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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

新規性・進歩性

平成28(行ケ)10047  審決取消請求事件  実用新案権  行政訴訟 平成28年10月31日  知的財産高等裁判所

 登録実用新案について、審決は進歩性なしと判断していましたが、裁判所は、引用発明の認定を誤ったとして、これを取り消しました。
 ウ 以上によれば,甲1考案は,以下のとおり,認定すべきである(なお,下線部は,審決の認定した甲1考案と相違する箇所である。)。「 高電圧を流した針電極28から電子を発生させるイオン化室23の先端に,内部に3重電極33が配設され,コイル18が巻かれたイオン回転室24を設け,イオン化室23の中に流し込まれた酸素ガスを励起して,O2+,O2(W),O(1D),O,O2(b1Σg+),O−,O2(a1Δg),O−を生成し,イオン回転室24において,生成したO−に対し,3重電極33及びコイル18によって発生した回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え,酸素分子と衝突させてオゾンを生成する酸素ガスのオゾン発生装置。」
エ したがって,審決の甲 1 考案の認定には,誤りがある。
・・・
(3) 以上によれば,本件考案と甲1考案の一致点及び相違点は,以下のとおり であると認められる。
【一致点】
高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管を有し,活性酸素種を生成さ せることができる装置。
【相違点】
本件考案は,空気中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性 酸素種を生成させることができる空気の電子化装置であって,励起の手段が電磁コ イルであるのに対して, 甲1考案は,イオン化室23に流し込まれた酸素ガスを励起して生成したO−に 対し,イオン回転室24において,3重電極33及びコイル18によって発生した 回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え,酸素分子と衝突させてオゾンを生成す る酸素ガスのオゾン発生装置である点。
・・・
イ 前記アのとおり,甲2及び甲3(甲45)のいずれにも,空気又は酸素 ガスに電界と磁界を同時に印加してオゾン等を発生させる装置が記載されているこ とが認められるものの,磁界のみを単独で印加することは記載されていない。
(2)ア 前記(1)イによれば,甲2又は甲3(甲45)に基づき,磁界のみを単 独で印加してオゾン等を発生させるという周知技術は認められない。 そうすると,甲1考案と甲2及び3から認められる周知技術を組み合わせても, 「回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え」るという構成が,磁界のみをかけて回\n転運動を与えるという構成になるとは認められない。\n
・・・・
エ 以上のとおりであって,甲1考案において,励起の対象が「酸素ガス」 であり,その励起手段が「3重電極」及び「コイル」であるという構成に替えて,\n励起の対象が「空気中の酸素分子」であり,その励起手段が「電磁コイル」である という構成を適用することは,動機付けを欠き,本件考案1は,甲1考案並びに甲\n2及び3に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすること ができたとはいえない。

◆判決本文

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平成28(行ケ)10117  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月30日  知的財産高等裁判所

 加圧トレーニングに関する特許について、新規性なし・公序良俗違反・記載要件違反なしとの審決が維持されました(知財高裁2部)。
 原告は,1)本件発明が本来的に治療行為,美容行為等を含んだ筋力トレーニング であること,2)本件発明が自然法則それ自体に特許を認めていること,から,本件 発明は,社会的妥当性を欠くので特許法32条に反すると主張する。 しかしながら,前記1(1)に認定のとおり,本件発明は,特定的に増強しようとす る目的の筋肉部位への血行を緊締具を用いて適度に阻害してやることにより,疲労 を効率的に発生させて,目的筋肉をより特定的に増強できるとともに,関節や筋肉 の損傷がより少なくて済み,更にトレーニング期間を短縮できるようにしたもので ある。 そうすると,本件発明は一義的に人体に重大な危険を及ぼすものではない上,本 件発明を治療方法等にも用いる場合においては,所要の行政取締法規等で対応すべ きであり,そのことを理由に,本件発明が特許を受けることが許されなくなるわけ ではない。また,特許を取得しても,当該特許を治療行為等の所要の公的資格を有 する行為において利用する場合には,当該資格を有しなければ当該行為を行うこと ができないことは,当然である。したがって,本件発明に特許を認めること自体が 社会的妥当性を欠くものとして,特許法32条に反するものとはいえない(なお, 産業上の利用可能性の有無については,前件審判・前件判決で既に取消事由とされ\nたものであり,本件は,専ら,特許法32条該当性のみを審理するものである。)。 また,本件発明は,「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位 に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ」ることにより,「筋肉に与える負荷が, 筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する」ものであるから,自然法則を利用し たものであるが,人体の生理現象そのもののような自然法則それ自体を発明の対象 とするものではない。そもそも,特許権は,業として発明を実施する権利を専有す るものであり(特許法68条),業として行わなければ,本件発明の筋力トレーニン グ方法は誰でも自由になし得るのであり,本件特許はそれを制限するものではない。 そうすると,原告の上記主張は,いずれも採用することができず,本件発明は, 公の秩序,善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明とすることはでき ない。 したがって,取消事由4は,理由がない。
6 取消事由5(無効理由5−2に関する判断の誤り)について
(1) 検討
旧特許法36条5項2号は,特許請求の範囲の記載について,「特許を受けようと する発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」とい\nう。)に区分してあること」との要件に適合するものでなければならないと規定して いた。これは,発明の構成に欠くことができない事項(必須要件)を全て記載する\nことを求めるとともに,必須要件でないものを記載しないことを求めることにより, 請求項の構成要件的機能\を担保したものであり,特許請求の範囲には,必要かつ十\n分な構成要件を記載することを求めたものといえる。\n前記1(1)のとおり,本件発明1の技術的意義は,筋力トレーニング方法において, 筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものとすること, すなわち,目的の筋肉部位への血行を緊締具により継続的に適度に阻害することに より,疲労を効率的に発生させることにある。このような技術的意義にかんがみれ ば,特許請求の範囲に,「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部 位に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ」ることにより,「筋肉に疲労を生じ させるために筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するも のである」ことが記載されていれば,本件発明の技術的課題を解決するために必要 かつ十分な解決手段が記載されているというべきである。
(2) 原告の主張について
1) 原告は,本件発明1の課題・効果を得るためには,所要の加圧条件を特許請 求の範囲に記載する必要があると主張する。 しかしながら,上記(1)のとおり,本件発明の課題解決手段は,本件発明1の記載 で明らかとされている一方,筋肉増大の程度は,トレーニングの態様,対象者,対 象部位等に応じて異なり,一義的に決まるものではないから,所要の加圧条件を特 許請求の範囲に記載しないことが,必須要件を記載していないことになるとまでは いえない。
2) 原告は,本件発明1が,筋肉への血流を止めることなく阻害し,これによっ て筋肉に疲労を生じさせること自体を筋力トレーニング方法と称しているのか,そ れ以外の何らかのトレーニングをすることを必須としているかも不明確であると主 張する。 本件発明の筋力トレーニング方法が,緊締具を用いて更にトレーニングを行うこ とを前提にしていることは,発明の詳細な説明から明らかであり(本件訂正明細書 の【0004】【0017】【図1】参照),そのような方法であるか否かが不明確で あるということはない。本件発明1は,そのうち,締結具によって筋肉への血流を 止めることなく阻害し,これによって筋肉に疲労を生じさせるとの部分を特許請求 の範囲に掲げたものと理解される。どのようなトレーニングがされるかは,トレー ニングの態様,対象者,対象部位等に応じて異なる上に,単なる技術常識の適用に すぎないことは自明であり,本件発明の筋力トレーニング方法を技術的に特徴付け るものではない。したがって,そのような事項は,本件発明の必須の要件ではない。 3) 以上のとおり,原告の主張は,いずれも採用することができない。
(3) 小括
以上から,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,旧特許法36条5項2号の要 件を満たすと認められる。

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平成27(ワ)5869  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年11月8日  大阪地方裁判所

 特許発明について、出願前に公然実施されたとして104条の3で権利行使できないと判断されました。均等侵害についても争われてましたが、そちらは判断されませんでした。
 そこで,さらに上記使用が,特許法29条1項25)の「公然実施をされた」 といえるか検討するに,「公然実施をされた」というためには,発明の内容を秘密 にする義務を負わない人が発明内容を知り得る状態で使用等の実施行為が行われた ことが必要である。 しかるところ,公然実施の対象となるOBネットユニットは,小浜製鋼株式会社 によって製造され市販されていた商品にすぎないし,また証拠(乙1)からうかが われる両護岸工事の実施状況や工事内容,工事場所が公共の場であることなどから すれば,OBネットユニットの設置作業に従事した現場作業員が,OBネットユニ ットの構造について小浜製鋼株式会社から守秘義務を課せられていたことをうかが\nわせる事情はなく,かえって,工事使用前に,その構造を確認する機会も十\分あっ たものと認められるから,OBネットユニットの本件発明の構成要件D,E,Fを\n除く構成要件は,それら工事関係者に十\分認識されていたといえる。 そして,前記(3)で認定したとおり,そのOBネットユニットが,両護岸工事に おいて本件発明の構成要件D,E,Fを充足する態様で使用されたというのである\nが,その工事現場には,上記のとおりOBネットユニットの構成を確認した工事関\n係者が立ち会って,その使用態様を現認したものと推認できるから(なお,構成要\n件Eを充足する使用対象事態を撮影した写真は僅かであるが,その使用態様が特殊 なものとはいえない以上,両護岸工事現場で写真として記録が残っていないOBネ ットユニットであっても,多くは同様の態様で使用され,工事関係者らによって, その使用態様が現認されていたものと推認できる。),これらにより,本件発明は, 公然と実施されたものと認めて差し支えないというべきである。 なお,原告は,上記の認識の限度であれば,本件発明の構成要件Aの「式3≦N\n/M≦20」の数値限定,あるいは構成要件Eの「25%〜80%」の数値限定が\n認識されないと主張するが,公然実施されたOBネットユニットの使用態様が上記 限定された数値内,すなわち本件発明の下位概念に一致するのであれば,これをも って本件発明が公然実施されたといって差し支えないから,この点についての原告 の主張は失当である。
(5) したがって,本件発明は,特許法29条1項25)により特許を受けることが できないものに当たり,本件特許は,特許無効審判により無効とされるべきもので あるから,同法104条の3第1項により原告が本件特許権を行使することはでき ないというべきである。
(6) なお,原告は,上記認定に用いた各証拠(乙1,乙2,乙23)の信用性に ついて争っているのでこの点について付言するに,まず上掲の証拠によれば,両護 岸工事の行われた時期及び場所そのものは確実に認定できる事実であると認められ る上,原告の指摘にかかわらず,その後に同じ場所で同種の工事が行われた事実は 認められないから,被告が,本件訴訟提起後において両護岸工事が実施された現場 で確認したOBネットユニット(乙2,乙23)は,本件特許出願前にされた両護 岸工事において使用されたものであることは明らかである。 そして,これに中詰め材を充填して釣り上げた状況(上篠崎護岸工事につき乙1 別紙7−11,高谷護岸工事につき乙1別紙4−16A)についても,これら写真 の撮影時が両護岸工事の最中であることは,各写真の遠景に写り込んでいる建造物 等の位置関係から明らかであるから,これらにより上記(2),(3)のとおり十分認定\nできるものであり,これに反する原告の主張は失当である。

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平成28(ネ)10027  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年11月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審判決の後に訂正審判を請求し、独立特許要件ありとして認められましたが、知財高裁は引用文献の認定を誤っているとして、進歩性なしと判断しました。なお、本件においては、訂正の抗弁について、時機に後れた抗弁とは認定されませんでした。
 事案に鑑み,被控訴人が主張する本件各訂正発明に係る特許の無効理由の うち,乙16発明に基づく新規性及び進歩性欠如について,以下判断する(な お,控訴人ら 被控訴人主張の抗弁につき,時機に後れた攻撃防御方法として却下すべき旨を述べるが,少なくとも,これらの主張 が「訴訟の完結を遅延させる」ものでないことは明らかであるから,時機に後れた攻撃防御方法としての却下はしないこととする。)。
・・・
 このように,乙16文献には,ユーザによって選択された商品を表示\nする際に,「はこだてビールオリジナルギフトセット」というジャンル の表題の下に,「はこだてビールギフトAセット」,「はこだてビールギ\nフトBセット」等の複数の商品の商品名,価格,写真が一覧表示された\nWebページ画像( のページ)が表示されることが記載されて\nいるのであるから,選択された商品情報の表示の際に,店舗カテゴリを\n示す情報と店舗カテゴリに分類される商品を示す情報を表示することが\n記載されているものといえるのであって,控訴人らの上記主張は,その 前提において理由がない。 なお,本件訂正を認めた訂正2016−390052事件に係る審決 (甲70)は,本件訂正発明1について独立特許要件の有無を判断する に当たり,乙16文献の記載について,上記と異なる認定(控訴人ら主 張のとおりの認定)をしているが,乙16文献の記載からは、上記で述 べたとおりのことが読み取れるというべきであるから,上記審決の認定 は是認できない。

◆判決本文

◆1審はこちらです。平成26(ワ)25282

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平成28(行ケ)10079  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月16日  知的財産高等裁判所

