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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

意匠その他

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和5(行ケ)10113  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和6年2月19日  知的財産高等裁判所

物品「鞄」について、無効理由有りとした審決が維持されました。

1 原告は、本件南京錠は本件登録意匠の要旨ではなく、意匠の要部を構成しな\nい旨主張する。
しかし、本件登録意匠は、別紙意匠公報のとおり、本件南京錠を付したもの として登録されているのであるから、他人の業務に係る物品と混同を生ずるお それ(意匠法5条2号)があるか否かについて、登録された意匠の形状等のう ち、特に他人の周知・著名な商標に類似する部分が問題となることは当然であ り、この点は、意匠同士の類否(同法3条1項3号)等の判断に当たって考慮 される意匠の「要部」であるか否かとは別問題であるから、原告の主張は失当 である。なお、本件において、添付図面等の南京錠又は南京錠の正面の態様を削除す る補正をすることは、添付図面等の要旨を変更するものに当たると解される。
2 原告は、審査段階で意匠法5条2号の拒絶理由を指摘されていない旨主張す るが、そのような事情は、本件登録意匠が同号に当たるか否かの実体判断を左 右するものでないことはもとより、無効審判手続の違法を根拠づけるものでも ない。
3 原告は、正面が無地の南京錠を付したかばんを販売しているとして、本件南 京錠を付したかばんを販売していない旨主張するが、仮にそのような事実が認 められるとしても、本件登録意匠が被告の業務に係る物品であるハンドバッグ 等と混同を生ずる意匠であるかの判断において考慮すべき取引の実情に当たる ものではない。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10072  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月14日  知的財産高等裁判所

ハーグ条約に基づく国際意匠出願について、拒絶査定がなされ、期間徒過後に審判請求をしました。出願人は米国在住の在外者です。

前記第2の1の事実によれば、本願は、日本国を指定締約国とする国際出願 であって、令和3年1月22日、本件国際登録について、ジュネーブ改正協定10 条(3)(a)の規定による公表がされた(乙3の1・2)ことにより、意匠法60条の6第1項の規定により、本件国際登録の日である令和元年9月9日にされた意匠登\n録出願とみなされる(なお、原告は在外者であるから、意匠法68条2項において 準用する特許法8条1項の規定により、出願に係る補正書や意見書の提出その他の 手続を行う場合には、意匠管理人を選任して行う必要があったことになる。)。
(2) ジュネーブ改正協定12条(1)本文によれば、指定締約国の官庁は、国際登録 の対象である意匠の一部又は全部が当該指定締約国の法令に基づく保護の付与のた めの条件を満たしていない場合には、当該指定締約国の領域における国際登録の一 部又は全部の効果を拒絶することができる。国際登録の効果を拒絶する場合、指定 締約国の官庁は、所定の期間内に国際事務局に対しその拒絶を通報し、国際事務局 は、名義人に拒絶の通報の写しを遅滞なく送付する(12条(1)、(2)(a)、(3)(a))。 同条(2)の「拒絶」は、拒絶の最終決定を意味するものではないと解されており、指 定締約国の官庁に要求されているのは、保護拒絶の原因となり得る理由を表示することだけである(乙5)。そして、拒絶の通報の対象となった名義人は、拒絶を通報\nした官庁に適用される法令に基づいて保護の付与のための出願をしたならば与えら れたであろう救済手段を与えられ、救済手段は、少なくとも拒絶の再審査若しくは 見直し又は拒絶に対する不服の申立ての可能\性から成るものとされている(12条 (3)(b))。指定締約国を日本とした場合、拒絶の通報は、国際登録の公表日から12か月以内にされることになる(乙4、5)。\n
ジュネーブ改正協定上、このような「拒絶の通報」をすること及びこれに対する 指定締約国の国内法令に基づく救済手段を与えるべきことを超えて、指定締約国に おける最終的な拒絶査定の告知方法や不服申立ての手続等(これらの事項は、ジュネーブ改正協定12条(1)ただし書の「国際出願の形式若しくは記載事項に関する 要件」には該当しないと解される。)について定めた規定は見当たらない。したがっ て、これらの点については、ジュネーブ改正協定上、指定締約国の国内法に委ねら れていることになる。前記のとおり、日本の意匠法によれば、本願は、日本の意匠 法に基づく意匠登録出願とみなされるのであるから、これに対する最終的な拒絶査 定の通知方法や不服申立て手続等も意匠法によるべきものと解される。
(3) しかるところ、本件において、特許庁は、本願について、令和3年10月2 2日に国際事務局に対し、「III) 拒絶の理由」の標題を付して具体的な拒絶の理由を 明らかにした本件拒絶の通報を発送しており(甲9)、国際事務局は、同年11月5 日、WIPOのウェブサイトにおいて、本件拒絶の通報を掲載した(乙3)。本件拒 絶の通報には、「国際登録の名義人は、この通報を発送した日から3か月以内に、「III)拒絶の理由」について、意見書を提出することができます。審査官は意見書の内容 を考慮し、保護を付与するかどうかについて決定いたします。なお、日本国内に住 所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない者は、日本国内に住所又は居所 を有する代理人によらなければ、日本国特許庁に対して手続をすることはできませ ん。」旨の英文の記載があり、本件拒絶の通報に付された注意書(Appendix)にもこ れと同旨の記載のほか、関連する意匠法の条文の英訳も記載されていた(甲9)。
(4) しかし、原告は、本件拒絶の通報後に意見書を提出せず、特許庁は、令和4 年4月5日付けで本件拒絶査定をした(甲10)。原告は、在外者であり、意匠管理 人を選任していなかったことから、特許庁は、意匠法68条5項において準用する 特許法192条2項の規定により、本件拒絶査定の謄本を、令和4年4月8日、航 空扱いとした書留郵便により発送した(甲10、乙6、7)。この結果、同条3項の 規定により、当該謄本は、発送の時に送達があったものとみなされた。当該書留郵 便は、同月10日には米国の国際交換局に到着していたが、同年9月21日までの 間、同局に保管され、原告に配達されたのは同月26日であった(甲1、2)。
(5) 意匠法上、拒絶査定に対する不服審判請求は、その査定の謄本の送達があっ た日から3月以内にしなければならない(意匠法46条1項)。本件拒絶査定の謄本 は、令和4年4月8日に原告に送達されたものとみなされたから、原告は、その日 から3か月以内に不服審判請求をすべきであったところ、本件審判請求期間が経過 した後である同年11月18日に本件審判請求をしたものである。
2 以下、本件審判請求期間内に原告が本件審判請求をすることができなかった ことについて、意匠法46条2項の「その責めに帰することができない理由」があ ったかどうかについて検討する。
(1) 原告は、本件拒絶査定の謄本を原告が現実に受領した令和4年9月26日に 本件拒絶査定がされているのを知ったのであり、本件審判請求期間の経過後に本件 審判請求をすることになった原因は郵便の配送遅延にあるから、原告の責めに帰す ることができない理由があると主張する。
しかし、そもそも意匠法68条5項において準用する特許法192条3項の規定 によれば、法律上、原告は現実に受領していなくても本件拒絶査定の謄本の発送の 時である令和4年4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされるのであるか ら、意匠法46条2項の原告の責めに帰することができない理由の有無は、原告が 同日に当該謄本の送達を受けたことを前提にした上で検討されるべき問題である。 原告が現実に当該謄本を受領した日が本件審判請求期間後であったことや、その理 由が郵便の配送遅延にあったこと(ただし、当該謄本に係る書留郵便が同年4月に 米国交換局に到着した後、同年9月まで原告に配達されなかった理由は、証拠上明 らかではない。)があったとしても、これらの事情が存在することをもって直ちに原 告に「その責めに帰することができない理由」があると解することはできない。な ぜなら、これらの事情は、みなし送達を定めた法の前記規定の想定範囲外の事態で あるとは考えられない上、仮に、在外者の場合にこれらの事情のみをもって「その 責めに帰することができない理由」になると解したときは、拒絶査定の謄本が現実 に審判請求期間内に配達されなかったときは、同項所定の期間内(当該理由がなく なった日から2か月以内で、同条1項の期間の経過後6か月以内)であれば、常に 拒絶査定不服審判を請求することを認めるのと実質的に同じ結果になるからである。 このような解釈は、拒絶査定の謄本等の書類の発送の時に送達を受けたものとみな し、法律関係の安定を図る法の趣旨に反するものであるから、採用することができ ない。同条2項の「その責めに帰することができない理由」とは、通常の注意力を 有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認め られる事由により審判請求期間内に請求することができなかった場合をいうのであ り、原告が令和4年4月8日に法律上、本件拒絶査定の謄本の送達を受けたことを 前提としたとき、本件審査請求期間の末日である同年7月8日までに原告が通常期 待される注意を尽くしてもなお本件審判請求をすることが困難であったことを示す ような客観的な事情は見当たらない。したがって、原告の責めに帰することができ ない理由の存在を認めることはできない。 それのみならず本件においては、前記1のとおり、本件国際登録の公表から12か月以内に拒絶の通報がされる可能\性があることは、ジュネーブ改正協定により国際出願を行った以上、原告又はその代理人において当然知り得たはずである。また、 少なくともWIPOのウェブサイトには本件拒絶の通報が掲載されていたから、原 告は、同ウェブサイトを確認することにより、本件拒絶の通報がされていることを 知り、日本国の意匠法に従って拒絶査定が行われるであろうことを容易に予測することができたはずである。それにもかかわらず、原告は、これらの点に注意を払う\nことなく、本件審判請求期間内に本件審判請求をしなかったのであるから、原告が、 意匠登録出願人として、通常の注意力を有する当事者に通常期待される注意を尽く していたと認めることはできない。
(2) 原告は、意匠法46条2項の文言から、法定の期間内(同条1項の期間内) に審判請求をする機会が与えられるに至った経緯については問われていないことが 明らかであると主張する(取消事由1)。原告の主張する「法定の期間内に審判請求 をする機会が与えられるに至った経緯」の意味は、必ずしも明らかではないが、同 条1項によれば、原告は本件拒絶査定の謄本の送達を受けた日から3か月以内に不 服審判を請求することができ、同法68条5項において準用する特許法192条3 項の規定によれば、法律上、原告は本件拒絶査定の謄本の発送の時である令和4年 4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされる。したがって、本件における 意匠法46条2項の「前項に規定する期間」は、その日から3か月以内の期間であ る。しかるところ、同項の解釈上、当該期間中に原告が本件拒絶査定を受けたとい う事実を知らなかったというだけで同項の「その責めに帰することができない理由」 に該当すると解することはできない一方、当該理由の存否の判断に当たり、原告が 本件拒絶査定のされたことを知ることができる事実的状況にあったことを考慮する ことは、何ら同項の文言及びその趣旨に反するものではない。そして、これらの点 を考慮した上で本件審判請求期間を徒過したことにつき原告の責めに帰することが できない理由の存在が認められないことは、前記(1)のとおりであるから、原告の主 張は採用することができない。
なお、原告代表者の宣誓供述書(甲1)によると、原告は、令和3年10月頃に、知的財産ポートフォリオの管理を、A氏の法律事務所からScheefに移管した\nが、その際、A氏が、本願について、数年先の更新期限まで更なるアクションをす る必要がない旨の引継ぎをしており、このことが、原告又はScheefをして、 本件拒絶査定を受ける可能性があることを認識しなかった原因であることがうかがえる。しかしながら、前記1のとおり、本願については、国際公表\後に特許庁がその登録を拒絶する可能性があり、このことはジュネーブ改正協定の規定上明らかであったのであるから、上記引継ぎ内容は誤りであったというべきである。A氏及び\nScheefには、知的財産の管理者として意匠の国際登録に係る手続に精通すべ きところ、これを怠っていたために上記誤りに気が付かなかったという過失がある。 また、日本国内の手続において、在外者に意匠管理人がいない場合には、書留郵便 等により拒絶査定の謄本が送達され、発送の時に送達があったものとみなされるこ とは、意匠法の規定上明らかであるから(意匠法68条5項において準用する特許 法192条2項、3項)、A氏及びScheefは、現実に本件拒絶査定の謄本を受 領するよりも前に、送達の効力が生じることを認識し、それに備えるべきであった ところ、これを怠ったという過失もある。そして、原告は、自らの経営判断により、 A氏及びScheefに対し、本願に係る管理を委任していたのであるから、A氏 及びScheefの過失があったことは、本件において原告の責めに帰することが できない理由の存在は認められない旨の前記判断を左右するに足りるものではない。
(3) 原告は、本件審決の判断について、意匠法68条5項において準用する特許 法192条2項の規定に基づいて拒絶査定の謄本が書留郵便等により在外者に発送 された場合には意匠法46条2項の適用は認められないと述べているのに等しく、 法的根拠を欠くとも主張する(取消事由2)。しかし、拒絶査定の謄本が書留郵便等 により在外者に発送された場合には、みなし送達により原告が現実に謄本を受領し ていなくても発送日から同条1項に定める法定の期間が開始することになるだけで、 この場合に同条2項の適用が排除されるわけではない。当該法定の期間内に拒絶査 定不服審判請求をすることができないような客観的な事情があるときなど、なお期 間の徒過につき審判請求人の責めに帰することができない理由が存在することはあ り得る。すなわち、同法68条5項において準用する特許法192条2項の規定に 基づく拒絶査定の謄本の発送がされた場合に、意匠法46条2項を適用して不変期 間の例外が認められる余地がなくなるなどということはできない。したがって、原 告の主張は採用することができない。

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令和5(行ケ)10071  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月25日  知的財産高等裁判所

 創作者が公表した意匠にて、新規性喪失の例外をうけました。特許庁は、証明書に記載された意匠と引用意匠とは同一ではないとして、新規性無しと判断しました。出願人は、スタッズの個数及び配置態様などの違いは微差と主張しましたが、知財高裁は審決を維持しました。\n

(2) 意匠法4条2項は、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して同法 3条1項1号又は2号に該当するに至った意匠に関し、その該当するに至った日か ら1年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条1項及び2項の 規定の適用については、同条1項1号又は2号に該当するに至らなかったものとみ なすとして、新規性喪失の例外を認めている。 このような新規性喪失の例外の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書 面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、意匠法3条1項1号又は2 号に該当するに至った意匠が同法4条2項の適用を受けることができる意匠である ことを証明する書面を意匠登録出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなけ ればならない(同条3項)。 したがって、原告が引用意匠について意匠法4条2項の適用を受けるためには、 原告が引用意匠について同条3項所定の証明書を提出していることがその前提とな る。
(3) この点、原告は、本件証明書に記載されている証明書記載意匠と引用意匠は 実質同一の意匠であると主張し、原告が特許庁長官に本件証明書を提出したことに より、引用意匠に係る公開行為は先の証明書記載意匠の公開に基づいてされたもの と認めるべきである旨を主張する。 そこで検討すると、証明書記載意匠は、甲1(別紙第3の添付画像1及び2)の とおりであり、これによると、その形状等は、全体としてマチのある略直方体の収 納部と、その収納部の上辺左右両側からアーチ状に持ち手を架橋し、収納部及び持 ち手はいずれも黒色の色彩が施されているものであり、収納部の正面上辺及び左右 辺の三辺を波状に形成し、上辺及び左右辺の山部が左右上角部のものを含めて各辺 三つずつあり、左右上角部には上辺及び左右辺の山部が合わさったように正面視左 右斜め上方向に突出した略半長円形状の山部、左右辺中央部には円弧状の山部、左 右下角部には下辺が直線状の略円弧状の山部と、計七つの山部を形成してなるもの であり、収納部上辺からやや離れた位置から左右辺に沿って直線状に上から下へ略 小円形状のスタッズを並べてなり、上から一つ目と二つ目の間の間隔よりも上から 二つ目と三つ目の間隔の方を長くして三つずつ配し、各スタッズは上から一つ目の スタッズが左右上角部の山部と左右辺中央部の山部との間の谷部上方寄りの位置、 上から二つ目のスタッズが左右辺中央部の山部の頂を直線で結んだ線上の位置、上 から三つ目のスタッズが左右下角部の山部の頂を直線で結んだ線上の位置に設けて なるものであると認められる。
他方、引用意匠は、甲2(別紙第2の2枚目及び3枚目)のとおりであって、上 記認定の証明書記載意匠と対比すると、両意匠の形状等についての相違点は、本件 審決が認定した前記第2の3(5)イのとおり、証明書記載意匠は、正面側のスタッズ を左右寄りに縦一列縦1列に、三つずつ設け、上から一つ目から二つ目よりも二つ 目から三つ目の間隔をやや長く配し、本体部及び把持部は黒色であるのに対し、引 用意匠は、正面側のスタッズを左右寄りに縦一列ほぼ等間隔に四つずつ設け、本体 部はアイボリーで把持部は茶色で、留め付け側に環状金具を配したものであり、両 意匠は、把持部の環状金具の有無、正面側のスタッズの個数及び配置態様並びに把 持部及び本体部の色彩が相違するものである。 そして、証明書記載意匠と引用意匠とは、以下の(4)において判断するとおり、少 なくとも正面視において、正面側のスタッズの個数及び配置態様の点で相違点を有 し、かかる相違点は、物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であると十\分 理解できる範囲内のものであると認められる場合とはいえないから、同一の意匠と はいえない。
(4) 原告は、両意匠の共通点の形状が特徴的なものであって、需要者に強い印象 を与えているため、正面側のスタッズの個数及び配置態様の相違点の印象は共通点 に比べて薄いものにならざるを得ないから、需要者は、スタッズがバッグの正面側 の態様に関わるものであっても、両意匠の相違点からスタッズの個数や配置を明確 に認識するよりも、両意匠からいずれも大雑把な「複数個のスタッズが並んでいる」 程度の印象を持つと考えるのが自然であり、両意匠の相違点から需要者が受ける印 象は異なるものではないから、両意匠は実質同一といえるものであって、同一の意 匠である旨を主張する。 しかしながら、意匠法4条3項は、同法3条1項の例外として、同法4条2項の 新規性喪失の例外の適用を受けるための特別の要件として規定されているもので あって、原則として意匠登録出願前に意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起 因して公開される意匠ごとに同意匠に係る証明書を提出すべきであり、それゆえ、 証明書に記載される意匠と引用意匠は同一でなければならないと解される。もっと も、証明書に記載される意匠と引用意匠との間に僅少な相違があるにすぎない場合 にも同一性を欠くとすることは相当ではなく、また、意匠登録出願者の手続的負担 も考慮すると、証明書に記載された意匠と引用意匠の相違点が、物品の性質や機能\nに照らして実質的にみて同一であると十分理解できる範囲内のものであると認めら\nれる場合には、証明書に記載された意匠と引用意匠はなお同一であると認められる と判断するのが相当である。
しかるところ、両意匠の相違点であるスタッズについては、スタッズを設けるこ と自体は、バッグという物品の性質上、ありふれたものであるといえるものの(甲 4〜11)、スタッズの数や配置態様は一様ではなく、その数や配置態様によっては 美観に影響を及ぼすものであるところ、両意匠の相違点であるスタッズの態様につ いては、十分肉眼で看取可能\であって、バッグの正面の意匠の装飾的な構成要素と\nして機能し、「上から一つ目から二つ目よりも二つ目から三つ目の間隔をやや長く」\n三つ配したものと「四つずつ、略等間隔に」配したものとでは、その構成が異なる\n上、両意匠の共通点である収納部の正面上辺及び左右辺の三辺の形状との関係にお いて、証明書記載意匠は、左右辺の山部三つに対して同数の三つのスタッズが配置 されており、二つ目のスタッズが左右辺中央部の山部の頂を直線で結んだ線上の位 置にあるのに対し、引用意匠は、左右辺の山部三つに対して一つ多い四つのスタッ ズが配置されており、二つ目のスタッズが左右上角部の山部と左右辺中央部の山部 との間の谷部下方寄りの位置にあり、上から三つ目のスタッズが左右辺中央部の山 部と左右下角部の山部との間の谷部中央やや上方寄りの位置にあることから、両意 匠の共通点である収納部の正面視の左右辺の山部との関係性からも、それぞれ異な る美観を有するものといえる。
そうすると、両意匠の相違点である正面側のスタッズの個数及び配置態様の点は、 物品の形状等による美観に影響を及ぼす相違点といえることから、証明書に記載さ れた意匠と引用意匠の相違点が物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であ\nると十分理解できる範囲内のものであると認められる場合とはいえない。\nしたがって、上記判断に反する原告の主張は採用できない。
(5) 以上によると、引用意匠が本件証明書に記載されている証明書記載意匠と同 一の意匠であるとは認められず、したがって、引用意匠の公開行為(甲2)は先の 証明書記載意匠の公開に基づいてされたものと認めることはできない。 そうすると、引用意匠については、意匠法4条3項所定の証明書が提出されてい ないことに帰するから、原告は引用意匠について同条2項の適用を受けることはで きない。 よって、本件審決が引用意匠について意匠法4条2項の新規性喪失の例外の適用 を認めなかった点に誤りがあるとは認められない。
2 以上によると、引用意匠は、本願出願前に公開された意匠であり、第2の3 (3)の本件審決の判断のとおり、本願意匠は、その引用意匠に類似するものであるか ら(なお、この点について原告は争っていない。)、本願意匠は意匠法3条1項3号 に掲げる意匠に該当するものであるとの本件審決の判断に誤りがあるとはいえない。 したがって、原告の主張する取消事由には理由がない。

