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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

新規性・進歩性

平成24(行ケ)10414 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月17日 知的財産高等裁判所 

 進歩性違反なしとした審決が、甲1発明には動機付けが含有されているとして、取り消されました。
 上記下線部分,すなわち,有価証券情報の印字部外周に施された抜き型による加工はプリペイドカードを抜き取り可能とするためのものであるところ,これは,プリペイドカードが単に有価証券情報をカード購入者に通知するのみならず,利用者による携帯を予\\定しているため,有価証券情報が記載されているとともに有価証券情報を隠蔽してもいる折畳み対向紙片から分離させる必要があるために設けられたものと解される。すなわち,購入者に交付されるシートからプリペイドカードを分離して使用できるようにすることも,請求項1〜8にその構成が包含されているのみならず,考案の詳細な説明の段落【0010】,【0024】,【0026】,【0030】,【0031】,【0035】にその構\\成が独立して説明されている事項であり,甲1発明において技術的課題の一つとされていたというべきである。そうすると,甲1発明は,折畳み対向紙片の内側面に印字された部分が有価証券情報のように隠蔽される必要のないものであっても,折畳み対向紙片の内側面の一部分を独立して抜き取る(折畳み対向紙片から分離させる)必要性があれば,プリペイドカードに代えてかかる分離させる必要があるものを採用するについての動機付けを含有するものというべきである。かかる見地から見るに,広告の一部に返信用葉書を切取り可能に設けることは,本件出願前に既に周知の技術であったと認められる(特開2004−133065号公報〔甲3〕,特開平3−55272号公報〔甲16〕)。そして,広告の一部に返信用葉書を設ける場合,返信のために葉書部分を分離させる必要があることは明らかである。したがって,消費者等が受領したシートや紙面から分離して使用するものとして,甲1発明の「プリぺイドカード」に代えて「葉書」を採用することは当業者にとって容易想到であるというべきである。(4) 別の角度からみるに,返信用葉書を備え付けた郵便物であって,当該返信用葉書に受取人の個人情報(氏名・会員番号・生年月日・電話番号・性別・住所など),預金残高,借入金額などの隠蔽すべき情報が予め記載されたものも本件出願前において周知の技術であったと認められる(特開2000−177277号公報〔甲17〕,特開平2−108073号公報のマイクロフィルム〔甲19〕)。したがって,隠蔽されるべき情報が記載され,かつ,顧客等に送付ないし交付される郵便物や書面から分離して使用されるべきものとしてプリペイドカードと葉書は共通する一面を有しているといえるから,甲1発明の「プリぺイドカード」に代えて「葉書」を採用することは当業者にとって容易想到であるということもできる。いずれにせよ,この判断と異なり,甲1発明の「プリペイドカード」に代えて「葉書」を採用することは想到容易でないとし,甲1発明との間の相違点2,3に係る訂正発明1の構\\成は容易想到ではないとした審決の判断は誤りであり,これを前提とした訂正発明1,2についての容易想到性判断は誤りである。
(5) なお,審決は,「プリペイドカード」を筆記性が要求され,さらに大きさや厚さの基準が定められている「葉書」に代える動機が甲1発明には見出せないとした。しかし,筆記性や大きさや厚さといった基準の差異については,「分離して使用されるもの」の単なる物品特性上の相違にすぎない。また,甲1発明が,プリペイドカード付きシートが購入者によって受領された後はプリペイドカードを分離させることに意義があり,そこに技術的課題を見出したことからしても,「葉書」に筆記性が要求され,大きさや,厚さといった基準があるからといって,「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機がないということはできないというべきである。

◆判決本文


◆関連事件です。平成24(行ケ)10413

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平成24(行ケ)10082 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月25日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が、本件発明の認定誤りを理由に取り消されました。
 審決は,前記第2,3(5)のとおり,本件発明と甲1発明との相違点3として,本件発明では,「流体排出経路を通過した気体は流体排出手段より外部に排出され(る)」のに対して,甲1発明は,流体排出経路を通過した流体は流体管14とは別体の流体管より外部に排出されていない点を認定している。本件発明の「外部に排出」の意義について検討する。本件発明に係る特許請求の範囲には,「前記反射部材支持部の空間から気体を排出する流体排出手段とを備え,前記空間は流体供給経路及びこの流体供給経路と別体の流体排出経路を除き密閉構造とし,前記流体排出経路を通過した気体は前記流体排出手段より外部に排出され,」と記載されている。同構\成中の「流体排出手段」とは,気体を「反射部材支持部の空間」の外部へ排出するための手段を指す。そうすると,本件発明の「前記流体排出経路を通過した気体は前記流体排出手段より外部に排出され」とは,「流体排出経路を通過した気体が,反射部材支持部の空間の外部へ排出されること」を意味し,「外部に排出」とは,「反射部材支持部の空間の外部へ排出されること」を意味することは,特許請求の範囲の文言上明らかであって,それ以外の格別の限定はない。本件明細書の記載にも,同様に,「外部に排出」とは,反射部材支持部の空間の外部へ排出されることが示されている。他方,甲1発明においても,鏡面12を有する金属円板と鏡ケース13とにより形成された密閉空間内から,当該空間内に接続された流体管14とは別体の流体管により圧力水が排出されている。本件発明と甲1発明とは,いずれも「外部に排出」されており,相違点3に係る相違はない。したがって,「本件発明は,『流体排出経路を通過した気体は流体排出手段より外部に排出され』るのに対して,甲1発明において,流体排出経路を通過した流体は流体管14とは別体の流体管より外部に排出されていない点」を相違点とした審決の認定は,誤りがある。この点,被告は,「外部」との語は,本件訂正に係るものであり,甲1発明では圧力水が循環するのに対して,本件発明では気体が循環することなく排出される点において相違するものであるから,「外部に排出」の意義について,密閉空間に属するか否かにおける相違点があるにもかかわらず,この点を前提とすることなく,単に,「反射部材支持部の空間外」を全て「外部」であると解釈することは誤りであると主張する。しかし,被告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,採用の限りでない。以上のとおりであり,本件発明の「『外部に排出』という記載が特定する技術的事項は,密閉構造とされた空間を取り巻く周囲の空間に排出されることであるといえる」との解釈を前提として,この点を甲1発明との相違点3とした審決の認定は誤りである。そして,審決は相違点3が容易想到でないとして結論を導くものであるから,審決は,相違点3から本件発明の進歩性を肯定する限りにおいて誤りがあるというべきである。\n

◆判決本文

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平成24(行ケ)10101 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月05日 知的財産高等裁判所 

 進歩性違反なしとした審決が維持されました。
 引用発明及び本件発明は,いずれも石灰等を使用した建築物等の被覆材料に関するものである点で技術分野を同一にしている。イ しかしながら,引用発明は,前記2(2)に説示のとおり,セメント又は石灰結合性建築物被覆材料の疎水性を向上させるために従前行われていた添加剤は大量の添加ができず,また,添加によって建築物被覆材料の加工性が極めて悪くなるという課題を解決するものであり,前記2(1)ウに記載のとおり,施工現場で加工することが想定されているものであるのに対し,本件発明は,前記1(2)に説示のとおり,漆喰の施工時に現場で漆喰を調整することにより一定した品質のものが得られず,また,着色漆喰塗膜に色むらが生じるという課題を解決するものであって,引用発明と本件発明とでは,解決すべき課題を大きく異にしているといえる。ウ また,引用発明は,前記2(1)ウ及び(2)に説示のとおり,石灰及び水等に加えて,「場合により多くの他の添加物質からなる」建築物被覆材料を混合する方法であって,引用例1に当該他の添加物質として列記されている顔料(酸化チタン等),プラスチック及び着色料等は,いずれもあくまでも石灰及び水等に対して「場合により」添加されるというものであるにすぎない。したがって,引用例1には,石灰及び水等に加えて,白色顔料,プラスチック及び着色顔料の全てを組み合わせて混合する方法については記載がなく,この点を示唆する記載も見当たらないというほかない。また,引用例1の実施例〔例1〕は,前記2(1)カに記載のとおり,石灰及び水等のほかに,白色顔料(二酸化チタン金紅石)及び結合剤(再分散可能なポリビニルアセテート−コポリマー粉末をベースとするエチレンビニルアセテート)等を含有するが,着色料(着色顔料)を含有していないものであって,本件発明1の方法から着色顔料を除いた全ての物質を配合する方法であるといえる。しかしながら,上記のとおり,引用例1には,石灰及び水等に加えて,白色顔料,プラスチック及び着色顔料の全てを組み合わせて混合する方法については記載も示唆もないから,上記実施例〔例1〕は,石灰及び水等に対して,上記の各物質が添加物質として選択された結果が記載されているにとどまり,当該実施例〔例1〕の記載があるからといって,それに加えて,更に着色顔料を添加することについての示唆があるものとはいえない。
エ 引用例2は,「酸化チタン〜物性と応用技術」と題する文献の抜粋であって,そこには,酸化チタン工業の歴史,酸化チタンが白色顔料として建物内外壁や建造物等の塗装等に用いられてきたこと,白色塗料としての酸化チタン顔料等と灰色塗料としてのカーボンブラックとを混合した場合の着色力及び隠蔽力を測定した結果等が記載されている。加えて,甲17は,「処理顔料」という名称の発明に係る公開特許公報(特開平9−183919号)であり,甲18は,「着色顔料組成物及びその製造方法」という名称の発明に係る公開特許公報(特開平5−59297号)であって,そこには,酸化チタンを他の無機の着色顔料等と混合して製造される顔料についての記載がある。甲19は,「塗料のおはなし」と題する文献(昭和61年2月24日刊行)であって,そこには,白色チタンとカーボンブラックとを混合して灰色の塗料を製造することなどが記載されている。甲20は,「これだけは知っておきたい 塗装工事の知識」と題する文献(昭和57年4月5日刊行)であって,そこには,二酸化チタンと無機の着色顔料を配合した顔料についての記載がある。以上によれば,白色顔料である酸化チタンに着色顔料を含有させることで着色塗料を製造することは,本件優先権主張日当時,当業者に周知の技術であったものと 認められる。他方,甲5は,「土壁・左官の仕事と技術」と題する文献(平成13年2月20日刊行)の抜粋であって,そこには,セメント又は漆喰に着色のために着色顔料を使用することが記載されている。また,甲10は,「無機質仕上げ材組成物及びそれを用いた工法」という名称の発明に係る公開特許公報(特開平7−196355号)であり,甲11は,「壁材及びその施工方法」という名称の発明に係る公開特許公報(特開2000−96799号)であるが,そこには,着色顔料等により着色された漆喰についての記載がある。以上に加えて,漆喰及び着色顔料がいずれも古くから使用されていること(甲6,13参照)を併せ考えると,漆喰に着色顔料を配合することで着色をすることも,本件優先権主張日当時,当業者に周知の技術であったものと認められる。しかしながら,引用例1には,前記ウに説示のとおり,石灰及び水等に加えて白色顔料及び着色顔料等の全てを組み合わせて混合する方法についての記載も示唆もないから,引用発明にこれらの各周知技術を適用する動機付けが見当たらないばかりか,上記の各周知技術は,それぞれ,塗料又は漆喰の調色のために白色顔料を配合し又は漆喰に着色顔料を配合するというものであって,このようにして着色された塗料又は漆喰に対して,当該各周知技術を相互に組み合わせることで,更に石灰(漆喰)又は白色顔料を配合し,引用発明と相俟って本件発明1の本件相違点に係る構成とすることについての示唆又は動機付けを有するものではない。
オ さらに,引用発明は,前記イに説示のとおり,施工現場で実施することが想 定されているものであって,建築物被覆材料が良好な加工性性質及び撥水性性質を 備えるという作用効果を有するものであるのに対し,本件発明は,前記1(2)に説示 のとおり,漆喰組成物を均一かつ安定に着色し,塗膜を形成した際に,色飛び又は 色飛びによる白色化や色むらが有意に抑制され(着色漆喰塗膜の色飛び抑制),重 ね塗りをした場合にも色差のほとんどない着色漆喰塗膜が形成できるという作用効 果を有するものであるから,本件発明の作用効果は,引用発明の作用効果とは異質 のものであって,引用発明から当業者が直ちに予測可能\なものとはいえない。

◆判決本文

◆関連事件です。平成24(行ケ)10100

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平成23(行ケ)10443 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月11日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が「論理付けに欠ける」として取り消されました。
 ウ 上記記載によれば,甲2には,1)解決課題として,電線挿通孔dへの電線の挿通によって防水栓本体が外径変化,すなわち,径方向の外側に膨らみ,径方向の外側に位置するシール部位(b−e間)の密着性が低下すること,2)解決手段として,電線挿通孔dおよびシール部位の間に環状溝を介在させること,3)作用効果として,環状溝の内部空間によって防水栓本体の変形を吸収し,防水シール効果の低下を抑制すること,が開示されていると認められる。ところで,甲2の解決課題は,電線が挿通される電線挿通孔dと,テーパー面e及び嵌合壁bの間のシール部位とが,径方向の内外において対向していることから生じるものであって,両者が径方向に対向していない場合には,そもそも,電線の挿通によって防水栓本体の外径が変化しても,その影響はシール部位には及ばないから,同様の問題が生じないものである。そうすると,甲2から,「コネクタ用防水栓においてパッキン及び電線の密着とパッキン及びハウジングの密着が互いの影響を及ぼすことが望ましくないこと」が周知の事項と認められるとしても,それは,パッキン及び電線の密着部位と,パッキン及びハウジングの密着部位とが,径方向において対向している構造においては当てはまるものであるが,両者が径方向に対向していない構\造においては当てはまらないものである。
エ そこで,引用発明におけるパッキン及び電線の密着部位とパッキン及びハウジングの密着部位についてみると,審決が引用発明認定の根拠とした甲1の実施例の構造(甲1の図面参照)では,両者が径方向において対向しておらず,軸方向にずれていることが分かる。したがって,引用発明においては,電線の挿通による防水栓本体の外径変化の影響がシール部位に及ばない構\造となっており,審決が認定した「コネクタ用防水栓においてパッキン及び電線の密着とパッキン及びハウジングの密着が互いの影響を及ぼすことが望ましくないこと」との周知の事項が当てはまらないものである。また,引用発明において,第2のシール部の配設位置を後側に変更すると,参考図(別紙参照)の構成となるが,この構\成においては,リブ部は,第2のシール部の外周近傍から前方に向かって環状に突出しており,第1のシール部は,第2のシール部の中心近傍から前方に向かって延在している。そうすると,内側の第1のシール部と,外側のリブ部とは,径方向において対向するが,第1のシール部及びリブ部の間には環状のコネクタハウジングが介在することになる。したがって,この構成では,電線の挿通による影響が第2のシール部位に直接的には及ばないから,径方向の歪み(変形)の伝達を抑制するという点で,実質的に甲2と同様の構\成を備えることとなる。この場合,第1のシール部の外径に変化が生じても,環状のコネクタハウジングによってその変形が第2のシール部には伝達されず,リブ部の防水シール効果の低下が生じないことは明らかである。すなわち,仮想構成1を採用した段階で,甲2の解決手段のみならず,甲2の作用効果も同時に達成されることになる。そうすると,更にそこから仮想構\成2のように変更すること,すなわち,リブ部の突出方向を前方から後方に敢えて変更することについては,もはや動機づけが存在しないというべきである。ところが,審決は,「コネクタ用防水栓においてパッキン及び電線の密着とパッキン及びハウジングの密着が互いの影響を及ぼすことが望ましくないことは,例えば,実公昭58−29576号(判決注:甲2)(特に1ページ左欄34行〜右欄4行参照。)に記載されているように周知の事項である……」(9頁15行〜18行)と述べるにとどまり,当該周知の事項が甲2とは異なりパッキン及びハウジングの密着部位とが径方向に対向していない構造の引用発明においても該当することの根拠を全く示しておらず,リブ部の突出方向を前方から後方に敢えて変更すること,すなわち,仮想構\成2を適用することの論理づけを欠くものというほかない。

◆判決本文

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平成24(行ケ)10038 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月11日 知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、取り消されました。
 審決の認定,すなわち,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」の構成は,「【図11】に示すような構\成であると解するのが自然である」との認定に誤りがあるかどうかを検討する。「書庫」について,本件訂正発明1では,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する」と特定されているのみである。この点,1)特許請求の範囲の記載として,「図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有する異なる複数の棚領域」(及びこれに対応するコンテナ)とするのであれば(これでも特定は不十分かもしれないが),審決が認定するような構\成を導くことも可能であろうが,本件訂正発明1の上記記載では,そのようにはなっておらず,構\成の特定方法が十分ではないと解する余地がある。他方,2)「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域」という構成の内容が必ずしも明確でないので,発明の詳細な説明を参酌することができるところ,本件訂正発明1は,サイズ別フリーロケーション方式を採用した図書の保管管理装置に係る発明であり,この方式は,「例えば,A4版の図書を収容するコンテナ,B5版の図書を収容するコンテナ及びA5版以下の図書を収容するコンテナのように,収容する図書の寸法に応じてそれぞれ大きさの異なる複数種類のコンテナを用意しておき,それぞれのコンテナを大きさ別に分類して書庫に収容するようにしたものである。」(甲32【0009】)とあるので,図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有するコンテナ(及びこれに対応する棚領域)の構\成であると解する余地もある。そこで検討するに,原告の主張は,基本的に1)の立場によるものであり,例えば,参考資料の図1(及び図2のコンテナを含む。)に記載されている書庫のように,図書の寸法別に分類された,幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫であれば(具体的には,棚領域がA4版用,B5版用,A5版用というように分類されていれば),図書のA4版,B5版,A5版の「幅及び高さ」より棚領域の「幅及び高さ」のそれぞれの長さが長い書庫であっても,本件訂正発明1の「書庫」の特定事項を満たしているというのである。しかし,この主張は,やや理屈が勝った議論であって,収容(収納)効率の向上という観点からは,実際に図2のコンテナを含む図1のような書庫が使用されるものとは考えにくい。これに対し,被告の主張は,基本的に2)の立場によるものであり,審決も,実際の図書の保管管理状況を念頭において判断しているように思われる。しかし,本件訂正発明1の特許請求の範囲の解釈に関しては,上記1)か2)かという点で明確でないところがあり,また,発明の詳細な説明においても,明確に「図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有する」と規定されていないことに照らして判断すると,審決の上記認定が,本件訂正発明1の「書庫」の構成として,参考資料の図1に記載されているような書庫は本件訂正発明1の「書庫」には含まれないとの趣旨のものであるとすれば,その限りにおいて認定は正確でないということになる。イ 「コンテナ」の構成について「コンテナ」について,本件訂正発明1では,「この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ」と特定されているのみである。そうすると,上記アの説示に照らして,参考資料の図2に記載されているようなコンテナ,すなわち,複数の同じサイズの図書を収容するコンテナであれば,例えば,コンテナがA4版用,B5版用,A5版用というように分類されていれば,図書のA4版,B5版,A5版の「幅及び高さ」よりコンテナの「幅及び高さ」のそれぞれの長さが長いコンテナであっても,本件訂正発明1の「コンテナ」の特定事項を満たしているといえる。したがって,「参考資料の図2のような構\成ではな」いとの審決の認定が,参考資料の図2に記載されているようなコンテナは,本件訂正発明1の「コンテナ」には含まれないとの趣旨のものであるとすれば,その限りにおいて認定は正確でないということになる。
・・・
エ 以上のとおり,審決の認定には正確性を欠くところがあるが,審決は,相違点1の容易想到性判断において,後記2(1)ウのとおり述べるにとどまり,「書庫」の構成に関して,図書の幅及び高さと棚領域との大小関係については何ら言及していない。そこで,原告主張の審決の認定の誤りが取消事由にどこまで影響を与えるかについては,次項以下で,実質的な検討を進める。
・・・
イ 被告は,周知技術の属する倉庫(自動倉庫)の技術分野においては,その寸法に対応した,幅及び高さがそれぞれ異なる収納容器(コンテナ)や,当該収納容器のみを集積した「棚領域」という概念を観念することはできず,自動倉庫の分野において,幅及び高さが異なる棚領域を設けることが周知であったとしても,それは,そこに収容する物品の寸法に対応したものではなく,棚領域が「荷物の寸法別に分類された」構成は開示されていないという点で,本件訂正発明1とは異なると主張する。しかし,甲第22号証及び同第29号証に記載されているように,自動倉庫に格納される収容物がコンテナ又は容器に収納した状態で格納されることは,周知の事項であり,また,例えば甲第29号証に記載されているように,収容物の寸法に応じて大きさの異なる容器を使い分けることも,従来から一般的に行われていることである。そして,この収容容器(コンテナ)が収容される棚領域は,当然のことながら,収容物の大きさ(寸法)に対応したものになる(なお,原告が当該構\成を端的に示した文献の存在を主張立証していない,との被告の非難は当たらない。)。したがって,倉庫(自動倉庫)の技術分野においては,その寸法に対応した,幅及び高さがそれぞれ異なる収納容器(コンテナ)や,当該収納容器のみを集積した「棚領域」という概念を観念することができないとの被告の主張は理由がない。そして,本件の場合,図書は,その幅及び高さが複数種類に限定されているため,収容物が図書に限定された場合には,限定のない場合と比較して収容効率が向上するという効果が予想されるが,収容効率を更に向上させるために,荷物の大きさを揃えて,それに対応するコンテナに収容する方がよいことは,当業者が技術常識に照らして容易に予\測し得るところであって,図書の場合は,規格上,それが更にA4版,B5版等に特定されたものというべきである。被告は,本件訂正発明1が採用したフリーロケーション方式では,複数の分類にかかる同じサイズの図書を一つのコンテナに混在させることができるから,空間の利用効率が高くなり,収容効率が向上すると主張するが,このような効果は,収容物の大きさに応じた収納容器を用いることで収容効率が向上するという効果から当業者が予測し得る程度のものであり,それ以上に格別なものとはいえない。\n

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平成24(行ケ)10091 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月12日 知的財産高等裁判所

 進歩性判断における発明の要旨認定について、詳細な説明を参酌すべきと主張しましたが、認められませんでした。
 原告は,本件発明の「画像演出パターン」は,人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表示装置に表\示するものであるのに対し,引用発明の「図柄表示パターン」は,単に数字,文字又は文章を用いてゲームのガイダンスや賞球数等の各種数値を表\示するものであり,両者は表示内容や表\示目的及び作用効果が明確に異なるから,引用発明の「図柄表示パターン」が本件発明の「画像演出パターン」に相当するとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。しかしながら,本件発明の特許請求の範囲には,本件発明にいう「画像演出パターン」が,ボーナス当選時やハズレ時等において,人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表\示装置に表示するものであるとの記載はない。また,本件明細書においても,「画像演出パターン」が,上記のような表\示をするものであるとの定義はされていない。さらに,「人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表示装置に表\示する」という作用効果は,特許請求の範囲に記載されたいずれの構成からも導き出せるものでもない。原告の主張は,単に実施例(【0046】【0048】)の作用効果を主張しているにすぎず,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。そして,「画像演出パターン」との用語が,文字や文章を用いた画像表\示を排除したものであるとは認められないから,引用発明の「図柄表示パターン」が,本件発明の「画像演出パターン」に相当するとした本件審決に誤りはなく,原告の主張は採用することができない。
イ 原告は,特許法70条2項の趣旨に基づいて,本件発明の「画像演出パターン」の内容及び意義を本件明細書の記載に基づいて解釈すると,「ボーナス当選時やハズレ時等において,人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表示装置に表\示するもの」と解釈されるべきである旨主張する。しかしながら,特許法70条2項は,特許発明の技術的範囲を定めるに当たり,特許請求の範囲に記載された用語については,明細書や図面の記載を考慮して解釈するという規定であって,特許発明の特許要件たる進歩性の有無を審理し判断する前提として,当該特許発明に係る特許請求の範囲に記載された発明の要旨を認定する場面に適用されるべき規定ではない。原告が挙げた前掲知財高裁判決も,同様に特許発明の技術的範囲の解釈について判示したものであり,特許発明の要旨認定について判示したものではない。なお,特許発明の要旨の認定については,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるところ,本件発明の特許請求の範囲に記載された「画像演出パターン」との用語が,それ自体では意味が全く不明で,本件明細書の対応する記載に置き換えなければ当該発明が特定できないというものではないし,その他,本件発明の特許請求の範囲の記載に照らしても,上記特段の事情があるものとは認められない。したがって,原告の主張は失当であり,本件発明の「画像演出パターン」について,原告が主張するように,「ボーナス当選時やハズレ時等において,人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表示装置に表\示するもの」と解釈すべき理由はない。

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平成23(行ケ)10425 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年11月29日 知的財産高等裁判所

 APPLEが、めずらしく審取まで争っています。裁判所は進歩性なしとした審決を取り消しました。
 上記のとおり,本件審決が周知技術の認定に当たって例示した甲2〜甲4は,「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」ものではない。また,甲5は,円環状に配置された部分以外に表\示されないアイコンがあり,「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」ことが記載されているとはいえない。したがって,本件審決が証拠として引用した甲2〜甲5からは,「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表\示する」ことが周知技術であると認定することはできず,本件審判において,ほかに上記事項を周知技術と認めることができる証拠はない。被告は,甲3〜甲5の記載を引用し,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示させることにより,図形が回転移動されてスクリーンに順次表\示され1回転すると元に戻るようにして,ユーザが図形を選択できるようにすることは,周知技術であると主張するが,甲3の【0044】の記載は「装置が回転すると,メニューが画面内を移動する」のであって,メニューが回転するものではないし,【0048】の記載は「ドラム状のメニュー」の回転であって,「平面内で回転する」ものではなく,甲4及び甲5も「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」ものでないことは上記のとおりである。
 (6) 以上検討したところによれば,「複数の図形の一部を表示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表\示すること」が周知技術であるとした本件審決の認定は誤りであり,取消事由2は理由がある。上記のとおり,引用発明の「円筒」は仮想的なものであって,本願補正発明の「仮想的な環」に相当すると認められるが,本願補正発明においては,「前記仮想的な環を,前記スクリーンを含む平面内で回転させるように構成され」ているから,スクリーンに表\示されるアイコンがスクリーンを含む平面内で回転移動する様子から,環の大きさの直感的な把握が可能となる(効果2)。これに対し,引用発明においては,スクリーンに表\示されるメニューアイテムは,平面内で回転移動するものではなく,円筒形に配置されて,円周方向に回転移動するものであるから,円筒の大きさの直感的な把握が可能(効果2)となるものではない。そして,仮に,「複数の図形の一部を表\示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」との先行技術が存在するとしても(ただし,本件においては認定できない。),引用発明は,「2次元的なユーザインタフェースには,表\現力に限界がある」という認識に基づき,「複数のメニューを3次元的に表示」するものであるから,引用発明に上記先行技術を適用する動機づけはなく,引用刊行物の「2次元的なユーザインタフェースには,表\現力に限界がある」との記載は,引用発明に「2次元的なユーザインタフェース」に係る上記先行技術を適用するに当たって,阻害要因になるものと認められる。したがって,「上記周知技術に基づいて,引用発明の仮想的な環をスクリーンを含む平面内で回転させるように構成し,前記仮想的な環の一部は前記スクリーン内に含まれるようにして本願補正発明のように構\成することは当業者が容易になし得ることである」(7頁14行〜17行)とした本件審決の判断は,仮に,本件審決の認定した周知技術と同様の先行技術が存在するとしても,誤りである。

