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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

新規性・進歩性

令和5(行ケ)10054  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年2月13日  知的財産高等裁判所

一致点・相違点の認定に誤りがあるものの、動機付けなしとの審決が維持されました。

カ 甲8発明と本件発明1との相違点として本件審決が認定したもの(前記 第2の4(2)ア(イ))のうち、甲8相違点2は、前記エの説示によれば、甲8 発明と本件発明1との相違点となるとは認められない。 また、甲8相違点3は、甲8発明における台車用安全カバー及び本件発 明1における保護部材の用途を特定する物としての手押部材の違いを述 べるものであって、甲8発明における台車用安全カバーと本件発明1にお ける保護部材との相違点とはいえない。したがって、甲8発明と本件発明 1との相違点は、甲8相違点1及び取付位置に係る相違点のみであると認 められる。
キ 前記第2の2(3)のとおり、1)本件発明2は、本件発明1の構成要件1A\nないし1Fを全て含み、2)本件発明3は、本件発明1の構成要件のうち、\n1Eを「前記保護部は、円板状である。」(構成要件2E)に変更したもの\nであり、3)本件発明4ないし7は、本件発明1の構成要件1Aないし1F\nを全て含むか、又は本件発明3の構成要件1Aないし1D、2E及び1F\nを全て含むものである。
そうすると、本件発明2ないし7は、いずれも、甲8発明との関係で、 甲8相違点1及び取付位置に係る相違点があると認めることができる。
ク 以上のとおり、甲8発明と本件各発明との一致点及び相違点に係る本件 審決の判断には相当でない部分があるものの、これによって直ちに本件審 決の判断が違法となることはなく、甲8相違点1を前提に、当業者が、本 件優先日の技術水準に基づいて、これらの相違点に対応する本件各発明を 容易に想到することができたかどうかを判断すべきである。
(3) 容易想到性について
前記(1)のとおりである甲8発明の内容によれば、甲8発明の台車用安全カ バーは、その本体、すなわち甲8発明の全体が保護部を構成しており、作業\n者の手挟み事故を防止するとともに、手押部材の掌握部、すなわち台車のコ 字状のハンドルのグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつもので あるといえる。このことは、甲8商品2と同一の構成の商品を含む甲8商品\n1に係るパンフレット(甲8の2)に、「台車に取り付けることで、作業員の 手挟み事故を防止!掌握部もわかりやすくなり、安全指導がしやすくなりま す」との記載があることからも裏付けられる。 このように、甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルの水平部 分をグリップ部とすることを前提として、コ字状のハンドルのカーブ部分に 取り付ける台車用安全カバー(保護部材)であって、これによって手挟み事 故の防止を図るものであるから、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材) にグリップ部を設けることは全く想定されていないといえる。 そうすると、仮に、台車の手押部材にグリップ部を設けること、又は台車 等の保護部をグリップ部と一体化したものとすることが、本件優先日の時点 で周知技術であったとしても、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)に 接した当業者において、これらの周知技術を甲8発明に適用する動機付けが あったとは認められない。 したがって、引用発明である甲8発明に基づいて、甲8相違点1に係る本 件各発明の構成が容易に想到できたとは認められず、甲8発明を前提とする\n進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとは認められない。
(4) 前記第3の1〔原告の主張〕について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)のとおり、甲8発明の台車用安 全カバーは、直線の棒にも装着可能であり、コ字状のハンドルのカーブ部\n分に対してのみ取り付け可能な製品ではないから、本件審決における甲8\n発明の認定は誤りであると主張する。 この点、長岡産業代表取締役である甲の陳述書(甲53)には、甲8商\n品2は、甲8商品1とともに、カーブ部分に装着することに特化した形状 (特に孔の形状)となっておらず、曲がっていない直線の棒にも装着可能\nなものであった旨の陳述がある。
しかし、甲8商品2の本体及び取付穴の形状から、物理的には直線の棒 に装着することが可能であるとしても、甲8商品2のパンフレット(甲8\nの3)及び甲8商品2と同一の構成の商品が含まれる甲8商品1のパンフ\nレット(甲8の2)の各記載及び掲載された写真からすれば、甲8商品2、 すなわち甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルのカーブ部分 に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に 掛からないように規制し、これによって手挟み事故を防止するものである と認められる。
上記各パンフレットに掲載された、各商品が台車のハンドルに装着され た状態の写真は、いずれもコ字状のハンドルのカーブ部分に装着されたも のを撮影したものであって、直線の部分に装着した写真ではないと認めら れる。また、甲8の2には、「ハンドルのカーブ部分に挟み込み、テープを はがして包むだけ!」と表記されているのであって、カーブ部分に挟み込\nむことが単なる使用の一例にすぎない旨の記載はされていない。 以上のとおり、甲8発明に関する本件審決の認定に誤りがあるとは認め られない。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10015 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月11日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。甲2発明を組み合わせる動機づけ無しです。

