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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

相違点認定

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和5(行ケ)10053  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年6月24日  知的財産高等裁判所

 異議申立に対する取消訴訟です。裁判所は、本件発明における「RB0.4以上事項の有無」は、相違点であるとして、進歩性有りと判断しました。\n

1 取消事由1、2(引用文献1に基づく新規性、進歩性の判断の誤り)について 原告らが取消事由1、2を通じて主張するところの眼目は、1)引用文献1に は「自立CNTペリクル膜」の発明が記載されているとはいえない、2)引用発明 1には本件発明のRB0.4以上事項の記載がないところ、これらに係る本件発 明1との相違点は実質的なものであり、かつ、引用発明1にRB0.4以上事項 を持ち込むことは容易想到ともいえないという2点に集約される。 当裁判所は、1)に係る原告らの主張は採用できないが、2)の主張は理由があ るものと判断する。以下に詳説する。
・・・
(3) RB0.4以上事項の有無は実質的相違点か
ア 本件決定が認定した本件発明1と引用発明1の相違点1A(別紙3「本 件決定の理由」1(2)アの[相違点1A])の中には「引用発明1ではRB0. 4以上事項の構成が明らかでない」点が含まれているところ、本件決定は、\nこのRB0.4以上事項の有無に係る相違点は実質的な相違点ではないと判 断した。
イ しかし、引用文献1には、RBの数値を特定する記載は一切なく、その示 唆もない。また、CNT膜の面内配向性をRBによって特定すること自体も、 引用文献1その他の出願時の文献に記載されていたと認めることはできず、 技術常識であったということもできない。
ウ 本件決定の上記アの判断は、RBの値が、0.40以上では面内配向して おり、0.40未満では面内配向していないことを表す旨の本件明細書等\nの記載(【0104】)から、本件発明1のRB0.4以上事項が、CNT のバンドルが面内配向していることを特定するものであり、引用発明1は 面内配向しているものを想定しているから、RB0.4以上事項を満たすこ とになるとの理解に基づくものと解される。 しかし、本件発明1の特許請求の範囲に照らすと、CNTバンドルが面内配向しているという定性的構成(構\成1C)と、RB0.4以上事項とい うパラメータによる定量的構成(構\成1D)は独立の構成となっており、本\n件明細書の【0104】等の記載を踏まえても、引用発明1のCNTバンド ルが面内配向の特性を有しているからといって、RB0.4以上事項を当然 に満たすと判断することはできない。
エ 被告は、通常の発想のもとで、通常の性状のSWCNT及び通常用いら れるプロセスで製造された薄膜自立無秩序SWCNTシートであれば、膜 厚、バンドル径及び自立性のいずれの観点においても、本件明細書等にお ける比較例1よりは実施例1に相当程度似通っているといえる上、比較例 1のRBの値(0.353)がRB0.4以上事項の下限である0.4に相 当程度近いこと等を考慮すれば、比較例1よりも実施例1に相当程度似通 っている薄膜自立無秩序SWCNTシートであれば、RB0.4以上事項を 満たしている旨主張する。
しかし、被告の主張する「通常の発想のもとで、通常の性状のSWCNT 及び通常用いられるプロセスで製造された」との薄膜自立無秩序SWCN Tシートの製造方法や、当該薄膜自立無秩序SWCNTシートの「膜厚、バンドル径及び自立性」について具体的に特定する主張立証はされておらず、 したがって、「比較例1よりも実施例1に相当程度似通っている薄膜自立 無秩序SWCNTシート」の内容も明らかではないというよりほかない。 かえって、原告ら提出に係る甲40によれば、原告らが引用文献2記載 の方法で作製したCNT自立膜(サンプル1、2)ではそれぞれRBが−0. 38、−0.26であったのに対し、本件発明の完成当時に製造されたCN T自立膜では1.04だったのであり、薄膜自立無秩序SWCNTシート であれば、RB0.4以上事項を満たしているともいえない。
被告は、甲40について、1)RB測定サンプルの保管が実際にどのような 条件で行われていたか確認できず、サンプルの実在も確認できない、2)本 件明細書等に記載された実施例及び比較例と実験条件が異なる、3)当該各 RB測定サンプルは、特性が位置的にみて不均一となっている、4)RB0. 4以上事項を満たさないとされるサンプル1、2は一部破損がみられるか ら自立膜とみられないなどと論難するが、1)については、サンプル1、2は 平成29年4月の開発時に作製したものと推認され、2)については、甲4 0は、「面内配向していてRBが0.4未満の膜が存在するかどうか」の点 を検証する実験であるから本件明細書等の実施例及び比較例の条件によら ねばならないものではない。また、3)については、もともとRBの測定方法 は局所的な断面に対するものであり、RB0.4以上事項は、少なくとも一 つの断面で0.4未満以上となることを意味するのであるから、被告主張 の点をもって甲40に基づく上記判断は左右されない。さらに、4)につい ては、甲40では、サンプル1、2について製造過程で一部破損があったとしても、自立膜となったものを測定しているのであるから、やはり被告の 主張は採用できない。
(4) 以上のとおりであって、本件決定には、RB0.4以上事項を含む相違点1 Aが実質的なものであることを看過し、引用発明1に基づき本件発明1、3 〜5が新規性を欠くとした誤りがあり、取消事由1は理由がある。

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令和5(行ケ)10091  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年4月22日  知的財産高等裁判所

 特許異議申立がなされて取消審決がなされましたが、知財高裁は、相違点1−2と相違点1−3は一体として検討すべきとして、これを取り消しました。

(2) 相違点の容易想到性についての判断の誤りについて
ア 原告は、本件決定が相違点1−1から同1−3までを関連付けずに判断 している点が誤りであると主張するところ、当裁判所は、相違点1−1は ともかく、少なくとも相違点1−2と相違点1−3は一体として検討する 必要があると判断する。その理由は、以下のとおりである。 本件発明の内容は前記第2の2のとおりであって、ポリプロピレンフィ ルムと蒸着膜との間に、密着性に優れた極性基を有する樹脂材料を含む表\n面コート層を備えることにより、層間の剥離を防止し、また、シランカッ プリング剤とともに用いられる場合も含め金属アルコキシドと水溶性高 分子との樹脂組成物からなるバリアコート層を蒸着膜上に設けることで、 蒸着膜のクラック発生をも防止し、さらには、ボイル又はレトルト処理が 行われる場合であってもガスバリア性の低下の抑制が図られるように、バ リアコート層表面の珪素原子と炭素原子との割合を特定の範囲にしたも\nのであって、高いガスバリア性を有するボイル又はレトルト用バリア性積 層体を提供するという技術的意義を有するといえる。そして、本件明細書 によれば、珪素原子と炭素原子の比(Si/C)の上限は、バリア性積層 体を屈曲させてもガスバリア性の低下を抑制できるという観点から定め られ、下限は、バリア性積層体を加熱してもガスバリア性の低下を抑制で きるという観点から定められているのであるから(【0076】、表5〜\n表7)、ボイル又はレトルト用であるか否かに係る相違点1−3と、珪素\n原子と炭素原子の比の数値範囲に係る相違点1−2は、一体として検討さ れるべきものである。
イ 以上を前提に、相違点1−2と相違点1−3に係る容易想到性につき一 括して判断するに、まず、本件決定が副引用例とする甲4には、別紙6の 記載があり、ここから本件決定の認定に係る甲4記載事項(別紙4の1(2)) を認定できることについては争いがない。
甲4は、電気製品等の機器の消費エネルギーを削減するための真空断熱 材用外包材等に関するもので、外包材により形成された袋体内に芯材を配 置し、上記芯材が配置された袋体の内部を減圧して真空状態とし、上記袋 体の端部を熱溶着して密封し、上記袋体内部を真空状態とすることにより、 気体の対流が遮断されるため、真空断熱材は高い断熱性能を発揮すること\nができるというものである(【0001】〜【0003】)。 甲4記載事項は、第1フィルム(金属酸化物リン酸層付きフィルム。第 1樹脂基材と金属酸化物リン酸層から成る。)、オーバーコート層付きフ ィルム(樹脂基板、無機層、オーバーコート層から成る。)、熱溶着可能\nなフィルムから構成される真空断熱材用外包材のうち、オーバーコート層\n付きフィルムの中のオーバーコート層及び無機層をもとに抽出されたも のである。
ウ 本件決定は、甲3発明に、甲4記載事項のオーバーコート層における炭 素原子に対する珪素原子の比率を適用するものである。 しかし、甲4記載事項は、前提とする積層構造が、甲3発明と異なる上、\n以下のとおり、甲4は、甲3発明とは技術分野が共通するものとはいい難 く、さらに、相違点1−3に係る構成(ボイル又はレトルト用)を開示又\nは示唆するものでもない。すなわち、甲4は、高温高湿な環境においても 長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材用外包材等の提供を\n目的とするものであるが(【0008】)、高温多湿な「環境」を想定す るにとどまり、物を入れて積極的に加熱殺菌処理をする行為であるレトル トやボイル(一例として、優先日前の公知文献である特開2007−13 7438号公報〔乙4〕では、レトルト処理について110゜C)〜130゜C) 位、圧力、1〜3Kgf/cm 2 ・G位で約20〜60分間程度の加熱加 圧殺菌処理、ボイルについて90゜C)位で30分間位の加熱殺菌処理〔【0 002】〕等が挙げられている。)を想定しているとはおよそ考えられず、 実際、甲4には、レトルトやボイルを前提とする記載はない。
その上、甲3の【0044】には、「炭素の割合が50%より多い場合、 バリア性が温度、湿度の影響を受け易く、15%より少ない場合、バリア 性が悪くなり、膜質が脆くなる。」として、炭素が少なすぎると膜質が脆 くなることが示唆されているのに対し、甲4の【0111】には、「オー バーコート層を構成する原子における、炭素原子に対する金属原子の比率\n(金属原子数/炭素原子数)は、0.1以上、2以下の範囲内であり、中 でも0.5以上、1.9以下の範囲内、特には0.8以上、1.6以下の 範囲内であることが好ましい。」という炭素原子に対する金属原子の比率 (金属原子数/炭素原子数)を示す記載に引き続いて、「比率が上記範囲 に満たないと、オーバーコート層の脆性が大きくなり、得られるオーバー コート層の耐水性および耐候性等が低下する場合がある。一方、比率が上 記範囲を超えると、得られるオーバーコート層のガスバリア性が低下する 場合がある。」として、金属原子に対して炭素原子の数が過剰に多くなる とオーバーコート層の脆性が大きくなって、ガスバリア性の低下につなが る旨の記載があるところ、これは、上記甲3の【0044】の記載と正反 対の内容である。
そうすると、当業者において、甲3発明の食品包装材料についてボイル 又はレトルト用途とすることを想起したとしても、甲4におけるオーバー コート層を構成する原子における金属原子の比率は加熱によってもガス\nバリア性が維持されるかどうかとは関わりのないものであること、甲4に は、炭素原子と金属原子の比率と、膜質の脆性について、甲3と正反対の 記載があることに鑑みても、甲3発明とは技術分野も積層構造も異なる真\n空断熱材用外包材に関する甲4の積層体の中から、オーバーコート層付き フィルムの中のオーバーコート層及び無機層に関する記載に着目した上、 オーバーコート層における炭素原子に対する金属原子の比率(金属原子数 /炭素原子数)を参酌して、甲3発明に適用する動機付けを導くには無理 があるというほかなく、本件決定の判断には誤りがある。
エ 被告は、Si/Cの数値範囲に特段の技術的意義はなく、層構成に係る\n共通の技術について「Si/C」を用いて数値範囲を検討することが甲4 にあるとおり公知であることを併せると、甲3発明において甲4記載事項 を参考にして、相違点1−2に係る本件発明の構成とすることは、当業者\nが容易に想到し得た旨主張する。 被告が、Si/Cの数値範囲に特段の技術的意義はないと主張する根拠 は、1)本件発明1の発明特定事項が「バリアコート層が、金属アルコキシ ドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜で\nあるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリ ング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜」と択一的なも\nのになっており、シランカップリング剤には珪素が含まれるにもかかわら ず、本件明細書上効果が確認されているのはシランカップリング剤を含む バリアコート層だけであるという点、2)本件発明1の数値範囲は甲3から 簡単に算出でき、甲4にも同数値範囲内のものが例示されているという点 にある。
しかし、上記1)についていえば、シランカップリング剤が珪素を含むと いうような一般論だけで、シランカップを含むものであるバリアコート層 の効果に係る【表4】〜【表\7】の結果、及びSi/Cの数値範囲の効果 に係る【表5】〜【表\7】が、シランカップ剤を含まないバリアコート層 について技術的意義がないとは直ちにいえないし、そもそも、技術的意義 が裏付けられているかどうかと、構成が容易想到といえるかどうかの問題\nは直結するものではない。 また、上記2)についていえば、甲3発明の「X線光電子分光分析法」の分 析における「炭素と酸素と珪素が、それぞれ15〜50%、30〜65%、 5〜30%の割合で存在すること」から、珪素原子と炭素原子の比(Si/ C)は、0.1以上、2以下と算出することができ、この数値範囲は、本件 発明1の数値範囲である「0.90以上1.60以下」を包含するからとい って、炭素と酸素と珪素の数値範囲で一定の技術的意義を示している甲3 の記載から、炭素と珪素だけを抽出すべき合理的な理由、技術的な必然性 は認められない。
甲4の表1には、30質量部(Si/C比率1.58)、38.5質量部\n(同比率1.25)及び50質量部(同比率1.03)という、本件発明1 の数値範囲内のものが開示されているが、同表では膜特性は示されておら\nず、このSi/C比率で、本件発明1の数値範囲外の他の質量部より優れ ていることが示されているわけでもないから、当業者が当該数値に着目す るともいえない。 そして、甲3とは「層構成に係る発明である」という程度の共通性しかな\nい甲4に「Si/C」を用いて数値範囲を検討することが記載されていた からといって、当業者において甲4記載事項を参考にして相違点1−2、 相違点1−3に係る構成とすることが容易に想到できるとはいえない。\n

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令和5(行ケ)10054  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年2月13日  知的財産高等裁判所

一致点・相違点の認定に誤りがあるものの、動機付けなしとの審決が維持されました。

カ 甲8発明と本件発明1との相違点として本件審決が認定したもの(前記 第2の4(2)ア(イ))のうち、甲8相違点2は、前記エの説示によれば、甲8 発明と本件発明1との相違点となるとは認められない。 また、甲8相違点3は、甲8発明における台車用安全カバー及び本件発 明1における保護部材の用途を特定する物としての手押部材の違いを述 べるものであって、甲8発明における台車用安全カバーと本件発明1にお ける保護部材との相違点とはいえない。したがって、甲8発明と本件発明 1との相違点は、甲8相違点1及び取付位置に係る相違点のみであると認 められる。
キ 前記第2の2(3)のとおり、1)本件発明2は、本件発明1の構成要件1A\nないし1Fを全て含み、2)本件発明3は、本件発明1の構成要件のうち、\n1Eを「前記保護部は、円板状である。」(構成要件2E)に変更したもの\nであり、3)本件発明4ないし7は、本件発明1の構成要件1Aないし1F\nを全て含むか、又は本件発明3の構成要件1Aないし1D、2E及び1F\nを全て含むものである。
そうすると、本件発明2ないし7は、いずれも、甲8発明との関係で、 甲8相違点1及び取付位置に係る相違点があると認めることができる。
ク 以上のとおり、甲8発明と本件各発明との一致点及び相違点に係る本件 審決の判断には相当でない部分があるものの、これによって直ちに本件審 決の判断が違法となることはなく、甲8相違点1を前提に、当業者が、本 件優先日の技術水準に基づいて、これらの相違点に対応する本件各発明を 容易に想到することができたかどうかを判断すべきである。
(3) 容易想到性について
前記(1)のとおりである甲8発明の内容によれば、甲8発明の台車用安全カ バーは、その本体、すなわち甲8発明の全体が保護部を構成しており、作業\n者の手挟み事故を防止するとともに、手押部材の掌握部、すなわち台車のコ 字状のハンドルのグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつもので あるといえる。このことは、甲8商品2と同一の構成の商品を含む甲8商品\n1に係るパンフレット(甲8の2)に、「台車に取り付けることで、作業員の 手挟み事故を防止!掌握部もわかりやすくなり、安全指導がしやすくなりま す」との記載があることからも裏付けられる。 このように、甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルの水平部 分をグリップ部とすることを前提として、コ字状のハンドルのカーブ部分に 取り付ける台車用安全カバー(保護部材)であって、これによって手挟み事 故の防止を図るものであるから、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材) にグリップ部を設けることは全く想定されていないといえる。 そうすると、仮に、台車の手押部材にグリップ部を設けること、又は台車 等の保護部をグリップ部と一体化したものとすることが、本件優先日の時点 で周知技術であったとしても、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)に 接した当業者において、これらの周知技術を甲8発明に適用する動機付けが あったとは認められない。 したがって、引用発明である甲8発明に基づいて、甲8相違点1に係る本 件各発明の構成が容易に想到できたとは認められず、甲8発明を前提とする\n進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとは認められない。
(4) 前記第3の1〔原告の主張〕について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)のとおり、甲8発明の台車用安 全カバーは、直線の棒にも装着可能であり、コ字状のハンドルのカーブ部\n分に対してのみ取り付け可能な製品ではないから、本件審決における甲8\n発明の認定は誤りであると主張する。 この点、長岡産業代表取締役である甲の陳述書(甲53)には、甲8商\n品2は、甲8商品1とともに、カーブ部分に装着することに特化した形状 (特に孔の形状)となっておらず、曲がっていない直線の棒にも装着可能\nなものであった旨の陳述がある。
しかし、甲8商品2の本体及び取付穴の形状から、物理的には直線の棒 に装着することが可能であるとしても、甲8商品2のパンフレット(甲8\nの3)及び甲8商品2と同一の構成の商品が含まれる甲8商品1のパンフ\nレット(甲8の2)の各記載及び掲載された写真からすれば、甲8商品2、 すなわち甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルのカーブ部分 に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に 掛からないように規制し、これによって手挟み事故を防止するものである と認められる。
上記各パンフレットに掲載された、各商品が台車のハンドルに装着され た状態の写真は、いずれもコ字状のハンドルのカーブ部分に装着されたも のを撮影したものであって、直線の部分に装着した写真ではないと認めら れる。また、甲8の2には、「ハンドルのカーブ部分に挟み込み、テープを はがして包むだけ!」と表記されているのであって、カーブ部分に挟み込\nむことが単なる使用の一例にすぎない旨の記載はされていない。 以上のとおり、甲8発明に関する本件審決の認定に誤りがあるとは認め られない。

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令和5(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年1月31日  知的財産高等裁判所

進歩性無しとした審決が維持されました。争点は、相違点の認定誤り、動機付け、阻害要因です。

(1) 原告は、引用例2及び引用例3に開示されたイメージファイバを介して照 明光を導く周知の方法はイメージファイバを振動させないものであるのに対 して、引用発明はイメージガイド2の接眼側の端部を振動させるものである から、イメージファイバの前提構成が異なるものであって、引用発明に上記\nの周知の手法を適用する動機付けがあるとはいえない旨主張する。
(2) しかし、引用例2及び引用例3によれば、集光レンズを介して入射した光 源からの光をイメージファイバにより伝送することは、本件審決が認定する とおり周知の手法であると認められるところ、引用例3の【0008】、及 び特開2000−121460号公報(乙2)の【0018】、【001 9】、【0029】の記載によれば、内視鏡の技術分野において挿入部を細 径化することは周知の課題であると認められるから、その課題は引用発明に も内在していると認められる。 そして、本件審決の認定する周知の手法は、引用発明にも内在する上記の 課題の解決手段となるものであるから、引用発明にこれを適用する動機付け はあるというべきである。
(3) 原告は、さらに、照明光を被観察物体に導くイメージガイド2の接眼側の 端部を振動させると、被観察物体の撮像にどのような影響を与えるのかが不 明であることを考慮すれば、上記周知の方法を引用発明に採用することには 阻害要因がある旨主張する。 しかし、イメージファイバを振動させる技術と、光源からの光をイメージ ファイバにより伝送する技術とを同時に採用できないとする技術的根拠は見 当たらず、上記(2)のとおり周知の課題を解決する手段である周知の方法を 採用することは、当業者であれば容易に着想して試みるものと認められる。
(4) したがって、引用発明に引用例2及び引用例3の周知の手法を適用するこ とによって、相違点1及び相違点2に係る構成は容易に想到し得るとした本\n件審決に誤りは認められず、原告主張の取消事由2は理由がない。