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令和5(行ケ)10066  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

瓦の意匠について、知財高裁(4部)は、無効理由無しとした審決を取り消しました。 本件審決は、別紙「本件審決が認定した形状等の共通点と相違点」の2に記載のとおり、本件登録意匠と引用意匠の構成態様の相違点1〜8を認定するので、これらが両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。\n

ア 瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない構成態様について(相違点1、2、6、7関係)\n
相違点1(背面形状)、同2(女瓦の左端部の壁)、同6(男瓦の縮 径段差部の溝の有無及び右側端部の角度)、同7(1)女瓦の上端寄りの 凸部の形状、2)左下端の角度)は、瓦を葺いた施工後の状態からは看取 できない構成態様に関するものである。そこで、本件登録意匠の意匠に係る物品である瓦における、このような相違点の位置づけ、類否判断へ\nの影響の程度について、検討しておく。 そもそも瓦は、本来的に屋根等を葺くための建築部材であって、施工 を前提としない瓦単体のコレクターといった需要者を想定するのは現実 的でない。瓦屋根の建築物を注文し、その所有者等となる施主が中心的 な需要者であり、そうした需要者の求める美観が施工後の外観に係るも のであることは多言を要しない。瓦屋根を施工する建築業者、瓦の販売 業者等も需要者ではあるものの、そうした立場の需要者であっても、最 終的には施主の満足を得させる施工後の外観が最も重視されるものと考 えられる。そうすると、瓦を葺いた施工後の状態から看取できない構成態様が意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまると\nいうべきである。
被告は、瓦の需要者である建築業者等は葺き上がった状態で見えなく なる部分についても瓦の重要な機能につながる形状に注意を払い形状全体に目を通して選定する旨主張する。しかし、意匠の類否は基本的に\n「需要者の視覚を通じて起こさせる美観」に基づいて判断されるべきも のであり、機能と造形は両立し得るものではあるが、機能\のみに着眼し た被告の主張をそのまま採用することはできない。 よって、瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない相違点1、2、 6、7が、類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまるとい うべきである。なお、相違点6、7に関しては、本葺一体瓦において採 用される公知の形状のバリエーションの範囲内の違いにすぎないもので あるから(前記1(3)ア〜ウ)、この点においても、当該相違点が類否判 断に及ぼす影響は限定的なものと解される。
・・・
ウ 男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態等について(相違点3、5 関係)
(ア)本件審決は、本件登録意匠と引用意匠の各対応図面ごとに相違点を認 定しているため、立体形状として認識・把握すれば同じ特徴を、各方 向視ごとに別々に表現するような形式になっており分かりにくいので、相違点3、5に含まれる男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態\nに係る相違点を整理・再構成すると、下記1)〜3)のとおりとなる(な お、本件審決は、相違点3、5として、下記1)〜3)以外の要素にも言 及している部分があるが、本件登録意匠と引用意匠のそれぞれの図面 における角度の違いや作図方法の違いによる見え方の違いにすぎない ものであり、実質的な相違点ということはできない。)。 1) 本件登録意匠の男瓦は上方に向かって逆ハの字状に広がる円筒形であるのに対し、引用意匠の男瓦は少なくとも真上から見る幅が均一の円筒形である。2) 本件登録意匠においては、引用意匠と比べて、本件コの字模様の両側部の幅が若干広く、本件長方形模様の幅は若干狭い。3) 本件登録意匠の本件コの字模様の部分は本件長方形部分と面一であるが、引用意匠の本件コの字模様はわずかに段差状に隆起している。
(イ)上記相違点1)〜3)は、いずれも、本件登録意匠及び引用意匠の構成態様のうち、看者の注意を強く引く部分である男瓦の連なりの形状及び\n模様に関するもの(上記(3))であるから、その相違点が、両意匠の類 否判断に一定の影響を及ぼすことは否定できない。 しかし、相違点1)は、本葺一体瓦において採用される公知の形態のバ リエーションの範囲内の違いにすぎないし(前記1(3)エ)、相違点2)、 3)は、従前の意匠には見られなかった新規な創作部分である本件コの 字模様に係る共通点を備えた上での、当該模様の些末な違いにすぎな い。もちろん、新規な形態を創作した先行意匠を下敷きとして踏襲し つつも、それにプラスして需要者の注意を一層強く引くような新しい 美観を取り入れたという評価ができれば、当該新しい美観に係る印象 が共通点に係る印象を覆し、類否判断にも相対的に強い影響を及ぼす ということもあり得るところであるが、相違点2)、3)が、両意匠の共 通点である本件コの字模様の持つ強い訴求力を覆すほどの新しい美観 を生じさせるものとは到底認められない。
よって、上記相違点1)〜3)は、類否判断に一定の影響を及ぼすもので はあるが、本件コの字模様に係る共通点4と比較して、意匠の類否判 断に及ぼす影響は相対的に小さいものと解すべきである。

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令和4(行ケ)10133  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年9月6日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、無効理由無しとした審決を取り消しました。追加の補助証拠である甲4、5について、先行製品が本件出願日前に販売された事実を裏付ける証拠であって、同事実は審判により審理判断されている事実にほかならないとして、証拠として認めました。

1 認定事実
(1) 各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
・・・
カ ユーアイの代表者が令和3年9月7日付けで作成した確認書(以下「本件確\n認書」という。)には、ユーアイが原告に対しトヨタハイエース用3Dマット(UI vehicle 「3D MAT」ワイドボディ用フロントマット、ワイドボディ 用リアマット)のOEM製造を委託していること、ユーアイが平成24年2月頃か ら令和元年7月23日までの間にワイドボディ用フロントマット(品番:UI−0 239、製品コード:OMUIR0239K)を6200セット、ワイドボディ用 リアマット(品番:UI−0103、製品コード:OMUIR0103K)を16 00セットずつ、顧客に販売するために原告から購入したことが記載されている。 また、本件確認書には、・・・有限公司が作成した「toyota-hiace-wide右駕 專用型踏塾」の設計図面が添付されており、同設計図面は、甲1の2の製品図面に おける「Clazzio」と書してなるロゴマークがなく、「UI vehicle」 と書してなるロゴマークが付されているほかは、上記アの設計図面と酷似している。 (甲2)
(2) 被告の主張について
ア 被告は、審決取消訴訟においては、審判で審理判断されなかった新たな証拠 により登録されている権利の有効性を判断することは許されないから、原告が本件 訴訟で提出をした甲4及び5は、いずれも採用されるべきではない旨主張する。 意匠登録無効審判の審決に対する取消訴訟においては、審判で審理判断されなか った公知事実との対比における無効原因を主張することは許されないと解される (最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻 2号79頁参照)。これを本件についてみるに、原告は、審判において、本件出願 日前に先行製品が一般に販売されたことにより先行製品の意匠である先行意匠1が 公然知られるに至った旨を主張しているところ、甲4及び5は、いずれも、先行製 品が本件出願日前に販売された事実を裏付ける証拠であって、同事実は審判により 審理判断されている事実にほかならないから、原告が甲4及び5を提出して同事実 を立証し、これらに基づき本件審決の誤りを主張することは許されるというべきで ある。被告の主張は採用することができない。
イ 被告は、甲4及び5が採用されるとしても、これらの証拠はウェブサイトと しての性質上、修正や改ざんの可能性が否定できず、信用性に乏しい旨主張する。\nしかし、上記証拠はいずれも公開されたウェブサイト及びそのアーカイブである から、その記載が修正又は改ざんされたというのであれば、被告において実際に公 開されているウェブサイトや信頼できるアーカイブを示した上、これと異なる点を 具体的に指摘できるはずであるが、被告はそのような指摘をしない。他に、甲4及 び5に、修正や改ざんをうかがわせるような点は見当たらない。被告の主張は採用 することができない。
2 先行意匠の認定に誤りがあること及び先行意匠1が本件出願日前に公知であ ったこととの点について
(1) 原告は、本件審決が、甲1の2〜4に表された意匠をまとめて先行意匠1の\n形状等として認定することはできないとした上で甲1の4のみから先行意匠を認定 した点に誤りがある旨主張する。 原告が主張する先行意匠1は、ユーアイが顧客に相当数量販売したという先行製 品(トヨタハイエースワイドボディ用3Dマット)の意匠である。 前記1(1)の認定事実によると、ユーアイは、遅くとも平成28年3月4日時点で、 そのウェブサイト(甲4の2)において、「ワイドボディ用 フロント3ピース」 「ワイドボディ用 リア1ピース」等のハイエースワイドボディ用フロアマットを 「3Dラバーマット」との商品名にて販売している旨を掲載しているところ、同ウ ェブサイトに用いられている「3Dラバーマット」の写真5枚のうち4枚は、本件 カタログで用いられている写真5枚のうち4枚と酷似しており、ユーアイは、本件 カタログ(甲1の1)に掲載された商品を一般に向けて現実に販売していたものと 認められる。
また、原告は、平成27年5月から同年6月にかけて、外注先から「UI ve hicle」のロゴマークが付されたハイエースWIDE用自動車フロアマットの 納品を受けたところ(甲1の4)、同フロアマットには「3Dラバーマット取扱説 明書」と題する文書が添付されていたほか、梱包箱に記載された品番及び製品コー ドが本件確認書に記載の品番及び製品コード並びに本件売上明細表に記載の品番と\nいずれも符合していることからすると、原告が納品を受けた上記フロアマットは、 上記のとおりユーアイが販売していた「3Dラバーマット」と同一の製品であると 認められる。
そして、本件確認書には、ユーアイが販売する「3D MAT」の設計が、本件 確認書添付の・・・有限公司作成に係る「toyota-hiace-wide 右駕專用型踏 塾」と題する設計図面のとおりである旨が記載され、その設計図面に記載されたフ ロアマットの形状等は、上記のとおりユーアイが販売していた「3Dラバーマット」 の形状等として矛盾のないものであり、かつ、原告がかつて所持していた・・・有限公司が作成した「HIACE WIDE右駕專用踏塾」及び「TOYOT A−HIACE−S−GL−WIDE右駕專用脚踏塾」の設計図面(甲1の2・3) と酷似していることが認められる。
以上の事実を総合すると、ユーアイが販売していた先行製品(「3Dラバーマッ ト」及び「3Dマット」)の形状等は、甲1の1〜4に表されているということが\nできる。これらの証拠から先行製品の意匠すなわち先行意匠1を認定すると、別紙 5のとおりとなる。したがって、本件審決が、甲1の2〜4に表された意匠をまとめて先行意匠1の形状等として認定できないとし、甲1の4のみから先行意匠を認定した点には誤りがある。\n

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◆令和4(行ケ)10132

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令和5(行ケ)10007 審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年8月10日  知的財産高等裁判所

瓦の意匠登録無効審判の審取です。無効理由ありとした審決が維持されました。 争点は、引用意匠が公知であったか否かです。

掲記の証拠、A作成の報告書(甲62、68、乙3)、B作成の陳述書(甲41 の3、甲43の4)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。 (1) 石垣市は、同市の新庁舎を建設するに当たり、公募によるプロポーザル方 式により建設工事に係る設計者を選定することとし、平成28年7月14日、一次 審査により選定された5つの業者(被告隈研吾事務所を含む。)を対象に、二次審 査として公開プレゼンテーション・ヒアリングを実施した。Dは、同日の公開プレ ゼンテーション・ヒアリングに参加し、被告隈研吾事務所の提案の内容等について のプレゼンテーションを行った。石垣市は、同日、業者によるプレゼンテーション の結果も踏まえて審査し、特に優れた提案を行い新庁舎の建設工事に係る設計を委 ねるにふさわしい業者として、被告隈研吾事務所を選定した。なお、Dが上記のプ レゼンテーションにおいて使用した資料には、新庁舎の屋根につき赤瓦を使用する ことが記載されていた。(甲9、10、12)
・・・・
2 原告らの主張2(引用意匠が本件送付により意匠法3条1項1号に掲げる意 匠(公然知られた意匠)に該当するに至ったものではないこと)について
原告らの主張1(引用意匠について意匠法4条2項が適用されること)は、原告 らの主張2(引用意匠が本件送付により意匠法3条1項1号に掲げる意匠に該当す るに至ったものではないこと)に理由がないこと(引用意匠が本件送付により意匠 法3条1項1号に掲げる意匠に該当するに至ったものであること)を前提とするも のであるから、原告らの主張1に先立ち、原告らの主張2について検討する。
(1) ある意匠が他の者に知られた場合であっても、当該者が当該意匠について 秘密保持義務を負うと認められるときは、当該意匠は、いまだ意匠法3条1項1号 にいう「公然知られた意匠」に該当するものではない。もっとも、当該者が当該意 匠について秘密保持義務を負うといえるためには、必ずしも秘密保持義務の発生の 根拠となる契約が存在することまでは必要とされず、当該者とその相手方との関係、 当該者において知るに至った事項の性質及び内容等に照らし、当該者が当該意匠に ついて秘密にすることを社会通念上求められる状況にあり、当該者がそのことを認 識することができれば、当該者は、当該意匠について秘密保持義務を負うものと解 するのが相当である。
(2) 以上を前提に、本件について検討する。
ア 前記認定のとおり、引用意匠は、本件パンフレット等に掲載されているもの であるところ、AがB及びCに対して平成29年2月16日に本件パンフレット等 を送付したことから(本件送付)、引用意匠は、遅くとも同日、被告隈研吾事務所 の知るところとなったものである。
イ 原告らは、本件送付に係る本件パンフレット等に掲載された引用意匠につい て、原告らと被告隈研吾事務所との間で秘密保持契約が締結されたと主張するもの ではない。
ウ 前記認定のとおり、原告らの各代表者は、本件送付に先立つ平成29年2月\n1日、Dに対し、引用意匠を含む本件発明について、これを同月19日に行われる 予定の本件説明会(石垣市長及び石垣市民が参加するもの)において公開するよう\n依頼し、Dは、同日、当該依頼にも応じる形で、本件説明会において、石垣市の新 庁舎に使用する瓦として本件発明に係る瓦(引用意匠を含むもの)を発表したもの\nである。また、Aは、同月13日、Bから「Dは、同月19日の本件説明会におい てプレゼンテーションをする予定であり、当該プレゼンテーションにおいてちゅら\n瓦(引用意匠を含むもの)について説明したいので、石垣市役所に対してちゅら瓦 のサンプルを送付してほしい」との趣旨のメールを受信した際も、Dが本件説明会 において引用意匠を含むちゅら瓦について説明することに異議を述べるのではなく、 同月16日、Bの上記依頼に応じてちゅら瓦のサンプル及び本件パンフレットを石 垣市役所に送付した上、同日、本件パンフレット等をB及びCにも送付したもので ある(本件送付)。さらに、Aは、本件説明会が開催された日の翌日である同月2 0日、Bから本件説明会(本件発表)の様子等を知らせるメールを受信した際にも、\n特にこれに異議を述べるなどしなかったものである。加えて、Aにおいて、本件パ ンフレット等を添付ファイルの形式で送付したメールである本件メールに、引用意 匠や本件パンフレット等を秘密扱いにするよう求めるなどする記載をせず、かえっ て、被告隈研吾事務所が本件説明会において引用意匠を含むちゅら瓦を石垣市の新 庁舎に使用する瓦として提案することを前提とする記載をしたこと、Aにおいて、 本件パンフレット等に、引用意匠が開発中のものであるなどの記載や本件パンフレ ット等が秘密情報を含むものであることを示す「部外秘」などの記載をしなったこ となどの事情も併せ考慮すると、Aは、Dが同月19日に開催される本件説明会に おいて引用意匠を含む瓦(本件発明に係る瓦)を公開することを十分に知りながら、\nこれを容認し、被告隈研吾事務所の従業員であるB及びCに対して、そのように公 開を予定している引用意匠が掲載された本件パンフレット等を送付したものと認め\nられるところ、本件送付から本件発表までの僅かな期間においてのみ引用意匠を秘\n密にすべきとする事情はうかがわれないから、本件発表がされた同月19日の時点\nにおいてはもちろんのこと、本件送付がされた同月16日の時点においても、被告 隈研吾事務所が引用意匠について秘密にすることを社会通念上求められる状況にあ ったものと認めることはできない。
エ 前記認定のとおりの本件パンフレットの体裁によると、本件パンフレットは、 宣伝、広告等のための一般的なパンフレットであるといえ、加えて、本件写真が本 件パンフレットと同時にB及びCに送付されたものであること、本件パンフレット 等には、引用意匠が開発中のものであるなどの記載や本件パンフレット等が秘密情 報を含むものであることを示す「部外秘」などの記載がないこと、本件メールにも、 引用意匠や本件パンフレット等を秘密扱いにするよう求めるなどする記載がないこ と、Dは、原告らの各代表者から、本件送付に先立つ平成29年2月1日、引用意\n匠を含む本件発明について、これを同月19日に行われる予定の本件説明会におい\nて公開するよう依頼されていたこと、本件パンフレットは、Bが同月13日にした 引用意匠の公開を前提とする依頼(「Dは、同月19日の本件説明会においてプレ ゼンテーションをする予定であり、当該プレゼンテーションにおいてちゅら瓦(引\n用意匠を含むもの)について説明したいので、石垣市役所に対してちゅら瓦のサン プルを送付してほしい」との趣旨の依頼)に応じたAにおいて、ちゅら瓦のサンプ ルと共に石垣市役所に送付したパンフレットと同じパンフレットであること、原告 らにおいて、被告隈研吾事務所に対し、本件発明に係る本件原出願(特許出願)が された同年6月16日に先立って、引用意匠を含む発明、引用意匠等について特許 出願、意匠登録出願等をする予定がある旨を伝えたことがなかったこと、本件送付\nから本件発表までの僅かな期間においてのみ引用意匠を秘密にすべきとする事情は\nうかがわれないことなどを併せ考慮すると、本件パンフレット等を受領した被告隈 研吾事務所において、本件発表がされた同年2月19日の時点においてはもちろん\nのこと、本件送付がされた同月16日の時点においても、本件パンフレット等に掲 載された引用意匠を秘密にすることが求められる状況にあると認識し得たものと認 めることはできない。
オ 以上によると、被告隈研吾事務所が本件送付により知るところとなった引用 意匠について、被告隈研吾事務所が秘密保持義務を負うということはできないから、 引用意匠は、平成29年2月16日にされた本件送付により、意匠法3条1項1号 にいう「公然知られた意匠」に該当するに至ったものと認めるのが相当である。

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◆令和4(行ケ)10108

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令和3(行ケ)10114  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和4年9月29日  知的財産高等裁判所

登録意匠について、無効理由なしとした審決の取消訴訟です。争点は、証拠が出願日前に存在したのか否かです。知財高裁は存在を立証できていないとした審決を維持しました。

甲1カタログの成立の真正について
ア 前記1の認定事実(1)によれば、甲1カタログは、新輝行を作成名義人と する文書であると認められるところ、本件においては、被告が甲1カタロ グの成立の真正を争っていることから、原告において、甲1カタログが新 輝行によって作成されたものであることを立証しなければならない。 イ そこで検討するに、前記1の認定事実(1)のとおり、本件各カタログの会 社紹介ページには、新輝行が、平成15年に設立された企業であり、自社 工場を有する上、ファスナー等の様々な製品を国内市場のみならず海外市 場においても販売している旨が記載されている。また、本件各カタログに は、新輝行の看板を掲げた3階建ての建物の外観の写真等や、工程ごとに 多数の機械類が並べられた工場内の様子を撮影した合計12枚の写真が 掲載されている。さらに、Eは、陳述書において、平成15年から平成1 6年末まで新輝行に勤務していたこと、当時の工場は3階建てであったこ と、新輝行には数十名程度の従業員がいたことを述べている(甲11、3\n0)。これらの事情によれば、新輝行は、平成16年当時、相当程度の規模 の企業であり、広く海外への輸出も行っていた企業であったと考えられる。 しかしながら、前記1の認定事実(2)のとおり、被告が令和2年に行った 調査によれば、公的機関においても新輝行に係る法人登録に関する情報は 全く得られなかったものである上、インターネット上においても新輝行に 関する情報は何ら存在しなかったものと認められるところ、新輝行が上記 のとおりの規模や事業内容であったとすれば、公的機関に法人としての新 輝行に係る記録が何ら存在せず、また、様々な情報が蓄積されるインター ネット上にも新輝行の企業活動に関する情報が全く残存していないとい うのは、極めて不自然である。
また、原告が、本件訴訟の係属後である令和4年に、Eに依頼して実施 した現地調査においても、Eが勤務していたとされる新輝行の工場兼事務 所の所在地が特定されなかったものであるところ(甲11、45、46)、 新輝行が上記のとおりの規模の企業であったにもかかわらず、しかも自ら が1年以上勤務していたにもかかわらず、Eが、その所在地を特定するこ とすらできなかったというのも、極めて不自然である。 以上のとおり、本件においては、新輝行が実在したことを強く疑わせる 事情が存するというべきである。
ウ 加えて、甲1カタログの体裁及び内容等についてみると、前記1の認定 事実(1)のとおり、表紙には、会社名と発行年度のみが記載され、会社紹介\nページには、「会社紹介」として会社の沿革や事業内容等について記載され ている上、1頁ないし2頁には、多数の機械類が並べられた工場内の写真 が工程ごとに分けられて複数掲載されていることからすれば、甲1カタロ グは、新輝行の企業全体を紹介することを目的とした冊子であるとみるの が自然である(なお、原告は、甲1カタログに係る証拠説明書において、 証拠の標目を「製品カタログ」等とするが、甲1カタログの表紙等には、\nかかる記載は存しない。)。しかしながら、他方で、前記1の認定事実(1)の とおり、甲1カタログの3頁には、「製品構造」として、スライダー胴体の\n拡大写真が掲載されるなどし、また、4頁ないし9頁には、様々な色及び 形状のスライダーの写真が多数掲載されており、これらは専らスライダー の製品紹介を目的とする内容であるといえる。このように、甲1カタログ は、表紙や会社紹介ページの内容とそれ以降のページの内容とが、その目\n的において合致しておらず、不自然な体裁及び内容であるといえる。 このほか、前記1の認定事実(1)のとおり、甲1カタログの会社紹介ペー ジには、新輝行がファスナー等の様々な製品を製造、販売している旨が記 載されているにもかかわらず、3頁以下においてはスライダーのみが紹介 されている点や、甲1意匠がそれ自体顕著な特徴を有する意匠であるとは いえないにもかかわらず、3頁において甲1意匠が殊更に採り上げられ、 その構造が詳細に紹介されている点も、不自然であるといえる。\n
以上によれば、甲1カタログには、様々な点において不自然な部分があ るといえる。
エ 以上のとおり、本件においては、新輝行が実在したことを強く疑わせる 事情が存するというべきである上、甲1カタログには様々な点において不 自然な部分があるといえることからすれば、甲1カタログにつき、新輝行 によって作成されたものであると認めるに足りる立証はされていないと いうべきである。