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平成24(行ケ)10073 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年11月14日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
 上記(2)エの記載からすると,液晶表示装置において,「基板表\面の凹凸」により液晶ディレクターの傾斜方角がばらつき,これにより,ディスクリネーションが発生することは周知の課題であると認められるところ,上記「基板表面の凹凸」として,薄膜トランジスタに起因する凹凸が含まれることは,当業者にとって自明である。これを引用発明についてみると,前記(1)イ(イ)のとおり,引用発明の層間絶縁膜は,「薄膜トランジスタに起因する凹凸を緩和するように,その表面が平坦化される平坦化絶縁膜」に相当するものではないから,薄膜トランジスタに起因する凹凸が生じていることは明らかであり(なお,被告も,引用発明の層間絶縁膜が本件発明1にいう「平坦化」したものでないことを争っていない。),引用発明においても,薄膜トランジスタに起因する凹凸により負の誘電率異方性を有する液晶の配向がばらつき,それによってディスクリネーションが発生するという課題を有しているものと認められる。そして,上記(2)オ及びカの記載からすると,一般の液晶表示装置技術において,薄膜トランジスタの段差に起因する凹凸を平坦化するために薄膜トランジスタを平坦化絶縁膜で覆うことは,液晶の配向性をより高めるものとなることが認められるから,画素電極が層間絶縁膜上に形成された平坦化絶縁膜上に形成されている上記周知の構\成においても,液晶の配光性が高まっているものと認められる。そうすると,引用発明において,薄膜トランジスタに起因する凹凸により負の誘電率異方性を有する液晶の配向がばらつき,それによってディスクリネーションが発生することを防止するために,液晶の配向性をより高めるための上記周知の構成を採用することには動機付けがあるといえる。
 (イ) また,薄膜トランジスタの半導体層とソース電極及びドレイン電極の接続構\造として,引用発明のように直接接続するか,上記周知の構成のように層間絶縁膜に開けられた開口を介して接続するかは,当業者が適宜選択し得る設計事項である。しかも,引用発明は,層間絶縁膜の厚さを少なくとも1μm以上にすることにより,表\示電極が薄膜トランジスタとその電極ラインから十分に離され,液晶の配向がこれらの電界の影響を受けて乱れることがなくなり,表\示電極エッジ及び配向制御窓により,配向制御が効果的に行われるという効果が得られるものであるから,引用発明における薄膜トランジスタの半導体層とソース電極及びドレイン電極の接続構\造として,上記周知の構成を採用すれば,電極ラインのうちゲートラインと表\示電極とが,層間絶縁膜の膜厚分だけさらに離されることとなる。したがって,引用発明については,上記のような引用発明の効果をより得るために,引用発明における薄膜トランジスタの半導体層とソース電極及びドレイン電極の接続構\造としても,上記周知の構成を採用することの動機付けもあるということができる。\n

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平成24(行ケ)10167 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月31日 知的財産高等裁判所

 パチスロ機について、独立特許要件違反として訂正を認めなかった無効審決の取消訴訟です。知財高裁は、審判の判断を維持しました。
 原告は,丙1は,ビッグボーナスなるはボーナス当選した場合に遊技効果ランプを点灯開始させるものであるが,遊技効果ランプ点灯の有無を効果音の発生の有無に代えたとしても,効果音は1種類であって,音の種類により内部的当選の種類を知らせることは示唆されていないから,甲28発明に丙1の記載事項を適用する動機付けはなく,適用したとしても相違点4に係る構成にはならないと主張する。しかし,報知すべき役の種類が多ければ,それに応じて複数の効果音を用意すればよいことは,当業者にとって自明である。よって,丙1における遊技効果ランプ点灯の有無を効果音に代えた場合に,効果音が1種類となるとしても,そのこと自体は,甲28発明に丙1の記載事項を適用することを阻害するものとは認められない。原告は,丙1には,遊技効果ランプを点灯開始させることでビッグボーナスあるいはボーナス当選を報知し,リーチ音の発生によりビッグボーナスゲーム当選を報知することに何らかの技術的意義がある旨の記載はなく,甲28発明に適用する動機付けがないと主張する。しかし,遊技効果ランプを点灯開始させることでビッグボーナスあるいはボーナス当選を報知し,リーチ音の発生によりビッグボーナスゲーム当選を報知するということの技術的意義が,遊技効果ランプとリーチ音との組み合わせによる1つの入賞態様の特定にあることは,丙1にその旨の明記がなくとも,丙1に接した当業者であれば当然に理解できる。よって,丙1にその旨が明記されているか否かは,甲28発明に丙1の記載事項を適用することの動機付けの有無を左右するものではない。原告は,訂正発明9では,各列の可変表\示が順に停止して徐々に連動表示態様が判明していき,最後の列の可変表\示が停止して連動表示態様が確定することにより,入賞態様を報知するものであるが,甲28発明は,最初のリールが停止した時に入賞態様を報知するものであり,丙1は,2番目のリールが停止してリーチ状態になったときに報知するものであるから,甲28発明に丙1の記載事項を適用しても,相違点4に係る構\成とはならないと主張する。確かに原告が主張するように,甲28発明に丙1の記載事項を適用しても,訂正発明9のような「各列の可変表示が順に停止して徐々に連動表\示態様が判明していき,最後の列の可変表示が停止して連動表\示態様が確定する」という態様には至らない。しかし,可変表示開始時における報知の種類と,その後の,可変表\示停止時における報知の種類との組合せによって,1つの入賞態様であることが報知されることが容易想到である以上,可変表示停止時における報知をどのような態様で行なうかということに格別の困難性は認められない。可変報知時における報知として,各列の可変表\示の停止と連動した連動表示を採用することによって,連動表\示態様が徐々に判明するという作用効果があるとしても,それ自体は,予測可能\なものにすぎず特別顕著なものではない。

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平成24(行ケ)10056 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

 拒絶審決が、手続き違反があったとして取り消されました。
 以上の記載によれば,引用例2に記載された発明は,インバータ装置によって巻き上げ制御装置等の電動機を駆動する自走式のジブクレーン装置において,従来,ディーゼルエンジンにより交流発電機を駆動し,コンバータ装置で交流電源から直流電源に変換するものが知られていたところ,コンバータ装置で交流から直流へ変換する際に高調波電流が発生するといった問題点を解決すべき課題とし,交流発電機の代わりにコンバータ装置が不要な直流発電機を用い,直流発電機の直流出力をインバータ装置に直接入力することによって,上記問題点を解決するものであり,本件審決が引用発明2として認定したとおりのものである。ウ 本願発明は,「電源」(交流電源)と「電源に接続されるコンバータ」とを発明特定事項とするのに対し,引用発明2では,直流発電機からの直流出力がインバータにそのまま供給され,コンバータは存在しない。よって,引用例2を主引用例とした場合,「電源」及び「電源に接続されるコンバータ」は,本願発明との相違点となる。エ また,引用発明2は,交流発電機(交流電源)を用いた場合の問題点の解決を課題として発明されたものであることから,その直流発電機(直流電源)を交流発電機(交流電源)に再び戻すことには,一定の阻害要因があるものと認められる。そうすると,引用発明2を主引用例として,引用発明2の直流発電機(直流電源)を本願発明に係る「電源」及び「電源に接続されるコンバータ」に変更することが容易想到であるか否かの判断にあたっては,引用発明2の上記解決課題が判断材料の一つとして考慮されるべきである。
(4) 主引用例の差替えについて
ア 一般に,本願発明と対比する対象である主引用例が異なれば,一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになる。したがって,拒絶査定と異なる主引用例を引用して判断しようとするときは,主引用例を変更したとしても出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情がない限り,原則として,法159条2項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるものとして法50条が準用されるものと解される。
イ 前記(2)ウ,(3)ウのとおり,本件においては,引用例1又は2のいずれを主引用例とするかによって,本願発明との一致点又は相違点の認定に差異が生じる。拒絶査定の備考には,「第1及び第2のインバータを,電源に接続されるコンバータに接続することは,周知の事項であって(必要があれば,特開平7−213094号公報を参照。)…」と記載されていることから(甲17),審判合議体も,主引用例を引用例2から引用例1に差し替えた場合に,上記認定の差異が生じることは当然認識していたはずである。ウ そして,前記(3)エのとおり,引用発明2を主引用例とする場合には,交流発電機(交流電源)を用いた場合の問題点の解決を課題として考慮すべきであるのに対し,引用発明1を主引用例として本願発明の容易想到性を判断する場合には,引用例2のような交流/直流電源の相違が生じない以上,上記解決課題を考慮する余地はない。そうすると,引用発明1又は2のいずれを主引用例とするかによって,引用発明2の上記解決課題を考慮する必要性が生じるか否かという点において,容易想到性の判断過程にも実質的な差異が生じることになる。
エ 本件において,新たに主引用例として用いた引用例1は,既に拒絶査定において周知技術として例示されてはいたが,原告は,いずれの機会においても引用例2との対比判断に対する意見を中心にして検討していることは明らかであり(甲1,16,20),引用例1についての意見は付随的なものにすぎないものと認められる。そして,主引用例に記載された発明と周知技術の組合せを検討する場合に,周知例として挙げられた文献記載の発明と本願発明との相違点を検討することはあり得るものの,引用例1を主引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない。また,本件において,引用例1を主引用例とすることは,審査手続において既に通知した拒絶理由の内容から容易に予測されるものとはいえない。なお,原告にとっては,引用発明2よりも不利な引用発明1を本件審決において新たに主引用例とされたことになり,それに対する意見書提出の機会が存在しない以上,出願人の防御権が担保されているとはいい難い。よって,拒絶査定において周知の技術事項の例示として引用例1が示されていたとしても,「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるといわざるを得ず,出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情が存在するとはいえない。
オ 被告は,審判請求書において原告が引用例1を詳細に検討済みであると主張 する。しかし,一般に,引用発明と周知の事項との組合せを検討する場合,周知の事項として例示された文献の記載事項との相違点を検討することはあり得るのであり,したがって,審判請求書において,引用例1の記載事項との相違点を指摘していることをもって,これを主引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない。
(5) 小括
以上のとおり,本件審決が,出願人に意見書提出の機会を与えることなく主引用例を差し替えて本願発明が容易に発明できると判断したことは,「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるにもかかわらず,「特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならない」とする法159条2項により準用される法50条に違反するといわざるを得ない。そして,本願発明の容易想到性の判断に係る上記手続違背は,審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

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平成23(行ケ)10432 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月25日 知的財産高等裁判所

 引用文献は本願の作用を想定した装置ではないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。
 上記ア(ア) 認定の事実によれば,本件特許発明1は,特に,シザー組立体を相互に連結しかつシザー組立体の端部を捕獲するソケットを有する非圧縮性のマウントの形態の構\造用装置に関するものであり,また,支持面の上方にキャノピーカバーを支持することができ,展開状態において4個の直立した支持部材のみによって支持され,支持部材の下端部各々がプレート状部材により支持面と係合する構成を有していること,隣接した支持部材の間に延びる端縁シザー組立体が横方向の力をしばしば受けるが,シザー組立体が相互にかつ隅の支持部材と連結されている場合,締め付けられれば,シザーの作用を阻止し,横方向にたわむときに剪断力をうけるため,連結ボルトが過大な横方向のたわみにより曲り,又は破断し得ること,そのため,本発明の目的は,「トラス組立体のシザー要素のための連結装置であって,シザー構\成要素を自由に枢動させると共に,シザー要素の横方向の変形およびねじりによる変形を阻止するように非圧縮性の連結装置を提供すること」や,「構造体を構\成する要素を相互に連結するための新規の有用なマウントを設け,そしてさらに複雑な構造体に統合することができる最小限の異なる部品を有する連結装置を使用することにより,折畳み可能\なキャノピー構造体を簡単にすること」,「構\造上の結合性または強度を有意に損なうことなく重量がより軽い隅の支持部材およびシザーバーを使用することができるキャノピーのための折畳み可能でありかつ展開可能\な骨組構造体を提供すること」であること,端縁シザー組立体を直立支持部材に留めるために,支持部材に配置された複数個の新規のマウントは,隔置された向き合う側壁部分によりソ\ケットが形成され,それにより端縁シザー組立体の外側端部を向き合う側壁部分の間に締り嵌め係合するようにソケットのそれぞれ内に捕獲することができ,マウントの平行な側壁部は,平面状の接触面に沿って外側端部に作用し,シザー組立体自体の横方向のたわみ及びねじりによるたわみを阻止する作用をすることが認められる。すなわち,本件特許発明1は,支持部材の下端部が支持面である地面に係合され,上端付近(支持面の上方)にキャノピーカバー等が配置される骨組構\造体であることから,風力等によりシザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を生じ得るという課題を有するものであり,マウント(連結装置)の「平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結されて」いる構成は,シザー要素の上記の変形を阻止する作用を有するものであり,連結部分の構\造を改良・強化することにより,課題を解決する手段であるといえる。一方,上記ア(イ) 認定の事実によれば,甲1には,引用発明の「優点」として,「任意に移位可能で定位できる」,「風に吹き倒されるおそれがない」ことが記載され,伸縮支柱(2)下端が一つの底台片(21)に溶接固定されること,第12図には底台片(21)に孔があることが記載されている。そうすると,引用発明は,止め孔を通じて支持面に定位され,風圧等による横方向の力の影響を受けやすい構\造体の上部に屋根等が配置される(第1図ないし第6図)ことから,風圧等によるシザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形をも考慮して,構造体の補強を指向するものと一応認められる。しかし,引用発明の上固定支えバー軸体,下活動支えバー軸体(本件特許発明1のマウントに相当すると認められる。)は,端縁シザー組立体の外側端部がソ\ケットを有し,上記バー軸体が当該ソケット内に受け入れられるものとなっており,かつ,ソ\ケットの平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結されていない構成であるところ,甲1には,かかる構\成が,シザー要素の上記の変形を阻止する作用を有すること及びそのために連結部分の構造を改良・強化するものであること(本件特許発明1の課題と解決)については,記載も示唆もされていないというべきである。
また,上記ア(ウ) 認定の事実によれば,甲5,甲7及び甲9には,ソケットの平行な側壁部分が上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結されている構\成が示されておらず(この点は,被告も特に争っていない。),また,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を生じさせるような力に対する考慮も示唆されていない。また,甲4及び甲8には上記構成と同様の構\成が示されているが,以下のとおり,本件特許発明1や引用発明において想定される,シザー要素の上記の変形を生じさせるような力の作用を考慮した連結装置を開示するものとはいえない。すなわち,甲4記載の折畳み式ベンチは,交錯状に集交した脚管の端部の連結器具として軸受け盤の軸受けは平行な向き合った側壁部分を有し,その下端部が相互に連結されているが(第4図),携行収蔵に至便,組立て作製も容易なように,脚の下端が接地面(支持面)に固定される構成は有さず,脚の上下端に脚管が連結されて骨格を構\成してベンチに作用する力を支持し,傾倒破損を防止する効果を有するものといえる。
また,甲8記載の折り畳み式腰掛けは,その脚部が,筒体の下部で筒体の内部に上下に摺動可能に嵌挿された脚部保持体を有し,脚部保持体は,平行な向き合った側壁部分の下端部が相互に連結されているが(第7図),より一層軽量且つ小型に構\成され,簡便に携帯可能なようにしたものである。そうすると,上記ベンチ及び上記腰掛けは,上記の構\成,目的及び用途からして,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を生じさせるような態様の力が作用することは想定しがたいものであって,甲4及び甲8に,そのような作用を想定した連結装置が開示ないし示唆されているとは認められない。以上によれば,甲1には,本件特許発明1のマウントに相当する上固定支えバー軸体,下活動支えバー軸体の構成により,シザー要素の横方向の変形およびねじりによる変形を阻止する作用を有することは格別記載も示唆もされていないから,甲1に接した当業者が,かかる変形を阻止するために,さらに,上記軸体の構\成を,相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることに容易に想到するとは言い難い。また,仮に,甲1の記載から,引用発明における上記軸体の構\成を変更することの示唆を得たとしても,上記のとおり,甲4,甲5,甲7ないし甲9は,ソケットの平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結された構\成は示されていないか,シザー要素の上記の変形を阻止する作用を考慮したものではないから,これらに記載された技術を引用発明に適用することが容易とはいえない。したがって,甲4,甲5,甲7ないし甲9には,骨組み構造のたわみやねじりに対する強度を向上するための枢軸構\造として「ソケットの平行な側壁部分の一端を水平な壁部で相互に連結」された構\造は開示されていないとして,引用発明において,連結装置を,側壁部分が水平な壁部で相互に連結される構成に置換して,相違点1に係る本件特許発明1の構\成とすることは困難である旨の原告らの主張には理由がある。 これに対し,被告は,i)折り畳み可能な骨組構\造体の技術分野における通常の知識を有する当業者にとって,折り畳み可能な椅子の骨組構\造体に関する技術知識を有していたと合理的に判断でき,その技術知識に基づけば,甲4及び甲8記載の水平な壁部での連結構造を引用発明に適用するのは極めて容易である,ii)「側壁部分が水平な壁部で相互に連結される構成」は,たわみを阻止するという作用効果を発揮させる上で特段の意味を持つとはいえず,引用発明において,強度の向上を図るため当業者により適宜採用される設計事項にすぎない旨主張する。しかし,上記i)の主張につき,甲4及び甲8には,ソケットの平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結された構\成が記載されているとしても,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を阻止する作用を考慮したものではないから,当業者が,甲4及び甲8記載の技術知識を有していたとしても,それを引用発明に適用することを容易に想到し得たとは認められない。また,上記ii)の主張につき,本件特許発明1において,連結装置に関する「側壁部分が水平な壁部で相互に連結される構成」は,平行な側壁部分を連結してこれを補強するものであることは当業者にとって明らかであるから,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を阻止するという課題の解決手段であり,発明の特徴点といえる。甲1,甲4,甲5,甲7ないし甲9において,構\造体の強度の向上を図るとの課題は示唆されるとしても,かかる一般的な課題から,シザー要素の上記の変形を阻止するとの課題が当然に発想され得ることを裏付ける証拠はないから,連結装置に関して上記構成を採用することを,当業者が適宜採用する設計事項と認めることはできない。よって,被告の主張は失当である。したがって,本件特許発明1と引用発明との相違点1に関する審決の容易想到性の判断には誤りがある。\n

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平成24(行ケ)10023 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月10日 知的財産高等裁判所

 相違点1の容易想到性について、進歩性なしとした審決が維持されました。原告代理人は、元知財高裁所長の塚原弁護士です。
ア カッター及び切断片の形状について
(ア) 前記2のとおり,引用発明は,マンホールの蓋体周囲の舗装面を整備したり,蓋体を新たなものと交換するような場合に用いられるマンホール補修部の構造に関するものであり,低廉な施工コストで短時間のうちに確実な補修が行える汎用性に富むマンホール補修部の構\造を提供するという目的に沿ったものであって,そのために,i)円形カッターを用いて,マンホール蓋体の中心を中心として,受枠の周囲を円形に切断して舗装を切断する工程と,ii)切断された舗装を蓋体の受枠ごとクレーンなどを用いて吊り上げ撤去する工程と,iii)マンホール上壁に接触させるように新たな受枠を再設置する工程と,iv)新たな受枠と舗装を受枠ごと撤去して形成される円形開口部との間に,路盤材として早強無収縮性モルタルを装填し,さらに,水溶性の常温硬化型アスファルト混合材料よりなる表層材を受枠の上面側と面一状となるように装填する材料充填工程とを備えるマンホール蓋枠取替え工法である。このように,引用発明は,マンホール蓋枠取替え工法であり,上記i)ii)の工程で,マンホール周囲の舗装を切断し,切断された舗装を受枠とともに一体に取り出せるものであって,切断片の取り出し除去作業を行うものである。ところで,一般に,この種の工事作業において,作業性の向上を図り,作業を容易にしようとすることは,安全性の確保や工費節減,工期短縮などと同様に,またそれらを達成するために,設計者や工事作業者,工事監督者を含む当業者において,当然に考えることであるから,引用発明のマンホール蓋枠取替え工法において,それぞれの工程の作業を容易にしようとする課題が存在しているということができる。また,引用発明の目的は,低廉な施工コストで短時間のうちに確実な補修を行うことであるところ(前記2(1)エ),作業を容易にしようとすることは,そのような目的に沿うものということができる。また,引用例1においても,直線切りカッターに代えて円切りカッターを採用することが記載されているように(前記2(1)ウ),関連する技術分野に置換可能な公知又は周知の技術手段があるときは,当業者であれば,その技術手段の転用を試みるものである。よって,路面の切断作業をする際に,カッターを公知又は周知の異なる種類のものに変更しようとすることも,当業者であれば容易に着想することができるものということができる。(イ) 前記(2)のとおり,引用例2に記載された路面用カッターは,マンホールの蓋の周囲に切り込みを入れることにも使用されるものであるところ,切り取った切断片が疑似扁平お椀形となり,取り出し除去作業が容易となる。また,引用例2には,切断部が垂直の場合は,切断面の接合性が悪く,補修部分が沈下又は陥没しやすいという問題点があること(前記(2)ア(イ)),断面円弧状のカッターを使用することにより,切断部が断面円弧状,切断面が球面状を呈するために,垂直切断面とは異なり,切断面の接合性が極めて良く新規に施工した部分が沈下したり陥没したり等の不都合な現象を防止することができること(前記(2)ア(オ))が記載されている。
(ウ) 上記(ア)(イ)によれば,引用発明において,切断片の取り出し除去作業を行うに際し,作業を容易にするという課題が示唆されているということができる。そして,上記課題を解決するため,引用例2に記載された回転円弧状又は球面状のカッターを採用し,当該カッターの切断刃を360°旋回させて切り込みを入れることにより,切り取った切断片が疑似扁平お椀形となり,取り出し除去作業が容易になるほか,切断部が垂直であることなどによって生じる新規施工部分の沈下や陥没の問題を解消することができる。すなわち,引用例2に記載されている新規施工部分が沈下や陥没を生じないという効果は,引用発明において,切断部が垂直であることなどによって生じる新規施工部分の沈下や陥没の問題を解消する等の課題を解決するものである。以上のことを踏まえると,引用発明において,切断片の取り出し除去作業を容易にし,切断部が垂直であることによる問題を解決する等の目的で,カッターとして引用例2に記載された回転円弧状又は球面状のカッターを採用する動機付けがあるということができる。

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平成24(行ケ)10129 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

   知財高裁は、無効理由無しとした審決を取り消しました。関連する侵害訴訟で104条の3で権利公使不能と判断されています。
 前記(イ)ないし(オ)を総合すれば,交通事故の発生前後の所定時間にわたって車両の挙動に係る情報を収集,記録すること,車両に設けられた加速度センサーが検出する加速度が所定の閾値を超えるか否かやエアバッグ作動信号の有無に代えて,車両の加速度等が所定の閾値を超えたか否かによって交通事故が発生したか否かを判定する程度の事柄は,本件優先日当時における車両の挙動に係る情報を収集,記録する装置の技術分野の当業者の周知技術にすぎないということができる。そして,訂正発明1,2にいう「特定挙動」は前記のとおり「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」であって交通事故の発生を前提とするものではない(交通事故が発生しない場合も含む)が,訂正明細書の段落【0030】,【0034】,【0050】,図2,3等の記載によれば,訂正発明1,2にあっても,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えたか否かによって「特定挙動」の有無が判定されるから,装置の機能の面に着目すれば,訂正発明1,2において「特定挙動」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構\成は,上記周知技術において「交通事故」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構成と実質的に異なるものではないということができる。加えて,上記周知技術と甲3発明とは,属する技術分野が共通し,前者を後者に適用するに当たって特段障害はないから,本件優先日当時,かかる適用を行うことにより,当業者が訂正発明1,2にいう「特定挙動」の発生前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集,記録する構\成に想到することは容易であるということができる。さらに,甲第4号証にも,車両内部のセンサから得られた横加速度等の情報から,運転に係る要因による異常又は異常に近い状況の発生の有無を認定し,かかる状況の発生前後の所定時間分の車両の挙動に関する情報を収集,記録する技術的事項が開示されているところ(前記(ア)),上記と同様に装置の機能面の共通性に着目すれば,上記の結論に至ることが可能\である。
エ 以上によれば,甲3発明に,「特定挙動」の発生前後の車両の挙動に係る情報を収集する条件を記録媒体に記録,設定する甲1発明と,「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明1の相違点に係る構成(「特定挙動」発生前後の車両の挙動に係る情報を所定時間分収集するための収集条件に適合する挙動の情報を記録媒体に記録,設定する構\成)に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。オ そして,審決がした甲3発明と訂正発明1の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明1は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明1に関して理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。
・・・
イ そうすると,甲第2号証には,自動車用イベント(事象)記録装置(ERA)において,コンピュータ装置及び着脱可能なRAMカード(20)を用いて,前方間隔,警告閾値や,自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータを設定する発明すなわちRAMカードに記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータをERAに適用する発明(甲2発明)が記載されているということができる。ここで,甲2発明は,車両の挙動に関する情報を収集,記録する装置に関するもので,甲3発明と技術分野が共通する。そして,コンピュータ装置に処理を実行させて,着脱可能\なRAMカード等の記録媒体に記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータを上記収集・記録装置に適用する程度の事柄であれば,甲2発明の技術的課題である事故分析に有用な情報を記録するブラックボックス的機能を有する,車両の挙動に係る情報の記録装置(甲第2号証の段落【0001】〜【0007】)とは不可分のものではなく,甲第1ないし3号証に接した当業者であれば,「スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予\\め設定された基準値を基に自動判定し,また走行距離を用途別(私用,公用,通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供する」こと等を技術的課題とする甲3発明に,甲2発明を適用する動機付けがあると解して差し支えない。 ウ したがって,甲3発明に甲1発明,甲2発明と甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術(前記(1)ウ(カ))を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明2の相違点に係る構成に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。そして,審決がした甲3発明と訂正発明2の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明2は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明2に関しても理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。なお,無効理由4には甲第2号証が引用例として明示的に挙げられていないが,審決は,原告が審判請求で証拠として挙げたのに応じて,甲第2号証も引用例として取り上げており(20,21頁),本件訴訟で,当事者双方ともにこの審決判断を前提にして,審決の判断の誤りの有無を主張しているので,上記のように甲第2号証も引用例(副引用例)に加えて訂正発明2の上記相違点に係る判断に至ることができるというべきである。\n