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令和4(行ケ)10111  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月25日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(二部)は、「ほぼ水平に・・・」について、何らかの技術的意義があるとは認められないとして、進歩性なしと判断しました。
審判では、被請求人(特許権者)は、「ほぼ水平に延びる段差部(13c)はモールをアウタパネルの上縁部に組み込む際に引掛けフランジ部(13)とモール本体部(11)との間隔(挟持力)を維持するのに重要となります。」と主張して、先行技術から容易ではないと判断されていました。

ア 相違点1
(ア) 相違点1は、「縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部」が、本件発 明1においては、縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部 であるのに対して、甲1発明1においては、縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス 側方向に「やや下方に」延びる段差部であるというものである。甲1発明1のモー ルディングが取り付けられるドアパネルが、アウタパネルであることについては当 事者間に争いがなく、甲1発明1の「昇降窓ガラス側方向」は、本件発明1の「内 側方向」(車内側を指す。)と同じ方向を意味するものと認められるから、相違点1 においては、段差部が「ほぼ水平」に延びるか「やや下方」に延びるかという点の みが問題となる。
(イ) そこで検討するに、本件明細書には、段差部が縦フランジ部の下部から内側 方向に「ほぼ水平に」延びることの技術的意義についての記載はない。また、前記 1(2)のとおり、本件発明は、端末の剛性に優れるベルトラインモールを提供するた めに、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して、水切りリップ\nや引掛けフランジ部を切除できるようにし、モール本体部と縦フランジ部とで略C 断面形状を形成しつつ断面剛性を確保したというものであり、ベルトラインモール の端末では、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して切除され\nるものであって、段差部も切除されるのであるから、段差部が「ほぼ水平に」に延 びても「やや下方」に延びても、本件発明の作用効果に何ら影響するものではない。 そうすると、段差部が「ほぼ水平に」延びるものとすることについて何らかの技術 的意義があるとは認められない。 そして、甲1発明1においても、段差部が縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス 側方向(内側方向)に「やや下方に」延びることに何らかの技術的意義があるとは 認められず、甲1発明1において「やや下方に」延びる段差部を「ほぼ水平に」延 びるように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべ\nきである。 そうすると、甲2記載事項について検討するまでもなく、甲1発明1において段 差部に設計的変更を加え、これを「ほぼ水平に」することは、当業者が容易に想到 できたものと認めるのが相当である。
(ウ) したがって、本件審決には、相違点1に係る容易想到性の判断に誤りがある。

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令和1(行ケ)10114 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月24日  知的財産高等裁判所

 漏れていたのでアップします。動画配信における視聴者からのギフトの処理(CS関連発明)について、審判で進歩性無しと判断されました。知財高裁も同様です。

「・・・(D1)前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中に前記動画へ の装飾オブジェクトの表示を要求する第1表\示要求がなされ,(D2)前記動画の配信中に前記動画の配信をサポートするサポーター又は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択された場合に,(D3)前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて、(D4)前記装飾オブジェクトを前記動画に表示させる,(A)動画配信システム。」というクレームです。\n 原告は,甲2には,視聴者から配信者へギフトを贈ること(ユーザーギ フティング)が動画配信中に行われるとの記載はないので,引用発明に甲 2記載の技術を追加したとしても「動画配信中に行われた表示要求に応じ\nて,装飾オブジェクトを表示する」という本願発明の構\成には至らない旨 主張する。しかしながら,甲2には,CGキャラクターへのユーザーギフティング を動画配信中に行うことについての記載はないものの,これを排除する旨 の記載もなく,この点は,配信時間の長さ,ギフト装着のための準備,予\n想されるギフトの数等を踏まえて,配信者が適宜決定し得る運用上の取り 決め事項といえるから,甲2のユーザーギフティング機能において,CG\nキャラクターが装着するための作品を贈る時期は,配信開始前に限定され ているとはいえない。したがって,引用発明に上記ユーザーギフティング 機能を追加することによって,相違点1に係る「前記動画を視聴する視聴\nユーザから前記動画の配信中に前記動画への装飾オブジェクトの表示を要\n求する第1表示要求がなされ」るという構\成を得ることができる。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ なお,原告は,甲2記載のCGキャラクター「東雲めぐ」が登場する実 際の番組において,ユーザーギフティングが配信開始前に締め切られてい ること(甲9の2,甲10)を指摘する。しかしながら,そのことは,当 該番組における運用上の取り決め事項として,ユーザーギフティングの時 期を配信開始前と定めたことを示すにとどまり,上記アの判断を左右しな い。 (3) 動機付けについて ア 甲2には,配信も可能なVRアニメ作成ツール「AniCast」にユーザー ギフティング機能を追加することが記載されている。一方,引用発明は,\n声優の動作に応じて動くキャラクタ動画を生成してユーザ端末に配信する ものであるから,引用発明も「配信も可能なVRアニメ作成ツール」とい\nえる。また,ユーザーギフティング機能のような新たな機能\を追加することに よって,動画配信システムの興趣が増すことは明らかである。 そうすると,当業者にとって,「配信も可能なVRアニメ作成ツール」\nである引用発明に対して,甲2記載の技術であるユーザーギフティング機 能を追加することの動機付けがあるといえる。\n イ 原告は,甲1には創作したギフトを配信者に贈ることの開示はないから, 引用発明に甲2記載のユーザーギフティング機能を組み合わせる動機付け\nはない旨主張する。しかしながら,動画配信システムの興趣を増すことは当該技術分野において一般的な課題であると考えられるから,甲1自体にユーザーギフティ ング機能又はこれに類する技術の開示又は示唆がないとしても,引用発明\nを知った上で甲2の記載に接した当業者は,興趣を増す一手段として甲2 記載のユーザーギフティング機能を引用発明に適用することを動機付けら\nれるといえる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

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令和2(行ケ)10103 特許権  行政訴訟 令和3年10月6日  知的財産高等裁判所

 内在する課題が共通するとして進歩性無しとした審決が、課題の認定が誤っているとして審決を取り消しました。

 ウ 相違点1に係る本件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」の容易想到性\n
前記(2)のとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,技術分野が 完全に一致しているとまではいえず,近接しているにとどまるから,甲1 発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を想到すること が容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採 用するについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付け があり,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を容 易に想到することができたと判断する前提として,甲1発明に,「イエロー」 とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があり(前記(3) ア(ア)),甲1発明に,演色性を向上させるという,甲2と共通の課題があ ると認定した(前記(3)ア(イ),(ウ))。
しかし,前記ア(ア)のとおり,甲1発 明に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課 題があるとする本件審決の認定は誤りであるし,また,本件審決が甲1発 明の課題に関して認定する「演色性」(本件審決が第6,2,2−1(2)(2 −1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で,甲10に記載されているように周知の 課題といえると認定する事項を含む。)は,甲2に記載された技術事項とし て認定された「演色性」,すなわち,照明された物体の色が自然光で見た場 合に近いか否かという,一般的な意味での「演色性」とは異なる(前記ア (イ))。
そうすると,本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用 する動機を基礎づける甲1発明の課題の認定を誤っているものであり,ま た,甲2に記載された技術事項の内容(前記(1)),甲1発明と甲2に記載さ れた技術事項の技術分野相互の関係(前記(2))を考慮すると,甲1発明に は,甲2に記載された技術事項と共通する課題があるとは認められず,そ のため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがある とは認められない。 したがって,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲 10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ とができたとは認められず,これを容易に想到することができたとする本 件審決の判断(前記(3)ウ(ア))は誤りである。 本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲 10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ とができた(前記(3)ウ(ア))という判断を前提として,甲1発明に甲2に記 載された技術事項及び周知の課題(甲10)を採用し,本件発明1の構成\nのうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容易に想到するこ とができた(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)イ(ア)〔本件審決48 〜50頁〕)と判断するところ,その前提とする判断が誤っているから,本 件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容\n易に想到することができたという判断も誤りである。
エ 黄色発光ダイオードの単独発光色及び混合発光色の容易想到性
前記ウのとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項との間には課題 の共通性がなく,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付 けがあるとは認められないが,念のため,仮にそのような動機付けがある として,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することにより,黄 色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及 び前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオード から発せられる光が混合することにより得られる発光色という,相違点1 に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかについて検討\nする。
甲2には,前記(1)認定のとおり,カード型LED照明光源10に実装さ れるLEDを,相関色温度が低い光色用又は相関色温度が高い光色用や青, 赤,緑,黄など個別の光色を有するものとすることができること(段落【0 080】)が記載されているが,当該事項に係る実施の形態1に関連する段 落【0076】ないし【0080】の記載全体をみても,青,赤,緑,黄 など個別の光色のうちからいずれか1色の単色LEDのみを搭載したLE D光源により青,赤,緑,黄などいずれかの個別の光色を発光するという 意味なのか,複数色のLED光源を搭載して青,赤,緑,黄などの個別の 光色となるように制御するという意味なのか必ずしも判然としない。段落 【0080】に続いて,段落【0081】の前半において「更に,多発光 色(2種以上の光色)のLEDをカード型LED照明光源10に実装する ことにより,・・・この場合,2種の光色を用いた2波長タイプのときには」 との記載が続くことに照らせば,段落【0080】の上記記載は,前者の 意味,すなわち,1種の光色を用いた1波長タイプを意味し,黄色の単色 LEDを搭載したLED光源により黄色の光色を有するという意味と解す ることはできる。しかし,本件発明1は,赤色発光ダイオード,緑色発光 ダイオード,青色発光ダイオード,黄色発光ダイオード及び白色発光ダイ オードを備え,複数得られる特定の発光色として,少なくとも,黄色発光 ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色の他に,黄色発 光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオー ドから発せられる光とを混合して得られる発光色が得られなければならな いところ(相違点1),前者の意味であるとすれば,上記の混合して得られ る発光色が容易想到であるとはいえない。他方,仮に後者の意味だとして も,甲2には,複数色のLED光源に黄色のLEDを含んでいるとの直接 的な記載はないから,黄色以外のLED光源によって黄色の光色を得てい る可能性も否定できず,黄色のLEDの単独発光が容易想到であるとはい\nえない。
さらに,前記(1)イで認定したとおり,甲2には,3種の光色を用いた3 波長タイプの場合は青と青緑(緑)と赤発光の組合せ,4種の光色を用い た4波長タイプの場合は青と青緑(緑)と黄(橙)と赤発光の組合せが望 ましく,特に4波長タイプのときには平均演色評価数が90を超える高演 色な光源を実現できること(段落【0081】)が記載されており,演色性 を向上させるためにRGBY(赤,緑,青,黄)4種類のLEDを用いる ことが記載されているが,これらの記載は,一般的な意味での演色性の向 上に関するものであるから,これらの記載からは,RGBY4種類のLE Dを用いた照明装置において,黄色のLEDを単独発光させることが客観 的かつ具体的に把握できるものとは認められない。 また,甲2には,RGBWY(赤,緑,青,白,黄)の5種類のLED を用いることが,段落【0065】や【0189】に記載されているが, 具体的な記載としては電源に関する説明があるのみで,これらの記載から は,RGBWYの5種類のLEDを用いた照明装置において,黄色LED を単独で発光させることやその他の色と混ぜて発光色を制御することは, 客観的かつ具体的に把握することはできない。 そうすると,仮に甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機 付けがあり,甲2に記載された技術事項を甲1発明において採用し,甲1 発明において黄色発光ダイオードを備えたとしても,黄色発光ダイオード が単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び,前記黄色発光 ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる 光が混合することにより得られる発光色という,相違点1に係る本件発明 1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n

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令和2(行ケ)10057  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年7月8日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。

 前記(1)のとおり,相違点2は,相違点21)及び相違点23)により構成さ\nれるべきものである。本件審決は,相違点21)は容易に想到できるとして おり(当裁判所としてもその結論を是認できる。),原告は,相違点23)の 容易想到性を否定した本件審決の判断を争っている。
イ 相違点23)の容易想到性
(ア) 相違点23)は,「『フレームと床との間に介護者又は患者の足が存在 しても,挟み込みが生じないように』,下降スイッチが押し状態であって もフレームをいったん停止させ,『ブザーを鳴らして警報』すること」で ある。
原告は,前記第3の2(1)イ(イ)のとおり,「フレームと床との間に,介 護者又は患者の足が存在しても,挟み込みが生じないように」との点が 用途による限定を付すものであり発明の構成とはならないから,相違点\nを構成することもない旨主張するが,上記特定事項は,フレームが停止\nする高さを何に基づいて決定するかを特定するものであるから,発明を 構成する部分であり,その主張は失当である。したがって,本件訂正発\n明1が用途発明になることもない。 そうすると,同(2)イ(ア)の被告の主張につき判断するまでもなく,原 告の上記主張はいずれにせよ採用することができない。 (イ)a 前記第2の3(2)アのとおり,甲1発明における下方中間位置は患 者支持面が床から約14インチ(約356mm)の高さであり,同最 下位置は患者支持面が床から約8インチ(約203mm)の高さであ るところ,下方中間位置から最下位置に153mm下降できるという ことは,少なくともフレームの下端が床から153mm以上離れてい なければならないから,下方中間位置でのメインフレーム12の床か らの高さは153mmよりは高いことになる。 ここで,甲2技術事項に係る別紙3の記載によると,足が届く範囲 の可動部と床面との間に120mm以上の寸法があれば,足を挟み込 む危険がないものと理解される。 そうすると,甲1発明における下方中間位置でのメインフレーム1 2の床からの高さは,本件訂正発明1の「介護者又は患者の足が存在 しても,挟み込み等が生じないような高さ」(本件訂正明細書【002 1】)であるといえ,また,甲1発明の最下位置は「床に近接して配置 される」ものであり(甲1[0011],FIG−4),足が挟み込まれ る高さであることは明らかであるから,最下位置に向けて下降する下 方中間位置は「これ以上フレーム1が下降すると,足を挟み込んでし まうような高さ」(本件訂正明細書【0021】)である。 そして,甲1には,「磁石112のホール効果センサ118に隣接し た配置までの移動は,下方中間位置でのベッド10の位置付けに相当 し,磁石112のホール効果センサ116に隣接した配置までの移動 は,上方中間位置でのベッド10の位置付けに相当する。」([0036]) との記載があり,そして,甲1発明の管部110は,軸受部材108 に摺動接触して支持された状態でねじ式リニアアクチュータ98のね じ120に対して直線移動で駆動できるよう構成されており,磁石1\n12は,水平移動に当たり必ずホール効果センサ118及び116に 隣接した位置を通るから,甲1発明のベッドは,必ずフレームが下降 する際に上方中間位置及び下方中間位置で自動的に下降を停止するベ ッドである。
b ここで,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に,\n人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよう下降を停止させるこ とは当業者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる (甲4の【請求項1】,【0003】,甲21の【請求項1】,【0003】, 【0005】参照)。 そして,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に\n人体が挟み込まれないよう警告音で周囲に異常を知らせることも当業 者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる(甲4の 【0014】,【0010】,甲21の【0014】,【0010】参照)。 c そうすると,上記aのように,介護者又は患者の足が存在しても, 足の挟み込みが生じないような下方中間位置においてフレームの下降 は停止するが,それ以上フレームが下降すれば介護者又は患者の足が 挟み込まれてしまうことになる甲1発明に接した場合,昇降機能を有\nするベッドにおいて,人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよ うにベッドの下降を停止するとの周知技術に従い,その下降を停止す る高さを「前記フレームと床との間に,介護者又は患者の足が存在し ても,挟み込みが生じないよう」な意図で設定し,この際,警告音で フレームと床との間に人体が挟み込まれないよう知らせるとの周知技 術に従い,警告音を発するようにすることは,当業者には格別困難な ことではないといえる。
(ウ) 被告の主張について
被告は,前記第3の2(2)イ(ウ)のとおり,足を挟んでしまうことの防 止という課題は甲1発明に内在する課題とはいえない旨主張する。しか しながら,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2 002−125807号公報」(甲21)においては,各【発明の詳細な 説明】の中に,子供が入り込むことの防止に係る記載がされているとこ ろ,各請求項1には,それぞれ「床部下への人体の侵入を監視して,人 体の侵入ありとした際に」又は「人体が存在する旨の検知信号により」 と記載されているのであり,子供が入り込むことのみに限定されるもの と解すべき事情も見当たらないことに照らしても,これらの発明の技術 的思想としては,人体が挟み込まれるのを防止するということが抽出で きるのであり,人体の対象には介護者又は患者も含まれるから,当業者 であれば,甲1に介護者又は患者の足を挟んでしまうことを防止すると の課題の記載や示唆がなくとも,甲1発明のベッドを介護者又は患者の 足を挟んでしまうことを防止するとの意図の下に設定することは容易と いうほかない。したがって,上記主張は,採用することができない。 さらに,被告は,同(エ)のとおり,「ブザーを鳴らして警報」すること は容易想到ではない旨主張するが,上記(イ)cのとおり,昇降機能を有\nするベッドにおいてフレームと床との間に人体が挟み込まれないよう警 告音で周囲に異常を知らせることは周知技術であるところ,人体の挟み 込みの防止のために警報音を鳴らすということの目的は,人体の挟み込 みの防止のためにフレームの下降を停止して実際に挟み込みを防止する こととは異なり,人体が挟み込まれる前の所定の段階であらかじめ操作 者を含む周囲の者に注意確認を促すことにある(警報音を鳴らすものの フレームの下降を人体の接触を感知するまで停止しないという選択もあ り得るから,警報音を鳴らすこととフレームの下降停止とは独立に置換 可能な独立の技術的事項である。)。したがって,フレームと床との間に\n人体があって実際に挟み込みの危険があるか否かは,人体の挟み込みの 防止のために警報音を鳴らすという技術的事項を導入するに際して直接 の関係を有するものではない。そうすると,警告音を発する場面を,異 物を検出した段階とするのか,あるいは,フレームがそれより下降すれ ば人体の挟み込みの危険が生じ得る高さとするかは,設計的事項にすぎ ず,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2002 −125807号公報」(甲21)に記載の発明から認められる周知技術 と甲1発明とは,むしろ警報音を鳴らす局面,対象又は目的を共通とす るといえる。したがって,下方中間停止位置で常に自動的に下降を停止 する甲1発明において,上記周知技術に基づいて下方中間停止位置で停 止した際に「ブザーを鳴らして警報」することは容易に想到できるとい え,上記周知技術が異常を検知した際に警報音を発するものである点が 甲1発明に同技術を適用することを妨げるものではない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。。 そのほか,被告がるる主張するところも,前記イの判断を左右するも のではない。
(エ) まとめ
以上によれば,相違点21)に加えて,相違点23)についても容易に想 到できるというべきであるから,本件審決の相違点2の容易想到性判断 には,誤りがある。

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令和2(行ケ)10134  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年7月29日  知的財産高等裁判所