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令和3(ネ)10075 意匠権侵害差止等請求控訴事件  意匠権  民事訴訟 令和4年3月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 先使用権ありとして意匠権侵害は成立しないとした1審判断が維持されました。

 控訴人は,ダイセン又はWuxi社が本件出願前意匠の存在について悪意 であったから,本件出願前意匠に類似する原告意匠についても悪意であった といえ,原告意匠と類似する被告製品の意匠についてダイセンに先使用権は 成立しない旨主張する。 しかしながら,当時ダイセンの営業部長であったCの陳述書(乙38)に よれば,ダイセン及びWuxi社は,被告製品の開発に当たって,本件出願 前意匠に接する機会はなく,既に市販されていた洗面台用ごみ受けの構成\n(原判決別紙公知意匠目録1ないし3)を参考としつつ,打合せの最中に, つまみ部分があったほうが取り外しやすいという意見が出たことから,取り 外しの便宜のためにつまみ部を付加することにしたことが認められる。かか る開発の経緯は,排水口のごみ受けの分野全般において,円状のフィルタの 周囲につまみ部を設ける構成が珍しくなかったこと(同目録4〜13)に照\nらしても,何ら不自然ではない。 他方,前記第3の2(1)の控訴人の主張が事実であったとしても,被告製品 の開発の過程でWuxi社が本件出願前意匠に接し得たことをうかがわせる 事情(例えば,Wuxi社と控訴人の中国の協力会社との間に人的つながり や地理的近接性があったこと等)は,本件証拠上全くうかがわれない。控訴 人の主張は,ほぼ同じ時期に,同じ中国で製品の開発が行われていたという だけの事実に基づいて,Wuxi社は本件出願前意匠の存在を知ったはずだ とするものであり,到底採用することができない。
(2) 以上によれば,本件出願前意匠と原告意匠との同一性や,原告意匠と被告 製品の意匠との類似性を問うまでもなく,ダイセン又はWuxi社は,意匠 登録出願に係る意匠(原告意匠)「を知らないで」被告製品の意匠を創作し たと認められるから,この点において先使用権の成立要件は充足されている。

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1審はこちら。  

◆令和2(ワ)11491

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令和1(ワ)10829  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和4年2月10日  大阪地方裁判所

 頭部マッサージ具の意匠権侵害事件です。大阪地裁(26部)は、約700万円の損害賠償を認めました。39条2項と3項の重畳的に適用についても認められています。

(イ) 本件意匠1の実施品である原告製品1は、使用者がその柄を握り、枝部の先 端の涙滴状部を頭部(頭皮)に当てた状態で、枝部から涙滴状部にかけて力を加え て動かしながら、頭部をマッサージするものである。
(ウ) このような頭部マッサージ具の購入に当たり、需要者は、通常、店舗であれ ば店頭に置かれた商品そのものないし商品パッケージに付された商品画像等を、イ ンターネット上であれば EC サイト等に掲載された商品画像等を視認する。 原告製品1のパッケージ(以下「本件パッケージ1」という。)は、台紙上に製 品を正面側から視認できる状態で設置し、これを透明なプラスチックケースで覆う ものである。台紙の表面(商品側)には、「頭のラインに沿って/頭皮をかき上げ\n/キュっと引き締め」(「/」は改行部分を示す。以下同じ。)という説明文と、 使用者が原告製品1の柄を持ち、その涙滴状部を頭皮に当てている画像(以下「本 件画像1−1」という。)及び人物の頭部を他者が両手の手指を広げてマッサージ するイメージ画像と、涙滴状部を頭皮に当て枝部の先端方向に動かしてマッサージ することをうかがわせるイラスト(以下「本件イラスト1」という。)等が掲載さ れている。本件画像1−1及び本件イラスト1に掲載された原告製品1の画像等は、 いずれも、正面側を斜め上方向から見たものである。また、台紙の裏側には、「使 用方法」として「突起部分をヘッドラインに沿って頭皮に当て、押しながらかき上 げてください。」との説明文(以下「本件説明文1」という。)や、本件画像1− 1と同様のイラスト及び本件イラスト1が掲載されている。(乙1) 他方、原告サイトの原告製品1の紹介ページ(乙12)には、上部に商品画像と して本件パッケージ1の画像及び以下の画像から説明文や矢印等を除いた商品自体 のみの画像の2つの画像のうち1画像が拡大表示可能\とされているほか、「ヘッド ラインタイプ/頭のラインに沿って/頭皮をかき上げてキュッ」という説明文、本 件画像1−1と同様の画像に人物の頭部に使用方向を示す矢印が三本描かれている 画像、本件イラスト1及び本件説明文1が掲載されているほか、次の画像(以下 「本件画像1−2」という。)が掲載されている。
(エ) 需要者が注意を惹かれる部分
上記各事情に照らせば、需要者は、原告製品1の使用に当たり、頭部マッサージ の効果に直截的に影響を与える部分である枝部の本数、頭皮に直接当たる部分であ る枝部の先端の形状、柄から涙滴状部に力を伝える部分である枝部の形状に主に注 目すると考えられる。他方、各涙滴状部間の距離については、さほど注意を惹かれ ないと思われる。 また、性質上頭部マッサージを現に実施している間に原告製品1を直接視認する ことは困難と思われるものの、事前ないし事後の時点では、これを正面側ないし正 面側に向かって前後左右いずれかのやや斜め方向から視認することが多いものと考 えられる。他方、原告製品1の購入に当たっては、需要者は、これを正面側ないし 正面側に向かって前後左右いずれかのやや斜め方向から視認することが多く、左右 各側面側、平面側及び背面側から視認する機会は乏しいと考えられる。
イ 本件公知意匠1について
(ア) 証拠(乙2、3)によれば、本件公知意匠1は、いずれも本件出願日1 (平成20年3月6日)前に公知となった意匠と認められる。
(イ) 乙2意匠
証拠(甲17、乙2、15、24)及び弁論の全趣旨によれば、乙2意匠は、次 のとおりのものと認められる。 乙2意匠は、いわゆる「孫の手」であり、背中を掻いたり、身体を叩いたりする 目的で使用される物品に係る意匠である。この種の商品は、頭部を掻いたり叩いた りする方法で頭部に刺激を与える目的で使用される場合もある。そのため、乙2意 匠は、本件意匠1の属する分野と同一の分野に属しないものとはいえない。 もっとも、乙2意匠は、正面視において、柄の先端に接続された板状の部材が、 接続部側と先端側との間の中央付近で湾曲し、湾曲した先の先端側部分が平行な5 本の枝部に枝分かれしているものである。乙2意匠における「基端」を柄の先端と の接続部と捉えるならば、枝部は、熊手状に湾曲させて形成されてはいるものの、 基端からは分岐しておらず、また、各枝部は丸棒状ではなく板状に形成されている。 他方、板状の部材の接続部側と先端側との間の中央付近の湾曲部付近を「基端」と 捉えるならば、乙2意匠の枝部は、基端から5本に分岐し、熊手状に湾曲させて形 成されたものとはいえるものの、各枝部が丸棒状ではなく板状に形成されているこ とは、同様である。 さらに、「基端」をいずれと捉えるかにかかわらず、各枝部の先端部は、丸みの ある形状とされてはいるものの厚みに変化はなく、涙滴状部に相当するものはない。 各枝部間の距離も、各枝部の先端部の幅に比してかなり狭い。
(ウ) 乙3意匠
証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば、乙3意匠は次のとおりのものであると 認められる。 乙3意匠は、人やペット等の背中や腹部を掻いたり、マッサージするためなどに 使用される物品に係る意匠である。これも、乙2意匠と同様に、本件意匠1の属す る分野と同一の分野に属しないものとはいえない。 乙3意匠は、人の手をそのまま模した形状であり、その指部をもって「基端から 5本に分岐した丸棒状の枝部」と捉えることは、一応可能である。もっとも、乙3\n文献を見る限り、指部(枝部)は、基端から先端まで熊手状に湾曲しているとはい えず、また、その先端に涙滴状部が形成されていない。さらに、乙3意匠が本件意 匠1の具体的構成要件 C1-3〜E1-3 に相当する構成を有するとも認められない。\n
(エ) 以上のとおり、本件公知意匠1のうち、乙2意匠は、5本に分岐した枝部が 形成されている点及び枝部が熊手状に湾曲させて形成されている点で、また、乙3 意匠は、「基端から5本に分岐した丸棒状の枝部」と捉えることが可能な部分があ\nる点で、それぞれ本件意匠1と共通する部分があるといえるにとどまる。もっとも、 その共通するといえる部分の具体的形状は、本件意匠1とは大きく異なる。 そうである以上、本件公知意匠1は、本件意匠1の基本的構成態様及び具体的構\ 成態様いずれとの関係でも、本件意匠1に先行する公知意匠ということはできない。 その他本件意匠1の要部を判断するにあたり参考とすべき公知意匠は、証拠上見当 たらない。
ウ 本件後願意匠
登録意匠の要部認定に当たっては、先行する公知意匠を考慮すべきではあっても、 登録意匠の出願に後れる後願意匠を考慮することは、原則として相当でない。また、 この点を措くとしても、証拠(乙4)によれば、乙4意匠は、涙滴状部に金属球を 有する点で本件意匠1の形状と明確に異なること、証拠(乙5)によれば、乙5意 匠は、基端から5本に分岐した丸棒状の枝部が全体として人の手指の指部を想起さ せる形状となっており、その先端に涙滴状部がない点で本件意匠1の形状と明確に 異なることなどから、本件後願意匠は、翻って本件意匠1の要部を判断するものと して参考となり得るものではない。
エ 小括
以上の事情を総合的に考慮すれば、本件意匠1の要部は、基本的構成態様 A1-3 及び B1-3 並びに具体的構成態様 D1-3 であると見るのが相当である。
・・・
イ 差異点について
(ア) 差異点 A について
差異点 A は、平面視における枝部の湾曲の程度と、これによる左右各側面視にお ける涙滴状部の配置に係るものである。需要者が原告製品1及び被告製品1を平面 側及び左右の側面側から視認する機会が乏しいこと等を踏まえれば、差異点 A は、 本件意匠1と被告意匠1とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異とはいえない。
(イ) 差異点 B 及び C について
差異点 B は、正面視における一番外側の枝部の湾曲の形状に係るもの、差異点 C は、等間隔に配置された涙滴状部間の距離に係るものである。 これらの差異点は、いずれも、原告製品1及び被告製品1を正面側から視認する ことにより認識し得るものであり、需要者はこれを目にする機会が多いといえる。 もっとも、上記各差異点は、中央の枝部がほぼ直線状に伸び、外側にいくにつれて 枝部の湾曲の程度が大きくなるという共通点 B や、枝部の先端の涙滴状部が等間隔 に配置されているという共通点 C がある中で、一番外側の枝部の先端近くの形状や、 涙滴状部間の距離がいささか異なるというにとどまり、顕著に特徴的なものとまで はいえず、本件意匠1と被告意匠1とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異で はない。
ウ 小括
以上の事情を総合的に考慮すると、本件意匠1と被告意匠1は、その骨格的な構\n成態様において共通し、両意匠の差異点は、それ自体も、また、これらを組み合わ せたとしても、そのもたらす印象をもって共通点により需要者に生じる美感の共通 性を凌駕するほどのものということはできない。
・・・・
) 法39条2項による損害額の推定覆滅に係る部分については、同項に基づく 推定が覆滅されるとはいえ、無許諾で実施されたことに違いはない以上、当該部分 に係る損害評価が尽くされたとはいえない。したがって、当該部分については、同 条3項が重畳的に適用されると解するのが相当である。この点に関する被告の主張 は採用できない。
・・・
b 検討
被告製品1と原告製品1は、共に頭部マッサージ具である。原告製品1は枝部の 先端に形成された涙滴状部を頭部の形状に沿って押し当て、押しながらかき上げる といった使用方法が想定されている(乙1)のに対し、被告製品1は、枝部の先端 に形成された涙滴状部を頭皮に押し当て、微細な振動を与えるといった使用方法が 想定されている(甲3、4、乙29)。このように、両製品は、具体的な使用方法 は異にするものの、枝部の先端に形成された涙滴状部を頭皮等のマッサージ対象部 位に押し当ててマッサージを行うものである点で、その基本的な用途を同じくす る。両製品の販売価格には2倍以上の差があるものの、具体的な価格差は610円 (税抜)であり、「プチプラ」のもともとの意義はともかく、市場において「プチ プラ」と呼ばれる廉価な生活雑貨品のカテゴリーにいずれも分類されることがある 以上、両製品は、その価格差を踏まえても、市場において競合するものといえる。 また、被告は、被告各製品を被告店舗等のみで販売しているものの、被告店舗の 出店先の商業施設に原告の製品を取り扱う店舗も出店している例が多数ある。こう した商業施設では、需要者は、商業施設内の各店舗を巡って目的に適う同種製品を 比較検討して購入することが可能であり、実際上も、このような行動はしばしば見\n受けられる。さらに、被告製品1が販売されている EC サイトは被告サイトのみで あるとしても、被告店舗等で被告製品1に触れた需要者が、他の EC サイトで頭部 マッサージ具を検索することは容易であり、これもしばしば見受けられる行動とい えるのであって、その結果、複数の EC サイトにおいて販売されている原告製品1 が検索結果として表示されることも容易に推察される。\nこのような事情を踏まえれば、業務態様ないし販売チャンネルのあり方における 原告と被告との違いや被告製品1と原告製品1との価格差は、損害額の推定を覆滅 すべき事情とはいえないか、いえるとしてもその程度は限られる。 これに対し、被告は、被告店舗での取扱商品の多様さや、商品ラインナップにお ける被告製品1の位置付けなどから、需要者は、被告店舗を訪れて被告製品1に触 れた際に始めて被告製品1の存在を知り、そのまま衝動的に購入する場合が多く、 被告製品1が存在しなければそもそも頭部マッサージ具の需要が発生しないか、需 要者が当初より被告製品1を購入する意思をもって被告サイトで被告製品1を購入 しているため、被告製品1が販売されなくともその分の需要が原告製品1に吸収さ れるとはいえないなどと主張する。しかし、そのような需要者の購買行動等があり 得るとしても、被告製品1の需要者の全てないし多くがそのように行動すると考え るべき根拠はない。被告製品1が廉価なことを踏まえても、価格のみならずその機 能やデザイン等を含む総合的な評価に基づいて、同種製品と比較検討の上で購入に\n至る需要者も一定数存在すると考えるのが、むしろ経験則に合致する。 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用 できない。
(ウ) 競合品の存在
本件意匠1及び被告意匠1の各構成態様並びに原告製品1及び被告製品1の具体\n的な使用態様等を踏まえると、乙28の各ウェブサイト掲載商品に係る別紙「被告 主張の競合品一覧(本件意匠1)」のうち、少なくとも1)、2)、4)〜6)、9)、10)、 15)、20)、21)は、原告製品1及び被告製品1の競合品と認められる。 そうすると、被告製品1が市場に存在しない場合、被告製品1に係る需要の全て が原告製品1に吸収されるとは限らないから、これらの競合品の存在は、被告が得 た利益と原告が受けた損害との間との相当因果関係を阻害するものとして、損害額 の推定を一定程度覆滅させる事情として考慮すべきである。
(エ) 被告の営業努力等
証拠(甲41、乙45〜49)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、約6年の間 に全国的に被告店舗を多数展開し(令和3年5月時点で62店舗)、複数のウェブ サイトで人気の生活雑貨店として取り上げられていることが認められることなどを 踏まえると、被告ブランドは一定程度需要者に認知されているとうかがわれる。 もっとも、被告自身、被告製品1につき被告の主力商品として販売されていたも のではないと主張していることに加え、被告製品1に特化した宣伝広告等がされた ことを認めるに足りる証拠もないこと、廉価な生活雑貨品という被告製品1の性格 等を踏まえると、被告製品1を購入する需要者にとって、被告ブランドの取扱商品 であることが主な購入の理由ないし動機となっているとは考え難い。 その他被告の格別な営業努力が被告製品1の売上増加に貢献していると見るべき 具体的な事情はない。 したがって、被告の営業努力等は、損害額の推定を覆滅すべき事情とはいえない か、いえるとしてもその程度は限られる。
(オ) 侵害品の性能\n
前記((イ)b)のとおり、被告製品1は、枝部の先端に形成された涙滴状部を頭 皮に押し当て、微細な振動を与えることにより頭皮をマッサージする効果を奏する 商品であり、涙滴状部を頭部の形状に沿って押し当て、押しながらかき上げるとい った使用方法が想定されている原告製品1とは、その具体的な使用方法において異 なる。この使用方法の相違は、実用品である頭部マッサージ具の機能に関わるもの\nである。実用品である以上、商品の機能性は、デザインと同等かそれ以上に需要者\nの商品選択において重要な要因として位置付けられる。このことは、被告が商品デ ザインを重視した商品開発を行い、需要者に対してこれを訴求していることがうか がわれること(甲81〜83)などを考慮しても異ならない。 したがって、原告製品1と被告製品1の具体的な使用方法の相違すなわち機能面\nの相違は、損害額の推定を相当程度覆滅すべき事情といえる。
(カ) 覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すると、本件では、被告製品1に係る原告の損害額の 推定につき、4割の限度で覆滅されるとするのが相当である。これに反する原告及 び被告の各主張はいずれも採用できない。 そうすると、被告の本件意匠権1侵害による原告の損害額は、●(省略)●円 (=●(省略)●*(1-0.4))となる。
オ 法39条2項及び3項の重畳適用、実施料率
(ア) 法39条2項による損害額の推定覆滅に係る部分については、同項に基づく 推定が覆滅されるとはいえ、無許諾で実施されたことに違いはない以上、当該部分 に係る損害評価が尽くされたとはいえない。したがって、当該部分については、同 条3項が重畳的に適用されると解するのが相当である。この点に関する被告の主張 は採用できない。
(イ) 実施に対し受けるべき金銭の額
「意匠の実施に対し受けるべき金銭の額」(法39条3項)すなわち意匠の実施 に対し受けるべき料率は、当該意匠の実際の実施許諾契約における実施料率や、そ れが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、当該意 匠自体の価値、当該意匠を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の 態様、意匠権者と侵害者との競業関係や意匠権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情 を総合的に考慮して、合理的な料率を定めるべきである。また、その際、必ずしも 当該意匠権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必 然性はなく、意匠権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受 けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと を考慮すべきである。 また、不当利得返還請求に関し、当該「受けるべき金銭の額に相当する額」は、 本来、意匠権者がその登録意匠の実施に当たり意匠権者に対して支払うべきであっ た実施料相当額であるから、侵害者がこれを支払うことなく登録意匠を実施した場 合は、その実施により、侵害者は同額の利得を得、意匠権者は同額の損失を受けた ものと評価することができる。したがって、法39条3項の「受けるべき金銭の額 に相当する額」が不当利得における受益者の利得の額に相当し、かつ、権利者の損 失の額に相当すると認めるのが相当である。
(ウ) まず、本件意匠権1に係る実施許諾契約が締結されたことを認めるに足りる 証拠はなく、その他原告が本件意匠権1に係る実施許諾契約を締結する場合に定め る実施料率をうかがわせる事情はない。 また、「実施料率〔第5版〕技術契約のためのデータブック」(甲59)によれ ば、「プラスチック製品」の技術分野(その対象には、「プラスチック板・棒・管 ・継手・異形押出製品製造技術、・・・その他のプラスチック製品製造技術」であり、 「その他のプラスチック製品」とは「プラスチック製台所用品・浴室用品等」であ るが、「プラスチック製の家具(29)・ブラシ(31)・履物(27)等」は含まれ ない。)における外国技術導入契約の実施料(許諾製品の出来高にリンクした料率 表示であったもの)につき、平成4年度〜平成10年度の外国技術導入契約(イニ\nシャルロイヤリティがないもの。63件)の場合、平均値は3.9%、中央値は3 %であった(なお、甲59には、このほかに技術分野を「ゴム製品」とする項も存 するが、その対象は、タイヤ・チューブ製造技術、ゴム製・プラスチック製履物・ 同付属品製造技術等であり、被告製品1の分野と類似するものがないから、これを 参考とするのは相当でない。)。また、「ロイヤルティ料率データハンドブック〜 特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(甲60)によれば、「個 人用品または家庭用品」の技術分類における実施料率(13件)は、平均が3.5 %、標準偏差1.6%、最大値7.5%、最小値0.5%であり、「健康;人命救 助;娯楽」の技術分類(54件)では、平均5.3%、標準偏差3.2%、最大値 14.5%、最小値0.5%である。
さらに、前記(エ(イ)b、エ(オ))のとおり、被告製品1の需要者は、製品の機能\nを中心に、デザイン及び価格性を総合的に考慮した上で商品選択を行うものと見ら れることから、本件意匠1ないしこれに類似する被告意匠1を用いた場合の売上及 び利益への貢献の程度の評価にあたっても、これを踏まえる必要がある。 加えて、原告製品1と被告製品1はいずれも頭部マッサージ具であることに加 え、原告と被告は、取扱い商品や販売店舗の出店先が相当程度に重複していること から、高い程度で競合関係にあるといえる。このため、仮に原告が被告に対し本件 意匠権1に係る実施許諾契約を締結するならば、その実施料は高めに設定されるの が通常であると考えられる。しかも、証拠(甲64〜69)及び弁論の全趣旨によ れば、原告は、自己の保有する登録意匠に係る侵害品の防止に積極的に努めている ことがうかがわれる。
以上の事情に加え、意匠権侵害に基づく損害賠償請求の場面での仮想実施料率の 考察であることを総合的に考慮すると、本件意匠権1を侵害した者に対して事後的 に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は5%を下らないというべきであ る。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。 そうすると、法39条3項により認められる損害賠償請求の額は、●(省略)● 円(≒●(省略)●*0.4*0.05)となる。