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平成24(行ケ)10129 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

   知財高裁は、無効理由無しとした審決を取り消しました。関連する侵害訴訟で104条の3で権利公使不能と判断されています。\n
 前記(イ)ないし(オ)を総合すれば,交通事故の発生前後の所定時間にわたって車両の挙動に係る情報を収集,記録すること,車両に設けられた加速度センサーが検出する加速度が所定の閾値を超えるか否かやエアバッグ作動信号の有無に代えて,車両の加速度等が所定の閾値を超えたか否かによって交通事故が発生したか否かを判定する程度の事柄は,本件優先日当時における車両の挙動に係る情報を収集,記録する装置の技術分野の当業者の周知技術にすぎないということができる。そして,訂正発明1,2にいう「特定挙動」は前記のとおり「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」であって交通事故の発生を前提とするものではない(交通事故が発生しない場合も含む)が,訂正明細書の段落【0030】,【0034】,【0050】,図2,3等の記載によれば,訂正発明1,2にあっても,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えたか否かによって「特定挙動」の有無が判定されるから,装置の機能の面に着目すれば,訂正発明1,2において「特定挙動」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構\成は,上記周知技術において「交通事故」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構成と実質的に異なるものではないということができる。加えて,上記周知技術と甲3発明とは,属する技術分野が共通し,前者を後者に適用するに当たって特段障害はないから,本件優先日当時,かかる適用を行うことにより,当業者が訂正発明1,2にいう「特定挙動」の発生前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集,記録する構\成に想到することは容易であるということができる。さらに,甲第4号証にも,車両内部のセンサから得られた横加速度等の情報から,運転に係る要因による異常又は異常に近い状況の発生の有無を認定し,かかる状況の発生前後の所定時間分の車両の挙動に関する情報を収集,記録する技術的事項が開示されているところ(前記(ア)),上記と同様に装置の機能面の共通性に着目すれば,上記の結論に至ることが可能\である。
エ 以上によれば,甲3発明に,「特定挙動」の発生前後の車両の挙動に係る情報を収集する条件を記録媒体に記録,設定する甲1発明と,「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明1の相違点に係る構成(「特定挙動」発生前後の車両の挙動に係る情報を所定時間分収集するための収集条件に適合する挙動の情報を記録媒体に記録,設定する構\成)に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。オ そして,審決がした甲3発明と訂正発明1の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明1は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明1に関して理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。
・・・
イ そうすると,甲第2号証には,自動車用イベント(事象)記録装置(ERA)において,コンピュータ装置及び着脱可能なRAMカード(20)を用いて,前方間隔,警告閾値や,自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータを設定する発明すなわちRAMカードに記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータをERAに適用する発明(甲2発明)が記載されているということができる。ここで,甲2発明は,車両の挙動に関する情報を収集,記録する装置に関するもので,甲3発明と技術分野が共通する。そして,コンピュータ装置に処理を実行させて,着脱可能\なRAMカード等の記録媒体に記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータを上記収集・記録装置に適用する程度の事柄であれば,甲2発明の技術的課題である事故分析に有用な情報を記録するブラックボックス的機能を有する,車両の挙動に係る情報の記録装置(甲第2号証の段落【0001】〜【0007】)とは不可分のものではなく,甲第1ないし3号証に接した当業者であれば,「スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予\め設定された基準値を基に自動判定し,また走行距離を用途別(私用,公用,通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供する」こと等を技術的課題とする甲3発明に,甲2発明を適用する動機付けがあると解して差し支えない。 ウ したがって,甲3発明に甲1発明,甲2発明と甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術(前記(1)ウ(カ))を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明2の相違点に係る構成に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。そして,審決がした甲3発明と訂正発明2の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明2は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明2に関しても理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。なお,無効理由4には甲第2号証が引用例として明示的に挙げられていないが,審決は,原告が審判請求で証拠として挙げたのに応じて,甲第2号証も引用例として取り上げており(20,21頁),本件訴訟で,当事者双方ともにこの審決判断を前提にして,審決の判断の誤りの有無を主張しているので,上記のように甲第2号証も引用例(副引用例)に加えて訂正発明2の上記相違点に係る判断に至ることができるというべきである。\n

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平成24(行ケ)10083 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月10日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が維持されました。
 引用例2(特開2000−224328号,甲11)によれば,引用発明2は,携帯電話機と一体をなす読取装置により,食品メニュー等に表示されたバーコードを読み取り(段落【0006】,【0007】,【0010】),バーコードに含まれるサーバーやデータベースのアドレスを送信すると(段落【0013】,【0015】),サーバーから携帯電話機に対して食品に含まれるエネルギー量などのデータが返信され,液晶パネルに表\示される(段落【0022】)装置であると認められる。また,引用発明2のサーバーは,商品たる食品の情報を管理し,これを携帯電話機に返信するためのものであるから,補正発明の「商品管理者」に相当するものと認められる。そして,引用発明1及び2は,いずれもバーコード読取装置と双方向の通信機能を備えた携帯端末を使用し,この携帯端末により物品等に表\示されたバーコードに含まれる情報を読み取り,双方向通信機能を利用して,他の装置との間でデータの送受信を行うシステムである点で共通しており,そのような基本的なシステムを前提として,読取り・送受信の対象たるデータの内容等の個々の構\成要素について,これらの発明の組合せにより変更することは,当業者が必要に応じて定める設計上の変更にすぎないというべきである。したがって,引用発明1に引用発明2を組み合わせ,商品管理者のアドレス等の情報を読み取って,情報の送信先とし,商品管理者から送信(返信)される情報を液晶画面に表示するという構\成とし,相違点eに係る補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得るといえる。さらに,双方向通信回線としてインターネット回線を使用することについても,文献を挙げるまでもない技術常識であるから,これを上記の構\成に適用して,PHS通信方式によるデータの送受信をインターネット回線を介した送受信に変更し,これに伴い,情報の送信先である商品管理者のアドレスをインターネット情報とすること,すなわち,相違点b,cに係る補正発明の構成とすることも,当業者が容易になし得たことである。
・・・・
原告は,審決が相違点dの判断に際して挙げた甲22公報(特開2000−222520号)について,インターネットを介して取得した画像を表示する点の開示がないと主張し,また,補正発明の構\成要素を一体として判断すべきである旨主張する。しかしながら,相違点dの構成が容易想到であることは,上記(3)イのとおりである。また,各相違点に係る補正発明の構成は,周知文献を挙げるまでもない程度の周知技術,技術常識であるか,設計上の変更にすぎないものであるから,審決が,相違点dと,相違点b,c,eの容易想到性をそれぞれに判断したことに誤りはない。\n

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平成23(行ケ)10338 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月11日 知的財産高等裁判所

 原告は、原告周知技術が本件特許出願当時,技術分野を問わない周知技術として存在していたと認められるべきであると主張しましたが、これは認められず、進歩性違反無しとした審決が維持されました。
 原告は,周知技術I〜IIIを前提とすれば,技術分野を問わず「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めている「尖って危険な先端部」を,手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより,その一時的に止めている「尖って危険な先端部」をバネの力により筒や管に収納する技術」(原告主張周知技術)が周知技術であったと認定すべきであると主張する。しかしながら,原告主張周知技術を周知技術として認定することはできない。その理由は以下のとおりである。
(2)ア 周知技術Iについて
・・・上記記載及び図面からすると,甲10のナイフは,刃先端部だけではなく,刃体全体を収納するものである。すなわち,甲10から認定できる周知技術Iは,ナイフの技術分野における技術であるところ,ナイフの場合,刃体の先端だけが危険なのではなく,刃体全体が危険であるので,かかる危険性を排除するために,刃先端部だけではなく刃体全体を筒や管に収納するとしたものであるとみるのが自然であり,ナイフにおいてこそ用いられる技術であって,刃体全体の危険性を度外視して,「尖って危険な先端部」のみに着目し,かかる先端部によって生じる危険を避けることができるという抽象的に独立した技術を把握することはできない。このことは甲5(「ナイフ,くし等のとび出し機構」の発明に係る特開昭50−27200号公報),甲6(「とび出しナイフ」の考案に係る実願昭55−15351号(実開昭56−116961号公報)のマイクロフィルム)を参照しても同様である。よって,周知技術Iから,「……「尖って危険な先端部」を,……筒や管に収納する技術」という特定の技術の存在を認めることはできず,そのような技術が存在しない以上,原告主張周知技術を認定することはできない。
イ 周知技術IIについて
・・(エ) 上記(ア)〜(ウ)の記載によれば,甲23〜25から,本件審決認定の周知技術II「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているペン先を,手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより,ペン先先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」を認定することができる。しかしながら,周知技術IIは,ボールペンや万年筆等の筆記具の技術分野における技術であるところ,ボールペンや万年筆等の筆記具の場合,ペン先先端部をバネの力により筒や管に収納する意義は,使用後にインクが漏れて衣服等を汚すことがないようにするためのものであり,そのことは,上記のとおり甲23〜25自体に記載されている。もっとも,ペン先先端部は尖っているから,人に向けて動かせば危険であるといえなくもないが,周知技術IIは,かかる危険性を排除するために用いられるものではないから,「尖って危険な先端部」に着目し,かかる先端部によって生じる危険を避けることができる一般的な独立した技術として抽象的に把握することはできない。このことは,甲29(昭和51年度グッドデザイン賞受賞の三菱鉛筆株式会社製ボールペン「ボクシーBX−100」の写真)を参照しても同様である。よって,周知技術IIから,「……「尖って危険な先端部」を,……筒や管に収納する技術」という特定の技術の存在を認めることはできず,そのような技術が存在しない以上,原告主張周知技術としても認定することもできない。
ウ 周知技術IIIについて
・・・以上の記載からすると,甲2に記載された注射器は,患者の身体から組織や体液のサンプルを抽出するバイオプシー用の皮下注射器であって,1人の操作者によってバイオプシーを可能にすることを目的としたものであり,医療関係者の操作により,圧縮されていたスプリング21等によってプランジャが自動的に戻され,可動コア(内針)が皮下注射針から引き抜かれて,発生した負圧により少量の組織又は流体が皮下注射針7から吸い込まれるものと理解される。そして,この注射器が,可動コアが針内に異物が侵入するのを防止するために設けられており,医療関係者の操作により可動コア(内針)が皮下注射針から引き抜かれて発生した負圧により少量の組織又は流体が皮下注射針7から吸い込まれる,というものであることに鑑みれば,図面1〜4に記載されたとおり,可動コアの先端6(図示右手側側)の長さは,皮下注射針7の先端(図示右手側)を超えないものと認められ,可動コアが皮下注射針より引き抜かれることは,皮下注射針7の先端部が露出されていることによる使用者の危険性の回避に対して何ら関与しないものである。したがって,甲2は,周知技術IIIの「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めている針を,手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより,針先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」との構成を備えているが,「尖って危険性のある先端部」の安全に関しては何ら示唆するものではないから,甲2から原告主張周知技術の存在を認定することはできない。
(イ) 甲22(米国特許第4105030号明細書)
・・・以上の記載によれば,甲22に記載された装置においては,キャリッジ10及びトラック4は,楕円形,「u」字形又は円形の断面のような,より流線型の形状を利用するのが望ましいとされており,その場合には,ロッド20またはリップ17及び溝15のような安定化手段を用いない座面を利用するために設計されていても良いとされている。したがって,「筒」や「管」との明示的な記載はないが,実質的に「筒」や「管」と同様に円形等の断面が支承面となるようなトラックの中で,針を保持するキャリッジが後退するものと推認できる。しかし,甲22に記載された装置の機序に従えば,針50を引き戻してトラック4内に収納することの意義は,薬物含有ペレットを通路内に格納する針50が動物に皮下挿入された後に,ペレットの周りから引き戻されることによりペレットを動物の皮下に残留させる点にあることが分かる。そうすると,針50を引き戻すことは,針50の先端部が露出されていることによる使用者への危険性の回避するものであるとはいえない。したがって,甲22は,周知技術IIIの「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めている針を,手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより,針先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」の構成を備えているが,「尖って危険性のある先端部」の安全に関しては何ら示唆するものではないから,甲22から原告主張周知技術の存在を認定することはできない。\n

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平成23(行ケ)10396 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月10日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として取り消されました。
 ところで,乙第2号証の図1,2,4には静翼の内側シュラウド(12)の半径方向内側にハニカムシール(16,17)を設け,これと対向する動翼の端部にシールフィン(22,32)を設けてシール構造を成す構\成が図示されているが,これは静翼と動翼やディスク(5)とが成す空間(18,19)から流路に向かって同空間内の冷却用空気が流れ出すのを防止するためのものであり(段落【0001】),他方,乙第6号証(特許第2640783号公報)の第1図にも同様に静翼の端部に摩減性表面(55)を設け,これと対向する動翼の端部に刃形シール(24,32)を設けてシール構\造を成す構成が図示されているが,これは上記と反対に作動流体(ガス)が流路(13)からシール空洞(64,66)に漏れ出すのを防止するためのものである(6頁12欄32〜37行)。これらのとおり,軸流タービンの動翼プラットフォーム付近(静翼内側バンド周辺)に設けられたシール構\造には,物理的にはほぼ同様の構成であるにもかかわらず,流出を阻害すべき流れの方向が正反対で,機能\が大きく異なるものが存在するから,シール構造(装置)の構\成のみから直ちにその機能を認識することは当業者にとっても必ずしも容易でないというべきである。しかるに,引用文献1の図3には,静翼の内側バンドよりさらに半径方向内側に,上流・下流方向で合わせて4箇所の突出部を設け,これと対向する動翼(ベーン,バケット)に上流・下流方向で合わせて4箇所の突出部を設けてシール構\造を成す構成が図示されているが,かかるシール構\造が,流路からホイール(33)と静翼が成す空間へ主流が漏洩する流れを減少させるために設けられたとは図面からは必ずしも断定できず,他の目的(機能)を果たすために設けられた可能\性を排斥できない。そうすると,当業者の技術常識を踏まえて考えたとしても,審決がした引用文献1記載発明の認定のうち,「前記突出部Bが,前記突出部Aと共に前記1つのロータホイールと前記1つのノズル列との間にあるホイールスペース内に流入する,前記流路からの漏洩流を減少させるためのシールを形成している」との点は,引用文献1の記載に基づくものではなく,誤りがあるといわざるを得ない。したがって,上記認定を受けた,補正発明と引用文献1記載発明の一致点及び相違点に係る審決の認定にも誤りがある。

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平成23(行ケ)10253 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月13日 知的財産高等裁判所

 本件発明の要旨認定が異なるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。。裁判所は、用語「りん光」を詳細な説明を参酌して認定しました。
 本願明細書の請求項1の記載は,上記第2の2のとおりであり,その「リン光ドーパント材料」の「リン光」については,「黄燐を空気中に放置し暗所で見るときに認められる青白い微光」等の意味があり(甲9),一義的に定まらないから,その技術的意義は,本願明細書の発明の詳細な説明を参照して認定されるべきである。そして,上記(1) 認定の事実によれば,本願明細書の段落【0016】に「用語“リン光”は有機分子三重項励起状態からの発光を称し」(上記(1)ア )と記載されることから,本願発明の「リン光」とは,有機分子の三重項励起状態のエネルギーから直接発光する現象を指すものと理解され,この解釈は,当該技術分野における一般的な用法(同ウ)に沿うものである。この点,被告は,段落【0014】の記載(同ア)を根拠に,段落【0016】の記載は定義ではない旨主張する。しかし,段落【0014】の「実施態様」とは,「本発明の実施態様は当該図面に関して説明される。」と記載されることから,図面に記載された態様を意味するにすぎず,段落【0016】の「リン光」の説明までも実施態様であって説明的な例であると述べる趣旨とは解されず,被告の上記主張は失当である。

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平成24(行ケ)10022 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟 平成24年09月19日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
 引用考案は,靴を載せるパレット状棚部材の前後に棚パイプが懸架されている構成を有しているところ,当該構\成は,収納する靴の寸法や形状に応じて棚パイプの位置を変更するとともに,パレット状棚部材を載置することによりこれを支持するものである。なお,引用考案は,2本の棚パイプが左右側板に懸架されたものであるところ,本件考案は,靴収納庫用棚板に係る考案であり,横桟部材を保持するための具体的構成に係る考案特定事項は存在しないから,引用考案において横桟部材に相当する棚パイプと左右側板との懸架について,2本の棚パイプによる構\成を重視し,当該構成に限定する必要性は乏しい。また,引用考案においては,前方の棚パイプに掛合しているパレット状棚部材と下方に収納した靴の靴底が接触している床面(引用考案の実施品の設置場所として想定される玄関などの床面)との間に隙間が存在しているところ,下方に収納した靴を取り出す場合,パレット状棚部材を掴み,同部材を跳ね上げた上で下方に収納した靴を取り出すことも可能\である。そうすると,引用考案においても,前方の棚パイプは,本件考案と同様に,パレット状棚部材を支持し,床面とパレット状棚部材との間に隙間を生じさせているものであるということができるから,引用考案において,上記効果を奏する構成として,前後2つの棚パイプを採用するか,一方の棚パイプについて,周知例1ないし3において開示されており,しかも,棚板の支持体の構\成として一般的な構成ともいうべき固定脚の構\成を採用することは,当業者にとってきわめて容易であるものということができる。

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平成23(行ケ)10398 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月19日 知的財産高等裁判所

 進歩無しとした審決が、動機づけ無しとして取り消されました。
 本願発明は,「この管路にはオゾン発生装置が連結してあるエジェクターが設けてあり,前記圧力容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある」ものであるから,「エジェクター」と「噴霧装置」とを併用するものである。他方,引用発明は,接触反応器の構造が複雑で,しかも高価なエジェクターに替えて,エジェクターより接触反応器の構\造が簡単で安価なスプレーノズルを用いるものであるから,スプレーノズルは,エジェクターの代替手段である。そうすると,引用発明において,接触反応器の構造が複雑で,しかも高価なエジェクターを敢えて用いようとする動機付けがあるとはいえない。イ また,仮に,引用発明にエジェクターを適用する動機があるとしても,スプレーノズルがエジェクターの代替手段であるから,その場合は,引用発明におけるスプレーノズルに替えてエジェクターを適用することになるところ,引用発明には,本願発明のようにエジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することの示唆や動機付けがあるとはいえない。他に,水処理装置において,エジェクターと噴霧装置とを併用することについて,記載や示唆があるとは認められない。
ウ したがって,一般に,被処理水にガスを供給することについて,被処理水を供給する管路に「ガスが供給されるエジェクター」を設けることが,本件出願前周知の事項であったとしても,引用発明において,エジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することは,当業者にとって容易であるとはいえない。そして,本願発明は,エジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することによって,エジェクターでオゾンと被処理水を混合し,圧力容器内に気体オゾンを混合した被処理水を噴霧供給することで,圧力容器内の圧力を高圧にし,更に噴霧によってオゾンと被処理水の接触面積を大きくしてオゾンを被処理水に溶解させて有機汚染物を分解するものであり,それによって,オゾンが被処理水に効率よく溶解され,汚染水処理装置の処理能力が向上するという顕著な効果を奏するものである。
エ よって,相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは,引用発明及び本件出願前周知の事項に基づいて当業者であれば容易になし得るとした本件審決 の判断は,誤りである。

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平成23(行ケ)10301 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月26日 知的財産高等裁判所

 動機づけがないとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 引用発明1は,前記のとおり,創傷部周囲の皮膚に応力を加えることなく創傷部を塞ぐ創傷部癒合装置に係る発明であり,本件補正発明と同一の技術分野に属するものであって,創傷部に向かって上皮及び皮下組織の移動を促進するに十分な領域にわたって連続して負荷を加えることにより,創傷部の膿を排出させるという従来技術を前提として,創傷部の空気を吸引することにより創傷部が負圧となり,創傷部から流れ出る液のキャニスターへの排出が促進されることなどを目的とするものである。これに対し,引用発明2は,外傷を負った哺乳類の皮膚の治療に用いる多層創傷ドレッシングについて,創傷部に殺菌性の環境を与え,創傷表\面を湿潤状態に保つ一方で,創傷滲出物を速やかに吸収するほか,創傷の治癒を極力邪魔しないようにし,かつ,引き剥がすのが容易で,その際,皮膚に傷を残すことがないようにすることを目的とするものであり,そのために,体内の創傷治癒因子あるいは創傷接触層に含まれる高分子成分の通過を防止しながら,創傷からの液体滲出物を中間吸収層に迅速に除去し,また,組織細胞が中に入り込むのを防止するものである。引用発明2は,上記目的,すなわち,体内の創傷治癒因子あるいは創傷接触層に含まれる高分子成分の通過を防止しながら,創傷からの液体滲出物を中間吸収層に迅速に除去し,また,組織細胞が中に入り込むのを防止するために,孔径の大きさを設定したものであって,本件補正発明や引用発明1のように,創傷部から体液を積極的に真空吸引して真空キャニスターに収集するとともに,創傷部に負圧による修復作用をもたらすため,創傷部に連続的な負圧を加えることを前提として孔径の大きさを設定したものではない。そうすると,引用発明1には,多孔性パッドの外側表面部の孔群について,同発明とは目的及び機序が異なる引用発明2の孔径を適用することに関し,そもそも動機付けが存在しないものというほかない。\n

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平成23(行ケ)10320 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月27日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、動機づけ無し、阻害要因有りとして、取り消されました。
 審決は,相違点1に関して,引用発明において,本願発明のように,メモリにアクセスするアドレスを含む命令ポインタを,全て命令トレースコントローラに送っておき,不連続なアドレスを示す制御信号により命令トレースコントローラによって選択するようにすることは当業者が容易になし得たことであると認定,判断する。しかし,審決の上記認定,判断には,誤りがある。・・・そもそも,引用発明は,上記のとおり,分岐先アドレスを出力することで,出力される実行情報の量を抑制することを目的とするものであるから,引用発明において,この目的を達成することが可能なアドレス計算部の出力する分岐先アドレスを用いるのに代えて,実行する命令のアドレス全てを出力するとの構\成に至る動機付けがない。むしろ,引用文献1の上記記載によれば,引用発明は,内蔵キャッシュがヒットしている場合,命令の実行状況がマイクロプロセッサのアドレスバスやデータバスに出力されない構成である上,常にマイクロプロセッサの実行情報をプロセッサの外部に出力することは,バスの競合が発生し,マイクロプロセッサの性能\の低下を招くとの認識を前提としており,引用発明において,実行する命令のアドレス全てを出力するように構成することには,阻害事由があるといえる(なお,本願発明は,命令ポインタレジスタから出力され,CPUによって実行されるアドレス(命令ポインタ)のうち,命令トレースに必要な不連続アドレス(分岐先アドレス)のみを,アドレスの不連続を示す制御信号を用いて抽出するものである。これに対し,引用発明においては,命令実行部がアドレス計算部を備え,分岐先アドレスを計算して出力するが,分岐が発生しない場合には,命令プリフェッチ部10において,次サイクルにおいて実行する命令のアドレスが計算され,命令キャッシュ内にある命令が読み出されるものであって,アドレス計算部から出力されるのは,不連続な分岐先アドレスのみであり,CPUによって実行される命令のアドレス全てを出力するものではないから,引用発明におけるアドレス計算部は,本願発明における命令ポインタレジスタに対応するものともいえない。)。これに対し,審決は,本願発明において,制御信号によって不連続であることが通知されたアドレス以外は,命令トレースコントローラで何ら使用されることなく,捨てられるだけであり,全ての命令ポインタを命令トレースコントローラに送ることによって格別の効果を生ずるものではないとして,相違点1は格別のものではないと認定,判断するが,不連続でないアドレスが利用されないからといって,引用発明から本願発明を容易に想到できたとはいえない。以上によれば,引用発明において,本願発明のように,メモリにアクセスするアドレスを含む命令ポインタを,全て命令トレースコントローラに送っておき,不連続なアドレスを示す制御信号により命令トレースコントローラによって選択するようにすることは当業者が容易になし得たことであるとの審決の認定,判断には,誤りがある。\n

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平成23(行ケ)10258 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月27日 知的財産高等裁判所 

 無効理由有りとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、取り消されました。
 審決は,甲4及び甲5から,「幅広の不織布として,伸びる(伸縮する)と共に合成樹脂繊維からなるものを使用するとき,伸ばすことによる縮みができる限り抑制されたものをフィルター部材として伸ばして使用する」との事項が示されていると認定,判断する。しかし,当裁判所は,以下のとおり,甲4及び甲5には,「伸ばすことによる縮みができる限り抑制されたものを」使用することが記載又は示唆されておらず,したがって,甲1発明に甲4及び甲5に記載の技術を適用しても,本件訂正発明の相違点に係る構成に到達することはないと判断するものである。・・・以上によれば,甲4及び甲5には,「伸ばすことによる縮みができる限り抑制されたものを」使用することは,記載又は示唆されているものではないから,甲1発明に甲4及び甲5に記載の技術を適用しても,本件訂正発明の相違点に係る構\成に到達することはない。

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◆関連事件です。平成24年(行ケ)第10128号判決本文

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平成23(行ケ)10201 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月27日 知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決について、「進歩性判断の基礎となる先行技術の認定が誤っている」として取り消されました。
 以上のとおり,甲1文献には,単一モード・ファイバーに多重モード・ファイバー増幅器を適用する光学増幅器において,単一モード・ファイバーと多重モード・ファイバー増幅器との間に,ファイバーモードを整合するためのインターフェース光学部品が設置され,多重モード・ファイバー増幅器に,入力信号を入力する入力信号源とポンプ光を入力するポンプ源が接続されていること,高品質の導波路及び適切なモード整合光学部品を使用して,多重モード・ファイバー増幅器の入力ポートにその基本モードの信号を入力し,多重モード・ファイバー増幅器によって増幅されたこの基本モードの信号エネルギーを,当該多重モード・ファイバー増幅器の全体を通して,その出力ポートまで保存することが開示されており,本件特許の優先日当時の当業者の技術水準によれば,その当時,インターフェース光学部品の構成や,基本モードの入射・保存のための方法などを含め,上記光学増幅器の構\成は,当業者が理解可能な程度に明らかになっていたといえる。したがって,甲1文献には,本件発明と対比可能\な程度に技術事項が開示されており,甲1文献に記載された発明は,特許法29条1項3号に規定する「刊行物に記載された発明」に該当するというべきである。

