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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

動機付け

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和5(行ケ)10148  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年9月12日  知的財産高等裁判所

CS関連発明について、動機付け無しとした審決が維持されました。

上記アないしウによれば、甲2ないし甲4には、構成要件(D)の「前\n記注文情報における、前記団体情報を特定する情報に基づいて前記注文者 の団体を特定して、複数の前記注文情報の中から前記注文者の団体が同一 の前記注文情報を抽出」することや、「抽出された前記注文情報に基づいて、 同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の担当者が閲覧できる形 式で出力する」ことについて記載されているということはできず、甲3に は、構成要件(E)の「前記注文リスト出力手段は、前記注文リストとし\nて、各注文について前記注文商品及び注文者を表示するリストを出力する」\nことも記載されていない。
そうすると、甲1発明に甲2ないし甲4に記載された事項を適用したと しても(原告の主張は、甲2ないし甲4に記載の事項をそれぞれ副引用例 として甲1発明に組み合わせるとするものなのか、それとも周知技術を記 載したものとするのかについて明確ではないが、いずれにしろ甲2ないし 甲4には構成要件(D)及び(E)に関する記載がなく、これを甲1に組\nみ合わせても本件発明1には至らないから、結論を左右しない。)本件発明 1に到達することはできないから、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3) 甲1発明との組み合わせの動機付けについて
甲1には、前記2(1)のとおり、甲1のシステムを介して、販売側(販売店、 メーカー、物流会社、金融機関)が顧客から商品の注文を受注し、注文され た商品を顧客へ配達し、決済するという取引形態の説明がされ、それにより、 発注、受注、物流及び入金管理を一括処理して販売店の業務負担を軽減する という目的を達成することが記載されている。また、実施例についても、前 記2(2)のとおり、顧客(学校)からの注文の方法に応じた、販売店の業務管 理についての記載がある。このような甲1の記載内容によれば、甲1には、 販売側と顧客という二者間の関係についての記載しかなく、学校と学生のよ うな、顧客が帰属する組織内の属性(階層関係)については想定されておら ず、そのような属性に合わせた情報処理を行うことについては記載も示唆も されていない。また、仮に甲2や甲4にみられるような、複数の顧客を共通 する属性別にリスト化する処理が周知技術であったとしても、前記第2(1)の とおり、甲1発明の目的は、販売店の業務負担を軽減するところにあるから、 そのようなリスト化を行い、それを学校の担当者が閲覧できる形式で出力するようにするのは、甲1発明の上記目的とは相容れないから、そうした動機 付けはない。
また、甲1に記載された具体的な実施形態に即して検討すると、顧客(学 校)は、学校名、住所、商品名、商品番号、注文個数を入力した後、学生の 氏名、身長、胸囲、胴囲等を個別に入力する手順で注文を行うことから(図 3及び段落【0028】)、学生の個別注文情報は学校により既に集約されて おり、学校別に抽出された注文情報は既得のものである。そうすると、販売 店の業務負担軽減を目的とする甲1発明において、学校側が個別注文情報を 集約して注文することに代えて、販売側が学生から個別に注文を受けて集約 し、学校別に抽出された注文情報を学校の担当者に閲覧可能な形式で出力す\nるように変更することは、甲1発明の上記目的に反し、そのような動機付け はない。

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令和5(行ケ)10146  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年7月25日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決(拒絶査定不服審判)が維持されました。

 原告は、甲1には卵パックの搬送方向を変更することにつき、記載も示唆もない と主張する。しかし、上記(2)イのとおり、引用発明に係る装置において、コンベア や関連する装置の配置を最適化することは、当業者において自明の課題といえると ころ、同一の技術分野及び作用機能に係る甲2には、パックの搬送方向を変更でき\nる旨が明記されているから、引用発明及び甲2に接した当業者が、引用発明におけ る卵パックの搬送方向につき、甲2に記載された構成を適用する動機付けが認めら\nれる。原告の主張は採用することができない。 原告は、引用発明ではラベルが空気抵抗の影響を受けて挙動が不安定になり落下 位置がずれやすいのに対し、甲2発明ではラベルが空気抵抗の影響をほとんど受け ないとして、前提の異なる甲2記載の構成を引用発明に採用することはできないと\n主張する。しかし、甲1には、従来の装置の課題として「ラベルを水平方向にしたま ま落下させるとラベルは空気抵抗でどこに落下するか予測できない」(明細書2頁1\n3〜15行目)ことを挙げ、引用発明は「ラベルを水平方向にしたまま落下させな いで、ラベルを斜めにした状態で落下させると、ラベルはその傾斜の下方延長方向 に確実に落下すると云う原理に基(づ)いている」(同3頁1〜4行目)として課題 を解決する旨が記載されている。甲1の記載を総合しても、このようにして課題を 解決することとした引用発明において、それにもかかわらず、ラベルが空気抵抗の 影響を受けて挙動が不安定になり、ラベルの落下位置がずれやすいと認められるも のではなく、少なくとも、引用発明における卵パックの搬送方向を変更することに 阻害要因があるとは認められない。原告の主張は採用することができない。
原告は、引用発明では、ラベルが落下していく傾斜の下方延長方向と、コンベア による卵パックの搬送方向とが交わるようにすることで、発明の目的を達成してい るところ、卵パックの搬送方向を変更することはその目的に反することになり、阻 害要因があると主張する。しかし、甲1には、ラベルが落下していく方向と卵パッ クの搬送方向とが交わるようにすることにより発明の目的を達成している旨の記載 はないし、甲1の記載を総合しても、卵パックの搬送方向が変更された場合に、引 用発明の目的が達成されないと認めることはできない。また、パックが輸送される タイミングに合わせてラベルを投入することは、当該技術分野における技術常識と いえ、パックの搬送方向を変更させた上で、タイミングに合わせてラベルを投入で きるようにすることは、当業者が通常採用し得る事項といえる。引用発明における 卵パックの搬送方向を変更することに阻害要因があるとはいえない。 原告の主張は採用することができない。
・・・
原告は、本件審決が引用発明につき、「ラベルLは、保持を解除された後も、上ベ ルト3と接してベルトの駆動方向に押し出されるようになる」とした点につき、ラ ベルLは、上下ベルト3、4の挟持が解除された後、再び上ベルト3に接すること はないから、本件審決の認定は誤りであると主張する。しかし、本件審決の上記認 定部分は、ラベルLが上ベルト3との接触を離れた後に再び上ベルト3に接触する 旨をいうものとは解されない。引用発明において、ラベルLは、上下ベルト3、4の 運動によって輸送されていくから、その前端部分から後端部分にかけて、徐々に上 下ベルト3、4の挟持から離脱していくこととなるが、その間も、少なくとも後端 部分は上ベルト3に接してその運動により駆動方向に押し出されていく。本件審決 の上記認定部分は、これと同旨をいうものと理解できる。原告の主張は採用するこ とができない。
原告は、卵パックにラベルを投入する直前にラベルを一旦保持する構成は技術常\n識であるから、引用発明においても、ラベルLの後端部がプーリ7、10の位置に 到達した際、上下ベルト3、4は駆動を止めてラベルLを一旦保持し、その後、上下 ベルト3、4が駆動を再開することで保持が解除され、ラベルLは、傾斜の下方延 長方向(ラベルの短辺に沿った方向)に落下すると主張する。しかし、仮に引用発明 において上下ベルト3、4が駆動を止めてラベルLを保持し、その後駆動を再開し てラベルLの保持を解除するとしても、上下ベルト3、4の駆動の再開により、ラ ベルLには上下ベルト3、4の駆動による同駆動方向への駆動力が働くのであるか ら、ラベルLがその長辺に沿った方向に押し出されることは否定できない。原告の 主張は採用することができない。

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令和5(行ケ)10098  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年5月14日  知的財産高等裁判所

 数値限定発明について、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。被告(特許権者)は、動機付けがないと主張しましたが、裁判所は設計事項と判断しました。

ア 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(1)アのとおり、相違点2が設計事 項であるとは認められない旨主張する。 しかし、前記(1)イのとおり、本件明細書の記載からは、「(A)成分以外 の界面活性剤」という意味での(G)成分は、含まれていてもよいという 位置付けの成分であって、重要性が高くなかったものであり、本件発明1 で特定された(G)成分に含まれるG−2、G−2’及びG−3について も、本件防臭効果評価において、これらの成分を用いた実施例が他の実施例に比べて優れた防臭効果を得られていないことからすれば、本件発明1 において、(G)成分を一般式(I)又は一般式(II)に特定したことに 格別な技術的意義があるとは認められず、少なくとも、ノニオン界面活性 剤((G)成分)の含有量を、甲1発明における含有量の範囲内で検討し、 「20〜25質量%」としたことは、当業者における設計事項であると認 められる。したがって、被告の上記主張は採用することができない。
イ 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(2)イのとおり、甲1発明における ノニオン界面活性剤成分を本件発明1の(G)成分に置き換える動機付け がない旨主張する。 しかし、甲1発明のNI(7EO)と、本件発明1の(G)成分の式(I I)で表される化合物とは、一般式において共通し、R4(炭素数12及び\n14の天然アルコール由来の炭化水素)の部分においてのみ異なるが(前 記2(2)イ)、炭素数12及び14の天然アルコール由来の炭化水素は、甲1 発明のNI(7EO)のRである「C12からC15のアルキル鎖」に包 含されるものであることが明らかであり、かつ、天然アルコール由来の炭 化水素と合成アルコール由来の炭化水素とで、いずれか一方が他方よりも 衣料用洗浄剤の組成物に適しているとの技術常識があるとは認められな いから(前記(1)ア、ウ)、甲1発明のNI(7EO)において、「C12か らC15のアルキル鎖」の原料として、天然アルコール(炭素数12及び 14の直鎖アルコール)を選択する動機付けがなかったとはいえず、相違 点2に係る構成を想到し得ないとも解されない。\nしたがって、被告の上記主張は採用することができない。
ウ 被告は、相違点1に関し、甲1発明において(C)成分の含有量を特定 することによって本件各発明に係る特定の洗浄剤組成物に至る動機付けはないと主張する。この点、甲1発明において(C)成分に相当する成分であるMGDA(T rilon M)について、甲1は、製剤の抗菌効果を向上させる添加剤 の一つであるとしており(別紙3「文献の記載」1(5))、MGDAのような 添加剤の使用はDCPPによる殺菌効果を高めるものであると記載して いる(別紙3「文献の記載」1(8))。 そうすると、甲1発明において、DCPPによる殺菌効果ないし抗菌効 果を高め、臭気の抑制効果を高めるのに十分となるように、その含有量を\n甲1発明の範囲(0.1〜5wt%)内で設定し、0.1ないし1.5質 量%にすることは当業者が適宜なし得たことにすぎないというべきであ り、甲1発明の上記数値範囲の中から本件発明1の(C)成分の割合を選 択する動機付けがないとはいえず、相違点1に係る構成を想到し得ないと\nも解されない。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
エ 被告は、相違点3に関し、相違点3が設計事項にすぎないとはいえない とか、甲1発明においてA/C比を調整することによって本件発明1に係る特定の洗浄剤組成物に想到する動機付けはないなどと主張する。 しかし、上記ウのとおり、甲1の記載によれば、甲1発明において(C) 成分に相当するものであるMGDAは、DCPPによる殺菌効果を向上さ せるための添加剤として配合され、その含有量の範囲が示されているので あるから、その含有量の範囲内で数値の範囲を選択することは、当業者の 設計事項であるといえる。また、甲1発明には(A)成分に相当するアニ オン界面活性剤が配合されているところ、甲31(別紙3「文献の記載」 7)、甲33(別紙3「文献の記載」8)には、それぞれ別紙3「文献の記 載」7及び8のとおりの記載が存在し、これらの記載によれば、アニオン 界面活性剤は、衣類の洗浄の成分であり、他の成分による消臭効果を向上 させる効果も有することが、本件出願日時点における技術常識であったと 認められるから、甲1発明のアニオン界面活性剤の含有量を、その洗浄等 の効果を高めるのに十分なように、甲1発明における範囲内(合計で12\n〜32wt%)で検討することも、当業者の設定事項であるといえる。 そうすると、(A)成分と(C)成分を甲1発明に記載の各含有量の数値 範囲内で設定した結果として、A/C比を最小で2.4、最大で320(前 記2(4)ア)の範囲内である「10〜100」とすることも、当業者にとっ て格別の創意工夫を要するとはいえず、当業者の設計事項であるといえる し、A/C比を「10〜100」とする動機付けがないともいえないから、 相違点3に係る構成を想到し得ないとは解されない。\n

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令和5(行ケ)10084等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年7月17日  知的財産高等裁判所

審判では訂正要件充足、訂正後の発明について進歩性違反無しと判断されました。知財高裁は、訂正自体は有効だが、進歩性無しと判断しました。 被告(特許権者)は、「甲2発明に甲1発明を適用して、甲2発明のインナロータ型モータをアウタロータ型モータに置き換え、さらに周知技術を適用して磁石を筒缶部の内周面に貼設されるようにするという複数のステップを求めるものであり、容易の容易として認められない。」と主張していました。

甲8文献は、平成15年9月19日公開された発明の名称を「ロータおよびその製造方法」とする特許出願の公開公報(特開2003−264963)である。甲8文献に記載された技術は、ロータ軸に接着剤を用いて焼結磁石を固定したロータおよびその製造方法に関するものであり(甲8文献の段落【0001】)、甲8文献の図1(a)及び(b)には、ロータ10は、ロータ軸12の外周面上に周方向に沿って配列された複数の磁石片20と、複数の磁石片20を外周面に固定する接着剤層14とを備えていること(甲8文献の段落【0021】)が記載され、甲8文献の図1において、複数の磁石片20がロータ10に互いに隙間を空けて貼設されていることが記載されている。\n
(エ) 甲9文献(日本接着学会誌 Vol.39、No.9〔2003/9/1〕「構造接着技\n術の応用展開と最適化技術の構築」原賀康介)には、モーターの磁石接\n着について、甲9文献の図7は、モーターのロータ―の構\造を示してお り、スパイダーにセグメント状の永久磁石が接着されており、磁石の接 着には、従来から加熱硬化型エポキシ系接着剤が使用されてきたが、ネ オジウム系磁石は線膨張係数が0からマイナスであるため、加熱硬化では熱応力が大きく耐ヒートサイクル性に劣ることや加熱硬化で作業性に劣るため、最近は生産性に優れた2液室温硬化型の耐熱性アクリル系接着剤に変わりつつあることが記載されている。
(オ) 甲5文献は、平成17年6月2日公開された発明の名称を「回転電機 のロータ」とする特許出願の公開公報(特開2005−143248) である。甲5文献に記載された技術は、発電機やモータ等の回転電機に 使用されるロータに関するものであり(甲5文献の段落【0001】)、 その実施形態である甲5文献の図1及び図3のアウターロータ5は、ロ ータ本体50と、ロータ本体50に固定された複数個の磁石部7とを有 し、磁石部7は、ロータ本体50のリング部55の内周領域57におい て周方向に間隔を隔てて保持された永久磁石で形成されていること(甲 5文献の段落【0030】〜【0034】、図3)、磁石部7は接着剤 等により 方向に間隔を隔てて形成された着座溝61に接合されている (甲5文献の段落【0034】)、上記実施形態は、回転電機として働 くモータのアウターロータ、インナーロータに適用しても良いこと(甲 5文献の段落【0072】)が記載されている。そして、甲5文献の図 1には実施形態の発電機の断面図が、甲5文献の図3には発電機のアウ ターロータのうち磁石部をリング部が保持している状態の異なる方向の 部分断面図が、それぞれ記載されている(甲5文献の段落【007 8】)。
(カ) すなわち、甲5文献においては、磁石を保持する態様として、アウタ ロータ型電動モータでは、ステータの外周側(ロータの内周側)に複数 の磁石が相互に隙間を空けて配置されることが記載されている。また、 甲8、9文献においては(甲70、71文献にも同様の記載があること から、当時の技術常識と認められる。)、接着剤固定法では、通常、エ ポキシ系やアクリル系などの接着剤で固定する方法により貼設されるこ\nとが、それぞれ記載されている。
イ 以上を踏まえ、相違点II)について検討すると、アウタロータ型電動モー タにおいて、磁石を保持するために、複数の磁石をステータの外周側(ロ ータの内周側)に沿って配置し、接着剤固定法等により「貼設」すること\nは、周知技術であると認められる(甲5、8、9)。したがって、上記周知技術を適用して、相違点II)の構成とすることは当業者にとって容易想到であったというべきである。\n
ウ この点について、被告は、主引例の甲1発明と、副引例(甲5、8、9) の各技術の課題は相互間でも異なるから、組み合わせることに動機付けを 肯定する余地はないなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、これ らの副引例(甲5、8、9)に記載された磁石の配置及び固定方法は、周 知技術であると認められるから、これを適用することの動機付けを肯定す ることが困難ということはできない。

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令和5(行ケ)10056  承継参加申立事件  特許権  行政訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所

 審決は無効理由無しと判断しましたが、知財高裁は、進歩性なしと判断しました。

d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判断
参加人は、1)甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階 を異にする別個の工程である、2)前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧 条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の 発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製 品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。 しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(III)) (アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲 11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性 を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨 の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、 甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな い別個の工程であるということはできないから、上記の1)の点を根拠とする参加人 の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を 第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証 拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1 の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌 保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第 1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱 についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される 膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに 足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、 第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認 識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主 張する工程(III))(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程) を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ
(イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当 時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の2)の点を根拠とす る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定) に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
(オ) 本件適用に係る阻害要因の有無
a 参加人は、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用いられる膜の孔サ イズが0.22μmであるのに対し、本件周知技術の予備濾過膜の孔サイズは0.\n45μmであるところ、甲11記載の発明における第1の濾過工程の目的(安定性 を有するエマルジョンのバルクを得るために径が1.2μmを超える大きな粒子を 十分に除去すること)に照らすと、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用\nいられる膜に代えて、孔サイズが2倍以上になる本件周知技術の予備濾過膜を適用\nすることには阻害要因があると主張する。
しかしながら、前記(イ)c(a)のとおり、甲65には、「膜の実際の孔径よりも大 きい粒子や微生物は、効果的に除去される。」との記載があり、孔サイズが0.4 5μmである本件周知技術の予備濾過膜を採用した場合であっても、径が1.2μ\nmを超える大きな粒子を十分に除去し、もって、安定性を有するエマルジョンのバ\nルクを得ることができるものと認められる。また、前記(エ)bのとおり、甲11発 明(認定)は、1)細菌を効果的に保持するとの課題のほか、2)総処理量を大きくす るとの課題及び3)流速を妥当なものにするとの課題を内在しているところ、当該2) 及び3)の課題の解決のためには、目詰まりの防止等の観点から、適当な範囲で膜の 孔サイズを大きくすることも十分に考え得ることであるから、甲11発明(認定)\nに接した本件優先日当時の当業者は、本件課題を解決するため、甲11発明(認定) において用いられる各膜の孔サイズを適当な範囲で大きくすることも小さくするこ とも検討するものと認められる。
以上のとおりであるから、本件周知技術における予備濾過膜の孔サイズが0.4\n5μmであることは、本件適用に係る阻害要因ではない。
b 参加人は、本件製品の膜につき、丙4にはこれをスクアレン含有水中油型エ マルジョンを含む水中油型エマルジョンの滅菌濾過に用い得る旨の記載がないとし て、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用いられる膜に代えて、本件周知 技術の予備濾過膜を適用することには阻害要因があるとも主張する。\nしかしながら、甲11発明(認定)と本件周知技術とが技術分野を共通にしてお り、甲11発明(認定)が本件課題を有しており、かつ、本件製品が備える膜を用 いることにより本件課題を解決することができることは、前記(エ)aからcまでに おいて説示したとおりであるから、丙4に参加人が主張する記載がないことは、本 件適用に係る阻害要因があることを根拠付けるものではない。
c なお、参加人は、本件製品が製品歩留まりの点で他の製品に劣るとして、本 件優先日当時の当業者による本件適用に阻害要因がある旨の主張をするが、丙4の 102頁及び110頁の各「Highest product yield」の記載は、高価なたんぱく 質溶液や吸着(adsorption)に敏感な医薬品を高い回収率(product recovery rates)で濾過するのに適した膜に係る記載であると解されるから、これらの記載 が、たんぱく質を含有しないMF59C.1の製造方法に係る甲11発明(認定) に本件周知技術を適用することを否定したり、その阻害要因になったりするなどと 認めることはできない。

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令和1(ワ)24736  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月15日  東京地方裁判所

 空調服の特許について、進歩性無しとして、権利行使不能と判断されました。\n

前記aないしdの各記載によると、本件出願当時、被服の技術分野 においては、二つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、 そもそも二つの紐状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容 易ではないとの周知かつ自明の課題が存在したものと認められる(な お、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、本件出願当時に存在した課 題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは 非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調整 することができないとの記載がみられるところである。)。 そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成\n(「前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第\n一の位置に取り付けられた紐1と」、「前記紐1が取り付けられた前記 第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付 けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによって、 空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、\n乙46説明書に「首と襟足の間隔を広くし」との記載及び紐が首の後 ろにある旨の図示(前記(1)イ )があることからすると、本件公然実 施発明に接した本件出願当時の当業者は、上記の課題を認識するもの と認めるのが相当である。
乙33発明’が解決する課題
前記(3)アの記載のとおり、乙33発明’は、「帯紐6a」に「ボタン 7a」を、「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタ ン7a」を複数ある「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成\nを採用することにより、「帯紐6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調 整し、もって、個人差のある腰回りの大きさに応じて介護用パンツ1を 装着することを可能にするというものであるところ、乙33公報に装着\nの容易さについての記載(【0008】、【0009】、【0011】)があ ることや、前記 eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願当時に被 服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願当 時の当業者は、乙33発明’につき、これを二つの紐状部材を結んでつ ないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手 段として認識するものと認めるのが相当である。
課題の共通性についての結論
前記 及び のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される 課題と乙33発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当であ る。
ウ 本件公然実施発明に乙33発明’を適用することについての動機付けの 有無
前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実 施発明に接した本件出願当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調 整するための手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調 整することが手間で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するた め、同じ被服の技術分野に属する乙33発明’を採用するよう動機付けら れたものと認めるのが相当である。
エ 原告の主張について
原告は、本件公然実施発明は、排出する空気の量に応じて、中に支え る物体がない、空気を排出するスペースを調整するのに対して、乙33 発明’は、体型等に応じて中に支える物体があるものの周りを調整する ものであるから、その目的や機能が異なると主張する。\nしかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の 締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし する。
しかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の 締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし機能\nにおいて異なるものではないから、本件公然実施発明が空調服の首回り の空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、乙33発 明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すな わち、両者が何を調整するのかにおいて異なることは、前記ウに係る結 論を左右するものではない。 また、原告は、1)空調服は、世の中に存在しなかった革新的技術であ ることや、2)本件発明1は従来技術に比して有利な効果を有しており、 本件公然実施発明と異なる技術的意義を有することを主張している。 しかし、上記1)について、本件発明1は、本件公然実施発明等によっ て既に実用化されている空調服における空気排出口の開口度の調節方法 に係る発明であり、従来技術の延長線上に位置付けられるものと評価で きるところ、上記の調節方法が被服の技術分野で周知といえることは前 記(3)で説示したとおりである。そうだとすれば、空調服という製品自体 が革新的技術であることは、本件発明1の進歩性を基礎付ける事情とは ならないというべきである。 上記2)について、本件全証拠によっても、本件発明1がその進歩性を 基礎付けるほどの有利な効果や技術的意義を有しているとは認められな い。

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令和5(行ケ)10056  承継参加申立事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月25日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反および進歩性違反の無効理由無しとした審決について、知財高裁は後者の無効理由有りとして審決を取り消しました。

(エ) 本件適用に係る動機付けの有無
a 技術分野
(a) 前記アの甲11の記載によると、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュ バントのエマルジョンを製造する技術の分野に属する発明であると認められる。 他方、前記(イ)のとおり、甲65には、「導入」として、「合成ポリマーの微小 多孔性膜を使用する通常のフローフィルタ等は、多種多様なバイオ医薬液体の濾過 用途に広く使用され、これらのフィルタの主な目的は、製品中の細菌汚染の可能性\nを減らすことである」旨の記載、「濾過膜は、血液分画、血清の処理、大容量非経 口剤(LVP)等の従来の製薬用途でも日常的に使用され、ここでの目標は、バイ オ医薬品プロセスと同じであり、製品の細菌汚染の可能性を低減させることである」\n旨の記載等があり、甲65は、これらの膜を備えた具体的な製品として、本件製品 に言及している。また、前記(ア)のとおり、丙4には、本件製品が「広範囲の医薬 製品を濾過できるように設計されたものであり、広範囲の化学的適合性を備えるも のである」旨の記載がある。これらによると、本件製品は、少なくとも上記の「従 来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも 当然に適用し得るものであると認められるから(なお、前記(ア)のとおり、丙4に は、本件製品の用途の例として「バルク医薬品」が挙げられている。)、本件周知 技術は、甲11発明(認定)が属する技術分野を包む技術分野に属する技術である と認めるのが相当である。
以上のとおりであるから、甲11発明(認定)と本件周知技術とは、その属する 技術分野を共通にするといえる。
(b) 参加人は、甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用いて製造 したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであるところ、ワ クチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらない、丙4には本 件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンの滅菌フィルタに使用し得る旨の記 載がないとして、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知技術が属する技 術分野とが異なる旨主張するものと解される。 しかしながら、前記(a)のとおり、本件製品は、少なくとも甲65にいう「従来 の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも当 然に適用し得るものであるから、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知 技術が属する技術分野とが異なるとはいえない。参加人の主張は失当である。
b 甲11発明(認定)が有する課題
(a) 甲11には、前記アにおいて認定した箇所を含め、本件適用を動機付ける ような課題の記載はみられない。 しかしながら、甲20(日本ワクチン学会編「ワクチンの事典」(平成16年)) の「無菌性の保証 ワクチンは通常、…無菌製造、無菌充填が行われる。」との記 載、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「プレフィルタと最終フィルタの組合せを 正しく選択することで、流速、濾過時間及び全体的な濾過コストの最適なバランス が得られる」旨の記載、「膜濾過の主な目標である滅菌濾液の提供を評価する基準 として、1)細菌の効果的な保持がされること、2)高い総処理量を有することによる 濾過コストの削減がされること、3)許容可能な範囲の流速による妥当な時間枠にお\nけるバッチ全体の濾過がされることなどが挙げられる」旨の記載、「本件製品の製 造業者が製造する本件製品と同種の製品のプレフィルタ層は、非常に高い処理量を 実現し、10インチエレメント当たりの有効濾過面積を30%以上向上させ、0. 2μmの最終フィルタ層は、本件製品の組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を 提供する」旨の記載等)に加え、甲11発明(認定)と本件周知技術とがその属す る技術分野を共通にすること(前記a)に照らすと、ワクチンアジュバントのエマ ルジョンの製造に用いられる濾過膜については、その品質を向上させるため、1)細 菌を効果的に保持すること、2)総処理量が大きいこと及び3)流速が妥当なものであ ることが求められているものと認められる。それのみならず、そもそもワクチンア ジュバントのエマルジョンの製造に用いられる濾過膜において、上記1)から3)まで の要請が達成されることにより当該濾過膜の品質の向上につながることは、これら の要請の内容に照らし、本件優先日の当業者にとって自明であったというべきであ る。したがって、甲11発明(認定)には、これらの要請を達成するとの課題(以 下「本件課題」という。)が内在しており、甲11発明(認定)に接した本件優先 日当時の当業者は、甲11発明(認定)が本件課題を有していると認識したものと 認めるのが相当である。
(b) 参加人は、ここでも甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用 いて製造したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであり、 ワクチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらないから、甲6 5の記載をもって甲11記載の発明の課題を認定することはできないと主張する。 しかしながら、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュバントのエマルジョンを 製造する技術の分野に属する発明であり、甲65は、従来の製薬用途でも日常的に 使用され、製品の細菌汚染の可能性を低減させることを目的とする濾過膜について\n述べた文献であるから、甲65記載の事項(本件課題)は、少なくとも甲65にい う「従来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製 造にも当然に当てはまるものというべきである。それのみならず、そもそもワクチ ンアジュバントのエマルジョンの製造に用いられる膜において、本件課題が本件優 先日当時の当業者にとっての自明の課題であったことは、前記(a)のとおりである。 参加人の主張を採用することはできない。
c 本件課題の解決手段
(a) 前記(ア)のとおりの丙4の記載(「本件製品のフィルタカートリッジは、現 存する滅菌フィルタカートリッジのいずれと比較しても優れた特性を持ち、広範囲 の化学的適合性、高耐熱性、高処理量、高流速の特性を全て備えている」旨の記載、 「本件製品のカートリッジは、0.45μm膜を用いた「組み込み予備濾過」によ\nる分画濾過のため、非常に高い総処理能力を持ち合わせている。ポリエーテルスル\nホン膜の非対称的孔構造は、低い圧力下で、高い流速を提供する」旨の記載、「本\n件製品のフィルタカートリッジは、HIMAやASTM F−838−83ガイド ラインに従う滅菌グレードのフィルタエレメントとして十分検証されている」旨の\n記載、95%閉塞時における総処理量において本件製品が最も優れている旨のグラ フ等)、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「本件製品の製造業者が製造する本件 製品と同種の製品の0.2μmの最終フィルタ層は、本件製品の0.45μm/0. 2μmの組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を提供する」旨の記載等)及び弁 論の全趣旨によると、本件製品が備える親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜 をワクチンアジュバントのエマルジョンの製造(濾過)に用いることにより、本件 課題をいずれも解決することができるものと認めるのが相当である。
(b) 参加人は、丙4の記載は本件製品の特性に関する一般論を述べるものにす ぎず、丙4には本件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンを含む水中油型エ マルジョンの滅菌濾過を用途とし得るものである旨の明記がないとして、丙4記載 の本件製品の特性をもって甲11記載の発明が有する課題を解決することができる ものであると認めることはできないと主張する。 しかしながら、本件製品は、広範囲の医薬製品を濾過することができるように設 計され、広範囲の化学的適合性を備えるものであり(前記(ア))、また、ワクチン アジュバントのエマルジョンの製造にも当然に適用し得るものである(前記a)と ころ、甲65及び丙4には、本件製品をワクチンアジュバントのエマルジョンの製 造に用いた場合に、本件製品が持つ本来の性能が十\分に発揮されないものとうかが わせる記載は一切なく、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はないから、 甲65及び丙4に記載された本件製品の性能は、本件製品をワクチンアジュバント\nのエマルジョンの製造に用いた場合にも発揮されるものと認めるのが相当である。 参加人の主張を採用することはできない。
d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判 断
参加人は、1)甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階 を異にする別個の工程である、2)前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧 条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の 発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製 品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。 しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(III)) (アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲 11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性 を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨 の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、 甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな い別個の工程であるということはできないから、上記の1)の点を根拠とする参加人 の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を 第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証 拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1 の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌 保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第 1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱 についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される 膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに 足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、 第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認 識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主 張する工程(III))(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程) を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ (イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当 時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の2)の点を根拠とす る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定) に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。

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令和4(行ケ)10084  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月21日  知的財産高等裁判所

治療薬に関する発明について、進歩性無しとした審決が維持されました

(4) 相違点に係る容易想到性について
ア 相違点1について
(ア) 「心不全の患者」及び「心不全の治療薬」について
前記2(1)、(2)、(5)及び(6)のとおり、本件優先日当時、利尿薬は、心不全の症 状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬として、急性心不全(慢 性心不全の急性増悪期を含む。)と慢性心不全とを問わず、また心不全の重症度を問 わず、広く用いられていた薬剤である。また、代表的な利尿薬として用いられるフ\nロセミド等のループ利尿薬は、利尿作用が強い反面、塩化ナトリウムの再吸収を抑 制するために低ナトリウム血症等の電解質異常をきたし得るとの副作用がある上、 利尿薬抵抗性の問題も認識されており、加えて、特に重症心不全患者においては、 体液貯留の管理が重要とされていた。 そして、前記(2)ア(ア)のとおり、甲2には、体液貯留のある心不全患者(NYH AクラスI)〜III))に対し、フロセミドに上乗せして、異なる部位に作用し、また、 ナトリウムを排泄せずに水のみを排泄する選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬と\nしてのトルバプタンを投与したところ、良好な忍容性とともに、血清電解質の有害 な変化なく、体重減少、尿量増加及び浮腫改善等の効果が得られた旨が記載されて いる。 そうすると、本件優先日当時、甲2発明及び甲2の記載に接した当業者において、 前記2に認定した技術常識も考慮して、甲2発明のトルバプタンを、「急性心不全ま たは慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IV)の患者」 における体液貯留等を改善するための治療薬とすることには、十分な動機付けがあ\nり、容易に想到し得たということができる。
(イ) 「活性成分の投与」について
甲2発明における「安定したフロセミド用量(20〜240mg/日)」が、フロ セミドを必要に応じて投与することを制限する趣旨と読み取れないことは、前記 (2)ウ(イ)bのとおりであるから、この点は実質的な相違点とはいい難い。また、前 記(2)ウ(ウ)のとおり、対象患者の症状や投与方法等を捨象した、単に治療薬を投与 する際に患者が入院下であるか否かという点も、実質的な相違点とはいい難い。 次に、前記2(1)ウのとおり、本件優先日当時、トルバプタンは、経口投与で強力 な水利尿薬として作用する薬物として知られていたのであるから、甲2発明では経 口投与されたか不明であるトルバプタンを本件発明1の対象患者に投与するに当た り、これを経口投与とすることは、当業者が適宜なし得た事項というべきである。
(ウ) 原告の主張について
原告は、1)医薬分野における容易想到性は、「当該発明の治療及び治療効果につい て、優先日当時における科学的根拠をもって当業者がこれを容易に評価・確認でき るか」という観点から判断されるべきであるとした上で、本件優先日当時の技術常 識として、2)ADHFの重症患者と慢性心不全の慢性期の軽症〜中等症患者とは、 その症状、治療内容・態様、治療薬の適応・治療効果が大きく異なっていた、3)同 じ心不全治療薬であっても、NYHAクラスI)〜III)の患者には有効だがクラスIV)の 患者には効果がない又は悪化させる例があった上、NYHAクラスIV)の患者は利尿 薬抵抗性の問題がより深刻であって治療に限界が生じており、トルバプタンにも利 尿薬抵抗性の問題が認識されていた、4)既存の利尿薬の作用機序・薬理作用と、ト ルバプタンの作用機序・薬理作用は異なるものである、5)ADHFの重症患者に対 して、トルバプタンを含む選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬の投与実績は存在\nしていなかったところ、選択的バソプレシンV2受容体拮抗作用は、内因性バソ\プ レシンレベルの上昇を誘引し、それがバソプレシンV1a受容体を刺激することに\nより、心血管系や腎臓に悪影響を及ぼすことが理解されていたから、選択的バソプ\nレシンV2受容体拮抗作用を有するトルバプタンを、NYHAクラスIV)のような重 症患者に投与すれば、心不全の症状をさらに悪化させ、最悪の結果にもつながりか ねないと認識されていた、6)本件試験のような「最適の治療」(併用薬の用量増加、 投与経路変更を含む。)に対する上乗せ試験では、甲2試験のような併用薬の用量固 定・経口投与のみ等の制約されたデザインの試験と比して、上乗せ治療薬の治療効 果が得られにくいと理解されていたなどと主張し、これらの技術常識によると、甲 2発明から相違点1に係る本件発明1の構成に想到する動機付けはなく、又は阻害\n要因があると主張する。
しかし、1)について、進歩性についての判断基準として独自の見解というほかな く、採用の限りではない。2)について、急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含 む。以下この項において同じ。)と慢性心不全とで、また重症患者と軽症〜中等症患 者とで、治療の内容が異なる点は指摘のとおりであるが、前記2のとおり、利尿薬 に関していえば、急性心不全と慢性心不全とを問わず、また重症と軽症〜中等症と を問わず、心不全の症状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬 として広く用いられていたのであるから、甲2に記載されたトルバプタンの水利尿 効果が、体液貯留等の症状を呈する急性心不全の患者や重症患者にも得られるであ ろうことを、当業者は当然に想起するというべきである。3)について、NYHAク ラスI)〜III)の患者とクラスIV)の患者とで取扱いを異にする例として原告が挙げてい る例(甲38、43、47、70〜77、88)には、利尿薬とは異なる心不全治 療薬が含まれているほか、利尿薬に関するものであっても、NYHAクラスIV)であ ることを理由に利尿薬の取扱いを異にすべき旨が記載されているとは読み取ること はできない。前記2(6)のとおり、重症心不全患者では、特に体液貯留等の管理が重 要とされており、重症度の高さや利尿薬抵抗性の問題から利尿薬が十分に効果を発\n揮しない場合があるとしても、また、仮にトルバプタンにも利尿薬抵抗性の問題が あるとしても、当業者は、NYHAクラスによる重症度を問うことなく、体液貯留 等の症状を改善するために利尿薬の使用を試みるというべきである。4)について、 既存の利尿薬とトルバプタンとの作用機序・薬理作用が異なることは、上記(ア)のと おり、むしろ動機付けとなるといえる。5)について、本件優先日前に頒布された刊 行物である甲149(Florence Wongほか「A Vasopression Receptor Antagonist (VPA-985) Improves Serum Sodium Concentration in Patients With Hyponatremia: A Multicenter, Randomized, Placebo-Controlled Trial 」37 Hepatology 182 (2003))には、NYHAクラスIV)のうっ血性心不全患者に対し、ト ルバプタンと同じ選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬である「VPA−985」\nを既存の利尿薬と組み合わせて投与したところ、低用量群(25mgを1日2回投 与)では、起立性血圧、血清クレアチニン値及び血清バソプレシン濃度の有意な変\n化なしに、プラセボ対照群と比して有意な水利尿反応及び血清ナトリウム値の増加 が得られた旨が記載されている。同記載からすると、原告が主張するように、選択 的バソプレシンV2受容体拮抗薬につき、血中バソ\プレシン濃度上昇による悪影響 がある可能性を指摘する文献があったことを考慮しても、適切な用量設定等により\n安全に効果を得られることが示されていたのであるから、トルバプタンをNYHA クラスIV)の重症患者に、また急性心不全の患者に適用することが禁忌であったとは いえず、阻害要因となるべきものとは認められない。6)については、前記(3)ウ(ウ) のとおり、トルバプタンと組み合わされる本件発明1の「最適の治療」と甲2発明 の「水分制限なしの標準治療」に実質的に異なるところはなく、また、前記(2)ウ(イ) bのとおり、甲2発明における「安定したフロセミド用量(20〜240mg/日)」が、治療の制限を意味するものとは読み取れない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。

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令和5(行ケ)10054  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年2月13日  知的財産高等裁判所

一致点・相違点の認定に誤りがあるものの、動機付けなしとの審決が維持されました。

カ 甲8発明と本件発明1との相違点として本件審決が認定したもの(前記 第2の4(2)ア(イ))のうち、甲8相違点2は、前記エの説示によれば、甲8 発明と本件発明1との相違点となるとは認められない。 また、甲8相違点3は、甲8発明における台車用安全カバー及び本件発 明1における保護部材の用途を特定する物としての手押部材の違いを述 べるものであって、甲8発明における台車用安全カバーと本件発明1にお ける保護部材との相違点とはいえない。したがって、甲8発明と本件発明 1との相違点は、甲8相違点1及び取付位置に係る相違点のみであると認 められる。
キ 前記第2の2(3)のとおり、1)本件発明2は、本件発明1の構成要件1A\nないし1Fを全て含み、2)本件発明3は、本件発明1の構成要件のうち、\n1Eを「前記保護部は、円板状である。」(構成要件2E)に変更したもの\nであり、3)本件発明4ないし7は、本件発明1の構成要件1Aないし1F\nを全て含むか、又は本件発明3の構成要件1Aないし1D、2E及び1F\nを全て含むものである。
そうすると、本件発明2ないし7は、いずれも、甲8発明との関係で、 甲8相違点1及び取付位置に係る相違点があると認めることができる。
ク 以上のとおり、甲8発明と本件各発明との一致点及び相違点に係る本件 審決の判断には相当でない部分があるものの、これによって直ちに本件審 決の判断が違法となることはなく、甲8相違点1を前提に、当業者が、本 件優先日の技術水準に基づいて、これらの相違点に対応する本件各発明を 容易に想到することができたかどうかを判断すべきである。
(3) 容易想到性について
前記(1)のとおりである甲8発明の内容によれば、甲8発明の台車用安全カ バーは、その本体、すなわち甲8発明の全体が保護部を構成しており、作業\n者の手挟み事故を防止するとともに、手押部材の掌握部、すなわち台車のコ 字状のハンドルのグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつもので あるといえる。このことは、甲8商品2と同一の構成の商品を含む甲8商品\n1に係るパンフレット(甲8の2)に、「台車に取り付けることで、作業員の 手挟み事故を防止!掌握部もわかりやすくなり、安全指導がしやすくなりま す」との記載があることからも裏付けられる。 このように、甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルの水平部 分をグリップ部とすることを前提として、コ字状のハンドルのカーブ部分に 取り付ける台車用安全カバー(保護部材)であって、これによって手挟み事 故の防止を図るものであるから、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材) にグリップ部を設けることは全く想定されていないといえる。 そうすると、仮に、台車の手押部材にグリップ部を設けること、又は台車 等の保護部をグリップ部と一体化したものとすることが、本件優先日の時点 で周知技術であったとしても、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)に 接した当業者において、これらの周知技術を甲8発明に適用する動機付けが あったとは認められない。 したがって、引用発明である甲8発明に基づいて、甲8相違点1に係る本 件各発明の構成が容易に想到できたとは認められず、甲8発明を前提とする\n進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとは認められない。
(4) 前記第3の1〔原告の主張〕について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)のとおり、甲8発明の台車用安 全カバーは、直線の棒にも装着可能であり、コ字状のハンドルのカーブ部\n分に対してのみ取り付け可能な製品ではないから、本件審決における甲8\n発明の認定は誤りであると主張する。 この点、長岡産業代表取締役である甲の陳述書(甲53)には、甲8商\n品2は、甲8商品1とともに、カーブ部分に装着することに特化した形状 (特に孔の形状)となっておらず、曲がっていない直線の棒にも装着可能\nなものであった旨の陳述がある。
しかし、甲8商品2の本体及び取付穴の形状から、物理的には直線の棒 に装着することが可能であるとしても、甲8商品2のパンフレット(甲8\nの3)及び甲8商品2と同一の構成の商品が含まれる甲8商品1のパンフ\nレット(甲8の2)の各記載及び掲載された写真からすれば、甲8商品2、 すなわち甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルのカーブ部分 に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に 掛からないように規制し、これによって手挟み事故を防止するものである と認められる。
上記各パンフレットに掲載された、各商品が台車のハンドルに装着され た状態の写真は、いずれもコ字状のハンドルのカーブ部分に装着されたも のを撮影したものであって、直線の部分に装着した写真ではないと認めら れる。また、甲8の2には、「ハンドルのカーブ部分に挟み込み、テープを はがして包むだけ!」と表記されているのであって、カーブ部分に挟み込\nむことが単なる使用の一例にすぎない旨の記載はされていない。 以上のとおり、甲8発明に関する本件審決の認定に誤りがあるとは認め られない。

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令和5(行ケ)10015 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月11日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。甲2発明を組み合わせる動機づけ無しです。

ウ 甲1発明と甲2の技術的事項とを組み合わせる動機付けについて 前記イのとおり、甲2発明の気体吹込羽口の周囲に使用するマグネシ ア−カーボン煉瓦は、酸素吹込みによって生じるホットスポットによる 高熱や不活性ガス吹込みによる冷却作用により、激しい温度勾配や熱衝 撃が加えられるという過酷な環境下の内張煉瓦として使用される前提に おいて、目地損傷原因の目地開きを生じせしめるクリープ変形を防ぐこ とによって、損傷防止が図られるものとなっている。 これに対し、甲1発明のN2ガスを吹き込むガス吹き込み用マグネシ ア・カーボン質耐火物は、前記第2の2(3)アの[甲1発明の内容]記載の とおり、それ自体が気体を吹き込む部材となっている点において、甲2 発明の内張煉瓦とは態様が異なる上に、甲2発明の気体吹込羽口のよう にホットスポットによる高熱を生じさせる酸素を吹き込むことは想定さ れていないものということができる。 そうすると、温度勾配や熱衝撃の点において、甲2発明の煉瓦のほう が甲1発明の耐火物よりも損傷しやすい過酷な環境にさらされる蓋然性 が高いということができ、そのような甲2発明の煉瓦では目地開きを生 じせしめるクリープ変形を防ぐことが特性として重要であるとしても、 それとは使用態様や使用環境の異なる甲1発明の耐火物にも、当然同じ 特性が求められるものとはいえないというべきである。 そうすると、当業者であっても、甲1発明と甲2の技術的事項とを組 み合わせて、相違点2に係る特定事項を得る動機付けがあるとはいえな いということができる。
なお、この点につき、甲3には、前記第2の4記載のとおり、「ごく一 部の大型煉瓦などは800゜C)から1200゜C)程度の還元雰囲気下で焼成 し」、「焼成後に消化防止、低気孔率化のためピッチ含浸されることが多 い。」と記載されているのであって、その記載内容が相違点2に係る特定 事項を得る動機付けについての認定を左右しないというべきである。

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令和5(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年1月31日  知的財産高等裁判所

進歩性無しとした審決が維持されました。争点は、相違点の認定誤り、動機付け、阻害要因です。

(1) 原告は、引用例2及び引用例3に開示されたイメージファイバを介して照 明光を導く周知の方法はイメージファイバを振動させないものであるのに対 して、引用発明はイメージガイド2の接眼側の端部を振動させるものである から、イメージファイバの前提構成が異なるものであって、引用発明に上記\nの周知の手法を適用する動機付けがあるとはいえない旨主張する。
(2) しかし、引用例2及び引用例3によれば、集光レンズを介して入射した光 源からの光をイメージファイバにより伝送することは、本件審決が認定する とおり周知の手法であると認められるところ、引用例3の【0008】、及 び特開2000−121460号公報(乙2)の【0018】、【001 9】、【0029】の記載によれば、内視鏡の技術分野において挿入部を細 径化することは周知の課題であると認められるから、その課題は引用発明に も内在していると認められる。 そして、本件審決の認定する周知の手法は、引用発明にも内在する上記の 課題の解決手段となるものであるから、引用発明にこれを適用する動機付け はあるというべきである。
(3) 原告は、さらに、照明光を被観察物体に導くイメージガイド2の接眼側の 端部を振動させると、被観察物体の撮像にどのような影響を与えるのかが不 明であることを考慮すれば、上記周知の方法を引用発明に採用することには 阻害要因がある旨主張する。 しかし、イメージファイバを振動させる技術と、光源からの光をイメージ ファイバにより伝送する技術とを同時に採用できないとする技術的根拠は見 当たらず、上記(2)のとおり周知の課題を解決する手段である周知の方法を 採用することは、当業者であれば容易に着想して試みるものと認められる。
(4) したがって、引用発明に引用例2及び引用例3の周知の手法を適用するこ とによって、相違点1及び相違点2に係る構成は容易に想到し得るとした本\n件審決に誤りは認められず、原告主張の取消事由2は理由がない。

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令和5(行ケ)10016  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

 車の部品について、進歩性違反無しとした審決が維持されました。理由は動機付け無しです。

原告は、スカッフプレートにおいて電池の交換は必要不可欠であるから、 電池交換のための電池カバーを設ける動機がある、電池カバーを表示部の表\ 側に設けることはさまざまな事情から好ましなく、甲8公報の技術常識等を 適用して、裏側に電池カバーを設ける動機がある、本件審決指摘の(a)〜(d) の変更は、電池交換のため必要であれば当業者は容易に想到し得る旨主張す る。 しかし、甲1公報によれば、甲1公報の「実用新案登録請求の範囲」に記 載された考案は、外部電源が完全に不要な自動車スカッフプレートに適用さ れる発光モジュールを提供することを課題とし(【0004】)、この課題 を解決するための発光モジュールは、発光素子及びリードスイッチが設けら れた「ランプ板」、及び電線を介してランプ板に接続される「電池」が、い ずれも「導光板」に埋設される構成を有し(【0005】、【0015】〜\n【0017】)、この構成により「導光板10の内部に発光素子20に必要\nな電力を供給することができる電池40を設置するため、完全に外部電源が 不要となる」(【0019】)ことで、上記の課題を解決するものと認めら れる。 甲1公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載され\nていない。 そして、本件審決が認定した甲1発明の構成は、外部電源が完全に不要な\n発光モジュールである上記「導光板10」に、これに埋設された「ランプ板 50」、「電池40」等を密封するための「収容溝カバー70」を設け、本 件発明1の「底板」に相当する「スカッフプレート80」の上面には「凹部」 を設け、この「凹部」に発光モジュールである上記「導光板10」を収容す るものである。
そうすると、甲1発明においては、電池40が導光板10内に埋設される ことを含め、「導光板10」に係る上記構成は課題解決に直結した構\成であ ると理解するのが自然であり、本件審決のいう「甲1電池収容構成」もこれ\nと同趣旨と認められる。 加えて、甲1公報には、電池の交換についての記載はなく、甲1発明に接 した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点1に係 る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)導光板10 に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設け、当該電 池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)該収容孔を覆うカバーを設け、 該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)スカッフプレート 80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設されているランプ 板50等との電気接続を行うという変更が必要になることは、本件審決が認 定するとおりである。
甲1発明をこのように変更することは、課題解決に直結した構成である\n「甲1電池収容構成」を変更するものであることと併せると、動機付けはな\nいといわざるを得ず、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 また、甲8公報からは、表示部を有し電池を電源とする電子機器において、\n表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能\なカバーを設けるこ とは技術常識であるといえるが、甲1発明のように独立したモジュールが設 けられ、底板(スカッフプレート80)の凹部にモジュールを収容する電子 機器において、裏側からモジュール内部の電池を交換することまでが技術常 識であったとは認めるに足りない。 甲2公報については、甲1発明のスカッフプレート80、すなわち底板に 相当する部材がないから、下側から電池カバーを設けるという抽象的な点を もって「甲1電池収容構成」と置換可能\ということはできない。
(2) 原告は、甲1発明において収容溝カバー70の取外しは想定されており、 外部から電池40を交換することは当業者が想起し得る旨主張するが、甲1 発明において収容溝カバー70の取外しが可能か否かは不明であるし、仮に\n取外しが可能であれば、取り外すことにより電池交換が可能\と考えられるか ら、むしろ、電池交換のため底板(スカッフプレート80)に電池収容孔と 電池カバーを設ける構成に変更する必要性は乏しいといえる。\nそうすると、原告の上記主張を考慮しても、上記の構成変更に係る動機付\nけは否定せざるを得ない。

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令和4(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

周知技術であっても、適用する動機づけがないとした審決が維持されました。

相違点2〜4は密接に関連するものであるから、事案に鑑みこれを一括し、 甲1発明に周知の技術的事項1及び周知の技術的事項2を適用して、相違点 2〜4に係る本件発明1とすることが容易になし得るかについてまず検討 する。
ア 甲1発明への周知の技術的事項1の適用について
(ア) 周知の技術的事項1は、半導体ウェーハの表面を加工する際の焦点の\n位置を調節するものであり、甲3〜5には、半導体ウェーハの表面以外\nの部位を加工する際の課題や解決手段についての記載はない。また、周 知の技術的事項1は、加工対象物に反りがあることを課題とする解決手 段である。
一方、甲1発明は、前記(1)オのとおり、加工対象物の内部に集光点を 合わせて改質領域を形成し、切断予定ラインに沿って加工対象物を割る\nというものである。また、甲1には、加工対象物の反りについての記載 はない。加えて、甲1には、溶融処理領域を切断予定ラインに沿うよう\nに加工対象物の内部に形成する工程において、レーザ光の集光点につい てZ軸方向の制御をすることについての記載もない。 そうすると、甲1発明に周知の技術的事項1を適用すべき動機付けは 認められないというべきである。
(イ) 原告は、前記第3の1(1)ア(ア)(イ)のとおり、焦点の位置が加工対象 の表面か、内部であるかにかかわりなく、振動などの外的要因により、\n集光が不安定になることから、加工中の集光点のAF制御が必要になる のは、当業者の技術常識であり、甲1において、周知の技術的事項1(A F制御)が明示的に記載されていないとしても、当業者であれば記載さ れているに等しいと認識し、また、シリコンウェハは一般に反るもので あり、当業者は反ったシリコンウェハが加工対象となることも認識する 旨主張する。 しかし、甲1発明は、加工対象物の内部に集光点を合わせて改質領域 を形成し、切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものであり、\nその目的や機序からして、加工対象物の表面からレーザ加工する従来技\n術と本質的に異なるのであるから、甲1に半導体ウェーハの表面の加工\nの際の技術である周知の技術事項1が記載されているに等しいとはい えないし、甲1にはシリコンウェハの反りについて何らの言及もないの であって、原告の主張は採用できない。
(ウ) 原告は、前記第3の1(1)ア(ウ)のとおり、本件審決が、甲1発明にお ける集光点のZ軸方向のずれの許容幅の大きさを指摘し、これを根拠に 周知の技術的事項1の適用を否定する判断をしたのは誤りであるとし、 その理由として、1)本件出願日の時点において、厚さ30μmまでの薄 型シリコンウェハも甲1発明の加工対象となり得るところ、加工中の集 光点をウェハ内に収める必要があること、2)甲1の105頁15〜23 行に、比較的厚いウェハの場合にも、改質領域のZ方向の位置が割断精 度に影響を与える旨の記載があること、3)セミフルカットでも改質領域 の深度のばらつきによりクラック等の問題が生じることからすれば、セ ミフルカットより改質領域以外の部分が大きいステルスダイシングに おいて、改質領域の深度がばらつけば、チップ分割に支障を来すであろ うことから、当業者がAF制御の必要性を理解する旨を主張する。 しかし、1)に関し、甲38、39は、薄型シリコンウェハがステルス ダイシングの加工対象となることを示すものであるが、それが直ちに甲 1発明においてZ方向のAF制御の必要性を導くものではない。
また、原告が2)において引用する甲1の記載は、「クラック領域9と 表面3の距離が比較的長いと、表\面3側においてクラック91の成長方 向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が電子デバイス等の 形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等が損傷 する。クラック領域9を表面3付近に形成すると、クラック領域9と表\ 面3の距離が比較的短いので、クラック91の成長方向のずれを小さく できる。よって、電子デバイス等を損傷させることなく切断が可能とな\nる。但し、表面3に近すぎる箇所にクラック領域9を形成すると、クラ\nック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもの\nのランダムな形状が加工対象物の表面に現れ、表\面3のチッピングの原 因となり、割断精度が悪くなる。」というものであるが、これは、改質 領域を形成する深さ方向の位置は加工対象物の表面に近いことが望ま\nしいが、近すぎてもいけないという程度のことを述べるにすぎず、形成 位置を特定したり、それが一定でなければならないとするものではなく、 まして、AF制御の必要性を示すものでもない。また、甲1には、「図 98に示すクラック領域9は、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物 1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位\n置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工対象物1の 内部中の表面3側に形成される。」(105頁1〜4行)、「なお、パ\nルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半 分の位置より表面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成する\nこともできる。この場合、クラック領域9は加工対象物1の内部中の裏 面21側に形成される。」(105頁24行〜106頁1行)等の記載 もあり、甲1発明においては、シリコンウェハ内部の改質領域の位置は シリコンウェハの厚み方向において厚みの半分の位置より表面に近い\n位置の近くから、厚みの半分の位置より表面に遠い位置まで、ある程度\nの幅をもって設定され得ると理解できるのであり、当業者が、甲1発明 において、X、Y軸ステージの振動やウェハの反りにより、レーザ光の 集光点がずれること、すなわち改質領域の位置がずれることが、直ちに シリコンウェハの割れに影響を及ぼすと理解することはないというべ きである。
そして、3)に関し、セミフルカットとステルスダイシングは切断の原 理、機序が異なるのであり、前者で改質領域の深度のばらつきにより問 題が生じるからといって、後者においても同様であると当業者が認識す るとはいえない。
(エ) 以上のとおりであって、原告の主張するところを踏まえても、甲1発 明に周知の技術的事項1を適用することが当業者にとって容易になし 得たとはいえない。

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令和5(行ケ)10020等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年1月23日  知的財産高等裁判所

パラメータを含む特許について、無効審決が取り消されました。

クレーム1は「・・外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.39×10−3/Dという関係を満足するものとし、・・・」でした。
(3) 相違点3Aに係る容易想到性についての検討
前記1に認定した本件各発明の概要によると、本件発明3の相違点3Aに係る構\n成は、杭の全塑性の要求性能を満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に\n伴う建設コストの増加との課題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることに\nより解決を図るべく、変形性能の指標として曲率φpを用い、少なくとも陸側に対\n面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ変形性能の\n高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において曲率φpを越えないようにした ものである。
ここで、前記(2)のとおり、甲1発明が属する鋼管杭式桟橋においては、鋼管杭に 高強度鋼管を採用することは周知技術であって、また、本件出願日当時、技術1)(直 杭式横桟橋の性能照査では、杭に発生する応力、杭の支持力、変形量を適切に設定\nして検討すること、杭の断面力は深さ方向に変化し、地中部の深いところでは小さ くなるのが一般的であるため、経済性の観点から鋼管杭の板厚又は鋼種を変更する ことがあること)、技術2)(鋼管杭に生じる軸力及び曲げモーメントに応じて杭の曲 げ剛性を低下させて解析を行うこと)、技術3)(杭の断面力は、深さ方向に変化し、 地中部の深いところで小さくなるため、経済性の観点からは鋼管杭の板厚及び材質 を地中部の発生断面力に応じて変更することが望ましいこと)、技術4)(計画水深が 深い岸壁では、強度の大きいSTK490の鋼管杭を用いている例が多くなるこ と)、技術5)(陸側の地中部において下杭よりも上杭の板厚を大きくすること)及び 技術6)(鋼管杭の部材として、一般に用いられているSKK400及びSKK49 0よりも基準降伏点の高い鋼管杭が、高支持力杭が普及し始めている建築分野にて 商品化されていること)等の技術が公知であったことが認められるが、いずれの技 術によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コストの増加を回避する\nため、甲1発明の「鋼管杭」を、変形性能の指標として曲率φpを用いた上で、少\nなくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分 にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該部分での発生曲率が曲率φ\npを越えないようにすることは導出できないといわざるを得ないし、このような構\n成を得ることが甲1発明及び上記周知技術又は各公知技術に接した当業者が通常行 うべき試行錯誤の範囲内のものということもできない。 したがって、当業者であっても、甲1発明の「鋼管杭」につき、相違点3Aに係 る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1発\n明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明することがで きたものということはできない。
(4) 相違点3Bに係る容易想到性についての検討
本件発明3の相違点3Bに係る構成は、前記(3)のとおり、杭の全塑性の要求性能\nを満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に伴う建設コストの増加との課 題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることにより解決を図るべく、変形性\n能の指標として曲率φpを用い、鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分に\nのみ変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において全塑性モーメン\nトに対応する曲率を越えないようにしたものである。 甲13発明の「鋼管杭」は、少なくとも陸側の鋼管杭の地中部は、φ1300m m×16tのSKK490からなる上杭の下方にφ1300mm×13tのSKK 400からなる下杭で構成されており、技術3)及び4)によると、上杭部分の強度は 下杭部分よりも大きいといえる。しかし、前記(3)と同様に、前記周知技術及び公知 技術(技術1)〜6))によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コスト\nの増加を回避するため、上杭と下杭とからなる甲13発明の「鋼管杭」を、変形性 能の指標として曲率φpを用いた上で、少なくとも陸側に対面して配置された鋼管\n杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭\nを用いて、当該部分での発生曲率が曲率φpを越えないようにすることは導出でき ないといわざるを得ないし、このような構成を得ることが甲13発明及び上記周知\n技術又は各公知技術に接した当業者が通常行うべき試行錯誤の範囲内のものという こともできない。 したがって、当業者であっても、甲13発明の「鋼管杭」につき、相違点3Bに 係る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1\n3発明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明すること ができたものということはできない。
(5) 被告の主張について
ア 被告は、「杭の断面力(曲げモーメントを含む概念である。)は深さ方向に変 化するため、深さや発生断面力に応じ杭の材質・鋼種を変更することがある」との 周知技術が認定でき(技術1)、3)参照)、これは典型的には降伏強度の異なる鋼管杭 を用いることである上、「強度の観点のみならず経済性の観点から鋼管杭の板厚及 び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」、「杭全体のうち、大きい曲げモ ーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を用いること」、「杭に生じ る曲げモーメントが大きい箇所において全塑性モーメントに達しないように設計す ることが望ましいこと」がいずれも技術常識であり、鋼管杭の設計に際しどのくら いの降伏強度の鋼管杭とするかは周知技術に基づき適宜設計されるものだから、相 違点3A又は3Bに係る構成は、周知技術又は技術常識から導出し得る旨主張する。\nしかし、本件審決が説示するとおり、被告は、「強度の観点のみならず経済性の観 点から鋼管杭の板厚及び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」や「杭全 体のうち、大きい曲げモーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を 用いること」が技術常識であることをいかなる証拠の記載から認定できるかを具体 的に指摘していない上、仮に、これらが技術常識であるとしても、これらを組み合 わせる動機付けや、組み合わせた結果からどのようにして相違点3A又は3Bに係 る構成が導出されるかにつき、技術的視点に基づいた具体的な主張をしていない。\nそして、前記のとおり、周知技術及び公知技術(技術1)〜6))によっても、甲1発 明の「鋼管杭」又は甲13発明の「鋼管杭」を、相違点3A又は3Bに係る構成に\nすることは導出できず、そのような構成を得ることが、当業者が通常行うべき試行\n錯誤の範囲内ということもできない。

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令和5(ネ)10047  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年10月3日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審は、進歩性無しとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。\n◆本件特許6865989号 については、無効審判で無効判断がなされてますが、確定前に取り下げられています。無効審判請求人は、被告ではありません。

控訴人は、授乳室は最適の場所に設置されるものであり、通常は移動が考 えられないから、乙6発明に授乳室の移動を容易にするという動機付けが内 在しているとはいえない旨主張する。 しかし、乙6文献の記載によれば、乙6発明に係る授乳室は設置場所の 壁と床から独立した部材からなる筐体であり、これを既存の建物内に搬入す る形で設置したものと認められるから、設置場所の変更や一時的な退避等の 理由による移動を行うことも十分想定されるものである。乙6発明は移動を\n容易にするという動機付けを内在しているというべきであり、控訴人の主張 は採用できない。
(2) 控訴人は、乙6発明と本件各引用文献記載の技術事項は技術分野が異なり、 乙6発明の属する「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」 技術分野においては、筐体にキャスターを付けることが周知技術であるとは いえない旨主張する。 しかし、本件発明と乙6発明の相違点である「筐体を移動させるキャス ターを備えること」(本件発明の構成要件E)の技術的意義についてみると、\n本件明細書の記載(【0009】「キャスターを利用して授乳用ユニットを 適切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成された 授乳エリアを設置することができる。」、「キャスターを利用して授乳用ユ ニットを移動させるだけで…授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ とができる。」、【0032】「…このように筐体4の底面7にキャスター 36が設けられているため、キャスター36を利用して、地面上で授乳用ユ ニット1を簡易に移動させることができる。」、【0033】「このように、 本実施形態に係る授乳用ユニット1は、キャスター36を利用して地面上を 移動させることができると共に、固定部材37により任意の位置に固定する ことができる。この構成のため、以下の効果を奏する。…本実施形態によれ\nば、所定の空間に、授乳用ユニット1を持ち込み、キャスター36を利用し て、適切な位置に授乳用ユニット1を移動させて、固定部材37で位置を固 定するという簡単な作業を行うのみで、授乳者がプライバシーが完全に保護 された状態で授乳を行うことが可能な授乳用空間3を設けることができ\nる。」、【0034】「さらに、本実施形態によれば、授乳用ユニット1は、 キャスター36を利用して地面上を移動させることができるため、授乳エリ アのレイアウトの変更も容易である。」)によれば、本件発明においても、 授乳中に筐体を移動させることまで想定しているとは認められず、単に内部 の空間に利用者が入ることが可能な筐体を簡易に移動させることができるよ\nうにすることにあると認められる。
このような構成要件Eの技術的意義からみると、本件各文献記載の技術\n事項において、筐体に人を収容する目的が異なるからといって本件発明と技 術分野が異なるなどということはできない。 さらに、本件各引用文献のうち、乙5公報に記載された発明の内容は、 「少なくとも周囲の人の視線を遮ると共に、内部に保育空間を画成する遮蔽 体からなる本体」と「扉」が取り付けられたものであるから(乙5)、「プ ライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」ものと認められるし、 その他の本件各引用文献の記載内容も、筐体に人を収容する目的はそれぞれ 異なるものの(乙13公報は感染性疾患を有する患者の治療、乙14文献は 内部で仕事や読書をするためのパーソナル空間、乙15文献は高気圧酸素環\n境での有酸素運動、乙16公報は浴室、乙17公報は居室内の個室)、いず れも外部の視線を遮り、プライバシーを守る目的又は効果を有する筐体に関 するものである。控訴人の上記主張は、いずれにせよ採用できない。
(3) 控訴人は、乙6発明には、授乳室を当初設置した場所から移動することに よる利用者の利便性の低下、スペースが十分に確保されていない場所への移\n動による人の動線の悪化、人目の届かない場所等への設置による利用者の安 全性の低下又は巡回のための町役場職員の業務増加等、移動による支障が非 常に大きいという阻害要因がある旨主張する。 しかし、控訴人の主張する内容は不適切な場所に移動した場合の弊害に すぎないから、乙6発明に適切な場所への移動を容易にするための移動手段 を設けることについての阻害要因があるとはいえない。
(4) 控訴人は、本件発明は予測できない顕著な効果を有する旨主張する。\n しかし、1)簡易迅速な授乳室の移動を可能・容易にすること、2)授乳用空 間の増設やレイアウト変更を実現することは、いずれもキャスターを付ける ことによる通常の効果であり、3)利用者による授乳室周辺への回遊の促進を 実現すること(例えば、フードコート付近に設置することによるフードコー トの利用者の増加〔甲33〕)は、適切な場所に授乳室を設置することによ る効果であり、いずれも予測できない顕著な効果ということはできない。\n
(5) 以上のとおり、控訴人の当審における補充的主張はいずれも採用できず、 原審が判断するとおり、本件発明は、当業者が乙6発明に周知技術を組み合 わせることにより容易に発明をすることができたものと認められ、本件発明 は特許無効審判により無効にされるべきものである。

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1審はこちら。

◆令和4(ワ)16934

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令和4(行ケ)10108  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年8月10日  知的財産高等裁判所

 出願人ディズニーの拒絶査定不服審判の審取です。審決維持です。争点は周知技術への置換の動機づけがあるかです。

(2) 本件周知技術の甲1発明への適用に係る動機付けについて
甲1の記載及び弁論の全趣旨によると、甲1発明は、HDRビデオにおけるトー ンマッピングの方法に関する発明であると認められる。これに対し、甲2ないし4 の記載及び弁論の全趣旨によると、本件周知技術も、HDRビデオにおけるトーン マッピングの方法に関する技術であると認められるから、甲1発明と本件周知技術 は、その属する技術分野を同一にするといえる。
また、甲1の記載及び弁論の全趣旨によると、甲1発明は、トーンマッピングさ れたビデオの各フレームの間の輝度の差を小さくし、受信画像をより自然なものに するため、トーンマッピング関数を徐々にしか変化させないものとするとの課題を 有すると認められる。これに対し、本件周知技術は、その内容に照らし、トーンマ ッピングするビデオの各フレームに適用されるトーンマッピング関数を徐々に変化 させるための技術であると認められるから、本件周知技術は、甲1発明の上記課題 を解決するための技術であるといえる。 加えて、甲3の記載によると、本件周知技術(甲3にいうトーンカーブ補正部1 42の第2の構成例に係るもの)は、甲1発明のようにあらかじめ用意されている\nルックアップテーブル(LUT)により時間的な変化が小さいトーンマッピング関 数を使用するとの構成(甲3にいうトーンカーブ補正部142の第1の構\成例に係 るもの)に代えて採用し得るものと認められる。 以上によると、本件周知技術を甲1発明に適用することについては、十分な動機\n付けがあるものと認められる。 そして、本件全証拠によっても、本件周知技術を甲1発明に適用することについ て、これを阻害する要因があるものと認めることはできないから、当業者は、甲1 発明に本件周知技術を適用することができたものと認めるのが相当である。

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令和4(行ケ)10118  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年8月10日  知的財産高等裁判所

 進歩無しとした審決が維持されました。原告は、技術分野が異なるので組み合わせ困難と主張しましたが、裁判所は「無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術に係るものであり、その属する技術分野を共通にする」と判断しました。

(1) 技術分野
ア 前記3(5)イにおいて説示したところは、甲4に記載された技術のみならず、 リモートコントローラ3(制御端末装置)が無線通信を利用して再生装置1等の制 御を行うことを内容とする引用発明(前記2)についても同様に当てはまるといえ るから、引用発明及び本件技術は、いずれも無線通信を利用して電子機器の制御を 行うとの技術に係るものであり、その属する技術分野を共通にするものと認めるの が相当である。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は、「甲1に記載された発明と甲4に記載された技術は、制御主体、 操作場所、制御対象機器及び制御内容を異にするものであるところ、甲1に記載さ れた発明及び甲4に記載された技術が共に無線通信を利用して電子機器の制御を行 うとの技術分野に属するとすることは、技術分野を極めて抽象的なレベルで捉える ものであって相当でないから、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記 載された技術が属する技術分野との間に関連性又は共通性はない」と主張する。 しかしながら、前記3(5)イにおいて説示したとおり、無線を利用して電子機器 の制御を行うとの技術においては、制御主体、操作場所、制御対象機器及び無効な ものとされる操作の内容が具体的に何であるかにつき特段の技術的意義はないとい うべきであるから、当該技術において、制御主体、操作場所、制御対象機器又は無 効なものとされる操作の内容が異なれば、当該技術が属する技術分野が異なること になるということはできない。 原告は、無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術において、制御主体、 操作場所、制御対象機器又は制御内容が異なれば、当該技術に係る当業者が異なる とも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない(かえって、前記3 (2)ないし(4)のとおりの乙1ないし3の記載(特に、前記(2)エ、前記(3)ア及びイ、 乙3の段落[0080]等)によると、無線通信を利用して電子機器の制御を行う との技術においては、制御主体又は制御対象機器が異なっても、当該技術に係る当 業者を異にしないことがうかがわれる。)。
(イ) 原告は、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記載された技術 が属する技術分野の関係を検討するに当たり、甲1及び4とは別の文献である乙1 ないし3の記載を参酌するのは相当でないと主張する。 しかしながら、ある発明ないし技術が属する技術分野が何であるかを認定するに 当たり、当該発明ないし技術の意義を検討するのは当然であるところ、当該意義に 係る証拠として、当該発明ないし技術が記載された文献以外の文献の記載を参酌す るのが相当でないということはできない。
(ウ) 原告は、特許庁における担当技術分野によると、スピーカとテレビは異な る技術分野に属すると主張するが、仮に、特許庁における担当技術分野が原告主張 のとおりであったとしても、そのことをもって、引用発明及び本件技術につき、無 線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術に係るものとして、その属する技 術分野を共通にするとの前記判断を左右するものではない。

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令和4(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反・サポート違反として無効審判を請求しました。審決は無効理由無し、裁判所も同様です。進歩性については、「非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを考慮すると、・・・結晶の平均粒径を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであったと認めることはできない」と判断しました。

(イ) また、甲7、9、52、61、63、71及び73並びに乙7によると、 薬物の安定性を高める方法として、結晶の結晶化度を高めること、遮光、湿気の遮 断等を目的として薬剤に保護コーティングを形成すること、遮光を目的として遮光 剤(酸化チタン)を含むコート液をコーティングすることなどは、本件優先日当時 の周知技術であったと認められる。
(ウ) しかしながら、甲5、7、52、54及び61によると、本件優先日当時、 非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在し、そのため、水難溶 性の薬物の溶解性を改善するとの目的で、かえって結晶化度を低くすることが一般 に行われていたものと認められるところ、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件優先日当 時、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術として、結晶 の粒子径を小さくすること以外の方法も存在し、また、薬物の安定性を高めるため の周知技術として、結晶の結晶化度を高めること以外の方法も存在していたのであ るから、化合物1の溶解性及び安定性を高めるとの課題を認識していた本件優先日 当時の当業者において、化合物1の溶解性を追求するとの観点から、経口投与され る水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術(結晶の粒子径を小さくすると の周知技術)を採用し、かつ、化合物1の安定性を追求するとの観点から、薬物の 溶解性を低下させる結果となり得る周知技術(結晶の結晶化度を大きくするとの周 知技術)をあえて採用することが容易に想到し得たことであったと認めることはで きない。
(エ) この点に関し、原告らは、結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持するこ とは特段の処理が不要で薬剤をそのまま使用するという最も基本的な態様を含むも のであり、他の手段よりはるかに容易な態様のものであると主張する。しかしなが ら、前記(ア)のとおり、本件優先日当時、結晶の粒子径を小さくするための主たる 手段として、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル等を利用した粉砕が考えら れていたところ、甲52によると、粉砕により結晶の結晶化度が低下し、結晶が非 晶質化することは、よく経験される事象であったものと認められるから、結晶の結 晶化度を一定の数値以上に維持することが特段の処理を要しないものであるという ことはできず、原告らの上記主張は、前提を誤るものというべきである。
また、原告らは、本件優先日の当業者であれば、薬物の安定性を向上させるとの 課題に基づいて結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持することを検討しつつ、粒 子の微細化等の手段により溶解度を向上させるなど、結晶の結晶化度や平均粒径と いったパラメータを適宜調整することを十分に動機付けられると主張するが、上記\nのとおり、非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを 考慮すると、原告らの上記主張によっても、本件優先日当時の当業者において、相 反する効果を生ずる事項同士であると認識されていた、化合物1の結晶の平均粒径 を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであっ たと認めることはできないといわざるを得ない(この点に関し、本件明細書には、 実施例(試験例2、実施例2)として、化合物1の微細結晶Aの結晶化度が84. 6%であり、粒径がD100=8.7μmである場合(後記5(4)ア(ア)のとおり、化 合物1の平均粒径が数μmである場合)においても、結晶が凝集することなく、良 好な溶解性及び分散性を示したとの記載があるが、前記(2)イ(ウ)において認定した 技術常識(非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識)並びに甲6及び 52によって認められる技術常識(特に薬物が疎水性のものである場合には、結晶 の粒子径を小さくすればするほど凝集が起こやすくなり、その有効表面積がかえっ\nて小さくなる結果、溶解性が低下することがあるとの技術常識)に照らすと、上記 実施例が示す効果は、甲1結晶発明及び本件優先日当時の技術常識から予測し得な\nかったものといえる。)。

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令和4(行ケ)10099  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月6日  知的財産高等裁判所

 審決は、周知技術であっても主引例にはそのような動機付けがないとして、進歩性違反の無効理由なしと判断しました。知財高裁も同様です。

イ 前記(1)イの相違点に係る構成を甲1発明において採用することが容易想到といえるか検討するに、甲1には、加工対象物の反りや、X、Y軸ステージの振動等\nにより、レーザ光の焦点ずれが生じ得ることについての記載はなく、加えて、前記 2(1)エのとおり、甲1(105頁)には「図98に示すクラック領域9は、パルス レーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工\n対象物1の内部中の表面3側に形成される。」「パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表\面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成することもできる。」といった記載があり、甲1発明においては、 シリコンウエハ内部の改質領域の位置は、シリコンウエハの厚み方向において厚み の半分の位置よりも表面に近い位置から、同半分の位置よりも表\面に遠い位置まで の、ある程度の幅をもった範囲に設定され得るものであると理解されることからす ると、甲1の記載に触れた当業者が、直ちに、X、Y軸ステージの振動等の外的要 因や加工対象物であるシリコンウエハの反りのために、レーザ光の集光点のZ軸方 向の位置がずれ、改質領域の位置がずれることによって、シリコンウエハの割れに 大きな影響を及ぼして品質低下を生じさせると理解するとはいえない。
そうすると、甲1発明において、AF制御をする動機付けがあると認めることは できない。また、周知の技術的事項1は半導体ウエハの表面の加工についてのAF制御をいうものであるところ、これが周知であるからといって、動機付けがないに\nもかかわらず、甲1発明のようなステルスダイシングに適用できるとはいえない。 したがって、甲1発明において「前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿 って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する」構成を採用することについて、当業者が容易に想到できたと認めることはできない。\n
ウ(ア) 原告は、レーザ加工の技術分野において、加工時におけるレーザビームの 振動やテーブルの振動などの外的要因や加工対象物の凹凸や反りが、レーザ光の焦 点ずれの原因となることが知られており、高さ方向(Z軸方向)の集光点をAF制 御することは当然のことであり技術常識であったから、Z軸方向のAF制御をする ことは甲1に記載されているに等しく、少なくとも容易想到であると主張する。 しかしながら、甲1には、加工時に、レーザ光Lの集光点Pについて、Z軸方向 の制御をすることについての記載はない。また、前記2(1)ウのとおり、甲1(2頁) には「本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせ てレーザ光を照射しかつ多光子吸収という現象を利用することにより、加工対象物 の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があ ると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係る レーザ加工方法によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小さ\nな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予\定ライ ンから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。」との記載があり、同記載に照らすと、甲1発明は、加工対象物であるシリコンウエ\nハの内部に改質領域を形成して、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものである。そして、前記アのとおり、周知の技術的事項1\nは、半導体ウエハの表面を加工する際に、半導体ウエハに反りがあると加工位置に対して加工用レーザ光の焦点がずれることから、表\面の変位に基づいてAF制御をして表面を加工するというものであるところ、シリコンウエハの内部に改質領域を形成する際に、このような半導体ウエハの表\面加工に係る周知の技術的事項1をそのまま適用できるとはいえない。
(イ) 当業者が、甲1の記載から、甲1発明において、加工中の集光点AF制御が 当然に採用されるものと理解するといえるには、甲1発明において、シリコンウエ ハの反りやX、Y軸ステージの振動により、集光点のZ軸方向の位置がずれ、その 結果、改質領域が形成される位置がずれることとなり、その改質領域の位置のZ軸 方向のずれに起因して割断精度が悪くなる等の品質低下の問題を生じることが明ら かであり、そのために、AF制御が必要であることまでを当業者が認識することを 要するものと考えられる。ところが、当業者にとって、上記のような問題が生じる ことが明らかであると認識できたと認めるに足りる証拠はなく、そのような技術常 識は認められないところ、前記のとおり、甲1には、改質領域が形成される位置が、 ある程度の幅をもった範囲に設定され得ることを示唆する記載があるから、周知の 技術的事項1を考慮しても、また、甲1発明の加工対象物として、30㎛程度まで の薄いシリコンウェアが対象となり得ることを考慮しても、当業者が、甲1の記載 から、甲1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解する とはいえない。
(ウ) 原告は甲1の「クラック領域9と表面3の距離が比較的長いと、表\面3側に おいてクラック91の成長方向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が 電子デバイス等の形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等 が損傷する。クラック領域9を表面3付近に形成すると、クラック領域9と表\面3 の距離が比較的短いので、クラック91の成長方向のずれを小さくできる。よって、 電子デバイス等を損傷させることなく切断が可能となる。但し、表\面3に近すぎる 箇所にクラック領域9を形成するとクラック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもののランダムな形状が表\面3に現れ、表面3のチッビン\nグの原因となり、割断精度が悪くなる。」との記載(105頁15〜23行)をもっ て、比較的厚いウエハの場合には、改質領域のZ軸方向の位置が割断精度に影響を 与えるものであることが甲1に明記されていると主張するが、同記載をもって、シ リコンウエハの反りやX、Y軸ステージの振動に起因する改質領域の形成される位 置のZ軸方向のずれが、品質低下の問題を生じる程度のものであることが明らかと なるものではないから、上記記載部分を踏まえても、当業者が、甲1の記載から甲 1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解するとはいえ ない。
(エ) 原告は、本件明細書(【0004】)に、従来技術に加工対象物の端部におい てレーザ光の集光点がずれる場合があるとの課題があると記載されていることから も、一般的なレーザ加工技術の課題として、甲1発明においても、加工中の集光点 のAF制御が必要であると主張するが、本件明細書の上記記載を踏まえても、前記 (イ)のとおり、当業者が、甲1発明において、加工対象物の内部に改質領域を形成す るために、加工時におけるAF制御としての加工中のZ軸方向の位置の制御が必要 であるとの課題を認識するとはいえない。また、原告が指摘する証拠はいずれも、 加工対象物の内部に改質領域を形成する甲1発明において、加工中のZ軸方向の位 置の制御が必要であることが技術常識であることを裏付けるものとはいえない。 そして、原告主張に係る被告の本件以外の出願の状況が、本件発明の進歩性の判 断を左右するものではない。

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令和1(行ケ)10114 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月24日  知的財産高等裁判所

 漏れていたのでアップします。動画配信における視聴者からのギフトの処理(CS関連発明)について、審判で進歩性無しと判断されました。知財高裁も同様です。

「・・・(D1)前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中に前記動画へ の装飾オブジェクトの表示を要求する第1表\示要求がなされ,(D2)前記動画の配信中に前記動画の配信をサポートするサポーター又は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択された場合に,(D3)前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて、(D4)前記装飾オブジェクトを前記動画に表示させる,(A)動画配信システム。」というクレームです。\n 原告は,甲2には,視聴者から配信者へギフトを贈ること(ユーザーギ フティング)が動画配信中に行われるとの記載はないので,引用発明に甲 2記載の技術を追加したとしても「動画配信中に行われた表示要求に応じ\nて,装飾オブジェクトを表示する」という本願発明の構\成には至らない旨 主張する。しかしながら,甲2には,CGキャラクターへのユーザーギフティング を動画配信中に行うことについての記載はないものの,これを排除する旨 の記載もなく,この点は,配信時間の長さ,ギフト装着のための準備,予\n想されるギフトの数等を踏まえて,配信者が適宜決定し得る運用上の取り 決め事項といえるから,甲2のユーザーギフティング機能において,CG\nキャラクターが装着するための作品を贈る時期は,配信開始前に限定され ているとはいえない。したがって,引用発明に上記ユーザーギフティング 機能を追加することによって,相違点1に係る「前記動画を視聴する視聴\nユーザから前記動画の配信中に前記動画への装飾オブジェクトの表示を要\n求する第1表示要求がなされ」るという構\成を得ることができる。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ なお,原告は,甲2記載のCGキャラクター「東雲めぐ」が登場する実 際の番組において,ユーザーギフティングが配信開始前に締め切られてい ること(甲9の2,甲10)を指摘する。しかしながら,そのことは,当 該番組における運用上の取り決め事項として,ユーザーギフティングの時 期を配信開始前と定めたことを示すにとどまり,上記アの判断を左右しな い。 (3) 動機付けについて ア 甲2には,配信も可能なVRアニメ作成ツール「AniCast」にユーザー ギフティング機能を追加することが記載されている。一方,引用発明は,\n声優の動作に応じて動くキャラクタ動画を生成してユーザ端末に配信する ものであるから,引用発明も「配信も可能なVRアニメ作成ツール」とい\nえる。また,ユーザーギフティング機能のような新たな機能\を追加することに よって,動画配信システムの興趣が増すことは明らかである。 そうすると,当業者にとって,「配信も可能なVRアニメ作成ツール」\nである引用発明に対して,甲2記載の技術であるユーザーギフティング機 能を追加することの動機付けがあるといえる。\n イ 原告は,甲1には創作したギフトを配信者に贈ることの開示はないから, 引用発明に甲2記載のユーザーギフティング機能を組み合わせる動機付け\nはない旨主張する。しかしながら,動画配信システムの興趣を増すことは当該技術分野において一般的な課題であると考えられるから,甲1自体にユーザーギフティ ング機能又はこれに類する技術の開示又は示唆がないとしても,引用発明\nを知った上で甲2の記載に接した当業者は,興趣を増す一手段として甲2 記載のユーザーギフティング機能を引用発明に適用することを動機付けら\nれるといえる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

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令和4(行ケ)10003  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年4月27日  知的財産高等裁判所

進歩性違反なしとした審決が維持されました。

(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換 する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間 に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数 値範囲を容易に想到することができるかについて 甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工 業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた 後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg /l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以 下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0. 8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水 に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、 かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲 1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5 発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩 素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1 のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。 原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度 を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃 度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素 の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に 甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記 のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張 はいずれにしても採用し得ない。 甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生 剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別 紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙 3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用 いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0. 40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以 下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次 亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0 3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、 実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2 0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本 件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は 同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違 点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15\nmg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが 開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提 とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施 例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度 の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。 かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水 し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試 験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18 では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5 mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、 比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、 甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載 の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得 られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸 化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易 想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき 本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発 明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと は後記3のとおりである。

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令和4(行ケ)10003  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年4月27日  知的財産高等裁判所

進歩性違反なしとした審決が維持されました。

(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換 する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間 に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数 値範囲を容易に想到することができるかについて 甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工 業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた 後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg /l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以 下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0. 8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水 に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、 かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲 1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5 発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩 素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1 のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。 原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度 を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃 度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素 の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に 甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記 のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張 はいずれにしても採用し得ない。 甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生 剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別 紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙 3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用 いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0. 40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以 下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次 亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0 3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、 実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2 0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本 件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は 同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違 点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15mg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが\n開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提 とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施 例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度 の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。 かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水 し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試 験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18 では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5 mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、 比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、 甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載 の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得 られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸 化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易 想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき 本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発 明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと は後記3のとおりである。

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令和4(ワ)16934  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年3月28日  東京地方裁判所

 実案を基礎としてした特許出願について登録となりました。権利者が権利行使しましたが、無効主張がなされ、進歩性無しと判断されました(特104-3)。 本件特許はこれです。

◆本件特許

「本発明」は、前記アの課題を解決するため、授乳者のプライバシーが 保護された状態で授乳を行うことができる授乳用空間が形成された授乳 エリアを簡易に設置できるようにすると共に、授乳用空間のレイアウト の変更を容易にできるようにすることを目的とするものであり、「本発明」 の授乳用ユニットは、内部に空間が形成された箱状の筐体と、筐体に形 成された開口状の出入口と、出入口に設けられ、閉状態のときに出入口 を塞ぎ、筐体の内部の空間を遮蔽するドアと、筐体の内部の空間に設け られ、授乳者が着座可能な1つの一人着座用の椅子と、筐体を移動させるキャスターと、を備えることにより、ドアを閉状態とすれば、筐体の内部の空間が遮蔽され、外部から筐体の内部が視認できない状態となる\nため、授乳者は、筐体の内部で、他人に見られることなく、プライバシ ーが保護された状態で授乳を行うことができ、授乳エリアとなる空間に 授乳用ユニットを持ち込み、キャスターを利用して授乳用ユニットを適 切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成され た授乳エリアを設置することができることから、授乳エリアの設置に際 し、綿密な設計の下、各設備を適切な位置に固定的に設ける必要がなく、 授乳エリアの設置が簡易化し、キャスターを利用して授乳用ユニットを 移動させるだけで、授乳エリアにおける授乳空間のレイアウトの変更を 行うことができるため、授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ とができるとの効果を奏する(【0007】ないし【0009】)。
・・・
a 原告は、乙6発明の技術分野は、「プライバシーに配慮した筐体内 部に保育空間を形成する技術」に関するものであり、前記(ア)の公報 及び文献に記載の発明の技術分野とは異なっているから、筐体の移動 を容易ならしめるため、筐体にキャスターをつけることは、乙6発明 の技術分野における周知技術であるとは認められないと主張する。 しかし、前記(ア)において認定したとおり、少なくとも利用者と機 器等を収納する筐体に係る技術分野においては、当該筐体の具体的な 用途にかかわらず、広く当該筐体の移動を容易ならしめる手段として のキャスターが利用されている。そのような利用状況からすると、移 動対象が授乳室という「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間 を形成する」用途の筐体であるからといって、当業者において、当該 技術分野における周知慣用技術である筐体にキャスターを設けるとい う構成を乙6発明に係る授乳室に適用することが困難であるとはいえない。
b 原告は、1)乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付けると、 設置面と授乳室の床面との間に段差が生じ、授乳室の安全な利用を図 るという目的に反する、2)乙6発明に係る授乳室においては、授乳用 チェア等の室内装備が固定・固着されていないから、乙6発明に係る 授乳室にキャスターを取り付けて移動可能にすると、授乳等を安全に行うことができなくなる、3)乙6発明に係る授乳室の安全性を保ちつ つ、キャスターを取り付けることには技術的ハードルがあるとして、 乙6発明に係る授乳室に、キャスターを適用することを妨げる特段の 事情があると主張する。
しかし、1)については、乙6文献の記載から、乙6発明に係る授乳 室は、ロビーの床面と授乳室の床面との間の段差があり、これによる 弊害を解消するため、乙6発明に係る授乳室の出入口付近の床面から、 ロビーの床面に延びるスロープを備えているものと認められ、段差に よる弊害は、同スロープの設置により解消することができるといえる。 また、技術常識に照らし、取り付けるキャスターのサイズや取付方法 を工夫することにより、上記のような段差が生じることを抑制するこ とが困難であるとは考え難い。したがって、段差が生じることが乙6 発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因になるとは認め られない。
次に、2)については、授乳者を授乳室に収容したまま授乳室を移動 させない限り、乙6発明に係る授乳室内の設備が固定されていない ことによる授乳者の安全性への影響が生じるとは考え難く、実際に そのような影響が生じると認めるに足りる証拠もない。むしろ、授 乳者を乙6発明に係る授乳室に収容したまま授乳室を移動させるこ とは通常の使用方法ではないというべきである。したがって、室内 装備が固定・固着されていないことが乙6発明に係る授乳室にキャ スターを取り付ける阻害要因になるとは認められない。 さらに、3)については、筐体にキャスターを取り付けることによ って、不意に筐体が動き出すとの事象が生じ得ることは、容易に想定 できるところ、これによる弊害は、キャスターにストッパーを取り付 けることにより回避することができる。そして、筐体にキャスターを 取り付け、同キャスターにストッパーを取り付ける構成は、前記(ア) e及び同fのとおり、乙16公報及び17公報において開示されてお り、周知技術であると認められるから、当業者であれば、筐体にスト ッパー付きのキャスターを取り付けるという周知技術を適用し、容易 に克服できる弊害であるといえる。したがって、安全性を保つ必要が あることが乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因 になるとは認められない。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10037 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年2月7日  知的財産高等裁判所

 空調服に関する特許について、公然実施発明との組み合わせる動機づけありとして、無効理由なしとした審決を取り消しました。

前記aないしdの各記載によると、本件出願日当時、被服の技術分野におい ては、2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、そもそも2つの紐 状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容易ではないとの周知かつ自明の 課題が存在したものと認められる(なお、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、 本件出願日当時に存在した課題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるよ うにすることは非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調 整することができないとの記載がみられるところである。)。 そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成(「前記空調服の\n服地の内表面であって前記襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた紐1と」、\n「前記紐1が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第二 の位置に取り付けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによっ て、空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、甲41\nに「首と襟足の間隔を広くし」との記載(前記(1)イ(イ))及び紐が首の後ろにあ る旨の図示(同)があることからすると、本件公然実施発明に接した本件出願日当 時の当業者は、上記の課題を認識するものと認めるのが相当である。
(イ) 甲30発明’が解決する課題
前記(3)アの記載のとおり、甲30発明’は、「帯紐6a」に「ボタン7a」を、 「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタン7a」を複数ある 「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成を採用することにより、「帯紐\n6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調整し、もって、個人差のある腰回りの大き さに応じて介護用パンツ1を装着することを可能にするというものであるところ、\n甲30に装着の容易さについての記載(段落【0008】、【0009】、【00 11】)があることや、前記(ア)eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願日当 時に被服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願日当時 の当業者は、甲30発明’につき、これを2つの紐状部材を結んでつないで長さを 調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として認識するものと 認めるのが相当である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される 課題と甲30発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当である。
(エ)a この点に関し、被告は、本件公然実施発明の課題は空気排出口の開口部 を形成することであり、甲30に記載された技術事項とは異質のものであり、かつ、 異なると主張する。
しかしながら、前記(1)ア及びイの各記載のとおり、本件公然実施発明は、空調 服の服地の内表面であって襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた「紐1」\nと、「紐1」が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第 二の位置に取り付けられた「紐2」とを備え、「紐1」及び「紐2」を結ぶことに よって、首と襟足との間に形成される空気排出スペースの大きさを調整するもので あるところ、前記(ア)eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願日当時に被服の 技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件公然実施発明に接した 本件出願日当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するための手段であ る「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間で容易ではな いことが本件公然実施発明の課題であると認識するのに対し、前記(イ)のとおり、 本件出願日当時の当業者は、甲30発明’につき、これを2つの紐状部材を結んで つないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として 認識するものと認められるから、本件公然実施発明から認識される課題と甲30発 明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当である。本件公然実施発明が空 調服の首回りの空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、甲30 発明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すなわち、両 者が何を調整するのかにおいて異なることは、課題の共通性に係る上記結論を左右 するものではない(両者は、紐状の部材の締結により被服が形成する空間の大きさ を調整するとの目的ないし効果において異なるものではない。)。 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
b 被告は、本件発明3の課題は斬新であり、これは本件公然実施発明の課題と 甲30に記載された技術事項の課題との共通性を否定する事情となると主張する。 しかしながら、仮に、本件発明3の課題が斬新であったとしても、そのことによ り、本件公然実施発明から認識される課題や甲30発明’が解決する課題に影響を 及ぼすものではないから、被告の上記主張を採用することはできない。
ウ 本件公然実施発明に甲30発明’を適用することについての動機付けの有無
(ア) 前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実施 発明に接した本件出願日当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するた めの手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間 で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するため、同じ被服の技術分野に 属する甲30発明’を採用するよう動機付けられたものと認めるのが相当である。
(イ) この点に関し、被告は、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を 調整できるとの技術常識は存在しなかったから、本件公然実施発明に甲30に記載 された技術事項を組み合わせることはできなかったと主張し、その根拠として、本 件明細書の段落【0006】の記載を挙げる。 しかしながら、前記1(1)のとおり、本件明細書の段落【0006】には、一組 の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは非常に難しく、ほとんどの着 用者は空気排出口の開口度を適正に調整することができなかったことなどが記載さ れているにすぎず、この記載から、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度 を調整することはおよそできないとの技術常識が存在したものと認めることはでき ない。その他、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を調整することはお よそできないとの技術常識が存在したものと認めるに足りる証拠はない。

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令和4(行ケ)10012等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年2月16日  知的財産高等裁判所

齋藤創造研究所の特許についてAppleが無効審判を請求し、特許庁は無効理由なしと判断しました。知財高裁は、審決を維持しました。被告は、IPOD関連のクリックホイールの発明について特許権を有しており、別訴でAppleから不存在確認訴訟を提起され、反訴請求し、約3億円の損害が認められています(平成19(ワ)2525)。

甲1発明は、前記(1)のとおり、従来の制御信号供給装置では、制御信号 を継統的に発生させることができず、 磁気テープに対する連続的な走行 制御が行えないという課題を解決するため、接触操作面を有するととも にこれに関連して円環状に配列された複数の接触操作検出区分が設けら れ、各接触操作検出区分から出力されるタッチパネルとの構成を採用し、\nテープ駆動系に供給される制御信号を、特殊変速再生モード状態におい て磁気テープを所望の一方向に、所望の速度で走行させる制御を任意の 時間だけ連続的に行えるようにしたものである。 一方、周知技術1は、タッチ位置検知手段(タッチパネル)により一次 元又は二次元座標上の位置データを検出することで画面上のカーソル等\nの位置データが設定され、プッシュスイッチ手段により当該設定された 位置データが確定されて入力情報となるものと理解できる。そうすると、 周知技術1は、位置データを入力する装置に関する技術であって、タッ チパネルとプッシュスイッチが協働して位置データを入力する機能を果\nたすものであるといえる。
磁気テープの走行方向や走行速度を制御するための甲1発明のタッチ パネルと、走行方向や走行速度という要素を含まない位置データを入力 する装置に関する周知技術1とは、制御する対象が異なるし、たとえ両 者がタッチパネルという共通の構成を有するとしても、磁気テープの制\n御信号供給装置である甲1発明において、位置データを入力する装置に 関するものである周知技術1を適用することが容易であるとはいえない。 結局のところ、甲1発明に、周知技術1を適用できるとする原告らの 主張は、実質的に異なる技術を上位概念化して適用しようとするもので あり、相当でない。 仮に、周知技術1を、タッチパネルによる選択をプッシュスイッチで 確定して何らかの入力情報を生成する技術であると上位概念化して理解 したとしても、甲1発明は、プッシュスイッチに割り当てるべき機能(選\n択を確定する機能)をそもそも有さないし、甲1文献には、タッチパネル\nにより磁気テープの走行方向や走行速度を連続制御することは記載され ているが、タッチパネルにより選択された走行方向や走行速度を確定す る操作や、当該操作に対応するボタン等の構成は記載も示唆もないから、\n甲1発明に、周知技術1を適用する動機付けがない。
原告らは、前記第3の1(1)ア のとおり、甲1発明のタッチパネル1 1も接触点を一次元座標上の位置データDpとして検出するものである し、本件特許発明であれ周知技術1であれ、タッチパネルの下にプッシ ュスイッチを設けることの作用効果は、タッチパネルの下にプッシュス イッチを設けること自体に由来するものであって、プッシュスイッチの 上にあるタッチパネルの形状等や操作態様等にも依存しないから、周知 技術1は、上位概念化するまでもなく甲1発明に適用可能であり、当該\n適用は、先行技術の単なる寄せ集め又は設計変更である旨主張する。
しかし、原告らの主張は、前記 において説示した、甲1発明において 選択を確定する機能がない点等を看過しているものであるし、周知技術\n1において、位置データを入力する機能はタッチパネルの形状や操作態\n様等には依存しないとしても、そのことが同周知技術におけるタッチパ ネルとプッシュスイッチの機能的又は作用的関連を否定する根拠とはな\nらないし、機能的又は作用的関連が否定できない以上、周知技術1を甲\n1発明に適用することが単なる寄せ集め又は設計変更とはいえない。し たがって、原告らの上記主張は採用できない。

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平成19(ワ)2525はこちら。

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令和4(行ケ)10007  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月18日  知的財産高等裁判所

 容易想到性の判断に当たり、主引用例の選択の場面では、請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決すべき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している必要はないとして、進歩性なしとした審決が維持されました。

原告らは、本願発明は、多数の作用効果を有機的に組み合わせた統合 システムの発明であるのに対し、引用発明は、圧縮機の吸込容積を可変 とするものにすぎず、その具体的な課題や作用・機能は全く異なってお\nり、この観点からも、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想 到するための動機付けはないと主張するので(前記第3の3〔原告らの 主張〕(2)ウ)、この点について検討する。 原告らの上記主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、容易想到性の判 断に当たり、請求項に係る発明と主引用発明との間に具体的な課題や作 用・効果の共通性を要するという主張であるとすれば、主引用例の選択 の場面では、そもそも請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決す べき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している 必要はないというべきである。これを本件についてみるに、本願発明の 課題は、「冷媒が循環する冷媒回路と水(熱搬送媒体)が循環する水回路 (媒体回路)とを有しており、熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させて 室内の空調を行うチラーシステム(熱搬送システム)において、媒体循 環を構成する配管を小径化するとともに、環境負荷の低減及び安全性の\n向上を図ること」(段落【0005】)であって、格別新規でもなく、い わば自明の課題というべきものであり、二酸化炭素を熱搬送媒体として 採用した引用発明においては解決されているといえるものである。
また、原告らは、本願発明が奏する効果についても主張するので、こ の点について検討すると、本願発明の、冷房と暖房が可能であるという\n効果(段落【0007】及び【0061】)、及び複数の室内の冷房及び 暖房をまとめて切換可能であるという効果(段落【0062】)は、本願\n発明が、冷媒流路切換機及び第1媒体流路切換機を備えることによる効 果であるところ、引用発明においても、第1四方弁150と第2四方弁 250を備えるから、冷房と暖房が可能であるし、複数の室内空気熱交\n換器(相違点2に係る本願発明の構成)を備える場合には、第2四方弁\n250と連結された室内熱交換機の数が増えるのみであると考えられる から、複数の室内の冷房及び暖房をまとめて切換可能であるという効果\nも当然に奏されることになる。そして、1次側にR32冷媒(相違点1 に係る本願発明の構成)を採用した場合でも、そのような効果を奏する\nことに変わりはない。配管小径化、省スペース化・配管施工及びメンテ ナンス省力化、媒体使用量削減を図ることができるという本願発明の効 果(段落【0008】、【0063】)は、本願発明が熱搬送媒体として二 酸化炭素を採用したことによって奏するものであり、これは、引用発明 も、熱搬送媒体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏する ものである。着火事故を防止できるという本願発明の効果(段落【00 09】及び【0064】)は、室内側に配置される媒体回路に二酸化炭素 を用いていることによるものであるが、これは、引用発明も、熱搬送媒 体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏するものである(甲 11の段落【0062】)。また、本願明細書等には、HFC−32(R 32)を冷媒として採用する冷媒回路を構成する配管を室内側まで設置\nする必要がないとの記載もある(段落【0009】及び【0064】)が、 本願の特許請求の範囲の請求項1の記載及びその記載により認定される 本願発明では、冷媒回路が室内側に設置されていないことは特定されて いないので、上記の効果は、本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記 載に基づくものとは認められない。さらに、技術常識D及びFに照らせ ば、引用発明のプロパンは強燃性であるのに対し、本願発明のR32は 微燃性であることから、着火事故を防止できるという効果は、引用発明 に比べると本願発明が優れていると解されるが、引用発明において相違 点1に係る本願発明の構成を採用することにより、自ずと奏するように\nなる効果である。環境負荷を低減するという本願発明の効果(段落【0 010】及び【0065】)は、R32と二酸化炭素を採用したことによ るものであるところ、引用発明において相違点1に係る本願発明の構成\nを採用することにより自ずと奏されるものである。そうすると、原告ら が本願発明の効果として主張するものは、引用発明も奏するものである か、又は相違点1に係る本願発明の構成を採用することにより自ずと奏\nするものであり、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想到す るための動機付けを否定するに足りるような顕著なものではない。 したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 組み合わせの阻害要因について
原告らは、プロパンは、冷媒の能力として、寒冷地での使用が困難であ\nるから、これをR32に代替することには阻害要因があると主張する(前 記第3の3〔原告らの主張〕(3))。 しかし、本願発明においては、寒冷地での使用の可否など冷房又は暖房 の能力に関連する特定はなく、引用文献1にも、引用発明において、特に\n寒冷地での使用が困難なプロパンのような冷媒を採用することに技術的 意味があることをうかがわせるような記載はないから、引用発明のプロパ ンをR32に代替することに阻害事由があるとは認められない。 また、原告らは、着火事故の防止というビル用マルチの決定的課題に反 する選択となるので、引用発明をビル用マルチに使用することには阻害要 因があると主張する(前記第3の3〔原告らの主張〕(3))。
しかし、本願発明がビル用マルチに限定されたものでないことは前記3 (1)イのとおりであるし、仮に本願発明がビル用マルチに適用されるとして も、引用発明で採用されている強燃性のプロパンを微燃性のR32に置き 換えることは、ビル用マルチに要請される性能に必ずしも反するものでは\nなく、むしろそれにそう面もあるから、原告らの上記主張は採用すること ができない。

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令和4(行ケ)10039  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年12月21日  知的財産高等裁判所

CS関連発明について、進歩性無しとした審決が維持されました。出願人はぐるなびです。

ア 前記(1)のとおり、相違点3は、施設端末に予約内容を通知した後、ユーザー\n端末に第2施設の情報を通知する処理を行うことにつき、本願補正発明では、前記 施設端末からの返信を有効に受け付ける期間として予め設定された待機期間内に前\n記施設端末からの返信がない場合であるのに対し、引用発明では、施設端末から受 信する予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合である点で相違する というものである。
イ ところで、施設の予約は、利用日又は利用日時を指定して行うものであり、\n予定される利用日又は利用日時よりも前に予\約を完了するという本来的な要請があ る。そして、引用発明は、ある特定の施設の予約を目的とするものではなく、利用\n者の希望する条件に合致した複数の施設を対象とし、一つの施設の予約ができなか\nった場合に、別の施設の予約をすることが可能\であるような施設予約システムにお\nける予約方法であるところ、前記2(1)イのとおり、引用発明における施設予約シス\nテムは、「施設予約情報サーバ30から、当該予\約情報に基づく、自動的、あるいは 宿泊施設の予約担当者により判断される予\約登録可否(OKかNG)の予約結果情\n報を受信し、」「受信した予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合」 に、次の候補となる施設の検索をしてユーザーに送信して、ユーザーが別の施設の 予約を行うものとされているから、施設端末に当たる「施設予\約情報サーバ」から の予約結果情報の受信は、宿泊施設の予\約担当者による判断の時期によっては、相 当程度に遅くなる場合も想定され、その間に、当初の検索条件に合致する別候補の 施設の予約枠が埋まってしまうこともある。\nそうすると、引用発明には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nないおそれがあるといえる。
ウ 次に、前記2(2)イの引用文献2記載技術をみると、宿泊施設の仮予約におい\nて、「ホテル端末103が宿泊可否の通知を一定時間経過(タイムアウト)しても行 わなかった場合、ホテル端末103に対して、キャンセルの通知を送信し、次のホ テルへ空き問い合わせ情報を送信する」ものであるから、甲2には、施設端末が、 一定時間を経過しても予約可否の回答をしなかった場合には、キャンセルとして扱\nい(以下「タイムアウト処理」という。)、次の施設に問い合わせるという技術が開 示されているといえる。そして、予定される利用日又は利用時間よりも前に、タイ\nムアウト処理をして、次の施設に問合せをすることで、最初に問合せをした施設か らの回答を待っていたために、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nなくなるという事態を回避するのに、一定の効果があると認められる。
エ ところで、引用発明と引用文献2記載技術とは、複数の施設を対象とした施 設予約システムにおける施設予\約方法という共通の技術分野に属するものであって、 第1施設に対して予約可否の問合せを行い、第1施設から予\約不可の返信を受けた 場合には第1施設に類似する他の施設を抽出するという手法も共通するところ、前 記イのとおり、引用発明において、第1施設から予約可否の返信が長時間送信され\nない場合には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件\nに合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあ\nるところ、上記本来的な要請を満たすために、第1施設からの予約可否の返信を長\n時間待ち続けるという事態を回避しようとすることは、当業者であれば当然に着想 するものと認められるから、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を 適用する動機付けがあるといえる。 そして、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を適用すると、引用 発明は、施設端末からの返信を有効に受け付ける期間としてあらかじめ設定された 待機期間内に前記施設端末からの返信がない場合には、予約結果情報の予\約登録可 否の結果がNGであった場合と同様に、予約内容に基づいて第1施設を除く一又は\n複数の第2施設を抽出し、前記抽出された一又は複数の前記第2施設の情報を前記 ユーザー端末に通知する処理を行うことになる。 そうすると、相違点3に係る構成は、引用発明に引用文献2記載技術を適用する\nことより、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。

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令和4(行ケ)10021  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

「吹矢の矢」の特許についての審決取消請求事件です。特許庁が無効理由無しとした審決が維持されました。侵害訴訟については1審は侵害と認定しましたが、知財高裁は技術的範囲に属しないと判断しています。

ア 事案の内容に鑑み、まず、相違点2−1−cに関する容易想到性について検 討する。
イ 前記4(1)及び(2)によると、甲2及び3には、前記第2の3(3)ア(ア)aのよ うに本件審決が認定する「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方 に延びる円柱部とからなるピンを備えた吹矢に使用する矢」(甲2・3技術事項) が記載されていると認められるが、それら甲2及び3に記載された矢は、いずれも、 (円錐形の)フィルムを備えたものではない。 また、前記4(3)によると、甲4において、重りの釘2)は頭部を矢の後方(プラス ティックフィルム1)が巻かれた側)に位置しており、フィルムに釘の円柱部全てが 差し込まれているものではなく、フィルムの先端部に重りの釘2)の頭部が接続され ているものでもない。 したがって、仮に、甲1発明に甲2〜4を適用しても、相違点2−1−cに係る 本件発明の構成には至らないから、甲2〜4は相違点2−1−cについての容易想\n到性を基礎付けるものではない。
ウ(ア) これに対し、甲5発明の矢については、釘4の円柱状部分全てがスカート 部6に差し込まれて固着されるとともに、スカート部6の先端部に連続して釘4の 丸い頭部4aが接続されているといえる。
(イ) しかし、甲1発明の矢は、矢軸5の後方に中空円錐状の羽根部6が篏合固着 されており、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着することについて、甲1に これを示唆し、又は動機付ける記載があるとは認められない。 この点、甲1において、矢じりは金属製とされ、標的台は台板と紙とクッション ボードから成るものとされ、クッションボードについては所定厚さ(約20mm)が 明記され、全長約10cmの吹矢の約5分の1程度を矢じり4及び矢軸5が占める第 3図が掲載され、吹矢の当たった状態を示すとされる第6図においては矢じり4の 先端が台板8に接している状態が示されていることを考慮すると、甲1において吹 矢が標的面に当たり「小気味の良い音」を発するについては、矢じり4の先端が台 板に到達することが少なからず寄与していることが窺われる。それにもかかわらず、 仮に矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着した場合、第6図のように矢じり4 の先端が台板に到達するかには疑問を差し挟む余地がある。このことは、甲1発明 の矢について、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採用す\nることを阻害する事情となり得るところである。
(ウ) そうすると、甲1発明に甲5発明を適用することについては、示唆も動機付 けもなく、むしろ阻害要因があるともいえるから、甲1及び5に基づいて、当業者 において相違点2−1―cに係る本件発明の構\成とすることが容易になし得たもの とはいえない。
エ したがって、相違点2−1のうちその余の点について判断するまでもなく、 相違点2−1に係る本件発明の構成が容易想到であるとはいえない。\n
オ 原告の主張について
(ア) 原告は、羽根部分がピンから外れ、又は前側(円頭形部分側)にフィルムが ずれてしまうことから、甲1に接した当業者であれば、甲5に開示のようにフィル ムに円柱部を全て差し込む構成とする必要があり、動機付けがある旨を主張する。\n原告の上記主張は、動機付けとして、甲1や甲5の記載を根拠とするものではな く、物理法則ないし技術常識を指摘するものと解されるところ、原告が上記主張の 根拠として提出する実験結果報告書(甲12)については、実験に用いられた吹矢 の矢の素材や寸法等も明らかでなく(なお、甲1においては、羽根は、紙又は合成 樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより形成された最大外径10〜12mmの軽量 なものとされ、矢の全長は約10cmであるとされている。)、甲1発明の矢を適切 に再現した上でされた実験であることが担保されているとはみられない。また、そ の内容に沿わない被告提出の報告書(乙1)も存在する。さらに、接着剤の詳細に ついても不明であり、より強固な接着力を有する接着剤を選択するという方法が存 在しないことも裏付けられていない。したがって、前記報告書(甲12)に基づい て原告の主張するような動機付けがあると認めることはできず、その他、甲1発明 について矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採る動機付け\nとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。 したがって、原告の上記主張は前記イ〜エの判断を左右するものではない。
(イ) 原告は、1)矢軸の途中にフィルムを巻き付ける構成とした場合、ピンの軸が\nフィルムの中央を通るように固定することが困難となり、上下方向で重心のブレを 生じ、命中精度に影響し得ること、2)上記構成とすると、吹矢を量産する際に差し\n込む部分の長さを一定にするための位置決めが困難であるのに対し、フィルムに円 柱部を全て差し込む構成とすると、同じ長さの吹矢を容易に製造することが可能\と なるといった点を踏まえても、甲1発明に甲5発明を適用する動機付けがあると主 張するが、命中精度や製造の容易性に関して甲1に示唆や動機付けというべき記載 は認められず、他に上記1)及び2)の点に関して甲1発明に甲5発明を適用する動機 付けとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。

◆判決本文

侵害訴訟の控訴審はこちら。

◆令和3(ネ)10049等

1審はこちら。

◆平成31(ワ)2675

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令和3(行ケ)10165 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月30日  知的財産高等裁判所