ウ 甲1発明と甲2の技術的事項とを組み合わせる動機付けについて 前記イのとおり、甲2発明の気体吹込羽口の周囲に使用するマグネシ ア−カーボン煉瓦は、酸素吹込みによって生じるホットスポットによる 高熱や不活性ガス吹込みによる冷却作用により、激しい温度勾配や熱衝 撃が加えられるという過酷な環境下の内張煉瓦として使用される前提に おいて、目地損傷原因の目地開きを生じせしめるクリープ変形を防ぐこ とによって、損傷防止が図られるものとなっている。 これに対し、甲1発明のN2ガスを吹き込むガス吹き込み用マグネシ ア・カーボン質耐火物は、前記第2の2(3)アの[甲1発明の内容]記載の とおり、それ自体が気体を吹き込む部材となっている点において、甲2 発明の内張煉瓦とは態様が異なる上に、甲2発明の気体吹込羽口のよう にホットスポットによる高熱を生じさせる酸素を吹き込むことは想定さ れていないものということができる。 そうすると、温度勾配や熱衝撃の点において、甲2発明の煉瓦のほう が甲1発明の耐火物よりも損傷しやすい過酷な環境にさらされる蓋然性 が高いということができ、そのような甲2発明の煉瓦では目地開きを生 じせしめるクリープ変形を防ぐことが特性として重要であるとしても、 それとは使用態様や使用環境の異なる甲1発明の耐火物にも、当然同じ 特性が求められるものとはいえないというべきである。 そうすると、当業者であっても、甲1発明と甲2の技術的事項とを組 み合わせて、相違点2に係る特定事項を得る動機付けがあるとはいえな いということができる。
なお、この点につき、甲3には、前記第2の4記載のとおり、「ごく一 部の大型煉瓦などは800゜C)から1200゜C)程度の還元雰囲気下で焼成 し」、「焼成後に消化防止、低気孔率化のためピッチ含浸されることが多 い。」と記載されているのであって、その記載内容が相違点2に係る特定 事項を得る動機付けについての認定を左右しないというべきである。

◆判決本文

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令和5(ネ)10026  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年1月31日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

特許権侵害訴訟の控訴審判決です。原審は、被告製品は本件発明2の技術的範囲に属さない、本件発明1は公然実施発明Bであって新規性を欠くとして請求棄却しました。控訴審も同様です。

