2024.11.18
令和4(ワ)11025等 特許権侵害差止等請求本訴事件、不当利得返還請求反訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年10月21日 大阪地方裁判所
特許権侵害について、構成要件を充足しない、均等についても第1、第2要件を満たさないとして、非侵害認定されました。
上記本件明細書の記載によると、本件発明は、大きなダニ捕獲能力を発揮\nすることを目的として、その手段は、ダニ誘引物質を含浸させた織物シート
からダニ誘引物質を拡散させることで広い範囲のダニを誘引した上で、マッ
トの内部にダニ捕獲用の粘着テープと、これに対して千鳥状に被着させたダ
ニ用食餌を入れた多孔質通気性袋を配することで、ダニ誘引物質で誘引され
たダニを、マットの表裏両面からさらに内部に侵入させ、粘着テープに触れ\nさせ、そこで捕捉するようにするというものである。
そして、ダニを誘引させる物質として、「香料」を織物シートに含侵させた
上、「食餌」入りの多孔質通気性袋を配置させる位置を両面粘着テープの表\n裏両面に配置させることにより、多孔質通気性カバーの内側に誘い込み、混
ぜ物のない粘着層に触れさせて補足させる構成をとるものであるから、本件\n発明において「多孔質通気性袋」は、食餌が同位置にとどまり、粘着層の粘着
力を低減させない機能を備えるべきことが想定されているといえる。加えて、\n多孔質通気性袋の構造上、一袋でこれらが実現でき、構\成材料の数も減らす
ことができるようになっている。
以上を踏まえると、構成要件A−3にいう「多孔質通気性袋」とは、辞書\n的にも、本件明細書の記載からも、少なくとも内包物を内部で保持し、拡散
を防止することができる構造を有することが必要であると解することが相当\nである。一方、販売被告製品では、ダニ誘引物質が2枚の不織布シートやガ
ーゼ等で重ねて挟み込まれているのみであり、その周囲からダニ誘引物質が
零れ落ちるようなものであるから、誘引物質を内部で保持することができる
構造であるとは認められない。\n
この点、原告は、本件発明における「袋」の意義について、ダニ食餌を入れ
ることができ、かつ、一つの袋のみで粘着テープの表裏両面に配置すること\nができればよく、口を閉塞している必要はないから、被告製品も、多孔質通
気性袋を有すると主張するが、上記説示に照らし、採用できない。
(5) よって、販売被告製品は、構成要件A−3を充足せず、同構\成要件を充足
することを前提とする構成要件C、D、F及びGも充足しない。\n
3 争点A3(均等侵害が成立するか)について
上記2のとおり、本件発明は、ダニ食餌を零れ落ちさせることなく保持する
ことができる「多孔質通気性袋」に収納することで、粘着テープの高い粘着力
を実現するとともに、構成材料の数を減らすことを実現しており、そのために\n袋構造を有することが本質的要素となっているものと認められる。\nそうすると、多孔質通気性袋に代わり、挟み込んだ物が零れ落ち得る2枚の
不織布やガーゼでダニ誘引物質を挟み込む構造を有している販売被告製品は、\n本件発明の非本質的部分で相違点があるに過ぎないとはいえないし、これらを
置換したときの作用効果が同一であるともいえない。
よって、第1要件(非本質的部分)及び第2要件(置換可能性)がいずれも\n認められないことから、均等侵害は成立しない。
4 小括(特許権侵害について)
(1) 以上の次第であり、被告製品は、本件特許の技術的範囲に属しないので、
原告の本件特許権侵害に関する主張(争点A1ないしA6)は、その余の争
点について判断するまでもなく理由がない。
(2) なお、被告は、原告の均等侵害の主張について、時機に後れた攻撃防御方
法として却下することを求めているが、その審理のために訴訟が遅延するも
のとは認められないから、採用しない。
◆判決本文
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2024.11.13
令和5(ワ)70178 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年9月26日 東京地方裁判所
医薬品の製造方法特許について、「品温が40゜C)未満」という構成要件を備えていないとして、非侵害と判断されました。\n
(1) 「乾燥して造粒物を得る工程」の終期
本件の争点整理の経過に鑑み、主たる争点である争点1−2のうち、中核
的争点である「乾燥して造粒物を得る工程」の終期がいつであるかという点
につき、まず判断する。この点につき、原告は、「乾燥して造粒物を得る工程」
の終期とは、「打錠用粉体に適した造粒物を得るために必要な状態まで溶媒が
除去された時点」(原告はこの時点までの乾燥を「必要な乾燥」といい、これ
以降の乾燥を「余分な乾燥」として区分している。)である旨主張する(第4
回弁論準備手続(技術説明会)調書参照)。
そこで検討するに、本件明細書に係る前記認定事実によれば、本件明細書
の記載(【0010】、【0033】等)を踏まえると、本件発明の課題は、酢
酸亜鉛水和物中の結晶水が消失して無水物に転移することを防ぐことにあり、
その課題の解決手段としては、乾燥工程における品温を40゜C)未満とするも
のであると認めるのが相当である。そして、「乾燥」とは、一般的に熱を与え
るなどして不要の液体分を取り除くことを意味するものであり(甲9、10)、
本件明細書においても、上記と異なる意味で使用されているところはない。
そうすると、「乾燥して造粒物を得る工程」とは、乾燥させる全ての工程を
意味するものであり、その終期とは、文字どおり、全ての乾燥が終了した時
点であると解するのが相当である。
これを原告の上記主張についてみると、原告は、乾燥には「必要な乾燥」
と「余分な乾燥」に区分され、「余分な乾燥」では40゜C)を超えることが許容
される趣旨をいうものである。
しかしながら、本件発明の構成要件及び本件明細書を精査しても、原告が\n自認するように、「必要な乾燥」と「余分な乾燥」に区分されるという原告の
解釈を裏付ける記載や示唆は一切なく、上記の間にある「打錠用粉体に適し
た造粒物を得るために必要な状態まで溶媒が除去された時点」という原告主
張に係る概念も、本件発明の構成要件及び本件明細書に一切記載されておら\nず、それ自体明確性を欠くことに鑑みても、原告の主張は、その根拠を欠く
ものというほかない。
かえって、原告の主張によれば、「余分な乾燥」では40゜C)を超えることが
許容されることになるから、乾燥工程における品温を40゜C)未満とする本件
発明の課題解決手段に明らかに抵触するものとなり、本件明細書によれば本
件発明の課題を解決できないことになる。そうすると、原告の主張は、本件
発明の課題解決手段を正解しないものといえる。
したがって、原告の主張は、採用することができない。
(2) 被告方法への当てはめ
前記認定事実によれば、被告医薬品の医薬品製造販売承認書には「乾燥終
点における製品温度は《50゜C)》以下とする」と記載されており、被告医薬
品に係る製造指図記録書においては、いずれも、品温41.0゜C)以上で乾燥
終了との指示がされていることからすると、被告方法における「乾燥して造
粒物を得る工程」では、品温が41゜C)以上になることが認められる。そうす
ると、「乾燥して造粒物を得る工程」とは、乾燥させる全ての工程を意味する
ものであるから、被告方法は、「乾燥して造粒物を得る工程」における「品温
が40゜C)未満」という構成要件を充足するものとはいえない。\nしたがって、被告方法は、構成要件1−1A及びC、1−3D、2−1A\n及びC、2−3Dを充足するものと認めることはできない。
・・・
3 争点1−1(特許法104条による推定の可否)
(1) 被告方法は、「乾燥して造粒物を得る工程」における「品温が40゜C)未満」
という構成要件(構\成要件1−1A及びC、1−3D、2−1A及びC、2
−3D)を充足しないことは、前記2において説示したとおりである。
そうすると、仮に、被告医薬品が特許法104条に基づき本件発明に係る
製造方法により生産したものと推定された場合であっても、前記2において
説示したところによれば、当該推定は、覆されるものと認めるのが相当であ
るから、争点1−1は、本件において結論を左右するものとはならない。
もっとも、当事者双方の主張の経過に鑑み、念のため判断するに、前提事
実及び前記認定事実によれば、本件発明の優先日前に出された本件ニュース
リリースには、「NPC−02(酢酸亜鉛)ウイルソン病治療剤ノベルジン®
錠25mg及び50mgの製造販売承認(剤形追加)を取得」という記載が
あるところ、本件ニュースリリース前から原告によって販売されているノベ
ルジンカプセル25mg及び50mgは、ウィルソン病治療剤(銅吸収阻害\n剤)であり、酢酸亜鉛水和物を有効成分とするカプセル剤である。そして、
前記認定事実によれば、剤形追加に係る医薬品とは、既承認医薬品等と有効
成分、投与経路、効能・効果及び用法・用量は同一であるが、剤形又は含量\nが異なる医薬品をいうことからすると、本件ニュースリリースに係る医薬品は、ウィルソン病治療剤(銅吸収阻害剤)であり、酢酸亜鉛水和物を有効成\n分とする酢酸亜鉛錠であるものと認められる。
これらの事情の下においては、本件ニュースリリースに係る医薬品は、本
件発明により生産される物と同一のものといえるから、本件ニュースリリー
スの掲載により同医薬品の存在が対外的に公表されているといえる。そうす\nると、本件発明により生産される「物」は、本件発明の優先日前の時点にお
いて、当業者がその物を製造する手がかりが得られる程度に知られたもので
あったと認めるのが相当である。
したがって、被告医薬品は、特許法104条に基づき、本件発明に係る製
造方法により生産したものと推定することはできない。
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2024.09.16
令和4(ワ)9112等 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年8月22日 大阪地方裁判所
構成要件1Cの構\成「地糸の経糸または緯糸の径がパイル糸の径よりも細くされており」を備えていないと判断されました。
ア 上記本件明細書の記載からは、経糸、緯糸、パイル糸の「径」を認識する
方法は見当たらず、また、経糸又は緯糸の径がパイル糸の径よりも細くされ
ることについての技術的意義に関する記述はない以上、そこから上記の「径」
を認識する方法を推測することもできない(原告は【0043】の記載を指
摘するが、パイル糸に「多数の微細長繊維を含ませる」ことと、基布の経糸
又は緯糸の繊度(太さ・細さ)との関係は不明というほかない。)から、これ
らは当業者の理解する技術常識によって決すべきこととなる。
イ この点、繊維の形態的な太さは、一般的にその断面が不規則な形状を示し
ているので、正確な計測は困難であり、したがって、一定の長さ当たりの重
量で繊維の太さが示されているとされ、また断面の形状にあっては、天然繊
維の形状は、それぞれ特有の形をしており、化学繊維は、その形状も人為的
に自由につくることができ、断面は主として紡績方法によって決まり、円形・
だ円形その他複雑なものもある、とされている(乙4。三訂版「繊維」(昭和
61年刊行))。
また、繊維における細さ(繊度)にはいろいろの表し方があり、メートル\n法の番手(1グラムの糸が何メートルの長さを持つかを示すもの。番手が大
きいほど糸は細い。)や、デニール、テックス(いずれも一定長の糸の重量)
が用いられ、デニールと繊維ごとの比重を用いて断面積を算出する方法もあ
る(乙5。「繊維の科学」(昭和53年刊行))。撚りの強さによっても見た目
の太さが変わる(乙6。令和2年当時のウェブサイト。)。本件明細書におい
ても、パイル糸の繊度に関し、デニールが用いられている部分がある。
ウ ところで、「径」の字義は、「1)さしわたし。直径。2)みち。小道。近道。」
というものである(乙7(広辞林第六版))。また、広辞苑第七版においては、
「まっすぐ結ぶ道。さしわたし。」とされており、「差渡し(さしわたし)」の
字義は、「1)さしわたすこと。一方から他方へかけ渡すこと。また、その長さ。
2)直径。わたり。けい。」とされている。これらを踏まえると、「径」とは「直
径」を意味するものと解される。「直径」の字義は、「円または球の中心を通っ
て円周または球面上に両端をもつ線分。また、その長さ。さしわたし。」とい
うものであるから(広辞苑第七版)、「直径」が認識されるためには、平面に
おいては円又はそれに近い形状のものが想定されていると解される。
他方、前記のとおり、糸は繊維の集合体であって、繊維の断面は一般的に
不規則な形状を示すものであるから、少なくとも、「径」の大小の比較に、「断
面積」(空隙を除外するかどうかを問わない)を用いることはできないものと
解される。この点、原告は、糸の太さを断面積で表すことが当業者にとって\n一般的な手法となっていたとしてその旨の証拠(甲25から27まで)を提
出するが、それらは口輪筋線維、等方性黒鉛材料の気孔、血管について画像解析により断面積を測定した例にすぎず、技術分野が全く異なるもので、原告主張の事実は認めるに足りない。
(3) 構成要件1Cの充足の検討\n
ア 原告は、各糸の径は糸の断面積を測定することにより比較判断することが
可能であり、かつこれを製品状態で測定すべきものとした上で、かかる測定\n方法を採用した測定結果を証拠(甲19の1・2)として提出する。
この測定は、被告製品のシール材に対し、接着剤を滴下して浸み込ませ、
乾燥後、養生テープで固定し、パイル糸の配列方向に対し垂直となるように、
シール材に金尺を当てて、カット治具である剃刀刃を沿わせて一回のスライ
スにより切断し、断面画像を撮像した上、該画像を解析して、緯糸とパイル
糸の断面積を求めるというものである。
イ しかし、本件訂正発明1の構成要件1Cは、糸の「径」の大小をその要素\nとしており、糸の太さの比較に断面積を用いることは文言の一義的な意味に
反し、また前述の当業者の技術常識にも合致しないものである。
また、具体的な測定手段をみても、上記測定は、被告製品を加工、破壊し
た上で測定するものであって、原告が自らいう「製品状態での測定」とも前
提を異にするものである(そもそも、製品状態では糸に様々な方向から様々
な力が作用し、一定の「断面積」を得ることは困難であると考えられ、「製品
状態での測定」という前提自体、本件明細書や当業者の技術常識から導き得
るのかについて疑問なしとしない。)。加えて、上記切断方法は、繊維の方向
に垂直に正確に切断されることが保証されるものともいえず、切断角度、切
断箇所の違いによる断面積の変化が何ら考慮されていないと見受けられ、測
定の条件統制にも疑義がある。画像解析についても、糸(及びこれを構成す\nる繊維)の外郭のとらえ方や、空隙の有無等によって「断面積」が異なり得
ることが見て取れる。
これらのことからすると、甲19号証の1・2に示された測定手段は、画
像の作成過程、画像解析の双方において、測定の正確性、合理性が担保され
たものとはいえないというべきである。
また、画像解析の結果報告される糸の断面(空隙を含む外郭)は、不定形
で円又はそれに近い形状を備えておらず、かかる画像から、「径」(といえる
もの)を認識することも困難である。
ウ そうすると、甲19号証の1・2によって、被告製品について構成要件1\nCの充足が立証されたということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠
はない。
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2024.08.27
令和4(ワ)22517 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年8月21日 東京地方裁判所
日本製紙クレシアVS大王製紙のトイレットペーパーの特許紛争です。東京地裁は技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害についても主張されていましたが、裁判所はこれを否定しました(第3、第5要件不具備)。
被告は、トイレットペーパーの表面、裏面の各シートをそれぞれ表\面に凹凸
をつけるエンボス処理した後、それぞれのシートの凸部同士を内側にして2プ
ライにするようなダブルエンボスでは、表面と裏面のシートのエンボスが干渉\nし、これらを常に干渉しないようにすることはほぼ不可能であり、付与された\n後のエンボスの形状、深さを明確に測定することができないので、本件発明1
は、シングルエンボスのトイレットロールのみに限定されると主張する。
しかしながら、本件明細書1記載の方法でエンボス深さDを測定することが
でき、そこで測定されたエンボス深さDに本件発明1の技術的意味があるもの
であれば、本件発明1のトイレットロールが、シングルエンボスのトイレット
ロールに限定されるとは認められない。また、トイレットロールにおけるエン
ボスであるという性質上、各エンボスの形状については一定のばらつきがある
ことが想定されているといえる。
もっとも、本件発明1のエンボス深さDは、X−Y平面上のエンボスの高さ
プロファイルを得ることができ(【図5】(a))、エンボスの周縁frやその最
長部aがどこに位置するのかを特定できるトイレットロールについて、【図5】
(b)、【図6】のような断面曲線を得た上で、測定されたものであり、そのよう
にして測定されたものであるエンボス深さDが一定の数値のトイレットロール
について本件発明1の効果を奏するとしているものといえる。各被告製品は、
各シートのエンボスの凹凸の位置関係を特に調整しないまま、プライボンディ
ングした通常の2プライのダブルエンボスである(弁論の全趣旨)。このような
ダブルエンボスのトイレットロールにおいては、表面と裏面にそれぞれ付され\nたエンボスが重なるとは限らず、エンボスの周縁が一致することが保証されて
いないことから、エンボスの周縁が明確にならず、また、エンボスの凹凸の位
置がずれることにより干渉し、その形状が明瞭でないエンボスが生じ得る。そ
して、甲51報告書によれば、各被告製品については、原告がエンボスとして
特定した部分の中央に、断面曲線で上に凸の曲率極大点が認められるなど、そ
のエンボスが本件発明1のエンボス深さDを測定する際に想定されていた凹部
形状のものであるかが必ずしも明らかではないほか、X−Y平面上のエンボス
の高さプロファイルによって、エンボスの周縁frやその最長部aがどこに位
置するのかを確定できるものとは必ずしもいえない。そうすると、そのような
エンボスが付された各被告製品のトイレットロールについてエンボスを10個
選んで測定を行い、それらの平均値として一定の深さDを求めたとしても、本
発明1におけるエンボス深さDが測定できたということはできない。
(7) 以上によれば、原告測定方法は、本件明細書1に記載されたエンボス深さの
測定方法とはいえず、原告測定方法に基づいた甲10報告書によって、各被告
製品が構成要件1Bを充足するとは認めることはできない。甲51報告書その\n他の証拠によっても、各被告製品について、本件発明1におけるエンボス深さ
Dが明らかであってその数値が構成要件1Bを充足するということを認めるに\n足りない。したがって、各被告製品はいずれも構成要件1Bを充足するとはいえない。\n
・・・・
構成要件2Eは、「前記把持部には、ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほ\nぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜部を有して横方向
に沿って並ぶ二個の指掛け穴が形成されており、」というものであり、特許請求
の範囲の「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」
との文言は、その「指掛け穴」が既に「形成」されているものであることから
も、その「形成」されている「指掛け穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」で
あり、また、そのほぼ長円の上部輪郭が非切抜部であると理解することができ
るものであるところ、本件明細書2の上記部分には、そのような理解に沿う構\n成が記載されているということができ、そのような理解を前提として、その「ス
リット状のほぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの
切り抜きにより上方に折り返されるものであることが記載されているといえる。
また、【図1】に記載された指掛け穴も上記の理解に沿ったものである。そうす
ると、構成要件2Eの「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット\n状の指掛け穴」とは、同構成について本件明細書2において記載されている、\n上記に述べたとおりの構成のものであると認められる。\n
(2) 被告製品1の包装袋のスリットは、写真2の左側の写真の赤破線で示された
とおりのものであり、被告製品3の包装袋のスリットは、写真2の右側の写真
の赤破線で示されたとおりのものである。
前記(1)のとおり、構成要件2Eについては、その「指掛け穴」が「ほぼ長円の\n一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭の
非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きにより上方に折り返される
ものであり、その非切抜部は、「スリット状」の「ほぼ長円」の一部を構成する\nものである。そして、非切抜部を固定端とする片部が上方に折り返されるため
には、その非切抜部の固定端が、「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭にあ
る必要がある。
被告製品1及び被告製品3の包装袋のスリットをみると、その両端部はそれ
ぞれ外側に湾曲して下方に向かい、終端が内側に位置しているから、このよう
なスリットの両端部の終端の位置を考慮すると、被告製品1及び被告製品3に
おいては、形成されている「スリット状」の「指掛け穴」の下部輪郭が「非切抜
部」であるともいえ、その非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜き
により上方に折り返されるものではない。また、原告主張の熱融着部(写真3
参照)とスリットとを見ると、スリットは、その中央が、その上方に対しては、
弧状であるとしても、その左右には、上方への折り返しとなる頂点が存在せず、
それ自体「ほぼ長円」を形成しているとはいえず、「スリット状」の「ほぼ長円」
が形成されていないから、原告主張の上記熱融着部の円弧が「スリット状」の
「ほぼ長円」の上部輪郭にあるとはいえず、そこを構成要件2Eの「非切抜部」\nであるということはできない。そうすると、被告製品1及び被告製品3には、
「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」に相当
する構成があるとはいえない。\n
(3) 原告は、被告製品1及び被告製品3のスリットが切り抜かれることで把持部
に下に凸の円弧が生じ、スリットと熱融着部などによって形成される非切抜部
によって、ほぼ長円の形状の指掛け穴が形成されると主張する。
しかし、前記(1)のとおり、構成要件2Eにおいては、形成されている「指掛\nけ穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほ
ぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きによ
り上方に折り返されるのであり、その非切抜部は、「スリット状」の「ほぼ長円」
の一部を構成するものである。被告製品1及び被告製品3においては、「スリッ\nト状」の「ほぼ長円」が形成されているとはいえず、被告製品1及び被告製品
3において、スリットの上方の熱融着部などによって形成される部分が構成要\n件2Eの非切抜部であるとする原告の主張は採用できない。
原告は、本件発明2では指掛け穴の有するスリットが内側に回り込んでいるの
に対し、被告製品1及び被告製品3ではスリットが内側に回り込んでいない点で、
被告製品1及び被告製品3が本件発明2と文言上相違するとした上で、この点に
ついて均等侵害が成立する旨主張する。
しかしながら、被告製品1及び被告製品3においては、スリットは、その中央
部分のみが上方に対して弧状であり、本件発明2の構成とは基本的な形状が異な\nるといえるものなのであって、これが直ちに被告製品1及び被告製品3の製造時
において本件発明2から容易に想到することができたとは認めるに足りず、また、
原告は、本件異議申立事件の決定の予\告後に、指掛け穴を構成要件2Eの構\成に
限定したと述べて構成要件2Eの構\成を加えて、他の構成の指掛け穴の形状を意\n識的に除外したといえる。したがって、均等侵害をいう原告の主張には理由がな
い。
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2024.06. 9
令和3(ワ)15964 特許権 民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日 東京地方裁判所
本件発明の作用から、被告製品は本件特許の技術的範囲に属しないと判断されました。
3 被告ダンパは、「入力」を受けるものであるか(構成要件G)(争点1−1)\nについて
ア 本件発明1の構成要件G、Hは、「前記剪断部は、入力により荷重を受けた\nときに、変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とする弾塑性履歴型ダン
パ」というものであり、本件発明1の対象となる「弾塑性履歴ダンパ」につ
いて「剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収
を行うことを特徴とする」ものであるとされている。したがって、本件発明
1のダンパは、上記に記載された特徴を有するダンパであるところ、その「入
力」がどのようなものであるかについて、本件発明1の特許請求の範囲では
何ら定められていない。
イ ここで、前記1 で説示したとおり、本件各発明は、上部構造物、下部構\
造物に分離できる橋梁等の建築物において、地震のときに、その接続部にお
いて橋軸方向に限らず、複数方向の水平力がかかってしまうところ、同接続
部においては、I字形ダンパでは単一方向の入力にしか対応できないという
課題について、同課題を解決するために、複数の剪断面を持ち、かつ、その
向きが異なるダンパを適用するというものであり、本件各発明は、そのよう
なダンパが本件各発明の構成をとることによって、剪断部が、入力により荷\n重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うというものである。
本件明細書に記載された本件各発明の課題は、上記のとおりであり、従来
から知られていた剪断パネル型ダンパである単純なI字形ダンパに対して
単一方向からの入力しか想定されない場面においては、本件各発明における
解決すべき課題は存在しない。単一方向からの入力でなく複数方向からの入
力が想定される場合に、本件各発明が解決すべき課題が存在することとなる。
そして、本件明細書には、前記1 に記載のとおりの本件各発明の意義が記
載されているほか、本件明細書に記載された実施例は、全て、複数方向から
の入力が問題となり、そのような複数方向からの入力に対し、本件発明1の
構成をとることによって対応することができるものであると認められる。本\n件明細書のその他の部分にも、単一方向からの入力に対応することに関する
記載はない。これらの本件明細書の記載及び構成要件G、Hの記載から、本\n件発明1に係るダンパは、ダンパに対して複数方向からの入力が想定される
構造物等の部位に用いられ、ダンパの剪断部に対して複数方向からの入力が\nあり、これに対して対応することができるダンパであると解するのが相当で
ある。
ウ 以上によれば、本件各発明におけるダンパは、その剪断部に複数方向から
の入力があり、その剪断部がそれに対する入力により荷重を受けたときに、
変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするもの(構成要件G、H)で\nあると解するのが相当であり、構成要件Gに係る「入力」は、「複数方向か\nらの入力」を意味し、本件各発明のダンパは、ダンパに対して複数方向から
の入力があることを前提として、その剪断部が複数方向からの入力により荷
重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするダンパ
であると認められる。
被告ダンパについて検討すると、本件において、原告は、被告ダンパ単体の
譲渡等を問題にするのではなく、被告ダンパが住宅である被告製品に用いられ
て、そのような被告製品が販売されていることを特許発明の実施として、被告
製品の販売額を基礎として実施料率相当額の損害を請求する。
被告は、6種の被告ダンパを4種の耐力パネルのいずれかに組み込み、これ
を住宅である被告製品の部材として用いている(前提事実 )。被告ダンパは各
平行板部及び各ウェブ部の一端又は両端が耐力パネルに溶接されているので
あって、耐力パネルから取り外して使用されることはおよそ想定されておらず、
各耐力パネルも、建物の水平方向に延びる梁や土台等にはさまれるように固定
されて設置されており、住宅販売後に耐力パネルのみを取り外して別の用途に
使用するということはおよそ想定されていない(前提事実 )。すなわち、被告
ダンパは、耐力パネルに物理的にも溶接され、取り外されることはおよそ想定
されず、耐力パネルと不可分一体となっているものといえる。
そうすると、本件において問題となる被告の行為は、被告ダンパが不可分一
体の一部となった被告製品の製造、販売等であって、被告ダンパが組み込まれ
た被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか否かが問題になるというべ
きである。
なお、被告は、Σ型の形状の鋼材である被告ダンパを作成し、これを他の部
材に組み込むことで耐力パネルを製造していることがうかがえる。もっとも被
告ダンパ単体には「一対のプレート」は接続されておらず、耐力パネルに組み
込まれることによって初めて、「一対のプレート」の具備が問題になるのである
から、耐力パネルに組み込まれる前の被告ダンパ自体が本件発明1の技術的範
囲に入ることはないと解される。
被告製品に組み込まれ、被告製品と不可分一体となった被告ダンパに対して
加わる力について検討する。
ア 被告ダンパはいずれも4種類の耐力パネルのいずれかに組み込まれてい
るところ、耐力パネルは、その構造上、耐力パネルが接続している梁の方向\nの力(耐力パネルが平行四辺形に変更する方向の力)が加わると、いずれの
耐力パネルについても、被告ダンパに鉛直方向の力が加わり、所定レベル以
上の力が加わると剪断変形によって地震力を吸収する。このとき、被告ダン
パに対しては、鉛直方向の力以外の力は加わらない。他方で、耐力パネルに
梁と垂直方向の力が加わっても、被告ダンパには力が加わらず、地震力を吸
収することができない。地震力のうち、これらの力の合力については、いず
れも上記二つの力に分解できるから、結局、被告ダンパには鉛直方向の力の
みが加わるということになる(乙33)。被告製品においては、建物の特定
の方向に複数の耐力パネルを設置するとともに、これと直交する方向にも複
数の耐力パネルを設置しており、このように複数の耐力パネルを直交方向に
設置することによって、個々のパネルの被告ダンパには鉛直方向の力のみが
加わり、その方向の力のみしか吸収できないとしても、各方向に沿って設置
された耐力パネルが、両方向に対応する地震力の分力を吸収することで建物
全体では任意の方向の地震力を吸収できるように設計されているといえる
(乙3)。
イ 被告ダンパに対しては、一応、前記アのとおりの力のみが加わるといえる
が、耐力パネルが設置されている上下の梁がねじれる(回転する)力が加わ
った場合には、耐力パネルの構造上、被告ダンパに対し鉛直方向とは異なる\n方向の力が加わる可能性がないわけではない。そこで、被告製品において鉛\n直方向からどの程度ずれる力が加わり得るのかについて検討する。
被告は、被告ダンパを搭載した実物大の住宅サンプルに対して、過去最大
級の地震の一つである兵庫県南部地震の際にJR鷹取駅で観測された地震
波(以下「鷹取地震波」という。)を適用して地震時挙動を測定する実験を行
ったところ、その結果によれば、1階に対する2階床の最大回転角は、0.
14°(乙40)、これにより耐力壁に設置されたダンパに対して加わる力
の鉛直方向からのずれは、0.022°であったこと(乙41)が認められ
る。
ウ 以上を前提に、被告ダンパの剪断部に本件発明1における複数方向から
の入力があり、その剪断部が複数方向からの入力により荷重を受けたとき
に変形してエネルギー吸収を行うものといえるか否かについて検討する。
特許請求の範囲にも本件明細書にも、前記の複数方向のうち1つの方
向といえる角度範囲をどの程度のものと想定しているかについての直
接的な記載はない。しかし、そもそも、本件発明1のダンパは、建築物
や橋梁等の建物、建造物で用いられるものであるところ、従来のI字型
ダンパは、想定する角度からわずかでもずれれば機能しなくなるという\nものではない。I字形ダンパは、入力方向のずれが生じている場合でも、
パネルと平行し、面内を通る方向の分力については、入力がパネルと面
内を通る方向と平行だった場合と同様に作用することになるから、実際
の入力と面内を通る方向とのずれがごくわずかであれば、実際の入力と
ほとんど変わらない力が面内を通る分力として剪断パネルに作用する。
例えば、入力方向が0.1°ずれた場合には、
Cos0.1°=約0.9999985
により、約99.99985%の力が面内を通る分力として剪断パネル
に作用することになり、この程度の入力方向のずれでは、I字型ダンパ
に生じる効果に観測できるほどの差は生じないことは明らかである。ま
た、建築の分野において橋梁や住居などの一定の大きさの建造物を建築
するに当たって、施工誤差が生じることは当然であり(原告は、後記の
とおり耐力パネル設置に当たって少なくとも±0.82°の据え付け誤
差が生じると主張している。)、I字型ダンパもそのことを前提に用いら
れるものとして想定されており、施工の限界を超えた小さい角度差は、
単一方向の入力として想定されているというべきである。さらに、I字
型ダンパはパネルと平行し、面内を通る方向から力が加わることによっ
て、平行四辺形に剪断変形することによってその力を吸収するというも
のである(前記2 )が、I字型ダンパの剪断パネルにも一定の厚さが
あり、少なくとも厚さの中に納まるような入力方向の小さなズレであれ
ば、パネルの面内を通る方向からの力と評価し得、少なくともこの程度
の入力方向のずれは、同一方向からの入力として想定されているともい
える。
本件明細細書においても、本件各発明のダンパは、図面上、いずれも一
見して複数の剪断部の方向が異なることが明らかなもののみであり、そ
の入力方向のズレが相当に小さいことを想定した場合の記載、図面はな
い。そのずれが相当に小さく、例えば、0.1°程度の差を複数方向か
らの入力と想定した場合、複数のパネルを連結しながらどのように配置
すれば効率的に入力を吸収できるかは、本件明細書によっても明らかで
はない。上記のような差の入力の場合、厚みのある鋼板を用いて、2枚
の剪断パネルを0.1°程度の角度をつけて接合し、ダンパを作成する
ことを実現することが現実的であるとはいえない。
以上に述べたところに、前記 で記載した本件発明1の意義を考慮す
ると、本件発明1で対象としている複数方向からの入力は異なる方向か
らの入力であるというべきところ、その異なる方向からの入力には、少
なくとも、従来のI字型ダンパにおいて同一方向からの入力として想定
されていたといえる入力を含まないものと認められる。
前記イで認定したとおり、被告製品は、少なくとも鷹取地震波を前提
にすると、これによって剪断パネルに一定のねじれが生じ、被告ダンパ
に鉛直方向からずれた方向からの力も加わることが認められる。しかし、
そのずれは0.022°(なお、cos0.02°=約0.9999999
26)と極めて小さいものである。この程度のずれは、その小ささから
もこれによって被告ダンパに生じる効果に観測できるほどの差が生じ
るとは認めるに足りないし、このずれは、被告製品が用いられる分野の
施工の限界を超える程度であるといえる。また、そのずれは、被告ダン
パのウェブ部を形成する鋼板の厚みの中に収まるような小さなもので
あることがうかがえる。
これらによれば、上記実験結果によれば、本件においてねじれによっ
て加わり得る入力方向の違いは、従来のI字型ダンパにおいて同一方向
からの入力として想定されていたといえる範囲のものであり、前記 で
説示した本件発明1が異なる入力方向として想定しているものではな
いというべきである。
また、被告製品が鷹取地震波を超える地震波に遭遇することは想定さ
れ得る。しかし、上記実験で用いられたのが過去最大級の地震の一つで
ある鷹取地震波であり、その場合であっても上記のとおり入力方向の違
いが極めて小さいことからすると、現実に想定し得る鷹取地震波を超え
る地震においても、被告ダンパに対して本件発明1が想定する程度の鉛
直方向からのずれが生じる剪断パネルのねじれが生じるとも認められ
ない。
以上によれば、被告製品で用いられている被告ダンパの剪断パネルに
対してねじれの影響によって生じる入力方向の違いは、その小ささから、
本件発明1が想定する程度に達するような、異なる方向からの入力であ
ると評価できるものではないというべきである。
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2024.05.26
令和3(ワ)15964 特許権 民事訴訟 令和6年3月22日 東京地方裁判所
被告ダンパが不可分一体の一部となった被告製品は、特許請求の範囲の「入力により荷重を受けた・・・」という文言に該当しないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。
3 被告ダンパは、「入力」を受けるものであるか(構成要件G)(争点1−1)\nについて
ア 本件発明1の構成要件G、Hは、「前記剪断部は、入力により荷重を受けた\nときに、変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とする弾塑性履歴型ダン
パ」というものであり、本件発明1の対象となる「弾塑性履歴ダンパ」につ
いて「剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収
を行うことを特徴とする」ものであるとされている。したがって、本件発明
1のダンパは、上記に記載された特徴を有するダンパであるところ、その「入
力」がどのようなものであるかについて、本件発明1の特許請求の範囲では
何ら定められていない。
イ ここで、前記1 で説示したとおり、本件各発明は、上部構造物、下部構\
造物に分離できる橋梁等の建築物において、地震のときに、その接続部にお
いて橋軸方向に限らず、複数方向の水平力がかかってしまうところ、同接続
部においては、I字形ダンパでは単一方向の入力にしか対応できないという
課題について、同課題を解決するために、複数の剪断面を持ち、かつ、その
向きが異なるダンパを適用するというものであり、本件各発明は、そのよう
なダンパが本件各発明の構成をとることによって、剪断部が、入力により荷\n重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うというものである。
本件明細書に記載された本件各発明の課題は、上記のとおりであり、従来
から知られていた剪断パネル型ダンパである単純なI字形ダンパに対して
単一方向からの入力しか想定されない場面においては、本件各発明における
解決すべき課題は存在しない。単一方向からの入力でなく複数方向からの入
力が想定される場合に、本件各発明が解決すべき課題が存在することとなる。
そして、本件明細書には、前記1 に記載のとおりの本件各発明の意義が記
載されているほか、本件明細書に記載された実施例は、全て、複数方向から
の入力が問題となり、そのような複数方向からの入力に対し、本件発明1の
構成をとることによって対応することができるものであると認められる。本\n件明細書のその他の部分にも、単一方向からの入力に対応することに関する
記載はない。これらの本件明細書の記載及び構成要件G、Hの記載から、本\n件発明1に係るダンパは、ダンパに対して複数方向からの入力が想定される
構造物等の部位に用いられ、ダンパの剪断部に対して複数方向からの入力が\nあり、これに対して対応することができるダンパであると解するのが相当で
ある。
ウ 以上によれば、本件各発明におけるダンパは、その剪断部に複数方向から
の入力があり、その剪断部がそれに対する入力により荷重を受けたときに、
変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするもの(構成要件G、H)で\nあると解するのが相当であり、構成要件Gに係る「入力」は、「複数方向か\nらの入力」を意味し、本件各発明のダンパは、ダンパに対して複数方向から
の入力があることを前提として、その剪断部が複数方向からの入力により荷
重を受けたときに変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とするダンパ
であると認められる。
被告ダンパについて検討すると、本件において、原告は、被告ダンパ単体の
譲渡等を問題にするのではなく、被告ダンパが住宅である被告製品に用いられ
て、そのような被告製品が販売されていることを特許発明の実施として、被告
製品の販売額を基礎として実施料率相当額の損害を請求する。
被告は、6種の被告ダンパを4種の耐力パネルのいずれかに組み込み、これ
を住宅である被告製品の部材として用いている(前提事実 )。被告ダンパは各
平行板部及び各ウェブ部の一端又は両端が耐力パネルに溶接されているので
あって、耐力パネルから取り外して使用されることはおよそ想定されておらず、
各耐力パネルも、建物の水平方向に延びる梁や土台等にはさまれるように固定
されて設置されており、住宅販売後に耐力パネルのみを取り外して別の用途に
使用するということはおよそ想定されていない(前提事実 )。すなわち、被告
ダンパは、耐力パネルに物理的にも溶接され、取り外されることはおよそ想定
されず、耐力パネルと不可分一体となっているものといえる。
そうすると、本件において問題となる被告の行為は、被告ダンパが不可分一
体の一部となった被告製品の製造、販売等であって、被告ダンパが組み込まれ
た被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか否かが問題になるというべ
きである。
なお、被告は、Σ型の形状の鋼材である被告ダンパを作成し、これを他の部
材に組み込むことで耐力パネルを製造していることがうかがえる。もっとも被
告ダンパ単体には「一対のプレート」は接続されておらず、耐力パネルに組み
込まれることによって初めて、「一対のプレート」の具備が問題になるのである
から、耐力パネルに組み込まれる前の被告ダンパ自体が本件発明1の技術的範
囲に入ることはないと解される。
被告製品に組み込まれ、被告製品と不可分一体となった被告ダンパに対して
加わる力について検討する。
ア 被告ダンパはいずれも4種類の耐力パネルのいずれかに組み込まれてい
るところ、耐力パネルは、その構造上、耐力パネルが接続している梁の方向\nの力(耐力パネルが平行四辺形に変更する方向の力)が加わると、いずれの
耐力パネルについても、被告ダンパに鉛直方向の力が加わり、所定レベル以
上の力が加わると剪断変形によって地震力を吸収する。このとき、被告ダン
パに対しては、鉛直方向の力以外の力は加わらない。他方で、耐力パネルに
梁と垂直方向の力が加わっても、被告ダンパには力が加わらず、地震力を吸
収することができない。地震力のうち、これらの力の合力については、いず
れも上記二つの力に分解できるから、結局、被告ダンパには鉛直方向の力の
みが加わるということになる(乙33)。被告製品においては、建物の特定
の方向に複数の耐力パネルを設置するとともに、これと直交する方向にも複
数の耐力パネルを設置しており、このように複数の耐力パネルを直交方向に
設置することによって、個々のパネルの被告ダンパには鉛直方向の力のみが
加わり、その方向の力のみしか吸収できないとしても、各方向に沿って設置
された耐力パネルが、両方向に対応する地震力の分力を吸収することで建物
全体では任意の方向の地震力を吸収できるように設計されているといえる
(乙3)。
イ 被告ダンパに対しては、一応、前記アのとおりの力のみが加わるといえる
が、耐力パネルが設置されている上下の梁がねじれる(回転する)力が加わ
った場合には、耐力パネルの構造上、被告ダンパに対し鉛直方向とは異なる\n方向の力が加わる可能性がないわけではない。そこで、被告製品において鉛\n直方向からどの程度ずれる力が加わり得るのかについて検討する。
被告は、被告ダンパを搭載した実物大の住宅サンプルに対して、過去最大
級の地震の一つである兵庫県南部地震の際にJR鷹取駅で観測された地震
波(以下「鷹取地震波」という。)を適用して地震時挙動を測定する実験を行
ったところ、その結果によれば、1階に対する2階床の最大回転角は、0.
14°(乙40)、これにより耐力壁に設置されたダンパに対して加わる力
の鉛直方向からのずれは、0.022°であったこと(乙41)が認められ
る。
以上を前提に、被告ダンパの剪断部に本件発明1における複数方向から
の入力があり、その剪断部が複数方向からの入力により荷重を受けたとき
に変形してエネルギー吸収を行うものといえるか否かについて検討する。
・・・
前記イで認定したとおり、被告製品は、少なくとも鷹取地震波を前提
にすると、これによって剪断パネルに一定のねじれが生じ、被告ダンパ
に鉛直方向からずれた方向からの力も加わることが認められる。しかし、
そのずれは0.022°(なお、cos0.02°=約0.9999999
26)と極めて小さいものである。この程度のずれは、その小ささから
もこれによって被告ダンパに生じる効果に観測できるほどの差が生じ
るとは認めるに足りないし、このずれは、被告製品が用いられる分野の
施工の限界を超える程度であるといえる。また、そのずれは、被告ダン
パのウェブ部を形成する鋼板の厚みの中に収まるような小さなもので
あることがうかがえる。
これらによれば、上記実験結果によれば、本件においてねじれによっ
て加わり得る入力方向の違いは、従来のI字型ダンパにおいて同一方向
からの入力として想定されていたといえる範囲のものであり、前記(ア)で
説示した本件発明1が異なる入力方向として想定しているものではな
いというべきである。
また、被告製品が鷹取地震波を超える地震波に遭遇することは想定さ
れ得る。しかし、上記実験で用いられたのが過去最大級の地震の一つで
ある鷹取地震波であり、その場合であっても上記のとおり入力方向の違
いが極めて小さいことからすると、現実に想定し得る鷹取地震波を超え
る地震においても、被告ダンパに対して本件発明1が想定する程度の鉛
直方向からのずれが生じる剪断パネルのねじれが生じるとも認められ
ない。
以上によれば、被告製品で用いられている被告ダンパの剪断パネルに
対してねじれの影響によって生じる入力方向の違いは、その小ささから、
本件発明1が想定する程度に達するような、異なる方向からの入力であ
ると評価できるものではないというべきである。
◆判決本文
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2024.05. 1
令和5(ネ)10078 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審で文言侵害不成立と判断されましたので、控訴審で均等侵害の主張を追加しましたが、第1要件を満たさないと判断されました。
(4) 当審における控訴人による均等侵害の主張に対する判断
ア 控訴人は、仮に被控訴人製品が、本件各発明に文言上はその技術的範囲に
属しないものとしても、これと均等なものとして、特許権侵害に当たる旨を
主張する。
特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用い\nる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、
1)同部分が特許発明の本質的部分ではなく、2)同部分を対象製品等における
ものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果
を奏するものであって、3)上記のように置き換えることに、当該発明の属す
る技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製
造等の時点において容易に想到することができたものであり、4)対象製品等
が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同
出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、5)対象製品等が特許発明の
特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる
などの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載さ
れた構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解する\nのが相当である。
そして、上記1)の要件(第1要件)における特許発明における本質的部分
とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない
特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきであり、特許請求\nの範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効
果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見
られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定するこ\nとによって認定されるべきである(最高裁平成6年(オ)第1083号同1
0年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成28
年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号
359頁参照)。
これを本件において検討するに、前記(1)イのとおり、本件発明1は、「底部
に取り付けられた安定補助板により支えられてテーブルなどの上に立たせら
れる」「折畳式コップ型容器」(段落【0003】)であって「安定補助板が例
えば紙や合成樹脂などから形成され、後から容器本体に取り付けられる構成」\n(段落【0005】)を採用した従来技術を前提とし、「成形が簡便な自立型
の包装容器の提供を目的とする」(段落【0006】)ことを発明が解決しよ
うとする課題とし、当該課題を解決する手段として「前記包装容器を容器と
して形成した状態において、前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自
立片が載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、前記自立片によって前記載
置面に自立させられる」(本件発明1の構成要件B)という構\成を採用するこ
とにより、「包装容器を自立させる自立片が底面片に連なっているため、一体
的な成形が簡便である」(段落【0013】)という効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1において従来技術に見られない特有の技術的思想
を構成する特徴的部分は、従来技術における安定補助板が、底部に一体的に\n成形された構成である、「前記包装容器を容器として形成した状態において、\n前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って前記奥
行の方向に突出し、前記自立片によって前記載置面に自立させられる」こと
にあると考えられる。
そして、本件発明1と被控訴人製品とは、包装容器を容器として形成した
状態において、本件発明1の「底面片」が筒状の底部を形成するのに対し、
被控訴人製品は、包装容器を自立させる舌状片が、包装容器の底部を形成す
る六角片と同一面に連なっておらず別に構成されている点において相違する\nものと認められるところ、この相違に係る本件発明1の構成、すなわち「底\n部を形成する底面片」が「自立片」と同一面に連ねられていることは、これ
までの検討によれば、本件発明1の本質的部分に当たるものということがで
きる。
そうすると、上記相違点に係る本件発明1の構成については、本件発明1\nの本質的部分ではないということはできない。そして、前記(1)ウのとおり、
上記の点については、本件各発明について共通するものということができる。
したがって、被控訴人製品は均等侵害の第1要件を充足しないから、その
要件について検討するまでもなく、均等侵害は成立しない。
イ 控訴人は、前記第2の3(4)ウのとおり、本件各発明の本質的部分は、「自立
片」によって載置面に自立させられる構成を採用した点にあり、当該「自立\n片」が内容物に直接接触してこれを支える片という意味における「底面片」
と、同一面に連なることにあるのではないと主張する。
しかし、本件各発明の本質的部分については上記アのとおりと認められる
から、本件各発明と被控訴人製品とは、その本質的部分において異なるもの
というべきである。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和4(ワ)2049
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2024.04.30
令和5(ワ)70001 特許専用実施権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月17日 東京地方裁判所
構成要件Dを充足せず、記述的範囲に属さないと判断されました。\n
以上のような本件明細書等から認められる本件各発明の目的、課題の解決手
段からすれば、本件各発明は、オゾンによる殺菌等を行った処理後の被処理水
に含まれる残オゾンの低減と、被処理水の生物処理の促進とを両立させること
ができる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することを目的としており、そ
の解決手段としては、第1の収容槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供
給するオゾン供給手段を有するとともに、第1の収容槽とは別に、被処理水の
生物処理を行う第2の収容槽を設けることとした上で、そこに第1の収容槽に
おいてオゾンによって処理された被処理水を残オゾンとともに収容し、生物処
理能力を低減させる原因となる残オゾンを積極的に酸素分子に化学変化させる\nために、第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給
手段と、所定の担体を有するというものである。
したがって、本件各発明においては、オゾンによる殺菌等を行った後の被処
理水に含まれる残オゾンの低減をも目的として第2の収容槽とそれに関する構\n成を設けているのであり、残オゾンを低減させるための構成ともいえる第2の\n収容槽内に、少なくとも積極的にオゾンを供給することは、課題の解決に至ら
ず、本件各発明において第2の収容槽とそれに関する構成を有することとした\nことと相容れないものといえる。
そして、オゾン発生装置で製造されるオゾンは、純度100%のオゾンガス
が製造されるものでないことは技術常識である上、本件明細書【0031】に
おいて、オゾン発生装置29によって発生し、このオゾン発生装置29に接続
され吸気管を介し吸気されたオゾンは、複数分岐した枝管24を通って圧縮部
22内に噴出されるようになっていて、この圧縮部22内に噴出された気泡が
オゾンを含むマイクロナノバブルとされていることからしても、第1収容槽内
に供給される「オゾンを含むマイクロナノバブル」については、当然に酸素(空
気)を含むものも想定されていたといえる。
以上に照らせば、本件各発明の特許請求の範囲の「第1の収容槽内にオゾン
を含むマイクロナノバブルを供給するオゾン供給手段」と、「第2の収容槽内に
酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」の記載は、特にオゾ
ン供給の有無という点において上記課題の解決のための対照的なマイクロナノ
バブルの供給手段として記載されているものと解するのが相当であり、「第2の
収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」は、第1
の収容槽への供給手段と異なり、そのマイクロナノバブルにはオゾンが積極的
に加えられているものではなく、その供給手段には、オゾンが積極的に加えら
れたマイクロナノバブルを供給する供給手段を含まないというべきである。し
たがって、第2の収容槽内にオゾンが積極的に加えられたマイクロナノバブル
を供給する酸素供給手段を有する装置は、構成要件Dを充足しないと解される。\n
(3) 被告システムは、前記第2の1(6)のとおり、構成要件Dの第2の収容槽に当\nたる曝気槽内に、酸素及びオゾンを含むマイクロナノバブルを供給する被告装
置を有しており、そのマイクロナノバブルには、オゾン発生装置から得られた
オゾンガス、すなわちオゾンと酸素の混合ガスが用いられていて、オゾンが意
図的、積極的に加えられていると認められるから(甲16、18、21、弁論の
全趣旨)、構成要件Dを充足しない。\n
(4) 原告は、被告装置は、オゾンよりも多くの酸素が残存して含まれている上、
当該オゾン自体も活性炭により化学変化させて酸素となることにより、好気性
微生物及び通性嫌気性微生物を活性化させており、十分効果的である旨主張す\nる。
しかし、本件明細書に記載された本件各発明の目的、課題の解決手段等から
すれば、本件各発明における「酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素
供給手段」は、前記(2)のとおり解するのが相当である。
また、原告は、オゾンは微量であるが、大気中に存在するし、「オゾン発生装
置」で生成されたオゾンは自然に消滅して酸素に置き換わるものなので、「第2
収容槽内においてはオゾンの量を早期に低減」させることは、2次的な効果に
すぎない旨主張するが、前記(1)及び(2)で述べたところによれば、残オゾンを早
期に低減させることが本件各発明の2次的な効果にすぎないといえない。
(5) 以上によれば、被告システムは構成要件Dを充足せず、本件発明1の技術的\n範囲に属しない。
◆判決本文
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2024.04.22
令和5(ネ)10010 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月27日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審では、技術的範囲に属するが新規性違反の無効理由有りと判断されました。控訴人は訂正審判を請求するとともに、控訴しました。被控訴人は訂正要件違反の無効理由を主張しましたが、知財高裁は訂正要件違反なしと判断し、差止と約50万円の損害賠償を認めました。
(イ) 乙18分析及び乙24分析における分析対象物である公然実施発明
(引用発明)に基づく進歩性欠如の主張について
a 公然実施発明は、公然実施品の具体的な構成又は組成等に基づいて認\n定されるため、通常、その公然実施品自体に課題が記載されていること
はなく、何らかの課題があることを認識することは困難であるから、公
然実施発明に基づく容易想到性の有無を判断するにあたっては、公然実
施品から出願日(優先日)当時の技術常識を前提にして技術的思想や課
題を認識できるかどうか、その構成又は組成を変更する動機付けがある\nか否かを検討すべきである。
・・・
c 被控訴人の主張について
(a) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕イ・ウのとおり、
本件特許の優先日前に公然実施された被控訴人製品「無限七星FIS
H」の重量平均分子量4.5×104との比較において、「1500
0」という上限値が技術的にいかなる意義を有するのかが不明であ
り、本件優先日において、ポリアリルアミンの重量平均分子量上限値
の「15000」と、公然実施発明に係る同「45000」は、いず
れもポリアリルアミンの重量平均分子量として広く知られ、一般的に
利用されている範囲内のものであるから、本件発明は、公然実施発明
に基づいて当業者が当然に予測することができたもので、進歩性を有\nしない旨を主張する。
この点につき、乙13(特開昭58−201811号公報)は、モ
ノアリルアミンの重合体の製造方法について記載されたものである
ところ、アリル化合物が通常のラジカル系開始剤によっては重合し難
いという問題があったことから、ラジカル系開始剤を用いて、モノア
リルアミンの高重合度の重合体を製造する方法を提供することを目
的とするものであり、請求項1に記載の特定のラジカル系開始剤(分
子中にアゾ基とカチオン性の窒素原子を持つ基とを含む。)を用いれ
ば、モノアリルアミンの無機酸塩が、極性溶媒中で極めて容易に重合
し、高収率で高重合度の重合体が得られることを見出したものであっ
て(特許請求の範囲の記載、2頁左上欄及び3頁左下欄)、実施例に
は、乙13記載の製造方法によって製造された数平均分子量(Mn)
が「6500〜45000」のポリアリルアミンが記載されている。
しかし、乙13は、ポリアリルアミンを水に含有した際の機能につい\nて、また、数平均分子量の違いによる機能の差異について記載ないし\n示唆するものではないから、乙13の記載から、公然実施発明(引用
発明)の「無限七星FISH」について、含有成分であるポリアリル
アミンの重量平均分子量等の物性を変更することが動機付けられる
ものとはいえない。
また、乙12の1(メディカル社のウェブサイト)には、「PAA
🄬(ポリアリルアミン)」の製品紹介が記載されており、「日東紡が
世界で初めて工業的製法を確立したポリアリルアミン(PAA🄬)は、
一級アミンを主成分とする機能性カチオンポリマー」であり、「様々\nな素材のカチオン化や高機能化に最適」であることや、「お客様の使\n用目的・用途に応じてのご提案も可能」であることが記載され、「ア\nリルアミン塩酸塩重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量
平均分子量(M.W.)が「1,600」(PAA−HCL−01)、
「15,000」(PAA−HCL−3L)、「100,000」(P
AA−HCL−10L)等の製品が、また、「アリルアミン(フリー)
重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量平均分子量(M.
W.)が「1,600」(PAA−01)、「15,000」(PA
A−15C)、「25,000」(PAA−25)等の製品が、それ
ぞれ記載されている(1/3−2/3頁)。
また、乙12の2には、メディカル社の研究・開発の歴史について
記載され、「PAA🄬」に関して、「1984(昭和59)年 PA
A🄬の(ポリアリルアミン)の重合方法発明および販売開始」、「1
991年(平成3)年 低分子PAA🄬を直接染料用固着剤として用
途開発・販売開始」等の記載がある。
しかし、乙12の1及び乙12の2も、ポリアリルアミンを水に含
有した際の機能や、重量平均分子量の違いによる機能\の差異について
記載ないし示唆するものではないから、乙12の1の記載から、公然
実施発明(引用発明)の「無限七星FISH」について、含有成分で
あるポリアリルアミンの重量平均分子量等の物性を変更することを
動機付けられるものとはいえない。
そうすると、乙13、乙12の1及び乙12の2の各記載を考慮し
ても、前記公然実施発明(公然実施品)の構成又は組成について、技\n術的思想や課題を認識できるような、本件優先日当時の技術常識があ
ったとはいえないから、たとえ、重量平均分子量が「15000」又
は「45000」であるポリアリルアミンが市販されたものであり、
当業者に広く知られ、一般的に利用されているものであったとして
も、そのことを根拠に、当業者が公然実施発明のポリアリルアミンの
重量平均分子量等の物性を変更することを当然に予測できるとはい\nえない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(b) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕エのとおり、本件
明細書にはポリアリルアミンの重量平均分子量につき本件訂正に係
る数値範囲は記載されていないから、当該数値範囲に特別な技術的意
義は認められず、本件明細書には重量平均分子量と発明の効果との間
に因果関係があることも記載されていないから、市販品として容易に
入手可能な重量平均分子量のポリアリルアミンを採用することに困\n難性はなく本件発明は進歩性を有しないと主張する。
そこで本件発明の技術的意義について検討すると、前記アのとお
り、本件明細書には、簡便に調製でき、且つ優れた機能を有する機能\
水を提供することを課題とし(段落【0002】ないし【0010】)、
当該課題を解決するために、機能水に、式(3)(式(3’)を包含\nする。)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含むポリマー
等の多価アミン及び/又はその塩を機能成分として含有することを\n特徴とし、当該機能成分の機能\として、魚介類又は精肉の鮮度保持を
含む種々の機能を有することが開示されている(段落【0012】、\n【0013】、【0015】及び【0026】)。
また、式(3)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含む
ポリマーとして、本件発明のポリアリルアミン又はジアリルアミン重
合体に該当するポリマーBが例示されており、その重量平均分子量が
「例えば100〜200,000、好ましくは300〜100,00
0、さらに好ましくは500〜50,000である」こと(段落【0
052】ないし【0055】)、ポリマーBの市販品として、重量平
均分子量が「1600」であるポリアリルアミン(PAA−01)、
「15,000」であるポリアリルアミン(PAA−15C)及び「5,
000」であるジアリルアミン重合体(PAS−21)が開示されて
いる(段落【0065】)。
そして、実施例において、具体的に、重量平均分子量が「1600」
若しくは「15,000」であるポリアリルアミン又は重量平均分子
量が「5,000」であるジアリルアミン重合体及び精製水を配合し
た試験液を用いて、魚介類又は精肉の鮮度保持を含む種々の機能を確\n認したことが開示されている(段落【0108】ないし【0237】)。
そうすると、本件明細書の記載から、「重量平均分子量500〜1
5000」のポリアリルアミン又はジアリルアミン重合体を含有する
機能水である本件発明には、前記のとおりの機能\を有する点で技術的
意義があることが認められる。
そして、前記(a)のとおり、公然実施発明(引用発明)に基づいて、
その含有成分であるポリアリルアミンの組成に着目し、重量平均分子
量等の物性をあえて変更することについて動機付けがあるとはいえ
ないから、前記本件発明との相違に係る重量平均分子量の数値範囲の
ものに置換することが容易に想到できたものとはいえない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和3(ワ)4920大阪地裁
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2024.04.14
令和5(ワ)3375 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月21日 大阪地方裁判所
特許侵害訴訟です。大阪地裁(21部)は、発明の一部の構成について一義的に明らかではないが、当業者の技術常識、明細書の記載に基づいて、被告製品は技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害は主張されていません。
前記(ア)のとおり、構成要件B2は、「縦板部」について、「庇板の開放された\n前端面に当接され」ていることと「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている」
こととをいずれも備える旨規定している。当該当接部分と、「前面が雨水を下方へ
導くガイド面となっている」部分との位置関係については、構成要件B2の文言か\nらは一義的には明らかでないものの、本件明細書において、前記(イ)のように、本
件発明が、庇の全長が必要以上に長くなるなどの従来の庇の問題に着目して小型化
と構造の簡易化を実現し、保守、点検に手数を要さない庇を提供することを目的と\nしていること、その問題を解決するための手段として、前縁板は、「庇板の開放さ
れた前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている縦板部」と、
「庇板の上面に当接され上面が雨水を縦板部のガイド面へ導くガイド面となってい
る横板部」とが一体に形成されて成り、前記縦板部の下部内面には凹部が形成され
るとの構成が示されていること、当該構\成において、庇板の上面に溜まった雨水は、
庇板の上面を伝って前縁板まで導かれ、横板部のガイド面を経て縦板部のガイド面
を伝って縦板部の下端より落下し、庇板と横板部との隙間より浸入した雨水は、縦
板部の内面を伝って下方へ流下して凹部内に流れ込み、凹部から溢れ出て縦板部の
下端より落下する旨が記載されていることからすれば、構成要件B2の「縦板部」\nは、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面が雨水を下方へ導くガ
イド面となっている」ことを要するものと解するのが、当業者にとって合理的であ
る。
そして、「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている」部分と、「庇板の開
放された前端面に当接され」た部分とがいずれも備わっているが、両部分が離間し
て存在し、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面が雨水を下方へ
導くガイド面」となっていない構成が「縦板部」に含まれるとの解釈は、本件明細\n書に示される本件発明の目的(庇の小型化や構造の簡易化)や作用に整合しないし、\n本件明細書上、これを許容するような記載や示唆も見当たらない。したがって、少
なくとも、かかる構成は構\成要件B2の「縦板部」を充足しないものというべきで
ある。
イ 被告製品についてみると、被告製品の構造(形状)の概要は、別紙「イ号製\n品」及び「ロ号製品」の各図面記載のとおりであるところ(前提事実(4)ア)、両
別紙の各【図7】のとおり、庇板102の開放された前端面129に、先端見切1
04(「前縁板」に相当する。)の当接部145の板部が当たって接している、す
なわち当接しているものと認められる。
しかしながら、雨水を下方へ導くガイド面140aは、中間に横方向へ延びる張
出部142を介して当接部145の板部とは離間して存在しており、当接部145
の板部の「前面」が雨水を下方へ導くガイド面となっているとは到底いえない。そ
うすると、被告製品には、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面
が雨水を下方へ導くガイド面となっている」構成が備わっておらず、被告製品は、\n構成要件B2の「縦板部」を充足しない。\n
ウ これに対し、原告は、被告製品の折れ板部140(別紙「図面」の【原告主
張図1】及び【原告主張図2】の橙色部分)は、前端面129に当接する当接部1
45及び前面が雨水を下方へ導くガイド面140aを備えるから、構成要件B2の\n「縦板部」に該当する、構成要件B2の「縦板部」は、雨水を縦方向に導くガイド\n面を備えているから「縦板部」との語が用いられたにすぎず、被告製品が前方へ張
り出す張出部142を有するからといって、非充足になるとはいえない旨主張する。
しかし、前記アに述べたとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項及び本件明
細書の各記載からすると、「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前面
が雨水を下方へ導くガイド面」となっていない構成を、構\成要件B2の「縦板部」
に含めることはできないというべきであるから、被告製品の折れ板部140が当接
部145及びガイド面140aを備えるとしても、当接部145の板部の前面が、
ガイド面140aとは離間し、雨水を下方へ導くガイド面となっていない以上、折
れ板部140が構成要件B2の「縦板部」に該当するとは認められない。\nしたがって、被告製品が構成要件B2を充足する旨の原告の主張は採用できない。\n
◆判決本文
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2024.04.11
令和5(ネ)10086 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月27日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
「化合物自体が公知文献に明記されており、当該化合物を初めて製造できたことに技術的意義が認められる物質特許の発明については、化合物自体は公知であるから、その発明は新規性を欠く」と無効主張しましたが、知財高裁は1審と同じく、技術的範囲に属すると判断しました。
控訴人は、化合物自体が公知文献に明記されており、当該化合物を初めて
製造できたことに技術的意義が認められる物質特許の発明については、化合
物自体は公知であるから、その発明は新規性を欠くと解すべきであり、仮に
新規性を有するのであれば、その発明の技術的意義は当該化合物を製造でき
たことについて認められるものであるから、その技術的範囲は、発明者が現
実に発明した製造方法によって製造された物か、単離された高純度の化合物
に限定されるべきであると主張するが、以下に述べるとおり採用できない。
ア 発明が技術的思想の創作であること(特許法2条1項参照)にかんがみ
れば、特許出願前に頒布された刊行物(同法29条1項3号)に物の発
明が記載されているというためには、同刊行物に発明の構成が開示され\nているだけでなく、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の
創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその\n技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されてい
ることを要する。
特に当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製造
方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから、
刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、当
該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理解\nし得る程度の記載があることを要するというべきであり、刊行物に製造
方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業
者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時\nの技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出すことがで
きることが必要であるというべきである。
そして、本件において、公知文献である本件引用例に5−アミノレブ
リン酸リン酸塩の製造方法に関する記載は見当たらず、乙16〜18の
各論文によっても、特許出願時の技術常識に基づいて当業者がその製造
方法その他の入手方法を見出すことができたとは認められない(以上は
原判決「事実及び理由」第3の3(1)イ〔14頁〜〕に同じ。)。
イ 他方、本件明細書には、5−アミノレブリン酸リン酸塩の物質の構成が\n開示されている(【0009】、【0014】〜【0016】)にとど
まらず、当業者がその製造方法を理解し得る程度の記載があるところ
(【0007】、【0019】〜【0028】、【0034】〜【00
36】)、これは、新規の化学物質の発明である本件発明について、当
業者が実施し得る程度の発明の技術的思想を開示するものであって、単
なる製造方法としての技術的意義にとどまるものではない。
そして、特許が物の発明についてされている場合には、その特許権の
効力は、当該物と構造、特性等が同一である物であれば、その製造方法\nにかかわらず及ぶこととなる(最高裁平成24年(受)第1204号同
27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁参照)。
ウ なお、控訴人が指摘するような、本件特許の出願の際に製造等していた
者については先使用による通常実施権(特許法79条)により、本件特
許の出願後に製造方法等の発明をした者については通常実施権の設定の
裁定(同法92条)により、特許権者との利益の調整が図られることに
なる。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)9716
本件特許の無効審判に関する審決取消訴訟です。
結論は本件と同じです。
◆令和4(行ケ)10091
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2024.03.23
令和4(ワ)9521 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月26日 大阪地方裁判所
熱可塑性樹脂組成物について、構成要件1B「・・・分子量700以上・・」について、第1要件充足せずとして、均等侵害が否定されました。ちなみに、被告製品「分子量699」であり、「700」という数値に臨界的意義はありません。
該当特許はこちらです。
◆特許4974971
ア 本件各発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物と、当該
組成物からなる樹脂成形品ならびに樹脂成形品の具体的な一例である偏光
子保護フィルム、樹脂成形品の製造方法に関する発明である(【0001】)。
アクリル樹脂の透明度の低下を防止するためにUVAを添加する方法が
公知であったが、成形時の発泡やUVAのブリードアウト、UVAの蒸散に
よる紫外線吸収能の低下との問題につき、従来技術として、アクリル樹脂に組み合わせるUVAとして、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびベンゾフェノン系化合物が用いられていた(【0003】、【00\n05】、【0006】)。しかし、これらの従来技術として例示されたアクリル
樹脂(【0006】記載の特許文献)には、いずれも分子量が700以上のU
VAは開示されていなかった。
イ 本件各発明は、従来技術の化合物には、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂との相溶性に課題があり、高温成形時の発泡やブリードアウトの発生の抑制が不十\分であったことから、これらの課題を克服するため(【0007】、【0008】)、樹脂組成物を構成要件1B記載の構\成とし、その製造方法を構成要件6B記載の構\成とし(【0009】、【0010】)、これにより11
0゜C)以上という高いTgに基づく優れた耐熱性や高温成形時における発泡
及びブリードアウトの抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少との効果を
奏することとなった(【0015】)。
ウ したがって、本件各発明の本質的部分は、ヒドロキシフェニルトリアジン
骨格を有する、分子量が700以上のUVAが、主鎖に環構造を有する熱可塑性アクリル樹脂と相溶性を有することを見出したことにより、110゜C)以
上という高い優れた耐熱性や高温成形時における発泡及びブリードアウト
の抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少という効果を有する樹脂組成物
を提供することを可能にした点にあると認められる。
エ 数値をもって技術的範囲を限定し(数値限定発明)、その数値に設定する
ことに意義がある発明は、その数値の範囲内の技術に限定することで、その
発明に対して特許が付与されたと考えられるから、特段の事情のない限り、
その数値による技術的範囲の限定は特許発明の本質的部分に当たると解す
べきである。
上記検討によれば、分子量を「700以上」とすることには技術的意義が
あるといえるうえ、本件において、上記特段の事情は何らうかがえない。
オ そうすると、被告UVAの分子量が「700以上」ではないとの相違点は、
本件各発明の本質的部分に係る差異であるというべきであるから、被告製品
及び被告方法について、均等の第1要件が成立すると認めることはできず、
均等侵害は成立しない。
カ 原告は、本件各発明におけるUVAの分子量である「700」に厳格な技
術的意義はなく、本件各発明の本質的部分は、分子量が十分に大きいという上位概念であると主張する。 しかし、このような上位概念化は、前述の数値限定発明の技術的意義に関
する考え方と相容れず権利範囲を不当に拡大するものである。また、本件証
拠上、本件各発明におけるUVAの分子量が十分に大きいということが当業者にとって自明であるとも認められないし、分子量が十\分に大きいことと、被告UVAの分子量との比較における本件各発明の数値の臨界的意義との
関係は何ら明らかにされていない。
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2024.03.23
令和4(ワ)9100 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月21日 東京地方裁判所
技術的範囲に属しない(構成要件F非充足)として、特許権侵害が否定されました。\n
被告方法では、磁性体モールド樹脂で成形されているEコア及びIコア並び
にコイルを合体させたコアを、●(省略)●に形成されたキャビティに配置し、
加圧しつつ加熱して樹脂を硬化させてモールドコイルを作成する(以下「加圧・
加熱過程」という。)ところ、加圧・加熱過程で●(省略)●から磁性体モール
ド樹脂が漏れ出し、これが硬化してバリが形成される(第2の2前提事実 )。
原告は、上記の被告方法において、キャビティに配置されるEコア、Iコア
を形成する磁性体モールド樹脂(以下「磁性体モールド樹脂(コア)」という。)
が構成要件Fの「該キャビティ内に充填した磁性体モールド樹脂」に該当し、\n加圧によって漏れ出してバリを形成する磁性体モールド樹脂(以下「磁性体モ
ールド樹脂(バリ)」という。)が「該排出した磁性体モールド樹脂」に該当
し、磁性体モールド樹脂(バリ)を構成する磁性体粉末の容積比(以下「磁性\n体粉末容積比(バリ)」という。)が磁性体モールド樹脂(コア)を構成する\n磁性体粉末の容積比(以下「磁性体粉末容積比(コア)」という。)よりも小
さいと主張するものと解される。
もっとも、被告方法を用いて被告製品を製造する過程において、磁性体粉末
容積比(コア)と磁性体粉末容積比(バリ)について、これらを直接測定して
比較し、後者の容積比の方が小さいものであったことを示す証拠はない。他方、
被告からは、被告方法で作成されたモールドコイルにおいて、磁性体粉末容積
比(バリ)と磁性体粉末容積比(コア)がほぼ同じである旨の電子顕微鏡で撮
影された画像の分析結果(乙4)が提出されている。
ア 原告は、磁性体粉末容積比(コア)と磁性体粉末容積比(バリ)について、
磁性体粉末の粒子径が、磁性体モールド樹脂が漏れ出す隙間よりも大きけれ
ば、樹脂が隙間から優先的に排出されるために磁性体粉末容積比(バリ)の
方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなるところ、被告方法の加圧・
加熱過程で加圧を続けても樹脂の流出が止まるのは、磁性体粉末が隙間を埋
めることが理由であるから、被告方法においては、樹脂が隙間から優先的に
排出されるといった事象が生じたことが示されていると主張する。これに対
して、被告は、被告方法において加圧・加熱過程で加圧を続けているにもか
かわらず樹脂の流出が止まる理由について、磁性体によって隙間が埋められ
たためではなく、触媒等を利用した上で加熱により樹脂が硬化したためであ
ると主張している。
原告は、被告が主張するような短時間で硬化は生じない旨主張するが、被
告方法における樹脂の硬化につき、この原告主張を裏付けるに足りる証拠は
ない。また、樹脂の流出が止まったのが磁性体粉末が隙間を埋めたものであ
ることを裏付ける証拠はない。被告が実際に使用している被告方法において、
原告が主張するのとは異なる理由により樹脂の流出が止まったことを否定
できず、被告方法において、原告が主張する事象が生じたことによって樹脂
の流出が止まると認めるには足りない。そうすると、原告の主張はその前提
を欠く。
イ(ア)原告は、加圧・加熱過程において磁性体モールド樹脂が漏れ出す隙間が
磁性体粉末の粒子径よりも小さければ、樹脂が優先的に流出するために
磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さく
なるという原理を前提に、被告方法で生じている隙間は十分に小さいも\nのであると主張する。
(イ)しかし、被告方法において隙間に相当するものの幅、形状・構造等は不\n明である。原告は、バレル研磨跡に生じている被告製品の角に生じた研磨
跡に着目し、バリの幅は研磨跡を超えることはないなどとして、研磨跡か
らバリの幅を推計し、バリの厚さは●(省略)●を超えるものではないな
どとも主張する(甲8)。しかし、研磨跡によりバリの幅を正しく把握で
きるかは明らかでなく、原告指摘の事実によっても、隙間に相当するもの
の幅、形状・構造等は不明である。\n
(ウ)被告方法で用いられる磁性体粉末の大きさについても、被告が用いた磁
性体のD99は、●(省略)●D90は、●(省略)●であることは認め
られる(乙3)が、被告方法においては、様々な粒子径、形状の磁性体が
使用され、具体的な粒子径の分布は不明である。そして、被告方法で作成
されたモールドコイル及びバリの電子顕微鏡で撮影された画像(乙4)に
よれば、被告方法で隙間に相当するものの幅に比べて格段に小さな磁性体
粒子が多数含まれていることが認められる。
(エ)原告が前記(ア)で主張する原理について、全磁性体粒子のうちの最小粒子
径が隙間よりも大きい場合には、磁性体は隙間を通過することができない
ため、樹脂のみが隙間から流出することは推測できる。逆に、全磁性体の
粒子径が隙間よりも十分に小さければ、樹脂と共に磁性体も隙間を通過す\nることから磁性体粉末容積比(コア)及び磁性体粉末容積比(バリ)に変
化がないものと推測でき、隙間より大きな磁性体粒子の割合が極めて小さ
い場合にも同様である。他方で、これら以外の場合には、磁性体粉末の具
体的な粒子径の形状・分布、樹脂の性質、隙間の形状・構造、加えられる\n圧力等により、隙間を通過する磁性体の量は変化するものと推測される。
そして、それらについて、どのようなものであった場合に隙間を通過する
磁性体がどの程度あるかについて、これを認めるに足りる証拠はない。
(オ)以上によれば、被告方法においては、様々な粒子径、形状の磁性体が使
用されているところ、その全磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法
で使用されている●(省略)●よりも大きいことを認めるに足りない。ま
た、そのように全磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法で使用され
ている●(省略)●よりも大きいことが認められない場合、被告方法にお
いて、どのような割合で磁性体と樹脂が被告方法における隙間に相当す
る部分を通過するかは明らかではなく、特に本件のように隙間よりも小
さな粒子径を有する磁性体粒子が多数含まれる場合には、原告が主張す
る原理によって、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性
体粉末容積比(コア)よりも小さくなっているという事実を認めるに足り
ない。
ウ 以上によれば、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体
粉末容積比(コア)よりも小さくなっていることを認めるに足りる証拠はな
い。かえって、前記 のとおり、被告からは、被告方法で作成されたモール
ドコイルにおいて、粉末容積比(バリ)と粉末容積比(コア)が変わらない
旨の電子顕微鏡で撮影された画像の分析結果(乙4)が提出されている。
(3)よって、被告方法において粉末容積比(バリ)の方が粉末容積比(コア)よ
りも小さくなっていることを認めることはできず、被告方法が構成要件Fを充\n足するとはいえない。
◆判決本文
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2024.02.24
令和5(ワ)70454 特許権侵害等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月9日 東京地方裁判所
個人発明家によるAbemaTVを特許権侵害訴訟です。本人訴訟です。裁判所は、構成要件を充足しないと判断しました。\n
(1) 「検査分析装置」及び「検査分析」の意義について
本件発明に係る特許請求の範囲においては、構成要件A、D、F及びGに\n「検査分析装置」との記載があり、構成要件A、B、C、E及びHに「検査\n分析」との記載があるものの、それらの意義は、当該特許請求の範囲の記載
からは明らかではない。
そして、本件明細書には、技術分野に関し、「半導体集積回路装置…の開
発、製造などの検査分析工程で用いられる走査型電子顕微鏡(SEM)、共
焦点レーザ顕微鏡などの検査分析装置の利用方法に関」する(【0001】)
との記載が、背景技術に関し、「半導体ウェハ、半導体チップなどの検査分
析においては、検査分析対象となる試料と検査分析装置の性能が合致しない\nと全く有効な検査分析とならない。」(【0004】)及び「半導体ウェハ、半
導体チップの検査分析においては、そのコスト増が著しく、半導体集積回路
装置の開発、製造コストの増大の要因になっている。」(【0005】)との記
載が、課題に関し、「本発明の目的は、半導体集積回路装置などの開発、製
造を効率的に行うために用いられる検査分析工程において、低コストで効率
的に検査分析が行える技術を提供することである。」(【0015】)との記載
が、課題を解決するための手段に関し、本件発明は、検査分析装置の管理者
側と検査分析を希望するユーザ側のそれぞれにセキュリティ確保手段を講じ
た上、ユーザが、離れた場所にある検査分析装置を、リアルタイムでリモー
ト操作する、又は、ユーザが事前に作成した操作レシピーデータに基づいて
検査分析を行う旨(【0016】ないし【0019】)の記載に加え、「本件
発明の検査分析は、細く絞ったレーザビームを試料面へ照射してその反射光、
散乱光、透過光の少なくとも一つを検出すること、または電子ビームを照射
して二次電子、散乱電子、透過電子の内の少なくとも一つを検出することに
より、試料上の所望の箇所を分析するものである。」(【0024】)との記載
が、発明の効果に関し、「本件発明により、検査分析を所望する複数ユーザ
に対し、ユーザは個別に検査分析装置の導入のための投資することなく、ユ
ーザ試料の検査分析が効率よく行うことが可能となった。」(【0026】)と\nの記載が、それぞれある。これらの記載に照らすと、「検査分析装置」とは、
試料を装填等して、ユーザのリモート操作によりその試料を分析し、検査す
る検査分析ユニットを有する装置を意味し、「検査分析」とは、試料を装填
等して、ユーザのリモート操作によりその試料を分析し、検査する工程を意
味すると理解することができる。
これに対し、原告は、「検査分析装置」について、「インターネットを介し
たリモート操作が検査分析の対象となるコンピュータ装置であり、当該検査
分析に異常がないことを条件とし、リモート操作した情報を提供するコンピ
ュータ装置」と、「検査分析」について、「インターネットを介した検査分析
装置に対するリモート操作に異常がないかの検査分析」と、それぞれ解すべ
きである旨主張し、検査の対象が「リモート操作」であることを前提として
いるものと解されるが、本件明細書には、原告が主張する解釈の根拠となる
記載はないから、同主張は理由がない。
(2) 被告方法の構成要件充足性について\n
原告の主張は明確ではないものの、被告の動画配信サービスを提供するサ
ーバが、「検査分析装置」に該当し、同サービスにおいて、視聴者が動画配
信の内容についてコメントを付したり、高評価ボタンを押下したりすること
が、「検査分析」であると主張するものと理解することができる。
しかし、被告の動画配信サービスを提供するサーバは、検査分析の対象と
なる試料の装填等を想定したものではなく、ユーザからリモート操作される
ことによりその情報等を分析し、検査する検査分析ユニットを備えているも
のと認めることはできないから(弁論の全趣旨)、同サーバは、構成要件A、\nD、F及びGの「検査分析装置」に該当しない。
同様に、被告の動画配信サービスにおいて、視聴者が、動画配信の内容に
ついてコメントを付したり、高評価ボタンを押下したりすることは、試料を
装填等することを前提とするものではなく、ユーザが同試料について情報等
を分析し、検査するものでもないから、構成要件A、B、C、E及びHの\n「検査分析」に該当しない。
その他、原告の主張する被告方法の内容に照らし、被告方法が「検査分析
装置」又は「検査分析」に該当する装置又は工程を備えるものとは認められ
ない。以上のとおり、被告方法が構成要件AないしHを充足すると認めることは\nできない。
◆判決本文
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2024.02.23
令和5(ネ)10026 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年1月31日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特許権侵害訴訟の控訴審判決です。原審は、被告製品は本件発明2の技術的範囲に属さない、本件発明1は公然実施発明Bであって新規性を欠くとして請求棄却しました。控訴審も同様です。
ア 控訴人は、構成要件2Bを「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であることを要する」と解する根拠は、特許請求の範囲の文言にも本件発明2の課題にも
なく、当業者の技術常識等からみても非現実的である旨主張する。
イ しかし、構成要件2Bは「前記排水溝の壁面の表\面粗さが、算術平均粗
さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする」と規定してお
り、本件発明2の特許請求の範囲の文言全体をみても、排水溝壁面の表面粗さについて、一部は2.0μmを超えるが製品の一定範囲や所定の\n測定箇所が2.0μm以下であるものを含む、あるいは全体の算術平均
粗さ(Ra)の平均値が2.0μm以下であるものを含むと解すべき文
言はない。
この点は、本件明細書2の記載をみても同様である。控訴人が指摘す
る本件明細書2の記載や図面は、従来技術や実施例に係る排水溝の性状
等を特に留保なく説明するものであり、控訴人が主張するように、作業
過程で異常(イレギュラー)が発生した箇所があることを前提とし、こ
れを除いた「任意の箇所」を示すものであることを窺わせる記載はない。
控訴人は、1)製紙用弾性ベルトの排水溝は、作業前に設定した加工条
件に基づいて均一的に連続加工されるものであること、2)作業時の諸要
因によって加工結果にばらつきが生じることが避けられないこと、3)排
水溝の壁面を全長にわたって測定する作業は現実的に不可能であり、任意に選定された排水溝の壁面を測定する作業によって製品の性状を把握\nするという、当業者の技術常識を考慮すべき旨主張する。
しかし、上記のとおり明確な構成要件2Bの文言について、明細書にも記載がなく、その範囲も不明確な例外を含むと解することは、不当な\n拡張解釈というべきであって、特許請求の範囲の解釈に当たって当業者
の技術常識を考慮するという枠組みを超えるものといわざるを得ない。
控訴人の主張は、当業者が定める自社製品の品質基準としてはともかく、
独占権が付与される特許請求の範囲の解釈としては採り得ない。
なお、控訴人が指摘する大阪地方裁判所平成15年(ワ)第10959号
同17年2月28日判決は、控訴人の主張を裏付けるものではない。
ウ したがって、原判決判示のとおり、構成要件2Bは「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であること」を要すると解するのが相当である。
そうすると、控訴人が主張する<ステップ1>から<ステップ2の2
B>まで、すなわち「各測定結果に係る9溝ないし18溝のデータ数値
を参照し、特定の溝壁面の表面粗さ数値が他の溝の同一壁面に比して突出して高くなっている」ものを「当業者からみて明らかに溝加工作業時\nに生じた異常(イレギュラー)」として除外すること、及び「測定結果
に係る各壁面の表面粗さの平均値が算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下である結果が得られているか否か」(控訴人の他の主張と併せると、\n任意の測定箇所の算術平均粗さの「平均値」が2.0μm以下であるこ
とを意味すると解される。)により充足性を判断する判断手法は、構成要件2Bを逸脱する独自の解釈に基づくものといわざるを得ず、採用で\nきない。
・・・
(2) 公然実施発明Bに基づく本件発明1の新規性欠如の有無について
イ 公然実施をされた発明に当たるかについて
(ア) 控訴人は、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面にD
MTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可能な分析方法によって知ることができなかった旨主張する。\n
(イ) しかし、まず、証拠(乙37、124、128、129)によれば、
エタキュアー300は、本件特許1の出願前から実用化され、ウレタン
用の硬化剤として注目されていたことが認められる(原判決44頁〜)。
控訴人は、上記文献等はシュープレス用ベルトに使用される硬化剤に
ついて言及するものでないと主張するが、上記文献等はポリウレタン全
般向けの硬化剤としてエタキュアー300を説明するものであるところ、
シュープレス用ベルトに利用される硬化剤が他の一般的なポリウレタン
の硬化剤と異なるとみるべき根拠はない(上記文献等には、代表的な従来品が本件明細書1【0003】に従来のシュープレス用ベルトの硬化\n剤として記載されているMOCAである旨の記載も複数ある。)。
また、被控訴人は、遅くとも平成9年7月時点ではエタキュアー30
0を使用していたところ(原判決45頁)、上記ア(イ)の認定事実によ
れば、被控訴人は硬化剤としてDMTDAを使用することを独自に見出
したのではなく、エタキュアー300を製造販売するアルベマール社の
国内関連会社との取引を契機として知ったと認められる。この事情は、
他の当業者が硬化剤の候補としてエタキュアー300に着目する蓋然性
を裏付ける事情となることは明らかである。
控訴人は、さらに、ポリウレタンの硬化剤はDMTDAの他にも約8
0種類存在し(甲43)、その全てについて標準品を準備して分析依頼
を行うことは非現実的であると主張する。
しかし、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(乙128)に「実用化
されている熱硬化PUエラストマー用芳香族ジアミン架橋剤」として記
載された5種類、あるいは特開2000−248040号公報(乙12
7)にポリウレタンプレポリマーと反応させるアミン硬化剤組成物とし
て記載された芳香族ポリアミンの15種類、その中でも好ましいと記載
された4種類には、いずれもエタキュアー300又はDMTDAが含ま
れており、当業者は、従来用いられているMOCA(本件明細書1【0
003】)と同類であるこれらの硬化剤を想定するとみるのが自然であ
る。
(ウ) 控訴人は、ベルトの外周面に着目し、外周面のみを切り出して分析を
依頼することは、当業者が通常に利用可能な分析技術とはいえない旨主張する。\nしかし、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の
層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤と
を混合してベルトの弾性材料とすることは技術常識であり(原判決44
頁)、自由に解析等をなし得る状態に置かれたベルトを解析して構造等を特定することは可能\であったと認められる(このことは甲25に記載された断面写真から明らかであり、原判決の認定に問題はない。)。
したがって、ベルトBの外周層を切り出して分析を依頼することは、
本件訴訟において控訴人(甲10の1〜4)及び被控訴人(乙1〜3)
が行ったのと同様、本件特許1出願前の当業者にも可能であったと認められる。\n
なお、当業者が仮に外周層と内周層に異なる硬化剤を用いる製造方法
を認識せず、これらを区別せずに分析を依頼した場合、全体について硬
化剤としてDMTDAが使用されているという分析結果を知ることにな
り、この結果はベルトBの正しい構成なのであるから(乙32)、「外周面を構\成するポリウレタンは、」「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている」との構成を含め、本件発明1の内容を知り得たといえることに変わりはない。\n
(エ) したがって、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面に
DMTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可
能な分析方法によって知ることができたと認められる。ベルトBが公然実施された発明とはいえない旨をいう控訴人の主張は採用できない。\n
◆判決本文
原審はこちら。
◆大阪地裁平成29(ワ)4178
原審では、被告は、一旦、損害論に入ってから、2.0μm以下である」との構成要件を充足しないとして、非侵害の主張を行いましたが、これは「時機に後れた」とは認定されませんでした。
原告は、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわ
らず、被告は、被告製品1〜3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁
面の表面粗さの測定結果(乙152〜159)を新たに証拠提出するとともに、非侵害の主張を行ったことが時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を主張する。\nしかし、被告が前記証拠等を提出したのは、原告が、訴状においてはイ号製品
が本件発明2の技術的範囲に属する旨を主張しつつも、被告製品1〜3及び5の
排水溝壁面の表面粗さに限定して立証活動をしていたが、裁判所が本件発明2については損害論に入る旨の心証開示を行ったことを受けて、被告製品1〜3及び\n5の各製品と同じシリーズの製品等についても本件発明2の技術的範囲に属する
旨を改めて主張したことに対応するものであって、必ずしも時機に後れたものと
は認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。
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2024.02.16
令和5(ワ)70102 特許権侵害差止及び特許権侵害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年12月4日 東京地方裁判所
半発酵茶葉の発明について、構成要件を充足しないとして、侵害が否定されました。\n裁判所は明細書の記載を参酌して、「茎が取り除かれた」とは、茎を含む半発酵茶葉のポリフェノール等の重量%を測定するための条件を示すものではなく、茎を含まないことを意味すると判断しました。
ア 本件発明の構成要件BないしDは、ポリフェノールの重量、EGCGとE\nCGの合計重量又は総カテキンの重量につき、各構成要件記載の重量%以下\nに限定するものであるが、上記構成要件にいう「茎が取り除かれた」とは、\n本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを意味するのか、あるいは、茎を
含む半発酵茶葉のポリフェノール等の重量%を測定するための条件を示す
ものか、文言上必ずしも明らかではない。そのため、本件明細書の記載を考
慮して、その用語の意味を解釈すると、本件明細書の記載【0079】には、
「サンプリング方法:できた各号のお茶の茎を取り除き、篩い分けて12メ
ッシュパス20メッシュオンの砕茶を各800g採取する。」として、本件
発明の半発酵茶葉は、その茎が取り除かれることが明確に記載されている。
そして、本件明細書の他の実施例をみても、官能試験によって本件発明の効\n果が確認されている茶葉は、いずれもサンプリングの段階で茎が取り除かれ
たものであり、本件明細書全体の記載によっても、茎が含まれた茶葉につい
ては、本件発明の効果を確認するような記載が一切存在せず、本件発明の茶
葉に茎が含まれることを示唆する記載も一切認められない。
上記各構成要件及び本件明細書の記載を踏まえると、上記各構\成要件にい
う「茎が取り除かれた」とは、本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを
意味するものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記認定事実及び弁論の全趣旨(被告各製品
(双方当事者持参に係るもの)に係る茎の有無の確認結果〔第3回弁論準備
手続期日及び第4回弁論準備手続期日〕を含む。)によれば、被告各製品の
茶葉には、いずれも多くの茎が含まれていることが認められる。
したがって、被告各製品は、本件発明の構成要件BないしDを充足するも\nのと認めることはできない。
のみならず、原告による本件各試験は、被告各製品において茎を除いてポ
リフェノール等の重量%を測定していることまで立証するものではなく、上
記構成要件BないしDを立証する前提を欠くものといえる。しかも、原告に\nよる本件各試験は、被告らが釈明したとおり(第1回弁論準備手続調書参照)、
本件各試験に係る具体的な実施条件等が明らかにされていないため、上記構\n成要件BないしDにいう成分重量を的確に立証するものとはいえない。その
上、原告が採用した測定方法は、本件明細書【0082】に記載された測定
方法(カテキンにあってはISO14502、ポリフェノールがGB/T8
313をいう。)とは異なるものであるから、上記構成要件BないしDに各\n規定する成分重量を立証するに適切なものとはいえない。
この理は、原告が時機に後れて提出した本件試験その2(甲19、20)
についても、測定に当たり茎が除かれていない点、具体的な実施条件等を欠
く点において同様に当てはまるものであり、同試験も上記認定判断を左右す
るに至らない。
したがって、原告の立証は、上記各構成要件の充足性を裏付けるに的確な\nものとはいえず、このような観点からしても、被告各製品は、本件発明の構\n成要件BないしDを充足するものと認めることはできない。
イ これに対して、原告は、1)仮に茎を取り除かなければ、被告各製品には全
体の13重量%から18重量%の茎が含まれているはずであり、見た目も悪
くなるはずであるが、実際にはそうではないこと、2)仮に茎が完全には取り
除かれていなかったとしても、少々の茎は、この業界では茎が取り除かれた
ものとみなされていること、3)仮に茎が取り除かれていないとしても、被告
各製品の半発酵茶という性質に何ら変わりはないことを主張する。
しかしながら、本件特許に係る茶葉は、茎が取り除かれているものである
ことは、上記において説示したとおりであり、原告の主張は、本件特許の構\n成要件の用語の意義を正解しないものである。また、被告各製品には、少々
とはいえない茎が含まれていることも、上記において認定したとおりであり、
原告の主張は、その前提を欠くというほかない。
◆判決本文
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2023.12.14
令和2(ワ)25892 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年11月29日 東京地方裁判所
電子たばこの特許について、被告製品は技術的範囲に属しないと判断されました。
イ 本件明細書には、「本発明の物品は、カートリッジの嵌合端部と嵌合す
る受容端部を有する制御ハウジングも含むことができる。したがって、制
御ハウジングとカートリッジ本体は、機能可能\に連結されるものとして特
徴づけることができる。このような受容端部は特に、カートリッジの嵌合
端部を受容する開口端部を有するチャンバーを含んでよい。・・・特有の
実施形態では、カートリッジの嵌合端部を制御ハウジングの受容端部と嵌
合させると(カートリッジの嵌合端部を制御ハウジングのチャンバーの中
まで所定の距離だけスライドさせるなどすると)、吸引可能な物質媒体と\n電気加熱部材が整列して、吸引可能な物質媒体の少なくとも一部分を加熱\nできるようになる。」(【0008】)、「カートリッジ本体305は、
制御ハウジング200の受容チャンバー210と嵌合する嵌合端部310
と、」(【0040】)との記載がある。また、図4、図7、図9等には、
吸引可能な物質を消費者の方に運ぶように構\成された反対側の吸い口端と、
外面および内面を有する壁とを有する実質的に筒状のカートリッジの嵌合
端部310が示されるとともに、電気加熱部材に電力を供給する電気エネ
ルギー源を含む制御ハウジングの端部として、中央部の円筒状の突出部を
取り囲むように、円筒形のカートリッジの外壁の外径よりやや大きい内径
を有する円筒形の受容チャンバー壁があり、カートリッジを受容チャンバ
ーに挿入することで、カートリッジの外壁であり嵌合端部の外側が、受容
チャンバーの外壁の内側に、ほとんど隙間なく接する状態が示されている。
すなわち、本件明細書には、カートリッジの嵌合端部と制御ハウジング
の嵌合端部(受容端部)が嵌合すると記載され、その実施形態として、カ
ートリッジが制御ハウジングの受容チャンバーに挿入されることで、相補
形状を有するといえる、円筒形の外壁という形状を有するカートリッジの
嵌合端部と、円筒形の受容チャンバー壁という形状を有する制御ハウジン
グの嵌合端部(受容端部)とが、カートリッジの外壁の外側の嵌合端部が
受容チャンバーの外壁の内側に接することで、ほとんど隙間なく配置され
るという状態ではまり合っていることが示されているといえる。これは、
上記の「嵌合」についての一般的な意義に沿ったものである。他方、本件
明細書には、制御ハウジングの「受容端部」あるいは「受容チャンバー」
については、【0008】、【0040】以外に、本件明細書の【001
2】、【0018】、【0027】、【0059】、【0061】、【0
102】等にも記載があるが、カートリッジの嵌合端部の端面に接触又は
近接するのみで、それを制御ハウジングの「受容端部」とする記載はない
し、上記アの一般的な意義と異なる意味で「嵌合」が使われていることを
示唆する記載もない。
ウ 本件発明は、前記1 のような技術的意義を有するところ、制御ハウジ
ングとカートリッジの関係として、想定し得る様々な構成のうち、構\成要
件Dにおいて「前記制御ハウジングは、前記カートリッジに機能可能\に連
結されている嵌合端部を有する」として、それぞれの嵌合端部が「嵌合」
するものであることを明確に定めている。そして、そのような構成の下で、\n制御ハウジングとカートリッジが「機能可能\に連結され」、また、「吸引
可能な物質媒体と電気加熱部材が整列して、吸引可能\な物質媒体の少なく
とも一部分を加熱できるように」なることがあるとしている。
本件発明においては、制御ハウジングとカートリッジの関係が上記のと
おり定められているところ、「嵌合」の語句の一般的な意義(前記ア)
や本件明細書の記載(前記イ)もその一般的な意義を前提としていると
解されることからも、「前記カートリッジに機能可能\に連結されている
嵌合端部」とは、その嵌合端部自体が一定の形状を有するとともに、ハ
ウジングの嵌合端部も一定の形状を有し、それら両嵌合端部の形状が、
相補形状であり、それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくは
まり合うものをいうと解される。
(3) 被告製品の構成dについて\n
ア 被告製品の構成dは、「加熱式デバイスは、加熱式タバコスティックを\n受け入れるエンドキャップと、エンドキャップの底面に形成されたスリッ
トを貫通してエンドキャップ内まで延びるヒータブレードのベース部上に
形成された導電トラックに電力を供給するバッテリーを含むメインボディ
と、を有する加熱式喫煙デバイスであって、使用者はエンドキャップの底
面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であり、該挿入によっ\nてヒータブレードのベース部が加熱式タバコスティックに挿入され、加熱
式喫煙デバイスのスイッチが入れられると、タバコロッドを加熱するため
に、ヒータブレードの導電トラックがバッテリーと通電し、」である。
そして、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり得るのは加熱式タバコ\nスティックであり、当該加熱式タバコスティックの篏合端部に当たり得る
のは、加熱式タバコスティックの吸い口とは反対の先端部である。
イ 原告らは、エンドキャップに加熱式タバコスティックがぴったりとはま
るから、エンドキャップの底面と、加熱式タバコスティックの先端面は、
ほぼ同径の円形であり、「形状が合った物」であり、「エンドキャップの
底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であ」ることは「は\nめ合わせる」ことである旨主張する。
しかしながら、加熱式タバコスティックの先端面の形状とエンドキャッ
プの底面の形状自体はほぼ同径の円形であるとしても、エンドキャップ
の底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入した状態は、加熱式
タバコスティックの先端面がエンドキャップの底面に突き当たって接し
た状態になっているのみである。加熱式タバコスティックの先端面とエ
ンドキャップの底面のそれぞれの形状は、相補形状ではなく、それぞれ
の形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものであるとはい
えない。
なお、制御ハウジングは、構成要件Dの文言上、「前記電技加熱部材に\n電力を供給する電気エネルギー源を含(む)」(構成要件D)ものであ\nるところ、被告製品における制御ハウジングはメインボディであるから、
エンドキャップそれ単独では、制御ハウジングに当たることはない。
ウ 原告らは、ヒータブレードのベース部が「篏合端部」に当たるとも主張
する。
しかしながら、前記のとおり、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり\n得るのは加熱式タバコスティックであり、当該加熱式タバコスティックの
篏合端部に当たり得るのは、円筒状の形状を有する加熱式タバコスティッ
クの吸い口とは反対の先端部であるが、当該先端部は、原告らが「篏合端
部」と主張するヒータブレードのベース部の形状と、相補形状ではなく、
それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものである
とはいえない、なお、このことは、ヒータブレードのベース部とエンドキャップ底面と
を合わせた構成を考えても同様である。\n
エ 以上によれば、被告製品の構成dのヒータブレードのベース部とエンド\nキャップ底面は、いずれも構成要件Dの「篏合端部」に当たらず、その他、\nこれに該当する部分はないといえる。
そうすると、被告製品は、構成要件Dを充足する部分を有せず、その余\nを判断するまでもなく本件発明の技術的範囲に属さない。
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2023.10.25
平成25(ワ)7478 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟__全文__ 平成28年10月14日 東京地方裁判所
随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。東京地裁(40部)は、半導体基板の製造方法について、「第二の割り溝」を有しないとして、文言侵害は否定しましたが、均等と認めました。
また,本件明細書等には,「第二の割り溝」を形成する方法について,
手法は特に問わないとしており,エッチング,ダイシング,スクライブ
等の手法を用いることが可能であるとされ,このうち,線幅を狭くする\nことが可能であるなどの理由から,スクライブが特に好ましいとするに\nとどまっており(段落【0009】),「第二の割り溝」に関して,そ
の形成の方法は特に限定されていない。
そして,本件においては,本件明細書等に従来技術が解決できなかっ
た課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客
観的に見て不十分であるという事情は認められない。\n
以上のような,本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明
細書記載の従来技術との比較から導かれる本件発明の課題,解決方法,
その効果に照らすと,本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思
想を構成する特徴的部分は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物\n半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり,半導体層
側にエッチングにより第一の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部
分を形成し,サファイア基板側にも何らかの方法により第二の割り溝,
すなわち,切断に資する線状の部分を形成するとともに,それらの位置
関係を一致させ,サファイア基板側の線幅を狭くした点にあると認める
のが相当であり,サファイア基板側に形成される第二の割り溝,すなわ
ち,切断に資する線状の部分が,空洞として溝になっているかどうか,
また,線状の部分の形成方法としていかなる方法を採用するかは上記特
徴的部分に当たらないというべきである。
ウ 被告方法は,前記2で認定したように,サファイア基板上に窒化ガリ
ウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当た
り,半導体層側にエッチングにより切断に資する線状の部分を形成し,
サファイア基板側にもLMA法のレーザースクライブによって切断に資
する線状の変質部を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ,
サファイア基板側の線幅を狭くしているのである。
そして,前記2(1)イで説示したとおり,LMA法でサファイア基板
を加工した場合,溶融領域が発生し急激な冷却で多結晶化し,この多結
晶領域は多数のブロックに分かれるが,加工領域中央に実質の幅が極端
に狭い境界が発生し,この表面に垂直な境界線の先端に応力集中するの\nで割れやすくなることが認められる。
そうすると,被告方法は本件発明の従来技術に見られない特有の技術
的思想を構成する特徴的部分を共通に備えているものと認められる。\nしたがって,本件発明と被告方法との相違部分は本質的部分ではない
というべきである。
エ 被告らの主張に対する判断
この点に関して被告らは,LMA法のレーザースクライブについて,
対象と「非接触」であるため,クラック等が発生せず,かつ,ほぼ垂直
に分割されることから,本件発明の課題自体が存在しないことになり,
そのような方法を用いたとしても,本件発明の本質的部分に当たらない
旨主張する。
そして,乙14(再公表特許第2006/062017号。以下「乙\n14文献」という。)の段落【0039】には,【図9】,【図10】
に関して,LMA法により形成された変質領域に隣接する正常領域のブ
レイク面が略垂直である旨の記載がある。
しかしながら,他方で,乙14文献の段落【0043】等には,同じ
【図9】,【図10】に関して,デフォーカス値によっては,正常領域
のブレイク面の垂直方向につき多少の傾斜や段差が存在する旨の記載も
あるのであって,LMA法のレーザースクライブであるからといって,
切断面が斜めになることで不良品が生じるという本件発明の課題が発生
しないと認めることはできない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
オ 以上のとおりで,被告方法は,均等の第1要件を充足すると認められ
る。
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2023.10.25
平成28(ワ)25436 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年9月24日 東京地方裁判所
随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。争点はたくさんあります。裁判所は、均等の主張を認め、差止と約10億円の損害賠償を認めました。判決文は別紙を入れると400頁ありますので、目次付きです。
前記(2)ウのとおり,本件明細書2記載の従来技術と比較して,本件発明2
における従来技術に見られない特有の技術的思想(課題解決原理)とは,従来,グ
ルタミン酸生産に及ぼす影響について知られていなかったコリネ型細菌のyggB
遺伝子に着目し,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子
を用いてメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変する
ことによって,グルタミン酸の生産能力を上げるための,新規な技術を提供するこ\nとにあったというべきである。また,前記(2)エで検討したとおり,本件明細書2に
おける従来技術の記載が客観的に見て不十分であるとは認められない。\n
(ウ) 前記(3)アのとおり,19型変異使用構成は,本件発明2−5に含まれる,\n本件特許2の請求項1又は4を引用する請求項6のうち(e)の変異型yggB遺
伝子が導入されたコリネ型細菌を使用する構成であり,前記(イ)の本件発明2にお
ける特有の技術的思想ないし課題解決原理に照らせば,19型変異使用構成の本質\n的部分は,「コリネ型細菌由来のyggB遺伝子に,コリネバクテリウム・グルタ
ミカム由来のyggB遺伝子におけるA100T変異に相当する変異を導入し,当
該変異型yggB遺伝子を用いてコリネ型細菌を改変し,ビオチンが過剰量存在す
る条件下においてもグルタミン酸の生産能力を上げる点」にあると認められる。\n
(エ) 被告は,出願経過,本件優先日2当時の技術水準,19型変異使用構成の効\n果から,19型変異使用構成の本質的部分の認定に当たっては,特許請求の範囲の\n記載の上位概念化をすべきでなく,特許請求の範囲に記載された「変異後のygg
B遺伝子の配列である配列番号22という特定のアミノ酸配列におけるA100T
変異」に限定して認定されるべきであると主張する。
しかしながら,前記(2)ア及びイの本件明細書2の記載内容によれば,本件発明2
は,特定の配列のyggB遺伝子を有するコリネ型細菌にのみ存在する課題を対象
とするものではなく,また,その解決原理としても,グルタミン酸生産能力を上げ\nるために,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子を用い
てメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変するという
新規な技術を導入するというものであったから,本件発明2の請求項1や請求項4
において変異を導入する前のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙され,請求項6
において変異後のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙されていることを考慮して
も,本件発明2及びそれに含まれる19型変異使用構成の本質的部分を認定するに\n当たっては,yggB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体
の変異前の具体的配列,あるいは,A100T変異に相当する変異を導入した後の
yggB遺伝子の具体的配列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当で
ある。これは,被告が指摘するように,本件特許2の出願当初の請求項1にはyg
gB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種や変異前後のyggB遺伝子のアミノ酸
配列が特定されていなかったところ,補正によって,現在の請求項1のようにyg
gB遺伝子のアミノ酸配列の配列番号が,コリネバクテリウム・グルタミカム(ブ
レビバクテリウム・フラバムを含む。)又はコリネバクテリウム・メラセコーラに
由来する配列番号6,62,68,84及び85に特定されるようになったこと(【0
033】,乙80〜84),請求項1に記載された配列番号6,62,68,84
及び85のアミノ酸配列が相互に相同性が高いこと(乙85)を考慮しても同様で
ある。また,被告は,出願経過に関連して,本件特許2の再訂正後の請求項の記載
も考慮すべきとも主張するが,当該訂正の内容は,少なくとも訂正前の本件発明2
の本質的部分の認定には影響しないというべきである。
そのほか,本件優先日2当時の技術水準や19型変異使用構成の効果についての\n被告の主張が採用できないことは,前記(2)エ及び(3)イのとおりであり,これらを
理由として,19型変異使用構成の本質的部分を特許請求の範囲に記載された変異\n前後のyggB遺伝子の具体的配列に限定すべきともいえないから,この点の被告
の主張も,前記(ウ)の判断を左右するものではない。
イ 相違点1について
前記ア(エ)のとおり,19型変異使用構成の本質的部分については,yggB遺伝\n子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体の変異前の具体的配列,あ
るいは,A100T変異に相当する変異を導入した後のyggB遺伝子の具体的配
列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当であることに加え,以下の(ア)
及び(イ)の点を考慮すれば,相違点1に係る違い,すなわち,導入されている変異型
yggB遺伝子が由来する細菌の種類の違い及びそれによるyggB遺伝子の具体
的な配列の違いは,19型変異使用構成の本質的部分とはいえない。\n
・・・
(エ) これらの点からすれば,相違点3に係る違い,すなわち相違点2に係るA9
8T変異に加えて,被告製法4の菌株ではV241I変異が導入されているという
点は,本件明細書2で開示された本件発明2の課題解決原理である膜貫通領域の変
異ないしC末端側変異と関連しない部位の1つのアミノ酸に保存的置換を加えるも
のであり,A98T変異に加えることで課題解決に影響するものではないから,1
9型変異使用構成の本質的な部分における相違点ではない。\nオ したがって,19型変異使用構成と被告製法4との相違点1ないし3は,い\nずれも,特許発明の本質的部分ではないから,(12)及び(13)の菌株を使用する被告製法
4は均等の第1要件を充足すると認められる。
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2023.09.22
令和4(ワ)15678 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年8月30日 東京地方裁判所
技術的範囲に属するものの、無効理由あり(新規性違反)として、権利行使不能と判断されました。この特許は、本件裁判の被告より、「技術的範囲に属さない旨」の判定請求があり、判定では技術的範囲に属すると判断されていました。判定には直リンクができないので、
特許5595570とリンクしておきます。
(1) 「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く」の意義について
構成要件Bの「4枚の略矩形状壁面の内、相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能\に順次連続して連結されるとともに、」との記載から、本件発明の折り畳み式テントには、「4枚
の略矩形状壁面」が設けられていること、その内の「相隣る2枚の略矩形状
壁面」において「互いに対応する側縁」が存在すること、この「互いに対応
する側縁」を「除く」「他の側縁」が存在し、この「他の側縁」が「相互に
折り畳み可能に順次連続して連結され」ていることが理解できる。
また、構成要件Cの「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁は、着脱可能\な接合手段を介して接合されることにより、前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成され、」との記載からは、構\成要件B
の「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「着脱可能な接合手段」を備えていること、この「接合手段を介して接合されることによ\nり」、「前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成される」ことが理解できる。また、このような解釈は、本件明細書の、「また、この筒状周壁\n部1における正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bには、接合・分
離が可能な面ファスナーのような接合手段23が設けられている。図7に図示されるように、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとは前記接\n合手段23により、一体に接合され、または分離される。前記分離された接
合手段23によって、図8に示されるように、両壁面開口部24が構成される。」(【0022】)との記載及び「筒状周壁部1では、図7に図示されるよ\nうに、4枚の壁面2、3、4、5の各両側縁2a、2b、3a、3b、4a、
4b、5a、5bの内、側縁3aと4b、4aと5b、5aと2bとを相互
に折畳み可能に連結し、側縁2aと3bとを後述する接合手段23で接合することで筒状周壁部1が構\成されている」(【0021】)との記載とも整合する。
そして、構成要件Bの「除く」の通常の語義は、「加えない。除外する。別にする。」(広辞苑第七版)であると認められる。\n加えて、上記「除く」は、その直前の「他の側縁」に限定を付す趣旨で
あると理解するのが自然であることを踏まえると、構成要件Bは、「4枚の略矩形状壁面」が有する「側縁」から、「着脱可能\な接合手段を介して接合される」ことになる「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」を
除外又は別にした「他の側縁」が、「相互に折り畳み可能に順次連続して連結される」ことを規定するものであると解するのが相当である。\n
(2) 被告各製品が構成要件Bを充足するか否かについて
前記(1)のとおり、構成要件Bの、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」とは、構\成要件Cにおいて規定された、「着脱可能な接合手段\nを介して接合される」「側縁」であると解するのが相当である。
前提事実(3)イのとおり、被告各製品には、第1板状体10ないし第4板
状体40の4枚の板状体が形成されているところ、本件において、各板状体
が構成要件Bの「略矩形状壁面」に該当する。 また、前提事実(3)イのとおり、被告各製品の第1板状体10と第4板状
体40は、その対向部15a及び45bが、着脱可能な接合部60を介して接合されるから、対向部15a及び45bは、構\成要件Bにおいて除外又は別にするとされ、かつ、構成要件Cにおいて「着脱可能\な接合手段を介して
接合され」ると規定される、「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応
する側縁」に該当する。
そうすると、構成要件Bにおいて、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁」は、被告製品の第1板状体10と第4板状体\n40の対向部15a及び45bを除外した他の側縁、すなわち、第1板状体
10の左右の側縁を構成する対向部15b、第2板状体20の左右の側縁を構\成する対向部25a及び25b、第3板状体30の左右の側縁を構成する\n対向部35a及び35b、第4板状体40の左右の側縁を構成する45aがこれに該当するものと解される。\n そして、証拠(甲6、乙1)によれば、これらの側縁は、相互に折り畳み
可能に順次連続して連結される構\成を有していると認められ、構成要件Bの「他の側縁が相互に折り畳み可能\に順次連続して連結される」に該当する。
(3) 被告の主張について
被告は、「除く」の「別にする」との語義に着目して、「別にする」もの
と「別にされない」ものとでは、異なる性質・構成を有していることに照らすと、構\成要件Bは、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「相互に折り畳み可能」ではなく、「順次連続して」おらず、「連結され」てもいないことを規定するものと解すべきであり、被告各製品は、互いに対\n応する側縁が相互に折り畳み可能に順次連続して連結されるから、構\成要件
Bを充足しない旨主張する。
しかし、仮に、「除く」を「別にする」との意味であると解釈したとして
も、「別」とは、「1)わけること。…2)異なること。そのものではないこと」
(広辞苑第七版)の意味を有するにすぎないから、別にされた「相隣る2枚
の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」とが、一部でも同じ
性質・構成を有していてはならないということにはならない。そして、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の構\成は、構成要件Cによ\nり要件が付加されているのであるから、これにより、「相隣る2枚の略矩形
状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」は、異なる構成を有しているといえる。\n
・・・
(ア) 構成要件Bについて
a 前記2(1)で説示したとおり、構成要件Bは、「着脱可能\な接合手
段を介して接合される」ことにより、「前記4枚の略矩形状壁面でも
って筒状周壁部」を構成する「側縁」を除外した「他の側縁」が、「相互に折畳み可能\に」「順次連続して」「連結」されることを規定している。
そして、乙2発明においては、エンドパネルとサイドパネルの着脱
部となる側縁は、ジッパーや紐等の取付手段を介して取り付けられ
(乙2c)ていることから、構成要件Bの「他の側縁」に相当する側縁は、上記「エンドパネルとサイドパネルの着脱部となる側縁」を除\n外した側縁(乙2c)であるところ、乙2発明においては、この側縁
が、相互に折畳み可能に順次連続して連結されている(乙2b)。したがって、乙2発明と本件発明は、構\成要件Bの構成の点におい\nて一致するものと認められる。
b これに対し、原告は、本件発明の「着脱可能な接合手段を介して接合される」「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が一\n組のみであるのに対し、乙2発明では、テントを容易に折り畳めたり
することができるよう、対向する2枚のエンドパネルが2枚とも取外
し可能な構\成又は2枚とも一端がサイドパネルにヒンジ結合された構成のみが開示されているから、本件発明と乙2発明は、構\成要件Bの点で一致しないと主張する。しかし、本件特許の特許請求の範囲において、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の組数を限定する記載はない上、本
件明細書において、【0022】及び図8には「相隣る2枚の略矩形
状壁面の互いに対応する側縁」が一組である構成についての記載があるものの、これは一実施例にすぎず、そのような構\成に限定する旨の記載は存在しないから、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応す
る側縁」が、一組に限定されると解釈することはできない。
また、原告は、本件発明に係る折り畳み式テントは、災害時に体育
館等の避難所に設置されて利用されることを想定していることなどか
ら、設置の利便性や強度を考慮し、あえて一組のみを分離可能としたと主張する。しかし、本件明細書には、原告の主張する課題や作用効果について\nの記載はない。以上によれば、原告の主張はいずれも採用することができない。
(イ) 構成要件Eについて
a 本件発明は、「前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚
の略矩形状壁面により開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特
徴とする」との構成(構\成要件E)を有しており、乙2発明は、「前
記手段を介して取り付けられる側縁を有する2枚の略矩形状のサイド
パネル及びエンドパネルにより開閉自在な両壁面開口部が設けられた
ことを特徴とする」との構成(乙2e)を有している。そして、本件特許の特許請求の範囲の記載において、「接合手段」\nにつき特段の限定は付されていないことから、壁面と壁面を接合する
手段であれば足りると解されるところ、前記(1)ア(オ)のとおり、乙2
文献においては、乙2発明の「取付手段」は、ジッパーが好ましい手
段であるが、単純な紐や布などの他の取付手段を使用してもよいとさ
れており、それらはいずれも壁面と壁面を接合する手段であるといえ
る。したがって、本件発明と乙2発明は、構成要件Eの構\成の点で一致
するものと認められる。
b 原告は、本件明細書の【0014】や【0028】には、壁面の開
放部分にテントのフレーム等が存在しないために、車椅子等がテント
内外に出入する際にフレームやファスナー等の変形・破れ・土砂の付
着等を阻止できる旨が記載されており、これらの記載に照らすと、構成要件Eの「開閉自在な両壁面開口部」は、壁面の開放部分にフレー\nムやファスナー等が存在しない構成であると解されると主張する。
しかし、本件特許の特許請求の範囲の記載において、4枚の略矩形
状壁面と床面との間の連結手段の有無を含め、「開閉自在な両壁面開
口部」が、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成に限定される旨の記載はない。\n
また、本件明細書の【0014】は、本件発明の効果に関する記載
であり、同【0028】は、本件発明の実施例の効果に関する記載で
あって、本件発明の両壁面開口部の構成を限定するものとは認められないから、構\成要件Eの文言を原告主張のとおり限定解釈する根拠とはならない。
また、仮に、構成要件Eが、底面にフレームやファスナー等が存在しない構\成に限定されるとしても、乙2文献には、ファスナーを紐に変更することも可能である旨が記載されているから(前記(1)ア(オ))、
乙2発明は、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成を含むものであるといえる。よって、原告の主張は理由がない。\n
c 原告は、本件明細書の【0022】及び図8の記載を考慮すると、
構成要件Eは、壁面開口部に設けられている接合手段を外すことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外方に向か\nって開放することができるという構成を示したものであると主張する。 しかし、本件明細書には、本件発明の実施例について「壁面2、3、
4、5の側縁上下端部は、…三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉
塞面19でもってこの上下の空隙部は閉塞されるようになっている。
なお、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとの上下端部を
塞ぐ二等辺三角形状の分割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、
三角形の頂角を通る中心線を境に2分割される。左右に分割された分
割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、前記接合手段23と同様
な上閉塞面接合手段22、下閉塞面接合手段21によって、接合また
は分離可能に接合される。」(【0023】)との記載があるところ、この記載に照らすと、同実施例は、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の\n左側縁3bに設けられた接合手段に加え、上閉塞面接合手段22、下
閉塞面接合手段21を外すことによって初めて、壁面を外方に向かっ
て解放することができる構成を有しているといえる。したがって、上記【0022】及び図8の実施例の記載を根拠として、構\成要件Eが、両壁面開口部について、壁面開口部に設けられている接合手段を外す
ことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外
方に向かって開放することができるという構成を規定していると解釈することはできない。\n また、上記【0023】の記載によれば、「壁面2、3、4、5」
と、「三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉塞面19」は別部材で
あることは明らかであるから、構成要件Eが、接合手段について、「2枚の略矩形状壁面」のみに設けられていることにより、「両壁面\n開口部」が「開閉自在」となることを規定したと解釈することもでき
ない。
以上によれば、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 小括
その他、原告が種々主張するところを検討しても、前記(1)の結論を左右