 動機づけなし・阻害要因ありとして、進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。

ア 本件発明1と甲2発明1との相違点1ないし4は、前記第2の3(3)イの とおりであるところ、これらはいずれも本件発明1における伸縮部を備え ているか否かをその内容とするものといえる。 そこで、以下、本件特許が出願された当時の当業者が、甲2発明1、甲 4発明及び甲5公報ないし甲7公報から認定される周知技術に基づいて、 甲2発明1について上記伸縮部を備えることを容易に想到し得たか否か について検討する。
イ まず、主引用発明である甲2発明1について検討するに、甲2公報にお いて、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能なものとすることが記載又は示唆\nされているというべき記載は見当たらない。 また、前記(1)のとおり、甲2発明1は、盗難防止用連結ワイヤの一方を ドアノブや玄関周り固定物に接続し、他方を宅配容器本体に接続するもの であるところ、甲2公報の段落【0022】並びに図3及び図4の記載に よれば、甲2発明1の盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側のドアノブや建 物内部の玄関周り固定物に接続するものであるといえる。さらに、甲2公 報の段落【0022】及び図3の記載によれば、甲2発明1において、配 達物を収納していないときの形態の宅配容器本体をドアノブに掛ける際 には、宅配容器本体に備えられた「宅配容器取っ手」を使用することとさ れている。
このように、甲2発明1においては、配達物を収納していないときの形 態の宅配容器は、「宅配容器取っ手」を使用して玄関外側のドアノブに掛け られ、他方で、宅配容器に接続された盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側 のドアノブや建物内部の玄関周り固定物に接続することとなるのである から、同ワイヤは、これを可能とするのに十\分な長さを確保する必要があ るといえる。そうすると、配達物を収納していないときの形態における甲 2発明1においては、盗難防止用連結ワイヤの長さを、ドアの一部に吊り 下げられるように短縮する構成は採用し得ず、そのような構\成を採る動機 付けは存しないというべきである。
以上によれば、甲2発明1において、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能\nなものとすることは動機付けられないというべきである。なお、上記に照 らすと、甲2発明1においては、少なくとも相違点3に係る本件発明1の 構成を採ることについて、阻害要因が存するというべきである。\n

◆判決本文

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令和3(行ケ)10136等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月31日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(2部)は、進歩性判断における動機付けについて「当該構成を得るためにフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用しようとする動機付けはない」として、進歩性無しとした審決を取り消しました。

 前記1(2)のとおり、本件発明1は、溶融前の半田片をノズルの内壁及び端 子の先端に必ず当接させるとともに、溶融した半田片を必ず真球にならないまま端 子の上に載った状態で下方に移動しないように停止させ、ノズルからの熱伝導等に より半田片及び端子を十分に加熱し、これにより適正温度での半田付けを実現する\n結果、半田付け不良の防止という効果を奏するものである。これに対し、甲1には、 ランドに接地した糸半田が貫通孔の周壁から輻射熱、伝導熱及び対流熱により加熱 され、遜色なく溶解され、より的確な半田付けが可能になった旨の記載はみられる\nものの(段落【0023】及び【0042】)、溶融した半田が必ず真球にならな いまま停止すること、すなわち、溶融後も半田がノズルの内壁に当接し続けること により半田片及び端子が十分に加熱されることについての記載及び示唆はないから、\n甲1に接した当業者にとって、溶融した半田が必ず真球にならないとの構成が解決\nしようとする課題及び当該構成が奏する作用効果を知らないまま、当該構\成を得る ためにフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用しようとする動機付け はないものといわざるを得ない。
(6) なお、証拠(甲39)及び弁論の全趣旨によると、フラックスの含有量が 小さい半田を用いると、半田付け不良の原因になるものと認められる。
(7) 以上によると、使用する半田に含有されるフラックスの量についての記載 及び示唆がない甲1に接した当業者にとって、甲1発明においてフラックスの含有 量が1wt%の半田をわざわざ採用し、溶融した半田が必ず真球にならないとの構\n成を得ることが容易になし得たものであったと認めることはできず、その他、当業 者が甲1発明に基づいて溶融した半田が必ず真球にならないとの構成を得ることが\n容易になし得たものであったと認めるに足りる証拠はない。 なお、乙3(技術説明資料・17頁)には、甲1発明においてフラックスの含有 量が2wt%以下の半田を用いても必ず真球にならないとの構成を得ることができ\nる旨の記載があるが、半田が溶融した際に形成される球の直径を求めるに当たって は、フラックスの組成、半田の組成、半田の熱膨張、ノズルの熱膨張等の諸般の要 素につき詳細な検討が必要であるから、乙3が引用する甲33(原告の特許庁審判 長に対する回答書)の計算結果並びに残存するフラックスの影響及び半田の熱膨張 の影響のみを考慮することによっては、甲1発明においてフラックスの含有量が2 wt%以下の半田を用いた場合に必ず真球にならないとの構成を得るものと認める\nことはできない。

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令和3(行ケ)10131  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月22日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。原告は阻害要因ありを主張しましたが、「専門の技術者がこれを行うことを常に想定しているということはできない」としてこれを否定しました。

(3) 前記(2)の記載によると、甲4の「スクリーン保護膜30」が本件発明1の 「保護シート」に相当し、「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」が それぞれ本件発明1の「第2剥離部」及び「第1剥離部」に相当することは明らか である。そして、甲4の「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」は、 それぞれ「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」から、「スクリーン 保護膜30」の外側に延びるように設けられ、「第一の離型膜341」及び「第二 の離型膜342」を剥がす際に手で持つ部分であるから(段落【0025】、【0 026】、【図4】〜【図6】)、いずれも本件発明1の「延出部」に相当すると いえる。
ここで、甲4において「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」を設 けたのは、手で「第一の突起部343」又は「第二の突起部344」を持って、そ れぞれ「第一の離型膜341」又は「第二の離型膜342」を便利に剥がせるよう にするためである(段落【0025】)。そうすると、甲4に記載された発明とそ の属する技術分野を同じくする甲3−1発明(その内容は、前記第2の3(2)ア (ア)のとおり)においても、そのような利便性を図るため、甲4に記載された「第 一の突起部343」及び「第二の突起部344」の構成を適用して本件発明1の\n「延出部」を設けることは、本件優先日当時の当業者において容易に想到し得たこ とであると認められる。
(4) この点に関し、原告は、甲3−1発明に甲4に記載された「第一の突起部 343」及び「第二の突起部344」の構成を適用することには、阻害要因がある\n旨主張するが、以下のとおり、これを採用することはできない。
ア 原告は、まず、甲3−1発明はその貼付の対象として超大型のディスプレイ\nパネル(最低でも17インチのものであり、適するのは82インチのものであり、 更にそれより大きいものを含む。)を想定しており、その貼付を行うのは専門の技\n術者であるから、本件発明1の「延出部」のような部材は不要である旨主張する。 そこで検討するに、前記(1)のとおり、甲3には、甲3−1発明の光学フィルム を貼付する対象が「大型ディスプレイパネル」であり、「大型」とは17インチか\nら82インチ程度までのものをいう旨の記載がある(前記(1)イ、ケ等)。また、 特許請求の範囲においては、保護フィルムの貼付の対象となる大型ディスプレイパ\nネルが少なくとも17インチのものである旨の特定がされている(前記(1)ツ)。
さらに、実施例1においては、甲3−1発明の光学フィルムは40インチの大型液 晶テレビに貼付され、実施例2においては、甲3−1発明の光学フィルムは23イ\nンチのコンピュータディスプレイに貼付されている(前記(1)ソ及びタ)。これら\n甲3全体の記載を参酌すると、甲3の「要約」に、「この方法は、対角線208c m(82インチ)の可視領域を有するような大型ディスプレイパネルでの使用に適 している。」との記載があること(前記(1)ア)を考慮しても、甲3−1発明が8 2インチ程度の大型ディスプレイパネルのみをその貼付の対象としていると認める\nことはできず、甲3−1発明は、幅広い大きさの範囲(17インチないし82イン チ程度)のディスプレイパネルをその貼付の対象とするものであると認めるのが相\n当である。そして、17インチ程度の大きさのディスプレイパネルに光学フィルム を貼付することが専門の技術者でなければ行えないとみるべき事情もない。そうす\nると、甲3−1発明の光学フィルムの貼付については、専門の技術者がこれを行う\nことを常に想定しているということはできないから、原告の上記主張は、その前提 を欠くものとして失当である(なお、原告が主張する「把持部」(本件発明1の 「延出部」に相当する部材)は、甲4における「第一の離型膜341」及び「第二 の離型膜342」を剥がすのに便利な「第一の突起部343」及び「第二の突起部 344」と同様の機能を有するものであるところ(甲4の段落【0025】等参\n照)、甲4の「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」は、甲3―1発\n明の分離剥離ライナーである「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」に対 応するものである。専門の技術者であったとしても、分離剥離ライナーを剥がすた めに「把持部」を設けることは便利となるものであって、仮に、甲3−1発明の光 学フィルムがその貼付を専門の技術者が行うことを想定しているとしても、そのこ\nとから直ちに、甲3−1発明の光学フィルムにおいて、分離剥離ライナーである 「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」を剥がすのに便利な「把持部」を 設けることが不要になるわけではない。)。
イ 原告は、また、甲3−1発明の光学フィルムの貼付作業に利用できるように\n「把持部」を形成する場合、最低でも10cm程度の大きさ(これは、「把持部」 と「第1の部分38a」又は「第2の部分38b」が接する部分の長さをいうもの と解される。)が必要になるところ、そのような大きさの「把持部」が形成される と、甲3が想定する精度で貼付作業を行うことができなくなる旨主張する。\nしかしながら、甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を形成する場合、最低 でも10cm程度の大きさを必要とするとの原告の主張は、何ら客観的な根拠を有 するものではないし、上記アのとおり、甲3−1発明の光学フィルムは、17イン チのディスプレイパネルをもその貼付の対象とするものであるから、その場合にも、\n「把持部」を形成するのであれば最低でも10cm程度のものが必要であるという ことはできない(なお、原告の上記主張は、甲3−1発明の光学フィルムの貼付の\n対象として、82インチ程度の超大型ディスプレイパネルのみが想定されているこ とを前提とするものと解されるが、その前提が成り立たないことは、前記アのとお りである。)。したがって、原告の上記主張も、前提を誤るものとして失当である。 ウ 原告は、さらに、甲3−1発明の光学フィルムは、ディスプレイパネルの周 囲に大きな段差のあるフレームがあるような場合に使用されることを想定している ところ(甲3の図面)、そのような場合に「把持部」を形成すると、フレームと 「把持部」が干渉してしまい、甲3−1発明の光学フィルムの位置決めが不可能に\nなる旨主張する。
確かに、甲3の図面の中には、ディスプレイパネルの周囲にフレームがあり、段 差が生じていると見て取れるもの(図7a等)がある。しかしながら、実施例1に おいては、甲3−1発明の光学フィルムは大型液晶テレビに貼付され、実施例2に\nおいては、甲3−1発明の光学フィルムはコンピュータディスプレイに貼付されて\nいるところ(前記(1)ソ及びタ)、大型液晶テレビやコンピュータのディスプレイ\nパネルの周囲に必ず段差のあるフレームが存在するわけではないから、甲3−1発 明の光学フィルムが、常にディスプレイパネルの周囲に大きな段差のあるフレーム があるような場合に使用されることを想定しているということはできない。したが って、原告の上記主張も、その前提を誤るものとして失当である。
エ なお、原告は、実験報告書(甲28の3、甲36)を根拠に、甲3−1発明 の光学フィルムを巨大なディスプレイパネルに貼付する場合、「把持部」があると、\nかえって作業に支障を来す旨主張する。
しかしながら、上記実験において用いられたのは、82インチの光学フィルムの みであるところ、前記アのとおり、甲3−1発明は、常に82インチ程度の光学フ ィルムであることを前提としているわけではないから、82インチよりも小さいサ イズの光学フィルムを用いた実験を省略する上記実験は、17インチないし82イ ンチ程度といった幅広い大きさの範囲でディスプレイパネルに貼付することを前提\nとする甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を設けることの不都合さを示す実 験としては、十分なものではない。加えて、23インチのディスプレイパネル及び\n82インチのディスプレイパネルに貼付することのできる2種類の光学フィルムを\n用いた被告の実験結果(「延出部」を設けても貼付作業に支障を来さず、むしろ有\n用であったとするもの。乙1、2)にも照らすと、原告の上記実験結果によっても、 甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を設けると貼付作業に支障を来すことに\nなると認めることはできず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。

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令和3(行ケ)10082  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年5月31日  知的財産高等裁判所

 引用発明では、本願発明と共通する課題が異なる別の手段によって既に解決されているので、組み合わせの動機付けがないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。。

しかしながら、前記1 で検討したとおり、本願発明は、被覆層を除 去してコア電線を露出させる作業の作業性に関し、コア材の外周面に粉 体が塗布された従来のケーブルには、コア材を取り出す作業の際に粉体 が周囲に飛散し、作業性が低下してしまうという課題があったことから、 コア電線と被覆層との間に、コア電線に巻かれた状態で配置されたテー プ部材を備える構成とすることにより、テープ部材を除去することによ\nって容易にコア電線と被覆層とを分離することができるようにして、上 記課題を解決しようとする点に技術的意義を有するものである。 他方で、前記2 イで検討したとおり、引用発明は、線心の取り出し を容易に行うことができるようにすることを課題の一つとする発明で あり、この点で本願発明と課題を共通にするものといえるが、電源用線 心及び信号用線心の外周をシースで覆うのみの形で被覆する構成とす\nることによって上記課題を解決しようとするものであり、本願発明とは 課題を解決する手段を異にするものといえる。
このように、引用発明においては、本願発明と共通する課題が本願発 明とは異なる別の手段によって既に解決されているのであるから、当該 課題解決手段に加えて、両線心をテープ部材で巻き、その結果、両線心 とシースとの間にテープ部材が配置される構成とする必要はないという\nべきである。そして、引用発明に上記のような構成を加えると、線心を\n取り出そうとする際に、シースを除去する作業のみでは足りず、更にテ ープ部材を除去する作業が必要となることから、かえって作業性が損な われ、引用発明が奏する効果を損なう結果となってしまうものといえる。 加えて、甲1公報をみても、引用発明の効果を犠牲にしてまで両線心を テープ部材で巻くことに何らかの技術的意義があることを示唆するよう な記載は存しない。 以上によれば、引用発明に上記周知技術を適用することには阻害要因 があるというべきであるから、相違点3に係る「前記コア電線のみを巻 くテープ部材」という構成の意義について検討するまでもなく、本件原\n出願日当時の当業者が、引用発明及び上記周知技術に基づいて、相違点 3に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものとはいえない。\n
イ 相違点4に係る容易想到性
相違点4に係る本願発明の構成は、相違点3に係る本願発明の構\成であ る「テープ部材」を含むものであるところ、上記アで検討したところによ れば、相違点4に係る「前記テープ部材上に形成された被覆層」という構\n成の意義について検討するまでもなく、本件原出願日当時の当業者が、引 用発明及び上記周知技術に基づいて、相違点4に係る本願発明の構成を容\n易に想到し得たものとはいえない。
ウ 相違点6に係る容易想到性
相違点6に係る本願発明の構成は、相違点3に係る本願発明の構\成であ る「テープ部材」を含むものであるところ、上記アで検討したところによ れば、本件原出願日当時の当業者が、引用発明及び上記周知技術に基づい て、相違点6に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものとはいえない。\n
エ 相違点3、4及び6に係る被告の主張に対する判断
被告は、相違点3に関し、1)甲1公報には引用発明が簡素な構成を課\n題解決手段としたものであることについては何も記載されていない、2) 甲1公報に記載された電源用線心及び信号用線心の取り出しが容易に行 えるという効果は従来例と比較しての記載にすぎない上、線心がシース 内に埋め込まれている従来例及び線心をシースで覆う引用発明のいずれ が簡素な構成であるかは不明である、3)甲1公報に記載された実施例に ついて、両線心の外周がシースで覆われているのみであるとしても、甲 1公報には両線心の上に何らかの部材を介在させることを排除する記載 はないことを理由に、引用発明にテープ部材を介在させることについて、 原告が主張するような阻害要因があるとはいえない旨主張する(前記第 3の〔被告の主張〕3 エ)。
しかしながら、前記2 イで検討したとおり、引用発明は、線心の取 り出しを容易に行うことができるようにすることを課題の一つとする発 明であり、電源用線心及び信号用線心の外周をシースで覆うのみの形で 被覆する構成とすることによってこの課題を解決しようとするものであ\nるといえることからすれば、上記1)の主張は理由がないというべきであ る。 また、上記周知技術の適用が引用発明の効果に及ぼす影響については、 引用発明の構成を前提に検討すべきものであって、従来例と対比して検\n討すべきものではないから、上記2)の主張は理由がないというべきであ る。 さらに、甲1公報には、線心上に何らかの部材を介在させることを排 除する明示的な記載はないものの、上記アで検討したとおり、引用発明 における課題解決手段及びその効果を考慮すれば、引用発明に上記周知 技術を適用すると、線心の取り出しを容易に行うことができるようにす るという引用発明の効果を損なう結果となってしまうというべきである から、上記3)の主張も理由がないというべきである。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
 被告は、相違点4及び6に係る容易想到性についても縷々主張するが、 これまで検討したとおり、当業者が相違点3に係る本願発明の構成であ\nる「テープ部材」を容易に想到し得たものとはいえない以上、相違点4 及び6に係る本願発明の構成も容易に想到し得たものとはいえないから、\nいずれの主張も前記の判断を左右するものではないというべきである。

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令和3(行ケ)10055 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年3月28日  知的財産高等裁判所

 スマホの操作関連の発明について、公然実施発明から進歩性無しと判断した審決が維持されました。無効審判請求人(本件被告)はApple Japanです。

 公然実施発明と甲3発明1は、技術分野や作用機能を共通にし、甲3文献に接した当業者であれば、公然実施発明には、スリープ状態にお\nいてホームボタンを押してから認証を経てデバイスにアクセスできるま での一連の動作に関して、デバイスのホームスクリーン又はメニューを 表示する前に、本人認証のためにパスコードの入力を要求することは、パスコードが知られたり、パスワードを忘れたりするという、甲3発明\n1と共通の技術課題が存在することを想起するものといえ、公然実施発 明において、許可されていない人物がユーザの個人情報にアクセスし、 閲覧することを防ぐため、デバイス機能を有効にする前又はデバイスリソ\ースにアクセスする前の起動時に、デバイスが迅速にユーザを認証することを目的とした甲3発明1を適用する動機付けがあるといえる。
(イ) 原告は、前記第3の1(1)イ(イ)のとおり、公然実施発明では、本件 発明1のように、使用者識別機能を、使用者の操作以外の追加の操作をすることなく、実行するという技術思想は全くない旨主張するが、前記\n(ア)のとおり、甲3発明1に接した当業者であれば、公然実施発明が有 する技術課題及び甲3発明1の適用を想起するものといえ、原告の主張 する当初の技術思想の相違は、その後の技術適用の動機付けの有無と直 接関係するものとはいえないから、原告の上記主張は当を得ないという べきである。
また、原告は、公然実施発明において、ディスプレイがオンにされた 後に、更にディスプレイ上のスライダをドラッグすることで初めて認証 を実行することには、ユーザの誤操作(意図せざる操作等)による誤動 作を防止するという意義があるから、これを改変して本件発明1のよう に構成することは、公然実施発明の技術的意義・機能\を損なう旨の主張 もするが、甲3発明1の使用者識別機能を採用し、指紋によるユーザ認証をしても、認証に係る誤操作は防止できるから、公然実施発明の技術\n的意義・機能を損なうことにはならない。なお、仮に、原告がホーム画面の誤作動防止に係る機能\をも指摘しているとしても、そもそも本件発明1においては、ロック画面からホーム画面への移行の仕方については 何ら規定していないから、操作入力を行った使用者が正当な使用者と認 証された場合に、ディスプレイ上のスライダをドラッグすることで初め てホーム画面に移行する構成も本件発明1の構\成に含まれることにな り(現に本件明細書の図1等においてもスライダが表示されているところである。)、スライダを取り除く改変をしなければ本件発明 1 の構成に至らないわけではないから、原告の主張は前提を誤るものといえる。\nしたがって、原告の主張は、いずれにしても採用できない。
エ 公然実施発明に甲3発明1を適用した場合に、本件発明1の構成に容易に想到するかについて\n
(ア) 甲3発明1において、指紋による認証の結果を得るには一定の時間 を要することは、明らかである。また、公然実施発明に甲3発明1を適 用することで、ホームボタンを押下すると、起動によりディスプレイが オンになり、それと同時に指紋認証を行い(別紙4のA図右及びB図1 左)、認証が成功すれば、追加の操作を要することなく、更にホーム画面 に移行するという構成を得ることが可能\である(別紙4のB図1右)。 そして、本件発明1で特定されるロック画面は、「前記非活性状態の際 になされた前記活性化ボタンに対する使用者の操作に基づいて」「表示され」るものであって、ロックが解除されていない状態を表\示する機能以\n外は特定されていない。そうすると、公然実施発明に甲3発明1を適用 したものにおいて、ホームボタンの押下後、オンになったディスプレイ にホーム画面に移行する前に表示される画面も、客観的にロックが解除されていない状態を表\示するものであり、これを「ロック画面」ということができる。したがって、公然実施発明に甲3発明1を適用した場合、使用者によ る追加の操作なしに、指紋認識による使用者識別機能が、非活性状態からロック画面が表\示された活性状態への切り替えのための操作入力により行われるという、本件発明1の構成に容易に想到するということができる。\n
(イ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)aのとおり、甲3発明1においても、 ロックを解除するために画面上のスライダのドラッグ操作を受け付け る構成となっているから、公然実施発明に甲3発明1を組み合わせた場合には、当業者は、公然実施発明と甲3発明1の共通の技術思想をなす\n上記構成を残しつつ甲3発明1の指紋認証を行うことを想到することになり、ディスプレイが活性化された後にスライダのドラッグという追\n加の操作を要することになるから、本件発明1の構成とはならない旨主張する。しかし、前記イ(ア)aのとおり、甲3文献からは、ホームボタンの背 後にセンサを配置し、ユーザが当該ホームボタンを押下した時に、ユー ザからの明示的な入力を要求することなく、指紋による認証を行う構成も、甲3発明1として認定することができるのであるから、原告の主張\nは採用できない。
(ウ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)bのとおり、公然実施発明の構成においては、ロック状態の画面を表\示させ、その画面上に表示されるスラ\nイダがドラッグされたときに初めて、次のパスコードの入力画面に移行 し、パスコードを入力させて認証を行う、という一連の認証操作を行わ せるものであるから、公然実施発明の使用者識別機能に係る手順のうちロック状態の画面上でのスライダをドラッグする処理を排除するので\nあれば、ロック画面も用いない構成しか想到できない旨主張する。しかし、前記(ア)のとおり、「ロック画面」自体は、ロックが解除さ れていない状態を示す画面であり、スライダのドラッグ操作とロック画 面の表示を不可分一体のものとして捉えなければならない理由はないから、原告の主張は採用できない。\n
(エ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)cのとおり、公然実施発明のロック 画面は、パスコードの入力における意図せぬ誤操作を防止する意義・機 能があるとした上で、甲3発明1の「シームレス」に使用者識別機能\を 行う構成とは両立しない旨主張する。しかし、公然実施発明において、甲3発明1の使用者識別機能\を採用し、ロック解除する時に指紋によるユーザ認証をしても、偶発的な誤操作等は防止できることは前記ウ(イ) のとおりであって、原告の主張は採用できない。
(オ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)dのとおり、別紙4のB図1左には スライダが表示されているところ、指紋認証に成功した場合に「当該成功後に直ちにホーム画面に遷移する構\成」であるとされる以上、スライダの機能は利用されず、当業者がそのように何ら機能\を発揮しないスラ イダをあえて表示させる構\成を考え付くとすれば、本件発明1を見た上 での後知恵である旨主張する。
原告の主張の真意は判然としないが、そもそも本件発明1においては、 ロック画面からホーム画面への移行の仕方については何ら規定してい ない(したがって、この場面におけるスライダの表示の有無やその利用の有無等についても何も限定はない)ことは前記ウ(イ)において説示し たとおりであるところ、被告の主張如何にかかわらず、公然実施発明に 甲3発明1を組み合わせた場合に、正当な使用者と認証されたときに、 スライダを利用しようとしなかろうと、どちらにしてもロック画面から ホーム画面へ移行させることが可能であること自体は明らかであるから、原告の主張は失当というほかない。\n
(4) 小括
その他原告がるる主張する点は、いずれもその前提に誤りがある、あるい は理由がないものであり、採用できない。 以上によれば、相違点1についての容易想到性を認めた本件審決の判断に 誤りはないから、原告主張の取消事由1は理由がない。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和3(行ケ)10054
本件の侵害事件です。

◆令和3(ネ)10081
上記控訴審の1審です。104条の3で権利行使不能と判断されています。

◆平成31(ワ)647

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令和2(行ケ)10071  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月2日  知的財産高等裁判所

 訂正後の発明について無効理由なしとした審決が取り消されました。理由は基準日当時の骨粗鬆症に関する技術常識から動機付けありというものです。

 (イ) 前記(ア)の各記載によると,本件基準日当時の骨粗鬆症に関する技術 常識は,次のとおりである。すなわち,1)骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折の危険性が増大した骨疾患であり,その治療の目的は,骨折を予防し,QOL(qu\nality of life)の維持改善を図ることである,2)骨粗鬆症は,加齢とと もに発生が増加する,3)骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子の中で, わが国では,低骨密度,既存骨折,年齢に関するエビデンスがある,4) 骨粗鬆症の診断基準に関して,1990年当時,厚生省シルバーサイエ ンスプロジェクト「老人性骨粗鬆症の予防および治療に関する総合的研\n究班」により提唱された診断基準(1989年診断基準)があったが, 1996年に診断基準が改訂され(1996年診断基準),その後,20 00年に更に改訂された(2000年診断基準),5)骨強度は骨密度と骨 質の2つの要因からなり,骨密度が骨強度のほぼ70%を,骨質が残り の30%を説明することが知られていたといえる。
イ 本件3条件について
(ア) 甲7発明と本件発明1とは,「1回当たり200単位のPTH(1− 34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする」との用量の点 において一致するが,その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を一応 異にする。
(イ) 甲7発明で投与対象とされた患者は,前記(1)のとおり,1989年診 断基準で骨粗鬆症と診断された患者であるところ,より新しい基準を参 酌しながらその患者を選別することは,当業者がごく普通に行うことで あるから,甲7発明に接した当業者が,甲7発明のPTH200単位週 1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する対象患者を選択するのであれば, 1989年診断基準とともに,より新しい,1996年診断基準又は2 000年診断基準を参酌するといえる。 そして,前記ア(ア)b及びcのとおり,1996年診断基準で骨粗鬆 症と診断される者は,1)骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの8 0%以下の低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か,2)X線上椎体骨折 を認めないが,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAMの70%未 満である者であり,2000年診断基準で骨粗鬆症と診断される者は, 3)骨萎縮度II)度以上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨量が原因で, 軽微な外力による非外傷性椎体骨折等(脆弱性骨折)を有する者か,4) 脆弱性骨折がないものの,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAM の70%未満の者である。
本件条件(2)及び本件条件(3)は,上記1)と同じであるから(「既 存椎体骨折」は「非外傷性椎体骨折」を含む。),当業者が甲7発明の2 00単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件条 件(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。 また,前記ア(イ)のとおり,骨粗鬆症は,加齢とともに発生が増加す るとの技術常識があり,高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らかであ るところ,高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的なことで あり,高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上が高齢者 とされている。したがって,これらを参酌し,骨粗鬆症による骨折の複 数の危険因子として,低骨密度及び既存骨折に並んで年齢が掲げられて いることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上として,本件条 件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1)のように設定する ことはごく自然な選択であって,何ら困難を要しない。 そうすると,甲7発明に接した当業者が,投与対象患者を本件3条件 を全て満たす患者と特定することは,当業者に格別の困難を要すること ではない。
ウ 被告の主張について
(ア) 被告は,前記第3の3(2)ア(イ)a及びbのとおり,本件3条件は, 層別解析により初めて,本件条件(1)ないし本件条件(3)を組み合 わせるとPTHの骨折抑制効果が高いという新規な知見を得たことに基 づくものであり,本件3条件は一般的な指標ではなく,甲7文献の開示 事項からは導かれず,むしろ甲7文献にはサブグループ間で薬物に対す る応答は同程度であった旨の記載があり,甲7発明から本件3条件を選 択する動機付けは否定される旨主張する。
しかしながら,前記イにおいて判示したように,本件基準日における 技術常識に照らせば,甲7発明に接した当業者が投与対象患者を本件3 条件を全て満たす患者とすることに格別の困難はない。また,本件3条 件の組合せについても,客観的観点からその選択において格別なもので ある,あるいは,他の骨折リスク因子等も含めた様々な組合せが想定さ れる中で本件3条件を組み合わせること自体に特別の意味合いがあると 認めるに足りる証拠はない(被告が主張する層別解析は,後述するよう に,あくまで本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグルー プと,本件3条件の全部又は一部を満たさない患者(低リスク患者)の グループのうちごく一部のグループとを比較するものにすぎず,また, その結果自体も被告主張の顕著な効果が認められると即断できるもので はない。)。 そして,確かに甲7文献には,別紙2のとおり,「年齢が64歳以下と 65歳以上,体重が49kg以下と50kg以上,閉経後10年未満,10 から20年,20年以上,および脊椎骨折が0,1および2箇所以上を 有するサブグループに被験者を分類して比較したところ,サブグループ 間で薬物に対する応答は同程度であった。」との記載があることは認めら れるものの(300頁左欄11行ないし右欄6行目),当該記載は,上記 記載中の条件によってサブグループ化されたサブグループ間の薬物効果 の比較について述べているにすぎず,当該記載により,甲7発明の投与 対象患者をサブグループ化すること全般が阻害されるとはいえない。 したがって,被告の上記主張は,いずれも採用することができない。
(イ) また,被告は,前記第3の3(2)ア(イ)cのとおり,甲7発明におけ る200単位投与群には,副作用が多発しており,200単位は副作用 脱落率が高い用量と認識されているから,当業者はこれを試みない旨主 張する。
確かに,別紙2のとおり,甲7文献には,PTH200単位週1回投 与のH群の副作用発生率は42%であり,72人のうち16人(約22%) が副作用により脱落していて,副作用発生率及び副作用による脱落率は, 50単位を投与したL群(副作用発生率19%)及び100単位を投与 したM群(副作用発生率19%)のいずれと比べても高いことが記載さ れており(表6),骨粗鬆症の治療は長期間にわたるため,臨床使用にお\nいて患者の症状や治療継続意思に直接に影響する副作用が起こることは 望ましくはないから(甲70ないし72,100),甲7文献の上記記載 に接した当業者は,この点に限っていえば,200単位の投与よりも1 00単位の投与の方がより適当であると認識することが考えられる。 しかしながら,他方,甲7文献には,重篤な有害事象は認められない と記載されており(301頁左欄1行ないし右欄4行目),さらに,20 0単位の投与が腰椎骨密度を48週間後に8.1%増加させたこと,及び, その増加の程度は,100単位投与の3.6%,及び,50単位投与の0. 6%のいずれよりも高いことが記載され,PTHは腰椎骨密度を48週 という比較的短期間で用量に依存して増加させる極めて有望なものと評 価されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目,301頁右欄5 行ないし303頁右欄23行目。有望とされた対象から200単位の投 与のみが排除されているとは理解し難い。)。そして,前記ア(イ)のとお り,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであるところ,骨密度\nが低いことは,既存骨折,年齢とともに,わが国でエビデンスがある骨 折危険因子であり,骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常 識がある。
以上によれば,甲7文献に接した当業者は,200単位週1回投与と 100単位週1回投与とを対比した場合に,副作用の面と効果の面を総 合考慮して,いずれを選択するか判断するものと考えられ,200単位 週1回投与がその選択が排除されるほど劣位したものと見られるとはい えず,これを選択することもまた十分に動機付けられているというべき\nである。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) さらに,被告は,前記第3の3(2)ア(イ)dのとおり,PTH製剤が 高齢者には効きにくいということは技術常識であったから,PTH製剤 を高齢者に特に使用しようとする積極的な動機付けは生じない旨主張す る。
被告は,関係文献(乙29)を挙げて,PTH製剤が高齢者には効き にくいということは技術常識であるとするが,「フォルテオ皮下注キット 600μg フォルテオ皮下注カート600μg「2.7.3臨床的有 効性の概要」」(乙29)における記載(213頁)として,プラセボ投 与群,テリパラチド20μg投与群(連日投与)及びテリパラチド40 μg投与群(連日投与)に分けてフォルテオを投与をした際の新規椎体 骨折発生率の結果が示されているところ,65歳以上75歳未満の患者, 及び,75歳以上の患者いずれに対しても,テリパラチド投与群におけ る椎体骨折発生率は,プラセボ投与群の椎体骨折発生率より低くなって いるから,これらの記載をもって,フォルテオが高齢者,すなわち65 歳以上の患者に効きにくいなどとはいえない。また,被告は,20μg投与群又は40μg投与群のプラセボ投与群に対する骨折相対リスク減少率は,患者が75歳以上の場合には,65歳以上75歳未満の場合よりも低くなっている旨を指摘するが,75歳 以上の患者群の骨折相対リスク減少率が65歳以上75歳未満の患者群 の骨折相対リスク減少率よりも低いとしても,それは,投与対象を75 歳以上の高齢者とすることの動機付けの有無の問題にはなるとしても, 投与対象を65歳以上の高齢者とすることの動機付けには何らの影響を 与えない。したがって,上記各文献をもって,200単位のPTH製剤を65歳 以上の高齢者に投与することが妨げられ,動機付けが生じないとはいえ ない。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10006  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年10月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。阻害要因についても無しと判断されました。

 ア 前記1(3)によれば,引用文献2技術事項は,物質に特有な高吸収X線を 利用することにより,荷物や人体内に隠匿した麻薬,あるいは爆薬や象牙 などの禁制品の有無を検査できるものであるから,人体用だけでなく,荷 物の中の見えない物体の有無を検査するX線荷物検査装置でもあるとい える。そうすると,食品等の異物検査を行うX線検出装置である引用発明 1の技術分野と,医療検査や荷物検査を行う引用文献2技術事項の技術分 野は,X線検査装置が用いられる技術分野として関連するものであるとい える。 また,引用発明1においては,判定部24において「各ライン走査ごと のデータ中の最大画素濃度のデータを所定の閾値と比較してX線吸収率 が大きい金属異物等の混入の有無が検出濃度レベルと閾値との比較によ り判定される」(M)ものであり,ワークWのX線画像の検出濃度レベルと 所定の閾値とを比較することにより,金属異物等の混入が有る場合の濃度 レベルと混入が無い場合の濃度レベルとを判定する必要があるから,ワー クWのX線画像における金属異物等の混入の有無の濃度レベルの間の差 異を明確にしなければならず,X線画像において目的とする物体を透過し たX線の検出出力と前記目的とする物体以外の部分を透過したX線の検 出出力との間に明確な差異を有するX線画像を生成するという課題を有 している。一方,引用文献2においては,従来のX線撮影装置では「目的 とする臓器などを明瞭に表示するようにしたコントラストの高いX線像\nを得ることが難しい」(【0002】)という課題を有し,また,異なる波長 の単色X線を用いて得られたX線像の差分から目的とする部分を際立た せて表示する方法を用いる場合,「異なる時刻に撮影したX線像の差分を\n取ると,位置がずれてしまい明瞭な動脈像を生成することができない」 (【0004】)という課題を有しているところ,引用文献2技術事項によ り「それぞれピクセルへの入射X線量をカウントしカウント値の差分を取 ると,軟部組織や骨に吸収されたX線が相殺され血管部分のみに差が現れ て冠状動脈のコントラストの大きな鮮明な映像を得ることができる」(【0 021】)としている。コントラストが大きなX線画像は,物体を透過した X線の検出出力と目的とする物体以外の部分を透過したX線の検出出力 との間に明確な差異を有するものであるから,引用発明1と引用文献2技 術事項とは課題を共通するといえる。 さらに,引用発明1と引用文献2技術事項は,いずれも被測定物の中の 外から見えない物体を検出するために用いられるX線画像を形成し,当該 X線画像に基づいて検査を行うという作用・機能が共通するといえ,加え\nて,引用文献2には,「X線検出部11に1次元のリニアアレイを用いて1 次元走査して測定することもできる」【0014】ことが記載され,被測定 物を1次元走査してX線画像を得ることも示唆されており,引用発明1の X線ラインセンサにより搬送される被測定物のX線画像とは,X線画像を 被測定物を1次元走査して生成するという点においても共通する。 以上のように,引用発明1と引用文献2技術事項との間に,技術分野, 解決課題及び作用機能に密接な関連性・共通性があることからすると,引\n用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせることに強い動機付けがあ るといえる。
イ 前記第3の1(1)イ(ア)bのとおり,原告は,引用発明1のX線検査装置 は異物の有無を低コストで検査する分野の装置であり,簡易な検査作業の 実現を目的とするのに対し,引用文献2技術事項のX線検査装置は,コス トを度外視して検査する分野の装置であり,被曝防止を目的とするもので あるから,当業者は,異物検出の精度向上のためにわざわざ引用発明1に 引用文献2技術事項とを組み合わせたりする動機付けない旨主張する。 まず,引用文献2には,「撮影は1度で済み」(【0010】),「エネルギ ーを変えて検査するときにも1度の撮影で済むので検査時間が短縮する 利点がある。」(【0022】)との記載があるが,それは副次的なものにす ぎず,引用文献2技術事項の課題は,複雑で高価な装置を用いずにコント ラストの高いX線像を得ることである(【0003】ないし【0007】, 【0010】,【0022】,【0024】)。したがって,引用文献2技術事 項のX線検査装置は,コストを度外視して検査する分野の装置であると認 めることはそもそも相当でない。また,引用発明1が,コンベア搬送路上 のワークの金属異物等の混入の有無を検査する異物検査装置であること からして,引用発明1が製品製造現場用の装置であり,引用文献2の記載 上は,引用文献2技術事項が直接には医療用検査装置に用いることを想定 しているとしても,コストをどの程度かけるかということと技術分野とは 直結しないところ,製品の性質,製造現場の規模,製品の販路等も度外視 して,製品製造現場用の装置であれば,おしなべて性能の低い製品で足り,\n当業者は性能の向上には意を払わず,医療検査装置用の技術には関知しな\nいなどとは当然にいえることではなく,そのようにいえる証拠は提出され ていない。
異物検査装置の異物検査の性能を向上させることは自明の要請ともいう\nべきところであり,前記アのとおり,引用発明1の異物検査装置に,技術 分野,課題・解決手段,作用・機能,効果とも密接に関連ないし共通する\n引用文献2技術事項を適用する強い動機付けがあるというべきである。
ウ 前記第3の1(1)イ(イ)aのとおり,原告は,1つの「設定時X線画像」 を基準とする引用発明1に,複数個の画像を基準とし,その基礎とする技 術的思想を異にする引用文献2技術事項を適用することには阻害要因が ある旨主張する。 ここで,「設定時X線画像」とは,実検査前にサンプルを使用した検査に おいて得られたX線画像データとして設定情報記憶部23に保持された 初期設定データの1つであり(引用文献1の【0052】ないし【005 5】),当該品種に設定された各種パラメータや検出条件及び判定条件にお ける検査における代表画像とされ(【0042】),実検査時に実検査時のX\n線画像Wiと共に表示器26に表\示され,実検査中に両者を照合すること により,検査の条件に実検査品が適合したものか否かを判定することや (【0046】,【0059】ないし【0061】),品種選択操作を視覚的に 容易に把握することに役立てるものである(【0062】,【0063】)。 したがって,検査の目的に合わせたX線画像を得られるならば「設定時 X線画像」も同時に得られる関係にあるところ,引用文献2技術事項によ ると複数のX線画像を生成することができ得るが,特に感度のよいエネル ギー領域を選択して目的部位の像を鮮明化したり,異なるX線エネルギー 領域における出力信号の差分に基づいて画像化するなどして,最適な条件 で選んだ画像を1つ生成できることも明らかである。そして,当業者が, 異物検査の目的に応じて最適な画像を選択してそれを代表画像とするこ\nとができないとする理由もない。 そうすると,引用発明1のX線画像を得る手段として引用文献2技術事 項を適用することには,阻害要因はない。
エ 前記第3の1(1)イ(イ)bのとおり,原告は,低コストでの簡便・容易化 を目指す引用発明1に,高精度で複雑・高度な引用文献2技術事項を適用 することには,甲1発明の目的から乖離・矛盾するから阻害要因がある旨 主張する。 しかしながら,前記イにて説示したとおり,技術分野としての観点から 見た場合に,あたかもX線検査装置が低コストでの簡便・容易化を目指す 装置の分野の技術と複雑・高精度で複雑・高度な装置の分野の技術に二極 化していて,両者の技術が相容れないとは認められない。その上,引用文 献2技術事項の課題は,前記イのとおり,複雑で高価な装置を用いずにコ ントラストの高いX線像を得ることであり,前記アのように,被測定物を 1次元走査して測定するような簡易な方法も示唆されている。また,引用 文献2に禁制品の有無を検査することもできるとの示唆があるからとい って,引用文献2技術事項が空港や税関等で用いる検査装置のみに用いら れる技術ととらえることは,同技術の正しい理解とはいい難い。 したがって,原告の上記主張は前提を欠くものであって,採用すること ができない。
オ 以上のとおり,引用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせる動機付 けがあり,阻害要因があることもうかがわれないところ,引用発明1にお いて,引用文献2技術事項に基づき,相違点1に係る本件発明1の発明特 定事項を得ることが容易であることは,本件決定が引用する取消理由通知 書が説示するとおりであり,誤りは認められない。

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令和2(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年10月7日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決に対して、知財高裁は一致点の認定誤りを理由として審決を取り消しました。

(3) 本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御回路」の対比
ア(ア) 本願発明の制御装置は,「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再 水和間隔を提供するために」,「燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように 構成される」ものである。\n
(イ) 本願発明の特許請求の範囲の請求項1の文言や本願発明が燃料電池に係るも のであることのほか,前記1(2)の本願発明の概要からして,上記のうち「燃料電池 スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」については,燃 料電池の良好な動作のために,膜/電極接合体(MEA)が好適に水和された状態 とすべく,MEA内の水分量を積極的に増加させるという目的をいうものと解され る。この点,本願明細書の段落【0036】及び【0037】には,「再水和間隔」 が,燃料電池カソードにおいて過剰な水を産生して燃料電池における膜の水分量を\n増加させる短い期間であって,燃料電池上の外部電気負荷及び温度などのその環境 動作条件に基づき有効であるレベルを超えて,水和レベルを増加させるために,燃 料電池アセンブリがその動作環境を能動的に制御する期間である旨が記載されてい\nるところである。 そして,「燃料電池スタックを通る空気流動を調節する」については,上記目的の ために,膜の含水量の低下等をもたらし得る空気流動を調節することをいうものと 解される。
イ 引用発明の短絡制御回路は,「燃料電池の負の水和降下現象を防止するため に」,「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」ものであるところ,このうち「負 の水和降下現象」の意味内容については,前記2(3)イで検討したとおりである。そ して,その意味内容を踏まえると,「負の水和降下現象を防止する」とは,基本的に, MEAにおける水和の損失が,熱の発生につながり,それが薄膜電極アセンブリの 乾燥につながるといった状態を停止させる,又は抑制することをいうものと解され る。 そして,「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」については,上記目的のため に,燃料電池の発熱につながる燃料ガスの供給を停止することをいうものと解され る。
ウ(ア) 上記ア及びイによると,本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御 回路」は,MEA内の水分量を積極的に増加させることを目的とするか,MEAに おける水和の損失等を停止させる,又は抑制することを目的とするにとどまるかと いった点において異なるとともに,燃料電池のカソード側で水分の低下につながり\n得る空気流動を調節するか,アノード側で熱の発生につながる燃料ガスの供給を停 止するかといった点においても異なっている。
(イ) もっとも,上記のうち後者の点については,本件審決は,「空気流動を調節す る」ことと「燃料ガスの供給を停止する」ことを「気体流動を調節する」とした上 で,相違点2を認定しており,その認定判断に誤りがあるとはいえない。
エ 他方で,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路について,「所定条件 で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して」,気体流動を調節するよ うに構成される「制御装置」であるという点で一致するとした本件審決の判断に誤\nりがあるとは認められない。
オ 以上によると,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路が,「水和レベ ルを増加させる再水和間隔を提供するために」という点で一致しているとした点に おいて,本件審決には誤りがある。
カ 原告は,本願発明の制御装置が短絡制御を行うものではない旨を主張するが, 短絡制御の点は一致点として認定されておらず,原告の上記主張は当を得ないもの である。また,原告は,引用発明における燃料ガスの供給の停止が「流動を調節す る」に当たらないと主張するが,甲3の段落【0023】には,燃料電池10への 燃料ガス105の供給を停止するような位置にバルブ104をすると同時に,電気 的スイッチ124を閉鎖電気状態にする旨の記載がある一方,本願明細書の段落【0 010】には空気流動をゼロまで減少させることについて記載があり,これらの記 載も踏まえると,両者は,対象となる気体以外の点で実質的に相違するものとは認 められず,いずれも気体流動の調整を行うとの概念の範囲で一致するものといえる。 さらに,原告は,「所定条件」の内容が本願発明と引用発明とで全く異なる旨を主張 するが,本件審決が認定した相違点1及び2のほか,前記ウ(ア)で指摘した本願発明 の制御装置と引用発明の短絡制御回路の目的の相違があることに加え,別途,それ らの動作に係る所定条件に関して相違点を認定すべきものとは認められない。
キ(ア) 被告は,燃料電池においてイオン交換膜の含水量が減少する一般的な原因 について主張した上で,引用発明においても,薄膜電極アセンブリの水和レベルが 増加することは明らかであると主張する。 しかし,被告の上記の主張のうち,単に薄膜電極アセンブリの含水量の減少量が 小さくなることをいうにすぎないもの(含水量の積極的な増加を意図した制御を行 っているものではない。)は,前記ウ(ア)の判断を左右するものではない。この点, 被告は,燃料電池内の発熱が収まることで,それまでの発電で生じた水や空気中に 含まれる水蒸気によって水和レベルが増加することも主張するが,当該主張を裏付 ける証拠や,そのような技術常識を直ちに認めるに足りる証拠は見当たらない。
(イ) 被告は,本願発明における水和レベルの増加のメカニズムが明確でなく,本 願の実施例で実行される制御で水和レベルが増加するのであれば,引用発明でも同 様であるという旨を主張するが,本願発明における「燃料電池スタックの水和レベ ルを増加させる再水和間隔を提供するために」の意味内容については,前記ア(イ)で 認定判断したとおりであって,そのメカニズムが明確か否かという点は,直ちに本 願発明と引用発明の一致点及び相違点の判断に影響を与えるものではない。
(4) まとめ
ア 以上によると,本願発明と引用発明は,次の一致点で一致し,本件審決が認 定した相違点1及び2のほか,次の相違点3及び4で相違するというべきである。
(一致点)
「燃料電池システムであって,
第1の燃料電池スタックと,
前記第1の燃料電池スタックと直列の,第2の燃料電池スタックと,
前記第1の燃料電池スタックと並列の,第1の電子部品と,
前記第1の燃料電池スタックの水和状態を調整するために,所定条件で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記第1の燃料電池スタックを通る気体流動を調節するように構成される,制御装置と,
を備える,前記燃料電池システム。」
(相違点1)
所定条件に関し,本願発明は,「定期的に」であるのに対し,引用発明は,「燃料 電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合」である点。
(相違点2)
気体流動の調節に関し,本願発明は,気体は空気であるのに対し,引用発明は, 気体は燃料ガスである点。
(相違点3)
第1の電子部品に関し,本願発明は,電子部品は整流器であるのに対し,引用発 明は,電子部品は電界効果トランジスタである点。
(相違点4)
燃料電池スタックの水和状態を調整するために関し,本願発明は,水和レベルを 増加させる再水和間隔を提供するためであるのに対し,引用発明は,負の水和降下 現象を防止するためである点。
イ その上で,後記5の点も踏まえると,少なくとも相違点4の看過は,本件審 決の取消事由に当たるというべきである。
5 容易想到性の判断について
(1) 相違点1,2及び4は,いずれも本願発明の「制御装置」又は引用発明の「短 絡制御回路」に関するもので,技術的構成として相互に関連するものといえるから,\n以下,一括して検討する。
(2)ア 前記4(3)イからすると,引用発明が「燃料電池の出力電圧が0.4Vよ り低くなる場合」に「燃料ガス」を調節する目的は,主として熱の発生を抑えるこ とで「負の水和降下現象を防止する」ためであり,これは,甲3にいう「第1の動 作条件」(甲3の段落【0024】)に係るものである。 他方で,甲3には,「第2の動作条件」として,燃料電池の特性パラメータを回復 させる構成が記載されている(甲3の段落【0025】〜【0027】)。\nこのように,二つの条件に係る構成があることに加え,甲3の段落【0001】,\n【0009】,【0023】,【0029】及び【0030】の記載並びに【図4】に 照らし,上記「第1の動作条件」が,基本的に,「燃料電池が故障した際」(同【0 001】。【図4】にいう「欠陥は重大」である場合である。)に係るものとみられる ことからすると,相違点1,2及び4に係る引用発明の構成は,燃料電池の故障を\n示すものとみ得る状態を具体的に検知し,負の水和降下現象を防止するために,燃 料ガスの供給を停止して熱の発生を抑えるためのものと解するのが相当である。 イ 上記のような燃料電池の故障を示すものとみ得る状態を具体的に検知したと の引用発明に係る「燃料電池の出力電圧が0.4Vより低くなる場合」の動作につ いて,実際の出力が閾値以上に変化しているか否かにかかわらず,これを「定期的 に」行うことを想到することが,当業者において容易であるとはいい難いというべ きである。甲3に,引用発明に係る燃料ガスの供給の停止を定期的に行うこととす る動機付けや示唆があるとは認められない。甲3の段落【0024】には,第1の 動作条件について,「約0.4Vより低い範囲に低下する場合」以外の記載があるが, そこで挙げられている他の特性パラメータも,燃料電池の故障を示すものとみ得る 状態の検知の範疇に止まるものである。燃料電池の保湿レベルを周期的に増加させ ることに係る周知の事項(甲4[前記3(1)],甲5[前記3(2)])を参照しても, 上記判断は左右されない。 上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
ウ また,引用発明が,上記アのように,主として熱の発生を抑えることを目的 としたものであることを考慮すると,「気体流動を調節する」ことについて,引用発 明から,燃料電池の乾燥につながり得る一方で冷却効果をも有する空気の流動(本 願明細書の段落【0006】参照)を停止することを,当業者が容易に想到し得た ということも困難である。甲3に,空気の流動を調節することの動機付けや示唆が あるとは認められない。 上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
(3) 以上によると,相違点1,2及び4に係る本願発明の構成が引用発明に基づ\nいて容易に想到できたものとは認められないから,相違点1及び2について容易想 到と判断した点において,本件審決には誤りがあるというべきである。

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令和2(行ケ)10038  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年9月28日  知的財産高等裁判所

 薬について、動機付け無しとした審決が取り消されました。顕著な効果も記載が無い、実験成績証明書の参酌をしたとしても、顕著な効果とはいえないと判断されました。

 前示のとおり,本件訂正発明の構成は容易想到であるが,これに対し,\n被告は,前記第3の5(2)イのとおり,本件訂正発明は,本件3条件を全て 満たす患者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本 件条件(4)の服薬歴がある患者に投与すると,本件条件(4)の服薬歴 のない患者に対するよりも骨折抑制効果がより増強される効果(以下「効 果2)」という。)を奏し,これらの効果は,当業者が予測をすることができ\nなかった顕著な効果を奏するものである旨主張する。 以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折 の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり, 骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから, 当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して いることは,当業者において容易に理解できる。
b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ ラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を 指すものであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満 たす患者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本 件3条件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対 する骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折 抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位 週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。 そして,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位週 1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年1月15日 付け被告第1準備書面33頁における再解析の数値による。)について, それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また,椎 体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1人 の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが, 症例数が不足していることによることを否定できない。このように, 低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び 椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生 率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数 を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑 制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して, 前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。 したがって,実施例1をみても,高リスク患者に対するPTHの骨 折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高 いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他 の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低 リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理 解することはできない。 以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい うべきである。
c 被告は,効果1)を明らかにするものとして,別紙4の実験成績証明 書(甲79)を提出する。
しかしながら,本件明細書の記載から,高リスク患者に対するPT Hの骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よ りも高いということを理解することができず,また,これを推認する こともできない以上,効果1)は対外的に開示されていないものである から,上記実験成績証明書を採用して,効果1)を認めることは相当で ない。 仮に,上記実験成績証明書を参酌するにしても,本件3条件の全て を満たす患者(高リスク患者)のグループと,本件3条件の全部又は 一部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部の グループとを比較しているものにすぎないから,本件3条件の効果が 明らかになっているとはいえない。また,上記実験成績証明書には, 本件条件(1)を満たし,本件条件(2)又は本件条件(3)のいず れかを満たさない患者とされる「非3条件充足患者」につき,「非3条 件充足患者においてもPTH投与群ではコントロール群よりも骨折の 発生が抑制されたが,3条件充足患者においては,PTH投与群では コントロール群よりも骨折の発生が『有意に』抑制された。」旨が記載 されているだけである。すなわち,本件3条件を満たさない患者につ いては,PTH投与群においてコントロール群よりも骨折発生が抑制 されたものの有意差がなかったことが理解できるのみであり,それら 有意差がなかったとの結論も症例数が少ないことによるものと推認さ れることからすると,本件3条件の全てを満たす患者の骨折発生の抑 制の程度が本件3条件を満たさない患者に対する骨折発生の抑制の程 度より優れていると結論付けることはできない。そうすると,上記実 験成績証明書をみても,本件3条件を全て満たす患者に対するPTH の骨折抑制効果が,本件3条件を満たさない患者に対するPTHの骨 折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 d 以上によれば,いずれにしても効果1)を認めることはできないから, その他の点について判断するまでもなく,効果1)を予測することので\nきない顕著な効果という余地はない。
(イ) 効果2)について
前記ア(ウ)のとおり,効果2)は本件明細書からうかがうことのできな い効果である。
被告は,骨粗鬆症治療薬の服薬歴が本件3薬剤のいずれか1剤のみの 場合における新規椎体骨折発生数が記載された甲86証明書により本件 訂正発明の顕著な効果が裏付けられると主張する。仮に,上記実験成績 証明書を参酌するにしても,甲86証明書は,本件3薬剤それぞれにつ いて,服薬歴のある患者につき被験薬(PTH)を投与された場合と対 照薬(プラセボ)を投与された場合との骨密度変化率や新規椎体骨折発 生数を対比しているにすぎず,本件3薬剤のいずれかの服薬歴がある患 者と当該薬剤の服薬歴がない患者との間で,被験薬を投与された場合の 骨密度変化率や新規椎体骨折発生数を対比したものではないから,プラ セボ投与との対比による被験薬の骨粗鬆症治療に対する効果しか示され ていない。しかも,各薬剤についての評価例数があまりにも僅少で,そ のようなデータから算出される骨折相対リスク減少率は,骨折例数が1 件増減するだけで大きくその値を変えることは明らかであり,骨折相対 リスク減少率を対比してその効果を論じることも相当ではない。

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令和2(行ケ)10044  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年8月30日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が取り消されました。論点は「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」との動機付けがあるか否かです。

 原告は,相違点2に関し,本件審決が,1)刊行物5の記載及び脂質の大量 の摂取を控えることが健康上の技術常識であることを考慮すると,1回の「用 量」でω−6脂肪酸を40gを超えた脂質含有配合物として用いることは考 えられないから,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」であること(相違点 2に係る本願発明の構成)は,刊行物5に記載自体がなくとも記載されてい\nるに等しい事項であるから,相違点2は,実質的な相違点ではないか,刊行 物5発明において,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることは,「用 量」の意味が,1回の「用量」や1日の「用量」であるかにかかわらず当業 者が容易になし得る技術的事項である旨判断したのは誤りである旨主張する ので,以下において判断する。
ア(ア) 刊行物5(甲24)には,1)「従来の技術」として「最近の日本人の 食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え, 脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の 種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増 加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。これ らの疾病の原因は,脂肪酸の摂取過多と考えられていた。しかし,研究 が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和脂肪酸の種類の摂取アンバラン\nスによることが判明した。これは肉類に多く含まれるω−6脂肪酸であ るアラキドン酸から産生される2型のプロスタグランジンやロイコトリ エンなどが過剰になり,ω−3脂肪酸によって産出される3型のプロス タグランジンやロイコトリエンとのバランスがくずれる事による。」(前 記(1)エ),2)「発明が解決しようとする課題」として,「ω−6脂肪酸の 過剰摂取は,PGF2α,TXA2などの2型プロスタグランジンやロイ コトリエンの産生を促し,血小板凝集や血管収縮を起こし動脈硬化や血 栓症を誘発する。しかしω−3脂肪酸は逆に,これらの疾患を抑制した り,更に,乳癌や大腸癌の発癌率を抑えたり(・・・),癌細胞の転移能を低\n下させる(・・・)ことが報告されている。・・・気をつけなければならないの は,ω−3脂肪酸ばかりを摂取するのではなく,ω−3脂肪酸とω−6 脂肪酸をバランス良く摂取することである。しかし,前述のように現在 の日本人の食事はω−6脂肪酸の摂取に偏っている。この状態を改善す るためにω−3脂肪酸などを高濃度に濃縮して添加した食品や栄養補助 剤などが開発された。しかしこれらの製品を過度に摂取した場合,逆に ω−3脂肪酸の過剰摂取につながり新たな疾病の原因となる。そこでω −3,ω−6脂肪酸の適正な比率での摂取が必要である。」,「本発明は, ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,前述 の疾病の予防や改善に効果が期待されるように,脂質の脂肪酸組成を適\n正比率に調整した食品を提供することを目的とする。」(以上,前記(1)オ), 3)「課題を解決するための手段」として,「本発明の食品は,脂肪酸組成 をω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5になるように調 整した高度不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする。」,「本発明の食品の脂 肪酸組成は,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5にな るように調整する。この範囲よりも小さいときは,ω−3脂肪酸が過剰 になり,この範囲よりも大きいときはω−6脂肪酸が過剰になってしま い,いずれの場合もω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との摂取バランスが崩 れてしまうので好ましくない。」(以上,前記(1)カ),4)「発明の効果」 として,「本発明によれば,食品に含有される脂質のω−3,ω−6脂肪 酸の比率を適正比率である1:1〜1:5に保つように調製された食品 を提供することができるので,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバランス 良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸 癌などの疾病の予防や改善に効果が期待される。」(以上,前記(1)キ)と の記載がある。
これらの記載によれば,刊行物5には,刊行物5記載の高度不飽和脂 肪酸を含む食品(「本発明」)の技術的意義に関し,従来は,高血圧,心 臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の原因は,脂肪酸の「摂 取過多」と考えられていたが,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不\n飽和脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明したこと,現在 の日本人の食事はω−6脂肪酸の摂取に偏っており,この状態(ω−6 脂肪酸の「過剰摂取」)を改善するためにω−3脂肪酸などを高濃度に濃 縮して添加した食品や栄養補助剤などが開発されたが,これらの製品を 過度に摂取した場合,逆にω−3脂肪酸の「過剰摂取」につながり新た な疾病の原因となるため,ω−3,ω−6脂肪酸の適正な比率での摂取 が必要であることから,「本発明」は,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバ ランス良く摂取することができ,前述の疾病の予防や改善に効果が期待\nされるように,脂質の脂肪酸組成を適正比率に調整した食品を提供する ことを目的とし,その課題を解決するための手段として,脂肪酸組成を ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5になるように調整 した高度不飽和脂肪酸を含む構成を採用し,これによりω−3脂肪酸と\nω−6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循 環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の予防や改善の効果が期待される\nことについての開示があることが認められる。また,前記(1)の刊行物5 の記載によれば,刊行物5において,「過剰摂取」の用語は,ω−3脂肪 酸,ω−6脂肪酸が適正比率(1:1〜1:5)の範囲を基準として, 「この範囲よりも小さいときは,ω−3脂肪酸が過剰になり,この範囲 よりも大きいときはω−6脂肪酸が過剰にな」ると述べていること(前 記(1)カ)に照らすと,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との摂取バランス(比 率)が崩れた状態を表現するために用いており,一方で,「摂取量」が多\nい状態を表現するときは「摂取過多」の用語を用い,「摂取量」との関係\nでは,「過剰摂取」の用語を用いていないことが認められる。 以上を前提に検討すると,刊行物5における「最近の日本人の食生活 は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,脂肪の 摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の種類も 変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増加して, こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との記載は, それに引き続き「しかし,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和\n脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明した。」などの記載が あることに照らすと,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加した こと自体が問題であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆す るものではないと理解するのが自然である。 また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取 量を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」 は,1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や 示唆はない。
(イ) 次に,本件審決が述べるように「脂質の大量の摂取を控えること」 自体が健康上の技術常識であるといえるとしても,脂質の適正な摂取量 は,年齢,性別,エネルギー摂取量等の要素によって変わり得るものと 考えられるから,そのことから直ちに「脂肪の摂取量」を1日当り40 g以下とすることが技術常識であることを導出することはできないし, それが技術常識であることを前提に「ω−6脂肪酸の用量」は,1日又 は1回当たり「40g以下」とすることが技術常識であるということは できない。本件においては,他に「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」 とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。 イ(ア) 前記アの認定を総合すると,刊行物5には,本件審決のいう技術常 識を踏まえても,刊行物載5発明に含有する「ω−6脂肪酸の用量は, 40g以下であること」についての実質的な開示があるものと認めるこ とはできない。 そうすると,刊行物5発明が「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」 であるとの構成(相違点2に係る本願発明の構\成)を有することは認め られないから,相違点2は実質的な相違点であるものと認められる。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(イ) 次に,前記ア認定のとおり,刊行物5には,脂肪の摂取量を1日当 たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」は,1日又 は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆はなく, また,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であ ることを認めるに足りる証拠がないことに照らすと,刊行物5に接した 当業者が,刊行物5発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採\n用することの動機付けがあるものと認めることはできないから,上記構\n成とすることを容易に想到することができたものと認められない。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。
ウ これに対し被告は,1)刊行物5には,脂肪の摂取量については1日当た り40gと増加しているとの記載及びそれを問題であると認識している ことの記載があり,刊行物5発明は,脂質(脂肪)の取り過ぎの抑制を前 提に,ω−6脂肪酸とω−3脂肪酸をバランス良く摂取することを技術思 想とする発明であるから,脂質の一部である不飽和脂肪酸のさらに一部で あるω−6脂肪酸を一定以下に抑えることは当然であり,脂質全体として 取り過ぎであるとの認識である40gという値以下と特定することには 強い動機付けがある,2)しかも,1日の脂質摂取は,刊行物5発明のドリ ンク剤組成物以外の食品からも生じるのであるから,1日又は1回当たり ω−6脂肪酸40g以下との上限を設定することは,当業者が容易になし 得る技術的事項であるから,当業者は,刊行物5発明において,相違点2 に係る本願発明の構成とすることを容易に想到することができた旨主張\nする。
しかしながら,前記ア(ア)で説示したとおり,刊行物5における「最近の 日本人の食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に 増え,脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾 病の種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが 増加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との 記載は,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加したこと自体が問題 であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆するものではない。 また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取量 を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」は, 1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆は ない。 加えて,本件においては,他に「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」 とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,刊行物5に接した当業者が刊行物5発明において相違点2 に係る本願発明の構成を採用することの動機付けがあるものと認めるこ\nとはできないから,被告の上記主張は採用することができない。

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令和2(行ケ)10057  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年7月8日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。

 前記(1)のとおり,相違点2は,相違点21)及び相違点23)により構成さ\nれるべきものである。本件審決は,相違点21)は容易に想到できるとして おり(当裁判所としてもその結論を是認できる。),原告は,相違点23)の 容易想到性を否定した本件審決の判断を争っている。
イ 相違点23)の容易想到性
(ア) 相違点23)は,「『フレームと床との間に介護者又は患者の足が存在 しても,挟み込みが生じないように』,下降スイッチが押し状態であって もフレームをいったん停止させ,『ブザーを鳴らして警報』すること」で ある。
原告は,前記第3の2(1)イ(イ)のとおり,「フレームと床との間に,介 護者又は患者の足が存在しても,挟み込みが生じないように」との点が 用途による限定を付すものであり発明の構成とはならないから,相違点\nを構成することもない旨主張するが,上記特定事項は,フレームが停止\nする高さを何に基づいて決定するかを特定するものであるから,発明を 構成する部分であり,その主張は失当である。したがって,本件訂正発\n明1が用途発明になることもない。 そうすると,同(2)イ(ア)の被告の主張につき判断するまでもなく,原 告の上記主張はいずれにせよ採用することができない。 (イ)a 前記第2の3(2)アのとおり,甲1発明における下方中間位置は患 者支持面が床から約14インチ(約356mm)の高さであり,同最 下位置は患者支持面が床から約8インチ(約203mm)の高さであ るところ,下方中間位置から最下位置に153mm下降できるという ことは,少なくともフレームの下端が床から153mm以上離れてい なければならないから,下方中間位置でのメインフレーム12の床か らの高さは153mmよりは高いことになる。 ここで,甲2技術事項に係る別紙3の記載によると,足が届く範囲 の可動部と床面との間に120mm以上の寸法があれば,足を挟み込 む危険がないものと理解される。 そうすると,甲1発明における下方中間位置でのメインフレーム1 2の床からの高さは,本件訂正発明1の「介護者又は患者の足が存在 しても,挟み込み等が生じないような高さ」(本件訂正明細書【002 1】)であるといえ,また,甲1発明の最下位置は「床に近接して配置 される」ものであり(甲1[0011],FIG−4),足が挟み込まれ る高さであることは明らかであるから,最下位置に向けて下降する下 方中間位置は「これ以上フレーム1が下降すると,足を挟み込んでし まうような高さ」(本件訂正明細書【0021】)である。 そして,甲1には,「磁石112のホール効果センサ118に隣接し た配置までの移動は,下方中間位置でのベッド10の位置付けに相当 し,磁石112のホール効果センサ116に隣接した配置までの移動 は,上方中間位置でのベッド10の位置付けに相当する。」([0036]) との記載があり,そして,甲1発明の管部110は,軸受部材108 に摺動接触して支持された状態でねじ式リニアアクチュータ98のね じ120に対して直線移動で駆動できるよう構成されており,磁石1\n12は,水平移動に当たり必ずホール効果センサ118及び116に 隣接した位置を通るから,甲1発明のベッドは,必ずフレームが下降 する際に上方中間位置及び下方中間位置で自動的に下降を停止するベ ッドである。
b ここで,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に,\n人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよう下降を停止させるこ とは当業者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる (甲4の【請求項1】,【0003】,甲21の【請求項1】,【0003】, 【0005】参照)。 そして,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に\n人体が挟み込まれないよう警告音で周囲に異常を知らせることも当業 者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる(甲4の 【0014】,【0010】,甲21の【0014】,【0010】参照)。 c そうすると,上記aのように,介護者又は患者の足が存在しても, 足の挟み込みが生じないような下方中間位置においてフレームの下降 は停止するが,それ以上フレームが下降すれば介護者又は患者の足が 挟み込まれてしまうことになる甲1発明に接した場合,昇降機能を有\nするベッドにおいて,人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよ うにベッドの下降を停止するとの周知技術に従い,その下降を停止す る高さを「前記フレームと床との間に,介護者又は患者の足が存在し ても,挟み込みが生じないよう」な意図で設定し,この際,警告音で フレームと床との間に人体が挟み込まれないよう知らせるとの周知技 術に従い,警告音を発するようにすることは,当業者には格別困難な ことではないといえる。
(ウ) 被告の主張について
被告は,前記第3の2(2)イ(ウ)のとおり,足を挟んでしまうことの防 止という課題は甲1発明に内在する課題とはいえない旨主張する。しか しながら,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2 002−125807号公報」(甲21)においては,各【発明の詳細な 説明】の中に,子供が入り込むことの防止に係る記載がされているとこ ろ,各請求項1には,それぞれ「床部下への人体の侵入を監視して,人 体の侵入ありとした際に」又は「人体が存在する旨の検知信号により」 と記載されているのであり,子供が入り込むことのみに限定されるもの と解すべき事情も見当たらないことに照らしても,これらの発明の技術 的思想としては,人体が挟み込まれるのを防止するということが抽出で きるのであり,人体の対象には介護者又は患者も含まれるから,当業者 であれば,甲1に介護者又は患者の足を挟んでしまうことを防止すると の課題の記載や示唆がなくとも,甲1発明のベッドを介護者又は患者の 足を挟んでしまうことを防止するとの意図の下に設定することは容易と いうほかない。したがって,上記主張は,採用することができない。 さらに,被告は,同(エ)のとおり,「ブザーを鳴らして警報」すること は容易想到ではない旨主張するが,上記(イ)cのとおり,昇降機能を有\nするベッドにおいてフレームと床との間に人体が挟み込まれないよう警 告音で周囲に異常を知らせることは周知技術であるところ,人体の挟み 込みの防止のために警報音を鳴らすということの目的は,人体の挟み込 みの防止のためにフレームの下降を停止して実際に挟み込みを防止する こととは異なり,人体が挟み込まれる前の所定の段階であらかじめ操作 者を含む周囲の者に注意確認を促すことにある(警報音を鳴らすものの フレームの下降を人体の接触を感知するまで停止しないという選択もあ り得るから,警報音を鳴らすこととフレームの下降停止とは独立に置換 可能な独立の技術的事項である。)。したがって,フレームと床との間に\n人体があって実際に挟み込みの危険があるか否かは,人体の挟み込みの 防止のために警報音を鳴らすという技術的事項を導入するに際して直接 の関係を有するものではない。そうすると,警告音を発する場面を,異 物を検出した段階とするのか,あるいは,フレームがそれより下降すれ ば人体の挟み込みの危険が生じ得る高さとするかは,設計的事項にすぎ ず,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2002 −125807号公報」(甲21)に記載の発明から認められる周知技術 と甲1発明とは,むしろ警報音を鳴らす局面,対象又は目的を共通とす るといえる。したがって,下方中間停止位置で常に自動的に下降を停止 する甲1発明において,上記周知技術に基づいて下方中間停止位置で停 止した際に「ブザーを鳴らして警報」することは容易に想到できるとい え,上記周知技術が異常を検知した際に警報音を発するものである点が 甲1発明に同技術を適用することを妨げるものではない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。。 そのほか,被告がるる主張するところも,前記イの判断を左右するも のではない。
(エ) まとめ
以上によれば,相違点21)に加えて,相違点23)についても容易に想 到できるというべきであるから,本件審決の相違点2の容易想到性判断 には,誤りがある。

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令和2(行ケ)10033  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年6月28日  知的財産高等裁判所

 無効審判では無効理由無しとされた請求項の一部(請求項7、10)について、知財高裁(3部)は、進歩性違反の無効理由ありとしてこれを取り消しました。

(3) 相違点10−2の容易想到性
ア 本件発明7のステップ(b)について
(ア) 相違点10−2においては,本件発明7のステップ(b)に係る構\n成の容易想到性が問題となるところ,上記1(4)のとおり,本件発明7の ステップ(b)は,原油組成物を実質的に塩基なしで水性流体処理ステ ップにかけるステップであり,かつ,相分離を改善するために無機塩を 水性流体に添加するものである。
(イ) そして,上記(2)アのとおり,本件優先日当時,油の精製において, アルカリ精製による脱酸処理の前に脱ガム処理を経ること,一般的な脱 ガム処理の方法の1つとして,水や水蒸気等の水性流体を油組成物と接 触させ,水和したガム質を含む親水性の不純物を油から分離して除去す る方法があったことは,いずれも周知の技術であったと認められる。ま た,証拠(甲3,4,6〔693,700,701頁〕)によれば,本件 優先日当時,蒸留(物理的精製)による脱酸処理の前に脱ガム処理又は 水洗の処理を経ることは,周知であったと認められる上,証拠(甲5〔4 75頁の表2〕,6〔693頁右欄の表\1〕,13〔571頁の右欄〕,1 4〔98頁の図2〕,24〔185頁〕)によれば,水や水蒸気等の水性 流体を油組成物と接触させた後に分離する処理によってタンパク質性化 合物が除去されることも,周知であったと認められる。
(ウ) そうすると,本件発明7のステップ(b)は,タンパク質性化合物 を含む親水性の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去し得る 点において,上記の水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水 洗の処理と異なるところはないというべきである。
イ 甲2文献における開示
(ア) 上記(1)のとおり,甲2文献においては,油をストリッピング工程の 前に前処理してもよいと記載されている(【0057】)。
(イ) そして,上記アのとおり,ストリッピング処理を行う前に水や水蒸 気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を経ることが周知 であったことからすれば,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や 水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性 の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去することを,当業者 は当然に動機付けられるものといえる。
ウ 解乳化剤としての無機塩の添加が周知技術であったか否か
(ア) 水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理におい ては,水相と油相との界面が十分に解乳化され,水性流体を油から容易\nに分離することが可能な状態となることが好ましいことは明らかである。\n
(イ) そして,証拠(甲30,31,44ないし46)によれば,一般科 学においては,従来から,塩化ナトリウム等の塩を解乳化剤として用い ることが広く知られていたと認められることからすれば,水や水蒸気等 の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においても,水相と油相 との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離することが可能な状\n態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,当業者は当然 に動機付けられるものといえる。
エ 容易想到性
(ア) 上記アないしウで検討したところによれば,甲2文献に接した本件 優先日当時の当業者は,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や水 蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性の 不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去すること,その際に, 水相と油相との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離すること が可能な状態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,容\n易に想到することが可能であったといえる。\n
(イ) また,本件発明7のステップ(b)に係るその他の構成について検\n討するに,証拠(甲5,24)によれば,魚油には炭素数16から22 の遊離脂肪酸が必ず含まれていることが認められる。 さらに,粗魚油の一般的な遊離脂肪酸濃度は2重量%ないし5重量% であると認められる(甲5〔475頁の表1〕)ところ,水や水蒸気等の\n水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においては,油組成物中の 遊離脂肪酸は中和されず,その量が変化しないことは明らかであるから, 上記処理後の魚油の遊離脂肪酸濃度が,0.5重量%ないし5重量%の 範囲内となることも明らかである。
(ウ) 以上によれば,甲2文献に接した本件優先日当時の当業者は,本件 発明7のステップ(b)に係る構成を,容易に想到することができたも\nのといえる。
オ 被告の主張について
(ア) 被告は,甲2文献には,ストリッピング処理前の前処理過程の一例 として脱臭工程のみが挙げられている上,脱ガム処理のほか,本件発明 7のステップ(b)に係る構成について何らの記載等もされていないか\nら,当業者は同構成を採ることを動機付けられるものではない旨主張す\nる。 しかしながら,甲2文献の段落【0057】には,ストリッピング工 程の前処理の一例として脱臭工程が挙げられているものの,これに限る 旨の記載は存しない上,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用い た脱ガム処理等が周知の技術であり,これをストリッピング処理の前に 行うこともまた周知であったことからすれば,当業者は,ストリッピン グ工程の前処理として,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理等 を行うことを動機付けられるものといえる。 したがって,被告の主張は,採用することができない。
(イ) 被告は,原告が主張する脱ガム処理には様々な方法によるものが含 まれるから,相違点10−2に係る本件発明7の構成には至らない旨主\n張する。 しかしながら,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガ ム処理が,一般的な脱ガム処理の方法の1つとして周知の技術であった と認められることからすれば,甲2文献に接した当業者は,これを甲2 発明に適用することを動機付けられるものといえるから,被告が指摘す るとおり,脱ガム処理に様々な方法によるものが存在するとしても,前 記の結論を左右するものではないというべきである。 したがって,被告の主張は,採用することができない。
(ウ) 被告は,エマルジョン形成の解消が容易ではないことは技術常識で あったこと,甲44文献に記載された有機相及び本件発明7のステップ (b)における有機相は全く異なるものであること,魚油の精製工程に おいて無機塩を解乳化剤として用いることに関する文献が本件訴訟にお いて提出されていないことから,当業者が無機塩を添加して有機相と水 相とを分離させる技術を甲2発明に適用することを動機付けられるもの ではない旨主張する。 しかしながら,欧州の特許公開公報である甲44文献に対応する日本 の公開特許公報である乙C6文献には,海産動物油等の天然源からEP A及びDHA混合物等を抽出する方法に関して,脂肪酸混合物を含む相 と水相との分離を高めるために,塩化ナトリウム等の塩類を少量加える ことが記載されている。また,甲30文献には,魚鯨油を2%程度の塩 化ナトリウム等の塩類水溶液で洗浄する方法が記載されており,脱ガム 処理として魚鯨油を塩類水溶液で洗浄する方法が行われているものと認 められる。このように,魚油の精製工程において,無機塩を添加するこ とによって相分離を図る方法が記載されている文献が存在するのに対し, 本件各証拠上,このような方法の採用を妨げるような内容の文献は見当 たらない。 そうすると,一般科学において実施されている相分離を改善するため の無機塩の添加を,魚油の精製工程において実施することが妨げられる ものではないというべきである。 したがって,被告の主張は,採用することができない。
(エ) 被告は,本件発明7は当業者には予測し得ない顕著な効果を奏する\n旨主張する。
しかしながら,これまで検討したとおり,本件発明7のステップ(b) に係る構成は,周知技術である水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム\n処理等に,同じく周知技術である相分離を改善するために無機塩を添加 する方法を組み合わせたものであることからすれば,当業者は,同構成\nが塩基を使用しないものであることや,相分離の改善によりトリグリセ リド油の回収率を高めることができることを当然に予測し得るものとい\nえるから,本件発明7は,予測し得ない顕著な効果を奏するものとは認\nめられない。

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令和1(行ケ)12020 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月19日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。同じ先行技術について審決は阻害要因あり、裁判所は阻害要因無しとの判断です。

(イ) 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手 段1)の採用と甲1発明の技術思想について
a 空所134への液体の集約
被告は,甲1は,甲1発明が,「改良された液体分布機構」として,ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をい\nったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個 所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており,甲1発明の「改良された液体分布機構\」においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング 30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,コ ンプレツサ内に存在しないとし,したがって,スラストピストン室6 0についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所13 4を介することなく供給するなどという構成は,甲1発明の技術思想に反するものであって,適用が排斥されていると主張する(前記第3,\n1(2)イ(イ)c(a))。
甲1には,空所134に関し,「中間ハウジング30はまた,圧力の かかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有して いる。」(9欄35〜37行),「空所134は,コンプレツサベアリン グおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形 成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70 に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働 く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152および パイプ154を介して空所134から室70に供給される。」(10欄 6〜13行)と記載され,ポンプ140によって加圧した液体の供給 について,いったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必 要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するとい う構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると,ポンプ140により加圧された液体を供給する経路の一部を,あえて空\n所134を経由しない別の経路として設けるように変更することは, 甲1の技術思想に反するものとして,その適用が排斥されているとい う余地があるとしても,ポンプにより圧力が加えられない液体をスラ ストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に,これを, ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが 排斥されていると解することはできない。したがって,被告の上記主 張を採用することはできない。
被告は,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける と,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂 回することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属く ず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不物等)がスラストピストン 室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいて はコンプレツサ10が機能不全に陥るとし,甲1発明において,スラストピストン室60に液体を供給する構\成を,ポンプ140・フイルタ146・空所134を迂回するものの他のフイルタを通過してスラ ストピストン室60に至る構成に改変しようとすると,フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体\nパイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,甲1発明がコン プレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等 に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因があると主張する(前記第3,1(2)イ(イ)d(b))。
しかし,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ14 6を迂回したとしても,圧縮機全体での液体の循環が繰り返される中 で,大部分の異物はいずれはフイルタ146を通って除去されること になるし,必要であれば,ポンプの前にフイルタを経由するように構成を変更し,ポンプにより圧力を加えられる液体も,圧力を加えられ\nない液体もフイルタを通過するようにするなどの対応を取ることもで きるから,コンプレツサ10が機能しなくなるとは認められない。また,このように構\成を変更するとしても,それによってコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数が著しく増えるとする根拠はない。したが って,被告の上記主張を採用することはできない。
・・・
。このように,甲1発明に ついても,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題を 認識できることから,そのような課題を解決するために,逆スラスト 荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるもの と認められる。そうすると,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が 発生するという技術的課題やその課題の解消について甲1に直接の言 及がないとしても,そのような課題を解決するために甲1発明に非加 圧の経路を設けるという動機付けが生じるものと認められる。したが って,被告の上記主張を採用することはできない。
3 以上によれば,本件特許発明は,甲1発明に,甲2ないし甲5に記載された 周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許 法29条2項の規定により特許を受けることができず,本件特許は特許法12 3条1項2号の規定により無効とすべきものであると認められ,取消事由1(無 効理由1に関する進歩性の判断の誤り)は理由がある。

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令和2(行ケ)10030  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月28日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反ありとした審決が取り消されました。理由は、先行技術甲1に接した当業者は,甲1の構成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識するとはいえないので、甲1に本件周知技術を適用する動機付けがないというものです。\n

 原告は,本件審決は,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥 没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具 と接続管とで挟持取付けること」(本件周知技術)は,本件出願前の周知技術 にすぎないから,取付けの強固さや水密性等を考慮して,甲1発明の「縁部 2」の構成を,本件周知技術のように,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥\n没部の底部に形成された内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取 付けることによって,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者\nが容易になし得たことである旨判断したが,甲1発明に本件周知技術を適用 する動機付けはないから,本件審決の判断は,誤りである旨主張するので, 以下において判断する。
ア 甲1発明は,「浴槽の底部1は,開口部を有し,その縁部2は,貫通する 方法で湾曲しながら徐々に下側に向かって成形され,この開口部の中には, 排水装置が挿入されており,この排水装置は,おおよそ筒状を呈した排水 ケーシング3を有しており,排水ケーシング3の上端部にはパッキン5を 保持し固定するフランジ4が配置されて,上記縁部2の下端が該パッキン 5に接しており,上側からは,排水カップ6が,排水ケーシング3の中へ ネジ固定により挿入されて,上部外側の縁部分で浴槽の底部に接しており, 排水カップ6の内側には,排水カップ6の上端の径と略同径の閉塞板7が 挿入されており,タペット8を用いることにより上昇させたり,下降させ たりすることができ,閉塞板7は,開口部に接触せず,閉鎖時には,浴槽 の底部1に概ね面一とされ,閉塞板7の裏側には,径内方向に凹んだ断面 コ字状の環状の溝部が設けられ,該溝部にパッキンが保持されている,排 水装置」(前記第2の3(2)ア)である。
甲1の図面(別紙2参照)は,排水ケーシング3の円形断面の中心線に おける断面図であること(前記2(2)イ(イ)),甲1の「ここでは,唯一の図 面が,本発明に基づく排水装置の横断面の形状を示している。ここに示さ れた一つの浴槽の底部1は,一つの開口部を有しており,その縁部2は, 貫通する方法で下側に向かって成形されている。この開口部の中には,排 水装置が挿入されており,この排水装置は,排水ケーシング3を有してい る。・・・排水カップ6の内側には,閉塞板7が挿入されており,一本のタペ ット8を用いることにより上昇させたり,下降させたりすることができる。」 (前記(1)ウ)との記載に照らすと,甲1の図面は,閉塞板7が下降し,開 口部を閉鎖した状態を示した図面であることを理解できる。 そして,甲1の図面から,甲1発明の縁部2は,断面形状が内側に湾曲 しながら徐々に下側に向かって縮径する構成を有し,縁部2の湾曲面に上\n部外側の縁部分が当接する排水カップ6と,縁部2の下端に接するパッキ ン5を保持し,固定するフランジ4を含む排水ケーシング3とで挟持取り 付けられていることを理解できる。
他方で,甲1には,縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持 取付けられていることやその作用等について明示的に述べた記載はない。 また,甲1の記載事項全体(図面を含む。)をみても,縁部2が排水カップ 6と排水ケーシング3とで挟持取付けられている構成について,取付けの\n強固さや水密性等の観点から,改良すべき課題があることを示唆する記載 もない。
イ 次に,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に 内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管と で挟持取付けること」(本件周知技術)が,本件出願当時,周知であったこ とは,前記(1)イのとおりである。 他方で,本件周知技術に係る甲3,5及び8には,円筒状陥没部の底部 に形成した内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構\n成の作用等について述べた記載はない。 また,甲3,5及び8には,取付けの強固さや水密性等の観点から,内 向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成が,甲1の図\n面記載の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられ る構成よりも優れていることを示唆する記載はない。\n
ウ 前記ア及びイによれば,甲1に接した当業者は,甲1発明の縁部2の構\n成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識 するとはいえないから,甲1発明の縁部2に本件周知技術の構成を適用す\nる動機付けがあるものと認めることはできない。 したがって,当業者は,甲1及び本件周知技術に基づいて,甲1発明に おいて,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到すること\nができたものと認めることはできない。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,1)本件発明の「内向きフランジ部」は,円筒状陥没部の底部か ら縮径するように延出させることで排水口金具と接続管とで挟持取付ける ものである必要があり,かつ,それで足りるところ,甲1発明の縁部2は, 断面形状が内側に凸となる円弧状を呈し,下方向だけでなく内側方向にも 延出することで,開口部を下側に向かって縮径しており,このように開口 部を縮径することによって「排水カップ6」と「排水ケーシング3」とで 挟持取付けられるものである点において,本件発明の「内向きフランジ部」 と甲1発明の縁部2は,構造的に共通する,2)本件明細書の【0013】 の記載に照らすと,本件発明の「内向きフランジ部」は,「円筒状陥没部」 の底部に位置することで排水口金具が「水槽の底部1」に露出しない状態 で排水口金具と接続管とで挟持取付けられるものであるところ,甲1発明 の縁部2も,「開口部」の底部に位置することで排水口金具が「浴槽の底部 1」に露出しない状態で排水口金具と接続管とで挟持取付けられる点にお いて,本件発明の「内向きフランジ部」と機能及び作用が共通するとして,\n甲1発明の縁部2は,フランジ形状を呈していないとしても,構造,機能\ 及び作用が共通しているから,本件発明の「内向きフランジ部」と実質的 に同一であり,相違点1は実質的な相違点ではない旨主張する。 しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明の「内向き フランジ部」に関し,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状 陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管と で挟持取付けられて排水口部を形成」されること,「その円筒状陥没部内 を上下動するカバーが,前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径である」 ことの記載はあるが,本件発明の「内向きフランジ部」の形状や構造を\n規定する記載はない。また,本件明細書においても,本件発明の「内向 きフランジ部」の用語を定義する記載はない。 一般に,「フランジ」とは,「管を他の管または機械部分と結合する際 に用いる鍔型の部品。」(広辞苑第七版)を意味することからすると,本 件発明の「内向きフランジ部」とは,円筒状陥没部において内側に向け て形成された鍔状の部分を意味するものと解される。そして,上記結合 の際には鍔状の形状であることに即した作用を奏するものといえる。 しかるところ,甲1発明の縁部2は,湾曲しながら徐々に下側に向か って形成され,下端部に至るまでなだらかな弧状であり,内側に向けて 形成された鍔状の部分は存在しないから,本件発明の「内向きフランジ 部」に相当するものと認めることはできない。 このように甲1発明の縁部2は,鍔状の部分を備えていない点におい て,本件発明の「内向きフランジ部」と構造が明らかに異なり,その作\n用にも差異があるといえるから,本件発明の「円筒状陥没部の底部に形 成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて」 いる構成と,甲1発明の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで\n挟持取付けられている構成とが実質的に同一であるものと認めることは\nできない。
(イ) したがって,相違点1は実質的な相違点でないとの被告の主張は, 理由がない。
イ また,被告は,水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部 の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と 接続管とで挟持取付けること(本件周知技術)は,本件出願当時,周知で あったことからすると,甲1に接した当業者は,取付けの強固さや水密性 等を考慮し,甲1発明の「縁部2」に本件周知技術を適用することによっ て,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することがで\nきた旨主張する。 しかしながら,被告の上記主張は,前記⑵で説示したとおり,採用する ことができない。

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令和2(行ケ)10110 決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月18日  知的財産高等裁判所

 加圧トレーニングに関する発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

 これに対して,原告は,前記第3の1(1)のとおり,甲1に引用された実 施例と本件発明3の実施例は,全く同一であり,自然締付け力を付与され ていない状態とする効果を生じさせるための新たな構成要素が付加されて\nいるわけでもないし,仮に,本件優先日当時,自然締付け力を皆無にする 施術が広く実施されていなかったとしても,加圧力の範囲は,身体に対す る負担や得られる効果を勘案しつつ適宜決定し得る程度の事項である旨主 張する。 原告の主張は,本件明細書と甲1の明細書を対比すれば,本件明細書の 図1ないし図7が甲1の明細書の図1ないし図7と同一であること,すな わち,本件発明3と甲1−3発明でそれぞれ用いられる緊締具,加除圧制 御装置及び加除圧制御システムが同一であることを指摘するものと解さ れるが,そうであるとしても,甲1−3発明には,加圧工程と除圧工程を 交互に繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに 緊締具が所定の部位に与える締付け力について,特定部分を締付ける加圧 力を付与しない状態,すなわち,自然締付け力による加圧力も付与しない 状態に制御することについての記載も示唆もないことは前記(1)のとおり である。
また,甲1−3発明は,四肢の所定の部位の締付け力の上げ下げを行い ながら,その所定の部位よりも下流側に流れる血流を阻害し,それによっ て筋肉に疲労を生じさせ,筋肉の効率的な増強を図ることを目的とするも のである(【0003】,【0004】,【0009】,【0010】)から,甲 1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に繰り返す圧力調整手段 を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締具が所定の部位に与え る締付け力について,自然締付け力による加圧力も付与しない状態にして 血流を阻害しないようにする構成とする動機付けがあるとはいえない。\nなお,原告は,甲2発明は,筋肉トレーニングの方法を応用することに よって動脈硬化,つまり,血管のメタボリック症候群状態を改善すること を目的としており,血管を強化する方法の1つを示している旨主張してい るところ,上記主張の趣旨は明らかではないが,要するに,甲2発明にお いて筋肉トレーニング方法を応用することで血管強化も実現できること が示されている以上,本件発明3と同じ緊締具,加除圧制御装置及び加除 圧制御システムが用いられている甲1−3発明において,血管強化も実現 するために,除圧工程により加圧動作によって付与された加圧力が完全に 除去された状態において特定部分を締め付ける加圧力が付与されていな い構成にすることは,設計的事項であると主張するものと解される。\nしかし,甲2の発明の詳細な説明には,「メタボリック症候群は,・・・動 脈硬化,心筋梗塞,或いは脳卒中を起こしやすい状態である」(【0005】) との記載があるのみで,メタボリック症候群が動脈硬化の状態にあると記 載されているわけではなく,また,「加圧トレーニング方法は,四肢の少な くとも1つで流れる血流を阻害することによりその効果を生じさせるも のである・・・加圧トレーニング方法を,メタボリック症候群の治療に用い ようとした場合には,・・一般的には中高年であるメタボリック症候群の患 者は血管の強度,柔軟性が低下していることが多いため,四肢の付根付近 の締付けを行うことにより四肢に与える圧力の制御に最大限の注意が必 要である」(【0007】),「加圧トレーニングは,・・・四肢の付根付近の所 定の部位を締付けて加圧することにより,四肢に血流の阻害を生じさせ, それにより運動したのと同様の効果を生じさせるものである。・・・しかし ながら,メタボリック症候群の患者のような,血管の強度,柔軟性が低下 している者の四肢を締付ける場合には,動脈まで閉じさせるような大きな 圧力を与えることは適切ではない。他方,静脈をある程度閉じさせるよう な圧力で締付けを行わなければ,メタボリック症候群の患者の治療を十分\nには行うことができない。そこで,本願発明における治療システムでは, 四肢の付け根付近の締付けを本格的に行う通常処理に先立って前処理を 行い,その前処理で,四肢の付根付近を締付ける際に与える適切な圧力と しての最大脈波圧を特定することとしている。・・・本願発明の治療システ ムは,メタボリック症候群の患者を含む血管の弱い者の治療に適したもの となる。」(【0009】)との記載がある。そうすると,甲2発明は,加圧 トレーニング方法の機序を応用した,血管の弱いメタボリック症候群の患 者に対する治療装置等に関する発明であって,血管強化方法に関するもの ではないというべきであるから,甲2に血管強化方法が開示されていると の原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,その他の点につき判断 するまでもなく,この点に関する原告の主張は理由がない。
イ また,原告は,甲6には,ベルト(あるいはカフ)を外すことにより締 付け力を皆無にする方法が記載されているところ,本件発明3においては, 「自然締付け力」を皆無にするための付加的な構成要素は示されておらず,\n具体的な方法すら示されていないから,ベルトを単に緩める,あるいは外 すという方法もその「自然締付け力」を皆無にする方法として本件発明3 に包含されている旨主張する。 上記主張の趣旨は明らかではないが,甲6に記載されたベルトを外すこ とにより締め付け力を皆無にするという技術事項を,自然締め付け力によ る加圧力を付与しない方法として甲1−3発明に適用すれば,本件発明3 の相違点2の構成に容易に想到するというものと解される。\n しかし,そもそも甲1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に 繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締 具が所定の部位に与える締付け力について,自然締付け力による加圧力も 付与しない状態として血流を阻害しない状態とする構成にする動機付け\nがあるとはいえないことは前記アのとおりである。 また,甲6には,1)「(バラコンバンドの効能)・・・2.血管内を清掃し 血管にも弾力がでる。バンドを強く締めると,そこで血流が止まる。心臓 からは絶え間なく血液は送られてくる。血液は,バンドの所で滞留し,血 量はその部で倍加される。バンドをはずすと,血は倍の速力で血管内を流 れる。その時血管壁を掃除し,動脈硬化を治し,血管そのものも弾力がで る。」(74頁7行目〜75頁5行目),2)「足裏指巻き ●まず親指と第2 指の間を通してかかとにひっかけ,次に第2指と第3指を通して,またか かとへ巻き,指の間を通した余りで足の甲をこの停止部分にバンドを巻く。 一つでも関節を越したほうがよく効くので,手の場合なら肘の下の二つの 腕にバンドを巻くといい。(肘の上から巻き込んでいてもかまわない)きつ めに巻いて我慢できなくなったらはずそう。すると,ダムの水門を開いた ように,血液がどっと流れ込み,これまで充分にいきわたっていなかった ところまで勢いよく入り込む。」(120頁上段8行目〜121頁2行目) との記載があるが,これらは,血流を一時的に止めた後にバンドを外した 場合の効果が記載されているに止まる。したがって,これらの記載に基づ き,緊締具を付けたままの状態で,「ガス袋120へ空気を送って締付け部 位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位 への加圧を行わない下ピークと,を繰り返す加除圧方法」を採用する甲1 −3発明に,下ピークにする度に緊締具(甲6でいえば「バンド」)を外し, 上ピークにする前にこれを付け直すような変更を施すことは想定できず, この点からも,甲1−3発明に甲6に記載された事項を適用する動機付け はない。

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令和1(行ケ)10159  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月15日  知的財産高等裁判所

 審決は、複数のカメラの一方の表示を回転させることは、周知として進歩性なしと判断しました。これに対して、知財高裁は、主引例にはそのような課題が存在しないとして、動機付けなしとして審決を取り消しました。

 前記2(1)イのとおり,引用発明は,医師等が観察して診断を行う診断用 画像モニタ装置と離れて,操作者が被検者に対してX線装置のコリメータ やTVカメラの調整等を行う際の被検者及び操作者のX線被爆を避ける ために,X線曝射しない状態でコリメータやカメラの操作ができ,簡単か つ安価で操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものである。\nそして,引用文献1は,こうした課題を解決するために,医師等が観察 する診断用画像モニタ装置とは別に,1対の平行コリメータ位置マーカ2 4,24や円形コリメータ位置マーカ25,カメラ画像正立位置マーカ2 6の画像を,制御ユニット18の制御の下で,X線照射停止直前に撮像さ れ画像メモリ19に格納されたX線透視像を画像と重ねて操作用液晶デ ィスプレイ装置21に表示し,マーカ24,25,26上を指などで触れてドラッグすると,その位置情報が制御ユニット18に取り込まれて演算\nされて新たな表示位置が求められ,その位置へ各マーカが動いていくような表\示がされ,この入力情報に応じて制御ユニット18が指令をコリメータ12及びTVカメラ15へ出し,コリメータ12の遮蔽板の位置や方向 が変更され,TVカメラ15の回転角度が調整され,現実に動いた位置・ 方向の情報が制御ユニット18に返され,これに応じて制御ユニット18 が平行コリメータ位置マーカ24,24又は円形コリメータ位置マーカ2 5の表示位置を固定するとともに,表\示されたX線透視像23及びカメラ 画像正立位置マーカ26を回転させる(【0018】,【0019】)という 構成を開示している。このように,引用発明は,あくまで,医師等が観察して診断を行う診断用画像モニタ装置とは別に,X線被爆を避けるために,X線曝射しない状\n態で操作ができ,画像を操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものであって,こうした技術的意義を有す\nる引用発明において,引用文献1には,操作者が医師等の術者が被検者を 見る方向と異なる方向から被検者を見ることにより,操作者が被検者を見 る方向と操作用画像表示装置に表\示される患部の方向とが一致しないと いう課題(課題B2)があるといった記載や示唆は一切ない。
イ この点につき,被告は,前記第3の2(1)のとおり,当業者であれば,課 題B2の存在を理解し,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置に おいて,「操作者」が異なる方向から被検者に対向する場合,各々の被検者 を見る向き(視認方向)に一致させるという周知の課題(乙3,4)を参 照し,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプ レイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致 させるという課題を当然に把握し,引用発明に技術事項2を適用する動機 づけがある旨主張する。
しかし,当業者であれば,課題B2の存在を当然に理解するという点に ついては,これを裏付けるに足りる証拠の提出はなく,むしろ,原告が主 張するように,術者と操作者との力関係や役割の違いに照らせば,操作者 は,従前は,このような課題を具体的に意識することもなく,術者の指示 に基づきその所望する方向に画像を調整することに注力していたもので あるのに対して,本願発明は,その操作者の便宜に着目して,操作者の観 点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上 げたことに意義があるとの評価も十分に可能\である。
また,乙3には,「本発明の手術用顕微鏡システムでは,前記画像表示手段を複数備え,少なくとも一つの画像表\示手段で表示される画像の向きが\n変更可能であることが望ましい。このような構\成では,術者と助手とが向 き合って手術する時のように,撮像部分を異なる方向から見る場合におい ても,それぞれの見る方向に応じて画像の向きを変えることにより,撮像 部分を見るのと同じ向きの画像を表示することが可能\となり,より手際の よい手術が行えるようになる。」(【0007】),「本発明の手術用顕微鏡シ ステムは,・・・前記画像処理装置は,各電気光学撮像手段からの撮像信号に 基づいて,基準画像信号を生成して,基準画像を前記画像表示手段に表\示 させる基準画像生成部と,前記各撮像信号に基づいて,基準画像と上下ま たは左右が反転した反転画像信号を生成して,前記画像表示手段に表\示さ せる反転画像生成部とを備えることを特徴とする。」(【0008】)との記 載があるように,術者とそれを補助する術者が向き合って手術をするとき のように撮像部分を異なる方向から見る場合でも,画像表示手段で表\示さ れる画像の向きをそれぞれの見る方向に応じて変更する構成により,撮像部分を見るのと同じ向きの画像を表\示することが可能となり,より手際の\nよい手術が行えるようになるとの課題が示されているにとどまり,術者と X線撮影装置の操作者についてそのような課題があると開示するもので はない。
さらに,乙4には,「本実施例の装置の動作について,図を参照して説明 する。まず,図1において術者Aは第1モニタ4を見て,術者Bは第2モ ニタ7を見て手技を行っている。ここで術者Bは内視鏡2に対向している ので,内視鏡2の原画像をそのまま第2のモニタ7に表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまう。このため,画像処理装置8にて,第2モニ\nタ7の画面のみを上下左右反転させた倒立像を映し出す。」(【0022】), 「本実施例では,第2モニタ7を倒立像にすることで,術者Bが上下左右 逆の感覚で手技を行うことがないので,スムーズに手技を行うことができ る。また,第1モニタ4及び第2モニタ7のいずれでも倒立像にできるの で,内視鏡2の向きや術者の位置が変わっても,容易に対応できる。」(【0 025】)との記載があるように,術者Aと術者Bがそれぞれ異なるモニタ を見て手技を行う場合において,術者Bが見ている第2のモニタ7に内視 鏡2の原画像を見てそのまま表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまうという課題が示されているにとどまり,術者とX線撮影装置の操作者\nについてそのような課題があると開示するものではない。
そうすると,上記の乙3,4の各文献に記載された課題は,あくまで術 者と助手又は術者と術者がそれぞれ異なるモニタを見ることによって生 じる課題を指摘するにとどまり,術者とは異なる操作者が操作を行うとい う引用発明の場合において,操作者の便宜のために,操作者が見る患部の 向きの方向と,操作者が見る操作用液晶ディスプレイの患部の向きとを一 致させるという課題を示唆するものとはいえないから,当業者がこのよう な課題を当然に把握するともいえない。
(2) また,仮に,引用発明について,前記課題B2の存在を認識し,異なる方 向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の 向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題を 把握して,操作用液晶ディスプレイ装置21に表示されるX線画像のみを回転させるという相違点の構\成とする動機づけがあると仮定しても,前記2(2) のとおり,技術事項2’は,HMDを装着し操作者を兼ねた術者が見るHM Dの画像表示部に表\示されるX線画像と実際の患者の患部の位置把握を容易 にするために,上記術者の床面上の位置情報に基づいて上記X線画像の回転 処理を行うものであるから,回転処理がされるX線画像はHMDの画像表示部であり(引用文献2の【0014】,【0020】,図14等),また,画像\n回転処理の基になる位置情報は,床面に設けられた感圧センサによるもので ある(引用文献2の【0022】)。
こうした技術事項2’の構成は,キャビネット43に設置された診断用画像モニタ17は術者である医師が使用し,台車41に設けられた操作用液晶\nディスプレイ装置21は撮像装置のセッティング等のために操作者が状況に 応じて自由に移動し,また台車41に様々な立ち位置を取ることができる引 用発明の具体的な構成と大きく異なるものであるから,引用発明と引用文献2に記載されたX線装置は同一の技術分野に属し,X線画像を表\示する装置を有する点で共通するとしても,HMDに表示されるX線画像の回転処理が行われるという技術事項のみを抽出して引用発明に適用する動機づけがある\nとはいえない。 さらに,技術事項2’は,操作者を兼ねた術者が装着したHMDに表示されるX線透視像を床面の位置情報に基づいて回転させるという構\成を有するものであるから,こうした構成を無視して,表\示されたX線画像のみを回転させるという技術事項のみを適用し,本願発明の相違点の構成に想到するとはいえない。\n
(3) 以上によれば,本願発明と引用発明との相違点は,本願発明は「前記X線 画像のうち,前記表示部に表\示されるX線画像のみを回転させる画像回転機 構を備え」ているのに対し,引用発明は,そのような特定がない点に尽きるが(本願発明における画像回転機構\自体については目新しいものとはいえない。),引用文献1には,「操作用液晶ディスプレイ装置21」を見て操作する「操作者」の視認方向が「診断用画像モニタ装置17」を見る「術者」の「被検者」の視認方向と一致しないという課題(課題B2)について記載も示唆もなく,被告が提出した文献からは,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置において,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題があると認めるに足りないから,こうした課題があることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとはいえず,また,本件審決の技術事項2の認定に誤りがあり,引用文献2に記載された事項(技術事項2’)から引用発明との相違点の構\成に想到するともいえないから,結局のところ,本願発明は,引用発明及び引用文献2に記載された技術事項2’に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものとはいえず,これと異なる本件審決の判断は,その余の点につき判断するまでもな く,誤りである。

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令和2(行ケ)10035 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月29日  知的財産高等裁判所

 パチンコ機について進歩性無しとした審決が取り消されました。

 原告は,本件審決が,相違点1ないし3について,「再変動」(本願発明の 「単位演出」に相当。)の契機となる前回の「変動(再変動)」に基づく仮停 止について,初回の変動においてチャンス目Aが仮停止し,2回目の変動(再 変動)においてチャンス目Bが仮停止するというように,仮停止させるチャ ンス目を,段階的に大当り信頼度が高いものとしていく引用発明において, 「再変動」の契機となる,前回の「変動(再変動)」に基づく所定のチャンス 目により仮停止させることを節目として,引用文献2に記載の技術である, 遊技図柄の確変図柄の割合を変化させるという演出である「図柄群変化演出」 を適用することにより,所定のチャンス目が仮停止した後の「再変動」にお いて,当該「図柄群変化演出」により遊技図柄の確変図柄の割合が変化した 後の遊技図柄を用いた変動を実行するとともに,当該「図柄群変化演出」に おいて,遊技の興趣を向上させるために,遊技図柄の確変図柄の割合を変化 させる態様として,上記周知技術の態様を採用して,非確変図柄を確変図柄 に変更することにより,相違点1ないし3に係る本願発明の構成とすること\nは,当業者が容易になし得たものである旨判断したが,引用発明から出発し て,相違点1ないし3に係る本願発明の構成に想到することは,当業者にと\nって容易であったということはできない旨主張するので,以下において判断 する。
ア(ア) 引用文献1には,所定の入賞領域(始動入賞口)に遊技媒体が入賞す る(始動条件が成立する)と識別情報を可変表示(「変動」)可能\な可変 表示装置が設けられ,識別情報の可変表\示の表示結果が特定表\示結果(大 当り図柄)となった場合に遊技者にとって有利な特定遊技状態(大当り 遊技状態)に制御可能に構\成された従来の遊技機において,可変表示が\n実行されるより前に複数回の可変表示に渡って予\告演出を実行し,連続 した予告演出の態様の組合せにより,表\示結果を予告するものも提案さ\nれているが,遊技に有利状態となる可能性が低い予\告演出が実行された 場合には,遊技者が落胆してしまい,遊技の興趣が低下してしまうおそ れがあったという問題があったため,「本発明」の課題は,上記実情に鑑 み,遊技の興趣を向上させた遊技機を提供することを目的とすることに ある旨の開示がある(【0002】,【0003】,【0005】,【0006】)。
(イ) 次に,引用発明の遊技機は,1)「特図ゲームの第1開始条件と第2開 始条件のいずれか一方が1回成立したことに対応して,飾り図柄の可変 表示が開始されてから可変表\示結果となる確定飾り図柄が導出表示さ\nれるまでに,「左」,「中」,「右」の飾り図柄表示エリア5L,5C,5R\nにおける全部にて飾り図柄を一旦仮停止表示させた後,全部の飾り図柄\n表示エリア5L,5C,5Rにて飾り図柄を再び変動させる擬似連の可\n変表示演出であって,擬似連の可変表\示演出(「再変動」)は1回の変動 において最大3回まで実行可能になっていて,再変動の回数が多ければ\n多いほど,大当り信頼度が高くなるように変動パターンが決定され,決 定された変動パターンなどに基づいて演出制御パターンとしての特図 変動時演出制御パターンをセットし,演出制御パターンに含まれる,演 出装置における演出動作の制御内容を示し,演出制御の実行を指定する 表示制御データ#1〜表\示制御データ#n(nは任意の整数)の内容に 従って,画像表示装置5の制御を進行させる演出制御用CPU120と\nを備え」(構成b),2)「可変表示結果が「リーチハズレ」,「大当り」の\nいずれであるかによって擬似連予告演出が実行される割合,擬似連予\告 パターンの決定割合が異なり,具体的には,可変表示結果が「大当り」\nである場合には,「リーチハズレ」である場合よりも,擬似連予告演出が\n実行される割合が高くなっていて,チャンス目Aが停止する擬似連予告\nパターンYP1−1の擬似連予告演出が実行された場合よりも,チャン\nス目Bが停止する擬似連予告パターンYP1−2の擬似連予\告演出が 実行された場合の方が,可変表示結果が「大当り」となる割合である大\n当り信頼度が高くなっていて,チャンス目の種別により大当り信頼度が 異なるものとされ,4回の変動及び再変動(擬似連3回の変動パターン) に渡って実行される擬似連予告演出の擬似連予\告パターンとして,初回 の変動においてチャンス目Aが仮停止し,2回目の変動(再変動)にお いてチャンス目Bが仮停止し,3回目の変動(再変動)において,背景 画像が特殊な背景画像に変化し,4回目の変動(再変動)においては継 続して特殊な背景画像において変動が実行される擬似連予告パターン\nを設けることで,大当り信頼度が段階的にステップアップしていくよう な演出を行」い(構成c),3)「所定の通常大当り組合せとなる確定飾り 図柄が停止表示されると,通常開放大当り状態に制御され,その終了後\nには,時短制御が行われる一方,所定の確変大当り組合せとなる確定飾 り図柄が停止表示されると,通常開放大当り状態に制御され,その終了\n後には,時短制御とともに確変制御が行われ,確変制御が行われると, 各回の特図ゲームにおいて可変表示結果が「大当り」となる確率は,通\n常状態に比べて高くなり,確変制御は,大当り遊技状態の終了後に可変 表示結果が「大当り」となって再び大当り遊技状態に制御されるという\n条件が成立したときに終了する」(構成e)との構\成を有している。 引用発明は,構成cのとおり,疑似連予\告演出で仮停止するチャンス 目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似連予告演出の回数と背景画像\nの変化とからなる擬似連予告パターンを設けることによって,大当り信\n頼度が段階的にステップアップしていくような演出を行う構成のもの\nであることが認められる。
そして,引用文献1には,チャンス目に関し,「チャンス目Aは,図2 1(A)に示すように,左図柄と中図柄が同じ数字であり,右図柄のみ が1つずれた数字の組合せとなっている。また,先読み予告パターンS\nYP1−2に基づく停止図柄予告では,連続演出用のチャンス目として,\n図21(B)に示すチャンス目CB1〜CB6(チャンス目B)のいず れかが停止する。チャンス目Bは,図21(B)に示すように,並び数 字の組合せとなっている。この実施の形態では,後述するように,チャ ンス目Aが停止する停止図柄予告が実行された場合よりも,チャンス目\nBが停止する停止図柄予告が実行された場合の方が,大当りとなる可能\ 性(大当り信頼度)が高くなっている。このようにすることで,停止図 柄予告が実行されるときに,いずれのチャンス目が停止したかに遊技者\nを注目させることができ,遊技の興趣が向上する。」(【0247】),「ま た,図35(B)に示す決定割合では,チャンス目Aが停止する擬似連 予告パターンYP1−1の擬似連予\告演出が実行された場合よりも,チ ャンス目Bが停止する擬似連予告パターンYP1−2の擬似連予\告演出 が実行された場合の方が,可変表示結果が「大当り」となる割合(大当\nり信頼度)が高くなっている。このように,チャンス目の種別により大 当り信頼度が異なるので,遊技者が停止図柄に注目するようになり,遊 技の興趣が向上する。」(【0370】)との記載がある。上記記載から, 「チャンス目」(チャンス目A及びB)は,「飾り図柄」を構成する個々\nの数字ではなく,「数字の組合せ」であり,「数字の組合せ」に着目して 可変表示結果が「大当り」となる割合(大当り信頼度)に差を設けてい\nることを理解できる。
・・・
イ(ア) 引用文献2には,1)複数種類の遊技図柄を変動表示装置において変\n動表示させることで変動表\示遊技を行う従来の遊技機においては,「リー チ状態」が発生した場合,例えば,遊技者の大当たり状態の発生に対す る期待感を高めて,遊技の興趣を盛り上げるために,最後に停止状態と なる変動表示部における遊技図柄の変動表\示速度を変化させたり,変動 表示部に表\示される遊技図柄の背景領域を利用してキャラクタ等による 演出表示を行ったりするのが一般的であるが,既に在り来たりのもので\nあり,それらの演出表示だけでは遊技者は遊技の興趣を得難くなってお\nり,また,未だ変動表示中の変動表\示部において変動表示される遊技図\n柄の中で特定の組合せ態様を成立し得ない遊技図柄の数を減少させて, 特定の組合せ態様が成立し易いような状態を演出表示することにより,\n遊技者の大当たり状態の発生に対する期待感を高めている遊技機もある が,遊技図柄の数を減少させた状態で行われる変動表示の速度が高速で\nあると,遊技者が遊技図柄の数が減少していることを把握できないまま 遊技を終了してしまうおそれがあるため,変動表示の速度を低速にする\nのが一般的であるが,その場合には,遊技自体にスピード感がなくなり, 変化に乏しい面白みのないものとなり,遊技の興趣を得難いという問題 点があったことから,遊技者の遊技に対する興趣を高める上で斬新な変 動表示を行う遊技機が求められており,2)「本発明」の課題は,上記実 情に鑑み,遊技者の遊技に対する興趣を高めることが可能な遊技機を提\n供することを目的とすることにある旨の開示がある(【0002】ないし 【0004】)。
・・・
ウ 以上を前提に検討するに,前記ア及びイの認定事実によれば,引用発明と 引用文献2に記載の技術は,遊技の興趣の向上という課題が共通し,1回の 変動中に複数段階で演出態様を変化させるという共通の機能を有している\nものと認められるが,一方で,引用発明と引用文献2に記載の技術は,遊技 の興趣の向上のために着目する観点が相違すること(前記イ(イ)),引用発 明の「飾り図柄」は,「基本的態様を示す基本要素部」と「第一属性および 第二属性のいずれが設定されているかを示す属性要素部」の二つの要素部 を有する「識別図柄」であるとはいえず,引用発明の「飾り図柄」のうち の「確変図柄」は,本願発明の「第一属性が設定された識別図柄」に相当 するものではなく,引用発明の「飾り図柄」のうちの「非確変図柄」は, 本願発明の「第二属性が設定された識別図柄」に相当するものではないこ と(前記(3)イ)に鑑みると,引用文献1及び2に接した当業者が,数字の 組合せからなるチャンス目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似連予告\n演出の回数と背景画像の変化に着目し,この観点から,大当り信頼度が段 階的にステップアップしていくような演出を行う引用発明において,遊技 の興趣の向上のために,「一連の遊技図柄」に含まれる確変図柄の割合の大 きさに着目する引用文献2に記載の技術を適用して遊技図柄の確変図柄の 割合を変化させる構成とする動機付けがあるものと認めることはできな\nいし,引用発明に引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用する動 機付けがあるものと認めることもできない。
また,仮に引用発明に引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用 しようとした場合に,引用発明において相違点1ないし3に係る本願発明 の各構成をそれぞれどのように備えることになるのかを具体的に想到す\nることは,当業者にとって容易であるということはできない。 そうすると,本件審決の相違点1ないし3の容易想到性に関する前記判 断のうち,「当該「図柄群変化演出」において,遊技の興趣を向上させるた めに,遊技図柄の確変図柄の割合を変化させる態様として,上記周知技術 の態様を採用して,非確変図柄を確変図柄に変更することにより,相違点 1ないし3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得た」\nとの部分は,論理付けが不十分であって,採用することができないから,\n本件審決における相違点1ないし3の容易想到性の判断には誤りがある。
エ これに対し被告は,1)引用発明と引用文献2に記載の技術は,遊技者に 段階的に有利となる期待感を高めることで興趣を向上させるという点で 課題が共通し,1回の変動中に複数段階に演出態様を変化させるという点 で作用・機能も共通すること,2)擬似連変動を行うパチンコ機において, 図柄や画像の段階的な変化を仮停止後の再変動を契機に行うことは,広く 一般に周知の技術であること,3)引用文献2の【0074】の「前記一連 の遊技図柄に含まれる確変図柄の割合を変更させることが可能であれば\n如何なる方法であっても良い。」との記載は,引用文献2に記載の技術にお いて,「図柄群変化演出」により遊技図柄(識別図柄)の確変図柄の割合を 変化させる方法について,実施例に例示した形態以外の他の周知の態様に 置換することを許容していることを示唆するものであり,当該他の周知の 方法の具体例として,本件周知技術である「通常図柄を確変図柄扱いにし ていく図柄変化演出」が存在することに鑑みると,引用文献1及び2に接 した当業者は,引用発明における「1回の変動」における「擬似連」とし てその各「仮停止」した後の「再変動」において,「図柄群変化演出」によ り遊技図柄の確変図柄の割合が変化した後の遊技図柄を用いた変動を実 行する構成とし,当該「図柄群変化演出」において,遊技の興趣を向上さ\nせるために,遊技図柄の確変図柄の割合を変化させる態様として,本件周 知技術の態様(「変化前に表示装置において変動表\示されていた識別図柄 群には含まれていなかった新規の識別図柄となるように設定された図柄 群変化演出を,変化前の非確変図柄を消して替わりに新たな確変図柄を出 現させること」)を適用して,相違点1ないし3に係る本願発明の構成とす\nることを容易になし得たものである旨主張する。
しかしながら,前記ウで説示したとおり,引用発明と引用文献2に記載の 技術は,遊技の興趣の向上のために着目する観点が,引用発明においては, 数字の組合せからなるチャンス目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似 連予告演出の回数と背景画像の変化であるのに対し,引用文献2に記載の\n技術は,「一連の遊技図柄」に含まれる「確変図柄の割合」の大きさである点 において相違すること,引用発明の「飾り図柄」は,「基本的態様を示す基 本要素部」と「第一属性および第二属性のいずれが設定されているかを示 す属性要素部」の二つの要素部を有する「識別図柄」であるとはいえず, 引用発明の「飾り図柄」のうちの「確変図柄」は,本願発明の「第一属性 が設定された識別図柄」に相当するものではなく,引用発明の「飾り図柄」 のうちの「非確変図柄」は,本願発明の「第二属性が設定された識別図柄」 に相当するものではないことに照らすと,上記1)及び2)の点を考慮しても, 引用文献1及び2に接した当業者が,引用発明において,遊技の興趣の向 上のために,引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用して遊技図柄 の確変図柄の割合を変化させる構成とする動機付けがあるものと認める\nことはできない。