 コンピュータ関連発明について、知財高裁(2部)は、相違点の認定誤りを理由に、拒絶審決を取り消しました。判決文は、長いです(97ページ)。

 本件審決は,引用発明の構成b1の「コンテンツ」及び構\成f1の「OTTデバイス」が,それぞれ本願発明8の「デジタル・コンテンツ・アイテム」及び「ディスプレイ装置」に相当するという判断を前提として,クライアントに対してファイルを配信する方法において配信の効率化を図ることは一般的課題であるから,引用発明に甲2技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとし,引用発明に甲2技術を適用した発明は,OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構\成を備える方法ということができ,同構成は,構\成Hの「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構\成に相当すると判断した。
(2) しかし,前記3(1)アの甲2の記載(段落【0002】,【0005】,【0012】,【0014】〜【0018】,【0072】〜【0079】,【0116】〜【0123】等。特に,品質情報を具体的に記載した段落【0073】〜【0078】)からすると,甲2技術は,ファイルの効率的な配信のための技術であって,そこで取得される品質情報は,クライアント計算機の性能や動作状態,あるいは回線状態などに関するものと認められる。なお,甲2の段落【0049】,【0050】,【0053】及び【図3】からすると,甲2において,サーバ201と同様の概略構\成であり得るクライアント211がディスプレイ装置と接続されることは示唆されているが,他方で,ディスプレイ110は,あくまで,サーバ201に備わる表示コントローラ105と接続される外部装置として取り扱われており,そのような外部装置であるディスプレイ110から何らかの情報を取得することについての記載は見当たらない。したがって,甲2技術における「受信品質の指標・・・および受信性能\の指標を含む品質情報」に,ディスプレイ装置の品質等の情報が含まれているとまでは認められず,その点に係る技術常識等を認めるべき他の証拠もない。
(3) そうすると,仮に,引用発明の構成b1の「コンテンツ」及び構\成f1の「OTTデバイス」が,それぞれ本願発明8の「デジタル・コンテンツ・アイテム」及び「ディスプレイ装置」に相当するという判断を前提とし,クライアントに対してファイルを配信する方法において配信の効率化を図ることが一般的課題であると解して,引用発明に甲2技術を適用し,OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構\成を備えるものとしたとしても,直ちに「ディスプレイ装置」の「品質情報を取得する」ことまでをも含む構成になるということはできず,本願発明8の構\成Hの「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構\成に相当するものになるとはいえない。よって,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断には,誤りがある。以上の認定判断に反する被告の主張は,採用することができない。
5 相違点2に係る構成の容易想到性について\n
(1)本件審決は,引用発明と甲3技術は,送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法である点において共通することから,引用発明に甲3技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとし,引用発明に甲3技術を適用した発明は,OTTデバイス(ピア1A)から他のOTTデバイス(ピア1B)に対して,「ピア1Bは,ピア1Aに該当のデータの送信を要求する」構成を備える方法ということができ,当該構\成は,構成Jの「外部の創作地点から,インターネットを介して,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へと,前記サービス・クラウドの外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」構\成に相当すると判断した。
(2) しかし,甲3技術がピアツーピアシステムに係るものである(構成i)のに対し,引用発明は,コンテンツの取込み,自動パブリッシング,配信及び格納並びに収益化等の複合的なタスクが実行可能\であるもので,それ自体が主体的にコンテンツの取込みや配信等を行う方法であるものと解されるから,甲3技術と引用発明とは,少なからず技術分野を異にするものというべきである。この点,「送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法」という広い技術分野に属することから直ちに,それらの関係性等を一切考慮することなく,引用発明に甲3技術を適用することを容易に想到することができるものとは認め難い。そして,甲3に,他に,甲3技術を引用発明に適用する動機付けや示唆となる記載があるとも認め難い。 よって,本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断には,誤りがある。
(3) 被告は,本願明細書(甲6)の段落【0130】の記載を踏まえて,本願発明8の構成Jにいう「外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」という文言の意味について,「デジタル・コンテンツ・アイテム」が「外部コンテンツ・ゲートウェイ」を経由するか否かにかかわらず,「外部コンテンツ・ゲートウェイ」の機能\「により転送する」ことをいうと主張するが,上記(2)の判断は,本願発明8の構成Jにいう「外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」を上記の被告が主張するように理解したとしても左右されるものではない。\n
6 相違点3に係る構成の容易想到性について\n
(1)本願発明8の構成Kの「ライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」については,構\成Kの文言によると,サービス・クラウドに備えられ,コンテンツをサービス・クラウドの外部の供給源からディスプレイ装置に提供する機能を有するものと認められ(前記1(2)ウ(ク)),また,「ライブ・データ・フィード」という用語からすると,外部の供給源から供給されるデータには「ライブ」の要素が含まれるものと解される。しかるに,甲4技術が,上記の「ライブ」の要素が含まれるデータの供給に関する構成を含むものであるかは明らかでない。したがって,引用発明に甲4技術を適用しても,直ちに本願発明8の構\成Kに至るものかは,明らかでない。
(2) 本件審決は,甲4技術の構成kの「オンラインサービスコンピューティング装置108」が,本願発明8の「ライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」に相当すると判断したが,上記(1)の点に関し,この判断の根拠が明確にされているとはいえない。また,被告は,甲4技術の「オンラインサービスコンピューティング装置108」は,コンテンツアイテムを外部供給源(「オンラインソーシャルネットワーキングサービス」)から受信してユーザ装置310に送信するから,データを一方から他方へ転送する制御機能\を有する「ゲートウェイ」に相当するとした上で,データは「多数のユーザにより投稿され共有された種々のメディアコンテンツアイテム」や「コンテンツを共有しているユーザ又は『友達』により供給されたニュースフィード」を含むから,上記ゲートウェイは「サービス・クラウドのライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」といえると主張するが,上記(1)の点に関し,その根拠が明確にされているとはいえない。
(3) 以上の点は,原告が取消事由として主張するものではないが,特許庁において更なる審理判断がされることを考慮して判示するものである。7相違点4に係る構成の容易想到性について(1) 引用発明と甲5技術は,いずれもサーバにコンテンツを取り込む方法に係るものであるという点で技術的な共通性を有するといえ,引用発明に甲5技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。そして,引用発明に甲5技術を適用した発明は,OTTデバイスに表示するための「画像データが表\す画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予め記憶された目標濃度に補正する」構\成を備える方法ということができ,この構成は,本願発明8の構\成F2の「前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」構成に相当するということができる。よって,相違点4に係る構\成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。(2)ア原告は,本願発明における解析は,ユーザが視聴するための,映画やテレビ番組等のコンテンツをディスプレイ装置に送信するために行われるものであるところ,ユーザにおいてそれらの画像の特定の部分(顔等)を調整したいという要求はないから,甲5技術に係る「画像データが表す画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予\め記憶された目標濃度に補正する」構成は,本願発明8の構\成F2には相当しないと主張する。
しかし,本願発明8の構成F2は,「ディスプレイ装置上に表\示するための」「デジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」というもので,「解析」の具体的な内容については記載されていない。そして,本願発明8の構成中に,「デジタル・コンテンツ・アイテム」について,原告の主張するような内容のものに特定する旨の記載もなく,他に本願発明8の構\成F2の「解析」を原告の主張するように限定して解釈すべき理由はない。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。イ原告は,本願明細書の段落【0119】の記載から,本願発明8の構成F2の「解析」は,ビジュアル及び音響コンテンツの両方に対して行われ得るもので,甲5技術の「解析」とは異なる旨を主張するが,本願の特許請求の範囲の請求項8には,「音」について何ら記載がなく,上記アのような記載があるのみであるから,本願発明8の構\成F2の「解析」が音響に対しても行われるものと解することはできない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ原告は,引用発明と甲5技術とを組み合わせる動機付けはなく,シーンごとに画像の特定の部分を調整するために,オペレータの好みに従って事前に手動で入力される「目標濃度」を用い,オートセットアップ機能を介して,画像を調整するという甲5技術の「解析」の特徴は,特定の装置の技術的仕様に画像をより良好に適合させるために画像の調整を行う本願発明の「解析」とは対照的であって,甲5技術の「解析」を本願発明に組み込むことは,無意味であり,逆効果であると主張するが,上記アで指摘したのと同様,本願発明8における「解析」について,特定の装置の技術的仕様に画像をより良好に適合させるために画像の調整を行うためのものと限定して解釈すべき理由はないから,原告の上記主張も,前提を欠くものであって採用することができない。\n
8まとめ
以上によると,原告主張の取消事由のうち,相違点の認定の誤り及び相違点4に係る容易想到性の判断の誤りは,いずれも理由がないが,相違点1に係る容易想到性の判断の誤り及び相違点2に係る容易想到性の判断の誤りは,いずれも理由がある。

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令和2(行ケ)10015 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月17日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が維持されました。知財高裁は、課題が公知文献に記載されていないだけでなく、解決手段も公知文献から導けないと判断しました。

 イ シリコーン誘発凝集阻害という課題の発見の容易性について 原告は,タンパク質製剤におけるシリコーン誘発凝集は知られており, タンパク質の凝集が多糖類−タンパク質コンジュゲート凝集の原動力であ ることを当業者は理解していたから,公知発明1に6種の肺炎球菌CRM コンジュゲートを追加することによりタンパク質含量が増える13価の肺 炎球菌CRMコンジュゲート製剤でシリコーン誘発凝集が生じることは予\n見可能であった旨主張する。\nしかし,原告がその主張の根拠とする公知文献(甲25,26,71) は,キャリアタンパク質がCRM又は破傷風毒素(TT)である多糖類− タンパク質コンジュゲートの構造的不安定性に関連する凝集について記載\nするのみであるから,これらの公知文献からは,多糖類−タンパク質コン ジュゲートのシリコーン誘発凝集が本件優先日当時に課題として当業者に 認識されていたとはいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 課題の解決手段の適用の容易性について
上記イで述べたとおり,当業者は本件発明の課題を認識できないから, 既にこの点において容易想到性は否定されることになるが,念のため,課 題解決手段適用の容易想到性に関する原告の主張についても検討しておく。
(ア) タンパク質製剤のシリコーン誘発凝集の解決手段に関する知見につき
原告は,当該課題の解決のために,当業者は,タンパク質製剤におけ るシリコーン誘発凝集の解決手段に関する知見を採用し得た旨主張する。 しかしながら,原告がその主張の根拠とする公知文献(甲3,69) には,タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集についての記載はあるが, 多糖類−タンパク質コンジュゲートのシリコーン誘発凝集についての記 載はない。他方,多糖類−タンパク質コンジュゲートの構造的不安定性\nや凝集は,タンパク質部分のみでなく多糖類部分の影響も受けることが 知られていたところ(甲25,50),多糖類とタンパク質は構造や性\n質が異なるから,両者の挙動は異なることが当然に予想される。そうす\nると上記公知文献(甲3,69)に記載されたタンパク質医薬品のシリ コーン誘発凝集についての知見が,多糖類−タンパク質コンジュゲート のシリコーン誘発凝集にも直ちに妥当するものとは認められない。また, 上記公知文献は,タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集の問題を解決 する手段として,それぞれ,界面活性剤の添加又はシリコーン含有量の 低減を開示するのみであって,本件発明の構成であるアルミニウム塩の\n添加には触れていないから,公知発明1にタンパク質製剤のシリコーン 誘発凝集の解決手段に関する上記公知文献記載の知見を適用しても,本 件発明の構成には至らない。\nしたがって,原告の上記主張は採用できない。
(イ) アルミニウム塩の発揮する効果に関する知見につき
原告は,凝集体の発生に関連するタンパク質の疎水性表面への吸着は\nアルミニウム粒子で防ぐことができるとの知見(甲81の3,76)が あったから,疎水性界面を示すシリコーンによるワクチンの凝集も,ア ルミニウム塩をアジュバントとすることにより防ぐことができると当業 者は理解したと主張する。
しかし,上記知見においては,容器の疎水性表面へのタンパク質の吸\n着は,液体(製剤)と固体(容器)との界面における容器表面とタンパ\nク質分子との相互作用に関連すると理解されていたのに対し(甲81の 3),タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集は,微量のシリコーンの 存在と空気−液体界面におけるタンパク質の変性や(甲3),タンパク 質結合に関与する分子間相互作用へのシリコーンの影響(甲69)に関 連すると考えられており,シリコーン誘発凝集がタンパク質のシリコー ンへの吸着によって生じると考えられていたとは認められないから,疎 水性表面へのタンパク質の吸着をアルミニウム粒子により阻害する旨の\n上記知見を,直ちに肺炎球菌CRMコンジュゲートのシリコーン誘発凝 集の阻害のために適用することは困難であったといえる。 したがって,原告の上記主張は採用できない。
エ 単なる「発見」にすぎないとの予備的主張について\n
原告は,相違点4に係る発明特定事項は,ワクチン製剤のアジュバント としてアルミニウム塩を選択するという周知慣用技術を採用したとき,ア ルミニウム塩が肺炎球菌CRMコンジュゲートワクチン製剤においてはシ リコーン凝集阻害という効果を示すという,公知発明1(7価プレベナー )でも生じていたメカニズムを「発見」したにすぎないから,相違点4を 根拠に本件発明の進歩性を認めることは,自由技術に独占権を与えること になって不当である旨主張する。 しかし,この主張は,本件発明と公知発明1とは実質的には同一である という前記の主張と本質を同じくするものであるといえるところ(すなわ ち,本件発明と公知発明1とは実質的には同一であって,発明の構成にお\nいて違いはないという前提があって初めて,本件発明の独自性は,凝集の メカニズムを「発見」したにすぎないという議論が成り立ち得ることにな るはずである。),この主張を採用することができないことは既に説示し たとおりである。

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令和2(行ケ)10073  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月24日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

(1) 一致点及び相違点
上記1及び2によれば,本件各発明と甲1発明との一致点及び相違点は, 本件審決が認定したとおり(前記第2の3(2)イ)であると認められる(なお, 以下において,「医療情報取得情報」とは,患者の医療情報を取得するため に,端末装置から取得され,又は情報処理装置の記憶部にあらかじめ記憶さ れた情報をいう。)。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,甲1発明の「ベッドサイド端末識別子」は患者名を取得するた めの識別情報であり,本件発明1の「第1識別情報」に相当するから,相 違点1−1は存在しない旨主張する。 しかしながら,本件明細書1及び甲1公報の記載内容からすれば,本件 発明1の「第1識別情報」は,患者ごとに付された患者ID等であるのに 対し,甲1電子カルテサーバの「ベッドサイド端末識別子」は,ベッドサ イド端末ごとに付されたIPアドレス等であり,両者が識別する対象は異 なるというべきである。また,甲1電子カルテサーバの「ベッドサイド端 末識別子」は,患者IDと関連付けられて記憶されることによって初めて 患者を識別する情報として用いることが可能となるにすぎないものであ\nり,それのみによって直接に患者が識別されるものではない。 これらの事情を考慮すると,本件発明1の「第1識別情報」と甲1電子 カルテサーバの「ベッドサイド端末識別子」とは,異なる概念であるとい うべきであるから,相違点1−1を認定することができる。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ なお,原告が主張する相違点は,上記相違点1−2と実質的に同じ内容 である(原告が指摘するとおり,相違点1−2の第2段落及び第3段落は, 第1段落に伴って形式的に生じる相違点にすぎない。)。

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こちらは関連発明です。

◆令和2(行ケ)10074

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令和2(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月22日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。争点は相違点が設計事項か否かです。

 前記のとおり,相違点1は,切削ローラの路面に対する高さを調節する ための機構に関するものであるところ,相違点2は,切削ローラの移動方\n向を踏まえた切削ローラ及びこれを支持する切削ローラハウジングとフ レームとの支持構造に関するものであり,また,相違点3は,切削ローラ\nに一体化された切削ローラ駆動ユニットの可動方向を踏まえた同ユニッ トの支持構造に関するものである。\nそうすると,これらは相互に密接に関連するものといえるから,相違点 1ないし3の容易想到性については,併せて判断するのが相当である。
イ そこで検討するに,上記2(1)のとおり,検甲1発明においては,切削ロ ーラ及び切削ローラと一体化した駆動部がハウジング部に支持され,ハウ ジング部は,上下方向変位用の油圧シリンダが取り付けられた2つの棒状 ガイド及び4本の連結棒を介してフレーム部に支持されているところ,切 削ローラの路面に対する高さの調節に関しては,切削ローラを油圧シリン ダ等の駆動機構によって垂直方向に移動させる構\成が採られている。 これに対し,本件発明1においては,上記1(3)のとおり,切削ローラ及 び切削ローラハウジングが上下方向及び進行方向に機械フレームに強固 に支持されているところ,切削ローラの路面に対する高さの調節に関して は,切削ローラを車体の上下動によって垂直方向に移動させる構成が採ら\nれている。
そして,本件優先日時点において,これらの方法以外に,自走式道路切 削機における切削ローラの路面に対する高さを調節する方法があったこ とをうかがわせる証拠は存しないから,当業者としては,上記2つの方法 のいずれかを採るほかなかったものといえる。そうすると,これらの方法 のいずれを採るかは,当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎないという べきである(なお,切削ローラを上下させるために,油圧シリンダ等によ り切削ローラそのものを垂直方向に移動させることは誰しも思いつくと ころであるといえるし,また,上記3(1)ないし(3)によれば,甲6文献な いし甲8文献には,いずれも,自走式道路切削機における切削ローラの路 面に対する高さを調節する方法として,車体の上下動を用いる構成を採る\nことが記載されていることからすれば,本件優先日当時の自走式道路切削 機の技術分野において,同構成は,周知の技術であったといえる。したが\nって,これらの2つの方法のうちいずれかを採用することには技術的創意 を要するから設計事項には当たらないなどといった議論は成り立たな い。)。 これらの事情を考慮すると,検甲1発明において,相違点1に係る本件 発明1の構成を採ることは,容易に想到し得るものであったといえる。\n
ウ また,検甲1発明において,切削ローラの路面に対する高さを調節する 方法として,上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成に代えて,車体\nの上下動を用いる構成を採る場合には,ハウジング部を垂直方向に移動さ\nせるための機構であった同油圧シリンダが不要となるところ,同油圧シリ\nンダが設置されていた棒状ガイドとフレーム部との間に,敢えて新たな別 の部材を設置する必要はない。そうすると,当業者としては,棒状ガイド をフレーム部で直接支持するような構造を採ろうとするのが自然な技術\n的発想であるといえる。
そして,上記のように,検甲1発明において,棒状ガイドをフレーム部 で直接支持するような構造を採る場合には,切削ローラ及びハウジング部\nは,横断方向にのみ移動することができるようにすればよいのであって, 敢えてこれらを垂直方向又は進行方向にも移動することができるように する必要はない。そうすると,当業者としては,切削ローラ,ハウジング 部及び切削ローラと一体化した駆動部を,垂直方向及び進行方向に移動し ないように,垂直方向及び進行方向にフレーム部で強固に支持し,進行方 向に対して横断方向にのみ変位可能に支持する構\造を採ろうとするのが 自然な技術的発想であるといえる。
エ 以上によれば,検甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の構成\nを採った場合には,必然的に,相違点2及び3に係る本件発明1の構成を\n採ることとなるというべきである。 したがって,検甲1発明において,相違点2及び3に係る本件発明1の 構成を採ることは,相違点1と同様に,容易に想到し得るものであったと\nいえる。

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令和1(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月15日  知的財産高等裁判所

 新規性・進歩性違反については、一致点と相違点の認定を誤っているとして取り消しました。その他の記載要件(実施可能要件・サポート要件)については無効理由無しについても判断しています。\n