ア 控訴人は、構成要件2Bを「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であることを要する」と解する根拠は、特許請求の範囲の文言にも本件発明2の課題にも なく、当業者の技術常識等からみても非現実的である旨主張する。
イ しかし、構成要件2Bは「前記排水溝の壁面の表\面粗さが、算術平均粗 さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする」と規定してお り、本件発明2の特許請求の範囲の文言全体をみても、排水溝壁面の表面粗さについて、一部は2.0μmを超えるが製品の一定範囲や所定の\n測定箇所が2.0μm以下であるものを含む、あるいは全体の算術平均 粗さ(Ra)の平均値が2.0μm以下であるものを含むと解すべき文 言はない。
この点は、本件明細書2の記載をみても同様である。控訴人が指摘す る本件明細書2の記載や図面は、従来技術や実施例に係る排水溝の性状 等を特に留保なく説明するものであり、控訴人が主張するように、作業 過程で異常(イレギュラー)が発生した箇所があることを前提とし、こ れを除いた「任意の箇所」を示すものであることを窺わせる記載はない。 控訴人は、1)製紙用弾性ベルトの排水溝は、作業前に設定した加工条 件に基づいて均一的に連続加工されるものであること、2)作業時の諸要 因によって加工結果にばらつきが生じることが避けられないこと、3)排 水溝の壁面を全長にわたって測定する作業は現実的に不可能であり、任意に選定された排水溝の壁面を測定する作業によって製品の性状を把握\nするという、当業者の技術常識を考慮すべき旨主張する。
しかし、上記のとおり明確な構成要件2Bの文言について、明細書にも記載がなく、その範囲も不明確な例外を含むと解することは、不当な\n拡張解釈というべきであって、特許請求の範囲の解釈に当たって当業者 の技術常識を考慮するという枠組みを超えるものといわざるを得ない。 控訴人の主張は、当業者が定める自社製品の品質基準としてはともかく、 独占権が付与される特許請求の範囲の解釈としては採り得ない。 なお、控訴人が指摘する大阪地方裁判所平成15年(ワ)第10959号 同17年2月28日判決は、控訴人の主張を裏付けるものではない。
ウ したがって、原判決判示のとおり、構成要件2Bは「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であること」を要すると解するのが相当である。
そうすると、控訴人が主張する<ステップ1>から<ステップ2の2 B>まで、すなわち「各測定結果に係る9溝ないし18溝のデータ数値 を参照し、特定の溝壁面の表面粗さ数値が他の溝の同一壁面に比して突出して高くなっている」ものを「当業者からみて明らかに溝加工作業時\nに生じた異常(イレギュラー)」として除外すること、及び「測定結果 に係る各壁面の表面粗さの平均値が算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下である結果が得られているか否か」(控訴人の他の主張と併せると、\n任意の測定箇所の算術平均粗さの「平均値」が2.0μm以下であるこ とを意味すると解される。)により充足性を判断する判断手法は、構成要件2Bを逸脱する独自の解釈に基づくものといわざるを得ず、採用で\nきない。
・・・
(2) 公然実施発明Bに基づく本件発明1の新規性欠如の有無について
イ 公然実施をされた発明に当たるかについて
(ア) 控訴人は、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面にD MTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可能な分析方法によって知ることができなかった旨主張する。\n
(イ) しかし、まず、証拠(乙37、124、128、129)によれば、 エタキュアー300は、本件特許1の出願前から実用化され、ウレタン 用の硬化剤として注目されていたことが認められる(原判決44頁〜)。 控訴人は、上記文献等はシュープレス用ベルトに使用される硬化剤に ついて言及するものでないと主張するが、上記文献等はポリウレタン全 般向けの硬化剤としてエタキュアー300を説明するものであるところ、 シュープレス用ベルトに利用される硬化剤が他の一般的なポリウレタン の硬化剤と異なるとみるべき根拠はない(上記文献等には、代表的な従来品が本件明細書1【0003】に従来のシュープレス用ベルトの硬化\n剤として記載されているMOCAである旨の記載も複数ある。)。
また、被控訴人は、遅くとも平成9年7月時点ではエタキュアー30 0を使用していたところ(原判決45頁)、上記ア(イ)の認定事実によ れば、被控訴人は硬化剤としてDMTDAを使用することを独自に見出 したのではなく、エタキュアー300を製造販売するアルベマール社の 国内関連会社との取引を契機として知ったと認められる。この事情は、 他の当業者が硬化剤の候補としてエタキュアー300に着目する蓋然性 を裏付ける事情となることは明らかである。 控訴人は、さらに、ポリウレタンの硬化剤はDMTDAの他にも約8 0種類存在し(甲43)、その全てについて標準品を準備して分析依頼 を行うことは非現実的であると主張する。
しかし、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(乙128)に「実用化 されている熱硬化PUエラストマー用芳香族ジアミン架橋剤」として記 載された5種類、あるいは特開2000−248040号公報(乙12 7)にポリウレタンプレポリマーと反応させるアミン硬化剤組成物とし て記載された芳香族ポリアミンの15種類、その中でも好ましいと記載 された4種類には、いずれもエタキュアー300又はDMTDAが含ま れており、当業者は、従来用いられているMOCA(本件明細書1【0 003】)と同類であるこれらの硬化剤を想定するとみるのが自然であ る。
(ウ) 控訴人は、ベルトの外周面に着目し、外周面のみを切り出して分析を 依頼することは、当業者が通常に利用可能な分析技術とはいえない旨主張する。\nしかし、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の 層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤と を混合してベルトの弾性材料とすることは技術常識であり(原判決44 頁)、自由に解析等をなし得る状態に置かれたベルトを解析して構造等を特定することは可能\であったと認められる(このことは甲25に記載された断面写真から明らかであり、原判決の認定に問題はない。)。 したがって、ベルトBの外周層を切り出して分析を依頼することは、 本件訴訟において控訴人(甲10の1〜4)及び被控訴人(乙1〜3) が行ったのと同様、本件特許1出願前の当業者にも可能であったと認められる。\n
なお、当業者が仮に外周層と内周層に異なる硬化剤を用いる製造方法 を認識せず、これらを区別せずに分析を依頼した場合、全体について硬 化剤としてDMTDAが使用されているという分析結果を知ることにな り、この結果はベルトBの正しい構成なのであるから(乙32)、「外周面を構\成するポリウレタンは、」「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている」との構成を含め、本件発明1の内容を知り得たといえることに変わりはない。\n
(エ) したがって、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面に DMTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可 能な分析方法によって知ることができたと認められる。ベルトBが公然実施された発明とはいえない旨をいう控訴人の主張は採用できない。\n

