアンテナが岩等に当たり破壊されてしまった場合」及び「ボートに搭 載されている電源の残量が少なくなって、駆動電力が供給され難くなった場 合」、すなわち、遠隔操縦装置との通信途絶(前 2 者)及び電源残量の不足 (後者)という事態を具体例として示しつつ、そのような事態においてもな お紛失することなく、必ず回収できる遠隔操縦無人ボートを提供することを 解決すべき課題とし(【0004】〜【0007】)、本件発明の構成を備えることに\nよって、「一定時間以上遠隔操縦装置地の間の通信が途絶えた場合、または、 電源の残量が半分以下になった場合」に、「自動的にボートを初期位置に回 帰させることができ」、「ボートを紛失してしまうことがない」として、この 課題を解決する作用効果が得られるとするものである(【0008】、【0009】)。
ここで、自動回帰発動条件1)の場合に初期位置に自動回帰させること及び 同2)の場合に初期位置に自動回帰させることは、前者が遠隔操縦装置との通 信途絶、後者が電源残量の不足という相互に原因の異なる危機的状況への対 処を想定したものである。このため、本件発明は、その作用効果を奏するた めに、いずれの危機的状況にも対処できるようにすることを要するものと理 解される。そうすると、本件発明における「第 1 制御装置」(構成要件 J) は、自動回帰発動条件1)に係る判断と同2)に係る判断のいずれもが行われ得 る機構を備えることを前提として、そのいずれかの条件が満たされた場合に\n自動回帰のための動作制御を行う装置を意味するものと解される。本件発明 の実施例としてはこのような装置のみが開示され、いずれか一方の機構のみ\nを備えるものが本件発明の技術的範囲に含まれることの明示的な記載も示 唆もない。これに加え、このように解することは、本件発明に係るボートが 電源の残量を検出する残量検出装置(構成要件 I)を備えることを発明特定 事項としていることによっても裏付けられる。仮に、自動回帰発動条件2)に 係る判断を行い得る機構がなく、同1)が満たされた場合に自動回帰のための 動作制御を行う機構のみを備えた装置も本件発明の技術的範囲に含まれる\nものと解した場合、本件発明の発明特定事項として電源の残量を検出する残 量検出装置を備える構成を採用したことの技術的意義が理解し難いものと\nなるからである。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載によ れば、本件発明の「第 1 制御装置」(構成要件 J)は、自動回帰発動条件1)に 係る判断と同2)に係る判断のいずれもが行われ得る機構を備えることを前\n提として、そのいずれかの条件が満たされた場合に自動回帰のための動作制 御を行う装置を意味するものと解される。これに反する原告の主張は採用で きない。
3 争点 1-5(均等侵害の成否)について
原告は、仮に被告製品が本件発明の構成要件 J を充足しないとしても、電源の 残量に着目した自動回帰のための動作制御の条件として、電源の残量が半分以下 となった場合とするか他の所定量以下となった場合とするかの相違は、本件発明 の本質的部分の相違ではなく、本件特許の出願経過において意識的に除外された ものでもないことなどから、被告製品につき本件発明の均等侵害が成立する旨を 主張する。
しかし、前記認定事実(前記 2(1))によれば、本件特許の出願経過において、 特許庁審査官から、拒絶理由として、補正前請求項 1 発明の「所定の条件」につ き明確性要件違反及びサポート要件違反を指摘され、また、補正前請求項 6 発明 の「所定値」につき明確性要件違反を指摘されたことを受け、原告は、本件補正 により、自動回帰のための動作制御の条件につき、本件発明の構成要件 J のとお り補正したものである。原告によれば、本件補正は出願当初の明細書の記載内容 の範囲内で行ったものであるところ(乙 4)、本件明細書には、自動回帰発動条件 につき、本件発明の実施形態の 1 つとして、「上記実施形態では、自動回帰の際 に、障害物に衝突しないように、通ってきた経路を戻っている。しかし、通って きた経路を戻らなくてもよい。この場合、ボート に障害物を検知するセンサ を設け、自動的に障害物を回避できるようにすることが好ましい。電源 12 の残 量が少ない場合にボート を自動回帰させる場合、通ってきた経路を戻るので は、少なくとも電源 12 の残量が半分以上あることを条件に戻す必要がある。障 害物センサを設けることにより、電源 12 の残量が半分以下になって、自動回帰 させても操作者の下までボート が戻って来ることができる。」との記載があり (【0061】)、他に自動回帰発動条件としての電源の残量の数値に言及する記載は 見当たらない。この点を踏まえると、本件補正は本件明細書【0061】の記載に基 づいて行われたものと理解される。
そうすると、原告は、本件補正により、電源の残量に着目した自動回帰のため の動作制御の条件につき、ボート が通ってきた経路を戻るケースにも対応し 得るものとする趣旨で、「前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合」 (自動回帰発動条件2))とする数値限定を行ったものとみるのが相当であり、「半 分以下」とするもの以外は特許請求の範囲から意識的に除外されたものというべ きである。
したがって、本件発明の構成要件 J の文言非充足との関係における均等侵害の 主張については、少なくとも均等の第 要件を欠き、自動回帰発動条件2)に係る 「半分以下」の構成を備えない被告製品について、均等侵害が成立するとは認め\nられない。この点に関する原告の主張は採用できない。

◆判決本文

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令和5(ワ)70346 特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月10日  東京地方裁判所

特許権侵害事件です。構成要件Fを具備しないとして、非侵害と認定されました。念のため、無効理由についても判断がされています。

前記前提事実に加え、証拠(乙9)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製 品は、ユーザーが自動車のドアを開けることで磁気センサーモジュールがド アに設置された磁石の磁気を感知しなくなると、バックライトモジュールが オン状態(点灯状態)になる一方で、ユーザーが自動車のドアを閉じること で磁気センサーモジュールが磁気を感知すると、バックライトモジュールが オン状態からオフ状態(消灯状態)になること、そして、バックライトモジ ュールがオン状態(点灯状態)のまま放置されると、徐々に減光しながら消 灯するが、これは、バックライトモジュールが、接続されているコンデンサ の充電又は放電による影響を受けるからであり、発光持続時間を正確に調整 するための制御回路や制御プログラムを用いることによって消灯までの時間 が制御されているものではないこと、点灯状態と消灯状態の時間間隔は、コ ンデンサの性能(静電容量)やその劣化(静電容量の低下)の程度によって\n左右されるため、製品の使用期間が長くなりコンデンサのエイジングが進む と点灯開始から消灯までの時間間隔が短くなり、所望の時間間隔で消灯させ ることはできないこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、被告各製品の発光持続時間は、コンデンサの性能\nやその劣化の程度によって左右されることになるのであるから、被告各製品 は、発光持続時間を正確に調整することができるものとはいえない。 これに対し、原告の主張は、構成要件Fにいう「調整可能\」の文言解釈に つき、前記判断とは異なる文言解釈に立つものであり、上記文言解釈に係る 前記説示に照らし、いずれも採用の限りではない。
・・・
前記3のとおり、被告各製品は、本件発明の構成要件Fを充足しないから、\n本件発明の技術的範囲に属するとはいえず、その余の争点を判断するまでもな く、原告の請求は理由がないことになる。もっとも、本件の事案に鑑み、本件 の中核的争点の一つである争点2−1に限り、念のため、以下判断を示してお くこととする。
・・・
前記(1)の乙8公報の記載によれば、乙8発明は、外部電源が完全に不要な 自動車スカッフプレートに適用される発光モジュールを提供することを課題 とするものであり(【0004】)、この課題を解決するための発光モジュ ールは、発光素子及びリードスイッチが設けられた「ランプ板」、及び電線 を介してランプ板に接続される「電池」が、いずれも「導光板」に埋設され る構成を有し(【0005】、【0015】ないし【0017】)、この構\ 成により「導光板10の内部に発光素子20に必要な電力を供給することが できる電池40を設置するため、完全に外部電源が不要となる」(【001 9】)ことによって、上記の課題を解決するものと認められる。その他に、 乙8公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載されて\nいない。
そして、前記(1)及び前記(2)イのとおり、乙8発明の構成は、外部電源が完\n全に不要な発光モジュールである導光板10に、これに埋設されたランプ板 50、電池40等を密封するための収容溝カバー70を設け、スカッフプレ ート80の上面には凹部を設け、この凹部に発光モジュールである上記導光 板10を収容するものである。 そうすると、乙8発明においては、導光板10に係る上記構成(電池40\nを導光板10の内部に埋設して、導光板10の底面に電池40を密封する収 容溝カバー70を設け、この導光板10をスカッフプレート80の内部に収 容しているものをいう。)は、乙8発明の課題解決に直結した構成であるか\nら、乙8発明に接した当業者がこれを変更する動機付けを認めることはでき ない。
のみならず、乙8公報には、電池の交換についての記載はなく、乙8発明 に接した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点8 −1に係る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)\n導光板10に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設 け、当該電池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)当該収容孔を覆 うカバーを設け、当該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)\nスカッフプレート80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設 されているランプ板50等との電気接続を行うという、複数回の変更が必要 になり、しかも、上記の変更内容には、乙8発明の課題解決に直結した構成\nの変更も含まれていることが認められる。 これらの事情の下においては、乙8発明に接した当業者において上記のよ うに変更する動機付けはないといわざるを得ず、当業者が本件発明を容易に 想到し得たものと認めることはできない。
これに対し、被告は、乙10文献には、無線車両発光ペダルの下表面から\n電池を交換可能にするために背面に取り外し可能\な電池カバーを設けること が開示されており、乙10文献及び乙11文献によれば、電池を内蔵する機 器一般において、電池を交換可能にするために、取り外し可能\な方式で電池 の収容孔を覆うカバーを設けることは周知技術であるから、乙8発明に乙1 0文献の技術事項や周知技術を組み合わせることにより、乙8発明の収容溝 カバー70を取り外し可能とすることは、当業者にとって容易想到であると\n主張する。
しかしながら、乙8発明に接した当業者において、スカッフプレート80 には、底板が設けられるものと理解するのが相当であることは、前記(2)イに おいて説示したとおりある。そうすると、底板が設けられるため、収容溝カ バー70は、スカッフプレート80の下表面に対して露出していないのであ\nるから、被告の主張は、乙10発明や周知技術を組み合わせるための前提を 欠く。
のみならず、乙11公報によれば、表示部を有し電池を電源とする電子機\n器において、表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能\なカバ ーを設けることは技術常識であるといえるものの、当該技術常識を超えて、 乙8発明のように独立したモジュールが設けられ、底板(スカッフプレート 80)の凹部にモジュールを収容する電子機器において、底板の裏側から底 板に収容されているモジュール内部の電池を交換することまでが技術常識で あったものと認めるに足りない。 しかも、乙10文献については、乙8発明のスカッフプレート80に相当 する底板に相当する部材がないのであるから、下側から電池カバーを設ける という単純な技術常識によっては、乙8発明の電池の収容に係る構成と置換\nするなどして相違点8−1に係る構成に容易に想到することはできない。\nそうすると、被告の主張を考慮しても、乙8発明から出発して相違点8− 1の構成に至るための動機付けを認めることはできず、被告の主張は、前記\n判断を左右するものとはいえない。

◆判決本文

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令和5(ワ)70272  特許権侵害排除等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月23日  東京地方裁判所

特許権侵害で、均等主張をしましたが、本質的要件(第1要件)を満たさないとして非侵害と認定されました。

ア 本質的部分の認定について
第1要件にいう特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許 請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分であると解すべきであり、上記本質的部分は、特許請求の 範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効 果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に 見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定す\nることによって認定されるべきである。すなわち、特許発明の実質的価値 は、その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定めら れることからすれば、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細 書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり、 そして、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される 場合には、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化した ものとして認定され、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程 大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のも のとして認定されるものと解される。 ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されてい るところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、\n明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術 に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきで\nある。そのような場合には、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及 び明細書の記載のみから認定される場合に比べ、より特許請求の範囲の記 載に近接したものとなり、均等が認められる範囲がより狭いものとなると 解される。
・・・
ウ 本件発明の本質的部分
(ア) 本件発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の各記載によれば、本 件発明は、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間が かからない、親綱支柱取付治具を提供するという課題を解決することを 目的として(【0006】及び【0007】)、矩形状の板の端部で上下 方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部を含み(構成要\n件C)、かつ、矩形状の板の第1の方向端部より逆方向の端部までの長 さが、治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長い(構成要件E)\nという構成を採用したものであり、このような構\成を採用することによ り、U字状の折り曲げ部を幅の狭いフランジ部に係合した状態で、親綱 支柱の取付具を位置決めして固定でき、その結果、フランジ幅の狭い形 鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない、親綱支柱取付治具 を提供できるとの効果を奏する(【0013】及び【0014】)もので あると認められる。そして、上記の「U字状に折り曲げられた折り曲げ 部」は、これを幅の狭いフランジ部に係合した状態で親綱支柱の取付具 を位置決めして固定できることから、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱 支柱を設置するのに手間がかからないようにするという課題解決に寄与 する構成であるということができる。\n
他方、本件明細書には、乙17発明の存在を明示ないし示唆する記載 は存在しないが、前記イのとおり、本件出願までに公知となっていた乙 17発明は、命綱取付装置を梁に簡単に取り付けるために、本体下部の U字形フック部を梁の下部と垂直方向で係合させるとともに、略L字状 本体の横片先端を下方に折り返して形成させたコ字形フック部を梁の上 部と水平方向で係合させるという構成を採用しており、このうちコ字形\nフック部(乙17文献図面目録の【第3図】2b)は、命綱支持具を梁 の長手方向に沿った任意位置に配置して命綱を建物外周壁上部に沿った 任意位置へ簡単に取付けることができるという、構成要件Cの「U字状\nに折り曲げられた折り曲げ部」と同様の効果を奏するものと認められる。 そうすると、乙17発明は、本件発明との関係で従来技術に相当する ものであり、かつ、本件明細書に従来技術が解決できなかった課題とし て記載されている部分は、本件出願時の従来技術に照らして客観的に見 て不十分であったと認められるから、本件発明の従来技術に見られない\n特有の技術的思想を構成する特徴的部分の認定に当たっては、乙17発\n明の内容も参酌して認定されるべきである。
そして、上記のとおり、設置するのに手間がかからないようにすると の課題解決に寄与する構成要件Cの「U字状に折り曲げられた折り曲げ\n部」と同様の構成については、乙17発明が既に備えていたものである\nから、本件発明と従来技術である乙17発明との主な差異は、本件発明 では、折り曲げ部の存在する端部から逆方向の端部までの長さが治具を 取り付ける形鋼のフランジ幅より長いのに対し、乙17発明では、コ字 形フック部の存在する端部から逆方向の端部までの長さが同フック部と 係合させる梁の上部の幅(フランジ幅)と同一であるという点にすぎな い。
したがって、本件発明は、従来技術と比較してその貢献の程度が大き いとはいえないから、その特許請求の範囲の記載の一部について、これ を上位概念化したものとして認定することはできず、本件発明の本質的 部分は、特許請求の範囲に近接したものとなるというべきである。 (イ) 以上によれば、本件発明における従来技術に見られない特有の技術的 思想を構成する特徴的部分については、原告が主張するように「1)U字 状に折り曲げられた折り曲げ部を有し、2)その反対方向における長さを フランジ幅よりも長くしている」という構成であると認めることはでき\nず、矩形状の板の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられ た折り曲げ部を設けた上で、この折り曲げ部の存在する端部から矩形状 の板の逆方向の端部までの長さを治具が取付けられる形鋼のフランジ幅 よりも長くするという構成、すなわち、構\成要件C及びEにより近接し た構成であると認定されるべきである。\n
エ 被告製品の第1要件の充足性
前記2で説示したとおり、被告製品は構成要件C及びEをいずれも充足\nするとは認められず、本件発明の「治具」は、「上下方向に間隔を開けて U字状に折り曲げられた折り曲げ部」が「前記矩形状の板の前記第1の方 向の端部」と連続する(構成要件C)のに対し、被告製品は、本件発明の\n「折り曲げ部」に相当するフック部が、同「矩形状の板」に相当する底板 ではなく、側板の端部と連続しており、また、本件発明の「治具」は、 「前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、 前記治具が取付けられる形鋼のフランジ幅より長い」(構成要件E)のに\n対し、被告製品は、「矩形状の板」の「第1の方向端部より逆方向の端部 までの長さ」に相当する、形鋼に取り付けられた際に形鋼のフランジの二 辺と平行になる二辺に係る底板の端部間の長さが、形鋼のフランジの幅よ り長いとはいえない。
したがって、本件発明と被告製品とは本件発明の本質的部分において異 なっているというべきであり、両者の異なる部分が本件発明の本質的部分 ではないといえないから、均等の第1要件を満たすとは認められない。

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令和5(ワ)8403  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月22日  大阪地方裁判所

特許権侵害訴訟にて、均等侵害を主張しましたが、第2要件(置換可能性)、第3要件(置換容易性)が否定されました。\n

事案に鑑み、まず第2要件及び第3要件について検討する。
イ 第2要件について
前記(1)で判示したとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体においては、\n傾斜部5)が、「笠木下部材」内に配置されたものに当たり得るとしても、少なくと もそれ自体が通気性能を有する「換気部材」ではないという点で、本件特許の特許\n請求の範囲に記載された構成とは異なる。\n原告は、本件発明の作用効果は、笠木下部分への取り付けが容易で、外壁下地材 の上端部の外方側に対して第1垂直部を当接させることにより笠木下部材の位置決 めが容易になることにあり、「換気部材」を傾斜部5)へと置き換えても、被告製品 が本件発明と同一の目的を達成し同一の作用効果を奏することを妨げるものではな い旨主張する。
しかし、本件発明が解決しようとする課題は、迅速な設置が困難であることに限 られるものではなく(前記(1)ア(ア)c)、本件明細書の記載からすると、本件発明 の目的ないし作用効果は、雨水や虫等の浸(侵)入を防止し、通気機能及び防水機\n能の信頼性の高い笠木下換気構\造体を提供することにもあると認められる(前記 (1)ア(ア)b(a)〜(c))。そして、別紙「図面」記載1及び2の各図面のとおり、被 告製品を部材とする笠木下換気構造体は、開口6)及び傾斜部5)と第1水平部2)との 隙間から建物内に雨水や虫等が浸(侵)入し得る構造となっているから、構\成要件 Cにおける「換気部材」を傾斜部5)に置き換えた場合、迅速な設置を可能にし、換\n気量を確保するという本件発明の目的は達成し得るとしても、雨水や虫等の浸(侵) 入を防止し、通気機能及び防水機能\の信頼性の高い笠木下換気構造体を提供すると\nいう本件発明の目的を達成することができないし、本件発明と同一の作用効果を奏 するともいえない。したがって、均等侵害の第2要件を認めることはできない。
ウ 第3要件について
本件発明は、従来技術である蛇行経路タイプの換気部材を用いた場合の課題(迅 速な設置が困難で換気量も少ないこと、蛇行経路を介して雨水や虫等が浸(侵)入 するおそれがあること等)を解決する換気部材を採用したものといえるところ(前記(1)ア(ア)b(a)、(b))、「換気部材」を従来技術である蛇行経路タイプに近い傾 斜部5)に置き換えることについては阻害要因があるものと認められる。原告は、通 気性能と防水性能\を生じさせるために、笠木下部材内に浸入する雨水を遮断する遮 蔽板を笠木下部材により蛇行型の通気通路を構成することで同様の目的を達し得る\nことは広く知られており、当業者であれば、被告製品のように雨水を遮断する遮蔽 板と笠木下部材により蛇行型の通気通路を構成する方法を用いることは容易に想到\nし得る旨主張する。しかし、そもそも本件発明の「換気部材」を被告製品の「傾斜 部」に置き換えると、第2垂直部に形成される「複数の開口」(その上下方向の位 置関係に特段の限定はない。)の「傾斜部」より上方部分において、笠木下部材内 に直通経路の通気路が形成され、防水性能を保持できなくなる可能\性がある。その ため、防水性能を保持するには「複数の開口」と「傾斜部」の位置関係や高さに創\n意工夫を要することとなるから、当業者が、被告製品の製造等の時点において上記 置換えを容易に想到することができたものとは認められない。したがって、均等侵 害の第3要件を認めることはできない。
エ 以上のことからすると、被告製品に関して、本件発明に対する均等侵害(間 接侵害)の成立を認めることはできない。
(3) 小括
以上のとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体は、本件発明の技術的範\n囲に属しないから、被告製品に関する間接侵害は認められない。

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令和5(ワ)10237 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年11月14日  大阪地方裁判所

 均等主張についても、第1、第5要件を満たさないとして非侵害と認定されました。

前記2(2)ア認定のとおり、本件発明は、非力な者であっても、危険な野生動物が 生息している場所において、簡単かつ確実に屠殺できるようにすることを解決すべ き課題とし「(【0008】ないし「【0012】)、このような課題を解決するため、竿体を伸縮自在に構成することで、対象動物との距離を調整できるようにし、例え\nば、猛禽類に対しては距離を長く取ったり、安全性を確保できる場合には距離を短 く取って確実に電極を動物の体に接触させたりすることができるという効果が得ら れるというものである。
一方、証拠(甲2、乙18)によれば、本件特許の出願時点で、野生動物を殺処 分する手段として、麻酔ガス等を用いることや電気スタナーを用いることなどが知 られていたことが認められる。これらの手段は、動物を殺害することはできるが、 即効性に欠けたり、即効性があっても動物に近づく必要があることから危険を伴っ たりするものであった。 そうすると、本件発明は、従来技術である電流を用いた屠殺手段を踏まえ、簡単 かつ安全確実な屠殺手段を提供するものであり、本件発明の構成中の本質的部分は、\nこのような屠殺手段を提供する竿体の伸縮構造(構\成要件Aの「伸縮自在の所定長 さの竿体」)、バッテリ部、電源昇圧部及びインバーター部の背負い構造(構\成要 件F)、双方の手でそれぞれ電源スイッチと竿体を把持できる通電コードの並列構\n造(構成要件G)に認められるものというべきである。\n
イ 前記2で検討したとおり、被告製品は、少なくとも、構成要件Aの「伸縮自\n在の所定長さの竿体」の部分、構成要件F及びGを充足しないのであるから、本件\n発明の構成中、被告製品と異なる部分が本件発明の本質的部分ではないとの均等侵\n害の第1要件は認められない。
(2) 第5要件について
ア 証拠(乙8ないし17)によれば、本件特許の出願経緯について、以下の事 実が認められる。
・・・
イ 以上の審査経緯に鑑みれば、原告は、当初、竿体の伸縮構造については固定\n長の竿体も含むものとし、バッテリ部、電源昇圧部及びインバーター部の背負い状 態の構成については携行可能\であるとするのみで背負い構造に限られないものと\nし、双方の手でそれぞれ電源スイッチと竿体を把持できる並列構造については双方\nの手でそれぞれ把持することが明示的に記載されていないものとし、土中の接地電 極と同電位とする回路構造については土中を閉回路に含まない回路構\造も含むもの として、特許請求の範囲を記載していたが、進歩性欠如及び明確性要件違反を指摘 されたことから、拒絶査定を回避するため、現在の特許請求の範囲の請求項1の記 載のとおりに限定したのであり、限定により除外された部分は、いずれも本件特許 の特許請求の範囲から意識的に除外したものであることが認められる。 そうすると、被告製品と本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載との相違点 は、いずれも原告が意識的に除外した部分に該当するから、均等侵害に関するその 余の原告の主張を前提としても、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特 許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときと の第5要件を満たさないというべきである。

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令和6(ネ)10023 損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年11月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

控訴審も、1審と同様に技術的範囲に属しないと判断しました。

(2) 当審における控訴人の補充主張について

ア 控訴人は、被告方法において、一つの辺でも最大粒径より小さなバリがあれ ば、磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなっ ていることは原理・論理的に明らかであると主張する。 しかしながら、モールド樹脂内の磁性体粉末の具体的な粒子径の形状・分布、樹 脂の性質、隙間の形状・構造、加えられる圧力等により、隙間を通過する磁性体の\n量は変化するものと推測されるところ、被告方法においては、様々な粒子径、形状 の磁性体が使用されている(乙3,4)から、モールド樹脂内の磁性体粉末の具体 的な粒子径の形状・分布、樹脂の性質、隙間の形状・構造等がどのようなものであ\nる場合に隙間を通過する磁性体がどの程度あるのかについて、必ずしも一義的に明 らかではないといわざるを得ない。したがって、控訴人が主張する、磁性体粉末の 最大粒子径よりも小さなバリがあることをもって、当然に磁性体粉末容積比(バリ) の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなっているものとはいえない。
また、仮に被告方法における磁性体粉末の粒子径分布とバリの大きさとの関係性 から一定の事実を推認することができる余地があり、例えば、磁性体モールド樹脂 内の全磁性体粒子のうちの最小粒子径が隙間よりも大きい場合には、磁性体は隙間 を通過することができないため、樹脂のみが隙間から流出することが推測される一 方、逆に、全磁性体の粒子径が隙間よりも十分に小さい場合には、樹脂と共に磁性\n体も隙間を通過することから磁性体粉末容積比(コア)及び磁性体粉末容積比(バ リ)に変化がないものと推測される余地があるといえるとしても、被告方法におい て磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法で使用されている●●及びパンチで形 成される隙間よりも大きいことを示すなど、被告方法における粒子径分布とバリの 大きさとの関係性を示す証拠はないから、控訴人の上記主張は裏付けを欠き、採用 することができない。
イ 控訴人は、原判決は、控訴人の主張を誤解し、かつ、控訴人提出の証拠評価 を誤ったものと考えられると主張し、樹脂の流出が止まる原因については、パンチ による加圧と樹脂からの抗力(硬化や樹脂と隙間との摩擦等による抗力)が均衡す ることと主張しており、原判決のように「被告方法の加圧・加熱過程で加圧を続け ても樹脂の流出が止まるのは、磁性体粉末が隙間を埋めることが理由であるから、 被告方法においては、樹脂が隙間から優先的に排出されるといった事象が生じたこ とが示されている」という主張はしていない旨を主張する。 しかしながら、樹脂の流出が控訴人の主張する機序によるものであるとしても、 前記アのとおり、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容 積比(コア)よりも小さくなっていることを認めることはできず、上記(1)の判断を 左右するものとはいえない。 したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
ウ 控訴人は、甲27の実験結果によると、被控訴人主張の製造方法は、バリに おける磁性体粉末の容積比がキャビティ内の磁性体粉末の容積比より低くなること が明らかとなっているから、原判決の判断は妥当ではない旨主張する。 この点、甲27の第4(10頁〜)に記載されている実験方法で利用・設定され ている磁性体粉末の組成、樹脂の組成、磁性体粉末と樹脂の配合割合、予備成形し\nたコアの製造方法、加圧温度及び溶融粘度という条件が、実際の被告方法で用いら れているものと同一であると認めるに足りる証拠はなく、それらが実際の被告方法 と同じ条件であると客観的に裏付ける証拠もない。

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令和5(ネ)10042    特許権  民事訴訟 令和6年12月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 自動車の自動ブレーキの特許についてのホンダvsマツダの特許権侵害事件です。無効主張がなされ、1審と同じく権利行使不能と判断されました。\n

ア 乙9発明と乙10発明は、ともに制動保持装置(乙10においては坂道 発進補助装置)を備え、それらはブレーキがかかった状態を保持する機 能を有するものであることに照らすと、乙9発明及び乙10発明は、そ\nのような機能を用いる車両である点で共通する技術分野に属するといえ\nる。また、乙10発明と同様に、乙9発明においても、制動保持装置の 故障発生が想定され、それに対処する課題が存在することは当業者には 明らかである。
そうすると、乙9発明に触れた当業者は、上記の制動保持装置の故障 発生という課題を認識し、その課題を解決する点において、乙10発明 を乙9発明に適用する動機があるということができる。
イ これに対し、控訴人は、乙9発明は、制動保持装置26が故障している か否かを検出する技術思想を有しておらず、故障を検知する乙10発明 を適用する動機付けに欠ける旨主張する。 しかし、上記2(1)エのとおり、乙9発明は、エンジンおよび車両各部 の状態を検出するセンサ群を備えるものであり、車速零信号が出力され ているときに制動保持信号を出力し、エンジン始動後に制動解除信号を 出力する制動保持解除信号発生手段と、制動保持信号に応動して制動装 置を作動状態に保持し、制動解除信号に応動して作動状態にある制動装 置の作動を解除する制動保持手段とを具備している。そして、乙9発明 において制動保持装置の異常が検知された場合には、上記の乙9発明に おいて求められている状態、すなわち、制動保持装置の作動によりブ レーキ液圧が作用し、もってブレーキがかかった状態を保持できなくな ることは明らかである。そうすると、乙9発明に触れた当業者は、上記 の制動保持装置の故障発生という課題を認識し、その課題を解決するた め、乙10発明における制動保持装置の異常を検出する信号を付加する 動機付けがあるといえる。
ウ 以上によれば、乙9発明に乙10発明の制動保持装置の故障を検知して 運転手へ警報を発する技術を適用することは当業者が容易に想到し得る といえる。 そして、上記2(1)イ〜エのとおり、乙9発明が、エンジン自動停止に より発生する問題を、センサ群からの検出信号に基づいて制動保持装置 を作動させることにより解消する技術思想を有することに照らせば、制 動保持装置の故障を検知し、制動保持装置を作動させることができない 故障が生じた場合には、その検知結果をエンジン自動停止条件の一つと して用い、相違点1に係る「前記故障検出装置によって前記ブレーキ液 圧保持装置の故障を検出した時に前記原動機停止装置の作動を禁止する」 構成とすることは、当業者が容易になし得た事項といえる。\nよって、乙9発明に乙10発明を適用した際に、本件発明の相違点1 に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。\n

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和3年(ワ)28206

対応する審決取消訴訟はこちらです。

◆令和6(行ケ)10018

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令和5(ワ)70425 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年12月12日  東京地方裁判所

 CS関連特許について、被告システムは決済機構は外部のものを採用しており、構\成要件を充足していない&進歩性無しと判断されました。

前記前提事実に加え、証拠(甲5ないし10、14)及び弁論の全趣旨に よれば、被告プログラムは、GoPayというタクシー料金の決済機能を備\nえており、GoPayは、d払いと連携することによって初めてd払いを利 用することができるようになること、他方、d払いは、訴外ドコモが提供す る決済機能であり、タクシーを利用した際にその利用したタクシー料金に限\nり利用することができるにとどまり、これ以外の場面では決済手段として使 用することができないこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、被告プログラムにおけるd払いは、タクシー料金 の個別の支払ごとにその都度利用されるにとどまるものであるから、被告プ ログラム自体がd払いという決済機能そのものを提供するものとはいえない。\nしたがって、被告プログラムは、本件発明の構成要件Bにいう「前記アプ\nリケーションで提供されるサービス」を充足するものとはいえない。
(3) 原告の主張に対する判断
原告は、本件発明の特許請求の範囲の文言上「提供するサービス」という 記載にはなっていないから、「サービス」の提供主体と「アプリケーション」 の提供主体とが法的に同一主体でなければならないという限定はなく、本件 明細書等【0030】の記載によれば、各サービスが様々な主体によって提 供されるものであることは、当業者のみならず一般人にとっても技術常識に 属する事項であるから、アプリケーションと各サービスが異なる法的主体に よって提供される場合も当然に含まれるものである旨主張する。 しかしながら、本件発明の構成要件は、「アプリケーション」と「サービ\nス」の内容及び関係を一義的に規定するものではないから、本件明細書等を 参酌しない限り、その関係等が明らかにならないことは、上記において説示 したとおりである。そして、本件明細書等のうち、「アプリケーション」と 「サービス」の内容及び関係につき記載した部分(【0012】、【001 4】、【0030】)を参酌すれば、「アプリケーション」は、総合サービ スを提供するものであり、構成要件Bにいう「前記アプリケーションで提供\nされるサービス」は、アプリケーション自体がクレジット機能、クーポン機\n能その他の機能\そのものを提供するものに限られると解するのが相当である から、タクシー料金の個別の支払ごとにその都度利用されるd払いを含むも のではないと解するのが相当である。 したがって、サービスの提供主体の同一性についていう原告の上記主張は、 充足性の判断を左右するものとはいえず、採用することができない。
・・・
4 争点2−1−3(乙1−3発明に基づく新規性、進歩性の有無)について 前記2及び3のとおり、被告プログラムは、本件発明の構成要件を充足しな\nいから、本件発明の技術的範囲に属するものとはいえず、その余の争点を判断 するまでもなく、原告の請求は理由がないことになる。もっとも、本件の事案 に鑑み、本件の中核的争点の一つである争点2−1−3に限り、念のため、以 下簡潔に判断を示しておくこととする。
・・・
前記(1)に加え、証拠(乙1、5)及び弁論の全趣旨によれば、乙1−3発 明におけるクーポンを選択・設定するという画面の表示について、「コマン\nドが処理されることで生成される」旨の開示はないものの、乙1−3発明に よれば、かざすクーポンで選択・設定された「クーポン」は、携帯電話の画 面に表示されるのであるから、当該表\示データは、アプリの利用者がクーポ ンを選択する操作に基づき生成されていると認めるのが相当である。 そうすると、乙1−3発明に接した当業者は、乙1−3発明に「コマンド が処理されることで生成される」という記載がないとしても、上記操作をコ マンドに置き換えて上記画面を表示させる構\成を容易に想到することができ るといえる。
したがって、乙1−3発明に接した当業者が乙1−3発明から出発して相 違点1−3−1の構成に至ることは、容易であるといえる。\n

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令和6(ネ)10033  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月29日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

控訴審で、均等主張も追加しましたが、1審と同じく、技術的範囲に属しないと判断されました。均等侵害については第1要件、第2要件具備しないと判断されました。 これを本件についてみるに、本件発明において、従来技術の庇は、前記 2(2)のとおり、樋板9の幅wの分だけ庇板2の前方へ余分に突き出るため 庇の全長が必要以上に長くなる、樋板9が樋溝95a、95bを備えてい るので構造が複雑化して庇がコスト高となるとの課題のほか、樋溝95a、\n95bは上面が開放されているため塵芥が堆積しやすく、頻繁な保守、点 検が必要となること、樋溝95bに塵芥が堆積して雨水の通路が塞がれる と、突出部93と庇板2の下面との隙間98より雨水が外部へ浸出し、決 められた箇所以外の随所から雨水が漏れ出て流れ落ちるという課題があ り(段落【0006】)、本件発明は上記課題を発明が解決しようとする課 題とした。そして、本件発明は、この課題を解決するための手段として、 本件発明の構成要件A3ないしC3で特定される「前縁板」が、「庇板の開\n放された前端面を塞ぐように全幅にわたって取り付けられ」(構成要件A\n3)、「庇板の開放された前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド 面となっている縦板部」(構成要件B2)を備えることで、庇板の前方への\n突出部分をなくすことができ、庇の全長が短くなり小型化が図られ、構造\nの複雑化を招かないものとした(段落【0014】)。さらに、前縁板の一 部である縦板部について、上記構成要件B2のほか、「縦板部の下部内面に\nは、全幅にわたる凹部が形成され」(構成要件C1)、「凹部は開口部分の上\n部が庇板の中空部と連通するように庇板の開放された前端面と対向し」 (構成要件C2)、「開口部分の下部が外部と連通するように庇板の下方へ\n突出して」(構成要件C3)いることで、縦板部の凹部が縦板部の内面の側\nに開口することとなり、塵芥が堆積するおそれがなく、仮に凹部に塵芥が 付着しても雨水により外部へ洗い流される構造が実現されるものであっ\nて(段落【0014】)、このことは当業者であれば容易に理解し得るとい える。
以上によれば、本件発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見 られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、従来技術の上記課題\nを解決するために、本件発明の構成要件A3ないしC3で特定される前縁\n板を備え、かつ、前縁板の一部である縦板部が構成要件B2及びC1ない\nしC3の構成を備えていることにあると認められるから、構\成要件B2は本件発明の本質的部分であると認められる。 そして、被控訴人製品が本件発明の構成要件B2を充足しないことは、\n補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第4の1(2)の説示及び前記2 のとおりであるところ、この相違点は本件発明の本質的部分であることに なる。
したがって、被控訴人製品は、本件発明の本質的部分を備えておらず、 均等の第1要件を満たさない。 控訴人は、庇板の内外の雨水をともに縦板部の下端まで導いて落下させ る構成が本件発明の本質的部分であり、構\成要件B2の被控訴人製品と異 なる部分は本件発明に特有の作用効果を生じさせるための部分でなく、本 件発明の本質的部分ではないと主張するが、前記説示に照らし採用するこ とができない。

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令和6(ネ)10033  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月29日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

均等主張も追加しましたが、1審と同じく、技術的範囲に属しないと判断されました。

これを本件についてみるに、本件発明において、従来技術の庇は、前記 2(2)のとおり、樋板9の幅wの分だけ庇板2の前方へ余分に突き出るため 庇の全長が必要以上に長くなる、樋板9が樋溝95a、95bを備えてい るので構造が複雑化して庇がコスト高となるとの課題のほか、樋溝95a、\n95bは上面が開放されているため塵芥が堆積しやすく、頻繁な保守、点 検が必要となること、樋溝95bに塵芥が堆積して雨水の通路が塞がれる と、突出部93と庇板2の下面との隙間98より雨水が外部へ浸出し、決 められた箇所以外の随所から雨水が漏れ出て流れ落ちるという課題があ り(段落【0006】)、本件発明は上記課題を発明が解決しようとする課 題とした。そして、本件発明は、この課題を解決するための手段として、 本件発明の構成要件A3ないしC3で特定される「前縁板」が、「庇板の開\n放された前端面を塞ぐように全幅にわたって取り付けられ」(構成要件A\n3)、「庇板の開放された前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド 面となっている縦板部」(構成要件B2)を備えることで、庇板の前方への\n突出部分をなくすことができ、庇の全長が短くなり小型化が図られ、構造\nの複雑化を招かないものとした(段落【0014】)。さらに、前縁板の一 部である縦板部について、上記構成要件B2のほか、「縦板部の下部内面に\nは、全幅にわたる凹部が形成され」(構成要件C1)、「凹部は開口部分の上\n部が庇板の中空部と連通するように庇板の開放された前端面と対向し」 (構成要件C2)、「開口部分の下部が外部と連通するように庇板の下方へ\n突出して」(構成要件C3)いることで、縦板部の凹部が縦板部の内面の側\nに開口することとなり、塵芥が堆積するおそれがなく、仮に凹部に塵芥が 付着しても雨水により外部へ洗い流される構造が実現されるものであっ\nて(段落【0014】)、このことは当業者であれば容易に理解し得るとい える。
以上によれば、本件発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見 られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、従来技術の上記課題\nを解決するために、本件発明の構成要件A3ないしC3で特定される前縁\n板を備え、かつ、前縁板の一部である縦板部が構成要件B2及びC1ない\nしC3の構成を備えていることにあると認められるから、構\成要件B2は本件発明の本質的部分であると認められる。 そして、被控訴人製品が本件発明の構成要件B2を充足しないことは、\n補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第4の1(2)の説示及び前記2 のとおりであるところ、この相違点は本件発明の本質的部分であることに なる。
したがって、被控訴人製品は、本件発明の本質的部分を備えておらず、 均等の第1要件を満たさない。 控訴人は、庇板の内外の雨水をともに縦板部の下端まで導いて落下させ る構成が本件発明の本質的部分であり、構\成要件B2の被控訴人製品と異 なる部分は本件発明に特有の作用効果を生じさせるための部分でなく、本 件発明の本質的部分ではないと主張するが、前記説示に照らし採用するこ とができない。

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令和5(ワ)70393  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年9月26日  東京地方裁判所

 技術的範囲に属しない、均等侵害も第2要件を満たさないと判断されました。

原告は、上記認定に係る本件明細書【0050】につき、「一般的に用 いられる円管又は角筒管の支柱に比べ、必要に応じて、短手方向の幅を薄 くすることができる」との一文は、「支柱」を主語とする記載であるから、 本件各発明は、短手方向の幅を薄くする必要がない場合には、円管又は角 筒管の支柱を排除するものではなく、「回動板状部材」には、角筒管も含 まれる旨主張する。
そこで検討するに、本件明細書【0050】には、「以上説明した仮設 防護柵1の効果を説明する。回動板4は板であり、短手方向に厚さを有し、 回動板4が定着板3,3の間に配置され、2つの回動軸により回動可能な\n構成であるので、ガードレール6と回動板4を倒した状態で、基礎架台2\nの上方に形成されたウェブ部22の短手方向の幅に収容することができ る。ガードレール6と回動板4を起立した状態で、ボルト、ナットにより、 定着板3により回動板4を固定できる。一般的に用いられる円管又は角筒 管の支柱に比べ、必要に応じて、短手方向の幅を薄くすることができる。 仮設防護柵1を小型化、軽量化、コンパクト化を達成でき、設置・撤去作 業の効率化を図ることができる。道路路肩、歩車道境界のみならず、上り 車線・下り車線を分離するためにも使用することができる。」と記載され ている。
上記記載によれば、「一般的に用いられる円管又は角筒管の支柱に比べ、 必要に応じて、短手方向の幅を薄くすることができる。」との一文は、板 である「回動板4」について説明する文脈に続くものであり、その直後に、 「仮設防護柵1を小型化、軽量化、コンパクト化を達成でき、設置・撤去 作業の効率化を図ることができる。」という本件各発明の効果が記載され ていることを踏まえても、上記一文の主語は、「回動板4」であると解するのが相当である。 仮に、原告の主張のように、「(円管又は角筒管を含む)支柱」を主語 にした場合には、本件各発明の効果を奏し得ない構成をも含むことになる\nから、本件明細書【0050】の効果に係る上記記載に矛盾する上、本件 各発明の課題を解決できない構成を含むことになるため、本件各発明の課\n題解決手段に照らし、相当であるとはいえない。そうすると、原告の主張 は、本件各発明の課題解決手段を正解するものといえない。
原告は、本件明細書【0032】に「回動板4の形状は矩形に限定され ず、楕円、小判等の縦長形状等、適宜の形状を取り得る。」との記載があ るほか、【0060】に「回動板4は中実板に限らず、中空板等、板から 構成される部材であれば、他の形態でもよい。」との記載があることから\nすると、中空の四角形に構成された角筒状の回動部材107も、上記「回\n動板状部材」に含まれる旨主張する。
しかしながら、原告引用に係る本件明細書【0032】には、かえって、 「回動板4は正面形状が矩形状で所定の厚さの存する薄板であり」と記載されていることからすると、上記明細書の記載は、「薄板」とはいえない 角筒状の回動部材107を含む趣旨ではないことは、明らかであるから、 原告主張は、その前提を欠く。また、【0060】についても、「中実板 に限らず、中空板等、板から構成される部材」という記載であるから、文\n字どおり、「中実板」、「中空板」その他の「板」の形状からなる部材を 意味するものと解するのが相当であり、前記認定に係る課題解決手段に照 らしても、上記記載は、「板」とはいえない角筒管を含む趣旨ではないこ とは、明らかである。そうすると、原告の主張は、本件各発明の課題解決 手段を正解するものといえない。
その他に、原告は、技術説明会においても、本件各発明の課題は、基礎 架台の短手方向の厚みを薄くするというものではなく、基礎架台に起伏す る部材が基礎架台に収納できるようにして設置・撤去の作業効率を上げる ものである旨主張するものの、本件各発明の課題は、本件明細書【000 7】等の記載を参酌すれば、文字どおり、仮設用防護柵の起伏する部材の 幅を小さくすることであって、基礎架台の短手方向の厚みを薄くすること にある。そうすると、その他の原告の主張を含め、原告の主張は、本件各発明の課題解決手段を正解するものといえない。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
ウ 以上によれば、被告製品は、本件各発明にいう「回動板状部材」(構成\n要件1Dないし1G及び2Dないし2H)を充足するものとはいえない。
(2) 争点1−2(均等侵害の成否)について
原告は、仮に被告製品の角筒状の回動部材107が、本件各発明の「回動板 状部材」を充足しないとしても、被告製品の角筒状の回動部材107は、本件 各発明の「回動板状部材」と均等なものとして、その技術的範囲に属すると主 張する。
しかしながら、本件各発明の課題解決手段は、回動部材を板状にすることに よって、基礎架台(H形鋼)の短手方向の厚みを薄くするものであることは、 上記において繰り返し説示したとおりである。そうすると、本件各発明の「回 動板状部材」は、本件各発明の課題解決手段そのものであるから、本件各発明 の本質的な部分ではないということはできず、また、これを、被告製品の角筒 状の回動部材107に置き換えると、本件各発明の課題を解決することはでき ず、本件各発明と同一の作用効果を奏するものとはいえないことは、前記説示 に照らし、明らかである。 そうすると、被告製品は、本件各発明の特許請求の範囲に記載された構成と\n均等なものとはいえない。

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令和4(ワ)11025等  特許権侵害差止等請求本訴事件、不当利得返還請求反訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月21日  大阪地方裁判所

 特許権侵害について、構成要件を充足しない、均等についても第1、第2要件を満たさないとして、非侵害認定されました。

上記本件明細書の記載によると、本件発明は、大きなダニ捕獲能力を発揮\nすることを目的として、その手段は、ダニ誘引物質を含浸させた織物シート からダニ誘引物質を拡散させることで広い範囲のダニを誘引した上で、マッ トの内部にダニ捕獲用の粘着テープと、これに対して千鳥状に被着させたダ ニ用食餌を入れた多孔質通気性袋を配することで、ダニ誘引物質で誘引され たダニを、マットの表裏両面からさらに内部に侵入させ、粘着テープに触れ\nさせ、そこで捕捉するようにするというものである。 そして、ダニを誘引させる物質として、「香料」を織物シートに含侵させた 上、「食餌」入りの多孔質通気性袋を配置させる位置を両面粘着テープの表\n裏両面に配置させることにより、多孔質通気性カバーの内側に誘い込み、混 ぜ物のない粘着層に触れさせて補足させる構成をとるものであるから、本件\n発明において「多孔質通気性袋」は、食餌が同位置にとどまり、粘着層の粘着 力を低減させない機能を備えるべきことが想定されているといえる。加えて、\n多孔質通気性袋の構造上、一袋でこれらが実現でき、構\成材料の数も減らす ことができるようになっている。
以上を踏まえると、構成要件A−3にいう「多孔質通気性袋」とは、辞書\n的にも、本件明細書の記載からも、少なくとも内包物を内部で保持し、拡散 を防止することができる構造を有することが必要であると解することが相当\nである。一方、販売被告製品では、ダニ誘引物質が2枚の不織布シートやガ ーゼ等で重ねて挟み込まれているのみであり、その周囲からダニ誘引物質が 零れ落ちるようなものであるから、誘引物質を内部で保持することができる 構造であるとは認められない。\n
この点、原告は、本件発明における「袋」の意義について、ダニ食餌を入れ ることができ、かつ、一つの袋のみで粘着テープの表裏両面に配置すること\nができればよく、口を閉塞している必要はないから、被告製品も、多孔質通 気性袋を有すると主張するが、上記説示に照らし、採用できない。
(5) よって、販売被告製品は、構成要件A−3を充足せず、同構\成要件を充足 することを前提とする構成要件C、D、F及びGも充足しない。\n
3 争点A3(均等侵害が成立するか)について
上記2のとおり、本件発明は、ダニ食餌を零れ落ちさせることなく保持する ことができる「多孔質通気性袋」に収納することで、粘着テープの高い粘着力 を実現するとともに、構成材料の数を減らすことを実現しており、そのために\n袋構造を有することが本質的要素となっているものと認められる。\nそうすると、多孔質通気性袋に代わり、挟み込んだ物が零れ落ち得る2枚の 不織布やガーゼでダニ誘引物質を挟み込む構造を有している販売被告製品は、\n本件発明の非本質的部分で相違点があるに過ぎないとはいえないし、これらを 置換したときの作用効果が同一であるともいえない。
よって、第1要件(非本質的部分)及び第2要件(置換可能性)がいずれも\n認められないことから、均等侵害は成立しない。
4 小括(特許権侵害について)
(1) 以上の次第であり、被告製品は、本件特許の技術的範囲に属しないので、 原告の本件特許権侵害に関する主張(争点A1ないしA6)は、その余の争 点について判断するまでもなく理由がない。
(2) なお、被告は、原告の均等侵害の主張について、時機に後れた攻撃防御方 法として却下することを求めているが、その審理のために訴訟が遅延するも のとは認められないから、採用しない。

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令和5(ヨ)30402  特許権に基づく差止及び廃棄仮処分命令申立事件  特許権  民事仮処分 令和6年9月20日  東京地方裁判所

特許権に基づく差止等についての仮処分命令がなされました。実施可能要件違反の無効主張は認められませんでした。なお、仮処分の申\し立てではなく、別途本訴があり、そちらで審理されています。被告は裁判所の心証開示後の和解勧告には応答しなかったとのことです。

(1) 疎明資料(疎甲7)によれば、本件債務者製品は、「前記落とし口部の上方 に対向して配置され、水平方向に延びるフランジ状の平板部と、この平板部の 内周側から下方に向かって縮径するように延びるテーパー部と、このテーパー 部の下端から下方に向かって延びる円筒部とを有する落とし口対向部」を備え ていることが認められ、これらの構成を有すること自体は、当事者間に争いは\nない。
(2) そして、本件発明2−2の構成要件2−2−Dの「蓋部材」は、特許請求の\n範囲の記載上、「落し口部の上方に配置される」ものとされており、その余の 限定はされていない。また、本件明細書2の記載によれば、「鉛直方向の上方 から見て落し口部の開口を塞ぐように配置される形状であれば良い。」(段落 【0081】)との記載があるものの、第1実施例における【表1】のケース\n1及び【表2】のケース11によれば、落とし口部の開口を完全に塞ぐように\n配置されていない形状についても、これを完全に塞ぐように配置された形状と 同様に、サイフォン現象が生じていることが確認されている(段落【0068】)。 上記構成要件及び本件明細書2の各記載によれば、本件構\成要件にいう「蓋部材」は、落とし口部の開口を完全に塞ぐように配置されていない形状も含む ものであり、落とし口部の上方に配置されれば足りるというべきである。 これを本件債務者製品についてみると、上記認定事実によれば、本件債務者 製品の落とし口対向部は、落とし口部の開口を完全に塞ぐように配置されてい ないものの、落とし口部の上方に配置されているものと認められる。そうする と、本件債務者製品の落とし口対向部は、構成要件2−2−Dの「蓋部材」を\n充足するものと認めるのが相当である。
(3) これに対し、債務者らは、「蓋部材」とはその直径が落とし口部外径の直径 より大きく、落とし口部の開口を覆い塞ぐものに限られると主張するものの、 上記において説示したところを踏まえると、採用することができない。
また、債務者らは、「蓋部材」は単なる開口よりも優れたサイフォン効能を\n発揮させる部材でなければならず、本件債務者製品はこれに該当しないと主張 する。しかしながら、本件発明2−2の特許請求の範囲及び本件明細書2の各 記載には、債務者ら主張に係る限定がされているものと認めることはできず、 債務者らの主張は、採用の限りではない。 さらに、債務者らは、本件債務者製品のテーパー部は「誘導ガイド」(本件 特許2の請求項5)に当たるから、「蓋部材」には該当しないと主張する。し かしながら、上記にいう「誘導ガイド」は、本件発明2−2ではなく、本件特 許2の請求項5で特定される構成にすぎず、仮に、同請求項5の記載をみても\n「前記蓋部材の下面には、誘導ガイドが形成され」と記載されるにとどまるこ とからすると(疎甲4)、「誘導ガイド」は、「蓋部材」の一部として構成さ\nれ得るものと認めるのが相当である。そうすると、債務者らの主張は、「誘導 ガイド」の構成を正解するものとはいえない。\n したがって、債務者らの主張は、いずれも採用することができない。 その他に、債務者らの主張を改めて検討しても、債務者らの主張は、本件発 明2−2の構成要件及び本件明細書2の各記載に基づかないものに帰し、いず\nれも採用の限りではない。
(4) 以上によれば、本件債務者製品は、構成要件2−2−Dを充足するものと認めるのが相当である。\n
3 争点2(本件債務者製品の縦リブの「前記鍔部の上面と前記蓋部材の下面の外 周部とを連結する」該当性(構成要件2−2−E))\n
(1) 疎明資料(疎甲7、14)によれば、本件債務者製品の整流板(債権者が同 製品における「縦リブ」と呼称する部分をいう。以下同じ。)は、落とし口対 向部のうち平板部の下面に接続しており、当該下面の接続部分は、上記落とし 口対向部の下面の外周部に位置するものと認められる。そして、疎明資料(疎 甲7、14)によれば、整流板は、同製品の鍔部の上面と接続しているものと 認められる。
そうすると、本件債務者製品の構成のうち、構\成要件2−2−Eの「縦リブ」 に相当する整流板は、「鍔部の上面」と、「蓋部材」に相当する落とし口対向部の「下面の外周部」とを連結していることが認められる。 したがって、本件債務者製品は、構成要件2−2−Eを充足するものと認め\nるのが相当である。
(2) これに対し、債務者らは、本件債務者製品の整流板が3つの部材(分割板、 流入促進部、渦流防止部材)に分かれることを前提として、分割板のうち鍔部 上にある部分は落とし口対向部と連結しておらず、渦流防止部材は鍔部に連結 していないから、いずれも構成要件2−2−Eを充足しない旨主張する。しか\nしながら、本件発明2−2の構成要件及び本件明細書2の各記載を踏まえても、\n債務者ら主張に係る「分割板」、「流入促進部」、「渦流防止部材」という概 念が使用されていないことからすると、少なくとも構成要件充足性を検討する\nに当たっては、本件債務者製品の整流板を上記にいう3つの概念で区分するの は相当ではない。のみならず、債務者パナソニックの販促資料(疎甲14)に\nよっても、債務者パナソニックは、本件債務者製品の整流板を上記3つの概念\nで区別していないのであるから、取引の実情等を踏まえても、債務者らの主張 は、独自の見解というほかない。
また、債務者らは、「縦リブ」は「鍔部上にのみ」配置されるものであると 解した上で、本件債務者製品の整流板は、落とし口部の開口に重なり「鍔部上 のみ」に配置されていないため、「縦リブ」に該当しない旨主張する。しかし ながら、特許請求の範囲の記載上、債務者主張に係る限定はされていない。そ して、本件明細書2(段落【0034】)には「上面視で落し口部20に重な らない位置で周方向に間隔をあけて配置された複数の縦リブ23」という記載 が認められるものの、他方、本件明細書2(段落【0083】)には「縦リブ 23の形状、数量についても本実施の形態に限定されることはなく」と記載さ れていることからすれば、本件発明2の上記認定に係る技術的特徴に鑑みても、 「縦リブ」は、蓋部材を下方から支持し、雨水を整流する機能を有しているも\nのであれば足り、必ずしも鍔部の真上にある構成に限定されるものとはいえな\nい。そうすると、債務者らの主張は、前記判断を左右するものとはいえない。

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令和5(ワ)70178  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年9月26日  東京地方裁判所

 医薬品の製造方法特許について、「品温が40゜C)未満」という構成要件を備えていないとして、非侵害と判断されました。\n

(1) 「乾燥して造粒物を得る工程」の終期
本件の争点整理の経過に鑑み、主たる争点である争点1−2のうち、中核 的争点である「乾燥して造粒物を得る工程」の終期がいつであるかという点 につき、まず判断する。この点につき、原告は、「乾燥して造粒物を得る工程」 の終期とは、「打錠用粉体に適した造粒物を得るために必要な状態まで溶媒が 除去された時点」(原告はこの時点までの乾燥を「必要な乾燥」といい、これ 以降の乾燥を「余分な乾燥」として区分している。)である旨主張する(第4 回弁論準備手続(技術説明会)調書参照)。
そこで検討するに、本件明細書に係る前記認定事実によれば、本件明細書 の記載(【0010】、【0033】等)を踏まえると、本件発明の課題は、酢 酸亜鉛水和物中の結晶水が消失して無水物に転移することを防ぐことにあり、 その課題の解決手段としては、乾燥工程における品温を40゜C)未満とするも のであると認めるのが相当である。そして、「乾燥」とは、一般的に熱を与え るなどして不要の液体分を取り除くことを意味するものであり(甲9、10)、 本件明細書においても、上記と異なる意味で使用されているところはない。 そうすると、「乾燥して造粒物を得る工程」とは、乾燥させる全ての工程を 意味するものであり、その終期とは、文字どおり、全ての乾燥が終了した時 点であると解するのが相当である。 これを原告の上記主張についてみると、原告は、乾燥には「必要な乾燥」 と「余分な乾燥」に区分され、「余分な乾燥」では40゜C)を超えることが許容 される趣旨をいうものである。
しかしながら、本件発明の構成要件及び本件明細書を精査しても、原告が\n自認するように、「必要な乾燥」と「余分な乾燥」に区分されるという原告の 解釈を裏付ける記載や示唆は一切なく、上記の間にある「打錠用粉体に適し た造粒物を得るために必要な状態まで溶媒が除去された時点」という原告主 張に係る概念も、本件発明の構成要件及び本件明細書に一切記載されておら\nず、それ自体明確性を欠くことに鑑みても、原告の主張は、その根拠を欠く ものというほかない。
かえって、原告の主張によれば、「余分な乾燥」では40゜C)を超えることが 許容されることになるから、乾燥工程における品温を40゜C)未満とする本件 発明の課題解決手段に明らかに抵触するものとなり、本件明細書によれば本 件発明の課題を解決できないことになる。そうすると、原告の主張は、本件 発明の課題解決手段を正解しないものといえる。 したがって、原告の主張は、採用することができない。
(2) 被告方法への当てはめ
前記認定事実によれば、被告医薬品の医薬品製造販売承認書には「乾燥終 点における製品温度は《50゜C)》以下とする」と記載されており、被告医薬 品に係る製造指図記録書においては、いずれも、品温41.0゜C)以上で乾燥 終了との指示がされていることからすると、被告方法における「乾燥して造 粒物を得る工程」では、品温が41゜C)以上になることが認められる。そうす ると、「乾燥して造粒物を得る工程」とは、乾燥させる全ての工程を意味する ものであるから、被告方法は、「乾燥して造粒物を得る工程」における「品温 が40゜C)未満」という構成要件を充足するものとはいえない。\nしたがって、被告方法は、構成要件1−1A及びC、1−3D、2−1A\n及びC、2−3Dを充足するものと認めることはできない。
・・・
3 争点1−1(特許法104条による推定の可否)
(1) 被告方法は、「乾燥して造粒物を得る工程」における「品温が40゜C)未満」 という構成要件(構\成要件1−1A及びC、1−3D、2−1A及びC、2 −3D)を充足しないことは、前記2において説示したとおりである。 そうすると、仮に、被告医薬品が特許法104条に基づき本件発明に係る 製造方法により生産したものと推定された場合であっても、前記2において 説示したところによれば、当該推定は、覆されるものと認めるのが相当であ るから、争点1−1は、本件において結論を左右するものとはならない。 もっとも、当事者双方の主張の経過に鑑み、念のため判断するに、前提事 実及び前記認定事実によれば、本件発明の優先日前に出された本件ニュース リリースには、「NPC−02(酢酸亜鉛)ウイルソン病治療剤ノベルジン® 錠25mg及び50mgの製造販売承認(剤形追加)を取得」という記載が あるところ、本件ニュースリリース前から原告によって販売されているノベ ルジンカプセル25mg及び50mgは、ウィルソン病治療剤(銅吸収阻害\n剤)であり、酢酸亜鉛水和物を有効成分とするカプセル剤である。そして、 前記認定事実によれば、剤形追加に係る医薬品とは、既承認医薬品等と有効 成分、投与経路、効能・効果及び用法・用量は同一であるが、剤形又は含量\nが異なる医薬品をいうことからすると、本件ニュースリリースに係る医薬品は、ウィルソン病治療剤(銅吸収阻害剤)であり、酢酸亜鉛水和物を有効成\n分とする酢酸亜鉛錠であるものと認められる。 これらの事情の下においては、本件ニュースリリースに係る医薬品は、本 件発明により生産される物と同一のものといえるから、本件ニュースリリー スの掲載により同医薬品の存在が対外的に公表されているといえる。そうす\nると、本件発明により生産される「物」は、本件発明の優先日前の時点にお いて、当業者がその物を製造する手がかりが得られる程度に知られたもので あったと認めるのが相当である。 したがって、被告医薬品は、特許法104条に基づき、本件発明に係る製 造方法により生産したものと推定することはできない。

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令和4(ワ)70058  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月18日  東京地方裁判所

特許権及び意匠権侵害事件です。原告は均等主張をしましたが、東京地裁は、本質的要件(第1要件)の判断において、明細書に公知文献を考慮して、特徴部分を認定するとともに、被告装置はかかる本質部分を満たさないとして、均等侵害を否定しました。意匠権についても非類似と判断しました。

(ウ) 前記(イ)によれば、本件特許の出願時において、グラップルバケット装 置において、グラップルした木材が長尺である場合、所定以上の長さを 有する木材をチェーンソー等の切断装置を用いて作業員が所定の長さに\n切断しなければならないとの課題については、甲27文献において開示 された従来技術によって解決することが可能であったから、本件明細書\nにおいて従来技術が解決できなかった課題として記載されているところ は、出願時の従来技術に照らして客観的に不十分であると認められる。\nそうすると、本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分を認定するに当たり、甲27文献に記載されている技術 的事項も参酌することが許されるというべきである。
(エ) 前記(ウ)において検討したところによれば、本件特許の出願前に、甲2 7文献において、一方の側部に把持部、他方の側部に切断装置が装着さ れているバケットを備えた枝切り走行装置が開示されていたと認められ るから、本件発明と従来技術との相違は、当該切断装置の構成に係る部\n分にすぎず、グラップルした被グラップル材を切断できるようにしたグ ラップルバケット装置であること自体ではないと認められる。そうする と、従来技術と比較して本件発明の貢献の程度が大きいと評価すること はできないから、本件発明の本質的部分については、これを上位概念化 したものとして認定することはできず、特許請求の範囲の記載とほぼ同 義のものとして認定されるというべきである。
したがって、前記(ア)及び(イ)に照らし、本件発明における従来技術に 見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、グラップル装置\nに設けられた切断装置について、バケットの側壁の外側あるいは内側の 一方側に位置してバケットの開口縁から離れた位置からバケットの側壁 に沿う位置にわたって側壁に沿う方向に回動し、かつバケットの開口縁 側に対向する側の側縁に切刃を有してバケットの側壁に沿う位置にわたって側壁に沿う方向に回動し、かつバケットの開口縁側に対向する側の側縁に切刃を有してバケットの開口基端部に枢支された切断刃と、上記切断刃の回動基部に連結して上記切断刃を回動させる油圧シリンダとからなり、切断刃の切刃を、切断刃の回動中心と油圧シ リンダの連結点を結ぶ線に対して切断刃の切断方向側にずれた位置に設 けるとともに、この切刃の切断方向への回動方向に対して後方へ円弧状 に反らせたとの構成、すなわち構\成要件C及びDに係る構成を採用する\nことによって、回動中心から遠い部分でも、刃先が対象物に当たる傾き 角度θの値を大きく保つことで、引き切り作用を保ちスムーズな切断効 果を発揮できるようにしたことと認めるのが相当である。
イ 前記2のとおり、被告製品は構成要件D2を充足するとは認められない\nところ、前記アのとおり、本件発明の構成要件C及びDに係る構\成を採用 することによって、回動中心から遠い部分でも、刃先が対象物に当たる傾 き角度θの値を大きく保つことで、引き切り作用を保ちスムーズな切断効 果を発揮できるようにしたことが本件発明の本質的部分であるから、被告 製品が本件発明の本質的部分を備えているとは認められず、本件発明と被 告製品とが異なる部分が本件発明の本質的部分ではないとはいえない。 したがって、被告製品は第1要件を充足しない。

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以下に、イ号図面などがあります。

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令和4(ワ)9112等  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年8月22日  大阪地方裁判所

構成要件1Cの構\成「地糸の経糸または緯糸の径がパイル糸の径よりも細くされており」を備えていないと判断されました。

ア 上記本件明細書の記載からは、経糸、緯糸、パイル糸の「径」を認識する 方法は見当たらず、また、経糸又は緯糸の径がパイル糸の径よりも細くされ ることについての技術的意義に関する記述はない以上、そこから上記の「径」 を認識する方法を推測することもできない(原告は【0043】の記載を指 摘するが、パイル糸に「多数の微細長繊維を含ませる」ことと、基布の経糸 又は緯糸の繊度(太さ・細さ)との関係は不明というほかない。)から、これ らは当業者の理解する技術常識によって決すべきこととなる。 イ この点、繊維の形態的な太さは、一般的にその断面が不規則な形状を示し ているので、正確な計測は困難であり、したがって、一定の長さ当たりの重 量で繊維の太さが示されているとされ、また断面の形状にあっては、天然繊 維の形状は、それぞれ特有の形をしており、化学繊維は、その形状も人為的 に自由につくることができ、断面は主として紡績方法によって決まり、円形・ だ円形その他複雑なものもある、とされている(乙4。三訂版「繊維」(昭和 61年刊行))。
また、繊維における細さ(繊度)にはいろいろの表し方があり、メートル\n法の番手(1グラムの糸が何メートルの長さを持つかを示すもの。番手が大 きいほど糸は細い。)や、デニール、テックス(いずれも一定長の糸の重量) が用いられ、デニールと繊維ごとの比重を用いて断面積を算出する方法もあ る(乙5。「繊維の科学」(昭和53年刊行))。撚りの強さによっても見た目 の太さが変わる(乙6。令和2年当時のウェブサイト。)。本件明細書におい ても、パイル糸の繊度に関し、デニールが用いられている部分がある。
ウ ところで、「径」の字義は、「1)さしわたし。直径。2)みち。小道。近道。」 というものである(乙7(広辞林第六版))。また、広辞苑第七版においては、 「まっすぐ結ぶ道。さしわたし。」とされており、「差渡し(さしわたし)」の 字義は、「1)さしわたすこと。一方から他方へかけ渡すこと。また、その長さ。 2)直径。わたり。けい。」とされている。これらを踏まえると、「径」とは「直 径」を意味するものと解される。「直径」の字義は、「円または球の中心を通っ て円周または球面上に両端をもつ線分。また、その長さ。さしわたし。」とい うものであるから(広辞苑第七版)、「直径」が認識されるためには、平面に おいては円又はそれに近い形状のものが想定されていると解される。 他方、前記のとおり、糸は繊維の集合体であって、繊維の断面は一般的に 不規則な形状を示すものであるから、少なくとも、「径」の大小の比較に、「断 面積」(空隙を除外するかどうかを問わない)を用いることはできないものと 解される。この点、原告は、糸の太さを断面積で表すことが当業者にとって\n一般的な手法となっていたとしてその旨の証拠(甲25から27まで)を提 出するが、それらは口輪筋線維、等方性黒鉛材料の気孔、血管について画像解析により断面積を測定した例にすぎず、技術分野が全く異なるもので、原告主張の事実は認めるに足りない。
(3) 構成要件1Cの充足の検討\n
ア 原告は、各糸の径は糸の断面積を測定することにより比較判断することが 可能であり、かつこれを製品状態で測定すべきものとした上で、かかる測定\n方法を採用した測定結果を証拠(甲19の1・2)として提出する。 この測定は、被告製品のシール材に対し、接着剤を滴下して浸み込ませ、 乾燥後、養生テープで固定し、パイル糸の配列方向に対し垂直となるように、 シール材に金尺を当てて、カット治具である剃刀刃を沿わせて一回のスライ スにより切断し、断面画像を撮像した上、該画像を解析して、緯糸とパイル 糸の断面積を求めるというものである。 イ しかし、本件訂正発明1の構成要件1Cは、糸の「径」の大小をその要素\nとしており、糸の太さの比較に断面積を用いることは文言の一義的な意味に 反し、また前述の当業者の技術常識にも合致しないものである。
また、具体的な測定手段をみても、上記測定は、被告製品を加工、破壊し た上で測定するものであって、原告が自らいう「製品状態での測定」とも前 提を異にするものである(そもそも、製品状態では糸に様々な方向から様々 な力が作用し、一定の「断面積」を得ることは困難であると考えられ、「製品 状態での測定」という前提自体、本件明細書や当業者の技術常識から導き得 るのかについて疑問なしとしない。)。加えて、上記切断方法は、繊維の方向 に垂直に正確に切断されることが保証されるものともいえず、切断角度、切 断箇所の違いによる断面積の変化が何ら考慮されていないと見受けられ、測 定の条件統制にも疑義がある。画像解析についても、糸(及びこれを構成す\nる繊維)の外郭のとらえ方や、空隙の有無等によって「断面積」が異なり得 ることが見て取れる。
これらのことからすると、甲19号証の1・2に示された測定手段は、画 像の作成過程、画像解析の双方において、測定の正確性、合理性が担保され たものとはいえないというべきである。 また、画像解析の結果報告される糸の断面(空隙を含む外郭)は、不定形 で円又はそれに近い形状を備えておらず、かかる画像から、「径」(といえる もの)を認識することも困難である。
ウ そうすると、甲19号証の1・2によって、被告製品について構成要件1\nCの充足が立証されたということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠 はない。

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令和5(ネ)10101  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年6月18日  知的財産高等裁判所 (原審・東京地方裁判所令和4年(ワ)24476

 本人訴訟です。1審の非侵害が維持されました。控訴審では、均等主張もしましたが、第1要件を満たさないと判断されました。

オ 上記ウ及びエによれば、本件明細書に従来技術が解決できなかった課題 として記載されている従来技術(特許文献1)は、出願時の従来技術に照 らして客観的に不十分であるから、乙3に記載されている技術的事項を参\n酌することが許されるというべきである。 そうすると、本件発明は、上記課題を解決するために「覚醒度合生体情 報取得部で取得した人の覚醒度合に関する生体情報に応じて前記三つの 発光手段の発光量の総和を略一定にしたままそれぞれの発光手段の発光 量比を変化させるための調節部」との構成を採用したものであるが、他方、\n乙3には、上記エのとおり、「覚醒度合生体情報取得部で取得した人の覚醒 度合に関する生体情報に応じて複数(二つ)の発光手段の発光量の総和を 一定としたままそれぞれの発光手段の発光量比を変化させるための調節 部」が開示されており、その相違は「三つの発光手段の発光量の総和」か 「複数(二つ)の発光手段の発光量の総和」かの差でしかない。 したがって、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいとはい えず、本件発明の本質的部分は、特許請求の範囲に近接したものとなると いうべきであり、具体的には、本件特許の課題を解決するために採用され た構成が構\成要件C/Dであることから、「覚醒度合生体情報取得部で取 得した人の覚醒度合に関する生体情報に応じて、赤色、青色及び緑色の三つの発光手段の発光量の総和を略一定としたままそれぞれの発光手段の 発光量比を変化させるための調節部」を有していることが本件発明の本質 的部分であると解するのが相当である。
これに対し、本件各照明装置は、「覚醒度合生体情報取得部で取得した人 の覚醒度合に関する生体情報に応じて、赤色、青色及び緑色の三つの発光 手段の発光量の総和を略一定としたままそれぞれの発光手段の発光量比 を変化させるための調節部」を有していないから、本件発明と本件各照明 装置とは本質的な部分において異なっているというべきである。
カ 上記アないしオによれば、本件各照明装置が本件発明の本質的部分を備 えているとはいえず、均等の第1要件を満たさない。
キ 控訴人は、前記第2の5(1)アのとおり、本件発明は、ヒト(人)の覚醒度 合に応じて照度を略一定にしつつ色温度を変化させる点がその本質的部 分であると主張する。 しかし、上記オに説示したとおり、特許発明の貢献の程度は従来技術と 比較して大きいとはいえないから、控訴人が主張するようにこれを上位概 念化することはできないというべきであり、控訴人の上記主張を採用することはできない。また、仮に、控訴人の主張するとおり、人の覚醒度合に応じて照度を略 一定にしつつ色温度を変化させる点が本件発明の本質的部分であると解 したとしても、本件各照明装置は、人の覚醒度合に応じて照度を略一定に しつつ色温度を変化させる構成を有していないから、均等の第1要件を満\nたさないとの結論を左右しない。
すなわち、本件マットレス(1)は、当該マットレスを使用する人の睡眠の 状態を計測する機能を備えており、本件発明の構\成要件B(「人の覚醒度合 に関する生体情報を取得する覚醒度合生体情報取得部と、」)を充足するも のであり、本件マットレス連携アプリは、本件マットレス(1)を使用した人 の睡眠深度、睡眠スコア、睡眠効率、寝つき時間、中途覚醒回数、目覚め の状態及び深い睡眠を表示する機能\を備えているが(原判決第2の2(6)ア 及びウ、同(7))、本件各照明装置は、本件マットレス(1)等により取得された 人の覚醒度合に関する生体情報に応じて照度を略一定にしつつ発光手段 の発光量比又は色・温度を変化させる機能を有していない。\n
本件各照明装置の使用者が、任意に本件各照明装置の発光手段の色・温 度を変化させる操作をすることが可能であるとしても、そのことをもって、\n本件各照明装置が人の覚醒度合に応じて照度を略一定にしつつ発光手段 の発光量比又は色・温度を変化させる構成を有していることにはならない。\nしたがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
ク 以上によれば、本件各照明装置は、均等の第1要件を充足しないから、 その余の要件について判断するまでもなく、本件発明と均等なものとして、 その技術的範囲に属するということはできない。

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令和4(ワ)22517  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年8月21日  東京地方裁判所

日本製紙クレシアVS大王製紙のトイレットペーパーの特許紛争です。東京地裁は技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害についても主張されていましたが、裁判所はこれを否定しました(第3、第5要件不具備)。

被告は、トイレットペーパーの表面、裏面の各シートをそれぞれ表\面に凹凸 をつけるエンボス処理した後、それぞれのシートの凸部同士を内側にして2プ ライにするようなダブルエンボスでは、表面と裏面のシートのエンボスが干渉\nし、これらを常に干渉しないようにすることはほぼ不可能であり、付与された\n後のエンボスの形状、深さを明確に測定することができないので、本件発明1 は、シングルエンボスのトイレットロールのみに限定されると主張する。 しかしながら、本件明細書1記載の方法でエンボス深さDを測定することが でき、そこで測定されたエンボス深さDに本件発明1の技術的意味があるもの であれば、本件発明1のトイレットロールが、シングルエンボスのトイレット ロールに限定されるとは認められない。また、トイレットロールにおけるエン ボスであるという性質上、各エンボスの形状については一定のばらつきがある ことが想定されているといえる。
もっとも、本件発明1のエンボス深さDは、X−Y平面上のエンボスの高さ プロファイルを得ることができ(【図5】(a))、エンボスの周縁frやその最 長部aがどこに位置するのかを特定できるトイレットロールについて、【図5】 (b)、【図6】のような断面曲線を得た上で、測定されたものであり、そのよう にして測定されたものであるエンボス深さDが一定の数値のトイレットロール について本件発明1の効果を奏するとしているものといえる。各被告製品は、 各シートのエンボスの凹凸の位置関係を特に調整しないまま、プライボンディ ングした通常の2プライのダブルエンボスである(弁論の全趣旨)。このような ダブルエンボスのトイレットロールにおいては、表面と裏面にそれぞれ付され\nたエンボスが重なるとは限らず、エンボスの周縁が一致することが保証されて いないことから、エンボスの周縁が明確にならず、また、エンボスの凹凸の位 置がずれることにより干渉し、その形状が明瞭でないエンボスが生じ得る。そ して、甲51報告書によれば、各被告製品については、原告がエンボスとして 特定した部分の中央に、断面曲線で上に凸の曲率極大点が認められるなど、そ のエンボスが本件発明1のエンボス深さDを測定する際に想定されていた凹部 形状のものであるかが必ずしも明らかではないほか、X−Y平面上のエンボス の高さプロファイルによって、エンボスの周縁frやその最長部aがどこに位 置するのかを確定できるものとは必ずしもいえない。そうすると、そのような エンボスが付された各被告製品のトイレットロールについてエンボスを10個 選んで測定を行い、それらの平均値として一定の深さDを求めたとしても、本 発明1におけるエンボス深さDが測定できたということはできない。
(7) 以上によれば、原告測定方法は、本件明細書1に記載されたエンボス深さの 測定方法とはいえず、原告測定方法に基づいた甲10報告書によって、各被告 製品が構成要件1Bを充足するとは認めることはできない。甲51報告書その\n他の証拠によっても、各被告製品について、本件発明1におけるエンボス深さ Dが明らかであってその数値が構成要件1Bを充足するということを認めるに\n足りない。したがって、各被告製品はいずれも構成要件1Bを充足するとはいえない。\n
・・・・
構成要件2Eは、「前記把持部には、ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほ\nぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜部を有して横方向 に沿って並ぶ二個の指掛け穴が形成されており、」というものであり、特許請求 の範囲の「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」 との文言は、その「指掛け穴」が既に「形成」されているものであることから も、その「形成」されている「指掛け穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」で あり、また、そのほぼ長円の上部輪郭が非切抜部であると理解することができ るものであるところ、本件明細書2の上記部分には、そのような理解に沿う構\n成が記載されているということができ、そのような理解を前提として、その「ス リット状のほぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの 切り抜きにより上方に折り返されるものであることが記載されているといえる。 また、【図1】に記載された指掛け穴も上記の理解に沿ったものである。そうす ると、構成要件2Eの「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット\n状の指掛け穴」とは、同構成について本件明細書2において記載されている、\n上記に述べたとおりの構成のものであると認められる。\n
(2) 被告製品1の包装袋のスリットは、写真2の左側の写真の赤破線で示された とおりのものであり、被告製品3の包装袋のスリットは、写真2の右側の写真 の赤破線で示されたとおりのものである。 前記(1)のとおり、構成要件2Eについては、その「指掛け穴」が「ほぼ長円の\n一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭の 非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きにより上方に折り返される ものであり、その非切抜部は、「スリット状」の「ほぼ長円」の一部を構成する\nものである。そして、非切抜部を固定端とする片部が上方に折り返されるため には、その非切抜部の固定端が、「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭にあ る必要がある。
被告製品1及び被告製品3の包装袋のスリットをみると、その両端部はそれ ぞれ外側に湾曲して下方に向かい、終端が内側に位置しているから、このよう なスリットの両端部の終端の位置を考慮すると、被告製品1及び被告製品3に おいては、形成されている「スリット状」の「指掛け穴」の下部輪郭が「非切抜 部」であるともいえ、その非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜き により上方に折り返されるものではない。また、原告主張の熱融着部(写真3 参照)とスリットとを見ると、スリットは、その中央が、その上方に対しては、 弧状であるとしても、その左右には、上方への折り返しとなる頂点が存在せず、 それ自体「ほぼ長円」を形成しているとはいえず、「スリット状」の「ほぼ長円」 が形成されていないから、原告主張の上記熱融着部の円弧が「スリット状」の 「ほぼ長円」の上部輪郭にあるとはいえず、そこを構成要件2Eの「非切抜部」\nであるということはできない。そうすると、被告製品1及び被告製品3には、 「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」に相当 する構成があるとはいえない。\n
(3) 原告は、被告製品1及び被告製品3のスリットが切り抜かれることで把持部 に下に凸の円弧が生じ、スリットと熱融着部などによって形成される非切抜部 によって、ほぼ長円の形状の指掛け穴が形成されると主張する。 しかし、前記(1)のとおり、構成要件2Eにおいては、形成されている「指掛\nけ穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほ ぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きによ り上方に折り返されるのであり、その非切抜部は、「スリット状」の「ほぼ長円」 の一部を構成するものである。被告製品1及び被告製品3においては、「スリッ\nト状」の「ほぼ長円」が形成されているとはいえず、被告製品1及び被告製品 3において、スリットの上方の熱融着部などによって形成される部分が構成要\n件2Eの非切抜部であるとする原告の主張は採用できない。
原告は、本件発明2では指掛け穴の有するスリットが内側に回り込んでいるの に対し、被告製品1及び被告製品3ではスリットが内側に回り込んでいない点で、 被告製品1及び被告製品3が本件発明2と文言上相違するとした上で、この点に ついて均等侵害が成立する旨主張する。
しかしながら、被告製品1及び被告製品3においては、スリットは、その中央 部分のみが上方に対して弧状であり、本件発明2の構成とは基本的な形状が異な\nるといえるものなのであって、これが直ちに被告製品1及び被告製品3の製造時 において本件発明2から容易に想到することができたとは認めるに足りず、また、 原告は、本件異議申立事件の決定の予\告後に、指掛け穴を構成要件2Eの構\成に 限定したと述べて構成要件2Eの構\成を加えて、他の構成の指掛け穴の形状を意\n識的に除外したといえる。したがって、均等侵害をいう原告の主張には理由がな い。

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令和3(ワ)2873  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年5月30日  大阪地方裁判所

大阪地裁は、102条2項の計算のために文書提出命令をしましたが、被告は提出しませんでした。原告の主張の通りだと利益率は6割を超えるものとなって、合理的とは言い難いことから、被告の限界利益率を、約31%としました。

原告は、被告が、本件書類提出命令にもかかわらず、正当な理由なく、本件提出 対象書類を提出しなかったなどとして、民訴法224条3項により、本件証明事実 を真実であると認めるべきであって、前記被告製品10台に係る限界利益を157 3万8528円と認定すべきである旨主張する。 この点、確かに、被告が本件書類提出命令に応じて本件提出対象書類を提出した とは認められないものの、本件証明事実に係る原告の主張によると、被告製品10 台の利益率は6割を超えるものとなって、合理的とは言い難いことから、被告の限 界利益の額を前記のとおり認定するのが相当である。
(3) 損害の不存在ないし推定覆滅について
ア 被告は、佐賀県畜産公社においては、被告製品の購入に当たって競争入札が 行われたところ、原告と被告が入札して被告が落札したのであって、落札により販 売業者は1社に決定されるから、原告と被告が競合するような市場は存在せず、侵 害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情は存在しないとした上 で、ミヤチク、いわちく及びフードパッカー津軽についても同様であって、原告に 損害はなく、特許法102条2項は適用されない旨主張する。 しかしながら、そもそも、被告が主張する競争入札の存在や具体的内容が明らか ではないところ、佐賀県畜産公社においては、競争入札自体は行われたとしても、 原告も同じ競争入札に参加していたというのであるし、その他の入札についても原 告に参加資格があり、落札したとされる被告が参加していなければ(本件特許権の 侵害品である被告製品がなければ被告は参加できなかったと考えられる。)、原告 が落札した可能性もあることを考慮すると、原告において被告の侵害行為がなかっ\nたならば利益が得られたであろうという事情は存在しない旨の被告の主張は採用で きない。
イ 被告は、筒状容器の「内壁が平面視で多角形状に形成される」が本件発明の 唯一の特徴的部分であるといえるところ、仮に被告製品がこの構成要件を充足する\nとしても、利益に対して貢献しているのはその余の侵害品の性能(機能\、デザイン 等特許発明以外の特徴)であって、損害の推定覆滅事情に当たる旨主張する。しか しながら、筒状容器の「内壁が平面視で多角形状に形成される」部分以外で顧客誘 引力のある被告製品の具体的性能や、その性能\の顧客に対する訴求の程度は明らか でないから、被告の主張は採用できない。
ウ さらに、被告は、本件発明では旋回流を利用するのに対して(甲5)、被告 製品(乙15)では、突部9(別紙「被告製品写真・図面」の図2参照)が邪魔 板(バッフル)となって旋回流を阻害することで、上下循環流発生を発生させ、豚 足をランダムな動きとするものであり、また軸流においては豚足が下方へ潜り込ん でいくこと、邪魔板(バッフル)に衝突することによる脱毛、豚足同士の水平方向 及び上下方向の衝突による脱毛の効果が甚だ大きく、性能において本件発明と比較\nして顕著な相違があるから、特許法102条2項の推定は覆滅される旨主張する。 この点、原告製品の動画(甲5)と被告製品の動画(乙15)とを比較すると、 豚足の動きに一定の差があり、被告製品では豚足が下に潜り込むような動きをして いるように見え、被告が主張する上下方向の動きがあることがうかがわれる。かか る動きによる豚足の脱毛効果への影響の程度や、その性能の被告製品の売上げへの\n貢献の程度は必ずしも明らかでなく、前記の性能を理由とする推定覆滅が認められ\nるとしても、その割合は、5%を超えるものではないというべきである。

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令和4(ワ)2058  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年5月30日  大阪地方裁判所

特許権侵害が認定され、差止と約1890万円の損害賠償が認められました。尚、102条2項の覆滅分についての同3項の適用は否定されました。

(1) 特許法102条2項に基づく主張について
ア 限界利益額 被告は、少なくとも令和2年6月1日から令和5年6月末までの間、被告各製品 を販売し、この間の限界利益額(被告各製品の全体)は合計8557万2953円 (税込)である。(争いなし) 被告は、被告各製品における本件訂正発明2−1、同2−3及び本件発明3の実 施部分は一部であるから、損害額算定における限界利益額は、上記一部に相当する 限界利益額を基準とすべきであると主張するが、被告の指摘する事情は、推定覆滅 事由として考慮すべきであるから、上記主張は採用できない。
イ 推定覆滅事由
特許法102条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得 た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠ける ことを主張立証した場合には、その限度で前記の推定は覆滅される。
(ア) 部分実施(本件特許2及び同3の寄与の程度等)
被告各製品は、外枠(床開口用枠体及び取付部材)、蓋セット、ビスセット、梱 包ケース、断熱材により構成されるところ、本件訂正発明2−1、同2−3及び本\n件発明3の実施部分は上記外枠のみである。(争いなし) 原告は、原告製品(高気密型床下点検口・収納庫)における本件訂正発明2−1、 同2−3及び本件発明3の実施部分の構成である「スライドコア」は、原告製品の\n使用において不可欠であり、容易かつ精度のよい施工を実現するといった重要かつ 優れた効果を有し、顧客誘引力の源泉となっているところ、「スライドコア」と強 い類似性を有する被告各製品の「外枠」も顧客誘引力の源泉となるから、上記部分 実施による推定覆滅は大きいものではない旨主張する。 確かに、原告製品のパンフレットには「スライドコア方式が簡単施工で高い気密 性を実現する」ことが記載されているが、他にも顧客を誘引するための特徴(例え ば、耐荷重性に優れていること、蓋枠パッキンによる気密性の確保、肌に優しい樹 脂一体成形品であること、バリアフリープラン対応であることなど)を有すること が記載されている(甲11の19)。また、被告各製品にも、外枠以外の構成にお\nいて、薄型化・軽量化設計であることやバリアフリー設計であること、抗菌仕様で あることといった顧客の誘引に影響する特徴がある(甲4)。外枠に関する施工の 容易性や高い気密性は需要者が注目する特徴であると考えられるものの、他の特徴 と比較して特に重視される事項であるとまでは認めるに足りず、原告製品の「スラ イドコア」ないしこれに相当する部材といえる被告各製品の外枠が、各々の製品に おいて強い顧客誘引力を有していると評価することはできない。 そうすると、被告各製品における発明の実施部分が外枠のみであるとの点は、相 当程度の推定覆滅事由になると解するのが相当である。
(イ) 市場の同一性及び市場における競合品
被告各製品及び原告製品は、樹脂枠を備えた床下点検口・収納庫である。本件訂 正発明2−1、同2−3及び本件発明3の効果は、施工の容易性や気密性及び断熱 性の確保、ガタ付きの防止であるところ、被告各製品のカタログ(甲4)によれば、 被告各製品は、床開口寸法が606×606mm(外形寸法622×622。高さ は67.5mm、182.5mm、463mmのものなど複数の型がある。)であ り、施工が容易でバリアフリー設計であり、気密性及び断熱性等を訴求している。 また、原告製品のカタログ(甲11、12〔枝番を含む。〕)によれば、原告製品 は、床開口寸法が606×606mmのものなどであり(幅広サイズなど複数の型 がある。)、防腐高気密型、高耐久、高断熱、バリアフリー等を訴求している。 これらによれば、被告各製品及び原告製品の需要者は、各製品において、床下点 検口・収納庫の形状、性能や操作の容易性を重視するものと解されるから、被告各\n製品と同程度の形状、性能、機能\及び操作性を実現し、同種の用途に用いられる製 品は競合品に該当するというべきである。
被告が競合品であると主張する製品(甲14ないし18〔各枝番を含む。以下同 じ〕、乙32、33)のうち、少なくとも、Panasonic製の床下収納ユニ ットの「高気密・高断熱住宅用」(甲14)と、DAIKEN製の「ホーム床点検 口」(甲15)は、被告各製品の寸法と同程度の型であるものがあり、性能や機能\、 操作性において同程度であるといえるから、被告各製品及び原告製品と性能、用途\n等において共通する競合品であると認められる(その余の製品については、形状や 訴求されている性能や機能\、操作性が一部被告各製品と合致するものの、同程度と までは認められない。)。他方で、床下収納点検口・収納庫の市場における被告各 製品や原告製品の市場占有率が明らかではなく、また、上記競合品の販売価格と乙 第35号証から推知される被告各製品の販売価格との間には一定の差があることは 否定できない。
以上によれば、市場において上記競合品が存在することは推定覆滅事由となるが、 これをもって大幅な推定覆滅を認めることは相当ではない。
(ウ) 被告の営業努力
特許法102条2項の推定を覆滅する事由として認められる被告の営業努力とは、 通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力をいう。被告は、被告各製品の売上につ いて被告の営業努力によるところが大きいと主張するが、これを認めるに足りる証 拠はないから、この点は覆滅事由として認めることはできない。
(エ) 推定覆滅の程度
被告は、上記のほかにも被告製品の機能や工夫をもって推定覆滅事由に該当する\nなどと主張するが、証拠がなく、当該主張を採用することはできない。 以上の検討した諸事情を総合考慮すると、部分実施であること及び一定数の競合 品が存在することによる推定覆滅が認められるところ、本件においては8割の限度 で損害額の推定が覆滅されると解するのが相当である。これに反する原告及び被告 の主張はいずれも採用できない。
(2) 特許法102条3項に基づく主張について
原告は、同条2項の推定覆滅が一部でも認められたとしても、推定覆滅の理由が 「特許発明が侵害品の部分のみに実施されている」という推定覆滅事由でない限り は、当該推定覆滅部分については、同条3項を適用することができると主張する。 この点、同条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、特許権者 が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の 売上げの減少による逸失利益に相当するものであるのに対し、同項による推定の推 定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、 特許権者は、売上げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による 実施料相当額の損害を受けたものと評価できるから、同条3項の適用が否定される ことにはならないと解される(知的財産高等裁判所令和2年 第10024号・令 和4年10月20日特別部判決参照)。 本件においては、上記競合品が存在することは同条2項による推定覆滅事由の一 つとなるが、当該推定覆滅部分について原告に実施許諾の機会があったと認めるに 足りる証拠はない。したがって、当該推定覆滅部分について、同条3項を適用する ことはできないというべきである。
(3) 以上によれば、上記(1)アの限界利益額8557万2953円から8割の推 定覆滅がされた1711万4590円(税込)が、被告の被告各製品の販売による 原告の損害であると認められる。 また、本件の事案の内容、経過等にかんがみ、原告の弁護士費用及び弁理士費用 171万円は、被告の特許権侵害行為と相当因果関係がある原告の損害と認める。 したがって、原告の損害額は1882万4590円となる。

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令和3(ワ)22564等  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日  東京地方裁判所

原告は、マザーズへの上場を控えていましたが、被告は、原告の主幹事会社に対して、「被告特許を侵害するとして、原告を提訴しました。上場は慎重にすべき」という旨の通知書を送付しました。実際に提訴自体はしましたが、印紙を貼らずの提訴で、その後、提訴は取り下げています。\n
原告はかかる行為は、不正競争行為(不競法2条1項21号)に該当すると提訴しました。被告も反訴しています。 裁判所は、特許は無効だが、不正競争行為には該当しないと判断しました。
なお、サブコンピネーション発明の「〜のための」という文言も発明を限定するのかが問題となっています。

ウ 甲32発明の各構成が本件発明の構\成要件JないしNの構成にそれぞれ\n相当するかを検討する前提として、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電\n話との間で送受信するための」との記載の性質について検討する。 被告らは、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信す\nるための」との記載は、本件発明の受信装置の構造及び機能\を特定して いるから、請求項1ないし4の解釈を踏まえて請求項5に係る本件発明 の構成を認定すべきであると主張するものと解される。\n
そこで検討すると、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の各記 載によれば、本件発明は、受信装置が、携帯電話との間で送受信するた めのRFIDインターフェースを介して同携帯電話に対して個別情報の 発信要求をし、これに対し、同携帯電話が、要求された個別情報を送信 し、受信装置が、同携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報 であるか否かを判断し、受信した判断情報が前記要求した個別情報であ ると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行うという、二つ 以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し、それに組み合わ される受信装置の発明すなわちサブコンビネーション発明であって、本 件発明に係る特許請求の範囲の請求項5には、受信装置とは別の他の装 置すなわち他のサブコンビネーションである携帯電話に関する事項が記 載されているものと理解できる。
そして、サブコンビネーション発明においては、特許請求の範囲の請求 項中に記載された他の装置に関する事項が、形状、構造、構\成要素、組成、 作用、機能、性質、特性、行為又は動作、用途等の観点から当該請求項に\n係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握し、発明の技術的範囲 を画する必要があるところ、他の装置に関する事項が、当該他の装置のみ を特定する事項であって、当該請求項に係る発明の構造、機能\等を何ら特 定していない場合には、他の装置に関する事項は当該請求項に係る発明を 特定するために意味を有しないことになるから,これを除外して当該請求 項に係る発明の要旨を認定することが相当であるといえる。
本件特許の特許請求の範囲において、構成要件Jの「RFIDインター\nフェースを有し、」との記載は、受信装置が「RFIDインターフェース を有し」ていることを、構成要件Kの記載は、受信装置が「個別情報の発\n信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を有していることを、構成要\n件Lの記載は、受信装置が「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し た個別情報であるか否かを判断する判断手段」を有していることを、構成\n要件Mの記載は、受信装置が「前記判断手段で受信した判断情報が、前記 要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理 を行う」ことを、それぞれ特定していると認められるのに対し、構成要件\nJの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するための」との記載は 上記の構造、機能\等を有する受信装置と送受信をする携帯電話の構造、機\n能等を請求項4記載の構\成に限定するものにすぎず、受信装置の構造、機\n能等自体を何ら特定していないから、「請求項4記載の携帯電話」との記\n載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認 めることはできない。
以上によれば、上記の「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するた めの」を除外して請求項5に係る本件発明の要旨を認定することが相当で あるというべきであって、被告らの上記主張を採用することはできない。
・・・
(2) 小括
以上によれば、本件発明は、甲32発明と同一の構成を有しているから、\n新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの と認められ、被告モビリティは原告に対してその権利を行使することができ ない(特許法104条の3第1項、123条1項2号、29条1項3号)。
3 争点1−3(被告らによる虚偽告知の内容)について
前提事実(5)オのとおり、本件通知行為は、原告が被告モビリティの特許権 を侵害しているとの原告の営業上の信用を害する事実を告知するものであると ころ、前記2のとおり、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの であり、原告が被告モビリティの特許権を侵害しているとの事実を通知した本 件通知行為は、不正競争防止法2条1項21号の「虚偽の事実を告知」するも のといえる。
他方で、前提事実(5)オのとおり、本件通知行為により、被告モビリティは、 岡三証券に対し、被告モビリティが別件訴訟を提起した旨も通知したものであ るが、実際に、本件通知行為の前日である令和3年6月23日、東京地方裁判 所に対し、別件訴訟を提起している以上(前提事実(5)エ)、別件訴訟について の通知内容は、同条の「虚偽の事実を告知」したものとはいえない。 なお、被告らは、原告の前訴訟代理人であった弁護士Ci作成に係る令和3 年7月26日付け意見書について、文書提出命令を申し立てているところ(東\n京地方裁判所令和4年(モ)第264号)、本訴のいずれの争点との関係でも 取調べの必要性が認められるとはいえないから、上記申立てを却下する。\n4 争点2(被告らと原告との間の競争関係の有無)について 事業者間の公正な競争を確保するという不正競争防止法の目的(不正競争防 止法1条)に照らすと、同法2条1項21号の「競争関係」は、現実の市場に おける競合が存在しなくとも、市場における競合が生じるおそれがあれば認め られると解するのが相当である。
そして、前提事実(2)及び(3)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、決済 に利用される通信端末及びインターネットを利用した決済システムを開発して 販売していること、被告モビリティは、決済システムに利用され得る本件発明 に係る特許権を有し、同特許権について実施権を許諾してライセンス収入を得 ることを業としていることが認められ、被告モビリティ自身が決済端末の開発、 販売をしておらず、現実の市場における競合が存在しないとしても、市場にお ける競合が生じるおそれはあるといえる。
3 争点1−3(被告らによる虚偽告知の内容)について
前提事実(5)オのとおり、本件通知行為は、原告が被告モビリティの特許権 を侵害しているとの原告の営業上の信用を害する事実を告知するものであると ころ、前記2のとおり、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの であり、原告が被告モビリティの特許権を侵害しているとの事実を通知した本 件通知行為は、不正競争防止法2条1項21号の「虚偽の事実を告知」するも のといえる。
他方で、前提事実(5)オのとおり、本件通知行為により、被告モビリティは、 岡三証券に対し、被告モビリティが別件訴訟を提起した旨も通知したものであ るが、実際に、本件通知行為の前日である令和3年6月23日、東京地方裁判 所に対し、別件訴訟を提起している以上(前提事実(5)エ)、別件訴訟について の通知内容は、同条の「虚偽の事実を告知」したものとはいえない。
(2) 不正競争行為に係る過失について
本件全証拠によっても、被告らにおいて本件通知行為時までに本件特許が 無効となることを具体的に認識し得たことを基礎付ける事情は認められない。 他方で、前提事実(5)のとおり、被告モビリティは、原告がマザーズ市場に 上場する約2週間前に、岡三証券に対して本件通知行為をしたものであると ころ、同時点においては、原告から本件特許が無効である旨の主張は一切さ れておらず、原告が初めて具体的な引用例を示した上で本件特許の新規性又 は進歩性欠如の主張をするに至ったのは、本件訴訟係属中に前訴訟代理人弁 護士らを解任して現在の訴訟代理人弁護士に本件を委任した後であった。以 上の事情に加え、一般に、特許権は特許庁においていったん特許要件ありと して特許査定を受けた権利であることを考慮すると、本件通知行為時点にお いて、被告らに本件特許の無効理由を調査する義務まで負わせることが相当 であるとはいい難い。したがって、被告らに不正競争行為につき過失があるとの原告の主張は理由がない。

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令和3(ワ)15964    特許権  民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日  東京地方裁判所

本件発明の作用から、被告製品は本件特許の技術的範囲に属しないと判断されました。

3 被告ダンパは、「入力」を受けるものであるか(構成要件G)(争点1−1)\nについて ア 本件発明1の構成要件G、Hは、「前記剪断部は、入力により荷重を受けた\nときに、変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とする弾塑性履歴型ダン パ」というものであり、本件発明1の対象となる「弾塑性履歴ダンパ」につ いて「剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収 を行うことを特徴とする」ものであるとされている。したがって、本件発明 1のダンパは、上記に記載された特徴を有するダンパであるところ、その「入 力」がどのようなものであるかについて、本件発明1の特許請求の範囲では 何ら定められていない。
イ ここで、前記1 で説示したとおり、本件各発明は、上部構造物、下部構\ 造物に分離できる橋梁等の建築物において、地震のときに、その接続部にお いて橋軸方向に限らず、複数方向の水平力がかかってしまうところ、同接続 部においては、I字形ダンパでは単一方向の入力にしか対応できないという 課題について、同課題を解決するために、複数の剪断面を持ち、かつ、その 向きが異なるダンパを適用するというものであり、本件各発明は、そのよう なダンパが本件各発明の構成をとることによって、剪断部が、入力により荷\n重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うというものである。 本件明細書に記載された本件各発明の課題は、上記のとおりであり、従来 から知られていた剪断パネル型ダンパである単純なI字形ダンパに対して 単一方向からの入力しか想定されない場面においては、本件各発明における 解決すべき課題は存在しない。単一方向からの入力でなく複数方向からの入 力が想定される場合に、本件各発明が解決すべき課題が存在することとなる。 そして、本件明細書には、前記1 に記載のとおりの本件各発明の意義が記 載されているほか、本件明細書に記載された実施例は、全て、複数方向から の入力が問題となり、そのような複数方向からの入力に対し、本件発明1の 構成をとることによって対応することができるものであると認められる。本\n件明細書のその他の部分にも、単一方向からの入力に対応することに関する 記載はない。これらの本件明細書の記載及び構成要件G、Hの記載から、本\n件発明1に係るダンパは、ダンパに対して複数方向からの入力が想定される 構造物等の部位に用いられ、ダンパの剪断部に対して複数方向からの入力が\nあり、これに対して対応することができるダンパであると解するのが相当で ある。
ウ 以上によれば、本件各発明におけるダンパは、その剪断部に複数方向から の入力があり、その剪断部がそれに対する入力により荷重を受けたときに、 変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするもの(構成要件G、H)で\nあると解するのが相当であり、構成要件Gに係る「入力」は、「複数方向か\nらの入力」を意味し、本件各発明のダンパは、ダンパに対して複数方向から の入力があることを前提として、その剪断部が複数方向からの入力により荷 重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするダンパ であると認められる。 被告ダンパについて検討すると、本件において、原告は、被告ダンパ単体の 譲渡等を問題にするのではなく、被告ダンパが住宅である被告製品に用いられ て、そのような被告製品が販売されていることを特許発明の実施として、被告 製品の販売額を基礎として実施料率相当額の損害を請求する。
被告は、6種の被告ダンパを4種の耐力パネルのいずれかに組み込み、これ を住宅である被告製品の部材として用いている(前提事実 )。被告ダンパは各 平行板部及び各ウェブ部の一端又は両端が耐力パネルに溶接されているので あって、耐力パネルから取り外して使用されることはおよそ想定されておらず、 各耐力パネルも、建物の水平方向に延びる梁や土台等にはさまれるように固定 されて設置されており、住宅販売後に耐力パネルのみを取り外して別の用途に 使用するということはおよそ想定されていない(前提事実 )。すなわち、被告 ダンパは、耐力パネルに物理的にも溶接され、取り外されることはおよそ想定 されず、耐力パネルと不可分一体となっているものといえる。 そうすると、本件において問題となる被告の行為は、被告ダンパが不可分一 体の一部となった被告製品の製造、販売等であって、被告ダンパが組み込まれ た被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか否かが問題になるというべ きである。
なお、被告は、Σ型の形状の鋼材である被告ダンパを作成し、これを他の部 材に組み込むことで耐力パネルを製造していることがうかがえる。もっとも被 告ダンパ単体には「一対のプレート」は接続されておらず、耐力パネルに組み 込まれることによって初めて、「一対のプレート」の具備が問題になるのである から、耐力パネルに組み込まれる前の被告ダンパ自体が本件発明1の技術的範 囲に入ることはないと解される。 被告製品に組み込まれ、被告製品と不可分一体となった被告ダンパに対して 加わる力について検討する。
ア 被告ダンパはいずれも4種類の耐力パネルのいずれかに組み込まれてい るところ、耐力パネルは、その構造上、耐力パネルが接続している梁の方向\nの力(耐力パネルが平行四辺形に変更する方向の力)が加わると、いずれの 耐力パネルについても、被告ダンパに鉛直方向の力が加わり、所定レベル以 上の力が加わると剪断変形によって地震力を吸収する。このとき、被告ダン パに対しては、鉛直方向の力以外の力は加わらない。他方で、耐力パネルに 梁と垂直方向の力が加わっても、被告ダンパには力が加わらず、地震力を吸 収することができない。地震力のうち、これらの力の合力については、いず れも上記二つの力に分解できるから、結局、被告ダンパには鉛直方向の力の みが加わるということになる(乙33)。被告製品においては、建物の特定 の方向に複数の耐力パネルを設置するとともに、これと直交する方向にも複 数の耐力パネルを設置しており、このように複数の耐力パネルを直交方向に 設置することによって、個々のパネルの被告ダンパには鉛直方向の力のみが 加わり、その方向の力のみしか吸収できないとしても、各方向に沿って設置 された耐力パネルが、両方向に対応する地震力の分力を吸収することで建物 全体では任意の方向の地震力を吸収できるように設計されているといえる (乙3)。
イ 被告ダンパに対しては、一応、前記アのとおりの力のみが加わるといえる が、耐力パネルが設置されている上下の梁がねじれる(回転する)力が加わ った場合には、耐力パネルの構造上、被告ダンパに対し鉛直方向とは異なる\n方向の力が加わる可能性がないわけではない。そこで、被告製品において鉛\n直方向からどの程度ずれる力が加わり得るのかについて検討する。
被告は、被告ダンパを搭載した実物大の住宅サンプルに対して、過去最大 級の地震の一つである兵庫県南部地震の際にJR鷹取駅で観測された地震 波(以下「鷹取地震波」という。)を適用して地震時挙動を測定する実験を行 ったところ、その結果によれば、1階に対する2階床の最大回転角は、0. 14°(乙40)、これにより耐力壁に設置されたダンパに対して加わる力 の鉛直方向からのずれは、0.022°であったこと(乙41)が認められ る。
ウ 以上を前提に、被告ダンパの剪断部に本件発明1における複数方向から の入力があり、その剪断部が複数方向からの入力により荷重を受けたとき に変形してエネルギー吸収を行うものといえるか否かについて検討する。 特許請求の範囲にも本件明細書にも、前記の複数方向のうち1つの方 向といえる角度範囲をどの程度のものと想定しているかについての直 接的な記載はない。しかし、そもそも、本件発明1のダンパは、建築物 や橋梁等の建物、建造物で用いられるものであるところ、従来のI字型 ダンパは、想定する角度からわずかでもずれれば機能しなくなるという\nものではない。I字形ダンパは、入力方向のずれが生じている場合でも、 パネルと平行し、面内を通る方向の分力については、入力がパネルと面 内を通る方向と平行だった場合と同様に作用することになるから、実際 の入力と面内を通る方向とのずれがごくわずかであれば、実際の入力と ほとんど変わらない力が面内を通る分力として剪断パネルに作用する。 例えば、入力方向が0.1°ずれた場合には、
Cos0.1°=約0.9999985
により、約99.99985%の力が面内を通る分力として剪断パネル に作用することになり、この程度の入力方向のずれでは、I字型ダンパ に生じる効果に観測できるほどの差は生じないことは明らかである。ま た、建築の分野において橋梁や住居などの一定の大きさの建造物を建築 するに当たって、施工誤差が生じることは当然であり(原告は、後記の とおり耐力パネル設置に当たって少なくとも±0.82°の据え付け誤 差が生じると主張している。)、I字型ダンパもそのことを前提に用いら れるものとして想定されており、施工の限界を超えた小さい角度差は、 単一方向の入力として想定されているというべきである。さらに、I字 型ダンパはパネルと平行し、面内を通る方向から力が加わることによっ て、平行四辺形に剪断変形することによってその力を吸収するというも のである(前記2 )が、I字型ダンパの剪断パネルにも一定の厚さが あり、少なくとも厚さの中に納まるような入力方向の小さなズレであれ ば、パネルの面内を通る方向からの力と評価し得、少なくともこの程度 の入力方向のずれは、同一方向からの入力として想定されているともい える。
本件明細細書においても、本件各発明のダンパは、図面上、いずれも一 見して複数の剪断部の方向が異なることが明らかなもののみであり、そ の入力方向のズレが相当に小さいことを想定した場合の記載、図面はな い。そのずれが相当に小さく、例えば、0.1°程度の差を複数方向か らの入力と想定した場合、複数のパネルを連結しながらどのように配置 すれば効率的に入力を吸収できるかは、本件明細書によっても明らかで はない。上記のような差の入力の場合、厚みのある鋼板を用いて、2枚 の剪断パネルを0.1°程度の角度をつけて接合し、ダンパを作成する ことを実現することが現実的であるとはいえない。 以上に述べたところに、前記 で記載した本件発明1の意義を考慮す ると、本件発明1で対象としている複数方向からの入力は異なる方向か らの入力であるというべきところ、その異なる方向からの入力には、少 なくとも、従来のI字型ダンパにおいて同一方向からの入力として想定 されていたといえる入力を含まないものと認められる。
前記イで認定したとおり、被告製品は、少なくとも鷹取地震波を前提 にすると、これによって剪断パネルに一定のねじれが生じ、被告ダンパ に鉛直方向からずれた方向からの力も加わることが認められる。しかし、 そのずれは0.022°(なお、cos0.02°=約0.9999999 26)と極めて小さいものである。この程度のずれは、その小ささから もこれによって被告ダンパに生じる効果に観測できるほどの差が生じ るとは認めるに足りないし、このずれは、被告製品が用いられる分野の 施工の限界を超える程度であるといえる。また、そのずれは、被告ダン パのウェブ部を形成する鋼板の厚みの中に収まるような小さなもので あることがうかがえる。 これらによれば、上記実験結果によれば、本件においてねじれによっ て加わり得る入力方向の違いは、従来のI字型ダンパにおいて同一方向 からの入力として想定されていたといえる範囲のものであり、前記 で 説示した本件発明1が異なる入力方向として想定しているものではな いというべきである。 また、被告製品が鷹取地震波を超える地震波に遭遇することは想定さ れ得る。しかし、上記実験で用いられたのが過去最大級の地震の一つで ある鷹取地震波であり、その場合であっても上記のとおり入力方向の違 いが極めて小さいことからすると、現実に想定し得る鷹取地震波を超え る地震においても、被告ダンパに対して本件発明1が想定する程度の鉛 直方向からのずれが生じる剪断パネルのねじれが生じるとも認められ ない。
以上によれば、被告製品で用いられている被告ダンパの剪断パネルに 対してねじれの影響によって生じる入力方向の違いは、その小ささから、 本件発明1が想定する程度に達するような、異なる方向からの入力であ ると評価できるものではないというべきである。