するものとはいえず、本件発明は、乙2発明と同一の構成を有しているから、新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの\nと認められ、原告は被告に対してその権利を行使することができない(特許
法104条の3第1項、123条1項2項、29条1項)。
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2023.08. 3
令和4(ワ)2049 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年7月6日 東京地方裁判所
特許侵害訴訟で、技術的範囲に属さないとして非侵害と判断されました。
(ウ) 小括
このような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、本件発明 1 の「底部」
は、「包装容器」の筒状部分が開口部と共に有するものであり、「容器」として機能\nする筒状の構造部分の底に当たる部分であって、筒状の包装容器の下側を塞いでい\nる部分を指すものと理解される。また、「底面片」は、このような「底部」を形成す
るものであり、包装容器を容器として形成した状態において、筒状の包装容器の下
側を塞ぐ部材を意味するものと理解される。さらに、「自立片」は、このような「底
面片」と同一面に連なるものであり、かつ、載置面に沿って前記奥行の方向に突出
し、包装容器を前記載置面に自立させる機能を有するものということになる。\n
イ 被告製品の構成要件充足性\n
(ア) 被告製品においては、背面片が片(A)側に折られて筒状に形成される(構成 e1、e’-1)。その際、背面片の下端に連ねられた六角片(構成 d-3、d’-3)は、筒状部
分下端から内側に折り込まれ、この折り込まれた六角片は、筒状部分内部に収めら
れる内容物の下部に位置し、筒状部分の下端から内容物が落下するのを防止してい
る(構成 e-2、e’-2)。このため、被告製品の六角片は、本件発明 1 の「底部を形成
する底面片」に相当するものといえる。
(イ) 被告製品の舌状片は、片(A)の下端に連ねられた部材であり(構成 d-4、d’-4)、
筒状部分の下端(六角片の接続箇所の反対側)から内側に折り込まれ(構成 e-3、e’-
3)、容器として形成した状態において、六角片と共に、略弧状に湾曲した状態とな
り、片(A)に連なって、載置面に沿って背面側に突出し、載置面に置くと、舌状片に
よって、被告製品は、載置面に背面方向に斜めに自立する(同 b、b’)。このため、
被告製品の舌状片は、本件発明 1 の「自立片」に相当するものといえる。
他方、筒状部分の下端から内側に折り込まれた六角片と舌状片とは接触しておら
ず、両者の間には隙間がある(同 e-4、e’-4)。このことと、被告製品の筒状部分の下端から内容物が落下するのを防止する機能を果たしているのは六角片であることを\n併せ考えると、舌状片は、筒状部分の下側を塞いでいるとはいえず、「底部を形成す
る底面片」に相当するものとはいえない。
(ウ) 六角片と舌状片とは、六角片は背面片の下端に連ねられているのに対し、舌
状片は片(A)の下端に連ねられており、同一面に連なるものとはいえない。
したがって、被告製品は、「底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片」(構\n成要件 B)を充足しないから、本件発明 1 の技術的範囲に属しない。
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2023.04.11
令和2(ワ)27972 特許権侵害損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月22日 東京地方裁判所
特許権侵害訴訟において、本件発明は、「拡散レンズにおいてそのような各レンズ部を有する発明について、前記1(2)のような効果を奏するという技術的意義を有する」とし、被告製品は、かかるレンズ部を把握できないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。
本件各発明の「複数のレンズ部」、「各レンズ部」(構成要件1D、1E\n等)について
本件各発明の特許請求の範囲には、「前記拡散レンズを複数のレンズ部か
ら形成し、各レンズ部を、各LEDの並設方向への曲率半径が各LEDの並
設方向と直交する方向への曲率半径よりも小さい曲面状に形成するとともに、
光の経路と交差する所定の面上に並ぶように配置し、前記各レンズ部を、互
いに近傍に配置されたレンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が異
なるように形成したことを特徴とする」(構成要件1D〜F)と記載されて\nいる。
これらによれば、本件各発明の照明装置の拡散レンズは、複数のレンズ部
から形成されていて、各レンズ部の各LEDの並設方向への曲率半径と、各
LEDの並設方向と直行する方向への曲率半径を比較することができるので
あり、また、各レンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が異なると
いうというのであるから、本件発明のレンズ部は、拡散レンズにおいて、そ
こに形成されているという複数のレンズ部のそれぞれのレンズ部について、
その位置、形状が特定された上で、それぞれのレンズ部(各レンズ部)につ
いてのLEDの並設方向への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向
への曲率半径を把握することができるものであると理解するのが自然なもの
である。
・・・
これら本件明細書の記載をみても、本件各発明の実施形態として記載され
ているものは、本件発明の拡散レンズにあるという複数のレンズ部(各レン
ズ部)のそれぞれのレンズ部について、その位置、形状を特定した上で、そ
れらのレンズ部についてのLEDの並設方向への曲率半径及びLEDの並設
方向と直交する方向への曲率半径を把握することができるものであるといえ
る。それぞれのレンズ部については、一方向に異なる曲率を有する複合曲面
を有するものも含まれるものの、その場合でも、そのレンズ部が特定された
上で、そのレンズ部に求められる機能を考慮し、そのレンズ部についてある\n方向において曲率半径(RY)を有するものとしている。そして、本件明細
書において、それぞれのレンズ部の位置、形状等が特定されないことを前提
とする記載はない。
このような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、本件各発明の
拡散レンズは、それぞれについてその位置、形状が特定される複数のレンズ
部を有するものであり、そのそれぞれのレンズ部についてのLEDの並設方
向への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向への曲率半径を把握す
ることができるものであるといえる。そして、特許請求の範囲及び本件明細
書の記載からも、本件各発明は、拡散レンズにおいてそのような各レンズ部
を有する発明について、前記1(2)のような効果を奏するという技術的意義を
有するものと認められる。
(2) 各被告製品において使用されているLSD(もっとも、各被告製品に実際
に使用されている各LSDの種類や具体的構成は明らかではない(前記2(2)、
(4))。)について検討する。各被告製品におけるLSDは、拡散レンズの機能を有するフィルム表\面の
構造体である数十\μm程度の微細な凹凸が、シームレスかつランダムに、す
なわち継ぎ目なく不規則に配置されたものであり、かつ、凹凸の部分の個々
の大きさや形状を規定して作成されているものではなく、統計的に評価して
フィルム全体として入射光を所定の角度で拡散する性能を有するように設計\nされているものである(同(1)〜(3))。
すなわち、各被告製品におけるLSDは、フィルムの表面に微細な凹凸の\n構造体を有し、それらが凸レンズと凹レンズがシームレスかつランダムに配\n置されたマイクロレンズアレイとして機能し、それぞれの微細な凹凸の構\造
体によって光がランダムに広げられるが、それらが重なり合うことによって、
統計的に評価して、フィルム表面全体が所定の性能\を有する拡散レンズとし
ての機能を有するものである。そして、各被告製品におけるLSDがこのよ\nうなものであるところ、そこにおいて、前記(1)のとおりの本件各発明におけ
るそれぞれの「レンズ部」を把握することは困難なものといえる。そして、
原告は、各被告製品について、その断面図の例を示すところ、その各例にお
いても、別紙原告の示す例のとおり、LSDの表面は境目なく不規則に様々\nな形状の凹凸が連続しており、本件各発明におけるそれぞれの「レンズ部」
を把握することができない。
原告は、原告の示す各例において、LSDの表面の部分的に突出した複数\nの部分等はそれぞれレンズとして作用するから、それぞれが1つの「レンズ
部」であり、「複数のレンズ部」を備えることを主張する。しかし、前記(1)
のとおり、本件各発明の「レンズ部」は、それぞれのレンズ部の位置、形状
が特定されるものであって、本件各発明は拡散レンズにそのような「レンズ
部」を有するものにより前記1(2)のような効果を奏するといえるものである
ところ、原告の示す各例においても、上記のようなそれぞれのレンズ部(各
レンズ部)について、その位置、形状を具体的に特定するものではない(前
記第2の2(1)(原告の主張)イ、別紙原告の主張する凸部の例)。
以上によれば、各被告製品に使用されているLSDの形状によれば、各被
告製品において、本件各発明の「複数のレンズ部」、「各レンズ部」(構成\n要件1D、1E等)にいうそれぞれの「レンズ部」の範囲を特定することが
できないものであって、各被告製品は本件各発明にいう「各レンズ部」を有
するということはできず、それぞれのレンズ部についてのLEDの並設方向
への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向への曲率半径を把握する
ことができず、各被告製品は、本件各発明の曲率半径についての構成(構\成
要件1E、1F)を充足するともいえない。
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2023.03. 1
令和2(ワ)13626 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月17日 東京地方裁判所
特許権侵害事件について、明細書の記載および異議申立における主張に基づき、被告製品は技術的範囲に属しないと判断されました。\n
原告は、1) 本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には、浄化され
たスクラバー流体を更に処理することなく、海に放出することを要する
との記載はない、2) 本件訂正により、本件特許の【請求項1】の従属項
である【請求項10】を訂正するに当たり、浄化されたスクラバー流体
の品質が所定レベルより低い場合、浄化されたスクラバー流体を分離機
入口に戻す構成を維持しているから、本件発明は、分離機での浄化処理\n後、環境への放出前に、更に浄化処理を行う態様を予定している、3) 本
件明細書の「ディスクスタック遠心分離機をスクラバー流体に適用する
ことによって、汚染物質相の大部分が濃縮形態で取り除かれ得る」
(【0014】)との記載によれば、ディスクスタック遠心分離機によ
っても分離し得ない汚染物質相が残存し得る以上、補助的にフィルタ等
による分離を行うことは排除されないと主張する。
しかし、上記1)については、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細
書において、浄化されたスクラバー流体を更に処理することなく、海に
放出することを要することを明示した記載は見当たらないものの、前記
(ア)のとおり、本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の各記載並びに
原告の本件異議申立事件における主張、さらには、本件明細書には、\n「ディスクスタック遠心分離機」により「浄化されたスクラバー流体」
を更に浄化するための装置を設けることを示唆する記載が見当たらない
ことは、いずれも、「浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機出
口から環境に放出するための手段」(構成要件F)とは、「分離機」に\nより「浄化されたスクラバー流体」が、「分離機」とは別に設けられた
浄化設備により浄化処理されることなく、船の外側に放出されるなどす
るものをいうとの理解をもたらすものであるから、その点を明示する記
載が存在しないからといって、前記(ア)の解釈が左右されるものではない。
上記2)については、前記(ア)bのとおり、本件明細書の記載(【000
8】、【0009】及び【0014】)によれば、本件発明に係る浄化
設備について、「スクラバー流体」の浄化能力を向上させ、また、点検\n修理の必要性を最小とするために、「ディスクスタック遠心分離機」を
使用し、この「分離機」の動作により、「浄化されたスクラバー流体」
が規制を満たすことになり、環境への影響を最小にして環境に解放する
ことができ、他の処理をするための設備を設ける必要がなく、機器の点
検修理や交換の必要性を最小にすることができるものであると理解する
ことができる。そうすると、本件発明は、「分離機」の動作によって上
記の作用効果を実現するものであるから、「浄化されたスクラバー流体」
を再び「分離機」入口に戻すことを排除するものではないが、「分離機」
により「浄化されたスクラバー流体」が、「分離機」とは別に設けられ
た浄化設備により浄化処理されて、船の外側に放出されるなどすること
を予定したものではないというべきである。したがって、本件訂正後の\n【請求項10】の記載をもって、本件発明が、「分離機」での浄化処理
後、環境への放出前に、別に設けられた浄化設備により更に浄化処理を
行う態様を予定しているということはできない。\n
上記3)については、本件明細書の記載からは、「ディスクスタック遠
心分離機をスクラバー流体に適用することによって、汚染物質相の大部
分が濃縮形態で取り除かれ」(【0014】)た「浄化されたスクラバ
ー流体」について、「汚染物質相」が残存するため規制を満たさず、環
境に放出することができないとは直ちには読み取れない。そうすると、
本件明細書の【0014】の記載をもって、「分離機」により「浄化さ
れたスクラバー流体」を補助的にフィルタ等により浄化処理することが
示唆されているということはできない。
したがって、原告の上記各主張は、いずれも採用することができない。
イ 小括
以上のとおり、被告製品1(主位的主張)及び被告製品2は、構成要件\nFを充足しないから、その余の点を判断するまでもなく、本件発明の技術
的範囲に属するとは認められない。
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2023.02.17
令和4(ネ)10071 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年1月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許侵害事件です。1審(東京地裁29部)は、圧力風以外も用いて移送をするイ号は、「圧力風の作用のみによって、・・茶枝葉(A)を・・所定の位置まで移送する」という発明特定事項について、「圧力風の作用のみによって」を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。控訴審では均等侵害も主張しましたが、否定されました。
控訴人は、仮に本件発明7の構成要件Aの「圧力風の作用のみによって」\nの構成は、刈り取られた「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移\n送が「圧力風」の「作用」だけで実現されることをいい、「圧力風」の「作
用」以外の作用が加わって上記移送が実現されるものは、「圧力風の作用の
みによって」を備えるとは認められないと解した場合には、被告各製品にお
いては、「圧力風」の「作用」にブラシの回転作用が加わることによって茶
枝葉が移送ダクト内に送り込まれている点で、「圧力風の作用のみによって」
の構成を備えるとはいえず、本件発明7と相違することとなるとしても、被\n告各製品は、均等の第1要件ないし第5要件を充足するから、本件発明7の
特許請求の範囲(請求項7)に記載された構成と均等なものとして、本件発\n明7の技術的範囲に属する旨主張する。
そこで、まず、均等論の第1要件について検討するに、本件発明7の特
許請求の範囲(請求項7)の記載及び前記1(2)認定の本件明細書の開示事
項を総合すれば、従来の茶葉の摘採を行う摘採機は、「刈刃前方側に茶葉移
送のための分岐ノズル付き送風管を配し、分岐ノズルからの送風によって、
刈刃から収容部まで茶葉を移送するのが一般的であり、その移送路は、刈刃
のほぼ後方に延びる水平移送部と、その後に収容部の上部に臨むように接続
された上昇移送部を具えていたが、このような移送形態(送風形態)では、
水平移送部を要する分、移送装置、ひいては摘採機の前後長が長くなり、摘
採機の取り回し性を低下させてしまうという問題があったことから、本件発
明7は、上記問題を解決し、水平移送部を設けることなく、刈取直後、即、
茶葉を上昇移送できるようにし、摘採機の前後寸法の短縮化を図り、摘採機
をコンパクトに構成できるようにした茶枝葉の移送装置を開発することを課\n題とし、この課題を解決するための手段として、水平移送部を設けることな
く、刈刃の後方から移送ダクト内に背面風を送り込む吹出口が設けられ、こ
の吹出口から移送ダクト内に背面風を送り込むことによって、刈取後の茶枝
葉を刈刃から所定の位置まで移送する構成を採用し、具体的には、刈刃後方\nからの背面風によって、その吹出口付近に負圧を生じさせ、この移送ダクト
内に流す圧力風の作用のみにより、負圧吸引作用によって刈り取り直後の茶
枝葉を刈刃後方側に引き寄せ、その後は茶枝葉を背面風に乗せて、収容部な
ど適宜の部位に移送する構成とし、これにより刈り取り直後、水平移送部を\n設けることなく、そのまま茶枝葉を上昇移送することができ、前後長の短縮
化が図れ、コンパクトな茶刈機が実現できるという効果を奏することに技術
的意義があり、水平移送部を設けることなく、刈刃の後方側から送風される
「圧力風の作用のみ」によって、その吹出口付近に負圧を生じさせ、この負
圧吸引作用によって刈り取り直後の茶枝葉を刈刃後方側に引き寄せ、その後
は茶枝葉を背面風に乗せて、収容部4など適宜の部位に移送するようにした
ことが、本件発明7の本質的部分であるものと認められる。
しかるところ、前記2(2)で説示したとおり、被告各製品においては、
「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移送が「圧力風」の作用に
「圧力風」以外の作用である回転ブラシの回転作用が加わることによって実
現されているといえるから、被告各製品は、「圧力風の作用のみによって」
の構成を備えるものとは認められない。\nしたがって、被告各製品は、本件発明7の本質的部分を備えているもの
と認めることはできず、本件相違部分は、本件発明7の本質的部分でないと
いうことはできないから、均等論の第1要件を充足しない。
◆判決本文
1審は、こちら
◆令和2(ワ)17423
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2023.01.13
令和1(ワ)14320 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年10月7日 東京地方裁判所
特許侵害訴訟です。文言侵害が否定され、また、均等侵害も第1要件(本質的特徴)を具備しないとして否定されました。
前記(1)で検討したところによると、本件発明1の技術的意義は、固定プレ
ートの孔自体が、橈骨遠位端骨折に対して、軟骨下骨を背側面側及び手掌側
面側という2箇所で支持する方向に突起を向かせて固定することができる構\n成となっているため、高度な医学的判断を要せずに、確実に軟骨下骨を背側
面側及び手掌側面側という2箇所で支持することを可能にすることにあると\n認められる。
そうすると、本件発明1の構成のうち、本質的部分であるといえるのは、\n橈骨遠位端骨折に対して、軟骨下骨を背側面側及び手掌側面側という2箇所
で支持する方向に突起を向かせて固定することができる孔が設置されている
ことを定めた構成要件1E、1J及び1Kであると解するのが相当である。\nそして、これまで検討したところによると、被告製品4は構成要件1J及\nび1Kを充足せず、これらの本件発明1の構成と異なる部分は、本件発明1\nの本質的部分ではないとはいえないから、第1要件を充足せず、均等侵害は
成立しない。
(3)原告の主張の検討
原告は、本件報告書(甲26)によれば、被告製品4は、ガイドブロック
を用いて被告製品4の孔にロッキングスクリューを固定すれば、一組の平行
ピンを用いた従来の平板固定によっては達成できなかった遠位橈骨の軟骨下
骨及びその遠位側の関節表面の位置の安定化という課題を解決することがで\nきるから、本件発明1と技術的思想を共通にしているといえ、孔の軸線が遠
位橈骨内で交差するか遠位橈骨外で交差するかは本件発明の本質的部分では
ないと主張する。
しかし、本件報告書の検証結果の信用性を肯定することができないことは
前記4(2)のとおりであるし、その信用性を肯定できたとしても、前記(1)の
とおり、遠位橈骨の骨折を固定するための骨プレートであり、ネジを固定す
るための固定プレートを貫通する複数のネジ孔が、固定プレート頭部の遠位
側と近位側の2列に概ね平行に並んで設置されている固定プレートは、先行
技術として存在していたのであるから、従来プレートが一組の貫通孔のみを
設けていたことを前提に、二組の貫通孔を設けていることが本質的特徴であ
ると評価することはできない。
また、本件発明1は固定プレートの発明であるから、固定プレート自体の
構成、すなわち、固定プレートに設置された孔の構\成を比較すべきであり、
被告製品4にガイドブロックを用いることを前提に、被告製品4が軟骨下骨
を背側面側及び手掌側面側という2箇所で支持する方向にロッキングスクリ
ューを向かせることができるかどうかという観点から比較することは相当で
はない。
さらに、孔の軸線が遠位橈骨内で交差しないのであれば、孔に突起を挿入
しても、突起が当然に軟骨下骨を背側面側及び手掌側面側という2箇所で支
持することはなく、遠位橈骨の軟骨下骨及びその遠位側の関節表面の位置の\n安定化という課題を解決することはできないから、孔の軸線が遠位橈骨内で
交差する方向に突起を向かせる構成となっていることは、本件発明1の本質\n的特徴であるといえ、そのような孔の構成を有していない被告製品4に均等\n侵害が成立することはない。
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2023.01.11
令和3(ワ)4920 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年12月22日 大阪地方裁判所
技術的範囲に属すると認定されたものの、特許権者自らが販売していたとして、新規性違反の無効理由有りと判断されました。
ア 前記(1)アによれば、リベラル社は、平成30年7月5日時点において、別
件特許(「活量調質水溶液及び活量調質媒体の製造方法」)により、水酸化物イ
オン活量調質水溶液を製造し、これを希釈して、旧ATWのほか「ATW−1、
ATW−001」を製造していたことが認められるところ、前記(1)イのとおり、
被告は、当初、リベラル社から購入した旧ATWをそのままボトルに詰め、又は、
ラベルを貼り替える方法により、旧被告製品や無限七星FISHを製造し、販売\nしていたのであるから、これらの製品は、前記水溶液を希釈したものであると認
められる。一方、前記(1)エ及びオのとおり、被告は、原告の本件特許出願の後か
らは、リベラル社から購入した本件特許に規定される組成を有する現ATWを1
0倍希釈して被告製品や無限七星FISHを製造、販売するようになったところ、
本件代理店契約においては、現ATWを含めたATW水溶液は、別件特許の製造
方法による旨の合意がなされている。
また、原告が代表取締役を務めるATW社は、別件訴訟において、旧ATWと\n現ATWは、いずれもアミノ基という原子団を含んだ水溶液で、現ATWを10
倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した準備書面を提出しているところ、リ
ベラル社が発行した請求書では、現ATWの1リットル当たりの単価は旧ATW
の同単価の10倍になっていること、本件代理店契約においてATW水溶液の品
質として標準仕様と10倍濃縮仕様がある旨の記載があることのほか、原告も、
本件訴訟において、現ATWは旧ATWの10倍の濃度である旨を主張している
(原告準備書面(4)第2の2(3)イ)。これらの事実関係に照らすと、旧ATW及び現ATWは、一貫して、同様の製造方法により製造された、アミノ基を含む成分が水溶、濃縮された水酸化物イオン活量調質水溶液を希釈したものであり、本件特許に規定される組成を有する現ATWを10倍希釈したものが旧ATWであると認められる。
イ また、証拠(乙2、18、24、25、33、36、37)及び弁論の全
趣旨によれば、次の事実が認められる。
すなわち、被告が平成30年11月10日にリベラル社に対して発注し同月1
2日に納品された旧ATWのボトル20本のうち、開封せずに保管していたもの
(以下「保管ボトル」という。)について、被告がそのうち1本を開封し、10
0ml分(以下「分析対象物」という。)を小分けにして、愛媛大学のP2名誉
教授に提供した。同教授は、令和3年9月30日、分析対象物について、乙18
分析をした結果、分析対象物の含有成分はポリアリルアミンであることが判明し
た。また、被告は、保管ボトルのうち1本(被告が「無限七星FISH」のラベ
ルを貼付したもの)を、株式会社東ソ\ー分析センターに提供し、前記センターは、
同年10月19日、保管ボトルの内容物について乙24分析をした結果、その重
量平均分子量は、4.5×10⁴であった。
ウ 前記(1)イ及びウのとおり、無限七星FISHは、鮮魚の鮮度を保持する機
能があり、魚の鮮度保持を主な用途として販売されており、また、証拠(乙19)\n及び弁論の全趣旨によれば、リベラル社が被告に販売した旧ATWの成分表記に\nは「重合アミン、水」との記載があったことが認められる。
エ 前記ア〜ウの事実関係に照らすと、現ATWが10倍に希釈化された旧A
TWと同一成分である無限七星FISHに係る引用発明は、ポリアリルアミン又
はその塩を機能成分として含有し、水、ポリアリルアミンの総含有量が95重量%\n以上である水であって(a’)、ポリアリルアミンの重量平均分子量が500〜
50000であって(b’)、魚介類の鮮度保持の機能を有する(c’)、機能\
水(d’)という構成を有するものと認められるから、被告製品のみならず、旧\n被告製品や無限七星FISHも本件発明の各構成要件を充足するものと認められ\nる。したがって、引用発明は、本件発明の各構成要件を充足する。\n
(3) 公然実施について
特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者
が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)イのとおり、
被告は、本件特許の優先日前の平成30年10月から、無限七星FISHを製造
及び販売して、引用発明を実施した。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、旧ATWは、別件特許に基づく方法により製造されているのに対
し、現ATWは、ポリアリルアミンを使用して製造されているから、両者の成分
は異なる旨を主張する。
しかし、両者の成分の違いを明らかにする証拠はなく、前記(1)オ及びキのとお
り、被告は、本件代理店契約において、リベラル社及びATW社との間で、AT
W水溶液の仕様は、別件特許の製造方法によることを合意したことや、ATW社
が、別件訴訟において、旧ATWと現ATWは、いずれもアミノ基という原子団
を含んだ水溶液で、現ATWを10倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した
準備書面を提出したのであるから、旧ATWと現ATWの製造方法が異なる旨や
両者の成分が異なる旨の原告の主張は直ちに採用することはできず、その他、原
告の主張事実を裏付ける証拠はない。
イ また、原告は、乙18分析及び乙24分析は、いずれも、測定対象の水溶
液がどの時期に製造、販売され、どういう形で試験に供されたのか全く不明であ
ることを指摘し、さらに、乙18分析の内容については、1)乙18のFig.1の
スペクトルの面積比を理由に高分子化合物の繰り返し構造をCH₂−CH−CH₂
と推定することが困難なこと、2)3ppm付近のシグナルの変化を理由に当該シ
グナルがアミン(CH₂−NH₂)であると推定できる根拠が不明であること、3)
Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なることといった疑問点があるから、
いずれも信用性がない旨を主張する。
しかし、前記(1)認定の事実からすれば、乙18にいう「2018年10月に販
売が始まった初代無限七星」とは、旧ATWと成分を同じくする旧被告製品又は
無限七星FISHであると理解できるし、乙24は保管ボトルのうち1本を分析
した結果であることが明らかであり、これに反する証拠はない。そして、乙18
分析は、核磁気共鳴分光法及び質量分析法により、分析対象物の含有成分がポリ
アリルアミンであることを推定した上で、それを踏まえて、分析対象物と市販の
ポリアリルアミンの水溶液について核磁気共鳴分光法のスペクトルを比較して、
分析対象物の含有成分がポリアリルアミンであると結論づけているところ、原告
の主張1)について、原告主張のように、ポリマーのNMRはピーク(スペクトル)
がブロードになりやすく、面積比を算出する切断箇所の設定によって面積比の値
が異なり得ることから、Fig.1のスペクトルの面積比「1.00:0.55:
0.80」が完全に「2:1:2」に一致しなくとも、同一環境の水素の数の比
を「2:1:2」とみなし、CH₂−CH−CH₂の部分構造が考えられるとする\nことは不合理ではない。また、原告の主張2)について、3ppm近辺のCH₂に対
応するシグナルの位置は、隣に窒素原子が繋がっていることを示唆するところ、
トリフルオロ酢酸を加えると、2.7〜3.3ppmのシグナルが3.0ppm
のシグナルに変化したというのであるから、分析対象物にトリフルオロ酢酸によ
り塩を形成するアミン(CH₂−NH₂)が存在すると考えて矛盾はないというべ
きである。さらに、原告の主張3)については、確かに、Fig.1とFig.4a)
のスペクトルは一致していないが、一方で、トリフルオロ酢酸塩のスペクトルで
あるFig.2a)とFig.4b)は、ほぼ一致している(乙18、25)。こ
の点について、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、ポリアリルアミンは、
共存物の影響でアミン部位が塩の状態になっている場合、スペクトルのピーク位
置の出現がシフトする可能性があり、ポリアリルアミンの塩の形成状況によって\nスペクトルの形状が変化し、複雑になるものと認められ、一方で、強い酸である
トリフルオロ酢酸を加えて、全てのアミノ基をアンモニウムに変換し、均一な状
況にすることにより、一定の分析結果を得ることができたものと認められるから、
Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なるからといって、乙18分析の信
用性に疑義を生じさせることにはならない。
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2022.12.17
令和3(ワ)9530 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年11月28日 大阪地方裁判所
構成要件Dの文言を明細書の記載および出願経過から解釈して、技術的範囲に属しないと判断されました。本件特許は被告から無効審判が請求されていますが、2022/10に無効理由なしと判断されています。本件特許は以下です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4147314/9DA3CF246CABBD54ECA004CE5C9280CC8FA3C996CFE302513456B34A2B98AF46/15/ja
(2) 「中央部が突出する概略円錐状」の意義について
ア 構成要件Dは、「該複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に形成されている」と規定しているところ、「該複数のコニカルビット群」とは、3条の螺旋翼の先端部に固着された複数のホルダに取り付けられたコニカルビットを指す(構\成要件C)から、構成要件Dは、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビットのみにより、中央部が突出した概略円錐状に形成されていることを要すると解される。その他、本件発明に係る請求項において、「中央部が突出する概略円錐状」に関する記載はない。\n
イ 本件明細書には以下の内容が示される。
従来の掘削ヘッドは、複数の小形ビットが台金に固着されていたので、掘削中
に岩石等に当たった際、刃先が逃げることができず、損傷を受けやすいという問
題点や掘削によって生じた繰粉が穴底からうまく排出されにくいという問題点
があった(【0003】)。このような問題点を解決するものとして、直径方向に対
向するように設けられた2条の螺旋翼を有する掘削刃の螺旋翼の周縁部及び下
端に多数の小形ビットを取り付けたスクリューオーガ用掘削刃がある。これには、
軸回りに回転自在な小形のビット(コーン刃)が設けられていて、岩石等に当た
った時に当該コーン刃が回転して逃げることができるため、損傷しにくいという
利点があるが、2条の螺旋翼が直径方向に対向するように設けられ、これら2条
の螺旋翼にそれぞれ設けた小型ビットで掘削を行うものであるから、掘削中に岩
石等に遭遇したときは、2条の螺旋翼に設けたビットが当該岩石に当たるたびに
断続的な衝撃を受け、スクリューオーガ装置全体が上下に振動して、円滑な掘削
ができなくなるおそれがあるほか、螺旋翼自体が先端側の外径が小さくなるよう
に全体として円錐状の尖った形状となっているので、芯ぶれにより、掘削される
穴が曲がりやすいというおそれもある(【0004】)。本件発明は、掘削中に岩石
等に当たってもビットの刃先が損傷しにくく、断続的な衝撃をうけにくく、しか
も穴曲がりが生じにくい掘削ヘッドを提供することを目的とし、基部がスクリュ
ーオーガロッドに取り付けられる基軸の外周部に、外径の等しい3条の螺旋翼が
設けられ、これら3条の螺旋翼の先端部に固着された複数のホルダに、円錐状の
尖った刃先部を有する複数のコニカルビットが軸回りに回転自在にそれぞれ取
り付けられ、該複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に
形成されていることを特徴とする構成をとるものである(【0005】【0006】)。
3条の螺旋翼が並列に設けられていることにより、掘削中に岩石等の掘削しにく
い物体に当たっても、断続的な衝撃が比較的小さくてすむようになるとともに、
胴部における3条の螺旋翼の外径をほぼ一定にしておくことにより芯ぶれが生
じにくくなる結果、穴曲がりが少なくなるという効果を奏するものである(【0006】
【0007】【0020】)。これらの本件明細書の記載内容に加え、図面(【図1】〜
【図4】)に照らすと、外径の等しい3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複
数のコニカルビット群により、「中央部が突出する概略円錐状に形成されている
こと」の技術的意義は、胴部における3条の螺旋翼の外径を変えることなく、該
複数のコニカルビット群により、基軸先端方向に向かって径が小さくなる円錐状
の形状にすることで、穴曲がりが生じることを防ぎつつ、掘削効率を高めること
にあるものと認められる。
また、本件明細書には、発明の実施形態に関して、「小型ビット20,…は、
それぞれが取り付けられている螺旋翼10の傾斜方向にほぼ沿うように傾けて
設けられている。また、前記ヘッド15には複数(図示例では3個)の小型ビッ
ト20,…が設けられていて、掘削ビットの先端部は、これら小型ビット群によ
って側面視概略円錐状を呈している。」(【0011】)、「掘削ヘッド1の先端部
には、全体形状が概略円錐状となるように多数のコニカルビット20,…が設け
られているので、これらビットにより効率よく掘削が行われる。」(【0016】)
との記載もある。
ウ 証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成19年7月3
日付けの拒絶理由通知書(乙1)により、特許庁から、本件発明は、引用発明1
及び2に基づき進歩性を欠くとの拒絶理由を通知されたことに対し、構成要件D\nに該当する部分を付加して補正した上で、意見書(乙2)において、引用発明1
は、螺旋翼が2条で、円周方向における螺旋翼同士の間隔が大きく、ヘッド先端
部のビットの密度が低くなり、しかもヘッド先端部のビットの先端はほぼ同一平
面状に位置していて、仮想先端面が平板状を呈しているのに対し、本件発明は、
3条の螺旋翼の先端部に複数のコニカルビットが取り付けられ、ヘッド先端部が、
全体として中央部が突出する概略円錐状の外形に形成されているから、引用発明
1と本件発明とは構成が大きく相違している旨を主張したことが認められる。\nこのような出願経過に照らすと、原告は、構成要件Dに該当する部分を付加し\nて補正することで、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビッ
トにより、ヘッド先端部が全体として中央部が突出する概略円錐状の外形である
ことを特定したものと解される。
エ 前記アないしウのとおり、構成要件C及びDの文言、本件明細書の内容、\n「中央部が突出する概略円錐状に形成されていること」の技術的意義、出願経過
に照らすと、「中央部が突出する概略円錐状」とは、3条の螺旋翼の先端部に取
り付けられたコニカルビットのみにより、側面視を含む全体形状において基軸先
端方向に向かって径が小さくなる円錐状をしていることを意味しているものと
解するのが相当である。本件明細書には、発明の実施形態として、3条の螺旋翼
の先端側に、概略円錐状のヘッド15が、基部を基軸2に固定されており、ヘッ
ド15に取り付けられた小型ビットを含む小型ビット群が側面視概略円錐状を
呈しているものが示される(【0011】)ことから、発明の実施形態には、3条の
螺旋翼の先端部に取り付けられたコニカルビットが側面視を含む全体形状にお
いて基軸先端方向に向かって径が小さくなる円錐状をしており、かつ、ヘッド1
5に取り付けられた小型ビットを含む小型ビット群が側面視概略円錐状を呈す
る形態を含むものと解する余地があるが、前記アの構成要件C及びDの文言に照\nらすと、「中央部が突出する概略円錐状」の上記解釈は左右されない。
(3) 被告各製品について
ア 被告製品1
争いのない事実、証拠(甲5、乙10の1〜3)及び弁論の全趣旨によれば、
被告製品1は、その3条の螺旋翼20の先端部に設けられた3〜4基のコニカル
ビット30により、側面視(基軸10先端方向を上に向けた場合。以下同じ。)
において、中央部が平坦又は間隙のある、浅いハ字状に線が描かれていること、
全体形状として、基軸10から放射状に3本の緩やかな曲線(ほぼ直線)が描か
れていることが認められる。
・・・
カ 以上のとおり、被告各製品の3条の螺旋翼の先端部に取り付けられたコニ
カルビットは、いずれも、側面視を含む全体形状において、直線、緩やかな曲線
又は点を形成するにすぎず、同コニカルビットのみにより、基軸先端方向に向か
って径が小さくなる円錐状を形成しているとはいえず、構成要件Dを充足すると\nは認められない。
(4) 原告の主張について
原告は、「中央部が突出する概略円錐状」とは、効率よく安定した掘削を行う
という本件発明の技術的意義を有するか、これと同一の作用効果を奏するもの、
すなわち、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビットが「概
略錐面状」に並んで配置されることを意味し、当業者は、本件明細書の記載から
そのように理解する旨を主張し、当業者の認識や技術常識を裏付ける証拠として、
公開特許公報(甲23の1〜12)、パンフレット等(甲24の1〜3)、アン
ケート結果(甲25の1〜8)、大学教授の意見書(甲28の1、29の1)を
提出する。
しかし、前記(2)のとおり、構成要件Dは「該複数のコニカルビット群により、\n中央部が突出する概略円錐状を形成」と規定しており、本件明細書や出願経過等
をみても、コニカルビットが概略錐面状に並んで配置していることと解すべき記
載等はないから、同構成要件を充足するには、コニカルビット群のみにより、(中\n央部が突出する)概略円錐状を形成する必要がある。
原告は、前記各証拠は、回転式の土木用掘削ヘッドにおいて、コニカルビット、
掘削刃などの掘削ビット類の配列、又は複数の掘削ビット類の全体形状を、当業
者は「概略円錐状」と表現することを示すものである旨述べる。しかし、原告が\n提出する公開特許公報(甲23の1〜12)に係る特許の中には、本件特許の出
願後に出願又は公開されたものが含まれており、それらは本件特許出願時の当業
者の認識を裏付けることにはならない。この点は措くとしても、これらの公報の
内容は、掘削爪等の配置、スクリュー刃全体、ヘッドの先端やヘッド部分全体、
掘削面や地盤改良体等の形状が、それぞれ円錐状であるなどと個別に特定するも
のであり、これらの公報全体をみても、回転式の掘削ヘッドにおいて掘削ビット
類の配列や全体形状が一般的に「概略円錐状」と表現されているとは認められな\nい。そして、少なくとも、これらの公報の中に、被告各製品のようにコニカルビ
ット(3条の螺旋翼の先端部に取り付けられたもの)が並んでいる形状を指して
(中央部が突出する)概略円錐状と表現することを示すものはない。また、パン\nフレット等(甲24の1〜3)には、「円錐ヘッド」や「円錐型ヘッド」として、
螺旋翼の外周部から中心軸に近づくにつれてビットが先端に向かって高い位置
に取り付けられている掘削ヘッドの写真が掲載されているものの、どの部分を指
して円錐形状と表現しているかについては明らかでないし、被告各製品のように\nコニカルビットが並んでいる形状そのものを指して概略円錐状と表現するもの\nとも認められない。さらに、アンケート結果(甲25の1〜8)については、8
名の回答者の中に本件特許の発明者や同発明者の出身会社の代表者、原告と何ら\nかの取引関係があると考えられる者が含まれている(甲25の1、2、8、弁論
の全趣旨)など、アンケート対象者の中立性等に疑義があることに加え、質問の
形式も、被告各製品の螺旋翼先端部のコニカルビット群の形状をどう表現するか\nと問うのではなく、「「螺旋翼先端部のコニカルビット群」を見て「(概略)円
錐状」と認識できますか?」と一定の結論を示唆するものであって、適切とは言
い難い。回答者は、当該質問に対して、いずれも「できる」と回答しているもの
の、その理由として、「ビットの高さが違う」「外側より先端部の方が飛び出し
ている」「掘削後円錐に断面がなる」「写真より(中略)円錐形状を推定・想像
が行える」「日本テクノ製のコニカルヘッドと認識した」などとコメントしてお
り、コニカルビットが並んでいる形状を概略円錐状と表現した趣旨か否かが不明\nである回答が含まれているほか、理由の説明内容が区々であり、このアンケート
結果から、当業者が一般的に被告各製品のようにコニカルビットが並んでいる形
状を(中央部が突出する)概略円錐状と認識するものと理解することは困難であ
る。そして、大学教授の意見書のうち、甲第28号証の1には、ヘッドが回転し
たときにどのような軌跡を描いているかを立体的にイメージすれば、ビットの軌
跡でトレースされる立体的形状が円錐状に近い形になることが指摘されている
が、「複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に形成され
ている」(構成要件D)ことに、「回転する複数のコニカルビット群の軌跡によ\nり、中央部が突出する概略円錐状に形成されている」ことを含むと解釈すること
は文理に沿わないし、当業者が一般的に、掘削ヘッドの「複数のコニカルビット
群」との文言から、その形状(配置)をヘッドが回転したときの軌跡でイメージ
することを裏付ける資料もない。甲第29号証の1には、「概略円錐状」とは、
数学的(幾何学)な意味での円錐ではなく、中央が尖った錐状立体に近い概形を
意味していることが指摘されているが、その根拠は不明である。
以上から、原告が提出する証拠は、いずれも回転式の土木用掘削ヘッドにおい
て、掘削ビット類の配列又は全体形状を、当業者が「概略円錐状」と表現するこ\nとを示すものとはいえず、被告各製品のようにコニカルビット(3条の螺旋翼の
先端部に取り付けられたもの)が並んでいる形状を、当業者が一般的に(中央部
が突出する)概略円錐状と理解することを裏付けるものでもないから、原告の前
記主張は採用できない。
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2022.11.25
令和3(ワ)11507 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年10月28日 東京地方裁判所
構成要件Biiを充足しない、無効理由ありと判断しました。
ア 「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために・・・本体両側面に設けた側面圧
迫領域を具備し」の意義について
本件特許の特許請求の範囲には、「低伸縮領域として」、「大腿骨及び周
囲筋腱を圧迫するために、上記ほぼU字型の正面吊り領域の左右両端から上
方へ連続して伸びる方向に、本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」(構\n成要件Bii)と記載されている。上記記載によれば、「側面圧迫領域」は「大
腿骨及び周囲筋腱」自体を圧迫するものであると解される。
そして、本件明細書等には、「膝部に着用する従来の筒状の伸縮性サポー
ターは、サポーター本体に織り込まれているゴムのパワー(ゴムの収縮力、
即ち筋肉に対する圧迫強度)を変え、或いは織り方を変えることで患部に対
する圧迫力、押圧力変化させる方式を取っている。しかしそれでは、膝関節
の任意の箇所に必要な押圧力を加えることができないという問題があった。」
(段落【0002】)、「・・・また、本発明によれば、上記に加え大腿骨、
脛骨及び周囲筋腱を圧迫することにより関節裂隙部に作用して、痛みを軽減
し得るコンプレッションサポーターを提供することができる。」(段落【0
020】)と記載されている。上記各記載によれば、本件発明は、膝関節の
任意の箇所に必要な押圧力を加えることができない従来のサポーターの課
題を解決するために、大腿骨、脛骨及び周囲筋腱を圧迫するサポーターを提
供するものであることが認められる。
そうすると、上記の構成要件Bii及び本件明細書等の各記載内容によれば、
構成要件Biiの「側面圧迫領域」は、大腿骨自体及び周囲筋腱自体を圧迫す
るものと解するのが相当である。
イ 被告製品17の構成要件充足性について\n
これを被告製品17についてみると、前提事実及び証拠(甲6)によれ
ば、被告製品部分2は、被告製品部分2と接触する部分や大腿骨の周囲筋
腱を圧迫することまでは一応認められるものの、これを超えて、本件全証
拠によっても、被告製品部分2が大腿骨自体までをも圧迫することまで認
めることはできない。
したがって、被告製品17は、構成要件Biiを充足するものとはいえな
い。
・・・
「固着」について
本件特許の特許請求の範囲には、「上記低伸縮領域は、樹脂より成る低
伸縮性材料を本体に固着した構成を有している」(構\成要件C)と記載さ
れている。上記記載によれば、低伸縮性材料を本体に「固着」させる方法
を格別限定するものではない。
そして、証拠(甲11)によれば、「固着」という用語について、一般
的に「かたくしっかりとつくこと」という意味を有することが認められる。
また、本件明細書等には、「本発明において、上記低伸縮領域は低伸縮
性材料を本体に固着一体化することによって構成されている。・・・低伸\n縮性材料を本体に固着一体化する方法としては、例えば接着、貼着或いは\n印刷等の方法を取ることができる。また、低伸縮性材料の固着方法として、
あらかじめ樹脂を用いて低伸縮領域の形状に作りそれを本体に転写する
ような方法も取り得る。・・・」(段落【0012】)、「正面吊り領域
22を始めとして上記のように説明した各低伸縮領域は、樹脂より成る低
伸縮性材料34を本体20に固着した構成を有している。より詳細に図示\nした図4を参照して説明すると、図4において、35、36は縦糸と横糸
などから成る編織構造を示しており、37は固着手段を示している。樹脂\nより成る低伸縮性材料34は、本体20に固着すると固着手段37が上記
編織構造35、36の組織内に入り込んで密着状態になり、一体化するこ\nとにより、本体本来の伸縮性を制限して、低伸縮性を備えた領域に変える
ことになる。」(段落【0031】)、「低伸縮性材料34は、例えば上
記正面吊り領域22の形状にあらかじめ形成され、それを本体20の表面\nに固着手段37を用いて固着する。図4Aに示す例では、低伸縮性材料3
4の下面に固着手段37があらかじめ固着されている。そして、図示の例
の場合、本体20は綿糸及び合成繊維糸を周方向に伸縮性を持つように編
織したもので、低伸縮性材料34はウレタン系樹脂材料のフィルムより成
る多層構造を有し、固着手段37には上記ウレタンフィルムより成る多層\n構造の内の一部を用いて本体20に固着させている。しかしこれは一例で\nあり、固着手段37として接着剤を本体20の表面に塗布すること、また、\nシート状の接着剤を用いることは普通に行われる。さらに、本体20の材
質と低伸縮性材料34の材質に親和性があり、かつ熱溶着性樹脂を用いる
場合には直接本体20に低伸縮性材料34を熱溶着する手段も選択し得
る周知の事項である。このように本発明においては何れの固着手段を採用
しても良い。」(段落【0032】)と記載されている。そうすると、本
件明細書等の上記記載においても、低伸縮性材料を本体に「固着」させる
方法が例示されているものの、何らかの限定をしているものと解すること
はできない。
上記の構成要件C及び本件明細書等の各記載内容に加えて、「固着」と\nいう用語の一般的な意味内容を踏まえると、本件発明における「固着」の
方法について、固くしっかりと付くこと以上に、何らかの限定がされてい
るものと解することはできない。
・・・
「樹脂より成る」について
本件特許の特許請求の範囲には、上記 のとおり記載されている。そし
て、証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば、樹脂の一種である「合成
樹脂」は、「合成高分子化合物」とほぼ同義で用いられることがあり、「合
成繊維」とは合成高分子化合物を紡いで繊維としたものをいうことが認め
られる。そうすると、「合成樹脂」は、常に繊維状のもの(合成繊維)を
除く意味で用いられるものではなく、むしろ、合成繊維は、その材料が合
成樹脂であるから、「樹脂より成る」ということができる。
これに対して、被告は、証拠(乙1、2、7)によれば、「合成樹脂」
に「合成繊維」が含まれないと主張する。しかしながら、上記において説
示したとおり、「合成樹脂」が、常に「合成繊維」を除く意味で用いられ
るものとは認められず、被告の主張は、採用することができない。
また、被告は、本件明細書等において、本体に用いる合成繊維(段落【0
032】)と低伸縮性材料に用いる樹脂材料(段落【0012】)が明確
に書き分けられていることからすれば、「合成繊維」は構成要件Cの「樹\n脂」に含まれないと主張する。しかしながら、上記の記載をもって「樹脂」
に「合成繊維」が含まれないとまで解することはできず、被告の主張は、
採用することができない。
・・・
これを本件発明についてみると、本件特許の特許請求の範囲の記載は、前提
事実(2)イのとおりであり、本件発明の意義は、前記1(2)のとおり、従来技術で
は、サポーター本体に織り込まれているゴムの収縮力や織り方を変えることで
患部に対する圧迫、押圧の強度を変化させていたものの、それでは、膝関節の
任意の箇所に必要な押圧を加えることができないという技術的課題を解決す
るために、伸縮性素材より成り膝部に着用し得る形態の本体に、本体よりも伸
縮性の低い低伸縮領域を設け、低伸縮領域として、1)本体の正面に、膝蓋靱帯
を圧迫し、かつ、膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋の機能を補助するために、膝\n蓋骨の下部を取り囲むほぼU字型の領域と、2)上記ほぼU字型の領域の左右両
端から上方へ連続して伸びる方向に、大腿骨及び周囲筋腱を圧迫する領域を具
備し、低伸縮領域について樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着するという
構成を採用することにより、膝蓋靱帯を圧迫し、膝蓋骨を保持して、膝関節を\n良好に固定するとともに、大腿骨及び周囲筋腱を圧迫することにより、関節裂
隙部に作用して、痛みを抑制することを可能にするという効果を実現し、もっ\nて上記技術的課題を解決するものであることが認められる。
(3) 他方、本件発明において、「低伸縮性材料を本体に固着」(構成要件C)す\nる方法が、いわゆる別材料固着構造(膝を筒状に覆うサポーター本体の表\面の
一部に、本体とは別の低伸縮性材料を熱溶着、接着、縫着等によって固着し、
伸縮性等の異なる部位を配置した構造)以外に、被告製品17が採用する一体\n編成・織成構造(サポーターを織り上げ、又は、編み上げるに当たり、部分に\nよって折り方や編み方を変化させることにより、伸縮性等の異なる部位を配置
した構造(本件明細書等の段落【0002】記載の「サポーター本体に織り込\nまれているゴムのパワー(ゴムの収縮力、即ち筋肉に対する圧迫強度)を変え、
或いは織り方を変えることで患部に対する圧迫力、押圧力変化させる方式」を
含む。))をも含むと解されることは、前記2(4)ア において説示したとおり
である。
しかしながら、本件明細書等によれば、当業者が一体編成・織成構造のサポ\nーターによって本件発明の課題を解決できるとする記載は一切なく、かえって、
本件明細書の段落【0002】によれば、一体編成・織成構造のサポーターに\nよっては、膝関節の任意の箇所に必要な押圧を加えることができず、本件発明
の課題を解決することができない旨明記されていることが認められる。
そうすると、本件明細書等の記載内容を踏まえると、一体編成・織成構造の\nサポーターが、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし
本件発明の課題を解決できると認識できるものと認めることはできない。
これに対して、原告は、本件発明の課題は本件発明の構成を備えることで解\n決することができるから、本件発明は、サポート要件に違反しない旨主張する。
しかしながら、本件明細書等によれば、本件発明は、一体編成・織成構造の\nサポーターが必要な押圧を欠くという課題を解決するものであるから、当該サ
ポーターが本件発明の課題を解決し得ないことは、本件明細書等の記載自体か
らも自明であって、原告の主張は、採用することができない。
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2022.11.25
令和2(ネ)10024 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年10月20日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
大合議(特別部)の判断です。1審は技術的範囲に属さないと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消して、約4億円の損害賠償を認めました。102条2項と3項の重畳適用の要件を示しています。本件では一部認められています。
原判決は、本件発明C−1の特許請求の範囲(請求項1)の記載
に基づく解釈として、1)構成要件Cの記載によれば、「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」の3要素により形成された部分をもって成るものが「空洞部」であり、「空洞部」に「外側立上り\n壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」が存在しない部分が許容され
ると解されず、「空洞部」全体にわたって「内側立上り壁」が存在す
ることを要する、2)構成要件Dの記載によれば、「空洞部の先端部」に「内側立上り壁の…前端部」が存在することは明らかであるところ、「内側立上り壁の…前端部」という記載は、更に「空洞部の先端\n部」以外にその後方部分にも「内側立上り壁」が存在することを示
唆するものと理解される、3)構成要件Bの記載によれば、「前腕挿入開口部」は、「空洞部」の一部ではなく、「空洞部」とは別の「肘掛部」の構\成部分でありつつ、「空洞部」に連続して設けられた部分であると解され、また、「前腕挿入開口部」と「空洞部」から成る「肘掛部」中における「前腕挿入開口部」と「空洞部」の相対的な位置
関係は、「空洞部」が前部に、「前腕挿入開口部」が後部に位置する
と解され、さらに、「前腕部を挿入保持する」ように「空洞部」が構成される、4)構成要件E、E−1、E−2の記載によれば、「前腕挿入開口部」が「内側後方から施療者の前腕部を挿入するための」部分であるところ、そこに位置する施療部は「底面部」と「外側立上\nり壁」によりL型に形成されていることから、当該施療部には「内
側立上り壁」が存在しないと解されること、「前腕挿入開口部から延
設して…設けられ」ている「空洞部」が、「肘掛部」中の別の構成部分であることに鑑みると、「内側立上り壁」の有無が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画するものであるとの示唆を看取することもで\nき、そもそも、「前腕挿入開口部」につき、「内側後方から施療者の
前腕部を挿入するための」ものと特定されていること自体、「前腕挿
入開口部から延設して…設けられ」た「空洞部」の内側側方からは、
「空洞部」に「施療者の前腕部を挿入する」ことができないことを
示唆するものと解される、5)他方、請求項1の記載から、「空洞部」
中に「内側立上り壁」が存在しない部分があるとの示唆を読み取る
ことはできないとして、本件発明C−1の「空洞部」(構成要件B、C)とは、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものをいうと解される旨判断した。\n
しかしながら、1)及び5)については、構成要件B及びCから読み取れる事項は、「該前腕挿入開口部から延設して肘掛部の内部に施療者の手部を含む前腕部を挿入保持するための空洞部」が「外側立\n上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」という3要素から形成さ
れていることであり、他方で、「空洞部」のどの部分に、「外側立上
り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」を設けるべきかについては、
請求項1には何ら記載がない。「空洞部」が上記3要素から成ること
と、上記3要素をどのように形成するかは別問題であるから、「空洞
部」に「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」が存在し
ない部分が許容されると解されないとの原判決の判断には、論理の
飛躍がある。
2)については、構成要件Dには、「空洞部の先端部」以外の後方部分における「内側立上り壁」の範囲については記載も示唆もなく、また、構\成要件Dの記載は、「空洞部の先端部」とその後方部分の一部に形成されている構成も、本件発明C−1の「空洞部」に該当すると解釈することと矛盾しないから、構\成要件Dから「内側立上り壁」が「空洞部」全体に及ぶべきことを読み取ることはできない。
3)については、構成要件Bの記載によれば、「前腕挿入開口部」は「肘掛部」の「内側後方から施療者の前腕部を挿入するため」の部材であり、「空洞部」は「肘掛部の内部に施療者の手部を含む前腕部\nを挿入保持するため」の部材であると定義されるところ、いずれも
「前腕」を「挿入」する機能を実現する部材であることで共通することからすると、「前腕挿入開口部」と「空洞部」は、「前腕部を挿入する部分」において重なることが示唆されているから、両者に厳\n密な線引きをすべき理由はない。また、仮に構成要件Bの記載について原判決の解釈を前提としても、「内側立上り壁」が「空洞部」の一部に形成されている構\成であっても、「肘掛部」に「空洞部」と「前腕挿入開口部」とが別構成として設けられ、「肘掛部」において「空洞部」が前部に、「前腕挿入開口部」が後部に位置する構\成とすることもできるから、本件発明C−1の「空洞部」は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものでなければならないという結論
が論理必然的に導き出されるわけではない。
4)については、構成要件E、E−1、E−2は、「肘掛部」中における「前腕挿入開口部」と「空洞部」の位置関係等を直接規定したものではなく、また、構\成要件E−2から読み取れる事項は、「前腕挿入開口部」に位置する施療部が底面部と外側立上り壁によりL型に形成されているということだけであり、そのことから直ちに、「内
側立上り壁」の有無が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画する
ことを看取できるものではない。
したがって、原判決の挙げる1)ないし5)は、本件発明C−1の「空
洞部」(構成要件B、C)は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものと解釈することの根拠となるものではないから、原判決の上記判断は誤りである。\n
(b) 次に、原判決は、本件発明C−1の「空洞部」(構成要件B、C)とは、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものをいうと解されることは、本件明細書Cの記載及び本件特許Cの出願経過か\nらも裏付けられると述べ、具体的には、1)本件明細書C記載の本件
発明C−1の技術的意義に鑑みると、本件発明C−1は、肘掛部の
長さ方向全域に「外側立上り壁」と「内側立上り壁」が形成された
椅子式マッサージ機を前提として、肘掛部の内側後方から施療者の
前腕部を挿入可能となるように「内側立上り壁」を廃した「前腕挿入開口部」を設けたと認められるから、そのような肘掛部の「内側後方から施療者の前腕部を挿入するための前腕挿入開口部」と、そ\nこから「延設して肘掛部の内部に…設けられ」ている「空洞部」と
は、「内側立上り壁」の有無により画されるものと理解されるし、「手
掛け部」を設けたのは手部及び前腕部の広範を同時にマッサージす
るために肘掛部の前端部にまで「内側立上り壁」が形成されている
ことを踏まえたものである以上、本件発明C−1における「肘掛部
の幅方向左右に夫々設けた外側立上り壁及び内側立上り壁と底面
部とから形成され」た「空洞部」の「内側立上り壁」は、手部及び
前腕部の広範を同時にマッサージすることができるように、「空洞
部」全体にわたって存在することが想定されているといえる、2)本
件親出願の明細書(乙C8)の【0046】、【0047】及び図1
4は、本件明細書Cの【0046】、【0047】及び図14と同様
に、前腕部施療機構の中部に「内側立上り壁」が形成されていない実施例に関する記載であるところ、これらは、本件出願Cの出願に当たり、本件親出願の請求項からの変更の根拠として挙げられてい\nない、本件補正時に提出された平成23年5月9日付け意見書(以
下「本件意見書」という。乙C12)において、控訴人は、本件各
発明Cが、「肘掛部の長さ方向全域に前腕部施療機構として左右一対の立上り壁を設けた椅子式マッサージ機」に関する発明であり、「施療者の肘関節付近にまで左右一対の立上り壁が存在すること\nによる施療者の肘関節付近の圧迫による不快感を解消し、更に前腕
部施療機構を有していても施療者が起立及び着座を快適に行う事ができるようにした施療機を提供するもので」あるとした上で、「空洞部の先端部」に設けた「手掛け部」に関しては、そこに「内側立\n上り壁」が存在することを前提とした説明をしつつ、「前腕挿入開口
部」に関しては、そこには「内側立上り壁」がない形状にしたとす
る説明をしている、他方、請求項2、すなわち肘掛部の中部に「前
記底面部と前記外側立上り壁と手掛け部によりコ型に形成された
施療部」を設けることについても説明しているが、そこで言及され
ている本件明細書Cの記載のうち、関係するのは【0046】のみ
である、本件拒絶理由通知に示された「引用文献2」(乙C19)と
本件補正後の発明(本件発明C−1及びC−2)との相違について、
「引用文献2」に開示された前腕部施療部は「肘挿入用凹溝」であ
り、その断面形状は略横向き「凹」字状であるのに対し、本件補正
後の発明においては、前腕挿入開口部に位置する施療部は「底面部」
及び「外側立上り壁」により形成された断面略「L型」であり、ま
た、手掛け部が形成される空洞部に位置する施療部は、「底面部」、
「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「手掛け部」に囲われた形
状(実施の形態では「ロ型」)であるため、その構成が相違する旨説明している、断面が略「コ」字状の前腕部施療部の問題点として、前腕挿入開口部においては、上面に位置する部分が腕部の載脱をス\nムーズに行う上で障害となり、手掛け部においては「内側立上り壁」
が存在しないため、施療者の体重を掛ける上で不安が残ることを指
摘している、こうした説明内容に加え、本件補正により「前記底面
部と前記外側立上り壁と手掛け部によりコ型に形成された施療部
を備え」る請求項2(本件発明C−2)を請求項1の従属項として
追加したにもかかわらず、当該発明における上記略「コ」字状の前
腕部施療部の問題点の有無等に関する説明が見当たらないことに
鑑みると、本件補正における控訴人の説明は、請求項2の追加にか
かわらず、本件発明C−1の「空洞部」につき、その全体にわたっ
て「内側立上り壁」が存在する構成を前提としていたと理解される、3)本件明細書Cの【0046】及び図14の記載が本件親出願から
の分割出願(本件出願C)や補正(本件補正)にもかかわらず一貫
して存在する点については、本件発明C−1に係る特許請求の範囲
の請求項1の記載自体から「空洞部」につき、その全体にわたって
「内側立上り壁」が存在する構成と理解されることに鑑みると、分割出願や補正による本件特許Cの発明の内容の変化に応じてこれらの記載が補正等されなかった結果にすぎないと見るべきである\n旨判断した。
しかしながら、1)については、本件明細書Cには、本件発明C−
1の一実施形態(本件発明C−2の実施例)として、肘掛部の中部
に外側立上り壁、手掛け部、底面部よりコ型に形成された施療部を
設けたマッサージ機の記載があり(【0046】、図14)、図14で
は、コ型に形成された施療部、すなわち、内側立上り壁が存在しな
い部分が空洞部(62a)と図示されており、また、別の実施形態
を示す図8においても、内側立上り壁が存在しない部分が空洞部
(62a)と図示されている。これらの記載を参酌すれば、本件発
明C−1の「空洞部」は、肘掛部中の内側立上り壁が存在する部分
に限られるわけではなく、その全体にわたって「内側立上り壁」を
備えることを要しないことは明らかである。
また、本件発明C−1は、肘掛部の長さ方向全域に立上り壁を設
けることによる不都合(ア)上腕部内側の肘関節付近を圧迫し不快感
を与える、 腕部の載脱行為を妨げる、 快適な起立及び着座を妨
げるという不都合)を解決することを課題とし(【0005】ないし
【0008】)、(ア)及び の課題は、前腕挿入開口部の内側立上り壁
を廃したことにより、 の課題は、肘掛部に手掛け部を設けたこと
により解決したものであり、それを超えて、「内側立上り壁」の有無
が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画し、空洞部はその全体に
わたって内側立上り壁を備えるものであるという「空洞部」が備え
るべき構成を導くことはできない。さらに、本件明細書Cの【0016】には、底面部及び外側立上り壁の二面において膨縮袋を備えることで前腕部に対するマッサ\nージを実施することができる旨が記載されていることに照らすと、
手部及び前腕部の広範を同時にマッサージするためには、「底面部」
及び「外側立上り壁」の二面が存在すれば足り、「内側立上り壁」が
「空洞部」の全体にわたって存在することは想定されていない。
次に、2)及び3)については、本件親出願の分割出願として本件出
願Cを出願するに際し、本件親出願の明細書(乙C8)の【004
6】、【0047】及び図14を分割要件を満たすことの根拠として
挙げられていないからといって、本件特許Cの出願経過において、
本件発明C−1の「空洞部」をその全体にわたって「内側立上り壁」
が存在する構成に限定したという控訴人の意思が客観的に表\され
ているとはいえない。むしろ、控訴人は、本件意見書において、請
求項1及び2に係る本件補正の根拠として、本件出願Cの願書に最
初に添付した明細書(以下「本件出願Cの当初明細書」という。乙
C9)の【0046】を明確に挙げていること、当該段落は本件明
細書Cの【0046】と同じであり、「内側立上り壁」が備えられて
いない部分を「空洞部(62a)」として指し示した「図14」の構成を説明していることからすると、「空洞部」についてその全体にわたって「内側立上り壁」が存在することを要しないことを前提とし\nていたことは明らかであり、本件明細書Cの【0046】及び図1
4の記載が存在することは本件特許Cの発明の内容の変化に応じ
てこれらの記載が補正等されなかった結果にすぎないとの原判決
の3)の判断は誤りである。
また、被控訴人が2)で指摘する本件意見書における説明は、「空洞
部」と「内側立上り壁」の関係については何ら言及されておらず、
控訴人が、空洞部をその全体にわたって「内側立上り壁」が存在す
る構成に限定する意思を客観的に表\明しているということはでき
ない。
したがって、原判決の挙げる1)ないし3)は、本件発明C−1の「空
洞部」(構成要件B、C)は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものと解釈することを裏付けとなるものではないから、原判決の上記判断は誤りである。\n
・・・
これを本件についてみるに、前記ウ認定の本件推定の覆滅事由は、特
許発明が被告製品1の部分のみに実施されていること及び市場の非同
一性であり、いずれも特許権者の実施の能力を超えることを理由とするものではない。\nしかるところ、市場の非同一性を理由とする覆滅事由に係る推定覆滅
部分については、被控訴人による被告製品1の各仕向国への輸出があっ
た時期において、控訴人製品1は当該仕向国への輸出があったものと認
められないことから、当該仕向国のそれぞれの市場において、控訴人製
品1は、被告製品1の輸出がなければ輸出することができたという競合
関係があるとは認められないことによるものであり(前記ウ c)、控訴
人は、当該推定覆滅部分に係る輸出台数について、自ら輸出をすること
ができない事情があるといえるものの、実施許諾をすることができたも
のと認められる。
一方で、本件各発明Cが侵害品の部分のみに実施されていることを理
由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分については、その推定覆滅部分に
係る輸出台数全体にわたって個々の被告製品1に対し本件各発明Cが寄
与していないことを理由に本件推定が覆滅されるものであり、このよう
な本件各発明Cが寄与していない部分について、控訴人が実施許諾をす
ることができたものと認められない。
そうすると、本件においては、市場の非同一性を理由とする覆滅事由
に係る推定覆滅部分についてのみ、特許法102条3項の適用を認める
のが相当である。
(ウ)a これに対し、控訴人は、特許発明が侵害品の一部のみに実施されて
いることを理由とする覆滅事由は、需要を形成する一要因にすぎず、
侵害品に向かっていた事情が全て特許権者の製品に向かうかどうかを
判断する一要素であるから、市場の非同一性等を理由とする覆滅事由
と区別する理由はないこと、覆滅事由ごとに特許法102条3項の適
用の有無を区別することは、実施料率の算定が煩雑になり妥当でなく、
そもそも製品の需要形成には様々な要因が複合的に絡み合っており、
覆滅事由ごとに覆滅割合を認定して当該覆滅部分にライセンス機会の
喪失による逸失利益が認められるか否かを認定判断することは実際上
困難であることからすると、本件各発明Cが侵害品の部分のみに実施
されていることを理由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分についても、
特許法102条3項の適用を認めるべきである旨主張する。
しかしながら、前記 で説示したとおり、上記推定覆滅部分は、個々
の被告製品1に対し本件各発明Cが寄与していないことを理由に本件
推定が覆滅されるものであり、このような本件各発明Cが寄与してい
ない部分について、控訴人が実施許諾をすることができたものとは認
められないから、控訴人の上記主張は採用することができない。
b また、被控訴人は、1)特許法102条1項において、特許権者が自
己実施できたと推定される部分(1号)とは別にライセンスをし得た
部分(2号)とを区別し観念できるのは、同項が、侵害者の販売する
「数量」に基づいて、権利者の逸失利益に係る損害額を算定する方法
を採用しているからであり、他方で、同条2項は、侵害者の「利益」
を権利者の逸失利益と推定する損害額算定方法をとっており、同項の
推定が覆滅されるのは、最終計算の結果としての損害額であり、計算
過程の途中数値である侵害品の数量の一部が計算の基礎から除かれる
わけではなく、同項の推定を覆滅する過程において、権利者のライセ
ンスの機会の喪失による逸失利益をも含む全ての逸失利益が評価し尽
されているというべきであるから、推定覆滅部分に対して同条3項を
適用することは、権利者の損害の二重評価となり、許されない、2)同
条1項2号が新設された令和元年改正特許法において、同条2項につ
いて実施料相当額の損害が明文において規定されなかったのは、この
ような趣旨によるものと解される、3)仮に推定覆滅部分について同条
3項の重畳適用が認められる場合が理論的にあり得るとしても、被告
製品1について、「市場の非同一性」を理由とする覆滅事由に係る推定
覆滅部分につき、輸出に際して海外市場の事業者から受け取る対価は、
あくまで海外市場に基づく利益であり、このような海外市場における
利益まで特許法102条2項の推定が及ぶものと解し、日本国内の特
許権に基づいて独占することは、特許権の保護範囲を逸脱しており、
法が予定していないものであり、また、日本国の特許権に基づいて仕向国への輸出行為のみを切り取り、ライセンスする場合は現実に考え\n難く、ライセンスによる実施料相当額の得べかりし利益を得られなか
ったとは言い難いとして、本件推定の推定覆滅部分については、同条
3項を適用することはできない旨主張する。
しかしながら、1)及び2)については、前記 で説示したとおり、特
許権者は、自ら特許発明を実施して利益を得ることができると同時に、
第三者に対し、特許発明の実施を許諾して利益を得ることができるこ
とに鑑みると、侵害者の侵害行為により特許権者が受けた損害は、特
許権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた
実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益と実施許諾の機会の
喪失による得べかりし利益とを観念し得るものと解されるところ、特
許法102条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、
特許権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができ
た実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益に相当するもので
あるのに対し、同項による推定の推定覆滅部分について、特許権者が
実施許諾をすることができたと認められるときは、特許権者は、売上
げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による実施
料相当額の損害を受けたものと評価できるから、特許権者の損害を二
重に評価することにはならない。また、同条1項2号が新設された令
和元年改正特許法において、同条2項について、同条1項2号と同様
の法改正がされなかったからといって直ちに同条2項による推定の推
定覆滅部分について同条3項の適用を否定すべき理由にはならないと
いうべきである。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成30(ワ)3226
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2022.08.18
令和3(ネ)10079 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、出願経過から用語の意義を解釈して、技術的範囲に属しないと判断しました。知財高裁も同様に、技術的範囲に属しないと判断されました。
(1) 控訴人は、前記第2の5(1)アのとおり、本件発明の「係止片」は、1)所定
位置において、それ自体として針先の再露出を直接防止し、2)片状の部材で
あり、3)針ハブに向かって傾斜した内側面を有し、4)大径部に円筒状部と一
体形成され、5)小径部側には設けられていないものをいうから、上記構成要\n素から特定される形状を有しない係止片が小径部側に設けられていても構成\n要件1E4)の充足を左右しない旨主張しており、同イ及びウの主張もこのよ
うな理解を前提とするものである。
しかしながら、引用に係る原判決第3の2(1)(補正後のもの)のとおり、
本件発明の技術的意義及び出願経過からみて、針先の再露出を防止する機能\nを有する係止片は小径部側には設けられてはならず(係止片が小径部側に設
けられていないことに特有の技術的意義がある。)、したがって、小径部に設
けられることで構成要件1E4)の充足が妨げられる係止片は、その形状を問
われないものであるから、針先の再露出を防止する機能を有する係止片が小\n径部側に存することは、対象製品が構成要件1E4)を充足することを妨げる
ものである。
また、控訴人は、係止片は針先の再露出を「それ自体」として、かつ、「直
接」に防止しなければならない旨主張するところであるが、特許請求の範囲
及び本件明細書の記載上、根拠を見いだし難い(いずれにせよ、大径部係止
手段と小径部側壁部から構成される「係止片」は、それ自体により直接に針\n先の再露出を防止していると認められる。)。
さらに、控訴人は、「係止片」という用語を使用している以上、「片」とは
その名が示すとおり「片」(へん)状の部材であるから、「係止片」とは「片
状(へんじょう)の部材」を指すものである旨主張するところ、確かに、控
訴人は、本件補正により「係止部」を「係止片」と改めたものではあるが、
上記のような本件発明の技術的意義及び出願経過からすれば、充足性の判断
に当たり、針先の再露出を防止するために小径部に設けられる係止部材を片
状のものに限定する意義は見いだせない。また、いずれにしても、被告製品
は、小径部側壁部の突端面により縦リブの側面を挟持するものであるところ
(引用に係る原判決第2の1(3)イd(補正後のもの))、小径部側壁部の突端
面を「片」と理解することに支障があるとは思えない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和1(ワ)27053
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2022.08.12
令和2(ワ)4331 特許権侵害損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年5月13日 東京地方裁判所
電子たばこの特許について102条3項により、約2200万円の損害賠償が認められました。102条2項の推定覆滅として、別件特許権があることで5割が認定され、3項との重畳適用は否定され、3項により利率10%を認めました。2項侵害よりも3項侵害の方が80万円ほど高額となりました。
同一製品の製造等による別件特許権の侵害について
証拠(乙A80)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、本件各発明の実施品であるとともに、別件発明の実施品であること、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものであること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、別件発明は、安価で耐久性のある製品を提供するものとして、本件各発明と相等しく、被告製品の付加価値を高め、 顧客吸引力を有するものとして、被告製品の売上げに貢献しているものと認めるのが相当である。そうすると、別件発明による上記貢献の事情は、特許法102条2項の推定を覆滅する事情であるといえる。
これに対し、被告らは、別件訴訟において別件発明に係る侵害を理由として認容された損害額につき、本件訴訟で推定された損害額から覆滅されるべき旨主張するが、別件発明が被告製品の売上げに貢献した部分は、上記のとおり本件訴訟における推定覆滅の事情として考慮されているのであるから、被告らの主張は、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告らの主張は、採用することができない。
推定覆滅の割合
以上によれば、本件においては、上記 に掲げる事情の限度で推定を覆滅させるのが相当であり、上記 において認定した事情を踏まえると、推定覆滅の割合は、5割と認めるのが相当である。
ウ まとめ
本件特許権の侵害について、特許法102条2項により算定される損害額は、1853万0467円(3706万0935円×0.5(1円未満切り捨てとする。以下同じ。))となる。
エ 覆滅部分についての特許法102条3項の損害金について
原告は、本件特許権の侵害における特許法102条2項の推定の覆滅部分について同条3項が適用されると主張して、覆滅部分について同項にいう実施料相当損害金を請求する。
しかしながら、本件特許権の侵害における推定の覆滅は、上記において説示したとおり、本件各発明以外にも別件特許権が被告製品の売上げに貢献していた事情を考慮したものである。そのため、本件各発明のみによっては売上げを伸ばせないといえる原告製品の数量について、原告が、被告ジョウズに対し本件各発明の実施の許諾をし得たとは認められないというべきである。そうすると、当該数量について同条3項を適用して、実施料相当損害金を請求する理由を認めることはできない。したがって、原告の主張は、採用することがで
・・・
イ 前提事実及び前記認定事実のほか、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
本件報告書の表II)−3には、アンケートの調査結果として、技術分類を「食料品、たばこ」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は3.8%(最大値5.5%、最小値1.5%)(4件)、「健康;人命救助;娯楽」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は5.3%(最大値14.5%、最小値0.5%)(54件)と記載されている(乙A73)。原告は、被告ジョウズが被告製品の販売等により別件特許権を侵害したと主張して、別件訴訟を東京地方裁判所に提起したところ、同裁判所は、令和4年1月27日、別件発明の実施に対し受けるべき料率を被告製品の売上高の10%と判断した(乙A80)。そして、前記 イ のとおり、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものである。
前記 イ のとおり、本件各発明は、エアロゾル形成基材の加熱中にエアロゾルを均等に送達することを可能にする発明であり、加熱式タバコの香りや味等に直結するものであるから、加熱式タバコにおいて相応の重要性を有し、被告製品の売上げ及び利益にも一定の貢献をしたものである。また、エアロゾルを均等に送達することを可能\にする代替技術 が存在することは、本件全証拠によっても認めるに足りない。
原告と被告らは、いずれも原告製品専用のタバコスティックを使用することができる加熱式タバコ用デバイスを販売していたことからすると、その市場において競業関係にあったといえる。
ウ 前記イ ないし の各事情その他の本件訴訟に現れた諸事情を総合すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は、10%を下らないものと認めるのが相当である。したがって、被告らによる本件特許権の侵害について、特許法102条3項により算定される損害額は、1975万2707円(1億9752万7078円×10%)となる。
◆判決本文
関連事件(1)です。
特許権、当事者同じ
特許権者勝訴
差止のみ請求
◆令和2(ワ)4332
関連事件(2)です。
当事者同じ、対象特許違い
特許権者勝訴
損害額約5200万円
◆令和1(ワ)20074
関連事件(2)の控訴審です
控訴棄却
◆令和3(ネ)10072
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>> 賠償額認定
>> 102条2項
>> 102条3項
>> 104条の3
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2022.07.24
令和2(ワ)17423 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年5月27日 東京地方裁判所
圧力風以外も用いて移送をするイ号が、「圧力風の作用のみによって、・・茶枝葉(A)を・・所定の位置まで移送する」の構成を有するかが争われました。東京地裁29部は、「のみ」ではないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。
これらの記載から、送風機によって生起された圧力風が刈刃後方の吹出
口から背面風として移送ダクト内に送り込まれること、この背面風は、刈
刃の後方から、ほぼ真上に向かう上昇流であり、少なくとも茶葉を移送ダ
クトの吐出口まで搬送する移送作用を有すること、刈刃の後方から背面風
を吹き出すことにより、吹出口近傍に負圧が形成されて、茶葉が、負圧吸
引作用により、刈刃部分から吹出口側に引き寄せられ、その後、上昇流を
形成する背面風に乗って、移送ダクト内を上昇し、吐出口から収容部に設
けられた茶袋内に収容されること、刈刃から背面風の吹出口までの距離が
比較的長いものに本発明を適用する場合、背面風による負圧吸引作用は幾
らか低下することが考えられるため、圧力風を振り分けて生じさせた正面
風により、刈刃前方からの送風を補助的に行うことが好ましいことを理解
できる。
ウ 以上の各記載によれば、本件発明1の「圧力風」とは、移送ダクトの内
部に流される空気流であって、背面風及び刈刃前方からの補助的な送風で
ある正面風を含むものであり、「圧力風の作用のみによって」とは、刈り
取られた「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移送が上記のよ
うな「圧力風」の「作用」だけで実現されることと解するのが相当であり、
「圧力風」の「作用」以外の作用が加わって上記移送が実現される場合に
は、「圧力風の作用のみによって」を備えるとは認められないというべき
である。
(2) 被告各製品が「圧力風の作用のみによって」(構成要件A)を備えるか\n
ア 証拠(甲4ないし6、乙6、8)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製
品の回転ブラシはブラシシャフト及びこれに取り付けられたブラシから成
り、ブラシシャフトが回転することに伴ってブラシが回転する構造をして\nいること、被告各製品の回転ブラシR、刈刃(22')、移送ダクト(6')、吹出
口(38')及び収容部(4')の構造の概要は、別紙概要断面図記載のとおりであ\nり、被告各製品による摘採作業中、回転ブラシRは、160ないし300
rpmの回転数(1秒当たり2.6ないし5回転)で、茶枝葉を移送ダク
ト(6')にかき込む向き(別紙概要断面図でいえば、時計回り)に回転し、
刈刃(22')後方の吹出口(38')から上方(W')に向かって吹き出した圧力風は、
移送ダクト(6')内を収容部(4')に向かって流れること、回転ブラシの高さ
は、被告各製品のうち3段階調整方式のものは上下に約50mmずつ3段
階で、5段階調整方式のものは上下に約40ないし60mmずつ5段階で、
それぞれ調整することができることが認められる。これによれば、被告各
製品は、その摘採作業中、摘採する長さに合わせて高さを設定した回転ブ
ラシが高速で回転して刈刃により刈り取られた茶枝葉を移送ダクト内にか
き込み、移送ダクト内を流れる圧力風が茶枝葉を収容部まで移送する構造\nを有するということができる。
そして、証拠(乙9、10)によれば、被告各製品の取扱説明書には、
茶枝葉を長く刈り取る場合は回転ブラシを高く調整し、短く刈り取る場合
はこれを低く調整し、ブラシシャフトと芽の高さが同じくらいになるよう
に設定する必要があり、回転ブラシの高さが適切に設定されなければ、茶
枝葉をスムーズに刈り取ることができない旨が記載されていたことが認め
られ、これによれば、被告各製品は、刈り取る茶枝葉の長さに合わせて回
転ブラシを設定することが予定されていたということができる。さらに、被告各製品による摘採作業中、操縦者が回転ブラシを任意に回転させたり、回転させなかったりすることができることを認めるに足りる証拠はない。\n
以上によれば、被告各製品においては、回転ブラシを摘採する茶枝葉の
長さに応じて適切な高さに設定することを前提とし、刈刃により刈り取ら
れた茶枝葉は、摘採作業中、常時回転するブラシに当たって移送ダクト内
に送り込まれ、その後、上向きに吹き出し、移送ダクト内を流れる圧力風
により、移送ダクト内を通り、収容部に到達すると認めるのが相当である。
したがって、被告各製品においては、「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の
位置」までの移送が「圧力風」以外の作用である回転ブラシの回転作用が
加わることによって実現されているといえるから、被告各製品は「圧力風
の作用のみによって」を備えるものとは認められないというべきである。
イ これに対して、原告は、原告各実験結果によれば、回転ブラシを備える
被告各製品と回転ブラシを取り外した被告各製品とで摘採量に有意な差は
なく、むしろ回転ブラシを取り外した被告各製品の方が摘採量が多いこと
もあり、被告各製品は回転ブラシがなくても背面風(圧力風)の作用のみ
によって茶枝葉を移送することができるので、「圧力風の作用のみによっ
て」を備えると主張する。
しかし、前記(1)のとおり、「圧力風」以外の作用が加わって上記移送が
実現されている場合は、「圧力風の作用のみによって」を備えないという
べきであるところ、被告各製品については、前記アのとおり、回転ブラシ
を摘採する茶枝葉の長さに応じて適切な高さに設定した上で摘採すること
が予定されており、刈刃により刈り取られた茶枝葉は、常時回転する回転\nブラシに当たって移送ダクトに送り込まれた上で、上向きに吹き出し、移
送ダクト内を流れる圧力風により、移送ダクト内を通り、収容部に到達す
ることからすると、「圧力風」以外の作用である回転ブラシの回転作用が
加わることなく、刈り取られた「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」
までの移送が実現されているということはできない。
また、前記(1)の「圧力風の作用のみによって」(構成要件A)の解釈に\nよれば、被告各製品が「圧力風の作用のみによって」を備えるというため
には、「圧力風」の「作用」以外の作用が加わっていない必要があるから、
回転ブラシを備える被告各製品における茶枝葉の移送態様自体が検討され
るべきであり、回転ブラシを備える被告各製品による摘採量とこれを取り
外した被告各製品による摘採量とを比較することによっては、「圧力風の
作用のみによって」を備えるか否かを明らかにすることはできないという
べきである。
以上によれば、被告各製品においては、刈り取られた茶枝葉、回転ブラ
シ、移送ダクト等の位置関係等からして、回転ブラシの回転作用が加わっ
て茶枝葉の移送が実現されているといえ、原告各実験結果については、直
ちにこれらを採用することは困難であるといわざるを得ない。したがって、
原告の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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2022.07.23
令和2(ネ)10042 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月6日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審被告が NEXCO東日本です。高速道路におけるETCに関する発明について、1審は本件発明における用語を限定解釈しましたが、知財高裁は、かかる限定解釈をすべきでないとして、約2700万円の損害賠償を認めました。特102条3項のライセンス料は2%と判断されました。
争点1−イ(「第1の検知手段」及び「第1の遮断機」と、「通信手段」との位置関係に関する、構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D2への充足性)について\n
ア(ア) 本件各発明の特許請求の範囲の記載は、原判決別紙の特許公報(特許第6
159845号及び特許第5769141号)の該当部分記載のとおりであり、「第
1の検知手段」については、有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリ
アに出入りをする車両を検知することや、「第1の遮断機」が「第1の検知手段」に
対応して設置されたこと、「第1の検知手段」により車両の進入が検知された場合、
前記車両が通過した後に、第1の遮断機を下ろす旨の記載があるのみであって、そ
れ以上に、「第1の遮断機」、「第1の検知手段」及び「通信手段」が設置される位置
関係を特定する記載はないから、それぞれが設置される位置関係によって構成要件\n該当性が左右されるものではないというべきである。
(イ) これを前提に被控訴人各システムについてみると、車両検知器2)は、被控訴
人各システムにおいて車両の通過を検知するものであり(ステップS105、S2
04)、被控訴人各システムが設置されている「サービスエリア」である佐野SAス
マートICに出入りする車両を検知するものであるから、「第1の検知手段」に当た
り、車両検知器2)が車両の通過を検知すると発進制御機[開閉バー]1)が閉じるこ
とから(ステップS105、S204)、発進制御機[開閉バー]1)は「第1の検知
手段」である車両検知器2)に対応して設置された「第1の遮断機」に当たる。そし
て、車両に搭載されたETC車載器との間で無線通信を行う(ステップS103、
S202)路側無線装置3)が「通信手段」に当たり、路側無線装置3)がETC車載
器から受信したデータにより、無線通信が可能な場合と不能\又は不可の場合のいず
れに当たるかの判定(ステップS104、S106、S203、S205)、すなわ
ちETCによる料金徴収が可能か判定されているといえる。\nそうすると、被控訴人各システムは、構成要件B1、C1、D1、B2、C2、\nD2を充足する。
イ(ア) 被控訴人は、本件各発明においては、「通信手段」は、「第1の遮断機」及
び「第1の検知手段」より先に配置されるべきであるところ、被控訴人各システム
においては、路側無線装置3)が発進制御機[開閉バー]1)の手前に配置されていて、
発進制御機[開閉バー]1)の手前に停止している車両に対して無線通信を行うから、
被控訴人各システムは、本件各発明の構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D\n2をいずれも充足しないと主張する。
(イ) しかし、前記ア(イ)のとおり、本件特許の特許請求の範囲には、「通信手段」
と「第1の遮断機」の位置関係については何ら特定されていない。
また、前記1(2)のとおり、本件各発明は、本件作用効果1(一般車がETC車用
出入口に進入した場合又はETC車に対してETCシステムが正常に動作しない場
合であっても、車両を安全に誘導する車両誘導システムを提供すること)を奏する
ものであるところ、「通信手段」がETC車載器から受信したデータにより、ETC
による料金徴収が可能か判定され、各遮断機が適切なタイミングで動くことにより\n車両が安全に誘導できるのであれば本件作用効果1は奏するのであって、「通信手
段」がETC車載器からデータを受信するタイミングにつき、車両が第1の遮断機
を通過する前後のいずれであっても、本件作用効果1を奏することが可能である。\nまた、本件作用効果2(ETCシステムを利用した車両誘導システムにおいて、
逆走車の走行を許さず、或いは先行車と後続車の衝突を回避し得る、安全な車両誘
導システムを提供すること)についてみると、本件各発明にいう「逆走車」には、
料金不払などを目的として、ETC車用レーンの出口や離脱レーンの出口から遡っ
てETC車用レーンに逆進入する車両も含まれ、そのような「逆走車」の走行を防
止することと、「通信手段」と「第1の遮断機」の位置関係とは関係がないことは明
らかであるし、通信手段の位置にかかわらず、車両が第1の遮断機を通過した後に
第1の遮断機を下ろすことで、後退による逆走を防止することができる。
たしかに、本件明細書には、第1の遮断機(遮断機1)及び第 1 の検知手段(車
両検知装置2a)の先に通信手段(ゲート前アンテナ3)が位置する構成を有する\n例が記載されているが(【図4】)、これは実施例にすぎないというべきであって、上
記に照らすと、本件各発明について、上記構成に限定して解釈すべき理由はない。\nしたがって、本件各発明の課題及び作用効果との関係で、「通信手段」と「第1の
遮断機」の位置関係が、被控訴人が主張するように特定されるとはいえない。
(ウ) また、被控訴人は、本件各発明においては、第1の遮断機を通過した走行中
の車両に対して走行状態のまま無線通信を行うものであるところ、被控訴人各シス
テムにおいては、発進制御機[開閉バー]1)の手前に停止している車両に対して無
線通信を行うから、本件各発明と構成や作用が異なると主張する。\nしかし、本件特許の特許請求の範囲においては、無線通信を行う際に車両が走行
中であるか停止しているかについては特定されていないし、本件明細書の段落【0
042】に「1台の車両が、遮断機1から車両検知装置2c、2dの区間に進入し
ているときはこの区間は一種の閉鎖領域となり、1台の車両のみの存在が許される
ようになっている。このため、この閉鎖領域では先行車と後続車の衝突は起こらな
い。なお、ETCシステムが正常に働いている限り、遮断機1が閉じている時間は、
車両が遮断機1からETCゲート5を通過するまでの時間であり、ほんの数秒であ
り、ETCシステム本来のノンストップ走行は実質的に確保されている。」とあるこ
とからすると、本件各発明においては、先行車両が存在する場合、後続車両が第1
の遮断機の手前で停止することも予定されているといえる。そうすると、本件各発\n明について、第1の遮断機を通過した走行中の車両に対して走行状態のまま無線通
信を行うものであると限定的に解釈することはできない。
したがって、被控訴人各システムにおいて、無線通信を行う際に車両が停止して
いるという点をもって、本件各発明の構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D\n2の充足性が否定されるものではない。
(エ) 以上のとおり、被控訴人の上記各主張は採用することができない。
(3) 争点1−ウ(構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」と\nの文言への充足性)について
ア(ア) 被控訴人各システムにおいては、ETC車載器との「無線通信が不能又は\n不可の場合」、すなわち、ETCによる料金徴収が不可能な場合に、「運転者に対し、\nインターホンによる音声でその旨の報知がなされ、レーンd手前の発進制御機[開
閉バー]1)及び5)が人的操作によって開かれ、車両は退出ルートdに退出する」も
のとされている(ステップS106、S205)。被控訴人各システムにおける退出
ルートdは、構成要件F1、F2の「ETC車専用出入口手前へ戻るルート」に当\nたる。また、被控訴人各システムは、ETCによる料金徴収が不可能な車両に対し\nて、レーンd手前の発進制御機[開閉バー]1)及び5)を人的操作によって開くこと
によって、レーンdへと誘導しているから、構成要件F1、F2の「ETC車専用\n出入口手前へ戻るルート」に通じる「第2のレーンへ誘導する誘導手段」を備えて
いるといえる。そうすると、被控訴人各システムは、構成要件F1、F2の「第2\nのレーンへ誘導する誘導手段」との文言を充足する。
(イ) そして、被控訴人各システムでは、路側無線装置3)が受信したデータの判定
結果によって、無線通信が可能な場合は、発進制御機[開閉バー]1)及び4)が開い
てサービスエリア内に入るレーン又はサービスエリアから一般道に出るルートへ通
じるレーンに誘導するか(ステップS104)、データ取得区間(レーンe)へと誘
導する(ステップS203)が、データ取得区間(レーンe)はサービスエリアに
通じるルート上に存在するから、データ取得区間(レーンe)への誘導は、サービ
スエリアに入るルートへ通じる第1のレーンへの誘導に当たる。また、被控訴人各
システムは、前記(ア)のとおり、無線通信が不能又は不可の場合は、「ETC車専用\n出入口手前へ戻るルート」に通じる「第2のレーンへ誘導する誘導手段」を備えて
いる。したがって、被控訴人各システムは、本件各発明の構成要件F1、F2を充足す\nる。
イ 被控訴人は、被控訴人各システムでは、車両が退出ルートdに自動誘導され
るわけではなく、係員の手を煩わせることになってETC本来の目的が達成できな
い状態となるから、構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」と\nの文言を充足しないと主張する。
しかしながら、本件特許の特許請求の範囲の記載をみても、「第2のレーンへ誘導
する誘導手段」が自動誘導である旨の記載はなく、本件明細書をみても、「誘導手段」
に係員が関与することを除外する記載はない。そして、被控訴人各システムにおい
ては、発進制御機[開閉バー]1)及び5)が人的操作によって開かれているものの、
インターホンで係員を現地に呼び出す必要はないし、また、発進制御機[開閉バー]
1)及び5)が開くことで、車両は第2のレーンの方向に前進することができるので、
バック走行によりレーンから出ようとするおそれはないから、「インターホンで係
員を呼び出す必要があるので渋滞が助長されること」、「車両がバック走行をして出
ようとすると後続の車両と衝突するおそれがあって危険であること」という本件各
発明の課題を解決することができ、「車両を安全に誘導する車両誘導システムを提
供する」、「先行車と後続車の衝突を回避し得る安全な車両誘導システムを提供する」
という作用効果を奏することができる。なお、本件各発明においても、車両が第1
の遮断機の手前で停止することが想定されているといえることは、前記(2)イ(ウ)で
説示したとおりである。そうすると、「第2のレーンへ誘導する誘導手段」について、被控訴人の主張するとおりに限定的に解釈すべき理由はなく、上記被控訴人の主張は採用できない。
・・・
(3) 上記から、被控訴人各システムの使用による売上額は、11億2320万5
685円(=245円×458万4513台)と計算される。
(4) 証拠(甲26、31、乙51、55)によると、1)被控訴人各システムはス
マートICに設置されるものであるところ、被控訴人は、スマートICの導入によ
り、従前10kmであったIC間の平均距離を欧米並みの5kmに改善し、地域生
活の充実・地域経済の活性化を推進しようとしていること、2)設置コストは、通常
のICが30〜60億円であるのに対し、スマートICが3〜8億円、管理コスト
は、通常のICが1.2憶円/年であるのに対し、スマートICが0.5憶円/年
と、スマートICを設置することで、被控訴人はコスト削減ができていること、3)
既存のサービスエリアに被控訴人各システムを設置することで、出入口を増やすこ
とができ、高速道路の利便性が上がるので、利用者増加につながる可能性があるこ\nと、4)もっとも、佐野SAスマートICの設置により東北自動車道の利用台数が顕
著に増加したとはいえないこと、5)被控訴人は、本件特許に抵触しないスマートI
Cも設置しており、代替技術があること(控訴人の主張によると、本件特許に抵触
しないスマートICが半数弱存在する。)、6)控訴人は、自ら本件特許を実施してお
らず、今後も実施する可能性がないこと、7)佐野SAスマートICの施設に占める
被控訴人各システムの構成割合(価格の割合)は7.8%であること、8)被控訴人
は、控訴人からの警告を受けた後も本件特許の実施を継続していること、がそれぞ
れ認められる。上記各事情を総合すると、本件において、本件特許の実施料率は、2%と認めるのが相当である。
◆判決本文
原審はこちら。
◆H31年(ワ)7178
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2022.07.19
令和4(ネ)10021 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月7日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
令和4(ネ)10021
医薬品の特許権侵害について、原審は、請求項1,2についてはサポート要件違反の無効理由あり、また請求項3,4については技術的範囲に属しないと判断していました。
原告(特許権者)が控訴し、知財高裁は原審の判断を維持しました。
本件発明2の特許請求の範囲の請求項2(「化合物が、式IにおいてR3およびR2はいずれも水素であり、R1は−(CH2)0−2−iC4H9である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の鎮痛剤」)の記載に照らすと、本件発明2の化合物は、本件発明1の化合物の範囲に含まれるものである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2の化合物を線維筋痛症や神経障害等の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについての一般的な記載があるが(前記1(2)及び(4))、一方で、本件発明2の化合物を神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについて明示の記載はない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2の化合物に該当するCI−1008及び3−アミノメチル−5−メチル−ヘキサン酸を用いたラットホルマリン足蹠試験結果、CI−1008を用いたラットカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験結果、本件発明2の化合物に該当するS−(+)−3−イソブチルギャバを用いたラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験結果の記載がある(前記1(3)、(6)、(7)及び(9))。
しかし、前記(1)オ(ア)dの認定事実に照らすと、上記試験結果は、いずれも神経障害又は線維筋痛症による痛みの処置に本件発明2の化合物を使用した試験に関するものといえないから、上記試験結果から、本件発明2の化合物が、「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に対して鎮痛効果を有することを認識することはできない。
そうすると、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識から、本件発明1の化合物の範囲に含まれる本件発明2の化合物が、本件発明1及び2の「痛み」の範囲に含まれるすべての「痛み」に対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供するという本件発明1及び2の課題を解決できるものと認識することはできないから、本件発明1及び2は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものと認めることはできない。
・・・・
控訴人は、本件発明3は、慢性疼痛に対する画期的処方薬として、抗てんかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだしたものであり、その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用いる点にあるから、対象となる痛みが侵害受容性疼痛か、神経障害性疼痛や線維筋痛症かは本質的部分ではなく、効能・効果を神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とし、慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告ら医薬品は、均等論の第1要件を満たすと主張する。しかし、本件明細書の記載(前記1(4))によれば、本件発明3は、本件発明3の「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」の範囲に含まれるすべての「痛み」に対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供することを課題とするものと認められること、痛みは、その基礎となる病態生理に著しい差異があり、「侵害受容性疼痛」、「神経障害性疼痛」、「心因性疼痛」の3つに大別されることは、本件出願当時の技術常識であったこと(前記2(1)オ(ア)a)に照らすと、いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは、本件発明3において本質的部分であるというべきであり、その鎮痛効果の対象を異にする被告ら医薬品は、本件発明3の本質的部分を備えているものと認めることはできない。したがって、本件発明3に係る特許請求の範囲(本件訂正後の請求項3)に記載された構成中の被告ら医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でないということはできないから、被告ら医薬品は均等論の第1要件を満たさない。\n
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19925等
特許権は同じで、被告(被控訴人)が異なる事件(1)です。
令和4(ネ)10009
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19927
被告(被控訴人)が異なる事件(2)です。
令和4(ネ)10002
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)22283
被告(被控訴人)が異なる事件(3)です。
令和4(ネ)10012
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19924
被告(被控訴人)が異なる事件(4)です。
令和4(ネ)10020
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19929
被告(被控訴人)が異なる事件(5)です。
令和4(ネ)10013
◆判決本文
原審。
◆令和2(ワ)19917
被告(被控訴人)が異なる事件(6)です。
令和4(ネ)10016
◆判決本文
原審。
◆令和2(ワ)19918等
被告(被控訴人)が異なる事件(7)です。
令和4(ネ)10039
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19919
被告(被控訴人)が異なる事件(8)です。
令和4(ネ)10028
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19920等
被告(被控訴人)が異なる事件(9)です。
令和4(ネ)10015
◆判決本文
原審。
◆令和2(ワ)19922等
被告(被控訴人)が異なる事件(10)です。
令和4(ネ)10036
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19923等
被告(被控訴人)が異なる事件(11)です。
令和4(ネ)10017
◆判決本文
原審。
◆令和2(ワ)19926
被告(被控訴人)が異なる事件(12)です。
令和4(ネ)10003
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19928
被告(被控訴人)が異なる事件(13)です。
令和4(ネ)10037
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19931等
被告(被控訴人)が異なる事件(14)です。
令和4(ネ)10025
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)19932
被告(被控訴人)が異なる事件(15)です。
令和4(ネ)10026
◆判決本文
原審
◆令和2(ワ)22290等
本件特許の無効審判事件の審取です。
令和2(行ケ)10135
審決は、「訂正後の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効、請求項3,4に係る発明についての本件審判の請求は,成り立たない。」と判断していました。
知財高裁は、審決維持です。
◆判決本文
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2022.06.21
令和3(ネ)10102 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年6月8日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審は、発明の技術的意義から、用語を解釈し、技術的範囲に属しないと判断しました。知財高裁も同様です。特許訴訟事件にしては、1審の判決から約半年で判決がなされています。新たな争点がなかったのかもしれません。
当裁判所も、被告各製品は本件各発明の構成要件1E4)等をいずれも充足し
ないものであるから、本件各発明の技術的範囲に属せず、したがって、その余
の点について判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がないものと
判断する。
その理由は、後記1のとおり原判決を補正し、後記2に当審における当事者
の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第4の
1及び2に記載されたとおりであるから、これを引用する。
・・・
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 控訴人は、前記第2の5(1)アのとおり、本件各発明の「係止片」は、1)片
状の部材であり、2)針ハブに向かって傾斜した内側面を有し、3)大径部に円
筒状部と一体形成され、4)小径部側には設けられていないものをいうから、
上記構成要素から特定される形状を有しない係止片が小径部側に設けられて\nいても構成要件1E4)等の充足を左右しない旨主張しており、同イ及びウの
主張もこのような理解を前提とするものである。
しかしながら、引用に係る原判決第4の1(1)エ(補正後のもの)のとおり、
本件各発明の技術的意義及び出願経過からみて、針先の再露出を防止する機
能を有する係止片は小径部側には設けられていないこととされている(係止\n片が小径部側に設けられていないことに特有の技術的意義がある。)と理解
するのが相当であり、したがって、小径部に設けられることで構成要件1E\n4)等の充足が妨げられる係止片は、その形状を問われないものというべきで
あるから、針先の再露出を防止する機能を有する係止片が小径部側に存する\nことは、対象製品が構成要件1E4)等を充足することを妨げるものである。
さらに、控訴人は、「係止片」という用語を使用している以上、「片」とは
その名が示すとおり「片」(へん)状の部材であるから、「係止片」とは「片
状(へんじょう)の部材」を指すものである旨主張するところ、確かに、控
訴人は、本件補正により「係止部」を「係止片」と改めたものではあるが、
上記のような本件各発明の技術的意義及び出願経過からすれば、充足性の判
断に当たり、針先の再露出を防止するために小径部に設けられる係止部材を
片状のものに限定する意義は見いだせない。以上によれば、控訴人の上記主張は、いずれも採用することができない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和1(ワ)8905
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2022.06. 6
令和3(ネ)10022 特許権侵害に基づく不当利得返還等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年4月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。1審では侵害として約10億円の損害賠償が認められましたが、知財高裁(3部)は非侵害と認定しました。ちみなに原告は1審2審とも、均等主張はしていません。
一審原告は,本件各発明は「ユーザの発信地域ごとに異なるWebデー
タの送信が可能なWebページ閲覧システムを提供することを目的とす\nる」(本件明細書等の段落【0013】)ことから,この目的を達成する
ための地域判別の原理は,回線網の敷設地域とISPのサーバが保有する
一群のIPアドレスとの一定の対応関係の存在を利用したものであるとし
て(原判決「事実及び理由」第3の1(原告の主張)(2)〔原判決12
頁〕),「アクセスポイントに対応する地域」等の解釈として,第一義的
には,「ユーザ端末に割り当てたIPアドレスを所持しているアクセスポ
イントに通常アクセスするユーザの地域」と解釈すべきであり,「IPア
ドレスを割り当てるアクセスポイントが利用している物理的回線網等の敷
設範囲に相当する地域」も同義であると主張し,また,本件各発明は,設
置場所に対応する地域がユーザ端末の存在する地域と対応することに基づ
いて,その地域に関連する情報を提供するというエリアターゲティングを
目的とする発明であるから,そもそも,アクセスポイントの「設置場所」
といった地点を判別する意味はなく,「アクセスポイントの設置場所」
(アクセスポイントが属する地域)を判別するステップを介するかどうか
を問題とすること自体が誤りであると主張する(原判決「事実及び理由」
第3の1(原告の主張)(5)ア(ア)〔原判決16頁〕)。
しかしながら,特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づい
て定めなければならず,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細
書及び図面を考慮して解釈すべきであるところ(特許法70条1項・2
項),構成要件1B2等において「判別」の対象となっているのは文言上\nあくまで「アクセスポイントが属する地域」であるから,本件特許請求の
範囲の用語の意義としてアクセスポイントの設置場所を無視することはで
きない。また,本件明細書等の記載を考慮すると,本件各発明は,ダイヤ
ルアップ接続を前提として,ユーザ端末がアクセスポイントの設置された
地点の近傍に所在する蓋然性が高いという経験則を利用して,そのアクセ
スポイントの設置場所の近傍をユーザが所在する地域と想定することによ
って,ユーザの所在する地域に対応した地域情報をある程度の確率で提供
することができるという技術的思想に基づくものであること,したがって,
「アクセスポイントに対応する地域」等は「アクセスポイントの設置され
ている地点とその近傍の一定の地域」と解釈されるべきことは前記⑴のと
おりであるから,まさにアクセスポイントの設置場所を判別することに意
味があるのであって,一審原告の上記主張は採用することができない。
そして,このことは,本件特許の出願経過からも明らかである。すなわ
ち,本件特許の出願経過は原判決「事実及び理由」第2の2(2)イ記載のと
おりであるが,一審原告は,出願経過中の本件補正により,「IPアドレ
スと地域とが対応したIPアドレス対地域データベース」を「IPアドレ
スとアクセスポイントに対応する地域とが対応したIPアドレス対地域デ
ータベース」とし,さらに「IPアドレスが属する地域」を「IPアドレ
スを所有するアクセスポイントが属する地域」(甲12の13)として,
自ら「アクセスポイントが対応する」及び「アクセスポイントが属する」
をあえて付加している。そして,一審原告は,意見書(甲12の14)に
おいて,「アクセスポイントが属する地域を判別することについて
は,・・・ユーザの発信地域は,ユーザ端末101aがアクセスポイント
109aに接続しているため,正確にはアクセスポイント109aに対応
する地域である」と説明し,さらに,本件拒絶査定不服審判における審判
請求書(甲12の16)において,「・・・,IPアドレス対地域データ
ベースにおいてはIPアドレス毎にアクセスポイントが設置された地域,
例えば県や市,さらには市よりも狭い地域を対応付けておくことによって,
ユーザ端末が接続しているアクセスポイントの属する地域から,ユーザ端
末の地域を県単位,市単位または市よりも狭い地域単位で判別することが
できるという顕著な効果を奏します」と述べている。このように,一審原
告自らが「アクセスポイントに対応する地域」等の解釈につき,IPアド
レス毎にアクセスポイントが設置された地域を対応付けることを意味する
ものと主張していたものである。
さらに,一審原告が主張するところの「アクセスポイントに通常アクセ
スするユーザの地域」とか「アクセスポイントが利用している物理的回線
網等の敷設範囲に相当する地域」は,そもそもどのような範囲を意味する
のか必ずしも明らかではないが(特に「物理的回線網の敷設範囲」という
用語は本件明細書等にはない用語であり,ダイヤルアップ接続を前提とす
ると,ダイヤルアップ接続においてユーザは世界中のどのアクセスポイン
トへも接続が可能であるから,「物理的回線網の敷設範囲」という限定の\n仕方はアクセスポイントの地域を限定する意味を持たないと解される。),
一審原告の主張から推測するに,NTT東西が構築した地域IP網を念頭\nに置いて,地域IP網を経由する接続においては,ダイヤルアップ接続と
は異なり,アクセスポイントは各地域IP網エリア単位で固定されていて,
ユーザがアクセスポイントを選択することができないことから,アクセス
ポイントが設置されている場所がどこであるかにかかわらず,「アクセス
ポイントの属する地域」を「アクセスポイントに通常アクセスするユーザ
の地域」又は「アクセスポイントが利用している物理的回線網等の敷設範
囲に相当する地域」と解釈しているものと推認される。しかしながら,前
記1(2)イのとおり,そもそも「地域IP網」が現れたのは,平成11年以
降のことであり,本件特許出願時(平成10年6月26日)には存在しな
い仕組みであって,出願当時に存在した技術常識ともいえず,当然,本件
明細書等には記載も示唆もされていない。したがって,特許請求の範囲に
記載された用語の意義を解釈するに当たり,上記事実を参酌することはで
きないというべきである。
この点に関して一審原告は,本件各発明は,実施例にあるダイヤルアッ
プ接続に限定されるものではなく,地域IP網経由の接続も含むものであ
る旨主張する。
しかしながら,本件明細書等には,「・・・もちろん,ユーザの発信地
域以外の地域の情報を閲覧したい場合には,ユーザが発信地域以外の地域
のアクセスポイントに接続するか,従来と同じ方法を用いて従来と同じ方
法を用いて選択すればよいことはいうまでもない。」(段落【003
8】)と記載されているところ,この記載は,ユーザが任意の地域のアク
セスポイントを選択して接続することを意味するものであって,このよう
なアクセスポイントのユーザによる選択はダイヤルアップ接続では可能で\nあるもの,地域IP網経由の接続では通常は想定されていないものである。
そうすると,本件特許の技術的範囲を,地域IP網経由の接続を前提とす
る事項まで拡大することは,本件明細書等に開示された技術的範囲を逸脱
することになるというべきである。本件各発明がダイヤルアップ接続を前
提としているという解釈は実施例に限定した解釈ではない。
いずれにしても,上記「アクセスポイントに通常アクセスするユーザの
地域」とか「アクセスポイントが利用している物理的回線網等の敷設範囲
に相当する地域」との解釈は,本件特許請求の範囲の記載からかけ離れた
解釈であり,採用することはできない。
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2022.05.13
令和2(ワ)3297 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年4月22日 大阪地方裁判所
訂正後の特許発明について、技術的範囲に属すると判断されましたが、拡大先願違反(特29-2)の無効理由があるとして、権利行使不能(特104-3)と判断されました。
前記(ア)及び(イ)の「収納」の字義、本件訂正後発明1に係る請求項の記載
内容に照らすと、ケーシングに「収納」するとは、長尺部材の全部がケーシング
内に完全に収まることを要するものではなく、ケーシングと長尺部材の位置関係
として、ケーシングにしまわれている状態(整然と入れられた状態)を意味し、
少なくとも、ケーシングの開口部を含めたケーシングの内部に長尺部材の大部分
が入れられている状態はこれに当たると解するのが相当である。
(エ) 前記(1)のとおり、被告製品の押さえローラーは、マグネットスクリーン
シートの巻き出し及び巻き取りのための開口部付近に、同シートと接するように
配置されている。また、別紙「写真目録」の写真に示されるように、被告製品の
押さえローラーは、本体ケースの内側にその全部が収まっているものではないが、
キャップ(側板)に支持されており、その大部分が本体ケースに覆われているこ
とから、構成要件 1D-1 のケーシングに相当する、本体ケース及びキャップにし
まわれている状態であるといえる。
したがって、被告製品の押さえローラーは、本体ケース及びキャップに収納さ
れていることから、被告製品は、構成要件 1D-1 を充足する。
イ 被告の主張について
(ア) 被告は、本件訂正後発明1において、長尺部材がケーシングの開口部の内
側に位置付けられるのは、スクリーンシートが長尺部材によって局所的に抑え込
まれ、シート全体に張力を与えて端部(特に長手端部)までピンと張った状態で
スクリーンシートを設置面に展張保持できるようにすることを実現するための
ものであるところ、長尺部材がケーシングの縁どりから外側に突出していると、
その作用効果が阻害される旨を主張する。
そこで、長尺部材の技術的意義について検討する。本件訂正後発明1は、マグ
ネットスクリーン装置に関する発明であるところ、従来のマグネットスクリーン
装置には、使用に際して巻き出されたスクリーンシートを設置面に展張保持した
際に“カール”と呼ばれる現象、すなわち、非使用時のスクリーンシートの巻回
形態が“くせ”として残り、巻き出し後も依然として反映される現象が生じ、か
かるカールによってプロジェクターから投影される像を所望に映し出すことが
できない技術的課題があった(【0005】〜【0007】)。これに対し、本件訂正後
発明1は、非使用時ではマグネット面が投影面に対して相対的に内側となるよう
にスクリーンシートがロール部材に巻き取られている構成にすることによって\n(【0009】)、スクリーンシートを巻き出した際、そのシート長手端部では局所
的に湾曲しようとする力が働くものの、その湾曲方向は設置面側となっており、
スクリーンシートが設置面にむしろ貼り付くように作用し、ロール部材に巻かれ\nていた時の“くせ”をスクリーンシートが有する場合であったとしても、それは
設置面に貼り付くように好適に作用するので、スクリーンシートを“カール”の\n発生なく展張保持することを可能とした(【0019】)。一方、かかる構成にする\nことによって、スクリーンシートの巻出し又は巻取りがロール部材の“設置面遠
位側”からなされることになるから(【0036、図6】)、スクリーンシートが設
置面から浮き上がる方向に作用する。すなわち、ロール部材におけるスクリーン
シート巻き出しポイント又はスクリーンシート巻き取りポイント(図7。長尺部
材を設けない場合において、スクリーンシートを巻き出し又は巻き取った際のス
クリーンシートとロール部材の離別箇所又は接触箇所)がロール部材の上側半分
に位置付けられることとなる(【0037】、【0038】)。そこで、長尺部材は、使
用に際して「巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートと接するように」、
「開口部に位置付けられ」、「設置面に対して相対的に近い側に位置付けられる
ロール部材の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」(構成要件 1D-4)ることに
より、スクリーンシートを投影面側から設置面側に向かって局所的に抑え込む機
能を有するものである(【0030】、【0048】)。長尺部材が前記機能を発揮する\nためには、長尺部材がない場合にスクリーンシートが自重や磁着力等により設置
面に自然に接する地点よりもロール部材側でスクリーンシートに接する地点に
存すれば足りるといえる。そうすると、長尺部材の技術的意義からみた場合、必
ずしも、長尺部材はケーシングの内側に完全に位置する必要まではないと解する
のが相当である。加えて、本件明細書1において、「展張保持」は、スクリーン
シートを広げた状態の維持という意で使用されており(【0003】、【0005】、【0019】等)、シート全体に張力を与えながらスクリーンシートを張る作業自体を指すも
のではないし、同作業を経て張られた状態を指すものでもない。したがって、長
尺部材の技術的意義から、「収納」の意義について長尺部材が必然的にケーシン
グの完全な内側に位置づけられることを示すものと解することはできない。
また、被告は、本件明細書1には、「本発明のマグネットスクリーン装置10
0では、スクリーンシート10、ロール部材20および長尺部材30がケーシン
グ40内に収納されている。より具体的には、ロール部材20に対して巻回保持
されたスクリーンシート1がケーシング40の内部に収められており、かかる巻
回状態のスクリーンシート10に隣接して長尺部材30も同様にケーシング4
0内に収められている。」(【0044】)との記載がある旨も指摘する。しかし、
これは、本件特許1に係る発明のスクリーン装置の具体化態様に関するものであ
るから(【0042】)、当該記載があるからといって、「収納」の意義が「内部に
収められていること」に限定されることにはならない。
(イ) 被告は、被告製品において、キャップは「ケーシング」を構成しないこと、\n仮にキャップが「ケーシング」を構成するとしても、被告製品は、キャップの縁\nどりとケーシングの縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラ\nーの半分以上がはみ出した構造であるから、いずれにしても押さえローラーはこ\nれらに「収納」されていない旨を主張する。
確かに、本件明細書1では、「ケーシング40が「第1サブ・ケーシング40
A」と「第2サブ・ケーシング40B」とから構成されている」(【0044】)と
記載されており、ケーシング40の側面を覆う部材がケーシングに含まれること
は明記されていない。しかし、一方で、本件明細書1において、「ロール部材2
0は、その端部がケーシングの内壁に取り付けられており」(【0046】)、「ケ
ーシングに取り付けられた突起具48」(【0058】)などとされており、ケーシ
ング40の側面を覆う部材がケーシングを構成することを前提とした記載がな\nされている。また、本件訂正後発明1に係る請求項1は、ケーシングに関し、「ス
クリーンシート、ロール部材及び長尺部材を収納するケーシングを更に有して成
り、」、「ケーシングはスクリーンシートの巻き出しおよび巻き取りのための開
口部を有し、」と記載されているに留まり、開口部を有することを除いて、ケー
シングの意義について特段の限定を加えるものではない。そうすると、本件訂正
後発明1において、ケーシングとは、スクリーンシート等の部材を外側から覆う
部材であると解するのが相当であり、このうち側面部分についてのみケーシング
から除外するべき理由はない。
また、被告は、被告製品を設置面側から観察することを前提として(別紙「写
真目録」の写真4参照)、被告製品について、キャップの縁どりとケーシングの
縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラーの半分以上がはみ\n出した構造である旨を主張するものと解されるが、同目録の写真1ないし3から\nすると、被告製品の押さえローラーはケーシング(本体ケース及びキャップを含
む。)の開口部を含めたケーシングの内部に大部分が入れられているものと認め
られ、ケーシングにしまわれている状態にあるといえる。押さえローラーがケー
シングにしまわれている状態か否かは、投影面側又は設置状態における側面側を
含む被告製品の全体を観察して判断すべきであって、使用状態において視認され
ない設置面側からの観察に限定すれば押さえローラーがケーシングから多くは
み出しているように見えるからといって、ケーシングにしまわれている状態にな
いと判断する合理的理由はない。
・・・
(3)ア 本件訂正後発明1と引用発明1−1とを比較すると、引用発明1−1
の 1a〜1e の各構成は、本件訂正後発明1の各構\成要件とそれぞれ一致するもの
と認められる。
イ これに対し、原告は、引用発明1−1においては、開口部からスクリーン
本体4を巻き出す又は巻き取る際には、スムーズな巻き出し又は巻き取りを可能\nにし、スクリーンシートを傷付けることを防止するために押さえ部5を、敢えて、
被磁着体90から離した態様(第1配置態様)で行うものであって、押さえ部5
を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体4を巻き出す又は巻き取る
という技術的思想はないことを指摘し、1)本件訂正後発明1では、長尺部材が「非
使用時並びに巻き出し時及び巻き取り時において、ケーシングに収納されて」(構\n成要件 1D-1)いるのに対し、引用発明1−1においては、押さえ部5が収納ケー
ス2に「収納」されていない、2)本件訂正後発明1では、長尺部材が「ロール部
材の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」(構成要件 1D-4)ているのに対し、
引用発明1−1においては、押さえ部5は巻取りロール3の下側ロール胴部分に
隣接した位置から離れないよう設置されているものではないとして、引用発明1
−1は、本件訂正後発明1の構成要件 1D-1 及び 1D-4 において相違する旨を主張
する。
しかし、乙10公報記載の特許請求の範囲請求項2において、「押さえ部」は、
「前記張設されたスクリーン本体における前記巻取りロールに近接した部位を
・・・被磁着体側に向けて押さえ付け得るものとなされている」ところ、同請求項2
では、「前記収納ケースに取り付けられた押さえ部と、を備え」と特定されてい
るに留まり、収納ケースに対し押さえ部が可動か否かについては記載されていな
い。一方、同請求項2に従属する乙10公報記載の特許請求の範囲請求項3では、
「前記押さえ部は、前記収納ケースに対し移動可能に取り付けられ」と押さえ部\nが可動であることが明記されている。また、乙10公報には、請求項2の発明の
効果として、押さえ部によって、巻取りロールに近接した部位をも被磁着体に磁
着させた状態でスクリーン本体を張設することができ、張設されたスクリーン本
体のスクリーン層の略全面を有効面として使用することができる旨が記載され
ている(【0019】)一方、請求項3の発明の効果として、収納ケースに対し移動
可能に取り付けられた押さえ部を移動させ、被磁着体から離れた第1配置態様に\nすることで、スクリーン本体の引き出し操作、巻き取り操作をスムーズに行うこ
とができ、被磁着体に近接した第2配置態様にすることで、スクリーン本体にお
ける巻取りロールに近接した部位を幅全体にわたって被磁着体側に向けて押さ
え付けることができる旨が記載されている(【0020】)。これらの乙10公報の
記載内容に照らすと、引用発明1−1において、押さえ部は、スクリーン本体の
巻取りロールに近接した部位をも被磁着体側に向けて押さえ付けるとの機能を\n有し、被磁着体に磁着させた状態で張設されたスクリーン本体の略全面を有効面
として使用することができるとの効果を奏するものとされるのであるから、引用
発明1−1には、押さえ部5を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体
4を巻き出す又は巻き取るという技術思想が表れているといえるし、また、乙1\n0公報記載の特許請求の範囲請求項2には、押さえ部が移動可能でないものが含\nまれると解するのが相当である。そして、乙10公報の図1、2からすると、押
さえ部5を移動可能でないものとした場合において、押さえ部は収納ケース2に\n収納されているものと認められる。なお、乙10公報上、実施形態や他の実施形
態では、収納ケース又はケース本体に対して押さえ部又は可動体の先端部が可動
なもののみが記載されているが(【0029】)、請求項2との関係においては、付
加的な効果を奏する実施例の一つにすぎず、前記認定を左右するものではない。
以上によれば、引用発明1−1において、押さえ部5が収納ケース2に収納さ
れる構成、及び、押さえ部5が巻取ロール3の下側ロール胴部分に隣接した位置\nに固定して設置された構成を有するものと認められ、本件訂正後発明1の構\成要
件 1D-1 及び 1D-4 と一致する。
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2022.05. 5
平成30(ネ)10034 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月14日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は技術的範囲に属しないと判断しました。控訴人は均等侵害を追加主張しましたが、知財高裁は均等侵害を検討するまでもなく、技術的範囲に属するとして、約8900万円の損害を認定しました。計算は1項と3項の合算が、2項の侵害よりも多いとしてそちらが採用されています。
上記の各種実験結果によると、被告製品は、長時間の塩水噴霧試験(乙
14実験)、試験紙を用いた湿気の流入実験(乙19実験、乙20実験)
の結果からすると、端部部材だけで外部雰囲気(湿気や水等の流体物)
の流入を遮断するものとはいえないが、同じ場所に10数滴の液体を滴
下したり(乙15実験の第2実験)、連続して液体を注入したり(甲4
9実験の実験2)、液体を滴下後に強い衝撃を加える(乙15実験の第
3実験、甲49実験の実験3)といった条件がない限り、少量の水滴を
滴下した実験では、端部部材だけでも液体の流入は抑制されており(甲
33実験、甲49実験の実験1)、また、湿気の流入も短時間であれば
抑制されている(甲58実験の試験1及び試験2)ことからすると、被
告製品の端部部材は外部雰囲気(湿気や水等)の進入を抑制するものと
いえる(なお、乙15実験の第1実験は、被告製品の端部部材及びOリ
ングのみならず弁本体側のOリングも外しており、甲50実験の試験結
果からすると、上記認定を左右するものではなく、また、乙16実験は、
圧縮機の取付孔側面に穴を穿設しており、実験条件の前提が異なるため、
上記認定を左右するものではない。)。
また、乙1実験、乙14実験、甲49実験、甲58実験、乙19実験
及び乙20実験の試験結果によれば、端部部材とシール部材(Oリング)
を備えた被告製品においては、外部雰囲気(湿気や水等)の流入が完全
に抑制されていることが認められる。
そうすると、被告製品は、端部部材(H)をボディ の上部側の開口部
に嵌合させることにより外部雰囲気の流入を抑制し、シール部材 の構\n成を備えることにより、ボディ と取付孔の間を密封して外部雰囲気の
流入をより抑制する効果を奏するものであるから、被告製品は、構成要\n件B6の「『密封』嵌合」の文言も充足する。
したがって、被告製品は、構成要件B6を充足する。\n
・・・
引用に係る原判決第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 のと
おり、被告製品の構成につき、控訴人は、原判決別紙被告製品目録(原告)\n(以下「原告作成目録」という。)記載のとおりであると、被控訴人は、
同被告製品目録(被告)(以下「被告作成目録」という。)記載のとおり
であるとそれぞれ主張する。原告作成目録の写真2と被告作成目録の写真
1がそれぞれ被告製品の外観形状を、原告作成目録の図1と被告作成目録
の写真2がそれぞれ同内部構造を明らかにするものであるところ、これら\nを対比すると、被告製品の構成部材の名称や配置についてはほぼ争いがな\nく、争いがあるのは、ソレノイドと弁本体の境界をどの部分と位置付ける\nかに関してのみであり、この点に関する当事者双方の主張は、上記原判決
第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 及び のとおりである。
そこで、原告作成目録の図1と被告作成目録の写真2を見ると、いずれ
においても構成要件B8の「プランジャ」は「プランジャ 」、「バルブ」
は「弁本体(V)」、「ロッド」は「作動ロッド 」にそれぞれ当たり、「作
動ロッド 」は電磁コイル を含むボディ やシール部材 より下部まで
上下に可動する構成となっている。そして、前記アにおいて説示したとお\nり、ロッドは、本件発明におけるソレノイドの一部を構\成するものといえ
るから、本件発明における「ソレノイド」部は、控訴人が主張するとおり、\n原告作成目録の図1の「ソレノイド 」の矢印で示される範囲までを指す
ものと理解するのが相当である。そうすると、同図1のとおり、被告製品
におけるシール部材 は、本件発明との対比におけるソレノイド の部分
(ソレノイド の下端側である弁本体(V)側)の外周に設けられたもので
あり、弁本体(V)からの流体の進入を防止するものであるといえる。
・・・