◆判決本文

原審はこちら。

◆大阪地裁平成29(ワ)4178
原審では、被告は、一旦、損害論に入ってから、2.0μm以下である」との構成要件を充足しないとして、非侵害の主張を行いましたが、これは「時機に後れた」とは認定されませんでした。
原告は、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわ らず、被告は、被告製品1〜3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁 面の表面粗さの測定結果(乙152〜159)を新たに証拠提出するとともに、非侵害の主張を行ったことが時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を主張する。\nしかし、被告が前記証拠等を提出したのは、原告が、訴状においてはイ号製品 が本件発明2の技術的範囲に属する旨を主張しつつも、被告製品1〜3及び5の 排水溝壁面の表面粗さに限定して立証活動をしていたが、裁判所が本件発明2については損害論に入る旨の心証開示を行ったことを受けて、被告製品1〜3及び\n5の各製品と同じシリーズの製品等についても本件発明2の技術的範囲に属する 旨を改めて主張したことに対応するものであって、必ずしも時機に後れたものと は認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。

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令和5(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年1月31日  知的財産高等裁判所

進歩性無しとした審決が維持されました。争点は、相違点の認定誤り、動機付け、阻害要因です。

(1) 原告は、引用例2及び引用例3に開示されたイメージファイバを介して照 明光を導く周知の方法はイメージファイバを振動させないものであるのに対 して、引用発明はイメージガイド2の接眼側の端部を振動させるものである から、イメージファイバの前提構成が異なるものであって、引用発明に上記\nの周知の手法を適用する動機付けがあるとはいえない旨主張する。
(2) しかし、引用例2及び引用例3によれば、集光レンズを介して入射した光 源からの光をイメージファイバにより伝送することは、本件審決が認定する とおり周知の手法であると認められるところ、引用例3の【0008】、及 び特開2000−121460号公報(乙2)の【0018】、【001 9】、【0029】の記載によれば、内視鏡の技術分野において挿入部を細 径化することは周知の課題であると認められるから、その課題は引用発明に も内在していると認められる。 そして、本件審決の認定する周知の手法は、引用発明にも内在する上記の 課題の解決手段となるものであるから、引用発明にこれを適用する動機付け はあるというべきである。
(3) 原告は、さらに、照明光を被観察物体に導くイメージガイド2の接眼側の 端部を振動させると、被観察物体の撮像にどのような影響を与えるのかが不 明であることを考慮すれば、上記周知の方法を引用発明に採用することには 阻害要因がある旨主張する。 しかし、イメージファイバを振動させる技術と、光源からの光をイメージ ファイバにより伝送する技術とを同時に採用できないとする技術的根拠は見 当たらず、上記(2)のとおり周知の課題を解決する手段である周知の方法を 採用することは、当業者であれば容易に着想して試みるものと認められる。
(4) したがって、引用発明に引用例2及び引用例3の周知の手法を適用するこ とによって、相違点1及び相違点2に係る構成は容易に想到し得るとした本\n件審決に誤りは認められず、原告主張の取消事由2は理由がない。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10016  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