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令和5(ネ)10037  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

原審は、明細書の記載を参酌して、102条1〜3項による計算を行い、102条3項による計算の方が高いとして、約1億3000万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、102条1項の規定の計算の方が高いとして、1億3700万円の損害賠償を命じました。

(2) 特許法102条2項の適用について
ア 特許権者が特許権侵害を理由に民法709条の不法行為に基づく損害賠償を 請求する場合には、特許権者において、侵害者の故意又は過失、自己の損害の発生、 侵害行為と損害との間の因果関係及び損害額を立証する必要があるところ、特許法 102条2項は、特許権者が故意又は過失により自己の特許権を侵害した者に対し その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵 害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者が受けた損害 の額と推定すると規定している。
イ この規定の趣旨は、特許権者による損害額の立証等には困難が伴い、その結 果、妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者 が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と 推定し、これにより立証の困難性の軽減を図ったものであり、特許権者に、侵害者 による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在 する場合には、特許権者がその侵害行為により損害を受けたものとして、特許法1 02条2項の適用が認められると解すべきである(知的財産高等裁判所平成25年 2月1日特別部判決(同裁判所平成24年(ネ)第10015号)、同裁判所令和元 年6月7日特別部判決(同裁判所平成30年(ネ)第10063号)、令和4年特別 部判決参照)。
ウ これを本件について、前記(1)の認定事実を前提として検討すると、本件では、 原告のSDエンジンは、SD装置が本件各発明を含むステルスダイシング技術を用 いたレーザ加工機能を実現するために必須となる部品であって枢要な機能\を担うも のであり、被告による被告旧製品(侵害品)の製造及び輸出・販売行為がなかった ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ とにより、輸出・販売された被告旧製品に対応する利益が得られたであろうという ことはできる。しかしながら、原告はSDエンジンを販売していたものであって、 侵害品と同種の製品であるSD装置を製造・販売していたものではない。また、原 告において自らSD装置を製造する能力があり、具体的にSD装置を製造・販売す\nる予定があったことを認めるに足りる証拠もない。原告の逸失利益はあくまでもS\nDエンジンの売上喪失によるものであって、SD装置の売上喪失によるものではな い。そして、SD装置とSDエンジンとは需要者及び市場を異にし、同一市場にお いて競合しているわけではない。したがって、SD装置の売上げに係る被告の利益 全体をもって、原告の喪失したSDエンジンの売上利益(原告の損害)と推定する 合理的事情はない。
エ この点、原告は、被告旧製品の限界利益のうち、SDエンジン相当部分の限 界利益が原告の損害と推定されるべきであるとも主張する。しかし、SDエンジン は、SD装置の一部を構成する部品であって、その対価は製造原価を構\成する多数 の項目の一つにすぎない。そして、本件において、SD装置の限界利益のうちのど の程度の部分が、それぞれの部品に由来するものであるかを特定するに足りる事情 はなく、「SDエンジン」に由来する部分を特定することは困難というほかないので あって、「SDエンジン相当部分」の限界利益を一義的に特定することはできない。
仮にこれを算出する場合にも、確立した算出方法があるわけではなく、どのような 要素を考慮し、どのような論理操作を行うかによって様々な結論を導くことが可能\nであるから、このように算出された限界利益の「SDエンジン相当部分」をもって 本件における原告の損害を推定し、覆滅事由の主張立証責任を転換するための合理 的な基礎とすることはできないというべきである。したがって、原告の前記主張は 採用することができない。
オ 以上によれば、本件において、侵害者による特許権侵害行為がなかったなら ば利益が得られたであろうという事情があるとして特許法102条2項の規定の適 用が認められるとはいえるものの、SDエンジン相当部分の限界利益を特定するこ とができないから、同項の推定規定により本件における原告の損害を認定すること はできない。前記各知的財産高等裁判所特別部の判決は、いずれも特許権者等にお いて特許実施品又は侵害品と市場及び需要者を共通にする製品を販売等していたと いう事情が存在する事案について判断したものであるから、本件について、上記の ように解することと矛盾するものではない。原告は、知的財産高等裁判所令和4年 8月8日判決(同裁判所平成31年(ネ)第10007号)も引用するが、同判決 の事案は、特許権者が完成品を販売し、侵害者が間接侵害品である部品を販売して いた事案であって、本件のような完成品の限界利益中の当該部品に相当する部分の 特定が問題になった事案ではないから、同項の適用に関する前記結論を左右するに 足りるものではない。
そうすると、本件における原告の損害の認定は、特許法102条2項の推定規定 の適用以外の方法で行うのが相当である。
(3) 別件訴訟2(965特許)の考慮について
被告は、別件訴訟2の対象特許である965特許による侵害を考慮し、本件と別 件訴訟2において損害額を2分の1とするのが相当であると主張するが、各対象製 品の製造・販売等が965特許を侵害するものであるか否かという点は、本件訴訟 の審理対象となっているものではなく、仮に本件において原告に生じた損害のうち、 965特許の侵害による損害と重なる部分があるとしても、本件において965特 許の侵害が成立することを前提として損害額を算定することは相当ではないから、 損害の算定方法にかかわらず、被告の上記主張は採用することができない。
(4) 特許法102条1項(令和元年法律第3号による改正後のもの。本件は改正 法の施行日(令和2年4月1日)前の事案であるが、経過規定は設けられていない から、以下においては、改正後の条文を適用する。)による損害額の算定 ア 特許法102条1項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益 の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、侵害者の譲 渡した物の数量(譲渡数量)に特許権者がその侵害行為がなければ販売することが できた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、特許権者の実施の能力の限度で\n損害額とするが、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売するこ とができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応 じた額を控除するものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の 立証責任の転換を図ることにより、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規 定である(知的財産高等裁判所令和2年2月28日特別部判決(同裁判所平成31 年(ネ)第10003号)参照)。
特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば、特許権者が「侵害の行為が なければ販売することができた物」(同項1号)とは、侵害行為によってその販売数 量に影響を受ける特許権者の製品であれば足り、特許権者が特許実施品又は専ら特 許実施品の生産のために用いる物(部品)を販売しており、侵害行為がなければ、 特許権者は自らの製品を販売することができたという関係にある場合には、特許権 者は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品を販売していたというこ とができるから、同項の適用が是認される。
そして、本件では、前記(2)のとおり、被告の侵害行為がなければ、原告はその製 造する原告エンジンを販売することができ、これにより利益を得ることができたも のと推認され、原告は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品である 原告エンジンを販売していたということができるから、同項を適用することができ る。
イ 限界利益
原告は、原告エンジンの限界利益について●●●●●●●●●円であると主張す るが、前記認定事実のとおり、原告は被告に対し、●●●●●円で原告エンジンを 販売していたのであるから、上記の限界利益額をそのまま採用することはできない。 そして、原告従業員の陳述書(甲73)によると、被告旧製品(対象製品1(2)B) のSDエンジンの競合品である原告エンジン(800DS一式)の原価は●●●● ●円(1万円未満切り捨て)であり、これを前提とすると、原告エンジンの一台当 たりの限界利益は●●●●●円(=●●●●●円−●●●●●円)、●●台分の限界 利益は4億1280万円となる。 なお、LDモジュールは侵害行為がなければ特許権者である原告が販売できた物 であると認めるに足りないから、LDモジュールに係る部分は考慮しない。
ウ 推定の覆滅
本件各発明は、ステルスダイシング機能そのものに係るものではなく、同機能\を 用いて加工対象物をレーザ加工する際の端部の処理に関するものであること、本件 各発明に係る技術については、AF低追従を用いるという代替技術や、端部におい てはレーザ加工をしないという手法(エッジオフ)が存在し、現に、被告がAF低 追従を用い、エッジオフ機能を有する被告新製品を販売していることからすると、\n本件各発明自体の顧客吸引力が高いとは認められないこと、原告エンジンを組み込 んだ被告又はディスコ社のSD装置が被告旧製品と全く同じ性能や機能\を有するも のではないこと、被告が個々のユーザの製造プロセスや加工対象物の形状に応じて
SD装置の仕様を変更し、モジュールを開発して提供するなどして被告製品を販売 していたこと等、本件に表われた事情を総合すると、特許法102条1項1号の「特\n許権者が販売することができないとする事情」に相当する数量は、7割であると認 めるのが相当である。
エ 損害額
以上によると、特許法102条1項により算定される損害額は、1億2384万 円(=4億1280万円×(1−0.7))であり、同条3項により算定される損害 額(後記(5)イ)を上回る。
なお、原告は、同条1項による損害額の算定においては、原告エンジン一台当た りの限界利益額に侵害品の販売台数を乗じた金額に、1台当たり300万円の実施 料相当額を加算すべきであると主張し、同項2号の規定は、同項1号の実施相応数 量を超える数量又は特定数量がある場合において、一定の条件で実施料相当額の損 害を加算することを認めている。しかし、前記ウで認定した「特許権者が販売する ことができないとする事情」に相当する数量は、その性質上、特許権者が実施許諾 をし得たものとは認められないから、本件では、同項2号の規定を適用して、実施 料相当額を加算することはできない。したがって、原告の主張は採用することがで きない。

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◆平成30(ワ)28931

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令和5(ネ)10078  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審と同じく、「包装容器」の発明について、被告製品は技術的範囲に属さないと判断されました。控訴審では、均等侵害の主張が追加されましたが、本質的要件(第1要件)を満たさないと判断されました。

これを本件において検討するに、前記(1)イのとおり、本件発明1は、「底部 に取り付けられた安定補助板により支えられてテーブルなどの上に立たせら れる」「折畳式コップ型容器」(段落【0003】)であって「安定補助板が例 えば紙や合成樹脂などから形成され、後から容器本体に取り付けられる構成」\n(段落【0005】)を採用した従来技術を前提とし、「成形が簡便な自立型 の包装容器の提供を目的とする」(段落【0006】)ことを発明が解決しよ うとする課題とし、当該課題を解決する手段として「前記包装容器を容器と して形成した状態において、前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自 立片が載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、前記自立片によって前記載 置面に自立させられる」(本件発明1の構成要件B)という構\成を採用するこ とにより、「包装容器を自立させる自立片が底面片に連なっているため、一体 的な成形が簡便である」(段落【0013】)という効果を奏するものである。 そうすると、本件発明1において従来技術に見られない特有の技術的思想 を構成する特徴的部分は、従来技術における安定補助板が、底部に一体的に\n成形された構成である、「前記包装容器を容器として形成した状態において、\n前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って前記奥 行の方向に突出し、前記自立片によって前記載置面に自立させられる」こと にあると考えられる。
そして、本件発明1と被控訴人製品とは、包装容器を容器として形成した 状態において、本件発明1の「底面片」が筒状の底部を形成するのに対し、 被控訴人製品は、包装容器を自立させる舌状片が、包装容器の底部を形成す る六角片と同一面に連なっておらず別に構成されている点において相違する\nものと認められるところ、この相違に係る本件発明1の構成、すなわち「底\n部を形成する底面片」が「自立片」と同一面に連ねられていることは、これ までの検討によれば、本件発明1の本質的部分に当たるものということがで きる。
そうすると、上記相違点に係る本件発明1の構成については、本件発明1\nの本質的部分ではないということはできない。そして、前記(1)ウのとおり、 上記の点については、本件各発明について共通するものということができる。 したがって、被控訴人製品は均等侵害の第1要件を充足しないから、その 要件について検討するまでもなく、均等侵害は成立しない。
イ 控訴人は、前記第2の3(4)ウのとおり、本件各発明の本質的部分は、「自立 片」によって載置面に自立させられる構成を採用した点にあり、当該「自立\n片」が内容物に直接接触してこれを支える片という意味における「底面片」 と、同一面に連なることにあるのではないと主張する。 しかし、本件各発明の本質的部分については上記アのとおりと認められる から、本件各発明と被控訴人製品とは、その本質的部分において異なるもの というべきである。

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◆令和4(ワ)2049

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令和5(ネ)10084  特許権侵害損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

個人発明家がアップルを訴えた事件の控訴審判決です。1審は約4400万円の支払いを命じましたが、知財高裁(3部)は、約1800万円に減額しました。これは実施料率が1審0.5%控訴審0.2%となったためです。

当裁判所は、第1審原告の請求のうち、1755万3642円及びうち12 69万1831円に対する平成21年9月27日から、うち25万3585円 に対する平成22年9月26日から、うち170万7608円に対する平成2 4年9月30日から、うち290万0618円に対する平成25年9月29日 から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理 由があるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきで あると判断する。その理由は、当審における当事者の主張も踏まえて原判決を 後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における第1審原告の補充主張に 対する判断を付加し、後記3のとおり当審における第1審被告の補充主張に対 する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第4(原判決45頁2行目 から94頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
・・・
原判決92頁1行目の・・・、同頁5行目の「0.5%」を「0.2%」に、それぞれ改める。

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◆令和2(ワ)13317
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◆平成19(ワ)2525

◆平成25(ネ)10086

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令和3(ワ)15964 特許権  民事訴訟 令和6年3月22日  東京地方裁判所

 被告ダンパが不可分一体の一部となった被告製品は、特許請求の範囲の「入力により荷重を受けた・・・」という文言に該当しないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。

3 被告ダンパは、「入力」を受けるものであるか(構成要件G)(争点1−1)\nについて
ア 本件発明1の構成要件G、Hは、「前記剪断部は、入力により荷重を受けた\nときに、変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とする弾塑性履歴型ダン パ」というものであり、本件発明1の対象となる「弾塑性履歴ダンパ」につ いて「剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収 を行うことを特徴とする」ものであるとされている。したがって、本件発明 1のダンパは、上記に記載された特徴を有するダンパであるところ、その「入 力」がどのようなものであるかについて、本件発明1の特許請求の範囲では 何ら定められていない。
イ ここで、前記1 で説示したとおり、本件各発明は、上部構造物、下部構\ 造物に分離できる橋梁等の建築物において、地震のときに、その接続部にお いて橋軸方向に限らず、複数方向の水平力がかかってしまうところ、同接続 部においては、I字形ダンパでは単一方向の入力にしか対応できないという 課題について、同課題を解決するために、複数の剪断面を持ち、かつ、その 向きが異なるダンパを適用するというものであり、本件各発明は、そのよう なダンパが本件各発明の構成をとることによって、剪断部が、入力により荷\n重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うというものである。
本件明細書に記載された本件各発明の課題は、上記のとおりであり、従来 から知られていた剪断パネル型ダンパである単純なI字形ダンパに対して 単一方向からの入力しか想定されない場面においては、本件各発明における 解決すべき課題は存在しない。単一方向からの入力でなく複数方向からの入 力が想定される場合に、本件各発明が解決すべき課題が存在することとなる。 そして、本件明細書には、前記1 に記載のとおりの本件各発明の意義が記 載されているほか、本件明細書に記載された実施例は、全て、複数方向から の入力が問題となり、そのような複数方向からの入力に対し、本件発明1の 構成をとることによって対応することができるものであると認められる。本\n件明細書のその他の部分にも、単一方向からの入力に対応することに関する 記載はない。これらの本件明細書の記載及び構成要件G、Hの記載から、本\n件発明1に係るダンパは、ダンパに対して複数方向からの入力が想定される 構造物等の部位に用いられ、ダンパの剪断部に対して複数方向からの入力が\nあり、これに対して対応することができるダンパであると解するのが相当で ある。
ウ 以上によれば、本件各発明におけるダンパは、その剪断部に複数方向から の入力があり、その剪断部がそれに対する入力により荷重を受けたときに、 変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするもの(構成要件G、H)で\nあると解するのが相当であり、構成要件Gに係る「入力」は、「複数方向か\nらの入力」を意味し、本件各発明のダンパは、ダンパに対して複数方向から の入力があることを前提として、その剪断部が複数方向からの入力により荷 重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするダンパ であると認められる。
被告ダンパについて検討すると、本件において、原告は、被告ダンパ単体の 譲渡等を問題にするのではなく、被告ダンパが住宅である被告製品に用いられ て、そのような被告製品が販売されていることを特許発明の実施として、被告 製品の販売額を基礎として実施料率相当額の損害を請求する。 被告は、6種の被告ダンパを4種の耐力パネルのいずれかに組み込み、これ を住宅である被告製品の部材として用いている(前提事実 )。被告ダンパは各 平行板部及び各ウェブ部の一端又は両端が耐力パネルに溶接されているので あって、耐力パネルから取り外して使用されることはおよそ想定されておらず、 各耐力パネルも、建物の水平方向に延びる梁や土台等にはさまれるように固定 されて設置されており、住宅販売後に耐力パネルのみを取り外して別の用途に 使用するということはおよそ想定されていない(前提事実 )。すなわち、被告 ダンパは、耐力パネルに物理的にも溶接され、取り外されることはおよそ想定 されず、耐力パネルと不可分一体となっているものといえる。
そうすると、本件において問題となる被告の行為は、被告ダンパが不可分一 体の一部となった被告製品の製造、販売等であって、被告ダンパが組み込まれ た被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか否かが問題になるというべ きである。
なお、被告は、Σ型の形状の鋼材である被告ダンパを作成し、これを他の部 材に組み込むことで耐力パネルを製造していることがうかがえる。もっとも被 告ダンパ単体には「一対のプレート」は接続されておらず、耐力パネルに組み 込まれることによって初めて、「一対のプレート」の具備が問題になるのである から、耐力パネルに組み込まれる前の被告ダンパ自体が本件発明1の技術的範 囲に入ることはないと解される。 被告製品に組み込まれ、被告製品と不可分一体となった被告ダンパに対して 加わる力について検討する。
ア 被告ダンパはいずれも4種類の耐力パネルのいずれかに組み込まれてい るところ、耐力パネルは、その構造上、耐力パネルが接続している梁の方向\nの力(耐力パネルが平行四辺形に変更する方向の力)が加わると、いずれの 耐力パネルについても、被告ダンパに鉛直方向の力が加わり、所定レベル以 上の力が加わると剪断変形によって地震力を吸収する。このとき、被告ダン パに対しては、鉛直方向の力以外の力は加わらない。他方で、耐力パネルに 梁と垂直方向の力が加わっても、被告ダンパには力が加わらず、地震力を吸 収することができない。地震力のうち、これらの力の合力については、いず れも上記二つの力に分解できるから、結局、被告ダンパには鉛直方向の力の みが加わるということになる(乙33)。被告製品においては、建物の特定 の方向に複数の耐力パネルを設置するとともに、これと直交する方向にも複 数の耐力パネルを設置しており、このように複数の耐力パネルを直交方向に 設置することによって、個々のパネルの被告ダンパには鉛直方向の力のみが 加わり、その方向の力のみしか吸収できないとしても、各方向に沿って設置 された耐力パネルが、両方向に対応する地震力の分力を吸収することで建物 全体では任意の方向の地震力を吸収できるように設計されているといえる (乙3)。
イ 被告ダンパに対しては、一応、前記アのとおりの力のみが加わるといえる が、耐力パネルが設置されている上下の梁がねじれる(回転する)力が加わ った場合には、耐力パネルの構造上、被告ダンパに対し鉛直方向とは異なる\n方向の力が加わる可能性がないわけではない。そこで、被告製品において鉛\n直方向からどの程度ずれる力が加わり得るのかについて検討する。 被告は、被告ダンパを搭載した実物大の住宅サンプルに対して、過去最大 級の地震の一つである兵庫県南部地震の際にJR鷹取駅で観測された地震 波(以下「鷹取地震波」という。)を適用して地震時挙動を測定する実験を行 ったところ、その結果によれば、1階に対する2階床の最大回転角は、0. 14°(乙40)、これにより耐力壁に設置されたダンパに対して加わる力 の鉛直方向からのずれは、0.022°であったこと(乙41)が認められ る。
以上を前提に、被告ダンパの剪断部に本件発明1における複数方向から の入力があり、その剪断部が複数方向からの入力により荷重を受けたとき に変形してエネルギー吸収を行うものといえるか否かについて検討する。
・・・
前記イで認定したとおり、被告製品は、少なくとも鷹取地震波を前提 にすると、これによって剪断パネルに一定のねじれが生じ、被告ダンパ に鉛直方向からずれた方向からの力も加わることが認められる。しかし、 そのずれは0.022°(なお、cos0.02°=約0.9999999 26)と極めて小さいものである。この程度のずれは、その小ささから もこれによって被告ダンパに生じる効果に観測できるほどの差が生じ るとは認めるに足りないし、このずれは、被告製品が用いられる分野の 施工の限界を超える程度であるといえる。また、そのずれは、被告ダン パのウェブ部を形成する鋼板の厚みの中に収まるような小さなもので あることがうかがえる。
これらによれば、上記実験結果によれば、本件においてねじれによっ て加わり得る入力方向の違いは、従来のI字型ダンパにおいて同一方向 からの入力として想定されていたといえる範囲のものであり、前記(ア)で 説示した本件発明1が異なる入力方向として想定しているものではな いというべきである。
また、被告製品が鷹取地震波を超える地震波に遭遇することは想定さ れ得る。しかし、上記実験で用いられたのが過去最大級の地震の一つで ある鷹取地震波であり、その場合であっても上記のとおり入力方向の違 いが極めて小さいことからすると、現実に想定し得る鷹取地震波を超え る地震においても、被告ダンパに対して本件発明1が想定する程度の鉛 直方向からのずれが生じる剪断パネルのねじれが生じるとも認められ ない。
以上によれば、被告製品で用いられている被告ダンパの剪断パネルに 対してねじれの影響によって生じる入力方向の違いは、その小ささから、 本件発明1が想定する程度に達するような、異なる方向からの入力であ ると評価できるものではないというべきである。

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令和5(ネ)10078  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審で文言侵害不成立と判断されましたので、控訴審で均等侵害の主張を追加しましたが、第1要件を満たさないと判断されました。

(4) 当審における控訴人による均等侵害の主張に対する判断
ア 控訴人は、仮に被控訴人製品が、本件各発明に文言上はその技術的範囲に 属しないものとしても、これと均等なものとして、特許権侵害に当たる旨を 主張する。
特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用い\nる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、 1)同部分が特許発明の本質的部分ではなく、2)同部分を対象製品等における ものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果 を奏するものであって、3)上記のように置き換えることに、当該発明の属す る技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製 造等の時点において容易に想到することができたものであり、4)対象製品等 が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同 出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、5)対象製品等が特許発明の 特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる などの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載さ れた構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解する\nのが相当である。
そして、上記1)の要件(第1要件)における特許発明における本質的部分 とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない 特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきであり、特許請求\nの範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効 果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見 られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定するこ\nとによって認定されるべきである(最高裁平成6年(オ)第1083号同1 0年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成28 年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号 359頁参照)。
これを本件において検討するに、前記(1)イのとおり、本件発明1は、「底部 に取り付けられた安定補助板により支えられてテーブルなどの上に立たせら れる」「折畳式コップ型容器」(段落【0003】)であって「安定補助板が例 えば紙や合成樹脂などから形成され、後から容器本体に取り付けられる構成」\n(段落【0005】)を採用した従来技術を前提とし、「成形が簡便な自立型 の包装容器の提供を目的とする」(段落【0006】)ことを発明が解決しよ うとする課題とし、当該課題を解決する手段として「前記包装容器を容器と して形成した状態において、前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自 立片が載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、前記自立片によって前記載 置面に自立させられる」(本件発明1の構成要件B)という構\成を採用するこ とにより、「包装容器を自立させる自立片が底面片に連なっているため、一体 的な成形が簡便である」(段落【0013】)という効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1において従来技術に見られない特有の技術的思想 を構成する特徴的部分は、従来技術における安定補助板が、底部に一体的に\n成形された構成である、「前記包装容器を容器として形成した状態において、\n前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って前記奥 行の方向に突出し、前記自立片によって前記載置面に自立させられる」こと にあると考えられる。
そして、本件発明1と被控訴人製品とは、包装容器を容器として形成した 状態において、本件発明1の「底面片」が筒状の底部を形成するのに対し、 被控訴人製品は、包装容器を自立させる舌状片が、包装容器の底部を形成す る六角片と同一面に連なっておらず別に構成されている点において相違する\nものと認められるところ、この相違に係る本件発明1の構成、すなわち「底\n部を形成する底面片」が「自立片」と同一面に連ねられていることは、これ までの検討によれば、本件発明1の本質的部分に当たるものということがで きる。
そうすると、上記相違点に係る本件発明1の構成については、本件発明1\nの本質的部分ではないということはできない。そして、前記(1)ウのとおり、 上記の点については、本件各発明について共通するものということができる。 したがって、被控訴人製品は均等侵害の第1要件を充足しないから、その 要件について検討するまでもなく、均等侵害は成立しない。 イ 控訴人は、前記第2の3(4)ウのとおり、本件各発明の本質的部分は、「自立 片」によって載置面に自立させられる構成を採用した点にあり、当該「自立\n片」が内容物に直接接触してこれを支える片という意味における「底面片」 と、同一面に連なることにあるのではないと主張する。 しかし、本件各発明の本質的部分については上記アのとおりと認められる から、本件各発明と被控訴人製品とは、その本質的部分において異なるもの というべきである。

◆判決本文

1審はこちらです。  

◆令和4(ワ)2049

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令和5(ワ)70001  特許専用実施権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年4月17日  東京地方裁判所

 構成要件Dを充足せず、記述的範囲に属さないと判断されました。\n

 以上のような本件明細書等から認められる本件各発明の目的、課題の解決手 段からすれば、本件各発明は、オゾンによる殺菌等を行った処理後の被処理水 に含まれる残オゾンの低減と、被処理水の生物処理の促進とを両立させること ができる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することを目的としており、そ の解決手段としては、第1の収容槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供 給するオゾン供給手段を有するとともに、第1の収容槽とは別に、被処理水の 生物処理を行う第2の収容槽を設けることとした上で、そこに第1の収容槽に おいてオゾンによって処理された被処理水を残オゾンとともに収容し、生物処 理能力を低減させる原因となる残オゾンを積極的に酸素分子に化学変化させる\nために、第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給 手段と、所定の担体を有するというものである。
したがって、本件各発明においては、オゾンによる殺菌等を行った後の被処 理水に含まれる残オゾンの低減をも目的として第2の収容槽とそれに関する構\n成を設けているのであり、残オゾンを低減させるための構成ともいえる第2の\n収容槽内に、少なくとも積極的にオゾンを供給することは、課題の解決に至ら ず、本件各発明において第2の収容槽とそれに関する構成を有することとした\nことと相容れないものといえる。
そして、オゾン発生装置で製造されるオゾンは、純度100%のオゾンガス が製造されるものでないことは技術常識である上、本件明細書【0031】に おいて、オゾン発生装置29によって発生し、このオゾン発生装置29に接続 され吸気管を介し吸気されたオゾンは、複数分岐した枝管24を通って圧縮部 22内に噴出されるようになっていて、この圧縮部22内に噴出された気泡が オゾンを含むマイクロナノバブルとされていることからしても、第1収容槽内 に供給される「オゾンを含むマイクロナノバブル」については、当然に酸素(空 気)を含むものも想定されていたといえる。
以上に照らせば、本件各発明の特許請求の範囲の「第1の収容槽内にオゾン を含むマイクロナノバブルを供給するオゾン供給手段」と、「第2の収容槽内に 酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」の記載は、特にオゾ ン供給の有無という点において上記課題の解決のための対照的なマイクロナノ バブルの供給手段として記載されているものと解するのが相当であり、「第2の 収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」は、第1 の収容槽への供給手段と異なり、そのマイクロナノバブルにはオゾンが積極的 に加えられているものではなく、その供給手段には、オゾンが積極的に加えら れたマイクロナノバブルを供給する供給手段を含まないというべきである。し たがって、第2の収容槽内にオゾンが積極的に加えられたマイクロナノバブル を供給する酸素供給手段を有する装置は、構成要件Dを充足しないと解される。\n
(3) 被告システムは、前記第2の1(6)のとおり、構成要件Dの第2の収容槽に当\nたる曝気槽内に、酸素及びオゾンを含むマイクロナノバブルを供給する被告装 置を有しており、そのマイクロナノバブルには、オゾン発生装置から得られた オゾンガス、すなわちオゾンと酸素の混合ガスが用いられていて、オゾンが意 図的、積極的に加えられていると認められるから(甲16、18、21、弁論の 全趣旨)、構成要件Dを充足しない。\n
(4) 原告は、被告装置は、オゾンよりも多くの酸素が残存して含まれている上、 当該オゾン自体も活性炭により化学変化させて酸素となることにより、好気性 微生物及び通性嫌気性微生物を活性化させており、十分効果的である旨主張す\nる。
しかし、本件明細書に記載された本件各発明の目的、課題の解決手段等から すれば、本件各発明における「酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素 供給手段」は、前記(2)のとおり解するのが相当である。 また、原告は、オゾンは微量であるが、大気中に存在するし、「オゾン発生装 置」で生成されたオゾンは自然に消滅して酸素に置き換わるものなので、「第2 収容槽内においてはオゾンの量を早期に低減」させることは、2次的な効果に すぎない旨主張するが、前記(1)及び(2)で述べたところによれば、残オゾンを早 期に低減させることが本件各発明の2次的な効果にすぎないといえない。
(5) 以上によれば、被告システムは構成要件Dを充足せず、本件発明1の技術的\n範囲に属しない。

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令和5(ネ)10010 特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月27日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

1審では、技術的範囲に属するが新規性違反の無効理由有りと判断されました。控訴人は訂正審判を請求するとともに、控訴しました。被控訴人は訂正要件違反の無効理由を主張しましたが、知財高裁は訂正要件違反なしと判断し、差止と約50万円の損害賠償を認めました。

(イ) 乙18分析及び乙24分析における分析対象物である公然実施発明
(引用発明)に基づく進歩性欠如の主張について a 公然実施発明は、公然実施品の具体的な構成又は組成等に基づいて認\n定されるため、通常、その公然実施品自体に課題が記載されていること はなく、何らかの課題があることを認識することは困難であるから、公 然実施発明に基づく容易想到性の有無を判断するにあたっては、公然実 施品から出願日(優先日)当時の技術常識を前提にして技術的思想や課 題を認識できるかどうか、その構成又は組成を変更する動機付けがある\nか否かを検討すべきである。
・・・
c 被控訴人の主張について
(a) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕イ・ウのとおり、 本件特許の優先日前に公然実施された被控訴人製品「無限七星FIS H」の重量平均分子量4.5×104との比較において、「1500 0」という上限値が技術的にいかなる意義を有するのかが不明であ り、本件優先日において、ポリアリルアミンの重量平均分子量上限値 の「15000」と、公然実施発明に係る同「45000」は、いず れもポリアリルアミンの重量平均分子量として広く知られ、一般的に 利用されている範囲内のものであるから、本件発明は、公然実施発明 に基づいて当業者が当然に予測することができたもので、進歩性を有\nしない旨を主張する。
この点につき、乙13(特開昭58−201811号公報)は、モ ノアリルアミンの重合体の製造方法について記載されたものである ところ、アリル化合物が通常のラジカル系開始剤によっては重合し難 いという問題があったことから、ラジカル系開始剤を用いて、モノア リルアミンの高重合度の重合体を製造する方法を提供することを目 的とするものであり、請求項1に記載の特定のラジカル系開始剤(分 子中にアゾ基とカチオン性の窒素原子を持つ基とを含む。)を用いれ ば、モノアリルアミンの無機酸塩が、極性溶媒中で極めて容易に重合 し、高収率で高重合度の重合体が得られることを見出したものであっ て(特許請求の範囲の記載、2頁左上欄及び3頁左下欄)、実施例に は、乙13記載の製造方法によって製造された数平均分子量(Mn) が「6500〜45000」のポリアリルアミンが記載されている。 しかし、乙13は、ポリアリルアミンを水に含有した際の機能につい\nて、また、数平均分子量の違いによる機能の差異について記載ないし\n示唆するものではないから、乙13の記載から、公然実施発明(引用 発明)の「無限七星FISH」について、含有成分であるポリアリル アミンの重量平均分子量等の物性を変更することが動機付けられる ものとはいえない。
また、乙12の1(メディカル社のウェブサイト)には、「PAA 🄬(ポリアリルアミン)」の製品紹介が記載されており、「日東紡が 世界で初めて工業的製法を確立したポリアリルアミン(PAA🄬)は、 一級アミンを主成分とする機能性カチオンポリマー」であり、「様々\nな素材のカチオン化や高機能化に最適」であることや、「お客様の使\n用目的・用途に応じてのご提案も可能」であることが記載され、「ア\nリルアミン塩酸塩重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量 平均分子量(M.W.)が「1,600」(PAA−HCL−01)、 「15,000」(PAA−HCL−3L)、「100,000」(P AA−HCL−10L)等の製品が、また、「アリルアミン(フリー) 重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量平均分子量(M. W.)が「1,600」(PAA−01)、「15,000」(PA A−15C)、「25,000」(PAA−25)等の製品が、それ ぞれ記載されている(1/3−2/3頁)。 また、乙12の2には、メディカル社の研究・開発の歴史について 記載され、「PAA🄬」に関して、「1984(昭和59)年 PA A🄬の(ポリアリルアミン)の重合方法発明および販売開始」、「1 991年(平成3)年 低分子PAA🄬を直接染料用固着剤として用 途開発・販売開始」等の記載がある。 しかし、乙12の1及び乙12の2も、ポリアリルアミンを水に含 有した際の機能や、重量平均分子量の違いによる機能\の差異について 記載ないし示唆するものではないから、乙12の1の記載から、公然 実施発明(引用発明)の「無限七星FISH」について、含有成分で あるポリアリルアミンの重量平均分子量等の物性を変更することを 動機付けられるものとはいえない。
そうすると、乙13、乙12の1及び乙12の2の各記載を考慮し ても、前記公然実施発明(公然実施品)の構成又は組成について、技\n術的思想や課題を認識できるような、本件優先日当時の技術常識があ ったとはいえないから、たとえ、重量平均分子量が「15000」又 は「45000」であるポリアリルアミンが市販されたものであり、 当業者に広く知られ、一般的に利用されているものであったとして も、そのことを根拠に、当業者が公然実施発明のポリアリルアミンの 重量平均分子量等の物性を変更することを当然に予測できるとはい\nえない。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(b) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕エのとおり、本件 明細書にはポリアリルアミンの重量平均分子量につき本件訂正に係 る数値範囲は記載されていないから、当該数値範囲に特別な技術的意 義は認められず、本件明細書には重量平均分子量と発明の効果との間 に因果関係があることも記載されていないから、市販品として容易に 入手可能な重量平均分子量のポリアリルアミンを採用することに困\n難性はなく本件発明は進歩性を有しないと主張する。
そこで本件発明の技術的意義について検討すると、前記アのとお り、本件明細書には、簡便に調製でき、且つ優れた機能を有する機能\ 水を提供することを課題とし(段落【0002】ないし【0010】)、 当該課題を解決するために、機能水に、式(3)(式(3’)を包含\nする。)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含むポリマー 等の多価アミン及び/又はその塩を機能成分として含有することを\n特徴とし、当該機能成分の機能\として、魚介類又は精肉の鮮度保持を 含む種々の機能を有することが開示されている(段落【0012】、\n【0013】、【0015】及び【0026】)。
また、式(3)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含む ポリマーとして、本件発明のポリアリルアミン又はジアリルアミン重 合体に該当するポリマーBが例示されており、その重量平均分子量が 「例えば100〜200,000、好ましくは300〜100,00 0、さらに好ましくは500〜50,000である」こと(段落【0 052】ないし【0055】)、ポリマーBの市販品として、重量平 均分子量が「1600」であるポリアリルアミン(PAA−01)、 「15,000」であるポリアリルアミン(PAA−15C)及び「5, 000」であるジアリルアミン重合体(PAS−21)が開示されて いる(段落【0065】)。
そして、実施例において、具体的に、重量平均分子量が「1600」 若しくは「15,000」であるポリアリルアミン又は重量平均分子 量が「5,000」であるジアリルアミン重合体及び精製水を配合し た試験液を用いて、魚介類又は精肉の鮮度保持を含む種々の機能を確\n認したことが開示されている(段落【0108】ないし【0237】)。 そうすると、本件明細書の記載から、「重量平均分子量500〜1 5000」のポリアリルアミン又はジアリルアミン重合体を含有する 機能水である本件発明には、前記のとおりの機能\を有する点で技術的 意義があることが認められる。
そして、前記(a)のとおり、公然実施発明(引用発明)に基づいて、 その含有成分であるポリアリルアミンの組成に着目し、重量平均分子 量等の物性をあえて変更することについて動機付けがあるとはいえ ないから、前記本件発明との相違に係る重量平均分子量の数値範囲の ものに置換することが容易に想到できたものとはいえない。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。

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◆令和3(ワ)4920大阪地裁

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令和5(ワ)3375 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月21日  大阪地方裁判所

特許侵害訴訟です。大阪地裁(21部)は、発明の一部の構成について一義的に明らかではないが、当業者の技術常識、明細書の記載に基づいて、被告製品は技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害は主張されていません。

前記(ア)のとおり、構成要件B2は、「縦板部」について、「庇板の開放された\n前端面に当接され」ていることと「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている」 こととをいずれも備える旨規定している。当該当接部分と、「前面が雨水を下方へ 導くガイド面となっている」部分との位置関係については、構成要件B2の文言か\nらは一義的には明らかでないものの、本件明細書において、前記(イ)のように、本 件発明が、庇の全長が必要以上に長くなるなどの従来の庇の問題に着目して小型化 と構造の簡易化を実現し、保守、点検に手数を要さない庇を提供することを目的と\nしていること、その問題を解決するための手段として、前縁板は、「庇板の開放さ れた前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている縦板部」と、 「庇板の上面に当接され上面が雨水を縦板部のガイド面へ導くガイド面となってい る横板部」とが一体に形成されて成り、前記縦板部の下部内面には凹部が形成され るとの構成が示されていること、当該構\成において、庇板の上面に溜まった雨水は、 庇板の上面を伝って前縁板まで導かれ、横板部のガイド面を経て縦板部のガイド面 を伝って縦板部の下端より落下し、庇板と横板部との隙間より浸入した雨水は、縦 板部の内面を伝って下方へ流下して凹部内に流れ込み、凹部から溢れ出て縦板部の 下端より落下する旨が記載されていることからすれば、構成要件B2の「縦板部」\nは、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面が雨水を下方へ導くガ イド面となっている」ことを要するものと解するのが、当業者にとって合理的であ る。
そして、「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている」部分と、「庇板の開 放された前端面に当接され」た部分とがいずれも備わっているが、両部分が離間し て存在し、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面が雨水を下方へ 導くガイド面」となっていない構成が「縦板部」に含まれるとの解釈は、本件明細\n書に示される本件発明の目的(庇の小型化や構造の簡易化)や作用に整合しないし、\n本件明細書上、これを許容するような記載や示唆も見当たらない。したがって、少 なくとも、かかる構成は構\成要件B2の「縦板部」を充足しないものというべきで ある。
イ 被告製品についてみると、被告製品の構造(形状)の概要は、別紙「イ号製\n品」及び「ロ号製品」の各図面記載のとおりであるところ(前提事実(4)ア)、両 別紙の各【図7】のとおり、庇板102の開放された前端面129に、先端見切1 04(「前縁板」に相当する。)の当接部145の板部が当たって接している、す なわち当接しているものと認められる。 しかしながら、雨水を下方へ導くガイド面140aは、中間に横方向へ延びる張 出部142を介して当接部145の板部とは離間して存在しており、当接部145 の板部の「前面」が雨水を下方へ導くガイド面となっているとは到底いえない。そ うすると、被告製品には、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面 が雨水を下方へ導くガイド面となっている」構成が備わっておらず、被告製品は、\n構成要件B2の「縦板部」を充足しない。\n
ウ これに対し、原告は、被告製品の折れ板部140(別紙「図面」の【原告主 張図1】及び【原告主張図2】の橙色部分)は、前端面129に当接する当接部1 45及び前面が雨水を下方へ導くガイド面140aを備えるから、構成要件B2の\n「縦板部」に該当する、構成要件B2の「縦板部」は、雨水を縦方向に導くガイド\n面を備えているから「縦板部」との語が用いられたにすぎず、被告製品が前方へ張 り出す張出部142を有するからといって、非充足になるとはいえない旨主張する。
しかし、前記アに述べたとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項及び本件明 細書の各記載からすると、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面 が雨水を下方へ導くガイド面」となっていない構成を、構\成要件B2の「縦板部」 に含めることはできないというべきであるから、被告製品の折れ板部140が当接 部145及びガイド面140aを備えるとしても、当接部145の板部の前面が、 ガイド面140aとは離間し、雨水を下方へ導くガイド面となっていない以上、折 れ板部140が構成要件B2の「縦板部」に該当するとは認められない。\nしたがって、被告製品が構成要件B2を充足する旨の原告の主張は採用できない。\n

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令和5(ネ)10086  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

「化合物自体が公知文献に明記されており、当該化合物を初めて製造できたことに技術的意義が認められる物質特許の発明については、化合物自体は公知であるから、その発明は新規性を欠く」と無効主張しましたが、知財高裁は1審と同じく、技術的範囲に属すると判断しました。

控訴人は、化合物自体が公知文献に明記されており、当該化合物を初めて 製造できたことに技術的意義が認められる物質特許の発明については、化合 物自体は公知であるから、その発明は新規性を欠くと解すべきであり、仮に 新規性を有するのであれば、その発明の技術的意義は当該化合物を製造でき たことについて認められるものであるから、その技術的範囲は、発明者が現 実に発明した製造方法によって製造された物か、単離された高純度の化合物 に限定されるべきであると主張するが、以下に述べるとおり採用できない。
ア 発明が技術的思想の創作であること(特許法2条1項参照)にかんがみ れば、特許出願前に頒布された刊行物(同法29条1項3号)に物の発 明が記載されているというためには、同刊行物に発明の構成が開示され\nているだけでなく、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の 創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその\n技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されてい ることを要する。
特に当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製造 方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから、 刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、当 該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理解\nし得る程度の記載があることを要するというべきであり、刊行物に製造 方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業 者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時\nの技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出すことがで きることが必要であるというべきである。
そして、本件において、公知文献である本件引用例に5−アミノレブ リン酸リン酸塩の製造方法に関する記載は見当たらず、乙16〜18の 各論文によっても、特許出願時の技術常識に基づいて当業者がその製造 方法その他の入手方法を見出すことができたとは認められない(以上は 原判決「事実及び理由」第3の3(1)イ〔14頁〜〕に同じ。)。
イ 他方、本件明細書には、5−アミノレブリン酸リン酸塩の物質の構成が\n開示されている(【0009】、【0014】〜【0016】)にとど まらず、当業者がその製造方法を理解し得る程度の記載があるところ (【0007】、【0019】〜【0028】、【0034】〜【00 36】)、これは、新規の化学物質の発明である本件発明について、当 業者が実施し得る程度の発明の技術的思想を開示するものであって、単 なる製造方法としての技術的意義にとどまるものではない。
そして、特許が物の発明についてされている場合には、その特許権の 効力は、当該物と構造、特性等が同一である物であれば、その製造方法\nにかかわらず及ぶこととなる(最高裁平成24年(受)第1204号同 27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁参照)。
ウ なお、控訴人が指摘するような、本件特許の出願の際に製造等していた 者については先使用による通常実施権(特許法79条)により、本件特 許の出願後に製造方法等の発明をした者については通常実施権の設定の 裁定(同法92条)により、特許権者との利益の調整が図られることに なる。

◆判決本文
1審はこちら。

◆令和4(ワ)9716
本件特許の無効審判に関する審決取消訴訟です。
結論は本件と同じです。

◆令和4(行ケ)10091

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令和5(ワ)70114  不当利得返還等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月27日  東京地方裁判所

自動二輪車のブレーキに関する特許について、ヤマハ発動機に対して損害賠償等を求めました。争点は均等侵害等多数有りますが、東京地裁46部は、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。本件特許は出願時から弁理士無しの本人出願ですが、訂正時に代理人がついてます。無効審判も同時継続しています(無効2023-800055)

2 サポート要件違反があるか(争点4−1)について
本件発明1について
ア 本件発明1の構成要件1Fは、「前記信号演算として、横加速度を検出す\nる加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横 G(Ghosei)の導出方法を少なくとも有し、」というものであり、構\n成要件1Hは、「当該車両において、前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の 横G(Ghosei)の組合せにより、車両挙動が判断され、・・・」とい うものであり、本件発明1は、算出された補正後の横G(Ghosei)を 利用するECUによって車輪を適切に制動し、これによってロール方向の挙 動の抑制を図る車両ブレーキ制御装置(構成要件1I)であるとされている。\nそして、本件発明1は、前記1のとおり、自動二輪車等の制御装置につ いて、従来は、正確な傾斜角の検出ができなかったという課題を解決して、 車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたというものである。 これらからすると、構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、\n従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出された、 車両の傾斜走行状態での正確な横Gであると認められる。 ここで、制動指令の前提となる「横G(Ghosei)」は、「横加速度を 検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った」(構\n成要件1F)ものであるとされていることから、「横G(Ghosei)」 は、横加速度を検出する加速度センサーの検出値を基に、これに補正をか けて得られる値であると理解できる。もっとも、本件発明1の特許請求の 範囲には、「横G(Ghosei)」について、単に加速度センサーの値か ら「ロールによる影響を取り除く演算を行った」(構成要件1F)と記載す\nるのみで、どのような演算をするかは明示されていない。そうすると、特 許請求の範囲には、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載さ れ、その解決のための構成は記載されていないといえる。\n
イ 本件明細書には本件発明の意義として前記1のとおりの記載があり、車両 の正確な傾斜角の検出ができず、正確な横Gを検出できなかったという課題 を解決して、車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたという ものであるとされている。
もっとも、本件明細書には、従前は検出できなかった正確な傾斜角の検出 をどのようにするかや、その傾斜角が判明した場合に正確な横Gを算出する ためにどのような補正を行うかについての記載はない。
他方、本件明細書には、センサーによる検出結果を補正して横Gを算出す る方法として、Ghosei = Gken − (Ψ・Rhsen) (式A) との記載がある(【0073】)。本件明細書の【0073】では、「Gken」 は、実際の走行傾斜時に検出される検出横Gであるとされ、「Ψ」は傾斜角 速度、「Ghosei」はΨを用いたGkenの補正後の横Gであるとされ ていて(なお、「Rhsen」について、本件明細書には定義がないものの、 「hsen」について路面とセンサとの距離であることを示唆する記載があ ったり(【0050】【0058】【0061】、図8、9)、「RはGセンサー #23の実車取付けの高さ(図8b hsen)」(【0063】)との記載、 Ψ・Rhsenについて、Rhsenに1を代入した上で「但し、センサー 取り付け高さ Rを1mとする。」との記載(【0074】)があったりする ことから、「Rhsen」車体を垂直にしたときのセンサ取り付け位置の高 さであることを一応推測できる。)、その「Ghosei」は、本件発明の課 題として言及されている「正確な横G」であると理解することができる。そ して、式Aは、その体裁から、本件発明の意義(前記1参照)として記載さ れている、「横Gセンサー」で検出されたGkenと「角速度センサー」で 検出されたΨを用いて「正確な横G」を算出する方法を記載した式であると 理解できる。
しかしながら、「Ψ・Rhsen」からは、傾斜角は算出されないし、式 Aから、傾斜角を算出することなく「正確な傾斜角の検出ができなかった諸 問題」が解決されていると理解することもできない。さらに、Ghosei 及びGkenは、加速度の次元(長さ/時間2)を有し、Ψ・Rhsenは 速度の次元(長さ/時間)の次元を有していることから、式Aは物理学上、 明らかに意味を持たない式である(弁論の全趣旨)。 そして、本件明細書には、式Aの他に、センサーによる測定値を基に「正 確な横G」を算出する方法についての記載はない。
ウ 本件明細書によれば、本件発明は、車両制御のためには「正確な横G」の 取得が必要であるところ、横加速度を検出する加速度センサーの値をその まま用いることができないこと、当該値から正確な横Gを算出するために は傾斜角度を取得することが必要だがそれができないことが課題として記 載され、本件発明はその課題に対して、車両の傾斜走行状態での正確な横 Gを算出したものであるとされており、「横加速度を検出する加速度セン サーのロールによる影響を取り除く演算を行った」という「横G(Ghos ei)」についての、当該演算が、本件発明の課題解決の根幹に当たる部分 であるといえるといえる。 しかしながら、特許請求の範囲には、その演算について、従来の課題を 解決するに足りる構成は記載されていない。また、本件明細書の発明の詳\n細な説明をみても、関係する記載は前記イのとおりである。本件明細書の 式A(【0073】)が、一応、上記の演算であると理解することはできる が、他に、関係する記載はない。そして、前記イのとおり、式Aは本件発明 の課題とされている傾斜角を算出しない上、そもそも物理学上意味をなさな い式であり、当業者はおよそ式Aを用いて車両制御に利用可能な横G(Gh\nosei)が算出できると理解できるものではない。
エ 原告は、本件明細書の記載は、別紙対比表のとおり誤記があり、正しく\nは同表の「訂正後」欄記載のとおりであると主張する。構\成要件1Fの「演 算」については、式Aのみが当たり得るところ、式Aは前記イで認定した とおり、次元の異なる物理量の差し引きをしていることから物理学上意 味をなさない式であり、当業者は、式Aに何らかの誤りがあると理解する ことができるといえる。この点について式Aについて、原告が主張すると おりGhosei=Gken−(Ψ.・Rhsen) (式A´)(ただし、「Ψ .」は傾斜角加速度)の誤記であると理解すれば、減算される物理量の次元が異なるという問題については解消される。しかし、次元を整える目的のみであれば、その訂 正の方法は式A´とすることに限られるものではないのであり、他に解消 方法を考え得るのであり、その考え得る解消方法が物理法則やそれを踏ま えた技術常識等に照らして不合理であることを認めるに足りる証拠はな い。そうすると、式Aの記載のみから、どのような誤記であるかのかが一 義的に定まるものであるとはいえない。 さらに、原告は、式Aについて「Ψ」を「Ψ.」に訂正するに当たって、 そのままでは式Aに関する説明が記載されている【0073】のその他の 記載と矛盾が生じるため、式Aのみならず、同段落における他の「Ψ」の 記載も「Ψ.」に訂正し、1か所の「傾斜角速度」との記載も「傾斜角加速 度」に訂正するものとしている。
しかし、原告が主張する訂正により、訂正後の【0073】は、「この補 正後の横G(Ghosei)は、(0063)式のGkenから傾斜角加速 度(Ψ.)を用いた補正であり、(0067)の式に対して、傾斜角が変化しない状況である。すなわち、式の「Ψ.・Rhsen」の項については、ゼロとなることから二つの式を整理し記述すると、・・・」との記載を含むことになるが、傾斜角加速度(Ψ.)がゼロであっても、傾斜角速度(Ψ)がゼロでないとき(定速傾斜時)は傾斜角が変化する状況なのだから、傾斜角加速度(Ψ.)に関する項「Ψ.・Rhsen」がゼロであることは直ちに「傾斜角が変化しない状況」を意味するものではないから、原告が主張する訂正をすると同記載部分の趣旨が理解できなくなってしまう。他方で、当該箇所について、「Ψ」を「Ψ.」に訂正しなければ、その内容は理解可能である。\n
同様に、原告が主張する訂正後の【0073】の「・・・この様に、式 の「Ψ.・Rhsen」の項について、ゼロにしたデーターは、定常円旋回 時に得られたデーターと呼ばれることがある。・・・」との記載についても、 定常円旋回時には、傾斜角が一定になるため、「傾斜角速度」が0になると ころ、「傾斜角加速度」に関する項が0になっても、「傾斜角」が変化しな いとは限らない(傾斜角加速度が0の場合には、定速傾斜の場合も含まれ る。)のであるから、訂正すると同記載部分の趣旨が理解できなくなって しまう。この点についても、当該箇所について訂正しなければその内容は 理解可能である。\n
さらに、式Aは、測定された加速度(Gken)を角速度(Ψ)の値に よって補正する式であるといえるが、これは、「走行時の横Gセンサーと 角速度センサーを関連付けることによって、従来は、正確な傾斜角の検出 ができなかった諸問題を解決」(前記1)という本件明細書に記載されて いる課題解決の基本的な方法として明示されている手法に文言上最も沿 うものである。他方、式Aを式A´に訂正すると少なくとも直接的にはこ れに文言上最も沿うものとはいえない内容になってしまう。 また、原告は、誤記を訂正した後の【0063】の記載によれば、傾斜 走行時に検出される検出横G(Gken)には、ロール速度の変化の影響 である加速度成分(Ψ.・Rhsen)が重畳されていること、重畳された 当該加速度成分は、傾斜角速度センサーの速度変化である傾斜角加速度 (Ψ.)を減算することで取り除くことができることが分かるなどと主張す る。
しかし、前記イで説示したとおり、本件明細書においてセンサーで取得 した加速度の値を修正して得られる制御に用いる加速度として言及され ているのは【0073】の横G(Ghosei)のみであり、【0063】 には、本件発明1の「横G(Ghosei)」の算出方法は記載されてい ない。仮に、【0063】に本件発明1に係る「加速度センサーのロール による影響を取り除く演算」が「Ψ.・Rhsen」を減算する趣旨であることを示唆する記載があると評価できるとしても、【0073】の方がより直接的な制御に用いる修正後の加速度を算出する方法に関する記載であると評価できるにもかかわらず、式Aについては、前記イで説示した問題がある。
また、【0063】には、Gken=g・cosΦ・tanρ−Ψ・Rhen (訂正後は「Gken=g・cosΦ・tanρ+Ψ.・Rhsen」)という式が記載されており、訂正後の式には「Ψ.・Rhsen」という項が含まれているものの、これを減算(訂正後は加算)した「g・cosΦ・tanρ」が物理学上、本件発明で算出することが課題とされている「正確な横G」に当たり、同物理量が判明すれば「正確な傾斜角の検出ができなかった諸問題」を解決できるものと理解できると認めるに足りる証拠はない。そうすると、仮に【0063】の記載が原告の主張するとおりの誤記であると認定できるとしても、当該式のみからでは、センサーによる検出値である「Gken」から「Ψ.・Rhsen」を減算することが課題解決につながり、構成要件1Fの「ロールによる影響を取り除く演算」に当たるものであると理解できるとはいえない。\n
また、原告の主張中には、【0063】より前の【0061】、【0062】の記載から【0063】の記載が誤記であることが理解できると主張する部分があるが、【0061】、【0062】にも多数の誤記があり、「Ψ」と「Ψ.」に関する誤記のみならず「−」と「+」に関する誤記まであり、どの部分が誤記であるのか容易に理解できるとは認め難い。もともと、本件明細書では、その全体にわたって、その説明の当初から基本的に一貫して加速度の次元の物理量から角速度(周速度)の次元の物理量を加算ないし減算するという式を前提とする内容で説明が記載されていて、前記エで説示したとおり、当該式に直接関連しない部分についてもこれと矛盾しない内容になっていた。そのような本件明細書について、当該式を訂正すると別の部分と矛盾が生じる内容になっている。これらからすると、当業者は、本件明細書に記載の誤りがあることを理解するとしても、本件明細 書において、本来どのようなことが記載されようとしていたのかや、どの部分がどのような誤記であるかを理解することができるとは認められない。
以上のとおり、当業者は、式Aに含まれる項の次元が異なることから何らかの誤りがあることは理解できるものの、次元の違いによる問題を解消する方法は原告が主張する訂正に限られるものではなく、また、式Aの内容等から、次元の違いによる問題を解消するためには、式A´に訂正する以外の方法はないと当業者が理解できると認めるに足りる証拠はない。さらに、式Aの訂正と整合するように、本件明細書の式Aに関する記載部分を訂正していくと、それまで問題なかった明細書の記載の趣旨が理解できなくなったり、整合しなくなってしまうことが認められる。
これらの事情からすると、本件明細書の記載から、式Aが式A´の誤記であると理解できるとはいえない。よって、式Aについて式A´の誤記であると理解できることを前提とする原告の主張はその前提を欠く。
オ 本件発明1の意義は前記1のとおりである。そして、本件発明1の構成\n要件1Fには、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載され、 その解決のための構成は記載されていないといえるところ、前記ウのと\nおり、その課題の解決のための構成について、本件明細書に記載がある\nとはいえない。また、その記載がないにも関わらず、当該課題について、 当業者がそれを解決できると認識できることを認めるに足りない。そう すると、本件発明1は、本件明細書に記載された説明で、本件明細書の発 明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認 識できる範囲のものであるとはいえないし、当業者が技術常識に照らし発 明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。よって、本 件発明1は、本件明細書に記載された発明であるとはいえない。
本件発明2について
ア 本件発明2は、算出された補正後の横G(Ghosei)を利用する、自 動二輪車の車両解析装置であるとされており、横G(Ghosei)の算出 方法については、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと傾斜 角速度の積との差分を求めるものとされている。 本件明細書においてこれに関する記載としては式Aに関する記載がある が、当該記載は本件明細書に記載された課題を解決する発明であると理解で きないものであることについては、前記 で説示したとおりである。他に本 件明細書には当該部分に係る記載があるとはいえない。よって、本件発明2 は本件明細書に記載されている発明であるとはいえない。
イ この点について、原告は、構成要件2Eの補正後の横G(Ghosei)\nの算出方法について、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと 「傾斜角速度」の積との差分との記載は、横加速度から加速度センサーの 車両取り付け高さと「傾斜角加速度」の積との差分の誤記であると主張す る。 しかし、本件明細書には、補正後の横Gに関する記載は式Aに関する記 載しかなく、ここには、「傾斜角加速度」の積との記載はない。原告は、式 Aが式A´の誤記であると主張するが、これが誤記であると理解できない ことについては前記 エで説示したとおりである。そうすると、仮に構成\n要件2Eが2E´の誤記であると理解できるとしても、本件発明2が本件 明細書に記載された発明であるとは認められない。 よって、本件発明のいずれについても、本件明細書に記載された発明であ るとはいえず、サポート要件を欠くものであると認められる。

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令和5(ネ)10071  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月21日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

1審は、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時機に後れた主張であるとして却下しました。知財高裁も同様です。

当裁判所は、本件請求原因の追加は攻撃方法の提出であって、民事訴訟法 143条ではなく同法157条の規律に服するものではあるが、結論的には 時機に後れたものとして却下を免れないと判断する。その理由は、以下のと おりである。
(1) 控訴人の本件請求は、特許法100条1項、3項に基づく差止請求、廃 棄請求及び不法行為に基づく損害賠償請求である。そのいずれも、被控訴人 による被控訴人製品の譲渡等が控訴人の有する「本件特許権」を侵害すると の請求原因に基づくものである。
そして、特許法は、一つの特許出願に対し一つの行政処分としての特許査 定又は特許審決がされ、これに基づいて一つの特許が付与され、一つの特許 権が発生するという基本構造を前提としており、請求項ごとに個別に特許が\n付与されるものではない。そうすると、ある特許権の侵害を理由とする請求 を法的に構成するに当たり、いずれの請求項を選択して請求原因とするかと\nいうことは、特定の請求(訴訟物)に係る攻撃方法の選択の問題と理解する のが相当である。請求項ごとに別の請求(訴訟物)を観念した場合、請求項 ごとに次々と別訴を提起される応訴負担を相手方に負わせることになりかね ず不合理である。当裁判所の上記解釈は、特許権の侵害を巡る紛争の一回的 解決に資するものであり、このように解しても、特許権者としては、最初か ら全ての請求項を攻撃方法とする選択肢を与えられているのだから、その権 利行使が不当に制約されることにはならない。
(2) 以上によれば、控訴人による本件請求原因の追加は、訴えの追加的変更に 当たるものではなく、新たな攻撃方法としての請求原因を追加するものにと どまるから、本件請求原因の追加が民事訴訟法143条1項ただし書により 許されないとした原審の判断は誤りというべきである。
(3) もっとも、被控訴人は、本件請求原因の追加が攻撃方法に該当する場合に は民事訴訟法157条1項に基づく却下を求める旨の申立てをしている(引\n用に係る原判決の第3の2「被告の主張」欄(2))から、以下この点につい て判断する。
ア まず、本件請求原因の追加に至るまでの原審における手続等の経緯とし て、別紙「本件請求原因の追加に至る経緯」記載の事実が認められる (本件記録から明らかである。)。
すなわち、被控訴人は、答弁書(令和4年2月28日付け)の段階で、 乙1公報及び乙3公報等の公知文献を具体的に示して、均等論の第4要 件の充足を争う詳細な主張を提出した。その後、控訴人と被控訴人は、 同年11月までに、当該争点に関する議論を含む主張書面を2往復させ 主張立証を尽くしてきた。この間の書面準備手続調書には、被控訴人の 「均等論の第4要件を中心に反論書面を提出する」との進行意見が記載 されるなど、均等論の第4要件の充足性は、少なくとも本件の中心的な 争点の一つと認識されていた。そうして、侵害論に関する主張立証が一 応の区切りとなった同月28日のウェブ会議による協議(書面による弁 論準備手続に係るもの。以下同じ。)において、裁判所から双方当事者 に被控訴人製品は本件発明1の技術的範囲に属さないとの心証開示があ り、双方は和解を検討することとなった。その後間もなく和解交渉は不 調に終わったところ、令和5年1月27日の協議において、控訴人は、 消弧作用についての再反論(注・均等論の第2要件関係)及びこれまで の主張の補充等を記載した準備書面を提出すると述べた。ところが、控 訴人は、同年2月27日付け準備書面をもって、本件請求原因の追加の 主張をするに至った。これに対し、被控訴人は、同年4月13日付け準 備書面をもって、時機に後れた攻撃方法としての却下又は著しく訴訟手 続を遅延させる訴えの変更としての不許決定を求める申立てをした。\n
イ 以上に基づいて、まず、本件請求原因の追加が「時機に後れた」ものと いえるかどうかを検討するに、本件において、控訴人が本件請求原因の 追加を求めた理由は、請求項1に係る本件発明1の技術的範囲の属否を 問題とする限り、被控訴人が提出した公知文献(特に乙1公報及び乙3 公報)との関係で均等論の第4要件(公知技術等の非該当)は満たさな いと判断される可能性が高いことを踏まえ、本件付加構\成を備える請求 項3に係る本件発明2を議論の俎上に載せることで、均等論の第4要件 をクリアしようとしたものと理解される。
しかし、上記アのとおり、均等論の第4要件を争う被控訴人の主張は、 既に答弁書の段階で詳細かつ具体的に提出されており、これに対する対 抗手段として、本件請求原因の追加を検討することは可能であったもの\nである。その後、約9か月にわたり双方が主張書面を2往復させてこの 点の主張立証を尽くしていたところ、その後に裁判所からの心証開示を 受けた後に、しかも、控訴人自ら、補充的な書面提出のみを予定する旨\nの進行意見を述べていたにもかかわらず、突然、本件請求原因の追加を 行ったものであって、これが時機に後れた攻撃方法の提出に当たること は明らかである。
ウ 次に、故意又は重過失の要件についてみるに、本件請求原因の追加は、 当初から本件特許の内容となっていた請求項3を攻撃方法に加えるとい う内容であるから、その提出を適時にできなかった事情があるとは考え 難い。外国文献等をサーチする必要があったケースとか、権利範囲の減 縮を甘受せざるを得なくなる訂正の再抗弁を提出する場合などとは異な る。控訴人からも、やむをえない事情等につき具体的な主張(弁解)は されていない。そうすると、時機に後れた攻撃方法の提出に至ったこと につき、控訴人には少なくとも重過失が認められるというべきである。
エ そして、本件請求原因の追加により、訴訟の完結を遅延させることとな るとの要件も優に認められる。すなわち、本件発明2の本件付加構成を\n充足するか否かについては、従前全く審理されていないから、本件請求 原因の追加を許した場合、この点について改めて審理を行う必要が生ず ることは当然である。そして、被控訴人は、仮に本件請求原因の追加が 許された場合の予備的主張として、本件発明2の本件付加構\成のクレー ム解釈及び被控訴人製品の特定に関する詳細な求釈明の申立てをする\n(控訴答弁書19頁〜)などしていることを踏まえると、この点の審理 には相当な期間を要し、訴訟の完結を遅延させることとなることは明ら かである。

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原審はこちら

◆令和3(ワ)10032

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令和4(ワ)9521  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月26日  大阪地方裁判所

熱可塑性樹脂組成物について、構成要件1B「・・・分子量700以上・・」について、第1要件充足せずとして、均等侵害が否定されました。ちなみに、被告製品「分子量699」であり、「700」という数値に臨界的意義はありません。 該当特許はこちらです。◆特許4974971


ア 本件各発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物と、当該 組成物からなる樹脂成形品ならびに樹脂成形品の具体的な一例である偏光 子保護フィルム、樹脂成形品の製造方法に関する発明である(【0001】)。 アクリル樹脂の透明度の低下を防止するためにUVAを添加する方法が 公知であったが、成形時の発泡やUVAのブリードアウト、UVAの蒸散に よる紫外線吸収能の低下との問題につき、従来技術として、アクリル樹脂に組み合わせるUVAとして、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびベンゾフェノン系化合物が用いられていた(【0003】、【00\n05】、【0006】)。しかし、これらの従来技術として例示されたアクリル 樹脂(【0006】記載の特許文献)には、いずれも分子量が700以上のU VAは開示されていなかった。
イ 本件各発明は、従来技術の化合物には、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂との相溶性に課題があり、高温成形時の発泡やブリードアウトの発生の抑制が不十\分であったことから、これらの課題を克服するため(【0007】、【0008】)、樹脂組成物を構成要件1B記載の構\成とし、その製造方法を構成要件6B記載の構\成とし(【0009】、【0010】)、これにより11 0゜C)以上という高いTgに基づく優れた耐熱性や高温成形時における発泡 及びブリードアウトの抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少との効果を 奏することとなった(【0015】)。
ウ したがって、本件各発明の本質的部分は、ヒドロキシフェニルトリアジン 骨格を有する、分子量が700以上のUVAが、主鎖に環構造を有する熱可塑性アクリル樹脂と相溶性を有することを見出したことにより、110゜C)以 上という高い優れた耐熱性や高温成形時における発泡及びブリードアウト の抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少という効果を有する樹脂組成物 を提供することを可能にした点にあると認められる。
エ 数値をもって技術的範囲を限定し(数値限定発明)、その数値に設定する ことに意義がある発明は、その数値の範囲内の技術に限定することで、その 発明に対して特許が付与されたと考えられるから、特段の事情のない限り、 その数値による技術的範囲の限定は特許発明の本質的部分に当たると解す べきである。
上記検討によれば、分子量を「700以上」とすることには技術的意義が あるといえるうえ、本件において、上記特段の事情は何らうかがえない。 オ そうすると、被告UVAの分子量が「700以上」ではないとの相違点は、 本件各発明の本質的部分に係る差異であるというべきであるから、被告製品 及び被告方法について、均等の第1要件が成立すると認めることはできず、 均等侵害は成立しない。
カ 原告は、本件各発明におけるUVAの分子量である「700」に厳格な技 術的意義はなく、本件各発明の本質的部分は、分子量が十分に大きいという上位概念であると主張する。 しかし、このような上位概念化は、前述の数値限定発明の技術的意義に関 する考え方と相容れず権利範囲を不当に拡大するものである。また、本件証 拠上、本件各発明におけるUVAの分子量が十分に大きいということが当業者にとって自明であるとも認められないし、分子量が十\分に大きいことと、被告UVAの分子量との比較における本件各発明の数値の臨界的意義との 関係は何ら明らかにされていない。

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令和4(ワ)9100 損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月21日  東京地方裁判所

 技術的範囲に属しない(構成要件F非充足)として、特許権侵害が否定されました。\n

被告方法では、磁性体モールド樹脂で成形されているEコア及びIコア並び にコイルを合体させたコアを、●(省略)●に形成されたキャビティに配置し、 加圧しつつ加熱して樹脂を硬化させてモールドコイルを作成する(以下「加圧・ 加熱過程」という。)ところ、加圧・加熱過程で●(省略)●から磁性体モール ド樹脂が漏れ出し、これが硬化してバリが形成される(第2の2前提事実 )。 原告は、上記の被告方法において、キャビティに配置されるEコア、Iコア を形成する磁性体モールド樹脂(以下「磁性体モールド樹脂(コア)」という。) が構成要件Fの「該キャビティ内に充填した磁性体モールド樹脂」に該当し、\n加圧によって漏れ出してバリを形成する磁性体モールド樹脂(以下「磁性体モ ールド樹脂(バリ)」という。)が「該排出した磁性体モールド樹脂」に該当 し、磁性体モールド樹脂(バリ)を構成する磁性体粉末の容積比(以下「磁性\n体粉末容積比(バリ)」という。)が磁性体モールド樹脂(コア)を構成する\n磁性体粉末の容積比(以下「磁性体粉末容積比(コア)」という。)よりも小 さいと主張するものと解される。
もっとも、被告方法を用いて被告製品を製造する過程において、磁性体粉末 容積比(コア)と磁性体粉末容積比(バリ)について、これらを直接測定して 比較し、後者の容積比の方が小さいものであったことを示す証拠はない。他方、 被告からは、被告方法で作成されたモールドコイルにおいて、磁性体粉末容積 比(バリ)と磁性体粉末容積比(コア)がほぼ同じである旨の電子顕微鏡で撮 影された画像の分析結果(乙4)が提出されている。
ア 原告は、磁性体粉末容積比(コア)と磁性体粉末容積比(バリ)について、 磁性体粉末の粒子径が、磁性体モールド樹脂が漏れ出す隙間よりも大きけれ ば、樹脂が隙間から優先的に排出されるために磁性体粉末容積比(バリ)の 方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなるところ、被告方法の加圧・ 加熱過程で加圧を続けても樹脂の流出が止まるのは、磁性体粉末が隙間を埋 めることが理由であるから、被告方法においては、樹脂が隙間から優先的に 排出されるといった事象が生じたことが示されていると主張する。これに対 して、被告は、被告方法において加圧・加熱過程で加圧を続けているにもか かわらず樹脂の流出が止まる理由について、磁性体によって隙間が埋められ たためではなく、触媒等を利用した上で加熱により樹脂が硬化したためであ ると主張している。
原告は、被告が主張するような短時間で硬化は生じない旨主張するが、被 告方法における樹脂の硬化につき、この原告主張を裏付けるに足りる証拠は ない。また、樹脂の流出が止まったのが磁性体粉末が隙間を埋めたものであ ることを裏付ける証拠はない。被告が実際に使用している被告方法において、 原告が主張するのとは異なる理由により樹脂の流出が止まったことを否定 できず、被告方法において、原告が主張する事象が生じたことによって樹脂 の流出が止まると認めるには足りない。そうすると、原告の主張はその前提 を欠く。
イ(ア)原告は、加圧・加熱過程において磁性体モールド樹脂が漏れ出す隙間が 磁性体粉末の粒子径よりも小さければ、樹脂が優先的に流出するために 磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さく なるという原理を前提に、被告方法で生じている隙間は十分に小さいも\nのであると主張する。
(イ)しかし、被告方法において隙間に相当するものの幅、形状・構造等は不\n明である。原告は、バレル研磨跡に生じている被告製品の角に生じた研磨 跡に着目し、バリの幅は研磨跡を超えることはないなどとして、研磨跡か らバリの幅を推計し、バリの厚さは●(省略)●を超えるものではないな どとも主張する(甲8)。しかし、研磨跡によりバリの幅を正しく把握で きるかは明らかでなく、原告指摘の事実によっても、隙間に相当するもの の幅、形状・構造等は不明である。\n
(ウ)被告方法で用いられる磁性体粉末の大きさについても、被告が用いた磁 性体のD99は、●(省略)●D90は、●(省略)●であることは認め られる(乙3)が、被告方法においては、様々な粒子径、形状の磁性体が 使用され、具体的な粒子径の分布は不明である。そして、被告方法で作成 されたモールドコイル及びバリの電子顕微鏡で撮影された画像(乙4)に よれば、被告方法で隙間に相当するものの幅に比べて格段に小さな磁性体 粒子が多数含まれていることが認められる。
(エ)原告が前記(ア)で主張する原理について、全磁性体粒子のうちの最小粒子 径が隙間よりも大きい場合には、磁性体は隙間を通過することができない ため、樹脂のみが隙間から流出することは推測できる。逆に、全磁性体の 粒子径が隙間よりも十分に小さければ、樹脂と共に磁性体も隙間を通過す\nることから磁性体粉末容積比(コア)及び磁性体粉末容積比(バリ)に変 化がないものと推測でき、隙間より大きな磁性体粒子の割合が極めて小さ い場合にも同様である。他方で、これら以外の場合には、磁性体粉末の具 体的な粒子径の形状・分布、樹脂の性質、隙間の形状・構造、加えられる\n圧力等により、隙間を通過する磁性体の量は変化するものと推測される。 そして、それらについて、どのようなものであった場合に隙間を通過する 磁性体がどの程度あるかについて、これを認めるに足りる証拠はない。
(オ)以上によれば、被告方法においては、様々な粒子径、形状の磁性体が使 用されているところ、その全磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法 で使用されている●(省略)●よりも大きいことを認めるに足りない。ま た、そのように全磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法で使用され ている●(省略)●よりも大きいことが認められない場合、被告方法にお いて、どのような割合で磁性体と樹脂が被告方法における隙間に相当す る部分を通過するかは明らかではなく、特に本件のように隙間よりも小 さな粒子径を有する磁性体粒子が多数含まれる場合には、原告が主張す る原理によって、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性 体粉末容積比(コア)よりも小さくなっているという事実を認めるに足り ない。
ウ 以上によれば、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体 粉末容積比(コア)よりも小さくなっていることを認めるに足りる証拠はな い。かえって、前記 のとおり、被告からは、被告方法で作成されたモール ドコイルにおいて、粉末容積比(バリ)と粉末容積比(コア)が変わらない 旨の電子顕微鏡で撮影された画像の分析結果(乙4)が提出されている。
(3)よって、被告方法において粉末容積比(バリ)の方が粉末容積比(コア)よ りも小さくなっていることを認めることはできず、被告方法が構成要件Fを充\n足するとはいえない。

◆判決本文

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令和5(ワ)70454  特許権侵害等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年2月9日  東京地方裁判所

個人発明家によるAbemaTVを特許権侵害訴訟です。本人訴訟です。裁判所は、構成要件を充足しないと判断しました。\n

(1) 「検査分析装置」及び「検査分析」の意義について
本件発明に係る特許請求の範囲においては、構成要件A、D、F及びGに\n「検査分析装置」との記載があり、構成要件A、B、C、E及びHに「検査\n分析」との記載があるものの、それらの意義は、当該特許請求の範囲の記載 からは明らかではない。
そして、本件明細書には、技術分野に関し、「半導体集積回路装置…の開 発、製造などの検査分析工程で用いられる走査型電子顕微鏡(SEM)、共 焦点レーザ顕微鏡などの検査分析装置の利用方法に関」する(【0001】) との記載が、背景技術に関し、「半導体ウェハ、半導体チップなどの検査分 析においては、検査分析対象となる試料と検査分析装置の性能が合致しない\nと全く有効な検査分析とならない。」(【0004】)及び「半導体ウェハ、半 導体チップの検査分析においては、そのコスト増が著しく、半導体集積回路 装置の開発、製造コストの増大の要因になっている。」(【0005】)との記 載が、課題に関し、「本発明の目的は、半導体集積回路装置などの開発、製 造を効率的に行うために用いられる検査分析工程において、低コストで効率 的に検査分析が行える技術を提供することである。」(【0015】)との記載 が、課題を解決するための手段に関し、本件発明は、検査分析装置の管理者 側と検査分析を希望するユーザ側のそれぞれにセキュリティ確保手段を講じ た上、ユーザが、離れた場所にある検査分析装置を、リアルタイムでリモー ト操作する、又は、ユーザが事前に作成した操作レシピーデータに基づいて 検査分析を行う旨(【0016】ないし【0019】)の記載に加え、「本件 発明の検査分析は、細く絞ったレーザビームを試料面へ照射してその反射光、 散乱光、透過光の少なくとも一つを検出すること、または電子ビームを照射 して二次電子、散乱電子、透過電子の内の少なくとも一つを検出することに より、試料上の所望の箇所を分析するものである。」(【0024】)との記載 が、発明の効果に関し、「本件発明により、検査分析を所望する複数ユーザ に対し、ユーザは個別に検査分析装置の導入のための投資することなく、ユ ーザ試料の検査分析が効率よく行うことが可能となった。」(【0026】)と\nの記載が、それぞれある。これらの記載に照らすと、「検査分析装置」とは、 試料を装填等して、ユーザのリモート操作によりその試料を分析し、検査す る検査分析ユニットを有する装置を意味し、「検査分析」とは、試料を装填 等して、ユーザのリモート操作によりその試料を分析し、検査する工程を意 味すると理解することができる。
これに対し、原告は、「検査分析装置」について、「インターネットを介し たリモート操作が検査分析の対象となるコンピュータ装置であり、当該検査 分析に異常がないことを条件とし、リモート操作した情報を提供するコンピ ュータ装置」と、「検査分析」について、「インターネットを介した検査分析 装置に対するリモート操作に異常がないかの検査分析」と、それぞれ解すべ きである旨主張し、検査の対象が「リモート操作」であることを前提として いるものと解されるが、本件明細書には、原告が主張する解釈の根拠となる 記載はないから、同主張は理由がない。
(2) 被告方法の構成要件充足性について\n
原告の主張は明確ではないものの、被告の動画配信サービスを提供するサ ーバが、「検査分析装置」に該当し、同サービスにおいて、視聴者が動画配 信の内容についてコメントを付したり、高評価ボタンを押下したりすること が、「検査分析」であると主張するものと理解することができる。 しかし、被告の動画配信サービスを提供するサーバは、検査分析の対象と なる試料の装填等を想定したものではなく、ユーザからリモート操作される ことによりその情報等を分析し、検査する検査分析ユニットを備えているも のと認めることはできないから(弁論の全趣旨)、同サーバは、構成要件A、\nD、F及びGの「検査分析装置」に該当しない。 同様に、被告の動画配信サービスにおいて、視聴者が、動画配信の内容に ついてコメントを付したり、高評価ボタンを押下したりすることは、試料を 装填等することを前提とするものではなく、ユーザが同試料について情報等 を分析し、検査するものでもないから、構成要件A、B、C、E及びHの\n「検査分析」に該当しない。 その他、原告の主張する被告方法の内容に照らし、被告方法が「検査分析 装置」又は「検査分析」に該当する装置又は工程を備えるものとは認められ ない。以上のとおり、被告方法が構成要件AないしHを充足すると認めることは\nできない。

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令和5(ネ)10026  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年1月31日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

特許権侵害訴訟の控訴審判決です。原審は、被告製品は本件発明2の技術的範囲に属さない、本件発明1は公然実施発明Bであって新規性を欠くとして請求棄却しました。控訴審も同様です。

ア 控訴人は、構成要件2Bを「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であることを要する」と解する根拠は、特許請求の範囲の文言にも本件発明2の課題にも なく、当業者の技術常識等からみても非現実的である旨主張する。
イ しかし、構成要件2Bは「前記排水溝の壁面の表\面粗さが、算術平均粗 さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする」と規定してお り、本件発明2の特許請求の範囲の文言全体をみても、排水溝壁面の表面粗さについて、一部は2.0μmを超えるが製品の一定範囲や所定の\n測定箇所が2.0μm以下であるものを含む、あるいは全体の算術平均 粗さ(Ra)の平均値が2.0μm以下であるものを含むと解すべき文 言はない。
この点は、本件明細書2の記載をみても同様である。控訴人が指摘す る本件明細書2の記載や図面は、従来技術や実施例に係る排水溝の性状 等を特に留保なく説明するものであり、控訴人が主張するように、作業 過程で異常(イレギュラー)が発生した箇所があることを前提とし、こ れを除いた「任意の箇所」を示すものであることを窺わせる記載はない。 控訴人は、1)製紙用弾性ベルトの排水溝は、作業前に設定した加工条 件に基づいて均一的に連続加工されるものであること、2)作業時の諸要 因によって加工結果にばらつきが生じることが避けられないこと、3)排 水溝の壁面を全長にわたって測定する作業は現実的に不可能であり、任意に選定された排水溝の壁面を測定する作業によって製品の性状を把握\nするという、当業者の技術常識を考慮すべき旨主張する。
しかし、上記のとおり明確な構成要件2Bの文言について、明細書にも記載がなく、その範囲も不明確な例外を含むと解することは、不当な\n拡張解釈というべきであって、特許請求の範囲の解釈に当たって当業者 の技術常識を考慮するという枠組みを超えるものといわざるを得ない。 控訴人の主張は、当業者が定める自社製品の品質基準としてはともかく、 独占権が付与される特許請求の範囲の解釈としては採り得ない。 なお、控訴人が指摘する大阪地方裁判所平成15年(ワ)第10959号 同17年2月28日判決は、控訴人の主張を裏付けるものではない。
ウ したがって、原判決判示のとおり、構成要件2Bは「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であること」を要すると解するのが相当である。
そうすると、控訴人が主張する<ステップ1>から<ステップ2の2 B>まで、すなわち「各測定結果に係る9溝ないし18溝のデータ数値 を参照し、特定の溝壁面の表面粗さ数値が他の溝の同一壁面に比して突出して高くなっている」ものを「当業者からみて明らかに溝加工作業時\nに生じた異常(イレギュラー)」として除外すること、及び「測定結果 に係る各壁面の表面粗さの平均値が算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下である結果が得られているか否か」(控訴人の他の主張と併せると、\n任意の測定箇所の算術平均粗さの「平均値」が2.0μm以下であるこ とを意味すると解される。)により充足性を判断する判断手法は、構成要件2Bを逸脱する独自の解釈に基づくものといわざるを得ず、採用で\nきない。
・・・
(2) 公然実施発明Bに基づく本件発明1の新規性欠如の有無について
イ 公然実施をされた発明に当たるかについて
(ア) 控訴人は、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面にD MTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可能な分析方法によって知ることができなかった旨主張する。\n
(イ) しかし、まず、証拠(乙37、124、128、129)によれば、 エタキュアー300は、本件特許1の出願前から実用化され、ウレタン 用の硬化剤として注目されていたことが認められる(原判決44頁〜)。 控訴人は、上記文献等はシュープレス用ベルトに使用される硬化剤に ついて言及するものでないと主張するが、上記文献等はポリウレタン全 般向けの硬化剤としてエタキュアー300を説明するものであるところ、 シュープレス用ベルトに利用される硬化剤が他の一般的なポリウレタン の硬化剤と異なるとみるべき根拠はない(上記文献等には、代表的な従来品が本件明細書1【0003】に従来のシュープレス用ベルトの硬化\n剤として記載されているMOCAである旨の記載も複数ある。)。
また、被控訴人は、遅くとも平成9年7月時点ではエタキュアー30 0を使用していたところ(原判決45頁)、上記ア(イ)の認定事実によ れば、被控訴人は硬化剤としてDMTDAを使用することを独自に見出 したのではなく、エタキュアー300を製造販売するアルベマール社の 国内関連会社との取引を契機として知ったと認められる。この事情は、 他の当業者が硬化剤の候補としてエタキュアー300に着目する蓋然性 を裏付ける事情となることは明らかである。 控訴人は、さらに、ポリウレタンの硬化剤はDMTDAの他にも約8 0種類存在し(甲43)、その全てについて標準品を準備して分析依頼 を行うことは非現実的であると主張する。
しかし、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(乙128)に「実用化 されている熱硬化PUエラストマー用芳香族ジアミン架橋剤」として記 載された5種類、あるいは特開2000−248040号公報(乙12 7)にポリウレタンプレポリマーと反応させるアミン硬化剤組成物とし て記載された芳香族ポリアミンの15種類、その中でも好ましいと記載 された4種類には、いずれもエタキュアー300又はDMTDAが含ま れており、当業者は、従来用いられているMOCA(本件明細書1【0 003】)と同類であるこれらの硬化剤を想定するとみるのが自然であ る。
(ウ) 控訴人は、ベルトの外周面に着目し、外周面のみを切り出して分析を 依頼することは、当業者が通常に利用可能な分析技術とはいえない旨主張する。\nしかし、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の 層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤と を混合してベルトの弾性材料とすることは技術常識であり(原判決44 頁)、自由に解析等をなし得る状態に置かれたベルトを解析して構造等を特定することは可能\であったと認められる(このことは甲25に記載された断面写真から明らかであり、原判決の認定に問題はない。)。 したがって、ベルトBの外周層を切り出して分析を依頼することは、 本件訴訟において控訴人(甲10の1〜4)及び被控訴人(乙1〜3) が行ったのと同様、本件特許1出願前の当業者にも可能であったと認められる。\n
なお、当業者が仮に外周層と内周層に異なる硬化剤を用いる製造方法 を認識せず、これらを区別せずに分析を依頼した場合、全体について硬 化剤としてDMTDAが使用されているという分析結果を知ることにな り、この結果はベルトBの正しい構成なのであるから(乙32)、「外周面を構\成するポリウレタンは、」「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている」との構成を含め、本件発明1の内容を知り得たといえることに変わりはない。\n
(エ) したがって、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面に DMTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可 能な分析方法によって知ることができたと認められる。ベルトBが公然実施された発明とはいえない旨をいう控訴人の主張は採用できない。\n

◆判決本文

原審はこちら。

◆大阪地裁平成29(ワ)4178
原審では、被告は、一旦、損害論に入ってから、2.0μm以下である」との構成要件を充足しないとして、非侵害の主張を行いましたが、これは「時機に後れた」とは認定されませんでした。
原告は、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわ らず、被告は、被告製品1〜3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁 面の表面粗さの測定結果(乙152〜159)を新たに証拠提出するとともに、非侵害の主張を行ったことが時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を主張する。\nしかし、被告が前記証拠等を提出したのは、原告が、訴状においてはイ号製品 が本件発明2の技術的範囲に属する旨を主張しつつも、被告製品1〜3及び5の 排水溝壁面の表面粗さに限定して立証活動をしていたが、裁判所が本件発明2については損害論に入る旨の心証開示を行ったことを受けて、被告製品1〜3及び\n5の各製品と同じシリーズの製品等についても本件発明2の技術的範囲に属する 旨を改めて主張したことに対応するものであって、必ずしも時機に後れたものと は認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。

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令和5(ワ)70102  特許権侵害差止及び特許権侵害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年12月4日  東京地方裁判所

半発酵茶葉の発明について、構成要件を充足しないとして、侵害が否定されました。\n裁判所は明細書の記載を参酌して、「茎が取り除かれた」とは、茎を含む半発酵茶葉のポリフェノール等の重量%を測定するための条件を示すものではなく、茎を含まないことを意味すると判断しました。

ア 本件発明の構成要件BないしDは、ポリフェノールの重量、EGCGとE\nCGの合計重量又は総カテキンの重量につき、各構成要件記載の重量%以下\nに限定するものであるが、上記構成要件にいう「茎が取り除かれた」とは、\n本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを意味するのか、あるいは、茎を 含む半発酵茶葉のポリフェノール等の重量%を測定するための条件を示す ものか、文言上必ずしも明らかではない。そのため、本件明細書の記載を考 慮して、その用語の意味を解釈すると、本件明細書の記載【0079】には、 「サンプリング方法:できた各号のお茶の茎を取り除き、篩い分けて12メ ッシュパス20メッシュオンの砕茶を各800g採取する。」として、本件 発明の半発酵茶葉は、その茎が取り除かれることが明確に記載されている。 そして、本件明細書の他の実施例をみても、官能試験によって本件発明の効\n果が確認されている茶葉は、いずれもサンプリングの段階で茎が取り除かれ たものであり、本件明細書全体の記載によっても、茎が含まれた茶葉につい ては、本件発明の効果を確認するような記載が一切存在せず、本件発明の茶 葉に茎が含まれることを示唆する記載も一切認められない。 上記各構成要件及び本件明細書の記載を踏まえると、上記各構\成要件にい う「茎が取り除かれた」とは、本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを 意味するものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記認定事実及び弁論の全趣旨(被告各製品 (双方当事者持参に係るもの)に係る茎の有無の確認結果〔第3回弁論準備 手続期日及び第4回弁論準備手続期日〕を含む。)によれば、被告各製品の 茶葉には、いずれも多くの茎が含まれていることが認められる。 したがって、被告各製品は、本件発明の構成要件BないしDを充足するも\nのと認めることはできない。
のみならず、原告による本件各試験は、被告各製品において茎を除いてポ リフェノール等の重量%を測定していることまで立証するものではなく、上 記構成要件BないしDを立証する前提を欠くものといえる。しかも、原告に\nよる本件各試験は、被告らが釈明したとおり(第1回弁論準備手続調書参照)、 本件各試験に係る具体的な実施条件等が明らかにされていないため、上記構\n成要件BないしDにいう成分重量を的確に立証するものとはいえない。その 上、原告が採用した測定方法は、本件明細書【0082】に記載された測定 方法(カテキンにあってはISO14502、ポリフェノールがGB/T8 313をいう。)とは異なるものであるから、上記構成要件BないしDに各\n規定する成分重量を立証するに適切なものとはいえない。 この理は、原告が時機に後れて提出した本件試験その2(甲19、20) についても、測定に当たり茎が除かれていない点、具体的な実施条件等を欠 く点において同様に当てはまるものであり、同試験も上記認定判断を左右す るに至らない。
したがって、原告の立証は、上記各構成要件の充足性を裏付けるに的確な\nものとはいえず、このような観点からしても、被告各製品は、本件発明の構\n成要件BないしDを充足するものと認めることはできない。 イ これに対して、原告は、1)仮に茎を取り除かなければ、被告各製品には全 体の13重量%から18重量%の茎が含まれているはずであり、見た目も悪 くなるはずであるが、実際にはそうではないこと、2)仮に茎が完全には取り 除かれていなかったとしても、少々の茎は、この業界では茎が取り除かれた ものとみなされていること、3)仮に茎が取り除かれていないとしても、被告 各製品の半発酵茶という性質に何ら変わりはないことを主張する。 しかしながら、本件特許に係る茶葉は、茎が取り除かれているものである ことは、上記において説示したとおりであり、原告の主張は、本件特許の構\n成要件の用語の意義を正解しないものである。また、被告各製品には、少々 とはいえない茎が含まれていることも、上記において認定したとおりであり、 原告の主張は、その前提を欠くというほかない。

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令和3(ワ)18262  損害賠償請求事件(特許権侵害)  特許権  民事訴訟 令和5年12月6日  東京地方裁判所

 特102条3項のライセンス料として、通常の5%を根拠に6%の損害が認められました。被告の公式ホームページにおいて、販売数量について「30万着突破!」と記載されていたことは、虚偽であると認定されています。

ア 証拠(乙18、29、30)及び弁論の全趣旨によれば、令和2年1月 22日から令和4年2月22日までの間の被告製品の売上高は、1億17 57万6451円であったと認められる。
イ(ア) 原告は、被告が、令和2年1月1日から同月21日までの間も被告製 品を販売したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(イ) また、原告は、被告の公式ホームページにおいて、被告製品の販売数 量について「27万着突破!」、「30万着突破!」と記載されていたこ とを指摘して、被告製品の販売数量は少なくとも27万着であり、これ に1着当たりの単価5980円を乗じると、被告製品の売上高は16億 1460万円を下らないと主張する。 そこで検討すると、確かに、証拠(甲4、14)によれば、被告の公 式ホームページにおいて上記の記載がされていたことが認められるもの の、同ホームページに記載されていた販売価格(5980円。弁論の全 趣旨によれば、この価格はブラジャーの一般的な販売価格として相当な ものと認められる。)を前提とすると、前記アにおいて認定した被告製品 の売上高は、請求書記載の被告製品の輸入数量(乙17)、被告製品に係 る販売管理データ記載の販売数量(乙18)、被告の損益計算書記載の売 上高(乙20、21)、被告における被告製品以外の売上高(乙22ない し24)と整合的であるといえる。これに対し、被告製品の販売数量が 27万着以上であることを示す資料は、被告の公式ホームページの記載 以外に存在しない。
これらの事情に照らせば、令和2年1月22日から令和4年2月22 日までの間の被告製品の売上高は前記アにおいて認定したとおりであっ て、被告の公式ホームページにおける販売数量の記載は虚偽のものであ ったと認めるのが相当である。
(ウ) したがって、原告の前記各主張を採用することはできない。
(2) 相当な実施料率について
ア 本件発明の実施に対し受けるべき料率については、1)本件発明の実際の 実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界にお ける実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)本件発明自体の価値すなわち本 件発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)本件発明を被 告製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者 である原告と侵害者である被告との競業関係や特許権者である原告の営業 方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきで ある。
イ 本件についてみると、本件発明の実際の実施許諾契約における実施料率 は、5パーセントであることが認められる(甲15ないし18)。 また、本件発明は、多種多様の女性用衣料を個々に用意することなく、 個人差を有する女性のバスト等のサイズや形、あるいはバストアップ等の 補正機能等に対応することが可能\な女性用衣料を低コストで提供すること を可能とするものであるところ(前記1(2)イ)、被告製品も、女性のバス トの補正を主たる機能としたものであるから(甲3、4、14)、本件発明\nを被告製品に用いることが被告の売上げ及び利益に大きく貢献していると 認めるのが相当であって、他のものによる代替可能性はうかがわれない。\nさらに、原告と被告は、いずれも女性用衣料を販売しているから(前提 事実(1)、(5)及び(6))、その市場において競業関係にある。 これらの事情に照らすと、特許権侵害をした者に対して事後的に定められ る本件発明の実施に対し受けるべき料率については、6パーセントと認め るのが相当である。
(3) 特許法102条3項により算定される額について
以上によれば、特許法102条3項により算定される本件発明の実施に対 し受けるべき金銭の額に相当する額は、705万4587円(1円未満四捨 五入)と認められる。

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令和3(ネ)10084  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年11月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権侵害について、1審の約15億円の損害賠償判決がなされました。双方控訴しましたが、知財高裁は控訴を棄却しました。

【当審における双方の補充的主張に対する判断】
(1) 第1審原告の補充的主張について
ア 第1審原告は、計算鑑定書の別表において、1)対象期間における原反ロー ルの購入面積が第1審被告製品(1)の販売面積よりも大きかったり、2)原 反ロールの購入面積と第1審被告製品(1)の販売面積が一致するデータが 多かったりするなどといった不自然な結果が記載されていると指摘する。 しかし、1)については、加工する際の歩留まりやロス、仕損じがあること を考えれば、原反ロールの購入面積よりも販売面積が小さくなることは何 ら不自然ではない。2)についても、計算鑑定書は、第1審被告製品(1)の品 番毎の原反ロールの月毎の面積について、●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●のであ り(計算鑑定書19頁)、基準量が1であるとき(例えば、原反ロールを特 段加工することなく転売する場合)、原反ロールの購入面積と第1審被告 製品(1)の販売面積が一致したとしても何ら不自然ではない。第1審原告 は、計算鑑定の結果が、第1審被告らが提出する調査報告書(乙58)や 製品説明書(乙1)の売上高等のデータと異なることも指摘するが、計算 鑑定人が中立的な立場からその職責において計算を行ったものであり、第 1審被告らの提出する資料と一部データが異なるとしても、そのことから 信用性が失われるものでもない。 また、第1審原告は、信用調査会社による競合会社の動向調査の結果で ある甲88を提出して第1審被告らの売上高等について独自の主張をす るが、外部の調査会社による調査結果にすぎず、その調査結果の信用性が 高いことを認めるに足りる的確な証拠はない。
イ 第1審原告は、第1審原告製品の販売価格には第1審被告製品(1)の●● ●●のものがあることを指摘して、原判決の判断の前提には誤りがあり、 推定覆滅事由が認められないと主張する。しかし、そのような販売価格の 製品があることは、仮に第1審被告製品(1)が販売されなかった場合に、か えって第1審原告製品の販売の可能性を減少させるにすぎず、むしろ推定\n覆滅を肯定する事情であるにすぎない。
(2) 第1審被告らの補充的主張について
ア 第1審被告らは、限界利益の算定上、原判決別紙「売上高・経費一覧表」\nの番号6〜8、11〜14は第1審被告製品(1)の製造販売に直接関連し て追加的に必要になった経費であるから控除されるべきであると主張す る。しかし、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造 販売に直接関連して追加的に必要になった経費には当たらないというべ きであり、上記各経費を控除の対象とすることは相当でない。
イ 第1審被告らは、第1審被告らの利益額の90%又は少なくとも77% の推定覆滅を認めるべきであると主張する。しかし、その指摘する根拠と する理由(第1審被告製品(1)に耐候性等の本件発明の作用効果が確認で きないこと、設計変更が容易であること、第1審被告らの営業努力・ブラ ンド力・売上シェア等)については、本件証拠上、その事実が認められな いか、仮に認められたとしても、原判決が認定した限度を超えて特許法1 02条2項の推定を覆すに足りるものではない。

◆判決本文

1審における推定覆滅の事情は以下です

◆平成30(ワ)1130

b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張 する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当 である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の 印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品 と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし, 原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明 は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。 しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技 術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域 をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独 立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料…着色 剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措 定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製 品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実 験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって 直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の 全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の 技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当 ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度 等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き く変化していないと主張する。
しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な 証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替 えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧 製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従 前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた 可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品 の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略) ●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売 できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+● (省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競 合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨 によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性 能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告 らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認 めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売 上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの は相当ではない。
(d)さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益 率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省 略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品 のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10 2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の ●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製 品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と 同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一 定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単 価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e)以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち, 原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。

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令和1(ワ)17622  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月14日  東京地方裁判所

特許権侵害の損害賠償として、約11億円が認められました。102条2項の推定覆滅なしと認定されました。

被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳 管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後 の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して 製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値 分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、 被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕 入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加 価値は1対1として計算すべきであると主張する。
しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に 切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被 告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、 価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記 イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利 益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控 除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する ことやその額を認めるに足りる証拠はない。 また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅 すべき事情に当たるとはいえない。

◆判決本文

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令和1(ワ)17622  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月14日  東京地方裁判所

漏れていたのでアップします。特許権侵害訴訟で、差止と10億を超える損害賠償が認められました。特102条2項の覆滅は無しと判断されました。請求項6、9がPBPクレームでしたが、これについては明確性違反と判断されました。

本件発明6は、電鋳管についての物の発明であるところ、特許請求の範囲に おいて、当該電鋳管について、細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物 を形成する工程(メッキ工程)、細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小 さくなるよう変形させる工程(引っ張り工程)、変形させた細線材を除去する工 程(分離工程)を経て製造されることが記載されている。 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合、その発明の要旨は、当該製造方法により製造された物と構造、\n特性等が同一である物として認定される。そして、物の発明についての特許に 係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、 当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表\しているのか、又は 物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限 定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当 該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占 権を有するのかについて予測可能\性を奪うことになる。したがって、出願時に おいて当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、 又はおよそ実際的でないという事情が存在するなどの第三者の利益を不当に 害しない事情が存在するのでない限り、物の発明についての特許に係る特許請 求の範囲にその物の製造方法が記載されている特許請求の範囲の記載は、特許 法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するとは いえない(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷 判決・民集69巻4号700頁参照)。本件発明6の特許請求の範囲において は、物の製造方法が記載されているところ、出願時において製造された物をそ の構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、又はおよそ実際的 でないという事情についての主張はなく、また、同事情を認めるに足りる証拠 もない。
・・・
本件明細書には、本件発明6の電鋳管と同様の形状等を有する電鋳管につい て本件発明6の方法以外の複数の方法で製造できると記載されている【004 1】、【0042】)。そして、本件発明6の引っ張り工程及び分離工程の方法に よった場合の電鋳管の内面精度について、特許請求の範囲、本件明細書、図面 には記載はない。また、原告が主張する本件発明6の技術的範囲に属するとい う場合の電鋳管の客観的な内面精度自体が必ずしも明確ではなく、また、本件 特許の出願当時、引っ張り工程及び分離工程により製造された電鋳管の内面精 度を含む構造又は特性が、技術常識により明らかであったことを認めるに足り\nる証拠はない。
そうすると、電鋳管の発明である本件発明6について、少なくとも引っ張り 工程及び分離工程に関して電鋳管のどのような構造又は特性を表\しているの かが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明らかであるとは いえない。原告の主張は採用することができない。
・・・
被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳 管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後 の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して 製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値 分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、 被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕 入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加 価値は1対1として計算すべきであると主張する。 しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に 切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被 告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、 価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記 イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利 益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控 除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する ことやその額を認めるに足りる証拠はない。 また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅 すべき事情に当たるとはいえない。

◆判決本文
なお、本件については、控訴審判決はなさそうですが、対応する審決取消訴訟にて、請求項6は不可能・非実際的理由がなくても、PBPクレームだから自動的に明確性違反だとはならないと判断されてします(内面精度との技術的関係が不明として明確性違反と判断されています)。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載 されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時 において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁 判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集 69巻4号700頁)。 もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許 請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・ プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を 読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、 第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。 そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製 造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願 時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\ しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義 的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不 可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
・・・
そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を 加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着 物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、 3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細 線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱 又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、 これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても 一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記 3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の 内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上 記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し たとも認められない。 そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電 鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n

◆令和3(行ケ)10140

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令和2(ワ)25892  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年11月29日  東京地方裁判所

電子たばこの特許について、被告製品は技術的範囲に属しないと判断されました。

イ 本件明細書には、「本発明の物品は、カートリッジの嵌合端部と嵌合す る受容端部を有する制御ハウジングも含むことができる。したがって、制 御ハウジングとカートリッジ本体は、機能可能\に連結されるものとして特 徴づけることができる。このような受容端部は特に、カートリッジの嵌合 端部を受容する開口端部を有するチャンバーを含んでよい。・・・特有の 実施形態では、カートリッジの嵌合端部を制御ハウジングの受容端部と嵌 合させると(カートリッジの嵌合端部を制御ハウジングのチャンバーの中 まで所定の距離だけスライドさせるなどすると)、吸引可能な物質媒体と\n電気加熱部材が整列して、吸引可能な物質媒体の少なくとも一部分を加熱\nできるようになる。」(【0008】)、「カートリッジ本体305は、 制御ハウジング200の受容チャンバー210と嵌合する嵌合端部310 と、」(【0040】)との記載がある。また、図4、図7、図9等には、 吸引可能な物質を消費者の方に運ぶように構\成された反対側の吸い口端と、 外面および内面を有する壁とを有する実質的に筒状のカートリッジの嵌合 端部310が示されるとともに、電気加熱部材に電力を供給する電気エネ ルギー源を含む制御ハウジングの端部として、中央部の円筒状の突出部を 取り囲むように、円筒形のカートリッジの外壁の外径よりやや大きい内径 を有する円筒形の受容チャンバー壁があり、カートリッジを受容チャンバ ーに挿入することで、カートリッジの外壁であり嵌合端部の外側が、受容 チャンバーの外壁の内側に、ほとんど隙間なく接する状態が示されている。 すなわち、本件明細書には、カートリッジの嵌合端部と制御ハウジング の嵌合端部(受容端部)が嵌合すると記載され、その実施形態として、カ ートリッジが制御ハウジングの受容チャンバーに挿入されることで、相補 形状を有するといえる、円筒形の外壁という形状を有するカートリッジの 嵌合端部と、円筒形の受容チャンバー壁という形状を有する制御ハウジン グの嵌合端部(受容端部)とが、カートリッジの外壁の外側の嵌合端部が 受容チャンバーの外壁の内側に接することで、ほとんど隙間なく配置され るという状態ではまり合っていることが示されているといえる。これは、 上記の「嵌合」についての一般的な意義に沿ったものである。他方、本件 明細書には、制御ハウジングの「受容端部」あるいは「受容チャンバー」 については、【0008】、【0040】以外に、本件明細書の【001 2】、【0018】、【0027】、【0059】、【0061】、【0 102】等にも記載があるが、カートリッジの嵌合端部の端面に接触又は 近接するのみで、それを制御ハウジングの「受容端部」とする記載はない し、上記アの一般的な意義と異なる意味で「嵌合」が使われていることを 示唆する記載もない。
ウ 本件発明は、前記1 のような技術的意義を有するところ、制御ハウジ ングとカートリッジの関係として、想定し得る様々な構成のうち、構\成要 件Dにおいて「前記制御ハウジングは、前記カートリッジに機能可能\に連 結されている嵌合端部を有する」として、それぞれの嵌合端部が「嵌合」 するものであることを明確に定めている。そして、そのような構成の下で、\n制御ハウジングとカートリッジが「機能可能\に連結され」、また、「吸引 可能な物質媒体と電気加熱部材が整列して、吸引可能\な物質媒体の少なく とも一部分を加熱できるように」なることがあるとしている。 本件発明においては、制御ハウジングとカートリッジの関係が上記のと おり定められているところ、「嵌合」の語句の一般的な意義(前記ア) や本件明細書の記載(前記イ)もその一般的な意義を前提としていると 解されることからも、「前記カートリッジに機能可能\に連結されている 嵌合端部」とは、その嵌合端部自体が一定の形状を有するとともに、ハ ウジングの嵌合端部も一定の形状を有し、それら両嵌合端部の形状が、 相補形状であり、それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくは まり合うものをいうと解される。
(3) 被告製品の構成dについて\n
ア 被告製品の構成dは、「加熱式デバイスは、加熱式タバコスティックを\n受け入れるエンドキャップと、エンドキャップの底面に形成されたスリッ トを貫通してエンドキャップ内まで延びるヒータブレードのベース部上に 形成された導電トラックに電力を供給するバッテリーを含むメインボディ と、を有する加熱式喫煙デバイスであって、使用者はエンドキャップの底 面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であり、該挿入によっ\nてヒータブレードのベース部が加熱式タバコスティックに挿入され、加熱 式喫煙デバイスのスイッチが入れられると、タバコロッドを加熱するため に、ヒータブレードの導電トラックがバッテリーと通電し、」である。 そして、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり得るのは加熱式タバコ\nスティックであり、当該加熱式タバコスティックの篏合端部に当たり得る のは、加熱式タバコスティックの吸い口とは反対の先端部である。
イ 原告らは、エンドキャップに加熱式タバコスティックがぴったりとはま るから、エンドキャップの底面と、加熱式タバコスティックの先端面は、 ほぼ同径の円形であり、「形状が合った物」であり、「エンドキャップの 底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であ」ることは「は\nめ合わせる」ことである旨主張する。 しかしながら、加熱式タバコスティックの先端面の形状とエンドキャッ プの底面の形状自体はほぼ同径の円形であるとしても、エンドキャップ の底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入した状態は、加熱式 タバコスティックの先端面がエンドキャップの底面に突き当たって接し た状態になっているのみである。加熱式タバコスティックの先端面とエ ンドキャップの底面のそれぞれの形状は、相補形状ではなく、それぞれ の形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものであるとはい えない。
なお、制御ハウジングは、構成要件Dの文言上、「前記電技加熱部材に\n電力を供給する電気エネルギー源を含(む)」(構成要件D)ものであ\nるところ、被告製品における制御ハウジングはメインボディであるから、 エンドキャップそれ単独では、制御ハウジングに当たることはない。 ウ 原告らは、ヒータブレードのベース部が「篏合端部」に当たるとも主張 する。
しかしながら、前記のとおり、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり\n得るのは加熱式タバコスティックであり、当該加熱式タバコスティックの 篏合端部に当たり得るのは、円筒状の形状を有する加熱式タバコスティッ クの吸い口とは反対の先端部であるが、当該先端部は、原告らが「篏合端 部」と主張するヒータブレードのベース部の形状と、相補形状ではなく、 それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものである とはいえない、なお、このことは、ヒータブレードのベース部とエンドキャップ底面と を合わせた構成を考えても同様である。\n
エ 以上によれば、被告製品の構成dのヒータブレードのベース部とエンド\nキャップ底面は、いずれも構成要件Dの「篏合端部」に当たらず、その他、\nこれに該当する部分はないといえる。 そうすると、被告製品は、構成要件Dを充足する部分を有せず、その余\nを判断するまでもなく本件発明の技術的範囲に属さない。

◆判決本文

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平成25(ワ)7478  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟__全文__ 平成28年10月14日  東京地方裁判所

 随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。東京地裁(40部)は、半導体基板の製造方法について、「第二の割り溝」を有しないとして、文言侵害は否定しましたが、均等と認めました。