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◆令和2(行ケ)10036

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令和2(行ケ)10043  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所

 特許取消審決が取り消されました。争点は動機付けです。裁判所は課題および上限値が知られていたとはいえないと判断しました。 

 引用発明c−1は,粒子径分布が好適範囲に管理されていても,平均粒 子径から大きく逸脱する粗大粒子が存在する場合には,表示品位の低下や,光学フ\nィルムに欠点が生じる(段落[0005])ため,好適な粒子径を逸脱する粗大な 粒子の含有量が低レベルに低減された微粒子,及び,このような微粒子の製造方法, 並びにこの微粒子を含む樹脂組成物を提供するものであり(段落[0006]), 湿式分級と乾式分級とを組み合わせた方法により処理することで,粒径の好適範囲 から逸脱する粗大粒子や微小粒子を一層効率よく低減するものである(段落〔00 09〕)。
本件発明は,前記(1)アのとおり,架橋アクリル酸系樹脂粒子の揮発分が塗膜表\n面にムラなどを生じさせる結果,塗膜表面の傷付き性能\の低下が生じてしまうこと を解決することを課題としているところ,甲2−3には,このような本件発明の課 題は現れていない。
また,前記(2)によると,合成樹脂粒子の製造については,水分量を低減させ, 残存モノマーを低減させることにより,その品質を向上させることが知られていた ことは認められるが,前記(2)の各証拠から,本件発明のように,粒子中の揮発分 が表面ムラの発生や,塗膜表\面の傷付き性低下などを生じさせていたこと(本件明 細書の段落【0005】)という課題や,この課題を解決するために,加熱減量を 減ずるという構成を採用することが,本件優先日当時,当業者に知られていたと認\nめることはできないし,まして,本件発明の「加熱減量のす.5%」が当業 者に知られていたと認めることはできない。
そして,他に,上記の点について動機付けとなる証拠が存するとは認められない から,甲2−3によって,相違点c−1を容易に想到することができたと認めるこ とはできず,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 被告は,合成樹脂粒子の技術分野において,粒子の残存モノマー,水分などの揮 発分が存在することに起因して,何らかの問題が発生する場合に,当該揮発分の量 を一定量以下に低減化させることは,一般的な共通課題であるから,本件発明1は, 引用発明c−1から容易想到であると主張するが,被告の上記主張を採用すること ができる証拠がないことは,既に説示したところから明らかである。
(4) 以上によると,本件発明1が,当業者が容易に発明をすることができたも のであるとする本件決定の判断に誤りがある。
そして,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものでないから, 本件発明4,8も,当業者が容易に発明をすることができたものではないし,さら に,本件発明9及び本件発明10も,当業者が容易に発明をすることができたもの ではない。

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令和2(行ケ)10075  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月11日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反有りとした異議決定が動機付け無しとして取り消されました。

 甲1発明及び甲3記載事項は,共に,弁当包装体という技術分野に属す るものであると認められる(甲1の段落【0001】,甲3の段落【0017】)。 しかし,甲1発明は,熱収縮性チューブを使用した弁当包装体について,煩雑な 加熱収縮の制御を実行することなく,包装時の容器の変形やチューブの歪みを防ぎ, また,店頭で,電子レンジによる再加熱をした際にも弁当容器の変形が生じること を防ぐことを課題とするものである(甲1の段落【0003】,【0004】)のに対 し,甲3に記載された発明は,ラベルを構成する熱収縮性フィルムについて,主収\n縮方向である長手方向への収縮性が良好で,主収縮方向と直交する幅方向における 機械的強度が高いのみならず,フィルムロールから直接ボトルの周囲に胴巻きした 後に熱収縮させた際の収縮仕上がり性が良好で,後加工時の作業性の良好なものと するとともに,引き裂き具合をよくすることを課題とするもの(甲3の段落【00 07】,【0008】)である。 そして,上記課題を解決するために,甲1発明は,非熱収縮性フィルム(21) と熱収縮性フィルム(22)とでチューブ(20)を形成し,熱収縮性フィルム(2 2)の周方向幅はチューブ全周長の1/2以下である筒状体であり,熱収縮性フィ ルム(22)の熱収縮により,弁当容器の外周長さにほぼ等しいチューブ周長に収 縮して弁当容器に締着されてなるものとしたのに対し,甲3に記載された発明の熱 収縮性フィルムは,甲3の特許請求の範囲記載のとおり,各数値を特定したもので ある。 これらのことからすると,甲1発明と甲3に記載された発明は,課題においても その解決手段においても共通性は乏しいから,甲3記載事項を甲1発明に適用する ことが動機付けられているとは認められない。
イ これに対し,被告は,甲1発明と甲3記載事項は,熱収縮という作用, 機能が共通する旨主張するが,熱収縮は,通常,弁当包装体が持つ基本的な作用,\n機能の一つにすぎないことを考慮すると,被告の上記主張は,実質的に技術分野の\n共通性のみを根拠として動機付けがあるとしているに等しく,動機付けの根拠とし ては不十分である。\nまた,被告は,甲1発明と甲3記載事項とでは,ポリエステルフィルムを用いて いる点が共通する旨主張するが,包装体用の熱収縮性フィルムを,ポリエステルと することは,本件特許の出願前の周知技術(甲1の段落【0010】,甲3の【請求 項7】,段落【0003】,甲6〔特開2008−280371号公報〕の段落【0 001】)であると認められ,ポリエステルは極めて多くの種類があること(乙5) からすると,材料としてポリエステルという共通性があるというだけでは,甲1発 明において,熱収縮性フィルムとして,甲3記載事項で示される熱収縮性フィルム を適用することに動機付けがあるということはできない。
ウ 以上によると,甲1発明において,熱収縮性フィルムとして,甲3記載 事項で示される熱収縮性フィルムを適用する動機付けがあると認めることはできな い。 したがって,甲1発明及び甲3記載事項に基づいて,相違点2に係る本件発明2 の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。\n

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令和1(ネ)10074  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月10日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 CS関連発明についての侵害事件で、知財高裁(3部)は、技術的範囲に属するが無効理由ありと判断しました。1審は一部の構成要件の非充足でした。\n

 前記(ア)bのとおり,インタ−ネット広告配信の技術分野において, 同じ広告を必要以上に見せることにより起きる「バナ−バ−ンアウト」 (広告に反応がなくなる状態)を防ぐために,利用者一人一人に対する 広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であった。 乙5発明は,インタ−ネットにおける広告配信という,上記技術と共 通する技術分野に属する。そして,乙5発明は,「モバイル・ウェブ・ クライアントによりウェブにアクセスしているユ−ザ−に対する広告の 効力を高めること」(乙5【0011】)を目的としており,広告の効 力を高めるという課題は,上記周知技術の課題と共通する。そのため, 乙5発明に,技術分野及び課題が共通する上記周知技術を組み合わせる ことには動機付けがあるものと認められる。
そして,乙5発明において,特定の広告オブジェクトについて各ユ− ザ−に配信する回数を1回に制限するためには,ウェブ・サ−バが,受 信したモバイル・ウェブ・クライアントの位置情報と広告オブジェクト (広告情報)に関連付けられた位置情報が一致したことにより(前記ア (イ)b4)〔本判決74頁〕)一度供給した広告オブジェクト(前記ア(イ) b5)〔本判決75頁〕)を,その後,上記モバイル・ウェブ・クライア ントの位置情報と広告オブジェクト(広告情報)に関連付けられた位置 情報が再度一致しても,上記モバイル・ウェブ・クライアントに送信し ないようにすればよいことは,明らかである。 したがって,乙5発明に,特定の広告を各利用者に配信する回数を1 回に制限するという周知技術を適用することができたものと認められる。 そうすると,乙5発明に,特定の広告を各利用者に配信する回数を1 回に制限するという周知技術を適用し,構成要件E(「広告情報管理サ\n−バが,無線通信装置が一旦指定地域の外に出た後再び指定地域内に戻 った場合であっても,指定地域内にとどまり続けた場合であっても,同 じ広告情報を無線通信装置に送信しないこと」を特徴とする無線通信サ −ビス提供システム,前記2(1)ア(ア)〔本判決48頁〕)を容易に想到 することができたものと認められる。
エ 控訴人の反論について
控訴人は,一般的に,広告は目に触れる回数が多ければ多いほど効果が あるので,乙5発明は,広告情報が関連付けられた位置情報及び時刻と一 致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対し, 可能な限り長い時間,繰り返し広告を表\示することを目的としており,回 数は無制限で広告情報を配信する発明であるとし,広告の配信回数を制限 するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することには阻害事 由があると主張する(前記第3の4(2)イ(イ)b(b)〔本判決25頁〕)。 しかしながら,前記ウ(ア)b〔本判決83頁〕のとおり,インタ−ネッ ト広告配信の技術分野において,本件特許の出願時(平成12年9月5日) には,同じ広告を必要以上に見せることにより起きる「バナ−バ−ンアウ ト」(広告に反応がなくなる状態)を防ぐために,利用者一人一人に対す る広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であったから,本件 特許の出願時において,一般的に,広告は目に触れる回数が多ければ多い ほど効果があると認識されていたとは認められない。そして乙5発明は, 広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた位置情報及び時刻と一致 する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対して 広告オブジェクト(広告情報)を配信することにより広告の効果を高める ものであると認めることはできるが(乙5【0011】,【0012】【0 017】),乙5には,広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた 位置情報及び時刻と一致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェ ブ・クライアントに対し,可能な限り長い時間,繰り返し広告を表\示する ことが広告の効力を高めることである旨の記載はなく,かえって,広告の 繰り返しは,その効果を減ずるという認識を前提とする上記周知技術が存 在したことからすると,広告の繰り返しによって,その効力を高めること が乙5発明の唯一の目的であったということはできない。したがって,広 告の配信数を制限することにより広告の効果を高めることを乙5発明が 排斥するものであったと認めることはできないから,広告の配信回数を制 限するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することに阻害事 由があるとは認められず,控訴人の上記主張は,採用することができない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)7123

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平成31(行ケ)10041  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月4日  知的財産高等裁判所

 審決は進歩性違反無しとして無効請求を棄却しました。知財高裁も同じ判断です。

 本件発明6は,貫通孔に関し,開孔率が3.07%以上であって,深さが 100〜2000μmであり,50個〜400個/cm2の密度で存在し,開 口面積が直径280〜1400μmの円形であるとの発明特定事項(相違点 6B)を有するところ,前記1(2)のとおり,第1表面のシート材のこの貫通\n孔は,創傷から滲み出した滲出液を貯留し,創傷面との間や上記の貫通孔内 などに滲出液を保持して湿潤環境を良好に維持するものでありながら,その 貫通孔は上記の第1表面側から第2表\面側への液体の透過を許容して,創傷 部位に過剰の滲出液を保持することがないという技術的意義を有するものと 認められる。
これに対し,甲1の発明の詳細な説明には,「被覆層下面側の少なくとも傷 接触表面は疎水性を有する。」(【0028】), 「 次に,液体の移動について 述べる。被覆層のこの疎水性の表面は,吸収層へ体液などの液体が移動し得\nるように形成される。被覆層の下面側を液体透過性とするためには,メッシ ュ,穿孔フィルム等のプラスチックシートや,編布,織布,不織布等の液体 透過性の繊維状シートを使用することができる。被覆層に疎水性樹脂層を形 成する場合は,被覆層の液体が移動し得る孔を塞がないように疎水性樹脂層 を塗工するか,疎水性樹脂層を塗工した後に疎水性樹脂層ごと被覆層を打ち 抜けば良い。」(【0029】),「 次に,吸収層について述べる。吸収層は,セ ルロース系繊維,パルプ,高分子吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独 又は併用して使用することができ,必要とされる吸収量にあわせてこれらの 量を調整すればよい。特に,水吸収時にゲルを形成する物質を含ませること が好ましく,このようにすることで,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促 進することができる。」(【0034】)との記載がある。これらの記載によれ ば,甲1発明においては,被覆層を貫通する孔60は,傷からの体液を吸収 層へ移動させるようにする機能を有するものであり,創傷を湿潤状態に保ち,\n傷の治癒を促進することができるのは,必要とされる吸収量にあわせて材料 を調整し,特に水吸収時にゲルを形成する物質を含ませることが好ましい吸 収層によってであり,被覆層を貫通する孔の機能によるものではないと理解\nすることが相当であり,甲1の発明の詳細な説明には,被覆層20に設けら れた孔60に創傷部位からの滲出液を保持し,創傷面の湿潤状態を保つこと についての記載や示唆はない。
また,甲7には,甲1発明の被覆層に相当するところの,多数の凸部及び その周囲に形成される凹部を有し,凸部には厚さ方向に貫通する孔を有する 樹脂製のシート材からなる第1層と水を吸収保持可能な第2層の順に積層さ\nれてなる創傷被覆材が開示されており(【0010】,【0014】),この創傷 被覆材は,創傷部と第1層の凹部との間に滲出液を貯留する空間が形成され ることにより,創傷部から流出する滲出液を保持し,創傷部の湿潤状態を保 持し,滲出液が多くなると,第1層の凸部に形成された孔を通して第2層の 吸収層に吸収されることが開示されている(【0012】,【0024】)。しか し,甲7の創傷被覆材は,「 第1シート材は,創傷部と凹部(6)との間に滲 出液の貯留空間を形成する。これは,創傷面と第1層との間における前記貯 留空間に,創傷部からの滲出液を保持することにより創傷部の湿潤状態を保 持できるという点で優れている。また,第1シート材は滲出液が多くなると, 凸部(5)に形成された貫通孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させるこ とができるため,滲出液が面内方向に広がるのを防止するという点でも優れ ている。」(【0024】)との記載があるように,創傷部と凹部(6)との間 に滲出液の貯留空間を形成し,創傷部の湿潤状態を保持するものであり,貫 通孔(4)については,「滲出液が多くなると,凸部(5)に形成された貫通 孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させることができる」という機能を果\nたすものである。
そうすると,甲7の貫通孔は,そもそも創傷面からの滲出液を貯留する機 能を有しないから,甲7に記載された貫通孔の開孔率,深さ,密度,直径に\n関する技術的事項を甲1発明に適用しても,第1表面のシート材に創傷から\n滲み出した滲出液を貯留するための貫通孔を設ける本件発明6に想到するこ とができないし,また,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進することが できるのが孔の機能によるものではない甲1発明に甲7に記載された発明を\n適用する動機付けもない。

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令和2(行ケ)10001  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月8日  知的財産高等裁判所

 異議申立で進歩性無しとして取り消されましたが、知財高裁は動機付け無しとしてこれを取り消しました。

 (ア) 相違点1は,引用例1発明の共重合体が,本件発明とは異なり,d 成分を構成モノマーとして含まないというものであるところ,上記(1) ア(イ)bのとおり,甲7文献には,第1成分(a成分)及び第2成分(b 成分)又はそのいずれか(特に第1成分)と共重合させる第3成分とし て,「架橋性の官能基(エポキシ基,水酸基,アミド基及びN−メチロー\nルアミド基の少なくとも1種)を有するもの」が挙げられている。 そこで,引用例1発明における第3成分として,エポキシ基を有する モノマー(c成分)及び水酸基を有するモノマー(d成分)の2種を併 用することを,当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
  (イ) まず,上記(1)ア(ア),(イ)a及びdのとおり,引用例1発明は,可 塑化ポリ塩化ビニルシート上に積層して使用するのに好適な接着剤組成 物に関する発明であり,共重合体中のカルボキシル基の10%以上をア ルカリ金属と反応(中和)させることにより,耐ガソリン性及び耐油性\nを向上させることを目的とするものである。 そうすると,化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用の化合物 の発明である本件発明と引用例1発明とでは,技術分野や発明が解決し ようとする課題が必ずしも一致するものではないから,もともと引用例 1発明に本件発明の課題を解決するための改良を加える動機付けが乏し いというべきである。
 (ウ) また,上記(1)ア(イ)bのとおり,甲7文献には,第3成分として選 択し得る4種のモノマーの例示として8つのモノマーが挙げられてい るほか,4種のモノマーの1種のみ又は2種以上を併用して第1成分と 共重合させることができる旨が記載されている。そうすると,引用例1 発明における第3成分は,上記の各モノマーのうち1種のみを選択する 場合のほか,2種ないし4種のモノマーを併用する場合もあり得るとい うことになるから,その組合せは,異なる官能基に属するモノマーを併\n用する場合に限ったとしても,被告が主張する6通りにとどまるもので はない。
そして,証拠(甲7)によれば,甲7文献には,エポキシ基を有する モノマー(c成分)と水酸基を有するモノマー(d成分)を組み合わせ た合成例は記載されておらず,また,d成分を構成モノマーとして含む\nことによる効果等に関する具体的な記載もされていないものと認められ る。そうすると,甲7文献には,引用例1発明の技術思想として,複数 の組合せの中からエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有するモノ マーの2種を選択すべきである旨や,水酸基を有するモノマーを選択す ることによって特定の効果が得られる旨が開示されているものとはいえ ない。 これらの事情を併せ考慮すると,甲7文献に接した当業者が,引用例 1発明の第3成分として,複数の組合せの中から敢えてエポキシ基を有 するモノマー及び水酸基を有するモノマーの2種を選択する理由に乏し いというべきである。
(エ) 以上のとおり,本件発明と引用例1発明とでは技術分野や発明が解 決しようとする課題が必ずしも一致するものではないから,もともと引 用例1発明に本件発明の課題を解決するための改良を加える動機付け が乏しいことに加え,甲7文献の記載内容からすると当業者が複数の組 合せの中から敢えてエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有する モノマーの2種を選択する理由に乏しいことからすれば,甲7文献に接 した当業者において,相違点1に係る本件発明の構成に至る動機付けが\nあったということはできない。 したがって,引用例1発明において,構成モノマーとしてd成分を含\nませることを,本件出願時における当業者が容易に想到し得たというこ とはできない。
・・・
(3) 相違点2の容易想到性 上記(2)のとおり,相違点1について容易想到であるということはできな いが,事案に鑑み,相違点2の容易想到性についても検討する。
ア 検討
(ア) 相違点2は,(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマ\nーの全量を100質量%としたときのb成分の配合量b及びc成分の配 合量cの値が,本件発明は「10≦b+40c≦26(但し0.05≦ c≦0.45)」であるのに対し,引用例1発明の共重合体においてはc が0.5,b+40cが26.8であるというものである。 そこで,引用例1発明における上記b及びcの値を変更し,本件発明 における数値範囲内に調整することを,当業者が容易に想到し得たか否 か否かについて検討する。
(イ) まず,上記(2)ア(イ)のとおり,本件発明と引用例1発明とでは技術 分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではない というべきである。
(ウ) また,上記(1)ア(イ)fのとおり,引用例1発明の実施例には,引用 例1発明における第3成分を,N−メチロールアクリルアミドからアク リルアミドに量比を変えることなく置き換えた場合に,ピール(g/2 cm)が「1025FA」から「675AF」になり(なお,「ピール」 とは,剥離に要する力をいう(甲7)。),凝集力が「ずれ0.6mm」か ら「ずれ16mm」になった例が示されている(表−8の実施例6,7)。\nこのことからすれば,架橋性官能基であるエポキシ基,水酸基,アミド\n基及びN−メチロールアミド基は,その種類に応じて異なる粘着力や凝 集力を示すものと考えられるから,各モノマーは,粘着力や凝集力の点 で等価であるとはいえないというべきである(なお,表−8の実施例7\nにおける凝集力の数値(「ずれ16mm」)については,他の実施例にお ける数値と比較すると,「ずれ1.6mm」の誤記である可能性もあると\nいえるが,誤記であったとしても,実施例6とは3倍弱の違いが生じて いるのであるから,結論を左右しない。)。 そうすると,当業者において,各モノマーを同量の別のモノマーに置 き換えたり,水酸基を有するモノマー(d成分)を導入した分だけグリ シジルメタクリレート(c成分)の配合量を減少させて第3成分全体の 配合量を維持したりすることが,自然なことであるとか,容易なことで あるなどということはできない。
(エ) さらに,上記(1)ア(ア)によれば,引用例1発明においては,第3成 分(グリシジルメタクリレートはこれに当たる。)を第1成分及び第2成 分の合計量100重量部に対して0.5〜15重量部とするとされてい るから,第1成分ないし第3成分の合計量を100質量%としたときの 第3成分の配合量は,0.5〜13.0質量%となる(0.5/(10 0+0.5)×100〜15/(100+15)×100)。 そうすると,引用例1発明において,グリシジルメタクリレートの配 合量を本件発明における数値範囲内である0.45質量%以下とするた めには,第3成分の配合量の下限値とされている値である0.5質量% を下回る量まで減少させる必要があるところ,甲7文献の記載をみても, このような調整を行うべき技術的理由を見いだすことはできない。

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令和2(行ケ)10066  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年1月14日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(2部)は,進歩性なしとした審決について,請求項2,3については動機付けがないとして,取り消しました。

 本件審決は,甲1文献には甲1文献記載技術的事項2,すなわち,「2軸式ヒンジ において,第1回転軸11と第2回転軸12とを平行状態で互いに回転可能となる\nように連結する,一対の支持片511,512の間に,第1位置制限カム521, 第2位置制限カム522及び一対の支持片511,512に対し,両側の短軸53 4により揺動可能である切換片53を設けることにより,第1回転軸11と第2回\n転軸12を交互に回転させるようにする」という技術事項が記載されているところ, 甲2発明において,「接続部材3」を一対とすれば,第1回転軸11及び第2回転軸 21をより安定して平行状態で互いに回転可能に支持できることになるとして,甲\n2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用して,甲2発明の相違点Aに係る構成を\n本件発明1の構成とすることは容易であると判断し,被告も同様の主張をする。\n
しかし,前記2(2)のとおり,甲2文献には,「本考案で開示されている開閉が安定 した2軸ヒンジは,軸スリーブ4及び当該軸スリーブ4を収容するハウジング5を 更に含む。当該軸スリーブ4は,当該接続部材3に接続される接続板41と,当該 接続板41に設置され,それぞれ当該第1回転軸11と当該第2回転軸21とが設 置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する。当該ハウジング5は,収 容空間51及び当該収容空間51に連通する開口52が設けられ,当該軸スリーブ 4と当該接続部材3とを収容し,当該接続板41と当該ハウジング5とに,相互に 対応してガイド凸条411とガイド凹溝53とが設けられ,当該ハウジング5の収 容空間51に配置されるように当該軸スリーブ4をガイドする。」(段落【0016】)との記載があり,同記載と甲2文献の【図2】からすると,甲2発明に係るヒンジ は,接続部材3に接続される接続板41と,同接続板41に設置され,それぞれ第 1回転軸11及び第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部4 3とを有する軸スリーブ4並びに同軸スリーブ4を収容するハウジング5を備えて いることが認められ,同部材により,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定し て平行状態で回転可能に支持できるから,甲2発明においては,甲1文献記載技術\n的事項2を適用する必要はない。
また,前記3(1)のとおり,甲1発明における支持片512は,第1自動閉合輪2 13・第2自動閉合輪223と共に自動閉合機能を発揮する部材を構\成すること, 第1位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイ ドブロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝512c を備えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していること,第1トルク装\n置21及び第2トルク装置22は,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223 に接して設けられ,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223を圧迫しており, この作用により,上記の自動閉合機能が発揮されることが認められるから,これら\nの部材(第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512,切換片5 3)は,機能的に連動しており,一体的に構\成されているといえる。また,甲1発 明における支持片511は,第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412と一 体となってストッパ機構を構\成すること,第1ストッパ輪411と第1ストッパ凸 点511aとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第1位置制限ブロック 531が第1位置制限口521a内に嵌入して,第1回転軸11が回動不能となり,\n第2回転軸12のみが回動可能となるように制限し,第2ストッパ輪412と当該\n第2ストッパ凸点511bとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第2位 置制限ブロック532が第2位置制限口522a内に嵌入して,第2回転軸12が 回動不能となり,第1回転軸11のみが回動可能\となるように制限すること,第1 位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイドブ ロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝511cを備 えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していることが認められるから,\nこれらの部材(切換片53,第1位置制限カム521・第2位置制限カム522, 支持片511,第1ストッパ輪412・第2ストッパ輪411)も,機能的に連動\nしており,一体的に構成されているといえ,さらに,これらの部材と上記の第1自\n動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512も一体的に構成されている\nといえる。そして,上記のとおり,甲2発明は,軸スリーブ4及びハウジング5を 備えることにより,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転 可能に支持できる構\成を有しており,甲1文献記載技術事項2を適用する必要がな いことを考慮すると,上記の一体的に構成された部材から,支持片511及び支持\n片512のみを取り出して,一対の支持片を有するという構成を甲2発明に適用す\nる動機付けはないというべきである。
また,前記(1)のとおり,甲2発明の接続部材3は,第1位置制限部113に当接 して第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35と,第2位置制限部21 3に当接して第2回転軸21の回転を制限する第2位置決め部36とを有するので あるから,甲2発明は,甲1発明のストッパ機構に相当する部材を備えていると認\nめられ,また,前記(2)のとおり,甲2発明は,選択的回転規制手段を有していると ころ,甲1発明の上記の一体的に構成された部材は,ストッパ機構\と選択的回転規 制手段を含むものであるから,甲1発明の上記の一体的に構成された部材を甲2発\n明に適用しようする動機付けもないというべきである。 したがって,甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用する動機付けはないと いうべきであり,甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明2の構\成とすることが 甲1文献により動機付けられているということはできない。

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令和1(行ケ)10126  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月22日  知的財産高等裁判所

 本件特許についての第三次取消訴訟で無効理由無しの審決が取り消されました。第一次、第二次はいずれも、「無効理由無し、審決維持」でした。

 正規状態での施工の利点(上記(2)ア)及び2枚目クランプ状態での施工の 問題点(同イ)にかんがみると,甲1発明において,400mmの場合に2 枚目クランプ状態で施工すると,地盤が硬い場合や鋼矢板が長い場合には施 工不能となるおそれがあるから,正規状態での施工が可能\になるように構成\nすることを当業者は動機付けられるといえる。 ここで,600mm用のチャック装置のままで400mmの鋼矢板を正規 状態で施工すると,チャック装置が大きすぎるために干渉問題が生じる(上 記(2)ウ)。この干渉問題を解決するために,上記(3)の周知事項を適用して, 必要に応じて圧入機に仕様変更を加えつつ,600mm用のチャック装置よ りも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用のチャック装置を備え\nる一体型チャックフレームに交換することにより,あるいは,600mm用 の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm\n用の着脱式チャック装置に交換することにより,400mmの場合でも正規 状態での施工が可能になるように構\成することは,当業者が容易に想到し得 たことといえる。
なお,本件特許の明細書の【0027】には,従来技術の説明として,溶 接事項記載に相当する記載があるが,溶接の工程にはそれなりの手間や費用 を要する上に,溶接した鋼矢板は,その再利用にも支障が生じ得ることなど を踏まえると,鋼矢板の溶接は,あくまでも次善の策にすぎず,当業者とし ては,より抜本的な解決策の採用に向けて動機付けられるであろうことは否 定できない。そうすると,溶接事項記載の存在により,相違点に係る本件発 明1の構成を採用することが阻害されるとはいえない。\n
2 第2次審決(甲7−1)との関係について
なお,甲7の1,2によれば,本件審判手続と第2次審決に係る無効審判手 続とでは,類似の無効理由が主張されていたことが認められるので,第2次審 決との抵触等が問題にならないではないが,同証拠によれば,両者で主張され た無効理由は,主引例が異なる上に,その根拠として提出された証拠にも違い があることが認められるから,本件において,原告が,甲1発明に基づく進歩 性欠如を主張することが,第2次審決の効力に違反するものではないし,また, その主張が既に決着済みの問題を蒸し返すものであって信義則に違反するとま で認めるに足りる証拠もない。

◆判決本文

1次判決はこちら

◆平成28(行ケ)10161

2次判決はこちら

◆平成30(行ケ)10030

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令和1(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月22日  知的財産高等裁判所(3部)

 無効審判の審理で訂正し、無効理由無しとされましたが、これについては、審決取消訴訟(前訴)で取り消されました。再開した審理で、訂正がなされ、無効理由無しと判断されました。知財高裁は審決を維持しました。争点は新規性・進歩性、サポート要件です。概要は、先行公報に記載された事項については前訴の拘束力化あり、また阻害要因ありと判断されました。

   本件訂正発明1と甲1発明の相違点の認定の誤りについて
 ア 甲1の【0016】には,「図1にホットプレスにより作製したターゲッ トの断面組織写真を示す。これによれば,微細な黒い点(SiO2)が均質 に分布しているのが観察され,・・・以上の結果より,このターゲット組織は SiO2がCo−Cr−Ta合金中に分散した微細混合相からなっている ことがわかった。」との記載があるから,甲1の図1の黒い点はSiO2と 認められる。そして,甲1の図1によれば,SiO2の黒い点は粒子状をな しており,いずれも半径2µmの仮想円よりも小さいと認められる。したが って,甲1の図1のSiO2粒子はいずれも,SiO2粒子内の任意の点を 中心に形成した半径2µmの全ての仮想円よりも小さいと認められ,形状2 の粒子の存在を確認することはできないから,本件訂正発明1が必ず形状 2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否かが 一見して明らかではないと認められる。
前訴判決は,審決を取り消す前提として,甲1発明の図1の全ての粒子 は形状1であると認定しており(甲30,61頁),この点について拘束力 が生じているものと認められ,この点からしても,本件訂正発明1が必ず 形状2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否 かが一見して明らかではないということができる。 そうすると,本件訂正発明1が形状2の粒子を含むのに対し甲1発明に おいて形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでないとの本件審 決の相違点(相違点2)の認定に誤りはないものと認められる。 イ(ア) この点につき,原告は,甲3に記載された再現実験は,甲1の実施 例1の再現実験であり,甲3で確認される非磁性材料粒子の組織は,甲 1の実施例1の組織と同じであるとして,甲3の断面組織写真である図 6の画面右下には形状2の粒子が存在するから(甲47),本件訂正発明 1と同じく,甲1発明にも形状2の粒子が存在するということができ, 形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでない点をもって,本件 訂正発明1と甲1発明の相違点ということはできないと主張する。
(イ) 前記2(2)アのとおり,メカニカルアロイングは,高エネルギー型ボ ールミルを用いて,異種粉末混合物と硬質ボールを密閉容器に挿入し, 機械的エネルギーを与えて,金属,セラミックス,ポリマー中に金属や, セラミックスなどを超微細分散化,混合化,合金化,アモルファス化さ せる手法で,セラミックス粒子を金属マトリクス内に微細に分散させる ことを可能とするものであり,このようなメカニカルアロイングの仕組\nみに照らすと,メカニカルアロイングにおいては,ボールミルのボール の衝突により異種粉末混合物にどのような力が加えられるかにより,生 成物の組織が異なってくるものと認められる。また,甲52に「一般に 粉末のミリング時には衝撃,剪断,摩擦,圧縮あるいはそれらの混合し たきわめて多様な力が作用するがメカニカルアロイングにおいて最も重 要なものはミリング媒体の硬質球の衝突における衝撃力とされている。 衝撃圧縮により粉末粒子は鍛造変形を受け加工硬化し,破砕され薄片化 する。・・・薄片化および新生金属面の形成に加え,新生面の冷間圧接およ びたたみ込みが重なるいわゆる Kneading 効果により,次第に微細に混 じり合い,ついには光学顕微鏡程度では成分の見分けがつかないほどに なってしまう。」(前記2(1)オ)との記載があることからすると,メカニ カルアロイングにおいて最も重要なものはミリング媒体の硬質球の衝突 における衝撃力であると認められる。そうすると,ボールミルのボール の材質や大きさ,ボールミルの回転速度等の条件が異なれば,メカニカ ルアロイングによって得られる粉末の物性は異なり,そのような粉末か ら得られるスパッタリングターゲットの研磨面で観察される組織の形態 も異なると認められる。 そうであるとすれば,少なくともボールミルのボールの材質や大きさ, ボールミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件が明らかにされな ければ,どのような組織の生成物ができるかが明らかにならないものと いうべきである。 そこで本件についてみると,甲1には,甲1発明のスパッタリングタ ーゲットを製造する際の,ボールミルのボールの材質や大きさ,ボール ミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件についての記載はなく, 甲3のメカニカルアロイングの条件が,甲1発明のスパッタリングター ゲットを製造する際のメカニカルアロイングの条件と同じであったとい う根拠はない。そうすると,甲3に記載されたスパッタリングターゲッ トが形状2の粒子を含んでいたとしても,このことのみから,甲1発明 のスパッタリングターゲットも形状2の粒子を含むということはできな い。そして,その他に,甲1発明のスパッタリングターゲットが形状2 の粒子を含むことを認めるに足りる証拠はない。
・・・
(2) 本件訂正発明1〜6の進歩性についての判断の誤りについて
ア 本件訂正発明1と甲1発明の相違点2,本件訂正発明2と甲1発明の相 違点2’の容易想到性について検討する。 甲1発明は,ハードディスク用の酸化物分散型 Co 系合金スパッタリン グターゲット及びその製造方法に関する発明であり(【0001】【産業上 の利用分野】),発明の目的は,保磁力に優れ,媒体ノイズの少ない Co 系合 金磁性膜をスパッタリング法によって形成するために,結晶組織が合金相 とセラミックス相が均質に分散した微細混合相であるスパッタリングタ ーゲット及びその製造方法を提供することにある(【0009】【発明が解 決しようとする課題】)。そして,発明者らは,Co 系合金磁性膜の結晶粒界 に非磁性相を均質に分散させれば,保磁力の向上とノイズの低減が改善さ れた Co 系合金磁性膜が得られることから,そのような磁性膜を得るため には,使用されるスパッタリングターゲットの結晶組織が合金相とセラミ ックス相が均質に分散した微細混合相であればよいことに着目し,セラミ ックス相として酸化物が均質に分散した Co 系合金磁性膜を製造する方法 について研究し,甲1記載の発明を発明した(【0010】【課題を解決す るための手段】)。そして,甲1には,急冷凝固法で作製した Co 系合金粉末 と酸化物とをメカニカルアロイングすると,酸化物が Co 系合金粉末中に 均質に分散した組織を有する複合合金粉末が得られ,この粉末をモールド に入れてホットプレスすると非常に均質な酸化物分散型 Co 系合金ターゲ ットが製造できる(【0013】(課題を解決するための手段))と記載され ており,甲1発明のスパッタリングターゲットは,アトマイズ粉末とSi O2粉末を混合した後メカニカルアロイングを行い,その後のホットプレ スにより製造されたものであり,SiO2が Co−Cr−Ta 合金中に分散した 微細混合相からなる組織を有する(【0015】,【0016】(実施例1))。 他方,メカニカルアロイングについては,本件特許の優先日当時,前記 2(2)記載の技術常識が存在したと認められ,当業者は,甲1発明のスパッ タリングターゲットを製造する際も,原料粉末粒子が圧縮,圧延により扁 平化する段階(第一段階),ニーディングが繰り返され,ラメラ組織が発達 する段階(第二段階),結晶粒が微細化され,酸化物などの分散粒子を含む 場合は,酸化物粒子が取り込まれ,均一微細分散が達成される段階(第三 段階)の三段階で,メカニカルアロイングが進行すること自体は理解して いたものと解される。
そして,メカニカルアロイングが上記第一ないし第三の段階を踏んで進 行することからすると,メカニカルアロイングが途中の段階,例えば,第 二段階では,ラメラ組織が発達し,形状2の粒子も存在するものと考えら れ,甲49(実験成績報告書「甲3の混合過程で形状2の非磁性材料粒子 が存在すること(1)」)及び甲50(実験成績報告書「甲3の混合過程で 形状2の非磁性材料粒子が存在すること(2)」)も,メカニカルアロイン グの途中の段階においては,形状2の粒子が存在することを示している。 しかし,甲1には,形状2のSiO2粒子について,記載も示唆もされて いない。むしろ,本件特許の優先日当時のメカニカルアロイングについて の前記技術常識(前記2(2))に照らすと,メカニカルアロイングは,セラ ミックス粒子等を金属マトリクス内に微細に分散させるための技術であ り,第二段階は進行の過程にとどまり,均一微細分散が達成される第三段 階に至ってメカニカルアロイングが完了すると認識されていたものと推 認されるところであり,前記2(1)の技術文献の記載に照らして,メカニカ ルアロイングをその途中の第二段階で止めることが想定されていたとは 認められない。メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階までで終 了することについて,甲1には何ら記載も示唆もされておらず,その他に, これを示唆するものは認められない。むしろ,甲1には,合金相とセラミ ックス相が均質に分散した微細混合相である結晶組織を得ることが,課題 を解決するための手段として書かれており,セラミックス相が均質に分散 した微細混合相を得るためには,均一微細分散が達成される第三段階まで メカニカルアロイングを進めることが必要であるから,甲1は,メカニカ ルアロイングをその途中の第二段階で止めることを阻害するものと認め られる。
そうすると,当業者は,メカニカルアロイングについて前記2(2)記載の 技術常識を有していたものではあるが,甲1発明のスパッタリングターゲ ットを製造する際に,メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階ま でで終了することにより,SiO2粒子の形状を形状2(形状2’)の粒子 を含むようにすることを動機付けられることはなかったというべきであ る。 したがって,相違点2及び相違点2’に係る事項は,当業者が容易に想 到し得たものとは認められない。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10070  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月10日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反の無効理由無しとした審決が維持されました。裁判所は「性質の異なる泥土を,発明の対象とすることの動機付けはないというべきである」と述べました。

 エ 進歩性の判断について
原告は,原告甲1発明は,シールド工法により発生する泥土の処理方法 に関する発明であるから,仮に,その泥土に気泡シールド工法により発生 する泥土が含まれないとしても,気泡シールド工法がシールド工法の典型 例であることなどを考慮すれば,気泡シールド工法によって発生した泥土 を原告甲1発明の対象とすることは容易に想到することができると主張す る。 しかしながら,原告甲1発明に開示された発明は,「推進工事,シール ド工事,基礎工事,浚渫工事のような建設工事等で発生する泥土」であっ て,高い含水比により流動性が高い反面,気泡の存在は想定されていない ものを対象とし,これに凝集剤を適切に供給することよって「凝集された 無数の土粒子間に自由水を満遍なく抱合して,粒状化した状態に処理」 【0049】するという発明である。これに対し,気泡シールド工法によ って発生する泥土は,含水比が低く,気泡を有している点において,原告 甲1発明が想定する泥土とは性質が異なるのであるから,当業者には,こ のように性質の異なる泥土を,原告甲1発明の対象とすることの動機付け はないというべきである。このことは,気泡シールド工法がシールド工法 の典型例であるとしても,それによって左右されるものではない(問題は, 泥土の性質であるからである。)。
原告は,気泡シールド工法とその他の泥土圧シールド工法とは技術分野 に親近性があり適宜の互換性があること,両工法には発生する泥土の流動 性という課題の共通性があることなども指摘している。しかし,前者に関 していえば,問題は,泥土の性質であって,工法の種類ではないことは既 に指摘したとおりである。また,後者についていえば,気泡を有する泥土 の場合には,流動性をなくすために気泡を消滅させなければならないとい う固有の課題が存在するのであるから,流動性という表面的な現象面にお\nいて共通性があるからといって,直ちに,気泡を有する泥土を原告甲1発 明の対象とすることが容易であるということはできない。 よって,原告甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の構成とす\nることは,当業者が容易に想到できたものとはいえない。したがって,本 件発明1が進歩性を欠くとはいえず,審決の同旨の判断には結論において 誤りはない。

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令和1(行ケ)10139  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年8月27日  知的財産高等裁判所(3部)

 無効審判に対して訂正請求がなされ、無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁もかかる判断を維持しました。理由は、動機付け無し、阻害要因ありです。

 前記2(1)のとおり,甲1発明は,プリント配線板との位置合わせ用 のマークであるアライメントマーク(認識マーク)を備えた金属製の印 刷用マスクに関する発明である(甲1【0001】ないし【0003】)。 また,アライメントマークは,印刷用マスクをプリント配線板に対して 正しい位置に配置するためのものであり,カメラで読み取られるなどし てその位置座標が正確に認識されることによって位置合わせ用のマーク としての機能を果たすものといえる(甲1【0003】,【0004】)か\nら,形成されるアライメントマークには,その形状や記載内容に係る精 度よりも,マークの位置や輪郭の寸法に係る精度が強く求められるもの ということができる。 他方で,上記(1)のとおり,甲3文献には,高速度鋼や超鋼合金製の工 具類に文字や数字等のパターンをマーキングする方法として,甲3記載 技術が従来の技術として挙げられるとともに,その課題を解決する手段 として湿式鍍金法を用いたマーキング方法が記載されている。そして, 甲3文献に記載されたこれらの技術は,高精度を要求されるドリル等の 工具類に識別情報としての文字や数字等を表示するためのものであるか\nら,マーキングされる文字や数字等には,その位置や大きさに係る精度 よりも,文字や数字等としての明瞭さや高い解像度が強く求められるも のということができる。 これらの事情を考慮すると,甲1発明及び甲3記載技術は,各技術が 属する分野が異なるものである上,技術の適用対象や要求される機能も\n異なるというべきである。 これに加え,前記2(1)のとおり,甲1発明における被加工品は,金属 製の印刷用マスクであるところ,その材料としてはニッケル合金やニッ ケル−コバルト合金等が好ましいとされている(甲1【0012】)のに 対し,上記(1)によれば,甲3文献における被加工品は,高速度鋼や超硬 合金性の工具類であるから,甲1発明及び甲3記載技術は,被加工品の 材料も異なる。 以上によれば,甲1発明及び甲3記載技術は,技術分野や技術の適用 対象,要求される機能,材料がいずれも異なるというべきである。\n
・・・
オ 原告は,欠点(1)ないし(4)につき,甲3記載技術を甲1発明に適用する ことの阻害要因とはなり得ないなどと主張する。 しかしながら,上記(1)のとおりの甲3文献の記載内容によれば,欠点 (1)ないし(4)は,電解マーキング法一般を念頭に置いた欠点を列挙したも のと読むことができるのであって,そうであれば,同文献に接した当業者 が,電解めっき法に劣るマーキング方法であると否定的に評価されている 甲3記載技術を,電解めっき法を採用するのが好ましいとされている甲1 発明に敢えて適用しようとすることは考え難いというべきである。また, 欠点(1)ないし(4)につき,本件出願時の時点において既に克服された欠点 であることが技術常識又は周知の事項であったと認めるに足りる証拠は 存しない。
したがって,欠点(1)ないし(4)は,甲3記載技術を甲1発明に適用する ことについての阻害要因となり得るというべきである。

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令和1(行ケ)10084  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年8月5日  知的財産高等裁判所

 無効理由(進歩性)無しとした審決が維持されました。理由は引例には、動機付けがないというものです。

 上記記載によれば,甲1発明のパック剤は,皮膚に塗布し,乾燥後に 皮膜となったものを剥離して使用するものであって,使用時に皮膚上で 皮膜を形成して作用するものと理解できるから,甲1には,甲1発明の A剤に含まれる「ポリビニルアルコール」及び「カルボキシメチルセル ロースナトリウム」は,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」である ことの開示があるものと認められる。 他方で,甲1には,「本発明のパック剤には上記必須成分のほかに, 通常のパック剤に使用される・・・増粘剤・・・などを適宜配合することができ る。」(前記2(1)カ)との記載はあるが,「アルギン酸ナトリウム」に ついての記載はなく,「アルギン酸ナトリウム」が皮膚上の皮膜形成に 寄与する「増粘剤」であることを示唆する記載もない。 (イ) 原告は,甲87ないし89を根拠として挙げて,本件優先日当時, アルギン酸ナトリウムが,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」とし て周知であった旨主張する。
そこで検討するに,甲87(特開平成9−278926号公報)には, 「【発明の属する技術分野】本発明は,主として,青果物や加工食品等 を高品質な状態に保存するのに使用されるガス透過性フィルムに関す る。」(【0001】),「【課題を解決するための手段】本発明のガ ス透過性フィルムは,アルギン酸と水溶性化合物とを含む水溶液で皮膜 を形成し,この皮膜をカルシウ塩等の多価金属塩の水溶液に接触させて アルギン酸を不溶化させアルギン酸凝固フィルムとし,不溶化したアル ギン凝固フィルムを水洗して水溶性化合物を溶解し,溶解される水溶性 化合物でガス透気度を調整することを特徴とする。」(【0010】), 「皮膜を形成するアルギン酸を含む水溶液は,アルギン酸を酸やアルカ リに溶解させた水溶液,水にアルギン酸ナトリウムやアルギン酸カリウ ムやアルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩を溶解させた水溶液が使 用できる。」(【0011】),「本発明のガス透過性フィルムは,ア ルギン酸と水溶性化合物を含む水溶液で皮膜を形成し,この皮膜をカル シウム塩等の多価金属塩で凝固させて,不溶化されたアルギン酸凝固フ ィルムを水洗してガス透気度を調整する。アルギン酸と水溶性化合物と を含む水溶液は,たとえば,段ボール箱や食品等の被コーティング物の 表面に塗布して皮膜とし,あるいは,スリットから多価金属塩の水溶液中に押し出して皮膜とする。」(【0015】),「被コーティング物\nに塗布される皮膜は,アルギン酸ナトリウムの濃度で調整できる。アル ギン酸を含む水溶液は,アルギン酸の濃度を高くすると粘土も高くなる。 粘土の高いアルギン酸水溶液を含む水溶液を使用すると,被コーティン グ物の表面に付着される膜厚が厚くなる。たとえば,アルギン酸ナトリウムの水溶液は,濃度を高くすると粘度も高くなるので,被コーティン\nグ物を濃度の高いアルギン酸ナトリウムの水溶液に浸漬して,厚い皮膜 を形成し,あるいは,アルギン酸を含む水溶液を噴霧して,被コーティ ング物の表面に厚い皮膜を形成する。」(【0016】),「[実施例1]下記の工程でガス透過性フィルムを製造する。」,「1) 1wt% のアルギン酸と,1wt%のプルランを含む水溶液を,5×5cmの段 ボールライナーの片面にに塗布し,段ボールライナーの表面にアルギン酸とプルランを含む水溶液の皮膜,膜厚500μmを形成する。」(【0\n019】)との記載がある。上記記載から,アルギン酸を含む水溶液を 段ボール箱や食品等の被コーティング物の表面に塗布することにより皮膜が形成されることを理解できるが,他方で,甲87には,アルギン酸\n又はアルギン酸を含む水溶液が人体の皮膚上の皮膜形成に寄与すること についての記載も示唆もない。
また,甲88及び89(「機能性包装資材の開発技術の形成−機能\性 段ボール箱の開発」徳島県立工業技術センター研究報告Vol.4)に おいても,アルギン酸又はアルギン酸を含む水溶液が人体の皮膚上の皮 膜形成に寄与することについての記載も示唆もない。 そうすると,原告の上記主張は採用することができない。他に本件優 先日当時,アルギン酸ナトリウムが,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増 粘剤」として周知であったことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 以上によれば,甲1に接した当業者において,甲1発明のA剤に含 まれる,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」であるポリビニルアル コール又はカルボキシメチルセルロースを,このような機能を有する「増粘剤」であるとはいえないアルギン酸ナトリウムに置換する動機付けが\nあるものと認めることはできないから,原告の前記主張は採用すること ができない。

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◆令和1(行ケ)10082

本件特許の侵害訴訟事件です。特別部の判断です。

◆平成30(ネ)10063

原審はこちら

◆平成27(ワ)4292

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平成31(行ケ)10047  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年7月22日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反の無効理由なしとした審決が維持されました。相違点4の容易相当性(1)の判断に誤りはあるが,容易相当性(2)の判断について誤りはないから,進歩性違反なし、と判断されました。

相違点4の容易想到性の判断(1)の誤りの有無について
原告は,1)甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」は, 予め一体とされた後,一体となった状態のまま,ベース2に取り付けられ,\n「回路遮断器の取り付け構造」における「回路遮断器」として用いられるも\nのであり,本件訂正発明の「回路遮断器」とその機能及び用途において相違\nするものではないから,本件審決における相違点2の認定には誤りがある,
2)本件審決における相違点4の容易想到性の判断(1)は,本件訂正発明と甲1 発明との間に相違点2が存在することを前提とするから,その前提において 誤りがある旨主張する。
ア(ア) そこで検討するに,本件訂正発明の「取付用板側に設けられた母線 とねじ無しで接続を行うためのプラグイン端子を電源側に設けたプラグ インタイプの回路遮断器」,「取付用板」と「回路遮断機の取付構造」\nとの文言からすると,本件訂正発明の「取付用板側に設けられた母線と ねじ無しで接続を行うためのプラグイン端子を電源側に設けたプラグイ ンタイプの回路遮断器」における「回路遮断器」は,取付用板に取り付 けられる取付機構を有するものと理解できる。\nそして,「回路遮断器」の構成の一部である取付機構\は,回路遮断機 能を有する機器そのものと予\め一体不可分に作製する場合のほかに,回 路遮断機能を有する機器と別部材の取り付け部材とを一体化して作製す\nる場合などが考えられる。 しかるところ,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項2)には,「回 路遮断器」の取り付け機構について,回路遮断機能\を有する機器そのも のと予め一体不可分に作製されたものに限定する記載はない。また,本\n件明細書においても,そのような限定をする趣旨の記載はない。 そうすると,別部材の取付部材を有する回路遮断器は,本件訂正発明 の「回路遮断器」に含まれるものと解すべきである。
(イ) これに対し被告は,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項2)に は,「回路遮断器を分電盤などの母線が設けられた取付板に取り付ける ための前記回路遮断器と取付板の構造」,「前記回路遮断器の前記母線\nとは反対側の負荷側には…ロックレバーを設け」,「前記取付板と前記 回路遮断器とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部」との記載が あること,本件訂正明細書には,本件発明の実施形態として,凹部やロ ックレバーを含む1つの部材として回路遮断器が構成されている実施形\n態のみが記載されていることからすると,本件訂正発明は,回路遮断器 を取付板に直接取り付けることを前提にした発明であるといえる旨主張 する。 しかしながら,前記(ア)認定のとおり,本件発明1の「回路遮断器」 は,取付板に取り付けられる取付機構を有するものであるところ,本件\n訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)には,「回路遮断器」の取り 付け機構について,回路遮断機能\を有する機器そのものと予め一体不可\n分に作製されたものに限定する記載はなく,また,本件訂正明細書にお いても,そのような限定をする趣旨の記載はないから,被告の上記主張 は採用することができない。
イ(ア) 次に,甲1には,取り付け部材5に関し,「各分岐開閉器4の下に は夫々取り付け部材5を配置してあり,この取り付け部材5を介して分 岐開閉器4をベース2を取り付けるようになっている。取り付け部材5 は図6に示すように上片5aと両側の側片5bとで略コ字状に形成され ている。取り付け部材5の長手方向の両端には上記引っ掛け凹所8に引 っ掛け係止する引っ掛け爪9を設けてある。両端の引っ掛け爪9のうち 導電バー3側の引っ掛け爪9は変位可能な形状にした係脱用引っ掛け爪\n9aとなっており,他方の引っ掛け爪9は略剛体になっている。取り付 け部材5の上には分岐開閉器4が配置され,両端の引っ掛け爪9を分岐 開閉器4の引っ掛け凹所8に引っ掛け係止することで取り付け部材5の 上に分岐開閉器4を取り付けてある。」(【0013】),「そして分 岐開閉器4を取り付け部材5に取り付けた状態で取り付け部材5と一緒 に分岐開閉器4が次のように装着される。取り付け部材5をベース2の 上に配置して係止爪23が長孔23に挿入され,分岐開閉器4と一緒に 取り付け部材5が導電バー3の方にスライドさせられる。分岐開閉器4 と取り付け部材5をスライドさせると,接続端子16が導電バー3に差 し込まれて電気的に接続される。…このとき板ばね25の先端部25a が係止孔24に係止して取り付け部材5が動かないように止められる。 このように分岐開閉器4を取り付けたとき,係脱用引っ掛け爪9aが導 電バー3側に位置するため,導電バー3と接続端子16の係止にて係脱 用引っ掛け爪9aと引っ掛け凹所8との係止が外れにくくなり,分岐開 閉器4が外れにくいように取り付けることができる。また板ばね25の 先端部25aの係止を外して上記と逆にスライドさせることで分岐開閉 器4と一緒に取り付け部材5を取り外すことができる。」(【0014】) との記載がある。この記載によれば,甲1発明の取り付け部材5と分岐 開閉器4は,別部材ではあるが,分岐開閉器4を取り付け部材5に取り 付けた状態で,ベース2の上に配置し,取り付け部材5と一緒に分岐開 閉器4を導電バー3の方向にスライドさせていくと前記導電バー3が接 続端子16に差し込まれていき,ベース2に分岐開閉器4を取り付けた 取り付け部材5が取り付けられること,板ばね25の先端部25aの係 止を外して上記と逆にスライドさせることで分岐開閉器4と一緒に取り 付け部材5を取り外すことができることからすると,「分岐開閉器4を 取り付けた取り付け部材5」は,予め一体とされた後一体となった状態\nのまま,ベース2に取り付けられ,また,一体となった状態のままベー スから取り外されるのであるから,「分岐開閉器4を取り付けた取り付 け部材5」における取り付け部材5は,分岐開閉器4と一体化された分 岐開閉器4の取付機構としての機能\を有するものと認められる。 そうすると,甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」 は,本件訂正発明の「取付用板側に設けられた母線とねじ無しで接続を 行うためのプラグイン端子を電源側に設けたプラグインタイプの回路遮 断器」における「回路遮断器」に相当するものと認められる。 したがって,甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」 は,本件発明の「回路遮断器」に相当するものでないとした本件審決の 認定は誤りであるから,本件審決における相違点4の容易想到性の判断 (1)も誤りである。
(イ) これに対し被告は,1)甲1の記載によれば,甲1発明は,取り付け 部材を介在させて分岐開閉器をベースに取り付ける場合に生じる問題 (【0003】)を課題とし,取り付け部材を介在させて分岐開閉器を ベースに取り付けることを前提にした発明である,2)甲1には分岐開閉 器が同じ構成で取り付け部材の高さが違う実施形態が記載されており,\n取り付け部材は,分岐開閉器をベースに取り付けるためのスペーサとし て機能する別部材であるから,取り付け部材は,回路遮断器の一部を構\ 成するものではない,3)甲1発明において,分岐開閉器は協約形ブレー カであり,取り付け部材はそれに用いられる分岐取付台であるから,「分 岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」を本件発明の回路遮断器とみ なすことはできないなどとして,甲1発明の「分岐開閉器4を取り付け た取り付け部材5」は,本件発明の「回路遮断器」に相当するものとい えない旨主張する。
しかしながら,前記(1)イ認定の甲1の開示事項によれば,甲1には, 「本発明」は,差し込み式の分岐開閉器の取り付けがしやすく,しかも 取り付けた後の分岐開閉器が外れにくい分電盤を提供することを課題と し,本件審決認定の甲1発明は,「請求項4の分電盤」に係る構成を採\n用することにより,分岐開閉器の接続端子が導電バーから外れる方向に 取り付け部材が移動するのを抑えることができ,分岐開閉器を強固に固 定できるという効果を奏するとともに,「請求項5の分電盤」に係る構\n成を採用することにより,弾性体を変形させることにより取り付け部材 をベースから外すことができ,分岐開閉器の交換作業が容易にできると いう効果を奏することが開示されているものと認められることに照らす と,甲1発明は,取り付け部材を介在させて分岐開閉器をベースに取り 付ける場合に生じる問題のみを課題としたものとはいえない。 次に,甲1には,分岐開閉器の一定の寸法に限定することを示す記載 や導電バーを分岐開閉器の寸法に合わせた位置に配置することができな いことを示す記載はなく,取り付け部材が,所定形状の分岐開閉器を導 電バーの異なる高さに合わせるためのスペーサとして機能することを示\nす記載はない。また,前記(ア)認定のとおり,「分岐開閉器4を取り付 けた取り付け部材5」における取り付け部材5は,分岐開閉器4と別部 材であるが,分岐開閉器4と一体化された分岐開閉器4の取付機構とし\nての機能を有するものであるから,取り付け部材5が別部材であること\nは,「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」が本件発明の「回路 遮断器」に該当しないことの根拠となるものではない。 さらに,甲1には,甲1発明において分岐開閉器は協約形ブレーカで あり,取り付け部材はそれに用いられる分岐取付台であることについて の記載はないし,また,仮に分岐開閉器と取り付け部材がそのような関 係にあるからといって,「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」 が本件発明の「回路遮断器」に該当しないことの根拠となるものではない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
ウ 以上のとおり,本件審決における相違点4の容易想到性の判断(1)には誤 りがある。
(4) 相違点4の容易想到性の判断(2)の誤りの有無について
原告は,1)甲1及び2に接した当業者においては,甲1発明及び甲2発明 は技術分野,課題及び作用・機能において共通すること,甲1発明において\nは,プラグコネクタの接続を解除する方向に分岐開閉器をスライドさせる際 においては,板ばねの先端部25aが底面から突出しない状態に維持(ロッ クを外した状態に維持)させなければならないという課題があることを認識 するといえるから,甲1発明において,この課題を解決し,分岐開閉器の取 り外しを容易にするために,甲1発明の板ばねに係る構成部分に甲2発明の\n係止アーム及び操作用取手(ロックを外した状態を維持できる構造)を適用\nすることを試みる動機付けがあるといえる,2)甲1発明に甲2発明を適用す るに当たっては,甲2に記載された機器の底面から突出することによって機 器のスライドを防止するための部材を,突出する状態と突出しない状態のそ れぞれにおいて択一的に選択「保持」可能な構\成とするという技術的思想を 甲1発明に適用すれば足りるものであり,例えば,別紙原告主張書面記載の 図1ないし図5に示した構成が考えられ,甲2に記載された選択保持可能\と いう技術的思想を甲1発明に適用することは可能であり,かつ,その適用に\nおいて特段の技術的困難はない,3)そうすると,甲1及び甲2に接した当業 者は,甲1発明において,プラグコネクタの接続を解除する方向に分岐開閉 器をスライドさせる際に,板ばねの先端部25aが底面から突出しない状態 に維持(ロックを外した状態に維持)させなければならないという課題があ ることを認識し,この課題を解決し,分岐開閉器の取り外しを容易にするた めに,甲1発明の板ばねに係る構成部分に甲2発明の係止アーム及び操作用\n取手(ロックを外した状態を維持できる構造)を適用し,相違点4に係る本\n件訂正発明の構成(本件訂正発明におけるレバーは,「前記突出部が回路遮\n断器の取付面から突出しない状態で保持されるように構成され」る構\成)と することを容易に想到することができたものである旨主張する。
ア しかしながら,甲1には,甲1発明の板ばねの係止が解除された状態(上 方に撓んだ状態)で保持されることについての記載や示唆はない。また, 甲1の【0014】の記載によれば,甲1発明においては,取り付け部材 5の側片5bの下面から板ばね25が自動的に突出してベース2の係止 孔24に係止することにより取り外し方向の規制が行われるから,取り外 し方向の規制を行う際に,規制部材を突出した位置に保持する必要もない。 そうすると,甲1発明において,甲2発明の構造を適用して,機器の底\n面から突出して機器のスライドを防止するための部材を,操作用取手を用 いることで突出する状態と突出しない状態のそれぞれにおいて択一的に 選択保持可能な構\成とするという動機付けがあるものと認めることはで きない。
イ また,仮に原告が主張するように甲1発明において,プラグコネクタの 接続を解除する方向に分岐開閉器をスライドさせる際においては,板ばね の先端部25aが底面から突出しない状態に維持(ロックを外した状態に 維持)させなければならないという課題があることを認識し,当業者が, 甲1発明において,甲2発明の係止アーム及び操作用取手(ロックを外し た状態を維持できる構造)の構\成を適用することを検討しようとしたとし ても,具体的にどのように適用すべきかを容易に想い至ることはできない というべきであるから,結局,甲1発明に甲2発明の上記構成を適用する\n動機付けがあるものと認めることはできない。 この点に関し,原告は,甲1発明に甲2発明の上記構成を適用する具体\n例として,別紙原告主張図面の図1ないし5で示した構成が考えられる旨\n主張するが,板ばねや分岐開閉器のような小さな部材にさらに操作用取手 や突起等を設け,その精度を保つ構造とすることを想起することが容易で\nあったものとは考え難い。
ウ 以上によれば,甲1発明における板ばねに係る構成部分に,甲2に記載\nされた発明の係止アーム及び操作用取手(ロックを外した状態を維持でき る構造)を適用する動機付けがあるものと認めることはできないから,本\n件審決における相違点3の容易想到性(2)の判断に誤りはない。 したがって,原告の前記主張は理由がない。
(5) 小括
以上のとおり,本件審決における相違点4の容易想到性(1)の判断に誤りは あるが,相違点4の容易相当性(2)の判断について誤りはないから,その余の 点について判断するまでもなく,本件訂正発明は,甲1発明及び甲2発明に 基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはでき ない。

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◆平成31(行ケ)10046

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令和1(行ケ)10129  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年7月29日 知的財産高等裁判所

 無効審判が請求され、訂正請求がなされました。審決は無効理由なしと判断しました 裁判所も「背面カバー部材31との間に隙間1,2を設けることを明示又は示唆する記載は,全く存在しない」として、審決を維持しました。

原告は,甲1発明には,隙間1,2が存在し,隙間1,2は,甲1発明 において,本件発明1にいう「開口」に相当する部分(ボンベ装填部8の背面部の 開放された部分)の一部をなしているから,甲1発明は,「専用小型ガスボンベ2 A」を器具本体にセットしたときに「上記開口を含む空気導入口」を備えており, 仮に,隙間1,2が本件発明1いう「開口」に含まれないものであるとしても,隙 間1,2は,外部からボンベ装填部8の内部に空気を導入する機能を有するから,\n本件発明1と甲1発明が同一である旨主張する(原告の主張1)ので,まず,この 点について判断する。
a 前記1(2)で認定したとおり,本件発明は,小型ガス容器を器具本体 にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を,空気導入口 として活用し,そのような開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入する空冷機構を備えることで,ガス器具の小型化に伴う発熱の問題を解決し,標準型ガ\nス容器によるガス器具とほぼ同等の熱量を発生可能で,熱害の心配のない安全性の\n高い小型ガス器具を提供するというものである。 また,本件明細書の【発明の実施の形態】には「・・・上記の開口27を,器具 本体10内へ空気を導入する空気導入口28としても利用し,冷却性能を向上させ\nるための空冷機構を構\成する。・・・小型ガス器具では,その分冷却性能の向上を図\nることが好ましいのに対して,前記の開口27を空冷機構の一部として活用するこ\nとができるという特徴を発揮する。」(段落【0017】),「・・・後部開口27や小開口29よりなる空気導入口28から流入する多量の空気が排出部32へ抜け る・・・」(段落【0023】)との記載がある。 以上からすると,標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出すための開口を,小型 ガス容器を器具本体にセットしたときには,空気導入口として活用し,器具本体内 に十分な空気の流れを生じさせて冷却性能\の向上を図るというのが本件発明の技術 思想であると認められる。そうすると,本件発明にいう「開口」とは,小型ガス容 器を器具本体にセットしたときに,器具本体内に十分な空気の流れを生じさせて冷\n却性能を向上させるような「空気導入口」として機能\し得る程度のものである必要 があるというべきである。
b 上記aを踏まえて,甲1について検討するに,確かに甲1の【図6】 や【図8】には,原告の主張する隙間1,2らしきものが記載されている。しかし, 特許公報に添付された図面は,発明の技術内容を理解しやすくするためのものにす ぎず,部材の大きさや位置関係が正確に記載されているとは限らないものであると ころ,甲1の【発明の詳細な説明】には,カバー部材5・仕切板9と背面カバー材6又は背面カバー部材31との間に隙間1,2を設けることを明示又は示唆する記載は,全く存在しない。 特に,隙間2に関しては,甲1の段落【0037】の「・・・背面カバー部材3 1には,その両側縁に係合凸部32が形成されており,この係合凸部32が仕切板 9及びシャーシ3に立設した図示しない支持柱部材とに形成した高さ方向の係合溝 に相対係合される。」との記載及び【図8】からすると,被告が主張するように係合 凸部32と図示されていない支持柱部材に形成された係合溝により,ボンベ装填部 8の背面部が閉塞され,隙間2は生じないとも考えられる。 そうすると,甲1の【図6】及び【図8】から直ちに原告が主張するような隙間 1,2の存在を認めることはできないというべきであるから,原告の主張1はその 点からして採用することができない。
c 仮に,甲1の【図6】や【図8】から隙間1,2の存在が認められ るとしても,甲1には,隙間1,2から空気を導入して冷却性能の向上を図るとい\nう技術思想については全く記載も示唆もない上,【図6】や【図8】に描かれた隙間 1,2はいずれもごく小さいものであるから,それらに接した当業者が,隙間1, 2から空気を導入することで,器具本体内に十分な空気の流れを生じさせて冷却性\n能の向上を図ることができると認識すると認めることはできない。したがって,隙\n間1,2が,原告が主張する本件発明1にいう「開口」に相当する部分(甲1発明 におけるボンベ装填部8の背面部における開放された部分)に含まれるかどうかに かかわらず,原告の主張1を採用することはできない。
(イ) 原告は,甲1発明は,ボンベ装填部8の背面側を開放するという使用形態が可能な機械的構\成を備えているから,本件発明1と甲1発明は同一又は実質的に同一であると主張する(原告の主張2)。 しかし,前記アの甲1の記載事項からすると,甲1発明には,標準型ガス容器を 器具本体にセットするときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出すための開口 を,小型ガス容器を器具本体にセットした際に空気導入口として活用し,器具本体 内に十分な空気の流れを生じさせて冷却性能\の向上を図るという技術思想は存在せ ず,かえって,甲1発明では,専用小型ガスボンベ2Aの使用中にボンベ装填部8 の背面部を閉塞するために,敢えて部品点数を増やしてまで背面カバー部材6又は 背面カバー部材31を設けている(甲1の段落【0019】,【0025】〜【00 28】,【0034】,【0037】,【0038】)のであり,甲1には,専用小型ガスボンベ2Aの使用中に背面カバー部材を開放することについては何ら記載されてお らず,そのことは全く想定されていないというべきである。このことは,甲1にお いて,背面カバー部材6にトーションスプリング等を使わない態様が記載されてい るとしても変わるものではない。 また,甲1発明のうち,背面カバー部材6がシャーシ3に取り付けられている実 施形態の場合,背面カバー部材6を開放すると,背面カバー部材6分だけガスコン ロ装置の設置スペースが増大することになり,大きな設置スペースを必要としない 小型のガスコンロ装置を提供するという甲1発明の目的(甲1の段落【0005】 〜【0008】)とも反することになる。 そうすると,甲1発明が,ボンベ装填部8の背面側を開放するという使用形態が 可能な機械的構\成を備えているとしても,そのことをもって,本件発明1と甲1発 明が同一又は実質的に同一であるということはできず,原告の主張2は採用するこ とができない。このことは,ボンベ装填部8の背面側を開放するという使用形態が 周知・慣用技術であったとしても変わるものではない。
(ウ) 以上の検討及び弁論の全趣旨からすると,本件発明1と甲1発明と の間には,審決が認定した前記第2の3(2)イ記載の一致点及び相違点1があるこ とが認められる上,相違点1は実質的な相違点であって,本件発明1と甲1発明は 同一又は実質的に同一とはいえない。

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令和1(行ケ)10068  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年7月15日  知的財産高等裁判所

動機付けなしとして進歩性違反の無効理由なしとした審決が維持されました。

 前記(ア)からすると,甲3発明は,「マウント1及びLEDユニット2からなり, マウント1はLEDユニット2を収容する凹部10aを備えるLED照明装置A1 において,LEDユニット2が複数のLEDモジュール20,支持部材3及び電力 変換部5を備え,コの字状とされた支持部材3に電力変換部5を収容する照明器具」 というもので,天井からの突出量を低減することによって室内がスマートであると の印象を与え得るLED照明装置を提供するものであると認められる。
イ 甲2発明に甲3発明を適用して,点灯装置を器具本体側ではなく,光源 ユニット側へと配置するように変更する動機付けがあるかどうかについて判断する。 前記(1)イのとおり,甲2発明は,器具本体に設けられた収容凹部に点灯装置を配 置することで,点灯装置を効率的に配置するという課題を解決したことに技術的意 義がある発明であるが,点灯装置を光源ユニット側に配置することは,配置可能な\n点灯装置のサイズ(幅方向の長さ)が取付部材21の取付面21a の長さ程度のも のとなってしまい,収容凹部の収容スペースを有効に活用できなくなるから,甲2 発明の課題解決手段と相容れないものである。 また,甲2の段落【0024】の「・・・点灯装置3は,箱状のケース内に回路 基板及びこの基板に実装された回路部品を収容して構成されており,商用交流電源\nACに接続されていて,この交流電源ACを受けて直流出力を生成するものである。 点灯装置3は,例えば,全波整流回路の出力端子間に平滑コンデンサを接続し,こ の平滑コンデンサに直流電圧変換回路及び電流検出手段を接続して構成されてい\nる。・・・」との記載からすると,甲2発明の点灯装置は,複数の部品から構成され\nる一定の重量のある部材であると認められ,甲2発明では,器具本体側にそのよう な重量のある点灯装置を配置することを前提として,光源ユニットは,簡易な係止 部材で取り付けられているが,仮に点灯装置を光源ユニット側に配置するとした場 合,器具本体と光源ユニットの係止機構を中心として甲2発明全体の構\造を再検討 する必要がある。 したがって,甲3発明を甲2発明に適用する動機付けがあるとは認められない。
ウ 原告は,1)甲2発明と甲3発明が課題や課題解決手段を共通にしている, 2)器具本体と光源ユニットが分離されるLED照明器具にあって,光源ユニット側 に甲2発明の点灯装置のような電源装置を配置することは周知慣用技術であり,点 灯装置を光源ユニットに配置することに伴う設計変更は当業者にとって通常の創作 力の範囲内の設計事項であると主張する。
(ア) 上記1)について
前記ア(ア)のとおり,甲3発明は,本件発明1と同様に天井からの突出量の低減を 課題としているものと認められる。他方,甲2発明の課題は,前記(1)イのとおり, 施工作業の省力化と点灯装置等の部品の効率的な配置である上,甲2からは甲3発 明にあるような天井からの突出量の低減という技術思想を読み取ることはできず, 甲2発明と甲3発明とが課題を共通にしているとはいえず,原告の主張はその前提 を欠くものである。 この点について,原告は,かさばる部材である点灯装置(甲3発明の電力変換部) の効率的な配置という限度で甲2発明と甲3発明が課題を共通にしている旨主張す るが,発明の課題をあまりに抽象化して捉えており,相当ではないので,採用する ことができない。
(イ) 上記2)について
証拠(甲1の12・13,甲3〜5)によると,審決が認定したとおり,「光源 としてLEDを用いた照明器具において,光源ユニット側に電源装置を配置する」 ことは本件出願日当時,周知慣用技術(周知慣用技術1)であったと認められる。 しかし,前記イのとおり,甲2発明において,点灯装置を光源ユニット側に配置 することは甲2発明の技術的意義を没却するものである上,甲2発明の構造を大き\nく変える必要があるから,当業者の通常の創作力の範囲内の設計事項であるという ことはできない。
この点について,原告は,甲2発明の「収容凹部」において,電源装置を光源ユ ニット側に取付配置した場合でも,器具本体側に取付配置した場合でも,発明の目 的とした照明器具全体での高さ寸法,天井からの突出量は変わらないと主張するが, 直ちにそのように認めることはできないのみならず,仮にそうであるとしても,上 記で述べた理由により,甲2発明において,点灯装置を光源ユニット側に配置する ことが当業者の通常の創作力の範囲内の設計事項であるとはいえない。 また,原告は甲2発明の係止部材の構造等は特定されておらず,甲3発明の係止\n機構は,甲2発明の係止部材と同様に簡易なものであると主張するが,甲2発明に\nおいて,「係止部材4」は,「取付部材21」,「発光素子22」,「基板23」及び「カバー部材24」からなる光源部を係合保持するものである(甲2の段落【0023】,【0027】,【0028】,【図3】,【図4】)が,甲3発明の係止機構であるホルダ11は,LEDモジュール20,支持部材3,カバー4及び重量のある電力変換部\n5からなるLEDユニット2を保持するもの(甲3の段落【0026】,【0027】,【図2】,【図4】)であり,甲2発明の係止部材の方が,甲4発明のホルダより簡易 なものであれば足りることはその役割から明らかであるから,甲2発明において, 点灯装置を光源ユニット側に配置することが当業者の通常の創作力の範囲内の設計 事項であるとはいえない。
(4) 小括
以上のとおり,相違点について,甲2発明に甲3発明を適用する動機付けがある とは認められないから,阻害事由の点について判断するまでもなく,本件発明1は, 甲2発明及び甲3発明又は周知慣用技術1から容易想到なものとはいえない。

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平成31(行ケ)10040  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年7月2日  知的財産高等裁判所

 審決は想到容易と判断しましたが、知財高裁は、「主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に想到することを動機付ける記載又は示唆を見出せない」としして審決を取り消しました。

(ア) 甲1又は甲2の内容中の示唆について
a 甲1及び甲2には,次の(a)及び(b)の事項が開示されているので,以 下,これらが,引用発明において,単層カーボンナノチューブとして 甲2実施例1CNTを適用することの示唆となるか否かについて検討 する。
(a) 引用発明における導電剤としての単層カーボンナノチューブは, 「直径が0.5〜10nmであり,長さが10μm以上であり,炭 素純度が重量基準で99.9%以上である」単層カーボンナノチュ ーブである。一方,上記(2)ア(ア)及び(オ)によれば,甲2実施例1CN Tは引用発明の単層カーボンナノチューブの純度,直径,長さの規 定を満たすものといえる。(以下「事項(a)」という。)
(b)甲2には,上記(2)ア(イ)〜(エ)より,単層カーボンナノチューブの用 途として,導電体,電極材料が挙げられ,甲2の単層カーボンナノ チューブが優れた電子・電気特性を有すること,単層カーボンナノ チューブ・バルク構造体を導電体として使用することも記載されて\nいる。(以下「事項(b)」という。)
b 事項(a)について
甲20,21,23には以下の記載がある(引用に当たり,文意に 影響しない範囲で記載の一部を省略又は変更した。)。 [甲20](ドージンニュース新連載「新しいナノ材料としてのカー ボンナノチューブ−最近の展開(バイオからエネルギーまで)1)」 URL省略,令和元年6月6日検索)
「2.カーボンナノチューブの構造,特性\n
CNTはグラフェンシートを円筒状に丸めた構造をしている。\n円筒が一本のみからなるCNTをSWNTと呼ぶ。SWNTは直 径0.5〜数nmとかなり細いが・・・CNTの合成後の長さは 数十nmから,長いものでは数mmに及ぶものがあり,合成法に\nより様々な長さ分布を持つ混合物として得られる。」(2頁) 「2012年現在,30社以上のメーカーがCNTを製造販売して いる。それぞれ製造法,直径分布,純度,結晶化度等に差があり, 一口にCNTと言っても多様性があることを認識して使わなけれ ばならない。表1に代表\的なCNTメーカー(2012年1月現 在)を挙げた。」(4頁。表1には代表\的なCNTメーカーとし て8社が列挙されている。) [甲21](「雑科学ノート−カーボンナノチューブの話−」URL 省略,令和元年6月6日検索) 「CNTの直径は,これまで書いてきた巻きの強さや層の数によっ ていろいろですが,SWCNTの場合は1〜3nm,MWCNT の場合は10〜20nmぐらいのものが一般的です。髪の毛が5 0〜100μmぐらいですから,その数千分の一から数万分の一, ということですね。長さは,一般的な大量生産品では0.1〜数 十μm程度ですが,基板の上に垂直に成長させる方法では数百μ\nm以上のものも作られています。」(4頁) [甲23](末金皇ら「ブラシ状カーボンナノチューブの高速成長技 術の開発」大陽日酸技報 No.23(2004),URL省略 ) 「CNTは,直径が数nm程度,長さが数μmから数百μmと極め て高いアスペクト比を持つ構造物である。」(8頁左欄13〜1\n5行) 甲20,21,23の上記各記載によれば,本願特許出願当時,単 層カーボンナノチューブの直径や長さは製品によって様々であり,そ の中で,0.5〜10nmの直径,10μm以上の長さは,単層カー ボンナノチューブの直径や長さとしてごく一般的であったと認められ る。そうすると,事項(a)のとおり,甲2実施例1CNTが引用発明の 単層カーボンナノチューブの純度,直径,長さの規定を満たすことが 開示されているからといって,そのことが,多数存在する単層カーボ ンナノチューブから甲2実施例1CNTを選択し,引用発明のカーボ ンナノチューブとして使用することを示唆するものとはいえない。
c 事項(b)について
甲2は,甲2に記載された発明の単層カーボンナノチューブが種々 の技術分野や用途へ応用できることを開示しているが(上記(2)ア(イ)), 電池の電極材料への応用としては,負極の材料として用いることが挙 げられているのみであり(同(エ)),正極の導電助剤として用いること の記載又は示唆はない。また,導電性を生かした応用としては,電子 部品の銅配線に代えて用いることの記載はあるものの(同(ウ)),これ が電池の正極の導電助剤としての応用を示唆するものとはいえない。
d 以上によれば,事項(a)又は事項(b)が,引用発明の導電助剤の単層カ ーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを適用することの示唆 となるとはいえない。そして,他に,甲1又は甲2に,引用発明の導 電助剤の単層カーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを使用 することの示唆となる記載も見当たらない。 以上によれば,甲1及び2のいずれにも,引用発明の導電助剤の単 層カーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを使用することの 示唆はない。
(イ) 技術分野の関連性について
引用発明は,リチウムイオン二次電池正極用導電剤を用いたリチウム イオン二次電池の技術分野に属するものである【0001】。一方,甲 2に開示された発明は,導電体,電極材料,電池等の技術分野に属する ものである(上記(2)ア(イ)〜(エ))。 そうすると,両発明は,導電体,電極材料または電池という限りにお いて,関連する技術分野に属するといえるにとどまる。
(ウ) 課題の共通性について
引用発明は,正極に混合する導電剤の量を低減して,リチウムイオン 二次電池を大容量化し,かつ,高出力におけるリチウムイオン二次電池 容量の劣化を抑制することを課題とする【0012】。一方,甲2に開 示された発明は,従来にみられない高純度,高比表面積のカーボンナノ\nチューブ(特に配向した単層カーボンナノチューブ・バルク構造体)を\n提供することを課題とする(上記(2)ア(ア))。 よって,両発明の課題は共通しない。
(エ) 作用・機能の共通性について\n
引用発明において,単層カーボンナノチューブは,リチウムイオン二 次電池正極用の導電剤として用いられ,ここで,導電剤は,導電性の低 い正極活物質に混合することにより電池の容量を大きくすることができ るという作用・機能を有する【0003】。一方,甲2に開示された発\n明の単層カーボンナノチューブは,導電体,電極材料,電池等の用途に 用いられるものであるところ(上記(2)ア(イ)及び(エ)),導電体として使用 される際には,配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体として,\n電子部品の縦配線,横配線に代えることにより微細化,安定化を図ると いう作用・機能を有し(同(ウ)),電極材料として使用される際には,配 向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体として,リチウム二次電池\nの電極材料,燃料電池や空気電池等の電極(負極)材料という作用・機 能を有するが(同(エ)),いずれの作用・機能も,導電性の低い正極活物\n質に混合することにより電池の容量を大きくすることができるという作 用・機能には当たらない。\nよって,両発明の作用・機能が共通しているとはいえない。\n
(オ) 以上のとおり,甲1及び甲2には,引用発明において,導電助剤とし て用いるカーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを適用するこ とを動機付ける記載又は示唆を見出すことができない。 ウ 上記イのとおり,主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に想到す ることを動機付ける記載又は示唆を見出せない以上,上記アに説示したと ころに照らして,かかる想到を阻害する事由の有無や,本願発明の効果の 顕著性・格別性について検討するまでもなく,その想到が容易であるとし た審決の判断には誤りがある。

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令和1(行ケ)10124  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年8月4日  知的財産高等裁判所

 異議申し立てで取り消し決定がなされましたが、知財高裁(1部)は、引用文献には当該記載がないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。また、複数の引用文献からの周知の認定も否定されました。

 以上によれば,甲2文献には,プローブ装置において,1)プローブ装置筺体 内から外に向かってガイドレールを設け,プローブカードを交換する際に,プロー ブカードをガイドレールに沿って引き出すこと,2)プローブ装置本体の上面に被検 査体に対向して載置されたテストヘッドのメンテナンスやパフォーマンスボードの 交換については,テストヘッドをプローブ装置本体から分離して上昇させて別の場 所に移動することが記載され,検査室の内部から整備空間側にテストヘッドを引き 出すことの記載はない。
・・・・
被告は,甲2文献や乙1〜3の記載によれば,メンテナンスの対象物を引き 出してメンテナンスをすること,また,その際に,スライドレールにより引き出す 構成とすることは周知技術であると主張する。\n前記(1)ア及び上記ア(ア)のとおり,引用例及び甲2文献には,プローブ装置におい て,メンテナンスの際に検査室からプローブカードを引き出すこと及びその際ガイ ドレールに沿って引き出す構成とすることの記載がある。しかし,本件原出願の当\n時,テストヘッドの重量は25kgから300kgを超えるものが知られ(本件明 細書【0022】,甲5【0003】・【0043】,甲6【0014】,甲7,乙3【0005】),テストヘッドとプローブカードとは重量や大きさにおいて相違すること は明らかである。したがって,プローブカードに関する上記記載から,テストヘッ ドを含むメンテナンスの対象物一般について,メンテナンスの対象物を引き出して メンテナンスをすること,また,その際に,スライドレールにより引き出す構成と\nすることが周知技術であったということはできない。 また,乙1〜3には,検査室に収容されたテストヘッドの構成は開示されておら\nず,テストヘッドを引き出すものではないから,被告の主張する周知技術を裏付け るものではない。 以上によれば,被告の主張する各文献の記載から,メンテナンスの対象物を引き 出してメンテナンスをすること,また,その際に,スライドレールにより引き出す 構成とすることが周知技術であったということはできず,ほかにこれを認めるに足\nりる証拠はない。
(イ) 被告は,乙3(【0024】)にも記載があるとおり,テストヘッドを引き出 した方が作業性に優れることは自明であるから,メンテナンスの対象物をスライド レールにより引き出してメンテナンスを行う方が,作業が容易であることを動機付 けとして,引用発明において,相違点1に係る構成を想到することは容易であると\n主張する。 しかし,前記ア(イ)cのとおり,乙3はテストヘッドが検査室に収容されたプロー ブ装置を開示するものではなく,同段落の「超重量級のテストヘッドであってもテ ストヘッド4を安全且つ円滑に反転させ,前後,上下に移動させることができ,テ ストヘッド4をメンテナンス等の作業性に優れた位置へ移動させることができる。」 との記載から,テストヘッドを引き出した方が作業性に優れていることを読み取る ことはできない。
また,引用例には,1)試験対象の仕様及び試験内容に応じて行うピンエレクトロ ニクスの交換や,その他のテストヘッドのメンテナンスは収容室の背面扉を開けて 行うこと(【0029】,【0036】,【0063】,【0080】,【0085】),2)レイアウトの異なるウエハに対応するためのプローブカードの交換や,その他のプローブカードのメンテナンスは収容室のメンテナンスカバーを開けて行い,プローブ カードは収容室の外部に引き出すことができること(【0028】,【0029】,【0030】,【0037】,【0080】,【0085】),3)背面扉はテストヘッドのメンテナンスが容易な位置に配置され,メンテナンスカバーはプローブカードのメンテ ナンスが容易な位置に配されていること(【0029】)が記載されている。 このように,引用発明においては,テストヘッドのメンテナンスは背面扉を開け て行うものとされ,背面扉はメンテナンスを行うのに容易な位置に配置されている のであるから,検査室が整備空間側にテストヘッドを引き出すスライドレールを備 え,テストヘッドを引き出す構成を採用することの動機付けは見いだせない。\n

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令和1(行ケ)10096  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年6月3日  知的財産高等裁判所

 異議申し立てにて、登録取り消し決定が取り消されました。添加目的が異なるので組み合わせる動機付けがないというものです。\n 

 甲2において,シランカップリング剤は,金属アルコキシドやその他の物質のポ リイミド系重合体の前駆体であるポリアミック酸系重合体への分散性,混合性を向 上させ,熱膨張率などの特性にもとづく寸法安定性を改善することを目的とするも のであり,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的\nな方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明2とは異なる目的の ために配合されている。
甲3において,アルコキシシラン化合物は,透明性を損なわずに,寸法安定性に 優れ,かつ無機化合物基板との密着性が高いシリカ粒子が分散してなる新規なポリ イミド組成物及びその製造方法を提供するために,ポリイミド溶液に添加し,ポリ イミド溶液において水の存在下で反応させるものであり,本件発明2において,ア ルコキシシランが,ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の組成物に配合されるの とは,配合対象が異なっている上,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」\nを有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発 明2とは異なる目的のために配合されている。
甲4は,ポリイミド銅張積層板のポリイミド層と銅箔との間の接着性を高めるた めに,ポリイミド前駆体コーティング溶液中に,アルコキシシランを組み込むとい うもので,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的\nな方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明2とは異なる目的の ために配合されている。
甲5は,良好な熱伝導性と接着性を有し,さらに,良好な耐熱性を有する樹脂組 成物を提供することを目的とするものであるが,(C)成分の例として,3−ウレイ ドプロピルトリエトキシシランを含む組成物が,ポリイミド樹脂と無機フィラーの 相溶性を高め,ボイド(空隙)を抑制し,少ない無機フィラー含量でも高い熱伝導 性が得られると記載されており,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を\n有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明 2とは異なる目的のために配合されている。
甲6は,電子部品の絶縁膜又は表面保護膜用樹脂組成物,パターン硬化膜の製造\n方法及び電子部品に関するものであり,最終加熱時においてメルトを起こすことな く,最終加熱以降の加熱においても架橋成分等の昇華及びガス成分の発生が少ない 層間絶縁膜又は表面保護膜を製造するために,3−ウレイドプロピルトリエトキシ\nシランを添加することができる(段落【0057】)というものであり,シリコン基 板に対する接着性増強剤として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,ビ ス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアル コキシシラン化合物を含むことができる(段落【0069】)との記載があるが,「支 持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離すること」が可能\ なポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供するという本件発明\n2とは添加目的が異なっている。
g 以上によると,甲2〜6によって,甲2〜6にされたアルコキシシ ラン化合物を本件発明2のために用いるという動機付けがあるとは認められないか ら,相違点3が容易想到であると認めることはできない。 なお,甲2〜6には,ポリイミド前駆体に添加するシランカップリング剤として, 本件発明2における4種のアルコキシシラン化合物のうちの少なくとも1種と甲1 記載の他種のものが並列的に列挙されているとしても,甲2〜6は,アルコキシシ ラン化合物を使用する目的や対象が本件発明2とは異なるから,本件発明2におい て,甲2〜6に記載するアルコキシシラン化合物を用いることが容易想到であると は認められない。

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令和1(行ケ)10118  審決(無効・不成立)取消 令和2年6月17日判決 請求棄却(2部)特許権 (アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン訪導体を含有する局所的眼科用処方物)進歩性,顕著な効果の有無,判決の拘束力

 進歩性の判断に誤りがあるとして、最高裁で取り消された事件の差戻審の判断です。予測できない効果ありとして進歩性ありと判断されました。\n  まず,本件優先日当時,本件化合物について,ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率が30〜2000μMまでの濃度範囲において濃度依存的に上昇し,最大で92.6%となり,この濃度の間では,阻害率が最大値に達した用量(濃度)より高用量(濃度)にすると,阻害率がかえって低下するという現象が生じないことが明らかであったことを認めることができる証拠はない。
(イ)次に,ケトチフェンの効果から,本件化合物の効果を予測することができたかどうかについて判断する。\n
 a 甲1によると,Ketotifen(ケトチフェン)とKW−4679(本件化合物のシス異性体の塩酸塩)は,いずれも,モルモットの結膜からのヒスタミンの遊離抑制効果については有意でないと評価がされているが,甲32には,Ketotifen(HC)(ケトチフェン)点眼液のヒスタミンの遊離抑制効果をスギ花粉症患者の眼球への投与実験によって検討したところ,アレルギー反応の誘発後,5分及び10分後の涙液中ヒスタミン量は,対照眼と比べて,有意なヒスタミン遊離抑制効果がみられ,ヒスタミン遊離抑制率は,誘発5分後で67.5%,誘発10分後で67.2%であったことが記載されている。これらによると,ケトチフェンは,ヒトの場合においては,モルモットの実験結果(甲1)とは異なり,ヒト結膜肥満細胞安定化剤としての用途を備えており,ヒスタミン遊離抑制率は,誘発5分後で67.5%,誘発10分後で67.2%であることが認められる。
 もっとも,本件優先日当時,ケトチフェンがヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制率について30μM〜2000Mの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであったと認めることができる証拠はない。なお,甲39は,本件優先日後に公刊された刊行物であって,その記載を参酌してケトチフェンが上記で認定したものを超える効果を有していると認めることはできない。b甲1において,Ketotifen(ケトチフェン)及び本件化合物と同様に,モルモットの結膜におけるヒスタミンの遊離抑制効果を有しないとされているChlorpheniramine(クロルフェニラミン)については,本件優先日当時,ヒト結膜肥満細胞の安定化効果を備えることが当業者に知られていたと認めることができる証拠はない。また,本件化合物やケトチフェンと同様に三環式骨格を有する抗アレルギー剤には,アンレキサクノス(甲1のAmelexanox),ネドクロミルナトリウムが存在する(甲1,11,19,31,弁論の全趣旨)ところ,アンレキサクノスは有意なモルモットの結膜からのヒスタミン遊離抑制効果を有している(甲1)が,本件化合物は有意な効果を示さないこと(甲1),ネドクロミルナトリウムは,ヒト結膜肥満細胞を培養した細胞集団に対する実験においてヒトの結膜肥満細胞をほとんど安定化しない(本件明細書の表1)が,本件化合物は同実験においてヒトの結膜肥満細胞に対して有意の安定化作用を有することからすると,三環式化合物という程度の共通性では,ヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果につき,当業者が同種同程度の薬効を期待する根拠とはならない。さらに,ケトチフェンは各種実験において本件化合物(又はその上位概念の化合物)との比較に用いられており(甲208〜210。ただし,甲210は,本件優先日後の文献である。),甲1では,ケトチフェンは本件化合物と並べて記載されているが,ケトチフェンと本件化合物の環構\造や置換基は異なるから,上記のとおり比較に用いられていたり,並べて記載されているからといって,当業者が,ケトチフェンのヒスタミン遊離抑制効果に基づいて,本件化合物がそれと同種同程度のヒスタミン遊離抑制効果を有するであろうことを期待するとはいえない。
 原告は,ケトチフェンが,三環式骨格を有する抗アレルギー剤である点で本件化合物に共通し,本件化合物の上位概念の化合物やKW−4679などの効果において,比較対象とされている(甲208〜210)ことから,ケトチフェンの効果の程度から,KW−4679(本件化合物)の効果の程度を推認することは可能であったと主張するが,原告の主張を採用することはできない。したがって,甲1の記載に接した当業者が,ケトチフェンの効果から,本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する効果について,前記アのような効果を有することを予\測することができたということはできない。
(ウ)さらに,本件優先日当時,甲20,34及び37の文献があったことから,本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果をこれらの文献から予測できたかについて判断する。a甲20には,スギ花粉症患者の眼球への投与実験における塩酸プロカテロ−ル点眼液のヒスタミン遊離抑制率が,誘発5分後で0.003%点眼液が平均81.7%,0.001%点眼液が平均81.6%,0.0003%点眼液が平均79.0%,誘発10分後で0.003%点眼液が平均90.7%,0.001%点眼液が平均89.5%,0.0003%点眼液が平均82.5%であることが記載されている。また,甲34には,スギ花粉症患者の眼球への投与実験におけるDSCG(クロモグリク酸二ナトリウム)2%点眼液のヒスタミン遊離抑制率が,誘発5分後で平均73.8%,誘発10分後で平均67.5%であることが記載されている。\nさらに,甲37には,スギ花粉症患者への眼球の投与実験におけるペミロラストカリウム点眼液のヒスタミン遊離抑制率が,誘発5分後で0.25%点眼液が平均71.8%,0.1%点眼液が平均69.6%,誘発10分後で0.25%点眼液が平均61.3%,0.1%点眼液が平均69%であることが記載されている。
b しかし,本件化合物と,塩酸プロカテロ−ル(甲20),クロモグリク酸二ナトリウム(甲34),ペミロラストカリウム(甲37)は,化学構造を顕著に異にするものであり,前記(イ)bのとおり,三環式骨格を同じくするアンレキサクノスと本件化合物のモルモットの結膜からのヒスタミンの遊離抑制効果が異なり,ネドクロミルナトリウムと本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果が異なることからすると,ヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果も,その化学構造に応じて相違することは,当業者が知り得たことであるから,前記aの実験結果に基づいて,当業者が,本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果を,前記a記載の化合物と同様の程度であると予\測し得たということはできない。また,前記aの各記載から,塩酸プロカテロ−ル(甲20),クロモグリク酸二ナトリウム(甲34),ペミロラストカリウム(甲37)がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率について30μM〜2000Mの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであると認めることはできず,他に,これらの薬剤がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率について30μM〜2000Mの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであると認めることができる証拠はない。  したがって,前記aの各記載から,本件化合物のヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害について前記アのような効果を有することを予測することができたということはできない。\n
 ウ 原告は,本件発明1の顕著な効果が認められるためには,本件化合物が0.0001〜5w/v%の濃度の全範囲で,かつ,本件明細書の表1に記載された29.6%〜92.6%というヒスタミン放出阻害率の全範囲でヒスタミン放出阻害率が顕著な効果を有しなければならないと主張する。しかし,本件発明1の効果は,30μM〜2000μMの間でヒスタミン放出阻害率が濃度依存的に上昇し,最大値92.6%となり,この濃度の間では,阻害率が最大値に達した用量(濃度)より高用量(濃度)にすると,阻害率がかえって低下するという現象が生じていないことにあるから,0.0001〜5w/v%の濃度の全範囲で,かつ,本件明細書の表\1に記載された29.6%〜92.6%というヒスタミン放出阻害率の全範囲で,他の薬物のヒスタミン放出阻害率を上回るなどの効果を有することが必要とされるものではない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
エ 以上によると,本件発明1の効果は,当該発明の構成が奏するものとして当業者が予\測することができた範囲の効果を超える顕著なものであると認められるから,当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。

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最高裁判決はこちら 平成30(行ヒ)69  審決取消請求事件 令和元年8月27日  最高裁判所第三小法廷  判決  破棄差戻  知的財産高等裁判所

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令和1(行ケ)10085  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年6月4日  知的財産高等裁判所(3部)

 ゲームの特許について進歩性無しとした審決が取り消されました。理由は「「ゲーム上の取決めにすぎない」として,他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断できない」というものです。出願人は「グリー(株)」です。

 相違点6に係る構成が容易想到であると判断するに当たっての審決の論理構\成は,次のとおりである。(1)「手持ちのカード」が他のフィールド又は領域への移動に伴いその数を減 じたときに「手持ちのカード」を補充するという構成を採用するに当たって,どのフィールド又は領域への移動を補充の契機とするかはゲーム上の\n取決めにすぎない。 (2) よって,第7領域への移動をカードの補充の契機とする引用発明の構成を,第3領域(敵ヒーローへの攻撃を行うための領域)への移動を補充の\n契機とする本願発明の構成に変更することは,ゲーム上の取決めを変更することにすぎない。\n(3) よって,引用発明の構成を本願発明における構\成とすることも,ゲーム 上の取決めの変更にすぎず,当業者が容易に想到し得た。
(2) しかしながら,審決の上記論理構成は,次のとおり不相当である。ア 審決は,引用発明の認定に当たって「カード」の種類に言及していない が,CARTEによれば,第10領域から第11領域へのカードの補充の 契機となるのは,「シャードカード」(深緑の地色に白抜きで円形と三日 月形が表示されているカード)の第11領域から第7領域への移動及び第7領域から第6領域への移動である(00分39秒〜40秒,00分49\n秒〜50秒等)。 そして,「シャードカード」は,専ら「マナ」(カードのセッティング やスキルの発動に必要不可欠なエネルギー<00分42秒>)を増やすため に用いられるカードであり,その移動先はシャードゾーン(第7領域)又 はマナゾーン(第6領域)に限られ,敵との直接の攻防のためにアタック ゾーン(第3領域)又はディフェンスゾーン(第4領域)に移動させられ ることはない。これに対し,「クリーチャーカード」は,敵のクリーチャ ーやヒーローとの攻防に直接用いられるものであって,第11領域から適 宜アタックゾーン(第3領域)又はディフェンスゾーン(第4領域)に移 動させられ,攻防の能力を表\す「APの値」及び「HPの値」を有してい る。
イ このように,引用発明におけるカードの補充は,本願発明におけるそれ との対比において,補充の契機となるカードの移動先の点において異なる ほか,移動されるカードの種類や機能においても異なっており,相違点6は小さな相違ではない。そして,かかる相違点6の存在によって,引用発\n明と本願発明とではゲームの性格が相当程度に異なってくるといえる。し たがって,相違点6に係る構成が「ゲーム上の取決めにすぎない」として,他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断すること\nは,相当でない。
(3) 被告の主張について
被告は,手持ちのカードの数が減じたときにこれを補充する構成(乙7,乙8)とするかこれを補充しない構\成(乙9,乙10)とするかは,ゲーム制作者がゲームのルールを決める際に適宜決めるべき設計的な事項にすぎな いから,引用発明において,第3領域(アタックゾーン)にカードを配置し た場合でも第11領域の手持ちカードが補充されるようにすることは,何ら 技術的な困難性があることではなく,まさに,提供しようとするゲーム性に 応じたゲーム上の取決めにすぎない旨主張する。 しかしながら,相違点6は,ゲームの性格に関わる重要な相違点であって, 単にルール上の取決めにすぎないとの理由で容易想到性を肯定することはで きないことは,(2)において説示したとおりである。。

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令和1(行ケ)10075  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年5月28日  知的財産高等裁判所

 一部のクレームについて、審決は進歩性ありと判断しましたが、知財高裁(1部)は、これを取り消しました。

イ 相違点2−4について
本件明細書には,「樹脂層40の原料は,低温接着性樹脂(低融点樹脂)であって, 熱ラミネート(熱融着)が可能なものであれば制限されない」(【0043】)との記載があるところ,かかる記載によれば,本件発明7の「熱ラミネート」との用途は,\n「熱封着樹脂層」に基づくものである。 一方,引用例2の「接着層となる…エチレン・メタクリル酸共重合体の金属塩な どの,融点が85〜135℃のヒートシール性樹脂よりなるフィルム層」との記載 によれば,引用発明2Bの「融点が90℃のエチレン・メタクリル酸共重合体(C) からなるC層」は,「ヒートシール性樹脂よりなるフィルム層」であり,熱封着樹脂 層である。 そうすると,本件発明7の「熱封着樹脂層」と引用発明2Bの「融点が90℃のエ チレン・メタクリル酸共重合体(C)からなるC層」とは,ともに熱封着樹脂層であ るから,「熱ラミネート」用であるとの点において,相違はないものと認められる。 したがって,相違点2−4は,実質的な相違点ではない。
ウ 小括
以上によれば,本件発明7は,当業者が引用発明2Bに基づいて容易に発明をす ることができたものである。
(4) 本件発明8の容易想到性について
本件発明8は,本件発明7の「第1のスキン外層」をポリエチレン系樹脂,「コア 層」をポリプロピレン系樹脂,「第2のスキン内層」をポリプロピレン樹脂及びポリ エチレン系樹脂から選択された1種以上,「熱封着樹脂層」をエチレンビニルアセテ ート,エチレンメチルアセテート,エチレンメタクリル酸,エチレングリコール,エ チレン酸ターポリマー,及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーより なる群から選択された1種以上に,それぞれ限定したものである。 引用発明2Bの「融点が90℃のエチレン・メタクリル酸共重合体(C)からなる C層」は,「ヒートシール性樹脂よりなるフィルム層」,すなわち,「熱封着樹脂層」 であるから,「エチレンメタクリル酸」を原料とする「熱封着樹脂層」が開示されて いる。 また,引用発明2の基材層として,従来技術(甲33)に開示された構成を採用する動機付けがあることは,前記(2)アのとおりであるところ,甲33に開示された複 合フィルムは,ポリプロピレン,ポリプロピレン,ポリエチレンからなるから,「第 1のスキン外層」をポリエチレン系樹脂,「コア層」をポリプロピレン系樹脂,「第2 のスキン内層」をポリプロピレン樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された1種 以上にすることも容易に想到できる。 他方,阻害事由の主張はない。 したがって,引用発明2Bの層構成を本件発明8のものとすることは,当業者が容易に想到することであるから,本件発明8は,当業者が引用発明2Bに基づいて\n容易に発明をすることができたものである。
(5) まとめ
本件発明6は,引用例2に記載された発明から容易に発明できたものではないが, 本件発明7,8は,いずれも,引用例2に記載された発明から容易に発明できたも のであり,取消事由2は,本件発明7,8に係る部分に限り,理由がある。

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平成31(行ケ)10032  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所(4部)

 特別部、いわゆる大合議の判断がなされた事件(平成31(ネ)10003)の関連事件です。無効理由無しとした審決が維持されました。

 原告は,(1)甲7の1には,甲7の1記載のマッサージ器の開き角度の 構成により,一対のローラを用いて,マッサージ器をある一方向に移動\nさせることで,一対のローラが,皮膚をひだよせしたり,押し曲げたり, 引っ張ったりし,逆方向にマッサージ器を移動させることで,皮膚が弛 緩したり,ほぐしたりする効果を奏することの開示があること,(2)甲7 の1記載のマッサージ器のローラによって,筋肉が引っ張られ,押して ほぐされるのであれば,それと並行して毛穴が収縮し,毛穴の中の汚れ が押し出される効果も認められるから,甲1−1発明の油分の浮き上が らせ効果及びゲルマニウムの浸透効果がより促進されることに照らすと, 当業者は,甲1−1発明において,甲7の1記載のマッサージ器の前記 (ア)bの構成を適用する動機付けがあるといえるから,「ローラの回転\n軸が,柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ,一対のローラ の回転軸のなす角が鈍角に設けられ」た構成(相違点2に係る本件特許\n発明1の構成)とすることを容易に想到することができたものである旨\n主張する。
そこで検討するに,前記ア(イ)a認定のとおり,甲1−1発明のロー ラ支持部200は,別紙2の図1に示すとおり,横軸部210と縦軸部 220とで形成された「T字形状」であり,2つのローラ100,10 0が単一の横軸部210の両端に取り付けられているから,2つのロー ラの回転軸が共通する一軸の構成であり,これにより2つのローラ10\n0,100は平行な位置関係にあることを理解できる。 他方で,甲7の1記載のマッサージ器は,別紙5の正面図及び背面図 に示すように,「一対のローラの回転軸が,柄の長軸方向の中心線とそ れぞれ鋭角に設けられ,一対のローラの回転軸のなす角が鈍角」に設け られており,一対のローラの回転軸は,別異の軸で構成された2軸の構\ 成であり,これにより2つのローラは,甲1−1発明と比べて接近した 位置関係にあることを理解できる。
このように甲1−1発明と甲7の1記載のマッサージ器は,2つのロ ーラの回転軸の構成が異なるところ,甲1には,2つのローラ100,\n100の回転軸を1軸から2軸とすることについての記載も示唆もない。 かえって,甲1には,「前記ローラ支持部は二股になっており,2つの ローラが離れて支持されていると,皮膚に与える機械的な刺激が大きく なるというメリットがある。」(【0015】)との記載があり,2つ のローラが離れていることが望ましいことを示唆する記載がある。 また,甲7の1の「意匠の創作内容の要点」欄には,「本願マッサー ジ器は,人体の部位を引っ張り,押して筋肉をほぐすマッサージ器であ って,安定感と立体感を強調し,新しい美感を生じさせるようにしたこ とを創作内容の要点とする。」との記載があるが,一方で,甲7の1に は,ローラの材質,表面の構\成等についての記載はなく,「人体の部位 を引っ張り,押して筋肉をほぐす」ことによって皮膚に対していかなる 効果が生じるかについての具体的な開示はない。 そうすると,甲1及び甲7の1に接した当業者において,甲1−1発 明において,2つのローラの回転軸が1軸より複雑な構造である2軸の\n甲7の1記載のマッサージ装置の上記構成を適用する動機付けがあるも\nのと認めることはできない。
以上によれば,当業者が甲1−1発明と甲7の1に記載された発明に 基づいて,相違点2に係る本件特許発明1の構成を容易に想到すること\nができたものと認めることはできない。

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原審

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平成31(行ケ)10018等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月19日  知的財産高等裁判所

 無効理由として、実施可能要件、サポート要件、進歩性が争われました。裁判所は、無効理由無しとした審決を維持しました。\n

 前記(1)イのとおり,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの核酸 配列(図1)が記載されており,コリネ型細菌の染色体上の,GDH 遺伝子のプロモーター配列の−35領域に「TGGTCA」配列及び−10 領域に「CATAAT」配列を有し,CS遺伝子のプロモーター配列の−3 5領域に「TGGCTA」配列及び−10領域に「TAGCGT」配列を有するこ とが示されている。また,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの セットにおいて,最もよく保存されている配列は-35 領域の「ttGcca.a」 及び-10 領域の「ggTA.aaT」であることが記載されている(図5)。 一方,甲2には,コリネ型細菌を用いた発酵法によるグルタミン酸 の製造方法において,グルタミン酸生合成系遺伝子であり,コリネ型 細菌の染色体上の特定の遺伝子であるGDH遺伝子及びCS遺伝子の プロモーター配列について,その−35領域及び−10領域の塩基配 列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することの動機付けとな るような記載はない。 したがって,甲2発明に接した当業者は,甲2の原告ら指摘箇所を 認識していたとしても,甲2発明において,GDH遺伝子のプロモー ター配列の−35領域及び−10領域の配列と目的遺伝子の発現量の 強化の程度及びそれによるグルタミン酸生産能の向上との関係に着目\nし,グルタミン酸を高収率で生産する能力を有する変異株を得るため\nに,GDH遺伝子のプロモーター配列の−35領域及び−10領域の 配列を本件発明1−1の配列に置換する動機付けはないから,当業者 は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。\nb これに対し原告らは,(1)L−グルタミン酸の生産を増強するために は,L−グルタミン酸に至るまでの各反応に関与する酵素(CS,G DH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいことは,本件優 先日前において技術常識であったこと,(2)E.coli において,プロモー ターの−10領域及び−35領域をコンセンサス配列に変更ないし近 づけることによって,目的遺伝子の発現を強化できることも,本件優 先日前において技術常識であったこと,(3)甲2には,コリネ型細菌と E.coli のコンセンサス配列が同等であることや,コリネ型細菌のプロ モーターの−10領域のコンセンサス配列が「TA.aaT」であり,この 3番目の塩基「.」として,相対的に「T」が最も頻度が高いことが記 載されていることからすると,甲2の記載は,当業者に対し,甲2発 明のGDH遺伝子のプロモーター配列の−10領域(CATAAT)の1番 目の塩基「C」を「T」に変異して,コンセンサス配列,すなわち本件 発明1−1の構成(「TATAAT」)とし,同−35領域(「TGGTCA」) の1番目〜3番目の塩基を保存性の高い「TTG」にするために,2番目 の塩基「G」を「T」に変異して,本件発明1−1の構成(「TTGTCA」) とすることを示唆するものである旨主張する。
しかしながら,仮に,本件優先日前において,L−グルタミン酸の 生産を増強するために,L−グルタミン酸の生成反応に関与する酵素 (CS,GDH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいこと が知られていたとしても,当該酵素の遺伝子を増強する具体的な方法 は,相当多数のものが想定し得たものと考えられるのであって,かか る方法として,本件発明1のように,目的遺伝子のプロモーターの特 定の領域に変異を導入する方法が知られていたことは認められない。 また,E.coli において,プロモーターの−10領域及び−35領域 をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子 の発現を強化できる場合があることが,本件優先日前において知られ ていたとしても,コリネ型細菌について,これと同様の知見が存在し ていたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,前記(1)イのとお り,甲2には,C.グルタミカムにおけるプロモーターの活性と-35 及 び-10 のコンセンサス配列との類似性の間には,E.coliと異なり,相 関は確認できなかった旨が記載されている。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

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令和1(行ケ)10097  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月19日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が、動機付け無し・阻害要因ありとして取り消されました。