 車の部品について、進歩性違反無しとした審決が維持されました。理由は動機付け無しです。

原告は、スカッフプレートにおいて電池の交換は必要不可欠であるから、 電池交換のための電池カバーを設ける動機がある、電池カバーを表示部の表\ 側に設けることはさまざまな事情から好ましなく、甲8公報の技術常識等を 適用して、裏側に電池カバーを設ける動機がある、本件審決指摘の(a)〜(d) の変更は、電池交換のため必要であれば当業者は容易に想到し得る旨主張す る。 しかし、甲1公報によれば、甲1公報の「実用新案登録請求の範囲」に記 載された考案は、外部電源が完全に不要な自動車スカッフプレートに適用さ れる発光モジュールを提供することを課題とし(【0004】)、この課題 を解決するための発光モジュールは、発光素子及びリードスイッチが設けら れた「ランプ板」、及び電線を介してランプ板に接続される「電池」が、い ずれも「導光板」に埋設される構成を有し(【0005】、【0015】〜\n【0017】)、この構成により「導光板10の内部に発光素子20に必要\nな電力を供給することができる電池40を設置するため、完全に外部電源が 不要となる」(【0019】)ことで、上記の課題を解決するものと認めら れる。 甲1公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載され\nていない。 そして、本件審決が認定した甲1発明の構成は、外部電源が完全に不要な\n発光モジュールである上記「導光板10」に、これに埋設された「ランプ板 50」、「電池40」等を密封するための「収容溝カバー70」を設け、本 件発明1の「底板」に相当する「スカッフプレート80」の上面には「凹部」 を設け、この「凹部」に発光モジュールである上記「導光板10」を収容す るものである。
そうすると、甲1発明においては、電池40が導光板10内に埋設される ことを含め、「導光板10」に係る上記構成は課題解決に直結した構\成であ ると理解するのが自然であり、本件審決のいう「甲1電池収容構成」もこれ\nと同趣旨と認められる。 加えて、甲1公報には、電池の交換についての記載はなく、甲1発明に接 した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点1に係 る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)導光板10 に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設け、当該電 池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)該収容孔を覆うカバーを設け、 該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)スカッフプレート 80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設されているランプ 板50等との電気接続を行うという変更が必要になることは、本件審決が認 定するとおりである。
甲1発明をこのように変更することは、課題解決に直結した構成である\n「甲1電池収容構成」を変更するものであることと併せると、動機付けはな\nいといわざるを得ず、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 また、甲8公報からは、表示部を有し電池を電源とする電子機器において、\n表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能\なカバーを設けるこ とは技術常識であるといえるが、甲1発明のように独立したモジュールが設 けられ、底板(スカッフプレート80)の凹部にモジュールを収容する電子 機器において、裏側からモジュール内部の電池を交換することまでが技術常 識であったとは認めるに足りない。 甲2公報については、甲1発明のスカッフプレート80、すなわち底板に 相当する部材がないから、下側から電池カバーを設けるという抽象的な点を もって「甲1電池収容構成」と置換可能\ということはできない。
(2) 原告は、甲1発明において収容溝カバー70の取外しは想定されており、 外部から電池40を交換することは当業者が想起し得る旨主張するが、甲1 発明において収容溝カバー70の取外しが可能か否かは不明であるし、仮に\n取外しが可能であれば、取り外すことにより電池交換が可能\と考えられるか ら、むしろ、電池交換のため底板(スカッフプレート80)に電池収容孔と 電池カバーを設ける構成に変更する必要性は乏しいといえる。\nそうすると、原告の上記主張を考慮しても、上記の構成変更に係る動機付\nけは否定せざるを得ない。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