また,本件明細書等には,「第二の割り溝」を形成する方法について, 手法は特に問わないとしており,エッチング,ダイシング,スクライブ 等の手法を用いることが可能であるとされ,このうち,線幅を狭くする\nことが可能であるなどの理由から,スクライブが特に好ましいとするに\nとどまっており(段落【0009】),「第二の割り溝」に関して,そ の形成の方法は特に限定されていない。 そして,本件においては,本件明細書等に従来技術が解決できなかっ た課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客 観的に見て不十分であるという事情は認められない。\n
以上のような,本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明 細書記載の従来技術との比較から導かれる本件発明の課題,解決方法, その効果に照らすと,本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思 想を構成する特徴的部分は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物\n半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり,半導体層 側にエッチングにより第一の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部 分を形成し,サファイア基板側にも何らかの方法により第二の割り溝, すなわち,切断に資する線状の部分を形成するとともに,それらの位置 関係を一致させ,サファイア基板側の線幅を狭くした点にあると認める のが相当であり,サファイア基板側に形成される第二の割り溝,すなわ ち,切断に資する線状の部分が,空洞として溝になっているかどうか, また,線状の部分の形成方法としていかなる方法を採用するかは上記特 徴的部分に当たらないというべきである。
ウ 被告方法は,前記2で認定したように,サファイア基板上に窒化ガリ ウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当た り,半導体層側にエッチングにより切断に資する線状の部分を形成し, サファイア基板側にもLMA法のレーザースクライブによって切断に資 する線状の変質部を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ, サファイア基板側の線幅を狭くしているのである。 そして,前記2(1)イで説示したとおり,LMA法でサファイア基板 を加工した場合,溶融領域が発生し急激な冷却で多結晶化し,この多結 晶領域は多数のブロックに分かれるが,加工領域中央に実質の幅が極端 に狭い境界が発生し,この表面に垂直な境界線の先端に応力集中するの\nで割れやすくなることが認められる。 そうすると,被告方法は本件発明の従来技術に見られない特有の技術 的思想を構成する特徴的部分を共通に備えているものと認められる。\nしたがって,本件発明と被告方法との相違部分は本質的部分ではない というべきである。
エ 被告らの主張に対する判断
この点に関して被告らは,LMA法のレーザースクライブについて, 対象と「非接触」であるため,クラック等が発生せず,かつ,ほぼ垂直 に分割されることから,本件発明の課題自体が存在しないことになり, そのような方法を用いたとしても,本件発明の本質的部分に当たらない 旨主張する。
そして,乙14(再公表特許第2006/062017号。以下「乙\n14文献」という。)の段落【0039】には,【図9】,【図10】 に関して,LMA法により形成された変質領域に隣接する正常領域のブ レイク面が略垂直である旨の記載がある。 しかしながら,他方で,乙14文献の段落【0043】等には,同じ 【図9】,【図10】に関して,デフォーカス値によっては,正常領域 のブレイク面の垂直方向につき多少の傾斜や段差が存在する旨の記載も あるのであって,LMA法のレーザースクライブであるからといって, 切断面が斜めになることで不良品が生じるという本件発明の課題が発生 しないと認めることはできない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
オ 以上のとおりで,被告方法は,均等の第1要件を充足すると認められ る。

◆判決本文

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 >> 第1要件(本質的要件)
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平成28(ワ)25436  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年9月24日  東京地方裁判所

 随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。争点はたくさんあります。裁判所は、均等の主張を認め、差止と約10億円の損害賠償を認めました。判決文は別紙を入れると400頁ありますので、目次付きです。

前記(2)ウのとおり,本件明細書2記載の従来技術と比較して,本件発明2 における従来技術に見られない特有の技術的思想(課題解決原理)とは,従来,グ ルタミン酸生産に及ぼす影響について知られていなかったコリネ型細菌のyggB 遺伝子に着目し,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子 を用いてメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変する ことによって,グルタミン酸の生産能力を上げるための,新規な技術を提供するこ\nとにあったというべきである。また,前記(2)エで検討したとおり,本件明細書2に おける従来技術の記載が客観的に見て不十分であるとは認められない。\n
(ウ) 前記(3)アのとおり,19型変異使用構成は,本件発明2−5に含まれる,\n本件特許2の請求項1又は4を引用する請求項6のうち(e)の変異型yggB遺 伝子が導入されたコリネ型細菌を使用する構成であり,前記(イ)の本件発明2にお ける特有の技術的思想ないし課題解決原理に照らせば,19型変異使用構成の本質\n的部分は,「コリネ型細菌由来のyggB遺伝子に,コリネバクテリウム・グルタ ミカム由来のyggB遺伝子におけるA100T変異に相当する変異を導入し,当 該変異型yggB遺伝子を用いてコリネ型細菌を改変し,ビオチンが過剰量存在す る条件下においてもグルタミン酸の生産能力を上げる点」にあると認められる。\n
(エ) 被告は,出願経過,本件優先日2当時の技術水準,19型変異使用構成の効\n果から,19型変異使用構成の本質的部分の認定に当たっては,特許請求の範囲の\n記載の上位概念化をすべきでなく,特許請求の範囲に記載された「変異後のygg B遺伝子の配列である配列番号22という特定のアミノ酸配列におけるA100T 変異」に限定して認定されるべきであると主張する。
しかしながら,前記(2)ア及びイの本件明細書2の記載内容によれば,本件発明2 は,特定の配列のyggB遺伝子を有するコリネ型細菌にのみ存在する課題を対象 とするものではなく,また,その解決原理としても,グルタミン酸生産能力を上げ\nるために,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子を用い てメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変するという 新規な技術を導入するというものであったから,本件発明2の請求項1や請求項4 において変異を導入する前のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙され,請求項6 において変異後のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙されていることを考慮して も,本件発明2及びそれに含まれる19型変異使用構成の本質的部分を認定するに\n当たっては,yggB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体 の変異前の具体的配列,あるいは,A100T変異に相当する変異を導入した後の yggB遺伝子の具体的配列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当で ある。これは,被告が指摘するように,本件特許2の出願当初の請求項1にはyg gB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種や変異前後のyggB遺伝子のアミノ酸 配列が特定されていなかったところ,補正によって,現在の請求項1のようにyg gB遺伝子のアミノ酸配列の配列番号が,コリネバクテリウム・グルタミカム(ブ レビバクテリウム・フラバムを含む。)又はコリネバクテリウム・メラセコーラに 由来する配列番号6,62,68,84及び85に特定されるようになったこと(【0 033】,乙80〜84),請求項1に記載された配列番号6,62,68,84 及び85のアミノ酸配列が相互に相同性が高いこと(乙85)を考慮しても同様で ある。また,被告は,出願経過に関連して,本件特許2の再訂正後の請求項の記載 も考慮すべきとも主張するが,当該訂正の内容は,少なくとも訂正前の本件発明2 の本質的部分の認定には影響しないというべきである。 そのほか,本件優先日2当時の技術水準や19型変異使用構成の効果についての\n被告の主張が採用できないことは,前記(2)エ及び(3)イのとおりであり,これらを 理由として,19型変異使用構成の本質的部分を特許請求の範囲に記載された変異\n前後のyggB遺伝子の具体的配列に限定すべきともいえないから,この点の被告 の主張も,前記(ウ)の判断を左右するものではない。
イ 相違点1について
前記ア(エ)のとおり,19型変異使用構成の本質的部分については,yggB遺伝\n子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体の変異前の具体的配列,あ るいは,A100T変異に相当する変異を導入した後のyggB遺伝子の具体的配 列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当であることに加え,以下の(ア) 及び(イ)の点を考慮すれば,相違点1に係る違い,すなわち,導入されている変異型 yggB遺伝子が由来する細菌の種類の違い及びそれによるyggB遺伝子の具体 的な配列の違いは,19型変異使用構成の本質的部分とはいえない。\n
・・・
(エ) これらの点からすれば,相違点3に係る違い,すなわち相違点2に係るA9 8T変異に加えて,被告製法4の菌株ではV241I変異が導入されているという 点は,本件明細書2で開示された本件発明2の課題解決原理である膜貫通領域の変 異ないしC末端側変異と関連しない部位の1つのアミノ酸に保存的置換を加えるも のであり,A98T変異に加えることで課題解決に影響するものではないから,1 9型変異使用構成の本質的な部分における相違点ではない。\nオ したがって,19型変異使用構成と被告製法4との相違点1ないし3は,い\nずれも,特許発明の本質的部分ではないから,(12)及び(13)の菌株を使用する被告製法 4は均等の第1要件を充足すると認められる。

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令和3(ワ)33996  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年7月7日  東京地方裁判所

特許権侵害訴訟です。第1要件を満たさないとして、均等侵害も否定されました。

(1) 均等の第1要件にいう特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の 特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を 構成する特徴的部分であると解すべきである。\nそして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、 特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許 請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきであ る。 また、第1要件の判断、すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分 であるかどうかを判断する際には、上記のとおり確定される特許発明の本 質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し、これを備え ていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべ きである。
・・・
これらの記載に照らすと、本件発明は、把持部を水平方向に軸回転させ て負荷付与部の負荷を引き上げ、把持部にかかる上方向に付勢する負荷を 軽くすることを可能にする構\成を採用することにより、使用者が、「弛緩」 と「伸張」の動作を加えながら適切な「短縮」のタイミングを出現させる ことができ、各筋肉群が「弛緩−伸張−短縮」のタイミングを得て、連動 性よく動作を行うことができることを可能にするとともに、両腕を屈曲さ\nせて把持部を引き下げることに伴い、両腕を外側に広げることに対する抗 力が減少する構成を採用することにより、筋の「共縮」を防ぐことを可能\ にし、もって、筋肉の硬化を伴うことなく、筋肉痛や疲労など身体への負 担が少なく、柔軟で弾力性の富んだ肩部や背部の筋肉等を得ることができ るトレーニング器具を提供し、従来技術の課題を解決するものといえる。 そうすると、これらの各構成については、従来技術に見られない特有の技\n術的思想を構成する特徴的部分であると認めることができる。\n
そして、本件明細書においては、上記の各構成のうち、上記把持部を軸\n回転させて負荷付与部の負荷を引き上げ、把持部にかかる上方向に付勢す る負荷を軽くすることを可能にする構\成について、「把持部60を昇降揺動 部材50に対して軸回転することにより、回転伝達部91及びクランク機 構部92を介して摺動軸57が上下動することに伴い、クランプにより連\n結されたウェイト31が上下動する。」(【0026】)、「把持部60を昇降 揺動部材50に対して初期状態である略正面方向から外側水平方向へ回転 付勢力に抗して軸回転することにより、摺動軸57が昇降揺動部材50に 対して下方向に摺動し、前記クランプにより連結されたウェイト31が引 き上げられる。」(【0027】)との記載がある。
これらの記載に照らすと、本件発明の特許請求の範囲において、上記把 持部を軸回転させて負荷付与部の負荷を引き上げ、把持部にかかる上方向 に付勢する負荷を軽くすることを可能にする構\成に対応する構成は、把持\n部の回転運動を伝達し、同伝達された回転運動を摺動軸の上下動に変換す るクランク機構部を具備する負荷伝達部であり、構\成要件Gの構成である\nと認められる。 本件においては、被告製品が構成要件Gに相当する構\成を備えていない こと(相違点B)に争いがなく、本件発明の本質的部分を被告製品が共通 に備えているとは認められないから、本件発明と被告製品の相違点Bが本 質的部分ではないということはできず、被告製品は、均等の第1要件を満 たさない。
その他にも原告はるる主張するが、いずれも上記結論を左右しない。 以上によれば、被告製品は、その余の要件を検討するまでもなく、本件 発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとはいえないから、\n本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない。

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令和4(ワ)15678 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年8月30日  東京地方裁判所

技術的範囲に属するものの、無効理由あり(新規性違反)として、権利行使不能と判断されました。この特許は、本件裁判の被告より、「技術的範囲に属さない旨」の判定請求があり、判定では技術的範囲に属すると判断されていました。判定には直リンクができないので、特許5595570とリンクしておきます。

(1) 「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く」の意義について
構成要件Bの「4枚の略矩形状壁面の内、相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能\に順次連続して連結されるとともに、」との記載から、本件発明の折り畳み式テントには、「4枚 の略矩形状壁面」が設けられていること、その内の「相隣る2枚の略矩形状 壁面」において「互いに対応する側縁」が存在すること、この「互いに対応 する側縁」を「除く」「他の側縁」が存在し、この「他の側縁」が「相互に 折り畳み可能に順次連続して連結され」ていることが理解できる。
また、構成要件Cの「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁は、着脱可能\な接合手段を介して接合されることにより、前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成され、」との記載からは、構\成要件B の「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「着脱可能な接合手段」を備えていること、この「接合手段を介して接合されることによ\nり」、「前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成される」ことが理解できる。また、このような解釈は、本件明細書の、「また、この筒状周壁\n部1における正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bには、接合・分 離が可能な面ファスナーのような接合手段23が設けられている。図7に図示されるように、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとは前記接\n合手段23により、一体に接合され、または分離される。前記分離された接 合手段23によって、図8に示されるように、両壁面開口部24が構成される。」(【0022】)との記載及び「筒状周壁部1では、図7に図示されるよ\nうに、4枚の壁面2、3、4、5の各両側縁2a、2b、3a、3b、4a、 4b、5a、5bの内、側縁3aと4b、4aと5b、5aと2bとを相互 に折畳み可能に連結し、側縁2aと3bとを後述する接合手段23で接合することで筒状周壁部1が構\成されている」(【0021】)との記載とも整合する。 そして、構成要件Bの「除く」の通常の語義は、「加えない。除外する。別にする。」(広辞苑第七版)であると認められる。\n加えて、上記「除く」は、その直前の「他の側縁」に限定を付す趣旨で あると理解するのが自然であることを踏まえると、構成要件Bは、「4枚の略矩形状壁面」が有する「側縁」から、「着脱可能\な接合手段を介して接合される」ことになる「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」を 除外又は別にした「他の側縁」が、「相互に折り畳み可能に順次連続して連結される」ことを規定するものであると解するのが相当である。\n
(2) 被告各製品が構成要件Bを充足するか否かについて
前記(1)のとおり、構成要件Bの、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」とは、構\成要件Cにおいて規定された、「着脱可能な接合手段\nを介して接合される」「側縁」であると解するのが相当である。 前提事実(3)イのとおり、被告各製品には、第1板状体10ないし第4板 状体40の4枚の板状体が形成されているところ、本件において、各板状体 が構成要件Bの「略矩形状壁面」に該当する。 また、前提事実(3)イのとおり、被告各製品の第1板状体10と第4板状 体40は、その対向部15a及び45bが、着脱可能な接合部60を介して接合されるから、対向部15a及び45bは、構\成要件Bにおいて除外又は別にするとされ、かつ、構成要件Cにおいて「着脱可能\な接合手段を介して 接合され」ると規定される、「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応 する側縁」に該当する。 そうすると、構成要件Bにおいて、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁」は、被告製品の第1板状体10と第4板状体\n40の対向部15a及び45bを除外した他の側縁、すなわち、第1板状体 10の左右の側縁を構成する対向部15b、第2板状体20の左右の側縁を構\成する対向部25a及び25b、第3板状体30の左右の側縁を構成する\n対向部35a及び35b、第4板状体40の左右の側縁を構成する45aがこれに該当するものと解される。\n そして、証拠(甲6、乙1)によれば、これらの側縁は、相互に折り畳み 可能に順次連続して連結される構\成を有していると認められ、構成要件Bの「他の側縁が相互に折り畳み可能\に順次連続して連結される」に該当する。
(3) 被告の主張について
被告は、「除く」の「別にする」との語義に着目して、「別にする」もの と「別にされない」ものとでは、異なる性質・構成を有していることに照らすと、構\成要件Bは、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「相互に折り畳み可能」ではなく、「順次連続して」おらず、「連結され」てもいないことを規定するものと解すべきであり、被告各製品は、互いに対\n応する側縁が相互に折り畳み可能に順次連続して連結されるから、構\成要件 Bを充足しない旨主張する。
しかし、仮に、「除く」を「別にする」との意味であると解釈したとして も、「別」とは、「1)わけること。…2)異なること。そのものではないこと」 (広辞苑第七版)の意味を有するにすぎないから、別にされた「相隣る2枚 の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」とが、一部でも同じ 性質・構成を有していてはならないということにはならない。そして、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の構\成は、構成要件Cによ\nり要件が付加されているのであるから、これにより、「相隣る2枚の略矩形 状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」は、異なる構成を有しているといえる。\n
・・・
(ア) 構成要件Bについて
a 前記2(1)で説示したとおり、構成要件Bは、「着脱可能\な接合手 段を介して接合される」ことにより、「前記4枚の略矩形状壁面でも って筒状周壁部」を構成する「側縁」を除外した「他の側縁」が、「相互に折畳み可能\に」「順次連続して」「連結」されることを規定している。 そして、乙2発明においては、エンドパネルとサイドパネルの着脱 部となる側縁は、ジッパーや紐等の取付手段を介して取り付けられ (乙2c)ていることから、構成要件Bの「他の側縁」に相当する側縁は、上記「エンドパネルとサイドパネルの着脱部となる側縁」を除\n外した側縁(乙2c)であるところ、乙2発明においては、この側縁 が、相互に折畳み可能に順次連続して連結されている(乙2b)。したがって、乙2発明と本件発明は、構\成要件Bの構成の点におい\nて一致するものと認められる。
b これに対し、原告は、本件発明の「着脱可能な接合手段を介して接合される」「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が一\n組のみであるのに対し、乙2発明では、テントを容易に折り畳めたり することができるよう、対向する2枚のエンドパネルが2枚とも取外 し可能な構\成又は2枚とも一端がサイドパネルにヒンジ結合された構成のみが開示されているから、本件発明と乙2発明は、構\成要件Bの点で一致しないと主張する。しかし、本件特許の特許請求の範囲において、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の組数を限定する記載はない上、本 件明細書において、【0022】及び図8には「相隣る2枚の略矩形 状壁面の互いに対応する側縁」が一組である構成についての記載があるものの、これは一実施例にすぎず、そのような構\成に限定する旨の記載は存在しないから、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応す る側縁」が、一組に限定されると解釈することはできない。 また、原告は、本件発明に係る折り畳み式テントは、災害時に体育 館等の避難所に設置されて利用されることを想定していることなどか ら、設置の利便性や強度を考慮し、あえて一組のみを分離可能としたと主張する。しかし、本件明細書には、原告の主張する課題や作用効果について\nの記載はない。以上によれば、原告の主張はいずれも採用することができない。
(イ) 構成要件Eについて
a 本件発明は、「前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚 の略矩形状壁面により開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特 徴とする」との構成(構\成要件E)を有しており、乙2発明は、「前 記手段を介して取り付けられる側縁を有する2枚の略矩形状のサイド パネル及びエンドパネルにより開閉自在な両壁面開口部が設けられた ことを特徴とする」との構成(乙2e)を有している。そして、本件特許の特許請求の範囲の記載において、「接合手段」\nにつき特段の限定は付されていないことから、壁面と壁面を接合する 手段であれば足りると解されるところ、前記(1)ア(オ)のとおり、乙2 文献においては、乙2発明の「取付手段」は、ジッパーが好ましい手 段であるが、単純な紐や布などの他の取付手段を使用してもよいとさ れており、それらはいずれも壁面と壁面を接合する手段であるといえ る。したがって、本件発明と乙2発明は、構成要件Eの構\成の点で一致 するものと認められる。
b 原告は、本件明細書の【0014】や【0028】には、壁面の開 放部分にテントのフレーム等が存在しないために、車椅子等がテント 内外に出入する際にフレームやファスナー等の変形・破れ・土砂の付 着等を阻止できる旨が記載されており、これらの記載に照らすと、構成要件Eの「開閉自在な両壁面開口部」は、壁面の開放部分にフレー\nムやファスナー等が存在しない構成であると解されると主張する。
しかし、本件特許の特許請求の範囲の記載において、4枚の略矩形 状壁面と床面との間の連結手段の有無を含め、「開閉自在な両壁面開 口部」が、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成に限定される旨の記載はない。\n また、本件明細書の【0014】は、本件発明の効果に関する記載 であり、同【0028】は、本件発明の実施例の効果に関する記載で あって、本件発明の両壁面開口部の構成を限定するものとは認められないから、構\成要件Eの文言を原告主張のとおり限定解釈する根拠とはならない。
また、仮に、構成要件Eが、底面にフレームやファスナー等が存在しない構\成に限定されるとしても、乙2文献には、ファスナーを紐に変更することも可能である旨が記載されているから(前記(1)ア(オ))、 乙2発明は、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成を含むものであるといえる。よって、原告の主張は理由がない。\n
c 原告は、本件明細書の【0022】及び図8の記載を考慮すると、 構成要件Eは、壁面開口部に設けられている接合手段を外すことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外方に向か\nって開放することができるという構成を示したものであると主張する。 しかし、本件明細書には、本件発明の実施例について「壁面2、3、 4、5の側縁上下端部は、…三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉 塞面19でもってこの上下の空隙部は閉塞されるようになっている。 なお、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとの上下端部を 塞ぐ二等辺三角形状の分割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、 三角形の頂角を通る中心線を境に2分割される。左右に分割された分 割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、前記接合手段23と同様 な上閉塞面接合手段22、下閉塞面接合手段21によって、接合また は分離可能に接合される。」(【0023】)との記載があるところ、この記載に照らすと、同実施例は、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の\n左側縁3bに設けられた接合手段に加え、上閉塞面接合手段22、下 閉塞面接合手段21を外すことによって初めて、壁面を外方に向かっ て解放することができる構成を有しているといえる。したがって、上記【0022】及び図8の実施例の記載を根拠として、構\成要件Eが、両壁面開口部について、壁面開口部に設けられている接合手段を外す ことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外 方に向かって開放することができるという構成を規定していると解釈することはできない。\n また、上記【0023】の記載によれば、「壁面2、3、4、5」 と、「三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉塞面19」は別部材で あることは明らかであるから、構成要件Eが、接合手段について、「2枚の略矩形状壁面」のみに設けられていることにより、「両壁面\n開口部」が「開閉自在」となることを規定したと解釈することもでき ない。 以上によれば、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 小括
その他、原告が種々主張するところを検討しても、前記(1)の結論を左右 するものとはいえず、本件発明は、乙2発明と同一の構成を有しているから、新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの\nと認められ、原告は被告に対してその権利を行使することができない(特許 法104条の3第1項、123条1項2項、29条1項)。

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令和4(ワ)9716  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年7月28日  東京地方裁判所

 特許侵害訴訟で差止請求が認められました(損害賠償請求なし)。無効主張についても「新規化合物については引用例にその製造方法に関する記載がない」として、無効ではなぽしと判断しています。並行進行している無効審判および審決取消訴訟でも、同様です。

(ア) 特許法29条1項は、同項3号の「特許出願前に」「頒布された刊 行物」については特許を受けることができない旨規定する。当該規定の 「刊行物」に物の発明が記載されているというためには、同刊行物に発 明の構成が開示されているだけでなく、発明が技術的思想の創作である\nこと(同法2条1項参照)にかんがみれば、当該刊行物に接した当業者 が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の\n技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技 術的思想が開示されていることを要するというべきである。 特に、当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製 造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないか ら、刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、 当該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理\n解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして、刊 行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に 接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、\n特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出 すことができることが必要であるというべきである。
ここで、5−ALAホスフェートは、新規の化合物であり、上記アの とおり、本件引用例には、列挙された化合物の中に5−ALAホスフェ ートが含まれているものの、本件引用例にその製造方法に関する記載は 見当たらない(乙2)。 したがって、5−ALAホスフェートを引用発明として認定するため には、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思考や試行錯誤 等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技術常識に基づ\nいて、5−ALAホスフェートの製造方法その他の入手方法を見出すこ とができたといえることが必要である。
(イ) 被告は、乙16文献から乙18文献の記載からすれば、本件優先日 当時、5−アミノレブリン酸単体の製造方法は周知であった上、5−ア ミノレブリン酸をリン酸溶液に溶解すれば、弱塩基と強酸の組合せとな り、5−アミノレブリン酸リン酸塩を得ることができることは技術常識 であり、このことからすれば、本件優先日当時の当業者は、5−ALA ホスフェートの製造を容易になし得た旨主張する。 確かに、上記第2の1(5)イ及びエのとおり、乙16文献及び乙18文 献には、甲13の1文献を引用しつつ、「ALA生産が確立されてい る」、「ALAの産生に成功した」、「発酵の下流では、イオン交換樹 脂を使用するALA精製プロセスも確立されて」いるなどと記載されて いる。しかしながら、甲13の1文献には、同オのとおり、「発酵液か らのALAの精製」の項において、ALAが塩基性水溶液中では非常に 不安定であり、種々の検討の結果、5−アミノレブリン酸塩酸塩結晶を 得るプロセスを確立することに成功した旨が記載されているにすぎない。 そうすると、乙16文献及び乙18文献においては、細菌を培養して発 酵液中にALA(5−アミノレブリン酸)を産生させる技術は開示され ているものの、5−アミノレブリン酸単体を得る技術は開示されていな いといえる。 また、上記第2の1(5)ウのとおり、乙17文献には、発酵液中に培地 成分と混合した状態で存在するALAの濃度が開示されているにすぎな い。そうすると、乙17文献においても、5−アミノレブリン酸単体を 得る技術は開示されていないといえる。 以上のとおり、乙16文献から乙18文献までにおいて、5−アミノ レブリン酸単体を得る技術が開示されているとはいえない。これに加え、 上記第2の1(5)アのとおり、本件引用例においても「5−ALAは・・ ・化学的にきわめて不安定な物質である」、「5−ALAHClの酸性 水溶液のみが充分に安定であると示される」と記載されていて(【00 07】)、これらの事項が本件優先日当時の技術常識であったと認めら れることも考慮すると、本件優先日当時において、5−アミノレブリン 酸単体を得る技術が周知であったとは認められない。
この点に関し、原告は、5−アミノレブリン酸リン酸塩を製造する上 で、5−ALAが物質として取り出されている必要はなく、発酵液中に 培地成分等と混合した状態であってもよい旨主張する。 しかしながら、本件優先日当時、種々の成分を含む混合液に酸又は塩 基を添加するという方法が、化合物である塩の製造方法として技術常識 であったとは認められないことからすれば、本件引用例に接した本件優 先日当時の当業者が、化合物である5−アミノレブリン酸リン酸塩を製 造する方法として、培地成分等と混合した状態で5−アミノレブリン酸 が存在する発酵液にリン酸を添加する方法(又はこの発酵液をリン酸溶 液に添加する方法)を、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮することな\nく見出すことができたとはいえない。 また、上記第2の1(5)ウのとおり、乙17文献において、培地に酵母 抽出物やトリプトン等が含まれることが記載されていることからも明ら かなように、培地成分等と混合した状態にある発酵液には種々のイオン が夾雑物として含まれているのであるから、このような発酵液にリン酸 を添加したとしても、等しい物質量の酸及び塩基の中和反応によって5 −アミノレブリン酸リン酸塩という化合物が製造されたと評価すること はできないというべきである。したがって、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。そして、このほか、本件優先日当時の当業者が、5−ALAホスフェー トの製造方法その他の入手方法を見出すことができたというべき事情は 存しない。
(ウ) 以上によれば、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思 考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技\n術常識に基づいて、5−ALAホスフェートの製造方法その他の入手方 法を見出すことができたとはいえない。したがって、本件引用例から5−ALAホスフェートを引用発明として認定することはできない。

◆判決本文

本件特許についての審決取消訴訟です。

◆令和4(行ケ)10091

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令和4(ワ)2049 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年7月6日  東京地方裁判所

 特許侵害訴訟で、技術的範囲に属さないとして非侵害と判断されました。

(ウ) 小括
このような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、本件発明 1 の「底部」 は、「包装容器」の筒状部分が開口部と共に有するものであり、「容器」として機能\nする筒状の構造部分の底に当たる部分であって、筒状の包装容器の下側を塞いでい\nる部分を指すものと理解される。また、「底面片」は、このような「底部」を形成す るものであり、包装容器を容器として形成した状態において、筒状の包装容器の下 側を塞ぐ部材を意味するものと理解される。さらに、「自立片」は、このような「底 面片」と同一面に連なるものであり、かつ、載置面に沿って前記奥行の方向に突出 し、包装容器を前記載置面に自立させる機能を有するものということになる。\n
イ 被告製品の構成要件充足性\n
(ア) 被告製品においては、背面片が片(A)側に折られて筒状に形成される(構成 e1、e’-1)。その際、背面片の下端に連ねられた六角片(構成 d-3、d’-3)は、筒状部 分下端から内側に折り込まれ、この折り込まれた六角片は、筒状部分内部に収めら れる内容物の下部に位置し、筒状部分の下端から内容物が落下するのを防止してい る(構成 e-2、e’-2)。このため、被告製品の六角片は、本件発明 1 の「底部を形成 する底面片」に相当するものといえる。
(イ) 被告製品の舌状片は、片(A)の下端に連ねられた部材であり(構成 d-4、d’-4)、 筒状部分の下端(六角片の接続箇所の反対側)から内側に折り込まれ(構成 e-3、e’- 3)、容器として形成した状態において、六角片と共に、略弧状に湾曲した状態とな り、片(A)に連なって、載置面に沿って背面側に突出し、載置面に置くと、舌状片に よって、被告製品は、載置面に背面方向に斜めに自立する(同 b、b’)。このため、 被告製品の舌状片は、本件発明 1 の「自立片」に相当するものといえる。 他方、筒状部分の下端から内側に折り込まれた六角片と舌状片とは接触しておら ず、両者の間には隙間がある(同 e-4、e’-4)。このことと、被告製品の筒状部分の下端から内容物が落下するのを防止する機能を果たしているのは六角片であることを\n併せ考えると、舌状片は、筒状部分の下側を塞いでいるとはいえず、「底部を形成す る底面片」に相当するものとはいえない。
(ウ) 六角片と舌状片とは、六角片は背面片の下端に連ねられているのに対し、舌 状片は片(A)の下端に連ねられており、同一面に連なるものとはいえない。 したがって、被告製品は、「底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片」(構\n成要件 B)を充足しないから、本件発明 1 の技術的範囲に属しない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10046  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

知財高裁(大合議)は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」と判断しました。
 損害額については、ほぼ伏せ字になっています。102条3項の侵害は料率2%で計算し、それよりも2項侵害の額の方が大きくて最終的に約1100万円の損害賠償が認定さられています。
 なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。概要だけはすぐにアップされていましたが、全文アップは約1ヶ月かかりました。

ア 被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行為が本件発 明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に該当するか否 かについて
(ア) はじめに
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末 装置を備えるコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の 発明であるところ、その実施行為としての物の「生産」(特許法2条3 項1号)とは、発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為をい うものと解される。 そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介 して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(以下「ネットワーク型システム」という。)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構\成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有す るようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいう ものと解される。 そこで、被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行 為が本件発明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に 該当するか否かを判断するに当たり、まず、被告サービス1のFLAS H版において、被告システム1を新たに作り出す行為が何かを検討し、 その上で、当該行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか及び 当該行為の主体について順次検討することとする。
(イ) 被告サービス1のFLASH版における被告システム1を新たに 作り出す行為について
a 被告サービス1のFLASH版においては、訂正して引用した原判 決の第4の5(1)ウ(ア)のとおり、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定する(2))と、それに伴い、被控訴人FC2のウェブ サーバが上記ウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを ユーザ端末に送信し(3))、ユーザ端末が受信した、これらのファイ ルはブラウザのキャッシュに保存され、ユーザ端末のFLASHが、 ブラウザのキャッシュにあるSWFファイルを読み込み(4))、その 後、ユーザが、ユーザ端末において、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押す(5))と、上記SWFフ ァイルに格納された命令に従って、FLASHが、ブラウザに対し動 画ファイル及びコメントファイルを取得するよう指示し、ブラウザが、 その指示に従って、被控訴人FC2の動画配信用サーバに対し動画フ ァイルのリクエストを行うとともに、被控訴人FC2のコメント配信 用サーバに対しコメントファイルのリクエストを行い(6))、上記リ クエストに応じて、被控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイ ルを、被控訴人FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、 それぞれユーザ端末に送信し(7))、ユーザ端末が、上記動画ファイ ル及びコメントファイルを受信する(8))ことにより、ユーザ端末が、 受信した上記動画ファイル及びコメントファイルに基づいて、ブラウ ザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\と なる。このように、ユーザ端末が上記動画ファイル及びコメントファ イルを受信した時点(8))において、被控訴人FC2の動画配信用サ ーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末はインターネットを利用 したネットワークを介して接続されており、ユーザ端末のブラウザに おいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる から、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の 全ての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り 出されたものということができる(以下、被告システム1を新たに作 り出す上記行為を「本件生産1の1」という。)。
b これに対し、被控訴人らは、1)被告各システムの「生産」に関連す る被控訴人FC2の行為は、被告各システムに対応するプログラムを 製作すること及びサーバに当該プログラムをアップロードすることに 尽き、いずれも米国内で完結しており、その後、ユーザ端末にコメン トや動画が表示されるまでは、ユーザらによるコメントや動画のアップロードを含む利用行為が存在するが、ユーザ端末の表\示装置は汎用ブラウザであって、当該利用行為は、本件各発明の特徴部分とは関係 がない、2)被告システム1において、ユーザ端末は、被控訴人FC2 がサーバにアップロードしたプログラムの記述並びに第三者が被控訴 人FC2のサーバにアップロードしたコメント及び被控訴人FC2の サーバにアップロードした動画(被告システム2及び3においては第 三者のサーバにアップロードした動画)の内容に従って、動画及びコ メントを受動的に表示するだけものにすぎず、ユーザ端末に動画やコメントが表\示されるのは、既に生産された装置(被告各システム)をユーザがユーザ端末の汎用ブラウザを用いて利用した結果にすぎず、 そこに「物」を「新たに」「作り出す行為」は存在しない、3)乙31 1記載の「一般に、通信に係るシステムはデータの送受を伴うもので あるため、データの送受のタイミングで毎回、通信に係るシステムの 生産、廃棄が一台目、二台目、三台目、n台目と繰り返されることま で「生産」に含める解釈は、当該システムの中でのデータの授受の各 タイミングで当該システムが再生産されることになり、採用しがたい」 との指摘によれば、被控訴人FC2の行為は本件発明1の「生産」に 該当しないというべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、被控訴人FC2が被告システム1に 対応するプログラムを製作すること及びサーバに当該プログラムをア ップロードすることのみでは、前記aのとおり、本件発明1の全ての 構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が完成していないと いうべきである。
2)については、前記aのとおり、被控訴人FC2の動画配信用サー バ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインターネットを利用し たネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必要なファイルを受 信することによって、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能\を 備えた被告システム1が新たに作り出されるのであって、ユーザ端末 が上記ファイルを受信しなければ、被告システム1は、その機能を果たすことができないものである。
3)については、上記のとおり、被告システム1は、被控訴人FC2 の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインタ ーネットを利用したネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必 要なファイルを受信することによって新たに作り出されるものであり、 ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存されたファイルが廃棄され るまでは存在するものである。また、上記ファイルを受信するごとに 被告システム1が作り出されることが繰り返されるとしても、そのこ とを理由に「生産」に該当しないということはできない。 よって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(ウ) 本件生産1の1が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否か について
a 特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、 移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が 当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものであると ころ(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷 判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12年(受)第580 号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参 照)、我が国の特許法においても、上記原則が妥当するものと解され る。 前記(イ)aのとおり、本件生産1の1は、被控訴人FC2のウェブ サーバが、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを国内のユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、また、被控訴人FC2の動画配\n信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2のコメント配信用サー バがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信し、ユーザ端末 がこれらを受信することによって行われているところ、上記ウェブサ ーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバは、いずれも米国 に存在するものであり、他方、ユーザ端末は日本国内に存在する。す なわち、本件生産1の1において、上記各ファイルが米国に存在する サーバから国内のユーザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信 することは、米国と我が国にまたがって行われるものであり、また、 新たに作り出される被告システム1は、米国と我が国にわたって存在 するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生産1の1が、 我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題とな る。
b ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(以下、単に 「国外」という。)に設置されることは、現在、一般的に行われてお り、また、サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システム の利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵害物件であ るネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構\成する端末が日本国内(以下「国内」という。)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用するこ とは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義\nの原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえす\nれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る 特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。他方で、当該システムを構\成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を 生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。 これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許 権を適切に保護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り 出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについ ては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構\成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考\n慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができる ときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当 である。
これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的 態様は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが 送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われ るものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、 国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム 1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観 念することができる。 次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人FC2のサー バと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明1の主要な機能\である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表\示されるように するために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能\と構成要件1Gの表\示位置制御部の機能を果たしている。
さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利 用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケー ションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現し ており、また、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係る システムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るもので ある。
以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内 で行われたものとみることができるから、本件発明1との関係で、特 許法2条3項1号の「生産」に該当するものと認められる。
c これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の 効力が当該国の領域においてのみ認められる」のであるから、海外 (国外)で作り出された行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当 しないのは当然の帰結であること、権利一体の原則によれば、特許発 明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施することをいうことからすると、一部であっても海外で作り出されたものがある場合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきであ\nる、2)特許回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要 件を満たす物の一部さえ、国内において作り出されていれば、「生産」 に該当するというのは論理の飛躍があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判例においては、 カードリーダー事件の最高裁判決(前掲平成14年9月26日第一小 法廷判決)等により属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、そ の例外を設けることの悪影響が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは立法によってされるべきである旨主張する。\n
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に 関し、被疑侵害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法 2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システム を構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、前記bに説示した事情を総合考慮して、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生\n産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することがで きない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否か の上記判断は、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすというものではないから、2) の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特 許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定めら れ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意 味することに照らすと、上記のとおり当該行為が我が国の領域内で行 われたものとみることができるときに特許法2条3項1号の「生産」 に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しないというべ きである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁 判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たる ためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内において完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、また、我が国が締結した条約及び特\n許法その他の法令においても、属地主義の原則の内容として、「生産」 に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要であることを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用する ことができない。 したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(エ) 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)を 「生産」した主体について
a 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)は、 前記(イ)aのとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが、所望の動画 を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存された上記SWF\nファイルによる命令に従ったブラウザからのリクエストに応じて、被 控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2 のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末 に送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって、新たに作り 出されたものである。そして、被控訴人FC2が、上記ウェブサーバ、 動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設置及び管理しており、 これらのサーバが、HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファ イル並びにコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末によ る各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介することなく、 被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、 自動的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生 産」した主体は、被控訴人FC2であるというべきである。
この点に関し、被告システム1が「生産」されるに当たっては、 前記(イ)aのとおり、ユーザが、ユーザ端末のブラウザにおいて、所 望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定すること(2))と、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すこと(5))が必要とされるところ、上記のユ ーザの各行為は、被控訴人FC2が設置及び管理するウェブサーバに 格納されたHTMLファイルに基づいて表示されるウェブページにおいて、ユーザが当該ページを閲覧し、動画を視聴するに伴って行われる行為にとどまるものである。すなわち、当該ページがブラウザに表\示されるに当たっては、前記のとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが当該ページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末 に送信し、ユーザ端末が受信したこれらのファイルがブラウザのキャ ッシュに保存されること(4))、また、動画ファイル及びコメントフ ァイルのリクエストについては、上記SWFファイルによる命令に従 って行われており(6))、上記動画ファイル及びコメントファイルの 取得に当たってユーザによる別段の行為は必要とされないことからす れば、上記のユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブペ ージの閲覧を通じて行われるものにとどまり、ユーザ自身が被告シス テム1を「生産」する行為を主体的に行っていると評価することはで きない。
b これに対し、被控訴人らは、1)米国に存在するサーバが、ウェブペ ージのデータ、JSファイル(FLASH版においてはSWFファイ ル)、動画ファイル及びコメントファイルを送信することは、被控訴 人FC2が行っているのではなく、インターネットに接続されたサー バにプログラムを蔵置したことから、リクエストに応じて自動的に行 われるものであり、因果の流れにすぎない、2)日本(国内)に存在す るユーザ端末が、上記ウェブページのデータ、JSファイル(SWF ファイル)、動画ファイル及びコメントファイルを受信することは、 ユーザによるウェブページの指定やウェブページに表示された再生ボタンをユーザがクリックすることにより行われ、ユーザの操作が介在しており、また、仮に被控訴人FC2が1)の送信行為を行っていると しても、特許法は、「譲渡」と「譲受」、「輸入」と「輸出」、「提供」 と「受領」を明確に区分して規定している以上、被控訴人FC2が上 記受信行為を行っていると解すべきではない旨主張する。
しかしながら、1)については、前記aのとおり、被控訴人FC2 が、ウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設 置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファイル及びSW Fファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送 信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操 作を介することなく、被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプ ログラムの記述に従い、自動的に行われるものであることからすれば、 被告システム1を「生産」した主体は、被控訴人FC2であるという べきである。
また、2)については、前記aのとおり、ウェブページの指定やウ ェブページに表示された再生ボタンをクリックするといったユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブページの閲覧を通じて行われるにとどまるものであり、ユーザ端末による上記各ファイルの受\n信は、上記のとおりユーザによる別途の操作を介することなく自動的 に行われるものであることからすれば、上記各ファイルをユーザ端末 に受信させた主体は被控訴人FC2であるというべきである。 したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(オ) 小括
以上によれば、被控訴人FC2は、本件生産1の1により、被告シス テム1を「生産」(特許法2条3項1号)したものと認められる。
・・・
8 争点8(控訴人の損害額)について
(1) 特許法102条2項に基づく損害額について
ア 主位的請求関係について 控訴人は、被控訴人らが、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月 17日から令和4年8月31日までの間、被告各システムを生産し、被 告各サービスを提供することによって、●●●●●●●●●●円を売り 上げ、これにより被控訴人らが得た利益(限界利益)の額は、●●●● ●●●●●●円を下らず、このうち令和元年5月17日から同月31日 までの分(5月分)の売上高は●●●●●●●●円、限界利益額は●● ●●●●●●円を下らないと主張する。 しかしながら、控訴人が上記主張の根拠として提出する甲24によって、 上記の売上高及び限界利益額を認めることはできず、他にこれを認める に足りる証拠はない。 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
イ 予備的請求関係について
(ア) 本件生産1ないし3により「生産」された被告システム1ないし3 で提供された被告各サービスの割合 前記4のとおり、被控訴人FC2は、本件生産1により被告システム 1を、本件生産2により被告システム2を、本件生産3により被告シス テム3を「生産」し、本件特許権を侵害したものであり、本件生産1な いし3は、いずれも、サーバがユーザ端末に動画ファイル及びコメント ファイルを送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって行われ るものである。 しかるところ、被告各サービスで配信される動画でコメントが付され ているものの数は限られており、令和3年1月11日の時点において、 被告サービス1で公開された●●●●●●●●個の動画のうち、コメン トが付された動画は●●●●●●●個であり(乙85)、その割合は● ●●●パーセントであったこと、被告各サービスは、日本語以外の言語 でもサービスが提供されているものの、そのユーザの大部分は国内に存 在すること(甲9、弁論の全趣旨)からすれば、被告各サービスのうち、 本件生産1ないし3で「生産」された被告システム1ないし3によって 提供されたものの割合は、本件特許権が侵害された全期間にわたって● ●●パーセントと認めるのが相当である。
(イ) 被控訴人FC2の利益額(限界利益額)
a 被告サービス1関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和4年8月31日まで の期間の被告サービス1の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等\n一覧表の「限界利益額」欄の「被告サービス1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●●円であることが認められる。このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産1により「生産」\nされた被告システム1によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産1による売上高は、 ●●●●●●●●●●●円(●●●●●●●●●●●●円×●●●● ●)と認められ、被控訴人FC2が本件生産1により得た限界利益額 は、別紙7−2限界利益額算定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●円と認められる。
b 被告サービス2関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和2年10月31日 までの期間の被告サービス2の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス2」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等一\n覧表の「限界利益額」欄の「被告サービス2」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●円であることが認められる。このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産2により「生産」\nされた被告システム2によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産2による売上高は、 ●●●●●●円(●●●●●●●●円×●●●●●)と認められ、被 控訴人FC2が本件生産2により得た限界利益額は、別紙7−2限界 利益額算定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産2」欄記載のとおり、合計●●●●●●円と認められる。
c 被告サービス3関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和2年10月31日 までの期間の被告サービス3の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス3」欄記載のとおり、合計●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等一覧表\の「限界利益額」欄の「被告サービス3」欄記載のとおり、合計●●●●●●円であることが認められる。 このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産3により「生産」 された被告システム3によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産3による売上高は、 ●●●●円(●●●●●●円×●●●●●)と認められ、被控訴人F C2が本件生産3により得た限界利益額は、別紙7−2限界利益額算 定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産3」欄記載のとおり、合計●●●●円と認められる。
d まとめ
(a) 前記aないしcによれば、被控訴人FC2が本件生産1ないし 3により得た限界利益額は、別紙7−2限界利益額算定表の「限界利益額(消費税相当分(10%)を含む)」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●円と認められる。\n なお、被控訴人FC2は、仮に、本件において被控訴人FC2に 対する損害賠償の支払が命ぜられるとしても、消費税上輸出免税 の対象になる旨主張するが、被控訴人FC2による被告各サービ スの提供が輸出取引に当たることを認めるに足りる証拠はないか ら、被控訴人FC2の上記主張は理由がない。
(b) 以上のとおり、被控訴人FC2が本件生産1ないし3により得 た限界利益額は、合計●●●●●●●●●●●円であり、この限 界利益額は、特許法102条2項により、控訴人が受けた損害額 と推定される(以下、この推定を「本件推定」という。)。
(ウ) 推定の覆滅について
被控訴人らは、被告各サービスにおいて、本件各発明のコメント表示機能\が、システム全体の機能の一部であり、顧客誘引力を有していないことは、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張する。\n そこで検討するに、被告各サービスで配信されている動画で、その売 上高に貢献しているものの多くはアダルト動画であり(甲4の1及び2、 9、11、弁論の全趣旨)、動画上にコメントが表示されることが視聴の妨げになることは否定できないこと、令和3年1月11日の時点において、被告サービス1で公開された●●●●●●●●個の動画のうち、\nコメントが付された動画は●●●●●●●個であり(乙85)、その割 合は●●●●パーセントにとどまっていることに照らすと、被告各サー ビスにおいて、コメント表示機能\が果たす役割は限定的なものであって、 被告各サービスの多くのユーザは、コメント表示機能\よりも動画それ自 体を視聴する目的で利用していたものと認められる。そして、本件各発 明の技術的な特徴部分は、コメント付き動画配信システムにおいて、動 画上にオーバーレイ表示される複数のコメントが重なって表\示されるこ とを防ぐというものであり(前記1(2)イ)、その技術的意義自体も、上 記システムにおいて限られたものであると認められる。
以上の事情を総合考慮すると、被告各サービスの利用に対する本件各 発明の寄与割合は●●と認めるのが相当であり、上記寄与割合を超える 部分については、前記(イ)d(b)の限界利益額と控訴人の受けた損害額 との間に相当因果関係がないものと認められる。 したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるか ら、特許法102条2項に基づく控訴人の損害額は、上記限界利益額の ●割に相当するものであり、別紙4−2認容額内訳表の「特許法102条2項に基づく損害額」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●円と認められる。\n
(2) 特許法102条3項に基づく損害額について(予備的請求関係)
ア 特許法102条3項に基づく控訴人の損害額については、1)株式会社帝 国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の 在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルテ ィ料率に関する実態把握〜」(本件報告書)の「II).我が国のロイヤルテ ィ料率」の「1.技術分類別ロイヤルティ料率(国内アンケート調査)」 の「(2) アンケート調査結果」には、「特許権のロイヤルティ料率の平均 値」について、「全体」が「3.7%」、「電気」が「2.9%」、「コンピ ュータテクノロジー」が「3.1%」であり、「III).各国のロイヤルティ 料率」の「1.ロイヤルティ料率の動向」には、国内企業のロイヤルテ ィ料率アンケート調査の結果として、産業分野のうち「ソフトウェア」については「6.3%」であり、「2.司法決定によるロイヤルティ料率調査結果」の「(i)日本」の「産業別司法決定ロイヤルティ料率(20 04〜2008年)」には、「電気」の産業についての司法決定によるロ イヤルティ料率は、平均値「3.0%」、最大値「7.0%」、最小値 「1.0%」(件数「6」)であるとの記載があること、2)前記(1)イ(ウ) のとおり、本件各発明の技術的な特徴部分は、コメント付き動画配信シ ステムにおいて、動画上に複数のコメントが重なって表示されることを防ぐというものであり、その技術的意義は高いとはいえず、被告各サービスの購買動機の形成に対する本件各発明の寄与は限定的であること、\nその他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、本件生産1ないし3 による売上高に実施料率2パーセントを乗じた額と認めるのが相当であ る。
そして、本件生産1ないし3による売上高(消費税相当分(10パー セント)を含む。)の合計額は、●●●●●●●●●●●円(●●●●● ●●●●●●円+●●●●●●円+●●●●円(前記(1)イ(イ)aないし c記載の本件生産1ないし3の各売上高に消費税相当分(10パーセン ト)を加えた額の合計額))と認められるから、●●●●●●●●円(● ●●●●●●●●●●円×0.02)となる。 これに反する控訴人及び被控訴人らの主張はいずれも採用することが できない。
イ そして、控訴人の特許法102条2項に基づく損害額の主張と同条3項 に基づく損害額の主張は、選択的なものと認められるから、より高額な 前記(1)イ(ウ)の同条2項に基づく損害額合計●●●●●●●●●円が本 件の控訴人の損害額と認められる。

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◆令和元年(ワ)25152

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令和3(ワ)10032    特許権  民事訴訟 令和5年6月15日  大阪地方裁判所

 特許権侵害訴訟にて、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時期に後れた主張であるので却下されました。

そして、対象製品等が特許発明の構成要件の一部を欠く場合であっても、当該\n一部が特許発明の本質的部分ではなく、かつ前記均等の他の要件を充足するとき は、均等侵害が成立し得るものと解される。 これに対し、被告は、対象製品等が構成要件の一部を欠く場合に均等論を適用\nすることは、特許請求の範囲の拡張の主張であって許されない旨を主張するが、 構成要件の一部を他の構\成に置換した場合と構成要件の一部を欠く場合とで区\n別すべき合理的理由はないし、本件において、原告は、被告製品には構成要件 C の「消弧材部」に対応する消弧作用を有する部分が存在し、置換構成を有する旨\n主張していると解されるから、被告の前記主張を採用することはできない。
イ 第1要件ないし第3要件
原告は、別紙「均等侵害の成否等」の「原告の主張」欄記載のとおり、本件発 明の本質的な構成部分は構\成要件のうち A-1 ないし A-3、B-3 及び B-4 であり、 構成要件 C は本件発明の課題解決方法に資するものではないとして、第1要件は 満たす旨主張するところ、被告もこれを積極的に争っていない。
一方、第2要件及び第3要件に関し、原告は、被告製品の構成 c の「接着剤で 接着することにより形成された密閉された空間26」が本件発明の構成要件 C の 「消弧材部」と同一の作用効果(消弧作用)を有することを示す実験報告書等(甲 13、14、32)を証拠提出する。これらは、被告製品と同じ構造を有する製\n品につき、ヒューズエレメント部が密閉構造である場合と、非密閉構\造である場 合又は端子一体型ヒューズ素子を取り出して遮断試験用基板に実装して遮断試 験を行った場合の、各アーク放電の持続時間を対比した結果、密閉構造のものは、\n非密閉構造等のものに比べ、同持続時間が2分の1ないし3分の1になったとい\nうものである。しかし、これらは、被告製品の「密閉された空間」と本件発明の 「消弧材部」の各作用効果の対比自体を行うものではないことに加え、被告が証 拠提出する試験報告書(乙16)によれば、被告製品、被告製品に消弧材部を設 けたヒューズ及び被告製品のヒューズ素子のみを対象として、アーク放電の持続 時間を記録したところ、被告製品が最も同時間が長かったという結果であったこ とが認められ、被告製品とヒューズ素子の各アーク放電の持続時間について、原 告が提出する実験報告書(甲14)と相反する結果となっている。そうすると、 原告が提出する前記証拠その他の事情等から、被告製品の構成 c が本件発明の構\n成要件 C と同様の作用効果を有するとまでは認め難いから、少なくとも第2要件 が満たされるとはいえない。
ウ 第4要件
前記イの点は措くとしても、以下のとおり、第4要件も満たさない。 被告は、被告製品の構成は、本件発明の特許出願時における公知技術(乙1発\n明)と同一又は当業者が乙1発明から出願時に容易に推考可能であった旨を主張\nする。
(ア) 乙1公報は、発明の名称を「表面実装超小型電流ヒューズ」とする公開特\n許公報であり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙1)。
・・・・
(イ) 乙1発明の構成\n
乙1発明がα-1、β-1 ないしβ-4 及びδの構成を有することは当事者間に争\nいがなく(別紙「均等侵害の成否等」の「第4要件」欄)、乙1公報の段落【0008】 【0016】【0018】【0020】及び【図2】(A)の記載内容に照らすと、α-2 及び γの構成を有するものと認められる。\nまた、被告主張のα-3 の構成(金属電極2の可溶線挟持部22に挟み込まれる\nことにより一体形成されている電極一体型ヒューズ)に関し、原告は、電極とヒ ューズが同一の金属によって一体的に形成されているとの趣旨であれば否認す ると述べるところ、乙1公報には、可溶線5は、両端部を金属電極2に挟持され 本体1の空間6に架張された可溶線を示す旨(同【0016】)、可溶線5の端部は 第1板部221と第2板部222とにより挟み込まれ、金属電極2に固定される 旨(同【0018】)の記載があることから、可溶線5と金属電極2は異なる部材で 構成され、可溶線5は、可溶線挟持部22において挟持されることによって金属\n電極2に接続されているものと認められる(α-3’)。 以上から、乙1発明の構成は、別紙「裁判所の認定」の「乙1発明の構\成」欄 記載のとおりとなる。
(ウ) 被告製品の構成\n
被告製品が a-1 ないし b-4 及び d の構成を有することは当事者間に争いがな\nく、構成 c を有することも実質的に争いがないから、被告製品の構成は、別紙「裁\n判所の認定」の「被告製品の構成」欄記載のとおりとなる。\n
(エ) 被告製品と乙1発明の対比
被告製品の a-1、a-2 及び b-1 ないし d の各構成は、それぞれ、乙1発明のα1、α-2 及びβ-1 ないしδの各構成と同一であるものと認められる。\nそこで、被告製品の構成 a-3 と乙1発明の構成α-3'が一致するかを検討する。 「一体」の字義は、「一つになって分けられない関係にあること」であるところ (広辞苑第七版)、被告製品は、別紙「被告製品写真」の3及び4に示されるよ うに、ヒューズ本体4と2つの平板状部10の部材が連続し、一つになって分け られないように形成されていることが明らかである。一方、乙1発明の可溶線5 と金属電極2は、異なる部材で構成され、また、可溶線5は、可溶線挟持部22\nにおいて挟持されることによって金属電極2に接続されていることから、可溶線 5と金属電極2は、同一材料で形成されておらず、一つになって分けられないよ うに形成されてもいない。 したがって、可溶線5と可溶線挟持部22は一体に形成されているとは認めら れず、乙1発明は構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しており、被告製 品は、公知技術と同一であるとはいえない。
(オ) 乙1発明と乙3発明に基づく容易推考性
被告は、乙1発明が構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しても、被告 製品の構成 a-3 は、乙1発明の構成α-3’を乙3発明の構成に置換することによ\nり、当業者にとって容易に推考可能である旨を主張する。\n
a 乙3公報は、発明の名称を「面実装型電流ヒューズ」とする公開特許公報で あり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙3)。
(a) 技術分野
「本発明は、過電流が流れると溶断して各種電子機器を保護する面実装型電流 ヒューズに関するものである。」
・・・・
(b) 背景技術
「従来のこの種の面実装型電流ヒューズは、図7に示すように、セラミックか らなるケース1と、このケース1の内部に形成された空間部2と、前記ケース1 の両端部に形成された外部電極3と、この外部電極3と電気的に接続された断面 が円形のヒューズエレメント部4とを備え、前記ヒューズエレメント部4の溶断 部5を前記ケース1の内部に形成された空間部2内に配設した構成としていた。」\n(【0002】)
(c) 発明が解決しようとする課題
「上記した従来の面実装型電流ヒューズにおいては、ヒューズエレメント部3 として同じ線径のものや同じ材料のものを使用しているため、線径や材料によっ て決まる溶断電流等の溶断特性を調整することができないという課題を有して いた。」(【0004】) 「本発明は上記従来の課題を解決するもので、溶断特性の調整ができる面実装 型電流ヒューズを提供することを目的とするものである。」(【0005】)
(d) 課題を解決するための手段
「本発明の請求項1に記載の発明は、絶縁性を有するケースと、このケースの 内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部電極と、この 外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設したヒューズエ レメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一部を切削する ことによって設けたもので、この構成によれば、ヒューズエレメント部の切削に\nよって溶断部の線径を調整できるため、溶断特性を調整することができるという 作用効果が得られるものである。」(【0007】) 「本発明の請求項3に記載の発明は、特に、ヒューズエレメント部と外部電極 とを一体の金属で構成したもので、この構\成によれば、ヒューズエレメント部と 外部電極とを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができると いう作用効果が得られるものである。」(【0009】)
(e) 発明の効果
「以上のように本発明の面実装型電流ヒューズは、絶縁性を有するケースと、 このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部 電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設し たヒューズエレメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一 部を切削することによって設けているため、この切削によって溶断部の線径を調 整でき、これにより、溶断特性を調整することができるという優れた効果を奏す るものである。」(【0016】)
(f) 発明を実施するための最良の形態
「図4、図5において、本発明の実施の形態2が上記した本発明の実施の形態 1と相違する点は、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の金属で 構成した点である。この場合、外部電極13はケース11の底部11aの端面お\nよび裏面に沿うように折り曲げている。」(【0035】) 「上記構成においては、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の\n金属で構成しているため、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを接続す\nる必要はなくなり、これにより、生産性を向上させることができるという効果が 得られるものである。」(【0036】) 【図4】 【図5】
b 容易推考性
(a) 乙3公報の発明の詳細な説明によれば、乙3発明は面実装型電流ヒュー ズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の面実装型電流ヒューズにおいて は、ヒューズエレメント部4として同じ線径のものや同じ材料のものを使用して いるため、線径や材料によって決まる溶断電流等の溶断特性を調整することがで きないという課題を有していたこと(同【0004】)に対し、絶縁性を有するケー スと、このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成され た外部電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を 配設したヒューズエレメント部とを備え、ヒューズエレメント部の切削によって 溶断部の線径を調整でき、溶断特性を調整することを可能としたものである(同\n【0007】【0016】)。そして、特に、ヒューズエレメント部と外部電極とを一体 の金属で形成する構成をとることによって、ヒューズエレメント部と外部電極と\nを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができるという効果を 奏すること(同【0009】【0036】)や、発明の実施の形態として、外部電極13 がケース11の底部11a の端面及び裏面に沿うように折り曲げられた形態が記 載されている(同【0035】【図4】【図5】)。 以上によれば、乙3公報には、面実装可能な小型ヒューズにおいて、生産性の\n向上を目的として、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外部電極を一体の 金属で形成するという乙3発明が開示されているといえる。
一方、乙1公報の発明の詳細な説明によれば、乙1発明は表面実装超小型電流\nヒューズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の表面実装小型電流ヒュー\nズは、可溶部あるいは可溶線が合成樹脂や低融点ガラス等の絶縁物に直接接触し た構造である場合、可溶部等が熱的中立性を保てず本来のヒューズとしての溶断\n性能がおろそかにされている問題(同【0002】〜【0004】)や、電極をケース内 に配置固定した後、電極間に可溶線を架張して半田付けする方式は、半田が固ま る際に生じる盛り上がりの差により電極間の長さ、すなわち、可溶線の長さにば らつきが生じるという問題があったこと(同【0005】)に加え、従来の小型ある いは超小型電流ヒューズは、各部品を一つ一つバッチ工程で加工組立てを行う必 要があり、部品が小さいためその作業は困難を極め、製造し難く、その結果、低 コスト化にも限界があるという問題があった(同【0006】)。これに対し、乙1 発明は、可溶線5を挟持した一対の金属電極2が箱型形状を有する本体1の両端 に取り付けられ、蓋部3を本体1の上面より僅かに沈む位置まで押し込み接着剤 を塗布して蓋部3を本体1に固定して内部を密閉し、可溶線は本体1の内部空間 に浮いた状態で架張されている構成をとることで(同【0008】)、溶断特性のば らつきを最小限に抑えることや従来型と比べて2倍以上大きい遮断能力を有す\nることを可能としたこと(同【0028】〜【0030】)に加え、連続工程で製作組立 を行うこと、特に、可溶線5を挟持した一対の金属電極2を組み立てた後に鞍部 21を本体1の双方の短側壁11に嵌合させて固定することにより、製造が容易 になって、大幅なコスト削減が可能となるという効果を奏するものである(同\n【0020】【0027】)。 そうすると、乙1発明と乙3発明は、いずれも表面実装型ヒューズに関する発\n明であり、その技術分野は同一である。また、乙1発明と乙3発明は、いずれも 生産性の向上という同一の課題に対し、予めヒューズと電極とを組み合わせた後\nに本体に固定するという技術思想に基づく課題解決手段を提供する発明である ことに加え、乙1発明の溶断時間のばらつきを抑えるという課題と乙3発明の溶 断特性を調整するという課題は、所望の溶断特性を実現するという点で関連して いるといえる。 したがって、乙1発明と乙3発明は、技術分野、課題及び解決手段を共通にす るから、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在するものと認められる。
(b) 原告の主張
原告は、乙1発明と乙3発明とは、その課題等が相違することのほか、乙3発 明において、ヒューズエレメント部の切削を容易にするためには、乙1発明のケ ース11は上下方向の中央で分割される必要があること、乙1発明の本体1の空 間部6内に乙3発明のヒューズエレメント部15を配置する場合、ヒューズエレ メント部15を切削する必要があるが、所望の抵抗値が得られるように切削する ことは実質的に不可能であることから、乙1発明に乙3発明を組み合わせること\nはその構成上不可能\であることなどの阻害要因があるとして、被告製品と乙1発 明の相違部分は、乙3発明から容易に推考できたとはいえない旨を主張する。 しかし、前記(a)のとおり、乙1発明と乙3発明の課題は同一又は関連してい る。また、乙3公報の発明の詳細な説明によれば、ヒューズエレメント部の切削 は、スクライブやパンチング等の機械的方法によって行うが、予めヒューズエレ\nメント部の切削をした後にケースに固定をしてもよい旨が記載されていること から(段落【0022】【0027】【0028】)、ヒューズエレメント部を切削するため に、ケースを上下方向の中央で分割する必要があることにはならない。また、乙 3発明を乙1発明に適用するに当たり、乙1発明の空間部6内に、外部電極と一 体の金属で形成され、溶断部を配設したヒューズエレメント部を配置することと なるが、空間部6内にヒューズエレメント部を配置する場合に、当該ヒューズエ レメント部を切削する必要が必ずしもあるともいえない(ヒューズエレメント部 の一部の切削は本体への配置前に行うことができる。)。その他、乙1発明に乙 3発明を組み合わせることについて阻害要因があることをうかがわせる事情は ない。 したがって、原告の前記主張は採用することができない。
(c) 以上から、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在し、これを阻害 する要因は認められないから、乙1発明の可溶線と金属電極は異なる部材で構成\nされる構成に代えて、乙3発明の、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外\n部電極部を一体の金属で形成する構成を採用して被告製品の構\成とすることは、 当業者が本件特許の出願時に容易に推考し得たものと認められ、被告製品は、均 等の第4要件を満たさない。
・・・
2 争点2(本件追加の可否)について
本件追加は、被告製品が、本件発明に係る請求項とは別の請求項記載の本件発 明2の技術的範囲に属するとして請求原因を主張し、本件特許権の侵害に基づく 各請求を追加するものであるから、訴えの追加的変更に当たると解するのが相当 であるところ、当裁判所は、本件追加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させ ることとなると認め、これを許さないこととする(民訴法143条1項ただし書、 同条4項)。
すなわち、本件追加に係る請求原因は、原告において、審理の当初から主張す ることが可能であったところ、令和4年11月28日の書面による準備手続中の\n協議において、当裁判所は、当事者双方に対し、被告製品は本件発明の技術的範 囲に属さないとの心証を開示して、話合いによる解決を検討するよう促し、その 後、和解協議を行ったものの、令和5年1月27日の同協議において、これ以上 の和解協議は行わないこととなり、口頭弁論の終結に向けて、原告は、これまで の主張の補充及び反論を記載した書面を提出する旨述べたが、同年2月27日付 けの準備書面5において、本件追加を行ったものである(当裁判所に顕著な事実)。 このように、本件追加が行われた時点で、本件訴訟は、被告製品が本件発明の技 術的範囲に属さないとの当裁判所の心証開示を踏まえた和解協議を終え、審理を 終結する直前の段階に至っていた。仮に、本件追加を許した場合、被告製品が本 件発明2の技術的範囲に属するか否かや、本件特許に係る無効理由の有無につい ても改めて審理を行う必要があり、そのために相当な期間を要することになるこ とは明らかである。そうすると、本件発明2が本件発明1の従属項であり、構成\n要件の一部が同一であること、その他原告が指摘する事情を考慮しても、本件追 加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることになると認められる。

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令和4(ネ)10107  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年6月1日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権侵害訴訟の控訴審です。1審は文言侵害に当たらないと判断していました。特許権者は、均等侵害も主張しましたが、第1要件を満たしていないと判断されました。

ア 前記(2)のとおり、被控訴人製品は「摺動導通部」を有しない点において、 本件発明と異なる。
ところで、訂正の上引用した原判決の第3の1(2)のとおり、本件発明は、一対 のプランジャをコイルばねの密巻き部分に接触させて導通を確保するという本件先 行発明における、2つの摺動導通部が形成されることによる抵抗の分散が検査の精 度を狭めるという課題を解決するために、摺動導通部の数を減らし、検査精度を向 上可能とするというものであり、プランジャと接触して導通を確保する摺動導通部\nを有することは、本件発明の本質的部分である。 そうすると、被控訴人製品と本件発明の構成中の異なる部分(摺動導通部の存否)\nは、本件発明の本質的部分に当たる。
イ 控訴人は、「密巻き部」に関する本件発明と被控訴人製品の相違点は、「本件 発明では「フリー状態で密巻きであった部分」が導通経路となっているところ、被 控訴人製品では「フリー状態で密巻きであった部分」が導通経路となっているかが 定かではなく、「ストローク開始後検査前に密巻きになった部分」が導通経路とな っている可能性がある点」であり、被控訴人製品について均等侵害が成立すると主\n張する。しかしながら、訂正の上引用した原判決の第3の2(4)のとおり、被控訴 人製品において、ストローク開始後検査前に密巻きになった部分が導通経路となっ ていることを認めるに足りる証拠がなく、このことは、当審において提出された動 画(甲86)を踏まえても変わらない。そうすると、控訴人の「密巻き部」に関す る均等の主張はその前提を欠く。
ウ したがって、その余の点につき検討するまでもなく、被控訴人製品について、 本件発明の均等侵害は成立しない。

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◆令和2(ワ)12013
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平成29(ネ)10043  特許権侵害差止等請求承継参加申立控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年1月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

かなり前の事件ですが、漏れていたのでアップします。コンピュータ関連発明について、被告製品には構成要件C「格納手段」がないとして、非侵害と判断されました。間接侵害も否定されました。
問題の請求項は以下です。
A ユーザテレビ機器(22)上で動作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって,
B 該システムは,複数の番組を格納するためのユーザ指示を受信したことに応答して,デジタル格納デバイス(31)に格納されるべき該複数の番組をスケジューリングする手段と,
C 双方向テレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,
D 該複数の番組をデジタル的に格納したことに応答して,該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該デジタル格納デバイス(31)に複数の番組データをデジタル的に格納する手段であって,該複数の番組データのそれぞれは,該複数の番組のうちの1つに関連付けられている,手段と,
E 該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストをディスプレイに表示する手段と,
F 該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストから,該デジタル格納デバイス(31)に格納された番組のユーザ選択を受信する手段と,
・・・
J 該双方向テレビ番組ガイドを用いて,現在スケジューリングされている該複数の番組のうちの該選択された番組に対して,選択された番組リスト項目情報画面を該ユーザテレビ機器(22)に表示する手段であって,該選択された番組リスト項目情報画面は,該選択された番組に関連付けられた番組データの1つ以上のフィールドと,1つ以上のユーザフィールドとを含む,手段と,
K 該1つ以上のユーザフィールドにユーザ情報を入力する機会をユーザに提供する手段と
L を備えた,システム。

2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 控訴人は,構成要件Cは,「双方向テレビ番組ガイド」を用いて,「デジタ\nル格納デバイス」に複数の番組をデジタル的に格納する「手段」を備えていれば, 充足することになるものであって,「デジタル格納デバイス」自体を必須の構成要素\nとして規定するものではないと主張するが,本件発明は,デジタル格納部を含むユ ーザテレビ機器を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに係る発明であるから, 被告物件(液晶テレビ製品)が本件発明の技術的範囲に属するというためには,被 告物件が「番組をデジタル的に格納可能な部分」を含むことが必要であることは,\n
前記1のとおり補正して引用する原判決が認定説示するとおりである。 すなわち,本件発明に係る特許請求の範囲は,「ユーザテレビ機器(22)上で動 作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって」(構成要件A),・・・「双方向テ\nレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納 デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,」(構成要件C)・・・「を備えた,システム」(構\成要件L)と記載されているから,本件発明の双方向テ レビ番組ガイドシステムは,ユーザテレビ機器に含まれるデジタル格納デバイスに 番組をデジタル的に格納(録画)する手段という構成を含むものである。\nそして,本件明細書には,「本発明は・・・番組および番組に関連する情報用のデ ジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに関する。」(【0001】) として,双方向テレビ番組ガイドシステムが「デジタル格納部を備えた」ものであ る旨が記載されている。また,従来技術として,「番組ガイド内で選択された番組を 独立型の格納デバイス(典型的にはビデオカセットレコーダ)に格納することを可 能にする双方向番組ガイド」(【0004】)が指摘され,その操作に関し,「ビデオ\nカセットレコーダの操作には通常は,ビデオカセットレコーダ内の赤外線受信器に 結合される赤外線送信器を含む操作経路が用いられる。」(【0004】)と記載され ており,「独立型の格納デバイス」を用いる従来技術について記載されている。その 上で,従来技術の課題として「独立型のアナログ格納デバイスを用いると,デジタ ル格納デバイスが番組ガイドと関連付けられる場合に実施され得るようなより高度 な機能が不可能\になる。」(【0004】)と記載され,これを受けて,本発明の目的 を「デジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドを提供すること」(【0005】)と記載している。以上に加え,「番組ガイドと関連付けられたデジタル格納デバイス の使用は,独立型のアナログ格納デバイスを用いて行われ得る機能よりも,より高\n度な機能をユーザに提供する。」(【0009】)という記載を併せ考慮すると,本件\n発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能であった高度な機能\をユーザに 提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備え ることを目的としたものと認められる。
以上によると,被告物件が構成要件Cを充足するというためには,「番組をデジタ\nル的に格納可能な部分」を含むこと(内蔵すること)が必要というべきである。\nこれに対し,控訴人は,本件明細書の【図2】及び【0016】によると,本件 発明には,「デジタル格納デバイス」が「ユーザテレビ機器」に外部インターフェー スを介して接続されるような構成も当然に含むように説明されていると主張するが,\n控訴人指摘の「デジタル格納デバイス31は,セットトップボックス28内に内蔵 されるか,または出力ポートおよび適切なインターフェースを介してセットトップ ボックス28に接続された外部デバイスであり得る。」(【0016】)との記載は, 「ユーザテレビ機器22の例示的構成を示す」【図2】からも明らかなとおり,「ユ\nーザテレビ機器」の一部を構成する「セットトップボックス」内に内蔵するか,「セ\nットトップボックス」に外付けするかを記載するにとどまり,「ユーザテレビ機器」 に外付けする構成を当然に含むものということはできない。かえって,「ユーザテレ\nビ機器22の例示的構成」において,「オプション」とされている「第2の格納デバ\nイス32」(【0014】)については,「第2の格納デバイス32がユーザテレビ機 器22に内蔵されていない場合」(【0017】)との記載が認められるところ,「デ ジタル格納デバイス」については,これと同旨の記載は見当たらない。
また,控訴人は,本件明細書の【図3】及び【0080】には,デジタル格納デ バイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッピーディスク又は録画可能な\n光ディスク)である場合が説明されていると主張するところ,控訴人指摘の【00 80】には,「デジタル格納デバイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッ ピーディスクまたは録画可能な光ディスク)である場合」との記載がある。しかし,\n本件明細書には,「デジタル格納デバイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フ ロッピーディスクまたは録画可能な光ディスク)を用いる場合」(【0085】)との\n記載もあるほか,「デジタル格納デバイスは,光格納デバイスまたは磁気格納デバイ ス(例えば,書き込み可能なデジタル映像ディスク,磁気ディスク,もしくはハー\nドドライブまたはランダムアクセスメモリ(RAM)等を用いたデバイス)であり 得る。」(【0008】),「第2の格納デバイス32は,任意の適切な種類のアナログまたはデジタル番組格納デバイス(例えば,ビデオカセットレコーダ,DVDディ スクに録画する能力を有するデジタル映像ディスク(DVD)プレーヤ等)であり\n得る。」(【0014】),「デジタル格納デバイス31は,書き込み可能な光格納デバイス(例えば,記録可能\なDVDディスクの処理が可能なDVDプレーヤ),磁気格\n納デバイス(例えば,ディスクドライブまたはデジタルテープ),または他の任意の デジタル格納デバイスであり得る。」(【0015】),「デジタル格納デバイス49において用いられるリムーバブル格納媒体」(【0082】),「例えばデジタル格納デバイス49がフロッピーディスクドライブであり,選択された番組を有するディスク がドライブ内に無い場合」(【0084】),「デジタル格納デバイス49内のリムーバブルデジタル格納媒体上に格納する」(【0104】)との記載もあり,これらの記載 によると,本件明細書においては,「デジタル格納デバイス」は,「リムーバブル格 納媒体」(フロッピーディスク,DVDディスク等)と区別されるものであり,「リ ムーバブル格納媒体」を処理することが可能な機器(フロッピーディスクドライブ,\nDVDプレーヤ等)を指すことが多いものと認められる。そうすると,控訴人指摘 の【0080】の上記記載から,直ちに本件発明にはデジタル格納デバイスがリム ーバブル録画媒体である場合が含まれるということはできない。
(2) 控訴人は,間接侵害を主張するところ,被告物件である液晶テレビ製品は, 単に放送を受信するだけで,いずれもそれ自体に録画できるメモリー部分(デジタ ル格納部)を備えておらず,録画先としては,外付けのUSBハードディスクやレ グザリンク対応の東芝レコーダーとされており,これらを被告物件に接続すること によって初めて,被告物件で受信した番組を上記ハードディスク等に録画すること が可能であるから,デジタル格納部を被告物件に内蔵させる余地はない。そうする\nと,被告物件は,デジタル格納デバイスを含むユーザテレビ機器を備えた双方向テ レビガイドシステムの「生産に用いる物」ということができない。
また,前記(1)のとおり,本件発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能\nであった高度な機能をユーザに提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステム\nがデジタル格納デバイスを備えることを目的としたものであり,従来技術に見られ ない特徴的技術手段は,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイス を備えること,すなわち,これを内蔵することにあるというべきである。そうする と,被告物件は,デジタル格納デバイスを内蔵するものではないから,本件発明に よる「課題の解決に不可欠なもの」であるとはいえない。
したがって,被控訴人による被告物件の製造,輸入,販売及び販売の申出は特許\n法101条2号所定の間接侵害に当たらない。これに対する控訴人の主張が理由のないものであることは,既に説示したところ から明らかである。
なお,被控訴人は,控訴人の間接侵害の主張が時機に後れた攻撃防御方法に当た る旨を主張するが,控訴理由書において,既に提出済みの証拠に基づき判断可能な\n主張をしたものであるから,訴訟の完結を遅延させるものとまではいえず,上記主 張を時機に後れた攻撃防御方法として却下することはしない。

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◆平成28(ワ)37954

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令和5年5月26日 知財高裁特別部判決 令和4(ネ)10046号

知財高裁は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」というものです。  なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。\n

ア ネットワーク型システムの「生産」の意義
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備え るコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の発明であるところ、そ の実施行為としての物の「生産」(特許法2条3項1号)とは、発明の技術的範囲に 属する物を新たに作り出す行為をいうものと解される。 そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介して、サー バと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(ネットワー\nク型システム)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件\nを充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有 機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有する ようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解され る。
イ 被告サービス1に係るシステム(被告システム1)を「新たに作り出す行為」 被告サービス1のFLASH版においては、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指\n定すると、被控訴人Y1のウェブサーバが上記ウェブページのHTMLファイル及 びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末が受信した、これらのファイ ルはブラウザのキャッシュに保存され、その後、ユーザが、ユーザ端末において、 ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すと、上\n記SWFファイルに格納された命令に従い、ブラウザが、被控訴人Y1の動画配信 用サーバ及びコメント配信用サーバに対しリクエストを行い、上記リクエストに応 じて、上記各サーバが、それぞれ動画ファイル及びコメントファイルをユーザ端末 に送信し、ユーザ端末が、上記各ファイルを受信することにより、ブラウザにおい て動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる。このように、ユ ーザ端末が上記各ファイルを受信した時点において、被控訴人Y1の上記各サーバ とユーザ端末はインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、 ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが\n可能となるから、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の全\nての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り出されたものと いうことができる(以下、被告システム1を新たに作り出す上記行為を「本件生産 1の1」という。)。
ウ 被告システム1を「新たに作り出す行為」(本件生産1の1)の特許法2条3項 1 号所定の「生産」該当性
特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、移転、効 力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内にお いてのみ認められることを意味するものであるところ、我が国の特許法において も、上記原則が妥当するものと解される。 本件生産1の1において、各ファイルが米国に存在するサーバから国内のユー ザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信することは、米国と我が国にまた がって行われるものであり、また、新たに作り出される被告システム1は、米国 と我が国にわたって存在するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生 産1の1が、我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題と なる。 ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(国外)に設置されるこ とは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネ ットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵 害物件であるネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたと\nしても、当該システムを構成する端末が日本国内(国内)に存在すれば、これを\n用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者\nが当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るも のである。
そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格 に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在するこ\nとを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解するこ とは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該 システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととな\nって、妥当ではない。他方で、当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、\nこれも妥当ではない。
これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保 護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条 3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素\nの一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、 当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果\nたす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、\nその利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該 行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3 項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。 これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的態様は、米国 に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ 端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信 (送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信すること によって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われ たものと観念することができる。
次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人Y1のサーバと国内に存在 するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ\n端末は、本件発明1の主要な機能である動画上に表\示されるコメント同士が重な らない位置に表示されるようにするために必要とされる構\成要件1Fの判定部の 機能と構\成要件1Gの表示位置制御部の機能\を果たしている。 さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することが できるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の 向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、また、その国内における利 用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影 響を及ぼし得るものである。 以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内で行われた ものとみることができるから、本件発明1との関係で、特許法2条3項1号の「生 産」に該当するものと認められる。
これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の効力が当該国 の領域においてのみ認められる」のであるから、国外で作り出された行為が特許 法2条3項1号の「生産」に該当しないのは当然の帰結であること、権利一体の 原則によれば、特許発明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施す\nることをいうことからすると、一部であっても国外で作り出されたものがある場 合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきである、2)特許 回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要件を満たす物の一部さ え、国内において作り出されていれば、「生産」に該当するというのは論理の飛躍 があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、\n我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判 例においては、カードリーダー事件の最高裁判決(最高裁平成12年(受)第5 80号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)等によ り属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、その例外を設けることの悪影響 が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは\n立法によってされるべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に関し、被疑侵 害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」 に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバ\nが国外に存在する場合であっても、前記 に説示した事情を総合考慮して、当該 行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3 項1号の「生産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することが できない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かの上記判断は、 構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の\n効力を及ぼすというものではないから、2)の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その 成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該 国の領域内においてのみ認められることを意味することに照らすと、上記のとお り当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときに特許法2 条3項1号の「生産」に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しな いというべきである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁 判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たるためには、特 許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内に\nおいて完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、ま た、我が国が締結した条約及び特許法その他の法令においても、属地主義の原則 の内容として、「生産」に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物\nを新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要である ことを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用することができ ない。したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
エ 被告システム1の「生産」の主体
被告システム1は、前記イのプロセスを経て新たに作り出されたものであるとこ ろ、被控訴人Y1が、被告システム1に係るウェブサーバ、動画配信用サーバ及び コメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファ イル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送 信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介するこ となく、被控訴人Y1がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、自動 的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生産」した主体は、 被控訴人Y1であるというべきである。
オ まとめ
以上によれば、被控訴人Y1は、本件生産1の1により、被告システム1を「生 産」(特許法2条3項1号)し、本件特許権を侵害したものと認められる。

◆判決要旨
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◆令和元年(ワ)25152

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◆平成30(ネ)10077
1審です。

◆平成28(ワ)38565

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令和5(ネ)10009  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審は「本件発明の技術的範囲に属さない」と判断しましたが、知財高裁は、そもそも別事件(東京地判令和2年(ワ)第15464号)と重複するとして、訴えを却下しました。

1 本件訴えの適法性(本案前の抗弁)について
(1) 後訴の請求又は後訴における主張が前訴のそれの蒸し返しにすぎない場合に は、後訴の請求又は後訴における主張は、信義則に照らして許されないものと解す るのが相当である(最高裁昭和49年(オ)第331号同51年9月30日第一小 法廷判決・民集30巻8号799頁、最高裁昭49年(オ)第163号、164号 同52年3月24日第一小法廷判決・裁判集民事120号299頁参照)。
(2) 令和2年事件について(乙1、2)
ア 令和2年事件は、控訴人が、スマートフォン(型番SHV39、SHV40、 SHV41、SHV42及びSHV43。以下併せて「前訴被告製品」という。) の被控訴人シャープによる製造、被控訴人KDDIによる販売が、本件特許権を侵 害すると主張して、被控訴人らに対し、特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請 求をした事案である。 令和2年事件においては、前訴被告製品が本件特許の特許請求の範囲の請求項1、 3及び4の各発明の技術的範囲に含まれるかが問題となり、具体的には前訴被告製 品にインストールされた「AQUOS Home」と呼ばれるアプリケーション (以下「前訴アプリ」という。)における「操作メニュー情報」の有無が争点とな った(令和2年事件における争点1−3)。 この争点について、控訴人は、「・・・できるように」という言葉は、目標・目 的・基準等を示すものであるから、「操作メニュー情報」は実行される命令の内容 の全部を利用者において理解することができるものである必要はなく、実行される 命令の内容を利用者が理解できることを目標・目的としている程度の表現があれば\n足りるなどとして、前訴被告製品における前訴アプリによるページ一部表示(本件\nにおける「一部表示画像」に相当する。)が「操作メニュー情報」に当たると主張\nした。
イ 令和2年事件の第一審である東京地方裁判所は、前訴被告製品における前訴 アプリの動作について、「1)利用者が前訴アプリの画面上に表示されたアイコン画\n面に指で触れて一定時間待つ操作(ロングタッチ)をすると、当該アイコンを移動 できる状態に遷移し、2)当該アイコンが指に追随して移動し、アイコンが指に追随 して右又は左に移動した距離が一定距離を超えると、縮小モードとなって、表示中\nの当該ページの画面が90%の大きさに縮小され、画面の左端又は右端に隣接する ページの画面の一部(ページ一部表示)が表\示され、3)更に当該アイコンをその方 向に移動させると、移動方向に隣接するページの画面がスクロールされて表示され\nる」ものであると認定し、ページ一部表示である直方形部分を見た利用者は、それ\nがどのような命令を実行する表示であるのかを理解することができないから、前訴\n被告製品のページ一部表示の画像は、本件発明1及び3の構\成要件Bの「操作メニ ュー情報」を有するとは認められないと判断した(乙2。東京地裁令和2年(ワ) 第15464号同3年7月14日判決)。そして、上記判断は、控訴審である知財 高裁令和4年2月8日判決(乙1)においても維持され、同判決は、上訴されるこ となく確定している(弁論の全趣旨)。
(3) 本件について
ア 本件は、控訴人が、スマートフォン(型番SHV44、SHV45及びSH V46。被告製品)の被控訴人シャープによる製造、被控訴人KDDIによる販売 が、本件特許権を侵害すると主張して、被控訴人らに対し、特許権侵害の不法行為 に基づく損害賠償請求をした事案である。 本件においては、被告製品が本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び3の各発 明(本件発明)の技術的範囲に含まれるかが問題となり、具体的には被告製品にイ ンストールされた「AQUOS Home」と呼ばれるアプリケーション(本件ホ ームアプリ)における「操作メニュー情報」の有無が争点となった。 本件における争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)についての 控訴人の主張は、原判決別紙「技術的範囲に関する当事者の主張」及び前記第2の 3に記載するとおりである。
イ 被告製品における本件ホームアプリの動作は、概要次のとおりである(前提 事実(6)ウ)。
「1)利用者が本件ホームアプリの画面上に表示されたショートカットアイコンを\n長押しすると、当該ショートカットアイコンはタッチパネル上の指等の動きに追随 して移動できる状態になり、2)当該ショートカットアイコンの移動距離が一定距離 になった場合に、縮小モードとなって、表示中の中央ページ画面が縮小表\示され、 画面の左端又は右端に隣接するページの画面の一部(一部表示画像)が表\示され、 3)更に当該ショートカットアイコンを一部表示画像の範囲に入れると、隣のページ\nの画面が表示される。」\nなお、原判決は、一部表示画像を見た利用者は、それが左右のページの一部を表\ 示していることを理解できるとはいえず、仮に理解できたとしても、当該画像の領 域までショートカットアイコンをドラッグすることによって対応するページにスク ロールするという命令が表示されていると理解できるように構\成されているとはい えないから、被告製品の一部表示画像は「操作メニュー情報」に当たらず、被告製\n品が本件発明の構成要件B、E、F、Gの「操作メニュー情報」を有するとは認め\nられないと判断した。
(4) 令和2年事件と本件の比較
令和2年事件と本件は、当事者を同一とし、侵害されたとされる特許権が同一で あり、その特許請求の範囲の請求項1及び3の各発明の技術的範囲への被疑侵害品 の属否が問題となっている点も共通する。 本件の対象製品である被告製品は、令和2年事件の対象製品である前訴被告製品 と同一シリーズの製品であって、前訴被告製品よりも後に発売されたものと推認さ れるものの、前訴被告製品から大きな仕様変更がされたことはうかがえず、特に、 問題とされているアプリケーションは同一(いずれもAQUOS Home)であ って、そのバージョンが異なる可能性はあるとしても、大きな仕様変更がされたこ\nともうかがえず、また、問題となる動作(前記(2)イ及び(3)イ)は同一又は少なく とも実質的に同一である。 そして、令和2年事件と本件における争点は、対象製品(前訴被告製品又は被告 製品)にインストールされた「AQUOS Home」と呼ばれるアプリケーショ ン(前訴アプリ又は本件ホームアプリ)における「操作メニュー情報」の有無であ るから、争点も同一又は少なくとも実質的に同一であり、そればかりか、当該争点 についての控訴人の主張も実質的に同一である。 そうすると、本件における控訴人の主張は、対象製品に「操作メニュー情報」が 存在しないことを理由として、控訴人の被控訴人らに対する本件特許権侵害の不法 行為に基づく損害賠償請求に理由がないとの判断が確定した令和2年事件における 控訴人の主張の蒸し返しにすぎないというほかない。控訴人は、令和2年事件判決 が、「操作メニュー情報」が存在しないと判断した根拠となる前訴被告製品の構成\n(前訴アプリの動作)と、被告製品の構成(本件ホームアプリの動作)が実質的に\n同一であり、そのために、被告製品が、前訴被告製品におけるものと同一の理由に より、本件特許権を侵害しないものであることを十分認識しながら、本件訴えを提\n起したものと推認されるのであって、本件において控訴人の請求を審理することは、 被控訴人らの令和2年事件判決の確定による紛争解決に対する合理的な期待を著し く損なうものであり、訴訟上の正義に反するといわざるを得ない。
(5) 控訴人の主張に対する判断
この点、控訴人は、令和2年事件における対象製品である前訴被告製品の構成\na1 と、本件訴訟における被告製品の構成 a1、a1’、a1”が異なり、また、構成 a3、 a3’、a3”、p1〜p3 が追加されているから、新たな判断が必要であると主張する。 しかしながら、控訴人の主張する被告製品の構成 a1、a1’、a1”及び p1〜p3 は 「一部表示画像」に関するものではなく、構\成 a3、a3’、a3”は、「一部表示画像」\nの画面上の領域(座標)をより具体的に特定したにすぎないものであって、前記 (2)イの前訴アプリの動作を変更するものではないから、控訴人の主張する構成は、\nいずれも、「一部表示画像」が構\成要件B、E、F、Gの「操作メニュー情報」に 該当するかを検討するに当たり、その判断に影響を与え得るものとはいえない。 また、上記控訴人の主張する構成の差異が、前訴被告製品の前訴アプリと被告製\n品の本件ホームアプリにおける実質的な差異であると認めるに足りる証拠はない上、 仮に、当該構成部分において、前訴被告製品の前訴アプリと被告製品の本件ホーム\nアプリに差異があるものと認められたとしても、その差異は、被告製品の本件ホー ムアプリにおける「操作メニュー情報」の有無に係る判断を左右するものとはいえ ず、さらに、控訴人が、控訴審において追加した構成も、上記判断を左右するもの\nではない。 したがって、上記控訴人の主張は採用できない。
(6) 小括
したがって、控訴人が本件において本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償 請求をし、これに係る主張をすることは、令和2年事件における紛争の蒸し返しに すぎないというべきであり、同事件の当事者である控訴人と被控訴人らとの間で、 控訴人の請求について審理をすることは、訴訟上の信義則に反し、許されない。

◆判決本文
原審は令和4年(ワ)第11889号ですが、アップされていません。

上記別事件はこちらです。

◆令和2年(ワ)第15464号

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令和2(ワ)4913  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年4月20日  大阪地方裁判所

約4500万円の損害賠償が認められました。なお、本件では、102条2項の覆滅部分について、3項の重畳適用は否定されました。

(c) 原告は、前記の各製品について、アウタロータ型電動モータを採用しておら ず、被告製品及び原告製品と構造が根本的に異なること、被告製品及び原告製品は、\n主として車輌工場において重要保安部位向けに使用されるのに対し、瓜生製作のU BX−AFシリーズ以外は主にそれよりも重要度の低い部位に用いられること、デ ソータやエスティックの製品は電動式衝撃締め付け工具ではなくナットランナーと\n思われること等を理由に、いずれも競合品に該当しないと主張する。 しかし、被告カタログ及び前記競合品の各カタログ(乙52の4、54の3、5 6の1・2、58、73、74)には、工具に採用されているモータの型がアウタ ロータかインナロータかといった点に関する記載がないことや、モータの構造は製\n品の外部から確認できるものではないこと等を踏まえると、モータの構造それ自体\nが需要者の購入動機の形成に寄与する場合が多いとは認められず、アウタロータ型 電動モータを採用していないことをもって直ちに競合品から排除されるとするのは 相当でない。また、被告製品及び原告製品の各カタログを見ても、締め付け工具で あること以上に各製品の用途を限定する旨の記載はなく(甲35、36、乙58)、 これらの製品が主に車輌工場において重要保安部位向けに使用される一方、他の製 品が異なることについて的確に裏付ける証拠はない。また、証拠(乙1、4、34) によれば、一般に、ナットランナーは、インパクトレンチやパルスツールとはモー タの回転を締付力に変換する方式が異なることから、高精度である一方でトルクが 低く抑えられ、反力受けが必要であるという特徴を有し、パルスツールとは性能・\n用途が異なる場合があるといえるが、デソータ及びエスティックの前記各製品は、\n低反力で反力受けを要さず、作業者が直接手に持って締め付け操作を行うことが可 能な製品であり、かつトルク範囲も被告製品のものと重複するものであることから、\n被告製品及び原告製品と性能・用途等において共通する競合品であると認められる。\nしたがってこの点の原告の主張は採用できない。
(d) 以上によれば、被告製品及び原告製品と共通する電動式締め付け工具の市 場において競合品が一定数存在することが認められる。もっとも、当該市場におけ る被告製品や原告製品の市場占有率等が明らかではないことや、競合品と認められ る製品の中には、被告製品との価格差が比較的大きいものもあると考えられること 等を踏まえると、競合品の存在を理由とする大幅な覆滅を認めることはできないと いうべきである。
c 侵害品の性能\n
(a) 被告カタログ(乙58)によれば、被告製品は、その「主な特徴」として、 「バッテリーツール、高い生産性、高トルク、高精度、低反力、メンテナンス軽減、 多様な使用環境に対応」と記載されている。また、より具体的な特徴として、被告 製品は、バッテリー残量等を作業者から容易に確認できるLEDインジケータが表\n示されること、作業者の手になじむバランスのとれたツールであること、オイル漏 れの影響を軽減してメンテナンス周期を延ばす新型のパルスユニットを採用してい ること、効率的な冷却システムを搭載していること、予備バッテリーを内蔵し通信\nを維持したままバッテリー交換が可能であること、回転速度が6000rpmまで\n設定可能であること、独自のコントローラ「Power Focus 6000」及びソフトウェア\nにより容易に作業内容等を設定可能であること、内蔵されたブザーからの音でも締\nめ付けが可能であること、デュアルアンテナにより無線環境に対応しツールの接続\n性を向上していること、高速バックアップユニット機能を搭載していること等が記\n載されている。一方で、モータの構造や、被告製品がアウタロータ型電動モータを\n採用していることについての記載はない。 また、被告カタログでは、前記のメンテナンス軽減・周期の改善に関して、新し い特許技術と設計により、従来品よりもメンテナンス周期が長くなっていること、 オイル漏れ対策やエアセパレータの採用及び優れた冷却性能がパフォーマンスと稼\n働時間の向上に寄与していることの記載があるほか、「高いトルク性能」として、\n「TorqueBoost」、「優れた冷却システム」、「高度なモーター制御」により締付け 時間が早くなり生産性が向上する旨が記載されている。 そして、証拠(乙58、59)及び弁論の全趣旨によれば、ABは、次のとおり の技術(発明)について、特許を出願し、その多くが日本国内を含めて登録されて おり、これらの技術が被告製品に採用されていると認められる。
1) オイルパルスユニット内のオイルと空気を分離する機構を備え、オイルチャ\nンバから分離された空気が再びオイルチャンバに戻ることを防止する技術(乙 59の1)
2) 遠心作用によりオイルから空気を取り出すための分離手段を備え、パルスユ ニット内の空気の割合を低くすることにより、高いパルス発生効率を実現する 技術(乙59の10)
3) 作動流体を利用したヒートパイプにより、電動モータの熱を効率的に放散し て冷却する技術(乙59の2)
4) ステータ要素とロータ要素との間の相対変位を感知するセンサーに係る技術 でありモータ制御の精度に資する技術(乙59の3)
5) モータとパルスユニットとの接続を改良し、高い生産性、低反力、高トルク 及びメンテナンス周期を改善させる技術(乙59の4)
6) 電圧供給源の遮断時に、動作制御ユニット及び無線通信装置への電圧供給を 連続して維持することによりバッテリーユニットの交換立ち上げにおける遅 れを実質的に減少する技術(乙59の5)
7) 油圧パルスユニット内のオイルレベルが低すぎる場合に、警告信号を出す方 法及びシステムに関する技術(乙59の6)
8) トルク限度及び角度回転限度を超えて締結具が更に締め付けられることを防 止するため、締付具が事前に締め付けられていたか否かを検出する方法に係る 技術(乙59の7)
9) オイルパルスユニットについて機構及び各種部材の形状を工夫し、トルク衝\n撃が与えられた直後に高圧室の圧力を迅速に除去し、次のトルク発生のための 迅速な加速を可能とし、トルクの増大及びトルクの間隔の短縮を実現し、衝撃\n率の増加を実現する技術(乙59の8)
10) パルスユニットの部品の摩耗により生じた粒子を除去するための磁石を備え、 さらなる摩耗等を防ぎ、メンテナンス軽減を実現する技術(乙59の9) そのほか、コントローラである Power Focus 6000 及びソフトウェアにより多種\n類のツールを接続し、作業内容に合わせたコントロールが容易であるという特徴は、 被告カタログ等において、前記記載以外にもページを費やして強く訴求されている (乙58、85)。
(b) 衝撃発生部が油圧パルス発生部である電動式衝撃締め付け工具において、 アウタロータ型電動モータを採用するという本件訂正発明は、電動式衝撃締め付け 工具の基幹部分であるモータに関する発明であり、インナロータ型電動モータが採 用される場合と比較して、小型、軽量、低反力、耐久性実現の作用効果を有する点 で、相当の技術的価値があるといえる。実際に、被告製品のモータを本件訂正発明 の技術に属しない構造に変更するにはモータの構\造等を変更する必要があり、その 場合には製品全体の構造や技術を見直す必要があり、この点からの代替技術が採用\nされる可能性が高いとはいえない。\nもっとも、本件訂正発明の作用効果である「小型、軽量、低反力、耐久性」を実 現する技術及び被告製品で訴求される各特徴を実現する技術は、アウタロータ型電 動モータ以外にも存在する。被告製品においてアウタロータ型電動モータを採用し たことによる作用効果は、被告カタログにおいて訴求されている「高トルク」、「低 反力」及び「メンテナンス軽減」に関連し得るが、前記(a)のとおり、被告カタログ では、「高トルク」を実現する技術として「TorqueBoost」、「優れた冷却システム」、 「高度なモーター制御」が記載されており、実際に、被告が保有し被告製品で採用 されている技術においても実現されていると認められる。 そのほか、前記(a)のとおり、被告製品には、本件訂正発明以外にも多数の技術が 使用され、当該技術による作用効果が被告カタログにおいて被告製品の特徴として 記載されており、需要者に強く訴求されていることが認められる。
(c) したがって、被告製品は、本件訂正発明及びその作用効果以外にも、種々の 技術とこれに基づく特徴・性能を備えており、これらの要素が、需要者の購入動機\nの形成に相当程度寄与していると認められる。被告製品が多彩な機能を有し、これ\nが顧客誘引力に寄与していることは、被告製品が、対応する原告製品よりも総じて ●(省略)●であるという価格差にも裏付けられているといえる。 (d) 以上より、被告製品の性能に係るこれらの事情は、特許法102条2項に基\nづく推定を、相当程度覆滅する事由であると認められる。
d 本件訂正発明は被告製品の一部のみに使用されていること
前記1(2)のとおり、本件訂正発明は、インナロータ型電動モータを搭載した従来 の電動式衝撃締め付け工具の有する課題を解決するため、出力トルクが大きいアウ タロータ型電動モータを採用し、小型及び軽量で、低反力かつ耐久性を有する電動 式衝撃締め付け工具を提供するというものであり、被告製品の特徴とされる「高ト ルク、低反力、メンテナンス軽減」(前記c(a))の作用効果の実現に使用されてい るといえるが、前記cで検討した諸事情からすれば、それらの作用効果は、本件訂 正発明のみによって実現されているとはいえない上、被告製品が備える種々の性能\nの一部にすぎないことが認められる。したがって、本件訂正発明が被告製品の一部 のみに使用されていることは覆滅事由に該当する。ただし、覆滅の基礎となる事情 は前記cの事情と重複することから、推定覆滅の程度の検討に当たっては被告製品 の性能を理由とする推定覆滅と実質的に重なるものとして評価するのが相当と解さ\nれる。
e 本件訂正について
本件訂正は、衝撃発生部について、油圧パルス発生部に限定するものであり、被 告製品における発明の作用効果やその実施に影響を与えるものではないこと等を踏 まえると、本件訂正の事実を覆滅事由として認めることは相当でない。
(ウ) 推定覆滅の程度
以上のとおり、本件においては、一定数の競合品の存在、被告製品の性能及び本\n件訂正発明が被告製品の一部のみに使用されていることを理由とする推定覆滅が認 められ、前記(イ)のとおりの事情を総合的に考慮すると、6割の限度で損害額の推定 が覆滅されるものと解するのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はい ずれも採用できない。
(エ) 以上から、特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は、被告製 品ごとに、別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1及び表2の各「2項損害額」欄記\n載のとおりとなる。
イ 特許法102条3項の重畳適用について
(ア) 特許権者は、自ら特許発明を実施して利益を得ることができると同時に、第 三者に対し、特許発明の実施を許諾して利益を得ることができることに鑑みると、 侵害者の侵害行為により特許権者が受けた損害は、特許権者が侵害者の侵害行為が なければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の売上げの減少による逸 失利益と実施許諾の機会の喪失による得べかりし利益とを観念し得るものと解され る。 そうすると、特許法102条2項による推定が覆滅される場合であっても、当該 推定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるとき は、同条3項の適用が認められると解すべきである。そして、同項による推定の覆 滅事由が、侵害品の販売等の数量について特許権者の販売等の実施の能力を超える\nこと以外の理由によって特許権者が販売等をすることができないとする事情がある ことを理由とする場合の推定覆滅部分については、当該事情の事実関係の下におい て、特許権者が実施許諾をすることができたかどうかを個別的に判断すべきものと 解される(知的財産高等裁判所令和4年10月20日特別部判決参照)。
(イ) これを本件について見ると、本件において覆滅事由として認められるのは 競合品の存在、被告製品の本件訂正発明以外の性能及び本件訂正発明が被告製品の\n一部のみに使用されていることに係る事情であり、いずれも特許権者の実施の能力\nを超えること以外の理由により特許権者が販売等をすることができないとする事情 があることを理由とするものである。
市場における競合品の存在を理由とする覆滅事由に係る覆滅部分については、侵 害品が販売されなかったとしても、侵害者及び特許権者以外の競合品が販売された 蓋然性があることに基づくものであるところ、競合品が販売された蓋然性があるこ とにより推定が覆滅される部分については、特許権者である原告が被告に対して実 施許諾をするという関係に立たないことから、原告が被告に実施許諾をすることが できたとは認められないし、本件における競合品をみると、いずれも本件訂正発明 の効果と同様の性能等を有するものの、アウタロータ型電動モータを採用している\nと認められるものはなく、本件訂正発明の構成とは異なる機構\を有していると認め られるから、この点からも、原告が、当該覆滅部分について、実施許諾の機会を喪 失したとはいえない。
また、被告製品が本件訂正発明以外の性能を有すること及び本件訂正発明は被告\n製品の一部のみに使用されていることを理由とする覆滅部分については、被告製品 の売上に対し本件訂正発明が寄与していないことを理由に推定が覆滅されるもので あり、このような特許発明が寄与していない部分について、原告が実施許諾をする ことができたとは認められない。 したがって、本件においては、特許法102条2項による推定の覆滅部分につい て、同条3項の適用は認められない。
ウ 特許法102条3項に基づく損害額
(ア) 実施料率
本件訂正発明について実施許諾契約がされた事実はない(弁論の全趣旨)。 また、証拠(甲32、33)及び弁論の全趣旨によれば、平成15年9月20日 に社団法人発明協会が発行した「実施料率〔第5版〕」において、「金属加工機械」 の技術分野における平成4年度〜平成10年度の実施料率の平均値についてイニシ ャル有りが4.4%、イニシャル無しが3.3%であること、同様の最頻値が5%、 3%、中央値が4%、3%であること、平成22年8月31日に発行された経済産 業調査会が発行した「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プ ログラム著作権・技術ノウハウ〜」において、「成形」の技術分野における実施料 率の平均値が3.4%であることが認められる。これらに、原告と被告とが競業関 係にあること、本件訂正発明の内容、重要性、代替可能性、被告製品の売上に対す\nる貢献の程度のほか、本件訂正により特許請求の範囲が減縮されていること等本件 に現れた諸事情を総合的に考慮すると、本件における実施に対して受けるべき料率 としては、4%が相当であると認める。これに反する原告及び被告の主張はいずれ も採用できない。
(イ) 以上から、特許法102条3項に基づき推定される損害額は、被告製品ごと に、別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1及び表2の各「3項損害額」欄記載のと\nおりである。
エ 原告の損害額
(ア) 原告は、被告製品の型番ごとに、平成29年7月から令和3年10月の期間 につき、特許法102条2項に基づく損害額と、同条3項に基づく損害額のうち高 い方を選択的に請求していることから、被告製品の型番ごとに認められる損害額は、 別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1の「損害額」欄記載のとおりであり、合計す ると4078万9003円(平成29年7月から令和2年3月31日分までが28 12万1254円、同年4月1日から令和3年10月31日分までが1266万7 749円)となる。

◆判決本文

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令和4(ネ)10111 不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和5年4月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特殊形状の靴紐について、1審は「通知人らが保有する本件特許権を侵害していると考えております」と取引先に流布した行為が、不競法2条1項21号の不正競争行為にあたると判断しました。知財高裁も同様です。