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平成23(行ケ)10315 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月10日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が手続違背ありとして取り消されました。
 審決は,「回路部材の接続構造の技術分野において,隣接する突起部間の距離を1000nm以下とすることは,以下に示すように本件出願前から普通に行われている技術事項である。例えば」,として,甲13の記載を技術常識であるかのように挙げているが,その技術事項を示す単一の文献として示しており,甲13自体をみても,回路部材の接続構\造の技術分野において,隣接する突起部間の距離を1000nm以下とすることが普通に行われている技術事項であることを示す記載もない。すなわち,甲13の特許請求の範囲の請求項1には,「平均粒径が1〜20μmの球状芯材粒子表面上に無電解めっき法によりニッケル又はニッケル合金皮膜を形成した導電性無電解めっき粉体において,該皮膜最表\層に0.05〜4μmの微小突起を有し,且つ該皮膜と該微小突起とは実質的に連続皮膜であることを特徴とする導電性無電解めっき粉体。」が記載され,実施例には製造されたいくつかの導電性粒子の突起の大きさが表2に示されている。しかし,表\2に記載されているのは,甲13に記載された発明の実施例であって,これらの例が周知の導電性粒子として記載されているわけではない。しかも,表2に記載されているものには,実施例4(0.51μm),実施例5(0.63μm)のように,突起の大きさが500nmを超えるものある。したがって甲13の記載から「回路部材の接続構\造の技術分野において,隣接する突起部間の距離を1000nm以下とすること」や,「回路部材の接続構造の技術分野において,突起部の高さを50〜500nmとすること」が周知の技術的事項であるとはいえない。してみると,審決は,新たな公知文献として甲13を引用し,これに基づき仮定による計算を行って,相違点3の容易想到性を判断したものと評価すべきである。すなわち,甲10を主引用発明とし,相違点3について甲13を副引用発明としたものであって,審決がしたような方法で粒子の突起部間の距離を算出して容易想到とする内容の拒絶理由は,拒絶査定の理由とは異なる拒絶の理由であるから,審判段階で新たにその旨の拒絶理由を通知すべきであった。しかるに,本件拒絶理由通知には,かかる拒絶理由は示されていない。そうすると,審決には特許法159条2項,50条に定める手続違背の違法があり,この違法は,審決の結論に影響がある。
(6) 相違点4に関する判断について 審決では,上記(4)のとおり,突起部の高さについても甲13の記載を挙げ,突起部の高さを50〜500nmとすることが本件出願前に周知の技術事項である,と判示している。審決は,「回路部材の接続構造の技術分野において,突起部の高さを50〜500nmとすることも,本件出願前に周知の技術事項である(例えば」,として甲13を挙げるけれども,甲13自体をみても,回路部材の接続構\造の技術分野において,突起部の高さを50〜500nmとすることが,本件出願前に周知の技術事項であることを示す記載がないことからすると,相違点3についてと同様,審決は,甲13を副引用発明として用いて,相違点4の容易想到性を判断したものである。甲10を主引用発明とし,相違点4について甲13を副引用発明として容易想到とする拒絶理由は,拒絶査定の理由とは異なる拒絶の理由であるから,審判段階の拒絶理由通知でその旨示すべきであったのに,本件拒絶理由通知には,かかる拒絶理由は示されていない。そうすると,相違点4について甲13の記載を挙げて検討し,これを理由として拒絶審決をしたことについては,審決には特許法159条2項,50条に定める手続違背の違法があり,この違法は,審決の結論に影響がある。

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平成23(行ケ)10335 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月12日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。得異な効果も発明の構成に基づくものではないとして採用されませんでした。
 原告は,相違点3及び4は,相互に密接に関連しており,それらを組み合わせた効果も相乗的なものであるから,これを分断して判断したことは,進歩性判断の誤った手法によるものであると主張する。相違点3は,本願発明の走査方法が点順次走査であることに関し,相違点4は,点順次走査を前提とした上で,標本化定理を尊重した検出周波数の選定に関するものであることから,両者は,点順次走査という点で一定の関連性を有するものである。しかしながら,標本化定理は,本来,画像の復元性の保証という観点から走査方法の如何を問わず考慮されるべき基本的事項であって,走査方法とは技術的観点が異なるから,相違点3及び4を別々に判断したとしても,誤りがあるとはいえない。また,本件審決は,相違点4の判断において,相違点3及び4をあわせ,全体として総合的に効果の点も含めて,容易想到性を判断したのであるから,原告の上記主張には理由がない。
 イ 原告は,本願発明の特徴は,リアルタイムで「高品質」の画像形成を可能にするために,「解像度」と「フレーム・レート(リアルタイム)」と「感度」という互いに相反する3つのパラメータの間に適切なバランスを新たに提供するものであると主張する。本願発明は,本願明細書に記載されたとおり,「リアルタイム表\示」すると同時に「画像の品質を最適化」,特に「高解像度化」することを目的とし,その目的を達成するために,本願発明の構成を採用し,特定したものである。しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,リアルタイムで「高品質」の画像形成を可能\にするための「解像度」と「フレームレート(リアルタイム)」と「感度」の間の適切なバランスを特定することについても,リアルタイム性を表す「フレームレート」,画像の品質を表\す「解像度」及び「サンプリング周波数」が具体的な高い値として得られることについても,何ら特定されてはいない。本願発明は,「数千本の光ファイバ」及び「リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度」という発明特定事項を有するものの,上記発明特定事項だけからでは,従来実現していなかった,あるいは,従来知られていなかった,「解像度」と「フレーム・レート(リアルタイム)」と「感度」の組合せが実現できる発明が特定されているとはいえない。そうすると,原告の上記主張は,特許請求の範囲に基づくものではなく,失当である。

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平成23(行ケ)10358 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年08月08日 知的財産高等裁判所

 本件発明の事実認定が誤りであるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 ア 本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構成(解釈1)と2つのみ有している構\成(解釈2)の2つの解釈があり得るとした上,解釈1の場合の相違点3は,容易に想到することができると判断した。イ しかしながら,そもそも,特許請求の範囲には,「2つの半導体スイッチ」と記載され,本願明細書の発明の詳細な説明にも,2つの半導体スイッチ(トランジスタ)がある場合の実施例が記載されており,それを超える数の半導体スイッチがある場合についての記載はない。したがって,本願発明は,保護回路が2つの半導体スイッチを有しているのであって,保護回路が2つ以上の半導体スイッチを有していることを前提とする解釈1は,保護回路が2つのみの半導体スイッチを有していることを前提とする解釈2と別個に判断する必要がなく,あえて解釈1に基づく判断をした本件審決の認定判断は,その点において,誤りである。
 ウ 仮に,本願発明について,保護回路が半導体スイッチを2つ以上有していると解釈したとしても,その場合の相違点3の判断については,以下のとおり,誤りがある。(ア) 本願発明は,前記1のとおり,励磁電流の遮断によって生じる励磁巻線に誘導される逆電圧を「過電圧」として保護しようとするものではなく,発電機の負荷が極めて迅速に低減される動作状態において,発電機の出力電圧に発生するロード・ダンプ電圧を「過電圧」として迅速に低下(保護)させるものである。すなわち,本願発明の「過電圧保護」は,発電機として動作するのに必要な励磁回路の電流を遮断することによって,発電機の出力電圧を下げる作用を奏するものと解すべきである。これに対し,引用発明は,前記2のとおり,高速回転時や低負荷時にもバッテリの充電電圧以上に直流発電電圧がならないように逆方向に界磁巻線電流を流すように制御し保護するものである。(イ) 本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構成(解釈1)があり得るとした上,解釈1の場合の相違点3は,容易に想到することができたと判断した。そして,被告は,引用発明は,通常動作時の発電機の界磁側の磁場の制御が目的であって,発電機の負荷開放時における発電機出力の過電圧に対処することを目的としておらず,過電圧保護は,コイルに並列にダイオードを接続することで対処することが技術常識であると主張する。しかしながら,引用発明のように永久磁石を配置すると,界磁巻線電流を零にしても発電電圧が発生するため,一方向にのみ電流を流す構\成では高速回転時や低負荷時に発電電圧が上昇する危険がある。そこで,高速回転時や低負荷時にもバッテリの充電電圧以上に直流発電電圧がならないように逆方向に界磁巻線電流を流すように制御し保護するものであるから,被告の上記主張は理由がない。そして,仮に引用発明に被告のいう技術常識を適用し,界磁巻線(又は半導体スイッチ)に並列にダイオードを接続して,界磁巻線に発生する過電圧を急速に低減させて,界磁巻線に流れる電流を遮断するように構成しても,永久磁石によって生じる磁界により発電機出力が発生するから,発電機の出力電圧の過電圧を低減させることはできず,本願発明にいう「過電圧保護」にはならない。エ よって,解釈1に基づく本件審決の判断は,誤りである。
(2) 解釈2に基づく判断について
ア 本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構成(解釈1)と2つのみ有している構\成(解釈2)の2つの解釈があり得るとし,解釈2の場合の相違点3(本願発明は,励磁巻線に,2つの半導体スイッチを有し,第1の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路に対して並列に第1のダイオードが配置され,さらに第2の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路に対して並列に第2のダイオードが配置された保護回路が配属され,電気的負荷が迅速に低減する際に前記励磁巻線に蓄積された磁気エネルギが電気エネルギに変換されてバッテリへフィードバックされ,前記励磁巻線が遮断されるのに対し,引用発明は,そのような構成とされていない点)は,容易に想到することができると判断した。そして,被告は,引用発明においても,過電圧保護はコイルにダイオードを接続することで対処する技術常識の下,解釈2に基づいてスイッチング素子の個数を2個として周知技術(乙1〜3)のように第1,2のダイオードから構\成されるフィードバック回路とすることは当業者が容易に考えられたことである旨主張する。イ しかしながら,引用発明の「4つの半導体スイッチを有するH型ブリッジ回路」を「2つの半導体スイッチを有する回路」に変更すると,増磁電流と減磁電流を流すために用いられるH型ブリッジ回路とした引用発明の基本構成が変更され,減磁電流を流すことができなくなり,引用発明の課題を解決することができなくなるから,仮に被告主張の周知技術があったとしても,このような変更には阻害要因がある。そして,4つのスイッチング素子を用いる引用発明に対して,スイッチング素子の数を変更することなく周知例2に記載された周知技術を適用すると,4つのスイッチング素子に4つのダイオードが逆方向に並列接続される構\成になり,解釈2に係る本願発明(保護回路が半導体スイッチを2つのみ有しているもの)の構成とならないことは明らかである。\n

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平成23(行ケ)10389 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟 平成24年07月25日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。実用新案権ですが、花芯のみから芳香を発散させるという考案が対象です。
 以上の記載事項によれば,従来,芳香剤発散容器の気散管は,芳香剤を上昇浸透し発散させる機能を有する繊維素材が棒状のまま使用されていたため,その外観から外的美観を損なうという問題があったところ,引用考案は,気散管の上端部をすそ広がり状に形成し,その上端部を着色することによって人造花芯,すなわち,花の一部として装飾するとともに,キャップに花弁等を取り付けることによって,外的美観をもたらすものである。そして,引用考案は,気散管の上端部をほぐすことによって形成された花芯のみから芳香を発散させることを技術的思想の中核とするものということができる。 
ア 前記2によれば,引用考案の気散管は,芳香剤を上昇浸透させて上端部に導き,すそ広がり状に形成された上端部から芳香を発散させ,当該上端部を着色し人造花芯(人工花芯)とし,花の一部として装飾する,という機能を有する。気散管は,中空のノズル内に収容され,キャップに取り付けられた花弁等と接することはない。芳香の発散は,専ら気散管の上端部のみによって行われ,花弁の材質にかかわりなく,花弁からは芳香が発散されない。このように,引用考案は,芳香剤は気散管から気散するものであって,花形の形態から気散するものではない。これに対し,ソ\ラの木の皮で形成されたソラフラワーは,花全体に芳香剤が浸透して,花全体から芳香が発散されるものと解され,ソ\ラの木の皮から成る花弁部の細かい組織により,液体芳香剤が緩やかな速度で根本から先端の方へ浸透していくのであるから,芳香を発散しない引用考案の花弁とは機能的に相違する。
 イ また,引用考案において,花の一部となる人造花芯は,気散管を形成する繊維をほぐして線状化することによって形成されるものであるところ,このような手法では,繊維をほぐしても線状にしかならず面状にはできないから,花弁のような面状のものを形成することはできない。このように,引用考案は,気散管の上端部の繊維をほぐして花の一部とすることを前提とし,気散管の上端部をほぐすことによって形成された花芯のみから芳香を発散させることを技術的思想の中核とするものである。したがって,引用考案においては,芳香の発散も,花の一部から行われるにとどまり,花弁や花全体から芳香を発散させるという技術的思想は存在しない。
 ウ しかも,引用考案における気散管が,花弁等と接しないように構成されているのは,気散管を挿抜する際,気散管中の芳香剤が花弁等に付着しないようにするという積極的な理由に基づくものであり,そのために,気散管を敢えて中空のノズル内に収容しているものと認められる。花弁への芳香剤の付着を防止することは,花弁を含む花全体からの芳香の発散を否定することを意味するのであるから,この点において,花弁を含む花全体から芳香を発散させるソ\ラフラワーを適用することの阻害要因が存在する。
 エ 以上のように,機能及び技術的思想が異なることに照らせば,仮にソ\ラフラワーが周知であったとしても,これを引用考案に適用することの動機付けがないばかりか,むしろ阻害要因があるというべきである。したがって,本件考案1は,引用考案に基づいてきわめて容易に想到できたものということができず,これをきわめて容易に想到できるとした本件審決は誤りである。

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◆関連案件はこちらです。平成23年(行ケ)第10390号

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平成23(行ケ)10333 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年07月25日 知的財産高等裁判所

 拒絶審決が維持されました。1つの争点が、先の判決の拘束力です。
 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理,審決をするが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理,審決には,同法33条1項の規定により,取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,当事者が取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返しあるいはその主張を裏付けるための新たな立証を許すべきではなく,取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできない(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
イ これを本件についてみると,前判決は,前審決が認定した引用例1に記載された発明(本件審決が認定した引用発明と同じものである。)を前提として,前審決が認定した相違点5(本件審決が認定した相違点5と同じものである。)に係る本件発明1の構成のうち,切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,fh<7,fp≦5のとき,0.5<L≦7(単位:mm),fh<7,5<fpのとき,0.5<L≦1(単位:mm),7≦fh,fp≦5のとき,0.5<L≦4.5(単位:mm),又は,7≦fh,5<fpのとき,0.5<L≦1.5(単位:mm)とする構成についても,X=de×L0.14/fh0.18としたときに,相当円直径de及び切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,粒子状物質がインナーフィンに堆積することを抑制するために,1.1≦X≦4.3を満足する大きさになるという構\\成についても,引用発明との間に相違はないと判断して,引用発明に基づいて容易に発明することはできないとした前審決を取り消したものであるから,少なくとも,引用発明の認定及び相違点5に係る判断について,再度の審決に対する拘束力が生ずるものというべきである。また,前判決は,引用発明から算出した関数Xは,本件発明2のXの数値範囲(1.2≦X≦3.9)及び本件発明3のXの数値範囲(1.3≦X≦3.5)についても充足することを示した上で,本件発明2及び3についても,これを容易に発明することができないとした前審決を取り消したものであるから,前判決は,本件審決が認定した相違点6に係る本件発明2の構成についても,相違点7に係る本件発明3の構\\成についても,本件発明1と同様に,引用発明との間に相違はないと判断したものということができる。したがって,前判決のこれらの判断についても再度の審決に対する拘束力が生ずるものというべきである。以上によれば,本件審決による引用発明の認定並びに相違点5ないし7に係る判断は,いずれも前判決の拘束力に従ってしたものであり,本件審決は,その限りにおいて適法であり,本件訴訟においてこれを違法とすることはできない。

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平成23(行ケ)10374 審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成24年08月09日 知的財産高等裁判所 

 進歩性なしとした審決が取り消されました。
 引用発明と甲2文献記載の発明の技術分野,技術内容を対比,検討すると,両発明は,いずれも,風力発電で発生した電力が配電網(電力系統1)に供給される場合に,マイクロコンピュータ(制御装置7)が,周波数変換器(インバータ)を制御することにより,配電網(電力系統1)の電圧の変動を制御しようとするものである。また,電圧調整用のパラメータとして,引用発明ではマイクロコンピュータに力率が入力され,甲2文献記載の発明では制御装置7に無効電力値が入力されており,無効電力が制御の対象とされている。したがって,引用発明と甲2文献記載の発明とは,解決課題において共通する。
(ウ) 他方,審決が認定した常套手段2は,「電力系統の電圧制御や無効電力の制御を行う技術分野において不感帯を設ける」というものであり,その具体的な制御方法等は,何ら開示がない。また,甲4文献に記載されている不感帯域は,系統母線電圧と無効電力について,目標値V0 ・Q0 の周囲に予め決められた不感帯域を設定し,負荷時タップ切換変圧器LR,電力用コンデンサCs,あるいは分路リアクトルSRの制御を行うことにより,系統母線電圧と無効電力を上記不感帯域に収めるものである(段落【0007】【0009】)。したがって,甲4文献記載の事項がいかに技術常識であったとしても,当業者が,甲4文献記載の事項を適用することにより,本願発明における引用発明との相違点2に係る構\成,すなわち「(マイクロコントローラが電圧測値および所定のパラメータの値に基づいて,インバータを制御するステップと,を有し,前記電圧測値の変動を制御するよう,インバータを制御する,方法において,本願発明では,マイクロコントローラが電圧測値および所定のパラメータの値に基づいて,「目標位相角を導出し,インバータを制御して位相角φを該目標位相角に設定するステップ」と,前記マイクロコントローラが前記インバータを制御するステップと,を有し,前記インバータを制御するステップは,)前記電圧測値が下方参照電圧Uminと上方参照電圧Umaxとの間に含まれる場合は,前記位相角φの大きさが一定に保たれるよう前記インバータを制御するサブステップと,前記電圧測値が前記上方参照電圧Umaxを上回る場合には,前記電圧測値のさらなる増大に応じて前記位相角φが大きくなるように,又は,前記電圧測値が前記下方参照電圧Uminを下回る場合には,前記電圧測値の減少に応じて前記位相角φが小さくなるように,前記電圧測値が所定の参照電圧を示すようになるまで前記電気ネットワークへ誘導性または容量性の無効電力が供給されるよう,前記インバータ(18)を制御するサブステップと,を含む」との構成に,容易に想到すると解することはできない。
 この点につき,被告は,本訴において新たに,特開平3−122705号公報(乙2)及び特開平10−191570号公報(乙3)を提出する。そして,乙2には,電圧調整器を線路上に設けた系統に設置する静止形無効電力補償装置において,制御目標電圧と交流系統電圧の偏差信号に不感帯を設けることが,乙3には,発電設備と系統電源とを連系し,電圧変動基準により無効電力の制御を行う系統連系システムにおいて,検出した電圧変動量から電圧変動基準を演算して出力する関数回路において,電圧変動が一定値以内では感知しない不感帯を設けることが,それぞれ記載されており,乙2及び乙3には,「ある値(X)が下方参照値と上方参照値との間に含まれる場合は対応する信号(Y)の大きさが一定に保たれるように制御するサブステップと,前記ある値(X)が前記上方参照値を上回る場合には,前記ある値(X)のさらなる増大に応じて前記対応する信号(Y)が大きくなるように,又は前記ある値(X)が前記下方参照値を下回る場合には,前記ある値(X)の減少に応じて前記対応する信号(Y)が小さくなるように制御するサブステップを有する」不感帯を設ける制御が記載されている。しかし,上記の不感帯における制御に関する審理,判断が一切されていない,審判手続の審理経緯に照らすならば,本訴訟に至って,上記証拠(乙2,乙3)を考慮に入れた上で,相違点2に係る構成の容易想到性の有無の判断をすることは,相当とはいえない。\n

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平成23(行ケ)10302 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年07月26日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が維持されました。
 すなわち,i)引用文献1には,主に手動で行うことを主眼としているものの,「これらのうちいくつかはワクチンソフトウェアに実装され,自動化されている。」との説明がされており,同説明部分は,自動化がされていることを前提とした記述であると解され,また,ii)引用文献1には,「モニタリング法」について,「メモリ常駐型ワクチン」であり,「プログラムのファンクションコールやAPIの呼出しを監視する」と説明がされており,同説明部分も,自動でリアルタイムの監視を行う場合を前提とする記述であると解され,さらに,iii)引用文献1には,「動的ヒューリスティック法」について,「モニタリング法に静的ヒューリスティック法を応用したもので,実行中のプログラムの危険性をより正確に判定する」と説明がされており,同説明部分も,モニタリング法が「実行中のプログラムの危険性」を判定する自動でリアルタイムでの監視であることを前提とする記述であると解される。そうすると,引用文献1の「モニタリング法」は実行中のプログラムを自動でリアルタイムに監視するものと解されることになり,原告の主張は採用できない。
(イ) 「ウィルスの発病」について原告は,「実行形式のファイルプログラム」と「マクロをもちうる文書ファイル」を同一視して一致点と認定した点には誤りがあると主張する。しかし,原告のこの点の主張も採用できない。確かに,引用文献1は,前記1(3)記載のとおり,「実行形式のファイルプログラム」と「マクロをもちうる文書ファイル」とを区別し,それぞれのコンピュータウィルスにより,感染や増殖の機能や機構\\が異なる趣旨の記載がある。しかし,感染や増殖の機能や機構\\において異なるコンピュータウィルスが存在する旨の記述は存在するが,引用文献1の「3.対策」の項では,「実行形式のファイルプログラム」と「マクロをもちうる文書ファイル」を区別して論じていない。異なるコンピュータウィルスのいずれであっても,プログラム又はマクロの実行前にはメモリ上にロードすることが必須であり,ロードに際してファイルI/Oを伴うことに関して相違はない。そうすると,両者について格別の区別をせずに一致点とした審決の認定に誤りはなく,原告の主張は採用できない。
(ウ) 「ファイルI/Oをフックすること」について 原告は,引用文献1の「OSの機能をフックする」との記載から「ファイルI/Oをフックする」と認定することは,誤りであると主張する。しかし,原告のこの点の主張も,以下のとおり採用できない。すなわち,一般に,「OSの機能\」は多数の機能を有するが(甲14,17),これらの「OSの機能\」の中に「ファイルI/O」を含むことは,自明であると解される。そして,プログラムファイルを実行するためには,通常,OSが当該プログラムファイルをメモリ上にロードすることが必要であり,ロードするに際して,当該プログラムファイルのI/Oを伴うことは当業者にとっては自明である。この点は,引用文献1に「PC内に侵入したウィルスは,そのプログラムコードが実行されるまでは何もすることができない。」,「COMやEXEなどの実行形式のプログラムに感染するウィルスの場合は,ユーザによって,もしくはOS(Operating System)やその他のプログラムによって起動されるのを待っている。」,「アプリケーションソフトウェアのデータファイル(文書)のマクロ部分に感染するウィルス(マクロウィルス)の場合は,そのマクロを含む文書が開かれるのを待っている。」と記載されていることからも,明らかである(これはシフトキーを押しながら文書をオープンする際も変わらない。)。そして,モニタリング法が「プログラムの実行前に」プログラムのファンクションコールやAPIの呼出を監視するとされていることからすれば,引用文献1でいう「OSの機能\をフックする」との記載は,OSの機能のうちプログラムの実行前に行われる機能\をフックすることを含む趣旨と理解するのが自然であり,上記の当業者に自明の事項を前提とすると,「OSの機能」には「ファイルI/O」が含まれることが自明であるといえる。以上のとおり,引用文献1の「OSの機能\をフックする」との記載に接した当業者は,「ファイルI/Oをフックする」ことを含むとものと理解するから,「OSの機能をフックする」との記載を「ファイルI/Oをフックする」ことを含むものとした審決の一致点の認定に誤りはない。\n

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平成23(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年07月17日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、阻害要因ありとして破棄されました。
 上記(2)のとおり,刊行物1記載の発明は,ストロボライト20を間欠発光させると同時に,ゴルフクラブ34及びゴルフボール13を,プレイヤー1の正面前方及び上方の2台のCCDカメラ14,15によって高速多重撮影するものであるところ,ゴルフクラブ34又はゴルフボール13に,刊行物3記載の再帰反射体を取り付けた場合,ストロボライト20の間欠発光を再帰反射体によって反射させ,その反射光を2台のCCDカメラ14,15で高速多重撮影することになる。ここで,上記(4)ウのとおり,再帰反射体は,光源から入射した光を,この光源に完全に一致する方向,及び光源の近傍周囲の方向に反射させるものであるから,ストロボライト20の反射光を正面前方のCCDカメラ14に入射させようとすると,正面前方のCCDカメラ14の近傍にストロボライト20を配置することになるが,そのようにすると,上方のCCDカメラ15は,ストロボライト20の近傍周囲には配置されていないから,再帰反射体からの反射光を上方のCCDカメラ15に入射させることはできない。そこで,ストロボライト20の反射光を上方のCCDカメラ15に入射させようとして,このCCDカメラ15の近傍にストロボライト20を配置させると,今度は,正面前方のCCDカメラ14が,ストロボライト20の近傍周囲には配置されなくなるから,再帰反射体からの反射光を正面前方のCCDカメラ14に入射させることはできなくなる。そして,ストロボライト20を,正面前方のCCDカメラ14の近傍以外の位置や上方のCCDカメラ15の近傍以外の位置に配置すると,再帰反射体からの反射光は,2台のCCDカメラ14,15のいずれにも入射させることはできない。そうすると,刊行物1記載の発明のゴルフボール13又はゴルフクラブ34に再帰反射体を取り付けた場合に,ストロボライト20をどのように配置しても,再帰反射体からの反射光を2台のCCDカメラ14,15の両方に入射させることはできないし,また,再帰反射体を採用したことによって,対象物と他の画像とのコントラストが更に強調されるため,安価な構成で検出精度を高めることが可能\となるという本願発明の効果(段落【0008】)も得られない。なお,ストロボライトの配置する場所によっては,一方のCCDカメラに再帰反射体からの反射光が入射し,かつ,他方のCCDカメラに再帰反射体からの微弱な光が入射するようにできたり,また,両方のCCDカメラに再帰反射体からの微弱な光が入射するようにできるかもしれないが,再帰反射体からの微弱な光がCCDカメラに入射しても,対象物と他の画像とのコントラストは強調されないから,再帰反射体を採用したことによる上記効果は得られない。イ したがって,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の技術を適用することには,阻害要因があるといえる。よって,相違点3について,「刊行物1記載の発明において,対象物の位置の検出を容易に行うために,刊行物3記載の技術の対象物が『再帰反射体を含む』事項を適用することは,当業者が容易に想到し得たことである」(9頁18〜21行)とした本件審決の判断は誤りである。