周知技術であっても、適用する動機づけがないとした審決が維持されました。

相違点2〜4は密接に関連するものであるから、事案に鑑みこれを一括し、 甲1発明に周知の技術的事項1及び周知の技術的事項2を適用して、相違点 2〜4に係る本件発明1とすることが容易になし得るかについてまず検討 する。
ア 甲1発明への周知の技術的事項1の適用について
(ア) 周知の技術的事項1は、半導体ウェーハの表面を加工する際の焦点の\n位置を調節するものであり、甲3〜5には、半導体ウェーハの表面以外\nの部位を加工する際の課題や解決手段についての記載はない。また、周 知の技術的事項1は、加工対象物に反りがあることを課題とする解決手 段である。
一方、甲1発明は、前記(1)オのとおり、加工対象物の内部に集光点を 合わせて改質領域を形成し、切断予定ラインに沿って加工対象物を割る\nというものである。また、甲1には、加工対象物の反りについての記載 はない。加えて、甲1には、溶融処理領域を切断予定ラインに沿うよう\nに加工対象物の内部に形成する工程において、レーザ光の集光点につい てZ軸方向の制御をすることについての記載もない。 そうすると、甲1発明に周知の技術的事項1を適用すべき動機付けは 認められないというべきである。
(イ) 原告は、前記第3の1(1)ア(ア)(イ)のとおり、焦点の位置が加工対象 の表面か、内部であるかにかかわりなく、振動などの外的要因により、\n集光が不安定になることから、加工中の集光点のAF制御が必要になる のは、当業者の技術常識であり、甲1において、周知の技術的事項1(A F制御)が明示的に記載されていないとしても、当業者であれば記載さ れているに等しいと認識し、また、シリコンウェハは一般に反るもので あり、当業者は反ったシリコンウェハが加工対象となることも認識する 旨主張する。 しかし、甲1発明は、加工対象物の内部に集光点を合わせて改質領域 を形成し、切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものであり、\nその目的や機序からして、加工対象物の表面からレーザ加工する従来技\n術と本質的に異なるのであるから、甲1に半導体ウェーハの表面の加工\nの際の技術である周知の技術事項1が記載されているに等しいとはい えないし、甲1にはシリコンウェハの反りについて何らの言及もないの であって、原告の主張は採用できない。
(ウ) 原告は、前記第3の1(1)ア(ウ)のとおり、本件審決が、甲1発明にお ける集光点のZ軸方向のずれの許容幅の大きさを指摘し、これを根拠に 周知の技術的事項1の適用を否定する判断をしたのは誤りであるとし、 その理由として、1)本件出願日の時点において、厚さ30μmまでの薄 型シリコンウェハも甲1発明の加工対象となり得るところ、加工中の集 光点をウェハ内に収める必要があること、2)甲1の105頁15〜23 行に、比較的厚いウェハの場合にも、改質領域のZ方向の位置が割断精 度に影響を与える旨の記載があること、3)セミフルカットでも改質領域 の深度のばらつきによりクラック等の問題が生じることからすれば、セ ミフルカットより改質領域以外の部分が大きいステルスダイシングに おいて、改質領域の深度がばらつけば、チップ分割に支障を来すであろ うことから、当業者がAF制御の必要性を理解する旨を主張する。 しかし、1)に関し、甲38、39は、薄型シリコンウェハがステルス ダイシングの加工対象となることを示すものであるが、それが直ちに甲 1発明においてZ方向のAF制御の必要性を導くものではない。
また、原告が2)において引用する甲1の記載は、「クラック領域9と 表面3の距離が比較的長いと、表\面3側においてクラック91の成長方 向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が電子デバイス等の 形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等が損傷 する。クラック領域9を表面3付近に形成すると、クラック領域9と表\ 面3の距離が比較的短いので、クラック91の成長方向のずれを小さく できる。よって、電子デバイス等を損傷させることなく切断が可能とな\nる。但し、表面3に近すぎる箇所にクラック領域9を形成すると、クラ\nック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもの\nのランダムな形状が加工対象物の表面に現れ、表\面3のチッピングの原 因となり、割断精度が悪くなる。」というものであるが、これは、改質 領域を形成する深さ方向の位置は加工対象物の表面に近いことが望ま\nしいが、近すぎてもいけないという程度のことを述べるにすぎず、形成 位置を特定したり、それが一定でなければならないとするものではなく、 まして、AF制御の必要性を示すものでもない。また、甲1には、「図 98に示すクラック領域9は、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物 1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位\n置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工対象物1の 内部中の表面3側に形成される。」(105頁1〜4行)、「なお、パ\nルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半 分の位置より表面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成する\nこともできる。この場合、クラック領域9は加工対象物1の内部中の裏 面21側に形成される。」(105頁24行〜106頁1行)等の記載 もあり、甲1発明においては、シリコンウェハ内部の改質領域の位置は シリコンウェハの厚み方向において厚みの半分の位置より表面に近い\n位置の近くから、厚みの半分の位置より表面に遠い位置まで、ある程度\nの幅をもって設定され得ると理解できるのであり、当業者が、甲1発明 において、X、Y軸ステージの振動やウェハの反りにより、レーザ光の 集光点がずれること、すなわち改質領域の位置がずれることが、直ちに シリコンウェハの割れに影響を及ぼすと理解することはないというべ きである。
そして、3)に関し、セミフルカットとステルスダイシングは切断の原 理、機序が異なるのであり、前者で改質領域の深度のばらつきにより問 題が生じるからといって、後者においても同様であると当業者が認識す るとはいえない。
(エ) 以上のとおりであって、原告の主張するところを踏まえても、甲1発 明に周知の技術的事項1を適用することが当業者にとって容易になし 得たとはいえない。

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令和5(行ケ)10046  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