控訴人らは、本件通知書に記載されたキャタピラン+等が本件特許権を侵 害していると考えている旨の見解に関し、仮にこれが不正競争防止法2条1項21 号にいう「虚偽の事実」に該当するのであれば、特許権者としては、特許権の被疑 侵害者を発見した場合であっても、後日裁判所により特許権の侵害はない旨の判断 がされ、損害賠償を命じられるとのリスクを回避するため、被疑侵害者に対し訴訟 提起前に警告書を送付することがおよそできなくなるから、上記の見解が同号にい う「虚偽の事実」に該当するとの判断は誤りであると主張する。
しかしながら、特許権者が特許権の被疑侵害者を発見し、訴訟提起に先立って当 該被疑侵害者に対し警告書を送付したが、後日裁判所により特許権の侵害がない旨 の判断がされた場合であっても、当該警告書の送付が特許権者の正当な権利行使の 範囲内の行為であると評価されるときは、同送付は違法性を欠き、当該特許権者が 同送付を理由として損害賠償責任を負うことはないのであるから、特許権者が被疑 侵害者に対し訴訟提起前に警告書を送付することがおよそできなくなることを前提 とする控訴人らの上記主張は、前提を誤るものとして採用することができない。
(5) 控訴人らは、本件告知行為の違法性の有無に関し、1)控訴人らと被控訴人 との間の紛争の発端は、被控訴人が控訴人Xらとの間で締結した共同出願契約(乙 30の1及び2)における約定(事前の協議・承諾なく本件特許権に関わる製品を 販売した場合には、本件特許権を剥奪できるとするもの)に違反し、単独でキャタ ピラン等の製造・販売を開始したことであること、2)控訴人Xは、本件通知書にお いて、キャタピラン等とキャタピラン+等が別の商品であり、これらが異なる状況 にあることを分かりやすく明記していること、3)本件通知書の記載は、キャタピラ ン+等がキャタピラン等と同様に本件特許権を侵害するおそれがあるとの強い印象 を与えるものではないことを根拠に、本件告知行為の目的は被控訴人の取引先が過 去に販売したキャタピラン等について損害賠償請求をすることであり、同目的が 「裁判所によって本件特許権を侵害する旨の判断が確定したキャタピラン等の存在 を奇貨として、本件特許権を侵害しないように改良されたキャタピラン+等につい ても、裁判所による判断がされる前に、本件特許権を侵害する趣旨を告知し、被控 訴人の取引先に対する信用を毀損することによってキャタピラン+等を早期に「結 ばない靴紐」の市場から排斥し、競業する事業者間の競争において控訴人会社が優 位に立つこと」であるとの認定は誤りであると主張する。
しかしながら、控訴人Xは、本件告知行為をした時点において、被控訴人がその 製造・販売する商品をキャタピラン等からキャタピラン+等に入れ替え、「結ばな い靴紐」の市場においてキャタピラン等の販売が縮小していることを十分に認識し\nていたこと(補正して引用する原判決第4の4(2)イ)、被控訴人は、令和2年1 2月22日、前訴の控訴審判決において命じられたキャタピラン等に係る損害賠償 金(平成28年4月1日から平成30年8月31日までに生じたもの)を支払った ものと認められること(乙7の3、弁論の全趣旨)、キャタピラン等に係る損害賠 償金(平成30年9月1日から令和3年4月30日までに生じたもの)についても、 遅くとも本件告知行為の前までには、その額の確定等の手続が終了し、被控訴人か らその支払がされるのを待つ状況となっていたものと認められること(甲60、7 7、弁論の全趣旨)、控訴人Xは、本件包括協議において、直接又は間接に、被控 訴人が「結ばない靴紐」の市場から撤退することを一貫して求めていたと認められ ること(甲59ないし67、70ないし74)、本件通知書の送付を受けた被控訴 人の取引先は、キャタピラン等と同様にキャタピラン+等についても本件特許権を 侵害するおそれがあるとの強い印象を受けたこと(補正して引用する原判決第4の 4(2)イ及びウ)、その他、補正して引用する原判決第4の4(1)において認定した 各事実に照らすと、控訴人らが主張する上記1)の事情や本件通知書の記載内容を考 慮してもなお、本件通知書においてされたキャタピラン等に係る本件特許権の行使 等についての言及は、あくまで名目的なものであったといわざるを得ず、本件告知 行為の真の目的は、補正して引用する原判決第4の4(2)イのとおり、キャタピラ ン等と同様にキャタピラン+等も本件特許権を侵害する趣旨を告知し、被控訴人の 取引先に対する信用を毀損することによってキャタピラン+等を早期に「結ばない 靴紐」の市場から排斥し、競業する事業者間の競争において控訴人会社が優位に立 つことであったと認めるのが相当である。
この点に関し、控訴人らは、キャタピラン+等の取扱いを停止した4社のうち2 社(株式会社シューマート及び株式会社チヨダ)は当初本件通知書に対して反論を したのであるから、両社は本件告知行為によりキャタピラン+等が本件特許権を侵 害するおそれがあるとの強い印象を受けたものではないと主張する。確かに、本件 通知書の送付を受けた株式会社シューマートは、「キャタピラン+等が本件発明の 技術的範囲に属するというのであれば、その説明をしていただきたい」旨の回答 (乙A2)をし、本件通知書の送付を受けた株式会社チヨダも、「株式会社チヨダ は、入手済みの弁理士の見解書を踏まえ、キャタピラン+等については本件発明の 技術的範囲に属しないと判断している」旨の回答(乙A6)をしたものと認められ るが、結局、両社は、本件告知行為の約4か月後に、それぞれ本件通知書において 求められたとおりにキャタピラン+等の取扱いを停止したものと認められるのであ り(弁論の全趣旨)、加えて、本件通知書の記載内容も併せ考慮すると、両社が本 件通知書の送付を受けた際に上記のような回答をしたことは、両社において本件告 知行為によりキャタピラン+等が本件特許権を侵害するおそれがあるとの強い印象 を受けたとの認定を左右するものではない。
また、控訴人らは、キャタピラン+等の取扱いを停止した4社のうちその余の2 社(朝日ゴルフ株式会社及び株式会社Olympicグループ)は控訴人らと被控 訴人との間に紛争が生じていることを理由に、紛争が解決するまでキャタピラン+ 等の取扱いを一時的に停止したにすぎず、キャタピラン+等が本件特許権を侵害す ると認識してその取扱いを中止したものではないと主張するが、本件通知書の記載 内容及び両社が本件通知書の送付を受けた後速やかにキャタピラン+等の取扱いを 停止したものと認められること(弁論の全趣旨)に照らすと、株式会社Olymp icグループの回答書(乙A12)に「キャタピラン等及びキャタピラン+等に関 する控訴人Xと被控訴人との間の紛争が解決するまで、これらの商品の販売をしな い方針である」旨の記載があることを考慮しても、両社は、本件告知行為によりキ ャタピラン+等が本件特許権を侵害するおそれがあるとの強い印象を受けたものと 認めるのが相当である。 以上のとおりであるから、控訴人らの主張を採用することはできない。
(6) 控訴人らは、本件告知行為に係る過失の有無に関し、被控訴人の第1主張 書面(本件仮処分の手続において提出されたもの)に記載された本件発明の構成要\n件B1)の「非伸縮性素材からなり」に係るクレーム解釈は特許請求の範囲及び本件 明細書等の記載から大きく外れた荒唐無稽なものであり、同主張書面を見てもキャ タピラン+等が本件特許権を侵害していないと判断することはできなかったから、 本件告知行為について控訴人らに過失はない旨の主張をする。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の2及び前記(1)ないし(3)において 説示したところに照らすと、被控訴人が上記第1主張書面においてした主張(本件 発明の「非伸縮性素材からな(る)中心ひも」は「伸縮性素材からなるひも本体と 比較して伸縮性が乏しいもの」をいうところ、キャタピラン+等のひも本体(外層) と中心ひも(芯材)の伸縮性を比較した試験結果によると、キャタピラン+等は本 件特許権を侵害しない旨の主張(補正して引用する原判決第4の4(2)イ))は、 十分な説得性を有する相当なものであるといえ、加えて、補正して引用する原判決\n第4の4(2)イにおいて指摘した各事情も併せ考慮すると、控訴人らは、遅くとも 同主張書面を受領した時点で、キャタピラン+等の製造・販売が本件特許権を侵害 しない可能性が相当程度にあることを容易に認識し得たと認められるから、そのよ\nうな認識可能性があったにもかかわらず本件告知行為に及んだ控訴人らには、過失\nがあると認めるのが相当である。

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◆令和3(ワ)22940

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令和3(ワ)6908  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年1月30日  大阪地方裁判所

 特許権侵害が認定され、特102条2項による推定覆滅として3割を認定されました。

前記本件明細書の記載によれば、本件特許発明は、落下物受取装置の基端部 の縁と足場構築体の作業空間の外側面の間に隙間が生じ小さい物品が落下し\n人体を負傷する危険があり、当該隙間を単純な板材で塞いだ場合には落下物受 取装置を格納する際に板材を取外す必要がある等姿勢変更の作業が困難であ るといった課題に対し(【0008】【0009】)、当該隙間を覆うことができ、 かつ落下物受取装置の姿勢変更等によって隙間が変化する場合でもそれに追 従し確実に隙間を塞ぐことができる隙間遮蔽装置を提供するものである(【0 014】【0038】)。本件明細書には、本件特許発明の実施例として、隙間遮 蔽装置は、固定部材を落下物受取装置の基端部に取付一体化した構成とする場\n合と、落下物受取装置に後付けされるユニットを構成する場合とを挙げており\n(【0016】)、後付け可能かつ着脱自在の隙間遮蔽装置の実施例の一つ(ユ\nニット20a)として、固定部材に枢結手段を介して遮蔽部材を回動自在に連 結するものが記載されている(【0039】【0040】【0043】)。 このような固定部材に枢結手段22を用いて遮蔽部材を回動可能に枢結す\nる方法は、本件明細書上、「図4に示す1実施形態において」(【0039】)、 「図示のようにユニット20aを構成する場合は」(【0043】)と記載され\nているとおり、後付けユニットタイプの隙間遮蔽装置の一実施例という位置付 けで記載されているに過ぎない。また、本件明細書には、固定部材の大きさ及 び形状並びに落下物受取装置への固定方法については適宜の方法を採用する ことができることが示唆されており(【0040】)、その余の本件明細書の記 載を見ても、「固定部材(21)」が、特定の構成を備えるべきものであるとか、\n枢結手段が、固定部材(21)と別途独立のもの(部材)であることが前提で あることをうかがわせるとかの旨の記載はない。 したがって、本件特許発明における「固定部材(22)」とは、実施例のよう に固定部材とは別の枢結手段が存在する場合に限らず、固定部材が枢結手段と 一体のもの、一つの部材が固定部材と枢結手段を兼ねるものなどもこれに当た ると解される。
むしろ、枢結手段が固定部材から独立して存在すること(独立した部材であ ること)等が要求されていないとの解釈は、上記のとおり実施例の一つとして 挙げられた固定部材に遮蔽部材を枢結する「蝶番」について、「枢結部材」では なく「枢結手段」と記載されていることと整合するといえる(【0039】【0 043】)。 なお、構成要件Cないし同Fには「固定部材(21)」として符号が記載され\nているものの、これは請求項の記載内容を理解するために補助的に付されたも のであると解され(特許法施行規則24条の4及び様式29の2の〔備考〕1 4のロ)、それ以上に本件特許発明における固定部材の構成を符号により特定\nされる実施形態に限定するものであると解すべき事情も見当たらない。 したがって、本件明細書の記載を参酌しても、本件特許発明において、上記 (1)のとおり、1)落下物受取装置の基端部に固定され、隙間遮蔽装置を構成す\nる部材であること(構成要件C)、2)(隙間遮蔽装置使用時に)固定部材から足 場構築体に向けて遮蔽部材が延びていること(構\成要件D)、3)遮蔽部材が回 動自在に枢結されていること(構成要件E)、4)(隙間遮蔽装置不使用時に)遮 蔽部材が固定部材に向けて回動することにより固定部材の上に重ねられるこ と(構成要件F)という要素を充たせば「固定部材」(構\成要件C〜F)に相当 する部材であるといえ、これに加え、枢結手段とは独立して存在することを要 するものではないと解すべきである。
(4) 被告製品における「蝶番(の第1翼片)」が本件特許発明の「固定部材」に 相当するか(あてはめ)
別紙被告製品説明書のとおり、被告製品における蝶番は、第1翼片、第2翼 片及び回転軸から成り、第1翼片(図3右側のもの)が落下物受取装置の基端 部にリベット等で固着され、第2翼片(図3左側のもの)が遮蔽部材に固着さ れている。これにより、被告製品の蝶番の第1翼片は、1)落下物受取装置の基 端部に固定され、隙間遮蔽装置を構成する部材であること(構\成要件C)、2) (隙間遮蔽装置使用時に)固定部材(第1翼片)から足場構築体に向けて遮蔽\n部材が延びていること(構成要件D)、3)遮蔽部材が回動自在に枢結されてい ること(構成要件E)、4)(隙間遮蔽装置不使用時に)遮蔽部材が固定部材に向 けて回動することにより固定部材の上に重ねられること(構成要件F)という\n要素を全て充たしているといえ、本件特許発明の「固定部材」に相当する部材 であるということができる。
被告は、このように解すると構成要件Fの構\成及びその構成の作用効果の説\n明と矛盾する旨主張するが、保管・運搬に便利となるとの作用効果は、遮蔽部 材を回動自在に枢結することによりもたらさせるものであって、固定部材の構\n成に由来するものではないから、その主張は失当である。 したがって、被告製品は、構成要件Cないし同Fを充足しており、構\成要件 A、同B、同Gを充足することは争いがないから、本件特許発明の技術的範囲 に属する。
・・・
(2) 推定覆滅事情
被告は、本件特許発明は、製品の一部のみに実施されるものであること、被 告製品には他の顧客誘引力がある一方、本件特許発明に顧客誘引力が乏しいこ と、本件特許発明以外の特許発明の実施や被告商品に付された商標が顧客誘引 力を持つことから、上記損害額の8割は推定が及ばないものと主張する。
ア 本件特許発明の意義
前判示のとおり、本件特許発明は、建設現場等で高所からの工具等の落下 による負傷等を防止するために設置される落下物防止装置(朝顔)において、 「落下物受取装置は、…該落下物受取装置の基端部の縁と、足場構築体の作\n業空間の外側面の間には、狭小な隙間を生じることが不可避である。このた め、…小さい物品が落下すると、前記隙間を通過することにより地上に向け て落下するおそれがあり、金属製等の落下物の場合、微小な物品であっても 人体を負傷する危険がある。」等の課題に対して、隙間(S)を覆う隙間遮蔽装 置を設け、前記隙間遮蔽装置は、前記落下物受取装置の基端部に固定される 固定部材と、該固定部材から足場構築体に向けて延びる遮蔽部材を備え、前\n記固定部材に対して前記遮蔽部材を回動自在に枢結しており、前記遮蔽部材 は、不使用時に前記固定部材に向けて回動することにより、該固定部材の上 に重ねられるように構成することにより該課題を解決するものである。\n この点、証拠(甲3、4(枝番を含む))及び弁論の全趣旨によると、被告 製品における遮断板によって遮蔽される隙間は、足場の設置態様によっては 相応に幅が広いものも想定され(少なくとも被告主張のような傷害結果が生 じることが極めて稀な小さなもののみが通過する隙間に限られないと認め られる。)、被告製品においても、朝顔において隙間を塞ぐことが重要な意義 を有するものと扱われていることが認められるのであって、本件特許発明は、 これを効果的に行うものとしての技術的意義を有し、実施品の顧客誘引力を 高めるものであると認められる。
イ 他方、朝顔の性能としては、被告主張のとおり、上部から外方への落下物\nを直接受け止める部分であるパネル部分(本件特許発明でいう落下物受取装 置)の性能が重要であろうことは商品の性質上当然であり、被告が、本件特\n許発明以外の特許を実施している点を指摘するのも、この趣旨をいうものと 理解することができる。また、作業効率性、美観性といった被告製品の他の 要素も顧客誘引力に相応に寄与することも理解できるところである。もっと も、被告商品2に付された被告商標については、これについて特段の顧客誘 引力があることをうかがわせる証拠はないため、本件において考慮すること は困難である。また、本件特許発明が製品の一部に実施されているという主 張は、落下物受取装置が遮断板に向かって傾斜を持った態様で運用されるこ とからすると、同装置で受け取られた落下物は遮断板に至り、遮断板によっ て更に下方への落下が阻止されることになるのであって、このように、遮断 板と一体となって落下物の下方への落下が防止されるという被告製品の構\n成からすると、本来的な意味で特許技術が製品の一部にのみ実施されたもの であるということはできない。なお、被告は、本件特許発明は、遮蔽部材を落下物受取装置の基底部に回動可能に固定することのみを特徴としている旨主張するが、抽象的には遮蔽部材を設置して隙間を塞ぐ構\成は他に考え得る趣旨をいうものと解したとしても、その具体的な競合品等に関する主張立証はされていないから、これを推定の覆滅に当たって考慮することは困難である。
ウ 本件において、イに述べた事情はあるものの、被告が指摘する事情はなお 同種の商品一般の顧客誘引力の重点の置き方を指摘するものにとどまって おり、これらの事情を特許法102条2項による推定を覆滅させる事情とし て重く見るのは相当でなく、総合的にみると、(1)で推定される原告の損害 のうち、3割の限度ではその推定の覆滅の立証があったものというべきであ る。

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令和4(ネ)10073等  特許権侵害損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年3月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審では、3項侵害の損害額の方が高いとして、2200万円弱の損害賠償を認めましたが、知財高裁は2項侵害の損害額の方が高いとして、約2250万円の支払いを命じました。

本件は、発明の名称を「加熱式エアロゾル発生装置、及び一貫した特性のエ アロゾルを発生させる方法」とする発明に係る本件特許権を有する控訴人が、被控 訴人らに対し、被控訴人らが共同で加熱式タバコ用デバイスである原判決別紙物件 目録記載の被告製品(被告製品1〜3)の販売、輸出、輸入及び販売の申出をする\nことが本件特許権の侵害に当たると主張して、不法行為(民法709条)に基づき、 選択的に、1)特許法102条2項の損害額●●●●●●●●●円(同項の推定の覆 滅が認められた場合に当該覆滅部分について予備的に同条3項に基づく売上額の2\n0%相当の損害額)又は2)同条3項の損害額●●●●●●●●●円を請求するとと もに、3)弁護士・弁理士費用相当額●●●●●●●●円(上記1)の同条2項の損害 額の1割に相当する額)を請求するものとして、●●●●●●●●●円及びこれに 対する不法行為の後であり被控訴人らへの各訴状送達の日の翌日である令和2年3 月10日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の連帯支払を原審で求めた事案である。
(2) 原審は、1)特許法102条2項による被控訴人らが受けている利益の額は3 706万0935円と推定されるが、被告製品の売上げにはそれらが別件発明の実 施品であることも貢献しているため5割の推定覆滅を認めるのが相当であり、同項 の損害額は1853万0467円となる(また、上記の覆滅の理由からして上記覆 滅部分についての同条3項の適用は認められない。)とする一方で、2)実施料率は 10%を下らないものと認めるのが相当であり、同条3項の損害額は1975万2 707円となるところ、より高額である上記2)の損害額をもって控訴人の損害額と 認め、これに弁護士・弁理士費用としてその1割である197万5270円を加え た2172万7977円及びこれに対する前記遅延損害金の連帯支払を被控訴人ら に求める限度で控訴人の請求を一部認容し、その余の控訴人の請求をいずれも棄却 した。
・・・・
(c) 同じくAmazon seller centralに係る手数料等について、控訴人は、令和元 年7月のFBA運搬費は異常に高額であり、少なくとも本件FBA配送代行手数料 ●●●●●●●●円は控除されるべきものではないなどと主張する。
そこで検討するに、証拠(甲10、甲A38、44、甲46、47、51、52、 53の1〜4、54の1〜5、甲55、62、乙25、26)及び弁論の全趣旨に よると、1)令和元年7月分のAmazonのFBA手数料(Amazon FBA/handling charge) は●●●●●●●円、FBA運搬手数料(Amazon FBA/haulage express)は●●● ●●●●●円であったこと、2)平成30年7月から令和元年12月までの期間中、 FBA運搬手数料又はこれに相当し得るとみられる費用は、平成30年11月から 令和元年9月までの間において計上されているところ(ただし、平成30年11月 及び12月においては「Amazon /FBA haulage handling charge」である。)、同年 11月分及び12月分は●●●●円程度、平成31年1月分は●●●●円余りであ ったものの、同年2月分から同年(令和元年)6月分まではいずれも●●●●円に 満たない額となっていたにもかかわらず、同年7月分として上記のとおり急激にそ の額が増大し、その後、同年8月分として●●●円余り、同年9月分として●●● 円余りが計上された後、同年10月分以降は、FBA手数料とともにゼロ円となっ たこと、3)同年4月において、「商品評価損」●●●●●●●●●円の計上と「期 末商品棚卸高」の●●●●●●●●円の減少の計上により、「商品」が●●●●● ●●●●円減少し、同年5月において、「商品評価損」●●●●●●●円の計上と 「期末商品棚卸高」●●●●●●●●円の計上により、「商品」が●●●●●●● ●円増加し、同年6月において、「商品評価損」●●●●●●●●●円の計上と「期 末商品棚卸高」の●●●●●●●●円の減少の計上により、「商品」が●●●●● ●●●●円減少したこと、4)同年7月30日及び同月31日の2日間に、「Fjp20190724PATENT-14」などの符号(末尾の数字のみ、3〜17の範囲で異なっている。) のある一律●●●円のFBA配送代行手数料(FBA Per Unit Fulfillment Fee)が ●●●●件計上され、その合計額は●●●●●●●●円に上ったこと(本件FBA 配送代行手数料)、5)同月におけるFBA配送代行手数料の支出において、そのよ うに同一の符号をもって一律の金額で同時期に多数のものが計上されている例は、 他に認め難いこと、6)控訴人は、別件仮処分決定に係る特許権侵害差止仮処分申立\n事件(東京地裁民事第29部にて審理)において、令和元年7月11日付けで、被 控訴人アンカーに対する申立てを取り下げ、その後、同月25日、別件仮処分決定\nがされたこと、7)控訴人は、別途、被控訴人らを債務者として、特許権侵害差止仮 処分命令の申立て(東京地裁平成30年(ヨ)第22123号(東京地裁民事第4\n0部にて審理))をしていたところ、当該事件で、被控訴人らは、令和元年9月3 0日付けの準備書面をもって、被控訴人ジョウズにおいては同月末までに被告製品 全ての在庫がなくなる予定であることから、保全の必要性がない旨を主張し、その\n後、それを疎明する資料として、被控訴人ジョウズが同月にAmazonに対し被告製品 の所有権放棄の依頼をしたことを示す書面を提出した上、同年11月5日付けの準 備書面をもって、保全の必要性がない旨を改めて主張したことが認められる。
前記1)〜7)の事情(なお、前記4)について、「20190724PATENT」の符号は、令和 元年7月24日付けのもので、特許に関連するものであることを強くうかがわせる ものである。)のほか、AmazonのFBAサービスに係る証拠(甲53の1〜4。余 剰在庫の管理等のために、Amazonフルフィルメントセンターに保管されている在庫 について、出品者、出品者の倉庫、仕入れ先又は販売業者に返送したり、その所有 権を放棄したりする旨を依頼するサービスがあることなどが記載されている。)や、 配送手数料等についてはその対象となる行為が行われた後に請求がされるのも合理 的であると解され、本件FBA配送代行手数料が平成31年(令和元年)4月ない し6月の在庫に係る会計上の処理と関連している可能性があることなども考慮する\nと、本件FBA配送代行手数料●●●●●●●●円については、別件仮処分決定の 発令に関連して、また、前記7)の仮処分命令申立事件に対する対応やその準備等の\nために、大量の被告製品について一律に、通常の販売とは異なる特別の取扱いがさ れたことから発生したものであることが強く推認され、この推認を覆すに足りる事 情は見当たらない。
したがって、Amazon seller centralに係る手数料等のうち、本件FBA配送代行 手数料●●●●●●●●円については、被告製品の販売に直接必要となった経費と して控除すべきものではなく、控除が認められる支払手数料額は●●●●●●●● ●円となる。
上記に反する被控訴人らの主張は、いずれも採用することができない。なお、被 控訴人らは、当審で追加された特許法102条3項の損害に係る控訴人の主張に対 し、前記3)の商品評価損については、令和元年の期末の商品評価損調整でゼロとす る仕訳を行ったなどと主張するところ、そのような事実を認めるに足りる証拠はな いものの、仮に、そのような事後的な調整の事実があったとすれば、そのことは、 本件FBA配送代行手数料の支出が被告製品の販売とは直接関係なくされたもので あるとの前記推認を裏付けるものであるとみることができる。

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◆令和2(ワ)4332

関連事件(1)です。 特許権、当事者同じ 特許権者勝訴 差止のみ請求

◆令和2(ワ)4332
関連事件(2)です。 当事者同じ、対象特許違い 特許権者勝訴 損害額約5200万円

◆令和1(ワ)20074
関連事件(2)の控訴審です 控訴棄却

◆令和3(ネ)10072

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令和2(ワ)27972  特許権侵害損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月22日  東京地方裁判所

 特許権侵害訴訟において、本件発明は、「拡散レンズにおいてそのような各レンズ部を有する発明について、前記1(2)のような効果を奏するという技術的意義を有する」とし、被告製品は、かかるレンズ部を把握できないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。

本件各発明の「複数のレンズ部」、「各レンズ部」(構成要件1D、1E\n等)について
本件各発明の特許請求の範囲には、「前記拡散レンズを複数のレンズ部か ら形成し、各レンズ部を、各LEDの並設方向への曲率半径が各LEDの並 設方向と直交する方向への曲率半径よりも小さい曲面状に形成するとともに、 光の経路と交差する所定の面上に並ぶように配置し、前記各レンズ部を、互 いに近傍に配置されたレンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が異 なるように形成したことを特徴とする」(構成要件1D〜F)と記載されて\nいる。
これらによれば、本件各発明の照明装置の拡散レンズは、複数のレンズ部 から形成されていて、各レンズ部の各LEDの並設方向への曲率半径と、各 LEDの並設方向と直行する方向への曲率半径を比較することができるので あり、また、各レンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が異なると いうというのであるから、本件発明のレンズ部は、拡散レンズにおいて、そ こに形成されているという複数のレンズ部のそれぞれのレンズ部について、 その位置、形状が特定された上で、それぞれのレンズ部(各レンズ部)につ いてのLEDの並設方向への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向 への曲率半径を把握することができるものであると理解するのが自然なもの である。
・・・
これら本件明細書の記載をみても、本件各発明の実施形態として記載され ているものは、本件発明の拡散レンズにあるという複数のレンズ部(各レン ズ部)のそれぞれのレンズ部について、その位置、形状を特定した上で、そ れらのレンズ部についてのLEDの並設方向への曲率半径及びLEDの並設 方向と直交する方向への曲率半径を把握することができるものであるといえ る。それぞれのレンズ部については、一方向に異なる曲率を有する複合曲面 を有するものも含まれるものの、その場合でも、そのレンズ部が特定された 上で、そのレンズ部に求められる機能を考慮し、そのレンズ部についてある\n方向において曲率半径(RY)を有するものとしている。そして、本件明細 書において、それぞれのレンズ部の位置、形状等が特定されないことを前提 とする記載はない。
このような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、本件各発明の 拡散レンズは、それぞれについてその位置、形状が特定される複数のレンズ 部を有するものであり、そのそれぞれのレンズ部についてのLEDの並設方 向への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向への曲率半径を把握す ることができるものであるといえる。そして、特許請求の範囲及び本件明細 書の記載からも、本件各発明は、拡散レンズにおいてそのような各レンズ部 を有する発明について、前記1(2)のような効果を奏するという技術的意義を 有するものと認められる。
(2) 各被告製品において使用されているLSD(もっとも、各被告製品に実際 に使用されている各LSDの種類や具体的構成は明らかではない(前記2(2)、 (4))。)について検討する。各被告製品におけるLSDは、拡散レンズの機能を有するフィルム表\面の 構造体である数十\μm程度の微細な凹凸が、シームレスかつランダムに、す なわち継ぎ目なく不規則に配置されたものであり、かつ、凹凸の部分の個々 の大きさや形状を規定して作成されているものではなく、統計的に評価して フィルム全体として入射光を所定の角度で拡散する性能を有するように設計\nされているものである(同(1)〜(3))。
すなわち、各被告製品におけるLSDは、フィルムの表面に微細な凹凸の\n構造体を有し、それらが凸レンズと凹レンズがシームレスかつランダムに配\n置されたマイクロレンズアレイとして機能し、それぞれの微細な凹凸の構\造 体によって光がランダムに広げられるが、それらが重なり合うことによって、 統計的に評価して、フィルム表面全体が所定の性能\を有する拡散レンズとし ての機能を有するものである。そして、各被告製品におけるLSDがこのよ\nうなものであるところ、そこにおいて、前記(1)のとおりの本件各発明におけ るそれぞれの「レンズ部」を把握することは困難なものといえる。そして、 原告は、各被告製品について、その断面図の例を示すところ、その各例にお いても、別紙原告の示す例のとおり、LSDの表面は境目なく不規則に様々\nな形状の凹凸が連続しており、本件各発明におけるそれぞれの「レンズ部」 を把握することができない。 原告は、原告の示す各例において、LSDの表面の部分的に突出した複数\nの部分等はそれぞれレンズとして作用するから、それぞれが1つの「レンズ 部」であり、「複数のレンズ部」を備えることを主張する。しかし、前記(1) のとおり、本件各発明の「レンズ部」は、それぞれのレンズ部の位置、形状 が特定されるものであって、本件各発明は拡散レンズにそのような「レンズ 部」を有するものにより前記1(2)のような効果を奏するといえるものである ところ、原告の示す各例においても、上記のようなそれぞれのレンズ部(各 レンズ部)について、その位置、形状を具体的に特定するものではない(前 記第2の2(1)(原告の主張)イ、別紙原告の主張する凸部の例)。
以上によれば、各被告製品に使用されているLSDの形状によれば、各被 告製品において、本件各発明の「複数のレンズ部」、「各レンズ部」(構成\n要件1D、1E等)にいうそれぞれの「レンズ部」の範囲を特定することが できないものであって、各被告製品は本件各発明にいう「各レンズ部」を有 するということはできず、それぞれのレンズ部についてのLEDの並設方向 への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向への曲率半径を把握する ことができず、各被告製品は、本件各発明の曲率半径についての構成(構\成 要件1E、1F)を充足するともいえない。

◆判決本文

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平成30(ワ)10590 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月20日  大阪地方裁判所

 102条1項の覆滅として15%と判断されました。覆滅分については6%の実施料と判断されました。興味深いのは、特許権は共有でしたが、原告が100%持ち分で、102条1項の適用がされている点です。なお、本件特許については、無効審判も3件あります。無効審判では証人喚問もされています。

◆本件特許


(7) 原告が販売することができないとする事情
ア 競合品の存在
被告が競合品であると主張する製品のうち、アツギが販売する「大人のス ポパン」(乙60の2の1)、イーゲートが販売するショーツ(乙60の4の 1)、ワコールが販売する「すそピタショーツ」(乙61の1)、千趣会が販売 するショーツ(乙61の2、61の3)及びグンゼが発売する「超立体ぴっ たりフィットショーツ」(乙61の5)は、脚口(裾口)ないし臀部部分が立\n体的な構造であり、脚口(裾口)部分のずりあがりが防止されることなど本\n件各特徴に相当する作用効果を有することを特徴とする商品であるといえ、 価格帯も、ワコールが販売する製品を除き、概ね同一であり、競合品である と認められる。ワコールが販売する製品は、3000円前後と原告製品より も高額であるものの、同社が女性用下着メーカーとして有名でありその商品 に高いブランド力があると認められること等を踏まえると、なお競合品に含 まれるといえる。 したがって、原告製品と被告製品とが販売される市場において、原告製品 と競合する製品が複数存在することが認められ、かかる競合品の存在は、原 告が販売することができない事情に該当するといえる。 もっとも、原告製品のうち、220番製品及び420番製品は、楽天市場 内の「ボックスショーツ」で区分される製品のランキングにおいて、平成2 5年5月15日から令和元年7月7日までの長期間にわたり連続1位を獲 得している(甲50、73)等、原告のブランドは需要者に相応に知られて おり、かつ需要があると認められることを踏まえると、競合品の存在を理由 とする覆滅の程度が大きいとまではいえない。
イ 被告製品固有の特徴
証拠(甲3〜8、23、24、)によれば、被告製品は、本件各特徴に加え て被告各特徴(1)ウエスト・脚口にはゴムを使用せず、2)綿の中でも、繊維 長が長く、吸湿性が高く、やわらかい風合い等の特徴を持つスーピマコット ンを使用し、3)各パーツの縫い目の縫い糸が肌側に当たらない仕様であり、 4)品質表示を記載するタグをタグから製品本体に転写してプリントする方\n法に変更していること)を備えており、かつ当該被告特徴について、本件各 特徴に次いで、需要者に訴求されていることが認められる。 また、証拠(甲48〜50)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品は、1) 少なくともウエスト部分にゴムを使用し、2)スーピマコットンは使用されて おらず、3)パーツの縫い目の縫い糸が肌側に当たる仕様であり、4)品質表示\nを記載するタグが付けられていることが認められる。 原告商品及び被告商品は、余多ある女性用ショーツの中で、装飾的な意味 でのデザイン性よりも、履き心地、肌触り等の機能面、実質面を重視した商\n品を購入しようとする需要者を販売対象とした商品であると認められ、その ような需要者にとって、被告各特徴は、購入動機の形成にそれなりに寄与す るものであるといえる(乙67)。よって、被告製品が原告製品とは異なる被告各特徴を備えることは、原告 が販売することができない事情に該当すると言い得る。
ただし、被告各特徴に基づく顧客誘引力は、商品の形状・機能に直接かか\nわる本件各特徴と比較すると限定的であると考えられること、被告特徴2)に ついて、素材それ自体で見れば、被告製品と原告製品のうち220番製品及 び420番製品は綿95%、ポリウレタン5%と同一であり、その余の原告 製品も綿92%、ポリウレタン8%と大差がないこと、被告特徴4)について、 本件対象期間中に販売された被告製品の一部はタグ付きである可能性があ\nること(甲40)等をふまえると、その覆滅の程度は限定的に解すべきであ る。
ウ ハイウエストタイプの存在
被告製品には、原告製品にない、ウエスト丈がハイウエストのもの(被告 製品3−1及び3−2。ハイウエストタイプ)が存在し、当該ハイウエスト タイプの存在が、原告が販売することができないとする事情に該当すること は争いがない。被告製品のうちハイウエストタイプは、被告製品の販売数量合計●(省略) ●のうち、●(省略)●であり、約26.8%である(計算鑑定の結果)。 被告製品においてハイウエストタイプを好む需要者が一定程度存在する と認められることを踏まえると、被告製品にのみハイウエストタイプが存在 するという事情は、特許法102条1項1号に基づく推定を一定程度覆滅す るものと認められる。
エ 販売価格
証拠(甲3〜8、48〜50、75)によれば、原告のウェブサイトで販 売される107番製品(ローライズ丈)及び407番製品(普通丈)の販売 価格は2500円(税込)、楽天市場で販売される220番製品(セミ丈)及 び420番製品(普通丈)の販売価格は1500円〜1520円(税込)で あるのに対し、被告製品の一般向けの販売価格はレギュラー丈(被告製品1 −1及び1−2)が1080円(税抜)、ショート丈(被告製品2−1及び2 −2)が平均980円(税抜)、ハイウエストタイプ(被告製品3−1及び3 −2)が平均1280円(税抜)であると認められる。なお、原告製品のロ ーライズ丈及びセミ丈と被告製品のショート丈、原告製品の普通丈と被告製 品のレギュラー丈が、それぞれ対応関係にある。 同種かつ同程度の機能等の製品相互間で価格が顧客誘引力に影響を与え\nること、これが女性用下着一般及びその中でも原告商品及び被告商品の想定 需要者層に妥当することは明らかである(乙67)。原告商品の販売数量を 見ても、価格以外の要素があり得るといえるものの、高額(2500円)の 407番製品及び107番製品の販売数量が●(省略)●枚、●(省略)● 枚であるのに対し、低価格(約1500円)の220番製品及び420番製 品が●(省略)●枚、●(省略)●枚と非常に高い比率を占める(計算鑑定 の結果)。
もっとも、販売量の多い220番製品及び420番製品と、被告製品(ハ イウエストタイプを除く)の価格差は、420円〜540円であり、両製品 の価格帯自体が1000円〜1500円程度の範囲であること等を踏まえ ても、その差が大きいとはいえず、顧客誘引力に大きな影響を及ぼすとまで はいえない。したがって、被告製品が原告製品よりも低価格であることは、原告が販売 することができないとする事情に該当するといえるものの、当該事情を理由 として推定された損害が覆滅される程度は高いとは言えない。
オ 被告の営業努力
特許権者等が販売することができない事情として認められる侵害者の営 業努力とは、通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力を行い、製品の購買 動機の形成に寄与したと認められるものをいうところ、被告指摘の事情を勘 案しても、このような事情には該当しない。 カ 本件発明の技術的意義が被告製品の利益に貢献する程度 被告は、構成要件Dの「腸骨棘点付近」について、上前腸骨棘を中心とし\nつつ下前腸骨棘付近を含むものと解釈した場合、仮に被告製品が構成要件D\nを充足するとしても、本件発明の作用効果を奏さないため、被告製品に対す る本件発明の寄与度が零であると主張する。 しかし、「腸骨棘点付近」に下前腸骨棘付近を含む場合でも本件発明の作 用効果を奏するものであることは前記2(1)のとおりであるから、被告の主 張は採用できない。
キ 実際の着用状態からみた本件発明の貢献度
被告は、一定以上の割合の被告製品については、需要者が着用した場合に 身体的個体差等の影響により着用状態において本件発明の技術的範囲に属 しない場合があり得、当該事情をもって原告が販売することができないとす る事情に該当と主張する。 しかし、被告製品は、その設計時に想定された着用状態において、本件発 明の技術的範囲に属するものであり、実際の個別具体的な着用状況において、 被告製品の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置しない場合 があることをもって販売することができない事情が存すると解することは 相当でない。
ク 推定覆滅の割合(まとめ)
以上によれば、本件においては、競合品の存在、被告製品が被告各特徴を 有すること、ハイウエストタイプが存在すること及び原告製品よりも低価格 であることについて原告が販売することができない事情に該当すると認め られ、前記イで認定した事情を踏まえると、当該事情に相当する数量は、全 体の15パーセントであると認めるのが相当である。
・・・
証拠(甲11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の実施に対し 受けるべき実施料率は6パーセントと認めるのが相当である。 なお、被告は、原告がそのウェブサイトにおいて本件特許権侵害に基づく 訴訟を被告に提起し、徹底的に争う旨の意思表明をしていることから、ライ\nセンスの機会を自ら放棄したとして、特許法102条1項2号が規定する 「特許権者…が、当該特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しく は通常実施権の許諾…をし得たと認められない場合を除く」に該当し、同号 に基づく実施料相当額の損害は認められない旨主張する。 しかし、被告が主張する事情は、原告の被告に対するライセンスの機会の 喪失を否定する事情に該当するとはいえず、同号の括弧書に該当する場合で あるとは認められない。

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令和4(ネ)10087  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権侵害として、1審で約800万円の損害賠償が認められました。双方控訴しましたが、控訴棄却されました。原告(控訴人)は代理人なしの本人訴訟です。

(1) 業界における実施料等の相場について
ア 一審原告は、前記第2の4(4)ア aのとおり、原判決が、甲55報告書 の例外的事象における実施料率を理由に、電気等の分野の実施料率の平均 値を採用しなかったのは不当である旨主張する。 しかし、原判決は、一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となると いう甲55報告書の指摘に着目して、電気等の分野の実施料率の平均値を 採用しないとしたのであり、その判断は首肯できるものである。 イ 一審原告は、前記第2の4(4)ア bのとおり、乙13陳述書における実 施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。 しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙13陳述書は、具体 的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示したものと 理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を吟味する必要 があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や分割出願制度等を 利用した出願を全てまとめて1パテントファミリーとして、パテントファ ミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、1件当たりのライセンス 料率が過少にならない工夫をしていること等に鑑みると、その信用性が否 定されるべきものとはいえない上、そもそも原判決は、乙13陳述書にお ける料率をそのまま採用しているのではなく、その他の各種事情を総合勘 案した上で、料率を決定しているのであるから、一審原告の主張は採用で きない。
(2) 代替品の不存在について
一審原告は、前記第2の4(4)ア のとおり、本件訂正発明によらずに、 本件訂正発明の効果を奏することは経済的に現実的ではなかった旨主張す る。 しかし、これを的確に裏付けるに足りる証拠はないし、その他の各種事 情を総合考慮すると、そもそもこの点のみをもって本件結論が左右すると はいい難いから、一審原告の上記主張は採用できない。
・・・
一審被告は、「本来解像度」の用語の意義について、本件明細書等【00 32】に「「本来解像度」とは「本来画像」の解像度をする。」と定義され ているので、「本来画像」の意義が問題となるところ、「本来画像」の用語 の意義、内容は不明確であるから、本件特許明細書には、構成要件G’にお\nける「本来解像度」の意義を理解するための記載がなく、サポート要件に反 する旨、当審において新たに主張するが、本件明細書等の「本来画像」及び 「本来解像度」に関する関係記載(【0006】、【0032】、【007 9】、【0115】、【0118】、【0119】、【0124】ないし 【0126】、【0128】ないし【0130】等)を総合すれば、当業者 は、「本来画像」及び「本来解像度」が何を意味するかにつき十分に理解で\nきるというべきであるから、本件訂正発明は本件明細書等の発明の詳細な説 明に記載したものといえる。 その他にも、両当事者はるる主張するが、いずれも本件結論を左右し得な い。
第4 結論
以上によれば、一審原告の請求は、主位的請求である不法行為に基づく損害 賠償請求権に基づき819万9458円及びこれに対する令和元年12月13 日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を 求める限度で理由があり、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由\nがないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、一審原告及 び一審被告の控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとお り判決する。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆令和1(ワ)32239

関連審決取消訴訟事件です。

◆令和3(行ケ)10139

◆平成28(行ケ)10257
同一特許についての別侵害訴訟の控訴審と1審です

◆令和4(ネ)10031

◆令和2(ワ)5616


◆令和3(ネ)10023

◆平成30(ワ)36690

◆令和4(ネ)10056

◆令和2(ワ)29604
この事件では、知財高裁は、損害額の算定について以下のように言及されています。
一審原告は、前記第2の3(4)ア aのとおり、甲26報告書の79頁 は、デバイスに関して、クロスライセンスの方式による場合において、 実施料率の相場が1%未満すなわち0.数%であることを示すにすぎ ないから、原判決のこの点に係る認定には誤りがある旨主張する。 しかし、甲26報告書の79頁によれば、デバイス等においては、製 品が数百ないし数千の要素技術で成り立っていること、互いの代表特\n許をライセンスし合い、実施料率の相場は1%未満であることといっ た一般的な事情が認められところ、これに加えて、引用に係る原判決 第4の11(3)イ 及び のとおり、一審被告が被告製品の製造販売の ためにした複数のライセンス契約におけるアプリ特許(標準必須特許 以外の特許)に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率 は平均●●●●●●●%であり、これを画像処理に関連する発明に限 定すると1件当たりのライセンス料率は、平均●●●●●●●●%と なること等、本件特有の事情も考慮すれば、原判決の相当実施料率の 認定に誤りがあるとはいえない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア bのとおり、ライセンス料は、主 として「代表特許」の価値によって決まるので、乙14陳述書の計算\nにおける標準必須特許を除く「全ての特許の件数で除した1件当たり のライセンス料率」は不当にディスカウントされたものである旨主張 する。
しかし、乙14陳述書は、代表特許(甲26の79頁にいう「相互\nの代表的な特許」)ではなく、標準必須特許(携帯電話事業分野の標\n準規格の実施に不可欠な特許)と、アプリ特許(通信規格に適合する ために不可欠とはいえない特許)を分けて扱っているのであり、それ 自体は合理的なことであって、このような方式を採ることが不当なデ ィスカウントに当たるともいえないから、一審原告の主張は採用でき ない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア cのとおり、乙14陳述書におけ る実施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。 しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙14陳述書は、 具体的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示し たものと理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を 吟味する必要があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や 分割出願制度等を利用した出願を全てまとめて1パテントファミリー として、パテントファミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、 1件当たりのライセンス料率が過少にならない工夫をしていること等 に鑑みると、その信用性が否定されるべきものとはいえない上、そも そも原判決は、乙14陳述書における料率をそのまま採用しているの ではなく、その他の各種事情を総合勘案した上で、料率を決定してい るのであるから、一審原告の主張は採用できない。

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令和2(ワ)19221  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月28日  東京地方裁判所

 特101条1項2号の間接侵害について、本件各発明の実施にのみ用いる場合を含んでおり、単なる規格品や普及品であるということはできないとして、汎用品ではないと判断されました。

以上によれば、洗濯に用いるために洗濯ネットに被告製品を封入して 製造された物品は、本件各発明の技術的範囲に属する。
ウ 「その物の生産に用いる物」について 前記イのとおり、洗濯に用いるために洗濯ネットに被告製品に係る金属 マグネシウムの粒子を封入して製造された物品は、本件各発明の技術的 範囲に属するから、被告製品は、本件各発明に係る物の生産に用いる物 であるといえる。
(2) 「課題の解決に不可欠なもの」について
本件明細書の記載によれば、本件各発明の課題は、洗濯後の繊維製品に残 存する汚れ自体を、金属マグネシウム(Mg)単体の作用により減少させる ことによって、生乾き臭の発生を防止しようとするものであり(【000 6】)、かかる課題を解決するために、金属マグネシウム(Mg)単体と水と の反応により発生する水素が、界面活性剤による汚れを落とす作用を促進さ せることを見出し(【0007】)、構成要件1Aの「金属マグネシウム(M\ng)単体を50重量%以上含有する粒子」を洗濯用洗浄補助用品として用い る構成を採用したものであると認められる。\n
そして、被告製品は、前記(1)イ(ア)のとおり、構成要件1Aを充足するも\nのであり、本件ウェブページには、被告製品を洗濯に用いることで、金属マ グネシウム(Mg)単体の作用により洗濯後の繊維製品に残存する汚れ自体 を減少させ、生乾き臭の発生を防止することができることが示唆されている から、本件ウェブページの記載を前提とすると、被告製品は、本件各発明の 課題の解決に不可欠なものに該当するというべきである。
(3) 「日本国内において広く一般に流通しているもの」について ア 特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般に流通している もの」とは、典型的には、ねじ、釘、電球、トランジスター等の、日本 国内において広く普及している一般的な製品、すなわち、特注品ではな く、他の用途にも用いることができ、市場において一般に入手可能な状\n態にある規格品、普及品を意味するものと解するのが相当である。 本件においては、前記(1)アのとおり、被告製品には、購入後に洗濯ネ ットに入れて洗濯用洗浄補助用品を手作りし、洗濯物と一緒に洗濯をす る旨の使用方法が付されている。そして、本件明細書には、洗濯用洗浄 補助用品として用いられる金属マグネシウムの粒子の組成は、金属マグ ネシウム(Mg)単体を実質的に100重量%含有するものがより好ま しく(【0020】)、洗濯洗浄補助用品として用いられる金属マグネシウ ムの粒子の平均粒径は、4.0〜6.0mmであることが最も好ましい (【0022】)と記載されているところ、前記(1)イのとおり、被告製品 は、これらの点をいずれも満たしている。そうすると、被告製品を洗濯 ネットに封入することにより、必ず本件各発明の構成要件を充足する洗\n濯用洗浄補助用品が完成するといえるから、被告製品は、本件各発明の 実施にのみ用いる場合を含んでいると認められ、上記のような単なる規 格品や普及品であるということはできない。 以上によれば、被告製品は、「日本国内において広く一般に流通してい るもの」に該当するとは認められない。
イ これに対し、被告は、被告製品に係る金属マグネシウムの粒子と同じ構\n成を備える金属マグネシウムの粒子が市場に多数流通しており、遅くと も口頭弁論終結時までには、日本国内において広く一般に流通している ものになったといえると主張する。 しかし、「日本国内において広く一般に流通しているもの」の要件は、 市場において一般に入手可能な状態にある規格品、普及品の生産、譲渡\n等まで間接侵害行為に含めることは取引の安定性の確保の観点から好ま しくないため、間接侵害規定の対象外としたものであり、このような立 法趣旨に照らすと、被告製品が市場において多数流通していたとしても、 これのみをもって、「日本国内において広く一般に流通しているもの」に 該当するということはできない。 したがって、被告の主張は採用することができない。
(4) 主観的要件について
間接侵害の主観的要件を具備すべき時点は、差止請求の関係では、差止請 求訴訟の事実審の口頭弁論終結時である。 そして、前記前提事実(4)のとおり、原告製品は、令和2年1月頃までに は、全国的に周知された商品となっていたこと、本件ウェブページには、被 告製品の購入者によるレビューが記載されているところ、令和2年4月から 同年7月にかけてレビューを記載した購入者45人のうち、20人の購入者 が、被告製品をネットに封入して洗濯に使用した旨を記載しており、7人の 購入者が「まぐちゃん」、「マグちゃん」、「洗濯マグちゃん」、「洗濯〇〇ちゃ ん」などと、洗濯用洗浄補助用品である原告製品の名称に言及したと解され る記載をしていることを認めるに足る証拠(甲111)が提出されているこ とからすると、被告は、遅くとも口頭弁論終結時までには、被告製品に係る 金属マグネシウムの粒子が、本件各発明が特許発明であること及び被告製品 が本件各発明の実施に用いられることを知ったと認められる(当裁判所に顕 著な事実)。
これに対し、被告は、被告製品については、構成要件1Aの「網体」に\nは含まれない、布地の巾着袋等に被告製品を入れて洗濯機に投入して洗濯 を行う使用方法などが想定されていたのであり、被告には被告製品が本件 各発明の実施に用いられることの認識はない旨主張する。 しかし、「網」は、被告が主張する意味のほかにも、「鳥獣や魚などをと るために、糸や針金を編んで造った道具。また、一般に、糸や針金を編ん で造ったもの。」(広辞苑第7版)の意味もあると認められること、本件明 細書においては、「網体」の意義について、「本発明の洗濯用洗浄補助用品 は、複数個の、マグネシウム粒子を、水を透過する網体で封入したもので あるので、使用時には洗濯槽に入れやすく、使用後には洗濯槽から取り出 しやすいものとなっている。」(【0023】)、「この網体の素材は、耐水性 があるものであれば、各種天然繊維、合成繊維を用いることができるが、 強度が高く、使用後の乾燥が容易で、洗濯時に着色傾向の小さいポリエス テル繊維を用いることが好ましい。」(【0024】)、「この網体自体の織り 方としては、水を透過するものであれば各種の織り方が採用できる。」(【0 025】)と記載されているのみで、網目の細かさについては言及されてい ないことからすると、被告が主張する使用方法も、本件各発明を実施する 態様による使用方法であることに変わりはないといえる。 したがって、被告が、購入者が構成要件1Aの「網体」には含まれない、\n布地の巾着袋等に被告製品を入れて洗濯機に投入して洗濯を行う使用方法 が想定されていたとしても、被告において被告製品が本件各発明の実施に 用いられることの認識があったことを否定する事情とはならなない。

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令和2(ワ)3473  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年1月23日  大阪地方裁判所

 照明器具について技術的範囲に属するとして、約2億円の損害賠償が認められました。102条2項の推定覆滅8割と判断されました。

ア 本件各発明の技術的意義
本件明細書上、本件発明1には、ブラケットを放熱部に取り付けることに より外装部の変形及び破損を防止すること(本件意義1)及び放熱部製造時 の不良率の低減(本件意義3)があるものと読み取れる。原告はこれに加え、 外装部が放熱部におけるブラケットの接続部分よりも後方に延びている構\n造により、ユーザーが、ブラケットが取り付けられている位置よりも後方の 外装部を掴み、自らの手が照明器具の照射する光を遮らずに、照射範囲を正 確に把握しながら照射方向を変更することを可能とする技術的意義(本件意\n義2)がある旨主張するが、本件明細書に記載はなく、構成要件Hとして追\n加された経緯等をふまえると(甲11の1、14の1)、後付けの感をぬぐえ ず、本件各発明の直接の作用効果としての意義は乏しい。
イ 本件各発明の技術的意義が被告製品の売り上げに貢献する程度等
(ア) 本件意義1について
スポットライト製品一般は、本件特許発明より相当前から市場に存在 し、既に成熟した市場が形成されており(乙5、弁論の全趣旨)、市場動向 調査によれば、スポットライト製品は、演色性や色温度などにおいて高い 付加価値を有する製品の開発が期待されている状況にあり(乙30、3 1)、原告、被告、競合他社のカタログ等において、配光制御・特性、光色、 レンズ設計、省エネ、製品の大きさ、軽さ、デザイン等が訴求されている こともうかがえる(甲5、6、乙15、16、25ないし29) これに対し、外装部の変形及び破損防止という本件意義1は、いわば製 品として当然に担保されるべき機能及び要素であるといえ、また、材質、\nブラケットの取付方法及び取付部分の構造の工夫等、本件各発明以外の技\n術によっても実現可能であり、現に各照明器具メーカーにおいて一般に実\n現している効果であると考えられる。 また、原告は、平成26年以降、原告実施品と同じシリーズ名・製品名 で、ブラケットを放熱部ではなく外装部に取り付け、外装部を厚肉とする ことで外装部の変形及び破損の防止を実現した原告後継品を販売してい る(弁論の全趣旨)。すなわち、本件意義1は、これを欠いても、同一シリ ーズ・製品として顧客に販売することが可能な程度の顧客誘引力しか有し\nないと評価し得る。このことは、カタログに文言上本件意義1が明示され てないとしても、商品の写真から本件意義1に係る特徴を看取できること を考慮しても同様である。
(イ) 本件意義3
本件意義3は、不良率低減という製造コスト削減に寄与するものである といえるが、本件意義3によるコスト削減(製品価格への反映)の程度が 不明であること等を踏まえると、被告製品の利益に対する寄与度が大きい とは認められない。
(ウ) 以上のような事情を踏まえると、本件意義1及び3の顧客誘引力は限 定的であり、本件意義1及び3が被告製品の売り上げに貢献する程度は低 いと言わざるを得ない。
ウ 原告実施品の販売実績等
原告は、本件期間前に原告実施品の販売を開始した後、本件登録日(平成 28年8月5日)以降は在庫品限りとして原告実施品を販売するにとどまっ ており、平成28年以降の原告実施品の販売数は16個である(甲17、1 8)。 このように、原告が本件登録日以降原告実施品を製造しておらず、その販 売方法(販路)等が相当程度限定され、その規模も極めて小さいことや、原 告が原告後継品を販売しているものの、当該製品が本件各発明とは異なる技 術により本件各発明と同様の作用効果を奏していることは、前記(1)で説示 した特許法102条2項の推定の前提事実を欠くとまでいうことはできな いものの、本件推定を大きな割合で覆滅させる事情というべきである。
エ 競合品の存在
本件期間中、ブラケットが外装部ではなく、放熱部を含む別の部分に取り 付けられているという特徴を有する製品は、パナソニックのTOLSOシリ\nーズ(乙25)、オーデリックのC1000シリーズ(乙27の2ないし27 の4)、三菱電機のAKシリーズ、彩明シリーズ、鮮明シリーズ及びLEDス ポットライトシリーズ(乙29)をはじめ、複数存在する。これらの製品は、 原告実施品及び被告製品と価格帯も概ね同程度である。 以上の事情に鑑みると、被告製品には、競合品が存すると認められ、かか る競合品の存在も推定を覆滅させる事情に当たる。
オ 原告の市場占有率
被告は、スポットライト市場又は店舗用照明市場における原告の市場占有 率が低いとして、被告製品が存在しない場合、その需要の多くが競合他社の 製品へ流れ、原告実施品を販売できたはずであるとはいえない旨主張する。 しかし、被告が主張する原告を含む照明器具メーカーの市場占有率は、ス ポットライトを含む店舗用照明器具市場における機器全般ついてのもので あって、スポットライト以外の幅広い商品群を含むものと解されるから、原 告実施品等との関連が乏しく、推定を覆滅させる事情に当たるとはいえな い。
カ 覆滅の程度
以上の事情、とりわけ本件特許発明の技術的意義や実施品の販売状況を重 視した上総合的に考慮すると、本件においては、被告製品の販売がなかった 場合に、これに対応する需要が原告実施品ないし原告後継品に向かう蓋然性 はむしろ低いとみるべきであって、特許法102条2項により推定された損 害の8割について覆滅されるというべきである。これに反する原告及び被告 の各主張はいずれも採用できない。

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令和2(ワ)13626  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月17日  東京地方裁判所

 特許権侵害事件について、明細書の記載および異議申立における主張に基づき、被告製品は技術的範囲に属しないと判断されました。\n

原告は、1) 本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には、浄化され たスクラバー流体を更に処理することなく、海に放出することを要する との記載はない、2) 本件訂正により、本件特許の【請求項1】の従属項 である【請求項10】を訂正するに当たり、浄化されたスクラバー流体 の品質が所定レベルより低い場合、浄化されたスクラバー流体を分離機 入口に戻す構成を維持しているから、本件発明は、分離機での浄化処理\n後、環境への放出前に、更に浄化処理を行う態様を予定している、3) 本 件明細書の「ディスクスタック遠心分離機をスクラバー流体に適用する ことによって、汚染物質相の大部分が濃縮形態で取り除かれ得る」 (【0014】)との記載によれば、ディスクスタック遠心分離機によ っても分離し得ない汚染物質相が残存し得る以上、補助的にフィルタ等 による分離を行うことは排除されないと主張する。
しかし、上記1)については、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細 書において、浄化されたスクラバー流体を更に処理することなく、海に 放出することを要することを明示した記載は見当たらないものの、前記 (ア)のとおり、本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の各記載並びに 原告の本件異議申立事件における主張、さらには、本件明細書には、\n「ディスクスタック遠心分離機」により「浄化されたスクラバー流体」 を更に浄化するための装置を設けることを示唆する記載が見当たらない ことは、いずれも、「浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機出 口から環境に放出するための手段」(構成要件F)とは、「分離機」に\nより「浄化されたスクラバー流体」が、「分離機」とは別に設けられた 浄化設備により浄化処理されることなく、船の外側に放出されるなどす るものをいうとの理解をもたらすものであるから、その点を明示する記 載が存在しないからといって、前記(ア)の解釈が左右されるものではない。
上記2)については、前記(ア)bのとおり、本件明細書の記載(【000 8】、【0009】及び【0014】)によれば、本件発明に係る浄化 設備について、「スクラバー流体」の浄化能力を向上させ、また、点検\n修理の必要性を最小とするために、「ディスクスタック遠心分離機」を 使用し、この「分離機」の動作により、「浄化されたスクラバー流体」 が規制を満たすことになり、環境への影響を最小にして環境に解放する ことができ、他の処理をするための設備を設ける必要がなく、機器の点 検修理や交換の必要性を最小にすることができるものであると理解する ことができる。そうすると、本件発明は、「分離機」の動作によって上 記の作用効果を実現するものであるから、「浄化されたスクラバー流体」 を再び「分離機」入口に戻すことを排除するものではないが、「分離機」 により「浄化されたスクラバー流体」が、「分離機」とは別に設けられ た浄化設備により浄化処理されて、船の外側に放出されるなどすること を予定したものではないというべきである。したがって、本件訂正後の\n【請求項10】の記載をもって、本件発明が、「分離機」での浄化処理 後、環境への放出前に、別に設けられた浄化設備により更に浄化処理を 行う態様を予定しているということはできない。\n
上記3)については、本件明細書の記載からは、「ディスクスタック遠 心分離機をスクラバー流体に適用することによって、汚染物質相の大部 分が濃縮形態で取り除かれ」(【0014】)た「浄化されたスクラバ ー流体」について、「汚染物質相」が残存するため規制を満たさず、環 境に放出することができないとは直ちには読み取れない。そうすると、 本件明細書の【0014】の記載をもって、「分離機」により「浄化さ れたスクラバー流体」を補助的にフィルタ等により浄化処理することが 示唆されているということはできない。 したがって、原告の上記各主張は、いずれも採用することができない。
イ 小括
以上のとおり、被告製品1(主位的主張)及び被告製品2は、構成要件\nFを充足しないから、その余の点を判断するまでもなく、本件発明の技術 的範囲に属するとは認められない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10071  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年1月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許侵害事件です。1審(東京地裁29部)は、圧力風以外も用いて移送をするイ号は、「圧力風の作用のみによって、・・茶枝葉(A)を・・所定の位置まで移送する」という発明特定事項について、「圧力風の作用のみによって」を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。控訴審では均等侵害も主張しましたが、否定されました。

控訴人は、仮に本件発明7の構成要件Aの「圧力風の作用のみによって」\nの構成は、刈り取られた「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移\n送が「圧力風」の「作用」だけで実現されることをいい、「圧力風」の「作 用」以外の作用が加わって上記移送が実現されるものは、「圧力風の作用の みによって」を備えるとは認められないと解した場合には、被告各製品にお いては、「圧力風」の「作用」にブラシの回転作用が加わることによって茶 枝葉が移送ダクト内に送り込まれている点で、「圧力風の作用のみによって」 の構成を備えるとはいえず、本件発明7と相違することとなるとしても、被\n告各製品は、均等の第1要件ないし第5要件を充足するから、本件発明7の 特許請求の範囲(請求項7)に記載された構成と均等なものとして、本件発\n明7の技術的範囲に属する旨主張する。
そこで、まず、均等論の第1要件について検討するに、本件発明7の特 許請求の範囲(請求項7)の記載及び前記1(2)認定の本件明細書の開示事 項を総合すれば、従来の茶葉の摘採を行う摘採機は、「刈刃前方側に茶葉移 送のための分岐ノズル付き送風管を配し、分岐ノズルからの送風によって、 刈刃から収容部まで茶葉を移送するのが一般的であり、その移送路は、刈刃 のほぼ後方に延びる水平移送部と、その後に収容部の上部に臨むように接続 された上昇移送部を具えていたが、このような移送形態(送風形態)では、 水平移送部を要する分、移送装置、ひいては摘採機の前後長が長くなり、摘 採機の取り回し性を低下させてしまうという問題があったことから、本件発 明7は、上記問題を解決し、水平移送部を設けることなく、刈取直後、即、 茶葉を上昇移送できるようにし、摘採機の前後寸法の短縮化を図り、摘採機 をコンパクトに構成できるようにした茶枝葉の移送装置を開発することを課\n題とし、この課題を解決するための手段として、水平移送部を設けることな く、刈刃の後方から移送ダクト内に背面風を送り込む吹出口が設けられ、こ の吹出口から移送ダクト内に背面風を送り込むことによって、刈取後の茶枝 葉を刈刃から所定の位置まで移送する構成を採用し、具体的には、刈刃後方\nからの背面風によって、その吹出口付近に負圧を生じさせ、この移送ダクト 内に流す圧力風の作用のみにより、負圧吸引作用によって刈り取り直後の茶 枝葉を刈刃後方側に引き寄せ、その後は茶枝葉を背面風に乗せて、収容部な ど適宜の部位に移送する構成とし、これにより刈り取り直後、水平移送部を\n設けることなく、そのまま茶枝葉を上昇移送することができ、前後長の短縮 化が図れ、コンパクトな茶刈機が実現できるという効果を奏することに技術 的意義があり、水平移送部を設けることなく、刈刃の後方側から送風される 「圧力風の作用のみ」によって、その吹出口付近に負圧を生じさせ、この負 圧吸引作用によって刈り取り直後の茶枝葉を刈刃後方側に引き寄せ、その後 は茶枝葉を背面風に乗せて、収容部4など適宜の部位に移送するようにした ことが、本件発明7の本質的部分であるものと認められる。
しかるところ、前記2(2)で説示したとおり、被告各製品においては、 「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移送が「圧力風」の作用に 「圧力風」以外の作用である回転ブラシの回転作用が加わることによって実 現されているといえるから、被告各製品は、「圧力風の作用のみによって」 の構成を備えるものとは認められない。\nしたがって、被告各製品は、本件発明7の本質的部分を備えているもの と認めることはできず、本件相違部分は、本件発明7の本質的部分でないと いうことはできないから、均等論の第1要件を充足しない。

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1審は、こちら

◆令和2(ワ)17423

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令和3(ネ)10099  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年12月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

知財高裁は、均等侵害の第1、第2要件は充足するものの第3要件(置換容易性)は充足していないと判断し均等侵害を否定しました。1審では均等主張はしていませんでした。

被告製品1は第3要件を充足するか(争点1−2−3)
ア 被告製品1の製造開始時において、本件訂正発明6における「前記電解 室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」という構成を、被告製品1\nにおける「1)内タンク6の側壁の一部、2)流出孔3を有する内タンク6の 底部、3)4つの高分子膜10」との構成に置換することは、当業者が容易\nに想到し得たかについて検討する。
イ 前記2のとおり、本件訂正発明6においては、構成要件11Aの隔膜に\nよる区画は、隔膜によって電解室の内部と外部とが完全に区画されるもの であり、電解室の内部と外部とは、水が連通することがない独立した構造\nとなっている。また、本件明細書1においては、電解室の内部と外部を分 ける隔膜は、縦に設置されたもののみが開示され、陽極で発生する水素と 陰極で発生する水素は、別空間に排出されると理解される。 これに対し、被告製品1は、内タンク空間と外タンク空間の間を水が連 通する構成の下で高分子膜10を水平に配置し、高分子膜10の上側に保\n持された陰極電極板11で発生する水素ガスと、高分子膜10の下側に保 持された陽極電極板12で発生する酸素ガスの混合が起こり得る状態を 許容した上で、陽極電極板12で発生した酸素ガスは、枠体5内に集めて 大きな気泡を形成し、流出孔3から内タンク6内に進入するのを防止した 上、内タンク6と外タンク2の隙間内の水内を通って外部に排出するとい うものである(乙29の1・2)。そうすると、本件訂正発明6と被告製品 1は、その基本的発想を異にするものというべきであって、被告製品1に おける「1)内タンク6の側壁の一部、2)流出孔3を有する内タンク6の底 部、3)4つの高分子膜10」との構成への置換が本件訂正発明6の単なる\n設計変更とはいえない。
また、本件明細書1においては、「前記電解室の内部と外部とを区画する 一つ以上の隔膜」との構成を、被告製品1のような「1)内タンク6の側壁 の一部、2)流出孔3を有する内タンク6の底部、3)4つの高分子膜10」 との構成に置換した場合に生じ得る事項についての示唆もないから、本件\n明細書1において、上記のような置換をする動機付けとなるものも認めら れない。
ウ 控訴人は、前記第2の3(7)アのとおり、陽イオン交換膜を用いた固体高 分子水電解において、陰極室と陽極室を貫通孔により水を連通する構成は、\n被控訴人が製造販売を開始した平成29年11月以前から周知の技術で あるとして、甲36文献、甲37文献、甲40文献を提示するので、以下、 検討する。 甲37文献は、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び 廃水・廃液処理方法に関するものであり(【0001】)、電解反応を利用 した化学物質の製造において、多くの電解セルでは、陽極側と陰極側に 存在する溶液あるいはガスが物理的に互いに分離された構造を採るが、\n一部の電解プロセスにおいては、陽極液と陰極液が互いに混じり合うこ とを必要とするか、あるいは、混じり合うことが許容されることを前提 として(【0002】)、陽極側と陰極側が固体高分子電解質隔膜により物 理的に隔離され、陽極液と陰極液は互いに隔てられ、混合することなく 電解が行われる従来のオゾン水電解(【0005】)では、電解反応の進 行に伴い液組成が変化し、入側と出側で反応条件が異なるなどの問題点 があったことを踏まえ(【0006】)、電解セルの流入口より流入した原 料水がその流れの方向を変えることなく、直ちに電解反応サイトである 両電極面に到達し、オゾン水を高効率で製造できる等の作用を有するオ ゾン水製造装置等を提供することを目的としたものである(【001 6】)。
その技術分野(オゾン水製造装置)及び目的(オゾン水を高効率で製 造すること等)のいずれも本件訂正発明6と異なるし、その具体的構成\nも、貫通孔11が設けられた電解セル8(陽極1、陰極2及び固体高分 子電解質隔膜3)に直交して原料水(オゾン水)の流路が設けられると いうものであって(【0034】及び【0035】)、電極室の内部に被電 解原水が貯留され、電気分解が行われる本件訂正発明6とは異なる。し たがって、甲37文献に開示された事項を本件訂正発明6に適用する動 機付けは見い出せない。
甲40文献は、電源のない場所に持ち運び、水素の吸入や水素水の飲 用に使用することのできるポータブル型電解装置に係る技術分野に属す るものであり(【0001】)、電解ユニット3は、ケーシング31、高分 子膜32、電極板33、34、スプリング35からなること(【0028】)、 ケーシング31は、内部に反応室311となる容積が確保されており、 側部に外部と反応室311とを連通するように穿孔された連通孔314 が設けられていること(【0029】)、電解ユニット3の高分子膜32は、 イオンの通過を規制するイオン交換機能を有する薄膜からなるもの(例\nえば、ナフィオン)で、ケーシング31の窓孔311を閉塞する大きさ の方形に形成されていること(【0030】)が記載され、使用形態とし て、内部に原水Wが収容されたタンク1にキャップ2、ガイド筒4、水 素吐出管5を一体的に取付けられること(【0034】)、スイッチ9が入 れられると、原水Wが電気分解され、ケーシング31の反応室311の 内部にあるプラス極の電極板34で水素イオンと電子とが生成されて高 分子膜32を通過し、ケーシング31の窓孔312に露出しているマイ ナス極の電極板33で水素(ガス)が生成され、水素は、微細な気泡H を形成してタンク1の内部で水素水からなる電解水を生成すること、プ ラス極の電極板34で生成されたオゾン(ガス)は、高分子膜32を通 過することなくケーシング31の反応室311の内部に滞留され、ケー シング31の反応室311の内部の滞留圧力が大きくなると連通孔31 4から吐出されること(【0041】)が記載されている。 しかし、甲40文献には、陰極室及び陽極室についての記載はないか ら、これを見ても、陰極室と陽極室とを貫通孔により水を連通する構成\nが記載されているとはいえない。別紙2の図2において、マイナス極の 電極板33より上側部分を陰極室と、プラス極の電極板34より下側の 反応室を陽極室であると解釈すると、連通孔314は、陽極室とその外 部を貫通するものであって、陽極室と陰極室を貫通するものではない。 マイナス極の電極板33より上側部分と、ケーシング31側面の外側部 分はつながった空間であることから、ケーシング31側面の外側部分も 陰極室であるとみた場合には、連通孔314は、陽極室(反応室)と陰 極室(ケーシング31側面の外側部分)を貫通するものであるといえる が、酸素と水素が同じ陰極室内に排出されることになり、被告製品1の 構成に至らない。\n甲36文献に係る発明の公開日は平成30年11月22日であり、甲 36文献自体の発行日は令和2年3月11日であるから、その内容や位 置付けについて検討するまでもなく、甲36文献は、被控訴人が被告製 品1の製造販売を開始した平成29年11月時点における周知文献とは いえない。
エ 以上によれば、控訴人主張の周知技術は、いずれも、本件訂正発明6に おける「前記電解室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」という構\n成を、被告製品1における「1)内タンク6の側壁の一部、2)流出孔3を有 する内タンク6の底部、3)4つの高分子膜10」との構成に置換する動機\n付けになるものとはいえない。
これらの事実関係によれば、このような置換が容易であったとはいえな いから、被告製品1は、均等の第3要件を充足しない。 前記(1)ないし(3)によれば、被告製品1は、均等の第1要件及び第2要件を 充足するものの、第3要件を充足しないから、第5要件について判断するま でもなく、本件訂正発明6の技術的範囲に属しない。

◆判決本文
1審はこちら。
1審では、構成要件を具備せず、また実施可能\要件違反の無効理由有りと判断されていました。

◆令和2(ワ)22768

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令和1(ワ)14320 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年10月7日  東京地方裁判所

 特許侵害訴訟です。文言侵害が否定され、また、均等侵害も第1要件(本質的特徴)を具備しないとして否定されました。

前記(1)で検討したところによると、本件発明1の技術的意義は、固定プレ ートの孔自体が、橈骨遠位端骨折に対して、軟骨下骨を背側面側及び手掌側 面側という2箇所で支持する方向に突起を向かせて固定することができる構\n成となっているため、高度な医学的判断を要せずに、確実に軟骨下骨を背側 面側及び手掌側面側という2箇所で支持することを可能にすることにあると\n認められる。
そうすると、本件発明1の構成のうち、本質的部分であるといえるのは、\n橈骨遠位端骨折に対して、軟骨下骨を背側面側及び手掌側面側という2箇所 で支持する方向に突起を向かせて固定することができる孔が設置されている ことを定めた構成要件1E、1J及び1Kであると解するのが相当である。\nそして、これまで検討したところによると、被告製品4は構成要件1J及\nび1Kを充足せず、これらの本件発明1の構成と異なる部分は、本件発明1\nの本質的部分ではないとはいえないから、第1要件を充足せず、均等侵害は 成立しない。
(3)原告の主張の検討
原告は、本件報告書(甲26)によれば、被告製品4は、ガイドブロック を用いて被告製品4の孔にロッキングスクリューを固定すれば、一組の平行 ピンを用いた従来の平板固定によっては達成できなかった遠位橈骨の軟骨下 骨及びその遠位側の関節表面の位置の安定化という課題を解決することがで\nきるから、本件発明1と技術的思想を共通にしているといえ、孔の軸線が遠 位橈骨内で交差するか遠位橈骨外で交差するかは本件発明の本質的部分では ないと主張する。
しかし、本件報告書の検証結果の信用性を肯定することができないことは 前記4(2)のとおりであるし、その信用性を肯定できたとしても、前記(1)の とおり、遠位橈骨の骨折を固定するための骨プレートであり、ネジを固定す るための固定プレートを貫通する複数のネジ孔が、固定プレート頭部の遠位 側と近位側の2列に概ね平行に並んで設置されている固定プレートは、先行 技術として存在していたのであるから、従来プレートが一組の貫通孔のみを 設けていたことを前提に、二組の貫通孔を設けていることが本質的特徴であ ると評価することはできない。 また、本件発明1は固定プレートの発明であるから、固定プレート自体の 構成、すなわち、固定プレートに設置された孔の構\成を比較すべきであり、 被告製品4にガイドブロックを用いることを前提に、被告製品4が軟骨下骨 を背側面側及び手掌側面側という2箇所で支持する方向にロッキングスクリ ューを向かせることができるかどうかという観点から比較することは相当で はない。
さらに、孔の軸線が遠位橈骨内で交差しないのであれば、孔に突起を挿入 しても、突起が当然に軟骨下骨を背側面側及び手掌側面側という2箇所で支 持することはなく、遠位橈骨の軟骨下骨及びその遠位側の関節表面の位置の\n安定化という課題を解決することはできないから、孔の軸線が遠位橈骨内で 交差する方向に突起を向かせる構成となっていることは、本件発明1の本質\n的特徴であるといえ、そのような孔の構成を有していない被告製品4に均等\n侵害が成立することはない。

◆判決本文

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令和3(ワ)4920 特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年12月22日  大阪地方裁判所

 技術的範囲に属すると認定されたものの、特許権者自らが販売していたとして、新規性違反の無効理由有りと判断されました。

ア 前記(1)アによれば、リベラル社は、平成30年7月5日時点において、別 件特許(「活量調質水溶液及び活量調質媒体の製造方法」)により、水酸化物イ オン活量調質水溶液を製造し、これを希釈して、旧ATWのほか「ATW−1、 ATW−001」を製造していたことが認められるところ、前記(1)イのとおり、 被告は、当初、リベラル社から購入した旧ATWをそのままボトルに詰め、又は、 ラベルを貼り替える方法により、旧被告製品や無限七星FISHを製造し、販売\nしていたのであるから、これらの製品は、前記水溶液を希釈したものであると認 められる。一方、前記(1)エ及びオのとおり、被告は、原告の本件特許出願の後か らは、リベラル社から購入した本件特許に規定される組成を有する現ATWを1 0倍希釈して被告製品や無限七星FISHを製造、販売するようになったところ、 本件代理店契約においては、現ATWを含めたATW水溶液は、別件特許の製造 方法による旨の合意がなされている。 また、原告が代表取締役を務めるATW社は、別件訴訟において、旧ATWと\n現ATWは、いずれもアミノ基という原子団を含んだ水溶液で、現ATWを10 倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した準備書面を提出しているところ、リ ベラル社が発行した請求書では、現ATWの1リットル当たりの単価は旧ATW の同単価の10倍になっていること、本件代理店契約においてATW水溶液の品 質として標準仕様と10倍濃縮仕様がある旨の記載があることのほか、原告も、 本件訴訟において、現ATWは旧ATWの10倍の濃度である旨を主張している (原告準備書面(4)第2の2(3)イ)。これらの事実関係に照らすと、旧ATW及び現ATWは、一貫して、同様の製造方法により製造された、アミノ基を含む成分が水溶、濃縮された水酸化物イオン活量調質水溶液を希釈したものであり、本件特許に規定される組成を有する現ATWを10倍希釈したものが旧ATWであると認められる。
イ また、証拠(乙2、18、24、25、33、36、37)及び弁論の全 趣旨によれば、次の事実が認められる。 すなわち、被告が平成30年11月10日にリベラル社に対して発注し同月1 2日に納品された旧ATWのボトル20本のうち、開封せずに保管していたもの (以下「保管ボトル」という。)について、被告がそのうち1本を開封し、10 0ml分(以下「分析対象物」という。)を小分けにして、愛媛大学のP2名誉 教授に提供した。同教授は、令和3年9月30日、分析対象物について、乙18 分析をした結果、分析対象物の含有成分はポリアリルアミンであることが判明し た。また、被告は、保管ボトルのうち1本(被告が「無限七星FISH」のラベ ルを貼付したもの)を、株式会社東ソ\ー分析センターに提供し、前記センターは、 同年10月19日、保管ボトルの内容物について乙24分析をした結果、その重 量平均分子量は、4.5×10⁴であった。
ウ 前記(1)イ及びウのとおり、無限七星FISHは、鮮魚の鮮度を保持する機 能があり、魚の鮮度保持を主な用途として販売されており、また、証拠(乙19)\n及び弁論の全趣旨によれば、リベラル社が被告に販売した旧ATWの成分表記に\nは「重合アミン、水」との記載があったことが認められる。
エ 前記ア〜ウの事実関係に照らすと、現ATWが10倍に希釈化された旧A TWと同一成分である無限七星FISHに係る引用発明は、ポリアリルアミン又 はその塩を機能成分として含有し、水、ポリアリルアミンの総含有量が95重量%\n以上である水であって(a’)、ポリアリルアミンの重量平均分子量が500〜 50000であって(b’)、魚介類の鮮度保持の機能を有する(c’)、機能\ 水(d’)という構成を有するものと認められるから、被告製品のみならず、旧\n被告製品や無限七星FISHも本件発明の各構成要件を充足するものと認められ\nる。したがって、引用発明は、本件発明の各構成要件を充足する。\n
(3) 公然実施について
特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者 が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)イのとおり、 被告は、本件特許の優先日前の平成30年10月から、無限七星FISHを製造 及び販売して、引用発明を実施した。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、旧ATWは、別件特許に基づく方法により製造されているのに対 し、現ATWは、ポリアリルアミンを使用して製造されているから、両者の成分 は異なる旨を主張する。 しかし、両者の成分の違いを明らかにする証拠はなく、前記(1)オ及びキのとお り、被告は、本件代理店契約において、リベラル社及びATW社との間で、AT W水溶液の仕様は、別件特許の製造方法によることを合意したことや、ATW社 が、別件訴訟において、旧ATWと現ATWは、いずれもアミノ基という原子団 を含んだ水溶液で、現ATWを10倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した 準備書面を提出したのであるから、旧ATWと現ATWの製造方法が異なる旨や 両者の成分が異なる旨の原告の主張は直ちに採用することはできず、その他、原 告の主張事実を裏付ける証拠はない。
イ また、原告は、乙18分析及び乙24分析は、いずれも、測定対象の水溶 液がどの時期に製造、販売され、どういう形で試験に供されたのか全く不明であ ることを指摘し、さらに、乙18分析の内容については、1)乙18のFig.1の スペクトルの面積比を理由に高分子化合物の繰り返し構造をCH₂−CH−CH₂ と推定することが困難なこと、2)3ppm付近のシグナルの変化を理由に当該シ グナルがアミン(CH₂−NH₂)であると推定できる根拠が不明であること、3) Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なることといった疑問点があるから、 いずれも信用性がない旨を主張する。
しかし、前記(1)認定の事実からすれば、乙18にいう「2018年10月に販 売が始まった初代無限七星」とは、旧ATWと成分を同じくする旧被告製品又は 無限七星FISHであると理解できるし、乙24は保管ボトルのうち1本を分析 した結果であることが明らかであり、これに反する証拠はない。そして、乙18 分析は、核磁気共鳴分光法及び質量分析法により、分析対象物の含有成分がポリ アリルアミンであることを推定した上で、それを踏まえて、分析対象物と市販の ポリアリルアミンの水溶液について核磁気共鳴分光法のスペクトルを比較して、 分析対象物の含有成分がポリアリルアミンであると結論づけているところ、原告 の主張1)について、原告主張のように、ポリマーのNMRはピーク(スペクトル) がブロードになりやすく、面積比を算出する切断箇所の設定によって面積比の値 が異なり得ることから、Fig.1のスペクトルの面積比「1.00:0.55: 0.80」が完全に「2:1:2」に一致しなくとも、同一環境の水素の数の比 を「2:1:2」とみなし、CH₂−CH−CH₂の部分構造が考えられるとする\nことは不合理ではない。また、原告の主張2)について、3ppm近辺のCH₂に対 応するシグナルの位置は、隣に窒素原子が繋がっていることを示唆するところ、 トリフルオロ酢酸を加えると、2.7〜3.3ppmのシグナルが3.0ppm のシグナルに変化したというのであるから、分析対象物にトリフルオロ酢酸によ り塩を形成するアミン(CH₂−NH₂)が存在すると考えて矛盾はないというべ きである。さらに、原告の主張3)については、確かに、Fig.1とFig.4a) のスペクトルは一致していないが、一方で、トリフルオロ酢酸塩のスペクトルで あるFig.2a)とFig.4b)は、ほぼ一致している(乙18、25)。こ の点について、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、ポリアリルアミンは、 共存物の影響でアミン部位が塩の状態になっている場合、スペクトルのピーク位 置の出現がシフトする可能性があり、ポリアリルアミンの塩の形成状況によって\nスペクトルの形状が変化し、複雑になるものと認められ、一方で、強い酸である トリフルオロ酢酸を加えて、全てのアミノ基をアンモニウムに変換し、均一な状 況にすることにより、一定の分析結果を得ることができたものと認められるから、 Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なるからといって、乙18分析の信 用性に疑義を生じさせることにはならない。

◆判決本文

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平成29(ワ)7384  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年9月15日  大阪地方裁判所

 ファミリーイナダVS富士医療器のマッサージ器の特許権侵害事件です。東京地裁は、富士医療器がファミリーイナダの特許を侵害してるとして、約28億円の損害を認めました。102条2項と3項の重畳適用を認めています。 原告・被告が逆の侵害訴訟(令和2年(ネ)第10024号)では、知財高裁は、逆転判決で、ファミリーイナダが富士医療器の特許を侵害しているとして、約4億円の損害を認めてます。

ウ 覆滅割合
(ア) 市場の同一性
原告と被告は、マッサージチェアの分野でシェアを競い合う企業でマッサージチ ェアという需要者を共通にする同種製品を取り扱う同一の市場で競業している。 被告の主張は、具体的な被告の製品と原告の製品とを比較し、個別の販売相手先 や販売ルートを細かく分断して、これらが異なるから「市場の非同一性」があるな どと主張している。しかし、このような立論が成り立つのであれば、個別の販売相 手先や販売ルートが共通の場合でない限り、市場は無意味に細分化されてしまう。 同種製品で共通する需要者層を対象にして潜在的に影響を受ける競争の場が想定で きるのであれば、市場が同一性を有しているといえる。 また、本件特許II)及びIII)の実施品である原告の製品(以下「原告製品」という。) には対象被告製品と同じような価格帯の製品も複数存在するから、この点からも市 場の同一性は否定されない。
(イ) 市場における競合品の不存在
侵害訴訟の損害論においては、特許権を侵害する製品が販売されることによって、 特許権者の特許実施製品の販売が減少するという関係があるか否かを問題とすべき であるから、侵害関係のない製品についての適法な同種製品のシェア自体は、推定 覆滅事由としては関係がない。 また、競合品の範囲は、本件特許II)及びIII)の特許権の技術的構成を踏えて、その\n目的・作用効果を把握した上で、当該目的・作用効果が同じで原告製品の販売数量 に影響を与える製品という前提に立脚して考察されるべきであって、「背メカで被 施療者の首元から背中、腰にかけてマッサージを行うマッサージチェア」であるか 否かによって範囲を画し、これを前提とすると、殊更に本件特許II)及びIII)の具体的 な構成や解決手段をその考慮対象から一切捨象することになる。\n
(ウ) 侵害者の努力(ブランド力、宣伝広告)
原告は、古くから一貫してマッサージチェアを製造販売している老舗であり、被 告ともシェアを常に争う信用力のある会社である。また、原告は、世界で各種の受 賞実績のある国際的にも認知された会社であり、被告に劣らずグッドデザイン賞を 受賞するデザイン性を備える複数の原告製品を販売している。 したがって、原告企業より被告企業の方が格別に信用力を有し、原告のブランド 力に比して侵害品が利用者にとって購買動機となるなどということはない。 また、開発段階において開発に携わる従業員を配することは、ごく通常のことで あり、原告においても日々機械によるマッサージを人間の揉み心地に近づけるべく 開発努力を重ねている。営業段階において、マッサージチェアの魅力を伝える為の 営業活動は、原告においても常時行っており、被告だけに特別の活動ではない。
(エ) 侵害品の性能\n
対象被告製品のカタログ等には、対象被告製品の仕様(発明の構成)が明記され\nており、本件発明II)及びIII)の作用の発現が示唆されていることから、需要者に一切 訴求されていない本件特許II)及びIII)の作用効果に関連する仕様、機能は、対象被告\n製品の購入動機になり得ない旨の被告の主張は失当である。 被疑侵害品である対象被告製品の具体的な実施態様に関するパンフレット等には、 利用者へ訴求する記載が多数ある。本件特許II)及びIII)の技術的構成を採用するから\nこそ、各種コースのマッサージや腕を含む人体全体のマッサージ効果を高めるマッ サージチェアを提供できるのであり、これらの技術的構成を回避してマッサージチ\nェアを提供することは製品の性能に大きな影響を及ぼし、仮に回避し得たと考えて\nも、その代替的構成を採用するには無視できない費用がかかる。\n
(オ) 特許発明が侵害品の部分のみに実施されているものではないこと
本件特許II)及びIII)は、椅子式のマッサージチェアにあって身体のマッサージに関 する構成、構\造に係る基本的な技術である。被疑侵害品である対象被告製品の一部 に本件特許II)又は本件特許III)の発明が実施されていたとしても、対象被告製品は、 この実施部分を除いてしまえば、全体としての製品構成が成り立たない。すなわち、\n本件特許II)は、椅子式マッサージ機にあって肩を側方からマッサージする「肩また は上腕の側部」の技術的構成に関する重要な特許であり、本件特許III)は、「腕部」 をマッサージする技術的構成に関する重要な特許であって、この実施部分があるか\nらこそ利用者の需要が喚起されているといえる。 本件特許II)に関し、被疑侵害品である被告製品II)を利用する利用者は、様々な自 動コースを自由に判断して設定するのであり、その際に、「肩または上腕の側部」 に効果的なマッサージを行うことができる構成を有している製品か否かが製品選択\nには重要である。本件特許II)の構成の内容は、取扱説明書の中でもこれを織り込ん\nでしばしば説明されており、それが被疑侵害品である被告製品II)の全般に亘ること も明らかで、本件特許II)の構成を抜きにしては、被告製品II)の多くの自動コースも 成り立たないことも一見して明らかである。 本件特許III)に関して、開口の向きを考慮しつつ、腕のエアマッサージを行う本件 特許III)の技術的構成の具体的な実施態様は、これを採用する製品の外観にもマッサ\nージ効果にも大きな影響を及ぼす。
(カ) まとめ
以上を総合的に考慮すると、推定覆滅される割合は、少なくとも55%以上には ならない。
エ 損害額
(ア) 特許法102条2項に基づく損害額の算出ができる対象被告製品について 不当利得期間及び損害賠償期間を通じた限界利益の額(前記イ(ウ))について、前 記ウのとおり、推定覆滅される割合は、55%以上にはならないから、被告が開示 した限界利益率を前提とした場合は、●(省略)●を下らず、原告が主張する限界 利益額を前提とした場合は、●(省略)●を下らない。
(イ) 特許法102条2項に基づく算出ができない対象被告製品について 被告の開示によれば、被告製品12、30及び32の限界利益はマイナスであっ て、赤字が計上される製品であるので、これには特許法102条2項に基づく算出 ができない。前記3製品について、●(省略)●そして、前記3製品について、こ の限度で特許法102条3項の主張を行う。
・・・
(ウ) まとめ
前記(ア)及び(イ)を総合すると、被告の開示した限界利益額による場合、特許法102条3項の併用適用の算出額の加算を除いても合計●(省略)●となり、原告が主張する修正限界利益額による場合、同条3項の併用適用の算出額の加算を除いても合計●(省略)●となり、少なく見積もっても50億円を下らない。
(3) 特許法102条2項及び3項に基づく主張
ア 特許法102条1項と同条3項の関係と同条2項 特許法102条1項と3項の併用に関する令和元年法律第3号による改正(以下 「令和元年改正」という。)後の特許法に関する考え方として、産業構造審議会知\n的財産分科会特許制度小委員会の報告書(「実効的な権利保護に向けた知財紛争処 理システムの在り方」)において、わざわざ2項との関係でも「同様の扱いが認め られることと解釈されることが考えられる」と記載されており、その解釈可能性が\nあることへの言及があるから、2項と3項の併用については、条文に明示されなか ったとはいえ、全面的に併用適用が否定されたわけではなく、解釈に任されること を明らかにしている。 したがって、特許法102条2項に基づき主張された損害のうち推定が覆滅され た部分について、同条3項の重畳適用が認められるべきである。

◆判決本文(損害論)

◆判決本文(侵害論)

関連事件1です。 同じく富士医療器による特許権侵害を認定ししてるとして、約4800万円の損害を認めました。

◆平成30(ワ)1391

原告・被告が逆の侵害訴訟はこちら。

◆令和2年(ネ)10024

この1審はこちら。

◆平成30(ワ)3226

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令和3(ワ)9530  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年11月28日  大阪地方裁判所

 構成要件Dの文言を明細書の記載および出願経過から解釈して、技術的範囲に属しないと判断されました。本件特許は被告から無効審判が請求されていますが、2022/10に無効理由なしと判断されています。本件特許は以下です。 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4147314/9DA3CF246CABBD54ECA004CE5C9280CC8FA3C996CFE302513456B34A2B98AF46/15/ja

(2) 「中央部が突出する概略円錐状」の意義について
ア 構成要件Dは、「該複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に形成されている」と規定しているところ、「該複数のコニカルビット群」とは、3条の螺旋翼の先端部に固着された複数のホルダに取り付けられたコニカルビットを指す(構\成要件C)から、構成要件Dは、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビットのみにより、中央部が突出した概略円錐状に形成されていることを要すると解される。その他、本件発明に係る請求項において、「中央部が突出する概略円錐状」に関する記載はない。\n
イ 本件明細書には以下の内容が示される。
従来の掘削ヘッドは、複数の小形ビットが台金に固着されていたので、掘削中 に岩石等に当たった際、刃先が逃げることができず、損傷を受けやすいという問 題点や掘削によって生じた繰粉が穴底からうまく排出されにくいという問題点 があった(【0003】)。このような問題点を解決するものとして、直径方向に対 向するように設けられた2条の螺旋翼を有する掘削刃の螺旋翼の周縁部及び下 端に多数の小形ビットを取り付けたスクリューオーガ用掘削刃がある。これには、 軸回りに回転自在な小形のビット(コーン刃)が設けられていて、岩石等に当た った時に当該コーン刃が回転して逃げることができるため、損傷しにくいという 利点があるが、2条の螺旋翼が直径方向に対向するように設けられ、これら2条 の螺旋翼にそれぞれ設けた小型ビットで掘削を行うものであるから、掘削中に岩 石等に遭遇したときは、2条の螺旋翼に設けたビットが当該岩石に当たるたびに 断続的な衝撃を受け、スクリューオーガ装置全体が上下に振動して、円滑な掘削 ができなくなるおそれがあるほか、螺旋翼自体が先端側の外径が小さくなるよう に全体として円錐状の尖った形状となっているので、芯ぶれにより、掘削される 穴が曲がりやすいというおそれもある(【0004】)。本件発明は、掘削中に岩石 等に当たってもビットの刃先が損傷しにくく、断続的な衝撃をうけにくく、しか も穴曲がりが生じにくい掘削ヘッドを提供することを目的とし、基部がスクリュ ーオーガロッドに取り付けられる基軸の外周部に、外径の等しい3条の螺旋翼が 設けられ、これら3条の螺旋翼の先端部に固着された複数のホルダに、円錐状の 尖った刃先部を有する複数のコニカルビットが軸回りに回転自在にそれぞれ取 り付けられ、該複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に 形成されていることを特徴とする構成をとるものである(【0005】【0006】)。 3条の螺旋翼が並列に設けられていることにより、掘削中に岩石等の掘削しにく い物体に当たっても、断続的な衝撃が比較的小さくてすむようになるとともに、 胴部における3条の螺旋翼の外径をほぼ一定にしておくことにより芯ぶれが生 じにくくなる結果、穴曲がりが少なくなるという効果を奏するものである(【0006】 【0007】【0020】)。これらの本件明細書の記載内容に加え、図面(【図1】〜 【図4】)に照らすと、外径の等しい3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複 数のコニカルビット群により、「中央部が突出する概略円錐状に形成されている こと」の技術的意義は、胴部における3条の螺旋翼の外径を変えることなく、該 複数のコニカルビット群により、基軸先端方向に向かって径が小さくなる円錐状 の形状にすることで、穴曲がりが生じることを防ぎつつ、掘削効率を高めること にあるものと認められる。 また、本件明細書には、発明の実施形態に関して、「小型ビット20,…は、 それぞれが取り付けられている螺旋翼10の傾斜方向にほぼ沿うように傾けて 設けられている。また、前記ヘッド15には複数(図示例では3個)の小型ビッ ト20,…が設けられていて、掘削ビットの先端部は、これら小型ビット群によ って側面視概略円錐状を呈している。」(【0011】)、「掘削ヘッド1の先端部 には、全体形状が概略円錐状となるように多数のコニカルビット20,…が設け られているので、これらビットにより効率よく掘削が行われる。」(【0016】) との記載もある。
ウ 証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成19年7月3 日付けの拒絶理由通知書(乙1)により、特許庁から、本件発明は、引用発明1 及び2に基づき進歩性を欠くとの拒絶理由を通知されたことに対し、構成要件D\nに該当する部分を付加して補正した上で、意見書(乙2)において、引用発明1 は、螺旋翼が2条で、円周方向における螺旋翼同士の間隔が大きく、ヘッド先端 部のビットの密度が低くなり、しかもヘッド先端部のビットの先端はほぼ同一平 面状に位置していて、仮想先端面が平板状を呈しているのに対し、本件発明は、 3条の螺旋翼の先端部に複数のコニカルビットが取り付けられ、ヘッド先端部が、 全体として中央部が突出する概略円錐状の外形に形成されているから、引用発明 1と本件発明とは構成が大きく相違している旨を主張したことが認められる。\nこのような出願経過に照らすと、原告は、構成要件Dに該当する部分を付加し\nて補正することで、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビッ トにより、ヘッド先端部が全体として中央部が突出する概略円錐状の外形である ことを特定したものと解される。
エ 前記アないしウのとおり、構成要件C及びDの文言、本件明細書の内容、\n「中央部が突出する概略円錐状に形成されていること」の技術的意義、出願経過 に照らすと、「中央部が突出する概略円錐状」とは、3条の螺旋翼の先端部に取 り付けられたコニカルビットのみにより、側面視を含む全体形状において基軸先 端方向に向かって径が小さくなる円錐状をしていることを意味しているものと 解するのが相当である。本件明細書には、発明の実施形態として、3条の螺旋翼 の先端側に、概略円錐状のヘッド15が、基部を基軸2に固定されており、ヘッ ド15に取り付けられた小型ビットを含む小型ビット群が側面視概略円錐状を 呈しているものが示される(【0011】)ことから、発明の実施形態には、3条の 螺旋翼の先端部に取り付けられたコニカルビットが側面視を含む全体形状にお いて基軸先端方向に向かって径が小さくなる円錐状をしており、かつ、ヘッド1 5に取り付けられた小型ビットを含む小型ビット群が側面視概略円錐状を呈す る形態を含むものと解する余地があるが、前記アの構成要件C及びDの文言に照\nらすと、「中央部が突出する概略円錐状」の上記解釈は左右されない。
(3) 被告各製品について
ア 被告製品1
争いのない事実、証拠(甲5、乙10の1〜3)及び弁論の全趣旨によれば、 被告製品1は、その3条の螺旋翼20の先端部に設けられた3〜4基のコニカル ビット30により、側面視(基軸10先端方向を上に向けた場合。以下同じ。) において、中央部が平坦又は間隙のある、浅いハ字状に線が描かれていること、 全体形状として、基軸10から放射状に3本の緩やかな曲線(ほぼ直線)が描か れていることが認められる。
・・・
カ 以上のとおり、被告各製品の3条の螺旋翼の先端部に取り付けられたコニ カルビットは、いずれも、側面視を含む全体形状において、直線、緩やかな曲線 又は点を形成するにすぎず、同コニカルビットのみにより、基軸先端方向に向か って径が小さくなる円錐状を形成しているとはいえず、構成要件Dを充足すると\nは認められない。
(4) 原告の主張について
原告は、「中央部が突出する概略円錐状」とは、効率よく安定した掘削を行う という本件発明の技術的意義を有するか、これと同一の作用効果を奏するもの、 すなわち、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビットが「概 略錐面状」に並んで配置されることを意味し、当業者は、本件明細書の記載から そのように理解する旨を主張し、当業者の認識や技術常識を裏付ける証拠として、 公開特許公報(甲23の1〜12)、パンフレット等(甲24の1〜3)、アン ケート結果(甲25の1〜8)、大学教授の意見書(甲28の1、29の1)を 提出する。
しかし、前記(2)のとおり、構成要件Dは「該複数のコニカルビット群により、\n中央部が突出する概略円錐状を形成」と規定しており、本件明細書や出願経過等 をみても、コニカルビットが概略錐面状に並んで配置していることと解すべき記 載等はないから、同構成要件を充足するには、コニカルビット群のみにより、(中\n央部が突出する)概略円錐状を形成する必要がある。 原告は、前記各証拠は、回転式の土木用掘削ヘッドにおいて、コニカルビット、 掘削刃などの掘削ビット類の配列、又は複数の掘削ビット類の全体形状を、当業 者は「概略円錐状」と表現することを示すものである旨述べる。しかし、原告が\n提出する公開特許公報(甲23の1〜12)に係る特許の中には、本件特許の出 願後に出願又は公開されたものが含まれており、それらは本件特許出願時の当業 者の認識を裏付けることにはならない。この点は措くとしても、これらの公報の 内容は、掘削爪等の配置、スクリュー刃全体、ヘッドの先端やヘッド部分全体、 掘削面や地盤改良体等の形状が、それぞれ円錐状であるなどと個別に特定するも のであり、これらの公報全体をみても、回転式の掘削ヘッドにおいて掘削ビット 類の配列や全体形状が一般的に「概略円錐状」と表現されているとは認められな\nい。そして、少なくとも、これらの公報の中に、被告各製品のようにコニカルビ ット(3条の螺旋翼の先端部に取り付けられたもの)が並んでいる形状を指して (中央部が突出する)概略円錐状と表現することを示すものはない。また、パン\nフレット等(甲24の1〜3)には、「円錐ヘッド」や「円錐型ヘッド」として、 螺旋翼の外周部から中心軸に近づくにつれてビットが先端に向かって高い位置 に取り付けられている掘削ヘッドの写真が掲載されているものの、どの部分を指 して円錐形状と表現しているかについては明らかでないし、被告各製品のように\nコニカルビットが並んでいる形状そのものを指して概略円錐状と表現するもの\nとも認められない。さらに、アンケート結果(甲25の1〜8)については、8 名の回答者の中に本件特許の発明者や同発明者の出身会社の代表者、原告と何ら\nかの取引関係があると考えられる者が含まれている(甲25の1、2、8、弁論 の全趣旨)など、アンケート対象者の中立性等に疑義があることに加え、質問の 形式も、被告各製品の螺旋翼先端部のコニカルビット群の形状をどう表現するか\nと問うのではなく、「「螺旋翼先端部のコニカルビット群」を見て「(概略)円 錐状」と認識できますか?」と一定の結論を示唆するものであって、適切とは言 い難い。回答者は、当該質問に対して、いずれも「できる」と回答しているもの の、その理由として、「ビットの高さが違う」「外側より先端部の方が飛び出し ている」「掘削後円錐に断面がなる」「写真より(中略)円錐形状を推定・想像 が行える」「日本テクノ製のコニカルヘッドと認識した」などとコメントしてお り、コニカルビットが並んでいる形状を概略円錐状と表現した趣旨か否かが不明\nである回答が含まれているほか、理由の説明内容が区々であり、このアンケート 結果から、当業者が一般的に被告各製品のようにコニカルビットが並んでいる形 状を(中央部が突出する)概略円錐状と認識するものと理解することは困難であ る。そして、大学教授の意見書のうち、甲第28号証の1には、ヘッドが回転し たときにどのような軌跡を描いているかを立体的にイメージすれば、ビットの軌 跡でトレースされる立体的形状が円錐状に近い形になることが指摘されている が、「複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に形成され ている」(構成要件D)ことに、「回転する複数のコニカルビット群の軌跡によ\nり、中央部が突出する概略円錐状に形成されている」ことを含むと解釈すること は文理に沿わないし、当業者が一般的に、掘削ヘッドの「複数のコニカルビット 群」との文言から、その形状(配置)をヘッドが回転したときの軌跡でイメージ することを裏付ける資料もない。甲第29号証の1には、「概略円錐状」とは、 数学的(幾何学)な意味での円錐ではなく、中央が尖った錐状立体に近い概形を 意味していることが指摘されているが、その根拠は不明である。
以上から、原告が提出する証拠は、いずれも回転式の土木用掘削ヘッドにおい て、掘削ビット類の配列又は全体形状を、当業者が「概略円錐状」と表現するこ\nとを示すものとはいえず、被告各製品のようにコニカルビット(3条の螺旋翼の 先端部に取り付けられたもの)が並んでいる形状を、当業者が一般的に(中央部 が突出する)概略円錐状と理解することを裏付けるものでもないから、原告の前 記主張は採用できない。

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令和2(ネ)10024  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年10月20日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 大合議(特別部)の判断です。1審は技術的範囲に属さないと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消して、約4億円の損害賠償を認めました。102条2項と3項の重畳適用の要件を示しています。本件では一部認められています。