 本件審決は,引用発明1及び甲4発明の装身具は,いずれも,装身 具を簡単にシャツの第一ボタンに装着できるようにするという共通の課 題を有し,また,これを着用するに当たり,切欠き状の部分にボタンが はまり込むことで装着するという共通の機能を有するから,引用発明1\nのボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的な形状として,甲 4発明の係止導孔を有する円形の釦挿通孔の態様を採用し,相違点2に 係る本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得た\nことである旨判断した。 しかしながら,前記(2)イのとおり,引用発明1は,簡易型のネクタイ 本体を取付ける着用具を改良することによって,着用状態における位置 ずれや傾きを生じ難く,低コストで生産でき,そして着用操作も容易で ある簡易着用具付きネクタイを提供することを課題とするものである。 一方,前記ア(イ)のとおり,甲4に記載された考案は,襟飾り,生花 等の種々の装飾小物,殊に襟前に止着する装身具について,着脱が簡単 であり,かつ,衣服の損傷がほとんどない装身具取付台を提供すること を課題とするものであるが,かかる装身具として,蝶ネクタイやネクタ イを例示するものではなく,蝶ネクタイやネクタイを着用する際に固有 の問題があることを指摘するものでもない。 したがって,引用発明1と甲4発明は,その具体的な課題において, 大きく異なるものといえる。
また,発明の作用・機能をみても,引用発明1は,基板部,ネクタイ\n取付部及び一対の突出片から成る簡易着用具を備え,ネクタイ取付部の 裏側に位置する基板部に,その下縁を凹状に切り欠いたボタン係合部を 設け,その切欠きにシャツの第一ボタンを係合させるとともに,一対の 突片を襟下へ挿入することで,簡易蝶ネクタイの良好な着用状態及び簡 単な着用操作を実現するものである(前記(2)ア(オ))。 そして,甲1には,引用発明1に関し,(1)「ボタン係合部19」の奥 部は,ボタン取付け糸の部分を丁度跨ぐことができる程度の小円弧状を なすものとし,その幅は,ボタンとの係合状態において横方向にほとん ど移動しない程度のものとすること,(2)着用時にボタンとの係合を容易 にするとともに,着用時に基板部2の片側がボタン穴に入り込むことを 防ぐために,「ボタン係合部19」の下方を,ラッパ状に下方へ拡大し て基板部2の下縁に達するものとすることの記載(前記(2)ア(エ)a)が ある。これは,結び目の陰に隠れて見えない状態のボタン係合部を,上 方から探りながらも容易に装着できるようにするための工夫といえるか ら,簡易着用具1の基板部2における,ボタン係合部19の配置位置及 びその形状を引用発明1の構成とすることは,引用発明1の課題を解決\nするために,重要な技術的意義を有するものであることを理解できる。 他方,甲4発明は,取付台主板に対して上方に係止導孔を連続形成し た釦挿通孔を穿設すると共に,他の一部に背面方向に突出するピンを突 設し,ピン先端にピン挟持機構を有するピン挿入キャップを冠着するこ\nとで,釦の確実な止着と,各種装身用小物の衣類への簡単な着脱を実現 するものであって(前記ア(イ)b),第1ボタンへの係合方法,衣類への 確実な止着及び簡単な着脱の実現手段において,引用発明1と大きく異 なるものであるから,発明の具体的な作用・機能も,引用発明1とは大\nきく異なるものといえる。
加えて,甲4の記載事項(前記ア(ア)c)によれば,甲4発明の装身 具取付台は,衣類に装着する際に,第1ボタンの前部からアプローチし て,釦挿通孔(2)に挿入した後,装身具取付台を鉛直方向の下部に移 動させ,係止導孔(3)を第1ボタンの取付糸に係合するものであるか ら,当業者であれば,第1ボタンを釦挿通孔(2)に挿入する際に,こ れらを視認できる状態でないと,ボタンの着脱動作が困難となることを 理解できる。 そうすると,仮に,引用発明1のボタン係合部19における切欠き状 の部分の具体的な形状として,甲4発明の「細幅の係止導孔(3)を有する 円形の釦挿通孔(2)」の態様を採用した場合には,ボタン係合部19の前 側に位置し,その前側にネクタイが取り付けられるネクタイ取付部3が 存在するため,簡易蝶ネクタイを着用する際に,簡易蝶ネクタイ及びネ クタイ取付部に隠されて,第1ボタン及びボタン穴を視認することがで きないことになる。そのため,ボタン係合部を切欠き状にする場合より も,着用具へのボタンの係合が困難となることは明らかであるといえる。
(イ) 以上によれば,引用発明1と甲4発明とは,発明の課題や作用・機 能が大きく異なるものであるから,甲1に接した当業者が,甲4の存在\nを認識していたとしても,甲4に記載された装身具取付台の構成から,\n「細幅の係止導孔(3)を有する円形の釦挿通孔(2)」の形状のみを取り出し, これを引用発明1のボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的 な形状として採用することは,当業者が容易に想到できたものであると は認め難く,むしろ阻害要因があるといえる。 したがって,本件補正発明は,引用発明1に基づいて当業者が容易に 発明をすることができたものであるとはいえないから,これに反する本 件審決の判断には誤りがあり,同判断を前提とする本件審決の補正却下 の決定にも誤りがある。

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令和1(行ケ)10100  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月19日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとして異議申立が認められましたが、知財高裁3部は、かかる審決を取り消しました。理由は、「後知恵に基づく議論といわざるを得ず,これを周知の技術的事項であると認めることはできない」というものです。

 以上のとおり,引用文献4から6に記載された発光素子は,いずれもA lGaN層又はAlGaAs層を組成傾斜層とするものであるが,引用 文献4では緩衝層及び活性層における結晶格子歪の緩和を目的として緩 衝層に隣接するガイド層を組成傾斜層とし,引用文献5では,隣接する 2つの層(コンタクト層及びクラッド層)の間のヘテロギャップの低減 を目的として当該2つの層自体を組成傾斜層とし,引用文献6では,隣 接する2つの半導体層の間のヘテロギャップの低減を目的として2つの 層の間に新たに組成傾斜層を設けるものである。このように,被告が指 摘する引用文献4から6において,組成傾斜層の技術は,それぞれの素 子を構成する特定の半導体積層体構\造の一部として,異なる技術的意義 のもとに採用されているといえるから,各引用文献に記載された事項か ら,半導体積層体構造や技術的意義を捨象し上位概念化して,半導体発\n光素子の技術分野において,その駆動電圧を低くするという課題を解決 するために,AlGaN層のAlの比率を傾斜させた組成傾斜層を採用 すること(本件技術)を導くことは,後知恵に基づく議論といわざるを 得ず,これを周知の技術的事項であると認めることはできない。 よって,本件技術が周知の技術的事項であるとして,相違点1,2に係 る構成に想到することが容易であるとした本件取消決定の判断には誤りが\nある。
イ なお,乙6の3及び引用文献5から,AlGaN半導体積層体において, 隣接する2つの層の間のヘテロギャップを低減させることで駆動電圧を 低減させること目的として,当該層を組成傾斜層とするという限度では, 周知の技術的事項を認める余地はある。 しかし,引用発明Aにおいて,アンドープ層とドーピング層は,いずれ もAl0.6Ga0.4Nから構成されており,両者の間にヘテロギャップは\n存在しないと考えられる。また,超格子バッファとアンドープ層との間の ヘテロギャップに着目するとしても,引用発明Aにおいて,n側電極はコ ンタクト層であるドーピング層又はアンドープ層に形成されるから,それ より下層(p側電極とは反対側)にある超格子バッファとの間のヘテロギ ャップは,駆動電圧にほとんど影響しないと考えられる。 よって,引用発明Aのアンドープ層について,隣接するドーピング層と の関係においても,超格子バッファとの関係においても,駆動電圧の低下 を目的としてヘテロギャップの低減を図るために,組成傾斜層とする動機 付けがあるとは認められない。そのため,上記技術が周知であるとしても, 少なくとも相違点1に係る構成に想到することは容易とはいえない。\nこの点について,被告は,アンドープ層及びドーピング層はいずれもコ ンタクト層であるから一体として考えるべきである旨主張する。しかし, 両層はドーピングの有無が異なることに加え,引用文献1の本文において, 両層それぞれについて膜厚が記載されていることや,図1でも2つの層は 区別して記載されていることからすれば,両層は別個の層として取り扱わ れていることは明らかであり,いずれもコンタクト層であるとの一事をも って,当業者が両者をともに組成変更するとの動機を持つとは考え難いか ら,被告の主張は採用できない。
4 格子不整合との主張について
被告は,半導体積層体の格子不整合を緩和するために組成傾斜層を用いるこ とが周知の技術事項であり,また,当業者であれば,引用発明Aの半導体積層 体に格子不整合が生じていることを認識し得るから,引用発明Aにおいて,か かる格子不整合を緩和するために,アンドープ層及びドーピング層を組成傾斜 層にする動機付けがある旨主張する。 しかし,半導体積層体では,通常,組成の異なる半導体層を積層した構造を\n採るため,格子定数差がない半導体層だけで素子を構成することができないこ\nとは技術常識であるところ,かかる半導体積層体に組成傾斜層を採用すること が常に行われていると認めるに足る証拠はなく,かえって引用文献4及び5で は,組成傾斜層は付加的な構成とされているにすぎず,これが設けられていな\nい実施例が大半を占める。また,弁論の全趣旨によれば,組成傾斜層を設ける ことには成膜が難しいといった弊害もあり,膜厚の厚薄及び格子定数差の大小 を踏まえ,格子定数差を許容した設計とすることや,応力緩和層を設けるなど 組成傾斜層以外の手段を採ることもあると認められる。そうだとすれば,半導 体積層体において,組成傾斜層を用いることにより半導体層間の格子定数差を 緩和すること自体は周知の技術事項であるとしても,当業者にとって,半導体 層間の格子定数差はおよそ許容できないものであり,これがあれば組成傾斜層 の適用が当然に試みられるとまでは認められず,組成傾斜層の適用が容易想到 というためには,引用発明Aにおいて格子定数差に基づく問題が発生している ことなど,そのための契機が必要というべきである。 引用文献1には,超格子バッファが,「応力を緩和する」ために採用されて いることは記載されているものの,かかる超格子バッファを備えた半導体積層 体において,さらに各半導体層間の格子定数差を課題として認識するような記 載は見当たらない。また,そうであるのに,被告が主張するように,各半導体 層の組成比を仮定しさらに場合分けをしてまで半導体層間の格子定数の差を顕 在化させることを当業者が行うとは考え難いし,仮に被告が主張するとおりの 格子定数差を当業者が認識したとしても,それが,組成傾斜層を用いて格子不 整合を緩和する必要があると考えるほどの差であるのかも明らかではない。さ らに,被告は,超格子バッファとアンドープ層の間に格子定数差がない可能性\nがあるとしているところ,かかる場合に,ドーピング層を電子供給層との格子 整合のために組成傾斜層とするにしても,前記3(4)イに記載のとおり,ドー ピング層とは別の層であるアンドープ層まで組成傾斜層とする動機付けはない。 以上によれば,引用発明Aに接した当業者が,格子定数差の緩和を目的とし て,アンドープ層及びドーピング層の双方を組成傾斜層とする動機付けがある とは認められない。

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令和1(行ケ)10102  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月24日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。理由は技術分野は共通するが、動機付け無し、さらに阻害要因ありというものです。

(ア) 引用発明1は,大口径の鋼管杭(ケーシング)の圧入,引抜きを行うための 回転式ケーシングドライバに関し,引用発明2’は,種々の径のケーシングに対応す ることができ,現場打杭に使用される回転式ボーリングマシンに関するから,両発 明の技術分野は共通する。 しかし,引用発明1では,小さく分割することでその輸送を容易にしながら,ケ ーシングドライバの大型化を図ることのできる構造の,昇降フレームを提供するこ\nとを目的とするのに対し,引用発明2’では,種々のケーシングチユーブに適用し, 掘削排土及びケーシングチユーブの回転の両操作を同時に行うことのできる回転式 ボーリングマシンを提供することを目的とするので,両発明の目的は異なる。 また,引用例1には,引用発明1の把持機構(旋回ベアリング6,回転リング7,\n及びバンド装置14)に代えて,引用発明2’の把持機構(クランプ部2)を採用す\nることに関する記載も示唆も認められない。 そうすると,引用発明1に引用発明2’を適用することについて,直ちに動機付け があると評価することはできない。
(イ) そこで,更に両発明の構成をみると,引用発明1の「旋回ベアリング6,回\n転リング7,及びバンド装置14」と引用発明2’の「クランプ部2」は,いずれも ケーシングの回転及び把持の機能を有する点において共通する。\nしかし,上記の目的の相違に対応して,引用発明1の「昇降フレーム4」は,旋回 ベアリング6を取り付ける「取付座4a」を分断するように分割する構成を有し,\nその「取付座4a」のサイズは一定であり,種々の径の旋回ベアリング6を固定で きるよう拡大や縮小が可能なものではないのに対し,引用発明2’の割ライナー4及\nび割クランプ3は,種々の径のケーシングチユーブをクランプするために締付拡大 可能なものであり,回転駆動される割ライナー4,及び割ライナー4を回転可能\に 支承する側の割クランプ3の両者が,締付ジヤツキ5の動作によってその径を変更 することのできるものである。このような引用発明2’の割ライナー4及び割クラン プ3を,旋回ベアリング6の径の変更に対応するための構成を有しない引用発明1\nの「昇降フレーム4」上の「取付座4a」にそのまま取り付けることはできないか ら,引用発明1に引用発明2’を組み合わせるためには,分割可能な「昇降フレーム\n4」及び「取付座4a」という引用発明1の構成自体を変更する必要が生じる。\nそうすると,引用発明1に引用発明2’を組み合わせることについては,これを阻 害する要因があるというべきである。
イ 原告らの主張について
原告らは,(1)旋回ベアリングを分割することは周知の技術であり,また,土木機 械である立杭構築機について,その運搬時の作業性を勘案して各種構\成部材を分割 することも引用例2から容易に発想できるから,引用発明1に引用発明2’を適用す る動機付けがある,(2)引用発明1に引用発明2’を適用するに際しては,引用発明1 の「取付座4a」に所定の径の旋回ベアリング6が固定できるように,サイズの合 う部材を現場において選択すれば足り,阻害要因はないと主張する。 しかし,(1)については,前記アで述べたとおりの理由により適用の動機付けがな いし,(2)についても,引用発明1に引用発明2’を適用する場合には,「取付座4a」 のサイズに応じた部材のほかに,「旋回ベアリング6の外歯歯車6cに噛合する出力 歯車11」のサイズや配置の変更も必要となることからすれば,適用することに阻 害要因があると評価すべきである。原告らの主張は理由がない。

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令和1(行ケ)10072  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月17日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明「ホストクラブ来店勧誘方法及びホストクラブ来店勧誘装置」について、進歩性無しとした拒絶審決が取り消されました。

 引用発明の販売促進の対象を「ホストクラブ」のサービスとし,ホストクラブへ の「来店」の「勧誘」の目的で使用した場合,「仮想現実動画」は,潜在顧客を対象 とした,ホストクラブで提供するサービスを疑似体験する動画となり得ると解され る。しかしながら,引用例1には,「仮想現実動画」について,「メンタルケア」を行うものとすることや,「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応 じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」仮想現実動画ファイルとすることに ついて,記載も示唆もない。また,かかる事項が周知であったと認めるに足りる証拠もない。そうすると,引用発明に基づき,相違点2’に係る「潜在顧客の心理状態に応じて 選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホス トクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。\nよって,相違点2’に係る本件補正発明の構成は,当業者が容易に想到し得たもの\nではない。
ウ 相違点4’の容易想到性について
前記イのとおり,相違点2’に係る「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧 客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現 実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない以上,\n「異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選\n択される複数のコマンドボタン」を「各ホストクラブ仮想現実動画ファイル」に「対 応」させることを,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 よって,相違点4’に係る本件補正発明の構成は,当業者が容易に想到し得たも\nのではない。
エ 被告の主張について
被告は,(1)引用発明におけるサービスの販促活動の内容は,広告代理店と広告主 であるサービス提供者との間の取決めに即したものとならざるを得ず,「仮想現実動 画」を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」となる内容として「心理状態に応じ て選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ものとするこ とは,引用発明の販促活動を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」とすることに 伴って生ずることにすぎず,また,(2)コマンドボタンに動画の内容を表記すること\nは周知技術であるところ,かかる動画の内容としてサービスの「メンタルケア的な 側面」を捉えた表示を行うことも,周知技術の採用に当たって,広告代理店とサー\nビスの提供者との間の取決めに即して,適宜決定すべきことである旨主張する。 しかし,引用例1には,テーマパークへの来場を勧誘したいサービスの提供者が, テーマパークの魅力を潜在顧客に伝える目的で,来場すると体験できるアトラクシ ョンを疑似体験するための仮想現実動画を提供することの記載はあるものの,その 際に,当該サービスのメンタルケア的な側面に応じた複数の異なる仮想現実動画を サーバーに記憶させておき,潜在顧客が疑似体験したいサービスを自由に選択でき るようにすることや,当該サービスのメンタルケア的な側面を仮想現実動画のタイ トル等として表記した複数のボタンを設けることの記載はなく,かかる示唆もない。\nそして,引用発明を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」に適用した場合に, 販促支援の内容は,販促支援をする広告代理店とこれを受ける広告主との間の取決 めに即したものとなるとしても,「仮想現実動画」を,「心理状態に応じて選択され 潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」ものにする ことが必然とはいえない。 また,コマンドボタンに動画の内容を表記することが周知技術であるとしても,\n取決めの下でなされる販促活動がかかる周知技術を踏まえたものになることが,必 然とはいえない上,仮にかかる周知技術を適用したとしても,前記ウのとおり,「潜 在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケ アを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易\nに想到することができたとはいえない以上,「異なる心理状態の表記が各々されてい\nるとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタン」を「各 ホストクラブ仮想現実動画ファイル」に「対応」させるとの構成を,当業者が容易に\n想到することができたとはいえない。

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平成30(行ケ)10163  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月21日  知的財産高等裁判所

 動機付け無しとして、進歩性違反無しとした審決が維持されました。

 引用発明1は,薄肉の鋼管を梁鉄骨のウェブに設けた貫通孔に挿入して溶接によ り固着し,貫通孔の周辺のウェブ両面に補強プレートを溶接により固着する従来技 術において,溶接量と部品点数を少なくし,加工や品質管理をしやすくすることを 目的として,貫通孔を貫通する厚肉鋼管2の外周部の中央部をウェブ1aに溶接固 着する際に,その片面からリング状の裏当て体3aを一体形成して当接する構成を\n採用したものである。したがって,引用発明1の裏当て体3a(フランジ部)が厚肉 鋼管2と一体に形成される部位は,溶接部位である厚肉鋼管2のほぼ中央部であり, 引用例1には,これを端部に設けることについて記載も示唆もない。そうすると, 引用発明1には,裏当て体3aを外周部の軸方向の片面側の端部に設ける構成を採\n用する動機付けがないというべきである。 また,甲2,3,6〜10,23〜25の記載及び後記甲5(引用例2)の記載に よれば,フランジと呼ばれる部分が種々の分野で用いられていること自体は周知技 術であるとしても,相違点2に係る構成は,甲2,3,5〜10,23〜25のいず\nれにも開示も示唆もない。甲2,3は,梁補強金具の外周にフランジを設ける構成\nであるが,フランジを端部に設けることの記載はなく,甲5には,スリーブ管にフ ランジを設けることの記載はない。甲6,7には,フランジを端部に形成すること が記載されているが,甲6に記載されたフランジはボルト締め用の管フランジであ り,甲7に記載されたものは一般的なH形鋼のフランジであって,梁貫通孔構造用\nの厚肉鋼管である引用発明1とは技術分野が異なる。甲23〜25は,いずれも, 梁に配管を通すための構造において,それぞれ対となる2つの部材を用いた梁の補\n強やスリーブ材の固定に関する技術を開示したものであって,一体的な構成を有す\nる1つの金具を用いて梁の補強等を行う引用発明1とは,技術分野が異なる。した がって,これらの文献の記載によって,引用発明1の技術分野において,フランジ 部を端部に形成することが周知技術であったとは認められない。 以上によれば,引用発明1について,相違点2に係る構成を容易に想到すること\nはできない。
ウ 原告の主張について
原告は,引用例1は,貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3aが,厚肉鋼管2 の外周部の軸方向の中央より軸方向の片側にて厚肉鋼管2と一体に形成されること を開示しているのであるから,引用発明1において,裏当て体3aの形成箇所を, 厚肉鋼管2の外周部の軸方向の中央より軸方向の片側に位置する領域のうち片側の 端部とすることも設計事項として選択し得るものであるところ,フランジ部を相違 点2の構成とすることで,引用発明1と比較して優れた作用効果をもたらすもので\nはないから,甲6,7のように端部に形成された「フランジ」を引用発明1の裏当て 体3a(フランジ部)に適用できない理由はないなどと主張する。 しかし,引用発明1において,裏当て体3aを設ける位置は,厚肉鋼管2の外周 部のほぼ中央部であるから,軸方向の片側に形成されることが開示されているから といって,片側の端部に設けることの動機付けがあるとはいえないこと,また,甲 6,7は,引用発明1とは技術分野を異にし,これらの文献の記載によって,引用発 明1の技術分野において,フランジを端部に形成することが周知技術であったとは 認められないことは,前記イのとおりであるから,引用発明1に甲6,7のように 端部に形成された「フランジ」を適用し,裏当て体3aの位置を,梁補強金具の軸方 向の片側の端部とすることが設計事項として選択し得るものとはいえない。
・・・
(2) 相違点3の容易想到性
ア 容易想到性の判断
引用発明2は,スリーブ管の幅・肉厚を変えた試験体を用いて,そのせん断及び せん断+曲げ耐力を実験的に調査した結果等を開示するものであり,そもそも梁補 強金具の外周にフランジ部がないことを前提とした技術であって,そのスリーブ管 にフランジ部を設けることの記載も示唆もない。したがって,引用発明2において は,甲1〜3に記載された,梁補強金具の外周にフランジ部を設ける構成を適用し\nて,フランジ部を設ける動機付けはない。 また,仮に,引用発明2に甲1〜3に記載された事項を適用してフランジ部を設 けたとしても,甲1〜3に記載されたフランジ部は,いずれも,梁補強金具の中央 部に設けられたものであり,フランジを設けた方面側が面一に形成されるものでは ないから,相違点3に係る構成には至らない。\nさらに,甲1〜3,6〜10,23〜25の記載によれば,フランジと呼ばれる部 分が種々の分野で用いられていること自体は周知技術であるとしても,相違点3に 係る構成は,いずれの文献にも開示も示唆もない。前記のとおり,甲1〜3には,フ\nランジを設けた片面側を面一にすることの記載はなく,甲6,7には,フランジを 設けた片側面が面一になることが記載されているとしても,甲6に記載されたフラ ンジはボルト締め用の管フランジであり,甲7に記載されたものは一般的なH形鋼 のフランジであって,梁補強用のスリーブ管についての引用発明2とは技術分野が 異なる。また,甲23〜25は,いずれも梁に配管を通すための構造において,それ\nぞれ対となる2つの部材を用いて梁の補強やスリーブ材の固定に関する技術を開示 したものであって,梁補強金具の外側にフランジを設けない引用発明2とは,技術 分野が異なる。したがって,これらの文献の記載によって,引用発明2の技術分野 において,フランジ部を外周部の軸方向の片面側の端部に形成し,当該面を梁補強 金具の内周から外周部の一部であるフランジ部の外周まで平面である構成とするこ\nとが周知技術であったとは認められない。 よって,引用発明2について,甲1〜3のフランジ部を適用し,周知技術(甲1〜 3,6〜10,23〜25)を適用して,相違点3に係る構成を容易に想到すること\nはできない。
イ 原告の主張について
原告は,引用発明2と甲1〜3に記載された発明とは,梁のウェブの貫通孔に挿 入され,かつ,かかる梁を補強するための梁補強金具であるという点で共通してい るので,適用の動機付けがないとはいえないと主張する。しかし,前記のとおり,引 用発明2にフランジ部を設ける理由がない以上,適用の動機付けがないことは明ら かであり,原告の主張は採用できない。

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令和1(行ケ)10083  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月18日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決について、知財高裁1部は動機付けなしとしてこれを維持しました。

 ア アルギン酸ナトリウムに置換する動機付けについて
(ア) 原告は,気泡状の二酸化炭素を効率的に発生・保持するとの本件発明1の課 題は,周知の課題であったところ,アルギン酸ナトリウムが起泡剤としても利用す ることができるもので,発生した気泡状の二酸化炭素を閉じ込める効果を有するこ とは周知であり,粘性を高めることにより気泡の安定性が増すこと,界面活性剤が 気泡の発生・保持に効果的に作用することも技術常識であったから,増粘剤として アルギン酸ナトリウムを選択することは容易である旨主張する。 しかし,気泡状の二酸化炭素の持続性が周知の課題であることの根拠として原告 が挙げる文献のうち,特開平9−206001(甲5)には,「このゲル状食品は, 製造時に,膠質水溶液と炭酸ガスとを混合した後に加熱する。この加熱によって炭 酸ガスは激しく発泡すると同時に膠質水溶液から逃散してしまう」(【0002】), 「その目的とするところは,発泡成分の発泡によって生成した気泡が,ゼリー中に 多数内包され,しかもこの気泡中の炭酸ガスが長時間保持され,喫食時に口中で強 い発泡感が感じられる発泡性ゼリーを,家庭で簡単に手作りできる発泡性ゼリー用 粉末およびこれを用いた発泡性ゼリーの製法を提供するにある」(【0004】)との 記載があるものの,同文献に記載されているのは,ゲル状食品であって,引用発明 のパック剤とは異なる技術分野に関するものである。 また,特開昭63−310807号公報(甲18)は,炭酸ガスのガス保留性につ いて,特開平3−161415号公報(甲63)は,炭酸ガスを高濃度で長時間保持 することについて,特開昭63−280799号公報(甲64)及び特開昭62− 294604号公報(甲65)は,炭酸ガスの発生による発泡の持続性について,特 開昭61−43102号公報(甲66)は,化粧料の炭酸ガスの滞留時間について, 特開昭61−43101号公報(甲67)及び特開昭61−40205号公報(甲 68)は,炭酸ガスが化粧料に溶けて配合されていることについて,それぞれ記載 したものであるが,これらの文献のいずれにも,気泡状の二酸化炭素を保持するこ とが周知の課題であると読み取れる記載はない。 したがって,本件優先日当時において,パック剤の技術分野において気泡状の二 酸化炭素を保持するとの本件発明1の課題が周知であったとは認められず,引用発 明の増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを適用する動機付けがあるとはいえないか ら,原告の主張は採用できない。
(イ) 原告は,アルギン酸ナトリウムを含む水溶液が皮膜を形成するから,引用 発明の増粘剤をアルギン酸ナトリウムに置換しても,皮膜形成作用を維持すること はでき,引用発明におけるポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロース ナトリウムをアルギン酸ナトリウムに置き換えることは可能である旨主張する。\n特開平9−278926号公報(甲86)には, アルギン酸を含む水溶液は,皮 膜を形成すること(【0011】,【0015】),被コーティング物に塗布される皮膜は,アルギン酸の濃度で調整できること(【0016】)が,「機能性包装資材の開発\n技術の形成 −機能性段ボール箱の開発−」と題する文献(1995年。甲87)に\nは,アルギン酸ナトリウム(G−I)と天然多糖類プルラン(PI−20)を(1: 1)で混合した5wt%溶液を,秤量220g/m2の段ボールライナー表面に塗工\nし,5wt%塩化カルシウム水溶液を噴霧し凝固させ,フィルムを形成させたこと が,「機能性包装資材の開発技術の形成 −機能性無機粉体の開発−」と題する文献\n(1995年。甲88)には,アルギン酸ナトリウムとプルランを混合してフィル ムを形成した場合,両者の混合比を変化させると酸素透過量と炭酸ガス透過量が変 化することが,それぞれ記載されていることが認められる。 しかし,これらの文献に開示されているのは,内容物を保護する目的で使用され る包装材料としてのフィルムやコーティング被膜をアルギン酸ナトリウムによって 形成することであるところ,引用発明のパック剤の膜は,その造膜過程において皮 膚に刺激を与えて血行を促進すると共に,皮膚表面の汚れを吸着して清浄するもの\nであって,造膜後には皮膚から剥がして除去されるものであって,その適用対象や, 使用目的・作用効果が異なる。 したがって,甲86〜88を考慮しても,引用発明におけるポリビニルアルコー ル及びカルボキシメチルセルロースナトリウムをアルギン酸ナトリウムに置き換え 可能であるということはできず,原告の主張は採用できない。\n
イ 酸を「顆粒(細粒,粉末)剤」に含ませる点について
原告は,二酸化炭素を適切に発生させるための徐放化技術として,炭酸塩と酸を 一つの固形物に含有させることは慣用技術であるところ,どのような剤型を選択す るかは,化粧品についての一般的な課題であり,美容目的の化粧品については,当 該化粧品の効能や作用機序等が異なっていても同一の剤型のものが存在していたの\nであるから,剤型の選択の局面においては,技術分野を狭く解することは誤りであ り,慣用技術を適用できる旨主張する。 特開平6−179614号公報(甲6)には,アルギン酸水溶性塩類を含有する ゲル状パーツからなる第一剤と,前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上 の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤 からなることを特徴とする,剥がすタイプのパック剤が,化粧品製造製品届書(香 椎化学工業株式会社,平成13年1月11日。甲7)に係る化粧品製造品目追加許 可書(厚生大臣,平成3年11月12日。甲8)には,2剤を使用前に混合して肌に 塗布し,膜が乾燥したら剥がすパック剤が,特開平7−53324号公報(甲9) には,美白や保湿を目的として,粉末あるいは顆粒状の組成物を,使用する直前に 化粧水や乳液に分散せしめ,皮膚に塗布する用時混合タイプのものが,「化粧品成分 ガイド」第5版(フレグランスジャーナル社,2009年2月25日。甲10)に は,化粧品の剤形タイプとして,溶液タイプ,ジェルタイプ,乳化タイプ,固体タイ プ,液体タイプ,ペーストタイプ,皮膜タイプ,エアゾールタイプがあることが,そ れぞれ記載されていることが認められる。 しかしながら,甲6ないし8に記載されているのは,剥がすタイプのパック剤, 甲9に記載されているのは,化粧水や乳液など肌に塗布する化粧品であり,甲10 には,剤型タイプの分類が記載されているにすぎず,これらの文献のいずれも,炭 酸ガスを発生させ,発生する炭酸ガスによる血行促進作用により,皮膚の血流を良 くし皮膚にしっとり感を与えるパック剤に関するものではないから,これらによっ て,引用発明の技術分野において炭酸塩と酸を一つの固形物に含有させることが慣 用技術であったとは認められない。そして,化粧品の剤型は,その効能や使用目的\nに応じて個別に検討されるものであることは当然であり,分野の異なる技術を引用 発明に適用できるとはいえないから,原告の主張は採用できない。

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平成30(行ケ)10165  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月19日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした無効審決が、動機付けあり、特段の効果無しとして取り消されました。

 (ア) 甲3には,引用発明2−2−1’(実施例4記載の用時混合型の医療 溶液)が「血液浄化用薬液」であることを明示した記載はない。 一方で,甲3には,前記(1)イ(イ)認定のとおり,「本発明」の目的の1 つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り良好な安 定性を保証する「医療溶液」(血液透析,血液透析濾過,血液濾過及び腹 膜透析用の透析液,腎疾患集中治療室内での透析用の溶液,通常は緩衝 物質を含む置換液又は輸液,並びに栄養目的のための溶液)を提供する ことにあることの開示がある。この「医療溶液」中の「腎疾患集中治療 室内での透析用の溶液」とは,救急・集中治療領域において,急性腎不 全の患者に対して行う持続的な血液浄化のための透析用の溶液を含むこ とは自明である。
また,甲3には,前記(1)イ(ア)及び(イ)認定のとおり,(1)急性腎不全に 罹患している患者に適応となる治療法は,数週間を通しての持続的腎機 能代替療法(CRRT)であり,血液濾過が用いられるが,血清リンレ\nベルが正常な患者からリンを効率的に除去してしまう結果,定期的な週 3回の血液透析治療を受けている患者よりも高い頻度で,低リン血症が 起こり得るものであること,(2)低リン血症は,リンの投与によって予防,\n治療されるが,医療溶液にリンを導入する場合,沈殿する様々なリン酸 カルシウムの形成の問題があり,生理的pHに等しいpH値を有する生 理溶液では,リン酸カルシウムの沈殿の危険性が高くなるという問題が あること,(3)「本発明」の発明者らは,特定のpH範囲等の如き一定の 条件下では,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを重炭酸塩及び リン酸塩重炭酸塩と共に保持し得ることができ,滅菌の安定なリン酸塩 含有医療溶液を提供できることを見出したことの開示があることからす ると,「本発明」の実施例である引用発明2−2−1’の「医療溶液」は, 急性腎不全に罹患している患者に適応し得るものと理解できる。 以上の点に照らすと,甲3に接した当業者においては,甲3記載の実 施例4(引用発明2−2−1’)において,当該「医療溶液」を「血液浄 化用薬液」にすることを試みる動機付けがあるものと認められる。 したがって,当業者は,引用発明2−2−1’において,相違点(甲 3−3−b”)に係る本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到す\nることができたものと認められる。 これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(イ) これに対し被告らは,引用発明2−2−1’は,単なる「医療溶液」 にすぎず,これを「血液浄化用薬液」として使用することができると解 すべき技術常識は存在しないことなどからすると,甲3に「医療溶液」 として記載された引用発明2−2−1’を「血液浄化用薬液」とするこ とは,当業者が容易に想到し得たことではない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)のとおり,甲3の記載事項に照らすと,当業 者は,引用発明2−2−1’において,相違点(甲3−3−b’’)に係る 本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到することができたもの\nと認められるから,被告らの上記主張は採用することができない。
イ 相違点(甲3−3−d”)について
(ア) 引用発明2−2−1’(実施例4記載の用時混合型の医療溶液)にお ける第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液の各成分の イオン濃度は,「K+」(カリウムイオン濃度)が「4.0mM」(4.0 mEq/L),「HPO4 2-」(リン酸イオン濃度)が「1.20mM」(無 機リン濃度3.72mg/dL),「Ca2+」(カルシウムイオン濃度) が「1.25mM」(2.50mEq/L),「Mg2+」(マグネシウムイ オン濃度)が「0.6mM」(1.2mEq/L),「HCO₃⁻」(炭酸水 素イオン濃度)が「30.0mM」(30.0mEq/L)である。 一方,前記(1)イ(イ)の認定事実によれば,甲3には,(1)「本発明」の 目的の1つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り 良好な安定性を保証する「医療溶液」を提供することにあること,(2)「本 発明」の発明者らは,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは,特 定のpH範囲等の如き一定の条件下では,重炭酸塩と共に保持し得るも のであり,一定の条件下では,リン酸塩とも一緒に保持することができ, 特定の環境,濃度,pH範囲及びパッケージングにおいて,滅菌の安定 なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したこと,(3)「本発明」 は,上記課題を解決するため,「即時使用溶液」が,1.0〜2.8mM の濃度(無機リン濃度に換算すると「3.1〜8.7mg/dL」)のリ ン酸塩を含み,滅菌され,かつ6.5〜7.6のpHを有するという構\n成を採用したことの開示があることが認められる。
加えて,甲3には,(4)「本明細書で述べる現在好ましい実施形態への 様々な変更および修正は当業者に明らかであることが理解されるべきで ある。そのような変更および修正は,本発明の精神および範囲から逸脱 することなくおよびその付随する利点を減じることなく実施することが できる。」(前記(1)ア(ケ))との記載があることに照らすと,甲3に接し た当業者は,引用発明2−2−1’における上記即時使用溶液の各成分 のイオン濃度を最適なものに変更し得るものと理解するものといえる。 しかるところ,前記(2)イ認定のとおり,本件優先日当時,「急性血液 浄化」のための血液濾過(透析)用に使用され得る,市販されている透 析液及び補充液において,カルシウムイオン濃度を「2.5〜3.5m Eq/L」,マグネシウムイオン濃度を「1.0〜1.5mEq/L」, 炭酸水素イオン濃度を「30mEq/L」前後の範囲の中で調整するこ とは,技術常識又は周知であったものである。 そして,上記技術常識又は周知技術を踏まえると,引用発明2−2− 1’における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度(「1.2mE q/L」)を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整する ことは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。 そうすると,甲3に接した当業者は,引用発明2−2−1’における 上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度を市販されている透析液及 び補充液の上記数値範囲内の「1.0mEq/L」(相違点(甲3−3− d”)に係る本件訂正発明12の構成)にすることを容易に想到すること\nができたものと認められる。 したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(イ) これに対し被告らは,(1)不溶性微粒子の形成を抑制する溶液を実現 するためには,リン酸塩の濃度のみならず,溶液に含まれる他の成分及 び各イオン濃度の組合せが調整される必要があるから,これらの組合せ が1個の不可分のまとまりのある技術事項となるところ,本件訂正発明 12は,配合及び混合液の各成分の濃度が所定の組合せであることによ って,混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性炭酸塩の生成 を抑制することができる用時混合型急性血液浄化用薬液を実現したも のであるから,混合液の各成分の濃度は,成分ごとに区々別々に対比す るのではなく,各成分の濃度の組合せを一つの単位として認定して,引 用発明2−2−1’と対比するのが相当である,(2)引用発明2−2−1’ は,「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制され る,混合時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」であり,本件 訂正発明12とは,技術的意義を異にする発明であるから,各成分の濃 度の相違は,設計事項となるものではなく,また,引用発明2−2−1’ に基づき,その各成分の濃度を変更して本件訂正発明12に到達しよう とする動機付けは,そもそも観念できない,(3)引用発明2−2−1’は, 低リン血症を防止するとともに粒子の形成を抑制する旨の課題に対し, 所定の配合及び各成分の濃度を定めるとともに,「溶液混合時のpHの 範囲を定めることにより」既に上記課題を解決しているものであるから, 引用発明2−2−1’に接した当業者が,上記課題を解決するために引 用発明2−2−1’の各成分の濃度を変更する動機付けもない,(4)一定 の濃度の範囲内で各成分の濃度を適宜に変動することができるのは,あ くまで,「一般の透析液・補充液」限りのものであって,これは,リン 酸塩を含む溶液に妥当するものではないなどとして,当業者は,引用発 明2−2−1’において,相違点(甲3−3−d”)に係る本件訂正発 明12の構成(マグネシウムイオン濃度を「1.0mEq/L」)とす\nることを容易に想到し得たものではない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)のとおり,甲3に接した当業者においては, 甲3記載の実施例4(引用発明2−2−1’)において,マグネシウム イオン濃度を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整 することは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。 そうすると,当業者は,引用発明2において,相違点(甲3−3−d”) に係る本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到することができ\nたものと認められる。このことは,混合液の各成分の濃度の組合せをひ とまとまりの相違点と認定した場合であっても同様である。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
ウ 相違点(甲3−3−a”)について
(ア) 本件訂正発明12の特許請求の範囲(請求項12)の記載中には, 本件訂正発明12の「当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不 溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」との構成の意義を規定し\nた記載はない。 次に,本件明細書(甲11)には,「時間の経過と共に補充液中のカル シウムイオンおよびマグネシウムイオンと炭酸水素イオンが反応し,不 溶性の炭酸塩の微粒子や沈殿が生じる」こと(【0007】),「当該薬液 中には,カルシウムイオンやマグネシウムイオンが存在するにも拘わら ず,リン酸イオンを含有させても不溶性のリン酸塩を生じない。また, リン酸イオンの存在により,炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグ ネシウムイオンが共存し,pHが7.5を超えるような長時間後であっ ても,不溶性炭酸塩の生成が抑制される」こと(【0023】),「不溶性 微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制される」とは,投与対象に 適用すべき最終薬液の調製後,たとえば上記A液とB液の混合後,少な くとも27時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されること, またはpHが7.5以上になっても不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制さ れること」を意味すること(【0057】)の記載がある。 また,本件明細書には,本件訂正発明12に規定するオルトリン酸の 濃度の範囲内である「リン酸イオン濃度が4.0mg/dL」の薬液と 「リン酸イオンを含有しない薬液」との対比実験を行ったところ,「7日 間でpHが7.23〜7.29から7.89〜7.94までほぼ直線的 に上昇し,その間にリン酸イオン不含有薬液では不溶性微粒子の粒径も 数も顕著に増加したが,リン酸イオン含有薬液ではpHの上昇にもかか わらず,不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった。」(【008 8】)との記載があり,この記載は,本件訂正発明12に規定するオルト リン酸の濃度の範囲内である「リン酸イオン濃度が4.0mg/dL」 の薬液では,「7日間」にわたって「リン酸イオン含有薬液ではpHの上 昇にもかかわらず,不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった」 ことを示すものである。もっとも,本件明細書には,本件訂正発明12 の「用時混合型血液浄化用薬液」が「27時間」にわたって不溶性微粒 子や沈殿の形成が実質的に抑制されたことを明示した記載はない。 以上の本件訂正発明12の特許請求の範囲(請求項12)の記載及び 本件明細書の記載を総合すると,本件訂正発明12の「そして当該薬液 調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質 的に抑制され」との構成は,本件訂正発明12のA液及びB液の成分組\n成及びそれらのイオン濃度を請求項12に記載されたものに特定するこ とによって実現されるものと理解できる。
(イ) そして,前記ア及びイのとおり,甲3に接した当業者は,引用発明 2−2−1’において,「血液浄化用薬液」として使用すること(相違点 (甲3−3−b”)に係る本件訂正発明12の構成)及びマグネシウムイ\nオン濃度を本件訂正発明12の濃度とすること(相違点(甲3−3−d”) に係る本件訂正発明12の構成)を容易に想到することができたもので\nある。 加えて,引用発明2−2−1’のカリウムイオン濃度と本件訂正発明 12のカリウムイオン濃度は「4.0mM」(4.0mEq/L),引用 発明2−2−1’の炭酸水素イオン濃度と本件訂正発明12の炭酸水素 イオン濃度は「30.0mEq/L」であって,いずれも一致する。 以上によれば,本件訂正発明12の「少なくとも27時間にわたって 不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という構成は,引用\n発明2−2−1’において,相違点(甲3−3−b”)及び(甲3−3− d”)に係る本件訂正発明12の構成とした場合に,自ずと備えるものと\n認められる。 したがって,引用発明2−2−1’において,相違点(甲3−3−a”) に係る本件訂正発明12の構成とすることは,当業者が容易に想到する\nことができたものと認められる。 したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(ウ) これに対し被告らは,引用発明2−2−1’は,「所定のリン酸塩 の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合時の即時使用 溶液のpHの範囲を特定した発明」にすぎず,24時間を超える長時間 の経過によるpHの上昇は,全く想定されていないこと,粒子の形成が 24時間抑制されれば,pHの上昇にかかわらず,少なくとも27時間 にわたって,不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されるとする技術常識は ないことからすると,引用発明2−2−1’には,同発明から,混合後 長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈澱の生成を抑制 することができる血液浄化用薬液を想到する基礎がないから,相違点(甲 3−3−a”)に係る本件訂正発明12の構成は,引用発明2−2−1’\nに基づいて容易に想到し得たものではない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)及び(イ)で説示したとおり,引用発明2−2− 1’において,相違点(甲3−3−a”)に係る本件訂正発明12の構成\nとすることは容易に想到することができたものと認められるから,被告 らの上記主張は採用することができない。
(4) 本件訂正発明12の顕著な効果について
被告らは,(1)本件訂正発明12は,「混合後長時間が経過してpHが上昇し ても,不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができる用時混合型急性血 液浄化用薬液」を実現した発明であるのに対し,引用発明2−2−1’は, 「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合 時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」にすぎず,また,用時混合 型急性血液浄化用薬液の技術分野では,本件優先日当時,所定の配合により, 混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑 制することができる旨の技術常識はなかったことからすると,本件明細書の 【0088】に係る「混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微 粒子や沈殿の生成を抑制することができる」という本件訂正発明12の効果 は,引用発明2−2−1’に比して,質的に差のある当業者が予測できない\n格別の効果である,(2)被告らが,本件明細書記載の実施例2の検体と甲3記 載の実施例4(表9)の検体について行った不溶性微粒子の形成の対比試験\nの結果(甲20の参考資料3)によると,両検体のpHは,混合後,同様の 上昇推移を経て,54時間経過後に約8.7まで上昇したところ,本件明細 書記載の実施例2の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過時 に8個,54時間経過時に12個形成されるにとどまり,25μmの微粒子 が,混合後54時間経過時でも1個形成されるにとどまったのに対し,甲3 の実施例4(表9)の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過\n時に17個,54時間経過時に78個も形成され,25μmの微粒子が,混 合後54時間経過時には5個も形成されていたことからすると,「混合後長時 間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑制すること ができる」という本件訂正発明12の効果は,甲3の記載から予測できない\n格別の効果であるのみならず,引用発明2−2−1’の配合や各成分の濃度 では実現することができない,当業者の予測を超えた顕著な効果である旨主\n張する。
そこで検討するに,被告らが主張する「混合後長時間が経過してpHが上 昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑制することができる」という本件 訂正発明12の効果は,「当該薬液調整後少なくとも27時間にわたってpH 7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」ること(【0 057】)に相当する効果であるものと認められる。一方で,本件明細書には, 本件訂正発明12の成分組成及びイオン濃度を有する用時混合型急性血液浄 化用薬液において,「混合後27時間経過時」及び「54時間経過時」のpH の推移,微粒子の形成状況について明示した記載はないから,上記対比試験 の結果(甲20の参考資料3)に基づく効果は,本件明細書に記載された本 件訂正発明12の効果であるとは認められない。 そして,上記「当該薬液調整後少なくとも27時間にわたってpH7.5 以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」るという効果は, 前記(3)ウで説示したところと同様に,引用発明2−2−1’において,相違 点(甲3−3−b”)及び(甲3−3−d”)に係る構成とした場合に,自ず\nと備えるものと認められるから,当業者の予測を超えた顕著な効果であると\nいうことはできない。

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平成31(行ケ)10038  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月19日  知的財産高等裁判所

  CS関連発明について、進歩性無効理由無しとした審決が維持されました。原告FC2、被告ドワンゴです。

 以上によると,甲2及び3から共通して把握できる技術は,「テレビ放 送の受像機において,メインのテレビ放送の映像とともに,文字放送を受信して文 字放送の文字をプログラム制御によりスクロール表示する際に,メインのテレビ放\n送の映像に文字が含まれている場合,メインのテレビ放送の映像の文字と重ならな いように文字放送の文字の表示位置を変更してスクロール表\示する技術」であり, 甲19及び25から共通して把握できる技術は,「FlashのActionSc riptのhitTestを用いることにより,ムービークリップの領域判定を行 う技術」である。 このように,甲2及び3から把握できる技術と,甲19及び25から把握できる 技術は共通するものではないから,甲2,3,19及び25に共通する慣用技術を 把握することはできない。
カ 原告は,甲1発明と甲2等技術は,プログラミングという技術分野に属 するとともに,動画と文字情報とを配信するという技術分野に属することで共通す るため,甲1発明に甲2等技術を適用する動機付けがあると主張する。 甲1発明は,ライブ映像とライブ閲覧者からのコミュニケーション情報(例えば, チャット〔テキスト文による情報〕)とを一つの画面でリアルタイムで同期表示する\n機能を有するライブ配信サーバ(構\成1a)と,クライアントであるライブ閲覧者 の複数のライブ閲覧者端末(構成1b)とが,通信ネットワークを介して接続され\nて構成されるライブ配信システム(構\成1c)に関する発明である。そして,甲1 発明の前記ライブ閲覧者端末が再生するマルチメディアコンテンツは,「ライブ映 像データ」であり(構成1a,構\成1a2,構成1a5,構\成1b4),前記ライブ 閲覧者端末が表示する複数のチャット文は,ライブ閲覧者が入力した「テキスト文\nによる情報」(構成1a,構\成1a5,構成1b5)である。\n他方,甲2及び3に記載された技術事項は,上記オ(オ)のとおり,テレビ放送の受 像機において,メインのテレビ放送の映像とともに,文字放送を受信して文字放送 の文字をプログラム制御によりスクロール表示する際に,メインのテレビ放送の映\n像に文字が含まれている場合,メインのテレビ放送の映像の文字と重ならないよう に文字放送の文字の表示位置を変更してスクロール表\示する技術である。 そうすると,甲1発明は,ライブ配信サーバとライブ閲覧者端末とが通信ネット ワークを介して接続されて構成されるライブ配信システムに関する発明であるのに\n対して,甲2及び3に記載された技術事項は,テレビの文字放送の受信機の技術で あるから,両者は,その前提となるシステムが異なる。 また,甲1発明と甲2及び3に記載された技術事項とは,文字を表示する点では\n共通するものの,表示される文字は,甲1発明では,ライブ閲覧者が入力するチャ\nット文であるのに対し,甲2及び3に記載された技術事項は,メインのテレビ放送 の映像に含まれる文字と文字放送の文字であるから,対象とする文字が異なる。 したがって,甲1発明と甲2及び3に記載された技術とは,技術が大きく異なる といえるのであり,プログラミングに関するものであることや動画と文字情報を配 信するものであるということ,文字と文字の重なり合いが生じないようにする技術 であることだけでは,甲1発明に甲2及び3に記載された技術を適用する動機付け があると認めることはできないから甲1発明に甲2及び3に記載された技術を適用 して本件特許発明1を容易に発明することができたとはいえない。 また,甲19及び25には,文字列情報の表示位置の制御については何ら開示さ\nれていないから,甲1発明に甲19及び25に記載された技術を適用して本件特許 発明1を容易に発明することができたとはいえない。
キ 原告は,甲1発明と甲2等技術は,視認性の低下という課題が共通する と主張するが,前記のとおり,甲1発明は視認性の低下という課題を有しないため, 甲1発明と甲2等技術が課題において共通するとは認められない。
ク 以上によると,その余の点を判断するまでもなく,甲1発明に甲2等技 術を適用して本件特許発明1を容易に発明をすることができたと認められないから, 本件審決の判断に誤りはない。

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平成31(行ケ)10039  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月19日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性無効理由無しとした審決が維持されました。原告FC2、被告ドワンゴです。

 上記(1)によると,本件特許発明は,「放送されたテレビ番組などの動画に 対してユーザが発言したコメントをその動画と併せて表示するシステム」という背\n景技術を前提とし(段落【0002】),「コメントの読みにくさを低減させる」とい う課題を解決するための発明であり(段落【0005】),動画を再生するとともに, 前記動画上にコメントを表示する表\示装置であって,前記コメントと,当該コメン トが付与された時点における,動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画\n再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記 憶部と,前記動画を表示する領域である第1の表\示欄に当該動画を再生して表示す\nる動画再生部と,前記再生される動画の動画再生時間に基づいて,前記コメント情 報記憶部に記憶されたコメント情報のうち,前記動画の動画再生時間に対応するコ メント付与時間に対応するコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し,当該 読み出されたコメントを,前記コメントを表示する領域である第2の表\示欄に表示\nするコメント表示部とを有し,前記第2の表\示欄のうち,一部の領域が前記第1の 表示欄の少なくとも一部と重なっており,他の領域が前記第1の表\示欄の外側にあ り,前記コメント表示部は,前記読み出したコメントの少なくとも一部を,前記第\n2の表示欄のうち,前記第1の表\示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表\ 示することを特徴とするものであり(段落【0006】),本件特許発明により,「オ ーバーレイ表示されたコメント等が,動画の画面の外側でトリミングするようにし\nて,コメントそのものが動画に含まれているものではなく,動画に対してユーザに よって書き込まれたものであることが把握可能となり,コメントの読みにくさを低\n減させることができる」(段落【0012】)という効果を奏するものであることが 認められる。
(3) 本件特許発明における「コメント」について検討すると,本件特許発明1 は,「(1A)動画を再生するとともに,前記動画上にコメントを表示する表\示装置 であって,(1B)前記コメントと,当該コメントが付与された時点における,動画 の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と\nを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部と,」を構成要件としている。\n構成要件1Bによると,「コメント」が付与された時点で,「動画の最初を基準と\nした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間」が記憶されるこ\nとになるから,「コメント」は,それが表示される表\示装置において,動画を再生す る時に付与され,付与された時点の動画再生時間が,コメント付与時間としてコメ ント情報記憶部に記憶されるものであると解される。そして,「コメント」は,「動 画を再生するとともに,前記動画上にコメントを表示する表\示装置」(1A)におい て,動画を再生する時に付与されるものであるから,コメントを付与する者は,表\n示装置において,動画を再生して閲覧するユーザであることを読み取ることができ る。 そうすると,本件特許発明における「コメント」とは,表示装置において,動画\nを閲覧するユーザが,動画の再生開始後の任意の時点に,動画に対して付与するも のと解することができる。
・・・・
これに対し,原告は,相違点1について,甲1の「テキスト」は,ユ ーザが発言するものが排除されることはなく,「コメント」を含むから,本件審決の 相違点1の認定には誤りがあると主張する。 甲1には,ユーザとの双方向の情報伝達が行える環境が整ってきたとの記載はあ る(段落【0002】)ものの,甲1発明は,前記ア認定のとおりのものであって, 動画コンテンツ作製者側が「動画コンテンツ」の個々の動画に応じて,または1つ の動画内でも個々の場面に応じて表示されるように予\め作成した「データコンテン ツ」が,「動画コンテンツ」とともに「コンテンツ」を構成し,その「データコンテ\nンツ」はインターネットのホームページのデータに対応するものであり,代表的に\nはテキストや静止画を含み,場合によっては音声などのデータを含むものであるか ら,甲1発明の「テキスト」とは,コンテンツ作製者側が「動画コンテンツ」の個々 の動画に応じて,または1つの動画内でも個々の場面に応じて指定した「テキスト」 であり,ユーザの投稿したテキストデータをその構成に含むとは認められない。\n原告は,甲1について,ユーザからのコメントが付与されたデータコメントを配 信することも予定されているというべきであると主張するが,甲1発明の「データ\nコンテンツ」は上記認定のとおりのものであって,そこにユーザからのコメントが 含まれると認めることはできない。 また,原告は,インターネットで公開されるインタラクティブなサービスではテ キスト情報の送受信を行う場合,ユーザが投稿したコメントの送受信に容易に拡張 可能であることは当業者の常識であるとも主張するが,甲1発明が前記のような内\n容であり,甲1には,ユーザがコメントを投稿することについての記載があるとは 認められないことからすると,甲1発明がユーザが送信したコメントをその構成に\n含むものであると認めることはできない。 さらに,原告は,甲22,24及び25はユーザが送信したデータをテキストデ ータと表記しているから,「テキスト」であることをもって「コメント」を排除する\nと解することはできないと主張するが,上記のとおり,甲1発明は,ユーザが送信 したデータをその構成に含むものではなく,原告の指摘することは,上記判断を左\n右するものではない。 したがって,本件特許発明1と甲1発明の相違点として,相違点1を認めること ができる。
・・・
本件特許発明1における「コメント」は,表示装置において,ユーザ\nが動画を再生している時に付与され,表示装置から,ユーザによりいつでも付与可\n能であるのに対し,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」は,コンテン\nツ作製者側で「データコンテンツ」として予め作成されたものであって,ユーザに\nより表示装置で付与されるものではないし,表\示装置において再生している時に付 与されるものでもない。 したがって,本件特許発明1における「コメント」と,甲1発明における「デー タコンテンツ」の「テキスト」とは,ユーザによる付与が可能か否か,付与を行う\n装置,付与を行う時において異なり,このように異なる「データコンテンツ」の「テ キスト」を「コメント」に置き換えることは,甲1発明の前提となる装置構成の変\n更を必要とするものであって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」を ユーザが付与する「コメント」に容易に置き換えることができるものとは認められ ない。 よって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」を「コメント」に置き 換えることは,当業者が容易に想到し得た事項とはいえない。 (イ) これに対し,原告は,甲1の段落【0002】の記載や,WEB2. 0という技術常識によると,「テキスト」を利用者からの情報伝達を可能とする「コ\nメント」に置換することができる旨主張する。 しかし,甲1には,ユーザがコメントを投稿することについての記載は全くなく, 段落【0002】の記載があり,誰もがウェブサイトを通して自由に情報を発信で きるように変化したウェブの利用状態であるWeb2.0が知られていたとしても, 甲1発明の「データコンテンツ」をユーザが付与する「コメント」に置き換えるこ とが容易であるとは認められない。
(ウ)a 原告は,甲22に基づき,動画配信において,その魅力を高めるた めに,コンテンツ作製側で,個々の動画に応じて,または,1つの動画内でも個々 の場面において指定される「テキスト」を利用者からの情報伝達を可能とする「コ\nメント」に置換することには十分な動機付けがあると主張する。\n甲22は,発明の名称を「ストリーミング配信方法」とする発明の公開特許公報 であり,「動画コンテンツをネットワークを介して利用者端末にストリーミング配 信するストリーミングサーバと,ストリーミング配信中の動画コンテンツに関連付 けられたウェブ掲示板又はチャット領域をネットワークを介して利用者端末に提供 するウェブサーバと,動画コンテンツの配信を受け,ウェブ掲示板又はチャット領 域のテキスト書込部にテキストデータからなるメッセージを書き込む利用者端末と からなるストリーミング配信システムにおいて,ストリーミングサーバは,ウェブ サーバの書込ログファイルに格納されたテキストデータを収集し,収集されたテキ ストデータをストリーミング配信中の動画コンテンツに重畳し,テキストデータの 重畳された動画コンテンツを利用端末に配信するストリーミング配信システム」を 採用することにより,「利用者は,非常に便利であり,会場の客席の様な雰囲気を味 わうことができる」技術(以下,「甲22技術」という。)が記載されていることが 認められる。 他方,甲1発明は,「ネットワーク環境」をユーザへのデータコンテンツの配信に 用いたものであり,「データコンテンツ」を双方向に情報伝達するものではないから, 甲22技術があることをもって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」 をユーザが付与する「コメント」に置換する動機付けがあるということはできない。
b 原告は,動画とユーザが入力した文字データ(コメント)を同期表\n示させることは,本件原出願日の時点において慣用技術であった(甲26〜34) から,甲1発明に当該慣用技術を適用して甲1の「テキスト」を「コメント」に置 換することは容易であると主張する。 甲26〜34には,映像を見ながらユーザがリアルタイムでテキストによるコミ ュニケーションを行う技術(以下,「甲26等技術」という。)が開示されているこ とが認められる。 しかし,甲1発明は,「ネットワーク環境」をユーザへのデータコンテンツの配信 に用いたものであり,「データコンテンツ」を双方向に情報伝達するものではないか ら,原告の主張する甲26等技術が慣用技術であるとしても,甲1発明の「データ コンテンツ」の「テキスト」をユーザが付与する「コメント」に置換する動機付け があるとは認められない。
c 原告は,動画と同時に表示するデータコンテンツはユーザが指定す\nるのでなければ,コンテンツ作製者側で指定するのが通常であり,甲22や甲26 〜34には,甲 1 発明における「コンテンツ作製者側で,個々の動画に応じて,ま たは,1つの動画内でも個々の場面に応じて相応しいデータコンテンツおよび表示\n態様が指定される」ことの記載も示唆もないということはできないと主張する。 しかし,甲26〜34は,ユーザがデータコンテンツを指定することを前提とし たものであるから,原告の主張は失当である。原告は,甲33「コメントを表示す\nる際には,入力する際に指定された場所を指し示すように,指定された場所毎にコ メントを表示する,映像コメント入力・表\示方法を提案する。」(段落【0008】),甲34「提供された増補は,配置の命令と,持続時間の命令とを有してもよい」(段 落【0006】)の記載も指摘するが,いずれもユーザ側が指定する場合に関する記 載であるから,甲1発明における「コンテンツ作製者側で,個々の動画に応じて, または,1つの動画内でも個々の場面に応じて相応しいデータコンテンツおよび表\n示態様が指定される」が記載又は示唆されていると読み取ることはできない。 なお,甲22技術の内容は,コンテンツ作製者側が,利用者端末から収集したテ キストデータを,ストリーミング配信中の動画コンテンツに重畳し,テキストデー タの重畳された動画を利用者端末に配信するものであるが,このような甲22技術 があるからといって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」を「コメン ト」に置換する動機付けがあるとはいえないことは,前記(1)イ(ウ)aのとおりであ る。

◆判決本文

原告被告の異なる別特許の審取事件です。 こちらも無効理由無しとした審決が維持されています。

◆平成31(行ケ)10038

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平成31(行ケ)10045 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月20日  知的財産高等裁判所

 訂正後の発明について、進歩性ありとした審決が維持されました。

 これによれば,甲1文献においては,被覆層を貫通する「孔60」は, 傷からの体液を吸収層へ移動させるように機能するものであり,創傷を湿\n潤状態に保ち,傷の治癒を促進することができるのは,上記「孔」の機能\nによってではなく,吸収層において必要とされる吸収量にあわせて吸水性 の高い材料の量を調整し,特に,水吸収時にゲルを形成する物質を含ませ ることによってであると理解できる。
・・・
これによれば,甲10文献においては,創傷被覆材の,第1層と第3層 との間に第2層を挟み互いに分離しないようにすることは,甲10文献の 「創傷からの浸出液による適切な湿潤環境を維持しながら治療する方法に 好適な,さらに改良された創傷被覆材を提供する」という課題([000 9])の解決のために必須の構成であるというべきであり,甲10文献の\n第1層の貫通孔は,第1層を第2層と一体化させることで貯留空間を設け て滲出液を保持する機能を担わせることを前提とする構\成であることが理 解できる。
エ 容易想到性について
以上のとおり,甲1文献においては,甲1−1発明の被覆層ではなく, 組み合わされる吸収層が創傷を湿潤状態に保つ機能を有しているのであり,\n体液を吸収層へ移動させる機能を有する被覆層の「孔」に,さらに滲出液\nを保持する機能を担わせる改良を加えるべきことを示唆する記載はない。\nまた,甲10文献においては,第1層を第2層と一体化させることで貯 留空間を設けることを前提としているのに対し,甲1文献の傷手当用品は 被覆層と一体化する第2層に相当する構成を有しない。\nこのような甲1文献に記載された傷手当製品と甲10文献に記載された 創傷被覆材の構成の相違や,甲1−1発明の被覆層と甲10文献の第1層\nの有する機能の相違に照らせば,甲10文献から第1層の貫通孔に関する\n構成のみを取り出して,甲1−1発明における被覆層の「孔」に適用する\nことの動機付けは見出せない。 また,甲3〜12,14〜16,18文献にも,甲1−1発明における 「孔」に滲出液を保持する機能を担わせることについての記載ないし示唆\nはなく,これらの文献の記載を考慮しても,本件優先日当時の当業者が, 甲1−1発明に,甲10文献記載の技術事項を組み合わせ,相違点1cに 係る構成を採用することを容易に想到し得たということはできない。\nよって,甲1文献,甲3〜12,14〜16,18文献に基づいて,本 件発明1が進歩性を欠如するとはいえない。

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平成31(行ケ)10023  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月31日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。

 本件訂正発明1は,前記1(2)のとおり,(1)作業者が天板の突出方向と反対側で作 業を行う場合には,天板の端を目視で確認しながら作業を行わなければならず,作 業の効率が低下してしまうという問題や(2)天板の突出方向の反対側にも同様の手摺 を取り付けたとしても,作業者が可搬式作業台を昇降する際に手摺を乗り越えたり, 手摺をくぐったりしなければならないことから,天板と主脚との間の移動を自由に 行うことができず,かえって作業の効率が低下してしまう問題を解決し,作業空間 を包囲することにより作業の効率化を図るとともに,天板と主脚との間の移動を容 易に行うことができる脚立式作業台を提供することを目的とするものであって,特 許請求の範囲請求項1の構成をとることによって,「作業の効率化を図ると共に,天\n板と主脚との間の移動を容易に行うことができる」という作用効果を奏するもので ある。本件訂正発明1の相違点1に係る構成も,上記のような課題を解決し,作用\n効果を奏させるための構成であるということができる。\nこれに対して,甲3発明は,容易に運搬できないかさばった構造のプラットフォ\nームラダーにおいて,高い安全性を損なわないようにしつつ,容易に運搬できるよ うにすることを課題として,その解決のために,前記(1)イのような構成をとったも\nのである。
そして,本件訂正発明1の相違点1に係る構成である,一対の前方バーについて,\n「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認 識させる」ものであること,第1の状態において,「互いの先端部が隙間を介して対 向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され」ること,「前記軸着部 に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の\n状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可 能」であることについては,甲3には,それらの構\成を示唆する記載はなく,甲3 発明の上記技術的意義に照らしても,それらの構成が想起されるということはでき\nない。また,原告が周知技術と主張する甲5〜8,11及び12を併せて考慮して も,甲5〜8,11及び12には,周知技術としては,作業台の「軸支ピンを中心 に回動可能な手すり部材」が開示されているにすぎず,当業者が甲3発明及び周知\n技術に基づいて本件訂正発明1を容易に発明することができたとは認められない。
・・・
甲3発明の「前方バー107」及び甲4発明の「ゲート42,44」 は,共に,それぞれ略左右対称に回動可能であって,互いの先端部が対向して略直\n列に位置するように支持される状態と,作業者が作業空間へ移動可能な状態と,に\n変形可能な部材である点で共通する。\nしかし,甲3発明の「前方バー107」は,プラットフォーム50に登った作業 者の安全性を確保するためのレールの一部となるものであるのに対して,甲4発明 の「ゲート42,44」は,ラダーが不正に使用されないようにアクセスをブロッ クするためのものであるから,甲3発明の「前方バー107」の構成に代えて,甲\n4発明の「ゲート42,44」の構成を適用する動機付けはない。そして,甲3発\n明と甲4発明に原告が周知技術と主張する甲5〜8,11及び12を併せて考慮し ても,当業者が甲3発明と甲4発明に基づいて本件訂正発明1を容易に発明するこ とができたとは認められない。

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平成31(行ケ)10057  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月31日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決について、知財高裁4部は、動機付けなし、阻害要因ありとして、審決を維持しました。

 原告は,甲1−1発明のマッサージ具の代表的な使用方法は,回転体8,\n9の回転軸を鈍角にし,人体の凸部分(皮膚10)に使用するものであると ころ,「一対のローラやマッサージ球の回転軸のなす角度を鈍角とし,柄に 相当する部材の長軸方向の中心線と回転軸との間の角度を鋭角にしたマッサ ージ器具」及びそのマッサージ器具の作用効果は,本件出願当時,周知であ ったから,当業者は,甲1−1発明において,上記周知技術を適用し,甲1 −1発明の回転体8,9を揺動しないように固定した状態とする構成を採用\nすることの動機付けがあり,また,甲1−1発明のマッサージ具の回転体8, 9のなす角を鈍角に限定したとしても,甲1−1発明の全ての技術的意義が 失われるものではなく,技術的意義が縮小されることがあったとしても,そ の程度は極めて限定的なものであって,上記マッサージ器具の一定の作用効 果を得られる上,人体のほとんどの部分をマッサージすることが可能であり,\n甲1−1発明に上記周知技術を適用することに阻害要因があるとはいえない から,当業者が相違点2に係る構成に想到することは容易であり,これと異\nなる本件審決の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 甲1には,甲1−1発明のマッサージ具について,「回転体軸が旋回軸 によって把手に旋回可能に接続されたフォーク形部の把手側に配置される\nこと,及び旋回軸がフォーク形部の中央に,したがって回転体に関して中 央に延びているという構造を採用した」(【0006】)との開示がある。\n一方で,甲7,8,9の1及び10の1によれば,本件出願当時,「一 対のローラの回転軸のなす角度を鈍角とし,柄に相当する部材の長軸方向 の中心線と回転軸との間の角度を鋭角にした」マッサージ器具の構成は周\n知であったことが認められる(以下,上記マッサージ器具の構成を「本件\n周知の構成」という。)。本件周知の構\成は,相違点2に係る本件特許発 明1の構成に相当するものと認められる。\n しかしながら,甲1には,甲1−1発明において,本件周知の構成を適\n用することについての記載も示唆もないから,甲1に接した当業者におい て,甲1−1発明において,本件周知の構成を適用する動機付けがあるも\nのと認めることはできない。
イ また,甲1の記載(【0007】,【0008】,【0018】,【0 019】)によれば,甲1−1発明は,「回転体軸が旋回軸によって把手 に旋回可能に接続されたフォーク形部の把手側に配置され,旋回軸がフォ\nーク形部の中央に回転体に関して中央に延びている」構成を採用すること\nにより,回転体を支持するフォーク形部が旋回軸周りで揺動可能となり,\n回転体をマッサージ中にマッサージされる皮膚部分の輪郭に適合して接触 させ,多数の凸面部と凹面部,例えば眼窩,突出した頬骨,鼻,顎及び唇 のような部分がある顔面を処置するのに特に適するという効果を奏するこ とに技術的意義があることが認められる。 しかるところ,甲1−1発明における「回転体を支持するフォーク形部 が旋回軸周りで揺動可能」となるように把手に接続する構\成に代えて,本 件周知の構成(「一対のローラの回転軸のなす角度を鈍角とし,柄に相当\nする部材の長軸方向の中心線と回転軸との間の角度を鋭角にした」構成)\nを採用した場合には,「回転体を支持するフォーク形部」が固定され,旋 回軸周りで揺動可能」とならなくなる結果,回転体をマッサージ中にマッ\nサージされる皮膚部分の輪郭に適合して接触させることができなくなり,又は接触させる範囲が制限され,多数の凸面部と凹面部,例えば眼窩,突 出した頬骨,鼻,顎及び唇のような部分がある顔面を処置するのに適さな くなるから,甲1−1発明に本件周知の構成を適用することには阻害要因\nがあるものと認められる。
ウ 以上によれば,当業者が甲1−1発明に本件周知の構成を適用する動機\n付けがあるものと認めることはできず,かえって,その適用には阻害要因 があることが認められるから,当業者が甲1−1発明及び周知技術に基づ いて,相違点2に係る本件特許発明1の構成を容易に想到することができ\nたものと認めることはできない。

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平成31(行ケ)10031  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月28日  知的財産高等裁判所

 動機付け無しとして、知財高裁1部は、進歩性無しとした審決を取り消しました。

 本願発明は,管状に成形された鋼板の突き合せ部をサブマージアーク溶接で 内面外面の順に内外面それぞれ一層溶接したラインパイプ用溶接鋼管において,溶 接による熱影響部(HAZ)で優れた低温靭性を得るため,溶接部において,内面側 溶融線と外面側溶融線との会合部を内外面溶融線会合部とした際,内面側の前記鋼 板表層から前記内外面溶融線会合部までの板厚方向距離L1と,外面側の前記鋼板\n表層から前記内外面溶融線会合部までの板厚方向距離L2とが0.1≦L2/L1\n≦0.86を満足し,前記鋼管の周方向を引張方向とした際,前記鋼板の引張強度 が570〜825MPaであるように規定したものである。 一方,引用発明は,管状に成形された鋼板の突き合せ部をサブマージアーク溶接 で内面外面の順に内外面それぞれ一層シーム溶接した,ラインパイプに用いられる UO鋼管において,シーム溶接部に発生する低温割れを防止するため(【0014】),溶接部において,先行するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW1,後 続するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW2とする場合に,0.6≦ W2/W1≦0.8,あるいは1.2≦W2/W1≦2.5の関係を満足し,鋼板の 引張強度が850MPa以上1200MPa以下と規定したものである。 そうすると,本願発明と引用発明とは,いずれも,管状に成形された鋼板の突き 合せ部をサブマージアーク溶接で内面外面の順に内外面それぞれ一層溶接したライ ンパイプ用溶接鋼管に関するものであり,技術分野において共通する。 しかしながら,本願発明は,外面入熱を大幅に低減して外面溶接熱影響部の低温 靭性を向上させ,内面溶接熱影響部の低温靭性を劣化させない範囲に内面入熱を制 御することで,十分な溶け込みを得ながら内外面両方の溶接熱影響部で優れた低温\n靭性を得ることを目的として(【0015】),内面側の前記鋼板表層から前記内外面\n溶融線会合部までの板厚方向距離L1と,外面側の前記鋼板表層から前記内外面溶\n融線会合部までの板厚方向距離L2の比を検討し,内外面両方の溶接熱影響部の低 温靭性を向上させることができるよう,L2/L1の上限及び下限を設定したもの である。これに対し,引用発明は,シーム溶接部に発生する低温割れを防止するた め,先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の残留応力の変化に着 目して,先行するシーム溶接の溶接金属の厚さW1と後続するシーム溶接の溶接金 属の厚さW2の比を検討し(引用例1【0041】),残留応力が大きくならない範 囲であり,かつ,低温における吸収エネルギーの低値の発生頻度が大きくない範囲 において,W2/W1の上限及び下限を設定したものである(引用例1【0042】)。
そうすると,本願発明と引用発明とは,本願発明が,外面溶接熱影響部における 低温靭性の向上を課題として,L2/L1の上限及び下限を規定しているのに対し, 引用発明は,内面溶接金属内におけるシーム溶接部に発生する低温割れの防止を課 題として,W2/W1の上限及び下限を規定しているのであるから,両者はその解 決しようとする課題が異なる。また,その課題を解決するための手段も,本願発明 は,外面熱影響部において,外面入熱を低減して粒径の粗大化を抑制するものであ るのに対し,引用発明は,先行するシーム溶接(内面)の溶接金属に発生する溶接線 方向の引張応力を低減するものである。したがって,引用例1には,外面溶接熱影 響部における低温靭性の向上のため,W2/W1をL2/L1に置き換えることの 記載も示唆もない。 そして,溶接ビード幅中央の位置における溶接金属の厚さであるW2/W1と, 母材表面から内外面溶融線会合部までの距離の比であるL2/L1とは,余盛部分\nの厚さや,内外面溶融線会合部から外面溶接金属の先端までの距離を考慮するか否 かにおいて,技術的意義が異なるところ,引用発明においてW2/W1に替えてL 2/L1を採用するなら,余盛部分の厚さや内外面溶融線会合部から外面溶接金属 の先端までの距離を含む溶接金属の厚さが考慮されないことになる。 また,W2/W1が一定であっても,内面側溶接金属の溶け込み量が変化すると, L2/L1は変動するから,W2/W1とL2/L1とは相関がなく,W2/W1 に対してL2/L1は一義的に定まるものではない。 以上によれば,引用発明のW2/W1をL2/L1に置き換える動機付けがある とはいえないというべきである。
イ 引用発明のW2/W1は,鋼板の引張強度が850MPa以上1200MP a以下という条件下での溶接金属内での残留応力を根拠として最適化されたもので あり,引用例1には,これを850MPa未満のものに変更することの記載も示唆 もない。 そうすると,本願出願時において,鋼管の周方向に対応する引張強度が600〜 800MPaの鋼板について,その突合せ部を内外面から1パスずつサブマージド アーク溶接することで,低温靭性に優れたラインパイプ用溶接鋼管を製造すること が知られていたこと(引用例2【0002】,【0009】,【0059】,【0071】) を考慮しても,鋼板の引張強度が850MPa以上1200MPa以下という条件 下でW2/W1を最適化した引用発明において,鋼板の引張強度が570〜825 MPaのものに変更することについて,動機付けがあるとはいえない。
ウ よって,相違点1及び2は,引用発明及び引用例2の技術事項に基づいて, 当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

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平成31(行ケ)10005  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月19日  知的財産高等裁判所

 周知技術を適用する動機付けなしとして、CS関連発明について、知財高裁2部は、拒絶審決を取り消しました。

 前記2(1)のとおり,引用文献1には,「近年,コンテンツマネジメントシステム (以下,CMS(Content Management System)という) によりウェブアプリケーションとして公開するコンテンツを構築し,管理すること\nが行われている(例えば,特許文献1参照)。ところで,近年,ネイティブアプリケ ーションをダウンロードしてインストールすることができるスマートフォンが普及 している。スマートフォンのユーザは,ネイティブアプリケーションをインストー ルする場合,アプリケーションを提供する所定のアプリケーションサーバにアクセ スし,所望のネイティブアプリケーションを検索する。しかしながら,CMSによ って構築されるウェブアプリケーションは,ウェブサイトとして構\築されるため, 検索サイトの検索結果として表示されることがあるものの,アプリケーションサー\nバから検索することができない。したがって,アプリケーションサーバにおいてネ イティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開発したウェブアプ リケーションを利用してもらうことができないという問題がある。これに対して, CMSによって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブ アプリケーションを開発し,当該ネイティブアプリケーションをアプリケーション サーバにアップロードすることも考えられる。しかしながら,ネイティブアプリケ ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要であった。本発明は,ネイ ティブアプリケーションを容易に生成することができるアプリケーション生成装置, アプリケーション生成システム及びアプリケーション生成方法を提供することを目 的とする。」(段落【0002】,【0004】〜【0007】)と記載されており,同記載からすると,引用発明は,CMSによって構築されるウェブアプリケーション\nは,アプリケーションサーバから検索することができないため,アプリケーション サーバにおいてネイティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開 発したウェブアプリケーションを利用してもらうことができないこと及びCMSに よって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブアプリケ ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要となることを課題とし,同 課題を解決するためのネイティブアプリケーションを生成する装置であることが認 められる。 引用発明は,上記課題を解決するために,前記(1)アで認定したとおり,既存のウ ェブアプリケーションのロケーションを示すアドレスや所望の背景画像を示すアド レス等の情報を入力するだけで,当該ウェブアプリケーションの表示態様を変更し\nて,同ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブアプリケーシ ョンを生成できるようにしたものと認められる。
イ 被告は,携帯通信端末の動きに伴う動作を行うネイティブアプリケーシ ョンを生成すること,特に,PhoneGapに係る技術が周知であると主張する。
(ア) 前記アのとおり,引用発明は,アプリケーションサーバにおいて検索で きるネイティブアプリケーションを簡単に生成することを課題として,同課題を, 既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入力するだけで,同ウェブア プリケーションが表示する情報を表\示できるネイティブアプリケーションを生成す ることができるようにすることによって解決したものであるから,ブログ等の携帯 通信端末の動きに伴う動作を行わないウェブアプリケーションの表示内容を表\示す るネイティブアプリケーションを生成しようとする場合,生成しようとするネイテ ィブアプリケーションを携帯通信端末の動きに伴う動作を行うようにする必要はな く,したがって,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネ イティブ機能を実行するためのパラメータ」とする必要はない。もっとも,引用文\n献1の段落【0024】には,ブログ等と並んで「ゲームサイト」が掲げられてお り,ゲームにおいては,加速度センサにより横画面と縦画面が切り替わらないよう に制御する必要がある場合が考えられる(引用文献5参照)が,ウェブアプリケー ションとして提供されるゲームは,(1)常に携帯通信端末の表示画面を固定する必要\nがあるとはいえないこと,(2)加速度センサにより,携帯通信端末の姿勢に対応した 画面回転表示を制御する機能\は携帯通信端末側に備わっており,端末側の操作によ って,表示画面を固定することができ,そのような操作は一般的に行われているこ\nと,(3)引用文献1の段落【0024】の「ゲームサイト」は,携帯通信端末の表示\n画面を固定する必要のないブログ,ファンサイト,ショッピングサイトと並んで記 載されており,また,引用文献1には,加速度センサについて何らの記載もないこ とからすると,当業者は,上記の「ゲームサイト」の記載から,パラメータを「携 帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」とすることの必\n要性を認識するとまではいえないというべきである。 また,引用発明によって生成されるネイティブアプリケーションは,HTMLや JavaScriptで記述されるウェブページを表示できるから,引用発明によ\nり,乙4に記載されたHTML5 APIのGeolocationを用いて携帯 通信端末の動きに伴う動作を行うウェブアプリケーションの表示内容を表\示するネ イティブアプリケーションを生成しようとする場合も,生成されるネイティブアプ リケーションは,設定情報に含まれているウェブアプリケーションのアドレスに基 づいて,同ウェブアプリケーションに対応するウェブページを取得し,取得したウ ェブページのHTMLやJavaScriptの記述に基づいて,同ウェブアプリ ケーションの内容を表示でき,したがって,ネイティブアプリケーションの生成に\n際して,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ 機能を実行させるためのパラメータ」とする必要はない。\nさらに,被告主張周知技術に係る各種文献にも,引用発明の上記の構成の技術に\nおいて,「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に\n応じて設定ファイルを設定することの必要性等については何ら記載されていない (甲2〜5,7,8,乙1〜3)。
(イ) 前記アのとおり,引用発明は,簡易にネイティブアプリケーションを生 成することを課題として,既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入 力するだけで,当該ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブ アプリケーションを生成できるようにしたのであり,具体的には,前記(1)アのとお り,入力しようとするウェブアプリケーションのロケーションを示すアドレス及び 表示態様に基づいて,テンプレートアプリケーション111に含まれる設定情報の\n内容を書き換えるだけで目的とするウェブアプリケーションの表示する情報を表\示 できるネイティブアプリケーションを生成でき,テンプレートアプリケーション1 11に含まれるプログラムファイル113については,新たにソースコードを書く\n必要はないところ,証拠(甲3,5,7,乙1〜3)によると,PhoneGap によってネイティブアプリケーションを生成するためには,HTMLやJavaS cript等を用いてソースコード(プログラム)を書くなどする必要があるもの\nと認められるから,引用発明に,上記のように,新たにソースコードを書くなどの\n行為が要求されるPhoneGapに係る技術を適用することには阻害事由がある というべきである。
被告は,(1)PhoneGapでは,PhoneGapのプラグインの仕組みを使 って,GPSなど端末のネイティブ部分にアクセス可能であり,端末のGPS機能\ にアクセスすることで,GPSで取得した端末の現在位置が中心となるように地図 を表示することが可能\となるから,引用発明において地図表示アプリケーションを\n生成する際に,PhoneGapのフレームワークを採用することで,ネイティブ 機能であるGPS機能\が利用可能となり,携帯通信端末の動きに伴う動作を設定可\n能となり,また,(2)AndroidManifest.xmlに「android: screenOrientation =”landscape”」の1行を追加し たり(Androidの場合),「Landscape Right」又は「Lan dscape Left」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,スマー トフォンの画面を横画面に固定可能となり,縦画面に固定する設定を施す場合,A\nndroidManifest.xmlに「android:screenOri entation =”portrait”」の1行を追加したり(Android の場合),「portrait」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,ス マートフォンの画面を縦画面に固定可能となるから,引用発明において,アプリケ\nーションを生成する際に,PhoneGapのフレームワークを利用することで, 「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に応じて,\n携帯通信端末において実行される「アプリケーションの,携帯通信端末の動きに伴 う動作」を規定する設定ファイルを備えることとなると主張する。 しかし,上記のとおり,引用発明にPhoneGapの技術を適用することの動 機付けはないから,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
(ウ) 以上からすると,引用発明に,被告主張周知技術を適用することの動機 付けは認められないというべきである。

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平成30(行ケ)10108  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月2日  知的財産高等裁判所

 動機付けありと認定されたものの、組み合わせても本件発明の構成までは想到しないとして、進歩性無しとした拒絶審決が取り消されました。\n

 イ 引用発明への甲2技術の適用
しかしながら,仮に引用発明に甲2技術を適用しても,甲2には,前記有機系廃 棄物の固形物上にトバモライト構造が層として形成されることの記載はないから,\n相違点2’に係る「前記重金属類が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモ ライト)構造」が「前記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されると\nの構成には至らない。\nこの点につき,本件審決は,引用発明に甲2技術が適用されれば,「前記重金属類 が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造」が「前記有機系廃\n棄物の固形物上に」いくらかでも「層」として「形成」されて,重金属の溶出抑制を 図ることができるものになる旨判断し,被告は,生成した造粒物の表面全体をトバ\nモライト結晶層で覆うことになるのは当業者が十分に予\測し得ると主張する。しか しながら,特開2002−320952号公報(甲8)にトバモライト生成によっ て汚染土壌の表面を被覆することの開示があるとしても(【0028】,図1。図1\nは別紙甲8図面目録のとおり。),かかる記載のみをもって,トバモライト構造が「前\n記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されることが周知技術であった とは認められず,被告の主張を裏付ける証拠はないから,引用発明1に甲2技術を 適用して相違点2’に係る本願発明の構成に至るということはできない。\n

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令和1(行ケ)10074  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月23日  知的財産高等裁判所

 訂正要件を満たすとともに、進歩性違反無しとした審決が維持されました。

 本件訂正は,請求項1における「前記LED基板に搭載されるLEDの個 数を,順方向電圧の異なるLED毎に定まるLED単位数の最小公倍数とし ている光照射装置。」を,「前記LED基板に搭載されるLEDの個数を,順 方向電圧の異なるLED毎に定まるLED単位数の最小公倍数とし,複数の 前記LED基板を前記ライン方向に沿って直列させてある光照射装置。」に訂 正するものである。 そして,原告は,本件訂正は,本件訂正前は1枚のLED基板についての 発明であったものを,複数のLED基板をライン状に直列させて所望の長手 方向の長さの製品を得るという発明に変質させるものであり,実質上特許請 求の範囲を拡張し,又は変更するものであるから,特許法126条6項に違 反する旨主張する。 そこで,この点について検討する。
ア 本件特許の特許請求の範囲(請求項1)の「LED基板」の意義
(ア) 本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,「LED 基板」とは,「ライン状の光を照射する光照射装置」に「備え」られた「基 板収容空間を有する筐体」に「収容」され,「複数の同一のLEDを搭載 した」ものであって,「搭載されるLEDの個数を,順方向電圧の異なる LED毎に定まるLED単位数の最小公倍数と」するものであることを 理解できる。 一方,本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)には,「LED基板」 の個数について定義した記載はなく,「LED基板」の個数を単数に限定 して解釈すべき根拠となる記載はない。
(イ) 次に,前記(1)イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本 発明」は,複数の同一のLEDを搭載したLED基板と,前記LED基 板を収容する基板収容空間を有する筐体とを備えた光照射装置であっ て,電源電圧とLEDを直列に接続したときの順方向電圧の合計との差 が所定の許容範囲となるLEDの個数をLED単位数とし,前記LED 基板に搭載するLEDの個数を,順方向電圧の異なるLED毎に定まる LED単位数の公倍数とする構成を採用することにより,LED基板の\nサイズを同一にして,部品点数及び製造コストを削減できるという効果 を奏するものであり,さらに,上記LED基板に搭載するLEDの個数 を,上記LED単位数の最小公倍数とすることにより,LED基板の大 きさを同じにするだけでなく,その大きさを可及的に小さくして,汎用 性を向上させるという効果を奏する旨が記載されており,この点に本件 訂正前の特許請求の範囲(請求項1)の発明(以下「本件訂正前発明1」 という。)の技術的意義があると認められる。 また,当業者であれば,上記「汎用性を向上させる」とは,可及的に 小さな大きさのLED基板の直列枚数を変えることにより,LED基板 を様々な長さの光照射装置に用いることのできるようにすることなど を意味するものであることを理解できるものといえる。 そして,本件訂正前発明1の上記技術的意義に照らすと,上記LED 基板の個数を単数に限定する必然性はみいだし難い。 むしろ,本件明細書の【発明を実施するための最良の形態】に関する 記載は,複数の上記LED基板をライン方向に沿って直列させることが 可能であることを理解できるものであって(【0017】,【0041】,\n図1),このことも,上記理解を裏付けるものといえる。
(ウ) 以上の本件訂正前発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び 本件明細書の記載を総合すれば,本件訂正前発明1の「LED基板」は 個数が単数のものに限定されないと解される。 イ 訂正の適否について 本件訂正による訂正事項は,前記柱書のとおりであり,本件訂正前にお いては,LED基板の枚数や具体的な配置の特定がなかったものを,本件 訂正後においては,「複数の前記LED基板を前記ライン方向に沿って直列 させてある」ことを特定するものである。 そして,本件明細書には,2つのLED基板をライン方向に沿って直列 させること(【0017】,【0019】,図1)及びLED基板の直列させ る数を変更して,光照射装置の長さを変更させること(【0041】)が記 載されていることから,本件訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の 範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であると認められる。 また,本件訂正前発明1の「LED基板」は個数が単数のものに限定さ れないと解されることについては,前記アのとおりであり,本件訂正は, 訂正前に特定されていなかった基板の枚数や配置を特定するものに過ぎな いから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認 められる。 したがって,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものではな く,訂正要件に適合するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主 張の取消事由1は理由がない。
・・・・
前記(1)のとおり,原告製品「IDB−L600/20RS」及び「ID B−L600/20WS」(甲5)として,本件出願前に公然実施をされた 甲5発明は,LED基板に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異な るLED毎に定まるLED単位数の公倍数である,ライン状の光を照射す る照射装置であって,上記LED基板を2枚,上記ライン方向に沿って直 列させるものであるといえる。 しかしながら,上記の原告製品からは,いかなる技術思想に基づき,1 枚のLED基板に搭載されるLEDの個数を定めたのか,また,そのよう なLED基板を2枚長手方向に直列させることにしたのかは,明らかでな い(前記(1))。 また,前記2(1)及び3のとおり,本件出願当時,原告製品「IDB−1 1/14R」及び「IDB11/14W」(甲3)として甲3発明が,原告 製品「IDB−C11/14R」及び「IDB−C11/14B」(甲4) として甲4発明が,いずれも公然実施されており,これらの発明は,1枚 のLED基板に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異なるLED毎 に定まるLED単位数の最小公倍数であるものであるが,他方で,上記の 原告製品からは,いかなる技術思想に基づき,同製品のLED基板に搭載 されるLEDの個数を定めたのかは,明らかでない(前記2(1),3)。 さらに,前記2(2)ウのとおり,本件出願当時,LED基板の設計におけ る技術分野では,故障を防ぎ,品質を保持し,作業を効率化するために, LED基板間の配線及び半田付けを極力減らすようにすることが技術常識 であった。
そうすると,甲5発明に接した当業者は,仮に,当該プリント基板(L ED基板)に搭載されるLEDの個数が,赤色LEDを直列に接続する場 合の個数と白色LEDを直列に接続する場合の個数の公倍数であることを 認識し,かつ,原告製品として公然実施されていた,1枚のプリント基板 (LED基板)に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異なるLED 毎に定まるLED単位数の最小公倍数である甲3発明及び甲4発明を認識 していたとしても,甲5発明において,2枚のLED基板を長手方向に直 列させるという構成を維持したまま,1枚のプリント基板に搭載するLE\nDの個数を174個から,直列接続されている赤色LEDの個数「6」と 直列接続されている白色LEDの個数「3」の最小公倍数である6個に変 更する(相違点3に係る本件発明1の構成とする)ことの動機付けはなく,\nかかる構成とすることを容易に想到することができたものと認めることは\nできず,むしろ,1枚のプリント基板に搭載するLEDの個数を減らして, 同一数のLEDを配設するのに必要なプリント基板数を増やすことには阻 害要因があったと認められる。
イ 以上のとおり,当業者において,甲5発明に基づき,又は,甲5発明に 甲3発明ないし甲4発明を適用して,相違点3に係る本件発明1の構成に\n容易に想到することができるものとは認められない。

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平成31(行ケ)10022  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月18日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、技術分野と課題が共通するので動機付けありとした無効審決を、維持しました。

 甲12,甲13及び甲15の上記各記載によれば,本件特許の出願当時, 複数の受光素子が2次元的に配列されるとともに,当該受光素子ごとに集光レンズ (マイクロレンズ)が設けられた光学的センサを用いたカメラ装置にあっては,そ の中心部と周辺部とにおける光の入射角の相違による周辺部の光量不足が,集光レ ンズを採用しないものより大きくなるという課題が存在し,その課題を解決するた めに,複数のレンズで構成される結合レンズに対し,絞りを被写体側に配置して中\n心部と周辺部との入射角の差を小さくすることにより,周辺部の光量不足を緩和す ることは,当業者の周知技術であったと認められる。
(イ) 原告は,ビデオカメラ装置とコードリーダとでは技術分野が異なり,ビデ オカメラ装置の技術はコードリーダにも適用することができるような幅広い周知技 術でないと主張する。 しかしながら,コードリーダであるIT4400は,A「複数のレンズで構成さ\nれ,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」と,B 「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光し た光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると 共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた,CCDエリアセンサである,光 学的センサ」と,C「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」とを備 えており,上記周知技術に係るビデオカメラ装置と共通する光学系及び撮像方式を 採用していることからみても,ビデオカメラ装置と全く異なる技術分野に属すると いうことはできない。
(ウ) そして,上記周知技術が解決しようとした課題である周辺部の光量不足とは, 撮像素子の受光素子ごとに,素子開口部より大きい口径のマイクロレンズを配設し, 同レンズで集光する構成を採用したことにより生じる事象であり,用途がカメラ装\n置である場合に特有のものではなく,同様の光学系及び撮像方式を採用したコード リーダであるIT4400においても生じ得る事象であることは,当業者が普通に 認識することができたものというべきである。
ウ 容易想到性
このように技術分野と課題が共通することからすると,公然実施されたIT44 00に上記周知技術を組み合わせて,周辺部の光量不足を緩和するために,「読み取 り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置 することによって,光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し, 前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子に対して入射する前記読み取り対象 からの反射光が斜めになる度合いを小さくして,適切な読取りを実現」することは, 当業者が容易に想到することができたというべきである。
エ 原告の主張について
原告は,訂正によって生じた相違点4に係る本件発明の構成に関連して,IT4\n400は,いわゆるガンタイプのコードリーダで,ある程度の大きさが許容され, 周辺部の光量不足の課題が顕在化しにくいことや,ビデオカメラ装置と2次元コー ドリーダでは求められる機能の優先順位が異なり,発光手段の有無やコンパクト化\nのニーズを含めてレンズや絞りの設計思想自体,根本的に相違していることを挙げ, IT4400に対して,上記周知技術を組み合わせる動機付けを欠く旨主張する。 しかし,周辺部の光量不足は,マイクロレンズ付き撮像素子を採用することに起 因して生じる課題であって,ガンタイプのコードリーダであれば,マイクロレンズ 付き撮像素子を採用しても,当該課題が生じないということはできないから,その 解決手段として,上記周知技術を採用することについて動機付けを欠くということ はできない。また,原告の主張する,装置に求められる機能の優先順位の相違が,上\n記周知技術の採用を阻害する事情に当たるともいえない。 よって,原告の主張は採用できない。
オ 以上によれば,本件審決の相違点1に係る容易想到性の判断に誤りはない。
(5)相違点2に係る容易想到性について
相違点2に係る本件発明の構成は,「前記光学的センサの中心部に位置する受光素\n子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の 比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で, 中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」というものであ\nり,光学的センサの「中心部」と「周辺部」との境界や,出力の比に関する「所定値」 については,具体的に特定されていない。 そして,本件明細書【0042】には,「適切な読み取りを実現するためには,セ ンサ周辺部にある受光素子41aからの出力レベルが所定レベル以上になる必要が ある。そのため,例えば,センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対 するセンサ周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上となるよ う射出瞳位置を設定することが考えられる。つまり,このような射出瞳位置となる ように絞り34aの位置を設定するのである。このようにしておけば,中央部と周 辺部の出力差を考慮しながら,例えば照射光の光量や露光時間などを調整すること が容易となり,中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。」との\n記載がある。
本件明細書の上記記載に照らすと,相違点2に係る本件発明の構成は,その実質\nにおいて,露光時間の調整など所与の調整を行うことを前提とした上で,光学的セ ンサの中心部においても周辺部においても適切に読み取ることが可能となるように\n射出瞳位置を設定することをもって本件発明の構成を特定しているということがで\nきる。 そうすると,公然実施されたIT4400において,相違点1に係る構成を採用\nし,絞りを被写体側に配置するに当たりその位置を具体的に決定する際に,射出瞳 位置を「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光 学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように」 設定し,「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能\nとなるように」することは,当業者において周辺部でも適切に読み取ることを可能\nとする2次元バーコードリーダを構成する上で,適宜に採用する事項にすぎない。\nそうすると,相違点2に係る本件発明の構成も,当業者において容易に想到する\nことができたものというべきである。

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平成30(行ケ)101 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年11月28日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が維持されました。争点は、進歩性で、詳しくは、いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)により,別の活性成分を加える動機付けがあるといえるかです。審決・知財高裁とも動機付け無しと判断しました。

前記(1)の甲1の内容,上記アで認定した本件優先日当時の公知文献の内 容や技術常識に鑑みて,相違点2が容易想到といえるかどうかについて検討する。
(ア) 前記(1)で認定したとおり,甲1には,GAR-トランスホルミラーゼ阻 害剤の治療効果を維持しつつ,その毒性を減少させることを課題とする旨が記載さ れているところ,甲1では葉酸をGAR-トランスホルミラーゼ阻害剤と組み合わせ て投与することによって同課題を解決できるとしており,同課題に関して,更に別 の活性成分,例えば,ビタミンB12を積極的に適用する動機や示唆は甲1には何ら 記載されていない。 これに加えて,上記ア(ア)(イ)の甲2〜4,44からすると,本件優先日前にMT Aの抗腫瘍活性を維持しつつ毒性を低減させるという目的のために,MTAと葉酸 を併用投与することに言及する公知文献は複数存在し,上記目的のためにMTAと 葉酸を併用投与することは技術常識になっていたものと認められるが,いずれの公 知文献にも,上記目的のためには葉酸補充だけでは不十分であるとする指摘はない\nし,葉酸補充に加えて他の活性成分を投与する必要性についても何ら指摘されてい ない。
(イ) 上記ア(イ)(ウ)のとおり,本件優先日当時,(1)ベースライン時のホモシス テイン値が10μM以上であると,MTAの毒性発現が高度に予測されること,(2) ホモシステイン値は,葉酸又は/及びビタミンB12が不足すると上昇すること,(3) 葉酸とビタミンB12を併せて投与すると,葉酸単独投与の場合に比して,より確実 にホモシステイン値を低下させることができることが,本件優先日当時に知られて いたことが認められるものの,以下のa,bからすると,それにより,甲1発明に ビタミンB12を投与することを組み合わせることは動機付けられないというべきで ある。
a 上記ア(イ)の各公知文献が指摘しているのは,本件優先日当時,ベー スライン時のホモシステイン値がMTAの毒性発現を予測させる指標であったとい\nうことだけであり,原告が主張するような「ベースライン時のホモシステイン値を 低下させておくとMTAの毒性発現が抑制される」ということまでが読み取れると はいえない。この点について,原告は,「ベースライン時のホモシステイン値」と「M TA投与後の毒性」との間に因果関係があると主張する。ベースライン時のホモシ ステイン値とMTAの毒性発現との間に単純な比例関係があれば,原告が主張する ようにいうことも可能であるが,本件証拠上,本件優先日当時,単純な比例関係に\nあることが知られていたとは認められない(かえって,甲115[212頁左欄5 行〜6行]には,葉酸の機能している状態と血漿ホモシステイン濃度とは,非線形\n的な逆相関を示す旨記載されている。)から,「ベースライン時のホモシステイン値 が高い場合にMTAの毒性発現を予測させる指標であること」から直ちに「ベース\nライン時のホモシステイン値を低下させておくとMTAの毒性発現が抑制されるこ と」ということができないことは明らかであり,原告の上記主張は理由がない。 また,「ベースライン時のホモシステイン値を低下させておくことで抗腫瘍活性が 維持される。」ということについても,甲44に葉酸補充により抗腫瘍活性が維持さ れて毒性が低減される旨の記載があるほかは,上記各公知文献は何も述べていない から,この点が技術常識であったとまでは認められない。 そうすると,原告が主張するような,「ベースライン時のホモシステイン値を低下 させておくと,毒性の発現が抑制され,かつ抗腫瘍活性が維持される。」ということ が,本件優先日当時に技術常識として存在していたとまで認めることはできないか ら,その点から動機付けがあるということはできない。
b 葉酸又はビタミンB12の欠乏により上昇するホモシステイン値とは 異なり,メチルマロン酸値はビタミンB12の欠乏により上昇するところ(上記ア(ウ) b),上記ア(イ)のとおり,本件優先日当時,ニイキザ文献は,ベースライン時のホ モシステイン値と毒性発現の間には相関関係があるものの,メチルマロン酸値と毒 性発現の間には相関関係がない旨を指摘していたのであるから,当業者は,ここか ら患者のビタミンB12の状態と毒性発現との間には相関関係がなく,むしろ,葉酸 の欠乏がベースライン時のホモシステイン値の上昇や毒性発現に関係していると考 え,葉酸を補充する方向へと進むものと推認される。現に,上記ア(イ)d のとおり, その注52でニイキザ文献を引用している甲44は,ベースライン時のホモシステ イン値10μMが毒性発現の閾値であると指摘しておきながら,葉酸補充にしか言 及していないし,ホモシステイン値を葉酸状態の指標であるととらえている。 また,葉酸とビタミンB12が併用されると,上記ア(ウ)aの図の左側にあるメチオ ニンを生成するためのメチル化反応が促進され,テトラヒドロ葉酸が再生されやす くなるから,ビタミンB12の投与は葉酸単独投与に比して葉酸の機能的状態の改善\nにより資するものといえるが,そのようなテトラヒドロ葉酸の再生の亢進が具体的 にどの程度葉酸の機能的状態に影響を与えるものなのかは本件証拠上不明であり,\nがん患者における葉酸の機能的状態を正常化するためには,葉酸を外部から補充す\nるだけでは不十分であり,ビタミンB12を補充することまでもが必要であったと本\n件優先日当時に当業者に認識されていたとは認められない。 そうすると,仮に当業者がMTAの毒性リスクを低減させるためにベースライン 時のホモシステイン値を10μMより低下させる必要があると考えたとしても,そ こからビタミンB12を追加することを動機付けられるとは認められない。
(ウ) 原告は,いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ (アンメット・メディカル・ニーズ)により,更なる高い効果を求めて別の活性成 分を加えることが動機付けられると主張する。 しかし,上記(ア)(イ)で検討したところからすると,葉酸代謝拮抗薬の抗腫瘍活性 の維持と毒性の低減という目的のためには葉酸の予備的処置だけでは十\分ではない ということが当業者に認識されていたとは認められないのであり,原告が主張する ようなアンメット・メディカル・ニーズが存在するからといって,そこから直ちに 上記目的のために甲1発明を更に改良する必要があると当業者が認識するとは認め られない。 また,仮にアンメット・メディカル・ニーズにより上記目的のために甲1発明を 改良することが動機付られるとしても,上記イ(イ)で検討したところに照らすと,そ こから更にビタミンB12を併用することが動機付られるということはできないので あり,原告の主張はその点からしても採用することができない。

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以下は、関連事件です。

◆平成30(行ケ)10116

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平成31(行ケ)10005  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月19日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。出願人は銀行です。取り消し理由は、「引用発明に周知技術を適用することの動機付けがない」というものです。 なお、対象となったクレームは以下です。  携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータに応じて,前記携帯通信端末において実行されるアプリケーションの,前記携帯通信端末の動きに伴う動作を規定する設定ファイルを設定する設定部と,\n前記設定ファイルに基づいてアプリケーションパッケージを生成する生成部と, を有するアプリケーション生成支援システム。

 本件審決は,引用発明に引用文献2〜5及び参考文献1記載の技術(同技術に乙 3文献記載の技術を併せて,以下「被告主張周知技術」という。)を適用することに より,本件補正発明に想到し得ると判断していることから,引用発明に被告主張周 知技術を適用する動機付けの有無について検討する。
ア 引用発明
前記2(1)のとおり,引用文献1には,「近年,コンテンツマネジメントシステム (以下,CMS(Content Management System)という) によりウェブアプリケーションとして公開するコンテンツを構築し,管理すること\nが行われている(例えば,特許文献1参照)。ところで,近年,ネイティブアプリケ ーションをダウンロードしてインストールすることができるスマートフォンが普及 している。スマートフォンのユーザは,ネイティブアプリケーションをインストー ルする場合,アプリケーションを提供する所定のアプリケーションサーバにアクセ スし,所望のネイティブアプリケーションを検索する。しかしながら,CMSによ って構築されるウェブアプリケーションは,ウェブサイトとして構\築されるため, 検索サイトの検索結果として表示されることがあるものの,アプリケーションサー\nバから検索することができない。したがって,アプリケーションサーバにおいてネ イティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開発したウェブアプ リケーションを利用してもらうことができないという問題がある。これに対して, CMSによって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブ アプリケーションを開発し,当該ネイティブアプリケーションをアプリケーション サーバにアップロードすることも考えられる。しかしながら,ネイティブアプリケ ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要であった。本発明は,ネイ ティブアプリケーションを容易に生成することができるアプリケーション生成装置, アプリケーション生成システム及びアプリケーション生成方法を提供することを目 的とする。」(段落【0002】,【0004】〜【0007】)と記載されており,同記載からすると,引用発明は,CMSによって構築されるウェブアプリケーション\nは,アプリケーションサーバから検索することができないため,アプリケーション サーバにおいてネイティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開 発したウェブアプリケーションを利用してもらうことができないこと及びCMSに よって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブアプリケ ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要となることを課題とし,同 課題を解決するためのネイティブアプリケーションを生成する装置であることが認 められる。
引用発明は,上記課題を解決するために,前記(1)アで認定したとおり,既存のウ ェブアプリケーションのロケーションを示すアドレスや所望の背景画像を示すアド レス等の情報を入力するだけで,当該ウェブアプリケーションの表示態様を変更し\nて,同ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブアプリケーシ ョンを生成できるようにしたものと認められる。
イ 被告は,携帯通信端末の動きに伴う動作を行うネイティブアプリケーシ ョンを生成すること,特に,PhoneGapに係る技術が周知であると主張する。
(ア) 前記アのとおり,引用発明は,アプリケーションサーバにおいて検索で きるネイティブアプリケーションを簡単に生成することを課題として,同課題を, 既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入力するだけで,同ウェブア プリケーションが表示する情報を表\示できるネイティブアプリケーションを生成す ることができるようにすることによって解決したものであるから,ブログ等の携帯 通信端末の動きに伴う動作を行わないウェブアプリケーションの表示内容を表\示す るネイティブアプリケーションを生成しようとする場合,生成しようとするネイテ ィブアプリケーションを携帯通信端末の動きに伴う動作を行うようにする必要はな く,したがって,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネ イティブ機能を実行するためのパラメータ」とする必要はない。もっとも,引用文\n献1の段落【0024】には,ブログ等と並んで「ゲームサイト」が掲げられてお り,ゲームにおいては,加速度センサにより横画面と縦画面が切り替わらないよう に制御する必要がある場合が考えられる(引用文献5参照)が,ウェブアプリケー ションとして提供されるゲームは,1)常に携帯通信端末の表示画面を固定する必要\nがあるとはいえないこと,2)加速度センサにより,携帯通信端末の姿勢に対応した 画面回転表示を制御する機能\は携帯通信端末側に備わっており,端末側の操作によ って,表示画面を固定することができ,そのような操作は一般的に行われているこ\nと,3)引用文献1の段落【0024】の「ゲームサイト」は,携帯通信端末の表示\n画面を固定する必要のないブログ,ファンサイト,ショッピングサイトと並んで記 載されており,また,引用文献1には,加速度センサについて何らの記載もないこ とからすると,当業者は,上記の「ゲームサイト」の記載から,パラメータを「携 帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」とすることの必\n要性を認識するとまではいえないというべきである。 また,引用発明によって生成されるネイティブアプリケーションは,HTMLや JavaScriptで記述されるウェブページを表示できるから,引用発明によ\nり,乙4に記載されたHTML5 APIのGeolocationを用いて携帯 通信端末の動きに伴う動作を行うウェブアプリケーションの表示内容を表\示するネ イティブアプリケーションを生成しようとする場合も,生成されるネイティブアプ リケーションは,設定情報に含まれているウェブアプリケーションのアドレスに基 づいて,同ウェブアプリケーションに対応するウェブページを取得し,取得したウ ェブページのHTMLやJavaScriptの記述に基づいて,同ウェブアプリ ケーションの内容を表示でき,したがって,ネイティブアプリケーションの生成に\n際して,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ 機能を実行させるためのパラメータ」とする必要はない。\nさらに,被告主張周知技術に係る各種文献にも,引用発明の上記の構成の技術に\nおいて,「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に\n応じて設定ファイルを設定することの必要性等については何ら記載されていない (甲2〜5,7,8,乙1〜3)。
(イ) 前記アのとおり,引用発明は,簡易にネイティブアプリケーションを生 成することを課題として,既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入 力するだけで,当該ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブ アプリケーションを生成できるようにしたのであり,具体的には,前記(1)アのとお り,入力しようとするウェブアプリケーションのロケーションを示すアドレス及び 表示態様に基づいて,テンプレートアプリケーション111に含まれる設定情報の\n内容を書き換えるだけで目的とするウェブアプリケーションの表示する情報を表\示 できるネイティブアプリケーションを生成でき,テンプレートアプリケーション1 11に含まれるプログラムファイル113については,新たにソースコードを書く\n必要はないところ,証拠(甲3,5,7,乙1〜3)によると,PhoneGap によってネイティブアプリケーションを生成するためには,HTMLやJavaS cript等を用いてソースコード(プログラム)を書くなどする必要があるもの\nと認められるから,引用発明に,上記のように,新たにソースコードを書くなどの\n行為が要求されるPhoneGapに係る技術を適用することには阻害事由がある というべきである。
被告は,1)PhoneGapでは,PhoneGapのプラグインの仕組みを使 って,GPSなど端末のネイティブ部分にアクセス可能であり,端末のGPS機能\ にアクセスすることで,GPSで取得した端末の現在位置が中心となるように地図 を表示することが可能\となるから,引用発明において地図表示アプリケーションを\n生成する際に,PhoneGapのフレームワークを採用することで,ネイティブ 機能であるGPS機能\が利用可能となり,携帯通信端末の動きに伴う動作を設定可\n能となり,また,2)AndroidManifest.xmlに「android: screenOrientation =”landscape”」の1行を追加し たり(Androidの場合),「Landscape Right」又は「Lan dscape Left」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,スマー トフォンの画面を横画面に固定可能となり,縦画面に固定する設定を施す場合,A\nndroidManifest.xmlに「android:screenOri entation =”portrait”」の1行を追加したり(Android の場合),「portrait」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,ス マートフォンの画面を縦画面に固定可能となるから,引用発明において,アプリケ\nーションを生成する際に,PhoneGapのフレームワークを利用することで, 「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に応じて,\n携帯通信端末において実行される「アプリケーションの,携帯通信端末の動きに伴 う動作」を規定する設定ファイルを備えることとなると主張する。 しかし,上記のとおり,引用発明にPhoneGapの技術を適用することの動 機付けはないから,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。

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平成30(ワ)2554  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年8月27日  大阪地方裁判所