除くクレーム「・・全量に対して0〜10体積%であるものを除く。」について、進歩性無しとした審決が維持されました。

以上の甲5の1〜3の記載を総合すれば、角栓除去用クレンジング組成 物において、クレンジング機能(洗浄性)、ウォッシュオフ機能\(水での 洗い流し性)、角栓除去機能、皮膚への負担を考慮して、界面活性剤を1\n0〜20質量%程度、すなわち10体積%を超える量で配合することは、 本件優先日前における当業者の技術常識であったと認められる。 他方、甲5の1には「5〜10質量%」、甲5の2には「10質量%」 の界面活性剤を含むクレンジング剤等が記載されていること自体は、原 告の主張するとおりであるが、本件除く構成における「0〜10体積%\nであるものを除く」との特定は、「0体積%〜100体積%」から「0〜 10体積%であるものを除く」範囲のものであるため、結局、「10体 積%超」の範囲である(「10体積%より多く配合する」)ことを意味す るものにほかならない。そうすると、構成の容易想到性を判断するに当\nたっては、甲1発明において、界面活性剤の配合量を「10体積%超」 とする(「10体積%より多く配合する」)ことを、当業者が容易に想到 できたことの論理付けができるかを検討すれば足りる。甲5の1〜3が 「0〜10体積%」の界面活性剤を配合したものを含むとしても、その ことが本件発明と甲1発明との相違点に係る容易想到性を判断する上で、 どのような意味を有するのか、原告の主張によっても明らかでない。
ウ また、本件除く構成の数値限定が顕著な効果を有するものであれば格別、\n本件発明はそのようなものとも認められない。 すなわち、本件明細書によれば、本件発明の効果は、「タンパク質を簡 便に抽出できるため、皮膚に付着したタンパク質を抽出洗浄することが 可能な液状化粧品(「タンパク質洗浄用の液状化粧品」)として好適に使\n用できる」というものであり(【0064】)、「また、本発明のタンパク 質抽出剤は、界面活性剤等を含まなくとも、優れたタンパク質抽出効果 を奏する」ことから、「本発明のタンパク質抽出剤によれば、皮膚への負 担を低減しつつ、所望の洗浄効果が得られる」というものである(【00 65】)。
しかしながら、界面活性剤配合量に関しては、本件明細書の実施例1 6、18及び20が界面活性剤(Tween 80、Span 80)を含む組成の溶液 であるが、「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」量で配合し たものが存在しないことは前記のとおりである上、試験管内でタンパク 質抽出作用を確認しただけで、皮膚に対する洗浄効果は確認されていな い。角栓の除去については、実施例13において角栓のある皮膚に対す る洗浄効果を確認する唯一の実施例が記載されているものの、第2のタ ンパク質抽出剤Aを含むタンパク質抽出剤を使用した結果、石けんと比 較して「高い洗浄効果を示した」こと、「本発明のタンパク質抽出剤は、 クレンジング剤として好ましく使用できる」ことが示されているのみで (【0149】)、その組成は界面活性剤を含まないものである(【007 3】、【0138】〜【0141】、【0149】)。そうすると、本件発明 において界面活性剤を「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」 量で配合することにより、「角栓除去用液状クレンジング剤」が具体的に どのような顕著な効果を奏するのかは不明であるといわざるを得ない。 以上に加え、甲1には「角栓やメラニンを含む古い角質や酸化した汚 れもすっきり。」との角栓の除去機能についての記載があることからする\nと、本件発明による上記程度の効果は、当業者が予測し得たものにすぎ\nない。

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令和5(行ケ)10020等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年1月23日  知的財産高等裁判所