 技術思想として異なるとして、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
 ア 本願発明は,トレッドに発泡ゴムを適用したタイヤにおいて,氷路面におけ るタイヤの制動性能及び駆動性能\を総合した氷上性能が,タイヤの使用開始時から\n安定して優れたタイヤを提供するため,タイヤの新品時に接地面近傍を形成するト レッド表面のゴムの弾性率を好適に規定して,十\分な接地面積を確保することがで きるようにしたものである。これに対し,引用発明は,スタッドレスタイヤやレー シングタイヤ等において,加硫直後のタイヤに付着したベントスピューと離型剤の 皮膜を除去する皮むき走行の走行距離を従来より短くし,速やかにトレッド表面に\nおいて所定の性能を発揮することができるようにしたものである。\n以上のとおり,本願発明は,使用初期においても,タイヤの氷上性能を発揮でき\nるように,弾性率の低い表面ゴム層を配置するのに対し,引用発明は,容易に皮む\nきを行って表面層を除去することによって,速やかに本体層が所定の性能\を発揮す ることができるようにしたものである。したがって,使用初期においても性能を発\n揮できるようにするための具体的な課題が異なり,表面層に関する技術的思想は相\n反するものであると認められる。
イ よって,引用例1に接した当業者は,表面外皮層Bを柔らかくして表\面外皮 層を早期に除去することを想到することができても,本願発明の具体的な課題を示 唆されることはなく,当該表面外皮層に使用初期においても安定して優れた氷上性\n能を得るよう,表\面ゴム層及び内部ゴム層のゴム弾性率の比率に着目し,当該比率 を所定の数値範囲とすることを想到するものとは認め難い。また,ゴムの耐摩耗性 がゴムの硬度に比例すること(甲8〜13)や,スタッドレスタイヤにおいてトレ ッドの接地面を発泡ゴムにより形成することにより氷上性能あるいは雪上性能\が向 上すること(甲14〜16)が技術常識であるとしても,表面ゴム層を非発泡ゴム,\n内部ゴム層を発泡ゴムとしつつ,表面ゴム層のゴム弾性率を内部ゴム層のゴム弾性\n率より小さい(表面を内部に比べて柔らかくする。)所定比の範囲として,タイヤ\nの使用初期にトレッドの接地面積を十分に確保して,使用初期においても安定して\n優れた氷上性能を得るという技術的思想は開示されていないから,本願発明に係る\n構成を容易に想到することができるとはいえない。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,本願発明の実施例と引用発明はともに従来例「100」に対して 「103」という程度でタイヤの使用初期の氷上での制動性能が向上するものであ\nり,また,引用例1の比較例と実施例を比較すると,比較例が実施例に対して表面\nゴム層(表面外皮層)を有していない点のみが異なることから,使用初期の性能\向 上は,表面ゴム層(表\面外皮層)に由来することが明らかである,そうすると,本 願発明の実施例と引用発明の性能向上はともに,タイヤ表\面に本体層のゴムよりも 柔らかいゴムを用いることにより使用初期の氷上での性能を向上させる点で同種の\nものであるから,結局,表面ゴム層(表\面外皮層)に関して,本願発明と引用発明 の所期する条件(機能)は変わるものではなく,引用例1に接した当業者は,引用\n発明の表面ゴム層(表\面外皮層)が,早期に摩滅させることのみを目的としたもの でなく,氷上性能の初期性能\が得られることを認識する旨主張する。 しかし,前記(2)のとおり,引用例1に記載された課題を踏まえると,引用発明は, あくまで早く摩耗する皮むき用の表面外皮層を設けて,ベントスピューと離型剤を\n表面外皮層とともに除去することにより,本来のトレッド表\面を速やかに出現させ るものであり,引用例1は,走行開始から表面外皮層が除去されるまでの間の氷上\n性能について何ら開示するものではない。よって,引用例1に接した当業者が,氷\n上性能の初期性能\が得られることを認識するものとは認められない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。
イ 被告は,引用発明において,表面外皮層Bの硬度は,本体層Aのそれより小\nさく(引用例1の表1),硬度の小さいゴムが,ゴム弾性率の小さいゴムである旨\nの技術常識(甲4,甲5)を考慮すれば,「引用発明の「表面ゴム層(表\面外皮 層)」のゴム弾性率が「内部ゴム層(本体層)」のゴム弾性率に比し低いものとい え,「表面ゴム層のゴム弾性率」/「内部ゴム層のゴム弾性率」の値を0.01以\n上1.0未満程度の値とすることは,具体的数値を実験的に最適化又は好適化した ものであって,当業者の通常の創作能力の発揮といえるから,当業者にとって格別\n困難なことではない旨主張する。 しかし,本願発明と引用発明とでは,具体的な課題及び技術的思想が相違するた め,引用例1には,表面ゴム層のゴム弾性率を内部ゴム層のゴム弾性率より小さい\n所定比の範囲として,使用初期において,接地面積を確保するという本願発明の技 術的思想は開示されていないのであるから,引用発明から本願発明を想到すること が,格別困難なことではないとはいえない。 また,表面外皮層BのHs(−5℃)/本体層AのHs(−5℃)が,0.77 (=46/60),表面外皮層Bのピコ摩耗指数/本体層Aのピコ摩耗指数が,0. 54(=43/80)であるとしても,本願発明が特定するゴム弾性率とHs(−5 ℃)又はピコ摩耗指数との関係は明らかでないので,引用例1の表1に示すHs\n(−5℃)又はピコ摩耗指数の比率が,本願発明の特定する,「比Ms/Miは0. 01以上1.0未満」に含まれ,当該比率について本願発明と引用発明が同一であ るとも認められない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。

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平成28(行ケ)10058  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が取り消されました。被告は、原告の主張する引用発明の認定の誤りは認めたうえ、結論に影響がないと争っていました。審決書をみると、原告はどうやら弁理士です。異議申し立て制度が復活して、条文上は、無効審判では利害関係要件が復活したけど、その点は実務上は問題とならないのかもしれません。\n
 本件発明1は,その請求項1の文言からして,少なくとも,ドライブスプロケッ トと回転軸が相互に軸方向に移動自在であるドライブスプロケット支持構造である\nと認められる。これに対し,審決は,上記1(3)のとおり,甲2発明において,ドラ イブスプロケット21がポンプハブ11に対して軸方向に移動自在でないとし,こ の点を両発明の実質的な相違点とする。この審決の判断は,甲2発明の認定を誤っ た結果,相違点の認定を誤ったものである。 そうすると,かかる相違点の認定を前提とする相違点の判断も誤りであり,これ らの誤りは,審決の結論に影響を及ぼすといえる。

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平成28(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月26日  知的財産高等裁判所

 宅配ボックスと中食配送システムについて、組み合わせの動機付けありと認定し、拒絶審決が維持されました。裁判所は、利用者宛ての荷物について,システムから利用者に対しメール通知を行う点で共通の技術分野に属すると言及しました。
 (2) 引用例2(甲3)には,以下のとおり,引用発明2が開示されている。 好きな食事を任意に摂取できる食環境について,より低コストかつ迅速な配送が 可能で,管理や作業が容易であり,かつ,発送者,受取者の利用者双方の要求に臨\n機応変に適応できるような,便利で効率のよい配送システムを提供するために (【0007】【0008】),権限を有する所定の配送作業者及び利用者のみが 荷物を出し入れすることができるボックスなどの収容手段を複数有する集合住宅の 玄関などに設置された配送中継装置と,利用者端末装置と,管理装置と,中食提供 者端末装置とを備え,利用者が利用者端末装置を操作して,中食の内容,当該中食 を利用者が受け取る時間及び配送中継装置を指定した注文を管理装置に送信し,管 理装置が,上記受信した注文について,中食提供者端末装置に対して,指定された 内容の中食を製造することを指示するとともに,中食配送者端末装置に対して,上 記指定された時間までに指定された配送中継装置に中食を配送することを指示し, 中食配送者が,中食配送者端末装置が受けた指示を基に,中食提供者から受け取っ た中食を,上記指定された時間までに,指定された配送中継装置の所定のロッカー に保管されるよう配送し,配送中継装置は,所定の管理期間が経過しても利用者が 中食を取りにこないと判断した場合には,利用者のメールアドレスにその旨を通知 する,中食配送システム(【0029】【0032】【0054】〜【006 6】)。
(3) 引用発明1は,前記2(2)のとおり,集合住宅内に設置された宅配ボックス から成り,受取人宛ての荷物が配達され宅配ボックスに保管されると,通信サーバ が,荷物の受取人宅宛てに電子メールを送信する宅配ボックスシステムである。そ して,引用発明2は,前記(2)のとおり,ボックス等の収納手段を有する集合住宅の 玄関などに設置された配送中継装置から成り,利用者の注文した中食が配送され配 送中継装置に保管され,その後所定の管理時間が経過しても中食が取られない場合 には,配送中継装置が,中食の受取人である利用者のメールアドレスに通知を送る 中食配送システムというものである。 したがって,引用発明1と引用発明2は,ともに,集合住宅に設置された保管ボ ックスから成り,配達され保管された利用者宛ての荷物について,システムから利 用者に対しメール通知を行う荷物の配送システムという,共通の技術分野に属する ものである。そして,引用発明1と引用発明2は,いずれも,荷物の配送システム において,インターネット等を利用して発送者,受取者等の利用者の利便性を向上 させるという課題を解決するものということができ,引用発明1のシステムの利便 性を向上させるために,利用者端末装置や管理装置を含む引用発明2の構成を組み\n合わせる動機付けがあるというべきである。
(4) 他方,引用発明1は,自分宛ての荷物の注文が,誰によりどのようになされ たものであるのか何ら特定していないから,自分宛ての荷物の配達として,利用者 自らの注文によらない場合の配達サービス(具体的には,他者による注文に基づく 荷物の配達)に限定されないと解するのが自然であり,また,引用例1の【001 9】における「…たとえば最近のインターネット通販などによる高価な宅配物の増 加に対して極めて有効なセキュリティシステムとなる。」との記載には「インター ネット通販」が例示として挙げられているのであって,引用発明1が,インターネ ット通販のような,利用者自らが自分宛ての荷物を注文し,当該注文した荷物を配 送業者等により自身宛てに配達してもらう形態を排除していないと解するのが相当 である。 そうすると,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,共通の課題を有する引 用発明2を適用する上での阻害要因は何ら認められないというべきである。
(5) 原告らの主張について
原告らは,引用例1では,高価な宅配物を対象とするインターネット通販におい て,高いセキュリティシステムを適用することが開示されているにすぎないのに対 し,引用例2では,インターネットを介して中食を発注するシステムが開示されて いるものの,高価な宅配物を対象とするものではなく,また,二つの暗証番号を入 力するといった高度なセキュリティを必要とするものではないから,引用例1と引 用例2が対象とする宅配物は全く異なるものであり,単にインターネット通販に係 るものであるからといって,引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けは一 切存しないと主張する。 しかし,引用例1自体,高度のセキュリティを備えることを必然の構成としてい\nるわけではないし(甲2の【0016】〜【0019】),配送対象の荷物が高価 であるか否かや,高度なセキュリティを要するか否かが,技術分野及び課題の共通 性を阻害し動機付けを失わせるとはいえないから,原告らの上記主張は理由がない。
(6) したがって,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,課題においても共 通する引用発明2を適用することの動機付けがあり,かつ,適用する上での阻害要 因が何ら認められないのであるから,引用発明1におけるユーザのモバイル端末に おいて,引用発明2の技術を適用することで,発注機能を備えるよう構\成して相違 点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。\n

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平成28(行ケ)10009  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、動機付けなし・阻害要因ありとして、取り消されました。
 引用例2には,そこに記載された加湿器が,給水部の水位を検知する検知装置を 備えた加湿器において,表示部が,給水部の水位が一定の水位よりも低くなると,\nあらかじめ定めた第1表示内容を表\示し,モーターが所定時間以上回転した後,モ ーターを停止し,あらかじめ定めた第2表示内容を表\示するものであることが記載 され(【0005】),かかる構成にしたことにより,給水部の水位が一定の水位\nよりも低くなった後,給水を促す表示をするが,モーターが所定時間の5分間以上\n回転しているため,モーターが回転している間に使用者が給水を促す表示に気が付\nき,給水を行えば,加湿運転を停止させて部屋を乾燥させてしまうことがない,ま た,モーターの回転を低速回転とするため,加湿量が減って給水部の水位が一定の 水位よりも低くなった後はゆっくりと水位が下がり,長時間加湿できることから, その間に給水を促す表示に気が付きやすいなどと記載されている(【0009】,\n【0010】)。また,【0036】ないし【0038】には,給水部2の水位が 基準の水位よりも低くなると,ファン3を低速回転とし,ヒーター8をOFFとし, タイマーに所定時間の5分間以上の時間を設定し,表示部6には第1の表\示内容で ある「給水」及びタイマー残時間の表示をして,タイマーの減算を開始すること,\nタイマーの残時間が0となったらファン3を停止し,表示部6には第2の表\示内容 である「給水」点滅の表示をすることが記載されている。\nこれらの記載によれば,引用例2に記載の加湿器は,部屋の乾燥を防止するため に,水位が「一定の水位」より低くなった後も,モーターが所定時間以上回転し, さらに,低速回転とすることで長時間加湿をすることが可能なものである。そして,\n「第1表示内容」が「給水」という文字及びタイマー残時間を表\示するものである から,「一定の水位」は,給水が一応求められる水位であるといえるものの,タイ マー残時間分のファンの継続運転によって,上記「一定の水位」よりさらに低くな った水位における「第2の表示内容」が「給水」という文字を含む点滅表\示である ことに照らせば,上記「一定の水位」は,タイマー残時間分の加湿運転の余地があ る水位を意味するものと理解される。 したがって,引用例2における「一定の水位」は,それを下回る水位でも加湿機 能が適正に動作して加湿空気を生成することができ,それを下回る水位が検出され\nた後も加湿機能の動作を行わせることを前提とするものであるということができる。\n(ウ) 以上によれば,引用例2に記載された技術事項における,給水部の水位を 検知する検知装置が検知する「一定の水位」は,引用発明におけるフロートスイッ チ14の「第1の基準位置における接点」とは,水位の性質,すなわち,それを下 回る水位でも加湿機能が適正に動作できるか否か及び加湿機能\の動作を行わせるこ とを前提としているか否かという点において,明らかに相違する。 加えて,引用発明において,液面検出手段を構成するフロートスイッチ14は,\n「第1の基準位置H1における接点」のみならず,「第2の基準位置H2における 接点」を有するところ,「第2の基準位置H2における接点」が検出する液面高さ の「第2の基準位置」は,加湿機の運転時の場合には,水面高さ(液面高さ)が第 1の基準位置H1以上の場合には運転が継続される,すなわち,液面高さが「第2 の基準位置」を下回っても,第1の基準位置を上回る限りにおいて,加湿機の運転 が継続されるものである(【0028】)。そうすると,所定の水位を下回る液面 高さでも加湿機能が動作して加湿空気を生成することができ,それを下回る水位が\n検出された後も加湿機能の動作を行わせるものである点において,引用例2におけ\nる「一定の水位」と引用発明の「第2の基準位置H2における接点」は共通するも のであるということができる。 このように,引用例2の「一定の水位」は,フロートスイッチ14の「第1の基 準位置における接点」とは水位の性質(それを下回る水位でも加湿機能が適正に動\n作できるか否か及び加湿機能の動作を行わせることを前提としているか否かという\n点)において明らかに相違し,かつ,引用発明には,上記性質において共通する 「第2の基準位置H2における接点」が既に構成として備わっているにもかかわら\nず,引用発明において,フロートスイッチ14の「第1の基準位置における接点」 を引用例2の「一定の水位」を検知する構成に置き換える動機付けがあるというこ\nとはできない。 (エ) さらに,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1 における接点」を,引用例2に記載された技術事項(それを下回る水位が検出され た後も加湿機能の動作を行われせることを前提した「一定の水位」を検出対象とす\nるもの)に置き換えると,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準 位置H1における接点」は,液面高さが「第1の基準位置」を下回ったことを検出 しても加湿機能を引き続き動作させることになるから,引用発明におけるフロート\nスイッチ14の「第1の基準位置H1における接点」に係る構成により奏するとさ\nれる,加湿部の動作を自動的に停止して液体収容槽の液体の残量がないときにファ ンを無駄に動作させることを防止できるという効果(【0009】)は,損なわれ ることになる。 そうすると,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1に おける接点」を,引用例2に記載された技術事項である,「一定の水位」を検知す る構成に置き換えることには,阻害要因があるというべきである。\n