 大阪地裁21部は、技術的範囲に属する、無効理由なしとして、差止請求を認めました。損害賠償請求については、準備手続き中に口頭弁論が分離されています。

 被告は,「挟み込んで保持する」という文言について経時的に解釈し,これを, 第二保持部がブレースボルトをその軸方向に沿って外周側から挟み込み,これを仮 に保持した状態でブレースボルトの軸方向に移動して位置調整を行った後に,ナッ トで締め付けて保持するという操作方法に限定される旨を主張し,ブレースボルト を第二保持部が挿通する場合はこれに含まれないから,ブレースボルトを第二保持 部に挿通する被告製品は,本件発明の構成要件を充足しないと主張する。\nしかしながら,構成要件1Cの「挟み込んで保持する」は,物の発明の一要素と\nして,ブレースボルトが,これを包囲する包囲部によりベース板部に固定されるこ と,すなわち「狭着保持」(本件各明細書の段落【0044】,【0049】ない し【0052】等)を意味すると解するのが相当である(なお,被告は,「挟着」 と「狭着」の違いについて,前者は「挟み込む」という予備的動作を指すのに対し,\n後者は「狭める」という最終的操作を意味する,と主張する。しかし,本件各明細 書においては,「挟み込んで保持する」及び「挟み込んで狭着保持する」という2 通りの言い回しがみられるものの,これらが被告の主張のように明確に区別して用 いられているということはできず,「挟み込んで」,「挟着」及び「狭着」という 文言は基本的に同義であると解すべきである。)。 本件各明細書の段落【0008】に,「この構成によれば,(中略)固定片の孔\n部に第二棒状体を挿通させる必要がなく」との記載がある点については,従来技術 において,ブレースボルトが長過ぎる場合,これを切断する等して調整せざるを得 ないが,本件発明の場合,固定片のナットをゆるめて,外周側からブレースボルト を挟むことができるということを,特別な場合における利点として述べたにすぎず, ベース板部と固定片の間に形成される孔部にブレースボルトを挿通することのでき る通常の場合にまで,外周側からブレースボルトを挟み込むことを要件とする趣旨 とは解し得ない。 そうすると,被告の主張するような上記操作方法は,本件発明における構成要件\n充足性の判断を左右するものではない。
(3) 被告製品の施工方法について(甲19,乙4,22)
被告が,被告製品1の施工に際し,安全性確保等の見地から,ブレースボルトを 第二保持部に外周側から挟み込むことはせずに,第二保持部にあらかじめブレース ボルトを挿通できる程度の間隙を開けておき,ブレースボルトを第二保持部の当該 間隙に挿通させて使用する(被告製品2については,第二保持部が開口部の狭いル —プ状板部で構成されるため,ブレースボルトを第二保持部に挿通して使用するこ\nとは明らかである。)ことは当事者間に争いはないが,上記⑴及び⑵で検討したと ころによれば,上記施工方法の結果は,本件発明の「挟み込んで保持する」に該当 するというべきであり,これに反する被告の主張は採用できない。
・・・
被告は,乙13を適宜設計変更したものとして副引用発明を設定するところ, 乙13発明は,同一平面上に配置された2本の棒状体の交差する箇所において,乙 13に記載された物品(以下「本物品」という。)を2つ,各棒状体をそれぞれ覆 うようにして対向配置させて装着し,それぞれの本物品の角度調整用の弧形状の孔 (角度調整用長穴)を利用してボルトにより緊結することにより,2本の棒状体を 連結・固定するものである。 これに対し,副引用発明は,本物品と,本物品から包囲部を取り除いた状態の平 面の板状部材(以下「平面部材」という。)から構成されているところ,平面部材\nは棒状体を覆うことができないので,本物品と平面部材を組み合わせても乙13に 記載されたような交差連結具として使用することはできない(本物品1個と平面部 材1個を組み合わせた場合,保持可能な棒状体は1本のみである。)。また,本物\n品及び平面部材は互いの角度を調整する必要がないから,両部材に存する上記弧形 状の孔の存在意義がなくなってしまう。 したがって,当業者が,乙13発明から副引用発明を導くことは困難である。 また,被告は,乙13以外にも乙12,14ないし20を引用し,天井から 吊設機器を吊り下げるボルトが交差する部位を連結する揺れ止め用交差連結具も慣 用技術であると主張し,当業者は,乙1発明の両端の外側狭着体の平面域に,斜め 支持体に代えて副引用発明を適用して連結することで,被告製品1(すなわち本件 発明)を容易に発明することができる,と主張する。 しかし,乙12,14ないし20に記載された発明も,乙13発明と同様に,同 一平面上に配置された2本の棒状体を,その交差する箇所を覆うように装着するこ とで,連結・固定して振れ止めするための交差固定金具に係るものであって,被告 の主張するような副引用発明の構成を示唆するものではない。\nなお,被告は,このほかにも,乙8,10,24ないし28を引用して,1本の 棒状体を狭着して固定するにあたって,狭着する一方が棒状体を包囲する包囲部を 備えた部材,他方が平面上の部材である慣用技術である旨主張し,乙8ないし11 を引用して,2本の棒状体を狭着して固定する連結具も慣用技術である旨主張する が,いずれにおいても,一対の部材のうち,一方の部材にのみ包囲部を設け,もう 一方の部材を平面状とする交差固定金具の技術は開示されておらず(乙8及び乙2 6に開示された発明は,2つの固定具の間に平板の基板を挟み込む形を採るが,そ れぞれの固定部が包囲部を備えている点については上記の他の発明と同様である。), 被告が主張するような副引用発明の構成を示唆するものではない。\n以上より,副引用発明は,乙13を含めて乙8ないし20のいずれにも開示 されているとはいえない。
オ 容易想到性について(相違点1)
被告は,本件発明や乙1発明のようなコーナー固定金具と,乙12ないし20に 開示されるような交差固定金具とは,同一の技術分野に属し,また,施工現場で同 じ吊設機器において併用されることが多いから,当業者には,コーナー固定金具の 第二支持部に交差固定金具を適宜設計変更して適用する動機付けがある旨主張する。 乙12ないし20に記載される発明から,被告が主張するような副引用発明が導 けないことは上記エで述べた通りであるが,仮にこの副引用発明の具体的構成を措\nくとしても,交差固定金具とコーナー固定金具は,固定する棒状体の本数も固定の 態様も全く異なるものであるところ,単に吊設機器上の近い位置で用いられる2種 類の金具であるからといって,適用の動機付けを認めることはできない。 したがって,設計変更される副引用発明の具体的構成がどうあれ,乙1発明に上\n記刊行物記載の発明を適用する動機付けがあるとはいえない。

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平成30(行ケ)10164  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年8月28日  知的財産高等裁判所

 審決は、請求項1についての無効理由なしとしましたが、知財高裁はこれを取り消しました。審決は「スクラロースを甘味の閾値以下の量で添加することにより酸味を緩和することができることについてはそのような記載はない」と判断していました。

 前記(3)イのとおり,各文献には,ショ糖の約650倍の甘味を有する非代謝 性のノンカロリー高甘味度甘味料であるスクラロースが,アスパルテーム,ステビ ア,サッカリンナトリウム等の他の高甘味度甘味料と比較して,甘味の質において ショ糖に似ているという特徴があることから,多くの種類の食品において嗜好性の 高い甘味を付与することが見込まれているとの記載があり,加えて,前記(3)アのと おり,本件出願前に,ショ糖や,アスパルテーム,ステビア,サッカリンといった慣 用の高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えることが,当業者に\n周知であったことからすると,引用発明のアスパルテームに代えてスクラロースを 採用してみることは,当業者が容易に想到することができたというべきである。
イ また,前記(3)イのとおり,各文献には,スクラロースをその甘さが感じられ る閾値より低い濃度で用いた場合でも,塩なれ効果,卵風味の向上効果を奏するこ と,製品100重量部に対して0.0001〜0.1重量部(製品に対して0.00 01〜0.1重量%)のスクラロースを用いた実施例によれば,カプサイシン0.0 01%のとき,甘味度が0である0.0001重量部(同0.0001重量%)又は 0.005重量部(同0.005重量%)で辛味増強効果を奏すること,スクラロー スの甘味を感じさせない0.0025重量%のアルコール/スクラロース水溶液で エチルアルコールの苦味の抑制効果を奏することの各記載がある。 以上の記載によれば,スクラロースの添加については,向上させようとする風味 や製品によって使用量は上下するものの,下限値として,製品に対して0.000 1重量%,0.0025重量%,0.005重量%で用いたものなどが知られてお り,スクラロースの甘味を感じさせない量であっても製品の風味の向上が可能であ\nることを当業者は認識していたものと認められる。 他方,引用例には,アスパルテームによる酸味緩和効果を得るための下限値とし て1mg%(0.001重量%),1.5mg%(0.0015重量%),5mg% (0.005重量%)が挙げられ,上記のスクラロースと同様のレベルの使用量で 酸味のマスキングが行えることが記載され,更に,アスパルテームの甘味により, 食品・調味料の呈味バランスが崩れないようアスパルテームの添加量は食品・調味 料の種類に応じ,適宜設定すべきであるとされている。 また,酸味のマスキングは,甘味の付与を目的とするものではなく,所望の酸味 のマスキング効果を奏する場合には,甘味がつきすぎて味のバランスが崩れること がないように,甘味料の使用を減らすことは考えても,増量することは考えないか ら,スクラロースを酸味のマスキング剤に使用する場合であっても,当業者は,酸 味のマスキングが実現可能な低い濃度でスクラロースを使用することを指向する。\nそうすると,スクラロースを,引用発明の食酢を含む食品(ドレッシング,ソー\nス,漬物,及び調味料などの製品)における,酸味のマスキング剤として使用するに あたり,酸味緩和効果が得られるものの,スクラロースの甘味により前記製品の旨 味バランスを崩さない濃度範囲のうち低い濃度を,製品ごとに選択して,スクラロ ースの従来の使用濃度である0.0001〜0.005重量%に重複する0.00 28〜0.0042重量%という濃度範囲に至ることは,当業者に容易であったと いうことができる。
ウ そして,本件明細書の実施例2〜4を参照しても,0.0028〜0.004 2重量%の濃度範囲を境にして,当業者の期待,予測を超える格別顕著な効果を奏\nしているとは評価できない。
エ 以上によれば,アスパルテームを製品濃度1〜200mg%(=0.001 〜0.2重量%)で添加する引用発明から,スクラロースを製品の0.0028〜 0.0042重量%で添加することは,容易に想到することができたものである。
(5) 被告の主張について
ア 被告は,トレハロースや甘味料であるネオヘスペリジンジヒドロカルコンが, 酸味の増強作用を有することを指摘して,相違点2は容易に想到できないと主張す る。 しかし,証拠(甲48)によれば,トレハロースは,食品の低甘味化に使用される ものであるから,アスパルテーム,ステビア,サッカリン等の高甘味度甘味料と同 様に論じることはできない。また,同じ文献(甲48)には,トレハロースを添加し た際に,酸味料の種類や他の呈味物質の存在によって,酸味が強調されたり,マス キングされたりすることを,不可解な現象であると説明されていることからすると, 高甘味度甘味料一般が酸味を緩和させる効果を有すると認定する上での支障となる とまではいえない。 また,ネオヘスペリジンジヒドロカルコンが,レモネードの酸味を増強する作用 を有する旨を理由中で説示した判決(甲15)があるものの,前記のとおり,ショ糖 やアスパルテームを含めた複数の慣用の高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤とし ての機能を備えることが,当業者に広く知られていたと認められることからすると,\n特定の酸味飲料(レモネード)のみを対象にし,実験内容及び実験結果の詳細が証 拠上明らかでないネオヘスペリジンジヒドロカルコンの酸味増強作用に基づいて, 高甘味度甘味料一般の酸味緩和効果を否定する判断には至らない。 この点について,本件審決は,トレハロースのように醸造酢の酸味を増強する甘 味料も存在することを根拠の1つに挙げて,引用発明並びに甲2文献,甲3文献, 甲7文献及び甲8文献の記載から,高甘味度甘味料一般が酸味を緩和させる効果を 有することまで導き出すことはできないと判断しているが,上記説示したところに 照らし,誤りというべきである。
イ 被告は,甘味料の酸味マスキング効果とされるもののうちほとんどは,甘み という別の呈味によって酸味を覆い隠すものであり,甘味の閾値以下で酸味のマス キング効果を示す甘味料は,本件発明以前には,アスパルテームのみであったから, 甘味料一般について知られていたのは,甘味という別の呈味によって酸味を覆い隠 すことができるということであり,甘味の閾値以下でも酸味のマスキング効果のあ ることが技術常識になっていたものではないとして,本件発明が容易に想到できな かった旨を主張する。 しかしながら,被告の主張するように甘味料の酸味マスキング効果とされるもの のほとんどが甘味の閾値を超えた条件で甘みという別の呈味によって酸味を覆い隠 すものであることを明示的に示す証拠はない。かえって,既に説示したとおり,ス クラロースが甘味閾値以下でも所望の風味改善効果を奏することは,複数の文献(甲 4,23,80,81)に示されているから,甘味料一般に関して甘味の閾値以下で 酸味のマスキング効果を奏することが技術常識であったか否かにかかわらず,スク ラロースを,アスパルテームと同様に甘味の閾値以下で用いることは,当業者に格 別の創意工夫を要するものではなかったというべきである。
ウ 被告は,アスパルテームとスクラロースは,アミノ酸系甘味料と合成甘味料 という別のカテゴリーに分類されていたものであり,アスパルテームと単に「高甘 味度甘味料」というカテゴリーが同じなだけのスクラロースが酸味をマスキングで きるかもしれないなどとは考えない,そもそもショ糖の600倍も甘く(アスパル テームですら200倍),ごく少量添加しただけで味のバランスを大きく崩すことが 予想され,扱いの難しいスクラロースを,あえて酸味のマスキングに使用する動機\n付けは存在しない,とも主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件出願日当時,ショ糖,アスパルテーム,ステビ ア,サッカリンといった,化学構造において別のカテゴリーに分類され,甘味の大\nきく異なる複数の甘味料が,酸味のマスキング剤に用いられていたことからすれば, アスパルテーム等と比べて各種の風味改善効果に優れているスクラロースを添加す ることによっても酸味のマスキングが可能であると予\測し,スクラロースを,添加 する製品ごとの味のバランスが崩れにくい濃度範囲で使用して,その酸味マスキン グ効果を確認しようとすることは,当業者が容易に想到することができたというべ きである。

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平成30(行ケ)10160  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年7月30日  知的財産高等裁判所

 動機付けなしとした審決が維持されました。

 原告は,「甲1発明は,『芯材13』の存在により,『外装カバー15』が, 『表面から内方に窪んだ凹部』を有しない構\成となっており,この点が,本件特許 発明1と甲1発明の相違点1となっている」ことを前提に,本件特許発明1の甲1 発明との相違点1の容易想到性は,甲1発明から芯材13を取り除くことが容易で あるか否かに帰着すると主張する。 しかし,相違点1は,前記第2,3(6)のとおりであって,芯材13の有無のみが 相違点ではないから,この点において原告の主張は失当である。 本件特許発明は,前記1(2)のとおり,棒状のハンドル本体に表面から内方に窪ん\nだ凹部を形成し,該凹部をハンドルカバーによって覆うことで,ハンドルを上下又 は左右に分割した場合に比べて,ハンドルの成形精度や強度を高く維持することが できるとともに,ハンドルの内部を容易に密閉できるようにして組立て作業性を向 上したものであるところ,このような課題は,甲1にも甲2にも記載されておらず, 技術常識であったとも認められない上,甲1発明においては,上下に分割された一 対の外装カバー14,15の表面がハンドル12の表\面を構成しているのに対し,\n甲2事項においては,透明窓部6が設けられた背面カバー部材5により,凹部のう ちヘッド部3の部分を覆い,ハンドルカバーにより凹部のうち把持部2の部分を覆 い,本体ケース4の把持部2の表面及びハンドルカバーの表\面により,把持部2の 表面を構\成しているのであって,ハンドルの構成が大きく異なる。\nまた,甲1の段落[0018]及び[0019]の記載によると,甲1発明の芯 材13は,1)その外周に外装カバー14,15が被覆されて,複数のネジ16によ り固定されるものであること,2)二叉部12aに対応する部分において,一対のロ ーラ支持軸17が設けられて,ローラ支持軸17の基端部は芯材13の中心部に形 成された空間に嵌入され,同ローラ支持軸17の先端部は,二叉部12aから突出 していること,3)このような構成としたことによって,ハンドル12の外表\面(外 装カバー)の導電金属メッキされた導電部と,ローラ支持軸17とは,電気的に絶 縁されていることが認められ,甲1発明において,芯材13は,外装カバー14, 15が被覆されて,ネジ16により固定されるものであるから,ハンドルの外装カ バーの文字どおりの芯材としての機能を有するとともに,ローラ支持軸を保持し,\n外装カバーの外表面の導電メッキされた導電部と,ローラ支持軸との間の電気的絶\n縁が保たれるように離間させる,絶縁材としての機能を有するものと認められる。\nこのような機能を有する芯材13を甲1発明から取り除くことは容易とはいえず,\n芯材13に代えて,甲2に示された背面カバー5の一部に相当する部材(背面カバ ー相当部材)を用いることはできない。 したがって,甲1発明に甲2事項を適用する動機付けがあると認めることはでき ない。
イ 原告は,仮に,本件特許発明1が,ハンドルが上下に分割されるものを 除外するものであったとしても,甲1発明において,ハンドル本体に相当する外装 カバーの大きさは,設計事項の範囲で任意に選択可能であるため,甲1発明の外装\nカバー15の縁部分を甲1の図3の上側にまで伸長し,外装カバー14を,当該凹 部を覆う大きさに構成した上で,甲2事項の結合方法を採用すれば,相違点1は,\n容易に想到することができると主張する。しかし,甲1発明の外装カバー14,1 5は上下に分割されたものとなっており,そのような外装カバー15の縁部分を甲 1の図3の上半分の側にまで伸長することが容易想到と認めるべき事情はない。し たがって,原告の上記主張を採用することはできない。
ウ よって,甲1発明に甲2事項を適用することによって,相違点1を容易 に想到することができたとは認められないから,相違点2及び3の容易想到性につ いて判断するまでもなく,本件特許発明1は,甲1発明及び甲2事項から容易に想 到できたとは認められない。
なお,以上の判断は,甲1発明において,「芯材13及び一対の外装カバー14, 15がそれぞれ別のパーツ」であることや,甲2に「把持部2の内部には,背面カ バー5の一部が存在し,ネジなどの締結手段で背面カバー5が本体ケース4に固定 されており,把持部2の内部の背面カバー5には,ハンドルカバーが,差し込まれ ることで,本体カバー4とハンドルカバーとによって,把持部2の表面が構\成され ている。」という技術的事項が含まれるかどうかによって左右されるものでないこ とは,既に判示したところから明らかである。 また,甲4〜10に記載されている事項は,いずれも,一対の分岐部をハンドル 本体の長手方向の一端に一体的に形成するという技術を,甲16〜19に記載され ている事項は,いずれも太陽電池パネルとローラシャフトを電気的に接続する技術 を開示するにすぎないから,これらに基づき相違点1に係る構成を容易想到とする\nことはできない。

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平成30(行ケ)10166  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年6月20日  知的財産高等裁判所

 対戦ゲームについて進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。

 前記2(1)〜(3)のとおり,周知技術Aは,引用文献1が属する対戦型コ ンピュータゲームの分野における周知技術である。 そして,前記2(2),(3)のとおり,引用文献3には,プレイヤキャラクタと敵キャ ラクタの強さのバランスをとることを目的とし,プレイヤキャラクタの強さに応じ た強さの敵キャラクタを出現させることで,プレイヤキャラクタに対して強すぎた り弱すぎたりすることのないようにして,ゲームの興味を持続させる効果を生じさ せることが記載され,また,引用文献4には,ユーザの競技レベルに相応しい他の ユーザを対戦相手とすることを目的とし,ユーザの競技レベルに応じた競技レベル の対戦相手を選択することで,相手が弱すぎたり強すぎたりすることがなくなり, 各ユーザは実力が伯仲した相手との対戦を楽しむことができるという効果を生じさ せることが記載されていることからすると,周知技術Aは,ゲームに抽出されるキ ャラクタやプレーヤのレベルをキャラクタやプレーヤのレベルに合わせることによ り,ゲームを楽しいものとするという技術思想に基づくものであると認められると ころ,引用発明1も,前記3(1)で認定したとおり,支援すべきプレイヤの支援度合 いに応じた人数の第三者勢力を登場させて,プレイヤ同士の操作経験に基づく優劣 のアンバランスを調整することにより,拮抗かつ緊張感のあるゲームとするという 技術思想に基づくものであると認められるから,周知技術Aと引用発明1とは共通 の技術思想を有しているといえる。 したがって,引用発明1及び周知技術Aは,技術分野及び技術思想が共通するか ら,引用発明1に周知技術Aを適用する動機付けはあるというべきである。
(イ) 原告は,引用文献3,4に記載された技術は,いずれも,第3者登場 型に属する対戦アクションゲームに関する技術ではないし,また,第1のプレーヤ キャラクタの情報及び第2のプレーヤキャラクタの情報の組合せに基づいて第3者 キャラクタが抽出されるというものでもないから,本願発明とは技術分野を異にす ると主張する。 しかし,前記(ア)のとおり,引用発明1に周知技術Aを適用することの動機付けは 認められるというべきであり,動機付けが認められるためには,第三者登場型対戦 ゲームであるという点の共通性は必要ないというべきである。 したがって,周知技術Aが第三者登場型対戦ゲームではないことを前提とする原 告の上記主張は理由がない。
エ(ア) ところで,相違点1は,第3者キャラクタを抽出してマッチングさせ る設定処理に関して,本願発明は,「複数のキャラクタの中から,第3者キャラクタ を抽出」しているのに対して,引用発明1は,「NPC人数を増減設定」している点 である。すなわち,本願発明と引用発明1とは,第3者キャラクタを抽出してマッ チングさせる設定処理に関して,当該第3者キャラクタが,複数のレベルのキャラ クタの中からレベルの合うキャラクタが抽出されるのか,それとも,同一のレベル のキャラクタが抽出され,その人数を増減させることによりレベルを合わせるのか の点で相違するのであるから,第3者キャラクタを抽出してマッチングさせる設定 処理に関して,引用発明1の「NPC人数を増減設定」するという構成(同一のレ\nベルのキャラクタが抽出され,その人数を増減させることによりレベルを合わせる という構成)に代えて,周知技術Aの「複数の種類のキャラクタ又はプレーヤの中\nから,キャラクタ又はプレーヤのレベルに応じて特定のキャラクタ又はプレーヤを 抽出すること」という構成にすることで,本願発明の構\成となるものと認められる。
(イ) 原告は,本願発明の課題は,「対戦者同士の操作経験に基づくゲーム優 劣のアンバランスを第3者キャラクタを登場させることにより調整する従来技術が, 対戦ゲームとしての面白みに欠ける」ことであり,プレーヤのレベル等に応じた相 手側キャラクタを抽出するというものではないから,引用発明1及び周知技術1と は課題が異なる旨主張するが,本願発明の課題が上記のとおりであるとしても,引 用発明1に周知技術Aを適用することが困難となるということはできず,また,引 用発明1に周知技術Aを適用すると,本願発明の構成となるのであるから,原告の\n上記主張は理由がない。
オ 以上より,引用発明1に周知技術Aを適用して,本願発明を容易に想到 することができるというべきである。
カ なお,原告は,本願発明は,第3者キャラクタの参戦により従来にない 白熱した対戦ゲームを楽しむことができるという各引用文献に記載の発明の作用効 果とは異なる格別の作用効果を奏する旨主張するが,同効果は,引用発明1に周知 技術Aを適用した発明にも認められる作用効果であって,格別のものとはいえない から,原告の上記主張は理由がない。

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平成30(行ケ)101 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年6月13日  知的財産高等裁判所

 動機付けありとして進歩性なしとした審決が維持されました。顕著な効果があるとの主張も否定されました。

 そして,引用発明及び引用文献8に記載された技術は,いずれも,Aβ 結合剤をアルツハイマー病等の患者の血液中のAβに結合させることによって,A βを除去し,アルツハイマー病等の疾患を治療するというものであり,技術分野は 同一であること,引用文献8には,四量体ペプチドA及びポリエチレングリコール 架橋キャリアゲルを含む組成物は,Aβに効果的かつ不可逆的に結合し,Aβと最 大の結合能力を示したとの記載があること,前記2(1)のとおり,引用文献1には, 「アミロイドβ結合化合物」の第2部分として,ポリエチレングリコールのような 高分子を用いてもよいことが記載されている(段落[0056])ことからすると, 引用発明に引用文献8に記載された技術を適用する動機付けがあると認められる。 この点について,原告は,引用文献1の段落[0056]は,「全身投与」に関す る記載であり,透析とは無関係であると主張するが,引用文献1の同部分の記載は, 血液中のAβに結合するAβ結合化合物の第2部分がポリエチレングリコールでも よいというものであるところ,このことが,体内への投与の場合と透析の場合で異 なると認めるに足りる証拠はなく,少なくとも,引用文献1の上記部分に接した当 業者は,透析の場合においても,Aβ結合化合物の第2部分としてポリエチレング リコールを用いることも適しているものと認識するというべきである。
ウ したがって,引用発明に引用文献8に記載された技術を適用して,引用 発明におけるアミロイドβ結合化合物を四量体ペプチドA及びポリエチレングリコ ール架橋キャリアゲルを含む組成物とし,かつ,同組成物を調整する工程を含ませ ることは,当業者にとって,容易に想到できると認められる。
(2) 顕著な効果について
原告は,本願発明は,1)β-アミロイドへの特定の結合作用を提供する,2)β-ア ミロイドの除去の物理的特性に依存せず,代わりに,血液の構成要素からβ-アミロ イドを捕捉する結合剤を用いるだけである,3)組織的に高い結合能力を形成するプ\nロセスを提供する,4)体内に外的物質を導入することを含まず,それにより逆のリ スク事象に移行し得る潜在的免疫システム反応を除去したプロセスを提供するとい う顕著な効果を有する旨主張する。 しかし,上記4)については,血液透析によりAβの除去を行う引用発明が当然備 える効果であり,上記1)〜3)については,引用発明において,「Aβ結合化合物」と して,結合能の高い化合物を採用することよって獲得される効果にすぎないから,\n原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,引用文献1に記載されたAβ結合化合物は,すべて天然由来の ものであるから,合成物である四量体ペプチドAを用いる動機付けはないなどと主 張する。 しかし,前記のとおり,引用文献8には,四量体ペプチドAはAβと効果的に結 合する旨の記載がある以上,引用発明において,Aβ結合化合物として四量体ペプ チドAを用いる動機付けはあるというべきであり,このことは,引用文献1に記載 されたAβ結合化合物が天然由来であるか否かに左右されない。
イ 原告は,引用文献1に膨大な数のアミロイドβ結合化合物が記載されて いる中で,引用文献1に記載のない,四量体ペプチドAをわざわざ適用することに は阻害要因があると主張するが,引用文献1に記載されたAβ結合化合物の数が膨 大であることによって,Aβ結合化合物として,引用文献8に明記されている四量 体ペプチドAを用いることが阻害されるということはできない。
ウ 原告は,引用発明は,一般的な透析法によりアミロイドβを除去する発 明であるのに対して,引用文献8に記載された技術は,アミロイドβ化合物と結合 し得る物質(医薬製剤)を生体内に存置するものであるから,技術分野が異なり, また,阻害要因もあると主張する。 しかし,前記のとおり,引用発明及び引用文献8に記載された技術は,いずれも, Aβ結合剤をアルツハイマー病の患者等の血液中のAβに結合させることによって, Aβを除去するというものであり,技術分野は同一である。そして,生体内での使 用が想定されているAβ結合化合物を血液透析で使用することができない理由があ るとは認められないから,阻害要因も認められない。 この点について,原告は,体内で使用する物質を血液透析で使用することに阻害 要因があることの理由について,透析法は,体内使用における患者の負担の軽減の ために採用するものである旨の主張をするが,体内使用における患者の負担の軽減 のために透析法を採用するということが,体内での使用が想定されているAβ結合 化合物を血液透析で使用することの阻害事由となるとは認められず,むしろ,体内 での使用について安全性が確認されている物質であれば,血液透析でも使用しよう と考えるのが通常であるといえる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
エ 原告は,引用文献8に記載された発明は,生体内で使用するデポ剤であ るため,その不活性及び安全性のためにRIペプチドを集めるためのプラットホー ムとして,ポリエチレングリコールが採用されているが,引用発明は,透析法によ りアミロイドβを除去する発明であり,生体内における不活性及び安全性という必 要性がないから,生体内での不活性及び安定性のためのものとして開示されている ポリエチレングリコールを,捕捉結合剤と結合したアミロイドβが透析装置の透析 膜から戻ることを防止して透析法においてアミロイドβを効率よく除去するために キャリアゲルとして使用する動機付けはないと主張する。 しかし,引用発明において,Aβ結合化合物として,四量体ペプチドA及びポリ エチレングリコール架橋キャリアゲルを含む組成物を用いる動機付けが認められる ことは既に判示したとおりである。そして,前記2(2)のとおり,引用文献8には, ポリエチレングリコール(PEG担体)は,RIペプチドの複数のコピーを付着さ せ,Aβとの結合能を向上させると記載されているから,当業者は,引用文献8に\n記載された発明を引用発明に適用するに際し,ポリエチレングリコールを共に用い る動機付けがあるというべきである。引用発明においては,生体内で使用するため の安定性や安全性を考慮する必要がないとしても,上記認定が左右されることはな い。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
オ 原告は,引用発明から出発して,アミロイドβ除去能を向上しようとす\nれば,引用文献1に多数列挙されているアミロイドβ結合化合物からアミロイドβ 結合能力の少しでも高いものを選択するのが通常であって,わざわざキャリアゲル\nで修飾することの動機付けはないと主張する。 しかし,引用発明において,Aβ結合化合物として,四量体ペプチドA及びポリ エチレングリコール架橋キャリアゲルを含む組成物を用いる動機付けが認められる ことは,既に判示したとおりであって,キャリアゲルで修飾することの動機付けも あるというべきである。
カ 原告は,透析液は正常な血液に近い成分・濃度の電解質溶液に調製する のが当業者の常識であるから,引用発明にキャリアゲルを添加することには阻害事 由があると主張する。 しかし,透析液にキャリアゲルを添加することによって,正常な血液に近い成分・ 濃度の電解質溶液に調製することが妨げられることを認めるに足りる証拠はないか ら,透析液(透析緩衝液)にキャリアゲルを添加することに阻害事由があるとは認 められない。
キ 原告は,引用文献1の段落[0080]には,「半透膜は10,000ダ ルトンの分子量カットオフを有する」と記載されているところ,二量体を超える高 分子量種(四量体,八量体,それ以上の高分子量種)のAβの分子量は,10,0 00ダルトンを超えるため,引用文献1記載の透析方法では,半透膜を通ることが できず,透析槽側に拡散し得ないから,二量体を超える高分子量種のAβも含めて 除去する本願発明とは,技術思想が全く異なると主張する。 しかし,本願発明の特許請求の範囲には,除去すべきAβの分子量や半透膜を通 過する分子の大きさについては何ら記載されていないから,本願発明も,半透膜の 仕様によっては,二量体を超える高分子量種のAβは半透膜を通ることができず, これを除去することはできないものである。したがって,二量体を超える高分子量 種のAβも含めて除去できるか否かによって,本願発明と引用発明の技術思想が異 なるということはできない。
ク 原告は,引用文献1のapoE3は極めて高価あるから,引用発明に引 用文献8記載の技術を適用することには阻害要因があると主張する。 しかし,製剤の製造コストを可能な限り削減することは当業者にとって重要な課\n題であるから,apoE3が高価であるということは,これに代えて引用文献8に 記載された四量体ペプチドA及びポリエチレングリコール架橋キャリアゲルを含む 組成物を用いることの阻害事由とはならず,むしろ,動機付けとなるというべきで ある。

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平成30(行ケ)10146  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年6月27日  知的財産高等裁判所(4部)

 パチンコ機の発明について進歩性なしとした拒絶審決が、取り消されました。理由は動機付けがないというものです。

 前記(1)の記載事項によれば,本願明細書には,本願発明に関し,次のよ うな開示があることが認められる。
ア 遊技性を向上させるために,貯留部に遊技領域を流下する遊技球そのも のを物理的かつ一時的に保持して,遊技球の流下タイミングを遅延させる ように構成し,遊技者が手元のボタンを押下することで貯留した遊技球が\n落下可能となるようにした従来のパチンコ機は,例えば,大当たり遊技中\nに遊技者がボタンを操作すれば,貯留部内の遊技球が大入賞口に向かって 一気に放出されるため,多くの遊技球を大入賞口に入賞させることができ たが,遊技球を物理的に貯留する手段を設ける必要があるため,部品点数 が多くなり,コストが嵩むといった課題があり,また,遊技球が流下する 領域を狭めることとなり,好ましくなく,その一方で,大当たり遊技中に 単に遊技球を発射して大入賞口内に入賞させるだけでは,遊技の面白みに 欠けるという実情があった(【0004】,【0006】)。
イ 「本発明」は,上記実情に鑑み,推奨する遊技球のルートを遊技者が容 易に打ち分けることができ,遊技性を向上させることのできるパチンコ機 を提供することを目的とし,この目的を達成するための手段として,遊技 領域に打ち出された遊技球が特別電動役物へ向かう,少なくとも2つのル ートが前記遊技領域内に設けられ,前記2つのルートは,共に遊技球が物 理的に貯留されることなく流下可能に構\成されていると共に,一方のルー トに比べて他方のルートの方が,遊技球が遊技領域に打ち出されてから前 記特別電動役物に到達するまでの時間が短くなるように構成され,前記一\n方のルートは前記遊技領域のうち主に左側の領域が用いられ,前記他方の ルートは前記遊技領域のうち主に右側の領域が用いられ,前記一方のルー トを流下する遊技球を検知する第1遊技球検知センサと,前記他方のルー トを流下する遊技球を検知する第2遊技球検知センサと,前記大入賞口に 入賞した遊技球を検出する大入賞口検知センサと,前記2つのルートのう ち推奨するルートを遊技者に報知する推奨ルート報知手段と,をさらに備 え,大当たり遊技制御手段は,前記大入賞口を開放するよう前記特別電動 役物を作動させた後に,前記大入賞口にM個(ただし,Mは自然数)の遊 技球が入賞したことを条件に前記大入賞口を閉鎖するよう前記特別電動役 物を作動させるラウンド遊技を複数回行う内容の前記大当たり遊技を提供 し,前記推奨ルート報知手段は,遊技球が前記他方のルートを流下してい る状態で,前記第2遊技球検知センサが所定個数の遊技球を検知した後に, 前記一方のルートを推奨するルートとして遊技者に報知するようにした構\n成を採用した(【0007】,【0009】)。 これにより「本発明」は,推奨する遊技球のルートを遊技者が容易に打 ち分けることができ,遊技性を向上させることのできるパチンコ機を提供 することができるという効果を奏する(【0011】)。
・・・
 被告は,引用発明と引用例2に記載された事項は,共に遊技球を流下さ せるルートが複数あり,そのうち片方のルートに遊技球を発射させた方が 有利となる状態がある遊技機に関する発明又は技術であり,技術分野が共 通しているといえるから,引用発明に引用例2に記載された事項を適用す る手がかりがあり,引用発明に引用例2に記載された事項を適用すること ができることからすると,当業者は,引用発明のパチンコ遊技機に,引用 例2に記載された事項を適用して,相違点2及び3に係る本願発明の構成\nとすることを容易に想到することができたものであるから,これと同旨の 本件審決の判断に誤りはない旨主張する。 そこで検討するに,引用例1には,引用発明において,「一方のルート」 に相当する「遊技球滞留部32」を流下する遊技球を検知する遊技球検知 センサ及び「他方のルート」に相当する「遊技球流下部31」を流下する 遊技球を検知する遊技球検知センサを設けることについての記載や示唆は ない。また,引用例1には,遊技球が「遊技球流下部31」を流下してい る状態で,当該遊技球を検知する遊技球検知センサが所定個数の遊技球を 検知した後に,「遊技球滞留部32」を推奨するルートとして遊技者に報 知する手段を設けることについての記載や示唆はない。
 次に,前記2(2)イ認定のとおり,引用例1には,「本発明」は,遊技者 が可変入賞装置の入賞口の開放前に,報知装置による入賞口の開放の予告\nに基づいて,まず「遊技球滞留部」を狙って遊技球を発射し,次に「遊技 球流下部」を狙って遊技球を発射する打ち分けを可能とし,これにより「遊\n技球滞留部」からの遊技球と「遊技球流下部」からの遊技球とが合流して, 可変入賞装置に入賞することとなるため,時間の経過に応じて遊技球を打 ち分けることにより,可変入賞装置への大量の入賞を狙うことを可能とし\nた効果を奏すること(【0009】,【0011】)の開示があるところ, その実施形態である引用発明においては,大入賞口が10秒後に開放され ることを予告する報知用ランプ17aと大入賞口を開放する5秒前に点灯\nする報知用ランプ17bとを設け,遊技者は,報知用ランプ17aの点灯 により大入賞口が10秒後に開放されることを知ったとき,「遊技球滞留 部32」を狙って遊技球を発射し,「遊技球滞留部32」に複数の遊技球 を滞留させ,大入賞口を開放する5秒前に報知ランプ17bが点灯するこ とにより,「遊技球流下部31」を狙って遊技球を発射し,合流地点に設 けられた可変入賞装置11の大入賞口に,短時間で大量の遊技球が入賞す るようにした構成(構\成e,g)を備えている。このように引用発明は, 大入賞口が開放されるまでの時間を報知用ランプ17a又は17bの点灯 により報知することにより,時間の経過に応じて遊技球を打ち分けること を可能とした発明であるといえる。\n
 一方,前記(1)イ認定のとおり,引用例2には,第1の方向側の遊技領域 (例えば,左側の遊技領域)及び第2の方向側の遊技領域(例えば,右側 の遊技領域)にそれぞれ通過ゲート,始動口等が設け,右打ちをすべき遊 技状態のときに,左側の遊技領域に設けられた左通過ゲートに遊技球が通 過すると,左打ちが行われていると判定して,液晶表示装置に右打ちを促\nす画像を表示させ,左打ちをすべき遊技状態(通常遊技状態)のときに,\n右側の遊技領域に設けられた右通過ゲートに遊技球が通過すると,液晶表\n示装置に左打ちを促す画像を表示させていた従来の遊技機においては,遊\n技者が遊技状態に合わせて正しい方向側の遊技領域に遊技球を発射させる 発射操作を行っているにもかかわらず,たまたま少量の遊技球が誤った方 向側の遊技領域を流下し,誤った方向側の遊技領域に設けられた通過ゲー トや始動口等を通過してしまったときに,正しい方向側の遊技領域に遊技 球を発射させることを促すことが報知され,正しい方向側の遊技領域に遊 技球を発射させている遊技者に煩わしさや不快感を与えるという問題があ ったため(【0007】),「本発明」は,第2の方向側の第2通過領域 を進入した遊技球を検出する第2通過領域検出手段により検出された検出 回数の計数を行う第2通過領域計数手段によって予め定められた検出回数\nが計数されると,報知手段により第1の方向側の遊技領域に遊技球を発射 することを促す発射操作情報の報知を行わせる構成を採用し,これにより,\n現在の遊技状態と各遊技領域に設けられた通過領域に遊技球が進入した回 数(検出回数)を参照して発射操作情報の報知を行うので,たまたま少量 の遊技球が誤った方向側の遊技領域を流下したとしても誤差として判定で きるため,遊技者の発射操作に対応したより正確な発射操作に関する報知 を行うことができ,快適な遊技を行わせることができるという効果を奏す ること(【0008】,【0018】)の開示がある。このように引用例 2記載の遊技機は,第1の方向側の遊技領域(左側の遊技領域)を流下す る遊技球を検出する検出手段,第2の方向側の遊技領域(右側の遊技領域) を流下する遊技球を検出する検知手段及び第1の方向側又は第2の方向側 の遊技領域に遊技球を発射することを促す発射操作情報の報知手段を備え, 報知手段による報知を現在の遊技状態と各遊技領域に設けられた検出手段 によって検出された遊技球が進入した回数(検出回数)を参照して行うこ とにより,遊技者が正しい方向側の遊技領域に遊技球を発射させる発射操 作を行っているにもかかわらず,たまたま少量の遊技球が誤った方向側の 遊技領域を流下したとしても誤差として判定し,正しい方向側の遊技領域 に遊技球を発射することを促す発射操作情報の報知を行わないようにして, 遊技者に煩わしさや不快感を与えることのないようにしたものといえる。
 そうすると,引用発明と引用例2記載の遊技機は,共に遊技球を流下さ せるルートが複数あり,そのうち片方のルートに遊技球を発射させた方が 有利となる状態がある遊技機において,上記有利となる状態となった場合 にその有利な方向の遊技領域に遊技球を発射することを促す報知を行うこ とに関する発明又は技術である点において,技術分野が共通しているとい えるが,他方で,引用発明では,遊技者が可変入賞装置の入賞口(大入賞 口)の開放前に,大入賞口が開放されるまでの特定の時間を報知装置によ り予告(報知)することにより,有利な方向の遊技領域に遊技球を発射す\nることを促すものであるのに対し,引用例2記載の遊技機は,遊技者が有 利な方向(正しい方向側)の遊技領域に遊技球を発射させる発射操作を行 っているにもかかわらず,たまたま少量の遊技球が誤った方向側の遊技領 域を流下したとしても誤差として判定し,正しい方向側の遊技領域に遊技 球を発射することを促す発射操作情報の報知を行わないようにしたもので あり,報知の目的及びタイミングが異なるものと認められる。
 また,引用発明において引用例2記載の遊技機の構成(本件審決認定の\n引用例2に記載された事項)を適用することを検討したとしても,具体的 にどのように適用すべきかを容易に想い至ることはできないというべきで ある。そうすると,引用例1及び引用例2に接した当業者は,大入賞口が開放 されるまでの特定の時間を報知装置により予告(報知)する引用発明にお\nいて,報知の目的及びタイミングが異なる引用例2記載の遊技機の構成(本\n件審決認定の引用例2に記載された事項)を適用する動機付けがあるもの と認めることはできない。したがって,当業者は,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,相違点2及び3に係る本願発明の構成を容易に想到することができ\nたものと認めることはできないから,被告の上記主張は理由がない。

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平成30(行ケ)10061  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年4月25日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が取り消されました。理由は、『「医療溶液」を「用時混合型急性血液浄化用薬液」にすることを試みる動機付けがあるというものです。』

 甲3には,引用発明2(実施例4記載の用時混合型の医療溶液)が「急性血液浄化用薬液」であることを明示した記載はない。一方で,甲3には,前記(1)イ(イ)認定のとおり,「本発明」の目的の1つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り良好な安定性を保証する「医療溶液」(血液透析,血液透析濾過,血液濾過及び腹膜透析用の透析液,腎疾患集中治療室内での透析用の溶液,通常は緩衝物質を含む置換液又は輸液,並びに栄養目的のための溶液)を提供することにあることの開示がある。この「医療溶液」中の「腎疾患集中治療室内での透析用の溶液」とは,救急・集中治療領域において,急性腎不全の患者に対して行う持続的な血液浄化のための透析用の溶液を含むことは自明である。
また,甲3には,前記(1)イ(ア)及び(イ)認定のとおり,1)急性腎不全に罹患している患者に適応となる治療法は,数週間を通しての持続的腎機能代替療法(CRRT)であり,血液濾過が用いられるが,血清リンレベルが正常な患者からリンを効率的に除去してしまう結果,定期的な週3回の血液透析治療を受けている患者よりも高い頻度で,低リン血症が起こり得るものであること,2)低リン血症は,リンの投与によって予防,治療されるが,医療溶液にリンを導入する場合,沈殿する様々なリン酸カルシウムの形成の問題があり,生理的pHに等しいpH値を有する生理溶液では,リン酸カルシウムの沈殿の危険性が高くなるという問題があること,3)「本発明」の発明者らは,特定のpH範囲等の如き一定の条件下では,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを重炭酸塩及びリン酸塩重炭酸塩と共に保持し得ることができ,滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したことの開示があることからすると,「本発明」の実施例である引用発明2の「医療溶液」は,急性腎不全に罹患している患者に適応し得るものと理解できる。以上の点に照らすと,甲3に接した当業者においては,甲3記載の実施例4(引用発明2)において,当該「医療溶液」を「用時混合型急性血液浄化用薬液」にすることを試みる動機付けがあるものと認められる。したがって,当業者は,引用発明2において,相違点(甲3−1−4’)に係る本件訂正発明1の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(イ)これに対し,被告らは,引用発明2が具体的に「腎疾患集中治療室内での透析用の溶液」あるいは「急性血液浄化用薬液」である旨示した記載はないこと,引用発明2が,明示的な記載なくして,当然に「急性血液浄化用薬液」であると解すべき技術常識はないことからすると,「医薬溶液」として記載された引用発明2を「急性血液浄化用薬液」にすることは,当業者が容易に想到し得たことではないから,相違点(甲3−1−4’)は当業者が容易に想到し得たものではない旨主張する。しかしながら,前記(ア)のとおり,甲3の記載事項に照らすと,当業者は,引用発明2において,相違点(甲3−1−4’)に係る本件訂正発明1の構成とすることを容易に想到することができたものと認められるから,被告らの上記主張は採用することができない。\n

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平成30(行ケ)10090  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月14日  知的財産高等裁判所

 タイヤの発明について、引用文献1および周知技術から、進歩性ナシとした審決が維持されました。

 (6)周知技術の認定 前記(1)〜(5)によると,本願出願日当時,タイヤの技術分野において,クラウン部 の外周にタイヤ周方向に巻き付ける被覆コード部材の断面形状を略四角形状とする こと,また,上記断面形状は略四角形状,円形状又は台形状等から選択可能である\nことが周知技術であったことを認定することができる。
(7) 甲1発明に周知技術を適用することの可否
ア 前記(6)のとおり,本願出願日当時,クラウン部の外周にタイヤ周方向に 巻き付ける被覆コード部材の断面形状は,略四角形状,円形状又は台形状等から選 択可能であることは周知技術であった。\nまた,前記(2),(3)のとおり,周知文献3の【0007】には,「本発明の請求項1 に記載のタイヤでは,タイヤ周方向に螺旋状に巻かれる補強コード部材のタイヤ軸 方向に隣接する部分同士を接合していることから,例えば,補強コード部材のタイ ヤ軸方向に隣接する部分同士を接合しないものと比べて,タイヤ骨格部材に接合さ れる補強コード部材で構成される層(以下,適宜「補強層」と記載する。)の剛性が\n向上する。これにより,上記補強層が接合されるタイヤ骨格部材の剛性を向上させることができる。」と記載され,また,周知文献3の【0049】には,「補強コー ド部材22のタイヤ軸方向に隣接する部分同士の接合は,一部分でも全部でも構わ\nないが,接合面積が広いほど補強コード部材22で構成される補強層28の剛性が\n向上する。」と記載され,周知文献2の【0063】にも,「補強コード部材22の タイヤ軸方向に隣接する部分同士の接合は,一部分でも全部でも構わないが,接合\n面積が広いほど補強コード部材22(補強層28)によるタイヤケース17の補強 効果が向上する。」と記載されている。そうすると,本願出願日当時,タイヤ軸方向 に隣接する補強コード部材同士を接合しないものに比べて,これを接合したものは 補強コード部材で構成される補強層の剛性を向上させることができ,その接合面積\nが広いほど補強層の剛性が向上し,補強層が接合されるタイヤ骨格部材の剛性を向 上させることができることが知られていた。そして,補強コード部材(被覆コード 部材)の断面形状が円形状のものよりも,略四角形状のものの方が,タイヤ軸方向に隣接する補強コード部材同士の接合面積を広くし得ることは,明らかである。
以上によると,タイヤ軸方向に隣接する被覆コード部材同士を溶融接合している 甲1発明において,前記(6)の周知技術を適用して,断面形状が円形状の被覆コード 部材に代えて,これと適宜選択可能な関係にある断面形状が略四角形状の被覆コー\nド部材を採用することは,当業者が容易に想到し得るものと認められる。 イ 前記(2),(3)のとおり,周知文献3には,断面形状が略四角形状であり, タイヤ軸方向に隣接する部分同士が接合(溶着)された補強コード部材22につい て,クラウン部16に一部が埋め込まれても構わないことが記載され(【0046】,\n【0049】,【0050】,【0053】),また,周知文献2には,断面形状が略四角形状であり,タイヤ軸方向に隣接する部分同士が接合(溶着)された補強コード 部材22について,長手方向の両端部22Aがクラウン部16に埋め込まれて長手 方向の中間部22Bよりもクラウン部16の内周面16B側に配置されるのであれ ば,長手方向の中間部22Bがクラウン部16に埋め込まれても構わないことが記\n載されている(【0057】,【0058】,【0061】,【0063】)。 そうすると,タイヤ軸方向に隣接する被覆コード部材同士を溶融接合している甲 1発明において,前記(6)の周知技術を適用して,断面形状が円形状の被覆コード部 材に代えて,これと適宜選択可能な関係にある断面形状が略四角形状の被覆コード\n部材を採用することに,製造上の阻害要因があるものとは認められない。

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平成30(行ケ)10078  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、「甲1発明の目的を達成できなくなるので、阻害要因あり」として、進歩性違反無しとした審決を維持しました。

 前記2(1)イ〜エ,カの記載によれば,甲1発明は,「発泡作用によりマッ サージ効果を得る化粧料について,最高度に気泡が発生することを色によっ て判断できるようにすること」を課題とし,当該課題を,「炭酸水素ナトリ ウムを含む第1剤と,前記炭酸水素ナトリウムと水の存在下で混合したとき に気泡を発生するクエン酸,酒石酸,乳酸及びアスコルビン酸のうちの1又 は2以上の成分を含む第2剤と,前記第1剤と第2剤に夫々分散された異色 のものからなり,混合により色調を変え,使用可能な状態になったことを知\nらせるための2色の着色剤A,Bと,前記第1剤又は第2剤の一方又は双方 に含まれた,化粧料としての有効成分とからなる組成」を有する「常態では 粉状」の化粧料とし,これにより,「2色の着色剤A,Bを第1剤,第2剤 に夫々混合し,使用前,個有(原文のまま)の色分けを行なうとともに使用 時第1,第2両剤を混合し,一定の色調になったときに良く混合したことが 判断できかつ,最適の反応が行なわれる」ようにすることで,解決しようと したものである。すなわち,甲1発明は,最高度に気泡が発生することを色 によって判断できるようにするために,炭酸塩を含む第1剤と酸を含む第2 剤に分けてあえて異色の構成とし,これらを混合することによって色調が変\nわるようにしたものであると認められる。 そうすると,たとえ,アルギン酸ナトリウムが水に溶けにくい性質を持つ ことや,一般的な用時調製型の化粧料において,ジェルと固体(顆粒や粉末 等)の2剤型のものが周知であったとしても,甲1発明において,炭酸塩と 酸が2剤に分離されてそれぞれが異色のものとされている構成を,甲2記載事項の「粉末パーツ」のようにあえていずれか一方(1剤)に統合して複合\n粉末剤等とすると,そもそも甲1発明の目的(2剤の色分けと混合による色 調の変化を利用して最高の発泡状態か否かを判断する)を達成できなくなる ことは明らかであるから,そのような変更を当業者が容易に想到し得るとは いい難く,その意味で,甲1発明に甲2に記載された技術(甲2記載事項) 等を組み合わせようとすることについては動機付けがなく,むしろ阻害要因 があるといえる。
(3) これに対し,原告は,甲1発明は,気泡状の二酸化炭素(炭酸ガス)を経 皮吸収させることを機能の一つとする化粧剤であるから,拡散問題(炭酸ガ\nスが大気中に拡散すること)は甲1発明に内在する自明の課題であるとした上で,甲1発明に対しアルギン酸ナトリウム慣用技術(甲2記載事項)を適 用することについては,自明の課題である拡散問題を軽減するために,閉じ 込め効果(アルギン酸ナトリウムを事前に水に添加して万遍なく行き渡らせ ることにより,網目状の高分子化合物が形成され,気泡状の二酸化炭素〔炭 酸ガス〕を水溶液中に閉じ込めることが可能となること)を利用するという\n積極的な動機付けがある,などと主張する。
しかしながら,甲1発明は,前記のとおり,発泡作用(炭酸ガスの発泡, 破裂作用)によりマッサージ効果を得る化粧料について,最高度に気泡が発 生することを色によって判断できるようにすることを目的とするものであっ て,そこに炭酸ガスを体内に取り込もうとする技術的思想はない(二酸化炭 素の泡がはじけることによる物理的な刺激を効果的に得ようとしているにす ぎない)から,「気泡状の二酸化炭素(炭酸ガス)を経皮吸収させることを 機能の一つとする化粧料」であるとはいえず,原告の主張はそもそもその前\n提において誤りがある。そうである以上,原告主張の拡散問題が甲1発明に 内在する自明の課題であるとはいえないし,甲1発明におけるアルギン酸ナ トリウムは飽くまで気泡発生を助成するための起泡助長剤として添加されて いるにすぎないから(甲1【0013 】),アルギン酸ナトリウムが含まれ ているからといって,それだけで直ちに事前に水に添加して利用する技術(アルギン酸ナトリウム慣用技術)を適用することについての積極的な動機付け があるともいえない。この点,原告は,アルギン酸ナトリウムが増粘剤とし ても機能するものであることを根拠に甲1発明におけるアルギン酸ナトリウ\nムが気泡の発生とその安定化の双方に寄与するものであることを当業者は当 然に認識するとも主張するが,甲1発明の目的を離れた主張であって,論理 に飛躍があり,採用できないというべきである。
また,原告は,阻害要因に関して,甲1は,技術分野の同一性を理由とし て本件発明の課題を解決するための主引例として選択されたものであり,容 易想到性の判断に際して,甲1に記載された目的に反する方向での変更か否 かは関係がない,などとも主張するが,特定の公知文献(公知技術)からの 容易想到性の問題である以上,当該公知文献に記載された目的を度外視した 判断はできないというべきであり,上記主張は,やはり採用できないという べきである。

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◆平成30(行ケ)10077

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平成30(行ケ)10118  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月25日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反の無効理由主張について、知財高裁は動機付けなしとして、無効理由なしとした審決を維持しました。
a 引用発明1の課題は,1)背肩近辺の側面側,特に肩ぐうと呼ばれるつぼをマ ッサージすること,2)背面側にマッサージを行う場合に,身体が施療手段により押 されて前方に動くのを防ぐこと,である。 これに対し,引用発明2の課題は,1)下腿の臑の前外側,特に三里,豊隆と呼ば れるつぼをマッサージすること,2)下腿にマッサージを行う場合に,被施療者の下 腿を拘束しないこと,である。
b まず,引用発明1と引用発明2の課題は,1)身体の側面ないし前面に位置す るつぼのマッサージを行うという限度で共通するが,その対象部位及び対象部位に 位置するつぼの種類が異なる。 そして,引用発明1と引用発明2におけるマッサージの対象部位及び対象部位に 位置するつぼの種類を比較するに,背肩と下腿においては,その形状,重量や椅子 型マッサージ機にかかる荷重,可動範囲などが大きく異なるから,それに応じて椅 子型マッサージ機の構成は異なるものとならざるを得ない。また,定型的な動きし\nかできない椅子型マッサージ機においては,背肩近辺の側面側と下腿の臑の前外側 に位置するつぼをどのような強度,角度及び範囲で押圧するかによって,その施療 子部分の構成も異なるものとならざるを得ない。\nそうすると,椅子型マッサージ機である引用発明1と引用発明2において,マッ サージの対象部位及び対象部位に位置するつぼの種類が異なることは,両発明の課 題が有する意義に差異をもたらすものというべきである。
c 加えて,引用発明1と引用発明2の課題は,2)身体の動作を防止してその自 由度を下げようとするか,身体を拘束しないようにしてその動作の自由度を上げよ うとするかという点では正反対のものということができる。
d よって,引用発明1と引用発明2との課題は,マッサージを行おうとする対 象部位及び対象部位に位置するつぼの種類が異なること,身体の動作の自由度を下 げようとするか上げようとするかで異なることから,相違するものというべきであ る。
(ウ) 作用機能\n
引用発明1は,背もたれ部の左右両側に前方に向かって突出した側壁部の内側面 に配設されたエアバッグが膨出し,身体を左右両側から挟圧するという作用機能を\n有する。 これに対し,引用発明2は,後側空気袋の膨張によって,支持部に枢着されてい る左右の受板が前方へ回動し,受板の前側に配された前側空気袋が膨張することに よって,臑の外側部分を押圧するという作用機能を有する。\nしたがって,引用発明1と引用発明2の作用機能は,膨出(膨張)するエアバッ\nグ(前側空気袋)によって身体を押圧するという点で共通するものの,当該エアバ ッグ(前側空気袋)を配設する部材が,側壁部か,支持部に枢着された回動可能な\n受板かという点で相違する。
(エ) 示唆
引用例1又は引用例2の内容中に,引用発明1に引用発明2を適用することにつ いての示唆は見当たらない。
(オ) 動機付け
以上のとおり,引用発明1と引用発明2とは,椅子型マッサージ機という限度で 技術分野が共通するものの,マッサージを行おうとする対象部位及び対象部位に位 置するつぼの種類が異なることなどから課題が相違し,身体を押圧するエアバッグ を配設する部材のそもそもの可動性が異なることから作用機能も相違するほか,引\n用発明1に引用発明2を適用することについて示唆も見当たらない。 したがって,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けがあるということはできない。
(カ) 原告の主張について
a 原告は,当業者が通常の創作能力を発揮すれば,引用発明1において相違点\nに係る構成を採用することができる旨主張する。\nしかし,前記のとおり,椅子型マッサージ機においては,身体が着座姿勢で固定 され,また身体の各部位の形状等が異なることから,その構成は,マッサージの対象部位に応じて異なるものになる。また,椅子型マッサージ機は定型的な動きしか\nできないから,椅子型マッサージ機の施療子部分の構成は,対象となるつぼの種類\nによっても異なるものになる。 したがって,引用発明1において,椅子型マッサージ機及びその施療子部分の構\n成に関連する相違点を採用することが,通常の創作能力の発揮であるということは\nできない。
b 原告は,引用例2には,引用発明2と同じ機構が下腿だけではなく,足の甲\nの部分にも適用できることが記載されているから,当業者は,引用発明2が下腿だ けではなく,身体の他の部分にも適応可能な機構\であることを理解し,また,他の 部分に適用することを示唆される旨主張する。 しかし,前記のとおり,椅子型マッサージ機の構成は,マッサージの対象部位に\n応じて異なるものになり,その施療子部分の構成も,対象部位に位置するつぼの種\n類に応じて異なるものになる。引用発明2と同じ機構が,下腿だけではなく,足の\n甲の部分にも適用できたとしても,当業者は,これを,身体の形状等が大きく異な り,施療子部分の構成も変更する必要がある背肩近辺にも適用可能\な機構であると\nは理解しないし,背肩近辺に適用することについて示唆を受けるものでもない。

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平成30(行ケ)10095  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月19日  知的財産高等裁判所

 審決は進歩性違反無しと判断しました。知財高裁も、動機付けなしとして、これを維持しました。

 前記ア認定のとおり,建築部材等の工業製品において,面と面との交わ りのかどに斜面又は丸みをつける「面取り」は,本件出願当時,周知であ ったことが認められる。 また,前記イ及びウのとおり,甲16には基台2の下面の両縁部の角が 斜面になっている構成が,甲17には,プラスチック等非腐蝕体(4)の\n下面の両縁部の角が斜面になっている構成がそれぞれ開示されている。\nしかしながら,甲1には,「面取り」に関する記載や,甲1発明の台座 の基盤1の下面縁部と側壁との間に下面又は側壁に対して傾斜する斜面の 記載はなく,ましてや,そのような斜面を基盤1の「延在方向に沿って設 け」ることについての記載も示唆もない。 かえって,甲1発明の台座においては,基盤1の側壁に突部tと凹部h を有し,隣り合う台座間で突部tと凹部hとを係合して接続するものであ ること(前記(2)ア及びエ)からすると,突部tや凹部hの一部を削って斜 面を設けることは考え難いというべきである。 加えて,甲1には,甲1発明の台座において,基盤1等の稜線に人が接 触して怪我をしないようにする措置を講じる必要があることをうかがわせ る記載はない。
そうすると,甲1,甲16及び17に接した当業者において,甲1発明 の台座に上記周知技術,甲16又は17記載の構成を適用して,基盤1の\n下面縁部と側壁との間に下面又は側壁に対して傾斜する斜面を設け,当該 斜面が基盤1の延在方向に沿って設けられる構成(相違点3に係る本件発\n明1の構成)とする動機付けがあるものと認めることはできない。\nしたがって,当業者が,甲1発明において,相違点3に係る本件発明1 の構成とすることを容易に想到することができたものといえないから,こ\nれと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

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平成30(行ケ)1007 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月28日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。新規事項追加の拒絶理由については、判断がされませんでした。

 前記(1)のとおり,甲13には,最適化されたナッツ,種子及びナッ ツ油といった複数の供給源による脂肪酸や抗酸化物質,ポリフェノールなど,それ ぞれの栄養素の量を最適化すること(【請求項3】,【0022】)や,異なる供給源 を使用することにより,過剰の場合は有害な特定の植物性化学物質の高濃度での送 達を回避すること(【0031】)が示唆されている。 そうすると,甲13発明において,植物性化学物質を,複数の異なる供給源に由 来するものとすることは,当業者が適宜採用することができる設計事項であると認 められる。
(イ)a 原告は,甲13の「ω−3脂肪酸に対して比較的高率のω−6脂肪 酸」,「抗酸化剤及び植物性化学物質[原告注:ファイトケミカル]全般を含む組成 物」という教示,又は,「ファイトケミカルの高濃度での送達が回避される」という 教示は,特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤を まとめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用 することを教示するものではない旨主張する。
原告の上記主張は,本願補正後発明1が「特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量 のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源 に由来するファイトケミカルを使用する」との技術思想に基づくものであることを 前提とするものであると解されるが,その主張を採用することができないことは, 前記(2)のとおりであるから,原告の上記主張は,理由がない。
b なお,原告は,ω-6 脂肪酸,抗酸化剤及びポリフェノールの含有量 は,食品供給源や,作物,産地によって異なり,複数の異なる供給源に由来する, ω-6脂肪酸及びポリフェノールを含む抗酸化剤の特定の量を維持しながら,異なる 供給源に由来するファイトケミカルを利用することは技術的に困難である旨主張す る。 ファイトケミカルの供給源であって,ω-6 脂肪酸の前駆体であるリノール酸を含 有するピーナッツ油,コーン油,ヒマワリ油等(甲21の【0004】【表1】,【0\n033】【表2−1】,【0034】【表\2−2】)や,ポリフェノールを含有するオリーブ油(甲21の【0084】),アーモンド・クルミ・ペカン・クリ・ピーナッツ 等の抗酸化物質を含有するナッツ類(甲21の【0024】〜【0026】)は,い ずれも当業者によく知られたものである。そして,ポリフェノールは,抗酸化剤の 例である(甲15,弁論の全趣旨)。
また,証拠(甲1,2,13,14,21)によると,供給源そのものや複数の 供給源から製造される組成物に含まれる ω-6 脂肪酸,ポリフェノールの含有量は, それぞれ測定可能であることが認められる。\nそうすると,ω-6 脂肪酸,抗酸化剤及びポリフェノールの含有量が,供給源によ って異なるとしても,目的とするω-6 脂肪酸,抗酸化剤の配合量とするために植物 由来の栄養素の供給源を適切に組み合わせて各成分の合計量を調節することは,技 術的に困難であるとはいえない。 また,ω-6 脂肪酸,抗酸化剤及びポリフェノールの含有量が,作物,産地等によ って異なるとしても,それは単一の供給源でも生じ得る問題であって,異なる供給 源を組み合わせる場合に固有の問題ではなく,上記のとおり,供給源のω-6 脂肪酸, ポリフェノールの含有量が測定可能であることからすると,上記認定を左右するも\nのではない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
c 原告の相違点 1 に係るその余の主張は,いずれも,本願補正後発明 1が「特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤をま とめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用す る」との技術思想に基づくことを前提とするものであると解されるところ,前記(2) のとおりであって,採用することができない。
イ 相違点2について
(ア) 前記(1)のとおり,甲13には,甲13発明に係る組成物に抗酸化物 質(【0022】,【0023】,【0031】,【0035】),ポリフェノール(【0023】)が含まれることが示唆されており,ポリフェノールが抗酸化剤であることは,本願出願時における技術常識であった(甲15,弁論の全趣旨)から,甲13発明 に係る組成物において,少なくとも一種の処方物をポリフェノールを含む抗酸化剤 を含むものとすることは,当業者が適宜採用することができる設計事項であると認 められる。
(イ) 原告は,「ピーナッツ」は,異なる供給源に由来するファイトケミカ ルを使用した「処方物」ではなく,甲13は,「抗酸化剤」自体を教示しているもの であって,特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤 をまとめて提供することや,当該提供を維持したまま,複数の異なる供給源に由来 するファイトケミカルを使用することを教示するものではないと主張する。 原告の上記主張は,本願補正後発明1が「特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量 のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源 に由来するファイトケミカルを使用する」との技術思想に基づくことを前提とする ものであると解されるところ,前記(2)のとおりであって,採用することができない。

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平成30(行ケ)10054  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月4日  知的財産高等裁判所(3部)

進歩性違反無しとした審決が維持されました。知財高裁は、「甲1文献の記載から,経日安定性の改善のために引用発明1の構成を2剤に変更するという解決手段を読み取れるにもかかわらず,さらに,甲2文献記載の技術事項を組み合わせる動機付けは見当たらない。」と述べました。
 原告は,本件発明1は,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合 わせることにより,当業者が容易に想到することができたものであると主 張する。
イ そこで検討するに,甲1文献における「比較例4,8〜10は発泡性, ガス保留性試験においては実施例2同様良好であったが,経日安定性に著 しく劣った。」(上記2(1)ケ)との記載から,引用発明1には経日安定性 に問題があることが理解され,当業者は,経日安定性の改善を課題として 見いだすといえる。 そして,1) 甲1文献に「後記特定組成の発泡性化粧料は,2剤型であ る為経日安定性に優れ,」(同エ)との記載があり,経日安定性試験の結 果が◎又は○である実施例1〜11(第1表)は2剤型の構\成であること (同ク),2) 経日安定性が○である比較例3(第2表)は,同様の第1\n剤と炭酸水素ナトリウムのみをPEGで被覆した粉末の2剤型の構成であ\nること(同ケ)から,炭酸塩と酸とを2剤に分ければ経日安定性が向上す ること,及び酸を水溶液とし,炭酸塩をPEG被覆すればアルギン酸ナト リウムが存在せずとも経日安定性は十分となることが理解できる。そうす\nると,これらの甲1文献に開示された事項に基づき,引用発明1の経日安 定性を改善しようとした場合,炭酸塩と酸との反応で経日安定性が低下す ることを避けるため,引用発明1において,「アルギン酸ナトリウム・炭 酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物」という構\n成を,「アルギン酸ナトリウム・炭酸塩含有PEG被覆粉末1」と「酸含有PEG被覆粉末2」との2剤に分けることは,当業者であれば容易に想 到するといえる。
このように,甲1文献の記載から,経日安定性の改善のために引用発明 1の構成を2剤に変更するという解決手段を読み取れるにもかかわらず,\nさらに,甲2文献記載の技術事項を組み合わせる動機付けは見当たらない。 また,引用発明1は二酸化炭素による血行促進作用によって皮膚を賦活 化させるための化粧料で,アルギン酸ナトリウムは安定な泡を生成し,二 酸化炭素の保留性を高めるために配合されているのに対し,甲2文献には 二酸化炭素の発生についての記載はなく,甲2文献記載の技術事項におけ るアルギン酸ナトリウムは二価以上の金属塩類との反応により皮膜を形成 するためのものであって,化粧料の使用目的もアルギン酸ナトリウムの配 合目的も異なるものである。そして,甲1文献及び甲2文献には,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合わせた場合に引用発明1における 発泡性及びガス保留性を維持することができることを示唆する記載もない から,このことからも,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合わ せる動機付けがあることは否定される。
ウ 以上によれば,本件発明1について,当業者が,引用文献1に甲2文献 記載の技術事項等を適用することによって容易に想到することができたと いうことはできない。また,以上に述べたところは,本件発明9における相違点Dについても妥当する。これによれば,本件発明2〜8,10〜13についても,同様 に,容易に想到することができたとはいえない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,引用発明1にはダマ形成問題及び攪拌問題が存在するから,こ れらの課題を解決するために,甲2文献記載の技術事項を組み合わせる動 機付けがあると主張する。
(ア) ダマ形成問題について
ダマとは粉末の水和が早いことにより起こり,粉末の回りを水分子が 取り囲んで塊となり,粉末の内部まで水が浸透していかず,粉末が均一 に水に分散しない状態をいうと解され,アルギン酸ナトリウムを水に溶 解する際にダマが生じる問題があることが認められる(甲2,59〜6 2)。 しかし,甲1文献にはこのような問題について記載も示唆もない。そ して,引用発明1のように炭酸塩とアルギン酸ナトリウムの混合物がP EGで被覆された粉末においては,アルギン酸ナトリウムは少しずつ水 に溶解することが容易に理解され,このような炭酸塩とアルギン酸ナト リウムとの混合物がPEGで被覆された粉末と,被覆のないアルギン酸 ナトリウム粉末では水和のし易さが異なるから,引用発明1において, アルギン酸ナトリウムを水に溶解する際の一般的な問題が同等に当ては まるということはできず,当業者が,引用発明1につきダマ形成問題の 課題を見出すとは認められない。 また,原告は,甲44文献の記載によれば,PEGの被覆によりダマ 形成問題は解消しないと主張するが,原告の指摘する「主成分(ママコ を生じ易い糊料)の特性が阻害されたり,糊液粘度も変動する等の問題 点を抱えており,ママコの形成方法ないし消失法として効果的でなかっ た」との記載は,PEGの被膜によりママコが消失したとしても,異な る問題が生じ得ることを示したものと解され,引用発明1においてダマ 形成問題があることの根拠とはならないのは明らかであるから,原告の 主張は採用できない。 以上によれば,当業者は,引用発明1においてダマが形成されるとい う問題が生じるとは理解しないというべきである。
(イ) 攪拌問題について
原告は,引用発明1において,アルギン酸ナトリウムがダマを形成し, また,アルギン酸ナトリウムの水溶液濃度の上昇に伴って粘度が飛躍的 に上昇し,これと並行して炭酸塩と酸の反応が進行するから,少しでも 多くの二酸化炭素を取り込むためには難溶解性のアルギン酸ナトリウム の溶解及び均一化をできる限り短時間で行うことが求められ,そのため の徹底的な攪拌が不便かつ煩わしいという問題があると主張する。 しかし,このような問題は甲1文献に記載も示唆もなく,かえって,発泡性及びガス保留性は◎という引用発明の試験結果に照らせば,引用 発明の構成において,少しでも多くの二酸化炭素を取り込むために,素\n早く徹底的な攪拌操作をする必要があり,これが煩わしいという課題が あるとは解し得ない。
イ 以上のとおり,引用発明1において,当業者が原告の主張する課題を見 いだすとは認められないから,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組 み合わせることの動機付けがあるということはできず,原告の主張は採用 できない。

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こちらは分割出願に関する関連事件(審決取消事件)です。

◆平成30(行ケ)10033

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平成30(行ケ)10048  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月6日  知的財産高等裁判所

 動機付けがなく、むしろ阻害要因があるとして、無効理由なしとした審決が維持されました。
(4) 相違点3の容易想到性について
ア 前記認定に係る各文献の記載によれば,まず,甲9の軸受保持部材28は, 鍔部及び係止爪と類似する構成であるフランジ34と突起32とを有するものの,\n当該軸受保持部材28は,回転するカッター軸38を回転自在に支持するものでは なく,オイルシール40と,ころがり軸受であるオイルレスベアリング42とを支 持するものであり,軸受け部材に相当するものではない。 他方,甲5〜8,10〜16及び18は,いずれも,軸受け部材に関する技術が 記載されたものと認められるところ,弾性変形可能な係止爪が外周に突出し,基端\n側に鍔部を有し,また,係止爪は先端側に向かうほど当該軸受け部材における軸の 回転中心との距離が短くなる斜面を有している軸受け部材を,固定された板状体に 対して装着し,当該板状体に設けられた穴に軸を回転自在に支承するものである点 で共通するものの,固定された板状体以外の部材に装着することについての記載や 示唆はない。 また,甲17においては,軸受Aが装着されるボス(6)自体は板状体ではないもの の,ボス(6)は板状のベース(5)に固定されたものであり,軸受Aのフランジ板(1)と爪 片(4)の係合突起(4a)との間にのみボス(6)が配置されるものである。そうすると, 甲17と甲5〜8,10〜16及び18とは,直接に装着する対象そのものが板状 体であるか否かという点で違いはあるものの,いずれも装着される部材は板状体又 は板状のものに固定された部材であり,これをフランジと爪片との間で狭持するよ うにして固定する軸受け部材である点で共通するといえる。 以上を踏まえると,甲5〜8及び10〜18により,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する,滑り軸受けである軸受け部材において,弾性変形可能な\n係止爪が外周に突出しており,基端側に鍔部を有しており,同係止爪は先端側に向 かうほど軸受け部材における軸の回転中心との距離が短くなる斜面を有している軸 受け部材。」を周知技術として認定することができる。これは,本件審決認定に係 る周知軸受け部材に相当する。なお,甲5〜18の全ての文献から,軸受け部材に 関する周知技術というべき共通の技術事項を認めることはできない。
イ また,その余の文献の記載を見ても,まず,甲2〜4は,いずれもY字形を なし,二股に分かれた部分の先端付近に一対の回転体を設けて構成される美容器に\nおいて,回転体が非貫通状態で軸に支持されることを開示するものの,当該回転体 の支持構造として,本件発明1のような「係止爪」及び「段差部」を用いるものではない。\n次に,甲19の1のマッサージローラーは,その内装面に周囲を巡る凹部を備え, 「段差部」に類似する構成を有するものといい得るものの,マッサージローラー自\n体が弾性材料より構成されることにより,鞘の外装面の周囲を巡る隆起との間でス\nナップ結合をすることができるようにしたものである点で,本件発明1とは異なる。 他方,甲20の1のプラグ200は,フランジ201及びラッチアーム204に 突起205を有する点で,本件発明1の軸受け部材に類似する構成を有するものと\nいい得るものの,プラグ200は,2つのモジュールを固定するものであって,支 持軸に設けられる軸受け部材として機能するものではない。加えて,プラグ200\nは,モジュール140の貫通した孔からロックピン240を挿入することにより, プラグ200のラッチアーム204がモジュールの開口のラッチ凹部から離脱する のを防止するものであるから,非貫通状態の回転体を支持するために用いることを 前提としないことは明らかである。 そうすると,軸受け部材を用いて軸に対して非貫通状態の回転体を支持する際に, 回転体の内面に段差部を設けるとともに,軸受け部材には当該段差部に係止する係 合爪を用いる構成が開示されていることを認めるに足りる証拠はない。\n
ウ そもそも引用発明1は,ベアリング12及びL型ベアリング13という2つ の軸受け部材を用いることによって,ローラー4を回転自在に支承するものであるところ,これを1つの軸受け部材に置き換えることが可能であることを記載ないし\n示唆する証拠は見当たらない。 また,仮に引用発明1のベアリング12及びL型ベアリング13を1つの軸受け 部材に置き換えることが可能であったとしても,引用発明1のローラー4は,顔面\nに接触させて回転させるものであり,その長手方向と直交する方向に荷重がかかる ことは明らかであるところ,1つの軸受け部材に置き換えてしまうと,ローラーを その根元の部分でのみ支承することとなってしまい,ローラーを安定して回転させ ることが困難となることは容易に推察される。 そうすると,引用発明1のベアリング12及びL型ベアリング13を1つの軸受 け部材に置き換える動機付けはなく,むしろ阻害要因が存するといえる。
エ 以上より,引用発明1に甲2〜20の1記載の事項を適用することによって, 相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者にとって容易に想到し\n得ることとはいえない。
オ 原告の主張について
(ア) 原告は,甲5〜18記載の事項を引用発明1に適用することが容易である ことを理由として無効理由の主張を行っているのではなく,これらの文献から共通して抽出される構成が周知の軸受け部材であるとし,これを引用発明1に適用する\nことが容易であったと主張しているにもかかわらず,本件審決は,各文献記載の事 項を個別に判断しており,その判断手法に誤りがあるなどと主張する。 しかし,甲5〜18の全ての文献から軸受け部材に関する周知技術というべき共 通の技術事項を見出すことはできないことは,前記のとおりである。本件審決は, その記載を通じて見れば,そのような理解を前提とした上で,個々の証拠における 軸受け部材を引用発明1に適用できるかを検討したものと理解されるのであり,そ の判断手法に違法があるものとはいえない。
(イ) 原告は,本件審決による周知軸受け部材の認定には誤りがある旨主張する けれども,この点に関する本件審決の判断に誤りがないことは前記のとおりである。
(ウ) 原告は,本件審決につき,実施可能要件適合性の判断においては甲5〜1\n8の記載を参酌し,板状体ではない回転体に使用する軸受け部材に係る係止片を弾 性変形させる場合に所定のクリアランスを設けることは技術常識であると認定する 一方で,進歩性の判断においては,甲5〜18の周知技術の認定として,これが技 術常識でないことを前提として判断しており,その認定・判断に矛盾があるなどと 主張する。 この点に関する原告の主張の趣旨は,やや判然としないが,そもそも,本件審決 は,実施可能要件適合性の判断の際,「係止爪を弾性変形させるために所定のクリ\nアランスを設けること」を技術常識として認定するにあたり,甲5〜18を参酌し たものではない。また,上記技術常識が認められるか否かと,甲5〜18の記載か ら原告主張に係る周知軸受け部材を認定し得るか否かとは,直接的な関係はない。 すなわち,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する,滑り軸受けである 軸受け部材において,弾性変形可能な係止爪が外周に突出しており,基端側に鍔部\nを有しており,同係止爪は先端側に向かうほど軸受け部材における軸の回転中心と の距離が短くなる斜面を有している軸受け部材」(本件審決認定に係る周知軸受け 部材)において,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する」ことは,係 止爪が弾性変形するためのクリアランスを設けることを前提とするか否かとは直接 的な関係がないことから,仮に係止爪が弾性変形するためのクリアランスを有する ことが技術常識であることを前提としても,その認定が異なることはない。
(エ) その他原告がるる指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は 採用できない。
(5)小括
以上のとおり,少なくとも,引用発明1に甲2〜20の1記載の事項を適用する ことによって,相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者にとっ\nて容易に想到し得たものとはいえない。そうである以上,その余の点を論ずるまで もなく,本件発明1を容易に発明することができたとはいえない。

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◆平成30(行ケ)10049

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平成30(行ケ)10024  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年11月14日  知的財産高等裁判所(2部)

 動機付けなしとした審決が維持されました。原告はソニーで、被告(特許権者)は富士フイルムです。
 原告は,甲3発明に甲4技術事項を適用し,さらに甲4技術事項を適用し た甲3発明に原告主張甲2技術事項を適用して,本件発明1を容易に想到すること ができた旨主張するので,同主張について検討する。 ア 前記2(3)のとおり,甲3発明は,テープ・ドライブのサーボ系を安定化 させる目的で(段落【0007】),テープ・カートリッジがテープ・ドライブに挿 入されるたびに,該テープ・ドライブのサーボ制御用低域通過フィルタの係数を, 挿入されたテープ・カートリッジに応じて設定し直すようにした発明(段落【00 09】)であって,甲3文献には,テープに記録されるサーボ・パターン自体はタイ ミング・ベース・サーボの基礎をなす既知のものだとされているが(段落【002 0】),サーボ・パターンによって何等かの情報を符号化して埋め込むことについて の記載はなく,また,そのような符号化が必要であるとの示唆もなく,ましてや, サーボバンド識別情報を同一のサーボバンド内に符号化することの必要性について の示唆はない。
 したがって,甲3発明にサーボバンド上に各種の情報を符号化する技術である甲 4技術事項やサーボバンド識別情報を同一のサーボバンド内に符号化する技術であ る原告主張甲2技術事項を適用する動機付けがあると認めることはできない。 また,甲3発明に甲4技術事項を適用した上で,さらに原告主張甲2技術事項を 適用することは,タイミング・ベース・サーボを前提として,サーボバンド上に情 報の符号化をすることについて何らの開示がない上記の甲3発明に,甲4文献で開 示されているタイミング・ベース・サーボにおける情報の符号化の方法を示した甲 4技術事項と,アンプリチュード・サーボにおいて同一のサーボバンド内にサーボ バンド識別情報を符号化することを示した原告主張甲2技術事項を重ねて適用する ものであるが,甲3文献には,サーボバンド上に情報を符号化することの記載すら ないのであるから,そのような状況で,同一のサーボバンド内にサーボバンド識別 情報を符号化することを示した技術を適用することが容易であったということはで きないというべきである。
イ 原告の主張について
原告は,甲3発明は複数のサーボバンドを有する磁気テープである点で原告主張 甲2技術事項と共通すること及び複数のサーボバンドを有する磁気テープにおいて は,サーボ読取りヘッドが自らが位置するサーボバンドを何らかの方法によって特 定する必要があるという課題が存在し,この課題は周知であることから,上記動機 付けが存在することは認められる旨主張する。 しかし,甲3発明は複数のサーボバンドを有する磁気テープであり,また,複数 のサーボバンドを有する磁気テープにおいて,サーボ読み取りヘッドが自らが位置 するサーボバンドを何らかの方法によって特定する必要があることは周知であると しても,甲3発明は,前記アのようなものであるから,甲3発明に甲4技術事項を 適用した上で,さらに原告主張甲2技術事項を適用することが動機付けられるとい うことはできない。このことは,タイミング・ベース・サーボにおいて,非平行な 縞を構成する線の位置をテープ長手方向にずらすことによりデータを符号化するこ\nとが,当業者にとって周知となっていたとしても,左右されるものではない。

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平成29(行ケ)10106  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年10月22日  知的財産高等裁判所

 知財高裁2部は、進歩性違反無しとした審決を取り消しました。審決は予測できない効果があると認定しましたが、裁判所は、比較対象や有効性の程度を当業者が推論できないと判断しました。\n
 甲1発明の医薬は,治療的有効量の抗HER2抗体を含有する医薬で あるが,前記2(1)オによると,本件優先日当時,1)抗HER2抗体は,HER2蛋 白の細胞外領域に対し結合することにより,HER2蛋白を過剰発現する乳がん細 胞の増殖を抑制するとともに,抗体依存性細胞障害(ADCC)を示すこと,2)H ER2蛋白の過剰発現は,転移性乳がんに限らず,初期乳がんの25%〜30%で 観察されること,3)HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有する転移性乳がん患者の 臨床試験では,パクリタキセルを含む特定の化学療法剤の単独投与群に比べて,そ の化学療法剤と抗HER2抗体の併用投与群の方が病勢進行の期間(無増悪期間) が長期化し,全奏効率(ORR)が向上し,反応期間の中央値が長期化し,1年間 の生存率が高まるなど,抗腫瘍効果が増強されることが観察されたこと,4)抗HE R2抗体の臨床試験では,単剤投与においても,化学療法剤との併用投与において も,HER2蛋白をより強く発現している症例の方が抗腫瘍効果,無増悪期間とも に優れている傾向にあったことは,いずれも技術常識であったものと認められる。 また,前記2(3)エによると,本件優先日当時,乳がんの治療薬の開発においては, 転移性乳がんの患者に対する抗がん効果を踏まえて,手術可能乳がんの患者に対す\nる抗がん効果を確認することになることは,技術常識であったものと認められる。 そして,これらに,本件優先日前に頒布された刊行物であり,「乳がんのための術 前補助療法の将来的方向」を表題とする甲2には,抗HER2抗体とドキソ\ルビシ ン,シクロホスファミドを転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介し た直後に,「一次化学療法と組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がん の患者で評価されるべきものである」と記載されている(前記2(1)イ(ア)(カ))ことを 総合すると,甲1に接した当業者は,HER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がん\nの治療のために,治療的有効量の抗HER2抗体を含有する医薬である甲1発明の 医薬を適用することを容易に想到するものと認められる。
(イ) 前記2(1)オ,(2)エによると,本件優先日当時,1)乳がんにおいて,乳 房温存の成否は一般に女性のQOL(生活の質)に大きな影響を与えるところ,術 前補助療法は,手術をより容易とし,乳房温存も高率に可能とすることが示されて\nいたこと,2)手術可能乳がんにおいて,術前化学療法,次いで外科的に腫瘍を除去\nし,更に術後補助化学療法を行うことは,一般的治療法として行われていること, 3)HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有する転移性乳がん患者の臨床試験では,パ クリタキセルを含む特定の化学療法剤の単独投与群に比べて,その化学療法剤と抗 HER2抗体の併用投与群の方が病勢進行の期間(無増悪期間)が長期化し,全奏 効率(ORR)が向上し,反応期間の中央値が長期化し,1年間の生存率が高まる など,抗腫瘍効果が増強されることが観察されたことは,技術常識であったと認め られる。また,本件優先日前に頒布された刊行物である甲3には,HER2過剰発 現の転移性乳がん患者に対する抗HER2抗体とパクリタキセルなどの化学療法剤 の併用投与が化学療法剤の単独投与に比べて全寛解率,進行までの中央値時間とも 優れた効果を発揮したことを紹介した上で,「転移性状況や術後補助状況で成功す ることが分かっている新規の化学療法戦略はまた,術前処置においても潜在的に適 用されうる」と記載されている(前記2(1)ウ(オ)(カ))。 そして,これらに,本件優先日前に頒布された刊行物であり,「乳がんのための術 前補助療法の将来的方向」を表題とする甲2には,抗HER2抗体とドキソ\ルビシ ン,シクロホスファミドを転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介し た直後に,「一次化学療法と組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がん の患者で評価されるべきものである」と記載されている(前記2(1)イ(ア)(カ))ことを 総合すると,甲1に接した当業者が,HER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がん\nの治療のために,手術前に甲1発明の医薬を化学療法剤と併用投与し,手術を行い, 更に手術後に甲1発明の医薬を化学療法剤と併用投与することは,容易に想到し得 たものと認められる。
イ(ア) 被告は,本件優先日当時,トラスツズマブの生体内における作用機序は 未だ研究対象であり,化学療法についても投与計画について検討が続けられており, いずれの文献にも,乳がんの治療において,抗体を術前投与するという記載は全く 存在していなかったから,未だ承認されたばかりの新規の抗体を,その奏効が確認 されつつあった化学療法剤の術前投与に代えて,又は加えて,投与してみることは, 当業者であればこそ考えないなどと主張する。 しかし,前記アのとおり,抗HER2抗体である甲1発明の医薬を手術前に化学 療法剤と併用投与することは,当業者が容易に想到し得たものである。 また,前記2(1)オのとおり,抗HER2抗体には心毒性があり,投与により心室 機能不全及びうっ血性心不全が起こり得るものと認められるが,甲1発明の医薬は\n転移性乳がんの患者を対象とした医薬製剤として承認されているものであり,手術 可能乳がんの患者に対する適用をためらわせるほどに安全性に問題があるものとは\n認められない。
(イ) 被告は,甲2について,論文全体を通じて,最適な治療レジメンにおい ては,まず化学療法が行われ,他の治療法は時間的に後で実施されると明確に述べ ているなどと主張するが,甲2は,「乳がんのための術前補助療法の将来的方向」と いう表題の論文であり,抗HER2抗体とドキソ\ルビシン,シクロホスファミドを 転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介した直後に「一次化学療法と 組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がんの患者で評価されるべきも のである」と記載されているのであるから,早期乳がんの患者に対して抗HER2 抗体と化学療法を組み合わせて術前に処方することが示唆されているということが でき,前記アのとおり,甲2の記載は抗HER2抗体である甲1発明の医薬を手術 前に化学療法剤と併用投与することを動機付けるものということができる。
(ウ) 被告は,転移リスクの高いがん(既に転移したがん)の細胞は,原発部 位に留まるがんの細胞とは性質が異なるなどと主張する。 しかし,前記2(3)ウのとおり,本件優先日当時,がんにおいて,転移巣の組織像 は基本的には原発巣と同一であると考えられていたところ,被告は,HER2蛋白 を過剰発現した転移性乳がんの細胞とHER2蛋白を過剰発現した手術可能乳がん\nの細胞とのいかなる性質の違いが,どのような理由によりHER2蛋白の細胞外領 域に対し結合する抗HER2抗体(標的化治療薬)をHER2蛋白を過剰発現した 手術可能乳がんの細胞に適用することの支障となり得るのかを具体的に主張してお\nらず,HER2蛋白を過剰発現した転移性乳がんの細胞とHER2蛋白を過剰発現 した手術可能乳がんの細胞との性質の違いが,HER2蛋白の細胞外領域に対し結\n合する抗HER2抗体(標的化治療薬)をHER2蛋白を過剰発現した手術可能乳\nがんの細胞に適用することの支障となることを示す証拠も見当たらない。 したがって,被告の上記主張は,前記アの判断を左右するものとは認められない。
(4) 本件特許発明1の効果について
ア 前記1のとおり,本件訂正明細書には,本件特許発明1の効果として, 臨床試験の結果などは示されておらず,「上記の治療方法に従って治療された患者 は,全体的に改善された生存者,及び/又は腫瘍の進行時間(TTP)の延長を示 すであろう。」(【0119】)との記載があるにとどまる。 ところで,前記2(1)(2)の各刊行物の記載からすると,乳がんにおいて,生存率及 び腫瘍の進行時間(TTP)は,抗がん剤の効果を図る一般的な指標であると認め られるところ,上記の本件訂正明細書の記載は,生存率の改善及び腫瘍の進行時間 (TTP)の延長がいかなる対象(例えば,手術のみを行った場合か,手術と術後 化学療法を行った場合か,術前化学療法と手術と術後化学療法を行った場合か,術 前化学療法と手術と抗HER2抗体の術後投与を行った場合か,手術可能乳がんに\n対し抗HER2抗体投与のみを行った場合か)と比較して達成されるものであるの かという比較対象や,生存率の改善や腫瘍の進行時間(TTP)の延長がいかなる 程度達成されるのかという有効性の程度については,何ら記載されていない。また, 本件訂正明細書の記載から,その比較対象や有効性の程度を当業者が推論できるも のとも認められない。 そうすると,本件特許発明1の効果は,本件特許発明1の医薬がこれを投与しな い場合と比較して生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的 効果を有することにとどまるものとするのが相当である。 そして,前記2(1)アのとおり,甲1には,HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有 する転移性乳がん患者に対し,甲1発明の医薬を特定の化学療法剤(1)パクリタキ セル,2)アントラサイクリン〔ドキソルビシン又はエピルビシン〕及びシクロホス\nファミド)と併用投与すると,その化学療法剤を単独投与された患者に比べ,病勢 進行の期間が著しく長期化し,1年間の生存率が高まることが記載されているから, 当業者は,甲1発明の医薬が,HER2蛋白を過剰発現する転移性乳がん患者に対 し,生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果を有する ことを理解することができ,この甲1発明の医薬を本件特許発明1の工程によりH ER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がんに適用した場合に,これを投与しない場\n合と比較して生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果 を有することは,当業者が予測可能\なものである。
イ 被告は,本件訂正明細書の発明の効果の定性的な記載に基づき,具体的 な実験データを参照することは妥当であるから,甲17,19〔審判乙1,3〕に 基づき本件特許発明1には顕著な効果があるなどと主張する。 しかし,前記アのとおり,本件訂正明細書の記載及びこれから推論できる本件特 許発明1の効果は,本件特許発明1の医薬がこれを投与しない場合と比較して生存 率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果を有することにと どまる。そこで,本件優先日後の刊行物である甲17,19〔審判乙1,3〕の実 験データを,本件訂正明細書の記載の範囲で,上記定性的効果を示すという限度に おいて参酌するとしても,前記アのとおり,上記定性的効果は当業者が予測可能\な ものであるから,顕著な効果を示すものということはできない。他方,甲17,1 9〔審判乙1,3〕の実験データを,上記定性的効果を超えて参酌することは,本 件訂正明細書の記載の範囲を超えるものであるから,これを本件特許発明1の効果 として参酌することはできない。その余の本件優先日後の刊行物である甲18,2 0,21〔審判乙2,4,5〕についても,同様である。 したがって,本件優先日後の刊行物である甲17〜21〔審判乙1〜5〕につい ては,その具体的内容を検討するまでもなく,本件特許発明1に顕著な効果がある ことを示すものということはできない。

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平成29(行ケ)10165等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年10月11日  知的財産高等裁判所

 進歩性有りとした審決が取り消されました。理由は動機付けあり+特段の効果が無いというものです。
 業者が,相違点2に係る本件発明6の構成,すなわち,引用発明2−1\nに係る4/2/1投与計画による本件抗体の投与を,本件発明6に係る8/6/3 投与計画による本件抗体の投与とすることを,容易に想到することができたか否か について検討する。
(イ) 前記のとおり,当業者は,本件優先日当時,乳がんの治療薬を含む一般的 な医薬品において,投与量を多くすれば,投与間隔を長くできる可能性があり,医\n薬品の開発の際には,投与量と投与間隔を調整して,効能と副作用を観察すること,\n抗がん剤治療において,投与間隔を長くすることは,患者にとって通院の負担や投 薬時の苦痛が減ることになり,費用効率,利便性の観点から望ましいということを 技術常識として有していたものである。 そして,引用例2には,本件抗体の薬物動態を観察するに当たり,本件抗体が週 1回10〜500mgの短持続期間の静脈注入が行われた旨記載されている。ここ で,週1回10〜500mgの投与は,患者の体重が60kgの場合は0.167 〜8.33mg/kg,70kgの場合は0.143〜7.14mg/kgに相当 する。そうすると,引用例2には,本件抗体を週1回8mg/kg程度までの投与 量で投与できることは,示唆されているといえる。 また,引用例2には,本件抗体の臨床試験において,本件抗体の毎週の投与と化 学療法剤の3週間ごとの投与を組み合わせるという治療方法が記載されている。 さらに,引用例2には,本件抗体の薬物動態として,本件抗体は投与量依存的な 薬物動態を示し,投与量レベルを上昇させれば,半減期が長期化する旨記載されて いる。
そうすると,上記のとおりの技術常識を有する当業者は,引用発明2−1のとお り本件抗体を4/2/1投与計画によって投与するだけではなく,本件抗体の投与 量と投与間隔を,その効能と副作用を観察しながら調整しつつ,本件抗体の投与期\n間について,費用効率,利便性の観点から,併用される化学療法剤の投与期間に併 せて3週間とすることや,本件抗体の投与量について,8mg/kg程度までの範 囲内で適宜増大させることは容易に試みるというべきである。そして,当業者が, このように通常の創作能力を発揮すれば,本件抗体を8/6/3投与計画によって\n投与するに至るのは容易である。
(ウ) 被告の主張について 被告は,本件優先日前には,4/2/1投与計画のみが臨床的に用いられ,本件 抗体の半減期も1週間程度と考えられていたから,8/6/3投与計画のように投 与間隔について半減期を大きく超える3週間にすることなどは,技術の最適化とは いえないと主張する。 しかし,引用例2には,本件抗体を週1回8mg/kg程度までの投与量で投与 できることが示唆され,また,本件抗体の投与量レベルを上昇させれば,半減期が 長期化する旨記載されている。さらに,丙323の1には,投与間隔が半減期に比 べて長い場合を前提とした留意事項が記載されている。そして,前記のとおりの技 術常識を有する当業者が通常の創作能力を発揮すれば,4/2/1投与計画による\n本件抗体の投与を,8/6/3投与計画による本件抗体の投与とすることは容易に 想到し得るものである。なお,A博士の宣誓書(乙8)には,がん専門臨床医は, 未試験の投与レジメンを実験することは患者の生命をリスクにさらすことになるか ら,本件抗体を8/6/3投与計画で投与することを動機付けられないなどと記載 されているが,臨床医が薬剤の新たな用法用量を臨床的に試みる動機付けがないこ とをもって,薬剤の新たな用法用量の開発を試みる動機付けを否定するものにはな らない。
(エ) よって,当業者は,引用例2の記載及び技術常識に基づき,相違点2に係 る本件発明6の構成を容易に想到することができたというべきである。\n
イ 効果について
(ア) 引用発明2−1に基づく本件発明6の進歩性を判断するに当たっては,相 違点2に係る本件発明6の構成に至ることが容易かどうかだけではなく,本件発明\n6が予測できない顕著な効果を有するか否かについても併せ考慮すべきであり,本\n件発明6に予測できない顕著な効果があることを基礎付ける事実は,特許権者であ\nる被告において,主張,立証する必要がある。 そして,本件において,被告は,本件抗体を8/6 可能である。そうすると,8/6/3投与計画は,相応の治療効果を維持しつつ,\n引用発明2−1と比較して投与間隔を3倍にするものということはできる。 しかし,引用例2には,本件抗体は投与量依存的な薬物動態を示し,投与量レベ ルを上昇させれば半減期が長期化すること,本件抗体を4/2/1投与計画で投与 すれば約79μg/mlのトラフ血清濃度を維持できたことが記載されている。そ して,この記載から,本件抗体を8/6/3投与計画で投与すれば,17μg/m l程度のトラフ血清濃度を維持できるであろうことは予測できる。\nそうすると,実施可能要件やサポート要件に関しては格別,進歩性に関しては,\n本件発明6が過去の臨床試験で求められる程度の治療効果を有しつつ,単に投与間 隔が3倍になったことをもって,本件発明6の治療効果が引用発明2−1と比較し て予測できない顕著なものということはできない。
(ウ) 治療効果
a 引用例2には,本件抗体を4/2/1投与計画で投与した場合の治療効果と して,16週と32週の間で,トラスツズマブ血清濃度は,定常期に達し,平均ト ラフ濃度及び平均ピーク濃度は,それぞれ,約79μg/ml,123μg/ml となったこと,化学療法剤単独の場合と比較すれば,病勢進行の期間が著しく長期 化し,1年間の生存率が高まったことが記載されている。 b 他方,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合,「お よそ10−20μg/mlのトラフ血清濃度を維持」される(【0114】),「血 清中濃度が過去のハーセプチンIV臨床試験の目標トラフ血清濃度の範囲(10− 20mcg/ml)で,17mcg/mlとなることを示唆している。」(【01 16】)と記載されている。もっとも,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投 与計画で投与した場合における,病勢進行の期間の長期化や生存率に関する具体的 な記載はない。
c ところで,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合 における,病勢進行の期間の長期化や生存率に関する具体的な記載はないから,本 件発明6の治療効果は不明であって,引用発明2−1と同等の治療効果を有すると は直ちにはいえない。 また,一般にトラフ血清濃度は,一連の薬剤投与における最少の持続した有効薬 剤濃度であるから(本件明細書【0044】),一連の薬剤投与において維持され るトラフ血清濃度が高い場合には,それだけ有効薬剤濃度が高く,治療効果も高い と評価することは可能である。しかし,引用発明2−1と本件発明6のトラフ血清\n濃度を比較するに,引用発明2−1において維持されるトラフ血清濃度は約79μ g/mlであるのに対し,本件発明6において維持されるトラフ血清濃度はせいぜ い17μg/mlにとどまる。そうすると,トラフ血清濃度において比較した場合 においても,本件発明6の治療効果は引用発明2−1と同等の治療効果を有すると はいえない。 なお,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合における 副作用の抑制効果に関する記載もないから,副作用の抑制という観点からも,本件 発明6は,引用発明2−1と同等の治療効果を有するとはいえない。 d よって,本件発明6が引用発明2−1と同等の治療効果を有すると認めるこ とはできない。

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平成29(行ケ)10193  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月25日  知的財産高等裁判所

 審決では進歩性なしと判断されましたが、知財高裁は「固体電解質体の表\n面が露出する程度の隙間を設定することは,記載も示唆もされていない」として これを取り消しました。
 本件審決は,本件発明1における相違点1のうち,構成要件1I) の「ジル コニア充填部に設けた電極と開口用貫通穴との隙間から,ジルコニア充填部 の表面を露出させること」に関し,引用発明2の1に甲3技術1を適用して\n接着剤表面アルミナ層とするに当たり,1) 甲3の記載から,接着剤表面アルミナ層が,第1電極や第2電極の表\面の周縁部と重複してしまうと,第1電極又は第2電極の他の部分,及び,接着剤表面アルミナ層の他の部分と比較して厚くなってしまうことから,\nアルミナからなる接着剤の層を導体層の平坦部と略面一にすることによって,各未焼成シート又は各未焼成スペーサに亀裂が発生することを防止するという目的が果たせなくなることは当業者にとって明らかであるから,アルミナからなる接着剤の層と導体層が略面一であることが必須であるのに対して,アルミナからなる接着剤の層と導体層の側面とが隙間を空けることなく接することは必須ではないことは,当業者にとって明らかである, 2) 第1電極又は第2電極の表面の周縁部に,接着剤表\面アルミナ層を隙間なく接触させるように設計又は製造を行うと,避けることのできない製造誤差により,第1電極又は第2電極と接着剤表面アルミナ層が重複することがあり得るので,そのような事態を回避するために,第1電極及び第2電極と接着剤アルミナ層との間に隙間を設けることによって余裕を持たせ,第1電極及び第2電極と接着剤表\面アルミナ層との重複を回避することは,当業者が適宜なし得ることである, 3) そして,その隙間をどの程度にするかは,製造誤差の程度等を勘案して 当業者が適宜設定し得るものであって,固体電解質体の表面が露出する程\n度の隙間とすることも適宜設定し得る範囲内のものである, と判断した。
(5) そこで検討するに,本件審決が認定したとおり,甲3には,甲3技術1が 記載されており,本件特許に係る出願当時,積層タイプのガスセンサ素子に おいて,これを構成する各未焼成シートをアルミナからなる接着剤を介して\n積層することは,当業者にとって周知の技術であったと認められる。しかし, 甲3には,1)接着剤が導体層の周縁部に重複すると,亀裂の発生を防止する ことができないから,導体層と接着剤とが隙間なく接することは必須ではな いことや,2)避けることのできない製造誤差により,接着剤が導体層の周縁 部に重複すること,また,3)製造誤差の程度を勘案して,固体電解質体の表\n面が露出する程度の隙間を設定することは,記載も示唆もされていないし, 上記1)〜3)の事項が,当業者にとって当然の技術常識であると認めるに足り る証拠も見当たらない。 仮に,「製造誤差」を考慮して接着剤の量を調整することが,当業者の技 術常識であるとしても,甲3の段落【0049】及び【0050】の記載, 及び当該段落が引用する図6〜9に接した当業者は,接着剤の量は,導体層 に設けられた平坦部と略面一となるように,すなわち,当該平坦部との間に できるだけ隙間を生じないように調整するものと理解すると認めるのが相当 である。 そうすると,引用発明2の1に甲3技術1を適用するに当たり,当業者が 「電極と接着剤との間に隙間を設ける」構成を採用する動機付けがあると認\nめることはできず,構成要件1I)に係る「上記ジルコニア充填部に設けた上記 電極と上記開口用貫通穴との隙間から,上記ジルコニア充填部の表面を露出\nさせる」構成を,当業者が容易に想到できたということはできない。
(6) 原告の主張について
この点に関連して,原告は,甲3に導体層等の周りを接着剤で埋めること についての記載はないから,導体層と接着剤とを隙間なく密着させることま でが必要とされているのではないと主張する。 甲3に,導体層等の周りを接着剤で埋めるとの文言が明記されていないの は原告が主張するとおりであるが,甲3に,上記(5)の1)〜3)の事項が記載も 示唆もされていないことは,上記(5)において説示したとおりである。 そして,甲3の段落【0049】には,接着剤を導体層における平坦部と 略面一になるように塗布したと記載されている上に,当該段落が引用する図 6及び7,並びに段落【0050】が引用する図8及び9には,当該接着剤 が導体層に隙間なく接するように塗られている図が描かれていることからす ると,これらの記載に接した当業者は,接着剤を当該平坦部との間にできる だけ隙間を生じないように塗布するものと理解するのが自然というべきであ る。

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平成29(行ケ)10171  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月19日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。出願時の技術常識又は周知技術に照ら調製を試みる動機付けがあるというものです。
   前記アの記載事項を総合すると,本件出願の優先日(平成7年3月25 日)当時,1)乾燥温度等の乾燥条件の調節により,水和水の数の異なる炭 酸ランタン水和物を得ることができること,2)水和物として存在する医薬 においては,水分子(水和水)の数の違いが,薬物の溶解度,溶解速度及 び生物学的利用率,製剤の化学的安定性及び物理的安定性に影響を及ぼし 得ることから,医薬の開発中に,検討中の化合物が水和物を形成するかど うかを調査し,水和物の存在が確認された場合には,無水物や同じ化合物 の水和水の数の異なる別の水和物と比較し,最適なものを調製することは, 技術常識又は周知であったものと認められる。
(4) 相違点1の容易想到性の有無について ア 甲1には,慢性腎不全患者におけるリンの排泄障害から生ずる高リン血 症の治療のための「リン酸イオンに対する効率的な固定化剤,特に生体に 適応して有効な固定化剤」の発明として,「希土類元素の炭酸塩あるいは 有機酸化合物からなることを特徴とするリン酸イオンの固定化剤」が開示 され,その実施例の一つ(実施例11)として開示された炭酸ランタン1 水塩(1水和物)のリン酸イオン除去率が90%であったことは,前記(2) イのとおりである。
前記(3)イ認定の本件出願の優先日当時の技術常識又は周知技術に照ら すと,甲1に接した当業者においては,甲1記載の炭酸ランタン1水和物 (甲1発明)について,リン酸イオン除去率がより高く,溶解度,溶解速 度,化学的安定性及び物理的安定性に優れたリン酸イオンの固定化剤を求 めて,水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けが あるものと認められる。
そして,当業者は,乾燥温度等の乾燥条件を調節することなどにより, 甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)を,水和水の数が3ないし 6の範囲に含まれる炭酸ランタン水和物の構成(相違点1に係る本件発明1の構\成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。これと異なる本件審決の判断は,前記(3)イ認定の本件出願の優先日当時 の技術常識又は周知技術を考慮したものではないから,誤りである。
イ これに対し被告は,1)甲1には,水和水の数の違いにより,リン酸イオ ン除去率に違いが生じることについての記載も示唆もないし,また,本件 出願の優先日当時,炭酸ランタン水和物の水和水の数を変更すると,リン 酸(塩)結合能力に影響が出るであろうことを示唆する技術常識又は周知技術は存在しない,2)甲1に接した当業者は,水和水の数を変更すること に着目することはなく,むしろ,甲1に列挙された各種の有機酸を含む希 土類元素の有機酸化合物を調製するか,あるいはアルカリ金属やアルカリ 土類金属を含有する複塩を調製し,リン酸イオン除去率を調べるはずであ る,3)甲1には,炭酸ランタン1水和物を用いた実施例11について,問 題となる点が何ら記載されておらず,完結した発明として記載されている から,この実施例を見た当業者は,炭酸ランタン1水和物で充分と考え, 炭酸ランタン1水和物における水和水の数を変更しようなどとは考えなか ったはずである,4)炭酸ランタン水和物は,水又は有機溶媒にほとんど溶 解しないから(甲51),溶解特性の面から水和水の数の違いについて検 討を試みる動機付けはないなどとして,甲1に接した当業者においては, 甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)を相違点1に係る本件発明 1の構成に置換する動機付けはないから,相違点1は当業者が容易に想到し得たものとはいえない旨主張する。
しかしながら,上記1)ないし3)の点については,前記(3)イのとおり,水 和物として存在する医薬においては,水分子(水和水)の数の違いが,薬 物の溶解度,溶解速度及び生物学的利用率,製剤の化学的安定性及び物理 的安定性に影響を及ぼし得ることから,医薬の開発中に,検討中の化合物 が水和物を形成するかどうかを調査し,水和物の存在が確認された場合に は,無水物や同じ化合物の水和水の数の異なる別の水和物と比較し,最適 なものを調製することが,本件出願の優先日当時,技術常識又は周知であ ったことに照らすと,甲1自体には,水和水の数の違いによりリン酸イオ ン除去率に違いが生じることや炭酸ランタン1水和物を用いた実施例11 について問題点の記載がないからといって,甲1に接した当業者において, 甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)について水和水の数の異な る炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けがあることを否定すること はできない。また,リン酸(リン酸イオン)の固定化反応は,炭酸ランタ ン水和物が溶解して生成されたランタンイオンがリン酸イオンと反応する ことにより固定化するものであるところ(前記(2)ア(エ)の甲1記載事項), 上記のとおり,水和物として存在する医薬については,水分子(水和水) の数の違いが,薬物の溶解度及び溶解速度に影響を及ぼし得るのであるか ら,溶解度又は溶解速度の向上によりランタンイオンの溶存濃度を高め, ひいてはリン酸(リン酸イオン)の固定化反応の促進(リン酸結合能力)に影響を及ぼし得ることは自明である。
次に,上記4)の点については,仮に被告が主張するように炭酸ランタン 水和物は水又は有機溶媒にほとんど溶解しないとしても,上記のとおり, リン酸イオンの固定化反応は,炭酸ランタン水和物が溶解して生成された ランタンイオンがリン酸イオンと反応することにより固定化するものであ る以上,炭酸ランタン水和物が水又は有機溶媒に全く溶解しないものとは いえないこと,溶解度が低い水和物についても,無水物や水和水の数が異 なる化合物の調製の検討が行われていること(例えば,甲9では,「水に 極めて溶けにくい」エリスロマイシン(甲54)について,1水和物,2 水和物及び無水物の比較検討をしている。)(前記(3)ア(ア)bの「(1)」) に照らすと,炭酸ランタン水和物においても,水和水の数の違いが溶解度, 溶解速度,化学的安定性及び物理的安定性に影響を及ぼし得るものといえ るから,甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)について水和水の 数の異なる炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けがあることを否定 することはできない。

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平成29(行ケ)10218  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年8月9日  知的財産高等裁判所

 UFJ銀行の出願(CS関連発明)について、拒絶審決が維持されました。争点は、進歩性です。
 引用発明1はコンピュータ上の対話型処理を行うシステムである。また,当業者 は,本願出願日時点において,コンピュータ上の対話型処理システムである引用発 明1には,コンピュータによる対話型処理の「円滑化を図る」という周知の課題が あることを理解し,引用発明1の通信端末に,キャラクタが動いているような表示\nをするとの周知の解決手段の適用を試みるということができる。 一方,引用発明2はコンピュータ上の対話型処理を行うナビゲーション装置であ る(引用例2【0038】【0050】【0051】)。また,引用発明2は,表\n示装置にエージェントを表示し,回答時に当該エージェントの口が開くというもの\nであるから,当業者は,かかる構成を,コンピュータによる対話型処理の「円滑化\nを図る」という周知の課題を解決するための,周知の解決手段の一つ,すなわち通 信端末にキャラクタが動いているような表示をする構\成の一つであると理解する。 そうすると,引用発明1に上記周知の課題があることを認識し,これに上記周知 の解決手段の適用を試みる当業者は,同じ技術分野に属し,かかる課題を解決する 手段である引用発明2を,引用発明1に適用することを動機付けられるというべき である。
ウ 原告の主張について
(ア) 原告は,周知の課題として「メディアコミュニケーションの円滑化を図る」 などと認定することは,課題を殊更に上位概念化するものであると主張する。 しかし,引用発明1及び2は,いずれもコンピュータ上の対話型処理システムの 技術分野に関するものである。そして,このような技術分野に関する前記各文献に は,「ユーザが自然に計算機へ音声入力できる雰囲気」(周知例1・97頁),「反 応のない機械に対して発話するために間が掴み辛い」(甲6【0002】),「ユ ーザと電子機器とがコミュニケーションを取り易い環境を構築」(乙9【0019】),\n「人間を相手にしているかのような自然なコミュニケーションを通じた情報入力」 (乙10【0008】),「より自然な対話を実現」(乙11・31頁右欄)など と,コンピュータ上の対話型処理システムにおいて,対話型処理の「円滑化を図る」 必要性が複数指摘されている。 したがって,本願出願日時点において,コンピュータによる対話型処理の「円滑 化を図る」ことは,周知の課題であったと認定することができ,これは課題を殊更 に上位概念化するものということはできない。
(イ) 原告は,引用例1には本件補正発明の課題が記載されていないから,当業 者には,引用発明1に基づき相違点に係る本件補正発明の構成に到達しようという\n動機付けがないと主張する。 しかし,前記のとおり,引用発明1及び2は,コンピュータ上の対話型処理シス テムの技術分野に関するものであって,このような技術分野では,本願出願日時点 において,コンピュータによる対話型処理の「円滑化を図る」ことは周知の課題で あったものである。そして,本件補正発明は,システム上で仮想オペレータとユー ザが対話を行うというものであり(本件補正明細書【0001】【0046】), コンピュータ上の対話型処理システムの技術分野に関するものであるから,本件補 正発明は,引用発明1及び2と同様に,上記周知の課題を含むものである。また, そもそも,引用発明1を出発点として本件補正発明の構成に到達するか否かを検討\nするに当たり,引用発明1が本件補正発明の課題を必ず有していなければならない ということはできない。 したがって,引用例1には本件補正明細書に記載された本件補正発明の課題と同 じ課題が記載されていないから動機付けを欠く,との原告の主張は採用することが できない。
(4) 引用発明2を適用した引用発明1の構成
ア 前記(2)ウ(ウ)のとおり,引用発明2には,「現実の事業者のオペレータを模 造した人物を表示装置に表\示するナビゲーション装置において,当該模造した人物 が話しているように表示するため,待機中と比較して,回答側センターの応答音声\nデータをスピーカから出力させる際に,当該模造した人物の口を開くように当該模 造した人物を表示すること。」との具体的な構\成が含まれている。 イ 一方,本件補正発明の構成は,通信端末において,回答メッセージ等を再生\nする際,これを再生しない時と比較し,仮想オペレータの「一部が大きな動作を行 うように」仮想オペレータを表示するというものである。そして,仮想オペレータ\nの一部の大きな動作がどのようなものであるかについて,本件補正明細書において 何ら特定されていない。 また,仮想オペレータの一部の大きな動作について,本件補正明細書【0071】 には,「仮想オペレータの口や目を動かすようにしてもよい。あるいは手を動かす など,説明を行うジェスチャーをするようにしてもよい。すなわち,メッセージが 再生されていない時と比較し,仮想オペレータの一部がより大きな動作を行うよう にプログラムを構成してもよい。」と記載されている。したがって,待機中と比較\nして模造された人物が「口を開く」との構成は,本件補正発明における「一部」の\n「大きな動作」に含まれるものである。 さらに,仮想オペレータの一部が大きな動作をすることによって得られる効果に ついて,本件補正明細書【0072】には,「音声合成技術を活用して仮想オペレ ータと対話するため,ユーザは無機質な対話を強制されることなく,自然な対話を 行うことができる」と記載されている。もっとも,「自然な対話」の程度について は何ら特定されておらず,回答時に模造された人物が「口を開」けば,回答時にお いても待機中と同様に口を閉じている場合と比較して,円滑なコミュニケーション が図られているような印象を与えることができる。したがって,回答時に模造され た人物が「口を開く」との引用発明2の構成によって,「自然な対話を行う」とい\nう本件補正発明の効果を奏することができる。
ウ したがって,引用発明2における前記具体的な構成を引用発明1に適用すれ\nば,本件補正発明の構成に至るというべきである。\n