被告製品は、構成要件B6及びCを充足するものであり、その他の構\成要
件の充足性については引用に係る原判決の第2の2 のとおりであるから、
争点2(均等論)について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属
するものである。
・・・
被告製品の実施料率について判断する。
甲79報告書によれば、日本国内で特許出願を行った国内企業・団体
のうち上位となっている企業・団体(対象2031件)及び株式会社帝
国データバンク保有データ信用調査報告書ファイル(約143万社収録)
の中からライセンス契約を実施していると判断できる企業(対象975
件)につき、重複データを削除した合計3006件を調査対象とし、平
成21年11月5日から平成22年2月15日までを調査対象期間とし
て、技術分類別ロイヤルティ率のアンケート調査を実施した結果(有効
回答は563件)によると、本件発明に最も近い技術分野である「精密
機械」のロイヤルティ率は、最大値9.5%、最小値0.5%、平均値
3.5%であった(同報告書52頁)ことが認められる。また、同報告
書によると、実施料の決定要因の重要度としては、1)当事者におけるラ
イセンスの必要性、2)ライセンス対象(特許権の評価)の重要度が高い
ことが挙げられている。
なお、控訴人は、前記第2の4 ウ【控訴人の主張】 のとおり、平
成4年度から平成10年までのデータによる実施料率〔第5版〕データ
や平成10年3月30日言渡しの別件判決の説示を基にした主張もする
が、平成27年から平成30年までの間の実施料率を問題とする本件で
は参考とならず、採用の限りではない。
本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合すると、本件
発明は、「ソレノイド」を備えた制御弁の発明であるが、その特徴的部\n分は、1)アッパーブレードの外側で取付孔に嵌合して取付孔の開口部を
塞ぐ端部部材と、2)取付孔と端部部材との間に配置されるシール部材の
2つの構成を採用したことにあり、これらの構\成によって、外部雰囲気
(湿気や水等の流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上\nさせるとともに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決め
ができ、ボルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向
上するという効果を奏するものである。
これに対し、相手方ハウジング部材に取付孔を設けてこの部分に容量
制御弁を挿入するという技術は、本件発明の出願時には公知の技術であ
る(乙8、9)。また、シール部材の配置については、原告製品2のよ
うに、取付孔と端部部材の間のシール部材を設けることなく、腐食防止
のために鉄系材料にメッキを施して可変容量制御弁の耐久性を保つ代替
技術(従来技術。本件明細書の【0011】)があることから、ソレノ\nイドの耐食性の向上という観点からいえば、当事者のライセンスの必要
性の程度が高いとはいえず、特許としての重要度も高いとはいえない。
そして、被控訴人が●●●社向けに作成した、原告製品2との比較を
含む被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、重要設計項目
として、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●が
挙げられているように、弁本体の機能や動作性等が重視され、本件発明\nの上記特徴的部分については何ら言及されていないから、被告製品にお
ける本件発明の実施の程度及びその価値は相対的に低いと言わざるを得
ない。
以上のような本件各事情を総合すると、前記 のとおり、控訴人と被
控訴人は、可変容量制御弁の分野では国際的にシェアを分かち合う競業
関係にあるといった事情を考慮しても、被告製品における本件特許の実
施料率は2%程度であると認めるのが相当である。
ウ ところで、前記 アのとおり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の共
有関係にあり、その持分割合について両社で特段の合意がされたと認める
に足りないから、民法250条により共有持分は相等しい割合に推定され
る。
そうすると、特許法102条3項による損害は、以下の計算式のとおり、
●●●●●円であると認定するのが相当である。
[計算式] ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
特許法102条1項による損害について
・・・
c 原告製品2の限界利益額に関する覆滅事由について
前記3 イ のとおり、本件発明は、「ソレノイド」を備えた制御\n弁の発明であるが、その特徴的部分は、1)アッパープレートの外側で
取付孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材と、
2)取付孔と端部部材の間に配置されるシール部材の2つの構成を採用\nしたことにあり、これらの構成によって、外部雰囲気(湿気や水等の\n流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上させるととも\nに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボ
ルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向上すると
いう効果を奏するものである。
前記 ウ のとおり、原告製品2は、取付性の向上及び端部部材に
よる外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入の抑制といった本件発明
の作用効果を備えているといえるが、アッパープレードの外側で取付
孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備え
ている(上記1)を備える。)ものの、端部部材と取付孔との間のシー
ル部材(Oリング)を備えておらず(上記2)を備えておらず)、腐食
防止のために鉄系材料にメッキを施している。また、原告製品2は、
自動車に搭載するソレノイドを有する可変容量コンプレッサ制御弁で\nある以上、自動車メーカーとしては、外部雰囲気の進入の抑制という
よりは、原告製品2の制御弁としての機能及び動作性に最も着目する\nものといえる。
このように、原告製品2は、本件発明の従来技術の課題とされてい
る、耐食性を必要とする構成部材にメッキ処理を施したものであるこ\nとや、原告製品2は可変容量コンプレッサ容量制御弁であって、制御
弁としての機能及び動作性の点に強い顧客吸引力があるといえるから、\n原告製品2の販売によって得られる限界利益の全額を控訴人の逸失利
益と認めるのは相当ではないところ、原告製品2が備える機能等や顧\n客誘引力等の本件諸事情を総合考慮すると、事実上推定される限界利
益の全額から95%の覆滅を認めるのが相当である。
・・・
エ 控訴人が販売することができないとする事情
特許法102条1項1号に規定するところの侵害品の譲渡数量の全部又
は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事
情は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少と相当因果関係を阻害する
事情であり、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存
在すること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵害者
の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、4)侵害品及び特許権者の製品の機
能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在すること等の事
情がこれに該当するというべきである(前掲知財高裁大合議判決)。
以下これを前提として検討する。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 aのとおり、被控訴人は、「販
売することができない事情」として、●●●社の前身である●●●社及
び同社が買収した●社と被控訴人との間では、長年の取引関係があり、
被控訴人は、こうした取引関係を通じて構築された信頼関係に基づいて、\n●●●社との間で年間●●●●個に及ぶ被告製品の取引を行ってきたが、
控訴人は、●●●社の事業領域については何らの商圏を有していなかっ
たのであるから、容量制御弁を年間●●●●個生産する能力があるとし\nても、せいぜい従前●●●社に納入していた程度の数量である●●万個
程度の数量しか販売することができなかったというべきである旨主張す
る。
確かに、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社及び●社、●●
●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等の点で表彰を受\nけるなど、一定の信頼関係を築いてきたこと(乙36ないし40)は認
められるものの、前記 カ及びキのとおり、●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●、こうした事情に照らせば、原告製品2
について本件侵害期間より前の期間に納入していた数量の限度でしか
販売することができなかったとはいえないから、被控訴人の上記主張は
理由がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 bのとおり、被控訴人は、「販
売することができない事情」として、●●●社は、防水手段についてメ
ッキ処理で行うか、端部部材へのシール部材の装着で行うかについては
全く重視しておらず、被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると被控
訴人において認識すれば、「メッキ処理」に変更した代替品に転換する
ことは容易に可能であったから、被告製品に代わって控訴人が原告製品\n2を納入することができるというものではない旨主張する。
しかし、「販売することができない事情」で考慮されるべき事情は、
本件侵害期間中に原告製品2を被告製品の販売個数では販売することが
できなかった事情が問題となるのであって、被控訴人が主張する上記の
ような仮定的事情はこれに当たらないから、被控訴人の上記主張は理由
がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 cないしeのとおり、被控訴
人は、「販売することができない事情」として、●●●社の購入動機や
信頼関係の存否等につき主張する。
そこで、検討するに、前記 キによれば、●●●●●●●●●●●●
●●●●●●被告製品を選択した理由の1つとして価格面を挙げている
ことが認められる。実際、控訴人の担当部長が作成した報告書(甲67)
の添付資料によると、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●ことが認められる。被告製品が原告製品2と比
較して価格面で有利であったという点は、本件侵害期間中における原告
製品2の販売個数に少なからず影響する事情であるということができる。
また、前記 のとおり、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社
及び●社、●●●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等
の点で表彰を受けるなど、サポート面や協力態勢の面で一定の信頼関係\nを築いてきており、実際のところ、●●●社が原告製品2から被告製品
に切り替えた理由の1つとして、被控訴人のサポート態勢等を挙げてい
る。被控訴人が被告製品の販売個数を順調に維持することができた背景
には、こうした事情が影響しているものと認められるから、被控訴人と
●●●社との信頼関係の構築は、本件侵害期間中における原告製品2の\n販売個数に影響する事情であるといえる。
さらに、証拠(乙25、32、48)によれば、被控訴人は、原告製
品2と被告製品の起動性に関する対比実験を提示し(乙25)、●●●
社の仕様等に関する要望を受けて改良し、●●●社は、被告製品の制御
弁としての性能面を評価して被告製品を採用したことが認められるから、\nこうした事情は、本件侵害期間中において、被告製品の販売実績に相当
する原告製品2を販売し得たことを阻害する事情であるといえる。
以上で指摘した事情を総合考慮すると、侵害品である被告製品の譲渡
数量を控訴人が販売することができない事情に相当する数量は、譲渡数
量全体の2割であると認めるのが相当である。
・・・
なお、共有に係る特許権であっても、各共有者は、契約で別段の定めを
した場合を除いて他の共有者の同意を得ることなく特許発明の実施をす
ることができる(特許法73条2項。なお、本件では、控訴人が●●●●
●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証拠
はない。)ところ、特許法102条1項により算定される損害については、
侵害者による侵害組成物の譲渡数量に特許権者等がその侵害行為がなけ
れば販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じて算出さ
れる額には、特許権の非実施の共有者に係る侵害者による侵害組成物の譲
渡数量に応じた実施料相当額の損害が含まれるものではなく、その全部又
は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事
情にも当たらないから、後記の同条2項による損害の推定における場合と
異なり、非実施の共有者の実施料相当額を控除することもできない。
・・・
キ 特許法102条1項2号による実施料相当額ついて
前記エ のとおり、特許法102条1項1号の「その全部又は一部に相
当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができない
とする事情」としては、侵害品である被告製品と原告製品2の価格差、被
控訴人によるサポート面や協力態勢の面で●●●社との間との一定の信
頼関係の構築、被告製品と原告製品2の性能\面の差異といった事情がある
と認められる。
ところで、特許法102条1項2号は、括弧書で「特許権者・・・が、当該
特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許
諾・・・をし得たと認められない場合を除く。」と規定するところ、この括弧
書部分は、特定数量がある場合であってもライセンスをし得たとは認めら
れないときは、その数量に応じた実施相当額を損害として合算しないこと
を規定するものであると解される。
これを前提として本件についてみると、特許法102条1項1号に規定
する特定数量に該当するとされた事情は、上記のとおりであるところ、被
告製品と原告製品2の性能面の差異については、その性質上、控訴人が被\n控訴人にライセンスをし得たのに、その機会を失ったものとは認められな
いが、被控訴人の営業努力等に関わる点については、本件発明の存在を前
提にした上でのものというべきであるから、控訴人が被控訴人にライセン
スをし得たのに、その機会を失ったものといえる。
これらの事情を総合考慮すると、特定数量2割のうちライセンスの機会
を喪失したといえる数量は、その半分に当たる譲渡数量の1割とするのが
相当である。
また、前記 アのとおり、本件侵害期間中の被告製品の1個当たりの販
売価格は●●●●●●●円(本件侵害期間の総販売金額●●●●●●●●
●●●●●●●円を、同期間における総製造数●●●●●●●●個で割っ
た額(乙23参照)。)であり、前記 イのとおり、被告製品の実施料率
は2%程度とするのが相当であり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の
共有関係にあることも前記認定事実のとおりである。
以上を前提とすると、特許法102条1項2号により算定される控訴人
の損害額は268万円と認められる。
・・・
特許法102条2項による損害について
ア 覆滅事由について
本件侵害期間中における月別の被告製品の生産個数及び売上高は当事者
間に争いがないが、控除すべき経費の範囲及びその額について争いがある。
ところで、特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1
項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵
害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事
情がこれに当たると解され、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様等に
相違があること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵
害者の営業努力、4)侵害品の性能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴)
等の事情がこれに当たり、また、特許発明が侵害品の一部分のみに実施さ
れている場合には、この点も、推定覆滅の事情として考慮することができ
るが、特許発明が侵害品の一部分のみに実施されていることから直ちに上
記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の
侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的
に考慮して決するのが相当である(知財高裁令和元年6月7日大合議判
決・判例時報2430号34頁以下参照)。
控訴人は、特許法102条2項による損害の算定に当たり、覆滅事由は
ないと主張しているところ、被控訴人は、1項ただし書と同様の事由、す
なわち、1)●●●社における事情、2)代替品の納入が可能であること、3)
原告製品2と被告製品の性能に本件発明以外に相違があること、4)被告製
品が原告製品2と比較して低価格であること、5)被控訴人の市場開発努力、
営業努力、販売力の事情を指摘して、覆滅事由を主張するので、この点に
つき、まず検討を加える。
前記 エで説示したのと同様に、●●●社が原告製品2の供給を打ち切
って被告製品を採用したのは、被告製品が原告製品2と比較して価格面で
有利であったこと、被控訴人は、●●●社及びその前身の●●●社(●●
●社が買収した●社を含む。)と長年取引関係にあって信頼関係を醸成し
ており、被告製品の販売個数を順調に伸ばしてきたのはこうした事情が背
景にあるものと推認されること、被控訴人は、原告製品2と被告製品の起
動性に関する対比実験を提示し、●●●社の仕様等の要望を受けて改良し
たことにより、被告製品の採用に至ったものと認められる。
こうした被告製品の価格面での優位性、被控訴人の企業努力等の事情に
加えて、被告製品における本件発明が実施されている部分の位置付け、本
件発明の顧客吸引力等の事情についてみると、被告製品は容量制御弁であ
り、ソレノイドの耐食性や取付容易性といった本件発明の特徴的部分もさ\nることながら、弁本体の機能がむしろ重要であり(被控訴人が●●●社向\nけに作成した被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、本件発
明の特徴的部分については何ら触れるところはないことは既に説示したと
おりである。)、また、前記 イ のとおり、相手側ハウジング部材に取
付孔を設けてこの部分に容量制御弁を挿入するという技術は、本件発明の
出願時には公知の技術であり、密封構造に関しても、容量制御弁の高耐食\n性については、鉄製材料をメッキ処理するといった従来技術(代替技術)
が存在していたことからすると、被告製品における本件発明の位置付けは
重要なものとはいえず、顧客吸引力も低いものと言わざるを得ない。
被控訴人の主張する覆滅事情は上記の限度で理由があり、これらの事情
を総合考慮すると、覆滅割合は9割とするのが相当である。
イ 本件特許が共有であることについて
本件特許権は、控訴人及び●●●●●●の共有に係るものであり、前
記 オで説示したとおり、●●●●●●は、少なくとも本件侵害期間中
において本件特許権を実施していない。
ところで、特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定
めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施
をすることができる(特許法73条2項)。本件では、控訴人が●●●
●●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証
拠はないから、本件特許権の共有者である控訴人は、共有持分割合に応
じて特許法102条2項により推定される損害の按分割合に応じた損害
賠償を請求することができるにすぎない旨の被控訴人の主張は理由がな
い。
他方で、実施料に相当する損害は、特許権の実施の有無にかかわらず
請求することができるから、特許権を共有するがその特許を実施してい
ない共有者であっても、その特許が侵害された場合には、特許法102
条3項により推定される実施料相当額の損害賠償を受けられる余地があ
るところ、仮に、同条2項により推定される全額を共有に係る特許権を
実施する共有者の損害額であると推定されると、侵害者は実際に得た利
益以上に損害賠償の責めを負うことになることからすると、共有に係る
特許権を実施する共有者が同条2項に基づいて侵害者が得た利益を損害
として請求するときは、同条3項に基づいて推定される共有に係る特許
権を実施していない共有者の損害額は控除されるべきである。そして、
侵害に係る特許権が共有に係るものであるといった事情は、同条2項に
より推定される損害の覆滅事情に当たるものであるから、侵害者がその
立証責任を負うというべきである。
次に、前記第2の4 イ【控訴人の主張】 のとおり、控訴人は、●
●●●●●が特許法102条3項に基づく損害賠償請求権について控訴
人が消滅時効を援用することにより、被控訴人は、控訴人に対して●●
●●●●の被控訴人に対する実施相当額を控除すべき旨を主張すること
ができない旨主張する。
しかし、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権と、●●●●●●
の被控訴人に対する損害賠償請求権は、いずれも金銭債権であって可分
であり、可分債権である●●●●●●の損害賠償請求権が時効により消
滅したからといってその損害賠償請求権があたかも復帰的に控訴人に帰
属したかのように控訴人がこれを行使することができるわけではないか
ら、控訴人が●●●●●●の被控訴人に対して有する損害賠償請求権を
援用することができる正当な利益を有する者ではなく、控訴人の上記主
張は明らかに失当である。
もっとも、●●●●●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求
権が時効により消滅している場合には、被控訴人は、これを援用するこ
とにより、その支払を免れることができるのであるから、いわゆる二重
払いにより、実際に得た利益以上に損害賠償の責めを負うことになるリ
スクは生じないし、このような特殊事情がある場合にまで、特許権侵害
により得た利益の留保を被控訴人に許すことは、法の趣旨に照らし相当
とはいえないというべきである。
ウ 損害額の算定
前記アのとおり、特許法102条2項に基づき、被控訴人が特許権侵害
により受けた利益の額を算定するに当たり、控除すべき経費については前
記第2の4 イ のとおり当事者間に争いがあり、仮に、被控訴人が主張
するところの覆滅事由を考慮せずに控訴人が請求する●●●●●●●●
●●●円を前提としたとしても、前記アの覆滅割合(約90%)分を控除
すると、●●●●●円である。そうすると、前記イ のとおり、●●●●
●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求権が時効により消滅し
ている場合には、その実施料相当額を覆滅事由として控除しないと解する
余地があるものの、このような場合を仮定しても、特許法102条2項に
より算定される損害額は、上記●●●●●円を上回ることはない。
小括
以上によれば、特許法102条1項による損害額は●●●●●円であり、
同条2項による損害額は●●●●●円を上回ることはなく、同条3項による
損害額は●●●●●円であるから、特許法102条により算定される損害額
は●●●●●円をもって相当と認める。
また、控訴人は、本件において弁護士及び弁理士に委任して訴訟を遂行し
ているところ、被控訴人による特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士
費用及び弁理士費用は、本件事案の性質及び内容、認容額、本件事案の難易
度等を考慮すると、●●●●●円とするのが相当である。
そうすると、本件特許権侵害による損害額は8920万円となる。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成29年(ワ)3569号
「密封嵌合」とは,「ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもた\nらすように外部雰囲気の進入を抑制させる程度に,端部材が取付孔に対してぴっちり
と封をするように機械部品がはまり合う関係」を意味すると解されるところ,Oリン
グ(シール部材(13))を外した被告製品が,取付孔内部への水分の進入を抑制する効果
があるとは認められないのであるから,被告製品の端部材(H)が取付孔に「密封嵌合」
しているとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告製品は,構成要件B6の「該アッパープレートの外側で前記取付\n孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」に係る構成を\n有しない。そうすると,被告製品は,その余の構成要件を検討するまでもなく,本件\n発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。
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2022.05. 5
令和1(ワ)25152 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月24日 東京地方裁判所
ドワンゴvsFC2のコンピュータ関連発明の特許権侵害事件です。東京地裁29部は、海外サーバからの提供について、準拠法は認めたものの、被告システムは本件発明の技術的範囲に属するが、「生産」に該当しないとして、請求を棄却しました。
なお、国際裁判管轄については、被告FC2が争うことなく弁論をしてとして、日本の裁判所に管轄権を認めています。
2 争点1(準拠法)について
(1) 差止め及び除却等の請求について
特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法は、当該特許権が登録された
国の法律であると解すべきであるから(最高裁平成12年(受)第580同
14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)、本件の差止
め及び除却等の請求についても、本件特許権が登録された国の法律である日
本法が準拠法となる。
(2) 損害賠償請求について
特許権侵害を理由とする損害賠償請求については、特許権特有の問題では
なく、財産権の侵害に対する民事上の救済の一環にほかならないから、法律
関係の性質は不法行為である(前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷
判決)。したがって、その準拠法については、通則法17条によるべきである
から、「加害行為の結果が発生した地の法」となる。
原告の損害賠償請求は、被告らが、被告サービスにおいて日本国内の端末
に向けてファイルを配信したこと等によって、日本国特許である本件特許権
を侵害したことを理由とするものであり、その主張が認められる場合には、
権利侵害という結果は日本で発生したということができるから、上記損害賠
償請求に係る準拠法は日本法である。
・・・
前記(1)のとおり、被告システム1は、構成要件1Bないし1F及び1Hを\n充足し、前記前提事実(6)アのとおり、被告システム1が構成要件1A、1G\n及び1Iを充足することは、当事者間に争いがない。
そして、前記(2)のとおり、被告システム2及び3は、構成要件1Aないし\n1F及び1Hを充足し、前記前提事実(6)イのとおり、被告システム2及び3
が構成要件1G及び1Iを充足することは、当事者間に争いがない。\nしたがって、被告システムは本件発明1の技術的範囲に属するものと認め
られる。
(2) 被告FC2による被告システムの「生産」の有無について
ア 本件発明1の関係での被告システム1(被告サービス1のFLASH版)
の「生産」について
本件発明1の「実施」として被告FC2による被告システム1の「生産」
があるといえるかを、まず、被告サービス1のFLASH版について検討
する。
(ア) 物の発明の「実施」としての「生産」(特許法2条3項1号)とは、
発明の技術的範囲に属する「物」を新たに作り出す行為をいうと解され
る。また、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められること
を意味する属地主義の原則(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年
7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12
年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7
号1551頁参照)からは、上記「生産」は、日本国内におけるものに
限定されると解するのが相当である。したがって、上記の「生産」に当
たるためには、特許発明の構成要件の全てを満たす物が、日本国内にお\nいて新たに作り出されることが必要であると解すべきである。
(イ) 前記3(1)のとおり、被告システム1は、本件発明1の構成要件を全\nて充足し、その技術的範囲に属するものであって、被告システム1にお
ける構成1aないし1iは、本件発明1の構\成要件1Aないし1Iにそ
れぞれ相当する。
また、被告サービス1のFLASH版においてコメント付き動画を日
本国内のユーザ端末に表示させる手順は、前記(1)ウ(ア)のとおりであっ
て、被告サービス1がその手順どおりに機能することによって、上記の\nとおり本件発明1の構成要件を全て充足するコメント配信システムであ\nる被告システム1が新たに作り出されるということができる。
そして、本件発明1のコメント配信システムは、「サーバ」と「これと
ネットワークを介して接続された複数の端末装置」をその構成要素とす\nる物であるところ(構成要件1A)、被告システム1においては、日本国\n内のユーザ端末へのコメント付き動画を表示させる場合、上記の「これ\nとネットワークを介して接続された複数の端末装置」は、日本国内に存
在しているものといえる。
他方で、前記3(2)アによれば、本件発明1における「サーバ」(構成\n要件1A等)とは、視聴中のユーザからのコメントを受信する機能を有\nするとともに(構成要件1B)、端末装置に「動画」及び「コメント情報」\nを送信する機能(構\成要件1C)を有するものであるところ、これに該
当する被告FC2が管理する前記(1)ウ(ア)の動画配信用サーバ及びコメ
ント配信用サーバは、前記(1)イ(ア)のとおり、令和元年5月17日以降
の時期において、いずれも米国内に存在しており、日本国内に存在して
いるものとは認められない。
そうすると、被告サービス1により日本国内のユーザ端末へのコメン
ト付き動画を表示させる場合、被告サービス1が前記(1)ウ(ア)の手順ど
おりに機能することによって、本件発明1の構\成要件を全て充足するコ
メント配信システムが新たに作り出されるとしても、それは、米国内に
存在する動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバと日本国内に存在
するユーザ端末とを構成要素とするコメント配信システム(被告システ\nム1)が作り出されるものである。
したがって、完成した被告システム1のうち日本国内の構成要素であ\nるユーザ端末のみでは本件発明1の全ての構成要件を充足しないことに\nなるから、直ちには、本件発明1の対象となる「物」である「コメント
配信システム」が日本国内において「生産」されていると認めることが
できない。
(ウ) 原告は、被告システム1では、多数のユーザ端末は日本国内に存在し
ているから、被告システム1の大部分は日本国内に存在している、被告
FC2が管理するサーバが国外に存在するとしても、「生産」行為が国外
の行為により開始されるということを意味するだけで、「生産」行為の大
部分は日本国内で行われている、本件発明1において重要な構成要件1\nHに対応する被告システム1の構成1hは国内で実現されている、被告\nシステム1については「生産」という実施行為が全体として見て日本国
内で行われているのと同視し得るにもかかわらず、被告らが単にサーバ
を国外に設置することで日本の特許権侵害を免れられるという結論とな
るのは著しく妥当性を欠くなどとして、被告システム1は、量的に見て
も、質的に見ても、その大部分は日本国内に作り出される「物」であり、
被告らによる「生産」は日本国内において行われていると評価すること
ができると主張する。
しかしながら、前記(ア)のとおり、特許法2条3項1号の「生産」に該
当するためには、特許発明の構成要件を全て満たす物が日本国内におい\nて作り出される必要があると解するのが相当であり、特許権による禁止
権の及ぶ範囲については明確である必要性が高いといえることからも、
明文の根拠なく、物の構成要素の大部分が日本国内において作り出され\nるといった基準をもって、物の発明の「実施」としての「生産」の範囲
を画するのは相当とはいえない。そうすると、被告システム1の構成要\n素の大部分が日本国内にあることを根拠として、直ちに被告システム1
が日本国内で生産されていると認めることはできないというべきである。
また、前記(1)ウ(ア)の2)−2及び5)からすれば、被告システム1にお
いては、被告FC2のウェブサーバがユーザ端末に配信するSWFファ
イルによって規定される条件に基づいて、2つのコメントが重複するか
否かを判定する計算式及び重複すると判定された場合の重ならない表示\n位置の指定が行われており、構成要件1Fの「判定部」及び構\成要件1
Gの「表示位置制御部」に相当する構\成1f及び1gの動作の実現は、
日本国内に存在するユーザ端末において行われるものであるということ
ができ、これらのユーザ端末における動作からは、原告が指摘する構成\n要件1Hに対応する構成1hのうち「前記ユーザ端末のディスプレイに\nは、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間におい
て、前記動画上に、右から左方向に移動する前記コメント1及び前記コ
メント2とが、追いついて重複しないように表示される、」という部分に\n相当する動作は、日本国内に存在するユーザ端末において実現されるも
のということができるものの、構成要件1Hに対応する構\成1hのうち
「前記サーバが、前記動画ファイルと、前記コメントファイルとを前記
ユーザ端末に配信することにより、」という部分に相当する動作は、米国
内に存在するコメント配信用サーバ及び動画配信用サーバによって実現
されるものであり、構成1hが日本国内に存在するユーザ端末のみによ\nって実現されているとはいえない。前記1(2)イで検討したところからす
れば、本件発明1の目的は、単に、構成要件1Fの「判定部」及び構\成
要件1Gの「表示位置制御部」に相当する構\成等を備える端末装置を提
供することではなく、ユーザ間において、同じ動画を共有して、コメン
トを利用しコミュニケーションを図ることができるコメント配信システ
ムを提供することであり、この目的に照らせば、動画の送信(構成要件\n1C及び1H)並びにコメントの受信及びコメント付与時間を含むコメ
ント情報の送信(構成要件1B、1C及び1H)を行う「サーバ」は、\nこの目的を実現する構成として重要な役割を担うものというべきである。\nこの点からしても、本件発明1に関しては、ユーザ端末のみが日本に存
在することをもって、「生産」の対象となる被告システム1の構成要素の\n大部分が日本国内に存在するものと認めることはできないというべきで
ある。
さらに、前記(1)アのとおり、被告サービスにおいては、日本語が使用
可能であり、日本在住のユーザに向けたサービスが提供されていたと考\nえられ、同オのとおり、平成26年当時、日本法人である被告HPSが、
被告FC2の委託を受けて、被告サービスを含む同被告の運営するサー
ビスに関する業務を行っていたという事情は認められるものの、本件全
証拠によっても、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月17日以
降の時期において、米国法人である被告FC2が本件特許権の侵害の責
任を回避するために動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを日本
国外に設置し、実質的には日本国内から管理していたといった、結論と
して著しく妥当性を欠くとの評価を基礎付けるような事情は認められな
い。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 以上によれば、被告サービス1のFLASH版については、本件発明
1の関係で、被告FC2による被告システム1の日本国内での「生産」
を認めることができないというべきである。
・・・
オ 小活
以上のとおり、本件発明1の関係でも、本件発明2の関係でも、被告サ
ービス(FLASH版及びHTML5版)において、被告FC2による被
告システムの日本国内での「生産」を認めることはできない。
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2022.04.13
令和2(ワ)5616 特許権 令和4年1月25日 東京地方裁判所
訂正後の発明について、技術的範囲に属しないと判断されました。
2 争点1(被告各製品の20ライン分のラインバッファは,「単一のVRAM」
を充足するか(構成要件D及びHの充足性))について\n
(1) 「単一のVRAM」の意義
ア 本件特許の特許請求の範囲における構成要件Dにおいては,「グラフィ\nックコントローラ」が,「該中央演算回路の処理結果に基づき,単一のVR
AMに対してビットマップデータの書き込み/読み出しを行い,「該読み
出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成」すると\n規定されている。
また,構成要件Hにおいては,「グラフィックコントローラ」が,「前記\n単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度
を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマ
ップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成」すること及び「前記単\n一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像
度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビット
マップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成」することが規定され\nている(なお,構成要件Hにおける「前記単一のVRAM」との文言から,\n構成要件Dと構\成要件Hの「単一のVRAM」は同一の意義を持つものと
解される。)。
さらに,構成要件F,H,Jによると,「ディスプレイパネルの画面解像\n度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」は,「外部ディス
プレイ手段」に表示するためのものであるといる。\nこれらの記載によれば,構成要件D及びHの「単一のVRAM」は,「グ\nラフィックコントローラ」により,「ビットマップデータの書き込み/読み
出し」がされるものであって,外部ディスプレイ手段に表示するための「デ\nィスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビット
マップデータ」の書き込み/読み出しがされるものであり,前記「ディス
プレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマッ
プデータ」の全体を記憶することが可能なものと解するのが相当である。\nそして,前記1に認定した本件明細書の記載(特に段落【0115】,【0
117】,【0127】)も,その記載内容に照らせば,構成要件D及びHの\n「単一のVRAM」が,「ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像
度を有する画像のビットマップデータ」の全体を記憶することが可能なも\nのであるとの上記クレーム解釈に整合しており,同解釈を裏付けるものと
評価することができる。
イ 原告は,構成要件Hは,ビットマップデータの読み出しの具体的な方法\nについて何らの特定もしておらず,ディスプレイパネルの画面解像度と同
じ解像度を有する画像のビットマップデータを一挙に読み出すことを規
定したものとは解されない旨を主張する。しかし,特許請求の範囲の記載,
明細書の記載を検討すると,上記アに説示したとおり,「単一のVRAM」
は,「ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像の
ビットマップデータ」の全体を記憶することが可能なものと認めるのが相\n当である。原告の上記主張は採用することができない。
(2) 「単一のVRAM」の充足性
以上のクレーム解釈を前提に,被告各製品が,構成要件D,Hの「単一の\nVRAM」を充足するかについて検討する。
前記前提事実のとおり,被告各製品は,データ処理手段としてのCPU(中
央演算回路)及び液晶コントローラ(グラフィックコントローラ)を備える
ものであるところ,このCPU(中央演算回路)は,無線通信手段から受信
した信号(圧縮した通信信号)をデコードして画像データを展開し,拡大/
縮小(補間/間引き)を適宜行って内蔵用表示データ及び外部用表\示データ
を生成し,生成した表示データを同CPU(中央演算回路)に接続されたS\nDRAMに書き込み/読み出しを行い,その内蔵用表示データ及び外部用表\
示データを液晶コントローラ(グラフィックコントローラ)に送信する構成\nを有している。しかして,この液晶コントローラ(グラフィックコントロー
ラ)には,6個の2Mビット(256kバイト)DRAMが内蔵されている
ところ,これは,外部表示用のラインバッファ(20ライン分)であり,画\n像全体を書き込み/読み出しするためのものではないというのである(被告
各製品の構成d)。\n
しかして,このような,被告各製品の液晶コントローラ(グラフィックコ
ントローラ)が内蔵するDRAMは,少なくとも外部表示用にはラインバッ\nファ(外部表示手段に表\示するための画像全体を書き込み/読み出しするた
めのものではない)として用いられるものであるから外部表示手段に表\示す
るための「ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像
のビットマップデータ」の全体を記憶するものではないことは明らかである
というほかない。
そうすると,被告各製品における上記DRAM(20ライン分のラインバ
ッファ)は,「単一のVRAM」との文言を充足するものとは認められず,被
告各製品が,構成要件D及びHを充足するものとは認められない。\n
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2022.04.10
平成30(ワ)4329等 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月18日 東京地方裁判所
二重まぶた形成用テープの特許権侵害で約2億4000万円の損害賠償が認められました。
◆原告のウェブサイトには本件を含めて経緯が開示されています。
争点は、技術的範囲の属否、無効(104条の3)、損害額の認定、覆滅の程度などです。
被告らは、原告製品の売上げが伸びずに損害が発生したのは、原告製
品及び被告各製品の競合品であるマイクロファイバー及びオリシキの販
売が開始されたからであり、特にマイクロファイバーは販売開始から現
在に至るまでに270万個が販売されるほどの人気商品であると主張す
る。しかし、マイクロファイバー及びオリシキが販売されたのは、平成3
0年3月又は同年11月以降であり、前記(1)イ(ア)のとおり、被告各製
品の販売による本件特許権の侵害が認められた期間の一部にすぎない。
また、証拠(甲82)によれば、ドン・キホーテにおける原告製品の
販売はその販路全体の一部にすぎないと認められるところ、二重瞼形成
用アイテムの市場又はそのうち収縮食い込み型の商品の市場における原
告製品及び被告各製品の各シェアがどの程度のものであったかを認める
に足りる的確な証拠はない。
さらに、証拠(乙75)及び弁論の全趣旨によれば、令和3年1月頃、
マイクロファイバーの広告には「累計販売数270万個突破」と記載さ
れていることが認められるが、二重瞼形成用アイテムの市場又は収縮食
い込み型の商品の市場において販売された商品全体の個数が明らかでは
ないから、上記の記載のみによってシェアを認定することはできないし、
前記(1)イ(ア)のとおり、マクロファイバーの販売が開始されたのは、被
告各製品の販売により本件特許権が侵害されたと認められる期間の半ば
頃である上、マイクロファイバーの販売個数の推移も明らかではない。
以上によれば、マイクロファイバー及びオリシキが販売されていたこ
とのみをもって、推定の覆滅を認めるのは相当でない。
もっとも、前記(ア)a及びdのとおり、二重瞼形成用アイテムには接着
型、シャッター型及び収縮食い込み型が存在し、ドン・キホーテにおけ
る販売数を見ても、原告製品、マイクロファイバー及びオリシキのほか
にも、接着型の二重瞼形成用アイテムが相当数販売されており(ただし、
商品ごとに、これを1個購入することにより、どの程度の期間、二重瞼
を形成することができるかなどの条件が異なると考えられるため、販売
数を単純に比較することはできない。)、需要者は、収縮食い込み型の
被告各製品を購入することができない場合、同じく二重瞼形成用アイテ
ムである接着型の商品やシャッター型の商品を購入することも十分に考えられる。そうすると、原告製品及び被告各製品の競合品が存在することに基づき、法102条2項により推定される損害額の10%について\n推定の覆滅を認めるのが相当である。
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2022.04. 4
令和3(ネ)10049等 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審(東京地裁46部)では文言侵害として3600万円の損害賠償が認められましたが、知財高裁(2部)は、技術的範囲に属しない(均等含む)と判断しました。
3 争点1−1(被告製品のピンが,長手方向断面が「楕円形」(構成要件B,D)\nである先端部を有しているか)について
(1) 「楕円形」の一般的な意味について
ア 「楕円形」とは,「楕円状をなした形」をいい,「楕円」とは,「円錐曲線
(二次曲線)の一つ。幾何学的には,一平面上で二定点(F,F’)からの距離の和
(FP+F’P)が一定であるような点Pの軌跡。」を意味する(「広辞苑 第六版」
(平成20年1月11日発行,株式会社岩波書店)1705頁,乙2参照)。この点,
被控訴人が提出するウェブサイト「コトバンク」における検索結果に係る証拠(甲
2。令和元年5月30日印刷)では,「楕円形」について,「楕円状をなす形,ある
いは,それに近い形。」(デジタル大辞典の解説),「楕円のような形。また,そのよ
うな形のさま。小判がた。長円形。側円形。」(精選版日本国語大辞典の解説)とさ
れている。
上記を踏まえると,一般に,「楕円形」とは,「楕円状をなした形」をいい,幾何
学上の楕円の形状がそれに含まれることはもとより,同形状とは異なるがそれに近
い形についても用いられる語であると解される。
もっとも,幾何学上の楕円の形状とは異なるがそれに近い形として,どのような
形が「楕円形」に含まれるか,「楕円形」の意味の外延は,上記の辞書的な意味から
は明確とはいえない。
イ 上記に関し,「卵形(たまごがた)」は,「鶏卵に似た楕円形。」を意味する語
である(上記「広辞苑 第六版」1756頁,甲78参照)。なお,被控訴人が提出
するウェブサイト「コトバンク」における検索結果に係る証拠(甲77。令和3年
7月29日印刷)では,「卵形(たまごがた)」について,「鶏卵のような楕円形。ま
た,そのような形のもの。たまごなり。」(精選版日本国語大辞典の解説),「鶏卵に
似た楕円形。たまごなり。らんけい。」(デジタル大辞典の解説)とされている。
また,「卵形(らんけい)」は,「たまごのような形。たまごがた。」を意味する語
である(上記「広辞苑 第六版」2933頁)。なお,上記証拠(甲77)では,「卵
形(らんけい)」について,「卵のような形。楕円の一方が少し細くなっている形。
たまごがた。」(精選版日本国語大辞典の解説),「卵のような形。たまごがた。」(デジタル大辞典の解説)とされている。
そうすると,「楕円形」の語は,「卵形」を含むものとして用いられることもある
ものの,他方で,前記アの「楕円形」の意味において,「卵形」と同義である旨の説
明はもちろん例示としても「卵形」という説明がみられないことや,上記のとおり,
「卵形」の意味においても,限定なしで「楕円形」と同義であることは何ら示され
ず,「鶏卵に似た」,「鶏卵のような」といった限定を付して「楕円形」という語が用
いられたり,「楕円の一方が少し細くなっている形」との説明がされていることも踏
まえると,「楕円形」は本来的な意味として「卵形」を含むものではないとみられる
ところである。
ウ 以上によると,「楕円形」の語は,幾何学上の楕円の形状及びそれに近い形を
いうものであるが,当該楕円の両端(当該楕円とその長軸が交わる2点をいう。)付
近の曲線を比較した場合に,その一方の曲率が他方の曲率より小さい形状(「卵形」
など。当事者の主張における「長手方向の端の一方が他方よりも緩い曲率の形状」。
以下「曲率に差のある形状」という。)を含むものとして「楕円形」の語が用いられ
ているか否かは,明細書(図面を含む。)における当該「楕円形」の語が用いられて
いる文脈等を踏まえて判断する必要があるというべきである。
エ これに対し,被控訴人は,「楕円形」の語が卵形等を含むものであると主張し
て,インターネットでの画像検索の結果(甲10の1〜6)やウェブサイト等にお
ける語の使用例(甲79〜84)を指摘するが,それらは一般に「楕円形」の語が
どのような形を説明する際に用いられているかといった事情を示すものにすぎず,
「楕円形」の語が上記各証拠で示される各種の形をその意味として当然に含むこと
を示すものとは解されない。
(2) 本件明細書における「楕円形」の語について
ア 本件明細書に,「楕円形」の意味について説明する記載等は見当たらない。
ただし,請求項1の発明においては先端部が「球形」とされ,本件明細書でも「球
形」と「楕円形」が使い分けられていることを踏まえると,少なくとも,本件発明
の「楕円形」は,円形(球形の断面)を含むものではなく,円形を含み得るような
広い意味の語ではないことは理解されるといえる。
イ(ア) 訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」
の1(2)を踏まえると,本件発明が解決しようとする課題は,従来技術について,矢
の先端部に「かえし」が存在することにより生じていた,1)矢を的から外すときに
丸釘のピンだけ的に残ってフィルムだけ引き抜かれてしまうという課題と,2)ダブ
ル突入の場合に後ろの矢を引き抜くときにフィルムが丸釘のピンから抜け,後ろの
矢のピンが前の矢のフィルム内に残ってしまうという課題(以下,併せて「ピン抜
けの課題」という。)のほか,矢の先端部の頭部と円柱部の位置のずれやフィルム
の重なりにより生じていた,3)上下方向の重心に偏りがあるという課題(以下「重
心の課題」という。)であると解される。
(イ) 本件発明の「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状は,ピン抜けの課
題の原因が先端部の「かえし」の存在にあったとされていることを踏まえると,ピ
ン抜けの課題の解決手段の一つとして採用されたものと理解されるところ,「かえ
し」の存在をなくすという観点からは,先端部の形状は,幾何学上の楕円の形状で
足り,曲率に差のある形状である必要はない。したがって,ピン抜けの課題の解決
手段の一つであるという事情は,本件発明における「楕円形」の語が,曲率に差の
ある形状を含むというべき積極的な事情には当たらない。むしろ,曲率に差のある
形状とした場合,具体的な形状次第では,的やダブル突入の場合の前の矢のフィル
ムに曲率の差のある形状の先端部が残ってしまうという可能性が別途生じ,ピン抜\nけの課題の解決に支障が生じ得るともいえるところである。この点,本件明細書に
は,先端部の形状について,「楕円形」としてどのような範囲内のものであればピン
抜けの課題が適切に解決されるかの判断の資料となり得るデータ等は,何ら記載さ
れていない。
他方,本件明細書上,重心の課題の解決と「長手方向断面が楕円形」という先端
部の形状との関係は明確ではないが,重心の課題の原因の一つとして,矢の先端部
の頭部と円柱部との位置のずれが挙げられていることのほか,本件発明の効果等に
関し,請求項1の発明に係る実施例についてのものではあるものの,「ピンを従来
の丸釘から先端球形に変更することによって矢の長手方向の重心位置を矢の先端方
向に寄せることができた」ことが記載され,その変形例が本件発明に係るもので,
上記実施例と同様に従来の矢の丸釘と比較した丸ピンの重量等について具体的な記
載がされていることも考慮すると,「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状
は,円柱部との位置のずれを解消しやすく,また,上下方向の重心に偏りがなく,
かつ,従来の丸釘よりも先端部が後ろに長い形状であるために先端部が相対的に重
くなるといった観点から,重心の課題の解決手段の一つとして採用されたものと理
解することもあり得る。しかし,そのような観点からも,先端部の形状は,幾何学
上の楕円の形状で足り,曲率に差のある形状である必要はない。むしろ,曲率に差
のある形状とした場合,具体的な形状次第では,円柱部との位置の調整が困難にな
ったり,上下方向の重心に偏りがなく,かつ,先端部が相対的に重くなるといった
特徴が十分に発揮できなくなり,重心の課題の解決に支障を生じ得るともいえると\nころである。この点,本件明細書には,先端部の形状について,「楕円形」としてど
のような範囲内のものであれば重心の課題が適切に解決されるかの判断の資料とな
り得るデータ等は,何ら記載されていない。
ウ 本件発明の実施例は,本件明細書の【0065】〜【0069】及び【図3】
のとおりであり,先端部の長手方向の断面は,請求項1の発明の実施例(同【図2】)
の先端部の形状である「球形」の長手方向の断面である円を左右(矢の進行方向か
らすると前後)に二つに分割してその間に長方形を挟み込んだような形(換言する
と,「円」を左右に引き伸ばしたような形)であって,「小判型」や「俵型の断面」
などというべきものであり,幾何学上の楕円の形状とは異なるものの,長手方向の
両端の曲率を同じくするものである。上記の形については,本件明細書に実験結果
が記載されており,また,前記イ(イ)で指摘したような,ピン抜けの課題の解決や重
心の課題の解決に支障を生じ得るといった事情も認め難いものといえる。
(3) 構成要件B及びDの「楕円形」の意味及び文言侵害の成否について\n
ア 前記(1)及び(2)の点を踏まえると,構成要件B及びDの「楕円形」は,幾何\n学上の楕円の形状や,本件発明の実施例の形のような,楕円に近い形状であって長
手方向の両端の曲率を同じくする形状は含むものと解される一方で,曲率に差のあ
る形状は含まないものと解するのが相当である。なお,これと異なる技術常識を認
めるべき証拠もない。
イ 被告製品のピンの先端部は,「長手方向断面が,前部が曲率の緩い曲線形状,
後部が略円錐形となるように円弧を描き,後部の円柱部との接合面が上下に角を有
し,前記後部の角と角とを直線で結んだ形状である先端部」(構成要件b)であり,\n曲率に差のある形状の一端を更に一定の範囲で切断した形状というべきものである
から,構成要件B及びDの「楕円形」には含まれない。\nしたがって,被告製品が,文言上,本件発明の技術的範囲に属するとは認められ
ない。
ウ 被控訴人は,曲率に差のある形状のピンの先端についても,1)「かえし」が
ないため矢が抜きやすいこと,2)上下方向の重心が均等であり,また,3)従来技術
の釘形状の先端部と比べて錘として重くなり,矢全体の長手方向の重心を前寄りに
寄せることという本件発明の技術的意義を満たすものであるから構成要件B及びD\nの「楕円形」に含まれると主張するが,前記(1)及び(2)で認定説示した点に照らし,
上記1)〜3)を満たすことから直ちに上記「楕円形」に含まれるということはできな
い(なお,被控訴人の上記主張によると,請求項1の発明に係る「球形」が,同時
に本件発明に係る「楕円形」に含まれることとなり得,この観点からも上記主張は
相当といい難い。)。
また,被控訴人は,本件で問題になっているのは,一般的に楕円形といえばどの
ような形を最初に思い浮かべるかではなく,卵形や涙滴型のような,長手方向の端
の一方が他方よりも緩い曲率の形状を「楕円形」と表現するのか否かであると主張\nするが,被告製品の先端部の形状が本件発明の構成要件B及びDの「楕円形」に含\nまれるかという判断に先立って,まず,本件発明の構成要件の解釈として構\成要件
B及びDの「楕円形」の意味が問題となるのであるから,被控訴人の上記主張は,
その前提を誤るものといえ,前記ア及びイの判断を左右するものではない。
4 争点1−2(均等侵害の成否)について
・・・・
(エ) 本件発明の構成要件A〜Eに加え,前記(ア)ないし(ウ)を踏まえると,本件発
明について,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分とは,\nピンと巻いたフィルムによって構成される吹矢において,構\成要件B〜Dのうち,
特に「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とか
らなるピン」,「先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ・・・たフィルム」
及び「前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続さ
れた」という構成を採用することにより,ピン抜けの課題と重心の課題をともに解\n決するという点にあると解される。
(オ) 前記3で認定判断した構成要件B及びDの「楕円形」の意味及び弁論の全趣\n旨によると,本件発明の先端部の形状と被告製品の先端部の形状について,1)本件
発明では「楕円形」であるのに対し,被告製品では,曲率に差のある形状を基礎と
して,「長手方向断面が,前部が曲率の緩い曲線形状,後部が略円錐形となるよう
に円弧を描」く形状となっていること(なお,別紙乙第1号証のとおり,後部の略
円錐形となるような円弧について,一定の曲率が選択されているものである。乙3
の1・2,乙15参照)と,2)根元段差部分があることとにおいて,異なっている
ということができる。
上記のうち1)について,前記3(2)イで指摘したところからすると,本件発明は,
少なくともピン抜けの課題の解決方法として,「長手方向断面が楕円形である先端
部」という構成を採用したものと解される。そして,同イ(イ)で指摘したとおり,「長
手方向断面が楕円形」という形状を曲率に差のある形状に変更した場合,ピン抜け
の課題の解決や重心の課題の解決に支障を生じ得るともいえるところ,「楕円形」と
してどのような範囲内のものであればピン抜けの課題が適切に解決されるかの判断
の資料となり得るデータ等は本件明細書に記載されていない。
そうすると,本件発明における前記3(3)で認定判断した意味での「長手方向断面
が楕円形」という先端部の形状の特定は,本件発明の本質的部分に含まれるものと
いうべきであり,それを被告製品の先端部の形状に置き換えることは,本件発明の
本質的部分を変更するものというべきである。
ウ したがって,本件発明の構成中に,被告製品と異なる部分が存在するところ,\n異なる部分は本件発明の本質部分であるから,第1要件を満たさない。
(2) 第3要件について
また,本件全証拠をもってしても,本件発明の「長手方向断面が楕円形」という
形状を被告製品の先端部の形状に置き換えることについて,前記3(2)イ(イ)で指摘
したとおり,曲率に差のある形状への変更によりピン抜けの課題の解決や重心の課
題の解決に支障を生じ得るともいえる一方で,どのような範囲内の変更であればそ
れらの課題がなお適切に解決されるかの判断の資料となり得る記載が本件明細書に
ないにもかかわらず,当業者が被告製品の製造等の時点において上記置換えを容易
に想到することができたというべき技術常識等は認められない。
したがって,第3要件も満たさない。
(3) まとめ
したがって,その余の点について判断するまでもなく,均等侵害は成立しない。
(4) 被控訴人の主張について
ア(ア) 被控訴人は,第1要件について,「かえし」部分が存在せず,矢が的や前の
矢から引き抜きやすい滑らかな曲線状の長手方向断面形状を有する先端部と,当該
先端部の略中心部を円柱部が通る形状のピンを備えているという点が本件発明の本
質的部分であると主張するが,前記(1)ア及びイで認定説示したとおりであって,被
控訴人の上記主張は採用できない。それゆえ,上記主張を前提とする本件発明と被
告製品との一致点・相違点に係る被控訴人の主張も採用できない。
(イ) 被控訴人は,第1要件について,ピンの先端部の後方部の形状に着目したと
いう点で本件発明は技術的思想として新しいなどとも主張するが,そのような着眼
点に本件発明の一つの特徴があるとしても,その上で,本件発明においては,課題
解決の方法として,「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状が選択されたとい
う事情を均等侵害の成否の検討においても無視することはできず,また,ピンの先
端部の後方部の形状に係る構成は,本件発明による複数の課題の解決のうちのいま\nだ一つにとどまるというべきものであるから,被控訴人の上記主張は,前記(1)イ及
びウの認定判断を左右するものではない。
イ 被控訴人は,第3要件について,本件発明は,矢が的や前の矢から引き抜き
やすいピンの先端部を提供するものであり,そのためにはピンの先端部の形状は球
形や楕円形に限られず,「かえし」部分が存在せず,かつ,引き抜く際の抵抗がよ
り小さくなるような滑らかな曲線状で形成されていればよいことは,当業者におい
て容易に想到できるなどと主張するが,前記ア(ア)のとおり,本件発明の本質的部分
についての被控訴人の主張は採用できないから,当業者において容易に想到できる
という被控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであり,第3要件を満たさない
というべきことは,前記(2)のとおりである。その余の被控訴人の主張も,本件発明
の本質的部分についての被控訴人の主張を前提とするものか,本件発明において課
題解決の方法として「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状が選択されたと
いう事情を無視するもので相当でないものであって,いずれも採用できない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成31(ワ)2675
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2022.02.22
令和3(ネ)10066 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年2月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明について、構成要件Bの「操作メニュー情報」を有するとは認められないとして、1審判断を維持しました。
ア 前記のとおり補正して引用する原判決が説示するとおり(原判決46頁
23行目ないし49頁1行目),本件各発明の特許請求の範囲の記載内容
に加え,本件明細書の段落【0012】の記載内容及び【図7】に記載さ
れた本件各発明の実施例としての様々な操作メニュー情報の表示内容か\nらすれば,本件各発明の「操作メニュー情報」とは,「ポインタの座標位置
によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段
に表示するため」の「画像データ」であり,出力手段に表\示され,利用者
がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構\
成されていることを要するものというべきである。
イ そして,被告製品のページ一部表示が,縮小された中央ページの右端又\nは左端あるいは両端に,幅が細く縦長の白みがかった長方形として表示さ\nれること,そこには何の文字,図形,記号,アイコン等は表示されないこ\nとからすれば,当該長方形部分のみを見た利用者は,それがどのような命
令を実行する表示であるのかを理解することはできないというべきであ\nり,したがって,被告製品のページ一部表示の画像は本件各発明の「操作\nメニュー情報」には当たらず,本件ホームアプリが構成要件Bの「操作メ\nニュー情報」を有するとは認められないことは,前記のとおり補正して引
用する原判決が説示するとおりである(原判決49頁2行目ないし50頁
6行目)。
控訴人は,1)被告製品においては構成e又は構\成e’によってそれまで
表示されていなかったページ一部表\示の画像が液晶画面に表示されるよ\nうになること,2)ページ一部表示の画像と壁紙画像との境界が明確である\nことを指摘するが,これらの点は,いずれも利用者がページ一部表示の画\n像自体から「実行される命令結果」の内容を理解することができるか否か
に関わるものではないから,上記の判断を左右するものではないというべ
きである。また,控訴人は,3)被告製品のページ一部表示の画像が表\現し
ている表示内容は,実行されるスクロール命令の結果を小さな絵で表\現し
た画像であるとも指摘するが,上記のとおり,ページ一部表示の画像は,\nその表示内容等からすれば,利用者がその表\示自体から「実行される命令
結果」の内容を理解できるように構成された画像データであるということ\nはできない。
なお,上記の判断に照らすと,控訴人が上記第2の3(1)アにおいて主張
する判断基準によったとしても,被告製品のページ一部表示の画像は,少\nなくとも同主張における3)の要件を満たすものとはいえないから,本件ホ
ームアプリが構成要件Bの「操作メニュー情報」を有するとは認められな\nい。
ウ したがって,控訴人の主張(1)アは採用することができない。
(2) 控訴人の主張(1)イについて
ア 控訴人が主張(1)イにおいて指摘する各点は,いずれも上記(1)で検討し
たところと同様の事情であるといえるから,いずれも前記の判断を左右す
るものではないというべきである。そして,このことは,本件ホームアプ
リに係るソースコードの記載内容を基に検討した場合であっても同様で\nある。
イ したがって,控訴人の主張(1)イは採用することができない。
(3) 小括
ア 控訴人は,上記のほかにも,争点1−3について縷々主張するが,いず
れも前記の判断を左右するものではないというべきである。
イ 以上によれば,本件ホームアプリは,構成要件Bにいう「操作メニュー\n情報」を有するとは認められず,被告製品が構成要件Bを充足するものと\nは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,被告製品
が本件各発明の技術的範囲に属するものと認めることはできない。
◆判決本文
原審はこちら。
◆令和2(ワ)15464
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2022.02.14
令和2(ワ)19927 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年12月24日 東京地方裁判所
薬について技術的範囲に属しないと判断されました。均等侵害についても本質的要件を満たさないと判断されました。
原告は,本件発明3は,慢性疼痛に対する画期的処方薬として,抗て
んかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだ
したものであり,その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用い
る点にあるから,対象となる痛みが侵害受容性疼痛か,神経障害性疼痛
や線維筋痛症かは本質的部分ではなく,効能・効果を神経障害性疼痛や\n線維筋痛症に伴う疼痛とし,慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告
医薬品は,均等侵害の第1要件を満たすと主張する。
しかし,前記1(1)アのとおり,本件特許に係る発明は,てんかん,ハ
ンチントン舞踏病等の中枢性神経系疾患に対する抗発作療法等に有用な
薬物である本件化合物が,痛みの治療における鎮痛作用及び抗痛覚過敏
作用を有し,反復使用により耐性を生じず,モルヒネと交叉耐性がない
ことに着目した医薬用途発明であるところ,前記2(1)イのとおり,本件
出願当時,痛みには種々のものがあり,その原因や機序も様々であるこ
とが技術常識であった。
そうすると,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発明
3において本質的部分というべきであり,その鎮痛効果の対象を異にす
る被告医薬品は,本件発明3の本質的部分を備えているものと認めるこ
とはできない。したがって,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載さ
れた構成中の被告医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でない\nということはできないから,被告医薬品は均等の第1要件を満たさない。
(イ) また,前記(1)アによれば,原告は,本件訂正前発明3においては鎮痛
の対象となる痛みを限定していなかったところ,本件訂正により「炎症
を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」に限定していること
からすると,本件発明3との関係においては,被告医薬品の効能・効果\nである神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を意図的に除外したと
認めるのが相当である。
したがって,被告医薬品は均等の第5要件も満たさない。
◆判決本文
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2022.02.13
令和1(ワ)25121 特許権 令和3年12月9日 東京地方裁判所
CS関連発明について、技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断されました。
このように,乙8発明は,ユーザから入力された情報から抽出したキーワードに
基づいてそれに関連するウェブページを収集し,そのリンク情報を取得して記憶し,
ユーザ端末にキーワードに関連するウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する
ものである。しかして,かかるウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力すること
は,ユーザに対してユーザの関心のある事項に関連するウェブサイトの閲覧を勧め
るものであるといえ,当該リンクを出力することは,ユーザに対する提案を行うも
のということができ,また,当該リンクはウェブ上から取得されるものであるから,
ウェブサイトからユーザに対して提案すべき情報を取得しているということができ
る。
そうすると,乙8発明がユーザコメントに基づいてリンクを出力するアバター管
理部及び情報収集部は,構成要件1Eの「前記第1又は第2受付手段によって受け\n付けられた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行う提案手段」に相当し,
また,乙8発明の,アバター管理部及び情報収集部によりユーザコメントに基づい
てウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する機能は,構\成要件5Eの「前記受
け付けた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行うステップ」に相当する。
さらに,乙8発明における,ウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリ
ンクを取得する情報収集部は,構成要件1Fの「前記個人情報に基づいてウェブサ\nイトから前記ユーザに対して提案すべき情報を取得する手段」に相当し,上記情報
収集部によりウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリンクを取得する
機能は,構\成要件5Fの「前記個人情報に基づいてウェブサイトから前記ユーザに
対して提案すべき情報を取得するステップ」に相当する。
その他,構成要件E及びFと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件E及びFは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
エ 構成要件G(「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段と,を有する」「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促すステップと,を更に有する」)につき,\n乙8発明と対比する。
構成要件Gに関し,本件明細書の記載をみると,「飲みすぎないように!」などの\nアドバイスのメッセージを出力する旨の記載があり(【0119】),かかる記載内容
からすると,構成要件Gにおける「注意を促す」とは,気を付けるように仕向ける,\n気を配るように仕向けるとの意であると解することができる。
しかして,乙8発明は,スケジュールが未完了であることが確認すると,アバタ
ーから,「スケジュールが未完了だよ。代わりのスケジュールを入力してね」のよう
な,スケジュールの修正を依頼するアバターコメントを出力する機能を有する(【0\n043】)。そして,乙8発明の学習・生活支援サーバ内にはアバターコメントを出
力するアバター管理部が実装されている(【0024】等)ところ,上記機能は,ユ\nーザに対してスケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は,
スケジュールに気を配るように仕向けるものであるといえる。
そうすると,乙8発明の,アバターコメントの出力を実行するアバター管理部は,
構成要件1Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段」に相当し,ま\nた,乙8発明の,ユーザに対して上記の趣旨のアバターコメントを出力するアバタ
ー管理部の機能は,構\成要件5Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す
ステップ」に相当する。
その他,構成要件Gと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Gは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
オ 構成要件H(「情報提供装置。」「を情報提供装置に実行させる情報提供プロ\nグラム。」につき,乙8発明と対比する。
乙8発明のアバター管理部によるアバターコメントの出力は,情報の提供に当た
るため,この点をもって既に,アバター管理部を有する乙8発明の学習・生活支援
サーバは,情報を提供する装置(「情報提供装置」)であるということができる。
また,上記サーバは,アバター管理部のほかに,ユーザ情報管理部,テキスト分
析部,情報収集部,コンテンツ管理部で構成される制御部を有しており,制御部は,\n少なくとも一つのCPU等を備え,ROM等に予め記憶されたプログラムを読み込\nんで実行することにより,上記各部の機能を事項することが可能\となるものである
(【0021】等)ことから,乙8発明の学習・生活支援サーバは,情報提供装置で
あって,各種機能を実行させる情報提供プログラムを有しているといえ,乙8発明\nは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プログラム」と同
一であるといえる。
その他,構成要件Hと乙8発明の間に,実質的に相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Hは,乙8発明の構\成と実質的に同一のものといえる。
(4) したがって,本件各発明は,その全ての構成要件が,乙8発明の構\成と実質
的に同一のものであるから,本件各発明は,乙8発明との関係で,新規性を欠くも
のといわざるを得ず,いずれも,特許無効審判により無効にされるべきものと認め
られる(特許法29条1項3号,123条1項2号)。
(5) 原告らの主張について
原告らは,1)乙8公報に記載されている「スケジュールの修正を依頼する」とは,
構成要件Eにおける,議案や意見を提出するという「提案を行う」こととは相違す\nる,2)乙8公報がユーザ端末に出力するウェブサイトのリンクは,ウェブサイトの
所在を示す情報であって,この所在を示す情報が,「提案を行う」内容である議案や
意見であるはずがなく,乙8発明は構成要件Eと相違し,また,ウェブサイトのリ\nンクはユーザに対して提案すべき情報を規定している構成要件Fの「情報」とも相\n違する,3)乙8発明がユーザのスケジュールが未完了であることを確認した場合に
ユーザにスケジュールの修正を依頼することは,構成要件Gの,気を付けるよう仕\n向けることとは相違する,4)乙8発明のユーザ端末は,情報提供をするものではな
いから,構成要件Hと相違する,などとして,本件各発明が乙8発明の構\成と実質
的に相違する旨主張する。
しかしながら,原告らの上記各主張は,次のとおり,いずれも理由がないという
べきである。
まず,上記1)及び3)の点については,乙8発明において「スケジュールの修正」
を依頼されたユーザは,スケジュールが完了していないことを知り,新たなスケジ
ュールを考えて入力するように促されることとなるのであって,「スケジュールの
修正の依頼」も,ユーザに対して新たなスケジュールを組み立てる旨の議案や意見
の提出にも当たるといえるから,構成要件Eの「提案を行う」と実質的に同一の構\
成であるといえる。また,乙8発明の上記のような働きは,まさにユーザに対しス
ケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は,気を配るよう
に仕向けることであるといえるから,乙8発明は,構成要件Gの「注意を促す手段」\nないし「注意を促すステップ」と実質的に同一の構成を有するといえる。\nまた,上記2)の点については,構成要件Eの「提案を行う」との文言について,\n特許請求の範囲及び本件明細書の記載に,ユーザに提案すべき情報の具体的内容を
限定する根拠となるものはなく,ウェブページを出力することに限る旨の示唆もな
い。その上,前記説示のとおり,キーワードに関連するウェブページのリンクをユ
ーザ端末に出力することは,当該リンク先のウェブページを閲覧することをユーザ
に勧めることに該当し,まさに,この点が「提案」といえるというべきである。そ
うすると,乙8発明のアバター管理部が当該リンクをユーザ端末に出力することは,
構成要件Eが規定するユーザに対する「提案を行う」との構\成と,同一であるとい
わなければならない。また,構成要件Fの「情報」との相違を指摘する原告の主張\nも,結局,リンクはあくまでウェブサイトの所在を示す情報に過ぎず,これがユー
ザに対して提案すべき情報には当たらないとの主張であると解されるが,前記のと
おり,ユーザ端末にユーザの個人情報に基づいてこれに関連するウェブページのリ
ンクを出力することは,ユーザに対して当該リンク先のウェブページの閲覧を勧め
るという意味において,ユーザに提案すべき情報を表示するものであり,乙8発明\nにおいてユーザ端末に出力されるリンクは,構成要件Fの「情報」と異なるもので\nはないというべきである。
さらに,上記4)の点は,前記説示のとおり,乙8発明の学習・生活支援サーバ及
びプログラムは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プロ
グラム」と同一であるといえる。
以上によれば,原告らの主張はいずれも採用することができない。
◆判決本文
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2022.01.26
令和3(ネ)10031 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年1月13日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
IPブリッジによる侵害事件です。知財高裁は技術的範囲に属しないとした1審判断を維持しました。控訴人は本件発明はDRAMも含むと主張しましたが、裁判所は、明細書における本件発明の課題とその解決原理から、含まれないと判断しました。
イ 控訴人の主張ア(イ)(本件発明の課題解決原理に基づく検討について)に
つき
本件発明の技術的意義(前記1(2))に鑑みれば,本件明細書に開示され
た発明は,半導体チップ上の領域ごとのゲート電極周縁長の合計が異なる
半導体集積回路装置(具体的にはシステムLSI)において,このような
領域ごとのゲート電極周縁長の合計のばらつきが,従来知られていたマイ
クロローディング効果による局所的なパターン寸法の変動などとは異な
り,半導体チップ全体にわたるCDロスに許容できないほどの変動をもた
らすという,本件特許の出願時においては新規な課題を見い出し,これを,
ダミーパターンを挿入してゲート電極周縁長のばらつきを抑えることに
より解決したものである。したがって,本件発明の課題とその解決原理に
照らすと,本件発明の「半導体集積回路装置」は,システムLSIを意味
するものと解される。
本件特許の出願時に既に慣用されていたDRAMにおいて,メモリセル
アレイを構成するビットラインやワードラインが,DRAMにおける他の\n回路と比較して周縁長が密な回路パターンであり,メモリセルアレイ領域
とそれ以外の回路領域とではゲート電極周縁長の合計がばらつくという
技術常識があったとしても,それが,DRAMを構成する半導体チップ全\n体にわたるCDロスに許容できないほどの変動をもたらすものであるこ
とは,本件明細書に何ら言及されておらず,また,上記の新規な課題が,
システムLSI中の一部の領域にすぎないDRAM単体においても同様
に生じるものであると認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件発明の課題とその解決原理に照らして,本件発明の「半
導体集積回路装置」は,システムLSIを意味するものと解され,DRA
Mを含むと解することはできない。
ウ 控訴人の主張ア(ウ)(審査経過に基づく検討について)につき
控訴人は,審査経過に関し,第1回目及び第2回目の拒絶理由通知につ
いて,審査官は,本件特許の発明がシステムLSIの発明であるとは認識
しておらず,また,出願人の意見書においても,本願発明と引用発明の相
違点について,本願発明はシステムLSIであるのに対して引用発明はシ
ステムLSIではないという説明はしていないと主張する。
しかし,そもそも特許発明の技術的範囲の画定は,特許請求の範囲の記
載に基づいて定められるが,特許請求の範囲に記載された用語の意義の解
釈は明細書及び図面を考慮して行われるのであって(特許法70条1項及
び2項参照),特許出願の審査過程において,審査官がその特許発明をどの
ように理解していたかということは,裁判所の特許発明の技術的範囲の画
定の判断を拘束するものではない。
また,出願人は,第1回目の拒絶理由通知に対する意見書(平成15年
11月28日提出,乙2)において,特許法29条1項3号及び同条2項
の規定に該当しない理由として,「言い換えると,ダミーパターンを挿入す
ることによって,異なるマスクパターンレイアウト間でパターンの粗密の
程度を小さくします。このため,ライン状パターンに品種に依存した寸法
変動が生じることを防止できるので,DRAM等の搭載率が用途又は仕様
により異なるシステムLSIにおいても,ゲート電極又はメタル配線等の
加工寸法をマスクパターンレイアウトと無関係に一定にできます。従って,
請求項4の発明によると,動作マージンのバラツキが解消された半導体集
積回路装置を実現できるという格別の効果が得られます。」(乙2〔2〜3
頁〕)と記載し,第2回目の拒絶理由通知に対する意見書(平成16年3月
25日提出,乙4)において,特許法29条2項の規定に該当しない理由
として,「言い換えると,ダミーパターンを挿入することによって,異なる
マスクパターンレイアウト間でパターンの粗密の程度を小さくします。こ
のため,本願明細書の段落番号[0132]に記載されておりますように,
『半導体集積回路装置の品種によりマスクパターンレイアウトが大きく
異なる場合にも,マスクパターンレイアウトの違いに起因してライン状パ
ターンに寸法ばらつきが生じることを防止できる。従って,DRAM等の
搭載率が用途又は仕様により異なるシステムLSIにおいても,ゲート電
極又はメタル配線等の加工寸法をマスクパターンレイアウトと無関係に
一定にできるので,動作マージンのバラツキが解消された半導体集積回路
装置を実現できる』という格別の効果・・・が得られます。」(乙4〔4頁〕)
と記載し,いずれの意見書においても,本願発明がシステムLSIに用い
られて効果を生ずることを明確に述べており,このような段階を踏まえて
本件特許が登録されたものである。
したがって,仮に,審査官が,拒絶理由通知を発出する際に,特許請求
の範囲に記載された発明の要旨認定において,「半導体集積回路装置」を,
その一般的な字義どおりに,DRAMを含む半導体集積回路装置全般と解
釈しており,また,出願人の意見書において,本願発明と引用発明の相違
点として,本願発明はシステムLSIであるのに対して引用発明はシステ
ムLSIではないことが明示されていなかったとしても,それに基づいて,
本件発明の「半導体集積回路装置」にシステムLSIではないDRAM自
体が含まれるということはできない。
(3) そうすると,本件発明における「半導体集積回路装置」(構成要件1A,1\nE,5B,5E等)という語は,システムLSIを意味するものとして用い
られており,DRAMはこれに含まれないというべきであり,DRAMであ
ることに争いのない被控訴人製品(前記第2,2による引用のうちの原判決
「事実及び理由」第2,2⑽(原判決8頁20〜23行目))は,本件発明1
の構成要件1A,1E,本件発明5の構\成要件5B,5Eをいずれも充足せ
ず,本件発明1及び本件発明5の技術的範囲のいずれにも属さないものと認
められる。
控訴人は種々主張するが,その主張は,いずれも採用することができない。
◆判決本文
原審はアップされていません。
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2022.01.11
平成31(ワ)647 債務不存在確認請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年8月26日 東京地方裁判所
Appleによる債務不存在確認訴訟です。進歩性無しとして104条の3で権利公使不能と判断されました。\n
ウ そこで,以上の説示を前提として,以下,公然実施発明1への甲5−1発
明の組合せの可否について検討する。
まず,公然実施発明1は,スリープ状態とスリープ解除状態とを有し,スリープ
状態からスリープ解除状態とする際の操作及びその際にロック画面が表示されるス\nマートフォンというものであり,他方,甲5−1発明の技術分野は,生体情報を利
用した電子デバイスの内蔵認証システムに関するものである。そうすると,両発明
の技術分野については関連性が存するものというべきである。
また,公然実施発明1は,スリープ状態において,ホームボタンを押すことによ
り,デバイス機能を有効にするときに,起動して認証を行うというものであるか\nら,ホームボタンの押下によりスリープ状態からスリープ解除状態に切り替わった
ときに,パスコード認証によりユーザを識別するという機能を有するものである。\nこの点,公然実施発明1においては,ホームボタンの押下の後,パスコード認証の
前に,ロック画面においてスライダをドラッグするという操作入力という構成があ\nるが,この構成については,タッチパネル入力による誤作動防止(パスコードによ\nる認証の設定がされている場合は,パスコードやホーム画面の誤作動防止であり,
パスコードによる認証の設定がされていない場合であっても,ホーム画面の誤作動
防止)という,ユーザ識別とは別の技術的意義があるといえるところ,パスコード
認証という構成は,これとは別の,ユーザ識別のための構\成として把握することが
できるものであって,上記スライダをドラッグするという構成とは可分な別個の構\
成であるというべきである。そして,甲5−1発明における「ユーザがデバイスを
オンにする,ロックを解除する,または,起動する」ことは,デバイスの機能を有\n効にすることであるといえ,また,デバイス機能を有効にする前に,生体情報の提\n供をユーザに対して要求する認証方法という構成のものである。そうすると,公然\n実施発明1と甲5−1発明とは,デバイスの機能を有効にするときに,ユーザ識別\nのための認証動作を行う点に関して,その作用機能が共通するものと認められる。\n以上によれば,公然実施発明1と甲5−1発明においては,技術分野の関連性及
び作用機能の共通性が認められるものであって,当業者(その発明の属する技術の\n分野における通常の知識を有する者)において,両者を組み合わせる動機付けがあ
るものと認められるものであり,その他,本件全証拠をみても,両者の組合せを阻
害する事情を認めるに足りる主張立証はない。そうすると,公然実施発明1のデバ
イスの機能を有効にするときのユーザ認証として,甲5−1発明におけるデバイス\nの機能を有効にするときにデバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証するため\nのホームボタンの背後に配置した指紋を検出するセンサによって指紋認証を行う構\n成を組み合わせることは,当業者が容易に想到できたことである。また,公然実施
発明1はパスコードの入力による認証に関して,誤ったパスコードが入力されると,
ロック状態が維持され,ディスプレイに認証を行うよう求めるメッセージが表示さ\nれる構成を有するし,甲5−1発明も,特定されたユーザが許可されていないと判\n断した場合,認証を行うようユーザに指示する構成を有し(甲5文献【0080】),\nかかる指示がディスプレイ部に表示することによってなされること,及びユーザ認\n証のための操作が行われると,認証結果にかかわらずディスプレイがオンにされる
ことは,当該技術の性質・内容に照らし,周知慣用技術といえる。そして,公然実
施発明1は,使用者識別機能による認証の結果,使用者が正当な使用者と認証され\nなければロック状態を維持するものであるところ,公然実施発明1に甲5−1発明
を組み合わせる際に,かかる構成をあえて排除又は変更する理由は,本件全証拠を\nみても見当たらない。
以上からすると,当業者は,相違点1に係る構成を容易に想到することができた\nものといえ,本件発明1−1を容易に発明することができたものと認められる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,公然実施発明1は,パスコードの入力という使用者識別機能を有\nするものの,指紋等の生体情報による内蔵認証システムを有するものではなく,こ
れを有する甲5発明とは技術の点における共通性がない旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,両発明においては,いずれも,デバイスの機能を有\n効にするときにユーザ識別のための認証動作を行う点で共通しているのであって,
パスコードの入力による認証方法と指紋等の生体情報による認証方法というように
認証に用いる情報の内容は異なるものの,両発明の技術分野に相違があるとは認め
られない。そうすると,被告の上記主張は,採用することができない。
(イ) また,被告は,公然実施発明1は,ホームボタンに対する操作入力及びスラ
イダのドラッグ操作を経てから使用者識別機能を実行するものであるところ,これ\nは,デバイス機能を有効とする前あるいはデバイスリソ\ースへのアクセスの前のシ
ームレスな認証という甲5発明の課題と共通しないから,公然実施発明1に甲5発
明を組み合わせる動機付けがないと主張する。
しかしながら,前記説示のとおり,公然実施発明1に係るパスコード認証という
構成については,ユーザ識別のための構\成として,上記のスライダをドラッグする
という構成とは可分な別個の構\成として把握することができるというべきである。
そうすると,公然実施発明1におけるパスコードによる認証という構成と,甲5−\n1発明におけるシームレスな認証処理という構成とは,ユーザにおいて許可されて\nいない人が個人情報にアクセスして閲覧することを防ぐ方法の一つとしての認証方
法を備えている点で共通するものであり,両発明において,デバイス機能を有効に\nするときのユーザ認証の動作に関して,その作用機能が共通するものと認められる\nことに変わりはない。すなわち,ユーザによる誤作動の防止と,スリープ状態にお
いてホームボタンを押してユーザ識別を実行するための動作とは,その性質内容に
照らし,互いに別個のものということができ,公然実施発明1がユーザによる誤作
動防止の意義を有するからといって,これに甲5−1発明を組み合わせることがで
きないことになるとはいえない。
そうすると,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) さらに,被告は,本件発明1−1は,1) 指紋認証による使用者識別機能が,\n非活性状態から活性状態に切り替えるための操作入力により,かつ,使用者による
追加操作なしに行われる,2) 使用者識別機能による認証の結果,使用者が正当な\n使用者と認証されなければ,移動通信端末機のロック状態を維持するとともに,デ
ィスプレイ部にメッセージを表示する,3) 活性化ボタンにおいて非活性状態にあ
るときに操作入力を受け付けると,使用者識別機能による認証の結果にかかわらず,\nディスプレイ部をオンにして活性状態に切り替えるという構成を有するが,公然実\n施発明1にはこれらのいずれも有していないという相違点があるところ,甲5発明
には,上記1)ないし3)に係る構成が開示されていないため,両者を組み合わせても,\n上記相違点を埋めることはできないと主張する。
しかし,被告主張の上記1)については,上記ウで説示したとおり,公然実施発明
1のデバイスの機能を有効にするときにユーザ認証として,甲5−1発明における\nデバイスの機能を有効にするときにデバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証\nするための構成を,公然実施発明1のスライダを備えたロック画面を残したまま組\nみ合わせることは当業者が容易に想到できたことである。
また,公然実施発明1は,パスコードを入力することによる使用者識別機能によ\nる認証の結果,認証されなければロックを維持するものといえるところ,公然実施
発明1に甲5−1発明を組み合わせる際に,かかる構成をあえて排除又は変更する\n理由が認められないこと,ユーザ認証がされなかった場合には,ディスプレイに認
証を行うよう求める旨のメッセージが表示されること,及びユーザ認証のための操\n作が行われると,認証結果にかかわらずディスプレイがオンになることは周知慣用
技術といえることは,前記説示のとおりである。そうすると,被告主張の上記2)及
び3)について,実質的な相違点ということはできないというべきである。
以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。
オ 小括
上記によれば,本件発明1―1は,当業者が公然実施発明1に甲5−1発明を組\nみ合わせることにより,容易に想到することができたものといえ(特許法29条2
項),本件発明1−1は,特許無効審判により無効にされるべきものというべきで
ある(同法123条1項2号)。
・・・
7 争点3−3(無効理由2の解消の有無)
(1) 本件訂正事項2−1,2−2に係る訂正による無効理由2の解消の有無
ア 訂正の概要
本件訂正事項2−1は,本件発明2−1の構成要件2−1Cの活性状態をロック\n画面が表示されたものに限定するものであり,本件訂正事項2−2は,本件発明2\n−2の構成要件2−2Aに,「前記ロック画面には,現在の時間を表\示することがで
きる」と追加するものである。
イ 本件訂正事項2−1,2−2に係る訂正による無効理由2の解消の有無
しかしながら,本件訂正発明2−1及び本件訂正発明2−2と公然実施発明2と
を対比してみたとしても,前記5(2)で認定した公然実施発明2の構成からすれば,\nスリープ状態からスリープ解除状態においてロック画面が表示される点,同画面に\n現在の時間を表示することができる点について,相違するものではない。\n以上によれば,本件訂正事項2−1,2−2に係る訂正によっても,無効理由2
を解消することはできないといわなければならない。
◆判決本文
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2022.01.11
令和1(ワ)27053 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年8月31日 東京地方裁判所
出願経過から用語の意義を解釈して、技術的範囲に属しないと判断されました。
争点1−1(被告製品の小径部側壁部は,係止片は大径部側に一体形成される一方
小径部側には設けられていないという文言を充足するか−構成要件1E4),2E4),
3E5)充足性)について
構成要件1E4),2E4),3E5)によれば,「係止片は」「大径部側に」「一体形成
される一方」「小径部側には設けられておらず」というのであり,上記のとおり,本
件発明は,従来よりも安全性などの向上を図るというその目的をより良く達成する
という上記の技術的見地から,針先再露出防止を担う係止片の構成を工夫して,拡\n開部の大径部側に一体形成し小径部側には設けないという構成を採用したものとい\nうことができる。これによれば,本件発明において,拡開部に設ける「係止片」に
ついては,大径部側に一体形成されている必要があるとともに,小径部側には設け
られていない構成である必要があるものであって,「係止片」が小径部側に設けられ\nている構成は排除されているものといわなければならない。\n
そして,この「係止片」は,使用後の針先再露出を防止する部材であるといえる
が,当該部材が針先の先端側への移動を阻止して針先再露出を防止する態様につい
ては,構成要件1Dに「該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた\n所定位置において,該針先プロテクタに設けられた係止片が該針ハブに対して係止
される」とある以上には何ら具体的な限定がなされていない。また,本件明細書の
発明の詳細な説明を見ても,当該部材が,針先の先端側への移動を阻止する具体的
態様を限定する根拠となり得るような記載は見当たらない。加えて,本件特許の出
願経過を見ると,証拠(乙14,15)によれば,原告は,令和元年5月15日頃,
特許庁から進歩性欠如等を理由とする拒絶理由通知を受け,その際,構成要件1D\nに関し,「針先プロテクタの断面形状を,周知の形状である小径部と大径部とを備え
た楕円形とし,大径部の周壁に針ハブ係合部を設け,大径部の周壁で覆われた内部
に係止部を設けた構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。」などと\n指摘されたことを踏まえて,同年6月19日,従前の請求項で「前記拡開部の前記
大径部に対応する位置に,前記筒状の周壁に一体形成された前記係止部が設けられ
て」と記載していた部分を,「前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される一方,
前記小径部側には設けられておらず,」と補正したものであることが認められる。そ
の上で原告は,同日特許庁に提出した意見書において,本件発明の進歩性を基礎付
ける事情として,拒絶理由通知書で審査官が指摘した引用文献(乙27,29)に
ついては,いずれも針先プロテクタの小径部側に係止部が設けられており本件発明
とは異なる旨主張し,その際,当該係止部が針先の先端側への移動を阻止する具体
的態様には言及していなかったことが認められる。そして,本件特許は,その上で
登録されている。
そうすると,本件特許請求の範囲の記載文言をみても,本件明細書の発明の詳細
な説明をみても,小径部側に設けられてはならないとされている「係止片」が針先
の先端側への移動を阻止する具体的態様を限定する根拠となり得るような記載がな
く,加えて,原告自身,本件特許の出願手続においては,その特許請求の範囲を前
記のように「前記小径部側には設けられておらず,」と補正した上で,意見書におい
て,具体的態様については何ら限定しないまま,小径部側に「係止片」が設けられ
ていない点を本件発明の進歩性を基礎付ける事情として主張し,その上で本件特許
が登録されたものである。
以上によれば,本件発明において小径部側に設けられてはならない「係止片」は,
針先の先端側への移動を阻止する具体的態様が限定されているものではなく,他の
部材と協働して針先の先端側への移動を阻止する構成を含むものであるといわなけ\nればならない。
そこで,被告製品をみるに,前記前提事実によれば,被告製品においては,針基
に設けられた針リブと針先保護部に設けられた小径部側壁部とが,小径部側壁部の
突端面により縦リブの側面を挟持することで互いに係合することにより,針基が針
先保護部に対して回動することを防止する構成になっており,仮にこのような回動\nが発生して針基の受部が大径部係止手段のない小径部側まで移動した場合には,針
基が大径部係止手段をすり抜けて針先保護部に対して前進することになる。すなわ
ち,小径部側壁部がなければ,大径部係止手段が無効化されて,針基が前進し,留
置針の針先が針先保護部の先端側から再露出することになるのであるから,被告製
品においては,小径部側壁部による針基の回動防止と大径部係止手段による針基の
受け部の係止が協働して機能することによって,針先の再露出を防止していると認\nめられる。
そうすると,被告製品の小径部側壁部は,他の部材と協働して,針先の先端側へ
の移動を阻止する構成であるといえ,当該小径部側壁部は,本件発明において小径\n部側に設けられることが排除されている「係止片」に当たるといわなければならな
い。これによれば,「係止片」が針先抜出防止機構を含むものであるか否かに関わら\nず,被告製品は,小径部側に「係止片」が設けられているものとして,本件発明に
おいて排除されている構成を有しているから,本件発明の構\成要件1E4),2E4),
3E5)をいずれも充足しないといわなければならない。
したがって,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,本件発明の構成要件1Dの「係止片」が,針ハブ(に設けられた受部)\nと「係止」されることによって「再露出を防止する(つまり,留置針が前進しな
いように止める)」ものであるのに対し,被告製品の小径部側壁部は,針基の縦リ
ブの側面を挟持して針基の回動を防止しているだけで,針基の前進を防止してい
るわけではないから,「係止片」に該当しないなどと主張する。
しかし,前記説示のとおり,本件発明にいう「係止片」は,他の部材と協働し
て針先の先端側への移動を阻止する構成を含むものといわなければならない。そ\nして,被告製品において,小径部側壁部がそれ単体として針先の再露出を防止す
るものでないとしても,小径部側壁部による針基の回動防止と大径部係止手段に
よる針基の受け部の係止が協働して機能することによって針先の再露出を防止し\nているものである以上,本件発明にいう「係止片」に該当しないということはで
きない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ また,原告は,被告製品の小径部側壁部が針基の縦リブの側面を挟持する場所
は,針基と針先保護部の位置関係にかかわらないのであって,留置針の針先側へ
針先プロテクタが移動せしめられた「所定位置」において係止するものでないた
め,被告製品の小径部側壁部は「係止片」に当たらないとも主張する。
しかしながら,前記のとおり,被告製品は,小径部側壁部がそれ単体として針
先の再露出を防止するものではなく,小径部側壁部による針基の回動防止と大径
部係止手段による針基の受け部の係止が協働して機能することによって針先の再\n露出を防止するものであり,その機能が発揮される場所は,前記前提事実のとお\nり,針管と針先保護部が相対移動してクリック感が生じる位置に限定されている。
このことからすれば,被告製品の小径部側壁部は,「留置針の針先側へ針先プロテ
クタが移動せしめられた所定位置において」,大径部係止手段と協働して針先の再
露出を防止しているといえる。被告製品の小径部側壁部が,針先と針先保護部の
位置関係にかかわらず針基の縦リブの側面を挟持しているという事情は,この説
示を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ さらに,原告は,本件発明の構成要件1E4),2E4),3E5)が「前記係止片
は,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,」と規定していることをもって,
本件発明で小径部側に設けられてはならないとされている「係止片」は「前記針
ハブに向かって傾斜した内側面」を有しているものに限られているなどと主張す
る。
しかし,構成要件1E4),2E4),3E5)の「前記係止片は,前記針ハブに向
かって傾斜した内側面を有し」との文言は,本件明細書の段落【0061】の記
載(「・・・垂直面79a,79aの外周側に位置する傾斜面79b,79bが,外周
側になるにつれて先端側に傾斜していることから,垂直面79a,79aと基端
側規制面40とが傾斜面79b,79bに干渉されることなく当接することがで
きて,針ユニット20と針先プロテクタ10の軸方向における相対移動防止効果
がより確実に発揮され得る。」との記載)も併せると,そのような大径部側に一体
形成される係止片の構成について,規定した針ユニットと針先プロテクタの軸方\n向における相対移動防止効果がより確実に発揮されるという効果を奏させるべく
規定されたものであると認められる。そうすると,当該文言は,大径部側に円筒
状部と一体形成される係止片について特定したものにすぎず,設けられていては
ならない位置にある「係止片」の形状を限定するものではないというべきである。
したがって,被告製品の小径部側壁部が「傾斜した内側面」を有しないことは,
被告製品の小径部側壁部が本件発明において小径部側に設けられてはならないと
されている「係止片」に当たることを否定する理由にはならない。原告の上記主
張は,採用することができない。
エ 以上によれば,原告の上記主張はいずれも採用できない。原告は,その他も縷々
主張するが,それらの主張内容を慎重に精査しても,上記説示を左右するに足り
るものはない。
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2022.01. 7
平成30(ワ)1130 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年8月31日 東京地方裁判所
102条2項について、2割の推定覆滅が認められました。同3項による認定についても触れています。損害額は15億円です。対応EP特許でドイツでも侵害訴訟があります。
ア 前記前提事実によれば,本件発明の構成要件1Eは,「該印刷層は,白色の有機\n顔料,白色または黄色の無機顔料,蛍光染料,および蛍光増白剤のうちの一以上
の着色剤を含有する」である。これに対応する被告製品(1)の構成1eは,「印刷層\nは,●(省略)●と●(省略)●を含有する●(省略)●印刷インキにより形成
されるが,」である。そして,被告製品の印刷層の●(省略)●印刷インキに含有
される●(省略)●は,「白色」の「無機顔料」に当たる。
ここでは,本件発明については,印刷層が「白色の有機顔料・・・着色剤」を含有
すれば,それだけで構成要件1Eを充足するのではなく,これにより「色相を明\nるくすること」を要するかが問題となる。
イ 本件発明の構成要件1Eには,印刷層が「白色の有機顔料,および蛍光増白剤」\nのいずれかを含有するとの記載がされているだけであり,「色相を明るくすること」
が発明特定事項として記載されているわけではない。
また,前記1のとおり,本件発明は,再帰反射シートに関する発明であるとこ
ろ,本件明細書の段落【0004】には,三角錐型キューブコーナー再帰反射シ
ートのうち,反射素子の反射側面に蒸着層が設置されている「蒸着型」三角錐型
キューブコーナー再帰反射シートについては,その再帰反射素子の性質から金属
の色の影響を受けて外観が暗くなってしまうという欠点を有していると記載され
ているものの,それ以外の再帰反射シートについては,外観の暗さが課題になっ
ている旨の記載がない。また,本件明細書の【0014】,【0015】には,本
件発明の技術的意義は「色相の改善」であると記載され,段落【0021】,【0
030】,【0032】には,印刷層の目的は「色相を調節」,「色相の調整」と記
載され,段落【0036】には,「本発明に用いられる着色剤は,特に限定される
ものではないが,・・・色相を明るくすることができ,且つ,隠蔽性が得られるもの
が良く,シートの色相に合わせた明色系の色が好ましく,・・・白色の有機顔料や白
色や黄色の無機顔料,並びに蛍光染料や蛍光増白剤を挙げることができ,中でも,
白色や黄色の無機顔料が好ましい。」と記載されており,「色相を明るくすること」
は,「隠蔽性」を得ることや「シートの色相に合わせた」色であることと並んで,
あくまで好ましい態様であるとされているにすぎない。そのため,本件発明の着
色剤の技術的意義である「色相の改善」は,色相の調節ないし調整を意味するも
のであり,「色相を明るくすること」に限定されるものではないと解される。他方,
本件明細書の実施例では,白色顔料が用いられているものの,その他の着色剤と
比較して明るさが向上するとの趣旨で記載されているものではなく,比較例でも,
実施例とは印刷の模様のみを変えて,「Y値」すなわち「色相(明るさ)」には変
化がないが耐候性が改善することを確認しているにすぎない。このような本件明
細書全体の記載を考慮すれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を\n明るくすること」を要件としたものとは解されない。
以上によれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を明るくするこ\nと」を要しているとはいえないというべきである。
ウ これに対し,被告らは,本件特許の出願経過において,原告が,補正により本
件発明に構成要件1Eを追加し(乙21),本件発明の効果は,「色相,特に昼光\n下での色相(Y値=明るさ)が改善されて」いることであり,同構成要件の着色\n剤を用いることにより色相(Y値=明るさ)を改善したと主張しており(乙3),
同構成要件の「白色」,「黄色」,「蛍光」を用いて「色相(Y値=明るさ)」を改善\nする技術的意義を強調しているから,上記着色剤の意義は,色相を明るくするこ
とにあると主張している。
しかし,原告が提出した乙21の内容を見ても,本件発明の構成要件1Eの技\n術的意義が,「色相を明るくすること」であるとは記載されていない。
むしろ,乙3には,本件発明の効果は,「十分な再帰反射性能\を有し,かつ色相,
特に昼光下での色相(Y値=明るさ)が改善されており,耐候性及び耐水性にも
優れている」ことであると記載され,Y値と同義である「色相(Y値=明るさ)」
と,それに限定されない意味での「色相」とが区別されているため,明るさに限
定されない色相の改善についても主張していると解される。さらに,乙3には,
一般に用いられている着色剤は,再帰反射性の確保のために光透過性を有するが,
光透過性を有する着色剤は光劣化しやすいという欠点があったのに対して,本件
発明の構成要件1Eの着色剤は,光透過性を有するものではないこと,本件発明\nは,構成要件1Eの着色剤を用いることにより,再帰反射シートの昼光下での色\n相(Y値=明るさ)を更に改善したこと,本件発明では,印刷領域が構成要件1\nB〜1Dを具備する独立印刷領域であるため,印刷層が光透過性を有しない構成\n要件1Eの着色剤を含有しても,それ以外の領域を通じて十分な再帰反射性能\を
有することが記載されている。以上によれば,原告は,本件特許の出願経過にお
いて,本件発明の構成要件1Eの着色剤について,明るさの改善だけでなく,そ\nれ以外の効果も主張していると解されるから,そのような主張をもって,本件発
明の着色剤の技術的意義が色相を明るくすることに限定されるとまではいえない
というべきである。
その他,被告らの主張を検討しても,採用すべきものはない。
エ したがって,被告製品(1)の構成1eは,それぞれ本件発明の構\成要件1E及び
これを引用する構成要件2Bを充足する(なお,仮に同構\成要件の着色剤が「色
相を明るくすること」を意味するものとしても,これは相対的に色相を明るくで
きるような所定の着色剤を含有させれば足り,必ずしも絶対的に「色相を明るく
すること」を要するものではないというべきであるところ,証拠(甲17)及び
弁論の全趣旨によれば,被告製品では,「白色」の「無機顔料」に当たる●(省略)
●を含有しない領域よりも,これを含有する領域の方が色相も改善●(省略)●
による色相改善の効果を享受)していることがうかがわれ,被告製品の●(省略)
●印刷インキの色相が暗くなっているのは,●(省略)●で色相が明るくなった
一方で,●(省略)●で色相が暗くなったにすぎないというべきであり,これに
よって本件発明の構成要件1Eの充足性が否定されることにはならないというべ\nきである。)。
・・・
推定覆滅の事情
a 特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の
事情と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益
と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると
解される。例えば,1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること
(市場の非同一性),2)市場における競合品の存在,3)侵害者の営業努力(ブ
ランド力,宣伝広告),4)侵害品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特
徴)などの事情について,特許法102条1項ただし書の事情と同様,同条
2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができ
るものと解される。
b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張
する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当
である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の
印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品
と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ
タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし,
原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明
は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。
しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技
術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域
をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独
立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料・・・着色
剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る
ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措
定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製
品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実
験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって
直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな
い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の
全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の
技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当
ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら
ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度
等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで
あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き
く変化していないと主張する。
しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして
も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な
証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替
えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧
製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従
前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた
可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら
れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ
ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品
の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi
neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略)
●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売
できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+●
(省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競
合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら
が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード
の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨
によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性
能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告
らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー
ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認
めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー
ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売
上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(d) さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと
しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益
率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省
略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ
く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品
のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10
2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ
ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の
●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製
品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と
同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一
定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単
価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より
も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e) 以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち,
原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし
て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。
・・・
ア 次に,原告は,予備的主張として,特許法102条3項の適用を前提とする損\n害額の支払を求めているため,以下検討する。
・・・
a 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の
額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「そ
の特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められ
ていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうと
して,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無
効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額
を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還
を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常であ
る状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該
特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされ
た場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして,上記
のような特許法改正の経緯に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たって
は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づか
なければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対して事後的に定め
られるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べ
て自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し
て,合理的な料率を定めるべきである。
b そこで検討するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)原告は,本
件訴訟の提起前に,被告らを含む3Mグループに対し,本件特許のライセン
ス料率5%を提案していたこと(乙41),他方で,米国3Mは,過去に第三
者に提起した特許権侵害訴訟において,再帰反射シートに関する特許の実施
料率は9%であると主張していたこと(甲71),米国3Mらは,過去に第三
者に提起した訴訟において,ロイヤルティ料率20%での合意をしたこと(甲
72,乙66),株式会社帝国データバンク編「知的財産の価値評価を踏まえ
た特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書 〜知的財産(資産)価値
及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜」(平成22年3月)において,再
帰反射シート(樹脂シート)が該当する「化学」の最小値が0.5%,最大
値が32.5%,平均が4.3%であるとされていること(甲73,乙67),
被告3Mジャパンらは,原告に提起した特許権侵害訴訟において,実施料率
を10%と主張していること等が認められる。
また,2)本件発明は,前記のとおり,再帰反射シートの構成全体に関わる\n発明であり,相応の重要性を有しているといえ,これらの構成を備えた従来\n技術は存在せず,この点についての代替技術が存在することはうかがわれな
い。
そして,3)本件発明は,被告旧製品の全体について実施されており,これ
によって向上される耐水性・耐候性は,需要者の購入動機に影響を与えるも
のであるから,本件発明を被告旧製品に用いることにより,被告らの売上及
び利益に貢献するものと認められる。
さらに,原告と被告らは,いずれも再帰反射シートの製造販売業者であり,
競業関係にある。
c 上記bの諸事情を含む本件訴訟に表れた事業を総合考慮すると,本件特許\n権を侵害した被告らに事後的に定められるべき,本件での実施に対し受ける
べき料率は,10%を下らないものと認めるのが相当である。
したがって,本件特許権侵害について,特許法102条3項により算定さ
れる損害額は,前記(1)で認定した被告旧製品の売上高の10%になる。
◆判決本文
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2022.01. 3
令和1(ワ)8905 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年11月18日 大阪地方裁判所
発明の技術的意義から、用語を解釈し、技術的範囲に属しないと判断されました。
(ア) 本件明細書の記載によれば,本件明細書においては,「針先の再露出」ない
しこれと同旨の意味を含む表現(「針先再露出阻止機構\」等)と「針抜出し」ない
しこれと同旨の意味を含む表現(「針抜出阻止機構\」等)がそれぞれ用いられてい
る。その上で,「針先の再露出」等の表現は,針先プロテクタが留置針の針先側へ\nの移動位置において針ハブに係止された後に,針先プロテクタが留置針の基端側へ
後退(移動)すること(【0013】,【0027】,【0070】,【0073】)又は留置針
が針先側(先端側)へ前進(移動)すること(【0028】,【0029】,【0034】〜
【0036】)により針先が外部に露出することを意味する場合に用いられている。
他方,「針抜出し」等の表現は,留置針が基端側へ移動し,針先プロテクタの基端\n側から抜け落ちることにより針先が外部に露出することを意味する場合に用いられ
るものと理解される(【0022】,【0028】,【0029】,【0034】,【0035】,
【0071】)。
このように,本件明細書では,「針先の再露出」等と「針抜出し」等の表現が明\n確に使い分けられていることを踏まえると,「留置針の針先の再露出」(構成要件\n1D 等)とは,針先プロテクタが留置針の針先側への移動位置において針ハブに係
止された後に,針先プロテクタが留置針の基端側へ後退(移動)すること又は留置
針が針先側(先端側)へ前進(移動)することにより針先が外部に露出することを
意味するものであって,留置針が基端側へ移動し,針先プロテクタの基端側から抜
け落ちることにより針先が外部に露出する場合はこれに含まれないと解される。こ
れに反する被告の主張は採用できない。
したがって,「係止片」(構成要件 1D 等)は,上記の意味における「留置針の
針先の再露出」を防止する機構を構\成するものと理解される。構成要件 1E4)等の
「係止片」も,「前記係止片」として構成要件 1D 等を受けたものであることか
ら,同様である。
(イ) 「係止片」(構成要件 1E4)等)につき,本件明細書には,針先プロテクタの
大径部側に形成されるものの形状及び機能等に関しては,それが「針ハブに向かっ\nて傾斜した内側面を有し」,「円筒状部と一体形成される」ことを含めて具体的に
記載されている(【0028】,【0034】,【0036】,【0058】,【0059】,
【0061】,【0065】,【0067】〜【0070】,図 9)。これに対し,「小径部側に
設けられ」ない「係止片」に関しては,その形状はもとより,係止片を小径部側に
設けないことの技術的な意義ないし作用効果やこれを設けた場合の弊害等につい
て,本件明細書には何ら記載されていない。
また,本件特許の出願経過を見ると,本件意見書によれば,小径部に設けられて
いない係止片の形状につき,原告は「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有」
するものを念頭に置いていると理解する余地もあるものの,本件各発明の進歩性を
主張するに当たり,本件通知書の引用文献2及び4に各記載の「針先プロテクタの
小径部側」に設けられている「係止部」の具体的な形状に言及してはおらず,小径
部に設けられていない係止片の形状についてはもとより,係止片を小径部側に設け
ないことの技術的な意義ないし作用効果やこれを設けた場合の弊害についての言及
もない。そうすると,本件意見書の記載については,原告は,公知の発明と構成が\n異なることを示す趣旨で「係止片」が「小径部側には設けられて」いないことに言
及したに過ぎず,「係止片」の形状に関しては,拡開部の大径部側に設けられた係
止片Sが針ハブに向かって傾斜した内側面を有することを説明するにとどまり,小径
部側に設けられていない係止片に関しては何ら述べていないものと理解される。
このような本件明細書の記載及び本件特許に係る出願経過を参酌すると,「係止
片」(構成要件 1E4)等)につき,「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有
し」とは,「前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される」「係止片」の形状を
特定したものであって,「前記小径部側には設けられて」いない「係止片」の形状
を特定するものではないと理解される。これに反する原告の主張は採用できない。
(ウ) 小括
以上より,本件各発明の「係止部」とは,「該針先プロテクタに設けられた」も
のであり,これが「該針ハブに対して係止されることで該留置針の針先の再露出が
防止される」,すなわち,針先プロテクタが留置針の針先側への移動位置において
針ハブに係止された後に,針先プロテクタが留置針の基端側へ後退(移動)するこ
と又は留置針が針先側(先端側)へ前進(移動)することにより針先が外部に露出
することを防止するものであって(以上につき,構成要件 1D 等),針先プロテク
タの有する「前記円筒状部の基端側に」設けられるものであり(構成要件 1E2)
等),かつ,「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,前記大径部側に前記
円筒状部と一体形成される」が,その形状のいかんを問わず「前記小径部側には設
けられ」ない(以上につき,構成要件 1E4)等)ものであると解される。
(2) 構成要件の充足性\n
ア 被告各製品の小径部の側壁部の構成等\n
(ア) 被告各製品の小径部側壁部につき,針先保護部(針先プロテクタ)の基端側
に設けられていること,針抜出防止機構(針先プロテクタが留置針の針先側への移\n動位置において針ハブに係止された後に,更に留置針が基端側へ移動し,針先プロ
テクタの基端側から抜け落ちることにより針先が外部に露出することを防止する機
構)として機能\すること,及び,少なくとも針管と針先保護部が相対移動してクリ
ック感が生じる位置において,小径部側壁部の突端面により針基に設けられた縦リ
ブの側面を挟持することで,針基が針先保護部に対して回動を防止する状態となる
ことについては,当事者間に争いがない。
(イ) 証拠(甲3〜6,乙5)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品において
は,小径部側壁部が針基に設けられた縦リブの側面を挟持することで針基の回動を
防止しつつ,針先保護部が初期状態の配置位置から留置針の針先方向へ移動し,小
径部側壁部が針基に設けられた縦リブの側面を挟持した状態のまま,クリック感が
生じる位置(「該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた所定位
置」(構成要件 1D 等)に相当する。)である針基の受け部において大径部係止手
段が針基に対して係止されることによって,針管の針先が再度,針先保護部の先端
側から露出することが防止されることとなる。
また,証拠(乙63)及び弁論の全趣旨によれば,仮に被告各製品の小径部側壁
部が存在しない場合,針基の受け部においても針基は回動可能な状態にある。この\n場合,針基が回動したとしても,針先保護部の大径部係止手段に針基の縦リブが接
触することにより針基の回動がいったん停止することとなる。この状態ではなお大
径部係止手段と針基の受け部が接触しているため,直ちに針先保護部が基端側に移
動可能となるものではない。もっとも,この状態において一定の外力が加えられる\nと,縦リブが大径部係止手段を乗り越えて再び回動するなどして,針基の受け部と
大径部係止手段の係止が解除され,針先保護部が基端側に再度移動し,留置針の針
先が再露出する状態となり得ることが認められる。
しかも,被告各製品の添付文書(甲5)には,次のような記載がある。
「・針を収納する際は,ロックが外れたことを確認し,真っ直ぐ引くこと。(針
基が曲がったり,折れるおそれがある。)
・針が収納,固定された状態でグリップ部を強く引っ張る,回転させる操作をし
ないこと。(針基が曲がったり,折れるおそれがある。)
・針が収納,固定された状態で針先が飛び出す方向に力を加えないこと。(針刺
し及び感染のおそれがある。)」
これらの記載によれば,被告各製品においては,留置針を収納する際や収納・固
定された状態において日常的な使用時に作用し得る程度の外力により,針基の屈曲
や針先再露出といった状態が生じ得ることがうかがわれる。まして,被告各製品の
小径部側壁部が存在しない場合は,更に小さい外力によりこのような状態が生じ得
ると考えられる。
(ウ) そうすると,被告各製品においては,針先保護部に大径部係止手段及び小径
部側壁部が設けられており,針管と針先保護部が相対移動してクリック感が生じる
位置において,針先保護部に設けられた大径部係止手段が針基に対して係止される
ことと,針基に設けられた縦リブと針先保護部に設けられた小径部側壁部とが相互
に係合することにより針基が針先保護部に対して回動することが防止される状態に
あることとが相まって,針基が大径部係止手段をすり抜けて針先保護部に対して前
進することができなくなっているものと認められる。すなわち,被告各製品は,大
径部係止手段のみならず小径部側壁部が針先保護部に設けられていることにより針
先の再露出が防止される構成となっている。\n以上のとおり,被告各製品の小径部側壁部は,針先再露出防止機構としての機能\
をも有するものと認められる。したがって,被告各製品の小径部側壁部は,「係止
片」(構成要件 1D 等)に該当し,これが小径部に設けられている以上,被告各製
品は,「前記係止片は,…前記小径部側には設けられておらず」(構成要件 1E
4))を充足しない。
◆判決本文
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2021.11.30
令和3(ネ)10058 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年11月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
遠隔監視システムについて、均等侵害が第1要件を満たさないと判断した1審の判断が維持されました。
なお,事案に鑑み,念のため,被告製品の均等論の第1要件の充足につい
て判断する。
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書の開示事
項を総合すれば,本件発明1は,従来の遠隔監視システムでは,施設の侵入
者があったり,施設において異常が発生した場合に,当該施設の所有者や管
理責任者が一次的に当該侵入や異常発生を知ることができず,また,警備会
社からの二次的な通報により上記所有者や責任者が侵入や異常発生を知るこ
とは可能であるが,これらの者が外出している場合等には警備会社が通報を\nすることができないといった課題があり,こうした課題を解決するために,
構成要件1Bないし1Gの構\成を採用し,施設の監視対象領域を監視する監
視装置からのメッセージと監視装置によって得られた画像の情報が当該施設
の所有者や管理責任者に対応する顧客の携帯端末に通知又は伝達されること
により,顧客が何れの場所においても施設の異常等を適切に把握することが
できるとともに,監視装置から受理された画像の略中央部分の画像からなる
コンテンツを携帯端末に伝達することにより,表示装置が小さい携帯端末で\nも顧客により十分に認識可能\な画像を表示することができ,さらに,カメラ\nの「パンニング」を含む携帯端末からの遠隔操作命令により「パンニング」
に従った領域を特定し,その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを備
え,顧客が参照したい領域を特定して携帯端末に提示することができるよう
にしたことにより,施設の所有者や管理責任者が外部からの侵入や異常の発
生を知り,その内容を確認することができるという効果を奏するようにした
ことに技術的意義があるものと認められる(【0004】ないし【0007】)。
このような技術的意義に鑑みると,本件発明1の本質的部分は,1)何れの
場所においても顧客が携帯し得るものとして,監視装置からの異常検出によ
って監視装置により撮影された画像データの伝達を受ける端末を「携帯端末」
とし,2)「携帯端末」に伝達する画像は,略中央部分の画像領域から構成さ\nれ,3)携帯端末からの「パンニング」を含む遠隔操作命令を受理し,その領
域の画像を携帯端末に伝達するステップを含むことにより,4)表示装置が小\nさい携帯端末でも,顧客により十分に認識可能\な画像を表示することができ,\nさらに,携帯端末からの遠隔操作命令により,顧客が参照したい領域を特定
して携帯端末に提示することができるようにした点にあるものと認められる。
すなわち,単にセンサの情報伝達の宛先を警備会社の中央コンピュータから
施設の所有者等の携帯端末に切り替えたことのみに重きがあるわけではなく,
何れの場所においても顧客にとって携帯が容易で,操作等が迅速かつ簡便で
あるためには表示装置が小さい端末とならざるを得ない面があるところ,そ\nうであっても,外部からの侵入や異常の発生を知り,その内容を確認するこ
とが十分に可能\な構成を有することが本件発明1の本質的部分であるという\nべきである。なお,本件発明2及び3は本件発明1(請求項1)の従属項で
あり,また,本件発明5は,本件発明1の遠隔監視方法の発明を監視制御サ
ーバに関する発明としたものであるから,これらの発明の本質的部分もこれ
に同様である。
これに対し,被告製品は,監視装置からの異常検出によって監視装置によ
り撮影された画像データを伝達する端末は,携帯電話のような表示装置が小\nさい端末ではなく,また,端末からの遠隔操作命令により受理された画像の
うち他の領域の画像を参照すること示す命令である「パンニング」を含む遠
隔操作命令を受理し,その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを含ま
ないため,顧客が何れの場所においても施設の異常等を適切に把握すること