パラメータを含む特許について、無効審決が取り消されました。

クレーム1は「・・外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.39×10−3/Dという関係を満足するものとし、・・・」でした。
(3) 相違点3Aに係る容易想到性についての検討
前記1に認定した本件各発明の概要によると、本件発明3の相違点3Aに係る構\n成は、杭の全塑性の要求性能を満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に\n伴う建設コストの増加との課題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることに\nより解決を図るべく、変形性能の指標として曲率φpを用い、少なくとも陸側に対\n面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ変形性能の\n高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において曲率φpを越えないようにした ものである。
ここで、前記(2)のとおり、甲1発明が属する鋼管杭式桟橋においては、鋼管杭に 高強度鋼管を採用することは周知技術であって、また、本件出願日当時、技術1)(直 杭式横桟橋の性能照査では、杭に発生する応力、杭の支持力、変形量を適切に設定\nして検討すること、杭の断面力は深さ方向に変化し、地中部の深いところでは小さ くなるのが一般的であるため、経済性の観点から鋼管杭の板厚又は鋼種を変更する ことがあること)、技術2)(鋼管杭に生じる軸力及び曲げモーメントに応じて杭の曲 げ剛性を低下させて解析を行うこと)、技術3)(杭の断面力は、深さ方向に変化し、 地中部の深いところで小さくなるため、経済性の観点からは鋼管杭の板厚及び材質 を地中部の発生断面力に応じて変更することが望ましいこと)、技術4)(計画水深が 深い岸壁では、強度の大きいSTK490の鋼管杭を用いている例が多くなるこ と)、技術5)(陸側の地中部において下杭よりも上杭の板厚を大きくすること)及び 技術6)(鋼管杭の部材として、一般に用いられているSKK400及びSKK49 0よりも基準降伏点の高い鋼管杭が、高支持力杭が普及し始めている建築分野にて 商品化されていること)等の技術が公知であったことが認められるが、いずれの技 術によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コストの増加を回避する\nため、甲1発明の「鋼管杭」を、変形性能の指標として曲率φpを用いた上で、少\nなくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分 にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該部分での発生曲率が曲率φ\npを越えないようにすることは導出できないといわざるを得ないし、このような構\n成を得ることが甲1発明及び上記周知技術又は各公知技術に接した当業者が通常行 うべき試行錯誤の範囲内のものということもできない。 したがって、当業者であっても、甲1発明の「鋼管杭」につき、相違点3Aに係 る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1発\n明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明することがで きたものということはできない。
(4) 相違点3Bに係る容易想到性についての検討
本件発明3の相違点3Bに係る構成は、前記(3)のとおり、杭の全塑性の要求性能\nを満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に伴う建設コストの増加との課 題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることにより解決を図るべく、変形性\n能の指標として曲率φpを用い、鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分に\nのみ変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において全塑性モーメン\nトに対応する曲率を越えないようにしたものである。 甲13発明の「鋼管杭」は、少なくとも陸側の鋼管杭の地中部は、φ1300m m×16tのSKK490からなる上杭の下方にφ1300mm×13tのSKK 400からなる下杭で構成されており、技術3)及び4)によると、上杭部分の強度は 下杭部分よりも大きいといえる。しかし、前記(3)と同様に、前記周知技術及び公知 技術(技術1)〜6))によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コスト\nの増加を回避するため、上杭と下杭とからなる甲13発明の「鋼管杭」を、変形性 能の指標として曲率φpを用いた上で、少なくとも陸側に対面して配置された鋼管\n杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭\nを用いて、当該部分での発生曲率が曲率φpを越えないようにすることは導出でき ないといわざるを得ないし、このような構成を得ることが甲13発明及び上記周知\n技術又は各公知技術に接した当業者が通常行うべき試行錯誤の範囲内のものという こともできない。 したがって、当業者であっても、甲13発明の「鋼管杭」につき、相違点3Bに 係る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1\n3発明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明すること ができたものということはできない。
(5) 被告の主張について
ア 被告は、「杭の断面力(曲げモーメントを含む概念である。)は深さ方向に変 化するため、深さや発生断面力に応じ杭の材質・鋼種を変更することがある」との 周知技術が認定でき(技術1)、3)参照)、これは典型的には降伏強度の異なる鋼管杭 を用いることである上、「強度の観点のみならず経済性の観点から鋼管杭の板厚及 び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」、「杭全体のうち、大きい曲げモ ーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を用いること」、「杭に生じ る曲げモーメントが大きい箇所において全塑性モーメントに達しないように設計す ることが望ましいこと」がいずれも技術常識であり、鋼管杭の設計に際しどのくら いの降伏強度の鋼管杭とするかは周知技術に基づき適宜設計されるものだから、相 違点3A又は3Bに係る構成は、周知技術又は技術常識から導出し得る旨主張する。\nしかし、本件審決が説示するとおり、被告は、「強度の観点のみならず経済性の観 点から鋼管杭の板厚及び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」や「杭全 体のうち、大きい曲げモーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を 用いること」が技術常識であることをいかなる証拠の記載から認定できるかを具体 的に指摘していない上、仮に、これらが技術常識であるとしても、これらを組み合 わせる動機付けや、組み合わせた結果からどのようにして相違点3A又は3Bに係 る構成が導出されるかにつき、技術的視点に基づいた具体的な主張をしていない。\nそして、前記のとおり、周知技術及び公知技術(技術1)〜6))によっても、甲1発 明の「鋼管杭」又は甲13発明の「鋼管杭」を、相違点3A又は3Bに係る構成に\nすることは導出できず、そのような構成を得ることが、当業者が通常行うべき試行\n錯誤の範囲内ということもできない。

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