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平成23(行ケ)10271 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年07月11日 知的財産高等裁判所

 研究開発の段階は終了した量産品として,通常の商取引として320個も販売したことで、秘密状態を脱したか(公知となったか)が争われました。裁判所は、公知にはなっていないとした審決を維持しました。
 原告は,320個もの引用発明製品が本件特許の優先日前である平成20年9月30日に原告へ納品されたことをもって引用発明製品が公知となったことを主張するが,原告が当事者の一方である本件秘密保持契約の対象として引用発明製品が含まれる以上,原告の主張には理由がない。この納品製品は,被告の主張によると,JR東日本の駅等で設置試験が行われたようであるが,この設置が本件優先日より前に行われたものとは認められないし,このことから,JR東日本の関係者に外形からみた引用発明製品の構成が本件優先日より前に知られたことまでは認められない。\n

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平成23(行ケ)10297 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年07月11日 知的財産高等裁判所 

 進歩性なしとした審決が維持されました。
 以上の記載に照らせば,本件出願時の技術常識として,シアノアクリレートやポリウレタン等の水反応型接着剤が知られており,電気カーペット等の面状採暖具の接着用途のみならず,卓球ボール,ソフトテニスボール,ゴルフボールなどの球技用ボールの接着用途も含めて,一般的に用いられる,すなわち,汎用性を有するものと認められる。そうすると,引用発明2において,水反応型接着剤の一つである「反応型ホットメルト樹脂」が,IDカードやICカードの接着用途に特化されたものであるとはいえず,一般的な接着剤と同様,他の用途にも適用可能\な汎用性を有するものというべきである。甲3,4についても同様であり,甲3,4の水反応型接着剤が,電気カーペット等の面状採暖具の接着用途に特化されたものであるとはいえず,それ自体は,一般的な接着剤と同様,他の用途にも適用可能な汎用性を有するものというべきである。このような水反応型接着剤の汎用性に照らせば,引用発明1のメルトン貼\りボールの接着用途として,水反応型接着剤を適用することは,単なる設計的事項にすぎず,動機づけを否定することができない。そうである以上,引用発明2,周知技術及び自明な事項1〜3を引用発明1に適用することに格別の困難性は認められない。原告は,審決が加圧接着剤による接着方法が水反応型接着剤による接着方法に劣ると認定したことは誤りであると主張する。しかし,特開昭63−189486号公報(乙6)には,感圧型接着剤は硬化に時間がかかり,強固に接着できないことが記載されている(1頁左下欄下から2行〜右下欄8行)。また,特開昭62−91576号公報(乙7)には,感圧型接着剤は,被接着面が湿気を帯びているときには粘着性が十分発揮されず,接着を試みても必要な接着強度を得ることが不可能\なものであることが,記載されている(1頁左下欄下から3行〜右下欄4行)。これらの記載に照らせば,感圧接着剤の接着強度が弱いことは,本件出願時の技術常識であるものと認められる。また他方で,上記水反応型接着剤の汎用性に照らせば,引用発明1のメルトン貼りボールの接着用途として水反応型接着剤を適用することは設計的事項であるから,仮に加圧接着剤による接着方法が水反応型接着剤による接着方法に劣るか否かは別として,水反応型接着剤を選択することを困難にするものではない。いずれにしても,原告の主張をもって審決の判断を誤りとすることはできない。\n

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平成23(行ケ)10266 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年06月28日 知的財産高等裁判所

進歩性なしとした審決が本件発明の認定誤りを理由に、取り消されました。
 上記によれば,本願発明は,カウントダウン衝突タイマーが満了していない場合にだけ,第2のメッセージが通信装置に送信されるとともに,カウントダウンタイムアウトタイマーにより,第1のメッセージが到達しない場合に,待ち状態を中断して無制限に待ち状態となることが防止されるのであって,第2のメッセージの送信の可否は,カウントダウンタイムアウトタイマーによって決定されるものではない。すなわち,本願発明は,カウントダウンタイムアウトタイマーによって,第2のメッセージが第1のメッセージと衝突を起こすことがなくなるまで即時の送信が許可されないようにされているものではない。
 他方,引用例の上記記載によれば,引用発明は,ファクシミリ信号をファクシミリ装置から受信して,応答信号を前記ファクシミリ装置に送出する送信規制制御手段を備え,送信規制制御手段は,ファクシミリ信号が再送される場合,ファクシミリ信号が再送されるまでの待機時間から伝送装置の処理遅延時間,ディジタル回線の伝送遅延時間及び応答信号の信号長を除いた値の所定の時間期間である場合にだけ,応答信号をファクシミリ装置に送信し,所定の時間期間後にファクシミリ信号が送信される場合には,ファクシミリ信号の送信後に再び送出許可を与えることにより,伝送装置の処理遅延やディジタル回線の伝送遅延があっても,ファクシミリ信号と応答信号とを衝突させないようにしたものと認められる。また,引用例においては,第1のメッセージが送信されるまで第2のメッセージの即時の送信が禁止されるものと認められるものの,第1のメッセージが到達しない場合の待ち状態の解消のための本願発明の構成については,記載も示唆もない。以上によれば,ある時間期間において信号の送信を制限するに当たり,該時間期間において起動し満了するタイマーを設定し,該タイマーの動作中には信号の送信を制限し,該タイマー満了後に信号の伝送を許可する手段を用いることが,当該技術分野において常套手段であり,引用発明において第1のメッセージが送信されるまで第2のメッセージの即時の送信を禁止することに替えて,上記常套手段を適用したとしても,本願発明のように,カウントダウン衝突タイマーが満了していない場合にだけ,第2のメッセージが通信装置に送信され,カウントダウン衝突タイマーが満了し,第1のメッセージが繰り返される場合に,カウントダウンタイムアウトタイマーをタイムアウト期間に設定し,それにより,予\期されている繰り返しメッセージが到達しない場合に,無制限に待ち状態となることを防止することについて,容易に想到することができたとはいえない。

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平成23(行ケ)10228 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年06月13日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、引用文献に認定誤りを理由に、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 すなわち,上記(2)で検討したとおり,引用発明2において,音声出力手段による文章の読み上げが進む間,ディスプレイ手段の画面には,データ入力可能位置指標によって読み上げ位置が示されるだけで,データ入力可能\位置を指示するカーソルが別に表\示されるとは認められず,また,文章中の表記の誤りが検知され,操作者による停止指示があった時は,文章の読み上げが停止されるとともに,上記データ入力可能\位置指標は,少し戻されて停止され,その位置がデータ入力可能位置として示されるだけで,音声出力手段による文章の読み上げ位置を示すカーソ\ルが別に表示されるとは認められない。そうすると,引用発明2において,「入力可能\位置指標」は,「文書読み上げにおいて,読み上げ位置を指示し(本願発明の「音声カーソル」に相当する。)」ているとしても,文書読み上げにおいて,データ入力可能\位置を指示しているとは認められず,また,「両者は読み上げ中は同じ位置で連動させる連動手段を有し」,「停止指示がなされると所定の距離だけ離間して両カーソルが位置する」とも認められないから,審決における引用発明2の上記の認定には,誤りがある。そして,引用刊行物2の技術と同様,引用発明2は,単一のカーソ\ルを備え,このカーソルの機能\を,本願発明における「音声カーソル」としての機能\と「テキストカーソル」としての機能\とに選択的に切り替えるものである。
5 相違点に係る構成の容易想到性の判断について
 上記2で検討したとおり,引用発明1において,音響的に再生されている言語の強調表示(本願発明の「音声カーソ\ル」に相当。)とは別に,表示画面上の検出誤りがある言語にカーソ\ルが配置及び表示され,この言語を操作者が訂正できるとは認められず,また,引用発明1は「音声カーソ\ルと同じ位置で連動するテキストカーソル,あるいはテキストカーソ\ルと同じ位置で連動する音声カーソルを有して」いるとも認められない。そして,上記3及び4で検討したとおり,引用刊行物2の技術及び引用発明2は,いずれも,単一のカーソ\ルを備えるものであるから,テキストの編集に際してテキストカーソルを表\示することが本件優先日における周知技術であるとしても,音響的に再生されている言語の強調表示とは別に,表\示画面上の検出誤りがある言語にカーソルが配置及び表\示されない引用発明1と,単一のカーソルを備え,このカーソ\ルの機能を,本願発明における「音声カーソ\ル」としての機能と「テキストカーソ\ル」としての機能とに選択的に切り替える,引用刊行物2の技術及び引用発明2とからは,「表\示手段に表示される前記認識テキスト情報の誤ったワードにテキストカーソ\ルを配置及び表示し,ユーザにより入力された編集情報に従って前記誤ったワードを編集する」ようにし,「前記テキストカーソ\ルと前記音声カーソルとを同じ位置又は所定の距離だけ離間した位置に配置するため,前記表\示されたテキストカーソルを前記表\示された音声カーソルに,あるいは前記表\示された音声カーソルを前記表\示されたテキストカーソルに連動させる」本願発明の構\成とすることを,当業者が容易に想到し得たとは認められない。

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平成23(行ケ)10284 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年06月06日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。
,甲第2号証には,「水産加工廃棄物等の被処理物(A)を走行散布ホッパー(10)により第2図示の如く発酵槽(1)の略全長に亘り堆積する。・・・これらフォーク(6)・・・(6)の先端爪部(6c)・・・(6c)により被処理物(A)をその全体に亘り攪拌する。」(5頁15行〜6頁7行)と記載されているのみで,台車を所望の位置に動かして,所望の範囲(領域)で撹拌動作を指定した頻度(回数)で行うことで,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することは記載されていない。また,甲第3号証にも,従来の撹拌機につき「第1図に示す攪拌機は,・・・堆積された畜糞を撹拌しつつ一方に向かつて搬送するものである。」(2頁4行〜9行)と記載され,被処理物を撹拌しながら他方に向かって送り出すことが開示されているのみで,台車を所望の位置に動かして,所望の範囲(領域)で撹拌動作を指定した頻度(回数)で行うことで,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することは記載されていない。他方,前記のとおり,引用発明が解決しようとする課題は,発酵槽内を複数の領域に概念的,論理的に区切り,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理する点にあり(甲1の2頁左下欄10〜16行),引用発明の撹拌機も,下記第1図のとおり,発酵槽(1)内からいったん移動通路(15)上に移動させた後,移動通路上を発酵槽の長尺方向に沿って他の領域の前(開口部側)まで移動させ,再度発酵槽内に移動させることによって,上記の領域ごとの被処理物の撹拌頻度の管理を可能にするものである。【引用刊行物(甲1)の第1図】したがって,引用発明においては,撹拌機の構\成と移動通路とは機能的に結び付いているものである。そうすると,引用発明の発酵処理装置の構\成から移動通路(15)を省略し,かつ奥行き方向に往復して撹拌する撹拌機の構成を長尺方向にのみ往復移動しながら撹拌動作する甲第2,第3号証から認められる周知技術に係る撹拌機の構\成に改め,同時に概念的,論理的に複数に区切られた発酵槽内の領域を,発酵槽開口部の所望の個所から被処理物の投入・堆積・取出しを行うことができるようにするべく,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することができるようにすることは,甲第2,第3号証に表れる構\成が当業者に周知のものであるとしても,本件出願当時,当業者において容易ではあったと認めることはできない。したがって,これと異なる「引用発明において採用する撹拌方式に替え,上記周知の撹拌方式を採用することで本件発明1における発明特定事項に想到することは,当業者であれば容易になしうるところである。」との審決の判断(8頁)は誤りである。

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平成23(行ケ)10208 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月31日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、引用文献には開示または示唆がないとして、取り消されました。
これに対し,被告は,引用発明において,複数のインク層を前のインクが乾燥してから印刷する必然性はない,引用発明がウェットトラップを利用しないものとはいえないなどと主張する。しかし,被告の主張は採用できない。すなわち,引用例において,インクが未乾燥の状態でガイドローラと接触するとの記載はない。仮に,被印刷体を移送するローラが乾燥していないインクを有する印刷面に接触する技術が周知であったとしても,そのことから直ちに,引用例においてウェットトラップ印刷法を採用すること,同印刷法を採用した場合に生じ得る解決課題及び解決方法が記載,示唆されていると解することはできない。また,仮に,ウェットトラップ印刷法が,本願優先日前における技術常識であったとしても,上記アのとおり,引用発明においては,インクを重ね刷りすることを前提としておらず,重ね刷りによる解決課題(色の汚濁の防止,印刷時間の長期化の防止等)を目的としたものではないから,引用発明からウェットトラップ印刷法を採用する動機付けは生じない。

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平成23(行ケ)10221 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月30日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。
 そして,引用文献1記載の発明と引用文献2記載の発明は同一の技術分野に属し,しかも,異なる波長の2つのレーザー光を用いるという共通の構成を有するから,引用文献2記載の発明を引用文献1記載の発明の,波長の異なる2つの光を形成する手段として採用することによって,補正発明を構\成することに,格別の困難性はない。」(11,12頁)と説示するところ,引用文献2のNd:YAG Laser(7)からの2本のレーザー光線を,発振装置(レーザー光線発生装置)からの1本のレーザー光線を例えばスプリッターで2本に分割することで生成し,分割後のレーザー光線のうち1本をDye Laser(8)に入射して波長が異なるレーザー光線を発振させることとすれば,補正発明にいう「当該中間素子(9,25)を通過する分割光線の波長を変化させる」に想到することができ,さらにNd:YAG Laser(7)をパルスレーザーとすれば,補正発明の作用効果のうち,光源の同期化を省略することができるともいい得る。しかしながら,その後に誘導光レーザーとして用いられるレーザー光線の波長を変化させる手段に係る構成の違いの問題を解消することができるとしても,前記のとおり,補正発明の「合焦形態変化手段」の構\成に想到することは容易ではなく,補正発明の格別有利な作用効果を否定することもできないから,上記の「中間素子」の構成の容易想到性を肯定するだけで,補正発明の進歩性を否定することはできない。なお,本願明細書の段落【0015】には,「第二分割光線の波長は,中間素子によって変化させられる。この中間素子は,好ましくは,光学パラメトリック発振器(OPO)である。」との記載があるのみであって,補正発明においては,中間素子(9)は入射(入力)されるレーザー光線と発振(出力)されるレーザ光線との間で波長を変化させる機能\を果たす点に意味があることは明らかであるから,引用文献2発明の「Dye Laser(8)」と補正発明の「中間素子(9)」の相違をもとに補正発明の「中間素子(9)」の想到が困難であるとする原告の主張は採用することができない。
 (5) また,審決は,引用文献1記載発明も補正発明もずれの許容の点において異なるものではないなどとして,補正発明の格別有利な作用効果を否定するが,補正発明では出発点となるレーザー光源を1つのものとすることで,光軸等の調整を容易にしたもので(パルスレーザーを用いるときには,複数の光源間の同期調整も不要になる。),2つのレーザー光源を用いる引用文献1記載発明と調整の容易さを同等視することはできない。

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平成23(行ケ)10273 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月28日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。
 そうすると,引用刊行物の図1の面発光レーザアレイ100は,上記の各素子列の単位からなるものであり,また,上記のとおり,図8の面発光レーザアレイ400は,図1の面発光レーザアレイ100の面発光レーザ素子をジグザグ配置したものであるから,図8の面発光レーザアレイ400は,素子列401,405,409,・・・437からなっているということができ,各素子列は,主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる。そして,メサ間(発光スポット)の間隔は,格子列間隔のことを意味するものであるから,各素子列が主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる図8の記載からは,「発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない」とはいえない。したがって,図8の記載から,引用刊行物に「その発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない2次元面発光レーザアレイ」が記載されているとはいえない。引用刊行物の図9におけるメサ間(発光スポット)の間隔についてみるに,図1の面発光レーザアレイ100は,上記の素子列の単位からなるものであり,これに引用刊行物の段落【0111】の記載を合わせると,図9の面発光レーザアレイ400Aも同様の素子列の単位からなると認めることができる。そうすると,図9の面発光レーザアレイ400Aの各素子列も,主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる。メサ間(発光スポット)の間隔は,格子列間隔のことを意味するものであるから,各素子列が主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる引用刊行物の図9の記載から,「発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない」とはいえない。したがって,図9の記載からも,引用刊行物に「その発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない2次元面発光レーザアレイ」が記載されているとはいえない。

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平成22(行ケ)10203 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月28日 知的財産高等裁判所 

 進歩性なしとした審決が取り消されました。
 本願明細書の段落【0078】には,具体的に数値等を盛り込んで作用効果が記載されているわけではないが,上記i)ii)は上記段落中の本願発明1の作用効果の記載の範囲内のものであることが明らかであり,甲第10号証の実験結果を本願明細書中の実験結果を補充するものとして参酌しても,先願主義との関係で第三者との間の公平を害することにはならないというべきである。そうすると,本願発明1には,引用例1,3ないし6からは当業者が予測し得ない格別有利な効果があるといい得るから,前記(1)の結論にもかんがみれば,本件優先日当時,当業者において容易に本願発明1を発明できたものであるとはいえず,本願発明1は進歩性を欠くものではない。

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平成23(行ケ)10336 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月26日 知的財産高等裁判所

 本件発明を詳細な説明を参酌して判断し、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 まず,本願発明に係る「多重スイッチルータ」の意義について検討する。本願発明に係る特許請求の範囲(請求項1)には,多重スイッチルータに関して,i)「前記ケーシングの各面に設けられた複数の入出力用信号伝達素子を・・・該ケーシング内の前記入出力インターフェースに接続し,」,ii)「前記入出力用信号伝達素子による他のコンピュータからの信号の取り込み,吐き出しを信号選択及びバイパス機能を有する」,iii)「前記ケーシングの各面に配設されたコードレス型の複数の入出力用信号伝達素子間にバイパスを形成できるように(する)」ことが記載されているが,多重スイッチルータの意義は,必ずしも一義的に明確ではない部分がある。そこで,本願明細書の記載を併せて参照することとする。本願明細書の上記記載によれば,本願発明は,多数のコンピュータをクラスタ接続して集合型超コンピュータを構成するに当たり,コードにより各コンピュータ間を接続するとコンピュータの集合体積が大きくなること,膨大な量のコードを収納するスペースが必要となること,各コンピュータの結合作業が煩雑となることなどの問題があったことから,これらの問題を解決するべく,集合型コンピュータを構\成する各コンピュータの入出力インターフェース等のコンピュータ構成要素を多面形状のケーシングに内蔵し,入出力インターフェースに結合されたコードレス型の信号伝達素子をケーシングの各面に配設し,さらに,他のコンピュータからの信号の取り込み及び吐き出しを「信号選択」及び「バイパス機能\」を有する多重スイッチルータを通じて行うようにしたものであることが認められる。そして,本願明細書の段落【0007】,【0014】,【0015】,【0016】によれば,i)上記「信号選択」機能とは,他のコンピュータからのデータのうち自コンピュータが取り込むべきデータを選択的に取り込むために信号を選択する機能\と,形成されたバイパスを含む信号伝送経路を選択するために信号を選択する機能とを総称したものであり,ii)上記「バイパス機能」とは,入出力用端子間に,入出力インターフェースに取り込まれることなくデータを伝送するためのバイパスを形成するものと認められる。さらに,本願明細書の段落【0015】によれば,「周波数,時間,符号を使ってデータ伝送経路の選択を行う」ことの例示として,各ポートに設定された周波数帯域に応じて互いに分離できるようにされた複数の信号が伝送される例が示されており,これらの記載は,いずれも「多重スイッチルータ」が周波数等を用いた弁別により互いに分離できる状態で複数の信号を伝送することを前提としたものと解される。そうすると,本願発明における「多重スイッチルータ」は,i)データの導通と遮断を行う開閉ゲートとして作動し,ポートごとの周波数帯域を所定の値に設定することによってポートを閉じてデータの取り込みや吐き出しを阻止し,ii)各コンピュータが周波数,時間,符号を使ってデータの伝送経路を選択する際,特別の信号伝送経路制御装置を用意することなく,ポート間にバイパスを形成し,iii))バイパスが形成された場合には,当該コンピュータの入出力インターフェースに取り込まずにポートからポートへとデータを伝送する機能を有するものであること,また,「多重」とは,互いに分離できるように複数の信号を物理的に1つの伝送路により伝送することを意味するものといえる。以上によれば,本願発明に係る「多重スイッチルータ」とは,データの導通や遮断を行うスイッチとして作動し,かつ,互いに分離できる状態で複数の信号が伝送されるルータを意味するものであって,互いに分離できる状態で複数の信号が伝送されないルータはこれに含まれないものと解される。\n

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平成23(行ケ)10091 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月07日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決について、前提が誤っているとして取り消されました。
上記(イ),(エ),(オ)には,甲2に示される化合物,すなわち上記(ウ)に記載される化合物が,血中コレステロールを低下させる,高コレステロール血症の治療剤として有用であり,上記(キ)には製剤化され,経口投与されることも記載されている。 上記(オ)には,甲2に示される化合物について,まず塩の製造方法が記載され,塩形態の使用は,酸またはラクトン形態の使用に等しいことが記載され,続けて,適当な塩がいかなるものか説明され,さらに酸の製造方法に関しても説明されている。そしてCI−981半カルシウム塩に該当する化合物が「最も好ましい態様」であることが記載されている。
4 そうすると,審決が判断の前提としたように,CI−981半カルシウム塩がラクトン体に比べて有利な化合物であり,そのことは本件発明において見出された,と評価することはできないのであり,本件発明1は,単に「最も好ましい態様」としてCI−981半カルシウム塩を安定化するものと認めるべきである。 したがって,甲1発明との相違点判断の前提として審決がした開環ヒドロキシカルボン酸の形態におけるCI−981半カルシウム塩についての認定は,本件発明1においても,また甲2に記載された技術的事項においても,硬直にすぎるということができる。この形態において本件発明1と甲2に記載された技術的事項は実質的に相違するものではなく,この技術的事項を,甲1発明との相違点に関する本件発明1の構成を適用することの可否について前提とした審決の認定は誤りであって,甲1発明との相違点の容易想到性判断の前提において,結論に影響する認定の誤りがあるというべきである。

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平成23(行ケ)10186 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月11日 知的財産高等裁判所

 無効理由なしとした審決が、前提事実の認定に誤りありとして取り消されました。
 審決は,本件発明と甲4発明との間の相違点3は容易想到でないと判断した(60頁)。しかしながら,この判断は誤りであり,その理由は次のとおりである。なお,以下の判断の前提事実として,無効理由5,6で主張された公用物件についても触れるが,無効理由2を裏付ける補強事実として認定するものである。
 (1) ・・・・・この点,審決は,「・・・公用物件1は『本件に係る出願の実際の出願日前に製造された』ものといえるが,『2010年1月15日〜2010年3月11日の間において大気暴露試験を行』ったものであることは明らかであり,その大気暴\露試験の結果が本件に係る出願の出願前に公然実施された発明における『Δσ』の値であるといえるためには,『Δσ』の値が変化するものではないことを請求人は証明することが必要であるといえるが,請求人が提出した第1回口頭審理陳述要領書ないし第3回口頭審理陳述要領書には『Δσ』の値が変化するものではないとの説明もないし,一般的に残留応力は時間の変化に応じて変わるものであることは技術常識といえるものである。」として,公用物件1に係る硬質塩化ビニルパイプが本件に係る出願日前に式(1)で規定される特性を有していたとは認定できないとした(62頁4行〜23行)。しかし,硬質塩化ビニル系樹脂管は比較的安定で劣化が起こりにくいが,熱,紫外線,化学薬品,応力の影響により,性質,機能,特性の低下が起こる可能\性があり(甲27,33,47,71,105,弁論の全趣旨),また,公用物件1の保管方法が推奨されている千鳥積み等ではなく敷物として利用されていたり,物置内に放置されていたりしたものであったとしても,森定興商株式会社大阪支店の屋内の資材置場又はB宅内の物置において保管されていたものであって,塩化ビニル樹脂に大きな影響を及ぼす日射のほか,熱,紫外線,化学薬品による影響を受けた形跡はない上(甲9の1,9の3−1・2),暴露試験時において公用物件1−1・4・8〜12がJIS規格に定められた性能\(引張降伏強さ,耐圧性,偏平性,ビカット軟化温度)を満たす状態であったということができるし(甲38),かつ,時間の経過や推奨された方法ではない保管方法により応力緩和が進みΔσ の値が大きくなることはあっても小さくなるとは考えがたい。そうすると,平成22年1月15日〜同年3月11日の間,公用物件1を,3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の式(1)から算出される周方向応力σ の最大値と最小値の差Δσ は2.94MPa以下であったことからは,本件出願前において,公用物件1は相違点である構成BのΔσ の値を満たすものであったと推認するのが相当である。
(2) また,証拠(甲10の3−1)によれば,公用物件2は相違点である構成BのΔσ の値を満たすものであると推認することができる。この点,被告は,原告らにおける公用物件2の再現実験の条件(甲39)は,本件出願日前に存在した公用物件2の製造条件を示すものではないと主張する。しかし,本件出願前から使用されていた押出機を使用していることや,従来技術と考えられる水による冷却を行っていること(甲109)などからすると,再現実験は概ね本件出願日前に存在した公用物件2の製造条件を守って行われたと認めるのが相当である。そうすると,本件出願時において,構成BのΔσ の値を満たす硬質塩化ビニル樹脂管(黒色の顔料としてカーボンブラックが使用されたもの)は存在していたと認めるのが相当である。加えて,公用物件2の再現実験が本件出願前の製造条件等を完全に再現したものではないとしても,証拠(甲10の3−1)によれば,少なくともカーボンブラックを黒色顔料として添加した硬質塩化ビニル樹脂管で本件発明の構成Bを満たすものが本件出願時に存在したことは推認することができる。\n

◆判決本文

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平成23(行ケ)10136 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月25日 知的財産高等裁判所