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平成29(行ケ)10096  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年5月15日  知的財産高等裁判所

 数値限定の範囲を変えることについて動機付けありとして、進歩性違反無しとした審決が、取り消されました。
 本件訂正発明1と甲1発明との相違点である,甲1発明におけるSiO2粒 子(非磁性材)の含有量を「3重量%」(3.2mol%)から「6mol%以上」とする ことについて,当業者が容易に想到できるといえるか否かを検討する。
イ 動機付けの有無について
(ア) 上記3(1)において認定したとおり,本件特許の優先日当時,垂直磁 気記録媒体において,非磁性材であるSiO2を11mol%あるいは15〜40vol% 含有する磁性膜は,粒子の孤立化が促進され,磁気特性やノイズ特性に 優れていることが知られており,非磁性材を6mol%以上含有するスパッタ リングターゲットは技術常識であった。 そして,本件特許の優先日前に公開されていた甲4(特開2004− 339586号公報)において,従来技術として甲2が引用され,甲2 に開示されている従来のターゲットは「十分にシリカ相がCo基焼結合金 相中に十分に分散されないために,低透磁率にならず,そのために異常\n放電したり,スパッタ初期に安定した放電が得られない,という問題点 があった」(段落【0004】)と記載されていることからも,優れた スパッタリングターゲットを得るために,材料やその含有割合,混合条 件,焼結条件等に関し,日々検討が加えられている状況にあったと認め られる。 そうすると,甲1発明に係るスパッタリングターゲットにおいても, 酸化物の含有量を増加させる動機付けがあったというべきである(磁気 記録方式の違いが判断に影響を及ぼさないことについては,後記オ(ア) に説示するとおりである。)。
(イ) 次に,具体的な含有量の点についてみると,被告も,非磁性材の含有 量を「6mol%以上」と特定することで何らかの作用効果を狙ったものでは ないと主張している上,証拠に照らしても,6mol%という境界値に技術的 意義があることは何らうかがわれない。 さらに,本件明細書の段落【0016】及び【0017】に記載され ているスパッタリングターゲットの作製方法は,本件特許の優先日当時, 一般的に使用・利用可能であった通常の強磁性材及び非磁性材を用い,\n様々な原料粉の形状,粉砕・混合方法,混合時間,焼結方法,焼結温度 を選択することにより,本件訂正発明に係る形状及び寸法を備えるよう にできるというものであるから,甲1発明に基づいて非磁性材である酸 化物の含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することに技術的困難 性が伴うものであったともいえない。 そうすると,磁気特性やノイズ特性に優れたスパッタリングターゲッ トの作製を目的として,甲1発明に基づいて,その酸化物の含有量を6mol% 以上に増加させる動機付けがあったと認めるのが相当である。
ウ 阻害要因の有無について
(ア) 審決は,ターゲットの組成を変化させるとターゲット中のセラミック 相の分散状態も変化することが推測され,例えば,当該セラミック相を 増加させようとすれば,均一に分散させることが相対的に困難になり, ターゲット中のセラミック相粒子の大きさは大きくなる等,分散の均一 性は低下する方向に変化すると考えるのが自然であって,実施例1の「3 重量%」(3.2mol%)から本件訂正発明1の「6mol%以上」という2倍近い値 まで増加させた場合に,ターゲットの断面組織写真が甲1の図1と同様 のものになるとはいえず,本件訂正発明1における非磁性材の粒子の分 散の形態を変わらず満たすものとなるか不明であると判断した。 被告も,甲1発明において酸化物含有量を「3重量%」(3.2mol%)から 「6mol%以上」に増加させた場合に,組織が維持されると当業者は認識し ない,すなわち,組織が維持されるかどうか不明であることは,甲1発 明において酸化物含有量を増やすことの阻害要因になると主張する。
(イ) この点について,上記2(2)オにおいて認定したとおり,甲1には, 実施例4(酸化物の含有量は1.46mol%)について,「このターゲットの 組織は,図1に示した酸化物(SiO2)が分散した微細混合相とほぼ同様 であった。」(段落【0022】),実施例5(同1.85mol%)及び同6 (同3.19mol%)についても「このターゲットの組織は,図1に示した組 織とほぼ同様であった。」(段落【0024】及び【0026】)との 各記載があるように,非磁性材である酸化物の含有量が1.46mol%(実施 例4)から3.19mol%(実施例6)まで2倍以上変化しても,ターゲット の断面組織写真が甲1の図1と同様のものになることが示されている。 さらに,上記3(2)において認定したとおり,メカニカルアロイングに おける混合条件の調整,例えば,十分な混合時間の確保等によってナノ\nスケールの微細な分散状態が得られることも,本件特許の優先日当時の 技術常識であった。 そうすると,甲1に接した当業者は,甲1発明において酸化物の含有 量を増加させた場合,凝集等によって図1に示されている以上に粒子の 肥大化等が生じる傾向が強まるとしても,金属材料(強磁性材)及び酸 化物(非磁性材)の粒径,性状,含有量などに応じてメカニカルアロイ ングにおける混合条件等を調整することによって,甲1発明と同程度の 微細な分散状態を得られることが理解できるというべきである。 また,上記イのとおり,甲1発明に基づいて非磁性材である酸化物の 含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することが,何かしらの技術 的困難性を伴うものであると認めることはできない。 したがって,甲1発明において酸化物の含有量を「3重量%」(3.2 mol%) から「6mol%以上」に増加した場合に,分散状態が変化する可能性がある\nとか,上記本件組織が維持されるかどうかが不明であることが,直ちに 非磁性材の含有量を増やすことの阻害要因になるとはいえない。

◆判決本文

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平成29(行ケ)10180  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月28日  知的財産高等裁判所

 審決では動機付け無しとして進歩性違反なしと判断されていました。知財高裁(2部)は動機付けありとして、審決を取り消しました。
 登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離すること\nを繰り返すと,粘着剤層が多数積層して,登記識別情報を読み取りにくくなるとい う登記識別情報保護シールにおける本件課題は,登記識別情報保護シールを登記識 別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと必然的に生じるもので\nあって,登記識別情報保護シールの需要者には当然に認識されていたと考えられる (甲15)。現に,本件原出願日の5年以上前である平成21年9月30日には, 登記識別情報保護シールの需要者である司法書士に認識されていたものと認められ る(甲26の3)。そして,登記識別情報保護シールの製造・販売業者は,需要者 の要求に応じた製品を開発しようとするから,本件課題は,本件原出願日前に,当 業者において周知の課題であったといえる。 そうすると,本件課題に直面した登記識別情報保護シールの技術分野における当 業者は,粘着剤層の下の文字(登記識別情報)が見えにくくならないようにするた めに,粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがないように工夫するものと認 められる。甲3発明は,秘密情報に対応する部分には実質的に粘着剤が設けられて いないものであり,甲3発明と甲1発明は,秘密情報保護シールであるという技術 分野が共通し,一度剥がすと再度貼ることはできないようにして,秘密情報の漏洩\nがあったことを感知するという点でも共通する。したがって,甲1発明に甲3発明 を適用する動機付けがあるといえる。 甲1発明に甲3発明を適用すると,粘着剤層が登記識別情報の上に付着すること がなくなり,本件課題が解決される。したがって,甲1発明において,甲3発明を 適用し,相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到するものと認められ\nる。
ウ 被告の主張について
(ア) 被告は,甲3発明には,シールを何度も貼り付け,剥離することを繰\nり返すという課題は存在せず,その使用目的から容器又はシールを使い回すことは 倫理上許されないから本件課題とは矛盾し,阻害要因がある,と主張する。 しかし,甲3発明のシールは何度も貼り付け,剥離することを予\定されていない としても,一度剥がした後に新たなシールを貼付することは可能\である。また,甲 3発明が,医療,保健衛生分野において使用される検体用容器等に使用される場合 には,何度も貼り付け,剥離することはないのは,検体用容器等の用途がそのよう\nなものであるからであって,甲3発明自体の作用,機能に基づくものではなく,甲\n3発明は保健,衛生分野に限って使用されるものではないから,甲1発明と組み合 わせるのに阻害要因があるとはいえない。したがって,被告の主張には,理由がな い。

◆判決本文

同じ特許発明に関する別の無効審判の取消事件です。 こちらも進歩性無しと判断されました。

◆平成29(行ケ)10176

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平成29(行ケ)10139  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年4月16日  知的財産高等裁判所

 条件判断を入れ替えると、技術的意義に変動が生じるので単なる設計事項ではないとして、進歩性なしとした拒絶審決を知財高裁は取り消しました。
 引用発明の衝突対応車両制御は,衝突対応制御プログラムが実行されることによ って行われる。同プログラムは,S1の自車線上存在物特定ルーチン及びS2のA CC・PCS対象特定ルーチンにおいて,自車線上の存在物であるか否かという条 件の充足性が判断され,その後に処理されるS5のACC・PCS作動ルーチンに おいて,自車両の速度,ブレーキ操作部材の操作の有無,自車両と直前存在物との 衝突時間や車間時間等の条件に応じて,特定のACC制御やPCS制御が開始され, 又は開始されないというものである。
(イ) 条件判断の順序の入替えについて
本願補正発明では,ターゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを 始動するように構成された後に,自車線上にある存在物を特定し,アクションの始\n動を無効にするという構成が採用されている。したがって,引用発明を,相違点に\n係る本願補正発明の構成に至らしめるためには,少なくとも,まず,自車線上の存\n在物であるか否かという条件の充足性判断を行い,続いて,特定のACC制御やP CS制御を開始するために自車両の速度等の条件判断を行うという引用発明の条件 判断の順序を入れ替える必要がある。 しかし,引用発明では,S1及びS2において,自車線上の存在物であるか否か という条件の充足性が判断される。この条件は,ACC制御,PCS制御の対象と なる前方存在物を特定するためのものである(引用例【0091】)。そして,引 用発明は,これにより,多数の特定存在物の中から,自車線上にある存在物を特定 し,ACC制御,PCS制御の対象となる存在物を絞り込み,ACC制御,PCS 制御のための処理負担を軽減することができる。一方,ACC制御,PCS制御の 対象となる存在物を絞り込まずに,ACC制御,PCS制御のための処理を行うと, その処理負担が大きくなる。このように,引用発明において,自車線上の存在物で あるか否かという条件の充足性判断を,ACC制御,PCS制御のための処理の前 に行うか,後に行うかによって,その技術的意義に変動が生じる。 したがって,複数の条件が成立したときに特定のアクションを始動する装置にお いて,複数の条件の成立判断の順序を入れ替えることが通常行い得る設計変更であ ったとしても,引用発明において,まず,特定のACC制御やPCS制御を開始す るために自車両の速度等の条件判断を行い,続いて,自車線上の存在物であるか否 かという条件の充足性判断を行うという構成を採用することはできない。\nよって,引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが,単なる設計変更 であるということはできないから,相違点に係る本願補正発明の構成は,容易に想\n到することができるものではない。
(ウ) 本件周知技術の適用
a 引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが単なる設計変更であっ たとしても,条件判断の順序を入れ替えた引用発明は,まず,自車両の速度等の条 件判断がされ,続いて,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断 され,その後,特定のACC制御やPCS制御が開始され,又は開始されないもの になる。そして,これに本件周知技術を適用できたとしても,本件周知技術を適用 した引用発明は,まず,自車両の速度等の条件判断がされ,続いて,自車線上の存 在物であるか否かという条件の充足性が判断され,その後,特定のACC制御やP CS制御が開始され,又は開始されないものになり,加えて,特定の条件を満たし た場合には,当該ACC制御やPCS制御の始動が無効になるにとどまる。 ここで,本件周知技術を適用した引用発明は,特定の条件を満たした場合に,P CS制御等の始動を無効にするものである。そして,本件周知技術を適用した引用 発明においては,PCS制御等の開始に当たり,既に,自車線上の存在物であるか 否かという条件の充足性が判断されているから,自車線上の存在物であるか否かと いう条件を,再度,PCS制御等の始動を無効にするに当たり判断される条件とす ることはない。 これに対し,相違点に係る本願補正発明の構成は,「横方向オフセット値に基づ\nいて」,すなわち,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断に基づ いて,少なくとも1のアクションの始動を無効にするものである。 したがって,引用発明に本件周知技術を適用しても,相違点に係る本願補正発明 の構成には至らないというべきである。
b なお,本件周知技術を適用した引用発明は,自車両の速度等の条件判断と, それに続く,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断をもって,P CS制御等を開始するものである。PCS制御等の開始を,自車線上の存在物であ るか否かという条件の充足性判断よりも前に行うことについて,引用例には記載も 示唆もされておらず,このことが周知慣用技術であることを示す証拠もない。 したがって,引用発明に本件周知技術を適用しても,その発明は相違点に係る本 願補正発明の構成には至らないところ,さらに,PCS制御等の開始を,自車線上\nの存在物であるか否かという条件の充足性判断よりも前に行うことにより,当該発 明を,相違点に係る本願補正発明の構成に至らしめることができるものではない。
c そもそも,本願補正発明では,ターゲット物体との相対移動の検知に応答し てアクションを始動するように構成された後に,自車線上にある存在物を特定し,\nアクションの始動を無効にするという構成が採用されている。本願補正発明は,タ\nーゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを始動するという既存の構\n成に,当該構成を変更することなく,単に,自車線上の存在物であるか否かという\n条件の充足性判断を付加することによって,アクションの始動を無効にするという ものであり,引用発明とは技術的思想を異にするものである。
(エ) 以上のとおり,引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが単な る設計変更ということはできず,また,引用発明に本件周知技術を適用しても,相 違点に係る本願補正発明の構成には至らないというべきであるから,相違点に係る\n本願補正発明の構成は,引用発明に基づき,容易に想到できたものとはいえない。\n

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平成29(行ケ)10097  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月29日  知的財産高等裁判所

 ゲームプログラムについて、進歩性ありとした審決が維持されました。
 前記1(1)の認定事実によれば,本件発明は,ユーザがシリーズ化された一連のゲ ームソフトを買い揃えるだけで,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容\nを楽しむことを可能とすることによって,シリーズ化された後作のゲームの購入を\n促すという技術思想を有するものと認められる。 これに対し,前記1(2)の認定事実によれば,公知発明は,前作と後作との間でス トーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラ クタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイ を有利にすることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編である 後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購 入を促すという技術思想を有するものと認められる。 そうすると,公知発明は,少なくとも,前作において実際にプレイしたキャラク タをセーブするとともに,前作のゲームにおいてキャラクタのレベルが16以上と なるまでプレイしたという実績(以下「プレイ実績」という。)をセーブすることが, その技術思想を実現するための必須条件となる。そのため,前作において実際にプ レイしたキャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体を採用し た場合には,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをした り,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることが できなくなる。このことは,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編のゲー ムをプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すと いう公知発明の技術思想に反することになる。 したがって,当業者は,公知発明1のディスクについて,前作において実際にプ レイしたゲームのキャラクタ及びプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更しよう\nとする動機付けはなく,かえって,このような記憶媒体を採用することには,公知 発明の技術思想に照らし,阻害要因があるというべきである。 仮に,先行技術発明A等(甲20の1及び2,甲21の1及びの2,甲91,甲 92のゲーム等を含む。以下同じ。)のように,2本のゲームのROMカセットを所 有し,ゲーム機のスロットに挿入するのみで拡張されたゲーム内容を楽しめるゲー ムが周知技術であったとしても,これを公知発明1に対して適用するに当たり,公 知発明1のディスクを,ゲームのプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更すると,\n上記のとおり,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをし たり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすること ができなくなるから,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,後作のゲームの購 入を促すという公知発明の技術思想に反することになる。 また,仮に,ゲームに登場するキャラクタをゲームプログラムにプリセットして おき,プレイヤーがキャラクタを適宜選択できるようにすることが,本件特許の出 願当時において,技術常識であったとしても,公知発明1の「キャラクタのレベル が16以上である」というゲームのプレイ実績を,プリセットされたキャラクタに 係る情報に変えると,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレ イをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にす ることができなくなるから,上記と同様に,公知発明の技術思想に反することにな る。 以上によれば,公知発明1において,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能\nな記憶媒体,一の記憶媒体及び二の記憶媒体を,ディスクから「記憶媒体(ただし, セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更して相違点1ないし3に係る\n構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の\n判断に誤りはなく,取消事由1は,理由がない。
(3) 原告の主張について
原告は,公知発明1の技術思想について,魔洞戦紀DDI(前作ゲーム)に記憶 された切換キーがゲーム装置で読み込まれている場合に,勇士の紋章DDII(後作 ゲーム)で,標準ゲームプログラムに加えて,拡張ゲームプログラムでもゲーム装 置を作動させるものであり,これによりゲーム内容を豊富化してユーザに前作の購 入を促すというものであるから,本件発明の技術思想と同じであると主張する。そ して,原告は,上記主張を前提とした上で,上記切換キーには,「魔洞戦紀DDIが 装填された」という条件1に係る情報と「キャラクタのレベルが16以上である」 という条件2に係る情報とが含まれているところ,公知発明1の技術思想である「ユ ーザに前作の購入を促す」ことは,切換キーのうち「魔洞戦紀DDI」が装填され たという条件1に係る情報のみで達成できるのであるから,当業者であれば,その 目的を達成するために,「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係 る情報を切換キーから除くなどして,記憶媒体についてもセーブデータが記憶可能\nな記憶媒体としないことは容易であり,かえって,このような場合には,よりユー ザの負担なく拡張ゲームプログラムが楽しめるようになるのであるから,前作の購 入を促すことが可能であるともいえ,公知発明1の切換キーに「キャラクタのレベ\nルが16以上である」という条件2に係る情報であるセーブデータを含ませるか否 かは,当業者が適宜選択できる設計事項であると主張する。 しかしながら,上記(2)のとおり,公知発明は,前作と後作との間でストーリーに 連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレ イをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にす ることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編である後作のゲー ムもプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すと いう技術思想を有するものと認められる。 そうすると,公知発明は,少なくとも,前作のキャラクタをセーブするとともに, キャラクタのプレイ実績をセーブすることが,その技術思想を実現するための必須 条件となるから,キャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体 を採用した場合には,公知発明の技術思想に反することになる。 したがって,「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報を 切換キーから除くなどして,記憶媒体についてセーブデータが記憶可能な記憶媒体\nとしないことは,公知発明を都合よく分割してその必須条件を省略しようとするも のであるから,上記のとおり,公知発明の技術思想に反することは明らかである。 以上によれば,原告の主張は,その余の点を含め,公知発明の技術思想を正解し ないものに帰し,採用することができない。

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平成29(行ケ)10062  取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月26日  知的財産高等裁判所(4部)

 異議理由ありとした審決が取り消されました。進歩性なしとの審決について、動機付けがないとの理由です。異議申立が認められる割合が低いのですが、それが取り消される事件は、さらに低いですね。
 引用発明Aでは,第1のワイヤが接続されるpn接合ダイオードの一の電 極及びショットキーバリアダイオードの一方の電極は,いずれもカソード電極とな\nる。 そして,引用例には,IGBT4とダイオード5との組合せを,SiCMOSF ETとショットキーバリアダイオードとの組合せに置き換える場合,置換えの前後 で動作を異ならせる旨の記載や示唆はない。 また,引用発明Aは,「トランスファーモールド樹脂で封止した電力用半導体装 置には,主端子に大電流を流すことができるブスバーの外部配線が,ねじ止めやは んだ付けで固定されるため,電力用半導体装置の組み立て時において,主端子部に おおきな応力が働き,この応力により,主端子の外側面とトランスファーモールド 樹脂との接着面に隙間が発生したり,トランスファーモールド樹脂本体に微細なク ラックが発生する等の不具合を主端子部に生じ,電力用半導体装置の歩留まりが低 くなり生産性が低下するとともに,信頼性も低下する」ことを課題とし,「トラン スファーモールド樹脂により封止された電力用半導体装置であって,主回路に接続 される主端子に大電流を流すことのできる外部配線を接続しても,外部配線の接続 により主端子部に発生する不良を低減でき,歩留まりが高く生産性に優れるととも に,信頼性の高い電力用半導体装置を提供すること」を目的とする発明であって(【0 007】,【0008】),この目的を達成することと,SiCMOSFETの型 や並列接続するショットキーバリアダイオードの接続方向を変更することは,無関 係である。 したがって,当業者が,引用発明Aにおいて,上記目的を達成するために,「前 記PN接合ダイオードの一の電極」及び「前記ショットキーバリアダイオードの一 方の電極」をカソード電極からアノード電極に変更する動機付けがあるとはいえな\nいから,相違点1’に係る本件発明1の構成を当事者が容易に想到できたものであ\nるとは認められない。
(イ) さらに,本件発明は,MOSFETに寄生しているpn接合ダイオードに 電流が流れると,MOSFETの結晶欠陥が拡大してデバイス特性が劣化し,特に, SiCMOSFETでは,寄生pn接合ダイオードに電流が流れると,オン抵抗が 増大するという課題があったが,ショットキーバリアダイオードを並列接続しても pn接合ダイオードに電流が流れてしまう現象が生じていることから(【0002】 〜【0004】,【0006】),本件発明1の構成を採用し,第2のワイヤに寄\n生するインダクタンスによって,pn接合ダイオードの順方向立ち上がり電圧以上 の逆起電力が発生しても,pn接合ダイオードに電流が流れないようにする(【0 014】)との作用効果を奏するものである。 しかし,引用発明Aの課題及び目的は,前記(ア)のとおりであり,引用例には, ダイオード5やワイヤーボンド7にインダクタンスが寄生することについての記載 や示唆はないことから,引用例に接した当業者が,引用発明Aに本件発明の作用効 果が期待されることを予想できたとはいえない。\n

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平成28(行ケ)10220  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年7月4日  知的財産高等裁判所(4部)

 CS関連発明について、認定については誤っていないとしたものの、 引用例には、本願発明の具体的な課題の示唆がなく、相違点5について、容易に想到するものではないとして、進歩性無しとした審決が取り消されました。  確かに,引用例には,発明の目的は,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士 のような専門知識を持った複数の専門家が,給与計算やその他の処理を円滑に行う ことができるようにするものであり(【0005】),同発明の給与計算システム及び 給与計算サーバ装置によれば,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士のような 専門知識を持った複数の専門家を,情報ネットワークを通じて相互に接続すること によって,給与計算やその他の処理を円滑に行うことができること(【0011】), 発明の実施の形態として,複数の事業者端末と,複数の専門家端末と,給与データ ベースを有するサーバ装置とが情報ネットワークを通じて接続された給与システム であり,専門家端末で給与計算サーバ装置にアクセスし,給与計算を行うための固 定項目や変動項目のデータを登録するマスター登録を行い(【0018】〜【002 1】),マスター登録された情報とタイムレコーダ5から取得した勤怠データとに基 づき,給与計算サーバ装置で給与計算を行い,給与担当者が,事業者端末で給与明 細書を確認した上で,給与振り込みデータを金融機関サーバに送信する(【0022】 〜【0025】,【0041】〜【0043】,図7のS11〜S20)ほか,専門家 が専門家端末を介して給与データベースを閲覧し(【0031】〜【0033】),社 会保険手続や年末調整の処理を行うことができる(【0026】〜【0030】,【0 044】,【0045】,図7のS21〜S28)とする構成が記載されていることが\n認められる。 しかし,引用文献が公開公報等の特許文献である場合,当該文献から認定される 発明は,特許請求の範囲に記載された発明に限られるものではなく,発明の詳細な 説明に記載された技術的内容全体が引用の対象となり得るものである。よって,引 用文献の「発明が解決しようとする課題」や「課題を解決するための手段」の欄に 記載された事項と一致しない発明を引用発明として認定したとしても,直ちに違法 とはいえない。 そして,引用例において,社労士端末や税理士端末に係る事項を含まない,給与 計算に係る発明が記載されていることについては,上記(2)のとおりであるから,こ の発明を引用発明として認定することが誤りとはいえない。 ・・・・ ウ 以上のとおり,周知例2,甲7,乙9及び乙10には,「従業員の給与支払 機能を提供するアプリケーションサーバを有するシステムにおいて,企業の給与締\nめ日や給与支給日等を含む企業情報及び従業員情報を入力可能な利用企業端末のほ\nかに,1)従業員の取引金融機関,口座,メールアドレス及び支給日前希望日払いの 要求情報(周知例2),2)従業員の勤怠データ(甲7),3)従業員の出勤時間及び退 勤時間の情報(乙9)及び4)従業員の勤怠情報(例えば,出社の時間,退社の時間, 有給休暇等)(乙10)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」\nが開示されていることは認められるが,これらを上位概念化した「上記利用企業端 末のほかに,およそ従業員に関連する情報(従業員情報)全般の入力及び変更が可 能な従業者の携帯端末機を備えること」や,「上記利用企業端末のほかに,従業員\n入力情報(扶養者情報)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」\nが開示されているものではなく,それを示唆するものもない。 したがって,周知例2,甲7,乙9及び乙10から,本件審決が認定した周知技 術を認めることはできない。また,かかる周知技術の存在を前提として,本件審決 が認定判断するように,「従業員にどの従業員情報を従業員端末を用いて入力させ るかは,当業者が適宜選択すべき設計的事項である」とも認められない。 (3)動機付けについて 本願発明は,従業員を雇用する企業では,総務部,経理部等において給与計算ソ\nフトを用いて給与計算事務を行っていることが多いところ,市販の給与計算ソフト\nには,各種設定が複雑である,作業工程が多いなど,汎用ソフトに起因する欠点も\nあることから,中小企業等では給与計算事務を経営者が行わざるを得ないケースも 多々あり,大きな負担となっていることに鑑み,中小企業等に対し,給与計算事務 を大幅に簡便にするための給与計算方法及び給与計算プログラムを提供することを 目的とするものである(本願明細書【0002】〜【0006】)。 そして,本願発明において,各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業 員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて,同端末から扶養者情報等の給与\n計算を変動させる従業員情報を入力させることにしたのは,扶養者数等の従業員固 有の情報(扶養者数のほか,生年月日,入社日,勤怠情報)に基づき変動する給与 計算を自動化し,給与計算担当者を煩雑な作業から解放するためである(同【00 35】)。 一方,引用例には,発明の目的,効果及び実施の形態について,前記2(1)のとお り記載されており,引用例に記載された発明は,複数の事業者端末と,複数の専門 家端末と,給与データベースを有するサーバ装置とが情報ネットワークを通じて接 続された給与システムとし,専門家端末で給与計算サーバ装置にアクセスし,給与 計算を行うための固定項目や変動項目のデータを登録するマスター登録を行うこと などにより,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士のような専門知識を持った 複数の専門家が,給与計算やその他の処理を円滑に行うことができるようにしたも のである。 したがって,引用例に接した当業者は,本願発明の具体的な課題を示唆されるこ とはなく,専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて,各従業員\nの従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより,相違\n点5に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い。\nなお,引用発明においては,事業者端末にタイムレコーダが接続されて従業員の 勤怠データの収集が行われ,このデータが給与計算サーバ装置に送信されて給与計 算が行われるという構成を有するから,給与担当者における給与計算の負担を削減\nし,これを円滑に行うということが,被告の主張するように自明の課題であったと しても,その課題を解決するために,上記構成に代えて,勤怠データを従業員端末\nのウェブブラウザ上に表示させて入力させる構\成とすることにより,相違点5に係 る本願発明の構成を採用する動機付けもない。\n

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平成28(行ケ)10168  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年6月12日  知的財産高等裁判所(3部)

 進歩性なしとした審決が取り消されました。なお、相違点3については認定は誤りであるが、他の争点で審決の判断は取り消されるべきものとして、取消理由にはならないと判断されています。
 以上のとおり,本件審決には,本件特許発明1と甲1発明の相違点3の一 内容として相違点3−1を認定した点に誤りがあるものといえる。 しかしながら,後記4で述べるとおり,本件審決認定の相違点3のうち, 相違点3-1以外の部分に係る本件特許発明1の構成についての容易想到性\nは否定されるべきであり,そうすると,本件審決の相違点3−1に係る認定 の誤りは,本件特許発明1の進歩性欠如を否定した本件審決の結論に影響を 及ぼすものではない。
・・・・
原告は,相違点3に係る本件特許発明1の構成のうち,「第1(あるいは\n第2)の係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設し枠体の上辺(あるいは 下辺)よりも内側に設けられ」るとの構成についての容易想到性を否定し\nた本件審決の判断は誤りである旨主張する。しかるところ,上記構成のう\nち,「係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設」する構成が本件特許発明1\nと甲1発明の相違点といえないことは,上記3(2)で述べたとおりであるか ら,以下では,上記構成のうち,「第1(あるいは第2)の係止片が枠体の\n上辺(あるいは下辺)よりも内側に設けられ」るとの構成(以下「相違点\n3−2に係る構成」という。)についての容易想到性を否定した本件審決の\n判断の適否について検討することとする。 ア 原告は,部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも 少し内側に設ける構成は,甲1(図39(a)及び図49),16,17及 び63に記載され,審判検甲1及び2が現に有するとおり,スロットマ シンの技術分野において周知な構成であるとした上で,甲1発明に上記\n周知な構成を適用し,相違点3−2に係る構\成とすることは,当業者が 容易に想到し得たことである旨主張するので,以下検討する。 (ア) 甲1の図39(a)及び図49について
甲1の図39(a)(別紙2参照)は,スロットマシンの飾り枠本体に 取り付けられる第4ランプカバーの斜視図であるところ,同図に示さ れた第4ランプカバー423は,側方形状L字状に形成され,その一 辺の両サイドから後方に係止爪424が突設されている(甲1の段落 【0158】)。また,甲1の図49(別紙2参照)は,スロットマシ ンのメダル受皿の分解斜視図であるところ,同図に示されたメダル受 皿12の両サイドには,係止爪620が後方に向かって突設されてい る(甲1の段落【0205】)。 しかしながら,上記係止爪424と第4ランプカバー423の最外周 面との位置関係及び上記係止爪620とメダル受皿12の最外周面との 位置関係については,甲1には記載されておらず,何らの示唆もされて いない。 この点,原告は,これらの図面において,係止片に相当する部分とそ の取付け端の境界に実線が記載されていることから,当業者は,係止片 が部材の最外周面よりも少し内側に設けられていると理解する旨主張す る。しかし,甲1の上記図面は,特許出願の願書に添付された図面であ り,明細書を補完し,特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業 者に理解させるための説明図であるから,当該発明の技術内容を理解す るために必要な程度の正確さを備えていれば足り,設計図面に要求され るような正確性をもって描かれているとは限らない。そして,甲1は, 遊技部品を収容する収容箱と収容箱に固定される連結部材を介して収容 箱の前面に開閉自在に設けられる前面扉とから構成されるスロットマシ\nンについての発明を開示するものであり(段落【0001】),特に,連 結部材を前面扉に取り付ける取付部に載置部及び被載置部を形成するこ とによって前面扉を連結部材に組付ける際の作業性を向上させたスロッ トマシンに係る発明を開示するものであるから(段落【0002】〜 【0008】),甲1の図面において,上記取付部に関係しない部材であ る第4ランプカバー423の係止爪424やメダル受皿12の係止爪6 20の詳細な構造についてまで正確に図示されているものと断ずること\nはできない。してみると,甲1の明細書中に何らの記載がないにもかか わらず,上記図面中の実線の記載のみから,係止片が部材の最外周面よ りも少し内側に設けられている構成の存在を読み取ることはできないと\nいうべきであり,原告の上記主張は採用できない。 したがって,甲1の図39(a)及び図49には,そもそも,部材を取 り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも少し内側に設ける構\n成が記載されているとはいえない。
・・・
以上によれば,原告が,「部材を取り付けるための係止片を当該部材 の最外周面よりも少し内側に設ける構成」が記載されているものとして\n挙げる文献のうち,甲1及び63については,そもそもそのような構成\nが記載されているとはいえない(なお,仮に,原告主張のとおり,甲1 及び63に上記構成が記載されていることを認めたとしても,これらの\n文献には,甲16及び17と同様に当該構成が採用される理由について\nの記載や示唆はないから,後記の結論に変わりはない。)。 他方,甲16及び17には,上記構成が記載され,また,審判検甲1\n及び2のパチスロ機も上記構成を有することが認められる。しかしなが\nら,これらの文献の記載や本件審判における審判検甲1及び2の検証の 結果によっても,これらの装置等において上記構成が採用されている理\n由は明らかではなく,結局のところ,当該構成の目的,これを採用する\nことで解決される技術的課題及びこれが奏する作用効果など,当該構成\nに係る技術的意義は不明であるというほかはない。 してみると,甲16及び17の記載や審判検甲1及び2の存在から, 上記構成がスロットマシンの分野において周知な構\成であるとはいえる としても,その技術的意義が不明である以上,当業者がこのような構成\nをあえて甲1発明に設けようと試みる理由はないのであって,甲1発明 に当該周知な構成を適用すべき動機付けの存在を認めることはできない。\nしたがって,甲1発明に上記周知な構成を適用し,相違点3−2に係\nる構成とすることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。\n

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平成28(行ケ)10151 特許権 行政訴訟 平成29年5月31日  知的財産高等裁判所(3部)

 審決は、進歩性無しを理由として訂正を認めませんでした。知財高裁はこれを取り消しれました。理由は、刊行物1に刊行物2を適用した場合に、あえて、当該構成の技術的意義との関係で凹部を残す理由がないというものです。\n
 本件審決は,刊行物1発明と刊行物2発明が多接点端子を有する電気コネ クタとしての構造を共通にすることから,刊行物1発明に刊行物2発明を適\n用する動機付けがあることを認めた上で,刊行物1発明の側方突出部26, 28に刊行物2発明を適用して,「第一接触部及び第二接触部それぞれの斜 縁の直線部分との接触を通じて相手端子に嵌合側から順次弾性接触するよう になっており,第一弾性腕の第一接触部は,該第一弾性腕の嵌合側端部から 嵌合側と反対側へ延びて相手端子との接触側に向かう斜縁を有し且つ該斜縁 よりも嵌合側と反対側に位置する下縁に凹部が形成され」るようにすること は当業者が容易になし得たことである旨判断し,この判断を前提として,刊 行物1発明と刊行物2発明,周知の技術事項(電気コネクタの技術分野にお いて有効嵌合長を長くすること)及び周知技術(相手コネクタと接触する接 点から接触部の突出基部に向けた直線と,斜縁を通る直線とでなす角度を鋭 角とすること)に基づいて相違点2に係る本件訂正発明の構成とすることは,\n当業者が容易に想到し得たことである旨判断する。 しかしながら,以下に述べるとおり,刊行物1発明に刊行物2記載のコネ クタの弾性舌部に係る構成を適用したとしても,第一弾性腕の第一接触部の\n斜縁よりも嵌合側と反対側に位置する下縁に凹部が形成される構成とするこ\nとを当業者が容易に想到し得たものということはできない。 すなわち,まず,刊行物2記載のコネクタの第一弾性舌部と第二弾性舌部 にそれぞれ形成された突状の第一接触部と第二接触部は,「それぞれの斜縁 の直線部分との接触を通じてプリント回路基板23の電気コンタクトに嵌合 側から順次弾性接触するようになっており,第一弾性舌部と第二弾性舌部 は,プリント回路基板23の電気コンタクトとの接触位置を通り嵌合方向に 延びる接触線に対して一方の側に位置しており,第一弾性舌部の第一接触部 は,該第一弾性舌部の嵌合側端部から嵌合側と反対側へ延びてプリント回路 基板23の電気コンタクトとの接触側に向かう斜縁を有し且つ該斜縁よりも 嵌合側と反対側に位置する下縁を有して」いるものの,当該下縁には「凹 部」が形成されていないから(図9及び18参照),刊行物1発明の側方突 出部26の構成を,刊行物2記載のコネクタの第一接触部に係る構\成に単に 置き換えたとしても,その下縁に「凹部」が形成される構成とならないこと\nは明らかである。
 そこで,刊行物1発明の側方突出部26に刊行物2記載のコネクタの第一 接触部に係る構成を適用することによりその下縁に「凹部」を形成する構\成 とするためには,刊行物1発明の側方突出部26の構成のうち,「下縁に凹\n部が形成され」た構成のみを残した上で,それ以外の構\成を刊行物2記載の コネクタの第一接触部に係る構成と置き換えることが必要となる(本件審決\nも,このような置換えを前提として,その容易性を認めたものと理解され る。)。しかしながら,刊行物1発明の側方突出部26に刊行物2記載のコ ネクタの第一接触部に係る構成を適用するに際し,上記側方突出部26が備\nえる一体的構成の一部である下縁の「凹部」の構\成のみを分離し,これを残 すこととすべき合理的な理由は認められない。そもそも,刊行物1発明の側 方突出部26の下縁に凹部が形成されている理由については,刊行物1に何 ら記載されておらず,技術常識等に照らして明らかなことともいえないか ら,当該構成の技術的意義との関係でこれを残すべき理由があると認められ\nるものではない。したがって,当業者が,刊行物1発明の側方突出部26に 刊行物2記載のコネクタの第一接触部に係る構成を適用するに当たり,刊行\n物1発明の側方突出部26における下縁の「凹部」の構成のみをあえて残そ\nうとすることは,考え難いことというほかない。 してみると,刊行物1発明に刊行物2記載のコネクタの第一接触部に係る 構成を適用したとしても,相違点2に係る本件訂正発明の構\成のうち,第一 接触部の斜縁よりも嵌合側と反対側に位置する下縁に凹部が形成される構成\nとすることを当業者が容易に想到し得たとはいえないから,相違点2に係る 本件審決の上記判断は誤りである。 なお,被告は,刊行物1発明に刊行物2発明を適用すべき動機付けが存在 することについて前記第4の2のとおり主張するが,上記で述べたとおり, 当該動機付けの存在を前提に,刊行物1発明に刊行物2記載のコネクタの第 一接触部に係る構成を適用したとしても,相違点2に係る本件訂正発明の構\ 成とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえないのであるから,被告 の主張は,上記判断を左右するものではない。

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平成28(行ケ)10106  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年4月25日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。動機付けあり、阻害要因もなしとの判断です。
   以上のとおり,引用発明1も,引用発明2も,蒸発(揮発)したニコチンを,肺 へ送給するに当たり,好ましい送給量を実現できるよう調整するという同一の目的 を有するものであり,また,タバコ代替品として用いられる装置に関するものであ って同一の用途を有するものである。そして,引用発明1と引用発明2とは,ニコ チン源の相違という点をもって作用が異なると評価することもできない。 よって,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けはあるというべきである。
キ 阻害事由
原告は,引用発明1の目的は,タバコ(天然物ニコチン源)の使用をやめさせる ことであるとして,引用発明1のニコチン源を,天然物ニコチン源とすることには 阻害事由がある旨主張する。しかし,前記エのとおり,引用発明1に係る装置は, タバコをベースとした製品の代わりになるものであって,タバコ代替品としても用 いられるものであるから,引用発明1の目的を,タバコの使用をやめさせることの みにあるということはできない。原告の阻害事由の主張は,その前提において誤り である。

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平成28(行ケ)10207  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月28日  知的財産高等裁判所(4部)

 明確性違反および進歩性無しについて、拒絶審決が維持されました。出願人は株式会社ドクター中松創研です。
【0009】には,前記(3)のとおり,本願発明が,耳より後ろのバッテ リー11の重さや電子回路12の重さW1と,前方のディスプレイ16やカメラ1 8の重量W2とを,「つる」の13を支点として,バランス(釣合い)をとるよう にし,天秤の原理でディスプレイ16やカメラ18が,装着者の顔が動いても水平 になるものであることが記載されているところ,このような,天秤の原理による支 点より前方側と後方側のモーメントのバランス(釣合い)は,一般に「スタティッ クバランス(静的な釣合い)」といわれるものであり,「スタティックバランス」 をとることが,必ずしも「ダイナミックバランス」(運動状態にある物体について, その運動状態によって発生している力をも考慮した釣合い)をもとることにはなら ないことは,技術常識に照らして明らかである。それにもかかわらず,本願明細書 には,【0009】を含め,耳より後ろのバッテリー11の重さや電子回路12の 重さW1と,前方のディスプレイ16やカメラ18の重量W2とを,「つる」の1 3を支点として,バランス(釣合い)をとるようにすることや天秤の原理と,「ダ イナミックバランス」(動的釣合い)がとれることとの関係については,何らの記 載もない。 したがって,本願明細書の記載によっても,耳より後ろの錘W1を「ダイナミッ クバランサー」とすることや本願発明が「ダイナミックバランスドスマホ,PC」 であることの技術的意義を明確に理解することはできず,第三者の利益が不当に害 されるといわざるを得ない。
・・・
原告は,引用発明は,メガネのモーメントWLを,耳の後方に固定するしゃ もじ状部4で吸収するものであるが,引用発明において,引用例2に記載された技 術事項を適用し,PC機能や通話機能\を付加すると,アイウェア側の重さWが重く なるので,モーメントWLは大きくなり,しゃもじ状部4はこのモーメントWLに 耐えることが必要となって,しゃもじ状部4を支える耳の負担を増やしてしまうと いう不具合が生じるから,引用発明において,引用例2に記載された技術事項を適 用し,相違点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは容易に想到できたこ\nとではない旨主張する。 しかし,引用例1には,レンズ1に液晶層を設けたときにその電源となる電池を しゃもじ状部4に埋め込んでもよいことが記載されているから,引用発明において, 引用例1の上記記載に従い,液晶層に情報を表示するために,アイウェア(メガ\nネ)という同一の分野に係る技術である引用例2に記載された技術事項を適用する ことには動機付けがある。 なお,本願発明は,耳の位置を支点として,その後方のバッテリー11や電子回 路12の重さW1と,その前方のディスプレイ16やカメラ18の重さW2とのバ ランスをとるものであるとの原告の主張によれば,本願発明も,引用発明のメガネ も,支点である耳より後の錘をW1として天秤機能をさせ,前方の重さをW2とし\nて顔が止まっても動いてもW1とW2のバランスをとり,鼻などの顔部に荷重がか からないものである点で共通するから,支点である耳に「耳かけダイナミックバラ ンスドスマホ,PC」,又は引用例2に記載された技術事項を適用したアイウェア 11の全荷重がかかるという点で異ならない。よって,この点においても,しゃも じ状部4を支える耳の負担が増えることを問題にする原告の上記主張は,失当であ る。
イ 原告は,引用例2に記載されているのは,単なるディスプレイメガネであっ て,本願発明のようにカウンタウェイトとしてのバッテリーを備えておらず,耳を 支点としてその前後のバランスをとるというような発明ではなく,本願発明とは関 係がないから,引用発明において,引用例2に記載された技術事項を適用し,相違 点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは容易に想到できたことではない\n旨主張する。 しかし,前記アと同様に,引用例1には,レンズ1に液晶層を設けたときにその 電源となる電池をしゃもじ状部4に埋め込んでもよいことが記載されているから, 引用発明において,引用例1の上記記載に従い,液晶層に情報を表示するために,\nアイウェア(メガネ)という同一の分野に係る技術である引用例2に記載された技 術事項を適用することには動機付けがある。

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平成28(行ケ)10186  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月21日  知的財産高等裁判所(4部)

 特許庁は進歩性無しと認定しましたが、知財高裁は、容易ではないと判断しました。
 引用発明1は,前記2のとおり,低温側変色点以下の低温域における発色状態又 は高温側変色点以上の高温域における消色状態を特定温度域で記憶保持できる色彩 記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料を水性媒体中に分散させた可逆熱変色 性インキ組成物を充填したペン等の筆記具であり,同筆記具自体によって熱変色像 の筆跡を紙など適宜の対象に形成することができる(引用例1【0004】〜【0 006】【0012】【図4】)。 これに対し,引用発明2は,筆記具と上面に熱変色層が形成された支持体等から 成る筆記材セットであり,前記ウのとおり,同様の色彩記憶保持型の可逆熱変色性 微小カプセル顔料を,バインダーを含む媒体中に分散してインキ等の色材として適 用し,紙やプラスチック等から成る支持体上面に熱変色層を形成させた上で,氷片 や冷水等を充填して低温側変色点以下の温度にした冷熱ペンで上記熱変色層上に筆 記することによって熱変色像の筆跡を形成するものである(引用例2【0005】 【0010】〜【0012】【0014】【0016】〜【0020】【図1】)。 引用発明2は,筆記具である冷熱ペンが,氷片や冷水等を充填して低温側変色点以 下の温度にした特殊なものであり,インキや芯で筆跡を形成する通常の筆記具とは 異なり,冷熱ペンのみでは熱変色像の筆跡を形成することができず,セットとされ る支持体上面の熱変色層上を筆記することによって熱変色像の筆跡を形成するもの である。 このように,引用発明1と引用発明2は,いずれも色彩記憶保持型の可逆熱変色 性微小カプセル顔料を使用してはいるが,1)引用発明1は,可逆熱変色性インキ組 成物を充填したペン等の筆記具であり,それ自体によって熱変色像の筆跡を紙など 適宜の対象に形成できるのに対し,2)引用発明2は,筆記具と熱変色層が形成され た支持体等から成る筆記材セットであり,筆記具である冷熱ペンが,氷片や冷水等 を充填して低温側変色点以下の温度にした特殊なもので,インキや顔料を含んでお らず,通常の筆記具とは異なり,冷熱ペンのみでは熱変色像の筆跡を形成すること ができず,セットとされる支持体上面の熱変色層上を筆記することによって熱変色 像の筆跡を形成するものであるから,筆跡を形成する対象も支持体上面の熱変色層 に限られ,両発明は,その構成及び筆跡の形成に関する機能\において大きく異なる ものといえる。したがって,当業者において引用発明1に引用発明2を組み合わせ ることを発想するとはおよそ考え難い。
オ 相違点5に係る本件発明1の構成の容易想到性について
(ア) 前記エのとおり,当業者が引用発明1にこれと構成及び筆跡の形成に関す\nる機能において大きく異なる引用発明2を組み合わせることを容易に想到し得たと\nは考え難く,よって,相違点5に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たとはい\nえない。
(イ) 仮に,当業者が引用発明1に引用発明2を組み合わせたとしても,前記ウ のとおり,引用例2には,熱変色像を形成する熱変色体2及び冷熱ペン8とは別体 のものとしての摩擦具9のみが開示されていることから,引用発明2の摩擦具9は, 筆記具とは別体のものである。よって,当業者において両者を組み合わせても,引 用発明1の筆記具と,これとは別体の,エラストマー又はプラスチック発泡体を用 いた摩擦部を備えた摩擦具9(摩擦体)を共に提供する構成を想到するにとどまり,\n摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提 供する相違点5に係る本件発明1の構成には至らない。
(ウ) そして,前記イのとおり,引用例1には,そもそも摩擦熱を生じさせる具 体的手段について記載も示唆もされていない。 また,前記ウのとおり,引用例2には,熱変色像を形成する熱変色体2及び冷熱 ペン8とは別体のものとしての摩擦具9のみが開示されており,そのように別体の ものとすることについての課題ないし摩擦具9を熱変色体2又は冷熱ペン8と一体 のものとすることは,記載も示唆もされていない。 引用例3(甲9),甲第10,11号証,引用例4(甲12),甲第13,14, 及び52号証には,筆記具の多機能性や携帯性等の観点から筆記具の後部又はキャ\nップに消しゴムないし消し具を取り付けることが,引用例7(甲80)には,筆記 具の後部又はキャップに装着された消しゴムに,幼児等が誤飲した場合の安全策を 施すことが,引用例8(甲81)には,消しゴムや修正液等の消し具を筆記具のキ ャップに圧入固定するに当たって確実に固定する方法が,それぞれ記載されている。 しかし,これらのいずれも,消しゴムなど単に筆跡を消去するものを筆記具の後部 ないしキャップに装着することを記載したものにすぎない。 他方,引用発明2の摩擦具9は,低温側変色点以下の低温域での発色状態又は高 温側変色点以上の高温域における消色状態を特定温度域において記憶保持すること ができる色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料からなる可逆熱変色性イ ンキ組成物によって形成された有色の筆跡を,摩擦熱により加熱して消色させるも のであり,単に筆跡を消去するものとは性質が異なる。そして,引用例3,4,7, 8,甲第10,11,13,14及び52号証のいずれにもそのような摩擦具に関 する記載も示唆もない。よって,このような摩擦具につき,筆記具の後部ないしキ ャップに装着することが当業者に周知の構成であったということはできない。また,\n当業者において,摩擦具9の提供の手段として,引用例3,4,7,8,甲第10, 11,13,14及び52号証に記載された,摩擦具9とは性質を異にする,単に 筆跡を消去するものを筆記具の後部ないしキャップに装着する構成の適用を動機付\nけられることも考え難い。
(エ) 仮に,当業者において,摩擦具9を筆記具の後部ないしキャップに装着す ることを想到し得たとしても,前記エのとおり引用発明1に引用発明2を組み合わ せて「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ,摩擦熱により筆記時の有 色のインキの筆跡を消色させる摩擦体」を筆記具と共に提供することを想到した上 で,これを基準に摩擦体(摩擦具9)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又は キャップに装着することを想到し,相違点5に係る本件発明1の構成に至ることと\nなる。このように,引用発明1に基づき,2つの段階を経て相違点5に係る本件発 明1の構成に至ることは,格別な努力を要するものといえ,当業者にとって容易で\nあったということはできない。

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平成27(行ケ)10247  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月16日  知的財産高等裁判所(2部)

 進歩性ありとした審決が取り消されました。
 前記(2)のとおり,本件訂正発明と甲1発明とは,相違点1(架橋剤で架 橋処理される前の対象物であるポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物について, 本件訂正発明は,「架橋体」からなり「2個以上の重合性不飽和基または2個以上の 反応性基を有する内部架橋剤を共重合または反応させた」ものであると特定するの に対し,甲1発明は,「アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩等の水溶性ビニル モノマーに対して,重合開始剤として0.03〜0.4重量%の量の過硫酸カリウ ム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩を使用して重合し」て得られた「生成ポリ マー」と特定する点)において相違するが,甲1発明の「アクリル酸又はアクリル 酸アルカリ金属塩等の水溶性ビニルモノマーに対して,重合開始剤として0.03 〜0.4重量%の量の過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩を使用 して重合し」て得られた「生成ポリマー」は,甲1に「過硫酸塩を用いる場合には, 架橋反応も伴」うことが記載されている(【0020】)ことからすると,自己架橋 型の内部架橋を有するものである。 他方,本件訂正発明は,「2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を 有する内部架橋剤」を用いた内部架橋剤型の内部架橋を有するものである。 そうすると,相違点1は,「架橋剤で架橋処理される前の対象物であるポリアクリ ル酸ナトリウム塩部分中和物について,本件訂正発明は,『2個以上の重合性不飽和 基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤』を用いた内部架橋剤型の内部架 橋を有するものであるのに対し,甲1発明は,自己架橋型の内部架橋を有するもの である点」(相違点1’)において相違するということができる。
イ そして,本件優先日当時,前記(3)イ(イ)のとおり,紙オムツ等に使用され る吸収体を,自己架橋型として製造することと,内部架橋剤型として製造すること とは,当業者が任意に選択可能な技術であり,同ウ(イ)のとおり,自己架橋型の内部 架橋と比較して,内部架橋剤型の内部架橋には,例えば,吸収体の架橋密度を制御 し,吸水諸性能をバランスよく保つことができる等の利点があることが,当業者の\n技術常識であったものと認められる。 そうすると,本件優先日当時の当業者には,甲1発明において,使い捨ておむつ や生理用ナプキン等の吸収性物品に用いられる高吸水性樹脂に一般に求められる, 架橋密度を制御して吸水諸性能をバランスよく保つ等の課題を解決するために,自\n己架橋型の内部架橋に代えて,内部架橋剤型の内部架橋を採用する動機があったも のということができる。 また,相違点1’に係る容易想到性の判断は,「架橋剤で架橋処理される前の対象 物であるポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物」について,自己架橋型の内部架 橋に代えて,内部架橋剤型の内部架橋を採用することが容易想到であるかを検討す べきものであるから,後に「架橋剤で架橋処理される」こと(表面架橋)が予\定さ れていることが内部架橋剤型の内部架橋を採用することの妨げとなるかを検討して も,前記(3)エ(イ)のとおり,本件優先日当時,紙オムツ等に使用される吸収体を,内 部架橋剤と表面架橋剤とを併用して製造することは,当業者の周知技術であったと\n認められるから,後に表面架橋が予\定されていることが内部架橋剤型の内部架橋を 採用することを阻害するとはいえない。同様に,甲1に内部架橋剤と表面架橋剤と\nを併用する旨の記載がなかったとしても,当業者が,甲1発明において,「重合後」 に架橋剤を添加することに加えて,更に架橋剤を「重合前」又は「重合時」にも添 加することを想到することが困難であったとも認められない。 したがって,甲1発明において,自己架橋型の内部架橋とすることに代えて,内 部架橋剤型の内部架橋とすることは,当業者が容易に想到し得るものと認められる。 そして,前記(3)イ(ア)及びウ(ア)のとおり,本件優先日前に頒布された刊行物には, 「2個以上の重合性不飽和基」を有する内部架橋剤を用いること(甲16の5,6, 甲18の2,4,6),「2個以上の反応性基」を有する内部架橋剤を用いること(甲 16の5,6)が記載され,また,「2個以上の重合性不飽和基」を有する内部架橋 剤である「N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド」及び「ポリエチレン グリコールジ(メタ)アクリレート」の一方又は双方が具体的に記載されているこ と(甲16の1〜4,甲18の6)からすれば,内部架橋剤として,「2個以上の重 合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤」を選択することは, 本件優先日当時の当業者が,適宜なし得ることであったということができる。 ・・・ ア 被告は,自己架橋型の架橋構造と内部架橋剤型の架橋構\造とでは,分子 構造や網目の大きさが異なるのが一般的であるから,審決における「分子構\造が異 なる」との認定は正しいものといえ,また,内部架橋剤型であったとしても,使用 する内部架橋剤の構造,属性により大きく吸水諸特性が異なるのであり,「内部架橋\n剤型の架橋構造」同士においても,内部架橋剤の種類の違いによる分子レベルでの\n微細構造の違いによって吸水諸特性が異なるのであるから,いわんや「自己架橋型\nの架橋構造」を「内部架橋剤型の架橋構\造」と同視することは不合理である旨主張 する。 しかしながら,前記(4)イのとおり,本件優先日当時,紙オムツ等に使用される吸 収体を,自己架橋型として製造することと,内部架橋剤型として製造することとは, 当業者が任意に選択可能なものであると共に,当業者が,自己架橋型よりも内部架\n橋剤型を選択する動機があったということができる。当該吸収体において,自己架 橋型の架橋構造と内部架橋剤型の架橋構\造との分子構造が異なり,その結果,双方\nの吸水諸特性に相違が生じることがあるとしても,両者が共に選択可能な製造技術\nである以上,その置換は容易なものといわなければならない。被告が,自己架橋型 の架橋構造と内部架橋剤型の架橋構\造とが同視できる技術でなければ容易に置換で きないと主張するのであれば,それ自体失当といえる。

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平成28(行ケ)10076  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月14日  知的財産高等裁判所

 阻害要因ありとして、進歩性ありとした審決が維持されました。
 引用発明及び甲2発明は,共に,建築の際に用いられる羽子板ボルトに関するも のであるから,その技術分野を共通にし,横架材等を相互に緊結するという機能も\n共通している。 しかし,引用発明に回動不能構\成を採用することには,引用発明の技術的意義を 損なうという阻害事由がある。 引用発明は,前記2(2)のとおり,従来の羽子板ボルトが有する,ボルト穴の位置 がずれた場合に羽子板ボルトを適切に使用することができないという課題を解決す るために,ボルト81が摺動自在に係合する係合条孔92を有する補強係合部10b を,軸ボルト4を中心として回動可能にするという手段を採用して,補強係合具10bが軸ボルト4を中心に回動し得る横架材16面上の扇形面積部分19内のいず\nれの部分にボルト穴171が明けられても,補強係合具10bの係合条孔92にボル ト81を挿入することができるようにしたものである。引用発明に相違点2に係る 構成を採用し,引用発明の補強係合具10bを,軸ボルト4を中心として回動可能\ なものから回動不能なものに変更すると,補強係合具10bの係合条孔92にボルト81を挿入することができるのは,ボルト穴171が係合条孔92に沿った位置に\n明けられた場合に限定される。すなわち,引用発明は,横架材16面上の扇形面積 部分19内のいずれの部分にボルト穴171が明けられても,補強係合具10bの 係合条孔92にボルト81を挿入することができるところに技術的意義があるにも かかわらず,回動不能構\\成を備えるようにすると,係合条孔92に沿った位置以外 の横架材16面上の扇形面積部分19内に明けられたボルト穴171にはボルト8 1を挿入することができなくなり,上記技術的意義が大きく損なわれることとなる。 そして,引用発明の技術的意義を損なってまで,引用発明の補強係合具10bを 回動不能なものに変更し,係合条孔92に沿った位置にボルト穴171を明けない限りボルト81を挿入することができないようにするべき理由は,本件の証拠上,認\nめることができない。 そうすると,引用発明の補強係合具10bを回動不能なものに変更することには,阻害要因があるというべきである。したがって,引用発明が相違点2に係る本件発\n明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。\nそして,甲3文献に記載された事項は,「垂直材」(柱)と「横架材」(土台梁)と を接合する「羽子板ボルト」であって,上記阻害事由があるという判断に影響する ものではないから,引用発明に相違点2に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。\n

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平成28(行ケ)10103  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月28日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。
 (ア) 引用発明は,前記(1)イによれば,ワイヤーの把持面又はその辺りでの結び や捻れを防止し,かつ絶縁型のワイヤーへの損傷や切断を生じないワイヤー把持具 を提供することを目的とし,かかる課題の解決手段として,ハンドル32が,ピン 33とブラケット35との間に段差状の屈曲する部分を有し,ガイド36の形状と 配置にあわせて,ハンドル32の上記屈曲と枢着接続部33の移動の円弧がよく調 整されるようにした構成を採用し,これにより,引っ張る負荷が目37に適用され\nるとき,ハンドル32がワイヤーに接触せず移動して目37の位置がワイヤーに接 近し,引っ張る動作は常にワイヤーのほぼ軸方向にあるから,ワイヤーが曲がった り,捻れたりしないという作用効果を奏するものである。 そうすると,引用発明は,前記1(2)アの本件発明の課題と共通する課題を,ハン ドル32が,ピン33とブラケット35との間に段差状の屈曲する部分を有し,ガ イド36の形状と配置にあわせて,ハンドル32の上記屈曲と枢着接続部33の移 動の円弧がよく調整されるようにした構成を採用することにより,既に解決してい\nるということができるから,上記構成に加えて,あるいは,上記構\成に換えて,ハ ンドル32を「捻った」部分を有するように構成する必要がない。
(イ) また,前記アの周知例等の記載によっても,掴線器において,長レバーの 移動により,その後端に設けられたリング部がケーブルなど他の部材と干渉するの を避けるために,長レバーを「捻った」部分を有するように構成することが,もと\nの出願日前に,当業者に周知慣用の技術であったとは認められない。すなわち,周 知例1,10ないし14,甲16及び20には,部材を「捻った」構成が記載され\nているものの,周知例1は「耐張碍子を腕金に連結する捻りストラップ」,周知例 10は「六角レンチ」,周知例11は「自動車ボデーの補修工具」,周知例12は 「回転電機巻線」,周知例13は「多穴管」,周知例14は「チューブ」,甲16 は「通い綱ロープの掛け止め補助具」,甲20は「架線走行システムの補助レー ル」に関するものであって,掴線器に関するものではなく,掴線器の長レバーと同 様の作用や機能を有する部材に関するものでもない。なお,周知例2及び甲21は,\nもとの出願日後に公開された文献であって,もとの出願日前の周知慣用の技術を示 す証拠としては失当であるが,この点を措いても,周知例2は「耐張碍子を腕金に 連結する捻りストラップ」,甲21は「引込線等をなす撚り線」に関するものであ って,掴線器に関するものではなく,掴線器の長レバーと同様の作用や機能を有す\nる部材に関するものでもない。同様に,周知例3,甲15,17ないし19及び2 2ないし27は,いずれも掴線器に関するものではないし,そこに記載されている のは,部材を「曲げた」又は「巻き付けた」構成であって,そもそも「捻った」構\ 成でもない。さらに,周知例4ないし9は,掴線器に関するものであるが,長レバ ー又はそれに相当する部材を「捻った」構成とすることについて,記載又は示唆す\nるものではない。
(ウ) したがって,そもそも,掴線器において,長レバーの移動により,その後 端に設けられたリング部がケーブルなど他の部材と干渉するのを避けるために,長 レバーを「捻った」部分を有するように構成することが,もとの出願日前に,当業\n者に周知慣用の技術であったとは認められないし,引用発明において,上記構成を\n備えるようにする動機付けもない。
(エ) むしろ,引用発明の構成に加えて,ハンドル32を「捻った」部分を有す\nるように構成する場合には,引用発明では,目37がワイヤーに近接した位置とな\nるように調整されているため,目37がワイヤーに接触するおそれがあり,目37 がワイヤーに接触しないようにするには,目37とワイヤーとの距離を遠ざけるよ うにガイド36の形状と配置を変更することや,ハンドル32の段差状の屈曲と枢 着接続部の移動の円弧の再調整をすることが必要になるから,引用発明において, その構成に加えて,ハンドル32を「捻った」部分を有するように構\成することに は,阻害要因があるというべきである。
(オ) 以上によれば,引用発明において,周知例等に記載された事項に基づいて 相違点に係る本件発明の構成を備えるようにすることが,容易に想到できたという\nことはできない。

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平成27(行ケ)10190  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月22日  知的財産高等裁判所(3部)

 進歩性無しとした審決が取り消されました。理由は阻害要因ありです。
 そこで,以上の理解を踏まえて,本件審決の相違点2についての判断の当 否につき検討するに,本件審決は,甲1発明1において,エステル交換によ って脂肪酸エステルを含む油組成物を生成することと,本件訂正発明1に おいて,揮発性作業流体を混合物に添加することとは,環境汚染物質を除去 するために分子蒸留に付すべき脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する という操作目的の点で技術的に軌を一にすることを理由として,甲1発明 1における「リパーゼを用いた選択的エステル交換を行って脂肪酸エステ ルを含む油組成物を生成する」構成を,周知技術である「揮発性作業流体を\n油組成物に外部から添加する」構成に置換することの容易想到性を認める\n判断をする。
しかしながら,上記エで述べたとおり,甲1公報に記載された発明は,上 記エ1)ないし3)の各課題を解決することを目的とする発明であると理解さ れるところ,このうち,上記エ1)及び3)の課題の解決のためには,「リパー ゼを用いた選択的エステル交換を行って脂肪酸エステルを含む油組成物を 生成」し,その上で分子蒸留を行うことにより,所望でない飽和および単不 飽和脂肪酸を実質的に有しないグリセリドの残余画分を得ることが不可欠 であり,この工程を,「揮発性作業流体を油組成物に外部から添加」した上 で分子蒸留を行う工程に置換したのでは,上記発明における上記エ2)の課 題は解決できたとしても,これとともに解決すべきものとされる上記エ1) 及び3)の課題の解決はできないことになる。 してみると,甲1公報に記載された発明において,「リパーゼを用いた選 択的エステル交換を行って脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する」構\n成に代えて,周知技術である「揮発性作業流体を油組成物に外部から添加す る」構成を採用することは,当該発明の課題解決に不可欠な構\成を,あえて 当該課題を解決できない他の構成に置換することを意味するものであって,当業者がそのような置換を行うべき動機付けはなく,かえって阻害要因\nがあるものというべきである。
なお,このことは,甲1公報の記載のうち,「トリグリセリドの形態で飽 和および不飽和脂肪酸を含有する油組成物からの環境汚染物質の除去のた めの方法」に係る特許請求の範囲請求項22で特定される発明に専ら着目 してみても,異なるものではない。すなわち,当該発明においても,「(a) 該油組成物を,実質的に無水の条件下,かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエ ステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に,…エステル 交換反応に供する工程」を要し,かつ,「(b)工程(a)において得られ た生成物を…分子蒸留に供して多不飽和脂肪酸のグリセリドに富み,かつ 環境汚染物質が優先的に除去された残余画分を回収する工程」を要するも のとされているのであるから,上記エ2)の課題とともに,上記エ1)及び3)の 課題をも解決するために,「リパーゼを用いた選択的エステル交換を行って 脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する」構成を不可欠の構\成としてい ることは明らかといえる。

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平成28(行ケ)10040  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年12月26日  知的財産高等裁判所(第2部)

 進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。理由は、そもそも引例と本件周知技術とは技術分野が異なるので組み合わせができない、さらに組み合わせても、本件発明まで想到しないというものです。
 前記a及びbによれば,コンピュータシステムの不正使用防止の技 術分野において,装置Aの記憶媒体に記憶されている情報を,特定の者に利用させ る場合につき,当該特定の者が装置Bを携行することを前提に,装置Aと装置Bと の間の距離測定を行い,その距離が所定の範囲内であるときに限り,装置Bの所持 者に当該情報を利用させることは,本願優先日には周知技術であったと認められる。
ウ(ア) 甲1発明は,前記(1)のとおり,車両側無線装置と携帯型無線装置との 間の距離を測定し,所定の間隔の範囲内である場合に,車両側無線装置が車両の施 解錠実行部に解錠指令を送出するキーレス・エントリーシステムである。 一方,甲3は,前記イ(ウ)aのとおり,携帯通信端末とカードとの距離に応じてカ ードの使用を許可するシステムであって,ここでのカードの使用とは,クレジット カードの情報を用いる電子商取引,すなわち,情報処理である。また,甲4は,同 bのとおり,多端末環境でのユーザのワークステーションへのアクセスを許可する システムであり,ここでのワークステーションへのアクセスは,当然に情報処理を 目的としている。つまり,甲3及び4に記載された技術は,情報処理システムに対 する不正使用防止の技術であるのに対し,甲1発明は,ドアの解錠システムという, 情報処理システムではないシステムに対する不正使用防止の技術であって,両者は, その前提とするシステムが相違しており,技術分野が異なる。
(イ) しかも,装置Aの記憶媒体に記憶されている情報を,特定の者に利用 させる場合につき,当該特定の者に装置Bを携行させ,装置Aと装置Bとの間の距 離測定を行い,その距離が所定の範囲内であるときに限り,装置Bの所持者に当該 情報を利用させるという周知技術を,甲1発明に適用したとしても,距離測定後に, 距離測定の対象である装置の一方から他方へ,当該一方の装置が記憶しているマル チメディアデータを,他方の装置に送信するという構成に至るものではない。
(ウ) したがって,当業者が,甲1発明と甲3又は4に記載された周知技術 を組み合わせることは,容易とはいえず,仮に組み合わせたとしても,本願発明を 発明することができたとはいえない。

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平成28(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月26日  知的財産高等裁判所

 宅配ボックスと中食配送システムについて、組み合わせの動機付けありと認定し、拒絶審決が維持されました。裁判所は、利用者宛ての荷物について,システムから利用者に対しメール通知を行う点で共通の技術分野に属すると言及しました。
 (2) 引用例2(甲3)には,以下のとおり,引用発明2が開示されている。 好きな食事を任意に摂取できる食環境について,より低コストかつ迅速な配送が 可能で,管理や作業が容易であり,かつ,発送者,受取者の利用者双方の要求に臨\n機応変に適応できるような,便利で効率のよい配送システムを提供するために (【0007】【0008】),権限を有する所定の配送作業者及び利用者のみが 荷物を出し入れすることができるボックスなどの収容手段を複数有する集合住宅の 玄関などに設置された配送中継装置と,利用者端末装置と,管理装置と,中食提供 者端末装置とを備え,利用者が利用者端末装置を操作して,中食の内容,当該中食 を利用者が受け取る時間及び配送中継装置を指定した注文を管理装置に送信し,管 理装置が,上記受信した注文について,中食提供者端末装置に対して,指定された 内容の中食を製造することを指示するとともに,中食配送者端末装置に対して,上 記指定された時間までに指定された配送中継装置に中食を配送することを指示し, 中食配送者が,中食配送者端末装置が受けた指示を基に,中食提供者から受け取っ た中食を,上記指定された時間までに,指定された配送中継装置の所定のロッカー に保管されるよう配送し,配送中継装置は,所定の管理期間が経過しても利用者が 中食を取りにこないと判断した場合には,利用者のメールアドレスにその旨を通知 する,中食配送システム(【0029】【0032】【0054】〜【006 6】)。
(3) 引用発明1は,前記2(2)のとおり,集合住宅内に設置された宅配ボックス から成り,受取人宛ての荷物が配達され宅配ボックスに保管されると,通信サーバ が,荷物の受取人宅宛てに電子メールを送信する宅配ボックスシステムである。そ して,引用発明2は,前記(2)のとおり,ボックス等の収納手段を有する集合住宅の 玄関などに設置された配送中継装置から成り,利用者の注文した中食が配送され配 送中継装置に保管され,その後所定の管理時間が経過しても中食が取られない場合 には,配送中継装置が,中食の受取人である利用者のメールアドレスに通知を送る 中食配送システムというものである。 したがって,引用発明1と引用発明2は,ともに,集合住宅に設置された保管ボ ックスから成り,配達され保管された利用者宛ての荷物について,システムから利 用者に対しメール通知を行う荷物の配送システムという,共通の技術分野に属する ものである。そして,引用発明1と引用発明2は,いずれも,荷物の配送システム において,インターネット等を利用して発送者,受取者等の利用者の利便性を向上 させるという課題を解決するものということができ,引用発明1のシステムの利便 性を向上させるために,利用者端末装置や管理装置を含む引用発明2の構成を組み\n合わせる動機付けがあるというべきである。
(4) 他方,引用発明1は,自分宛ての荷物の注文が,誰によりどのようになされ たものであるのか何ら特定していないから,自分宛ての荷物の配達として,利用者 自らの注文によらない場合の配達サービス(具体的には,他者による注文に基づく 荷物の配達)に限定されないと解するのが自然であり,また,引用例1の【001 9】における「…たとえば最近のインターネット通販などによる高価な宅配物の増 加に対して極めて有効なセキュリティシステムとなる。」との記載には「インター ネット通販」が例示として挙げられているのであって,引用発明1が,インターネ ット通販のような,利用者自らが自分宛ての荷物を注文し,当該注文した荷物を配 送業者等により自身宛てに配達してもらう形態を排除していないと解するのが相当 である。 そうすると,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,共通の課題を有する引 用発明2を適用する上での阻害要因は何ら認められないというべきである。
(5) 原告らの主張について
原告らは,引用例1では,高価な宅配物を対象とするインターネット通販におい て,高いセキュリティシステムを適用することが開示されているにすぎないのに対 し,引用例2では,インターネットを介して中食を発注するシステムが開示されて いるものの,高価な宅配物を対象とするものではなく,また,二つの暗証番号を入 力するといった高度なセキュリティを必要とするものではないから,引用例1と引 用例2が対象とする宅配物は全く異なるものであり,単にインターネット通販に係 るものであるからといって,引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けは一 切存しないと主張する。 しかし,引用例1自体,高度のセキュリティを備えることを必然の構成としてい\nるわけではないし(甲2の【0016】〜【0019】),配送対象の荷物が高価 であるか否かや,高度なセキュリティを要するか否かが,技術分野及び課題の共通 性を阻害し動機付けを失わせるとはいえないから,原告らの上記主張は理由がない。
(6) したがって,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,課題においても共 通する引用発明2を適用することの動機付けがあり,かつ,適用する上での阻害要 因が何ら認められないのであるから,引用発明1におけるユーザのモバイル端末に おいて,引用発明2の技術を適用することで,発注機能を備えるよう構\成して相違 点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。\n

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平成28(行ケ)10009  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、動機付けなし・阻害要因ありとして、取り消されました。
 引用例2には,そこに記載された加湿器が,給水部の水位を検知する検知装置を 備えた加湿器において,表示部が,給水部の水位が一定の水位よりも低くなると,\nあらかじめ定めた第1表示内容を表\示し,モーターが所定時間以上回転した後,モ ーターを停止し,あらかじめ定めた第2表示内容を表\示するものであることが記載 され(【0005】),かかる構成にしたことにより,給水部の水位が一定の水位\nよりも低くなった後,給水を促す表示をするが,モーターが所定時間の5分間以上\n回転しているため,モーターが回転している間に使用者が給水を促す表示に気が付\nき,給水を行えば,加湿運転を停止させて部屋を乾燥させてしまうことがない,ま た,モーターの回転を低速回転とするため,加湿量が減って給水部の水位が一定の 水位よりも低くなった後はゆっくりと水位が下がり,長時間加湿できることから, その間に給水を促す表示に気が付きやすいなどと記載されている(【0009】,\n【0010】)。また,【0036】ないし【0038】には,給水部2の水位が 基準の水位よりも低くなると,ファン3を低速回転とし,ヒーター8をOFFとし, タイマーに所定時間の5分間以上の時間を設定し,表示部6には第1の表\示内容で ある「給水」及びタイマー残時間の表示をして,タイマーの減算を開始すること,\nタイマーの残時間が0となったらファン3を停止し,表示部6には第2の表\示内容 である「給水」点滅の表示をすることが記載されている。\nこれらの記載によれば,引用例2に記載の加湿器は,部屋の乾燥を防止するため に,水位が「一定の水位」より低くなった後も,モーターが所定時間以上回転し, さらに,低速回転とすることで長時間加湿をすることが可能なものである。そして,\n「第1表示内容」が「給水」という文字及びタイマー残時間を表\示するものである から,「一定の水位」は,給水が一応求められる水位であるといえるものの,タイ マー残時間分のファンの継続運転によって,上記「一定の水位」よりさらに低くな った水位における「第2の表示内容」が「給水」という文字を含む点滅表\示である ことに照らせば,上記「一定の水位」は,タイマー残時間分の加湿運転の余地があ る水位を意味するものと理解される。 したがって,引用例2における「一定の水位」は,それを下回る水位でも加湿機 能が適正に動作して加湿空気を生成することができ,それを下回る水位が検出され\nた後も加湿機能の動作を行わせることを前提とするものであるということができる。\n(ウ) 以上によれば,引用例2に記載された技術事項における,給水部の水位を 検知する検知装置が検知する「一定の水位」は,引用発明におけるフロートスイッ チ14の「第1の基準位置における接点」とは,水位の性質,すなわち,それを下 回る水位でも加湿機能が適正に動作できるか否か及び加湿機能\の動作を行わせるこ とを前提としているか否かという点において,明らかに相違する。 加えて,引用発明において,液面検出手段を構成するフロートスイッチ14は,\n「第1の基準位置H1における接点」のみならず,「第2の基準位置H2における 接点」を有するところ,「第2の基準位置H2における接点」が検出する液面高さ の「第2の基準位置」は,加湿機の運転時の場合には,水面高さ(液面高さ)が第 1の基準位置H1以上の場合には運転が継続される,すなわち,液面高さが「第2 の基準位置」を下回っても,第1の基準位置を上回る限りにおいて,加湿機の運転 が継続されるものである(【0028】)。そうすると,所定の水位を下回る液面 高さでも加湿機能が動作して加湿空気を生成することができ,それを下回る水位が\n検出された後も加湿機能の動作を行わせるものである点において,引用例2におけ\nる「一定の水位」と引用発明の「第2の基準位置H2における接点」は共通するも のであるということができる。 このように,引用例2の「一定の水位」は,フロートスイッチ14の「第1の基 準位置における接点」とは水位の性質(それを下回る水位でも加湿機能が適正に動\n作できるか否か及び加湿機能の動作を行わせることを前提としているか否かという\n点)において明らかに相違し,かつ,引用発明には,上記性質において共通する 「第2の基準位置H2における接点」が既に構成として備わっているにもかかわら\nず,引用発明において,フロートスイッチ14の「第1の基準位置における接点」 を引用例2の「一定の水位」を検知する構成に置き換える動機付けがあるというこ\nとはできない。 (エ) さらに,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1 における接点」を,引用例2に記載された技術事項(それを下回る水位が検出され た後も加湿機能の動作を行われせることを前提した「一定の水位」を検出対象とす\nるもの)に置き換えると,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準 位置H1における接点」は,液面高さが「第1の基準位置」を下回ったことを検出 しても加湿機能を引き続き動作させることになるから,引用発明におけるフロート\nスイッチ14の「第1の基準位置H1における接点」に係る構成により奏するとさ\nれる,加湿部の動作を自動的に停止して液体収容槽の液体の残量がないときにファ ンを無駄に動作させることを防止できるという効果(【0009】)は,損なわれ ることになる。 そうすると,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1に おける接点」を,引用例2に記載された技術事項である,「一定の水位」を検知す る構成に置き換えることには,阻害要因があるというべきである。\n

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◆関連事件です。平成28(行ケ)10008

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平成27(行ケ)10149  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年8月10日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は「容易の容易」に当たるので動機付けなしというものです。
イ 相違点2の容易想到性について
(ア) 本件審決は,浚渫用グラブバケットに関する発明である引用発明1におい て,同じく浚渫用グラブバケットに関する周知技術2及び3並びに引用発明3を適 用して相違点2に係る本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し\n得たことであると判断した。 (イ) 相違点2は,シェルの構成に関するものである。しかし,引用例1(甲1)\nには,専ら,バケットの吊上げ初期の揺れがほとんど発生せず,開閉ロープのロー プ寿命も長くなる浚渫用グラブバケットの提供を課題として(【0005】),上部 シーブ,下部シーブ,バケット開閉用の開閉ロープ及びガイドシーブの構成や位置\nによって上記課題を解決する発明が開示されており(【請求項1】〜【請求項3】, 【0006】,【0016】),シェルに関しては,特許請求の範囲及び発明の詳細な 説明のいずれにも,「各シェル部1A,1Bは軸3で開閉自在に軸支され,下部フ レーム2に取付けられている。」(【0008】)など,他の部材と共にグラブバケッ トを構成していることが記載されているにとどまり,シェル自体の具体的構\成につ いての記載はない。引用例1においては,前記⑴ア(ア)のとおり,上記発明の一実 施形態に係る浚渫用グラブバケットの側面図【図1】及び正面図【図2】に加え, 従来のグラブバケットの側面図【図6】及び正面図【図7】において,シェルが図 示されているにすぎない。 したがって,引用例1には,シェルの構成に関する課題は明記されていない。\n(ウ) もっとも,引用例3(甲4)の考案の詳細な説明中の考案が解決しようと する問題点(前記(2)ア(イ)b),周知例1(甲16)の【0002】,【0003】 (前記(3)ア(イ)),周知例2(甲26)の考案の詳細な説明中,従来技術の欠点に ついて述べたもの(前記(3)イ(イ)a)及び引用例5(甲5)の【0006】から 【0008】(前記(4)ア(イ)c)によれば,本件特許出願の当時,浚渫用グラブバ ケットにおいて,シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止することは,自明の課 題であったということができる。したがって,当業者は,引用発明1について,上 記課題を認識したものと考えられる。 前記(3)ウのとおり,本件審決が周知技術2を認定したことは誤りであるが,当業 者は,引用発明1において,上記課題を解決する手段として,周知例2に開示され た「シェルが掴んだヘドロ等の流動物質の流出を防ぐために,相対向するシェル1 1,11の上部開口部12,12に上部開口カバー13,13をシェル11,11 の内幅いっぱいに固着するか,又は,取り外し可能に装着することによって,上部\n開口部12,12を上部開口カバー13,13でふさぎ,シェル11,11を密閉 する」構成を適用し,相違点2に係る本件発明の構\成のうち,「シェルの上部にシ ェルカバーを密接配置する」構成については容易に想到し得たものと認められる。\nしかしながら,前記(4)のとおり,シェルの上部に空気抜き孔を形成するという周 知技術3は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,そのような状態に おいてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり,この課題を解決す るための手段である。引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示さ れておらず,よって,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識することは 考え難い。当業者は,前記のとおり引用発明1に周知例2に開示された構成を適用\nして「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」という構成を想到し,同構\成 について上記課題を認識し,周知技術3の適用を考えるものということができるが, これはいわゆる「容易の容易」に当たるから,周知技術3の適用をもって相違点2 に係る本件発明の構成のうち,「前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成」す\nる構成の容易想到性を認めることはできない。\n(エ) また,前記(2)のとおり,引用例3には,海底から掻き取った海底土砂等を バケットシェル内に保持することを可能にし,かつ,水の抵抗を最小限にして,荷\nこぼれによる海水汚濁を防止し得るグラブバケットの提供を課題とし,同課題解決 手段として,シェルの上部開口部の開閉手段を設けた旨が記載されていることから, 当業者は,引用発明1において,シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止すると いう自明の課題を解決する手段として,シェルを密閉するために,「浚渫用グラブ バケットにおいて,シェルの上部開口部に,シェルを左右に広げたまま水中を降下 する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容量以 上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移 動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付けるとい う技術」である引用発明3の適用を容易に想到し得たものということができる。 しかし,引用発明1に引用発明3を適用しても,シェルの上部に上記のように開 閉するゴム蓋を有する蓋体をシェルカバーとして取り付ける構成に至るにとどまり,\n相違点2に係る本件発明の構成には至らない。
ウ 被告の主張について
被告は,空気抜き孔をシェルカバーの一部に設けることは,引用例5及び周知例 1に開示された公知技術ないし周知技術である旨主張するが,前記イのとおり,同 技術は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,そのような状態におい てはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり,この課題を解決するた めの手段であり,引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示されて いないのであるから,よって,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識す ることは考え難く,上記技術を適用する動機付けを欠く。

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平成27(行ケ)10165  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月23日  知的財産高等裁判所

 断面形状が5角形の枕について、進歩性なしとした審決が、動機付けなしとして取り消されました。
 審決は,枕の断面形状を5角形とすることが周知の技術事項であり,引用発明の 転がり枕が多角形状の外周面をもつ転がし容易な形状のものであるから,その多角 形状の一形態として5角形の断面形状を選択して5角柱体状の転がり枕を構成する\nことは,当業者にとって容易であると判断する。 しかしながら,審決が周知の技術事項である根拠として摘示した参照文献である 特開2008−125974号公報(乙4)には,複数の多角形断面を有する柱状 体を連結した枕部品が,特開2006−102018号公報(乙5)には,複数種 の枕袋体で構成された枕(請求項2記載の発明は,各枕袋体が着脱自在であるだけ\nで,各枕袋体を単独で用いるものではない。)が,特開平7−275098号公報(乙 6)には,2個の枕を連結して凹部を構成する枕が開示されているだけである。上\n記各公報には,枕の一部を構成する部分に5角形の断面形状を有するものが認めら\nれるものの,そうであるからといって,一部材からなる枕の断面形状を5角形にす るという技術事項を開示したことにはならないのであり,また,単体で使用する枕 の断面形状を5角形にすることが直ちに動機付けられるものでもない。審決の上記 認定の根拠となる刊行物等は,見当たらない。 また,引用発明は,「適度な弾性を有するウレタンフォームや発泡スチロール若し くはゴムなどの弾性体で作られた,多角形状の外周面をもつ転がし容易な形状の, 容易に転がして首筋の任意な好みの部位にその円頂部を宛がう転がり枕」というも のであるところ,「多角形」の語義それ自体には5角形が含まれ(ただし,5角形の 断面形状が「多角形状の外周面をもつ転がし容易な形状」と異なることは,相違点 とされており,当事者間に争いがない。),また,引用例には,「多角形」が8角形で あってもよいことが開示されている(【図5】)。 しかしながら,前記1(2)に認定のとおり,引用発明の転がり枕は,容易に転がし て体の任意の部分にあてがうことができ,また,その部位をわずかに上げて転がす ことであてがい直しができるとするものであり,引用例にも,「円形状若しくは多角 形状の外周をもつ転がり容易な円柱形状の弾性体枕」(【請求項1】),「多角形状の外 周面をもつ転がし容易な円柱形状の丸型枕」(【0004】【課題を解決するための手 段】),「本発明の円柱形状に形成された転がり枕」(【0009】【発明の効果】)との 記載があることにかんがみると,引用発明の転がり枕の外周面は,円に近い形状の 多角形が想定されているものと認められる(審決は,引用例【0005】【0007】 の記載から,引用発明について「多角形の転がり易い形状」と認定したものと解さ れるが,十分に正確なものとはいえない。)。そして,多角形は,角の数が増えるほ\nど円に近い形状となるから,そのような断面形状を有する物が転がりやすくなり, 逆に,角の数が減るほど円から離れた形状となり転がりにくくなることは自明であ る。そうであれば,引用例に接した当業者は,具体的に開示された8角形よりも角 の数の多い多角形状の外周面を持つ形状とすることを通常試みるとはいえるものの, これよりも角の数の少ない多角形状の外周面を持つ形状とすることは,引用発明の 目的から離れていくことであって,これを試みること自体に相応の創意を要する。 他方,本願発明や円柱体に比べて,人間が仰臥,横臥の姿勢で行う,こすり付けや引っ掛け等のストレッチ運動において,そのし易さ,安定度等の点で非常に優れている・・・例えば,・・・・,3角柱体は,急斜面過ぎて使い難い。7角以上の柱体では,一辺の長さが5角柱体に比べ小さく,転がり易く不安定」であり,「又,頭との接触幅が小さいので感触も劣る。」(【0011】)と記載されているとおり,5角柱体に格別の技術的意義を見出したものである。 このように,枕を5角柱体とすることに格別の技術的意義を見出した本願発明に対し,枕の断面形状を5角形とすることが周知技術とはいえず,また,多角形状の枕である引用発明は,「転がり容易」なことを目的とするものである。そうすると,引用発明において,「多角形状の外周面をもつ転がし容易な形状」を「5角柱体状」とすることは,当業者が容易に想到し得る事項ではないと認められる。 被告は,転がりやすさは,枕の弾性や枕と設置面との間の摩擦力にもよることで あって,断面形状と転がりにくさとの間には必ずしも相関関係はないと主張する。 しかしながら,枕の弾性や枕と設置面との間の摩擦力など,枕の断面形状以外の 条件を同じくすれば,断面形状の角の数がより少ないものがより転がりにくくなる ことは明らかである。被告の上記主張は,枕の断面形状と転がりにくさとの関係を 主張しているものではなく,失当である。

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平成27(行ケ)10156  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月28日  知的財産高等裁判所

 動機付けなしとした審決が維持されました。
 (2) 操作部をアタッチメント11の上面に設ける構成の容易想到性について\n原告は,アタッチメント11の取付台12には,電源供給及び信号処理の回路が 設けられており,板状にすぎないビデオカメラ支持部33とは異なり,上面に操作 部35を設けることが可能なボックス形状を有していること,アーム40を折り畳\nんだ非使用状態ではアーム40が操作部35に重なるため,操作部35を操作でき ない不都合や,正面から操作できない不都合を解消するために,ビデオカメラ支持 部33と一体のアタッチメント11の取付台12の上面に操作部35を設け,アー ム40を折り畳んだ状態でも操作部35を操作できるように構成することは当業者\nなら容易に想到し得る旨主張する。しかし,甲1’発明は,前記(1)に認定したとおりのものであり,アタッチメント11を取り付ける場合とアタッチメント11を取り付けない場合の両方の場合を想定した発明であり,ビデオカメラ支持部33を有する書画カメラ部31をアタッチメント11やプロジェクタ本体から着脱可能なようにしたことで,書画カメラ部31を有効活用でき,ユーザに好ましい印象を与えることができるものである。そうすると,甲1’発明の操作部35は,アタッチメント11を取り付ける場合及びアタッチメント11を取り付けない場合に共通に使用されるものであるから,書画カメラ装置を操作する上で必須である。このため,甲1’発明において,操作部35を設ける場所を,書画カメラ部31の回路収納部34の上面からアタッチメント11の上面に変更すると,アタッチメント11を取り付けない場合,書画カメラ装置は操作部35を具備しない構\成となって,書画カメラ装置の操作ができなくなり,書画カメラ部31を着脱可能なようにしたことで有効活用し,ユーザに好ましい印象を与えるとの効果を奏しないこととなる。そうすると,当業者は,甲1’発明において,他に何らの示唆もなく,操作部をアタッチメント11の上面に設けようと動機付けられることはない。\n

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平成27(行ケ)10094  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月30日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。「引用発明1に基づいて,2つの段階を経て相違点に係る本件発明1の構成に想到することは,格別な努力が必要であり,当業者にとって容易であるということはできない。」という理由です。
 ア したがって,仮に,引用発明1に引用発明2を適用したとしても,後部カバ ー13に弾性部材を設け,その弾性部材をその進行方向後方側の位置で固定すると ともに,固定部を除いて前方側を自由な状態とし,主カバー12に対する土付着防 止部材20の固定位置において,その土付着防止部材20と互いに重なるようにす る結果,引用発明1の主カバー12に固定された各土付着防止部材20は,その固 定位置全てが隣接する他の土付着防止部材20と互いに重なるようにはなるものの, 引用発明1の後部カバー13に引用発明2の弾性部材23として設けられた土付着 防止部材20は,その進行方向前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるもので はないから,本件発明1には至らない。 イ 本件審決は,仮に引用発明2の弾性部材23の前端部23aが前方に延設さ れた(前方)端部寄りの部分が自重で垂れ下がるものでないとしても,エプロンに 固定された土除け材を,その端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のもの とすることは,当業者が適宜になし得る程度のことにすぎないと判断した。
(ア) しかし,引用発明2の弾性部材23の前端部23aが前方に延設された (前方)端部寄りの部分を自重で垂れ下がるものとすることを想到した上で,これ を引用発明1に適用することによって,引用発明1の後部カバー13に引用発明2 の弾性部材23として設けられた土付着防止部材20の進行方向前方側の端部寄り の部分を自重で垂れ下がるものとするというのは,引用発明1を基準にして,更に 引用発明2から容易に想到し得た技術を適用することが容易か否かを問題にするこ とになる。このように,引用発明1に基づいて,2つの段階を経て相違点に係る本 件発明1の構成に想到することは,格別な努力が必要であり,当業者にとって容易\nであるということはできない。
(イ) また,引用例2には,弾性部材23の前端部23aはブラケット19に密 着しており,リヤカバー13が上方へ回動したときであっても飛散した土が入り込 むことがなく,前端部23aを更に前方へ延設して低摩擦係数の部材14と重ね合 わせた状態にしたときは,飛散した土の侵入がより一層防止できる旨の記載がある (【0015】)。このように,前端部23aが飛散した土の侵入を防止するという 作用効果を奏するのは,前端部23aがブラケット19に密着しているからであり, 前端部23aを更に前方に延設して低摩擦係数の部材14と重ね合わせた状態にす るのは,その作用効果を強めるためである。 ここで,仮に,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がったと すると,弾性部材23の固定部(座24)から自由端(前端部23a)までのどの 部分がどの程度垂れ下がるにしても,前端部23aは,下方,すなわち,ブラケッ ト19との密着を保つことが困難になる方向に移動することになる。さらに,リヤ カバー13が上方へ回動すると,前端部23aとブラケット19との密着はさらに 困難になる。その結果,前端部23aがブラケット19と密着することによって奏 する飛散した土の侵入防止という上記の作用効果が減殺されることは,明らかであ る。 すなわち,引用例2の【0004】,【0006】の記載に照らすと,リヤカバー に固着された土付着防止部材(弾性部材)を自重で垂れ下がるように構成すると,\nリヤカバーの枢着部分では,メインカバーに取り付けた低摩擦係数の部材と,リヤ カバーに取り付けた弾性部材との接合部に間隙が生じるため,ここに土がたまりや すくなるという引用発明2の課題を解決できない。したがって,引用発明2の弾性 部材23について端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものに変更する ことは,引用発明2の目的に反する。特に,引用発明2で,リヤカバー13を下降 させた状態において,既に前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような弾性 部材23を用いた場合,リヤカバー13を上方へ回動させると,弾性部材23の垂 れ下がり位置はリヤカバー下降時よりさらに下方になるため,リヤカバーの枢着部 分では,メインカバーに取り付けた低摩擦係数の部材と,リヤカバーに取り付けた 弾性部材との接合部にさらに間隙が生じ,ここに土がたまりやすくなってしまい, 飛散した土の侵入防止という引用発明2の上記作用効果を奏することができない。 そのため,上記作用効果を奏するためには,リヤカバー13を下降させた状態にお いて,既に前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような弾性部材23を用い ることはできない。 そうすると,引用発明2において,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分を自 重で垂れ下がるようにすることには,そもそも阻害要因があると認められる。弾性 部材23の前端部23aを更に前方に延設して低摩擦係数の部材14と重ね合わせ た状態にした場合も,同様の理が妥当することから,前端部23aを前方に延設し た弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるようにすることは, 当業者が適宜になし得る程度のものということはできない。 したがって,本件審決の上記判断は,誤りというべきである。
(ウ) 被告は,引用発明2のリヤカバー側の弾性部材23について前方側の端部 寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものに変更することは,メインカバー に固着された土付着防止部材が自重で垂れ下がることによる不都合を課題とする引 用発明2の目的に反するものではないから,弾性部材23を,進行方向前方側の端 部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものとすることは,当業者が適宜に なし得る程度のことにすぎない旨主張するが,同主張に理由がないことは,前記 (イ)において説示したとおりである。
・・・
しかし,前記(イ)のとおり,弾性部材23の前端部23aは,ブラケット19に 密着することによって,リヤカバー13が上方へ回動したときでも飛散した土が入 り込むことがないという作用効果を奏するものであるから,前端部23aがブラケ ット19に密着するのを妨げるような変更を加えることには阻害要因がある。そし て,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるようにすることは, 前端部23aをブラケット19との密着を困難にする方向に移動させることを意味 するから,当業者が適宜になし得るものということはできない。

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平成27(行ケ)10014  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月25日  知的財産高等裁判所

 化合物の製造方法について、一部の置換基を置換することについて動機付けなしとした審決が維持されました。
(ア) 原告らは,主張1)のとおり,マキサカルシトールの効率的な製造方法を検 討する当業者は,甲第4号証の図9から,エポキシド化合物(18)及び(19) のヒドロキシメチル基をメチル基に置き換えることを着想し,動機付けられると主 張する。 しかし,前記のとおり,甲第4号証の図9記載の工程は,25位の立体配置が異 なる二種類のマキサカルシトールの予想代謝物(12)又は(13)を選択的に合\n成するための製造方法であり,まず,出発物質に試薬を適用して二重結合を有する 側鎖を導入し,次いで,これに香月−シャープレス反応を用いるという二段階の反 応を行うことにより,二重結合をエポキシ基に変換した中間体である二種類のエポ キシド化合物(18)又は(19)を選択的に生成し,さらに,各エポキシド化合 物のエポキシ基を開環することにより図9の右下に図示される2種類のステロイド 化合物を製造し,最後に,各ステロイド化合物を光照射及び熱異性化して,それぞ れから最終目的物である上記予想代謝物(12)又は(13)を生成するという一\n連の工程である。原告らの主張1)は,この一連の工程のうち終盤の,中間体(前駆 体)としてエポキシド化合物を経由するという点のみを取り出して,そのエポキシ ド化合物を得るまでの工程は,甲4発明1とは全く違うものに変更するというもの であるから,甲4発明1の一連の工程のうち,特にエポキシド化合物を経由すると いう点に着目するという技術的着想が必要である(仮に,この甲4発明1をマキサ カルシトールの合成にも応用しようとするのであれば,甲4発明1の試薬を,4− ブロモ−2−メチル−テトラヒドロピラニルオキシ−2−ブテンに代えて,マキサ カルシトールの側鎖にとって余分なテトラヒドロピラニルオキシ基〔OTHP基〕 のない下図の4−ブロモ−2−メチル−2−ブテン(臭化プレニル)を用い,それ 以外は,甲4発明1と同様の一連の側鎖導入工程,エポキシ化工程,エポキシ基の 開環工程を経る製造方法に想到することが自然である。)。 甲第4号証記載の試薬 4−ブロモ−2−メチル−2−ブテン この点,甲第4号証には,図9の一連の工程が,特にエポキシド化合物を経由す る点に着目したものであることを示唆する記載はなく,むしろエポキシド化合物は, 26位が水酸化された側鎖末端の立体配置構造が異なる2種類のマキサカルシトー\nルの予想代謝物(12)又は(13)を選択的に製造するという目的のために,香\n月−シャープレス反応を採用した結果,工程中において生成されることとなったも のにすぎないものと理解される。また,甲第4号証には,図9の合成方法によって マキサカルシトールの予想代謝物が高収率で得られたことが記載されているのみで,\n問題点の記載もなく,甲4発明1の一連の工程の改良(変更)をする際に,どの点 は変更する必要がなく,どの点を改良すべきかを示唆する記載もない(なお,仮に 改良すべき点として工程数を取り上げたとしても,側鎖導入工程,エポキシ化工程, エポキシ基の開環工程のいずれを短縮すべきなのかについての示唆もなく,二重結 合からエポキシ化を経由せず直接水酸化するという選択肢なども想定は可能であ\nる。)。 そうすると,当業者が,仮に甲第4号証の図9のマキサカルシトールの予想代謝\n物(又はその前駆体となるステロイド化合物)とマキサカルシトールの側鎖の類似 性から,甲4発明1をマキサカルシトールの合成に応用することを想到し得たとし ても,その際に,一連の工程のうち,特にエポキシド化合物を経由するという点に 着目して,最終工程であるエポキシド化合物のエポキシ基を開環する工程の方を変 更せずに,その前段階である側鎖導入工程とエポキシ化工程は変更することを前提 として,マキサカルシトールの前駆体となるエポキシド化合物を製造しようとする ことを,当業者が容易に着想することができたとは認められない。

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平成27(行ケ)10113  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月24日  知的財産高等裁判所

 医薬品の用量・用法を変えることについて、動機付けありと認定しました。 審決は無効理由なしと判断していましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
(ア) 甲10には,タダラフィルは,PDE5阻害剤であって,ヒトの勃 起機能不全の処置に有用であること(前記(2)ア(ア)ないし(カ),(ケ), (コ)),その用量について,平均的な成人患者(70kg)に対して1 日当たり,概ね0.5〜800mgの範囲であり,個々の錠剤又はカプ セル剤は,1日当たり単回又は数回,単回投与又は反復投与のため,好 適な医薬上容認できる賦形剤又は担体中に0.2〜400mgの有効成 分を含有するものであることが記載され(前記(2)ア(オ)),さらに,具 体的に,タダラフィルを50mg含む錠剤及びカプセルの組成例(前記 (2)ア(キ),(ク))が記載されている。 また,「実際には,医師は,個々の患者に最も適している実際の投与 計画を決定するが,それは特定の患者の年齢,体重および応答によって 変化する。上記の投与量は,平均的な場合の例であり,より高い又は低 い用量範囲が有益であるような個々の事例が存在するかもしれないが, いずれも本発明の範囲内である。」(前記(2)ア(オ))と,実際の患者に 投与する場合には,医者が最も好適と考えられる投与計画を決定するこ とも記載されている。 さらに,タダラフィルを用いたインビトロ試験において,PDE5阻 害作用につき,IC50が2nMであったことが記載されている(前記(2) ア(コ))。
(イ) 前記(ア)の記載に接した当業者であれば,甲10発明に係るタダラ フィルにつき,平均的な成人患者(70kg)に対して1日当たり,概 ね0.5〜800mgの範囲において,ヒトの勃起機能不全の処置に有\n用であり,具体的には50mgのタダラフィルを含む錠剤ないしはカプ セルが一例として考えられること,もっとも,実際の患者に投与する場 合には,好適と考えられる投与計画を決定する必要があることを理解す ると認められるところ,タダラフィルと同様にPDE5阻害作用を有す るシルデナフィルにおいて,ヒトに投与した際,PDE5を阻害するこ とによる副作用が生じることが本件優先日当時の技術常識であったこと から(前記イ(ウ)),甲10のタダラフィルを実際に患者に投与するに 当たっても,同様の副作用が生じるおそれがあることは容易に認識でき たものといえる。そして,薬効を維持しつつ副作用を低減させることは 医薬品における当然の課題であるから,これらの課題を踏まえて上記の 用量の範囲内において投与計画を決定する必要があることを認識するも のと認められる。そうすると,そのような当業者において,前記アの技 術常識を踏まえ,甲10に記載された用量の下限値である0.5mgか ら段階的に量を増やしながら臨床試験を行って,最小の副作用の下で最 大の薬効・薬理効果が得られるような投与計画の検討を行うことは,当 業者が格別の創意工夫を要することなく,通常行う事項であると認めら れる。 加えて,前記(ア)のとおり,甲10のタダラフィルに関するインビト ロ試験の結果によれば,タダラフィルのPDE5阻害作用はシルデナフ ィル(前記イ(ア))に比べ強いことが示されているのであるから,タダ ラフィルが,インビトロ試験と同様にインビボ試験である臨床試験にお いても,強いPDE5阻害作用を発揮する可能性を考慮に入れて,タダ\nラフィルの用量としてシルデナフィルの用量である10mg〜50mg (前記イ(イ))及びそれよりも若干低い用量を検討することも,当業者 において容易に行い得ることである。 以上によれば,甲10発明について,適切な臨床における有用性を評 価するために臨床試験を行い,最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効 果が得られるような範囲として,相違点1に係る範囲を設定することは, 当業者が容易に想到することができたものと認められる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,経口投与された医薬化合物が,作用部位でどの程度の濃度 になるかを左右する薬物動態は,様々なファクターに影響され,これら のファクターは個々の医薬化合物によって様々に異なるとともに,各フ ァクターによる影響は総合的に生体に作用するものであるから,作用部 位において当該化合物が適切な濃度になるために必要な投与量は,ヒト における臨床試験を経て初めて設定され得るものであることは,医薬分 野における技術常識であり,経口投与する際の適切な用量は,インビト ロ試験での活性でのみ決定できるものではないし,ある医薬化合物の適 切な用量を,薬物動態が異なる全く別の化合物の用量を参考にして決定 することなどできないことも,医薬分野における技術常識である旨主張 する。 確かに,実際にヒトに対して薬物を経口投与する際における適切な用 量を決定するに当たっては,インビトロ試験での活性でのみ決定できる ものではなく,最終的にはヒトにおける臨床試験を経て決定されるもの であることは被告の主張するとおりである。 しかしながら,ヒトに対する適切な用法・用量を決定することに関し, 臨床試験においては,前記ア(ウ)のとおり,非臨床試験での全成績を詳 細に検討し,同薬効,類似構造薬に関する従来の知識,経験をも加味し\nて決定されるものとされている以上,タダラフィルと同様にPDE5阻 害作用を有するシルデナフィルの用量や,タダラフィルのインビトロ試 験データを参考にすることも,当業者が当然行うことと認められる。こ の点につき,タダラフィルの用量の検討に当たり,シルデナフィルは参 考にできないほど薬物動態が異なるという知見が存在することをうかが わせる証拠もない。そして,医薬品の開発は,インビトロ試験で有用な 薬理効果が確認された化合物について,動物試験,さらにはヒトに対す る臨床試験を行い(甲24参照),最適な用量が決定されるものである が,この過程を経ること自体は,ヒトに医薬品を投与する際の適切な用 量を決定するに当たって通常想定されることであって,当業者が容易に なし得ることであるから,これらを行う必要があったことを根拠として, 医薬品の用量・用法に関する発明につき容易想到性を否定することはで きない。

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平成27(行ケ)10075  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月24日  知的財産高等裁判所

 動機付けありとして無効とした審決が維持されました。
 原告は,本件審決は,甲4発明において相違点4に係る構成を採用することの動機付けにつき,工業製品の製造分野において,共通の製造装置から可\n及的に多様な製品を製造することは当然の要請であると判断しているが,誤 りであり,また,甲4発明に本件周知技術を適用する動機付けはないから, 相違点4につき容易想到であるとした本件審決の判断は誤りである旨主張す るので,以下検討する。
ア 甲4には,・・・・がそれぞれ開示されている(前記(2)ア(オ))。 そうすると,甲4は,必要とされる引張り強度又はクッション性,通水 性及び通気性等の機能に応じて,線条の押し出し方向と平行な外周につき,密度の高い表\面部分を片側又は両側に適宜形成することを開示するものと\nいえる。
イ 甲3(前述のとおり,甲3が公開されたのは,本件特許の原出願日の約 24年前である)においても,線条の押し出し方向と平行な外周の表面側であるマットの片側の表\面部分を高密度化した立体網状構\造体を製造する\n方法のほかに,両面を高密度化した立体網状構造体を製造する方法及び連続した高密度の平滑な表\面を形成するために,環状の接触プレートで完全に取りまかれた,全体的に環状,だえん状又は別様に閉じられた断面を有 する束にフィラメントを押し出す方法,すなわち,外周の全ての表面が平滑で内部よりも密度が高い表\面となる立体網状構造体を製造する方法も選\n択的に示されていることから(前記(3)ア(ア)e〜h),線条の押し出し方 向と平行な外周の表面側につき,必要に応じて高密度化した部分を適宜形成することが開示されているものといえる。
ウ 前記ア及びイによると,立体網状構造体の製造方法の技術分野において,線条の押し出し方向と平行な外周の表\面側につき,立体網状構造体の用途\n等に応じて適宜選択した上で,必要な部分の密度を高くすることが行われ ているものと認められる。 そうすると,4面成形をした立体網状構造体を必要とする当業者が,甲4発明に本件周知技術を適用しようとする動機は十\分にあり得たものであり,その場合,甲4発明の,線条の押し出し方向と平行な外周の2面の表面側の密度がこの2面の表\面側を除く部分の密度より相対的に高くなり,この2面の表面側の空隙率が80%以下になるという構\成を残りの表面側にも適用して,外周の全ての表\面側の密度が表面側を除く部分の密度より\n相対的に高くなり,この全ての表面側の空隙率が80%以下になるようにすること,すなわち,相違点4に係る本件発明1の構\成とすることは,容易に想到し得たものと認められる。

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平成27(行ケ)10097  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月8日  知的財産高等裁判所

 訂正後のクレームについて進歩性なしとした審決が取り消されました。
 本件出願の優先日当時,照明ユニットにおいて発光効率を高める ために,不純物の除去等の製造条件の最適化等により,蛍光体の内部量子 効率をできるだけ高めることは,当業者の技術常識であったことが認めら れる。しかしながら,他方で,不純物の除去等の製造条件の最適化等により, 蛍光体の内部量子効率を高めることについても,自ずと限界があることは 自明であり,出発点となる内部量子効率の数値が低ければ,上記の最適化 等により内部量子効率を80%以上とすることは困難であり,内部量子効 率を80%以上とすることができるかどうかは,出発点となる内部量子効 率の数値にも大きく依存するものと考えられる。 しかるところ,甲3には,量子効率に関し,別紙2の表3に3種の化合\n物の「量子効率(QE)」が「29」%,「51」%,「30」%である こと,段落【0067】に,「サイアロンSrSiAl2O3N2:Eu2+ (4%)(試験番号TF31A/01)」について「量子効率QEは43%」 であることの記載があるだけであり,これ以外には,量子効率,外部量子 効率又は内部量子効率について述べた記載はないし,別紙2の表4記載の\n赤色蛍光体である「Sr2Si4AlON7:Eu2+」の内部量子効率につ いての記載もない。また,甲3には,「Sr2Si4AlON7:Eu2+」 の「Sr2」を「Ca」又は「Ba」に置換した蛍光体の内部量子効率に ついての記載もない。 このほか,別紙2の表4記載の赤色蛍光体である「Sr2Si4AlON\n7:Eu2+」,さらには「Sr2Si4AlON7:Eu2+」の「Sr2」を 「Ca」又は「Ba」に置換した蛍光体の内部量子効率がどの程度である のかをうかがわせる証拠はない。 以上によれば,甲3に接した当業者は,甲3発明において,Sr2Si4 AlON7:Eu2+蛍光体のSrの少なくとも一部をBaやCaに置換し たニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用した上で,さらに, 青色発光素子が放つ光励起下におけるその内部量子効率を80%以上とす る構成(相違点5に係る本件訂正発明の構\成)を容易に想到することがで きたものと認めることはできない。 したがって,本件審決における本件訂正発明と甲3発明の相違点5の容 易想到性の判断には誤りがある。
 イ これに対し被告は,内部量子効率が高いことが望ましいことは,本件出 願の優先日前の技術常識であったから,内部量子効率ができるだけ高めら れた蛍光体を用いることは,当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内のこ\nとである,本件出願の優先日前において,「ニトリドシリケート系の窒化 物蛍光体」(α−サイアロン蛍光体を含む。)の内部量子効率が80%以 上のものを製造できる可能性を,技術常識に基づいて想定できたものとい\nえるなどとして,内部量子効率がどの程度以上の蛍光体を用いるかは,目 標とする効率や蛍光体の入手・製造の容易性などを勘案して,当業者が適 宜設定すべき設計事項にすぎないから,当業者は,甲3発明において,相 違点5に係る本件訂正発明の構成を採用することを容易に想到することが\nできた旨主張する。 しかしながら,一般論として,本件出願の優先日前において,青色発光 素子が放つ光励起下における「ニトリドシリケート系の窒化物蛍光体」(α −サイアロン蛍光体を含む。)の内部量子効率が80%以上のものを製造 できる可能性を技術常識に基づいて想定できたとしても,甲3に接した当\n業者が,甲3の記載事項を出発点として,甲3発明において,Sr2Si4 AlON7:Eu2+蛍光体のSrの少なくとも一部をBaやCaに置換し たニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用した上で,さらに, 青色発光素子が放つ光励起下におけるその内部量子効率を80%以上とす る構成に容易に想到することができたかどうかは別問題であり,被告の上\n記主張は,甲3の具体的な記載事項を踏まえたものではないから,採用す ることができない。

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平成27(行ケ)10078  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月2日  知的財産高等裁判所

 引用文献(ダブルスピンドル方式の製造装置)にシングルスピンドル方式の構成を採用することについて動機付けを欠くとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。\n
 (ア) 前記(2)アのとおり,引用発明は,複数の加工具回転軸を備え,複数の砥石 によって眼鏡レンズを加工する装置を用いる従来の玉型加工の方法に,眼鏡レンズ を回転させないという構成を採用したものである。\nそして,前記(2)イのとおり,引用例には,加工具回転軸を1つとするシングルス ピンドル方式についての記載はなく,示唆もされていない。加工具回転軸が複数あ ること自体に起因して何らかの問題が発生する,又は,加工具回転軸を1つとする ことにより何らかの効果が期待できるなどといった,シングルスピンドル方式を採 用する動機付けにつながり得ることも何ら示されていない。
(イ) 加えて,前記(2)イのとおり,ダブルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置 は,加工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置に比 して,機械剛性が高く,加工時間も短いという利点を有するものと推認することが できるのに対し,シングルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置がダブルスピンド ル方式の眼鏡レンズ加工装置に比して優位な点があることは,本件証拠上,認める に足りない。
(ウ) したがって,当業者において,本願出願当時,引用発明に係る一対の加工 具回転軸を備えたダブルスピンドル方式の眼鏡レンズの製造装置につき,あえて加 工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式の構成を採用することについては,\n動機付けを欠き,容易に想到し得ないというべきである。
(4) 相違点2の容易想到性について
ア 相違点2について
相違点2は,前記第2の3(2)ウ(イ)のとおり,レンズチャック軸と加工具回転軸 との軸間距離を変動させる軸間距離変動手段が,本願補正発明においては,レンズ チャック軸を加工具回転軸に向けて移動させるというものであるのに対し,引用発 明においては,一対の砥石軸を眼鏡レンズ駆動装置に固定された眼鏡レンズに向け て移動させるというものである点をいい,本願補正発明と引用発明との間に,この ような相違点が存在することは,当事者間に争いがない。 引用発明の砥石軸は,本願補正発明の加工具回転軸に相当し,また,引用発明の 眼鏡レンズは,本願補正発明のレンズチャック軸に相当する軸部材に保持されてい るものであるから,引用発明における上記軸間距離変動手段は,実質において,一 対の加工具回転軸をレンズチャック軸に向けて移動させるというものである。 よって,相違点2は,実質的には,軸間距離変動手段が,本願補正発明において は,レンズチャック軸を加工具回転軸に向けて移動させるというものであるのに対 し,引用発明においては,一対の加工具回転軸をレンズチャック軸に向けて移動さ せるというものである点をいうものと認められる。
イ 本願補正発明における軸間距離変動手段は,加工具回転軸が単数であること を前提とするものであり,加工具回転軸が複数の場合に同手段を採用することは, 事実上不可能である。\nしたがって,相違点2は,相違点1に係る加工具回転軸の個数差を前提とするも のということができ,相違点1に係る本願補正発明の構成が容易に想到し得ない以\n上,相違点2に係る本願補正発明の構成も容易に想到し得るものではない。
(5) 被告の主張について
ア 被告は,当業者において,引用例に記載されている「眼鏡レンズが砥石に当 接した直後から,眼鏡レンズには眼鏡レンズの回転を停止する方向に力が継続して 加わっている」(【0006】)という軸ずれの原因となる物理現象は,ダブルスピン ドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても生じるものであることを 理解することができることを前提として,眼鏡レンズが回転していない状態で砥石 と当接させるという上記物理現象に対する引用発明の解決手段は,ダブルスピンド ル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても使用できるものであり,当 業者であれば,上記解決手段の適用対象が,いずれの方式の装置であるかにかかわ らず,軸ずれの課題を解決し得るものとして認識することができる旨主張する。 本件証拠上,加工具回転軸の個数と軸ずれとの間に何らかの関係があるものとは 認めるに足りず,したがって,たとえ,当業者において,上記解決手段がダブルス ピンドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても引用発明の課題であ る軸ずれを防止し得る旨を認識したとしても,それは,引用発明の一対の加工具回 転軸を1個の加工具回転軸とすることには,つながらない。

