H15. 5.30 東京高裁 平成14(行ケ)619 特許権 行政訴訟事件

平成14年(行ケ)第619号 特許取消決定取消請求事件(平成15年5月19日口頭弁論終結)
          判        決
       原      告   アイティーティー・マニュファクチャリング・
                                   エンタープライジズ・インコーポレーテッド
       訴訟代理人弁理士   鈴 江 武 彦
             同                    橋 本 良 郎
             同          中 村   誠
             同          峰   隆 司
       被      告   特許庁長官 太田信一郎

       指定代理人      船 越 巧 子
       同          杉 原   進
             同          高 木   進
             同          宮 川 久 成
             同          伊 藤 三 男
          主        文
          特許庁が異議2001−70106号事件について平成14年7月29日にした決定のうち,「特許第3063857号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
    原告は,名称を「炭化水素流体用の静電荷散逸多層チューブ」とする特許第3063857号発明(平成7年4月20日出願〔優先権主張日・1994年4月28日・米国〕,平成12年5月12日設定登録,以下,この特許を「本件特許」といい,その特許発明を「本件発明」という。)の特許権者である。

    その後,本件特許につき特許異議の申立てがされ,同申立ては,異議2001−70106号事件として特許庁に係属した。原告は,上記事件の審理中,平成14年5月28日,本件特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項2,6,12及び14ないし16を削除し,これに従い,請求項3ないし5,7ないし11及び13の各項番号を繰り上げた上,特許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
    特許庁は,上記事件につき審理した結果,同年7月29日,「訂正を認める。特許第3063857号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。同請求項4ないし10に係る特許を維持する。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同年8月14日,原告に送達された。

 2 本件訂正前における本件明細書の特許請求の範囲の請求項1,3及び4の記載(なお,本件訂正に伴い,本件訂正前の請求項3及び4は,本件訂正後の請求項2及び3に相当する。)
   【請求項1】自動車システムに接続されて炭化水素を含有する流体を取扱う長い多層チューブであって,
     半径方向の最内側に配置され,炭化水素を含有する流体に長期にわたって晒すことが可能な内面と,この内面から所定の第1半径方向厚さで離隔した外面とを有し,ナイロン11と,ナイロン12と,ナイロン6と,熱可塑性エラストマーと,これらの混合物とからなるグループから選択される押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂からなる第1層と,
     最大でもこの第1層の厚さに等しい所定の第2半径方向厚さを有する第2層とを備え,この第2層は,第1層に均一に結合され,この第1層に十分永久的に積層接着してこの多層チューブの所要の使用寿命にわたって積層分離を防止する押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂からなり,これらの第1層と第2層との少なくとも一方が,炭化水素の透過を防止するための耐性を有し,更に,

     第1層よりも大きな所定の第3半径方向厚さを有し,第2層に均一に結合される第3層を備え,この第3層は,この第2層に十分永久的に積層接着してこの多層チューブの所要の使用寿命にわたって積層分離を防止する押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂からなり,
     この多層チューブの少なくとも1の層が,静電エネルギを散逸可能であり,
     前記第2層は,4よりも少ない炭素原子を有するアルケンおよびビニルアルコールの共重合物と,4よりも少ない炭素原子を有するアルケンおよびビニルアセテートの共重合体と,これらの混合物とからなるグループから選択された押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂を主要構成物として含む,多層チューブ。
   【請求項3】更に,第3層を覆うジャケットを形成する第4層を備え,このジャケットは,ナイロン11と,ナイロン12と,塩化亜鉛耐性のナイロン6と,ポリエーテルブロックアミドと,熱可塑性エラストマーと,これらの混合物とからなるグループから選択された熱可塑性ゴムからなる材料を備える請求項1に記載の多層チューブ。

   【請求項4】少なくとも1の層は,ほぼ10から10ohm/cmの範囲で静電荷を散逸可能である請求項1に記載の多層チューブ。
 3 本件訂正に係る本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載(訂正部分を下線で示す。)
   【請求項1】自動車システムに接続されて炭化水素を含有する流体を取扱う長い多層チューブであって,
     半径方向の最内側に配置され,炭化水素を含有する流体に長期にわたって晒すことが可能な内面と,この内面から所定の第1半径方向厚さで離隔した外面とを有し,ナイロン11と,ナイロン12と,ナイロン6と,熱可塑性エラストマーと,これらの混合物とからなるグループから選択される押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂からなる第1層と,
     最大でもこの第1層の厚さに等しい所定の第2半径方向厚さを有する第2層とを備え,この第2層は,第1層に均一に結合され,この第1層に十分永久的に積層接着してこの多層チューブの所要の使用寿命にわたって積層分離を防止する押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂からなり,これらの第1層と第2層との少なくとも一方が,炭化水素の透過を防止するための耐性を有し,更に,