 データ圧縮特許について、記載不備、進歩性なしを主張していましたが、無効理由無しとした審決が維持されました。
 引用発明2は,「1つの楽音を生成するためのデータのうち先頭部分とその他の部分とで,異なる圧縮方法を用いて圧縮された楽音データを用いることにより,または,伸張処理されたデータのうち,一部を記憶するようにすることにより,発音要求から発音されるまでの遅延時間をなくし,かつ,高効率符号化音声圧(縮)方式を用いることができるようにするもの」であり,「圧縮されていないか,または伸張処理に要する時間が短い第1の圧縮方法により圧縮された第1のデータと,前記第1の圧縮方法より伸張処理に要する時間が長い第2の圧縮方法により圧縮された第2のデータから構成される楽音データを読み出す」ものであるから,「圧縮楽音データの後部に非圧縮楽音データを配置して再生する」ものではない。したがって,引用発明2は,繰り返し再生において曲の終端部と先頭部との間の無音部分が生じてしまうという課題を解決するために,無音部分を作ることなくループ再生を行うことができる楽音データ再生装置を提供するという,本件発明の課題を開示するものではない。しかも,引用発明2は,上記のとおり,圧縮楽音データの後部に非圧縮楽音データを配置して再生するものではないから,引用発明1に,引用発明2を組み合わせることにより,本件発明の読み出し順を採用することが容易に想到し得るものということもできない。

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◆こちらは関連事件です。平成23(行ケ)10267

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平成23(行ケ)10229 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月28日 知的財産高等裁判所 

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が維持されました。出願人はインターネット上でナビゲーションサービスを行っている会社です。
 原告は,引用例には「経路外れ地点に進入するリンクに対しては,コストを変更しないコスト変更手段」という特徴に到達するためにしたはずである示唆等が存在しないし,退出リンクを避けた経路は,利用者にとって避けたいルートであり,エリアとは「一定の領域」を意味するから,単なる経路にすぎない「退出リンク」を利用者にとって避けたいエリアと主張するのは,引用例で示唆されていない概念を不当に拡張するものであると主張する。しかしながら,引用例に「退出リンク」のみを逸脱リンクとして記憶する態様が記載されており,本件補正発明と引用発明が「経路外れ地点に進入するリンクに対しては,コストを変更しないコスト変更手段」において一致するとした点に誤りはない。引用例においては,ノードとリンクからなる経路を算出するものである以上,「エリア」が一定の領域の意味であるとしても「ノード」と「リンク」とによって表現されたものであるし,引用例に利用者が渋滞等が生じている経路を避けたい場合が記載されていないということはできず(【0003】【0022】),「利用者が避けたいエリア」は,渋滞等が生じている経路であるリンクを中心としたエリアを含むものである。イ 原告は,本件審決の一致点の認定が正しいとしても,本来の退出リンク(リンクID:n3)のリンクコストのみが高く設定され進入リンク(リンクID:n1)のリンクコストが変更されないとすると,進入リンク,ノード,リンク(リンクID:n2)に至る経路が探索され得ることになり,利用者にとって避けたいエリアに進入する経路が算出され,引用例に記載された発明の課題が解決されないこととなるから,上記発明から本件補正発明を容易に想到することはできないと主張する。しかしながら,引用例の記載によれば,「利用者が避けたいエリア」には,リンクとなる渋滞が生じている経路を中心としたエリアが含まれており,これを利用者が避けたい利用者に対してこの経路を避けることは,「利用者の事情を考慮した最適な目的地経路の算出」(【0005】)という引用発明の目的に合致する。よって,退出リンクのみを記憶する態様が引用例に記載された課題及び目的に反するものであるということはできないし,このことを根拠として本件補正発明が引用発明から容易に想到できないということもできない。

◆判決本文

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平成23(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月11日 知的財産高等裁判所

 当業者であれば、作用効果についても想到したであろうとして、進歩性違反無しとした審決が、取り消されました。
 本件各発明の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によれば,本件各発明は,糖尿病治療に当たって,薬剤の単独の使用には,十分な効果が得られず,あるいは副作用の発現などの課題があった一方で,インスリン感受性増強剤でありほとんど副作用がないピオグリタゾンを,消化酵素を阻害して,澱粉や蔗糖の消化を遅延させる作用を有するα−グルコシダーゼ阻害剤(アカルボース,ボグリボース又はミグリトール)と組み合わせた医薬については知られていなかったことから,ピオグリタゾンとそれ以外の作用機序を有するα−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせることで,薬物の長期投与においても副作用が少なく,かつ,多くの糖尿病患者に効果的な糖尿病予\防・治療薬とすることをその技術的思想とするものであるといえる。
・・・・
 前記(1)エに認定のとおり,当業者は,引用例3の図3からピオグリタゾン又はその薬理学的に許容し得る塩とアカルボース,ボグリボース及びミグリトールをから選ばれるα−グルコシダーゼ阻害剤の併用投与という構成及びそこから血糖値の降下という作用効果が発現することと認識するものと認められるが,ここで発現する作用効果についてみると,前記(1)ウに認定のとおり,作用機序が異なる薬剤を併用する場合,通常は,薬剤同士が拮抗するとは考えにくいから,併用する薬剤がそれぞれの機序によって作用し,それぞれの効果が個々に発揮されると考えられる。しかも,前記1(3)アないしオに記載のとおり,引用例1は,SU剤による二次的無効に対処するためにピオグリタゾン等の作用機序の異なる経口剤の併用について言及し,引用例2は,個々の患者の病態に即したより有用な治療としてのピオグリタゾンやα−グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース等の薬剤の併用投与について言及し,引用例3は,α−グルコシダーゼ阻害剤であるボグリボースとSU剤との併用による血糖値の低下という成果を紹介するほか,図3の説明に引き続いて個々の病態に応じたきめ細かい治療の必要性に言及し,引用例4は,糖尿病患者の空腹時血糖量に応じたα−グルコシダーゼ阻害剤及びそれとは作用機序を異にする薬剤(インスリン感受性増強剤を含む。)との単独投与や併用投与の組合せについて説明しており,さらに,乙17(甲22)は,インスリン感受性増強剤であるトログリタゾンの単独投与群とSU剤又はビグアナイド剤との併用投与群で血糖調節について同じ改善率があったことを記載していることからすると,本件優先権主張日当時の当業者は,これらの作用機序が異なる糖尿病治療薬の併用投与により,いわゆる相乗的効果の発生を予測することはできないものの,少なくともいわゆる相加的効果が得られるであろうことまでは当然に想定するものと認めることができる。\n

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◆関連事件です。平成24(行ケ)10147等

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平成23(行ケ)10186 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月11日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決について、知財高裁は、審決の判断の前提となった事実認定に誤りがあるとして、審決を取り消しました。
 硬質塩化ビニル系樹脂管は比較的安定で劣化が起こりにくいが,熱,紫外線,化学薬品,応力の影響により,性質,機能,特性の低下が起こる可能\性があり(甲27,33,47,71,105,弁論の全趣旨),また,公用物件1の保管方法が推奨されている千鳥積み等ではなく敷物として利用されていたり,物置内に放置されていたりしたものであったとしても,森定興商株式会社大阪支店の屋内の資材置場又はB宅内の物置において保管されていたものであって,塩化ビニル樹脂に大きな影響を及ぼす日射のほか,熱,紫外線,化学薬品による影響を受けた形跡はない上(甲9の1,9の3−1・2),暴露試験時において公用物件1−1・4・8〜12がJIS規格に定められた性能\(引張降伏強さ,耐圧性,偏平性,ビカット軟化温度)を満たす状態であったということができるし(甲38),かつ,時間の経過や推奨された方法ではない保管方法により応力緩和が進みΔσ の値が大きくなることはあっても小さくなるとは考えがたい。そうすると,平成22年1月15日〜同年3月11日の間,公用物件1を,3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の式(1)から算出される周方向応力σ の最大値と最小値の差Δσ は2.94MPa以下であったことからは,本件出願前において,公用物件1は相違点である構成BのΔσ の値を満たすものであったと推認するのが相当である。
 (2) また,証拠(甲10の3−1)によれば,公用物件2は相違点である構成BのΔσ の値を満たすものであると推認することができる。この点,被告は,原告らにおける公用物件2の再現実験の条件(甲39)は,本件出願日前に存在した公用物件2の製造条件を示すものではないと主張する。しかし,本件出願前から使用されていた押出機を使用していることや,従来技術と考えられる水による冷却を行っていること(甲109)などからすると,再現実験は概ね本件出願日前に存在した公用物件2の製造条件を守って行われたと認めるのが相当である。そうすると,本件出願時において,構成BのΔσ の値を満たす硬質塩化ビニル樹脂管(黒色の顔料としてカーボンブラックが使用されたもの)は存在していたと認めるのが相当である。加えて,公用物件2の再現実験が本件出願前の製造条件等を完全に再現したものではないとしても,証拠(甲10の3−1)によれば,少なくともカーボンブラックを黒色顔料として添加した硬質塩化ビニル樹脂管で本件発明の構成Bを満たすものが本件出願時に存在したことは推認することができる。
・・・・
本件発明における構成Bは「3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の,下記式(1)から算出される周方向応力σ の最大値と最小値の差Δσ は2.94MPa以下」であるが,上記認定事実からすれば,本件出願日当時そのような構成が公用となっていた上,被告の主張によれば,「2.94MPa以下」という数値限定は許容できる湾曲度をσ の値で特定しただけのことであり,そこに格別の意義があることの説明がない以上,その構成をもって新規性及び進歩性を判断するのは相当ではない。\n

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平成23(行ケ)10181 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月11日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。
 この点について,原告らは,本願発明は,ヒートポンプのエネルギー発生の観点では効率が悪いとされる部分沸き上げ方式をあえて採用したものであり,全部沸き上げ方式を採用する引用発明1及び2に基づいて,当業者が容易に想到し得るものではない,引用発明2に引用発明1を組み合わせたとしても,太陽熱集熱器で得られる集熱熱量に応じて低温の(高温ではない)湯の量を制御することはできない,蓄熱運転終了時に貯湯タンクの上方に貯湯される湯と下方に存在する湯との間に温度差が生じるようにして沸き上げ,かつ,上方に貯湯される高温の湯の量が,太陽熱集熱器で得られる集熱熱量に応じて変化するように蓄熱運転の制御を行うことは,引用例1及び2には全く示唆されていない,仮に,深夜時間帯に部分沸き上げ方式を採用することが公知であるとしても,部分沸き上げ方式が構造的に不可能\な引用発明2に,全部沸き上げ方式を採用している引用発明1を組み合わせる動機付けを認めることはできないなどと主張する。しかしながら,部分沸き上げ方式が本件出願前の技術常識であり,仮に引用発明1が同方式とは異なる沸き上げ方式を採用するものであったとしても,当該技術常識を採用すること自体は,設計的事項にすぎないことは,先に述べたとおりである。
 また,引用発明1の「ヒートポンプ」と,引用発明2の「電気ヒータ」とは,「貯湯式給湯装置」において「太陽熱集熱器」とともに給湯用水を加熱し,沸き上げるとともに,「制御手段」により制御される「加熱手段」という同一の技術分野に属するものである。そして,相違点2は,給湯用必要熱量から太陽熱集熱器で得られる集熱熱量を減じた「必要沸き上げ熱量」に応じてヒートポンプユニットを蓄熱運転する「制御手段」の有無に係る相違点であるから,必要とされる熱量を蓄えるための制御方法については,全部沸き上げ方式であるか,あるいは部分沸き上げ方式であるかを問わず,いずれにおいても適用可能であることは明らかである。しかも,引用例2には,太陽熱と電気ヒータとを併用して貯湯する装置において,可能\な限り太陽熱を利用することにより,電気料金を必要とする電気ヒータの利用を抑制するという技術思想が開示されている以上,当業者が引用発明1に引用発明2を適用する動機付けも認められるものというべきである。

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平成23(行ケ)10265 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月09日 知的財産高等裁判所

 相違点4,5に係る構成に想到することは容易でなかったとして、進歩性違反無しとした審決が維持されました。
 本件明細書の段落・・・」との記載があり,他の実施形態についても同趣旨の記載がある。そうすると,本件発明2にいう「収集条件」とは,単に車両の「特定挙動」に関わるいかなる情報(データ)を収集・記録するかについての条件を意味するというべきであり,データレコーダの利用者(運転者)においてこの条件を任意に変更することができ,条件に係る数値(閾値)が記録媒体に記録される。他方,甲第1号証中の段落【0018】には,「表3はメモリカード3に記憶されるデータを示す表\である。・・・また,データ収集時における指示を予め設定しておくことによってサンプリング周期等を所望の値に容易に変更することができる。」と記載されており,表\3では,入力できるデータ項目として,「サンプリング周期」のほかに「データ選択指示」(サンプリングデータの要否選択データ)が掲げられている。そうすると,甲第1号証発明2にいう「データ収集時における指示」とは,車両の挙動に関わるデータ(交通事故発生時のデータを含む。)を収集・記録するのに先立って,データ収集装置の利用者が,データ収集・記録の周期(頻度)やいかなるデータを収集・記録するかにつき,設定・変更すること(指示)を意味するというべきである。そして,前記のとおり,本件発明1にいう「特定挙動に関わる情報」も甲第1号証発明1にいう「運行状態データ」も,例えば角速度のような車両の挙動ないし客観的状況を示すデータを主として指すもので,相違点1は実質的なものではないから,本件発明2にいう「収集条件」も甲第1号証発明2にいう「データ収集時における指示」も,車両の挙動ないし客観的状況を示すデータ(情報)を収集・記録するかについての条件である点において異なるものではない。そうすると,相違点3は実質的なものでないか,甲第1号証において,乗務員の車両運航を管理する固定局において「データ収集時における指示」を入力することが予定されており(甲1の段落【0017】),複数ないし多数の車両につき同一の条件で一括して「指示」をすることに繋がりやすいことを考慮しても,当業者において甲第1号証発明2に基づいて容易に解消できる程度のものにすぎない。(2) 前記のとおり,本件発明1においては交通事故の発生が必ずしも前提とされていないが,甲第1号証発明1のドライブレコーダとしての機能は,交通事故の発生を前提としており,記録媒体のデータを運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)の傾向を把握するために利用することは,甲第1号証中で記載されていないところ,かかる事情は本件発明2においても異なるものではない。そうすると,相違点4,5は実質的なものであり,また本件優先日当時,当業者において,甲第1号証発明2に甲第2号証に記載された発明を適用することは困難で,甲第3号証に記載された発明を適用しても,相違点4,5に係る構\成に想到することは容易でなかったというべきである。したがって,相違点3に係る構成は容易想到であるが,相違点4,5に係る構\成は容易想到でないから,本件発明2の進歩性を肯定した審決の判断に誤りはない。

◆判決本文

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平成22(ワ)30777 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年03月29日 東京地方裁判所

 実験する条件について動機づけがあるので進歩性なしとして、非侵害と認定されました。
 乙7には,「WB法より簡便かつ高感度な方法の確立を目的として,ELISA法について検討」した結果の報告である旨の記載があるが(前記(1)ア(ア)),遠心分離処理条件の検討がされた旨の記載はない。乙7記載の方法を更に簡便とするため,目的とする物質の遠心分離が達成できる範囲で遠心分離処理条件を変更し,その検出結果を検討することは,当業者が当然試みることといえる。そして,乙7及び乙9は,ELISA法に用いてPrPScを検出する試料の調製法に係る文献である点で,その技術分野を共通にするところ,乙7には,「脳又は脾臓」から試料を調製する場合に,両者を区別せずに「69,000×g」で遠心すると記載されているのに対し,乙9には,脾臓,リンパ節等については,遠心を40,000回転とする一方で,脳の場合には15,000回転とされていること(前記イ(ア)d)に照らすならば,乙7及び乙9に接した当業者であれば,乙7記載の方法において,「脳」(脳組織)から試料を調製する場合に,「69,000×g」の遠心分離処理条件に代えて,乙9記載の「毎分1万5000回転」の遠心分離処理条件(相違点に係る本件発明の構成)を適用することを容易に想到し得たものと認められる。
 (イ) これに対し原告は,界面活性剤の種類,分析対象組織の種類,適用される遠心分離の方法,洗浄,再沈殿などの精製工程の有無は,結果に大きく影響するところ,乙7及び乙9を検討すると,超遠心分離の適用が原則であること,乙7では,Zwittergentとサーコシルの組合せよりも,トリトンX−100とサーコシルの組合せの方が良好であったことなどからすると,Zwittergentを使用する乙9に記載された遠心分離の条件を,乙7における既に良好である方法を変更するために適用する動機付けが存在しないから,乙7に記載された発明に,乙9記載の遠心分離条件(相違点に係る本件発明の構成)を組み合わせることは容易想到とはいえない旨主張する。しかしながら,前記(ア)で述べたように,乙7記載の方法において,目的とする物質の遠心分離が達成できる範囲で遠心分離処理条件を変更し,その検出結果を検討することは,当業者が当然試みることであり,しかも,乙9には「脳」(脳組織)から試料を調製する場合の遠心分離の回転数について15,000回転と記載されていることからすると,乙7記載の方法に,乙9記載の遠心分離条件を適用する動機付けが存在するものといえること,乙7には,「脳」から試料を調製する場合に,「69,000×g」の遠心分離処理条件を変更することに問題があることを積極的に示唆する記載はなく,上記の適用について阻害事由もないこと照らすならば,原告の上記主張は,採用することができない。

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平成23(行ケ)10227 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月28日 知的財産高等裁判所

 H11年改正前の特30条について、同一発明でなくても適用すべきと争いましたが、認められませんでした。
 平成11年特許法改正による改正前特許法30条の改正は,新規性喪失の例外適用の拡大を目的とするものであり,改正前においては,新規性喪失の例外が適用される範囲は,特許出願に係る発明と発表等がされた発明とが同一である場合に限られていたが,当該要件を見直し,これを同一のみならず,自己の発表\等を行った発明から出願の発明が容易に発明をすることができた場合(両者に相違点が存在する場合)まで適用可能とし,当該発明の新規性又は進歩性の判断において,発表\等の行為を考慮しないこととする趣旨の改正であるとされる(甲11,乙2)。このように,改正前特許法30条においては,新規性喪失の例外が適用される範囲は,進歩性の判断の場合を含まず,新規性の判断の場合のみであると定められており,特許庁における運用についても,同様であったことについては,原告も争うものではない。平成11年特許法改正は,上記解釈及び運用を前提として,例外が適用される範囲を進歩性判断の場合にまで拡大したものである。
・・・・
原告は,平成11年特許法改正により,進歩性判断の場合にまで例外規定が拡大された趣旨をふまえ,改正前特許法30条の適用においても同様に解し,本件出願にもその趣旨を拡大して同条が適用されるべきであって,引用例1を引用例として用いることはできないと主張する。しかしながら,前記アの改正前特許法30条の解釈によれば,同条を原告主張のように拡大して適用することができないことは明らかである。原告の主張は採用できない。

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平成23(行ケ)10269 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月28日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。クレームも結構、興味深いです。
 本願発明は,複数のデバイスの間におけるデータの送受信を制御する手段として「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」の構成を採用したものであり,第1デバイスと第2デバイス,これらに対応する第1デバイスドライバと第2デバイスドライバを構\成に含むものである。これに対し,国際公開98/47074号(甲2,翻訳文は甲3)及び滝口政光「超初心者のためのWindows NT デバイスドライバ入門」Interface1999年6月号(甲4)によれば,これらの文献には,カーネルモードで動作するファイルシステムドライバ,中間ドライバ,デバイスドライバが階層を形成し,I/Oマネージャが,それら階層化されたドライバ間のデータの受渡しを仲介する技術が開示されているものの,そこで示されるドライバは,電子計算機に接続された同じデバイスに対する入出力要求を処理するために階層化されているものであり,このような階層化されたドライバが一体となって対応する各別のデバイス相互の関係に相当するものではないし,さらにその複数のデバイスを制御するそれぞれのデバイスドライバ相互の関係を示すものではない。これらの文献には,複数のデバイスの間におけるデータの送受信を制御するに際し,I/Oマネージャにアプリケーションプログラムからデバイスドライバへのデータの送受信を行うための共通のインターフェース手段として電子計算機を機能させる技術は開示されていない。そうすると,甲2文献及び甲4文献に開示されたI/Oマネージャは,複数のデバイスの間におけるデータの受渡し(送受信)を仲介(制御)するものではないから,本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」には相当せず,このようなI/Oマネージャを引用発明に適用したとしても,相違点1に係る本願発明の構\成には至らない。また,引用発明は,上記2で認定したとおり,ユーザモードで動作する制御エージェントが複数のソフトウェア・ドライバ(デバイスドライバに相当する。)を相互接続するものであり,かつ,各ソ\フトウェア・ドライバ自体に,ドライバを接続するための「接続ピン・インスタンス」を形成し,これによりソフトウェア・ドライバを相互接続するという方式を採用するものである。被告は,引用例において,ソ\フトウェア・ドライバを相互接続する際にI/OマネージャやIRPを用いてデータを伝送する具体例が記載されている旨主張するが,その具体例においても,ユーザモードで動作する制御エージェントにより相互接続が行われるのであって,I/Oマネージャが制御エージェントに代替し得る関係にはない。そうすると,このようなユーザモードで動作する制御エージェントや「接続ピン・インスタンス」の形成による相互接続に代えて,カーネルモードで動作する本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」に相当する構成を採用することが,当業者にとって容易に想到し得るとはいい難い。\n

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平成23(行ケ)10314 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月22日 知的財産高等裁判所

 相違点の認定が誤りであるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 本件訂正発明における「原料の表面を該無機質粘結材で被覆し」における「被覆」とは,原料の表\面の一部分に無機質粘結材が存在する程度では足りず,炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料の表面を覆うが,他方,原料に着火でき,原料のガス成分を燃焼できる程度を超えるほどには原料の表\面を覆わないことを意味するものと解される。これに対し,上記刊行物1の記載によれば,引用発明は,ロータリーキルンにて炭化処理して粒状化したパルプ廃滓をコークス代用成分として配合使用した豆炭,煉炭等の固形燃料に関する発明であり,i)パルプ廃滓は,予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましいこと,ii)ベントナイト等のバインダを添加しなくても,所定の収率で炭化物が得られるが,炭化物の微粉化を避け,比較的そろった粒状物を得るため,及びその収率を向上させるため,パルプ廃滓に予め0.5〜3.0%程度,水ガラス,でんぷんのり,ベントナイト等のバインダを添加すると有効的であること,iii)生成される粒状炭化物の結晶構造は多孔質であり,空気を豊富に含有することから,燃焼時にその含有空気が寄与して不完全燃焼のおそれがないことが認められる。以上によれば,引用発明は,炭化した際の微粉化を避け,比較的そろった粒状物を得るため,水ガラス,でんぷんのり,ベントナイト等をバインダとして添加するものであり,微粉化が避けられる結果,収率の向上が図られるものと理解することができる。したがって,引用発明において,原料であるパルプ廃滓とベントナイト等のバインダが混練された結果,パルプ廃滓の表\面にベントナイト等が一部存在しているとしても,ベントナイト等を用いてパルプ廃滓を被覆することにより,炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料の表面を覆っていると認めることはできない。上記のとおり,引用発明は,脱水したパルプ廃滓の表\面をベントナイト等で被覆しなくても酸化が抑制され炭化することができるものであり,本件訂正発明の上記炭化方法とは,その技術的意義を異にする。したがって,本件訂正発明の相違点1及び4に係る構成は,実質的な相違点とはいえないとした審決の判断には,誤りがあり,また,本件訂正発明の相違点1及び4に係る構\成に至ることが容易であるということもできない。

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平成23(行ケ)10214 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月07日 知的財産高等裁判所

 周知技術から容易想到でないとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 前記3のとおり,周知例1ないし3には,従来のサーマルプリンタにおいては,印刷媒体の温度によって印字濃度が影響を受けるという問題点があったことから,印刷媒体の温度に応じてサーマルヘッドへの印加エネルギーを制御するという技術が開示されているところ,引用発明のサーマルプリンタにあっても,印刷濃度が印刷媒体の温度の影響を受けるという問題を有することは,当業者に自明であるということができるから,引用発明において,この問題を解決するため,印刷媒体の温度を検知し,検知した媒体温度に基づいて,プリントヘッド要素に入力するエネルギーを補正すること自体は,当業者が容易に想到し得ることといわなければならない。しかしながら,本願発明は,周囲温度と,プリントヘッド素子に以前に提供されたエネルギと,プリントヘッド素子が印刷する予定の印刷媒体の温度とに基づいて,プリントヘッド素子の温度を予\測するステップを有するものであるが,周知例1ないし3には,印刷媒体の温度に基づいて,サーマルヘッド(本願発明の「プリントヘッド要素」に相当する。)への印加エネルギー(同様に「入力エネルギ」に相当する。)を補正することは記載されているといっても,この補正は印刷媒体の温度に基づいて補正されるべきエネルギーを計算するものであって,プリントヘッド要素の現在の温度を予測するのに際して印刷媒体の温度を考慮することは何ら記載も示唆もされていない。周知例1ないし3においては,印刷媒体の温度の影響を考慮して入力エネルギーを補正することによって,より適正な印刷ができるようにするとの目的を達成しているのであるから,周知例1ないし3は,プリントヘッド要素の温度を予\\測するために用いる要件として,印刷媒体の温度を選択することの契機となり得るものではない。また,引用例には,周囲温度及びプリントヘッド要素に以前に提供されたエネルギーに基づいてプリントヘッド要素の現在の温度を予測するという引用発明を上位概念化して捉えることを着想させるような記載はないから,引用例にはプリントヘッド要素の温度を予\測することが開示又は示唆されていると解釈した上で,印刷媒体の温度もプリントヘッド要素の温度に影響を及ぼす要素として周知であるとの事情を考慮することにより,プリントヘッド要素の現在の温度を予測する要件として,印刷媒体の温度を採用することが容易であるということもできない。したがって,引用発明に周知例1ないし3記載の周知の技術事項を適用しても,当業者が相違点に係る本願発明の構\\成を容易に想到することができたとはいえない。
(2) また,被告は,印刷媒体の温度に基づく補正において,単純に補正前のエネルギーに加算するのではなく,計算効率の観点から等式の形が大きく変更されないように,周囲温度とプリントヘッド要素に以前から提供されたエネルギーとに基づいて予測されるプリントヘッド要素の現在の温度Taに加算するように拡張した等式E=G(d)+S(d)Ta’を用いて,プリントヘッド要素に供給する入力エネルギーを計算することも,当業者が適宜設計し得ることであると主張する。しかしながら,印刷媒体の温度に基づいてプリントヘッド要素への入力エネルギーを補正するに当たり,印刷媒体の温度を考慮してプリントヘッド要素の温度を修正することは,周知例1ないし3に開示されていないし,入力エネルギーの計算効率を向上するために印刷媒体の温度を考慮してプリントヘッド要素の温度を修正することが技術常識であるとすべき根拠も見当たらないから,プリントヘッド要素の温度を修正して入力エネルギーを計算することが,当業者が適宜設計し得るものであるということはできない。\n