ができ,表示装置が小さい「携帯端末」でも顧客は十\分に認識可能な画像を\n表示することができ,顧客が参照したい領域を特定して「携帯端末」に提示\nすることができるようにしたことにより,施設の所有者や管理責任者が外部
からの侵入や異常の発生を知り,その内容を確認することができるという本
件各発明の効果を奏するものと認めることはできない。
したがって,被告製品は, 本件各発明の本質的部分を備えているものと認
めることはできず,被告製品の相違部分は,本件各発明の本質的部分でない
ということはできないから,均等論の第1要件を充足しない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件各発
明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。\n
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和1(ワ)21597
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2021.11.22
令和3(ネ)10007 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年11月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では方法クレームについても、物クレームと同じく「連通可能な室」として、構\成要件を具備しないと判断されました。これに対して、知財高裁は方法クレームについては「室」の意義について「連通可能な」という要件がないものも含むとして、方法クレームの侵害と判断しました。
「室」という語は,一般的には,「へや」すなわち「物を入れる所」などを
意味する語であるところ(甲27),構成要件1A及び2Aの文言のほか,前記2(2)の本件各訂正発明の概要及び前記(1)の本件各訂正発明の課題を踏まえると,構成要件1A及び2Aの「複数の室を有する輸液容器」の要件は,複数の輸液を混合\nするのに用いられる従来技術であるそのような輸液容器を用いる輸液製剤であるこ
とを示すことによって,本件訂正発明1及び2の対象となる範囲を明らかにするも
のである。本件各訂正発明の課題は,そのような輸液容器を用いて,あらかじめ微
量金属元素を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤で,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を\n提供することにあるから,本件各訂正発明における「室」の意義の解釈に当たって
は,上記の一般的な意義のほか,輸液容器における「室」の意義も考慮するのが相
当である。
そこで検討すると,本件特許の出願当時には,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた空間を「室」と呼んだ上で(乙31),その「室」の中に
収納される,薬剤を収容する構成部材を「容器」と呼んだり(甲25,乙17),その「室」の外側に付加して空間を構\成する部材を「被覆部材」と呼んだり(乙16),その「室」に連通される「ポート部材」が薬剤を収容し得る機能を備えるものとしたり(乙12),その「室」を分割したものを「区画室」と呼んだり(乙5)すると\nいった例があった。本件特許の出願後も,上記基礎となる一連の部材によって構成される「室」の中に収納される,薬液を収容する構\成部材を「容器」や「袋」などと呼ぶ例が複数みられるが(甲14,15,乙19),そのように,輸液等を収容す
るという機能を有する部分を指す語として「室」以外の語が加えられている中においても,「室」という語は,基本的に,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくために仕切られた相対的に大きな空間を指すものとして用いられ,「容器」や「袋」の\n付加の有無にかかわらず,そのような「室」が複数あるものが「複室輸液容器」な
どと呼ばれていたことがうかがわれる(なお,上記のうち,甲15は,大きな「隔
室」の中に「内袋」があり,その「内袋」が更に複数の「薬剤収容室」で構成されているというものであり,「室」の中に「室」があるという点では,やや珍しいもの\nともみられるが,各「隔室」と各「薬剤収容室」は,あくまでそれぞれ一連の部材
によって構成されている。)。そして,上記のような「室」の理解は,本件明細書の記載とも整合的である。\n
(イ) 上記(ア)の点を踏まえると,構成要件1A及び2Aにいう「室」についても,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,\n輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間をい
うものと解するのが相当である。
イ 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器」について\n
もっとも,本件訂正発明1の構成要件1A及び本件訂正発明2の構\成要件2Aに
おいては,「複数の室を有する輸液容器」の前に,「外部からの押圧によって連通可
能な隔壁手段で区画されている」との特定が付加されている。そうすると,上記特定により,「室」が「連通可能\な」ものであることが明確にされているというべきであるから,構成要件1A及び2Aにおける「室」については,「外部からの押圧によって連通可能\な」ものであることを要するものである。
ウ 被控訴人製品について
(ア) 「室」について
a 先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)ア及び弁論の全趣旨
によると,被控訴人製品に係る輸液容器について,その構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間は,大室及び中室を直接構成するとともに小室T及\nび小室Vの外側を構成する一連の部材によって構\成される空間であるといえる。
b もっとも,小室Tに関しては,外側の樹脂フィルムによって構成される空間が,上記のとおり輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成さ\nれる空間である一方で,連通時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,小室Tの外側の樹脂フィルムに\nよって構成される空間に輸液が直接触れることがない。そのため,小室Tの外側の樹脂フィルムによって構\成される空間が,前記の「室」の理解のうち,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間に当たるかどう
かが問題となり得る。
しかし,輸液容器全体の構成を踏まえると,被控訴人製品における小室Tは,外側の樹脂フィルムによって構\成される空間の中に,内側の樹脂フィルムによって構\n成される空間(本件袋)を内包するという二重の構造になっているにすぎず,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための空間としての構\成において,外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間に機能の優劣等があるとはみられない。この点,小室Tと中室との間の接着部について,内側の樹脂フィルムの接着を剥離した\n場合のみならず,外側の樹脂フィルムの接着のみを剥離した場合であっても小室T
の外側のフィルムの内側の空間に中室に収容された輸液が流入してこれが本件袋の
外面に直接触れることとなり,中室内の輸液と本件袋の中の液との分離の態様に少
なからず差異が生じるのであり,輸液同士の混合という点では専ら小室Tの内側の
樹脂フィルムの接着部分が意味を持つとしても,隣接する中室内の輸液からの分離
という観点からは,外側の樹脂フィルムにも重要な意義があることは明らかである。
そして,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)は,被控訴人製品に係る輸液容器において基礎となる一連の部材とは別の部材により構\成され,上記基礎となる一連の部材に構成を追加する部分である(このことは,小室Vの内側の樹脂フィルムによって構\成される空間と対比しても,明らかである。)。以上の諸点を踏まえると,小室Tについても,被控訴人製品に係る輸液容器の構成の中で基礎となる一連の部材である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)をもって,「室」に当たるとみるのが相当である。
c ところで,被控訴人製品の小室Tの外側の樹脂フィルムによって区画される
空間のように,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成され
る空間が,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大き
な空間であるといえるか疑問があり得るような場合に,本件各訂正発明の「室」を
どのように理解すべきかについて,本件訂正発明1及び2に係る請求項の文言上は,
必ずしも明らかであるといえないから,そのような場合における「室」の理解につ
いて,本件明細書の内容を踏まえた検討も行うと,本件明細書の段落【0024】
は,「微量金属元素収容容器を収納している室」には,溶液が充填されていてもよ
いし,充填されていなくてもよい旨を明記しており,同【0033】は,「本態様
の輸液製剤では,図1に示す輸液容器の第1室4に,溶液が充填されていてもよい
し,充填されていなくてもよい」と明記しているところであるから,本件各訂正発
明においては,輸液が充填される空間であるか否かという点は,「室」であるか否か
を決定する不可欠の要素ではないと解される。
それゆえ,前記bのような理解は,本件明細書における「室」の理解にも沿うも
のであるといえる。
d 以上に対し,被控訴人らは,被控訴人製品において,小室Tの外側の樹脂フ
ィルムによって構成される空間(本件小室T)は存在しないと主張するが,2枚の樹脂フィルムの間に空間が構\成されている(その空間中には,2枚の内側の樹脂フィルムの間の空間(本件袋)が包摂されている。)こと自体は,明らかであり,被控
訴人らの主張は採用することができない。
(イ) 「連通可能」について
a 前記(ア)のとおり,「室」については理解すべきものであるとしても,前記イ
のとおり,構成要件1A及び2Aにおいては,「室」が「連通可能\」であることが要
件とされているところ,前記(ア)bで既に指摘したとおり,小室Tに関しては,連通
時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,「室」である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)に輸液が通じることはない。
そうすると,結局,被控訴人製品は,「室」が「連通可能」という要件を充足しないから,構\成要件1A及び2Aを充足しないというべきである。
b これに対し,控訴人は,本件小室Tに収納された本件袋に輸液が通じること
は,本件小室Tに輸液が通じることといえる旨を主張する。この点,前記(ア)dのと
おり,本件小室Tという空間が本件袋という空間を包摂していることは確かに認め
られるが,そのことと,本件袋との連通をもって本件小室Tとの連通と評価し得る
かは,別の問題である。本件訂正発明1及び2に係る請求項1及び2が「室」と「容
器」を明確に分けていることや,前記ア(ア)で指摘した「室」と「容器」についての
技術的な関係のほか,本件明細書の段落【0020】の「微量金属元素収容容器は,
それを収納している室と連通可能であることが望ましい。」という記載は,容器の連通が室の連通とは異なるものとみる見方に沿うものであることからすると,控訴人\nの上記主張を採用することはできない。
(3) 争点(4)について
構成要件10A及び11Aの「複室輸液製剤」にいう「室」についても,前記(2)
アと同様に解するのが相当である。
そして,構成要件1A及び2Aと異なり,構\成要件10A及び11Aについては,
「室」が「連通可能」であることは要件とされていない。したがって,先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)イ及び弁論
の全趣旨により,被控訴人方法は,構成要件10A及び11Aを充足するというべきである。\n
4 争点(2)(構成要件10C及び11Cに係る点に限る。)について
前記3(2)及び(3)で指摘した点を踏まえ,先に引用した原判決の「事実及び理由」
中の第2の1(7)イ及び弁論の全趣旨によると,被控訴人方法においては,「含硫ア
ミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収
容している室」である中室とは「別室」である小室Tの外側の樹脂フィルムによっ
て構成される「室」(本件小室T)に,構\成要件10C又は11Cで特定された微
量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器である,小室Tの内側の樹
脂フィルムによって構成される本件袋が収納されていると認められる。したがって,被控訴人方法は,構\成要件10C及び11Cを充足する。
◆判決本文
1審は、構成要件1C、10Cを具備しないので、技術的範囲に属しないと判断していました。
◆平成30(ワ)29802
以上の記載によれば,本件各発明については,次のとおりのものである旨
認めることができる。
すなわち,まず本件各発明の技術分野は,経口・経腸管栄養補給が不能又は不十\分な患者に対して,経静脈からの各種輸液(糖製剤,アミノ酸製剤,電解質製剤,混合ビタミン製剤,脂肪乳剤等)の投与を行うための輸液製剤
に関するものである。この点,当該輸液製剤は,経時変化を受けることなく
保存し,その使用時に細菌による汚染なく混合するため,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器に収容される。\nしかして,輸液中には,通常,銅等の微量金属元素が含まれていないこと
から,患者は,輸液の投与が長期になるときにはいわゆる微量金属元素欠乏
症を発症することとなる。しかるところ,これを予防するために必要な微量金属元素を輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の\n原因になり,これを防ぐべく含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填
し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金
属元素とを隔離していても,微量金属元素を含む溶液が不安定となるという
技術的課題が生じていた。
本件各発明は,このような技術的な課題に対して,連通可能な隔壁手段で区画されている複室の一室に含硫アミノ酸を含有する溶液を充填し,これと\nは他の室に,微量金属元素を収容した容器を収納するという構成を採用することにより,上記技術的な課題を解決し,微量金属元素が安定に存在してい\nることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するとい
う効果を奏するようにしたものであるというべきである。
そうである以上,本件各発明の課題解決の点における特徴的な技術的構成は,微量金属元素収容容器を,含硫アミノ酸を含有する溶液と同じ室ではな\nく,同室と連通可能な他の室に収納するという構\成を採用したところにある
ものというべきである。そして,これは,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器であることを前提として,その複数の各「室」に\nついては,それぞれ異なる輸液を充填して保存するための構造となっており,上記の微量金属元素収容容器を収納する「室」は,含硫アミノ酸を含有する\n溶液とは異なる輸液の充填・保存のための構造となっている「室」であるという技術的構\成が採用されたものということができる。すなわち,本件各発明において,構成要件1Aの「複数の室」及び構\成要
件10Aの「複室」は,各種輸液を充填して保存するための構造となっている各空間を意味すると解されることから,輸液容器に設けられた空間がその\n一室である構成要件1C及び10Cの「室」に当たるためには,当該空間が輸液を充填して保存し得る構\造を備えていることを要すると解するのが相当であり,これに反する原告の前記主張は採用できない。
この点,証拠(甲2)によれば,本件明細書には,発明の詳細な説明とし
て,「(略)また,微量金属元素収容容器は,それを収納している室と連通
可能であることが好ましい。(以下,略)」(段落【0020】)との記載や,「上記『微量金属元素収容容器を収納している室』には,溶液が充填さ\nれていてもよいし,充填されていなくてもよい。(以下,略)」(段落【0
024】)との記載のあることが認められる。しかしながら,前者の記載に
ついては,前記で説示した本件各発明の技術的意義に照らせば,微量金属元
素収容容器が上記のような意味の「室」に収納されていることを前提とする
記載であり,同容器が輸液を充填して保存し得る構造を備えていない構\成の
ものに収納されている場合をも許容する趣旨であるとは解されない。また,
後者の記載についても,同様に,「微量金属元素収容容器を収納している
室」には,輸液が充填されていない構成のものも含まれることを述べたものにすぎず,そもそも輸液を充填して保存するための構\造となっていない構成\nのものまで含まれることを意味したものと解することはできない。
したがって,これらの記載によっては,前記判断は左右されず,その他,
本件明細書の記載内容を詳細に検討しても,前記判断を左右し得る記載は見
当たらない。
そこで,これを被告製品ないし被告方法について見ると,
及び弁論の全趣旨によれば,小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋を
覆っている外側の樹脂フィルム2枚は,中室側及び小室V側の両端部におい
て内側の樹脂フィルムと溶着されており,使用時にも当該溶着部分は剥離し
ないと認められる。
そうすると,小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の
空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではなく,これに照らすと,
同空間が,輸液を充填して保存し得る構造を備えているものとは認められないといわざるを得ず,同空間が「室」に当たるということはできない。\nしたがって,被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を具備するとは認められない。\n
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2021.10.28
平成29(ワ)1390 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年9月16日 大阪地方裁判所
パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟です。技術的範囲に属しないと判断されました。対象特許は7件です。多くは29条1項2号(公然実施)による権利行使不能です。事件番号が平成29・・なので、提訴から判決まで4年かかったことになります。委託者および受託者が原告となっています。
本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲の記載によれば,同発明に係るランプ
は,「基板を保持する金属製の基台」(構成要件 1-1F’)をその構成要素の1つとして備えるところ,「前記基台は,前記長尺状の底部と,前記底部の短手方向の一\n方の端部に設けられた第1壁部と,前記底部の短手方向の他方の端部に設けられた
第2壁部とを有し」(構成要件 1-1I’),「前記第1壁部及び前記第2壁部は,前
記底部の前記基板側に衝立状に形成されて」(構成要件 1-1J’)いることが特定さ
れている。
これによれば,基台の底部の短手方向の両端部にそれぞれ設けられた第1壁部と
第2壁部は,底部に対し基板側に形成されるものであり,その形状ないし状態が
「衝立状」であることが示されている。もっとも,いかなる形状等をもって「衝立
状」とするかについては記載がなく,その意味が一義的に明らかとはいえない。
イ 本件明細書1の記載等
「第1壁部」及び「第2壁部」について,本件明細書1【0055】には,第1基
台 50 が,長尺状の底部(底板部)と,底部における第1基台 50 の短手方向(基板
11 の幅方向)の両端部に形成された第1壁部 51 及び第2壁部 52 とを有すること,
これらの壁部は,第1基台 50 を構成する金属板を折り曲げ加工することによって衝立状に形成されていることが記載されている。また,同段落には,同明細書図\n3B と合わせ,LED モジュール の基板 11 は第1壁部 51 と第2壁部 52 とによっ
て挟持されており,LED モジュール は,第1壁部 51 と第2壁部 52 とによって
基板 11 の短手方向の動きが規制された状態で第1基台 50 に配置されることも記載
されている。本件訂正における本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J'の追加は,こ
の記載等を含む本件明細書1の記載による開示に基づいて行われたものである(甲
83)。
さらに,広辞苑(乙291)においては,「衝立」とは「衝立障子の略」であり,
「衝立障子」とは「屏障具の一。一枚の襖障子または板障子に台をとりつけ,移動
便ならしめたもの。・・・玄関・座敷などに立てて隔てとする。」と説明されている。
加えて,「衝立障子」は,一般に,それが設置される面に対して略直立するものと
把握される。他方,「状」とは,物事の形,姿,有り様,様子を意味し,「○○状」
とは,ある物事の形等を「○○」に例える際に用いられる表現である。以上の本件明細書1の記載等を踏まえると,第1壁部及び第2壁部は,基台の底\n部の基板側に衝立状に形成されることにより基板11を挟持し,短手方向の動きが
規制する機能を果たすものであるところ,その形状等は上記意味での「衝立障子」に例えられるものである必要があることが理解できる。\n
ウ 小括
以上より,本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲及び本件明細書1の記載等
並びに「衝立」の一般的な意味等に鑑みると,第1壁部及び第2壁部が「衝立状」
に形成されるとは,これらの壁部が基台の底部の基板側に,同底部に対して略直立
した形状に形成されていることを意味するものと解される。これに反する原告の主
張は採用できない。
(2) 被告製品1〜5,7〜10及び12の構成要件充足性
被告製品1〜5,7〜10及び12の断面図は,別添「被告製品断面図」のとお
りである。
このうち,被告製品4及び5については,第1壁部及び第2壁部に相当すると見
られる部位は,基台の底部から基板側に形成された基台の一部が内側に向けて鋭角
に傾斜した形状に形成されており,底部に対して略直立した形状とはいえない。
次に,被告製品1〜3,7〜10及び12については,第1壁部及び第2壁部に
相当すると見られる部位には,基台の底部から基板側に略直立といってよい形状に
延出している部分もあるものの,これと一体のものとして,基板とほぼ同じ高さで
基台の底部に平行に形成された部分もあるため,全体としては「コの字」又は「T
字」と表現すべき形状に形成されているものというべきであって,底部に対して略直立した形状に形成されているとはいえない。\nしたがって,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,第1壁部及び第
2壁部に相当すると見られる部位が底部の基板側に「衝立状」に形成されておらず,
本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J’を充足しない。
(3) 小括
以上により,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,本件訂正発明1
−1の技術的範囲に属しない。
4 充足論のまとめ
本件発明1−1,1−3,1−16及び1−17及び並びに本件訂正発明1−1
7につき,対象となる各被告製品が各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属することは,前記(第1の5)のとおりである。\nまた,本件発明1−14並びに本件訂正発明1−18及び1−20については,
前記2のとおり,被告製品1〜5,7〜16は,対応する各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属すると認められる。\n他方,本件訂正発明1−1については,被告製品1〜5,7〜10及び12は,
いずれもその構成要件 1-1J'を充足せず,その技術的範囲に属しない。したがって,
本件訂正発明1−1については,その余の点を論ずるまでもなく,訂正の再抗弁は
認められない。
5 403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10)
事案に鑑み,まず,403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10)について検
討する。
(1) 403W 製品の先使用について
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
(ア) 被告は,平成24年4月23日頃,韓国で製造された 403W 製品480セッ
トを輸入した(乙143,315)。
(イ) 被告は,同月25日,ミツワ電機株式会社関西支社に対し,403W 製品24
台を含む商品の見積書を作成,送付し,同月26日,同社関西特機営業所から受注
して,同月28日,これを井づつやに納品した(乙167,168)。
その後,井づつやに納品された上記 403W 製品24台は,同所のエントランスロ
ビー等において使用されていたところ,被告は,平成30年7月23日までに,井
づつやからこれを入手した。この被告 403W 製品には,製造ロット番号として
「120416」が表示されているところ,これは,当該製品の製造年月日が平成24年4月16日であることを意味する。(乙166,弁論の全趣旨)\n
(ウ) 被告は,本件チラシ(平成24年1月発行)に,平成24年3月初旬発売予定の商品として 403W 製品を掲載した(乙138)。また,被告は,本件カタログ
(同年2月発行)にも 403W 製品を掲載したところ,他の掲載商品には発売予定時期を明記したものが見られるが,403W 製品にはそのような記載はない(乙35)。
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,被告は,遅くとも本件優先日である
平成24年4月25日以前に,403W 発明の実施である事業をしていたことが認め
られる。
(2) 403W 発明の構成等
ア 403W 発明の構成のうち,上記第2「10」(被告の主張)(3)における構成 1-
3a10〜c及び e並びに 1-14a10〜f及び hについては,原告 PIPM も明ら
かには争わないから,これを認める。
上記構成 1-3a10〜c及び eは,本件発明1−1の構成要件 1-1A〜C 及び E,
本件発明1−3の構成要件 1-3A〜C 及び E,本件発明1−16の構成要件 1-16A〜
C 及び F,本件発明1−17の構成要件 1-17A〜C 及び E 並びに本件訂正発明1−
17の構成要件 1-17B’〜D’にそれぞれ相当するものといえる。また,構成 1-14a10
〜f及び hは,本件発明1−14の構成要件 1-14A〜E,G 及び本件訂正発明
1−18の構成要件 1-18B’〜F’,I’にそれぞれ相当するものといえる。
さらに,403W 製品は,直管形 LED ユニットであり,樹脂(ポリカーボネート)
製カバー(筐体)の長手方向の両端に口金が設けられているところ,その一方には
電源内蔵ユニット用専用口金を備え,この口金のみが,電源内蔵用専用ソケット(給電側)を通じて交流電力を受けるものである(乙35,299)。そうすると,\n403W 発明は,本件発明1−16の構成要件 1-16E 並びに本件訂正発明1−17の
構成要件 1-17E’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18G’,H’に相当する構成を備えていることが認められる。\n加えて,403W 製品は,既存の器具本体をそのまま残し,専用ソケット及び直管形LED ユニットをリニューアルして照明装置として使用する製品シリーズに含まれる製
品である(乙35)。したがって,ランプである 403W 製品に係る発明(403W 発明)
は,そのランプが取り付けられた照明装置に係る発明に含まれるといえる。このため,
403W 発明は,本件発明1−17の構成要件 1-17F,本件訂正発明1−17の構成要件 1-17A’及び G’並びに本件訂正発明1−18の構成要件 1-18A’及び K’に相当する構成を備えていることが認められる。
イ 403W 製品の輝度均斉度等
(ア) 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
a LED モジュールの寿命は,製造業者等が指定する条件下で点灯したとき,
LED モジュールが点灯しなくなるまでの総点灯時間,又は全光束が点灯初期に測
定した値の70%に下がるまでの総点灯時間のいずれか短い時間とされているとこ
ろ,高光束 LED を1万時間連続通電してその光出力の変化を調査した実験データ
によれば,1チップ方式の白色 LED の寿命(光出力が70%になる時間)は4万
5000時間と推定されるとの実験データがある。なお,原告パナソニックのカタログ(乙34)には,直管形 LED ランプについて,4万時間経過後の光束維持率
が95%であることが示されている。
また,LED を連続的に点灯し続けると,LED チップを封止する樹脂(以下
「LED 樹脂部」という。)が黄変し,光量の低下を招くことがある。さらに,LED
照明は,使用する場所の環境温度が高くなるほど劣化が加速されると共に,使用環
境下に硫化ガス等の発生要因がある場合,LED 樹脂部及び接合部にダメージを与
えることなどによっても,劣化が加速する場合がある。
(以上につき,上記のほか,甲37〜39)
b 被告 403W 製品は,平成24年4月28日の井づつやへの納品後,被告が平
成30年7月に入手するまで,6年以上の間継続的に使用されていたものと見られ
るところ,その LED 素子の中央部分はやや黄変しており(乙217,218),
カタログに記載された初期値を100%とした場合の被告 403W 製品の全光束(全
ての方向に放出する光束の総和)は89.0%,光効率は92.6%に減少してい
る(乙216)。もっとも,被告 403W 製品の LED1個あたりの配光データは,
新品の LED の配光データが概ね120度(ランバーシアン配光の場合)であるの
に対し,114度及び115度である(乙214,215の3,215の4)。
また,403W 製品のカバーと 402W 製品のカバーは,共通の部材(ポリカーボネ
ート)を使用した同じ仕様のものであると認められるところ(乙35,298,2
99,315),被告 403W 製品と未使用の 402W 製品について,それぞれカバー
を交換して全光束及び y/x 値を測定した結果,いずれも交換せずに測定した結果と
の差は,1%以下(全光束)及び0.01(y/x 値)であった(乙316〜318,
弁論の全趣旨)。
(イ) 以上の事情を踏まえると,被告 403W 製品の LED 素子は,6年以上使用を
継続されているものであり,LED 樹脂部の黄変及び全光束や光効率の減少は生じ
ているものの,その配光特性は,初期値(ランバーシアン配光)と大きく異ならず,
著しい経時変化は見られないものといってよい。403W 製品の光拡散性を有するカ
バー部分についても,被告 403W 製品には,上記継続使用期間にもかかわらず,全
光束や y/x 値の測定値に影響を与えるような劣化等が生じているとはいえない。
そうすると,被告 403W 製品について,被告が平成30年7月23日に測定した
y 値=15.7mm,x 値=11.7mm,y=1.34x との測定結果(乙166)及び令和2年1
月29日に測定した y 値=15.6mm,x 値=11.7mm,y=1.33x との測定結果(乙29
7)は,いずれも 403W 製品の初期値とほぼ同等のものと見るのが相当である。
(ウ) そうすると,403W 発明は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン
プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合
う前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y=15.7mm,x=11.7mm
であり,y=1.34x」との構成すなわち構\成 1-3d及び 1-14g10)を有するといえる。
したがって,403w 発明は,本件発明1−1の構成要件 1-1D,本件発明1−3の
構成要件 1-3D,本件発明1−14の構成要件 1-14F,本件発明1−16の構成要素 1-16D 及び本件発明1−17の構成要件 1-17D 並びに本件訂正発明1−17の
構成要件 1-17F’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18J’に相当する構成を有していると認められる。\n
ウ 以上より,403W 発明は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1
−18の構成要件を充足する構\成を備えたものであり,これらの各発明と同一性が
認められる。
エ 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告 403W 製品について,長時間の使用による経年変化,LED
素子の樹脂やせや黄変,使用環境の影響等により,被告測定時点での被告 403W 製
品の y/x 値等が初期値のものと同等とはいえない旨を主張する。
しかし,上記のとおり,被告 403W 製品については,長時間の使用による経年変
化等により,LED 素子の中央部に黄変が見られ,また,カタログ値と比較して全
光束や光効率が10%程度減少しているという事実は認められるものの,それ以上
に,LED 素子の劣化(凹み)をはじめ,配光特性に影響を及ぼし得るような LED
素子の劣化等を裏付ける具体的な事情は見当たらず,カバー部材についても,y/x
値等に影響を与えるような劣化が生じているといった事実の存在を具体的にうかが
わせる事情は見当たらない。本件交換実験の結果に関しても,上記のとおり,交換
に係る製品が共通の部材を使用した同じ仕様のものであると認められることに鑑み
ると,原告 PIPM が指摘する事情を考慮しても,その結果の信用性を直ちに疑うべ
きものとまではいえない。
その他原告 PIPM が縷々指摘する事情を踏まえても,この点に関する原告 PIPM
の主張は採用できない。
(3) 先使用権の範囲
上記(1)及び(2)によれば,被告は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及
び1−18の内容を知らないで自らこれらに含まれる 403W 発明をし,本件優先日
の際に,日本国内において,その発明の実施である事業をしている者と認められる。
したがって,被告は,403W 発明及び上記事業の範囲内において,本件各発明1並
びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る特許権について,通常実施権を有す
る。
また,403W 製品は,x 値及び y 値の関係性を特定する技術的思想が明示的ない
し具体的にうかがわれるものではないものの,実際にはその x 値及び y 値の関係性
により,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る構成要件に相当する構\成を有し,その作用効果を生じさせている。加えて,403W 発明につき,
照明器具としての機能を維持したまま,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18の特定する x 値及び y 値の関係性を充たす数値範囲に設計変更するこ
とは可能と思われる。このため,被告製品1〜5及び7〜16は,いずれも,403W 発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式であるにとどまる
ものといえる。
そうすると,被告による被告製品1〜5及び7〜16の製造販売は,被告の上記
通常実施権の及ぶ範囲内に含まれる。
(4) 小括
以上のとおり,被告は,403W 発明に基づく上記通常実施権により,業として被
告製品1〜5及び7〜16を製造販売し得ることから,その余の点につき論ずるま
でもなく,原告 PIPM は,被告に対し,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17
及び1−18に係る本件特許権1を行使し得ない。
6 無効理由9(クラーテ製品2)の公然実施による新規性欠如)の有無(争点12)
(1) 公然実施の有無
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
(ア) リコーは,平成23年7月7日,直管形 LED ランプである「クラーテ P シ
リーズ40形」を同月末発売予定である旨をプレスリリースした。また,同社は,平成24年1月現在の製品を掲載したカタログ「<クラーテ>P シリーズ」(乙1
71の1)にクラーテ製品2)を掲載しているところ,同カタログ掲載の仕様は,上
記プレスリリースに係る製品の仕様と概ね同一である。さらに,同社は,遅くとも
同月には,クラーテ製品2)を含むシリーズ製品を販売していた。(上記のほか,乙
170,172,173,368)
(イ) 被告は,令和元年9月12日終了のオークションにより,クラーテ製品2)1
4本(被告クラーテ製品2))を入手したところ,これらの被告クラーテ製品2)には,
いずれも,製造ロット番号として「1203」が表示されている。これは,当該製品の製造年月が平成24年3月であることを意味する。(乙172,174,186,\n288)
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,クラーテ製品2)は,遅くとも平成2
4年1月頃には,リコーから販売されたことによりその構造が解析可能\な状態に至
ったものと認められる。
これに対し,原告 PIPM は,クラーテ製品2)の上市時期が明らかでないこと,仮
に被告クラーテ製品2)の製造日が平成24年3月であっても,製品製造後すぐ出回
るとは考えがたいことなどを主張する。
しかし,上記のとおり,リコーがクラーテ製品2)を平成24年1月には販売して
いたことが認められるのであって,それから約3か月が経過した本件優先日時点で
は,クラーテ製品2)が実際に市場に出回っていたものと見るのが合理的かつ相当で
ある。したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
ウ 小括
以上より,クラーテ発明2)は,本件優先日より前に日本国内において公然実施を
された発明といえる。
(2) クラーテ発明2)の構成等
ア クラーテ発明2)が構成 1-20a’12〜f’12 及び h’12 を有すること,これらの構成がそれぞれ本件訂正発明1−20の構\成要件 1-20A’〜F’及び H’に相当すること
については,原告は明らかに争わないことから,これを認める。なお,本件訂正発
明1−20の構成要件 1-20D’の「「基台の上に実装された」の意義について,
LED チップが実装された容器が基板を介して間接的に実装された構成を含むことは上記2のとおりである。\nイ 被告クラーテ製品2)14本の構成 1-20g’12 に係るパラメータ(y/x)の被告
測定値は,1.208〜1.278 であった(乙289)。また,関連無効審判における検
証手続の結果によれば,被告クラーテ製品2)は,x 値は 8.6mm,y 値は 10.39mm
であり,y≒1.208x であった(乙346,365,弁論の全趣旨)。
そうすると,クラーテ発明2)は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン
プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合う
前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y≒1.208x の関係である」(構成 1-20g’12)の構成を有するものと認められる。この構\成は,本件訂正発明1−20
の構成要件 1-20G’に相当する。
(3) したがって,本件訂正発明1−20は,本件優先日より前に日本国内におい
て公然実施をされた発明であるクラーテ製品2)に係る発明と同一の発明であるから,
法29条1項2号に違反し,無効にされるべきものと認められる。すなわち,本件
訂正発明1−20に係る本件訂正によっては無効理由が解消されないことから,本
件訂正発明1−20に係る訂正の再抗弁は認められない。
(4) 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告測定値のばらつきや経年変化等の事情を指摘して,被告測定
値が初期値と等しいとはいえない旨を主張する。
この点,被告クラーテ製品2)については,オークションの出品者による説明とし
て,中古品であること,商品の状態として「やや傷や汚れ」があること,使用期間
が2年弱であること,電気工事業者による取り外し作業の際に「ざっくりと中性洗
剤で管だけ拭きあげた状態」で丁寧な梱包により発送すること,「RICOH ロゴマ
ークあたり」が黒ずんで見えるものの,LED は使用が進んでも黒ずむことはない
ため元々の仕様であることなどが記載されている(乙288)。
もっとも,クラーテ製品2)は,光束が70%まで低下するまでの定格寿命が4万
時間とされている(乙170の3,171の1)。このため,被告クラーテ製品2)
につき,仮に25%に相当する1万時間使用された事実があったとしても,配光特
性に影響を与えるとは必ずしもいえず,現に,被告クラーテ製品2)のうち2本の配
光特性はいずれも117度である(乙320)。口金ピンやランプマーク側の管端
部の黒ずみについても,その存在から直ちに他の部位にも同様の黒ずみが存在し,
配光特性に影響を与えるとは必ずしも推認し得ないことから,同様である。また,
クラーテ製品2)については,光触媒の膜が剥がれて本来の効果が得られなくなる場
合があるとして,製品の表面を強く擦らないようにとの注意喚起がされているものの(乙170の3),「ざっくりと中性洗剤で」「拭き上げ」るといった態様がこ\nれに含まれるとは考えられない。むしろ,LED ランプの手入れ方法としてこのよ
うな方法が奨励されているとも見られる(乙35)。さらに,被告クラーテ製品1)
(乙169,214,215によれば,未使用品と認められる。)と被告クラーテ
製品2)のカバー部材を交換した測定によっても,両者の半値幅等に有意な差異はな
い(乙370)。
これらの事情等を踏まえると,被告クラーテ製品2)につき,経年変化等によりパ
ラメータの値に変化が生じているとは考えられず,上記(2)での認定に係る被告ク
ラーテ製品2)の被告測定値及び関連無効審判の検証手続における測定値は,初期値
と概ね等しいものと見られる。
したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
7 まとめ
以上のとおり,本件各発明1(並びに本件訂正発明1−17及び1−18)に係
る本件特許権1に基づく原告 PIPM の請求については,被告に 403W 発明に基づく
先使用権が成立することにより,原告 PIPM は,被告に対し,本件特許権1を行使
し得ない。他方,本件訂正発明1−1に係る訂正の再抗弁は,被告製品1〜5,7
〜16がその技術的範囲に属さないことにより,また,本件訂正発明1−20に係
る訂正の再抗弁は,クラーテ発明2)の公然実施を理由とする新規性欠如の無効理由
があり,本件訂正によって無効理由が解消されないことにより,いずれも再抗弁の
成立が認められない。
以上より,その余の点について論ずるまでもなく,被告による本件特許権1の侵
害は認められないから,原告 PIPM の本件特許権1の侵害に基づく請求は,いずれ
も理由がない。
◆判決本文
◆添付1
◆添付2
◆添付3
◆添付4
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2021.10.21
令和3(ネ)10029 特許侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年10月13日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
知財高裁は、1審の「技術的範囲に属する、推定覆滅率2割」を維持し、約7300万円の損害賠償を認めました。1審判決が出たのが2021年3月なので早いですね。また、方法発明について、共同直接侵害の成立を認めています。
足場が不要になることが本件発明の唯一の効果であるとはいえないことは,上記2のとおりである。また,同業他社の製品(乙60の各枝番)の施工方法は,証拠上は必ずしも明らかではなく,本件発明及び被告方法のように,倹鈍式によるガラス板の嵌め込み,ガラス板及び目地枠を摺動させることによる取付け,係止爪と被係止爪との係止,といった工程を可能にするものか否かは定かでない。また,控訴人が引用する裁判例は,本件とは事案を異にし,本件における損害額の算定において参考となるものではない。そうすると,控訴人の当審における上記主張は,原判決を引用して説示したとおり推定覆滅率2割を相当とするとの判断を左右するものではなく,採用することができない。\n
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)10716
以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを
実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ
るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し
ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同
程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について
証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ
ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数
のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認
められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する
ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について
証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ
も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付
枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる
(乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4
辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ
れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。
これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製
目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指
摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的
にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付
強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係
合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し
て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲
14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ
るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等
の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて
も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得
る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について
証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ
製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに
より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。
これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製
目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指
摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程
度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ
ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって,
アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺
笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関
係である。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他
原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可
能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら
の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に
おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す
る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当
である。
もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると
認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全
趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27
製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3
9製品が平成29年10月であることが認められる。
また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ
ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。
これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品
及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2
項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に
よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程
度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的
であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい
ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに
反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。
そうすると,特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は,以下のと
おりとなる。
・・・
したがって,原告の損害額は合計5481万9267円となり(内訳は以下のと
おり),原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づき,同額の損害賠
償請求権を有する。
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2021.09.24
令和1(ワ)23407 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年8月10日 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。「調整」の文言を解釈して、被告製品1,2は技術的範囲に属しないと判断されました。
本件発明の技術的意義や本件発明における調整手段の位置付けについて
みると,従来の吊張り装置としては,略円弧状の天井部に沿って設けら
れたウインチワイヤーと吊り上げワイヤーとを連結する連結体が,天頂
部との距離に応じてウインチワイヤーに沿って移動するよう構成されて\nいる装置が考えられたが,複数の停止体の設置等の調整作業を天井側で
行わなければならず費用がかかり煩雑である等の問題点があった(段落
【0006】【0008】)ところ,本件発明は,略円弧状の屋内の天
井部に沿ってウインチワイヤーを設け,吊り上げワイヤーを一端側でウ
インチワイヤーに連結しその他端側に吊張体を設けるなどの構成をとる\nとともに,天頂部,又は天頂部に最も近接している基準となる吊り上げ
ワイヤーのウインチワイヤーとの取付位置と,任意の吊り上げワイヤー
のウインチワイヤーとの取付位置との「高さ方向の距離に対応した長さ」
(構成要件C),すなわち,取付位置の高さの差の長さ(以下「本件差\n分」という。)に基づく吊り上げワイヤー等の長さの変更,すなわち調
整を,ネット等の吊張体若しくは吊り上げワイヤーの下端(床面)側又
はその両方に調整手段を設け,あらかじめ行うことにより,上記問題点
を解決するものである(段落【0010】【0025】【0026】
【0045】。前記1(2))。
また,「調整」とは,「1)調子の悪いものに手を加えてととのえること。
2)ある基準に合わせてととのえること。過不足なくすること。3)釣り合
いのとれた状態にすること。折り合いをつけること。」(大辞林第4版)
などとされる。
上記のとおりの本件発明の技術的意義,調整手段の意義や,「調整」の
一般的意味からすると,本件発明に係る吊張り装置において吊張体を過
不足なく適切に吊り張りするためには,本件差分が認識された上で,本
件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあら
かじめ変更する必要があり,本件発明の「調整手段」は,そのためのも
のであって,本件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー
等の長さをあらかじめ変更する構成であり,その調整を行うことにより,\n吊張体を過不足なく適切に吊り張りするための手段であると理解するこ
とができる。
本件明細書の具体的な実施例についてみても,ネット吊張り装置におい
て,天頂部の吊り上げワイヤー(9b)の取付位置と,他の吊り上げワ
イヤー(9a)の取付位置との「距離に対応した長さ」であるL1等の長
さ(L)が認識された上で,一対の筒状体(15)を吊り上げワイヤー
に挿通し,その一対(2個)の筒状体の間の距離を「距離に対応した長
さ」(L 本件差分)とすることによって,調整を行う調整手段が記載
されており(段落【0036】【0037】【図1】【図4】【図5】
等)ここでは,ネット体を過不足なく適切に吊り張りするため,吊り上
げワイヤーに挿通する一対の筒状体が設けられ,その筒状体の間の距離
を認識された差(L 本件差分)と同じにすることができることが記載
されており,本件差分(L)を基準としてこれに合うように筒状体の間
の距離の長さをあらかじめ変更する構成が調整手段として記載されてい\nる。以上のとおり,本件発明の「調整手段」(構成要件C)とは,吊張体を\n過不足なく適切に吊り張りするため,認識された本件差分を基準として
これに合うように長さをあらかじめ変更するための手段であると解され
る。
なお,吊張体の吊張り装置は,複数の部材を組み合わせて構成され,そ\nこには当然に連結部材や係止部材が含まれ,それらの連結部材や係止部
材において,何らかの長さの変更を行うことができる場合もあり得る。
しかし,本件発明の「調整手段」等の技術的意義は,上記のとおりのも
のであり,吊張り装置に何らかの長さ変更を行う構成があったとしても,\n本件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあ
らかじめ変更するための手段であると認められないものは,本件発明の
「調整手段」とはいえないと解される。仮に,本件発明において,単に
長さを変更する手段のみをもって調整手段に該当すると解するとすれば,
吊張体の施工やメンテナンスに際して吊り上げワイヤー等の長さを変更
するに当たり,他の手段によって,本件差分を基準としてこれに合うよ
うにしなければならないことになるが,そのような作業を床面側のみで
行うことが可能であることは本件明細書の記載等によっても明らかでは\nなく,このような構成によっては本件発明の課題を解決することができ\nない。ここで,本件明細書には,吊り上げワイヤーにネット体への係止
体を設けることで,又は,ネット体に吊り上げワイヤーの係止体を設け
ることで,吊り上げワイヤーの長さの調整を行うこともできることが記
載されている(段落【0058】)。これまで述べてきたところから,
そのような係止体が,認識された本件差分を基準としてこれに合うよう
に吊り上げワイヤー等の長さをあらかじめ変更するための手段といえる
場合には,本件発明の「調整手段」といえ,上記記載はその趣旨のもの
と理解することができる。それに対し,そのような手段とはいえず,通
常の係止体としての構成,機能\を超える構成,機能\等を有しないものは,
これまで述べたところに照らせば,本件発明と関係なく用いられている
係止体であり,本件発明の「調整手段」が有する効果を奏するものでは
なく,本件発明の「調整手段」に該当するとは認められない。
他方,被告らは,本件発明の「調整手段」が筒状体など本件明細書に記
載された具体的な実施例に限られる趣旨の主張もするが,本件発明の技
術的範囲が上記の範囲に限定される理由はなく,前記のとおり,本件差
分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあらかじ
め変更する構成を備えたものであれば,本件発明の「調整手段」といえ\nる。
・・・・
(3) 被告製品1が本件発明の技術的範囲に属するかについて
原告は,被告製品1において,各吊り上げワイヤーと各バトンを連結する
シャックル,リングキャッチ,チェーン(以下,これらを「本件連結材」と
いう。)が本件発明の調整手段であると主張する。
ここで,本件発明の「調整手段」(構成要件C)とは,吊張体を過不足な\nく適切に吊り張りするため,認識された本件差分を基準としてこれに合うよ
うに長さをあらかじめ変更するための手段である(前記(1)イ)。
本件連結材は,ワイヤーとバトンを連結する際に通常用いられる連結材と
認められるところ,それは,単に連結のために通常用いられる複数の構成部\n品から成っているものにすぎず,認識された本件差分を基準としてこれに合
うように長さをあらかじめ変更する構成を有するものであるとは認められず,\nそのような調整作業をするための手段とはいえない。
また,被告製品1において,もともと各吊り上げワイヤーのウインチワイ
ヤーへの連結位置から連結材の下端までの長さはほぼ同程度であり(前記(2)
イ),天頂部に最も近接した吊り上げワイヤーが取り付けられたバトンが床
面に到達した状態においては,他の各吊り上げワイヤーはたわんだ状態とな
るのであって(同エ),本件連結材によって吊り上げワイヤー等の長さの変
更は行っていない(同ウ)。本件連結材による長さの変更が想定されている
ことを認めるに足りる証拠もなく,本件連結材は,そもそも長さの変更を行
うための手段ではないともいえる。
したがって,被告製品1の連結材は,構成要件Cの調整手段には該当しな\nい。
以上から,被告製品1は,構成要件Cを充足せず,本件発明の技術的範囲\nに属しない。
◆判決本文
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2021.07.27
令和2(ネ)10044 特許権侵害損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年6月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁3部は、非接触式ICカードは本件発明の「記憶媒体」には非該当、また、無効主張は、時期に後れた攻撃防御でないとして、被告の敗訴部分を一部取り消しました。
(2) 非侵害論主張5)について
ア 自白の成否及び時機に後れた攻撃防御方法該当性
一審原告は,非侵害論主張5)は,原審の答弁書記載の認否によって成立
した自白の撤回に当たり,また,時機に後れた主張でもあるから,許され
ない旨主張する。
たしかに,一審被告は,原審答弁書における構成要件1A等の認否に際\nし,被告給油装置の電子マネー媒体が本件発明の「記憶媒体」に当たると
の対比を明確に争っていたわけではないが,従前から,被告給油装置が本
件発明の技術的思想を具現化したものでないことを主張しており,非侵害
論主張5)は,これを,使用される決済手段の差異(プリペイドカードと非
接触式ICカード)という観点から論じたものであるといえるから,一審
被告が充足論全体について単純に認めるとの認否をしていない以上,自白
を撤回して新たな主張をしているとはいえないし,この主張を時機に後れ
たものとして扱うのも相当ではない。
したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
イ 非接触式ICカードの「記憶媒体」該当性
本件明細書において,本件発明の「記憶媒体」の具体的態様としては,
磁気プリペイドカード(【0033】)のほか,「金額データを記憶する
ためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」(【0070】)や
「カード以外の形態のもの,例えば,ディスク状のものやテープ状のもの
や板状のもの」(【0071】)も開示されている。このように,本件発
明の「記憶媒体」は必ずしも磁気プリペイドカードには限定されない。
しかしながら,本件発明の技術的意義が上記1のとおりであることに照
らして,「媒体預かり」と「後引落し」との組合せによる決済を想定でき
る記憶媒体でなければ,本件3課題が生じることはなく,したがって,本
件発明の構成によって課題を解決するという効果が発揮されたことになら\nないから,上記の組合せによる決済を想定できない記憶媒体は,本件発明
の「記憶媒体」には当たらない。
かかる見地にたって検討するに,被告給油装置で用いられる電子マネー
媒体は非接触式ICカードであるから,その性質上,これを用いた決済等
に当たっては,顧客がこれを必要に応じて瞬間的にR/Wにかざすことが
あるだけで,基本的には常に顧客によって保持されることが予定されてい\nるといえる。そのため,電子マネー媒体に対応したセルフ式GSの給油装
置を開発するに当たって,物としての電子マネー媒体を給油装置が「預か
る」構成は想定し難く,電子マネー媒体に対応する給油装置を開発しよう\nとする当業者が本件従来技術を採用することは,それが「媒体預かり」を
必須の構成とする以上,不可能\である。
そうすると,被告給油装置において用いられている電子マネー媒体は,
本件発明が解決の対象としている本件3課題を有するものではなく,した
がって,本件発明による解決手段の対象ともならないのであるから,本件
発明にいう「記憶媒体」には当たらないというべきである。むしろ,電子
マネー媒体を用いる被告給油装置は,現金決済を行う給油装置において,
顧客が所持金の中から一定額の現金を窓口の係員に手渡すか又は給油装置
の現金受入口に投入し,その金額の範囲内で給油を行い,残額(釣銭)が
あればそれを受け取る,という決済手順(これは乙4公報の【0002】
に従来技術として紹介されており,周知技術であったといえる。)をベー
スにした上,これに電子マネー媒体の特質に応じた変更を加えた決済手順
としたものにすぎず,本件発明の技術的思想とは無関係に成立した技術で
あるというべきである。一審被告の非侵害論主張5)は,このことを,被告
給油装置の電子マネー媒体は本件発明の「記憶媒体」に含まれないという
形で論じるものと解され,理由がある。
ウ 一審原告の主張について
(ア) 一審原告は,本件発明の「記憶媒体」は,構成要件1C及び1Fの動\n作に適した「記憶媒体」であれば足りる旨主張する。
しかしながら,発明とは課題解決の手段としての技術的思想なのであ
るから,発明の構成として特許請求の範囲に記載された文言の意義を解\n釈するに当たっては,発明の解決すべき課題及び発明の奏する作用効果
に関する明細書の記載を参酌し,当該構成によって当該作用効果を奏し\n当該課題を解決し得るとされているものは何かという観点から検討すべ
きである。しかるに,一審原告の上記主張は,かかる観点からの検討を
せず,形式的な文言をとらえるにすぎないものであって,失当である。
したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 一審原告は,本件明細書の【0070】に「記憶媒体」として「金額
データを記憶するためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」を
例示する記載があり,非接触式ICカードもこれに含まれる旨主張する。
しかしながら,上記記載は,【0033】の「プリペイドカード71
は,磁気カードからなり」等の記載を受けて,カードの記憶素子が磁性
材ではなくICメモリであっても良い旨を示すにとどまり,そのカード
が非接触で動作することを示す記載ではない。また,上記記載において,
ICメモリは「金額データを記憶するための」ものであって,非接触式
ICカードのように演算・通信の機能を有することは開示も示唆もされ\nていないから,上記記載を根拠に非接触式ICカードが本件発明の「記
憶媒体」に当たるとはいえない。
したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 一審原告は,非接触式ICカードが券売機に取り込まれて使用され得
ることは周知であり,本件明細書には設定器内部にカードを取り込んだ
ままとしない記憶媒体を用い得ることが示されているから,非接触式I
Cカードが本件発明の「記憶媒体」に当たらないとはいえない旨主張す
る。
しかしながら,前掲前提事実のとおり,被告給油装置において電子マ
ネー媒体を使用する際には,電子マネー媒体(非接触式ICカード)は
R/Wにかざされるだけであって装置に「取り込まれ」ることはない。
非接触式ICカード一般に一審原告主張のような使用態様はあり得るも
のの,被告給油装置ではそのような使用態様によらずに非接触式ICカ
ードが「電子マネー媒体」として用いられているので,被告給油装置に
おける「電子マネー媒体」の技術的意義は,本件発明における「記憶媒
体」のそれとは異なる。
したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(3) 充足論についての小括
以上によれば,一審被告の非侵害論主張4)及び5)は理由があるから,その
余の非侵害論主張の成否について判断するまでもなく,被告給油装置及び被
告プログラムは本件特許を侵害しない。
4 争点4(無効論)について
念のため,仮に,本件発明1の「先引落し」金額は顧客が指定する場合を含
み(上記3(1)イ(イ)参照),また,非接触式ICカードも本件特許の「記憶媒
体」に含まれる(上記3(2)イ参照)とした前提で,無効論につき検討する。
なお,本件において,無効論は,本件発明1及び本件発明3(本件訂正後の
もの)について検討すれば足りる。このことは,上記「第3」4の冒頭に説示
したとおりである。
(1) 「時機に後れた攻撃防御方法」該当性について
無効主張A,B,Dは,原審における侵害論の心証開示後に主張されたも
のであり,そのため,原審においては時機に後れたものとして取り扱われた
わけであるが,既に充足論に関する項で指摘したとおり,構成要件1C1充\n足性(非侵害論主張4))及び構成要件1A,1C,1F3,1F4充足性\n(非侵害論主張5))に関する原審の主張整理には,本来は,争いがあるもの
として扱うべき論点を争いのないものとして扱ったという不備があったとい
わざるを得ない。そして,無効論に関する主張の要否や主張の時期等は,充
足論における主張立証の推移と切り離して考えることができないのであるか
ら,充足論について,本来更に主張立証が尽くされるべきであったと考えら
れる本件においては,無効主張が原審による心証開示後にされたという一事
をもって,時機に後れたものと評価するのは相当ではない。
また,上記無効事由に関する当審における無効主張は,控訴後速やかに行
われたといえる。
以上によると,一審被告による上記無効主張は,原審及び当審の手続を全
体的に見た観点からも,また,当審における手続に着目した観点からも,時
機に後れたものと評価することはできない。
したがって,いずれの無効主張も,時機に後れた攻撃防御方法として却下
すべきものではない。
・・・
ウ 相違点の容易想到性
上記の表において一致点とされていない本件発明1の構\成は,相違点と
なる。
しかしながら,いずれの構成も,セルフ式GSの給油装置において,審\n判甲B1装置の現金による支払を,電子マネー媒体による支払に置き換え
る際には,当然に備わる構成である。すなわち,上記の各相違点をまとめ\nると,本件発明1においては装置がR/Wを備えること,電子マネーの金
額データはR/Wにより電子的に書き換えられること,の2点となるが,
いずれの構成も,現金の場合は貨幣という有体物に化体されている金銭的\n価値を,電子的情報という無体物に化体させたことによって必然的に生じ
る帰結である。
また,現金による支払を電子マネー媒体による支払に置き換えること自
体は,電子「マネー」という名称自体からも容易に着想することができる
し,例えば乙16の12(電子商取引推進協議会「モバイルECに関わる
決済標準モデルの研究中間報告書」平成13年3月発行)には,非接触式
ICカードが「電子マネー」として利用されること,FeliCa内蔵の携帯電
話は「電子財布」になること等が記載されており,これらの記載は,現金
による支払いを電子マネー媒体に置き換えることを動機付ける。
そうすると,当業者にとって,上記各相違点にかかる本件発明1の構成\nに想到することは,通常の創作能力の発揮にすぎず,容易であったといえ\nる。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成29(ワ)29228
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2021.07.16
平成29(ワ)36506 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年5月19日 東京地方裁判所
LINEのフリフリ機能の特許権侵害について、約1400万円の損害賠償か認められました。広告収入については因果関係無しとして認められず、有料スタンプの売り上げのみでした。
原告は,被告に対し,特許法102条3項に基づく損害賠償を請求していると
ころ,同項は,「特許権者・・・は,故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,
自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定してい
るから,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,
実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
そして,かかる実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許
諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の
相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内
容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場
合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や
特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定め
るべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日大合
議判決参照)。
本件においては,被告アプリが無償で配信されており,被告アプリのユーザが
友だち登録をし,友だち等との間で被告システム等によるメッセージの送受信等
のサービスを享受すること自体により被告に売上げは発生しない(甲73)から,
「侵害品の売上高」をどのように確定すべきかがまず問題となり,次いで,実施
に対し受けるべき料率(相当実施料率)の算定が問題となる。
そこで,それぞれにつき,以下,検討する。
(1) 売上高について
ア 当事者の主張
原告は,被告の事業のうち,本件特許権侵害の対象となる事業は,コア事
業中の「アカウント広告」と「コミュニケーション」の売上げであり,本件
特許登録日である平成29年9月15日から被告が「ふるふる」の提供を終
了した日の前の日である令和2年5月10日までの間(以下「本件損害算定
期間」という。)の売上高(アカウント広告につき合計1519億5800
万円,コミュニケーションにつき767億2800万円)に基づいて損害額
を算定すべきであると主張する。
一方,被告は,主に被告アプリ上でアカウントを有する企業等からの売上
げであるアカウント広告の売上げは損害賠償額算定の対象とならず,仮に,
コミュニケーションの売上げが損害賠償額算定の対象となり得るとしても,
対象となるのは本件機能と関係のある部分に限られると主張する。\n
イ 認定事実
そこで検討するに,前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,
以下の事実を認めることができる。
・・・
(ウ) 企業等のアカウントとの間の「ふるふる」による友だち登録(被告シス
テム等図面【図38】,甲61)
LINE@等のサービスを導入している企業等が住所の位置情報をあ
らかじめ登録している場合,一般ユーザが被告アプリの友だち追加画面で
「ふるふる」を選択して手元のスマートフォンを振ると,半径1km圏内
の上記企業等も友だち登録の候補として表示され,同ユーザが同企業等に\nつき友だち追加処理をすると,同企業等が同ユーザの友だちとして追加登
録される。
ウ 「ふるふる」以外の友だち登録及び海外企業への輸出に係る売上げ等につ
いて
原告は,損害賠償の対象は,「ふるふる」による友だち登録及びこれによ
り友だちとなったユーザとの交流等に限定されず,QRコードやID検索等
の他の友だち登録も含み,また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべき
であると主張する。
(ア) しかし,原告は,本訴提起当初から,一貫して「ふるふる」による友だ
ち登録及びその後の交流が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張を
していたのであり(前記前提事実(5),被告システム等図面【図2】〜【図
4】,【図34】〜【図44】),その余の友だち登録手段による友だち
登録等が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張立証は侵害論の対象
とされていないので,損害賠償の対象となるのは,「ふるふる」による友
だち登録と相当因果関係のある範囲の売上高に限定されるというべきで
ある。
(イ) また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべきとの点については,被
告から海外企業への実施品の輸出に係る売上高を対象とする趣旨と考え
られるが,原告が侵害論において対象としていた被告の実施行為は,被告
システムの使用と,被告アプリの生産,譲渡及び譲渡の申出にとどまって\nおり,仮に被告システム等が輸出されているとしても,当該被告システム
等に本件機能が搭載されているかどうかといった点も本件の証拠上明ら\nかではないから,この点の原告の主張も採用し難い。
エ 損害賠償の対象となる売上高の範囲について
そこで,前記イ(ア)〜(ウ)で認定した事実に基づき,本件において損害賠償
の対象となる売上高の範囲につき検討する。
(ア) アカウント広告の売上げについて
アカウント広告の売上げは,企業等からの売上げに関するものであると
ころ,一般ユーザは,かかる企業等との間でも「ふるふる」による友だち
登録をなし得るものの,この場合は,企業等が住所の位置情報をあらかじ
め登録している必要があり,また,その際,企業等はスマートフォンを操
作するとは考え難いから,そもそも,この場合に,「近くにいるユーザ同
士がスマートフォン(2)を操作して友だち登録することによりコンピュ
ータ(14)を利用してコミュニケーションによる交流」(構成a等)を\n具備するとは認め難く,他にこの場合の被告システム等が本件各発明の技
術的範囲に属するという的確な主張立証はない。
また,前記イ(ア)aに記載されたアカウント広告を構成する各売上げの\n内容に照らすと,これらの売上げは,いずれも,一般のユーザ同士の本件
機能による友だち登録との関係がないか,関係があっても希薄であるとい\nうべきである。
そうすると,アカウント広告の売上げは,本件の損害賠償の対象となら
ないと解するのが相当である。
・・・
b 前記aで認定した売上高は,「ふるふる」以外の友だち登録に関する
分も含まれているところ,被告の侵害行為は,「ふるふる」による友だ
ち登録に関するものであるから,被告の侵害行為と相当因果関係にある
売上高は,上記売上高に,本件損害算定期間中の「ふるふる」による友
だち登録割合を乗じて算出するのが相当である。そして,前記イ(イ)の
とおり,同割合は,●(省略)●であるから,被告の侵害行為と相当因果
関係にある売上高は,●(省略)●となる。
●(省略)●
(ウ) 以上のとおり,被告の侵害行為と相当因果関係にある売上高は,●(省
略)●となる。
・・・
(2) 相当実施料率について
ア 本件各発明の実施許諾契約における実施料率やその相場等
原告は,原告代表者から専用実施権の設定を受けているが,その設定契約\nの詳細は本件の証拠上明らかでなく,また,原告が他人に本件各発明の実施
を許諾したことをうかがわせる証拠はない。
そこで,相場等につきみるに,証拠(甲157〜159,乙82)によれ
ば,電子計算機に係るロイヤルティ(件数719件)は,平均値が33.2%,
最頻値が50.0%,中央値が40.0%とされている一方,「技術分類 コ
ンピュータテクノロジー」,「対象となる製品・技術例 計算;係数,チェ
ック装置等」におけるロイヤルティ料率の相場は,1%未満,1〜2%未満,
2〜3%未満,3〜4%未満がいずれも16.7%であり,4〜5%未満が
25.0%であるとされている。
しかし,本件においては,被告アプリは無償で配信され,被告アプリのユ
ーザが「ふるふる」を使用して友だち登録をし,その後の交流を行うといっ
た行為自体による被告の売上げは発生しないという特殊性があることから
すれば,上記の相場等を重視することはできない。
イ 本件各発明の価値や代替可能性等\n
本件各発明は,前記1(2)に記載のとおり,初対面の人物同士が出会った
後互いにコンタクトを取ることができるようにする際に,極力個人情報を明
かすことなくコンタクトが取れるようにするためのコンピュータシステム
及びプログラムに関する発明であって,相手方に互いの個人情報を通知する
ことなく後々コンタクトを取ることができ,かつ,相手方以外の他人がその
相手方に成りすましてコンタクトしてくる不都合をも防止できる理想的な
連絡可能状態を構\築する手段を提供することを目的として,現実世界で出会
ったユーザ同士がユーザ端末を操作し,コンピュータを利用して交流を行う
に当たり,コンピュータ(サーバ)が各ユーザ端末の位置情報を取得し,該
位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索
されたことを必要条件として,該検索されたユーザ端末を新たな交流先とし
て交流先のリストに追加して表示させ,ユーザが表\示された複数の交流先の
内からコミュニケーションを取りたい相手を選択指定し,指定された相手と
の間でメッセージを送受信できるようにするという手段を採用することで,
互いにコミュニケーションによる交流に同意したユーザ同士が連絡先の個
人情報を知らせ合うことなく交流できるという効果が得られるようにした
ことを特徴とする発明である。
このような発明には一定のニーズが存在するものと考えられるから,本件
各発明には相応の価値があるものと認められる。
もっとも,前提事実(6)のとおり,本件特許に関する無効審判請求におい
て,特許庁は,本件特許が進歩性を欠く旨の職権審理結果通知をしていると
ころ,このことは,実際に本件特許が無効となるか否かはともかく,類似の
技術が存在することを示すものということができる。
ウ 本件各発明の被告の売上げや利益への貢献等
証拠(甲41・3丁)によれば,「ふるふる」を利用する場合の最大の特
長は,複数人と一度に友だちになれることであり,サークルや部活,仕事の
チーム,パーティーなど,複数の人が集まる場で活躍しそうであるとされて
いることが認められ,これらの事実に加え,前記(1)イ(イ)記載の事実関係に
よると,既に友人等であるユーザ同士が友だち登録する方法が多く,実際に
もそのようなユーザ同士により友だち登録がされることが多いことがうか
がわれることからすると,被告システム等においては「ふるふる」による友
だち登録がされる場合であっても,それ以前に相互の個人情報を交換してい
る場合も少なくないものと考えられる。
●(省略)●
被告による企業努力が大きく貢献しているとうかがわれるとこ
ろである。
そうすると,被告システム等に係る売上げや利益についての本件各発明の
貢献の度合いは,かなり限定的なものであると認められる。
エ 以上の諸事情,とりわけ,本件各発明には相応の価値があると認められる
ものの,これと類似の技術が存在することがうかがわれることや,被告シス
テム等に係る売上げや利益についての本件各発明の貢献の程度は限定的な
ものであることなどを総合的に考慮すると,本件における相当実施料率は●
(省略)●と認めるのが相当である。
◆判決本文
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2021.06. 4
平成30(ワ)8708 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年5月13日 大阪地方裁判所
本件発明の「せぎり部」には該当しないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。
本件発明の構成要件B1,B2及びB3は,「支持面」について規定するもので\nあり,その文言によれば,1)支持面は,水平支持部材の上面の略中央にある開口部
の端部にあり,2)支持面は,側溝蓋の当接部の曲面(断面凸状)と略相似の断面凹
状の曲面からなり,3)当接部の下端部とせぎり部との間に所定の隙間を形成するた
め,4)支持面の下端に沿って連続的にせぎり部が形成されるというものである。
前記1のとおり,従来製品においては,側溝蓋の平面の当接部が,側溝本体の平
面の支持面によって支持されていたところ,本件発明においては,断面凸状の当接
部が,略相似の関係にある断面凹状の支持面で支持されることによって,側溝蓋に
より受ける荷重が分散されるとともに密着性がよくなり,支持面に平面がないため
に小石,砂利,土等が堆積しにくくなり,側溝蓋のガタツキや騒音の発生を抑制し,
かつ,せぎり部により当接部の下端部と支持面の下端部との間に所定の隙間が形成
されるため,砂利,土等がその隙間に集まり,当接部と支持面との間の面接触状態
が維持され,堆積した小石,砂利,土等も除去しやすい,という効果があるとされ
る。
そうすると,せぎり部は,本来であれば略相似の関係にある曲面が当接する関係
にあった当接部と支持面のうち,支持面の下端の形状を変更することによって,当
接部の下端部との間に隙間を設けるものであるから,せぎり部は,それが設けられ
ていなければ支持面の一部として当接部と当接した部分に存することになるし,せ
ぎり部と対応する位置には,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部が存すること
になる。逆に言うと,側溝蓋と側溝本体との間に隙間が存したとしても,その隙間
が,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部に対応するのでなければ,それは本件
発明のせぎり部にはあたらないというべきである。
◆判決本文
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2021.05.31
平成31(ワ)2675 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年5月18日 東京地方裁判所
吹矢に関する特許侵害の損害認定について、101条1項、2項に基づき約3600万円の請求が認められました。
以上によれば,被告製品は,そのほとんどが吹矢協会と関係がある需要
者により購入されたと認めることが相当である。そして,被告製品は,吹
矢協会の関係者において吹矢協会の公認用具であることを理由として購
入された割合が相当に高いと認められる。原告の製造販売する吹矢用具は
令和2年12月1日以降は吹矢協会の公認用具でなかったから上記の理
由で購入された被告製品の需要の全てが原告の製造販売する吹矢の矢に
向かうとは認められない。他方,原告の製造する吹矢の矢については,吹
矢協会の公認がなくとも購入するとする者もいたことがうかがわれ,被告
製品の需要が全く原告の製造販売する吹矢用具に向かわないとはいえな
い。
被告は,原告の吹矢用具が吹矢協会の公認用具でないことを理由として
令和2年12月1日以降の被告の売上げについての推定覆滅を主張する
ところ,上記事情に照らせば,同日以降の利益については,65%の割合
で損害額の推定が覆滅すると認めるのが相当である。
◆判決本文
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2021.05.11
平成30(ワ)19441 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年1月28日 東京地方裁判所
被告製品には当該構成要件が存在するとはいえないとして、技術的範囲外と認定されました。\n
本件発明は,端部開口を含む「空気導入口」(構成要件D)から空気\nが導入されてその空気が「排出部」(構成要件E)から排出され,その\n空気の流れによってガス容器収容部,ガス容器を冷却するという空冷機
構を備え,ガス容器収容部,ガス容器に対する熱害の発生を防ぐという\nものである(前記(1))。
原告は,各被告製品の側面開口と底面穴が「空気導入口」であり,カ
バー穴が「排出部」であると主張する。
原告は,原告実験1−1から1−3,2−1から2−3,3−1,3
−2,3−3(前記(2)オ,キ,ケ)を,被告は被告実験1−1,1−2,
2(同カ,ク)を行った(このうち,原告実験1−1,2−1,3−1,
被告実験1−1,2が標準ガス容器に関する実験であり,原告実験1−
2,1−3,2−2,2−3,3−2,3−3,被告実験1−2が小型
ガス容器に関する実験である。)。そして,これらの実験において,燃
焼中のガス容器上側側面,下側側面等の温度が測定されるほか,スモー
ク粒子を用いて,器具周辺の空気の流れを示すことが試された。
ここで以下の(ウ)ないし(オ)のとおり本件に提出された証拠によって
は,各被告製品について,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう,
側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された
空気がカバー穴から排出されていることを認めるに足りない。
被告製品1については,スモーク粒子を用いた原告実験1−3(前
記(2)オ(ウ) において,カバー穴から空気がガス容器収容部外に流出して
いるように見えるときが多いものの,そうでないときがあるほか,側面
開口においては,基本的にガス容器収容部から空気が流出しているよう
に見え,側面開口から空気がガス容器収容部内部に流入する動きは観察
できるとしても,少しの間しか観察できない。また,被告製品1には,
作動部とガス容器収容部の間には仕切板が一部に設けられているにすぎ
ない。作動部においては,空気が取り込まれて燃焼炎等の影響を受けて
熱せられるところ,本件各証拠によっても,作動部で燃焼炎の影響を受
けて熱せられた空気がどのような動きをするかを認めるに足りず,作動
部において燃焼炎等の影響を受けて熱せられた空気がガス容器収容部側
のカバー穴,側面開口から流出することがないことを認めるに足りる証
拠はない。
他方,燃焼の際には,ガス容器内の液化石油ガスの気化に伴い,ガ
ス容器は気化冷却され,ガス容器内のガスの温度は低下する(前記(2)ア(イ)
そして,気化冷却により液化石油ガスの気化が妨げられることか
ら,ガス器具にはガス容器の加温機構を備える必要があり(同前),被\n告製品1においても,燃焼炎の熱や輻射熱を作動部からガス容器収容部
に伝達してガス容器を加温するための加温機構が備えられている(同\nイ)。したがって,ガス容器の気化冷却の程度や,燃焼熱や輻射熱の影
響は,ガス容器収容部及びガス容器の温度に影響を与え得る要因である
と認められる。このうち,気化冷却に関して,原告が行った各実験のう
ちガス容器内のガスを使い切るまで燃焼したものにおいて,いずれも,
ガス容器上側側面及び下側側面の温度がガスを使い切る直前から急激に
上昇しており(同オ ,(ア)(イ))帰化冷却はガス容器を用いた燃焼の最
終段階まで継続しており,かつ,ガス容器下側側面の温度は,開口等の
一部を塞ぐ作為の有無にかかわらず,概ね室温以下で推移しているので
あって(同前),その燃焼中のガス容器ひいてはガス容器収容部の冷却
に及ぼす影響は相当に大きいものと認められる。
以上のとおりの原告実験1−3における側面開口付近の空気の流れ,
被告製品1の構造に照らしてカバー穴等から流出する空気と燃焼炎の影\n響を受けた作動部側の空気との関係が不明なこと,燃焼中のガス容器,
ガス容器収容部に影響を与え得る諸要因を考慮すると,ガス容器収容部,
ガス容器を冷却するよう,側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が
導入され,その導入された空気がカバー穴から排出されていることを認
めるに足りない。
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2021.02. 8
令和2(ネ)10003 特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年1月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1億円の損害賠償を求めましたが、1審は無効理由あり(29-2および進歩性)として請求棄却しました。特許権者は訂正をしさらに控訴しました。知財高裁(3部)は、被告製品は本件訂正発明の「アクセス制御手段」を充足しないと判断して、控訴を棄却しました。
特許請求の範囲の記載によれば,本件訂正発明の「アクセス制御手段」は,
携帯電話の所有者が第三者による閲覧や使用を制限し,保護することを希望
する被保護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段であって,
RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別できる識別情報を
受け取って,該受け取った識別情報と当該携帯電話に予め記録してある識別\n情報との比較を行う比較手段で,前記アクセス要求を許可するという比較結
果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過す
るまでは前記被保護情報へのアクセスを許可するものである。
一方,被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,上記1のとおり,画面
ロックを解除し,または画面ロックを継続する手段であって,背面にかざさ
れたICカードの固有IDを受信し,その固有IDを用いて,当該ICカー
ドが登録済ICカードであるか否かの比較を行う比較手段で,画面ロックを
解除するという比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定さ
れた場合)は,画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しな
い限り,画面を介して操作することができるものである。
ここで,被告製品の「背面にかざされたICカードの固有ID」が,本件
訂正発明の「RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別でき
る識別情報」に相当することに争いはないから,被告製品の「画面ロック解
除制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に係る構成要件を充\n足するというためには,1)被告製品の「画面ロックを解除し,または画面ロ
ックを継続する手段」が,本件訂正発明の「携帯電話の所有者が第三者によ
る閲覧や使用を制限し,保護することを希望する被保護情報(以下,単に
「被保護情報」という。)に対するアクセス要求を許可または禁止する手
段」に当たるとともに,2)被告製品において「画面ロックを解除するという
比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定された場合)は,
画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しない限り,画面を
介して操作することができる」ことが,本件訂正発明の「アクセス要求を許
可するという比較結果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてか
ら所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」こと
に当たることを要するといえる。
(2) そこで,上記1)及び2)の2点に分けて,被告製品の「画面ロック解除制御
手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するか否かについて
検討する。
ア 上記1)の点につき
(ア) 証拠(甲4など)によれば,被告製品の「画面ロック機能」とは,ス\nマートフォンの画面をロックすることによって画面を介した操作が行え
ないようにするためのものであり,画面ロックの解除とは,スマートフ
ォンの操作(画面を介した操作)が可能な状態にするためのものであっ\nて,これらは被保護情報へのアクセスを許可するとか禁止するといった
ことそのものを意味するわけではないし,それと同視すべき事柄である
ということもできない。このことは,画面を介した操作が可能となった\nからといって,常に被保護情報へのアクセスが行われるわけではなく,
公開された地図の検索等,被保護情報には当たらない情報へのアクセス
に終始する場合もあり得ることや,逆に,被保護情報そのものにパスワ
ードが付されている場合等を想定すると,画面ロックを解除したからと
いって直ちに当該被保護情報にアクセスできるようになるわけではない
ことなどからも明らかである。
もちろん,被保護情報そのものにパスワード等が付されていない場合
には,画面ロックを解除した後,ユーザが画面を介して所定の操作を行
うことにより,スマートフォンに格納された被保護情報へのアクセスが
可能になるし,壁紙として,第三者に見られたくない写真を設定してい\nるような状況の下では,画面ロックの解除と同時に,被保護情報へのア
クセスが起こり得ることとなる。しかしながら,これらは,画面が開か
れたことそのものや,それによって画面を介した操作が可能になったこ\nとに付随して生じた結果というべきものであって,画面ロックやその解
除の直接の目的や効果といえるものではない(なお,1)の構成における\n違いが,2)の構成における違いにも反映していると考えられることにつ\nいては,後述のイ参照。)。
(イ) また,証拠(乙2)によれば,被告製品は,「画面ロック」状態にお
いても,画面を介した操作によらないアクセス要求(例えば,自動改札
機の通過のために乗車券の情報にアクセスすること,電話着信があった
ときに発信者の名前を画面に表示するために電話帳の情報にアクセスす\nること等)に対しては,アクセスを禁止していないことが認められ,こ
の場合には,画面ロックの解除を経ないで被保護情報へのアクセスが可
能になることとなる。このことも,画面ロックやその解除が,被保護情\n報へのアクセスの禁止や許可そのものではないことを裏付ける一事情と
いうべきである。なお,控訴人は,上記の例は,被告製品の構成を認定\nするための対象にはなっていない事例であるから考慮すべきではないと
いう趣旨の主張をするが,画面ロックやその解除の意義を認定するため
の事情として考慮することには何ら妨げはないものというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)に検討したところによれば,被告製品の「画面ロックを
解除し,または画面ロックを継続する手段」が,本件訂正発明の「被保
護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段」に当たるとい
うことはできない。
イ 上記2)の点につき
本件訂正発明の「アクセス制御手段」の「前記アクセス要求が許可され
てから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可す
る」構成は,その記載のみからは,所定期間が経過した後の状態が明らか\nでない。しかしながら,本件明細書の【0009】に,本件訂正発明の目
的は,「個人情報や金銭的価値のある情報を統合して管理する場合に当該
情報の第三者による不正使用を確実に防止するための情報保護システムを
提供することにある。」と記載されていることや,【0039】に,「タ
イマを設けて一定のタイムラグを許容することで,ICアセンブリ130
とICアセンブリ140とを実際に使用するときの距離が比較的長い場合
であっても,通信可能距離の短い通信方式を採用することが可能\にな
る。」と記載されていることからすると,上記の構成の意義は,所定時間\nに限ってアクセスを許容する構成を付加することで,第三者による被保護\n情報の不正使用を確実に防止しつつ,Rバッジと携帯電話とが離間してい
ても,自動改札機等による被保護情報に対するアクセス要求を適切に処理
できるようにしたことにあると解される。そうすると,所定時間経過後に
は,被保護情報の保護のために,再度アクセスを禁止することが必須とさ
れているというべきであり,「前記アクセス要求が許可され」たときを起
点とし,それから所定の時間が経過した後は,たとえ被保護情報へのアク
セスが継続している最中であっても,被保護情報へのアクセスは禁止され
ることになるものと解される。
これに対し,被告製品の構成は,前述のとおり,「画面ロックを解除す\nるという比較結果が得られた場合は,画面ロックが解除された後,無操作
状態が一定期間継続しない限り,画面を介して操作をすることができる」
というものである。その一定期間の起点は,画面ロックが解除された後,
何の操作もしないという例外的な場合には,画面ロックが解除されたとき
となるが,何らかの操作がされる多くの場合には,その操作が終了したと
きとなるのであって,常にアクセス許可がされたときが一定期間の起点と
なる本件訂正発明とは異なる。また,本件訂正発明においては,アクセス
許可がされた後,一定期間が経過すれば,被保護情報へのアクセスが継続
してDいたとしてもアクセスが禁止されることになるのに対し,被告製品に
おいては,画面を介した操作が継続している限り,一定期間がカウントさ
れることはなく,したがって,画面がロックされることはあり得ないので
あり,この点においても違いが存するものというべきである。
そして,両者にこのような違いが生じているのは,本件訂正発明におい
ては,アクセス許可が被保護情報へのアクセスという意味を有するため,
被保護情報の保護という観点から時間制限が設けられているのに対し,被
告製品の画面ロック解除は,単に,画面を介した操作を可能にするという\n意味しか持たないため,被保護情報の保護という観点から時間制限をする
必要はなく,無駄な電力消費を防ぐという観点から時間制限が設けられて
いるのにすぎないからであり,両者の時間制限が持つ技術的意義が全く異
なるからであると解される(このように本件訂正発明におけるアクセス許
可と被告製品における画面ロック解除が持つ技術的意義に違いがあること
は,被告製品が1)の構成要件をも充足しないことをも裏付けるものである\nといえる。)。
ウ 上記ア及びイに検討したところによれば,被告製品の「画面ロック解除
制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するとはいえ
ない。
(3) 控訴人は,本件訂正発明の「アクセス」とは,携帯電話の正当なユーザと
して被保護情報を閲覧・利用・更新することを意味しており,被告製品にお
いては,画面ロック状態では,正当なユーザであることを確認できていない
ため,被保護情報(電子マネー,電話帳,写真などのデータ)の閲覧・使
用・更新は禁止されているとして,被告製品が,本件訂正発明の構成要件を\n充足する旨主張する。
しかしながら,被告製品の画面ロック状態においては,被保護情報の閲
覧・利用・更新に制限があるとはいえ,それが全面的に禁止されているもの
ではなく(上記(2)ア(イ)),画面ロック状態の解除後においても,それだけで
被保護情報へのアクセスが全面的に可能になるものでもない(上記・・・(2)ア(ア))。
被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,まさに文字どおり,画面ロック
解除を制御しているにとどまり,被保護情報へのアクセスの制御との関連は
限定的なものにとどまる。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成30(ワ)39914
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2020.12. 2
令和1(ネ)10081 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年11月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明について、知財高裁(4部)も技術的範囲に属しないと判断しました。
以上の本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載及び本件明細書
の記載によれば,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,「ポインタの座\n標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力
手段に表示するため」の「画像データ」であり,出力手段に表\示され,利
用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるよう\nに構成されていることを要するものと解される。\n
イ これに対し控訴人は,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,命令の「対\n象」や「内容」のいずれかを,小さな絵で表現したものが,「実行される\n命令結果を利用者が理解できるという動作・作用を目的・目標として構成\nされている画像データ」であって,「画面上のどの座標位置・範囲に表示\nするかという表示位置・範囲に関する情報」を含むものである旨主張する。\n しかしながら,本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載中には,
「操作メニュー情報」が「実行される命令結果を利用者が理解できるとい
う動作・作用を目的・目標として構成されている画像データ」であること\nの根拠となる記載は存在せず,控訴人の上記主張は,特許請求の範囲の記
載に基づかないものであるから,採用することができない。
(3) 被告製品における「操作メニュー情報」(構成要件B)の具備の有無につ\nいて
控訴人は,1)被告製品の本件ホームアプリにおける「上ページ一部表示」\n及び「下ページ一部表示」は,その内容や表\示位置からすれば,これを見た
利用者は上ページ又は下ページにスクロールする結果を理解できるといえる
から,利用者が,その表示の有無を視覚的に認識でき,その表\示内容から,
所望の命令を実行した結果についても理解できるような,画像データに当た
り,「操作メニュー情報」に該当する,2)被告製品における「左上領域」(別
紙参考図の図1記載の左側の赤色の点線枠内),「右上領域」(同図1記載
の右側の赤色の点線枠内),「左下領域」(同図2記載の左側の赤色の点線
枠内,同図3のB記載の左側の画像)及び「右下領域」(同図2記載の右側
の赤色の点線枠内,同図3のB記載の右側の画像)は,「操作メニュー情報」
に該当する旨主張する。
ア そこで検討するに,被告製品の構成エ(ウ),(エ),オ(ウ)及び(エ)及び
別紙「乙2の2の説明図」によれば,被告製品においては,1)利用者が,
移動させたいショートカットアイコンをロングタッチし,ドラッグ操作を
することにより当該ショートカットアイコンを移動させ,ロングタッチし
た位置と当該ショートカットアイコンをドラッグしている指等のタッチパ
ネル上の位置が約110ピクセル離れた場合に,その際のページ画面が縮
小表示されるとともに,そのページ画面のページ番号に応じて,当該ペー\nジが上端ページであれば1つ下のページの一部の画像である「下ページ一
部表示」のみが,下端ページであれば1つ上のページの一部の画像である\n「上ページ一部表示」のみが,それ以外のページであればこれらがいずれ\nもIGZO液晶ディスプレイに表示される「縮小モード」となること,2)
「縮小モード」の状態で,「上ページ一部表示」が表\示されているとき,
利用者が当該ショートカットアイコンをドラッグしている指等及びマウス
カーソルの先端の座標位置を「左上領域」又は「右上領域」のいずれかの\n範囲に入れたときは,上ページスクロール1又は上ページスクロール2を
生じさせる命令が実行され,また,「縮小モード」の状態で,「下ページ
一部表示」が表\示されているとき,利用者が当該ショートカットアイコン
をドラッグしている指等及びマウスカーソルの先端の座標位置を「左下領\n域」又は「右下領域」のいずれかの範囲に入れたときは,下ページスクロ
ール1又は下ページスクロール2を生じさせる命令が実行されることが認
められる。
イ しかるところ,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表\
示」は,別紙「乙2の2の説明図」の図6等に示すように,「縮小モード」
の状態で,IGZO液晶表示ディスプレイの画面上に表\示される長方形状
上の画像データであるが,その表示には「実行される命令結果」の内容を\n表現し,又は連想させる文字や記号等は存在せず,利用者がその表\示自体
から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構成されているも\nのと認めることはできない。
また,利用者が,縮小モードの状態で,1つ上のページ又は1つ下のペ
ージの一部を表示した画像である「上ページ一部表\示」又は「下ページ一
部表示」を見て,「上ページ一部表\示」又は「下ページ一部表示」までド\nラッグすれば,上ページ又は下ページに画面をスクロールさせることがで
きるものと考え,実際にそのように画面をスクロールさせる操作をしたと
しても,それは,「上ページ一部表示」又は「下ページ一部表\示」の表示\n自体から「実行される命令結果」の内容を理解するのではなく,操作の経
験を通じて,画面をスクロールさせることができることを認識するにすぎ
ないものといえる。
したがって,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表\示」
は,利用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解でき\nるように構成された画像データであるものと認めることはできないから,\n構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当しない。\n
ウ 次に,前記アの認定事実によれば,被告製品における「左上領域」,「右
上領域」,「左下領域」及び「右下領域」は,いずれも,被告製品の出力
手段であるIGZO液晶表示ディスプレイの画面上の特定の座標位置で囲\nまれた領域であり,その領域は,画面上に画像データとして表示されてい\nるものではなく,利用者が画面上で認識できるものではない。
したがって,被告製品における「左上領域」,「右上領域」,「左下領
域」及び「右下領域」は,出力手段に表示され,利用者が「実行される命\n令結果」を理解できるように構成されている「画像データ」であるものと\n認めることはできないから,構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当し\nない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)8302
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2020.11.21
平成30(ワ)21448 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年7月9日 東京地方裁判所
被告製品は構成要件を有していない、さらに、進歩性違反の無効理由ありとの判断されました。同時期に継続していた審取の判断については「証拠が異なる」として、審理再開の 必要なしと判断されました。
イ 本件発明の技術思想(課題解決手段)について
前記(1)によれば,本件発明は,鋼管等を回転して圧入する立坑構築機に\n関し,輸送する際に幅を狭くする必要があったところ,従来技術において
は,円弧状歯車片同士の端部が当接されず,その隙間から内部の転動体が
こぼれ落ちてしまうため,標準的なベアリングを使用することができない
という課題が生じていたので,これを解決するため,構成要件Eに係る構\
成を採用し,円弧状ベアリング片が隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ
ングを構成し,もって,分割して幅方向の寸法を狭くすることができると\n共に,転動体がこぼれ落ちなくなり回転を安定させることができ,標準的
なベアリングを使用して装置を安価に構成することができるようにした\nという技術的思想であるものと認められる。すなわち,本件発明において,
円弧状ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付
ベアリングを構成するという技術的意義を有しているものというべきで\nあり,このことは,前記のとおり,課題解決手段の欄(段落【0011】)
において,「円弧状ベアリングは隙間なく接続して環状の歯車付ベアリン
グを構成し,内輪及び外輪の間に配置された球やころ等の転動体がこぼれ\n落ちない構造になっている。かかる構\成によって,分割して幅方向の寸法
を狭くすることができると共に,標準的なベアリングを使用して回転を安
定させることができる。」と記載されていることからも根拠付けられるも
のである。
ウ 構成要件Eへの被告製品の充足性について\n
しかして,構成要件Eには,円弧状ベアリング片が「それぞれの両端部\nを各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する」との文言が記載され\nているところ,「接続」とは「つなぐこと。つながること。続けること。続
くこと。」を意味するものである(広辞苑第7版)。そうすると,その文言
の一般的意義,上記の本件発明の技術的思想(本件発明において,円弧状
ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ
ングを構成するという技術的意義を有しているものであること)に照らせ\nば,環状の歯車付ベアリングを構成するために隙間なく接続する部品,す\nなわち,つなぐ部品が円弧状ベアリング片であって初めて,円弧状ベアリ
ング片が「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構\n成する」といえるものであると解するのが相当である。そうすると,環状
の歯車付ベアリングを構成した際に,円弧状ベアリング片の両端部に隙間\nが有るならば,「接続」とは評価し難いものというべきである。
しかるに,前記アによれば,被告製品においては,環状の歯車付ベアリ
ングは,2つある分割フレーム14に設けられた内外輪部ケースそれぞ
れの両端部及び回転リング部材51−3,51−4それぞれの両端部を
隙間なく接続して構成するものであって,分割内輪部23や分割外輪部\n24それぞれの両端部を隙間なく接続するものでも,つなぐものでもな
く,円弧状ベアリング片である円弧状部材36,37それぞれの両端部
には,客観的に隙間があるから,被告製品の円弧状部材36,37は
「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成す\nる」ものであるとはいえず,被告製品は,構成要件Eを充足しないもの\nというほかない。
・・・
以上によれば,本件特許は当業者が乙2発明に基づいて容易に発明するこ
とができたもの(特許法29条2項)であるから,特許無効審判により無効
にされるべきもの(同法123条1項2号)である。
なお,本件特許については,知的財産高等裁判所令和2年(行ケ)第10
102号事件同2年3月24日判決(裁判所ホームページ)が,特許無効審
判請求の不成立審決に対する取消請求を棄却しているところ,原告は,これ
を理由として,口頭弁論再開の申立てをしているが,同判決は,乙2発明を\n主引用発明とし,乙20発明を副引用発明として適用することに基づく進歩
性の欠如については判断しておらず,上記判断は同判決と矛盾するものでは
ないから,再開の必要性は認められない。
◆判決本文
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>> 104条の3
>> 裁判手続
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2020.10.12
平成30(ネ)10016 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年5月27日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
知財高裁(4部)は、侵害しないとした1審判決を変更して、約2000万円の損害賠償を認めました。原審は,噴霧流同士が衝突する前に「粒子径10μm以下の液滴」を噴射するものではなく,クレームの「液体を微粒子に噴射する」を充足するものと認められないと判断していました。
(イ) これに対し被控訴人は,1)イ号製品においては,供給口(5)から
供給された液体は,空気口(10)から噴出された外部傾斜領域(7A
')に平行な方向に沿って流動する空気流の強い剪断応力と液体の自重で
下流側へ引っ張られて傾斜面(外部傾斜領域(7A'))に沿って流れ,
空気流によって傾斜面に液体を押し付ける力は作用しておらず,乙23
の鑑定書記載のとおり,流体力学の一般原理においては,傾斜面に対し
て平行な高速気流によっては,傾斜面に供給された液体に対し,傾斜面
に押し付ける力は生じないから,イ号製品は,構成要件オの「液体を,\n高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」の構成を備えていない,2)
構成要件オの「薄膜流を空気流で空気中に微粒子として噴射する」とは,\n「高速流動空気によって押しつけられた液体の薄膜流が平滑面ないし傾
斜面から離れるとき」に「10μm以下の液滴の微粒子」になることを
いうが,イ号製品は,気液体が混じった高速噴流が衝突することによっ
て,微粒子を得られるものであり,この衝突前に微粒子を得られるもの
ではないとして,イ号製品は,構成要件オを充足しない旨主張する。\n しかしながら,被控訴人の主張は,以下のとおり理由がない。
a 上記1)について
乙23の鑑定書には,1)液体が傾斜面に供給された場合,液体を傾
斜面側に押す力がなくても,液体は,その粘性による剪断応力と自重
とで傾斜面に沿って流れること,2)気体が傾斜面に平行に流れる場合,
気体は,傾斜面を押す力を発揮し得ないこと,3)液体には,高速の気
流との速度差によって傾斜面に平行な方向の剪断応力が作用し,液滴
の飛散を伴う流れとなるが,このような傾斜面に平行な気流では,該
傾斜面に液体を押し付けるような力は作用しないことは,流体力学の
一般原理である旨の記載がある。
しかしながら,乙23は,空気の直線流れの方向と平行に平板を設
置した場合における流体力学の一般原理について述べるものであって,
イ号製品においては,「供給口(5)」から供給されたノズルの軸方
向(垂直方向)に直進する液体流が,空気口(10)から噴射する高
速流動する空気流によって,空気流と合流する時点で,外側傾斜領域
(7A')に沿って平行に進むように進行方向が曲げられており(前記
(ア)a),傾斜面(外側傾斜領域(7A'))に液体流を押し付ける力
が作用しているものといえるから,イ号製品には妥当しない。
したがって,被控訴人の上記1)の主張は理由がない。
b 上記2)について
本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,「微粒子」の粒子
径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。
次に,本件明細書には,微粒子の粒子径に関し,「図1に示すノズ
ル」について「この構造のノズルは,液体を10μm以下の微細な粒\n子に噴射できる。」(【0003】),「図3に示すノズル」につい
て「粒子径を5μmとする微粒子を得ることに成功した。しかしなが
ら,この構造のノズルは,液体を噴射する供給口5の調整が極めて難\nしく,調整がずれると微粒子の粒子径は20〜30μm以上に急激に
大きくなった。」(【0011】),「図4に示すノズル」について
「この構造のノズルは,アトマイズエアーとスプレッディングエアー\nの衝突角を25度に設計すると,10μm以下の微粒子が得られる。」
(【0012】),「図11の拡大図に示すノズル」について「この
構造のノズルは,液体を極めて微細な,たとえば1〜5μmの微粒子\nとして噴射できる特長がある。」(【0052】),「ちなみに,本
発明者が試作したノズルは,1分間に1000gの液体を噴射して,
粒子径を10μm以下の微粒子の液滴を噴射することに成功した」(【0
072】)との記載があるが,これらの記載から,本件発明4の「微
粒子」の粒子径を「10μm以下」に限定する趣旨を読み取ることは
できず,また,本件明細書には,本件発明4の「微粒子」の粒子径を
「微粒子」の粒子径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。
さらに,本件意見書には,「内部混合タイプのノズルは,閉鎖され
た空間内で液体の微粒子として噴霧します。このため,ノズルの内部
で極めて目詰まりしやすい欠点があります。・・・にもかかわらず,内部
混合タイプの噴霧ノズルが多用されますのは,外部混合タイプでは,
安定して液体を極めて小さい微粒子に噴霧できないからです。外部混
合タイプの噴霧ノズルであって,液体を微粒子として安定して噴霧で
きます優れたノズルは実用化が困難です。」,「本願発明は,外部混
合タイプのノズルを改良したものです。本願発明の噴射方法とノズル
は,前述の独特の構成で,液体を極めて小さい微粒子に安定して噴射\nできる特長があります。本発明の噴射方法とノズルは,液体を,10
μm以下の極めて小さい微粒子として,安定して噴射することが可能\nです。・・・それは,本発明の噴射ノズルが,液体を極めて小さい孔や,
極めて小さいスリットから噴射して微粒子に噴射するのではなく,平
滑面を極めて速い速度で高速流動する空気流で,液体を薄く引き伸ば
して微粒子にして噴射するからです。」(以上,6頁16行〜7頁2
行)との記載がある。上記記載中には,「液体を,10μm以下の極
めて小さい微粒子として,安定して噴射することが可能です。」との\n記載があるが,上記記載全体として読めば,「本発明」は,「平滑面
を極めて速い速度で高速流動する空気流で,液体を薄く引き伸ばして
微粒子にして噴射する」構成により,液体を微粒子として安定して噴\n霧でることを説明したものであって,「本発明」が「10μm以下」
の粒子径の微粒子を噴射できることに格別の作用効果があることを述
べたものではない。
以上によれば,構成要件オの「微粒子」とは,小さな粒子径の粒子\nを意味するものであって,粒子径の数値範囲に限定はなく,「10μ
m以下」の粒子径のものに限定されるものでもない。そして,イ号製品においては,外側傾斜領域(7A')に沿って進む,液滴を含む薄膜流は,外側傾斜領域(7A')から離れるときに小さな粒子径の液滴(微粒子)となっていることは,前記(ア)b認定のとお
りである。
◆判決本文
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◆平成27(ワ)12965
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2020.09.26
平成29(ワ)22010 実用新案権侵害差止等請求事件 実用新案権 民事訴訟 令和2年2月5日 東京地方裁判所
実用新案登録に基づいて、損害賠償請求が認められました。争点は、技術的範囲、間接侵害、無効(冒認)、先使用権と多いです。無審査登録の実案なので、訂正したあと評価書請求をして警告後の権利行使です。
ア 構成要件Dは,取出し筒の筒部先端近傍に口紐を設け,「口紐により取出し筒から引き出した命綱の周囲を緊縛して,取出し筒の開口部を密閉する」というも\nのであり,それによって,取出し筒から空気が漏れるのを防止し,冷却効率を損な
わないという作用効果を奏するものであるところ(前記1(1)ア(イ)),上記の「緊
縛」については,「きつくしばること」という一般的な字義(乙1)のとおり,口
紐により命綱の周囲をきつく縛ることを意味すると解するのが相当である。
イ 被告は,「緊縛」は,口紐を取出し筒の先端部に巻き付け,その両端を絡ま
せてつなぎ合わせることを意味すると解すべきであるとし,その理由として,1)
「縛る」に「ひもや縄などを巻き付けて結び,離れたり,動いたりしないようにす
る」という字義があり,「結ぶ」に「ひも・帯などの両端をからませてつなぎ合わ
せる」という字義があること,2)本件明細書の図4に,口紐を筒部先端部に巻き付
け,その両端を絡ませてきつく縛り,筒部の開口部を密閉する態様の実施例が示さ
れていることなどを主張する。
しかしながら,被告が主張するような態様によらなくとも,筒部の開口部を密閉
することによって,取出し筒から空気が漏れるのを防止し,冷却効率を損なわない
という作用効果を奏することは可能であると考えられるところ,上記1)については,
「緊縛」の一般的な字義を離れて,その意味を過度に限定するものであり,上記2)
についても,実施例にすぎず,本件明細書の考案の詳細な説明において,口紐を筒
部先端部に巻き付け,その両端を絡ませてきつく縛る態様のものでなければならな
いとする説明もみられないことなどに照らせば,いずれの主張も採用することはで
きず,「緊縛」がそのような態様のものに限定されると認めることはできない。
(2) 被告製品
これを被告製品についてみると,前記第2の2(6)のとおり,被告製品は,ランヤ
ード取出し筒の筒部先端近傍に口紐を設け,「口紐をランヤード取出し筒から引き
出したランヤードの周囲に巡らせ,コードストッパーを用いて筒部先端部分を収縮
させることにより,ランヤードを固定して,ランヤード取出し筒の開口部を密閉す
る」という構成(構\成d)を有するところ,コードストッパーを用いるものであっ
たとしても,口紐により命綱の周囲をきつく縛ることにより,筒部の開口部を密閉
するものである認められるから,構成要件Dを充足する。したがって,被告製品は,文言上,本件考案の技術的範囲に属する。\n
3 争点3(被告製品3及び6は本件登録実用新案に係る物品の製造にのみ用い
る物か)について
前記第2の2(6)イ認定のとおり,被告製品3及び6は,服本体のみで販売されて
いる製品であり,ファン等を取り付け又は収納することによって,本件考案の技術
的範囲に属する被告製品と同様の構成を備えるものとなると認められるから,被告製品と同様に,構\成要件Dを充足する。
そして,被告製品3及び6は,ハーネス型安全帯を着用できるようにするために
空調服の背中部分にランヤード取出し筒を設けたものであり,そのような構成を有しない通常の空調服と比べて販売単価が高いものであること,具体的には,前記1\n(1)カ(イ)認定のとおり,被告各製品の販売単価とこれらに対応するものとして被告
が販売している通常の空調服の販売単価を対比すると,被告製品1及び4は約1
5%,被告製品2及び5は約23%,被告製品3及び6は約48%割高であること,
同(ウ)認定のとおり,被告の空調服のカタログに,「ウェアのみ」の製品は「洗い
替え用やファン・バッテリーなどをお持ちの方向けのウェアのみです。」と記載さ
れ,被告製品3及び6は「フルハーネス安全帯着用者専用空調服です。背中部分か
らランヤードを取り出すことができます。もちろん空気は逃がしません。・・・」など
と記載されていることなどからすると,被告製品3及び6は,ハーネス型安全帯を
着用するために販売されている製品であると認めるのが相当であり,ハーネス型安
全帯を全く利用しない使用形態は,経済的,商業的,実用的な用途として想定され
ていないというべきであるから,本件登録実用新案に係る物品である被告製品の製
造のみに用いるものと認めるのが相当である。
したがって,被告製品3及び6は本件登録実用新案に係る物品の製造にのみ用い
る物(実用新案法28条1号)に当たる。
・・・
5 争点5(被告は先使用による通常実施権を有するか,又はセフト社の先使用
による通常実施権を援用することができるか)について
(1) 被告各製品の製造等に関し,被告らが先使用による通常実施権を有するとい
うためには,被告らにおいて考案の実施である「事業の準備」(実用新案法26条,
特許法79条)をしていたこと,すなわち,その考案につき,いまだ事業の実施の
段階には至らないものの,即時実施の意図を有しており,かつ,その即時実施の意
図が客観的に認識される態様,程度において表明されていることを要するものと解される(特許法79条に関する最高裁昭和61年(オ)第454号同年10月3日\n第二小法廷判決・民集40巻6号1068頁参照)。
(2) これを本件についてみると,本件出願日までの被告らにおけるフルハーネス
対応空調服の開発状況等は前記1(1)エ認定のとおりである。すなわち,1)被告ら代
表者は,平成27年3月3日頃,背中部分に先端が開口した筒状の出口を設け,その先端部分を紐様のものなどを用いて縛る構\成を有する空調服に係る着想を得て,その構成を手書きで図示した乙11図面を作成し,同月4日,そのデータをゼハロスに送信して,試作品の作成を依頼したこと,2)ゼハロスは,同月31日までに,
背中部分に先端が開口した筒状の出口を設け,その先端部分を紐及びコードストッ
パーを用いて縛る構成を有しており,被告各製品と同様の構\成を有する本件試作品
を作成したこと,3)被告らは,同年4月7日,被告において購入したハーネス型安
全帯を用いて本件試着品の試着をしたことが認められる。
しかしながら,フルハーネス対応空調服の構成に係る手書き図面が作成され,その試作品を作成して,社内でその試着をしたからといって,被告らにおいて,即時\n実施が可能な状況にあったかは必ずしも明らかとはいえないところ,前記第2の2(5)認定のとおり,被告らが被告各製品の製造,販売等を開始したのは平成28年5
月であり,本件試作品が作成され,試着された平成27年3月及び同年4月から1
年以上を要したことにも照らせば,本件出願日の時点では,少なくとも,本件考案
の実施に当たる被告各製品の事業に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識さ
れる態様,程度に表明されていたということはできないというべきである。\n
(3) 被告は,1)被告ら代表者は,平成27年3月4日,本件考案の構\成が記載さ
れた乙11図面のデータをゼハロスに送信し,試作品の作成を依頼しているところ,
フルハーネス対応空調服が顧客のニーズ等を背景として作れば売れる製品であった
こと,その開発又は販売の障害となるような事情は存在しなかったこと,被告らの
社内体制として,被告ら代表者の意思決定が重要な意味を持っていたことなどに照らせば,被告ら代表\者の上記の行為は,フルハーネス対応空調服の事業化を決定する旨の被告らの意思表示であるということができること,2)ゼハロスは,被告ら代
表者の上記の依頼を受け,他社に委託するなどして,平成27年3月31日までに,本件試作品を作成しているところ,被告らが,莫大な時間,労力,資金を投下して,\n既存の空調服を研究,開発し,商品化してきたこと,本件考案は,既存の空調服に
筒を取り付けるだけで完成するシンプルな構成であることなどに照らすと,被告らは,本件試作品の作成によって,フルハーネス対応空調服に係る事業活動のほとん\nどを完了しており,被告らによる即時実施の意図が客観的に表明されていること,3)被告ら代表者は,平成27年3月26日の空調服の会において,必要があればフルハーネス対応空調服のアイディアを提供する旨発言しており,被告らが同空調服\nを販売する意思を有していたことが示されていること,4)被告らは,平成27年4
月7日,本件試作品の試着を行い,被告ら代表者においてフルハーネス対応空調服は完成したと強い手応えを感じ,同空調服の販売の意思はより強固なものになった\nから,遅くともその時点で,被告らによる販売の意思は確定的なものとなったこと
などを主張する。
しかしながら,上記1)について,乙11図面は,手書きの比較的簡略な図面であ
り,そのデータを他社に送信して試作品の作成を依頼したというだけで,即時実施
が可能な状況にあったといえないことは明らかである。被告ら代表\者の意思決定が
重要であったというのは被告らの内部的な事情にすぎないことにも照らせば,ゼハ
ロスへの乙11図面の送信等をもって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施
の意図が客観的に認識される態様,程度に表明されたということはできない。また,上記2),4)について,本件考案は既存の空調服の背中部分の構成を変更するにとどまるものであり,被告らは既存の空調服の研究,開発実績を有していると\n認められたとしても,試作品が一度作成され,社内でその試着がされただけでは,
製品化に耐えるものであるか未だ明らでなく,試着の結果を踏まえて設計の見直し
等の作業が必要になるであろうことは十分に考えられるところである。被告らが被告各製品の製造,販売等を開始したのはその後1年以上が経過した平成28年5月\nであったことなどにも照らせば,本件試作品が作成されたことや試着されたことを
もって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識される態
様,程度に表明されたということはできない。さらに,上記3)について,被告が指摘する空調服の会における被告ら代表者の発言は,必要があればフルハーネス対応空調服のアイディアを提供するというもので\nあり,これをもって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施の意図が客観的に
認識される態様,程度に表明されたということはできない。
(4) 以上によれば,本件出願日である平成27年5月11日当時,本件考案の実
施に当たる事業に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度に
表明されていたと認めることはできないから,被告らにおいて,その「事業の準備」をしていたということはできない。\n
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2020.09.10
平成29(ワ)28189 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年1月17日 東京地方裁判所
少し前の事件です。漏れていたのでアップします。「略1/2」という限定事項について、中間片の幅の平均比率が1/2の90%〜100%の範囲内にあるものが全80枚のうち3枚の割合なので、技術的範囲に属しないと判断されました。無効理由も主張されてましたが、これについては判断されませんでした。
上記記載によれば,本件発明等の課題は,1)包装体の大きさを従来と同様
に維持しつつ,より大きなサイズのシート状物を積層できる構造を提供する\nこと,2)包装体同士を積み重ねた際の安定感のあるシート状物の積層体を提
供することにあり,本件発明等の効果は,3)従来と比較して第2の折片の面
積分だけ大きいサイズのシート状物によって,従来と変わらないサイズの積
層体を形成することができ,また,第2の折片が設けられた大きさ分だけ肉
厚部分が形成され,積層体同士を重ね合わせた際の安定感を向上することが
できるという効果を得られることにあると認められ,本件発明等においては,
上記1)の課題を解決して上記3)の効果を得るために第2の折片を設けてい
るが,本件発明等に係るシート状物のサイズを従来のものより大きくするた
めには,その前提として,第2の折片以外の部分を可能な限り大きくするこ\nとが必要となるものと解される。
すなわち,本件発明等の第1の中間片の幅は積層体の幅と略同じ長さと規
定されているところ,第2の中間片及びこれと略同じ幅の第1の折片の長さ
を第1の中間片の幅の2分の1より小さくすると,第2の折片を設けたとし
ても,シート状物全体のサイズがその分だけ従来のものよりも小さくなって
しまい,上記1)の課題を解決して上記3)の効果を得ることができなくなる一
方,第2の中間片の幅を第1の中間片の2分の1よりも長くすると,第2の
中間片同士が中央部で重なり合い,全体の嵩高状態が不安定なものになって
しまい,上記2)の課題解決に支障が生じることとなる。そうすると,本件発
明等の上記課題1)及び2)を解決し,所期の効果を奏するには,第2の中間片
の幅を,第1の中間片の1/2を超えない範囲でこれに限りなく近づけるこ
とが望ましいものと認められる。
エ 前記のとおりの「略」という語の通常の意義及び構成要件Cにおいて第2\nの中間片の幅寸法が規定されている技術的意義に照らすと,同構成要件にい\nう「略1/2」とは,正確に2分の1であることは要しないとしても,可能\nな限りこれに近似する数値とすることが想定されているものというべきで
あり,各種誤差,シート状物の伸縮性等を考慮しても,第1の中間片の2分
の1との乖離の幅が1割程度の範囲内にない場合は「略1/2」に該当しな
いと解するのが相当である。
オ これに対し,原告は,本件発明等は,容易に伸縮する素材を用いることを
前提とし,第2の中間片及び第1の折片の幅に誤差が生じた場合にも,第2
の折片によりその誤差を吸収して,積層体が所望とする幅寸法になるように
調整することに主眼があるのであって,本件発明等における「略1/2」の
語は,1/2を超える場合は含まないが,1/2より短いものは広く許容す
る意味と解釈すべきであると主張する。
しかし,本件明細書等には,第2の中間片が第1の中間片の幅の1/2よ
り小さい幅となったときに第2の折片がその誤差を吸収することにより積
層体の幅寸法を維持することが本件発明等の課題である旨の記載は存在し
ない。むしろ,前記判示のとおり,本件明細書等には,積層体の幅を従来と
同様とした上で,第2の折片を設けることにより「第2の折片の面積分だけ
従来と比較して大きいサイズのシート状物」(段落【0011】)を形成す
ることが本件発明等の課題である旨が記載されているのであって,その課題
解決のためには,前記のとおり,第2の中間片の幅を,可能な限り第1の中\n間片の1/2を超えない範囲でこれに近づけることが望ましいものという
べきである。
・・・
3 相違点1の認定の誤りについて
(1) 前記2(1)の甲6の記載事項(図2ないし4を含む。)を総合すれば,甲
6には,本件審決が認定するとおり,甲6(審判甲1)発明が記載されてい
ることが認められる。そして,本件訂正発明と甲6(審判甲1)発明を対比すると,本件訂正発明の第2の折片の幅と甲6(審判甲1)発明における「腰折ウェットテシュ
ー11f,12f」(第2の折片に相当)の幅について,本件訂正発明は,
「上記第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整する
とともに,上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の
幅より短い幅となる」のに対し,甲6(審判甲1)発明は,「腰折ウェット
テシュー11,12の展開長の略五分の一の長さ,又は腰折ウェットテシュ
ー11,12の幅方向の中心線Yを越えず且つこれに接近した長さ」である
点で相違すること(本件審決認定の相違点1)が認められる。したがって,本件審決における相違点1の認定に誤りはない。
(2) これに対し原告は,1)特許法施行規則24条の2は,特許発明の技術上の
意義ある部分は,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他」
により特定される旨規定していることからすると,発明は,解決課題(目的
あるいは作用・効果)と解決手段(構成)とで特定しなければならない,2)
本件訂正発明と甲6に記載された発明の相違点を捉えるには,第2の折片と
他の片との関係性をシート全体の折構造で把握する必要があるなどとして,\n本件審決における甲6(審判甲1)発明の認定は適切ではなく,本件審決認
定の相違点1は,原告主張の相違点1(前記第3の1(1))のとおり認定すべ
きである旨主張する。
しかしながら,特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許出願の願書に添
付した特許請求の範囲の記載に基づいてすべきものであるところ,原告主張
の相違点1は,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項1)記載の発明特定
事項以外の事項(本件明細書記載の「背景技術」,「発明が解決しようとす
る課題」等)をも含めて本件訂正発明の要旨を認定することを前提として,
本件訂正発明と甲6に記載された発明とを対比するものであるから,その前
提において,採用することができない。また,特許法施行規則24条の2は,
特許法36条4項1号の経済産業省令の定めるところによる記載は,発明が
解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分
野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必
要な事項によりしなければならない旨規定し,明細書の発明の詳細な説明の
記載要件を定めた規定であるから,原告主張の相違点1が適切であることの
根拠となるものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
4 相違点1の判断の誤りについて
(1) 本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り返され上記第
1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整するとともに,
上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅より短い
幅となる第2の折片」にいう「調整」の意義について
ア 本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り返され上記
第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整するとと
もに,上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅
より短い幅となる第2の折片とを有するように折り畳まれ」との記載から,
本件訂正発明の「第2の折片」は,「第1の中間片の幅の1/2未満で,
かつ,上記第1の折片の幅より短い幅」であって,「第1の中間片から積
層方向上側に折り返され」,「第2の折片」によって「第1の中間片の幅
が所望とする積層体の幅寸法となるように調整」することができることを
理解できる。
一方で,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「上記第1
の中間片から積層方向上側に折り返され上記第1の中間片の幅が所望とす
る積層体の幅寸法となるように調整する」にいう「調整」について,具体
的な調整方法等について規定した記載はない。
イ 次に,本件明細書には,「調整」に関し,「調整」の語について定義し
た記載はなく,「図1に示すように,シート状物10は,所望とする積層