     第1層よりも大きな所定の第3半径方向厚さを有し,第2層に均一に結合される第3層を備え,この第3層は,この第2層に十分永久的に積層接着してこの多層チューブの所要の使用寿命にわたって積層分離を防止する押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂からなり,この押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂は,ナイロン11と,ナイロン12と,塩化亜鉛耐性のナイロン6と,熱可塑性エラストマーとの少なくとも1つであり,
     この多層チューブの少なくとも1の層が,静電エネルギを散逸可能であり,
     前記第2層は,
少なくとも,4よりも少ない炭素原子を有するアルケンおよびビニルアセテートの共重合体を包含する押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂を主要構成物として含む,多層チューブ。
   【請求項
】更に,第3層を覆うジャケットを形成する第4層を備え,このジャケットは,ナイロン11と,ナイロン12と,塩化亜鉛耐性のナイロン6と,ポリエーテルブロックアミドと,熱可塑性エラストマーと,これらの混合物とからなるグループから選択された熱可塑性ゴムからなる材料を備える請求項1に記載の多層チューブ。
   【請求項】少なくとも1の層は,ほぼ10から10ohm/cmの範囲で静電荷を散逸可能である請求項1に記載の多層チューブ。
   (以下,請求項1〜3に係る発明を「本件発明1〜3」という。)
 4 本件決定の理由
    本件決定は,本件訂正を認めた上,本件発明1〜3の要旨を下記のとおり認定し(下線部分は,前記第2の3と食い違う部分である。),その上で,本件発明1〜3は,特開昭61−248739号公報に記載された発明,並びに特開平4−248089号公報,特開平6−23930号公報及び特開平5−245989号公報に記載されたような周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,本件発明1〜3に係る特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから,特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条1項及び2項の規定により取り消されるべきであるとした。

   【請求項1】自動車システムに接続されて炭化水素を含有する流体を取扱う長い多層チューブであって,
     半径方向の最内側に配置され,炭化水素を含有する流体に長期にわたって晒すことが可能な内面と,この内面から所定の第1半径方向厚さで離隔した外面とを有し,ナイロン11と,ナイロン12と,ナイロン6と,熱可塑性エラストマーと,これらの混合物とからなるグループから選択される押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂からなる第1層と,
     最大でもこの第1層の厚さに等しい所定の第2半径方向厚さを有する第2層とを備え,この第2層は,第1層に均一に結合され,この第1層に十分永久的に積層接着してこの多層チューブの所要の使用寿命にわたって積層分離を防止する押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂からなり,これらの第1層と第2層との少なくとも一方が,炭化水素の透過を防止するための耐性を有し,更に,

     第1層よりも大きな所定の第3半径方向厚さを有し,第2層に均一に結合される第3層を備え,この第3層は,この第2層に十分永久的に積層接着してこの多層チューブの所要の使用寿命にわたって積層分離を防止する押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂からなり,この押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂は,ナイロン11と,ナイロン12と,塩化亜鉛耐性のナイロン6と,熱可塑性エラストマーとの少くとも1つであり,
     この多層チューブの少なくとも1の層が,静電エネルギを散逸可能であり,
     前記第2層は,少くとも,4よりも少ない炭素原子を有するアルケンおよび
ビニルアルコールの共重合体を包含する押出し可能で溶融加工可能な熱可塑性樹脂を主要構成物として含む,多層チューブ。
   【請求項2】更に,第3層を覆うジャケットを形成する第4層を備え,このジャケットは,ナイロン11と,ナイロン12と,塩化亜鉛耐性のナイロン6と,ポリエーテルブロックアミドと,熱可塑性エラストマーと,これらの混合物とからなるグループから選択された熱可塑性ゴムからなる材料を備える請求項1に記載の多層チューブ。

   【請求項3】少なくとも1の層は,ほぼ10から10ohm/cmの範囲で静電荷を散逸可能である請求項1に記載の多層チューブ。
第3 原告主張の審決取消事由
    本件決定は,本件発明1〜3の要旨を,上記第2の3のとおり認定すべきところ,上記第2の4記載のとおり,誤って,「ビニルアセテート」と認定すべき個所を「ビニルアルコール」と認定したものである。そして,この瑕疵は本件決定の結論に影響を及ぼすものであるから,本件決定は違法として取り消されるべきである。
第4 被告の主張
    本件決定における本件発明1〜3の要旨の認定に,原告主張の事実誤認があるとの点は争わない。
第5 当裁判所の判断
    本件決定における本件発明1〜3の要旨の認定に原告主張の事実誤認があるとの点は当事者間に争いがなく,上記事実誤認が,本件決定のうち,本件発明1〜3に係る特許を取り消すべきものとした部分の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,当該部分は,瑕疵があるものとして取消しを免れない。

    よって,原告の請求は理由があるから認容し,主文のとおり判決する。

     東京高等裁判所第13民事部

         裁判長裁判官     篠  原  勝  美

                   裁判官     長  沢  幸  男

                   裁判官     早  田  尚  貴