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平成26(行ケ)10245  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年12月17日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした拒絶審決が、動機付けなしとして取消されました。
 引用発明は,前記イのとおり,大きい,平坦な面を提供することができる インストルメントパネルを提案することを目的とし,引き出し板40を拡張位置ま で引き出すと,カバー20のテーブル面22と引き出し板40のテーブル面42と が同時に使用可能になって2倍の作業面が得られるという効果を奏するものである\nところ,かかる課題や効果の観点からは,引用発明において,周知技術1を適用し て,引き出し板40を,カバー20と空間30の間で,フレーム要素12に対して 摺動可能かつ枢動可能\に設ける動機付けがあるとはいえない。
・・・・
 被告は,相違点2に関し,引用発明における引き出し板40に代えて,周知技術 2のテーブルを適用することにより,引用発明の課題を十分に解決できるから,相\n違点1及び2を併せて検討すれば,引用発明において,周知技術1を適用すること によって空間30へのアクセスを良くし,周知技術2を適用することによって引用 発明の課題を解決できるのであって,引用発明において,周知技術1を適用するこ とに阻害要因は存在しない旨主張する。 しかし,引用例には,引用発明が,大きい,平坦な面を提供することができるイ ンストルメントパネルを提案することを目的とし,引き出し板40を拡張位置まで 引き出すと,カバー20のテーブル面22と引き出し板40のテーブル面42とが 同時に使用可能になって2倍の作業面が得られるという効果を奏するものであるこ\nとが記載されるとともに,さらに,空間30へのアクセスの改善という課題を解決 する手段として,引き出しレール70のセットを構成する内側引き出しレール72\nを,フレーム要素12ではなくカバー20に固着することにより,引き出し板40 がカバー20と連係して動くようにする形態が開示されており,かかる形態によれ ば,引き出し板40を拡張位置まで引き出すと,カバー20のテーブル面22と引 き出し板40のテーブル面42とが同時に使用可能になって2倍の作業面が得られ\nるという上記効果を維持しつつ,空間30へのアクセスを良くすることができると いう効果をも奏し得ることが開示されているといえる。 そうすると,カバー20のテーブル面22と引き出し板40のテーブル面42と が同時に使用可能になって2倍の作業面が得られるという効果とともに,空間30\nへのアクセスを良くするという効果を奏するにもかかわらず,引用例や周知例に何 らの記載も示唆もないのに,当業者において,周知技術1を適用した上で,更に周 知技術2を適用することにより,周知技術1を適用することでカバー20のテーブ ル面22と引き出し板40のテーブル面22とを同時に使用することができなくな るのを回避することを想起し,あえて引用発明において周知技術1を適用すること を,容易に想到することができたということはできない。

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平成26(行ケ)10182  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年8月20日  知的財産高等裁判所

 薬の特許について動機付けがないとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 前記(ア)ないし(エ)の記載によれば,うつ病患者は,抑うつ気分な どの基本症状のほかに,記憶や集中力や判断力の低下などの認知の障害 を訴えることがあり,認知機能に重要と考えられる脳器官(例えば海馬\nや前頭葉)がうつ病にも本質的に関与する可能性が指摘されていたが,\nうつ病と,記憶障害が中核症状である認知症(痴呆)とは,その病態が 異なり,認知症に有効な薬が当然にうつ病にも有効であるとの技術常識 があることを認めるに足りる証拠もないから,記憶・学習能力の低下を\n改善する薬が,うつ病をも改善するとの効果を有するとの技術常識が, 本願出願日当時に存在していたと認めることはできない。 また,抑うつ様症状の評価法としては,強制水泳試験(動物に強制的 に水泳を負荷することで生じる行動抑制を抑うつ様症状の指標として評 価する試験(甲22・97頁右欄10〜12行))等が汎用的であって, 記憶・学習能力に関する評価法であるモリス型水迷路試験から,抑うつ\n様症状が評価できるとの技術常識があったと認めることもできない。さ らに,うつ病と海馬組織中のアラキドン酸含有量との関連についての技 術常識があったことを認めるに足りる証拠もない。
ウ 引用例2に記載された発明の認定
前記イ(オ)のとおり,本願出願日当時,記憶・学習能力の低下の改善と\nうつ病の改善との関連,又は,うつ病と海馬組織中のアラキドン酸含有量 との関連についての技術常識があったと認めることができないことを前提 とすれば,引用例2に接した当業者は,引用例2の実施例3の老齢ラット のモリス型水迷路試験の結果に基づいて,「構成脂肪酸の一部又は全部が\n アラキドン酸であるトリグリセリド」を用いることにより,「記憶・学習 能力の低下」が改善されることは認識できるものの,さらに「うつ病」が\n改善されることまでは認識することができないというべきであって,まし て,「うつ病」を含む様々な症状や疾患が含まれる「脳機能の低下に起因\nする症状あるいは疾患」全体が改善されることまでは認識できないという べきである。 そうすると,引用例2に記載された発明の医薬組成物が予防又は改善作\n用を有する症状又は疾患を,本件審決のように,「脳機能の低下に起因す\nる症状あるいは疾患」と広く認定することは相当ではなく,その適用は脳 機能の低下に起因する記憶・学習能\力の低下に限られるというべきである。 したがって,引用例2に記載された発明は,「構成脂肪酸の一部又は全\n部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリドを含ん で成る,脳機能の低下に起因する記憶・学習能\力の低下の予防又は改善作\n用を有する医薬組成物。」(以下「引用発明2’」という。)と認定すべきで ある。
(3) 本願補正発明と引用発明2’との対比
そうすると,本願補正発明と引用発明2’との一致点及び相違点は,次の とおりである。 ア 一致点
構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含ん\nで成る医薬組成物。 イ 相違点
本願補正発明は,「うつ症状の改善のため」のものであるのに対し,引 用発明2’は,「記憶・学習能力の予\防又は改善作用を有する」ものであ る点(以下「相違点α’」という。)。 (4) 相違点α’に係る容易想到性について
確かに,引用例2の【請求項1】〜【請求項16】,【0012】,【001 7】には,「構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリ\nド」を用いて,「脳機能の低下に起因する症状あるいは疾患」の予\防又は改 善を行うことが記載され,当該症状あるいは疾患として,「記憶・学習能力\nの低下,認知能力の低下,感情障害(たとえば,うつ病),知的障害(たと\nえば,痴呆,具体的にアルツハイマー型痴呆,脳血管性痴呆)」等が記載さ れている。 しかし,前記(2)ウのとおり,引用例2に接した当業者は,引用例2の実 施例3の老齢ラットのモリス型水迷路試験の結果に基づいて,「構成脂肪酸\nの一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリド」を用いることにより, 「記憶・学習能力の低下」が改善されることは認識できるものの,さらに\n「うつ病」が改善されることまでは認識できないというべきである。 そして,前記(2)イ(オ)のとおり,うつ病と,記憶障害が中核症状である 認知症とは,その病態が異なり,本願出願日当時,記憶・学習能力の低下を\n改善する薬が,うつ病をも改善するとの効果を有するとの技術常識が存在し ていたとは認められないことからすれば,引用例2に接した当業者が,引用 例2に記載された「脳機能の低下に起因する症状あるいは疾患」に含まれる\n多数の症状・疾患の中から,特に「うつ病」を選択して,「構成脂肪酸の一\n部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリド」を用いて,うつ病の症状 である「うつ症状」が改善されるかを確認しようとする動機付けがあるとい うことはできない。 そうすると,引用例2に基づいて,相違点α’に係る本願補正発明の構成\nに至ることが容易であるということはできず,本件審決のこの点に関する判 断には誤りがあるというべきである。 283/085283

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平成27(行ケ)10009  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年8月4日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、どのような分野でも用い得る慣用技術ではないので、構造が共通していても適用容易とはいえないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。
 相違点2は,前記第2,3(4)イのとおり,本件訂正発明1では「出力部材が所定 の位置に達し,前記所定の位置にあることを検知可能」にしたのに対し,甲2発明\nでは「ピストン21の反転動作可能」にしたもので,「検知」については不明である\n点である。 そして,甲1事項2は,前記第2,3(2)ウのとおり,「ピストン行程の行程端で, クッションプラグ32によりプランジャ126を上昇させてプランジャ型スイッチ 100の開閉状態を切り換え,複数の空気ポート130の間が連通されることでピ ストン30が所望の位置に移動したことを確認可能に構\成した流体駆動シリンダ1 0。」である。 審決は,1)甲2発明の二方パイロット弁100,101も,甲1事項2のプラン ジャ型スイッチ100も,ピストンが端部の所定位置に達すると作動する開閉弁式 スイッチという点で,用途もスイッチの構造も共通しているとして,甲2発明の二\n方パイロット弁100,101について甲1事項2のプランジャ型スイッチ100 を適用することは,当業者であれば容易に想到し得る,2)適用されたプランジャ型 スイッチ100に,甲2発明のピストン21が移動して端部に達し,その位置にあ ることを検知させることは,当業者が容易に想到し得ると判断する。 これに対し,原告は,甲2発明の二方パイロット弁100,101と,甲1事項 2のプランジャ型スイッチ100とは,用途,構造及び機能\を異にし,動機付けが なく,阻害要因が存する旨を主張するので,以下,検討する。 甲2発明は,前記1(2)のとおりであり,ピストン21が左端の所定の位置に達し たときに,差圧ピストンがピストン21に押されて移動することにより,二方パイ ロット弁100,101の開閉状態が切り換えられ,制御管路93から供給される 圧力媒体が無圧領域41に連通することにより,三方弁37が切り替わって圧力配 管39からシリンダ23に圧力媒体が流入するなどして,ピストン21が右側に反 転動作をするものである。そうすると,甲2発明の二方パイロット弁100,10 1は,ピストンが端部の所定位置に達すると作動する開閉式スイッチであるともい える。 しかしながら,甲1事項2のプランジャ型スイッチ100は,どのような分野で も用い得る慣用技術等であるとまではいえないから,甲2発明の二方パイロット弁 100,101を,用途やスイッチの構造が共通しているとの点をもって,直ちに\n甲1事項2のプランジャ型スイッチ100に置換可能であるとはいえない。\nそして,相違点2は,本件訂正発明1においては,「出力部材の位置検知」である のに対し,甲2発明においては,「ピストンの反転動作」というものであるから,甲 2発明の二方パイロット弁100,101を検知機能を有する甲1事項2のプラン\nジャ型スイッチ100に置換するには,まず,甲2発明の二方パイロット弁100, 101に検知機能を持たせることが動機付けられなければならない(なお,甲2発\n明の二方パイロット弁100,101の開閉機構がピストン21の往復動作と連動\nしているからといって,二方パイロット弁100,101がピストン21の行程端 を検知しているとはいえない。)。 そこで,検討してみると,甲2発明の二方パイロット弁100,101は,圧力 媒体の流路回路を切り換え,ピストン21が自動的に反転動作をするための動作切 替手段の一部である。そうすると,当業者が,自動往復運動をしているピストン2 1の行程端を検知しようと試みて,動作切替手段の一部にすぎない二方パイロット 弁100,101にピストン21の行程端の検知機能を持たせようとする合理的理\n由がないから,甲2発明の二方パイロット弁100,101を,甲1事項2のプラ ンジャ型スイッチ100に敢えて置換しようと動機付けられるとはいい難い。 被告は,1)甲2発明の二方パイロット弁100,101にはスイッチの機能があ\nる旨を主張するが,そのように解したとしても上記結論が左右されないことは,上 記説示のとおりである。また,被告は,2)甲1事項2のプランジャ型スイッチ10 0にはピストンを反転動作させるためのスイッチの機能がある旨を主張するが,甲\n1事項2のプランジャ型スイッチ100は,ピストン30の位置を確認可能にした\nものであり,ピストン30の反転動作は,プランジャ型スイッチ100の機能によ\nるものではない。さらに,被告は,3)「リミットスイッチのようなセンサによって 操作される制御弁は,機械の順次動作におけるタイミングに合わせてピストンを所 望の方向へ移動させることによって上記シリンダを制御するために用いられる。」と の甲1の記載を指摘するが,リミットスイッチは,一般に,位置を検知する手段に すぎず,当然に,ピストンを反転動作させる手段でもあることにはならない。そし て,上記記載に続く,「機械の順次動作における次のステップが起こる前に上記ピス トンが最伸長または最後退の行程位置へ移動したのを知ることが頻繁に必要になる ので,ピストンの行程の行程端において上記ピストンロッドの外端または当該ピス トンロッドに連結した作業部分にリミットスイッチが接触するように,当該リミッ トスイッチが使用されてきた。」との記載を併せかんがみれば,甲1は,リミットス イッチを,ピストンの位置を検知するための手段としているにすぎないと認められ る。 したがって,上記被告の主張は,いずれも,採用することができない。 以上のとおりであり,甲2発明の二方パイロット弁100,101を甲1事項2 のプランジャ型スイッチ100に置換させることはできないから,相違点2に係る 本件訂正発明1の構成は,当業者が容易に想到することができない。\n

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平成26(行ケ)10186  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年6月25日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。デシテックスと延伸率を,同時に,本願発明の数値範囲まで大きくすることは示唆されていないとしたものの、一般的な糸のサイズを利用しているにすぎないと判断されました。
 他方,両発明は,使用する裸スパンデックス糸のデシテックスの値及びエストラマー材料の供給時における延伸率の制御値が異なっている。そこで,これらを前提に,相違点として,何を認定すべきかを検討する。 確かに,本願発明の延伸率は2.5倍以下であり,引用発明の延伸率は2倍以下 であり,ともに上限を定めていないから,延伸率の値自体を比較すると,引用発明 の範囲である2倍以下は,必ず2.5倍以下という意味において,本願発明の数値 範囲に含まれている。 しかしながら,本願発明と引用発明は,ともに,ヒートセットを不要にするとい う目的を達成するために,一定の回復張力を目指して,糸のスパンデックスと延伸 率という2つのパラメータの組合せを提示するものであるが,甲1【0096】〜 【0099】の実施例8,12,13,35〜37,41〜43,48〜51,5 6,57を見ると,同じスパンデックス数であっても,収縮率が異なっている結果 が出ていることからも明らかなとおり,回復張力は,糸のスパンデックスだけでな く,延伸率や,共に使用される硬質糸の種類やサイズといった諸要素によって決せ られるから,スパンデックスと延伸率は相互に関係するパラメータといえ,単純に, 同一の延伸率値が常に同一の技術的意義を有するとはいえないし,数値として重な り合っている範囲が,常に同一の技術内容を示しているともいえない。他方,スパ ンデックスと延伸率の値は,同一回復張力を前提とする限りにおいて,相互に独立 したパラメータとして,設定できるわけではない。また,延伸率とデシテックスの 関係は,相互に関連するとはいえるが,それ以上の技術的関係が明らかでない以上, 重なり合いの範囲も定かではないから,本願発明と引用発明において,エラストマ ー材料を延伸させる製法である点において一致すると認定できるとしても,延伸率 の数値の点を相違点の認定からおよそ外し,容易想到性の判断から除外することは できないというべきである。 したがって,被告の主張するように,単純に延伸率の値の重なりをもって,本願 発明と引用発明の一致点というべきではないが,他方,原告の主張するように,延 伸率の違いをデシテックスの値と関連しない独立した相違点として挙げることも相 当ではなく,本願発明と引用発明の相違点は,「本願発明の裸スパンデックス糸が4 4〜156デシテックスで,その延伸率が元の長さの2.5倍以下であるのに対し, 引用発明の裸スパンデックス糸が17〜33デシテックスであり,その延伸率が元 の長さの2倍以下である点」と認定した上で,相互に関連したパラメータの変更の 容易想到性を判断すべきである。
・・・
(2) 確かに,デシテックスを大きくすることと,延伸率を大きくすることは, ともに回復張力を大きくする作用を有するものであるから,同程度の回復張力にす るためには,デシテックスを大きくした場合には,延伸率を小さくし,逆に,延伸 率を大きくした場合は,デシテックスを小さくする必要がある。したがって,引用 発明のデシテックスと延伸率を,同時に,本願発明の数値範囲まで大きくするとい う動機付けや示唆は,引用発明が前提としている回復張力を前提にする限りは,当 然には生じてこないというべきである。 しかしながら,本願発明における「44〜156デシテックス」という糸のサイ ズと,引用発明における「17〜33デシテックス」という糸のサイズとは,共に, 市場で普及している20〜400デシテックスという範囲内にあり(乙2〜5,弁 論の全趣旨),両発明は,一般的な糸のサイズを利用しているにすぎないから,この 範囲内にある糸のサイズの変更には,格別,技術的な意義はなく,当業者にとって, 予定した収縮率等に応じて適宜設定できるものといえる。したがって,デシテック\nスの範囲を本願発明の範囲の数値まですることは,当業者が容易に想到できる事項 である。

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平成26(行ケ)10253    特許権  行政訴訟 平成27年7月9日  知的財産高等裁判所

 動機付けなしとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 相違点2についての審決の判断は,要するに,甲2発明の移動体3に「水 平移動可能な移動ステージ」を適用することは,当業者が容易に想到することであ\nり,その場合,当業者は,水平方向に揺動自在な物品載置台11を「固定棚」とす ることを当然想到するというものであるから,「水平移動可能な移動ステージ」の適\n用が容易かどうかの判断は,水平方向に揺動自在な物品載置台11が存在すること を前提にして行われている。 しかし,甲2発明において,既に水平方向に揺動自在な物品載置台11が存在す るのであれば,移動体3の真下にあるステーションSTとの間で物品Bを移載する 場合はもちろん,物品保持部BSとの間で物品Bを移載する場合も,把持具3dを 水平方向に移動させる必要がない。すなわち,物品載置台11を水平方向に揺動さ せれば足りるから,別途「水平移動可能な移動ステージ」を設けて把持具3dを水\n平方向に移動させる理由がないことは明らかである。 イ したがって,当業者が,甲2発明の「水平方向に揺動自在な物品載置台 11」に代えて,相違点2に係る本件訂正発明1の構成を備えるようにすることを\n容易に想到できたか否かを検討すべきところ,甲2発明に「水平移動可能な移動ス\nテージ」を設け,その下方に把持具3dを保持したとすると,そのようにして得ら れるものは,ステーションSTとの間での移載及び物品保持部BSとの間での移載 のうち,一方については,単に把持具3dを昇降させることで行い,他方について は,把持具3dを「水平移動可能な移動ステージ」で水平方向に移動させてから昇\n降させることで行うことになる。 そうすると,甲2発明に「水平移動可能な移動ステージ」を設け,その下方に把\n持具3dを保持して得られるものは,ステーションSTとの間での移載と物品保持 部BSとの間での移載とを,互いに異なる動作で行うことになる。また,ステーシ ョンSTとの間での移載及び物品保持部BSとの間での移載のうち,一方は把持具 3dで,他方は「水平移動可能な移動ステージ」及び把持具3dで,それぞれ行う\nことになるから,ステーション用移載手段SCと保持部用移載手段BCとを移動体 3に設けた単一の物品移載手段BMで兼用しているとはいえなくなる。 すなわち,甲2発明の構成を上記のように変更すると,甲2発明の技術的意義(前\n記(1))が失われることになるから,「物品載置台11」と「水平方向に揺動自在」 とするための部材が省略できることを考慮してもなお,そのような変更をする動機 付けが当業者にあるとは認められない。
ウ 以上に述べたとおり,当業者が,甲2発明に「水平移動可能な移動ステ\nージ」を設け,その「水平移動可能な移動ステージ」の下方に把持具3dを保持す\nる変更を行う動機付けはなく,また,そのようにすると甲2発明の技術的意義を失 わせる結果になるから,阻害要因があるといえ,当業者が容易に想到し得ることで あるということはできない。
(3) 審決の判断について
ア 審決は,甲2の請求項4,【0007】の記載は,物品の移載手段を物品 保持部BSよりも移動体3に備えさせる方が構成の簡素化のために好ましいことを\n示唆し,当業者であれば,物品Bを移動体3の横幅方向に移動させるもの(【003 5】)にもこの示唆が適用可能であることを容易に理解するから,甲2発明に甲1事\n項2の構造又は甲4事項の構\造を適用し,物品Bを移動体3の横幅方向に移動させ る物品載置台11の機能を移動体3が備えるようにすることは,当業者が容易に想\n到し得る事項であると判断した。 しかし,甲2の請求項4,【0007】の記載は,そもそも,甲2に記載された実 施形態に表れていない何らかの新たな構\成を開示したり,それをこれらの実施形態 に付加したりすることを示唆するものではないから,これらの記載に接した当業者 は,甲2に「第1実施形態」として記載された甲2発明の構成の一部に代えて,甲\n1事項2の構造又は甲4事項の構\造を適用することを想到しない。
イ 審決は,移動体3から把持具3dを下降させて移動体3の走行経路の両 脇に位置する物品載置台11上の物品Bへ到達させるために,物品載置台11を移 動体3の把持具3dの真下に移動させるか,反対に,移動体3の把持具3dを物品 載置台11の真上に移動させるかは,単なる二者択一的な選択であるから,甲2発 明において,物品載置台11を移動体3の把持具3dの真下に移動させる代わりに, 移動体3の把持具3dを物品載置台11の真上に移動させるようにすることを阻害 する要因は見当たらないと判断した。 しかし,甲2発明において,移動体3の把持具3dを物品載置台11の真上に移 動させるために,「水平移動可能な移動ステージ」を設け,その下方に把持具3dを\n保持すると,前記のとおり,甲2発明の技術的意義を失わせる結果になるから,物 品載置台11を移動体3の把持具3dの真下に移動させるか,移動体3の把持具3 dを物品載置台11の真上に移動させるかは,単なる二者択一的な選択ではない。
ウ 審決は,甲2の図12に示された実施形態も,【0032】ないし【00 34】に記載されているように,屈曲アーム20bの伸縮動作によって移動体の移 動方向の左右両側に物品Bを出退自在に搬送するとともに,屈曲アーム20b自体 の昇降動作によって物品Bを昇降させて物品載置枠21bに載置するものであって, 甲2発明と同様に,物品Bの水平方向(横方向)移動及び上下動が必要なものであ ると判断した。 しかし,図12に示された実施形態の移動体3は,【0035】に明記されている とおり,物品Bを移動体横幅方向に移動させて物品Bの移載を行うようにしたもの である。そして,一般に物を横方向(水平方向)に移動させるときに,移動を円滑 にするために,また,その物自体やその物が置かれる場所(例えば床)が傷つかな いようにするために,その物を持ち上げて引きずらないようにすることは,日常生 活でも一般常識として普通に行うことである。しかも,甲2に記載された移動体3 のように工場内で物品Bの搬送に使用されるもの(【0002】)においては,物品 Bが精密機器であることも当然想定されるから,物品Bを移動体横幅方向に移動さ せるときにこれを持ち上げて引きずらないようにすることは,技術常識である。そ うすると,屈曲アーム20bが物品Bを僅かに昇降させるのは,「僅かに」とされて いることからも理解されるように,物品Bを移動体横幅方向に移動させるために必 要な限りで昇降するのであって,物品Bを垂直方向に移動させて物品Bの移載を行 うことを意図してのことではない。したがって,上記実施形態から,物品Bの水平 方向移動及び一定幅の上下動を同一の部材により行うことが認識されるものではな い。

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平成26(行ケ)10225  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年6月9日  知的財産高等裁判所

 審決は、訂正請求により無効理由無しと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
 被告は,本件訂正発明1のハイスロールは,従来のハイスロールでは対応できなかった特に高温高圧下でなされる棒鋼,線材又は形鋼の粗圧延に使用されるものであるから,その用途・課題は容易に想到できない旨を主張する。 まず,この点の検討に当たり,本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載をみると,「棒鋼,線材,あるいは形鋼の粗圧延のための熱間圧延用複合ロール」との部分は粗圧延全体を示している。そして,特許請求の範囲には,更に「圧延速度が小さいために鋼材と長時間接触することによりロール内部まで温度上昇するとともに水冷による冷却が回転ごとに繰り返されることによる熱疲労き裂が起点となってロール表面が損傷することを防止するため」とあり,本件訂正明細書には「前記したハイス系ロールの使用は,圧延速度の大きな仕上げ及び中間圧延機群での使用に限定されていた。なぜなら,このハイス系ロールを,圧延速度が小さな粗圧延機群に使用する場合,ロールが高温となった鋼材と比較的長い時間接触することにより,熱伝導によってロールの内部まで温度が上昇し,また水冷による冷却がロールの回転ご\nとに繰り返されることにより,ロールの表面から深いき裂が生じるからである。このため,このき裂が起点となって,ロールの表\面が損傷し,ひいては表面の一部が剥離するため,全く使用に耐えるものではなかった。」(【0004】)とあり,圧延速度や温度についての定量的な記載があるものではなく,仕上げ圧延及び中間圧延との相対的な対比として記載されているにすぎず,一方で,本件訂正発明1の「粗圧延」が特定の箇所での使用に限定することを明示する記載は見当たらない(なお,特許法30条1項適用のために示された甲15には,本件訂正発明の熱間圧延複合ロールを,棒鋼,線材の粗スタンドの後段部で使用したことが明示されている〔45〜46頁〕。)。\nしたがって,本件訂正発明1のハイスロールは,棒鋼,線材又は形鋼の粗圧延全般に用いることを目的とするものと認められる。 そうすると,前記(1)にて認定判断のとおり,ハイスロールを棒鋼,線材の粗圧延に用いることは周知技術であり,その際の技術的課題は技術常識なのであるから,本件訂正発明1のハイスロールの使用用途及び解決課題が当業者において容易に想到できないとはいえない。

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平成26(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年5月27日  知的財産高等裁判所

 動機付けがないから両者を組み合わせるのは後知恵であるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 以上によれば,刊行物2発明は,移動体と物品保持部との間及び移動体とステーション(加工装置)との間の物品の各移載手段を,単一の昇降移動手段で兼用し,構成の簡素化を図ることをその技術的意義とするものである。一方,相違点1に係る本件発明の構\\\成は,オーバーヘッド搬送車からその真下に位置する処理加工治具ロードポートへは,オーバーヘッド搬送車の移動ステージ下方に取り付けられて物品を把持するホイスト把持部が下降して,物品を移送するが,オーバーヘッド搬送車の側方に配置される固定棚へは,ホイスト把持部が移動ステージによって固定棚の上方へ水平方向に移動させられてから下降して,物品を移送するものであり,移動体側に物品の昇降移動と横幅移動の双方の手段を兼ね備え,ロードポートと固定棚への物品移載手段を互いに異なる動作で行うものであり,単一の昇降移動手段で兼用しているものではない。 そうすると,刊行物2発明において,把持具が昇降移動する構成に加えて,水平\n方向に移動する構成を適用し,物品載置台及び加工装置へ異なる移動手段で物品を移載するという相違点1に係る構\\\成とすることは,刊行物2発明の技術的意義を失わせることになる。そして,そもそも刊行物2発明においては,物品載置台11が揺動移動する構成となっており,移動体3の直下に位置することが可能\\\であるため,物品移載手段BMの把持具3dは昇降移動のみで物品載置台11との間の物品の移載が可能となるにもかかわらず,あえて把持具3dを水平方向に移動させる構\\\成を追加する必要性がなく,そのような構成に変更する動機付けがあるとは認められない。
ウ(ア) 以上に対し,被告は,刊行物2発明のような,把持具3dを下降させて物品載置台11へ物品を移載する物品移載手段BMがあり,該把持具3dに対して物品載置台11が移動体3の走行経路の両脇に位置するレイアウト構造を有するものにおいては,1)物品載置台11の物品載置部分側を把持具3dの真下に位置するよう横幅方向に移動させた上で把持具3dを下降させるか,又は,2)移動体3の把持具3d側を物品載置台11の物品載置部分の真上に位置するよう横幅方向に移動させた上で把持具3dを降下させるかは,単に二者択一的な動作を選択することで,当業者ならば当然着想する技術思想であり,上記1)の構造とした場合には,物品載置台11の横幅方向の移動機能\\\が不要になるため,これを固定式の物品載置台にできることも,当業者には自明の事項にすぎないと主張する。 しかし,前記イのとおり,刊行物2発明においては,把持具3dが,物品載置台だけではなく,加工装置との間でも単一の移載手段(昇降手段)を兼用することで構成を簡素化することを技術的意義とするものであり,上記1)の構成をあえて2)の構成に変更することの動機付けはないから,刊行物2発明において上記2)の構成が上記1)の構成と二者択一的とはいえないし,結局のところ同主張は後知恵的な発想であり,採用することができない。\n

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◆関連事件です。平成26(行ケ)10149

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平成26(行ケ)10153  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年3月5日  知的財産高等裁判所

 スロットマシンについて、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。理由は動機付けありおよび本件発明の認定誤りです。
 被告は,甲1発明の扉開閉監視手段(サブCPU82及びセンサ)は,設定値の変更とは無関係であるから,甲1発明の扉開閉監視手段に甲5,甲15及び甲16に記載の設定値の変更に関連する技術事項を適用する動機付けはない旨を主張する。 しかしながら,甲1発明の技術分野(遊技機)と,甲5,甲15及び甲16からうかがわれる周知技術の分野(遊技機)は,同一であり,特段の阻害事由がないのであれば,当業者は,公知の発明に周知の技術を適用しようと動機付けられるところ,上記特段の阻害事由は認められない。 のみならず,甲1発明の扉開閉監視手段は,甲1に,「図55はドアオープン監視機能画面を示している。スロットマシン1の電源が断たれている間,主に遊技店の営業時間外の間に,前面扉37が開けられたことを,例えばセンサといったハードウエアで監視している。そして,スロットマシン1に電源が投入された時に,サブCPU82は,そのハードウエアをチェックし,前面扉37が開けられた形跡を検出した場合には,図示するようなメッセージを液晶表\\示装置22に表示する。遊技店関係者は,このメッセージにより,営業時間外に遊技機に不正行為が行われた可\n 能性が高いことを把握することが出来る。」(【0265】)と記載されているように,不正行為の監視を目的とするものであるところ,その不正行為とは,とりもなおさず,設定の変更のことなのであるから(【0253】),甲1に接した当業者は,更なる不正手段の防止のために,甲1発明の扉開閉監視手段に甲5,甲15及び甲16からうかがわれる不正変更防止の周知技術を適用しようと,強く動機付けられるといえる。\n
・・・
相違点6は,本件発明1の構成【C9】を甲1発明が備えていないというものである。そして,構\\成【C9】は,本件発明1の構成【C2】によって遊技用記憶手段に含まれた,1)所定の確率に基づいて算出される払出率について設定された段階を示す情報を記憶する特定領域,2)遊技の進行状況に関する情報を記憶する領域として記憶すべき情報の重要度に応じて分けられた特別領域,及び3)一般領域の3領域のうち,一般領域に記憶されている情報を,設定変更手段による段階の変更の際に初期化すると特定するものである。 これら,「特定領域」「特別領域」「一般領域」が何を示すものかについては,本件明細書を参酌する必要があるといえるが,これら3領域のうちのいずれが段階変更の際に初期化されるかは,本件明細書の記載を参酌するまでもなく特許請求の範囲の記載から一義的に明らかであり,本件明細書の記載を参酌する必要はない。すな わち,構成【C9】により初期化されるとされたのは一般領域のみであり,特定領域や特別領域の初期化の有無については,構\\成【C9】は何ら限定を付すものではない。
ウ 小括
以上によれば,前記の審決は,相違点6が,一般領域の初期化に係るものであるのにもかかわらず,上記各刊行物記載の発明が,「特定領域」「特別領域」「一般領域」の区分という相違点1に係る事項を有しないことと,特別領域の初期化という相違点6とは関連のない技術事項を有しないことを理由とし,上記各刊行物に相違点6に係る本件発明1の構成の記載がないと判断したものであって,合理的根拠を欠くことが明らかである。\nそうであれば,この点において,審決の判断過程には,誤りがあるといわざるを得ない。

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平成26(行ケ)10045  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年12月24日  知的財産高等裁判所

 薬(処置剤)について、動機付けなしとして、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
 それに続く引用例1記載の第II相臨床試験でも,乳癌又は多発性骨髄腫患者合計280名に対する0.4mg,2.0mg又は4.0mgの5分間点滴のいずれにおいても,パミドロン酸90mgの2時間点滴と同程度の安全性を示し,4.0mgゾレドロン酸の5分間点滴は,90mgパミドロン酸と同程度の溶骨性骨合併症の予防効果を奏した。\n以上の引用例1及び2に開示されたゾレドロン酸の第I相及び第II相臨床試験の結果によれば,ゾレドロン酸は,4mgという低用量で従来用いられていたパミドロン酸90mgに匹敵する薬効を奏し,5分間の短時間の静脈点滴で安全性が確保できるものであると理解できる。そうすると,・・・相試験で,当該用法用量による安全性について違った結果が生じて用法用量をより安全性の高いものに変更する可能性があることを考慮しても,第I相及び第II臨床試験の段階では,安全性に疑問を呈するような結果は全く出ていないのであるから,患者の利便性や負担軽減の観点からも,引用例1及び2の記載からは,4mgのゾレドロン酸を5分間かけて点滴するとの引用発明の投与時間を更に延長する動機付けを見出すことは困難であるというべきである。

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平成26(行ケ)10071  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年12月24日  知的財産高等裁判所

 動機付け有りとして、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
 審決は,搬送対象について甲2発明1の搬送対象は,キューイなどの「果菜」であるが,甲3発明1の搬送対象は,薄物や不定形品などの小物類であり,搬送対象の具体的性状を異にしており,この搬送対象の相違により,発明の対象となる技術分野も,甲2発明1において「果菜自動選別装置用果菜載せ体」であるのに対し,甲3発明1では「物品選別装置用物品載せ体」であって,相違すると判断した。 しかし,甲2発明1は,上記のとおり,キューイ等の果菜を選別する装置における果菜を載置する受け台に関するものであり,また,甲3発明1は,上記のとおり,薄物や不定形品などの小物類を自動的に仕分ける装置における小物類を載置する搬送ユニットに関するものであるから,甲2発明1と甲3発明1とは,物品を選別・搬送する装置における物品載せ体,すなわち「物品選別装置用物品載せ体」に関する技術として共通しているといえる。
また,両者が搬送する物品は,甲2発明1では,キューイ等の果菜であるのに対して,甲3発明1では,薄物や不定形品などの小物類であるから,物品の大きさや性状に大きな相違はない。このことは,甲1において,「各種の品物を,大きさ(サイズ)別,重量別などに自動的に選別してより分ける選別装置」と記載され(【0001】),「従来より小荷物,果菜その他の各種品物を大きさ,重量,形状等の条件に基づいて自動的に選別する装置には種々のものがあった」として,従来技術について,特に小荷物と果菜とを区別しておらず,「特にいたみやすい果菜の自動選別」(【0001】として,傷みやすい搬送物の典型として特に果菜を挙げながらも,請求項1において,搬送物につき「果菜や小荷物等」との記載をしており,対象とする物品が,果菜と小荷物等とで異なるとしても,これらの物品を選別,搬送する装置としては,同一の技術分野に属するものと捉えていることが明らかである。しかも,果菜が傷みやすく傷付きやすいとはいえ,甲1にも示されるように,従来から,果菜を選別して搬送方向から側方に送り出す際であっても,容器を傾倒する方式が採用されていたのであるから,破損しやすい小物類との間で,技術分野が異なるというほどに相違するものではない。 さらに,甲2発明1は,前記のとおり,キューイを転動させて受けボックス内に整列させると,受けボックスの下流側内壁面にキューイが当接したり,キューイの相互接触により,キューイの外周面に打ち傷や擦り傷が付いたりすることがあり, キューイの商品価値が損なわれるという問題点を解決するために,コンベアの搬送面上に形成した受け部に果菜物を個々に載置し,果菜物を所定間隔に離間した姿勢に保持して搬送することで,搬送中における果菜物の接触及び衝突を防止することとしたものであるところ,搬送物を選別振り分けする際に,搬送物が壁等の設備に衝突することを防止したり,搬送物同士の相互接触を防止したりするという課題は,ボックス内に整列させる際のみならず,選別・搬送の全過程を通じて内在していることは明らかである。そして,甲2発明1は,振り分けコンベアの受け台が,載置された搬送物を搬送方向側方に送り出す際に,搬送方向側方に向けて傾動可能な構\\成であるところ,傾動させて搬送物を搬送方向側方に送り出すには,ある程度の落下による衝撃,あるいは,接触時に衝撃が生じ,搬送物に損傷や破損の生じるおそれがあることは,従来技術の秤量バケットEを可倒させて,果菜Bを転がして落とす自動選別装置において,傷が付いたり潰れたりするという問題を解決するために,バケット式の果菜載せ体をベルト式の果菜載せ体に置換したと甲1に記載されるように,その構成自体から明らかな周知の課題である。\n一方,甲3発明1は,上記2(3)で認定したように,従来の傾動可能なトレイを備えた方式の場合は,搬送物同士の衝合による損傷や破損の生じるおそれがあり,破損しやすい搬送物の搬送には不向きであるという課題を解決するものである。\nそうすると,甲2発明1と甲3発明1は,課題としての共通性もある。 以上を総合すると,甲2発明1の振分けコンベアの搬送方向側方に向けて傾動可能な構\\成において生じる搬送物の損傷,破損という技術課題を解決するために,甲3発明1を適用して,相違点F’の構成に至る動機付けが存在するといえる。\n

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◆関連事件です。平成26(行ケ)10095  

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平成26(行ケ)10124  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年11月19日  知的財産高等裁判所

 訂正事項は新規事項である、および、動機付けがあるとした審決が、取り消されました。
 審決は,図15と図12とは,シート(110)の形状が同様であり,図15の断面図では,永久接着手段(80)が製品の主要面の両面にあることが示されていることからすれば,図12の斜視図には,主要面の下面の接着手段が図示されていないとしても,製品とシートの上下両面とが永久接着手段で接着していると解するのが自然であるとし,これと同様に,図17及び18においても,実際の実施例では製品の主要面の両面が永久接着手段で接着しているのに,下面の接着手段が図示されなかったにすぎないと判断する。 しかし,図12と図15は,シート(110)を有する点で共通するものの,図12と図15の対応関係は明らかではなく,図12の断面図が図15であるとする根拠はないから,図15で示された主要面の両面に配置された永久接着手段が,図12では下面のものが省略されていると断定することはできない。そうすると,透視図である図18の図面において上記のように上面にのみ接着手段が施されている構成が記載されているにもかかわらず,これを無視して,図12の下面に接着手段が記載されていないことを理由として,図17及び18の構\成について,推し量るのは合理的でなく,採用できない。 イ また,審決は,「主要面の一方においてのみ」永久接着手段(80)を設ける構成それ自体は,本件明細書の記載から,当業者にとって自明であるといえるとしても,「切離し部分の中で主要面の一方のみが永久接着手段によりパケットに固定されていることにより,比較的小さな力Fでもって,容易にかつ確実に,切離し部分の切り離しが可能\になり,また,消費者が引っ張っている途中で急に切れたりせずに,安定した形で切り離しを行うことができるという作用効果を奏する構成」という技術的思想が,当業者にとって自明であるとまではいえないとする。そして,\nこの点につき,被告は,「参考図」及び「展開して示した力の作用を示す参考図」において,「上面側において,永久接着手段80から切取線171までの距離ℓ1は短く,下面側において,永久接着手段80から切取線171までの距離ℓ2は長いが,距離ℓ1,ℓ2の長短は,切取線171に加わる引張力fの大小には無関係である。」と主張する。 しかし,前記「参考図」において,個包装製品10をFの力で水平方向に引っ張った場合,永久接着手段80に接着された上面側の包装紙の切取線171部分と接着されていない下面側の包装紙の切取線171部分には,同じ引張力fが働くが,包装紙は,紙,パラフィン紙,金属フォイル,プラスチックフォイル又はこれらの材料の種々の組合せから形成される(【0017】参照)ことから,引張力fにより包装紙に伸びが生じることは自明である。そして,永久接着手段80で接着された部分から切取線171までの上面側の包装紙の距離ℓ1は,永久接着手段80で接着された部分から下面側の切取線171までの包装紙の距離ℓ2より短く,上面側の包装紙と下面側の包装紙は,同じ材質であり,伸びの割合は同じであることから,破断に至るまでに包装紙が伸び得る長さは,前記ℓ1の長さに係る包装紙の方が,前記ℓ2の長さに係る包装紙より短くなる。 したがって,切取線部分171に同じ引張力fが加わった場合,切取線部分において破断まで許容される伸びを超えた場合に,他の部分より弱い切取線部分において破断が生じることから,前記ℓ2の長さに係る包装紙の切取線部分(下面側)より早く前記ℓ1の長さに係る包装紙の切取線部分(上面側)が破断することとなる,すなわち,永久接着手段80により接着されている上面側の包装紙の切取線部分の方が下面側のそれより切り離れやすくなるものと認められる。 以上によれば,永久接着手段(80)が,主要面の一方のみにあれば,原告主張の作用効果を奏することはその構成自体から,当業者にとって自明であると認められ,当該作用効果によって新たな技術的事項が導入されたとすることはできない。
(4) 以上のとおりであるから,請求項1を訂正する事項である訂正事項2は, いわゆる新規事項とは認められず,訂正事項2が,特許法134条の2第9項で準用する同法126条第5項又は6項の規定に違反するということはできない。
・・・・
審決は,甲2発明Aに,甲1の技術を適用すると,適用後の発明は,甲1に記載された上記の消費者にとって有用な作用効果を奏することが,当業者に明らかであるから,甲2発明Aに甲1の技術を適用する動機付けは存在するとした。 しかし,これは,両発明を組み合わせることについての動機付けの判断に当たり,具体的な動機や示唆の有無について検討することなく,単に,組合せ後の発明が消費者にとって有用な作用効果を奏するとの理由で動機付けを肯定しているものであり,事後分析的な不適切な判断といわざるを得ない。
イ そこで,甲2発明Aに甲1発明の技術を適用する動機付けについて検討すると,以下のとおりである。
すなわち,両発明とも,ガムなどの製品(包装体)を箱(収納容器)に収納するパッケージ(容器入り包装体)であり,同じ技術分野に属するものであって,製品(包装体)が取り外された後においても箱(収納容器)内で製品(包装体)を保持することができるようにするという点で課題(効果)を同じくする部分があるものと認められる。 しかし,甲2発明Aは,前記2(2)のとおり,消費者が製品をシート及びハウジングから掴んで容易に取り出すことができ,かつ,多数の製品が取り外された後でも 製品を保持することができることを目的とし,そのために,製品とシートの間の結合(接着)は,製品をシートから容易に取り外すことのできる「剥離可能な」結合(接着)との構\成をとったものである。 これに対し,甲1発明は,容器に収納されている形態の被包装物を,片手で簡便に取り出すことを可能とする容器入り包装体を提供することを目的として,包装体下方部を収納容器に永久的に固着すること,及び包装体の適宜位置に収納容器底面と略平行な切目線を設けること,の2つの要件により,包装体を収納容器から取り出す際,包装体を引っ張るだけで,包装体が切目線の部分で切り離され,包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができるとの構\成をとったものである。 そうすると,当業者は,製品をシートから容易に取り外すことのできる「剥離可能な」結合(接着)との構\成をとった甲2発明Aにおいて,製品とシート間及びシートと箱間の「接着」を「永久的」なものとすることによって,包装体が切目線の部分で切り離されるように構成した甲1発明を組み合わせることはないというべきである。\nよって,甲1の技術を,甲2発明Aに適用して,相違点1に係る本件発明12の構成とすることは,当業者が容易に推考し得たことである,との審決の認定は誤りである。\n

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平成25(行ケ)10244  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年10月30日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。保持炉から次の所定の処理を行う装置まで搬送される点で共通するので、動機付け有りというものです。
 審決は,甲1文献には,甲1発明の取鍋内の溶鉄が,コアードワイヤ処理の後に,別の取鍋に移し替えられて鋳造工程へ進むことが記載されており,この鋳造工程では,移し替えられた取鍋を注湯機上に載置するものと認められるから,甲1発明の取鍋は,注湯用の取鍋ではなく,甲2発明の取鍋に相当するものではないと判断した。 しかし,甲2発明によって搬送される取鍋が注湯用取鍋であるのに対して,甲1 発明において搬送される取鍋が注湯用取鍋でないとしても,前記(1)で判示したとおり,これらは保持炉に保持されていた鋳鉄溶湯を装入する取鍋であり,保持炉から次の所定の処理を行う装置まで搬送される点で共通するものである上,本件特許の出願前に刊行された「GieβereiーPraxis,1983,No21,313−320頁」(甲31)によれば,ワイヤーフィーダー法においてもマグネシウム処理及び鉄の注湯が同じ取鍋で実施されることがあると認められ,甲1発明における取鍋が注湯用であるか否かは搬送手段の選択に大きな影響を及ぼすものではない。また,甲2発明は,単に取鍋を自動搬送するだけであるから,注湯用取鍋しか搬送できない特殊なものではなく,当業者であれば,注湯用ではない取鍋であっても搬送が可能であると認識できると認められる。\nしたがって,甲1発明の取鍋が,甲2記載の取鍋に相当するものではないからといって,甲1発明において,取鍋の搬送手段として甲2発明を適用することは当業者にとって容易になし得たことではないということはできない。 イ また,審決は,甲1発明の処理ステーションでは,取鍋が,注湯機のように載置されるのではなく,吊り上げられることが記載されているから,甲1発明の処理ステーションには,むしろホイストが必要であって,取鍋移送機構を設ける必要がないことなどから,甲1発明に甲2発明を適用することは当業者が容易になし得たことではないと判断した。\n確かに,甲1発明では,処理ステーションにおける黒鉛球状化処理の際,フックで取鍋を吊り上げており(別紙甲1発明図面目録の図2参照),そのためにホイストが必要であることは認められる。 しかし,処理ステーション内において取鍋を吊り上げるからといって,溶湯が装入された取鍋をホイストで吊って前炉から処理ステーション内の所定の位置まで搬送することによって生じる危険性がなくなるわけではなく,その危険性を避けるため,取鍋を前炉から処理ステーション内の所定の位置に設置するまでの搬送手段として甲2発明を利用する意義は存在するから,甲1発明に甲2発明を適用する動機 付けは依然として存在するというべきである。 したがって,甲1発明に甲2発明を適用することは当業者が容易になし得たことではないとした審決の判断には誤りがある。

◆判決本文

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平成25(行ケ)10338  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年11月13日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。「内在する課題が共通なので、適用する動機付けあり」というものです。
 審決は,甲8文献の記載からは係合部材が2本のパイプ(スライドシャフト)の軸心を結ぶ仮想平面を通っているか不明であること,甲6発明については,係合部 材による押圧方向が2本のパイプ(スライドレール)の軸心を結ぶ仮想平面上としなければ許容できる精度で加工できないといった動機付けがないことなどから,甲8発明の係合部材を甲6発明に適用するに当たり,押圧方向を甲6発明の2本のパイプの軸心を結ぶ平面上とすることは,当業者にとって容易に想到し得たものではない旨判断した。 しかし,甲8文献の第1図及び第3図はいずれも側面図ではあるものの,第1図の「ノブ15」は「スライドシャフト11,12」(パイプ)に対して垂直方向の上方から押圧する形で図示されており,正面図を作成したときに「スライドシャフト11」と「スライドシャフト12」が左右にずれることを窺わせるような記載は一切ない。また,卓上切断機においては,2本のパイプの軸心を結ぶ平面が鉛直であるものが数多く存在し(甲18ないし20),甲6発明も同様である。これらの事情によれば,甲8発明に接した当業者であれば,「ノブ15」は,「スライドシャフト11」と「スライドシャフト12」の軸心を結ぶ仮想平面上を通っており,上方から「スライドシャフト11」を押圧すると理解するものであって,係合部材が2本のスライドシャフト(パイプ)の軸心を結ぶ仮想平面を通っているか不明であるということはできない。 そして,甲6発明も甲8発明も,揺動軸を支点として揺動可能な切断部を有し,かつ,上下に平行に配置された2本のパイプを用いることで切断部を摺動可能\とする卓上切断機に関するものであって,いずれも切断幅を増大して幅広の木材に対応するものである。また,甲8発明で開示されている技術は,摺動する切断部を固定することを可能にするものであるところ,切断部が摺動する構\造において切断部を摺動しないように固定することは,切断作業の態様を増やすという利点があること(摺動せずに切断部の上下の揺動のみで切断することができる。),搬送時などに切断部が意図せず動くことを防止する必要があることなどからすると,甲6発明を含めた切断部が摺動する構造を有する卓上切断機において,切断部を固定することは,共通の内在する課題であると認められる。\nそうすると,甲6発明に甲8発明を適用する動機付けがあるというべきであって,甲6発明及び甲8発明に接した当業者であれば,甲8発明を甲6発明に適用して,相違点1に係る構成(一対のパイプの軸心を含む仮想平面の方向に第1のパイプを押圧するように設けられた係合部材を有し,支持部材の傾動角度にかかわらず前記係合部材による押圧方向が前記仮想平面上であって且つ切断刃の側面と平行となるようにする構\成)とすることを容易に想到することができると認められるから,審決の判断は誤りである。
(5) 被告の主張について
ア 被告は,甲8文献には,2本のパイプの軸心を含む仮想平面と切断刃が平行であるか否か,同平面を係合部材が通っているかについて記載も示唆もない旨主張する。 しかし,甲8文献の記載からすれば,当業者は2本のパイプの軸心を含む仮想平面と切断刃が平行であると理解するものであるし,側面図(甲8文献の第1図及び第3図)において,ノブの上面が見えない水平な形で「ノブ15」が記載されている点からしても,「ノブ15」の押圧方向は,「スライドシャフト11,12」の軸心を含む仮想平面の方向であると理解されるものである。 なお,被告は,2本のパイプが傾いて設置されている例として乙1ないし5を提出するが,乙1はパイプの太さが異なる構成であること,乙2はパイプの配置,太さ等の構\成が明らかではないこと,乙3はパイプがテーブル面よりも下方に配置されている構成であること,乙4は卓上切断機ではないこと,乙5はパイプが3本ある構\成であることなどからすると,いずれも甲8発明の構成とは異なるものであって,これらの証拠は,甲8文献記載の図面に関する前記解釈を左右しない。\n

◆判決本文

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平成25(行ケ)10244  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年10月30日  知的財産高等裁判所

 動機付けありと判断して、無効事由無しとした審決を取り消しました。
 審決は,甲1文献には,甲1発明の取鍋内の溶鉄が,コアードワイヤ処理の後に,別の取鍋に移し替えられて鋳造工程へ進むことが記載されており,この鋳造工程では,移し替えられた取鍋を注湯機上に載置するものと認められるから,甲1発明の取鍋は,注湯用の取鍋ではなく,甲2発明の取鍋に相当するものではないと判断した。 しかし,甲2発明によって搬送される取鍋が注湯用取鍋であるのに対して,甲1発明において搬送される取鍋が注湯用取鍋でないとしても,前記(1)で判示したとおり,これらは保持炉に保持されていた鋳鉄溶湯を装入する取鍋であり,保持炉から次の所定の処理を行う装置まで搬送される点で共通するものである上,本件特許の出願前に刊行された「GieβereiーPraxis,1983,No21,313−320頁」(甲31)によれば,ワイヤーフィーダー法においてもマグネシウム処理及び鉄の注湯が同じ取鍋で実施されることがあると認められ,甲1発明における取鍋が注湯用であるか否かは搬送手段の選択に大きな影響を及ぼすものではない。また,甲2発明は,単に取鍋を自動搬送するだけであるから,注湯用取鍋しか搬送できない特殊なものではなく,当業者であれば,注湯用ではない取鍋であっても搬送が可能であると認識できると認められる。\nしたがって,甲1発明の取鍋が,甲2記載の取鍋に相当するものではないからといって,甲1発明において,取鍋の搬送手段として甲2発明を適用することは当業者にとって容易になし得たことではないということはできない。 イ また,審決は,甲1発明の処理ステーションでは,取鍋が,注湯機のように載置されるのではなく,吊り上げられることが記載されているから,甲1発明の処理ステーションには,むしろホイストが必要であって,取鍋移送機構を設ける必要がないことなどから,甲1発明に甲2発明を適用することは当業者が容易になし得たことではないと判断した。\n確かに,甲1発明では,処理ステーションにおける黒鉛球状化処理の際,フックで取鍋を吊り上げており(別紙甲1発明図面目録の図2参照),そのためにホイストが必要であることは認められる。 しかし,処理ステーション内において取鍋を吊り上げるからといって,溶湯が装入された取鍋をホイストで吊って前炉から処理ステーション内の所定の位置まで搬送することによって生じる危険性がなくなるわけではなく,その危険性を避けるため,取鍋を前炉から処理ステーション内の所定の位置に設置するまでの搬送手段として甲2発明を利用する意義は存在するから,甲1発明に甲2発明を適用する動機付けは依然として存在するというべきである。

◆判決本文

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平成25(行ケ)10347  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟  平成26年10月9日  知的財産高等裁判所

 動機付け無しとして進歩性有りと認定した審決が取り消されました。
 上記のような甲10公報の記載に接すれば,当業者であれば,第2図に図示されている直線的かつ平行な電界の生成が,電気機械変換効率を高め,その結果,CI値を小さくするという作用効果に寄与していること は,容易に理解できるものと認められる。そして,甲10公報には,振動細棒420の上下に2つずつ溝を設け,それぞれに電極440aを配置してもよい(第10図)との記載があるのであるから,当業者であれば,振動細棒420に設ける溝を2本とした場合にも,1本の場合と同様に,CI値を小さくするという作用効果を奏するものであることは,容易に理解できるものと認められる。そうすると,公用製造方法において,1本の溝を2本の溝とすることは,当業者が容易に設計し得る事項にすぎないというべきである。イ この点について,審決は,公用製造方法において,音叉腕に設ける溝を2本の溝とした場合に,M1とM2の大小関係がどのようになるかは不明であるとして,公用製造方法において,相違点2における本件訂正発明の構成を採用することの積極的な動機付けがなく,むしろ,阻害要因が存在するとしている(審決書22頁)。しかし,証拠(甲9,10,31,32)及び弁論の全趣旨によれば,原告が前記第3の2において主張するとおり,公用製造方法において,音叉腕に設ける溝を2本とした場合においても,M1>M2の関係が担保されることが認められ,このことは,当業者であれば予\測し得るものというべきである。したがって,公用製造方法において,音叉腕に設ける溝を2本の溝とした場合に,M1とM2の大小関係がどのようになるかは不明であるとする審決の判断は誤りといわざるを得ない。部分幅の数値限定の容易想到性部分幅を0.05mmより小さくすることについて,本件明細書の【0048】には,「更に,本実施例では,溝が中立線を挟む(含む)ように音叉腕に設けられているが,本発明はこれに限定されるものでなく,中立線を残して,その両側に溝を形成しても良い。この場合,音叉腕の中立線を含めた部分幅W7は0.05mmより小さくなるように構成される。又,各々の溝の幅は0.04mmより小さくなるように構\成され,溝の厚みt1と音叉腕の厚みtの比は0.79以下に成るように構成される。このような構\成により,M1をMnより大きくする事ができる。」との記載がある。しかし,上記記載は,その記載から明らかなとおり,「音叉腕の中立線を含めた部分幅W7は0.05mmより小さくなるように構成」し,「溝の幅は0.04mmより小さくなるように構\成」し,「溝の厚みt1と音叉腕の厚みtの比は0.79以下に成るように構成」した場合において,「M1をMnより大きくする事ができる」というものであり,「音叉腕の中立線を含めた部分幅W7を0.05mmより小さくなるように構\成」しただけで直ちに「M1をM2より大きくする事ができる」というものではない。そして,本件明細書には,他に,上記部分幅の数値限定の技術的意義について記載されていない以上,本件訂正発明における上記部分幅の数値限定に格別の技術的意義があるとは認められない。そうすると,公用製造方法において,部分幅の寸法を0.05mmより小さくすることも,当業者が容易に設計し得る事項にすぎないというべきである。

◆判決本文

◆関連事件です。平成25(行ケ)10346

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平成25(行ケ)10209  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年9月10日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が取り消されました。
 前述した本願優先日当時の当業者の一般的な認識に鑑みれば,当業者が,ACE阻害活性の有無に焦点を絞り,引用発明においてIPP及びVPPがACE阻害活性を示したことのみをもって,引用例2から引用例5に記載されたACE阻害剤との間には,前述したとおりACE阻害活性の強度及び構造上の差異など種々の相違があることを捨象し,IPP及びVPPも上記ACE阻害剤と同様に,血管内皮の機能\改善作用,血管内膜の肥厚抑制作用を示すことを期待して,IPP及び/又はVPPを用いることを容易に想到したとは考え難い。
また,仮に,当業者において,引用例2から引用例5に接し,前記一般的な認識によれば必ずしも奏功するとは限らないとはいえ,ACE阻害活性を備えた物質が上記作用を示すか否か試行することを想起したとしても,前述したとおり,IPP及びVPPは,性質,構造において上記ACE阻害剤と大きく異なり,特にIPP及びVPPのACE阻害活性は上記ACE阻害剤よりもかなり低いものといえるから,試行の対象としてIPP及び/又はVPPを選択することは,容易に想到するものではないというべきである。
以上によれば,引用発明と引用例2から引用例5とを組み合わせて補正発明を想到することは容易とはいえず,本件審決が,「相当程度の確立した知見」を前提として,引用発明と引用例2から引用例5とを組み合わせ,これらを併せ見た当業者であれば,引用発明においてACE阻害活性を有することが確認されたIPP及び/又はVPPを,血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤として用いることに,格別の創意を要したものとはいえないと判断した点は誤りである。\n

◆判決本文

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平成25(ワ)4303  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成26年9月25日  東京地方裁判所

 進歩性無しとして、権利行使不能(特104条の3)と判断されました。
 以上の事実,すなわち,乙13発明と乙16文献に記載された発明は,技術分野,解決すべき課題及び課題解決原理が共通し,経皮吸収製剤の形状及び強度並びにその構造的な強さを形成・保持するための基剤及び成形方法という課題解決手段にも共通性があること,粘弾性・保水力の大きいゼリー様のヒアルロン酸溶液を乾燥させると非常に強固な固体となるという物性が技術常識として知られていたことに照らせば,乙16文献に接した当業者がこれを乙13発明と組み合せる動機付けがあり,当業者において,乙13発明の基剤を乙16文献の基剤に置き換え,角質層を貫通するように十\分強い生体適合性材料の一つとしてヒアルロン酸を基剤(マトリックス)に選択することも,容易に想到し得たことであって,これを乙13発明に組み合せて成形した経皮吸収製剤が皮膚を貫通するのに十分な強度を有することも,容易に理解し得たということができる。\nまた,本件発明に係る経皮吸収製剤の作用効果が格別顕著なものであることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件発明は,乙13発明に乙16文献を組み合せることにより,当業者において容易に想到することができたものというべきである。  

◆判決本文

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平成22(行ケ)10056  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟  平成23年2月8日  知的財産高等裁判所

 少し前の事件ですが挙げておきます。動機付けについて「公知技術に記載された事項を過度に抽象化した事項を引用発明に適用して具体的な本件発明の構成に想到しようとするものであって相当でない」旨、判断されました。
 しかし,この審決の判断の流れは,2),4),6)の周知技術を前提とし,1),5)の自明課題,設計事項を踏まえ,bの甲第1号証から読み取れる事項も認定したうえ,3),7),8)の判断を経て,9),10),11)のとおり相違点1ないし3の容易想到性を導いているものであって,甲第3,10,21,22号証は周知技術の裏付けとして援用したものである。このうち,4)の周知技術の認定で審決が説示する「液体インク収納容器からの色情報」が単に液体インク収納容器のインク色に関する情報でありさえすればよいとすると,前記周知技術は,液体インク収納容器と記録装置側とが発光部と受光部との間の光による情報のやり取りを通じて当該液体インク収納容器のインク色に関する情報を記録装置側が取得することを意味するものにすぎない。このような一般的抽象的な周知技術を根拠の一つとして,相違点に関する容易想到性判断に至ったのは,本件発明3の技術的課題と動機付け,そして引用発明との間の相違点1ないし3で表される本件発明3の構\成の特徴について触れることなく,甲第3号証等に記載された事項を過度に抽象化した事項を引用発明に適用して具体的な本件発明3の構成に想到しようとするものであって相当でない。その余の自明課題,設計事項及び周知技術にしても,甲第3号証等における抽象的技術事項に基づくものであり,同様の理由で引用発明との相違点における本件発明3の構\成に至ることを理由付ける根拠とするには不足というほかない。
(4) 上記のとおり,周知技術等に基づいてする審決の判断は是認できないが,甲第3号証等が開示する技術的事項も踏まえて念のため判断するに,甲第3,21,22号証の液体インク収納容器において,記録装置と液体インク収納容器の間の接続方式につき共通バス接続方式が採用されているかは不明であって,少なくとも甲第3,21,22号証においては,共通バス接続方式を採用した場合における液体インク収納容器の誤装着の検出という本件発明3の技術的課題は開示も示唆もされていないというべきである。そして,上記技術的課題に着目してその解決手段を模索する必要がないのに,記録装置側がする色情報に係る要求に対して,わざわざ本件発明3のような光による応答を行う新たな装置(部位)を設けて対応する必要はなく,このような装置を設ける動機付けに欠けるものというべきである。そうすると,甲第3,21,22号証に記載された事項は,解決すべき技術的課題の点においても既に本件発明3と異なるものであって,共通バス接続方式を採用する引用発明に適用するという見地を考慮しても,本件発明3と引用発明との相違点,とりわけ相違点2,3に係る構成を想到する動機付けに欠けるものというべきである。なお,本件発明3における液体インク収納容器が保持する色情報の技術的意義が前記のとおりであることに照らすと,液体インク収納容器から記録装置側に伝達される情報自体に「色情報」が含まれるか否かは,本件発明3と引用発明の実質的な相違点であるというべきである(相違点2)。
(5) よって,その余の点について検討するまでもなく,本件発明3と引用発明との相違点に係る構成に容易に想到できるとした審決の前記判断は誤りであるというべきである。\n
(6)ア被告ら及び補助参加人(以下「被告ら」というときは,補助参加人も含む。) は,甲第21,22号証の記録装置と液体インク収納容器の構成から,記録装置に受光素子を1つ設け,キャリッジの移動により受光素子と対向する位置に来た液体インク収納容器に対し,誤装着検出を行う等の基本的な技術の構\成が分離して把握できないものではなく,上記基本的な技術構成が本件発明3の優先日前に周知の技術であると主張する。しかしながら,前記のとおり,甲第21,22号証の記録装置と液体インク収納容器の構\成及び誤装着の検出原理は,本件発明3のそれらと大きく異なるのであって,仮に甲第21,22号証の構成から,キャリッジを移動させることにより特定の位置に来る液体インク収納容器を交替させ,発光部と受光部の間の光のやり取りによって順次液体インク収納容器の検出を行うという,具体的な動作機構\や検出原理を捨象し,相当程度抽象化した事項を持ち出してみても,本件発明3との相違点にかかる構成の容易想到性が肯定できるものではないから,被告らの上記主張は採用できない。また,甲第3号証の記録装置において,受光手段が一つだけ設けられているかは不明であるから,上記記録装置において,受光手段を一つだけ設け,キャリッジの移動により順次液体インク収納容器からの光の受光を行う構\成が採用されているとはいうことができない。

◆判決本文

◆これには侵害事件もあります。◆平成24(ネ)10093

◆原審はこちらです。平成23年(ワ)第24355号

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平成25(行ケ)10209  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年9月10日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が取り消されました。
 前述したとおり,補正発明と引用発明の相違点は,薬剤の用途が,補正発明においては,「血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤」であるのに対して,引用発明においては,「ACE阻害活性を示す,抗高血圧剤」である点である。\nイ(ア) 引用例2から引用例4には,前記のとおり,ACE阻害剤であるシラザプリル,キナプリル,カプトプリルを,本態性高血圧症や内皮機能障害の疾患を有するヒト,バルーンカテーテル処理によって頸動脈の内皮剥離,損傷を受けたラットに投与した実験の結果,血管内皮の拡張能\の向上,血管内膜の肥厚抑制等が見られた旨が記載されており,引用例5には,血管壁肥厚の抑制と改善,内皮細胞機能の改善等がACE阻害薬の効果としてヒトで証明されている旨が記載されている。これらの記載によれば,シラザプリル等のACE阻害剤を人体や動物に投与した実験において,血管内皮の機能\改善作用,血管内膜の肥厚抑制作用が確認されたことを読み取ることができる。 (イ) しかしながら,前述のとおり,本願優先日当時においては,上記と異なる実験結果を示す複数の技術文献が存することから,ACE阻害剤であれば原則として血管内皮の収縮・拡張機能改善作用又は血管内膜の肥厚抑制作用のうち少なくともいずれか一方を有するとまではいえず,個々のACE阻害剤が実際にこれらの作用を有するか否かは,各別の実験によって確認しなければ分からないというのが,当業者の一般的な認識であった。\n(ウ) しかも,IPP及びVPPと,引用例2から引用例5に記載されたシラザプリル等のACE阻害剤との間には,以下のとおり,性質,構造において大きな差異が存在する。他方,IPP及びVPPと上記ACE阻害剤との間に,ACE阻害活性を有すること以外に特徴的な共通点は見当たらない。\na すなわち,シラザプリル等はいずれも典型的なACE阻害剤であるのに対し,IPP及びVPPは確かにACE阻害活性を有しているものの,下記の比較によれば,その強度は上記ACE阻害剤よりもかなり弱いものにとどまるといえる。現に,本件に証拠として提出されている公刊物中には,IPP及びVPPをACE阻害剤として紹介する記載は見当たらない。
・・・
ウ 前述した本願優先日当時の当業者の一般的な認識に鑑みれば,当業者 が,ACE阻害活性の有無に焦点を絞り,引用発明においてIPP及びVPPがA CE阻害活性を示したことのみをもって,引用例2から引用例5に記載されたAC E阻害剤との間には,前述したとおりACE阻害活性の強度及び構造上の差異など\n種々の相違があることを捨象し,IPP及びVPPも上記ACE阻害剤と同様に, 血管内皮の機能改善作用,血管内膜の肥厚抑制作用を示すことを期待して,IPP\n及び/又はVPPを用いることを容易に想到したとは考え難い。 また,仮に,当業者において,引用例2から引用例5に接し,前記一般的な認識 によれば必ずしも奏功するとは限らないとはいえ,ACE阻害活性を備えた物質が 上記作用を示すか否か試行することを想起したとしても,前述したとおり,IPP 及びVPPは,性質,構造において上記ACE阻害剤と大きく異なり,特にIPP\n及びVPPのACE阻害活性は上記ACE阻害剤よりもかなり低いものといえるから,試行の対象としてIPP及び/又はVPPを選択することは,容易に想到するものではないというべきである。 以上によれば,引用発明と引用例2から引用例5とを組み合わせて補正発明を想到することは容易とはいえず,本件審決が,「相当程度の確立した知見」を前提として,引用発明と引用例2から引用例5とを組み合わせ,これらを併せ見た当業者であれば,引用発明においてACE阻害活性を有することが確認されたIPP及び/又はVPPを,血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤として用いることに,格別の創意を要したものとはいえないと判断した点は誤りである。\n

◆判決本文

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平成25(行ケ)10277 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年8月27日  知的財産高等裁判所

 「試行錯誤なしに当然に導き出せる結論ではない」として、進歩性無しとした審決が取り消されました。
 審決は,フラックスレスろう付けの手法として,真空ろう付け法と窒素ガス雰囲気ろう付け法がともに技術常識であることから,相違点2に係る構成は,当業者が容易に想到できるものと判断した。確かに,本願発明と引用発明とは,いずれも,ろう付けされた部材の製造に使用される,芯材用のアルミニウム合金製の帯材又は板材において,所定量のイットリウムを含有させる点で共通するものである。また,エロージョンは,ろう材が芯材を侵食する現象であり,芯材の中にシリコンが浸透して腐食が起きやすくなるために,ろう付けの際に回避すべきものであるが,エロージョンが起きれば,侵食された芯材部分にろう材が流れ込む結果,ろう付けのための充分なろう材が行き渡らずに所定の付着効果が得られず,ろう付け性が低下するから,エロージョンの抑制には,結果的にはろう付け性を改善するといえる側面もあり,本願発明と引用発明の技術課題に重なり合う部分が存在すること自体は否定し難い。しかしながら,本願発明は,管理された窒素雰囲気でのろう付けによるものであるのに対して,引用発明は,真空雰囲気下でのろう付けによるものであるという相違点があるのであり,相違点2に係る構\成が当業者にとって容易に想到し得るものか否かは,結局,刊行物2に記載されたイットリウムの使用が,管理された窒素雰囲気下でのろう付けにも使用できるという示唆があるかどうか,また,本願出願時の技術常識から,それぞれのろう付け法におけるろう材や芯材の相互の互換性があるといえるか否かにより判断されるべきである。 しかるに,刊行物2そのものには,管理された窒素雰囲気下でのろう付けについて,何らの記載も示唆もない。また,芯材用アルミニウム合金にイットリウムを含有させることにより,管理された窒素雰囲気下でのろう付けにおいて,改善されたろう付け性が得られることについて,何らの記載も示唆もない。そして,上記のとおり,本願出願時には,ろう付け法ごとに,それぞれ特定の組成を持ったろう材や芯材が使用されることが既に技術常識となっており,ろう付け法の違いを超えて相互にろう材や芯材を容易に利用できるという技術的知見は認められない。したがって,真空雰囲気下でのろう付け法である引用発明において,芯材用アルミニウム合金にイットリウムを含有させることにより,ろう付けの際に生じるエロージョンを抑制することができるものであるとしても,管理された窒素雰囲気下でのろう付け法において,改善されたろう付け性が得られるかどうかは,試行錯誤なしに当然に導き出せる結論ではない。 したがって,相違点2に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえず,この点に関する審決の判断は誤りである。
(4) 被告の主張に対する判断
ア 被告は,真空ろう付け法と窒素ガス雰囲気ろう付け法は,いずれもフラックスレスのろう付け法として,当業者において良く知られた技術であり(乙1〜7),また,特開昭62−13259号公報(乙1),特開昭58−163573号公報(乙4),特開昭53−131253号公報(乙5),特開昭63−157000号公報(乙6),特開昭61−7088号公報(乙7)には,これらのろう付け法が並列して記載されていることからすると,これらのろう付け法は,当業者にとって適宜置換可能な方法といえるから,刊行物2に接した当業者であれば,刊行物2に記載された材料からなる芯材用アルミニウム合金製の帯材又は板材を,真空ろう付け法だけでなく,窒素ガス雰囲気ろう付け法にも使用できることを容易に理解すると主張する。\n確かに,上記乙1,5〜7の記載によると,昭和50年代から昭和60年代初めにかけて,ろう付け法の種類に着目することなく,芯材,ろう材や母材にBe,Biを添加する方法がろう付け性向上のための技術思想として把握されていたことがうかがわれる(もっとも,乙6の第1表,第2表\には,真空雰囲気下ではろう材にMgを必ず含めているのに対し,窒素雰囲気下ではろう材にMgを含ませておらず,特定の芯材やろう材が特定のろう付け法において意識的に使い分けられていたとみる余地もある。)。しかしながら,ろう付け法が並列に記載されていることと,各方法において利用されていた技術が相互に容易に置換可能であることは別次元の問題であって,上記(2)のとおり,その後の本願出願時においては,技術常識として,真空ろう付け法と窒素ガス雰囲気ろう付け法とでは,使用されるアルミニウム合金ブレージングシートは,通常,区別されるものであるとされていたと認められるから,当業者にとって,真空ろう付け法において使用できた芯材を,窒素ガス雰囲気下のろう付け法において,当然に利用できると認識することは困難といえる。

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平成25(行ケ)10058  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年7月30日  知的財産高等裁判所

旧特181条により特許庁に差し戻された心理について、無効理由無しとした審決が取り消されました。動機付けありという理由です。
 甲1には,アレルギー性結膜炎を抑制するためのKW−4679(化合物Aのシス異性体の塩酸塩)を含有する点眼剤が記載され,また,甲1には,モルモットに抗原誘発及びヒスタミン誘発したアレルギー性結膜炎に対する各種抗アレルギー薬の影響を検討した結果,KW−4679の点眼は,10及び100ng/μlの濃度で,抗原誘発したアレルギー性結膜炎症に有意な抑制作用を示したこと,及び抗原誘発結膜炎よりもヒスタミン誘発結膜炎に対してより強力な抑制効果を示したことが記載されていることは, そしレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において,ヒトのアレルギー性結膜炎に類似するモデルとしてラット,モルモットの動物結膜炎モデルが作製され,点眼効果等の薬剤の効果判定に用いられていたこと,本件特許の優先日当時販売されていたヒトにおける抗アレルギー点眼剤の添付文書(「薬効・薬理」欄)には,各有効成分がラット,モルモットの動物結膜炎モデルにおいて結膜炎抑制作用を示したことや,ラットの腹腔肥満細胞等からのヒスタミン等の化学伝達物質の遊離抑制作用を示したことが記載されていたことからすると,甲1に接した当業者は,甲1には,KW−4679が「ヒト」の結膜肥満細胞に対してどのように作用するかについての記載はないものの,甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW−4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みる動機付けがあるものと認められる。 そして,本件特許の優先日当時,ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において,当該薬剤における肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどの各種の化学伝達物質(ケミカルメディエーター)に対する拮抗作用とそれらの化学伝達物質の肥満細胞からの遊離抑制作用の二つの作用を確認することが一般的に行われていたことは,甲1記載のKW−4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みるに際し,KW−4679が上記二つの作用を有するかどうかの確認を当然に検討するものといえる。 加えて、前記(2)イ認定のとおり, 甲4には,化合物20(「化合物A」に相当)を含む一般式で表される化合物(I)及びその薬理上許容される塩のPCA抑制作用について,「PCA抑制作用は皮膚肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーターの遊離の抑制作用に基づくものと考えられ」るとの記載がある。この記載は,ヒスタミン遊離抑制作用を確認した実験に基づく記載ではないものの,化合物20(「化合物A」に相当)を含む一般式で表\される化合物(I)の薬理作用の一つとして肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーター(化学伝達物質)の遊離抑制作用があることの仮説を述べるものであり,その仮説を検証するために,化合物Aについて肥満細胞からのヒスタミンなどの遊離抑制作用があるかどうかを確認する動機付けとなるものといえる。 そうすると,甲1及び甲4に接した当業者においては,甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW−4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みるに当たり,KW−4679が,ヒト結膜の肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどに対する拮抗作用を有するかどうかを確認するとともに,ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を有するかどうかを確認する動機付けがあるものと認められる。

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平成25(行ケ)10089  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年7月16日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、動機付けありとした審決を取り消して、進歩性ありと判断しました。
 審決は,引用例3の記載を踏まえれば,引用発明のピーエヌツイン−2号の2室開通後のビタミンB1の安定性を改善する動機があると判断した。 確かに引用例3には,前記ウのとおり,2室開通後48時間経過した場合には,ビタミンB1の残存率が低下することが示されているが,それとともに,6時間経過後であれば安定性に問題はなく,24時間経過後であっても8割程度以上が残存していることも示されている。他方,ピーエヌツイン−2号は2室合計1100ミリリットル入りであって,通常これを用いた点滴注入は,直前に第1室と第2室が開通され,その後,8〜12時間程度で終了するものと認められる(甲2,12,35)。そうすると,引用例3の記載を踏まえても,引用発明の2室開通後,点滴終了後までのビタミンB1の安定性が不十分であると当業者が認識することはない。\nしたがって,引用例3の記載を踏まえれば,引用発明の2室開通混合後のビタミンB1の安定性を改善する動機があるとの審決の判断には,誤りがある。そして,2室開通混合後のビタミンB1の安定性確保以外に引用発明に引用例2に記載された発明を適用する動機を見出すことはできないから,引用例2の開示内容について検討するまでもなく,審決の相違点2に関する判断には誤りがある。

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平成25(行ケ)10229 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年05月12日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、動機付けなしとして取り消されました。
 ところで,甲2発明において,「ウェール数を多めに編成する」のは,あくまでも甲1の「まち部20」と同じ効果をもたらすためであるから,当業者が,靴下の内側又は外側に対し,甲2発明の構成を適用しようとするのは,甲1発明の「まち部20」が形成されるのと同じ側,すなわち踵部の内側である。したがって,甲2の「ウェール数を多めに編成する」構\成を甲1発明に適用したとしても,それは,減らし目及び増やし目工程を二工程ずつ行う側とウェール数を多めに編成する側とが踵部において同じ側になることが明らかであり,両方の側が互いに反対となる本件発明の構成,「踵部の内側すなわち着用者の第一趾側は減らし目,増やし目,減らし目ついで増やし目の順に編成・・・すると共に外側方向にウェール数を多めに編成する」には至らないから,相違点2を解消できない。
イ 仮に,「まち部20」が形成される側と反対側,例えば,踵部の内側に「まち部20」を形成しつつ,踵部の外側の「ウェール数を多めに編成」した場合には,相違点2そのものは解消されることになる。しかしながら,かかる構成を採用した場合,踵部の内側に「まち部20」による余裕ができる一方で,踵部の外側に「ウェール数を多めに編成」することによる余裕ができてしまい,踵部の両側に余裕ができることになるため,踵部の内側と外側とが対称形に近づいてしまい,踵部が左右非対称形に形成された靴下を提供するという甲1発明の目的や課題に反することとなってしまう。したがって,「ウェール数を多めに編成すること」を甲1発明の「まち部20」が形成される側とは反対側に適用することには,阻害事由があるということになる。\n

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平成25(行ケ)10207 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年04月17日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、動機付け無しとして、拒絶審決が取り消されました。出願人は、三菱東京UFJ銀行です。
 相違点2は,本願発明は,「インターネットを介して利用者の情報閲覧手段よりリンク先の指定に関する情報を受信する手段」を有するのに対し,引用発明は,そのような手段を有するとはされていない点である。本件審決は,上記相違点2について,引用発明の具体的動作として,「アクセス可能なサーバー/アプリケーションのID/パスワードの束」を受け取る具体例が示されているが,ユーザーがどの「サーバー/アプリケーション」にアクセスしたいかを指定して,その指定された「サーバー/アプリケーション」の「ID/パスワード」を受け取るようにすることは,当業者が適宜になし得ることであり,その際に,「Webのアプリケーション」に対して「SSO環境を構\\築できる」ような製品である場合に,「インターネットを介して」,どの「サーバー/アプリケーション」にアクセスしたいかを指定する情報を「SSOサーバー」に送るようにすることも,当業者が適宜になし得ることにすぎないから,引用発明を,「インターネットを介して利用者の情報閲覧手段よりリンク先の指定に関する情報を受信する手段」を有するようなものとすることは,当業者が適宜になし得ることである旨判断した。 ア 前記1のとおり,本願発明における認証代行処理手段は,利用者の選択により,利用者の認証情報が登録されているリンク先が指定された場合に,利用者に代わって当該リンク先の認証処理を代行する機能を有するものである。すなわち,本願発明における認証代行処理手段は,利用者によるリンク先の指定情報及びその利用者情報を受け取って,リンク先情報登録手段から該当するリンク先情報(URL情報など)を,また認証情報格納手段から利用者のそのリンク先における認証情報(リンク先における利用者のユーザーID及びパスワードなど)を,それぞれ読み出すと共に,ひな形スクリプト/モジュール格納手段から,該当するリンク先のひな形スクリプトを読み出して,リンク先用の認証処理スクリプト(対象とするリンク先に自動的に接続処理を開始する処理をHTMLとJavaScriptにて記載したもの)を作成し,上記リンク先情報及び認証処理スクリプトを,利用者のブラウザに転送するので,利用者側のブラウザは,送られてきたリンク先情報で,目的とするリンク先にリンクすると共に,上記認証処理スクリプトに基づいて,ブラウザが,リンク先で実行される認証処理で表\\示される画面構成に対し,自動的に上記認証情報を埋め込んでいくため,利用者は,何ら選択したリンク先への操作を行わなくても,認証処理が自動的に実行されることになる。その結果,本願発明は,利用者が,ポータルサイトなどにおいてリンク先の選択を行うだけで,該リンク先に対して,何ら特別な操作を行わなくても,認証処理が自動的に実行されるため,それが終了した段階で,当該リンク先へのログインが可能\\となるという効果を奏し得るものである。そうすると,本願発明は,利用者の選択により,利用者の認証情報が登録されているリンク先が指定され,「利用者の情報閲覧手段よりリンク先の指定に関する情報を受信する手段」(相違点2に係る構成)によって,上記利用者によるリンク先の指定情報を受け取った認証代行処理手段が,利用者に代わって当該リンク先の認証処理を代行するものと認められる。
イ これに対し,引用発明は,前記3のとおり,SSOサーバーにログインすると,アクセス可能なサーバー/アプリケーションのID/パスワードの束と,各サーバー/アプリケーションの種類ごとに用意され,ログイン操作を自動化するスクリプトが,SSOサーバーからクライアント・モジュールに配布され,クライアント・モジュールは,ログイン操作を自動化するスクリプトを実行するものである。ここで,アクセス可能\\なサーバー/アプリケーションのID/パスワードの束とは,SSOサーバーにログインしたユーザーが,アクセスすることができる全てのサーバー/アプリケーションのID/パスワードの組合せであると理解することができる。また,前記3アのとおり,引用例の記載及び本技術分野における技術常識に照らせば,引用発明のSSOサーバーは,各サーバー/アプリケーションのリンク先情報を登録しておくリンク先情報登録手段を有し,クライアントモジュールは,SSOサーバーから,各サーバー/アプリケーションのリンク先情報を受け取るものである。そして,引用発明では,上記の構成を採用することによって,ユーザーは,一度のログイン操作で,アクセス可能\\な全てのアプリケーションを利用できるとの機能(シングル・サインオン(SSO)機能\\)を有すると認められる。そうすると,引用発明においては,一度SSOサーバーにログインすれば,クライアント・モジュールは,SSOサーバーにログインしたユーザーがアクセス可能な全てのサーバー/アプリケーションのID/パスワードの組合せ,各サーバー/アプリケーションの種類ごとのログイン操作を自動化するスクリプト,及び各サーバー/アプリケーションのリンク先情報を受け取るから,それ以降,SSOサーバーとの通信を行う必要がなく,ログイン操作を自動化するスクリプトを実行することで,シングル・サインオン機能\\を果たすとの作用効果を奏すると認められる。しかるに,このような構成を採用する引用発明について,SSOサーバーが「利用者の情報閲覧手段よりリンク先の指定に関する情報を受信する手段」を有するものとした上で,ユーザーがどの「サーバー/アプリケーション」にアクセスしたいかを指定して,その指定された「サーバー/アプリケーション」の「ID/パスワード」を受け取るように構\\成を変更するとすれば,利用者が情報閲覧手段よりリンク先の指定を行う都度,クライアント・モジュールは,SSOサーバーとの通信を行い,その指定された「サーバー/アプリケーション」の「ID/パスワード」を受け取り,上記指定された「サーバー/アプリケーション」へのログイン操作を自動化するスクリプトを実行することにより,シングル・サインオン機能を果たすことになる。しかし,それでは,一度SSOサーバーにログインすれば,クライアント・モジュールは,それ以降,SSOサーバーとの通信を行う必要がなく,ログイン操作を自動化するスクリプトを実行できるとの引用発明が有する上記の作用効果が失われることとなる。したがって,引用発明において,相違点2に係る本願発明の構\\成に変更する必要性があるものとは認められない。このように,引用発明について,SSOサーバーが「利用者の情報閲覧手段よりリンク先の指定に関する情報を受信する手段」を有するもの(相違点2に係る構成とすること)とした上で,ユーザーがどの「サーバー/アプリケーション」にアクセスしたいかを指定して,その指定された「サーバー/アプリケーション」の「ID/パスワード」を受け取るように構\\成を変更することについては,引用発明が本来奏する上記作用効果が失われるものであって,その必要性が認められないから,引用発明における上記構成上の変更は,解決課題の存在等の動機付けなしには容易に想到することができない。しかして,引用例には,引用発明について上記構\\成上の変更をすることの動機付けとなるような事項が記載又は示唆されていると認めることはできない。
ウ 前記アのとおり,本願発明は,利用者の選択により,利用者の認証情報が登録されているリンク先が指定され,「利用者の情報閲覧手段よりリンク先の指定に関する情報を受信する手段」(相違点2に係る構成)によって,上記利用者によるリンク先の指定情報を受け取った認証代行処理手段が,利用者に代わって当該リンク先の認証処理を代行するものであるから,本願発明と引用発明とは,相違点2に係る構\\成により,作用効果上,格別に相違するものであり,引用発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは,当業者が適宜なし得る程度のものとは認められない。\n

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平成25(行ケ)10176 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年03月26日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。裁判所は「複数の課題が示されている場合に,その優劣関係や関連性などを考慮した上で,ある課題の解決を優先して別の構成を採用することが当業者が適宜試みるものである」として、動機付けあり、および阻害要因無しと判断しました。

ア 動機付けについて
原告は,引用例1には,「構造も極めて簡単かつ強固」にするという課題があり,「接着剤や締結部材等を要することなく弾性的に密嵌合した状態で確実かつ強固に係止される」という作用効果を奏するためには,環状後端面3Dが内側環状面7Cに係合されることが必要であるから,引用発明は,環状後端面3Dが形成されること,すなわち,本願発明でいえば,第1の直径が第2の直径よりも小さい構\成でなければならないし,引用例1には,直径の大きさを上記構成と逆にする設計思想は開示も示唆もない,また,引用例2や引用例3の構\成も図面から特定されているだけで,具体的な設計思想はないから,引用発明と,引用例2又は引用例3の記載事項を組み合わせる動機付けはないと主張する。しかしながら,引用例1に「組立作業の大部分を占める電極部材の取り付けが極めて容易であるばかりでなく,構造も極めて簡単かつ強固で・・・」(段落【0004】)と記載されているように,環状後端面3Dを備えた電極素材は,強固な固着の作用をもたらすと同時に電極部材の取付けの容易性を導き出すための構\成でもある。したがって,引用発明は,部品を減らすこと,固着を強固にすることという課題のみならず,電極部材の取付けを容易なものとするという課題をも解決したものといえ,引用発明において電極部材の取付けやすさという課題が示唆されている以上,同じ課題を解決するための手段や技術と組み合わせることについて示唆があるといえる。そして,当業者は,引用発明に複数の課題が示されているような場合には,その優劣関係や関連性の程度,一方を優先した場合の他方への影響の度合いや得失などを考慮した上で,特定の課題の解決をいったん留保して異なる課題の解法の観点から,発明が採用している構成の一部を変更することも適宜試みるものというべきである。これを本件に当てはめると,筒状体の両端部に嵌める電極部材の形状として,第1の直径と第2の直径の大小関係をどのようにするかという点についても,固着を強固にするという課題を留保して電極部材の取付けを容易にするという課題の解決のために,当業者が適宜決定できる設計事項を採用して,構\成の変更を行うことについての示唆があるというべきである。そして,引用例2又は引用例3における電極部材の構成は,いずれも,第1の直径が第2の直径よりも大きい構\成であるところ,かかる構成は,筒状の物体の端の孔を部材でふさぐ場合において,センサという技術分野に限られずに用いられる,一般的なありふれた形状であって,いわば周知技術といえ(乙3,4参照),しかも,その構\造は筒状体に取り付けやすい形状であることは明らかであるから,これを取付けやすさを課題の1つとした引用発明に組み合わせることには動機付けがある。したがって,「筒状体B」に嵌まる部分の第2の直径を変更することなく,「筒状体B」に嵌まらない部分の第1の直径を「筒状体B」に嵌まる部分の第2の直径よりも大きく構成することで,本願発明と引用発明の相違点に係る構\成(第2の直径を第1の直径よりも小さくする構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得るものである。\n
イ 阻害要因について
原告は,引用例1において,仮に,第1の直径を第2の直径よりも大きく設定しようとすると,環状突起7及び9を除去して筒状体Bの内径を増大させなければならないから係止できず(仮定A),仮に,電極部材A1とA2の向きを逆にして対向させても頸部1同士が突き当たるし,距離をとっても取り外すことは困難であり(仮定B),仮に,第1の直径を第2の直径よりも大きく設定する場合,センサ自体が大型化し,小型化という引用発明の目的に反する(仮定C)から,引用発明に,引用例2又は引用例3の構成を採用すると,引用発明の本来の目的を放棄することになるから,組合せに阻害要因があると主張する。しかしながら,そもそも審決は仮定A,Bについての判断を示していない。また,引用発明は,従来技術(乙1,2)が有していた必要な部品の点数が多く,各種の組立工程が多いという課題に鑑みて,少ない部品で取り付けやすく固着の強固なセンサを目指して発明されたものであって,複数の課題が示されている場合に,その優劣関係や関連性などを考慮した上で,ある課題の解決を優先して別の構\成を採用することが当業者が適宜試みるものであることは,上記アで説示したとおりであり,このような試みに阻害要因があるとはいえない。したがって,電極部材を筒状体に係止する必要性がない場合には,係止のための工夫を取り除いて,第1の直径と第2の直径の大小関係を逆転させることや内部の環状突起を除外すること,電極部材同士がぶつかりあわないような筒状体の長さを設けたり,電極部材の頸部の長さを短縮したりすること,電極部材の取外しが容易な部材を用いた形状にすることは,当業者が適宜決定できる設計事項であって,上記仮定A,Bは阻害要因にはならないというべきである。さらに,第1の直径を第2の直径よりも大きく設定する場合には,第1,2のいずれの直径も従前より小さくしさえすれば,従来技術と比較してセンサ自体が大型化することもない。

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平成25(行ケ)10214 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年03月25日 知的財産高等裁判所

 相違点の認定について誤っているとして、進歩性無しとした審決が取り消されました。
 審決は,「ソレノイド駆動ポンプを含む電気機器や電気システムにおいて,設計上その使用に適した電圧が設定されていることは電気機器・システムにおける技術常識である。」,「交流電源を用いる電気機器において,電源電圧が異なっても同じ機器を使用できるように対処しようとする課題は周知の課題…であるから,パソ\\コン・家電用品に限らず,ポンプ等交流電源を用いるものならば当然要求される課題である。また,刊行物1発明の課題も入力電圧の異なる複数の電源に対応することである。」,「交流電源を用いる機器であるソレノイド駆動ポンプは,…従来から周知の技術である。」,「刊行物2には,ソ\\レノイドを用いるポンプ…の入力電圧が異なっても…,オン・オフのデューティを制御…する信号…を用いて所望の直流電圧を得ることが記載されている」,「自動車用の燃料ポンプとしてポンプ動作体…を往復動作するためにソレノイドが用いられるものは,…常套手段である」とし,「入力電圧の異なる複数の電源に対応することを課題とする刊行物1発明を,刊行物2記載の事項,上記技術常識,上記周知の課題,上記周知の技術及び上記常套手段の下,適用対象を本件訂正発明のソ\\レノイド駆動ポンプとし,本件訂正発明の上記相違点1に係る構成とすることは当業者であれば容易に想到し得ることと認められる。」(審決書17〜19頁)と判断した。しかしながら,審決の上記判断は,次に述べるとおり誤りである。ア 本件訂正発明は,前記(1)のとおり,ソレノイド駆動ポンプの制御回路に関する発明であり,ポンプの技術分野に属するものであって,その課題は,ユーザーが電源電圧の選択を必要とせず,かつ,種類が低減され,したがって,管理が容易なソ\\レノイド駆動ポンプの制御回路を提供することである。これに対し,刊行物1発明は,前記(2)のとおり,パソコン等の電子機器に内蔵されたDC/DCコンバータの制御回路に関する発明であり,電子機器の技術分野に属する発明であって,その課題は,利用者の経済的負担を軽減でき,設置面積が少なくて済み,かつ様々な電源に対応可能\\な電源供給手段を備えた電子機器を提供することにある。このように,刊行物1発明は,電子機器の技術分野に属するものであるのに対し,本件訂正発明はポンプの技術分野に属するものであるから,両者の技術分野は明らかに相違する。しかるに,審決は,上記のとおり,交流電源を用いる電気機器において,電源電圧が異なっていても同じ機器を使用できるようにするとの課題は周知の課題であることを理由として,ソレノイド駆動ポンプにも上記課題があるとする。しかし,これは技術分野を特定しない交流電源を用いる電気機器における課題であって,ポンプの技術分野における課題ではないし,ポンプの技術分野において当然に要求される課題であることを示す証拠もない。そもそも,本件訂正発明が属するポンプの技術分野における当業者が,ポンプとは明らかに技術分野が異なる電子機器に関する刊行物1に接するかどうかも疑問であり,また,仮に,ポンプの技術分野における当業者が刊行物1に接したとしても,刊行物1発明は,携帯型パーソ\\ナルコンピュータ等の電子機器に関するものであり,刊行物1には,ポンプについての記載はなく,刊行物1発明が技術分野の異なるポンプに対しても適用可能であることについてはその記載もなければ示唆もない。したがって,携帯型パーソ\\ナルコンピュータ等の電子機器に関する刊行物1発明をポンプに適用しようとする動機付けもないといわざるを得ない。以上によれば,刊行物1発明を本件訂正発明の相違点1に係る構成とすることが容易想到であるとした審決の前記判断は誤りである。イ 被告は,刊行物1発明も本件訂正発明も共に電源電圧の変換回路を開示しており,技術分野は同一であると主張し,また,刊行物1発明において用いられている「DC/DCコンバータ」は周知の技術であり,電気機器,電子機器全般に適用可能な汎用技術であるから,その適用範囲内において適用対象が異なっても,技術分野が異なることになるとはいえないとも主張する。しかし,前記のとおり,本件訂正発明はポンプの技術分野に属する発明であるのに対し,刊行物1発明は,電子機器の技術分野に属する発明であって,両者の属する技術分野は,明らかに異なる。そして,刊行物1発明が本件訂正発明と同様に電源電圧の変換回路を開示しているとしても,また,刊行物1発明において用いられている「DC/DCコンバータ」が周知の技術であり,電気機器,電子機器全般に適用可能\\な汎用技術であるとしても,刊行物1発明をポンプに適用しようとする動機付けがないことは前記のとおりである。

◆判決本文

◆関連事件です。平成25(行ケ)10193

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平成25(行ケ)10213 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年03月26日 知的財産高等裁判所 

 進歩性無しとした審決が、動機付けなしとして取り消されました。
 そこで,相違点2の容易想到性について検討するに,引用例1(甲1)の実施例8には,濃度が1重量%となる塩化カルシウム及び濃度が1%となる次亜塩素酸ナトリウムを含む水溶液50リットルを回転ドラムの外胴内に供給し,室温において撹拌することが記載されているが(段落【0074】),引用例1には,この薬剤水溶液50リットルの量並びに同薬剤水溶液に含まれる塩化カルシウム及び次亜塩素酸ナトリウムの濃度が,撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分の量を考慮して定められたものであることについての記載や示唆はない。次に,引用例1の記載事項を全体としてみても,「紙おむつを膨潤抑制剤水溶液に浸漬すると,…尿などの水分を吸収して膨潤していた高吸水性ポリマーは収縮して水分を染み出して小さな粒状あるいは粉末状になり」(段落【0050】)との記載はあるものの,使用済み紙オムツに含有する尿などの水分の具体的な量や,膨潤抑制剤水溶液に浸漬することにより吸水性ポリマーから染み出す水分の具体的な量について言及した記載はないし,また,撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分の量を利用することにより,撹拌に用いる薬剤水溶液の量あるいは薬剤水溶液に含有する水の量を必要最低限の量とすることができることについての記載や示唆もない。そうすると,引用例1に接した当業者において,引用例1発明における回転ドラム内に所定量の薬剤水溶液をあらかじめ供給し,その所定量の薬剤水溶液の中で紙オムツの撹拌を行う構成に代えて,薬剤(膨潤抑制剤及び消毒剤)の供給と水の給水(供給)とを別々に行うこととした上で,回転ドラム内で「撹拌可能\な最低限の水を給水しながら」,「使用済み紙オムツに吸収されていた水分を用いて」撹拌を行う構成(相違点2に係る本願発明の構\成)を採用することについての動機付けがあるものとは認められない。したがって,引用例1に接した当業者が,引用例1発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは適宜なし得るものではなく,上記構\成を容易に想到することができたものとは認められない。
ウ 被告は,これに対し,1)環境やコストなどに配慮して,下水処理すべき処理液の量を減らすことは,当業者にとっては自明の課題であり,特別の動機付けは必要ないから,引用例1発明において,使用される水の量を減らし,薬剤水溶液の所定量を「処理槽内で撹拌可能な最低限」の量と特定することは,当業者が容易になし得ることである,2)引用例1発明は,使用済み紙オムツを処理するものであって,使用済み紙オムツに尿,すなわち水分が含まれていることは明らかであり,このような使用済み紙オムツについての薬剤と水が存在する状態での撹拌は,「使用済み紙オムツに吸収されていた水分を用い」た撹拌であるといえるから,「使用済み紙オムツに吸収されていた水分を用い」る点は,本願発明と引用例1発明との実質的な相違点ではない,3)引用例1発明において供給される「薬剤水溶液」を構成している薬剤と水の添加順序や添加方法を変更してみることは,当業者が必要に応じて適宜検討する事項であり,引用例1発明において,添加する薬剤を「薬剤水溶液」とした状態で添加することに代えて,薬剤と水を別々に添加することとし,その際に,予\め薬剤を添加した後に,水を徐々に供給する方法を採用し,「給水しながら」の構成とすることは当業者が適宜なし得ることであるとして,引用例1発明において,相違点2に係る本願発明の構\成を採用することは,当業者が容易に想到することができた旨主張する。しかしながら,上記1)の点についてみると,相違点2に係る本願発明の構成である「処理槽内で撹拌可能\な最低限の水を給水しながら」,「該使用済み紙オムツに吸収されていた水分を用いて」撹拌を行う構成の技術的意義は,前記ア認定のとおり,処理槽内に使用済み紙オムツと石灰及び次亜塩素を投入した処理槽内に水を給水しながら,撹拌している間に,石灰によって使用済み紙オムツの特に高分子ポリマーが分解されて吸収している水分が処理槽内に混ざり,この水分と処理槽内に給水した水を共に用いて使用済み紙オムツを撹拌し,分解された使用済み紙オムツから放出される細菌等は次亜塩素によって消毒されるので,処理槽内に供給する水の量を必要最低限の量にすることができることにあるといえる。このような撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分の量を利用することにより,処理槽内に供給する水の量を必要最低限の量とする技術思想は,下水処理すべき処理液の量を減らすという課題から直ちに導出できるものではない。また,引用例1発明において,薬剤水溶液の所定量を「処理槽内で撹拌可能\な最低限」の量と特定することを想到し得るとしても,そのことは,上記技術思想に想到し得ることを意味するものではない。次に,上記2)の点についてみると,引用例1発明における所定量の薬剤水溶液中での使用済み紙オムツの撹拌においても,結果的に,撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分も撹拌に用いられているものとはいえるが,前記イ認定のとおり,引用例1発明における薬剤水溶液の量及び同薬剤水溶液に含まれる薬剤の濃度は,撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分の量を考慮して定められたものとは認められないから,引用例1発明は,撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分の量をも利用するいう上記技術思想を具現化しているものとはいえない。さらに,上記3)の点についてみると,前記イ認定のとおり,引用例1には,使用済み紙オムツに含有する尿などの水分の具体的な量や,膨潤抑制剤水溶液に浸漬することにより吸水性ポリマーから染み出す水分の具体的な量について言及した記載はないし,また,撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分の量を利用することにより,撹拌に用いる薬剤水溶液の量あるいは薬剤水溶液に含有する水の量を必要最低限の量とすることができることについての記載や示唆もない。そうすると,引用例1に接した当業者において,引用例1発明における薬剤水溶液を薬剤(膨潤抑制剤及び消毒剤)と水に分離し,それぞれの供給を別々に行うこととした上で,回転ドラム内で「撹拌可能な最低限の水を給水しながら」,「使用済み紙オムツに吸収されていた水分を用いて」撹拌を行う構\成を採用する動機付けがあるものとは認められない。したがって,引用例1発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易に想到することができたとの被告の主張は,理由がない。\n

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平成25(行ケ)10016 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年12月10日 知的財産高等裁判所 

 パチンコ機について進歩性なしとした審決が、動機付け無しとして取り消されました。
 (ア) 前記アの引用例2の記載(段落【0004】【0018】【0023】【0037】【0041】【0052】【0055】)によれば,引用発明2は,第一種の遊技と第二種の遊技とが行われる遊技機であり,これらの遊技が行われる順番について遊技者が把握できるようにする発明であるということができる。
(イ) 引用発明2において,遊技が行われる順番について遊技者が把握できるようにするためだけであれば,第一種の遊技と第二種の遊技の行われる順番を表示すれば足りるが,引用例2には,保留に関する残りの上限数である「予\」を併せて表示することも記載されている(段落【0041】【0049】〜【0051】)。当該記載によれば,引用発明2は,第一種の遊技の保留の上限数が4である場合,第一種の遊技,第二種の遊技,第一種の遊技,第一種の遊技の順に保留が行われているときには,「1→2→1→1→予\」と保留の状態が表示され,第二種の遊技,第一種の遊技,第一種の遊技,第一種の遊技,第一種の遊技の順に保留が行われているときには,「2→1→1→1→1」(「予\」の表示は第一種の遊技が上限に達しているのでない。)と表\示され,第一種の遊技,第一種の遊技,第一種の遊技,第一種の遊技の順に保留が行われているときには,「1→1→1→1」と表示されるものである。しかし,引用発明2は,第一種の遊技と第二種の遊技の2種類の変動表\示ゲームの確定タイミングに時間差を設け,遊技者が同時に行われる複数の変動表示ゲームの結果を気にすることなく,わかりやすいゲーム進行が可能\な遊技機を提供することを目的としており,発明の効果としては,第一の特別遊技に関連した識別情報の変動と,第二の特別遊技に関連した可変大入賞口の開閉が同時に達成することがないので,双方の遊技を存分に楽しむことが可能になること,第一の入賞口への入賞に基づく保留と第二の入賞口の入賞に基づく保留が,保留記憶手段に記憶されたことが一目瞭然なので,遊技者は保留状態を即座に把握できるとともに,これを受け,保留状況に応じた最適な遊技を行うことが可能\になることが挙げられている。また,第二種の遊技の留保について保留可能な上限に達していない場合に,第一種の遊技と異なって,「予\」といった表示を行わない理由については,何らこれを示唆する記載はないが,引用例2に記載された実施例については,第一種の遊技の留保数は4個であるのに対し,第二種の遊技の留保数は1個であることからすると,引用発明2は,これを前提として,第一種の遊技については,保留可能\な上限を「予」という形で示す必要があるが,第二種の遊技については,留保数は1 個しかないので,留保状態だけを表示することにすれば,遊技者は第二種の遊技の留保状態について確実に把握できることを前提としたものであり,第一種の遊技と異なって,あえて第二種の遊技について留保の上限を表\示しないことにしたものではないと理解することができる。そうすると,本件審決が認定した技術的事項Aについては,「第一留保手段による留保上限情報」について,「前記第1所定数に対応する数の第1空表示態様を一列に並べて表\示する第1空表示制御手段」が記載されているということはできるが,引用例2の記載から,「第1留保手段による留保上限情報と第2留保手段による留保上限情報とのうち前記第1留保手段による留保上限情報のみを表\示すべく」という技術的事項が開示されていると認めることはできない。また,技術的事項Bについては,「第2留保表示態様を,前記一列に並べて表\示された前記第1空表示態様のもっとも端の位置に表\示する」ことが記載されているということができるが,「前記第2留保手段による留保上限情報を表示することなく,」という技術的事項が開示されていると認めることはできない。
(ウ) さらに,引用発明1は,2種類の第一種の遊技について,確定タイミングに時間差を設け,遊技者が同時に行われる複数の変動表示ゲームの結果を気にすることなく,わかりやすいゲーム進行が可能\な遊技機を提供することを目的としており,変動表示装置は,2種類の変動表\示ゲームについて,いずれも,留保上限情報と現在の留保状態の有無と数を明示するものであり,本願発明のように,第2留保手段による留保上限情報をあえて表示しないことにより,遊技者から見れば留保上限が増えたように感じることができ,興趣が高められるといった目的,手段,効果を示唆する記載は見当たらない。そして,引用発明2についても,その目的,効果は,引用発明1と同様であり,変動表\示装置は,実施例についていえば,第一種の遊技と第二種の遊技の留保上限数を前提として,遊技者から見て留保状態の有無及び数と留保上限数との関係が明確に分かるように表示しており,本願発明のように,第2留保手段による留保上限情報をあえて表\示しないことにより,遊技者から見れば留保上限が増えたように感じることができ,興趣が高められるといった目的,手段,効果を示唆する記載は見当たらない。そうすると,引用発明1及び引用発明2は,実質的に「わかりやすいゲーム進行が可能な遊技機を提供する」という共通の目的を有しているものの,引用発明1に,本願発明のような第2留保手段による留保上限情報をあえて表\示しないことにより,遊技者から見れば留保上限が増えたように感じることができ,興趣が高められるといった目的を達成し,またこのような効果を得るために,相違点1ないし3について,引用発明2を適用する動機付けはないといわざるを得ない。
(エ) 以上によれば,引用例2には,相違点1ないし3に関する全ての技術的事項の開示があるとはいえず,引用発明1に引用例2に開示された技術的事項を適用する動機付けも認められないから,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたと認めることはできない。

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平成25(行ケ)10066 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月28日 知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。
 以上の刊行物1及び2の開示事項を前提とすると,刊行物1及び2に接した当業者は,1)刊行物1記載の多層構造重合体及び刊行物2記載の多層構\造のグラフト共重合体は,いずれも添加対象樹脂の耐衝撃性改良剤として耐衝撃性及び耐熱性の両者に優れた効果を奏し,刊行物1記載の多層構造重合体を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物を添加して得られる熱可塑性樹脂組成物と刊行物2記載の多層構\造のグラフト共重合体を添加して得られる熱可塑性樹脂組成物は,いずれも自動車用部品,OA機器等の用途に有用であること,2)刊行物1の記載からは,多層構造重合体のコア層を構\成するゴム層が肥大化しているかどうかは不明であるのに対し,刊行物2には,肥大化したブタジエン系ゴム重合体ラテックスを含有する多層構造のグラフト共重合体は,肥大化していないブタジエン系ゴム重合体ラテックスを含有する多層構\造のグラフト共重合体よりも耐衝撃性に優れており,さらに,肥大化剤として酸基含有共重合体を用いて肥大化した場合には,耐衝撃性に優れるとともに,熱安定性を低下させることなく,耐熱性にも優れていることが示されていることを理解するものといえるから,刊行物1記載の多層構造重合体を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物において,組成物の耐熱性を維持したまま,より耐衝撃性の向上した組成物を得ることを目的として,刊行物1記載の多層構\造重合体に代えて刊行物2記載の肥大化したブタジエン系ゴム重合体ラテックスを含有する多層構造のグラフト共重合体を置換することを試みる動機付けがあるものと認められる。したがって,刊行物1及び2に接した当業者であれば,刊行物1及び2に基づいて,相違点に係る本願発明の構\成を容易に想到することができたものと認められる。

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平成24(行ケ)10402 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年10月07日 知的財産高等裁判所

 単なる設計事項であるとして、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
 上記(ア)〜(ウ)認定の各公報等の記載事項に照らすと,水などの液中で切断加工を行う装置において,水槽などの加工槽内の液面(水位)を調節する装置を切断加工領域を除く領域(外側)に備えることは,本件出願日以前において周知であったものと認められる。
ウ 相違点3に係る容易想到性について
後記3(1)認定のとおり,甲7公報記載の水中切断装置において用いられているプラズマ・アーク・トーチ・システムに代えて,ノズルから噴射されるアブレシブによりワークの切断加工を行う水中切断用アブレシブ切断装置とすることは当業者が容易に想到し得ることである。そして,上記イ認定のとおり,水などの液中で切断加工を行う装置において,水槽などの加工槽内の液面(水位)を調節する装置(本件発明における「液位調整タンク」に該当する。)を,切断加工領域を除く領域(外側)に備えることは,本件出願日以前において周知であったこと,及び,アブレシブ切断装置においては,ノズルから噴射された研磨材を含む高圧水は水中でも減衰が少なく,ワークに衝突し加工を行った後の下流領域においても,かなりの衝撃加工エネルギーを保有しているものであることは本件出願日において周知であったこと(甲28,29,33)に照らすと,甲第7号証記載の発明において,切断方法としてアブレシブ切断を採用した際に,液位調整タンクなど損傷してはいけないものを,アブレシブジェットが直撃してしまう場所を避けて切断加工領域を除く領域(外側)に配置することは,当業者が容易に考えることであり,そのように考える動機付けがあるといえる。そして,甲第7号証記載の発明に関し,上記の構造とすることが技術的に困難であるとは認められない(甲7,19,30,32)ことからすれば,液位調整タンクを切断加工領域の下側から切断領域を除く領域(外側)に配置することは設計的な変更事項であるといえる。以上によれば,甲第7号証記載の発明において,切断方法としてアブレシブ切断を採用した際に,上記周知技術を適用して,相違点3に係る発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たものであると認められる。\n

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平成24(行ケ)10305 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年07月31日 知的財産高等裁判所 

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。
(1)ア 本件発明1と甲1発明とは,いずれも,被覆材を表面に設けた被加工物を,アシストガスを用いたレーザ光により加工するレーザ加工方法に関するものであり,両発明の技術分野は共通する(本件明細書の【0001】,甲1公報の【0001】)。また,本件発明1と甲1発明とは,レーザ加工中に,被加工物と被覆材との間にアシストガスが侵入して被覆材が剥離するのを防止するために,第1加工工程として,最終加工とは異なる加工条件により被覆材を処理する点でも共通する(本件明細書の【0002】〜【0008】,【0014】,【0050】,甲1公報の【0002】〜【0006】,【0008】,【0018】)。しかし,本件発明1は,被覆材をあらかじめ除去するものであるのに対し,甲1発明は,保護シート(被覆材)が剥離するのを防止するために,ワーク(被加工物)にあらかじめ保護シートを焼付けるものであり,この点において,両発明は相違する。甲1公報には,保護シートをあらかじめ除去することについては記載も示唆もなく,甲1発明の保護シートが剥離するのを防止するために,保護シートをあらかじめ除去することを動機付けるものはない。かえって,甲1公報には,保護シートがワーク上に貼\付されたままであることが望ましい(【0003】)が,保護シート付きワークにレーザビーム及びアシストガスを照射して切断加工を行うと,保護シートが剥離してしまうため,保護シートをワーク上に残すことを目的とするレーザによる切断加工は実際には行われていなかった(【0005】)ことが記載されている。このような記載に照らすと,甲1発明は,保護シートをあらかじめ除去してワークを露出させることは,望ましくないとの認識を前提とするものと解される。そうすると,甲1発明においては,保護シートをあらかじめ除去してワークを一定範囲にわたり露出させることは,保護シートが剥離するのを防止するためであるとはいえ,そもそも意図するところではないともいえる。
イ 一方,甲2公報には,表面を合成樹脂等の保護材で覆った状態の金属材に対して,レーザによる溶断加工を実施すると,保護材が金属材に溶着して表\面を汚すこと(甲2・1頁右下欄16行〜2頁左上欄8行),また,このような溶着を防止するために,低い出力のレーザ光エネルギで保護材を溶断した後,高い出力のレーザ光エネルギで金属部材を加工すること(同・特許請求の範囲)が記載されている。また,甲3公報には,ステンレスなどの金属からなる母材の表面に合成樹脂の被膜を付着させた材料を,レーザ光で切断する際に,これらを同時に切断すると,被膜が炭化した状態で母材の表\面に焼付いてしまうこと(甲3・1頁左下欄18行〜2頁左上欄2行),また,このような被膜の炭化を防止するために,弱いエネルギのレーザ光で被膜だけ切断してから,強いエネルギのレーザ光で母材を切断すること(同・特許請求の範囲)が記載されている。甲2公報及び甲3公報の上記記載によれば,被覆材を表面に設けた被加工物をレーザ光により加工する際に,被覆材が被加工物に溶着したり,被覆材が炭化して被加工物に焼付いたりするのを防止するために,低いエネルギのレーザ光で被覆材をあらかじめ除去した後,高いエネルギのレーザ光で被加工物を加工することは,周知技術であると認められる。しかし, 甲1発明は,ワークと保護シートとの間にアシストガスが流入して保護シートが剥離するのを防止するために,ワークにあらかじめ保護シートを焼付けるものであるのに対し,上記周知技術において,被覆材の除去は,被覆材が被加工物に溶着すること等を防止するために行われるものであり,被加工物と被覆材との間にアシストガスが侵入して被覆材が剥離するのを防止するために行われるものではない。そもそも,甲2公報及び甲3公報には,アシストガスについての記載はなく,アシストガスが被加工物と被覆材との間に侵入して,被覆材が剥離することについても何ら記載はない。そうすると,上記周知技術における「被覆材を除去する」ことと,甲1発明における「ワークに保護シートを焼付ける」ことは,相互に置換可能な手段であるとはいえないから,甲1発明において,ワークにあらかじめ保護シートを焼付けることに代えて,保護シートをあらかじめ除去する動機付けがあるということはできない。\n