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令和3(行ケ)10067  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和4年1月12日  知的財産高等裁判所

 物品の認定があやまっているとして、類似するとした審決を取り消しました。本件意匠にかかる物品は「インジェクターカートリッジ」であり、「インジェクターカートリッジ」とは,「注射器用の交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」を意味する。と、引用意匠の「注射器用シリンジ」とは非類似物品と判断されました。\n

1 本件審決は,本願意匠が引用意匠に類似し,意匠法3条1項3号に該当する から意匠登録を受けることができないと判断した。
そこで検討するに,意匠は物品と一体をなすものであるから,登録出願前に日本 国内若しくは外国において公然知られた意匠又は登録出願前に日本国内若しくは外 国において頒布された刊行物に記載された意匠と同一又は類似の意匠であることを 理由として,意匠法3条1項により登録を拒絶するためには,まずその意匠にかか る物品が同一又は類似であることを必要とし,更に,意匠自体においても同一又は 類似と認められるものでなければならない(最高裁判所昭和45年(行ツ)第45 号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁参照)。 そうすると,物品の同一性又は類似性の認定に誤りがある場合には,意匠法3条 1項該当性の判断に誤りがあるというべきである。 2(1) 原告は,本件審決が,本願意匠に係る物品について「医療用注射器の外筒」 と認定したことが誤りであると主張し,これに対し被告は,1)本件審決は,本件願 書等の記載から本願意匠に係る物品を「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有す\nるもの」と認定したところ,この判断に誤りはなく,2)原告が,本件意見書や本件 審判請求書で本願意匠と引用意匠の物品が「注射器等に用いられるカートリッジ」 であって「物品が共通する」などと主張していたことは上記1)の認定を裏付けるも のであり,原告が,本訴において,本件審決以前にしていた主張と異なる主張をす ることは禁反言により許されないなどと主張している。
(2) そこで検討するに,本件意見書や本件審判請求書において,原告は,本願意 匠と引用意匠の物品が「注射器等に用いられるカートリッジ」であって「物品が共 通する」などと主張していたことが認められるが(乙5,7),意匠登録出願につい ての拒絶理由の存否は,審査官が職権により判断すべきものであって(旧法17条), 出願人が審査段階又は審判段階において述べたことについて自白の拘束力が働くも のではない上,権利行使の当否ではなく権利設定の適否が問題となる審決取消訴訟 である本件において,被告は行政庁として対応しているものであって,本願意匠の 意匠に係る物品につき,査定及び審判の各段階における原告の主張が本訴における 主張と異なるものであったことにより被告の利益が不当に害されるとの関係もない ことからすると,本件意見書や本件審判請求書における上記の原告の主張をもって, 禁反言の法理の適用などによって原告が本訴において本件審決以前にしていた主張 と異なる主張をすることが許されないとまでいうことはできない。 また,被告以外の第三者との関係において,禁反言の法理が適用されることによ り,原告が本願意匠に係る意匠権を行使する場面に制限を受けるおそれがあるとし ても,特定の当事者間における権利行使の制限の当否と権利の付与の適否とは,お よそ場面が異なるのであるから,直ちに本願意匠について,意匠権登録による保護 を与えるべきではないなどということはできない。
(3) さらに,審決取消訴訟の審理対象は,当該審決の判断の違法であり,その範 囲は当該審判手続において具体的に争われた拒絶理由に限定されるものであるから (最高裁判所昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集3 0巻2号79頁参照),各当事者は,審判手続において具体的に争われていない拒絶 理由を主張することは許されないものの,審判手続において具体的に争われた拒絶 理由に係る判断の当否に係る主張やそれを裏付ける証拠の提出についてまで制限を 受けるものではない。そして,原告の,本願意匠の意匠に係る物品が「自動注射器 等の内部に挿入される,交換可能な薬液溶液」であり,引用意匠に係る物品である\n「注射器用シリンジ」とは異なる旨の主張は,本件の審判手続について争われた拒 絶理由である「引用意匠との類似」に関する主張であって,審理対象に含まれない 事項に係るものではないから,この観点からも原告の主張を制限する理由はない。
(4) そこで,以下,原告が,本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品が異なると主 張していることを前提として,本願意匠に係る物品について検討する。 3(1) 意匠法24条1項は「登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添附した 図面に記載され又は願書に添附した写真,ひな形若しくは見本により現わされた意 匠に基いて定めなければならない。」と規定する。 また,旧法6条1項3号は,意匠登録出願の際に提出すべき書類に,「意匠に係る 物品」を記載すべき旨規定し,意匠法施行規則別表第一には意匠に係る物品の欄に\n記載すべき区分が定められているが,同表には「インジェクターカートリッジ」と\nの区分の記載はない(乙2,3,15。なお,同表には,「インジェクター」を含む\n区分の記載もなく,「カートリッジ」を含むものとしては「レコードプレーヤー用カ ートリッジ」の区分の記載があるのみである。)。同表の備考二には,「この表\の下欄 に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは, その下欄に掲げる物品の区分と同程度の区分による物品の区分を願書の「意匠に係 る物品」の欄に記載しなければならない。」と記載されている。そして,同規則様式 第2備考39には「別表第一の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品\nについて意匠登録出願をするときは,「【意匠に係る物品の説明】」の欄にその物品の 使用の目的,使用の状態等物品の理解を助けることができるような説明を記載する。」 と記載されている。
(2) 前記(1)の各規定を踏まえ,本件願書等の記載から,本願意匠の意匠に係る物 品が何であるか検討する。本件願書等(乙1)の記載をみると,【意匠に係る物品】 として「インジェクターカートリッジ」とあるほか,【意匠の説明】及び図面はいず れも別紙第1記載のとおりであって,本件願書等には【意匠に係る物品の説明】の 欄はなく,その余の欄にも意匠に係る物品の説明は記載されていない。本件願書等 における物品を示唆する記載は「インジェクターカートリッジ」との文言及び図面 のみである。
(3) そこで,「インジェクターカートリッジ」との文言について検討すると,これ は,「インジェクター」と「カードリッジ」という2つの単語が組み合わされたもの と認められる。
ア 「インジェクター」についてみると,新英和大辞典第六版(乙9)には,外 来語である「インジェクター」のもとの英単語である「injector」について,「注射 する人,注入器,注射器」という意味が記載されており,証拠(甲7,15)によ ると,本件優先日より前に,糖尿病の注射治療に用いる注射薬として「オートイン ジェクター」と呼ばれる,ボタンを押すだけであらかじめ充填されている1回分の 薬液が自動的に注入されるGLP−1受容体作動薬の注入器及び「アポカインイン ジェクター」との名称の電動式医療品注入器(原告の主張する自動注射器を意味す るものと推認される。)が既に存在していたことが認められる。加えて,原告及び被 告ともに,インジェクターが「注射器」を意味するものと認識している。そうする と,本件において,「インジェクター」は注射器を意味すると推察される。
イ 「カートリッジ」についてみると,外来語である「カートリッジ」のもとの 英単語である「cartridge」について,新英和大辞典第六版(乙9)には,「弾薬筒, 薬筒,薬包,実包」「(機械・器具などの一部に取換えのできるように工夫された液 体・ガスなどの)小容器」,ウィズダム英和辞典(甲8)には「交換[詰め替え]用容 器」,New Oxford American Dictionary(甲9)には「巻かれた写真用フィルム,イ ンク,その他の物又は物質を内包する容器であり,装置の中に挿入するべくデザイ ンされたもの」との意味がそれぞれ記載されている。そして,証拠(甲13)によ ると,本件優先日より前に,専用注入器に装着して使用する「カートリッジ製剤」 と呼ばれるインスリン製剤が存在していたことが認められる。また,本件優先日よ り前に公開されていた特許公報(甲12,28〜32)には,自動注射器,注射器 装置,ばね駆動式の注射装置,ペン型注射器及び医療用自動注射装置に用いられる, 薬を充填した小容器を意味する「カートリッジ」に関する記載(その中には,薬剤 カートリッジ,薬物充填カートリッジなどと記載されている部分もある。)があるこ とが認められる。そうすると,「カートリッジ」は交換用の液体・ガスなどを充填し た小容器を意味するものと推測される。なお,上記各証拠に照らす限り,「カートリ ッジ」が文言上,「外筒」を意味するものと認めることはできない。
ウ 次に,「インジェクターカートリッジ」の語句について検討するに,被告は, 本件願書の【意匠に係る物品】の記載は「インジェクターカートリッジ」であり, 「インジェクター用カートリッジ」ではないなどとも主張するが,証拠(甲17〜 20,22,23)によると,「カートリッジ」の文言は,「トナーカートリッジ」 「インクカートリッジ」のようにカートリッジ自体についてその内容物を意味する 文言とともに用いられる場合がある一方で,浄水器に用いられるカートリッジにつ いて「浄水器用カートリッジ」とする登録意匠と「浄水器カートリッジ」とする登 録意匠とが存在し,「浄水器カートリッジ」が浄水器用のカートリッジを意味する場 合があることが認められ,「インジェクターカートリッジ」という文言をもって,イ ンジェクター用のカートリッジを意味するものと理解することも不自然ではない。 そして,本願意匠の意匠に係る物品として,出願人である原告が,注射器を意味す る「インジェクター」のみにとどめず,あえて「インジェクターカートリッジ」と したものであることを併せ考慮すると,「インジェクターカートリッジ」は,「注射 器用のカートリッジ」を意味すると認めるのが相当である。
エ 前記ア〜ウを総合すると,「インジェクターカートリッジ」は,「注射器用の 交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」を意味すると認めるのが相当である。\n
(4) そうすると,本願意匠の意匠に係る物品を「医療用注射器の外筒の用途及び 機能を有するもの」とした本件審決の認定には誤りがあるというほかない。もっと\nも,本件願書等には,「インジェクター」(注射器)が「自動注射器」を意味するこ とまでを示唆する記載はなく,本件優先日当時において,一般に,「インジェクター カートリッジ」が自動注射器用のカートリッジを意味していたと認めるに足りる証 拠もないから,本願意匠の意匠に係る物品は,自動注射器に限ることなく,「『注射 器』用の交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」であると認めるのが相当で\nある。
(5) 被告は,本件審決は「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するインジェ\nクターカートリッジ」であると認定したのであって「医療用注射器の外筒」と認定 したものではないから原告の主張は前提を欠くなどと主張するが,物品の同一性及 び類似性は,物品の用途及び機能等を比較して実質的に判断すべきところ,本件審\n決の認定は「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するもの」というものであっ\nて実質的に上記原告の主張のとおり「医療用注射器の外筒」と認定したものといえ る。被告の上記主張は形式にすぎ,本質を看過したもので相当ではない。 また,被告は, 本件願書に【意匠に係る物品の説明】の欄を設けて物品の理解を 助ける説明を記載し,参考図を提出する必要があったと主張しているところ,前記 3(1)のとおり,意匠法施行規則別表第一には「インジェクターカートリッジ」との\n区分の記載はなく,また,「インジェクターカートリッジ」が一般用語とはいえない ことからすれば,被告の主張するように【意匠に係る物品の説明】を記載するのが 適当であったとはいえるものの,このことから,本願意匠に係る物品が「医療用注 射器の外筒の用途及び機能を有するもの」であると直ちに認定できるものではなく,\n上記被告の主張は,本願意匠に係る物品についての上記認定に影響しない。
4 他方,本件審決は,別紙第2記載の注射器の意匠のうち,「注射器用シリンジ」 の意匠を引用意匠としているところ,当該部分に係る物品は,注射器用外筒の用途 及び機能を有するものと認められる。\nそうすると,本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は共通しない。
5 したがって,本件審決の本願意匠に係る物品の認定及び本願意匠と引用意匠 の同一性の認定には誤りがあるから,取消事由1(本願意匠に係る物品の認定及び 本願意匠と引用意匠の物品の同一性(類似性)の認定の誤り)には理由がある。

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令和2(ワ)10386  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和3年11月25日  大阪地方裁判所

 意匠権侵害、不競法2条1項3号の商品形態模倣が争点です。大阪地裁は意匠は類似していない・模倣でもないと判断しました。

ウ 原告商品1−1と被告商品との共通点及び差異点
原告商品1−1と被告商品の各形態を対比すると,原告商品1−1の基本的形態 の全て及び具体的形態 T1-1-3 と,被告意匠の基本的形態の全て及び具体的形態 t3 が 共通点であり,それ以外の形態が差異点であると認められる。 すなわち,原告商品1−1と被告商品の各形態とは,差異点2)’,3)’,5)’〜12)’の ほか,具体的形態 S1-1-3 と s3 につき,原告商品1−1では,中空部中央に位置する 円形板から細い48本の直線状のファンガードが放射状に円筒状中空部下面とほぼ 面一に形成されている(S1-1-3)のに対し,被告商品では,中空部中央に位置する円 形板から細い36本の湾曲線状のファンガードが放射状に円筒状中空部下面とほぼ 面一に形成されている(s3)点で相違する(差異点 C)。
エ 検討
原告商品1−1と被告商品の各形態の差異点のうち,差異点2)’,3)’,6)’〜10)'及 び C は,原告意匠と被告意匠の差異点2),3),6)〜10)及び A と同じである。そうで ある以上,少なくとも差異点3)’,6)’,8)’,9)’及び C については,原告意匠と被告意匠とが差異点3),6),8),9)及び A により異なる美感を生じるのと同様に,原告 商品1−1と被告商品の各形態につき,需要者に異なる美感を生じさせるものとい える。また,これらの差異点の存在にもかかわらずなお両商品の形態が酷似し,実 質的に同一というべき事情は見当たらない。 したがって,原告商品1−1と被告商品の各形態は実質的に同一であるとは認められないから,被告商品は,原告商品1−1の形態を模倣したものということはできない。これに反する原告の主張は採用できない。

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令和2(ワ)11491  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和3年9月15日  東京地方裁判所

 先使用権ありとして意匠権侵害は成立しないと判断されました。

ア 原告意匠の出願日は令和元年8月20日であるところ,上記(2)におい て判示した被告製品の開発経緯によれば,被告製品を開発・製造して被告 に販売したダイセンは,Wuxi社及びCNTA社との間で洗面台用排水 口フィルターの新製品の開発を進め,平成31年4月にWuxi社から抜 き型図面(乙20)を受け取り,これに基づき試作品を作成した上で,被 告に対して新製品販売の提案を行い,被告製品の意匠は令和元年7月に被 告に採用されて,被告製品の製造・販売に至ったものと認められる。
イ ダイセンがWuxi社から受領した上記抜き型図面の構成は,上記(1) イの被告製品の意匠の基本的構成態様及び具体的構\成態様をいずれも備 えたものであり,被告製品の意匠と同一又は類似するということができる。 そして,同図面に基づいて作成されたと推認される被告製品の試作品(乙 23の2の1の下段,乙23の2の2,乙23の4)も同様に被告製品の 意匠の基本的構成態様及び具体的構\成態様をいずれも備え,被告製品の意 匠が被告に採用された後に,ダイセンの担当課長がCNTA社の担当者に 送信した電子メール(乙27)の本文に挿入された試作品の画像も同各態 様を備えていたものと認められる。 そうすると,原告意匠と同一又は類似する意匠は,平成31年4月にダ イセンがWuxi社から知得し,仮にそうではないとしても,ダイセンが 被告と打合せを重ねる中で原告意匠の出願日までの間に創作したもので あり,その意匠は平成31年4月から被告製品の意匠の採用時まで,一貫 して,上記(1)イの基本的構成態様及び具体的構\成態様を備えていたもの というべきである。
ウ 意匠法29条は「現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意 匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は,そ の実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において,その意 匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する」と規定するところ, 上記(2)のとおり,ダイセンは,令和元年8月2日には被告から2万個の被 告製品の製造を受注していたことに照らすと,原告意匠の出願日(同月2 0日)には原告意匠又はこれに類する意匠の実施である事業を開始してい たというべきである。 加えて,ダイセンが,原告意匠の出願日当時,原告意匠について知って いたことを示す証拠はない。
エ 以上によれば,原告意匠と被告製品の意匠が類似しているとしても,ダ イセンは,原告意匠を知らないで自ら原告意匠又はこれに類似する意匠を 創作し,又は同意匠の創作をした者から知得して,原告意匠登録出願の際, 現に日本国内において原告意匠又はこれに類似する意匠の実施である事 業をしていたということができるので,意匠法29条に基づき,原告意匠 権について通常実施権を有するものというべきである。そうすると,被告 が,原告意匠権について通常実施権を有するダイセンから被告製品を仕入 れて販売等する行為が原告意匠権を侵害するということはできない。
(4) 原告の主張について
ア 抜き型図面(乙20)について
(ア) 原告は,抜き型図面は,作成日付が印字されておらず,手書き部分は 後日追記された可能性があるため,同図面が原告意匠の登録出願前に作\n成されたかどうか不明であると主張する。 しかし,ダイセンが平成31年4月11日にWuxi社及びCNTA 社と打合せを行った際の商談記録表(乙21)には,「シートサイズ:\nφ40mm(穴/12mm)×厚さ5mm,取っ手/8mm(45゜C))」, 「抜き型の形状は4月13日までに協議した上で決定させる。」,「別 紙参照:抜き型図面データ」との記載がある。同記録表はその内容,形\n式等に照らして,その「作成日」(同月17日)に作成されたものと信 用し得るところ,同記録表の上記記載に加えて,令和元年6月5日付け\nの電子メールに添付されていた乙23の2の1上段の画像データが乙 20の抜き型図面と同一であり,同図面にはその寸法が記載されている ことなども考慮すると,平成31年4月11日の上記打合せにおいて同 抜き型図面が配布されたと認めるのが相当である。 原告は,同抜き型画面には「4/13 最終案」との手書きの書込み があるのに対し,乙23の2の1上段の画像データには同様の書込みが ないと主張するが,同画像データは,乙20の抜き型図面の図面部分の みを画像データとしたものとも考えられることからすると,同画像デー タに書込みがないことをもって,「4/13 最終案」との上記書込み が原告と被告間の紛争が生じてからされたものであるということはで きない。
(イ) また,原告は,Wuxi社が,抜き型図面のCADファイルをわざわ ざ印刷した上で,紙媒体を日本まで郵送したというのは不自然であると 主張する。 この点,Wuxi社が抜き型図面の元データを印刷して紙媒体として 配布した経緯は明らかではないが,データの流用,改変の防止などの観 点から,CADデータを印刷し,精度を落とした上で,取引先との打合 せにおいて配布したとしても不自然ということはできない。
(ウ) さらに,原告は,乙20の抜き型図面の元データに作為が加わる可能\n性は否定できないと主張するが,乙20の画像データに作為が加えられ たことを具体的に示す証拠は存在しない。
イ 令和元年6月5日付け電子メール(乙23の1)に添付された図面及び 写真データ(乙23の2の1)について
(ア) 原告は,乙23の2の1の画像データ及び製品比較表(乙23の4)\nの画像データのプロパティ(乙34,36の2)は容易に変更すること ができるので,その信用性には疑問があると主張するが,同プロパティ が変更されたことを具体的に示す証拠は存在しない。
(イ) 原告は,被告の主張によると乙23の2の1上段の画像データが作成 されたのは抜き型図面の作成後ということになるが,通常,データを作 成してから印刷するはずであるから,被告の主張は不自然であると主張 する。 しかし,被告の主張するとおり,本件では,Wuxi社が,自らの保 有するデータに基づき,紙媒体の抜き型図面を作成してダイセンに交付 し,その後にダイセンが紙媒体の同図面から必要な部分をデータ化して 乙23の2の1上段の画像データを作成したものと認めるのが相当であ る。そうすると,抜き型図面の作成時期が乙23の2の1上段の画像デ ータの作成時期より早いのは当然であるというべきである。
ウ 製品比較表(乙23の4)について\n
(ア) 原告は,乙36の2のプロパティの作成日時は「2014/12/1 7」と本件よりはるかに過去のものになっており,また,最終更新日も 記載されておらず,同プロパティにある「最終印刷日」もいずれの画面 を印刷したのか不明であると主張する。 しかし,同プロパティの「作成日時」の記載は,同表の元になったフ\nォーマットの作成日時を示すものであると考えられ,製品比較表の作成\n日を示すものということはできない。 また,同プロパティによれば,その最終更新日は令和元年6月5日午 前9時41分であり,最終印刷日は同日午前9時40分であると認めら れ,印刷対象は同表であると認められる。そうすると,同プロパティの\n最終更新日や印刷対象が不明であるということはできない。 同プロパティに表示された最終更新日や最終印刷日は,令和元年5月\n27日の商談記録表(乙22)に「類似商品が販売されていないか,確\n認の依頼を受ける。比較資料を作成し,提出するとした。」との記載が あり,その次の打合せが同年6月12日に行われていること(乙24) とも整合するものであり,信用することができるというべきである。
(イ) 原告は,製品比較表の表\示と乙36の1のデータファイルの画像とは 異なると主張するが,乙36の1は画面の一部をスクロールしたために その一部が表示されていないものにすぎず,製品比較表\(乙23の4) と乙36の1のデータファイルとは同一のものであると認められる。
(ウ) 原告は,製品比較表は乙23の2の1下段の画像データを利用してい\nるので製品比較表のデータファイルの最終印刷日(令和元年6月5日午\n前9時40分)が乙23の2の1の画像データの作成日時(同日午前1 1時14分。乙34)より早いのは不自然であると主張する。 しかし,被告の主張する「乙23の2の1の画像データの作成日時」 は,乙23の2の1の画像データを貼り付けたエクセルファイルをPD\nFファイルに変換した日時にすぎないものと認められる(乙34)から, 被告が,試作品の画像データを作成した上で,これを利用して製品比較 表を作成し,その後同データと抜き型図面の画像データを併せて乙23\nの2の1のPDFファイルを作成したとも考えられる。そうすると,製 品比較表のデータファイルの最終印刷日が被告製品の試作品の写真の\n画像データを貼り付けたPDFファイルの作成日時より早いとしても\n不自然ということはできない。
エ 令和元年7月31日付け電子メール(乙27)について
原告は,電子メールの改ざんや編集は容易であって,ダイセンにも乙2 7の電子メールを改ざんする動機があったと主張するが,同メールの記載 やその本文に挿入された試作品の画像データが改ざんされたことを具体 的に示す証拠は存在しない。
オ 被告製品の意匠の完成時期について
原告は,令和元年8月2日の打合せに係る商談記録表(乙29)に「デ\nザイン案を提出したが,NGとのことであった。」と記載されていること をもって,この時点においてデザインが完成していなかったと主張する。 しかし,1)同年7月22日に行われた被告とダイセンの商談記録表には\n「当初の提案形状のままで,商品化を依頼した」との記載があること,2) 同月30日付けでキャンドゥから採用通知書がダイセンに送付されてい ること(乙26),3)ダイセンの担当課長のCNTA社の担当者宛の電子 メール(乙27)に「下記のフィルターで,採用決定しました。」と記載 され,その直下に被告製品の試作品の画像が挿入されていることによれば, 乙29の商談記録表における「デザイン」とは被告商品の形状に関するデ\nザインではなく,上記電子メールに「作成中」であると記載されている被 告製品の化粧袋のデザインであると解するのが相当である。 そうすると,同年8月2日時点において被告製品のデザインが完成して いなかったとの原告の主張は採用し得ない。