 イ 本件審決は,引用発明1を前記第2の3(2)アのとおり,低純度酸素の生成に 関し,「高純度酸素が側塔から抜き取られる位置よりも15〜25平衡段高い位置で 側塔から液体として抜き出され,液体ポンプを通過することにより高い圧力に圧送 され,主熱交換器を通過することによって気化され」るものと認定した。 原告は,上記認定を争い,引用発明1は,低純度酸素を専ら液体として抜き出す ものではないと主張し,その根拠として記載Aを指摘する。
ウ 記載Aは,「Either or both of the lower purity oxygen and the higher purity oxygen may be withdrawn from side column 11 as liquid or vapor for recovery.」というものである(甲1の1。5欄8行〜10行)。引用例1の他の箇所 (例えば,5欄11行〜22行,23行〜32行,33行〜39行)において, “recover”の用語が最終的な製品を得ることという意味で用いられていることから すると,記載A文末の“recovery”も最終製品の回収のことを意味し,他方で文中の “withdrawn”は,中間的な生成物の抜き出しのことを意味するものと解される(4 欄40行の“withdrawn”,5欄43行の“withdrawal”も同様である。)。そうすると,記載Aは,前記ア gのとおり,低純度酸素及び高純度酸素のいずれか又は両方は, 回収のために,液体又は気化ガスとして側塔11から抜き出されてもよいと訳すの が相当である。 そうだとすると,記載Aからは,引用発明1が低純度酸素を専ら液体として抜き 出すもので,気体としての抜き出しは排除されている,と理解するのは困難である。 しかも,引用例1の全体をみると,引用発明1が解決しようとする課題は,低純 度酸素及び高純度酸素の両方を高回収率で効果的に精製することができる極低温精 留システムを提供することであり ,課題を解決する手段は,空気成分の 沸点の差,すなわち低沸点の成分は気化ガス相に濃縮する傾向があり,高沸点の成 分は液相に濃縮する傾向があることを利用したものである(同 と認められ,図 1に示されたのは,あくまで,好ましい実施形態にすぎない 。図1の説明 においては,低純度酸素を液体として抜き出し,それにより大量の高純度酸素を得 られるとしても,それは,最も好ましい実施形態を示したものであって,引用例1 に側塔11から低純度酸素を気体として抜き出すことが記載されていないとはいえ ない。
エ また,証拠(甲2,3の1,4,7の1,8)によれば,本件発明1の出願当 時,空気分離装置又は方法において,高純度酸素と区別して低純度酸素を回収する ことができ,その際に,精留塔から,低純度酸素を気体として抜き出す方法も液体 として抜き出す方法もあることは,技術常識であったと認められる。上記認定の技 術常識に照らしても,引用例1には,低純度酸素を液体として抜き出すことのみな らず,気体として抜き出すことが記載されているに等しいというべきである。
オ そうすると,本件審決が,引用発明1を,低純度酸素を専ら液体として抜き 出すものと認定し,これを一致点とせずに相違点1と認定したことは,誤りといわ ざるを得ない。 本件審決は,その余の相違点及び本件発明2〜4と引用発明1との相違点につい て判断せず,原告被告ともにこれを主張立証していないから,これらの点に係る新 規性及び進歩性については,再度の審判により審理判断が尽くされるべきである。
・・・
事案に鑑み,取消事由3についても判断する。
(1) 実施可能要件適合性\n
ア 本件各発明に係る「空気分離方法」のための「空気分離装置」は,2種以上の 純度の酸素を取り出すものであり,そのうち1種を低純度のガス酸素で取り出すこ とによって,低圧精留塔内の主凝縮器に必要な酸素の純度を低減でき,その結果, 空気圧縮機の吐出圧の低減を図り,該圧縮機の消費動力を低減し,「空気分離装置」 の稼動コストを従来よりも小さくすることができるものである。 イ 本件各発明において用いられる装置は,「空気圧縮機」,「吸着器」,「主熱 交換器」,「高圧精留塔」,「低圧精留塔」,「低圧精留塔」内に設けられた「主凝 縮器」,「昇圧圧縮機」,「液酸ポンプ」,「空気凝縮器容器」及び「空気凝縮器容 器」内に設けられた「空気凝縮器」を主として備える「空気分離装置」であり,それ ぞれの意味するところは,図面をもって具体的に示されている(【0023】,図 1)。
工程についても,1)「低圧精留塔」内で精留分離された液体酸素が,「空気凝縮器 容器」内に供給され,「空気凝縮器容器」内で気化したガス酸素(低純度酸素)が, 供給ライン(ガス酸素供給ライン)により「主熱交換器」に送られて常温に戻された 後,必要に応じて空気が混合されて酸素富化燃焼用酸素として外部(酸素富化炉) に供給されること(【0027】〜【0029】),2)「空気凝縮器容器」内の液体 酸素は,供給ラインにより「液酸ポンプ」に送られて必要圧に昇圧された後,「主熱 交換器」で蒸発及び昇温されることによりガス酸素(高純度酸素)となり,酸化用酸 素として外部(酸化炉)に供給されること(【0030】),3)「空気凝縮器容器」 内の液体酸素(高純度酸素)の抜き出し量は,例えば10%〜80%の間とするこ と(【0059】,【表3〜5】),以上のことが,具体的に示されている。\nそして,以上のような「空気分離装置」によれば,必要とされる高純度酸素が全体 の酸素の一部である場合に,必要とされる高純度酸素の純度を確保しつつ,「低圧 精留塔」の「主凝縮器」から取り出す液体酸素の純度を低減し,低減分の酸素の沸点 を下げることが可能となり,また,「低圧精留塔」内で液体酸素とガス窒素との間で\n行われる熱交換の温度差を大きくすることにより,「高圧精留塔」内の必要圧力を 下げることができ,これにより,「空気圧縮機」の吐圧力を低減し,ひいては該圧縮 機の消費動力の低減が可能となるので,「空気分離装置」の稼動コストを従来より\nも抑えることができるとして,効果及びその機序の説明もされている(【0018】, 【0035】,【0036】)。
ウ 本件明細書の発明の詳細な説明には,前記ア,イのことがその具体的な実施 の形態も含めて記載されており,当業者は,これをみれば,過度の試行錯誤を要す ることなく,本件各発明を実施することができる。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合する。\n

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令和1(行ケ)10155 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年8月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。ただ、知財高裁は、引用文献に記載の発明について誤りがあるが、結論は妥当としました。

 「袋」の辞書的な意味は,「中に物を入れて,口をとじるようにした入れ物。」 とされている(広辞苑第七版)。そして,本件発明においても「袋」の語がそのよ うなものとして扱われている(本件明細書の段落【0052】,【0055】,【0 058】,【0059】参照)と認められ,「袋」について上記辞書的意味を超え て,それを限定する記載はない。 他方,甲1の段落【0053】の「・・・複数の区画室28には,少なくとも2 種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように, 別々に収容されている・・・」,「・・・壁材39の内壁面同士を剥離可能に熱溶\n着した弱シールからなる隔離部43により下端部が収容室24と隔離され・・・」 との記載,段落【0054】の「・・・収容容器30の隔離部43は,区画室28 の壁材39を押圧することにより,剥離して開放できる・・・」との記載及び【図 6】からすると,甲1発明の区画室28は,内部にビタミン等を収容することが予\n定されたものであり,隔離部43が閉じたり,開いたりして「口」としての役割を 果たすものであると認められるし,【図6】に表れた区画室28の形状からしても\n区画室28は「袋」と呼んで差し支えないものである。 そうすると,甲1発明の区画室28の形態は,本件発明1にいう「袋」に相当す るものであり,この点を否定した審決の認定は相当ではない。
・・・
本件発明1では,輸液製剤は,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されてお り,上記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して,甲1輸液製剤発明では, そのような特定のない点。 イ 前記(1)イ(エ)bのとおり,当業者は,甲1から,収容室23にシステイ ン,またはその塩,エステルもしくはN−アシル体を収容し,区画室28に微量金 属元素を収容するという構成を認識することができないところ,本件発明1の「ア\nセチルシステイン」は,システインのN−アシル体であるから,相違点1−1及び 相違点1−2は,実質的な相違点ということができる。
(3) 小括
以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1が甲1輸 液製剤発明と同一ではないとした審決は結論において相当であり,原告が主張する 取消事由1は理由がない。

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令和1(行ケ)10168  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年8月12日  知的財産高等裁判所

 クレームに基づかない主張として、相違点の認定に誤りはなしとして、拒絶審決が維持されました。

 本願の請求項1は,「前記切削切断部は,この根菜類の表面から切削対象\n部位を削り出す切削手段,及び根菜類の切削対象部位を二片,又は多片の形状に切 断するための切断手段の根菜類切削切断装置」としており,「切削手段」は,「根菜 類の表面から切削対象部位を削り出す」ものであり,「切断手段」は,「根菜類の切\n削対象部位を二片,又は多片の形状に切断するためのもの」である。このような請 求項1の文言によると,「切削対象部位」は,切削手段により根菜類の表面から削り\n出されるものであるとともに,切断手段により二片,又は多片の形状に切断される ものであることは理解できるが,「切断手段」が,切削手段によって切り出された後 の切削対象部位を二片,又は多片の形状に切断することまでが記載されているとい うことはできない。
また,上記請求項1の記載によると,本願発明の「切断手段」は,「根菜類の切削 対象部位を二片,又は多片の形状に切断するためのもの」であるから,先に根菜類 の表面から切削対象部位を削り出し,その後,その切削対象部位を切断するものは\nもとより,先に根菜類の切削対象部位に縦溝を入れ,その後,「切削手段」によって, 根菜類の表面から切削対象部位が削り出され,根菜類の切削対象部位が二片,又は\n多片の形状に切断される状態になるものについても,請求項1の文言上,「根菜類の 切削対象部位を二片,又は多片の形状に切断するためのもの」ということができる。 原告は,本願発明において,根菜類から「切削手段」によって削り出す前の「根 菜類の切削対象部位」に対しては,縦溝を入れることは可能であっても,物を断ち\n切ること,切り離すことを意味する「切断」を行うことはできないと主張するが, 原告の上記主張は,上記で判断したとおり採用することはできない。
イ また,本願明細書を見ると,段落【0048】には,実施例1として, 切削手段1Aで切削切断片KSを形成し,切削手段1Aで切削切断片KSを形成す る直前に,その部分を切断手段1aで切削切断片KS1,KS2,KS3となるよ うに切断するが,工程的には切削と切断が順次,又は略同時に行われることが示さ れているものの,切断工程の切断手段1aが先で,切断線を備えた人参に,切削工 程の切削手段1Aが切断すると他の例もあり得ることも示されており,さらに,段 落【0052】は,実施例1の根菜類切削切断装置Nにおいて,切削片KS(切削 対象部位)が切断手段1aで完全でない切断がされた後に(「根菜類の表面から分離\nしていない状態で」を意味すると解される。)切削手段1Aで切削されて切削切断片 KS1,KS2,KS3となることが記載されているから,本願発明においては, 「切削対象部位」である切削片KSは,「切削手段」による切削の後に又は略同時に 「切断手段」により切断される態様のみならず,根菜類から切断手段により完全で ない切断がされた後に切削手段により切り取られる態様のものも含まれているとい える。
ウ そうすると,本願発明において,「切削手段」による切削と「切断部分」 による切断の前後関係は特定されておらず,前後関係がいずれであっても本願発明 に含まれるということができる。 なお,原告は,本願明細書の【図16】の(a),(b),(d)は,先に切削部分 から切削され,その後切断部分により切断される態様を示していることを指摘する が,本願明細書の段落【0047】によると,【図16】の(a),(b),(d)は一実施例を示したものにすぎないと認められるから,上記判断を左右するものではな い。
エ 以上によると,本願発明の「根菜類の切削対象部位」は,先に根菜類の 表面から切削手段によって削り出された後のものに限定されるものではなく,先に\n切断手段によって切断された後に,切削手段によって根菜類の表面から切削される\nものも含まれているといえるから,切断部分が切断するのは,根菜類の表面(外周)\nである場合も含まれることになる。 したがって,甲1発明の「ごぼう60の外周」は,本願発明の切断手段によって 切断される「根菜類の切削対象部位」に相当しないとの原告の主張を採用すること はできない。
(3) 原告は,甲1発明の「2つ割り刃11」は,本願発明の「切削手段」によ って根菜類の表面から削り出された「切削対象部位を二片,又は多片の形状に切断\nするための」「切断手段」に相当しない旨主張する。 まず,本願発明は,先に根菜類の表面から切削手段によって切削対象部位を削り\n出し,その後,その切削対象部位を切断手段によって二片又は多片に切断するもの に限られることはなく,先に切削対象部位を切断手段によって完全でない切断がさ れ,その後,根菜類の表面から切削手段によって切削対象部位を削り出すものも含\nまれることは,前記(2)のとおりである。 また,甲1発明において,「2つ割り刃11」は,ごぼう60の外周に縦溝を入れ, その後,「ささがき刃10」がごぼうの外周の表面をささがきし,その結果,2つ割\nりになるささがきを生成するものであることは,前記2のとおりである。 そうすると,甲1発明の「2つ割り刃11」は,本願発明における「切断手段」 に相当すると認められるから,この点に相違点があるとは認められない。

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令和1(行ケ)10077  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年6月11日  知的財産高等裁判所(1部)

 進歩性判断における相違点の認定については、「まとまりのある構成を単位として認定するのが相当であり,かかる観点を考慮することなく,相違点をことさらに細かく分けて認定し,各相違点の容易想到性を個々に判断することは,進歩性の判断を誤らせる結果を生じることがあり得るものであり,適切でない」と判断されました。ただ、結論に影響なしとして取り消しはされませんでした。なお、一事不再理の「同一証拠」についても言及しています。\n

 もっとも,発明の進歩性の判断に際し,本件発明と対比すべき主引用発明は, 当業者が,出願時の技術水準に基づいて本件発明を容易に発明をすることができた かどうかを判断する基礎となるべき具体的な技術的思想でなければならない。そし て,本件発明と主引用発明との間の相違点に対応する副引用発明があり,主引用発 明に副引用発明を適用することにより本件発明を容易に発明をすることができたか どうかを判断する場合には,主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆,技術分野 の関連性,課題や作用・機能の共通性等を総合的に考慮して,主引用発明に副引用\n発明を適用して本件発明に至る動機付けがあるかどうかを判断するとともに,適用 を阻害する要因の有無,予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断する\nこととなる。 このような進歩性の判断構造からすれば,本件発明と主引用発明との間の相違点\nを認定するに当たっては,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構\n成を単位として認定するのが相当であり,かかる観点を考慮することなく,相違点 をことさらに細かく分けて認定し,各相違点の容易想到性を個々に判断することは, 進歩性の判断を誤らせる結果を生じることがあり得るものであり,適切でない。
ウ 前記アのとおり,本件発明1と引用発明の一致点及び相違点が本件審決の認 定したとおりのものであることについては,当事者間に争いがない。 しかし,前記イで述べたところに照らせば,本件審決が認定した相違点のうち, 少なくとも相違点4ないし6に係る構成は,グラブバケット自体の水中での抵抗を\n減少させて降下時間を短縮し,グラブバケットが掴み物を所定の容量以上に掴んだ 場合でも該グラブバケットの内圧上昇に起因する変形,破損を引き起こすことがな いようにするという技術的課題の解決に向けられたまとまりのある構成であるから,\n本件において,相違点4ないし6は,本来,次のとおりに認定すべきものであった。
(相違点A)
本件発明1においては,シェルカバーの一部に形成された空気抜き孔に取り付け られた「開閉式のゴム蓋を有する蓋体」が,「シェルを左右に広げたまま水中を降下 する際には上方に開いて水が上方に抜け」るとともに,「シェルが掴み物を所定容 量以上に掴んだ場合にも,内圧の上昇に伴って上方に開」き,「グラブバケットの水 中での移動時には,外圧によって閉じられる」ものであるのに対し,引用発明にお いては,掩蓋の一部に形成された空気抜きのための開口に取り付けられた「開閉式 の逆止弁」が,「シエルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて空 気が上方に抜けるとともに,バケットを海上に引き上げる場合に閉じられる」が, 「シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開」 くか否かは明らかでない点。
エ 本件発明1と引用発明との相違点は,本来,前記ウのとおりに認定すべきも のであった。しかしながら,この点を措き,本件審決の認定したところ及び当事者 の主張に従い,相違点6の判断の当否として検討してみても,後記(3)のとおり,本 件審決の判断に誤りがあるとはいえない。
・・・
 3 特許法167条又は信義則の違反をいう被告の主張について
(1) 被告は,本件無効審判における事実及び証拠は,別件無効審判のそれと実質 的に同一であるから,本件無効審判の請求は,特許法167条の規定に違反し,「紛 争の蒸し返し防止」及び「紛争の一回的な解決」の要請に反し,許されない旨主張す るので,事案に鑑み,以下,判断する。
(2) 別件無効審判の経緯は,前記第2の1(2)認定のとおりであり,本件特許につ いて,平成22年12月14日付け別件無効審判の請求以来,約7年4月間の長期 間にわたり,4回の審決と3回の判決,1回の決定がされたことが認められる。 現行特許法が,同一の請求人についても,同法167条の場合を除いて,何回で も,かつ,時期的制限もなく(同法123条3項),無効審判を請求することのでき る制度を採用していることについては,特許権の安定や紛争の一回的解決の見地か ら再検討の余地があるが,特許法167条は,「特許無効審判‥の審決が確定したと きは,当事者‥は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求すること ができない。」と規定している。そして,同条の趣旨は,(1)同一争点による紛争の蒸 し返しを許さないことにより無効審判請求等の濫用を防止すること,(2)権利者の被 る無効審判手続等に対応する煩雑さを回避すること,(3)紛争の一回的な解決を図る こと等にあると解され,無効審判請求において,「同一の事実」とは,同一の無効理 由に係る主張事実を指し,「同一の証拠」とは,当該主張事実を根拠づけるための実 質的に同一の証拠を指すものと解される。 ところで,無効理由として進歩性の欠如が主張される場合において,特許発明が 出願時における公知技術から容易に想到できたというためには,(1)当該特許発明と, 引用例(主引用例)に記載された発明(主引用発明)とを対比して,当該特許発明と 主引用発明との一致点及び相違点を認定した上で,(2)当業者が主引用発明に他の公 知技術又は周知技術とを組み合わせることによって,主引用発明と相違点に係る他 の公知技術又は周知技術の構成を組み合わせることが当業者において容易に想到で\nきたことを示す必要がある。そうすると,主引用発明が異なれば,特許発明との一 致点及び相違点の認定が異なり,これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容 も異なってくるから,無効理由としても異なることになる。 したがって,進歩性の欠如という無効理由について,主引用発明が異なるときは, 「同一の事実」に当たらないことになる。
(3) これを本件についてみると,別件無効審判において,主引用発明とされたの は,甲8及び甲9に記載された各発明であり,本件の主引用例(甲7)は,別件無効 審判では提出されていない。主引用例から認定される発明(主引用発明)が別件無 効審判で主張された主引用発明と異ならなければ,無効理由としても同一と評価で きるが,本件審決は,別件無効審判のそれとは異なる発明(掩蓋に逆止弁が取り付 けられた構成を含むもの)を甲7の記載から認定している。浚渫用グラブバケット\nにおいて逆止弁に技術的意義があることは明らかであるから,本件無効審判の主引 用発明が別件無効審判のそれと異ならないということはできない。 したがって,現行法下の無効審判請求及び審決取消訴訟においても,「紛争の蒸し 返し防止」及び「紛争の一回的な解決」の要請を満たすような主張立証がされるべ きことは,被告の主張するとおりであるものの,本件においては,理由がない。

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平成30(行ケ)10131等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年7月22日  知的財産高等裁判所