体の幅寸法と略同じ長さに形成された第1の中間片11と,積層方向下側
に折られ,第1の中間片11の略1/2の幅に第1の中間片11に隣接し
て形成された第2の中間片12と,第2の中間片12から積層方向下側に
折り返され第2の中間片12と略同じ幅に形成された第1の折片13と,
第1の中間片11から積層方向上側に折り返され第1の中間片11の幅が
所望とする積層体の幅寸法となるように調整する第2の折片14とから構\n成されている。」(【0014】)との記載がある。また,本件明細書に
は,「第2の折片」に関し,「第2の折片14は,第1の中間片11と隣
接し,シート状物10の長さ方向に平行な長辺10a,10bと,第3の
折れ線17と短辺10cとによって囲まれる部分である。シート状物10
の長辺10a,10bの第2の折片14の長さにあたる部分,つまり第3
の折れ線17と短辺10cとの距離Dは,D<Cの関係を有する。つまり,
距離Dは,距離Aの半分より小さい値である。」(【0020】),「以
上のように構成されたシート状物積層体1は,従来の積層構\造においては
ない第2の折片14を有することで,従来と変わらない積層体の幅として
も,第2の折片14の面積分だけ従来よりもサイズの大きいシート状物1
0を積層させることができる。具体的には,シート状物10は,従来使用
されるシート状物の大きさと比較して,第2の折片14の面積分,つまり
上述のD<Cの関係を有する範囲内で大きさを変更することができ,約2
5%まで大きいサイズのシート状物を使用することができる。」(【00
26】)との記載がある。
ウ 以上の本件訂正発明の特許請求の範囲の記載,本件明細書の記載及び図
1によれば,本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り
返され上記第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調
整する」にいう「調整」とは,シート状物の第1の中間片の幅が所望とす
る積層体の幅寸法となるように,「第2の折片」の幅を「第1の中間片の
幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅より短い幅」となるように
設定することを意味するものと解される。
・・・
被告製品2)については,上記アの審理経過に照らし,信用性が高いと認め
られる甲25及び乙A39に基づいて検討することが相当であるところ,原
告が被告製品2)(YRC24/3FM13:59)について測定した結果(甲25:別紙6
−2)によれば,同製品の各シート状物の第1の中間片の幅の2分の1に対
する第2の中間片の幅の比率(以下,単に「第2の中間片の比率」というこ
とがある。)が90%〜100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち3
枚にすぎず,その平均値(「平均値(1,80枚目除く)」欄のもの。以下
同じ。)も83%にとどまるものと認められる。また,被告PPJが被告製品2)(YRC24/3FM16:40)について測定した結果(乙A39:別紙6−4)によれば,第2の中間片の比率が90%〜100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち30枚であるものの,同比率がその範囲内にあるものは,いずれも偶数番目のシート状物であって,奇数番目の
シート状物にはこれが存在しない上,全体の平均値も84%にとどまるもの
と認められる。
上記の被告製品2)全体における第1の中間片の幅の2分の1に対する第2の中間片の幅の平均比率,その比率が90%〜100%の範囲内にあるものの割合及びその分布等に照らすと,被告製品2)の第2の中間片が構成要件C「第1の中間片の略1/2の幅」との要件を充足するとは認められない。\n
◆判決本文
対応する審決取消訴訟はこちらです。こちらは、無効審決が維持されています。
◆令和1(行ケ)10088
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2020.09. 7
令和2(ネ)10023 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年8月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
モバイル送金・決済サービスについて特許権侵害を主張しましたが、知財高裁(2部)は、1審(東地40部)と同様に、技術的範囲に属しないと判断しました。被控訴人(1審被告)はLINE PAYです。イ号システム、本件特許については1審判決に詳しく説明されています。
「(1) 構成要件A等の「ホワイトカード」及び「使用限度額」の意義\nア 前記1(1)のとおり,本件明細書等では,段落【0002】〜【000
5】において本件発明の課題が説明されているところ,同課題は,クレジットカー
ドについてのものであり,プリペイドカードサービスやデビットカードサービスに
ついてのものではない。そして,段落【0006】において,「以上の課題を解決
するために,本発明は,・・・ホワイトカード使用限度額引き上げシステムを提供
する。」と記載され,さらに,段落【0007】〜【0009】において,上記課
題を解決するための具体的構成が記載されている。これらの記載に,「ホワイト\nカード」の用語は,クレジットカードに関して使用された場合は,「カード会社が
個人向けに発行する最もベーシックなクレジットカード」を意味するものと認めら
れること(乙6,7)を併せ考慮すると,段落【0006】〜【0009】の「ホ
ワイトカード」は,段落【0002】〜【0005】に記載されたカードであるク
レジットカードを意味するものと認められる。
一方で,本件明細書等には「ホワイトカード」がプリペイドカードやデビット
カードを含む旨の記載は存在しないから,本件明細書等の「ホワイトカード」には,
プリペイドカードやデビットカードは含まれないものと解される。
イ 前記1(1)のとおり,本件明細書等には,段落【0002】〜【000
5】で,従来技術として,クレジットカードについて,ユーザの支払能力などに応\nじて所定期間内で使用可能な金額である「使用限度額」が契約時にある程度固定さ\nれ,使用限度額の引上げなどの変更がなかなかできない,あるいは煩雑な手続が必
要となるという課題があること,先行技術であるクレジットカード管理システムに
関する発明の乙8発明は,ユーザの利用実績により使用限度額を変更できるという
ものであるが,同発明によっても,ユーザが他者から送金を受けた場合に使用限度
額を変更することはできないという課題があることが記載され,段落【0006】
で,上記の課題を解決するために,本件発明は,ユーザが他者から送金を受けたこ
とにより使用限度額を引き上げることができるシステムを提供することが記載され
ており,これらの記載からすると,本件発明における「使用限度額」は,従来技術
における「使用限度額」と同様に,クレジットカードの使用限度額を意味するが,
ユーザに対する入金があると所定の手続を経ずに引き上げられるものであると解す
るのが相当である。
したがって,本件発明における「使用限度額」は,ユーザが所定期間内に使用
することのできる金額の上限額を意味し,その額は,ユーザとの契約時には,その
支払能力(信用力)に応じて設定され,「ある程度固定される」ものであるが,そ\nの後,ユーザに対する入金があった場合,所定の手続を経ずに引き上げられるもの
であると認められる。
ウ 以上のとおり,本件発明における「ホワイトカード」はクレジット
カードを意味し,「使用限度額」は,「契約時に設定され,契約時には,ある程度固
定される,所定期間内で使用可能な金額」を意味するものというべきである。\n
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,本件発明の課題について「使用限度額に関しては契約時に
ある程度固定されるため,限度額の引上げなどの変更がなかなかできない,あるい
は煩雑な手続きが必要となる」という従来技術の課題(段落【0003】)は乙8
発明により解決済みであり,本件発明の課題は,他者からの送金の受金等による
ユーザの所持金の増加を速やかに使用限度額に反映させることにある(段落【00
05】)と主張する。
しかし,本件明細書等の段落【0003】と段落【0005】の記載によると,
乙8公報に記載された従来技術は,「予め定められた使用限度額内での利用実績に\n応じて算出変更」することにより使用限度額を変更することを可能にするものであ\nるが,それでは「他者からの送金を受金することなどでユーザの所持金が当該クレ
ジットカード契約時の平均所得以上に増えたとしても,カード会社に逐一連絡など
して所定の手続きを経なければそれが使用限度額に反映され」ないという課題を解
決し得ないことから,本件発明は,本件特許請求の範囲に規定された構成を採用す\nることにより,入金を受け付けた旨の情報に基づいて,所定の手続(煩雑な手続)
を経ることなく,ホワイトカードの使用限度額を引き上げることを可能としたもの\nと認められる。
このように,乙8発明は,「使用限度額に関しては契約時にある程度固定される
ため,限度額の引上げなどの変更がなかなかできない,あるいは煩雑な手続きが必
要となる」という従来技術の課題のうちの一部を「クレジットカードの使用限度額
を利用実績に応じて算出変更する技術」によって解決したにすぎず,本件発明は,
乙8発明により解決できなかった従来技術の「他者からの送金を受金することなど
でユーザの所持金が当該クレジットカード契約時の平均所得以上に増えたとしても,
カード会社に逐一連絡などして所定の手続きを経なければそれが使用限度額に反映
されることは無い」という課題を解決したものであるから,控訴人の上記主張は理
由がない。
◆判決本文
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◆平成30(ワ)13927
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2020.08.14
平成30(ネ)10085 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審で差し止めが認められていました。被告が控訴しましたが知財高裁(4部)を控訴棄却されました。サポート要件については原審でも具備していると判断されています。
争点2−1(本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか)
控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Hに対応する「シ\nフト機能」に係る構\成について,「いったんスルー注文」及び「決済トレー
ル注文」と組み合わせた,複数の新規注文の全て及び複数の決済注文の全て
がそれぞれ1回ずつ約定した場合に複数の新規注文の全て及び複数の決済注
文の全てに対応する個数の新たな複数の新規注文及び新たな複数の決済注文
を発注させることしか記載されておらず,構成要件Hに含まれる「シフト機\n能」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせたも\nの以外の構成のものについては記載されていないことからすれば,構\成要件
Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,特許
法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合する
とはいえない旨主張する。
ア そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に
は,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記\n複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたこ
とを検知すると,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知
の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも
さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成す
る」との記載において,「注文情報生成手段」が生成する「所定価格だけ
高い売り注文価格の情報」を含む「売り注文情報」の個数を規定する記載
はないから,当該「売り注文情報」は,複数の場合に限らず,一つの場合
も含むものと理解できる。
イ(ア) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,1)「シフト機能」につ\nいて,「金融商品取引管理装置1や金融商品取引管理システム1Aにお
いて,既に発注した新規注文と決済注文をそれぞれ約定させたのち,「シ
フト機能」による処理を併用した取引を行うことも可能\である。この「シ
フト機能」による注文は,上述した,「いったんスルー注文」や「決済\nトレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば後述する「リピートイ
フダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)等に基づいて,新
規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文
や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異
なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様
の注文形態である。」こと(【0078】),2)「シフト機能」は,「相\n場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場
価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一注文情報や新たな第二注
文価格の第二注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行う
ことができる」(【0018】)という効果を奏すること,3)「発明の
実施の形態3」は,「この実施の形態3の金融商品取引管理システムに
おいては,「いったんスルー注文」と「決済トレール注文」とを,「ら
くトラ」による注文と組み合わせ,さらに「シフト機能」を行わせる状\n態を示す。」(【0138】)ものであるが,「上記の「シフト機能」\nは,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構成において適\n用することもできる。」こと(【0151】)及び「上記各実施の形態
は本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態のみに限定されるこ
とを意味するものではないことは,いうまでもない。」こと(【016
4】)の記載がある。
上記1)の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少な\nくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される
際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフ
トさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シ
フトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一
方のみの構成又は双方の構\成が含まれること,先に発注済の一つの注文
の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価\n格帯」をシフトさせる構成のものが含まれることを理解できる。\nまた,上記1)ないし3)の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を\n反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いった
んスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例え
ば・・・「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」
等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各\n種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。
ウ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,図35に示す「実施の形態
3」(【0144】ないし【0148】)として,シフト機能に決済\nトレール注文を組み合わせたトラップリピートイフダン注文で行われ,
決済注文S5,S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の
買い注文B5,B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売
り注文S5,S4が再度生成されるが,この時点ではシフトは発生せ
ず,通常のリピートイフダン注文が繰り返され,その後相場価格が変
動して,S1ないしS3の売り注文価格がトレールし,S1ないしS
3が最も高い注文価格の売り注文として同時に約定すると,再度生成
された売り注文S5,S4は約定していないにも関わらずこれをキャ
ンセルして,S1ないしS5のシフトが実行されることが記載されて
いる。上記記載は,構成要件Hに含まれる,「シフト機能\」に「いっ
たんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成の一\nつであることが認められる。
また,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせない場合には,\n図35において,S2及びS3の売り注文価格がトレールしないため,
それぞれの注文情報が生成された時点における価格のとおり,それぞ
れ別々に約定し,その場合,実施の形態3の取引例でS5,S4が約
定した段階ではシフトが生じていないのと同様に,S3,S2が約定
した段階ではシフトが生じず,その後に最も高い売り注文価格の売り
注文であるところのS1が約定した段階でシフトが生じることになる
ことを理解できる。
そうすると,複数の売り注文情報のうち最も高い売り注文価格の売
り注文が約定すると,それよりも所定価格だけ高い売り注文価格の情
報を含む売り注文情報を生成するという構成要件Hに係る構\成は,本
件明細書の上記記載から認識できるから,本件明細書の発明の詳細な
説明に記載されているということができる。
◆判決本文
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◆平成29(ワ)24174
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2020.08.14
令和1(ネ)10059 特許権 民事訴訟 令和2年3月18日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、文言侵害不成立および、第1要件満たさないとして均等侵害を否定しました。知財高裁(3部)も同様の判断です。ただ、本質的部分について、引用発明と対比して判断しています。
「ア 均等侵害が成立するための第1要件にいう本質的部分とは,当該特許発
明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分であり,このような特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備
えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと解される。
そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特
許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲
の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何\nであるかを確定することによって認定されるべきである。
ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているとこ
ろが,出願時の従来技術に照らして客観的に不十分な場合には,明細書に記載され\nていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的
思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。\n
イ 本件特許出願の審査において,特許庁は,本件各発明は,平成15年 8 月
22日に公開された特開2003−234608号公報(甲30。以下「引用文献
1」という。)等の文献に基づき,当業者が容易に発明し得た旨の拒絶理由通知書
を送付した(乙6)ことから,引用文献1に記載された技術について検討する。
・・・
まず,引用発明1と比較して,本件発明1の本質的部分を検討する。
(ア) 本件発明1の内容は,前記1(2)で判示したとおりであり,その技術
的思想を構成する部分は,仮固定用ホルダの構\成を,可撓性樹脂で成形し,前記給
電用筒状部の外壁面に沿って下方に延びる複数のメインアーム部と,同メインアー
ム部に対して下端部にて繋がったサブアーム部とを有し,同サブアーム部の下端部
は,同サブアーム部が外側に拡がるための支点となり,同サブアーム部の上端部は
前記メインアーム部の外側面よりも外方向に突出した係止爪をなし,かつ同係止爪
は上端に向かって肉厚が増加しているものとし,同構成を採用することにより,ア\nンテナ挿入時には,メインアーム部及びサブアーム部の両部材が内側に動くため,
より小さい挿入力で取付孔への挿入が可能となり,また,抜け方向に荷重が加わっ\nたときは,車体パネルの内側面に係止爪の上端が当接し,サブアーム部が外側に拡
がるため,抜け力を増大させることができ,仮固定用ホルダの挿入力は小さいまま
で,抜け力を大きくすることを可能としたことである。\n一方,本件特許の出願前に公開された引用文献1に記載された引用発明1の内容
は,前記イ(イ)で判示したとおり,固定板付き基板ブラケット9の構成を,円筒状\n突出部の外周面に沿って下方に伸びる複数の側板4を有し,側板4にコ字状の切溝
4eを設け,切溝4eに囲まれた矩形状のバネ片4aの上端が側板4から外側に向
かって離れるものとしたものであり,このうち,側板4は本件発明1のメインアー
ム部に,バネ片4aは本件発明1のサブアーム部にそれぞれ相当するものであり,
アンテナの挿入時には,側板4及びバネ片4aが内側に撓み,抜け方向に荷重が加
わったときは,ルーフパネル20にバネ片4aの上端部が当接し,バネ片4aが外
側に撓んで仮止めすることになると認められる。
(イ) そこで,本件発明1のうち,引用発明1に見られない特有の技術的思
想を構成する特徴的部分を検討すると,引用発明1は,抜け方向に荷重が加わった\nときに,サブアーム部に相当するバネ片4a全体が撓むため,十分な抜け力を確保\nできなかったことから,本件発明1は,仮固定用ホルダを可撓性樹脂で成形し,サ
ブアーム部の上端部は上端に向かって肉厚が増加する係止爪からなるものとするこ
とにより,抜け方向に荷重が加わったときに,サブアーム部の下端部を回転の支点
として,サブアーム部が外側に拡がるようにし,同下端部でサブアーム部の回転を
受け止めることにより,抜け力を増加させたものと認められる。そして,本件発明
1が,サブアーム部の上端部は上端に向かって肉厚が増加する係止爪からなるもの
としたのは,上記のとおりサブアーム部の強度を増すためであると認められる。
以上からすると,本件発明1のうち,引用発明1に見られない特有の技術的思想
を構成する特徴的部分とは,可撓性樹脂で成形されたサブアーム部の上端部は上端\nに向かって肉厚が増加する係止爪からなるものとし,これにより,抜け方向に荷重
が加わったときに,サブアーム部は,下端部を支点として回転するように外側に拡
がり,下端部において,サブアーム部の上記回転を受け止めて,抜けを防止すると
いう部分であると認められる。そして,この部分が本件発明1の本質的部分に当た
ることになる。
(ウ) 控訴人は,本件発明6の本質的部分は,「アンテナに抜け方向の荷重
が加わった際に,下端部を支点とした外向きの回転力がサブアーム部に発生するこ
とにより,サブアーム部が内側に向かって変位することが防止されるため,サブ
アーム部に設けられた係止爪が車体パネルから外れて抜けてしまう(すっぽ抜ける)
ことがない」という構成にあると主張する。\nしかし,控訴人が主張する上記の構成は,引用発明1にも見られるから,同構\成
が本件発明1や本件発明6の本質的部分ということはできない。
エ 次に,被控訴人製品が,前記ウで認定した本件発明1の本質的部分を共
通に備えているかについて検討する。
被控訴人製品においては,サブアーム部は,可撓性樹脂で成形されており,車体
パネルに係止するための爪部を備えるが,同爪部は,サブアーム部の中間付近に位
置している(乙1,2,13)ため,その上部のサブアーム部であるフック部が,
抜け方向に荷重が加わったときに,サブアーム部がその下端部を支点として外側に
拡がることを阻止し,そのため,サブアーム部は,その下端部を回転の支点として
外側に拡がることはなく,したがって,同下端部で,サブアーム部の回転を受け止
めることによって抜け力を増大させるものではない。
そうすると,被控訴人製品は,本件発明1の本質的部分を備えているとは認めら
れない。
オ 控訴人は,被控訴人製品において,抜け方向の荷重が加わると,サブ
アーム部の下端部を支点とした外向きの回転力が発生することにより,サブアーム
部に設けられた爪部が内向きに変位して車体パネルから外れるという事象が防止さ
れているから,被控訴人製品は,本件発明6の本質的部分を備えていると主張する。
しかし,前記エのとおり,被控訴人製品においては,抜け方向の荷重が加わり,
サブアーム部が外側に拡がろうとしても,同動きはフック部によって阻止されるた
め,サブアーム部は,その下端部を回転の支点として外側に拡がることはないから,
被控訴人製品は,本件発明1や本件発明6の本質的部分を備えておらず,控訴人の
上記主張は理由がない。
カ したがって,本件発明1と被控訴人製品との前記の相違点は,本件発明
の本質的部分ではないということはできないから,被控訴人製品は,均等の第1要
件を充足しない。」
◆判決本文
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◆平成30(ワ)13400
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2020.07.17
平成31(ネ)10015 特許権 民事訴訟 令和2年6月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁は、明細書の開示を参酌して「大豆胚軸発酵物」とは,大豆胚軸自体の発酵物をいい,大豆胚軸抽出物の発酵物を含まないと判断した1審判決を維持しました。
このように本件明細書には,「発酵原料」として「大豆胚軸」を使用
した場合の発酵処理及び実施例の記載はあるが,一方で,「発酵原料」
として「大豆胚軸抽出物」を使用した場合の発酵処理及び実施例に関す
る記載はない。
(エ) 前記(ア)ないし(ウ)によれば,本件明細書には,「本発明」(「大
豆胚軸発酵物」)の発酵原料として「大豆胚軸抽出物」と「大豆胚軸」
とを明確に区別した上で,発酵原料として使用される「大豆胚軸」は,
「含有されているダイゼイン類が失われていないことを限度として,大
豆の産地や加工の有無について制限され」ず,「脱脂処理や脱タンパク
処理に供したもの」も使用することができ,発酵原料にイソフラボンを\n別途添加しておくことにより,得られる大豆胚軸発酵物中のエクオール
含量をより高めることが可能となることを開示し,他方で,コストが高\nく,エクオール産生菌による発酵のために別途栄養素が必要になる「大
豆胚軸抽出物」は,「本発明」(「大豆胚軸発酵物」)の発酵原料に適
さないことの開示があることが認められる。
ウ 検討
以上の本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書
の記載を前提に検討するに,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)に
は,本件発明1の「大豆胚軸発酵物」(構成要件1−C)を定義した記載\nはなく,その発酵原料となる「大豆胚軸」を特定の成分のものに限定する
記載もないが,一方で,本件明細書では,「大豆胚軸発酵物」の発酵原料
として「大豆胚軸抽出物」と「大豆胚軸」とを明確に区別した上で,コス
トが高く,エクオール産生菌による発酵のために別途栄養素が必要になる
「大豆胚軸抽出物」は,発酵原料に適さないことの開示があることに照ら
すと,かかる「大豆胚軸抽出物」を発酵原料とする発酵物は,本件発明1
の「大豆胚軸発酵物」に該当しないものと解するのが相当である。
もっとも,本件明細書には,発酵原料に適さない「大豆胚軸抽出物」の
成分やイソフラボン含量等についての開示はないことは,前記イ(イ)aの
とおりである。
しかるところ,大豆胚軸からイソフラボンを含有する成分の抽出処理は,\n一般に,水,アルコール(エタノール等)又は含水アルコールなどの溶媒
を用いた抽出によって行われるが,大豆胚軸から高濃度のイソフラボンを\n含有する「大豆胚軸抽出物」を得るには,このような抽出処理に加え,合
成吸着樹脂を用いた濃縮操作等の精製処理が必要であることは,本件特許
の優先日当時の技術常識であったことが認められる(例えば,甲43の【0
011】,【0012】,甲46の【0002】ないし【0005】,甲
49の【0013】ないし【0015】)。
そして,高濃度のイソフラボンを含有する「大豆胚軸抽出物」は,コス\nトが高く,エクオール産生菌による発酵のために別途栄養素が必要になる
ことは自明であるから, かかる「大豆胚軸抽出物」を発酵原料とする発
酵物は,本件発明1の「大豆胚軸発酵物」に該当しないものと認めるのが
相当である。
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◆平成29(ワ)35663
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2020.04. 2
令和1(ネ)10082 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年3月25日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
技術的範囲に属しないとした1審判決が維持されました。争点は「フリップフロップ現象発生用軸体」の用語の解釈です。
控訴人は,本件発明1における構成要件E及びFの「フリップフロップ現象発生用軸体」について,「フリップフロップ現象を発生させる軸体を意味する。」との原判決の判断には誤りがあると主張する。\nしかし,本件発明1における構成要件E及びFの「フリップフロップ現象発生用軸体」は,その文言からフリップフロップ現象を発生させる軸体を意味することは\n明らかである。また,本件明細書を見ても,本件発明1はクーランド液が「フリッ
プフロップ現象発生用軸体」を通過することによってフリップフロップ現象を発生
させるなどして,その課題を解決するものである(本件明細書の【0006】,
【0007】,【0041】〜【0045】)から,「フリップフロップ現象発生
用軸体」がフリップフロップ現象を発生させる軸体であることは明らかである。
したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 控訴人は,本件明細書の【0037】は,電子回路の用語を参考に記載
しているだけであるのに,原判決は,本件発明1が「フリップフロップ現象」を解
決原理としていると誤解していると主張する。
しかし,本件明細書の【0037】の記載が,電子回路の用語に基づく参考記載
にすぎないと認めることができないことは,原判決の「事実及び理由」の第4の2(1)イ(カ)bの通りである。
(1) また,上記アのとおり,本件発明1は,「フリップフ
ロップ現象」を解決原理としているものである。
したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(2) 「フリップフロップ現象」の意味について
ア 控訴人は,本件明細書の【0011】,【0043】及び【0007】
の記載によると,フリップフロップ現象とは,「フリップフロップ現象発生用軸体
を通過することにより当該現象の結果として『クーラント液等』が『乱流となり無
数の微小な渦を発生』した状態」を指すことを基本としていると主張する。
しかし,本件明細書の【0037】に,「フリップフロップ現象(フリップフロ
ップ現象とは,流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象)」と
記載されている上,本件各発明と共通する技術分野において,本件特許出願前に
「フリップフロップ現象」の語が,おおむね,流体の流れの周期的な振動ないし方
向変換を意味するものとして使用されていること(原判決の「事実及び理由」の第
4の2(1)イ(ウ))からすると,本件発明1におけるフリップフロップ現象は,基本
的には,(1)「流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」を意味
すると解釈することができ,(2)「クーラント液等」が「乱流となり無数の微小な渦
を発生」した状態を指す語としての使用は,上記(1)の意味におけるフリップフロッ
プ現象の発生を前提とした,派生的な使用と位置づけられるべきである。控訴人が
指摘する本件明細書の【0011】,【0043】及び【0007】の記載は,こ
の判断を左右するものではない。
イ 控訴人は,本件特許の出願当時の当業者の理解について主張する。
まず,乙14〜20は,いずれも公開特許公報であるが,これらの特許において
は,A及びBのほか,C(乙16),D(乙17),E(乙18,20),F(乙
19)も共同発明者とされていることが認められるから,単に,A及びBの2名の
研究者,発明者がフリップフロップ現象を「流体の流れの周期的な振動ないし方向
転換を意味するもの」として使用しているとは認められない。
また,控訴人は,本件発明1の構成要件Dの記載によると,当業者は,本件明細書の【0037】の括弧内の記載の流れ(流体の流れる方向が周期的に交互に方向\n変換して流れること)が生じないことを理解すると主張する。
しかし,本件発明1の構成において,ひし形凸部がフリップフロップ現象発生用軸体の軸心に対してどのような傾きをもって設置されているかは特定されておらず,\n上記軸心に対してひし形凸部が傾きを持っていて非対称となっているかは明らかで
はないから,当業者が,本件明細書の記載や,「フリップフロップ現象」の語につ
いての当業者の一般的な理解に反して,本件明細書の【0037】の括弧内記載の
流れ(流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象)が生じないこ
とを理解すると認めることはできない。
◆判決本文
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◆平成29(ワ)11147
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2020.03.13
平成29(ワ)27238 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年2月28日 東京地方裁判所
特許を侵害するとして約1800万円の損害賠償が認められました。判決文が200頁を越えてます。論点は技術的範囲の属否、無効の抗弁と多岐に渡ります。平成27年11月以降で1つあたりのライセンス料が1.5倍となっているのは、特許3についても侵害となったためです。
本件では,本件LED又はその製造方法が特許発明の技術的範囲に属するということだけでなく,白色LEDはそれのみで販売の対象となるものであり,原告は白色LEDの製造,販売を行っていることなどから,特許法102条3項の金額の算定に当たって,まず,上記の平均的な価格の24個分の価格に,主として本件特許権1の侵害が問題
となる平成27年10月までの期間については5パーセントを乗じ,本件特許
権1に加えて本件特許権3(登録日平成27年10月23日)の侵害も問題と
なる平成27年11月以降の期間(なお,本件発明2と本件訂正後発明3の内
容に照らし,損害の算定に当たり本件特許権2(登録日平成28年12月16
日)の侵害については特に期間を分けて考慮することをしない。)については
8パーセントを乗じると,それぞれ,10.80円及び17.28円となる(2
16円×5パーセント=10.80円 216円×8パーセント=17.28
円)。
そして,本件で特許権の侵害となるのは本件LEDを使用した被告製品の販
売であること,本件LEDはデジタルハイビジョンテレビである被告製品にと
り不可欠のものであり,その機能,性能\において重要な役割を果たしていると
いえること,原告の白色LEDの市場におけるシェア,原告が主張するライセ
ンスについての方針,その他本件に現れた諸事情を考慮し,本件において,被
告製品1及び2を通じ,特許法102条3項の実施に対し受けるべき金銭の額
は,被告製品1台当たり,消費税相当額を含めて,平成27年10月までの期
間については,20円をもって相当であると認め,平成27年11月以降の期
間については,30円をもって相当であると認める。
以上のとおり,本件において,原告が実施に対し受けるべき実施料として被
告製品1台当たり,20円又は30円とするのが相当であるところ,これらは,
それぞれ,被告製品の平均的な販売価格の0.058パーセント又は0.08
7パーセントである(20円÷3万4129円≒0.00058 30円÷3
万4129円≒0.00087)。これらに基づき,特許法102条3項に基づ
く損害額は,以下のとおり,1645万6641円とするのが相当と認める。
◆判決本文
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2020.03. 9
令和1(ネ)10042 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年2月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明の侵害事件です。会計ソフトについて非侵害と判断された1審判断が維持されました。均等侵害も第1要件を満たしていないとして否定されました。
該当特許の公報は以下です。
◆公報
該当特許は無効審判もありますが、2020年1月に、特許は有効と判断されています(無効2018-800140)。
3 争点2(均等論)について
控訴人は,仮に本件発明の構成要件Hは「社会保障給付」が「財源措置(C\n2)」に含まれる構成であると解した場合には,被告製品においては,「社会\n保障給付」が,「財源措置(C2)」に含まれておらず,「純経常費用(C1)」
に含まれている点で本件発明と相違することとなるが,被告製品は,均等の第
1要件ないし第3要件を充足するから,本件発明の特許請求の範囲に記載され
た構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属する旨主張するので,\n以下において判断する。
(1) 前記2(2)認定のとおり,被告製品は,少なくとも構成要件B3及びHを\n充足するものと認められないから,被告製品は,構成要件Hの構\成以外に,
構成要件B3の構\成を備えていない点においても本件発明と相違するものと
認められる。
しかるところ,控訴人の主張は,被告製品に構成要件B3の構\成について
も相違部分が存在し,被告製品と本件発明は構成要件B3及びHにおいて相\n違することを前提とするものではないから,その前提において理由がない。
(2)ア 次に,被告製品の第1要件の充足性について,念のため判断する。
本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記1(2)認定の本件
明細書の開示事項を総合すれば,本件発明は,国民が将来負担すべき負債
や将来利用可能な資源を明確にして,政策レベルの意思決定を支援するこ\nとができる「財務諸表を作成する会計処理のためのコンピュータシステム」\nを提供することを課題とし,この課題を解決するために「純資産の変動計
算書」(「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」)
を新たに設定し,当該年度の政策決定による資産変動を明確にできるよう
にしたことに技術的意義があり,具体的には,構成要件B1ないしIの構\
成を採用し,純資産変動額や将来償還すべき負担の増減額を「処分・蓄積
勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」に表示し,当該年\n度の政策決定による資金変動を明確にすることができるようにしたことに
より,国民の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,そ\nの財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一
目で知ることができ,政策決定者は純資産変動額を勘案して政策を遂行す
ることができるという効果を奏するようにしたこと(【0002】,【0
005】,【0007】ないし【0010】,【0021】,図1)に技
術的意義があるものと認められる。
そして,本件発明の上記技術的意義に鑑みると,本件発明の本質的部分
は,「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)\n及び損益勘定作成・記録手段」から,国家の政策レベルの意思決定を記録
・会計処理するために,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
(C1〜C4)」を作成・記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記
録手段を備え(構成要件B3),損益外純資産変動計算書勘定作成・記録\n手段の記録は,その期における損益外の純資産増加(C3,C4)と純資
産減少(C1,C2)の2つで構成され,損益勘定(行政コスト計算書勘\n定)の収支尻(貸借差額)である「純経常費用(B7)」が処分・蓄積勘
定(損益外純資産変動計算書勘定)の「純経常費用(C1)」に振替えら
れ(構成要件F),「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」\nの貸方と借方の差額(収支尻)が,「当期純資産変動額(C5)」という
形で,最終的には「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」の「純資産(国民\n持分)(B4)」の部に振り替えられて,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘\n定)」の借方(左側)と貸方(右側)がバランスし(構成要件G),「処\n分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」の借方側(勘定の左側)
の「財源措置(C2)」は,具体的には社会保障給付やインフラ資産を整
備した際の資本的支出のような損益外で財源を費消する取引を指し(構成\n要件H),処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の貸方側(勘
定の右側)の「資産形成充当財源(C4)」は,財源措置として支出がさ
れた場合,財源は費消されるが,その一部分は,インフラ資産のように将
来にわたって利用可能な資産形成に充当されるため,その支出の時点で政\n府の純資産(国民持分)が何らかの資源が現金以外の形で会計主体として
の政府の内部に残っていると考えることができ,将来世代も利用可能な資\n産が当期どれだけ増加したかを示している(構成要件I)という構\成を採
用することにより,当該年度の政策決定による資金変動を明確にし,国民
の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,その財源の内\n訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一目で知るこ
とができ,政策レベルの意思決定を支援することができるようにしたこと
にあるものと認めるのが相当である。
しかるところ,被告製品においては,「資金収支計算書勘定記憶手段及
び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定作成・記録手段」から「処\n分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」を作成・
記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段を備えておらず,ま
た,「社会保障給付」が「財源措置(C2)」に含まれていないため,構\n成要件B3及びHを充足せず,当該年度の政策決定による資金変動を明確
にし,財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのか
を一目で知ることができるようにして政策レベルの意思決定を支援するこ
とができるようにするという本件発明の効果を奏するものと認めることは
できない。
したがって,被告製品は, 本件発明の本質的部分を備えているものと認
めることはできず,被告製品の相違部分は,本件発明の本質的部分でない
ということはできないから,均等論の第1要件を充足しない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件発
明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。\n
イ(ア) これに対し控訴人は,本件明細書の記載によれば,本件発明の本質
的部分(課題解決原理)は,(1)(C)の処分・蓄積勘定(純資産変動計
算書勘定)が損益外の純資産増加(C3,C4)(貸方)と純資産減少
(C1,C2)(借方)の2つで構成され(構\成要件F),期末にその
貸方と借方の差額(収支尻)が当期純資産変動額(C5)という形で閉
鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の純資産(国民持分)(B4)の部に振\nり替えられる(構成要件G)ことで,国民が将来負担すべき負債を明確\nにするという点,(2)(C)の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書
勘定)の貸方側において,将来世代も利用可能な資産が当期どれだけ増\n加したかを示している(財源が固定資産などに転化したもの,すなわち
税収等の財源が使用されて減少したが,将来世代が利用可能な資産の形\nで増加したと解釈できるものを計上する)資産形成充当財源(C4)の
金額が,将来利用可能な資源を明確にする(構\成要件I)という点,(3)
処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)と資金勘定(資金収支
計算書勘定),閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定),損益勘定(行政コス\nト計算書勘定)との「勘定連絡(勘定科目間の金額の連動)」がプログ
ラムに設定されていることが,政策レベルの意思決定と将来の国民の負
担をコンピュータ・シミュレーションする会計処理を可能にするという\n点にあり,被告製品は,本件発明の本質的部分を備えている旨主張する。
しかしながら,本件発明の本質的部分は前記アのとおり認めるのが相
当であり,また,上記(3)の点については,本件発明は,請求項2に係る
発明とは異なり,「コンピュータ・シミュレーション」を行うことを発
明特定事項とするものではないから,本件発明の本質的部分であるとい
うことはできない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(イ) また,控訴人は,「財源措置」とは,将来利用可能な資源の増加を\n伴うか否かにかかわらず,「当期に費消する資源の金額」を意味するも
のであり,「純経常費用(C1)」と「財源措置(C2)」を包括する
上位概念であるから,この意味で「純経常費用(C1)」と「財源措置
(C2)」は同質的であり,個別の政府活動が「行政レベルの業務執行
上の意思決定」と「国家の政策レベルの意思決定」のいずれに分類され
たとしても,処分・蓄積勘定(純資産変動計算書勘定)の借方の金額,
すなわち,「当期に費消する資源の金額」には変化はないから,本件発
明の課題解決原理として不可欠の重要部分である処分・蓄積勘定の収支
尻(貸借差額),すなわち「当期純資産変動額」に影響を及ぼすもので
はないことからすると,被告製品の構成要件Hに係る相違部分(被告製\n品においては,「社会保障給付」が,「財源措置(C2)」に含まれて
おらず,「純経常費用(C1)」に含まれている点)は,本件発明の本
質的部分とは無関係な些細な相違にすぎない旨主張する。
しかしながら,本件明細書には,(1)処分・蓄積勘定(損益外純資産変
動計算書勘定)の借方の「純経常費用(C1)」は,「損益勘定(行政
コスト計算書勘定)」の収支尻である「純経常費用」が振り替えられて
計上されるところ(【0026】,【0035】,図1),「損益勘定
(行政コスト計算書勘定)」は,主として行政レベルの業務執行上の意
思決定を対象とするもので,行政コスト(損益)計算区分に計上される
行政コスト(計上損益)は少なければ少ないほど効率的な行政運営であ
ることを意味するものであること(【0036】),(2)処分・蓄積勘定
(損益外純資産変動計算書勘定)の借方の「財源措置(C2)」は,社
会保障給付やインフラ資産を整備した際の資本的支出のような,「損益
外で財源を費消する取引」を指し(【0027】),「財源の使途」(損
益外財源の減少)に属する勘定科目群は,主として国家の政策レベルの
意思決定の対象として,現役世代によって構成される内閣及び国会が,\n予算編成上,どこにどれだけの資源を配分すべきかを意思決定するもの\nであり(【0037】,図2),社会保障給付は,上記勘定科目群の「移
転支出への財源措置」に計上される非交換性の支出(対価なき移転支出)
であること(【0040】)の開示があることに照らすと,本件発明に
おいては,「純経常費用(C1)」と「財源措置(C2)」は同質的な
ものであるとはいえず,「財源措置(C2)」に含まれる社会保障給付
にいくら財源を配分するのかは国家の政策レベルの意思決定の対象であ
るといえるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成30(ワ)10130
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2020.02.27
令和1(ネ)10046 特許権侵害行為差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年11月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁3部は、侵害を認めた1審判断を維持しました。なお、判決文がテキストデータになっていないため、OCR処理しましたが、誤字についてはご了承ください。
当審における補充主張に対する判断
控訴人は,本件明細書等の記載によれば,本件各発明の効果は, ドラ
イパビットの翼部の屈曲部l乙ネジの翼係合部の屈曲部が接触することに
よるものであるとし,これを前提に,被告製品は本件各発明の効果を奏
しないと主張する。
本件明細書等の段落【0003), 【0004】, 【0008】,
【図1】の記載からは,従来技術においては,食い付き部分を有する
ネジを含む従来のネジにおいて,翼係合部とドライパピットの翼部と
の引っ掛かりが悪いことやドライパピットがネジに対して傾いた状態
であることにより更ネジを回転させようとするとき,カムアウト現象
が生じ易いという課題が存するところ,本件各発明の「側壁面」の構\n成を採用すると,対応する形状の翼部を有するピットを用いれば,ネ
ジに対してドライパピットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した
側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,
前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛か
りがよくなるため, ドライバピットがカムアウトしにくくなり,上記
課題が解決されることが理解できる。
そして「食い込む」とは「他の領域へ入りこんで侵す。侵入す
る。」 (乙10 1) ことであるから,本件明細書等の段落【0008】
の「翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面
が食い込むJとは,回転力を加えることにより, ドライパピットの翼部
とネジの翼係合部が接触する箇所において, ドライパピットの翼部の側
面がネジの翼係合部の側壁面を確実に把握し,引っ掛かりがよくなるこ
とを意味するものと解され,本件各発明の効果を奏するために, ドライ
パピットの翼部とネジの翼係合部の屈曲部同士が接触することが必須で
あるということはできない。また,控訴人の指摘する本件明細書等の段
落【0014], 【0017]及び【0022]にも, ドライバピット
の翼部とネジの翼係合部の屈曲部同士が接触することの記載はない。
控訴人は,本件意見書2の図A,B等は, ドライパピットの翼部の屈
曲部にネジの翼係合部の屈曲部が接触することを裏付けると主張するが,
本件明細書等の上記記載に照らせば,本件意見書2の各図は上記判断を
左右するものではない。
(イ) 控訴人の主張によっても,専用ピットの翼部の先端が被告製品の
「先端部内側面Jに点状に接触するというのであるから,被告製品に
おいても, ドライパピットに回転力を加えた際に当該接触した箇所で
食い込みが生じ,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなり, ドライ
パビットがカムアウトしにくくなるという効果を奏すると解され,被
告製品において本件各発明の効果を奏しないということはできない。
本件特許に係る無効理由の有無(争点2) について
(1) 本件特許に係る無効理由の有無(争点2) についての判断は,次のとお
り補正し,後記のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほか
は,原判決第4の・・・記載のとおりであるから,これを引用する。
ア原判決56頁24行目「動機」を「動機付け」と改める。
イ原判決57頁19行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。
「しかし,前記判示のとおり,ネジ及びドライパピットの食い付き部分は
周知技術であり,出願当初の明細書等の実施例に当該周知技術について記
載がされていないとしても,それは本件各発明が当該周知技術を備えるこ
とを排除する趣旨であるとは解し得ない。そうすると,本件各発明の技術
的範囲に当該周知技術の構成を備えたネジが含まれるとしても,構\成要件
1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かつて延びる平面状の基端側
部分」との発明特定事項を追加する本件手続補正が新規事項の追加となる
ものではない。
また,本件明細書等の段落【0003], 【0004】, 【0008],
【図1】の記載からは,本件各発明の「側壁面」の構成を備えることによ\nり,対応する形状の翼部を有するピットを用いれば,ネジに対してドライ
パピットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した側面に,対応する形状
に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確
実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなるため, ドライパピ
ットがカムアウトしにくくなるという本件各発明の効果が得られることが
理解でき(本判決第3の2(3)ウ(7)参照。), 「食い付き部分」の有無は
本件各発明の課題の解決に影響する構成とはいえない。したがって,控訴\n人主張の点は,サポート要件適合性を否定するものではないというべきで
ある」
(2) 当審における補充主張に対する判断
ア 乙13考案及び乙5-8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如
(争点2- 1) について
控訴人は,食い付き部分に関し,屈曲した二平面とR面を相互に代替す
ることは当業者の技術常識であると主張するo しかし,食い付き部分と本
件各発明の「側壁面」は,目的も機能も異なり,食い付き部分の構\成に関
する技術常識を側壁面に適用することはできなし、から,控訴人の主張は採
用できない。
イ 乙13考案並びに乙12考案及び乙5〜8公報に開示された周知技術に
よる進歩性の欠知(争点2-2) について
控訴人は,乙12考案の効果は本件各発明の「食い込む」ことにより
「カムアウトがしにくくなる」効果と実質的に同質の効果であるから,
乙13考案と乙12考案とは,実質的な目的・課題及び作用・機能にお\nいて共通し,両者を組み合わせる動機付けがあると主張する。しかし,
乙12考案の「切込溝3Jは錆びついたピスを容易に抜くために設けた
ものであるのに対し,乙13考案の「円弧E-Fからなる溝」は, ドラ
イパーのねじ込み力を完全に受け止めるために設けられたものであって,
これらの考案の課題は全く異なることは,上記引用に係る補正された原
判決第4の5に説示したとおりであり,乙13考案に乙12考案を組み
合わせる動機付けがあるということはできない。
ウ補正要件違反又はサポート要件違反の有無について(争点2-3) につ
いて
控訴人は,本件各発明の「屈曲」について,翼部の屈曲した側面に,対
応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むことが可能な「屈曲J,
すなわち, ドライパピットの翼部の屈曲部に,対応する形状に屈曲したネ
ジの翼係合部の屈曲部が深く内部に入り込むほど接触することを要すると
限定解釈しないとすると,本件各発明の課題である「ドライパピットがカ
ムアウトしにくい(回動部から外れにくい)ネジおよびドライパピットを
提供するJ (【0004】)を解決し得ると当業者が認識し得ないものを
特許請求の範囲に含むことになると主張する。しかし, ドライパビットが
カムアウトしにくい(回動部から外れにくし、)ネジとの課題を解決するに
つき, ドライパピットの翼部の屈曲部にネジの翼係合部の屈曲部が接触す
る(食い込む)ことが必須であるといえないのは前記2(1)イ及び(2)に説
示したとおりでありこれを前提とする控訴人の主張は採用できない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成28(ワ)14753
被告は,本件意見書1における,「引用文献2〜4」のネジと本件各発
明のネジ穴とは構成が異なる旨の記載は,本件各発明の特許請求の範囲か\nら,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の部分)を有する構成を意\n識的に除外する趣旨であって,食い付き部分を有する構成が本件各発明の\n技術的範囲に属すると主張することは,禁反言の法理に照らして許されな
いと主張する。
イ しかし,本件意見書1には,以下の内容の記載がある。
(ア) 本件手続補正は,請求項1について「引用文献2〜4記載の発明との
相違が明確になるように締付側側壁面(10)の形状をより細かく限定
した」ものであり,請求項2について「引用文献2〜4記載の発明との
相違が明確になるようにネジの翼係合部(2)の緩め側側壁面(9)の
形状をより細かく限定したもの」である。(乙10の2頁)
(イ) 「引用文献2」(乙6)記載の発明は,「本来の意味においては,各
翼係合部は屈曲部を有していない。具体的には,引用文献2記載の発明
の場合,各翼係合部の両側壁面は,それぞれ全体が1つの平面状をなし
ており,全く屈曲されていない」点で本件各発明と異なる。
引用文献2記載の発明において「強いて回動部の中心部の円弧面状の
部分を翼係合部の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても」,本願発
明のような優れた作用効果を全く果たさない。(乙10の4頁)
(ウ) 「引用文献3」(乙7),「同4」(乙8)記載の発明においても,
「本来の意味においては,各翼係合部は屈曲部を有していない。具体的
には,引用文献3,4記載の発明の場合,本来の意味での各翼係合部の
両側壁面は,軸方向から見ると扇形の両辺(直線状部)をなす平面状の
部分のみである」点で本件各発明と異なる。
引用文献3,4記載の発明における「ネジの中央部分において翼係合
部の基端側部分間をつなぐR部分は,円弧面状をなす部分であって,ネ
ジへのドライバビットの食い付きをよくするために設けられる所謂食い
付き部を構成する部分」であって,「前記R部分(食い付き部分)は,\nネジの締め付けおよび緩め動作自体には直接関係のない部分」にすぎな
い。
「引用文献3,4」記載の発明において,「強いて前記R部分を翼係
合部の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても,これらの部分は,平
面状ではなく,円弧面状の部分であり,かつネジの中心側から外方に向
かって延びていない」ので,本件各発明とは構成が異なる。\n 引用文献3,4記載の発明において,「強いて前記R部分を翼係合部
の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても」,本件各発明の作用効果
は生じない。(乙10の5頁)
ウ 本件意見書1の上記記載によれば,原告は同意見書において,「引用文
献2〜4」記載の発明に係る構成と本件各発明に係る構\成が異なることを
説明するとともに,仮に同各文献の構成が対応する本件各発明の構\成に相
当するとしても,同各文献記載の発明が本件各発明の効果を奏しないとい
うことを説明しているにすぎないのであって,上記記載をもって,本件各
発明の特許請求の範囲から,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の
部分)を有する構成を意識的に除外しているということはできない。\n
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2020.01.24
平成30(ワ)8302 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年11月14日 東京地方裁判所
CS関連発明について、特許侵害事件です。原告(会社)の本人訴訟です。東京地裁47部は、構成要件Fを充足しないと判断しました。
前記(1)の記載によると,次のとおり認められる。
ア 本件各発明以前にも,コンピュータシステムにおけるシステム利用者の
入力行為を支援する従来技術としては,マウスを右クリックすることによ
り,マウスが指し示している画面上のポインタ位置に応じた操作コマンド
のメニューが表示される「コンテキストメニュー」や,画面上でマウスポ\nインタがウィンドウの枠やファイルのアイコンなどに重なった状態でマ
ウスの左ボタンを押し,そのままの状態でマウスを移動させ,別の場所で
マウスの左ボタンを離すマウス操作である「ドラッグ&ドロップ」などが
あった。しかして,「コンテキストメニュー」には,マウスの左クリックを
行うまではメニューが画面に表示され続け,また,利用者が間違って右ク\nリックを押してしまった場合には,利用者の意に反して画面上に表示され\nてしまうので不便であるなどの課題があり,また,「ドラッグ&ドロップ」
には,継続的な動作,例えば,移動させる位置を決めないで徐々に画面を
スクロールさせていくような動作に適用させるのが難しいという課題が
あったところである(段落【0001】〜【0005】)。
イ 本件各発明は,このような課題を解決するため,入力手段における命令
ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間に,ポインタの
位置を移動させる命令を受信すると,画像データである操作メニュー情報
を出力手段に表示させ,入力手段における命令ボタンが利用者によって離\nされると,出力手段に表示されていた操作メニュー情報の表\示を終了させ
ることにより,普段は画面上に操作メニュー情報を表示させずに,利用者\nにとって必要な場合に簡便に表示させることを可能\にするという構成を\n採用したものといえる(段落【0022】,【0023】,【0051】)。そ
して,スムーズな画面操作を可能とするため,操作メニュー情報が表\示さ
れている状態において,これをポインタで指定した場合,すなわち,実行
される命令結果を利用者が理解できるように出力手段に表示した画像デ\nータである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲にポインタの座標
位置が入った場合に,「操作メニュー情報にポインタが指定された場合に
実行される命令」として特定された,例えば,出力手段に表示される画面\n(ビュー)をスクロールさせるような命令など,コンピュータシステムに
対する命令が実行され,操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,ポ
インタの座標位置が入らなくなるまで当該実行を継続するという構成を\n採用したものといえる(段落【0009】,【0012】,【0013】,【0
016】,【0023】,【0051】)。
ウ 以上のような,本件各特許請求の範囲の記載文言及び本件明細書の各記
載によれば,本件各発明は,コンピュータシステムにおけるシステム利用
者の入力行為を支援するため,「コンテキストメニュー」や「ドラッグ&ド
ロップ」における,操作メニュー情報が利用者に意に反して表示されるこ\nとに関わる課題や,移動先を決めないで画面をスクロールさせるような継
続的な動作に関わる課題を解決すべく,操作メニュー情報については,普
段は画面上に表示させずに,利用者にとって必要な場合に簡便に表\示させ
るという構成を採用し,その上で,物理的に操作メニュー情報が占める座\n標位置の範囲にポインタの座標位置が入っているときに,コンピュータシ
ステムに対する命令が実行されるようにして,スムーズな画面操作が可能\nとなるという構成を採用したものといえる。このような構\成を採用した以
上,構成要件B,E,F及びGの「操作メニュー情報」とは,利用者にと\nって,その表示,非表\示を明確に認識できることが前提となっており,物
理的に操作メニュー情報が占める座標位置の範囲が明確になっている必
要があることは明らかである。
そうすると,構成要件B,E,F及びGの「操作メニュー情報」につい\nては,利用者にとっての,視覚的な見地からの,命令内容の表示や実行の\n簡便性を実現する構成を意味するものであるものといえ,そのような見地\nに照らし,同「操作メニュー情報」とは,利用者が,その表示の有無を視\n覚的に認識でき,その表示内容から,所望の命令を実行した結果について\nも理解できるような,画像データである必要があるものと解するのが相当
である。
そして,構成要件Fの,(1)「操作メニュー情報がポインタにより指定さ
れる」と「操作メニュー情報に関連付いている命令」を「実行」する,及
び(2)「操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなるまで当該実行
を継続する」との文言については,画像データである操作メニュー情報の
座標位置が利用者に視覚的に認識できることを前提に,(1)画面上に表示さ\nれた画像データである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,ポイ
ンタの座標位置が入った場合に,特定の命令を実行し,(2)操作メニュー情
報が占める座標位置の範囲に,ポインタの座標位置が入らなくなるまで当
該実行が継続され,入らなくなった場合には,当該実行が継続されないこ
とを意味し,かかる動作状況を満たす命令であることをもって,「操作メニ
ューに関連付いている命令」に当たるものと解するのが相当である。
(3) 「操作メニュー情報」(構成要件B,E,F,G)の充足性\n
ア 以上を前提に,まず,「操作メニュー情報」(構成要件B,E,F,G)\nの充足性につき検討するに,被告製品の構成のエ(イ)ないし(エ)及び\nオ(イ)ないし(エ)のとおり,本件ホームアプリにおける上ページ一部
表示及び下ページ一部表\示(以下「上ページ一部表示等」という。)は,画\n像データであり,その内容や表示位置からすれば,これを見た利用者は上\nページ又は下ページにスクロールする結果を理解できるといえるから,利
用者が,その表示の有無を視覚的に認識でき,その表\示内容から,所望の
命令を実行した結果についても理解できるような,画像データに当たるも
のというべきであって,「操作メニュー情報」を充足するものと認められる。
イ これに対し,被告は,上ページ一部表示等は,単にホーム画面が縮小表\
示されることによって当該ホーム画面の隣のホーム画面が見えているに
すぎず,実行される命令を表す文字も,矢印表\示等何らかの操作ができる
ことを示す絵や記号も表示されておらず,表\示自体から上ページ又は下ペ
ージにスクロールするといった実行される命令結果を理解できる画像で
はない旨を主張する。
しかし,被告製品の構成エ(イ)及びオ(イ)のとおり,上ページ一部\n表示等が表\示されるのは,利用者が移動させたいショートカットアイコン
をロングタッチして,ドラッグ操作をして同アイコンを移動させる等して,
縮小モードになった状態であることからすれば,同アイコンを移動したい
利用者が,1つ上のページ又は1つ下のページの一部を表示した画像であ\nる上ページ一部表示等を見て,上ぺージ又は下ページが存在することのみ\nならず,上ページ一部表示等までドラッグすれば,上ページ又は下ページ\nに画面をスクロールさせることができるものと理解することも可能とい\nうべきである。
以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。
ウ 他方,原告は,上ページ一部表示等のみならず,「左上領域」「右上領域」\n又は「左下領域」「右下領域」(以下「左上領域等」という。)も「操作メニ
ュー情報」に該当する旨を主張する。
しかし,左上領域等は,被告製品の構成エ(ウ)及びオ(ウ)のとおり,\n特定の座標位置で囲まれた領域にすぎず,利用者が,その表示の有無を視\n覚的に認識でき,その表示内容から,所望の命令を実行した結果について\nも理解できるような,画像データに当たるものとは認められない。前記ア
の説示に照らしても,左上領域等が,「操作メニュー情報」に当たるとは認
められず,同説示のとおり,「操作メニュー情報」に該当するのは,上ペー
ジ一部表示等に限られるというべきである。\n以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 「操作メニュー情報がポインタにより指定される」と「操作メニュー情報
に関連付いている命令」を「実行」する,及び「操作メニュー情報がポイン
タにより指定されなくなるまで当該実行を継続する」(構成要件F)の充足性\n ア 被告製品においては,被告製品の構成のエ(ウ)(エ)及びオ(ウ)(エ)\nのとおり,左上領域等の占める座標位置の範囲に,原告が「ポインタの座
標位置」に当たると主張(前記第2の3(2)[原告の主張]イ)する「当該
ショートカットアイコンをドラッグしている指等のタッチパネル上の位
置」又は「当該ショートカットアイコンをドラッグしているマウスカーソ\nルの先端の位置」の座標位置(以下「指等及びマウスカーソルの先端の座\n標位置」という。)が入った場合に「上ページスクロール1」,「上ページス
クロール2」,「下ページスクロール1」,「下ページスクロール2」を生じ
させる命令(以下,併せて「ページスクロール命令」という。)が実行され,
左上領域等の占める座標位置の範囲に指等及びマウスカーソルの先端の\n座標位置が入らなくなるまでページスクロール命令が継続され,入らなく
なった場合には当該実行が継続されないことが認められる。
しかし,前記(3)のとおり,被告製品において,「操作メニュー情報」に
該当するのは上ページ一部表示等であるところ,証拠(甲19,乙11〜\n13)によれば,上ページ一部表示等が占める座標位置の範囲と左上領域\n等の占める座標位置の範囲とは必ずしも一致せず,上ページ一部表示等は,\n左上領域等と一部重なる座標位置に表示されているにすぎないことが認\nめられる。このため,(1)上ページ一部表示等が占める座標位置の範囲に,\n指等及びマウスカーソルの先端の座標位置が入っていても,その位置が左\n上領域等の占める座標位置の範囲外であればページスクロール命令が実
行されず,また,(2)上ページ一部表示等が占める座標位置の範囲に,指等\n及びマウスカーソルの先端の座標位置が入っていなくとも,その位置が左\n上領域等の占める座標位置の範囲内であればページスクロール命令が実
行・継続されることとなる。
このような被告製品の動作状況から検討すると,ページスクロール命令
の実行や継続は,指等及びマウスカーソルの先端の座標位置が,利用者が\nその範囲を視覚的に認識することができない,左上領域等の占める座標位
置の範囲に入っているかどうかによるものであり,これが肯定されれば,
指等及びマウスカーソルの先端の座標位置が上ページ一部表\示等の占め
る座標位置の範囲に入っていなくても,ページスクロール命令が実行され
継続されるものである一方,上記が否定されれば,指等及びマウスカーソ\nルの先端の座標位置が上ページ一部表示等の占める座標位置の範囲に入\nっていても,ページスクロール命令は実行され継続されないこととなるも
のである。
すなわち,被告製品においては,指等及びマウスカーソルの先端の座標\n位置が,偶々,上ページ一部表示等と左上領域等が重なる部分の占める座\n標位置の範囲に入った場合に限って,ページスクロール命令が実行・継続
されているにすぎないものである。これに照らせば,ページスクロール命
令については,飽くまで利用者が視覚的に認識できない左上領域等の範囲
において実行・継続されるものであって,上ページ一部表示等の範囲にお\nいて実行・継続されるものではないのであるから,上ページ一部表示等に,\nページスクロール命令が関連付いているとまでは認めるに足りないとい
うほかない。
したがって,上記のとおりの被告製品の構成は,構\成要件Fの「操作メ
ニュー情報がポインタにより指定される」と「操作メニュー情報に関連付
いている命令」を「実行」する,及び「操作メニュー情報がポインタによ
り指定されなくなるまで当該実行を継続する」という文言(構成要件F)\nを充足するとは認められない。
イ 原告の主張について
(ア) まず,原告は,上ページ一部表示等のみならず左上領域等も「操作\nメニュー情報」に相当する旨主張するが,前記(3)に説示したとおり,左
上領域等は,「操作メニュー情報」には当たるとはいえない。
(イ) また,原告は,上ページスクロール1が生じるのは,処理手段が上ペ
ージスクロール1を行うプログラムを実行していることを意味するとこ
ろ,同プログラムは上ページ一部表示が表\示されていないと実行されな
いから,上ページ一部表示と同プログラムとは関連付いている旨主張す\nる。
しかし,前記説示のとおり,本件発明の構成要件F(「関連付いている」)\nについては,画像データである操作メニュー情報の座標位置が利用者に
視覚的に認識できることを前提に,(1)画面上に表示された画像データで\nある操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,ポインタの座標位置
が入った場合に,特定の命令を実行し,(2)操作メニュー情報が占める座
標位置の範囲に,ポインタの座標位置が入らなくなるまで当該実行が継
続され,入らなくなった場合には,当該実行が継続されないことを意味
し,かかる動作状況を満たす命令であることをもって,「操作メニューに
関連付いている命令」に当たるものと解するのが相当であるところであ
る。しかして,被告製品においては,指等及びマウスカーソルの先端の\n座標位置が,偶々,上ページ一部表示等と左上領域等が重なる部分の占\nめる座標位置の範囲に入った場合に限って,ページスクロール命令が実
行されているにすぎないものであって,ページスクロール命令について
は,飽くまで利用者が視覚的に認識できない左上領域等の範囲において
実行・継続されるものであり,上ページ一部表示等の範囲において実行・\n継続されるものではないというのである。
以上によれば,原告の上記指摘をもって,直ちに,上ページ一部表示\nと上記プログラムとが関連付いており,上ページ一部表示等の有無とペ\nージスクロール命令の実行の可否が関連付いているとまで認めることは
できず,他に,両者の関連付けを推認させるに足りる事情も見当たらな
い。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 原告は,構成要件Fの「操作メニュー情報がポインタにより指定さ\nれなくなるまで当該実行を継続する」には,「終了」といった記載はない
から,操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなった際に当該
実行が終了することまで求めてはおらず,実行がいつ終了するかは同構\n成要件とは関係がない旨を主張する。
しかし,上記(2)ウで述べたとおり「操作メニュー情報がポインタによ
り指定されなくなるまで当該実行を継続する」とは,操作メニュー情報
がポインタにより指定されている場合に当該実行が継続されることのみ
ならず,操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなった場合に
は当該実行が継続されなくなることまで意味するものと解すべきところ,
前記アで述べたとおり,被告製品において,指等及びマウスカーソルの\n先端の座標位置が上ページ一部表示等の占める座標位置の範囲に入って\nいない場合であっても,左上領域等の占める座標位置に入っていればペ
ージスクロール命令の実行が継続されるものである以上,被告製品は上
記の構成要件を充足しないというべきである。なお,原告の主張する「実\n行」の「終了」が何を意味するか必ずしも判然としないが,仮に,上記
構成要件の解釈として,操作メニュー情報がポインタにより指定されて\nいる場合に当該実行を継続することのみを意味し,操作メニュー情報が
ポインタにより指定されなくなった場合に当該実行が継続されないこと
までは含んでいないとする旨を主張する趣旨であるとしても,そもそも
そのような解釈は,本件各特許請求の範囲の文言及び本件明細書の記載
に照らし,上記構成要件の解釈として失当と言わざるを得ない。\n
◆判決本文
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2020.01.24
平成30(ワ)13400 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月11日 東京地方裁判所
文言侵害不成立および、第1要件満たさないとして均等侵害が否定されました。
原告は,本件発明1のうち,挿入力の増加の防止のための構成がその本\n質的部分であるとした上で,被告製品は少なくともその課題の解決原理を
利用しているのであるから,被告製品のサブアーム部にフック部が付属し
ているかどうかにかかわらず,同製品は本件発明1の本質的部分を備えて
いると主張する。
しかし,本件発明1は,特に車載用等のアンテナの仮固定用ホルダにつ
いて,従来例の仮固定用ホルダでは抜け力が弱いという問題があり,他方,
抜け力を強くするために係止爪の引っ掛かり量を多くすると,挿入力が強
くなり作業性が悪化することから,挿入力は弱いままで,抜け力を強くす
るという課題を解決するためのものであると認められる(本件明細書等の
段落【0009】,【0013】〜【0015】)。そうすると,本件発
明1の本質的部分は,挿入力は弱いままで,抜け力を強くするための構成\nにあり,従来技術との対比でいうと,特に抜け力の強化のための構成が重\n要であるというべきである。
そして,本件発明1は,上記課題の解決のため,(1)メインアーム部と,
メインアーム部の下端部で繋がったサブアーム部を有し,(2)当該下端部が
サブアーム部の撓みの支点となり,(3)サブアーム部の上端部を,上端に向
かって肉厚が増加する係止爪からなるものとすることなどにより,取付孔
への挿入性の向上を図るとともに,アンテナ上方向(抜け方向)に荷重が
加わったときは,係止爪が外側に撓んで拡がることにより抜け力の増大を
可能にするものであると認められる(特許請求の範囲,本件明細書等の段\n落【0017】,【0029】,【0032】,【0033】,【003
6】,【0037】)。
ウ 他方,被告製品においては,サブアーム部の爪部の上部にフック部が設
けられ,当該フック部と車体のルーフ孔の距離が0.3mmであると認め
られるから(乙13),抜け方向に荷重が加わった際に,フック部は0.
3mm程度以上は撓むことなくすぐに車体のルーフの内側面に当たり,爪
部がそれ以上に外側に撓ることは抑制されるものと認められる。
そして,被告製品における抜け力に関し,被告が実施した実験結果(乙
5)によれば,本件発明1の実施品の抜け力は186Nであるのに対し,
被告製品の抜け力は,215.8N,227N,271N,295Nであ
り,最小でも約30N,最大で約110Nの差が生じたことが認められる。
また,被告が実施した,被告製品のコの字型部材(サンプル(1))と,被告
製品のコの字型部材を加工してフック部を除いたもの(サンプル(2))を用
いた実験結果(乙14)によれば,前者の抜け力の平均値は227.60N,後者の抜け力の平均値は73.51N(いずれも10回実施)であり,
フック部を備えたコの字型部材の方が,抜け力において約150N大きい
ことが認められる。
前記のとおり,被告製品の爪部は外側への撓みが抑制されていると認め
られるところ,これに上記の各実験結果を併せて考慮すると,被告製品は,
本件発明1の実施品に匹敵する抜け力を備えているということができ,そ
の抜け力の大きさは,同製品がフック部を備えることに起因しているもの
と考えるのが自然であり,少なくとも爪部の外部への撓みによるものでは
ないということができる。
なお,原告は,乙14実験はサンプル(2)のフック部のカット加工の際に
メインアーム部とサブアーム部の接続部の耐久性が損なわれた可能性が\nあるとして,乙14実験の信用性を争うが,サンプル(2)はフック部を爪部
からカットするものであり,上記接続部の耐久性が損なわれたことをうか
がわせる事情は見当たらない。前記判示のとおり,乙14実験はサンプル
(1)と(2)のそれぞれについて10回ずつ実験を行っているところ,数値にば
らつきはあるものの,サンプル(1)は200N以上であり,サンプル(2)は概
ね60〜100程度であり,全体的に100N以上の差が生じていること
に照らすと,その差が誤差や実験方法の不適切さに由来するものとはいう
ことはできない。
エ 前記判示のとおり,抜け力の増大という課題を解決するための構成は本\n件発明1の本質的部分ということができるところ,本件発明1はこの課題
をアンテナ上方向(抜け方向)に荷重が加わったときに係止爪が外側に撓
んで拡がることにより解決しているのに対し,被告製品は爪部に加えてフ
ック部を備えることにより抜け力を保持しているものと認められ,そうす
ると,被告製品は本件発明1と異なる構成により上記課題を解決している\nということができる。
そうすると,本件発明1と被告製品はその課題解決のための特徴的な構\n成において相違し,本件発明1と被告製品との相違点は,この課題解決に
必要な構成に関するものであるから,同相違点は本件発明1の本質的部分\nに関するものであるということができる。
オ したがって,本件発明1と被告製品の相違点は,本件発明1の本質的部
分に関するものではないということはできないので,被告製品は第1要件
を充足しない。
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2020.01. 8
平成31(ネ)10014 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
少し前のですが、欠落していたのでアップします。薬品特許のクレームが作用的(?)に記載されている場合に、クレーム限定、またはサポート要件・実施可能要件違反が主張されました。知財高裁は、1審と同様に、技術的範囲に属する、無効理由無しと判断しました。
上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク
質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ
れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結
合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使
用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は,
かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって,
PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより,
対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症
などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患\nのリスクを低減することにあると理解することができる。
本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用
してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体
を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体
について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合
しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること,
また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含
まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ
れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD
LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。
21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21
B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗
体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細
書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個
の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え
て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同
様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体
を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認
識できると認められる。
さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免
疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や
31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す
るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業
者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって,
本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗
体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら
れる。
以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン
パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル
抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ
クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成
物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す
る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できること\nを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に
適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結
合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定
される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ
により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。
しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照
抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし,
参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。\nそして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特
定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために,
その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認め\nられない(甲34,35)。
前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し,
本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参
照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と
LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること
を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。\n
・・・
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ
れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が\n特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な
時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能\n要件を満たさない旨主張する。
しかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ
とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求\nめられるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程
度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰\nし,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる
からである。
本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,
PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗
体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そし\nて,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す
ることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離
されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度
の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発\n明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ
ることまで記載されている必要はない。
また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない
抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認
識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に\n記載されているかどうかは,実施可能要件とは関係しないというべきである。\nそして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細
書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範
囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ
るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得
る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。
よって,控訴人の主張は採用できない
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)16468
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2019.12.27
令和1(ネ)10052 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年12月19日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明についての特許侵害事件です。知財高裁(2部)も、1審と同じく、技術的範囲に属しないと判断しました。
ア 控訴人は,構成要件1Aは,画像情報を取得する機能\の有無に限らず,
「画像情報・・・を対応するパターンに変換するパターン変換器」であると主張する。
本件発明1の構成要件1Aは,「画像情報,音声情報および言語を対応するパター\nンに変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,」というも
のであるところ,画像情報を取得する機能の有無に限らないという控訴人の主張に\nよると,本件発明1は,パターンに変換する画像情報が取得されたものでない場合
には,パターン変換器は,予め保持している画像情報を対応するパターンに変換す\nるものということになるが,このとき画像情報は,パターンに変換されることも,ま
た,パターンとして記録されることもなく,画像情報として予め保持されていたも\nのということになる。
しかし,本件発明1の特許請求の範囲及び本件明細書等1には,画像情報が,パタ
ーンに変換されることも,また,パターンとして記録されることもなく,予め保持さ\nれたものであるとは読み取ることができる記載はない上,かえって,本件明細書等
1の段落【0017】には,「【課題を解決するための手段】(請求項1に対応)」
として,「この発明における思考パターン生成機は画像情報,音声情報および言語を
パターンに変換する。画像情報は画像検出器により検出され,対象物に応じたパタ
ーンに変換される。・・・」と記載され,画像検出器により検出されるものとされて
いる。
したがって,本件発明1の構成要件1Aが,画像情報を取得する機能\の有無に限
らないとの控訴人の主張を採用することはできない。
そして,本件装置が,外部から入力された表情等に関する画像をパターンに変換\nする機能を有していると認めるに足りる証拠がないことは,原判決「事実及び理由」\nの第4の2(2)イに判示するとおりである。
よって,本件装置が構成要件1Aを充足していると認めることはできない。\n
イ 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や被控訴人の主
張によると,本件装置内部で生成したパターン化されている画像に関する情報(画
像情報)からディスプレイに表示するための画素データ(画像パターン)に変換され\nていることが分かると主張する。
しかし,構成要件1Aの「パターン変換器」が行うものとして記載された「画像情\n報・・・を対応するパターンに変換する」処理でいうところの「パターン」とは,画
像,音声及び言語に係る事象の特徴を,計算機たる検出器が識別することができる
「1」,「0」等の何らかの信号の組合せに変換したものを意味すると解されること
は,原判決「事実及び理由」の第4の2(1)アが判示するとおりである。
そして,本件装置が,「本件装置内部で生成したパターン化されている画像に関す
る情報から,ディスプレイに表示するための画素データを作成する」としても,この\nことが,画像,音声及び言語に係る事象の特徴を,計算機たる検出器が識別すること
ができる信号の組合せに変換する処理に当たらないことは明らかである。
したがって,控訴人の主張を採用することはできない。
ウ 以上によると,本件製品が構成1Aを充足すると認めることはできない。\n
(3) 争点2−2(構成要件1Bの充足性)について\n
ア 控訴人は,本件製品の紹介ビデオ(甲79)によると,顧客の銀行口座に
関する情報に対応するデータにパターンの変更が行われているから,本件装置はパ
ターンを変更していると主張する。
しかし,「パターン」とは,画像,音声及び言語に係る事象の特徴が計算機たる検
出器が識別することのできる信号の組合せに変換されたものであり,「パターンの
変更」とは,このような信号の組合せ自体を変更するものである(原判決「事実及び
理由」の第4の2(3)ア)。顧客の銀行口座に関する情報に変更が行われているとし
ても,このようなことは,パターンとパターンの結合関係を変更することによって
も行うことができるから,本件装置の内部において,上記のような意味での「パター
ンの変更」が行われていることを示すとは直ちに認められず,控訴人の主張を採用
することはできない。
イ 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や,本件製品の
紹介ビデオ(甲80)の説明によると,本件装置は「質問」に対し,学習の前と後で
回答内容が更新できるため,「回答内容」についてパターンの変更が実施されている
と主張する。
しかし,本件装置が回答内容を更新しているということは,入力された言語情報
に対応する回答が変更されたということになるが,「言語に係る事象の特徴が変換
された信号の組合せ」が変更されたのか否かは明らかではないから,控訴人の主張
を採用することはできない。
ウ 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)や本件製品の紹介ペー
ジ(甲81)に,「アメリアが文章をパーツに分解して,各単語の役割と,他の単語
との関係を解釈する」とある点について,本件装置は,「文章(=文,パターン)」
を「パーツ(文要素や単語)」に分解するという「変更」を実施していると主張する。
しかし,本件装置が,「文章(=文,パターン)」を「パーツ(文要素や単語)」
に分解するということは,文章を,文要素や単語に分解して認識していることを意
味しているにすぎないとも考えられ,言語の「パターン」を変更しているとは直ちに
認められない。
エ 以上によると,本件装置が構成要件1Bを充足するとは認められない。\n
(4) 争点2−4(構成要件1Dの充足性)について\n
ア 控訴人は,原判決が構成要件1Dについて,「有用と判断した情報のみを\n記録する」として,「のみ」を含むクレーム解釈をしたことが,請求項に記載のない
ことを含めたものであり,誤りがあると主張する。
しかし,「有用と判断した情報のみを記録する」と解釈すべきことは,原判決「事
実及び理由」の第4の2(4)アが判示するとおりであり,控訴人の主張を採用するこ
とはできない。
イ 控訴人は,甲31及び38に「業務に特化した情報を学習するため,業務
に不要な情報での不必要な学習や成長はしない」との記載があることから,本件装
置が有用な情報のみを記録するとの機能を備えていると主張する。\nしかし,価値ある入力した情報のみを記録するということをしなくても,入力さ
れたそれぞれの情報の結合関係を生成しながら知識体系を構築することは可能\であ
る上,本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)には,「全ての質問がアメリアの経験
や知識に加えられる」との説明があるから,「業務に特化した情報を学習するため,
業務に不要な情報での不必要な学習や成長はしない」からといって,本件装置が構\n成要件1Dの「有用な情報のみを記録している」とは認められない。
ウ 控訴人は,本件製品の紹介ビデオの説明(甲12の図5,甲79,80)
やパンフレットの記載(甲11の2)によると,本件装置は,入力した情報の価値を
分析し,有用な情報を自律的に記録していると主張する。
しかし,上記の紹介ビデオの説明やパンフレットの記載は,アメリアが同僚と顧
客のやりとりを観察し,処理マップを自分で作成するというものや顧客に必要な質
問を投げかけ,それに対する顧客の回答に応答するというものであり,それから直
ちに有用な情報を取捨選択し有用な情報のみを記録しているとは認められない上,
本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)には,「全ての質問がアメリアの経験や知識
に加えられる」との説明があるから,本件製品が構成要件1Dの「有用な情報のみを\n記録している」とは認められない。
エ 以上によると,本件装置が構成1Dを充足すると認めることはできない。\n
(5) 争点3(構成要件2C等の充足性)について\n
ア 控訴人は,構成要件2C等の「評価」と「自律的に知識を獲得」ないし「自\n律的に知識を構築」の関係は並列であると主張するが,控訴人の上記主張を採用す\nることができないことは,原判決「事実及び理由」の第4の3(2)ア及びイが判示す
るとおりである。
したがって,構成要件2C等の「評価」と「自律的に知識を獲得」ないし「自律的\nに知識を構築」の関係が並列であるとの控訴人の主張を採用することはできない。\n
イ 控訴人は,前記関係が直列の関係であるとしても,本件装置が構成要件\n2C等を充足すると主張する。
(ア) 意味の評価について
控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や本件製品の紹介ビデオ
(甲12の図5)の説明などから,本件装置は,「同じ言葉の異なる用法」の中から
「最も文脈にあてはまる用法」がどれかを評価し,知識を構築しており,本件装置\nは,情報(意味)を評価し,知識の獲得を実施していると主張する。
しかし,本件製品のパンフレット(甲11の2の3頁)の「彼女は同じ言葉の異な
る用法を見分けるために文脈をあてはめることで,暗示されている意味を完全に理
解します。」との記載は,本件装置が,文脈をあてはめて言葉の用法を見分けている
というにすぎず,本件装置が情報(意味)を評価した上で,その評価を踏まえて妥当
性が確認された情報を知識として獲得していることを示していると認めることはで
きない。
また,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質問がアメリア
の経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,意味を評価した上で,その
評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得していると認めることは
できない。
これに対し,控訴人は,本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)の上記説明につい
て,意味を評価し,その結果に基づいて自律的に有益な知識を獲得する機能を有し,\n全ての質問を知識として加えるというケースはあり得ると主張するが,上記の説明
は,単に全ての質問を知識として加えるという意味に理解するほかなく,本件装置
が意味を評価した上で全ての質問を知識として加えるという意味に理解することは
できないから,控訴人の主張を採用することはできない。
(イ) 新規性の評価について
a 控訴人は,本件製品のパンフレットの(甲11の2)の記載からする
と,本件装置は,遭遇した状況が知識として記録している場面と似ておらず,自分で
問題に対処できないことを識別する機能を有するから,新規性を評価し,知識の獲\n得を実施している旨主張する。
しかし,本件発明2は,「自律的に知識を獲得」するというものであり,人の手を
介することを予定しているものではない。しかるところ,本件製品のパンフレット\n(甲11の2の9頁)には,「自力で問題に対処できない場合,人間の同僚にその問
題を引き継ぎます。」と記載されていて,人間の同僚が介入することが予定されてい\nる上,本件装置がその後同僚の様子を見て特定の状況に対する最善の手順を見つけ
ることがあるとしても,本件製品の紹介ビデオ(甲80)では,「生成した処理ステ
ップの使用を管理者が了承すると,直ぐに彼女は同様の質問に対して自分自身で対
応できるようになります」と記載されていて,管理者が了承しないと,知識として獲
得されないから,本件装置が「自律的に知識を獲得」するということはできない。
仮に,控訴人が主張するように,新しい処理ステップに関しては,本件装置の管理
者が了承する前に,既に生成し,記録しているとしても,本件装置の管理者が了承し
なかった処理ステップまでが知識として獲得されるものではないから,本件装置が
「自律的に知識を獲得」すると認めることはできない。
b なお,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質
問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,新規性を評価
した上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得している
と認めることはできないことは,上記(ア)と同様である。
(ウ) 真偽を評価する機能\n
a 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)や紹介ビデオ(甲
12の図5,甲79,80)には,本件装置が的確な質問を発して,「真実を明らか
にする」機能(=真偽を評価する機能\)を有していることが示されていると主張す
る。
しかし,本件製品のパンフレット(甲11の2)には,「問題の根本を見極めるた
めの的確な質問ができる能力を持った」,「問題を明らかにするために必要な質問を\n投げかけることで,答えを提示することができます。」(6頁)との記載や,「事実
を明らかにするための的確な質問を発し,人間と同じように問題の明確な性質を顕
在化させることができるのです。」(11頁)との記載があるところ,これらの記載
と本件製品の紹介ビデオ(甲79,80)によると,本件装置の質問は,顧客の要望
を明らかにするためのものであって,真偽を判断するためのものであるとは認めら
れないから,本件装置が,真偽を判断した上で,自律的に知識を獲得していると認め
ることはできない。
b 控訴人は,知識に対して論理を当てはめ,プロセス全体の各ステッ
プを自律的に進め,論理的な結論を得るためには,本件装置は,何が真であり,何が
偽であるかを評価する必要があると主張する。
しかし,論理的な結論を得るためには,情報間の結合関係を正確にする必要はあ
るが,必ずしも入力した言語情報の真偽の妥当性を評価する必要性は認められない。
c なお,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質
問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,真偽を評価し
た上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得していると
認めることはできないことは,前記(ア)と同様である。
(エ) 論理の妥当性について
a 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や,本件製
品の紹介ビデオ(甲79)によると,本件装置は,「積極的に論理を当てはめ」,「事
実を明らかにするための明確な質問を発し」,「問題の明確な性質を顕在化し」,「論
理的な結論を得て」,「事実を明らかにするための的確な質問」及び「回答」を記録
して知識を獲得するという一連の動作を実施していることが分かるから,本件装置
は,情報を評価(論理の妥当性)し,知識の獲得を実施していると主張する。
しかし,「論理的な結論」,「知識に対して積極的に論理を当てはめることにより,
アメリアは問題を解決することもできます。彼女が知っている情報の本体に立ち返
ることで,自然言語で述べられた質問を元に事実を明らかにするための的確な質問
を発し,人間と同じように問題の明確な性質を顕在化させることができるのです。」
との本件製品のパンフレット(甲11の2の11頁)の記載や,アメリアの「質問」
に対する顧客の「回答」が記録された本件製品の紹介ビデオ(甲79)からは,本件
装置が入力した言語情報の論理の妥当性を確認しているとまでは読み取れないし,
また,論理的な結論を得るためには,情報間の結合関係を正確にする必要はあるが,
必ずしも入力した言語情報の論理の妥当性を評価する必要性は認められないから,
控訴人の主張を採用することはできない。
b 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載によると,
本件装置は,論理を適用し(=論理の妥当性を評価し),経験を通して学習している
(=記録している),すなわち,言語情報の論理の妥当性を評価し,経験した内容を
知識として獲得していると主張する。
しかし,本件装置が,「・・・論理を適用し,暗示されている内容を推定し,経験
を通して学び,感情すらも察知」(甲11の2の3頁)するものであるとしても,こ
のことから本件装置が入力した言語情報の論理の妥当性を評価しているとは直ちに
認められないから,控訴人の主張は採用できない。
c 控訴人は,本件製品の紹介ビデオ(甲79)には,本件装置が条件付
き処理を実施していることから,論理的に対応し,情報を記録していると主張する。
しかし,本件装置が,顧客の回答が「はい(yes)」なら,受取人リストに追加し,
回答が「いいえ(no)」なら,受取人リストに追加しないという処理をするとしても,
このことは,顧客の回答に基づいた処理をしていることを示すにすぎず,本件装置
が論理の妥当性を評価しているとは認められない。
d なお,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質
問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,論理性を評価
した上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得している
と認めることはできないことは,前記(ア)と同様である。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)15518
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2019.12.23
平成28(ワ)2067等 特許権侵害差止請求権不存在確認等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月28日 大阪地方裁判所
均等侵害も主張しましたが、第1要件を具備しないと判断されました。
特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった
技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基
づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって,特\n許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従
来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解される。\nこの本質的部分については,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許
発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の
記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何で\nあるかを確定することによって認定するのが相当である。その認定に当たっては,
特許発明の実質的価値がその技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応
じて定められることからすれば,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記
載の従来技術との比較から認定することが相当である。
その上で,第1要件の判断,すなわち,対象製品等との相違部分が非本質的部分
であるかどうかを判断する際には,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分
を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められ
る場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断することが相当である。
イ 本件の場合
(ア) 本件各発明の本質的部分
a 前記1(1)のとおり,本件明細書によれば,本件各発明は,歯に付着したプラ
ークの除去及び歯茎のマッサージに好適なロール歯ブラシの製造方法及びその製造
装置に関するものである。上記製造方法等に関する従来技術は,ナイロン等の多数
の素線を束状に集合させてなる素線群の一端を加熱溶着することにより半球形状の
溶着部を形成し,溶着部を加圧して扁平状とし,扁平部の軸孔となる部分をカット
して,加圧することにより素線群の全体を略円形とし,かつ扁平部を略円形とし,
その後,扁平部の両端を溶着などにより接合させて環状部を形成し,シート状のブ
ラシ単体を製作するというものである。この従来技術には,ブラシ単体の厚みを均
一とするには熟練を要し,ブラシ単体の厚みが不均一の場合は回転ブラシの毛足密
度が不均一となり,工程数が多く複雑な工程を要するので,一貫した連続製造が困
難で回転歯ブラシの製造コストも高くなるという課題があった。そこで,これを解
決するため,本件各発明は,回転歯ブラシの製造方法として本件発明1の構成を,\n回転ブラシのブラシ単体の製造方法として本件発明2の構成を採用することで,各\n工程を画一的に処理することが可能となり,高度な熟練を要することなく均一な厚\nさのブラシ単体の製作を可能とし,また,本件発明1及び2の方法を容易に実施で\nきて,所期の目的を達成するため,回転ブラシのブラシ単体の製造装置として本件
発明3の構成を採用したものである。\n前記1(2)及び(3)のとおり,本件発明2及び3は,素線群の突出端の中央に,エア
を素線群が突出させられる方向とは反対方向から吹き込んで素線群を放射方向に開
かせることとしている(構成要件G及びN)。これは,これにより,ブラシ単体を\n構成する素線同士の重なりがほとんどなくなり,均一な厚さのブラシ単体を製作す\nることができるとともに,ブラシ単体の製作速度を早くした場合にも素線を傷付け
るおそれが少なくなるため,素線群の開きを高速度で行うことが可能となって,効\n率良くブラシ単体を製作することができるからである。この点に鑑みると,本件発
明2及び3の特許請求の範囲の記載のうち「素線群の突出端の中央にエアを吹き込
んで素線群を放射方向に開く」とある部分は,従来技術には見られない特有の技術
的思想を有する本件発明2及び3の特徴的部分であるといえる。
b これに対し,被告らは,本件発明2及び3の本質的部分が,エアを吹き込む
ことにより素線群を簡易に均等に開くことができ,その状態で溶着,切除すること
によりブラシ単体の製造を簡易かつ高速に行うことができるという点にあり,吹き
込むエアの方向が,素線群を送り出す方向とは逆方向かという相違部分は,本件発
明2及び3の本質的部分ではないと主張する。
しかし,本件発明2及び3は,上記課題の解決方法として,素線群をノズルから
のエアを用いて放射方向に開くという構成を採用し,均一な厚さのブラシ単体を効\n率良く製作するために素線群を高速度で放射方向に開かせるため,素線群の突出端
の中央にエアを意図的に吹き込ませるものである。このような工程の所期の目的を
実現するための構成及び機序は,素線群を送り出す方向を基準としてエアを吹き込\nませる方向が順逆異なるのであれば,必然的に異なるものとならざるを得ない。そ
の意味で,本件発明2及び3におけるエアを吹き込ませる方向は,本件発明2及び
3の特徴的部分というべきである。したがって,この点に関する被告らの主張は採用できない。
(イ) 前記1のとおり,原告製造方法は,素線群の突出端の中央にエアを吹き込ん
で素線群を放射方向に開かせるという工程を備えておらず,また,原告製造装置は,
素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開かせる装置を備え
ていない。すなわち,原告製造方法は本件発明2の,原告製造装置は本件発明3の
本質的部分をいずれも備えていない。このように,本件発明2と原告製造方法との
相違部分,本件発明3と原告製造装置との相違部分はいずれも本質的部分であるか
ら,原告製造方法及び原告製造装置は,均等の第1要件を充足しない。
◆判決本文
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2019.12.15
平成29(ワ)11147 損害賠償請求事件 特許権 令和元年11月11日 大阪地方裁判所
構成要件を充足しないとして請求棄却されました。
原告は,被告各製品の「第2の軸体8」が「流体の流れる方向が周期的に交互に
方向変換して流れる現象」の意味での「フリップフロップ現象」を発生させるため
に使用される軸体であることを直接的に裏付け,これを認めるに足りる証拠を提出
しない。
かえって,証拠(乙40)によれば,被告が,「第2の軸体8」を通過するクー
ラント液の状況を検証するため,被告製品(3/8inch)について,本来金属製である
接続機構6’を含む筒本体2及び入口側接続部材4を,下記【参考写真】のように\n透明プラスチック製のものにした上で(以下「実験対象物」という。),その内部
にクーラント液を通過させる実験を行ったところ,クーラント液につき,実験対象
物の入口側接続部材から流入し始めてから16分22秒の間,「第2の軸体8」の
軸部の外周面に形成された凸部32の間の交差流路を流れる際,その「流れる方向
が周期的に交互に方向変換して流れる現象」すなわち「フリップフロップ現象」の
発生が観察されなかったことが認められる。この実験結果の信用性につき,本来金
属製の部分を透明プラスチック製のものとしたことを考慮しても,疑義を差し挟む
べき具体的な事情はない。
また,前記認定によれば,被告各製品の「第2の軸体8」の構成は,主として凸\n部32の形状につき各製品相互間で異なるものと見られる。もっとも,被告製品
(3/8inch)の「第2の軸体8」がフリップフロップ現象を発生させなかったにもか
かわらず,他の被告製品(1/4inch,1/2inch,3/4inch,1inch)の「第2の軸体8」
がフリップフロップ現象を発生させるものであると見るべき具体的な事情はない。
原告自身,被告各製品の構成には,本件各発明の構\成要件充足性を検討するに当た
って,有意な相違はないと主張しているところでもある。
以上によれば,被告各製品の「第2の軸体8」は,クーラント液を通過させても
「フリップフロップ現象」を発生させ得るものと認めることはできない。そうであ
る以上,被告各製品の「第2の軸体8」は,「フリップフロップ現象発生用軸体」
(構成要件E,F)に当たらない(なお,仮に,被告各製品が,別紙「被告各製品\n構成目録(原告主張)」記載のとおりの構\成を有するとしても,その「第2の軸体
8」が,クーラント液を通過させると「フリップフロップ現象」を発生させ得るも
のと認めることはできないことに変わりはないから,上記結論が異なるものではな
い。)。
したがって,被告各製品の構成は,本件発明1の構\成要件E,Fを充足しない。
また,前記第2の2(4)のとおり,本件において,原告は,被告各製品の構成が本件\n特許の請求項2に係る発明の構成要件を充足するとの主張を撤回した。そうすると,\n被告各製品の構成は,本件発明3の構\成要件Mを充足しない。
(3) 原告の主張について
原告は,被告各製品の「第2の軸体8」が「フリップフロップ現象発生用軸体」
当たるとする根拠として,被告各製品のパンフレット(甲6)及び被告の特許に係
る特許公報(甲18の2及び3)の各記載を指摘する。
このうち,前者については,被告各製品である「ビックスは『フリップフロップ
流れ』を応用しています。水などの流体を菱型の柱を網目状に配列した四角の管に
通すと,管内に生じる渦により,管体から噴出する液体が,左右に規則正しくスイ
ッチングする現象のことをフリップフロップ流れと言います。」などという記載が
ある。しかし,ある性能等が製品のパンフレットに記載されているからといって,\n真実当該製品が当該性能等を有するとは限らない(そもそも,上記「フリップフロ\nップ現象」の説明は,原告主張に係る本件各発明での「フリップフロップ現象」の
意味とは異なる。)。
他方,後者については,そもそも被告各製品が後者の特許公報に記載された発明
の実施品であることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,上記実験結果(乙40)にもかかわらず,これらの記載のみをもっ
て,被告各製品の「第2の軸体8」がフリップフロップ現象を発生させ得ることを
認めること,ひいては被告各製品の「第2の軸体8」が「フリップフロップ現象発
生用軸体」であること(構成要件E,F)を認めることはできない。\nしたがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(4) 以上より,被告各製品の構成は,本件発明1の構\成要件E及びFを充足せず,
本件発明3の構成要件Mも充足しないから,被告各製品は,本件各発明の技術的範\n囲に属しない。
◆判決本文
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2019.12. 4
平成30(ネ)1008 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
外為オンラインVSネースクエアの控訴事件です。1審では差止請求が認められました。知財高裁も同じ判断です。
構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,…さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報\nを含む売り注文情報を生成する」の意義について
(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載から,構成要件Dの「注文情報生成手段」は,「前記金融商品の買い注文を行うた\nめの複数の買い注文情報」を生成する「買い注文情報生成手段」(構成要件B)と「前記買い注文の約定によって保有したポジションを,\n約定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報を
生成」する「売り注文情報生成手段」とから構成され,「売り注文情報」を生成するのは,構\成要件Dの「注文情報生成手段」のうちの「売り注文情報生成手段」であることを理解できるから,構成要件Gの「注文情報生成手段」及び構\成要件Hの「前記注文情報生成手段」は,いずれも「売り注文情報生成手段」を意味するものと理
解できる。
そうすると,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の\n売り注文が約定されたことを検知すると,前記注文情報生成手段は,
前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の売り注文
のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注
文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」にいう「前記注文情
報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」,「前
記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価
格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」と
の記載は,「売り注文情報生成手段」が,「前記約定検知手段」の
「前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が
約定された」との「検知の情報を受けて」,当該「最も高い売り注
文価格」よりも「さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含
む売り注文情報を生成する」ことを規定したものであり,「売り注
文情報生成手段」が行う処理を規定したものと解される。
次に,本件明細書には,「シフト機能」による注文は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文\nや決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯と
は異なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注さ
せる態様の注文形態」であること(【0078】),この「シフト
機能」は,「相場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一\n注文情報や新たな第二注文価格の第二注文情報を生成し,相場価格
を反映した注文の発注を行うことができる」(【0018】)とい
う効果を奏することの開示がある。そして,構成要件Hの文言及び本件明細書の上記記載から,構\成要件Hは,「シフト機能」のうち,\n更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決
済注文」(売り注文)がシフトする構成のものを規定したものであることを理解できる。他方で,本件明細書には,「シフト機能\」のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注
済の「決済注文」(売り注文)がシフトする構成の場合において,新たな「買い注文」の発注やその約定によって,「シフト機能\」の効果等が影響を受け得ることについての記載や示唆はない。
以上の本件発明の特許請求の範囲(請求項1)及び本件明細書の
記載を総合すると,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」,「前記複数の売り注文\nのうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注
文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」とは,「売り注文情
報生成手段」(前記注文情報生成手段)が,「前記約定検知手段」
の「前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文
が約定された」との「検知の情報」を受けたことに基づいて,「さ
らに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生
成する」構成のものであれば,新たな「買い注文情報」の生成や「買い注文」の約定又はその検知に関わりなく,構\成要件Hに含まれるものと解される。
(イ) これに対し控訴人は,(1)本件発明の特許請求の範囲(請求項1)
の記載によれば,構成要件Hの「前記検知の情報を受けて,…さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成\nする」とは,直前の検知の情報を条件として,これに続いて,前記
の売り注文が発生するという意味であって,これらの間に他の処理
が介在する記載はないこと,(2)本件明細書には,従前の新規注文B
1ないしB5及び従前の決済注文S1ないしS5が全部約定したこ
とを検知し,この検知の情報を受けて,新たな新規注文B1ないし
B5及び新たな決済注文S1ないしS5を一括発注するものであり
(【0142】ないし【0154】,図35),「前記検知の情報
を受けて」(構成要件H)と,「さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」(構\成要件H)との間に,他の手続が介在するもの,例えば,新たな新規注文B1ないし
B5と新たな決済注文S1ないしS5とを新規に一括発注せずに,
まずは新たな新規注文B1ないしB5を発注し,その約定を検知し
てから,新たな決済注文S1ないしS5を発注するようなものにつ
いての開示はないこと,(3)本件出願の経過において,被控訴人は,
拒絶理由通知を受けて,本件手続補正書及び本件意見書を提出して,
本件出願に係る旧請求項1に構成要件EないしGを新たに加え,構\
成要件Hを補正する手続補正を行うとともに,本件意見書において,
シフトが生じるための条件として,最も高い売り注文の約定状況の
みを監視することとし,それ以外の処理を監視することを除外する
旨を主張したことを総合すると,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の\n売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高
い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成すること」にいう
「前記検知の情報を受けて」とは,「前記相場価格が変動して,前
記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文
価格の売り注文が約定されたことを検知すると」,他の処理を何も
介在せずに,直ちに「前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文
価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り
注文情報を生成する」ことを意味するものと解すべきである旨主張
する。
しかしながら,上記(1)の点については,本件発明の特許請求の範
囲(請求項1)の記載中には,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」と「前記複数\nの売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ
高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」との間に,
「他の処理を何も介在せずに」とか「直ちに」との文言は存在しな
い。
次に,上記(2)の点については,前記(ア)で説示したとおり,構成要件Hは,「シフト機能\」(【0078】)のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決済注文」(売
り注文)がシフトする構成のものを規定したものであるところ,本件明細書には,「シフト機能\」のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決済注文」(売り注文)が
シフトする構成の場合において,新たな「買い注文」の発注やその約定によって,「シフト機能\」の効果等が影響を受け得ることについての記載や示唆はない。また,控訴人が挙げる本件明細書の記載
(【0142】ないし【0154】,図35)は,「発明の実施の
形態の3」に係るものであるが,本件明細書には,「上記の「シフ
ト機能」は,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構\
成において適用することもできる。」こと(【0151】)及び「上
記各実施の形態は本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態
のみに限定されることを意味するものではないことは,いうまでも
ない。」こと【0164】の記載があることに照らすと,控訴人が
挙げる本件明細書の上記記載から構成要件Hを限定解釈すべき理由はない。\n
さらに,上記(3)の点については,被控訴人は,本件手続補正書(乙
14)により,本件出願に係る旧請求項1について,「前記相場価
格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,
最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると,
前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受
けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさら
に所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成
する」(下線は,補正箇所を示す。)と補正し,本件意見書(乙1
5)において,「本願発明においては,一の注文手続で生成された
複数の売り注文情報に基づく複数の売り注文よりも高い売り注文情
報の生成…は,一の注文手続で生成された複数の売り注文情報に基
づく複数の売り注文のうちの最も高い売り注文の約定…が検知され
たことを基準に行われることになります。そのため,システムにお
いては,特定の注文に係る注文情報(相場の移動方向側である,最
も高い買い注文価格の買い注文に係る買い注文情報や,最も低い売
り注文価格の売り注文に係る売り注文情報)の約定状況のみを監視
すれば,新たな注文情報の生成(一の注文手続で生成された中で最
も高い売り注文価格よりも高い売り注文価格の売り注文情報の生成
…を,ただちに生成することができ,システムの情報保持や情報監
視のための負担が大きくなることはありません。これにより,本願
発明においては,新たな注文情報の生成や,その注文情報に基づく
注文の発注等の処理を,システム負荷の軽い,簡易な手順によって
処理することができるという効果を奏します。」と述べたことが認
められるが,他方で,本件手続補正書及び本件意見書は,平成29
年4月11日付けの拒絶理由通知(乙18)において「引用文献1
に記載された発明に引用文献2に記載の技術を適用し,引用文献1
に記載された発明において,繰り返し注文を行う際,相場価格の上
昇傾向に対応して以前の注文価格よりも高い価格の注文情報を生成
するように構成することは,当業者ならば容易に為し得ることである。」との進歩性欠如の指摘を受けて提出されたものであることに\n照らせば,本件手続補正書及び本件意見書は,本件発明が,複数の
売り注文のうち最も高い売り注文価格の売り注文の約定に基づいて,
同注文価格よりも高い価格の売り注文を生成する点に技術的意義を
有し,進歩性を有する旨を主張したものであって,本件意見書の「約
定状況のみを監視すれば」,「ただちに生成する」といった記載か
ら,両者の間に他の処理を介在させる構成や時間的間隔が存在する構\成を本件発明から除外したものということはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 構成要件Hの充足性について
(ア) 前記2(3)イ(イ)のとおり,(1)ないし(4)の売り注文のうち,最も高
い注文価格の番号113の売りの指値注文(指定価格114.90
円)が約定した後に,番号113の注文価格より「0.62円」高
い番号96の売りの指値注文(指定価格115.52円)がされて
いることに照らすと,被告サーバにおいては,約定検知手段が複数
の売り注文のうち最も高い売り注文価格の売り注文の約定を検知す
ると,注文情報生成手段が,この検知の情報を受けたことに基づい
て,約定した最も高い売り注文の売り注文価格よりもさらに所定価
格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成したこと
が認められる。
したがって,被告サーバは,構成要件Hを充足するものと認められる。\n
・・・・
控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Hに対応する「シフト機能\」に係る構成について,「いったんスルー注文」及び「決済トレー\nル注文」と組み合わせた,複数の新規注文の全て及び複数の決済注文の全て
がそれぞれ1回ずつ約定した場合に複数の新規注文の全て及び複数の決済注
文の全てに対応する個数の新たな複数の新規注文及び新たな複数の決済注文
を発注させることしか記載されておらず,構成要件Hに含まれる「シフト機能\」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせたもの以外の構成のものについては記載されていないことからすれば,構\成要件
Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,特許
法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合する
とはいえない旨主張する。
ア そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に
は,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたこ\nとを検知すると,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知
の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも
さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成す
る」との記載において,「注文情報生成手段」が生成する「所定価格だけ
高い売り注文価格の情報」を含む「売り注文情報」の個数を規定する記載
はないから,当該「売り注文情報」は,複数の場合に限らず,一つの場合
も含むものと理解できる。
イ(ア) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,(1)「シフト機能」について,「金融商品取引管理装置1や金融商品取引管理システム1Aにお\nいて,既に発注した新規注文と決済注文をそれぞれ約定させたのち,「シ
フト機能」による処理を併用した取引を行うことも可能\である。この「シ
フト機能」による注文は,上述した,「いったんスルー注文」や「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば後述する「リピートイ\nフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)等に基づいて,新
規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文
や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異
なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様
の注文形態である。」こと(【0078】),(2)「シフト機能」は,「相場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場\n価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一注文情報や新たな第二注
文価格の第二注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行う
ことができる」(【0018】)という効果を奏すること,(3)「発明の
実施の形態3」は,「この実施の形態3の金融商品取引管理システムに
おいては,「いったんスルー注文」と「決済トレール注文」とを,「ら
くトラ」による注文と組み合わせ,さらに「シフト機能」を行わせる状態を示す。」(【0138】)ものであるが,「上記の「シフト機能\」は,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構成において適用することもできる。」こと(【0151】)及び「上記各実施の形態\nは本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態のみに限定されるこ
とを意味するものではないことは,いうまでもない。」こと(【016
4】)の記載がある。