◆判決本文

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令和2(ネ)1492    意匠権  民事訴訟 令和3年2月18日  大阪高等裁判所

 意匠法39条2項の推定覆滅の割合は9割、実施料率3%とすべきと主張しましたが、控訴審も1審と同様に、覆滅割合を7割実施料率5%と判断しました。

 ア 推定覆滅の割合について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決43頁 14行目から51頁13行目まで)け,本件においては,意匠法39条2 項による損害額の推定は,7割の限度で覆滅されるというべきである。 控訴人は,控訴人の製品が被控訴人の製品より安価であることを理由 に,覆滅の割合を9割とすべきであると主張する。しかし,証拠(乙1 9)によれば,ここで控訴人が比較しているのは,外付け型 HDD につい ての控訴人の製品全体の平均単価と被控訴人の製品全体の平均単価で あって,原告製品の価格と被告製品の価格がどれだけ違うのかは明らか でない。被告製品が一般に原告製品より安価であるといえるとしても, 前記の7割という推定覆滅の程度は,このことをも考慮の対象とした上 でのものである。したがって,控訴人の主張を採用することはできない。
イ 実施料率について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決52頁 5行目から53頁21行目まで),本件においては,意匠法39条3項 を適用して損害額を認定するに当たり(同条2項による損害額の推定が 覆滅される部分について同条3項を適用する場合を含む。),被控訴人 が本件意匠の実施に対し受けるべき料率(実施料率)は,5%を下らな いというべきである。 控訴人は,アンケート調査結果(乙45)を根拠として,本件におけ る実施料率は3%程度とすべきであると主張する。このアンケート調査 結果には,特許権のみの場合のロイヤルティ料率と特許権と意匠権を組 み合わせた場合のロイヤルティ料率が示されており,前者は,平均値が 約3.5%,中央値が約3.3%であり,後者は,平均値が約3.1%,中 央値が約2.9%であるから,確かに控訴人の指摘するとおり,後者の数 字の方が若干低くなっている。しかし,このアンケート調査の回答数は 必ずしも多くなく,特許権と意匠権を組み合わせた場合のロイヤルティ 料率についての回答数は全部で25にすぎないし,意匠権のみの場合の ロイヤルティ料率についての調査結果は存在しない。また,特許権,意 匠権それぞれ単独でロイヤルティ料率を設定する場合と,これを組み合 わせてロイヤルティ料率を設定する場合を比較すると,単純に,単独の 場合の料率を足したものが組み合わせた場合の料率になるとは考え難く, むしろ,組み合わせた場合の料率は,単独の場合の料率を足したものよ り低くなるのが一般的ではないかと考えられる。したがって,このアン ケート調査結果は,本件における実施料率を認定するに当たっては,あ くまでも参考資料の一つにとどまるといわざるを得ない。これに加え, 本件意匠自体の価値,被告製品の需要者がデザイン性を考慮する程度, 原告製品と被告製品とが競合品の関係にあることといった事情を総合的 に考慮すれば,本件における実施料率は5%を下らないというべきであ り,控訴人の主張を採用することはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)6029

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令和2(ネ)10053  意匠権侵害行為差止請求控訴事件  意匠権  民事訴訟 令和3年2月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 タッチパネル式の自販機について、1審と同じく、被告意匠は本件意匠(部分意匠)に類似しないと判断されました。判決文の最後に両者の意匠、公知意匠が示されています。

 本件意匠の具体的構成態様は前記(2)のとおりであるところ,タッチパネ ルの縦横比や後傾角度をどのように構成するかによっては,ありふれた範\n囲内の差しか生じないのであり,また,ディスプレイの枠を等幅に構成す\nるのはありふれた手法であるから,具体的構成態様1)及び3)が美感に与え る影響は微弱である。したがって,前記(4)イの共通点に係る具体的構成態\n様1)及び2)並びに前記(5)イの差異点が類否判断に与える影響はほとんど ない。
ウ また,本件意匠の基本的構成態様に関して,次のような公知意匠がある。\n 公知意匠A(意匠に係る物品「クレジットカードのポイント照会による 商品券販売」)は,傾斜面から下方に向かって側面視「く」字状に形成さ れた基台上にディスプレイ部が筐体より一段高く形成され,薄板状のディ スプレイ部の相当程度が筐体の上端部から突出しているディスプレイ部 について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり, ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状であるものと認め られる。
また,公知意匠B(意匠に係る物品「無人発券機」)は,傾斜面から下 方に向かって側面視「く」字状に形成された基台上にディスプレイ部が筐 体より一段高く形成され,薄板状のディスプレイ部の相当程度が筐体の上 端部から突出しているディスプレイ部について,上方を後方に傾斜させた ディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケーシング が縦長略長方形状であるものと認められる。 さらに,公知意匠C(意匠に係る物品「金融自動化機器」)は,筐体上 部においてアーム状の部品で接続されて正面視で筐体の上端部から突出 しているような外観を呈するディスプレイ部について,上方を後方に傾斜 させたディスプレイが縦長略長方形状であり,ディスプレイを収容するケ ーシングが右上に突出部分があるほか縦長略長方形状であるものと認め られる。
これらによると,本件意匠登録出願前に,自動精算機又はそれに類似す る物品の分野において,筐体の上端部から一定程度突出するディスプレイ 部について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であ り,ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状である意匠が知 られていたものといえるし,より一般的に考えても,自動精算機又はそれ に類似する物品のディスプレイ部において利用者が見やすくタッチしや すい形状を得るためには,本件意匠のような基本的構成態様とすることが\n社会通念上も極めて自然かつ合理性を有するものと考えられる。
そうすると,本件意匠の基本的構成態様は,新規な創作部分ではなく,\n自動精算機又はこれに類似する物品に係る需要者にとり,特に注意を惹き やすい部分であるとはいえず,需要者は,筐体の上端部から一定程度突出 し上方を後方に傾斜させたディスプレイ部であること自体に注意を惹か れるのではなく,これを前提に,更なる細部の構成から生じる美感にこそ\n着目するものといえるから,本件意匠の基本的構成態様が美感に与える影\n響は微弱である。したがって,共通点に係る基本的構成態様が類否判断に\n与える影響はほとんどないし,また,タッチパネル部を本体正面上部の右 側に設けるか左側に設けるかによっては,ありふれた範囲内の差しか生じ ないから,前記(5)アの差異点も類否判断に与える影響はほとんどない。
エ 以上からすると,本件意匠については,前記(2)イの具体的構成態様2), 4)及び5)が需要者の注意を惹きやすい部分となるから,前記(4)イの共通点 に係る具体的構成態様3)並びに前記(5)ウ及びエの各差異点が類否判断に 与える影響が大きい。
そこで検討するに,本件意匠と被告意匠とは傾斜面部を有する点におい て共通するといっても,下側部分も含めて,被告意匠の傾斜面部の幅,あ るいはこれにその下側縁と接する周側面の幅を合わせた合計幅は極めて わずかな広さしかないのに対し,本件意匠は,傾斜面部の上側及び左右側 部分の幅(傾斜面部の上側部分の外縁上側から傾斜面部の下側部分の外縁 下側までの直線長さを仮に50cmとすると,0.75cm前後となる。) に対する傾斜面部の下側部分の幅(上記の仮定によれば,3cm前後とな る。)に極端に差を設けることによって,下側部分が顕著に目立つように 設定されており,しかも,傾斜面部の下側部分に本体側から正面側に向け た高さを確保することにより,タッチパネル部が本体の正面から前方に突 出する態様を構成させているというべきである。そして,需要者は,様々\nな離れた位置から自動精算機を確認し,これに接近していくものであり, 正面視のみならず,斜視,側面視から生じる美感がより重要であるといえ るところ,本件意匠の傾斜面部の下側部分の目立たつように突出させられ た構成は需要者に大きく着目されるといえ,この構\成態様により,本件意 匠はディスプレイ部全体が浮き出すような視覚的効果を生じさせている と認められる。他方,被告意匠は,傾斜面部と周側面がわずかな幅にすぎ ず(上記の仮定によれば,合計しても1.2cm前後にすぎない。),ディ スプレイ部がただ単に本体と一体化しているような視覚的効果しか生じ ないと認められる。したがって,差異点から生じる印象は,共通点から受 ける印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠とは,たとえディス プレイ部の位置等に共通する部分があるとしても,全体として,異なった 美感を有するものと評価できるのであり,類似しないものというべきであ る。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和元年(ワ)第16017号

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令和1(ネ)2739 意匠権  民事訴訟 令和2年10月30日  大阪高等裁判所

 食品包装用容器の底部に関する部分意匠の侵害事件です。1審(大阪地裁)は、約6000万円の損害賠償請求を認めました。1審被告が控訴、1審原告が附帯控訴をしました。控訴審は、原告が支払い済みの分を除いた約3000万円の支払いを命じました。

 当裁判所も,控訴人及び一審被告静岡産業社の共同不法行為により被控訴人が受けた損害につき,意匠法39条1項により推定される損害額は5348万7589円であって,上記共同不法行為と相当因果関係にある弁護士費用及び弁理士費用は540万円とするのが相当であり,その合計額は5888万7589円であるが,他方で,値下げによる損害についての賠償は認められないと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記4(3)及び5のとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」第4の8(ただし,一審被告静岡産業社のみの主張に対する判断部分を除く。)に記載のとおりであるから,これを引用する。
そして,被控訴人は,原判決言渡しの後,一審被告静岡産業社との間で任意の和解をし,これに基づき,一審被告静岡産業社から,2944万3795円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を受けたので,上記損害賠償残金は2944万3794円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員となった。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成30(ワ)2439

イ号および本件意匠は以下です。

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平成30(ワ)6029  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和2年5月28日  大阪地方裁判所