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平成24(行ケ)10349 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年07月18日 知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。
 刊行物1発明において,連通気孔の体積率を「少なくとも50体積%」に高める動機付けがないとはいえない。刊行物1には,砥石に形成される気孔の体積率に関し,「気孔形成用物質の粒径・・・があまり小さ過ぎると砥石の自生効果が少なくなり,一方,あまり大き過ぎると砥石が脆くなってしまうので好ましくない。又,砥石中に形成される気孔の体積率(気孔率)は約5〜50%であるのが好ましく,約10〜40%であるのがより好ましい。この体積率が上記範囲外であると,上述したと同様の理由により好ましくない。」との記載があり,気孔の体積率が50%を超えると,砥石が脆くなってしまうので好ましくないことが記載されていると認められる。しかし,補正発明の数値は50体積%を含むし,刊行物1の特許請求の範囲は,気孔の体積率が50%を下回る数値に限定していないから,刊行物1に記載された発明を全体としてみれば,気孔の体積率は50%を上回らないのが好ましいというにとどまるものであり,そこに上限値を規定する趣旨はなく,50%を超える体積率が除外されているとまではいえない。そして,上記のとおり,そもそも,気孔の体積率をどの程度とするかは,砥石の用途や使用態様のほか,砥粒及び結合材の材質や割合,砥石の各種特性と耐久性のバランス等も考慮して,当業者が適宜決定し得る事項であるといってよい。そうすると,砥石の特定の用途や使用態様の下で,砥粒及び結合材として特定の材質のものを特定の割合で用いる場合等においては,気孔の体積率が50%を超えると,砥石が脆くなることがあるとしても,砥石の用途や使用態様のほか,砥粒及び結合材の材質や割合等によっては,また,砥石の各種特性と耐久性をどのようにバランスさせるかによっては,50%以上の体積率を設定し得ることは,当業者にとって明らかである。以上によれば,刊行物1発明において,連通気孔の体積率を「少なくとも50体積%」に高める動機付けを肯定することができる。

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平成24(行ケ)10271 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年06月11日 知的財産高等裁判所 

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。
 審決は,相違点1,3に係る本件発明1,6の構成は容易想到と判断したが,相違点2,4に係る本件発明1,6の構\成は容易不想到とした。原告は,この後者の審決判断を争っているので,相違点2,4に係る容易想到性についてみると,超音波モータと振動ジャイロとをカメラに同時に搭載する際に,振動検出素子の共振周波数と超音波モータが与える不要な振動の周波数とがともに超音波周波数域であるとしても,それらが重なる蓋然性が高く,重なる場合には振動ジャイロは誤出力してしまうという,それらの振動の周波数に関わる特有の課題が存在することについては,これを開示する証拠はない。そして,上記特有の課題を開示する証拠がない以上,それを解決するための手段を採用する動機付けがあるとは認められない。また,所定の帯域あるいは範囲を含め,超音波モータの共振周波数あるいは駆動周波数を,励振センサの共振周波数に関係した帯域に関連して設定することが,公知であったことを示す証拠もない。一般的に,関連する技術分野の発明や技術事項を組み合わせることは,当業者が容易に着想し得ることであるから,ともにカメラに用いられる甲10記載のような振動ジャイロや甲11記載のような超音波モータを,引用発明(甲4)のカメラに適用することを,当業者は着想し得るといえる。しかし,モータや振動を検出するセンサには様々な態様のものが存在しているのであって,超音波モータも多種多様に存在しており,甲11はその一例に過ぎず,また,圧電振動ジャイロも多種多様のものが存在しており,甲10はその一例に過ぎない。上記(3)に判示したとおり,甲10には,振動ジャイロを,超音波モータを備えたカメラに用いることの記載はなく,振動ジャイロ(振動検出素子)の共振の半値幅帯域と超音波モータの周波数制御範囲とを別の帯域に設定したことは何ら記載されておらず,また,上記(3)に判示したとおり,甲11には,励振された振動検出素子からなるセンサについては記載がなく,振動検出素子の共振の半値幅帯域と超音波モータの周波数制御範囲とを別の帯域に設定したことは記載されておらず,さらに,超音波モータがすでに備えられている引用発明に,甲11記載発明の超音波モータを適用しようとする動機があるとはいえず,超音波モータと振動ジャイロとをカメラに同時に搭載する際の特有の課題,解決手段,及びそれを採用する動機のいずれも公知とは認められないことを踏まえると,個別特定の公知技術である甲10記載発明と甲11記載発明とをともに適用することが,当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。原告が主張するように,甲10記載発明の振動ジャイロと甲11記載発明の超音波モータとをともに適用すれば,超音波モータの周波数制御範囲が振動ジャイロの1次と2次の共振の半値幅帯域に重ならないものとなり,上記相違点2に係る本件発明2の構成を満足することとなるが,甲10記載発明と甲11記載発明とを単に事後分析的に選択したに過ぎないといえる。したがって,引用発明において,上記相違点2に係る本件発明2の構\成とすることは,引用発明(甲4)並びに甲10記載発明及び甲11記載発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。相違点4に係る本件発明6の構成は,本件発明2において単に「振動検出素子の共振の半値幅帯域と別の帯域」と特定していたものを,本件発明6においては「振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間」と更に限定して特定したものに相当すると解される。よって,本件発明6のこの構\成も,当業者が容易になし得たものとすることはできない。

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平成24(行ケ)10335 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年06月06日 知的財産高等裁判所

 動機づけが無いとして、裁判所は、進歩性なしとした審決を取り消しました。
 甲2,3(周知例1,2)によれば,1)填料としての炭酸カルシウム及び/又は古紙由来の炭酸カルシウムが存在する製紙工程は周知のものと認められ,また,2)炭酸カルシウムが存在する製紙工程では,微生物が繁殖しやすいこと,3)微生物の繁殖により,微生物を主体とし填料等を含むスライムデポジットが生成され,紙に斑点が発生する等の問題を生じること,4)このような問題を防止するために,製紙工程水にスライムコントロール剤を添加し,微生物の繁殖を抑制し又は殺菌することは,いずれも周知の事項と認められる。しかし,上記の斑点は,微生物を主体とするスライムデポジットによるものであり,ニンヒドリン反応では陽性を示すもの(本願明細書【0008】,甲19)と考えられる。また,補正発明における炭酸カルシウムを主体とする斑点が,従来のスライムコントロール剤では,その濃度を高くしたとしても十分に防止できず,上記反応物によれば防止できるものであることも考慮すれば,上記の斑点は,填料を含むものではあるものの,補正発明における炭酸カルシウムを主体とする斑点とは異なるものと認めるのが相当である。周知例1,2にも,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,微量スライムが炭酸カルシウムを凝集させることにより,紙に炭酸カルシウムを主体とする斑点が発生すること,また,製紙工程水に上記反応物を添加することにより,このような斑点を防止できることについては記載も示唆もない。周知例1,2も,引用発明に係る方法を,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において実施することにより,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止することを動機づけるものではない。以上のとおり,周知例1,2には,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,製紙工程水に上記反応物を添加することにより,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止できることについて記載も示唆もない以上,引用発明に係る方法を,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において実施することにより,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止する動機づけは認められない。\n

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平成24(行ケ)10328 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月10日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、組み合わせる動機づけ無しとして取り消されました。
 本願発明は,上記特許請求の範囲及び本願明細書の記載によれば,飲食物廃棄物の処分のための容器であって,液体不透過性壁と,液体不透過性壁の内表面に隣接して配置された吸収材と,吸収材に隣接して配置された液体透過性ライナーとを備え,吸収材上に被着された効果的な量の臭気中和組成物を持つものである。本願発明は,上記構\成により,一般家庭において,ゴミ収集機関により収集されるまで,飲食物廃棄物からの液体の流出を防止し,腐敗に伴う不快な臭気を中和する,経済的なプラスチック袋を提供することができるものである。これに対し,引用発明は,上記引用例1(甲8)の記載によれば,厨芥など水分の多いごみを真空輸送する場合などに適用されるごみ袋に関するものであるところ,これらのごみをごみ袋に詰めて真空輸送すると,輸送途中で破袋により,ごみが管壁に付着したり,水分が飛散して他の乾燥したごみを濡らして重くするなどのトラブルの原因となっていたという課題を解決するために,水分を透過する内面材と,水分を透過させない表面材と,上記内面材と上記表\面材とに挟まれ水分を吸収して凝固させる水分吸収体との多重構造のシート材でごみ袋を構\成することにより,厨芥などのごみの水分を吸収して凝固させ袋内に閉じ込めるようにしたものである。
 ところで,上記引用例1(甲8)の記載等に照らすと,真空輸送とは,住宅等に設置されたごみ投入口とごみ収集所等とを輸送管で結び,ごみ投入口に投入されたごみを収集所側から吸引することにより,ごみを空気の流れに乗せて輸送,収集するシステムであって,通常,ごみ投入口は随時利用でき,ごみを家庭等に貯めておく必要がないものと解される。そうすると,引用発明に係るごみ袋は,真空輸送での使用における課題と解決手段が考慮されているものであって,住宅等で厨芥等を収容した後,ごみ収集時まで長期間にわたって放置されることにより,腐敗し,悪臭が生じるような状態で使用することは,想定されていないというべきである。これに対し,被告は,引用発明は,厨芥,すなわち,腐敗しやすく悪臭を発生することが想定されるごみを収容するごみ袋であり,腐敗臭,悪臭の発生を抑制すべき技術課題を内在すると主張する。しかし,上記のとおり,引用発明は,厨芥等を真空輸送に適した状態で収容するためのごみ袋であり,厨芥等を長期間放置しておくと腐敗して悪臭を生じるという問題点は,上記真空輸送により解決されるものと理解することができ,引用例1の「厨房内などに水切り設備を設置して事前に水切りを行えるなどの場合は,本ごみ袋の下部に水切り用孔6を穿設してもよく,この場合はより一層効果的にごみの水分を取り除くことができる」(甲8・段落【0008】)との記載からしても,引用発明が厨芥等から発生する腐敗臭,悪臭の発生を抑制すべき技術課題を内在していると解することはできない。
 以上のとおり,引用発明には,腐敗に伴う不快な臭気を中和するという課題がなく,引用発明に臭気中和組成物を組み合わせる動機付けもないので,本願発明と引用発明との相違点について,引用発明において,効果的な量の臭気中和組成物を吸収材上に被着して相違点に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは,引用例2記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるとした本件審決の判断には誤りがある。

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平成24(行ケ)10284 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月27日 知的財産高等裁判所

 動機づけなしとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 上記1(1)イ 認定の事実によれば,引用例1記載の発明は,美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の生体活動の改善や,人体機能の発現に関与する物質群の補給システムを中心とした生体活動の更なる改善手段(生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用も含む。)を提供することを課題とし(【0005】,【0006】,【0010】),体内から体外に向かって形成された水の流れを媒体とした人体機能\の発現に関与する物質の能動的な移送を真の目的とする津液作用と,酸素,栄養などのエネルギーを中心とする補給の活性化作用である補血及び活血作用が,同時に促進されることが,人体にとって極めて有用であることから,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分から選ばれる1種ないし2種以上と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスから選ばれる1種ないし2種以上とを組み合わせて使用することにより,上記課題を解決するものであること(【0002】ないし【0004】,【0007】)が認められる。また,引用例1には,実施例においてシムノールサルフェート,ダイズイン等を含む健康食品で,環境ホルモンの排出が促進されたことが記載される(【0029】,【0033】)が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果を示唆する記載はない。
一方,上記(1)ウ,エ 認定の事実によれば,引用例2ないし4には,大豆イソフラボン等が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患等に効果があり,甲6には,コクダイズが運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に効果があり得ることが開示されているといえる。しかし,引用例2は,COX-2,NFκB,ならびにCOX-2およびNFκBの両者の生合成阻害剤であるフラボン化合物を開示するもの,引用例3は,ダイズ,および,その他,クローバーなどの植物の成分であるイソフラボノイドを単離したものを,アルツハイマー型痴呆,および加齢に伴うその他の認識機能\低下を治療および予防するために使用することを特徴とする発明を開示するもの,引用例4は,イソ\フラボン,リグナン,サポニン,カテキン,および/またはフェノール酸を,栄養補給剤としてまたはより伝統的なタイプの食物中の成分として各自が摂取する便利な方法を提供する発明を開示するもの,甲6は,コクダイズの成分,薬効等を開示するものであって,いずれも引用例1記載の上記課題と共通する課題,とりわけ,生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用について記載しているとは認められない。そうすると,引用例1に接した当業者は,引用発明に含まれるダイズインが,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用を有することを予期し,そのような生理的作用を向上させるべく,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスを組み合わせて使用することに想到するとは考えられるが,ダイズインが,環境ホルモン排出促進と関連性のない生理的作用を有することにまで,容易に想到するとは認められない。そして,当業者にとって,引用例2ないし4及び甲6に記載されるアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果が,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用であると認めるに足りる証拠はないから,当業者が,引用例1の記載から,ダイズインが,上記の各効果をも有することに容易に想到すると認めることはできない。
 イ これに対し,被告は,ダイズインのアグリコンであるダイゼイン等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患の処置に有効であることが公知であり,ダイズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後の運動障害,運動麻痺,及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良くする効果もあることが周知であることから,ダイズインを含む引用発明の組成物の具体的用途として,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能\性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得る旨主張する。しかし,上記のとおり,引用発明は,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスとを組み合わせて使用することにより,課題を解決しようとするものであるから,引用例1に接した当業者が,引用発明の1成分にすぎないダイズインにことさら着目することの動機づけを得るとはいえない。そうすると,たとえ,引用例2ないし4及び甲6により,大豆イソフラボンないし大豆が被告主張の効果を有することが周知ないし公知といえるとしても,当業者において,引用発明から出発して,当該周知ないし公知の知見を考慮する動機づけがあるとはいえず,相違点2に係る本願発明の構\成(「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」)に想到することが容易であるとはいえない(まして,本願発明は,引用発明の組成物に加えてクルクミンを含むものであるところ,そのような3成分を含む組成物について,強筋肉剤等の用途が容易想到であることの理由も明らかでない。)。\n

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平成24(行ケ)10312 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月29日 知的財産高等裁判所

 無効理由(進歩性違反)無しとした審決が維持されました。
 上記ア(ア) 認定の事実によれば,本件発明1は,液体インク収納容器の状態に関する報知をLEDなどの発光手段によって行う構成で用いられる液体インク収納容器,液体インク供給システムおよび液体インク収納カートリッジに関し,配線数を削減するためにはバス接続といった共通の信号線の構\成が有効であるが,そのような共通の信号線を用いる構成では,インクタンクもしくはその搭載位置を特定することができないという問題があることから(【0001】,【0009】),複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表\示器の発光制御を行い,インクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御をすることを可能\とすることを目的(解決課題)とした発明であること(【0010】),記録装置の本体側の接点(コネクタ)と接続する液体インク収納容器であるインクタンクの接点(パッド)を介して入力される信号と,そのインクタンクの色情報とに基づいて発光部の発光を制御するので,複数のインクタンクが共通の信号線によってその同じ制御信号を受け取ったとしても,色情報に合致するインクタンクのみがその発光制御を行うことができ,インクタンクを特定した発光部の点灯など発光制御が可能となり,例えば,キャリッジに搭載された複数のインクタンクについて,その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させるとともに,上記所定の位置での発光を検出するようにすることにより,発光が検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識でき,ユーザに対してインクタンクを正しい位置に再装着することを促す処理をすることができ,インクタンクごとにその搭載位置を特定することができるという効果を奏するものであること(【0019】)が認められる。すなわち,本件発明1は,共通バス接続方式のような共通の信号線を用いた場合でも,インクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に搭載されているかを識別することを目的(解決課題)とした発明であるといえる。
(イ) 一方,甲1発明の内容は,上記第2の3(2)ア のとおりであり(当事者間に争いがない。),共通バス接続方式の下で,液体インク収納容器が誤りなく装着されているかを検出するための機構を備えているものである。しかし,上記ア(イ) 認定の事実によれば,複数色のインクカートリッジを備えるカラープリンタにおいて,インクカートリッジの交換時における誤装着を防止するため,インク色毎にインクカートリッジの外形形状を変更し,誤ったインクカートリッジが物理的に装着できないようにする技術や,同一の外形形状を有するインクカートリッジを用い,1個のインクカートリッジのみが脱着可能な開口部を有するカバーをプリンタ上に設け,交換されるべきインクカートリッジを開口部まで移動させて,交換されるべきインクカートリッジのみの脱着を許容する技術が知られるところ,前者の技術には,リサイクル効率が悪い等の問題があり,後者の技術では,交換されるべきでないインクカートリッジの誤った取り外しは防止できても,装着されたインクカートリッジが正しいインクカートリッジであるか否かまでは検出できないという問題があったことから,甲1発明は,外形的な識別形状を用いることなく,交換時における誤装着や交換されるべきでないカートリッジの誤った取り外しを防止することを目的とするものであることが認められる。すなわち,甲1発明は,(1回につき)1個のインクカートリッジのみが脱着可能\であることを前提として,交換時における誤装着や交換されるべきでないカートリッジの誤った取り外しを防止することを目的したものと認められる。そして,同発明の記憶装置は,クロック信号端子CT,データ信号端子DT,リセット信号端子RTと接続されており,データ信号端子DTを介して入力されたデータ列に含まれる識別データとメモリアレイ201に格納されている識別データとが一致するか否かを判定するのであって,電気配線を通じて液体インク収納容器からインク色等に係る情報(信号)を取得するものにすぎない。そうすると,甲1発明は,「共通バス接続方式のような共通の信号線を用いた場合でも,インクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に搭載されているかを識別する」という本件発明1と同様の解決課題を有するものではなく,また,光を利用して液体インク収納容器の識別を行う本件発明1の構成は開示も示唆もされていないというべきである。なお,甲1には,搭載されているインクカートリッジCAに対応する数だけキャリッジ101上にLED18が備えられた実施例が開示されているが,このLEDは,交換の対象となるインクカートリッジの搭載位置をユーザに視覚的に指し示すにすぎず,その機能\は受動的なものであり,本件発明1のように,液体インク収納容器の識別を行うために動作するものではない。したがって,甲1に接した当業者が,共通バス接続方式のような共通の信号線を用いた場合でもインクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に搭載されているかを識別できるようにするために,甲1発明に,他の公知技術を組み合わせようとする動機付けを得るとは認められない。
(ウ) また,上記ア(ウ)ないし(オ)認定の事実に照らすと,以下のとおり,甲2,甲3,甲5のいずれにも本件発明1の上記解決課題と同様の解決課題は開示ないし示唆されていない。すなわち,甲2記載の発明は,インクカートリッジの誤装着を電気的に検出でき,こわれにくく,作製費用が少ない検出手段を有するインクジェット記録装置を提供することを目的とし,インクジェット記録装置にインクカートリッジが装着されると,インクジェット記録装置は,インクカートリッジに設けられている導体または抵抗体があらかじめ定められたものであるか否かを電気的に検出し,導体または抵抗体があらかじめ定められたものである場合は,印字制御を実行するが,導体の位置や抵抗体の抵抗値が異なっている場合は,警告を発するというものであり,共通バス接続方式のような共通の信号線を用いた場合を前提としたものではなく,インクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に搭載されているかを識別することを意図したものでもない。甲3記載の発明は,インクタンクに配線などを引き回したりする必要のない,簡易な構成で,インクタンク内の情報の検出などの外部との双方向の情報のやり取りを非常に効率良く行える立体形半導体素子を配したインクタンク,および該インクタンクを備えたインクジェット記録装置を提供することを目的とし,立体形半導体素子は,外部とのやり取りを行うものである。伝達先はインクジェット記録装置のみでなく,特に光,形,色や音などの場合は人の視覚や聴覚に伝達してもよいとの記載があり(【0049】),立体形半導体素子からの情報伝達手段として,光を用いることは示されているといえるが,これは,外部に情報を伝達する手段として光を用いることが開示されているにすぎず,光の受光結果に基づいて液体収納インク容器の搭載位置を検出するという相違点1に係る本件発明1の構\成が示されているとはいえない。甲5記載の発明は,光を用いてインク残量やインク色を検出する構成を有するが,同発明は,発光体と受光体とで構\成される光学的検出手段を,インク容器の一部位を略鉛直方向から挟んで配置し,インク容器の一部位およびインク容器中のインクに光を透過させて,その強弱や透過率によって,インク容器内のインク量やインク色を検出するというのであるから,相違点1に係る本件発明1の構成を有するものではない。
(エ) 以上のとおり,相違点1に係る本件発明1の構成は,甲5記載の技術事項に,甲3記載の技術事項を組み合わせることにより,当業者であれば容易に想到できる,甲1発明に甲5,甲3記載の技術事項を組み合わせる動機付けもあるとの原告らの主張は理由がない。\n

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平成24(行ケ)10245 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月25日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は、結論に至る論理付けが不十分というものです。
 審決は,相違点4について,周知例4〜6の記載からみて,フェノールと3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンやアセトン等のカルボニル化合物を反応させてビスフェノール類を製造する技術において,分離された濾液を製造目的化合物であるビスフェノール類を含んだ状態で上記「反応」を行う工程に「循環」させることが周知であることを前提として,引用発明における「再結晶ろ液を繰り返し使用する」工程において,再結晶濾液の少なくとも一部を,製造目的物である「1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン」を含む状態で,フェノールと3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる工程に循環させることは,当業者が容易になし得たものであると判断する。この点,確かに,上記周知例4ないし6,乙2によれば,一般に,化学物質の製造工程において,目的物質を主に含む画分以外の画分にも目的物質や製造反応に有用な物質が含まれる場合には,それをそのまま,あるいは適切な処理をした後に製造工程で再利用して無駄を減らすことは周知の技術思想であって,実際,フェノールとカルボニル化合物からビスフェノール類を製造する場合においても,さまざまな具体的製造方法において,途中工程で得られた有用物質を含む画分が再利用されているものと認められる。
しかし,ある製造方法のある工程で得られた,有用物質を含む画分を,製造方法のどの工程で再利用するかは,製造方法や画分の種類に応じて異なるものと認められる。この点,引用発明においては,再結晶濾液を再利用できる工程として,フェノールと3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる前反応及び後反応のみならず,中和後の結晶化工程や再結晶工程が想定されるところ,審決には,フェノールと3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる工程に循環させるという構成に至る理由が示されていない(なお,乙2を参照してもこの点が\n明らかになるとはいえない。)。
これに対し,被告は,周知例4〜6が引用発明と目的物質や反応に有用な物質が同様であることから,引用発明における「再結晶ろ液を繰り返し使用する」工程において,再結晶濾液の少なくとも一部を,製造目的物である「1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン」を含む状態で,フェノールと3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる工程に循環させることは,当業者が容易になし得たものであると主張する。しかし,目的物質や反応に有用な物質が同様であったとしても,具体的な製造方法が異なれば,再利用すべき画分も,その再利用方法も異なり,それぞれの場合に応じた検討が必要となるから,被告の上記主張は採用することができない。
(3) 以上のとおり,引用発明に周知例4〜6に示されるような周知技術を適用することにより,相違点4に係る構成に容易に想到できたとはいえず,審決の相違点4に係る容易想到性判断には誤りがある。\n

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平成24(行ケ)10262 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月21日 知的財産高等裁判所

 ある処理については周知で有っても、温度条件までは知られていなかったとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 本願発明の解決しようとする課題は,ガラスを溶融し,純化しかつ均質化する方法を,白金からなる構成部分を使用する場合でも酸素リボイルが防止されるように構\成することである(本願明細書である本件出願の公開特許公報(甲7)【0004】)のに対して,引用発明の解決しようとする課題は,溶解に高温度(特に1700℃以上)を要するガラスを,不純物や泡・異物等の無い高品質なガラスとして製造する技術を提供することであり(甲1【0006】),本願発明と引用発明とでは,解決しようとする課題が相違する。また,引用発明は,上記のとおり,粗溶解したガラスを高周波誘導直接加熱により直接加熱して,溶解・均質化・清澄するものであるが,清澄は,ガラス中に発生する誘導電流に伴う強制対流混合によりなされるものであり(甲1【0013】),一種の物理的清澄と解される(乙4)。引用文献1には,溶融ガラスに清澄剤を添加して清澄ガスを発生させて清澄すること,すなわち化学的清澄(甲4,乙4)については記載も示唆もない。引用文献1は,物理的清澄を行う引用発明において化学的清澄を併用する動機付けがあることを示すものとはいえない。また,引用発明は,1850℃で清澄が行われるものであるが,以下のとおり,このような高温において化学的清澄を行うことが通常のこととはいえず,また,このような高温で使用できる清澄剤が知られているともいえない。引用文献4には,清澄剤としてFe2O3,SnO2等を用いることが記載されているが(【0012】,【0013】),清澄は1200〜1500℃で行われている(【0018】)。特開平11−21147号公報(甲5)には,清澄剤としてFe2O3等を用いることが記載され,1600℃を超える温度でも清澄剤としての効果が発揮されることが示唆されているといえるが(【0013】〜【0015】),それでも高々1600℃を超える温度であり,実施例では1600℃で溶融しているにすぎない。特開平10−45422号公報(甲6)には,清澄剤としてFe2O3,SnO2等を用いることが記載され(【0025】),処理の対象となる無アルカリガラスは,粘度が102ポイズ以下となる温度が1770℃以下であることが記載されている(【0029】)ものの,実施例では1500〜1600℃で溶解しているにすぎない。また,甲4〜6に記載の各清澄剤が,1850℃での清澄においても清澄剤として使用できることが当業者にとって自明のことともいえない。以上のとおり,1850℃という高温において化学的清澄を行うことが通常のこととはいえず,また,このような高温で使用できる清澄剤が知られているともいえない以上,1850℃という高温において物理的清澄が行われる引用発明において,化学的清澄を併用する動機付けがあるとはいえない。以上のとおりであるから,引用発明において,引用文献4に記載されるFe2O3,SnO2等を清澄剤として用いる化学的清澄を併用して,「溶融物内に少なくとも0.5重量%の割合を有する高い電子価段階を持つ多価のイオンが存在する」ものとすることは,当業者が容易に想到し得ることとはいえない。被告は,溶融ガラスを清澄する際に,清澄剤を添加することは化学的清澄として当業者にとって周知であり,物理的清澄と化学的清澄とは相乗的効果が期待できることから,1850℃で物理的清澄を行う引用発明において,清澄剤として引用文献4の「Fe2O3」を0.01〜2.0重量%添加して化学的清澄を行うことは,当業者が容易になし得ることであると主張する。しかし,化学的清澄が当業者にとって周知であるとしても,上記のとおり,1850℃という高温において化学的清澄を行うことが通常のこととはいえず,また,このような高温で使用できる清澄剤が知られているともいえない以上,1850℃という高温において物理的清澄が行われる引用発明において,化学的清澄方法を併用する動機付けがあるとはいえない。

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平成24(行ケ)10278 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月06日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、動機づけ無しを理由に取り消されました。
 すなわち,発明Aは,「『不織布21およびフィルタ本体22からなる交換用フィルタ23』の交換時期になったとき,『不織布21およびフィルタ本体22からなる交換用フィルタ23』のみを交換してこれを廃棄するタイプ」であるから,フィルター材交換タイプであって,このフィルター材交換タイプにおいて,交換用フィルタを換気扇又はレンジフードに取付けた状態では,汚れの付着状態を正確に判定するのが困難であるということを解決課題とし,フィルタ本体の所定位置に,使用状態に応じて目視による識別性が変わる不織布21(インジケータ)を設けることを解決手段とした発明であるということができる。ウ上記ア,イからすると,発明Aは,フィルター材のみを廃棄するフィルター材交換タイプの換気扇フィルターであって,フィルター材とフィルター枠を共に廃- 26-棄する全部廃棄タイプの本件発明1とはタイプが異なる上,両発明は,解決課題及びその解決手段も全く異なるものである。そして,発明Aは,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターについて,交換用フィルタの交換時期になったとき,フィルタ本体の汚れの程度を,フィルタを通気口から取り外すことなく簡単に判定することができることを特徴とするものであって,引用例1の記載からしても,これに接した当業者が,発明Aのフィルター材交換タイプを本件発明1の全部廃棄タイプに変更しようとする動機付けや示唆を得るとはいえない。また,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターである発明Aにおいて,全部廃棄タイプの換気扇フィルターである本件発明1が解決課題としている「通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得るようにして,素材毎に分離して廃棄することを可能すること」と同様の解決課題が当然に存在するともいえない。そうすると,全部廃棄タイプの換気扇フィルターを使用することが周知の事項であって(この点は原告らも争わない。),物品を分別(分離)して廃棄すること自体,日常生活において普通に行われていることであったとしても,本件発明1は,発明A及び上記周知の事項から容易に想到し得るものとはいえないし,使用した後,廃棄する際に,水に浸漬すれば,金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを手指で容易に剥離することができ,金属と不織布とを分別廃棄することができるという本件発明1の作用効果は,発明Aの及び上記周知の事項から容易に予\測できるものともいえない。したがって,発明Aについて,全部廃棄タイプの換気扇フィルターにすることは,当業者であれば容易になし得ることであり,その際,不織布製フィルター材と金属製フィルター枠を分離することができる全部廃棄タイプの換気扇フィルターとし,不織布製フィルター材と金属製フィルター枠を分離(分別)して廃棄することは,当業者であれば適宜行う設計事項であるということができるとした審決の判断は誤りであり,これを前提とした本件発明1に関する容易想到性の判断も誤りである。
 エ これに対し,被告は,引用例1に記載されるフィルター材交換タイプの換気扇フィルターとは,フィルター材をフィルター枠ごと取り外した後,フィルター枠からフィルター材を取り外して廃棄するものであり,全部廃棄タイプの換気扇フィルターと引用例1記載のフィルター材交換タイプの換気扇フィルターは,両者ともにフィルター材をフィルター枠ごと取り外すという点で一致するところ,原告らは,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターの定義を「フィルター枠を備え付けたままとしフィルター材のみを廃棄するものである」としており,この定義は,引用例1の記載とは異なっており,誤りであると主張する。しかし,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターも全部廃棄タイプの換気扇フィルターも,フィルター材をフィルター枠ごと取り外すことができる点では一致するが,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターに関する原告らの上記定義の趣旨は,「備え付けられたフィルター枠はそのまま使用し,フィルター材のみを廃棄する」というものであり,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターと全部廃棄タイプの換気扇フィルターとでは,フィルター材のみを廃棄するかフィルター枠をフィルター材と共に廃棄するかという点で相違する。そうすると,発明Aが,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターであって,本件発明1とはタイプが異なる上,解決課題及びその解決手段も本件発明1とは異なることに変わりはなく,上記ウの判断は左右されない。よって,被告の主張は採用できない。

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平成24(行ケ)10221 審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成25年02月27日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が、動機づけ有りとして取り消されました。
 引用発明1の洗浄剤混合物は,グルタミン酸二酢酸塩類,グリコール酸塩,陰イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤を含んでおり,本件発明1の洗浄剤組成物と組成において一致し,かつ,各成分量は,本件発明1において規定された範囲内である。このように,引用発明1の洗浄剤混合物は,本件発明1の規定する3つの成分をいずれも含み,かつ,その成分量も本件発明1の規定する範囲内であることに照らすと,単に,グリコール酸ナトリウムが主成分の一つであると規定したことをもって,容易想到でなかったということはできない。この点,被告は,甲1文献では,グリコール酸ナトリウムは,洗浄剤の有効成分と認識されず,精製して除去されるべき不純物として記載されているのであるから,本件発明1の相違点1に係る構成は,容易想到ではないと主張する。確かに,仮に,本件発明1の洗浄剤組成物が引用発明1と対比して異なる成分から構\成されるような場合であれば,両発明に共通する成分である「グリコール酸ナトリウム」が,単なる不純物にすぎないか否かは,発明の課題解決の上で,重要な技術的な意義を有し,容易想到性の判断に影響を与える余地があるといえる。しかし,本件においては,前記のとおり,本件発明1と引用発明1とは,その要素たる3成分が全く共通するものであるから,「グリコール酸ナトリウム」が単なる不純物ではないとの知見が,直ちに進歩性を基礎づける根拠となるものではないといえる。
(イ)被告の付加的な主張について
 被告は,相違点2については容易想到ではないとも主張する。しかし,被告の上記主張は,以下のとおり,採用することはできない。甲1文献には,同文献における金属イオン封鎖剤組成物の封鎖作用は,通常の洗浄剤媒体のアルカリ性のレベルに相当するpH8〜11において最大であることが確認された旨の記載があり,実施例3では,pH10のアンモニア性緩衝液において,甲1文献における金属イオン封鎖剤組成物の効果が確認されている。そうすると,たとえ上記pH8〜11に関する記述が界面活性剤を含む洗浄剤混合物について記載したものではないとしても,甲1文献の記載から,上記金属イオン封鎖剤組成物を含有する引用発明1の洗浄剤混合物においても,pH8〜11において洗浄作用が最大になると理解することは,容易に想到できる事項である。そして,このpHの数値範囲は,本件発明1におけるpH10〜13と,pH10〜11において重なっている。したがって,甲1文献に接した当業者が,その洗浄能力が高まるように調整して,引用発明1のpHを10〜13にするのは,容易であるといえる。よって,この点に関する審決の判断に誤りはない。\nエ 以上のとおり,審決は,相違点1を本件発明1と引用発明1の相違点であると認定した上で,相違点1が容易想到でないとした判断に,誤りがある。

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平成23(ネ)10087 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成25年03月05日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が、動機づけ有りとして取り消されました。
 上記乙第1,第8,第11号証の1ないし5によれば,交通事故の発生前後の所定時間にわたって車両の挙動に係る情報を収集,記録すること,車両に設けられた加速度センサが検出する加速度が所定の閾値を超えるか否かやエアバッグ作動信号の有無に代えて,車両の加速度等が所定の閾値を超えたか否かによって交通事故が発生したか否かを判定する程度の事柄は,本件優先日当時における車両の挙動に係る情報を収集,記録する装置の技術分野の当業者の周知技術にすぎないものと認められる。本件訂正発明1にいう「特定挙動」は前記のとおり「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」であって交通事故の発生を前提とするものではない(交通事故が発生しない場合も含む)が,本件訂正発明1においても,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えたか否かによって「特定挙動」の有無が判定されるから(本件訂正明細書の段落【0030】,【0034】,【0050】,図2,3等),装置の機能の面に着目すれば,本件訂正発明1において「特定挙動」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構\成は,上記周知技術において「交通事故」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構成と実質的に異なるものではない。加えて,上記周知技術と引用発明1とは,属する技術分野が共通し,前者を後者に適用するに当たって特段障害はないから,本件優先日当時,かかる適用を行うことにより,当業者が本件訂正発明1,2にいう「特定挙動」の発生前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集,記録する構\成に想到することは容易であるということができる。以上のとおり,乙第6号証記載の引用発明1に,「特定挙動」の発生前後の車両の挙動に係る情報を収集する条件を記録媒体に記録,設定する乙第2号証記載の発明と,「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする乙第1,第8,第11号証の1ないし5記載の周知技術を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,相違点Aに係る構成に容易に想到することができたというべきであり,本件訂正発明1は進歩性を欠く。
3 本件訂正後の請求項15の本件訂正発明2と乙第6号証記載の引用発明2とは,移動体の挙動を特定挙動と判定して当該挙動に関わる情報が記録された記録媒体からその記録情報を読み出す処理,読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された,コンピュータ読取可能な記録媒体である点で一致し,本件訂正発明2が,特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件を記録媒体に設定する処理をコンピュータ装置に実行させるものであるのに対して,引用発明2は,そのようなものでない点(相違点B)で相違することが認められる。乙第3号証は,自動車の操作に関するイベント(事象)を記録する自動車レーダシステムに関する発明に係る文献であるところ,段落【0008】,【0018】,【0043】,【0047】によれば,上記レーダシステムに用いる自動車用イベント(事象)記録装置(ERA)において,コンピュータ装置及び着脱可能\なRAMカードを用い,前方間隔,警告閾値や,自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータを設定する発明,すなわちRAMカードに記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータをERAに適用する発明が記載されているということができる。そして,上記発明は,車両の挙動に関する情報を収集,記録する装置に関するもので,引用発明2と技術分野が共通するし,コンピュータ装置に処理を実行させて,着脱可能なRAMカード等の記録媒体に記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータを上記収集・記録装置に適用する程度の事柄であれば,事故分析に有用な情報を記録するブラックボックス的機能\を有する,車両の挙動に係る情報の記録装置(乙3の段落【0001】〜【0007】)とは不可分のものではない。したがって,乙第6号証や乙第2号証に接した当業者であれば,「スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予め設定された基準値を基に自動判定し,また走行距離を用途別(私用,公用,通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供する」こと等を技術的課題とする引用発明2に,乙第3号証記載の発明を適用する動機付けがある。\n

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平成24(行ケ)10205 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月28日 知的財産高等裁判所

 動機づけなし、阻害要因有りとして進歩性なしとした審決が取り消されました。
 本願発明は,喫煙以外の手段で喫煙の満足感を与えることを目的として,ニコチンをスプレーにより専ら口腔粘膜経由で取り込ませるための液体医薬製剤であって,唾液中のニコチンが優先的に吸収される形態である遊離塩基に保つことを可能とするために薬剤自体をアルカリ性化することにより,ニコチンの急速な経口腔粘膜取り込みを実現するものである。(イ) 他方,前記2(1)によれば,引用発明1は,本願発明と同様の目的を有する液体薬剤に係る発明ではあるが,単にニコチンを摂取するだけではなく,喫煙という行為を再現する方法でニコチンを摂取させることを意図しており,喫煙時と同様に,使用者の好みに応じてニコチンの含有量を選択した上で,口腔粘膜,鼻腔粘膜,肺などから吸入されるものである。引用発明1において,薬剤は様々なニコチン含有量のアンプルとして提供され,使用者が好みの銘柄のたばこに対応するニコチン含有量のアンプルを選択し,好みの方法により吸入するものであるから,各アンプル中の薬剤は,口腔粘膜,鼻腔粘膜及び肺などの吸入経路のいずれにも対応できる液体であって,ニコチン含有量についてのみ,多様性を有するものということができる。
イ 引用発明1に引用発明2及び3を組み合わせる動機付けについて (ア) 引用例2(甲2)は,経皮ニコチンシステム及びニコチンの経粘膜投与のためのシステムに係る文献であるところ,同文献には,口腔内でのアルカリ環境がニコチンの頬側吸収を促進することが記載されている。(イ) 引用例3(甲3)は,ニコチン含有流動物質を含む口経投与用カプセルに係る文献であるところ,同文献には,カプセルの内容物以外で重要なのは,ニコチンの吸収速度を左右する溶液のpHであり,ニコチン溶液のpHが6ないし10,好ましくは7ないし9,特に6ないし8の範囲が好ましいことが記載されている。(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば,引用例2及び3には,口腔粘膜からのニコチン吸収がアルカリ環境で促進されることが開示されているということができる。しかしながら,引用発明1は,使用者の好みに応じて,口腔粘膜のみならず鼻腔粘膜や気道などからもニコチンが吸入されることを念頭においた薬剤であるから,口腔粘膜からの吸収を特に促進する必要性を認めることはできないし,引用例1には,口腔粘膜からの吸収を特に促進させる点に関する記載や示唆も存在しない。したがって,引用発明1に,引用発明2及び3を組み合わせることについて,動機付けを認めることはできない。
ウ 阻害事由について
・・・
(カ) 以上によると,本願優先日当時,鼻腔や肺に投与されるニコチン溶液は通常pH5ないし6程度の酸性であって,ニコチンが遊離塩基になりやすいアルカリ性では,生理的に悪影響があることが周知であったということができる。したがって,引用発明1の薬剤をアルカリ性化することには,阻害事由が認められる。

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平成24(行ケ)10199 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月14日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が維持されました。
 引用文献2には,ユーザ自身が作成した音声,画像(静止画),動画,テキスト等を含むコンポーズドメディアを,インターネットを介して相手に送信するグリーティングカード(カードページ)に盛り込むことができる旨が記載され,引用文献3でも,ユーザが作成した画像や音楽のデータ(ファイル)をインターネットを介して相手に送信するデジタルポストカードに盛り込むことができる旨が記載されているから,審決が認定するとおり,本件優先日当時,サーバを用いてイメージデータを第三者と共用するサービスにおいて,ユーザのコンピュータに記憶されているデータをサーバに記憶させるようにすること,またかかるデータをサーバで運用されるデジタルのポストカード(電子情報で構成され,ネットワークを介して送受信されるポストカード)で利用できるようにする程度の事柄は,当業者の周知技術にすぎなかったと認められる。そうすると,本件優先日当時,引用文献1記載発明に上記周知技術を適用することにより,当業者において相違点2を解消することは容易であったということができ,この旨をいう審決の判断に誤りはない。
 この点,原告は,引用文献1のサービスは美しい料理の写真を送ることを目的としており,サービス提供者側の装置が送信コンピュータから料理の写真を受信する構成に改める動機付けがないなどと主張する。しかしながら,引用文献2において既存の画像(ファイル)に加えてユーザが保有する画像ファイルをサービス提供者のサーバに送信し,後者の画像(ファイル)もデジタルのポストカードで利用できるようにして,ポストカード作成の自由度,サービスの利便性を高めることが記載されているように,ユーザの画像(ファイル)も利用可能\とすることでポストカード作成の自由度,サービスの利便性を高めることは当業者の常識に属する事柄である。したがって,引用文献1に接した当業者において,サービス提供者側の装置が送信コンピュータから料理の写真を受信する構成に改める動機付けに欠けるところはない。仮に引用文献1のサービスが美しい料理の写真を盛り込んだデジタルのポストカードの提供を長所の一つにしているとしても,当業者が引用文献1の料理の写真をユーザのコンピュータから送信(アップロード)される写真一般に改める上で阻害事由とまではならず,当業者にとってかように構\成を改めることは容易である。また,引用文献1ではユーザがメールアドレスやメッセージの入力欄に文字情報(テキスト)を入力したり,画像を選択したりして情報(データ)をサービス提供者側の装置に送信するが,前記のとおりの周知技術を引用文献1記載発明に適用したときにユーザのコンピュータからサービス提供者側の装置(サーバ)に送信されることになるのは,文字情報等に止まらず,画像等のデータ(ファイル)が含まれることが明らかである。結局,相違点2に係る構成に当業者が想到することが容易でないとする原告の主張は採用できない。\n

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平成24(行ケ)10198 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月07日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。理由は動機づけ無しです。
 本件明細書の前記2(1)エの記載によれば,本件発明1においては,袋本体の前側と後ろ側の対向する頂部シール部同士又は底部シール部同士を,頂点の接着部分と連続的又は不連続的に接着することによって,袋体の頂部側又は底部側に左右一対の吊り下げ部を形成していることから,内容物を充填した袋体の重量を支えるために,接着される頂部シール又は底部シールを構成する三角形状のフィン部に強度が求められることは当然であって,その際,三角形状のフィン部において対向する袋本体の内面同士が,閉鎖シール部の接着部分と連続的に接着され,また,全面的にではなく,部分的ないし断続的に接着されている構\成は,吊り下げ部の機能を向上させるために有用であることは,当業者にとって自明である。したがって,本件発明1においては,吊り下げ部を形成するためにフィン部の内面同士を接着する構\成が特定されているものである。
イ 引用発明の吊り下げ部について
他方,引用発明は,袋体の上縁を構成する各シール部の外側のフィルム及びガセット折込体については,開口以外の部分についてシールすることが記載されていないだけでなく,そもそも,不要の構\成と理解される。また,仮にその不要の構成が残されているとしても,フィルム及びガセット折込体のコーナの部分は内袋の直方体の上面上に沿うとされているから,吊り下げのために,不要な構\成をあえて残し,さらに直方体の上面に沿わない構成として,吊り下げ用の空間を形成することは,引用発明における阻害要因となる。また,引用発明では,内容物を注入した後に内袋のみを運搬するようなことが想定されておらず(【0014】【0026】),内袋を吊り下げて運ぶための構\成を採用する動機付けがない。
ウ 引用例2,引用例4等の吊り下げ部について
(ア) 引用例2記載の発明は,非熱接着性外面層と熱接着性内面層を有する本体フィルムと該各折込みフィルムの上,下縁部の近傍に設けた透孔は,一体不可分の構成である。また,そのような構\成である以上,袋体の上縁の全体を接着するという構成を採用する選択肢は採り得ない。他方,引用例4(図7,8),周知例1(図23),周知例2(図1〜3)の頂部シールはいずれも頂部の全体をシールするものであることが,少なくとも各図面の記載に照らして明らかである。そうすると,引用例2と,引用例4等とは,頂部シールの構\成を異にするから,接着位置をいずれとするかを設計事項であるということはできず,また,引用例2において,引用例4等の頂部シールの構成を参酌する余地はない。したがって,引用例2について,引用例4等をどのように参酌しても,吊り下げ用に用いることは導き出せない。\n

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平成24(行ケ)10168 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月30日 知的財産高等裁判所

 動機づけまたは示唆がないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。
   ア 上記(1)ア 認定の事実によれば,本願補正発明は,「皮内注射を行うのに使用する皮下ニードルアセンブリであって,薬剤容器に取り付け可能なハブ部分と,前記ハブ部分によって支持され,前記ハブ部分から突出する前端を有する中空本体を備えた皮下注射用の針,・・・前記針の前端の方に予\め選択された距離だけ突出するリミッタ部分と,を具え,・・・前記針の前端は,動物の皮膚を突き刺すことができる量を前記リミッタ部分が制限するように,予め選択された距離だけ皮膚接触面を越えて突出している」との構\成を有すること,皮下注射針は各皮膚層と皮下組織を貫通して筋肉組織内に突き刺さるが,或る状況下では,針が真皮層を越えて突き刺さることのないように皮内注射を行なうことが望ましいこと,皮内注射を行なう技術の一つとして,Mantoux 法が知られているが,比較的複雑で,注射を行なう医療専門家や患者に熟練が必要であり,特に経験のない人が注射を行なう場合には,注射を受ける患者が苦痛を感じることが判っていること,従来の針のサイズに比べて短い針を用いて皮内注射を行なうための装置が提案されているが,これらの装置は,非常に特殊化された注射器であって適用性と用途が限られていたり,特別に設計された注射器を必要とし,種々のタイプの注射器と共に使うわけにはいかず,経済的な大量生産向きではないという欠点や不都合があること,そこで,本願補正発明においては,熟練や経験のない人が皮内注射を行う場合でも患者が苦痛を感じることなく,かつ,種々の注射器本体と共に使用するのに適した皮内注射装置に対する要望,大量生産規模で経済的に製造可能な皮内注射装置に対する要望に対処することを解決課題として,上記の構\成が採用されたこと,そのため,単に皮膚に垂直に装置を押し付けることにより物質を注入できるので,薬剤やワクチン等の物質を皮内に注射する場合などに適し,かつ,リミッタ部分とハブ部分により患者の皮膚に突き刺す針の有効長さより全長の大きい針の使用が可能となるので,小径の皮下注射針を使用するなどして,薬剤注入装置を安価な構\成にて提供することができるとの効果を奏することが認められる。
イ 一方,上記(1)イ 認定の事実によれば,引用発明は,注射器用の針の透過深度をコントロールするための装置に関するものであり,発明の目的は,注射器針の透過深度をコントロールするか調節するための装置を提供することであって,注射が最適のやり方で行なわれることを可能にする皮内注射の注射器のために特に設計されていること,装置1の表\面20の端部が患者の皮膚8と接触させられるように用いられ,装置1は針3が所定長さ皮膚に入ることを可能にするために皮膚8をわずかに変形するためにわずかに押され,表\面20の端部または縁が,患者の皮膚8にわずかに押し付けられるから,それは,針3刺し傷を囲む領域を敏感にすることができ,それにより,皮内注射の間に患者に作用する軽い痛覚はより減少され,一方で,主として,繰り返される注射の場合に,患者に対する,より大きな痛み除去を確実にするように構成されていることが認められる。すなわち,引用発明においては,注射が最適のやり方で行なわれることを可能\にする皮内注射の注射器のために特に設計されているというのであるから,使用される針は,皮下注射用の針ではなく,皮内注射に適した針であると理解される。また,引用発明は,注射器針の透過深度をコントロールするか調節するための装置を提供することを目的とし,それによって,皮内注射の間に患者に作用する軽い痛覚はより減少され,主として,繰り返される注射の場合に,患者に対する,より大きな痛み除去を確実にする効果を奏するものであることが認められる。ウ 上記の認定によれば,本願補正発明は,熟練や経験のない人が皮内注射を行う場合でも患者が苦痛を感じることなく,かつ,経済的合理性に対する要望にも対処することを目的(解決課題)として.皮下注射用の針を用いて皮内注射を行うニードルアセンブリであるのに対し,引用発明は,皮内注射に適した針を用いて注射器針の透過深度をコントロールするか調整することにより,皮内注射の際の患者の苦痛を緩和ないし除去することを目的とした装置であるということができる。そして,上記の引用発明の目的からすると,引用例に接した当業者が,引用発明の「皮内注射を行うのに使用する針」,すなわち皮内注射に適した針を,敢えて,本願補正発明の「皮下注射用の針」に変更しようと試みる動機付けや示唆を得るとは認め難いから,当業者にとって,相違点に係る本願補正発明の構成を容易に想到し得るとはいえない。\n

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平成24(行ケ)10166 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月17日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、動機づけ無しとして、取り消されました。
 ア 引用発明1及び2は,いずれも運動靴の靴底(表底)に関するものであって,技術分野を同一にする。しかしながら,引用発明1は,前記1イに説示のとおり,スパイク付き運動靴が,接地の際に急速に停止する機能\を有していることを前提として,その機能に起因する課題を解決し,靴底の上部辺が幾分揺れるようにして徐々に停止するという作用効果を有するものであるのに対し,引用発明2は,前記イに説示のとおり,ランニングシューズの靴底が接地の際に弾性を備えていることを前提として,その機能\に起因する課題を解決し,上層に設けられた突起が直ちに下層に接することで足を内側に巻き込むローリング現象を防止するという作用効果を有するものである。このように,引用発明1は,運動靴の接地に伴う急速な安定性を解消して弾性をもたらそうとするものであるのに対し,引用発明2は,運動靴の接地に伴う弾性を解消して安定性をもたそうとするものであって,その解決課題及び作用効果が相反している。したがって,引用例1には,引用発明1に引用発明2を組み合わせることについての示唆も動機付けもない。
イ また,前記1ア及びイに説示のとおり,本願発明の「変形臨界点」とは,弾性変形体を備える表底に荷重が掛かった場合に,無視可能\な程度を除けば,荷重により圧着した(上層と下層とが相互接触した)弾性可変部材が当該荷重によりそれ以上変形できない状態となる限界を意味しており,「剛性」とは,弾性可変部材が「変形臨界点」に達したことにより,本願発明(表底)が,やはり無視可能\な程度を除き,それ以上接線方向に平行変形できない状態となることを意味しているものと解され,本願発明は,このようにして得られる「剛性」によって,靴底の弾性を解消するものである。他方,引用発明2は,前記イに説示のとおり,上層に設けられた突起が直ちに下層に接することで靴底の弾性を解消するものであって,本願発明とは弾性を解消する作用機序が異なるから,引用例2の記載(前記アウ)によれば,突起を含む各部材は,いずれも弾性可変材料で構成されているものと認められるものの,それが荷重により下層に接した場合に,当該突起及びこれを含む靴底が,当該荷重によりそれ以上変形できない状態となっているか否かは,不明であるというほかない。したがって,仮に引用発明1に引用発明2を組み合わせたとしても,それによって本願発明の本件相違点に係る構\成が実現されるものではない。

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平成24(行ケ)10196 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月21日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、取り消されました。理由は動機づけ無しです。
 以上によれば,伸縮部材を含む使い捨て吸収性物品に関し,単層エラストマーフィルムを備える剥離ライナーを使用して伸縮積層体の製造を試みる場合,フィルム材をさらに加工する際に,大抵,剥離ライナーはエラストマーフィルムから分離され,除去され,巻き上げられるため,剥離ライナーと組み合わされたエラストマー単分子層又は単層フィルムの操作は,不織布とのその後の積層における層の操作を促進する他の機構を次に必要とするとの課題があり,本願発明は,上記の課題を解決するため,不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進するのに必要とされるブロッキング防止を助ける機構\を備えるものであることが認められる。また,本願発明における伸縮部材は,「前記エラストマー層を得る工程と,当該エラストマー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程と,当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程」の3つの工程を,このとおりの順序で含む方法により得られるものであると解される。一方,上記(1)イ 認定の事実によれば,引用刊行物1には,引用発明が,伸張性繊維基材の特定領域に伸張性を持たせるために,伸張性繊維基材の少なくとも1つの領域に配置されたエラストマー部材を有する伸縮性複合体ないしその製造方法に関するものであること(上記(1)イ 【0001】),使い捨て吸収製品は,一般に腰部区域やカフ区域に伸縮可能な材料を含み,これらの区域に望ましい弾性特性を提供するには種々の方法があるが(同【0002】,【0003】),伸縮性積層体は別々に製造されるところ,伸縮性積層体は適当な大きさ及び形状に切断され,「カット・アンド・スリップ」プロセスと呼ばれることのあるプロセスで,製品の望ましい位置に粘着剤で貼\り付けられる必要があり,異なる伸縮性の伸縮性積層体を用いたり,これらの積層体を製品の異なる位置に貼り付けたりするには,複数のカット・アンド・スリップユニットが必要なことがあるため,プロセスが厄介で複雑なものになるとの課題があること(同【0006】),課題解決手段として,製品の使用中に望ましい利点を提供するように,特定の部分にのみ特定の伸縮性を持たせて配置したエラストマー材を有する,費用効率の高い伸縮性複合体,間隔を置いて別個に配置した構\成成分の間の特定の部分で伸縮性を発揮する伸縮性複合体,物品の構成成分内で特定の伸縮性を発揮する伸縮性複合体の実現が望ましく,また,複数の工程,装置を必要とせず,吸収製品の様々な部分で伸縮特性を実現させるための有効かつ費用効率の高いプロセスの実現が望ましいこと(同【0007】,【0008】),発明を実施する形態として,エラストマー構\成成分を形成する工程とエラストマー構成成分を基材に結合する工程とが1つの工程の連続したプロセスに組み合わされた,新しいプロセスを提供するものであり,1つの連続したプロセスで,おむつの別個の弾性構\成成分に対応する複数の部分にエラストマー部材を直接付加することができること,異なる弾性を有する複数のエラストマー部材を,吸収性の物品の1つの構成要素の隣接した部分に付加することができることも意図されること(同【0028】),エラストマー部材は繊維性ウェブに直接付加されることも,又は最初に中間体の表\面に配置されることにより,間接的に繊維性ウェブに付加されることもできるが,エラストマー組成物の粘度は慎重に選択する必要があり,組成物,温度,及び/又は濃度は,特定の処理方法及び操作条件に好適な粘度を与えるために変更できること(同【0042】,【0043】)が記載されているといえる。
 以上によれば,引用発明は,エラストマー部材を有する伸縮性複合体ないしその製造方法に関するものであって,伸縮性積層体が「カット・アンド・スリップ」プロセスで,製品の望ましい位置に粘着剤で貼り付けられる必要があり,異なる伸縮性の伸縮性積層体を用いたり,これらを製品の異なる位置に貼\り付けたりするには,複数のカット・アンド・スリップユニットが必要なことがあるため,プロセスが厄介で複雑なものになるとの課題があり,これを解決する手段として,エラストマー構成成分を形成する工程とエラストマー構\成成分を基材に結合する工程とが1つの工程の連続したプロセスに組み合わされた,新しいプロセスを提供するものであることが認められる。すなわち,引用発明の課題及びその解決手段は,異なる伸縮性の伸縮性積層体を「カット・アンド・スリップ」プロセスで製品の望ましい位置に貼り付ける工程を効率化する目的で,エラストマー構\成成分を形成する工程と基材に結合する工程を1つの工程の連続したプロセスに組み合わせるというものであって,本願発明の課題及びその解決手段である,エラストマーフィルムから剥離ライナーを分離,除去し,巻き上げるためのプロセスを促進する目的で,不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進するのに必要とされるブロッキング防止を助ける機構を備えることとは全く異なるというべきである。また,引用刊行物1には,エラストマー材をグラビア印刷等により基材に直接付加する方法と,エラストマー材を中間体の表\面に配置した後,オフセット印刷のように間接的に基材に移す方法が挙げられるところ,前者の方法は,流体状のエラストマー材が基材に直接付加されるため,エラストマー層がブロッキングすることはなく,後者の方法は,エラストマー材はいったん中間体の表面に配置されるものの,引き続き中間層ごと基材に圧着,転写されるため,やはりエラストマー層がブロッキングすることはないから,引用発明における伸縮性複合体の製造方法で,エラストマー構\成成分を形成した後,基材に結合する前にブロッキングが生じるおそれはないといえる。そうすると,引用発明における伸縮性複合体の製造方法において,エラストマー構成成分を形成後,基材に結合する前に,ブロッキング防止処理を適用する動機付けはないというべきであり,これにブロッキング防止処理工程を含むとすることは,当業者が容易に想到することではないから,引用発明から,相違点2に係る本願発明の構\成である「当該エラストマー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程を含む方法によって得られ」との構\成に至ることは,当業者にとっても容易ではないというべきである。したがって,相違点2について,「引用発明において,伸縮部材を得る方法についての特定に,エラストマー層表面へのブロッキング防止処置工程を含むとすることは,当業者が容易に想到しうる」とした審決の判断は誤りである。イ これに対し,被告は,引用刊行物1には,伸縮性複合体を製造するのに,エラストマー構成成分の形成工程と基材への結合工程とが連続している製造に関して,より適した方法であるとの記載があるとしても,一般的な製造方法としてエラストマー形成工程後に保存して基材に結合する方法も当然認識され,記載される旨主張するとともに,吸収性物品の技術分野や多層積層樹脂フィルム製造においては,各種ブロッキング防止処理が周知慣用技術である旨主張する。しかし,上記ア認定のとおり,引用発明は,異なる伸縮性の伸縮性積層体を「カット・アンド・スリップ」プロセスで製品の望ましい位置に貼\り付ける工程を効率化することを目的(課題)とするものであって,引用刊行物1において,当該発明が,伸縮性複合体の製造方法に関する一般的課題を解決しようとするものであることが記載ないし示唆されているとは認められないから,引用刊行物1記載の発明における製造方法に,エラストマー構成成分を形成後,基材に結合する前にブロッキング防止処理を適用する動機付けがあるとはいえない。そして,引用刊行物1記載の発明における製造方法に,ブロッキング防止処理を適用する動機付けが認められない以上,ブロッキング防止処理が周知慣用技術として存在するとしても,引用発明に,当該周知慣用技術を適用して本願発明に想到することが容易であると判断することはできないというべきである。\n

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平成23(行ケ)10414 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月10日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。理由は適用できないとした判断の誤りです。
 本件審決は,浚渫用のグラブバケットである引用発明1に,荷役用のグラブバケットに係る技術を適用することは,操縦者が対象物を目視できるために想定外の荷重がシェルにかかるおそれが少ない荷役用グラブバケットと,掴み物を目視できず,掴み物の種類や形状も安定しないため,荷役用と比較して,グラブバケットの強度を高く設定する必要がある浚渫用グラブバケットとでは,使用態様に基づいて要求される特性の相違から,当業者が容易に想到することができたものとはいえないとする。しかしながら,グラブバケットは,荷役用又は浚渫用のいずれの用途であっても,重量物を掬い取り,移動させる用途に用いられるものであるから,技術常識に照らし,ある程度の強度が必要となることは明らかであって,必要とされる強度は想定される対象物やその量,設計上の余裕(いわゆる安全係数)等によって定められる点において変わりはないものというべきである。確かに,浚渫用グラブバケットは,上記各観点に加えて,掴み物を目視できない点をも考慮した上で強度を高く設定する必要があることは否定できないが,ここでいう強度とは,想定される対象物(掴み物)に対してどの程度の強度上の余裕を確保すべきかという観点から決せられるべきものである。本件リーフレット(甲25)には,本件製品に関する照会の際には掴み物の種類や大きさを連絡することを求める旨の記載があり,荷役用グラブバケットにおいても,対象物に応じて強度を設定する必要があることは明らかである。したがって,荷役用のグラブバケットに係る技術を浚渫用のグラブバケットに適用する際には,浚渫用のグラブバケットにおいて特に考慮すべき強度上の余裕を確保することに支障を生ずるか否かについて,十分配慮する必要があるとしても,浚渫用グラブバケットの上記特性とは直接関連しない,対象物を掬い取って移動させるという両目的に共通する用途に係る技術について,一律に適用を否定することは相当ではない。
イ 本件構成1及び2の技術的意義等について
本件審決は,荷役用グラブバケットに係る本件構成1及び2を,浚渫用グラブバケットに係る引用発明1に適用することを否定する。しかしながら,前記1(4)アによると,本件発明は,シェルを爪無しの平底幅広構成とするとともに,本件構\成1及び2を採用することにより,従来の丸底爪付きグラブバケットと比較してバケット本体の実容量が大きく,かつ,掴み物の切取面積を大きくして掴みピッチ回数を下げることにより作業能率を高めるとともに水の含有量を減らし,しかも掘り後が溝状とならずにヘドロを完全に浚渫することが可能\となるという作用効果を実現したものであって,本件構成1及び2は,むしろバケットの本体の実容量及び掴み物の切取面積を大きくすることを実現するために採用された構\成であるということができる。また,証拠(甲25,甲32の3)によれば,本件リーフレットに記載された本件製品の図面及び主要寸法から,本件製品は本件構成1及び2を有するものと認められるところ,被告光栄は,荷役用グラブバケットである本件製品を,浚渫用グラブバケットとして実際に使用している状況を撮影した写真を本件広告に掲載した上で,本件製品の製品名(「グラブバケット(WS型)」)を明記していることが認められる。したがって,引用発明1に,引用例3が開示する本件構\成1及び2を適用することについて,動機付けが存在する一方,阻害事由を認めることはできない。

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平成24(行ケ)10414 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月17日 知的財産高等裁判所 

 進歩性違反なしとした審決が、甲1発明には動機付けが含有されているとして、取り消されました。
 上記下線部分,すなわち,有価証券情報の印字部外周に施された抜き型による加工はプリペイドカードを抜き取り可能とするためのものであるところ,これは,プリペイドカードが単に有価証券情報をカード購入者に通知するのみならず,利用者による携帯を予\\定しているため,有価証券情報が記載されているとともに有価証券情報を隠蔽してもいる折畳み対向紙片から分離させる必要があるために設けられたものと解される。すなわち,購入者に交付されるシートからプリペイドカードを分離して使用できるようにすることも,請求項1〜8にその構成が包含されているのみならず,考案の詳細な説明の段落【0010】,【0024】,【0026】,【0030】,【0031】,【0035】にその構\\成が独立して説明されている事項であり,甲1発明において技術的課題の一つとされていたというべきである。そうすると,甲1発明は,折畳み対向紙片の内側面に印字された部分が有価証券情報のように隠蔽される必要のないものであっても,折畳み対向紙片の内側面の一部分を独立して抜き取る(折畳み対向紙片から分離させる)必要性があれば,プリペイドカードに代えてかかる分離させる必要があるものを採用するについての動機付けを含有するものというべきである。かかる見地から見るに,広告の一部に返信用葉書を切取り可能に設けることは,本件出願前に既に周知の技術であったと認められる(特開2004−133065号公報〔甲3〕,特開平3−55272号公報〔甲16〕)。そして,広告の一部に返信用葉書を設ける場合,返信のために葉書部分を分離させる必要があることは明らかである。したがって,消費者等が受領したシートや紙面から分離して使用するものとして,甲1発明の「プリぺイドカード」に代えて「葉書」を採用することは当業者にとって容易想到であるというべきである。(4) 別の角度からみるに,返信用葉書を備え付けた郵便物であって,当該返信用葉書に受取人の個人情報(氏名・会員番号・生年月日・電話番号・性別・住所など),預金残高,借入金額などの隠蔽すべき情報が予め記載されたものも本件出願前において周知の技術であったと認められる(特開2000−177277号公報〔甲17〕,特開平2−108073号公報のマイクロフィルム〔甲19〕)。したがって,隠蔽されるべき情報が記載され,かつ,顧客等に送付ないし交付される郵便物や書面から分離して使用されるべきものとしてプリペイドカードと葉書は共通する一面を有しているといえるから,甲1発明の「プリぺイドカード」に代えて「葉書」を採用することは当業者にとって容易想到であるということもできる。いずれにせよ,この判断と異なり,甲1発明の「プリペイドカード」に代えて「葉書」を採用することは想到容易でないとし,甲1発明との間の相違点2,3に係る訂正発明1の構\\成は容易想到ではないとした審決の判断は誤りであり,これを前提とした訂正発明1,2についての容易想到性判断は誤りである。
(5) なお,審決は,「プリペイドカード」を筆記性が要求され,さらに大きさや厚さの基準が定められている「葉書」に代える動機が甲1発明には見出せないとした。しかし,筆記性や大きさや厚さといった基準の差異については,「分離して使用されるもの」の単なる物品特性上の相違にすぎない。また,甲1発明が,プリペイドカード付きシートが購入者によって受領された後はプリペイドカードを分離させることに意義があり,そこに技術的課題を見出したことからしても,「葉書」に筆記性が要求され,大きさや,厚さといった基準があるからといって,「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機がないということはできないというべきである。

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平成24(行ケ)10101 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月05日 知的財産高等裁判所 

 進歩性違反なしとした審決が維持されました。
 引用発明及び本件発明は,いずれも石灰等を使用した建築物等の被覆材料に関するものである点で技術分野を同一にしている。イ しかしながら,引用発明は,前記2(2)に説示のとおり,セメント又は石灰結合性建築物被覆材料の疎水性を向上させるために従前行われていた添加剤は大量の添加ができず,また,添加によって建築物被覆材料の加工性が極めて悪くなるという課題を解決するものであり,前記2(1)ウに記載のとおり,施工現場で加工することが想定されているものであるのに対し,本件発明は,前記1(2)に説示のとおり,漆喰の施工時に現場で漆喰を調整することにより一定した品質のものが得られず,また,着色漆喰塗膜に色むらが生じるという課題を解決するものであって,引用発明と本件発明とでは,解決すべき課題を大きく異にしているといえる。ウ また,引用発明は,前記2(1)ウ及び(2)に説示のとおり,石灰及び水等に加えて,「場合により多くの他の添加物質からなる」建築物被覆材料を混合する方法であって,引用例1に当該他の添加物質として列記されている顔料(酸化チタン等),プラスチック及び着色料等は,いずれもあくまでも石灰及び水等に対して「場合により」添加されるというものであるにすぎない。したがって,引用例1には,石灰及び水等に加えて,白色顔料,プラスチック及び着色顔料の全てを組み合わせて混合する方法については記載がなく,この点を示唆する記載も見当たらないというほかない。また,引用例1の実施例〔例1〕は,前記2(1)カに記載のとおり,石灰及び水等のほかに,白色顔料(二酸化チタン金紅石)及び結合剤(再分散可能なポリビニルアセテート−コポリマー粉末をベースとするエチレンビニルアセテート)等を含有するが,着色料(着色顔料)を含有していないものであって,本件発明1の方法から着色顔料を除いた全ての物質を配合する方法であるといえる。しかしながら,上記のとおり,引用例1には,石灰及び水等に加えて,白色顔料,プラスチック及び着色顔料の全てを組み合わせて混合する方法については記載も示唆もないから,上記実施例〔例1〕は,石灰及び水等に対して,上記の各物質が添加物質として選択された結果が記載されているにとどまり,当該実施例〔例1〕の記載があるからといって,それに加えて,更に着色顔料を添加することについての示唆があるものとはいえない。
エ 引用例2は,「酸化チタン〜物性と応用技術」と題する文献の抜粋であって,そこには,酸化チタン工業の歴史,酸化チタンが白色顔料として建物内外壁や建造物等の塗装等に用いられてきたこと,白色塗料としての酸化チタン顔料等と灰色塗料としてのカーボンブラックとを混合した場合の着色力及び隠蔽力を測定した結果等が記載されている。加えて,甲17は,「処理顔料」という名称の発明に係る公開特許公報(特開平9−183919号)であり,甲18は,「着色顔料組成物及びその製造方法」という名称の発明に係る公開特許公報(特開平5−59297号)であって,そこには,酸化チタンを他の無機の着色顔料等と混合して製造される顔料についての記載がある。甲19は,「塗料のおはなし」と題する文献(昭和61年2月24日刊行)であって,そこには,白色チタンとカーボンブラックとを混合して灰色の塗料を製造することなどが記載されている。甲20は,「これだけは知っておきたい 塗装工事の知識」と題する文献(昭和57年4月5日刊行)であって,そこには,二酸化チタンと無機の着色顔料を配合した顔料についての記載がある。以上によれば,白色顔料である酸化チタンに着色顔料を含有させることで着色塗料を製造することは,本件優先権主張日当時,当業者に周知の技術であったものと 認められる。他方,甲5は,「土壁・左官の仕事と技術」と題する文献(平成13年2月20日刊行)の抜粋であって,そこには,セメント又は漆喰に着色のために着色顔料を使用することが記載されている。また,甲10は,「無機質仕上げ材組成物及びそれを用いた工法」という名称の発明に係る公開特許公報(特開平7−196355号)であり,甲11は,「壁材及びその施工方法」という名称の発明に係る公開特許公報(特開2000−96799号)であるが,そこには,着色顔料等により着色された漆喰についての記載がある。以上に加えて,漆喰及び着色顔料がいずれも古くから使用されていること(甲6,13参照)を併せ考えると,漆喰に着色顔料を配合することで着色をすることも,本件優先権主張日当時,当業者に周知の技術であったものと認められる。しかしながら,引用例1には,前記ウに説示のとおり,石灰及び水等に加えて白色顔料及び着色顔料等の全てを組み合わせて混合する方法についての記載も示唆もないから,引用発明にこれらの各周知技術を適用する動機付けが見当たらないばかりか,上記の各周知技術は,それぞれ,塗料又は漆喰の調色のために白色顔料を配合し又は漆喰に着色顔料を配合するというものであって,このようにして着色された塗料又は漆喰に対して,当該各周知技術を相互に組み合わせることで,更に石灰(漆喰)又は白色顔料を配合し,引用発明と相俟って本件発明1の本件相違点に係る構成とすることについての示唆又は動機付けを有するものではない。
オ さらに,引用発明は,前記イに説示のとおり,施工現場で実施することが想 定されているものであって,建築物被覆材料が良好な加工性性質及び撥水性性質を 備えるという作用効果を有するものであるのに対し,本件発明は,前記1(2)に説示 のとおり,漆喰組成物を均一かつ安定に着色し,塗膜を形成した際に,色飛び又は 色飛びによる白色化や色むらが有意に抑制され(着色漆喰塗膜の色飛び抑制),重 ね塗りをした場合にも色差のほとんどない着色漆喰塗膜が形成できるという作用効 果を有するものであるから,本件発明の作用効果は,引用発明の作用効果とは異質 のものであって,引用発明から当業者が直ちに予測可能\なものとはいえない。

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平成23(行ケ)10443 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月11日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が「論理付けに欠ける」として取り消されました。
 ウ 上記記載によれば,甲2には,1)解決課題として,電線挿通孔dへの電線の挿通によって防水栓本体が外径変化,すなわち,径方向の外側に膨らみ,径方向の外側に位置するシール部位(b−e間)の密着性が低下すること,2)解決手段として,電線挿通孔dおよびシール部位の間に環状溝を介在させること,3)作用効果として,環状溝の内部空間によって防水栓本体の変形を吸収し,防水シール効果の低下を抑制すること,が開示されていると認められる。ところで,甲2の解決課題は,電線が挿通される電線挿通孔dと,テーパー面e及び嵌合壁bの間のシール部位とが,径方向の内外において対向していることから生じるものであって,両者が径方向に対向していない場合には,そもそも,電線の挿通によって防水栓本体の外径が変化しても,その影響はシール部位には及ばないから,同様の問題が生じないものである。そうすると,甲2から,「コネクタ用防水栓においてパッキン及び電線の密着とパッキン及びハウジングの密着が互いの影響を及ぼすことが望ましくないこと」が周知の事項と認められるとしても,それは,パッキン及び電線の密着部位と,パッキン及びハウジングの密着部位とが,径方向において対向している構造においては当てはまるものであるが,両者が径方向に対向していない構\造においては当てはまらないものである。
エ そこで,引用発明におけるパッキン及び電線の密着部位とパッキン及びハウジングの密着部位についてみると,審決が引用発明認定の根拠とした甲1の実施例の構造(甲1の図面参照)では,両者が径方向において対向しておらず,軸方向にずれていることが分かる。したがって,引用発明においては,電線の挿通による防水栓本体の外径変化の影響がシール部位に及ばない構\造となっており,審決が認定した「コネクタ用防水栓においてパッキン及び電線の密着とパッキン及びハウジングの密着が互いの影響を及ぼすことが望ましくないこと」との周知の事項が当てはまらないものである。また,引用発明において,第2のシール部の配設位置を後側に変更すると,参考図(別紙参照)の構成となるが,この構\成においては,リブ部は,第2のシール部の外周近傍から前方に向かって環状に突出しており,第1のシール部は,第2のシール部の中心近傍から前方に向かって延在している。そうすると,内側の第1のシール部と,外側のリブ部とは,径方向において対向するが,第1のシール部及びリブ部の間には環状のコネクタハウジングが介在することになる。したがって,この構成では,電線の挿通による影響が第2のシール部位に直接的には及ばないから,径方向の歪み(変形)の伝達を抑制するという点で,実質的に甲2と同様の構\成を備えることとなる。この場合,第1のシール部の外径に変化が生じても,環状のコネクタハウジングによってその変形が第2のシール部には伝達されず,リブ部の防水シール効果の低下が生じないことは明らかである。すなわち,仮想構成1を採用した段階で,甲2の解決手段のみならず,甲2の作用効果も同時に達成されることになる。そうすると,更にそこから仮想構\成2のように変更すること,すなわち,リブ部の突出方向を前方から後方に敢えて変更することについては,もはや動機づけが存在しないというべきである。ところが,審決は,「コネクタ用防水栓においてパッキン及び電線の密着とパッキン及びハウジングの密着が互いの影響を及ぼすことが望ましくないことは,例えば,実公昭58−29576号(判決注:甲2)(特に1ページ左欄34行〜右欄4行参照。)に記載されているように周知の事項である……」(9頁15行〜18行)と述べるにとどまり,当該周知の事項が甲2とは異なりパッキン及びハウジングの密着部位とが径方向に対向していない構造の引用発明においても該当することの根拠を全く示しておらず,リブ部の突出方向を前方から後方に敢えて変更すること,すなわち,仮想構\成2を適用することの論理づけを欠くものというほかない。

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平成24(行ケ)10073 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年11月14日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
 上記(2)エの記載からすると,液晶表示装置において,「基板表\面の凹凸」により液晶ディレクターの傾斜方角がばらつき,これにより,ディスクリネーションが発生することは周知の課題であると認められるところ,上記「基板表面の凹凸」として,薄膜トランジスタに起因する凹凸が含まれることは,当業者にとって自明である。これを引用発明についてみると,前記(1)イ(イ)のとおり,引用発明の層間絶縁膜は,「薄膜トランジスタに起因する凹凸を緩和するように,その表面が平坦化される平坦化絶縁膜」に相当するものではないから,薄膜トランジスタに起因する凹凸が生じていることは明らかであり(なお,被告も,引用発明の層間絶縁膜が本件発明1にいう「平坦化」したものでないことを争っていない。),引用発明においても,薄膜トランジスタに起因する凹凸により負の誘電率異方性を有する液晶の配向がばらつき,それによってディスクリネーションが発生するという課題を有しているものと認められる。そして,上記(2)オ及びカの記載からすると,一般の液晶表示装置技術において,薄膜トランジスタの段差に起因する凹凸を平坦化するために薄膜トランジスタを平坦化絶縁膜で覆うことは,液晶の配向性をより高めるものとなることが認められるから,画素電極が層間絶縁膜上に形成された平坦化絶縁膜上に形成されている上記周知の構\成においても,液晶の配光性が高まっているものと認められる。そうすると,引用発明において,薄膜トランジスタに起因する凹凸により負の誘電率異方性を有する液晶の配向がばらつき,それによってディスクリネーションが発生することを防止するために,液晶の配向性をより高めるための上記周知の構成を採用することには動機付けがあるといえる。
 (イ) また,薄膜トランジスタの半導体層とソース電極及びドレイン電極の接続構\造として,引用発明のように直接接続するか,上記周知の構成のように層間絶縁膜に開けられた開口を介して接続するかは,当業者が適宜選択し得る設計事項である。しかも,引用発明は,層間絶縁膜の厚さを少なくとも1μm以上にすることにより,表\示電極が薄膜トランジスタとその電極ラインから十分に離され,液晶の配向がこれらの電界の影響を受けて乱れることがなくなり,表\示電極エッジ及び配向制御窓により,配向制御が効果的に行われるという効果が得られるものであるから,引用発明における薄膜トランジスタの半導体層とソース電極及びドレイン電極の接続構\造として,上記周知の構成を採用すれば,電極ラインのうちゲートラインと表\示電極とが,層間絶縁膜の膜厚分だけさらに離されることとなる。したがって,引用発明については,上記のような引用発明の効果をより得るために,引用発明における薄膜トランジスタの半導体層とソース電極及びドレイン電極の接続構\造としても,上記周知の構成を採用することの動機付けもあるということができる。\n

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平成24(行ケ)10023 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月10日 知的財産高等裁判所

 相違点1の容易想到性について、進歩性なしとした審決が維持されました。原告代理人は、元知財高裁所長の塚原弁護士です。
ア カッター及び切断片の形状について
(ア) 前記2のとおり,引用発明は,マンホールの蓋体周囲の舗装面を整備したり,蓋体を新たなものと交換するような場合に用いられるマンホール補修部の構造に関するものであり,低廉な施工コストで短時間のうちに確実な補修が行える汎用性に富むマンホール補修部の構\造を提供するという目的に沿ったものであって,そのために,i)円形カッターを用いて,マンホール蓋体の中心を中心として,受枠の周囲を円形に切断して舗装を切断する工程と,ii)切断された舗装を蓋体の受枠ごとクレーンなどを用いて吊り上げ撤去する工程と,iii)マンホール上壁に接触させるように新たな受枠を再設置する工程と,iv)新たな受枠と舗装を受枠ごと撤去して形成される円形開口部との間に,路盤材として早強無収縮性モルタルを装填し,さらに,水溶性の常温硬化型アスファルト混合材料よりなる表層材を受枠の上面側と面一状となるように装填する材料充填工程とを備えるマンホール蓋枠取替え工法である。このように,引用発明は,マンホール蓋枠取替え工法であり,上記i)ii)の工程で,マンホール周囲の舗装を切断し,切断された舗装を受枠とともに一体に取り出せるものであって,切断片の取り出し除去作業を行うものである。ところで,一般に,この種の工事作業において,作業性の向上を図り,作業を容易にしようとすることは,安全性の確保や工費節減,工期短縮などと同様に,またそれらを達成するために,設計者や工事作業者,工事監督者を含む当業者において,当然に考えることであるから,引用発明のマンホール蓋枠取替え工法において,それぞれの工程の作業を容易にしようとする課題が存在しているということができる。また,引用発明の目的は,低廉な施工コストで短時間のうちに確実な補修を行うことであるところ(前記2(1)エ),作業を容易にしようとすることは,そのような目的に沿うものということができる。また,引用例1においても,直線切りカッターに代えて円切りカッターを採用することが記載されているように(前記2(1)ウ),関連する技術分野に置換可能な公知又は周知の技術手段があるときは,当業者であれば,その技術手段の転用を試みるものである。よって,路面の切断作業をする際に,カッターを公知又は周知の異なる種類のものに変更しようとすることも,当業者であれば容易に着想することができるものということができる。(イ) 前記(2)のとおり,引用例2に記載された路面用カッターは,マンホールの蓋の周囲に切り込みを入れることにも使用されるものであるところ,切り取った切断片が疑似扁平お椀形となり,取り出し除去作業が容易となる。また,引用例2には,切断部が垂直の場合は,切断面の接合性が悪く,補修部分が沈下又は陥没しやすいという問題点があること(前記(2)ア(イ)),断面円弧状のカッターを使用することにより,切断部が断面円弧状,切断面が球面状を呈するために,垂直切断面とは異なり,切断面の接合性が極めて良く新規に施工した部分が沈下したり陥没したり等の不都合な現象を防止することができること(前記(2)ア(オ))が記載されている。
(ウ) 上記(ア)(イ)によれば,引用発明において,切断片の取り出し除去作業を行うに際し,作業を容易にするという課題が示唆されているということができる。そして,上記課題を解決するため,引用例2に記載された回転円弧状又は球面状のカッターを採用し,当該カッターの切断刃を360°旋回させて切り込みを入れることにより,切り取った切断片が疑似扁平お椀形となり,取り出し除去作業が容易になるほか,切断部が垂直であることなどによって生じる新規施工部分の沈下や陥没の問題を解消することができる。すなわち,引用例2に記載されている新規施工部分が沈下や陥没を生じないという効果は,引用発明において,切断部が垂直であることなどによって生じる新規施工部分の沈下や陥没の問題を解消する等の課題を解決するものである。以上のことを踏まえると,引用発明において,切断片の取り出し除去作業を容易にし,切断部が垂直であることによる問題を解決する等の目的で,カッターとして引用例2に記載された回転円弧状又は球面状のカッターを採用する動機付けがあるということができる。

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平成24(行ケ)10129 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

   知財高裁は、無効理由無しとした審決を取り消しました。関連する侵害訴訟で104条の3で権利公使不能と判断されています。\n
 前記(イ)ないし(オ)を総合すれば,交通事故の発生前後の所定時間にわたって車両の挙動に係る情報を収集,記録すること,車両に設けられた加速度センサーが検出する加速度が所定の閾値を超えるか否かやエアバッグ作動信号の有無に代えて,車両の加速度等が所定の閾値を超えたか否かによって交通事故が発生したか否かを判定する程度の事柄は,本件優先日当時における車両の挙動に係る情報を収集,記録する装置の技術分野の当業者の周知技術にすぎないということができる。そして,訂正発明1,2にいう「特定挙動」は前記のとおり「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」であって交通事故の発生を前提とするものではない(交通事故が発生しない場合も含む)が,訂正明細書の段落【0030】,【0034】,【0050】,図2,3等の記載によれば,訂正発明1,2にあっても,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えたか否かによって「特定挙動」の有無が判定されるから,装置の機能の面に着目すれば,訂正発明1,2において「特定挙動」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構\成は,上記周知技術において「交通事故」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構成と実質的に異なるものではないということができる。加えて,上記周知技術と甲3発明とは,属する技術分野が共通し,前者を後者に適用するに当たって特段障害はないから,本件優先日当時,かかる適用を行うことにより,当業者が訂正発明1,2にいう「特定挙動」の発生前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集,記録する構\成に想到することは容易であるということができる。さらに,甲第4号証にも,車両内部のセンサから得られた横加速度等の情報から,運転に係る要因による異常又は異常に近い状況の発生の有無を認定し,かかる状況の発生前後の所定時間分の車両の挙動に関する情報を収集,記録する技術的事項が開示されているところ(前記(ア)),上記と同様に装置の機能面の共通性に着目すれば,上記の結論に至ることが可能\である。
エ 以上によれば,甲3発明に,「特定挙動」の発生前後の車両の挙動に係る情報を収集する条件を記録媒体に記録,設定する甲1発明と,「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明1の相違点に係る構成(「特定挙動」発生前後の車両の挙動に係る情報を所定時間分収集するための収集条件に適合する挙動の情報を記録媒体に記録,設定する構\成)に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。オ そして,審決がした甲3発明と訂正発明1の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明1は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明1に関して理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。
・・・
イ そうすると,甲第2号証には,自動車用イベント(事象)記録装置(ERA)において,コンピュータ装置及び着脱可能なRAMカード(20)を用いて,前方間隔,警告閾値や,自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータを設定する発明すなわちRAMカードに記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータをERAに適用する発明(甲2発明)が記載されているということができる。ここで,甲2発明は,車両の挙動に関する情報を収集,記録する装置に関するもので,甲3発明と技術分野が共通する。そして,コンピュータ装置に処理を実行させて,着脱可能\なRAMカード等の記録媒体に記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータを上記収集・記録装置に適用する程度の事柄であれば,甲2発明の技術的課題である事故分析に有用な情報を記録するブラックボックス的機能を有する,車両の挙動に係る情報の記録装置(甲第2号証の段落【0001】〜【0007】)とは不可分のものではなく,甲第1ないし3号証に接した当業者であれば,「スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予\め設定された基準値を基に自動判定し,また走行距離を用途別(私用,公用,通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供する」こと等を技術的課題とする甲3発明に,甲2発明を適用する動機付けがあると解して差し支えない。 ウ したがって,甲3発明に甲1発明,甲2発明と甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術(前記(1)ウ(カ))を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明2の相違点に係る構成に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。そして,審決がした甲3発明と訂正発明2の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明2は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明2に関しても理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。なお,無効理由4には甲第2号証が引用例として明示的に挙げられていないが,審決は,原告が審判請求で証拠として挙げたのに応じて,甲第2号証も引用例として取り上げており(20,21頁),本件訴訟で,当事者双方ともにこの審決判断を前提にして,審決の判断の誤りの有無を主張しているので,上記のように甲第2号証も引用例(副引用例)に加えて訂正発明2の上記相違点に係る判断に至ることができるというべきである。\n

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平成24(行ケ)10129 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

   知財高裁は、無効理由無しとした審決を取り消しました。関連する侵害訴訟で104条の3で権利公使不能と判断されています。
 前記(イ)ないし(オ)を総合すれば,交通事故の発生前後の所定時間にわたって車両の挙動に係る情報を収集,記録すること,車両に設けられた加速度センサーが検出する加速度が所定の閾値を超えるか否かやエアバッグ作動信号の有無に代えて,車両の加速度等が所定の閾値を超えたか否かによって交通事故が発生したか否かを判定する程度の事柄は,本件優先日当時における車両の挙動に係る情報を収集,記録する装置の技術分野の当業者の周知技術にすぎないということができる。そして,訂正発明1,2にいう「特定挙動」は前記のとおり「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」であって交通事故の発生を前提とするものではない(交通事故が発生しない場合も含む)が,訂正明細書の段落【0030】,【0034】,【0050】,図2,3等の記載によれば,訂正発明1,2にあっても,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えたか否かによって「特定挙動」の有無が判定されるから,装置の機能の面に着目すれば,訂正発明1,2において「特定挙動」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構\成は,上記周知技術において「交通事故」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構成と実質的に異なるものではないということができる。加えて,上記周知技術と甲3発明とは,属する技術分野が共通し,前者を後者に適用するに当たって特段障害はないから,本件優先日当時,かかる適用を行うことにより,当業者が訂正発明1,2にいう「特定挙動」の発生前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集,記録する構\成に想到することは容易であるということができる。さらに,甲第4号証にも,車両内部のセンサから得られた横加速度等の情報から,運転に係る要因による異常又は異常に近い状況の発生の有無を認定し,かかる状況の発生前後の所定時間分の車両の挙動に関する情報を収集,記録する技術的事項が開示されているところ(前記(ア)),上記と同様に装置の機能面の共通性に着目すれば,上記の結論に至ることが可能\である。
エ 以上によれば,甲3発明に,「特定挙動」の発生前後の車両の挙動に係る情報を収集する条件を記録媒体に記録,設定する甲1発明と,「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明1の相違点に係る構成(「特定挙動」発生前後の車両の挙動に係る情報を所定時間分収集するための収集条件に適合する挙動の情報を記録媒体に記録,設定する構\成)に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。オ そして,審決がした甲3発明と訂正発明1の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明1は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明1に関して理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。
・・・
イ そうすると,甲第2号証には,自動車用イベント(事象)記録装置(ERA)において,コンピュータ装置及び着脱可能なRAMカード(20)を用いて,前方間隔,警告閾値や,自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータを設定する発明すなわちRAMカードに記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータをERAに適用する発明(甲2発明)が記載されているということができる。ここで,甲2発明は,車両の挙動に関する情報を収集,記録する装置に関するもので,甲3発明と技術分野が共通する。そして,コンピュータ装置に処理を実行させて,着脱可能\なRAMカード等の記録媒体に記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータを上記収集・記録装置に適用する程度の事柄であれば,甲2発明の技術的課題である事故分析に有用な情報を記録するブラックボックス的機能を有する,車両の挙動に係る情報の記録装置(甲第2号証の段落【0001】〜【0007】)とは不可分のものではなく,甲第1ないし3号証に接した当業者であれば,「スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予\\め設定された基準値を基に自動判定し,また走行距離を用途別(私用,公用,通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供する」こと等を技術的課題とする甲3発明に,甲2発明を適用する動機付けがあると解して差し支えない。 ウ したがって,甲3発明に甲1発明,甲2発明と甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術(前記(1)ウ(カ))を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明2の相違点に係る構成に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。そして,審決がした甲3発明と訂正発明2の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明2は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明2に関しても理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。なお,無効理由4には甲第2号証が引用例として明示的に挙げられていないが,審決は,原告が審判請求で証拠として挙げたのに応じて,甲第2号証も引用例として取り上げており(20,21頁),本件訴訟で,当事者双方ともにこの審決判断を前提にして,審決の判断の誤りの有無を主張しているので,上記のように甲第2号証も引用例(副引用例)に加えて訂正発明2の上記相違点に係る判断に至ることができるというべきである。\n

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平成23(行ケ)10398 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月19日 知的財産高等裁判所

 進歩無しとした審決が、動機づけ無しとして取り消されました。
 本願発明は,「この管路にはオゾン発生装置が連結してあるエジェクターが設けてあり,前記圧力容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある」ものであるから,「エジェクター」と「噴霧装置」とを併用するものである。他方,引用発明は,接触反応器の構造が複雑で,しかも高価なエジェクターに替えて,エジェクターより接触反応器の構\造が簡単で安価なスプレーノズルを用いるものであるから,スプレーノズルは,エジェクターの代替手段である。そうすると,引用発明において,接触反応器の構造が複雑で,しかも高価なエジェクターを敢えて用いようとする動機付けがあるとはいえない。イ また,仮に,引用発明にエジェクターを適用する動機があるとしても,スプレーノズルがエジェクターの代替手段であるから,その場合は,引用発明におけるスプレーノズルに替えてエジェクターを適用することになるところ,引用発明には,本願発明のようにエジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することの示唆や動機付けがあるとはいえない。他に,水処理装置において,エジェクターと噴霧装置とを併用することについて,記載や示唆があるとは認められない。
ウ したがって,一般に,被処理水にガスを供給することについて,被処理水を供給する管路に「ガスが供給されるエジェクター」を設けることが,本件出願前周知の事項であったとしても,引用発明において,エジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することは,当業者にとって容易であるとはいえない。そして,本願発明は,エジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することによって,エジェクターでオゾンと被処理水を混合し,圧力容器内に気体オゾンを混合した被処理水を噴霧供給することで,圧力容器内の圧力を高圧にし,更に噴霧によってオゾンと被処理水の接触面積を大きくしてオゾンを被処理水に溶解させて有機汚染物を分解するものであり,それによって,オゾンが被処理水に効率よく溶解され,汚染水処理装置の処理能力が向上するという顕著な効果を奏するものである。
エ よって,相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは,引用発明及び本件出願前周知の事項に基づいて当業者であれば容易になし得るとした本件審決 の判断は,誤りである。

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平成23(行ケ)10301 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月26日 知的財産高等裁判所

 動機づけがないとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 引用発明1は,前記のとおり,創傷部周囲の皮膚に応力を加えることなく創傷部を塞ぐ創傷部癒合装置に係る発明であり,本件補正発明と同一の技術分野に属するものであって,創傷部に向かって上皮及び皮下組織の移動を促進するに十分な領域にわたって連続して負荷を加えることにより,創傷部の膿を排出させるという従来技術を前提として,創傷部の空気を吸引することにより創傷部が負圧となり,創傷部から流れ出る液のキャニスターへの排出が促進されることなどを目的とするものである。これに対し,引用発明2は,外傷を負った哺乳類の皮膚の治療に用いる多層創傷ドレッシングについて,創傷部に殺菌性の環境を与え,創傷表\面を湿潤状態に保つ一方で,創傷滲出物を速やかに吸収するほか,創傷の治癒を極力邪魔しないようにし,かつ,引き剥がすのが容易で,その際,皮膚に傷を残すことがないようにすることを目的とするものであり,そのために,体内の創傷治癒因子あるいは創傷接触層に含まれる高分子成分の通過を防止しながら,創傷からの液体滲出物を中間吸収層に迅速に除去し,また,組織細胞が中に入り込むのを防止するものである。引用発明2は,上記目的,すなわち,体内の創傷治癒因子あるいは創傷接触層に含まれる高分子成分の通過を防止しながら,創傷からの液体滲出物を中間吸収層に迅速に除去し,また,組織細胞が中に入り込むのを防止するために,孔径の大きさを設定したものであって,本件補正発明や引用発明1のように,創傷部から体液を積極的に真空吸引して真空キャニスターに収集するとともに,創傷部に負圧による修復作用をもたらすため,創傷部に連続的な負圧を加えることを前提として孔径の大きさを設定したものではない。そうすると,引用発明1には,多孔性パッドの外側表面部の孔群について,同発明とは目的及び機序が異なる引用発明2の孔径を適用することに関し,そもそも動機付けが存在しないものというほかない。\n

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平成23(行ケ)10320 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月27日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、動機づけ無し、阻害要因有りとして、取り消されました。
 審決は,相違点1に関して,引用発明において,本願発明のように,メモリにアクセスするアドレスを含む命令ポインタを,全て命令トレースコントローラに送っておき,不連続なアドレスを示す制御信号により命令トレースコントローラによって選択するようにすることは当業者が容易になし得たことであると認定,判断する。しかし,審決の上記認定,判断には,誤りがある。・・・そもそも,引用発明は,上記のとおり,分岐先アドレスを出力することで,出力される実行情報の量を抑制することを目的とするものであるから,引用発明において,この目的を達成することが可能なアドレス計算部の出力する分岐先アドレスを用いるのに代えて,実行する命令のアドレス全てを出力するとの構\成に至る動機付けがない。むしろ,引用文献1の上記記載によれば,引用発明は,内蔵キャッシュがヒットしている場合,命令の実行状況がマイクロプロセッサのアドレスバスやデータバスに出力されない構成である上,常にマイクロプロセッサの実行情報をプロセッサの外部に出力することは,バスの競合が発生し,マイクロプロセッサの性能\の低下を招くとの認識を前提としており,引用発明において,実行する命令のアドレス全てを出力するように構成することには,阻害事由があるといえる(なお,本願発明は,命令ポインタレジスタから出力され,CPUによって実行されるアドレス(命令ポインタ)のうち,命令トレースに必要な不連続アドレス(分岐先アドレス)のみを,アドレスの不連続を示す制御信号を用いて抽出するものである。これに対し,引用発明においては,命令実行部がアドレス計算部を備え,分岐先アドレスを計算して出力するが,分岐が発生しない場合には,命令プリフェッチ部10において,次サイクルにおいて実行する命令のアドレスが計算され,命令キャッシュ内にある命令が読み出されるものであって,アドレス計算部から出力されるのは,不連続な分岐先アドレスのみであり,CPUによって実行される命令のアドレス全てを出力するものではないから,引用発明におけるアドレス計算部は,本願発明における命令ポインタレジスタに対応するものともいえない。)。これに対し,審決は,本願発明において,制御信号によって不連続であることが通知されたアドレス以外は,命令トレースコントローラで何ら使用されることなく,捨てられるだけであり,全ての命令ポインタを命令トレースコントローラに送ることによって格別の効果を生ずるものではないとして,相違点1は格別のものではないと認定,判断するが,不連続でないアドレスが利用されないからといって,引用発明から本願発明を容易に想到できたとはいえない。以上によれば,引用発明において,本願発明のように,メモリにアクセスするアドレスを含む命令ポインタを,全て命令トレースコントローラに送っておき,不連続なアドレスを示す制御信号により命令トレースコントローラによって選択するようにすることは当業者が容易になし得たことであるとの審決の認定,判断には,誤りがある。\n

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平成23(行ケ)10335 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月12日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。得異な効果も発明の構成に基づくものではないとして採用されませんでした。
 原告は,相違点3及び4は,相互に密接に関連しており,それらを組み合わせた効果も相乗的なものであるから,これを分断して判断したことは,進歩性判断の誤った手法によるものであると主張する。相違点3は,本願発明の走査方法が点順次走査であることに関し,相違点4は,点順次走査を前提とした上で,標本化定理を尊重した検出周波数の選定に関するものであることから,両者は,点順次走査という点で一定の関連性を有するものである。しかしながら,標本化定理は,本来,画像の復元性の保証という観点から走査方法の如何を問わず考慮されるべき基本的事項であって,走査方法とは技術的観点が異なるから,相違点3及び4を別々に判断したとしても,誤りがあるとはいえない。また,本件審決は,相違点4の判断において,相違点3及び4をあわせ,全体として総合的に効果の点も含めて,容易想到性を判断したのであるから,原告の上記主張には理由がない。
 イ 原告は,本願発明の特徴は,リアルタイムで「高品質」の画像形成を可能にするために,「解像度」と「フレーム・レート(リアルタイム)」と「感度」という互いに相反する3つのパラメータの間に適切なバランスを新たに提供するものであると主張する。本願発明は,本願明細書に記載されたとおり,「リアルタイム表\示」すると同時に「画像の品質を最適化」,特に「高解像度化」することを目的とし,その目的を達成するために,本願発明の構成を採用し,特定したものである。しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,リアルタイムで「高品質」の画像形成を可能\にするための「解像度」と「フレームレート(リアルタイム)」と「感度」の間の適切なバランスを特定することについても,リアルタイム性を表す「フレームレート」,画像の品質を表\す「解像度」及び「サンプリング周波数」が具体的な高い値として得られることについても,何ら特定されてはいない。本願発明は,「数千本の光ファイバ」及び「リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度」という発明特定事項を有するものの,上記発明特定事項だけからでは,従来実現していなかった,あるいは,従来知られていなかった,「解像度」と「フレーム・レート(リアルタイム)」と「感度」の組合せが実現できる発明が特定されているとはいえない。そうすると,原告の上記主張は,特許請求の範囲に基づくものではなく,失当である。

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平成23(行ケ)10374 審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成24年08月09日 知的財産高等裁判所 

 進歩性なしとした審決が取り消されました。
 引用発明と甲2文献記載の発明の技術分野,技術内容を対比,検討すると,両発明は,いずれも,風力発電で発生した電力が配電網(電力系統1)に供給される場合に,マイクロコンピュータ(制御装置7)が,周波数変換器(インバータ)を制御することにより,配電網(電力系統1)の電圧の変動を制御しようとするものである。また,電圧調整用のパラメータとして,引用発明ではマイクロコンピュータに力率が入力され,甲2文献記載の発明では制御装置7に無効電力値が入力されており,無効電力が制御の対象とされている。したがって,引用発明と甲2文献記載の発明とは,解決課題において共通する。
(ウ) 他方,審決が認定した常套手段2は,「電力系統の電圧制御や無効電力の制御を行う技術分野において不感帯を設ける」というものであり,その具体的な制御方法等は,何ら開示がない。また,甲4文献に記載されている不感帯域は,系統母線電圧と無効電力について,目標値V0 ・Q0 の周囲に予め決められた不感帯域を設定し,負荷時タップ切換変圧器LR,電力用コンデンサCs,あるいは分路リアクトルSRの制御を行うことにより,系統母線電圧と無効電力を上記不感帯域に収めるものである(段落【0007】【0009】)。したがって,甲4文献記載の事項がいかに技術常識であったとしても,当業者が,甲4文献記載の事項を適用することにより,本願発明における引用発明との相違点2に係る構\成,すなわち「(マイクロコントローラが電圧測値および所定のパラメータの値に基づいて,インバータを制御するステップと,を有し,前記電圧測値の変動を制御するよう,インバータを制御する,方法において,本願発明では,マイクロコントローラが電圧測値および所定のパラメータの値に基づいて,「目標位相角を導出し,インバータを制御して位相角φを該目標位相角に設定するステップ」と,前記マイクロコントローラが前記インバータを制御するステップと,を有し,前記インバータを制御するステップは,)前記電圧測値が下方参照電圧Uminと上方参照電圧Umaxとの間に含まれる場合は,前記位相角φの大きさが一定に保たれるよう前記インバータを制御するサブステップと,前記電圧測値が前記上方参照電圧Umaxを上回る場合には,前記電圧測値のさらなる増大に応じて前記位相角φが大きくなるように,又は,前記電圧測値が前記下方参照電圧Uminを下回る場合には,前記電圧測値の減少に応じて前記位相角φが小さくなるように,前記電圧測値が所定の参照電圧を示すようになるまで前記電気ネットワークへ誘導性または容量性の無効電力が供給されるよう,前記インバータ(18)を制御するサブステップと,を含む」との構成に,容易に想到すると解することはできない。
 この点につき,被告は,本訴において新たに,特開平3−122705号公報(乙2)及び特開平10−191570号公報(乙3)を提出する。そして,乙2には,電圧調整器を線路上に設けた系統に設置する静止形無効電力補償装置において,制御目標電圧と交流系統電圧の偏差信号に不感帯を設けることが,乙3には,発電設備と系統電源とを連系し,電圧変動基準により無効電力の制御を行う系統連系システムにおいて,検出した電圧変動量から電圧変動基準を演算して出力する関数回路において,電圧変動が一定値以内では感知しない不感帯を設けることが,それぞれ記載されており,乙2及び乙3には,「ある値(X)が下方参照値と上方参照値との間に含まれる場合は対応する信号(Y)の大きさが一定に保たれるように制御するサブステップと,前記ある値(X)が前記上方参照値を上回る場合には,前記ある値(X)のさらなる増大に応じて前記対応する信号(Y)が大きくなるように,又は前記ある値(X)が前記下方参照値を下回る場合には,前記ある値(X)の減少に応じて前記対応する信号(Y)が小さくなるように制御するサブステップを有する」不感帯を設ける制御が記載されている。しかし,上記の不感帯における制御に関する審理,判断が一切されていない,審判手続の審理経緯に照らすならば,本訴訟に至って,上記証拠(乙2,乙3)を考慮に入れた上で,相違点2に係る構成の容易想到性の有無の判断をすることは,相当とはいえない。\n

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平成23(行ケ)10297 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年07月11日 知的財産高等裁判所 

 進歩性なしとした審決が維持されました。
 以上の記載に照らせば,本件出願時の技術常識として,シアノアクリレートやポリウレタン等の水反応型接着剤が知られており,電気カーペット等の面状採暖具の接着用途のみならず,卓球ボール,ソフトテニスボール,ゴルフボールなどの球技用ボールの接着用途も含めて,一般的に用いられる,すなわち,汎用性を有するものと認められる。そうすると,引用発明2において,水反応型接着剤の一つである「反応型ホットメルト樹脂」が,IDカードやICカードの接着用途に特化されたものであるとはいえず,一般的な接着剤と同様,他の用途にも適用可能\な汎用性を有するものというべきである。甲3,4についても同様であり,甲3,4の水反応型接着剤が,電気カーペット等の面状採暖具の接着用途に特化されたものであるとはいえず,それ自体は,一般的な接着剤と同様,他の用途にも適用可能な汎用性を有するものというべきである。このような水反応型接着剤の汎用性に照らせば,引用発明1のメルトン貼\りボールの接着用途として,水反応型接着剤を適用することは,単なる設計的事項にすぎず,動機づけを否定することができない。そうである以上,引用発明2,周知技術及び自明な事項1〜3を引用発明1に適用することに格別の困難性は認められない。原告は,審決が加圧接着剤による接着方法が水反応型接着剤による接着方法に劣ると認定したことは誤りであると主張する。しかし,特開昭63−189486号公報(乙6)には,感圧型接着剤は硬化に時間がかかり,強固に接着できないことが記載されている(1頁左下欄下から2行〜右下欄8行)。また,特開昭62−91576号公報(乙7)には,感圧型接着剤は,被接着面が湿気を帯びているときには粘着性が十分発揮されず,接着を試みても必要な接着強度を得ることが不可能\なものであることが,記載されている(1頁左下欄下から3行〜右下欄4行)。これらの記載に照らせば,感圧接着剤の接着強度が弱いことは,本件出願時の技術常識であるものと認められる。また他方で,上記水反応型接着剤の汎用性に照らせば,引用発明1のメルトン貼りボールの接着用途として水反応型接着剤を適用することは設計的事項であるから,仮に加圧接着剤による接着方法が水反応型接着剤による接着方法に劣るか否かは別として,水反応型接着剤を選択することを困難にするものではない。いずれにしても,原告の主張をもって審決の判断を誤りとすることはできない。\n

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平成23(行ケ)10284 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年06月06日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。
,甲第2号証には,「水産加工廃棄物等の被処理物(A)を走行散布ホッパー(10)により第2図示の如く発酵槽(1)の略全長に亘り堆積する。・・・これらフォーク(6)・・・(6)の先端爪部(6c)・・・(6c)により被処理物(A)をその全体に亘り攪拌する。」(5頁15行〜6頁7行)と記載されているのみで,台車を所望の位置に動かして,所望の範囲(領域)で撹拌動作を指定した頻度(回数)で行うことで,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することは記載されていない。また,甲第3号証にも,従来の撹拌機につき「第1図に示す攪拌機は,・・・堆積された畜糞を撹拌しつつ一方に向かつて搬送するものである。」(2頁4行〜9行)と記載され,被処理物を撹拌しながら他方に向かって送り出すことが開示されているのみで,台車を所望の位置に動かして,所望の範囲(領域)で撹拌動作を指定した頻度(回数)で行うことで,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することは記載されていない。他方,前記のとおり,引用発明が解決しようとする課題は,発酵槽内を複数の領域に概念的,論理的に区切り,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理する点にあり(甲1の2頁左下欄10〜16行),引用発明の撹拌機も,下記第1図のとおり,発酵槽(1)内からいったん移動通路(15)上に移動させた後,移動通路上を発酵槽の長尺方向に沿って他の領域の前(開口部側)まで移動させ,再度発酵槽内に移動させることによって,上記の領域ごとの被処理物の撹拌頻度の管理を可能にするものである。【引用刊行物(甲1)の第1図】したがって,引用発明においては,撹拌機の構\成と移動通路とは機能的に結び付いているものである。そうすると,引用発明の発酵処理装置の構\成から移動通路(15)を省略し,かつ奥行き方向に往復して撹拌する撹拌機の構成を長尺方向にのみ往復移動しながら撹拌動作する甲第2,第3号証から認められる周知技術に係る撹拌機の構\成に改め,同時に概念的,論理的に複数に区切られた発酵槽内の領域を,発酵槽開口部の所望の個所から被処理物の投入・堆積・取出しを行うことができるようにするべく,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することができるようにすることは,甲第2,第3号証に表れる構\成が当業者に周知のものであるとしても,本件出願当時,当業者において容易ではあったと認めることはできない。したがって,これと異なる「引用発明において採用する撹拌方式に替え,上記周知の撹拌方式を採用することで本件発明1における発明特定事項に想到することは,当業者であれば容易になしうるところである。」との審決の判断(8頁)は誤りである。

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平成23(行ケ)10208 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月31日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、引用文献には開示または示唆がないとして、取り消されました。
これに対し,被告は,引用発明において,複数のインク層を前のインクが乾燥してから印刷する必然性はない,引用発明がウェットトラップを利用しないものとはいえないなどと主張する。しかし,被告の主張は採用できない。すなわち,引用例において,インクが未乾燥の状態でガイドローラと接触するとの記載はない。仮に,被印刷体を移送するローラが乾燥していないインクを有する印刷面に接触する技術が周知であったとしても,そのことから直ちに,引用例においてウェットトラップ印刷法を採用すること,同印刷法を採用した場合に生じ得る解決課題及び解決方法が記載,示唆されていると解することはできない。また,仮に,ウェットトラップ印刷法が,本願優先日前における技術常識であったとしても,上記アのとおり,引用発明においては,インクを重ね刷りすることを前提としておらず,重ね刷りによる解決課題(色の汚濁の防止,印刷時間の長期化の防止等)を目的としたものではないから,引用発明からウェットトラップ印刷法を採用する動機付けは生じない。

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平成23(行ケ)10181 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月11日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。
 この点について,原告らは,本願発明は,ヒートポンプのエネルギー発生の観点では効率が悪いとされる部分沸き上げ方式をあえて採用したものであり,全部沸き上げ方式を採用する引用発明1及び2に基づいて,当業者が容易に想到し得るものではない,引用発明2に引用発明1を組み合わせたとしても,太陽熱集熱器で得られる集熱熱量に応じて低温の(高温ではない)湯の量を制御することはできない,蓄熱運転終了時に貯湯タンクの上方に貯湯される湯と下方に存在する湯との間に温度差が生じるようにして沸き上げ,かつ,上方に貯湯される高温の湯の量が,太陽熱集熱器で得られる集熱熱量に応じて変化するように蓄熱運転の制御を行うことは,引用例1及び2には全く示唆されていない,仮に,深夜時間帯に部分沸き上げ方式を採用することが公知であるとしても,部分沸き上げ方式が構造的に不可能\な引用発明2に,全部沸き上げ方式を採用している引用発明1を組み合わせる動機付けを認めることはできないなどと主張する。しかしながら,部分沸き上げ方式が本件出願前の技術常識であり,仮に引用発明1が同方式とは異なる沸き上げ方式を採用するものであったとしても,当該技術常識を採用すること自体は,設計的事項にすぎないことは,先に述べたとおりである。
 また,引用発明1の「ヒートポンプ」と,引用発明2の「電気ヒータ」とは,「貯湯式給湯装置」において「太陽熱集熱器」とともに給湯用水を加熱し,沸き上げるとともに,「制御手段」により制御される「加熱手段」という同一の技術分野に属するものである。そして,相違点2は,給湯用必要熱量から太陽熱集熱器で得られる集熱熱量を減じた「必要沸き上げ熱量」に応じてヒートポンプユニットを蓄熱運転する「制御手段」の有無に係る相違点であるから,必要とされる熱量を蓄えるための制御方法については,全部沸き上げ方式であるか,あるいは部分沸き上げ方式であるかを問わず,いずれにおいても適用可能であることは明らかである。しかも,引用例2には,太陽熱と電気ヒータとを併用して貯湯する装置において,可能\な限り太陽熱を利用することにより,電気料金を必要とする電気ヒータの利用を抑制するという技術思想が開示されている以上,当業者が引用発明1に引用発明2を適用する動機付けも認められるものというべきである。

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平成22(ワ)30777 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年03月29日 東京地方裁判所

 実験する条件について動機づけがあるので進歩性なしとして、非侵害と認定されました。
 乙7には,「WB法より簡便かつ高感度な方法の確立を目的として,ELISA法について検討」した結果の報告である旨の記載があるが(前記(1)ア(ア)),遠心分離処理条件の検討がされた旨の記載はない。乙7記載の方法を更に簡便とするため,目的とする物質の遠心分離が達成できる範囲で遠心分離処理条件を変更し,その検出結果を検討することは,当業者が当然試みることといえる。そして,乙7及び乙9は,ELISA法に用いてPrPScを検出する試料の調製法に係る文献である点で,その技術分野を共通にするところ,乙7には,「脳又は脾臓」から試料を調製する場合に,両者を区別せずに「69,000×g」で遠心すると記載されているのに対し,乙9には,脾臓,リンパ節等については,遠心を40,000回転とする一方で,脳の場合には15,000回転とされていること(前記イ(ア)d)に照らすならば,乙7及び乙9に接した当業者であれば,乙7記載の方法において,「脳」(脳組織)から試料を調製する場合に,「69,000×g」の遠心分離処理条件に代えて,乙9記載の「毎分1万5000回転」の遠心分離処理条件(相違点に係る本件発明の構成)を適用することを容易に想到し得たものと認められる。
 (イ) これに対し原告は,界面活性剤の種類,分析対象組織の種類,適用される遠心分離の方法,洗浄,再沈殿などの精製工程の有無は,結果に大きく影響するところ,乙7及び乙9を検討すると,超遠心分離の適用が原則であること,乙7では,Zwittergentとサーコシルの組合せよりも,トリトンX−100とサーコシルの組合せの方が