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平成27(ネ)10017  特許権侵害行為差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年9月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 イベントにおける使用が、公然実施に該当すると判断されました。
イ また,控訴人は,特許出願のためには出願前に発明内容を他社に知られ てはならないことを認識していたから,本件小型器については,本件イベントにお いて,実演,操作説明その他詳細な製品説明,内部構造の開示を行っていないと主\n張し,甲16〜18はこれに沿う。 しかし,本件発明1の構成要件のうち,B2,B4,C1〜3,Fが本件小型器\nの展示によって公知となったことは争いがなく,かつ,本件小型器は炭酸ガスと化 粧水を混合した上で顔面等に吹き付けるためのものであって,その展示態様と業務 用大型器の実演や説明から,ガスボンベが本体内部に入っており,スプレーガンに 付属したカップ内に化粧水が入れられるべきものであること,本体上部とつながっ た管を通って炭酸ガスがスプレーガンに到達すること,炭酸ガスと化粧水が混合さ れたものが,スプレーガンのレバーを操作することによってその先端から噴射され ることは容易に看取されるといえる。本件イベント当時,特許出願のためには出願 前に当該特許発明の内容を他者に知られてはならないことを認識していたのであれ ば,このような,公然知られた又は公然実施をされたと判断される可能性がある展\n示方法を,採用することは不自然である。 控訴人は,本件小型器展示の目的を,美容院での施術の雰囲気を出すためなどと 主張するが,上記のような可能性のある展示方法を,雰囲気を出すといった曖昧な\n目的のために行うのは不合理である。しかも,本件イベントにおいて,控訴人が, 本件小型器を組み立て,液体をカップに入れた,少なくとも外観上すぐに実演でき るような状態で展示しながら,他方で,来場者の質問を受け付けなかったり,本件 小型器の実演を拒んだりしたとは想定し難い。 上記(2)ケで認定したとおり,控訴人において知的財産権関連業務を行っていたB が,本件イベントにおける展示を事前に認識していなかったこと,本件特許出願を 決めたのが本件イベントの後であったことからすれば,本件イベントへの本件小型 器の出品は,本件特許出願前には当該特許発明の内容を知られてはならないという 意識を欠いたまま行われたものであり,本件小型器の実演や説明も,業務用大型器 と同様に行われたと認めるのが相当である。 控訴人の主張には,理由がない。
ウ さらに,控訴人は,本件イベントにおいては,本件小型器の実演,操作 説明その他詳細な製品説明や,内部構造の開示等が行われておらず,公然性の要件\nを欠き,本件小型器の展示は,「特許製品以外の製品の宣伝活動や営業活動のための 展示又は客寄せのための展示」にすぎず,譲渡等を目的としたものではないから, 公然と「実施」したとはいえない,と主張する。 しかし,上記(2)キ及び(3)イで認定したとおり,本件イベントにおいては,本件 小型器の実演及び説明が行われ,展示とあいまって内部構造をも知り得る状態にあ\nったと認められる。

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平成28(行ケ)10020  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年9月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性を認定する阻害要因にはならないとして、進歩性ありとした審決が取り消されました。
 (ア)a 本件発明1と甲1発明の相違点として,前記第2,4(1)イ(イ)b記載 のとおりの相違点2がある(当事者間に争いはない。)ところ,前記認定事実(1(2)) によれば,甲1発明は,それぞれ要冷蔵品を収納する保存室を有する上下2つの断 熱箱体により構成された業務用横型冷蔵庫に関する発明であるから,断熱箱体の内\n箱及び外箱並びにその間に充填された断熱材により区画された上下2つの保存室を 有する業務用横型冷蔵庫,すなわち,庫内が断熱材により複数に区画された業務用 横型冷蔵庫に関する発明であるといえる。 一方,前記認定事実(1(3))によれば,甲7には,断熱性の仕切壁によって区画 された,冷蔵室,冷凍室及び野菜室がある家庭用冷蔵庫における冷却の実施例が記 載されているが,家庭用冷蔵庫に限らず,庫内を複数に区画してそれぞれ異なる温 度で管理する各種冷蔵庫に有効な発明であることが記載されている。 以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項は,少なくとも,複数の保存室 を有する冷蔵庫に関するものという点で,技術分野が共通である。 b 前記1(2)のとおり,甲1には,特に使用用途の拡大のため,庫内に 収容できる商品の幅を広げることを目的とする断熱箱体の改良に関する発明である 旨が記載されている。そうすると,甲1発明の課題は,使用用途の拡大,収容でき る要冷蔵品の幅を広げることということができる。 一方,前記認定事実(1(3))によれば,甲7に記載された事項の課題は,温度が 低い冷気の循環による冷蔵室内や野菜室内の乾燥の防止,高湿状態である冷蔵室や 野菜室内の水分が霜となって冷却器に付着することによる冷却能力の低下の防止,\n冷却器の大型化及び背面ダクト等の設置による冷凍室,冷蔵室及び野菜室の有効容 積の圧迫の防止であるといえる。これらは,庫内の複数の区画の存在を前提として いるが,冷凍が必要な食品等については冷凍室,冷蔵が必要な食品等については冷 蔵室,特に高湿状態が望ましい野菜については野菜室の各区画を設け,冷蔵室及び 野菜室については,高湿状態に保つことを課題としていると解することができるの であって,各食品等に応じた適切な冷蔵状態を提供することで,庫内に収容できる 要冷蔵品の幅を広げることを課題としていると評価することができる。 以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項は,使用用途の拡大,収容でき る要冷蔵品の幅を広げることという点で,課題が共通であるということができる。 c 前記認定事実(1(2))によれば,甲1発明は,断熱箱体からなる横 型冷蔵庫の天面に,別の断熱箱体を据え付け,下の断熱箱体の内箱の内部に,圧縮 機及び凝縮器と連結されて冷媒を循環させている蒸発器を設け,前記蒸発器により 冷却された冷気を,下の断熱箱体だけではなく,上の断熱箱体にも循環させること によって,上下2つの断熱箱体を冷却するものである。 一方,前記認定事実(1(3))によれば,甲7には,圧縮機及び凝縮器と連結され た 室用冷却パイプ及び野菜室用冷却パイプを設けて冷媒を循環させ,冷凍室は,冷凍 室用冷却器により冷却された冷気を循環させることによって冷却し,冷蔵室及び野 菜室は,冷蔵室用冷却パイプ及び野菜室用冷却パイプの内部を循環する冷媒の蒸発 により,各室の内壁面を冷却し,冷気の自然対流により各室内を冷却することが記 載されている。
以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項は,蒸発器を 1 つ設けるか複数 設けるかという違いはあるものの,1つの圧縮機及び1つの凝縮器を,冷却器ない し冷却パイプと連結し,その中に冷媒を循環させ,冷媒の蒸発により,冷蔵庫内の 複数の保存室を冷却するという作用・機能において,共通する。\nd 前記1(2)のとおり,甲1には,上の断熱箱体の保存室の外側に冷却 空間を形成するように伝熱パネルを設け,前記冷却空間に冷気を循環させることに より前記伝熱パネルを冷却し,前記伝熱パネルの自然対流熱伝達及び輻射冷却作用 により,保存室の内部を冷却する方法(実施例3及び4)が記載されており,また, 前記方法を採用することにより,下の断熱箱体を通常の横型冷蔵庫,上の断熱箱体 を高湿度で保存する必要のある寿司ネタや野菜などを保存することができる恒温高 湿ショーケースとして使用することが可能であることが記載されている。そうする\nと,甲1は,食品の乾燥防止のため,高湿状態を維持できる,冷気の強制対流以外 の冷却方法を採用することを記載したものといえるから,甲 1 発明の上の断熱箱体 の保存室の内部の冷却方法を,食品の乾燥を防止し得る別の冷却方法に変更するこ とにつき,示唆があるといえる。 一方,前記1(3)のとおり,甲7には,冷蔵室内や野菜室内に低温となる冷凍室用 冷却器からの冷気を供給しないので,冷蔵室内や野菜室内に収納した食品が乾燥す ることもないとの記載があり,冷蔵室用及び野菜室用冷却パイプを循環する冷媒の 蒸発による冷却が,食品の乾燥防止のため,高湿状態を維持できる冷却方法である ことが記載されているといえる。そうすると,甲7には,甲1発明の前記の上の断 熱箱体の保存室を高湿度で保存する必要のある寿司ネタや野菜などを保存するため に利用する場合には,その内部の冷却方法を,甲7に記載された冷却パイプの設置 による冷媒の蒸発による冷却方法に変更することにつき,示唆があるといえる。 また,前記aのとおり,甲7には,家庭用冷蔵庫に限らず,庫内を複数に区画し てそれぞれ異なる温度で管理する各種冷蔵庫に有効な発明であることが記載されて おり,甲1発明は,複数の保存室を有する冷蔵庫であるから,甲7には,甲7に記 載された事項を甲1発明に適用する示唆があるといえる。
e 以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項とは,一般的な技 術分野及び課題等を共通にするだけでなく,甲1に記載された実施例3及び4と甲 7に記載された事項とにおいて,上の断熱箱体における冷却中の保存品の乾燥を防 止するという具体的課題も共通するものであるから,甲1発明につき,上の断熱箱 体の保存室の内部の冷却方法として,甲7に記載された冷却パイプの設置による冷 媒の蒸発による冷却方法を適用する動機付けがあるといえる。
(イ) 前記1(2)のとおり,甲1発明には,「断熱箱体本体の天面開口部と合 致する間口を底面に備え」る「断熱箱体」という構成が含まれるが,この「天面開\n口部」及び「間口」は,庫内ファンによって冷却室の上部に設けられた冷気吹出口 から送られる冷気を,上の断熱箱体に送ってこれを冷却し,その後,下の断熱箱体 に送ってこれを冷却するための,冷気用の開口部である。 そして,冷気を上下の断熱箱体に循環させてこれを冷却する方法においては,上 下の断熱箱体の間に冷気を通すための開口部を要するが,冷媒を上下の断熱箱体に 循環させてこれを冷却する方法においては,上下の断熱箱体の間に冷気を通すため の開口部を必要としない代わりに,冷却パイプを通すための開口部を要するのであ って,他に冷気用の開口部を設けるべき理由はないから,上下の断熱箱体の間に冷 気用の開口部を要するか否かは,上の断熱箱体を下の断熱箱体からの冷気の循環に より冷却するか否かという冷却方法の選択の問題にほかならない。 また,甲1には,前記1(2)のとおり,上下の断熱箱体を1つの「冷却ユニット」 で冷却することが可能であることが記載されており,弁論の全趣旨によれば,「冷却\nユニット」は,少なくとも,圧縮機,凝縮機及び蒸発器により構成されることが認\nめられるところ,冷却器及び冷却パイプは,冷媒の蒸発により,冷却を行う機能を\n有するものであり,前記の蒸発器に該当するものと認められるから,甲1発明に, 甲7に記載された前記の冷却方法を適用すれば,上の断熱箱体用の冷却パイプと下 の断熱箱体用の冷却器を,別途に設けることになるから,上下の断熱箱体を1つの 「冷却ユニット」で冷却することはできなくなる。 しかしながら,前記1(2)のとおり,甲1発明の目的は,業務用横型冷蔵庫の構造\nを改良し,特に使用用途の拡大のため,庫内に収容できる要冷蔵品の幅を広げるこ とにある。上下の断熱箱体を1つの「冷却ユニット」で冷却するため,蒸発器を1 つしか設けないことは,この目的と関係がない。また,前記認定事実(1(3))によ れば,甲7には,冷却パイプ内の冷媒の蒸発により冷却される保存室の内部の乾燥 を防止できることのほか,1)冷却器に湿気の多い冷蔵室や野菜室内の水分が霜とな って付着し,冷却器の冷却能力が低下することを防げること,2)冷却器を大型化し なくてよくなり,これを収納する区画を小容量化して,冷凍室の有効容積を広くす ることができること,3)冷気循環のためのダクト等を設ける必要がなくなり,冷凍 室,冷蔵室及び野菜室の区画の有効容積を広くすることができることが記載されて いる。そうすると,蒸発器を複数にして各保存室を冷却する方式を採用するか,蒸 発器を1つにして全保存室に当該蒸発器で冷却した冷気を循環させて冷却する方式 を採用するかは,当業者が設計に際して効果を考慮して適宜採用し得る設計的事項 に該当する。 以上によれば,上下の断熱箱体の間に冷気を通すための開口部がない構成になる\nことや,蒸発器を複数有する構成になることが,甲1発明に甲7に記載された事項\nを適用することの阻害事由たり得るとは認められない。

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平成27(行ケ)10149  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年8月10日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は「容易の容易」に当たるので動機付けなしというものです。
イ 相違点2の容易想到性について
(ア) 本件審決は,浚渫用グラブバケットに関する発明である引用発明1におい て,同じく浚渫用グラブバケットに関する周知技術2及び3並びに引用発明3を適 用して相違点2に係る本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し\n得たことであると判断した。 (イ) 相違点2は,シェルの構成に関するものである。しかし,引用例1(甲1)\nには,専ら,バケットの吊上げ初期の揺れがほとんど発生せず,開閉ロープのロー プ寿命も長くなる浚渫用グラブバケットの提供を課題として(【0005】),上部 シーブ,下部シーブ,バケット開閉用の開閉ロープ及びガイドシーブの構成や位置\nによって上記課題を解決する発明が開示されており(【請求項1】〜【請求項3】, 【0006】,【0016】),シェルに関しては,特許請求の範囲及び発明の詳細な 説明のいずれにも,「各シェル部1A,1Bは軸3で開閉自在に軸支され,下部フ レーム2に取付けられている。」(【0008】)など,他の部材と共にグラブバケッ トを構成していることが記載されているにとどまり,シェル自体の具体的構\成につ いての記載はない。引用例1においては,前記⑴ア(ア)のとおり,上記発明の一実 施形態に係る浚渫用グラブバケットの側面図【図1】及び正面図【図2】に加え, 従来のグラブバケットの側面図【図6】及び正面図【図7】において,シェルが図 示されているにすぎない。 したがって,引用例1には,シェルの構成に関する課題は明記されていない。\n(ウ) もっとも,引用例3(甲4)の考案の詳細な説明中の考案が解決しようと する問題点(前記(2)ア(イ)b),周知例1(甲16)の【0002】,【0003】 (前記(3)ア(イ)),周知例2(甲26)の考案の詳細な説明中,従来技術の欠点に ついて述べたもの(前記(3)イ(イ)a)及び引用例5(甲5)の【0006】から 【0008】(前記(4)ア(イ)c)によれば,本件特許出願の当時,浚渫用グラブバ ケットにおいて,シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止することは,自明の課 題であったということができる。したがって,当業者は,引用発明1について,上 記課題を認識したものと考えられる。 前記(3)ウのとおり,本件審決が周知技術2を認定したことは誤りであるが,当業 者は,引用発明1において,上記課題を解決する手段として,周知例2に開示され た「シェルが掴んだヘドロ等の流動物質の流出を防ぐために,相対向するシェル1 1,11の上部開口部12,12に上部開口カバー13,13をシェル11,11 の内幅いっぱいに固着するか,又は,取り外し可能に装着することによって,上部\n開口部12,12を上部開口カバー13,13でふさぎ,シェル11,11を密閉 する」構成を適用し,相違点2に係る本件発明の構\成のうち,「シェルの上部にシ ェルカバーを密接配置する」構成については容易に想到し得たものと認められる。\nしかしながら,前記(4)のとおり,シェルの上部に空気抜き孔を形成するという周 知技術3は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,そのような状態に おいてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり,この課題を解決す るための手段である。引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示さ れておらず,よって,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識することは 考え難い。当業者は,前記のとおり引用発明1に周知例2に開示された構成を適用\nして「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」という構成を想到し,同構\成 について上記課題を認識し,周知技術3の適用を考えるものということができるが, これはいわゆる「容易の容易」に当たるから,周知技術3の適用をもって相違点2 に係る本件発明の構成のうち,「前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成」す\nる構成の容易想到性を認めることはできない。\n(エ) また,前記(2)のとおり,引用例3には,海底から掻き取った海底土砂等を バケットシェル内に保持することを可能にし,かつ,水の抵抗を最小限にして,荷\nこぼれによる海水汚濁を防止し得るグラブバケットの提供を課題とし,同課題解決 手段として,シェルの上部開口部の開閉手段を設けた旨が記載されていることから, 当業者は,引用発明1において,シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止すると いう自明の課題を解決する手段として,シェルを密閉するために,「浚渫用グラブ バケットにおいて,シェルの上部開口部に,シェルを左右に広げたまま水中を降下 する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容量以 上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移 動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付けるとい う技術」である引用発明3の適用を容易に想到し得たものということができる。 しかし,引用発明1に引用発明3を適用しても,シェルの上部に上記のように開 閉するゴム蓋を有する蓋体をシェルカバーとして取り付ける構成に至るにとどまり,\n相違点2に係る本件発明の構成には至らない。
ウ 被告の主張について
被告は,空気抜き孔をシェルカバーの一部に設けることは,引用例5及び周知例 1に開示された公知技術ないし周知技術である旨主張するが,前記イのとおり,同 技術は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,そのような状態におい てはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり,この課題を解決するた めの手段であり,引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示されて いないのであるから,よって,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識す ることは考え難く,上記技術を適用する動機付けを欠く。