 データ記録機の意匠について、ケースの製造・販売が間接侵害(のみ要件)に該当すると判断され、3500万円の損害賠償が認定されました。

意匠法39条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,侵 害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造,販売することによりそ の製造,販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額で あり,その主張立証責任は意匠権者側にあるものと解される。
(イ) 被告が平成29年6月〜令和元年6月の間に被告製品を5万2708台 販売したことは,当事者間に争いがない。
また,証拠(乙15)及び弁論の全趣旨によれば,上記期間における被告製品の 合計売上額(税抜)は,合計4億5514万1899円と認められる(内訳は別紙 「損害一覧表(裁判所の認定)」の「売上額(税抜)」欄のとおり)。\nこの点,被告は,上記期間における被告製品の合計売上額につき,乙15の1の 「売単価」欄記載の額の合計額であると主張する。 しかし,「売単価」欄は,その名称から,売却単価を記載したものと理解される。 子細に見ても,型番及びJANコードを同じくする製品で,「受注数」欄記載の受注 数が異なるものであっても,「売単価」欄記載の額は原則として同一である。すな わち,例えば,型番及びJANコードが同一の伝票番号167017及び167018の各製品を 見ると,受注数は前者が1個,後者が2個とされているが,「売単価」欄記載の額 はいずれも8800円とされている(受注数が1個の場合と5個の場合でも,同様 に「売単価」欄記載の額が同額という例もある。伝票番号374934及び374935)。同 一型番の製品であっても,伝票番号168810(2万6900円)と169855(2万85 00円)のように,「売単価」欄記載の額が異なる例はあるものの,2倍以上の開 きがある例は見当たらない。 そうすると,乙15の1の「売単価」欄記載の額は,売却単価を意味するにとど まるものと理解されるのであって,その合計額をもって被告製品の合計売上額と見 ることに合理性はない。すなわち,「売単価」欄記載の額に「受注数」欄記載の受 注数を乗じた額をもって売上額と理解すべきである。この点に関する被告の主張は 採用できない。
(ウ) また,消費税法基本通達5−2−5(「例えば,次に掲げる損害賠償金 のように,その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲 渡等の対価に該当することに留意する。…(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害 者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金」)に鑑みると,意匠法39 条2項の「利益の額」は,消費税(8%。以下同じ)込の売上額をもとに算定すべ きである。これに反する被告の主張は採用できない。
イ 被告製品に係る経費の額
(ア) 被告製品の製造原価(仕入額)
証拠(乙15)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の仕入額は,売上額 の算定の場合と同様に,乙15の1の「実原価」欄記載の額に「受注数」欄記載の 受注数を乗じたものの合計4億1013万5936円(税抜)と認められる。また, これに消費税を加算することとなる。これに反する被告の主張は採用できない。
(イ) 被告主張の販売手数料等
被告は,「利益の額」(意匠法39条2項)算定に当たり控除すべき経費 として,さらに,販売手数料(乙15の1の「販売手数料」欄記載のもの)を主張 する。
しかし,乙15の1の「販売手数料」欄記載の額は,いずれも「売単価」欄記載 の額の9%程度と見られ,そのような計算方法によること自体,これをもって被告 製品の製造,販売に直接関連して追加的に必要になった費用とは考え難いことをう かがわせる。また,被告が「販売手数料」の内訳として挙げるものは,システム利 用料,出店料,成約手数料,ポイント付与原資,オプション料,広告掲載料,支払 システム利用料,広告宣伝メール配信手数料,保険料,口座決済手数料,ポイント 費用,代金引換回収費用,月額登録料,カスタマーサポート費用,クレジットカー ド決済店舗管理費用,トランザクション従量課金費用,キャッシュバックキャンペ ーン費用,クーポン広告料,クリック単位課金費用等であるところ,証拠(乙22 〜33)を子細に見ると,定額のもの(例えば,乙23の「プラン共通_楽天ペイ 利用料」,「プラン共通_商品一括登録サービス」等,乙28の1の「請求書」の 「固定費用」欄記載の各項目,乙31の「出店料」,乙33の「GOODA情報掲 載」)が見受けられる。額が変動しているものも,一部に,商品カテゴリのレベル で売上と手数料率が示されているものがあるものの(乙31),これも含め,被告 製品との具体的な関係は証拠上全く不明というほかない。そうである以上,これら の費用は,いずれも,被告製品の販売に直接関連して追加的に必要となったものと はいえない。 したがって,被告主張に係る「販売手数料」を「利益の額」算定に当たって控除 すべき経費とすることはできない。この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 被告製品についての小計
以上より,被告製品に係る利益の額(税込)は4860万6441円と認め られる。
・・・
キ 推定覆滅事由の有無等
(ア) 「利益の額」(意匠法39条2項)とは,原則として,侵害者が得た利 益全額であり,これについて「損害の額」として推定が及ぶものの,侵害者の側で, 侵害者が得た利益の一部又は全部について,意匠権者が受けた損害との相当因果関 係が欠けることを主張立証した場合には,その限度で上記推定は覆滅されるものと 解される。推定を覆滅させる事情としては,侵害者が得た利益と意匠権者が受けた 損害との相当因果関係を阻害する事情,例えば,意匠権者と侵害者の業務態様等の 相違(市場の非同一性),市場における競合品の存在,侵害者の営業努力(ブラン ド力,宣伝広告),侵害品の性能(機能\,性能等意匠以外の特徴)等が挙げられる。\n以下では,このような観点から,推定覆滅の有無及び程度について検討する。
(イ) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
・・・
(ウ) 検討
a まず,前記1のとおり,本件意匠は,意匠登録出願前の公知意匠に はない特徴的な構成態様(基本的構\成態様(A3)〜(C3))をその要部として有するも のであり,相応な程度の顧客吸引力を有するといってよい。このことは,本件意匠 の実施品である原告製品がグッドデザイン賞を受賞し,「造形的には,シンプルで あるが一つのコーナーを大きなアールとすることで,このシリーズの特徴となり, バランスのよいデザインとしてまとまっている。また,同社の他のシリーズとのア イデンティを感じさせるデザインである。」と評価されていること(乙11)から もうかがわれる。また,前記((イ)a,b)のとおり,被告製品及び原告製品のパッ ケージ等には,製品自体の画像が掲載されており,これに接した需要者は,自ずと 本件意匠の要部に相当する製品の正面及び平面を形成するプレートに着目すること になると推察される。
そうである以上,本件意匠は,具体的な製品イメージの形成に直接関わるもので あり,被告製品の売上に相応に貢献していると見るのが相当である。 もっとも,原告製品及び被告製品が属する商品カテゴリであるデータ記憶機 (HDD製品)においては,需要者がこれを購入するに当たり,意匠のみならずその 機能面,具体的には,用途との関連におけるデータ容量,接続予\定の機器との接続 可能性,データ転送速度,耐久性や静音性等も,重要な商品選択の要因となる(乙\n41〜43参照)。このことは,前記((イ)a及びb)認定に係る被告製品や原告製 品のパッケージ等の記載内容からもうかがわれ,むしろ,機能面での特徴がこれら\nの宣伝媒体における中心的な内容となっているといえる。顧客の商品レビュー(甲 7,23,乙18の2,18の3)の内容を見ても,製品のデザイン性に言及する ものもあるものの,機能に言及するものの方が相当多い。こうした事情に鑑みると,\n需要者は,HDDの購入に際し,デザイン性と機能とでは,第一次的には機能\を,第 二次的にデザイン性を考慮するものと見るのが適当である。 もとより,販売価格も重要な商品選択の要因であることには多言を要しないとこ ろ,需要者は,製品購入に当たり,当然,販売価格と自己の求める機能及びデザイ\nン性とのバランスを考慮することとなる。 したがって,被告製品の需要者は,第一次的には製品の機能を,第二次的にデザ\nイン性を,販売価格をも考慮に入れつつ評価し,その購入動機を形成するものと考 えられる。そうすると,被告製品やそのケースに係る被告の利益の全てが,本件意 匠と類似する意匠である被告意匠に起因するものということはできない。すなわち, 上記事情は,侵害者である被告が得た利益と意匠権者である原告が受けた損害との 相当因果関係を阻害する事情として,相当程度考慮すべきである。これに反する原 告の主張は採用できない。
b これに対し,被告は,原告製品と被告製品とでは美感及び印象が全 く異なり,代替可能性がないと主張する。\nしかし,前記1のとおり,本件意匠と被告意匠とは類似するものであり,需要者 にとって美感及び印象が全く異なるということはできないから,この主張はそもそ も前提を欠く。なお,被告は,被告製品には,原告製品と異なり白色のものもある ことを指摘するけれども,複数色で商品展開していることの販売実績への影響は具 体的に明らかでない。その点を措くとしても,前記のとおり,商品選択におけるデ ザイン性の考慮は第二次的なものと位置付けられることに鑑みると,仮に影響があ るとしても,その程度は限定的なものにとどまると思われる。 また,被告は,競合品ないし代替品となる同種のデータ記憶機が数多く販売され ていることを指摘する。
もとより,前記のとおり,第一次的には製品の機能が購入動機の形成要因となる\nことを考えると,機能面で原告製品及び被告製品と競合する他社のHDD製品が市場 に存在することは,被告製品の販売がなくなった場合に,必ずしもその売上に相当 する需要の全てが原告製品に向かうものではないことを意味する。そうである以上, この点は推定覆滅事由として考慮する必要がある。もっとも, 証拠(乙19)及び 弁論の全趣旨によれば,令和元年5月のベンダー販売実績において,原告は34社 中1位(販売数量シェア40.76%,販売金額シェア41.03%,平均単価1 万0417円)であるのに対し,被告は11位(販売数量シェア0.66%,販売 金額シェア0.62%,平均単価9841円)とされる。これを踏まえると,被告 製品に対する需要は,その販売がなくなった場合,むしろ相当程度原告製品に向か うものと考えるのが適当である。 さらに,被告は,原告製品のうち「HD-LXU3D」シリーズについて,その自動暗 号化機能の点で被告製品と需要者が異なると指摘する。しかし,当該機能\は,HDD であることを前提としたいわば付加的な機能にすぎないから,当該機能\の存在ゆえ に需要者を異にするということはおよそできない。
c 以上の事情を総合的に考慮すると,本件では,被告製品とそのケー スに係る被告の利益について,7割の限度で意匠法39条2項による推定が覆滅さ れるとするのが相当である。これに反する原告及び被告の各主張はいずれも採用で きない。
ク 意匠法39条2項及び3項に基づく原告の損害額
以上によれば,意匠法39条2項に基づく原告の損害額は,1469万47 17円と認められる(詳細は別紙「損害一覧表(裁判所の認定)」参照。以下同\nじ。)。 他方,推定覆滅に係る部分については,同条2項に基づく推定が覆滅されるとは いえ無許諾で実施されたことに違いはない以上,同条3項が適用されると解するの が相当である。後記((2)イ(エ))のとおり,実施料率は5%として算定すべきと考え られることから,当該覆滅部分につき,意匠の実施に対し原告が受けるべき金銭の 額(税込)は1737万9277円となる。そうすると,両者を合わせた額は,合 計3207万3994円となる。
(2) 意匠法39条3項に基づく損害について
ア 被告製品の売上額
前記((1)ア)のとおり,被告製品の売上額(税抜)は4億5514万189 9円であり,これに消費税を加算すると4億9155万3250円となる。なお, 意匠権実施許諾契約に基づき支払われる実施料も「資産の譲渡等」の対価に当たる ことを踏まえると,意匠法39条3項に基づく損害の額の算定に当たっても,消費 税を加算して算定するのが相当である。
イ 実施に対し受けるべき金銭の額
(ア) 意匠法39条3項の実施に対し受けるべき料率は,当該意匠の実際の実 施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料 の相場等も考慮に入れつつ,当該意匠自体の価値,当該意匠を当該製品に用いた場 合の売上及び利益への貢献や侵害の態様,意匠権者と侵害者との競業関係や意匠権 者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合的に考慮して,合理的な料率を定めるべ きである。また,その際,必ずしも当該意匠権についての実施許諾契約における実 施料率に基づかなければならない必然性はなく,意匠権侵害をした者に対して事後 的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比 べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
(イ) 本件意匠に係る実施許諾契約が締結されたことを認めるに足りる証拠は ない。
また,証拠(乙45)及び弁論の全趣旨によれば,「特許権」の技術分類を器械 とする項目(対象となる製品・技術例には「情報記憶」が含まれている。)の「ロ イヤルティ料率アンケート調査結果」として,特許の場合のロイヤルティ料率(全 体の件数は64件)は,料率4〜5%未満及び2〜3%未満がそれぞれ23.4% と最も多く,料率3〜4%未満が18.8%,料率1〜2%未満が14.1%など となっている。平均値は約3.5%,中央値は約3.3%程度と見られる。意匠権 と組み合わせた場合のロイヤルティ料率(全体の件数は25件)は,料率1〜2% 未満,2〜3%未満,4〜5%未満がそれぞれ6社と最も多く,料率3〜4%未満 が3社,5〜6%が2社,〜1%未満,6〜7%未満がそれぞれ1社であり,平均 値は約3.1%,中央値は約2.9%程度と見られる。
(ウ) 前記((1)キ(ウ)a)のとおり,被告製品の需要者は,第一次的には製品 の機能を,第二次的にデザイン性を,販売価格をも考慮に入れつつ評価し,その購\n入動機を形成するものと見られることから,本件意匠ないしこれに類似する被告意 匠を用いた場合の売上及び利益への貢献の程度についても,これを踏まえて考察す る必要がある。他方,原告製品と被告製品はいずれもHDD製品であり,原告と被告 とは直接的な競業関係にあるから,仮に原告が被告に対し本件意匠に係る実施許諾 契約を締結するならば,その実施料率は高めに設定されるのが通常と思われる。
(エ) 実施に対し受けるべき料率
上記(イ)及び(ウ)の事情に加え,意匠権侵害に基づく損害賠償請求の場面での 仮想実施料率の考察であることを総合的に考慮すると,本件において,意匠権侵害 をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は5%を下 らないというべきである。
(オ) 被告の主張について
被告は,被告製品は原告製品を模倣したものではなく,これらが混同され るものでもないこと,原告製品と異なり開口部を備えないことを指摘して,損害の 発生はなく,仮に発生したとしても1%を上回らないなどと主張する。 しかし,開口部の有無が本件意匠と被告意匠の差異点であることを踏まえても, 本件意匠と被告意匠が類似すること(前記1)に鑑みれば,損害が発生していない ということはできず,また,開口部の有無という差異をもって,実施に対し受ける べき料率を低く見るべき事情になるともいえない。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(カ) 意匠法39条3項に基づく原告の損害額
以上によれば,意匠法39条3項に基づき原告が請求し得る「受けるべき 金銭の額に相当する額」すなわち損害額は,2457万7662円と認められる。

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平成30(ワ)2439  損害賠償請求事件  意匠権  民事訴訟 令和元年11月14日  大阪地方裁判所

 食品包装用容器の底部に関する部分意匠の侵害事件です。大阪地裁は、約6000万円の損害賠償請求を認めました。

 原告と浪漫亭との間において定められた原告製品1の単価は,平成27年4月以 前は(中略)円であったと認められるところ(甲19,20),同年5月からは(中 略)円,同年7月の途中からは(中略)円となり,被告製品1の納入が開始された 平成28年1月以降も同額を維持したものの,同年2月から販売終了までの間は(中 略)円に下落した(別紙「原告製品販売数量・単価一覧表」参照。)。\nまた,原告製品2の単価は,平成27年5月以前は(中略)円であったところ(甲 19,20),同月6月以降販売終了までの間は(中略)円に下落した。 前記認定事実によれば,原告は,P1から本件見積書を提示されたことにより, 被告らの提示価格(原告製品1と競合する製品について(中略)円,原告製品2と 競合製品について(中略)円。)と対抗するため,原告製品を値下げせざるを得な くなったという事情が認められる。
しかし,前記(2)で述べたとおり,この時点では,被告製品が本件意匠権を侵害す るものとなるかは未確定であり,被告静岡産業社が本件見積書を示して浪漫亭との 取引を誘引する行為自体には違法性がなく,これにより原告が原告製品の値下げを 余儀なくされたことも,それまで原告がこの種の製品について浪漫亭との取引を独 占していたところに競業者(被告ら)が現れたため,対抗するために価格を改定し たという原告の経営判断の結果であるということができる。 そうすると,被告らの本件意匠権の侵害行為による原告の損害を算定する際に基 準となる原告製品の単価は,値下げ前の単価ではなく,侵害行為時,すなわち,平 成28年1月時点の単価(原告製品1につき(中略)円,原告製品2につき(中略) 円)であるとするのが相当である。
控除経費
(a) 控除経費として争いのない費目は,(1)原材料費,(2)梱包費及び(3)運送費であ り,それぞれ,原告製品1個当たりの額は,以下のとおりである(甲13ないし18)。

(1) 原材料費
原告製品の原材料はレジンであり,原告製品は,仕入れたレジンをシート状に加 工した後,金型成形して製造される。 よって,原告製品1の1個当たりの原材料費は,レジンの仕入費用をそこから製 造される原告製品1の数で除し,シート状に加工し金型成形する際のロス率(10%) を掛けた金額であり,(中略)円となる。
(計算式)レジン平均単価((中略)円/Kg)/1000(g当たり換算)× 1シートのグラム数(83.5cm×97.5cm×0.045cm×比重0.9 1)×ロス1.05/1シート当たりの原告製品の数24個=(中略)円 なお,原告製品2の原材料費は,(中略)円(原告製品1の原材料費に,木目状 フィルム費(中略)円を足した額)である。
(計算式)木目用フィルム仕入単価(中略)m/円×0.975m/24個=(中略)円
(2) 梱包費
原告は,原告製品1080個を1枚のビニル袋に入れ,これを段ボール1ケース に梱包しているところ,それぞれの仕入単価は(中略)円及び(中略)円である。 原告は原告製品の梱包及び運送を100%子会社に委託しているところ,同会社 が支払った費用に10%上乗せした額を原告の経費とすることを争わない。 よって,原告製品1個当たりの梱包費は,(中略)円となる。
(計算式)((中略)円+(中略)円)/1080個×1.1=(中略)円
(3) 運送費
運送トラック1回の配送で,原告製品1080個の入った上記段ボール箱を12 6箱積載することが可能であり,1回当たりの運送費は(中略)円である。\n原告は,運送費についても上記梱包費と同様に,子会社が支払った費用に10% 上乗せした額を原告の経費とすることを争わない。 よって,原告製品1個当たりの運送費は,(中略)円となる。
(計算式)(中略)円/126箱/1080個×1.1=(中略)円
(b) 被告らは,原告製品の原材料につき,シート加工賃及び金型成型加工賃を含 めた金額とすべきであると主張し,また,上記(a)の経費に加えて,原告製品の製造 のために使用されている直接労務費及び電気代を控除すべきであると主張し,これ に沿う証人P3の供述(丙3)もある。 しかし,原告は原告製品を自己の工場内で製造しているものと解されるため,シ ート加工賃及び金型成型加工賃が通常の労務費とは別に発生するとは考えられない。 また,原告の製造する食品包装用容器全体のうち原告製品の占める割合はわずか である(甲18,原告代表者本人)ことからすれば,労務費及び電気代が原告製品\nの販売数量の増加に伴って追加的に発生する変動費であるということはできない。 したがって,上記被告らの主張を採用することはできない。
まとめ
以上より,原告製品1の単位数量当たりの利益の額は(中略)円,原告製品2の 単位数量当たりの利益の額は(中略)円となる。
・・・・
ウ 被告らの主張について
推定覆滅
(a) 被告静岡産業社は,被告製品における被告意匠の占める部分は,面積比にお いて約50%であるから,寄与度を50%とするか,被告製品の販売数量のうち5 0%について推定覆滅されるべきであると主張する。 しかし,被告意匠は,被告製品において,需要者の注意を引き,美感に訴えると いう点で,最も重要な位置を占めているというべきであり,被告意匠としての面積 比が製品全体に対して約50%であるからといって,寄与度を50%としたり,5 0%の推定覆滅を認めるべきことにはならない。
(b) 被告ヨコタ東北は,被告製品には原告製品よりも価格面,ブランド力及び製 品そのものの機能において優れていたことから,被告製品全量について原告には販\n売することができないとする事情(意匠法39条1項但書)があったと主張する。 しかし,前記認定事実のとおり,原告製品及び被告製品は,いずれも浪漫亭の製 造・梱包ラインに合致するように製造され,浪漫亭のみを納入先とするものであり, 被告製品の納入開始前は原告製品のみが浪漫亭に納入されていたのであるから,被 告製品の販売がなければ,浪漫亭は同数の原告製品を購入したと考えられ,上記被 告ヨコタ東北の主張を採用することはできない。
実施能力\n
被告ヨコタ東北は,原告の実施能力につき,被告製品納入前の原告製品1の販売\n数量が,被告製品1の平均販売数量(約50万個)よりも少ないから,原告の損害 額の主張は自己の実施能力を超えると主張する。\nしかし,平成27年5月及び6月の原告製品1の販売数量はいずれも約51万個 であるし(別紙「原告製品販売数量・単価一覧表」参照。),原告は,食品用包装\n容器を多種類製造しており,その中において原告製品の占める割合はわずかである ことから,製造ラインを適宜調整することにより,被告製品の販売数量に相当する 受注に応じることは可能であったと考えられるから,被告ヨコタ東北の上記主張に\nは理由がない。
過失相殺
被告静岡産業社は,原告が被告製品の納入に気が付きながら放置したことにより, 原告の主張する損害を拡大させたとして,過失相殺の主張をするが,前記のとおり, 原告において被告らが本件意匠権を侵害していることを知りながらそれを放置した とは認められないので,被告静岡産業社の上記主張には理由がない。
エ まとめ
以上より,被告らによる本件意匠権の侵害行為により原告が被った損害額と して意匠法39条1項により推定される額は,被告製品1につき4555万067 0円,被告製品2につき397万4875円であり,合計5348万7589円(税 込。税抜4952万5545円。)となる。
(計算式)
被告製品1 (中略)個×(中略)円=4555万0670円
被告製品2 (中略)個×(中略)円= 397万4875円
被告静岡産業社は,株式会社帝国データバンクによる調査報告書(乙6)に 基づき,原告主張のとおり,原告製品の製造数量が全製品の製造数量に占める割合 が(中略)%であるとすると,原告製品の限界利益は870万円程度となるはずで あり,上記の金額は過大であると主張する。 しかし,上記調査報告書は,公開情報等に加え上記会社が独自に調査した結果を 掲載したものであるところ,上記会社は原告から売上資料等の開示を受けているわ けではないから(原告代表者本人),その情報の正確性には自ずと限界があるとい\nわざるを得ない。また,被告静岡産業社は,原告製品の1個当たりの利益額の算定 方法について,前記 具体的な問題点の指摘をせず,上記の算定結果が 不正確であることについての直接の主張・立証はない。 したがって,上記調査報告書に記載された情報のみから,上記原告の損害額(5 348万7589円)が過大であるということはできず,被告静岡産業社の上記主 張を採用することはできない。
(4) 値下げによる損害
ア 平成27年5月から同年12月までの期間について
前記(2)のとおり,被告静岡産業社がP1に対し本件見積書を提示したことは,本 件意匠権の侵害行為にもその他の不法行為にも当たらないから,平成27年5月以 降,原告が原告製品の価格を値下げしたことで生じた値下げ前の単価との差額分の 金額は,被告らの不法行為による損害であると解することはできない。 また,意匠法39条1項の算定に,平成27年4月以前よりも下落した平成28 年1月時点の原告製品の価格を用いたことは前述のとおりであるが,この下落が不 法行為によるものとは認められない以上,その差額分を民法709条による損害賠 償として,意匠法39条1項による算定額に加算することはできない。
イ 平成28年1月以降の期間について
平成28年1月以降の期間については,被告らに意匠権侵害が成立すると認 められるが,原告は,この部分について,前記検討した意匠法39条1項による損 害賠償とは別に,原告が,被告らと並行して浪漫亭に販売していた原告製品につい ても,被告らの意匠権侵害行為により値下げを余儀なくされたとして,原告が販売 した個数に値下額を乗じた額を,民法709条の損害賠償として請求する。 そこで検討するに,意匠権侵害が行われた場合に権利者に生じ得る損害とし ては,権利者側の商品の販売数量の減少や販売価格の低下による逸失利益が典型的 には想定され,本来的には,権利者において損害の発生及び額,並びに権利侵害と 損害発生との因果関係を立証しなければならないが,これらの立証が困難であるこ とから,意匠法39条は,侵害者の譲渡数量に権利者の単位数量利益を乗じた額を 権利者の損害とすること(1項),侵害者が侵害行為により受けた利益を権利者の 損害と推定すること(2項),意匠の実施に対し受けるべき金銭に相当する額を, 権利者は損害賠償として請求し得ること(3項)を定めた。 そうすると,意匠権者が,意匠権侵害による損害賠償として,自己の商品の販売 数量の減少や販売価格の低下による逸失利益を個別具体的に立証することに替えて, 意匠法39条各項が定める算定・推定規定を利用して損害賠償請求を行った場合, 前記各項に基づく請求とは別に,民法709条による損害賠償請求をすることがで きるのは,意匠権により保護されるのとは別の法益が侵害されたり,前記各項が定 める算定・推定規定では評価されていない別の損害が生じたような場合であると考 えられる(一例として弁護士費用)。
原告は,意匠法39条1項により,被告静岡産業社が浪漫亭に譲渡した被告 製品の数量に,原告の単位利益を乗じた金額を,原告の損害として請求しているの であるから,同じ期間内に,被告らが被告製品を製造・販売したことによって原告 製品の販売数量が減少した,あるいは販売価格が低下したといった逸失利益につい ては,既に評価されているというべきであり,意匠権により保護されるのとは異な る法益が侵害された,あるいは意匠法39条1項による算定では評価されていない 損害が生じたと認めるべき事情は,本件では認められない。 また,仮に意匠法39条1項による算定とは別に,民法709条による損害 賠償請求を認めるべき場合であっても,被告らの意匠権侵害行為によって原告製品 の価格が低下したとの因果関係については,原告が立証責任を負うべきものである が,平成28年1月に被告製品が浪漫亭に納入された後,原告製品1の販売価格の 低下は平成29年2月に生じているところ,この原因が何であるかは証拠上明らか ではなく,この点についての因果関係の立証がなされているとは認められない。 以上より,平成28年1月以降の原告製品の価格の低下についての,民法7 09条に基づく損害賠償請求は,理由がないというべきである。

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被告製品と原告意匠の対比は以下です。 

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平成29(ワ)5108  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和元年12月17日  大阪地方裁判所

 SIX PADに関する意匠権侵害事件です。大阪地裁21部は、類似しないと判断しました。意匠は特許事件のように、侵害論と損害論を分けてないのですね。損害額についての主張立証がなされています。