 無効と判断された請求項についての判断が、相違点の認定の誤りがあるとして、取り消されました。

 以上によれば,本件発明1と引用発明3の一致点及び相違点は次のとお りであると認められる。
(ア) 対比
a 前記ア(イ)のとおり,本件発明1の「相互作用マスタ」は,「一の医 薬品」及び「他の一の医薬品」が販売名(商品名)か一般名かこれを 特定するコードや,薬効,有効成分及び投与経路を特定することがで きるコードのレベルの概念で統一して格納され,1)A薬品から見たB 薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報と,2)B薬品か ら見たA薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報とは, データとして個々別々のものとして格納され,また,1)A薬品から見 たB薬品に関する相互作用が発生する組み合わせについての情報と, 3)A薬品から見たC薬品の相互作用が発生する組み合わせについての 情報とも,データとして個々別々のものとして格納されるものである。 これに対し,前記イ(ア)のとおり,引用発明3の相手テーブル部の一般 名コード,薬効分類コード,BOXコードの各欄には,必ずしもすべ てにコードが格納されているとは限らない。
したがって,引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル10 5」と,本件発明1の「相互作用マスタ」とは,「一の医薬品から見 た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互 作用をチェックするためのマスタ」である点で共通するが,本件発明 1が「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医 薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用 が発生する組み合わせを格納する」のに対し,引用発明3では,「一 の医薬品から見た他の医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BO Xコードかの少なくともいずれかについて,相互作用が発生する組み 合わせを格納し,また,他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コー ド,薬効分類コード,BOXコードかの少なくともいずれかについて, 相互作用が発生する組み合わせを格納する」点で相違する。
b 本件発明1は「自己医薬品と相手医薬品との組み合わせ」と, 「相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせ」についての合 致の有無を判断するものであるのに対し,前記第2の3ウ(ア)及び上 記イ(イ)によれば,引用発明3は,1)医薬品相互作用チェックテーブル 105において,「自己テーブル部」に,「自己医薬品」に係る「一 般名コード」,「薬効分類コード」,「BOXコード」が存在するか をそれぞれ検索し,2)いずれかのコードが存在していれば,処方医薬 品相互作用チェックテーブルTの形態で「一時記憶テーブル110」 に記憶し,3)「一時記憶テーブル110」に記憶したデータの「相手 テーブル部」に,「相手医薬品」に係る「一般名コード」,「薬効分 類コード」,「BOXコード」が存在するかをそれぞれ検索し,4)い ずれかのコードが存在していれば,「自己医薬品」と「相手医薬品」 とが相互作用を有する組み合わせが存在すると判断するものである。 そうすると,引用発明3の「検索処理」と本件発明1の「相互 作用チェック処理」とは,いずれも,「入力された新規処方データ の各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし,自己医薬品と相手 医薬品の組み合わせについて,相互作用をチェックするためのマ スタに基づいて相互作用をチェックするための処理」を実行する 点で共通するものの,引用発明3の「検索処理」は,自己医薬品 と相手医薬品と間で,一般名コード,薬効分類コード,BOXコ ードのいずれかの組み合わせが存在すれば相互作用を有する組み 合わせであると判断するものであり,自己医薬品と相手医薬品と の組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと の,医薬品の組み合わせ同士の合致を判断しているとはいえない から,本件発明1の「自己医薬品と相手医薬品との組み合わせと 相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせが合致するか否か を判断することにより,相互作用チェック処理を実行する」「相 互作用チェック処理」とは相違する。
(イ) 一致点及び相違点
以上によれば,本件発明1と引用発明3は,次の一致点において一致 し,前記第2の3(2)ウ(ウ)記載の相違点4−1のほか次の相違点におい て相違することが認められる。
a 一致点
「一の医薬品から見た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個 別に格納する相互作用をチェックするためのマスタを記憶する記憶手 段と, 入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品 とし,自己医薬品と相手医薬品の組み合わせについて,上記マスタに 基づいて相互作用をチェックするための処理を実行する制御手段と, 前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用をチェ ックするための処理の結果を,表示する表\\示手段と, を備えたことを特徴とする医薬品相互作用チェック装置」
b 相違点
〔相違点4−8〕
相互作用をチェックするためのマスタが,本件発明1では,「一の 医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医薬品から見 た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用が発生する 組み合わせを格納する」のに対し,引用発明3では,「一の医薬品か ら見た他の医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BOXコードか の少なくともいずれかについて,相互作用が発生する組み合わせを格 納し,また,他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コード,薬効分 類コード,BOXコードかの少なくともいずれかについて,相互作用 が発生する組み合わせを格納する」点。
〔相違点4−9〕
相互作用をチェックするための処理が,本件発明1では,自己医薬 品と相手医薬品との組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の 組み合わせが合致するか否かを判断するのに対し,引用発明3では, 「自己テーブル部」に「自己医薬品の一般名コードが存在するか」, 「自己医薬品の属する薬効分類コードが存在するか」,「自己医薬品 に付与されたBOXコードが存在するか」をそれぞれ検索して,いず れかのコードが存在していれば,処方医薬品相互作用チェックテーブ ルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶し,一時記憶テーブル1 10に記憶したデータの「相手テーブル部」に,「相手医薬品の一般 名コードが存在するか」,「相手医薬品の属する薬効分類コードが存 在するか」,「相手医薬品に付与されたBOXコードが存在するか」 をそれぞれ検索して,いずれかのコードが存在していれば,「自己医 薬品」と「相手医薬品」とが相互作用を有する組み合わせが存在する と判断するものである点。
エ 以上のとおりであるから,審決は,本件発明1と引用発明3の相違点の 認定に際し,相違点4−8,4−9を看過したものであり,相違点の認定 の誤りがあるというべきである。

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平成30(行ケ)10145 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年7月18日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。取消理由は、相違点についての判断誤りです。

 前記(ア)及び(イ)によれば,甲1ないし3,5に接した当業者は, 過酸化水素と有効塩素剤とを組み合わせて使用する甲1発明には,有効 塩素剤の添加により有害なトリハロメタンが生成するという課題があ ることを認識し,この課題を解決するとともに,使用する薬剤の濃度を 実質的に低下せしめることを目的として,甲1発明における有効塩素剤 を,トリハロメタンを生成せず,有効塩素発生剤である次亜塩素酸ナト リウムよりも少量で付着抑制効果を備える海生生物の付着防止剤であ る甲2記載の二酸化塩素に置換することを試みる動機付けがあるもの と認められるから,甲1及び甲2,3,5に基づいて,冷却用海水路の 海水中に「二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順でまたは同 時に添加して,前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」 構成(相違点1に係る本件発明1の構\\成)を容易に想到することができ たものと認められる。
イ これに対し被告らは,1)甲1記載の有効塩素発生剤は,過酸化水素との 酸化還元反応によって一重項酸素を発生させる化合物であるから,甲1発 明における有効塩素発生剤を,過酸化水素と反応しても一重項酸素を発生 しない二酸化塩素に置換する動機付けはない,2)二酸化塩素は,不安定か つ酸化力の強い化合物であるため,本件優先日当時,過酸化水素と組み合 わせた場合,両者が反応して消費され,共存できないと考えられており, また,両者の反応により二酸化塩素は,海生生物の付着防止効果が劣る亜 塩素酸イオンとなるので,二酸化塩素を単独で使用した方が,二酸化塩素 と過酸化水素を併用するよりも海生生物の付着防止効果は高いことから すると,当業者においては,過酸化水素に二酸化塩素を組み合わせること についての動機付けがなく,むしろ阻害要因がある旨主張する。 しかしながら,上記1)の点については,甲1には,過酸化水素と有効塩 素発生剤との組み合わせについて,「特に有効塩素との組み合わせの場合 には,次式に示す酸化−還元反応によって一重項の酸素(OI)が発生し て相乗的に抑制効果が高まるものと考えられる。H2O2+ClO−→H2 O+C1−+OI」(前記(2)ア(ウ))との記載があるが,一重項酸素の発生 により「相乗的に抑制効果が高まるものと考えられる。」と推論している に過ぎず,一重項酸素による付着抑制効果の有無及びその程度を実証的な データ等により確認したものではない。 また,甲1には,過酸化水素と有効塩素発生剤との併用以外にも,過酸 化水素とヒドラジンとを併用した「実施例3」として,過酸化水素とヒド ラジンとの併用の結果,過酸化水素と有効塩素発生剤との併用の結果と同 様の抑制効果が得られたことの記載があり(前記(2)ア(オ)),過酸化水素 とヒドラジンとの併用によって一重項酸素が発生することは想定できな いことに照らすと,二酸化塩素が過酸化水素との併用により一重項酸素を 発生しないとしても,そのことから直ちに甲1発明における有効塩素発生 剤を二酸化塩素に置換する動機付けを否定することはできない。
次に,上記2)の点については,二酸化塩素は,不安定かつ酸化力の強い 化合物であるため,本件優先日当時,過酸化水素と組み合わせた場合にお いて,両者が反応して消費され,およそ共存できないと考えられていたこ とを具体的に裏付ける証拠はない。もっとも,甲3には,「二酸化塩素は, 極めて不安定な化学物質であるため,その貯蔵,輸送は非常に困難である が,このように二酸化塩素発生器を用いた場合には,現場での二酸化塩素 の製造が可能であり,取り扱いが非常に簡単である。」(【0018】)\nとの記載があるが,この記載から,海水中で,二酸化塩素と過酸化水素を 併用した場合,両者が反応して消費され,およそ共存できないと読み取る ことはできない。また,本件明細書の【0010】には,「二酸化塩素と 過酸化水素との併用は,塩素剤と過酸化水素との併用と同様に酸化還元反 応により両薬剤が消費され,水系において安定に共存できないという技術 常識が存在していたためと考えられる。」,「実際に本発明者らが試験した ところによると,…当業者であれば,次亜塩素酸ナトリウムより酸化還元 電位が高い二酸化塩素は過酸化水素と安定に共存できるはずがないと考 えるのが自然である。」,【0012】には,「…その結果,これまで共存が 不可能と考えられてきた二酸化塩素が海水中で過酸化水素剤と準安定的\nに共存できることを意外にも見出し…」との記載があるが,当業者は,本 件優先日前に本件出願後に公開された本件明細書の記載に接することが できないのみならず,酸化還元電位については,「一方の系の標準酸化還 元電位が,他方の系のそれより高い(正である)場合,前者の方がより強 い酸化剤となり,前者が還元され,後者が酸化される方向に進みうる。」 こと,「酸化還元電位によって予言できるのは反応方向であり,反応速度\nではない」ことは,技術常識であること(「化学大辞典3」縮刷版904 頁・共立出版2003年)に照らすと,酸化還元電位から反応速度まで予\n測できるものとはいえないから,本件明細書の上記記載をもって,海水中 で,二酸化塩素と過酸化水素を併用した場合,両者が反応して消費され, およそ共存できないということはできない。

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平成29(行ケ)10025  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年12月21日  知的財産高等裁判所

 外為オンラインVSマネースクウェアの侵害訴訟の対象となった特許(特5650776号)についての無効審判の審決取消訴訟です。マネースクウェアの保有する特許について無効理由無しとした審決が維持されました。
 本件発明1と引用発明とを対比すると,少なくとも,1)「金融商品の売 買取引を管理する金融商品取引管理装置であること,2)前記金融商品の売買注文を 行うための売買注文申込情報を受け付ける注文入力手段を備えること,3)該注文入 力受付手段が受け付けた前記売買注文申込情報に基づいて金融商品の注文情報を生\n成する注文情報生成手段を備えること,及び,4)一の前記売買注文申込情報に基づ\nいて,所定の前記金融商品の売り注文又は買い注文の一方を成行又は指値で行う第 一注文情報と,該金融商品の売り注文又は買い注文の他方を指値で行う第二注文情 報と,を含む注文情報群を複数回生成することで共通し,5)引用発明が,「前記金融 商品の売り注文又は買い注文の前記他方を逆指値で行う逆指値注文情報」を生成し ていない点で相違している。
イ 本件発明1の構成1Gは,「前記第二注文情報に基づく該指値注文が約定\nされたとき,次の注文情報群の生成を行うと共に,該生成された注文情報群の前記 第一注文情報に基づく前記成行注文の価格と同じ前記価格の指値注文を有効に」(1 G前段)するとともに,「以後,前記第一注文情報に基づく前記指値注文の約定と, 前記第一注文情報に基づく前記指値注文の約定が行われた後の前記第二注文情報に 基づく前記指値注文の約定と,前記第二注文情報に基づく前記指値注文の約定が行 われた後の,次の前記注文情報群の生成とを繰り返し行わせる」(1G後段)という ものである。構成1G前段は,売買取引開始時において,同じ注文情報群に含まれ\nる第一注文情報に基づく成行注文が約定した後で,第二注文情報に基づく該指値注 文が約定されたときに,次の注文情報群の前記第一注文情報に基づく注文が,上記 売買取引開始時に約定された成行注文の価格と同じ価格の「指値注文」として有効 に生成されることとを意味するものである。 これに対し,引用発明は,前記2(2)のとおり,代替実施形態においては,パート 1注文とパート2注文とで形成されるLOCK注文を再度自動的に繰り返すもので ある。このことは,引用文献の図6では,代替実施形態において情報を入力する際 に「指値注文」と「成行注文」を選択する欄しかない上,引用文献の[0085] には,「『サイクル数44』の追加によって,投資家は,より多くの利益を得ること を望んで,LOCK処理に自動的に再入力できるようになるであろう。」と記載され ており,図7には,サイクル数選択「44」を経て同じ注文が繰り返される旨の矢 印が記載されていることからしても,明らかであるということができる。したがっ て,1回目のLOCK注文の第一注文が成行注文である場合には,繰り返されるL OCK注文の第一注文も成行注文であり,1回目のLOCK注文の第一注文が指値 注文である場合には,繰り返されるLOCK注文の第一注文も指値注文であるとい うことができる。
ウ 以上より,本件発明1と引用発明とは,本件発明の構成1Gの点におい\nて相違している。

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◆関連発明(特5525082号)についての審決取消訴訟です。こちらも権利有効維持です。

平成29(行ケ)10024

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平成28(行ケ)10220  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年7月4日  知的財産高等裁判所(4部)

 CS関連発明について、認定については誤っていないとしたものの、 引用例には、本願発明の具体的な課題の示唆がなく、相違点5について、容易に想到するものではないとして、進歩性無しとした審決が取り消されました。  確かに,引用例には,発明の目的は,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士 のような専門知識を持った複数の専門家が,給与計算やその他の処理を円滑に行う ことができるようにするものであり(【0005】),同発明の給与計算システム及び 給与計算サーバ装置によれば,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士のような 専門知識を持った複数の専門家を,情報ネットワークを通じて相互に接続すること によって,給与計算やその他の処理を円滑に行うことができること(【0011】), 発明の実施の形態として,複数の事業者端末と,複数の専門家端末と,給与データ ベースを有するサーバ装置とが情報ネットワークを通じて接続された給与システム であり,専門家端末で給与計算サーバ装置にアクセスし,給与計算を行うための固 定項目や変動項目のデータを登録するマスター登録を行い(【0018】〜【002 1】),マスター登録された情報とタイムレコーダ5から取得した勤怠データとに基 づき,給与計算サーバ装置で給与計算を行い,給与担当者が,事業者端末で給与明 細書を確認した上で,給与振り込みデータを金融機関サーバに送信する(【0022】 〜【0025】,【0041】〜【0043】,図7のS11〜S20)ほか,専門家 が専門家端末を介して給与データベースを閲覧し(【0031】〜【0033】),社 会保険手続や年末調整の処理を行うことができる(【0026】〜【0030】,【0 044】,【0045】,図7のS21〜S28)とする構成が記載されていることが\n認められる。 しかし,引用文献が公開公報等の特許文献である場合,当該文献から認定される 発明は,特許請求の範囲に記載された発明に限られるものではなく,発明の詳細な 説明に記載された技術的内容全体が引用の対象となり得るものである。よって,引 用文献の「発明が解決しようとする課題」や「課題を解決するための手段」の欄に 記載された事項と一致しない発明を引用発明として認定したとしても,直ちに違法 とはいえない。 そして,引用例において,社労士端末や税理士端末に係る事項を含まない,給与 計算に係る発明が記載されていることについては,上記(2)のとおりであるから,こ の発明を引用発明として認定することが誤りとはいえない。 ・・・・ ウ 以上のとおり,周知例2,甲7,乙9及び乙10には,「従業員の給与支払 機能を提供するアプリケーションサーバを有するシステムにおいて,企業の給与締\nめ日や給与支給日等を含む企業情報及び従業員情報を入力可能な利用企業端末のほ\nかに,1)従業員の取引金融機関,口座,メールアドレス及び支給日前希望日払いの 要求情報(周知例2),2)従業員の勤怠データ(甲7),3)従業員の出勤時間及び退 勤時間の情報(乙9)及び4)従業員の勤怠情報(例えば,出社の時間,退社の時間, 有給休暇等)(乙10)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」\nが開示されていることは認められるが,これらを上位概念化した「上記利用企業端 末のほかに,およそ従業員に関連する情報(従業員情報)全般の入力及び変更が可 能な従業者の携帯端末機を備えること」や,「上記利用企業端末のほかに,従業員\n入力情報(扶養者情報)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」\nが開示されているものではなく,それを示唆するものもない。 したがって,周知例2,甲7,乙9及び乙10から,本件審決が認定した周知技 術を認めることはできない。また,かかる周知技術の存在を前提として,本件審決 が認定判断するように,「従業員にどの従業員情報を従業員端末を用いて入力させ るかは,当業者が適宜選択すべき設計的事項である」とも認められない。 (3)動機付けについて 本願発明は,従業員を雇用する企業では,総務部,経理部等において給与計算ソ\nフトを用いて給与計算事務を行っていることが多いところ,市販の給与計算ソフト\nには,各種設定が複雑である,作業工程が多いなど,汎用ソフトに起因する欠点も\nあることから,中小企業等では給与計算事務を経営者が行わざるを得ないケースも 多々あり,大きな負担となっていることに鑑み,中小企業等に対し,給与計算事務 を大幅に簡便にするための給与計算方法及び給与計算プログラムを提供することを 目的とするものである(本願明細書【0002】〜【0006】)。 そして,本願発明において,各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業 員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて,同端末から扶養者情報等の給与\n計算を変動させる従業員情報を入力させることにしたのは,扶養者数等の従業員固 有の情報(扶養者数のほか,生年月日,入社日,勤怠情報)に基づき変動する給与 計算を自動化し,給与計算担当者を煩雑な作業から解放するためである(同【00 35】)。 一方,引用例には,発明の目的,効果及び実施の形態について,前記2(1)のとお り記載されており,引用例に記載された発明は,複数の事業者端末と,複数の専門 家端末と,給与データベースを有するサーバ装置とが情報ネットワークを通じて接 続された給与システムとし,専門家端末で給与計算サーバ装置にアクセスし,給与 計算を行うための固定項目や変動項目のデータを登録するマスター登録を行うこと などにより,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士のような専門知識を持った 複数の専門家が,給与計算やその他の処理を円滑に行うことができるようにしたも のである。 したがって,引用例に接した当業者は,本願発明の具体的な課題を示唆されるこ とはなく,専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて,各従業員\nの従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより,相違\n点5に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い。\nなお,引用発明においては,事業者端末にタイムレコーダが接続されて従業員の 勤怠データの収集が行われ,このデータが給与計算サーバ装置に送信されて給与計 算が行われるという構成を有するから,給与担当者における給与計算の負担を削減\nし,これを円滑に行うということが,被告の主張するように自明の課題であったと しても,その課題を解決するために,上記構成に代えて,勤怠データを従業員端末\nのウェブブラウザ上に表示させて入力させる構\成とすることにより,相違点5に係 る本願発明の構成を採用する動機付けもない。\n

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平成29(行ケ)10061  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年4月12日  知的財産高等裁判所(3部)