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平成27(行ケ)10164  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年7月13日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が取り消されました。理由は本件発明の認定誤りです。
ア 本件発明のロック突部は,特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,平 坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間して いる形状のものである。そして,本件発明は,前記1(2)のとおり,ロック機構につ\nいて,1)ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方が,平坦面部分を有する 突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているロック突部を 側壁面に有し,2)他方が前後方向でロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後 縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,3)ロック溝部には溝部前縁または溝部 後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられ,4)ロック突部が嵌合方向でロック溝 部内に進入し,ケーブルコネクタが前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合 終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,上記姿勢の変化に応じて,突出部に対 するロック突部の位置が変化する,という構成を採用することにより,コネクタ嵌\n合状態にある間は,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動さ れようとしたときであっても,ロック突部が抜出方向で突出部と当接し,ケーブル コネクタの抜出を阻止するようにしたものである。 他方で,本件発明は,特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載 において,ロック突部の突部前縁及び突部後縁が有する平坦面部分について,その 大きさ,両面の離間の程度やその成す角度,ロック溝部やその突出部など他の構成\nとの関係などについては,特に規定していない。 そうすると,本件発明のロック突部は,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部 分を有する突部後縁とが前後方向に離間している形状を有し,ケーブルコネクタの ケーブルに上向き方向の成分の力が作用しても,ロック突部が抜出方向でロック溝 部の突出部と当接することにより,ケーブルコネクタの抜出を阻止するものであれ ば足り,その断面形状には,円形に近似するような,角数の多い多角形状も含まれ るものと解される。
イ 引用発明は,前記2(2)のとおり,軸方向の挿抜によってではなく,一方のハ ウジングを他方のハウジングに対し回動させることで接続又は切離しの作用を得る ことのできるコネクタであって,コネクタ31に形成された溝部49に挿入される 相手コネクタ33の回転中心突起53を支点として相手コネクタ33を回転させて, コネクタ31と相手コネクタ33を嵌合させるものである。 上記のとおり,引用発明の回転中心突起は,相手コネクタ33を回転させる際の 支点(回転中心)となるものであること,回転を円滑に行うためには,その支点の 断面は円形状であることが好ましいこと及び引用例の第3図には回転中心突起53 の断面がほぼ円形状に描かれていることに照らせば,基本的には,その断面の形状 として円形が想定されているものといえる。 しかし,引用発明において,回転中心突起の回転は,相手コネクタ33は,その 前端が持ち上がって上向き傾斜姿勢にある状態(第3図)から,コネクタ31と嵌 合した状態(第5図)までの,せいぜい90度以内のものにすぎず,引用例には, 回転中心突起53やその断面の形状が円形に限られるものであることについては何 らの記載も示唆もないから,その断面の形状は,円形に限られず,相手コネクタ3 3の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない限り,円形以外の形状に することも許容されるものと解される。
ウ 引用発明においては,前記イのとおり,回転中心突起53の形状は,相手コ ネクタ33の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない限り,その断面 の形状を円形以外の形状にすることも許容されるものと解されるところ,相手コネ クタ33の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない範囲で,回転中心 突起53の形状を適宜変更し,その断面が,円形に近似するような,角数の多い多 角形状となるものとすることは,当業者の通常の推考の範囲内のことであるという ことができる。 そして,本件発明のロック突部の形状には,その断面形状が,円形に近似するよ うな,角数の多い多角形状となるものも含まれるものと解されることは,前記アの とおりである。 したがって,引用発明において,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,\n当業者が容易に想到することができたことである。

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平成27(行ケ)10126  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年6月9日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
 次に,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,実施例2 に関して,「本例は,図4に示すごとく,アルミナシート3の両表\n面に,アルミナシート3よりも薄く,電気絶縁性を有するアルミナ 材料からなる一対の表面アルミナ層35を積層して,固体電解質シ\nート2を形成した例である。…開口用貫通穴351は,ジルコニア 充填部4(充填用貫通穴31)よりも小さく,ジルコニア充填部4 における電極5よりも大きな形状に形成してある。」との記載があ り,図4のガスセンサ素子の断面図では,表面アルミナ層の開口用\n貫通穴351の内周と電極の外周との間に隙間が形成されている態 様が示されていることが認められる。 しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1 について,表面アルミナ層の開口用貫通穴が電極の側面が露出する\n程度に電極よりも大きな形状であることを要する旨の記載はなく,また前記1(2)オで述べた本件発明1が奏する作用効果(ガスセン サ素子の早期活性化と共に,強度向上を図ることができること及び ジルコニア充填部が充填用貫通穴内から抜け出してしまうことを防 止すること)との関係からみても,電極の側面が露出する態様のも のに限定されるべき理由はない。 他方,図4に示されたガスセンサ素子は,実施例の一態様を示す ものにすぎないから,当該図面に表面アルミナ層の開口用貫通穴3\n51の内周と電極の外周との間に隙間が形成されている態様が示さ れているからといって,直ちに本件発明1の構成が当該態様のもの\nに限定されると解すべきものとはいえない。 (C) さらに,本件審決は,「ガスセンサ素子において,電極はできる 限り広い面積で測定ガスに接することが好ましいことが技術常識で あること」を前記解釈の根拠とする。 しかしながら,上記のような技術常識があるからといって,本件 発明1のガスセンサ素子における電極が,常にその上面のみならず 側面まで露出するものであることを要するとの解釈が直ちに導き出 されることにはならない。
(d)以上によれば,本件発明1の表面アルミナ層に設けられた開口用\n貫通穴は「上記電極よりも大きな形状に形成してあ」るとの構成に\nついて,電極の側面が露出する程度に開口用貫通穴が電極よりも大 きな形状に形成してあることを意味するとした本件審決の解釈は, 根拠を欠くものであって誤りであり,これを前提とする本件審決の 前記判断も誤りというべきである。
b 上記aで検討したところによれば,本件発明1における「該開口用 貫通穴は,上記電極よりも大きな形状に形成してあ」るとの構成には,\n電極の側面が露出する程度に開口用貫通穴が電極よりも大きな形状に 形成してあるもののみならず、前記a(a)で述べたとおり、表面アルミ\nナ層の開口用貫通穴の側面とその内側に配置される電極の側面が隙間 なく接しているものも含まれると解すべきである。 してみると,本件アルミナ接着剤層が第1電極404及び第2電極 406の側面に接して形成される態様は,相違点に係る本件発明1の 構成のうち,「該開口用貫通穴は,上記電極よりも大きな形状に形成\nしてあ」るとの構成を満たすものといえる。\nウ 以上のア及びイによれば,甲2発明(1)に甲3技術を適用することは当業者が容易に想到し得たことであり,かつ,その結果得られるガスセンサ 素子は,相違点に係る本件発明1の構成をすべて備えるものといえるから,\n成とすることは,本件出願当時の当業者において容易に想到し得たものと 認められる。

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平成27(行ケ)10139  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟  平成28年5月18日  知的財産高等裁判所

 ゲーム機について、進歩性違反なしとした審決が維持されました。また、手続き違背についても、無効審判における審理事項通知書とは異なる認定をする場合に意見申立の機会を与える必要はないと判断されました。
     本件発明1は,前記2(2)のとおり,従来のスロットマシンにおいては,メ モリのデータに異常が生じると,遊技店の従業員等の操作により選択・設定された 設定値ではなく,あらかじめ定められた設定値を自動的に設定し,ゲームの進行が 可能な状態に復帰させているので,本来であれば,遊技店側の操作により選択・設\n定された設定値に基づく当選確率を適用して内部抽選が行われ,入賞の発生が許容 されるべきであるのに,スロットマシンにより自動的に設定された設定値に基づい てゲームが行われることとなるため,ゲームの公平性が損なわれてしまうという問 題があったことから,ゲームの公平性を図ることができるスロットマシンを提供す ることを課題とし,その解決手段として,特許請求の範囲請求項1の構成を採用し,\n特に,不能化解除手段については,第1の不能\化手段によりゲームの進行が不能化\nされた状態においても第2の不能化手段によりゲームの進行が不能\化された状態に おいても,設定操作手段の操作に基づいて許容段階設定手段により設定値が新たに 設定されたことを条件に,ゲームの進行が不能化された状態を解除し,ゲームの進\n行を可能とする構\成を採用したものである。
(イ) これに対し,引用発明1は,前記3(2)のとおり,従来のパチンコ機におい て採用されているチェックサムを用いたエラーのチェック方式では,メモリーにバ ックアップ電源を持たないので,チェックサムの内容が電源遮断後,消去されてし まい,スロットマシン固有の設定値に関するエラーのチェックが困難であるという 問題があったことから,設定値を含む遊技データのチェックサムを,バックアップ 電源により保持することにより,電源投入時に,設定値に関するエラーの発生を検 査することができるようにし,エラーを発見した場合には,スロットマシンの遊技 を停止して,段階設定値の設定の待機待ちの状態にすることができるようにすると ともに,段階設定値を手動で変更することができるようにすることを課題とするも のであって,不能化解除手段については,第1の不能\化手段によりゲームの進行が 不能化された状態において,設定操作手段の操作に基づいて許容段階設定手段によ\nり設定値が新たに設定されたことを条件に,ゲームの進行が不能化された状態を解\n除し,ゲームの進行を可能とするが,そもそも第2の不能\化手段を備えず,第2の 不能化手段を備えないため,第2の不能\化手段によりゲームの進行が不能化された\n状態を解除し,ゲームの進行を可能とする構\成も備えないものである。 そして,引用例1には,ゲームの公平性を図るために,第2の不能化手段及びそ\nのための不能化解除手段を備えること,第2の不能\化手段のための不能化解除手段\nを第1の不能化手段のための不能\化解除手段と共通にすることについては,記載も 示唆もない。 したがって,引用発明1において,第2の不能化手段及びそのための不能\化解除 手段を備え,その上で,更に,第2の不能化手段のための不能\化解除手段を第1の 不能化手段のための不能\化解除手段と共通のものとすることについて動機付けがあ るということはできない。
・・・
イ 審理事項通知書(甲21)によれば,「合議体の暫定的な見解」として, 「引用例1に記載されている,ステップ3のRAMチェックサム検査とステップ4 のチェックサムの一致判定とを実行するチェックサム検査手段と,ステップ5の段 階設定値が正常か否かを判定する段階設定値判定手段とは別の構成であるから,引\n用発明1における,段階設定値が適正か否かの判断を個別に行うものではない「チ ェックサム検査手段」は,引用発明1の「記憶データ判定手段」に相当するもので ある。」旨示していたことが認められる。これに対し,本件審決においては,「電 源投入時における「制御を行うためのデータ」に異常があるか否かの判定とに関す る技術が,技術的に関連の深いまとまりのある技術単位であることを考慮して,本 件発明1と引用発明1とを対比し直した。」として,本件発明1と引用発明1との 相違点として,相違点1を認定した。 しかし,審判における最終的な判断の論理が,審判手続の経過において示された 暫定的な見解と異なるとしても,審判手続において,改めて上記論理を当事者に通 知した上で,これに対する意見を申し立てる機会を当事者に与えなければならない\nものではない。そうすると,かかる機会を与えなかったことを理由として,本件審 判手続に審理不尽の違法があるとまでいうことはできない。

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平成27(行ケ)10054  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月30日  知的財産高等裁判

 薬品について、顕著な効果が認定できないとして、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
 上記のとおり,本件明細書には,本件発明に関し,水性懸濁液の投与とこれ以外 の他の形態(例えば,溶液)で投与した場合との対比や,1日1回の鼻腔内投与と この投与回数及び形態を変えた場合との対比はなされておらず,単にプラセボとの 対比による効果の有無しか記載がない。そして,本件優先日当時の技術常識を踏ま えると,水に難溶性の薬物の水性懸濁液は,他の溶媒を用いた溶液よりも,粘膜か ら吸収されにくいということはできるが,それだけでは,治療効果の具体的な違い は把握できないし,また,他の形態で投与した場合や異なる投与回数の場合の治療 効果がどの程度であったかを読み取ることも,困難である。 他方,甲1発明及び甲2発明においても,アレルギー性鼻炎に対する一定の治療 効果が期待されることは上記のとおりである。 そうすると,本件明細書の記載からは,甲1発明や甲2発明よりも,本件発明1 が,治療効果の点で優れているかどうかを理解することは困難といわざるを得ない。
イ 全身的な吸収及び代謝
本件明細書には,本件発明に関し,経口溶液と比して,鼻腔スプレー懸濁液の方 が,モメタゾンフロエートの全身的な吸収が低く,モメタゾンフロエート自体が血 漿中で定量限界以下しか存在しないという効果があることが記載されているが,経 口懸濁液と同程度の効果があることの記載しかない。そして,技術常識を踏まえて も,他の形態で投与した場合(例えば,溶液の形態での鼻腔内投与)や異なる投与 回数の場合の全身的な吸収及び代謝がどの程度であったかを推認することは困難で ある。 他方,甲1発明において,腹腔内投与及び経口投与後のモメタゾンフロエートの 血漿中の量は高くなく,比較的短期間で消失することは理解できるが,鼻腔内投与 の場合における全身的な吸収及び代謝の程度は全く不明といわざるを得ない。甲2 発明は,水性懸濁液を鼻腔内に使用した発明であるが,本件優先日において,少な くとも,鼻腔内投与の場合にモメタゾンフロエートの全身的な吸収や代謝後の残存 が常に高いという技術常識はない。 そうすると,本件明細書の記載からは,甲1発明や甲2発明よりも,本件発明1 が,全身的な吸収及び代謝の点で優れているかどうかを理解することはできないと いわざるを得ない。
ウ 全身性副作用
本件明細書には,本件発明に関し,プラセボとの対比において,HPA機能抑制\nに起因する全身性副作用がないことが記載されているだけで,他の形態(例えば, 溶液)で投与した場合との対比や,投与回数を変えた場合との対比はなされていな い。そして,当事者の技術常識を踏まえても,他の形態で投与した場合や異なる投 与回数の場合の副作用がどの程度であったかを読み取ることは困難である。 他方,前記(2)及び(3)のとおり,甲1発明及び甲2発明において,モメタゾンフ ロエートは,経口吸入及び鼻腔内吸入をしても,実用可能な程度の副作用しかない\nといえるし,本件優先日において,少なくとも,モメタゾンフロエートの全身的な 吸収が必ず高いという技術常識はない。 そうすると,本件明細書の記載からは,甲1発明や甲2発明よりも,本件発明が, 全身性副作用の点で優れているかどうかを理解することはできないといわざるを得 ない。
エ 以上によれば,本件発明には,薬としての一定の治療効果を有し,実用 可能な程度の副作用しかないことは認められるとしても,本件発明の当該効果が,\n甲1発明及び甲2発明の効果とは相違する効果であるということはできないし,ま た,本件明細書上,それらの効果とどの程度異なるのかを読み取ることができない 以上,これをもって,当業者が引用発明から予測する範囲を超えた顕著な効果とい\nうこともできない。よって,この点に関する審決の判断には誤りがある。
オ 審決は,甲1及び甲2には,1日1回の投与の記載がなく,治療効果の 程度についての記載もなく,本件発明の治療効果を予測できないと判断した。しか\nしながら,甲1発明及び甲2発明において,一定の治療効果が認められながらその 程度についての記載がない以上,当該効果が本件発明の効果よりも明らかに劣るも のと認められない限り,本件発明の効果が顕著なものであるとはいえないはずであ る。審決は,甲1及び甲2の治療効果の程度についての認定をせずに,本件発明の 効果がこれを格別上回ると判断したものであって,論理的に誤りがあるといわざる を得ない。 また,審決は,皮膚に適用した場合の全身性副作用について開示する甲1から, 鼻腔粘膜に投与された際の全身性副作用の大きさを予測できないと判断したが,本\n件発明の効果と甲1発明の効果を同質であると認めた以上,甲1発明において,鼻 腔粘膜に投与した際の全身性副作用の方が,皮膚に投与した際と比して常に優れた ものといえない限り,本件発明の効果が顕著なものとはいえないはずであり,この 点についても,審決に論理的な誤りがあるといわざるを得ない。 さらに,審決は,本件発明について,甲1発明で示された最小限の全身性副作用 よりも低いレベルの全身性副作用しかないから,顕著な効果があると判断したが, この審決の判断には,前記(1)イのとおり,モメタゾンフロエートの全身性吸収及び 代謝後の残存量の問題と全身性副作用の有無の問題を同一視した点において誤りが ある。その上,皮膚へ投与する甲1発明と鼻腔に投与する本件発明において,投与 される組織の相違による吸収性の違いがあるからといって,甲1発明の全身性副作 用が実用化できない程度に強いとは当然にはいえないはずであり,この点について 効果の顕著性を認めた審決の判断にも,論理的な誤りがある。しかも,水性懸濁液 のモメタゾンフロエートの全身性吸収の低さ及び代謝後の残存量の少なさは,本件 発明と同様,水性懸濁液の鼻腔内投与を行う甲2発明が有するはずであり,甲2発 明の副作用の程度が開示されていないとはいえ,審決が,甲1発明と甲2発明を組 み合わせて薬として実用化可能な本件発明の構\成を想到できたとする以上,この組 合せと比して本件発明の効果が顕著なものであるか否かについて検討する必要があ る。しかしながら,審決では,甲1発明との対比しかなされておらず,検討が不十\n分であったといわざるを得ない。