ア 要部認定の意義
被告意匠が本件意匠に類似するかは,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基 づいて判断すべきものであることは前述のとおりであるから,まず,意匠に係る物 品の需要者を想定し,物品の性質,用途,使用態様を前提に,需要者に生じる美感 が類似するか相違するかを検討すべきこととなる。 本件意匠と被告意匠については,前記(1)で述べたとおり,多数の共通点,差異点 が存するが,それが需要者に美感を与える程度は異なるから,単純に共通点,差異 点の多寡によって決したりすることはできず,需要者の注意を最も引きやすい部分 を意匠の要部として把握し,両意匠の構成態様の要部における共通点,差異点を検\n討し,全体として両者の美感が類似するか相違するかを判断することになる。
イ 物品の需要者及び使用態様
本件意匠及び被告意匠に係る物品は,いずれもトレーニング機器であって,背面 電極部から流れる電流により腹筋等を刺激し,腹部の筋肉等を引き締めるためのも のである点において共通する(各公報における「意匠に係る物品の説明」参照。)。 原告商品及び被告商品の商品説明や広告宣伝方法(前記1(3))からは,原告商品は 腹筋を鍛えることに特化したものである一方,被告商品は腹部以外への装着も予定\nされており,「理想のボディライン」を作ることに主眼が置かれているという違い が見られるものの,原告商品及び被告商品の需要者は,いずれも,上記公報の説明 のとおり,「腹部の筋肉等を引き締める」目的でトレーニング機器を使用しようと する一般消費者である。 また,原告商品及び被告商品は,いずれも使用者の身体に貼付して装着し,当該\n物品の背面に設けられている電極を直接肌に接触させて使用する物であるから,需 要者は主に正面ないし斜め上方部から当該製品を見ることが多く,背面については 着脱時等にある程度見る機会があるにとどまるというべきである。このことは,両 製品の商品説明や広告宣伝において,正面から撮影した写真や身体に装着した状態 の写真が多く用いられ,背面の写真は数少ないことからも推認することができる。
ウ 本件意匠の要部
以上を前提に検討すると,本件意匠については,前記2(2)アで基本的構成態\n様と指摘した部分は,本件意匠の特徴をなすものとして需要者の注意を引くと考え られるから,本件意匠の要部というべきであるが,本件意匠については,さらに, 同イの具体的構成態様のうちVないしVIIIとして指摘した内容,すなわち,各パッド 片の形状,各パッド片の結合方法(向き),各パッド間の切込みの形状,深さにつ いても,需要者に一定の美観を与え,需要者の注意を引くと考えられるから,これ ら指摘した部分も,本件意匠の要部であると認めるのが相当である。 他方,それ以外の点,すなわち前記2(2)イの具体的構成態様のうち,IXない しXII記載の点については,前述イの使用態様をも考慮すると,需要者の注意を特に 引くとは考えにくいので,要部には当たらないと解するのが相当である。
エ 双方の主張について
原告は,本件意匠出願時の公知意匠との対比において新規性を有することを 理由に,原告が基本的構成態様であると主張する部分(要旨,円形の電池部を中心\nに6枚のパッド片を左右対称2段3列に配置すること)のみが要部であると主張す るのに対し,被告は,前記部分はありふれており,要部には当たらないと主張する。 まず,原告の主張について検討するに,意匠に公知意匠にはない新規な構成\nがあるときは,その部分は需要者の注意を引く度合いが強く,逆に公知意匠に類似 した構成があるときは,その部分はありふれたものとして需要者の注意を引く度合\nいは弱いと考えられるから,その意味で,要部を認定するに当たり,公知意匠を参 照する意義はある。
しかしながら,この場合における要部の認定は,意匠の新規性を判断するのでは なく,需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通するか否かを判断するために行 うものであるから,公知意匠にはない新規な構成であっても,特に需要者の注意を\n引くものでなければ要部には当たらないというべきであるし,公知意匠と共通する いわばありふれた構成であっても,使用態様のいかんによっては需要者の注意を引\nき,要部とすべき場合もある。 すなわち,公知意匠との関係で新規性が認められれば,当然に要部とされるもの ではないし,新規性が認められる部分のみが要部となるわけでもなく,需要者に与 える美感を具体的に検討する以外にない。
仮に原告の主張する基本的構成(円形の電池部を中心に6枚のパッド片を左右対\n称2段3列に配置すること)をとった場合であっても,パッド片の形状やパッド片 をどのように結合するか,あるいはパッド片を区切る切込みの形状や深さをどのよ うにするかによって,需要者に与える美感は異なると考えられ,前記1の(1)及び(2) で認定した本件意匠に先行,後行する公知意匠を総合しても,本件意匠のパッド片 の形状等がありふれたものであるとか,需要者の注意を引くものではないというこ とはできない。 そうすると,本件意匠については,上記基本的構成のほか,各パッド片の形状,\n各パッドの結合方法(向き),各パッド間の切込みの形状や深さが全体として需要 者に一定の美感を与え,需要者の注意を引くというべきであるから,前記ウのとお り,これらについても本件意匠の要部と認めるのが相当である。 仮に,上記基本的構成のみが要部であり,その部分が共通でありさえすれば本件\n意匠と類似であると認められるとすると,パッド片の形状等がどれほど相違しても 本件意匠の類似の範囲内にあるとすることになるが,それは本件意匠権を,具体的 に得られる美感の観点を離れて抽象化,上位概念化することであり,原告の主張は 採用できない。
次に被告の主張について検討するに,前記1(1)及び(2)で認定した本件意匠に 先行又は後行する公知意匠を参照しても,前記2(2)アの基本的構成がありふれたも\nのであるとか,需要者の注意を引くものではないということはできない。 上記基本的構成は,各パッド片や切込みの形状とあいまって,全体として需要者\nに一定の美感を与え,需要者の注意を引くというべきであるから,上記基本的構成\nが本件意匠の要部には当たらないとする被告の主張は採用できない。
(3)類否の判断
ア 要部についての共通点
本件意匠の要部を前記(3)ウのように解すると,要部について本件意匠と被告意匠 が共通するのは,前記(1)ア(基本的構成態様)の(1)(本体シート状,6枚のパッド 片),(2)(2列3段,左右対称),(3)(略円形上の操作部)及び(4)(パッド背面の 電極)であり,少なくともその限度では,美感の類似性が認められる。
イ 要部についての相違点
本件意匠の要部を前記(3)ウのように解すると,要部における本件意匠と被告 意匠との差異点は,前記(1)ア(基本的構成態様)の(5)(パッド片の結合)及び(6)(左 右対称か上下対称か),並びに前記(1)イ(具体的構成態様)の(3)(上段,下段パッ ド片の形状,傾斜),(4)(中段パッド片の形状,傾斜),(5)(上下の切込みの形状, 深さ)及び(6)(左右の切込みの形状,開口の方向,深さ)ということになり,これ
本件意匠の美感と被告意匠
本件意匠は,中段パッド片が略横長隅丸4角形状で左右端が若干上に傾くように 配置され,上段及び下段パッド片は,略横長隅丸5角形状で,いずれも中段パッド 片との間に,略V字形の,深さが上段及び下段パッド片の2分の1程度の切込みが 設けられ,上段及び下段パッド片の各中央に略V字状の切込みが設けられているこ とから,各パッド片の各辺は概ね直線状となっていること,及び各パッド片の結合 する中心部分が略6角形状に見えることと合わせて,全体的に上向きでがっしりと した印象を与え,躍動感や力強さといった,原告商品を使用することによって達成 しようとする目標(鍛えられ6つに割れた腹筋)を想起させるものとなっている。 各パッド片の形状や切込みの形状は,機械的,幾何学的な形状と表現し得るもの\nであり,そのために先進的,未来的な印象を与えるものであるが,被告意匠からそ のような印象を受けることはない。
被告意匠の美感と本件意匠
被告意匠は,中央から左右端に向けて徐々に上下の幅が狭くなっている,略横長 隅丸台形状の中段パッド片の上下に,それぞれ上底又は下底が略弓形に湾曲してい る上段及び下段パッド片が略水平に配置されており,いずれも中段パッド片との間 に,先端部分を円弧状の頂点を有する細長い略3角形状の,切込みの深さが上段及 び下段パッド片の3分の1程度の切込みが設けられており,全体的に上下対称であ って,本体の輪郭線に曲線が多いこと,各パッド片の結合する中心部分が略柱状に 見えること,及び上部又は下部のパッド片の根元が湾曲形状部分に比べて細く引き 締まった印象を与えることから,全体的に,しなやかで柔らかく,引き締まった軽 快な印象を与える。 特に,上段パッド片について,中央の切込みが深くなく,左右のパッド片同士が 結合しているようにも見えること,上底が略弓形に湾曲していることから,一対の 羽根を広げた形状のような印象を受け,下段のパッド片がこれと上下対称となるよ う配置されていることは,独特の美感を生じさせているということができるが,本 件意匠にこのような要素はない。
まとめ
以上のように,本件意匠は,躍動感や力強さを感じさせる機械的,幾何学的な意 匠であるのに対し,被告意匠は,自然界に存在する羽根を想起させるやわらかで軽 快な印象を与える意匠であって,両者が与える美感の差異は大きく,この点は,前 記要部の共通点が存することによる美感の同一性を上回ると認められ,全体として 評価すると,本件意匠と被告意匠が与える美感は,需要者において区別可能な程度\nには異なるということができる。
(4)争点(2)の結論
前記前提事実のとおり,原告商品は被告商品に先行して販売され,前記1(3)アの 宣伝により,需要者に広く知られていると認められるから,被告商品を見た需要者 は,原告商品と同様の機能を有し,同様の用途に使用し得るEMS製品と考える可\n能性はあるものの,そのような広義の誤認混同のおそれは意匠法が規律するところ\nではなく,上記検討したとおり,本件意匠と被告意匠が与える美感が異なり,需要 者においてこれを区別することが可能である以上,被告意匠は本件意匠には類似し\nないというべきである。

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平成30(ネ)2523  意匠権侵害差止等請求控訴事件  意匠権  民事訴訟 令和元年9月5日  大阪高等裁判所

 意匠権侵害(部分意匠)について1審の判断をそのまま維持し、差止および約300万円の損害賠償を認めました。

 本件意匠に係る物品の需要者及び物品の性質,用途等
本件意匠に係る物品である検査用照明器具は,工場等において製品の 傷やマーク等の検出(検査)に用いられるものであるから,意匠の類否 判断における取引者・需要者は,製造工場等における機器等の購入担当 者,検査業務の従事者等である。この検査用照明器具は,LEDや光学 素子を内蔵して,前端部から光を照射するものであるところ,LEDを 使用すると熱を発生し,器具内の温度が上昇して,発光出力が低下する ことから,放熱の必要性が指摘されている(甲21,22,24)。 本件意匠は,そのような検査用照明器具の放熱部の意匠であるから, 上記需要者は,放熱部材の表面積の大小や部材相互の空隙の大小から放\n熱性能の高低を推し量るという観点から,放熱部材であるフィン構\造体 の,発光部との位置関係,フィンの形状,数,大きさ(支持軸体の径との 関係),配置(フィン相互の間隔)に注目するものと考えられる。
ウ 公知意匠等の参酌
ところで,前記1(1)ウ,オに認定したとおり,本件意匠の登録出願前 までに,検査用照明器具の物品分野における放熱部の意匠として,乙7 等意匠,乙12意匠が開示されており,これらは,前記1(3),(5)で検 討したとおり,本件意匠の基本的構成態様(A〜D)と同じ構\成態様を 備えているほか,本件意匠の具体的構成態様のうちE,I及びJの各一\n部並びにF,K及びLと同じ構成態様を備えている。そうすると,これ\nらの構成態様に係る形態は,本件意匠の意匠登録出願前に公知であった\nと認められる。 また,一審原告は,本件意匠の構成態様とは,中間フィンの枚数のみ\nを異にする意匠を,本件意匠の関連意匠として,意匠登録している(前 提事実(2)イ)。 そうすると,上記イの各点のうち,フィンの枚数,厚み,縁の面取り, フィン相互の間隔,フィンの大きさと支持軸体の径との関係(支持軸体の 太さ)については,それらにわずかな違いがあっても,需要者がその差異 に注目するとは考えられないが,これらが大きく異なれば,需要者が受 ける視覚的な印象は異なるものと考えられる。 他方で,本件意匠の後端フィン及び中間フィンの各面には,支持軸体 の通過部分以外には貫通孔がなく,平滑であるという形態(本件意匠の 具体的構成態様M)は,乙7等意匠や乙12意匠にはないものであり\n(なお,類似の物品である照明器に係る意匠である乙4意匠にもそのよ うな形態がないことは,前記1(1)エ,(4)のとおりであるし,甲14で 開示されている意匠でも,フィン様の突状が施されているケース本体の 上側に貫通孔が設けられている。),また,前記1(6)及び(7)で検討し たとおり,公知意匠の組み合わせに基づいて容易に創作することができ るともいえないから,公知意匠にはない,新規な創作部分であると認め られる。そして,電源ケーブルの引き出し位置は,検査用照明器具とし ての使用態様に関わるから,この形態(具体的構成態様M)は,需要者\nの注意を惹くものと認められる。 これに対し,一審被告は,公知意匠として乙8意匠も参酌すべきであ り,同意匠では,後端フィンの後端面は平滑であるから,本件意匠の具 体的構成態様Mは,新規な創作部分とはいえない等と主張する。\nしかし,前記1(1)イのとおり,そもそも,乙8意匠は,検査用照明器 具の後方部材に係る意匠ではないから,これを,本件意匠の要部認定に おいて,公知意匠として参酌すべきものとは解されない。一審被告の主 張は採用できない。
エ 本件意匠の要部
以上を総合すれば,本件意匠の要部は,原判決別紙「裁判所認定の構\n成態様」のうち,次のとおり認められる。 (フィン構造体と発光部との位置関係について)\n
(ア) 前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材である。
(イ) 後方部材の中心には,検査用照明器具の前方部材の後端面より後方 に延伸する支持軸体が設けられている。 (フィンの形状,数,大きさ〔支持軸体との関係〕,配置について)
(ウ) 支持軸体には,薄い円柱状の,中間フィンが2枚と,後端フィン1 枚が取り付けられている。
(エ) 後端フィンの厚みは,中間フィンの厚みの約2倍である。
(オ) 支持軸体の径は,フィンの径の5分の1程度である。
(カ) 中間フィン及び後端フィンの径は,前方部材の最大径とほぼ同じで ある。
(キ) フィン相互の間隔は,フィンの径の8分の1程度の等間隔である。 (フィンの形状のうち貫通孔の有無について) (ク) 中間フィン及び後端フィンには,支持軸体の通過部分以外に貫通孔 はなく,その各面は平滑である。
(4) 本件意匠とイ号意匠との類否
ア 対比
本件意匠の要部(前記(3)エ)と,これに対応するイ号意匠の構成態様\nを対比すると,1) 中間フィンの枚数は,本件意匠が2枚である(要部 (ウ))のに対し,イ号意匠では3枚であり(原判決別紙「裁判所認定の構\n成態様」イ号g1),2) 後端フィンは,本件意匠では中間フィンの約2 倍である(要部(エ))のに対し,イ号意匠では約1.3倍であり(イ号h 1),3) 支持軸体の径は,本件意匠がフィンの径の5分の1程度である (要部(オ))のに対し,イ号意匠では3分の1強であり(イ号j1),4) フィン相互の間隔が,本件意匠ではフィンの直径の8分の1程度である (要部(キ))のに対し,イ号意匠では約10分の1であり(イ号e1), 5) フィンの各面の形状について,本件意匠では,貫通孔がなく平滑であ る(要部(ク))のに対し,イ号意匠では,後端フィンの後面中心にねじ穴 が1箇所ある(イ号m1)という差異があるが,その余の点(要部(ア), (イ),(カ))は共通すると認められる。
イ 類否判断
上記アの差異点に関して,1)の中間フィンの枚数,2)のフィンの厚み, 3)の支持軸体の太さ,4)のフィン相互の間隔については,需要者がそれ らのわずかな違いに注目するとは考えられないが,これらが大きく相違 すれば,異なる印象を生じさせる場合があることは前述のとおりである。 ところで,需要者が,検査用照明器具の放熱部としてのフィン構造体\nの特徴を把握しようとする際には,正面視で,フィンの配置状況等を観 察するほか,斜め前方から(左側面視)又は斜め後方(右側面視)から見て, フィンの形状や発光部とフィン構造体との位置関係等も観察するものと\n考えられる。 このような観察によると,2)のフィンの厚みについて,イ号意匠の後 端フィンには面取が施されている分,その厚みが中間フィンよりも厚い という印象を与えるということができる。その一方で,本件意匠と比較 した厚みの程度の差は一見して明らかとはいえないし,1)のフィンの枚 数,3)の支持軸体の太さ,4)のフィン相互の間隔の粗密の違いも,それ ほど目立つとはいえず,視覚的に異なる印象をもたらすとまでは認めら れない。 また,5)のフィンの各面の形状について,イ号意匠の後端フィンの後 面のねじ穴は,支持軸体の中心に穿設されていて,中間フィンに貫通孔 はなく(原判決別紙「被告製品の後端フィンの後面に設けられたねじ穴 に関する意匠(構成態様)」参照),この穴の存在は正面視や左側面視\nでは認識できず,右側面視にて初めて認識されるところ,ねじ穴にすぎ ないことに照らせば,需要者において,その存在に特に注意を向けると は考えにくく,これを美感の違いとして捉えることはないものと認めら れる。 そうすると,イ号意匠は,これを全体として観察すると,本件意匠の 要部とは複数の差異点が存するものの,それらはいずれも大きな差異と は認められず,その他の点において共通しているということができるか ら,本件意匠と共通の美感を起こさせるもので,本件意匠に類似すると 認められる。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成28(ワ)12791

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平成29(ワ)8272  損害賠償等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和元年8月29日  大阪地方裁判所(26部)

 そうめん流し器について意匠権侵害として、差止と約100万円の損害賠償が認められました。判決文の最後に本件意匠と被告意匠が掲載されています。無効主張は、別途無効審判で確定した証拠と同一なので、認められませんでした。

 ア 本件登録意匠及び被告意匠の各構成態様を対比すると,別紙「構\成対比表\n(裁判所の認定)」の「本件登録意匠」欄及び「被告意匠」欄に各記載のとおりで あるところ,このうち下線部を付した箇所が差異点であり,それ以外の箇所が共通 点である。
イ 本件登録意匠の要部について
被告意匠も,水路部のレール部と回転器を有するトレイ部とが結合して成るもの であり(基本的構成態様A,C,D),この点で本件登録意匠と被告意匠は共通す\nる。この共通点により,両意匠とも,ウォータースライダー型及び流水プール型の 各そうめん流し器を別個独立に捉えた場合とは異なる新規な構成を有するという印\n象を生じる。
ウ 本件登録意匠の要部以外の部分について
(ア) 意匠全体に対して物理的に大きな割合を占めるだけでなく,需要者が関心を持 つレール部の形態については,被告意匠の構成態様は,ヘアピンカーブ状に湾曲後\nに僅かに凹弧状に湾曲しているか否かを除けば,本件登録意匠の構成態様と共通す\nる(具体的構成態様G)。\nこのうち,共通点は,意匠全体に対して占める物理的な割合が大きいことから, 原告旧商品意匠のレール部の形態と同様の形態であるといっても,全体の印象に与 える影響は大きいといえる。 他方,差異点は,かなり注意を払わなければ認識し難いほどに僅かな差異であり, 全体の印象に与える影響は小さいといえる。
(イ) 需要者が関心を持つトレイ部内部の形状については,被告意匠の構成態様は,\n回転器の上面の凹陥部の形状を除けば,本件登録意匠の構成態様と共通する(具体\n的構成態様I)。\nこのうち,共通点は,トレイ部内部の形状の中でも需要者が特に関心を持つと考 えられるそうめんが流れる流路の形状についてのものであることから,流水プール 型のそうめん流し器に係る前記各公知意匠と同様の形状であるといっても,全体の 印象に与える影響は大きいといえる。 他方,差異点は,意匠全体に対して占める物理的な割合は小さいことから,全体 の印象を左右するほどのものとはいえない。
(ウ) そのほか,被告意匠には,1)トレイ部の外形状(基本的構成態様D),2)水路 部の上端部分における吐水口部分の形状(具体的構成態様F)及び3)トレイ部にお ける左方基端部の中央支柱が接続するブロック材状部材の嵌装の有無(具体的構成\n態様I)において,本件登録意匠と差異がある。 このうち,1)については,本件登録意匠及び被告意匠のいずれにおいても,真上 から見た場合には水路部上端部分の皿状部材にその大部分が隠れる位置関係にある とともに,トレイ部内部のそうめんが流れるトラック形部分の壁面を構成しない左\n方部分における差異であるから,流しそうめんを楽しむ際に需要者がさほど関心を 向けない部分といえる。また,3)については,トレイ部内部のそうめんが流れる部 分に隣接するものの,そうめんの流れと直接的に関わるものではないことなどから, 需要者がそうめん流しを楽しむ際に必ずしも関心を向けない部分である。これらの ことから,1)及び3)の各差異点は,いずれも全体の印象に与える影響は小さいとい える。
他方,2)については,そうめんを流すための水が吐出される部分であり,そうめ んを流す際に必然的に需要者が目にする部分ではある。しかし,当該部分が意匠全 体に対して物理的に占める割合は必ずしも大きくはなく,また,需要者がそうめん 流しを楽しむに当たって吐水口部分の形状に強い関心を持つとも思われない。した がって,2)の差異点は,全体の印象に大きな影響を与えるものではない。 オ 以上の点を踏まえると,両意匠は要部を共通にし,需要者に対し,本件登録 意匠の意匠登録出願前に存在したウォータースライダー型及び流水プール型のそう めん流し器とは異なり,両者を組み合わせた新たなタイプのそうめん流し器である という共通の印象を与えた上で,全体的に同様の形状をも備えているという印象を 強く与えており,このような印象が前記差異点のもたらす印象により凌駕されるも のではない。したがって,被告意匠は,本件登録意匠に類似するものと認められる。 これに反する被告の主張はいずれも採用できない。 そうすると,被告による被告商品の販売等の行為は,本件意匠権を侵害するもの である。
2 争点1−2(無効理由の存否)について
被告は,本件において,本件意匠権の設定登録が意匠登録無効審判により無効に されるべき理由として3点を主張している。 しかし,前記第2の2(4)の認定事実に加え,証拠(甲45)及び弁論の全趣旨に よれば,本件において本件意匠権の設定登録が意匠登録無効審判により無効にされ るべき理由として被告が主張する新規性欠如1及び同2並びに創作非容易性欠如は, それぞれ本件審判請求の無効理由1〜3と「同一の事実及び同一の証拠」に基づく ものといえる。 被告は,特許法167条を準用する意匠法52条により,確定した本件審決に係 る本件審判請求と「同一の事実及び同一の証拠」に基づいて本件意匠権の設定登録 につき意匠登録無効審判を請求することができない。このため,被告は,本件にお いて主張する理由により本件意匠権の設定登録につき意匠登録無効審判を請求する ことは,もはやできない。 意匠法52条が準用する特許法167条の趣旨は,紛争の一回的な解決を図るた め,審決が確定した後に同一の当事者等が同一の事実及び証拠に基づいて再び審判 を請求することにより紛争を蒸し返すことを許さない点にある。そうすると,同条 に当たる事情が存するときは,意匠法41条が準用する特許法104条の3の「当 該特許が特許無効審判により…無効にされるべきものと認められるとき」に当たら ず,意匠権侵害訴訟における同条の主張は認められないと解するのが相当である。 したがって,本件意匠権の設定登録は,意匠登録無効審判により無効にされるべ きものとはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
3 差止請求・廃棄請求の可否について
(1) 意匠権に関する請求関係 以上のとおり,被告商品の製造,販売等は,本件意匠権の侵害行為を構成すると\nころ,被告の応訴態度に鑑みると,被告が被告商品を製造,販売等するおそれは依 然としてあるといえる。したがって,被告商品の製造,販売等の差止めの必要性は あるから,差止請求は認められる。 他方,証拠(乙15〜28,47〜55)及び弁論の全趣旨によれば,被告は, 輸入した被告商品を平成29年6月13日に販売したのを最後に,これ以降被告商 品を製造,販売等した実績は認められず,現在,輸入した被告商品を全て販売済み であり,在庫を保有しているとは認められない。そうである以上,被告商品の廃棄 については,その必要性を欠き,廃棄請求を認めることはできない。 (2) 不正競争防止法に関する請求関係 原告は,予備的に,被告商品の販売が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競\n争に当たることを前提に,同法3条2項に基づく廃棄請求をする。 しかし,上記(1)と同様に,被告が被告商品の在庫を保有しているとは認められな い以上,被告商品の販売が不正競争に当たるか否かについて判断するまでもなく, 同項に基づく廃棄請求は認められない。