上記(1)の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される\n際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフ
トさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シ
フトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一
方のみの構成又は双方の構\成が含まれること,先に発注済の一つの注文
の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価格帯」をシフトさせる構\成のものが含まれることを理解できる。また,上記(1)ないし(3)の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いった\nんスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例え
ば…「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」
等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。\n
ウ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,図35に示す「実施の形態
3」(【0144】ないし【0148】)として,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせたトラップリピートイフダン注文で行われ,\n決済注文S5,S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の
買い注文B5,B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売
り注文S5,S4が再度生成されるが,この時点ではシフトは発生せ
ず,通常のリピートイフダン注文が繰り返され,その後相場価格が変
動して,S1ないしS3の売り注文価格がトレールし,S1ないしS
3が最も高い注文価格の売り注文として同時に約定すると,再度生成
された売り注文S5,S4は約定していないにも関わらずこれをキャ
ンセルして,S1ないしS5のシフトが実行されることが記載されて
いる。上記記載は,構成要件Hに含まれる,「シフト機能\」に「いっ
たんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成の一つであることが認められる。\nまた,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせない場合には,図35において,S2及びS3の売り注文価格がトレールしないため,\nそれぞれの注文情報が生成された時点における価格のとおり,それぞ
れ別々に約定し,その場合,実施の形態3の取引例でS5,S4が約
定した段階ではシフトが生じていないのと同様に,S3,S2が約定
した段階ではシフトが生じず,その後に最も高い売り注文価格の売り
注文であるところのS1が約定した段階でシフトが生じることになる
ことを理解できる。
そうすると,複数の売り注文情報のうち最も高い売り注文価格の売
り注文が約定すると,それよりも所定価格だけ高い売り注文価格の情
報を含む売り注文情報を生成するという構成要件Hに係る構\成は,本
件明細書の上記記載から認識できるから,本件明細書の発明の詳細な
説明に記載されているということができる。
(イ) これに対し控訴人は,図35には,S5,S4が約定した後に再
度S5,S4が生成されることの記載はなく,B5,B4には,直後
に「キャンセル」と記載されていることからすれば,S5,S4が約
定しても,元の買い注文B5,B4と同じ注文価格の買い注文B5,
B4がそもそも生成されないか,生成されてもすぐにキャンセルされ
ていると理解できること,加えて,本件明細書の【0144】ないし
【0147】にも,新たな新規注文B5及びB4は,個別に生成され
るのではなく,(従前の)決済注文の全ての約定((従前の)決済注
文S1ないしS3の約定)を待って,新たな新規注文B1ないしB3
とともに新たな新規注文が一括して生成されることが開示されている
ことからすると,図35には,同図右上のS1ないしS3が同時に約
定し,もって,B5ないしB1及びS5ないしS1の全てが1回ずつ
約定した後に,「シフト機能」によるシフトが行われ,新たなB5ないしB1及びS5ないしS1が一括的に生成される場合が示されてい\nるに過ぎず,B5,B4に対応する決済注文S5,S4が約定すると,
元の買い注文B5,B4と同じ注文価格の買い注文B5,B4が再度
生成されることを看取できない旨主張する。
しかしながら,図35には,明示の記載はないが,決済注文S5,
S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の買い注文B5,
B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売り注文S5,S
4が再度生成され,通常のリピートイフダン注文が繰り返されること
は,「図30に示すように,相場価格64が上昇から下落に転じ,1
ドル=100.60円未満になると,約定情報生成部14は,決済注
文S4,S5を約定させる処理を行う。これにより,(新規注文情報
18114,18115に基づく)新規注文B4,B5と,(決済注
文情報18119,18120に基づく)決済注文S4,S5による
イフダン注文の取引がそれぞれ成立する。これにより,注文情報生成
部16は,元の新規注文B4,B5と元の決済注文S4,S5と同じ,
新たな新規注文B4,B5と元の決済注文S4,S5を生成する。」
(【0132】)との記載に照らしても明らかである。
したがって,控訴人の上記主張は,その前提において,採用するこ
とができない。
エ 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「シフト機能」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせた構\成のもの(実施の形態3)のほか,構成要件Hに含まれる,これ以外の構\成の
もの(最も高い売り注文価格の特定の一の売り注文が約定されたことを検
知すると,前記注文情報生成手段が,更に所定価格だけ高い「一の売り注
文情報」を生成するもの)についての開示があることが認められる。
したがって,構成要件Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであることが認められ,本件発明はサポート要件に適合するものと認\nめられるから,これと異なる控訴人の前記主張は理由がない。
◆判決本文
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2019.11.26
平成30(ワ)12609 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月9日 東京地方裁判所
スマホ用のアプリについての特許侵害事件です。東京地裁29部は、無効理由無し、差止の必要性ありとして請求を認容しました。原告はヤマハ(株)です。被告アプリの名称から、下記サービスがヒットしましたが、これかどうかは不明です。https://www.cbnet.co.jp/archives/1978
本件発明1は,(1)案内音声である再生対象音を表す音響信号と当該案内音声である再生対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音さ\nれた音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,(2)情報抽出手
段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,(3)情報要求に含まれる
識別情報に対応するとともに案内音声である再生対象音に関連する複数の関連情報
のいずれかを受信する受信手段,(4)受信手段が受信した関連情報を出力する出力手
段としてコンピュータを機能させることにより,赤外線や電波を利用した無線通信に専用される通信機器を必要とせずに,案内音声である再生対象音の識別情報に対\n応する関連情報を利用者に提供することを可能とする(【0005】)。
エ 以上に加えて,本件発明1は,前記送信手段が,当該端末装置にて指定され
た言語を示す言語情報を含む情報要求を送信し,前記受信手段が,情報要求の識別
情報に対応するとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の
言語情報で指定された言語に対応する関連情報を受信するという構成を採用することにより,相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の言語情報で指\n定された言語に対応する関連情報を受信することができ,使用言語が相違する多様
な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものである(【0006】等)。\n
・・・
被告は,(1)乙9公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音
された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の
関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙9技術を開示しているところ,本件
発明1も乙9技術を採用するものであり,相違点1−5ないし同1−7は,情報要
求に含まれる情報の内容,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違
にすぎず,当業者が適宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,
乙9発明1に,乙10発明又は乙5公報及び乙10公報記載の周知技術,並びに周
知技術(乙14等)を組み合わせるなどして,相違点1−5ないし同1−7に係る
本件発明1の構成を容易に想到し得た旨主張する。しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記(1)エと同様に,乙9
公報等に音響IDとインターネットを用いた同種の情報提供が開示されていたとし
ても,本件発明1は,その手順や方法を具体的に特定し,使用言語が相違する多様
な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるから,相違点1−5ないし同1−7に係る\n本件発明1の構成が当業者において適宜設定できる事項であるということはできない。\n
・・・
5 争点6(差止めの必要性は認められるか)について
被告は,本件アプリについて差止めの必要性は認められないとし,その理由とし
て,(1)本件口頭弁論終結時点において,本件アプリに係るサービスは実用化されて
いなかったこと,(2)被告は,平成30年5月以降,本件アプリの配信を中止し,多
言語で情報配信を行う機能を取り除いた本件新アプリを配信しており,本件訴訟の結果によって本件アプリに係る事業を再開するか否かを決定する予\定であること,
(3)被告は,今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語の関連情報を提供することを禁ずる旨の約束や,案内音声である第1言語の再生対\n象音が表す発音内容を第2言語で表\\現した情報を提供することを禁ずる旨の約束を
する意思があることを主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本件アプリは,本件発明1の技術的範囲に属
し,本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないから,
前記第2の2(4)のとおり,被告は,少なくとも,平成29年5月頃から平成30年
6月頃まで,本件アプリを作成し,譲渡等及び譲渡等の申出をし,平成28年6月から平成29年3月までの間に3回にわたり本件アプリを使用することによって本\n件特許権1を侵害していたものである。
これらに加えて,被告が本件訴訟において本件アプリが本件発明1の技術的範囲
に属することを否認して争い,本件特許1について特許無効審判により無効にされ
るべきであると主張していること,弁論の全趣旨によれば,被告は,現在も,ウェ
ブサイトに本件アプリの説明や広告を掲載していると認められ,被告が本件アプリ
の作成等を再開することが物理的に不可能な状況にあるとは認められないことなども考慮すると,被告は,今後,本件特許権1を侵害するおそれがあるものというべ\nきであるから,原告が被告に対し,その侵害の予防のため,本件アプリの作成等の差止を求める必要性は認められるものというべきである。\n
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2019.11.26
平成30(ワ)16555 特許権侵害差止等請求事件 民事訴訟 令和元年10月29日 東京地方裁判所
特許権侵害事件で、技術的範囲に属しないと判断されました。争点は、「プロカルシトニン3−116を測定する」の意義です。
ア 本件発明の特許請求の範囲の記載は「患者の血清中でプロカルシトニン3
−116を測定することを含む,敗血症及び敗血症様全身性感染を検出する
ための方法。」であり,その構成要件Aは「患者の血清中でプロカルシトニン\n3−116を測定することを含む」というものであるところ,特許請求の範
囲には,その意義について規定する記載はないが,「測定」とは,一般的に,
「長さ,重さ,速さなど種々の量を器具や装置を用いてはかること」(大辞林
(第3版))との意味を有する。
そうすると,特許請求の範囲の記載からは,構成要件Aの「プロカルシト\nニン3−116を測定すること」とは,敗血症等を検出するため,血清中に
含まれるプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味する
ものと解するのが自然である。
イ また,前記1(2)のとおり,本件明細書の記載によれば,敗血症等の患者の
血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンについて,従前プロシ\nカルシトニン1−116と暫定的,一般的にみなされるなどしていたところ,
本件発明は,敗血症等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカル\nシトニンが,プロカルシトニン1−116ではなく,プロカルシトニン3−
116であるという発見に基づき,新規な敗血症等の診断方法を提供するこ
とを目的とするものである。そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,
「プロカルシトニン3−116を測定すること」の意義について,特段の記
載はない。そうすると,本件明細書の記載からも,構成要件Aの「プロカル\nシトニン3−116を測定すること」とは,敗血症の検出のため,上記の発
見に基づきプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味し,
その測定結果が敗血症等の検出に用いられることと理解できる。
ウ 原告は,構成要件Aの「プロカルシトニン3−116を測定すること」と\nは,プロカルシトニン3−116を敗血症等の検出に必要な精度で測定する
ことをいい,プロカルシトニン1−116と区別してプロカルシトニン3−
116を特異的・選択的に測定することを必須とするものではない旨主張し,
その根拠として,本件明細書の実施例において,プロカルシトニン3−11
6を特異的・選択的に測定することが困難なイムノアッセイによりプロカル
シトニンの濃度を測定することが記載されていること,本件明細書の記載等
を踏まえると,患者の血清中でプロカルシトニン1−116とプロカルシト
ニン3−116とを区別することなくプロカルシトニン一般を測定したと
しても,その濃度は,おおよそプロカルシトニン3−116の濃度であり,
測定されたプロカルシトニン3−116の濃度は敗血症等の検出に必要な
精度になっていることを指摘する。
しかし,本件明細書のイムノアッセイによる測定に関する記載について,
正常者及び敗血症患者の血清中のプロカルシトニン濃度の測定結果と,これ
と同時に行われたこれらの者の血清中のプロホルモン濃度の測定結果と対
比することにより,正常者と敗血症患者の間の濃度の差異がプロカルシトニ
ンにおいて際立っていることを示すものである旨の記載があることからす
ると(段落【0059】【0062】【0063】【表3】),上記測定は,「敗\n血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法」の実施例であるとは認
められないから,原告の上記主張の根拠となるとは認められない。
また,仮に,敗血症患者の血清中に含まれるプロカルシトニンの大部分が
プロカルシトニン3−116であるという関係があるとしても,プロカルシ
トニン3−116を測定することとプロカルシトニン一般を測定すること
が同義とはいえないことは明らかである,また,敗血症等であるかどうかが
明らかではない患者については,その血清中のプロカルシトニンの大部分が
プロカルシトニン3−116であるかどうかは明らかではないといえるほ
か,本件明細書には,患者の血清中のプロカルシトニン濃度を測定すること
により敗血症等を検出する技術は本件発明の優先日前に従来技術として存
在したところ,本件発明は,従来技術に対して新規のものである旨が記載さ
れているのであって,原告の主張は採用することはできない。
以上によれば,原告の主張には理由がなく,これを採用することはできな
い。
エ 以上によれば,構成要件Aの「プロカルシトニン3−116を測定する\nこと」とは,プロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味す
るものと解される。
(2)前記前提事実(第2の1(4)のとおり,被告装置及び被告キットを使用する
と,プロカルシトニン3−116とプロカルシトニン1−116とを区別する
ことなく,いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度を測定することができ,
その測定結果に基づき敗血症等の鑑別診断等が行われていると認められる。被
告装置及び被告キットを使用して敗血症等を検出する過程で,プロカルシトニ
ン3−116の量が明らかにされているとは認められない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告方法は,構成要\n件Aを充足するものとは認められない。
◆判決本文
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2019.11.18
平成29(ワ)7576 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月19日 大阪地方裁判所
特許権侵害の損害について、7割の限度で特許法102条2項による推定が覆滅され、3項で相当実施料率は4%と判断されました(双方争いなし)。
以上を踏まえ,顧客吸引力の観点から被告第2製品における本件第2
及び第3特許の技術的意義の有無及び程度を検討すると,まず,本件被告カタログ
記載の「6つの特徴」の1つとして,被告第2製品は「素手で持っても痛くありま
せん。」との記載がある。「テーパ部」の解釈に関する被告の主張をも考慮すると,
これは「テーパ部」の存在をうかがわせるものとも理解し得るものの,いかなる構\n成によって「素手で持っても痛く」ないことを実現しているのかは具体的に示され
ていない。当該記載に付された写真では,製品のアンカーボルト挿通用の開口部に
手指を通して握る形で,当該開口部を囲む部材のうち長辺部分をなす部材のうちの
1つを掌全体で把持していること(甲4,乙32)に鑑みると,「テーパ部」の存在
故に「素手で持っても痛く」ないという効果を奏しているとも断じ得ない。また,
本件第2発明の効果2に言及する記載もない。
さらに,本件被告カタログには,「6つの特徴」の1つとして,「スピード施工」
が挙げられているところ,その部分には,被告第2製品の片方の端部の接続部につ
いて「連結構造」との説明が付されている。もっとも,「連結構\造」とされる接続部
の構造や接続の仕方ないし効果に関する説明はない。\nむしろ,前記認定のとおり,本件被告カタログでは,被告第2製品の強度や換気
性能,供給・品質・価格の安定性,カットしやすい独自の形状を有する省施工商品\nであること等が強調されている。
この点は,原告や同業他社のカタログ等にも共通する。このうち,原告のカタロ
グ等には「テーパ部」や「接続部」に関する記載も見られるものの,その構造は具\n体的に示されておらず,作用効果も,他の記載と比較すると,強調の度合いは低い。
むしろ,全周敷き込みの簡単施工や特殊構造の換気スリット・防鼠材といった点が\n前面に出されて強調されている。
以上の事情に加え,被告第2製品が本件第2発明の効果を奏しない形で使用され
ることがあり得ることは否定できないこと(ただし,実務上そのような使用態様が
採られる割合は不明である以上,この事情を推定覆滅に当たって過大視することは
できない。),前述のとおり,台輪の幅方向への移動を防止する別の方法もあること
を踏まえると,本件第2及び第3発明は,施工容易性の実現という観点から一定の
顧客吸引力を有するといえるものの,本件第2発明の「テーパ部」の構成や本件第\n3発明の構成要件3C〜3Gの構\成を有することによる顧客吸引力は,相対的には
小さいというべきである。
なお,被告は,被告第2製品の形状変更後に売上げが増加したことを指摘してい
るが,その裏付けとなる資料(乙60)は形状変更後の4か月の売上額を集計した
ものにすぎないし,売上げの変動要因としては様々なものが考えられることから,
上記事情が直ちに本件第2及び第3特許が被告第2製品の需要に与える影響が小さ
いことを裏付けると見ることはできない。
これらの事情を総合的に考慮すると,本件では,7割の限度で特許法102条2
項による推定が覆滅されると認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の
各主張はいずれも採用できない。
エ ミサワホームに生じた損害
本件第2及び第3特許がいずれも持分2分の1の割合による原告とミサワホ
ームの共有であることは当事者間に争いはなく,また,弁論の全趣旨によれば,ミ
サワホームが自社施工工事分を除きこれらの特許を実施していないことが認められ
る。そして,原告及び被告いずれも,特許法102条3項に基づき損害額を算定す
る場合の本件第2及び第3特許の相当実施料率を4%程度とし,これを不合理ない
し不相当と見るべき事情もないことから,相当実施料率は4%と認められるところ,
相当実施料率を乗じる対象となる売上額を消費税込の金額とすべき証拠はない。
そうすると,次のとおり,1463万7125円をもってミサワホーム(なお,
同社が本件第2特許の持分を取得する以前の損害賠償請求権を持分譲渡人が有して
いるのであれば,その譲渡人を含む。)の損害額と認めるのが相当である。
そして,侵害された特許権が共有であったことにより侵害者の賠償すべき損害額
が単独保有の場合に比較して増額されるいわれはないことなどから,原告との関係
においては,更にこの限度で,特許法102条2項による推定が覆滅されるとする
のが相当である。
(計算式) 売上額7億3185万6254円(税抜)×4%×1/2=146
3万7125円
オ 原告の損害額
以上より,特許法102条2項に基づく原告の損害額は,別紙「被告第2製
品に係る損害額(裁判所の認定)」の「原告の損害額」欄記載のとおり,4867万
8376円と認められる。
(計算式) 被告の利益の額2億1105万1670円×0.3−1463万7125円=4867万8376円
(4) 原告の予備的主張について\n
原告は,被告工場製品の製造販売について,特許法102条2項に基づき推定
される損害額が同条3項に基づくそれを下回る場合には,予備的に,同項に基づく\n損害額を主張する。
しかし,前記認定から明らかなとおり,特許法102条3項に基づき推定される
原告の損害額は,同条2項に基づくそれを上回るものではないから,この点に関す
る原告の主張は採用できない。
仮に,原告の主張が,被告工場製品を除く被告第2製品の販売による損害につい
ては特許法102条2項に基づき賠償請求しつつ,被告工場製品の販売による損害
については,同項に基づき算定される損害額が同条3項に基づくそれを下回る場合
に,予備的に同項に基づく損害額を主張する趣旨であったとしても,前記3(2)ウ
(オ)で判示したとおり,被告工場製品とそれ以外の製品とで訴訟物が異なると見るべ
き根拠はないから,原告の主張は採用できない。
(5) 弁護士費用(本件第1特許権の侵害分も含む。)について
原告は本件訴訟代理人弁護士に訴訟の提起・追行を委任したところ,被告の本
件第1〜第3特許権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,510万
円と認めるのが相当である。なお,逸失利益に係る損害の発生状況に照らし,弁護
士費用に係る損害賠償支払債務のうち,平成29年8月17日の時点で遅滞に陥っ
ていたのは460万円の損害賠償債務であると認めるのが相当である。また,被告
の不法行為終了時期が平成30年10月末であることを踏まえると,残額の損害賠
償債務の遅滞損害金の起算日は同月31日とするのが相当である。
(6) 原告の逸失利益に対する確定遅延損害金について
原告が確定遅延損害金を請求している期間の,被告第2製品の製造販売による
損害に対する遅延損害金の金額は,別紙「被告第2製品に係る損害額(裁判所の認
定)」の「H31.2.28までの確定遅延損害金」欄記載のとおりの方法で計算すると,合
計1231万6870円である。
◆判決本文
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2019.11.18
平成31(ネ)10031 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月10日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
一審原告製の使用済み中空芯管をそのまま利用して生産された薬剤分包用ロールペーパの特許権・商標権を侵害すると判断されました。1審では、商標権侵害は認められていましたが、差止請求が棄却されていましたが、その点は同じです。
本件訂正発明は,構成要件A〜Dからなる「薬剤分包用ロールペーパ」に係る\n発明であるところ(構成要件E),構\成要件Aには薬剤分包装置に関する事項が,
構成要件B及びDにはロールペーパ及びその中空芯管並びにロールペーパに配\n設される複数の磁石(以下,併せて「本件ロールペーパ等」という。)に関する
事項が,構成要件Cには薬剤分包装置及びロールペーパに関する事項が,それぞ\nれ記載され,構成要件Aにおいて,ロールペーパと薬剤分包装置の関係につき,\n前者が後者に「用いられ」るものとして記載されている。
本件訂正発明は,「薬剤分包用ロールペーパ」という物の発明であると認めら
れるところ,物の発明の特許請求の範囲の記載は,物の構造,特性等を特定する\nものとして解釈すべきであること,「用いられ」が,構成要件Aの中で「・・・\nようにした薬剤分包装置に用いられ,」とされていることからすると,「用いら
れ」とは,本件ロールペーパ等が構成要件Aで特定される薬剤分包装置で使用可\n能なものであることを表\していると解される。
(3) 被告製品の構成要件充足性について\n
ア 前記(2)を前提に検討すると,構成要件Aのうち「ロールペーパの回\n転速度を検出するために支持軸の片端に角度センサを設け」との記載は,本件ロ
ールペーパ等の「複数の磁石」につき,支持軸の片端に設けられた角度センサに
よる検出が可能な位置に配設されるものであることを特定するものと理解でき,\nまた,構成要件Aのうち「ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその\n固定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設
け」との記載は,本件ロールペーパ等について,薬剤分包装置の中空軸と接する
中空芯管の端に,中空軸と着脱自在に固定する手段を設けることで,そのような
態様で回転させられるものであることを特定するものと理解できる。
そうすると,本件訂正発明に係る薬剤分包用ロールペーパの技術的範囲は,構\n成要件B〜Eと,構成要件Aによる上記特定に係る事項によって画されるもの\nであるから,被告製品が構成要件A〜Eで特定される本件ロールペーパ等とし\nての構成を備えていて,構\成要件Aで特定される薬剤分包装置に利用可能なも\nのについては,被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属するものと認められ,
被告製品が構成要件Aで特定される薬剤分包装置に実際に使用されるか否かと\nいうことは,上記構成要件充足の判断に影響するものではないと解される。\n
イ(ア) 被告製品は,前提事実(6)のとおりの構成を有するところ,弁論\nの全趣旨によると,被告製品の構成a,b,c,dは,本件訂正発明の構\成要件
B,C,D,Eをそれぞれ充足するものと認められる。
(イ) 弁論の全趣旨によると,被告製品の中空芯管内部に配設された
3個の磁石は,支持軸の片端に設置された角度センサによる信号の検出が可能\nな位置に配設されたものであり,また,被告製品は,薬剤分包装置の中空軸に着
脱自在に装着されて,固定時に中空軸と一体となって回転し得るものであって,
その手段がロールペーパと中空軸が接する端に設けられているものと認められ
る。
(ウ) したがって,被告製品は,本件訂正発明の構成要件B〜Eと構\成
要件Aによる上記アの特定に係る事項を充足し,構成要件Aで特定される薬剤\n分包装置で使用可能なものであると認められる。\n
ウ よって,被告製品は,本件訂正発明の技術的範囲に属するものと認め
られる。
(4) 一審被告らの主張について
ア 一審被告らは,本件訂正発明が用途発明であり,また,本件訂正発明
において保護されるべき特徴的部分は,薬剤分包装置側の構成又は機能\である
ことなどから,被告製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられては\nじめて本件特許権に対する侵害が成立すると主張する。
しかし,前記(2)で検討したとおり,本件訂正発明は用途発明ではない。また,
本件訂正発明の技術的意義は,前記(1)認定のとおりであって,本件訂正発明の
特徴的部分が薬剤分包装置のみにあるということはできない。
したがって,一審被告らの上記主張は採用することができない。
なお,特許庁の審査基準(甲22)も,サブコンビネーション発明について用
途発明と同様に解釈することを求めているものとは解されない。
イ 一審被告らは,一審原告は,本件補正に際して,本件訂正発明の技術
的特徴が構成要件Aにあることを主張していたと主張する。\n一審原告は,本件補正に際しての意見書(乙9)において,本件補正に先立つ
拒絶理由通知の引用文献記載の技術に対して,「本願発明では『回転角度と測長
センサの検出信号を検出してロールペーパの巻量が検出可能な位置に配置され\nた磁石』の構成を有し,かつ『角度センサの信号とずれ検出センサの信号との不\n一致により上記中空軸に着脱自在に装着されたロールペーパと上記中空軸との
ずれを検出するようにした』薬剤分包装置に用いられることを前提とするロー
ルペーパについての発明であり,部分的な構成部材の抽象的,総論的な構\成が公
知,周知であるという理由だけで,本願発明の全体の構成が全て否定されること\nにはならないと考えます。」と主張しているものの,そのことから直ちに一審原
告が構成要件Aを充足する薬剤分包装置で用いられることが必要であるとまで\n主張していたとは解されないから,一審被告らの上記主張を採用することはで
きない。
ウ 一審被告らは,原審裁判所の暫定的見解について主張するが,原審裁
判所の暫定的見解によって当審の判断が左右されないことは明らかである。
・・・・
一審被告らは,非純正品であることを明示して販売していたことや
購入者が調剤薬局であることなどからすると,購入者は被告製品が非純正品で
あること,すなわち,一審原告の製品ではないことを正確に認識しており,出所
表示機能\や品質保証機能が害されていないから,商標法26条1項6号が適用\nされるか,実質的違法性を欠き,商標権侵害が成立しないと主張する。
しかし,以下の(ア)〜(オ)の各事情を考え併せると,購入者の全てが,被告製
品が非純正品であること,すなわち,一審原告の製品ではないことを正確に認識
していたとは認められず,一審被告らの上記主張はその前提を欠くものであっ
て,採用することができない。
(ア) まず,前記(1)イのとおり,被告製品については,ウェブサイト
のみならず,ダイレクトメールやFAX等による宣伝活動もされており,顧客が
一審被告らのウェブサイトを経由することなく被告製品を購入する場合もあっ
たと認められるところ,ダイレクトメールやFAXにおいて,どのような態様で
宣伝がされていたのかは証拠上必ずしも明らかではない。
(イ) 一審被告らは,顧客に対し,非純正品であることを説明していた
と主張するが,一審被告らの下で稼働していた従業員は,その点に関し,刑事事
件の公判廷において,「電話で口頭で説明するときに,『純正の紙と違うので』
と説明した。」,「電子メールで顧客に説明する際にも電話での説明の場合と同
様に非純正であることを顧客に説明したように思うが,よく覚えてない。」と曖
昧な供述をしている(乙4)上,同供述の裏付けとなるような顧客への対応マニ
ュアルや顧客に送付された電子メールといったようなものは何ら証拠として提
出されていないから,一審被告らの主張するような説明が常に顧客に対してさ
れていたとは認められない。
(ウ) 被告製品の購入を申し込むために顧客が一審被告らに対して送\n付する「注文書兼使用許可書」についても,「非純正」の文字(乙25の1・2)
は,後から記載されるもので,常に記載されていたのかは証拠上明らかではない
し,また,「非純正」の文字が取り立てて大きく表示されたり,強調されたりし\nていないことからすると,仮に記載されていたとしても顧客がこれに気付かな
いこともあり得る。そして,前記(1)イのとおり,顧客から使用済み芯管の送付
を受けることなく,被告製品が販売された事例があることからすると,上記の
「注文書兼使用許可書」が常に使用されるものであったとも認められない。
納品書(乙26)についても,「分包紙はお客様からお預かりした芯で作りま
した。」とだけ記載されており,非純正品であることが明示されているわけでは
ない。
(エ) 前記(1)ウのとおり,一審被告らのウェブサイトには「非純正分
包紙」という記載があったものの,被告ネクストウェブサイトの非純正品ウェブ
ページ1では,「ユヤマ分包機対応」との記載に続いて各種の製品が表示されて\nいるのみで,非純正品であることが明示的に記載されていなかった上,被告ヨシ
ヤウェブサイトの非純正品ウェブページ2でも,「ユヤマ分包機対応」という記
載と共に各種の製品が表示されており,「非純正分包紙」という記載が左欄に小\nさく記載されているにすぎないことからすると,一審被告らのウェブサイトに
接した購入者の全てが,被告製品が非純正品であると正確に認識するとは認め
られない。
(オ) 購入者が調剤薬局であるからといって,その注意力が常に一般
消費者に比して高いとまではいえず,購入者の一人が,被告製品が非純正品であ
ると認識していたことがある(乙19,113)からといって,それにより全購
入者が同じ認識であったとは認められない。
なお,一審被告らは,調剤薬局の薬剤師の間では,当該調剤薬局で使用してい
る薬剤分包用ロールペーパの仕入先や問合せ先に関する情報が共有されている
と主張するが,上記(ア)〜(オ)で検討してきたところによると,そもそも,調剤
薬局において,被告製品を非純正品(一審原告の製品でないもの)として購入す
るとは限らないというべきであるから,仕入先や問合せ先に関する情報が共有
されるかどうかは,本件の結論を左右するものではない。
◆判決本文
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◆平成28(ワ)7536
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2019.11.17
平成31(ネ)10034 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月31日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、コンピュータプログラムにかかる特許について、構成要件FおよびGを有していないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。知財高裁はこれを維持しました。
構成要件Gの「前記上位ノード変数データ」の意義について\n
a 本件発明の構成要件Fの「前記スクリプトは,当該ノードデータに\n含まれる変数データである自ノード変数データと,当該ノードの直系
上位ノードのノードデータに含まれる変数データである上位ノード変
数データを利用した演算を行って,前記自ノード変数データの値を求
める代入用スクリプトを含んでおり」との記載及び構成要件Gの「前\n記表示された木構\造のノードのうちの選択されたノードの前記自ノー
ド変数データ,前記上位ノード変数データ及び前記スクリプトを表示\nするノードデータテーブル表示ステップ」との記載から,本件発明の\n「上位ノード変数データ」は,「当該ノードの直系上位ノードのノー
ドデータに含まれる変数データ」であり,構成要件Fの「前記自ノー\nド変数データの値」を求める「代入用スクリプト」による演算に利用
される「変数データ」であることを理解できる。
次に,本件明細書には,「上位ノード変数データ」に関し,「変数
情報は,各ノードが保持するデータであって,変数名に対応させて記
憶される。記憶される変数は,下位ノードから参照される公開変数と,
自ノード内でのみ使用する限定変数を含む。また,変数の値(「変数
データ」と記述する場合もある。)は,固定値が設定されても,スク
リプトの実行によって演算された値が設定されてもよい。また,UR
Lが設定されてもよい。どのような値が設定されるかは任意である。」
(【0031】),「代入用スクリプトは,自ノードの変数の値を演
算するためのものである。代入用スクリプトは,自ノードの変数の値
である自ノード変数データと,そのノードの直系上位ノードの公開変
数の値である上位ノード変数データを利用して記述することが可能で\nある。」(【0032】),「公開変数表示領域に表\示される公開変
数は,自ノードの公開変数51と,直系上位ノードの公開変数52を
含み,直系上位のノードの公開変数52は,自ノードの公開変数51
と異なる色で表示される(図10では,フォントを変えて示してある。)。\nまた,公開変数には,固定値が入力される公開変数と,代入用スクリ
プトの実行によって計算される公開変数があり,修飾領域に「なし」
あるいは「要計算」を表示することによりに区別される。」(【00\n65】)との記載がある。
そして,図10には,「直系上位ノードの公開変数の値である上位
ノード変数データ」として,「52」に「変数名」及びそれに対応す
る「値」が示されている(例えば,「変数名」の欄「パネル色」・「値」
欄「KW−400」)。
これらの記載によれば,本件明細書には,「上位ノード変数データ」
にいう「変数データ」は,「変数の値」を含むデータであることの開
示があることが認められる。
以上の本件発明の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によ
れば,構成要件Gの「前記表\示された木構造のノードのうちの選択さ\nれたノードの前記自ノード変数データ,前記上位ノード変数データ及
び前記スクリプトを表示するノードデータテーブル表\示ステップ」に
いう「前記上位ノード変数データ」は,「当該ノードの直系上位ノー
ドのノードデータ」に含まれる「変数の値」を含むデータであると解
される。
b これに対し控訴人は,本件明細書の【0032】における「変数の
値(「変数データ」と記述する場合もある。)」との記載は,「変数
データ」という用語を,文脈によって,変数の値を指す意味で用いる
こともあるという注意書きであると理解できること,「変数データ」
は,変数名と変数の型を意味するというのが,プログラミングに関す
る通常の用語であること(甲24),実質的にも,本件発明が「ノー
ドデータテーブル表示ステップ」において上位ノード変数データを表\
示させる目的は,表示された木構\造の個々のノードに対応付けられた
詳細情報を簡単に表示することができる(【0009】)ことにより,\n文書ファイル(プログラム)の編集を容易にする点にあり,変数名が
分かれば,その目的を達成することができることからすると,本件発
明の「上位ノード変数データ」は,本件明細書において文脈上変数の
値を意味すべき場合を除き,変数名を指すと解すべきである旨主張す
る。
しかしながら,本件明細書には,「上位ノード変数データ」が変数
名のみで構成される場合を含むことについての記載や示唆はない。\nまた,前記aの本件明細書の記載に照らすと,【0032】の「変
数の値(「変数データ」と記述する場合もある。)」との記載は,「変
数データ」は「変数の値」を意味することを示した記載であると解す
るのが自然であり,これが変数の値を指す意味で用いることもあると
いう注意書きであるということはできない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 被告プログラムにおける「ノードデータテーブル表示ステップ」の\n有無について
a 控訴人は,入力コネクタは,親ボックスから引き渡される値を記憶
する変数が図形化されたものであり,入力コネクタの名称が構成要件\nGにおける「上位ノード変数データ」に該当すること,インスペクタ
及びスクリプトエディタに表示される入力コネクタの名称に関する\n情報の表示は,上位ノード変数データを表\示するものであることから
すると,被告プログラムは,「上位ノード変数データ」を表示する「ノ\nードデータテーブル表示ステップ」を備えている旨主張する。\nしかしながら,前記(ア)a認定のとおり,構成要件Gの「前記上位\nノード変数データ」は,「当該ノードの直系上位ノードのノードデー
タ」に含まれる「変数の値」を含むデータであると認められるところ,
入力コネクタの名称は,「変数の値」であるとはいえないから,控訴
人の上記主張は,その前提を欠くものであり,理由がない。
b 控訴人は,被告プログラムの構成g’に関し,被告プログラムのS\nay Textボックスの「スクリプトエディタ」において「親から
の変数を取得」機能を使う場合,上位ノードであるSayボックスの\n変数から利用可能なものを一覧表\示する機能があるから,被告プログ\nラムは,「上位ノード変数データ」を表示する「ノードデータテーブ\nル表示ステップ」を備えている旨主張する。\n しかしながら,控訴人の上記主張は,「スクリプトエディタ」にお
いて,どのような「上位ノード変数データ」が表示されるのかについ\nて具体的に主張するものではないから,その主張自体理由がない。
c 以上によれば,被告プログラムは,「上位ノード変数データ」を表\n示する「ノードデータテーブル表示ステップ」を備えているものと認\nめることはできないから,構成要件Gの「前記表\示された木構造のノ\nードのうちの選択されたノードの前記自ノード変数データ,前記上位
ノード変数データ及び前記スクリプトを表示するノードデータテーブ\nル表示ステップ」を備えているものと認めることはできない。\n
ウ まとめ
以上のとおり,被告プログラムは,構成要件Gの「木構\造を表示する木\n構造表\示ステップ」及び「ノードデータテーブル表示ステップ」を備えて\nいるものと認められないから,構成要件Gを充足しない。\n
◆判決本文
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◆平成29(ワ)31706
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2019.11. 6
平成30(ワ)7123 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月24日 大阪地方裁判所
CS関連発明についての侵害事件で、大阪地裁21部は技術的範囲に属しないと判断しました。争点は「前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しない」という用語の技術的意義です。
ア そもそも,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の
記載に基づいて定めなければならないとされている(特許法70条1項)。
そこで,本件特許の特許請求の範囲の請求項1をみると,構成要件Eとして,次\nのように記載されている。
「前記広告情報管理サーバは,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た
後,再び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信
しないこと,を特徴とする無線通信サービス提供システム。」
ここでは,
「前記広告情報管理サーバは,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しな
いこと,を特徴とする無線通信サービス提供システム。」
と記載されるのではなく,「前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後,
再び前記指定地域内に戻っても,」という文言(以下「本件指定地域に関する文言」
という。)がみられる。
このように,構成要件Eには本件指定地域に関する文言がわざわざ付加されてい\nるから,その文言には何らかの意味があるものとして理解すべきであり,構成要件\nEについて本件指定地域に関する文言がない場合と同じ解釈をすることは許されず,
その文言によって本件発明1の構成が特定(限定)されているものと理解するのが\n相当である。
イ そこで,本件指定地域に関する文言の意義について検討すると,ここで
いう「指定地域」とは,構成要件C及びDの記載を踏まえると,広告提供者から入\n手した配信先情報に含まれる,広告提供者が広告情報を配信する地域として指定し
た地域のことである。
そして,構成要件Eは,構\成要件Dにおいて,無線通信装置が少なくとも1回は
広告情報の配信を受けたことを踏まえたものであるから,無線通信装置がその時点
で上記指定地域内に存在していたことが前提となるが,無線通信装置は,その性質
上,(1)その指定地域内に存在し続ける場合((1)の場合)もあれば,(2)指定地域外に
出る場合もあり,後者の場合については,指定地域外に出たままの場合((2)−1の
場合)もあれば,一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻る場合((2)−2の
場合)も想定される。
このうち,指定地域外に出たままの場合((2)−1の場合)に,無線通信装置に同
じ広告情報が送信されないことは明らかであるが(これは構成要件Eによるもので\nはなく,指定地域内の無線通信装置に広告情報を送信するという構成要件Dの構\成
による作用効果である。),指定地域内に存在し続けている場合((1)の場合)及び
一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合((2)−2の場合)には,無
線通信装置に同じ広告情報が送信される可能性がある。\nそうすると,本件指定地域に関する文言は,無線通信装置に同じ広告情報が送信
される可能性がある場合のうち,上記(2)−2の場合だけを記載し,上記(1)の場合を
あえて記載していないことになる。
ウ 以上のことを踏まえると,構成要件Eは,広告情報管理サーバが,特に,\n無線通信装置が一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合に,同じ広
告情報を無線通信装置に送信しないことを特徴とするということを記載したものと
解すべきこととなる。
もっとも,これは,広告情報管理サーバが広告情報を無線通信装置に送信するも
のであること(構成要件C)を踏まえ,同じ広告情報を再送信するかどうかという\n機能ないし作用効果に着目して記載されたものであり,その具体的構\成について,
当該広告情報管理サーバは,単に,同じ広告情報を無線通信装置に再送信しないよ
うにする構成を備えているだけでは足りず,一旦指定地域外に出た後,再び指定地\n域内に戻ったことを把握して,当該無線通信装置に,同じ広告情報を再送信しない
ようにする構成を備えていなければ,構\成要件Eを充足するとはいえないと解すべ
きである。
エ 原告の主張について
(ア) 原告は,本件明細書の【0070】の記載を指摘し,構成要件Eは,\n広告情報管理サーバが,無線通信装置への広告の配信回数が0であるか1であるか
を表す送信済フラグに基づいて,無線通信装置が一旦配信エリアの外に出た後,再\nび配信エリア内に戻った場合には,広告情報を再送しないようにする態様を含むも
のと解すべきであると主張する。
原告の主張のように,構成要件Eが,無線通信装置への広告の配信回数のみによ\nって広告情報を再送信しないようにする態様を含むと解する立場をとると,無線通
信装置が一旦配信エリアの外に出た後,再び配信エリア内に戻った場合だけでなく,
無線通信装置が配信エリア内に存在し続けている場合にも,同じ広告情報が再送信
されなければ構成要件Eを充足することになる。\nしかしながら,「一旦前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻って
も」という構成要件Eの用語は,一義的に明確というべきであるし,特許請求の範\n囲には,発明を特定するために必要な事項が記載され(特許法36条5項),特許
発明の技術的範囲が,特許請求の範囲の記載に基づいて定められることは前述のと
おりであるから(同法70条1項),前記(2)−1と(2)−2の態様を区別する構成な\nしに,広告情報の配信回数を制限し得ることをもって,構成要件Eを充足すると解\nすることはできない。
(イ) 本件明細書の【0070】では,広告情報管理サーバによる広告情報
(広告メッセージ)の配信方法等について記載されており,広告を配信する際,「個
人情報データベースに項目として本広告メッセージに対応する広告IDを追加し,
送信済フラグを立てる。これにより,同じユーザに対して同一の広告メッセージを
重複して送信することがなくなる。即ち,携帯端末1Aが一旦指定地域の外に出た
後,再び指定地域内に戻っても,この送信済フラグが立っていれば,同じ広告メッ
セージを送信しない。」と記載されている。
この記載のうち,「即ち」よりも前の記載は,個人情報データベースに配信した
広告メッセージに対応する広告IDを追加し,送信済フラグを立てると,その広告
メッセージの配信を受けたユーザーに対しては,同一の広告メッセージを重複して
送信することがなくなるとの当然の機能ないし作用効果を記載したものと解される\nが,「即ち」の後ろの記載は,「携帯端末1Aが一旦指定地域の外に出た後,再び
指定地域内に戻っても,この送信済フラグが立っていれば,同じ広告メッセージを
送信しない。」というものであり,前記イで判示したとおり,携帯端末1Aが指定
地域内に存在し続けており,同一の広告メッセージを重複して受信する可能性があ\nる場合があえて除かれていることから,「即ち」の前の記載と同視し得るものと認
めることはできず,「即ち」の前の記載と後ろの記載とは,本来,「即ち」という
接続詞を用いて接続することのできる関係にはないといわざるを得ない。
したがって,構成要件Eは,【0070】の「即ち」の後ろの記載に対応するも\nのであるが,上記検討したところによれば,「即ち」の前の記載が,構成要件Eの\n意味内容である,あるいは,本件発明1の実施例であるということはできない。
また,【0070】は【0069】の後に記載されているところ,【0069】
では,広告情報管理サーバが,広告配信サービス契約を結んだ全てのユーザの携帯
端末の位置情報を時々刻々更新しており,常にそれら端末の現在位置を把握してい
ることが記載されている。そして,【0070】の「即ち」の後ろでは,無線通信
装置が指定地域内に存在し続けている場合が除かれていることからすると,そこで
は,特に,無線通信装置が一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合
に,同じ広告メッセージを送信しないということを記載したものと読むのが自然で
ある。
以上のことを踏まえると,【0070】の記載内容によって,前記ウの解釈は左
右されないというべきである。
(ウ) 本件特許の出願経過について
・・・・
(d) 原告は,同日,特許庁審査官に対し,意見書を提出し,上記補正
後の特許請求の範囲の請求項1について,その内容を記載した上で,「特に,『前
記広告情報管理サーバは,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後,再
び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しない
こと』に特徴付けられるものであります。」「本願発明は,かかる特徴的な構成を\n有機的に関連付けて具備することにより,明細書の段落0070に記載した通り,
『これにより,同じユーザに対して同一の広告メッセージを重複して送信すること
がなくなる。即ち,携帯端末1Aが一旦指定地域の外に出た後,再び指定地域内に
戻っても,この送信済フラグが立っていれば,同じ広告メッセージを送信しない。』
という特有の作用・効果を奏するものであります。」などと説明した。また,原告
は,拒絶理由通知における引用文献との対比の項目でも,上記構成を含む構\成を「最
大の特徴」とした上で,引用文献にはこの構成についての記載や示唆は一切なく,\n補正後の請求項に係る各発明は,引用文献に記載された発明から当業者が容易に発
明することができたものではないと結論付けていた(乙1)。
(e) その後,上記請求項26を本件特許の設定登録時のもの(前記第
2の1(3)ウ参照)と同じ内容に変更する補正がされるなどした後,本件特許につい
て特許査定がされた。
c 前記bで認定した本件特許の出願経過に照らし検討すると,確かに,
構成要件Eは本件明細書に【0070】の記載があることを踏まえて追加されたも\nのであることがうかがわれるが,原告は,上記補正に当たって,構成要件Eの構\成
を「特徴的な構成」などと位置付けた上で,この構\成を含む構成についての記載や\n示唆が引用文献には一切ないことを前提として,これを強調していた。
他方で,乙3の1の1ないし乙4の2によれば,本件特許が出願された平成12
年9月以前から,インターネットを利用した広告情報(バナー広告)の配信サービ
スの分野においては,ユーザー(利用者)に対して同じ広告が配信(表示)される\n回数をコントロール(制限)することによって,「バナーバーンアウト」(広告に
反応がなくなる状態)ないし「バナー飽き(wearout)」を防止し,効果的な宣伝広
告を実現することが広く行われていたと認められる。この点,原告も,乙3の1の
1等で触れられているダブルクリック社の DART や乙4の1,2の公知技術が,広告
の配信回数を管理するものであることを認めている。
そうすると,原告が本件特許の出願経過において,単に,本件特許の出願前から
広く行われ,公知技術でもあった同じ広告の配信回数を管理するという構成による\n機能ないし作用効果を構\成要件Eに記載し,これを本件特許の「特徴的な構成」な\nどとして強調していたとは考え難い。
むしろ,前記認定の原告による本件特許の出願経過における説明内容に加え,本
件特許の出願当時,広く行われ公知とされていた技術を前提とすれば,原告は,特
に,無線通信装置が一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合に,同
じ広告情報を無線通信装置に送信しないようにする構成を強調していたと理解する\nのが自然である。
したがって,先に判示した構成要件Eの解釈は,原告による本件特許の出願経過\nにおける説明等とも整合的ということができ,これに反する原告の主張は採用でき
ない。
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2019.11. 1
平成31(ネ)10014 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審同様、技術的範囲に属する、無効理由無し(サポート要件、実施可能要件、進歩性)と判断されました。
上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク
質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ
れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結
合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使
用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は,
かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって,
PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより,
対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症
などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することにあると理解することができる。\n本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用
してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体
を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体
について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合
しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること,
また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含
まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ
れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD
LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。
21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21
B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗
体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細
書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個
の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え
て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同
様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体
を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認
識できると認められる。
さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免
疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や
31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す
るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業
者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって,
本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗
体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら
れる。
以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン
パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル
抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ
クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成
物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す
る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できることを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に\n適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結
合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定
される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ
により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。
しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照
抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし,
参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。\nそして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特
定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために,
その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない(甲34,35)。\n前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し,
本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参
照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と
LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること
を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。\n
(4) 本件各訂正発明のサポート要件適合性
なお,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,本件各訂正発明も,いずれもサポート要件に適合するものと認められる。
(5) 小括
以上によれば,本件各発明及び本件各訂正発明は,いずれもサポート要件に適合
するというべきである。
4 争点(2)イ(実施可能要件違反)について
(1) 前記3(1)の認定事実によれば,本件各明細書の記載から,本件発明1−1及
び2−1の抗体及び本件発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し,使用するこ
とができるものと認められるから,本件各明細書の発明の詳細な説明の記載は,当
業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができる。\nしたがって,本件各発明は,いずれも,実施可能要件に適合するものと認められる。\n
(2) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ
れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な\n時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能要件を満たさない旨主張する。\nしかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ
とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求められるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程\n度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる\nからである。
本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,
PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗
体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そして,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す\nることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離
されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度
の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ\nることまで記載されている必要はない。
また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない
抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認
識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に記載されているかどうかは,実施可能\要件とは関係しないというべきである。そして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細
書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範
囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ
るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得
る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。
よって,控訴人の主張は採用できない。
(3) 本件各訂正発明の実施可能要件の適合性
なお,前記3(4)のとおり,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,当業者は,本件各明細書の記載から,本件訂正発明1
−1及び2−1の抗体及び本件訂正発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し,
使用することができるものと認められ,本件各訂正発明も,いずれも実施可能要件に適合するものと認められる。\n
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2019.10.28
平成30(ネ)10043 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月3日 知的財産高等裁判所
知財高裁(2部)は、化分野の発明について、特許請求の範囲が抽象的な表現で記載されている場合、特許発明の技術的範囲を具体的な実施例に限定せず、明細書などの記載から当業者が実施できる範囲は、その技術的範囲に含まれると判断基準を示しました。ただ、結論は、1審と同じく、技術的範囲に属しないとしました。問題の用語は「凝血促進活性を増大させる」です。
本件特許請求の範囲の請求項1(本件発明1に係る特許請求の範囲)の
記載は,「第IX因子または第IXa因子に対する抗体または抗体誘導体であって,
凝血促進活性を増大させる,抗体または抗体誘導体(ただし,抗体クローンAHI
X−5041:Haematologic Technologies社製,抗体
クローンHIX−1:SIGMA−ALDRICH社製,抗体クローンESN−2:
American Diagnostica社製,および抗体クローンESN−3:
American Diagnostica社製,ならびにそれらの抗体誘導体を
除く)。」であり,請求項4(本件発明4に係る特許請求の範囲)は請求項1を引用
している。ここで,「凝血促進活性を増大させる」との記載の意義については,本件
明細書においてこれを定義した記載はない上,「血液凝固障害の処置のための調製
物を提供する」(段落【0010】)という本件各発明の目的そのものであり,か
つ,本件各発明における抗体又は抗体誘導体の機能又は作用を表\現しているのみで
あって,本件各発明の目的又は効果を達成するために必要な具体的構成を明らかにしているものではない。\n特許権に基づく独占権は,新規で進歩性のある特許発明を公衆に対して開示する
ことの代償として与えられるものであるから,このように特許請求の範囲の記載が
機能的,抽象的な表\現にとどまっている場合に,当該機能や作用効果を果たし得る構\成全てを,その技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までを特許発明の技術的範囲に含めて特許権に基づく独占権を与えることになりかねないが,そのような解釈は,発明の開示の代償として独\n占権を付与したという特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきで
ある。
したがって,特許請求の範囲が上記のように抽象的,機能的な表\現で記載されて
いる場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすること
はできず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具
体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである。もっとも,このことは,特許発明の技術的範囲を具体的な実施例に限定す\nるものではなく,明細書及び図面の記載から当業者が理解することができ,実施す
ることができるのであれば,同構成はその技術的範囲に含まれるものと解すべきである。\n
イ そこで,本件明細書において開示された具体的構成に示されている技術思想について検討する。\n
(ア) ある抗体が,FIX又はFIXaに結合し,FIXaの凝血促進活性
を増加するか又はFVIII様活性を有することを示すための試験方法としては,
凝血試験や色素形成試験等があり,これらによって評価が可能である(段落【0013】,【0014】,【0037】,【0065】)。そして,FIXaに対する抗体を\nスクリーニングし,色素形成アッセイによってFVIII様活性を有するモノクロ
ーナル抗体(モノスペシフィック抗体)が複数作製されており(実施例4,9),そ
の中でFVIIIインヒビターを有する血漿の凝血をもたらす抗体(193/AD
3)も確認されている(実施例7)。したがって,当業者は,FIXaに対する抗体
をスクリーニングすることにより,過度の試行錯誤を要することなく,一定の割合
で凝血促進活性を増大させるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)を作
製できたと認められる。
また,凝血促進活性を増大させるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)
からの誘導体も複数作製されているから(例えば,CDR3領域由来ペプチド及び
その誘導体〔実施例11,12〕,キメラ抗体〔実施例13〕,Fabフラグメント
〔実施例15〕,単鎖抗体〔scFv。実施例10,16,18〕,ミニ抗体〔実施
例17〕),当業者は,凝血促進活性を増大させるモノクローナル抗体(モノスペシ
フィック抗体)からの誘導体も作製できたと認められる。
(イ) バイスペシフィック抗体については,本件明細書において,実施例と
して作製された例は記載されておらず,FIX又はFIXaに結合するアーム以外
のアームが結合する対象の抗原がいかなるものかも開示されていない。
しかし,バイスペシフィック抗体は,抗体誘導体の一態様として明記されている
(段落【0019】及び【0026】)。そして,バイスペシフィック抗体ではない
ものの,凝血促進活性を増大させるモノスペシフィック抗体からの誘導体も複数作
製されている(実施例10〜13,15〜18)。
また,FIX又はFIXaに対するバイスペシフィック抗体の作製法は,本件出
願日当時に複数知られており,その中でも,クワドローマ技術は簡便な方法であり,
本件出願日当時の当業者にとって,合理的な時間及び努力の範囲内でバイスペシフ
ィック抗体を作製できる手法であったのであり,また,バイスペシフィック抗体を
産生するクワドローマを融合し及び選択する種々の方法及びプロトコルは,199
9年において,利用可能であり,良好に確立され,二重特異性のIgG分子を作製するのに幅広く用いられていた(本件明細書の段落【0026】,甲97,100〜\n104,甲140の1)のであるから,当業者は,本件出願日の技術常識から,F
IX又はFIXaに対するバイスペシフィック抗体を作製可能であったと認められる。\nさらに,前記3(2)のとおり,バイスペシフィック抗体のFVIII補因子活性と
抗FIXのモノスペシフィック抗体とは乏しい相関関係しかなく,バイスペシフィ
ック抗体のFVIII補因子活性は,抗FIX抗体由来の構造だけなく,抗FX抗体由来の構\造にも影響を受けるのであるが,バイスペシフィック抗体においては,FIX又はFIXaに対する結合部位は1価になるものの,1価でも凝血促進活性
を増大させる効果があり(本件明細書実施例10〜12,15,16,18),バイ
スペシフィック抗体の二つの抗原間で立体干渉が生じない限り,モノスペシフィッ
ク抗体の活性は維持される(甲140の1)。FIX又はFIXa以外の結合部位が
FXである場合を想定すると,本件出願日当時,FIXaとFXaの構造が明らかとなっており,FIXaとFXaの立体構\造からすると,当業者は,FIXaとFXに結合するバイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフ
ィック抗体)で,FIXa結合部位の活性に対する干渉は起こりにくいと予測できる(甲140の1)。\nしたがって,当業者は,バイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型
バイスペシフィック抗体)が,モノスペシフィック抗体が有する凝血促進活性を増
大させる作用を維持できると予測できたと認められる。そうすると,バイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフィック抗体)についても,\nモノスペシフィック抗体の活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体の一態
様として「抗体誘導体」に含まれると解される。
(ウ) 以上によると,本件各発明の技術的範囲に含まれるというためには,
「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子
に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつ
つ当該抗体を改変した抗体誘導体」であることが必要であるものの,バイスペシフ
ィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフィック抗体)は「抗体誘導
体」の一態様としてこれに含まれ得ると解すべきである。
もっとも,FIX又はFIXaに対するモノクローナル抗体(モノスペシフィッ
ク抗体)がFIXaの凝血促進活性を実質的に増大させるものでない場合には,別
異に解すべきである。すなわち,本件各発明の技術的範囲に属するというためには,
「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子
に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつ
つ当該抗体を改変した抗体誘導体」であることが必要であると解されるところ,こ
れには,FIXaの凝血促進活性を実質的に増大させるものではないFIX又はF
IXaに対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)は含まれないし,
このようなモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)から誘導される抗体誘
導体(バイスペシフィック抗体もこれに含まれる。)も含まれないというべきである。
このような抗体誘導体(バイスペシフィック抗体)は,たとえ,それ自体がFIX
aの凝血促進活性を増大させる効果を有するものであったとしても,本件各発明の
課題解決手段とは異なる手段によって凝血促進活性を増大させる効果がもたらされ
ているのであって,本件明細書の記載に基づいて当業者が理解し,実施できるもの
とはいえないというべきである。
(エ) 被控訴人は,(1)非対称型バイスペシフィック抗体の著しく高い活性
は,一つの分子が2種類のアームを有するというバイスペシフィック抗体に固有の
機序によって初めて実現されたもので,非対称型バイスペシフィック抗体は,本件
明細書においてハイブリドーマ方法によって得られたモノスペシフィック抗体とは
活性及び機序の点で大きく異なっており,本件各発明の課題解決手段とは異なる手
段によって凝血促進活性を増大させる効果がもたされていることになる,(2)FVI
II補因子活性は,抗FX腕によって影響を受けるため,抗FIX(a)腕及び抗
FX腕の何れの組合せが非対称型バイスペシフィック抗体のFVIII補因子活性
を発現するのか,予測することが困難である,(3)現時点においてすら,非対称型バ
イスペシフィック抗体の適切な評価手法が確立できていないことなどからすると,
本件明細書は,非対称型バイスペシフィック抗体を想定していなかったといえると
主張する。
しかし,バイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフィ
ック抗体)が抗体誘導体の一態様として「抗体誘導体」に含まれ得ることは,既に
判示したとおりであって,このことは,被控訴人が主張する非対称型バイスペシフ
ィック抗体の凝血促進活性を増大させる効果が大きいことや,抗FIX(a)腕と
抗FX腕の何れの組合せが効果があるかを予測することが困難であることや現時点において,非対称型バイスペシフィック抗体の適切な評価方法が確立していないこ\nとによって左右されるものではない。
(オ) 本件明細書においては,凝血促進活性を図る方法について,2時間の
インキュベーション後のFVIIIアッセイ(例えば,COATEST(登録商標)
アッセイまたはイムノクロム(Immunochrom)試験)において少なくと
も3のバックグラウンドの対測定値の比を示すとされている(段落【0013】,【0
014】。なお,「バックグラウンドの対測定値の比」は,「ネガティブコントロール
との比」と同義である。)が,色素形成アッセイ以外にも凝固アッセイなどFVII
I活性を決定するために使用される全ての方法が使用でき(段落【0037】,【0
065】),同じ色素形成アッセイであってもインキュベーション時間が2時間では
ない例も記載されている(実施例2,4,5,実施例11・図18〜22,実施例
15〜18)。
このように,本件明細書に記載された凝血促進活性の評価方法は,複数存在して
おり,一般に,評価方法が異なればその基準が同一であるとは限らないとはいえる
ものの,本件明細書では,段落【0013】及び【0014】に前記2(1)クのとお
り記載され,色素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が,1.7
程度(例えば,段落【0081】・図11において,198/AP1はネガティブコ
ントロールとの比が1.7程度であるが,凝血促進活性を示さないとされている。
段落【0067】・図7A(196/AF2 35μM Pefabloc Xa〔登
録商標〕),段落【0068】・図7B(198/AM1 35μM Pefablo
c Xa〔登録商標〕)も同様。)や2程度(段落【0105】・図20において,A
1/5はネガティブコントロールとの比が2程度であるが,有意な凝血促進活性は
ないと評価されている。)の場合においては,「凝血促進活性を増大させる」とは評
価されていない。
本件明細書のこれらの記載に加え,前記アのような本件各発明の請求項の記載を
考慮すると,当業者は,本件各発明の範囲に含まれる抗体又はその誘導体は,複数
の評価方法のうち,色素形成アッセイ(FVIIIアッセイ)を実施した場合には,
少なくとも3のバックグラウンドの対測定値の比(ネガティブコントロールとの比)
を示すものが本件各発明の抗体及び抗体誘導体であると理解すると認められるから,
「凝血促進活性を増大させる」とは,色素形成アッセイを実施した場合には,ネガ
ティブコントロールとの比が3を超えることを意味すると認めるのが相当である。
これに対し,控訴人らは,「凝血促進活性を増大させる」について,当業者は,ネ
ガティブコントロールとの比が1を超えるものであるか否かで判断する旨主張し,
本件明細書の段落【0013】の記載は,「最終的に生成された物の評価をする際に
何らかの値を決めておく必要があるので,とりあえず3としたという程度の意味で
ある」(甲131の3頁),「任意に設定された仮の基準であり,すべての候補物質に
適応すべき必須の条件ではない」(甲132の3頁),「ノイズや測定誤差の大きさに
関する記載がない以上,統計学的議論から根拠をもった基準として3を導くことは
できない」(甲136の1頁)などの意見書を提出するが,これらの意見書によると,
本件各発明の技術的範囲が当業者にとって明らかでないことになるから,これらの
意見書の意見や控訴人らの主張を採用することはできないことは,既に判示したと
おりである。
(2) 上記(1)のとおり,「凝血促進活性を実質的に増大させる」とは,色素形成
アッセイを実施した場合のネガティブコントロールとの比が3を超えることを意味
するが,色素形成アッセイの測定方法について,控訴人らは,本件明細書の記載及
び技術常識によると,コンティニュアス法によるアッセイを行うのであればインキ
ュベーション時間を2時間とし,サブサンプリング法によるアッセイを行うのであ
れば第1ステップのインキュベーション時間を5分とし,長時間のインキュベーシ
ョン時間をとるのであれば,酵素の最大反応速度をみるために,継続的に測定すべ
きである旨主張する。
ア コンティニュアス法及びサブサンプリング法について
証拠(甲210,甲229の1)及び弁論の全趣旨によると,サブサンプリング
法とは,FXaを生成させる第1ステップと,生成したFXaを定量する第2ステ
ップを分離して実施する色素形成アッセイの方法であり,第1のステップではFX
aを生成させるのに必要な試薬と被験抗体を混合させ,一定時間インキュベーショ
ンさせてFXaを生成し,第1ステップで生成されたFXaの反応をみるために,
第2ステップに移行する前にFXaの生成を止め,第2ステップで,上記混合物に
発色性合成基質を添付することで,第1ステップで生成されたFXaが発色性合成
基質を切断し,発色する様子を測定するという標準的な FVIIIアッセイで用い
られている方法であること,コンティニュアス法とは,第1ステップ(FXa生成
反応)及び第2ステップ(FXaによる発色反応)からなる一連の反応を1ステッ
プで行う方法であり,被験抗体,FIXa,FX,リン脂質,カルシウムイオン,
発色性合成基質等の一連の反応に必要な試薬を全て最初から投入し,第1ステップ
であるFXa生成反応と,第2ステップである生成したFXaによる発色反応とを
同時に進行させて,吸光度を経時的に測定することにより,FXa生成量の推移を
継続的に観察するものであることが認められる。
イ 証拠(甲208,211,213,乙39)及び弁論の全趣旨によると,
本件明細書の段落【0013】に記載されているCOATEST(登録商標)やイ
ムノクロムは,サブサンプリング法の色素アッセイキットであり,コアテストの仕
様書や,イムノクロムの後継品であるテクノクロムの仕様書にはインキュベーショ
ン時間は5分間とされていることが認められるが,本件明細書の段落【0013】
においては,インキュベーション時間は2時間とされているから,本件明細書の段
落【0013】においては,サブサンプリング法を用いつつも,インキュベーショ
ン時間を2時間として色素形成アッセイを実施したところ,少なくとも3のバック
グラウンドの比を示すものが本件各発明である旨記載されていることになる。
この点について,控訴人らは,インキュベーション時間を2時間とすると,イン
キュベーションの途中で,基質の消費に伴い,反応速度は最大反応よりも低下し,
第1ステップのインキュベーション時間の間,FIXaが失活してしまい,その結
果,FXaの生成速度も低下し,さらに,生成物であるFXaも自己消化を起こし,
血液凝血性やアミド活性を持たないFXaγに変換してしまうので,FXaの産出
量は本来の産出量より少なくなっていて,適切でなく,インキュベーション時間は
仕様書のとおり5分が適切であると主張する。
しかし,本件明細書には,上記のとおり,インキュベーション時間を2時間とし
たものしか記載されていないのであって,本件明細書においては,インキュベーシ
ョン時間を仕様書の記載に反してあえて2時間とし,そのときのFXaの産出量を
もって,3のネガティブコントロールとの比を評価するときの産出量としているの
であるから,当業者は,3のネガティブコントロールとの比を評価するに当たり,
インキュベーション時間が5分の場合を想定することはできないというべきである。
なお,本件明細書において,インキュベーション時間を2時間とした理由につい
ては,本件明細書に記載はなく,本件の証拠によるも必ずしも明らかでないが,そ
のことは上記判断を左右するものではない。
そうすると,当業者は,本件各発明の「凝血促進活性を増大させる」というため
には,インキュベーション時間を2時間とする測定を要すると理解すると解される。
ウ 以上によると,本件各発明の技術的範囲に含まれるというためには,「第
IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対
するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当
該抗体を改変した抗体誘導体」であり,インキュベーション時間を2時間とする色
素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が3を超えるものを意味す
ると認めるのが相当である。
・・・
エ 以上によると,被控訴人製品は,「第IXa因子の凝血促進活性を実質的
に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペ
シフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」に該
当するとは認められない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成28(ワ)11475
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2019.10.18
平成29(ワ)44181 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月18日 東京地方裁判所
東京地裁(40部)は、構成要件11D等における「送信先」としては、「ドメイン」を含まないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害も第1要件を満たさないと判断されました。問題の構成要件における特定は、「受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段」というものです。原告キヤノンITソ\リューションズ(株)代理人鮫島弁護士、被告デジタルアーツ(株)代理人大野聖二弁護士です。
原告は,制御ルールのリストの例示である【図5】の「条件定義部」の
「受信者」欄に,「*@zzz.co.jp」が定められており,これはドメインを表\nすものであるから,「送信先」には電子メールアドレスのみならず,ドメ
インを含むと主張する。
しかし,前記のとおり,本件明細書等1には,制御ルールに関し,「「条
件定義部」は,「発信者(送信元)」,「受信者(宛先)」,「その他条
件」から構成される。…「受信者(宛先)」には,メール送受信端末11\n0から取得する電子メールの宛先(To,Cc,Bcc)の電子メールア
ドレス(受信者情報) が設定されている」(段落【0040】),「「発
信者(送信元)」,「受信者(宛先)」には,それぞれ電子メールアドレ
スを複数設定することができ,アスタリスクなどのメタ文字(ワイルドカ
ード)を使うことによって任意の文字列を表すこともできる」(段落【0\n041】)と記載されており,これらの記載によれば,上記「*@zzz.co.jp」
は,ドメインを意味するのではなく,「*」に任意の文字列を含み,ドメイ
ン名を「zzz.co.jp」とする複数の電子メールアドレスを意味するという
べきである。
原告は,「*@zzz.co.jp」がドメインを意味することは,複数の特許文献
(甲24,30〜32,乙15)などの記載からも裏付けられると主張す
るが,特許請求の範囲や発明の詳細な説明において使用される言葉の意義
は各発明により異なることから,構成要件11D等の「送信先」の意義は\n本件特許に係る特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に基づいて
解釈されるべきである。本件明細書等1の「*@zzz.co.jp」がドメインを意
味すると解し得ないことは上記判示のとおりであり,原告の挙げる他の文
献等の記載は上記結論を左右するものではない。
(イ) 原告は,本件明細書等の段落【0061】及び【図4】のステップS4
02には,「受信者」の「宛先」単位で電子メールの分割をすることを記
載しているが「受信者」の「宛先」にはドメインも含まれると主張する。
しかし,段落【0061】には「各宛先(受信者)のそれぞれを単一の
宛先としたエンベロープをそれぞれ生成する」と記載されているところ,
同エンベロープの生成を説明する【図12】には,送信先(受信者) の電
子メールアドレスとして設定されている「A」,「B」,「C」のそれぞ
れを単一の宛先とするエンベロープ情報をそれぞれ生成することが図示
されているのであるから,同段落の「各宛先(受信者)」とは電子メール
アドレスを意味するというべきである。
(ウ) 原告は,本件明細書等1の段落【0003】に記載の従来技術である乙
15公報における「宛先」には「電子メールアドレス」又は「ドメイン」
であることが記載されており,本件発明1において分割する単位をドメイ
ンとしてもこの従来技術の課題を解決することができると主張する。
そこで,乙15公報をみるに,その段落【0032】には,【図2】の
「項目203,205にあっては,アカウントを*として,ドメインのみ
を指定するとした設定も可能である」と記載されているが,ここにいう項\n目203は送信メールの一時保留機能を利用する場合であって,一時保留\nせずに,即配信したいメールアドレスの即配信リストを設定する項目であ
り,同図の項目205は,全ての送信保留中メールを本人(送信者)に配
送する場合であって,配送を希望しない送信保留中メールを本人(送信者)
に送信しないメールアドレスの送信不要リストを設定する項目である(段
落【0030】)。【図2】
このように,項目203及び同205は即配信又は送信不要リストを設
定するためのものであるから,段落【0032】の趣旨は,一時保留せず
に即配信したいメールアドレスの即配信リスト(項目203)や,送信保
留中メールを本人(送信者)に送信しないメールアドレスの送信不要リス
ト(項目205)に,任意のドメイン名を有する複数のメールアドレスを
一括して設定することも可能であることを述べたものにすぎず,電子メー\nルの「宛先」にドメインが含まれることを示すものということはできない。
そうすると,同段落の記載をもって従来技術である乙15公報における
「宛先」に「ドメイン」が含まれると解することはできないので,原告の
上記主張は前提において採用し得ないというべきである。
(エ) 原告は,電子メールをドメイン単位で分割する場合でも本件発明1の課
題を解決し得ると主張する。
しかし,電子メールをドメイン単位で分割するとなると,同一ドメイン
の複数の電子メールのうち,一つのみの送出を保留すべきような場合に上
記課題を解決し得ないことは,前記判示のとおりである。
原告は,本件発明1はいかなる場合でも電子メールの送出制御を効率的
に行うことを課題と設定しているのではないと主張するが,本件発明1が
その課題を解決し得ない構成を含むとは考え難く,特許請求の範囲及び本\n件明細書等1の記載に照らしても,「送信先」にドメインを含むとは解し
得ないことも,前記判示のとおりである。
エ 以上のとおり,構成要件11D等における「送信先」は「電子メールアド\nレス」のみを指し,「ドメイン」を含まないと解することが相当である。
・・・・
特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書
記載の従来技術との比較から認定されるべきであるところ(知財高裁平成2
7年(ネ)第10014号同28年3月25日判決),本件明細書等1には,
従来技術の「複数の送信先が記載された電子メールに対しては,誤送信の可
能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメー\nル送信までもが保留,取り消しがされることとなる」(段落【0004】)
という課題を解決するため,電子メールに設定された複数の送信先を個々の
送信先に分割し,記憶手段に記憶されている制御ルール等に従って,電子メ
ールの送出に係る制御内容を決定し,決定された制御内容に従って電子メー
ルの送信制御を行うなどの構成を備えることにより,「ユーザによる電子メ\nールの誤送信を低減可能とすると共に,宛先に応じた電子メールの送出制御\nを行うことにより効率よく電子メールを送出させることができる」(段落【0
008】)などの効果を奏するものである。
イ 原告は,本件特許1の特許メモ(乙9)などを根拠に,本件発明1の本質
的部分は,「送出制御内容を,電子メールの送信元と送信先とに対応付けた
制御ルールと,分割された電子メールの送信先と送信元とに従って,分割さ
れた送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定すること」(構\n成要件11E)にあると主張する。
しかし,本件発明1の従来技術として挙げられているのは乙15公報であ
り,本件明細書等1に記載されている課題は「複数の送信先が記載された電
子メールに対しては,誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれ\nば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされるこ
ととなる」というものであるところ,同課題を解決するためには,電子メー
ルに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割した上で,制
御ルールを適用することが不可欠である。そうすると,構成要件11D等に\n係る構成は本件発明1の本質的部分というべきである。\n 原告は,特許メモ(乙9)の記載を根拠とするが,同メモには,本件特許
の出願時の複数の公知文献に本件発明1に係る構成が記載されているかど\nうかが記載されているにすぎず,本件発明1の従来技術として挙げられた乙
15公報との対比がされているものではなく,また,本件発明1の本質的部
分の所在を検討するものでもないので,同メモに基づいて,本件発明1の本
質的部分が構成要件11Eに係る構\成にあるということはできない。
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2019.10.16
平成30(ワ)24717 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月17日 東京地方裁判所(46部)
ゼンリンに対する地図表示に関する特許侵害事件です。争点は、構\成要件D、Fの「各ページを適宜に分割して区画化し,…住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載」を具備していない、さらに均等侵害についても第1要件を満たさないと判断されました。
特許請求の範囲の「各ページを適宜に分割して区画化し,…住宅建物の所
在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画
の記号番号と一覧的に対応させて掲載」という記載(構成要件D,E及びF)\nに照らせば,構成要件Dの「適宜に分割して区画化」とは,ページの特定の\n部分に記号番号を付し番地とこれに対応するページの特定の部分を一覧的
に示したりすることができるよう,検索すべき領域の地図のページを分割し,
認識できるようにすることといえる。
そして,本件発明は, 前記1(2)のとおり、地図上に公共施設や著名ビル等
以外の住宅及び建物は番地のみを記載するなどし,全ての建物等が所在する
番地について,記載ページと当該ページ内で分割された区画のうち当該番地
が記載された区画を一覧的に対応させて掲載した索引欄を設けることによ
って,簡潔で見やすく迅速な検索を可能にする住宅地図の提供を可能\にする
というものであり,本件発明の地図の利用者は,索引欄を用いて,検索対象
の建物等が所在する地番に対応する,ページ及び当該ページにおける複数の
区画の中の該当の区画を認識した上で,当該ページの該当区画内において,
検索対象の建物等を検索することが想定されている。そのためには,当該ペ
ージについて,それが線その他の方法によって複数の区画に分割され,利用
者が該当の区画を認識することができる必要があるといえる。そうすると,
本件明細書に記載された本件発明の目的や作用効果に照らしても,本件発明
の「区画化」は,ページを見た利用者が,線その他の方法及び記号番号によ
り,検索対象の建物等が所在する区画が,ページ内に複数ある区画の中でど
の区画であるかを認識することができる形でページを分割することをいう
といえる。
また 前記(2)のとおり、本件明細書には発明の実施の形態において,本件
発明を実施した場合における住宅地図の各ページの一例として別紙「本件明
細書図2」及び「本件明細書図5」が示されているところ,これらの図にお
いては,いずれも道路その他の情報が記載された長方形の地図のページが示
されたうえで,そのページが,ページ内にひかれた直線によって仕切られて
複数の区画に分割されており,その複数の区画にそれぞれ区画番号が付され
ている。また,本件明細書図4の索引欄には,番地に対応する形でページ番
号及び区画番号が記載されており,利用者は,検索対象の建物の番地から,
索引欄において当該建物が掲載されているページ番号及び区画番号を把握
し,それらの情報を基に,該当ページ内の該当区画を認識して,その該当区
画内を検索することにより,目的とする建物を探し出すことが記載されてい
る(【0028】)。ここでは,上記の特許請求の範囲の記載や発明の意義に
従った実施の形態が記載されているといえる。
加えて,本件明細書には,本件発明の「区画化」の用語を定義した記載は
なく,【0017】ないし【0032】及び別紙「本件明細書図1」ないし
「本件明細書図5」で記載された実施形態以外には本件発明の実施形態の具
体的記載はない。なお,後記イのとおり,本件明細書の【0033】【00
37】に記載された地図は,本件発明の実施形態を記載したものとはいえな
い。
したがって,本件明細書における発明の実施の形態に係る記載からしても,
構成要件Dの「適宜に分割して区画化」とは,ページを見た利用者が,線そ\nの他の方法及び記号番号により,検索対象の建物等が所在する区画が,ペー
ジ内に複数ある区画の中でどの区画であるかを認識することができる形で
ページを分割することをいうと解される。
イ これに対し,原告は,本件明細書(【0033】【0037】)は,本件発明
の実施形態として,コンピュータが自動的に区画を探し出し,当該区画を画
面中央に配置し,当該区画内にある所望の建物をユーザが直接認識できる電
子住宅地図(全戸氏名入り電子住宅地図)を開示しており,このような構成\nを備える電子住宅地図では,ユーザが視覚的に地図内の位置を分かりやすく
探せるように仕切り線を設ける必要はないから,「区画化」もまたユーザが
目に見える形で仕切る構成に限定されない旨主張する。\n確かに,本件明細書には,全戸氏名入り電子住宅地図として「戸番地(住
所地番及び号)をキーとして,電子電話帳11の氏名データと,住所入り電
子住宅地図12のポリゴンデータとを連結する。」(【0035】),「この全戸
氏名入り電子住宅地図14は,パソコン13のキーボードから氏名を入力す\nれば,その人物の居住する建物を中心にした地図がパソコン13の表\示装置
に表示され,その人物の居住する建物にマークが付されて,そのマークが点\n滅する。」(【0037】)との記載がある。
しかし,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,上記【0037】
記載の動作に対応する構成の記載はない。また,本件明細書には,「公官庁\nや住宅関係の企業では,今まで通り氏名入りの住宅地図を必要とする場合も
考えられる。そのような場合でも,…全戸氏名入りの住宅地図を作成するこ
とができる。」(【0033】)との記載があるところ,上記記載中の「今まで
通り氏名入りの住宅地図」とは,「建物表示に住所番地ばかりではなく,居\n住者の氏名も全て併記」された「従来の住宅地図」(【0002】)を指すと
解されること,【0037】の全戸氏名入り電子住宅地図14においては,
利用者がパソコン13のキーボードから氏名を入力することによりその人\n物が居住する建物を検索する場合,マークの付された建物に表示された氏名\nを視認することによって検索の目的とする建物との同一性を確認するもの
と理解できることからすると,全戸氏名入り電子住宅地図14は,「全戸」
の氏名が表示された地図であるものと認められる。そうすると,全戸氏名入\nり電子住宅地図14は,構成要件Bの「検索の目安となる公共施設や著名ビ\nル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名及び建物名称の記載を
省略し」の構成を備えていない。\n
したがって,本件明細書記載の全戸氏名入り電子住宅地図14は,本件発
明の実施形態に含まれるとは認めることはできない。なお,本件発明の出願
経過によれば,本件特許出願の願書に最初に添付した明細書(乙8の2,8
の3)記載の特許請求の範囲は旧請求項1ないし11からなり,旧請求項7
ないし11には,「全戸氏名入り電子住宅地図作成方法」に係る発明の記載
があり,発明の詳細な説明中の【0014】ないし【0016】に旧請求項
7ないし11を引用した記載部分があったが,同年10月21日付けの手続
補正(乙9)により,旧請求項1の文言を補正し,旧請求項2ないし11及
び【0014】ないし【0016】を削除する補正がされたこと,上記補正
後の請求項1は,拒絶査定不服審判請求と同時にされた平成13年6月7日
付けの手続補正により本件発明の特許請求の範囲記載の請求項1と同一の
記載に補正されたこと(乙10)に照らすと,本件明細書の【0033】な
いし【0038】記載の全戸氏名入り電子住宅地図14に関する記載は,平
成11年10月21日付けの手続補正により削除された旧請求項7ないし
11記載の「全戸氏名入り電子住宅地図作成方法」に係る発明の実施形態で
あると認められる。
以上によれば,本件明細書記載の全戸氏名入り電子住宅地図14が本件発
明に含まれることを前提とする原告の上記主張は採用することができない。
・・・・
原告は,仮に縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図が,各ペー
ジに線その他の方法及び記号番号を付されていない点において構成要件Dと相違\nするとしても,縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図は,均等の
成立要件(第1要件ないし第3要件)を満たしているから,本件発明と均等なも
のとして,本件発明の技術的範囲に属する旨主張する。
前記2(1)のとおり,本件発明の技術的意義は,検索の目安となる建物を除く建
物名称や居住者氏名の記載しないため,高い縮尺度で地図を作成することにより
小判で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することや(構成要件B\n及びC),地図の更新のために氏名調査等の労力を要しないことによって廉価な住
宅地図を提供することを可能にするとともに,地図上に公共施設や著名ビル等以\n外の住宅及び建物は番地のみを記載し,地図のページを適宜に分割して区画化し
たうえで,全ての建物等の所在する番地を,当該番地の記載ページ及び記載区画
を特定する記号番号と一覧的に対応させた索引欄を付すことによって,簡潔で見
やすく迅速な検索を可能にする住宅地図を提供すること(構\成要件DないしF)
を可能にする点にあるものと認められる。\n
しかしながら、被告地図においては前記2(1)で認定したとおり,地図を記載した各ページを線その他の方法及び記号番号によりユーザの目に見える形で複
数の区画に仕切られていないため,ユーザが所在番地の記載ページ及び区画の記
号番号の情報から検索対象の建物等の該当区画を探し,区画内から建物を探し出
すことができないから,迅速な検索が可能であるということはできない。\nしたがって,縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図は,本件発
明の本質的部分を備えているものとは認めることができず,同被告地図の相違部
分は,本件発明の本質的部分でないということはできないから,均等の第1要件
を充足しない。よって,その余の点について判断するまでもなく,縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図は,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められないから,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはで\nきない。
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2019.10.11
平成30(ワ)13400 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月11日 東京地方裁判所(40部)
文言侵害、均等侵害とも否定されました。論点は係止爪の位置です。本件発明をアンテナ上方向(抜け方向)に荷重が加わったときに係止爪が外側に撓んで拡がることにより解決しているが、被告製品は本件発明1と異なる構成で実現していると、判断されました。\n
均等論の本質的部分(第1要件)
本件発明1と被告製品との相違点は,本件発明1では,係止爪がサブアー
ム部の上端部に位置するものであるのに対し,被告製品では,爪部の上部に
フック部が設けられ,爪部がサブアーム部の上端部に位置するとはいえない
点にあるところ,被告は,原告の均等侵害の主張に対し,第4要件を充足す
ることは争わないものの,その余の要件の充足性を争うので,以下検討する。
(2) 第1要件(非本質的部分)について
ア 均等侵害が成立するための第1要件にいう本質的部分とは,当該特許発
明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思
想を構成する特徴的部分であり,このような特許発明の本質的部分を対象\n製品等が共通に備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分
ではないと解される。
イ 原告は,本件発明1のうち,挿入力の増加の防止のための構成がその本\n質的部分であるとした上で,被告製品は少なくともその課題の解決原理を
利用しているのであるから,被告製品のサブアーム部にフック部が付属し
ているかどうかにかかわらず,同製品は本件発明1の本質的部分を備えて
いると主張する。
しかし,本件発明1は,特に車載用等のアンテナの仮固定用ホルダにつ
いて,従来例の仮固定用ホルダでは抜け力が弱いという問題があり,他方,
抜け力を強くするために係止爪の引っ掛かり量を多くすると,挿入力が強
くなり作業性が悪化することから,挿入力は弱いままで,抜け力を強くす
るという課題を解決するためのものであると認められる(本件明細書等の
段落【0009】,【0013】〜【0015】)。そうすると,本件発
明1の本質的部分は,挿入力は弱いままで,抜け力を強くするための構成\nにあり,従来技術との対比でいうと,特に抜け力の強化のための構成が重\n要であるというべきである。
そして,本件発明1は,上記課題の解決のため,(1)メインアーム部と,
メインアーム部の下端部で繋がったサブアーム部を有し,(2)当該下端部が
サブアーム部の撓みの支点となり,(3)サブアーム部の上端部を,上端に向
かって肉厚が増加する係止爪からなるものとすることなどにより,取付孔
への挿入性の向上を図るとともに,アンテナ上方向(抜け方向)に荷重が
加わったときは,係止爪が外側に撓んで拡がることにより抜け力の増大を
可能にするものであると認められる(特許請求の範囲,本件明細書等の段\n落【0017】,【0029】,【0032】,【0033】,【003
6】,【0037】)。
ウ 他方,被告製品においては,サブアーム部の爪部の上部にフック部が設
けられ,当該フック部と車体のルーフ孔の距離が0.3mmであると認め
られるから(乙13),抜け方向に荷重が加わった際に,フック部は0.
3mm程度以上は撓むことなくすぐに車体のルーフの内側面に当たり,爪
部がそれ以上に外側に撓ることは抑制されるものと認められる。
そして,被告製品における抜け力に関し,被告が実施した実験結果(乙
5)によれば,本件発明1の実施品の抜け力は186Nであるのに対し,
被告製品の抜け力は,215.8N,227N,271N,295Nであ
り,最小でも約30N,最大で約110Nの差が生じたことが認められる。
また,被告が実施した,被告製品のコの字型部材(サンプル(1))と,被告
製品のコの字型部材を加工してフック部を除いたもの(サンプル(2))を用
いた実験結果(乙14)によれば,前者の抜け力の平均値は227.60
N,後者の抜け力の平均値は73.51N(いずれも10回実施)であり,
フック部を備えたコの字型部材の方が,抜け力において約150N大きい
ことが認められる。
前記のとおり,被告製品の爪部は外側への撓みが抑制されていると認め
られるところ,これに上記の各実験結果を併せて考慮すると,被告製品は,
本件発明1の実施品に匹敵する抜け力を備えているということができ,そ
の抜け力の大きさは,同製品がフック部を備えることに起因しているもの
と考えるのが自然であり,少なくとも爪部の外部への撓みによるものでは
ないということができる。
なお,原告は,乙14実験はサンプル(2)のフック部のカット加工の際に
メインアーム部とサブアーム部の接続部の耐久性が損なわれた可能性が\nあるとして,乙14実験の信用性を争うが,サンプル(2)はフック部を爪部
からカットするものであり,上記接続部の耐久性が損なわれたことをうか
がわせる事情は見当たらない。前記判示のとおり,乙14実験はサンプル
(1)と(2)のそれぞれについて10回ずつ実験を行っているところ,数値にば
らつきはあるものの,サンプル(1)は200N以上であり,サンプル(2)は概
ね60〜100程度であり,全体的に100N以上の差が生じていること
に照らすと,その差が誤差や実験方法の不適切さに由来するものとはいう
ことはできない。
エ 前記判示のとおり,抜け力の増大という課題を解決するための構成は本\n件発明1の本質的部分ということができるところ,本件発明1はこの課題
をアンテナ上方向(抜け方向)に荷重が加わったときに係止爪が外側に撓
んで拡がることにより解決しているのに対し,被告製品は爪部に加えてフ
ック部を備えることにより抜け力を保持しているものと認められ,そうす
ると,被告製品は本件発明1と異なる構成により上記課題を解決している\nということができる。
◆判決本文
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2019.10. 2
平成28(ワ)12296 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月10日 大阪地方裁判所
特許権侵害認定されましたが、損害額については102条2項について、「他の店舗用品とを組み合わせて販売されたバンドル取引商品である」ことを覆滅事由として、6割の推定が覆滅されました。
まず,被告が経費として主張する製造委託費,検査費等は,いずれ
も侵害者である被告において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接
関連して追加的に必要となった経費に当たると認められるから,被告の利益額を算
定するに当たり,上記販売金額からこれらの経費の金額を控除すべきである。
b そして,乙53,56ないし61及び弁論の全趣旨によれば,製造
委託費(樹脂やプレートの材料代,プレートの組付費用を含み,金型の作成費用は
含まない。),検査費等として,別紙「被告の損害論における主張」の「被告の経
費額」欄記載の経費を支出したと認められる。
c 原告らは,被告主張の仕入価格には高すぎるなどの疑問があると主
張して,被告主張の経費のうち「製造委託費」の金額を争っている。
しかし,この主張は特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利
益の額の算定の問題に関連する主張であるが,そもそもその利益の額(限界利益の
額)の主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきであるから(知財高裁令和
元年6月7日判決・最高裁ウェブサイト),そのような観点から検討すると,原告
らは原告製品の製造販売に係る経費と対比をするのみで,被告製品の製造販売に係
る経費について具体的な立証をしているわけではない。
他方,被告製品の製造委託先は,被告と資本関係にあるわけではなく(乙62,
弁論の全趣旨),被告の主張する製品1個当たりの製造委託費は,別紙「被告主張
の被告製品1個当たりの経費額」の「製造委託費(材料費込)」欄記載のとおりで
あるところ,その金額には一定の裏付け(乙56ないし61)がある。したがって,
原告らの上記指摘によって前記認定は左右されず,下記(ウ)で認定する金額を超え
る利益が被告に生じていたことを認めることはできない。
(ウ) 被告の利益額
以上によれば,被告が本件特許権の侵害行為により受けた利益の額は,別
紙「被告の損害論における主張」の「被告の限界利益」欄記載のとおり,合計(中
略)円と認められる。
イ 推定覆滅事由の有無
(ア) 特許法102条2項における推定の覆滅については,侵害者が主張立
証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果
関係を阻害する事情がこれに当たると解され,例えば,(1)特許権者と侵害者の業務
態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場における競合品の存在,
(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品の性能(機能\,デザイン
等特許発明以外の特徴)などの事情について,考慮することができるものと解され
る(前掲知財高裁令和元年6月7日判決)。
(イ) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a 原告扶桑産業について(甲1,33)
原告扶桑産業は,資本金の額を2500万円とする会社であり,その従
業員数は30名程度である。そして,原告扶桑産業は,店装用備品等の企画,製造
販売,陳列器具及び店舗什器関連備品等の製造販売等を事業品目とし,全国スーパ
ー量販店備品卸売業者,全国インテリア装飾・店装業者等を取引先としている。そ
して,原告製品については,被告や他の企業に対して卸売販売され,そこを通じて
小売量販店に販売された(量販店の各店舗に設置された)ほか,原告扶桑産業から
直接,株式会社サンリオの直営店等の量販店に販売されることもあった。
b 被告について(乙1,53ないし55,65ないし66の5)
(a) 被告は,資本金の額を1億円とする会社であり,その従業員数は
3000人程度で,平成28年度の売上高は1220億円(グループ全体で346
0億円)であり,平成20年から東北楽天ゴールデンイーグルスのメインスポンサ
ーとなっている。そして,被告は,生活用品の企画,製造,販売を事業内容として
おり,販売している商品は,LED照明,家電,調理用品,日用品,収納用品,ハ
ードオフィス・資材等多岐に渡っており,被告のこれらの商品は全国のホームセン
ターで販売されている。
(b) 被告は,量販店等の店舗向けに,什器・備品を単体で販売するの
ではなく,内装工事を含め,店舗のあらゆるスペースをデザイン・プロデュースし,
店舗全体又は売り場全体の什器・備品を総合的に販売することも行っている。
そして,被告は,販売する什器について,500頁を超えるカタログ(乙1,5
4)を作成しており,そこに掲載されている什器は,カードケースを含むシステム
什器だけでなく,内装・棚下照明,陳列用什器,インフォメーション器具,販促用
品,オフィス家具,運営サポート用品及び照明・演出用品といったように,多岐に
渡っている。
(c) 被告が顧客との間で上記(b)の取引をする場合の流れは,次のと
おりである。すなわち,まず顧客から要望についてヒアリングをした上で,それを
もとに現地調査をする。その後,顧客から建築平面図等を取得し,什器の配置を検
討し,顧客と打合せをした上で,什器配置図等を作成するとともに,コストをシミ
ュレーションする。そして,顧客の要望に応じた什器・オプションアイテムを提案
し,納品内容を確定した上で,現場への納品や施工の手配を行う。
(d) 被告が平成25年12月5日,ある株式会社に対して発行した見
積書(乙55)では,取引金額が合計(中略)万円(税抜)とされたが,そのうち
カードケースの代金額は(中略)円(個数は合計(中略)個)であった。
(e) 平成26年の被告製品の販売金額は,合計(中略)円であったが,
その大半((中略)円)はカードケースと他の店舗用品とを組み合わせて販売され
るいわゆるバンドル取引によるものであった。
c 原告扶桑産業と被告との間の取引
(a) 被告は,遅くとも平成24年1月以降,原告扶桑産業から原告製
品を購入しており,同月から平成25年11月までの原告製品の販売数量は,次の
とおりであった。
・・・・
(b) 上記(a)のうち平成25年の原告製品4(ただし,QPCII−65
を除く。)の販売数量・販売金額は次のとおりであったほか,平成26年ないし平
成28年の原告製品(ただし,QPCII−65を除く。)の販売数量・販売金額は,
次のとおりであった(乙78の2)。
・・・・
(ウ) 被告の主張について
a まず,被告は被告製品1,4,6及び10については,原告製品に
相当するものがないことを指摘している。
しかし,上記各被告製品は,原告製品と色やサイズが異なるだけであり,原告扶
桑産業が販売している他の色やサイズの製品が購入されなかったとまで認めること
はできないし,原告扶桑産業が販売していた製品をみる限り,原告扶桑産業が被告
製品と同じ色やサイズの製品を製造し,販売することができなかったと認めること
もできない。
したがって,被告の上記主張は推定覆滅事由とならない。
b 次に,被告は取引の実情として,被告製品の販売方法や,被告によ
る販売力・営業努力・企業規模・ブランドイメージを理由とする推定覆滅を主張す
る。
(a)(1) 前記認定のとおり,被告が販売している什器は多岐に渡ってお
り,また量販店等の店舗向けに,什器・備品を単体で販売するのではなく,内装工
事を含め,店舗全体又は売り場全体の什器・備品を総合的に販売することも行って
いた。そして,前記認定事実によれば,被告製品は,その大半が他の店舗用品と組
み合わせて販売されるいわゆるバンドル取引によって販売されていた。
しかも,前記認定事実によれば,そのようなバンドル取引の取引額に占めるカー
ドケースである被告製品の販売額はわずかであったと認められる。
このような被告製品に係る取引の実情によれば,被告製品の需要者の大半は,カ
ードケースである被告製品に殊更に注目して被告製品を購入したというよりも,他
の店舗用品と組み合わせて購入できる利便性や,内装工事を含めて店舗全体又は売
り場全体の什器・備品を総合的に購入することができるという被告の販売体制に魅
力を感じて,被告と取引をするに至り,その取引の一環として被告製品を購入した
と認めるのが相当である。
(2) 原告らの主張について
原告らは,被告がドン・キホーテの店舗内装を受注するに当たり,
ドン・キホーテから原告製品を使用するよう指示されたため,原告扶桑産業と原告
製品の取引をするようになったとか,バンドル取引においても原告製品を組み込む
需要があり,被告がその需要に応え,顧客との取引を維持するために原告製品を侵
害品である被告製品に置き換えたなどと主張する。
確かに,被告は現在でも,原告扶桑産業から原告製品を購入しているから,本件
発明の技術的範囲に属する製品を購入し,エンドユーザーにこれを販売する一定の
需要があったというべきである。
しかし,原告らが主張する原告扶桑産業との取引開始の経緯や,被告が本件特許
のライセンスを求めたことについては,これを認めるに足りる証拠はないし,被告
が,被告製品のモデルチェンジをして,本件特許権の侵害とならないカードケース
を販売するようになった後,被告のバンドル取引による売上げが減ったとの事情も
認められない。
以上の事情に加え,前記認定の被告製品の取引の実情を踏まえると,被告が顧客
との取引を維持するために原告製品を侵害品である被告製品に置き換えたとまで認
めることはできず,原告らの上記主張は採用できない。
(3) そうすると,被告主張の事情は,侵害者である被告が得た利益
と特許権者である原告扶桑産業が受けた損害との相当因果関係を相当程度,阻害す
る事情といえる。
(b) また,被告の企業規模や販売する製品の多様性は前記認定のとお
りであり,被告が被告製品を販売するに当たり,被告自身の販売力や企業規模,ブ
ランドイメージか需要者に与えた影響も小さくないものというべきである。
したがって,この事情も,上記(a)の事情と相まって,侵害者である被告が得た利
益と特許権者である原告扶桑産業が受けた損害との相当因果関係を一定程度,阻害
する事情といえる。
(c) なお,被告はその他に自身の営業努力も推定覆滅事由として主張
するが,被告製品に関する事実関係が明らかではなく,事業者は,製品の製造,販
売に当たり,製品の利便性について工夫し,営業努力を行うのが通常であることを
踏まえると,推定覆滅事由として考慮すべきとまでいうことはできない。
c 被告は代替品・競合品(乙67ないし72)の存在を指摘している。
しかし,推定覆滅事由として考慮する競合品といえるためには,市場において侵
害品と競合関係に立つ製品であることを要するものと解される(前掲知財高裁令和
元年6月7日判決)。このような観点から被告主張の製品を検討すると,被告が指
摘する製品には,その具体的構成や使用方法が判然としないものも含まれているほ\nか,カードケースが上保持部と下保持部を備えるなどという本件発明の構成の基本\n的部分を備えたものと認めることもできないから,被告指摘の製品を代替品ないし
競合品ということはできない。また,被告指摘の製品の販売時期等も不明である。
したがって,被告の上記指摘によって推定が覆滅されるとはいえない。
d 被告は,乙73ないし77の先行技術等の存在を指摘して,被告製
品の販売に対して本件発明の技術的意義が寄与する程度は低いということを主張す
る。
しかし,被告が指摘する乙73ないし77はいずれも,カードケースが上保持部
と下保持部を備えるなどという本件発明の構成の基本的部分を備えたものと認める\nことはできない。また,被告が指摘する乙77は,表示板支持棒の先端に表\示板が
取り付けられているものの,その取り付け方法は,指示棒の先端に平板部分を設け,
その下面に突設されたピンに表示板を保持するというものであり(乙77の【考案\nの詳細な説明】の【0021】),本件発明の構成とは大きく異なっている。それ\nだけでなく,被告製品が販売されていた時期に,本件発明の作用効果の一部を奏す
るとされる技術があったとしても,それだけで直ちに,原告扶桑産業において,本
件特許の全構成を備えた被告製品の販売による利益に相当する損害を被ったことが\n否定されるとはいえない。
したがって,被告の主張の技術的観点からの主張は採用できない。
e 以上より,本件では前記b(a)及び(b)記載の事情を推定覆滅事由と
して考慮すべきところ,前記認定・判示の事情を踏まえると,6割の限度で推定が
覆滅されると認めるのが相当である。
この点に関し,被告は顧客が原告らに注文して原告製品を購入するという行動に
出たという可能性は皆無であったなどとして,推定覆滅率を99.09%とすべき\n旨主張する。
確かに,被告が原告扶桑産業から原告製品を購入すべき義務を負っていたという
事情はうかがえないから,被告が原告製品以外のカードケースを販売すること自体
は自由にできたことと認められる。
しかし,他方で,被告は遅くとも平成24年1月以降,原告製品を購入し,量販
店等のエンドユーザーに対して販売しており,以前原告製品を購入したことのある
エンドユーザーがバンドル取引において原告製品を組み込むことを希望する可能性\nも否定できない。また,前記認定のとおり,被告製品の販売を開始した平成25年
2月以降も,原告製品の購入を完全にやめたわけではなく,量販店等のエンドユー
ザーへの販売もされていたことが推認されるから,被告において原告製品を購入し,
これをエンドユーザーに販売する必要性が全くなかったとまで認めることはできな
い。むしろ,従前の経緯を踏まえると,被告が本件特許の侵害品を販売しなければ,
原告扶桑産業から原告製品を購入し続け,原告扶桑産業が利益を得ていた可能性も\n一定程度認められるものというべきである。
したがって,被告が主張するように99.09%もの推定覆滅を認めることは相
当でない。
f 他に共有者がいることによる控除(推定覆滅)
(a) 被告は,特許法102条2項に基づく原告扶桑産業の損害は,同
項に基づき算定される逸失利益の2分の1にとどまると主張する。
しかし,特許権の共有者は,それぞれ,原則として他の共有者の同意を得ないで
その特許発明の実施をすることができるものの(特許法73条2項),その価値の
全てを独占するものではないことに鑑みると,特許法102条2項に基づく損害額
の推定を受けるに当たり,共有者は,原則としてその実施の程度に応じてその逸失
利益額を推定されると解するのが相当であり,共有持分の割合を基準に共有者各自
の逸失利益額を推定すべきものではない。本件においては,前記(1)オで検討したと
おり,原告製品を製造して被告に販売するという実施による利益は原告扶桑産業に
帰属し,原告ソーグは,これに伴って金員を得ていたにすぎないから,原告扶桑産\n業の損害額を算定するに当たり,特許法102条2項に基づく利益額の算定から,
共有持分の割合に応じて2分の1を控除(推定覆滅)すべき理由はない。
しかしながら,原告ソーグについては,被告製品の販売により,特許法102条\n3項の実施料相当額の損害を観念し得ることは既に述べたとおりであり,この場合
に,特許権の共有者の一部(原告扶桑産業)が同条2項により侵害者に対し損害賠
償請求権を行使するに当たっては,同項に基づく損害額の推定は,不実施に係る他
の共有者(原告ソーグ)の同条3項に基づく実施料相当額(共有持分の割合により\n取得する。)の限度で一部覆滅されるとするのが合理的である(知財高裁平成30
年11月20日判決・最高裁ウェブページ)。
(b) そこで,原告ソーグが被告に対して請求することができる特許法\n102条3項に基づく実施料相当損害金の額について検討する。
この点について,被告は原告らの間で支払われていた差益をもとに実施料率を算
定すべきと主張するが,原告らが指摘する差益は特許権の共有者間で支払われてい
るものであり,その具体的内容や法的位置付けは判然としない(なお,原告らは訴
状において原告製品の原材料の売買による差益と主張していた。)から,この金額
を実施料相当損害金の額を算定するのに用いることは相当でない。
そこで,本件では業界における実施料の相場を考慮に入れつつ,相当な実施料率
を認定するのが相当である。
被告はそれを前提としつつも,本件発明の寄与度や被告による販売力等を考慮す
ると,原告ソーグの共有持分(2分の1)に係る相当な実施料率は0.025%で\nあると主張するが,推定覆滅事由に関する前記判示によれば,本件発明の寄与度を
考慮するのは相当でない。そして,プラスチック製品(イニシャル・ペイメント条
件無し)の平成4年度から平成10年度までの実施料率の統計データによると,最
頻値は1%,中央値は3%,平均値は3.9%であること(乙83),本件発明の
構成によるとカードケースの使用者の操作性等が相当向上すると認められること,\n前記認定のとおり,被告による被告製品の売上には被告の販売力やブランドイメー
ジ等が大きく影響したと認められること,その他本件に現れた事情に加え,さらに
は特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料
率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと(前掲知財高裁令和
元年6月7日判決参照)をも考慮すると,本件で相当な実施料率は5%と認めるべ
きであり,原告ソーグの特許法102条3項に基づく損害は(中略)円(計算式:\n被告製品の売上額(中略)円×5%×1/2(共有持分の割合))となる。
(c) そして,原告ソーグについて特許法102条3項により算定した\n(中略)円を,原告扶桑産業との関係では,前記eの推定覆滅に加え,さらに控
除(覆滅)すべきことになる。
ウ したがって,原告扶桑産業の特許法102条2項に基づく損害額は(中
略)円(計算式:(中略)円×4割(推定覆滅後)−(中略)円)と認められる。
なお,原告扶桑産業は特許法102条1項に基づく損害の主張もしているが,原
告ら主張の原告らの利益額は(中略)円であるところ,特許法102条1項ただし
書の「販売することができないとする事情」として考慮される事情は,同条2項の
推定覆滅事由として考慮される事情と変わるものではなく(前掲知財高裁平成27
年11月29日判決参照),本件では前記判示に照らすと,原告らの利益について
6割の限度で「販売することができないとする事情」があったと認めるのが相当で
ある。そうすると,原告ら主張の利益額について立証されているかを検討するまで
もなく,同条1項に基づく損害額が前記認定の同条2項に基づく損害額を下回るも
のであることは明らかである。
エ 原告扶桑産業は,原告ら訴訟代理人及び補佐人弁理士に本件訴訟の提起
等を委任したところ,被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は(中
略)万円と認めるのが相当であり,原告扶桑産業の損害額は合計(中略)円となる。
(3) 原告ソーグの損害額\n
原告ソーグの特許法102条3項に基づく損害額は,上記認定のとおり,(中\n略)円と認められる。
そして,原告ソーグは,原告ら訴訟代理人及び補佐人弁理士に本件訴訟の提起等\nを委任したところ,被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は(中
略)万円と認めるのが相当であり,原告ソーグの損害額は合計(中略)円となる。\n
4 以上より,原告らの請求は,それぞれ主文第1項及び第2項に掲げる限度で
理由があるから,その限度で認容し,その余の請求はいずれも理由がないから,棄
却することとして,主文のとおり判決する。
◆判決本文
◆別紙1
◆別紙2
◆別紙3
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2019.10. 1
平成30(ワ)5189 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月19日 大阪地方裁判所
許諾による実施権は有していないと判断されたものの、技術的範囲外として判断されました。
確かに,本件業務委託契約の第4条第1項では,中国の会社がカキ殻加工固形物
(「ケアシェル」)の製造技術指導等を受け,そのノウハウを利用して製造,販売
する一切の成果物を製造,販売することができることが明記されており,中国の会
社は共有特許の構成を有する養殖魚介類への栄養補給体を製造,販売することも可\n能と考えられる。\nもっとも,同項では,「日本国以外で」製造,販売できる旨明記されている上に,
共有特許権が存続する間は,原則として,上記成果物を日本国において製造,販売
することはできないものとされ,さらに違約金の定めもされている(同条第2項)。
それだけでなく,第8条第1項では,中国の会社は,共有特許権が存続する間は,
「ケアシェル」を日本で製造,販売,日本へ輸出しないことを誓約することが明記
されている。
この点に関し,第4条第1項ただし書及び第8条第1項ただし書では,被告会社
が文書により要請したときは,中国の会社は上記成果物を被告会社に販売できるこ
とや,「ケアシェル」を日本に輸出できることが明記されているが,あくまでも中
国の会社がこれらをすることができるのは,被告会社が文書により要請する場合に
限られているから,上記各条項によって,中国の会社に対し,共有特許の日本国内
での実施が許諾されたものと認めることはできない。
そして,本件業務委託契約の他の条項を検討しても,中国の会社に対し,日本国
内での共有特許の実施を許諾することを内容とする条項が設けられているとは認め
られないから,本件業務委託契約が中国の会社に対し,共有特許権についての通常
実施権を許諾することを内容とするものと認めることはできない。
以上より,これを前提とする原告の主張には理由がない。
(4) 次に,原告は,中国の会社が「ケアシェル」を製造し,これが共有特許発
明の技術的範囲に属していることを前提として,その製造が共有特許権の侵害に当
たると主張する。
しかし,中国の会社が「ケアシェル」を製造し,これが共有特許発明の技術的範
囲に属するもの(共有特許の実施品)であることを認めるに足りる証拠はないし,
中国の会社がこれを日本国内で製造したことを認めるに足りる証拠もない。
したがって,中国の会社が共有特許権の侵害行為をしたと認めることはできない。
(5) 以上より,本件業務委託契約の内容とするところは,共有特許権の排他的
効力とは無関係であるから,被告会社が中国の会社と本件業務委託契約を締結した
こと等が,共有特許権者である原告の権利を侵害したことを理由とする原告の請求
は理由がない。
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2019.09.13
平成29(ワ)41474 特許権に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年7月30日 東京地方裁判所
東京地裁47部は、被告方法は「タンパク質を抽出する」には該当しないとして、非侵害と判断しました。原告は個人、被告はDHCです。
特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められる
ものであり(特許法70条1項),特許請求の範囲の記載の解釈は,明細書
の発明の詳細な説明の記載等を考慮して行うべきものである(同条2項)。
しかして,本件発明の構成要件Bにおける「タンパク質を抽出する」混\n合液との文言について解釈し,そのタンパク質抽出の態様を明らかにすべ
く,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,1)従来,界面活性剤
の使用を前提とする方法により溶液中の対象物質(タンパク質等)を分離
(抽出)していたところ,界面活性剤を使用すると,分離(抽出)された
対象物質から界面活性剤を除去する工程が必要となり,煩雑さが生じてい
たため,溶液中から対象物質を簡便に分離(抽出)するための混合液が求
められていたこと,2)そこで,上記課題を解決するため,界面活性剤を必
要的には含まず,所定の高級アルコール(第1の高級アルコール)と脂肪
酸を含む混合液によって,タンパク質と水性溶媒とを含む抽出対象液から
タンパク質を簡便に分離(抽出)するという構成を採用したものが請求項\n1発明であり,本件発明は,かかる請求項1発明を前提としつつ,第1の
高級アルコールとは異なる高級アルコールと炭化水素を含む混合液によ
って,タンパク質と水性溶媒と第1の高級アルコールと脂肪酸とを含む抽
出対象液からタンパク質を夾雑物の含有量が従来より少ない状態で抽出
するものであること,3)これによって,タンパク質と水性溶媒とを含む抽
出対象液からタンパク質を簡便に分離(抽出)できる混合液,及び,タン
パク質の抽出方法が提供されることとなったこと,4)本件発明に係るタン
パク質抽出剤には,従来使用されてきた対象物質の分離(抽出)のための
エマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量(例えば,タンパク
質抽出剤全体に対して0〜4質量%)の界面活性剤が含まれていてもよい
こと,本件発明の目的を害さない限り,公知の添加剤(界面活性剤,炭素
数18未満の高級アルコール等)を添加してもよいことが記載されている
旨が認められる。
これらによれば,本件発明に係る,「タンパク質を抽出する」混合液とは,
タンパク質と水性溶媒に加え所定の高級アルコールと脂肪酸を含む抽出対
象液から,上記とは別の高級アルコールと炭化水素を含むことによって,
タンパク質を夾雑物の含有量がより少ない状態で分離(抽出)できる混合
液であり,界面活性剤の含有の有無を問わないが,従来のエマルション等
に含まれる界面活性剤よりも少ない量の界面活性剤の含有を,従来必要と
されていた除去工程を不要にする限度において許容することによって,上
記の分離(抽出)を簡便に行うことができる混合液という技術思想に係る
ものであるというべきである。そうすると,上記「タンパク質を抽出する」
混合液において,その含有される界面活性剤の程度は,分離等された対象
物質から界面活性剤を除去する工程が不要である程度を限度とするもので
あり,そのような態様によってタンパク質を抽出するものと解するのが相
当であり,分離(抽出)されたタンパク質から界面活性剤を除去する工程
が必要となるものは,上記「タンパク質を抽出する」混合液には当たらな
いというべきである。
なお,この解釈は,本件特許の特許出願の経過(「早期審査に関する事情
説明書」(乙2),「意見書」(乙3))において,原告自身が,先行技術にお
いては,タンパク質の抽出につき界面活性剤を使用することが必要的であ
ったところ,本件原出願の実施形態は,界面活性剤を必要的に用いること
はせず,高級アルコールを必要的に用いるものであり,この構成の差によ\nり,界面活性剤を抽出結果物から除去する工程を不要とすることが可能と\nなり,また,タンパク質への界面活性剤の悪影響を回避することが可能と\nなるという効果を奏し(乙2),さらに,界面活性剤を含まなくとも,抽出
対象液からタンパク質を簡便に分離できるという,従来技術からは予測し\n得ない異質な効果を奏する(乙3)旨述べていることにも沿うものであり,
何ら矛盾するものではない。
イ 原告の主張について
これに対し,原告は,本件明細書(段落【0056】)には,「本発明の
目的を害さない限り,公知の添加剤(界面活性剤,炭素数18未満の高級
アルコール等)を添加してもよい」と記載されているが,本件発明の目的
を害する場合とは,タンパク質の分離・抽出作用が機能しない場合,例え\nば,界面活性剤の分量が多すぎるために抽出対象液の全部が乳化して二層
に分離せず,結果として界面が生じない場合などの極めて例外的な場面を
指すものであって,上記のようなタンパク質の分離抽出においておよそ想
定されない添加物の添加以外は,むしろ広く公知の添加物の添加をさらに
許容することを明示したものと解釈されるべきである旨主張する。
しかし,上記説示のとおり,本件発明に係る「タンパク質を抽出する」
混合液において,その含有される界面活性剤の程度は,分離(抽出)され
た対象物質から界面活性剤を除去する工程が不要である程度を限度とする
ものであり,そのような態様によってタンパク質を抽出するものと解する
のが相当であるというべきであり,本件明細書の具体的記載を精査しても,
原告が主張するような,界面活性剤の分量が多すぎるために抽出対象液の
全部が乳化して二層に分離せず,結果として界面が生じない場合などの極
めて例外的な場面を除いて広く界面活性剤の添加を許容することが読み取
れるような記載は見当たらない。したがって,原告の上記主張は,本件明
細書の具体的記載から離れた独自の主張というほかなく,採用することが
できない。
被告製品と構成要件Bとの対比\n
ア 証拠(乙18,28ないし31)によれば,被告製品は界面活性剤を「●
(省略)●」質量%含むこと,従来,タンパク質の分離等のために使用さ
れてきた界面活性剤の量は抽出剤と対象液とを合わせた全体量に対して
0ないし2質量%であったことが認められる。
そして,上記のとおり被告製品に含まれる界面活性剤の量からすれば,
「従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション等に含ま
れる界面活性剤よりも少ない量(例えば,タンパク質抽出剤全体に対して
0〜4質量%)の界面活性剤が含まれていてもよい。」(段落【0041】)
という本件明細書の記載との関係で見ても,また,上記のとおり従来使用
されてきた界面活性剤の量との関係で見ても,被告製品における界面活性
剤の含有量が,従来のエマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない