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平成27(行ケ)10165  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月23日  知的財産高等裁判所

 断面形状が5角形の枕について、進歩性なしとした審決が、動機付けなしとして取り消されました。
 審決は,枕の断面形状を5角形とすることが周知の技術事項であり,引用発明の 転がり枕が多角形状の外周面をもつ転がし容易な形状のものであるから,その多角 形状の一形態として5角形の断面形状を選択して5角柱体状の転がり枕を構成する\nことは,当業者にとって容易であると判断する。 しかしながら,審決が周知の技術事項である根拠として摘示した参照文献である 特開2008−125974号公報(乙4)には,複数の多角形断面を有する柱状 体を連結した枕部品が,特開2006−102018号公報(乙5)には,複数種 の枕袋体で構成された枕(請求項2記載の発明は,各枕袋体が着脱自在であるだけ\nで,各枕袋体を単独で用いるものではない。)が,特開平7−275098号公報(乙 6)には,2個の枕を連結して凹部を構成する枕が開示されているだけである。上\n記各公報には,枕の一部を構成する部分に5角形の断面形状を有するものが認めら\nれるものの,そうであるからといって,一部材からなる枕の断面形状を5角形にす るという技術事項を開示したことにはならないのであり,また,単体で使用する枕 の断面形状を5角形にすることが直ちに動機付けられるものでもない。審決の上記 認定の根拠となる刊行物等は,見当たらない。 また,引用発明は,「適度な弾性を有するウレタンフォームや発泡スチロール若し くはゴムなどの弾性体で作られた,多角形状の外周面をもつ転がし容易な形状の, 容易に転がして首筋の任意な好みの部位にその円頂部を宛がう転がり枕」というも のであるところ,「多角形」の語義それ自体には5角形が含まれ(ただし,5角形の 断面形状が「多角形状の外周面をもつ転がし容易な形状」と異なることは,相違点 とされており,当事者間に争いがない。),また,引用例には,「多角形」が8角形で あってもよいことが開示されている(【図5】)。 しかしながら,前記1(2)に認定のとおり,引用発明の転がり枕は,容易に転がし て体の任意の部分にあてがうことができ,また,その部位をわずかに上げて転がす ことであてがい直しができるとするものであり,引用例にも,「円形状若しくは多角 形状の外周をもつ転がり容易な円柱形状の弾性体枕」(【請求項1】),「多角形状の外 周面をもつ転がし容易な円柱形状の丸型枕」(【0004】【課題を解決するための手 段】),「本発明の円柱形状に形成された転がり枕」(【0009】【発明の効果】)との 記載があることにかんがみると,引用発明の転がり枕の外周面は,円に近い形状の 多角形が想定されているものと認められる(審決は,引用例【0005】【0007】 の記載から,引用発明について「多角形の転がり易い形状」と認定したものと解さ れるが,十分に正確なものとはいえない。)。そして,多角形は,角の数が増えるほ\nど円に近い形状となるから,そのような断面形状を有する物が転がりやすくなり, 逆に,角の数が減るほど円から離れた形状となり転がりにくくなることは自明であ る。そうであれば,引用例に接した当業者は,具体的に開示された8角形よりも角 の数の多い多角形状の外周面を持つ形状とすることを通常試みるとはいえるものの, これよりも角の数の少ない多角形状の外周面を持つ形状とすることは,引用発明の 目的から離れていくことであって,これを試みること自体に相応の創意を要する。 他方,本願発明や円柱体に比べて,人間が仰臥,横臥の姿勢で行う,こすり付けや引っ掛け等のストレッチ運動において,そのし易さ,安定度等の点で非常に優れている・・・例えば,・・・・,3角柱体は,急斜面過ぎて使い難い。7角以上の柱体では,一辺の長さが5角柱体に比べ小さく,転がり易く不安定」であり,「又,頭との接触幅が小さいので感触も劣る。」(【0011】)と記載されているとおり,5角柱体に格別の技術的意義を見出したものである。 このように,枕を5角柱体とすることに格別の技術的意義を見出した本願発明に対し,枕の断面形状を5角形とすることが周知技術とはいえず,また,多角形状の枕である引用発明は,「転がり容易」なことを目的とするものである。そうすると,引用発明において,「多角形状の外周面をもつ転がし容易な形状」を「5角柱体状」とすることは,当業者が容易に想到し得る事項ではないと認められる。 被告は,転がりやすさは,枕の弾性や枕と設置面との間の摩擦力にもよることで あって,断面形状と転がりにくさとの間には必ずしも相関関係はないと主張する。 しかしながら,枕の弾性や枕と設置面との間の摩擦力など,枕の断面形状以外の 条件を同じくすれば,断面形状の角の数がより少ないものがより転がりにくくなる ことは明らかである。被告の上記主張は,枕の断面形状と転がりにくさとの関係を 主張しているものではなく,失当である。

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平成27(行ケ)10156  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月28日  知的財産高等裁判所

 動機付けなしとした審決が維持されました。
 (2) 操作部をアタッチメント11の上面に設ける構成の容易想到性について\n原告は,アタッチメント11の取付台12には,電源供給及び信号処理の回路が 設けられており,板状にすぎないビデオカメラ支持部33とは異なり,上面に操作 部35を設けることが可能なボックス形状を有していること,アーム40を折り畳\nんだ非使用状態ではアーム40が操作部35に重なるため,操作部35を操作でき ない不都合や,正面から操作できない不都合を解消するために,ビデオカメラ支持 部33と一体のアタッチメント11の取付台12の上面に操作部35を設け,アー ム40を折り畳んだ状態でも操作部35を操作できるように構成することは当業者\nなら容易に想到し得る旨主張する。しかし,甲1’発明は,前記(1)に認定したとおりのものであり,アタッチメント11を取り付ける場合とアタッチメント11を取り付けない場合の両方の場合を想定した発明であり,ビデオカメラ支持部33を有する書画カメラ部31をアタッチメント11やプロジェクタ本体から着脱可能なようにしたことで,書画カメラ部31を有効活用でき,ユーザに好ましい印象を与えることができるものである。そうすると,甲1’発明の操作部35は,アタッチメント11を取り付ける場合及びアタッチメント11を取り付けない場合に共通に使用されるものであるから,書画カメラ装置を操作する上で必須である。このため,甲1’発明において,操作部35を設ける場所を,書画カメラ部31の回路収納部34の上面からアタッチメント11の上面に変更すると,アタッチメント11を取り付けない場合,書画カメラ装置は操作部35を具備しない構\成となって,書画カメラ装置の操作ができなくなり,書画カメラ部31を着脱可能なようにしたことで有効活用し,ユーザに好ましい印象を与えるとの効果を奏しないこととなる。そうすると,当業者は,甲1’発明において,他に何らの示唆もなく,操作部をアタッチメント11の上面に設けようと動機付けられることはない。\n

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平成27(行ケ)10094  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月30日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。「引用発明1に基づいて,2つの段階を経て相違点に係る本件発明1の構成に想到することは,格別な努力が必要であり,当業者にとって容易であるということはできない。」という理由です。
 ア したがって,仮に,引用発明1に引用発明2を適用したとしても,後部カバ ー13に弾性部材を設け,その弾性部材をその進行方向後方側の位置で固定すると ともに,固定部を除いて前方側を自由な状態とし,主カバー12に対する土付着防 止部材20の固定位置において,その土付着防止部材20と互いに重なるようにす る結果,引用発明1の主カバー12に固定された各土付着防止部材20は,その固 定位置全てが隣接する他の土付着防止部材20と互いに重なるようにはなるものの, 引用発明1の後部カバー13に引用発明2の弾性部材23として設けられた土付着 防止部材20は,その進行方向前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるもので はないから,本件発明1には至らない。 イ 本件審決は,仮に引用発明2の弾性部材23の前端部23aが前方に延設さ れた(前方)端部寄りの部分が自重で垂れ下がるものでないとしても,エプロンに 固定された土除け材を,その端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のもの とすることは,当業者が適宜になし得る程度のことにすぎないと判断した。
(ア) しかし,引用発明2の弾性部材23の前端部23aが前方に延設された (前方)端部寄りの部分を自重で垂れ下がるものとすることを想到した上で,これ を引用発明1に適用することによって,引用発明1の後部カバー13に引用発明2 の弾性部材23として設けられた土付着防止部材20の進行方向前方側の端部寄り の部分を自重で垂れ下がるものとするというのは,引用発明1を基準にして,更に 引用発明2から容易に想到し得た技術を適用することが容易か否かを問題にするこ とになる。このように,引用発明1に基づいて,2つの段階を経て相違点に係る本 件発明1の構成に想到することは,格別な努力が必要であり,当業者にとって容易\nであるということはできない。
(イ) また,引用例2には,弾性部材23の前端部23aはブラケット19に密 着しており,リヤカバー13が上方へ回動したときであっても飛散した土が入り込 むことがなく,前端部23aを更に前方へ延設して低摩擦係数の部材14と重ね合 わせた状態にしたときは,飛散した土の侵入がより一層防止できる旨の記載がある (【0015】)。このように,前端部23aが飛散した土の侵入を防止するという 作用効果を奏するのは,前端部23aがブラケット19に密着しているからであり, 前端部23aを更に前方に延設して低摩擦係数の部材14と重ね合わせた状態にす るのは,その作用効果を強めるためである。 ここで,仮に,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がったと すると,弾性部材23の固定部(座24)から自由端(前端部23a)までのどの 部分がどの程度垂れ下がるにしても,前端部23aは,下方,すなわち,ブラケッ ト19との密着を保つことが困難になる方向に移動することになる。さらに,リヤ カバー13が上方へ回動すると,前端部23aとブラケット19との密着はさらに 困難になる。その結果,前端部23aがブラケット19と密着することによって奏 する飛散した土の侵入防止という上記の作用効果が減殺されることは,明らかであ る。 すなわち,引用例2の【0004】,【0006】の記載に照らすと,リヤカバー に固着された土付着防止部材(弾性部材)を自重で垂れ下がるように構成すると,\nリヤカバーの枢着部分では,メインカバーに取り付けた低摩擦係数の部材と,リヤ カバーに取り付けた弾性部材との接合部に間隙が生じるため,ここに土がたまりや すくなるという引用発明2の課題を解決できない。したがって,引用発明2の弾性 部材23について端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものに変更する ことは,引用発明2の目的に反する。特に,引用発明2で,リヤカバー13を下降 させた状態において,既に前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような弾性 部材23を用いた場合,リヤカバー13を上方へ回動させると,弾性部材23の垂 れ下がり位置はリヤカバー下降時よりさらに下方になるため,リヤカバーの枢着部 分では,メインカバーに取り付けた低摩擦係数の部材と,リヤカバーに取り付けた 弾性部材との接合部にさらに間隙が生じ,ここに土がたまりやすくなってしまい, 飛散した土の侵入防止という引用発明2の上記作用効果を奏することができない。 そのため,上記作用効果を奏するためには,リヤカバー13を下降させた状態にお いて,既に前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような弾性部材23を用い ることはできない。 そうすると,引用発明2において,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分を自 重で垂れ下がるようにすることには,そもそも阻害要因があると認められる。弾性 部材23の前端部23aを更に前方に延設して低摩擦係数の部材14と重ね合わせ た状態にした場合も,同様の理が妥当することから,前端部23aを前方に延設し た弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるようにすることは, 当業者が適宜になし得る程度のものということはできない。 したがって,本件審決の上記判断は,誤りというべきである。
(ウ) 被告は,引用発明2のリヤカバー側の弾性部材23について前方側の端部 寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものに変更することは,メインカバー に固着された土付着防止部材が自重で垂れ下がることによる不都合を課題とする引 用発明2の目的に反するものではないから,弾性部材23を,進行方向前方側の端 部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものとすることは,当業者が適宜に なし得る程度のことにすぎない旨主張するが,同主張に理由がないことは,前記 (イ)において説示したとおりである。
・・・
しかし,前記(イ)のとおり,弾性部材23の前端部23aは,ブラケット19に 密着することによって,リヤカバー13が上方へ回動したときでも飛散した土が入 り込むことがないという作用効果を奏するものであるから,前端部23aがブラケ ット19に密着するのを妨げるような変更を加えることには阻害要因がある。そし て,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるようにすることは, 前端部23aをブラケット19との密着を困難にする方向に移動させることを意味 するから,当業者が適宜になし得るものということはできない。

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平成27(行ケ)10014  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月25日  知的財産高等裁判所