 無効理由なしとした審決が取り消されました。取消理由は、引用文献の認定誤りです。
 そして,上記のように相違点1´を認定した場合,仮に同相違点に係る構\n成(移動体の位置検出を行うために複数の起動信号発信器を出入口の一方側 と他方側に設置する構成)が本件特許の出願時において周知であったとすれ\nば,引用発明Aとかかる周知技術とは,移動体の位置検出を目的とする点に おいて,関連した技術分野に属し,かつ,共通の課題を有するものと認めら れ,また,引用発明Aは,複数の固定無線機の設置位置を特定(限定)しな いものである以上,前記の周知技術を適用する上で阻害要因となるべき事情 も特に存しないことになる(前記のとおり,第1図に関連する「施設の所定 の部屋」を固定無線機の設置位置とする実施例の記載は,飽くまで発明の一 実施態様を示したものにすぎず,そのことにより刊行物1から「施設の各部 屋」を設置位置とする以外の他の態様による実施が読み取れないとはいえな い。)。 したがって,以上の相違点の認定(相違点1´)を前提とすれば,上記技 術分野の関連性及び課題の共通性を動機付けとして,引用発明Aに対し前記 の周知技術を適用し,相違点1´に係る本件訂正発明1の構成を採ることは,\n当業者であれば容易に想到し得るとの結論に至ることも十分にあり得ること\nというべきである。
(3) ところが,本件審決は,かかる相違点を,前記第2の3(3)イ(ア)のとおり, 「第1起動信号発信器が設けられる『第1の位置』及び第2起動信号発信器 が設けられる『第2の位置』に関し,本件訂正発明1では,『第1の位置』 が『出入口の一方側である第1の位置』であり,また,『第2の位置』が『 出入口の他方側である第2の位置』であるのに対し,引用発明Aでは,『第 1の位置』,『第2の位置』の各位置が施設の各部屋に対応する位置である 点」(相違点1。なお,下線は相違点1´との対比のために便宜上付したも のである。)と認定した上,「引用発明Aによる移動体の位置の把握は,ビ ルの各部屋単位での把握に留まる」と断定し,「刊行物1には,移動体の位 置の把握を各部屋の出入口単位で行うこと,即ち,相違点1における本件訂 正発明1に係る事項である,第1起動信号発信器が設けられる第1の位置を 『出入口の一方側』とし,第2起動信号発信器が設けられる第2の位置を『 出入口の他方側』とする点については,記載も示唆もない」から,他の相違 点について検討するまでもなく,本件訂正発明1が刊行物1発明(引用発明 A)から想到容易ではないと結論付けたものである。 これは,本来,複数の固定無線機の設置位置を特定(限定)しない(「施 設の各部屋」は飽くまで例示にすぎない)ものとして認定したはずの引用発 明Aを,本件訂正発明1との対比においては,その設置位置が「施設の各部 屋」に限定されるものと解した上で相違点1を認定したものであるから,そ の認定に誤りがあることは明らかである。 また,本件審決は,上記のように相違点1の認定を誤った結果,引用発明 Aによる移動体の位置の把握が「ビルの各部屋単位での把握に留まる」など と断定的に誤った解釈を採用した上(刊行物1にはそのような記載も示唆も ない。),刊行物1には相違点1に係る構成を適用する動機付けについて記\n載も示唆もない(から想到容易とはいえない)との結論に至ったのであるか ら,かかる相違点の認定の誤りが本件審決の結論に影響を及ぼしていること も明らかである。
(4) 以上によれば,原告が主張する取消事由2は理由がある。
(5) 被告の主張について
これに対し,被告は,刊行物1発明によって実現される作用効果からすれ ば,同発明が実現を意図しているのは,移動体がどの「部屋」(あるいは固 定無線機の設置箇所を含む一定領域)に所在するのかを把握することであり, 言い換えれば,同発明は,「固定無線機からの電波受信可能領域」(検知エ\nリア)と「その固定無線機が置かれた部屋の領域」とが,ほぼイコールであ るという認識を前提とした発明である(取消事由2に関し)とか,刊行物1 発明は大まかな範囲で対象者(物)の所在を把握することを目的とするもの である(取消事由3に関し)などと指摘して,本件訂正発明と刊行物1発明 の違いを強調し,本件審決の認定判断に誤りがない旨を主張する。 しかし,いずれの指摘も刊行物1の記載に基づかないものであり,その前 提が誤っていることは,これまで説示したところに照らして明らかであるか ら,上記被告の主張はその前提を欠くものであって採用できない。
3 以上のとおり,本件審決は,本件訂正発明1に係る相違点1の認定を誤って 同発明が想到容易ではないとの結論を導いているところ,本件審決は,本件訂 正発明2ないし7についても,実質的に同じ理由に基づいて(すなわち,本件 訂正発明2ないし5については,本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むこ とを理由に,本件訂正発明6及び7については,相違点1と実質的に差異がな い相違点が認定できることを理由に),本件訂正発明1におけるのと同じ結論 を導いているのであるから,結局のところ,本件訂正発明全部について本件審 決の判断に取り消すべき違法が認められることは明らかである。

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平成27(行ケ)10090  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年2月17日  知的財産高等裁判所

 相違点の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 他方,引用発明は,本願発明の従来技術であるスリットによる変形作用を 前提として,スリットに相当する溝孔6の長さ方向中央部に応力的に弱い部分とし て拡大溝部6aを形成することにより,狭幅部4aを形成して,狭幅部4aをスリ ット(溝孔6)間の軸部の変形の中心点(起点)としたものである。そして,変形 区域については,軸の長さ方向でいえば,本願発明が,穴(7)を挟んで頭部(3) から雌ねじ(4)の間である(変形区域(5))のに対して,引用発明は,従来技術 におけるスリットに相当する溝孔6のある領域であると認められるところ,引用発 明は,「軸部壁の弱体化部」に相当する溝孔6のある領域全体の中で,特に応力的に 弱い部分として拡大溝部6aにより狭幅部4aを形成して,軸部の変形の中心点(起 点)としたのであって,従来技術のスリットと同様,狭幅部4aの上下に位置する 溝孔6と溝孔6の間の軸部壁6が“く”の字状に折れ曲がることにより,拡開部9 が形成されるものである。 すなわち,引用発明は,従来技術のスリット(溝孔6)において,拡大溝部6a により特に応力的に弱い部分を形成して,スリット(溝孔6)間の管状部材4を折 り曲げやすくしたものに相当すると認められる。他方,本願発明は,変形区域の中 央の周範囲に穴を設けることによって,応力的に弱い部分を形成し,折り曲げる際 の起点とするものである。そして,本願発明にいう「穴」とは,閉じられた線図で 画された部分をいい,これが応力的に弱体化部を形成するところ,これに該当する のは,引用発明では,溝孔6と拡大溝部6a両方で構成される部分ということにな\nる。 この点,被告は,引用発明の「複数の溝孔6が形成された領域」は「変形区域(5)」 に,「複数の狭幅部4a」は本願発明の「軸部壁(6)の弱体化部」に相当すると主 張するところ,本願発明における「穴」及び「穴」と「弱体化部」の関係に関する 解釈を必ずしも明確に主張していないが,少なくとも,弱体化部に相当する「複数 の狭幅部4a」は,拡大溝孔6aのみによって形成される前提と解される。しかし ながら,このような被告の主張は,「穴」全部ではなく,その一部にのみ着目し,「弱 体化部」に相当するとするものであって,前提において採用できない。 したがって,引用発明は,変形区域全体が弱体化部であり,本願発明のように, 「変形区域(5)の中央の周範囲にのみ,・・・軸部壁(6)の弱体化部を持ってい る」ものではない。よって,この点において,審決の一致点の認定には誤りがあり, 変形区域と穴の位置関係に関する相違点の看過があると認められる。

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平成26(行ケ)10270  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年7月30日  知的財産高等裁判所

 相違点の認定誤りを理由として、補正要件を満たしていないとした審決を取り消しました。
 ・・,本願補正発明と引用発明との一致点・相違点は,次のとおりである。 <一致点> 【A】プロバイオティク構成成分,及び【F】他の構\成成分,を含む,組成物で あって,【C】前記他の構成成分及びプロバイオティク構\成成分は共に混合されてな り,【D】前記組成物は,実質的にチューインガム基質を有しない,【E】組成物。
<相違点ア>
プロバイオティク構成成分として,本願補正発明は,「切除及び洗浄されたイヌ科\n動物又はネコ科動物の胃腸管から単離された株を含み(構成A1),かつビフィドバ\nクテリウム,ラクトバシラス,及びこれらの組み合わせからなる群から選択される 属を含む細菌を含む(構成A2)」ものであるのに対し,引用発明は,そのような特\n定がされていない点。
<相違点イ>
他の構成成分として,本願補正発明は,「ソ\ルビトール,マンニトール,グルコー ス,マンノース,フルクトース,及びこれらの混合物からなる群から選択される単 糖類を含む(構成B1),甘味剤構\成成分,を含む(構成B)」ものであるのに対し,\n引用発明は,「スクロース,初乳,プレバイオティック」を含むとはされているもの の,そのような特定がなされていない点。
そうすると,相違点アのうち,構成A2の点(相違点ア´),及び相違点イを相違\n点と認定せず,これを一致点と認定した審決の一致点・相違点の判断には,誤りが あり,原告の前記主張には理由がある。 すなわち,引用された発明が「プロバイオティック」との上位概念で構成されて\nいる場合,その下位概念に「ビフィドバクテリウム,ラクトバシラス」が含まれる ものであるとしても,「ビフィドバクテリウム,ラクトバシラス」により具体的に構\n成された発明が当然に開示されていることにはならない。また,本願補正発明の「甘 味剤構成成分」と,引用発明の「プレバイオティック」とが同一成分で重なるから\nといって,両者を直ちに同一のものととらえることはできない。
(2) 被告の主張について 被告は,刊行物1に,特に好ましい「プロバイオティック」として,ビフィドバ クテリウムやラクトバシルスが例示されていること,技術常識を踏まえれば,「プロ バイオティック」の生存率を高めるために,「プレバイオティック」として例示され た中からグルコース,フルクトース,マンノースに着目することは不自然ではない として,当業者は,引用発明を,「プロバイオティック」として,ラクトバシラスア シドフィラス及びビフィドバクテリウム属の各菌のいずれかを用い,「プレバイオテ ィック」として,グルコース,マンノース及びフルクトースのいずれかを用いた発 明であると認識できると主張する。 そこで,以下,検討する。
・・・
上記のとおり,引用発明の「プレバイオティック」は,「主として大腸の末端部に 対して有益である」とされているから,少なくとも,大腸の末端部まで到達できる ものである必要がある。一方,哺乳動物において,単糖類が小腸から吸収されるこ とは技術常識である。そうすると,当業者が,引用発明の「プレバイオティック」 として,グルコース,マンノース,フルクトースのような単糖類を用いていると認 識するとは直ちにいえない。そして,刊行物1に列挙された「プレバイオティック」 は,前記のとおり多岐にわたっているから,これらの「プレバイオティック」のい ずれと「プロバイオティック」との組合せが,引用発明に作用効果を導いたのかは 判然とせず,当業者が,引用発明「プロバイオティック」と「プレバイオティック」 は,刊行物1に記載されたもののいかなる組合せであってもよいと認識するとはい えない。

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平成26(行ケ)10237  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟  平成27年5月12日  知的財産高等裁判所

「・・姿勢にあるとき,〜後縁の最後方位置が,〜〜と比較して前方に位置するものではない」という相違点があるとして、進歩性違反なしとした審決が維持されました。
 以上のことから,相手コネクタ33は,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接している状態(甲1の第3図の状態)では,コネクタ突合方向の軸線に対してある角度をもった状態,すなわち,相手コネクタ33の前端がもち上がって,上向き傾斜姿勢にある状態であり,この状態から相手コネクタ33を回転させ,嵌合終了状態にしていることがわかる。このときの回転の中心は回転中心突起53であるから,回転中心突起53の断面が円形であるとすると,相手コネクタ33の回転の前後で,回転中心突起53の最後方位置(ケーブル44側の位置)は変わらないことになる。そして,甲1の第3図の記載,回転中心突起56は,肩部56の中で回転するときの中心となるものであり,相手コネクタ33が円滑に回転するように形成されていると解されることや,回転させる前後及びその途中において,相手コネクタ33がコネクタ31に対して上下左右方向に移動できるような隙間が回転中心突起53と肩部56との間に生じるのはコネクタ同士の確実な嵌合という観点から見て望ましいものではないことを考慮すると,回転中心突起53の断面の形状は,基本的には円形が想定されていると考えられる。 もっとも,円滑な回転動作やコネクタの確実な嵌合に支障が出ない限度で,回転 中心突起53の断面が円形以外の形状となることも許容されているものと解される。そして,回転中心突起の断面が円形でない場合には,その形状に応じて回転中心突起53の最後方位置が相手コネクタ33の回転の前後で変わることになるが,甲1にはそのような事項は記載されていないのであって,回転によって,回転中心突起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置するという技術思想が記載されているとはいえない。 したがって,甲1発明は,コネクタ31から相手コネクタ33が外れることを防止するために,回転中心突起53が肩部56の上面に当接して,相手コネクタ33がコネクタ31に対して上方へ動くのを防いでいるものであるが,回転中心突起53の上方に肩部56の上面が位置するように,相手コネクタ33が傾斜している状態で肩部56の前側から後側(ケーブル側)へ回転中心突起53を移動させているものであって,相手コネクタ33の回転により回転中心突起56の最後方位置が後方(ケーブル側)へ移動するものではないから,甲1発明は回転中心突起56の断面形状に関する事項を特定した発明ではないと考えられる。
イ 対比
以上を前提に,本件発明3と対比すると,甲1発明は,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケープルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置」するものではないという点において,本件発明3と相違する。したがって,回転中心突起53の形状を円柱状に限定した審決の甲1発明の認定の当否にかかわらず,相違点を肯定した審決の判断に誤りはない。

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平成26(行ケ)10237  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年5月12日  知的財産高等裁判所

「・・姿勢にあるとき,〜後縁の最後方位置が,〜〜と比較して前方に位置するものではない」という相違点があるとして、進歩性違反なしとした審決が維持されました。
 以上のことから,相手コネクタ33は,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接している状態(甲1の第3図の状態)では,コネクタ突合方向の軸線に対してある角度をもった状態,すなわち,相手コネクタ33の前端がもち上がって,上向き傾斜姿勢にある状態であり,この状態から相手コネクタ33を回転させ,嵌合終了状態にしていることがわかる。このときの回転の中心は回転中心突起53であるから,回転中心突起53の断面が円形であるとすると,相手コネクタ33の回転の前後で,回転中心突起53の最後方位置(ケーブル44側の位置)は変わらないことになる。そして,甲1の第3図の記載,回転中心突起56は,肩部56の中で回転するときの中心となるものであり,相手コネクタ33が円滑に回転するように形成されていると解されることや,回転させる前後及びその途中において,相手コネクタ33がコネクタ31に対して上下左右方向に移動できるような隙間が回転中心突起53と肩部56との間に生じるのはコネクタ同士の確実な嵌合という観点から見て望ましいものではないことを考慮すると,回転中心突起53の断面の形状は,基本的には円形が想定されていると考えられる。 もっとも,円滑な回転動作やコネクタの確実な嵌合に支障が出ない限度で,回転 中心突起53の断面が円形以外の形状となることも許容されているものと解される。そして,回転中心突起の断面が円形でない場合には,その形状に応じて回転中心突起53の最後方位置が相手コネクタ33の回転の前後で変わることになるが,甲1にはそのような事項は記載されていないのであって,回転によって,回転中心突起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置するという技術思想が記載されているとはいえない。 したがって,甲1発明は,コネクタ31から相手コネクタ33が外れることを防止するために,回転中心突起53が肩部56の上面に当接して,相手コネクタ33がコネクタ31に対して上方へ動くのを防いでいるものであるが,回転中心突起53の上方に肩部56の上面が位置するように,相手コネクタ33が傾斜している状態で肩部56の前側から後側(ケーブル側)へ回転中心突起53を移動させているものであって,相手コネクタ33の回転により回転中心突起56の最後方位置が後方(ケーブル側)へ移動するものではないから,甲1発明は回転中心突起56の断面形状に関する事項を特定した発明ではないと考えられる。
イ 対比
以上を前提に,本件発明3と対比すると,甲1発明は,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケープルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置」するものではないという点において,本件発明3と相違する。したがって,回転中心突起53の形状を円柱状に限定した審決の甲1発明の認定の当否にかかわらず,相違点を肯定した審決の判断に誤りはない。

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平成26(行ケ)10103  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年12月24日  知的財産高等裁判所

 本件発明と引用文献との相違点に認定に誤りがあるとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。
 以上のとおり,審決は,甲3発明においては,回転ドラム本体内の湿度調整が行われているか明らかではないにもかかわらず,湿度調整をしているかどうかという相違点を看過したものといえる。 原告は,相違点6として,「本件発明3は,「前記製麹原料の攪拌が,前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ」,「温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ」るのに対し,甲3発明は,ドラムの回転中に温度及び湿度の調整が行われているかは不明であり,また,原料層の傾斜面からの落下による攪拌,及び製麹原料が傾斜面から順次落下する時に熱交換が行われているかも不明である点。」があると主張する。原告の主張する相違点6の中の温度管理の点のうち,最初の室温及び回転ドラム本体内の温度を共に製麹開始温度とする点は相違点2,それ以降の回転時における上昇した温度の調整の点は相違点4の中に含まれていると評価することができるが,湿度調整の有無という相違点について,審決はどの相違点においても実質的に挙げているとはいえないから,この限度で原告の指摘は正当なものである。そして,上記相違点の看過が,本件発明3の進歩性判断に影響を与える可能性があるから,取消事由1は,その限度で理由がある。\n

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平成23(行ケ)10335 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月12日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。得異な効果も発明の構成に基づくものではないとして採用されませんでした。
 原告は,相違点3及び4は,相互に密接に関連しており,それらを組み合わせた効果も相乗的なものであるから,これを分断して判断したことは,進歩性判断の誤った手法によるものであると主張する。相違点3は,本願発明の走査方法が点順次走査であることに関し,相違点4は,点順次走査を前提とした上で,標本化定理を尊重した検出周波数の選定に関するものであることから,両者は,点順次走査という点で一定の関連性を有するものである。しかしながら,標本化定理は,本来,画像の復元性の保証という観点から走査方法の如何を問わず考慮されるべき基本的事項であって,走査方法とは技術的観点が異なるから,相違点3及び4を別々に判断したとしても,誤りがあるとはいえない。また,本件審決は,相違点4の判断において,相違点3及び4をあわせ,全体として総合的に効果の点も含めて,容易想到性を判断したのであるから,原告の上記主張には理由がない。
 イ 原告は,本願発明の特徴は,リアルタイムで「高品質」の画像形成を可能にするために,「解像度」と「フレーム・レート(リアルタイム)」と「感度」という互いに相反する3つのパラメータの間に適切なバランスを新たに提供するものであると主張する。本願発明は,本願明細書に記載されたとおり,「リアルタイム表\示」すると同時に「画像の品質を最適化」,特に「高解像度化」することを目的とし,その目的を達成するために,本願発明の構成を採用し,特定したものである。しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,リアルタイムで「高品質」の画像形成を可能\にするための「解像度」と「フレームレート(リアルタイム)」と「感度」の間の適切なバランスを特定することについても,リアルタイム性を表す「フレームレート」,画像の品質を表\す「解像度」及び「サンプリング周波数」が具体的な高い値として得られることについても,何ら特定されてはいない。本願発明は,「数千本の光ファイバ」及び「リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度」という発明特定事項を有するものの,上記発明特定事項だけからでは,従来実現していなかった,あるいは,従来知られていなかった,「解像度」と「フレーム・レート(リアルタイム)」と「感度」の組合せが実現できる発明が特定されているとはいえない。そうすると,原告の上記主張は,特許請求の範囲に基づくものではなく,失当である。

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平成23(行ケ)10314 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月22日 知的財産高等裁判所

 相違点の認定が誤りであるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 本件訂正発明における「原料の表面を該無機質粘結材で被覆し」における「被覆」とは,原料の表\面の一部分に無機質粘結材が存在する程度では足りず,炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料の表面を覆うが,他方,原料に着火でき,原料のガス成分を燃焼できる程度を超えるほどには原料の表\面を覆わないことを意味するものと解される。これに対し,上記刊行物1の記載によれば,引用発明は,ロータリーキルンにて炭化処理して粒状化したパルプ廃滓をコークス代用成分として配合使用した豆炭,煉炭等の固形燃料に関する発明であり,i)パルプ廃滓は,予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましいこと,ii)ベントナイト等のバインダを添加しなくても,所定の収率で炭化物が得られるが,炭化物の微粉化を避け,比較的そろった粒状物を得るため,及びその収率を向上させるため,パルプ廃滓に予め0.5〜3.0%程度,水ガラス,でんぷんのり,ベントナイト等のバインダを添加すると有効的であること,iii)生成される粒状炭化物の結晶構造は多孔質であり,空気を豊富に含有することから,燃焼時にその含有空気が寄与して不完全燃焼のおそれがないことが認められる。以上によれば,引用発明は,炭化した際の微粉化を避け,比較的そろった粒状物を得るため,水ガラス,でんぷんのり,ベントナイト等をバインダとして添加するものであり,微粉化が避けられる結果,収率の向上が図られるものと理解することができる。したがって,引用発明において,原料であるパルプ廃滓とベントナイト等のバインダが混練された結果,パルプ廃滓の表\面にベントナイト等が一部存在しているとしても,ベントナイト等を用いてパルプ廃滓を被覆することにより,炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料の表面を覆っていると認めることはできない。上記のとおり,引用発明は,脱水したパルプ廃滓の表\面をベントナイト等で被覆しなくても酸化が抑制され炭化することができるものであり,本件訂正発明の上記炭化方法とは,その技術的意義を異にする。したがって,本件訂正発明の相違点1及び4に係る構成は,実質的な相違点とはいえないとした審決の判断には,誤りがあり,また,本件訂正発明の相違点1及び4に係る構\成に至ることが容易であるということもできない。