原判決は、本件発明C−1の特許請求の範囲(請求項1)の記載 に基づく解釈として、1)構成要件Cの記載によれば、「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」の3要素により形成された部分をもって成るものが「空洞部」であり、「空洞部」に「外側立上り\n壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」が存在しない部分が許容され ると解されず、「空洞部」全体にわたって「内側立上り壁」が存在す ることを要する、2)構成要件Dの記載によれば、「空洞部の先端部」に「内側立上り壁の…前端部」が存在することは明らかであるところ、「内側立上り壁の…前端部」という記載は、更に「空洞部の先端\n部」以外にその後方部分にも「内側立上り壁」が存在することを示 唆するものと理解される、3)構成要件Bの記載によれば、「前腕挿入開口部」は、「空洞部」の一部ではなく、「空洞部」とは別の「肘掛部」の構\成部分でありつつ、「空洞部」に連続して設けられた部分であると解され、また、「前腕挿入開口部」と「空洞部」から成る「肘掛部」中における「前腕挿入開口部」と「空洞部」の相対的な位置 関係は、「空洞部」が前部に、「前腕挿入開口部」が後部に位置する と解され、さらに、「前腕部を挿入保持する」ように「空洞部」が構成される、4)構成要件E、E−1、E−2の記載によれば、「前腕挿入開口部」が「内側後方から施療者の前腕部を挿入するための」部分であるところ、そこに位置する施療部は「底面部」と「外側立上\nり壁」によりL型に形成されていることから、当該施療部には「内 側立上り壁」が存在しないと解されること、「前腕挿入開口部から延 設して…設けられ」ている「空洞部」が、「肘掛部」中の別の構成部分であることに鑑みると、「内側立上り壁」の有無が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画するものであるとの示唆を看取することもで\nき、そもそも、「前腕挿入開口部」につき、「内側後方から施療者の 前腕部を挿入するための」ものと特定されていること自体、「前腕挿 入開口部から延設して…設けられ」た「空洞部」の内側側方からは、 「空洞部」に「施療者の前腕部を挿入する」ことができないことを 示唆するものと解される、5)他方、請求項1の記載から、「空洞部」 中に「内側立上り壁」が存在しない部分があるとの示唆を読み取る ことはできないとして、本件発明C−1の「空洞部」(構成要件B、C)とは、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものをいうと解される旨判断した。\n
しかしながら、1)及び5)については、構成要件B及びCから読み取れる事項は、「該前腕挿入開口部から延設して肘掛部の内部に施療者の手部を含む前腕部を挿入保持するための空洞部」が「外側立\n上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」という3要素から形成さ れていることであり、他方で、「空洞部」のどの部分に、「外側立上 り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」を設けるべきかについては、 請求項1には何ら記載がない。「空洞部」が上記3要素から成ること と、上記3要素をどのように形成するかは別問題であるから、「空洞 部」に「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」が存在し ない部分が許容されると解されないとの原判決の判断には、論理の 飛躍がある。
2)については、構成要件Dには、「空洞部の先端部」以外の後方部分における「内側立上り壁」の範囲については記載も示唆もなく、また、構\成要件Dの記載は、「空洞部の先端部」とその後方部分の一部に形成されている構成も、本件発明C−1の「空洞部」に該当すると解釈することと矛盾しないから、構\成要件Dから「内側立上り壁」が「空洞部」全体に及ぶべきことを読み取ることはできない。
3)については、構成要件Bの記載によれば、「前腕挿入開口部」は「肘掛部」の「内側後方から施療者の前腕部を挿入するため」の部材であり、「空洞部」は「肘掛部の内部に施療者の手部を含む前腕部\nを挿入保持するため」の部材であると定義されるところ、いずれも 「前腕」を「挿入」する機能を実現する部材であることで共通することからすると、「前腕挿入開口部」と「空洞部」は、「前腕部を挿入する部分」において重なることが示唆されているから、両者に厳\n密な線引きをすべき理由はない。また、仮に構成要件Bの記載について原判決の解釈を前提としても、「内側立上り壁」が「空洞部」の一部に形成されている構\成であっても、「肘掛部」に「空洞部」と「前腕挿入開口部」とが別構成として設けられ、「肘掛部」において「空洞部」が前部に、「前腕挿入開口部」が後部に位置する構\成とすることもできるから、本件発明C−1の「空洞部」は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものでなければならないという結論 が論理必然的に導き出されるわけではない。
4)については、構成要件E、E−1、E−2は、「肘掛部」中における「前腕挿入開口部」と「空洞部」の位置関係等を直接規定したものではなく、また、構\成要件E−2から読み取れる事項は、「前腕挿入開口部」に位置する施療部が底面部と外側立上り壁によりL型に形成されているということだけであり、そのことから直ちに、「内 側立上り壁」の有無が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画する ことを看取できるものではない。 したがって、原判決の挙げる1)ないし5)は、本件発明C−1の「空 洞部」(構成要件B、C)は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものと解釈することの根拠となるものではないから、原判決の上記判断は誤りである。\n
(b) 次に、原判決は、本件発明C−1の「空洞部」(構成要件B、C)とは、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものをいうと解されることは、本件明細書Cの記載及び本件特許Cの出願経過か\nらも裏付けられると述べ、具体的には、1)本件明細書C記載の本件 発明C−1の技術的意義に鑑みると、本件発明C−1は、肘掛部の 長さ方向全域に「外側立上り壁」と「内側立上り壁」が形成された 椅子式マッサージ機を前提として、肘掛部の内側後方から施療者の 前腕部を挿入可能となるように「内側立上り壁」を廃した「前腕挿入開口部」を設けたと認められるから、そのような肘掛部の「内側後方から施療者の前腕部を挿入するための前腕挿入開口部」と、そ\nこから「延設して肘掛部の内部に…設けられ」ている「空洞部」と は、「内側立上り壁」の有無により画されるものと理解されるし、「手 掛け部」を設けたのは手部及び前腕部の広範を同時にマッサージす るために肘掛部の前端部にまで「内側立上り壁」が形成されている ことを踏まえたものである以上、本件発明C−1における「肘掛部 の幅方向左右に夫々設けた外側立上り壁及び内側立上り壁と底面 部とから形成され」た「空洞部」の「内側立上り壁」は、手部及び 前腕部の広範を同時にマッサージすることができるように、「空洞 部」全体にわたって存在することが想定されているといえる、2)本 件親出願の明細書(乙C8)の【0046】、【0047】及び図1 4は、本件明細書Cの【0046】、【0047】及び図14と同様 に、前腕部施療機構の中部に「内側立上り壁」が形成されていない実施例に関する記載であるところ、これらは、本件出願Cの出願に当たり、本件親出願の請求項からの変更の根拠として挙げられてい\nない、本件補正時に提出された平成23年5月9日付け意見書(以 下「本件意見書」という。乙C12)において、控訴人は、本件各 発明Cが、「肘掛部の長さ方向全域に前腕部施療機構として左右一対の立上り壁を設けた椅子式マッサージ機」に関する発明であり、「施療者の肘関節付近にまで左右一対の立上り壁が存在すること\nによる施療者の肘関節付近の圧迫による不快感を解消し、更に前腕 部施療機構を有していても施療者が起立及び着座を快適に行う事ができるようにした施療機を提供するもので」あるとした上で、「空洞部の先端部」に設けた「手掛け部」に関しては、そこに「内側立\n上り壁」が存在することを前提とした説明をしつつ、「前腕挿入開口 部」に関しては、そこには「内側立上り壁」がない形状にしたとす る説明をしている、他方、請求項2、すなわち肘掛部の中部に「前 記底面部と前記外側立上り壁と手掛け部によりコ型に形成された 施療部」を設けることについても説明しているが、そこで言及され ている本件明細書Cの記載のうち、関係するのは【0046】のみ である、本件拒絶理由通知に示された「引用文献2」(乙C19)と 本件補正後の発明(本件発明C−1及びC−2)との相違について、 「引用文献2」に開示された前腕部施療部は「肘挿入用凹溝」であ り、その断面形状は略横向き「凹」字状であるのに対し、本件補正 後の発明においては、前腕挿入開口部に位置する施療部は「底面部」 及び「外側立上り壁」により形成された断面略「L型」であり、ま た、手掛け部が形成される空洞部に位置する施療部は、「底面部」、 「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「手掛け部」に囲われた形 状(実施の形態では「ロ型」)であるため、その構成が相違する旨説明している、断面が略「コ」字状の前腕部施療部の問題点として、前腕挿入開口部においては、上面に位置する部分が腕部の載脱をス\nムーズに行う上で障害となり、手掛け部においては「内側立上り壁」 が存在しないため、施療者の体重を掛ける上で不安が残ることを指 摘している、こうした説明内容に加え、本件補正により「前記底面 部と前記外側立上り壁と手掛け部によりコ型に形成された施療部 を備え」る請求項2(本件発明C−2)を請求項1の従属項として 追加したにもかかわらず、当該発明における上記略「コ」字状の前 腕部施療部の問題点の有無等に関する説明が見当たらないことに 鑑みると、本件補正における控訴人の説明は、請求項2の追加にか かわらず、本件発明C−1の「空洞部」につき、その全体にわたっ て「内側立上り壁」が存在する構成を前提としていたと理解される、3)本件明細書Cの【0046】及び図14の記載が本件親出願から の分割出願(本件出願C)や補正(本件補正)にもかかわらず一貫 して存在する点については、本件発明C−1に係る特許請求の範囲 の請求項1の記載自体から「空洞部」につき、その全体にわたって 「内側立上り壁」が存在する構成と理解されることに鑑みると、分割出願や補正による本件特許Cの発明の内容の変化に応じてこれらの記載が補正等されなかった結果にすぎないと見るべきである\n旨判断した。
しかしながら、1)については、本件明細書Cには、本件発明C− 1の一実施形態(本件発明C−2の実施例)として、肘掛部の中部 に外側立上り壁、手掛け部、底面部よりコ型に形成された施療部を 設けたマッサージ機の記載があり(【0046】、図14)、図14で は、コ型に形成された施療部、すなわち、内側立上り壁が存在しな い部分が空洞部(62a)と図示されており、また、別の実施形態 を示す図8においても、内側立上り壁が存在しない部分が空洞部 (62a)と図示されている。これらの記載を参酌すれば、本件発 明C−1の「空洞部」は、肘掛部中の内側立上り壁が存在する部分 に限られるわけではなく、その全体にわたって「内側立上り壁」を 備えることを要しないことは明らかである。 また、本件発明C−1は、肘掛部の長さ方向全域に立上り壁を設 けることによる不都合(ア)上腕部内側の肘関節付近を圧迫し不快感 を与える、 腕部の載脱行為を妨げる、 快適な起立及び着座を妨 げるという不都合)を解決することを課題とし(【0005】ないし 【0008】)、(ア)及び の課題は、前腕挿入開口部の内側立上り壁 を廃したことにより、 の課題は、肘掛部に手掛け部を設けたこと により解決したものであり、それを超えて、「内側立上り壁」の有無 が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画し、空洞部はその全体に わたって内側立上り壁を備えるものであるという「空洞部」が備え るべき構成を導くことはできない。さらに、本件明細書Cの【0016】には、底面部及び外側立上り壁の二面において膨縮袋を備えることで前腕部に対するマッサ\nージを実施することができる旨が記載されていることに照らすと、 手部及び前腕部の広範を同時にマッサージするためには、「底面部」 及び「外側立上り壁」の二面が存在すれば足り、「内側立上り壁」が 「空洞部」の全体にわたって存在することは想定されていない。 次に、2)及び3)については、本件親出願の分割出願として本件出 願Cを出願するに際し、本件親出願の明細書(乙C8)の【004 6】、【0047】及び図14を分割要件を満たすことの根拠として 挙げられていないからといって、本件特許Cの出願経過において、 本件発明C−1の「空洞部」をその全体にわたって「内側立上り壁」 が存在する構成に限定したという控訴人の意思が客観的に表\され ているとはいえない。むしろ、控訴人は、本件意見書において、請 求項1及び2に係る本件補正の根拠として、本件出願Cの願書に最 初に添付した明細書(以下「本件出願Cの当初明細書」という。乙 C9)の【0046】を明確に挙げていること、当該段落は本件明 細書Cの【0046】と同じであり、「内側立上り壁」が備えられて いない部分を「空洞部(62a)」として指し示した「図14」の構成を説明していることからすると、「空洞部」についてその全体にわたって「内側立上り壁」が存在することを要しないことを前提とし\nていたことは明らかであり、本件明細書Cの【0046】及び図1 4の記載が存在することは本件特許Cの発明の内容の変化に応じ てこれらの記載が補正等されなかった結果にすぎないとの原判決 の3)の判断は誤りである。
また、被控訴人が2)で指摘する本件意見書における説明は、「空洞 部」と「内側立上り壁」の関係については何ら言及されておらず、 控訴人が、空洞部をその全体にわたって「内側立上り壁」が存在す る構成に限定する意思を客観的に表\明しているということはでき ない。 したがって、原判決の挙げる1)ないし3)は、本件発明C−1の「空 洞部」(構成要件B、C)は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものと解釈することを裏付けとなるものではないから、原判決の上記判断は誤りである。\n
・・・
これを本件についてみるに、前記ウ認定の本件推定の覆滅事由は、特 許発明が被告製品1の部分のみに実施されていること及び市場の非同 一性であり、いずれも特許権者の実施の能力を超えることを理由とするものではない。\nしかるところ、市場の非同一性を理由とする覆滅事由に係る推定覆滅 部分については、被控訴人による被告製品1の各仕向国への輸出があっ た時期において、控訴人製品1は当該仕向国への輸出があったものと認 められないことから、当該仕向国のそれぞれの市場において、控訴人製 品1は、被告製品1の輸出がなければ輸出することができたという競合 関係があるとは認められないことによるものであり(前記ウ c)、控訴 人は、当該推定覆滅部分に係る輸出台数について、自ら輸出をすること ができない事情があるといえるものの、実施許諾をすることができたも のと認められる。 一方で、本件各発明Cが侵害品の部分のみに実施されていることを理 由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分については、その推定覆滅部分に 係る輸出台数全体にわたって個々の被告製品1に対し本件各発明Cが寄 与していないことを理由に本件推定が覆滅されるものであり、このよう な本件各発明Cが寄与していない部分について、控訴人が実施許諾をす ることができたものと認められない。 そうすると、本件においては、市場の非同一性を理由とする覆滅事由 に係る推定覆滅部分についてのみ、特許法102条3項の適用を認める のが相当である。
(ウ)a これに対し、控訴人は、特許発明が侵害品の一部のみに実施されて いることを理由とする覆滅事由は、需要を形成する一要因にすぎず、 侵害品に向かっていた事情が全て特許権者の製品に向かうかどうかを 判断する一要素であるから、市場の非同一性等を理由とする覆滅事由 と区別する理由はないこと、覆滅事由ごとに特許法102条3項の適 用の有無を区別することは、実施料率の算定が煩雑になり妥当でなく、 そもそも製品の需要形成には様々な要因が複合的に絡み合っており、 覆滅事由ごとに覆滅割合を認定して当該覆滅部分にライセンス機会の 喪失による逸失利益が認められるか否かを認定判断することは実際上 困難であることからすると、本件各発明Cが侵害品の部分のみに実施 されていることを理由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分についても、 特許法102条3項の適用を認めるべきである旨主張する。
しかしながら、前記 で説示したとおり、上記推定覆滅部分は、個々 の被告製品1に対し本件各発明Cが寄与していないことを理由に本件 推定が覆滅されるものであり、このような本件各発明Cが寄与してい ない部分について、控訴人が実施許諾をすることができたものとは認 められないから、控訴人の上記主張は採用することができない。 b また、被控訴人は、1)特許法102条1項において、特許権者が自 己実施できたと推定される部分(1号)とは別にライセンスをし得た 部分(2号)とを区別し観念できるのは、同項が、侵害者の販売する 「数量」に基づいて、権利者の逸失利益に係る損害額を算定する方法 を採用しているからであり、他方で、同条2項は、侵害者の「利益」 を権利者の逸失利益と推定する損害額算定方法をとっており、同項の 推定が覆滅されるのは、最終計算の結果としての損害額であり、計算 過程の途中数値である侵害品の数量の一部が計算の基礎から除かれる わけではなく、同項の推定を覆滅する過程において、権利者のライセ ンスの機会の喪失による逸失利益をも含む全ての逸失利益が評価し尽 されているというべきであるから、推定覆滅部分に対して同条3項を 適用することは、権利者の損害の二重評価となり、許されない、2)同 条1項2号が新設された令和元年改正特許法において、同条2項につ いて実施料相当額の損害が明文において規定されなかったのは、この ような趣旨によるものと解される、3)仮に推定覆滅部分について同条 3項の重畳適用が認められる場合が理論的にあり得るとしても、被告 製品1について、「市場の非同一性」を理由とする覆滅事由に係る推定 覆滅部分につき、輸出に際して海外市場の事業者から受け取る対価は、 あくまで海外市場に基づく利益であり、このような海外市場における 利益まで特許法102条2項の推定が及ぶものと解し、日本国内の特 許権に基づいて独占することは、特許権の保護範囲を逸脱しており、 法が予定していないものであり、また、日本国の特許権に基づいて仕向国への輸出行為のみを切り取り、ライセンスする場合は現実に考え\n難く、ライセンスによる実施料相当額の得べかりし利益を得られなか ったとは言い難いとして、本件推定の推定覆滅部分については、同条 3項を適用することはできない旨主張する。
しかしながら、1)及び2)については、前記 で説示したとおり、特 許権者は、自ら特許発明を実施して利益を得ることができると同時に、 第三者に対し、特許発明の実施を許諾して利益を得ることができるこ とに鑑みると、侵害者の侵害行為により特許権者が受けた損害は、特 許権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた 実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益と実施許諾の機会の 喪失による得べかりし利益とを観念し得るものと解されるところ、特 許法102条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、 特許権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができ た実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益に相当するもので あるのに対し、同項による推定の推定覆滅部分について、特許権者が 実施許諾をすることができたと認められるときは、特許権者は、売上 げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による実施 料相当額の損害を受けたものと評価できるから、特許権者の損害を二 重に評価することにはならない。また、同条1項2号が新設された令 和元年改正特許法において、同条2項について、同条1項2号と同様 の法改正がされなかったからといって直ちに同条2項による推定の推 定覆滅部分について同条3項の適用を否定すべき理由にはならないと いうべきである。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆平成30(ワ)3226

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令和3(ネ)10079  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、出願経過から用語の意義を解釈して、技術的範囲に属しないと判断しました。知財高裁も同様に、技術的範囲に属しないと判断されました。

(1) 控訴人は、前記第2の5(1)アのとおり、本件発明の「係止片」は、1)所定 位置において、それ自体として針先の再露出を直接防止し、2)片状の部材で あり、3)針ハブに向かって傾斜した内側面を有し、4)大径部に円筒状部と一 体形成され、5)小径部側には設けられていないものをいうから、上記構成要\n素から特定される形状を有しない係止片が小径部側に設けられていても構成\n要件1E4)の充足を左右しない旨主張しており、同イ及びウの主張もこのよ うな理解を前提とするものである。
しかしながら、引用に係る原判決第3の2(1)(補正後のもの)のとおり、 本件発明の技術的意義及び出願経過からみて、針先の再露出を防止する機能\nを有する係止片は小径部側には設けられてはならず(係止片が小径部側に設 けられていないことに特有の技術的意義がある。)、したがって、小径部に設 けられることで構成要件1E4)の充足が妨げられる係止片は、その形状を問 われないものであるから、針先の再露出を防止する機能を有する係止片が小\n径部側に存することは、対象製品が構成要件1E4)を充足することを妨げる ものである。
また、控訴人は、係止片は針先の再露出を「それ自体」として、かつ、「直 接」に防止しなければならない旨主張するところであるが、特許請求の範囲 及び本件明細書の記載上、根拠を見いだし難い(いずれにせよ、大径部係止 手段と小径部側壁部から構成される「係止片」は、それ自体により直接に針\n先の再露出を防止していると認められる。)。 さらに、控訴人は、「係止片」という用語を使用している以上、「片」とは その名が示すとおり「片」(へん)状の部材であるから、「係止片」とは「片 状(へんじょう)の部材」を指すものである旨主張するところ、確かに、控 訴人は、本件補正により「係止部」を「係止片」と改めたものではあるが、 上記のような本件発明の技術的意義及び出願経過からすれば、充足性の判断 に当たり、針先の再露出を防止するために小径部に設けられる係止部材を片 状のものに限定する意義は見いだせない。また、いずれにしても、被告製品 は、小径部側壁部の突端面により縦リブの側面を挟持するものであるところ (引用に係る原判決第2の1(3)イd(補正後のもの))、小径部側壁部の突端 面を「片」と理解することに支障があるとは思えない。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆令和1(ワ)27053

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令和2(ワ)4331  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年5月13日  東京地方裁判所

 電子たばこの特許について102条3項により、約2200万円の損害賠償が認められました。102条2項の推定覆滅として、別件特許権があることで5割が認定され、3項との重畳適用は否定され、3項により利率10%を認めました。2項侵害よりも3項侵害の方が80万円ほど高額となりました。

同一製品の製造等による別件特許権の侵害について
証拠(乙A80)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、本件各発明の実施品であるとともに、別件発明の実施品であること、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものであること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、別件発明は、安価で耐久性のある製品を提供するものとして、本件各発明と相等しく、被告製品の付加価値を高め、 顧客吸引力を有するものとして、被告製品の売上げに貢献しているものと認めるのが相当である。そうすると、別件発明による上記貢献の事情は、特許法102条2項の推定を覆滅する事情であるといえる。
これに対し、被告らは、別件訴訟において別件発明に係る侵害を理由として認容された損害額につき、本件訴訟で推定された損害額から覆滅されるべき旨主張するが、別件発明が被告製品の売上げに貢献した部分は、上記のとおり本件訴訟における推定覆滅の事情として考慮されているのであるから、被告らの主張は、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告らの主張は、採用することができない。
推定覆滅の割合
以上によれば、本件においては、上記 に掲げる事情の限度で推定を覆滅させるのが相当であり、上記 において認定した事情を踏まえると、推定覆滅の割合は、5割と認めるのが相当である。
ウ まとめ
本件特許権の侵害について、特許法102条2項により算定される損害額は、1853万0467円(3706万0935円×0.5(1円未満切り捨てとする。以下同じ。))となる。
エ 覆滅部分についての特許法102条3項の損害金について
原告は、本件特許権の侵害における特許法102条2項の推定の覆滅部分について同条3項が適用されると主張して、覆滅部分について同項にいう実施料相当損害金を請求する。 しかしながら、本件特許権の侵害における推定の覆滅は、上記において説示したとおり、本件各発明以外にも別件特許権が被告製品の売上げに貢献していた事情を考慮したものである。そのため、本件各発明のみによっては売上げを伸ばせないといえる原告製品の数量について、原告が、被告ジョウズに対し本件各発明の実施の許諾をし得たとは認められないというべきである。そうすると、当該数量について同条3項を適用して、実施料相当損害金を請求する理由を認めることはできない。したがって、原告の主張は、採用することがで
・・・
イ 前提事実及び前記認定事実のほか、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 本件報告書の表II)−3には、アンケートの調査結果として、技術分類を「食料品、たばこ」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は3.8%(最大値5.5%、最小値1.5%)(4件)、「健康;人命救助;娯楽」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は5.3%(最大値14.5%、最小値0.5%)(54件)と記載されている(乙A73)。原告は、被告ジョウズが被告製品の販売等により別件特許権を侵害したと主張して、別件訴訟を東京地方裁判所に提起したところ、同裁判所は、令和4年1月27日、別件発明の実施に対し受けるべき料率を被告製品の売上高の10%と判断した(乙A80)。そして、前記 イ のとおり、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものである。
前記 イ のとおり、本件各発明は、エアロゾル形成基材の加熱中にエアロゾルを均等に送達することを可能にする発明であり、加熱式タバコの香りや味等に直結するものであるから、加熱式タバコにおいて相応の重要性を有し、被告製品の売上げ及び利益にも一定の貢献をしたものである。また、エアロゾルを均等に送達することを可能\にする代替技術 が存在することは、本件全証拠によっても認めるに足りない。 原告と被告らは、いずれも原告製品専用のタバコスティックを使用することができる加熱式タバコ用デバイスを販売していたことからすると、その市場において競業関係にあったといえる。
ウ 前記イ ないし の各事情その他の本件訴訟に現れた諸事情を総合すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は、10%を下らないものと認めるのが相当である。したがって、被告らによる本件特許権の侵害について、特許法102条3項により算定される損害額は、1975万2707円(1億9752万7078円×10%)となる。

◆判決本文

関連事件(1)です。
特許権、当事者同じ
特許権者勝訴
差止のみ請求

◆令和2(ワ)4332

関連事件(2)です。
当事者同じ、対象特許違い
特許権者勝訴
損害額約5200万円

◆令和1(ワ)20074

関連事件(2)の控訴審です
控訴棄却

◆令和3(ネ)10072

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令和2(ワ)17423  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年5月27日  東京地方裁判所

 圧力風以外も用いて移送をするイ号が、「圧力風の作用のみによって、・・茶枝葉(A)を・・所定の位置まで移送する」の構成を有するかが争われました。東京地裁29部は、「のみ」ではないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。

これらの記載から、送風機によって生起された圧力風が刈刃後方の吹出 口から背面風として移送ダクト内に送り込まれること、この背面風は、刈 刃の後方から、ほぼ真上に向かう上昇流であり、少なくとも茶葉を移送ダ クトの吐出口まで搬送する移送作用を有すること、刈刃の後方から背面風 を吹き出すことにより、吹出口近傍に負圧が形成されて、茶葉が、負圧吸 引作用により、刈刃部分から吹出口側に引き寄せられ、その後、上昇流を 形成する背面風に乗って、移送ダクト内を上昇し、吐出口から収容部に設 けられた茶袋内に収容されること、刈刃から背面風の吹出口までの距離が 比較的長いものに本発明を適用する場合、背面風による負圧吸引作用は幾 らか低下することが考えられるため、圧力風を振り分けて生じさせた正面 風により、刈刃前方からの送風を補助的に行うことが好ましいことを理解 できる。
ウ 以上の各記載によれば、本件発明1の「圧力風」とは、移送ダクトの内 部に流される空気流であって、背面風及び刈刃前方からの補助的な送風で ある正面風を含むものであり、「圧力風の作用のみによって」とは、刈り 取られた「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移送が上記のよ うな「圧力風」の「作用」だけで実現されることと解するのが相当であり、 「圧力風」の「作用」以外の作用が加わって上記移送が実現される場合に は、「圧力風の作用のみによって」を備えるとは認められないというべき である。
(2) 被告各製品が「圧力風の作用のみによって」(構成要件A)を備えるか\n
ア 証拠(甲4ないし6、乙6、8)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製 品の回転ブラシはブラシシャフト及びこれに取り付けられたブラシから成 り、ブラシシャフトが回転することに伴ってブラシが回転する構造をして\nいること、被告各製品の回転ブラシR、刈刃(22')、移送ダクト(6')、吹出 口(38')及び収容部(4')の構造の概要は、別紙概要断面図記載のとおりであ\nり、被告各製品による摘採作業中、回転ブラシRは、160ないし300 rpmの回転数(1秒当たり2.6ないし5回転)で、茶枝葉を移送ダク ト(6')にかき込む向き(別紙概要断面図でいえば、時計回り)に回転し、 刈刃(22')後方の吹出口(38')から上方(W')に向かって吹き出した圧力風は、 移送ダクト(6')内を収容部(4')に向かって流れること、回転ブラシの高さ は、被告各製品のうち3段階調整方式のものは上下に約50mmずつ3段 階で、5段階調整方式のものは上下に約40ないし60mmずつ5段階で、 それぞれ調整することができることが認められる。これによれば、被告各 製品は、その摘採作業中、摘採する長さに合わせて高さを設定した回転ブ ラシが高速で回転して刈刃により刈り取られた茶枝葉を移送ダクト内にか き込み、移送ダクト内を流れる圧力風が茶枝葉を収容部まで移送する構造\nを有するということができる。
そして、証拠(乙9、10)によれば、被告各製品の取扱説明書には、 茶枝葉を長く刈り取る場合は回転ブラシを高く調整し、短く刈り取る場合 はこれを低く調整し、ブラシシャフトと芽の高さが同じくらいになるよう に設定する必要があり、回転ブラシの高さが適切に設定されなければ、茶 枝葉をスムーズに刈り取ることができない旨が記載されていたことが認め られ、これによれば、被告各製品は、刈り取る茶枝葉の長さに合わせて回 転ブラシを設定することが予定されていたということができる。さらに、被告各製品による摘採作業中、操縦者が回転ブラシを任意に回転させたり、回転させなかったりすることができることを認めるに足りる証拠はない。\n
以上によれば、被告各製品においては、回転ブラシを摘採する茶枝葉の 長さに応じて適切な高さに設定することを前提とし、刈刃により刈り取ら れた茶枝葉は、摘採作業中、常時回転するブラシに当たって移送ダクト内 に送り込まれ、その後、上向きに吹き出し、移送ダクト内を流れる圧力風 により、移送ダクト内を通り、収容部に到達すると認めるのが相当である。 したがって、被告各製品においては、「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の 位置」までの移送が「圧力風」以外の作用である回転ブラシの回転作用が 加わることによって実現されているといえるから、被告各製品は「圧力風 の作用のみによって」を備えるものとは認められないというべきである。
イ これに対して、原告は、原告各実験結果によれば、回転ブラシを備える 被告各製品と回転ブラシを取り外した被告各製品とで摘採量に有意な差は なく、むしろ回転ブラシを取り外した被告各製品の方が摘採量が多いこと もあり、被告各製品は回転ブラシがなくても背面風(圧力風)の作用のみ によって茶枝葉を移送することができるので、「圧力風の作用のみによっ て」を備えると主張する。
しかし、前記(1)のとおり、「圧力風」以外の作用が加わって上記移送が 実現されている場合は、「圧力風の作用のみによって」を備えないという べきであるところ、被告各製品については、前記アのとおり、回転ブラシ を摘採する茶枝葉の長さに応じて適切な高さに設定した上で摘採すること が予定されており、刈刃により刈り取られた茶枝葉は、常時回転する回転\nブラシに当たって移送ダクトに送り込まれた上で、上向きに吹き出し、移 送ダクト内を流れる圧力風により、移送ダクト内を通り、収容部に到達す ることからすると、「圧力風」以外の作用である回転ブラシの回転作用が 加わることなく、刈り取られた「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」 までの移送が実現されているということはできない。
また、前記(1)の「圧力風の作用のみによって」(構成要件A)の解釈に\nよれば、被告各製品が「圧力風の作用のみによって」を備えるというため には、「圧力風」の「作用」以外の作用が加わっていない必要があるから、 回転ブラシを備える被告各製品における茶枝葉の移送態様自体が検討され るべきであり、回転ブラシを備える被告各製品による摘採量とこれを取り 外した被告各製品による摘採量とを比較することによっては、「圧力風の 作用のみによって」を備えるか否かを明らかにすることはできないという べきである。
以上によれば、被告各製品においては、刈り取られた茶枝葉、回転ブラ シ、移送ダクト等の位置関係等からして、回転ブラシの回転作用が加わっ て茶枝葉の移送が実現されているといえ、原告各実験結果については、直 ちにこれらを採用することは困難であるといわざるを得ない。したがって、 原告の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10021  特許権侵害差止請求控訴事件 特許権  民事訴訟 令和4年7月7日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

令和4(ネ)10021  医薬品の特許権侵害について、原審は、請求項1,2についてはサポート要件違反の無効理由あり、また請求項3,4については技術的範囲に属しないと判断していました。 原告(特許権者)が控訴し、知財高裁は原審の判断を維持しました。

 本件発明2の特許請求の範囲の請求項2(「化合物が、式IにおいてR3およびR2はいずれも水素であり、R1は−(CH2)0−2−iC4H9である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の鎮痛剤」)の記載に照らすと、本件発明2の化合物は、本件発明1の化合物の範囲に含まれるものである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2の化合物を線維筋痛症や神経障害等の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについての一般的な記載があるが(前記1(2)及び(4))、一方で、本件発明2の化合物を神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについて明示の記載はない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2の化合物に該当するCI−1008及び3−アミノメチル−5−メチル−ヘキサン酸を用いたラットホルマリン足蹠試験結果、CI−1008を用いたラットカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験結果、本件発明2の化合物に該当するS−(+)−3−イソブチルギャバを用いたラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験結果の記載がある(前記1(3)、(6)、(7)及び(9))。
しかし、前記(1)オ(ア)dの認定事実に照らすと、上記試験結果は、いずれも神経障害又は線維筋痛症による痛みの処置に本件発明2の化合物を使用した試験に関するものといえないから、上記試験結果から、本件発明2の化合物が、「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に対して鎮痛効果を有することを認識することはできない。 そうすると、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識から、本件発明1の化合物の範囲に含まれる本件発明2の化合物が、本件発明1及び2の「痛み」の範囲に含まれるすべての「痛み」に対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供するという本件発明1及び2の課題を解決できるものと認識することはできないから、本件発明1及び2は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものと認めることはできない。 ・・・・ 控訴人は、本件発明3は、慢性疼痛に対する画期的処方薬として、抗てんかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだしたものであり、その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用いる点にあるから、対象となる痛みが侵害受容性疼痛か、神経障害性疼痛や線維筋痛症かは本質的部分ではなく、効能・効果を神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とし、慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告ら医薬品は、均等論の第1要件を満たすと主張する。しかし、本件明細書の記載(前記1(4))によれば、本件発明3は、本件発明3の「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」の範囲に含まれるすべての「痛み」に対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供することを課題とするものと認められること、痛みは、その基礎となる病態生理に著しい差異があり、「侵害受容性疼痛」、「神経障害性疼痛」、「心因性疼痛」の3つに大別されることは、本件出願当時の技術常識であったこと(前記2(1)オ(ア)a)に照らすと、いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは、本件発明3において本質的部分であるというべきであり、その鎮痛効果の対象を異にする被告ら医薬品は、本件発明3の本質的部分を備えているものと認めることはできない。したがって、本件発明3に係る特許請求の範囲(本件訂正後の請求項3)に記載された構成中の被告ら医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でないということはできないから、被告ら医薬品は均等論の第1要件を満たさない。\n

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19925等

特許権は同じで、被告(被控訴人)が異なる事件(1)です。 令和4(ネ)10009

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19927


被告(被控訴人)が異なる事件(2)です。 令和4(ネ)10002

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)22283

被告(被控訴人)が異なる事件(3)です。 令和4(ネ)10012

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19924

被告(被控訴人)が異なる事件(4)です。 令和4(ネ)10020

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19929

被告(被控訴人)が異なる事件(5)です。 令和4(ネ)10013

◆判決本文
原審。

◆令和2(ワ)19917

被告(被控訴人)が異なる事件(6)です。 令和4(ネ)10016

◆判決本文
原審。

◆令和2(ワ)19918等

被告(被控訴人)が異なる事件(7)です。 令和4(ネ)10039

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19919

被告(被控訴人)が異なる事件(8)です。 令和4(ネ)10028

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19920等

被告(被控訴人)が異なる事件(9)です。 令和4(ネ)10015

◆判決本文
原審。

◆令和2(ワ)19922等

被告(被控訴人)が異なる事件(10)です。 令和4(ネ)10036

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19923等

被告(被控訴人)が異なる事件(11)です。 令和4(ネ)10017

◆判決本文
原審。

◆令和2(ワ)19926

被告(被控訴人)が異なる事件(12)です。 令和4(ネ)10003

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19928

被告(被控訴人)が異なる事件(13)です。 令和4(ネ)10037

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19931等

被告(被控訴人)が異なる事件(14)です。 令和4(ネ)10025

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)19932


被告(被控訴人)が異なる事件(15)です。 令和4(ネ)10026

◆判決本文
原審

◆令和2(ワ)22290等

本件特許の無効審判事件の審取です。 令和2(行ケ)10135 審決は、「訂正後の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効、請求項3,4に係る発明についての本件審判の請求は,成り立たない。」と判断していました。 知財高裁は、審決維持です。

◆判決本文

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令和2(ワ)29604  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月27日  東京地方裁判所

 携帯電話機の画像表示技術について、102条3項の実施料率として0.01%が認められました。

ア 特許発明の実施に対し受けるべき料率を認定するに当たっては、1)当該 特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない 場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明 自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可 能性、3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献 や侵害の態様、4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等 訴訟に現れた諸事情を総合考慮するのが相当である。 イ そこで検討するに、本件発明に関しては、前記1)ないし4)に係る事情と して、次のとおりのものが認められる。 「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査 研究報告書」には、以下のような実施料率を報告するが、同時に、関係 特許が多数に上り、クロスライセンスが主流であるデバイスの特許の分 野では、その相場は1%以下であるとも記載されている。(甲26)
ソース 技術分野 平均値 最大値 最小値
国内アンケート調査 器械 3.5% 9.5% 0.5%
コンピュータテクノロジー3.1% 7.5% 0.5%
電気 2.9% 9.5% 0.5%
司法決定 電気 3.0% 7.0% 1.0%
実際、被告補助参加人は、被告製品の製造販売のため、11社とライ センス契約を締結したが、破産直前という特殊事情のある1社を除くと、 アプリ特許等に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率は、 平均●(省略)●%であると計算された。(乙14) また、前記 の10社とのライセンス契約のうち、ライセンス料率が 初年度の●(省略)●%から逓減する特殊な規定となっていた1社を除 き、画像処理に関連する発明に限定したとすると、1件当たりのライセ ンス料率は、平均●(省略)●%と計算された。(乙16) 平成20年5月発行の雑誌「日経エレクトロニクス」には、「携帯電 話の画面サイズには限界がある。」、「HDTV対応によって、大画面 テレビなど周囲のAV機器を接続し、コンテンツをやりとりする機能が\n携帯電話機に必須となる。」との記載がある。(甲29・43頁) 他方、前記雑誌には、「スマートフォンのような両手の操作を前提と する端末であれば、比較的大きな4〜5型程度のディスプレイを搭載す る可能性はある。このような端末ならば、「液晶パネルの画素数を高精\n細化してHDTV対応にできる」」との記載もある。(甲29・59頁) 原告は、情報処理・通信システムの考案及び開発を目的とする会社で あり、自ら実施品の製造販売をすることはせず、その発明を他社に許諾 し、これに対する実施料収入を得るという営業方針をとっているが、本 件発明については、実施許諾をした例はない。(弁論の全趣旨)
ウ これらの事情によれば、1)本件発明の技術分野においては、ライセンス 料率を0.5%ないし9.5%程度とする例はあるが、スマートフォンの ように多数の特許が関連する分野では、クロスライセンスによる場合に限 らず、特許1件当たりで計算した実施料率が、0.01%を下回ることも 通常であること、2)本件発明で実現される高解像度画像を外部出力する機 能は、携帯電話において早くから望まれていたものではあるが、被告製品\nのようなスマートフォンにおいては、当然に必須の機能であるとはいえず、\nその顧客に対する顧客吸引力は明らかとはいえないこと、3)原告は、その 保有する発明を他社に許諾し、その実施料収入を得るという営業方針をと っているものの、本件発明を実施するため、原告とライセンス契約を締結 した者はいないこと、以上の事情を認めることができる。 これらの事情を考慮すると、被告補助参加人の売上高に乗じる相当実施 料率は、侵害があったことを前提に通常の実施料率よりも自ずと高くなる ことをも十分考慮しても、0.01%の限度で認めるのが相当である。\nエ これに対し、原告は、被告補助参加人におけるライセンス例は、大部分 が一時金方式であり、ランニング方式よりも割安となっていることなど 種々の事情を指摘し、これを相当実施料率の認定の参考にすることを争う ものの、原告の指摘を踏まえても、業界における実施料の相場等として、 当該ライセンス例を上記の限度で参酌することまで妨げられるべきもので はなく、上記認定を左右するに至らない。 また、原告は、本件発明には代替技術がなかったと主張するが、これを 認めるに足りる証拠はないほか、原告は、本件発明を代替するには、24 00円程度の部品(甲31)を追加する必要があったとも主張するが、当 該部品は、本件発明に係る機能のみを実現するものとは認められず、その\n2400円というのも「サンプル価格」にすぎず、いずれも、上記の結論 を左右するものとはいえない。

◆判決本文

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令和4(ワ)3374  特許権侵害行為差止等請求事件(承継参加)  特許権  民事訴訟 令和4年6月20日  大阪地方裁判所

 技術的範囲に属しない、さらに、乙36発明から新規性がないと判断されました。前者については原告被告の双方から実験結果が提出されており、被告のものが採用されました。

このように、甲6食品実験等と乙12実験等の結果は異なっているところ、 前記2(1)において認定したとおり、主たる青色光源であるLED5)が青色 発光するのは、パーシャル室を(チルドではなく)微凍結パーシャル状態と し、かつオート急冷中のときであって、この場合、パーシャル室内は約−3度 から約−1度に保たれることになるから、乙12ないし乙15の各実験の結 果にみられるとおり、培地の一部や豚肉が凍結していたとする結果と整合的 に理解できるものであり、乙12、13実験における黄色ブドウ球菌や枯草 菌のコロニーが見られなかったという結果も、黄色ブドウ球菌の一般的な増 殖可能温度域は5〜47.8度(至適増殖温度は30〜37度)であり、枯\n草菌の一般的な増殖可能温度域は5〜55度(最適発育温度帯は20〜4\n5度)であること(乙12、13に添付の参考資料)と矛盾なく理解するこ とができる。
これに対し、甲6実験等は、そもそも本件製品の冷蔵室やパーシャル室内 の温度設定ないし機能設定が明らかでない上、甲15食品実験及び甲15培\n地実験にあっては、試料設置後、冷蔵室扉を封印したというのであるから、 青色光の照射時間は扉の開閉を所定時間行った乙12実験等におけるもの よりも短いものと推認されるのに、青色光照射区で有意に細菌の生長が抑制 されていると評価されて結果が報告されるなどしており、本件製品の冷蔵室 内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長を抑制する効果があるかを判 定するについての実験条件の統制が的確に取れていたのかについて大きな 疑義を生じさせるものというべきである。 以上によると、本件製品の冷蔵室内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の 生長を抑制する効果があるかを判定するについては、甲6食品実験等を採用 することはできず、乙12実験等によるべきである。 そして、乙12、13実験等によると、そもそも本件製品において青色L EDが発光する状態となったパーシャル室内では、黄色ブドウ球菌及び枯草 菌は遮光の有無にかかわらず生長しないことが認められ、乙15実験の結果 によると、豚肉中の細菌量が6つに分けた各試料でおおむね一定であり、ま た結果の判定につき(本件測定器具の精度については議論があるものの)精 度が十分で誤差がないと仮定すると、青色光の照射を受けた豚肉よりも青色\n光の照射を受けなかった豚肉の方が3日後の細菌数が少ないものもあると いう結果も見て取れる。加えて、そもそも本件製品が食品等に照射する光の 強度(光量子束密度)は、白色光等他の波長域の光も含めて最大7μE/m2/s 程度であって(乙8)、この光は冷蔵庫の扉が開いたときに照射されるが、通 常の用法において冷蔵庫の扉を開けるのは短時間にとどまることからする と、本件明細書の実施例等で示される光の強度や照射時間と対比するとごく わずかにすぎないと見込まれること、そもそも冷蔵庫は、一般常識に照らし、 庫内の食品を微生物の活動が抑制される程度の低温に保つことで食品を保 存する機器であることを併せ考えると、本件製品において、LED4)や同5) の青色光の照射が、黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長が抑制されることに影響 を与えているとは認められないというべきである。
(4) まとめ
以上によると、本件製品が、青色光の照射により枯草菌、黄色ブドウ球菌等 の微生物の生長を抑制しているとは認められず、他に、前記(2)の本件製品の 使用方法による青色光の照射の影響によって微生物の生長が抑制されている こと(光の照射と微生物の生長抑制させることとの間に直接的な関連性がある こと)を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件製品の使用方法は、「光 の照射下で」(構成要件B)を充足せず、本件発明の技術的範囲に属しない。\n争点1についての原告の主張(請求原因)は、理由がない。
・・・
(1) 当裁判所は、前記2のとおり、本件製品の使用方法は、本件発明の技術的範 囲に属しないと判断するが、さらに、本件特許は、少なくとも新規性が欠如し ているから特許無効審判により無効にされるべきものと判断する。以下、事案 に鑑み、争点3−7(乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の有無) を検討する。
・・・・
これに対し、原告は、乙36公報に記載された「FL-40SB(東芝電気(株))」 は、混在する光を発することを指摘して、乙36公報には青色光に着目した 記載はないから、「およそ400nm から490nm までの光波長領域にある光 の照射下で培養して、この微生物の生長を抑制させる」こと(構成要件B)\nは開示されていない旨や、近紫外線が必須の構成となっていることを主張す\nる。 しかし、前記(2)によれば、乙36公報の特許請求の範囲第2項は「500 nm から近紫外線の波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線」を微生物 に照射することを明示しており、また乙36公報に記載の発明は、「従来の 殺菌及び滅菌方法では、対象菌体のみならず、人体、家畜類及び各種製品を 損傷させるという弊害があり、これらの弊害なく簡便な菌体の繁殖抑制方法」 を課題とし、この課題の解決手段として、「微生物に少くとも500nm から 近紫外線の波長域に含まれる光線を照射することにより、微生物の繁殖を抑 制する」方法を開示したものである。また、「近紫外線」の意義については 「本発明における「近紫外線」とは、(中略)更に好ましくは、360nm か ら400nm の波長域に含まれる光線を意味する。」とされ、400nm にごく 近い波長の光線が好ましい近紫外線に含まれていることが前提となってい るし、光源−2についてはおよそ400nm〜500nm で発光する蛍光灯であ ることがその定義及び分光エネルギー分布図によって明らかである。そして、 実施例−11にあっては、枯草菌に前記光源−2を照射した結果、他の波長 の光源とは有意に異なる微生物の生長抑制効果があったことが記載されて いる。このような開示がされている乙36公報に接した当業者は、波長が400 nm〜500nm の範囲の青色光が微生物のうち枯草菌の繁殖を抑制するとす る乙36発明が開示されていると容易に理解し得るものである。

◆判決本文

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令和3(ネ)10102 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年6月8日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審は、発明の技術的意義から、用語を解釈し、技術的範囲に属しないと判断しました。知財高裁も同様です。特許訴訟事件にしては、1審の判決から約半年で判決がなされています。新たな争点がなかったのかもしれません。

 当裁判所も、被告各製品は本件各発明の構成要件1E4)等をいずれも充足し ないものであるから、本件各発明の技術的範囲に属せず、したがって、その余 の点について判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がないものと 判断する。
その理由は、後記1のとおり原判決を補正し、後記2に当審における当事者 の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第4の 1及び2に記載されたとおりであるから、これを引用する。
・・・
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 控訴人は、前記第2の5(1)アのとおり、本件各発明の「係止片」は、1)片 状の部材であり、2)針ハブに向かって傾斜した内側面を有し、3)大径部に円 筒状部と一体形成され、4)小径部側には設けられていないものをいうから、 上記構成要素から特定される形状を有しない係止片が小径部側に設けられて\nいても構成要件1E4)等の充足を左右しない旨主張しており、同イ及びウの 主張もこのような理解を前提とするものである。
しかしながら、引用に係る原判決第4の1(1)エ(補正後のもの)のとおり、 本件各発明の技術的意義及び出願経過からみて、針先の再露出を防止する機 能を有する係止片は小径部側には設けられていないこととされている(係止\n片が小径部側に設けられていないことに特有の技術的意義がある。)と理解 するのが相当であり、したがって、小径部に設けられることで構成要件1E\n4)等の充足が妨げられる係止片は、その形状を問われないものというべきで あるから、針先の再露出を防止する機能を有する係止片が小径部側に存する\nことは、対象製品が構成要件1E4)等を充足することを妨げるものである。 さらに、控訴人は、「係止片」という用語を使用している以上、「片」とは その名が示すとおり「片」(へん)状の部材であるから、「係止片」とは「片 状(へんじょう)の部材」を指すものである旨主張するところ、確かに、控 訴人は、本件補正により「係止部」を「係止片」と改めたものではあるが、 上記のような本件各発明の技術的意義及び出願経過からすれば、充足性の判 断に当たり、針先の再露出を防止するために小径部に設けられる係止部材を 片状のものに限定する意義は見いだせない。以上によれば、控訴人の上記主張は、いずれも採用することができない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和1(ワ)8905

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令和3(ネ)10022  特許権侵害に基づく不当利得返還等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。1審では侵害として約10億円の損害賠償が認められましたが、知財高裁(3部)は非侵害と認定しました。ちみなに原告は1審2審とも、均等主張はしていません。

 一審原告は,本件各発明は「ユーザの発信地域ごとに異なるWebデー タの送信が可能なWebページ閲覧システムを提供することを目的とす\nる」(本件明細書等の段落【0013】)ことから,この目的を達成する ための地域判別の原理は,回線網の敷設地域とISPのサーバが保有する 一群のIPアドレスとの一定の対応関係の存在を利用したものであるとし て(原判決「事実及び理由」第3の1(原告の主張)(2)〔原判決12 頁〕),「アクセスポイントに対応する地域」等の解釈として,第一義的 には,「ユーザ端末に割り当てたIPアドレスを所持しているアクセスポ イントに通常アクセスするユーザの地域」と解釈すべきであり,「IPア ドレスを割り当てるアクセスポイントが利用している物理的回線網等の敷 設範囲に相当する地域」も同義であると主張し,また,本件各発明は,設 置場所に対応する地域がユーザ端末の存在する地域と対応することに基づ いて,その地域に関連する情報を提供するというエリアターゲティングを 目的とする発明であるから,そもそも,アクセスポイントの「設置場所」 といった地点を判別する意味はなく,「アクセスポイントの設置場所」 (アクセスポイントが属する地域)を判別するステップを介するかどうか を問題とすること自体が誤りであると主張する(原判決「事実及び理由」 第3の1(原告の主張)(5)ア(ア)〔原判決16頁〕)。
しかしながら,特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づい て定めなければならず,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細 書及び図面を考慮して解釈すべきであるところ(特許法70条1項・2 項),構成要件1B2等において「判別」の対象となっているのは文言上\nあくまで「アクセスポイントが属する地域」であるから,本件特許請求の 範囲の用語の意義としてアクセスポイントの設置場所を無視することはで きない。また,本件明細書等の記載を考慮すると,本件各発明は,ダイヤ ルアップ接続を前提として,ユーザ端末がアクセスポイントの設置された 地点の近傍に所在する蓋然性が高いという経験則を利用して,そのアクセ スポイントの設置場所の近傍をユーザが所在する地域と想定することによ って,ユーザの所在する地域に対応した地域情報をある程度の確率で提供 することができるという技術的思想に基づくものであること,したがって, 「アクセスポイントに対応する地域」等は「アクセスポイントの設置され ている地点とその近傍の一定の地域」と解釈されるべきことは前記⑴のと おりであるから,まさにアクセスポイントの設置場所を判別することに意 味があるのであって,一審原告の上記主張は採用することができない。 そして,このことは,本件特許の出願経過からも明らかである。すなわ ち,本件特許の出願経過は原判決「事実及び理由」第2の2(2)イ記載のと おりであるが,一審原告は,出願経過中の本件補正により,「IPアドレ スと地域とが対応したIPアドレス対地域データベース」を「IPアドレ スとアクセスポイントに対応する地域とが対応したIPアドレス対地域デ ータベース」とし,さらに「IPアドレスが属する地域」を「IPアドレ スを所有するアクセスポイントが属する地域」(甲12の13)として, 自ら「アクセスポイントが対応する」及び「アクセスポイントが属する」 をあえて付加している。そして,一審原告は,意見書(甲12の14)に おいて,「アクセスポイントが属する地域を判別することについて は,・・・ユーザの発信地域は,ユーザ端末101aがアクセスポイント 109aに接続しているため,正確にはアクセスポイント109aに対応 する地域である」と説明し,さらに,本件拒絶査定不服審判における審判 請求書(甲12の16)において,「・・・,IPアドレス対地域データ ベースにおいてはIPアドレス毎にアクセスポイントが設置された地域, 例えば県や市,さらには市よりも狭い地域を対応付けておくことによって, ユーザ端末が接続しているアクセスポイントの属する地域から,ユーザ端 末の地域を県単位,市単位または市よりも狭い地域単位で判別することが できるという顕著な効果を奏します」と述べている。このように,一審原 告自らが「アクセスポイントに対応する地域」等の解釈につき,IPアド レス毎にアクセスポイントが設置された地域を対応付けることを意味する ものと主張していたものである。
さらに,一審原告が主張するところの「アクセスポイントに通常アクセ スするユーザの地域」とか「アクセスポイントが利用している物理的回線 網等の敷設範囲に相当する地域」は,そもそもどのような範囲を意味する のか必ずしも明らかではないが(特に「物理的回線網の敷設範囲」という 用語は本件明細書等にはない用語であり,ダイヤルアップ接続を前提とす ると,ダイヤルアップ接続においてユーザは世界中のどのアクセスポイン トへも接続が可能であるから,「物理的回線網の敷設範囲」という限定の\n仕方はアクセスポイントの地域を限定する意味を持たないと解される。), 一審原告の主張から推測するに,NTT東西が構築した地域IP網を念頭\nに置いて,地域IP網を経由する接続においては,ダイヤルアップ接続と は異なり,アクセスポイントは各地域IP網エリア単位で固定されていて, ユーザがアクセスポイントを選択することができないことから,アクセス ポイントが設置されている場所がどこであるかにかかわらず,「アクセス ポイントの属する地域」を「アクセスポイントに通常アクセスするユーザ の地域」又は「アクセスポイントが利用している物理的回線網等の敷設範 囲に相当する地域」と解釈しているものと推認される。しかしながら,前 記1(2)イのとおり,そもそも「地域IP網」が現れたのは,平成11年以 降のことであり,本件特許出願時(平成10年6月26日)には存在しな い仕組みであって,出願当時に存在した技術常識ともいえず,当然,本件 明細書等には記載も示唆もされていない。したがって,特許請求の範囲に 記載された用語の意義を解釈するに当たり,上記事実を参酌することはで きないというべきである。 この点に関して一審原告は,本件各発明は,実施例にあるダイヤルアッ プ接続に限定されるものではなく,地域IP網経由の接続も含むものであ る旨主張する。
しかしながら,本件明細書等には,「・・・もちろん,ユーザの発信地 域以外の地域の情報を閲覧したい場合には,ユーザが発信地域以外の地域 のアクセスポイントに接続するか,従来と同じ方法を用いて従来と同じ方 法を用いて選択すればよいことはいうまでもない。」(段落【003 8】)と記載されているところ,この記載は,ユーザが任意の地域のアク セスポイントを選択して接続することを意味するものであって,このよう なアクセスポイントのユーザによる選択はダイヤルアップ接続では可能で\nあるもの,地域IP網経由の接続では通常は想定されていないものである。 そうすると,本件特許の技術的範囲を,地域IP網経由の接続を前提とす る事項まで拡大することは,本件明細書等に開示された技術的範囲を逸脱 することになるというべきである。本件各発明がダイヤルアップ接続を前 提としているという解釈は実施例に限定した解釈ではない。 いずれにしても,上記「アクセスポイントに通常アクセスするユーザの 地域」とか「アクセスポイントが利用している物理的回線網等の敷設範囲 に相当する地域」との解釈は,本件特許請求の範囲の記載からかけ離れた 解釈であり,採用することはできない。

◆判決本文

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令和2(ワ)3297  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月22日  大阪地方裁判所

 訂正後の特許発明について、技術的範囲に属すると判断されましたが、拡大先願違反(特29-2)の無効理由があるとして、権利行使不能(特104-3)と判断されました。

 前記(ア)及び(イ)の「収納」の字義、本件訂正後発明1に係る請求項の記載 内容に照らすと、ケーシングに「収納」するとは、長尺部材の全部がケーシング 内に完全に収まることを要するものではなく、ケーシングと長尺部材の位置関係 として、ケーシングにしまわれている状態(整然と入れられた状態)を意味し、 少なくとも、ケーシングの開口部を含めたケーシングの内部に長尺部材の大部分 が入れられている状態はこれに当たると解するのが相当である。
(エ) 前記(1)のとおり、被告製品の押さえローラーは、マグネットスクリーン シートの巻き出し及び巻き取りのための開口部付近に、同シートと接するように 配置されている。また、別紙「写真目録」の写真に示されるように、被告製品の 押さえローラーは、本体ケースの内側にその全部が収まっているものではないが、 キャップ(側板)に支持されており、その大部分が本体ケースに覆われているこ とから、構成要件 1D-1 のケーシングに相当する、本体ケース及びキャップにし まわれている状態であるといえる。 したがって、被告製品の押さえローラーは、本体ケース及びキャップに収納さ れていることから、被告製品は、構成要件 1D-1 を充足する。
イ 被告の主張について
(ア) 被告は、本件訂正後発明1において、長尺部材がケーシングの開口部の内 側に位置付けられるのは、スクリーンシートが長尺部材によって局所的に抑え込 まれ、シート全体に張力を与えて端部(特に長手端部)までピンと張った状態で スクリーンシートを設置面に展張保持できるようにすることを実現するための ものであるところ、長尺部材がケーシングの縁どりから外側に突出していると、 その作用効果が阻害される旨を主張する。
そこで、長尺部材の技術的意義について検討する。本件訂正後発明1は、マグ ネットスクリーン装置に関する発明であるところ、従来のマグネットスクリーン 装置には、使用に際して巻き出されたスクリーンシートを設置面に展張保持した 際に“カール”と呼ばれる現象、すなわち、非使用時のスクリーンシートの巻回 形態が“くせ”として残り、巻き出し後も依然として反映される現象が生じ、か かるカールによってプロジェクターから投影される像を所望に映し出すことが できない技術的課題があった(【0005】〜【0007】)。これに対し、本件訂正後 発明1は、非使用時ではマグネット面が投影面に対して相対的に内側となるよう にスクリーンシートがロール部材に巻き取られている構成にすることによって\n(【0009】)、スクリーンシートを巻き出した際、そのシート長手端部では局所 的に湾曲しようとする力が働くものの、その湾曲方向は設置面側となっており、 スクリーンシートが設置面にむしろ貼り付くように作用し、ロール部材に巻かれ\nていた時の“くせ”をスクリーンシートが有する場合であったとしても、それは 設置面に貼り付くように好適に作用するので、スクリーンシートを“カール”の\n発生なく展張保持することを可能とした(【0019】)。一方、かかる構成にする\nことによって、スクリーンシートの巻出し又は巻取りがロール部材の“設置面遠 位側”からなされることになるから(【0036、図6】)、スクリーンシートが設 置面から浮き上がる方向に作用する。すなわち、ロール部材におけるスクリーン シート巻き出しポイント又はスクリーンシート巻き取りポイント(図7。長尺部 材を設けない場合において、スクリーンシートを巻き出し又は巻き取った際のス クリーンシートとロール部材の離別箇所又は接触箇所)がロール部材の上側半分 に位置付けられることとなる(【0037】、【0038】)。そこで、長尺部材は、使 用に際して「巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートと接するように」、 「開口部に位置付けられ」、「設置面に対して相対的に近い側に位置付けられる ロール部材の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」(構成要件 1D-4)ることに より、スクリーンシートを投影面側から設置面側に向かって局所的に抑え込む機 能を有するものである(【0030】、【0048】)。長尺部材が前記機能を発揮する\nためには、長尺部材がない場合にスクリーンシートが自重や磁着力等により設置 面に自然に接する地点よりもロール部材側でスクリーンシートに接する地点に 存すれば足りるといえる。そうすると、長尺部材の技術的意義からみた場合、必 ずしも、長尺部材はケーシングの内側に完全に位置する必要まではないと解する のが相当である。加えて、本件明細書1において、「展張保持」は、スクリーン シートを広げた状態の維持という意で使用されており(【0003】、【0005】、【0019】等)、シート全体に張力を与えながらスクリーンシートを張る作業自体を指すも のではないし、同作業を経て張られた状態を指すものでもない。したがって、長 尺部材の技術的意義から、「収納」の意義について長尺部材が必然的にケーシン グの完全な内側に位置づけられることを示すものと解することはできない。 また、被告は、本件明細書1には、「本発明のマグネットスクリーン装置10 0では、スクリーンシート10、ロール部材20および長尺部材30がケーシン グ40内に収納されている。より具体的には、ロール部材20に対して巻回保持 されたスクリーンシート1がケーシング40の内部に収められており、かかる巻 回状態のスクリーンシート10に隣接して長尺部材30も同様にケーシング4 0内に収められている。」(【0044】)との記載がある旨も指摘する。しかし、 これは、本件特許1に係る発明のスクリーン装置の具体化態様に関するものであ るから(【0042】)、当該記載があるからといって、「収納」の意義が「内部に 収められていること」に限定されることにはならない。
(イ) 被告は、被告製品において、キャップは「ケーシング」を構成しないこと、\n仮にキャップが「ケーシング」を構成するとしても、被告製品は、キャップの縁\nどりとケーシングの縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラ\nーの半分以上がはみ出した構造であるから、いずれにしても押さえローラーはこ\nれらに「収納」されていない旨を主張する。 確かに、本件明細書1では、「ケーシング40が「第1サブ・ケーシング40 A」と「第2サブ・ケーシング40B」とから構成されている」(【0044】)と 記載されており、ケーシング40の側面を覆う部材がケーシングに含まれること は明記されていない。しかし、一方で、本件明細書1において、「ロール部材2 0は、その端部がケーシングの内壁に取り付けられており」(【0046】)、「ケ ーシングに取り付けられた突起具48」(【0058】)などとされており、ケーシ ング40の側面を覆う部材がケーシングを構成することを前提とした記載がな\nされている。また、本件訂正後発明1に係る請求項1は、ケーシングに関し、「ス クリーンシート、ロール部材及び長尺部材を収納するケーシングを更に有して成 り、」、「ケーシングはスクリーンシートの巻き出しおよび巻き取りのための開 口部を有し、」と記載されているに留まり、開口部を有することを除いて、ケー シングの意義について特段の限定を加えるものではない。そうすると、本件訂正 後発明1において、ケーシングとは、スクリーンシート等の部材を外側から覆う 部材であると解するのが相当であり、このうち側面部分についてのみケーシング から除外するべき理由はない。
また、被告は、被告製品を設置面側から観察することを前提として(別紙「写 真目録」の写真4参照)、被告製品について、キャップの縁どりとケーシングの 縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラーの半分以上がはみ\n出した構造である旨を主張するものと解されるが、同目録の写真1ないし3から\nすると、被告製品の押さえローラーはケーシング(本体ケース及びキャップを含 む。)の開口部を含めたケーシングの内部に大部分が入れられているものと認め られ、ケーシングにしまわれている状態にあるといえる。押さえローラーがケー シングにしまわれている状態か否かは、投影面側又は設置状態における側面側を 含む被告製品の全体を観察して判断すべきであって、使用状態において視認され ない設置面側からの観察に限定すれば押さえローラーがケーシングから多くは み出しているように見えるからといって、ケーシングにしまわれている状態にな いと判断する合理的理由はない。
・・・
(3)ア 本件訂正後発明1と引用発明1−1とを比較すると、引用発明1−1 の 1a〜1e の各構成は、本件訂正後発明1の各構\成要件とそれぞれ一致するもの と認められる。
イ これに対し、原告は、引用発明1−1においては、開口部からスクリーン 本体4を巻き出す又は巻き取る際には、スムーズな巻き出し又は巻き取りを可能\nにし、スクリーンシートを傷付けることを防止するために押さえ部5を、敢えて、 被磁着体90から離した態様(第1配置態様)で行うものであって、押さえ部5 を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体4を巻き出す又は巻き取る という技術的思想はないことを指摘し、1)本件訂正後発明1では、長尺部材が「非 使用時並びに巻き出し時及び巻き取り時において、ケーシングに収納されて」(構\n成要件 1D-1)いるのに対し、引用発明1−1においては、押さえ部5が収納ケー ス2に「収納」されていない、2)本件訂正後発明1では、長尺部材が「ロール部 材の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」(構成要件 1D-4)ているのに対し、 引用発明1−1においては、押さえ部5は巻取りロール3の下側ロール胴部分に 隣接した位置から離れないよう設置されているものではないとして、引用発明1 −1は、本件訂正後発明1の構成要件 1D-1 及び 1D-4 において相違する旨を主張 する。
しかし、乙10公報記載の特許請求の範囲請求項2において、「押さえ部」は、 「前記張設されたスクリーン本体における前記巻取りロールに近接した部位を ・・・被磁着体側に向けて押さえ付け得るものとなされている」ところ、同請求項2 では、「前記収納ケースに取り付けられた押さえ部と、を備え」と特定されてい るに留まり、収納ケースに対し押さえ部が可動か否かについては記載されていな い。一方、同請求項2に従属する乙10公報記載の特許請求の範囲請求項3では、 「前記押さえ部は、前記収納ケースに対し移動可能に取り付けられ」と押さえ部\nが可動であることが明記されている。また、乙10公報には、請求項2の発明の 効果として、押さえ部によって、巻取りロールに近接した部位をも被磁着体に磁 着させた状態でスクリーン本体を張設することができ、張設されたスクリーン本 体のスクリーン層の略全面を有効面として使用することができる旨が記載され ている(【0019】)一方、請求項3の発明の効果として、収納ケースに対し移動 可能に取り付けられた押さえ部を移動させ、被磁着体から離れた第1配置態様に\nすることで、スクリーン本体の引き出し操作、巻き取り操作をスムーズに行うこ とができ、被磁着体に近接した第2配置態様にすることで、スクリーン本体にお ける巻取りロールに近接した部位を幅全体にわたって被磁着体側に向けて押さ え付けることができる旨が記載されている(【0020】)。これらの乙10公報の 記載内容に照らすと、引用発明1−1において、押さえ部は、スクリーン本体の 巻取りロールに近接した部位をも被磁着体側に向けて押さえ付けるとの機能を\n有し、被磁着体に磁着させた状態で張設されたスクリーン本体の略全面を有効面 として使用することができるとの効果を奏するものとされるのであるから、引用 発明1−1には、押さえ部5を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体 4を巻き出す又は巻き取るという技術思想が表れているといえるし、また、乙1\n0公報記載の特許請求の範囲請求項2には、押さえ部が移動可能でないものが含\nまれると解するのが相当である。そして、乙10公報の図1、2からすると、押 さえ部5を移動可能でないものとした場合において、押さえ部は収納ケース2に\n収納されているものと認められる。なお、乙10公報上、実施形態や他の実施形 態では、収納ケース又はケース本体に対して押さえ部又は可動体の先端部が可動 なもののみが記載されているが(【0029】)、請求項2との関係においては、付 加的な効果を奏する実施例の一つにすぎず、前記認定を左右するものではない。 以上によれば、引用発明1−1において、押さえ部5が収納ケース2に収納さ れる構成、及び、押さえ部5が巻取ロール3の下側ロール胴部分に隣接した位置\nに固定して設置された構成を有するものと認められ、本件訂正後発明1の構\成要 件 1D-1 及び 1D-4 と一致する。

◆判決本文

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平成30(ネ)10034  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は技術的範囲に属しないと判断しました。控訴人は均等侵害を追加主張しましたが、知財高裁は均等侵害を検討するまでもなく、技術的範囲に属するとして、約8900万円の損害を認定しました。計算は1項と3項の合算が、2項の侵害よりも多いとしてそちらが採用されています。

上記の各種実験結果によると、被告製品は、長時間の塩水噴霧試験(乙 14実験)、試験紙を用いた湿気の流入実験(乙19実験、乙20実験) の結果からすると、端部部材だけで外部雰囲気(湿気や水等の流体物) の流入を遮断するものとはいえないが、同じ場所に10数滴の液体を滴 下したり(乙15実験の第2実験)、連続して液体を注入したり(甲4 9実験の実験2)、液体を滴下後に強い衝撃を加える(乙15実験の第 3実験、甲49実験の実験3)といった条件がない限り、少量の水滴を 滴下した実験では、端部部材だけでも液体の流入は抑制されており(甲 33実験、甲49実験の実験1)、また、湿気の流入も短時間であれば 抑制されている(甲58実験の試験1及び試験2)ことからすると、被 告製品の端部部材は外部雰囲気(湿気や水等)の進入を抑制するものと いえる(なお、乙15実験の第1実験は、被告製品の端部部材及びOリ ングのみならず弁本体側のOリングも外しており、甲50実験の試験結 果からすると、上記認定を左右するものではなく、また、乙16実験は、 圧縮機の取付孔側面に穴を穿設しており、実験条件の前提が異なるため、 上記認定を左右するものではない。)。
また、乙1実験、乙14実験、甲49実験、甲58実験、乙19実験 及び乙20実験の試験結果によれば、端部部材とシール部材(Oリング) を備えた被告製品においては、外部雰囲気(湿気や水等)の流入が完全 に抑制されていることが認められる。 そうすると、被告製品は、端部部材(H)をボディ の上部側の開口部 に嵌合させることにより外部雰囲気の流入を抑制し、シール部材 の構\n成を備えることにより、ボディ と取付孔の間を密封して外部雰囲気の 流入をより抑制する効果を奏するものであるから、被告製品は、構成要\n件B6の「『密封』嵌合」の文言も充足する。 したがって、被告製品は、構成要件B6を充足する。\n
・・・
引用に係る原判決第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 のと おり、被告製品の構成につき、控訴人は、原判決別紙被告製品目録(原告)\n(以下「原告作成目録」という。)記載のとおりであると、被控訴人は、 同被告製品目録(被告)(以下「被告作成目録」という。)記載のとおり であるとそれぞれ主張する。原告作成目録の写真2と被告作成目録の写真 1がそれぞれ被告製品の外観形状を、原告作成目録の図1と被告作成目録 の写真2がそれぞれ同内部構造を明らかにするものであるところ、これら\nを対比すると、被告製品の構成部材の名称や配置についてはほぼ争いがな\nく、争いがあるのは、ソレノイドと弁本体の境界をどの部分と位置付ける\nかに関してのみであり、この点に関する当事者双方の主張は、上記原判決 第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 及び のとおりである。 そこで、原告作成目録の図1と被告作成目録の写真2を見ると、いずれ においても構成要件B8の「プランジャ」は「プランジャ 」、「バルブ」 は「弁本体(V)」、「ロッド」は「作動ロッド 」にそれぞれ当たり、「作 動ロッド 」は電磁コイル を含むボディ やシール部材 より下部まで 上下に可動する構成となっている。そして、前記アにおいて説示したとお\nり、ロッドは、本件発明におけるソレノイドの一部を構\成するものといえ るから、本件発明における「ソレノイド」部は、控訴人が主張するとおり、\n原告作成目録の図1の「ソレノイド 」の矢印で示される範囲までを指す ものと理解するのが相当である。そうすると、同図1のとおり、被告製品 におけるシール部材 は、本件発明との対比におけるソレノイド の部分 (ソレノイド の下端側である弁本体(V)側)の外周に設けられたもので あり、弁本体(V)からの流体の進入を防止するものであるといえる。
・・・
被告製品は、構成要件B6及びCを充足するものであり、その他の構\成要 件の充足性については引用に係る原判決の第2の2 のとおりであるから、 争点2(均等論)について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属 するものである。
・・・
被告製品の実施料率について判断する。 甲79報告書によれば、日本国内で特許出願を行った国内企業・団体 のうち上位となっている企業・団体(対象2031件)及び株式会社帝 国データバンク保有データ信用調査報告書ファイル(約143万社収録) の中からライセンス契約を実施していると判断できる企業(対象975 件)につき、重複データを削除した合計3006件を調査対象とし、平 成21年11月5日から平成22年2月15日までを調査対象期間とし て、技術分類別ロイヤルティ率のアンケート調査を実施した結果(有効 回答は563件)によると、本件発明に最も近い技術分野である「精密 機械」のロイヤルティ率は、最大値9.5%、最小値0.5%、平均値 3.5%であった(同報告書52頁)ことが認められる。また、同報告 書によると、実施料の決定要因の重要度としては、1)当事者におけるラ イセンスの必要性、2)ライセンス対象(特許権の評価)の重要度が高い ことが挙げられている。
なお、控訴人は、前記第2の4 ウ【控訴人の主張】 のとおり、平 成4年度から平成10年までのデータによる実施料率〔第5版〕データ や平成10年3月30日言渡しの別件判決の説示を基にした主張もする が、平成27年から平成30年までの間の実施料率を問題とする本件で は参考とならず、採用の限りではない。
本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合すると、本件 発明は、「ソレノイド」を備えた制御弁の発明であるが、その特徴的部\n分は、1)アッパーブレードの外側で取付孔に嵌合して取付孔の開口部を 塞ぐ端部部材と、2)取付孔と端部部材との間に配置されるシール部材の 2つの構成を採用したことにあり、これらの構\成によって、外部雰囲気 (湿気や水等の流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上\nさせるとともに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決め ができ、ボルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向 上するという効果を奏するものである。 これに対し、相手方ハウジング部材に取付孔を設けてこの部分に容量 制御弁を挿入するという技術は、本件発明の出願時には公知の技術であ る(乙8、9)。また、シール部材の配置については、原告製品2のよ うに、取付孔と端部部材の間のシール部材を設けることなく、腐食防止 のために鉄系材料にメッキを施して可変容量制御弁の耐久性を保つ代替 技術(従来技術。本件明細書の【0011】)があることから、ソレノ\nイドの耐食性の向上という観点からいえば、当事者のライセンスの必要 性の程度が高いとはいえず、特許としての重要度も高いとはいえない。 そして、被控訴人が●●●社向けに作成した、原告製品2との比較を 含む被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、重要設計項目 として、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●が 挙げられているように、弁本体の機能や動作性等が重視され、本件発明\nの上記特徴的部分については何ら言及されていないから、被告製品にお ける本件発明の実施の程度及びその価値は相対的に低いと言わざるを得 ない。
以上のような本件各事情を総合すると、前記 のとおり、控訴人と被 控訴人は、可変容量制御弁の分野では国際的にシェアを分かち合う競業 関係にあるといった事情を考慮しても、被告製品における本件特許の実 施料率は2%程度であると認めるのが相当である。 ウ ところで、前記 アのとおり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の共 有関係にあり、その持分割合について両社で特段の合意がされたと認める に足りないから、民法250条により共有持分は相等しい割合に推定され る。 そうすると、特許法102条3項による損害は、以下の計算式のとおり、 ●●●●●円であると認定するのが相当である。
[計算式] ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
特許法102条1項による損害について
・・・
c 原告製品2の限界利益額に関する覆滅事由について
前記3 イ のとおり、本件発明は、「ソレノイド」を備えた制御\n弁の発明であるが、その特徴的部分は、1)アッパープレートの外側で 取付孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材と、 2)取付孔と端部部材の間に配置されるシール部材の2つの構成を採用\nしたことにあり、これらの構成によって、外部雰囲気(湿気や水等の\n流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上させるととも\nに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボ ルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向上すると いう効果を奏するものである。
前記 ウ のとおり、原告製品2は、取付性の向上及び端部部材に よる外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入の抑制といった本件発明 の作用効果を備えているといえるが、アッパープレードの外側で取付 孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備え ている(上記1)を備える。)ものの、端部部材と取付孔との間のシー ル部材(Oリング)を備えておらず(上記2)を備えておらず)、腐食 防止のために鉄系材料にメッキを施している。また、原告製品2は、 自動車に搭載するソレノイドを有する可変容量コンプレッサ制御弁で\nある以上、自動車メーカーとしては、外部雰囲気の進入の抑制という よりは、原告製品2の制御弁としての機能及び動作性に最も着目する\nものといえる。 このように、原告製品2は、本件発明の従来技術の課題とされてい る、耐食性を必要とする構成部材にメッキ処理を施したものであるこ\nとや、原告製品2は可変容量コンプレッサ容量制御弁であって、制御 弁としての機能及び動作性の点に強い顧客吸引力があるといえるから、\n原告製品2の販売によって得られる限界利益の全額を控訴人の逸失利 益と認めるのは相当ではないところ、原告製品2が備える機能等や顧\n客誘引力等の本件諸事情を総合考慮すると、事実上推定される限界利 益の全額から95%の覆滅を認めるのが相当である。
・・・
エ 控訴人が販売することができないとする事情
特許法102条1項1号に規定するところの侵害品の譲渡数量の全部又 は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事 情は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少と相当因果関係を阻害する 事情であり、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存 在すること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵害者 の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、4)侵害品及び特許権者の製品の機 能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在すること等の事 情がこれに該当するというべきである(前掲知財高裁大合議判決)。 以下これを前提として検討する。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 aのとおり、被控訴人は、「販 売することができない事情」として、●●●社の前身である●●●社及 び同社が買収した●社と被控訴人との間では、長年の取引関係があり、 被控訴人は、こうした取引関係を通じて構築された信頼関係に基づいて、\n●●●社との間で年間●●●●個に及ぶ被告製品の取引を行ってきたが、 控訴人は、●●●社の事業領域については何らの商圏を有していなかっ たのであるから、容量制御弁を年間●●●●個生産する能力があるとし\nても、せいぜい従前●●●社に納入していた程度の数量である●●万個 程度の数量しか販売することができなかったというべきである旨主張す る。
確かに、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社及び●社、●● ●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等の点で表彰を受\nけるなど、一定の信頼関係を築いてきたこと(乙36ないし40)は認 められるものの、前記 カ及びキのとおり、●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●、こうした事情に照らせば、原告製品2 について本件侵害期間より前の期間に納入していた数量の限度でしか 販売することができなかったとはいえないから、被控訴人の上記主張は 理由がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 bのとおり、被控訴人は、「販 売することができない事情」として、●●●社は、防水手段についてメ ッキ処理で行うか、端部部材へのシール部材の装着で行うかについては 全く重視しておらず、被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると被控 訴人において認識すれば、「メッキ処理」に変更した代替品に転換する ことは容易に可能であったから、被告製品に代わって控訴人が原告製品\n2を納入することができるというものではない旨主張する。 しかし、「販売することができない事情」で考慮されるべき事情は、 本件侵害期間中に原告製品2を被告製品の販売個数では販売することが できなかった事情が問題となるのであって、被控訴人が主張する上記の ような仮定的事情はこれに当たらないから、被控訴人の上記主張は理由 がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 cないしeのとおり、被控訴 人は、「販売することができない事情」として、●●●社の購入動機や 信頼関係の存否等につき主張する。 そこで、検討するに、前記 キによれば、●●●●●●●●●●●● ●●●●●●被告製品を選択した理由の1つとして価格面を挙げている ことが認められる。実際、控訴人の担当部長が作成した報告書(甲67) の添付資料によると、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●ことが認められる。被告製品が原告製品2と比 較して価格面で有利であったという点は、本件侵害期間中における原告 製品2の販売個数に少なからず影響する事情であるということができる。 また、前記 のとおり、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社 及び●社、●●●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等 の点で表彰を受けるなど、サポート面や協力態勢の面で一定の信頼関係\nを築いてきており、実際のところ、●●●社が原告製品2から被告製品 に切り替えた理由の1つとして、被控訴人のサポート態勢等を挙げてい る。被控訴人が被告製品の販売個数を順調に維持することができた背景 には、こうした事情が影響しているものと認められるから、被控訴人と ●●●社との信頼関係の構築は、本件侵害期間中における原告製品2の\n販売個数に影響する事情であるといえる。 さらに、証拠(乙25、32、48)によれば、被控訴人は、原告製 品2と被告製品の起動性に関する対比実験を提示し(乙25)、●●● 社の仕様等に関する要望を受けて改良し、●●●社は、被告製品の制御 弁としての性能面を評価して被告製品を採用したことが認められるから、\nこうした事情は、本件侵害期間中において、被告製品の販売実績に相当 する原告製品2を販売し得たことを阻害する事情であるといえる。 以上で指摘した事情を総合考慮すると、侵害品である被告製品の譲渡 数量を控訴人が販売することができない事情に相当する数量は、譲渡数 量全体の2割であると認めるのが相当である。
・・・
なお、共有に係る特許権であっても、各共有者は、契約で別段の定めを した場合を除いて他の共有者の同意を得ることなく特許発明の実施をす ることができる(特許法73条2項。なお、本件では、控訴人が●●●● ●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証拠 はない。)ところ、特許法102条1項により算定される損害については、 侵害者による侵害組成物の譲渡数量に特許権者等がその侵害行為がなけ れば販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じて算出さ れる額には、特許権の非実施の共有者に係る侵害者による侵害組成物の譲 渡数量に応じた実施料相当額の損害が含まれるものではなく、その全部又 は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事 情にも当たらないから、後記の同条2項による損害の推定における場合と 異なり、非実施の共有者の実施料相当額を控除することもできない。
・・・
キ 特許法102条1項2号による実施料相当額ついて
前記エ のとおり、特許法102条1項1号の「その全部又は一部に相 当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができない とする事情」としては、侵害品である被告製品と原告製品2の価格差、被 控訴人によるサポート面や協力態勢の面で●●●社との間との一定の信 頼関係の構築、被告製品と原告製品2の性能\面の差異といった事情がある と認められる。
ところで、特許法102条1項2号は、括弧書で「特許権者・・・が、当該 特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許 諾・・・をし得たと認められない場合を除く。」と規定するところ、この括弧 書部分は、特定数量がある場合であってもライセンスをし得たとは認めら れないときは、その数量に応じた実施相当額を損害として合算しないこと を規定するものであると解される。 これを前提として本件についてみると、特許法102条1項1号に規定 する特定数量に該当するとされた事情は、上記のとおりであるところ、被 告製品と原告製品2の性能面の差異については、その性質上、控訴人が被\n控訴人にライセンスをし得たのに、その機会を失ったものとは認められな いが、被控訴人の営業努力等に関わる点については、本件発明の存在を前 提にした上でのものというべきであるから、控訴人が被控訴人にライセン スをし得たのに、その機会を失ったものといえる。 これらの事情を総合考慮すると、特定数量2割のうちライセンスの機会 を喪失したといえる数量は、その半分に当たる譲渡数量の1割とするのが 相当である。
また、前記 アのとおり、本件侵害期間中の被告製品の1個当たりの販 売価格は●●●●●●●円(本件侵害期間の総販売金額●●●●●●●● ●●●●●●●円を、同期間における総製造数●●●●●●●●個で割っ た額(乙23参照)。)であり、前記 イのとおり、被告製品の実施料率 は2%程度とするのが相当であり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の 共有関係にあることも前記認定事実のとおりである。 以上を前提とすると、特許法102条1項2号により算定される控訴人 の損害額は268万円と認められる。
・・・
特許法102条2項による損害について
ア 覆滅事由について
本件侵害期間中における月別の被告製品の生産個数及び売上高は当事者 間に争いがないが、控除すべき経費の範囲及びその額について争いがある。 ところで、特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1 項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵 害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事 情がこれに当たると解され、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様等に 相違があること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵 害者の営業努力、4)侵害品の性能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴) 等の事情がこれに当たり、また、特許発明が侵害品の一部分のみに実施さ れている場合には、この点も、推定覆滅の事情として考慮することができ るが、特許発明が侵害品の一部分のみに実施されていることから直ちに上 記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の 侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的 に考慮して決するのが相当である(知財高裁令和元年6月7日大合議判 決・判例時報2430号34頁以下参照)。 控訴人は、特許法102条2項による損害の算定に当たり、覆滅事由は ないと主張しているところ、被控訴人は、1項ただし書と同様の事由、す なわち、1)●●●社における事情、2)代替品の納入が可能であること、3) 原告製品2と被告製品の性能に本件発明以外に相違があること、4)被告製 品が原告製品2と比較して低価格であること、5)被控訴人の市場開発努力、 営業努力、販売力の事情を指摘して、覆滅事由を主張するので、この点に つき、まず検討を加える。
前記 エで説示したのと同様に、●●●社が原告製品2の供給を打ち切 って被告製品を採用したのは、被告製品が原告製品2と比較して価格面で 有利であったこと、被控訴人は、●●●社及びその前身の●●●社(●● ●社が買収した●社を含む。)と長年取引関係にあって信頼関係を醸成し ており、被告製品の販売個数を順調に伸ばしてきたのはこうした事情が背 景にあるものと推認されること、被控訴人は、原告製品2と被告製品の起 動性に関する対比実験を提示し、●●●社の仕様等の要望を受けて改良し たことにより、被告製品の採用に至ったものと認められる。
こうした被告製品の価格面での優位性、被控訴人の企業努力等の事情に 加えて、被告製品における本件発明が実施されている部分の位置付け、本 件発明の顧客吸引力等の事情についてみると、被告製品は容量制御弁であ り、ソレノイドの耐食性や取付容易性といった本件発明の特徴的部分もさ\nることながら、弁本体の機能がむしろ重要であり(被控訴人が●●●社向\nけに作成した被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、本件発 明の特徴的部分については何ら触れるところはないことは既に説示したと おりである。)、また、前記 イ のとおり、相手側ハウジング部材に取 付孔を設けてこの部分に容量制御弁を挿入するという技術は、本件発明の 出願時には公知の技術であり、密封構造に関しても、容量制御弁の高耐食\n性については、鉄製材料をメッキ処理するといった従来技術(代替技術) が存在していたことからすると、被告製品における本件発明の位置付けは 重要なものとはいえず、顧客吸引力も低いものと言わざるを得ない。 被控訴人の主張する覆滅事情は上記の限度で理由があり、これらの事情 を総合考慮すると、覆滅割合は9割とするのが相当である。
イ 本件特許が共有であることについて
本件特許権は、控訴人及び●●●●●●の共有に係るものであり、前 記 オで説示したとおり、●●●●●●は、少なくとも本件侵害期間中 において本件特許権を実施していない。 ところで、特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定 めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施 をすることができる(特許法73条2項)。本件では、控訴人が●●● ●●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証 拠はないから、本件特許権の共有者である控訴人は、共有持分割合に応 じて特許法102条2項により推定される損害の按分割合に応じた損害 賠償を請求することができるにすぎない旨の被控訴人の主張は理由がな い。
他方で、実施料に相当する損害は、特許権の実施の有無にかかわらず 請求することができるから、特許権を共有するがその特許を実施してい ない共有者であっても、その特許が侵害された場合には、特許法102 条3項により推定される実施料相当額の損害賠償を受けられる余地があ るところ、仮に、同条2項により推定される全額を共有に係る特許権を 実施する共有者の損害額であると推定されると、侵害者は実際に得た利 益以上に損害賠償の責めを負うことになることからすると、共有に係る 特許権を実施する共有者が同条2項に基づいて侵害者が得た利益を損害 として請求するときは、同条3項に基づいて推定される共有に係る特許 権を実施していない共有者の損害額は控除されるべきである。そして、 侵害に係る特許権が共有に係るものであるといった事情は、同条2項に より推定される損害の覆滅事情に当たるものであるから、侵害者がその 立証責任を負うというべきである。
次に、前記第2の4 イ【控訴人の主張】 のとおり、控訴人は、● ●●●●●が特許法102条3項に基づく損害賠償請求権について控訴 人が消滅時効を援用することにより、被控訴人は、控訴人に対して●● ●●●●の被控訴人に対する実施相当額を控除すべき旨を主張すること ができない旨主張する。 しかし、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権と、●●●●●● の被控訴人に対する損害賠償請求権は、いずれも金銭債権であって可分 であり、可分債権である●●●●●●の損害賠償請求権が時効により消 滅したからといってその損害賠償請求権があたかも復帰的に控訴人に帰 属したかのように控訴人がこれを行使することができるわけではないか ら、控訴人が●●●●●●の被控訴人に対して有する損害賠償請求権を 援用することができる正当な利益を有する者ではなく、控訴人の上記主 張は明らかに失当である。 もっとも、●●●●●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求 権が時効により消滅している場合には、被控訴人は、これを援用するこ とにより、その支払を免れることができるのであるから、いわゆる二重 払いにより、実際に得た利益以上に損害賠償の責めを負うことになるリ スクは生じないし、このような特殊事情がある場合にまで、特許権侵害 により得た利益の留保を被控訴人に許すことは、法の趣旨に照らし相当 とはいえないというべきである。
ウ 損害額の算定
前記アのとおり、特許法102条2項に基づき、被控訴人が特許権侵害 により受けた利益の額を算定するに当たり、控除すべき経費については前 記第2の4 イ のとおり当事者間に争いがあり、仮に、被控訴人が主張 するところの覆滅事由を考慮せずに控訴人が請求する●●●●●●●● ●●●円を前提としたとしても、前記アの覆滅割合(約90%)分を控除 すると、●●●●●円である。そうすると、前記イ のとおり、●●●● ●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求権が時効により消滅し ている場合には、その実施料相当額を覆滅事由として控除しないと解する 余地があるものの、このような場合を仮定しても、特許法102条2項に より算定される損害額は、上記●●●●●円を上回ることはない。
小括
以上によれば、特許法102条1項による損害額は●●●●●円であり、 同条2項による損害額は●●●●●円を上回ることはなく、同条3項による 損害額は●●●●●円であるから、特許法102条により算定される損害額 は●●●●●円をもって相当と認める。 また、控訴人は、本件において弁護士及び弁理士に委任して訴訟を遂行し ているところ、被控訴人による特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士 費用及び弁理士費用は、本件事案の性質及び内容、認容額、本件事案の難易 度等を考慮すると、●●●●●円とするのが相当である。 そうすると、本件特許権侵害による損害額は8920万円となる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29年(ワ)3569号
「密封嵌合」とは,「ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもた\nらすように外部雰囲気の進入を抑制させる程度に,端部材が取付孔に対してぴっちり と封をするように機械部品がはまり合う関係」を意味すると解されるところ,Oリン グ(シール部材(13))を外した被告製品が,取付孔内部への水分の進入を抑制する効果 があるとは認められないのであるから,被告製品の端部材(H)が取付孔に「密封嵌合」 しているとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告製品は,構成要件B6の「該アッパープレートの外側で前記取付\n孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」に係る構成を\n有しない。そうすると,被告製品は,その余の構成要件を検討するまでもなく,本件\n発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。

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令和1(ワ)25152  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月24日  東京地方裁判所

 ドワンゴvsFC2のコンピュータ関連発明の特許権侵害事件です。東京地裁29部は、海外サーバからの提供について、準拠法は認めたものの、被告システムは本件発明の技術的範囲に属するが、「生産」に該当しないとして、請求を棄却しました。 なお、国際裁判管轄については、被告FC2が争うことなく弁論をしてとして、日本の裁判所に管轄権を認めています。

2 争点1(準拠法)について
(1) 差止め及び除却等の請求について
特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法は、当該特許権が登録された 国の法律であると解すべきであるから(最高裁平成12年(受)第580同 14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)、本件の差止 め及び除却等の請求についても、本件特許権が登録された国の法律である日 本法が準拠法となる。
(2) 損害賠償請求について
特許権侵害を理由とする損害賠償請求については、特許権特有の問題では なく、財産権の侵害に対する民事上の救済の一環にほかならないから、法律 関係の性質は不法行為である(前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷 判決)。したがって、その準拠法については、通則法17条によるべきである から、「加害行為の結果が発生した地の法」となる。 原告の損害賠償請求は、被告らが、被告サービスにおいて日本国内の端末 に向けてファイルを配信したこと等によって、日本国特許である本件特許権 を侵害したことを理由とするものであり、その主張が認められる場合には、 権利侵害という結果は日本で発生したということができるから、上記損害賠 償請求に係る準拠法は日本法である。
・・・
前記(1)のとおり、被告システム1は、構成要件1Bないし1F及び1Hを\n充足し、前記前提事実(6)アのとおり、被告システム1が構成要件1A、1G\n及び1Iを充足することは、当事者間に争いがない。 そして、前記(2)のとおり、被告システム2及び3は、構成要件1Aないし\n1F及び1Hを充足し、前記前提事実(6)イのとおり、被告システム2及び3 が構成要件1G及び1Iを充足することは、当事者間に争いがない。\nしたがって、被告システムは本件発明1の技術的範囲に属するものと認め られる。
(2) 被告FC2による被告システムの「生産」の有無について
ア 本件発明1の関係での被告システム1(被告サービス1のFLASH版) の「生産」について
本件発明1の「実施」として被告FC2による被告システム1の「生産」 があるといえるかを、まず、被告サービス1のFLASH版について検討 する。
(ア) 物の発明の「実施」としての「生産」(特許法2条3項1号)とは、 発明の技術的範囲に属する「物」を新たに作り出す行為をいうと解され る。また、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められること を意味する属地主義の原則(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年 7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12 年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7 号1551頁参照)からは、上記「生産」は、日本国内におけるものに 限定されると解するのが相当である。したがって、上記の「生産」に当 たるためには、特許発明の構成要件の全てを満たす物が、日本国内にお\nいて新たに作り出されることが必要であると解すべきである。
(イ) 前記3(1)のとおり、被告システム1は、本件発明1の構成要件を全\nて充足し、その技術的範囲に属するものであって、被告システム1にお ける構成1aないし1iは、本件発明1の構\成要件1Aないし1Iにそ れぞれ相当する。 また、被告サービス1のFLASH版においてコメント付き動画を日 本国内のユーザ端末に表示させる手順は、前記(1)ウ(ア)のとおりであっ て、被告サービス1がその手順どおりに機能することによって、上記の\nとおり本件発明1の構成要件を全て充足するコメント配信システムであ\nる被告システム1が新たに作り出されるということができる。 そして、本件発明1のコメント配信システムは、「サーバ」と「これと ネットワークを介して接続された複数の端末装置」をその構成要素とす\nる物であるところ(構成要件1A)、被告システム1においては、日本国\n内のユーザ端末へのコメント付き動画を表示させる場合、上記の「これ\nとネットワークを介して接続された複数の端末装置」は、日本国内に存 在しているものといえる。
他方で、前記3(2)アによれば、本件発明1における「サーバ」(構成\n要件1A等)とは、視聴中のユーザからのコメントを受信する機能を有\nするとともに(構成要件1B)、端末装置に「動画」及び「コメント情報」\nを送信する機能(構\成要件1C)を有するものであるところ、これに該 当する被告FC2が管理する前記(1)ウ(ア)の動画配信用サーバ及びコメ ント配信用サーバは、前記(1)イ(ア)のとおり、令和元年5月17日以降 の時期において、いずれも米国内に存在しており、日本国内に存在して いるものとは認められない。
そうすると、被告サービス1により日本国内のユーザ端末へのコメン ト付き動画を表示させる場合、被告サービス1が前記(1)ウ(ア)の手順ど おりに機能することによって、本件発明1の構\成要件を全て充足するコ メント配信システムが新たに作り出されるとしても、それは、米国内に 存在する動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバと日本国内に存在 するユーザ端末とを構成要素とするコメント配信システム(被告システ\nム1)が作り出されるものである。
したがって、完成した被告システム1のうち日本国内の構成要素であ\nるユーザ端末のみでは本件発明1の全ての構成要件を充足しないことに\nなるから、直ちには、本件発明1の対象となる「物」である「コメント 配信システム」が日本国内において「生産」されていると認めることが できない。
(ウ) 原告は、被告システム1では、多数のユーザ端末は日本国内に存在し ているから、被告システム1の大部分は日本国内に存在している、被告 FC2が管理するサーバが国外に存在するとしても、「生産」行為が国外 の行為により開始されるということを意味するだけで、「生産」行為の大 部分は日本国内で行われている、本件発明1において重要な構成要件1\nHに対応する被告システム1の構成1hは国内で実現されている、被告\nシステム1については「生産」という実施行為が全体として見て日本国 内で行われているのと同視し得るにもかかわらず、被告らが単にサーバ を国外に設置することで日本の特許権侵害を免れられるという結論とな るのは著しく妥当性を欠くなどとして、被告システム1は、量的に見て も、質的に見ても、その大部分は日本国内に作り出される「物」であり、 被告らによる「生産」は日本国内において行われていると評価すること ができると主張する。
しかしながら、前記(ア)のとおり、特許法2条3項1号の「生産」に該 当するためには、特許発明の構成要件を全て満たす物が日本国内におい\nて作り出される必要があると解するのが相当であり、特許権による禁止 権の及ぶ範囲については明確である必要性が高いといえることからも、 明文の根拠なく、物の構成要素の大部分が日本国内において作り出され\nるといった基準をもって、物の発明の「実施」としての「生産」の範囲 を画するのは相当とはいえない。そうすると、被告システム1の構成要\n素の大部分が日本国内にあることを根拠として、直ちに被告システム1 が日本国内で生産されていると認めることはできないというべきである。 また、前記(1)ウ(ア)の2)−2及び5)からすれば、被告システム1にお いては、被告FC2のウェブサーバがユーザ端末に配信するSWFファ イルによって規定される条件に基づいて、2つのコメントが重複するか 否かを判定する計算式及び重複すると判定された場合の重ならない表示\n位置の指定が行われており、構成要件1Fの「判定部」及び構\成要件1 Gの「表示位置制御部」に相当する構\成1f及び1gの動作の実現は、 日本国内に存在するユーザ端末において行われるものであるということ ができ、これらのユーザ端末における動作からは、原告が指摘する構成\n要件1Hに対応する構成1hのうち「前記ユーザ端末のディスプレイに\nは、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間におい て、前記動画上に、右から左方向に移動する前記コメント1及び前記コ メント2とが、追いついて重複しないように表示される、」という部分に\n相当する動作は、日本国内に存在するユーザ端末において実現されるも のということができるものの、構成要件1Hに対応する構\成1hのうち 「前記サーバが、前記動画ファイルと、前記コメントファイルとを前記 ユーザ端末に配信することにより、」という部分に相当する動作は、米国 内に存在するコメント配信用サーバ及び動画配信用サーバによって実現 されるものであり、構成1hが日本国内に存在するユーザ端末のみによ\nって実現されているとはいえない。前記1(2)イで検討したところからす れば、本件発明1の目的は、単に、構成要件1Fの「判定部」及び構\成 要件1Gの「表示位置制御部」に相当する構\成等を備える端末装置を提 供することではなく、ユーザ間において、同じ動画を共有して、コメン トを利用しコミュニケーションを図ることができるコメント配信システ ムを提供することであり、この目的に照らせば、動画の送信(構成要件\n1C及び1H)並びにコメントの受信及びコメント付与時間を含むコメ ント情報の送信(構成要件1B、1C及び1H)を行う「サーバ」は、\nこの目的を実現する構成として重要な役割を担うものというべきである。\nこの点からしても、本件発明1に関しては、ユーザ端末のみが日本に存 在することをもって、「生産」の対象となる被告システム1の構成要素の\n大部分が日本国内に存在するものと認めることはできないというべきで ある。 さらに、前記(1)アのとおり、被告サービスにおいては、日本語が使用 可能であり、日本在住のユーザに向けたサービスが提供されていたと考\nえられ、同オのとおり、平成26年当時、日本法人である被告HPSが、 被告FC2の委託を受けて、被告サービスを含む同被告の運営するサー ビスに関する業務を行っていたという事情は認められるものの、本件全 証拠によっても、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月17日以 降の時期において、米国法人である被告FC2が本件特許権の侵害の責 任を回避するために動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを日本 国外に設置し、実質的には日本国内から管理していたといった、結論と して著しく妥当性を欠くとの評価を基礎付けるような事情は認められな い。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 以上によれば、被告サービス1のFLASH版については、本件発明 1の関係で、被告FC2による被告システム1の日本国内での「生産」 を認めることができないというべきである。
・・・
オ 小活
以上のとおり、本件発明1の関係でも、本件発明2の関係でも、被告サ ービス(FLASH版及びHTML5版)において、被告FC2による被 告システムの日本国内での「生産」を認めることはできない。

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令和2(ワ)19920等  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年1月19日  東京地方裁判所

 医薬品の用途発明について、請求項1,2については、実施可能要件・サポート要件違反として訂正が認められず、請求項3,4については均等侵害も否定されました。

医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されるこ\nとのみによっては,当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該\n医薬を当該用途に使用することができないから,医薬の用途発明において 実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明にその医薬の\n有用性を当業者が理解できるような薬理試験結果を記載する必要がある が,前記判示のとおり,本件明細書等には,本件化合物が神経障害性疼痛 又は心因性疼痛による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの治療に有効である と当業者が理解し得るような薬理試験結果の記載は存在しない。
(3) 本件特許出願当時の技術常識
ア 本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛による痛覚過敏又は接 触異痛に対して有効であれば,神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接 触異痛についての薬理試験を要することなく治療効果が予測されること\nを明示又は示唆する技術常識の記載は存在しない。また,侵害受容性疼痛, 神経障害性疼痛,心因性疼痛などの種類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛 などの痛みの発症原因や機序が同一であり,いずれかの種類の痛みに対し て有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても有効であることが本 件特許出願当時の当業者に知られていたなどの記載もない。
・・・・
上記各文献は,本件の技術分野に属する専門家により執筆されたもので あり,その当時の技術常識を反映した書籍であるというべきところ,上記 に摘示した各記載によれば,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性 疼痛は,その発症原因,痛みの態様・程度及び治療方法がそれぞれ異なる というのが本件特許出願当時の技術常識であり,痛みの種類を問わず,痛 覚過敏又は接触異痛などの痛みの発症原因や機序は同一であり,いずれか の種類の痛みに対して有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても 有効であるとの技術常識が存在したということはできない。
ウ 以上によれば,本件化合物が神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接 触異痛の痛みの治療に有効であることを示す薬理試験結果の記載もなく, 本件明細書等の記載に接した当業者が,本件化合物がこれらの痛みの治療 に有効であると認識し得たとは考えられない。
(4) したがって,本件明細書等の記載は訂正前発明1及び2を当業者が実施で きる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできず,実施可\n能要件を充足しない。\n
(5) 原告の主張について
これに対し,原告は,本件特許出願当時,慢性疼痛は,それが侵害受容性 疼痛,神経障害性疼痛又は心因性疼痛のいずれによるものであっても,末梢 や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛\nの痛みであるとの技術常識が存在したので,当業者は,本件明細書等の記載及 び同明細書等に記載された薬理試験から,本件化合物が同明細書等に記載さ れた各種の痛みに有用であると認識することができたと主張する。
・・・・
(オ) 以上によれば,上記(ア)ないし(ウ)の各記載から,侵害受容性疼痛,神 経障害性疼痛等で出現する痛覚過敏と,脊髄のNMDA受容体の活性化 による中枢性感作との間に関連性があるといい得るとしても,本件特許 出願当時,本件明細書等に記載された侵害受容性疼痛(炎症性疼痛,術 後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,痛風,火傷痛等)や神経障害性 疼痛(三叉神経痛,急性疱疹性神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギ ー等)により出現する痛覚過敏がすべて末梢や中枢の神経細胞の感作と いう神経の機能異常により生じるとの技術常識が存在したとは認め難\nく,まして,これらの記載から,当業者が,薬理試験結果の記載もなく, 本件化合物が神経障害性疼痛の治療に有効であると認識し得たという ことはできない。
・・・・
原告は,被告医薬品が構成要件3B及び4Bの文言を充足しない場合であっ\nても,均等侵害が成立すると主張する。 しかし,相手方が製造等をする製品(対象製品)が,特許請求の範囲に記載 された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属すると認められる\nためには,当該対象製品が特許請求の範囲に記載された構成と異なる部分が特\n許発明の本質的部分ではないことを要する(第1要件)。 本件発明3及び4と被告医薬品との相違部分は,その用途にあるところ,同 各発明は,既知の薬物である本件化合物が,侵害受容性疼痛の治療に有効であ ることを新たに見出したことにあるので,その用途が同各発明の本質的部分を 構成することは明らかである。\nしたがって,被告医薬品は,第1要件を充足しないので,均等侵害は成立し ない。
7 まとめ
以上によれば,訂正前発明1及び2に係る特許は,実施可能要件及びサポー\nト要件の各違反を理由に特許無効審判により無効にされるべきものであり,本 件訂正は訂正要件を具備せず,同訂正によっても上記各無効理由が解消されな い。また,被告医薬品は,本件発明3及び4の技術的範囲に属しない。

◆判決本文

特許権は同じく、被告が異なる事件です。

◆令和2(ワ)19932

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令和2(ワ)5616 特許権 令和4年1月25日  東京地方裁判所

 訂正後の発明について、技術的範囲に属しないと判断されました。

2 争点1(被告各製品の20ライン分のラインバッファは,「単一のVRAM」 を充足するか(構成要件D及びHの充足性))について\n
(1) 「単一のVRAM」の意義
ア 本件特許の特許請求の範囲における構成要件Dにおいては,「グラフィ\nックコントローラ」が,「該中央演算回路の処理結果に基づき,単一のVR AMに対してビットマップデータの書き込み/読み出しを行い,「該読み 出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成」すると\n規定されている。 また,構成要件Hにおいては,「グラフィックコントローラ」が,「前記\n単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度 を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマ ップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成」すること及び「前記単\n一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像 度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビット マップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成」することが規定され\nている(なお,構成要件Hにおける「前記単一のVRAM」との文言から,\n構成要件Dと構\成要件Hの「単一のVRAM」は同一の意義を持つものと 解される。)。
さらに,構成要件F,H,Jによると,「ディスプレイパネルの画面解像\n度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」は,「外部ディス プレイ手段」に表示するためのものであるといる。\nこれらの記載によれば,構成要件D及びHの「単一のVRAM」は,「グ\nラフィックコントローラ」により,「ビットマップデータの書き込み/読み 出し」がされるものであって,外部ディスプレイ手段に表示するための「デ\nィスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビット マップデータ」の書き込み/読み出しがされるものであり,前記「ディス プレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマッ プデータ」の全体を記憶することが可能なものと解するのが相当である。\nそして,前記1に認定した本件明細書の記載(特に段落【0115】,【0 117】,【0127】)も,その記載内容に照らせば,構成要件D及びHの\n「単一のVRAM」が,「ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像 度を有する画像のビットマップデータ」の全体を記憶することが可能なも\nのであるとの上記クレーム解釈に整合しており,同解釈を裏付けるものと 評価することができる。
イ 原告は,構成要件Hは,ビットマップデータの読み出しの具体的な方法\nについて何らの特定もしておらず,ディスプレイパネルの画面解像度と同 じ解像度を有する画像のビットマップデータを一挙に読み出すことを規 定したものとは解されない旨を主張する。しかし,特許請求の範囲の記載, 明細書の記載を検討すると,上記アに説示したとおり,「単一のVRAM」 は,「ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像の ビットマップデータ」の全体を記憶することが可能なものと認めるのが相\n当である。原告の上記主張は採用することができない。
(2) 「単一のVRAM」の充足性
以上のクレーム解釈を前提に,被告各製品が,構成要件D,Hの「単一の\nVRAM」を充足するかについて検討する。 前記前提事実のとおり,被告各製品は,データ処理手段としてのCPU(中 央演算回路)及び液晶コントローラ(グラフィックコントローラ)を備える ものであるところ,このCPU(中央演算回路)は,無線通信手段から受信 した信号(圧縮した通信信号)をデコードして画像データを展開し,拡大/ 縮小(補間/間引き)を適宜行って内蔵用表示データ及び外部用表\示データ を生成し,生成した表示データを同CPU(中央演算回路)に接続されたS\nDRAMに書き込み/読み出しを行い,その内蔵用表示データ及び外部用表\ 示データを液晶コントローラ(グラフィックコントローラ)に送信する構成\nを有している。しかして,この液晶コントローラ(グラフィックコントロー ラ)には,6個の2Mビット(256kバイト)DRAMが内蔵されている ところ,これは,外部表示用のラインバッファ(20ライン分)であり,画\n像全体を書き込み/読み出しするためのものではないというのである(被告 各製品の構成d)。\n
しかして,このような,被告各製品の液晶コントローラ(グラフィックコ ントローラ)が内蔵するDRAMは,少なくとも外部表示用にはラインバッ\nファ(外部表示手段に表\示するための画像全体を書き込み/読み出しするた めのものではない)として用いられるものであるから外部表示手段に表\示す るための「ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像 のビットマップデータ」の全体を記憶するものではないことは明らかである というほかない。 そうすると,被告各製品における上記DRAM(20ライン分のラインバ ッファ)は,「単一のVRAM」との文言を充足するものとは認められず,被 告各製品が,構成要件D及びHを充足するものとは認められない。\n

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平成30(ワ)4329等  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月18日  東京地方裁判所

 二重まぶた形成用テープの特許権侵害で約2億4000万円の損害賠償が認められました。 ◆原告のウェブサイトには本件を含めて経緯が開示されています。
争点は、技術的範囲の属否、無効(104条の3)、損害額の認定、覆滅の程度などです。

 被告らは、原告製品の売上げが伸びずに損害が発生したのは、原告製 品及び被告各製品の競合品であるマイクロファイバー及びオリシキの販 売が開始されたからであり、特にマイクロファイバーは販売開始から現 在に至るまでに270万個が販売されるほどの人気商品であると主張す る。しかし、マイクロファイバー及びオリシキが販売されたのは、平成3 0年3月又は同年11月以降であり、前記(1)イ(ア)のとおり、被告各製 品の販売による本件特許権の侵害が認められた期間の一部にすぎない。 また、証拠(甲82)によれば、ドン・キホーテにおける原告製品の 販売はその販路全体の一部にすぎないと認められるところ、二重瞼形成 用アイテムの市場又はそのうち収縮食い込み型の商品の市場における原 告製品及び被告各製品の各シェアがどの程度のものであったかを認める に足りる的確な証拠はない。
さらに、証拠(乙75)及び弁論の全趣旨によれば、令和3年1月頃、 マイクロファイバーの広告には「累計販売数270万個突破」と記載さ れていることが認められるが、二重瞼形成用アイテムの市場又は収縮食 い込み型の商品の市場において販売された商品全体の個数が明らかでは ないから、上記の記載のみによってシェアを認定することはできないし、 前記(1)イ(ア)のとおり、マクロファイバーの販売が開始されたのは、被 告各製品の販売により本件特許権が侵害されたと認められる期間の半ば 頃である上、マイクロファイバーの販売個数の推移も明らかではない。 以上によれば、マイクロファイバー及びオリシキが販売されていたこ とのみをもって、推定の覆滅を認めるのは相当でない。
もっとも、前記(ア)a及びdのとおり、二重瞼形成用アイテムには接着 型、シャッター型及び収縮食い込み型が存在し、ドン・キホーテにおけ る販売数を見ても、原告製品、マイクロファイバー及びオリシキのほか にも、接着型の二重瞼形成用アイテムが相当数販売されており(ただし、 商品ごとに、これを1個購入することにより、どの程度の期間、二重瞼 を形成することができるかなどの条件が異なると考えられるため、販売 数を単純に比較することはできない。)、需要者は、収縮食い込み型の 被告各製品を購入することができない場合、同じく二重瞼形成用アイテ ムである接着型の商品やシャッター型の商品を購入することも十分に考えられる。そうすると、原告製品及び被告各製品の競合品が存在することに基づき、法102条2項により推定される損害額の10%について\n推定の覆滅を認めるのが相当である。

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令和3(ネ)10049等  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審(東京地裁46部)では文言侵害として3600万円の損害賠償が認められましたが、知財高裁(2部)は、技術的範囲に属しない(均等含む)と判断しました。