 化合物の製造方法について、一部の置換基を置換することについて動機付けなしとした審決が維持されました。
(ア) 原告らは,主張1)のとおり,マキサカルシトールの効率的な製造方法を検 討する当業者は,甲第4号証の図9から,エポキシド化合物(18)及び(19) のヒドロキシメチル基をメチル基に置き換えることを着想し,動機付けられると主 張する。 しかし,前記のとおり,甲第4号証の図9記載の工程は,25位の立体配置が異 なる二種類のマキサカルシトールの予想代謝物(12)又は(13)を選択的に合\n成するための製造方法であり,まず,出発物質に試薬を適用して二重結合を有する 側鎖を導入し,次いで,これに香月−シャープレス反応を用いるという二段階の反 応を行うことにより,二重結合をエポキシ基に変換した中間体である二種類のエポ キシド化合物(18)又は(19)を選択的に生成し,さらに,各エポキシド化合 物のエポキシ基を開環することにより図9の右下に図示される2種類のステロイド 化合物を製造し,最後に,各ステロイド化合物を光照射及び熱異性化して,それぞ れから最終目的物である上記予想代謝物(12)又は(13)を生成するという一\n連の工程である。原告らの主張1)は,この一連の工程のうち終盤の,中間体(前駆 体)としてエポキシド化合物を経由するという点のみを取り出して,そのエポキシ ド化合物を得るまでの工程は,甲4発明1とは全く違うものに変更するというもの であるから,甲4発明1の一連の工程のうち,特にエポキシド化合物を経由すると いう点に着目するという技術的着想が必要である(仮に,この甲4発明1をマキサ カルシトールの合成にも応用しようとするのであれば,甲4発明1の試薬を,4− ブロモ−2−メチル−テトラヒドロピラニルオキシ−2−ブテンに代えて,マキサ カルシトールの側鎖にとって余分なテトラヒドロピラニルオキシ基〔OTHP基〕 のない下図の4−ブロモ−2−メチル−2−ブテン(臭化プレニル)を用い,それ 以外は,甲4発明1と同様の一連の側鎖導入工程,エポキシ化工程,エポキシ基の 開環工程を経る製造方法に想到することが自然である。)。 甲第4号証記載の試薬 4−ブロモ−2−メチル−2−ブテン この点,甲第4号証には,図9の一連の工程が,特にエポキシド化合物を経由す る点に着目したものであることを示唆する記載はなく,むしろエポキシド化合物は, 26位が水酸化された側鎖末端の立体配置構造が異なる2種類のマキサカルシトー\nルの予想代謝物(12)又は(13)を選択的に製造するという目的のために,香\n月−シャープレス反応を採用した結果,工程中において生成されることとなったも のにすぎないものと理解される。また,甲第4号証には,図9の合成方法によって マキサカルシトールの予想代謝物が高収率で得られたことが記載されているのみで,\n問題点の記載もなく,甲4発明1の一連の工程の改良(変更)をする際に,どの点 は変更する必要がなく,どの点を改良すべきかを示唆する記載もない(なお,仮に 改良すべき点として工程数を取り上げたとしても,側鎖導入工程,エポキシ化工程, エポキシ基の開環工程のいずれを短縮すべきなのかについての示唆もなく,二重結 合からエポキシ化を経由せず直接水酸化するという選択肢なども想定は可能であ\nる。)。 そうすると,当業者が,仮に甲第4号証の図9のマキサカルシトールの予想代謝\n物(又はその前駆体となるステロイド化合物)とマキサカルシトールの側鎖の類似 性から,甲4発明1をマキサカルシトールの合成に応用することを想到し得たとし ても,その際に,一連の工程のうち,特にエポキシド化合物を経由するという点に 着目して,最終工程であるエポキシド化合物のエポキシ基を開環する工程の方を変 更せずに,その前段階である側鎖導入工程とエポキシ化工程は変更することを前提 として,マキサカルシトールの前駆体となるエポキシド化合物を製造しようとする ことを,当業者が容易に着想することができたとは認められない。

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平成27(行ケ)10113  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月24日  知的財産高等裁判所

 医薬品の用量・用法を変えることについて、動機付けありと認定しました。 審決は無効理由なしと判断していましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
(ア) 甲10には,タダラフィルは,PDE5阻害剤であって,ヒトの勃 起機能不全の処置に有用であること(前記(2)ア(ア)ないし(カ),(ケ), (コ)),その用量について,平均的な成人患者(70kg)に対して1 日当たり,概ね0.5〜800mgの範囲であり,個々の錠剤又はカプ セル剤は,1日当たり単回又は数回,単回投与又は反復投与のため,好 適な医薬上容認できる賦形剤又は担体中に0.2〜400mgの有効成 分を含有するものであることが記載され(前記(2)ア(オ)),さらに,具 体的に,タダラフィルを50mg含む錠剤及びカプセルの組成例(前記 (2)ア(キ),(ク))が記載されている。 また,「実際には,医師は,個々の患者に最も適している実際の投与 計画を決定するが,それは特定の患者の年齢,体重および応答によって 変化する。上記の投与量は,平均的な場合の例であり,より高い又は低 い用量範囲が有益であるような個々の事例が存在するかもしれないが, いずれも本発明の範囲内である。」(前記(2)ア(オ))と,実際の患者に 投与する場合には,医者が最も好適と考えられる投与計画を決定するこ とも記載されている。 さらに,タダラフィルを用いたインビトロ試験において,PDE5阻 害作用につき,IC50が2nMであったことが記載されている(前記(2) ア(コ))。
(イ) 前記(ア)の記載に接した当業者であれば,甲10発明に係るタダラ フィルにつき,平均的な成人患者(70kg)に対して1日当たり,概 ね0.5〜800mgの範囲において,ヒトの勃起機能不全の処置に有\n用であり,具体的には50mgのタダラフィルを含む錠剤ないしはカプ セルが一例として考えられること,もっとも,実際の患者に投与する場 合には,好適と考えられる投与計画を決定する必要があることを理解す ると認められるところ,タダラフィルと同様にPDE5阻害作用を有す るシルデナフィルにおいて,ヒトに投与した際,PDE5を阻害するこ とによる副作用が生じることが本件優先日当時の技術常識であったこと から(前記イ(ウ)),甲10のタダラフィルを実際に患者に投与するに 当たっても,同様の副作用が生じるおそれがあることは容易に認識でき たものといえる。そして,薬効を維持しつつ副作用を低減させることは 医薬品における当然の課題であるから,これらの課題を踏まえて上記の 用量の範囲内において投与計画を決定する必要があることを認識するも のと認められる。そうすると,そのような当業者において,前記アの技 術常識を踏まえ,甲10に記載された用量の下限値である0.5mgか ら段階的に量を増やしながら臨床試験を行って,最小の副作用の下で最 大の薬効・薬理効果が得られるような投与計画の検討を行うことは,当 業者が格別の創意工夫を要することなく,通常行う事項であると認めら れる。 加えて,前記(ア)のとおり,甲10のタダラフィルに関するインビト ロ試験の結果によれば,タダラフィルのPDE5阻害作用はシルデナフ ィル(前記イ(ア))に比べ強いことが示されているのであるから,タダ ラフィルが,インビトロ試験と同様にインビボ試験である臨床試験にお いても,強いPDE5阻害作用を発揮する可能性を考慮に入れて,タダ\nラフィルの用量としてシルデナフィルの用量である10mg〜50mg (前記イ(イ))及びそれよりも若干低い用量を検討することも,当業者 において容易に行い得ることである。 以上によれば,甲10発明について,適切な臨床における有用性を評 価するために臨床試験を行い,最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効 果が得られるような範囲として,相違点1に係る範囲を設定することは, 当業者が容易に想到することができたものと認められる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,経口投与された医薬化合物が,作用部位でどの程度の濃度 になるかを左右する薬物動態は,様々なファクターに影響され,これら のファクターは個々の医薬化合物によって様々に異なるとともに,各フ ァクターによる影響は総合的に生体に作用するものであるから,作用部 位において当該化合物が適切な濃度になるために必要な投与量は,ヒト における臨床試験を経て初めて設定され得るものであることは,医薬分 野における技術常識であり,経口投与する際の適切な用量は,インビト ロ試験での活性でのみ決定できるものではないし,ある医薬化合物の適 切な用量を,薬物動態が異なる全く別の化合物の用量を参考にして決定 することなどできないことも,医薬分野における技術常識である旨主張 する。 確かに,実際にヒトに対して薬物を経口投与する際における適切な用 量を決定するに当たっては,インビトロ試験での活性でのみ決定できる ものではなく,最終的にはヒトにおける臨床試験を経て決定されるもの であることは被告の主張するとおりである。 しかしながら,ヒトに対する適切な用法・用量を決定することに関し, 臨床試験においては,前記ア(ウ)のとおり,非臨床試験での全成績を詳 細に検討し,同薬効,類似構造薬に関する従来の知識,経験をも加味し\nて決定されるものとされている以上,タダラフィルと同様にPDE5阻 害作用を有するシルデナフィルの用量や,タダラフィルのインビトロ試 験データを参考にすることも,当業者が当然行うことと認められる。こ の点につき,タダラフィルの用量の検討に当たり,シルデナフィルは参 考にできないほど薬物動態が異なるという知見が存在することをうかが わせる証拠もない。そして,医薬品の開発は,インビトロ試験で有用な 薬理効果が確認された化合物について,動物試験,さらにはヒトに対す る臨床試験を行い(甲24参照),最適な用量が決定されるものである が,この過程を経ること自体は,ヒトに医薬品を投与する際の適切な用 量を決定するに当たって通常想定されることであって,当業者が容易に なし得ることであるから,これらを行う必要があったことを根拠として, 医薬品の用量・用法に関する発明につき容易想到性を否定することはで きない。

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平成27(行ケ)10075  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月24日  知的財産高等裁判所

 動機付けありとして無効とした審決が維持されました。
 原告は,本件審決は,甲4発明において相違点4に係る構成を採用することの動機付けにつき,工業製品の製造分野において,共通の製造装置から可\n及的に多様な製品を製造することは当然の要請であると判断しているが,誤 りであり,また,甲4発明に本件周知技術を適用する動機付けはないから, 相違点4につき容易想到であるとした本件審決の判断は誤りである旨主張す るので,以下検討する。
ア 甲4には,・・・・がそれぞれ開示されている(前記(2)ア(オ))。 そうすると,甲4は,必要とされる引張り強度又はクッション性,通水 性及び通気性等の機能に応じて,線条の押し出し方向と平行な外周につき,密度の高い表\面部分を片側又は両側に適宜形成することを開示するものと\nいえる。
イ 甲3(前述のとおり,甲3が公開されたのは,本件特許の原出願日の約 24年前である)においても,線条の押し出し方向と平行な外周の表面側であるマットの片側の表\面部分を高密度化した立体網状構\造体を製造する\n方法のほかに,両面を高密度化した立体網状構造体を製造する方法及び連続した高密度の平滑な表\面を形成するために,環状の接触プレートで完全に取りまかれた,全体的に環状,だえん状又は別様に閉じられた断面を有 する束にフィラメントを押し出す方法,すなわち,外周の全ての表面が平滑で内部よりも密度が高い表\面となる立体網状構造体を製造する方法も選\n択的に示されていることから(前記(3)ア(ア)e〜h),線条の押し出し方 向と平行な外周の表面側につき,必要に応じて高密度化した部分を適宜形成することが開示されているものといえる。
ウ 前記ア及びイによると,立体網状構造体の製造方法の技術分野において,線条の押し出し方向と平行な外周の表\面側につき,立体網状構造体の用途\n等に応じて適宜選択した上で,必要な部分の密度を高くすることが行われ ているものと認められる。 そうすると,4面成形をした立体網状構造体を必要とする当業者が,甲4発明に本件周知技術を適用しようとする動機は十\分にあり得たものであり,その場合,甲4発明の,線条の押し出し方向と平行な外周の2面の表面側の密度がこの2面の表\面側を除く部分の密度より相対的に高くなり,この2面の表面側の空隙率が80%以下になるという構\成を残りの表面側にも適用して,外周の全ての表\面側の密度が表面側を除く部分の密度より\n相対的に高くなり,この全ての表面側の空隙率が80%以下になるようにすること,すなわち,相違点4に係る本件発明1の構\成とすることは,容易に想到し得たものと認められる。

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平成27(行ケ)10127  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月23日  知的財産高等裁判所

 引用例には本件発明の構成について示唆もないとして、進歩性なしとした\n審決が取り消されました。
 上述の如く,本発明になる貯蔵装置は,貯蔵庫への修整ガス供給流量を貯蔵庫の 容積Vに対して1.0〜2.8V×10−3とするとともに排気管の管路総断面積 が貯蔵庫の容積Vに対して0.7〜1.6V×10−3となるように排気管の内径 を選定することにより,庫内の圧力を上昇させることなく修整ガスを庫内に供給す ることができるとともに庫内の残存ガスを効率良く排気させることができ,最短時 間で庫内の残存ガスを修整ガスに置換することができる(【0033】)。 b 周知例11は,前記a(a)のとおり,「貯蔵装置に係り,特に貯蔵庫内の残存 ガスを貯蔵物の鮮度維持を図る修整ガスに置換する貯蔵装置に関する」発明の公開 特許公報であり,引用発明とは明らかに技術分野を異にする。 そして,周知例11には,前記a(b)のとおり,発明が解決しようとする課題の1 つとして,排気管が小さければ庫内の圧力が上昇する旨記載されているが,前記a (c)から(e)のとおり,課題を解決する手段,実施例及び発明の効果において,「気体 が排出する経路」に相当する排気管の内径(管路断面積)に関しては,上記の貯蔵 庫内の容積Vに対する比率の範囲,管路断面積比率と置換時間比率及び貯蔵庫内圧 力との関係等が示されており,「気体が流入する経路」に相当する修整ガスを前記 貯蔵庫へ供給する手段である修整ガス供給管路7の内径(管路断面積)に関しては, その供給流量が一定の範囲内となるように管路内径を選定してもよい旨が記載され ているが,排気管と修整ガス供給管路の各径の対比に言及する記載はない。よって, 周知例11において,「気体が排出する経路」を「気体が流入する経路」よりも狭 くすることは,開示も示唆もされていないというべきである。 ウ 相違点4の容易想到性について
(ア) 前記アのとおり,引用例には,流体供給経路及び流体排出経路のいずれに ついても,その管の広さ(径の大きさ)に関する記載は,一切ない。また,少ない 流量の流体でレーザビーム反射面である鏡面12の反対側に,レーザビーム反射部 材に相当する金属円板が弾性変形するに要する圧力をかけることに関する記載も示 唆もない。
(イ) 前記イのとおり,周知例10においては,「気体が排出する経路」と「気 体が流入する経路」とで各経路の広さ(径)を変えることについては,何ら触れら れていない。周知例11は,引用発明とは技術分野を異にすることから,引用発明の技術分野の当業者にとっての周知技術を示すものとは直ちにいい難い上,「気体が排出する 経路」を「気体が流入する経路」よりも狭くすることは,開示も示唆もされていな い。

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平成27(行ケ)10143  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月16日  知的財産高等裁判所