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平成23(行ケ)10182 審決取消請求事件(特許) 特許権 行政訴訟 平成24年02月21日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性否定されました。
 この点に関し原告は,「本願発明は,患者の問診情報を診察部門だけでなく管理,受付部門および待合室の端末機で利用することにより,例えば本願の願書に添付した明細書の段落【0023】に記載されているように診察の準備や優先的な誘導など診察までの手続などを効率よく行うことができるものであり,単に院内に多数の端末を設けて情報の使用を図るというものではないのに対して,引用例2に記載の発明では問診事項に特化したサーバの記載はなく,受付部門に端末がないことからも引用例2に記載の発明の端末機構を引用発明に適用しても本願発明の相違点1にかかる構\成とすることはできない」と主張する。しかし,本願明細書の段落【0023】の記載を考慮しても,本願発明は,端末機が「管理,受付部門,診察室および待合室にそれぞれ設けられ」,及び「入力された個人情報および受診情報(問診情報)は,医療機関のサーバへ送信されるとともに診察室に設置された端末機に送信される」との事項で特定されるにとどまるものであって,個人情報および受診情報が,管理,受付部門の端末機に送信されて,診察の準備や優先的な誘導などの診察までの手続を行うことまで特定されているとは認められない。

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平成23(行ケ)10165 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月12日 知的財産高等裁判所

 一致点の認定は誤りであるが、結論に影響がないとして、進歩性なしとした審決が維持されました。
 (1) 審決は,訂正発明1の「接着成分」の技術上の意義について,「基板上に着弾したスペーサ粒子分散液が乾燥する過程において接着力を発揮し,スペーサ粒子をより強固に基板に固着させる役割を有するもの」(訂正明細書の段落【0029】)であり,引用発明1の「粘接着性付与剤」は,粘接着性を向上させるためのものであって,この粘接着性がスペーサ粒子を基板に固着させることであることは明らかであるから,引用発明1の「粘接着付与剤」は,訂正発明1の「接着成分」に相当するとし,一致点と認定した。しかし,接着剤の技術分野において,「接着成分」と「粘接着性付与剤」は区別して用いられる概念と認められる(高分子学会編「高分子辞典」昭和51年11月20日4版発行〔甲23〕,特開2004−359769号公報〔甲27〕の段落【0035),特開2003−48929号公報〔甲28〕の段落【0063】,特開2000−239327号公報〔甲29〕の段落【0020】)。また,訂正明細書においても,「接着成分」に関する記載(段落【0029】)のほかに,一種の補助成分と解される「接着助剤」に関する記載(段落【0051】)があり,「接着成分」と「接着助剤」とを区別していることが認められる。さらに,甲1においても,スペーサ粒子の表面に設けられる「接着層」に関する記載(段落【0054】)のほかに,一種の補助成分と解される「粘接着性付与剤」に関する記載(段落【0084】)があり,「接着層」と「粘接着性付与剤」とを区別していることが認められる。そうすると,引用発明1の「粘接着付与剤」が訂正発明1の「接着成分」に相当するとし,両者が「前記スペーサ粒子分散液は,スペーサ粒子,接着成分及び溶剤からなるもの」である点で一致するとした審決の認定は誤りである。
 (2) しかし,甲1には,上記のとおり,スペーサ粒子は表面に「接着層」が設けられていても良いこと(段落【0054】),スペーサ粒子分散液には必要に応じて粘接着性を向上させるための「粘接着付与剤」を添加されていても良いこと(段落【0084】)が記載されており,これらの記載からみて,甲1においても,スペーサ粒子の基板に対する接着性の向上が意図されていることは明らかといえる。そして,特開2003−279999号公報(甲7)の段落【0039】,特開2004−37855号公報(甲9)の段落【0056】,特開2004−144849号公報(甲10)の段落【0048】,2004−170537号公報(甲11)の段落【0043】等の記載によれば,スペーサ粒子分散液に接着性を付与するために「接着成分」を配合することは周知技術といえるから,甲1に記載のスペーサ粒子分散液において,スペーサ粒子の基板に対する接着性を向上するために,「接着成分」を配合することは,当業者が必要に応じて適宜なし得ることにすぎないというべきである。したがって,引用発明1の「粘接着性付与剤」が訂正発明1の「接着成分」に相当するとした審決の認定自体は誤りであるものの,訂正発明1は引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に想到することができたとした審決の結論に影響を及ぼすものではない。\n

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平成23(行ケ)10108 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月29日 知的財産高等裁判所

 新規性違反無しとした無効審決が取り消されました。
 本件審決は,本件発明1と引用発明との相違点2として,「アニリン及びニトロベンゼンを…1種以上の4−ADPA中間体を生ずるように調節された量のプロトン性物質…の存在下に反応させる」か否かが不明である点を指摘する。しかしながら,本件発明1の「調節された量のプロトン性物質」には,プロトン性物質として水を使用した場合,無水条件が含まれることは,前記1(1)のとおりである。そうすると,引用例に,「アニリン及びニトロベンゼンを…1種以上の4−ADPA中間体を生ずるように調節された量のプロトン性物質…の存在下に反応させる」か否かが記載されていないことが,プロトン性物質を使用しない状態でその反応が行われることを意味するものであったとしても,その結果として,引用発明においても,アニリンとニトロベンゼンとの反応によって「4−ADPA中間体」に該当する化合物が生じているのであるから,本件発明1において,「調節された量のプロトン性物質」について,無水条件下であれば,プロトン性物質を使用しない状態でその反応が行われる場合と,引用発明とは,同じ条件下において,4−ADPA中間体を製造する方法であるということができる。したがって,相違点2は,以上認定の限度において,実質的な相違点ということはできない。イ この点について,被告は,本件発明1は,「1種以上の4−ADPA中間体を生ずるように調節された量のプロトン性物質及び適当な塩基の存在下に」と定めるものであるから,プロトン性物質の存在は必要不可欠であり,本件明細書における「無水条件」とは,当然に,水以外のプロトン性物質の存在を前提とするものであると主張する。しかしながら,当該前提自体が誤りであることは,前記1(1)のとおりである。被告の主張は採用することができない。
 (4) 相違点1について
ア 本件発明4は,本件発明1において,アニリンを含む「適当な溶媒系」を用いる発明であり,本件発明5は,本件発明4において,アニリンやジメチルスルホキシド等を溶媒として用いる発明であるから,本件発明1において使用される溶媒23には,アニリンが含まれるものということができる。また,前記1(1)イのとおり,本件明細書の実施例には,アニリン以外の溶媒を使用しない反応例が記載されている。イ 引用例には,アニリンが溶媒であることや,反応を溶媒中で行うことについて,明記されていないが,引用発明には,僅かではあっても過剰のアニリンを反応液中に含んでおり,過剰のアニリンが溶媒として機能することは否定できないし,そもそも化学反応において,必要に応じて,適宜,溶媒を用いることは,当業界における常套手段の付加にすぎないことが明らかである。したがって,相違点1も,実質的な相違点ということはできない。
 (5) 新規性に係る判断の誤りについて
以上からすると,相違点1及び2はいずれも実質的な相違点ということはできず,本件発明1は,プロトン性物質として水を用いる場合に,無水条件を含むものであるから,この構成を採用する点において,引用発明と同一の発明であるというほかなく,新規性を有しないものというべきである。\n

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平成20(ワ)27001 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年02月28日 東京地方裁判所

 特104条の3の規定により、権利行使不能と判断されました。
 ・・・(前記(2)ア,1(1)ア(エ))に照らすならば,別件知財高裁判決2が認定判断するように,乙C1記載発明において,二組のアーム同士及びコラムなどとの干渉を回避するために,ハンド部の伸縮方向を「第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向」とする構成を採用することは,設計事項にすぎないものということができる。(ウ) 以上によれば,当業者であれば,乙C1記載発明及び上記周知技術に基づいて,相違点1に係る本件発明2の構成を容易に想到することができたものというべきである。
・・・・
 以上のとおり,本件発明2は,当業者が乙C1記載発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明2は進歩性を欠くものであり,本件発明2に係る本件特許2には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。したがって,原告は,特許法104条の3第1項の規定により,被告に対し,本件発明2に係る本件特許権2を行使することができない。

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◆別件知財高裁判決2はこちらです。平成22年(行ケ)10034
 

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平成23(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月05日 知的財産高等裁判所

 技術的思想に反するもので本件発明の構成に改める発想が生じるはずがないとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 前記のとおり,引用発明のガスケット(6)に設けられた突条部17の役割は,その弾性力(反発力)で,可動側板(可動形側板4)を歯車端面側に押し付けることにあり,突条部17と可動側板の間に作動液(高圧流体)が侵入して,液圧でガスケットをケーシング(1)に押し付ける(押し上げる)こと等は想定されていないが,本願発明のガスケット又は可動側板に設けられる「凹欠」は,可動側板の溝の底部の隅(隅部)の「Rをとっている部位」すなわち曲面状の部位(部分)にまで達するように,例えば溝状の部分を設け,この部分に作動液が侵入できるようにして,ガスケットが作動液によって低圧側の溝壁に押し付けられたときでも,作動液の液圧で,ガスケットをケーシングに向かって押し付け,また可動側板を歯車端面に向かって押し付けて,可動側板の圧力バランス及び歯車端面に対する封止機能(シール)を確保できるようにするものである。そうすると,本願発明のガスケットの「Rをとっている部位」や「凹欠」が果たす機能\と引用発明のガスケットの突状部17等が果たす機能は異なり,引用発明のガスケットでは,可動側板(可動形側板4)の溝底隅部でガスケットと可動側板との間に作動液が侵入して可動側板の圧力バランスをとることが想定されていない。したがって,引用発明ではガスケットと可動側板(可動形側板4)との間の隙間10が可動側板の溝底隅の曲面状の部位(Rをとっている部位)にまで及ぶことが予\定されていない。また,刊行物1の8頁6ないし13行には,「前記隙間10内に導入された高圧流体の圧力によって,前記ガスケット6の帯状部16がボディ7の端壁7bの内面7cに押し付けられ固定されるので,高圧領域Hと低圧領域Lとの圧力差によってガスケット6が低圧領域側へはみだすという不都合も有効に防止されるものであり,該ガスケット6の耐久性を向上させることができる。」との記載があるから,引用発明のガスケット(6)と可動側板(可動形側板4)の構成には,作動液の液圧でガスケットの低圧側の側面を可動側板の溝の側面(内側面)に押し付け密着させて固定することで,ガスケットのそれ以上の低圧側へのはみ出しを有効に防止するという機能\があるということができる。ここで,ガスケットがかかる機能を発揮するためには,可動側板の溝の側面と底面が成す隅部に向かってガスケットが密着するように押し付けられるのが好ましく,上記溝の底面から離れるように,すなわち上記隅部付近でガスケットが可動側板から離れるように押し上げられると,ガスケットが上記溝の低圧側側面を超えてはみ出すおそれが生じるし,また,上記隅部付近でガスケットが可動側板を歯車端面に向かって押し付ける力を得る必要があるとはいえない。 そうすると,引用発明のガスケットと可動側板の構\成を,可動側板の溝の低圧側側面と底面が成す曲面状の隅部にまで作動液が侵入して可動側板の圧力バランスをとることができるよう,ガスケットと可動側板との間の隙間10が上記の曲面状の部位(Rをとっている部位)にまで及ぶように改めることは,突条部17の機能を害し,またガスケットの低圧側へのはみ出しを防止するという技術的思想に反するものであるから,上記構\成に改める発想が生じるはずはなく,当然のことながら当業者には容易に想到できる事柄ということはできない。
・・・
 また,本願発明のガスケットに相当する乙第3号証のリップシール(24)は,本願発明の可動側板に相当するサイドプレート(12)ではなく,反対側のカバー(14)に装着され,リップシールとサイドプレートの間に設けられたバックアップ(17)を介してサイドプレートを押し付けるもので,本願発明のガスケット及び可動側板と構成が相当異なるから,乙第3号証に記載された技術的事項を根拠に,本願発明のガスケット等の構\成が当業者が容易に行い得る設計変更(設計的事項)の範疇に属するということはできない。乙第4号証の図2,4からも,ガスケットに設けられた凹部の範囲及び形状は必ずしも明確でなく,その余の明細書中の記載でもガスケットに設けられた凹部の技術的意義が明らかでないから,上記図等に記載された技術的事項を根拠に,本願発明のガスケット等の構成が当業者が容易に行い得る設計変更(設計的事項)の範疇に属するということはできない。\n

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平成23(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月06日 知的財産高等裁判所

 引用文献の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 このように,刊行物1においては,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を成形型内で加工する技術が密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべきであるから,そこから鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出し引用発明の技術的思想として認定することは許されない。しかるに,審決は,引用発明として,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという上記の技術事項に触れることをせずに,したがってこれを結び付けることなく,単に成形型内で加工する技術のみを抜き出して認定したものであって,審決の引用発明の認定には誤りがある。これに伴い,審決には,成形型内で加工する点を一致点として認定するに当たり,これと関連する相違点として,本願発明は,「成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,…剪断加工を施す」のに対して,引用発明では,「成形品形状部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却」する点,「得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させ,剛性低下部を形成」する点,「剛性低下部にピアス加工を施す」点を看過した誤りがある。
(2) そこで,上記の誤りが審決の結論に影響を及ぼすかどうかについて検討するに,上記(1)で説示したとおり,刊行物1記載の引用発明は,焼入れ硬度を低下させた部位を設けることで加工を容易にすることを中心的な技術的思想としているのであって,これを前提として成形型内で加工を行う技術事項も開示されているにとどまると理解すべきであるから,これらの技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出しそこにのみ着眼して,看過された相違点に係る本願発明の構成とすることができるかの視点に基づく判断は,容易推考性判断の手法として許されない。\n

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平成23(行ケ)10155 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月15日 知的財産高等裁判所 

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が維持されました。
 以上のように,引用例において,「注釈」が,「メモ」及び「ブックマーク」を含むものであって,電子的出版物の読者がドキュメント中の特定箇所(コンテキスト部分)に関連付けることが可能なものであり,かつ,もとの出版物(ドキュメント)とは別々に格納することができる点で「メモ」,「ブックマーク」及び「プレースマーク」と並列して記載されていることに鑑みると,引用例にいう「注釈」は,「メモ」,「ブックマーク」及び「プレースマーク」を包括的に代表\するものとして記載されているものと認められる。このように,引用発明にいう「注釈」は,これに対応するテキスト(コンテキスト部分)とコーディネートにより関連付けられており,かつ,「ブックマーク」を含む概念であるから,引用例には,そこにいう「注釈」(ブックマーク)に,前記アに認定の,ブックマークに関する当該技術分野における周知技術を組み合わせることについて示唆ないし動機付けがあるものといえる。ウ 以上によれば,引用例に接した当業者は,電子的に作成された文書の特定の部分に関連付けられた特定の情報(ブックマーク)をユーザが選択した場合に,当該特定の情報(ブックマーク)に関連付けられた当該文書の特定の部分が表示画面上に別個に表\示されるというブックマークに関する当該技術分野における周知技術を,引用発明にいう「注釈」に適用することで,ユーザがドキュメントとは別々に格納された注釈を選択した場合に,上記関連付けを利用して,当該注釈に対応するドキュメント中の特定箇所(コンテキスト部分)を,当該注釈と併せて表示画面上に別個に表\示することについて容易に想到することができたものというべきである。

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平成23(行ケ)10176 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月29日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反および記載不備違反があるとした拒絶審決が維持されました。記載不備については、違反無しとされたものの、進歩性なしが維持されて、審決維持です。
 ちなみに、記載不備の理由は「磁性筒と磁石板まで含めて『回転軸』と称する」ことはできないというものでした。
 明確性要件違反の判断の誤り)について  確かに,請求項1(本願発明)の特許請求の範囲の記載は「可搬式水中電動ポンプ用DCブラシレスモータの回転軸」で結ばれているが,上記特許請求の範囲の記載を全体的に把握すれば,原告がDCブラシレスモータの回転軸体のみを発明の対象としているのではなく,回転軸体に磁性筒や磁石を取り付けた構成物(いわゆる回転子,ロータ)の全体を発明の対象としていることは明らかであって,原告が特定する「回転軸」も日常用語にいうそれ(軸体)ではなく,上記のとおりの概念で特定されるものをいうと解される。したがって,本願発明の特許請求の範囲の記載が一貫しないとして不明確であるとする審決の判断には誤りがある。もっとも,前記1のとおり,本願発明は進歩性を欠き,原告の不服審判請求を不成立とした審決は,その結論において正当であるから,上記判断の誤りによって審決を取り消すべきものとはならない。\n

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平成23(行ケ)10191 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月28日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。最後に差し戻し後の審判における認定手法について、付言がなされています。
 以上の記載によれば,甲1(甲6−2)には,オゾン層に悪影響を与えるHCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfc(特に,HFC−365mfc)を発泡剤としての使用が提案されていることが認められる。なお,HCFC−141bを,その熱的性能,防火性能\を理由として,依然として含有させるべきであるとの見解が示されているわけではないと解される。そうすると,甲1(甲6−2)において,HCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfcが好ましいとの記載から,混合気体からHCFC−141bを除去し,その代替物としてHFC−245faないしHFC−365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に予測できないとした審決の判断は,合理的な理由に基づかないものと解される。
・・・
5 付言
 当裁判所は,審決には,上記2ないし4において判断した他,次の点に問題があると解する。すなわち,一般に,審決が,「本件訂正発明が甲1に記載された発明に基づいて容易に想到することができたか否か」を審理の対象とする場合,i)引用例(甲1)から,引用発明(甲1に記載された発明)の内容の認定をし,ii)本件訂正発明と甲1記載の発明との一致点及び相違点の認定をした上で,iii)これらに基づいて,本件訂正発明の相違点に係る構成について,他の先行技術等を適用することによって,本件訂正発明1に到達することが容易であったか否か等を判断することが不可欠である。特に,本件においては,引用例の記載事項のいかなる部分を取捨・選択して,引用発明(甲1に記載された発明)を認定するかの過程は,引用発明として認定した結果が,本件訂正発明と引用発明との相違点の有無,技術的内容を大きく左右するという意味において,極めて重要といえる。しかし,本件において,審決では,引用発明の内容についての認定をすることなく(甲1の記載を掲げるのみである。),また本件訂正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定をすることなく(相違点が何であるか,相違点が1個に限るのか複数あるのか等),甲1の文献の記載のみを掲げて,本件訂正発明1の容易想到性の有無の判断をしている。当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由2及び4の誤りがあるとして,審決を取り消すべきものと判断したが,差し戻した後に再開される審判過程において,引用例記載の発明の認定及び本件訂正発明と引用例記載の発明との相違点等について,別途の主張ないし認定がされた場合には,その認定結果を前提として,改めて,相違点に係る容易想到性の有無の判断をした上で,結論を導く必要が生じることになる旨付言する。

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平成23(行ケ)10152 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月28日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。
 被告は,刊行物1の記載は,アクリル酸系誘導体が少なくとも約2000の重量平均分子量を有するのではなく,各塩素化ポリオレフィンにグラフトしたグラフト基の総分子量の平均が少なくとも2000であることを意味するものと解すべきであると主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり,採用できない。すなわち,刊行物1の【0009】段には,「該塩素化ポリオレフィンにグラフト化したアクリル酸系誘導体は,それが該塩素化ポリオレフィン上に予備調製したアクリル酸系ポリマーをグラフトしたものであるか,また該塩素化ポリオレフィン上にアクリル酸系モノマーがグラフト化し重合して得られたもの何れにおいても,少なくとも約2000の重量平均分子量を有するものである」と,【0047】段には,「予\備調整したアクリル酸系ポリマーは,重量平均分子量において約2000から約2百万である。」「アクリル酸系モノマーのグラフト化は,重量平均分子量で約2000から約2百万を有するグラフト化アクリル酸系ポリマーを調製するのに有効である。」と記載されているのであって,これらによると,予備調整したアクリル酸系ポリマーを塩素化ポリオレフィン上にグラフト化する場合であっても,アクリル酸系モノマーを塩素化ポリオレフィン上にグラフト化し重合する場合であっても,グラフト化したアクリル酸系誘導体が少なくとも約2000の重量平均分子量を有すると解すべきである。\n

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平成23(行ケ)10164 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月08日 知的財産高等裁判所

 一致点及び相違点の認定に誤りがあるものの,結論に影響を及ぼさないとして、進歩性なしとした審決を維持しました。
 以上のとおり,本件審決は,本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りがあり,この点において,原告の上記主張には理由があるといわざるを得ない。しかしながら,特許無効審判を請求する場合における請求の理由は,特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定しなければならないところ(特許法131条2項),同法29条2項の規定に違反して特許されたことがその理由とされる場合に審判及び審決の対象となるのは,同条1項各号に掲げる特定の発明に基づいて容易に発明することができたか否かである。よって,審決に対する訴えにおいても,審判請求の理由(職権により審理した理由を含む。)における特定の引用例に記載された発明に基づいて容易に発明することができたか否かに関する審決の判断の違法性が,審理及び判断の対象となると解するべきである。また,そう解することにより,審決の取消しによる特許庁と裁判所における事件の往復を避け,特許の有効性に関する紛争の一回的解決にも資するものと解されるのである。したがって,対象となる発明と特定の引用例に記載された発明との一致点及び相違点についての審決の認定に誤りがある場合であっても,それが審決の結論に影響を及ぼさないときは,直ちにこれを取り消すべき違法があるとはいえない。これを本件についてみると,本件審決において,本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りがあることは,上記のとおりであるが,前記のとおり,本件発明は,引用発明1に基づいては容易に発明することができないものであり,上記認定の誤りは,結局審決の結論に影響を及ぼさないものであって,本件審決に取り消すべき違法があるとはいえない。

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平成23(行ケ)10193 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月27日 知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。
 甲2公報〜甲4公報に開示された上記の技術事項に照らすと,椅子の背もたれ等に施療子が設けられ,制御回路がスイッチ操作等の入力に基づいて施療子を移動させる機能を備えたマッサージ機の技術分野において,施療子を移動させる際に突出量が大きいと,使用者の身体に対する危険がある,あるいは,駆動装置に大きな負荷がかかるなどといった問題の存在は,当業者にとって広く知られた周知の課題であったと認められ,そのような課題を解決するために,施療子の突出量を最小にして,あるいは突出量が小さくなるよう調整して移動させることも,周知の技術事項であったと認められる。このような課題は,施療子を人体に沿って移動させることにより一般的に生じるものであって,甲2公報〜甲4公報に開示されたマッサージ機のように施療子を背もたれ等に設けた場合に特有の課題ではない。そして,甲1発明のマッサージ機は,施療子が脚支持台ごと脚部に沿って移動する構\成を備えているが,全体としてみると椅子式マッサージ機であって,甲2公報〜甲4公報に記載された椅子式マッサージ機とは同一の技術分野に属するものであり,施療子を設けた場所は異なるとしても,施療子が身体に沿って移動するという点においては技術的に共通するものであるから,当業者が,脚部用の移動する施療子を設けた甲1発明に接した場合に,施療子の移動に関する上記の一般的な課題を認識し,これを解決するために周知の技術事項を甲1発明に適用して,スイッチ操作等の入力に応じて制御回路が(脚支持台ごと)施療子を移動させる際に,突出量を最小とする,すなわち非突出状態とすることや,突出量を適宜小さく調整することは,甲1公報自体に示唆等がなくとも,適宜なし得ることというべきである。

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平成23(行ケ)10158 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年01月30日 知的財産高等裁判所

 進歩性がないとして無効とした審決が維持されました。
   原告は,本件発明1と甲第1号証発明とでは,解決すべき技術的課題が異なるし,甲第1号証発明ではモーメント剛性の向上を考慮していないから,当業者が甲第1号証に基づいて本件発明に想到するのは容易ではないなどと主張する。しかしながら,転がり軸受装置において,負荷容量と剛性の両立は一般的技術的課題であるから,いずれの点に重点を置くかという問題にすぎず,甲第1号証で剛性の向上が明示されていないとしても,剛性の確保が念頭に置かれていることは否定できないし,甲第1号証に接した当業者が上記の一般的技術的観点から剛性の向上を考慮するのは当然である。加えて,前記のとおり,甲第1号証では,2列の軌道のPCDが等しい構成(第1図)から2列の軌道のPCDが相異なる構\成(第7図)に改めることで,軸受負荷中心間距離を大きくし,モーメント剛性を向上させていることを当業者において容易に認識することができるから,甲第1号証においてもモーメント剛性の向上が実質的に考慮されているということもできる。反対に,車両用転がり軸受装置に関する一般的技術的知見を記載した甲第22号証においても,車両用転がり軸受装置(ホイール軸受装置)に要求される基本的性能として,剛性のほかに寿命も挙げられているから(52頁),負荷容量の増大が考慮されているのは当然であって,甲第22号証中の剛性の向上のための技術的事項を甲第1号証発明に適用することができるとして何ら差し支えはない。\n

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◆こちらは関連事件です。平成23(行ケ)10068

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平成22(ワ)31756 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年02月22日 東京地方裁判所 

 進歩性なしとして、権利行使不能と判断しました。
 乙8発明で挙げられた被処理物のうち,「醸造施設においてのモロミ」及び「食品製造施設においての水産物その他の加工食品」が食品原料に当たることは明らかであり,乙8発明の技術分野は本件訂正発明における食品原料の濾過システムの技術分野を含むものであるから,相違点i)は実質的な相違点とは認められない。次に,相違点ii)について検討すると,乙8文献に,ケーシング20の目詰まり防止が技術的課題として示されていることは,前記第4の2(3)エ(ア)でみたとおりであるところ,乙8発明が食品原料以外の汚泥,産業廃棄物等にも利用することができるものであることは前記のとおりであって,上記技術的課題は,被処理物の種類にかかわらず共通のものとして示されているものということができる。そうすると,乙8発明に接した食品原料の濾過システムの技術分野の当業者は,汚泥,産業廃棄物等の処理技術が食品原料の濾過システムの分野における技術分野に適用できることを容易に認識することができる。また,乙8発明には,上記目詰まり防止という課題の解決手段として,適宜の圧力を付与した清浄水を噴射させる方法が示されているものであることは前記第4の2(3)エ(ア)のとおりであって,乙8発明には,上記技術的課題を解決するための他の手段を検討するについての動機付けが存在するものということができる。そして,乙7発明は,汚泥の濾過式脱水圧搾機に関するものであり,上記濾過式脱水圧搾機の濾過孔の目詰まりを解消するため,スクリューコンベアブレードの外側端部の全体に沿って,濾過式脱水用媒体の内周面と隙間なく連続的に接触するコイルばね式清掃用ブレードを設け,これにより上記内周面に付着する固形物を清掃するものであることは前記第4の2(1)ア(オ)のとおりであり,乙7発明は,脱水処理機における濾過孔の目詰まり防止を技術的課題とするものであるということができる。そうすると,食品原料の濾過システムの技術分野における当業者は,目詰まり防止に関する技術が食品原料を被処理物とする場合に限定されず,汚泥処理技術にも共通することを容易に認識できるものである以上,乙8発明に接することよって,前記技術的課題(脱水処理装置における濾過孔の目詰まり防止)を動機付けられ,さらに,乙8発明と乙7発明は,技術的課題を共通にするものと認識した上で,解決課題において共通する乙7発明に記載された技術を適用し,上記課題解決手段として,乙7発明に示されたコイルばね式清掃用ブレードを適用して,乙8発明に記載された脱水処理装置を,シャフトの送り羽根先端に沿って,ケーシング20内周面と隙間なく連続的に接触するコイルばね式清掃用ブレード(「スクリュ状羽根の外周端面全域に沿って,前記フィルタエレメントと摺接し,スクリュ状羽根の前後に隙間を開けずに設けたスクレーパ機構」)を有するものとし,ケーシング20内周面に付着する固形物を清掃できる(「前記フィルタエレメントの周面に付着する濾カス固形分を引掻除去できる」)ことを特徴とするスクレーパ濾過システムとすることは容易であるということができる。\n