量であるものとは認められず,その含有される界面活性剤の程度が,分離
(抽出)された対象物質から界面活性剤を除去する工程が不要である程度
であるとは認めるに足りない。
そうすると,このような被告製品は,そのタンパク質抽出の態様の観点
からして,構成要件Bの「タンパク質を抽出する」混合液という文言を充\n足しないというほかない。
イ これに対し,原告は,従来の「抽出剤」を,「抽出対象液」に添加した総
量に対する界面活性剤の「終濃度」については,CMC(臨界ミセル形成
濃度)を意識して2ないし4%前後とされているところ,実験の操作性の
観点から,前段階である「抽出剤」における界面活性剤の濃度は,その1
0ないし20倍程度が概ね目安となることからすると,同濃度は,通常2
0ないし80%であることとなり,そうすると,界面活性剤を「●(省略)
●」質量%含む被告製品は,従来の「抽出剤」よりも界面活性剤の含有量
が少ないものといえる旨を主張する。
しかし,原告のいう界面活性剤の「終濃度」が「2ないし4%前後とさ
れている」こと,「抽出剤」における界面活性剤の濃度がその10ないし2
0倍程度が目安となることを認めるに足りる的確な証拠はなく,従来使用
されてきた抽出剤における界面活性剤の含有量にかかる原告の上記主張
は採用しがたい。また,仮に,原告の上記主張(被告製品が,従来の「抽
出剤」よりも界面活性剤の含有量が少ないこと)を前提としても,そのこ
とから直ちに,界面活性剤を「●(省略)●」質量%含む被告製品が,そ
の界面活性剤の含有の程度につき,分離(抽出)された対象物質から界面
活性剤を除去する工程が不要である程度のものであると認められること
とはならず,被告製品が,そのタンパク質抽出の態様の観点からして,構\n成要件Bの「タンパク質を抽出する」混合液という文言を充足しないとの
上記結論が左右されることにはならない。
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2019.09.11
平成30(ワ)2554 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年8月27日 大阪地方裁判所
大阪地裁21部は、技術的範囲に属する、無効理由なしとして、差止請求を認めました。損害賠償請求については、準備手続き中に口頭弁論が分離されています。
被告は,「挟み込んで保持する」という文言について経時的に解釈し,これを,
第二保持部がブレースボルトをその軸方向に沿って外周側から挟み込み,これを仮
に保持した状態でブレースボルトの軸方向に移動して位置調整を行った後に,ナッ
トで締め付けて保持するという操作方法に限定される旨を主張し,ブレースボルト
を第二保持部が挿通する場合はこれに含まれないから,ブレースボルトを第二保持
部に挿通する被告製品は,本件発明の構成要件を充足しないと主張する。\nしかしながら,構成要件1Cの「挟み込んで保持する」は,物の発明の一要素と\nして,ブレースボルトが,これを包囲する包囲部によりベース板部に固定されるこ
と,すなわち「狭着保持」(本件各明細書の段落【0044】,【0049】ない
し【0052】等)を意味すると解するのが相当である(なお,被告は,「挟着」
と「狭着」の違いについて,前者は「挟み込む」という予備的動作を指すのに対し,\n後者は「狭める」という最終的操作を意味する,と主張する。しかし,本件各明細
書においては,「挟み込んで保持する」及び「挟み込んで狭着保持する」という2
通りの言い回しがみられるものの,これらが被告の主張のように明確に区別して用
いられているということはできず,「挟み込んで」,「挟着」及び「狭着」という
文言は基本的に同義であると解すべきである。)。
本件各明細書の段落【0008】に,「この構成によれば,(中略)固定片の孔\n部に第二棒状体を挿通させる必要がなく」との記載がある点については,従来技術
において,ブレースボルトが長過ぎる場合,これを切断する等して調整せざるを得
ないが,本件発明の場合,固定片のナットをゆるめて,外周側からブレースボルト
を挟むことができるということを,特別な場合における利点として述べたにすぎず,
ベース板部と固定片の間に形成される孔部にブレースボルトを挿通することのでき
る通常の場合にまで,外周側からブレースボルトを挟み込むことを要件とする趣旨
とは解し得ない。
そうすると,被告の主張するような上記操作方法は,本件発明における構成要件\n充足性の判断を左右するものではない。
(3) 被告製品の施工方法について(甲19,乙4,22)
被告が,被告製品1の施工に際し,安全性確保等の見地から,ブレースボルトを
第二保持部に外周側から挟み込むことはせずに,第二保持部にあらかじめブレース
ボルトを挿通できる程度の間隙を開けておき,ブレースボルトを第二保持部の当該
間隙に挿通させて使用する(被告製品2については,第二保持部が開口部の狭いル
—プ状板部で構成されるため,ブレースボルトを第二保持部に挿通して使用するこ\nとは明らかである。)ことは当事者間に争いはないが,上記⑴及び⑵で検討したと
ころによれば,上記施工方法の結果は,本件発明の「挟み込んで保持する」に該当
するというべきであり,これに反する被告の主張は採用できない。
・・・
被告は,乙13を適宜設計変更したものとして副引用発明を設定するところ,
乙13発明は,同一平面上に配置された2本の棒状体の交差する箇所において,乙
13に記載された物品(以下「本物品」という。)を2つ,各棒状体をそれぞれ覆
うようにして対向配置させて装着し,それぞれの本物品の角度調整用の弧形状の孔
(角度調整用長穴)を利用してボルトにより緊結することにより,2本の棒状体を
連結・固定するものである。
これに対し,副引用発明は,本物品と,本物品から包囲部を取り除いた状態の平
面の板状部材(以下「平面部材」という。)から構成されているところ,平面部材\nは棒状体を覆うことができないので,本物品と平面部材を組み合わせても乙13に
記載されたような交差連結具として使用することはできない(本物品1個と平面部
材1個を組み合わせた場合,保持可能な棒状体は1本のみである。)。また,本物\n品及び平面部材は互いの角度を調整する必要がないから,両部材に存する上記弧形
状の孔の存在意義がなくなってしまう。
したがって,当業者が,乙13発明から副引用発明を導くことは困難である。
また,被告は,乙13以外にも乙12,14ないし20を引用し,天井から
吊設機器を吊り下げるボルトが交差する部位を連結する揺れ止め用交差連結具も慣
用技術であると主張し,当業者は,乙1発明の両端の外側狭着体の平面域に,斜め
支持体に代えて副引用発明を適用して連結することで,被告製品1(すなわち本件
発明)を容易に発明することができる,と主張する。
しかし,乙12,14ないし20に記載された発明も,乙13発明と同様に,同
一平面上に配置された2本の棒状体を,その交差する箇所を覆うように装着するこ
とで,連結・固定して振れ止めするための交差固定金具に係るものであって,被告
の主張するような副引用発明の構成を示唆するものではない。\nなお,被告は,このほかにも,乙8,10,24ないし28を引用して,1本の
棒状体を狭着して固定するにあたって,狭着する一方が棒状体を包囲する包囲部を
備えた部材,他方が平面上の部材である慣用技術である旨主張し,乙8ないし11
を引用して,2本の棒状体を狭着して固定する連結具も慣用技術である旨主張する
が,いずれにおいても,一対の部材のうち,一方の部材にのみ包囲部を設け,もう
一方の部材を平面状とする交差固定金具の技術は開示されておらず(乙8及び乙2
6に開示された発明は,2つの固定具の間に平板の基板を挟み込む形を採るが,そ
れぞれの固定部が包囲部を備えている点については上記の他の発明と同様である。),
被告が主張するような副引用発明の構成を示唆するものではない。\n以上より,副引用発明は,乙13を含めて乙8ないし20のいずれにも開示
されているとはいえない。
オ 容易想到性について(相違点1)
被告は,本件発明や乙1発明のようなコーナー固定金具と,乙12ないし20に
開示されるような交差固定金具とは,同一の技術分野に属し,また,施工現場で同
じ吊設機器において併用されることが多いから,当業者には,コーナー固定金具の
第二支持部に交差固定金具を適宜設計変更して適用する動機付けがある旨主張する。
乙12ないし20に記載される発明から,被告が主張するような副引用発明が導
けないことは上記エで述べた通りであるが,仮にこの副引用発明の具体的構成を措\nくとしても,交差固定金具とコーナー固定金具は,固定する棒状体の本数も固定の
態様も全く異なるものであるところ,単に吊設機器上の近い位置で用いられる2種
類の金具であるからといって,適用の動機付けを認めることはできない。
したがって,設計変更される副引用発明の具体的構成がどうあれ,乙1発明に上\n記刊行物記載の発明を適用する動機付けがあるとはいえない。
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2019.08.22
平成29(ワ)15518 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年6月26日 東京地方裁判所
「画像情報を対応するパターンに変換する」という用語について、明細書の記載から「画像情報を0または1の信号の組合せに変換する」を意味するとして、技術的範囲に属しないと判断されました。
(2) 争点2−1(構成要件1Aの充足性)について\n
以下のとおり,本件装置が「画像情報を対応するパターンに変換するパター
ン変換器」を有すると認めることはできないので,同装置は構成要件1Aを充\n足しない。
ア 構成要件1Aは,「画像情報,音声情報および言語を対応するパターンに\n変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,」であ
るところ,本件特許1の特許請求の範囲の記載によれば,「パターン」は,
本件発明1の自律型思考パターン生成機を構成する「パターン変換器」によ\nり画像等の情報から変換され,「パターン記録器」に記録され,「パターン
制御器」において設定,変更がされ,あるいはパターン同士の結合関係が生
成されるものであるから,これらにより処理可能なものであると解すること\nができる。
次に,本件明細書等1の記載を参酌すると,「パターン」は,「対応する
事象の特徴を検出器が識別する信号の組合せにより表現したもの」であり\n(段落【0017】),例えば,画像情報として「犬」を入力すると,犬の
画像パターンが生成され,パターン記録器に犬の画像パターンとして記録さ
れることとなる(段落【0018】)。そして,本件発明の実施形態1につ
いて説明した段落【0039】においては,画像,音声及び言語の情報をそ
れぞれ識別する信号の組合せに変換したものをパターンと呼び,パターンの
要素を「ON」,「OFF」又は「1」,「0」で表現することにするとさ\nれ,【図2】には,画像パターンの例として「IG=[0.0.1.1.・・・]
T,とのパターン例が例示されている。
これらの記載によれば,本件発明1における「パターン」とは,画像,音
声及び言語に係る事象の特徴を,計算機たる検出器が識別することができる
「1」,「0」等の何らかの信号の組合せに変換したものを意味し,構成要\n件1Aは,少なくとも,「画像情報・・・を対応するパターンに変換するパ
ターン変換器」,すなわち,画像情報を上記信号の組合せに変換する変換器
を有することを特定したものであるということができる。
イ 原告は,本件製品のパンフレットや動画において,アメリアが「感情的な
対応力」を有するとされ,アメリアの表情が「EQ(共感指数)」により変\n化させられ,ユーザがアメリアの感情を画像で確認できるようになっている
ことなどを根拠として,本件装置は「画像情報・・・を対応するパターンに
変換するパターン変換器」を有していると主張する。
しかし,被告は,本件装置がアメリアの感情に対応した画像を予め保有し\nており,状況に応じてその場に適した表情の画像を表\示可能であるとしても,\n画像情報を対応するパターンに変換する機能は備えていないと主張すると\nころ,原告が指摘する本件パンフレットの記載や動画を総合すると,本件装
置が様々な感情に対応する表情のアメリアの画像を保有し表\示することが
できるとは認められるものの,本件装置が,外部から入力された表情等に関\nする画像をパターンに変換する機能を有していると認めるに足りる証拠は\nない。
ウ 原告は,本件装置が,その感情に対応した画像を予め保有しており,状況\nに応じてその場に適した表情の画像を表\示可能な構\成を備えているにすぎ
ないとしても,構成要件1Aの「画像パターン」とは,画像情報から生成さ\nれ,人工知能を構\成するソフトウェアが利用できる「一塊のデータ」の全て\nを含むのであるから,人工知能がアメリアの感情に対応する画像を表\示する
際に,画像作成時のデータ形式から別のデータ形式に変換する場合も同構成\n要件を充足すると主張する。
しかし,原告の主張する「パターン」の意義は,特許請求の範囲及び本件
明細書等の根拠を欠くものである上,本件装置がアメリアの感情に対応した
画像を予め保有しているのであれば,それは既にアメリアが利用できるデー\nタ形式で保有しているものと解するのが自然であり,更に異なるデータ形式
に変換する必要があるとは考え難い。そうすると,本件装置が様々な表情の\nアメリアの画像を表示し得ることをもって,本件装置が入力された画像情報\nからパターンに変換する機能を有するということはできず,他に本件装置に\nおいて,かかる変換をする変換器が存在することを認めるに足りる証拠はな
い。
なお,原告は,アメリアとは別の画像処理用のコンピュータにより画像デ
ータを作成したとしても,「アメリアの感情に対応した画像を計算機で処理
可能な形態(パターン)に変換する」という工程を実施していることになる\nから,アメリアが構成要件1Aを充足することに変わりはないとの主張もす\nるが,アメリアとは別のコンピュータが,アメリアが利用できるデータ形式
の画像データを作成する場合に,本件装置が上記工程を実施しているといえ
ないことは明らかである。
エ 以上のとおり,本件装置は構成要件1Aを充足しない。\n
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2019.08.15
平成29(ワ)4311 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年7月18日 大阪地方裁判所
特許権侵害で102条2項に基づく損害として1000万を越える損害額が認定されました。利益を計算するに当たって、消費税を控除すべきかについても判断されています。
後記検討する【図2】及び【図3】の問題を除けば,上記検討した本件明細
書の記載には,肘置き部が,施術部よりも上方部で施術部に連結していなければな
らないことを積極的に示すような内容は存しないと思われるのに対し,本件発明の
効果の観点では,肘置き部は,施術の対象である被施術者の目の部分に近接する位
置で,施術部に連結されると解するのが合理的である。
そして,本件発明1の文言において,「上方位置」と「施術者の上方部」とは近
接する位置で使用されており,本件補正により追加された際にも,当然両者を認識
の上,別異の意味を有するものとして使用されたと解されるところ,前述のとおり,
「上方位置」が施術部よりも上方部の意味である以上,「施術部の上方部」はこれ
とは異なる意味であると解され,このことに,上記検討した本件明細書の記載内容
を総合すると,構成要件Cの「施術部の上方部」は,施術部における上方部,すな\nわち,施術部の上下方向における略中心を想定し,それよりも上方の部分を指すと
解するのが相当である。
被告らは,構成要件Cが本件補正により追加された要件であるところ,特許\n請求の範囲の補正に当たって新たな技術的事項の導入は許されないとして,本件明
細書の【図2】及び【図3】においては,肘置き部の上方位置の背面に連結部であ
る水平軸が設けられていることから,本件発明における「上方部」は,構成要件B\nの「上方位置」と同様,「施術部の,それより上の部分」(施術部を含まず,施術
部に対して上)と解釈せざるを得ないと主張する。
確かに,本件明細書の【図3】では,肘受け部の回転軸が,施術部の上縁より少
し上方に存するように見えるが,これが実施例にすぎないことは本件明細書にも明
示されているし(【0015】),回転軸が,施術部の上縁に接する状態であれば,
これも,施術部における上方部に,肘置き部が連結されているといえなくもない。
その他の【図】で開示されている実施例では,肘置き部がどの位置で施術部に連
結され,回転軸がどの位置に存在するかは全く不明といわざるを得ないが,少なく
とも,施術部における上方部に肘置き部を連結する構成と,明らかに矛盾するよう\nな内容は存しない。
イ 出願経過及び本件意見書の記載について
本件意見書には,「4.特許法第29条第2項の拒絶の理由がないことの説
明」という表題の下,「(a)本願第1発明の説明」として,本件発明1につき,\nアイメイクの施術部位は被施術者の目尻,目頭,瞼,まつ毛,眉毛等であるため,
この施術部位の周辺に施術者の手を配置すれば,必然的に肘の位置は手の位置を基
点とした範囲内(被施術者の頭部周辺)になるところ,その範囲で肘を支える部材
として肘置き部を備えたのが本件発明1であること,肘置き部が施術部の上方部を
基点として,これを軸に施術部に対して回動することで施術部に対する角度が変化
するが,肘置き部がどのような角度に調整された場合であっても,回動する範囲は
施術部の周囲(頭部の左右位置,もしくは左右位置及び上方位置)において一定で
あるため,肘置き部が回動する範囲は,施術部位周辺に施術者が手を配置した際に
その施術者の肘が配置される範囲と常に一致すること,これにより,施術者は肘置
き部により肘を固定させて施術することができるため,施術が安定するとともに施
術効率を向上させることができる旨が記載されている。
また,原告は,上記に続く「(b)本件拒絶理由通知書における認定」にお
いて,本件拒絶理由通知の概略を,1)「被施術者の頭部を載置する施術部が形成さ
れている施術台において,前記施術部の周囲であって,載置される前記被施術者の
頭部の左右位置,もしくは左右位置及び上方位置に,施術者の肘を固定可能な肘置\nき部を設けることで施術者の施術における負担の軽減を図るものは,例えば,引用
文献2の第1図における肘掛け34a,34b(中略)にみられるように周知技術
(以下「周知技術1」という。)であり,引用発明1において上記周知技術1を適
用し,前記施術部の周囲であって,載置される前記被施術者の頭部の左右位置,も
しくは左右位置及び上方位置に,施術者の肘を固定可能な肘置き部を設けたものと\nする(中略)ことは当業者が容易になし得たものである。」,及び2)「さらに,施
術者の肘を固定可能な肘置き部を水平を軸にして回動可能\なものとすることも,例
えば,引用文献3(中略),引用文献4(中略)にみられるように周知技術(以下
「周知技術2」という。)であり,引用発明1において上記周知技術2を適用し,
前記肘置き部は水平を軸にして回動可能であるものとすることも当業者が容易にな\nし得たものである。」とまとめた上で,それに続く「(c)本願第1発明と引用発
明との対比」において,引用発明2について,「ヘッドレスト33が傾倒するもの
であり,肘掛け34a,34bは個別に回動するものではありません。また,肘掛
け34a,34bの取り付け位置は,ヘッドレスト33の左右方向です。」「した
がって,引用発明1に,上記した各引用発明のいずれを適用したとしても,本件発
明1のように,『肘置き部が前記施術部の上方部に連結され,水平を軸にして前記
施術部に対して回動可能』な構\成とはならない」と記載した。
被告らは,上記原告の引用発明2に関する文章(「肘掛け34a,34bの
取り付け位置は,ヘッドレスト33の左右方向です。」)を理由に,本件意見書に
おいて,原告は,肘置き部の取付け位置が施術部の左右である構成を排除した旨を\n主張する。
しかしながら,本件意見書の上記文章は,引用発明2について,肘掛けの取付け
位置がヘッドレストの左右であるものの,肘掛けが回動しない点で本件発明とは異
なる旨を指摘したものと解することができ,被告の主張は採用できない。
ウ まとめ
以上検討したところを総合すると,構成要件Cの「施術部の上方部」とは,施術\n部における上方部の意味に解すべきであるが,肘置き部の回転軸が施術部の上縁に
接するよう連結する構成も含み得るとすると,その範囲については,別紙原告図面\nのうち,赤で示された部分を指すと解すべきこととなる。
(2)構成要件Cの「連結」の意義について\n
ア 「連結」の字義的意味は,「つらねむすぶこと。むすびあわせること。」で
あるところ,本件明細書には,特に「連結」についての定義や,具体的な連結方法
についての記載はない。
本件明細書の【図2】及び【図3】には,肘置き部と施術部が,それぞれ支持部
材と背面部材を介して,水平軸の位置でつながっている形態が示されており,段落
【0018】も上記形態について説明する。
また,本件意見書には,肘置き部が,施術部の上方部を基点として,これを軸に
施術部に対して回動すること,引用発明3及び引用発明4においては,枕F(また
は head rest 2)と肘受24(または head rest 4)とが連動せず別々に動作するこ
とが望ましいと考えられるため,引用発明1にこれらの発明を適用したとしても本
件発明1の構成要件Cのような構\成にはならないことが記載されている。
そうすると,構成要件Cにおける「連結」とは,施術部と肘置き部が別々に動作\nすることができない形態でつながっていることを意味し,それ以上具体的な連結方
法について定めるものではないと解するのが相当である。
イ 被告らは,本件明細書の【図1】及び【図6】に示される実施形態から,構\n成要件Cの「連結」とは,「肘置き部が,その上方位置の背面において,前記施術
部の上方部に連結され」と解釈すべきであると主張するが,同図は,1つの実施形
態にすぎないから,そこから具体的な連結部位についてまで定められていると解す
べきではない。
(3) 被告製品の構成\n
ア 別紙被告製品写真1ないし4及び別紙「被告製品の説明書」によれば,構成\n要件Cに対応する被告製品の構成cは,施術部の左右側面のうち,上下方向におけ\nる中央線よりも上の部分において,回動部材を介して施術部とリクライニングアー
ムとがつながる構成をとり,施術部を左右方向に横切るような仮想の回転軸を中心\nにリクライニングアームが回動するものであると認められる。
イ 被告らは,被告製品の肘置き部が施術部の「左右位置」において回転自在に
支持されていることから,本件発明の構成要件Cを充足しないと主張するが,構\成
要件Cの「施術部の上方部」が施術部の左右側面を排除しない概念であることは前
述のとおりであり,また,構成要件Cの「連結」が具体的な連結方法や連結部位を\n定めるものではないことも前述のとおりであるから,上記被告らの主張を採用する
ことはできない。
ウ また,被告らは,被告製品について,仮想の回転軸が施術部を貫通している
ことから,回転軸が施術部の背面にあり,また施術部よりも上方にある本件発明と
比較して,肘置き部を回転させた時に肘置き部の左右位置と施術部との間の距離が
比較的短く施術しやすい,という本件明細書から記載された発明からは導き出せな
い技術的事項を有すると主張するが,本件発明の回転軸が施術部よりも上方にある
との主張は採用できず,被告らの主張は理由がない。
(4) まとめ
以上より,被告製品のリクライニングアームは,施術部の上方部に連結され,水
平を軸として施術部に対して回動可能であると認められるから,本件発明の構\成要
件Cを充足する。
・・・
上記(1)及び(2)によると,被告製品の売上高(税込)から原価(税込)を控除した
額は,951万7032円(別紙被告計算表の「粗利(総計売上税込−総計原価税\n込)」欄参照。)であり,同額を被告らの利益の額と認め,原告の損害額を算定す
る基礎とするのが相当である。
なお,消費税基本通達5−2−5に鑑みれば,知的財産権の侵害に基づく損害賠
償金は,消費税法上の資産の譲渡等の対価に該当し,消費税の課税対象となると解
するのが相当であり(消費税法2条1項8号,同法4条1項),本件における損害
賠償金も,特許権の侵害に基づく損害賠償金として消費税の課税対象となると解さ
れるところ,上記被告らの利益の額は,税込売上高から税込原価を控除したもので
あり,消費税相当額を含む額であるから,原告の損害額を算定する際に,さらに消
費税相当額8%を加算する必要はない。
イ 被告らの主張について
被告らは,消費税に関し,特許法102条2項の「利益」の算定方法について主
張するほか,そもそも,同項により推定される損害賠償金は逸失利益であるから,
一般的に消費税の課税の対象とならないか,本件の個別事情に照らし,損害賠償金
は対価性がないため消費税の課税の対象とならないこと,仮に本件における損害賠
償金が消費税の課税の対象になるとしても,原告と被告との間において内税方式,
外税方式のいずれを採用するかについての合意がない以上,内税方式によるべきで
あることを主張する。
しかしながら,特許権侵害に対する損害賠償請求訴訟では,典型的には,特許権
者のみが発明の実施品を製造,販売している状態を想定し,侵害品の販売により特
許権者側の売上等が減少したことを損害と捉え,認定又は推定の方法により算定し
た損害賠償額金を得させることで,権利侵害のなかった原状に可及的に復させよう
とするものであるところ,その回復の対象となる原状において,特許権者が発明の
実施品を製造,販売すれば,売上,経費いずれの面でも消費税は考慮されるはずで
ある。
そうすると,本件のように,回復の対象である原状において,消費税が考慮され
る事案においては,その回復の手段として逸失利益の損害賠償を算定する際におい
ても消費税の負担は考慮すべきことになり,これに反する被告らの主張は採用でき
ない。
そして,その計算としては,前述のとおり,消費税相当額を考慮した売上額から,
消費税相当額を考慮した経費額を控除すれば足りると解され,これによって算定し
た損害額に,さらに消費税相当額を加算する必要はないし,当事者間に特段の合意
がなければ内税方式により計算すべきであるとの被告らの主張も理由がない。
また,被告らは,消費税相当額分の遅延損害金の起算日は,その額が確定した日,
すなわち判決確定日であって不法行為時ではないと主張するが,上記アのとおり,
原告に支払われるべき損害賠償金は,消費税相当額を含むものの,全体としては特
許法102条2項により原告の損害と推定される額であるから,全部につき不法行
為の日から遅滞に陥ると解するのが相当である。
(4) 推定覆滅又は寄与率について
ア 被告らは,本件発明の被告製品に対する技術的寄与及び顧客吸引力は小さく,
寄与率は50%程度であると主張する。
しかし,本件発明3の構成要件Fは,リクライニング機構\が付与されていること
とされており,本件明細書の段落【0020】及び【0021】にも,電動式を含
むリクライニング機構が付与されていることにより,異なるアイメイク施術を1台\nで済ませることができたり,被施術者が仰向けになったときの下半身の負担を軽減
したりすることができる旨の記載がある。また,本件発明はアイメイク用施術台全
体に関するものであって,リクライニングアームのみに関する発明ではない。
よって,本件発明の,被告製品に対する技術的寄与が少ないという上記被告らの
主張を採用することはできない。
イ また,被告製品の価格(11万8000円(税抜))と本件発明の実施品の
価格(18万2000円(税抜))との差は6万4000円であるところ(乙29),
これが直ちに顧客吸引力に大きな差が生じるまでの金額ということはできない。ま
た,被告らは,高田ベッド製作所がアイメイク用施術台の分野において特別なブラ
ンド力を有することや,被告製品の広告宣伝において,高田ベッド製作所のブラン
ド力を使用していること等の主張立証をせず,リクライニング機構が本件発明3の\n構成要件となっていることは,上記アのとおりである。\nよって,本件発明が,顧客の購買に寄与する要素が極めて小さいという上記被告
らの主張を採用することはできない。
ウ したがって,本件において特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情は認
められない。
(5) 特許法102条4項後段に関する主張
原告は,平成28年10月31日付け及び同年12月5日付けで,被告アイラッ
シュに対し,本件特許権の侵害について2回にわたり警告し,被告アイラッシュも
これに回答していることから(甲5ないし8),被告らにおいて被告製品が本件特
許の権利範囲外であると考えたことについて,故意または重過失がなかったとして
損害賠償の額を定めるにつきこれを参酌すべき場合であるとは認められない。
◆判決本文
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2019.08.13
平成30(ワ)28391 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年6月12日 東京地方裁判所
後発医薬品について構成要件Eについて、技術的範囲に属しないと判断されました。興味深いのは、インカメラで該当性が判断されている点です。原告の書類提出命令申立てはインカメラで訂正の範囲外となっていると判断されました。\n
原告は,平成31年2月21日,被告コーアイセイを相手方として,本件各
製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に含まれることを立証するため,本件製剤
1に関する平成30年2月15日付け医薬品製造販売承認書に記載されてい
る「成分及び分量又は本質」に係る部分について,特許法105条1項に基づ
く書類提出命令の申立てをした。\n当裁判所は,同年4月11日,同条2項に基づくインカメラ手続を行い被告
コーアイセイから対象書類の提示を受けた上,同書類には本件製剤1にクロス
ポビドンが含まれるかどうかや,クロスポビドンの医薬組成物中の含有率等に
関する情報が記載されているが,本件製剤1の組成物又は含有率は本件訂正発
明に規定するものと異なっている一方,同情報は被告コーアイセイにとって秘
密性の高い重要な技術的情報であると認められるから,被告コーアイセイには
書類の提出を拒むことについて正当な理由があるなどと判断して,同申立てを\n却下した。
・・・・
本件訂正発明の構成要件Cは,「前記崩壊剤が,クロスポビドンであり,前記\nクロスポビドンの医薬組成物中の含有率が5.6〜12質量%であり,但し,崩
壊剤がGRANFILLER−D(登録商標)から成る錠剤は除く,」というも
のであるところ,原告は,本件各製剤が構成要件Cを充足すると主張する。\n しかし,本件各製剤が,1)崩壊剤としてクロスポビドンを含有すること,2)そ
の医薬組成物中の含有率が5.6〜12質量%であること,3)同崩壊剤がGRA
NFILLER−D(登録商標)から成る錠剤でないことについては,これを認
めるに足りる証拠がない。
原告は,本件各製剤は原告製剤の後発医薬品であることや,原告による本件製
剤1の分析によっても,本件製剤1がクロスポビドンの含有を否定するデータは
得られていないことなども指摘するが,本件各製剤が原告製剤の後発医薬品であ
るとしても,そのことから直ちに本件各製剤が構成要件Cを充足するということ\nはできず,また,本件製剤1がクロスポビドンの含有を否定するデータは得られ
ていないことは,むしろ,同製剤が構成要件Cに規定された含有率のクロスポビ\nドンを含有すると認めるに足りる客観的な証拠が存在しないことを示すもので
ある。
したがって,本件各製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に属すると認めること
はできない。
◆判決本文
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2019.08. 8
平成31(ネ)10005 特許権侵害行為差止請求控訴事件 特許権 行政訴訟 令和元年7月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
骨切術用開大器について、1審では、補正によって追加された事項を充足しない被疑侵害品について、第5要件問題なしとして均等を認めました。知財高裁は、文言侵害と判断しました。
なお、「原判決30頁17行目から31頁3行目までを次のとおり改める。」とありますが、原審のどの部分を改めるのか?は、上記範囲とはズレていますので、不明です。
また,請求項1においては,係合部が設けられている揺動部材と他方の揺動部材が,それぞれ開閉機構を有することが規定されるのみで,いずれの開閉機構\をどのような手順で操作するかについては何ら特定がなく,前述の本件発明の技術的意義からもかかる点につき限定する理由はないから,係合部を設けた揺動部材の側に力を加えることによって,他の揺動部材が同時に開く仕組みになっていることは,本件発明において必須の構成ではない。\n以上を踏まえると,構成要件Eの「係合部」とは,これによって外力を伝達し,その結果,いずれか一方の揺動部材の開操作をもって,2対の揺動部材を同時に開くことを可能\にするものであるというべきである。
イ 「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」の意義
次に,かかる係合部の意義を踏まえて,「揺動部材の一方に…係合部
が設けられている」の意義について検討する。
まず,「設けられている」との文言の一般的な意味は,「そなえてこ
しらえる。設置する。しつらえる。」というものにすぎず(広辞苑・甲
13),当該文言自体からは,「係合部」が一方の揺動部材と一体であ
るのか,別の部品であるのかを読み取ることはできない。前記の本件発
明の技術的意義に照らしても,「係合部」が一方の揺動部材と一体のも
のでなければその機能を果たせないとはいえず,別の部品によって係合\n部を設けることを除くべき根拠は見当たらない。そうすると,係合部が
揺動部材に「設けられている」という構成が,係合部が揺動部材の一部\nを構成しているものに限定されるとはいえない。\nそして,「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」という特許
請求の範囲の文言に照らすと,係合部が,「一方の」揺動部材に設けら
れていることを要することは明らかである。このことは,特許請求の範
囲における請求項3及び4が,2対の揺動部材について,いずれに「係
合部」が設けられているかを区別できることを前提としていることから
も裏付けられる。
以上によれば,「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」とは,
「係合部」が,揺動部材に設けられており,かつ,それが2対のいずれ
の揺動部材に設けられているのか区別できることを要し,またそれをも
って足りると解される。
・・・
被告製品の構成eは,「揺動部材1,2の各下側揺動部には後部に開\n口部が設けられ,各上側揺動部にはその後部側に角度調整器のピンを挿
通させるためのピン用孔が設けられている。揺動部材1と揺動部材2が
組み合わせられたときに,開口部に留め金の突起部がはめ込まれ,ピン
用孔に角度調整器の2本のピンを挿通された状態で揺動部材2の上側揺
動部と下側揺動部を相互に開いていくと,留め金の突起部と角度調整器
のピンがそれぞれ揺動部材1の下側揺動部と上側揺動部を押圧して,揺
動部材2と一緒に開くようになっている」ものである(前記第2の3に
おいて引用した原判決「事実及び理由」の第2の2⑸)。
このように,被告製品における角度調整器の2本のピンと留め金の突
起部は,外力の伝達により,いずれか一方の揺動部材の開操作をもって,
2対の揺動部材を同時に開くことを可能にするものであるから,角度調\n整器のピン及び留め金の突起部は,構成要件Eの「係合部」を充足する。\nまた,上記のとおり,角度調整器のピン及び留め金の突起部は,開操
作の前に,組み合わせられた揺動部材1及び2の開口部に留め金の突起
部がはめ込まれ,ピン用孔に角度調整器の2本のピンが挿通された状態
に固定されるものである。このような固定態様に照らすと,「係合部」
である角度調整器のピン及び留め金の突起部が,揺動部材1又は2に設
けられているといえる。そして,証拠(甲3,乙6,10)によれば,
角度調整器は,施術者から視認できるように揺動部材1側からピンが挿
通されて揺動部材1に固定されることが認められるから,少なくとも角
度調整器のピンは,揺動部材1に設けられていると認識できることは明
らかである。そして,留め金の突起部も,角度調整器のピンと一体とな
って揺動部材の開操作に関わっているのであるから,この両者は,全体
として揺動部材1に設けられていると評価するのが素直である。したが
って,「係合部」である角度調整器のピン及び留め金の突起部をもって,
構成要件Eの「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」との要件\nは充足されることになる。
そして,「係合部」である角度調整器のピン及び留め金の突起部が,
2対の揺動部材の開操作の前にこれらの揺動部材に固定されることは上
記のとおりであって,これらを同時に開いていく間にかかる固定が解除
されることはない(乙6,10)。したがって,構成要件Eの「他方の\n揺動部材と組み合わせられたときに」揺動部材の一方に係合する係合部
が設けられているといえる。
控訴人は,被告製品の角度調整器のピン及び留め金の突起部が,揺動
部材1及び2と別の部品であることから,直ちにいずれの揺動部材に上
記ピン及び上記突起部が固定されているのかの区別ができなくなるとい
う前提で主張するが,上記説示したところに照らし,採用できない。
カ 結論
以上のとおり,被告製品は構成要件Eを充足し,他の構\成要件を充足
することについては既に説示したとおりであるから,被告製品は,本件
発明1及び2の技術的範囲に属する。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)18184
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2019.08. 8
平成29(ワ)44053 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年5月29日 東京地方裁判所
争点は、分割要件違反など色々ありますが、発明1,3についてはサポート要件違反なので権利行使不要、発明2については構成要件不充足と判断されました。\n
(3) 本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載
ア 本件明細書1及び3の【0015】,【0017】
本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載は,前記1(1)のとおりであり,発
明を実施するための形態として,「本発明の併用療法は,治療法が同時に行われ,
すなわち抗CD20抗体は,同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進
んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)で投与される。本発明の
抗CD20抗体はまた,他の治療法の前または後に投与されてよい。」(【001
5】),「また本発明には,化学療法の前,その最中,または後に,治療上有効量
のキメラ抗CD20抗体を患者に投与することを含んでなる,B細胞リンパ腫の治
療法が含まれる。そのような化学療法は,少なくとも,CHOP,ICE,ミトザ
ントロン,シタラビン,DVP,ATRA,イダルビシン,ヘルツァー(hoelzer)
化学療法,ララ(LaLa)化学療法,ABVD,CEOP,2−CdA,FLAG&
IDA(以後のG−CSF治療有りまたは無し),VAD,M&P,C−Week
ly,ABCM,MOPP,およびDHAPよりなる群から選択される。」(【0
017】)と記載されている。
しかしながら,上記において,抗CD20抗体ないしキメラ抗CD20抗体とし
て示されるリツキシマブの投与時期について,【0015】では,「他の治療法の
前または後」と「同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが,
薬剤は全く同時に投与されるわけではない)」が併記されるにとどまり,また,
【0017】では,「化学療法の前…または後」と「その最中」が併記されるにと
どまっており,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る説明はされ
ていないから,これらの記載をもって,リツキシマブをCHOP療法の各薬剤の投
薬期間中に投与するという本件発明1の用途を認識することは困難であり,もとよ
り,リツキシマブを含む医薬組成物と化学療法に用いられる各薬剤を化学療法の各
サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を認識することもできない。
このことに加えて,前記のとおり,本件発明1及び3は,いずれも,リツキシマ
ブを含む医薬組成物について,対象疾患,併用される化学療法及び投与時期を特定
した用途発明であるところ,【0015】では,対象疾患及び併用される化学療法
が特定されておらず,【0017】でも,対象疾患が特定されておらず,併用され
る化学療法であるCHOP療法も多数の選択肢の一つとして挙げられるにとどまっ
ているから,その意味でも,これらが本件発明1及び3の用途を記載又は示唆する
ものと認めるに足りない。
イ 本件明細書1の【0069】ないし【0071】,【0092】
(ア) また,本件明細書1の【0069】ないし【0071】及び【0092】の
SWOGによる臨床試験に係る部分において,本件発明1の対象疾患である「低グ
レード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」の患者に対するリツキシマブとC
HOP療法の併用療法に係る実施例が記載されているものの,次のとおり,これら
は,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与す
るという本件発明1の用途を記載又は示唆するものであるとは認められない。
a すなわち,まず,本件明細書1の【0069】ないし【0071】には,
「新に診断された再発性低悪性度NHLまたは濾胞性NHLにおけるCHOPとリ
ツクシマブ(登録商標)との併用を評価するために第II相試験」(【0069】)
について,「CHOPは,標準用量で3週間毎にリツクシマブ(登録商標)(37
5mg/m3)を6回注入する6サイクルを行った。リツクシマブ(登録商標)注入
1と2は,最初のCHOPサイクル(これは8日目に開始した)の前の1日目と6
日目に投与した。リツクシマブ(登録商標)注入3と4は,それぞれ第3および第
4のCHOPサイクルの2日前に投与し,注入5と6は,6回目のCHOPサイク
ル後のそれぞれ134日目と141日目に投与した。」(【0070】)と記載さ
れており,参考文献21として甲38文献が参照されていること(【0071】)
などに照らすと,これらは,甲38文献に記載されているCzuczmanらによる臨床試
験を記載したものと認められる(なお,【0070】の「第3および第4のCHO
Pサイクルの2日前」は「第3及び第5のCHOPサイクルの2日前」の誤記であ
ると認められる。)。
そうすると,【0070】の「リツクシマブ(登録商標)注入1と2」及び「注
入5と6」は,CHOP療法全体の開始前及び終了後の投与であり,また,「注入
3と4」も,Czuczmanらによる臨床試験の3回目及び4回目のリツキサンの投与と
同様に,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中の投与であって,当業者は,いずれに
ついても,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するものではないと認識する
と認められる。
したがって,【0069】ないし【0071】は,リツキシマブを含む医薬組成
物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を記載
又は示唆するものではない。
b また,本件明細書1の【0092】には,「SWOGにより行われた新に診
断された濾胞性リンパ腫でCHOPの後にリツクシマブ(登録商標)を使用する第
II相試験もまた,完了している。」として,SWOGによる臨床試験について記載
されているものの,同臨床試験においてリツキシマブが投与されたのは「CHOP
の後」であるから,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬
期間中に投与するという本件発明1の用途を記載又は示唆するものではない。
(イ) さらに,本件明細書1の【0092】には,「マントル細胞リンパ腫が未治
療の40人の患者でリツクシマブ(登録商標)とCHOPの第III相試験も,ダナ
ファーバー研究所(Dana Farber Institute)で行われている。21日毎の6サイ
クルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与され,CHOPは1〜3日目に
投与される。この試験の発生項目は完了している。」として,ダナファーバー研究
所による臨床試験について記載されているものの,本件明細書1には,同臨床試験
の対象とされたマントル細胞リンパ腫が本件発明1の対象疾患である「低グレード
/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」に含まれることは記載されておらず,そ
のように認めるに足る証拠もないから,上記の臨床試験に係る記載部分が本件発明
1の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。
ウ 本件明細書3の【0090】,【0092】
(ア) また,本件明細書3の【0090】において,本件発明3の対象疾患である
「中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」の患者に対するリツキ
シマブとCHOP療法の併用療法に係る実施例が記載されているものの,その内容
は,「別の試験では,中または高悪性度NHLを有する31人の患者(女性19人,
男性12人,平均年齢49才)に,6回の21日サイクルのCHOPの1日目にリ
ツクシマブ(登録商標)を投与した(35)。」というものであり,CHOP療法
の各薬剤の投与時期は記載されていない。
また,本件明細書3の発明の詳細な説明に,参考文献35として記載されている
乙9文献においても,前記1(2)イのとおり,Linkらによる臨床試験で,1サイクル
21日間(3週間)のCHOP療法を繰り返し実施するに当たり,リツキシマブは
CHOP療法の各サイクルの1日目に投与されたのに対し,シクロホスファミド,
ドキソルビシン及びビンクリスチンは各サイクルの3日目に投与され,プレドニソ\
ンは各サイクルの3日目から7日目まで投与されたことが認められる。
したがって,【0090】は,リツキシマブとCHOP療法の各薬剤をCHOP
療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を記載又は示唆する
ものとは認められない。
(イ) さらに,本件明細書3の【0092】には,前記のとおり,ダナファーバー
研究所による臨床試験について記載されているものの,本件明細書3には,同臨床
試験の対象とされたマントル細胞リンパ腫が本件発明3の対象疾患である「中悪性
度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」に含まれることは記載されてお
らず,そのように認めるに足る証拠もない。
また,「21日毎の6サイクルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与さ
れ,CHOPは1〜3日目に投与される。」というだけでは,CHOP療法の各薬
剤が全て各サイクルの1日目に投与されたかは必ずしも明らかでないから,いずれ
にしても,上記の臨床試験に係る記載部分がリツキシマブとCHOP療法の各薬剤
をCHOP療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を記載又
は示唆するものとは認められない。
(4)原告らの主張について
ア 本件発明1
原告らは,本件原出願日当時の化学療法とリツキシマブの併用療法は,化学療法
の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間の前又は後にリツキシマブを投与する
異日投与レジメンによっていたところ,本件明細書1の【0015】,【0017】
には,異日投与レジメンと区別して,化学療法の各サイクルにおける化学療法薬の
投薬期間中にリツキシマブを投与する同日投与レジメンが記載されていると主張す
る。
しかしながら,本件原出願日当時,原告らが主張する異日投与レジメンによって
リツキシマブと化学療法が併用されていたとしても,前記のとおり,【0015】,
【0017】には,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る記載は
なく,化学療法の開始前,終了後,化学療法に用いられる薬剤の休薬期間中にリツ
キシマブを投与するレジメンと区別して,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間中
にリツキシマブを投与するレジメンが記載されているとはいえないから,これらの
記載が本件発明1の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。
・・・
被告製剤についてみると,前記第2の2⑸ウのとおり,被告製剤の添付文書には,
用法・用量欄に「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合」が記載され,用法・用量に関
連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ
医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成
績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」
と記載されている。また,臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,未治療
の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品がR−CVP
レジメンによって投与されたことが記載されているほか,先行バイオ医薬品の臨
床成績として,国外臨床第III相試験(PRIMA試験)において,ろ胞性非ホジ
キンリンパ腫(NHL)の患者に,R−CVPレジメンによる寛解導入療法等が
実施されたことが記載されている。
そして,証拠(甲12,35)及び弁論の全趣旨によれば,被告製剤の添付文書
に記載されているR−CVPレジメンは,リツキシマブを1日目に投与するととも
に,シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目,プレ
ドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメン\nであると認められる。
そうすると,被告製剤は,添付文書に記載されたR−CVPレジメンがシクロホ
スファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するも
のでない点で,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。\n
・・・
以上のとおり,本件特許1及び3は特許法36条6項1号に違反しており,いず
れも特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,同法104条の
3第1項により,本件特許1及び3に係る専用実施権者である原告による権利行使
は認められない。
また,被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属するとはいえないから,被告製剤
の製造販売等が本件専用実施権2を侵害するとはいえない。
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2019.08. 2
平成29(ワ)43269 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年6月18日 東京地方裁判所
衛生マスクの特許権侵害が認定されました。「空間を形づくる非伸縮性の接合部」について、明細書の記載に基づいて、「会話や呼吸の妨げにならない程度に,マスクの本体が鼻下及び唇の表面に接触しない程度の空間が保たれている」と判断されました。\n
「空間を形づくる非伸縮性の接合部」の意義について,本件明細書には,マ
スク布地の中央部に鼻下及び唇部を覆って空間を形づくる非伸縮性の接合部
を形成したので,会話等で唇を動かしても,呼吸をしても,ニット布地による
拡大,縮小といった変化を生じることがなく,安定して会話や呼吸を行うこと
ができること,非伸縮性の接合部を形成する手段として,マスク本体の中央部
を左右に分離させた上,鼻下及び唇部との間に一定空間を保つような外膨らみ
の扇形状に裁断し,可及的に伸縮性をもたない非伸縮性とすべく縫合するとの
記載がある(段落【0020】【0059】【0060】【0092】)。
そうすると,「空間を形づくる非伸縮性の接合部」とは,少なくとも,会話や
呼吸の妨げにならないように,マスクの本体が鼻下及び唇の表面に接触しない\n程度の空間が保たれるよう,マスク本体の中央部を左右に分離させ,外膨らみ
の扇形状に裁断して可及的に伸縮性をもたない非伸縮性とすべく縫合する構\n成を含むと解するのが相当である。
証拠(甲5,21の1・2,乙37)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品
は,マスク本体の中央部を左右に分離させ,外膨らみの扇形状に裁断して縫合
する構成を有しており,それによって,マスク本体の中央部に非伸縮性の接合\n部が形成され,会話や呼吸の妨げにならない程度に,マスクの本体が鼻下及び
唇の表面に接触しない程度の空間が保たれていると認められる。\nしたがって,被告製品は,「空間を形づくる非伸縮性の接合部」(構成要件D)\nを充足するといえる。
これに対し,被告は,「非伸縮性の接合部」について,「非」とは,後に続く
語句について「そうでない」という意味であり,「非伸縮性」とは,伸縮しない,
又は,伸縮するものを除くという意味であると主張するが,本件明細書には,
前記のとおりの記載があり,他方,「非伸縮性」について全く伸縮性を有しない
とは記載されていない。また,本件発明はニット生地のマスクに関する発明で
あり,一切伸縮しない製品のみを想定しているとは考え難い。
被告は,本件明細書の記載(段落【0060】【0061】)から,「非伸縮性」
の接合部とは,二重の縫合であることが必須の構成であると主張するが,本件\n明細書の段落【0061】には,「例えば・・・二重の縫合を施すことで可及的
な非伸縮性を得ることができる。」との記載があるとおり,二重の縫合はあく
まで実施形態の一つとして例示されているにすぎず,「非伸縮性」の接合部の
構成が二重の縫合に限定されるとは認められない。\n
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2019.08. 2
平成31(ネ)10019 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年7月19日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明について均等主張も否定されました。1審では、構成要件Dについて均等主張をしていませんでした。控訴審では構\成要件Dの均等侵害を主張しましたが、第1要件を満たしていないと判断されました。被控訴人(1審被告)はYAHOO(株)です。
本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記(2)の本件明細
書の開示事項を総合すると,本件発明の技術的意義は,従来の住宅地図に
おいては,建物表示に住所番地及び居住者氏名も全て併記されていたため,\n肉眼でも判別可能な実用性を確保するために縮尺度を低いものにする必要\nがあり,これに伴って全体として地図の大型化や大冊化を招き,この大型
化や大冊化が氏名の記載変更作業の実地調査に係る人件費と相俟って住宅
地図を高価格なものとし,更に氏名の公表を希望しない住人についても住\n宅地図に氏名を登載してしまうこととなるため,プライバシーの保護とい
う点からも問題を有し,また,従来の住宅地図の付属の索引は,住所の丁
目及びそれぞれの丁目に該当するページだけが掲載されていたため,「目
的とする居住地(建物)を探し出す作業」(検索)が,煩雑で面倒であり,
迅速さに欠け,非能率な作業となっていたという課題があったことから,\n本件発明の住宅地図は,この課題を解決するため,検索の目安となる公共
施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については,居住人氏名や建物
名称の記載を省略し,住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すること
により,縮尺度の高い,広い鳥瞰性を備えた構成の地図とし(構\成要件B
及びC),地図の各ページを適宜に分割して区画化した上で,地図に記載
の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建物の記載ページ及び記載区画を特
定する記号番号と一覧的に対応させた付属の索引欄を設ける構成(構\成要
件DないしF)を採用することにより,小判で,薄い,取り扱いの容易な
廉価な住宅地図を提供することができ,また,上記索引欄を付すことによ
って,全ての建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容
易に分かるため,簡潔で見やすく,迅速な検索の可能な住宅地図を提供す\nることができるという効果を奏することにあるものと認められる。
イ この点に関し控訴人は,本件発明の技術的思想(技術的意義)は,「検
索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については
居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみ
を記載すると共に,縮尺を圧縮して」(本件発明の構成要件B及び構\成要
件Cの前半)という構成により,「記載スベースを大きく必要とせず」(本\n件明細書の【0039】),これにより「広い鳥瞰性を備えた地図を構成」\n(構成要件Cの後半)する点にある旨(前記第2の4(1)エの「当審におけ
る控訴人の主張」(ア))を主張する。
しかしながら,発明の技術的意義は,明細書に開示された従来技術の課
題について,特許請求の範囲の記載及び明細書の記載に基づいて,当該発
明がその課題の解決手段として採用した構成及びその構\成による効果を踏
まえて認定すべきものと解されるところ,控訴人の上記主張は,本件明細
書において,従来の住宅地図の付属の索引には,住所の丁目及びそれぞれ
の丁目に該当するページだけが掲載されていたため,「目的とする居住地
(建物)を探し出す作業」(検索)が,煩雑で面倒であり,迅速さに欠け,
非能率であるという課題があったこと(【0003】),本件発明は,上\n記課題を解決するための手段として,地図の各ページを適宜に分割して区
画化した上で,地図に記載の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建物の記
載ページ及び記載区画を特定する記号番号と一覧的に対応させた付属の索
引欄を設ける構成(構\成要件DないしF)を採用したことにより,全ての
建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容易に分かるた
め,簡潔で見やすく,迅速な検索を可能としたという効果を奏すること(【0\n039】)の開示があることを考慮しないものであるから,採用すること
ができない。
・・・
控訴人は,仮に本件発明の構成要件Dの「区画化」の構\成が,地図が記載
されている各ページについて,記載されている地図を線その他の方法によっ
て仕切って複数の区画に分割し,その各区画を特定する番号又は記号番号を
付し,利用者が,線その他の方法及び記号番号により,当該ページ内にある
複数の区画の中の当該区画を認識することができる形で複数の区画に分割す
ることを意味するものと解し,また,仮に構成要件Fの「索引欄に…住宅建\n物の所在する番地を前記地図上における…記載ページ及び記載区画の記号番
号と一覧的に対応させて掲載した」との構成が,索引欄に所在番地の記載ペ\nージ及び区画の記号番号がユーザの目に見える形で掲載される構成に限られ\nると解した場合には,被告地図は,各ページに線その他の方法及び記号番号
が付されていない点及び「特定の緯度・経度を含む地点データと縮尺レベル
19ないし20を含むURL」が画面に「一覧的に」表示されていない点で\n本件発明と相違することとなるが,被告地図は,均等の成立要件(第1要件
ないし第3要件)を満たしているから,本件発明と均等なものとして,本件
発明の技術的範囲に属する旨主張する。
しかしながら,前記1(3)ア認定の本件発明の技術的意義に鑑みると,本件
発明の本質的部分は,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住
宅及び建物については,居住人氏名や建物名称の記載を省略し,住宅及び建
物のポリゴンと番地のみを記載することにより,縮尺度の高い,広い鳥瞰性
を備えた構成の地図とし(構\成要件B及びC),地図の各ページを適宜に分
割して区画化した上で,地図に記載の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建
物の記載ページ及び記載区画を特定する記号番号と一覧的に対応させた付属
の索引欄を設ける構成(構\成要件DないしF)を採用することにより,小判
で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することができ,また,
上記索引欄を付すことによって,全ての建物についてその掲載ページと当該
ページ内の該当区画が容易に分かるため,簡潔で見やすく,迅速な検索の可
能な住宅地図を提供することができる点にあるものと認められる。\n
しかるところ,被告地図においては,前記2(1)ウ及び(2)認定のとおり,
地図を記載した各ページを線その他の方法及び記号番号によりユーザの目に
見える形で複数の区画に仕切られておらず,索引欄に住宅建物の所在番地の
記載ページ及び区画の記号番号がユーザの目に見える形で掲載されていない
ため,構成要件D及びFを充足せず,ユーザが所在番地の記載ページ及び区\n画の記号番号の情報から検索対象の建物の該当区画を探し,区画内から建物
を探し当てることができないから,このような索引欄を利用した迅速な検索
が可能であるということはできない。\nしたがって,被告地図は,本件発明の本質的部分を備えているものと認め
ることはできず,被告地図の相違部分は,本件発明の本質的部分でないとい
うことはできないから,均等論の第1要件を充足しない。
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1審はこちらです。
◆平成29(ワ)34450
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2019.07.22
平成30(ワ)10157 独占的通常実施権に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年5月22日 東京地方裁判所
独占的通常実施権者が損害賠償を請求しましたが、技術的範囲に属しないとして、請求棄却されました。
(1) 構成要件1Eは「前記溶出液による前記外面の衝撃の際の圧力は,0.5\nkg/cm2〜3.5kg/cm2の範囲であること」,同7Hは,「前記ノ
ズルの噴射孔から前記溶出液が噴射されて前記ガラス基板の外面を0.
5kg/cm2〜3.5kg/cm2の範囲の圧力で衝撃する」という構\n成を含むものであり,いずれも,ノズルから噴射された溶出液がガラス
基板の外面を衝撃する際の圧力が「0.5kg/cm2〜3.5kg/c
m2」の範囲内であることをその内容とするものである。
(2) 原告は,構成要件1E及び7Hの「圧力」の数値の意義について,1cm\n2当たりの平均の圧力ではなく,溶出液がガラスを衝撃するそのスポットの
衝撃圧力を意味すると理解すべきであると主張する。
しかし,構成要件1E及び7Hの「圧力」の単位は「kg/cm2」であ
り,これは,通常の意味としては,ある程度の面積を有する面に所定の時間
にわたり作用する力の大きさを単位面積当たりの大きさに換算したものと解
するのが自然である。
また,本件明細書等には,構成要件1E及び7Hの「圧力」の意義や測定\n方法に関する明確な定義は存在しないものの,段落【0034】には,「こ
の際,各ノズル4の各噴射孔41と外面との距離(図3にdで示す)は重要
な要素である。距離dがあまり大きくなると,送液ポンプ54による送液圧
力をかなり高くしなければ,上記範囲内の圧力で外面を衝撃することができ
なくなってしまい,実用的に難しくなる。」との記載が存在する。液滴の大
きさや衝撃力は距離により変化するものではないので,上記明細書の記載は,
上記各構成要件の「圧力」が単位面積当たりの作用力の大きさであることを\n示唆するものということができる。
(3) これに対し,原告は,本件明細書等の段落【0015】及び【0017】
における,ノズルから噴射された溶出液の衝撃により外面の材料が溶け出し,
溶出液が衝撃により流出していく旨の記載を根拠として,構成要件1E及び\n7Hの「圧力」は,溶出液がガラスを衝撃するそのスポットの衝撃圧力を意
味すると主張する。しかし,上記記載は,構成要件1E及び7Hの「圧力」\nの測定について特定の方法によるべきことを含意するものではなく,同記載
をもって,同各構成要件の「圧力」が,ガラスを溶出液が衝撃するそのスポ\nットの衝撃圧力を意味すると解することはできない。
また,原告は,甲21の1〜3に依拠し,本件特許出願当時,本件特
許に近い技術分野においても,原告が主張するような意味で「圧力」と
いう用語が用いられていたと主張する。しかし,甲21の1は,「気中ウ
ォータージェットピーニング技術」であって,約1000MPaの非常
に高い衝撃圧力が生じるものであり,甲21の2及び3も,高速液体噴
流による洗浄・ピーニングに関する技術及び漁船等に付着した貝などを
除去するための高圧噴流ノズルに関する技術であって,本件特許のよう
なガラスの基板の研磨に関する技術分野とは異なる技術分野であり,そ
こで想定されている「圧力」の大きさも異なるというべきである。
むしろ,本件ノズルと同種のノズルを昭和30年代から製造している
いけうち(乙4)においては,その測定に当たり,1cm×1cmの正
方形の圧力受領域を有する「受圧プレート」が使用されていると認めら
れ(乙3),また,いけうちと同様に長年にわたりスプレーノズルを製造
している共立合金製作所においても,一定の面積の受圧部を使用してい
ることが認められる(乙5参考資料1)。これによれば,本件特許出願当
時,ノズルから噴射された溶出液がガラス基板の外面を衝撃する際の圧
力の測定方法としては,一定面積を有する面に所定の時間にわたり作用
する力の大きさを単位面積当たりの大きさに換算することが標準的であ
ったというべきである。
(4) 原告は,本件ノズルを製造したいけうちの作成したスプレーノズル流量線
図(甲8)などに基づき,被告NSCの用いる方法又は装置におけるフッ酸
の噴射圧力は約1.224kgf/cm2であるとした上で,ノズルからフ
ッ酸が噴射される際の圧力と噴射によってガラス基板に加わる衝撃の圧力は
ほとんど変わらないので,被告方法は構成要件1E及び7Hを充足すると主\n張する。
しかし,証拠(乙1資料4〜6,乙2)によれば,本件ノズルは,ノズル
吐出口の直径は約3mm,吐出口の面積が約7mm2であり,ノズルの先端
とガラス基板との間には190mmの距離があり,薬液は65〜70°の噴
霧角度(噴角)に均等な流量分布で広がって円錐形に噴霧されるので(乙2
の1頁左上写真参照),ノズルから190mm離れたガラス基板上に噴霧さ
れる領域は,ノズルの噴霧圧力が0.1〜0.2MPaの場合,直径約24
2〜約266mmの円形領域となり,その面積は約4万5973〜約5万5
543mm2であると認められる。
このように,本件ノズルは,65〜70°の噴霧角度に広がり均等な流量
分布で円錐形に噴霧されるものであり,液滴の分布は一様に広がりながらガ
ラス基板の外面に到達するのであるから,その分薬液の単位面積当たりの圧
力は大幅に低減するというべきである。
そうすると,ノズルからフッ酸が噴射される際の圧力と噴射によってガラ
ス基板に加わる衝撃の圧力がほとんど変わらないことを前提とし,被告方法
が構成要件1E及び7Hを充足するとの原告の主張は理由がない。\n
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2019.05.31
平成31(ネ)10006 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年5月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
方法に用いる検査キットが間接侵害かが争われました。知財高裁(3部)は、1審の構成要件該当せずとの判断を維持しました。「患者の血清中のプロカルシトニン3−116の量を明らかにしていない」として、イ号キットを用いた検査方法は技術的範囲に属しないと判断されました。
クレームが凄いですね。「患者の血清中でプロカルシトニン3−116を測定することを含む,敗血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法」です。
本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明
の「プロカルシトニン3−116」は,「患者の血清中」から「測定」
されるものであり,測定結果が「敗血症及び敗血症様全身性感染」の「検
出」のために用いられることを理解できる。
そして,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「プロカルシ
トニン3−116を測定すること」の意義について規定する記載はない
が,「測定」とは,一般的に,「長さ,重さ,速さなど種々の量を器具
や装置を用いてはかること」(大辞林(第3版))との意味を有する。
したがって,特許請求の範囲の記載によれば,本件発明の「患者の血
清中でプロカルシトニン3−116を測定すること」とは,患者の血清
中のプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味するも
のと解される。
(イ) また,本件明細書の発明の詳細な説明には,従来技術として,患者
の血清中のプロカルシトニンの測定が,敗血症の検出にとって有益な診
断手段であることが知られていたこと,「本発明」の開始点は,敗血症
等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンが,プ\nロカルシトニン1−116ではなく,プロカルシトニン3−116であ
るという発見であり,そこから新規な診断及び治療方法,そこで使用可
能な物質等を導き出したことの開示がある(前記1(1)イ)。一方,本件
明細書の発明の詳細な説明には,「プロカルシトニン3−116を測定
すること」の意義について明示した記載はない。
そして,このような本件明細書の記載に照らしても,本件発明の「患
者の血清中でプロカルシトニン3−116を測定すること」とは,患者
の血清中のプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味
し,その測定結果が敗血症等の検出に用いられることを理解できる。
(ウ) 以上の特許請求の範囲及び本件明細書の記載事項を総合すると,
「患者の血清中でプロカルシトニン3−116を測定すること」とは,
患者の血清中のプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを
意味するものと解される。
イ これに対し控訴人は,構成要件Aの「患者の血清中でプロカルシトニン\n3−116を測定すること」とは,敗血症患者の血清中でプロカルシトニ
ン3−116を敗血症の検出に必要な精度で測定することをいうと解すべ
きであり,プロカルシトニン1−116と区別してプロカルシトニン3−
116を測定することを必須とするものではない旨主張し,その根拠とし
て,1)本件明細書の記載事項(【0002】〜【0008】等)から,患
者の血清中でプロカルシトニン1−116等とプロカルシトニン3−11
6を区別することなくプロカルシトニン一般を測定したとしても,敗血症
等の検出に必要な精度でプロカルシトニン3−116を測定できることが
当業者に明らかであること,2)本件明細書には,本件特許に係る「敗血症
及び敗血症様全身性感染を検出するための方法」の具体例として,血中か
ら検出されるプロカルシトニンの濃度を一般的なイムノアッセイにより測
定することが記載されているが(【0062】,表3),通常のイムノア\nッセイでは,プロカルシトニン1−116と区別してプロカルシトニン3
−116を測定することは不可能であることを挙げる。\nしかしながら,「患者の血清中でプロカルシトニン3−116を測定す
ること」とは,患者の血清中のプロカルシトニン3−116の量を明らか
にすることを意味するものと認められることについては,前記アのとおり
である。
上記1)の点については,患者の血清中のプロカルシトニン3−116を
プロカルシトニン1−116等と区別することなく測定することとは,患
者の血清中のプロカルシトニンを測定することと同義であるところ,本件
明細書には,患者の血清中のプロカルシトニン濃度を測定することにより
敗血症等を検出する技術は,本件出願の優先日前に従来技術として存在し
たものであり,「本発明」は,かかる従来技術に対して新規のものである
旨が記載されていること(前記1⑵イ,ウ)からすると,かかる従来技術
が本件発明に係る方法に含まれると解することはできない。
なお,本件明細書には,敗血症等の患者の血清中に含まれるプロカルシ
トニンの大部分がプロカルシトニン3−116であることを発見した旨
の記載があるが(【0009】,【0010】),たとえそのような関係
があるとしても,プロカルシトニン3−116を測定することと,プロカ
ルシトニン一般を測定することとが同義とはいえないことは明らかであ
る。更に付け加えれば,敗血症等の患者の血清中に含まれるプロカルシト
ニンの大部分はプロカルシトニン3−116であるとの知見が存在する
としても,敗血症等であるかどうかが明らかではない(だからこそ,その
診断を要する)患者については,その血清中のプロカルシトニンの大部分
がプロカルシトニン3−116であるかどうかは明らかではないはずで
ある。したがって,敗血症等であるかどうかの診断に当たり,検出された
プロカルシトニン一般の大部分がプロカルシトニン3−116であると
の前提に立つことはできないというべきであるから,上記知見の存在は,
前記アの判断を左右するものではない。
また,上記2)の点については,本件明細書には,正常者及び敗血症患者
の血清中のプロカルシトニン濃度を測定した旨が記載されているところ
(【0062】),【0062】に明示の記載はないが,上記測定は,【0
023】と同様に,市販のプロカルシトニンアッセイを用いて行われたも
のと理解することができる。
しかしながら,本件明細書には,かかる測定は,これと同時に行われた
これらの者の血清中のプロホルモン濃度の測定結果と対比することによ
り,正常者と敗血症患者の間の濃度の差異がプロカルシトニンにおいて際
立っていることを示すものである旨の記載があることからすると(【00
59】,【0062】,【0063】,表3),上記測定が,本件特許に\n係る「敗血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法」の具体例と
して記載されたものであるとは認められない。したがって,上記2)の主張
は,その前提を誤るものである。
以上によれば,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(2) 被告方法について
前記前提事実のとおり,被告装置及び被告キットを使用すると,患者の
検体中において,プロカルシトニン3−116とプロカルシトニン1−1
16とを区別することなく,いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度
を測定することができ,その測定結果に基づき敗血症の鑑別診断等が行わ
れていると認められるものの,本件全証拠によっても,被告装置及び被告
キットを使用して敗血症等を検出する過程で,プロカルシトニン3−11
6の量が明らかにされているとは認められない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告方法は,構\n成要件Aを充足するものとはいえない。
◆判決本文
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◆平成29(ワ)28884
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2019.04.12
平成29(ワ)31706 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月27日 東京地方裁判所
東京地裁29部は、コンピュータプログラムにかかる特許について、構成要件FおよびGを有していないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。
そこで,被告プログラムが「木構造」を有するか,すなわち,被告プログラムを\n使用して表示されるフローダイアグラムの親子関係が示されている部分が「木構\
造」であるかについて検討する。
原告は,前記イ(イ)の1)から4)までのSayボックスの接続関係について,木構\n造,すなわち階層リードで接続され,ノードの親子関係が示されている部分である
と主張するのでこれをみると,前記イ(イ)のとおり,Sayボックスについて,S
ayボックスのonStartコネクタから出発して,SayボックスのonSt
oppedコネクタに接続されているのであり,SayボックスのonStart
コネクタ及びonStoppedコネクタは,いずれも,Sayボックスの構成要\n素である以上,Sayボックスのフローダイアグラムにおけるボックスの接続関係
は,Sayボックスから出発してSayボックスに戻る閉路として表示されている\nことになり,木構造であるとはいえない。\nその他,階層リードで接続され,ノードの親子関係が示されている部分が全て木
構造であることを認めるに足りる証拠もない。\nそうであれば,被告プログラムは,「木構造」を有しているとはいえず,したが\nって,「木構造表\示ステップ」(構成要件G)を充足しないというべきである。\n
エ(ア) この点,原告は,「木構造」の意義について,ノード(点)とエッジ\n(線)から構成される図として表\示されるものであって,閉路を含まない概念であ
るとした上で,前記イ(イ)でみたSayボックスの構成は,閉路ではないと主張す\nる。すなわち,被告プログラムのSayボックスのフローダイアグラムにおいて,
3)Say Textボックスの出力コネクタから1)Sayボックスの入力コネクタ
に直接リードが接続されている場合には,SayボックスからSayボックスに戻
る閉路であるといえるが,3)Say Textボックスの出力コネクタは,4)Sa
yボックスの出力コネクタに接続されており,1)Sayボックスの入力コネクタと
4)Sayボックスの出力コネクタは異なるものとして表示されているのであるから\n閉路ではない旨主張する。
しかしながら,「木構造」はコネクタの接続関係ではなく,ノード間の接続関係\nを表示するものであり,被告プログラムにおいて,それはボックス間の接続関係を\n表示するものであるところ,別紙6の図2は,別紙6の図1に表\示されたフローダ
イアグラムのうち,Sayボックスの構成要素を表\示した図であって,前記認定の
とおり,SayボックスのonStartコネクタとSayボックスのonSto
ppedコネクタはいずれもSayボックスの構成要素であるから,Sayボック\nスのonStartコネクタとSayボックスのonStoppedコネクタの表\n示位置が離れているとしても,Sayボックスから出発してSayボックスへ戻る
接続関係がないとみることはできない。よって,原告の上記主張はその前提を欠き,
採用することができない。
(イ) また,原告は,出力コネクタであるonStoppedは,ボックスの動
作が終了したことを示すにすぎず,Say TextボックスのonStoppe
dコネクタから出力されたデータは,Sayボックスを経由して流れることはない
から,Sayボックスのフローダイアグラムは,データの流れの観点からみても閉
路ではない旨主張する。しかしながら,証拠(乙30,31)及び弁論の全趣旨に
よれば,Say TextボックスのonStoppedコネクタから出力された
データは,Sayボックスを経由していることが認められるから,原告の主張はそ
の前提を欠き,採用できない。
オ 小括
以上のとおり,被告プログラムは,「木構造表\示ステップ」(構成要件G)を充\n足しない。
(2) 争点1−4(被告プログラムは,「自ノード変数データ,前記上位ノード変
数データ及び前記スクリプトを表示するノードデータテーブル表\示ステップ」(構\n成要件G)を充足するか)について
ア 「ノードデータテーブル表示ステップ」及び「ノード変数データ」の意義について\n
まず,「ノードデータテーブル表示ステップ」の意義について検討すると,「テ\nーブル」は,表,一覧表\を意味するところ,本件明細書等(【0046】,【00
55】,【0057】,【0065】,【0066】,【図6】,【図10】)に
おいて,「ノードデータテーブル」に相当するデザインテーブルは,自ノード変数
データ及び全ての直系上位ノード変数データを表示する領域(【図6】における公\n開変数表示領域)と,代入用スクリプトを表\示する領域を含む一覧表になっており,\n「図6に示した状態で,表示された木構\造及びノードデータの編集が可能であり」\n(【0054】),「ノードデータとして1まとまりになっている」(【005
5】)と記載されていることにも照らせば,「ノードデータテーブル」とは,「ノ
ードデータ」の一覧表であり,上位ノード変数データ,自ノード変数データ及び代\n入用スクリプトを同時に表示するものと解するのが一般的かつ自然である。\n次に,ノードデータテーブルが表示する「ノード変数データ」の意義について検\n討すると,本件明細書等には,「変数の値(「変数データ」と記述する場合もあ
る。)」(【0031】),「ノードの直系上位ノードの公開変数の値である上位
ノード変数データ」(【0032】)と記載されており,これと異なる解釈を導く
ような説明がされていることは認められないから,「ノード変数データ」は,変数
の値を意味すると解するのが自然かつ合理的である。
イ この点,原告は,「テーブル」の意義について,本件明細書等に「デザイン
テーブル20は,ツリービューア10に表示されたノードのうちの選択されたノー\nドが有する情報を表示する領域であり」(【0046】)と記載されているから,\n「テーブル」(構成要件G)は,情報を表\示する領域を意味すると主張する。しか
しながら,この記載はデザインテーブルの性質を説明するものにすぎず,「テーブ
ル」の意義を一般的意味より広く解釈すべきことを示唆する記載とみることはでき
ないから,原告の同主張は採用することができない。
また,原告は,「ノード変数データ」の意義について,本件特許の請求項1及び
請求項9並びに本件明細書等の記載(【0008】【0017】)には,「前記自
ノード変数データの値」という文言があり,「変数データ」は,「変数データの
値」と区別して用いられているから,「ノードデータテーブル表示ステップ」にお\nいて,変数の値を表示することは必要ではなく,また,上位ノード変数データと自\nノード変数データとを同時に表示することも必要ではないと主張するが,同主張は,\n前記認定に照らして採用することができない。
ウ 被告プログラム
(ア) 被告プログラムの構成g\n
まず,原告は,被告プログラムのフローダイアグラム画面上のインスペクタに表\n示された入力コネクタの名称が「上位ノード変数データ」に当たると主張している
ところ,入力コネクタの名称は変数の値ではないから,「上位ノード変数データ」
に当たると認めることはできない。よって,被告プログラムは,「上位ノード変数
データ」「を表示するノードデータテーブル表\示ステップ」を充足しない。
(イ) 被告プログラムの構成g’\n
また,原告は,被告プログラムのSay Textボックスのスクリプトエディ
タにおいて親からの変数の取得機能を使う場合,上位ノードであるSayボックス\nの変数のうち利用可能なものを一覧表\示させることができる機能があるから,被告\nプログラムは,「上位ノード変数データ」「を表示するノードデータテーブル表\示
ステップ」を充足すると主張する。
この点,Say Textボックスにおいて親からの承継を選択した場合,別紙
3−1被告プログラム説明書図19のとおり,インスペクタ上に,Say Tex
tボックスの変数Speed(%)の値が表示されるが,これはSay Text
ボックスにおいて表示されるものであるから自ノード変数を表\示しているものと認
められ,「上位ノード変数データ」を表示しているとみることはできない。よって,\n被告プログラムは,一覧表として「自ノード変数データ」及び「上位ノード変数デ\nータ」を同時に表示しているということはできない。\nさらに,原告は,別紙6の図3のように,上位ノード変数と代入用スクリプトを
同時に表示することができる旨主張するが,同図の表\示形態を一覧表とみることは\nできない上,同図では,上位ノードの名称が表示されているにとどまり,上位ノー\nド変数の値が表示されていると認めることはできないから,「ノード変数データ」\nを一覧表として表\示しているということはできず,原告の同主張は採用することが
できない。
加えて,本件全証拠によっても,behavior.xar内に,親からの承継
の機能に関して,自ノード変数データ及び上位ノード変数データを利用した演算を\n行って自ノード変数データの値を求める「代入用スクリプト」があると認めるに足
りる証拠はないから,被告プログラムは,「前記スクリプトを表示するノードデー\nタテーブル表示ステップ」を充足すると認めることはできない。\nエ 以上のとおり,被告プログラムは,「自ノード変数データ,前記上位ノード
変数データ及び前記スクリプトを表示するノードデータテーブル表\示ステップ」
(構成要件G)を充足しない。\n
◆判決本文
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2019.03.29
平成30(ネ)10060 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月20日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
UI関連の発明について、1審では、新規性無しの無効理由ありとして請求棄却されました。1審では、訂正審判がなされ審決が確定しましたが、時期に後れた主張であるして、口頭弁論は再開しませんでした。知財高裁は、構成要件Fが不明瞭のため要件を具備しないと判断されました。被告はAppleです。
まず,構成要件Fの「入力」との文言の意味について検討する。
(ア) 本件明細書には,構成要件Fの「入力」の意味を直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらない。\n他方で,本件明細書には,複数の箇所で「入力」との文言が使用され
ているところ,例えば,段落【0008】の「摩擦力による入力を,直
接的または間接的に検出する」のように「物理的な力を加えること」と
の意味や,段落【0012】の「図14は,…文字を入力する例を示し
た図である。」のように「コンピュータに情報を与えること」との意味
など,同一の文言であるにもかかわらず文脈によって異なる意味で使用
されている。
なお,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び【006
2】の記載に基づいて,本件発明の「『当該変更結果を当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に\n記憶させる』とは,(背景の変更などの)変更結果を,(フォルダYに
保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味しているといえる。」と判断しているが,これは構\成要件Fの「入力」
は「コンピュータに情報を与えること」を意味すると解したものといえ
る。
(イ) この点について,控訴人は,構成要件Fの「入力」は,「力入力検出手段」により検出された当該表\示対象に対する「力入力」,すなわち「物理的な力を加えること」を意味すると主張する。
しかし,この解釈は,構成要件H,A及びDでは,「物理的な力を加えること」として「力入力」との文言が明示的に使用されているにもか\nかわらず,構成要件Fでは敢えて「入力」のように異なる文言が使用されていることと整合しない。\n
また,構成要件Fの「入力」は,「当該変更結果」,すなわち,「保持された表\示対象以外の表\示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」を目的語としていると解し得るところ,こ
の場合に「入力」を「物理的な力を加えること」と解釈することは不自
然である。さらに,「として」は,前に置かれた語を受けて,その状態,
資格,立場等であることを表す語であるところ,「入力」を「物理的な力を加えること」と解すると,「入力として・・・記憶させる」との文言が\n意味するところを理解できないというべきである。
(ウ) 控訴人は,本件訂正審決が「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として・・・記憶部に記憶させる」とは,「(背景の変更などの)変更結\n果を,(フォルダYに保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味している」と判断したことを指摘して,当該判断\nは控訴人の上記主張と整合するとも主張する。
しかし,「物理的な力を加えること」と「コンピュータに情報を与え
ること」とは別個の概念であるから,構成要件Fの「入力」を「物理的な力を加えること」と解した上で,本件訂正審決の判断のように「コンピュータに情報を与えること」との意味をも有すると直ちに理解することは困難である(物理的な力が加わったことをコンピュータに検出させる場合には,両者の意味が重なっているともいい得るが,本件においては,上記説示のとおり,少なくとも「物理的な力を加えること」と解することは不自然であるから,両者の意味が重なっている場合と断ずることもできない。)。\n
(エ) 以上によれば,控訴人の主張によっては,構成要件Fの「入力」の意味を一義的に理解することは困難であるというほかない。\n
イ 仮に,構成要件Fの「入力」を,本件訂正審決が判断したように,「コンピュータに情報を与えること」と解したとしても,次のとおり,構\成要件Fの意義は依然として不明確であるというべきである。
(ア) 構成要件Fの「当該表\示対象」は,構成要件Cの「前記位置入力手段にて検出された位置の表\示対象」をいうと解される。本件明細書には,この「表示対象」の意味についても,直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらないものの,発明の詳細な説明の記載に照らせば,アイコン等(【0021】),アイコンや文字列等(【0029】),アイコンや文字,記号,図形,立体表\示対象など(【0035】)がこれに当たるものと解される。
しかし,表示画面にアイコン等を表\示させ,利用者が当該表示画面に接触した位置を検出し,当該接触位置に応じて処理を行う入出力装置においては,表\示画面に表示するアイコン等のデータそのもの(例えば,スマートフォンの画面に表\示されているカメラ様の画像データ)と,当該アイコン等と紐づけされた実体(例えば,カメラアプリケーション)
とは,別個のものとされていることが多いと解されるところ,本件明細
書の記載を精査しても,本件発明における「表示対象」が具体的にどのようなものであるのかは明らかといえない。\n
(イ) また,上記ア(イ)のとおり,構成要件Fの「当該変更結果」は,「保持された表\示対象以外の表示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」と解し得るところ,「相対的に変更させた結果」についても,背景として設定されている画像が移動したピクセル数や,保持された表示対象と重なることとなったアイコン等の有無及びその種類など,さまざまなものがあり得る。\n そして,構成要件Fによれば,この「相対的に変更させた結果」は,「当該表\示対象」に対する情報として与えるものであるが,ある対象に与え得る情報は,当該対象がアプリケーションかデータかや,その実装方法によっても大きく異なるものと解される。
そうすると,上記(ア)のとおり,「当該表示対象」が具体的に意味するところが明らかでない上に,「相対的に変更させた結果」の意味内容も特定されていないことを考え合わせると,「当該変更結果を当該表\示対象に対する入力として記憶部に記憶させる」の意義も明らかでないというべきである。
(ウ) この点に関し,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び
【0062】の記載に基づいて,「当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に記憶させる」とは,「表\示要素『B』のデータをフォルダXからフォルダYに移動させて保存することを意味している」と判断した。しかし,本件訂正審決の説示においても,「表示要素『B』のデータ」がいかなるデータであるのかが具体的に特定されているとはいい難い。\n また,本件明細書の段落【0035】記載の「フォルダX」及び「フォルダY」と段落【0062】記載の「WINDOW1」及び「WINDOW2」の関係も明らかでなく,いかなる情報が「相対的に変更させた結果」に該当し,「フォルダXからフォルダYに移動させ」ると理解することになるのかについても具体的な指摘がされているとはいえない。
ウ 以上検討したところによれば,結局のところ,構成要件Fの意義は不明確というべきである。そして,構\成要件Fの意義が不明確である以上,被告各製品が構成要件Fを充足すると認めることはできない。\n
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)14142
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2019.02.14
平成30(ネ)10033 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年1月31日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
大阪高裁は無効理由ありとして、1審の判断を取り消しました。1審では時期に後れた主張とされた無効主張も却下されませんでした。
1 争点3−4(乙64の1を主引用例とする進歩性欠如の無効理由の有無)に
ついて
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて\n
被控訴人は,控訴人が当審において追加主張した乙64の1を主引用例と
する進歩性欠如(争点3−4)を無効理由とする特許法104条の3第1項
の規定に基づく無効の抗弁(以下「本件無効の抗弁」という。)について,
民事訴訟法157条1項に基づき,時機に後れた攻撃防御方法に当たるもの
として却下することを求める申立てをしたので,以下において判断する。\n
ア 前記第2の1(前提事実等)の(6)及び一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 控訴人は,平成27年4月17日の原審第4回弁論準備手続期日に
おいて,被告準備書面(2)に基づき,実施可能要件違反の無効理由(争点\n3−1)による無効の抗弁の主張をし,同年9月14日の原審第7回弁
論準備手続期日において,被告準備書面(5)に基づき,明確性要件違反(争
点3−2)の無効理由による無効の抗弁の主張をした。
その後,原審の受命裁判官は,同年10月27日の第8回弁論準備手
続期日において,本件の侵害論の審理を終了し,損害論の審理を進める
と述べた上で,控訴人に対し,被控訴人の損害主張に対し具体的に認否
反論し,必要な書面を提出するよう求めた。
(イ) 控訴人は,平成28年5月19日,本件発明1,2,6及び8につ
いての本件特許を無効にすることを求める別件無効審判を請求した。
同年12月13日の原審第12回弁論準備手続期日において,控訴人
は,被告準備書面(10)に基づき,別件無効審判と同一の無効理由(サポー
ト要件違反(争点3−3)の無効理由及び本件無効の抗弁に係る無効理
由を含む。)による無効の抗弁を追加して主張したのに対し,被控訴人
は,同期日において,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下
することを求める申立てをした。原審の受命裁判官は,被控訴人の上記\n申立てを容れて,控訴人の上記無効の抗弁に係る主張及び証拠を却下した。\n
(ウ) 特許庁は,平成29年12月15日,本件訂正後の請求項1,6及
び8に係る発明についての本件特許には,サポート要件違反(争点3−
3)の無効理由及び本件無効の抗弁に係る無効理由が存在するとして,
上記特許を無効とする別件審決をした。
同月20日の原審第18回弁論準備手続期日において,控訴人は,被
告準備書面(15)に基づき,別件審決が認めたサポート要件違反の無効理
由及び本件無効の抗弁に係る無効理由による無効の抗弁を再度追加して
主張したのに対し,被控訴人は,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法
として却下することを求める申立てをした。原審の受命裁判官は,被控訴人の上記申\立てを容れて,控訴人の上記無効の抗弁に係る主張及び証拠を却下した。
原審は,同日,原審第2回口頭弁論期日において,本件訴訟の口頭弁
論を終結した後,平成30年3月22日,被控訴人の請求を一部認容す
る原判決を言い渡した。
この間の同年1月20日,被控訴人は,別件審決の取消しを求める別
件審決取消訴訟を提起した。
(エ) 控訴人は,平成30年4月9日,本件控訴を提起した。控訴人は,
同年6月5日付けの控訴理由書において,被告準備書面(10)及び(15)を
引用して,サポート要件違反(争点3−3)の無効理由による無効の抗弁
及び本件無効の抗弁を記載した。
同年7月24日の当審第1回弁論準備手続期日において,控訴人は,
控訴理由書に基づき,本件無効の抗弁を主張し,被控訴人は,控訴答弁
書に基づき,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下すること
を求める申立てをした。\n同年10月15日の当審第2回弁論準備手続期日において,控訴人は,
同年8月31日付けの控訴人準備書面(1)及び同年9月14日付けの控
訴人準備書面(2)に基づき,本件無効の抗弁の主張を補足し,被控訴人は,
同年10月1日付けの被控訴人第1準備書面に基づき,本件無効の抗弁に対する反論及び訂正の再抗弁を主張した。
その後,当裁判所は,同年12月10日の第1回口頭弁論期日におい
て,本件口頭弁論を終結した。
イ 前記アの認定事実によれば,控訴人の当審における本件無効の抗弁の主
張は,原審において侵害論の審理を終了し,損害論の審理に入った段階で
提出されたため,時機に後れた攻撃防御方法として却下された主張と同旨
のものであるが,控訴人は,原審口頭弁論終結前に本件無効の抗弁に係る
無効理由の存在等を認めて本件特許を無効とする旨の別件審決がされた
のを受けて,当審において再度提出したものであること,控訴人は,控訴
理由書に本件無効の抗弁を記載し,当審の審理の当初から本件無効の抗弁
を主張していたことが認められるから,当審における控訴人による本件無
効の抗弁の主張の提出が時機に後れたものということはできない。また,当審の審理の経過に照らすと,控訴人による本件無効の抗弁の主張の提出
により,訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められない。
したがって,当審における控訴人による本件無効の抗弁の主張を時機に
後れた攻撃防御方法として却下することはしない。
(2) 本件明細書の記載事項等について
ア 本件発明1,2及び6の特許請求の範囲(請求項1,2及び6)の記載
は,前記第2の1(前提事実等)の(2)のとおりである。
・・・
前記aの記載事項によれば,乙64の2には,押しボタン式バルブ
の下側で不燃性液体の上側の位置に,通気性を有する「連続気泡状パ
ッキング」を挿入した,不燃性液化ガスを充填した噴射口を有する「噴
気式清掃機」の記載があり,その「連続気泡状パッキング」は,缶体
を逆さまにして使用しても不燃性液体がバルブ側の空間に漏れて液体
のまま噴出することを防止するためのものであることの記載があるこ
とが認められる。
そして,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」は,連続気泡
を有する多孔質体であり,図2(別紙3)から円筒状の缶体内に挿入
された円板状の形状であることを理解できるから,「円板状多孔質
体」として,本件発明1の「通気性蓋状部材」に該当するものと認め
るのが相当である。
(イ) 乙64の1には,スプレー缶を倒立状態で使用した場合や缶を倒立
状態で保管する場合に液漏れの原因となり,可燃性液化ガスの液漏れに
より火炎が発生するおそれがあるため,吸収性能・保液性に優れた吸収\n体を提供することが課題であること(【0004】,【0054】)の
記載がある。
一方で,乙64の2には,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」
は,缶体を逆さまにして使用しても不燃性液体がバルブ側の空間に漏れ
て液体のまま噴出することを防止するためのものであることの記載があ
ることは,前記(ア)bのとおりである。
そうすると,乙64の1及び乙64の2に接した当業者は,乙64の
1の第1発明において,スプレー缶を倒立状態で使用した場合の吸収体
に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防止を確実にするために,乙6
4の1の第1発明に乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」の構成\nを適用する動機付けがあるものと認められる。
また,乙64の1の「具体的には,スプレー缶形状に合わせて,その
内径に適した大きさの円筒状の成形体とすると,充填が容易にできる上,
使用中も安定してスプレー缶内に保持することができる。」(【003
2】)との記載から,スプレー缶の使用中に吸収体を安定して保持する
必要性があることを理解できる。
以上によれば,当業者は,スプレー缶を倒立状態で使用した場合の吸
収体に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防止を確実にし,吸収体を
安定して保持するために,乙64の1の第1発明において,乙64の2
の連続気泡状パッキングを適用する際に,乙64の2記載の連続気泡状
パッキングの構成のものを吸収体の表\面に密接に配置し,相違点2に係
る本件発明1の構成を容易に想到することができたものと認められる。\n
(ウ) これに対し被控訴人は,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング4」は,バルブ2の下側に空間を形成するため缶体1に固定されている
必要があるため,肩部からバルブ側に押し込むように固定され(図2),
バルブ2側に十分大きい空間が形成されないので,倒立状態では,比重\nの重い液体が下側(バルブ2側)へ移動し,バルブ側の空間に容易に液
が漏れることになって,倒立状態のまま噴射を継続することができない
こと,乙64の2には,図2以外に,「連続気泡状パッキング4」の充
填状態について具体的に説明する記載はないことからすると,乙64の
1の第1発明に乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」を組み合わ
せる動機付けはないし,また,乙64の1の第1発明に乙64の2記載
の「連続気泡状パッキング」を組み合わせたとしても,本件発明1の通
気性蓋状部材の構成に至ることはない旨主張する。\nしかしながら,乙64の1の第1発明において,スプレー缶を倒立状
態で使用した場合の吸収体に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防
止を確実にするために,乙64の1の第1発明に乙64の2記載の「連
続気泡状パッキング」の構成を適用する動機付けがあることは,前記\n(イ)のとおりである。
また,乙64の2には,連続気泡状パッキングが図2で示された位置
に配置することが不可欠である旨の記載はなく,連続気泡状パッキング
の具体的な設置方法及び設置場所は,当業者が適宜決定すべき事項であると認められる。
さらに,乙64の2の【0012】の「連続気泡状パッキング4を挿
入し,たとえ缶体1を逆さまにして使用しても不燃性液体3が液体のま
ま噴出することなく,ガスの整流性が良くなる。」との記載に照らすと,
乙64の2の「噴気式清掃機」が連続気泡状パッキングを挿入したため
に倒立状態のまま噴射を継続することができないものと理解すること
はできない。
したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。
・・・
(7) まとめ
以上のとおり,本件発明1,2及び6は,乙64の1の第1発明及び乙6
4の2記載の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた
ものと認められ,進歩性を欠くものであるから,本件特許には,特許法29
条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判
により無効とされるべきものと認められる。
2 争点3−5(訂正の再抗弁の成否)(本件発明1及び6に関し)について
被控訴人は,本件訂正により,訂正前の請求項1及び6(本件発明1及び6)
の無効理由は解消され,かつ,被告製品は,本件訂正発明1及び6の技術的範
囲に属するから,被控訴人は,控訴人に対し,本件特許権を行使することがで
きる旨主張する。
そこで検討するに,本件訂正発明1(本件訂正後の請求項1)は,灰分含有
量を「1重量%以上12重量%未満」とするものであり,本件発明2と同一の
構成であるところ,前記1(5)のとおり,本件発明2は,乙64の1の第1発明
及び乙64の2の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで
きたものと認められるから,本件発明1の無効理由は,本件訂正により解消されるものとはいえない。
また,前記1(6)で説示したのと同様の理由により,本件発明6の無効理由は,
本件訂正により,解消されるものとはいえない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の上記主張
は理由がない。
3 結論
以上によれば,本件発明1,2及び6は,進歩性を欠くものであり,本件特
許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があ
り,特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,被控訴人は,
同法104条の3第1項の規定により,控訴人に対し,本件特許権を行使する
ことはできない。
◆判決本文
関連の審決取消し訴訟です。
◆平成30(行ケ)10012
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2019.02.14
平成29(ワ)34450 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成31年1月31日 東京地方裁判所(46部)
CS関連発明について、構成要件Dを有していないとして、非侵害の認定がされました。被告はヤフー株式会社です。
前記(1)によれば,本件発明の意義は以下のとおりであると認められる。
従来の住宅地図は,建物表示に住所番地だけでなく居住者氏名も全て併記さ\nれていたため,氏名を記載するためのスペースを確保するために住宅地図の縮
尺を高くすることができず,そのため,地図の大きさも比較的大きくする必要
があるとともに,地図に氏名が記載されることによるプライバシー侵害や利用
者の検索への支障を生じたり,地図の更新作業のための調査に膨大な労力と人
件費がかかったりするという課題があった。また,住宅地図に付されている索
引についても,住所のうち丁目と,それぞれの丁目に該当するページが掲載さ
れているだけであったため,同一の丁目の中で番地が異なっている多くの建物
の中から目的とする建物を探し出す必要があった。
本件発明は,居住者氏名を記載しないため,高い縮尺度で地図を作成するこ
とにより小判で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することや,
地図の更新のために氏名調査等の労力を要しないことによって廉価な住宅地
図を提供することを可能にするとともに,地図上に公共施設や著名ビル等以外\nは住宅番地のみを記載し,地図のページを適宜に分割して区画化したうえで建
物の所在する番地と記載ページと記載区画の記号番号を一覧的に対応させた
索引欄を付すことによって,簡潔で見やすく迅速な検索を可能にする住宅地図\nを提供することを可能にするものである。\n
2 争点1−4(構成要件D(「該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画\n化し」)についての文言侵害の有無)
後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告地図プログラムは,ユーザが,インターネット上の「https:/
/以下省略」のURLにアクセスし,所定の操作をするなどすると,ユーザ
の端末にインストールされているWebブラウザを介して,ユーザ端末のデ
ィスプレイに地図を表示できるようにしたプログラムである。\n被告地図プログラムにより表示される地図では,縮尺レベルが1〜20の\n20段階に分かれており,縮尺レベル20が最も詳細(縮尺率が小さい)な
もので,縮尺レベル1が最も広域(縮尺率が大きい)なものである。各縮尺レベルに応じて,地図用のデータが存在する。
りディスプレイの画面に表示さ\nれる地図の画面表示等は,別紙「被告地図プログラムの構\成(分説)」記載の
とおりである。(以上につき,甲13ないし19,乙1,22,弁論の全趣旨)
イ 被告地図において,市区町村名,町名,丁目及び番の表示の右側に〔地図〕\nと表示された部分等にはハイパーリンクが設定されており,そのハイパーリ\nンクに係るURLは,冒頭に「https://以下省略」と記載され,そ
の後の記載がパラメータであることを示す「?」が記載された後に,「lat
=…&lon=…&ac=…&az=…」及び「z=…」という記載を含む
ものである。前記のlat,lon,ac,azが示す各値は,それぞれ当
該地点に係る緯度,経度,都道府県及び市区町村の住所コード,町,丁目,
番又は号の番号を示し,zが示す値は縮尺レベルを示す。ユーザがディスプ
レイ画面上で当該ハイパーリンクをクリックすると,その緯度経度を含む地点データと縮尺データを含むURLが被告地図の地図提供サーバに送信さ
れる。地図提供サーバが,この地点データに係る地点を含み,かつ,縮尺デ
ータに係る縮尺のメッシュ地図を地図データベースサーバから読み出し,ユ
ーザのパソコンに送信することにより,ユーザのディスプレイ画面上におい\nて当該緯度経度を中心とした所定の縮尺の地図が表示される。(甲4ないし\n19,弁論の全趣旨)
ウ インターネットに接続した状態で被告地図をユーザのディスプレイ画面
に表示し,その後,インターネットの接続を停止した上で地図表\示画面をス
クロールさせると,地図が表示されない部分が画面上に表\示される。(甲3
4,弁論の全趣旨)
エ 被告地図プログラムにおける縮尺レベル19の縮尺は,概ね1/1250
から1/2857の範囲であり,被告地図における縮尺レベル20の縮尺は,
概ね1/615程度である。(甲33,乙1,弁論の全趣旨)
(2)本件明細書には、前記1(1)記載のほか、(発明の実施の形態)として以下
の記載がある。なお,以下の図1ないし5は,それぞれ,本判決別紙本件明細
書図1ないし5である。
ア 段落【0017】
・・・
(3)構成要件Dの「適宜に分割して区画化」について\n
構成要件Dの「適宜に分割して区画化」の意義について,特許請求の範囲の\n「各ページを適宜に分割して区画化し,…住宅建物の所在する番地を前記地図
上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対
応させて掲載」という記載(構成要件D,E及びF)に照らせば,構\成要件D
の「適宜に分割して区画化」とは,記号番号を付すことや番地と対応する区画
を一覧的に示すことができる区画を作成することが可能となるように,検索す\nべき領域の地図のページを分割し,認識できるようにすることといえる。
そして,本件発明は, 前記1(2)のとおり、地図上に公共施設や著名ビル等以
外は住宅番地のみを記載するなどし,全ての建物が所在する番地について,掲
載ページと当該ページ内で分割された該当区画を一覧的に対応させて掲載し
た索引欄を設けることによって,簡潔で見やすく迅速な検索を可能にする住宅\n地図の提供を可能にするというものであり,本件発明の地図の利用者は,索引\n欄を用いて,検索対象の建物が所在する地番に対応する,ページ及び当該ペー
ジにおける複数の区画の中の該当の区画を認識した上で,当該ページの該当区
画内において,検索対象の建物を検索することが想定されている。そのために
は,当該ページについて,それが線その他の方法によって複数の区画に分割さ
れ,利用者が該当の区画を認識することができる必要があるといえる。そうす
ると,本件明細書に記載された本件発明の目的や作用効果に照らしても,本件
発明の「区画化」は,ページを見た利用者が,線その他の方法及び記号番号に
より,検索対象の建物が所在する区画が,ページ内に複数ある区画の中でどの
区画であるかを認識することができる形でページを区分することをいうとい
える。
前記(2)のとおり、本件明細書には、発明の実施の形態において,本件発明を
実施した場合における住宅地図の各ページの一例として別紙「本件明細書図2」
及び「本件明細書図5」が示されているところ,これらの図においては,いず
れも道路その他の情報が記載された長方形の地図のページが示されたうえで,
そのページが,ページ内にひかれた直線によって仕切られて複数の区画に分割
されており,その複数の区画にそれぞれ区画番号が付されている。また,本件明細書図4の索引欄には,番地に対応する形でページ番号及び区画番号が記載
されており,利用者は,検索対象の建物の番地から,索引欄において当該建物
が掲載されているページ番号及び区画番号を把握し,それらの情報を基に,該
当ページ内の該当区画を認識して,その該当区画内を検索することにより,目
的とする建物を探し出すことが記載されている(段落【0028】)。ここでは,
上記の特許請求の範囲の記載や発明の意義に従った実施の形態が記載されて
いるといえる。そして,「区画化」の意義に関係して,他の実施の形態は記載さ
れていない。
以上によれば,構成要件Dの「区画化」とは,地図が記載されている各ペー\nジについて,記載されている地図を線その他の方法によって仕切って複数の区画に分割し,その各区画に記号番号を付すことであり,索引欄を利用すること
で,利用者が,線その他の方法及び記号番号により,当該ページ内にある複数
の区画の中の当該区画を認識することができる形で複数の区画に分割するこ
とを意味すると解するのが相当である。
原告は,被告地図において,縮尺レベル19の住宅地図及び縮尺レベル20
の住宅地図がそれぞれ構成要件Dの「該地図を記載した各ページ」に該当する\nと主張した上で,被告地図のデータは,画面に表示されるときに区分された形\nでその一部が表示されるから構\成要件Dの「適宜に分割して区画化」されると
主張するとともに,「メッシュ化」され,また,複数のデータとして管理されて
いるから構成要件Dの「適宜に分割して区画化」することになると主張する。\nしかし,仮に,縮尺レベル19の住宅地図及び縮尺レベル20の住宅地図が
それぞれ構成要件Dの「該地図を記載した各ページ」に該当するとしても,利\n用者は,画面に表示されている地図を見ているのであって,線その他の方法及\nび記号番号により,ページにある複数の区画の中で,検索対象の建物が所在す
る地番に対応する区画を認識することができるとはいえない。被告地図におい
て「メッシュ化」がされていて,また,被告地図に係るデータが複数のデータ
として管理されているとしても,被告地図プログラムの構成(分説)及び前記\nアないしウに照らし,利用者は,「メッシュ化」されている範囲や区分された
データを通常認識しないだけでなく,それらに対応する記号番号を認識するこ
とはない。したがって,被告地図において,線その他の方法及び記号番号によ
り,ページにある複数の区画の中で,検索対象の建物が所在する地番に対応す
る区画を認識することができるとはいえない。そうすると,前記 に照らし,
被告地図において,「各ページ」が,「適宜に分割して区画化」されているとは
いえない。
これらによれば,被告地図について,構成要件Dの「適宜に分割して区画化」\nがされているとは認められない。
◆判決本文
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2019.02. 7
平成30(ワ)3018 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年11月29日 東京地方裁判所(46部)
サポート要件などの無効理由なし、技術的範囲に属すると判断されました。
前記(2)のとおり、本件各名作書には、本件参照抗体と競合する,PCSK
9−LDLR結合中和抗体を同定,取得するための,免疫プログラムの手順
及びスケジュールに従った免疫化マウスの作製方法,ハイブリドーマの作製
方法,スクリーニング方法及びエピトープビニングアッセイの方法等が記載
されている。そして,当該方法によれば,本件各明細書で具体的に開示され
た以外の本件参照抗体と競合する抗体も得ることができるといえる。
そうすると,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範囲が,本件各\n明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1
若しくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限られる
とはいえない。したがって,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範\n囲が本権各明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定のアミノ酸
の1もしくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限ら
れることを前提として,本件各発明の技術的範囲が本件各明細書記載の具体
的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは数個のア
ミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限定されるとの被告の主張
は採用することができない。
(4)また,被告は,1)本件各明細書では,本件参照抗体と競合する抗体であれ
ば,PCSK9とLDLRの結合を中和することができるという技術思想を
読み取ることはできない,2)本件各明細書の実施例に記載された3グループ
ないし2グループの抗体のみによって,本件参照抗体と競合する膨大な数の
抗体全てがPCSK9−LDLR結合中和抗体であるとはいえず,本件各明
細書には,本件参照抗体と競合する膨大な数の抗体がPCSK9−LDLR
結合中和抗体であることの根拠は全く示されていないと主張する。
しかしながら,前記 のとおり,本件各明細書には,本件参照抗体がP
CSK9−LDLR結合中和抗体であること,本件参照抗体がPCSK9に
結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体,又は,本件参照抗体
とPCSK9との結合を立体的に妨害するような上記エピトープに隣接する
エピトープに結合する抗体である,本件参照抗体と競合する抗体は,本件参
照抗体と類似した機能的特性を有すると予\想されることが記載されている。
そして,前記 のとおりのスクリーニング等によって得られた本件各明細書の表2記載の30の抗体(21B12参照抗体と31H4参照抗体を除く。)\nのうち,24の抗体はPCSK9−LDLR結合中和抗体であり,かつ,本
件参照抗体と競合する抗体であること,表37.1.のビン1(21B12\n参照抗体と競合し,31H4参照抗体と競合しない抗体)に属する19の抗
体のうち16個,ビン2(21B12参照抗体とも,31H4参照抗体とも
競合する抗体)に属する抗体のうち2個及びビン3(31H4参照抗体と競
合し,21B12参照抗体と競合しない抗体)に属する10の抗体のうちの
7個は,表2に記載された抗体であり,これら16個と2個と7個の抗体の\nうち,27B2抗体並びに21B12参照抗体及び31H4参照抗体を除く
少なくとも20個はPCSK9−LDLR結合中和抗体であることが記載さ
れている。そうすると,本件各明細書には,特定のスクリーニング等を経て
得られた抗体のうち,本件参照抗体と競合する複数の抗体がPCSK9−LDLR結合中和抗体であることが示されているといえる。
なお,この点に関係し,被告は,本件参照抗体と競合する膨大な数の抗体
がPCSK9−LDLR結合中和抗体であることの根拠は全く示されていな
いと主張するが,本件各明細書に記載された抗体以外に,本件参照抗体と競
合するがPCSK9−LDLR結合中和抗体ではない具体的な抗体が示され
ているものではなく,また,本件参照抗体と競合する抗体中,PCSK9−
LDLR結合中和抗体でないものの割合が大きいことも明らかではない。
さらに,被告は,本件参照抗体と競合する抗体は,PCSK9−LDLR
結合中和抗体であるとは限らないとも主張する。しかし,本件各発明は,P
CSK9−LDLR結合中和抗体であることを構成要件とするものであるか\nら(構成要件1A,2A),上記のような例外的な抗体は本件各発明の技術\n的範囲に含まれない。
(5)証拠(甲5,7の1,2,甲8〜10)及び弁論の全趣旨によれば,本件
各発明について,被告が主張する限定的な解釈を採らない限り,被告モノク
ローナル抗体は,本件発明1−1及び本件発明2−1の各構成要件を全て充\n足し,被告製品は,本件発明1−2及び本件発明2−2の各構成要件を全て\n充足すると認められるから,被告モノクローナル抗体は,本件発明1−1及
び本件発明2−1の技術的範囲に属し,被告製品は,本件発明1−2及び本
件発明2−2の技術的範囲に属すると認められる。なお,被告モノクローナ
ル抗体は,本件訂正発明1-1及び本件訂正発明2−1の技術的範囲にも属
し,被告製品は,本件訂正発明1−2及び本件訂正発明2−2の技術的範囲
にも属すると認められる。
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2018.12.21
平成29(ワ)28884 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年11月28日 東京地方裁判所
特許権侵害事件です。敗血症を検出するための方法の技術的範囲には属しないと判断されました。争点は、「プロカルシトニン3−116を測定する」との用語の意義でした。
(1)「プロカルシトニン3−116を測定すること」の意義
ア 構成要件Aは「患者の血清中でプロカルシトニン3−116を測定すること\nを含む」というものであるところ,一般に,「測定」に,長さ,重さ,速さといっ
た種々の量を器具や装置を用いてはかるという字義があることからすると,「プロ
カルシトニン3−116を測定すること」は,プロカルシトニン3−116の濃度
等の量を明らかにすることを意味すると解するのが文言上自然である。
また,前記1(2)認定のとおり,本件発明は,敗血症等の患者の血清中に比較的高
濃度で検出可能なプロカルシトニンがプロカルシトニン1−116ではなく,プロ\nカルシトニン3−116であることが確認されたことを踏まえて新規な敗血症等の
検出方法を提供することを目的とするものであり,このような本件発明の目的に照
らせば,本件発明は,患者の血清中においてプロカルシトニン3−116が比較的
高濃度で検出されるか否かを見ることを可能とすることが求められているというこ\nとができる。
以上から,構成要件Aの「プロカルシトニン3−116を測定すること」は,プ\nロカルシトニン3−116の濃度等の量を明らかにすることを意味すると解するの
が相当である。
イ この点につき,原告は,「プロカルシトニン3−116を測定すること」は,
プロカルシトニン3−116を敗血症等の検出に必要な精度で測定ないし検出する
ことができれば,プロカルシトニン3−116だけを特異的,選択的に測定するこ
とに限られず,プロカルシトニン3−116とプロカルシトニン1−116及びそ
の他のプロカルシトニン由来の部分ペプチドとを区別することなく測定することも
含むと主張しており,その意味するところは明確でないが,血清中のプロカルシト
ニン3−116を検出しさえすれば足りるものである旨の主張であるとすれば,そ
れはプロカルシトニン3−116の存在を明らかにすることで足り,その量を明ら
かにすることは必要ではないことをいうものであって,前記アでみた「測定」の文
言の解釈に反するものであり,採用することができない。
また,血清中のプロカルシトニン3−116とプロカルシトニン1−116等と
を区別することなく測定することがプロカルシトニン3−116を測定することに
該当すると主張するものであると解しても,そのような測定方法では,血清中にプ
ロカルシトニン3−116が存在するかも明らかにならず,もとより,血清中のプ
ロカルシトニン3−116の量も確認できないから,これを「プロカルシトニン3
−116を測定すること」に該当するというのは文言上困難である。
(2)被告方法
前記第2の2(5)ア認定のとおり,被告装置及び被告キットを使用すると,患者の
検体中において,プロカルシトニン3−116とプロカルシトニン1−116とを
区別することなく,いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度を測定することが
でき,その測定結果に基づき敗血症の鑑別診断等が行われていると認められるもの
の,本件全証拠によっても,被告装置及び被告キットを使用して敗血症等を検出す
る過程で,プロカルシトニン3−116の量が明らかにされているとは認められず,
更にいえば,プロカルシトニン3−116の存在自体も明らかになっているとはい
えない。
したがって,被告方法は,構成要件Aの「プロカルシトニン3−116を測定す\nる」を充足するとはいえない。
◆判決本文
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2018.12.13
平成30(ワ)3018 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年11月29日 東京地方裁判所(46部)
美容器について、特許権に基づく差止が認められました。争点は、「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」の技術的意義の解釈です。
本件発明は,前記1のとおり,「ホルダ」に該当する部材によって回転体を支
持する支持軸を固定するものであるところ,原告は,被告製品のソーラーパネ\nル取付台が支持軸を固定していると主張するのに対し,被告はこれを否定する。
証拠(甲10,14)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,回転体の支
持軸の本体側先端部分にフランジが形成されていること,被告製品の本体内部
のソーラーパネル取付台の支持軸側先端部分には一対の段差及び半円形状の\n凹部が形成され,それらは回転体の支持軸及び支持軸に形成されたフランジの
形状に係合すること,ソーラーパネル取付台の先端部で回転体の支持軸を覆っ\nてソーラーパネル取付台を被告製品本体にネジで固定するとソ\ーラーパネル
取付台に支持軸のフランジが引っかかり,支持軸の先端部分がソーラーパネル\n取付台の段差及び半円形状の凹部に組み付けられること,その組付け後は回転
体を支持する支持軸に接着剤の塗布などはなかった被告製品においても支持
軸が本体から直ちには外れることがなかったことが認められる。これらによれ
ば,被告製品のソーラーパネル取付台の先端部分の段差及び半円形状の凹部は,\n回転体の支持軸を固定するための構成であり,同部分が回転体の支持軸を覆い,\n支持軸を押し付けることによって支持軸を固定し,支持軸が抜けないようにし
ていると認められる。
そうすると,被告製品のソーラーパネル取付台は構\成要件B及び構成要件C\nの「ホルダ」に該当し,被告製品は構成要件Bの「前記各支持軸の基端側をホ\nルダの両端部で押さえる」及び構成要件Cの「ホルダ」を充足するといえる。\nこれに対し,被告は,ソーラーパネル取付台の半円形状の凹部はリード線の\nハンダ付け部分をカバーするためのものであり,ソーラーパネル取付台をかぶ\nせただけでは支持軸は固定されず,支持軸を接着剤で被告製品本体内部に接着
固定しなければ,支持軸は簡単に抜けることからもソーラーパネル取付台は支\n持軸を固定する機能を有していないなどと主張する。\nしかしながら,ソーラーパネル取付台の段差及び半円形状の凹部の形状は,\n回転体の支持軸に係合する形状に形成されていて,リード線のハンダ付け部分
をカバーするために形成されていると認めるに足りる証拠はない。また,回転
体の支持軸を固定するために接着剤が塗布されている被告製品があるとして
も,その塗布がされたことをもってソーラーパネル取付台が回転体の支持軸を\n固定する機能を有していることが直ちに否定されるものではなく,前記のとお\nりのソーラーパネル取付台の先端部の構\造,接着剤の塗布がなかった場合の回
転体の支持軸の被告製品本体からの着脱の状況等からすれば,ソーラーパネル\n取付台は回転体の支持軸を固定する機能を有しているということができ,被告\nの主張は採用することができない。
3 争点 −ア(乙11文献に基づく新規性欠如)
争点を検討するに当たり,まず,本件発明の「前記各支持軸の基端側をホル
ダの両端部で押さえる」(構成要件B)の意義について検討する。\nア 「押さえる」とは,物に力を加えて,動かないように固定するという意味
を一般的に有する(乙3の1ないし3)。
そして,本件明細書には,前記1 アないしオの記載のほか,「発明を実施
するための形態」として,「図4及び図5に示すように,前記ベース体13の
両支持筒18には,金属製の一対の支持軸20がシールリング21を介して,
交差軸線L1,L2上に位置するとともに外側に突出した状態で嵌合支持さ
れている。このシールリング21は,支持軸20の周りからハンドル12の
内部へ向かう水の侵入を防止している。各支持軸20の基端には,大径状の
抜け止め頭部20aが形成されている。図4及び図9に示すように,両支持
軸20の基端部間においてベース体13上には,ホルダ22が配置されてい
る。このホルダ22の両端部には,各支持軸20の基端側を押さえるための
ほぼ半円筒状の押さえ部22aが形成されている。ホルダ22の中間部には,
円筒状のネジ止め部22bが形成されている。そして,ホルダ22の両端の
押さえ部22aにより両支持軸20の基端が押さえられた状態で,ホルダ2
2の中間のネジ止め部22bがネジ23によりベース体13に固定される
ことによって,各支持軸20がベース体13の支持筒18に対する嵌合支持
状態に抜け止め固定されている。すなわち,支持軸20の組み付け時には,
ハンドル12のベース体13に形成された一対の支持筒18に外側(図4の
左側)から支持軸20をそれぞれ嵌挿して,交差軸線L1,L2上に位置す
るように配置する。次に,図5及び図9に示すように,両支持軸20の基端
間におけるベース体13上にホルダ22を配置し,そのホルダ22の両端の
押さえ部22aにより両支持軸20の基端側を押さえる。これにより,図4
及び図9に示すように,各支持軸20の基端の抜け止め頭部20aが押さえ
部22aの端縁に係合される。この状態で,ホルダ22の中間のネジ止め部
22bをネジ23によりベース体13に固定すると,一対の支持軸20がベ
ース体13に対して同時に抜け止め固定される。」(段落【0013】),「従っ
て,この実施形態によれば,以下のような効果を得ることができる。(1)こ
の美容器においては,ハンドル12の先端部に交差軸線L1,L2上に位置
する一対の支持軸20が設けられている。各支持軸20の先端側には回転体
27が回転可能に支持され,それらの回転体27により身体に対して美容的\n作用が付与されるようになっている。前記ハンドル12における両支持軸2
0の基端部間の位置には,ホルダ22がその中間部において固定されている。
そして,このホルダ22の両端の押さえ部22aにより,各支持軸20の基
端側がハンドル12に対して押し付け保持されるようになっている。このた
め,1つのホルダ22からなる簡単な固定構成により,一対の支持軸20を\nハンドル12に対して容易に固定することができて,製造コストの低減を図
ることができる。」(段落【0019】)との記載がある。
上記のとおり,本件明細書の段落【0013】,【0019】には,ホルダ
の両端部に各支持軸の基端側を押さえるためのほぼ半円筒状の押さえ部が
形成され,この押さえ部が支持軸の基端に接し,それをハンドルに押し付け
ることによって支持軸を保持し,支持軸が抜けることがないように固定する
という実施形態が記載されており,これは,前記のとおりの「押さえる」の
一般的な意味とも整合する。
そうすると,本件発明の「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さ
える」とは,支持軸の基端部をホルダの両端部に接するようにし,ホルダの
両端部から支持軸の基端部に対して押し付けること,すなわち力を加えるこ
とによって,支持軸を抜けることがないように固定することを意味するもの
と解するのが相当である。
イ これに対し,被告は,本件明細書の【図4】や段落【0013】の記載か
ら,「押さえる」とは,支持軸の基端に設けられた抜け止め頭部や押さえ部,
その他支持筒等の部材との勘合・係合によって固定される構成を包含するも\nのであると主張する。
しかし,本件明細書の段落【0013】の記載は前記アのとおりであり,
ホルダが支持軸に力を加えずに,部材の勘合・係合のみによって固定する態
様が記載されているとはいえず,本件明細書のその他の記載中にも被告の主
張するような固定態様に関する記載はない。また,本件明細書の【図4】か
らもそのような固定態様を看取することはできない。被告の主張は,「押さ
える」の一般的な意味と一致するものでは必ずしもなく,かつ,本件明細書
にその主張を裏付ける記載はないといえるのであり,採用することができな
い。
(2)。乙11発明と本件発明の対比
ア 本件特許の出願日前に公開されていた乙11文献には,1)ハンドルの先端
部に交差軸上に位置する一対の支持軸が設けられていること(乙11文献の
【図6】〜【図8】),2)腕部の先端側にマッサージを行うためのローラが回
転可能に支持されていること(乙11文献の段落【0001】【0013】),\n3)ローラ取付部材の左右両端部にそれぞれ腕部を含むローラ連結部の一端
を回転軸により軸支固定すること及び当該回転軸をローラ取付部材の穴に
挿通してEリングによって抜け止めすること(乙11文献の段落【0008】
〜【0010】),4)ローラ取付部材の中間部をローラ連結部を介してハンド
ルに固定すること(乙11文献の段落【0008】【図1】【図2】),5)以上
の構成を有する美容器である乙11発明が開示されていることは当事者間\nで争いはない。
そこで,本件発明と乙11発明を対比すると,本件発明は,支持軸の基端
部をホルダの両端部で力を加えて支持軸を抜けないように固定する構成で\nあるのに対し(構成要件B),乙11発明の支持軸の固定方法はそのような\n構成を有していない点で相違する。
イ 被告は,本件発明の構成要件Bの「押さえる」とは支持軸の基端に設けら\nれた抜け止め頭部や押さえ部,その他支持筒等の部材との勘合・係合によっ
て固定される構成を包含するものであることを前提として,本件発明の構\成
要件Bと乙11発明の構成3)とが同一であると主張する。
しかし,構成要件Bの「押さえる」に関する被告の主張を採用することが\nできないことは とおりであり,乙11発明の構成3)が本件発明の構\n成要件Bと同じであるということはできない。
したがって,乙11文献には構成要件Bの構\成が開示されているとはいえず,
乙11発明と本件発明は同一ではないから,本件発明が新規性を欠くというこ
とはできない。
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2018.11.21
平成29(ワ)24174 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年10月24日 東京地方裁判所
CS関連発明について、特許権(6154978号)侵害が認められました。原告マネースクウェア、被告外為オンラインです。損害賠償は請求されておらず、サーバの差止だけです。事実認定のところで、実際に〜すると、〜〜となるという事実から、構成要件の充足を認定しています。
イ 被告サーバにおける「注文情報」
(ア) 前記第2の2(4)イ認定のとおり,被告サービスにおいて注文が行われると,
別表のとおり被告サーバの処理が記録されるところ,前記2認定の被告サービスの内容,別表\の各欄の内容及び被告サーバの処理に照らすと,被告サーバにおいて,注文が行われた時点,すなわち,「注文日時」欄記載の日時に,同欄記載の注文を
識別するための注文番号,「注文日時」欄記載の注文日時,「取引」欄記載の新規
注文又は決済注文の別,「通貨P」欄記載の取引対象となる通貨の種類,「売」欄
記載の売り注文であるか否か,「買」欄記載の買い注文であるか否か,「新規注文」
欄記載のイフダンオーダーを構成する新規注文の注文番号,「執行条件」欄記載の成行注文,指値注文,逆指値注文の注文種別,「指定R」欄記載の指定価格,「期\n限」欄記載の注文の有効期限といった個々の注文の内容を規定する情報が生成され
ていると推認することができる。
また,被告サーバにおいて,市場に発注された個々の注文が約定等したことが検
知されると,「注文状況」欄に,その注文が「無効」,「約定」,「取消」のいず
れの状況にあるかが,「約定R」欄に,約定価格が,「約定等日時」欄に,注文が
約定等した日時が,すなわち,約定等の結果に係る情報が記録されていると推認す
ることができる。
そうすると,少なくとも,被告サーバに記録されている注文番号,注文日時,新
規注文又は決済注文の別,取引対象となる通貨の種類,売り注文であるか,買い注
文であるか,イフダンオーダーを構成する新規注文の注文番号,成行注文,指値注文,逆指値注文の注文種別,指定価格,注文の有効期限といった個々の注文の内容\nを規定する情報は,個々の買い注文又は売り注文を行うために必要となる情報であ
るということができ,本件発明の「注文情報」に該当する。
(イ) 以上より,被告サーバでは,本件発明の構成要件BないしHの「注文情報」に相当する情報が生成されていると認められる。
ウ 小括
前記のとおり,被告サーバでは,構成要件BないしHの「注文情報」に相当する情報が生成されているところ,これらの構\成要件の充足性について,後記(2),(3)に
おいて検討する構成要件G及びHを除いた構\成要件BないしFの充足性については
次のとおりであり,被告サーバは構成要件BないしFをいずれも充足する。すなわち,本件発明の「注文情報」に関する前記判示を踏まえ,被告サーバの構\成を構成要件BないしFと対比すると,被告サーバは,例えば,番号114,111,108,105の買い注文に係る買い注文情報のような複数の買い注文情報を\n生成する買い注文情報生成手段を備えるものであるから,「金融商品の買い注文を
行うための複数の買い注文情報を生成する買い注文情報生成手段」(構成要件B)を備えており,また,例えば,番号113,110,107,104の売り注文に\n係る売り注文情報のような複数の売り注文情報を生成する売り注文情報生成手段を
備えるものであるから,「前記買い注文の約定によって保有したポジションを,約
定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報を生成する売り注文
情報生成手段とを有する注文情報生成手段」(構成要件C及びD)を備えている。さらに,被告サーバは,別表\に「注文状況」欄及び「約定等日時」欄等があることから明らかなように,「前記買い注文及び前記売り注文の約定を検知する約定検
知手段とを備え」(構成要件E)るものであり,また,例えば,番号113,110,107,104の売り注文のように,指定価格が114.90円,114.2\nなるものであるから,「前記複数の売り注文情報に含まれる売り注文価格の情報は,
それぞれ等しい値幅で価格が異なる情報」(構成要件F)を備えている。
(2) 争点1−2(被告サーバは構成要件Hを充足するか)
ア 構成要件Hは,「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたことを検知する\nと,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記
複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注
文価格の情報を含む売り注文情報を生成する…」というものであり,文言上,「複
数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文」1個が約定したときに
「複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り
注文価格の情報を含む売り注文情報」1個が生成される構成を含むと解するのが相当である。\nこれを被告サーバについてみると,前記2(2)認定のとおり,被告サーバは,約定
検知手段が,例えば,番号113,110,107,104の売りの指値注文のよ
うな複数の売り注文のうち,指定価格を114.90円とする最も高い売り注文価
格の番号113の売り注文が約定されたことを検知すると,注文情報生成手段は,
この検知の情報を受けて,指定価格を番号113の指定価格114.90円より0.