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平成23(行ケ)10182 審決取消請求事件(特許) 特許権 行政訴訟 平成24年02月21日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性否定されました。
 この点に関し原告は,「本願発明は,患者の問診情報を診察部門だけでなく管理,受付部門および待合室の端末機で利用することにより,例えば本願の願書に添付した明細書の段落【0023】に記載されているように診察の準備や優先的な誘導など診察までの手続などを効率よく行うことができるものであり,単に院内に多数の端末を設けて情報の使用を図るというものではないのに対して,引用例2に記載の発明では問診事項に特化したサーバの記載はなく,受付部門に端末がないことからも引用例2に記載の発明の端末機構を引用発明に適用しても本願発明の相違点1にかかる構\成とすることはできない」と主張する。しかし,本願明細書の段落【0023】の記載を考慮しても,本願発明は,端末機が「管理,受付部門,診察室および待合室にそれぞれ設けられ」,及び「入力された個人情報および受診情報(問診情報)は,医療機関のサーバへ送信されるとともに診察室に設置された端末機に送信される」との事項で特定されるにとどまるものであって,個人情報および受診情報が,管理,受付部門の端末機に送信されて,診察の準備や優先的な誘導などの診察までの手続を行うことまで特定されているとは認められない。

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平成22(行ケ)10408 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年08月25日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が相違点に至る容易想到性が誤っているとして、取り消されました。
 本願発明は,前記認定のとおり,羽根車とケーシングライナーとの隙間を大きくすることなく,ポンプ効率を低下させないで羽根車に絡み付く異物を除去し,ポンプ内をスムーズに通過させるために,ケーシングライナーの内周に異物捕捉体としての凸部材を設け,捕捉された異物を羽根車の間を通過させることをその技術内容とするものである。また,引用発明1は,前記認定のとおり,ポンプ性能を効率的に得るためには,羽根先端とケーシングあるいはケーシングライナーとの間の間隙を十\分小さく設定する必要があることを前提として,そのような設定をした場合,間隙内に汚水中の塊状固体をかみ込み,ポンプ性能が減少することから,ケーシングライナーの内周に異物捕捉体としての溝を設け,汚水中の塊状固体を羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ場合,この塊状固体を,羽根先端によって溝内に押し込み,溝を経て吐出口側に吐出させることをその技術内容とするものである。さらに,引用発明2は,ケーシングライナーの内周の捩り羽根の外縁に近接させて異物切断用のカッターを配置することにより,流入した異物を捩り羽根の回転によってカッターに押し付けて切断し,異物がポンプを詰まらせることを防止することをその技術内容とするものである。イ そうすると,本願発明,引用発明1,引用発明2は,いずれもポンプの羽根に絡み付く異物を除去してポンプ内を通過させることをその技術内容とするものであるが,本願発明は,その手段として,ケーシングライナーの内周に凸部材を設けることにより,異物を引っ掛けて捕捉して羽根から取り除き,さらに異物を羽根と羽根の間を通過させてポンプ外に排出させる構成を有することをその技術的特徴とするものであるということができる。これに対し,引用発明1は,溝に異物を押し込んで捕捉し,溝内を通過させる構\成を有するものであり,本願発明1とは,異物捕捉体の具体的構成及び捕捉後の異物の排出方法が異なるものである。さらに,引用発明2は,ケーシングライナーの内周にカッターを設けるものであり,当該カッターは突起形状を有するものの,あくまで異物を切断する目的で設けられた部材であって,異物を引っ掛けて捕捉することを目的として設けられた構\成ではない。
 ウ したがって,本願発明は,異物捕捉体として,引用発明1のように,異物を押し込んで排出する溝や,引用発明2のように,異物を切断して排出するカッターを設けることなく,凸部材を設けるだけで,異物を引っ掛けて捕捉し,羽根と羽根の間を通過させて排出する構成を有する点に,その技術的な特徴を有する発明であるというべきであって,引用発明1及び2とは,異なる技術思想を有するものということができる。また,引用発明1の「溝」に換えて,引用発明2のカッターから刃を除いた「凸部材」の構\成を採用することは,動機付け欠くものというほかない。よって,相違点に係る構成は,当業者が容易に想到し得たものということはできない。\n

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平成22(行ケ)10271 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年05月30日 知的財産高等裁判所

 無効審決(不成立)が取り消されました。
 上記のとおり,甲1には,S2ないしS4の経過時間においては,タイマ15dの起動によって,タイマ15dで設定した経過時間の間は,ボウル部用弁機構17の開状態が保たれており,その間にボウル部3とタンク10への洗浄水の供給が行なわれており,使用者が再度操作部16のスイッチを操作して洗浄を開始しようとしても,上記経過時間が経過しない時点では,洗浄開始信号は受け付けないという技術が開示されている。この点,甲1には,洗浄水の供給をタイマ15dで設定した時間が経過しない状態で終了させることは記載されていない上,仮にそのような状態で終了した場合には,溜水水位が隔壁2の下端より高くならず,上記サイホン状態を生じさせることができず,汚物・汚水の排水が行なわれなくなるから,上記経過時間が経過しない間に洗浄開始信号を受け付けるとの構\成を採ることは,技術常識に反する。また,同様に,ポンプが駆動停止した(S7)後,S8ないしS10の経過時間においても,タイマ15dで設定した経過時間の間は,ボウル部用弁機構17の開状態が保たれており,その間にボウル部3とタンク10への洗浄水の供給が行なわれており,使用者が再度操作部16のスイッチを操作して洗浄を開始しようとしても,上記経過時間が経過しない時点では,洗浄開始信号は受け付けられないものと解される。そうすると,甲1には,タイマの働きにより,タンクに洗浄水を再充てんするため,一定時間の後れを設定し,その間,ポンプの動作を停止する技術が開示されているから,本件発明1の「前記制御手段(80)は前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプ(18)が作動するのを防止する時間遅延手段を有している」といえる。
・・・
 以上のとおり,被告の上記主張は採用することができず,甲1発明は,本件発明 1の「前記制御手段(80)は前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記 ポンプ(18)が作動するのを防止する時間遅延手段」を有している。したがって, 審決には,本件発明1の甲1発明との相違点1について認定の誤りがあり,同認定 の誤りは,結論に影響を及ぼす違法があることとなる。

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平成22(行ケ)10060 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年11月29日 知的財産高等裁判所

 記載不備違反については無しとしたものの、当該構成については容易として、進歩性違反なしとの審決が、取り消されました。
 遺体の肛門筋が弛緩することは,例えば特開2003−111830号公報(甲48)に記載されるように,当業者にとって自明の事柄又は技術常識であるといえる。そうすると,遺体の肛門内に吸液剤を挿入することで体液の漏出を防止しようとする場合,筋が弛緩する肛門部分にのみ吸液剤を挿入したのでは,吸液剤が漏出してしまうことになるから,吸液剤を肛門の奥の直腸まで挿入するようにすることは,当業者であれば容易に想到し得るものというべきである。そして,実用新案登録第3056825号公報(甲5)には,吸液剤供給管を肛門内に挿入しやすいように形成するとの記載があるから(段落【0006】),上記の自明の事項や技術常識を勘案し,甲5発明の吸液剤収納容器の一端開口部側に当たる吸液剤供給管を「肛門から直腸に挿入されるように形成される」ようにすることは,当業者にとって適宜なし得る事項というべきである。・・・本件発明の構成e2については,上記1(2)で説示したとおり,肛門への挿入前,すなわち遺体処置装置の使用前に吸水剤が案内部材の外部に出ることが抑制されていれば,どのような形状・構造であってもよいと解され,これには別部材を用いて抑制する場合も含まれると解される。そして,吸水剤を収容する容器に漏出防止用のキャップを用いることは特開2001−288001号公報(甲6)の請求項17に記載されるように周知であるか,当業者にとって適宜なし得る事項であるといえる。また,特開2001−288001号公報(甲6)記載の体液漏出防止装置も甲5発明も,遺体の肛門等から体液が漏出するのを防止するため,肛門等から吸水剤を充填するという同一の技術分野に関するものである。したがって,甲5発明に上記の技術事項を付加して,「肛門への挿入前に吸水剤が案内部材の外部に出るのを抑制するように構\成する」ことは,当業者にとって容易に想到し得るというべきである。審決は,(無効理由5の判断部分ではあるが,)本件発明の構成e2については,別部材により吸水剤が外部に出るのを抑制する構\成が含まれることを認めていながら,原告主張の文献である特開2001−288001号公報(甲6),特開平10−298001号公報(甲7)及び特開平7−265367号公報(甲8)に関しては,別部材による抑制が容易かどうかの検討を行っておらず,誤りがある。

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平成21(行ケ)10289 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年08月31日 知的財産高等裁判所

 相違点の認定誤りがあるとして、進歩性なしとの審決が取り消されました。
 相違点2中の「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たる」との構成が,引用発明から容易に想到することができるとした審決の判断の当否を検討する。特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本願発明の「単色集光光学部品(140/240)」は,少なくとも1つの「二重湾曲回折光学部品」を有し,その「二重湾曲回折光学部品」は,「点SをX線源の位置,点Iを焦点,Rを点Iと点Sを含む集束円の半径として,集束円の面において2Rの曲率半径を有し,セグメントSIに垂直な中間面において2Rと異なる曲率半径を有する」ものであるとともに,「二重湾曲単色光学部品」を有し,その「二重湾曲単色光学部品」は「一重湾曲の光学部品よりも大きな集光立体角で前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり,ブラッグ角度条件を用いて前記蛍光X線を単色化する」ことを構\\成要件としている。そして,上記「二重湾曲単色光学部品」の構成部分に着目するならば,「前記光学部品」は「二重湾曲回折光学部品」を指すものであり,かつ「前記蛍光X線」はX線放射源からのX線放射を集光して当該X線放射をサンプル上の焦点に集束させることで,サンプルの分析物を刺激して発生したものであるということができるから,「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり」という構\\成は,単に,二重湾曲単色光学部品が発揮する機能を一般的に記載したにすぎないと解するのは妥当といえない。同構\\成は,サンプル上の焦点から発生し,単色集光光学部品を有する二重湾曲回折光学部品へと向かう「蛍光X線」のほとんど全てが二重湾曲回折光学部品に当たること,すなわち,本願発明の波長分散蛍光X線分光(WDS)システム全体からみた,サンプルから発生し二重湾曲回折光学部品へと向かう「蛍光X線」の態様ないし挙動を限定した記載と解するのが合理的である。これに対して,審決は,相違点2についての容易想到性の判断として,「集光効率の良い光学部品を用いようとすることは,周知の事項であるので,当業者が必要に応じて適宜成し得る設計事項にすぎない」とのみ理由を示している。同記載部分は,「一重湾曲の光学部品よりも大きな集光立体角」であるとの構成部分が容易想到であることの理由付けということはできたとしても,「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり」との構\\成部分が容易想到であることの理由付けということはできない。

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平成21(行ケ)10080 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年12月22日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、相違点の認定誤りを理由として取り消されました。
 「しかしながら,前記(2)認定のとおり,参考例2に示された関節部位に適用されるサポータにおいて,X状になっているのは,関節部分に使用するサポータの形状であり,電熱片(電熱線)そのものがX状に布設されているわけではない。そして,参考例2のサポータの使用方法としては,X状に裁断されたサポータの交点で関節を覆い,関節を挟んだ各片同士を接続することにより,サポータを身体に装着するもの,具体的には,例えば肘に装着する場合,肘の外側にサポータにおけるX状の交点をあてがい,上腕側,下腕側にそれぞれ位置する2つの片同士を,互いに腕に巻き付けて上腕側片同士,下腕側片同士を相互に接続することにより,肘に装着するものと認められるのである。参考例2に示されたサポータは,上記のように装着することにより,肘の折り曲げ部内側にはサポータ片が存在しないため,肘を屈伸しても,サポータが障害とならないことから,参考例2のサポータは,活発に活動する関節部位の使用に適合するとされ,またそのためにサポータの全体形状がX状とされているものと解される。ウ 他方,前記(1)認定の事実によれば,本件補正発明のヒートセルがX字型に隔離して配設されているのは,身体のねじりのような斜め方向の曲げに対して,ヒートセルが障害とならず,全体形状としては長方形に近い温熱身体ラップが,ねじりに追随して曲がりやすいことを意味し,これにより身体の様々な領域に順応することができるとされているものと解される。エ 上記イ,ウのとおり,参考例2のサポータが全体形状としてX状であることと,本件補正発明の全体形状としては長方形に近い身体温熱ラップにおいて,ヒートセルがX字型に隔離して配設されることは,X状ないしX字型といっても,その意義ないし機能は本質的に異なるものであり,またそれにより身体の適用可能\\な部位も異なることになる。このように,X状ないしX字型に関する両者の意義ないし機能が異なるのであるから,参考例2における,内部に電熱線が均一に布設されたサポータが全体形状としてX状にされている構\\成のうち,「X状」という技術事項のみを取り出し,本件補正発明の身体温熱ラップ内に存在するヒートセルの配設の形態に適用する動機付けは存在せず,引用発明1に参考例2を適用して,相違点2に係る構成とすることはできないといわざるを得ない。オ本件審決は,「使用者が装着している時,使用者の身体または各部位のさまざまな領域の運動に順応することは,当然に要求される事項」とした上,「そのような目的の配置として,X字型の配設は,従来周知」として,参考例2を挙げるが,参考例2をもって,上記周知技術ということはできない。そして,他に,上記事項が周知であることを認めるに足りる証拠はない。カ したがって,引用発明1に周知技術を適用して相違点2に係る構\\成を想到することが,当業者にとって容易であるとした本件審決の判断は,誤りといわなければならない。

◆判決本文

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平成20(行ケ)10405 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月01日 知的財産高等裁判所

 設計事項なので当業者にとって容易である、とした審決が取り消されました
 「引用例の記載によると,引用発明におけるインクカートリッジは,インクカートリッジホルダに接合する面が長方形であるものを想定していると認められるところ,その長方形の内部において,インク導入口のような他の必要な部材と共に回路基板及び開口穴を配置しようとする場合,これらの部材をスペースに余裕のある長手方向に配列しようとするのが自然な発想であり,あえて短手方向に複数の部材を配置しようとするには,何らかの示唆に基づくそれなりの動機付けを必要とするというべきである。したがって,引用発明において,回路基板と開口穴とを近傍に配置しようとしたからといって,必ずしも本件補正発明の相違点に係る構成を採用することとなるわけではない。これに対し,本願明細書の記載によると,本件補正発明において,本件相違点に係る構\成が採用されたのは,接続電極部における位置ずれを極めて小さくし,製造のばらつきによる位置決め部を中心とする上下の回動による影響も最小限に抑えようとの動機に基づくものであると認められるところ,上記(1)のとおり,そもそも引用発明が課題として製造のばらつきを意識したものであるとは認められないし,引用例における位置決め機構に関する上記3の記載や他の記載において,本件相違点に係る構\成を示唆する記載が存在するとは認められない。そうすると,引用発明に基づいて,本件補正発明との本件相違点に係る構成を採用することは,当業者にとって単なる設計事項であるということはできないというべきである。」

◆平成20(行ケ)10405 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月01日 知的財産高等裁判所

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平成20(行ケ)10345 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年08月31日 知的財産高等裁判所

 周知技術であるとした認定を誤りを理由として進歩性なしとした無効審決が取り消されました。
 「上記各記載によれば,周知例1ないし3においては,いずれも膨縮袋により手又は足の両側から挟持して空圧施療するために膨縮させる事項が開示されている。しかし,各周知例は,いずれも,肘掛部上面に形成された膨縮袋群は,内側他端の立ち上がりによって肘掛部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させて肘掛部上に人体手部を安定的に保持させるとの構成は示されていない。すなわち,(ア) 周知例1(甲12)は,従前のマッサージ機では施療部を押し上げるようにしてマッサージし,拡縮袋の膨張時に施療部が前方へ押し出されるという課題があったため,拡縮体を施療部の左右両側に分割配置してこの課題を解決しようとするものであり,被施療部を安定的に保持させるという課題は存在しない。(イ) 周知例2(甲17)は,底面と底面の左右両側から立設された側壁を備えた1つの凹状脚収納部内に使用者の両脚を左右並べて収納し(脚の後方部が底面と接し,脚の両外側が左右両面と接する),空気の給排により膨張収縮して凹状脚収納部に収納された両脚の側部を押圧する側面エアセルが両側壁の内面に設けられた脚用空気マッサージ機に関するものであって,底面に設けられた底面エアセルの膨張収縮により両脚の後方側を押圧してマッサージするものである。周知例2は,側面エアセルからの押圧は脚の形状に沿って側方から押圧し,底面エアセルの押圧は,脚の形状に沿って後方から押圧する構成が採用されている。両脚は,一つの凹状収納体に,縦方向に収納されるため,底面エアセルによって,安定的に保持して脱落を防止するという技術的課題はない。(ウ) 周知例3(甲22)は,使用者の手部及び下腕部を両側から挟持してマッサージするものであって,被施療部を安定的に保持させるという技術的課題に対応しようとするものではない。(3) 小括以上の検討によれば,引用発明1と引用発明2の組合せに周知技術を考慮したとしても,本件肘掛部上面に膨縮袋からなるマッサージ部を配置し,膨縮袋により肘掛け部全面を持ち上げてマッサージし,かつ,手部を立上り壁に配置された膨縮袋との間で挟持して保持する構成とすることには想到し得たとしても,膨縮袋を手部の安定的保持の機能\のための構成とし,「肘掛部の上面に配設した膨縮袋群は,圧縮空気給排装置からの給気によって膨縮袋群の肘幅方向の外側一端よりも内側他端が立ち上がるように配設され,前記膨縮袋の内側他端の立ち上がりによって肘掛部上面の肘幅方向の先端部を隆起させて肘掛部上に人体手部を安定的に保持させ」る構\成とすることには当業者が容易に想到し得ないものというべきである。」

◆平成20(行ケ)10345 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年08月31日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10396 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年06月30日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした無効審決が、引用文献との相違点の認定誤りを理由として取り消されました。
  「前記2のとおり,本件発明1における「破砕片」は,表面に表\飾のための凹凸が施された塩化ビニールシートに紙製シートを貼り合わせて成る壁紙の廃材を細かく破砕したものであって,表\面に上記凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構\造を有し,塩化ビニール片の上記凹凸面が対面して通水路を形成し,該通水路内に繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を保持した構造を有するものであるから,シート形態を残存するものである。そして,前記2(2)カのとおり,本件特許明細書(段落【0037】〜【0039】)には,破砕機を用いて壁紙を破砕することが記載されており,このような方法が本件発明1の技術分野で通常用いられる破砕方法と考えられる。一方,前記3(2)のとおり,甲第1号証発明は「3mm以下の粒度の表面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙廃材の粉砕物」を含むものであるが,証拠(牛乳パックの外観写真と拡大断面写真[甲29],技術説明資料[甲35])及び弁論の全趣旨によれば,表\面がプラスチック材料被膜で覆われているラミネート加工紙である紙製牛乳パックを,破砕機で3mm以下に粉砕した粉砕物は,紙の部分がプラスチックフィルムの部分よりもはるかに厚いため,短繊維状に離解されて,シート原形を留めない粉末状又は綿状のものになり,シート形態を残存しないものと認められる。そうすると,本件発明1における「破砕片」と甲第1号証発明における「粉砕物」とは,上記のとおりシート形態を残存するかどうかという点に違いがあるということができる。・・・・(3) 審決は,<相違点2>として,「本件発明1は,粗粒状体が『壁紙を細かく破砕し形成した表面に上記凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼\り合わせ構造を有する破砕片を組成材とする』のに対し,甲第1号証発明は,粒体が『粉砕物を含有』するものであり,かかる『粉砕物』について,表\面に凹凸を残存する塩化ビニール片と紙片の貼り合わせ構\造を有する破砕片であることの特定がない点。」と認定し,<相違点3>として,「本件発明1は,『粗粒状体中の塩化ビニール片の上記凹凸面が対面して通水路を形成し,該通水路内に上記繊維状吸水材又は粉粒状吸水材を保持した構造を有する』のに対し,甲第1号証発明は,かかる構\造の特定がない点。」と認定しているが,上記(1)(2)で述べたところからすると,単に特定がないというにとどまらず,上記(1)(2)認定のような形状の違いがあることを認定すべきであったということができる。」