3 争点1−1(被告製品のピンが,長手方向断面が「楕円形」(構成要件B,D)\nである先端部を有しているか)について
(1) 「楕円形」の一般的な意味について
ア 「楕円形」とは,「楕円状をなした形」をいい,「楕円」とは,「円錐曲線 (二次曲線)の一つ。幾何学的には,一平面上で二定点(F,F’)からの距離の和 (FP+F’P)が一定であるような点Pの軌跡。」を意味する(「広辞苑 第六版」 (平成20年1月11日発行,株式会社岩波書店)1705頁,乙2参照)。この点, 被控訴人が提出するウェブサイト「コトバンク」における検索結果に係る証拠(甲 2。令和元年5月30日印刷)では,「楕円形」について,「楕円状をなす形,ある いは,それに近い形。」(デジタル大辞典の解説),「楕円のような形。また,そのよ うな形のさま。小判がた。長円形。側円形。」(精選版日本国語大辞典の解説)とさ れている。 上記を踏まえると,一般に,「楕円形」とは,「楕円状をなした形」をいい,幾何 学上の楕円の形状がそれに含まれることはもとより,同形状とは異なるがそれに近 い形についても用いられる語であると解される。 もっとも,幾何学上の楕円の形状とは異なるがそれに近い形として,どのような 形が「楕円形」に含まれるか,「楕円形」の意味の外延は,上記の辞書的な意味から は明確とはいえない。
イ 上記に関し,「卵形(たまごがた)」は,「鶏卵に似た楕円形。」を意味する語 である(上記「広辞苑 第六版」1756頁,甲78参照)。なお,被控訴人が提出 するウェブサイト「コトバンク」における検索結果に係る証拠(甲77。令和3年 7月29日印刷)では,「卵形(たまごがた)」について,「鶏卵のような楕円形。ま た,そのような形のもの。たまごなり。」(精選版日本国語大辞典の解説),「鶏卵に 似た楕円形。たまごなり。らんけい。」(デジタル大辞典の解説)とされている。 また,「卵形(らんけい)」は,「たまごのような形。たまごがた。」を意味する語 である(上記「広辞苑 第六版」2933頁)。なお,上記証拠(甲77)では,「卵 形(らんけい)」について,「卵のような形。楕円の一方が少し細くなっている形。 たまごがた。」(精選版日本国語大辞典の解説),「卵のような形。たまごがた。」(デジタル大辞典の解説)とされている。 そうすると,「楕円形」の語は,「卵形」を含むものとして用いられることもある ものの,他方で,前記アの「楕円形」の意味において,「卵形」と同義である旨の説 明はもちろん例示としても「卵形」という説明がみられないことや,上記のとおり, 「卵形」の意味においても,限定なしで「楕円形」と同義であることは何ら示され ず,「鶏卵に似た」,「鶏卵のような」といった限定を付して「楕円形」という語が用 いられたり,「楕円の一方が少し細くなっている形」との説明がされていることも踏 まえると,「楕円形」は本来的な意味として「卵形」を含むものではないとみられる ところである。
ウ 以上によると,「楕円形」の語は,幾何学上の楕円の形状及びそれに近い形を いうものであるが,当該楕円の両端(当該楕円とその長軸が交わる2点をいう。)付 近の曲線を比較した場合に,その一方の曲率が他方の曲率より小さい形状(「卵形」 など。当事者の主張における「長手方向の端の一方が他方よりも緩い曲率の形状」。 以下「曲率に差のある形状」という。)を含むものとして「楕円形」の語が用いられ ているか否かは,明細書(図面を含む。)における当該「楕円形」の語が用いられて いる文脈等を踏まえて判断する必要があるというべきである。
エ これに対し,被控訴人は,「楕円形」の語が卵形等を含むものであると主張し て,インターネットでの画像検索の結果(甲10の1〜6)やウェブサイト等にお ける語の使用例(甲79〜84)を指摘するが,それらは一般に「楕円形」の語が どのような形を説明する際に用いられているかといった事情を示すものにすぎず, 「楕円形」の語が上記各証拠で示される各種の形をその意味として当然に含むこと を示すものとは解されない。
(2) 本件明細書における「楕円形」の語について
ア 本件明細書に,「楕円形」の意味について説明する記載等は見当たらない。 ただし,請求項1の発明においては先端部が「球形」とされ,本件明細書でも「球 形」と「楕円形」が使い分けられていることを踏まえると,少なくとも,本件発明 の「楕円形」は,円形(球形の断面)を含むものではなく,円形を含み得るような 広い意味の語ではないことは理解されるといえる。
イ(ア) 訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」 の1(2)を踏まえると,本件発明が解決しようとする課題は,従来技術について,矢 の先端部に「かえし」が存在することにより生じていた,1)矢を的から外すときに 丸釘のピンだけ的に残ってフィルムだけ引き抜かれてしまうという課題と,2)ダブ ル突入の場合に後ろの矢を引き抜くときにフィルムが丸釘のピンから抜け,後ろの 矢のピンが前の矢のフィルム内に残ってしまうという課題(以下,併せて「ピン抜 けの課題」という。)のほか,矢の先端部の頭部と円柱部の位置のずれやフィルム の重なりにより生じていた,3)上下方向の重心に偏りがあるという課題(以下「重 心の課題」という。)であると解される。
(イ) 本件発明の「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状は,ピン抜けの課 題の原因が先端部の「かえし」の存在にあったとされていることを踏まえると,ピ ン抜けの課題の解決手段の一つとして採用されたものと理解されるところ,「かえ し」の存在をなくすという観点からは,先端部の形状は,幾何学上の楕円の形状で 足り,曲率に差のある形状である必要はない。したがって,ピン抜けの課題の解決 手段の一つであるという事情は,本件発明における「楕円形」の語が,曲率に差の ある形状を含むというべき積極的な事情には当たらない。むしろ,曲率に差のある 形状とした場合,具体的な形状次第では,的やダブル突入の場合の前の矢のフィル ムに曲率の差のある形状の先端部が残ってしまうという可能性が別途生じ,ピン抜\nけの課題の解決に支障が生じ得るともいえるところである。この点,本件明細書に は,先端部の形状について,「楕円形」としてどのような範囲内のものであればピン 抜けの課題が適切に解決されるかの判断の資料となり得るデータ等は,何ら記載さ れていない。
他方,本件明細書上,重心の課題の解決と「長手方向断面が楕円形」という先端 部の形状との関係は明確ではないが,重心の課題の原因の一つとして,矢の先端部 の頭部と円柱部との位置のずれが挙げられていることのほか,本件発明の効果等に 関し,請求項1の発明に係る実施例についてのものではあるものの,「ピンを従来 の丸釘から先端球形に変更することによって矢の長手方向の重心位置を矢の先端方 向に寄せることができた」ことが記載され,その変形例が本件発明に係るもので, 上記実施例と同様に従来の矢の丸釘と比較した丸ピンの重量等について具体的な記 載がされていることも考慮すると,「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状 は,円柱部との位置のずれを解消しやすく,また,上下方向の重心に偏りがなく, かつ,従来の丸釘よりも先端部が後ろに長い形状であるために先端部が相対的に重 くなるといった観点から,重心の課題の解決手段の一つとして採用されたものと理 解することもあり得る。しかし,そのような観点からも,先端部の形状は,幾何学 上の楕円の形状で足り,曲率に差のある形状である必要はない。むしろ,曲率に差 のある形状とした場合,具体的な形状次第では,円柱部との位置の調整が困難にな ったり,上下方向の重心に偏りがなく,かつ,先端部が相対的に重くなるといった 特徴が十分に発揮できなくなり,重心の課題の解決に支障を生じ得るともいえると\nころである。この点,本件明細書には,先端部の形状について,「楕円形」としてど のような範囲内のものであれば重心の課題が適切に解決されるかの判断の資料とな り得るデータ等は,何ら記載されていない。
ウ 本件発明の実施例は,本件明細書の【0065】〜【0069】及び【図3】 のとおりであり,先端部の長手方向の断面は,請求項1の発明の実施例(同【図2】) の先端部の形状である「球形」の長手方向の断面である円を左右(矢の進行方向か らすると前後)に二つに分割してその間に長方形を挟み込んだような形(換言する と,「円」を左右に引き伸ばしたような形)であって,「小判型」や「俵型の断面」 などというべきものであり,幾何学上の楕円の形状とは異なるものの,長手方向の 両端の曲率を同じくするものである。上記の形については,本件明細書に実験結果 が記載されており,また,前記イ(イ)で指摘したような,ピン抜けの課題の解決や重 心の課題の解決に支障を生じ得るといった事情も認め難いものといえる。
(3) 構成要件B及びDの「楕円形」の意味及び文言侵害の成否について\n
ア 前記(1)及び(2)の点を踏まえると,構成要件B及びDの「楕円形」は,幾何\n学上の楕円の形状や,本件発明の実施例の形のような,楕円に近い形状であって長 手方向の両端の曲率を同じくする形状は含むものと解される一方で,曲率に差のあ る形状は含まないものと解するのが相当である。なお,これと異なる技術常識を認 めるべき証拠もない。
イ 被告製品のピンの先端部は,「長手方向断面が,前部が曲率の緩い曲線形状, 後部が略円錐形となるように円弧を描き,後部の円柱部との接合面が上下に角を有 し,前記後部の角と角とを直線で結んだ形状である先端部」(構成要件b)であり,\n曲率に差のある形状の一端を更に一定の範囲で切断した形状というべきものである から,構成要件B及びDの「楕円形」には含まれない。\nしたがって,被告製品が,文言上,本件発明の技術的範囲に属するとは認められ ない。
ウ 被控訴人は,曲率に差のある形状のピンの先端についても,1)「かえし」が ないため矢が抜きやすいこと,2)上下方向の重心が均等であり,また,3)従来技術 の釘形状の先端部と比べて錘として重くなり,矢全体の長手方向の重心を前寄りに 寄せることという本件発明の技術的意義を満たすものであるから構成要件B及びD\nの「楕円形」に含まれると主張するが,前記(1)及び(2)で認定説示した点に照らし, 上記1)〜3)を満たすことから直ちに上記「楕円形」に含まれるということはできな い(なお,被控訴人の上記主張によると,請求項1の発明に係る「球形」が,同時 に本件発明に係る「楕円形」に含まれることとなり得,この観点からも上記主張は 相当といい難い。)。 また,被控訴人は,本件で問題になっているのは,一般的に楕円形といえばどの ような形を最初に思い浮かべるかではなく,卵形や涙滴型のような,長手方向の端 の一方が他方よりも緩い曲率の形状を「楕円形」と表現するのか否かであると主張\nするが,被告製品の先端部の形状が本件発明の構成要件B及びDの「楕円形」に含\nまれるかという判断に先立って,まず,本件発明の構成要件の解釈として構\成要件 B及びDの「楕円形」の意味が問題となるのであるから,被控訴人の上記主張は, その前提を誤るものといえ,前記ア及びイの判断を左右するものではない。
4 争点1−2(均等侵害の成否)について
・・・・
(エ) 本件発明の構成要件A〜Eに加え,前記(ア)ないし(ウ)を踏まえると,本件発 明について,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分とは,\nピンと巻いたフィルムによって構成される吹矢において,構\成要件B〜Dのうち, 特に「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とか らなるピン」,「先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ・・・たフィルム」 及び「前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続さ れた」という構成を採用することにより,ピン抜けの課題と重心の課題をともに解\n決するという点にあると解される。
(オ) 前記3で認定判断した構成要件B及びDの「楕円形」の意味及び弁論の全趣\n旨によると,本件発明の先端部の形状と被告製品の先端部の形状について,1)本件 発明では「楕円形」であるのに対し,被告製品では,曲率に差のある形状を基礎と して,「長手方向断面が,前部が曲率の緩い曲線形状,後部が略円錐形となるよう に円弧を描」く形状となっていること(なお,別紙乙第1号証のとおり,後部の略 円錐形となるような円弧について,一定の曲率が選択されているものである。乙3 の1・2,乙15参照)と,2)根元段差部分があることとにおいて,異なっている ということができる。 上記のうち1)について,前記3(2)イで指摘したところからすると,本件発明は, 少なくともピン抜けの課題の解決方法として,「長手方向断面が楕円形である先端 部」という構成を採用したものと解される。そして,同イ(イ)で指摘したとおり,「長 手方向断面が楕円形」という形状を曲率に差のある形状に変更した場合,ピン抜け の課題の解決や重心の課題の解決に支障を生じ得るともいえるところ,「楕円形」と してどのような範囲内のものであればピン抜けの課題が適切に解決されるかの判断 の資料となり得るデータ等は本件明細書に記載されていない。 そうすると,本件発明における前記3(3)で認定判断した意味での「長手方向断面 が楕円形」という先端部の形状の特定は,本件発明の本質的部分に含まれるものと いうべきであり,それを被告製品の先端部の形状に置き換えることは,本件発明の 本質的部分を変更するものというべきである。 ウ したがって,本件発明の構成中に,被告製品と異なる部分が存在するところ,\n異なる部分は本件発明の本質部分であるから,第1要件を満たさない。
(2) 第3要件について
また,本件全証拠をもってしても,本件発明の「長手方向断面が楕円形」という 形状を被告製品の先端部の形状に置き換えることについて,前記3(2)イ(イ)で指摘 したとおり,曲率に差のある形状への変更によりピン抜けの課題の解決や重心の課 題の解決に支障を生じ得るともいえる一方で,どのような範囲内の変更であればそ れらの課題がなお適切に解決されるかの判断の資料となり得る記載が本件明細書に ないにもかかわらず,当業者が被告製品の製造等の時点において上記置換えを容易 に想到することができたというべき技術常識等は認められない。 したがって,第3要件も満たさない。
(3) まとめ
したがって,その余の点について判断するまでもなく,均等侵害は成立しない。
(4) 被控訴人の主張について
ア(ア) 被控訴人は,第1要件について,「かえし」部分が存在せず,矢が的や前の 矢から引き抜きやすい滑らかな曲線状の長手方向断面形状を有する先端部と,当該 先端部の略中心部を円柱部が通る形状のピンを備えているという点が本件発明の本 質的部分であると主張するが,前記(1)ア及びイで認定説示したとおりであって,被 控訴人の上記主張は採用できない。それゆえ,上記主張を前提とする本件発明と被 告製品との一致点・相違点に係る被控訴人の主張も採用できない。 (イ) 被控訴人は,第1要件について,ピンの先端部の後方部の形状に着目したと いう点で本件発明は技術的思想として新しいなどとも主張するが,そのような着眼 点に本件発明の一つの特徴があるとしても,その上で,本件発明においては,課題 解決の方法として,「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状が選択されたとい う事情を均等侵害の成否の検討においても無視することはできず,また,ピンの先 端部の後方部の形状に係る構成は,本件発明による複数の課題の解決のうちのいま\nだ一つにとどまるというべきものであるから,被控訴人の上記主張は,前記(1)イ及 びウの認定判断を左右するものではない。
イ 被控訴人は,第3要件について,本件発明は,矢が的や前の矢から引き抜き やすいピンの先端部を提供するものであり,そのためにはピンの先端部の形状は球 形や楕円形に限られず,「かえし」部分が存在せず,かつ,引き抜く際の抵抗がよ り小さくなるような滑らかな曲線状で形成されていればよいことは,当業者におい て容易に想到できるなどと主張するが,前記ア(ア)のとおり,本件発明の本質的部分 についての被控訴人の主張は採用できないから,当業者において容易に想到できる という被控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであり,第3要件を満たさない というべきことは,前記(2)のとおりである。その余の被控訴人の主張も,本件発明 の本質的部分についての被控訴人の主張を前提とするものか,本件発明において課 題解決の方法として「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状が選択されたと いう事情を無視するもので相当でないものであって,いずれも採用できない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成31(ワ)2675

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令和2(ワ)19931等  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月16日  東京地方裁判所

 医薬用途発明の特許権侵害訴訟です。東京地裁(29部)は、本件発明1,2については実施可能要件・サポート要件違反の無効理由ありと判断しました。また、本件発明3,4について、均等侵害も否定しました。本件発明1,2は特許庁で訂正要件を満たさないと判断されており、審決取消訴訟に係属しています。本件発明3,4は特許庁で訂正が認められています。

 いわゆる医薬用途発明においては,一般に,当業者にとって,物質名, 化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのた\nめの当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該発明に係る医薬\nを当該用途に使用することができないから,そのような発明において実施 可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの\n記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,当該用途の 有用性及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載を要するものと解 するのが相当である。 本件発明1及び2の特許請求の範囲においては,本件化合物が「痛みの 処置における」(構成要件1B)「鎮痛剤」(構\成要件1C)及び「鎮痛 剤」(構成要件2C)として作用することが記載されているところ,いず\nれも本件化合物の鎮痛効果が認められる痛みは特定されていない。しかし, 本件明細書には,本件化合物について,「痛みの処置とくに慢性の疼痛性 障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定さ れるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み, 三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザ ルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー, 線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障 害および特発性疼痛症候群が包含される。」(前記1(1)イ)と記載されて いることに照らすと,本件発明1及び2は,本件化合物が少なくとも上記 各痛みに対して鎮痛効果を有することを内容とするものと解される。 したがって,本件発明1及び2について実施可能要件を満たすというた\nめには,本件明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと 同視し得る程度の記載をすることなどにより,上記各痛みに対して鎮痛効 果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載が必要であ るというべきである。
・・・
前記(ア)の各文献の記載によれば,本件出願当時,術後疼痛試験は,ラ ットの皮膚,筋膜及び足蹠の足底側面の筋肉を切開することにより,痛 覚過敏を引き起こし,これに対する薬剤の効果を確かめる試験であるこ とが,技術常識であったと認められる。 そして,本件明細書には,「S−(+)−3−イソブチルギャバ」\n(弁論の全趣旨によれば,構成要件3Aを充足する本件化合物の一種で\nあると認められる。)が術後疼痛試験において有効であったことが記載 されており,さらに,「ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触 異痛を生じた。いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達 し,3日間維持された。実験期間中,動物はすべて良好な健康状態を維 持した。」(前記1(1)キ(キ)),「ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉 の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏および接触異痛を誘発するこ とを示している。本試験の主要な所見は,ギャバペンチンおよびS− (+)−3−イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対して\nも等しく有効なことである。」(同(コ))との記載がある。 以上によれば,本件出願当時,本件明細書の術後疼痛試験の結果に接 した当業者は,本件化合物について,侵害受容性疼痛としての熱痛覚過 敏及び接触異痛に対して有効であると理解し,その他の痛みに対して有 効であると理解することはなかったというべきである。
・・・
ア 被告医薬品が本件発明3の構成と均等なものであるかについて\n
(ア) 原告は,本件発明3は,慢性疼痛に対する画期的処方薬として,抗て んかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだ したものであり,その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用い る点にあるから,対象となる痛みが侵害受容性疼痛か,神経障害性疼痛 や線維筋痛症かは本質的部分ではなく,効能・効果を神経障害性疼痛や\n線維筋痛症に伴う疼痛とし,慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告 医薬品は,均等侵害の第1要件を満たすと主張する。
しかし,前記1(1)アのとおり,本件特許に係る発明は,てんかん,ハ ンチントン舞踏病等の中枢性神経系疾患に対する抗発作療法等に有用な 薬物である本件化合物が,痛みの治療における鎮痛作用及び抗痛覚過敏 作用を有し,反復使用により耐性を生じず,モルヒネと交叉耐性がない ことに着目した医薬用途発明であるところ,前記2(1)イのとおり,本件 出願当時,痛みには種々のものがあり,その原因や機序も様々であるこ とが技術常識であった。
そうすると,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発明 3において本質的部分というべきであり,その鎮痛効果の対象を異にす る被告医薬品は,本件発明3の本質的部分を備えているものと認めるこ とはできない。したがって,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載さ れた構成中の被告医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でない\nということはできないから,被告医薬品は均等の第1要件を満たさない。
(イ) また,前記(1)アによれば,原告は,本件訂正前発明3においては鎮痛 の対象となる痛みを限定していなかったところ,本件訂正により「炎症 を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」に限定していること からすると,本件発明3との関係においては,被告医薬品の効能・効果\nである神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を意図的に除外したと 認めるのが相当である。 したがって,被告医薬品は均等の第5要件も満たさない。
(ウ) 以上によれば,被告医薬品は,本件発明3の特許請求の範囲に記載さ れた構成と均等なものとは認められない。\n
イ 被告医薬品が本件発明4の構成と均等なものであるかについて\n
前記アと同様に,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発 明4の本質的部分というべきであり,被告医薬品は均等の第1要件を満た さず,また,本件発明4との関係においては,被告医薬品の効能・効果で\nある神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛が意図的に除外されている から,均等の第5要件も満たさない。 したがって,被告医薬品は,本件発明4の特許請求の範囲に記載された 構成と均等なものとは認められない。\n

◆判決本文

関連事件です。本件特許は同じですが、被告が異なります。なお、原告代理人はなぜか異なります。

◆令和2(ワ)19923等

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令和2(ネ)10059  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟__全文__ 令和4年2月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、アルギニンは,その後の発酵処理工程で初めて混合されるものであるから技術的範囲に属さないと判断しましたが、知財高裁は、属すると判断しました。1審判決後に訂正審判がなされ、これが確定しています。控訴人は訂正発明のみについての判断を求めました。争点は104条の推定規定の出願日が優先権基礎出願日が適用されるのか、推定が覆滅されるか等です。

 以上によると,基礎出願A,Bの上記記載に接した当業者は,上記本件優先日当 時の技術常識とを考え併せ,「大豆胚軸」以外の「ダイゼイン類を含む原料」を発酵 原料とした場合でも,ラクトコッカス20-92株のようなエクオール及びオルニ チンの産生能力を有する微生物によって,発酵原料中の「ダイゼイン類」がアルギ\nニンと共に代謝されるようにすることにより,発酵物の乾燥重量1g当たり,8m g以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを含有する,食品素材として用い られる粉末状の発酵物を生成することが可能であると認識することができたという\nべきであるから,本件訂正発明を基礎出願A,Bから読み取ることができるものと 認められる。 したがって,本件訂正発明は,少なくとも基礎出願A,Bに記載されていたか, 記載されていたに等しい発明であると認められ,本件訂正発明は,基礎出願A,B に基づく優先権主張の効果を享受できるというべきである。 そうすると,本件特許は,特許法104条の規定の適用については,本件優先日 である平成19年6月13日に出願されたものとみなされるから,本件訂正発明生 産物が同条の特許出願前に日本国内において「公然知られた物でない」か否かを検 討するに当たり,本件優先日以降に公開された乙B3(国際公開第2007/06 6655号。国際公開日2007(平成19)年6月14日)を考慮することはで きない。
ウ 「公然知られた物でない」に当たるか
その物が特許法104条の「公然知られた」物に当たるといえるには,基準時に おいて,少なくとも当業者がその物を製造する手がかりが得られる程度に知られた 事実が存することを有するというべきところ,本件訂正発明生産物が,本件優先日 当時に公知であった乙B16,乙B24に記載されていたとはいえず,また,乙B 16又は乙B24から本件訂正発明を容易に想到することができないことは後記3 (4),(6)のとおりである。そうすると,本件優先日時点において,乙B16又は乙 B24に触れた当業者が本件訂正発明生産物を製造する手がかりが得られたという ことはできない。 また,被控訴人らは,本件訂正発明生産物は,乙B16の「実施例1」の「乾燥 重量1g当たり,1mg−3mgのエクオールが生成」している発酵物「992m g」に栄養強化添加物である「97.48%」の純度のオルニチン(乙B67の国 際公開公報(WO2006/051940))を「8mg」加えたものであるにすぎ ないから,「公然知られた物」であると主張するが,前記アのとおり,本件訂正発明 生産物は,「オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物であって,前記発 酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール が生成され,食品素材として用いられる物」であるから,乙B16に乙B67を組 み合わせたとしても,「発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び 1mg以上のエクオールが生成された」物に当たらないから,上記被控訴人らの主 張は採用できない。
なお,被控訴人らは,本件発明による生産物について,乙B4により公然知られ た物に当たる旨の主張をしていたので念のため検討するに,乙B4に本件訂正発明 が記載されていたとはいえず,また,乙B4から本件訂正発明を容易に想到できた ものではないことは後記3(3)のとおりであり,乙B4によっても当業者が本件訂 正発明生産物を製造する手がかりが得られたということはできない。 したがって,本件訂正発明生産物は,本件優先日当時,「公然知られた物でない」 といえる。
エ 被控訴人方法の構成について\n
被控訴人らは,被控訴人原料の生産方法が原判決別紙「被告方法目録」記載の被 控訴人方法であることについて自白が成立しているから,特許法104条の推定は 働かないと主張する。そして,令和元年6月7日の原審第4回弁論準備手続期日に おいて,当事者双方が,被控訴人方法の構成について原判決別紙「被告方法目録」\n記載のとおりである旨陳述している(当裁判所に顕著)。 原審において当事者間に争いがないものとされた被控訴人方法と,当審で控訴人 が主張する被控訴人方法とでは,前者における「α3 前記酵素処理工程を経て得 られたダイゼインを含む処理液と,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●をアルギニンを含む培養液と共に混合して発酵処理をし,」との構成部\n分を,後者では「α3−1 前記酵素処理工程を経て得られたダイゼインを,アル ギニンを含むその他の成分と混合して培地とした上,これを滅菌処理して滅菌済培 地とし,」と「α3−2 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●を同滅菌済培地に植菌して発酵処理をし,」との構成に変更するというものであ\nるところ,同α3−1及びα3−2の内容は,α3の内容を更に具体化・詳細化し ようとするものであり,また,控訴人は,原判決における本件訂正発明に係るクレ ーム解釈に基づく場合の構成としてα3−1及びα3−2とすべきと主張している\nものであるから,まずは,原審において当事者間に争いがないものとされた被控訴 人方法(α1〜6によるものであって,α3をα3−1及びα3−2に変更しない もの)の構成について検討を進めることとする。\n
オ 推定の覆滅について
被控訴人らは,被控訴人原料の生産方法が被控訴人方法であり,これが本件訂正 発明の方法とは異なるから,本件訂正発明の方法を使用していないとの主張立証を しているものと解されるから,以下,被控訴人方法(まずは,α1〜6によるもの であって,α3をα3−1及びα3−2に変更しないもの)が本件訂正発明の方法 とは異なるものであるか検討する。
・・・
c 原判決は,構成α3の「アルギニンを含む培養液」は,本件発明の構\成要件 A−2,A−3の「アルギニンを含む発酵原料」に当たらず,被控訴人方法は本件 発明のA−2,A−3を充足しないと判断したが,本件訂正発明においても,構成\n要件B’−1に「アルギニンを含む発酵原料」とあるので,α3の「アルギニンを 含む培養液」が構成要件B’−1の「アルギニンを含む発酵原料」に当たるか検討\nする。 構成要件B’−1は,「前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料を」と\nいうものであるが,これは,構成要件A’においてダイゼイン類にアルギニンを添\n加したものを指すと解するのが自然である。そして,上記bのとおり,被控訴人方 法の構成α3においては,「ダイゼイン」を含む処理液と「アルギニン」を含む培養\n液を,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●と共に混合して発 酵処理をしているところ,「ダイゼイン」を含む処理液と「アルギニン」を含む培養 液の混合物を,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能\力を有する微生物」であ る●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●で「発酵処理」してい るから,上記混合物は発酵原料に当たるというべきである。そうすると,同混合物 は,「前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料」に当たるから,被控訴人 らの主張する被控訴人方法を前提としても,被控訴人原料の生産方法は,本件訂正 発明の構成要件B’−1を充足し,構\成要件B’−1の発酵原料を微生物で発酵処 理することを内容とする構成要件B’−2も充足する。\n
この点,原判決は,本件発明について,アルギニンは,発酵処理をする前の発酵 原料の調製をする段階において発酵原料に含まれているものであり,構成α3の「ダ\nイゼインを含む処理液」が発酵原料に当たり,「アルギニンを含む培養液」は発酵原 料ではなく,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分に当たるものと解した上で, 被控訴人方法は発酵処理段階においてアルギニンが初めて現れるから本件発明の構\n成要件を充足しないと判断した。
しかしながら,本件特許請求の範囲及び本件明細書をみても,ダイゼイン類にア ルギニンを添加した後に微生物を加えることと,ダイゼイン類とアルギニンと微生 物を同時に混合することとの間に何らかの差異があることをうかがわせる記載はな い。また,本件明細書をみると,【0091】に「発酵原料(発酵に供される原料)」 との記載があるものの,【0093】には「ダイゼイン類を含む発酵原料としては, ダイゼイン類を含む限り,特に制限されるものではない」と発酵原料に特段の制限 がないものとされており,そのほかには発酵原料を定義付ける記載はない。前記1 (2)のとおり,本件訂正発明においてオルニチン産生能力及びエクオール産生能\力 を有する微生物による発酵に供されるのは,「ダイゼイン類」と「アルギニン」であ り,ダイゼイン類にアルギニンが添加されたのちに微生物が添加されたとしても, ダイゼイン類に,アルギニンと微生物が同時に添加されたとしても,アルギニンが 発酵に供されることに変わりがない。そうすると,被控訴人方法におけるアルギニ ンが,発酵原料ではないというべき理由がない。
原判決は,本件明細書の【0033】の「当該エクオール含有大豆胚軸発酵物は, 発酵原料として大豆胚軸を用いて製造される」との記載及び【0036】の「大豆 胚軸の発酵において,発酵原料となる大豆胚軸には,必要に応じて,発酵効率の促 進や発酵物の風味向上等を目的として,酵母エキス,ポリペプトン,肉エキス等の 窒素源;グルコース,シュクロース等の炭素源;リン酸塩,炭酸塩,硫酸塩等の無 機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に,エクオール産 生微生物として,アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(中略)を\n使用する場合には,大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって,得 られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。この場合,アルギニンの 添加量については,例えば,大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して,ア ルギニンが0.5〜3重量部程度が例示される。」と発酵原料となる大豆胚軸には, 必要に応じて,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分を添加してもよいと記載さ れていることから,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分は,発酵原料とは別の 成分として扱われていると認定したが,ダイゼイン類を含む「大豆胚軸」が発酵原 料に当たることと,ダイゼイン類を含む処理液とアルギニンを含む培養液のいずれ もが発酵原料に当たると考えることは何ら矛盾するものではない。また,【0036】 の記載も,大豆胚軸にアルギニンを添加したものを発酵原料とみなすことと矛盾す るものではない。したがって,原判決の判断には誤りがあるというほかない。 そうすると,α3の「アルギニンを含む培養液」は,構成要件B’−1の「アル\nギニンを含む発酵原料」に当たると認めるのが相当であるから,被控訴人方法が構\n成要件A’,B’−1,B’−2を充足しないことが立証されているとはいえない。
・・・
(ウ) 以上のとおり,被控訴人原料の生産に本件訂正発明の方法を使用していない ことが立証されているとはいえないから,特許法104条の推定が覆滅されたと認 めることはできない。

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◆平成30(ワ)18555

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平成29(ワ)24942  特許権侵害に基づく不当利得返還等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月20日  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。CS関連発明について、広告収入に基づく損害賠償が認められました。

 本件特許の請求項1は下記です。 通信ネットワークを介して、ウェブ情報をユーザ端末に提供するウェブ情報提供方法において、 ユーザ端末に接続されたアクセスポイントが該ユーザ端末に割り当てた前記アクセスポイントのIPアドレス、およびIPアドレスとアクセスポイントに対応する地域とが対応したIPアドレス対地域データベースを用いて、前記ユーザ端末に割り当てられたIPアドレスを所有するアクセスポイントが属する地域を判別する第1の判別ステップと、 前記判別された地域に基づいて、該地域に対応したウェブ情報を選択する第1の選択ステップと、 前記選択されたウェブ情報を、前記IPアドレスが割り当てられたユーザ端末に送信する送信ステップと、 を有したことを特徴とするウェブ情報提供方法。

 被告方法等は,本件各発明の技術的範囲に属するものであるから,被告が被 告方法等を用いて行う地域ターゲティング広告等のサービスを提供する行為 は,本件特許権を侵害するものである。そして,被告はその侵害行為について 過失があったものと推定されるから(特許法103条),原告は,被告に対し, その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が 受けた損害の額としてその賠償を請求することができる(同法102条3項) ところ,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに, 実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 また,不当利得返還請求については,同項の「受けるべき金銭の額に相当す る額」は,本来,侵害者がその特許発明の実施に当たり特許権者に対して支払 うべきであった実施料相当額であるから,侵害者がこれを支払うことなく特許 発明を実施した場合は,その実施により,侵害者は同額の利得を得,特許権者 は同額の損失を受けたものと評価することができるから,同項の「受けるべき 金銭の額に相当する額」が不当利得(民法703条)における受益者の利得の 額に相当し,かつ,権利者の損失の額に相当すると認めるのが相当である(知 財高裁平成27年(ネ)第10488号,同第10088号同年11月12日 判決・判時2287号91頁参照)。 そこで,被告が被告方法等を使用して上げた売上高及び実施に対し受けるべ き料率(相当実施料率)につき,以下検討する。
(2) YDN及びプレミアム広告について
ア YDN及びプレミアム広告の売上高
YDN及びプレミアム広告の売上高は,以下のとおりであると認められる。
(ア) YDNの売上高
証拠(乙25)によれば,原告主張の損害算定期間(平成19年7月2 5日〜平成30年6月26日)の売上高(消費税抜き。以下,売上高につ き,特記なき限り同じ。)は,別紙売上高・損害額一覧表のとおりであり,\nYDNのエリアターゲティングを行っている部分の売上高総額は,●省略 ●であると認められる(●省略●なお,端数処理の関係で1円の誤差が生 じている。)。
(イ) プレミアム広告の売上高
同様に,同期間のプレミアム広告のエリアターゲティングを行っている 部分の売上高総額は,●省略●であると認められる(●省略●)。
イ 相当実施料算定の基礎となる売上高の範囲
被告は,YDN及びプレミアム広告の売上高のうち,下記(ア)ないし(エ)に 係る各部分については,相当実施料算定の基礎となる売上高から除外すべき であると主張するので,この点について検討する。
(ア) ●省略●について
被告は,本件各発明の技術的範囲には●省略●から,被告方法等におい て,本件各発明の技術的範囲に含まれる部分があるとしてもそれは●省略 ●であると主張する。 しかし,本件各発明にいう「アクセスポイントに対応する地域」等は, 特に●省略●ものではないので,相当実施料算定の基礎となる売上高を● 省略●理由はないというべきである。
(イ) スマートフォンを利用した売上部分について
被告は,スマートフォンの利用による売上げは相当実施料算定の基礎と なる売上高から控除すべきであると主張する。 しかし,証拠(甲73・3頁)及び弁論の全趣旨によれば,スマートフ ォンからインターネットのウェブサイトを閲覧する場合には,モバイル接 続(4G接続ないし3G接続)又はWi−Fi接続の2通りの方法があり, 自宅等のWi−Fi環境がある場所では,通信容量制限のあるモバイル接 続ではなく,Wi−Fi経由の接続を行うのが一般的であるところ,スマ ートフォンによりWi−Fi接続を行う場合には,接続に用いられるIP アドレスは自宅のWi−Fiに用いられるIPアドレスであり,この場合 には,本件各発明に基づくIPアドレスからアクセスポイントに対応する 地域を判別しているものと認められる。 他方で,モバイル端末からのインターネット接続(いわゆる4G接続な いし3G接続)の場合に,IPアドレスからアクセスポイントに対応する 地域を判別することができないことは,原告が自認するところであるから, 相当実施料算定の基礎となる売上高は,かかる接続を利用しない場合(W i−Fi経由での接続の場合)に限定することが必要であるというべきで ある。
(ウ) ●省略●について
被告は,●省略●を控除したものとされるべきであると主張する。
a そこで検討するに,証拠(乙27)及び弁論の全趣旨を総合すると, 以下の事実を認めることができる。
●省略●
b 上記aで認定した事実によれば,被告方法等において,●省略●を控 除することが相当であるというべきである。
c これに対して,原告は,●省略●と考えられると主張するが,これを 認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
(エ) 他のターゲティング機能に対応する部分について\n
被告は,「年齢」,「性別」,「行動履歴」など「地域」以外のターゲ ティング機能に対する部分の売上げは,本件における相当実施料額の算定\nの基礎とならないと主張する。 この点,証拠(甲22,26)によれば,被告のYDNやプレミアム広 告においては,地域ターゲティングに加え,「時間帯」,「性別」,「年 代」,「行動履歴」等に基づくターゲティングも行われていることがうか がわれるが,他方で,プレミアム広告の商品紹介(甲26)においては, 「エリアターゲティング」が最初に紹介され,また,被告の広告本部本部 長が,平成19年11月5日付けの日経マーケティングのウェブ上の記事 (甲27)において,1)被告は地域ターゲティングに力を入れており,I Pアドレスなどの情報で地域ターゲティング広告ができるようになり,地 域限定のプロモーションや地域限定で企業活動をしている広告主もター ゲットに入ってきたこと,2)地域ターゲティング広告に性別や年齢別など によるデモグラフィックターゲティングも組み合わせればより効果的で あること,3)地域ターゲティング広告は,中小企業,インフラを手がける 大手企業などの需要もあることなどを述べていることが認められる。 そうすると,地域ターゲティングは中心的な機能であり,他のターゲテ\nィング機能に比べてその重要性は高いというべきであり,また,これらの\n機能は重複して利用されることも多く,その寄与の度合いを個別に算定す\nることが困難であることにも照らすと,地域ターゲティング機能と関連の\nある売上高については,その全額を対象とするのが相当である。
ウ 相当実施料算定の基礎とすべき売上高
上記アのYDN及びプレミアム広告の売上高から,上記イに従って控除す べき分を控除した額は,以下のとおりである。
(ア) YDNについて
証拠(乙25)によれば,YDNについて,●省略●となる。
(イ) プレミアム広告について
同様に,プレミアム広告については,●省略●となる。
(ウ) 以上によれば,本件特許権侵害による損害額の算定に用いるべき売上高 は,YDNにつき●省略●,プレミアム広告につき●省略●となる(それ ぞれの各年度の内訳は別紙売上高・損害額一覧表の該当欄記載のとおり。)。\n
(3) スポンサードサーチについて
原告は,被告が提供するターゲティング広告に係るサービスのうち,スポン サードサーチに係る売上高も相当実施料の算定の対象とすべきであると主張 するのに対し,被告は,スポンサードサーチにおいては本件各発明を実施して いないから,その売上高は相当実施料の算定の対象外であると主張する。
ア そこで検討するに,●省略●ことが認められる。
しかし,他方で,●省略●本件各発明を実施して行われているとは認めら れないので,スポンサードサーチに係る売上高も損害額算定の対象とすべき であるとの原告主張を採用することはできない。
イ なお,原告は,スポンサードサーチが本件各発明の実施に当たらないとの 主張は時機に後れた攻撃防御方法に当たると主張するが,被告は,当初から, 原告主張のターゲティング広告の提供サービスが本件各発明の技術的範囲 に属することを否認していたこと,侵害論の審理においては●省略●が中心 的な争点であったこと,損害論の審理に入り,スポンサードサーチが実施料 算定の基礎となるかが争点となり,これを契機としてスポンサードサーチが 本件各発明の実施に当たるかどうかが問題となったことなどの本訴の経緯 に照らすと,被告の上記主張が時機に後れたものということはできない。
(4) 相当実施料率について
ア 相当実施料率の算定基準
特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の 額に相当する額」の算定に当たり,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特 許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合 には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の 価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3) 当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の 態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れ た諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである(知財高裁平成 30年(ネ)第10063号令和元年6月7日特別部判決・判時2430号 34頁参照)。
イ 実施料率等について
(ア) 証拠(甲30,79,100)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実 を認めることができる。
a 原告は,あどえりあ社を通じて,本件特許に係るライセンス(通常実 施権の許諾。以下「本件ライセンス」という。)を行っている。
b 本件ライセンスの料金体系は,1)多数のウェブサイトやアプリ等に一 括で広告を配信するアドネットワーク事業を行う企業を対象とするア ドネットワーク事業社用(甲30・2枚目),2)クライアントに対しシ ステム等を使ってサービスを提供する企業を対象とするサービス提供 事業社用(同3枚目),3)自社でウェブサイトを運営する企業を対象と するウェブサイト運営社用(同4枚目)の3種類がある。
c 上記1)(アドネットワーク事業社用)の料金は,登録料1万円(初年 度のみ)と,アドネットワーク事業社のクライアントに対する広告請求 金額に対する1.5%(親会社の業務を子会社が行う場合は3%)の割 合によるライセンス利用料である。
上記2)(サービス提供事業社用)の料金は,クライアントの特許利用 も含めたライセンスを受ける場合は,登録料1万円(毎年)と,サービ ス提供事業社と各クライアントの間の月額契約料金の3%の割合によ るライセンス利用料である。
上記3)(ウェブサイト運営社用)の料金は,当該ウェブサイトが50 00万PV以上で,かつ,自社サイト内の広告の地域ターゲティングを 行う場合は,登録料1万円(初年度のみ)及び基本利用料10万円(年 額)に加え,広告売上げの3%の割合によるライセンス利用料となる。 なお,ウェブサイト運営社が,当該ウェブサイト内で物品などの販売を 補助するサービスを行う場合は,更にビジネス利用料5000円〜(年 額)を要するとされている。
d 本件ライセンスの実績としては,アドネットワーク事業社用のライセ ンス利用料につき1.5%で契約した例,サービス提供事業社用のライ センス利用料につき3%で契約した例,ウェブサイト運営社用のライセ ンス利用料につき1.5%で契約した例や,0.75%で契約した例が ある。
(イ) 甲30のライセンス料金表の各類型の適用に関し,原告は,広告を掲載\nするサイトを基準とするもの,すなわち,自らのウェブサイトにおいて広 告を掲載する場合は3%であるが,他社のウェブサイトに広告を掲載する 場合は1.5%とするものであると主張するのに対し,被告は,広告の主 体を基準とするもの,すなわち,第三者の広告を請け負って掲載する場合 はアドネットワーク事業社用の条件に従って1.5%の料率が適用され, 自社の広告を掲載する場合は3%の料率が適用されると主張する。
甲30のライセンス料金表の各類型が適用される広告掲載サービスに\nついては,本件ライセンスに係る特許権者である原告が当然知悉している と考えられるところ,アドネットワーク事業社用について他の場合より安 い料率が設定されることについての原告の説明,すなわち,他社のウェブ サイトに広告を掲載する場合には別途広告枠を媒体社などから購入する 必要がありその費用が掛かるためにアドネットワーク事業社用では料率 を下げているとの説明や,それにもかかわらず親会社の業務を子会社が行 う場合は3%としたのは,アドネットワーク事業社である親会社が広告掲 載を自らの子会社の広告枠で行う場合には広告枠の購入費用は子会社に 支払われるために親子会社全体としてみれば費用支出がないからである との説明は合理的であるといえる。 被告は,ウェブサイト運営者用のライセンス料金表に「EC(電子商取\n引)を含む,ウェブサイト内で物品などの販売を補助するサービス」が対 象となることが記載されていることをもって,ウェブサイト運営者用の実 施料率が3%であるのは,自社商品の広告表示を切り替えるといったサー\nビスを提供することを念頭に置いたものであると主張する。しかし,同サ ービスを行う場合に発生するのはビジネス利用料であって,広告利用料で はないので,上記の記載から,ウェブサイト運営者用のライセンス料金表\nが適用されるのは自社の広告を掲載する場合であると認めることはでき ない。
むしろ,甲30・4枚目においては,ウェブサイト運営者用の「広告利 用料」は「広告売上の3%」と規定されているところ,ここに「広告売上」 と記載されているのは,他社の広告を自らのサイトで行うことにより広告 売上げを得る場合を想定としているからであると推認するのが自然かつ 合理的である。 そうすると,原告が主張するとおり,本件ライセンスにおけるライセン ス料率は,自らのウェブサイトにおいて広告を掲載する場合は3%である が,他社のウェブサイトに広告を掲載するなどして,広告枠を媒体社など から購入する費用を生ずる場合には1.5%とするものであると認めるの が相当である。
(ウ) 上記(イ)の説示を踏まえ,被告の地域ターゲティング広告が本件ライセ ンスのいずれの類型に属するかにつきみるに,YDNのうち被告ウェブサ イトに広告を掲載する部分及びプレミアム広告はウェブサイト運営社用 に当たるから,ライセンス料率は3%となり,YDNのうち他の提携ウェ ブサイトに広告を掲載する部分はアドネットワーク事業社用に当たるか ら,ライセンス料率は1.5%となるものと認められる。 この点につき,被告は,過去にウェブサイト運営社用に当たるにもかか わらず0.75%や1.5%のライセンス料率が適用されたことがあるこ とを指摘し,本件においてもこれらの料率を参考とすべきであると主張す るが,証拠(甲100)及び弁論の全趣旨によれば,これらは原告とライ センシーとの関係に基づき特別に減額されたものであることがうかがわ れ,他にサービス提供事業社用の類型ではあるものの,原則どおりライセ ンス料率を3%として契約した実績もあることからすれば,上記のとおり 認定するのが相当である。
ウ 実施料率を下げるべき他の事情について
●省略●
(イ) 被告は,被告自身の多数の特許を実施することによりウェブ広告の分野 において大きなシェアを獲得することができているのであるから,本件各 発明の相当実施料率の算定に当たってもこの点を考慮すべきであると主 張するが,被告がウェブ広告の分野において多数の特許を実施しているこ とやそれが売上げに寄与していることは,本件特許の相当実施料率を算定 すべき上で考慮すべき事情ということはできない。 また,被告は,本件特許の相当実施料率の算定に当たり,被告が自身の 努力により●省略●を作成したことを考慮すべきであると主張するが,上 記と同様,この点も本件特許の相当実施料率を算定すべき上で考慮すべき 事情ということはできない。
(ウ) 被告は,甲20公報を引用し,本件各発明の「IPアドレス対地域デー タベース」は「アクセスポイント側」の情報を用いるものであり,●省略 ●含まないとした上で,原告の主張を前提とするのであれば,本件各発明 の価値・技術的意義は低いなどと主張する。 しかし,被告の上記主張は,データベースの構成と●省略●を誤解・混\n同するものであり,その前提において失当であり,また,本件各発明が公 知技術との関係で新たな技術的意義が存在しないということはできない。 むしろ,本件各発明は,IPアドレスを所有するアクセスポイントが属 する地域を判別し,判別した地域に対応したウェブ情報を選択して前記ユ ーザ端末に送信する方法によって,同一URLにおいてもユーザの発信地 域ごとに異なるウェブ情報を送信することができるという効果を得る発 明であって,他にGPS等のシステムを用いることなく,ユーザ端末に割 り当てられたIPアドレスとIPアドレス対地域データベースを照合す るという比較的簡易な方法によりユーザの発信地域の判別をすることが できるものであるから,従来技術にはない新たな技術的意義を有するとい うことができる。
(エ) 被告は,本件特許の相当実施料率の算定に当たり,地域ターゲティング 以外のターゲティング機能の効用を考慮すべきであると主張する。\nしかし,地域ターゲティングは中心的な機能であり,他のターゲティン\nグ機能に比べてその重要性は高いというべきであり,また,これらの機能\ は重複して利用されることも多く,その寄与の度合いを個別に算定するこ とが困難であることは,前記(2)イ(エ)のとおりである。このため,YDN 及びプレミアム広告が地域ターゲティング以外のターゲティング機能を\n備えていることを考慮しても,適用すべき実施料率を下げることが相当と いうことはできない。
(オ) 被告は,YDNのクリック数や売上げは,被告が長年にわたり多大な労 力を積み上げてきたサービスの圧倒的な利用者数及びアクセス数を前提 とするものであり,これらは本件各発明と無関係であるから,本件特許の 相当実施料率の算定に当たってはこの点を考慮すべきであると主張する。 しかし,YDNの売上げにおいて,被告の提供するサービスの利用者数 や被告のウェブサイトへのアクセス数が影響を与えたとしても,本件各発 明の売上げ及び利益への貢献の程度という観点からみると,本件各発明は, IPアドレス対地域データベースを使用して,アクセスポイントの属する 地域を判別することを通じて,地域によって異なるウェブ情報をユーザ端 末に送信することを可能にするものであるから,エリアターゲティング広\n告に必要不可欠なものであり,本件各発明と同程度に簡易かつ効果的に地 域判別をし得る代替技術の存在を示す証拠のないことに照らすと,本件各 発明を利用することができない場合には,被告のYDNやプレミアム広告 の利用者に対する訴求力は大幅に減殺されたものというべきである。 このような本件各発明のYDN及びプレミアム広告の提供サービスに おける必要不可欠性や売上げや利益に対する貢献度に照らすと,YDNの 売上げにおいて,被告の提供するサービスの利用者数や被告のウェブサイ トへのアクセス数が影響を与えたとしても,これをもって,適用すべき実 施料率を下げることが相当であるということはできない。 また,被告は,プレミアム広告においては,被告ウェブサイトへのアク セス数のみが売上げに貢献するので,本件各発明は売上げに寄与,貢献し ていないと主張するが,上記と同様の理由から,そのような事情をもって 適用すべき実施料率を下げることが相当であるということはできない。
エ 小括
以上によれば,本件各発明の実施についての相当な実施料率は,YDNの うち被告ウェブサイトに広告を掲載する部分及びプレミアム広告につき 3%,YDNのうち他の提携ウェブサイトに広告を掲載する部分は1.5% と認めるのが相当である。

◆判決本文

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令和3(ネ)10066  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について、構成要件Bの「操作メニュー情報」を有するとは認められないとして、1審判断を維持しました。

ア 前記のとおり補正して引用する原判決が説示するとおり(原判決46頁 23行目ないし49頁1行目),本件各発明の特許請求の範囲の記載内容 に加え,本件明細書の段落【0012】の記載内容及び【図7】に記載さ れた本件各発明の実施例としての様々な操作メニュー情報の表示内容か\nらすれば,本件各発明の「操作メニュー情報」とは,「ポインタの座標位置 によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段 に表示するため」の「画像データ」であり,出力手段に表\示され,利用者 がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構\ 成されていることを要するものというべきである。
イ そして,被告製品のページ一部表示が,縮小された中央ページの右端又\nは左端あるいは両端に,幅が細く縦長の白みがかった長方形として表示さ\nれること,そこには何の文字,図形,記号,アイコン等は表示されないこ\nとからすれば,当該長方形部分のみを見た利用者は,それがどのような命 令を実行する表示であるのかを理解することはできないというべきであ\nり,したがって,被告製品のページ一部表示の画像は本件各発明の「操作\nメニュー情報」には当たらず,本件ホームアプリが構成要件Bの「操作メ\nニュー情報」を有するとは認められないことは,前記のとおり補正して引 用する原判決が説示するとおりである(原判決49頁2行目ないし50頁 6行目)。
控訴人は,1)被告製品においては構成e又は構\成e’によってそれまで 表示されていなかったページ一部表\示の画像が液晶画面に表示されるよ\nうになること,2)ページ一部表示の画像と壁紙画像との境界が明確である\nことを指摘するが,これらの点は,いずれも利用者がページ一部表示の画\n像自体から「実行される命令結果」の内容を理解することができるか否か に関わるものではないから,上記の判断を左右するものではないというべ きである。また,控訴人は,3)被告製品のページ一部表示の画像が表\現し ている表示内容は,実行されるスクロール命令の結果を小さな絵で表\現し た画像であるとも指摘するが,上記のとおり,ページ一部表示の画像は,\nその表示内容等からすれば,利用者がその表\示自体から「実行される命令 結果」の内容を理解できるように構成された画像データであるということ\nはできない。 なお,上記の判断に照らすと,控訴人が上記第2の3(1)アにおいて主張 する判断基準によったとしても,被告製品のページ一部表示の画像は,少\nなくとも同主張における3)の要件を満たすものとはいえないから,本件ホ ームアプリが構成要件Bの「操作メニュー情報」を有するとは認められな\nい。
ウ したがって,控訴人の主張(1)アは採用することができない。
(2) 控訴人の主張(1)イについて
ア 控訴人が主張(1)イにおいて指摘する各点は,いずれも上記(1)で検討し たところと同様の事情であるといえるから,いずれも前記の判断を左右す るものではないというべきである。そして,このことは,本件ホームアプ リに係るソースコードの記載内容を基に検討した場合であっても同様で\nある。
イ したがって,控訴人の主張(1)イは採用することができない。
(3) 小括
ア 控訴人は,上記のほかにも,争点1−3について縷々主張するが,いず れも前記の判断を左右するものではないというべきである。 イ 以上によれば,本件ホームアプリは,構成要件Bにいう「操作メニュー\n情報」を有するとは認められず,被告製品が構成要件Bを充足するものと\nは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,被告製品 が本件各発明の技術的範囲に属するものと認めることはできない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆令和2(ワ)15464

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令和2(ワ)19927  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年12月24日  東京地方裁判所

 薬について技術的範囲に属しないと判断されました。均等侵害についても本質的要件を満たさないと判断されました。

 原告は,本件発明3は,慢性疼痛に対する画期的処方薬として,抗て んかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだ したものであり,その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用い る点にあるから,対象となる痛みが侵害受容性疼痛か,神経障害性疼痛 や線維筋痛症かは本質的部分ではなく,効能・効果を神経障害性疼痛や\n線維筋痛症に伴う疼痛とし,慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告 医薬品は,均等侵害の第1要件を満たすと主張する。 しかし,前記1(1)アのとおり,本件特許に係る発明は,てんかん,ハ ンチントン舞踏病等の中枢性神経系疾患に対する抗発作療法等に有用な 薬物である本件化合物が,痛みの治療における鎮痛作用及び抗痛覚過敏 作用を有し,反復使用により耐性を生じず,モルヒネと交叉耐性がない ことに着目した医薬用途発明であるところ,前記2(1)イのとおり,本件 出願当時,痛みには種々のものがあり,その原因や機序も様々であるこ とが技術常識であった。 そうすると,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発明 3において本質的部分というべきであり,その鎮痛効果の対象を異にす る被告医薬品は,本件発明3の本質的部分を備えているものと認めるこ とはできない。したがって,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載さ れた構成中の被告医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でない\nということはできないから,被告医薬品は均等の第1要件を満たさない。
(イ) また,前記(1)アによれば,原告は,本件訂正前発明3においては鎮痛 の対象となる痛みを限定していなかったところ,本件訂正により「炎症 を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」に限定していること からすると,本件発明3との関係においては,被告医薬品の効能・効果\nである神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を意図的に除外したと 認めるのが相当である。 したがって,被告医薬品は均等の第5要件も満たさない。

◆判決本文

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令和1(ワ)25121 特許権 令和3年12月9日  東京地方裁判所

 CS関連発明について、技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断されました。

 このように,乙8発明は,ユーザから入力された情報から抽出したキーワードに 基づいてそれに関連するウェブページを収集し,そのリンク情報を取得して記憶し, ユーザ端末にキーワードに関連するウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する ものである。しかして,かかるウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力すること は,ユーザに対してユーザの関心のある事項に関連するウェブサイトの閲覧を勧め るものであるといえ,当該リンクを出力することは,ユーザに対する提案を行うも のということができ,また,当該リンクはウェブ上から取得されるものであるから, ウェブサイトからユーザに対して提案すべき情報を取得しているということができ る。 そうすると,乙8発明がユーザコメントに基づいてリンクを出力するアバター管 理部及び情報収集部は,構成要件1Eの「前記第1又は第2受付手段によって受け\n付けられた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行う提案手段」に相当し, また,乙8発明の,アバター管理部及び情報収集部によりユーザコメントに基づい てウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する機能は,構\成要件5Eの「前記受 け付けた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行うステップ」に相当する。 さらに,乙8発明における,ウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリ ンクを取得する情報収集部は,構成要件1Fの「前記個人情報に基づいてウェブサ\nイトから前記ユーザに対して提案すべき情報を取得する手段」に相当し,上記情報 収集部によりウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリンクを取得する 機能は,構\成要件5Fの「前記個人情報に基づいてウェブサイトから前記ユーザに 対して提案すべき情報を取得するステップ」に相当する。 その他,構成要件E及びFと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件E及びFは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
エ 構成要件G(「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段と,を有する」「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促すステップと,を更に有する」)につき,\n乙8発明と対比する。 構成要件Gに関し,本件明細書の記載をみると,「飲みすぎないように!」などの\nアドバイスのメッセージを出力する旨の記載があり(【0119】),かかる記載内容 からすると,構成要件Gにおける「注意を促す」とは,気を付けるように仕向ける,\n気を配るように仕向けるとの意であると解することができる。 しかして,乙8発明は,スケジュールが未完了であることが確認すると,アバタ ーから,「スケジュールが未完了だよ。代わりのスケジュールを入力してね」のよう な,スケジュールの修正を依頼するアバターコメントを出力する機能を有する(【0\n043】)。そして,乙8発明の学習・生活支援サーバ内にはアバターコメントを出 力するアバター管理部が実装されている(【0024】等)ところ,上記機能は,ユ\nーザに対してスケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は, スケジュールに気を配るように仕向けるものであるといえる。 そうすると,乙8発明の,アバターコメントの出力を実行するアバター管理部は, 構成要件1Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段」に相当し,ま\nた,乙8発明の,ユーザに対して上記の趣旨のアバターコメントを出力するアバタ ー管理部の機能は,構\成要件5Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す ステップ」に相当する。 その他,構成要件Gと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Gは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
オ 構成要件H(「情報提供装置。」「を情報提供装置に実行させる情報提供プロ\nグラム。」につき,乙8発明と対比する。 乙8発明のアバター管理部によるアバターコメントの出力は,情報の提供に当た るため,この点をもって既に,アバター管理部を有する乙8発明の学習・生活支援 サーバは,情報を提供する装置(「情報提供装置」)であるということができる。 また,上記サーバは,アバター管理部のほかに,ユーザ情報管理部,テキスト分 析部,情報収集部,コンテンツ管理部で構成される制御部を有しており,制御部は,\n少なくとも一つのCPU等を備え,ROM等に予め記憶されたプログラムを読み込\nんで実行することにより,上記各部の機能を事項することが可能\となるものである (【0021】等)ことから,乙8発明の学習・生活支援サーバは,情報提供装置で あって,各種機能を実行させる情報提供プログラムを有しているといえ,乙8発明\nは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プログラム」と同 一であるといえる。 その他,構成要件Hと乙8発明の間に,実質的に相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Hは,乙8発明の構\成と実質的に同一のものといえる。
(4) したがって,本件各発明は,その全ての構成要件が,乙8発明の構\成と実質 的に同一のものであるから,本件各発明は,乙8発明との関係で,新規性を欠くも のといわざるを得ず,いずれも,特許無効審判により無効にされるべきものと認め られる(特許法29条1項3号,123条1項2号)。
(5) 原告らの主張について
原告らは,1)乙8公報に記載されている「スケジュールの修正を依頼する」とは, 構成要件Eにおける,議案や意見を提出するという「提案を行う」こととは相違す\nる,2)乙8公報がユーザ端末に出力するウェブサイトのリンクは,ウェブサイトの 所在を示す情報であって,この所在を示す情報が,「提案を行う」内容である議案や 意見であるはずがなく,乙8発明は構成要件Eと相違し,また,ウェブサイトのリ\nンクはユーザに対して提案すべき情報を規定している構成要件Fの「情報」とも相\n違する,3)乙8発明がユーザのスケジュールが未完了であることを確認した場合に ユーザにスケジュールの修正を依頼することは,構成要件Gの,気を付けるよう仕\n向けることとは相違する,4)乙8発明のユーザ端末は,情報提供をするものではな いから,構成要件Hと相違する,などとして,本件各発明が乙8発明の構\成と実質 的に相違する旨主張する。
しかしながら,原告らの上記各主張は,次のとおり,いずれも理由がないという べきである。 まず,上記1)及び3)の点については,乙8発明において「スケジュールの修正」 を依頼されたユーザは,スケジュールが完了していないことを知り,新たなスケジ ュールを考えて入力するように促されることとなるのであって,「スケジュールの 修正の依頼」も,ユーザに対して新たなスケジュールを組み立てる旨の議案や意見 の提出にも当たるといえるから,構成要件Eの「提案を行う」と実質的に同一の構\ 成であるといえる。また,乙8発明の上記のような働きは,まさにユーザに対しス ケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は,気を配るよう に仕向けることであるといえるから,乙8発明は,構成要件Gの「注意を促す手段」\nないし「注意を促すステップ」と実質的に同一の構成を有するといえる。\nまた,上記2)の点については,構成要件Eの「提案を行う」との文言について,\n特許請求の範囲及び本件明細書の記載に,ユーザに提案すべき情報の具体的内容を 限定する根拠となるものはなく,ウェブページを出力することに限る旨の示唆もな い。その上,前記説示のとおり,キーワードに関連するウェブページのリンクをユ ーザ端末に出力することは,当該リンク先のウェブページを閲覧することをユーザ に勧めることに該当し,まさに,この点が「提案」といえるというべきである。そ うすると,乙8発明のアバター管理部が当該リンクをユーザ端末に出力することは, 構成要件Eが規定するユーザに対する「提案を行う」との構\成と,同一であるとい わなければならない。また,構成要件Fの「情報」との相違を指摘する原告の主張\nも,結局,リンクはあくまでウェブサイトの所在を示す情報に過ぎず,これがユー ザに対して提案すべき情報には当たらないとの主張であると解されるが,前記のと おり,ユーザ端末にユーザの個人情報に基づいてこれに関連するウェブページのリ ンクを出力することは,ユーザに対して当該リンク先のウェブページの閲覧を勧め るという意味において,ユーザに提案すべき情報を表示するものであり,乙8発明\nにおいてユーザ端末に出力されるリンクは,構成要件Fの「情報」と異なるもので\nはないというべきである。 さらに,上記4)の点は,前記説示のとおり,乙8発明の学習・生活支援サーバ及 びプログラムは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プロ グラム」と同一であるといえる。 以上によれば,原告らの主張はいずれも採用することができない。

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令和3(ネ)10031  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年1月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 IPブリッジによる侵害事件です。知財高裁は技術的範囲に属しないとした1審判断を維持しました。控訴人は本件発明はDRAMも含むと主張しましたが、裁判所は、明細書における本件発明の課題とその解決原理から、含まれないと判断しました。

イ 控訴人の主張ア(イ)(本件発明の課題解決原理に基づく検討について)に つき
本件発明の技術的意義(前記1(2))に鑑みれば,本件明細書に開示され た発明は,半導体チップ上の領域ごとのゲート電極周縁長の合計が異なる 半導体集積回路装置(具体的にはシステムLSI)において,このような 領域ごとのゲート電極周縁長の合計のばらつきが,従来知られていたマイ クロローディング効果による局所的なパターン寸法の変動などとは異な り,半導体チップ全体にわたるCDロスに許容できないほどの変動をもた らすという,本件特許の出願時においては新規な課題を見い出し,これを, ダミーパターンを挿入してゲート電極周縁長のばらつきを抑えることに より解決したものである。したがって,本件発明の課題とその解決原理に 照らすと,本件発明の「半導体集積回路装置」は,システムLSIを意味 するものと解される。
本件特許の出願時に既に慣用されていたDRAMにおいて,メモリセル アレイを構成するビットラインやワードラインが,DRAMにおける他の\n回路と比較して周縁長が密な回路パターンであり,メモリセルアレイ領域 とそれ以外の回路領域とではゲート電極周縁長の合計がばらつくという 技術常識があったとしても,それが,DRAMを構成する半導体チップ全\n体にわたるCDロスに許容できないほどの変動をもたらすものであるこ とは,本件明細書に何ら言及されておらず,また,上記の新規な課題が, システムLSI中の一部の領域にすぎないDRAM単体においても同様 に生じるものであると認めるに足りる証拠はない。 そうすると,本件発明の課題とその解決原理に照らして,本件発明の「半 導体集積回路装置」は,システムLSIを意味するものと解され,DRA Mを含むと解することはできない。
ウ 控訴人の主張ア(ウ)(審査経過に基づく検討について)につき
控訴人は,審査経過に関し,第1回目及び第2回目の拒絶理由通知につ いて,審査官は,本件特許の発明がシステムLSIの発明であるとは認識 しておらず,また,出願人の意見書においても,本願発明と引用発明の相 違点について,本願発明はシステムLSIであるのに対して引用発明はシ ステムLSIではないという説明はしていないと主張する。 しかし,そもそも特許発明の技術的範囲の画定は,特許請求の範囲の記 載に基づいて定められるが,特許請求の範囲に記載された用語の意義の解 釈は明細書及び図面を考慮して行われるのであって(特許法70条1項及 び2項参照),特許出願の審査過程において,審査官がその特許発明をどの ように理解していたかということは,裁判所の特許発明の技術的範囲の画 定の判断を拘束するものではない。
また,出願人は,第1回目の拒絶理由通知に対する意見書(平成15年 11月28日提出,乙2)において,特許法29条1項3号及び同条2項 の規定に該当しない理由として,「言い換えると,ダミーパターンを挿入す ることによって,異なるマスクパターンレイアウト間でパターンの粗密の 程度を小さくします。このため,ライン状パターンに品種に依存した寸法 変動が生じることを防止できるので,DRAM等の搭載率が用途又は仕様 により異なるシステムLSIにおいても,ゲート電極又はメタル配線等の 加工寸法をマスクパターンレイアウトと無関係に一定にできます。従って, 請求項4の発明によると,動作マージンのバラツキが解消された半導体集 積回路装置を実現できるという格別の効果が得られます。」(乙2〔2〜3 頁〕)と記載し,第2回目の拒絶理由通知に対する意見書(平成16年3月 25日提出,乙4)において,特許法29条2項の規定に該当しない理由 として,「言い換えると,ダミーパターンを挿入することによって,異なる マスクパターンレイアウト間でパターンの粗密の程度を小さくします。こ のため,本願明細書の段落番号[0132]に記載されておりますように, 『半導体集積回路装置の品種によりマスクパターンレイアウトが大きく 異なる場合にも,マスクパターンレイアウトの違いに起因してライン状パ ターンに寸法ばらつきが生じることを防止できる。従って,DRAM等の 搭載率が用途又は仕様により異なるシステムLSIにおいても,ゲート電 極又はメタル配線等の加工寸法をマスクパターンレイアウトと無関係に 一定にできるので,動作マージンのバラツキが解消された半導体集積回路 装置を実現できる』という格別の効果・・・が得られます。」(乙4〔4頁〕) と記載し,いずれの意見書においても,本願発明がシステムLSIに用い られて効果を生ずることを明確に述べており,このような段階を踏まえて 本件特許が登録されたものである。 したがって,仮に,審査官が,拒絶理由通知を発出する際に,特許請求 の範囲に記載された発明の要旨認定において,「半導体集積回路装置」を, その一般的な字義どおりに,DRAMを含む半導体集積回路装置全般と解 釈しており,また,出願人の意見書において,本願発明と引用発明の相違 点として,本願発明はシステムLSIであるのに対して引用発明はシステ ムLSIではないことが明示されていなかったとしても,それに基づいて, 本件発明の「半導体集積回路装置」にシステムLSIではないDRAM自 体が含まれるということはできない。
(3) そうすると,本件発明における「半導体集積回路装置」(構成要件1A,1\nE,5B,5E等)という語は,システムLSIを意味するものとして用い られており,DRAMはこれに含まれないというべきであり,DRAMであ ることに争いのない被控訴人製品(前記第2,2による引用のうちの原判決 「事実及び理由」第2,2⑽(原判決8頁20〜23行目))は,本件発明1 の構成要件1A,1E,本件発明5の構\成要件5B,5Eをいずれも充足せ ず,本件発明1及び本件発明5の技術的範囲のいずれにも属さないものと認 められる。 控訴人は種々主張するが,その主張は,いずれも採用することができない。

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平成31(ワ)647 債務不存在確認請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年8月26日  東京地方裁判所

 Appleによる債務不存在確認訴訟です。進歩性無しとして104条の3で権利公使不能と判断されました。\n

ウ そこで,以上の説示を前提として,以下,公然実施発明1への甲5−1発 明の組合せの可否について検討する。 まず,公然実施発明1は,スリープ状態とスリープ解除状態とを有し,スリープ 状態からスリープ解除状態とする際の操作及びその際にロック画面が表示されるス\nマートフォンというものであり,他方,甲5−1発明の技術分野は,生体情報を利 用した電子デバイスの内蔵認証システムに関するものである。そうすると,両発明 の技術分野については関連性が存するものというべきである。 また,公然実施発明1は,スリープ状態において,ホームボタンを押すことによ り,デバイス機能を有効にするときに,起動して認証を行うというものであるか\nら,ホームボタンの押下によりスリープ状態からスリープ解除状態に切り替わった ときに,パスコード認証によりユーザを識別するという機能を有するものである。\nこの点,公然実施発明1においては,ホームボタンの押下の後,パスコード認証の 前に,ロック画面においてスライダをドラッグするという操作入力という構成があ\nるが,この構成については,タッチパネル入力による誤作動防止(パスコードによ\nる認証の設定がされている場合は,パスコードやホーム画面の誤作動防止であり, パスコードによる認証の設定がされていない場合であっても,ホーム画面の誤作動 防止)という,ユーザ識別とは別の技術的意義があるといえるところ,パスコード 認証という構成は,これとは別の,ユーザ識別のための構\成として把握することが できるものであって,上記スライダをドラッグするという構成とは可分な別個の構\ 成であるというべきである。そして,甲5−1発明における「ユーザがデバイスを オンにする,ロックを解除する,または,起動する」ことは,デバイスの機能を有\n効にすることであるといえ,また,デバイス機能を有効にする前に,生体情報の提\n供をユーザに対して要求する認証方法という構成のものである。そうすると,公然\n実施発明1と甲5−1発明とは,デバイスの機能を有効にするときに,ユーザ識別\nのための認証動作を行う点に関して,その作用機能が共通するものと認められる。\n以上によれば,公然実施発明1と甲5−1発明においては,技術分野の関連性及 び作用機能の共通性が認められるものであって,当業者(その発明の属する技術の\n分野における通常の知識を有する者)において,両者を組み合わせる動機付けがあ るものと認められるものであり,その他,本件全証拠をみても,両者の組合せを阻 害する事情を認めるに足りる主張立証はない。そうすると,公然実施発明1のデバ イスの機能を有効にするときのユーザ認証として,甲5−1発明におけるデバイス\nの機能を有効にするときにデバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証するため\nのホームボタンの背後に配置した指紋を検出するセンサによって指紋認証を行う構\n成を組み合わせることは,当業者が容易に想到できたことである。また,公然実施 発明1はパスコードの入力による認証に関して,誤ったパスコードが入力されると, ロック状態が維持され,ディスプレイに認証を行うよう求めるメッセージが表示さ\nれる構成を有するし,甲5−1発明も,特定されたユーザが許可されていないと判\n断した場合,認証を行うようユーザに指示する構成を有し(甲5文献【0080】),\nかかる指示がディスプレイ部に表示することによってなされること,及びユーザ認\n証のための操作が行われると,認証結果にかかわらずディスプレイがオンにされる ことは,当該技術の性質・内容に照らし,周知慣用技術といえる。そして,公然実 施発明1は,使用者識別機能による認証の結果,使用者が正当な使用者と認証され\nなければロック状態を維持するものであるところ,公然実施発明1に甲5−1発明 を組み合わせる際に,かかる構成をあえて排除又は変更する理由は,本件全証拠を\nみても見当たらない。 以上からすると,当業者は,相違点1に係る構成を容易に想到することができた\nものといえ,本件発明1−1を容易に発明することができたものと認められる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,公然実施発明1は,パスコードの入力という使用者識別機能を有\nするものの,指紋等の生体情報による内蔵認証システムを有するものではなく,こ れを有する甲5発明とは技術の点における共通性がない旨主張する。 しかし,前記認定のとおり,両発明においては,いずれも,デバイスの機能を有\n効にするときにユーザ識別のための認証動作を行う点で共通しているのであって, パスコードの入力による認証方法と指紋等の生体情報による認証方法というように 認証に用いる情報の内容は異なるものの,両発明の技術分野に相違があるとは認め られない。そうすると,被告の上記主張は,採用することができない。
(イ) また,被告は,公然実施発明1は,ホームボタンに対する操作入力及びスラ イダのドラッグ操作を経てから使用者識別機能を実行するものであるところ,これ\nは,デバイス機能を有効とする前あるいはデバイスリソ\ースへのアクセスの前のシ ームレスな認証という甲5発明の課題と共通しないから,公然実施発明1に甲5発 明を組み合わせる動機付けがないと主張する。 しかしながら,前記説示のとおり,公然実施発明1に係るパスコード認証という 構成については,ユーザ識別のための構\成として,上記のスライダをドラッグする という構成とは可分な別個の構\成として把握することができるというべきである。 そうすると,公然実施発明1におけるパスコードによる認証という構成と,甲5−\n1発明におけるシームレスな認証処理という構成とは,ユーザにおいて許可されて\nいない人が個人情報にアクセスして閲覧することを防ぐ方法の一つとしての認証方 法を備えている点で共通するものであり,両発明において,デバイス機能を有効に\nするときのユーザ認証の動作に関して,その作用機能が共通するものと認められる\nことに変わりはない。すなわち,ユーザによる誤作動の防止と,スリープ状態にお いてホームボタンを押してユーザ識別を実行するための動作とは,その性質内容に 照らし,互いに別個のものということができ,公然実施発明1がユーザによる誤作 動防止の意義を有するからといって,これに甲5−1発明を組み合わせることがで きないことになるとはいえない。 そうすると,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) さらに,被告は,本件発明1−1は,1) 指紋認証による使用者識別機能が,\n非活性状態から活性状態に切り替えるための操作入力により,かつ,使用者による 追加操作なしに行われる,2) 使用者識別機能による認証の結果,使用者が正当な\n使用者と認証されなければ,移動通信端末機のロック状態を維持するとともに,デ ィスプレイ部にメッセージを表示する,3) 活性化ボタンにおいて非活性状態にあ るときに操作入力を受け付けると,使用者識別機能による認証の結果にかかわらず,\nディスプレイ部をオンにして活性状態に切り替えるという構成を有するが,公然実\n施発明1にはこれらのいずれも有していないという相違点があるところ,甲5発明 には,上記1)ないし3)に係る構成が開示されていないため,両者を組み合わせても,\n上記相違点を埋めることはできないと主張する。 しかし,被告主張の上記1)については,上記ウで説示したとおり,公然実施発明 1のデバイスの機能を有効にするときにユーザ認証として,甲5−1発明における\nデバイスの機能を有効にするときにデバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証\nするための構成を,公然実施発明1のスライダを備えたロック画面を残したまま組\nみ合わせることは当業者が容易に想到できたことである。 また,公然実施発明1は,パスコードを入力することによる使用者識別機能によ\nる認証の結果,認証されなければロックを維持するものといえるところ,公然実施 発明1に甲5−1発明を組み合わせる際に,かかる構成をあえて排除又は変更する\n理由が認められないこと,ユーザ認証がされなかった場合には,ディスプレイに認 証を行うよう求める旨のメッセージが表示されること,及びユーザ認証のための操\n作が行われると,認証結果にかかわらずディスプレイがオンになることは周知慣用 技術といえることは,前記説示のとおりである。そうすると,被告主張の上記2)及 び3)について,実質的な相違点ということはできないというべきである。 以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。
オ 小括
上記によれば,本件発明1―1は,当業者が公然実施発明1に甲5−1発明を組\nみ合わせることにより,容易に想到することができたものといえ(特許法29条2 項),本件発明1−1は,特許無効審判により無効にされるべきものというべきで ある(同法123条1項2号)。
・・・
7 争点3−3(無効理由2の解消の有無)
(1) 本件訂正事項2−1,2−2に係る訂正による無効理由2の解消の有無
ア 訂正の概要
本件訂正事項2−1は,本件発明2−1の構成要件2−1Cの活性状態をロック\n画面が表示されたものに限定するものであり,本件訂正事項2−2は,本件発明2\n−2の構成要件2−2Aに,「前記ロック画面には,現在の時間を表\示することがで きる」と追加するものである。 イ 本件訂正事項2−1,2−2に係る訂正による無効理由2の解消の有無 しかしながら,本件訂正発明2−1及び本件訂正発明2−2と公然実施発明2と を対比してみたとしても,前記5(2)で認定した公然実施発明2の構成からすれば,\nスリープ状態からスリープ解除状態においてロック画面が表示される点,同画面に\n現在の時間を表示することができる点について,相違するものではない。\n以上によれば,本件訂正事項2−1,2−2に係る訂正によっても,無効理由2 を解消することはできないといわなければならない。

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令和1(ワ)27053  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月31日  東京地方裁判所

 出願経過から用語の意義を解釈して、技術的範囲に属しないと判断されました。

争点1−1(被告製品の小径部側壁部は,係止片は大径部側に一体形成される一方 小径部側には設けられていないという文言を充足するか−構成要件1E4),2E4), 3E5)充足性)について
構成要件1E4),2E4),3E5)によれば,「係止片は」「大径部側に」「一体形成 される一方」「小径部側には設けられておらず」というのであり,上記のとおり,本 件発明は,従来よりも安全性などの向上を図るというその目的をより良く達成する という上記の技術的見地から,針先再露出防止を担う係止片の構成を工夫して,拡\n開部の大径部側に一体形成し小径部側には設けないという構成を採用したものとい\nうことができる。これによれば,本件発明において,拡開部に設ける「係止片」に ついては,大径部側に一体形成されている必要があるとともに,小径部側には設け られていない構成である必要があるものであって,「係止片」が小径部側に設けられ\nている構成は排除されているものといわなければならない。\n
そして,この「係止片」は,使用後の針先再露出を防止する部材であるといえる が,当該部材が針先の先端側への移動を阻止して針先再露出を防止する態様につい ては,構成要件1Dに「該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた\n所定位置において,該針先プロテクタに設けられた係止片が該針ハブに対して係止 される」とある以上には何ら具体的な限定がなされていない。また,本件明細書の 発明の詳細な説明を見ても,当該部材が,針先の先端側への移動を阻止する具体的 態様を限定する根拠となり得るような記載は見当たらない。加えて,本件特許の出 願経過を見ると,証拠(乙14,15)によれば,原告は,令和元年5月15日頃, 特許庁から進歩性欠如等を理由とする拒絶理由通知を受け,その際,構成要件1D\nに関し,「針先プロテクタの断面形状を,周知の形状である小径部と大径部とを備え た楕円形とし,大径部の周壁に針ハブ係合部を設け,大径部の周壁で覆われた内部 に係止部を設けた構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。」などと\n指摘されたことを踏まえて,同年6月19日,従前の請求項で「前記拡開部の前記 大径部に対応する位置に,前記筒状の周壁に一体形成された前記係止部が設けられ て」と記載していた部分を,「前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される一方, 前記小径部側には設けられておらず,」と補正したものであることが認められる。そ の上で原告は,同日特許庁に提出した意見書において,本件発明の進歩性を基礎付 ける事情として,拒絶理由通知書で審査官が指摘した引用文献(乙27,29)に ついては,いずれも針先プロテクタの小径部側に係止部が設けられており本件発明 とは異なる旨主張し,その際,当該係止部が針先の先端側への移動を阻止する具体 的態様には言及していなかったことが認められる。そして,本件特許は,その上で 登録されている。
そうすると,本件特許請求の範囲の記載文言をみても,本件明細書の発明の詳細 な説明をみても,小径部側に設けられてはならないとされている「係止片」が針先 の先端側への移動を阻止する具体的態様を限定する根拠となり得るような記載がな く,加えて,原告自身,本件特許の出願手続においては,その特許請求の範囲を前 記のように「前記小径部側には設けられておらず,」と補正した上で,意見書におい て,具体的態様については何ら限定しないまま,小径部側に「係止片」が設けられ ていない点を本件発明の進歩性を基礎付ける事情として主張し,その上で本件特許 が登録されたものである。 以上によれば,本件発明において小径部側に設けられてはならない「係止片」は, 針先の先端側への移動を阻止する具体的態様が限定されているものではなく,他の 部材と協働して針先の先端側への移動を阻止する構成を含むものであるといわなけ\nればならない。
そこで,被告製品をみるに,前記前提事実によれば,被告製品においては,針基 に設けられた針リブと針先保護部に設けられた小径部側壁部とが,小径部側壁部の 突端面により縦リブの側面を挟持することで互いに係合することにより,針基が針 先保護部に対して回動することを防止する構成になっており,仮にこのような回動\nが発生して針基の受部が大径部係止手段のない小径部側まで移動した場合には,針 基が大径部係止手段をすり抜けて針先保護部に対して前進することになる。すなわ ち,小径部側壁部がなければ,大径部係止手段が無効化されて,針基が前進し,留 置針の針先が針先保護部の先端側から再露出することになるのであるから,被告製 品においては,小径部側壁部による針基の回動防止と大径部係止手段による針基の 受け部の係止が協働して機能することによって,針先の再露出を防止していると認\nめられる。
そうすると,被告製品の小径部側壁部は,他の部材と協働して,針先の先端側へ の移動を阻止する構成であるといえ,当該小径部側壁部は,本件発明において小径\n部側に設けられることが排除されている「係止片」に当たるといわなければならな い。これによれば,「係止片」が針先抜出防止機構を含むものであるか否かに関わら\nず,被告製品は,小径部側に「係止片」が設けられているものとして,本件発明に おいて排除されている構成を有しているから,本件発明の構\成要件1E4),2E4), 3E5)をいずれも充足しないといわなければならない。 したがって,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,本件発明の構成要件1Dの「係止片」が,針ハブ(に設けられた受部)\nと「係止」されることによって「再露出を防止する(つまり,留置針が前進しな いように止める)」ものであるのに対し,被告製品の小径部側壁部は,針基の縦リ ブの側面を挟持して針基の回動を防止しているだけで,針基の前進を防止してい るわけではないから,「係止片」に該当しないなどと主張する。 しかし,前記説示のとおり,本件発明にいう「係止片」は,他の部材と協働し て針先の先端側への移動を阻止する構成を含むものといわなければならない。そ\nして,被告製品において,小径部側壁部がそれ単体として針先の再露出を防止す るものでないとしても,小径部側壁部による針基の回動防止と大径部係止手段に よる針基の受け部の係止が協働して機能することによって針先の再露出を防止し\nているものである以上,本件発明にいう「係止片」に該当しないということはで きない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ また,原告は,被告製品の小径部側壁部が針基の縦リブの側面を挟持する場所 は,針基と針先保護部の位置関係にかかわらないのであって,留置針の針先側へ 針先プロテクタが移動せしめられた「所定位置」において係止するものでないた め,被告製品の小径部側壁部は「係止片」に当たらないとも主張する。 しかしながら,前記のとおり,被告製品は,小径部側壁部がそれ単体として針 先の再露出を防止するものではなく,小径部側壁部による針基の回動防止と大径 部係止手段による針基の受け部の係止が協働して機能することによって針先の再\n露出を防止するものであり,その機能が発揮される場所は,前記前提事実のとお\nり,針管と針先保護部が相対移動してクリック感が生じる位置に限定されている。 このことからすれば,被告製品の小径部側壁部は,「留置針の針先側へ針先プロテ クタが移動せしめられた所定位置において」,大径部係止手段と協働して針先の再 露出を防止しているといえる。被告製品の小径部側壁部が,針先と針先保護部の 位置関係にかかわらず針基の縦リブの側面を挟持しているという事情は,この説 示を左右するものではない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ さらに,原告は,本件発明の構成要件1E4),2E4),3E5)が「前記係止片 は,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,」と規定していることをもって, 本件発明で小径部側に設けられてはならないとされている「係止片」は「前記針 ハブに向かって傾斜した内側面」を有しているものに限られているなどと主張す る。
しかし,構成要件1E4),2E4),3E5)の「前記係止片は,前記針ハブに向 かって傾斜した内側面を有し」との文言は,本件明細書の段落【0061】の記 載(「・・・垂直面79a,79aの外周側に位置する傾斜面79b,79bが,外周 側になるにつれて先端側に傾斜していることから,垂直面79a,79aと基端 側規制面40とが傾斜面79b,79bに干渉されることなく当接することがで きて,針ユニット20と針先プロテクタ10の軸方向における相対移動防止効果 がより確実に発揮され得る。」との記載)も併せると,そのような大径部側に一体 形成される係止片の構成について,規定した針ユニットと針先プロテクタの軸方\n向における相対移動防止効果がより確実に発揮されるという効果を奏させるべく 規定されたものであると認められる。そうすると,当該文言は,大径部側に円筒 状部と一体形成される係止片について特定したものにすぎず,設けられていては ならない位置にある「係止片」の形状を限定するものではないというべきである。 したがって,被告製品の小径部側壁部が「傾斜した内側面」を有しないことは, 被告製品の小径部側壁部が本件発明において小径部側に設けられてはならないと されている「係止片」に当たることを否定する理由にはならない。原告の上記主 張は,採用することができない。
エ 以上によれば,原告の上記主張はいずれも採用できない。原告は,その他も縷々 主張するが,それらの主張内容を慎重に精査しても,上記説示を左右するに足り るものはない。

◆判決本文

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平成30(ワ)1130  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月31日  東京地方裁判所

 102条2項について、2割の推定覆滅が認められました。同3項による認定についても触れています。損害額は15億円です。対応EP特許でドイツでも侵害訴訟があります。

ア 前記前提事実によれば,本件発明の構成要件1Eは,「該印刷層は,白色の有機\n顔料,白色または黄色の無機顔料,蛍光染料,および蛍光増白剤のうちの一以上 の着色剤を含有する」である。これに対応する被告製品(1)の構成1eは,「印刷層\nは,●(省略)●と●(省略)●を含有する●(省略)●印刷インキにより形成 されるが,」である。そして,被告製品の印刷層の●(省略)●印刷インキに含有 される●(省略)●は,「白色」の「無機顔料」に当たる。 ここでは,本件発明については,印刷層が「白色の有機顔料・・・着色剤」を含有 すれば,それだけで構成要件1Eを充足するのではなく,これにより「色相を明\nるくすること」を要するかが問題となる。
イ 本件発明の構成要件1Eには,印刷層が「白色の有機顔料,および蛍光増白剤」\nのいずれかを含有するとの記載がされているだけであり,「色相を明るくすること」 が発明特定事項として記載されているわけではない。 また,前記1のとおり,本件発明は,再帰反射シートに関する発明であるとこ ろ,本件明細書の段落【0004】には,三角錐型キューブコーナー再帰反射シ ートのうち,反射素子の反射側面に蒸着層が設置されている「蒸着型」三角錐型 キューブコーナー再帰反射シートについては,その再帰反射素子の性質から金属 の色の影響を受けて外観が暗くなってしまうという欠点を有していると記載され ているものの,それ以外の再帰反射シートについては,外観の暗さが課題になっ ている旨の記載がない。また,本件明細書の【0014】,【0015】には,本 件発明の技術的意義は「色相の改善」であると記載され,段落【0021】,【0 030】,【0032】には,印刷層の目的は「色相を調節」,「色相の調整」と記 載され,段落【0036】には,「本発明に用いられる着色剤は,特に限定される ものではないが,・・・色相を明るくすることができ,且つ,隠蔽性が得られるもの が良く,シートの色相に合わせた明色系の色が好ましく,・・・白色の有機顔料や白 色や黄色の無機顔料,並びに蛍光染料や蛍光増白剤を挙げることができ,中でも, 白色や黄色の無機顔料が好ましい。」と記載されており,「色相を明るくすること」 は,「隠蔽性」を得ることや「シートの色相に合わせた」色であることと並んで, あくまで好ましい態様であるとされているにすぎない。そのため,本件発明の着 色剤の技術的意義である「色相の改善」は,色相の調節ないし調整を意味するも のであり,「色相を明るくすること」に限定されるものではないと解される。他方, 本件明細書の実施例では,白色顔料が用いられているものの,その他の着色剤と 比較して明るさが向上するとの趣旨で記載されているものではなく,比較例でも, 実施例とは印刷の模様のみを変えて,「Y値」すなわち「色相(明るさ)」には変 化がないが耐候性が改善することを確認しているにすぎない。このような本件明 細書全体の記載を考慮すれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を\n明るくすること」を要件としたものとは解されない。 以上によれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を明るくするこ\nと」を要しているとはいえないというべきである。
ウ これに対し,被告らは,本件特許の出願経過において,原告が,補正により本 件発明に構成要件1Eを追加し(乙21),本件発明の効果は,「色相,特に昼光\n下での色相(Y値=明るさ)が改善されて」いることであり,同構成要件の着色\n剤を用いることにより色相(Y値=明るさ)を改善したと主張しており(乙3), 同構成要件の「白色」,「黄色」,「蛍光」を用いて「色相(Y値=明るさ)」を改善\nする技術的意義を強調しているから,上記着色剤の意義は,色相を明るくするこ とにあると主張している。 しかし,原告が提出した乙21の内容を見ても,本件発明の構成要件1Eの技\n術的意義が,「色相を明るくすること」であるとは記載されていない。 むしろ,乙3には,本件発明の効果は,「十分な再帰反射性能\を有し,かつ色相, 特に昼光下での色相(Y値=明るさ)が改善されており,耐候性及び耐水性にも 優れている」ことであると記載され,Y値と同義である「色相(Y値=明るさ)」 と,それに限定されない意味での「色相」とが区別されているため,明るさに限 定されない色相の改善についても主張していると解される。さらに,乙3には, 一般に用いられている着色剤は,再帰反射性の確保のために光透過性を有するが, 光透過性を有する着色剤は光劣化しやすいという欠点があったのに対して,本件 発明の構成要件1Eの着色剤は,光透過性を有するものではないこと,本件発明\nは,構成要件1Eの着色剤を用いることにより,再帰反射シートの昼光下での色\n相(Y値=明るさ)を更に改善したこと,本件発明では,印刷領域が構成要件1\nB〜1Dを具備する独立印刷領域であるため,印刷層が光透過性を有しない構成\n要件1Eの着色剤を含有しても,それ以外の領域を通じて十分な再帰反射性能\を 有することが記載されている。以上によれば,原告は,本件特許の出願経過にお いて,本件発明の構成要件1Eの着色剤について,明るさの改善だけでなく,そ\nれ以外の効果も主張していると解されるから,そのような主張をもって,本件発 明の着色剤の技術的意義が色相を明るくすることに限定されるとまではいえない というべきである。 その他,被告らの主張を検討しても,採用すべきものはない。
エ したがって,被告製品(1)の構成1eは,それぞれ本件発明の構\成要件1E及び これを引用する構成要件2Bを充足する(なお,仮に同構\成要件の着色剤が「色 相を明るくすること」を意味するものとしても,これは相対的に色相を明るくで きるような所定の着色剤を含有させれば足り,必ずしも絶対的に「色相を明るく すること」を要するものではないというべきであるところ,証拠(甲17)及び 弁論の全趣旨によれば,被告製品では,「白色」の「無機顔料」に当たる●(省略) ●を含有しない領域よりも,これを含有する領域の方が色相も改善●(省略)● による色相改善の効果を享受)していることがうかがわれ,被告製品の●(省略) ●印刷インキの色相が暗くなっているのは,●(省略)●で色相が明るくなった 一方で,●(省略)●で色相が暗くなったにすぎないというべきであり,これに よって本件発明の構成要件1Eの充足性が否定されることにはならないというべ\nきである。)。
・・・
推定覆滅の事情
a 特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の 事情と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益 と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると 解される。例えば,1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること (市場の非同一性),2)市場における競合品の存在,3)侵害者の営業努力(ブ ランド力,宣伝広告),4)侵害品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特 徴)などの事情について,特許法102条1項ただし書の事情と同様,同条 2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができ るものと解される。
b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張 する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当 である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の 印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品 と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし, 原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明 は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。 しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技 術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域 をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独 立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料・・・着色 剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措 定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製 品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実 験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって 直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の 全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の 技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当 ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度 等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き く変化していないと主張する。 しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な 証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替 えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧 製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従 前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた 可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品 の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略) ●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売 できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+● (省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。 しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競 合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨 によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性 能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告 らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認 めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売 上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの は相当ではない。
(d) さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益 率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省 略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品 のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10 2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の ●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製 品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と 同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一 定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単 価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e) 以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち, 原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。
・・・
ア 次に,原告は,予備的主張として,特許法102条3項の適用を前提とする損\n害額の支払を求めているため,以下検討する。
・・・
a 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の 額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「そ の特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められ ていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうと して,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。 特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無 効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額 を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還 を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常であ る状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該 特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされ た場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして,上記 のような特許法改正の経緯に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たって は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づか なければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対して事後的に定め られるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べ て自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施 許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実 施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発 明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該 製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵 害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し て,合理的な料率を定めるべきである。
b そこで検討するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)原告は,本 件訴訟の提起前に,被告らを含む3Mグループに対し,本件特許のライセン ス料率5%を提案していたこと(乙41),他方で,米国3Mは,過去に第三 者に提起した特許権侵害訴訟において,再帰反射シートに関する特許の実施 料率は9%であると主張していたこと(甲71),米国3Mらは,過去に第三 者に提起した訴訟において,ロイヤルティ料率20%での合意をしたこと(甲 72,乙66),株式会社帝国データバンク編「知的財産の価値評価を踏まえ た特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書 〜知的財産(資産)価値 及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜」(平成22年3月)において,再 帰反射シート(樹脂シート)が該当する「化学」の最小値が0.5%,最大 値が32.5%,平均が4.3%であるとされていること(甲73,乙67), 被告3Mジャパンらは,原告に提起した特許権侵害訴訟において,実施料率 を10%と主張していること等が認められる。 また,2)本件発明は,前記のとおり,再帰反射シートの構成全体に関わる\n発明であり,相応の重要性を有しているといえ,これらの構成を備えた従来\n技術は存在せず,この点についての代替技術が存在することはうかがわれな い。
そして,3)本件発明は,被告旧製品の全体について実施されており,これ によって向上される耐水性・耐候性は,需要者の購入動機に影響を与えるも のであるから,本件発明を被告旧製品に用いることにより,被告らの売上及 び利益に貢献するものと認められる。
さらに,原告と被告らは,いずれも再帰反射シートの製造販売業者であり, 競業関係にある。
c 上記bの諸事情を含む本件訴訟に表れた事業を総合考慮すると,本件特許\n権を侵害した被告らに事後的に定められるべき,本件での実施に対し受ける べき料率は,10%を下らないものと認めるのが相当である。 したがって,本件特許権侵害について,特許法102条3項により算定さ れる損害額は,前記(1)で認定した被告旧製品の売上高の10%になる。

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令和2(ネ)10029  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審はサポート要件違反として無効と判断しましたが、控訴審は約360万円の損害賠償を認めました。

イ 原告は,1)本件発明1の「該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2. 5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベ ルオフ重合度より5〜300高いこと」との要件(差分要件)は,「該セル ロース粉末」に関するレベルオフ重合度との差分であるにもかかわらず, 本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたレベルオフ重合度は,いずれ も「原料パルプ」のレベルオフ重合度であって,実施例及び比較例の「該 セルロース粉末」のレベルオフ重合度は不明であること,BATTIST A論文の記載に照らすと,「該セルロース粉末」と「原料パルプ」のレベル オフ重合度が同じであるとは認められないことからすると,本件明細書の 発明の詳細な説明の記載から,差分要件の数値範囲において,本件発明の 1の課題を解決できると当業者が認識することはできない,2)仮に本件審 決が認定するように「該セルロース粉末」のレベルオフ重合度は,「原料パ ルプ」のレベルオフ重合度より100低いと仮定した場合,実施例2ない し6において示されている差分の範囲は150〜255であり,その下限 値は150であること,差分5ないし10という数値は,粘度法による重 合度測定の誤差の範囲のレベルであり,実質的にはレベルオフ重合度との 差分を技術的有意性をもって認識することはできないこと,当業者は,差 分要件の作用機序の技術的意味を理解できないことからすると,本件明細 書記載の差分が150以上の実施例のデータのみをもって,測定誤差のレ ベルである差分5ないし10を下限とする差分要件の数値範囲の全体に わたり本件発明1の課題を解決できると認識することはできないとして, 本件発明1はサポート要件に適合しない旨主張するので,以下において判 断する。
(ア) 本件発明1の「レベルオフ重合度」の意義について
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明1の「レベ ルオフ重合度」の意義について規定した記載はないが,本件明細書の【0 015】に,「本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温 度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法) により測定される重合度をいう。」との記載がある。 上記記載は,本件発明1の「レベルオフ重合度」を定義したものとい えるから(前記6(1)イ),本件発明1の「レベルオフ重合度」とは,2. 5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチ レンジアミン法)により測定される重合度」をいうものと解される。 なお,本件明細書の【0015】には,レベルオフ重合度に関し,「セ ルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶 以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,レベル オフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(I NDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMIST RY,Vol.42,No.3,p.502−507(1950)),その 後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはなら ない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分 の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合 度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合 度でないと判断できる。」との記載がある。上記記載中の「乾燥後のセ ルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時, 重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき, 重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。」と の記載部分は,本件出願当時,「レベルオフ重合度」とは,セルロースを 酸加水分解すると,その重合度は,酸加水分解初期に急激に200−3 00に低下した後ほぼ一定になり,このほぼ一定になった重合度を意味 することは技術常識であったこと(前記(1)イ(ア))に照らすと,レベルオ フ重合度に達しているか否かの一般的な判断基準を示したものではない ものと理解できる。
(イ) 1)について
a 本件明細書には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセル ロース粉末について,それぞれの原料パルプ(市販SPパルプ,市販 KPパルプ等)のレベルオフ重合度が記載されている(【0039】な いし【0047】)。 前記(1)イ(ア)のとおり,本件出願当時,酸加水分解時に,非結晶部 分は酸で分解されやすいが,結晶部分は分解されず残り,残った部分 の化学構造と結晶構\造は,原料セルロースのままであって,分解され ずに残った部分の結晶領域の長さが「レベルオフ重合度」に対応する ことは技術常識であったことを踏まえると,本件明細書の上記実施例 及び比較例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度は,原料パルプ のレベルオフ重合度とおおむね等しいものと理解できる。 この点に関し磯貝明作成の令和2年9月11日付け意見書(乙72) 中には,「3桁のLODPを報告するときの有効数字は2桁とするのが 一般的であるが,実際のところ,2桁目,3桁目の精度は無いといっ ていほどバラバラになるので,LODPについて十の桁,一の桁を議\n論することは技術的に意味がない。そして,同一のセルロースでもL ODPは酸加水分解条件等によって変化することも常識である,その ため,例えば,市販の木材パルプのLODPを測定したとしても,そ の木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉末のLODP については,やはり実際に測定してみなければわからず,原料である 木材パルプと同一になるとは推測できないばかりか,具体的にいかな る値になるかも推測することはできない。」との記載部分がある。 しかしながら,他方で,上記意見書中には,「LODPとは「セルロ ース試料を酸で加水分解処理した残渣の重合度が一定時間(・・・)経過 しても”ほぼ”一定になる現象」であると述べる部分や,「BATTI STA論文でも同様であるが,「ほぼ一定になる」という現象を示す以 上に,例えば,「平均重合度が下がりきっている(これ以上全く低下し ない)」という含意はない。」,「「一定」といっても過酷な条件であれば 少なくとも2時間程度は更なる酸加水分解によって平均重合度が緩や かに低下していくことは常識である。」,「こうした変化も含めて200 〜300程度の粗い幅で「ほぼ一定」と言っているのである。」と述べ る部分がある。
これらを総合すると,上記意見書の上記記載部分は,市販の木材パ ルプのLODPとその木材パルプを原料として酸加水分解したセルロ ース粉末のLODPとの間における「かなり程度の高い同一性」を問 題とした上で,木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉 末のLODPについては,原料である木材パルプと同一になるとは推 測できない旨を述べたにとどまるものというべきであるから,上記記 載部分によって,本件明細書の実施例及び比較例記載のセルロース粉 末のレベルオフ重合度が原料パルプのレベルオフ重合度とおおむね等 しいものと理解できるとの上記判断を左右するものではない。
b 加えて,本件明細書の表4には,実施例2ないし7及び比較例1な\nいし11のセルロース粉末の平均重合度の記載があることからすると, 本件明細書に接した当業者は,上記セルロース粉末が差分要件を満た すかどうかを把握できるものと解される。 また,本件明細書の表4には,「平均重合度」,「粒子の平均L/D(長\n径短径比)」,「平均粒子径」,「見掛け比容積」,「見掛けタッピング比容 積」,「安息角」及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」(差分 要件)のいずれもが本件発明1の数値範囲内にある実施例2ないし7 のセルロース粉末の円柱状成形体とそのいずれかが本件発明1の数値 範囲外である比較例1ないし11とのセルロース粉末の円柱状成形体 について,平均降伏圧[MPa],錠剤の水蒸気吸着速度Ka,硬度[N] 及び崩壊時間[秒]が示されている。 そして,実施例2ないし7のセルロース粉末は,いずれも,安息角 が55°以下,錠剤硬度が170N以上,崩壊時間が130秒以下で あり,ここで,安息角は,55°を超えると,流動性が著しく悪くな り(【0018】),錠剤硬度は成形性を示す実用的な物性値であり,1 70N以上が好ましく(【0019】),崩壊時間は崩壊性を示す実用的 な物性値であり,130秒以下が好ましい(【0019】)のであるか ら,実施例2ないし7のセルロース粉末は,成形性,流動性及び崩壊 性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であるということ\nができる。
したがって,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び 本件出願時の技術常識から,実施例2ないし7のセルロース粉末は, 本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから, 1)は採用することができない。
(ウ) 2)について
本件明細書には,「平均重合度はレベルオフ重合度ではないことが好ま しい。レベルオフ重合度まで加水分解させてしまうと製造工程における 攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくな い。」(【0015】),「レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めて おく必要があるかということについては,5〜300程度であることが 好ましい。さらに好ましくは10〜250程度である。5未満では粒子 L/Dを特定範囲に制御することが困難となり成形性が低下して好まし くない。300を超えると繊維性が増して崩壊性,流動性が悪くなって 好ましくない。」(【0016】),「セルロース質物質をレベルオフ重合 度まで加水分解してしまうと,製造工程における攪拌操作で粒子L/D が低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。・・・セルロース分散 液の粒子は乾燥により凝集し,L/Dが小さくなるので,乾燥前の粒子 の平均L/Dを一定範囲に保つことで高成形性でかつ崩壊性の良好なセ ルロース粉末が得られる。」(【0021】)との記載がある。 これらの記載から,セルロース粉末がレベルオフ重合度まで加水分解 されてしまうと,乾燥前のセルロース粒子のL/Dが低下しやすく,そ の後の乾燥工程でセルロース粒子が凝集して,得られるセルロース粉末 のL/Dが小さくなり,L/Dが小さくなると,成形性が低下すること を理解できる。 そして,本件発明1の差分要件は,レベルオフ重合度まで重合度が低 下しないように加水分解することを,セルロース粉末の平均重合度とレ ベルオフ重合度の差分(差分要件)で表し,その下限を「5」としたこ\nとを理解できるから,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全 体にわたり,本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認めら れる。 したがって,2)は採用することができない。
(エ) まとめ
以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願時 の技術常識から,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全体に わたり,本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められるか ら,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであることが認め られる。 また,これと同様の理由により,本件発明2も,発明の詳細な説明に 記載したものであることが認められる。

◆判決本文

1審はこちら

◆東京地裁平成29年(ワ)24598号
キ 以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度 と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるところ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの 本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく,また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しい とはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求 の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された 本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえない。\n

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令和1(ワ)8905 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月18日  大阪地方裁判所

 発明の技術的意義から、用語を解釈し、技術的範囲に属しないと判断されました。

(ア) 本件明細書の記載によれば,本件明細書においては,「針先の再露出」ない しこれと同旨の意味を含む表現(「針先再露出阻止機構\」等)と「針抜出し」ない しこれと同旨の意味を含む表現(「針抜出阻止機構\」等)がそれぞれ用いられてい る。その上で,「針先の再露出」等の表現は,針先プロテクタが留置針の針先側へ\nの移動位置において針ハブに係止された後に,針先プロテクタが留置針の基端側へ 後退(移動)すること(【0013】,【0027】,【0070】,【0073】)又は留置針 が針先側(先端側)へ前進(移動)すること(【0028】,【0029】,【0034】〜 【0036】)により針先が外部に露出することを意味する場合に用いられている。 他方,「針抜出し」等の表現は,留置針が基端側へ移動し,針先プロテクタの基端\n側から抜け落ちることにより針先が外部に露出することを意味する場合に用いられ るものと理解される(【0022】,【0028】,【0029】,【0034】,【0035】, 【0071】)。
このように,本件明細書では,「針先の再露出」等と「針抜出し」等の表現が明\n確に使い分けられていることを踏まえると,「留置針の針先の再露出」(構成要件\n1D 等)とは,針先プロテクタが留置針の針先側への移動位置において針ハブに係 止された後に,針先プロテクタが留置針の基端側へ後退(移動)すること又は留置 針が針先側(先端側)へ前進(移動)することにより針先が外部に露出することを 意味するものであって,留置針が基端側へ移動し,針先プロテクタの基端側から抜 け落ちることにより針先が外部に露出する場合はこれに含まれないと解される。こ れに反する被告の主張は採用できない。 したがって,「係止片」(構成要件 1D 等)は,上記の意味における「留置針の 針先の再露出」を防止する機構を構\成するものと理解される。構成要件 1E4)等の 「係止片」も,「前記係止片」として構成要件 1D 等を受けたものであることか ら,同様である。
(イ) 「係止片」(構成要件 1E4)等)につき,本件明細書には,針先プロテクタの 大径部側に形成されるものの形状及び機能等に関しては,それが「針ハブに向かっ\nて傾斜した内側面を有し」,「円筒状部と一体形成される」ことを含めて具体的に 記載されている(【0028】,【0034】,【0036】,【0058】,【0059】, 【0061】,【0065】,【0067】〜【0070】,図 9)。これに対し,「小径部側に 設けられ」ない「係止片」に関しては,その形状はもとより,係止片を小径部側に 設けないことの技術的な意義ないし作用効果やこれを設けた場合の弊害等につい て,本件明細書には何ら記載されていない。
また,本件特許の出願経過を見ると,本件意見書によれば,小径部に設けられて いない係止片の形状につき,原告は「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有」 するものを念頭に置いていると理解する余地もあるものの,本件各発明の進歩性を 主張するに当たり,本件通知書の引用文献2及び4に各記載の「針先プロテクタの 小径部側」に設けられている「係止部」の具体的な形状に言及してはおらず,小径 部に設けられていない係止片の形状についてはもとより,係止片を小径部側に設け ないことの技術的な意義ないし作用効果やこれを設けた場合の弊害についての言及 もない。そうすると,本件意見書の記載については,原告は,公知の発明と構成が\n異なることを示す趣旨で「係止片」が「小径部側には設けられて」いないことに言 及したに過ぎず,「係止片」の形状に関しては,拡開部の大径部側に設けられた係 止片Sが針ハブに向かって傾斜した内側面を有することを説明するにとどまり,小径 部側に設けられていない係止片に関しては何ら述べていないものと理解される。 このような本件明細書の記載及び本件特許に係る出願経過を参酌すると,「係止 片」(構成要件 1E4)等)につき,「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有 し」とは,「前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される」「係止片」の形状を 特定したものであって,「前記小径部側には設けられて」いない「係止片」の形状 を特定するものではないと理解される。これに反する原告の主張は採用できない。
(ウ) 小括
以上より,本件各発明の「係止部」とは,「該針先プロテクタに設けられた」も のであり,これが「該針ハブに対して係止されることで該留置針の針先の再露出が 防止される」,すなわち,針先プロテクタが留置針の針先側への移動位置において 針ハブに係止された後に,針先プロテクタが留置針の基端側へ後退(移動)するこ と又は留置針が針先側(先端側)へ前進(移動)することにより針先が外部に露出 することを防止するものであって(以上につき,構成要件 1D 等),針先プロテク タの有する「前記円筒状部の基端側に」設けられるものであり(構成要件 1E2) 等),かつ,「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,前記大径部側に前記 円筒状部と一体形成される」が,その形状のいかんを問わず「前記小径部側には設 けられ」ない(以上につき,構成要件 1E4)等)ものであると解される。
(2) 構成要件の充足性\n
ア 被告各製品の小径部の側壁部の構成等\n
(ア) 被告各製品の小径部側壁部につき,針先保護部(針先プロテクタ)の基端側 に設けられていること,針抜出防止機構(針先プロテクタが留置針の針先側への移\n動位置において針ハブに係止された後に,更に留置針が基端側へ移動し,針先プロ テクタの基端側から抜け落ちることにより針先が外部に露出することを防止する機 構)として機能\すること,及び,少なくとも針管と針先保護部が相対移動してクリ ック感が生じる位置において,小径部側壁部の突端面により針基に設けられた縦リ ブの側面を挟持することで,針基が針先保護部に対して回動を防止する状態となる ことについては,当事者間に争いがない。
(イ) 証拠(甲3〜6,乙5)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品において は,小径部側壁部が針基に設けられた縦リブの側面を挟持することで針基の回動を 防止しつつ,針先保護部が初期状態の配置位置から留置針の針先方向へ移動し,小 径部側壁部が針基に設けられた縦リブの側面を挟持した状態のまま,クリック感が 生じる位置(「該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた所定位 置」(構成要件 1D 等)に相当する。)である針基の受け部において大径部係止手 段が針基に対して係止されることによって,針管の針先が再度,針先保護部の先端 側から露出することが防止されることとなる。 また,証拠(乙63)及び弁論の全趣旨によれば,仮に被告各製品の小径部側壁 部が存在しない場合,針基の受け部においても針基は回動可能な状態にある。この\n場合,針基が回動したとしても,針先保護部の大径部係止手段に針基の縦リブが接 触することにより針基の回動がいったん停止することとなる。この状態ではなお大 径部係止手段と針基の受け部が接触しているため,直ちに針先保護部が基端側に移 動可能となるものではない。もっとも,この状態において一定の外力が加えられる\nと,縦リブが大径部係止手段を乗り越えて再び回動するなどして,針基の受け部と 大径部係止手段の係止が解除され,針先保護部が基端側に再度移動し,留置針の針 先が再露出する状態となり得ることが認められる。 しかも,被告各製品の添付文書(甲5)には,次のような記載がある。
「・針を収納する際は,ロックが外れたことを確認し,真っ直ぐ引くこと。(針 基が曲がったり,折れるおそれがある。)
・針が収納,固定された状態でグリップ部を強く引っ張る,回転させる操作をし ないこと。(針基が曲がったり,折れるおそれがある。)
・針が収納,固定された状態で針先が飛び出す方向に力を加えないこと。(針刺 し及び感染のおそれがある。)」 これらの記載によれば,被告各製品においては,留置針を収納する際や収納・固 定された状態において日常的な使用時に作用し得る程度の外力により,針基の屈曲 や針先再露出といった状態が生じ得ることがうかがわれる。まして,被告各製品の 小径部側壁部が存在しない場合は,更に小さい外力によりこのような状態が生じ得 ると考えられる。
(ウ) そうすると,被告各製品においては,針先保護部に大径部係止手段及び小径 部側壁部が設けられており,針管と針先保護部が相対移動してクリック感が生じる 位置において,針先保護部に設けられた大径部係止手段が針基に対して係止される ことと,針基に設けられた縦リブと針先保護部に設けられた小径部側壁部とが相互 に係合することにより針基が針先保護部に対して回動することが防止される状態に あることとが相まって,針基が大径部係止手段をすり抜けて針先保護部に対して前 進することができなくなっているものと認められる。すなわち,被告各製品は,大 径部係止手段のみならず小径部側壁部が針先保護部に設けられていることにより針 先の再露出が防止される構成となっている。\n以上のとおり,被告各製品の小径部側壁部は,針先再露出防止機構としての機能\ をも有するものと認められる。したがって,被告各製品の小径部側壁部は,「係止 片」(構成要件 1D 等)に該当し,これが小径部に設けられている以上,被告各製 品は,「前記係止片は,…前記小径部側には設けられておらず」(構成要件 1E 4))を充足しない。

◆判決本文

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令和3(ネ)10058  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 遠隔監視システムについて、均等侵害が第1要件を満たさないと判断した1審の判断が維持されました。

なお,事案に鑑み,念のため,被告製品の均等論の第1要件の充足につい て判断する。
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書の開示事 項を総合すれば,本件発明1は,従来の遠隔監視システムでは,施設の侵入 者があったり,施設において異常が発生した場合に,当該施設の所有者や管 理責任者が一次的に当該侵入や異常発生を知ることができず,また,警備会 社からの二次的な通報により上記所有者や責任者が侵入や異常発生を知るこ とは可能であるが,これらの者が外出している場合等には警備会社が通報を\nすることができないといった課題があり,こうした課題を解決するために, 構成要件1Bないし1Gの構\成を採用し,施設の監視対象領域を監視する監 視装置からのメッセージと監視装置によって得られた画像の情報が当該施設 の所有者や管理責任者に対応する顧客の携帯端末に通知又は伝達されること により,顧客が何れの場所においても施設の異常等を適切に把握することが できるとともに,監視装置から受理された画像の略中央部分の画像からなる コンテンツを携帯端末に伝達することにより,表示装置が小さい携帯端末で\nも顧客により十分に認識可能\な画像を表示することができ,さらに,カメラ\nの「パンニング」を含む携帯端末からの遠隔操作命令により「パンニング」 に従った領域を特定し,その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを備 え,顧客が参照したい領域を特定して携帯端末に提示することができるよう にしたことにより,施設の所有者や管理責任者が外部からの侵入や異常の発 生を知り,その内容を確認することができるという効果を奏するようにした ことに技術的意義があるものと認められる(【0004】ないし【0007】)。 このような技術的意義に鑑みると,本件発明1の本質的部分は,1)何れの 場所においても顧客が携帯し得るものとして,監視装置からの異常検出によ って監視装置により撮影された画像データの伝達を受ける端末を「携帯端末」 とし,2)「携帯端末」に伝達する画像は,略中央部分の画像領域から構成さ\nれ,3)携帯端末からの「パンニング」を含む遠隔操作命令を受理し,その領 域の画像を携帯端末に伝達するステップを含むことにより,4)表示装置が小\nさい携帯端末でも,顧客により十分に認識可能\な画像を表示することができ,\nさらに,携帯端末からの遠隔操作命令により,顧客が参照したい領域を特定 して携帯端末に提示することができるようにした点にあるものと認められる。 すなわち,単にセンサの情報伝達の宛先を警備会社の中央コンピュータから 施設の所有者等の携帯端末に切り替えたことのみに重きがあるわけではなく, 何れの場所においても顧客にとって携帯が容易で,操作等が迅速かつ簡便で あるためには表示装置が小さい端末とならざるを得ない面があるところ,そ\nうであっても,外部からの侵入や異常の発生を知り,その内容を確認するこ とが十分に可能\な構成を有することが本件発明1の本質的部分であるという\nべきである。なお,本件発明2及び3は本件発明1(請求項1)の従属項で あり,また,本件発明5は,本件発明1の遠隔監視方法の発明を監視制御サ ーバに関する発明としたものであるから,これらの発明の本質的部分もこれ に同様である。
これに対し,被告製品は,監視装置からの異常検出によって監視装置によ り撮影された画像データを伝達する端末は,携帯電話のような表示装置が小\nさい端末ではなく,また,端末からの遠隔操作命令により受理された画像の うち他の領域の画像を参照すること示す命令である「パンニング」を含む遠 隔操作命令を受理し,その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを含ま ないため,顧客が何れの場所においても施設の異常等を適切に把握すること ができ,表示装置が小さい「携帯端末」でも顧客は十\分に認識可能な画像を\n表示することができ,顧客が参照したい領域を特定して「携帯端末」に提示\nすることができるようにしたことにより,施設の所有者や管理責任者が外部 からの侵入や異常の発生を知り,その内容を確認することができるという本 件各発明の効果を奏するものと認めることはできない。 したがって,被告製品は, 本件各発明の本質的部分を備えているものと認 めることはできず,被告製品の相違部分は,本件各発明の本質的部分でない ということはできないから,均等論の第1要件を充足しない。 よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件各発 明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。\n