 本件発明認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
 原告は,本願発明は,較正液の加熱前の溶液温度のばらつきによって生じる目標 温度までの加熱時間のばらつきをなくすものであるとし,これに応じて,被告は, 本願発明にはそのような作用効果はないと反論する。 そこで,検討するに,本願発明は,較正液導入前にセンサ部の温度に応じてセン サ部を予熱するものであり,少なくとも,センサ部の温度差により生じる加熱時間\nの差は解消される。ただし,本願発明は,実際に導入された較正液の溶液温度の温 度差により,更に分析時までの加熱時間に差が生じることの解消を目的とするもの ではない。原告の上記主張は,前者の趣旨をいうものと解され,本願発明は,較正 液導入時におけるセンサ部の温度差により生じる加熱時間の差の解消という効果を 奏するものであるから,被告の上記主張は,採用することができない。 また,被告は,引用発明2は溶液の有無に関係なく温度制御を開始するものであ り,引用発明に引用発明2の加熱動作を適用すれば,予熱後に較正をする態様を採\n用すると主張する。 しかしながら,被告が上記に主張するように,引用発明2は,使い捨てカートリ ッジが挿入されると自動的に温度制御システムが起動するものであるとしても,引 用例2は,試料を電気化学セル中に入れずに温度制御を開始し,一定の加熱がなされ た後に当該セル中に試料溶液を導入するような態様を開示するものではなく,また, そのような例外的態様が示唆されているわけでもない。したがって,引用発明に引 用発明2の加熱動作を適用しても,相違点2に係る本願発明の構成には至らない。\n被告の上記主張は,採用することができない。 なお,被告は,当審において,引用発明2に加えて周知例(乙2〜7)を提出し, 較正に先立って予熱を行う態様が周知である旨の主張立証をするが,実質的に審決\nが全く取り上げていない周知技術を新たに追加するものであって,許されない。し かも,上記各文献からは,センサ部の温度にかかわらず較正前に自動的に一定時間 の予熱を行う態様のものしか認められず,センサ部の温度によって較正前に予\熱を 行うかどうかを選択する態様のものが周知の技術であったとは認めるに足りない。

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平成27(行ケ)10129  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月16日  知的財産高等裁判所

 引用発明の認定を誤ったとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。
 原告は,審決が引用発明の「枠体」は本願補正発明の「仕切りにより区画された 開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」に相当する と認定したことが,誤りであると主張する。 審決は,引用発明の枠体が本願補正発明の測定領域形成部に相当する部分を形成 しているとした上で,パーティクルがシート状の空間Sを通過し得るのであれば, 開口部42の開口面に直交して気体が流れ得ることは当業者にとって明らかである, と認定している。 しかしながら,次のとおり,引用発明の枠体は,「仕切りにより区画された開口内 部を直交して気体が相対的に流れるようにした」ものではないから,審決の上記認 定は,誤りである。 すなわち,前記1(2)のとおり,引用発明は,従来の浮遊パーティクル検出装置が パーティクルの位置及び飛来のタイミングはある程度検出できるものの,パーティ クルの飛来方向は検出できないという問題を踏まえてされたものであり,その目的 は,パーティクルの飛来方向を検出できる浮遊パーティクル検出装置を提供するこ とにある。つまり,引用発明は,パーティクルの飛来方向が不明であるからこそ, その飛来方向を検出しようとするものである。そして,引用発明の検出対象である 浮遊パーティクルとは,前記1(2)のとおり,クリーンルーム内等の空気中に浮遊す るパーティクル,すなわち,気流によって運ばれる微粒子であるから,その飛来方 向は,実質的に,気流の方向に一致すると認められる。そうすると,引用発明は, パーティクルを運ぶ気流の方向が不明であることを前提とするものであり,特定の 方向からの気流を前提とはしていないものである。 一方,本願補正発明の測定領域形成部は,特許請求の範囲の記載において,仕切 りにより区画された開口内部を「直交して」気体が相対的に流れるようにしたもの と特定され,さらに,粒子濃度cを算出する際の気流の容積(分母)がr×v×T (r:計測領域面積,v:気流速度,T:計測時間T)で算定され,rとは開口内 部の面積にほかならず,この算出方法で粒子濃度を算出できるのは,開口内部を通 過する気体の流れの方向が開口面に直交する方向のみの場合であるから(気体の流 れが開口面に直交していない場合に気流の容積を算定する際の基準面積r´は,開 口内部の計測領域面積rよりも小さな値である。),本願補正発明は,仕切りにより 区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにしたものに限定されて いると認められる。 以上からすれば,引用発明の枠体の開口部42の開口面を通過する気流の方向は, あらかじめ特定されないのに対し,本願補正発明の開口内部を通過する気体の流れ の方向は,開口面に直交する方向に限定されている。したがって,引用発明の「枠 体」は,本願補正発明の「仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対 的に流れるようにした測定領域形成部」には相当しない。

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平成27(行ケ)10097  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月8日  知的財産高等裁判所

 訂正後のクレームについて進歩性なしとした審決が取り消されました。
 本件出願の優先日当時,照明ユニットにおいて発光効率を高める ために,不純物の除去等の製造条件の最適化等により,蛍光体の内部量子 効率をできるだけ高めることは,当業者の技術常識であったことが認めら れる。しかしながら,他方で,不純物の除去等の製造条件の最適化等により, 蛍光体の内部量子効率を高めることについても,自ずと限界があることは 自明であり,出発点となる内部量子効率の数値が低ければ,上記の最適化 等により内部量子効率を80%以上とすることは困難であり,内部量子効 率を80%以上とすることができるかどうかは,出発点となる内部量子効 率の数値にも大きく依存するものと考えられる。 しかるところ,甲3には,量子効率に関し,別紙2の表3に3種の化合\n物の「量子効率(QE)」が「29」%,「51」%,「30」%である こと,段落【0067】に,「サイアロンSrSiAl2O3N2:Eu2+ (4%)(試験番号TF31A/01)」について「量子効率QEは43%」 であることの記載があるだけであり,これ以外には,量子効率,外部量子 効率又は内部量子効率について述べた記載はないし,別紙2の表4記載の\n赤色蛍光体である「Sr2Si4AlON7:Eu2+」の内部量子効率につ いての記載もない。また,甲3には,「Sr2Si4AlON7:Eu2+」 の「Sr2」を「Ca」又は「Ba」に置換した蛍光体の内部量子効率に ついての記載もない。 このほか,別紙2の表4記載の赤色蛍光体である「Sr2Si4AlON\n7:Eu2+」,さらには「Sr2Si4AlON7:Eu2+」の「Sr2」を 「Ca」又は「Ba」に置換した蛍光体の内部量子効率がどの程度である のかをうかがわせる証拠はない。 以上によれば,甲3に接した当業者は,甲3発明において,Sr2Si4 AlON7:Eu2+蛍光体のSrの少なくとも一部をBaやCaに置換し たニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用した上で,さらに, 青色発光素子が放つ光励起下におけるその内部量子効率を80%以上とす る構成(相違点5に係る本件訂正発明の構\成)を容易に想到することがで きたものと認めることはできない。 したがって,本件審決における本件訂正発明と甲3発明の相違点5の容 易想到性の判断には誤りがある。
 イ これに対し被告は,内部量子効率が高いことが望ましいことは,本件出 願の優先日前の技術常識であったから,内部量子効率ができるだけ高めら れた蛍光体を用いることは,当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内のこ\nとである,本件出願の優先日前において,「ニトリドシリケート系の窒化 物蛍光体」(α−サイアロン蛍光体を含む。)の内部量子効率が80%以 上のものを製造できる可能性を,技術常識に基づいて想定できたものとい\nえるなどとして,内部量子効率がどの程度以上の蛍光体を用いるかは,目 標とする効率や蛍光体の入手・製造の容易性などを勘案して,当業者が適 宜設定すべき設計事項にすぎないから,当業者は,甲3発明において,相 違点5に係る本件訂正発明の構成を採用することを容易に想到することが\nできた旨主張する。 しかしながら,一般論として,本件出願の優先日前において,青色発光 素子が放つ光励起下における「ニトリドシリケート系の窒化物蛍光体」(α −サイアロン蛍光体を含む。)の内部量子効率が80%以上のものを製造 できる可能性を技術常識に基づいて想定できたとしても,甲3に接した当\n業者が,甲3の記載事項を出発点として,甲3発明において,Sr2Si4 AlON7:Eu2+蛍光体のSrの少なくとも一部をBaやCaに置換し たニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用した上で,さらに, 青色発光素子が放つ光励起下におけるその内部量子効率を80%以上とす る構成に容易に想到することができたかどうかは別問題であり,被告の上\n記主張は,甲3の具体的な記載事項を踏まえたものではないから,採用す ることができない。

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平成27(行ケ)10078  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月2日  知的財産高等裁判所

 引用文献(ダブルスピンドル方式の製造装置)にシングルスピンドル方式の構成を採用することについて動機付けを欠くとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。\n
 (ア) 前記(2)アのとおり,引用発明は,複数の加工具回転軸を備え,複数の砥石 によって眼鏡レンズを加工する装置を用いる従来の玉型加工の方法に,眼鏡レンズ を回転させないという構成を採用したものである。\nそして,前記(2)イのとおり,引用例には,加工具回転軸を1つとするシングルス ピンドル方式についての記載はなく,示唆もされていない。加工具回転軸が複数あ ること自体に起因して何らかの問題が発生する,又は,加工具回転軸を1つとする ことにより何らかの効果が期待できるなどといった,シングルスピンドル方式を採 用する動機付けにつながり得ることも何ら示されていない。
(イ) 加えて,前記(2)イのとおり,ダブルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置 は,加工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置に比 して,機械剛性が高く,加工時間も短いという利点を有するものと推認することが できるのに対し,シングルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置がダブルスピンド ル方式の眼鏡レンズ加工装置に比して優位な点があることは,本件証拠上,認める に足りない。
(ウ) したがって,当業者において,本願出願当時,引用発明に係る一対の加工 具回転軸を備えたダブルスピンドル方式の眼鏡レンズの製造装置につき,あえて加 工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式の構成を採用することについては,\n動機付けを欠き,容易に想到し得ないというべきである。
(4) 相違点2の容易想到性について
ア 相違点2について
相違点2は,前記第2の3(2)ウ(イ)のとおり,レンズチャック軸と加工具回転軸 との軸間距離を変動させる軸間距離変動手段が,本願補正発明においては,レンズ チャック軸を加工具回転軸に向けて移動させるというものであるのに対し,引用発 明においては,一対の砥石軸を眼鏡レンズ駆動装置に固定された眼鏡レンズに向け て移動させるというものである点をいい,本願補正発明と引用発明との間に,この ような相違点が存在することは,当事者間に争いがない。 引用発明の砥石軸は,本願補正発明の加工具回転軸に相当し,また,引用発明の 眼鏡レンズは,本願補正発明のレンズチャック軸に相当する軸部材に保持されてい るものであるから,引用発明における上記軸間距離変動手段は,実質において,一 対の加工具回転軸をレンズチャック軸に向けて移動させるというものである。 よって,相違点2は,実質的には,軸間距離変動手段が,本願補正発明において は,レンズチャック軸を加工具回転軸に向けて移動させるというものであるのに対 し,引用発明においては,一対の加工具回転軸をレンズチャック軸に向けて移動さ せるというものである点をいうものと認められる。
イ 本願補正発明における軸間距離変動手段は,加工具回転軸が単数であること を前提とするものであり,加工具回転軸が複数の場合に同手段を採用することは, 事実上不可能である。\nしたがって,相違点2は,相違点1に係る加工具回転軸の個数差を前提とするも のということができ,相違点1に係る本願補正発明の構成が容易に想到し得ない以\n上,相違点2に係る本願補正発明の構成も容易に想到し得るものではない。
(5) 被告の主張について
ア 被告は,当業者において,引用例に記載されている「眼鏡レンズが砥石に当 接した直後から,眼鏡レンズには眼鏡レンズの回転を停止する方向に力が継続して 加わっている」(【0006】)という軸ずれの原因となる物理現象は,ダブルスピン ドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても生じるものであることを 理解することができることを前提として,眼鏡レンズが回転していない状態で砥石 と当接させるという上記物理現象に対する引用発明の解決手段は,ダブルスピンド ル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても使用できるものであり,当 業者であれば,上記解決手段の適用対象が,いずれの方式の装置であるかにかかわ らず,軸ずれの課題を解決し得るものとして認識することができる旨主張する。 本件証拠上,加工具回転軸の個数と軸ずれとの間に何らかの関係があるものとは 認めるに足りず,したがって,たとえ,当業者において,上記解決手段がダブルス ピンドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても引用発明の課題であ る軸ずれを防止し得る旨を認識したとしても,それは,引用発明の一対の加工具回 転軸を1個の加工具回転軸とすることには,つながらない。

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平成27(行ケ)10090  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年2月17日  知的財産高等裁判所

 相違点の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 他方,引用発明は,本願発明の従来技術であるスリットによる変形作用を 前提として,スリットに相当する溝孔6の長さ方向中央部に応力的に弱い部分とし て拡大溝部6aを形成することにより,狭幅部4aを形成して,狭幅部4aをスリ ット(溝孔6)間の軸部の変形の中心点(起点)としたものである。そして,変形 区域については,軸の長さ方向でいえば,本願発明が,穴(7)を挟んで頭部(3) から雌ねじ(4)の間である(変形区域(5))のに対して,引用発明は,従来技術 におけるスリットに相当する溝孔6のある領域であると認められるところ,引用発 明は,「軸部壁の弱体化部」に相当する溝孔6のある領域全体の中で,特に応力的に 弱い部分として拡大溝部6aにより狭幅部4aを形成して,軸部の変形の中心点(起 点)としたのであって,従来技術のスリットと同様,狭幅部4aの上下に位置する 溝孔6と溝孔6の間の軸部壁6が“く”の字状に折れ曲がることにより,拡開部9 が形成されるものである。 すなわち,引用発明は,従来技術のスリット(溝孔6)において,拡大溝部6a により特に応力的に弱い部分を形成して,スリット(溝孔6)間の管状部材4を折 り曲げやすくしたものに相当すると認められる。他方,本願発明は,変形区域の中 央の周範囲に穴を設けることによって,応力的に弱い部分を形成し,折り曲げる際 の起点とするものである。そして,本願発明にいう「穴」とは,閉じられた線図で 画された部分をいい,これが応力的に弱体化部を形成するところ,これに該当する のは,引用発明では,溝孔6と拡大溝部6a両方で構成される部分ということにな\nる。 この点,被告は,引用発明の「複数の溝孔6が形成された領域」は「変形区域(5)」 に,「複数の狭幅部4a」は本願発明の「軸部壁(6)の弱体化部」に相当すると主 張するところ,本願発明における「穴」及び「穴」と「弱体化部」の関係に関する 解釈を必ずしも明確に主張していないが,少なくとも,弱体化部に相当する「複数 の狭幅部4a」は,拡大溝孔6aのみによって形成される前提と解される。しかし ながら,このような被告の主張は,「穴」全部ではなく,その一部にのみ着目し,「弱 体化部」に相当するとするものであって,前提において採用できない。 したがって,引用発明は,変形区域全体が弱体化部であり,本願発明のように, 「変形区域(5)の中央の周範囲にのみ,・・・軸部壁(6)の弱体化部を持ってい る」ものではない。よって,この点において,審決の一致点の認定には誤りがあり, 変形区域と穴の位置関係に関する相違点の看過があると認められる。

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平成26(行ケ)10272    特許権  行政訴訟 平成28年2月17日  知的財産高等裁判所