◆平成20(行ケ)10396 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年06月30日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10444 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年07月30日 知的財産高等裁判所

 相違点の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
     「本願補正発明に係る請求項の記載によれば,「内面シート」,「外面シート」及びこれらに挟まれた「液吸収体」とを有する「積層体」によって「袋体」が形成されるとともに,当該「袋体」は「身体装着側」と「身体装着側に対向する裏側」とを有し,「身体装着側」には「開口部」が形成され,「開口部を囲む領域」と「これ以外の領域」との境に,液吸収体を薄くし又はこれを除去した「変形境界部」が形成されるものである。以上からすれば,「開口部を囲む領域」は,当然に,上記「袋体」の一部と解されるため,「内面シート」,「外面シート」及び「液吸収体」を有する「積層体」で形成されていることになる。(イ) 他方で,被告が主張するとおり,液吸収体を有する積層体において,端部にシール部がないと液が端部から漏れるおそれがあることは技術常識といえるため,このような積層体はシール部を有することが通常であるものと解される。そして,本願補正発明においても,「開口部」を囲む部位は積層体の端部となるので,「袋体」の「開口部」を囲む部位にはシール部が必要であると解され,現に,開口部20の周囲には「縁部17」(シール部)が存在する(前記(2)ク,ケ参照)。しかし,前記(ア)で検討したとおり,本願補正発明の請求項の記載によれば,「開口部を囲む領域」は,「内面シート」,「外面シート」及び「液吸収体」を有する「積層体」で形成されるものである。仮に,シール部が「開口部を囲む領域」の一部に該当すると解する余地があるとしても,被告が主張するように,「開口部を囲む領域」が,液吸収体が全く存在しない単なるシール部でもよいと解するのでは,特許請求の範囲の請求項に「『開口部を囲む領域』が『液吸収体』を有する『積層体』によって形成される」旨が記載されていることが無意味になるから,被告の上記主張は採用できない。(ウ) 以上のとおり,本願補正発明に係る尿取りパッドにはシール部が存在するが,本願補正発明における「開口部を囲む領域」とは,液吸収体を有する積層体で形成されている領域であって,基本的にシール部以外の領域を指す(仮に「開口部を囲む領域」がシール部を含むとしても,少なくともシール部以外の「液吸収体を有する積層体」で形成される部分を主たる構成部分とする。)ものと解するのが相当である。

◆平成20(行ケ)10444 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年07月30日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10305 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年03月25日 知的財産高等裁判所

  進歩性なしとした無効審決を取り消しました。
   「引用発明は,シール帯域内に合成樹脂溜まり部を設けて,熱融着に寄与するポリエチレン樹脂の量を確保することにより,「接合強度を維持」するようにしたものであるから,単に,「溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とする」ことを開示する周知例(甲2,3)を指摘することによって,その周知の技術を適用して,引用発明とは異なる解決課題と解決手段を示した本願発明の構成に至ることが容易であるということはできない。引用発明は,接合強度維持を目的とした技術であるのに対し,周知技術は,接合強度維持に寄与することとは関連しない技術であるから,本願発明と互いに課題の異なる引用発明に周知技術を適用することによって「本願発明の構\成に達することが容易であった」という立証命題を論理的に証明できたと判断することはできない。」

◆平成20(行ケ)10305 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年03月25日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10064 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年03月11日 知的財産高等裁判所

  進歩性なしとした無効審決を取り消しました。
  「以上のとおり,本件発明は,内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するように構成し,これによって液体供給孔から供給された液体が遠心力で外方に噴出して微細化することとなり,さらに,気体がこの液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されることにより,液体と気体が激しく攪拌混合してミストを発生するようにしたもので,このようにして発生したミストは,工具ホルダ及び工具内の通路を分離することなく通過して,被加工物の比較的深い箇所にも供給されるものである。そして,その結果,ミスト発生装置の設置箇所は,主軸の先端部内又は工具ホルダ内とすることが可能\となっている。これに対し,甲2発明は,本件発明と異なり,パイプ(19)をスピンドルと同体にして回転させるものではなく,また,液体供給孔の外周に狭窄部を設けて空気を噴出させて積極的に液体と気体が激しく攪拌混合してミストを発生するようにするものではなく,噴霧を切削領域に放出させるためには,パイプ(19)は,ドリル工具又はフライス工具(10)の出口(31)のすぐ上流側まで延びて配置する必要があるものである。
 エ そうすると,本件発明と甲2発明とは,同じ工作機械の主軸装置に関する発明において,主軸装置側にミスト発生装置を設け,そのミスト発生装置は,気体と液体を同時かつ別々に供給するための2系統の供給路を備え,2系統の供給路のうち内側に液体用供給路を形成する供給管を設けて切削液を液体供給孔から供給し,気体をこの液体供給孔の外周囲に設けられた供給管から供給して,液体と気体を混合してミストを発生する構成とし,発生したミストは,工具内通路を通じて切刃近傍から噴出され,被加工物に供給されるようにした点で共通するものであるが,本件発明は,混合したミストが分散しないことを解決課題としているという点で,甲2発明とは異なる課題を有するものである。そして,?@本件発明における上記課題を解決するため,本件発明1のミスト発生装置の構成は,甲2発明のミスト発生装置の構\成とは上記のとおりの相違点を有することになり,その結果,?Aミスト発生装置の設置位置につき,甲2発明は工具の出口のすぐ上流側であるのに対し,本件発明は主軸の先端部又は工具ホルダ内とすることができるとの相違点を生じさせ,さらに,?Bミスト発生位置からミストを供給する加工部までの噴霧状態を保つ必要がある距離も,両者を比較すると,本件発明は長い距離であるのに対し,甲2発明は短い距離であるとの相違点を生じさせたものである。このように,本件発明は,本件発明が有し,甲2発明が有しない上記課題を解決するために,ミストを発生する機構,ミスト発生装置の設置箇所及び噴霧状態を保つ距離において異なることとなったものであって,これらについては,甲2発明から容易に想到し得るものではないと認められる。
 したがって,審決が,甲2発明の構成につき,「ミスト発生のための機構\が,工具の中央ボア孔(22)と,パイプ(19)からなっているのであるから,工具そのものが,その中央ボア孔がパイプを通し,更に必要な量の圧縮空気を流すことのできるというような,ミスト発生のための専用の形状を採らざるを得ないことは明らかである。」(20頁11〜15行)としながら,「しかしながら,切削液通路を備えただけの通常の形状の工具を用いるというような要求は一般的なものであるから,この要求に応えるならば,ミスト発生のための機構を,工具内に設けることはできなくなり,工具の手前,つまり『主軸の先端部或いは工具ホルダ内』に設けざるを得ないのは,当然である。」(20頁16〜20行)として,「相違点1に係る本件発明の発明特定事項は,当業者が適宜採用できた設計的事項である。」(20頁21,22行)としたことは是認することができない。」

◆平成20(行ケ)10064 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年03月11日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10026 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年02月17日 知的財産高等裁判所

     進歩性なしとした審決が取り消されました。
    「ア 上記(1)によれば,相違点1に係る本願発明3の構成は,乗物の実際の前進加速により乗客が経験する加速度の感覚を強調するために,乗物を更に加速することに代えて,前進中の乗物に加速度感を生起させる動きを加え,それによるシミュレーション効果により擬似的に実際の加速以上の加速度感を乗客に体験させるとともに,安全性を十\分に確保するという点に技術的意義があるものと認められる。これに対し,上記(2)のとおり,刊行物記載発明は,カプセル内部のスクリーン上の映像に対応して座席等に動きを与え,乗客に映像上の出来事を擬似的に体感させるというものであり,同発明におけるシミュレーション効果は,乗物の実際の動きがもたらす乗客の感覚とは無関係である。また,引用刊行物には,設計技術上及び安全性の問題から乗物の急激な加・減速や急速度での急カーブの曲がりなどの実際の動きが制限されるという事情の下で,動的な乗物に臨場感や大きなスリルなどを求める乗客に対して急激な加速や減速,高速での急カーブの曲がりの感覚を提供するという本願発明3の課題についての記載も示唆もなく,シミュレーション効果の利用という点においては,引用刊行物が従来技術として記載している「従来のシミュレーション式遊戯装置」と同一の技術的思想であるといえる。したがって,刊行物記載発明は,動的な乗物においてシミュレーション効果を利用するという点では本願発明3と共通するものの,シミュレーション効果の利用状況についての着想及びそれにより実現される効果の点で本願発明3とは技術的思想を異にするものというべきであって,刊行物記載発明と本願発明3とでは,シミュレーションを利用することの技術的意義が相違するものと認められる。そして,本願発明3におけるシミュレーションの利用の技術的意義については,引用刊行物に記載も示唆も認め難いところ,本願発明3におけるシミュレーションの利用の点が,相違点1に係る構成に当たるから,結局,引用刊行物には,相違点1に係る構\成の技術的意義について,記載及び示唆があるものと認めることはできない。以上によれば,引用刊行物には,相違点1に係る本願発明3の構成を想到する契機ないしは動機付けとなる記載や示唆があるものと認めることはできない。・・・
  (エ) 上記(ア)ないし(ウ)によれば,乗物を実際には移動させることなく(上記(ア),(ウ)),あるいは乗物の実際の動きとは異なる態様で(上記(イ)),乗物を運転する際に感じる運転感覚や体感を擬似的に体験させるシミュレーション装置はよく知られた技術であると認められる。しかしながら,周知例甲2ないし5には,乗物が実際に前進加速している時に,乗客が経験する加速度感を更に強調するために,当該乗物に加速度感を生起させる実際の動きを加え,乗客の前進加速感を擬似的に強調し高めるシミュレーションを行うとの技術的事項が記載されているとは認められないし,これを示唆する記載も見い出すことがことができない。そうすると,周知例甲2ないし5によって,擬似的な前進加速感を乗客に与えるシミュレーションを行うことが周知技術であることは認められるものの,前記アに認定した本願発明3におけるシミュレーション利用の技術的意義についてまで周知であったと認めることはできず,また,これが当業者にとって技術常識であったことを認めるに足りる証拠もない。さらに,前記アに説示したところに照らせば,上記周知のシミュレーション技術は,本願発明3におけるシミュレーション利用の技術的意義を示唆するものとは認め難いから,相違点1に係る本願発明3の構成を示唆するものとも認められない。(オ) 以上のとおり,引用刊行物には,相違点1に係る本願発明3の構成を想到する契機ないしは動機付けとなる記載も示唆もないこと,また,周知例甲2ないし5によっては,単に擬似的な前進加速感を乗客に与えるシミュレーションを行うことが周知技術であったと認められるにすぎず,同シミュレーション技術は相違点1に係る構\成を示唆するものでもないこと等に照らすならば,刊行物記載発明において上記周知技術を考慮したとしても,当業者において,本願発明3におけるシミュレーション利用の技術的意義を容易に着想し,また,それによる効果を容易に想到し得たとは認められないから,当業者が相違点1に係る本願発明3の構成を容易に想到し得たとは認められない。」

◆平成20(行ケ)10026 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年02月17日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10176 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年01月29日 知的財産高等裁判所

 ゲーム装置(CS関連発明?)について、進歩性なしとした審決が取り消されました。 
  「審決は,引用発明の電子チップが本願発明のゲーム的メリットと共通する(実質的具備事項5)とした上で,引用発明と本願発明とが「電子データであるメリットをネットワークを介して端末装置に送信する送信手段」を有する点で一致すると認定している。しかしながら,上記ア及びイに認定説示したところによれば,本願発明は,ゲーム的メリットをネットワークを介して端末装置に送信するものであるのに対し,引用発明は,電子チップを端末装置に送信するものではないから,引用発明の電子チップが本願発明のゲーム的メリットと共通するかについても争いのあるところであるが,仮にこれが認められるとしても,引用発明が「電子データであるメリットをネットワークを介して端末装置に送信する送信手段」を有するとした審決の認定は誤りというべきである。(イ) この点について,被告は,引用発明においては,電子チップ情報をクライアント装置に送信して供給することにより,消費あるいはゲームの進行に従った電子チップ数の演算及び表示をクライアント装置に実施させ,ひいてはユーザが電子チップを消費し,あるいはゲームの進行に従って電子チップ数を変化させることを可能\としているから,電子チップ情報の供給は,実質的には,クライアント装置に対して利用可能な形態で電子チップを送信して供給するものであるということができると主張する。しかしながら,引用発明において,ユーザがクライアント装置を使用してその保有する電子チップに関する情報を確認できたり,電子チップを使用できたりしたとしても,そのような機能\を実現するための具体的構成は複数存在するのであって,引用発明と本願発明とでは同じ機能\を実現するための具体的な構成が異なるのであるから,単に実現される機能\が同一であるという理由から,両者の具体的な構成を同一視することはできないというべきである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。」

◆平成20(行ケ)10176 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年01月29日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10386 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年01月29日 知的財産高等裁判所

 請求理由なしとした(進歩性)審決が取り消されました。 
 「このようにしてエアシリンダ13は,第2のアーム8が目標の設定位置P2に到達する以前から起動し始めるため,エアシリンダ13の順次プログラム上での実質的な作動時間は,第2のアーム8の移動完了後に起動する場合と比較して短縮している。」との記載に照らしてみれば,甲第7号証記載の動作制御装置は,第2のアームが移動中にエアシリンダの移動を開始することで作動時間を短縮するものであるが,最も作動時間が短縮されるのは,第3図に記載の円弧に沿って動作が完了する場合,すなわち,第2のアームの旋回運動が停止した時点でエアシリンダの下降動作が完了する場合であることはきわめて容易に理解し得るところである。(ウ) そうすると,甲第7号証に接した当業者であれば,ロボットにおいて同時に複数の動作を行うように動作制御する場合に,一方の動作の終了時点と他方の動作の終了時点が一致するように制御すれば,最も動作時間を短縮できることを容易に理解し得るものと認められるから,甲第7号証には,「ロボットにおいて同時に複数の動作を同時に行うように動作制御する場合に,一方の動作の終了時点において他方の動作を終了するように重ねて制御すれば,最も動作時間を短縮することができる」との技術事項が開示されているといえる。(エ) そして,前記ア(ア),(イ)の甲第3号証の記載事項及び当業者が技術常識から当然に認識し得た事項を考慮すれば,甲第3号証記載の考案に甲第7号証記載の上記(ウ)の技術事項を適用して,相違点10に係る本件考案の構成とすることは,当業者がきわめて容易に想到し得たことというべきである。」

◆平成19(行ケ)10386 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年01月29日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10062 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年07月30日 知的財産高等裁判所 

  進歩性なしとした拒絶審決が、引例との一致点・相違点の認定が異なるものの結論に影響がないとして維持されました。 
  「本願発明は,「自動車運転用の模擬教習機器」に関するものであるところ,前記2で述べたところによると,ここでいう「自動車運転用の模擬教習機器」とは,実際に自動車の運転をすることができるように教習するために用いる機器という意味であると認められる。これに対し,引用発明は,上記のとおり,子供が遊ぶための玩具であるから,この点において,本願発明と引用発明は相違するということができる。審決は,本願発明と引用発明は,「自動車運転用の模擬機器」という点で一致すると判断しているが,本願発明において「自動車運転用の模擬教習機器」は,上記のような一つの技術的な意義を有するものと認められるのであり,これを「自動車運転用の模擬機器」と「学習」とに分けて引用発明と対比することは相当でないというべきである。引用発明が「自動車運転用の模擬機器」でない旨の原告の主張(取消事由1)は,上記の限度では理由があり,相違点3は,「本願発明が自動車運転用の模擬教習機器であるのに対して,引用発明はハンドル玩具である点。」と認定すべきである。しかし,後記7のとおり,この一致点認定の誤りは,結論に影響するものではない。・・・・前記4(2)のとおり,相違点3は,「本願発明が自動車運転用の模擬教習機器であるのに対して,引用発明はハンドル玩具である点。」と認定すべきであるが,この相違点は,次のとおり当業者が容易に想到することができるというべきである。ア 前記5及び6で述べたところからすると,当業者は,引用発明に相違点1,2に係る本願発明の発明特定事項を採用したもの,すなわち,助手席の前面に取り付けまたは取り外しができるように配置される支持体に対して,模造ハンドル,模造ブレーキ,模造アクセル及び模造方向指示器(MT車の場合は,以上に加えて,模造クラッチ)が取り付けられており,これらは,実際のものと同一サイズであって,支持体を助手席の前面に配置したとき,運転席における実際のものが占めるべき位置と同じところに位置するように,かつ実際のものの動きに類似した動きができるように,支持体に取り付けられており,さらに,これらの動きは,運転席に配備された実際のものの動きとは,何らの関係をも持たないように構成されたハンドル玩具を容易に想到することができるというべきである。イ 上記アのものは,玩具である点で本願発明とは異なるが,運転者の運転をまねして同様の操作をすることができる点では,本願発明の自動車運転用の模擬教習機器と共通する。そして,次のとおり,自動車運転を指導者から学ぶ目的又は運転教習の目的で用いられるものが,遊戯装置としても用いられることが知られている。・・・ウ 以上によると,当業者は,上記アのものを自動車運転用の模擬教習機器として使用することを容易に想到することができるのであって,上記相違点3に係る本願発明の構\成は,当業者が容易に想到することができるというべきである。」

◆平成20(行ケ)10062 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年07月30日 知的財産高等裁判所 

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◆平成18(行ケ)10174 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年09月26日 知的財産高等裁判所

 新たなステップを追加することは、限定的減縮に該当しないとの考え方についてはこれを維持しましたが、相違点を看過しているとして、拒絶審決が取り消されました。
 「・・?Dのステップの後に,新たに「前記安定した基板を上記物体に付属させるステップ」を追加するものである。ところで,上記追加に係る「前記安定した基板を上記物体に付属させるステップ」は,?@ないし?Dのステップとは無関係であり,請求項11の全体を減縮するものではあるが,?@ないし?Dのいずれかのステップを減縮するものではない。そうすると,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第4項2号に規定する「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」にいう「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する」場合には当たらないと解するのが相当である。したがって,本件補正を却下すべきものとした審決の判断に誤りはない。」 
  「結局,審決は,刊行物1記載の発明を基本としつつ,被告が自ら認めるとおり,刊行物1,3記載の発明が「光硬化性流動物質」又は「液体,粉末等の材料」を使用するものであるとすることによって,「光硬化性流動物質」と「液体,粉末等の材料」とを一つのまとまりとして取り扱い,「材料」の上位概念をもって一致点とした際に,その「材料」の中に,「光硬化性流動物質」のみならず「材料粉末」をも含めてしまったため,本願発明について,進歩性の有無を判断すべき相違点を看過する結果となったものといわざるを得ない。」 

◆平成18(行ケ)10174 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年09月26日 知的財産高等裁判所

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◆平成17(行ケ)10677 審決取消請求事件 平成18年08月31日 知的財産高等裁判所

  相違点1,2とも判断を誤っているとして、進歩性無しとした審決を取り消ししました。
 

◆平成17(行ケ)10677 審決取消請求事件 平成18年08月31日 知的財産高等裁判所

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◆H15. 6.17 東京高裁 平成14(行ケ)322 特許権 行政訴訟事件

 ちょっとややこしい事例ですが、特許無効と判断した第1次審決が東京高裁にて取り消され、これが確定しました。特許庁はさらに審理したところ、最終的に無効と判断しました。権利者が拘束力違反として審決取消を求めた事件です。
 裁判所は、「審決には,第1次取消判決の拘束力に反して一致点の認定をした誤りがあり,審決がこの一致点のあることを前提にして結論に至っていることは明らかであるから,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。したがって,審決は,この点において,既に取消しを免れない。」と取り消した上、補足的判断として、「補足するに,当裁判所は,本件発明は,審判甲第4号証記載の発明及び審判甲第3号証記載の発明から容易に発明することができないものと判断するものである。その理由は以下のとおりである。」と裁判所としての判断も下しました。

 

◆H15. 6.17 東京高裁 平成14(行ケ)322 特許権 行政訴訟事件

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