◆判決本文
1審はこちらです。

◆令和1(ワ)21597

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令和3(ネ)10007  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審では方法クレームについても、物クレームと同じく「連通可能な室」として、構\成要件を具備しないと判断されました。これに対して、知財高裁は方法クレームについては「室」の意義について「連通可能な」という要件がないものも含むとして、方法クレームの侵害と判断しました。

「室」という語は,一般的には,「へや」すなわち「物を入れる所」などを 意味する語であるところ(甲27),構成要件1A及び2Aの文言のほか,前記2(2)の本件各訂正発明の概要及び前記(1)の本件各訂正発明の課題を踏まえると,構成要件1A及び2Aの「複数の室を有する輸液容器」の要件は,複数の輸液を混合\nするのに用いられる従来技術であるそのような輸液容器を用いる輸液製剤であるこ とを示すことによって,本件訂正発明1及び2の対象となる範囲を明らかにするも のである。本件各訂正発明の課題は,そのような輸液容器を用いて,あらかじめ微 量金属元素を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤で,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を\n提供することにあるから,本件各訂正発明における「室」の意義の解釈に当たって は,上記の一般的な意義のほか,輸液容器における「室」の意義も考慮するのが相 当である。
そこで検討すると,本件特許の出願当時には,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた空間を「室」と呼んだ上で(乙31),その「室」の中に 収納される,薬剤を収容する構成部材を「容器」と呼んだり(甲25,乙17),その「室」の外側に付加して空間を構\成する部材を「被覆部材」と呼んだり(乙16),その「室」に連通される「ポート部材」が薬剤を収容し得る機能を備えるものとしたり(乙12),その「室」を分割したものを「区画室」と呼んだり(乙5)すると\nいった例があった。本件特許の出願後も,上記基礎となる一連の部材によって構成される「室」の中に収納される,薬液を収容する構\成部材を「容器」や「袋」などと呼ぶ例が複数みられるが(甲14,15,乙19),そのように,輸液等を収容す るという機能を有する部分を指す語として「室」以外の語が加えられている中においても,「室」という語は,基本的に,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくために仕切られた相対的に大きな空間を指すものとして用いられ,「容器」や「袋」の\n付加の有無にかかわらず,そのような「室」が複数あるものが「複室輸液容器」な どと呼ばれていたことがうかがわれる(なお,上記のうち,甲15は,大きな「隔 室」の中に「内袋」があり,その「内袋」が更に複数の「薬剤収容室」で構成されているというものであり,「室」の中に「室」があるという点では,やや珍しいもの\nともみられるが,各「隔室」と各「薬剤収容室」は,あくまでそれぞれ一連の部材 によって構成されている。)。そして,上記のような「室」の理解は,本件明細書の記載とも整合的である。\n
(イ) 上記(ア)の点を踏まえると,構成要件1A及び2Aにいう「室」についても,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,\n輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間をい うものと解するのが相当である。
イ 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器」について\n
もっとも,本件訂正発明1の構成要件1A及び本件訂正発明2の構\成要件2Aに おいては,「複数の室を有する輸液容器」の前に,「外部からの押圧によって連通可 能な隔壁手段で区画されている」との特定が付加されている。そうすると,上記特定により,「室」が「連通可能\な」ものであることが明確にされているというべきであるから,構成要件1A及び2Aにおける「室」については,「外部からの押圧によって連通可能\な」ものであることを要するものである。
ウ 被控訴人製品について
(ア) 「室」について
a 先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)ア及び弁論の全趣旨 によると,被控訴人製品に係る輸液容器について,その構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間は,大室及び中室を直接構成するとともに小室T及\nび小室Vの外側を構成する一連の部材によって構\成される空間であるといえる。
b もっとも,小室Tに関しては,外側の樹脂フィルムによって構成される空間が,上記のとおり輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成さ\nれる空間である一方で,連通時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,小室Tの外側の樹脂フィルムに\nよって構成される空間に輸液が直接触れることがない。そのため,小室Tの外側の樹脂フィルムによって構\成される空間が,前記の「室」の理解のうち,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間に当たるかどう かが問題となり得る。 しかし,輸液容器全体の構成を踏まえると,被控訴人製品における小室Tは,外側の樹脂フィルムによって構\成される空間の中に,内側の樹脂フィルムによって構\n成される空間(本件袋)を内包するという二重の構造になっているにすぎず,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための空間としての構\成において,外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間に機能の優劣等があるとはみられない。この点,小室Tと中室との間の接着部について,内側の樹脂フィルムの接着を剥離した\n場合のみならず,外側の樹脂フィルムの接着のみを剥離した場合であっても小室T の外側のフィルムの内側の空間に中室に収容された輸液が流入してこれが本件袋の 外面に直接触れることとなり,中室内の輸液と本件袋の中の液との分離の態様に少 なからず差異が生じるのであり,輸液同士の混合という点では専ら小室Tの内側の 樹脂フィルムの接着部分が意味を持つとしても,隣接する中室内の輸液からの分離 という観点からは,外側の樹脂フィルムにも重要な意義があることは明らかである。 そして,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)は,被控訴人製品に係る輸液容器において基礎となる一連の部材とは別の部材により構\成され,上記基礎となる一連の部材に構成を追加する部分である(このことは,小室Vの内側の樹脂フィルムによって構\成される空間と対比しても,明らかである。)。以上の諸点を踏まえると,小室Tについても,被控訴人製品に係る輸液容器の構成の中で基礎となる一連の部材である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)をもって,「室」に当たるとみるのが相当である。
c ところで,被控訴人製品の小室Tの外側の樹脂フィルムによって区画される 空間のように,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成され る空間が,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大き な空間であるといえるか疑問があり得るような場合に,本件各訂正発明の「室」を どのように理解すべきかについて,本件訂正発明1及び2に係る請求項の文言上は, 必ずしも明らかであるといえないから,そのような場合における「室」の理解につ いて,本件明細書の内容を踏まえた検討も行うと,本件明細書の段落【0024】 は,「微量金属元素収容容器を収納している室」には,溶液が充填されていてもよ いし,充填されていなくてもよい旨を明記しており,同【0033】は,「本態様 の輸液製剤では,図1に示す輸液容器の第1室4に,溶液が充填されていてもよい し,充填されていなくてもよい」と明記しているところであるから,本件各訂正発 明においては,輸液が充填される空間であるか否かという点は,「室」であるか否か を決定する不可欠の要素ではないと解される。 それゆえ,前記bのような理解は,本件明細書における「室」の理解にも沿うも のであるといえる。
d 以上に対し,被控訴人らは,被控訴人製品において,小室Tの外側の樹脂フ ィルムによって構成される空間(本件小室T)は存在しないと主張するが,2枚の樹脂フィルムの間に空間が構\成されている(その空間中には,2枚の内側の樹脂フィルムの間の空間(本件袋)が包摂されている。)こと自体は,明らかであり,被控 訴人らの主張は採用することができない。
(イ) 「連通可能」について
a 前記(ア)のとおり,「室」については理解すべきものであるとしても,前記イ のとおり,構成要件1A及び2Aにおいては,「室」が「連通可能\」であることが要 件とされているところ,前記(ア)bで既に指摘したとおり,小室Tに関しては,連通 時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,「室」である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)に輸液が通じることはない。 そうすると,結局,被控訴人製品は,「室」が「連通可能」という要件を充足しないから,構\成要件1A及び2Aを充足しないというべきである。
b これに対し,控訴人は,本件小室Tに収納された本件袋に輸液が通じること は,本件小室Tに輸液が通じることといえる旨を主張する。この点,前記(ア)dのと おり,本件小室Tという空間が本件袋という空間を包摂していることは確かに認め られるが,そのことと,本件袋との連通をもって本件小室Tとの連通と評価し得る かは,別の問題である。本件訂正発明1及び2に係る請求項1及び2が「室」と「容 器」を明確に分けていることや,前記ア(ア)で指摘した「室」と「容器」についての 技術的な関係のほか,本件明細書の段落【0020】の「微量金属元素収容容器は, それを収納している室と連通可能であることが望ましい。」という記載は,容器の連通が室の連通とは異なるものとみる見方に沿うものであることからすると,控訴人\nの上記主張を採用することはできない。
(3) 争点(4)について
構成要件10A及び11Aの「複室輸液製剤」にいう「室」についても,前記(2) アと同様に解するのが相当である。 そして,構成要件1A及び2Aと異なり,構\成要件10A及び11Aについては, 「室」が「連通可能」であることは要件とされていない。したがって,先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)イ及び弁論 の全趣旨により,被控訴人方法は,構成要件10A及び11Aを充足するというべきである。\n
4 争点(2)(構成要件10C及び11Cに係る点に限る。)について
前記3(2)及び(3)で指摘した点を踏まえ,先に引用した原判決の「事実及び理由」 中の第2の1(7)イ及び弁論の全趣旨によると,被控訴人方法においては,「含硫ア ミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収 容している室」である中室とは「別室」である小室Tの外側の樹脂フィルムによっ て構成される「室」(本件小室T)に,構\成要件10C又は11Cで特定された微 量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器である,小室Tの内側の樹 脂フィルムによって構成される本件袋が収納されていると認められる。したがって,被控訴人方法は,構\成要件10C及び11Cを充足する。

◆判決本文

1審は、構成要件1C、10Cを具備しないので、技術的範囲に属しないと判断していました。

◆平成30(ワ)29802
以上の記載によれば,本件各発明については,次のとおりのものである旨 認めることができる。
すなわち,まず本件各発明の技術分野は,経口・経腸管栄養補給が不能又は不十\分な患者に対して,経静脈からの各種輸液(糖製剤,アミノ酸製剤,電解質製剤,混合ビタミン製剤,脂肪乳剤等)の投与を行うための輸液製剤 に関するものである。この点,当該輸液製剤は,経時変化を受けることなく 保存し,その使用時に細菌による汚染なく混合するため,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器に収容される。\nしかして,輸液中には,通常,銅等の微量金属元素が含まれていないこと から,患者は,輸液の投与が長期になるときにはいわゆる微量金属元素欠乏 症を発症することとなる。しかるところ,これを予防するために必要な微量金属元素を輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の\n原因になり,これを防ぐべく含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填 し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金 属元素とを隔離していても,微量金属元素を含む溶液が不安定となるという 技術的課題が生じていた。
本件各発明は,このような技術的な課題に対して,連通可能な隔壁手段で区画されている複室の一室に含硫アミノ酸を含有する溶液を充填し,これと\nは他の室に,微量金属元素を収容した容器を収納するという構成を採用することにより,上記技術的な課題を解決し,微量金属元素が安定に存在してい\nることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するとい う効果を奏するようにしたものであるというべきである。 そうである以上,本件各発明の課題解決の点における特徴的な技術的構成は,微量金属元素収容容器を,含硫アミノ酸を含有する溶液と同じ室ではな\nく,同室と連通可能な他の室に収納するという構\成を採用したところにある ものというべきである。そして,これは,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器であることを前提として,その複数の各「室」に\nついては,それぞれ異なる輸液を充填して保存するための構造となっており,上記の微量金属元素収容容器を収納する「室」は,含硫アミノ酸を含有する\n溶液とは異なる輸液の充填・保存のための構造となっている「室」であるという技術的構\成が採用されたものということができる。すなわち,本件各発明において,構成要件1Aの「複数の室」及び構\成要 件10Aの「複室」は,各種輸液を充填して保存するための構造となっている各空間を意味すると解されることから,輸液容器に設けられた空間がその\n一室である構成要件1C及び10Cの「室」に当たるためには,当該空間が輸液を充填して保存し得る構\造を備えていることを要すると解するのが相当であり,これに反する原告の前記主張は採用できない。 この点,証拠(甲2)によれば,本件明細書には,発明の詳細な説明とし て,「(略)また,微量金属元素収容容器は,それを収納している室と連通 可能であることが好ましい。(以下,略)」(段落【0020】)との記載や,「上記『微量金属元素収容容器を収納している室』には,溶液が充填さ\nれていてもよいし,充填されていなくてもよい。(以下,略)」(段落【0 024】)との記載のあることが認められる。しかしながら,前者の記載に ついては,前記で説示した本件各発明の技術的意義に照らせば,微量金属元 素収容容器が上記のような意味の「室」に収納されていることを前提とする 記載であり,同容器が輸液を充填して保存し得る構造を備えていない構\成の ものに収納されている場合をも許容する趣旨であるとは解されない。また, 後者の記載についても,同様に,「微量金属元素収容容器を収納している 室」には,輸液が充填されていない構成のものも含まれることを述べたものにすぎず,そもそも輸液を充填して保存するための構\造となっていない構成\nのものまで含まれることを意味したものと解することはできない。 したがって,これらの記載によっては,前記判断は左右されず,その他, 本件明細書の記載内容を詳細に検討しても,前記判断を左右し得る記載は見 当たらない。
そこで,これを被告製品ないし被告方法について見ると, 及び弁論の全趣旨によれば,小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋を 覆っている外側の樹脂フィルム2枚は,中室側及び小室V側の両端部におい て内側の樹脂フィルムと溶着されており,使用時にも当該溶着部分は剥離し ないと認められる。 そうすると,小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の 空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではなく,これに照らすと, 同空間が,輸液を充填して保存し得る構造を備えているものとは認められないといわざるを得ず,同空間が「室」に当たるということはできない。\nしたがって,被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を具備するとは認められない。\n

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平成29(ワ)1390 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月16日  大阪地方裁判所

 パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟です。技術的範囲に属しないと判断されました。対象特許は7件です。多くは29条1項2号(公然実施)による権利行使不能です。事件番号が平成29・・なので、提訴から判決まで4年かかったことになります。委託者および受託者が原告となっています。

 本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲の記載によれば,同発明に係るランプ は,「基板を保持する金属製の基台」(構成要件 1-1F’)をその構成要素の1つとして備えるところ,「前記基台は,前記長尺状の底部と,前記底部の短手方向の一\n方の端部に設けられた第1壁部と,前記底部の短手方向の他方の端部に設けられた 第2壁部とを有し」(構成要件 1-1I’),「前記第1壁部及び前記第2壁部は,前 記底部の前記基板側に衝立状に形成されて」(構成要件 1-1J’)いることが特定さ れている。 これによれば,基台の底部の短手方向の両端部にそれぞれ設けられた第1壁部と 第2壁部は,底部に対し基板側に形成されるものであり,その形状ないし状態が 「衝立状」であることが示されている。もっとも,いかなる形状等をもって「衝立 状」とするかについては記載がなく,その意味が一義的に明らかとはいえない。
イ 本件明細書1の記載等
「第1壁部」及び「第2壁部」について,本件明細書1【0055】には,第1基 台 50 が,長尺状の底部(底板部)と,底部における第1基台 50 の短手方向(基板 11 の幅方向)の両端部に形成された第1壁部 51 及び第2壁部 52 とを有すること, これらの壁部は,第1基台 50 を構成する金属板を折り曲げ加工することによって衝立状に形成されていることが記載されている。また,同段落には,同明細書図\n3B と合わせ,LED モジュール の基板 11 は第1壁部 51 と第2壁部 52 とによっ て挟持されており,LED モジュール は,第1壁部 51 と第2壁部 52 とによって 基板 11 の短手方向の動きが規制された状態で第1基台 50 に配置されることも記載 されている。本件訂正における本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J'の追加は,こ の記載等を含む本件明細書1の記載による開示に基づいて行われたものである(甲 83)。 さらに,広辞苑(乙291)においては,「衝立」とは「衝立障子の略」であり, 「衝立障子」とは「屏障具の一。一枚の襖障子または板障子に台をとりつけ,移動 便ならしめたもの。・・・玄関・座敷などに立てて隔てとする。」と説明されている。 加えて,「衝立障子」は,一般に,それが設置される面に対して略直立するものと 把握される。他方,「状」とは,物事の形,姿,有り様,様子を意味し,「○○状」 とは,ある物事の形等を「○○」に例える際に用いられる表現である。以上の本件明細書1の記載等を踏まえると,第1壁部及び第2壁部は,基台の底\n部の基板側に衝立状に形成されることにより基板11を挟持し,短手方向の動きが 規制する機能を果たすものであるところ,その形状等は上記意味での「衝立障子」に例えられるものである必要があることが理解できる。\n
ウ 小括
以上より,本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲及び本件明細書1の記載等 並びに「衝立」の一般的な意味等に鑑みると,第1壁部及び第2壁部が「衝立状」 に形成されるとは,これらの壁部が基台の底部の基板側に,同底部に対して略直立 した形状に形成されていることを意味するものと解される。これに反する原告の主 張は採用できない。
(2) 被告製品1〜5,7〜10及び12の構成要件充足性
被告製品1〜5,7〜10及び12の断面図は,別添「被告製品断面図」のとお りである。 このうち,被告製品4及び5については,第1壁部及び第2壁部に相当すると見 られる部位は,基台の底部から基板側に形成された基台の一部が内側に向けて鋭角 に傾斜した形状に形成されており,底部に対して略直立した形状とはいえない。 次に,被告製品1〜3,7〜10及び12については,第1壁部及び第2壁部に 相当すると見られる部位には,基台の底部から基板側に略直立といってよい形状に 延出している部分もあるものの,これと一体のものとして,基板とほぼ同じ高さで 基台の底部に平行に形成された部分もあるため,全体としては「コの字」又は「T 字」と表現すべき形状に形成されているものというべきであって,底部に対して略直立した形状に形成されているとはいえない。\nしたがって,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,第1壁部及び第 2壁部に相当すると見られる部位が底部の基板側に「衝立状」に形成されておらず, 本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J’を充足しない。
(3) 小括
以上により,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,本件訂正発明1 −1の技術的範囲に属しない。
4 充足論のまとめ
本件発明1−1,1−3,1−16及び1−17及び並びに本件訂正発明1−1 7につき,対象となる各被告製品が各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属することは,前記(第1の5)のとおりである。\nまた,本件発明1−14並びに本件訂正発明1−18及び1−20については, 前記2のとおり,被告製品1〜5,7〜16は,対応する各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属すると認められる。\n他方,本件訂正発明1−1については,被告製品1〜5,7〜10及び12は, いずれもその構成要件 1-1J'を充足せず,その技術的範囲に属しない。したがって, 本件訂正発明1−1については,その余の点を論ずるまでもなく,訂正の再抗弁は 認められない。
5 403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10) 事案に鑑み,まず,403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10)について検 討する。
(1) 403W 製品の先使用について
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。
(ア) 被告は,平成24年4月23日頃,韓国で製造された 403W 製品480セッ トを輸入した(乙143,315)。
(イ) 被告は,同月25日,ミツワ電機株式会社関西支社に対し,403W 製品24 台を含む商品の見積書を作成,送付し,同月26日,同社関西特機営業所から受注 して,同月28日,これを井づつやに納品した(乙167,168)。 その後,井づつやに納品された上記 403W 製品24台は,同所のエントランスロ ビー等において使用されていたところ,被告は,平成30年7月23日までに,井 づつやからこれを入手した。この被告 403W 製品には,製造ロット番号として 「120416」が表示されているところ,これは,当該製品の製造年月日が平成24年4月16日であることを意味する。(乙166,弁論の全趣旨)\n
(ウ) 被告は,本件チラシ(平成24年1月発行)に,平成24年3月初旬発売予定の商品として 403W 製品を掲載した(乙138)。また,被告は,本件カタログ (同年2月発行)にも 403W 製品を掲載したところ,他の掲載商品には発売予定時期を明記したものが見られるが,403W 製品にはそのような記載はない(乙35)。
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,被告は,遅くとも本件優先日である 平成24年4月25日以前に,403W 発明の実施である事業をしていたことが認め られる。
(2) 403W 発明の構成等
ア 403W 発明の構成のうち,上記第2「10」(被告の主張)(3)における構成 1- 3a10〜c及び e並びに 1-14a10〜f及び hについては,原告 PIPM も明ら かには争わないから,これを認める。 上記構成 1-3a10〜c及び eは,本件発明1−1の構成要件 1-1A〜C 及び E, 本件発明1−3の構成要件 1-3A〜C 及び E,本件発明1−16の構成要件 1-16A〜 C 及び F,本件発明1−17の構成要件 1-17A〜C 及び E 並びに本件訂正発明1− 17の構成要件 1-17B’〜D’にそれぞれ相当するものといえる。また,構成 1-14a10 〜f及び hは,本件発明1−14の構成要件 1-14A〜E,G 及び本件訂正発明 1−18の構成要件 1-18B’〜F’,I’にそれぞれ相当するものといえる。 さらに,403W 製品は,直管形 LED ユニットであり,樹脂(ポリカーボネート) 製カバー(筐体)の長手方向の両端に口金が設けられているところ,その一方には 電源内蔵ユニット用専用口金を備え,この口金のみが,電源内蔵用専用ソケット(給電側)を通じて交流電力を受けるものである(乙35,299)。そうすると,\n403W 発明は,本件発明1−16の構成要件 1-16E 並びに本件訂正発明1−17の 構成要件 1-17E’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18G’,H’に相当する構成を備えていることが認められる。\n加えて,403W 製品は,既存の器具本体をそのまま残し,専用ソケット及び直管形LED ユニットをリニューアルして照明装置として使用する製品シリーズに含まれる製 品である(乙35)。したがって,ランプである 403W 製品に係る発明(403W 発明) は,そのランプが取り付けられた照明装置に係る発明に含まれるといえる。このため, 403W 発明は,本件発明1−17の構成要件 1-17F,本件訂正発明1−17の構成要件 1-17A’及び G’並びに本件訂正発明1−18の構成要件 1-18A’及び K’に相当する構成を備えていることが認められる。
イ 403W 製品の輝度均斉度等
(ア) 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。
a LED モジュールの寿命は,製造業者等が指定する条件下で点灯したとき, LED モジュールが点灯しなくなるまでの総点灯時間,又は全光束が点灯初期に測 定した値の70%に下がるまでの総点灯時間のいずれか短い時間とされているとこ ろ,高光束 LED を1万時間連続通電してその光出力の変化を調査した実験データ によれば,1チップ方式の白色 LED の寿命(光出力が70%になる時間)は4万 5000時間と推定されるとの実験データがある。なお,原告パナソニックのカタログ(乙34)には,直管形 LED ランプについて,4万時間経過後の光束維持率 が95%であることが示されている。 また,LED を連続的に点灯し続けると,LED チップを封止する樹脂(以下 「LED 樹脂部」という。)が黄変し,光量の低下を招くことがある。さらに,LED 照明は,使用する場所の環境温度が高くなるほど劣化が加速されると共に,使用環 境下に硫化ガス等の発生要因がある場合,LED 樹脂部及び接合部にダメージを与 えることなどによっても,劣化が加速する場合がある。 (以上につき,上記のほか,甲37〜39)
b 被告 403W 製品は,平成24年4月28日の井づつやへの納品後,被告が平 成30年7月に入手するまで,6年以上の間継続的に使用されていたものと見られ るところ,その LED 素子の中央部分はやや黄変しており(乙217,218), カタログに記載された初期値を100%とした場合の被告 403W 製品の全光束(全 ての方向に放出する光束の総和)は89.0%,光効率は92.6%に減少してい る(乙216)。もっとも,被告 403W 製品の LED1個あたりの配光データは, 新品の LED の配光データが概ね120度(ランバーシアン配光の場合)であるの に対し,114度及び115度である(乙214,215の3,215の4)。 また,403W 製品のカバーと 402W 製品のカバーは,共通の部材(ポリカーボネ ート)を使用した同じ仕様のものであると認められるところ(乙35,298,2 99,315),被告 403W 製品と未使用の 402W 製品について,それぞれカバー を交換して全光束及び y/x 値を測定した結果,いずれも交換せずに測定した結果と の差は,1%以下(全光束)及び0.01(y/x 値)であった(乙316〜318, 弁論の全趣旨)。
(イ) 以上の事情を踏まえると,被告 403W 製品の LED 素子は,6年以上使用を 継続されているものであり,LED 樹脂部の黄変及び全光束や光効率の減少は生じ ているものの,その配光特性は,初期値(ランバーシアン配光)と大きく異ならず, 著しい経時変化は見られないものといってよい。403W 製品の光拡散性を有するカ バー部分についても,被告 403W 製品には,上記継続使用期間にもかかわらず,全 光束や y/x 値の測定値に影響を与えるような劣化等が生じているとはいえない。 そうすると,被告 403W 製品について,被告が平成30年7月23日に測定した y 値=15.7mm,x 値=11.7mm,y=1.34x との測定結果(乙166)及び令和2年1 月29日に測定した y 値=15.6mm,x 値=11.7mm,y=1.33x との測定結果(乙29 7)は,いずれも 403W 製品の初期値とほぼ同等のものと見るのが相当である。
(ウ) そうすると,403W 発明は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合 う前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y=15.7mm,x=11.7mm であり,y=1.34x」との構成すなわち構\成 1-3d及び 1-14g10)を有するといえる。 したがって,403w 発明は,本件発明1−1の構成要件 1-1D,本件発明1−3の 構成要件 1-3D,本件発明1−14の構成要件 1-14F,本件発明1−16の構成要素 1-16D 及び本件発明1−17の構成要件 1-17D 並びに本件訂正発明1−17の 構成要件 1-17F’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18J’に相当する構成を有していると認められる。\n
ウ 以上より,403W 発明は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1 −18の構成要件を充足する構\成を備えたものであり,これらの各発明と同一性が 認められる。
エ 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告 403W 製品について,長時間の使用による経年変化,LED 素子の樹脂やせや黄変,使用環境の影響等により,被告測定時点での被告 403W 製 品の y/x 値等が初期値のものと同等とはいえない旨を主張する。 しかし,上記のとおり,被告 403W 製品については,長時間の使用による経年変 化等により,LED 素子の中央部に黄変が見られ,また,カタログ値と比較して全 光束や光効率が10%程度減少しているという事実は認められるものの,それ以上 に,LED 素子の劣化(凹み)をはじめ,配光特性に影響を及ぼし得るような LED 素子の劣化等を裏付ける具体的な事情は見当たらず,カバー部材についても,y/x 値等に影響を与えるような劣化が生じているといった事実の存在を具体的にうかが わせる事情は見当たらない。本件交換実験の結果に関しても,上記のとおり,交換 に係る製品が共通の部材を使用した同じ仕様のものであると認められることに鑑み ると,原告 PIPM が指摘する事情を考慮しても,その結果の信用性を直ちに疑うべ きものとまではいえない。 その他原告 PIPM が縷々指摘する事情を踏まえても,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
(3) 先使用権の範囲
上記(1)及び(2)によれば,被告は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及 び1−18の内容を知らないで自らこれらに含まれる 403W 発明をし,本件優先日 の際に,日本国内において,その発明の実施である事業をしている者と認められる。 したがって,被告は,403W 発明及び上記事業の範囲内において,本件各発明1並 びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る特許権について,通常実施権を有す る。 また,403W 製品は,x 値及び y 値の関係性を特定する技術的思想が明示的ない し具体的にうかがわれるものではないものの,実際にはその x 値及び y 値の関係性 により,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る構成要件に相当する構\成を有し,その作用効果を生じさせている。加えて,403W 発明につき, 照明器具としての機能を維持したまま,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18の特定する x 値及び y 値の関係性を充たす数値範囲に設計変更するこ とは可能と思われる。このため,被告製品1〜5及び7〜16は,いずれも,403W 発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式であるにとどまる ものといえる。 そうすると,被告による被告製品1〜5及び7〜16の製造販売は,被告の上記 通常実施権の及ぶ範囲内に含まれる。
(4) 小括
以上のとおり,被告は,403W 発明に基づく上記通常実施権により,業として被 告製品1〜5及び7〜16を製造販売し得ることから,その余の点につき論ずるま でもなく,原告 PIPM は,被告に対し,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17 及び1−18に係る本件特許権1を行使し得ない。
6 無効理由9(クラーテ製品2)の公然実施による新規性欠如)の有無(争点12)
(1) 公然実施の有無
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。
(ア) リコーは,平成23年7月7日,直管形 LED ランプである「クラーテ P シ リーズ40形」を同月末発売予定である旨をプレスリリースした。また,同社は,平成24年1月現在の製品を掲載したカタログ「<クラーテ>P シリーズ」(乙1 71の1)にクラーテ製品2)を掲載しているところ,同カタログ掲載の仕様は,上 記プレスリリースに係る製品の仕様と概ね同一である。さらに,同社は,遅くとも 同月には,クラーテ製品2)を含むシリーズ製品を販売していた。(上記のほか,乙 170,172,173,368)
(イ) 被告は,令和元年9月12日終了のオークションにより,クラーテ製品2)1 4本(被告クラーテ製品2))を入手したところ,これらの被告クラーテ製品2)には, いずれも,製造ロット番号として「1203」が表示されている。これは,当該製品の製造年月が平成24年3月であることを意味する。(乙172,174,186,\n288)
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,クラーテ製品2)は,遅くとも平成2 4年1月頃には,リコーから販売されたことによりその構造が解析可能\な状態に至 ったものと認められる。 これに対し,原告 PIPM は,クラーテ製品2)の上市時期が明らかでないこと,仮 に被告クラーテ製品2)の製造日が平成24年3月であっても,製品製造後すぐ出回 るとは考えがたいことなどを主張する。 しかし,上記のとおり,リコーがクラーテ製品2)を平成24年1月には販売して いたことが認められるのであって,それから約3か月が経過した本件優先日時点で は,クラーテ製品2)が実際に市場に出回っていたものと見るのが合理的かつ相当で ある。したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
ウ 小括
以上より,クラーテ発明2)は,本件優先日より前に日本国内において公然実施を された発明といえる。
(2) クラーテ発明2)の構成等
ア クラーテ発明2)が構成 1-20a’12〜f’12 及び h’12 を有すること,これらの構成がそれぞれ本件訂正発明1−20の構\成要件 1-20A’〜F’及び H’に相当すること については,原告は明らかに争わないことから,これを認める。なお,本件訂正発 明1−20の構成要件 1-20D’の「「基台の上に実装された」の意義について, LED チップが実装された容器が基板を介して間接的に実装された構成を含むことは上記2のとおりである。\nイ 被告クラーテ製品2)14本の構成 1-20g’12 に係るパラメータ(y/x)の被告 測定値は,1.208〜1.278 であった(乙289)。また,関連無効審判における検 証手続の結果によれば,被告クラーテ製品2)は,x 値は 8.6mm,y 値は 10.39mm であり,y≒1.208x であった(乙346,365,弁論の全趣旨)。 そうすると,クラーテ発明2)は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合う 前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y≒1.208x の関係である」(構成 1-20g’12)の構成を有するものと認められる。この構\成は,本件訂正発明1−20 の構成要件 1-20G’に相当する。
(3) したがって,本件訂正発明1−20は,本件優先日より前に日本国内におい て公然実施をされた発明であるクラーテ製品2)に係る発明と同一の発明であるから, 法29条1項2号に違反し,無効にされるべきものと認められる。すなわち,本件 訂正発明1−20に係る本件訂正によっては無効理由が解消されないことから,本 件訂正発明1−20に係る訂正の再抗弁は認められない。
(4) 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告測定値のばらつきや経年変化等の事情を指摘して,被告測定 値が初期値と等しいとはいえない旨を主張する。 この点,被告クラーテ製品2)については,オークションの出品者による説明とし て,中古品であること,商品の状態として「やや傷や汚れ」があること,使用期間 が2年弱であること,電気工事業者による取り外し作業の際に「ざっくりと中性洗 剤で管だけ拭きあげた状態」で丁寧な梱包により発送すること,「RICOH ロゴマ ークあたり」が黒ずんで見えるものの,LED は使用が進んでも黒ずむことはない ため元々の仕様であることなどが記載されている(乙288)。 もっとも,クラーテ製品2)は,光束が70%まで低下するまでの定格寿命が4万 時間とされている(乙170の3,171の1)。このため,被告クラーテ製品2) につき,仮に25%に相当する1万時間使用された事実があったとしても,配光特 性に影響を与えるとは必ずしもいえず,現に,被告クラーテ製品2)のうち2本の配 光特性はいずれも117度である(乙320)。口金ピンやランプマーク側の管端 部の黒ずみについても,その存在から直ちに他の部位にも同様の黒ずみが存在し, 配光特性に影響を与えるとは必ずしも推認し得ないことから,同様である。また, クラーテ製品2)については,光触媒の膜が剥がれて本来の効果が得られなくなる場 合があるとして,製品の表面を強く擦らないようにとの注意喚起がされているものの(乙170の3),「ざっくりと中性洗剤で」「拭き上げ」るといった態様がこ\nれに含まれるとは考えられない。むしろ,LED ランプの手入れ方法としてこのよ うな方法が奨励されているとも見られる(乙35)。さらに,被告クラーテ製品1) (乙169,214,215によれば,未使用品と認められる。)と被告クラーテ 製品2)のカバー部材を交換した測定によっても,両者の半値幅等に有意な差異はな い(乙370)。 これらの事情等を踏まえると,被告クラーテ製品2)につき,経年変化等によりパ ラメータの値に変化が生じているとは考えられず,上記(2)での認定に係る被告ク ラーテ製品2)の被告測定値及び関連無効審判の検証手続における測定値は,初期値 と概ね等しいものと見られる。 したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
7 まとめ
以上のとおり,本件各発明1(並びに本件訂正発明1−17及び1−18)に係 る本件特許権1に基づく原告 PIPM の請求については,被告に 403W 発明に基づく 先使用権が成立することにより,原告 PIPM は,被告に対し,本件特許権1を行使 し得ない。他方,本件訂正発明1−1に係る訂正の再抗弁は,被告製品1〜5,7 〜16がその技術的範囲に属さないことにより,また,本件訂正発明1−20に係 る訂正の再抗弁は,クラーテ発明2)の公然実施を理由とする新規性欠如の無効理由 があり,本件訂正によって無効理由が解消されないことにより,いずれも再抗弁の 成立が認められない。 以上より,その余の点について論ずるまでもなく,被告による本件特許権1の侵 害は認められないから,原告 PIPM の本件特許権1の侵害に基づく請求は,いずれ も理由がない。

◆判決本文

◆添付1

◆添付2

◆添付3

◆添付4

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令和3(ネ)10029  特許侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年10月13日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 知財高裁は、1審の「技術的範囲に属する、推定覆滅率2割」を維持し、約7300万円の損害賠償を認めました。1審判決が出たのが2021年3月なので早いですね。また、方法発明について、共同直接侵害の成立を認めています。

 足場が不要になることが本件発明の唯一の効果であるとはいえないことは,上記2のとおりである。また,同業他社の製品(乙60の各枝番)の施工方法は,証拠上は必ずしも明らかではなく,本件発明及び被告方法のように,倹鈍式によるガラス板の嵌め込み,ガラス板及び目地枠を摺動させることによる取付け,係止爪と被係止爪との係止,といった工程を可能にするものか否かは定かでない。また,控訴人が引用する裁判例は,本件とは事案を異にし,本件における損害額の算定において参考となるものではない。そうすると,控訴人の当審における上記主張は,原判決を引用して説示したとおり推定覆滅率2割を相当とするとの判断を左右するものではなく,採用することができない。\n

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)10716
以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを 実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同 程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について
証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数 のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認 められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について
証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付 枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる (乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4 辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的 にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付 強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係 合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲 14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等 の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得 る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について
証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ 製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程 度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって, アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺 笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関 係である。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他
原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可 能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当 である。 もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると 認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全 趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27 製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3 9製品が平成29年10月であることが認められる。 また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。 これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品 及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2 項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程 度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的 であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに 反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。 そうすると,特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は,以下のと おりとなる。
・・・
したがって,原告の損害額は合計5481万9267円となり(内訳は以下のと おり),原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づき,同額の損害賠 償請求権を有する。

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令和1(ワ)23407  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月10日  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。「調整」の文言を解釈して、被告製品1,2は技術的範囲に属しないと判断されました。

 本件発明の技術的意義や本件発明における調整手段の位置付けについて みると,従来の吊張り装置としては,略円弧状の天井部に沿って設けら れたウインチワイヤーと吊り上げワイヤーとを連結する連結体が,天頂 部との距離に応じてウインチワイヤーに沿って移動するよう構成されて\nいる装置が考えられたが,複数の停止体の設置等の調整作業を天井側で 行わなければならず費用がかかり煩雑である等の問題点があった(段落 【0006】【0008】)ところ,本件発明は,略円弧状の屋内の天 井部に沿ってウインチワイヤーを設け,吊り上げワイヤーを一端側でウ インチワイヤーに連結しその他端側に吊張体を設けるなどの構成をとる\nとともに,天頂部,又は天頂部に最も近接している基準となる吊り上げ ワイヤーのウインチワイヤーとの取付位置と,任意の吊り上げワイヤー のウインチワイヤーとの取付位置との「高さ方向の距離に対応した長さ」 (構成要件C),すなわち,取付位置の高さの差の長さ(以下「本件差\n分」という。)に基づく吊り上げワイヤー等の長さの変更,すなわち調 整を,ネット等の吊張体若しくは吊り上げワイヤーの下端(床面)側又 はその両方に調整手段を設け,あらかじめ行うことにより,上記問題点 を解決するものである(段落【0010】【0025】【0026】 【0045】。前記1(2))。
また,「調整」とは,「1)調子の悪いものに手を加えてととのえること。 2)ある基準に合わせてととのえること。過不足なくすること。3)釣り合 いのとれた状態にすること。折り合いをつけること。」(大辞林第4版) などとされる。 上記のとおりの本件発明の技術的意義,調整手段の意義や,「調整」の 一般的意味からすると,本件発明に係る吊張り装置において吊張体を過 不足なく適切に吊り張りするためには,本件差分が認識された上で,本 件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあら かじめ変更する必要があり,本件発明の「調整手段」は,そのためのも のであって,本件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー 等の長さをあらかじめ変更する構成であり,その調整を行うことにより,\n吊張体を過不足なく適切に吊り張りするための手段であると理解するこ とができる。 本件明細書の具体的な実施例についてみても,ネット吊張り装置におい て,天頂部の吊り上げワイヤー(9b)の取付位置と,他の吊り上げワ イヤー(9a)の取付位置との「距離に対応した長さ」であるL1等の長 さ(L)が認識された上で,一対の筒状体(15)を吊り上げワイヤー に挿通し,その一対(2個)の筒状体の間の距離を「距離に対応した長 さ」(L 本件差分)とすることによって,調整を行う調整手段が記載 されており(段落【0036】【0037】【図1】【図4】【図5】 等)ここでは,ネット体を過不足なく適切に吊り張りするため,吊り上 げワイヤーに挿通する一対の筒状体が設けられ,その筒状体の間の距離 を認識された差(L 本件差分)と同じにすることができることが記載 されており,本件差分(L)を基準としてこれに合うように筒状体の間 の距離の長さをあらかじめ変更する構成が調整手段として記載されてい\nる。以上のとおり,本件発明の「調整手段」(構成要件C)とは,吊張体を\n過不足なく適切に吊り張りするため,認識された本件差分を基準として これに合うように長さをあらかじめ変更するための手段であると解され る。
なお,吊張体の吊張り装置は,複数の部材を組み合わせて構成され,そ\nこには当然に連結部材や係止部材が含まれ,それらの連結部材や係止部 材において,何らかの長さの変更を行うことができる場合もあり得る。 しかし,本件発明の「調整手段」等の技術的意義は,上記のとおりのも のであり,吊張り装置に何らかの長さ変更を行う構成があったとしても,\n本件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあ らかじめ変更するための手段であると認められないものは,本件発明の 「調整手段」とはいえないと解される。仮に,本件発明において,単に 長さを変更する手段のみをもって調整手段に該当すると解するとすれば, 吊張体の施工やメンテナンスに際して吊り上げワイヤー等の長さを変更 するに当たり,他の手段によって,本件差分を基準としてこれに合うよ うにしなければならないことになるが,そのような作業を床面側のみで 行うことが可能であることは本件明細書の記載等によっても明らかでは\nなく,このような構成によっては本件発明の課題を解決することができ\nない。ここで,本件明細書には,吊り上げワイヤーにネット体への係止 体を設けることで,又は,ネット体に吊り上げワイヤーの係止体を設け ることで,吊り上げワイヤーの長さの調整を行うこともできることが記 載されている(段落【0058】)。これまで述べてきたところから, そのような係止体が,認識された本件差分を基準としてこれに合うよう に吊り上げワイヤー等の長さをあらかじめ変更するための手段といえる 場合には,本件発明の「調整手段」といえ,上記記載はその趣旨のもの と理解することができる。それに対し,そのような手段とはいえず,通 常の係止体としての構成,機能\を超える構成,機能\等を有しないものは, これまで述べたところに照らせば,本件発明と関係なく用いられている 係止体であり,本件発明の「調整手段」が有する効果を奏するものでは なく,本件発明の「調整手段」に該当するとは認められない。 他方,被告らは,本件発明の「調整手段」が筒状体など本件明細書に記 載された具体的な実施例に限られる趣旨の主張もするが,本件発明の技 術的範囲が上記の範囲に限定される理由はなく,前記のとおり,本件差 分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあらかじ め変更する構成を備えたものであれば,本件発明の「調整手段」といえ\nる。
・・・・
(3) 被告製品1が本件発明の技術的範囲に属するかについて
原告は,被告製品1において,各吊り上げワイヤーと各バトンを連結する シャックル,リングキャッチ,チェーン(以下,これらを「本件連結材」と いう。)が本件発明の調整手段であると主張する。 ここで,本件発明の「調整手段」(構成要件C)とは,吊張体を過不足な\nく適切に吊り張りするため,認識された本件差分を基準としてこれに合うよ うに長さをあらかじめ変更するための手段である(前記(1)イ)。 本件連結材は,ワイヤーとバトンを連結する際に通常用いられる連結材と 認められるところ,それは,単に連結のために通常用いられる複数の構成部\n品から成っているものにすぎず,認識された本件差分を基準としてこれに合 うように長さをあらかじめ変更する構成を有するものであるとは認められず,\nそのような調整作業をするための手段とはいえない。 また,被告製品1において,もともと各吊り上げワイヤーのウインチワイ ヤーへの連結位置から連結材の下端までの長さはほぼ同程度であり(前記(2) イ),天頂部に最も近接した吊り上げワイヤーが取り付けられたバトンが床 面に到達した状態においては,他の各吊り上げワイヤーはたわんだ状態とな るのであって(同エ),本件連結材によって吊り上げワイヤー等の長さの変 更は行っていない(同ウ)。本件連結材による長さの変更が想定されている ことを認めるに足りる証拠もなく,本件連結材は,そもそも長さの変更を行 うための手段ではないともいえる。 したがって,被告製品1の連結材は,構成要件Cの調整手段には該当しな\nい。 以上から,被告製品1は,構成要件Cを充足せず,本件発明の技術的範囲\nに属しない。

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平成30(ワ)21900  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月20日  東京地方裁判所

東京地裁29部は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。

(1) 推定される損害額
ア 前記前提事実(5)のとおり,被告は,本件特許権の登録日である平成29 年6月16日から令和元年10月31日までの間,被告各製品合計●省略 ●個を販売し,これにより●省略●円の売上げがあり,少なくとも●省略 ●円の経費を要した。 したがって,法102条2項の利益の額は,5652万1465円(消 費税込み)と認めるのが相当である。 イ 被告は,被告による被告各製品の販売がなかったならば原告が利益を得 られたであろうという事情は存在しないので,法102条2項の適用はな いと主張する。
しかし,証拠(甲12,35ないし38,乙17,33,107,10 8)及び弁論の全趣旨によれば,1) 電動ファン付きウエアの市場において, 平成29年当時,原告グループ(原告,株式会社空調服等。以下同じ。) は約30%,被告グループ(被告,株式会社サンエス等。以下同じ。)は 約40%,平成30年当時,原告グループは約33%,被告グループは約 33%,令和元年当時,原告グループは約40%,被告グループは約2 0%,令和2年当時,原告グループは約35%,被告グループは約20% の各シェアを占めていたこと,2) 原告は,首後部からの空気の排出口の大 きさを調整することができるように,空調服の販売を開始した当初は調整 紐型空調服を製造販売し,その後,2段階調整型空調服を製造販売してい るが,本件各発明を実施する空調服は製造販売していないことが認められ る。 上記認定事実によれば,原告グループは電動ファン付きウエアの市場に おいて大きなシェアを占め,原告は,首後部からの空気の排出口の大きさ を調整するために,調整紐型空調服又は2段階調整型空調服を販売してい たものと認められる。他方で,被告各製品のように複数段階で調整できる 空調服が多数販売され,他の電動ファン付きウエアの市場とは異なる独自 の市場を形成していたことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,原告製品は被告各製品の競合品であると認めるのが相当で あるから,被告が被告各製品を販売して本件特許権を侵害しなければ,原 告は原告製品をさらに販売して利益を得られたであろうという事情が認め られる。 したがって,本件には法102条2項が適用されるので,被告の上記主 張は採用することができない。
ウ 被告は,商品の運用及び管理を●省略●に委託しており,平均すると商 品1点当たり●省略●円の経費を要したから,売上げから合計●省略●円 (●省略●円×●省略●個)を控除すべきであると主張する。 法102条2項の利益の額とは,侵害者の売上高から,侵害者において 侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必 要となった経費を控除した限界利益の額をいうところ,証拠(乙62)及 び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成28年6月21日以降,●省略● に対し,被告の物流センターにおける衣料用繊維製品等の入出荷業務その 他これに付随する業務全般を,製品の点数にかかわらず一律の月額委託料 (平成29年8月1日以降は●省略●円)を支払うことを約して委託した ことが認められる。 そうすると,●省略●に対する委託料は,被告が被告各製品を製造販売 することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と は認められないから,前記アの被告各製品の売上げからこれを控除するの は相当でない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(2) 推定の覆滅事由
ア 本件各発明が被告各製品の部分のみに実施されていること
(ア) 前記1(2)のとおり,空調服は,送風手段を用いて外部から服内に空気 を取り込み,当該空気が服内を流通し,その間に人体から出た汗を蒸発 させ,気化熱により体表面の温度を下げようとするものであるところ,\n本件発明1は,空調服の襟後部又はその周辺に二つの調整ベルトを設け, 一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数ある取付部のうち いずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首後部との間に形成 される開口部を広げたり,狭めたりすることを可能にし,より適切な空\n調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したものである。 しかし,本件特許の出願当時,既に,空調服の襟後部の内表面に一組\nの調整紐を設け,これらを結ぶことによって上記開口部の大きさを調整 する技術があったところ(本件明細書【0004】),本件発明1は, 一組の調整紐を任意の長さに結ぶことが難しく,上記開口部の大きさを 求める冷却効果に応じた適正なものにすることが困難であったことを解 決しようとしたものであり(同【0006】及び【0009】),上記 開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の延長線上に 位置付けられるものである。そして,本件発明1は,主として,従来技 術における調整紐を「取付部」を有する「調整ベルト」に置き換えたも のであるが,前記5(2)のとおり,本件特許の出願当時,ボタン及びボタ ンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で調整することが できる周知慣用の技術が存在したものである。 以上からすると,従来技術と比較したときの本件発明1の技術的意義 は,必ずしも大きいものではなかったといわざるを得ない。 なお,本件発明2は,本件発明1の空気排出口調整機構を備える空調\n服の服本体の発明であって,本件発明2につき本件発明1とは異なる独 自の技術的意義は認められない。
(イ) 従来技術に係る調整紐型空調服において,送風手段を作動させたとき の襟後部と首後部との間に形成される開口部の形状は,電動ファンの風 力,前部ファスナーの締め具合,着用者の姿勢や体格,服の布地や布ベ ルト,ゴムベルト等の素材,襟部の形状等の影響を受けると考えられる ところ,この点については,本件発明1を実施した空調服であっても異 なるところはない。そして,上記従来技術又は本件発明1に係る空気排 出口調整機構が,上記の諸要素と比較して,上記開口部の形状決定にど\nの程度の影響を与えるのか,ひいては当該空調服の冷却性能にどの程度\nの作用効果があるのかを確定するに足りる証拠はない。 また,調整紐型空調服の場合,結び目付近に調整紐の先端部分が集ま り,空気排出の障害となることが指摘されるが(本件明細書【000 8】),紐という形状から考えて障害の程度がさほど大きいものとはい えず,本件発明1により特に有意な作用効果が得られるとはいえない。 さらに,従来技術に係る調整紐型空調服においても,一定の技量があ れば調整紐を任意の長さに結ぶことは可能であり,本件発明はこの点に\nついて特段の技量を要しないこととしたところに発明の作用効果がある といえるものの,実際に空調服を使用するに際し,上記の調整紐の長さ につき,どれほどの頻度で,どの程度細かく調整することが必要とされ ていたのかは明らかではない。 そうすると,本件発明1は,容易に襟後部と首後部との間に空気排出 口を形成し,これを調整することができるものの,従来技術に比して大 きな作用効果があるものとは認められない。
(ウ) 証拠(乙34,35)及び弁論の全趣旨によれば,顧客が空調服を選 択する際,空調服の価格,デザイン,服の素材並びに電動ファン及びバ ッテリーの性能に着目することが多いと認められ,空調服の襟後部と人\n体の首後部との間の空気排出口を調整する機構の有無が特に着目された\nことを認めるに足りる証拠はない。 また,被告各製品のうちの本件各発明を実施する部分は,ボタン,ボ タンホール,ゴムベルト及び布ベルトで構成され,その製造がさほど困\n難であったとは認められず,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば, 被告各製品に上記部分を設けるのに要する費用は1着当たり41ないし 42円であり,被告各製品の販売価格の1ないし2%にすぎなかったと 認められる。 さらに,証拠(甲3,乙57ないし59)及び弁論の全趣旨によれば, 平成29年から令和元年までの被告の商品のパンフレット及びウェブサ イトにおいて,空調服の構造を紹介するページに,本件発明1に係るゴ\nムベルト及び布ベルトが取り付けられた部分の写真が掲載され,その機 能を紹介する記載があるが,同写真は,ファンの写真よりは小さく,フ\nァンの取り付け位置及び着脱方法並びにバッテリーの各写真と同程度の 大きさであったこと,個々の空調服を紹介するページに,空調服が備え る機能として,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット,袖口の複\n数のボタン,保冷剤用ポケット等の各写真と並んで,上記部分の写真が 掲載されていることが認められる。 そうすると,被告各製品が備える機能のうち本件発明1を実施した部\n分が占める割合は小さかったといえ,また,同部分の顧客誘引力が特に 高かったとはいえない。
(エ) 以上によれば,本件発明1の技術的意義や作用効果,被告各製品のう ち本件発明1が実施された部分の顧客誘引力等に照らすと,本件特許権 を侵害する同部分が被告各製品の販売に貢献したところは小さいといわ ざるを得ないから,この事情に基づき,法102条2項により推定され る損害額の80%について推定の覆滅を認めるのが相当である。
イ 市場における競合品の存在
(ア) 前記(1)イのとおり,平成29年から令和元年までの電動ファン付きウ エアの市場において,原告グループのシェアは約30ないし40%,被 告グループのシェアは約20ないし40%であり,原告は,襟後部と首 後部との間に形成される開口部の大きさを調整することができるように, 2段階調整型空調服を製造販売している。 また,前記ア(ウ)のとおり,被告は,その商品のパンフレット等におい て,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット等の機能と並んで本件\n発明1に係る部分を紹介しており,購入者が本件発明1が実施された部 分のみに着目して被告各製品を選択したとはいい難い。 一方で,証拠(乙39ないし45)及び弁論の全趣旨によれば,原告 及び被告以外の業者も,首後部からの空気の排出をより効率的に行うた めの機能を備えた空調服や,その他種々の機能\を備えた空調服を販売し ていることが認められる。 そうすると,空調服のうちの特定のものだけが被告各製品の競合品と なるとは認められず,競合品に係るシェアは上記の原告,被告及びその 他の競業他社のシェアのとおりと認めるのが相当であり,これを踏まえ ると,被告が被告各製品を販売することがなかったとしてもその購入者 の全てが原告製品を購入したとはいえないから,この事情に基づき,法 102条2項により推定される損害額の50%について推定の覆滅を認 めるのが相当である。
(イ) 被告は,被告各製品を製造販売しなかったとしても,被告各製品を購 入しようとしていた顧客は,本件各発明の技術的範囲に属しない被告の 代替製品を購入するはずであるから,被告各製品の販売と原告の損害と の間には因果関係は認められず,仮に法102条2項が適用されるとし ても,この点は推定の覆滅事由になると主張する。 しかし,被告が被告各製品を製造販売しなかったとして,被告が他に いかなる空調服を製造販売したかは証拠上明らかではないから,被告の 上記主張は採用することができない。
ウ 被告の営業努力
被告は,独自のブランドである「空調風神服」の名称で被告各製品を販 売しており,「空調風神服」には強い出所識別力があるから,被告各製品 の販売には上記ブランドによる力が貢献していると主張する。 しかし,前記(1)イのとおり,遅くとも平成29年以降,電動ファン付き ウエアの市場において,原告グループのシェアと被告グループのシェアは 拮抗し,むしろ原告グループのシェアの方が伸びていることからすると, 原告製品の顧客吸引力と比較して「空調風神服」の名称に特に強い顧客吸 引力があるとは認められないというべきであり,他にこれを認めるに足り る証拠はない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
エ その他
被告は,1) 原告製品は本件発明1を実施しておらず,被告が被告各製品 を販売したことにより原告が損害を受けることはない,2) 原告製品はイン ターネットショッピングサイトにおいて酷評されていると主張する。 しかし,上記1)について,前記(1)イのとおり,原告は,電動ファン付き ウエアの市場において,被告各製品の競合品を製造販売していたから,原 告製品において本件各特許が実施されていなかったからといって,被告が 被告各製品を製造販売したことにより,原告が損害を被ったことを否定す ることはできない。 また,上記2)について,原告(原告グループ)が電動ファン付きウエア の市場において相当程度のシェアを占めていることは前記(1)イのとおりで あり,インターネットショッピングサイトにおけるごく一部の評価(乙4 6)をもって,被告各製品が販売されなかったとしても原告製品が売れる ことはなかったということはできない。 したがって,被告の上記各主張はいずれも採用することができない。 (3) 小括 ア 以上によれば,本件各発明の被告各製品の売上げに対する貢献の程度に より80%(前記(1)ア),電動ファン付きウエアの市場に競合品が存在す ることにより50%(前記(1)イ)の推定の覆滅を認めるべきであるから, 被告による本件特許権の侵害により,原告が被った逸失利益に係る損害額 は,565万2147円(5652万1465円×(1−0.8)×(1 −0.5))と認められる。 イ 被告の上記不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用相当額は6 0万円と認めるのが相当である。
ウ よって,原告が被った損害額は合計625万2147円である。

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令和2(ネ)10044 特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年6月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁3部は、非接触式ICカードは本件発明の「記憶媒体」には非該当、また、無効主張は、時期に後れた攻撃防御でないとして、被告の敗訴部分を一部取り消しました。

(2) 非侵害論主張5)について
ア 自白の成否及び時機に後れた攻撃防御方法該当性
一審原告は,非侵害論主張5)は,原審の答弁書記載の認否によって成立 した自白の撤回に当たり,また,時機に後れた主張でもあるから,許され ない旨主張する。 たしかに,一審被告は,原審答弁書における構成要件1A等の認否に際\nし,被告給油装置の電子マネー媒体が本件発明の「記憶媒体」に当たると の対比を明確に争っていたわけではないが,従前から,被告給油装置が本 件発明の技術的思想を具現化したものでないことを主張しており,非侵害 論主張5)は,これを,使用される決済手段の差異(プリペイドカードと非 接触式ICカード)という観点から論じたものであるといえるから,一審 被告が充足論全体について単純に認めるとの認否をしていない以上,自白 を撤回して新たな主張をしているとはいえないし,この主張を時機に後れ たものとして扱うのも相当ではない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
イ 非接触式ICカードの「記憶媒体」該当性
本件明細書において,本件発明の「記憶媒体」の具体的態様としては, 磁気プリペイドカード(【0033】)のほか,「金額データを記憶する ためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」(【0070】)や 「カード以外の形態のもの,例えば,ディスク状のものやテープ状のもの や板状のもの」(【0071】)も開示されている。このように,本件発 明の「記憶媒体」は必ずしも磁気プリペイドカードには限定されない。 しかしながら,本件発明の技術的意義が上記1のとおりであることに照 らして,「媒体預かり」と「後引落し」との組合せによる決済を想定でき る記憶媒体でなければ,本件3課題が生じることはなく,したがって,本 件発明の構成によって課題を解決するという効果が発揮されたことになら\nないから,上記の組合せによる決済を想定できない記憶媒体は,本件発明 の「記憶媒体」には当たらない。 かかる見地にたって検討するに,被告給油装置で用いられる電子マネー 媒体は非接触式ICカードであるから,その性質上,これを用いた決済等 に当たっては,顧客がこれを必要に応じて瞬間的にR/Wにかざすことが あるだけで,基本的には常に顧客によって保持されることが予定されてい\nるといえる。そのため,電子マネー媒体に対応したセルフ式GSの給油装 置を開発するに当たって,物としての電子マネー媒体を給油装置が「預か る」構成は想定し難く,電子マネー媒体に対応する給油装置を開発しよう\nとする当業者が本件従来技術を採用することは,それが「媒体預かり」を 必須の構成とする以上,不可能\である。 そうすると,被告給油装置において用いられている電子マネー媒体は, 本件発明が解決の対象としている本件3課題を有するものではなく,した がって,本件発明による解決手段の対象ともならないのであるから,本件 発明にいう「記憶媒体」には当たらないというべきである。むしろ,電子 マネー媒体を用いる被告給油装置は,現金決済を行う給油装置において, 顧客が所持金の中から一定額の現金を窓口の係員に手渡すか又は給油装置 の現金受入口に投入し,その金額の範囲内で給油を行い,残額(釣銭)が あればそれを受け取る,という決済手順(これは乙4公報の【0002】 に従来技術として紹介されており,周知技術であったといえる。)をベー スにした上,これに電子マネー媒体の特質に応じた変更を加えた決済手順 としたものにすぎず,本件発明の技術的思想とは無関係に成立した技術で あるというべきである。一審被告の非侵害論主張5)は,このことを,被告 給油装置の電子マネー媒体は本件発明の「記憶媒体」に含まれないという 形で論じるものと解され,理由がある。
ウ 一審原告の主張について
(ア) 一審原告は,本件発明の「記憶媒体」は,構成要件1C及び1Fの動\n作に適した「記憶媒体」であれば足りる旨主張する。 しかしながら,発明とは課題解決の手段としての技術的思想なのであ るから,発明の構成として特許請求の範囲に記載された文言の意義を解\n釈するに当たっては,発明の解決すべき課題及び発明の奏する作用効果 に関する明細書の記載を参酌し,当該構成によって当該作用効果を奏し\n当該課題を解決し得るとされているものは何かという観点から検討すべ きである。しかるに,一審原告の上記主張は,かかる観点からの検討を せず,形式的な文言をとらえるにすぎないものであって,失当である。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 一審原告は,本件明細書の【0070】に「記憶媒体」として「金額 データを記憶するためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」を 例示する記載があり,非接触式ICカードもこれに含まれる旨主張する。 しかしながら,上記記載は,【0033】の「プリペイドカード71 は,磁気カードからなり」等の記載を受けて,カードの記憶素子が磁性 材ではなくICメモリであっても良い旨を示すにとどまり,そのカード が非接触で動作することを示す記載ではない。また,上記記載において, ICメモリは「金額データを記憶するための」ものであって,非接触式 ICカードのように演算・通信の機能を有することは開示も示唆もされ\nていないから,上記記載を根拠に非接触式ICカードが本件発明の「記 憶媒体」に当たるとはいえない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 一審原告は,非接触式ICカードが券売機に取り込まれて使用され得 ることは周知であり,本件明細書には設定器内部にカードを取り込んだ ままとしない記憶媒体を用い得ることが示されているから,非接触式I Cカードが本件発明の「記憶媒体」に当たらないとはいえない旨主張す る。 しかしながら,前掲前提事実のとおり,被告給油装置において電子マ ネー媒体を使用する際には,電子マネー媒体(非接触式ICカード)は R/Wにかざされるだけであって装置に「取り込まれ」ることはない。 非接触式ICカード一般に一審原告主張のような使用態様はあり得るも のの,被告給油装置ではそのような使用態様によらずに非接触式ICカ ードが「電子マネー媒体」として用いられているので,被告給油装置に おける「電子マネー媒体」の技術的意義は,本件発明における「記憶媒 体」のそれとは異なる。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(3) 充足論についての小括
以上によれば,一審被告の非侵害論主張4)及び5)は理由があるから,その 余の非侵害論主張の成否について判断するまでもなく,被告給油装置及び被 告プログラムは本件特許を侵害しない。
4 争点4(無効論)について
念のため,仮に,本件発明1の「先引落し」金額は顧客が指定する場合を含 み(上記3(1)イ(イ)参照),また,非接触式ICカードも本件特許の「記憶媒 体」に含まれる(上記3(2)イ参照)とした前提で,無効論につき検討する。 なお,本件において,無効論は,本件発明1及び本件発明3(本件訂正後の もの)について検討すれば足りる。このことは,上記「第3」4の冒頭に説示 したとおりである。
(1) 「時機に後れた攻撃防御方法」該当性について
無効主張A,B,Dは,原審における侵害論の心証開示後に主張されたも のであり,そのため,原審においては時機に後れたものとして取り扱われた わけであるが,既に充足論に関する項で指摘したとおり,構成要件1C1充\n足性(非侵害論主張4))及び構成要件1A,1C,1F3,1F4充足性\n(非侵害論主張5))に関する原審の主張整理には,本来は,争いがあるもの として扱うべき論点を争いのないものとして扱ったという不備があったとい わざるを得ない。そして,無効論に関する主張の要否や主張の時期等は,充 足論における主張立証の推移と切り離して考えることができないのであるか ら,充足論について,本来更に主張立証が尽くされるべきであったと考えら れる本件においては,無効主張が原審による心証開示後にされたという一事 をもって,時機に後れたものと評価するのは相当ではない。 また,上記無効事由に関する当審における無効主張は,控訴後速やかに行 われたといえる。 以上によると,一審被告による上記無効主張は,原審及び当審の手続を全 体的に見た観点からも,また,当審における手続に着目した観点からも,時 機に後れたものと評価することはできない。 したがって,いずれの無効主張も,時機に後れた攻撃防御方法として却下 すべきものではない。
・・・
ウ 相違点の容易想到性
上記の表において一致点とされていない本件発明1の構\成は,相違点と なる。 しかしながら,いずれの構成も,セルフ式GSの給油装置において,審\n判甲B1装置の現金による支払を,電子マネー媒体による支払に置き換え る際には,当然に備わる構成である。すなわち,上記の各相違点をまとめ\nると,本件発明1においては装置がR/Wを備えること,電子マネーの金 額データはR/Wにより電子的に書き換えられること,の2点となるが, いずれの構成も,現金の場合は貨幣という有体物に化体されている金銭的\n価値を,電子的情報という無体物に化体させたことによって必然的に生じ る帰結である。 また,現金による支払を電子マネー媒体による支払に置き換えること自 体は,電子「マネー」という名称自体からも容易に着想することができる し,例えば乙16の12(電子商取引推進協議会「モバイルECに関わる 決済標準モデルの研究中間報告書」平成13年3月発行)には,非接触式 ICカードが「電子マネー」として利用されること,FeliCa内蔵の携帯電 話は「電子財布」になること等が記載されており,これらの記載は,現金 による支払いを電子マネー媒体に置き換えることを動機付ける。 そうすると,当業者にとって,上記各相違点にかかる本件発明1の構成\nに想到することは,通常の創作能力の発揮にすぎず,容易であったといえ\nる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)29228

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平成29(ワ)36506 損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月19日  東京地方裁判所

 LINEのフリフリ機能の特許権侵害について、約1400万円の損害賠償か認められました。広告収入については因果関係無しとして認められず、有料スタンプの売り上げのみでした。

 原告は,被告に対し,特許法102条3項に基づく損害賠償を請求していると ころ,同項は,「特許権者・・・は,故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を, 自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定してい るから,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに, 実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 そして,かかる実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許 諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の 相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内 容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場 合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や 特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定め るべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日大合 議判決参照)。
本件においては,被告アプリが無償で配信されており,被告アプリのユーザが 友だち登録をし,友だち等との間で被告システム等によるメッセージの送受信等 のサービスを享受すること自体により被告に売上げは発生しない(甲73)から, 「侵害品の売上高」をどのように確定すべきかがまず問題となり,次いで,実施 に対し受けるべき料率(相当実施料率)の算定が問題となる。 そこで,それぞれにつき,以下,検討する。
(1) 売上高について
ア 当事者の主張
原告は,被告の事業のうち,本件特許権侵害の対象となる事業は,コア事 業中の「アカウント広告」と「コミュニケーション」の売上げであり,本件 特許登録日である平成29年9月15日から被告が「ふるふる」の提供を終 了した日の前の日である令和2年5月10日までの間(以下「本件損害算定 期間」という。)の売上高(アカウント広告につき合計1519億5800 万円,コミュニケーションにつき767億2800万円)に基づいて損害額 を算定すべきであると主張する。 一方,被告は,主に被告アプリ上でアカウントを有する企業等からの売上 げであるアカウント広告の売上げは損害賠償額算定の対象とならず,仮に, コミュニケーションの売上げが損害賠償額算定の対象となり得るとしても, 対象となるのは本件機能と関係のある部分に限られると主張する。\n
イ 認定事実
そこで検討するに,前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると, 以下の事実を認めることができる。
・・・
(ウ) 企業等のアカウントとの間の「ふるふる」による友だち登録(被告シス テム等図面【図38】,甲61) LINE@等のサービスを導入している企業等が住所の位置情報をあ らかじめ登録している場合,一般ユーザが被告アプリの友だち追加画面で 「ふるふる」を選択して手元のスマートフォンを振ると,半径1km圏内 の上記企業等も友だち登録の候補として表示され,同ユーザが同企業等に\nつき友だち追加処理をすると,同企業等が同ユーザの友だちとして追加登 録される。
ウ 「ふるふる」以外の友だち登録及び海外企業への輸出に係る売上げ等につ いて
原告は,損害賠償の対象は,「ふるふる」による友だち登録及びこれによ り友だちとなったユーザとの交流等に限定されず,QRコードやID検索等 の他の友だち登録も含み,また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべき であると主張する。 (ア) しかし,原告は,本訴提起当初から,一貫して「ふるふる」による友だ ち登録及びその後の交流が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張を していたのであり(前記前提事実(5),被告システム等図面【図2】〜【図 4】,【図34】〜【図44】),その余の友だち登録手段による友だち 登録等が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張立証は侵害論の対象 とされていないので,損害賠償の対象となるのは,「ふるふる」による友 だち登録と相当因果関係のある範囲の売上高に限定されるというべきで ある。
(イ) また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべきとの点については,被 告から海外企業への実施品の輸出に係る売上高を対象とする趣旨と考え られるが,原告が侵害論において対象としていた被告の実施行為は,被告 システムの使用と,被告アプリの生産,譲渡及び譲渡の申出にとどまって\nおり,仮に被告システム等が輸出されているとしても,当該被告システム 等に本件機能が搭載されているかどうかといった点も本件の証拠上明ら\nかではないから,この点の原告の主張も採用し難い。
エ 損害賠償の対象となる売上高の範囲について そこで,前記イ(ア)〜(ウ)で認定した事実に基づき,本件において損害賠償 の対象となる売上高の範囲につき検討する。
(ア) アカウント広告の売上げについて
アカウント広告の売上げは,企業等からの売上げに関するものであると ころ,一般ユーザは,かかる企業等との間でも「ふるふる」による友だち 登録をなし得るものの,この場合は,企業等が住所の位置情報をあらかじ め登録している必要があり,また,その際,企業等はスマートフォンを操 作するとは考え難いから,そもそも,この場合に,「近くにいるユーザ同 士がスマートフォン(2)を操作して友だち登録することによりコンピュ ータ(14)を利用してコミュニケーションによる交流」(構成a等)を\n具備するとは認め難く,他にこの場合の被告システム等が本件各発明の技 術的範囲に属するという的確な主張立証はない。 また,前記イ(ア)aに記載されたアカウント広告を構成する各売上げの\n内容に照らすと,これらの売上げは,いずれも,一般のユーザ同士の本件 機能による友だち登録との関係がないか,関係があっても希薄であるとい\nうべきである。 そうすると,アカウント広告の売上げは,本件の損害賠償の対象となら ないと解するのが相当である。
・・・
b 前記aで認定した売上高は,「ふるふる」以外の友だち登録に関する 分も含まれているところ,被告の侵害行為は,「ふるふる」による友だ ち登録に関するものであるから,被告の侵害行為と相当因果関係にある 売上高は,上記売上高に,本件損害算定期間中の「ふるふる」による友 だち登録割合を乗じて算出するのが相当である。そして,前記イ(イ)の とおり,同割合は,●(省略)●であるから,被告の侵害行為と相当因果 関係にある売上高は,●(省略)●となる。 ●(省略)●
(ウ) 以上のとおり,被告の侵害行為と相当因果関係にある売上高は,●(省 略)●となる。
・・・
(2) 相当実施料率について
ア 本件各発明の実施許諾契約における実施料率やその相場等
原告は,原告代表者から専用実施権の設定を受けているが,その設定契約\nの詳細は本件の証拠上明らかでなく,また,原告が他人に本件各発明の実施 を許諾したことをうかがわせる証拠はない。 そこで,相場等につきみるに,証拠(甲157〜159,乙82)によれ ば,電子計算機に係るロイヤルティ(件数719件)は,平均値が33.2%, 最頻値が50.0%,中央値が40.0%とされている一方,「技術分類 コ ンピュータテクノロジー」,「対象となる製品・技術例 計算;係数,チェ ック装置等」におけるロイヤルティ料率の相場は,1%未満,1〜2%未満, 2〜3%未満,3〜4%未満がいずれも16.7%であり,4〜5%未満が 25.0%であるとされている。 しかし,本件においては,被告アプリは無償で配信され,被告アプリのユ ーザが「ふるふる」を使用して友だち登録をし,その後の交流を行うといっ た行為自体による被告の売上げは発生しないという特殊性があることから すれば,上記の相場等を重視することはできない。
イ 本件各発明の価値や代替可能性等\n
本件各発明は,前記1(2)に記載のとおり,初対面の人物同士が出会った 後互いにコンタクトを取ることができるようにする際に,極力個人情報を明 かすことなくコンタクトが取れるようにするためのコンピュータシステム 及びプログラムに関する発明であって,相手方に互いの個人情報を通知する ことなく後々コンタクトを取ることができ,かつ,相手方以外の他人がその 相手方に成りすましてコンタクトしてくる不都合をも防止できる理想的な 連絡可能状態を構\築する手段を提供することを目的として,現実世界で出会 ったユーザ同士がユーザ端末を操作し,コンピュータを利用して交流を行う に当たり,コンピュータ(サーバ)が各ユーザ端末の位置情報を取得し,該 位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索 されたことを必要条件として,該検索されたユーザ端末を新たな交流先とし て交流先のリストに追加して表示させ,ユーザが表\示された複数の交流先の 内からコミュニケーションを取りたい相手を選択指定し,指定された相手と の間でメッセージを送受信できるようにするという手段を採用することで, 互いにコミュニケーションによる交流に同意したユーザ同士が連絡先の個 人情報を知らせ合うことなく交流できるという効果が得られるようにした ことを特徴とする発明である。 このような発明には一定のニーズが存在するものと考えられるから,本件 各発明には相応の価値があるものと認められる。 もっとも,前提事実(6)のとおり,本件特許に関する無効審判請求におい て,特許庁は,本件特許が進歩性を欠く旨の職権審理結果通知をしていると ころ,このことは,実際に本件特許が無効となるか否かはともかく,類似の 技術が存在することを示すものということができる。
ウ 本件各発明の被告の売上げや利益への貢献等
証拠(甲41・3丁)によれば,「ふるふる」を利用する場合の最大の特 長は,複数人と一度に友だちになれることであり,サークルや部活,仕事の チーム,パーティーなど,複数の人が集まる場で活躍しそうであるとされて いることが認められ,これらの事実に加え,前記(1)イ(イ)記載の事実関係に よると,既に友人等であるユーザ同士が友だち登録する方法が多く,実際に もそのようなユーザ同士により友だち登録がされることが多いことがうか がわれることからすると,被告システム等においては「ふるふる」による友 だち登録がされる場合であっても,それ以前に相互の個人情報を交換してい る場合も少なくないものと考えられる。
●(省略)●
被告による企業努力が大きく貢献しているとうかがわれるとこ ろである。 そうすると,被告システム等に係る売上げや利益についての本件各発明の 貢献の度合いは,かなり限定的なものであると認められる。 エ 以上の諸事情,とりわけ,本件各発明には相応の価値があると認められる ものの,これと類似の技術が存在することがうかがわれることや,被告シス テム等に係る売上げや利益についての本件各発明の貢献の程度は限定的な ものであることなどを総合的に考慮すると,本件における相当実施料率は● (省略)●と認めるのが相当である。

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平成30(ワ)38504  特許権侵害差止等請求事件 令和3年3月30日  東京地方裁判所

 薬の特許について、明細書に記載されていたが酸付加塩の具体的態様がクレームアップされていなかったことは均等の第5要件の「特段の事情」に該当すると判断されました。

 これらの記載によれば,本件発明の目的は,各種の痒みを伴う疾患にお ける痒みの治療のために止痒作用が極めて速くて強いオピオイドκ受容体 作動薬を有効成分とする止痒剤を提供することにあるところ,本件明細書 には,まさしくその有効成分となるオピオイドκ受容体作動薬として,本 件発明に記載された本件化合物のほかに,その薬理学的に許容される酸付 加塩が挙げられることが,「オピオイドκ受容体作動性化合物またはその 薬理学的に許容される酸付加塩」というように明記されているほか,同化 合物に対する薬理学的に好ましい酸付加塩の具体的態様(塩酸塩,硫酸塩, 硝酸塩等)も明示的に記載されている。
そうすると,出願人たる原告は,本件明細書の記載に照らし,本件特許出 願時に,その有効成分となるオピオイドκ受容体作動薬として,本件化合物 を有効成分とする構成のほかに,その薬理学的に許容される酸付加塩を有効\n成分とする構成につき容易に想到することができたものと認められ,それに\nもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったというべきである。 そして,本件発明につき,出願人たる原告の主観的意図いかんにかかわらず, 第三者たる当業者の立場から客観的にその内容を把握できる徴表である本件\n明細書においては,本件化合物の薬理学的に許容される酸付加塩という構成\nは,まさしく,各種の痒みを伴う疾患における痒みの治療のために止痒作用 が極めて速くて強いオピオイドκ受容体作動薬を有効成分とする止痒剤を提 供するという本件発明の目的を達成する構成として,当該目的と関連する文\n脈において,特許請求の範囲に記載された本件化合物と並んで,明示的,具 体的に記載されているものである。
これらによれば,出願人たる原告は,本件特許出願時に,本件化合物の薬 理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする構成を容易に想到することが\nできたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったものである といえ,しかも,客観的,外形的にみて,上記構成が本件発明に記載された\n構成(本件化合物を有効成分とする構\成)を代替すると認識しながらあえて 特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるものというべき\nである。
そうすると,本件発明については,本件化合物の酸付加塩であるナルフラ フィン塩酸塩を有効成分とする被告ら製剤が,本件特許出願の手続において 特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの,被告ら製剤と 本件発明に記載された構成(本件化合物を有効成分とする構\成)とが均等な ものといえない特段の事情が存するというべきである。

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令和2(ワ)2956 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月20日  大阪地方裁判所

 均等侵害も第1要件を満たさないとして特許権侵害とはならないと判断されました。

 本件各発明に係る特許請求の範囲及び本件訂正明細書の各記載によれば,本件各 発明の本質的部分については,以下のとおりと認められる。 すなわち,従来,硬貨の表面に描かれた模様は,硬貨を製造するプレス機に設置\nされるプレス金型に予め彫り込まれ,硬貨をプレス及び打ち抜きする際,硬貨の表\ 面に金型の凹凸が反転して表現されていたところ,プレス金型に対して硬貨の表\面 に浮き出る部分は,平面彫刻機で彫り込んで行われていた。しかし,平面彫刻機の ように厚み方向のみ切削する切削工具では,切削した部分及び切削を行わなかった 部分は平面仕上げであり,金属の地肌のままの色合いであるため,放電加工機で不 規則かつ微細に地金を削り取りいわゆるナシ地仕上げを行ったり,切削した部分を 細かく研磨して鏡面仕上げを行ったりし,また,立体彫刻機で人物や動物等立体的 な図形を彫り込み,得られた硬貨の表面の凸部に人物等を立体的に表\現して,硬貨 の装飾効果を高めていた。しかし,これらの方法によっても,図形等の部分を除い た硬貨の地模様に対応する部分は,平面仕上げ,鏡面仕上げ,ナシ地仕上げのいず れかであり変化に乏しく,また,メダル遊戯機で使用される硬貨は,コスト等の兼 ね合いがあり,高価な金属の使用が難しく,表面の輝きが鈍いものが多いという課\n題があった。本件各発明は,こうした課題に対し,硬貨の表面の地模様に立体彫り\nによる変化を起こし,硬貨の輝きを増し,硬貨の装飾価値等を高めることを目的と するものである。具体的には,本件発明1は,切削深さを任意に変えられる同時三 軸制御 NC フライス機を,硬貨表面に描かれる人物や動植物等の図形に用いるので\nはなく,金型の表面に対して一定パターンで切削を繰り返すことにより硬貨の地金\n部分に立体的な幾何学的模様からなる新たな地模様を描き出し,硬貨の装飾価値を 高めるものである。本件発明2は,本件発明1と同様の方法で硬貨の地模様を描き 出すことに加え,同じく同時三軸制御 NC フライス機により地模様以外の模様に対 応する部分をV溝状に切削することで,当該模様部分の表面積の増加等により硬貨\nの表面の輝きを増加させ,硬貨の装飾価値等を高めるものである。\n以上を踏まえると,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,少なくとも 「金型の厚み方向へ切削可能な」切削工具「を用い,金型に対して一定のパターン\nで切削深さと,水平面に対する金型の切削角度と,を変えながら金型表面上を移動\nさせ,傾斜面を含む特定のパターンを金型上に描き,これを金型表面全体に繰り返\nすことにより繰り返し模様からなる地模様を形成すること」は,従来技術には見ら れない特有の技術的思想を有する本件各発明の特徴的部分すなわち本質的部分であ るといえる。さらに,本件発明2においては,これに加え,上記工具「により硬貨 の表面に浮き出る文字,図形等の模様に対応する部分をV溝状に切削すること」も,\n特徴的部分すなわち本質的部分ということができる。
(3) 前記のとおり,本件各発明における「金型」(構成要件B,C,E及びF)は\nプレス金型を意味し,また,被告製造方法の構成については当事者間に争いがある\nものの,被告製造方法が原金型に関する工程とプレス金型に関する工程という2つ の工程を含むこと,被告機械を用いて原金型の表面に地模様及び地模様以外の模様\nに対応する部分を切削加工により作製することは,当事者間に争いがない。これを 踏まえると,本件各発明においては,プレス金型の厚み方向へ切削可能な切削工具\nを用い,プレス金型に対して一定のパターンで切削深さと,水平面に対するプレス 金型の切削角度と,を変えながらプレス金型表面全体に繰り返すことにより繰り返\nし模様からなる地模様を形成し,本件発明2においては,これに加えて,上記工具 により硬貨の表面に浮き出る地模様以外の模様に対応する部分をV溝上に切削して\nプレス金型を得るのに対し,被告製造方法においては,被告機械を用いて原金型の 表面に地模様及び地模様以外の模様に対応する部分を切削加工により作製し,こう\nして得られた原金型から(特定されない加工方法(被告方法1)又は放電加工(被 告方法2)により)プレス金型を得る点で相違する。そうすると,被告製造方法は, 本件各発明の本質的部分を共通に備えているとはいえない。 したがって,本件各発明と被告製造方法の相違部分は,本件各発明の本質的部分 に当たる。
(4) 原告らの主張について
これに対し,原告らは,本件各発明の本質的部分は,金型に対して一定のパター ンで切削の深さと,水平面に対する金型の切削角度と,を変えながら金型表面上を\n移動させ,傾斜面を含む特定のパターンを金型上に描くことと,地模様以外の模様 に対応する部分をV溝状に切削することであり,原金型とプレス金型の2つの金型 を用いるか否かは本件各発明の本質的部分ではないなどと主張する。 しかし,前記のとおり,原金型からプレス金型に対する転写等の工程につき,そ の構成を特定しなくても,本件各発明の作用効果を奏し得るものが行われることが\n当業者にとって技術常識であるとは認められないことをも踏まえると,金型につき 原金型とプレス金型の2つを用いるか否かは,本件各発明の本質的部分に係る相違 部分というべきである。 したがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。

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平成30(ワ)8708  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月13日  大阪地方裁判所

本件発明の「せぎり部」には該当しないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。

 本件発明の構成要件B1,B2及びB3は,「支持面」について規定するもので\nあり,その文言によれば,1)支持面は,水平支持部材の上面の略中央にある開口部 の端部にあり,2)支持面は,側溝蓋の当接部の曲面(断面凸状)と略相似の断面凹 状の曲面からなり,3)当接部の下端部とせぎり部との間に所定の隙間を形成するた め,4)支持面の下端に沿って連続的にせぎり部が形成されるというものである。 前記1のとおり,従来製品においては,側溝蓋の平面の当接部が,側溝本体の平 面の支持面によって支持されていたところ,本件発明においては,断面凸状の当接 部が,略相似の関係にある断面凹状の支持面で支持されることによって,側溝蓋に より受ける荷重が分散されるとともに密着性がよくなり,支持面に平面がないため に小石,砂利,土等が堆積しにくくなり,側溝蓋のガタツキや騒音の発生を抑制し, かつ,せぎり部により当接部の下端部と支持面の下端部との間に所定の隙間が形成 されるため,砂利,土等がその隙間に集まり,当接部と支持面との間の面接触状態 が維持され,堆積した小石,砂利,土等も除去しやすい,という効果があるとされ る。
そうすると,せぎり部は,本来であれば略相似の関係にある曲面が当接する関係 にあった当接部と支持面のうち,支持面の下端の形状を変更することによって,当 接部の下端部との間に隙間を設けるものであるから,せぎり部は,それが設けられ ていなければ支持面の一部として当接部と当接した部分に存することになるし,せ ぎり部と対応する位置には,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部が存すること になる。逆に言うと,側溝蓋と側溝本体との間に隙間が存したとしても,その隙間 が,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部に対応するのでなければ,それは本件 発明のせぎり部にはあたらないというべきである。

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平成31(ワ)2675  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月18日  東京地方裁判所

 吹矢に関する特許侵害の損害認定について、101条1項、2項に基づき約3600万円の請求が認められました。

 以上によれば,被告製品は,そのほとんどが吹矢協会と関係がある需要 者により購入されたと認めることが相当である。そして,被告製品は,吹 矢協会の関係者において吹矢協会の公認用具であることを理由として購 入された割合が相当に高いと認められる。原告の製造販売する吹矢用具は 令和2年12月1日以降は吹矢協会の公認用具でなかったから上記の理 由で購入された被告製品の需要の全てが原告の製造販売する吹矢の矢に 向かうとは認められない。他方,原告の製造する吹矢の矢については,吹 矢協会の公認がなくとも購入するとする者もいたことがうかがわれ,被告 製品の需要が全く原告の製造販売する吹矢用具に向かわないとはいえな い。
被告は,原告の吹矢用具が吹矢協会の公認用具でないことを理由として 令和2年12月1日以降の被告の売上げについての推定覆滅を主張する ところ,上記事情に照らせば,同日以降の利益については,65%の割合 で損害額の推定が覆滅すると認めるのが相当である。

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平成30(ワ)19441  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月28日  東京地方裁判所

 被告製品には当該構成要件が存在するとはいえないとして、技術的範囲外と認定されました。\n

 本件発明は,端部開口を含む「空気導入口」(構成要件D)から空気\nが導入されてその空気が「排出部」(構成要件E)から排出され,その\n空気の流れによってガス容器収容部,ガス容器を冷却するという空冷機 構を備え,ガス容器収容部,ガス容器に対する熱害の発生を防ぐという\nものである(前記(1))。 原告は,各被告製品の側面開口と底面穴が「空気導入口」であり,カ バー穴が「排出部」であると主張する。 原告は,原告実験1−1から1−3,2−1から2−3,3−1,3 −2,3−3(前記(2)オ,キ,ケ)を,被告は被告実験1−1,1−2, 2(同カ,ク)を行った(このうち,原告実験1−1,2−1,3−1, 被告実験1−1,2が標準ガス容器に関する実験であり,原告実験1− 2,1−3,2−2,2−3,3−2,3−3,被告実験1−2が小型 ガス容器に関する実験である。)。そして,これらの実験において,燃 焼中のガス容器上側側面,下側側面等の温度が測定されるほか,スモー ク粒子を用いて,器具周辺の空気の流れを示すことが試された。 ここで以下の(ウ)ないし(オ)のとおり本件に提出された証拠によって は,各被告製品について,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう, 側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された 空気がカバー穴から排出されていることを認めるに足りない。
被告製品1については,スモーク粒子を用いた原告実験1−3(前 記(2)オ(ウ) において,カバー穴から空気がガス容器収容部外に流出して いるように見えるときが多いものの,そうでないときがあるほか,側面 開口においては,基本的にガス容器収容部から空気が流出しているよう に見え,側面開口から空気がガス容器収容部内部に流入する動きは観察 できるとしても,少しの間しか観察できない。また,被告製品1には, 作動部とガス容器収容部の間には仕切板が一部に設けられているにすぎ ない。作動部においては,空気が取り込まれて燃焼炎等の影響を受けて 熱せられるところ,本件各証拠によっても,作動部で燃焼炎の影響を受 けて熱せられた空気がどのような動きをするかを認めるに足りず,作動 部において燃焼炎等の影響を受けて熱せられた空気がガス容器収容部側 のカバー穴,側面開口から流出することがないことを認めるに足りる証 拠はない。 他方,燃焼の際には,ガス容器内の液化石油ガスの気化に伴い,ガ ス容器は気化冷却され,ガス容器内のガスの温度は低下する(前記(2)ア(イ) そして,気化冷却により液化石油ガスの気化が妨げられることか ら,ガス器具にはガス容器の加温機構を備える必要があり(同前),被\n告製品1においても,燃焼炎の熱や輻射熱を作動部からガス容器収容部 に伝達してガス容器を加温するための加温機構が備えられている(同\nイ)。したがって,ガス容器の気化冷却の程度や,燃焼熱や輻射熱の影 響は,ガス容器収容部及びガス容器の温度に影響を与え得る要因である と認められる。このうち,気化冷却に関して,原告が行った各実験のう ちガス容器内のガスを使い切るまで燃焼したものにおいて,いずれも, ガス容器上側側面及び下側側面の温度がガスを使い切る直前から急激に 上昇しており(同オ ,(ア)(イ))帰化冷却はガス容器を用いた燃焼の最 終段階まで継続しており,かつ,ガス容器下側側面の温度は,開口等の 一部を塞ぐ作為の有無にかかわらず,概ね室温以下で推移しているので あって(同前),その燃焼中のガス容器ひいてはガス容器収容部の冷却 に及ぼす影響は相当に大きいものと認められる。
以上のとおりの原告実験1−3における側面開口付近の空気の流れ, 被告製品1の構造に照らしてカバー穴等から流出する空気と燃焼炎の影\n響を受けた作動部側の空気との関係が不明なこと,燃焼中のガス容器, ガス容器収容部に影響を与え得る諸要因を考慮すると,ガス容器収容部, ガス容器を冷却するよう,側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が 導入され,その導入された空気がカバー穴から排出されていることを認 めるに足りない。

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平成31(ワ)3273  差止請求権不存在確認請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月25日  大阪地方裁判所

 CS関連発明について大阪地裁26部は均等侵害を認めました。問題となった構成は「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」です。この構\成は審査段階で補正で追加されたものです。私の記憶ではCS関連発明でかつ補正した要件について均等を認めたのは初事例と思います。

 イ 原告は,組画の逐次又は一斉の表示をして記憶する人の「作業」となる部分\nを削除しつつ,組画の表示を構\成要件 B2 の選択手段に限定して,明確性の欠如に 係る拒絶理由を補正すると共に,「組画を逐次又は一斉に表示して」とする構\成を 削除し,かつ,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」を付加したとい う本件補正の経緯から,被告は,特許請求の範囲につき,「一の組画の画像データ を選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限定し,これを備えない発明を本件 発明の技術的範囲から意識的に除外したなどと主張する。 しかし,本件通知書及び本件意見書の各記載を踏まえると,「それぞれの前記記 憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対象を記憶する」の\nは人間が行う作業であって,物の発明としての「学習用具」の構成をなしていない\nなどといった明確性要件に係る本件通知書の指摘に対し,被告は,本件補正におい て,作業の主体につき,画像選択手段,画像表示手段,音声選択手段,音声再生手\n段といった「手段」とし,人が行う作業を示す部分を削除することで,これらの手 段を含むコンピューターであることを明確にしたものと理解される。それと共に, 進歩性に係る本件通知書の指摘に対しては,上記のように作業の主体を明確にした ことに加え,組画記録媒体に記録される画像データを,「1又は複数種の記憶対象 から成る記憶対象群に含まれる個別の記憶対象を表現する原画及び該原画に関連す\nる関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連画から成る組画の画像」(当\n初の請求項1)から「原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭 を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に 似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在 する第二の関連画,から成る組画の画像データ」に限定すると共に,画像表示手段\nが第一の関連画,第二の関連画,及び原画をその順に表示することとし,さらに,\nその表示を,これらに対応する語句の再生と同期させることとして,情報の提示方\n法を限定したものである。
このような出願経過を客観的,外形的に見ると,被告は,本件補正により,人為 的作業を示す部分としての「逐次又は一斉に表示」という行為態様は意識的に除外\nしているものの,物及び方法の構成として,逐次又は一斉に表\示する構成を一般的\nに除外する旨を表示したとはいえない。また,「一の組画の画像データを選択する\n画像選択手段」との構成を付加した点は,本件明細書に「一の組画」の画像データ\nの選択,表示を念頭に置いた記載があることを踏まえたものと理解されるものの\n(例えば【0057】),これをもって直ちに,客観的,外形的に見て,複数の組画を 選択する構成を意識的に除外する旨を表\示したものとは見られない。 そうすると,原告指摘に係る本件補正の経緯をもって,被告は,特許請求の範囲 につき,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限 定し,これを備えない発明を本件発明の技術的範囲から意識的に除外したと見るこ とはできない。この点に関する原告の主張は採用できない。

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平成29(ワ)10716  特許権侵害差止等請求事件  特許権 令和3年2月18日  大阪地方裁判所

 特許法102条2項による損害認定について、2割の覆滅が認められました。 消費税については、侵害時の税率で計算すると判断されました。

 消費税は,国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものであるとこ ろ(消費税法4条1項),「例えば,次に掲げる損害賠償金のように,その実質が 資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当する ことに留意する。・・・(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財 産権の権利者が収受する損害賠償金」(消費税法基本通達 5-2-5)とされているこ とに鑑みると,特許権を侵害された者が特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金 を侵害者から受領した場合,その損害賠償金も消費税の課税対象となるものと推察 される。そうすると,特許権者が特許権侵害による損害のてん補を受けるために は,課税されるであろう消費税額相当分についても損害として受領し得る必要があ るというべきであるから,「利益」には消費税額相当分も含まれ得ると解される。 適用されるべき消費税率について,原告は,損害賠償支払時点の税率(10%) によるべきと主張する。
しかし,上記のとおり,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金に対する消費 税が課せられるのは,損害賠償金の実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認めら れることによる。ここで,資産の譲渡等に相当する行為と見られるのは,特許権侵 害行為である。また,消費税基本通達 9-1-21 では,「工業所有権等又はノウハウを 他の者に使用させたことにより支払いを受ける使用料の額を対価とする資産の譲渡 等の時期は,その額が確定した日とする。」とされている。これらのことに鑑みる と,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金は,特許権侵害行為時に直ちに損害 が発生して金額が確定するものであるから,資産の譲渡等の時期は,特許権侵害行 為時であると解される。 そうすると,本件においては,第1期間〜第4期間のいずれにおいても,本件特 許権侵害行為時の消費税率8%が適用されることとなる。
・・・・
本件明細書の記載によれば,本件発明の効果は,前記4(1)のとおりである。要 するに,本件発明の効果は,1)外観上の体裁の良さ及び室内側への風雨の進入防止 並びに2)取付強度の高さ及び風圧に対する耐久性の良さと,3)取付作業時に足場等 が不要となることによる施工コストの低減にあるといえる。もっとも,上記効果の うち1)及び2)は,手摺本体取付け後の効果であるため,取付方法に係る発明である 本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とは必ずしもいえない。
イ 本件発明の貢献の程度等について
(ア) 本件発明は,手摺の取付方法に係る発明である。手摺を選択するのは,最終 的にはこれを取り付ける建築物の施主であるものの,手摺の取付方法そのものが施 主の関心を惹くとは考え難い。その意味で,本件発明に係る手摺の取付方法を実施 することは,製品選択の直接の動機となるとはいえない。 しかし,本件発明の効果1)〜3)は,いずれも建築物に取り付けるべき手摺製品の 選択の動機となり得る事情ということはできる。
(イ) もっとも,前記アのとおり,効果1)及び2)は,いずれも手摺本体取付け後の 効果であるため,取付方法に係る発明である本件発明によるのでなければ実現し得 ない効果とは必ずしもいえない。例えば,本件特許出願後に公開されたものである ものの,特開 2009-2283号公報(乙16。平成21年10月8日公開)には,手 摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数のガラス板等のパネルが取り付けら れ,パネル間にはパネル支持枠(アルミニウム系金属で構成されるものであり\n(【0012】),アルミ製目地枠に相当する。)を用い,パネルの上下左右全ての側 部が支持固定される手摺の構成が開示されている。そうすると,効果1)及び2)につ いては,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たっては,必ずしも重視し得 るものではない。
(ウ) 他方,効果3)については,最終的な需要者(ないしこれに対して建築物に取 り付けるべき手摺を提案する手摺取付業者や建築物の開発業者等)にとって,顧客 誘引力を生じ得るものといってよく,本件発明の貢献の程度を評価するに当たって はこれを考慮に入れるべきである。 もっとも,複数階層の建築物の建築現場においては,手摺取付工事のための足場 は不要であっても,別工程のために足場の設置が必要となることは,当然あり得る (乙50〜54参照)。このため,このような場合は,結局は足場等設置に要する コストが発生し,施工コスト低減の効果がないか,あるとしても,設置期間短縮等 による限られた効果しか生じないものと合理的に推察される。 他方,このような事情は主として建築物の新築時や大規模修繕時のものであり, それ以外のメンテナンス時には,足場等を不要とすることによる施工コストの低減 という効果が発揮されることは考えられる。現に,乙42製品のカタログ(乙4 2)には,「パネルは室内側から取り付けられ,メンテナンス性に優れていま す。」と記載されている。また,原告製品のカタログ(甲15)においても,「ガ ラス嵌め込み工事における,外部足場が不要になります。」との記載があり,これ もメンテナンス性における優位性を指摘するものと理解される。ただし,建築物の 新築時及び大規模修繕時に比較すると,それ以外の機会にメンテナンスを実際に要 する例は,規模的にかなり少ないと推察される。 さらに,被告は,そのウェブサイト(甲3の1)において,被告製品の特徴とし て,ガラスの連続した意匠となること,4辺支持とすることでガラス厚を薄く設計 できるとともに,手すりの高耐風圧仕様となること,ガラスの縦枠への掛かり寸法 をガラス厚とし,安心な製品仕様としていることを挙げるものの,足場を組む必要 がないこと(その結果として施工費が安価になること)については触れていない。 加えて,本件発明に係る手摺取付方法によれば,ガラス取付業者においてガラス 板と目地枠を取り付けることができるとしても,それがどの程度施工コストの低減 に貢献する効果を有しているのかは明らかではない。
(エ) 以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを 実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同 程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について 証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数 のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認 められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について 証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付 枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる (乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4 辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的 にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付 強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係 合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲 14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等 の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得 る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について 証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ 製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程 度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって, アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺 笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関 係である。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他 原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可 能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当 である。 もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると 認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全 趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27 製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3 9製品が平成29年10月であることが認められる。 また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。
これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品 及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2 項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程 度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的 であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに 反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。

◆判決本文

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令和1(ネ)10074  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月10日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 CS関連発明についての侵害事件で、知財高裁(3部)は、技術的範囲に属するが無効理由ありと判断しました。1審は一部の構成要件の非充足でした。\n

 前記(ア)bのとおり,インタ−ネット広告配信の技術分野において, 同じ広告を必要以上に見せることにより起きる「バナ−バ−ンアウト」 (広告に反応がなくなる状態)を防ぐために,利用者一人一人に対する 広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であった。 乙5発明は,インタ−ネットにおける広告配信という,上記技術と共 通する技術分野に属する。そして,乙5発明は,「モバイル・ウェブ・ クライアントによりウェブにアクセスしているユ−ザ−に対する広告の 効力を高めること」(乙5【0011】)を目的としており,広告の効 力を高めるという課題は,上記周知技術の課題と共通する。そのため, 乙5発明に,技術分野及び課題が共通する上記周知技術を組み合わせる ことには動機付けがあるものと認められる。
そして,乙5発明において,特定の広告オブジェクトについて各ユ− ザ−に配信する回数を1回に制限するためには,ウェブ・サ−バが,受 信したモバイル・ウェブ・クライアントの位置情報と広告オブジェクト (広告情報)に関連付けられた位置情報が一致したことにより(前記ア (イ)b4)〔本判決74頁〕)一度供給した広告オブジェクト(前記ア(イ) b5)〔本判決75頁〕)を,その後,上記モバイル・ウェブ・クライア ントの位置情報と広告オブジェクト(広告情報)に関連付けられた位置 情報が再度一致しても,上記モバイル・ウェブ・クライアントに送信し ないようにすればよいことは,明らかである。 したがって,乙5発明に,特定の広告を各利用者に配信する回数を1 回に制限するという周知技術を適用することができたものと認められる。 そうすると,乙5発明に,特定の広告を各利用者に配信する回数を1 回に制限するという周知技術を適用し,構成要件E(「広告情報管理サ\n−バが,無線通信装置が一旦指定地域の外に出た後再び指定地域内に戻 った場合であっても,指定地域内にとどまり続けた場合であっても,同 じ広告情報を無線通信装置に送信しないこと」を特徴とする無線通信サ −ビス提供システム,前記2(1)ア(ア)〔本判決48頁〕)を容易に想到 することができたものと認められる。
エ 控訴人の反論について
控訴人は,一般的に,広告は目に触れる回数が多ければ多いほど効果が あるので,乙5発明は,広告情報が関連付けられた位置情報及び時刻と一 致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対し, 可能な限り長い時間,繰り返し広告を表\示することを目的としており,回 数は無制限で広告情報を配信する発明であるとし,広告の配信回数を制限 するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することには阻害事 由があると主張する(前記第3の4(2)イ(イ)b(b)〔本判決25頁〕)。 しかしながら,前記ウ(ア)b〔本判決83頁〕のとおり,インタ−ネッ ト広告配信の技術分野において,本件特許の出願時(平成12年9月5日) には,同じ広告を必要以上に見せることにより起きる「バナ−バ−ンアウ ト」(広告に反応がなくなる状態)を防ぐために,利用者一人一人に対す る広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であったから,本件 特許の出願時において,一般的に,広告は目に触れる回数が多ければ多い ほど効果があると認識されていたとは認められない。そして乙5発明は, 広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた位置情報及び時刻と一致 する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対して 広告オブジェクト(広告情報)を配信することにより広告の効果を高める ものであると認めることはできるが(乙5【0011】,【0012】【0 017】),乙5には,広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた 位置情報及び時刻と一致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェ ブ・クライアントに対し,可能な限り長い時間,繰り返し広告を表\示する ことが広告の効力を高めることである旨の記載はなく,かえって,広告の 繰り返しは,その効果を減ずるという認識を前提とする上記周知技術が存 在したことからすると,広告の繰り返しによって,その効力を高めること が乙5発明の唯一の目的であったということはできない。したがって,広 告の配信数を制限することにより広告の効果を高めることを乙5発明が 排斥するものであったと認めることはできないから,広告の配信回数を制 限するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することに阻害事 由があるとは認められず,控訴人の上記主張は,採用することができない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)7123

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令和2(ネ)10050  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について1審は技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されていました。控訴審でも同様です。なお、控訴審における乙18に基づく無効主張は1審において主張できたとして、却下されました。乙18が実質あまり強くないのか、気になります。

 なお,控訴人は,当審において,乙第18号証に記載された発明を主引例 とする無効の抗弁を新たに主張した。
しかしながら,この新たな無効の抗弁が時機に後れた攻撃防御方法に当た るかどうかは,原審及び当審における審理の経過を総合的に踏まえて検討す べきものであるところ,一件記録によれば,原審においては,平成31年3 月12日に第1回口頭弁論期日が開かれた後,審理が弁論準備手続に付され たこと,充足論及び無効論について当事者双方の主張立証が行われた後,令 和元年12月20日の第5回弁論準備手続期日において,当事者双方の主張 立証が尽くされたことが確認された上で,裁判所の心証開示が行われたこと が認められる。そして,裁判所の心証開示が行われた上記第5回弁論準備手 続期日までに,乙第18号証に記載された発明を主引例とする無効の抗弁を 主張することが困難であったことをうかがわせるに足りる証拠はない。そう であるとすれば,控訴人としては,上記第5回弁論準備手続期日までに新た な無効の抗弁を主張すること(あるいは,少なくとも,速やかにその主張を する予定である旨を告知すること)が可能\\\であったし,そうすべきものであ ったといえるから,それをしなかったことは時機に後れたものであり,また, 時機に後れたことについて重大な過失があったものといわざるを得ない。そ して,そのような評価は,控訴人が控訴をし,審級が変わったからといって 変わるものではないところ,当審において新たな無効の抗弁の成否を審理す ることになれば,訴訟の完結が遅延することは明らかである。
以上の次第で,当審としては,新たな無効の抗弁を時機に後れた攻撃防御 方法であるとして却下したものである。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成31(ワ)22

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令和1(ネ)10078  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許権侵害について、東京地裁(40部)は新規性違反(発明1,3)および進歩性違反(発明2,4)の無効主張を認めました。知財高裁も同じ判断です。

 イ A邸工事が「公然」実施されたものではないとの主張について 控訴人は,A邸は塀や草木に囲まれており,容易に外部からA邸をのぞ き見ることはできないこと,山に囲まれており,近隣の住民もわずかであ ること,作業が屋根上で行われるものであり,外部から容易にその作業の 内容を確認することができないことから,A邸工事は,公然と行われたも のとはいえないと主張する。 しかし,被控訴人のために発明の内容を秘密にする義務を負わない不特 定の者によって技術的に理解されるか,そのおそれのある状況で実施され たのであれば,工事は公然と行われたと評価するのが相当であるところ, 本件においては,まず,A邸の屋根からストーブの煙突が突出している側 (煙突の正面側)の隣地は,本件工事の当時には駐車場であり(乙14の 10),同駐車場には10台を優に超える駐車スペースがあり,敷地もA邸 より高いことが認められるのであって(乙24の2),同駐車場からは煙突 についても十分視認が可能\であるし,当該工事が第三者から視認されるこ と等を拒むような態様で行われていたことはうかがえない。
また,乙12の資料4は,前記ア(イ)認定のとおり平成19年7月2日 に被告から住友林業に提出されたものであるところ,同図面にはインナー フラッシングが明記されており,これが,住友林業からニシカネにファッ クスで転送されている(乙32)。そして,前記ア(イ)において認定したと おり,住友林業の下請業者であるニシカネがA邸の煙突について不燃材の 装着を行うことになっていたが,その時点では,煙突の屋内からの引き出 し及び立ち上げ部分はまだ設置されておらず,住友林業又はニシカネにお いて煙突の屋根貫通部の構造を認識することは十\分可能であったといえ\nるところ,A邸工事の施工方法及び防水構造は,引用に係る原判決の「事\n実及び理由」第4の2(3)ア及びイ(ア)記載のとおりであって,いずれも複 雑なものではなく,当業者であれば,乙12の資料4や,II)期工事時の煙 突の屋根貫通部の構造から,これらの発明を技術的に理解できるものと認\nめられる。
以上によれば,A邸工事は,本件特許出願前に,被控訴人のために発明 の内容を秘密にする義務を負わない不特定の者(少なくとも上記住友林業 やニシカネ等の下請業者等)によって技術的に理解されるか,そのおそれ のある状況で実施されたもので,公然実施された発明に当たるというべき であるから,控訴人の主張は採用できない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)9909

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令和2(ネ)10036  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 JR東海に対するCS関連発明の侵害事件です。1審では第1要件、第2要件を満たさないとして、均等侵害は否定されました。知財高裁(2部)も同じ判断です。

(1) 控訴人は,原判決は,特許法70条1項,2項等に反し,本件特許請求の 範囲に記載のある「問題のある実施例」を本件各発明の実施例とせず,「最善の実施 例」のみを本件各発明であるとした点に誤りがある旨主張する。
ア 本件特許請求の範囲の【請求項1】には,「ホストコンピュータが,前記 券情報と前記発券情報とを入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前 記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席 のレイアウトに基づいて表示する座席表\示情報を作成する作成手段と,該作成手段 によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段によって\n記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,「券情報」\nと「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手段に記憶さ\nせることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善の実施例」 が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する「問題のあ る実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはできない。 また,本件特許請求の範囲の【請求項2】には,「ホストコンピュータが,前記券 情報と前記発券情報とを入力する手段と,該入力手段によって入力された前記券情 報と前記発券情報とを,複数の前記座席管理地又は前記端末機を識別する座席管理 地識別情報又は端末機識別情報別に集計する集計手段と,該集計手段によって集計 された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される 指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表\示情報を作成する作成手段と,該 作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段\nによって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,\n「券情報」と「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手\n段に記憶させることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善 の実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する 「問題のある実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはでき ない。
イ 上記のことは,本件明細書(甲2)の記載からも明らかである。 本件明細書の「発明の詳細な説明」は,補正して引用した原判決「事実及び理由」 の第3,1(1)のとおりであり,段落【0002】には,【従来の技術】として,「従 来,指定座席を管理する座席管理システムとしては,カードリーダで読取られた座 席指定券の券情報及び券売機等で発券された座席指定券の発券(座席予約)情報等\nを,例えば列車車内において,端末機(コンピュータ)で受けて記憶し表示して,\n指定座席の利用状況を車掌が目視できるようにして車内検札を自動化する座席指定 席利用状況監視装置(特公H5−47880号公報)が発明されている。」との記載 があり,段落【0004】において,「券情報」及び「発券情報」を地上の管理セン ターから受ける場合について,「伝送される情報は2種になるために通信回線の負 担を1種の場合と比べて2倍にするなどの問題がある。」ことが記載されている。 そして,本件明細書の段落【0005】には,【発明が解決しようとする課題】と して,「上記発明の座席指定席利用状況監視装置は上記券情報と上記発券情報とに 基づいて各座席指定席の利用状況を表示するにはこれ等の両情報を地上の管理セン\nターから受ける場合,伝送される情報量が2倍になるために,該情報を伝送する通 信回線の負担を2倍にするとともに端末機の記憶容量と処理速度をともに2倍にす るなどの点にある。」として,控訴人の主張する「問題のある実施例」の問題点が指 摘されており,段落【0006】には,【課題を解決するための手段】として「本発 明は,上記管理センターに備えられるホストコンピュータが,カードリーダで読取 られた座席指定券の券情報と券売機等で発券された座席指定券の発券情報とを入力 して,これ等の両情報に基づいて表示する座席表\示情報を作成して,作成された前 記座席表示情報を,前記ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設\n置管理する座席管理地に備えられる端末機へ伝送して,該端末機が,前記座席表示\n情報を入力して表示してするように構\成したことを主要な特徴とする。」と記載さ れており,段落【0007】に,【作用】として,「上記ホストコンピュータから上 記端末機へ伝送される情報量が上記券情報と上記発券情報との両表示情報から1つ\nの表示情報となる上記座席表\示情報にすることで半減され,これによって通信回線 の負担と端末機の記憶容量と処理速度とを半減する。」と記載され,段落【0008】 〜【0019】に,【実施例】として,控訴人が主張する「最善の実施例」(「座席表\n示情報」は,券情報と発券情報という二つの情報を一つに統合した実施例)が記載 されていることが認められる。さらに,段落【0020】に,【発明の効果】として, 「該端末機がする各指定座席の利用状況の表示を前記券情報と前記発券情報との両\n表示情報から1つの表\示情報となる前記座席表示情報で実現できるようになり,こ\nれによって前記ホストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され, 通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコ ストダウンが計られて,本発明のシステムの構築を容易にする。」と記載されている\nことが認められる。 これらの本件明細書の記載によると,本件各発明は,指定座席を管理する座席管 理システムに関して,地上の管理センターから券情報と発券情報の両情報を端末機 で受ける場合,伝送される情報が2種になることから,伝送される情報が1種の場 合と比べて,通信回線の負担が2倍となり,端末機の記憶容量と処理速度を2倍に するなどの技術的課題があることに鑑み,地上の管理センターに備えられるコンピ ュータが,カードリーダで読み取られた券情報と,券売機等で読み取られた発券情 報等を入力して,これらの情報から一つの座席表示情報を作成し,作成された座席\n表示情報を,コンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管\n理地に備えられた端末機に伝送して,端末機が座席レイアウトに基づき各指定座席 の利用状況を表示するという構\成を採用したものであって,この点に,本件各発明 の技術的意義があると認められる。 このような本件明細書の記載によると,控訴人の主張する「問題のある実施例」 は,本件各発明が解決すべき課題を示したものであり,その課題を解決したのが本 件各発明であるから,これが本件各発明の実施例であると認めることはできない。
・・・
また,控訴人は,被控訴人は,被告システム1の「OD情報」,「改札通過情報」 が,それぞれ,本件明細書の図2の「発券情報」,「券情報」に,被告システム1の 「マルスサーバ」及び「セキュリティサーバ」が,「地上の管理センター」に該当す ることを認めているから,被告システム1は,本件明細書の図2の構成を備えるも\nのであり,本件特許権を侵害するものであると主張するが,本件明細書の図2は, 控訴人の主張する「問題のある実施例」に関するものであり,被告システム1が, 上記図2の構成を備えるからといって,本件各発明の構\成を備えるということには ならない。
原判決(15頁〜24頁)が判示するとおり,被告システム 1 は,本件発明 1 の構\n成要件1−B及び1−C並びに本件発明2の構成要件2−B及び2−Cの文言を充\n足せず,被告システム2は,本件発明1の構成要件1−A,1−B及び1−C並び\nに本件発明2の構成要件2―\A,2−B及び2−Cの文言を充足しないから,被告 各システムが本件各発明の技術的範囲に属するものとは認められない。
(4) 控訴人は,被告システム1と本件各発明との間の本件相違点(被告システ ム1は,本件各発明における,ホストコンピュータにおいて券情報と発券情報から 一つの「座席表示情報」を作成し,これを,指定座席を設置管理する座席管理地に\n備えられる端末機に伝送し,端末機において「座席表示情報」を表\示するという構\n成を有していないこと)は,本件各発明の本質的部分ではないと主張するが,控訴 人のこの主張を採用することができないことは,原判決(25頁〜26頁)が判示 するとおりである。 本件相違点は,本件各発明の本質的部分に係るものであるから,被告システム1 は,均等の第1要件を充足しない。