 一致点の認定誤りを前提として、進歩性なしとした審決が取り消されました。また、審判手続にも違反ありと認定されました。
 ア そこで,検討するに,上記のとおり,固体分散体(固体分散製剤)には, 薬物の微結晶を含むものと,薬物が分子サイズで均一に分散(非晶質化・分子分散) しているもの(固溶体)の両方があるから,引用発明が,固体分散製剤であるから といって,直ちに,薬物の結晶を含まないということはできない。 そして,引用発明のうち,薬物を脂肪酸等に「溶解させた溶液」を用いる場合に ついて検討すると,薬物を脂肪酸等に溶解させた溶液の段階では,薬物が脂肪酸等 の中に分子分散され,結晶を含まない状態といえるが,それを,(溶融した)水溶性 ポリマーマトリックスに混合し,冷却した後,乾燥工程(具体的には,12時間以 上オーブン中で乾燥する工程)を経た後においても,薬物の結晶を含まない状態が 維持されるか否かについての技術常識は存在せず,乾燥工程後の状態として薬物の 結晶を含まないことについて,具体的な技術的根拠があるとはいえない。一般的に, 薬物が非晶質化された固体分散体は,熱力学的に高エネルギーな準安定系であり, 安定な結晶形に転移しやく経時的に薬物の結晶化が起こり得るという上記技術常識 に照らすと,(溶融した)水溶性ポリマーマトリックスと混合する工程,及び(12 時間以上のオーブン中での)乾燥工程において,薬物が結晶化する可能性は否定で\nきない。 したがって,引用発明のうち,薬物を脂肪酸等に「溶解させた溶液」を用いた発 明は,当該「溶解させた溶液」を用いることのみを理由としては,薬物の結晶を実 質的に含まないものと認めることはできない。 他方,引用発明のうち,薬物を脂肪酸等に「分散させた溶液」を用いる場合につ いて検討すると,薬物を脂肪酸等に分散させた溶液では,薬物は,溶解することな く,ある程度の大きさの結晶で存在している状態の場合もあり得ると認められる。 そうすると,それを水溶性ポリマーマトリックスに混合し,冷却した後,乾燥工程 を経た後で,結晶を含まない状態となることについて,具体的な技術的根拠がある とはいえない。
イ 以上によれば,引用発明は,「本質的に活性物質の結晶を含まない」もの であるとはいえず,審決が,この点を補正発明と引用発明の一致点とし,相違点5 として認定しなかった判断には誤りがあるというべきである。
・・・
以上の点を考慮すると,拒絶査定不服審判において,本件のように審判請求時の 補正として限定的減縮がなされ独立特許要件が判断される場合に,仮に査定の理由 と全く異なる拒絶の理由を発見したときには,審判請求人に対し拒絶の理由を通知 し,意見書の提出及び補正をする機会を与えなければならないと解される。 イ そこで,検討するに,本件拒絶査定の理由は,補正前発明は,当業者が 引用文献1に記載した発明であるというものであるのに対し,審決は,補正発明は, 引用文献1に記載された発明に周知技術を適用して容易に発明をすることができた というものであり,両者の違いは,審決では,引用発明における脂質成分及び結合 剤成分が分子分散体を形成しているか否かは特定されていないとして,補正発明と の相違点であると認定した上で,分子分散体を形成するための技術は周知であると して,これを引用文献1に記載された発明に適用することによって,相違点に係る 構成に想到できると判断した点にある。\nそして,分子分散体を形成するための溶融押出し等の技術が本件優先日当時に周 知であったことは,審決の説示したとおりである。しかしながら,本願発明は,本 件補正前後を問わず,発明の効果を奏する上で,自己乳化性を具備することが特に 重要であるところ,少なくとも,補正発明においては,自己乳化性の有無に関し, 脂質成分及び結合剤成分が分子分散体を形成するか否かが一定の影響を与える前提 に立っているから,相違点3及び4に係る構成,特に相違点4に係る構\成を具備す るために適用する必要がある技術の有無やその具体的内容は,補正発明の進歩性判 断を左右する重要な技術事項というべきである。しかも,結果的にみれば,上記周 知技術に関する甲6〜8の文献は,あくまでも,脂質成分のない水溶性ポリマーと 活性成分の2成分系に関するものであって,そこで示された技術を,水溶性ポリマ ーと脂質成分を含む場合に利用すれば,当然に全体が分子分散体を形成する効果を 奏するか否かは明らかではなく,適用すれば,試行錯誤なしに相違点に係る構成に\n想到できる技術とはいえない。本願明細書に記載された脂質成分が一般的な添加剤 であることは,被告が指摘するとおりであるが,溶融押出しにおいて脂質成分を添 加した場合に,最終的な製剤において,水難溶性薬物の結晶を含まず,自己乳化性 を帯びやすいと,当然にはいえない。そうすると,上記各文献は,溶融押出しとい う製剤化手段に関する周知な技術に関するものではあるが,当業者にとって引用発 明に適用すれば,試行錯誤なしに相違点3及び4の構成を具備できるような技術と\nいえない以上,審決が,審判手続において,相違点3及び4の存在を指摘せず,溶 融押出しの技術に関する上記各文献を示すこともなく,判断を示すに至って,初め て相違点3及び4の存在を認定し,それに当該技術を適用して,不成立という結論 を示すのは,実質的には,査定の理由とは全く異なる理由に基づいて判断したに等 しく,当該技術の周知性や適用可能性の有無,これらに対応した手続補正等につい\nて,特許出願人に何らの主張の機会を与えないものといわざるを得ず,特許出願人 に対する手続保障から許されないというべきである。

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平成27(行ケ)10066  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年1月27日  知的財産高等裁判所

 引用例認定の誤りを理由に、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。出願人はクアルコムです。
 上記(1)ア(ウ)のとおり,甲7文献において,コンパイラ技術は,「コンパイラ技術 /合成技術」と記され,また,上記(1)ア(オ)のとおり,「3 コンパイラ技術」とし て,すべての再構成可能\なインストラクションセットプロセッサの命令生成は,主 に二つのステップを含み,そのうちの一つが再構成可能\アレイ用の様々なコンフィ グレーションの合成であること,甲7文献の研究で用いられたコンパイラは,トラ イマランコンパイラをベースとしており,再構成可能\なプロセッサにおいて,粗粒 度結合型再構成可能\なユニットを利用して開発することができ,ループの命令生成 は,ソフトウエアのパイプライン処理に基づいており,この処理は,「FPGAの\n“place and route”(配置配線)と同じである」こと,また,このコンパイラは,各 ループ処理を分析し,必要なスライス数を割り出すことができ,再構成時間と消費\n電力の双方を削減するため,必要なスライス数しか使わない,「消費電力を考慮し, さらに処理性能を低下することなく動作させるスライスの数を最小限にするインテ\nリジェントコンパイラ」であること(上記(1)ア(キ))が示されている。
ウ 以上によれば,甲7文献に記載された「コンパイラ」は,PLDの開発 段階で,ROMに格納するコンフィグレーション・データを作成するために用いら れるものであり,上記の第2の意義を示すものと認められる。 そうすると,前記のとおり,引用発明の「プロセッサ」は,スライスのデータ経 路コンポーネントのための構成をロードされたコンフィグレーションメモリを備え,\n「主演算装置」は,クロスバー及び処理エレメントを直接コントロールするもので あるところ,甲7文献の「コンパイラ」は,PLDの開発手順において,上記コン フィグレーションメモリへロードされるデータコンポーネントを生成するために用 いられるものであるから,審決の述べるように,引用発明の主演算装置に「トライ マランをベースとしたコンパイラであって,再構成可能\なアレイを異なる構成へと\n統合させるステップを有するプロセッサ用命令セットを生成するコンパイラを含 む」と解する余地はない。

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平成26(ワ)25282  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年1月14日  東京地方裁判所

 「電子ショッピングモールシステム」について、新規性なしとして侵害否定されました。興味深いのは、当該動作を行うための構成を有することは、当該動作から明らかと認定した点です。被告は楽天です。原告は訂正審判を請求しましたが、訂正拒絶理由が通知されて最終的には、取り下げています。審査における審査メモには「参考文献には、ユーザが電子ショッピングモールを訪れた当初は共通カテゴリを用いて商品が提示され、ある商品が選択された後にはその商品を販売する店舗が独自に定めた店舗カテゴリを用いて商品が提示される構\成が記載されておらず、一方、本願発明はそれにより、電子ショッピングモール全体としての統一感を保ちつつも、店舗の個性を発揮して他店舗との差別化を図ることができるという顕著な効果を発揮。」とあります。
 ア 乙16文献には次の趣旨の記載がある。(乙16) 楽天市場のオンラインショッピングなら,ジャンルを掘り下げていくだけで目的の商品まで簡単にたどり着くことができる。ここでは北海道・函館の地ビールを検索する。トップページの「商品名で調べる」又は「商品別」をクリックして商品名で探すこともできる。表示されているジャンル名「ドリンク・アルコール類」から開始し,その先は「ビール・地ビール」→「地ビール」→「北海道」とジャンルが絞られていき,その度にそれぞれのジャンルでの検索結果に商品名が表\示される。金額も表示されるので,わざわざ店のホームページにアクセスしなくても商品を選べるのは利点だ。(66頁) 商品別で検索したときも,商品名をクリックすれば,店舗のホームページにアクセスして,その商品の紹介ページが見られる。「はこだてビール」の店舗のホームページには「オリジナルギフトセット」というジャンルがあり,このジャンルの画像や価格,セット名を一覧表示することができたので,その中から商品を選ぶことにした。(68頁)
イ 楽天市場のトップページから順次表示されるものであり,楽天市場の全体\nルギフトセット」のジャンルは,特定の商品を取り扱う店舗のホームページに表示されるものであり,当該店舗が設定した商品分類に基づく店舗カテゴリであると,それぞれ認めることができる。そして,乙16文献に記載されたインターネットショッピングモールに係る発明(乙16発明)においては,ある共通カテゴリが示された場合に・・・のであるから,商品と共通カテゴリ及び店舗カテゴリを示す情報が相互に結び付けられるように記憶されていると認められる。また,ある店舗が取り扱う商品に係る情報から当該店舗独自のカテゴリ及びこれに分類される商品が表\示される(同)のであるから,ある商品がどの店舗カテゴリに属するか,その店舗カテゴリにどの商品が属するかを識別するに足りる情報が記憶されているということができる。
ウ 以上によれば,乙16発明は,本件各発明の前記争いのある各構成をいずれも備えていると認められる。\n

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平成27(行ケ)10069  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年1月14日  知的財産高等裁判所

 争点は、公然実施です。審判、知財高裁とも、特許を含む商品を販売した以上公然実施と認定しました。
 特許法29条1項2号にいう「公然実施」とは,発明の内容を不特定多数の者が 知り得る状況でその発明が実施されることをいうものである。本件のような物の発 明の場合には,商品が不特定多数の者に販売され,かつ,当業者がその商品を外部 から観察しただけで発明の内容を知り得る場合はもちろん,外部からはわからなく ても,当業者がその商品を通常の方法で分解,分析することによって知ることがで きる場合も公然実施となる。 前記のとおり,本件製品は,小売店であるディスカウントショップで商品として 販売されていたため,不特定多数の者に販売されていたと認められる。また,前記 争いのない事実によれば,当業者であれば,本件製品の構成F以外の構\成は,その 外観を観察することにより知ることができ,本件製品の構成Fについても,本件製\n品の保持部分を分解することにより知ることができるものと認められる。 そして,本件製品が販売されるに当たり,その購入者に対し,本件製品の構成を\n秘密として保護すべき義務又は社会通念上あるいは商慣習上秘密を保つべき関係が 発生するような事情を認めるに足りる証拠はない。 また,本件製品の購入者が販売者等からその内容に関し分解等を行うことが禁じ られているなどの事情も認められない。本件製品の購入者は,本件製品の所有権を 取得し,本件製品を自由に使用し,また,処分することができるのであるから,本 件製品を分解してその内部を観察することもできることは当然であるといえる。 以上によれば,本件製品の内容は,構成Fも含めて公然実施されたものであると\n認められる。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件製品の構成Fは本件製品を破壊しなければ知ることができない\nし,本件製品のパッケージ裏面の「意図的に分解・改造したりしないでください。 破損,故障の原因となります。」との記載(甲4)により,本件製品の分解が禁じら れており,内部構造をノウハウとして秘匿するべく購入者による本件製品の分解を\n認めていないのであるから,本件製品の購入者は社会通念上この禁止事項を守るべ きであり,警告を無視する悪意の人物を想定し,本件製品の破壊により分解しなけ れば知ることができない構成Fについて「知られるおそれがある」と判断すること\nは特許権者である原告に酷である旨主張する。 しかし,本件製品のパッケージ裏面の前記記載は,その記載内容等に照らすと, 意図的な分解・改造が本件製品の破損,故障の原因となることについて購入者の注 意を喚起するためのものにすぎないといえる。本件製品のパッケージ裏面の意図的 な分解・改造が破損,故障の原因となる旨の記載により,この記載を看取した購入 者がそれでもなお意図して本件製品を分解し,本件製品を破損・故障させるなどし た場合については,販売者等に対し苦情を申し立てることができないということは\nあるとしても,この記載を看取した購入者に本件製品の構成を秘密として保護すべ\nき義務を負わせるものとは認められず,そのような法的拘束力を認めることはでき ない。また,上記記載があるからといって,社会通念上あるいは商慣習上,本件製 品を分解することが禁止されているとまでいうことはできず,秘密を保つべき関係 が発生するようなものともいえない。 仮に,原告が本件製品のパッケージ裏面に前記記載をした意図が購入者による本 件製品の分解禁止にあったとしても,前記認定を左右するものではない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
・・・・前記認定のとおり,本件製品のパッケージ裏面の記載は,意図的な分解・ 改造が破損,故障の原因となることについて購入者の注意を喚起するためのものに すぎず,原告の意図がどのようなものであれ,これによってこの記載を看取した購 入者と販売者等との間に本件製品の分解等について何らかの法的関係を発生させる ものではない。

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平成27(行ケ)10116  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年12月24日  知的財産高等裁判所

 無効理由なしとした審決が取り消されました。理由は先行公報の記載の認定誤りです。
 被告は,1)甲4発明は,転位がコンタクト抵抗を増大させるとの認識の下に転位 を除去しようとするものではない,2)鏡面仕上げをしてもなお存在する程度の転位 がコンタクト抵抗増大の原因となることは,容易に分かることではない,3)加工に よって完全結晶から少しでも変化した加工変質層は,除去の必要性が認識されてい なくても完全に除去するのが技術常識であるなどとはいえない旨を主張する。 しかしながら,甲4に,甲4発明がコンタクト抵抗を減少するために転位に着目 したとの明示的な記載はないとしても,技術常識等を踏まえた上で先行文献に接す る当業者は,甲4発明から,機械加工により生じた転移の除去によるコンタクト抵 抗の低減という機序を読み取ることができる。また,鏡面仕上げ後のエッチング処 理によりコンタクト抵抗を低減させた甲4発明は,同時に,コンタクト抵抗増大の 原因が鏡面仕上によってはすべて解消できないことを示唆しているのであり,上記 技術常識等を踏まえれば,転位を除去すれば更にコンタクト抵抗を低減させられる との知見に達するのは容易といえる。なお,加工変質層をどの程度除去すべきかは, 要求される用途等の必要性に応じて適宜に定めることであり,その必要性がないの に常にすべての加工変質層を除去すべきものではないが,コンタクト抵抗の低減の ために加工変質層を除去する選択をすること自体が容易であることに変わりはない。

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