62円高い115.52円とし,これを含む売り注文情報である番号96の新たな
売りの指値注文を生成するものであるから,構成要件Hを充足する。
イ 被告は,構成要件Hは,「複数の売り注文」全てが約定したときに,「注文情報生成手段」が新たに「複数の売り注文情報」全て「を生成する」ことを意味す\nると解すべきであるとし,その理由として,1)構成要件Hの「最も高い売り注文価格の売り注文注文が約定されたことを検知」したときは,「最も高い売り注文価格」\nより低い価格の売り注文が既に約定していることが明らかであるから,構成要件Gの「前記複数の売り注文情報」が全て約定したときを意味すること,2)本件明細書
の【0145】ないし【0147】においては,全ての売りの指値注文が約定して
初めて,新たな買いの指値注文(B1ないしB5)及び売りの指値注文(S1ない
しS5)の全てが同時に行われていること,3)構成要件Hの「前記注文情報生成手段」が引用している構\成要件C及びDにおいて,「注文情報生成手段」は「複数の売り注文情報」全て「を生成する」ものであるとされていることなどを主張する。
しかしながら,被告が理由として挙げる1)については,構成要件Hの文言にない限定を付すものである上,「注文情報生成手段」が「複数の売り注文情報」を「一\nの注文手続」で生成することを規定しているにすぎない構成要件Gについて,「注文情報生成手段」が常に「複数の売り注文情報」を生成することを規定するとの限\n定を加えた解釈を前提としていることから,採用することはできない。
また,被告が理由として挙げる2)についても,本件明細書の【0145】ないし
【0147】は,構成要件Hに対応する「シフト機能\」に「決済トレール機能」等を組み合わせた実施例にすぎないから採用し得ない。後記4(1)のとおり,全ての売
り注文が約定しなければ「シフト機能」を適用できないとするものでもない。したがって,被告の主張は採用することができない。
ウ また,被告は,被告サーバが「前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文
価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報」に係る「売り注文情報を
生成する」時点は,「前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い
売り注文価格の売り注文が約定されたことを検知」したときではなく,買いの成行
注文の約定を検知したときであるから,構成要件Hを充足しないと主張し,買いの成行注文が売り注文に先行して行われていることを示す事情として,別表\において,番号96の売りの指値注文が「2014/11/7 22:29」に約定すると,
同一時刻に番号89の買いの成行注文だけが行われ,約定しているのに対し,番号
85の売りの指値注文は「2014/11/7 22:30」に行われていること
などを指摘する。
被告の主張の趣旨は必ずしも明確でないが,仮に,個々の注文が有効なものとし
て市場に発注された時点で,被告サーバで「注文情報」が生成されると主張するも
のであれば,前記2(3),3(1)イ認定のとおり,被告サーバにおいて,市場に発注前
の売りの指値注文及び逆指値注文であっても,他の注文とともに,注文が行われた
時点で,注文番号等の注文情報が生成されていることと整合せず,採用することが
できない。
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2018.11.16
平成29(ネ)10073 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年10月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
マネースクウェアVS外為オンライン事件は、控訴審でも、技術的範囲に属しないと判断されました。成行注文であるNo.97の買い注文またはNo.88に係る注文情報が、構成要件Eの「新たな一の価格の新たな前記第一注文情報」と均等であるとの主張も、置換容易性がないとして、否定されました。
前記前提事実からすると,被控訴人サービスは,買い注文から入った場
合は,取引開始後の最初の買い注文を成行注文とし,同注文と対をなす売り注文を
指値注文とし,同売りの指値注文が約定することをトリガとして新たな価格帯での
取引として,買いの成行注文に係る注文情報を生成させることとし,その後,同買
いの成行注文と対をなす売りの指値注文が約定することをトリガとして,更に新た
な価格帯での取引を行い,以降,これを繰り返すという構成を採用していることが\n認められる。
被控訴人サービスの上記構成を前提として,被控訴人サービスの構\成と本件発
明の構成とを比較すると,まず,本件発明においては,第一注文情報及び第二注文\n情報とも指値注文とする構成であるのに対し,被控訴人サービスにおいては,1)第
一注文情報のうち取引開始後最初の取引の第一注文情報と,相場価格の変動後の新
たな価格帯での最初の取引の第一注文情報のみを成行注文とする構成である点で異\nなり,この点で,被控訴人サービスは構成要件E2)を充足しないが,特定の事項を
トリガとして生成する成行注文においては,トリガとなる事項をどのように構成す\nるかの点もその内容となっているものと解されること,被控訴人サービスにおいて
は,2)相場変動後の新たな価格帯での最初の成行注文に係る注文情報の生成を,旧
価格帯における成行注文と対をなす指値注文の約定をトリガとして行わせる構成と\nしたことが,上記1)の構成と一体となって技術的な意義を有するものと解されるこ\nとから,上記1)及び2)の構成(以下「本件相違構\成」)を本件発明の構成との相違\n点として把握して検討するのが相当である。
この点,控訴人は,被控訴人サービスと本件発明とは,本件発明が「検出され
た前記相場価格の高値側への変動幅が予め設定された値以上となった場合に」,新\nたな価格の「買いの指値注文」を設定するのに対し,被控訴人サービスは,「検出
された前記相場価格の高値側への変動幅が予め設定された値以上となり,売りの指\n値注文が約定した場合に」,新たな価格の「買いの成行注文」を設定する点で相違
すると主張して均等侵害の主張をしているが,同主張は,被控訴人サービスにおい
ては変動後の価格帯で生成されるすべての買い注文が成行注文であるとして,本件
設定できることからすると,相場価格が指定価格となることをトリガとする構成が\n想到し易いものと考えられる。
また,前記1のとおり,本件発明は,同じ価格帯でイフダンオーダーを自動的
に繰り返すことのできる従来の発明の課題を解決したものであり,同じ価格帯での
イフダンオーダーを自動的に繰り返すことを前提としているところ,被控訴人サー
ビスのように本件相違構成を採用すると,新たな価格帯における取引を行わせるた\nめに必要な相場価格の変動幅は,取引開始時に設定された第二注文情報の指値注文
と取引開始時の相場価格の差額と一致することになり,その結果,同じ価格帯での
イフダンオーダーを継続させるためには,相場価格が変動した場合に,旧価格帯の
成行注文と対をなす売りの指値注文の約定をトリガとして,旧価格帯における指値
注文に係る注文情報群も生成させる構成を採用するなどの工夫をする必要が生じる\n(被控訴人サービスでは,同一の価格帯でのイフダンオーダーを継続させるために
は,No.113の売りの指値注文の約定をトリガとして,新たな価格帯の取引で
あるNo.97の買いの成行注文に係る注文情報を生成するだけでなく,旧価格帯
の取引であるNo.100及びNo.99の各注文に係る注文情報群をも生成させ
る必要がある。なお,本件発明においても,顧客が「予め設定された値」を第二注\n文情報の指値価格と第一注文情報の指値価格の差額以下の値と設定することを可能\nとするのであれば,同じ価格帯でのイフダンオーダーを継続させるためには,相場
価格が変動しても,旧価格帯での取引を継続させる構成としておく必要があるが,\n上記の設定ができないようにすれば,上記の構成とする必要はない。)。このよう\nな理由から,被控訴人サービスは,本件相違構成を採用するためには,相場価格が\n変動した場合に,旧価格帯の成行注文と対をなす指値注文の約定をトリガとして,
旧価格帯における指値注文に係る注文情報群も生成させる必要があり,この点を考
慮すると,本件発明に本件相違構成を適用するに当たっては,相応の検討が必要で\nあったというべきである。
以上のことに,本件全証拠によっても,被控訴人サービスが開始された時点に
おいて,本件相違構成を採用した金融商品取引に係るサービスが存在したことや,\n本件相違構成を開示した文献があったとは認められないことを併せ考慮すると,本\n件相違構成に係る置換をすることは当業者が容易に想到することができたとは認め\nられないというべきである。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成28(ワ)21346
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2018.10.26
平成29(ワ)22041 差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年10月19日 東京地方裁判所(40部)
構成要件B,C,Eを充足しないとして、技術的範囲に属しないと認定されました。\n
原告は,被告製品の把持体外側の外郭部分全体の形状は「逆台形状」である
から,構成要件Bを充足すると主張する。\n構成要件Bの「逆台形状」の意義に関し,本件明細書の段落【0008】,\n【0018】,【0023】,【0024】には,本件発明の把持部12が「逆
台形形状」である旨の記載があるが,その形状の定義や意義についての記載
は存在しない。そこで,一般的な用法を参酌すると,広辞苑第六版(乙1)に
は,「台形」とは「一組の対辺が平行な四辺形」であると記載され,かつ,上
底が下底より短い四辺形の図が掲載されている。これによれば,「逆台形」と
は,「上底が下底より長く一組の対辺が平行な四辺形」をいうと解するのが相
当である。
このような理解に立って本件明細書の図2に図示された把持部をみると,
その上部(引き手から遠い部分を「上部」,引き手に近い部分を「下部」とい
う。)の直線が下部の直線より長く,その側辺が直線状であるので,本件明細
書における「逆台形状」という語の意義は,上記の一般的用法に沿うものであ
ると認められる。
他方,証拠(甲3)によれば,被告製品の把持体(前記第3の1(1)〔被告
の主張〕掲記の「被告製品の把持体」の赤線で囲まれた部分)は,下底は直線
状であるものの,下底から上部に向かう側辺は全体が曲線であり,把持体の
中央部分で最大幅となり,その後,上部に向かい先端部に行くほど幅が狭く
なっている上,上底も直線状ではなく,曲線から構成されていることが看取\nされる。そうすると,被告製品の把持体は,平行な対辺もなく四辺形でもない
ことから「逆台形状」ということはできず,むしろ「楕円形状」というべきで
ある。
これに対し,原告は,「逆台形状」の「状」とは,「…のような形である」
の意味であるから,本件発明の「逆台形状」は必ずしも正確な「逆台形」に限
られないと主張する。しかし,被告の把持体が厳密な意味での「逆台形状」の
定義を満たすことは要しないとしても,少なくとも,逆台形としての基本的
な形状は備えていることを要すると解されるところ,被告製品の把持体は,
側辺及び上部が曲線で「四辺形」ということは到底できず,「楕円形状」とい
うべきものであり,逆台形の基本的な形状を備えているということはできな
いことは前記判示のとおりである。
したがって,被告製品の把持体は「逆台形状」とは言えず,構成要件Bを充\n足しない。
(2)争点1−2(構成要件Cの充足性)について
原告は,被告製品は,スライダーが10〜50%露出しているので,構成\n要件Cを充足すると主張する。
しかし,被告製品の写真である証拠(乙19の1の4枚目,19の2の5
枚目,19の3の3枚目,19の4の3枚目,19の5の4枚目,19の6
の4枚目,19の7の4枚目,19の8の3枚目,19の9の3枚目)によ
れば,被告製品において,スライダーがファスナーカバーに収まった状態に
おいて閉口端側に露出することはあるものの,その露出割合は10%を超え
ないと認めることが相当である。
また,被告製品1の吊り下げヘッダー裏面にはスライダーをファスナーカ
バーに収めた状態が図示されているが(甲3の1の図5),同図においても,
スライダーはファスナーカバーから閉口端側に露出していない。これによれ
ば,被告製品の通常の用法においては,スライダーがファスナーカバーに収
められた際に閉口端側に露出することは想定されていないものというべき
である。
これに対し,原告は,被告製品1の実測値(別紙被告製品説明書の図1を
再度実測したとされるもの。原告第1準備書面11頁の図1)によれば,被
告製品1のファスナーカバーの長手方向の全長は約25mmであり,露出部
分が約3.5mmであるから,被告製品のスライダーは約14%(3.5/
25×100=0.14)露出していると主張する。
しかし,原告が根拠とする上記の実測値は,被告製品の把持体を弾性のあ
るファスナーカバーにどの程度強く押し込んだ上で実測されたかが明らか
ではなく,訴状に添付された同製品に係る別紙被告製品説明書の図1(甲3
の1の図3)においては,被告製品1のスライダーの露出部分は約3mm程
度にとどまっている上,前記のとおり,吊り下げヘッダー裏面の図(甲3の
1の図5)においては,スライダーがファスナーカバーから閉口端側に露出
していないことなどに照らすと,上記の再実測図(原告第1準備書面11頁
の図1)は,被告製品1のスライダーを通常使用される態様より強くファス
ナーカバーに押し込んで実測されたものであると推認される。
この点,原告は,本件発明の技術的範囲は,被告製品がスライダーをファ
スナーカバーから所定の割合で露出させることが可能かどうかで判断され\nるべきであるから,スライダーを強くファスナーカバーに押し込んだ状態で
露出割合が10%を超えるのであれば構成要件Cを充足すると主張するが,\n被告製品におけるスライダーの露出割合は,当該製品が通常使用される状態
において測定されるべきであり,弾性を有するファスナーカバーにスライダ
ーを強く押し込んだ状態においてスライダーの露出割合が10%を超える
としても,それによって構成要件Cを充足するということはできない。\nしたがって,被告製品は構成要件Cを充足しない。
(3) 争点1−4(構成要件Eの充足性)について
原告は,被告製品は,ファスナーカバーに把持体が「収まった状態」となっ
ているので,構成要件Eを充足すると主張する。\n構成要件Eの「収まった状態」との語に関し,本件明細書には,拡大把持体\nがカバー体にどの程度覆われていることを意味するかについての直接的な記
載はないが,本件発明に係る洗濯用ネットの開口部を開口及び閉口する際の
手順を記載した本件明細書の段落【0020】及び段落【0022】の記載に
よれば,本件発明は,洗濯ネットの閉口時にはスライダ構成体を「確実にカバ\nー体に収」め,開口時には 閉口端側からスライダ3を押すことにより,拡大
把持体1の「先の部分」を一定量カバー体から露出させ,その部分を指でつか
んで引き抜くことにより開口するものであると認められる。
このような,本件発明に係る洗濯ネットの開閉時の手順及び仕組みによれ
ば,閉口時において拡大把持体は,その「先の部分」まで「確実に」カバー体
に覆われた状態にあるものと解するのが相当であり,本件明細書の【図4】
(C)にも,開口部を閉じた際に拡大把持体1が完全にカバー体に収められ
た状況が図示されている。
そうすると,構成要件Eの「収まった状態」とは,拡大把持体がカバー体に\n完全に覆われた状態をいうものと解すべきであり,このような理解は,「収ま
る」という語が,一般的には「ある範囲内に全部が残らず入る」ことなどを意
味すること(乙3)とも整合するというべきである。
また,仮に,原告の主張するように閉口時において拡大把持体がカバー体
に完全に覆われることを要しないと解し得るとしても,上記の開閉時の手順
及び仕組みによれば,少なくとも,拡大把持体は,開口時にその先の部分を指
でつまんでそのまま開口することができない程度までカバー体に覆われてい
ることを要するというべきである。
以上に基づき被告製品についてみると,証拠(甲3,乙19)によれば,被
告製品はいずれも開口時に閉口端側からスライダーを押して把持体の先の部
分を露出することを必要とせず,そのまま把持体を指でつまんで開口するも
のであり,これを可能にするように,開口部側において把持体のリング部分\nの一部が指でつまむことができる程度にファスナーカバーから露出している
ことが認められる。
このように,被告製品は,閉口時に把持体がファスナーカバーに完全に覆
われておらず,少なくとも,把持体が指でつまむことができる程度に露出し
ているのであるから,被告製品は構成要件Eの「拡大把持体が収まった状態」\nにあるということはできない。
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2018.09.28
平成29(ワ)10742 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年9月19日 東京地方裁判所
加熱調理器の特許侵害事件です。裁判所(29部)は、技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害は主張されていません。原告はアイリスオーヤマです。
構成要件Eのうち,「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」の意義につい\nて検討する。
上記各文言は,調理容器との関係をもって加熱調理器の構成を示すものであり,\n文言のみから一義的にその意義を明らかにすることができないことから,本件明細
書等の発明の詳細な説明の内容を考慮して検討する必要がある。そこで,1⑴にお
いてみたとおりの本件明細書等の記載を考慮すると,本件明細書等(【0003】,
20 【0005】,【0021】,【0028】,【0029】,【0030】,【0
032】)には,リング状枠はトッププレート上に印刷表示され,調理容器を有効\nに加熱できる領域として使用者に示されるものであること(【0003】),リン
グ状枠は加熱部の領域を示し,鍋の最大径と同径で,鍋の外殻を表すものであるこ\nと(【0005】,【0021】)及び加熱部は最大の鍋径と同径で,リング状枠
であること(【0028】,【0029】)が示され,これ以外に,上記各文言の
意義の解釈を導くような説明がされていることは認められない。そうすると,「最
大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示され左右の加熱部の領域を示し,\nまた,リング状枠と同径のものであり,また,「調理容器の外殻」と一致するもの
であると解するのが一般的かつ自然である。
この点,被告は,構成要件Eの内容は不特定であるなどと主張するが,同主張は,\n前記認定に照らし採用することができない。
(2) 被告製品関連製品の構成\nア 原告は,別紙3被告製品説明書(原告)において,被告各製品は,「左IH
ヒーター及び右IHヒーター上で,調理容器の鍋底全体を加熱できる最大径である
直径26cmの領域を示す外殻線11,12」という構成を有し,これが「調理容\n器の外殻」であり「最大径の調理容器」である旨主張する。そして,被告各製品を
除く被告製品関連製品も被告各製品と同様の構成を有する旨主張する。\nイ しかしながら,前記⑴において認定したとおり,「調理容器の外殻」及び「最
大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示された加熱部及び有効加熱領域\nの領域を示すリング状枠と同径のものであるところ,原告の主張する外殻線11,
12は,原告において付しているものにすぎず,トッププレート上に表示されてい\nるものではないから,これらを「調理容器の外殻」又は「最大径の調理容器」であ
るとみることはできない。そして,本件全証拠によっても,被告各製品には,加熱
部及び有効加熱領域を示す直径26cmのリング状枠が表示されているとは認めら\nれず,加熱部及び有効加熱領域を示すリング状枠と同径である「調理容器の外殻」
及び「最大径の調理容器」が直径26cmであると認めることもできない。
原告は,「調理容器の外殻」は,鍋底の最大径であり,被告は被告各製品におい
て鍋底が直径26cmまでの鍋を使用することができる旨説明しているから,被告
各製品の「最大径の調理容器」は26cmのものであると主張する。しかしながら,
被告において上記のように説明することが,被告各製品で使用可能な最大径の鍋底\nを示すものといえるか否かについてひとまず措くとしても,前記⑴において認定し
たとおり,「調理容器の外径」及び「最大径の調理容器」と同一であるリング状枠
及び有効加熱領域は,トッププレートに表示される必要があるのであって,表\示さ
れていない有効加熱領域に基づく原告の主張はその前提を欠き失当である。
(3) 小括
以上のとおり,被告各製品は,原告主張の「調理容器の鍋底全体を加熱できる最
大径である直径26cmの領域を示す外殻線」という構成を有するとは認められな\nいから,この外殻線を前提に被告各製品が構成要件Eを充足するという原告の主張\nは採用できず,ほかにこれを認めるに足りる証拠もない。また,被告各製品を除く
被告製品関連製品が構成要件Eを充足することを認めるに足りる証拠もない。\nしたがって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品関連製品は,構\n成要件Eを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできな
い。
◆判決本文
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2018.09.28
平成29(ワ)22417 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年8月29日 東京地方裁判所
CS関連発明の侵害事件です。裁判所(29部)は、技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害も第1要件を満たさないとしました。
(2)本件各発明の意義
上記(1)の本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の特許請求の範囲請
求項1及び3の記載によれば,本件各発明は,より広範で深い人間関係を結ぶための,
人脈関係登録システム,人脈関係登録方法とサーバ,人脈関係登録プログラムと当該
プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体に関するものであり,より広\n範で深い人間関係を結ぶことを積極的にサポートするために,上記人脈関係登録シス
テム等を提供することを目的とするものであって,登録者相互間の合意によって人間
関係が結ばれたとき,記録手段を備えたサーバに,人間関係を結んだ登録者の個人情
報又は識別情報を関連付けて記憶することで,個人情報又は識別情報を含む検索キー
ワードによって第二の登録者と人間関係を結んでいる第三の登録者の個人情報又は
識別情報を検索することができるようにするという発明である,と認められる。
2 被告サーバの構成について\n証拠(甲16,乙4,7)及び弁論の全趣旨によれば,被告サーバにおいて,人間
関係を記憶する手順は,次のとおりであり,これを図示すると,別紙「被告サーバの
動作フロー」のとおりである(同別紙では,アカウント1号を甲,アカウント2号を
乙と表記している。)と認められる。すなわち,他のユーザと人間関係を結ぶ申\請をす
ることを意味する「友達申請」(以下,単に「友達申\請」という。)をするユーザを「アカウント1号」,友達申請をされるユーザを「アカウント2号」として説明すると,1)
アカウント1号が「友達申請をする」と示されたボタンをクリックする(画面08),\n2)被告サーバがアカウント1号に確認画面を送信する,3)アカウント1号が「送信す
る」と示されたボタンをクリックする(画面09),4)被告サーバが記憶手段に友達申\n請に係るデータを登録する,5)被告サーバが記憶手段にアカウント1号及びアカウン
ト2号の人間関係が結ばれた旨の友達リストの仮登録をする,6)被告サーバがアカウ
ント2号に友達申請がされたことを通知する(画面12),7)被告サーバがアカウン
ト1号に友達申請の完了画面を送信する(画面11),8)アカウント2号が被告サー
バにアカウント1号のプロフィールを要求する(画面13,14),9)被告サーバが記
憶手段からアカウント1号のプロフィールを取得する,10)被告サーバがアカウント2
号にアカウント1号のプロフィールを送信する,11)アカウント2号が「友達になる」
と示されたボタンをクリックする(画面15),12)被告サーバが記憶手段の友達リス
トを更新して本登録をし,友達として関連付けることが完了する,13)被告サーバがア
カウント1号に友達申請が承認されたことを示すメール(甲16)を送信する,とい\nうものである。
そうすると,被告サービスにおいては,被告サーバの記憶手段にアカウント1号と
アカウント2号の人間関係が結ばれたとして関連付けられた後に,アカウント1号に
対して友達申請が承認されたことを示すメールが送信されるという処理がされるの\nであり,アカウント1号とアカウント2号が友達として記憶された後に,仮にアカウ
ント1号に対し友達申請が承認された旨が通知されなかったとしても,被告サーバに\nおいては,アカウント1号とアカウント2号が友達であると記憶されているといえる。
3 争点1(被告サーバは,文言上,本件各発明の技術的範囲に属するか)について
事案に鑑み,まず,争点1−3(被告サーバは構成要件1D及び2Dを充足するか)\nについて判断する。
(1) 構成要件1Dは,「上記第二のメッセージを送信したとき,上記第一の登録者\nの個人情報と第二の登録者の個人情報とを関連付けて上記記憶手段に記憶する手段
と,」というものであり,本件発明1においては,サーバが,第二の登録者と人間関係
を結ぶことを希望する旨の第一の登録者からのメッセージである「第一のメッセージ」
を受信して同メッセージを第二の登録者の端末に送信し,第二の登録者からこれに合
意する旨のメッセージである「第二のメッセージ」を受信して,同メッセージを第一
の登録者に送信したことを条件として,又は送信した後で,第一の登録者の個人情報
と第二の登録者の個人情報とを関連付けて記憶手段に記憶するものとして規定して
いるということができる。
そして,構成要件1Dの「個人情報」が「識別情報」に置き換えられているほかは,\n構成要件1Dと文言を共通にする構\成要件2Dについても,サーバが第二のメッセー
ジを送信したことを条件として,又は送信した後で,第一の登録者の識別情報と第二
の登録者の識別情報とを関連付けて記憶手段に記憶するものとして規定していると
認められる。
(2) この点,原告は,構成要件1D及び2Dにおける「送信したとき」の「とき」\nは「ある幅をもって考えられた時間」という意味であるとして,構成要件1D又は2\nDは,第一の登録者の個人情報又は識別情報を第二の登録者の個人情報又は識別情報
とが関連付けられた後に第二のメッセージが送信される場合をも含む旨を主張する
が,「送信したとき」とは,送信したことを条件とする旨表す表\現であると解釈するの
が一般的かつ自然な解釈であるというべきであり,また,これが時を表す表\現である
と解釈したとしても,送信という動作が完了していることを表す表\現が用いられてい
ることからすると,送信することが関連付けることに先行すると解釈するのが一般的
かつ自然であって,本件明細書その他にも異なる解釈を導く説明は見当たらない。
したがって,構成要件1D及び2Dの記載は,送信の実行が先行し,その後に関連\n付ける旨の実行がされることを規定していると解され,原告の上記主張を採用するこ
とはできない。
(3)そこで,被告サービスについてみると,前記2において認定したとおり,被告
サービスにおいては,被告サーバの記憶手段に第一の登録者に相当するアカウント1
号と第二の登録者に相当するアカウント2号が友達として登録されて関連付けるこ
とが終了した後に,アカウント1号に対して友達申請が承認されたことを示すメール\nが送信されるという処理がされるのであるから,被告サーバは,「第二のメッセージ
を送信したとき」に,「上記第一の登録者の個人情報と第二の登録者の個人情報とを
関連付けて上記記憶手段に記憶する手段」又は「上記第一の登録者の識別情報と第二
の登録者の識別情報とを関連付けて上記記憶手段に記憶する手段」を有しているとい
うことはできない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告サー
バは,構成要件1D及び2Dを充足しない。\nよって,被告サーバは,文言上,本件各発明の技術的範囲に属すると認めることは
できない。
・・・・
これを本件についてみると,前記1(2)で説示したとおり,本件各発明は,より
広範で深い人間関係を結ぶための,人脈関係登録システム,人脈関係登録方法とサー
バ,人脈関係登録プログラムと当該プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記\n録媒体に関するものであり,より広範で深い人間関係を結ぶことを積極的にサポート
するために,上記人脈関係登録システム等を提供することを目的とするものであって,
登録者相互間の合意によって人間関係が結ばれたとき,記録手段を備えたサーバに,
人間関係を結んだ登録者の個人情報又は識別情報を関連付けて記憶することで,個人
情報又は識別情報を含む検索キーワードによって第二の登録者と人間関係を結んで
いる第三の登録者の個人情報又は識別情報を検索することができるようにするとい
う発明である。そして,登録者相互間の合意は,メールの交換によって行われるもの
されている(段落【0011】,【0015】)。そうすると,本件各発明の構成要件1D及び2Dの「第二のメッセージを送信したとき,…関連付けて上記記憶手段に記憶\nする」という構成は,登録者相互間の合意(メッセージの交換)によって人間関係が\n結ばれたとき,記録手段を備えたサーバに,人間関係を結んだ登録者の個人情報又は
識別情報を関連付けて記憶するという課題解決手段を具体的な構成として特定した\nものであって,この構成が従来技術に見られない特有の技術的思想を構\成する特徴的
部分であり,本件各発明における本質的部分というべきである。
これに対し,原告は,より広範で深い人間関係を結ぶために共通の人間関係を結ん
でいる登録者の検索を容易にするということが本件各発明の本質であり,本件各発明
における友達申請メッセージ(第一のメッセージ)や承認メッセージ(第二のメッセ\nージ)のやり取りに係る構成は,人間関係を結ぶための「合意の手段」としての意味\nを有するにすぎず,本件各発明において非本質的な部分である旨主張する。
しかしながら,本件各発明の構成要件1D及び2Dの「第二のメッセージを送信し\nたとき,…関連付けて上記記憶手段に記憶する」という構成が,本件各発明の課題解\n決手段を具体的な構成として特定したものであることは前記のとおりであるから,個\n人情報又は識別情報を関連付けて記憶する過程のみを切り離して,それらの処理のタ
イミングを規定したものにすぎないということはできず,本件各発明の非本質的部分
であるということはできない。また,本件各発明は,個人情報又は識別情報を含む検
索キーワードによって第二の登録者と人間関係を結んでいる第三の登録者の個人情
報又は識別情報を検索することを内容とするものである(構成要件1Eないし1G,\n2E)が,それを超えて,共通の人間関係を結んでいる登録者の検索を容易にすると
いうことが,本件各発明の課題又は目的とされて本件各発明の構成として具体的に反\n映されているとはいえず,原告の主張を裏付けるに足る本件明細書の記載その他の証
拠はない。
したがって,原告の主張は採用することができない。
ウ そうすると,本件各発明の構成要件1D及び2Dの「第二のメッセージを送信\nしたとき,…関連付けて上記記憶手段に記憶する」という構成は,本件各発明におけ\nる本質的部分であると解されるところ,前記説示のとおり,被告サーバは,メッセー
ジを交換する前に,登録者相互間の関連付けが終了するのであって,上記構成を有し\nていないから,その相違部分が本件各発明の本質的部分ではないとはいえず,均等の
第1要件(非本質的部分)を充足しない。
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2018.09.27
平成29(ネ)10064 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年9月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害訴訟の控訴審です。知財高裁第1部は、被告装置1−2は本件訂正発明1の1の技術的範囲に属する、被告装置3は本件訂正発明4の技術的範囲に属し,かつ,無効理由無し、その他の被告装置は技術的範囲に属しない、とした1審判断を維持しました。均等侵害も第1、第2要件を満たさないとしました(1審と同じ)。損害額については変わりありませんが、「寄与率」という用語が「損害額の推定の覆滅」と変更されてます。
前記のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」第4の1(1)イ(原判決
65頁6行目〜21行目)),本件訂正発明1の1及び1の2の従来技術には,基
礎杭等の造成にあたって地盤を掘削する掘削装置として一般に使用されるアースオ
ーガ装置では,オーガマシンの駆動時の回転反力を受支するために必ずリーダが必
要となるが,リーダの長さが長くなると,傾斜地での地盤掘削にあっては,クロー
ラクレーンの接地面とリーダの接地面との段差が大きい場合にリーダの長さを長く
とれず,掘削深さが制限されるという課題等があった。そこで,本件訂正発明1の
1及び1の2は,これらの課題を解決するために,掘削装置について,掘削すべき
地盤上の所定箇所に水平に設置し,固定ケーシングを上下方向に自由に挿通させる
が,当該固定ケーシングの回転を阻止するケーシング挿通孔を形成してなるケーシ
ング回り止め部材を備えるものとして,リーダではなく,ケーシング回り止め部材
によって回転駆動装置の回転反力を受支するものとした発明と認められる。
ここで,回転駆動装置の回転反力を受支するには,1)回転駆動装置の回転反力が
固定ケーシングによって受支されるとともに,2)固定ケーシングの回転反力がケー
シング回り止め部材によって受支されなくてはならない。そうすると,1)を具体的
に実現する「固定ケーシングが,掘削軸部材に套嵌されると共に,回転駆動装置の
機枠に一体的に垂下連結される」構成及び2)を具体的に実現する「ケーシング回り
止め部材が,掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の
横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定され,固定ケーシングを上下方
向に自由に挿通させるが該固定ケーシングの回転を阻止することができるケーシン
グ挿通孔を有する」構成により,ケーシング回り止め部材によってケーシング,ひ\nいては回転駆動装置の回転反力を受支するようにしたことが,従来技術には見られ
ない特有の技術的思想を有する本件訂正発明1の1の特徴的部分であり,その本質
的部分というべきである。
(ウ) したがって,固定ケーシングが回転駆動装置の機枠に一体的に垂下連結さ
れる構成を有しない被告装置1−3〜1−8は,本件訂正発明1の1と本質的部分\nを異にするものであり,第1要件を満たさない。
・・・
このことから,本件訂正発明1の1の「固定ケーシング5」は,「固定ケーシン
グ5が円筒状ケーシングからなるため,地盤への固定ケーシング5の打ち込み及び
引き抜きが容易となり」【0028】とも記載されているように,回転駆動装置1
の下部から垂下され,ケーシング回り止め部材7のケーシング挿通口8に挿入され,
掘削軸部材2及びダウンザホールハンマー4と共に地盤の掘削により地盤に打ち込
まれ,地盤を所定深度まで掘削したら,ダウンザホールハンマー4の作動を停止さ
せた後,昇降操作用ワイヤーWを巻取り操作して,掘削軸部材2及びダウンザホー
ルハンマー4と共に引き上げられることを前提としたものである。
そうすると,本件訂正発明1の1の掘削装置においては,掘削後に引き抜くこと
を前提にケーシングと回転駆動装置の機枠とを一体的に連結することによって,回
転駆動装置とケーシングを掘削後に引き抜く際に,地盤内でケーシングにかかる土
圧による抵抗に抗してこれを引き抜くことが可能になるものということができる。\nこれに対し,ケーシングと回転駆動装置との機枠とを一体的に連結するのでなく
着脱自在の構成にした場合,そもそも着脱自在の構\成はケーシングを掘削後に残置
させることができるという作用,効果を奏するものであるし,仮にこの構成でケー\nシングを引き上げるとすると,ケーシングと回転駆動装置の機枠との連結部の強度
が十分でないために,引き抜くことが不可能\ないし極めて困難となり,本件訂正発
明1の1の目的を達成することができない。
したがって,掘削後にケーシングを引き抜くことを前提とした本件訂正発明1の
1の掘削装置において,回転駆動装置にケーシングを着脱自在に連結する構成を採\n用すると,本件訂正発明1の1の目的を達成することが困難となり,同一の作用効
果を奏しなくなる。
そして,被告装置1−3〜1−8の構成につき,いずれも回転駆動装置の下部に\n連結された中空スリーブに設けられたスリット状の切り欠きとケーシング外周軸方
向に固設された角鉄とを係合させることにより,中空スリーブとケーシングとを着
脱自在に係合するものであるとする限りでは,当事者間に争いがない。
(イ) 以上によれば,被告装置1−3〜1−8は,第2要件を満たさない。
◆判決本文
1審判決はこちら。
◆平成25(ワ)10958
関連の無効審決の取消訴訟はこちら。
◆平成29(行ケ)10193
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2018.09.26
平成29(ワ)40193 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年9月6日 東京地方裁判所
CS関連発明に関する侵害訴訟です。東京地裁46部は、「プレイヤによって選択されたゲーム空間の全体」の意義を審査経過などから判断し、技術的範囲に属しないと判断しました。原告グリー、被告Supercellです。
プレートがゲーム空間内の所定の範囲に適用されることがあることが記載さ
れ,また,前記(2)イのとおり,本件明細書には,発明を実施するための形態と
して,プレイヤがテンプレートの作成を指示したとき,「範囲選択画面」が表\n示され,そこにおいては,ゲーム空間の一部について,テンプレートが作成さ
れる範囲が表示されていること,テンプレートが作成される範囲について,例\nとして,プレイヤが任意の2点をタップして,当該2点を対頂点とすることで
定められることがあること,ゲーム空間の一部に対して,そのテンプレートが
適用されることが記載されている。他方,本件明細書には,「ゲーム空間」の
選択に関して,上記内容とは異なる内容の記載はない。
さらに, 原告は,本件意見書において,補正により加えられた「プレイヤによって選択されたゲーム空間の全体」との記載について,プレイヤがゲーム空間のうちのテンプレートが作成される範囲を指定するという段落【0037】の記載を挙げた上で,プレイヤがゲーム空間の左上の点および右下の点をタップすることで,ゲーム空間の全部の範囲を選択することができることを意味する旨述べて,その記載が当初明細書から自明であると述べている。
以上によれば,本件明細書には,本件各発明のテンプレートはゲーム空間内
の所定の範囲について作成,適用されるもので,その範囲についてプレイヤが
定めることが記載されており,原告もそのことを前提として,プレイヤがゲー
ム空間内の全部の範囲をテンプレートの範囲とすると定めることによりゲー
ム空間の全体が選択されることになるという意見を述べたといえる。
上記の本件明細書及び本件意見書の記載を参酌すれば,構成要件1C及び2\nDの「プレイヤによって選択されたゲーム空間の全体」における「選択」とは,
テンプレートの作成について,プレイヤがテンプレートとするゲーム空間内の
一定の範囲を選択することを前提として,テンプレートを作成する際に,プレ
イヤがゲーム空間内の全部の範囲を選択することを意味するものと解釈する
のが相当である。
これに対し,原告は,構成要件1C及び2Dにおける「ゲーム空間の全体」\nとは文字通りゲーム空間全体を意味するのであってゲーム空間のうちどの部
分を選択するかの決定権をプレイヤが有していることを必須の構成要素とは\nするものではないと主張し,また,本件明細書の第1及び第2実施形態は,テ
ンプレートの作成,適用の具体例を示したにすぎないなどと主張する。
しかし,「ゲーム空間の全体」がプレイヤによって選択されるとしても,プレ
イヤによってどのような態様による選択がされるかについては,特許請求の範
囲の記載からは明らかではない。本件明細書には,テンプレートの作成に当た
って,プレイヤがゲーム空間内の一定の範囲を選択することは記載されている
が,それ以外の選択に関する構成については何ら記載も示唆もないから,前記\nと異なる態様でのプレイヤによる選択について,本件明細書に記載や示唆が
あるとはいえないし,原出願日の当業者の技術常識に照らして明らかであると
もいえない。また,原告は,本件特許の出願経過(甲22)において,プレイ
ヤがタップする任意の2点をゲーム空間の左上及び右下の点とすれば「ゲーム
空間の全体」になるなどと説明しており,この説明はプレイヤにおいてゲーム
空間内の一定の範囲を選択することを前提としているものといえ,前記 の解
釈に沿うものといえる。原告の主張は採用することができない。
上記(1)で認定のとおり,本件ゲームは,プレイヤが基本画面においてレイア
ウトエディタのアイコンをタップしてレイアウトエディタ画面を表示させ,レ\nイアウトに対応する縮小画面を選択,保存することによって新たなレイアウト
を作成するというものである。そうすると,そこにはプレイヤがゲーム空間内
の一定の範囲を選択するという機能や動作は全く存在していない。したがって,本件プログラム及び本件携帯端末は,いずれも構\成要件1C及び2Dを充足しない。
◆判決本文
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2018.07.24
平成30(ネ)10018 特許権に基づく差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年7月19日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
自動麻雀卓の発明について、技術的範囲に属しないとした1審判断が維持されました。均等主張もしましたが、そもそも、それ以外の要件Iを満たしていないと判断されました。
本件発明に係る特許請求の範囲には,「吸着面」について,1) 攪拌装
置から牌を取り上げる汲上機構を構\成する円筒回転体には円筒回転体の
一側端から「牌の横幅ほどの幅」の「吸着面」が配設されること(構成\n要件C,H,I),2) 「吸着面」の中心には磁石を埋没し,「吸着面」
に磁気力により牌を吸着して下方から上方に吸い上げるように円筒回転
体を回転させること(構成要件J),3) 汲上機構によって取り上げら\nれた牌を一方向に整列して送り出すための整列機構には,円筒回転体に\n吸い上げられた牌の方向を揃えるため「吸着面」の外側の軌道に沿って
配設した案内部材が設けられること(構成要件D,K)の記載がある。\nそして,自動麻雀卓における「牌」は,字面に垂直な方向からみて
「横幅」が「縦幅」より短い長さとなる長方形状であるから(原判決別
紙図2),構成要件Iの「牌の横幅ほどの幅」との特定は,「吸着面」\nの幅が「牌の縦幅」より「牌の横幅」に近い幅をもつことを特定するも
のと解するのが文言上自然である。
イ もっとも,特許請求の範囲の記載のみからは「横幅ほど」の外延は必ずしも明らかではないことから,本件明細書の記載について検討する。
本件明細書には,上記1(2)のとおりの本件発明の課題の解決手段とし
て,円筒回転体の周面部位に円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅
をもつ吸着面を配設し,磁性体を埋設した牌を,中心に磁石を埋没した
吸着面に磁気力により吸着し,円筒回転体に吸い上げられた牌の方向を
揃えるため前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材を設け,
前記円筒回転体によって下方位置にて取り上げられた牌は,前記案内部
材にそって牌の向きを揃えながら上方に移動する(段落【0008】)
ことが記載されている。そして,円筒回転体は牌の縦幅と略等しい長さ
の高さ寸法であり(段落【0009】,【0021】),円筒回転体の
一側端から「牌の横幅」と略等しい幅の吸着面が形成される(段落【00
21】)ことが記載されており,これらの記載からは,「牌の縦幅」と区
別される「牌の横幅」を「吸着面の幅」に相当するものとしていること
が理解され,このような理解は特許請求の範囲の記載とも整合する。
さらに,本件明細書の段落【0033】〜【0035】には,吸着面
401Bに様々な角度で吸着した牌10につき,案内部材501の入り
口付近で吸着面401Bからはみ出た側面が,案内部材先端502に接
触して抵抗を受け,磁石により吸引されて回転しながら向きを変え,縦
長方向に整列することが記載され,図10及び図11における吸着面4
01Bの幅は牌の横幅に近似する幅であることが見て取れる。
ウ 以上のとおりの各構成要件相互の関係及び本件明細書の記載によれば,\n本件発明において「牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」とした技術的意義
は,吸着面の幅を「牌の横幅」分の幅とすれば,牌が少しでも斜めに吸
着した場合には牌が吸着面からはみ出るから,はみ出た牌の側面に吸着
面の外側の軌道に配設した案内部材を接触させ,接触による力学的な作
用と牌に埋設された磁石と吸着面の中心に埋設された磁石との吸引力に
よって牌を回転させて長手方向の向きに揃えるようにしたことにあると
解することができる。
そして,このような技術的意義に照らせば,構成要件Iの「牌の横幅ほ\nどの幅」とは,吸着面の幅が,牌の横幅(短辺)と同一か,様々な角度
で吸着面に吸着した牌の側面が当該吸着面からはみ出る部分を有し,は
み出た部分に案内部材を接触させることによって牌の方向を揃えること
ができる程度の幅を意味し,牌の縦幅に近似する幅はこれに含まれない
と解すべきである。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)5074
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2018.06.14
平成29(ネ)10033等 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年5月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は一部侵害を認めましたが、知財高裁は、本件発明の技術的範囲に属さないとこれを取り消しました。
特許請求の範囲の記載によれば,構成要件Eの「前記背後壁」は,「既\n設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる」(構成要件B)ものであり,\n改修の前後でその「高さ」が変わるものではない。他方,同「改修用下
枠」は,その「室外寄りが,スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接
して支持されると共に,」その「室内寄りが,前記取付け補助部材で支
持され」(構成要件D)るものである。このため,構\成要件Eの「前記
背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さ」であることに寄与し
ているのは,主ということができる。
この「取付け補助部材」について,本件明細書等の記載を見ると,
「既設引戸枠の形状,寸法に応じた形状,寸法の取付け補助部材を用い
る」(【0018】),「その取付用補助部材106の高さ寸法を変え
ることで,異なる形状の既設下枠56にも同一形状の改修用下枠56
(裁判所注,改修用下枠69の誤記であると認める。)を,その支持壁
89と背後壁104を同一高さに取付けることが可能である。」(【0\n091】)との記載がある。しかも,段落【0018】には,上記記載
に先行して,「既設下枠の室外側案内レールを切断して撤去したので,
改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が大きく,有効開
口面積が減少することがなく,広い開口面積が確保できる。」との記載
もある。
これらの事情を総合すると,構成要件Eの「同じ高さ」とは,「取付\nけ補助部材」で「改修用下枠」を支持することにより,「背後壁の上端」
と「改修用下枠の上端」とを,その間に高さの差が全くないという意味
での「同じ高さ」とした場合を意味するものと理解するのが最も自然で
ある。
他方,「ほぼ同じ高さ」について,定義その他その意味内容を明確に
説明する記載は,本件明細書等には見当たらないが,以上に検討した点
を併せ考えると,ここでいう「ほぼ同じ高さ」とは,「取付け補助部材」
の高さ寸法を既設下枠の寸法,形状に合わせたものとすることにより,
「背後壁の上端」と「改修用下枠の上端」とを,その間に高さの差が全
くないという意味での「同じ高さ」とする構成を念頭に,しかし,その\nような構成にしようとしても寸法誤差,設計誤差等により両者が完全に\nは「同じ高さ」とならない場合もあり得ることから,そのような場合を
も含めることを含意した表現と理解することが適当である。\n
イ(ア) このように解することは,本件明細書等の図1に示された実施の形
態につき「前壁102の上端部から室内68に向かって上方へ傾斜する
…底壁103の最も室内68側の端部に連な」る「背後壁104」が,
「室内側案内レール67と同一高さまで立ち上がる」ものとされ(【0
027】),また,同図6に示された実施の形態につき「既設下枠56
の背後壁104の上端部に室内68側に向かう横向片104aを有し,
この横向片104aと改修用下枠69の支持壁89の上端が同一高さで
ある」と記載されている(【0069】)一方で,図1及び6の実施の
形態と比較すると「背後壁の上端」と「改修用下枠の上端」の「高さ」
に図面上明らかに差が認められる図10及び11の実施の形態について
は,「例えば,図10に示すように取付け補助部材106の高さ寸法を
大きくして室内側壁部108を底壁103に当接し,かつ室内側案内レ
ール115にビス110で取付ける。…この場合には,支持壁89が背
後壁104より若干上方に突出する。」(【0092】)と記載され,
「同一高さ」等の表現が用いられていないこととも整合する。\n
(イ) 本件特許の出願経過に鑑みても,構成要件Eについては上記のよう\nに解釈することが適当というべきである。
すなわち,被控訴人らが構成要件E「前記背後壁の上端と改修用下枠\nの上端がほぼ同じ高さであり」を追加したのは,拒絶査定不服審判の請
求と同時にされた手続補正書による補正後の請求項1〜6に係る発明に
対する進歩性欠如の拒絶理由通知,これを受けての被控訴人らによる補
正案の作成と特許庁審判官によるその了承,サポート要件違反の拒絶理
由通知という経過を経た後の手続補正においてである。そうすると,構\n成要件Eの追加は,上記サポート要件違反の拒絶理由を解消するために
のみなされたか,これと同時に上記進歩性欠如の拒絶理由も解消するた
めになされたかのいずれかの意図によるものと理解される。
そして,サポート要件違反の拒絶理由通知には「本願の請求項1〜6
には,広い開口面積を確保する本願の課題に対応した構成が記載されて\nいない。」と記載されている。本件明細書等の記載によれば,この「広
い開口面積を確保する本願の課題」については,1)既設下枠に存在した
室外側案内レールを切断撤去してできたスペースを利用することで広い
開口面積を確保し,「有効開口面積が減少することが少ない」(本件明
細書等【0060】)ようにすることを意味するものと理解することが
できる一方で,2)「背後壁の上端」と「改修用下枠の上端」とを「ほぼ
同じ高さ」とすることで「有効開口面積が減少することがな」い(【0
018】)ようにすることを意味するものと理解することも可能である。\nしかし,「広い開口面積を確保する本願の課題」を1)の意味に理解す
る場合,このような課題は本件明細書等の記載から見て本件発明により
当然に解決されるべきものであるから,本件特許に係る出願の審査段階
の当初から拒絶理由として通知されてしかるべきものである。ところが,
実際には,サポート要件違反の拒絶理由は,審査段階のみならず審判段
階でも1度目の拒絶理由通知では指摘されず,審判段階での2度目の拒
絶理由通知で指摘されたのであり,このような経緯に鑑みると,「広い
開口面積を確保する本願の課題」の意味を1)の趣旨でサポート要件違反
の拒絶理由通知がされたものと理解することは不自然というべきである。
他方,上記経過につき,審判合議体が,進歩性欠如の拒絶理由は「前
記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり」(構成要件\nE)との構成が追加されることで解消されると判断し,被控訴人らに更\nに補正の機会を与えるために,「広い開口面積を確保する本願の課題」
につき2)の意味を念頭にサポート要件違反の拒絶理由を通知したものと
理解するならば,2度目の拒絶理由通知の段階において敢えてサポート
要件違反の拒絶理由のみを通知したことも合理的かつ自然なこととして
把握し得る。現に,審判合議体は,「既設引戸を改修用引戸に改修する
際に有効開口面積が減少してしまうとういう課題を解決するものあっ
て」,「当該構成は引用文献や他の文献から容易になし得たものである\nとはいえず」との審決書の記載から明らかなとおり,サポート要件違反
の拒絶理由通知を契機として「前記背後壁の上端と改修用下枠の上端が
ほぼ同じ高さであり」という構成要件Eが追加されたことによりサポー\nト要件違反及び進歩性欠如の拒絶理由がいずれも解消されたものとして
判断しており,このことは上記理解と整合的である。
ウ 被控訴人らの主張について
(ア) 被控訴人らは,本件発明において,改修用下枠の上端と背後壁の上
端との高さの差に一定の制限を設けないと,室外側案内レールを切断
撤去することにより従来技術に比べ開口面積の減少を少なくし,広い
開口面積を確保することが可能になったにもかかわらず,その取付け\nスペースを利用しないことにより改修用下枠が取付けスペース内に沈
み込まないために,本件発明の効果を達成し得ない構成も文言上包含\nされてしまうことから,本件発明の効果を達成できる範囲内において,
既設下枠の背後壁の上端と改修用下枠の上端の高さの関係を規定した
のが構成要件Eの「ほぼ同じ高さ」であると主張する。\nしかし,取付けスペースを利用することを規定したいのであれば,例
えば,改修用下枠の一部が,既設下枠の室外側案内レール(切断して撤
去されている。)が存在した高さよりも低い位置に挿入されることを規
定するなど,端的に取付けスペースを利用することを明確にする補正を
すればよいのであって,取付けスペースを利用しない構成を除外する目\n的で既設下枠の背後壁の上端と改修用下枠の上端の高さの関係を請求項
に記載することの合理性は乏しいというべきである。
(イ) また,被控訴人らは,改修用引戸枠を既設引戸枠にかぶせて取り付
けるものである以上,有効開口面積は必ず減少するのであるから,本
件発明の課題(作用効果)を既設引戸を改修用引戸に改修する際に有
効開口面積を減少することがないようにすること(本件明細書等【0
018】)と理解するのは誤りであるとする。
しかし,本件明細書等には「有効開口面積が減少することが少ない」
(【0060】)と「有効開口面積が減少することがな」い(【001
8】)という異なる表現が用いられているのであるから,両者を区別し\nた上で,「有効開口面積が減少することがない」ことの意味を探求しよ
うとするのはむしろ当然である。そして,本件明細書等の記載からは,
本件発明は改修引戸装置の下枠の態様に重点が置かれたものと考えられ
るのであるから,その作用効果の説明を理解するに当たり下枠に着目し,
改修用引戸の取付けにより客観的には有効開口面積が減少していても,
「背後壁の上端」と「改修用下枠の上端」を文字通り「ほぼ同じ高さ」
とすることにより下枠に関しては「有効開口面積を減少することがない」
という作用効果が得られることが表現されていると解することには十\分
な合理性があるといえる。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成26(ワ)7643
この特許権の無効審判の審取はこちらです。
◆平成29年(行ケ)第10081号
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2018.06. 8
平成28(ワ)41720 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年5月31日 東京地方裁判所(47部)
国が被告の特許権侵害事件です。気象庁の緊急地震速報が特許侵害かが争われました。裁判所は、「地震の到来方向」を演算したり,これを警報・通報することを想定していないとして、請求が棄却されました。
緊急地震速報で発表する内容は以下のとおりである。
(ア) 緊急地震速報(警報)
・地震の発生時刻,震源の位置
・強い揺れ(震度5弱以上)及び震度4の地域の名称
(イ) 緊急地震速報(予報)
・地震の発生時刻,震源の位置,地震の規模(マグニチュード)
・強い揺れ(震度5弱以上)及び震度4の地域の名称
・予想される震度
・主要動の到達予想時刻
ウ 緊急地震速報の処理の流れは,以下のとおりである。
(ア) 観測点における震源推定処理
地震波を検知した観測点において地震波形を解析し,P波初動の時刻,
震央距離(B−Δ法による),震央方向(主成分分析法による),最大振幅,
リアルタイム震度等を求める。この処理は地震検知を契機に実施され,そ
の後毎秒,処理中枢(気象庁本庁・大阪管区気象台の処理中枢:EPOS)
に送信される。
(イ) EPOS中枢処理における震源推定処理
EPOSにおいて震源を推定する処理では,最初にどこかの観測点で地
震波を検知してから,時間が経過して「地震波を検知する観測点が増える」
のに合わせ,様々な手法により震源計算を繰り返す。震源計算の手法には,
IPF法,着未着法,EPOSによる自動震源決定処理があり,概ね時間
とともに精度が高くなる。
(ウ) マグニチュードの計算
前記の処理で推定した震源と観測した地震波の最大振幅を用いて,地震
の規模(マグニチュード)を毎秒推定する。
(エ) 震度等の予想
震源とマグニチュードを元に,地予想震度の精度も時間の経過とともに向上することが期待できる。
(オ) 情報の発表
震度等の計算結果が,発表条件・更新条件を満たすと,人手を介するこ\nとなく直ちに緊急地震速報を発表する。
(7) 上記(5),(6)のとおり,被告(気象庁)が行う緊急地震速報では,地震の観
測,データ処理,情報の発表を行うにすぎず,「受信」行為を行っていない(緊\n急地震速報を受信するのは,被告(気象庁)以外の第三者である。)。
また,仮に上記第三者の受信行為まで考慮に入れたとしても,被告の緊急地
震速報では,本件発明の「検出センタ」に相当する処理装置から「予想震度」\nや「到達予想時刻」が出力されており,受信機側で「予\想震度」や「到達時刻」
の演算が行われることは想定されておらず,したがって,個々の受信位置ごと
に異なる個別の情報が提供されることもない。
さらに,被告の緊急地震速報で発表される情報は,上記(6)イのとおりであ
り,その中に「地震の到来方向」は含まれていない。なお,インターネット検
索サイト Yahoo!JAPAN のニュースサイトに掲載された,高度利用者向け受信端
末の緊急地震速報に係る画像(甲5)上も,各地の予想震度を1つの地図内に\n図示しているにすぎず,地震データをそのまま告知に利用しており,個々の受
信機の受信位置ごとに異なる個別の情報である「地震の到来方向」を提供して
いない。したがって,上記地図をみた者は,自らの所在地と震源地とを比較す
ることで「地震の到来方向」を判断できるとしても,同地図上,「地震の到来方
向」自体が「警報・通報」されているものとはいえない。
このように,被告が行う緊急地震速報は,1)「受信」行為が含まれていない
ほか,仮に第三者の受信行為まで考慮に入れたとしても,2)受信機側で「予想\n震度」や「到達時刻」の演算が行われることが想定されておらず,3)地震デー
タをそのまま告知に利用しており,「地震の到来方向」を演算したり,これを警
報・通報することを想定していないから,いずれにしても,本件発明の構成要\n件(4)及び(5)を充足しない。これに反する原告の主張は,上記説示に照らして
採用できない。
◆判決本文
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2018.04.17
平成28(ワ)29320 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年3月29日 東京地方裁判所(46部)
技術的範囲に属すると判断されました。損害額として102条3項を主張しましたが、売上げに寄与する程度が小さいとして、減額されました。
上記(1)の記載によれば,本件発明1及び2は,熱可塑性樹脂発泡シートに
非発泡の熱可塑性樹脂フィルムを積層した発泡積層シートを成形してなる容
器について,熱可塑性樹脂発泡シートと熱可塑性樹脂フィルムとの硬さの差
により,容器に触れた際に,硬いフィルムで指等を裂傷するおそれがあるが,
突出部の上下面に凹凸を形成すると,蓋体を外嵌させる際に突起部が係合さ
れる突出部の下面側にも凹凸形状が形成されることとなって強固な係合状態
を形成させることが困難となり,端縁部での怪我を防止しつつ蓋体などを強
固に止着させることが困難であるという課題を,本件発明1の構成,特に上記端縁部の上面に凹凸形状を形成する一方で下面は平坦とする形状とすることによって解決することとしたものということができる。\nまた,上記(2)の記載を参酌すると,本件発明1及び2は,上記端縁部を,
厚みが圧縮されて薄肉化されたもので,かつ,上面に凹凸形状が存在するも
のとすることにより,その強度を強め,これによって蓋体を強固に止着させ
るという課題を解決するものということができる。
以上によれば,本件発明1及び2は,容器の突出部の端縁部の形状につい
て,上面に他の部分との厚みの差を付けて凹凸形状を形成するという形状と
することで端縁部での怪我を防止するとの課題を解決し,端縁部につき上記
の端縁部の形状とすることに加えて下面を平坦にすることで,蓋の強固な止
着を実現するという課題を解決し,これによって上記各課題の双方を解決す
ることを技術的意義とする発明である。
・・・・
以上によれば,本件明細書においても,発明の構成につき特許請求の範囲の記載と同様の記載がされ,その実施例においても,側周壁部の上端縁であり,被収容物が収容される収容凹部のへりといえる開口縁から外側に\n張り出して形成されているものが突出部とされている。実施例を示す図面
には突出部が水平で平坦な容器が示されているが,発明の詳細な説明欄に
は,突出部が平坦であることについての説明はなく,本件発明1及び2の
突出部を突出部が平坦なものに限る趣旨の記載は見当たらない。これらに
よれば,「開口縁」及び「突出部」については,上記アのように解するの
が相当であり,「突出部」は水平で平坦なものには限られない。
ウ これに対して,被告は,出願経過に照らし,本件発明1及び2は突出部
が水平で平坦である容器に関する発明であると主張する。
原告は,前記1(2)のとおり,「前記突出部の端縁部の…且つ該端縁部の」
と補正をしたものであるところ,証拠(乙12〔2〕)によれば,審判請
求書において,上記補正の根拠として,突出部の端縁部において熱可塑性
樹脂発泡シートが圧縮されて薄肉とされたものであることを明確にしたも
のであり,この点が本件明細書の例えば段落【0019】や【図3】b)
に記載されているもので,願書に添付した明細書及び図面に記載された事
項の範囲内のものである旨記載したことが認められる。
上記認定事実によれば,補正の前後に係る特許請求の範囲をみても,補
正された部分は「端縁部の上面」と「収容凹部の開口縁近傍の突出部の上
面」の位置関係と端縁部における形状についてであって,突出部の形状が
水平で平坦である旨の明示的な記載も示唆も見当たらないし,原告が主張
したのは本件明細書において発明の実施の形態として記載(段落【001
9】や【図3】b))があることから補正の要件を満たすということであ
るから,突出部の形状が水平で平坦なものに限定する趣旨を読み取ること
ができない。したがって,本件発明1及び2の容器の突出部が水平で平坦
であると解することはできず,被告の主張は採用できない。
・・・・
上記記載によれば,本件発明1及び2は前記1(3)のとおりの技術的意義
を持つもので,端縁部の下面が平坦であることとその厚みが薄いことの双
方が備わることで,それぞれの効果が生じ,蓋の強固な止着が実現するの
であって,端縁部が圧縮されて薄くなっていることと上面の位置との関係
に何らかの技術的意義があるものでないし,実施例においても何らの効果
も示されていない。そうすると,物の態様として「ように」の語が特段の
意味を有すると解することはできず,前記ア1)及び2)の各構成が両立していれば足りると解するのが相当である。
ウ これに対し,被告は,「突出部の端縁部において…薄くなっており」と
いう構成によってのみ「前記突出部の…下位となる」構\成が実現しなけれ
ばならないと解釈すべき旨を主張し,その根拠として本件明細書の記載
(段落【0019】),審判請求書(乙12)において上記部分に係る補正
の根拠を本件明細書の「例えば段落0019や図3(b)」と主張したと
いう出願経過を挙げる。
しかし,上記の本件明細書の記載(段落【0019】)は実施例の記載
であり,こうした実施例があることから上記のとおり解釈することは相当
でないし,当該記載が引用する【図3】b)によれば端縁部の下面も端縁
部以外の突出部の下面に比して下位となっており,端縁部を圧縮して薄く
しなくても端縁部の上面が端縁部以外の突出部の上面に比して下位となっ
ているとみる余地がある。補正の根拠に関する主張は,補正に係る部分が
本件明細書の記載の範囲内であることを指摘したものであって,説明した
部分に補正に係る部分の解釈を限定する趣旨を読み取ることはできない。
被告の主張は採用できない。
・・・
上記 1)によれば,プラスチック製品や容器についての一般的な実施
料率は2〜4%程度ということができる。また,・・・によれば,
本件発明1及び2の技術的意義が現れているのは容器の一部である端縁
部の形状に限定されるところ,一般的には端縁部における手指の切創を
防止することは顧客吸引力を持ち得るといえるものの,原告の製品にお
いて行われている上記「セーフティエッジ」加工は,蓋の端縁部の加工
であって本件発明1及び2の包装用容器に係る加工であるとは認め難く,
原告においても平成27年以降はこの加工の存在をカタログ等において
顧客に告知していない。被告においても,端縁部において手指の怪我が
生じ得るという課題を認識して顧客に告知する一方で,その部分の怪我
防止の措置について顧客に告知をしていない。そうすると,本件発明1
及び2の技術的意義が容器の売上げに寄与する程度は相当程度小さいも
のとならざるを得ないから,上記の一般的な実施料率よりも相当程度低
くすべきである。
以上によれば,本件発明1及び2の実施によって受けるべき相当な実
施料率は●(省略)●と認めるのが相当である。
ウ 損害の額
上記ア及びイによれば,本件発明1及び2の実施に対し受けるべき金銭
の額に相当するのは,1694万4217円であると認められる。
◆判決本文
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2018.04. 4
平成29(ネ)10091 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年3月14日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
控訴審でも技術的範囲外と認定されました。
イ号製品の構造上,「フック部」に相当し得るのは,先端部2及び曲折部1であり,\n「ボディ部」に相当し得るのは,2枚の樹脂板からなる,本体部3であり,「腹部」
に相当し得るのは,それぞれの樹脂板の,眼瞼縁又は医療用ドレープと対向する矩
形状の底面部分である。
証拠(甲18〜20,甲24の1,乙5,9)及び弁論の全趣旨によると,イ号
製品において,フック部に導かれた液体のうち,それぞれの樹脂板の矩形状の底面
部分を伝うものもあるが,その大部分は,2枚の樹脂板が対向する側面の間を伝っ
て排出されるものと認められる。したがって,それぞれの樹脂板の矩形状の底面部
分は,フック部により導かれた液体の大部分を伝わせて排出するものではないから,
イ号製品は,構成要件Gを充足しない。
ウ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,本件特許明細書における「腹部」とは,ボディ部の「腹側」
にあり,排液器と眼瞼縁との間で排液のための動力を生み出す「隙間」を形成する
部分を指し,「腹部」以外の「腹側」とは,上記「隙間」から離れたボディ部の側面
にあって,その形状によって大きな表面積を確保し,流路を拡大する機能\を営む部
分である,と主張する。
しかし,本件特許明細書の【図5】に係る実施例においては,腹部103aは,
丸みをもたせ,断面が略円形状であって,液体が表面を伝うに適した形状であると\n特定され(【0028】),【図11】に係る実施例においては,断面略V字形状に形
成されている箇所が腹部1103aと特定されている(【0041】)のであるから,
これらの箇所は,控訴人が主張するところの「濡れ性を利用して流路を拡大する部
分」も含んでいると認められる。また,【図5】に係る実施例において,液体の流量
が増え液面が上昇すると,液面と腹部の表面との「接点」が上昇する(【0028】)\nとされていることから,本件特許明細書においては,液体の流量が少ないときに液
面が接していなかった,「濡れ性を利用して流路を拡大する部分」も「腹部の表面」\nの一部とされていると認められる。
さらに,上記【0028】,【0041】の記載に鑑みると,控訴人が指摘する「ボ
ディ部103の腹部103aの表面と医療用ドレープ240とで形成された隙間が\n毛細管として機能し」(【0029】)及び「腹部1103aと眼瞼縁233との間に\n形成された隙間が毛細管として機能し」(【0042】)との記載は,腹部のうち眼瞼\n縁又は医療用ドレープに近接する部分が,眼瞼縁又は医療用ドレープとの間で毛細
管として機能していることを述べていると解すべきであって,これらの記載から,\n毛細管として機能する部分のみが腹部であるということはできない。【図5】の「1\n03a」の文字から出た線及び【図11】の「1103a」文字から出た線が指し
示す位置は,腹部の範囲(上限位置)を示すものとは解されない。
本件特許明細書の【図13】及び【図15】に係る実施例においては,控訴人が
主張するところの「毛細管現象を引き起こす部分」と「濡れ性を利用して流路を拡
大する部分」からなる凹凸の位置を説明するために「腹側」との表現が用いられて\nいるにすぎず,そのうちの「毛細管現象を引き起こす部分」を「腹部」であると解
する根拠とすることはできない。
したがって,毛細管として機能するか否かによって「腹部」が特定されていると\nも,「毛細管現象を引き起こす部分」か「濡れ性を利用して流路を拡大する部分」か
で,「腹部」と「腹側」との表現を使い分けているともいえない。控訴人の主張には,\n理由がない。
◆判決本文
原審はこちら。平成28(ワ)6357
◆判決本文
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2018.03.28
平成29(ネ)10092 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年3月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
一審(東地46部)は、技術的範囲に属しないと判断しましたが、知財高裁(4部)は属する、無効理由無しと判断しました。
前記1(2)のとおり,本件発明1の意義は,熱放散ブリッジに軸方向空気通
路を貫設せずに電力電子回路を冷却することにより,電子構成部品の配置に利用可\n能な空間を十\分に確保するという課題を達成するために,熱放散ブリッジの底面を
冷却流体通路の一方の壁とする構成を採用したことなどにある。すなわち,本件発\n明1は,冷却流体が,横方向に吸い込まれて,後部軸受けの中央スロット4b及び
4cの方に流れ,熱放散ブリッジの下方で冷却流体通路内を循環し,熱放散ブリッ
ジの底面及び冷却フィンを,それらの全長にわたって掃引した後,後部軸受けの側
部スロット4a及び4dを通って排出される構成とすることにより,熱放散ブリッ\nジの上面に搭載された電力電子回路が,冷却フィン及び熱放散ブリッジを介して,
伝導によって冷却されるという効果を奏するようにしたものである。
そして,このように構成要件1Gの冷却流体通路が,熱放散ブリッジを冷却する\nための構成であり,同通路を流れる冷却流体が,熱放散ブリッジの底面をその全長\nにわたって掃引するものであることからすると,冷却流体通路の長手方向壁のうち,
少なくとも熱放散ブリッジの底面により形成される壁は,冷却効率の観点から,冷
却流体通路の全長にわたっている必要がある。
(イ) 一方,本件明細書1には,構成要件1Gの冷却流体通路が,同通路の他方\nの長手方向壁を形成している後部軸受けを冷却するための構成であることは何ら記\n載されていない。そして,前記1(2)のとおり,本件発明1は,軸方向を流れる冷却
流体によって,機械内の冷却流体全体の流量が増加し,オルタネータの内部部品を
はるかに良好に冷却することができるという効果を奏するものであることからする
と,後部軸受けの冷却は,冷却流体通路を通る空気によってではなく,主に,空間
22を通る軸方向空気流により機械内の空気流量全体が増加することによって達成
されるものであると認められる。
そうすると,後部軸受けをもって冷却流体通路の壁を形成する構成とすることは,\n空気の流れを冷却流体通路に沿わせる目的を持つのみということになるため,必ず
しも,冷却通路全体にわたる必要はない。例えば,本件発明1の実施形態において,
後部軸受けの中央スロット4b及び4cの直上にある空気は,ファンによって後部
軸受け内部に流入し,絶えず側方からの空気と入れ替わるので,その直上の熱放散
ブリッジを冷却する空気流を形成することは,【図2】に示される構造から明らか\nであり,熱放散ブリッジを冷却するという機能に鑑みれば,中央スロット4b及び\n4cの部分には後部軸受けにより形成される壁はないものの,冷却流体通路に該当
するといえる。
(ウ) 以上のとおり,本件明細書1に記載された冷却流体通路の技術的意義に鑑
みると,構成要件1Gの冷却流体通路は,熱放散ブリッジの底面により形成される\n長手方向壁が全長にわたって設けられることを必要とする一方,後部軸受けにより
形成される長手方向壁が全長にわたって設けられることは,必ずしも必要ではない
と解される。
また,かかる解釈は,冷却流体通路と冷却フィンとの関係とも整合する。すなわ
ち,本件明細書1には,「この冷却手段は,通路17内に配置されて,選択された
通路に冷却流体を流す。」(【0054】)との記載があり,かつ,【図2】によ
れば,冷却フィンが熱放散ブリッジの底面の半径方向全長にわたって配置され,後
部軸受けが対向しない箇所にも存在していることが読み取れるのであるから,熱放
散ブリッジと中央スロット4b及び4cとが対向する箇所は,冷却フィンが配置さ
れる箇所という観点からも,熱放散ブリッジと後部軸受けとが対向する箇所と同様,
通路17の内部といえる。
加えて,仮に,熱放散ブリッジの底面及び後部軸受けの双方が壁をなしている部
分のみが冷却流体通路に該当すると解するならば,冷却流体通路の半径方向外側の
端部は,熱放散ブリッジの外周か後部軸受けの外周のうち軸側の部分となるところ,
【図2】を参照すると,後部軸受けの外周が保護カバー11に到達しておらず,後
部軸受けと保護カバーとの間に隙間が存在することは明らかであるから,冷却流体
通路は保護カバーと連通していないと理解される。しかし,本件明細書1には,「本
発明によれば,保護カバーは,流体通路17と向き合う位置に開口19を有する。
この開口は,通路17の外周と連通している。」(【0049】)として,通路1
7が保護カバーの開口と連通していることが記載されており,前記理解と整合しな
い。
ウ 以上のとおり,特許請求の範囲の記載,本件明細書1の記載及び本件発明1
における冷却流体通路の技術的意義を総合すれば,冷却流体通路は,熱放散ブリッ
ジの底面が冷却流体通路の全長にわたり長手方向壁を形成していることを要する一
方,後部軸受けにより形成される長手方向壁は冷却流体通路の全長にわたる必要は
ないと解される。
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◆一審はこちらです。平成28(ワ)13239
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2018.03. 5
平成29(ワ)5074 特許権に基づく差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年1月30日 東京地方裁判所
自動麻雀卓の特許について、文言を充足しないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。問題の文言は「牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」です。
本件発明に係る特許請求の範囲の記載に加え, 上記(1)の本件明細書の各記載,
特に【課題を解決するための手段】として「該円筒回転体の周面部位には前記
円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面を配設し,」,「前記円
筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるため前記吸着面の外側の軌道に
沿って配設した案内部材」「を設け,前記円筒回転体によって下方位置にて取
り上げられた牌は,前記案内部材にそって牌の向きを揃えながら上方に移動す
る」(段落【0008】)との記載を勘案すると,本件発明の構成要件I及びK\nは,それぞれ円筒回転体の周面部位に配設された「円筒回転体の一側端から牌
の横幅ほどの幅をもつ吸着面」上で,吸着面からはみ出た牌の部分に「前記吸
着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」を当接させることによって,牌
の向きを揃えるという技術的意義を有するものと認められる(なお,本件明細
書の「図10及び図11を参照して、吸着面401Bに様々な角度にて吸着し
た牌10が、整列機構500により縦長方向に整列する動作について説明する。\n案内部材501の入り口付近で吸着面401Bからはみ出た側面が、案内部材
先端502に接触して抵抗を受けるが、牌10に埋設されている磁石11の中
心が、円筒回転体401に埋設されている磁石401Cの中心に吸引されて回
転しながら向きを変え、当該側面が案内部材501の内壁面501Aと並行状
態になって整列機構500の内部に進入する。」との実施例の記載(段落【00\n33】)も上記認定を裏付けるものといえる。)。
そうすると,本件発明の構成要件Iの「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほ\nどの幅をもつ吸着面」は,吸着面の幅が,牌の横幅(短辺)と同一か,牌の吸
着面からはみ出た部分に案内部材を接触させることによって牌の方向を揃え
ることができる程度に狭くなっていることを意味し,少なくとも牌の縦幅に近
似した幅を有する吸着面はこれに含まれないと解するのが相当である。また,
構成要件Kの「前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」は,吸着\n面の幅が上記のようなものであることを前提として,吸着面からはみ出した牌
の部分に当接して牌の向きを揃えることができる位置に案内部材を配設する
ことを意味し,少なくとも吸着面の外側の軌道に近似する線よりも内側に配設
された案内部材はこれに含まれないと解するのが相当である。
そこで,まず,構成要件Iの充足性について検討するに,各被告製品の吸着\n面の幅(円筒回転体の一側端からの幅)が32.6mmであるのに対し,牌の横
幅は24.0mm,牌の縦幅は32.9mmであって(乙4及び当事者間に争い
がない事実),各被告製品の吸着面の幅はむしろ牌の縦幅に近似するものと認
められるから,構成要件Iの「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をも\nつ吸着面」を充足しない。
これに対し,原告は,1)吸着面の幅は牌の横幅より9mmほど長めであるに
すぎない,2)本件明細書の段落【0009】の記載からすると,円筒回転体の
幅が牌の縦幅と略等しい場合にも構成要件Iを充足することが強く示唆され
ているなどと主張する。
しかしながら,まず,上記1)について,各被告製品は,吸着面の幅が牌の横
幅より9mmも長い一方で牌の縦幅よりわずかに0.3mm短いにすぎないの
であるから,円筒回転体の周面部位に配設された「円筒回転体の一側端から牌
の横幅ほどの幅をもつ吸着面」上で,吸着面からはみ出た牌の部分に「前記吸
着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」を当接させることによって,牌
の向きを揃えるという本件発明の技術的意義(上記(2))を発揮させることができ
ない。また,上記2)について,被告が指摘する本件明細書の段落【0009】
の記載は,「円筒回転体の幅は牌の縦幅と略等しい寸法でよく」としているに
すぎず,吸着面の幅が牌の縦幅とほぼ等しい場合に構成要件Iを充足すること\nの根拠となるものとは認め難い(なお,本件明細書の段落【0021】及び図
7には,円筒回転体の幅が牌の縦幅と略等しい長さ(lL )であるのに対し,
吸着面の幅が牌の横幅分の長さ(ls )である実施例が開示されている。)。し
たがって,原告の主張はいずれも採用の限りでない。
次に,構成要件Kの充足性について検討するに,乙2の写真3及び4並びに\n弁論の全趣旨によれば,各被告製品の案内部材は吸着面の外側の軌道から約5.
6mmも内側に配設されていると認められるから,前記(2)に説示したところに
よれば,各被告製品は,構成要件Kの「前記吸着面の外側の軌道に沿って配設\nした案内部材」も充足しない。
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2017.12.13
平成29(ワ)393 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年11月30日 東京地方裁判所(46部)
構成要件Aを充足しないとして非侵害と判断しました。被告は桐灰で、被告商品はサイト上では、生産中止扱いとなっています。
被告製品の不織布が構成要件Aの「不織布シート」に当たることは当事者\n間に争いがないところ,原告は,その表面にシリカ(SiO2)が付着して\nいるから,構成要件Aの「表\面に吸着・乾燥剤を付着させた」を充足すると
主張する。
(2)本件発明の特許請求の範囲にはいかなる物が「吸着・乾燥剤」に当たるか
は記載されていないが,本件明細書(甲2)には,「吸着・乾燥剤としては,
二酸化珪素(SiO2)等の吸水性,吸着性を有する無機粉体を採用するの
が好ましい。」と記載されている(段落【0020】)から,吸水性,吸着性
を有するシリカ(SiO2。証拠(乙11)及び弁論の全趣旨によれば,
「シリカ」は二酸化ケイ素の通称であると認められる。)の無機粉体は「吸
着・乾燥剤」に当たり得ると解される。
・・・
イ 上記ア の認定事実によれば,剥離紙を除く被告製品に一定量のシリカ
が含まれているということができる。
しかし,前記前提事実(3)のとおり,剥離紙を除く被告製品には不織布以
外の層があるところ,上記ア の計量においては,剥離紙を除く被告製品
全体を試料としているから,不織布の表面以外の部分に含まれるシリカが\n検出された可能性を否定することができない。加えて,同 の試験におい
ては,被告製品から剥離紙,粘着剤及び粘着剤のついたフィルムを除いた
試料からシリカが検出されることはなかったこと,同 のとおり被告製品
の不織布層の表面において乾燥剤に該当し得ない物体以外のものが検出さ\nれなかったことにも鑑みると,被告製品の不織布の表面にシリカが付着し\nていると認めることはできない。また,被告製品に一定量のシリカ(Si
O2)が含まれているとしても,それが吸収性,吸着性を有するものとし
て被告製品に存在することを認めるに足りる証拠もない。
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2017.12. 6
平成28(ワ)7649 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年11月21日 大阪地方裁判所
発明特定事項「裾絞り部」について、明細書の記載および出願経過から、限定解釈されました。
「裾絞り部」の形状については,構成要件Gで特定されているとおり「底部に近\nづくに連れて先細りとなる」ものであり,本件明細書において,「裾絞り部」につ
き,「垂直に延在するのではなく,裾絞り状に傾斜している」(【0015】)と
説明されている上,構成要件G及びHを含まない出願当初の特許請求の範囲の請求\n項 1 を削除した上記(2)認定の本件特許の出願経過に照らしても,裾絞り部は,それ
が直線であっても,曲線であっても,少なくとも,垂直の部分を含むことなく,蛇
腹部から底部にかけて,徐々に先細りになっていくものに限定されていると解され
る。
(5) まとめ
したがって,構成要件Gにいう「裾絞り部」とは,胴部において「蛇腹部」と「底\n部」の間にあって,それぞれに接続部で連続して存在するものであり,また「蛇腹
部」との接続部において「垂直に延在」する部分があっても許容されるが,それは
極く限られた幅のものにすぎないのであり,またその形状は,「蛇腹部」方向から
「底部」方向に向けて,徐々に先細りになっているものということになる。
(6) 以上の「裾絞り部」の解釈を踏まえ,被告容器が裾絞り部を備え,構成要件\nGを充足しているかを検討する。
ア 原告は,別紙「被告容器の構成(原告の主張)」記載の図面で「湾曲部」と\n指示した部分が「裾絞り部」に相当し,同部分の存在により構成要件Gを充足する\nと主張し,併せて,その上部にある垂直部分は,本件明細書の【0015】にいう
「接続部」にすぎないとしている。
しかしながら,上記検討したとおり,「裾絞り部」は,「蛇腹部」から接続部で
連続しているものであるが,この接続部は,極く限られた幅の範囲であるべきであ
って,上記図面に明らかなように,被告容器における原告主張に係る「裾絞り部」
に相当する湾曲部と蛇腹部の間に存する,湾曲部と高さ方向の幅がほぼ一緒である
垂直に延在する部分をもって「接続部」にすぎないということはできない。
したがって,被告容器は,上記定義した「裾絞り部」で構成されるべき「蛇腹部」\nから「底部」にかけて胴部の大半が,「裾絞り部」に該当しない部分で構成されて\nいるということになるから,被告容器は,「裾絞り部」を備えているものというこ
とはできない。
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2017.11.10
平成28(ワ)35182 特許権 平成29年10月30日 東京地方裁判所(29部)
サイバーエージェントに対するCS関連特許侵害事件です。裁判所は文言・均等侵害を否定しました。均等の第1、第5要件を満たさないと判断されています。
これを本件について見ると,前記2で詳述したとおり,本件発明は,「その決定
したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算する課金手段を備え」(構成\n要件C)ており,また,「表示部に仮想モールと,基本パーツを組み合わせてなる\n基本キャラクターとを表示させ」(構\成要件F),「基本キャラクターが,前記仮
想モール中に設けられた店にて前記パーツを購入する」(構成要件G)構\成を有し
ているのに対し(なお,「仮想モール」は,内部に複数の仮想店舗と遊歩のための
空間とが表示されるものをいい,「基本キャラクター」と同時に表\示される必要が
あると解すべきこと,「仮想モール中に設けられた店」で「パーツ」を購入する際
にも「基本キャラクター」が表示される必要があると解すべきことも,前記2のと\nおりである。),被告システムは,少なくとも,「キャラクターに応じた情報提供
料」を「通信料」に「加算」する構成を備えていない点,「仮想モール」に対応す\nる構成を有していない点において,それぞれ本件発明と相違するところ,以下のと\nおり,これらの相違部分は,本件発明の本質的部分に当たるというべきであるから,
被告システムは,均等の第1要件(非本質的部分)を満たさない。
イ 本件明細書の前記1(2)アないしエの各記載によれば,本件発明は,携帯端末
の表示部に気に入ったキャラクターを表\示させることができる携帯端末サービスシ
ステムに関するものであって(【0001】),あらかじめ携帯端末自体のメモリ
ーに保存してある複数のキャラクター画像情報から,気に入ったものを選択して,
その携帯端末の表示部に表\示するなどの従来技術では,携帯端末自体のメモリーに
保存できる情報量には限りがあるため,キャラクター選択にあまり選択の幅がなく,
ユーザーに十分な満足感を与え得るものではなく,サービス提供者にとっても,キ\nャラクター画像情報により効率良く利益を得るのは困難であったことから(【00
02】,【0003】),同問題点を解決し,「ユーザーが十分な満足感を得るこ\nとができ,且つ,サービス提供者は利益を得ることができる携帯端末サービスシス
テムを提供する」ため(【0004】),本件特許請求の範囲の請求項1記載の構\n成(構成要件Aないし同Hの構\成)を備えることにより,ユーザーにとっては,キ
ャラクター選択をより楽しむことができ,また,サービス提供者にとっては,キャ
ラクター画像情報の提供により効率良く利益を得ることができ(【0005】),
さらに,ユーザーは,種々のパーツを組み合わせてキャラクターを創作するという
ゲーム感覚の遊びをすることができ,十分な満足感を得ることができ,また,「仮\n想モールと,基本キャラクターとが表示された表\示部を見ながら,基本キャラクタ
ーを自分に見立て,さながら自分が仮想モール内を歩いているようなゲーム感覚で,
その仮想モール内に出店された店に入り,パーツという商品を購入することで,基
本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替えて,楽しむことができ,新た
な楽しみ方ができて十分な満足感を得ることができる」(【0006】)というも\nのとされていることが理解できる。
そうすると,本件明細書では,本件発明は,サービス提供者がキャラクター画像
情報により効率良く利益を得るのは困難であったという従来技術の問題点を解決し
て,サービス提供者が画像情報の提供により効率良く利益を得ることができる携帯
端末サービスシステムを提供することを目的の一つとするものであって,構成要件\nCの「その決定したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算する課金手段
を備え」るとの構成は,まさに,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決\n(サービス提供者がキャラクター画像情報により効率良く利益を得ることができる
携帯端末サービスシステムを提供すること)を実現するための,従来技術に見られ
ない特有の技術的思想に基づく解決手段(課金手段)としての具体的な構成として\n開示されているものいうべきである。また,本件発明は,ユーザーに十分な満足感\nを与え得るものではなかったという従来技術の問題点を解決して,ユーザーが十分\nな満足感を得ることができる携帯端末サービスシステムを提供することを他の目的
とするものであって,「表示部に仮想モールと,基本パーツを組み合わせてなる基\n本キャラクターとを表示させ」るとの構\成を含む構成要件F及び「基本キャラクタ\nーが,前記仮想モール中に設けられた店にて前記パーツを購入する」との構成を含\nむ構成要件Gは,さながら自分が仮想モール内を歩いているようなゲーム感覚で商\n品を購入するなどして十分な満足感を得ることができるという本件発明に特有な作\n用効果に係るものであって,構成要件A,同B,同D及び同Eとともに,まさに,\n従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決(ユーザーが十分な満足感を得る\nことができる携帯端末サービスシステムを提供すること)を実現するための,従来
技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段(ゲーム感覚の実現)として
の具体的な構成として開示されているものというべきである。\n他方で,後述する引用例1(乙6)の開示(iモード上に用意された複数のキャ
ラクタ画像を受信し,これを待受画面として利用することができる携帯電話機)及
び引用例2(乙7)の開示(画像情報の提供に係る対価の課金を通話料金に含ませ
るもの)に照らすと,本件明細書において従来技術が解決できなかった課題として
記載されているところは,客観的に見て不十分であるといい得るが,本件明細書の\n従来技術の記載に加えて,引用例1及び同2の開示を参酌したとしても,本件発明
は,ユーザーが十分な満足感を得ることができ,かつ,サービス提供者が利益を得\nることができる携帯端末サービスシステムを提供するものであり,従来技術では達
成し得なかった技術的課題の解決を実現するための具体的な構成として,構\成要件
AないしHを全て備えた構成を開示するものであるから,これら全てが従来技術に\n見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分に当たるというほかない。\n以上によれば,本件発明と被告システムとの相違部分は,いずれも本件発明の本
質的部分に係るものと認めるのが相当である(なお,上記認定判断は,後述する本
件特許の出願経過とも整合するところである。)。
・・・・
上記アの出願経過に照らせば,原告は,構成要件A,同B,同C及び同Hからな\nる発明(出願当初の特許請求の範囲の請求項1に係る発明)及び構成要件A,同B,\n同C,同D,同E及び同Hからなる発明(出願当初の特許請求の範囲の請求項2に
係る発明)については,特許を受けることを諦め,これらに代えて,構成要件A,\n同B,同C,同D,同E,同F,同G及び同Hからなる発明(出願当初の特許請求
の範囲の請求項1に同2及び同5を統合した発明,すなわち本件発明)に限定して,
特許を受けたものといえる。
そうすると,原告は,構成要件F(「表\示部に仮想モールと,基本パーツを組み
合わせてなる基本キャラクターとを表示させ」)及び同G(「基本キャラクターが,\n前記仮想モール中に設けられた店にて前記パーツを購入する」)の全部又は一部を
備えない発明については,本件発明の技術的範囲に属しないことを承認したか,少
なくともそのように解されるような外形的行動をとったものといえる。
したがって,「仮想モール」に対応する構成を有していない被告システムについ\nては,均等の成立を妨げる特段の事情があるというべきであり,同システムは,均
等の第5要件(特段の事情)を充足しない。
◆判決本文
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2017.10.27
平成28(ネ)10074等 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成29年10月5日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
一審では本件特許2についても特許権侵害と認定されましたが、知財高裁はこれについては、被告製品は技術的範囲に属しないと判断しました。
一審被告製品は,本件発明2の構成要件2Fを充足しないので,その技術的範囲\nに属するとは認められない。その理由は,以下のとおり原判決を補正するほかは,
原判決の第3の3記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決51頁6行目〜52頁6行目を,以下のとおり改める。
「ア 一審原告は,乙1のSIMS分析結果によると,一審被告製品において,
活性層のp型窒化物半導体層側の障壁層B11〜障壁層BLの領域に含まれる複数の
障壁層のSi濃度は,5×1016/cm3未満であると合理的に推認される旨主張する。
そこで,検討すると,乙1のSIMSチャート図では,Si濃度は,n型窒化物
半導体層側からp型窒化物半導体層側に向かって下降し,いったん5×1016/cm3
付近まで落ちた後,p型窒化物半導体層側に向かって上昇していることが観察され
る。
この点について,一審原告は,Si濃度の上昇は試料の表面汚染の影響を受けた\nものであり,この表面汚染の影響を除外して考えれば,Siをアンドープにした後,\np側に向けて再びSiをそれよりも高い濃度でドープすることは考えられないから,
Si濃度は,5×1016/cm3未満であると考えられると主張する。しかし,一審被告
製品における表面汚染の有無及び程度は明らかでなく,一審被告製品における表\面
汚染について定量的な主張立証がされているわけでもない。また,証拠(甲37,
39,乙44,45)と弁論の全趣旨によると,井戸層にはSiがドープされてい
ないから,そのためにSIMSチャートでは障壁層のSi濃度が低く現れることが
あること,Si濃度のプロファイルには,ノイズによる「ゆれ」があることが認め
られるから,Si濃度がいったん5×1016/cm3付近まで落ちていることから,直ち
に,一審被告製品において障壁層のSi濃度が5×1016/cm3を下回っていたと認
めることは困難である。
そうすると,乙1のSIMSチャート図から,p型窒化物半導体層側の障壁層B
Lを含む複数の障壁層のSi濃度は,5×1016/cm3未満であると合理的に推認され
ると認めることはできない。・・・」
◆判決本文
◆原審はこちら。平成26(ワ)8905
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2017.08.11
平成28(ワ)21346 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年7月20日 東京地方裁判所(46部)
CS関連発明について、技術的範囲に属しないと判断されました。
原告は,上記2)の売りの指値注文が約定した時点が構成要件Eの「検出\nされた前記相場価格の高値側への変動幅が予め設定された値以上となった」\nに該当すると主張し,それによって,高値側の「新たな一の価格」及び
「新たな他の価格」の注文情報群が生成されているとする(原告第3準備
書面17,18頁等)。
そこで,このことを前提として検討すると,被告サービスにおいては,
上記のとおり,上記2)の時点の直後に高値側に買いの成行注文及び売りの
指値注文(上記4)の各注文)の注文情報が生成,発注された。
もっとも,上記4)の各注文のうち,売り注文は指値注文であるが買い注
文は成行注文であるところ,前記(2)のとおり構成要件Eの「注文情報」は\n指値注文に係る注文情報をいい,成行注文に係る注文情報を含まないと解
される。そうすると,4)の買い注文に係る注文情報は,構成要件Eの新た\nな「第一注文情報」に該当しないというべきである。
他方,上記6)の注文はいずれも指値注文であり,これらの注文に係る注
文情報は構成要件Eの「第一注文情報」及び「第二注文情報」に該当し得\nるものといえる。しかし,6)の各注文は,2)の時点の直後に3)の各注文が
された後,3)の成行の買い注文の約定価格よりも高値側に価格が変動し,
3)の売りの指値注文が約定した5)の時点の後にされるものである。そうす
ると,6)の各注文に係る注文情報は,「検出された前記相場価格の高値側
への変動幅が予め設定された値以上となった」時点である2)の時点におい
て,成就の有無が判断できる他の条件の付加なく,また,直ちに生成され
たものということはできない。別表1の取引においても,6)の注文は,2)
の時点から約35時間50分後にされ,また,その間に5)の売りの指値注
文の約定等がされた後にされている。
そうすると,「検出された前記相場価格の高値側への変動幅が予め設定\nされた値以上となった場合」に,上記6)の注文に係る「第一注文情報」及
び「第二注文情報」が「設定」されたということはできない。
ウ 以上によれば,被告サービスは構成要件Eの「検出された前記相場価格\nの高値側への変動幅が予め設定された値以上となった場合,・・・高値側\nに・・・新たな前記第一注文情報と・・・新たな前記第二注文情報とを設
定」を充足しない。
(6) これに対し,原告は,1)「注文情報」につき,ア)本件発明の特許請求の範
囲上,指値注文か成行注文を区別していない,イ)本件発明の効果に照らすと
注文が指値注文か成行注文かを区別する必要がない,ウ)発明の実施に形態に
おける注文に成行注文が含まれる旨の記載がある,以上のことから成行注文
が含まれると解すべきであると,2)「場合」につき上記条件以外の条件を付
加することを排除する趣旨でないと,3)「設定」につき実際に注文情報を生
成するものでなく,情報を生成し得るものとして記録しておけば足りると,
4)被告サービスは指値注文のイフダンオーダーの中に本件発明を構成しない\n買いの成行注文を付加したものにすぎないと各主張する。
しかし,上記1)につき,ア)は,本件明細書において,「注文情報」の語そ
れ自体は指値注文と成行注文の区別を明示していない一方で,前記(2)アのと
おり,特許請求の範囲の記載全体をみれば,構成要件Eを含む特許請求の範\n囲の記載における「注文情報」は指値注文をいうと解されるのであり,イ)は
背景技術,発明が解決しようとする課題の各記載(前記1(1)ア,イ)の趣旨
を併せて考慮するとむしろ指値注文のイフダンオーダーに関する発明である
ことが示唆される。ウ)は,本件明細書の発明の実施の形態の記載(前記1(2))
によれば,当該形態においては成行注文も生成され得る(段落【0031】)
一方で通常の成行注文につきイフダンオーダーの手順(ステップS21〜2
8)を行わないとされている(段落【0101】,【図3】,【図4】)から,
生成された成行注文はイフダンオーダーに関する注文を構成しないことが明\nらかである。そうすると,原告が指摘する上記ア)〜ウ)はいずれも構成要件E\nの「注文情報」に成行注文が含まれると解すべき根拠とならない。
上記2)及び3)については,前記(3)及び(4)において説示したところ
上記4)につき,前記?に説示したとおり,被告サービスにおける買いの成
行注文(注文番号97)は売りの指値注文(同96)と同時に注文されてい
るから,当該成行注文がイフダンオーダーの一部を構成していると認められ\nるところ,前記の「注文情報」,「場合」,「設定」の各解釈に加え,本件発明
の意義が指値注文のイフダンオーダーを相場価格の変動にかかわらず自動的
に繰り返し行うことにあることを前提とすれば,イフダンオーダーにおいて
成行注文を介在させる構成は,本件発明において解決すべき課題と異なるこ\nと,成行注文によって直ちに金融商品のポジションを得る効果が得られるこ
とにおいて本件発明の構成と異なるものであるから,これを本件発明外の付\n加的構成とみることはできない。\n
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2017.08.11
平成28(ワ)14868 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年7月12日 東京地方裁判所(40部)
CS関連発明についての特許権侵害事件です。文言「送信したとき」が論点となりました。「送信したことを条件として」という意義として、非侵害と判断しました。
イ ところで,広辞苑第六版(甲9)によれば,「とき」とは,「(連体修飾
語をうけ,接続助詞的に)次に述べることの条件を示すのに使う。…の場
合。」を意味するものであり,また,大辞林第三版(甲10)においても
「(連体修飾句を受けて)仮定的・一般的にある状況を表す。(...する)
場合。」とされており,用字用語新表記辞典(乙22)では「『とき』は条\n件・原因・理由・その他,『場合』よりも小さい条件のときに用いること
がある。」,最新法令用語の基礎知識改訂版(乙23)では「『時』は時点
や時刻が特に強調される場合に使われるのに対して,『とき』は一般的な
仮定的条件を表す場合に使われる。」と記載されている。これらからすれ\nば,構成要件1D及び1Fにおける「送信したとき」の「とき」は,条件\nを示すものであると解するのが相当である。
ウ この点に関して原告は,「送信したとき」の「とき」は「同じころ」と
いう意義を有するものであり,「ある程度の幅をもった時間」を意味する
と主張する。
たしかに,広辞苑第六版及び大辞林第三版には,上記イで指摘した意義
の他に,原告が主張するような意義も掲載されている(甲9,10)。し
かし,広辞苑第六版(甲9)には「おり。ころ。」を意味する「とき」の用
例として「ときが解決してくれる」「しあわせなときを過ごす」といった
ものが掲載されており,「送信したとき」のような具体的な行為を示す連
体修飾語を受けた用例は記載されていない。また,大辞林第三版(甲10)
をみると「ある幅をもって考えられた時間」を意味する「とき」の用例と
して,「将軍綱吉のとき」「ときの首相」「ときは春」などというものが
掲載されており,やはり「送信したとき」のような具体的な行為を示す連
体修飾語を受けた用例は記載されていない。
そして,抽象的で,空間的及び時間的に広い概念を表現した上記各用例\nと比べると,「送信したとき」という表現は,その指し示す行為が相当程\n度に具体的かつ直接的であることから,およそ用いられる場面が異なると
いうべきである。
また,原告が指摘する審決(甲11)には,「とき」という用語につい
て「ある程度の幅を持った時間の概念を意味する」旨の判断がされている
が,当該審決は,「前記9個の可変表示部の可変表\示が開始されるときに,
前記転送手段によって前記判定領域に転送された前記特定表示態様判定用\n数値情報を読み出して判定する」という記載における「前記9個の可変表\n示部の可変表示が開始されるときに」という文言について,「前記9個の\n可変表示部の可変表\示が開始されると『同時』又は『間をおかずに』」と
いう意味ではなく,「前記9個の可変表示部の可変表\示が開始され」た後,
「前記特定表示態様判定用数値情報を読み出して判定する」までの間に他\nの処理がされるとしても,「前記9個の可変表示部の可変表\示が開始され
るときに」に当たると判断したものであって,「前記転送手段によって前
記判定領域に転送された前記特定表示態様判定用数値情報を読み出して判\n定」した後に「前記9個の可変表示部の可変表\示が開始され」たとしても,
上記文言を充足するなどと判断したものではないから,本件における「送
信したとき」の解釈において参酌することは相当ではない。
そうすると,構成要件1D及び1Fの「送信したとき」における「とき」\nが「ある程度の幅をもった時間」を意味するものということはできない。
また,本件明細書等1をみても,「送信したとき」の「とき」について,
「条件」ではなく「時間」を意味することをうかがわせる記載はない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ 以上から,構成要件1D及び1Fの「送信したとき」とは,「送信した\nことを条件として」という意義であると認めることが相当である。
・・・・
以上からすると,被告サーバは,第二のメッセージを受信したことを条件
として「マイミク」であることを記憶し,「マイミク」である旨の記憶をし
たことを条件として「第二のメッセージ」を送信するという構成を有してい\nるものであって,第二のメッセージを送信したことを条件として「マイミク」
であることを記憶するという構成を有するものではないと認められる。\nしたがって,被告サーバは,「第二のメッセージを送信したとき」に「上
記第一の登録者の識別情報と第二の登録者の識別情報とを関連付けて上記記
憶手段に記憶する手段」を有しているということはできないから,その余の
点について判断するまでもなく,構成要件1D及び1Fを充足しない。\n
◆判決本文
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2017.08.11
平成29(ネ)10014 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成29年7月20日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
本件発明の「緩衝剤」は,添加したものに限られると判断して、技術的範囲に属しないと判断されました。
確かに,本件明細書の段落【0050】には「実施例18」との記載はあ
るが,他方で,本件明細書における実施例18(b)に関する記載をみると,「比較
のために,例えば豪州国特許出願第29896/95号(1996年3月7日公開)
に記載されているような水性オキサリプラチン組成物を,以下のように調製した」
(段落【0050】前段)と記載され,また,実施例18の安定性試験の結果を
示すに当たっては,「比較例18の安定性」との表題が付された上で,実施例1\n8(b)については「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」と表現されている\n(段落【0073】)。そして,豪州国特許出願第29896/95号(1996
年3月7日公開)は,乙4発明に対応する豪州国特許であり,同特許は水性オキサ
リプラチン組成物に係る発明であって,本件明細書で従来技術として挙げられる
もの(段落【0010】)にほかならない。
上記各記載を総合すると,実施例18(b)は,「実施例」という用語が用いら
れているものの,その実質は本件発明の実施例ではなく,本件発明と比較するため
に,「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」,すなわち,緩衝剤が用いられていな
い従来既知の水性オキサリプラチン組成物を調製したものであると認めるのが相当
◆判決本文
◆原審はこちらです。平成27(ワ)28467
以下は類似案件です。
◆平成27(ワ)12412号
◆被告の異なる事件です。
◆これの原審はこちらです。平成27(ワ)28698
◆被告の異なる事件です。平成27(ワ)29001
◆被告の異なる事件です。平成27(ワ)29158
◆被告の異なる事件です。平成27(ワ)28467
◆被告の異なる事件です。平成27(ワ)28698
◆被告の異なる事件です。平成27(ワ)29159
◆被告の異なる事件です。平成27(ワ)12412
◆被告の異なる控訴審事件です。平成28(ネ)10046
こちらは、結論は非侵害で同じですが、1審では技術的範囲に属すると判断されましたので、それが取り消されています。また、控訴審における追加主張は時期に後れた抗弁として、却下されてます。
◆平成28(ネ)10031
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2017.07.28
平成29(ネ)10009等 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成29年7月12日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁(3部)は、1審の判断(「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まない)を維持し、控訴棄却しました。
本件発明1の構成要件1C(オキサリプラティヌムの水溶液からなり)\nが,オキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であることを意味するの
か,オキサリプラティヌムと水からなる水溶液であれば足り,他の添加剤等
の成分が含まれる場合をも包含するのかについては,特許請求の範囲の記載
自体からは,いずれの解釈も可能である。そこで,この点については,本件\n明細書1の記載及び本件特許1の出願経過を参酌して判断することとする。
・・・
前記アの本件明細書1の記載によれば,オキサリプラティヌムは,種々
の型の癌の治療に使用し得る公知の細胞増殖抑制性抗新生物薬であり,本
件発明1は,オキサリプラティヌムの凍結乾燥物と同等な化学的純度及び
治療活性を示すオキサリプラティヌム水溶液を得ることを目的とする発明
である。そして,本件明細書1には,オキサリプラティヌム水溶液におい
て,有効成分の濃度とpHを限定された範囲内に特定することと併せて,
「酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まない
オキサリプラティヌム水溶液」を用いることにより,本件発明1の目的を
達成できることが記載され,「この製剤は他の成分を含まず,原則とし
て,約2%を超える不純物を含んではならない」との記載も認められる。
他方で,本件明細書1には,「該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,
緩衝剤もしくはその他の添加剤」を含有する場合に生じる不都合について
の記載はなく,実施例においても,添加剤の有無についての具体的条件は
示されておらず,これらの添加剤を入れた比較例についての記載もない。
しかしながら,前記イの出願経過において控訴人が提出した本件意見書
には,本件発明1の目的が,「オキサリプラティヌム水溶液を安定な製剤
で得ること」及び「該製剤のpHが4.5〜6であること」に加えて,
「該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加
剤を含まないこと」にあること,さらに,水溶液のpHが該溶液に固有の
ものであって,オキサリプラティヌムの水溶液の濃度にのみ依存するこ
と,オキサリプラティヌムの性質上,本件発明1の構成においてのみ,\n「安定な水溶液」を得られることがわざわざ明記され,これらの記載を受
けて,審査官が拒絶理由通知の根拠とする引用文献1ないし3では,その
ような「安定な水溶液」は得られないこと,すなわち,緩衝剤を含む凍結
乾燥物やクエン酸を含む水溶液では,「オキサリプラティヌムの安定な水
溶液」を得ることは困難である旨が具体的に説明されている。
その上で,本件意見書は,本件発明1が特許法29条2項に該当しない
との結論を導いて審査官に再考を求めているのであり,その結果として控
訴人は,本件特許1の特許査定を受けているのである。
以上のような本件明細書1の記載及び本件特許1の出願経過を総合的に
みれば,本件発明1は,公知の有効成分である「オキサリプラティヌム」
について,直ぐ使用でき,承認された基準に従って許容可能な期間医薬的\nに安定であり,凍結乾燥物を再構成して得られる物と同等の化学的純度及\nび治療活性を示す,オキサリプラティヌム注射液を得ることを課題とし,
その解決手段として,オキサリプラティヌムを1〜5mg/mlの範囲の
濃度と4.5〜6の範囲のpHで水に溶解することを示すものであるが,
更に加えて,「該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくは
その他の添加剤を含まない」ことをも同等の解決手段として示すものであ
ると認めることができる。
してみると,本件発明1の特許請求の範囲における「オキサリプラティ
ヌムの水溶液からなり」(構成要件1C)とは,本件発明1がオキサリプ\nラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含ま
ないものであることを意味すると解するのが相当である。
◆判決本文
◆1審はこちらです。
関連事件(同一特許、異被告)です。
◆平成27(ワ)28699等
◆平成27(ワ)29001
◆平成27(ワ)29158
同一特許の別訴事件で、1審(平成27(ワ)12416号)では技術的範囲内と判断されましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
◆平成28(ネ)10031
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2017.06.16
平成29(ネ)10005 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成29年6月13日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
被告製品が構成要件「加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも柔軟な」を充足するかが争われました。知財高裁(4部)は、1審同様、充足しないと判断しました。
本件各発明は,メラミン系樹脂発泡体からなる清掃具における「折り畳み可能な\n清掃具の変形能や,清掃対象面の形態に応じて変形可能\な清掃具の柔軟性等」が乏
しいという課題(【0006】)を解決することを目的とするものであり,その効
果は,「捩じり又は絞ったり,或いは,手指の動きに応じて多様な清掃対象物の汚
れを拭き取るといった布雑巾的な用法で使用可能な」ものを提供する(【0011】)\nというものであることからも,本件各発明における圧縮・加熱の工程を経たメラミ
ン系樹脂発泡体が,加熱前のメラミン系樹脂発泡体「よりも柔軟な」ものになった
ということは,圧縮・加熱前よりも,容易に折り畳みが可能で,清掃対象面の形態\nに応じて変形することができるようになったことを意味するということができる。
よって,本件各発明における「柔軟な」とは,容易に折り畳んだり,変形させた
りできることを意味するものと認めることが相当である。
・・・
圧縮前後のメラミン系樹脂発泡体のサンプル平均を比較すると,甲45試験では,
圧縮前後の荷重の差は2.3Nであり,圧縮後のメラミン系樹脂発泡体の方が圧縮
前のものよりも,約5分の1の力で10mmたわんだとの結果になっている。しか
しながら,乙11試験では,メラミン系樹脂発泡体の10mmたわみ時の荷重の圧
縮前後の差は0.06Nで,圧縮後の方がより弱い力でたわんだとの結果になって
いるものの,約15%弱い力にすぎず,乙34試験では,その差は0.03Nとさ
らに小さく,圧縮後の方が約5%弱い力でたわんだとの結果にとどまる。甲45試
験と,乙11試験,乙34試験の試験結果は,同一の試験機関によるものであると
ころ,各試験で用いられた試料の圧縮の程度に差があることを考慮したとしても,
大きく異なるといわざるを得ないが,甲45,乙11,乙34の各報告書中には,
これら試験結果に大きな差が生じ得たと考えられるような条件の記載はない。
圧縮後のメラミン系樹脂発泡体における10mmたわみ時荷重の平均値は,甲4
5試験において0.60N,乙11試験において0.41N,乙34試験において
0.62Nで,特に,甲45試験と乙34試験の数値は極めて近い。ところが,圧
縮前のものについての同数値は,乙11試験では0.47N,乙34試験では0.
65Nなのに対し,甲45試験では,2.90Nとされており,乙11,乙34の
各試験結果とは2.0N以上,約4倍の差となっているのであって,圧縮の条件等
による差が考えられない圧縮前の数値についてのみ,このような顕著な差があるこ
とについて,合理的に理解することは困難といわざるを得ない。乙34報告書によ
れば,厚さ40mmのメラミン系樹脂発泡体を10mmに圧縮したものについての
10mmたわみ時荷重は平均2.8N(サンプル数5)で,甲45試験と極めて近
接した数値となっていることも勘案すると,甲45試験の結果をもって,圧縮後の
方が「柔軟」になったと認定することはできない。
◆判決本文
◆1審はこちらです。平成27年(ワ)第9891号
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2017.04.27
平成26(ワ)34678 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年4月21日 東京地方裁判所(40部)
特許権に基づく差し止め請求が認められました。出願経過参酌による意識的除外については認められませんでした。損害賠償は請求されてません。
上記各記載によれば,本件発明の意義は,次のとおりであると認められる。
従前,シリンダボア内に冷媒を導入するためにロータリバルブが採用され
たピストン式圧縮機においては,吐出行程にあるシリンダボア内の冷媒がこ
のシリンダボアに連通する吸入通路からロータリバルブの外周面に沿ってシ
リンダボア外に漏れやすいという課題があり,このような課題はバルブ収容
室の内周面とロータリバルブの外周面との間のクリアランスを極力小さくす
ることにより解決されるものの,他方で,このクリアランス管理は非常に難
しいという課題があった。
そこで,本件発明は,吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の
入口に向けてロータリバルブを「付勢」し,ロータリバルブの外周面を吸入
通路の入口に近づけるという構成を採用することによって,圧縮室内の冷媒\nを吸入通路から漏れ難くし,よって体積効率を向上させるという作用効果を
有するものである。
・・・・
まず,被告は,本件特許の出願過程における乙26意見書に「引用文
献1〔判決注:乙21公報〕に記載された発明とは,従来からのニード
ルベアリングのような転がり軸受ではなく,ジャーナル軸受を採用する
ことによって,回転軸側のジャーナル部とシリンダブロック側の滑り軸
受との間のクリアランスを極めて小さくし,その結果,ロータリバルブ
からの冷媒漏れを抑制するというものです。あくまでも,ジャーナル部
と滑り軸受との間のクリアランス管理に基づいて冷媒漏れの抑制を実現
しているのであって,本願発明のように,ピストンに対する圧縮反力を
ロータリバルブへの付勢力に変換し,ロータリバルブの外周面を直接,
吸入通路の入口に付勢することによって冷媒漏れを抑制する技術とは明
確に異なるのです。」と記載されていることを根拠に,原告が本件発明
の技術的範囲から「クリアランスが小さい場合」を意識的に除外してい
ると主張する。
しかし,乙26意見書の上記部分は,その記載内容からも明らかなと
おり,乙21発明の「ジャーナル軸受を採用することによって,回転軸
側のジャーナル部とシリンダブロック側の滑り軸受との間のクリアラン
スを極めて小さし,その結果」冷媒漏れを抑制する技術と,本件発明の
「ピストンに対する圧縮反力をロータリバルブへの付勢力に変換し,ロ
ータリバルブの外周面を直接,吸入通路の入口に付勢することによって」
冷媒漏れを抑制する技術とが相違することを述べたものにすぎず,「ク
リアランスが小さい場合」を本件発明の技術的範囲から除外したものと
解することはできない。このことは,乙26意見書の上記部分の直前に
「引用文献1〔判決注:乙21公報〕に記載された発明は・・・ジャー
ナル軸受をもってロータリバルブを支持する点に特徴があります。」と
記載され,さらに,乙21公報の「回転軸を支持する軸受がジャーナル
軸受であり,それが単にシリンダブロック内に設けられた滑り軸受と,
回転軸の一部であるジャーナル部によって構成される簡単な構\造である
だけでなく,そのジャーナル軸受の構成部材自体に半径方向の吸入通路\nや吸入ポートを形成して,各シリンダに対して圧縮すべき流体を吸入さ
せるための吸入弁を構成しているため,軸受構\造と吸入弁の構造が簡単\nになるだけでなく,滑り軸受の円筒内面の仕上げ加工が容易に行われて,
ジャーナル部とのクリアランスをきわめて小さくすることが可能になり,\n圧縮された流体が吸入弁から漏洩することがない。」との記載が引用さ
れていることからも明らかである。
◆判決本文
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2017.03.10
平成26(ワ)8134 特許権侵害に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年2月27日 東京地方裁判所
技術的範囲に属しないと判断されました。下記の用語の解釈についても原告は特段の意味はないと述べましたが、裁判所は、無視はできないと述べてます。
なお,原告は,本件明細書において,構成要件Aにいう「特定視距離矯正領\n域」は「近景よりも実質的に離れた特定距離に対応する面屈折力を有する」領域
(請求項1,【0016】)と定義されている旨主張するが,正確には,請求項1
や段落【0016】においても,「近景よりも実質的に離れた特定距離に対応する
面屈折力を有する特定視距離矯正領域」と表現されているのであって,「矯正」\n「領域」という語句が存する以上,これらの語句による意味の限定が加わり得るこ
とは否定できない(すなわち,請求項1や発明の詳細な説明では,「領域A」とか
「第1領域」などといった記号的な用語を使っておらず,「矯正領域」という用語
を選択しているのであるから,その日本語の持つ意味合いをはなから無視すること
はできない。)。そして,「矯正領域」という字義のほか,前記(ア)ないし(ウ)で説
示したところに照らすと,上記の「…対応する面屈折力を有する」という部分も,
眼鏡レンズ内の当該領域を視線が通過する場合に特定距離にある対象物が良く見え
るような視力矯正を可能とする程度に当該領域内で一定ないしほぼ一定の面屈折力\nを有するという意味であると解するのが相当である。
◆判決本文
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2017.03.10
平成28(ネ)10061 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成29年2月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
画像補正データ生成システムについて、技術的範囲に属しないとした一審判断が維持されました。
本件各発明の構成要件D1及びD2は,「出力画像データに対し中間的な周波数成\n分のみを分離するバンドパスフィルタリングを行なうことによって,同出力画像デ
ータから高周波成分及び低周波成分を除いたバンドパスデータ」と規定するもので
あるから,「バンドパスデータ」には低周波成分は実質的に含まれてはいない。そし
て,構成要件Eは,補正データ生成手段が,この「バンドパスデータ」に「対応し\nた画像補正テーブル」を出力するものであるが,この「対応」というものが,いか
なる技術的意義を有するものかは,特許請求の範囲の記載のみからでは明らかでは
ない。
そこで,検討するに,本件各発明の解決課題・作用効果は,前記1(2)(4)(5)エのと
おりであって,補正データに低周波成分に対する補正を加えようとすることによっ
て生じる画面中心部の輝度の低下を防止することである。また,本件各発明の実施
形態をみてみると,バンドパスフィルタリングにより低周波成分及び高周波成分を
除いたバンドパスデータを算出し,このバンドパスデータを「反転させた」画像補
正テーブルを生成し(本件明細書1の【0033】,本件明細書2の【0032】),
補正された画像を表示する際は,画像補正テーブルから得た補正データを,入力さ\nれた画像信号に加算している(本件明細書1の【0037】,本件明細書2の【00
36】)。この実施形態は,緩やかな表示むら(出力画像データの低周波成分)や細\nかい表示むら(出力画像データの高周波成分)はそのままとし(本件明細書1の【0\n012】,本件明細書2の【0012】参照),中間的な周波数成分のみを目標とし
て,これを消去するとの技術思想に基づくものといえる。そして,本件各明細書に
は,これ以外の実施態様の記載はない。そうすると,構成要件Eの「バンドパスデ\nータに対応した画像補正テーブル」は,バンドパスデータを打ち消す作用を持つよ
うな画像補正テーブルをいうものと解される。なお,本件各明細書には,「表示むら\nは,各ピクセルの明るさが理想値と異なるために発生するので,あらかじめ各ピク
セルの理想値とのズレを測定しておけば,そのズレに従って各ピクセルへの入力画
像値を補正することで,表示むらをキャンセルすることが可能\である。」(本件明細
書1の【0038】,本件明細書2の【0037】)との記載があるが,本件各明細
書には,このための具体的な構成が記載も示唆もされておらず,この記載が目標値\nを定めて補正を行うような画像補正方法を開示するとはいい難く,このような実施
形態が本件各発明に含まれるとは認められない。
以上からすると,本件各発明において,補正前のデータである出力画像データに
は,その定義より低周波成分,中間的な周波数成分又は高周波成分が含まれている
ところ,バンドパスデータには中間的な周波数成分のみが含まれ,その中間的な周
波数成分は補正後の画像では消去されるから,補正後の画像には,補正前のままの
低周波成分又は高周波成分のみが残ることになる。そうすると,補正前後の画像の
差分をとると,中間的な成分のみが残るはずであって,この差分に低周波成分は実
質的には存在しないことになる。
すなわち,補正前後の画像の差分の中に低周波成分が含まれるシステムは,まず,
低周波成分を分離していないことにより構成要件D1 及びD2を充足しないものと
考えられ,仮に,そのように言い切れないとしても,「バンドパスデータに対応した
画像補正テーブル」を有しないことによって構成要件Eを充足しないものであり,\nいずれにしても,本件各発明の技術的範囲に属しないこととなる。
◆判決本文
◆一審はこちらです。平成27(ワ)14871
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2017.03. 6
平成26(ワ)8133 特許権侵害損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年2月27日 東京地方裁判所
無効判断には踏み込まず、技術的範囲に属しないと判断されました。
ウ 本件明細書の上記イの記載からすると,1)装用時の光学性能を重視して処方面を非球面化した累進屈折力レンズは,測定基準点において面非点隔差が発生する\n結果,レンズメーターで測定される測定度数が処方度数と異なってしまうという課
題があったこと,2)乙4公報記載の累進屈折力レンズでは,処方度数と測定度数が
異なるという上記課題を解決するため,処方面の主注視線に沿った線上部分の一部
に面非点隔差の発生しない領域を設けることとし,当該領域をレンズをフレーム形
状に加工する際に不要部分として廃棄される位置としたこと,3)上記乙4公報記載
のものでは,不要部分として廃棄される領域において測定度数を得ることから,レ
ンズの度数測定の本来の目的(装用者の処方どおりにレンズが正しく作成されてい
るか否か)との関係で適切とはいえないという問題があったこと,4)本件各発明は,
これらを踏まえ,装用状態における光学性能を良好に改善しているにもかかわらず,眼鏡店やユーザーによるレンズの度数測定を容易に行うことのできる累進屈折力レ\nンズを提供することを目的としたものであって,処方面の非球面形状により発生す
る面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面又はトーリック面により発生する
面非点隔差成分との差の絶対値の平均値が,レンズの度数を測定するための測定基
準点を含む近傍の所定領域に亘って所定の値以下に抑えられているとの構成を有することにより,処方面の非球面化により装用状態における光学性能\を補正する構成\nを採用しているにもかかわらず,例えばレンズメーターを用いて測定基準点を基準
として測定することにより処方度数とほぼ同じ測定度数を得ることができる,とさ
れていることが認められる。
また,本件明細書の上記イの記載によれば,本件各発明の実施に際しては,上記
所定領域を広くすると,度数測定には有利となるが,その代償として光学性能が低下するため,この点を考慮して所定領域を定めなければならず,所定領域は,「装\n用状態における光学性能を良好に改善しているにもかかわらず,眼鏡店やユーザーによるレンズの度数測定を容易に行うことのできる累進屈折力レンズを提供するこ\nとを目的とする」という発明の目的を達成するように定められる必要があり,また,
装用者の処方や使用条件,製品の仕様,度数測定方法,測定器の仕様のうち少なく
とも一つの条件を考慮して,平均値ΔASavを所定の値以下に抑えるべき測定基
準点を含む近傍の所定領域の大きさや形状を決定することによって,より優れた光
学性能と度数測定の容易さとの両方を得ることが可能\となる,とされていることが
認められる。
・・・・
このように,レンズメーターを用いて測定した球面度数及び乱視度数の値を処方
球面度数及び処方乱視度数と略同じ値にするため,本件各発明は,「測定基準点を
含む近傍の所定領域」とその領域における「所定の値」を設けたものであり,処方
面において改善された光学性能を犠牲にしても,レンズメーターによって測定する「測定基準点を含む近傍の所定領域」において局部的な面補正をし,面非点隔差成\n分を所定の値以下にしようとするものであるから,構成要件Cにいう「測定基準点を含む近傍の所定領域」とは,それ以外の領域とは区別された領域であることを当\n然の前提としているものというべきである。
・・・・
このように,被告製品1,2及び4は,遠用度数測定点を中心とした遠用部領域
全体(被告製品2のうち,上記図中の2)−2については,ほぼ全体),被告製品3
は近用度数測定点を中心とした近用部領域の領域全体において,面非点隔差の平均
値が本件各発明の構成要件Dにおける所定の値(0.15ディオプター)を大きく下回っている。
イ そうすると,被告各製品においては,レンズの測定基準点を含む処方面の非
点隔差は,光学設計上,一定の領域における光学性能を犠牲にしても所定の値以下とするような局部的な面補正,つまり,「所定の値以下」にされた「所定領域」を\n設ける必要がない構造であることが認められる。したがって,被告各製品は,構\成要件Cにいう「所定領域」に相当する構成を有\nしないものというべきである。
◆判決本文
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2017.02.23
平成26(ワ)20319 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年1月27日 東京地方裁判所(40部)
盗難防止タグに関する特許侵害事件において、請求項における「暗号コード」という用語について争われました。被告製品は暗号化していないとして請求棄却されました。
「暗号」とは,一般に,「通信の内容が第三者にもれないように,おたが
いに約束して使う記号(のしくみ)」(三省堂国語辞典第7版52頁〔甲
2〕),「秘密を保つために,当事者間にのみ了解されるようにとり決めた
特殊な記号・ことば。あいことば。」(広辞苑第4版99頁〔甲5〕),
「第三者に通信内容を知られないように行う特殊な通信(秘匿通信)方法の
うち,通信文を見ても特別な知識なしでは読めないように変換する表記法\n(変換アルゴリズム)のこと」(ウィキペディア〔乙1〕),「秘密にした
い情報をかき混ぜて(暗号)特定の者以外にはその内容が解らないようにす
ること。」(情報通信用語辞典13頁〔乙3〕),「情報の意味が当事者以
外にはわからないように,情報を変換すること」(エンサイクロペディア電
子情報通信ハンドブック〔乙17〕)との意味を有するとされ