◆判決本文

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◆平成30(ワ)31428

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令和2(ネ)10003  特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1億円の損害賠償を求めましたが、1審は無効理由あり(29-2および進歩性)として請求棄却しました。特許権者は訂正をしさらに控訴しました。知財高裁(3部)は、被告製品は本件訂正発明の「アクセス制御手段」を充足しないと判断して、控訴を棄却しました。

  特許請求の範囲の記載によれば,本件訂正発明の「アクセス制御手段」は, 携帯電話の所有者が第三者による閲覧や使用を制限し,保護することを希望 する被保護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段であって, RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別できる識別情報を 受け取って,該受け取った識別情報と当該携帯電話に予め記録してある識別\n情報との比較を行う比較手段で,前記アクセス要求を許可するという比較結 果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過す るまでは前記被保護情報へのアクセスを許可するものである。
一方,被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,上記1のとおり,画面 ロックを解除し,または画面ロックを継続する手段であって,背面にかざさ れたICカードの固有IDを受信し,その固有IDを用いて,当該ICカー ドが登録済ICカードであるか否かの比較を行う比較手段で,画面ロックを 解除するという比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定さ れた場合)は,画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しな い限り,画面を介して操作することができるものである。
ここで,被告製品の「背面にかざされたICカードの固有ID」が,本件 訂正発明の「RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別でき る識別情報」に相当することに争いはないから,被告製品の「画面ロック解 除制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に係る構成要件を充\n足するというためには,1)被告製品の「画面ロックを解除し,または画面ロ ックを継続する手段」が,本件訂正発明の「携帯電話の所有者が第三者によ る閲覧や使用を制限し,保護することを希望する被保護情報(以下,単に 「被保護情報」という。)に対するアクセス要求を許可または禁止する手 段」に当たるとともに,2)被告製品において「画面ロックを解除するという 比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定された場合)は, 画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しない限り,画面を 介して操作することができる」ことが,本件訂正発明の「アクセス要求を許 可するという比較結果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてか ら所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」こと に当たることを要するといえる。
(2) そこで,上記1)及び2)の2点に分けて,被告製品の「画面ロック解除制御 手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するか否かについて 検討する。
ア 上記1)の点につき
(ア) 証拠(甲4など)によれば,被告製品の「画面ロック機能」とは,ス\nマートフォンの画面をロックすることによって画面を介した操作が行え ないようにするためのものであり,画面ロックの解除とは,スマートフ ォンの操作(画面を介した操作)が可能な状態にするためのものであっ\nて,これらは被保護情報へのアクセスを許可するとか禁止するといった ことそのものを意味するわけではないし,それと同視すべき事柄である ということもできない。このことは,画面を介した操作が可能となった\nからといって,常に被保護情報へのアクセスが行われるわけではなく, 公開された地図の検索等,被保護情報には当たらない情報へのアクセス に終始する場合もあり得ることや,逆に,被保護情報そのものにパスワ ードが付されている場合等を想定すると,画面ロックを解除したからと いって直ちに当該被保護情報にアクセスできるようになるわけではない ことなどからも明らかである。 もちろん,被保護情報そのものにパスワード等が付されていない場合 には,画面ロックを解除した後,ユーザが画面を介して所定の操作を行 うことにより,スマートフォンに格納された被保護情報へのアクセスが 可能になるし,壁紙として,第三者に見られたくない写真を設定してい\nるような状況の下では,画面ロックの解除と同時に,被保護情報へのア クセスが起こり得ることとなる。しかしながら,これらは,画面が開か れたことそのものや,それによって画面を介した操作が可能になったこ\nとに付随して生じた結果というべきものであって,画面ロックやその解 除の直接の目的や効果といえるものではない(なお,1)の構成における\n違いが,2)の構成における違いにも反映していると考えられることにつ\nいては,後述のイ参照。)。
(イ) また,証拠(乙2)によれば,被告製品は,「画面ロック」状態にお いても,画面を介した操作によらないアクセス要求(例えば,自動改札 機の通過のために乗車券の情報にアクセスすること,電話着信があった ときに発信者の名前を画面に表示するために電話帳の情報にアクセスす\nること等)に対しては,アクセスを禁止していないことが認められ,こ の場合には,画面ロックの解除を経ないで被保護情報へのアクセスが可 能になることとなる。このことも,画面ロックやその解除が,被保護情\n報へのアクセスの禁止や許可そのものではないことを裏付ける一事情と いうべきである。なお,控訴人は,上記の例は,被告製品の構成を認定\nするための対象にはなっていない事例であるから考慮すべきではないと いう趣旨の主張をするが,画面ロックやその解除の意義を認定するため の事情として考慮することには何ら妨げはないものというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)に検討したところによれば,被告製品の「画面ロックを 解除し,または画面ロックを継続する手段」が,本件訂正発明の「被保 護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段」に当たるとい うことはできない。
イ 上記2)の点につき
本件訂正発明の「アクセス制御手段」の「前記アクセス要求が許可され てから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可す る」構成は,その記載のみからは,所定期間が経過した後の状態が明らか\nでない。しかしながら,本件明細書の【0009】に,本件訂正発明の目 的は,「個人情報や金銭的価値のある情報を統合して管理する場合に当該 情報の第三者による不正使用を確実に防止するための情報保護システムを 提供することにある。」と記載されていることや,【0039】に,「タ イマを設けて一定のタイムラグを許容することで,ICアセンブリ130 とICアセンブリ140とを実際に使用するときの距離が比較的長い場合 であっても,通信可能距離の短い通信方式を採用することが可能\にな る。」と記載されていることからすると,上記の構成の意義は,所定時間\nに限ってアクセスを許容する構成を付加することで,第三者による被保護\n情報の不正使用を確実に防止しつつ,Rバッジと携帯電話とが離間してい ても,自動改札機等による被保護情報に対するアクセス要求を適切に処理 できるようにしたことにあると解される。そうすると,所定時間経過後に は,被保護情報の保護のために,再度アクセスを禁止することが必須とさ れているというべきであり,「前記アクセス要求が許可され」たときを起 点とし,それから所定の時間が経過した後は,たとえ被保護情報へのアク セスが継続している最中であっても,被保護情報へのアクセスは禁止され ることになるものと解される。
これに対し,被告製品の構成は,前述のとおり,「画面ロックを解除す\nるという比較結果が得られた場合は,画面ロックが解除された後,無操作 状態が一定期間継続しない限り,画面を介して操作をすることができる」 というものである。その一定期間の起点は,画面ロックが解除された後, 何の操作もしないという例外的な場合には,画面ロックが解除されたとき となるが,何らかの操作がされる多くの場合には,その操作が終了したと きとなるのであって,常にアクセス許可がされたときが一定期間の起点と なる本件訂正発明とは異なる。また,本件訂正発明においては,アクセス 許可がされた後,一定期間が経過すれば,被保護情報へのアクセスが継続 してDいたとしてもアクセスが禁止されることになるのに対し,被告製品に おいては,画面を介した操作が継続している限り,一定期間がカウントさ れることはなく,したがって,画面がロックされることはあり得ないので あり,この点においても違いが存するものというべきである。 そして,両者にこのような違いが生じているのは,本件訂正発明におい ては,アクセス許可が被保護情報へのアクセスという意味を有するため, 被保護情報の保護という観点から時間制限が設けられているのに対し,被 告製品の画面ロック解除は,単に,画面を介した操作を可能にするという\n意味しか持たないため,被保護情報の保護という観点から時間制限をする 必要はなく,無駄な電力消費を防ぐという観点から時間制限が設けられて いるのにすぎないからであり,両者の時間制限が持つ技術的意義が全く異 なるからであると解される(このように本件訂正発明におけるアクセス許 可と被告製品における画面ロック解除が持つ技術的意義に違いがあること は,被告製品が1)の構成要件をも充足しないことをも裏付けるものである\nといえる。)。
ウ 上記ア及びイに検討したところによれば,被告製品の「画面ロック解除 制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するとはいえ ない。
(3) 控訴人は,本件訂正発明の「アクセス」とは,携帯電話の正当なユーザと して被保護情報を閲覧・利用・更新することを意味しており,被告製品にお いては,画面ロック状態では,正当なユーザであることを確認できていない ため,被保護情報(電子マネー,電話帳,写真などのデータ)の閲覧・使 用・更新は禁止されているとして,被告製品が,本件訂正発明の構成要件を\n充足する旨主張する。 しかしながら,被告製品の画面ロック状態においては,被保護情報の閲 覧・利用・更新に制限があるとはいえ,それが全面的に禁止されているもの ではなく(上記(2)ア(イ)),画面ロック状態の解除後においても,それだけで 被保護情報へのアクセスが全面的に可能になるものでもない(上記・・・(2)ア(ア))。 被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,まさに文字どおり,画面ロック 解除を制御しているにとどまり,被保護情報へのアクセスの制御との関連は 限定的なものにとどまる。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成30(ワ)39914

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令和1(ネ)10081  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年11月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について、知財高裁(4部)も技術的範囲に属しないと判断しました。

 以上の本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載及び本件明細書 の記載によれば,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,「ポインタの座\n標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力 手段に表示するため」の「画像データ」であり,出力手段に表\示され,利 用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるよう\nに構成されていることを要するものと解される。\n
イ これに対し控訴人は,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,命令の「対\n象」や「内容」のいずれかを,小さな絵で表現したものが,「実行される\n命令結果を利用者が理解できるという動作・作用を目的・目標として構成\nされている画像データ」であって,「画面上のどの座標位置・範囲に表示\nするかという表示位置・範囲に関する情報」を含むものである旨主張する。\n しかしながら,本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載中には, 「操作メニュー情報」が「実行される命令結果を利用者が理解できるとい う動作・作用を目的・目標として構成されている画像データ」であること\nの根拠となる記載は存在せず,控訴人の上記主張は,特許請求の範囲の記 載に基づかないものであるから,採用することができない。
 (3) 被告製品における「操作メニュー情報」(構成要件B)の具備の有無につ\nいて
控訴人は,1)被告製品の本件ホームアプリにおける「上ページ一部表示」\n及び「下ページ一部表示」は,その内容や表\示位置からすれば,これを見た 利用者は上ページ又は下ページにスクロールする結果を理解できるといえる から,利用者が,その表示の有無を視覚的に認識でき,その表\示内容から, 所望の命令を実行した結果についても理解できるような,画像データに当た り,「操作メニュー情報」に該当する,2)被告製品における「左上領域」(別 紙参考図の図1記載の左側の赤色の点線枠内),「右上領域」(同図1記載 の右側の赤色の点線枠内),「左下領域」(同図2記載の左側の赤色の点線 枠内,同図3のB記載の左側の画像)及び「右下領域」(同図2記載の右側 の赤色の点線枠内,同図3のB記載の右側の画像)は,「操作メニュー情報」 に該当する旨主張する。
ア そこで検討するに,被告製品の構成エ(ウ),(エ),オ(ウ)及び(エ)及び 別紙「乙2の2の説明図」によれば,被告製品においては,1)利用者が, 移動させたいショートカットアイコンをロングタッチし,ドラッグ操作を することにより当該ショートカットアイコンを移動させ,ロングタッチし た位置と当該ショートカットアイコンをドラッグしている指等のタッチパ ネル上の位置が約110ピクセル離れた場合に,その際のページ画面が縮 小表示されるとともに,そのページ画面のページ番号に応じて,当該ペー\nジが上端ページであれば1つ下のページの一部の画像である「下ページ一 部表示」のみが,下端ページであれば1つ上のページの一部の画像である\n「上ページ一部表示」のみが,それ以外のページであればこれらがいずれ\nもIGZO液晶ディスプレイに表示される「縮小モード」となること,2) 「縮小モード」の状態で,「上ページ一部表示」が表\示されているとき, 利用者が当該ショートカットアイコンをドラッグしている指等及びマウス カーソルの先端の座標位置を「左上領域」又は「右上領域」のいずれかの\n範囲に入れたときは,上ページスクロール1又は上ページスクロール2を 生じさせる命令が実行され,また,「縮小モード」の状態で,「下ページ 一部表示」が表\示されているとき,利用者が当該ショートカットアイコン をドラッグしている指等及びマウスカーソルの先端の座標位置を「左下領\n域」又は「右下領域」のいずれかの範囲に入れたときは,下ページスクロ ール1又は下ページスクロール2を生じさせる命令が実行されることが認 められる。
イ しかるところ,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表\ 示」は,別紙「乙2の2の説明図」の図6等に示すように,「縮小モード」 の状態で,IGZO液晶表示ディスプレイの画面上に表\示される長方形状 上の画像データであるが,その表示には「実行される命令結果」の内容を\n表現し,又は連想させる文字や記号等は存在せず,利用者がその表\示自体 から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構成されているも\nのと認めることはできない。
また,利用者が,縮小モードの状態で,1つ上のページ又は1つ下のペ ージの一部を表示した画像である「上ページ一部表\示」又は「下ページ一 部表示」を見て,「上ページ一部表\示」又は「下ページ一部表示」までド\nラッグすれば,上ページ又は下ページに画面をスクロールさせることがで きるものと考え,実際にそのように画面をスクロールさせる操作をしたと しても,それは,「上ページ一部表示」又は「下ページ一部表\示」の表示\n自体から「実行される命令結果」の内容を理解するのではなく,操作の経 験を通じて,画面をスクロールさせることができることを認識するにすぎ ないものといえる。 したがって,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表\示」 は,利用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解でき\nるように構成された画像データであるものと認めることはできないから,\n構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当しない。\n
ウ 次に,前記アの認定事実によれば,被告製品における「左上領域」,「右 上領域」,「左下領域」及び「右下領域」は,いずれも,被告製品の出力 手段であるIGZO液晶表示ディスプレイの画面上の特定の座標位置で囲\nまれた領域であり,その領域は,画面上に画像データとして表示されてい\nるものではなく,利用者が画面上で認識できるものではない。 したがって,被告製品における「左上領域」,「右上領域」,「左下領 域」及び「右下領域」は,出力手段に表示され,利用者が「実行される命\n令結果」を理解できるように構成されている「画像データ」であるものと\n認めることはできないから,構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当し\nない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)8302

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平成31(ワ)2210 特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年8月11日  東京地方裁判所

 東京地裁(46部)は、コンピュータ関連発明について、技術的範囲に属すると判断しました。なお、被告は無効理由を主張しましたが、該当しないと判断しています。

 本件発明1−1の特許請求の範囲の記載をみると,本件発明1−1は, 「患者を識別するための第1患者識別情報を端末装置より取得する第1 取得部と」(構成要件1−1A),「前記第1患者識別情報と,患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否\nかを判定する第1判定部と」(構成要件1−1B)を有するものであり,第1判定部において第1判定をする。また,「前記第1判定部で一致すると\n判定された場合に,看護師または医師を識別するための第1医師等識別情 報を前記端末装置から取得する第2取得部と」(構成要件1−1D),「前記第1医師等識別情報と,看護師または医師を識別する情報としてあらか\nじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判 定部と」(構成要件1−1E)を有するものであり,第2判定部において第2判定をする。\n
ここで,第1判定と第2判定の関係について,特許請求の範囲には,「前 記第1判定部で一致すると判定された場合に」(構成要件1−1D),第1医師等識別情報が取得されて第2判定がされることが記載されている。こ\nのことから,第1判定で一致すると判定されることが,第2判定がされる ことの前提であることが記載されているといえる。もっとも,第1判定と 第2判定との時間的な接着性の有無等についての記載はない。 そこで,本件明細書1をみると,本件明細書1には,実施の形態1ない し4が記載されている。実施の形態1では,第1判定や,第1判定で一致 するとの判定がされて患者の医療情報を出力することについての実施の 形態(構成要件1−1Aないし1−1C)が記載されているが,第1判定で一致するとの判定がされた直後に第2判定がされるとか,第1判定は,\n第2判定がされる都度にされるものであるなど,第1判定と第2判定の時 間的関係やその機会についての記載はない。そして,実施の形態1では, 患者が,患者の手に巻いており識別情報を含むリストバンドのバーコード を端末装置の撮像部で撮像することによって第1判定がされる(段落【0 045】)。そして,第1判定で一致するとの判定がされた場合には,「患者 用画面」が生成,表示され(段落【0047】ないし【0050】),患者用画面には検査の予\定や患者への注意事項が表示されるなどし(【004\n3】【図7】,患者はその画面を確認することで患者に対して行われる医療 行為等を知ることができ(段落【0019】),その患者用画面に対し,患 者が,例えば,検査ボタンをタッチすると検査名欄や検査説明欄が表示された検査表\示画面が生成,表示されることが記載されている(段落【00\n51】等)。また,第1判定で一致するとの判定がされて患者用画面が表示(ステップS21)されると検査ボタンや手術ボタンの入力を受け付ける\nようになり,その入力がされた場合には対応する画面の表示処理がされるが,入力がされなかったり,上記対応する画面の表\示処理がされたりした後には,患者用画面の表示に戻ることが記載されている(段落【0065】ないし【0068】,【図12】)。\n
実施の形態2は,看護師が患者の医療情報を確認するための看護師専用 画面を表示部に表\示する実施の形態であり,主に構成要件1−1Dないし1−1Fに対応する実施の形態が記載され,特に説明する構\成等以外は実施の形態1と同じであることが記載されている(段落【0088】)。そこ では,患者用画面が表示部に表\示された後,看護師が,自身のリストバン ドに記載されたバーコードを撮像部で撮像し,第2判定がされることが記 載されている(段落【0091】)。また,第2判定が一致した場合には医 療スタッフ用画面が表示されるところ,医療スタッフ用画面である看護師専用画面,バイタル画面等の表\示後に終了処理(ステップS120)がされると,患者用画面の処理(ステップS23)に移ることが記載されてい る(段落【0122】【図26】【図12】)。そこには,上記の他に,第1 判定と第2判定との関係についての記載はない。 また,実施の形態3は主に第1判定に関係する記載であり(ただし,請 求項2に関する形態),実施の形態4は,第2判定に関係する記載である が,それらの記載も含めて,本件明細書1に,第1判定と第2判定との時 間的接着性についての記載はない。 本件明細書1における背景技術や発明が解決しようとする課題の記載 によれば,医療情報を医療用サーバから取得し,取得した医療情報に基づ いてピクトグラムを表示する端末装置という従来技術ではセキュリティを確保することが難しかったところ,本件発明1−1は,セキュリティを\n従来技術より向上させることができるというものである(段落【0003】 ないし【0006】)。本件明細書1には,本件発明1−1について,上記 のとおり,従来技術よりセキュリティを向上させることが記載されている が,その記載のほかには従来技術と比較した優れた効果についての記載は ない。
以上の特許請求の範囲の記載や本件明細書1の記載に照らせば,第2判 定は,第1判定で一致すると判定された場合にされるものである。しかし, 本件明細書1には,実施の形態として,患者がその手に巻いているリスト バンドのバーコードを端末装置の撮像部で撮像することによって第1判 定がされ,一致すると判定された場合に患者用画面が表示され,それに対して患者が一定の操作をする形態が記載されている。そして,患者用画面\nの表示後に,医療スタッフがそのリストバンドのバーコードを撮像部で撮像することで第2判定がされ,そこで一致すると判定されると医療スタッ\nフ用画面が表示されるが,その終了処理後は,患者の医療情報を表\示する 患者用画面の表示に戻ることも記載されている。これらに照らすと,本件発明1−1において,第2判定がされるのは,第1判定で一致すると判定\nされた場合ではあるが,第1判定で一致するとされた後に患者による一定 の操作がされ,その後に第2判定がされることや,第1判定で一致すると 判定されて第2判定がされて第2判定で一致するとされて看護師等が必 要とする医療情報を含む表示画面が出力された後に,第1判定で一致すると判定された後と同じ,患者の医療情報を表\示する患者用画面に戻り,その状態から再び第2判定がされることがあり得ることが記載されている といい得る。
以上によれば,本件発明1−1において,第2判定がされるのは第1判 定で一致すると判定された場合であるが,第1判定がされるのは第2判定 がされる直前に限られるとか,第2判定がされる前にその都度第1判定が されるとは限られないと解するのが相当である。このように解したとして も,第1判定がされてそこで一致すると判定されない限り第2判定はされ ず,第2判定において一致すると判定されない限り看護師等が必要とする 医療情報を含む表示画面が表\示されることはないから,本件明細書1に記 載されたセキュリティの向上という効果を奏するといえる。

◆判決本文

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平成30(ワ)21448  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年7月9日  東京地方裁判所

 被告製品は構成要件を有していない、さらに、進歩性違反の無効理由ありとの判断されました。同時期に継続していた審取の判断については「証拠が異なる」として、審理再開の 必要なしと判断されました。

イ 本件発明の技術思想(課題解決手段)について
前記(1)によれば,本件発明は,鋼管等を回転して圧入する立坑構築機に\n関し,輸送する際に幅を狭くする必要があったところ,従来技術において は,円弧状歯車片同士の端部が当接されず,その隙間から内部の転動体が こぼれ落ちてしまうため,標準的なベアリングを使用することができない という課題が生じていたので,これを解決するため,構成要件Eに係る構\ 成を採用し,円弧状ベアリング片が隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ ングを構成し,もって,分割して幅方向の寸法を狭くすることができると\n共に,転動体がこぼれ落ちなくなり回転を安定させることができ,標準的 なベアリングを使用して装置を安価に構成することができるようにした\nという技術的思想であるものと認められる。すなわち,本件発明において, 円弧状ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付 ベアリングを構成するという技術的意義を有しているものというべきで\nあり,このことは,前記のとおり,課題解決手段の欄(段落【0011】) において,「円弧状ベアリングは隙間なく接続して環状の歯車付ベアリン グを構成し,内輪及び外輪の間に配置された球やころ等の転動体がこぼれ\n落ちない構造になっている。かかる構\成によって,分割して幅方向の寸法 を狭くすることができると共に,標準的なベアリングを使用して回転を安 定させることができる。」と記載されていることからも根拠付けられるも のである。
ウ 構成要件Eへの被告製品の充足性について\n
しかして,構成要件Eには,円弧状ベアリング片が「それぞれの両端部\nを各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する」との文言が記載され\nているところ,「接続」とは「つなぐこと。つながること。続けること。続 くこと。」を意味するものである(広辞苑第7版)。そうすると,その文言 の一般的意義,上記の本件発明の技術的思想(本件発明において,円弧状 ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ ングを構成するという技術的意義を有しているものであること)に照らせ\nば,環状の歯車付ベアリングを構成するために隙間なく接続する部品,す\nなわち,つなぐ部品が円弧状ベアリング片であって初めて,円弧状ベアリ ング片が「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構\n成する」といえるものであると解するのが相当である。そうすると,環状 の歯車付ベアリングを構成した際に,円弧状ベアリング片の両端部に隙間\nが有るならば,「接続」とは評価し難いものというべきである。 しかるに,前記アによれば,被告製品においては,環状の歯車付ベアリ ングは,2つある分割フレーム14に設けられた内外輪部ケースそれぞ れの両端部及び回転リング部材51−3,51−4それぞれの両端部を 隙間なく接続して構成するものであって,分割内輪部23や分割外輪部\n24それぞれの両端部を隙間なく接続するものでも,つなぐものでもな く,円弧状ベアリング片である円弧状部材36,37それぞれの両端部 には,客観的に隙間があるから,被告製品の円弧状部材36,37は 「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成す\nる」ものであるとはいえず,被告製品は,構成要件Eを充足しないもの\nというほかない。
・・・
以上によれば,本件特許は当業者が乙2発明に基づいて容易に発明するこ とができたもの(特許法29条2項)であるから,特許無効審判により無効 にされるべきもの(同法123条1項2号)である。 なお,本件特許については,知的財産高等裁判所令和2年(行ケ)第10 102号事件同2年3月24日判決(裁判所ホームページ)が,特許無効審 判請求の不成立審決に対する取消請求を棄却しているところ,原告は,これ を理由として,口頭弁論再開の申立てをしているが,同判決は,乙2発明を\n主引用発明とし,乙20発明を副引用発明として適用することに基づく進歩 性の欠如については判断しておらず,上記判断は同判決と矛盾するものでは ないから,再開の必要性は認められない。

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平成28(ワ)35157  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月24日  東京地方裁判所

 少し前の事件です。 損害額の算定について、2件の特許侵害があり、102条2項による額はいずれかの特許の侵害による損害額であると判断されました。

 しかして,前記第2のとおり,原告は,特許第5177317号(本件特 許権1)に基づく請求と,同第5610056号(本件特許権2)に基づく 請求をするところ,両請求の関係は,選択的併合の関係にあるものと解され る。そして,原告は,いずれの請求についても,損害額として,特許法10 2条2項により算定される損害額,弁護士費用相当額及びこれらに対する遅 延損害金を主張するものであるから,仮に本件特許権2の侵害が認められる 場合であっても,本件特許権1の侵害により算定される損害額と,本件特許 権2の侵害により算定される損害額とは,同一の額となるというべきである。 そうすると,本件特許権1の侵害による損害額の算定を行ったものが,原 告の請求の一部認容となる場合も,上記損害額が,仮に被告らの輸入販売等 の行為が本件特許権2を侵害するものであった場合の同侵害による損害額を 下回るものとは認められないものと考えられるから,本件特許権2の侵害や 損害額について判断するまでもなく,本件特許権1の侵害による損害額を, 原告の被った損害としてそのまま認容すべきこととなる。 そこで,原告の損害額として,本件特許権1の侵害による損害額について 検討する。
特許法102条2項により算定される損害額
ア 前記前提条件(4)(5)のとおり ,被告LEDは被告製品に搭載されて販 売されたものであるところ,被告LEDの主な用途は写真撮影時のフラッ シュライトであるが,被告らが販売している被告製品以外の機種にはかか るフラッシュライトの性能を特長にしたスマートフォンもあること(甲5),被告製品はデザインを重視し,機能\をシンプルなものにした製品として紹介・宣伝されており,被告製品の紹介や宣伝の中ではLEDライト の性能等について一切触れられておらず,被告製品の基本スペックとしてもLEDライトは挙げられていないこと(甲5,6の1,7)などの各事\n実がそれぞれ認められる。これらによれば,被告LEDについては,被告 製品の主要な特長として位置付けられているとは認められず,このような 被告LEDにつき被告製品の主要部として特に強い顧客吸引力があるとい うことは困難というべきである。 そして,前記前提条件(4)のとおり被告製品の販売による利益額は、被 告HTCについては●(省略)●円,被告兼松については●(省略)●円 であるところ,被告製品の市場想定価格は●(省略)●円(税別)である こと(甲7),被告製品自体の製造コストは明らかでないものの,被告製 品が発売された平成27年10月時点で既に販売されていた他のメーカー のスマートフォンについては,利益率は60%前後であるとされているこ と(乙52),他方,HTC台湾に被告製品を納入したメーカーが被告L EDを仕入れた価格は1個●(省略)●米ドルであったこと(乙47)が それぞれ認められる。
これらの事実からすれば,被告製品の製造コストは約●(省略)●円 (≒●(省略)●円×〔1−0.6〕)となり,これを被告製品が発売さ れた平成27年10月の平均の為替レート120.16円/米ドルで換算 すると,約●(省略)●米ドル(≒●(省略)●円÷120.16円/米 ドル)となるから,被告製品の製造コストに占める被告LEDの仕入価格 の割合は,約●(省略)●%(≒●(省略)●×100)となる。なお, 証拠(甲50)によると,50種類の単色LEDが1個約700円ないし 900円でインターネット販売されていることが認められるが,これらの 単色LEDは,砲弾型のものや複数のLEDチップが実装されたものであ るなど,被告LEDと同じ構成のものであるか明らかでないから,損害額を算定するに当たって事情として考慮するのは相当とはいえない。\n以上を総合すれば,被告LEDの販売による利益額は,被告HTCにつ いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%),被告兼松につ いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%)と認めるのが相 当である。
イ これに対し,原告は,被告製品1台当たりにおける被告LEDによる利 益額は100円を下回らない旨主張する。 しかしながら,前記前提条件(4)によれば 被告製品の販売による利益額 は,被告HTCについては1台当たり約●(省略)●円(≒●(省略)● 円÷●(省略)●台),被告兼松については1台当たり約●(省略)●円 (≒●(省略)●円÷●(省略)●台)となるところ,被告LEDによる 利益額を1台当たり100円とすれば,その割合は,前者との関係では約 ●(省略)●%,後者との関係では約●(省略)●%となるのであって, 上記アに説示した被告製品における被告LEDの位置付けや顧客誘引力に 照らすと,いずれの割合も相当とは認め難いから,原告の上記主張は採用 できない。
ウ 以上によれば,被告HTCに対する特許法102条2項による損害金の 額は,●(省略)●円と,被告兼松に対する特許法102条2項による損 害金の額は,●(省略)●円とそれぞれ認められる。
・・・
(3) 推定覆滅事由について
ア 証拠(甲68〜77,183〜186)及び弁論の全趣旨によれば,原告は, 自社の商品を,主に靴の量販店やインターネット上の通信販売サイトを通じて販売 し,その小売価格は2000円から6000円程度の商品が中心であり,原告が, 対象期間中に原告各商標と同一ないし類似する商標を付したスニーカー(甲183) を販売した際の売上げは一足当たり3000円程度であったと認められる。 他方で,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品は主に百貨店等の 店頭で販売されたものであり,別紙3被告商品販売一覧表記載のとおり,その小売\n価格は1万5000円から2万1000円,被告が百貨店等に販売する際の卸売価 格は●(省略)●円から●(省略)●円であったと認められる。 被告商品の販売による一足平均の限界利益は前記(2)エ(ウ)で認定した583万0 211円を,前記(2)イ(ウ)で認定した販売数量である●(省略)●足で除した● (省略)●円であり,原告が販売した競合品の一足当たりの限界利益を裏付ける証 拠はないが,上記の原告が販売した競合品の価格自体や,被告商品における一足当 たりの売上額が原告による競合品よりも大幅に高かったことからすれば,販売され た商品一足当たりの限界利益についても,被告商品の方が原告の商品よりも大きか ったものと推認される。 このような販売態様や販売価格の違い及び一足当たりの限界利益の違いは,被告 の限界利益額の一部について,商標法38条2項の推定を覆滅すべき事情として考 慮すべきである。
イ 他方で,被告が主張するその他の事情については,以下のとおり,いずれも 商標法38条2項の推定覆滅事情として考慮すべき事情とはいえない。 (ア) 原告が原告各商標を使用しない商品を販売していたことについて 被告は,原告が販売していた商品の多くには,原告各商標と同一又は類似の標章 が付されておらず,被告商品の販売によって,原告の売上げが減少したという関係 にないと主張する。
原告は,原告各商標と同一又は類似する標章を使用したスニーカーを販売してお り,被告による被告商品の輸入販売行為がなかったならば利益が得られたであろう という事情が原告に認められることは前記(1)のとおりであり,原告が上記のスニー カー以外に原告各商標と類似する標章が付されていない靴を販売していたとの事情 は,損害額の推定を覆滅すべき事情に当たるとも認められない。

◆判決本文

◆イ号および本件商標

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平成30(ネ)10016  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年5月27日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 知財高裁(4部)は、侵害しないとした1審判決を変更して、約2000万円の損害賠償を認めました。原審は,噴霧流同士が衝突する前に「粒子径10μm以下の液滴」を噴射するものではなく,クレームの「液体を微粒子に噴射する」を充足するものと認められないと判断していました。

(イ) これに対し被控訴人は,1)イ号製品においては,供給口(5)から 供給された液体は,空気口(10)から噴出された外部傾斜領域(7A ')に平行な方向に沿って流動する空気流の強い剪断応力と液体の自重で 下流側へ引っ張られて傾斜面(外部傾斜領域(7A'))に沿って流れ, 空気流によって傾斜面に液体を押し付ける力は作用しておらず,乙23 の鑑定書記載のとおり,流体力学の一般原理においては,傾斜面に対し て平行な高速気流によっては,傾斜面に供給された液体に対し,傾斜面 に押し付ける力は生じないから,イ号製品は,構成要件オの「液体を,\n高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」の構成を備えていない,2) 構成要件オの「薄膜流を空気流で空気中に微粒子として噴射する」とは,\n「高速流動空気によって押しつけられた液体の薄膜流が平滑面ないし傾 斜面から離れるとき」に「10μm以下の液滴の微粒子」になることを いうが,イ号製品は,気液体が混じった高速噴流が衝突することによっ て,微粒子を得られるものであり,この衝突前に微粒子を得られるもの ではないとして,イ号製品は,構成要件オを充足しない旨主張する。\n しかしながら,被控訴人の主張は,以下のとおり理由がない。
a 上記1)について
乙23の鑑定書には,1)液体が傾斜面に供給された場合,液体を傾 斜面側に押す力がなくても,液体は,その粘性による剪断応力と自重 とで傾斜面に沿って流れること,2)気体が傾斜面に平行に流れる場合, 気体は,傾斜面を押す力を発揮し得ないこと,3)液体には,高速の気 流との速度差によって傾斜面に平行な方向の剪断応力が作用し,液滴 の飛散を伴う流れとなるが,このような傾斜面に平行な気流では,該 傾斜面に液体を押し付けるような力は作用しないことは,流体力学の 一般原理である旨の記載がある。 しかしながら,乙23は,空気の直線流れの方向と平行に平板を設 置した場合における流体力学の一般原理について述べるものであって, イ号製品においては,「供給口(5)」から供給されたノズルの軸方 向(垂直方向)に直進する液体流が,空気口(10)から噴射する高 速流動する空気流によって,空気流と合流する時点で,外側傾斜領域 (7A')に沿って平行に進むように進行方向が曲げられており(前記 (ア)a),傾斜面(外側傾斜領域(7A'))に液体流を押し付ける力 が作用しているものといえるから,イ号製品には妥当しない。 したがって,被控訴人の上記1)の主張は理由がない。
b 上記2)について
本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,「微粒子」の粒子 径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。 次に,本件明細書には,微粒子の粒子径に関し,「図1に示すノズ ル」について「この構造のノズルは,液体を10μm以下の微細な粒\n子に噴射できる。」(【0003】),「図3に示すノズル」につい て「粒子径を5μmとする微粒子を得ることに成功した。しかしなが ら,この構造のノズルは,液体を噴射する供給口5の調整が極めて難\nしく,調整がずれると微粒子の粒子径は20〜30μm以上に急激に 大きくなった。」(【0011】),「図4に示すノズル」について 「この構造のノズルは,アトマイズエアーとスプレッディングエアー\nの衝突角を25度に設計すると,10μm以下の微粒子が得られる。」 (【0012】),「図11の拡大図に示すノズル」について「この 構造のノズルは,液体を極めて微細な,たとえば1〜5μmの微粒子\nとして噴射できる特長がある。」(【0052】),「ちなみに,本 発明者が試作したノズルは,1分間に1000gの液体を噴射して, 粒子径を10μm以下の微粒子の液滴を噴射することに成功した」(【0 072】)との記載があるが,これらの記載から,本件発明4の「微 粒子」の粒子径を「10μm以下」に限定する趣旨を読み取ることは できず,また,本件明細書には,本件発明4の「微粒子」の粒子径を 「微粒子」の粒子径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。 さらに,本件意見書には,「内部混合タイプのノズルは,閉鎖され た空間内で液体の微粒子として噴霧します。このため,ノズルの内部 で極めて目詰まりしやすい欠点があります。・・・にもかかわらず,内部 混合タイプの噴霧ノズルが多用されますのは,外部混合タイプでは, 安定して液体を極めて小さい微粒子に噴霧できないからです。外部混 合タイプの噴霧ノズルであって,液体を微粒子として安定して噴霧で きます優れたノズルは実用化が困難です。」,「本願発明は,外部混 合タイプのノズルを改良したものです。本願発明の噴射方法とノズル は,前述の独特の構成で,液体を極めて小さい微粒子に安定して噴射\nできる特長があります。本発明の噴射方法とノズルは,液体を,10 μm以下の極めて小さい微粒子として,安定して噴射することが可能\nです。・・・それは,本発明の噴射ノズルが,液体を極めて小さい孔や, 極めて小さいスリットから噴射して微粒子に噴射するのではなく,平 滑面を極めて速い速度で高速流動する空気流で,液体を薄く引き伸ば して微粒子にして噴射するからです。」(以上,6頁16行〜7頁2 行)との記載がある。上記記載中には,「液体を,10μm以下の極 めて小さい微粒子として,安定して噴射することが可能です。」との\n記載があるが,上記記載全体として読めば,「本発明」は,「平滑面 を極めて速い速度で高速流動する空気流で,液体を薄く引き伸ばして 微粒子にして噴射する」構成により,液体を微粒子として安定して噴\n霧でることを説明したものであって,「本発明」が「10μm以下」 の粒子径の微粒子を噴射できることに格別の作用効果があることを述 べたものではない。
以上によれば,構成要件オの「微粒子」とは,小さな粒子径の粒子\nを意味するものであって,粒子径の数値範囲に限定はなく,「10μ m以下」の粒子径のものに限定されるものでもない。そして,イ号製品においては,外側傾斜領域(7A')に沿って進む,液滴を含む薄膜流は,外側傾斜領域(7A')から離れるときに小さな粒子径の液滴(微粒子)となっていることは,前記(ア)b認定のとお りである。

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◆平成27(ワ)12965

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平成29(ワ)22010 実用新案権侵害差止等請求事件  実用新案権  民事訴訟 令和2年2月5日  東京地方裁判所

 実用新案登録に基づいて、損害賠償請求が認められました。争点は、技術的範囲、間接侵害、無効(冒認)、先使用権と多いです。無審査登録の実案なので、訂正したあと評価書請求をして警告後の権利行使です。

 ア 構成要件Dは,取出し筒の筒部先端近傍に口紐を設け,「口紐により取出し筒から引き出した命綱の周囲を緊縛して,取出し筒の開口部を密閉する」というも\nのであり,それによって,取出し筒から空気が漏れるのを防止し,冷却効率を損な わないという作用効果を奏するものであるところ(前記1(1)ア(イ)),上記の「緊 縛」については,「きつくしばること」という一般的な字義(乙1)のとおり,口 紐により命綱の周囲をきつく縛ることを意味すると解するのが相当である。
イ 被告は,「緊縛」は,口紐を取出し筒の先端部に巻き付け,その両端を絡ま せてつなぎ合わせることを意味すると解すべきであるとし,その理由として,1) 「縛る」に「ひもや縄などを巻き付けて結び,離れたり,動いたりしないようにす る」という字義があり,「結ぶ」に「ひも・帯などの両端をからませてつなぎ合わ せる」という字義があること,2)本件明細書の図4に,口紐を筒部先端部に巻き付 け,その両端を絡ませてきつく縛り,筒部の開口部を密閉する態様の実施例が示さ れていることなどを主張する。 しかしながら,被告が主張するような態様によらなくとも,筒部の開口部を密閉 することによって,取出し筒から空気が漏れるのを防止し,冷却効率を損なわない という作用効果を奏することは可能であると考えられるところ,上記1)については, 「緊縛」の一般的な字義を離れて,その意味を過度に限定するものであり,上記2) についても,実施例にすぎず,本件明細書の考案の詳細な説明において,口紐を筒 部先端部に巻き付け,その両端を絡ませてきつく縛る態様のものでなければならな いとする説明もみられないことなどに照らせば,いずれの主張も採用することはで きず,「緊縛」がそのような態様のものに限定されると認めることはできない。
(2) 被告製品
これを被告製品についてみると,前記第2の2(6)のとおり,被告製品は,ランヤ ード取出し筒の筒部先端近傍に口紐を設け,「口紐をランヤード取出し筒から引き 出したランヤードの周囲に巡らせ,コードストッパーを用いて筒部先端部分を収縮 させることにより,ランヤードを固定して,ランヤード取出し筒の開口部を密閉す る」という構成(構\成d)を有するところ,コードストッパーを用いるものであっ たとしても,口紐により命綱の周囲をきつく縛ることにより,筒部の開口部を密閉 するものである認められるから,構成要件Dを充足する。したがって,被告製品は,文言上,本件考案の技術的範囲に属する。\n 3 争点3(被告製品3及び6は本件登録実用新案に係る物品の製造にのみ用い る物か)について
前記第2の2(6)イ認定のとおり,被告製品3及び6は,服本体のみで販売されて いる製品であり,ファン等を取り付け又は収納することによって,本件考案の技術 的範囲に属する被告製品と同様の構成を備えるものとなると認められるから,被告製品と同様に,構\成要件Dを充足する。
そして,被告製品3及び6は,ハーネス型安全帯を着用できるようにするために 空調服の背中部分にランヤード取出し筒を設けたものであり,そのような構成を有しない通常の空調服と比べて販売単価が高いものであること,具体的には,前記1\n(1)カ(イ)認定のとおり,被告各製品の販売単価とこれらに対応するものとして被告 が販売している通常の空調服の販売単価を対比すると,被告製品1及び4は約1 5%,被告製品2及び5は約23%,被告製品3及び6は約48%割高であること, 同(ウ)認定のとおり,被告の空調服のカタログに,「ウェアのみ」の製品は「洗い 替え用やファン・バッテリーなどをお持ちの方向けのウェアのみです。」と記載さ れ,被告製品3及び6は「フルハーネス安全帯着用者専用空調服です。背中部分か らランヤードを取り出すことができます。もちろん空気は逃がしません。・・・」など と記載されていることなどからすると,被告製品3及び6は,ハーネス型安全帯を 着用するために販売されている製品であると認めるのが相当であり,ハーネス型安 全帯を全く利用しない使用形態は,経済的,商業的,実用的な用途として想定され ていないというべきであるから,本件登録実用新案に係る物品である被告製品の製 造のみに用いるものと認めるのが相当である。 したがって,被告製品3及び6は本件登録実用新案に係る物品の製造にのみ用い る物(実用新案法28条1号)に当たる。
・・・
5 争点5(被告は先使用による通常実施権を有するか,又はセフト社の先使用 による通常実施権を援用することができるか)について
(1) 被告各製品の製造等に関し,被告らが先使用による通常実施権を有するとい うためには,被告らにおいて考案の実施である「事業の準備」(実用新案法26条, 特許法79条)をしていたこと,すなわち,その考案につき,いまだ事業の実施の 段階には至らないものの,即時実施の意図を有しており,かつ,その即時実施の意 図が客観的に認識される態様,程度において表明されていることを要するものと解される(特許法79条に関する最高裁昭和61年(オ)第454号同年10月3日\n第二小法廷判決・民集40巻6号1068頁参照)。
(2) これを本件についてみると,本件出願日までの被告らにおけるフルハーネス 対応空調服の開発状況等は前記1(1)エ認定のとおりである。すなわち,1)被告ら代 表者は,平成27年3月3日頃,背中部分に先端が開口した筒状の出口を設け,その先端部分を紐様のものなどを用いて縛る構\成を有する空調服に係る着想を得て,その構成を手書きで図示した乙11図面を作成し,同月4日,そのデータをゼハロスに送信して,試作品の作成を依頼したこと,2)ゼハロスは,同月31日までに, 背中部分に先端が開口した筒状の出口を設け,その先端部分を紐及びコードストッ パーを用いて縛る構成を有しており,被告各製品と同様の構\成を有する本件試作品 を作成したこと,3)被告らは,同年4月7日,被告において購入したハーネス型安 全帯を用いて本件試着品の試着をしたことが認められる。 しかしながら,フルハーネス対応空調服の構成に係る手書き図面が作成され,その試作品を作成して,社内でその試着をしたからといって,被告らにおいて,即時\n実施が可能な状況にあったかは必ずしも明らかとはいえないところ,前記第2の2(5)認定のとおり,被告らが被告各製品の製造,販売等を開始したのは平成28年5 月であり,本件試作品が作成され,試着された平成27年3月及び同年4月から1 年以上を要したことにも照らせば,本件出願日の時点では,少なくとも,本件考案 の実施に当たる被告各製品の事業に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識さ れる態様,程度に表明されていたということはできないというべきである。\n
(3) 被告は,1)被告ら代表者は,平成27年3月4日,本件考案の構\成が記載さ れた乙11図面のデータをゼハロスに送信し,試作品の作成を依頼しているところ, フルハーネス対応空調服が顧客のニーズ等を背景として作れば売れる製品であった こと,その開発又は販売の障害となるような事情は存在しなかったこと,被告らの 社内体制として,被告ら代表者の意思決定が重要な意味を持っていたことなどに照らせば,被告ら代表\者の上記の行為は,フルハーネス対応空調服の事業化を決定する旨の被告らの意思表示であるということができること,2)ゼハロスは,被告ら代 表者の上記の依頼を受け,他社に委託するなどして,平成27年3月31日までに,本件試作品を作成しているところ,被告らが,莫大な時間,労力,資金を投下して,\n既存の空調服を研究,開発し,商品化してきたこと,本件考案は,既存の空調服に 筒を取り付けるだけで完成するシンプルな構成であることなどに照らすと,被告らは,本件試作品の作成によって,フルハーネス対応空調服に係る事業活動のほとん\nどを完了しており,被告らによる即時実施の意図が客観的に表明されていること,3)被告ら代表者は,平成27年3月26日の空調服の会において,必要があればフルハーネス対応空調服のアイディアを提供する旨発言しており,被告らが同空調服\nを販売する意思を有していたことが示されていること,4)被告らは,平成27年4 月7日,本件試作品の試着を行い,被告ら代表者においてフルハーネス対応空調服は完成したと強い手応えを感じ,同空調服の販売の意思はより強固なものになった\nから,遅くともその時点で,被告らによる販売の意思は確定的なものとなったこと などを主張する。
しかしながら,上記1)について,乙11図面は,手書きの比較的簡略な図面であ り,そのデータを他社に送信して試作品の作成を依頼したというだけで,即時実施 が可能な状況にあったといえないことは明らかである。被告ら代表\者の意思決定が 重要であったというのは被告らの内部的な事情にすぎないことにも照らせば,ゼハ ロスへの乙11図面の送信等をもって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施 の意図が客観的に認識される態様,程度に表明されたということはできない。また,上記2),4)について,本件考案は既存の空調服の背中部分の構成を変更するにとどまるものであり,被告らは既存の空調服の研究,開発実績を有していると\n認められたとしても,試作品が一度作成され,社内でその試着がされただけでは, 製品化に耐えるものであるか未だ明らでなく,試着の結果を踏まえて設計の見直し 等の作業が必要になるであろうことは十分に考えられるところである。被告らが被告各製品の製造,販売等を開始したのはその後1年以上が経過した平成28年5月\nであったことなどにも照らせば,本件試作品が作成されたことや試着されたことを もって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識される態 様,程度に表明されたということはできない。さらに,上記3)について,被告が指摘する空調服の会における被告ら代表者の発言は,必要があればフルハーネス対応空調服のアイディアを提供するというもので\nあり,これをもって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施の意図が客観的に 認識される態様,程度に表明されたということはできない。
(4) 以上によれば,本件出願日である平成27年5月11日当時,本件考案の実 施に当たる事業に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度に 表明されていたと認めることはできないから,被告らにおいて,その「事業の準備」をしていたということはできない。\n

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平成29(ワ)28189  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年1月17日  東京地方裁判所

 少し前の事件です。漏れていたのでアップします。「略1/2」という限定事項について、中間片の幅の平均比率が1/2の90%〜100%の範囲内にあるものが全80枚のうち3枚の割合なので、技術的範囲に属しないと判断されました。無効理由も主張されてましたが、これについては判断されませんでした。

 上記記載によれば,本件発明等の課題は,1)包装体の大きさを従来と同様 に維持しつつ,より大きなサイズのシート状物を積層できる構造を提供する\nこと,2)包装体同士を積み重ねた際の安定感のあるシート状物の積層体を提 供することにあり,本件発明等の効果は,3)従来と比較して第2の折片の面 積分だけ大きいサイズのシート状物によって,従来と変わらないサイズの積 層体を形成することができ,また,第2の折片が設けられた大きさ分だけ肉 厚部分が形成され,積層体同士を重ね合わせた際の安定感を向上することが できるという効果を得られることにあると認められ,本件発明等においては, 上記1)の課題を解決して上記3)の効果を得るために第2の折片を設けてい るが,本件発明等に係るシート状物のサイズを従来のものより大きくするた めには,その前提として,第2の折片以外の部分を可能な限り大きくするこ\nとが必要となるものと解される。
すなわち,本件発明等の第1の中間片の幅は積層体の幅と略同じ長さと規 定されているところ,第2の中間片及びこれと略同じ幅の第1の折片の長さ を第1の中間片の幅の2分の1より小さくすると,第2の折片を設けたとし ても,シート状物全体のサイズがその分だけ従来のものよりも小さくなって しまい,上記1)の課題を解決して上記3)の効果を得ることができなくなる一 方,第2の中間片の幅を第1の中間片の2分の1よりも長くすると,第2の 中間片同士が中央部で重なり合い,全体の嵩高状態が不安定なものになって しまい,上記2)の課題解決に支障が生じることとなる。そうすると,本件発 明等の上記課題1)及び2)を解決し,所期の効果を奏するには,第2の中間片 の幅を,第1の中間片の1/2を超えない範囲でこれに限りなく近づけるこ とが望ましいものと認められる。
エ 前記のとおりの「略」という語の通常の意義及び構成要件Cにおいて第2\nの中間片の幅寸法が規定されている技術的意義に照らすと,同構成要件にい\nう「略1/2」とは,正確に2分の1であることは要しないとしても,可能\nな限りこれに近似する数値とすることが想定されているものというべきで あり,各種誤差,シート状物の伸縮性等を考慮しても,第1の中間片の2分 の1との乖離の幅が1割程度の範囲内にない場合は「略1/2」に該当しな いと解するのが相当である。
 オ これに対し,原告は,本件発明等は,容易に伸縮する素材を用いることを 前提とし,第2の中間片及び第1の折片の幅に誤差が生じた場合にも,第2 の折片によりその誤差を吸収して,積層体が所望とする幅寸法になるように 調整することに主眼があるのであって,本件発明等における「略1/2」の 語は,1/2を超える場合は含まないが,1/2より短いものは広く許容す る意味と解釈すべきであると主張する。
しかし,本件明細書等には,第2の中間片が第1の中間片の幅の1/2よ り小さい幅となったときに第2の折片がその誤差を吸収することにより積 層体の幅寸法を維持することが本件発明等の課題である旨の記載は存在し ない。むしろ,前記判示のとおり,本件明細書等には,積層体の幅を従来と 同様とした上で,第2の折片を設けることにより「第2の折片の面積分だけ 従来と比較して大きいサイズのシート状物」(段落【0011】)を形成す ることが本件発明等の課題である旨が記載されているのであって,その課題 解決のためには,前記のとおり,第2の中間片の幅を,可能な限り第1の中\n間片の1/2を超えない範囲でこれに近づけることが望ましいものという べきである。
・・・
3 相違点1の認定の誤りについて
(1) 前記2(1)の甲6の記載事項(図2ないし4を含む。)を総合すれば,甲 6には,本件審決が認定するとおり,甲6(審判甲1)発明が記載されてい ることが認められる。そして,本件訂正発明と甲6(審判甲1)発明を対比すると,本件訂正発明の第2の折片の幅と甲6(審判甲1)発明における「腰折ウェットテシュ ー11f,12f」(第2の折片に相当)の幅について,本件訂正発明は, 「上記第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整する とともに,上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の 幅より短い幅となる」のに対し,甲6(審判甲1)発明は,「腰折ウェット テシュー11,12の展開長の略五分の一の長さ,又は腰折ウェットテシュ ー11,12の幅方向の中心線Yを越えず且つこれに接近した長さ」である 点で相違すること(本件審決認定の相違点1)が認められる。したがって,本件審決における相違点1の認定に誤りはない。
(2) これに対し原告は,1)特許法施行規則24条の2は,特許発明の技術上の 意義ある部分は,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他」 により特定される旨規定していることからすると,発明は,解決課題(目的 あるいは作用・効果)と解決手段(構成)とで特定しなければならない,2) 本件訂正発明と甲6に記載された発明の相違点を捉えるには,第2の折片と 他の片との関係性をシート全体の折構造で把握する必要があるなどとして,\n本件審決における甲6(審判甲1)発明の認定は適切ではなく,本件審決認 定の相違点1は,原告主張の相違点1(前記第3の1(1))のとおり認定すべ きである旨主張する。
しかしながら,特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許出願の願書に添 付した特許請求の範囲の記載に基づいてすべきものであるところ,原告主張 の相違点1は,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項1)記載の発明特定 事項以外の事項(本件明細書記載の「背景技術」,「発明が解決しようとす る課題」等)をも含めて本件訂正発明の要旨を認定することを前提として, 本件訂正発明と甲6に記載された発明とを対比するものであるから,その前 提において,採用することができない。また,特許法施行規則24条の2は, 特許法36条4項1号の経済産業省令の定めるところによる記載は,発明が 解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分 野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必 要な事項によりしなければならない旨規定し,明細書の発明の詳細な説明の 記載要件を定めた規定であるから,原告主張の相違点1が適切であることの 根拠となるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
4 相違点1の判断の誤りについて
(1) 本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り返され上記第 1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整するとともに, 上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅より短い 幅となる第2の折片」にいう「調整」の意義について ア 本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り返され上記 第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整するとと もに,上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅 より短い幅となる第2の折片とを有するように折り畳まれ」との記載から, 本件訂正発明の「第2の折片」は,「第1の中間片の幅の1/2未満で, かつ,上記第1の折片の幅より短い幅」であって,「第1の中間片から積 層方向上側に折り返され」,「第2の折片」によって「第1の中間片の幅 が所望とする積層体の幅寸法となるように調整」することができることを 理解できる。 一方で,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「上記第1 の中間片から積層方向上側に折り返され上記第1の中間片の幅が所望とす る積層体の幅寸法となるように調整する」にいう「調整」について,具体 的な調整方法等について規定した記載はない。
イ 次に,本件明細書には,「調整」に関し,「調整」の語について定義し た記載はなく,「図1に示すように,シート状物10は,所望とする積層 体の幅寸法と略同じ長さに形成された第1の中間片11と,積層方向下側 に折られ,第1の中間片11の略1/2の幅に第1の中間片11に隣接し て形成された第2の中間片12と,第2の中間片12から積層方向下側に 折り返され第2の中間片12と略同じ幅に形成された第1の折片13と, 第1の中間片11から積層方向上側に折り返され第1の中間片11の幅が 所望とする積層体の幅寸法となるように調整する第2の折片14とから構\n成されている。」(【0014】)との記載がある。また,本件明細書に は,「第2の折片」に関し,「第2の折片14は,第1の中間片11と隣 接し,シート状物10の長さ方向に平行な長辺10a,10bと,第3の 折れ線17と短辺10cとによって囲まれる部分である。シート状物10 の長辺10a,10bの第2の折片14の長さにあたる部分,つまり第3 の折れ線17と短辺10cとの距離Dは,D<Cの関係を有する。つまり, 距離Dは,距離Aの半分より小さい値である。」(【0020】),「以 上のように構成されたシート状物積層体1は,従来の積層構\造においては ない第2の折片14を有することで,従来と変わらない積層体の幅として も,第2の折片14の面積分だけ従来よりもサイズの大きいシート状物1 0を積層させることができる。具体的には,シート状物10は,従来使用 されるシート状物の大きさと比較して,第2の折片14の面積分,つまり 上述のD<Cの関係を有する範囲内で大きさを変更することができ,約2 5%まで大きいサイズのシート状物を使用することができる。」(【00 26】)との記載がある。
ウ 以上の本件訂正発明の特許請求の範囲の記載,本件明細書の記載及び図 1によれば,本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り 返され上記第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調 整する」にいう「調整」とは,シート状物の第1の中間片の幅が所望とす る積層体の幅寸法となるように,「第2の折片」の幅を「第1の中間片の 幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅より短い幅」となるように 設定することを意味するものと解される。
・・・
被告製品2)については,上記アの審理経過に照らし,信用性が高いと認め られる甲25及び乙A39に基づいて検討することが相当であるところ,原 告が被告製品2)(YRC24/3FM13:59)について測定した結果(甲25:別紙6 −2)によれば,同製品の各シート状物の第1の中間片の幅の2分の1に対 する第2の中間片の幅の比率(以下,単に「第2の中間片の比率」というこ とがある。)が90%〜100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち3 枚にすぎず,その平均値(「平均値(1,80枚目除く)」欄のもの。以下 同じ。)も83%にとどまるものと認められる。また,被告PPJが被告製品2)(YRC24/3FM16:40)について測定した結果(乙A39:別紙6−4)によれば,第2の中間片の比率が90%〜100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち30枚であるものの,同比率がその範囲内にあるものは,いずれも偶数番目のシート状物であって,奇数番目の シート状物にはこれが存在しない上,全体の平均値も84%にとどまるもの と認められる。
上記の被告製品2)全体における第1の中間片の幅の2分の1に対する第2の中間片の幅の平均比率,その比率が90%〜100%の範囲内にあるものの割合及びその分布等に照らすと,被告製品2)の第2の中間片が構成要件C「第1の中間片の略1/2の幅」との要件を充足するとは認められない。\n

◆判決本文

対応する審決取消訴訟はこちらです。こちらは、無効審決が維持されています。

◆令和1(行ケ)10088

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令和2(ネ)10023  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年8月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 モバイル送金・決済サービスについて特許権侵害を主張しましたが、知財高裁(2部)は、1審(東地40部)と同様に、技術的範囲に属しないと判断しました。被控訴人(1審被告)はLINE PAYです。イ号システム、本件特許については1審判決に詳しく説明されています。

 「(1) 構成要件A等の「ホワイトカード」及び「使用限度額」の意義\nア 前記1(1)のとおり,本件明細書等では,段落【0002】〜【000 5】において本件発明の課題が説明されているところ,同課題は,クレジットカー ドについてのものであり,プリペイドカードサービスやデビットカードサービスに ついてのものではない。そして,段落【0006】において,「以上の課題を解決 するために,本発明は,・・・ホワイトカード使用限度額引き上げシステムを提供 する。」と記載され,さらに,段落【0007】〜【0009】において,上記課 題を解決するための具体的構成が記載されている。これらの記載に,「ホワイト\nカード」の用語は,クレジットカードに関して使用された場合は,「カード会社が 個人向けに発行する最もベーシックなクレジットカード」を意味するものと認めら れること(乙6,7)を併せ考慮すると,段落【0006】〜【0009】の「ホ ワイトカード」は,段落【0002】〜【0005】に記載されたカードであるク レジットカードを意味するものと認められる。 一方で,本件明細書等には「ホワイトカード」がプリペイドカードやデビット カードを含む旨の記載は存在しないから,本件明細書等の「ホワイトカード」には, プリペイドカードやデビットカードは含まれないものと解される。
イ 前記1(1)のとおり,本件明細書等には,段落【0002】〜【000 5】で,従来技術として,クレジットカードについて,ユーザの支払能力などに応\nじて所定期間内で使用可能な金額である「使用限度額」が契約時にある程度固定さ\nれ,使用限度額の引上げなどの変更がなかなかできない,あるいは煩雑な手続が必 要となるという課題があること,先行技術であるクレジットカード管理システムに 関する発明の乙8発明は,ユーザの利用実績により使用限度額を変更できるという ものであるが,同発明によっても,ユーザが他者から送金を受けた場合に使用限度 額を変更することはできないという課題があることが記載され,段落【0006】 で,上記の課題を解決するために,本件発明は,ユーザが他者から送金を受けたこ とにより使用限度額を引き上げることができるシステムを提供することが記載され ており,これらの記載からすると,本件発明における「使用限度額」は,従来技術 における「使用限度額」と同様に,クレジットカードの使用限度額を意味するが, ユーザに対する入金があると所定の手続を経ずに引き上げられるものであると解す るのが相当である。 したがって,本件発明における「使用限度額」は,ユーザが所定期間内に使用 することのできる金額の上限額を意味し,その額は,ユーザとの契約時には,その 支払能力(信用力)に応じて設定され,「ある程度固定される」ものであるが,そ\nの後,ユーザに対する入金があった場合,所定の手続を経ずに引き上げられるもの であると認められる。
ウ 以上のとおり,本件発明における「ホワイトカード」はクレジット カードを意味し,「使用限度額」は,「契約時に設定され,契約時には,ある程度固 定される,所定期間内で使用可能な金額」を意味するものというべきである。\n
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,本件発明の課題について「使用限度額に関しては契約時に ある程度固定されるため,限度額の引上げなどの変更がなかなかできない,あるい は煩雑な手続きが必要となる」という従来技術の課題(段落【0003】)は乙8 発明により解決済みであり,本件発明の課題は,他者からの送金の受金等による ユーザの所持金の増加を速やかに使用限度額に反映させることにある(段落【00 05】)と主張する。 しかし,本件明細書等の段落【0003】と段落【0005】の記載によると, 乙8公報に記載された従来技術は,「予め定められた使用限度額内での利用実績に\n応じて算出変更」することにより使用限度額を変更することを可能にするものであ\nるが,それでは「他者からの送金を受金することなどでユーザの所持金が当該クレ ジットカード契約時の平均所得以上に増えたとしても,カード会社に逐一連絡など して所定の手続きを経なければそれが使用限度額に反映され」ないという課題を解 決し得ないことから,本件発明は,本件特許請求の範囲に規定された構成を採用す\nることにより,入金を受け付けた旨の情報に基づいて,所定の手続(煩雑な手続) を経ることなく,ホワイトカードの使用限度額を引き上げることを可能としたもの\nと認められる。
このように,乙8発明は,「使用限度額に関しては契約時にある程度固定される ため,限度額の引上げなどの変更がなかなかできない,あるいは煩雑な手続きが必 要となる」という従来技術の課題のうちの一部を「クレジットカードの使用限度額 を利用実績に応じて算出変更する技術」によって解決したにすぎず,本件発明は, 乙8発明により解決できなかった従来技術の「他者からの送金を受金することなど でユーザの所持金が当該クレジットカード契約時の平均所得以上に増えたとしても, カード会社に逐一連絡などして所定の手続きを経なければそれが使用限度額に反映 されることは無い」という課題を解決したものであるから,控訴人の上記主張は理 由がない。

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原審はこちらです

◆平成30(ワ)13927

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平成30(ワ)31428  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年6月30日  東京地方裁判所

 JR東海に対する侵害事件です。原告は「座席管理システム」(3995133号)の均等侵害を主張しましたが、第1要件、第2要件を満たさないとして、否定されました。

 (3)ア  第1要件にいう特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請 求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する\n特徴的部分であり,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明 の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲 の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部\n分が何であるかを確定することによって認定される(知的財産高等裁判所平 成27年(ネ)第10014号同28年3月25日判決)。
ここで,本件明細書をみると,従来の技術においては,券情報と発券情報 の2つの情報をそれぞれ端末機に対して伝送していたため情報量が2倍に なり通信回線の負担が2倍になっていた。本件発明は,このような従来の技 術と異なり,「ホストコンピュータ」において,券情報と発券情報という2つ の情報に基づいて1つの座席表示情報を作成するものであり,それによって,\n端末機へ伝送される情報量が半減されて通信回線の負担が軽減されるとい う効果を奏するものである(【0002】〜【0007】,【0020】)。
このような本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らせば,本件発明に おいて,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であ\nる本質的部分は,「ホストコンピュータ」が券情報と発券情報との2つの情 報に基づいて1つの「座席表示情報」を作成する作成手段を有し,そのよう\nにして作成された「座席表示情報」が「ホストコンピュータ」から端末機に\n伝送される点にあるといえる。 被告システムにおいては,券情報と発券情報との2つの情報に基づいて1 つの情報が作成されるサーバーはなく,したがって,それらの2つの情報に 基づいて作成された1つの情報を端末機に伝送するサーバーもない。そうす ると,本件発明の本質的部分において,本件発明の構成と被告システムの構\ 成は異なる。したがって,被告システムが均等侵害の第1要件を充足するこ とはない。
また,被告システムは,端末機に対して券情報と発券情報という2つの情 報に基づいて作成された1つの情報が伝送されるものではないから,券情報 と発券情報がそれぞれ端末機に伝送されるシステムに比べて通信回線の負 担と端末機の記憶容量及び処理速度を半減するものではない。したがって, 本件発明と同一の作用効果を奏するものではなく,第2要件を満たさない。
イ 原告は,第1要件について,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成\nと被告システムの構成の異なる部分は,サーバーと通信回線の個数に関する\n相違であって,本件発明の本質的部分に関係するものとはいえない旨主張す る。
しかし,上記アのとおり,券情報と発券情報とに基づく情報が作成され, そのようにして作成された情報が伝送されるサーバーがあることは,均等侵 害の第1要件にいう本件発明の本質的部分であるといえ,被告システムは, その本質的部分において,本件発明と異なる。
また,原告は,本件発明の作用効果は,車掌が携帯する端末機に表示され\nる各指定座席の利用状況(自動改札通過情報及び発売実績情報の有無)を車 掌が目視で確認できるようにして,車内改札を本来空席であるはずの座席に 座っている乗客に対して従来のように切符の提示を求めるだけで足りるよ うにしたものであり,これにより車内改札の省略化を図るというものであり, 被告システムの作用効果と同じである旨主張する。
しかし,前記3(1)のとおり,本件明細書の記載に照らせば,従来技術と比較した本件発明の効果は,券情報と発券情報がそれぞれ端末機に伝送されるシステムに比べて通信回 線の負担と端末機の記憶容量及び処理速度を半減するところにある。したが って,被告システムが本件発明と同じ作用効果を有するとはいえない。 (4)上記(3)のとおり,被告システムは,少なくとも均等侵害の第1要件,第2要 件を充足せず,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明\nの技術的範囲に属するものであるということはできない。

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本件特許の訂正審判についての審決取消訴訟事件です。

◆平成28(行ケ)10069

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平成30(ネ)10085  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審で差し止めが認められていました。被告が控訴しましたが知財高裁(4部)を控訴棄却されました。サポート要件については原審でも具備していると判断されています。

 争点2−1(本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか)
 控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Hに対応する「シ\nフト機能」に係る構\成について,「いったんスルー注文」及び「決済トレー ル注文」と組み合わせた,複数の新規注文の全て及び複数の決済注文の全て がそれぞれ1回ずつ約定した場合に複数の新規注文の全て及び複数の決済注 文の全てに対応する個数の新たな複数の新規注文及び新たな複数の決済注文 を発注させることしか記載されておらず,構成要件Hに含まれる「シフト機\n能」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせたも\nの以外の構成のものについては記載されていないことからすれば,構\成要件 Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,特許 法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合する とはいえない旨主張する。
ア そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に は,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記\n複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたこ とを検知すると,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知 の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成す る」との記載において,「注文情報生成手段」が生成する「所定価格だけ 高い売り注文価格の情報」を含む「売り注文情報」の個数を規定する記載 はないから,当該「売り注文情報」は,複数の場合に限らず,一つの場合 も含むものと理解できる。
イ(ア) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,1)「シフト機能」につ\nいて,「金融商品取引管理装置1や金融商品取引管理システム1Aにお いて,既に発注した新規注文と決済注文をそれぞれ約定させたのち,「シ フト機能」による処理を併用した取引を行うことも可能\である。この「シ フト機能」による注文は,上述した,「いったんスルー注文」や「決済\nトレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば後述する「リピートイ フダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)等に基づいて,新 規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文 や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異 なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様 の注文形態である。」こと(【0078】),2)「シフト機能」は,「相\n場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場 価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一注文情報や新たな第二注 文価格の第二注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行う ことができる」(【0018】)という効果を奏すること,3)「発明の 実施の形態3」は,「この実施の形態3の金融商品取引管理システムに おいては,「いったんスルー注文」と「決済トレール注文」とを,「ら くトラ」による注文と組み合わせ,さらに「シフト機能」を行わせる状\n態を示す。」(【0138】)ものであるが,「上記の「シフト機能」\nは,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構成において適\n用することもできる。」こと(【0151】)及び「上記各実施の形態 は本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態のみに限定されるこ とを意味するものではないことは,いうまでもない。」こと(【016 4】)の記載がある。
上記1)の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少な\nくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される 際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフ トさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シ フトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一 方のみの構成又は双方の構\成が含まれること,先に発注済の一つの注文 の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価\n格帯」をシフトさせる構成のものが含まれることを理解できる。\nまた,上記1)ないし3)の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を\n反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いった んスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例え ば・・・「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」 等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各\n種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。 ウ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,図35に示す「実施の形態 3」(【0144】ないし【0148】)として,シフト機能に決済\nトレール注文を組み合わせたトラップリピートイフダン注文で行われ, 決済注文S5,S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の 買い注文B5,B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売 り注文S5,S4が再度生成されるが,この時点ではシフトは発生せ ず,通常のリピートイフダン注文が繰り返され,その後相場価格が変 動して,S1ないしS3の売り注文価格がトレールし,S1ないしS 3が最も高い注文価格の売り注文として同時に約定すると,再度生成 された売り注文S5,S4は約定していないにも関わらずこれをキャ ンセルして,S1ないしS5のシフトが実行されることが記載されて いる。上記記載は,構成要件Hに含まれる,「シフト機能\」に「いっ たんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成の一\nつであることが認められる。
また,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせない場合には,\n図35において,S2及びS3の売り注文価格がトレールしないため, それぞれの注文情報が生成された時点における価格のとおり,それぞ れ別々に約定し,その場合,実施の形態3の取引例でS5,S4が約 定した段階ではシフトが生じていないのと同様に,S3,S2が約定 した段階ではシフトが生じず,その後に最も高い売り注文価格の売り 注文であるところのS1が約定した段階でシフトが生じることになる ことを理解できる。 そうすると,複数の売り注文情報のうち最も高い売り注文価格の売 り注文が約定すると,それよりも所定価格だけ高い売り注文価格の情 報を含む売り注文情報を生成するという構成要件Hに係る構\成は,本 件明細書の上記記載から認識できるから,本件明細書の発明の詳細な 説明に記載されているということができる。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)24174

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平成30(ワ)4851  特許権侵害差止等請求事件  特許権 令和2年5月28日  大阪地方裁判所

 一部のイ号は、記載不備の拒絶に対する補正が均等の第5要件を満たさないとされましたが、一部のイ号は間接侵害が認定されました。

 本件拒絶理由通知記載の拒絶理由は明確性要件違反であり,具体的には,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1の記載につき,「本願発明が如何なるクランプ装置を意図しているのか,その外縁が明確に特定できない」こと,「「第2油路」が具体的に想定できない」こと及び「「流量調整弁」が具体的に想定できない」ことが挙げられている。換言すれば,スイングクランプ,リンククランプいずれのタイプのクランプ装置をも含むと解し得る記載となっていることによって新規性又は進歩性が欠如するとの無効理由は指摘されていないことから,本件第2補正は,こうした無効理由を回避するためにされたものではない。また,明確性要件違反の指摘においても,スイングクランプ,リンククランプいずれのタイプのクランプ装置をも含むと解し得る記載であるが故に不明確とされているわけでもない。 もっとも,上記拒絶理由のうち「本願発明が如何なるクランプ装置を意図しているのか,その外縁が明確に特定できない」とは,より具体的には,油圧シリンダの具体的な規定がなく,その油室の数が不明であり,そのために,第1油路,第2油路及び流量調整弁の機能ないし役割が不明であるといった問題点を指摘するものである。これは,当業者にとって,クランプ装置のタイプを含む装置の前提的な構\成の不明確さを指摘する趣旨のものと理解されると思われる。
(オ) 原告は,本件第2補正の際に提出した意見書(乙2の2)で,請求項1 に係る補正につき,本件拒絶理由通知での審査官の指摘に対して,「補正後の請求項 1では,「前記出力ロッドを退入側に駆動するクランプ用の油圧シリンダ」と規定し ております。…補正後の請求項1に係る本願発明において,「第1油路」及び「第2 油路」や,両流路の接続部にある「流量調整弁」が,何のために在って何をしてい るのかという点については明確であると思料いたします。よって,ご指摘の記載不 備は解消し得たものと思料致します。」との補足説明をしている。
(カ) 以上の事情を踏まえて本件第1補正から本件第2補正に至る経緯を見る と,客観的,外形的には,原告は,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1の記 載によれば,その構成はスイングクランプとリンククランプいずれのタイプのクラ\nンプ装置も含むものであることを認識しながら,本件拒絶理由通知を受けて行った 本件第2補正により,敢えて補正後の特許請求の範囲にリンククランプのタイプの クランプ装置を含むものとして記載しなかった旨を表示したものと理解される。\nそうである以上,本件においては,本件第2補正においてリンククランプのタイ プのクランプ装置が特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるという特 段の事情が存する。 したがって,被告製品群4〜6は,本件発明との関係で,均等の第5要件を充足 しない。この点に関する原告の主位的主張は採用できない。
ウ 原告の予備的主張について\n
原告は,予備的主張として,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1記載\nの「クランプ用の油圧シリンダ」は「アンクランプ用の油圧シリンダ」(本件第2補 正後の特許請求の範囲請求項3)を含まないとの理解を前提として,本件第2補正 後の特許請求の範囲請求項3は補正前の特許請求の範囲に含まれないものを手続補 正により追加したものであり,請求項3については意識的に除外されたものとはい えないなどと主張する。 しかし,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1記載のクランプ装置は,「クラ ンプ本体に進退可能に装着された出力ロッド」及び「出力ロッドを駆動するクラン\nプ用の油圧シリンダ」等を備えることは記載されているものの,「出力ロッド」が退 入側・進出側いずれに駆動することによってワークをクランプするものであるかを うかがわせる記載はない(なお,この時点での請求項2〜4にも,クランプのタイ プに関係する記載はない。)。このことと,従来技術としてはスイングクランプ及び リンククランプの両タイプが挙げられていることに鑑みれば,本件特許に係る明細 書においては出願当初よりリンククランプのタイプのクランプ装置も除外されてい ないといえることを併せ考えると,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1は, スイングクランプのみならずリンククランプのタイプのクランプ装置をも含むもの と理解される。本件第2補正後の特許請求の範囲請求項1において「クランプ用の 油圧シリンダ」とし,請求項3において「アンクランプ用の油圧シリンダ」とされ たのは,本件拒絶理由通知を受けた対応として,クランプ装置の構成をより具体的\nに特定したことに伴うものと理解することができるから,本件第2補正の前後で 「クランプ用の油圧シリンダ」を異なる意味に解することはなお合理的である。 したがって,原告の予備的主張はその前提を欠くから,これを採用することはで\nきない。
エ 小括
以上より,均等侵害として,被告製品群4及び6は本件発明1の技術的範囲 に属するとはいえず,また,被告製品群5は本件発明3の技術的範囲に属するとは いえない。そうである以上,被告らによる被告製品群4〜6の製造,販売等は,本 件特許権を侵害するものとはいえない。 したがって,被告製品群4〜6に係る原告の被告らに対する製造等の差止請求, 廃棄請求及び損害賠償請求は,いずれも理由がない。
3 争点3(被告製品群7及び8の製造,販売等に係る間接侵害の成否)につい て
(1) 前記(第2の2(4)オ)のとおり,被告製品群7及び8は,被告製品群1〜 3のクランプに取り付けて使用される場合にクランプ装置の生産に用いるものであ る。また,特許法101条2号の趣旨によれば,「発明による課題の解決に不可欠なも の」とは,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決 されるような部品等,換言すれば,従来技術の問題点を解決するための方法として, 当該発明が新たに開示する特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特 有の構成等を直接もたらす特徴的な部品等が,これに該当するものと解される。\n本件発明において,作動油の流量の微調整を容易かつ確実に可能とすることなど\nの課題を解決する直接的な手段となるものは,相対移動可能な弁体部を有する弁部\n材をその構成に含む「流量調整弁」である。このため,「流量調整弁」は,本件発明\nが新たに開示する特徴的技術手段における特徴的な部品等ということができる。被 告製品群7及び8(スピードコントロールバルブ)は,この「流量調整弁」に相当 するものであるから,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」(特許法101 条2号)に該当する。
これに対し,被告らは,被告製品群1及び3が本件発明1の構成要件1K及び1Xを 充足せず,被告製品群2が本件発明3の構成要件3K及び3Xを充足しないことから, 被告製品群7及び8は本件発明の課題の解決に不可欠なものではないと主張する。 しかし,前記1のとおり,被告製品群1〜3は本件発明の上記各構成要件を充足す\nる。そうである以上,この点に関する被告らの主張はその前提を欠き,採用できな い。
(2) 被告らが,本件発明が特許発明であることを知っていたことについては,当 事者間に争いがない。 また,被告らは,被告製品群7を被告製品群1及び3の,被告製品群8を被告製 品群2のアクセサリとしてそれぞれ製造,販売していること(甲6,10,11, 乙9,10)に鑑みると,被告製品群7及び8が本件発明の実施品である被告製品 群1〜3に用いられることを知っていたことが認められる。 なお,被告製品群7及び8は,スイングクランプのほか,リンククランプ,リフ トシリンダ,ワークサポートにも使用可能なものである(甲6,10,乙4,5,\n9,10)。
しかし,特許法101条2号の趣旨に鑑みれば,発明に係る特許権の侵害品「の 生産に用いる物…がその発明の実施に用いられること」とは,当該部品等の性質, その客観的利用状況,提供方法等に照らし,当該部品等を購入等する者のうち例外 的とはいえない範囲の者が当該製品を特許権侵害に利用する蓋然性が高い状況が現 に存在し,部品等の生産,譲渡等をする者において,そのことを認識,認容してい ることを要し,またそれで足りると解される。 本件においては,後記6のとおり,被告製品群7及び8に属する製品がスイング クランプと組み合わせて販売される割合が大きいことに鑑みると,これを購入等す る者のうち例外的とはいえない範囲の者が被告製品群7及び8を特許権侵害に利用 する蓋然性が高い状況が現に存在するとともに,被告らはそのことを認識,認容し ていたものといえる。そうである以上,上記事情は本件における間接侵害の成立を 妨げるものではない。 これに対し,被告らは,被告製品群7が本件発明1の実施に,被告製品群8が本 件発明3の実施にそれぞれ用いられることを認識していないなどと主張する。しか し,被告らは,当然に被告製品群1〜3の構成を認識していると考えられるところ,\n被告製品群1〜3が本件特許権侵害を構成する以上,被告製品群7及び8について\nも,本件発明の実施に用いられるものであることを知っていたといえる。この点に 関する被告らの主張は採用できない。
(3) 小括
以上より,被告らが被告製品群7及び8を製造,販売する行為は,本件特許権 の間接侵害(特許法101条2号)を構成する。\n

◆判決本文

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◆平成29(行ケ)10076

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令和1(ネ)10059    特許権  民事訴訟 令和2年3月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審は、文言侵害不成立および、第1要件満たさないとして均等侵害を否定しました。知財高裁(3部)も同様の判断です。ただ、本質的部分について、引用発明と対比して判断しています。

「ア 均等侵害が成立するための第1要件にいう本質的部分とは,当該特許発 明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分であり,このような特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備 えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと解される。 そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特 許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲 の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何\nであるかを確定することによって認定されるべきである。 ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているとこ ろが,出願時の従来技術に照らして客観的に不十分な場合には,明細書に記載され\nていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的 思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。\n
イ 本件特許出願の審査において,特許庁は,本件各発明は,平成15年 8 月 22日に公開された特開2003−234608号公報(甲30。以下「引用文献 1」という。)等の文献に基づき,当業者が容易に発明し得た旨の拒絶理由通知書 を送付した(乙6)ことから,引用文献1に記載された技術について検討する。
・・・
まず,引用発明1と比較して,本件発明1の本質的部分を検討する。
(ア) 本件発明1の内容は,前記1(2)で判示したとおりであり,その技術 的思想を構成する部分は,仮固定用ホルダの構\成を,可撓性樹脂で成形し,前記給 電用筒状部の外壁面に沿って下方に延びる複数のメインアーム部と,同メインアー ム部に対して下端部にて繋がったサブアーム部とを有し,同サブアーム部の下端部 は,同サブアーム部が外側に拡がるための支点となり,同サブアーム部の上端部は 前記メインアーム部の外側面よりも外方向に突出した係止爪をなし,かつ同係止爪 は上端に向かって肉厚が増加しているものとし,同構成を採用することにより,ア\nンテナ挿入時には,メインアーム部及びサブアーム部の両部材が内側に動くため, より小さい挿入力で取付孔への挿入が可能となり,また,抜け方向に荷重が加わっ\nたときは,車体パネルの内側面に係止爪の上端が当接し,サブアーム部が外側に拡 がるため,抜け力を増大させることができ,仮固定用ホルダの挿入力は小さいまま で,抜け力を大きくすることを可能としたことである。\n一方,本件特許の出願前に公開された引用文献1に記載された引用発明1の内容 は,前記イ(イ)で判示したとおり,固定板付き基板ブラケット9の構成を,円筒状\n突出部の外周面に沿って下方に伸びる複数の側板4を有し,側板4にコ字状の切溝 4eを設け,切溝4eに囲まれた矩形状のバネ片4aの上端が側板4から外側に向 かって離れるものとしたものであり,このうち,側板4は本件発明1のメインアー ム部に,バネ片4aは本件発明1のサブアーム部にそれぞれ相当するものであり, アンテナの挿入時には,側板4及びバネ片4aが内側に撓み,抜け方向に荷重が加 わったときは,ルーフパネル20にバネ片4aの上端部が当接し,バネ片4aが外 側に撓んで仮止めすることになると認められる。
(イ) そこで,本件発明1のうち,引用発明1に見られない特有の技術的思 想を構成する特徴的部分を検討すると,引用発明1は,抜け方向に荷重が加わった\nときに,サブアーム部に相当するバネ片4a全体が撓むため,十分な抜け力を確保\nできなかったことから,本件発明1は,仮固定用ホルダを可撓性樹脂で成形し,サ ブアーム部の上端部は上端に向かって肉厚が増加する係止爪からなるものとするこ とにより,抜け方向に荷重が加わったときに,サブアーム部の下端部を回転の支点 として,サブアーム部が外側に拡がるようにし,同下端部でサブアーム部の回転を 受け止めることにより,抜け力を増加させたものと認められる。そして,本件発明 1が,サブアーム部の上端部は上端に向かって肉厚が増加する係止爪からなるもの としたのは,上記のとおりサブアーム部の強度を増すためであると認められる。 以上からすると,本件発明1のうち,引用発明1に見られない特有の技術的思想 を構成する特徴的部分とは,可撓性樹脂で成形されたサブアーム部の上端部は上端\nに向かって肉厚が増加する係止爪からなるものとし,これにより,抜け方向に荷重 が加わったときに,サブアーム部は,下端部を支点として回転するように外側に拡 がり,下端部において,サブアーム部の上記回転を受け止めて,抜けを防止すると いう部分であると認められる。そして,この部分が本件発明1の本質的部分に当た ることになる。
(ウ) 控訴人は,本件発明6の本質的部分は,「アンテナに抜け方向の荷重 が加わった際に,下端部を支点とした外向きの回転力がサブアーム部に発生するこ とにより,サブアーム部が内側に向かって変位することが防止されるため,サブ アーム部に設けられた係止爪が車体パネルから外れて抜けてしまう(すっぽ抜ける) ことがない」という構成にあると主張する。\nしかし,控訴人が主張する上記の構成は,引用発明1にも見られるから,同構\成 が本件発明1や本件発明6の本質的部分ということはできない。
エ 次に,被控訴人製品が,前記ウで認定した本件発明1の本質的部分を共 通に備えているかについて検討する。 被控訴人製品においては,サブアーム部は,可撓性樹脂で成形されており,車体 パネルに係止するための爪部を備えるが,同爪部は,サブアーム部の中間付近に位 置している(乙1,2,13)ため,その上部のサブアーム部であるフック部が, 抜け方向に荷重が加わったときに,サブアーム部がその下端部を支点として外側に 拡がることを阻止し,そのため,サブアーム部は,その下端部を回転の支点として 外側に拡がることはなく,したがって,同下端部で,サブアーム部の回転を受け止 めることによって抜け力を増大させるものではない。 そうすると,被控訴人製品は,本件発明1の本質的部分を備えているとは認めら れない。
オ 控訴人は,被控訴人製品において,抜け方向の荷重が加わると,サブ アーム部の下端部を支点とした外向きの回転力が発生することにより,サブアーム 部に設けられた爪部が内向きに変位して車体パネルから外れるという事象が防止さ れているから,被控訴人製品は,本件発明6の本質的部分を備えていると主張する。 しかし,前記エのとおり,被控訴人製品においては,抜け方向の荷重が加わり, サブアーム部が外側に拡がろうとしても,同動きはフック部によって阻止されるた め,サブアーム部は,その下端部を回転の支点として外側に拡がることはないから, 被控訴人製品は,本件発明1や本件発明6の本質的部分を備えておらず,控訴人の 上記主張は理由がない。
カ したがって,本件発明1と被控訴人製品との前記の相違点は,本件発明 の本質的部分ではないということはできないから,被控訴人製品は,均等の第1要 件を充足しない。」

◆判決本文

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◆平成30(ワ)13400

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平成31(ネ)10015    特許権  民事訴訟 令和2年6月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁は、明細書の開示を参酌して「大豆胚軸発酵物」とは,大豆胚軸自体の発酵物をいい,大豆胚軸抽出物の発酵物を含まないと判断した1審判決を維持しました。

このように本件明細書には,「発酵原料」として「大豆胚軸」を使用 した場合の発酵処理及び実施例の記載はあるが,一方で,「発酵原料」 として「大豆胚軸抽出物」を使用した場合の発酵処理及び実施例に関す る記載はない。
(エ) 前記(ア)ないし(ウ)によれば,本件明細書には,「本発明」(「大 豆胚軸発酵物」)の発酵原料として「大豆胚軸抽出物」と「大豆胚軸」 とを明確に区別した上で,発酵原料として使用される「大豆胚軸」は, 「含有されているダイゼイン類が失われていないことを限度として,大 豆の産地や加工の有無について制限され」ず,「脱脂処理や脱タンパク 処理に供したもの」も使用することができ,発酵原料にイソフラボンを\n別途添加しておくことにより,得られる大豆胚軸発酵物中のエクオール 含量をより高めることが可能となることを開示し,他方で,コストが高\nく,エクオール産生菌による発酵のために別途栄養素が必要になる「大 豆胚軸抽出物」は,「本発明」(「大豆胚軸発酵物」)の発酵原料に適 さないことの開示があることが認められる。
ウ 検討
以上の本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書 の記載を前提に検討するに,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)に は,本件発明1の「大豆胚軸発酵物」(構成要件1−C)を定義した記載\nはなく,その発酵原料となる「大豆胚軸」を特定の成分のものに限定する 記載もないが,一方で,本件明細書では,「大豆胚軸発酵物」の発酵原料 として「大豆胚軸抽出物」と「大豆胚軸」とを明確に区別した上で,コス トが高く,エクオール産生菌による発酵のために別途栄養素が必要になる 「大豆胚軸抽出物」は,発酵原料に適さないことの開示があることに照ら すと,かかる「大豆胚軸抽出物」を発酵原料とする発酵物は,本件発明1 の「大豆胚軸発酵物」に該当しないものと解するのが相当である。 もっとも,本件明細書には,発酵原料に適さない「大豆胚軸抽出物」の 成分やイソフラボン含量等についての開示はないことは,前記イ(イ)aの とおりである。 しかるところ,大豆胚軸からイソフラボンを含有する成分の抽出処理は,\n一般に,水,アルコール(エタノール等)又は含水アルコールなどの溶媒 を用いた抽出によって行われるが,大豆胚軸から高濃度のイソフラボンを\n含有する「大豆胚軸抽出物」を得るには,このような抽出処理に加え,合 成吸着樹脂を用いた濃縮操作等の精製処理が必要であることは,本件特許 の優先日当時の技術常識であったことが認められる(例えば,甲43の【0 011】,【0012】,甲46の【0002】ないし【0005】,甲 49の【0013】ないし【0015】)。 そして,高濃度のイソフラボンを含有する「大豆胚軸抽出物」は,コス\nトが高く,エクオール産生菌による発酵のために別途栄養素が必要になる ことは自明であるから, かかる「大豆胚軸抽出物」を発酵原料とする発 酵物は,本件発明1の「大豆胚軸発酵物」に該当しないものと認めるのが 相当である。

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◆平成29(ワ)35663

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令和1(ネ)10063  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年6月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁でも本質的要件(第1要件)が欠落しているので、均等侵害は否定されました。

 当裁判所も,電子メールに設定された複数の電子メールアドレスを個々の 電子メールアドレスに分割し,記憶手段に記憶されている制御ルール等に従 って,電子メールの送出に係る制御内容を決定し,決定された制御内容に従 って電子メールの送信制御を行うとの構成は,本件発明1における本質的部分に該当し,同様に,複数の送信先が設定された電子メールから電子メール\nアドレス単位で個別メールを生成することは,本件発明2における本質的部 分に該当するところ,被告装置はドメインごとに分割するものであるため, かかる構成を有さず,均等の第1要件を充足しないと判断する。その理由は,後記(2)のとおり控訴人の当審における補充主張に対する判 断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第4の3及び6(原判決72 頁20行目から74頁25行目まで,77頁25行目から78頁13行目) 記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 当審における補充主張に対する判断
ア 控訴人は,本件発明1において,複数の送信先を分割する単位が, 個々の電子メールアドレス単位であることは,本件発明1の課題の解決 をするのにあたり不可欠ではなく,「メッセージ単位」より小さい単位 でかつ,制御ルールに従って送出を制御し得る単位で,複数の送信先を 個々に分割した上で,分割した電子メールの送出に係る制御内容を決定 及び送信制御を行い,上記単位に応じた電子メールの送出制御を行うこ とが,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的な部分であると主張する。\nしかし,本件明細書等1には,「特許文献1に記載の技術においては, 送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断 することができない。そのため,複数の送信先が記載された電子メール に対しては,誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされるこ\nととなる。」(段落【0004】),「本発明は上述の問題点に鑑みなさ れたものであり,ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に,宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電\n子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とする。」(段落 【0005】)と記載されている。 「送信先」及び「宛先」はいずれも電子メールアドレスを意味するこ とは前記1のとおりであるから,これらの記載によれば,本件発明1は, 誤送信の可能性がある電子メールアドレスが1つでも含まれていれば,その他の電子メールアドレスに対するメール送信までもが保留,取消し\nされることとなることを課題として認識し,その課題に鑑みて,電子メ ールアドレスに応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく 電子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とするものと解さ れる。
このように,本件明細書等1には,誤送信の可能性がないその他の電子メールアドレスに対するメール送信までもが保留,取消しされてしま\nうという従来技術である特許文献1の課題に対し,電子メールアドレス に応じた電子メールの送出制御を行うことによって課題を解決しようと することが記載されているのであるから,そのために必須の構成である電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割\nする構成が,本件発明1の本質的部分に含まれないとはいえない。
イ 控訴人は,本件発明1の課題は,従来技術では,本来保留される必要の ない「その他の電子メールアドレス」に対するメール送信が全て保留さ れてしまうことであって,それに比べれば,ドメインに応じた送出制御 を行った場合であっても,少なくとも一部の電子メールアドレスに対す る電子メールの送信が保留されない場合,「電子メールアドレスに応じ た電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出さ せる」効果を得ることができる旨主張する。 しかし,前記1(3)ウ(イ)のとおり,「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが\n保留,取り消しがされることとなる。」(段落【0004】(1))とは, 本来保留される必要のないその他の送信先(すなわち電子メールアドレ ス)に対するメール送信は全てなされるべきであるとの趣旨と解するの が自然である。 また,前記アのとおり,「効率よく電子メールを送出させる」ことは, 電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御によってもたらされ るものとされている。電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制 御によれば,保留の必要がないその他の電子メールアドレスに対する送 信は全てなされるのであるから,本件発明の効果も同様と解すべきであ って,保留の必要がないその他の電子メールアドレスのうちの一部の電 子メールアドレスに対する電子メールの送信が保留されなくなることで は足りないというべきである。
ウ 控訴人は,文言侵害が否定された場合に,本件明細書等1の課題に記載 された「送信先」を「電子メールアドレス」と読み替えて,課題を認定 し,当該課題から直接的に本質的部分を認定することは,均等侵害の成 否の場面において,文言侵害が否定されることを理由に,均等侵害の成 立が直ちに否定され,均等侵害がその機能を果たさない結果となることから,かかる結果が著しく妥当性を欠く旨主張する。\nしかし,本質的部分の認定は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基 づいて,特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許 発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術 的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである(大合議判決)。よって,本件明細書等1の記載に基\nづいて,本件発明1が,従来技術である特許文献1のどのような点を課 題として把握し,どのような解決手段を提示し,どのような効果をもた らすものなのかを把握することは,当然なされるべきことであるから, 控訴人の主張は理由がない。
エ 被告装置は,電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレ スごとに分割するという,本件発明1の本質的部分に含まれる構成を有していないから,均等の第1要件を充足しない。\n

◆判決本文

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◆平成29(ワ)44181

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平成29(ワ)24598  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月26日  東京地方裁判所

 技術的範囲に属しない、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使できないと判断されました。

原告による測定結果
株式会社東洋環境分析センターが,平成30年2月,原告の依頼によ り,宮崎県食品開発センターが保有するPT−Rを用いて,前記イの記載 に従って,同じロットナンバーの被告製品2について,3回測定した結果 によれば,被告製品2(1ロット)の見掛けタッピング比容積は,いずれ も2.4cm3/g(2.45cm3/g,2.46cm3/g,2.46cm3/g)で あった(甲20の1,20の2)。
オ 被告による測定結果
株式会社住化分析センターが,平成30年2月,被告の依頼により, PT−Xを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナ ンバーが異なる5つの被告製品についてそれぞれ1回ずつ測定した結果 によれば,被告製品2(製造時期の異なる5ロット)の見掛けタッピン グ比容積は2.2〜2.3cm3/g(2つの製品について2.2cm3/g, 3つの製品について2.3cm3/g)であった(乙11)。 被告が,平成30年10月頃,宮崎食品開発センターが保有するPT −Rを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナンバ ーが異なる5つの被告製品2について,それぞれ3回ずつ測定した結果 によれば,その見掛けタッピング比容積は2.2〜2.3cm3/g(3つ の製品について3回とも2.3cm3/g,1つの製品について2.2cm3/ g,2.2cm3/g,2.3cm3/g),1つの製品について,2.2cm3/ g,2.3cm3/g,2.3cm3/g)であった(乙34)。
(2)本件明細書の特許請求の範囲には見掛けタッピング比容積の測定方法は記 載されていないが,発明の詳細な説明には,前記(1)イのとおり,実施例・比 較例における見掛けタッピング比容積はPT−Rを用いて測定された値であ る旨の記載がある。
原告は,PT−Rを用いて測定した結果(前記(1)エ)によれば,被告製品 2の見掛けタッピング比容積は2.4cm3/gであるから,構成要件1F及び2Fをいずれも充足すると主張する。\nて測定した結果によれば,製造時期の異なる5ロットの被告製品2につき, いずれも見掛けタッピング比容積が2.4cm3/gに達していなかった。その 実験の信用性が否定されることを裏付ける客観的な証拠はない。上記のとお り,5ロットという複数の被告製品2について,それぞれ3回ずつ検査した 結果,いずれも見かけタッピング比容積が構成要件1F・2Fの下限である2.4cm3/gに達していなかったというのであるから,被告製品2は構成要定対象,測定方法による測定結果に照らして,原告の同エの測定結果によっ\nて被告製品2の見掛けタッピング比容積が2.4cm3/gであることを認める に足りない。
・・・
本件発明1及び2は,前記のとおり,2.5N塩酸,15分,沸騰温 度という具体的な本件加水分解条件で測定された重合度(平均重合度) をレベルオフ重合度とするものである(そのような具体的な本件加水分 解条件で測定されることを前提として実施可能要件を充足する。)。したがって,本件では,本件加水分解条件という具体的な条件で加水分解さ\nれた後に測定されるレベルオフ重合度について,優先日当時,当業者 が,技術常識に基づいて,発明の詳細な説明に記載された原料パルプの レベルオフ重合度と,原料パルプを加水分解して得られたセルロース粉 末のレベルオフ重合度とが同一であると認識することができるかが問題 となるといえる(なお,本件加水分解条件は,レベルオフ重合度を求め るものとして,当該酸濃度温度条件では比較的短時間といえる時間の加 水分解を定めたものであることがうかがえる。)。
ここで,優先日当時,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合 度について,天然セルロースとそれを加水分解して生成されたセルロー ス粉末とが同じレベルオフ重合度となることを直接的に述べた文献があ ったことを認めるに足りる証拠はない。他方,本件明細書においてレベ ルオフ重合度の説明において現に引用されている文献であり,種々の対 象について本件加水分解条件を含む条件で加水分解をした上で本件加水 分解条件(2.5N塩酸,沸騰温度,15分)を提唱したBATTIS TA論文は,(1)木材パプルについて,温和な加水分解条件での加水分解 を経た後に2.5N塩酸,沸騰という過酷な条件で加水分解した重合度 と,温和な加水分解条件での加水分解を経ずに2.5N塩酸,沸騰温度 という条件で加水分解した重合度を実際に測定して,前者の値が後者の 値より低かったこと,(2)セルロースを加水分解した際には結晶化がされ るという他の複数の研究者による研究成果を紹介した上で,上記(1)等の 実験結果は温和な加水分解は重量減少を伴わない結晶化を誘導すること を示しているようであること,(3)温和な加水分解や過酷な加水分解で起 こるメカニズムを提唱した上で,温和な加水分解を経た後に過酷な加水 分解がされた場合には結晶化された短いセルロース鎖の残渣が保持され るため,温和な加水分解を経ずに過酷な加水分解がされた場合よりもレ ベルオフ重合度が低下すると予想されることなどを述べていた。なお,セルロースの加水分解において再結晶化が起こることは他の文献でも紹\n発明の詳細な説明の実施例2ないし7のセルロース粉末は,前記 のとおり,原料パルプを4N塩酸,40°C,48時間という条件,3N 塩酸,40°C,40時間という条件,3N塩酸,40°C,24時間とい う条件などで加水分解したものであり,天然セルロースを温和な条件で 加水分解したものといえる。 前記のとおり,本件では本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が問 題となるところ,本件加水分解条件を提唱し,本件明細書でも引用してい るBATTISTA論文は,上記のとおり,他の複数の研究者による研究 成果を紹介した上で,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度について は,温和な加水分解を経た場合にはその過程を経ていないものに比べて, 値が低下することが予想されると述べていた。その内容とは異なり,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合度について,天然セルロースと,\nそれを温和な条件で加水分解して生成されたセルロース粉末とが同じレ ベルオフ重合度であるという技術常識があったことを認めるに足りる証 拠はない。 に述べられるレベルオフ重合度は本件加水分解 条件により測定されたものではないし,同文献の著者は,優先日頃におい ても,著者が考える「レベルオフ」するためには本件加水分解条件の時間 では足りないと考えられていた旨述べる(同 )。 また,本件明細書に記載された実施例のセルロース粉末は,原料パル プを加水分解した後,攪拌,噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温 度180〜220°C、出口温度50〜70°C)して得られたものであ る。当該セルロース粉末の本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度 の明示的な記載が明細書にない以上は,上記加水分解,攪拌,噴霧乾燥 の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条件下でのレ ベルオフ重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識がある 場合に,当該セルロース粉末のレベルオフ重合度が本件明細書に記載さ れているに等しいといえる。上記の加水分解,攪拌や噴霧乾燥を経たセ ルロース粉末の本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度が原料パルプ のそれとの関係でどのような値になるかについての技術常識を認めるに 足りる証拠はない。 これらを考慮すれば,優先日当時,当業者が,本件明細書に記載され た原料パルプのレベルオフ重合度とそこから加水分解して生成されたセ ルロース粉末の本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が同じである と認識したと認めることはできない。また,発明の詳細な説明の実施例 は,具体的な原料パルプから明細書記載の特定の条件の加水分解,攪 拌,噴霧乾燥を経て得られたセルロース粉末である。当業者が,優先日 当時,技術常識に基づいて,記載されている当該原料パルプのレベルオ フ重合度に基づいて,上記具体的な条件で得られたセルロース粉末につ いて,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度の値を認識することが できたとも認められない。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,セルロース粉末 について,本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度の記載があるの に等しいとは認められない。 カ 原告は,非晶質領域が分解されて結晶領域のみが残った状態に達したと きの重合度であるレベルオフ重合度は,途中に原料パルプから本件セルロ ース粉末という加水分解過程を経ると否とに関わらず同じ値となるのであ り,当業者であれば,原料パルプとそこから温和な加水分解によって得ら れる本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は等しくなると当然に理解す ることができる旨主張し,また,BATTISTA論文における上記実験 結果における温和な加水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプ からセルロース粉末を生成する温和な加水分解の条件と同じものではない ことを指摘する。
しかし,本件においては具体的な本件加水分解条件による加水分解がさ れたセルロースの重合度(平均重合度)が問題となる。本件加水分解条件 を提唱し,発明の詳細な説明でも引用されるBATTISTA論文が,本 件加水分解条件によるレベルオフ重合度について前記のように述べていた ところ,優先日当時,そこに記載されているのと異なる内容の技術常識が あったことを認めるに足りる証拠はない。また,BATTISTA論文 は,セルロースを加水分解した際には結晶化がされるという他の複数の研 究者による研究成果を紹介した上で,前記の予想をしているのであり,そこに記載されているのと異なる技術常識があったことを認めるに足りる証\n拠がない本件で,BATTISTA論文においてされた実験での温和な加 水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプから粉末セルロースを 作成する加水分解の条件と全く同じものではないことは上記の結論を直ち に左右するものではない。
なお,原告は,実験をした結果,原料パルプを本件加水分解条件で加水 分解したときの平均重合度と,当該原料パルプを実施例2と同じ加水分解 条件で加水分解して得たセルロース粉末を本件加水分解条件で加水分解し たときの平均重合度は実質的に同じであったとして,平成30年8月頃に 測定された結果を記載した平成31年3月20日付け報告書(甲56の 1)を提出し,また,上記でセルロース粉末を得る際の写真やセルロース 粉末を得た際に80°Cの熱風を当てる工程を含む24時間の乾燥処理をし たことなどが記載された同年4月9日付け報告書(甲57)を提出する。 しかし,本件では,優先日当時,本件明細書に記載された加水分解,攪 拌,噴霧乾燥の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条 件下での重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識の存否が 問題となるところ,上記時点の上記実験結果によって同技術常識を認める ことはできない。
キ 以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度 と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるとこ ろ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの 本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく, また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しい とはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求 の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。
そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された 本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえ\nない。 以上によれば,本件発明1及び2は,発明の詳細な説明の記載により当業 者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないから,特 許法36条6項1号に違反する。

◆判決本文

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令和1(ネ)10082  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 技術的範囲に属しないとした1審判決が維持されました。争点は「フリップフロップ現象発生用軸体」の用語の解釈です。

 控訴人は,本件発明1における構成要件E及びFの「フリップフロップ現象発生用軸体」について,「フリップフロップ現象を発生させる軸体を意味する。」との原判決の判断には誤りがあると主張する。\nしかし,本件発明1における構成要件E及びFの「フリップフロップ現象発生用軸体」は,その文言からフリップフロップ現象を発生させる軸体を意味することは\n明らかである。また,本件明細書を見ても,本件発明1はクーランド液が「フリッ プフロップ現象発生用軸体」を通過することによってフリップフロップ現象を発生 させるなどして,その課題を解決するものである(本件明細書の【0006】, 【0007】,【0041】〜【0045】)から,「フリップフロップ現象発生 用軸体」がフリップフロップ現象を発生させる軸体であることは明らかである。 したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 控訴人は,本件明細書の【0037】は,電子回路の用語を参考に記載 しているだけであるのに,原判決は,本件発明1が「フリップフロップ現象」を解 決原理としていると誤解していると主張する。 しかし,本件明細書の【0037】の記載が,電子回路の用語に基づく参考記載 にすぎないと認めることができないことは,原判決の「事実及び理由」の第4の2(1)イ(カ)bの通りである。
(1) また,上記アのとおり,本件発明1は,「フリップフ ロップ現象」を解決原理としているものである。 したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(2) 「フリップフロップ現象」の意味について
ア 控訴人は,本件明細書の【0011】,【0043】及び【0007】 の記載によると,フリップフロップ現象とは,「フリップフロップ現象発生用軸体 を通過することにより当該現象の結果として『クーラント液等』が『乱流となり無 数の微小な渦を発生』した状態」を指すことを基本としていると主張する。 しかし,本件明細書の【0037】に,「フリップフロップ現象(フリップフロ ップ現象とは,流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象)」と 記載されている上,本件各発明と共通する技術分野において,本件特許出願前に 「フリップフロップ現象」の語が,おおむね,流体の流れの周期的な振動ないし方 向変換を意味するものとして使用されていること(原判決の「事実及び理由」の第 4の2(1)イ(ウ))からすると,本件発明1におけるフリップフロップ現象は,基本 的には,(1)「流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」を意味 すると解釈することができ,(2)「クーラント液等」が「乱流となり無数の微小な渦 を発生」した状態を指す語としての使用は,上記(1)の意味におけるフリップフロッ プ現象の発生を前提とした,派生的な使用と位置づけられるべきである。控訴人が 指摘する本件明細書の【0011】,【0043】及び【0007】の記載は,こ の判断を左右するものではない。
イ 控訴人は,本件特許の出願当時の当業者の理解について主張する。 まず,乙14〜20は,いずれも公開特許公報であるが,これらの特許において は,A及びBのほか,C(乙16),D(乙17),E(乙18,20),F(乙 19)も共同発明者とされていることが認められるから,単に,A及びBの2名の 研究者,発明者がフリップフロップ現象を「流体の流れの周期的な振動ないし方向 転換を意味するもの」として使用しているとは認められない。 また,控訴人は,本件発明1の構成要件Dの記載によると,当業者は,本件明細書の【0037】の括弧内の記載の流れ(流体の流れる方向が周期的に交互に方向\n変換して流れること)が生じないことを理解すると主張する。 しかし,本件発明1の構成において,ひし形凸部がフリップフロップ現象発生用軸体の軸心に対してどのような傾きをもって設置されているかは特定されておらず,\n上記軸心に対してひし形凸部が傾きを持っていて非対称となっているかは明らかで はないから,当業者が,本件明細書の記載や,「フリップフロップ現象」の語につ いての当業者の一般的な理解に反して,本件明細書の【0037】の括弧内記載の 流れ(流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象)が生じないこ とを理解すると認めることはできない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)11147

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平成28(ワ)4815 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年1月20日  大阪地方裁判所

 大阪地裁26部で、102条2項により13億を越える損害賠償(代理人費用含む)が認められました。9割覆滅されています。

 特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害によって特許権者 が被った損害の賠償を求めるためには,特許権者において,損害の発生及び額,こ れと特許権侵害行為との間の因果関係を主張,立証しなければならないところ,そ の立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の填補がされないという不都合が 生じ得ることに照らして,侵害者が