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平成23(行ケ)10105 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月07日 知的財産高等裁判所

 画面の入力インターフェイスについて、進歩性なしとした審決が維持されました。
 上記記載によれば,画面表示部を有する情報処理装置において,メニューを文字又は画像の情報と重ねて配置して表\示することは,原出願の出願時(平成9年11月27日),当該技術分野においてほぼ周知の技術であったと認めることができる。
(4) 本願補正発明と引用発明との対比 前記(1)ないし(3)から本願補正発明と引用発明とを対比すると,両者の一致点及び相違点の認定並びに相違点(1)及び相違点(2)に対する判断は,審決の認定・判断(5頁9行〜7頁下8行)のとおりであって,本願補正発明は,引用発明及び甲2文献に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものと認めるのが相当である。

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平成23(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月06日 知的財産高等裁判所

 引用発明の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
 上記2のとおり,刊行物1記載の発明は,加熱状態の鋼板をプレス成形により急冷・焼入れし,その後に加工するという従来技術においては,焼入れにより硬度が上昇してその後の加工が困難になるなどといった問題点があったことから,これを解消するために,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させる,すなわち,加工が必要な部位の焼入れ硬度を低下させ,その部位の加工を容易にすること(【請求項1】,第1実施形態に係る発明)を中心的な技術的思想とするものである。そして,プレス成形に引き続き成形品が冷却され硬化する前に成形型内で加工を行うという構成(【請求項9】,第4実施形態に係る発明)についても,【請求項9】が【請求項1】を全部引用していることに加え,「第9の発明では,第1の発明の効果に加えて…」(段落【0012】),「本実施の形態(判決注:第4実施形態)においては,第1実施形態における効果…に加えて,下記に記載した効果を奏することができる。」(段落【0076】)などの記載があることに照らすと,成形型内で加工を行うに当たっても,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工することが前提となっているものと認められる。このように,刊行物1においては,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を成形型内で加工する技術が密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべきであるから,そこから鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出し引用発明の技術的思想として認定することは許されない。しかるに,審決は,引用発明として,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという上記の技術事項に触れることをせずに,したがってこれを結び付けることなく,単に成形型内で加工する技術のみを抜き出して認定したものであって,審決の引用発明の認定には誤りがある。これに伴い,審決には,成形型内で加工する点を一致点として認定するに当たり,これと関連する相違点として,本願発明は,「成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,…剪断加工を施す」のに対して,引用発明では,「成形品形状部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却」する点,「得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させ,剛性低下部を形成」する点,「剛性低下部にピアス加工を施す」点を看過した誤りがある。
(2) そこで,上記の誤りが審決の結論に影響を及ぼすかどうかについて検討するに,上記(1)で説示したとおり,刊行物1記載の引用発明は,焼入れ硬度を低下させた部位を設けることで加工を容易にすることを中心的な技術的思想としているのであって,これを前提として成形型内で加工を行う技術事項も開示されているにとどまると理解すべきであるから,これらの技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出しそこにのみ着眼して,看過された相違点に係る本願発明の構成とすることができるかの視点に基づく判断は,容易推考性判断の手法として許されない。\n

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平成21(行ケ)10284 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年01月27日 知的財産高等裁判所

 プロダクトバイプロセス特許について、無効理由なしとした審決が維持されました。主文の前に「当裁判所は特許法180条の2の規定に基づき特許庁長官の意見を聴いた上,次のとおり判決する」と記載されています。
 特許無効審判請求における発明の要旨の認定方法
(ア) 本件訴訟において審理の対象とされているのは,特許庁が平成21年8月25日付けでなした本件審決の当否であり,一方,本件審決がその審理の対象としているのは,原告が平成20年3月27日でなした本件特許についての特許無効審判請求である。ところで,上記特許無効審判請求は,特許法123条に基づく請求であるが,その第1項本文は「特許が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において,2以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」と定め,また,その対象となる特許権については特許法66条が,その第1項において「特許権は,設定の登録により発生する」とし,その第3項において「前項の登録があったときは,次に掲げる事項を特許公報に掲載しなければならない。」とした上,特許権者の氏名・発明者の氏名・願書に添付した明細書及び特許請求の範囲・図面等が特許公報の記載対象となるとしている。そうすると,特許権の設定登録後になされる手続である特許無効審判請求において,特許庁がその審理の対象として把握すべき請求項の具体的内容(発明の要旨)は,特許公報に記載された請求項(特許請求の範囲)によりなされるべきものであり,そこには「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されている(特許法36条5項)ほか,「特許を受けようとする発明が明確である」(明確性要件,36条6項2号)とともにその「記載が簡潔である」(36条6項3号)必要があることになる。特許法における上記の規定,特に,特許公報の公示機能を考慮すると,無効審判事由の有無の前提となる発明の要旨の認定においては,特許請求の範囲の記載の全てが基準になるのが原則であるというべきである。
したがって,本件のように「物の発明」に係る「特許請求の範囲」にその物の製造方法が記載されている場合,当該発明の要旨の認定は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構\造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした特許法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,特許法36条6項2号にも反しないと解される。そして,そのような事情が存在する場合の発明の要旨の認定は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されることとなる。
ところで,物の発明において,特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合,このような形式のクレームは,広く「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と称されることもあるが,前述の観点に照らすならば,上記プロダクト・バイ・プロセス・クレームには,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能\又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)と,「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能\又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)の2種類があることになる。
そして,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の要旨の認定は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈されるのに対し,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の要旨の認定は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈されることになる。この場合,特許無効審判手続を主宰する審判官としては,発明の対象となる物の構成を,製造方法によることなく,物の構\造又は特性により特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在すると認めることができたときは真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとして扱うが,全証拠によるも上記事情があると認めるに足りないときは,これを上記にいう不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとして扱うべきものと解するのが相当である。
(イ) そこで,以上の見地に立って本件についてみると,証拠(甲1,6)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許の優先日(平成12年〔2000年〕10月5日)当時,本件訂正発明1に開示されているプラバスタチンナトリウム自体は,当業者にとって公知の物質であり,また,プラバスタチンラクトン及びエピプラバは,プラバスタチンナトリウムに含まれる不純物であることが認められる。したがって,特許請求の範囲請求項1の記載における「プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」の構成は,不純物であるプラバスタチンラクトン及びエピプラバが公知の物質であるプラバスタチンナトリウムに含まれる量を数値限定したにすぎないものであるから,その記載自体によって物質的に特定されていると認められる。そうすると,特許請求の範囲請求項1に記載された「プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」という「物」は,その当該物の特定のために,その製造方法を記載する必要がないものである。したがって,本件訂正前発明1は物の発明に係る特許請求の範囲の記載中に発明の対象となる物の製造方法が付加して記載されているものの,当該発明の対象となる物を,製造方法によることなく,その構\造や特性により直接的に特定することが出願時において不可能,困難であるとの事情が存在するとは認められないから,特許無効審判請求における発明の要旨の認定は,特許公報に記載された特許請求の範囲に基づいてその記載どおりに行われるべきであり,その内容は,以下のとおりのものとなる。「次の段階:a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そしてe)プラバスタチンナトリウム単離すること,を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。」そして,特許請求の範囲はその後の本件訂正により変更されているので,検討の前提となる請求項1(本件訂正発明1)の内容は,次のとおりのものである。「次の段階:a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そしてe)プラバスタチンナトリウムを単離すること,を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。」\n

◆判決本文

◆関連の侵害訴訟です。平成22(ネ)10043平成24年01月27日知財高裁

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平成23(行ケ)10065 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年01月31日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が維持されました。
 上記(1)認定事実によれば,PC,データ端末を用いて遠隔アクセスできるコンピュータ・ネットワーク装置によってアクセスするために,加入者の個人電話番号帳及び加入者の発信履歴と着信履歴等の加入者に関する電話番号情報をデータベースに記憶し,この電話番号情報の表示のためにコンピュータ・ネットワーク装置を遠隔アクセスすること,また,表\示された電話番号を指定することによって,指定された電話番号へ自動的に発信させること,及びデータ端末と電話端末との連携動作により,効率的かつ操作性に優れたオフィスワークやコミュニケーションが実現できることが,記載されている。そして,引用発明1は,利用者がデータ端末を操作して,このデータ端末とLANで接続され遠隔アクセスできるコンピュータに対し,上記データ端末と協調関係にある音声端末と他の音声端末とを接続するように要求を出し,上記コンピュータから二者間接続のメッセージを受けた交換機が接続を確立するものであるから,引用発明1において,利用者による上記データ端末操作を操作性に優れ,効率よく行えるようにすることは,当然に考慮されることである。そうすると,引用発明1において,データ端末とLANで接続され遠隔アクセスできるコンピュータに,加入者の個人電話番号帳及び加入者の発信履歴と着信履歴等の加入者に関する電話番号情報を記憶し,上記電話番号情報の表示のためにデータ端末から上記コンピュータに遠隔アクセスすることは,音声端末間の接続要求のためのデータ端末操作を操作性に優れ,効率よく行えるようにするために,上記の技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものと解するのが相当である。また,LAN(構\内通信網)上のサーバに情報を記憶しておき,ウエブ・ブラウザからサーバの該情報にアクセスして,ウエブ・ブラウザ上で該情報を表示することは,本願の優先日前において,当該技術分野における常識的な技術であると認められるから,引用発明1に上記の技術を適用する際に,コンピュータをウエブ・サーバとし,データ端末からLANで接続されたコンピュータへの遠隔アクセスに,ウエブ・ブラウザを用いることは,当業者が通常実施する手段といえる。以上によれば,引用発明1において,相違点2に係る構\成とすることは,上記周知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得たとした審決の判断に誤りはない。

◆判決本文

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平成23(行ケ)10142 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年01月31日 知的財産高等裁判所

 進歩なしとした審決が、動機づけなしとして取り消されました。
 引用発明は,セラミック製の調理容器で調理を行うときは,芋等が内部加熱され水分が蒸発するとともに風味が著しく損なわれるという従来の問題点に鑑み,フェライト材(マイクロ波を吸収して発熱し,赤外線を放射する。)とセラミック材(マイクロ波を透過する。)とが併存するように被調理物加熱層14を構成し,フェライト材におけるマイクロ波の吸収に起因した外部加熱と,セラミック材におけるマイクロ波の透過に起因した誘電加熱とを併用するものである。引用刊行物2には,調理品等の味覚が損なわない新たな解凍技術として開発された発明であること,解凍又は加熱するときにその組成の違う物資が混在しているなかでマイクロ波を直接,照射すると解凍又は加熱すべき素材は全体が均一な温度による解凍又は加熱が困難であり,解凍又は加熱後の温度むらの原因は油脂部分等にマイクロ波が集中的に吸収されるなどして,全体に均一な温度の解凍又は加熱ができないこと,そこで,磁性体シートにおけるキュリー温度相当の外部加熱のみによって素材を加熱するため,磁性体シートを透過したマイクロ波をアルミ箔等の遮断層で反射することによって,素材にマイクロ波が直接当たらないように遮断することが記載され,さらに,段落【0013】には,磁性体シートは,マイクロ波の吸収による発熱の機能\を担うのであってマイクロ波の遮断までも担うものではないこと,マイクロ波の遮断機能を担うのはアルミ箔等であることが示されている。
以上によれば,引用発明は,調理品等の味覚が損なわれるのを防止するためフェライト材とセラミック材とが併存するように被調理物加熱層14を構成し,マイクロ波の外部加熱と赤外線の誘電加熱とを併用加熱することによって,課題を解決するものであるのに対して,引用刊行物2記載の技術は,素材に対し,均一な温度による解凍又は加熱を実現するため,マイクロ波を対象物に直接照射させないようにアルミ箔などで遮断して,外部加熱のみによって素材を加熱するものである。
すなわち,引用発明は,素材を内外から加熱することに発明の特徴があるのに対して,引用刊行物2記載の技術は,マイクロ波の素材への直接照射を遮断することに発明の特徴があり,両発明は,解決課題及び解決手段において,大きく異なる。引用発明においては,外部加熱のみによって加熱を行わなければならない必然性も動機付けもないから,引用発明を出発点として,引用刊行物2記載の技術事項を適用することによって,本願発明に至ることが容易であるとする理由は存在しない。したがって,審決が,引用刊行物2記載の示唆に基づいて,引用発明の内部加熱のための被調理物加熱層14を透過するマイクロ波の一部が透過しないように被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ波を遮蔽するようなすことは当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことを前提に,本願発明の相違点Aに係る構成に至ることが容易であるとした判断は,前提を欠くものであり,誤りというべきである。

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平成23(行ケ)10149 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年12月22日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が、取り消されました。
 上記(1)及び(2)のとおり,巻線型コイルとICチップとの接続構造において,銅製の巻線型コイルに接続されるICチップの接続端子の最外層を構\成する金層の厚さを10μmないし15μmとすることは,本件特許出願当時,適宜想到することができた事項であり,また,厚さを10μmないし15μm程度とした金膜と巻線型コイルとの熱圧着について,Au/Cu全率固溶体が形成されるようにすることも,当業者において容易に想到することができたものであるから,そうであるにもかかわらず,金膜と巻線型コイルの銅との塑性流動やAu/Cu全率固溶体の生成との関係で,金膜の厚さを10μmないし15μmとする本件訂正発明1の構成が進歩性を有するとするためには,本件訂正明細書の記載に基づき,金膜の厚さを10μmないし15μmとすることによる格別の作用効果の有無が検討されるべきであり,10μmを下回る厚さや15μmを上回る厚さの金膜が接続端子等の下地上に配された場合にも塑性流動することを示す証拠がない以上,本件訂正発明1の上記構\成は進歩性を有するとの被告の主張は採用できない。そして,本件訂正明細書からは,金膜の厚さを10μmとした実施例1及び15μmとした実施例2において,銅製の巻線型コイルと接続端子の金膜との界面付近で塑性流動が生じてAu/Cu全率固溶体が生成されたことは読みとることができるものの(【0033】〜【0036】【0039】【0045】),金膜の厚さを10μmから15μmの間の数値とした場合に,その範囲外の数値とした場合に比して,金膜と巻線型コイルの銅との塑性流動性やAu/Cu全率固溶体の生成において格別の作用効果を奏するとの記載はないから,本件訂正発明1の上記構成が進歩性を有するということはできない。\n

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平成23(行ケ)10130 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年01月16日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、論理付けが不充分として取り消されました。
 ・・・かかる原告の主張は,運搬・施工時の衝撃に対する強度の記載が一切なく,被着体保護用途が想定されない引用発明2を材料自体の性質,製造可能性の観点から検討しただけでは,引用発明1Aとの組合せの論理付けがなされていないというものと解される。そこで検討するに,審決は,「プラスチックフィルム等を用いる包装材において,新たな機能\を付与しようとすれば新たな機能を有する層を付加するのは当業者の技術常識といえ,逆に,従来複数の層により達成されていた機能\を例えば一層で達成できるならば,従来の複数の層に代えて新たな一層を採用し,製造の工程や手間やコストの削減を図ることも,当業者の技術常識といえる。すなわち,二層の機能を一層で担保できる材料があれば,二層のものを一層のものに代えることは当業者が当然に試みることである。」(28頁1行〜8行)と当業者の技術常識を認定している。しかし,積層体の発明は,各層の材質,積層順序,膜厚,層間状態等に発明の技術思想があり,個々の層の材質や膜厚自体が公知であることは,積層体の発明に進歩性がないことを意味するものとはいえず,個々の具体的積層体構造に基づく検討が不可欠であり,一般論としても,新たな機能\を付与しようとすれば新たな機能を有する層を付加すること自体は容易想到といえるとしても,従来複数の層により達成されていた機能\をより少ない数の層で達成しようとする場合,複数層がどのように積層体全体において機能を維持していたかを具体的に検討しなければ,いずれかの層を省略できるとはいえないから,二層の機能\を一層で担保できる材料があれば,二層のものを一層のものに代えることが直ちに容易想到であるとはいえない。目的の面からも,例えば材質の変更等の具体的比較を行わなければ,層の数の減少が製造の工程や手間やコストの削減を達成するかどうかも明らかではない。引用発明2は,粘着剥離を繰り返せる標識や表示として使用される自己粘着性エラストマーシート(いわばシール)に関する発明であって,被着体の運搬・施工時の衝撃から被着体を保護するための気泡シートに関する発明である引用発明1Aとは技術分野ないし用途が異なるものである。当業者は,発明が解決しようとする課題に関連する技術分野の技術を自らの知識とすることができる者であるから,気泡シートの分野における当業者は,引用発明1Aが「粘着剤層32」を有していることから「粘着剤」に関する技術も自らの知識とすることができ,「粘着剤」の材料の選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮できるとしても,引用発明1Aを構\成しているのは「粘着剤層32」であるから,当業者は,気泡シート内でポリオレフィンフィルム31上に形成されている粘着剤層32に関する知識を獲得できると考えるのが相当であり,両者を合わせて気泡シートの構造自体を変更すること(すなわち,「ポリオレフィンフィルム31上に形成されている粘着剤層32」という二層構\造を,気泡シートの構造と粘着剤の双方を合わせ考慮して一層構\造とすること)まで,当業者の通常の創作能力の発揮ということはできないというべきである。(3) したがって,引用発明1Aにおいて,「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7〜25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて「一層」からなるライナーフィルムとすることは容易想到でなく,そうすると,引用発明1Aに引用発明2を適用することは容易想到であるとはいえない。

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平成22(行ケ)10311 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年12月22日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。
 本件発明は,その特許請求の範囲(前記第2の2)に記載のとおり,本件各化合物が飛灰中の重金属を固定化できるということを技術思想とする,本件各化合物からなる飛灰中の重金属固定化処理剤であるから,本件発明が引用例1に記載されているといえるためには,引用例1に本件各化合物からなる飛灰中の重金属固定化処理剤についての記載があるか,本件優先権主張日当時の技術常識を参酌することにより引用例1にそれが記載されているに等しいといえる必要がある。前記(3)に認定の引用例1の記載によれば,引用例1には,本件化合物2が銅等の重金属とキレートを形成し,沈殿することについての記載があるといえる。そして,引用例1は,本件化合物2の分析的性質に関心を持って行われた実験において,pHの酸性領域からアルカリ性領域のうちの各範囲における本件化合物2と前記各種の重金属との間でのキレートの沈殿を確認したというものであるから,本件化合物2の水溶液中に重金属イオンのほか,酸性化剤,アルカリ性化剤又は緩衝溶液しか存在しないという環境下での本件化合物2のキレート能力を明らかにしているものといえる。他方,廃棄物等の焼却により生ずる飛灰とは,集塵機等で捕集された灰をいい,その中には,比較的多量のSiO2,CaO,Al2O3,MgO,Na2O,K2O,SO4及びClなど各種の化学成分のほか,重金属としてNi(ニッケル),Cd(カドミウム),Cr(クロム),Cu(銅),Pb(鉛)及びHg(水銀)など,多様な物質が含まれている(甲28)ところ,引用例1は,飛灰中の重金属の固定化とは技術分野を異にする学術論文であって,本件化合物2の水溶液中に対象となる重金属イオン以外にはキレート形成に関与する物質が存在しないという環境下での本件化合物2のキレート能\力を明らかにしているにすぎず,引用例1は,本件各化合物が,飛灰を水と混練するという環境下で,そこに含まれる上記の多様な物質の中で鉛等の重金属と錯体を形成し,これを固定化するものであることについては何らの記載もない。
・・・
ア 前記(4)に認定のとおり,引用例1には,本件各化合物からなる飛灰中の重金属固定化処理剤についての記載があるとはいえないから,本件発明が記載されているに等しいといえるためには,水溶液中の重金属をキレート化できる化合物は,飛灰中の当該重金属を当然にキレート化できることが本件優先権主張日当時の技術常識であったといえなければならない。そして,原告は,引用例1及び甲75に基づき,上記技術常識の存在を主張しているところ,甲75は,「金属の沈殿剤としての二置換ジチオカルバメート(「カルベート」)」と題する学術論文(昭和25年(1950年)刊行)であって,そこには,対象となる重金属イオン以外にはキレート形成に関与する物質が存在しないという環境下において,ピペラジンを含むアミンの二置換ジチオカルバメートが鉛等の重金属の沈澱物を良好に沈殿させ,フィルター濾過等を容易にさせる旨の記載がある。しかしながら,重金属に対するキレート能力のある化合物は,非常に多種類にわたるところ,これらがいずれも化学構\造を異にする以上,そのキレート能力の有無及び程度が同じであるとはいえないことは,明らかであるから,ある化合物に特定の環境下でのキレート能\力があるからといって,飛灰を水と混練するという環境下で,そこに含まれる前記の多様な物質の中で鉛等の重金属と錯体を形成し,これを固定化する能力が当該化合物にあることを裏付けることにはならない。したがって,ある化合物に水溶液中の重金属をキレート化する能\力があることが知られていたとしても,そのことは,その対象が飛灰に含まれている当該重金属を当然にキレート化できることを裏付けるものではない。したがって,引用例1及び甲75の記載があるからといって,水溶液中の重金属をキレート化できる化合物は,飛灰中の当該重金属も当然にキレート化できることが本件優先権主張日当時の技術常識であったと認めるには足りない。

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平成22(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年12月22日 知的財産高等裁判所 

 記載不備違反、進歩性違反なしとした審決が維持されました。裁判所が実施可能要件およびサポート要件についての一般論を述べています。
 特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。そして,物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(特許法2条3項1号),物の発明については,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要があるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能\要件を満たすということができる。これを本件発明についてみると,本件発明は,いずれも物の発明であるが,その特許請求の範囲(前記第2の2)に記載のとおり,本件各化合物(ピペラジン−N−カルボジチオ酸(本件化合物1)若しくはピペラジン−N,N′−ビスカルボジチオ酸(本件化合物2)のいずれか一方若しくはこれらの混合物又はこれらの塩)が飛灰中の重金属を固定化できるということをその技術思想としている。したがって,本件発明が実施可能であるというためには,本件明細書の発明の詳細な説明に本件発明を構\成する本件各化合物を製造する方法についての具体的な記載があるか,あるいはそのような記載がなくても,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基づき当業者が本件各化合物を製造することができる必要があるというべきである。
・・・・
 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。(2) 本件明細書のサポート要件の充足性についてこれを本件発明についてみると,本件発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件出願日当時,そこに記載の本件各化合物の製造方法が当業者に周知の技術であったことは,前記1(3)に認定のとおりである。また,前記1(2)エ(エ)に認定のとおり,本件明細書には,BF灰に,水と本件化合物2の塩を0.4ないし0.8重量%加え,混練したものから重金属の溶出が抑制されていることが記載されている(重金属固定化能試験)。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件各化合物が飛灰中の重金属の固定化処理剤として使用できる旨の記載があるといえる。そして,前記1(2)ウに認定のとおり,本件発明の目的は,飛灰中に含まれる重金属を安定性の高いキレート剤を用いることにより簡便に固定化できる方法を提供することであり,上記のとおり,重金属固定化能試験に関する発明の詳細な説明の記載により,当業者は,本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。以上によれば,本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができる。
・・・・
 特許法は,発明の公開を代償として独占権を付与するものであるから,ある発明が特許出願又は優先権主張日前に頒布された刊行物に記載されているか,当時の技術常識を参酌することにより刊行物に記載されているに等しいといえる場合には,その発明については特許を受けることができない(特許法29条1項3号)。

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平成23(行ケ)10140 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年12月19日 知的財産高等裁判所

 一致点の認定が誤りであるとして、進歩性なしとして審決を取り消しました。
 本願明細書(乙4)には前記(1)アのとおりの記載があり,段落【0003】,【0004】,【0006】等の記載からすれば,本願発明1の「高温炉」においては,超微粒子を含んだ霧粒が高温炉の壁に接触することによって,高温の超微粒子と高温の水蒸気(又は溶剤)に分解するように,炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低く,また超微粒子と水(溶剤)が分離する温度以上の温度範囲の温度に加熱されるものと認められる。一方,引用発明(乙1)は,審決が認定するとおり,「前記霧をベクターガスにより,導管を通じてチャンバー内のプレートの誘電体表面へ運び,前記チャンバーでは,誘電体表\面を約380℃から430℃の温度へ上昇させたプレートに霧が接近するにつれて溶媒が蒸発し,マグネシウムの有機金属化合物を熱分解させてプレートの表面に多結晶化された酸化マグネシウムの付着層を生じさせる」ものであって,プレートは加熱されているものの,チャンバー自体が加熱されるものではない。また,引用発明の明細書(乙1)及び図面において,チャンバー自体が加熱されることや,霧がチャンバーの壁に接触して分解されることは記載されていない。また,前記のとおり,本願発明1の「高温炉」は,超微粒子を含んだ霧粒が高温炉の壁に接触することによって,高温の超微粒子と高温の水蒸気(又は溶剤)に分解させるために,炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低く,また超微粒子と水(溶剤)が分離する温度以上の温度範囲の温度に加熱されるものであり,一方,前記のとおり,引用発明(乙1)の「チャンバー」は,それ自体が加熱されるものではない。そうすると,それ自体が加熱されていない引用発明(乙1)の「チャンバー」は,炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低く,また超微粒子と水(溶剤)が分離する温度以上の温度範囲の温度に加熱される本願発明1の「高温炉」に相当するとはいえない。したがって,引用発明(乙1)の「チャンバー」につき,本願発明1の「高温炉」に相当するとした審決の一致点の認定は誤りというほかなく,本件出願に関する全証拠を検討しても,本願発明1の特徴点である「超微粒子を含んだ霧粒が高温炉の壁面に接触して分解すること」は記載されていないから,上記一致点の認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすおそれがあるというべきである。\n

◆判決本文

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