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平成28(行ケ)10239  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 平成29年5月30日  知的財産高等裁判所

 2年以上前の事件ですが、漏れていたのでアップします。物品名は「映像装置付き自動車」で、その部分意匠である道路上への表示画像が、意匠登録の対象ではないと判断されました。2018年の法改正で「画像」が意匠の対象となりましたが、本件は、改正前の出願です。

 意匠法2条2項は,「物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にす\nるために行われるものに限る。)の用に供される画像であって,当該物品又はこれと 一体として用いられる物品に表示されるもの」は,同条1項の「物品の部分の形状,\n模様若しくは色彩又はこれらの結合」に含まれ,意匠法上の意匠に当たる旨を規定 する。同条2項は,平成18年法律第55号による意匠法の改正(以下「平成18 年改正」という。)によって設けられたものである。 ところで,平成18年改正前から,家電機器や情報機器に用いられてきた操作ボ タン等の物理的な部品を電子的な画面に置き換え,この画面上に表示された図形等\nからなる,いわゆる「画面デザイン」を利用して操作をする機器が増加してきてい た。このような画面デザインは,機器の使用状態を考慮して使いやすさ,分かりや すさ,美しさ等の工夫がされ,家電機器等の品質や需要者の選択にとって大きな要 素となってきており,企業においても画面デザインへの投資の重要性が増大してい る状況にあった。
しかしながら,平成18年改正前においては,特許庁の運用として,意匠法2条 1項に規定されている物品について,画面デザインの一部のみしか保護対象としな い解釈が行われ,液晶時計の時計表示部のようにそれがなければ物品自体が成り立\nたない画面デザインや,携帯電話の初期画面のように機器の初動操作に必要不可欠 な画面デザインについては,その機器の意匠の構成要素として意匠法によって保護\nされるとの解釈が行われていたが,それら以外の画面デザインや,機器からの信号 や操作によってその機器とは別のディスプレイ等に表示される画面デザインについ\nては,意匠法では保護されないとの解釈が行われていた(意匠登録出願の願書及び 図面の記載に関するガイドライン−基本編−液晶表示等に関するガイドライン[部\n分意匠対応版])。 そこで,画面デザインを意匠権により保護できるようにするために,平成18年 改正により,意匠法2条2項が設けられた。
このような立法経緯を踏まえて解釈すると,同項の「物品の操作…の用に供され る画像」とは,家電機器や情報機器に用いられてきた操作ボタン等の物理的な部品 に代わって,画面上に表示された図形等を利用して物品の操作を行うことができる\nものを指すというべきであるから,特段の事情がない限り,物品の操作に使用され る図形等が選択又は指定可能に表\示されるものをいうものと解される。 これを本願部分についてみると,本願部分の画像は,別紙第1のとおりのもので あって,「意匠に係る物品の説明」欄の記載(補正後のもの,別紙第1)を併せて考 慮すると,画像の変化により運転者の操作が促され,運転者の操作により更なる画 像の変化が引き起こされるというものであると認められ,本願部分の画像は,自動 車の開錠から発進前(又は後退前)までの自動車の各作動状態を表示することによ\nり,運転者に対してエンジンキー,シフトレバー,ブレーキペダル,アクセルペダ ル等の物理的な部品による操作を促すものにすぎず,運転者は,本願部分の画像に 表示された図形等を選択又は指定することにより,物品(映像装置付き自動車)の\n操作をするものではないというべきである(甲1,5)。 そうすると,本願部分の画像は,物品の操作に使用される図形等が選択又は指定 可能に表\示されるものということはできない。また,本願部分の画像について,特 段の事情も認められない。 したがって,本願部分の画像は,意匠法2条2項所定の「物品の操作…の用に供 される画像」には当たらないから,本願意匠は,意匠法3条1項柱書所定の「工業 上利用することができる意匠」に当たらない。
2 原告は,平成18年改正により意匠法2条2項が設けられた趣旨は,形態が, 物品と一体として用いられる範囲において,「物品の操作…の用に供される画像」に 関するデザインを広く保護しようとすることにあり,それ以上に保護対象を限定す る意図は読み取れず,本願部分の画像は,「映像装置付き自動車」という物品におけ る「走る」という機能を発揮できる状態にするための,シフトレバー等の操作の用\nに供されるものということができるから,同項の要件に適合すると主張する。 しかしながら,同項が設けられた趣旨,これを踏まえた同項の「物品の操作…の 用に供される画像」の意義は,前記1のとおりであり,これによると,本願部分の 画像が「物品の操作…の用に供される画像」に当たらないことも,前記1のとおり である。原告は,本願意匠に係る物品の「操作」は,「機械など」に相当するシフト レバーをあやつって働かせることであり,「一定の作用効果や結果」に相当する「走 る」機能を得るために,「物品の内部機構\等」に相当するトランスミッション等に指 示を与えるものであると主張するが,ここでいう「映像装置付き自動車」という「物 品の操作」とは,「走る」という機能を発揮できる状態にするための「一定の作用効\n果や結果」を得るために「物品の内部機構等」であるトランスミッション等に対し\n指示を与えることをいうのであるから,シフトレバー等は,あやつって働かせる対 象である「機械など」に相当するものではなく,「物品の操作の用に供される」もの であって,このシフトレバー等「の操作の用に供される画像」であるか否かを検討 しても,意匠法2条2項所定の画像であることが認められるものではない。 したがって,原告の主張は,理由がない。
3 原告は,審決が,1)操作ボタン等の画像が表示されること,2)表示された画\n像を用いて操作を行うものであることを,意匠法2条2項所定の画像に当たるかの 判断基準としたことが,これまでの意匠登録例(甲9〜11)に照らしても同項の 解釈として誤りであると主張する。 しかしながら,同項が設けられた趣旨,これを踏まえた同項の「物品の操作…の 用に供される画像」の意義は,前記1のとおりであり,これと同旨と解される上記 判断基準に誤りはない。 また,前記1の同項の解釈は,これまでの意匠登録例により直ちに左右される性 質のものではないから,甲9〜11に基づく原告の主張を採用することはできない。 したがって,原告の主張は,理由がない。
4 原告は,被告が,物品の内部機構等に指示を与えるための図形等が選択又は\n指定可能に表\示され,物品の内部機構等に指示を与えることができることが認識可\n能に表\示される画像であることを,意匠法2条2項所定の画像の要件としたことが, 十分な根拠なく条文を限定解釈して恣意的に要件を定めたものであり,客観的な判\n断基準として不適切であると主張する。 しかしながら,同項が設けられた趣旨,これを踏まえた同項の「物品の操作…の 用に供される画像」の意義は,前記1のとおりである。前記1の同項の解釈は,同 項が設けられた立法経緯を踏まえて,同項の「操作の用に供される」という文言を 解釈し,同項の「物品の操作の用に供される画像」の意義を明らかにしたものであ り,同項の文言を離れて恣意的に要件を定めたものではない。また,前記1の同項 の解釈が,客観的な判断基準として不適切であるとする根拠はない。 したがって,原告の主張は,理由がない。
5 原告は,本願部分の画像は,縮小画像図1〜16の一連の画像が,その画像 の変化により運転者の操作が促されると同時に,その運転者の操作により更なる画 像の変化を引き起こすというように,画像変化と操作がインタラクティブに連携し て一体感を奏する「映像装置付き自動車」の開錠から前進及び後退までの,走る「操 作の用に供される画像」ということができると主張する。 しかしながら,同項が設けられた趣旨,これを踏まえた同項の「物品の操作…の 用に供される画像」の意義は,前記1のとおりであり,これによると,本願部分の 画像が「物品の操作…の用に供される画像」に当たらないことも,前記1のとおり である。映像装置の故障等により本願部分の画像が表示されず,本願部分の画像が\nなかったときでも,エンジンキー,シフトレバー,ブレーキペダル,アクセルペダ ル等の物理的な部品が正常であれば,映像装置付き自動車における「走る」という 機能を発揮できる状態にするための「物品の操作」を行うことは可能\である一方で, 本願部分の画像が正常に表示されているときでも,エンジンキー,シフトレバー,\nブレーキペダル,アクセルペダル等の物理的な部品が故障していれば,上記「物品 の操作」を行うことはできないのであるから,このことからしても,映像装置付き 自動車における「走る」という機能を発揮できる状態にするための「物品の操作の\n用に供される」ものは,エンジンキー,シフトレバー,ブレーキペダル,アクセル ぺダル等の物理的な部品であって,本願部分の画像ではないというべきである。 したがって,原告の主張は,理由がない。
6 原告は,本願部分の画像によって映像装置付き自動車を操作することは,「操 作の用に供される画像」によってリモコンで遠隔操作を行う場合に相当するから, 本願部分の画像は,これと同様に意匠法2条2項所定の画像に当たると主張する。 しかしながら,画像に表示された物品の操作に使用される図形等をタッチパネル\nにより直接的に選択又は指定せず,リモコンによる遠隔操作を行う場合であっても, 画像上の図形等を選択又は指定する手段がリモコンに変わるだけで,物品の操作に 使用される図形等を選択又は指定することに変わりはない。原告は,「操作の用に供 される画像」によってリモコンで遠隔操作を行う場合には,「3)操作されたリモコン は,(物品に対して)信号を発信し,この信号は,物品の内部機構に指示を与える。\n4)物品は,内部機構に与えられた指示に従い,物品と一体として用いられる表\示機 器上の,操作の用に供される画像を変化(選択又は指定に相当)させる。」というス テップを踏むとした上で,これと,本願部分の画像によって「映像装置付き自動車」 を操作する場合における「3)操作されたシフトレバーは,トランスミッションに対 して指示を与える。4)映像装置付き自動車は,トランスミッションに与えられた指 示に従い,物品と一体として用いられる表示機器上の,操作の用に供される画像を\n変化させる。」とが1対1で対応していると主張するが,「操作の用に供される画像」 によってリモコンで遠隔操作を行う場合に,3)物品の内部機構であるトランスミッ\nションに対してシフトレバー(の移動)が指示を与えることと対比すべきものは, 画像に表示された物品の操作に使用される図形等(のリモコンによる選択又は指定)\nが物品の内部機構等に対して指示を与えることであって,画像上の図形等を選択又\nは指定する手段にすぎないリモコンを物品の内部機構に対して指示を与えるシフト\nレバーと対比する点において,失当である。

◆判決本文

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◆平成28(行ケ)10240

◆平成28(行ケ)10241

◆平成28(行ケ)10242

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平成31(ネ)10023  不正競争行為差止請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和元年8月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁は、1審(東京地裁29部)の判断を維持し、意匠権の消尽を認めました。原告は、被告からイヤーパッドを購入し、これを含んだセット物を製造・販売しました。被告は、この行為が、当該イヤーパッドの意匠権侵害だと、拡布しました。原告は、かかる拡布は、不正競争行為に該当すると主張しました。

 (1) 前記1(3)のとおり,控訴人は,本件覚書により,本件子会社との間で,(ア) 本件子会社に対し,控訴人の保有するインコア及びイヤーパッドに係る一切の特許 の使用を許諾し(第5条前段),その許諾に係る対価を請求せず(同条後段),(イ) 本件子会社に対し,控訴人のイヤーパッドを使用した商品の開発及び販売を許諾し, イヤーパッドの供給に協力する(第6条)旨合意したことが認められる。 また,前記1(4)のとおり,原告製品は,控訴人の供給するイヤーパッドを使用し て本件子会社において開発された商品であるものと認められる。 そして,被控訴人は,前記1(5)のとおり,平成28年11月15日付けで原告製 品の製造,販売に係る事業を本件子会社から譲り受け,同事業を継続したというの であり,このことは,本件覚書第9条において控訴人によりあらかじめ承諾された ものである。 そうすると,被控訴人は,本件覚書においてされた本件特許権1に係る特許発明 の実施の許諾に基づいて原告製品を製造し販売していたものと認められる。 また,上記の実施許諾の趣旨が原告製品の製造販売にあることに照らせば,本件 特許権1に係る特許発明の実施許諾の際に,本件意匠権についても黙示に許諾があ ったものと推認される。 以上によれば,被控訴人の原告製品の製造販売は,控訴人の許諾の範囲であり, 控訴人の本件知的財産権を侵害していないというべきである。
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,本件覚書が,平成22年に控訴人と本件子会社との間で締結され た本件実施許諾契約と一体のものとして,作成・合意されたものであると解した上, 被控訴人は,同契約の第6条により,原告製品の開発,販売に関して控訴人に報告 する義務を負っていたにもかかわらず,これを履行しないので,平成29年4月3 日付けの文書(乙7)で催告をし,同月12日に控訴人代表者から本件子会社の代\n表者であるAに宛てて送信されたメール(乙6)により同契約を解除する旨の意思\n表示をし,その結果,本件覚書における許諾の合意も失効した旨主張する。\nしかしながら,前記1で認定した事実関係に照らせば,本件覚書は,平成22年 4月から平成28年3月までに生じた事情を踏まえた上,後の事業譲渡も視野に入 れた上で,控訴人と本件子会社との間に新たな権利関係を設定するために作成され たものというべきであり,その合意の内容に照らしても,本件覚書が本件実施許諾 契約と一体のものとして作成・合意されたものと解することは困難である。 以上の次第であるから,本件実施許諾契約を解除する旨の意思表示をしたことに\nより本件覚書における合意も失効した旨をいう控訴人の主張は,その前提を欠き, 理由がない。
イ 控訴人は,本件覚書と本件実施許諾契約とが一体で,本件子会社又は被控訴 人が同契約に基づく本件報告義務を負うものと認識していたことから,本件覚書に 係る合意には要素の錯誤があるので無効であると主張し,また,法的拘束力のある 契約としては本件実施許諾契約があるだけで,本件覚書に契約としての拘束力はな いという認識の下に本件覚書に押印したものであり,相手方である本件子会社にお いてもこのような控訴人の真意を知っていたから,本件覚書に係る合意は心裡留保 により無効であるとも主張する。 しかしながら,本件覚書による合意においては,当事者双方の意思表示が書面に\nよってされている。控訴人のいう認識の内容は本件覚書の内容との関係では意思表\n示の動機に当たり,この動機が表示され,法律行為の要素になっているとは認めら\nれないから,錯誤無効の主張は理由がない。また,前記アで説示したところに照ら せば,本件覚書の当事者双方において,本件覚書に契約としての拘束力はないとの 認識があったとは認められないから,心裡留保による無効の主張も理由がない。
(3) 小括
以上によれば,被控訴人の原告製品の製造販売は,控訴人の許諾の範囲であり, 控訴人の本件知的財産権を侵害していない。 よって,本件行為において告知され,流布されている事実は,虚偽であると認め られる。
3 本件知的財産権に係る消尽の成否について
念のため,消尽の成否についても検討を加える。
(1) 特許権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には,当該特許製 品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力 は,当該特許製品を使用し,譲渡し,又は貸し渡す行為等には及ばず,特許権者は, 当該製品について特許権を行使することは許されないものと解される(最高裁平成 7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299 頁,最高裁平成18年(受)第826号同19年11月8日第一小法廷判決・民集6 1巻8号2989頁参照)。このように解するのは,特許製品について譲渡を行う都 度特許権者の許諾を要するとすると,市場における特許製品の円滑な流通が妨げら れ,かえって特許権者自身の利益を害し,ひいては特許法1条所定の特許法の目的 にも反することになる一方,特許権者は,特許発明の公開の代償を確保する機会が 既に保障されているものということができ,特許権者から譲渡された特許製品につ いて,特許権者がその流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存 在しないためである。そして,この趣旨は,意匠権についても当てはまるから,意匠 権の消尽についてもこれと同様に解するのが相当である。
(2)前記1(6)のとおり,被控訴人は,本件知的財産権を有する控訴人から,本件 知的財産権の実施品である被告製品(イヤーパッド)を購入し,これを,原告製品で あるイヤホン,無線機本体,原告製品を媒介するコネクターケーブル及びPTTス イッチボックスと併せて,それぞれ別個のチャック付ポリ袋に入れ,原告製品の保 証書及び取扱説明書とともに一つの紙箱の中に封かんした上で販売しているという のである。 このような事実関係に照らすと,被控訴人は,原告製品に被告製品を付属させて 販売していたものであり,被告製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたも のとはいえず,控訴人から被控訴人に対する被告製品の譲渡によって,被告製品に ついては本件知的財産権は消尽するものと解される。そうすると,控訴人において は,もはや被控訴人に対して本件知的財産権を行使することは許されないから,被 控訴人において原告製品を製造等する行為は,控訴人の有する本件知的財産権を侵 害するものではないというべきである。
(3) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,消尽の根拠となる特許製品の「譲渡」とは,典型的には,権利者が 特許製品を市場の流通に置くことをいい,特許製品が市場の流通に置かれたといえ るか否かは,1)権利者である特許製品の譲渡人が十分な対価を得ているか,2)当該 特許製品が転々流通することを権利者が想定していると認められるか,3)権利者で ある特許製品の譲渡人と譲受人との関係,4)特許製品の性質等を考慮して,個々の 譲渡内容を精査して判断する必要があると主張する。そして,本件事実関係の下に おいては,特許製品が市場の流通に置かれたものではないので,消尽の根拠となる 特許製品の「譲渡」がないと主張する。 しかしながら,特許権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合におい て消尽が認められ,特許権者は,当該製品について特許権を行使することは許され ないものと解されることの根拠は,前記のとおり,第一義的には,特許製品につい て譲渡を行う都度特許権者の許諾を要するとすると,市場における特許製品の円滑 な流通が妨げられ,かえって特許権者自身の利益を害し,ひいては特許法1条所定 の特許法の目的にも反することになるということにある。そうだとすると,消尽の 効果が生じるか否かを,第三者には知り得ない,譲渡人と譲受人間における事情に 係らせることは,消尽を認める趣旨に沿わないものというべきである。控訴人の主 張は理由がない。
イ なお,控訴人は,譲渡により消尽の効果が生じた場合であっても,譲渡に錯 誤無効があり,又は解除がされたときは,消尽の効果は失われるとも主張し,本件 がそのような場合に当たるとも主張する。 しかし,本件において控訴人が錯誤無効や解除を主張しているのは本件覚書につ いてであり,消尽の根拠となっている被告製品の譲渡についてではないから,消尽 の効果を争う主張としては,それ自体失当というべきである。

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◆平成30(ワ)6962

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平成31(ネ)10004  販売差止め及び損害賠償等請求控訴事件  意匠権  民事訴訟 令和元年6月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 アイマスクおよびレッグウォーマーについて、意匠権侵害なし、不正競争行為にも該当せずとした1審判断を、知財高裁2部は維持しました。1審判決の最後に、対象製品が掲載されています。

ア 本件登録意匠の要部の認定について
(ア) 控訴人は,本件登録意匠は,本件登録意匠美感を有しており,構成\nイウエの各構成は,それぞれが関連しあって一体となり一つの強い意匠的効果を発\n揮しているところ,その製品を購入する際に需要者が最も重要視する部分は,上記 一体となって発揮される美感であり,先端部のビーズではない旨主張する。 しかし,本件登録意匠は,アイマスクのマスク部の両脇より延びる耳かけストラ ップ部分の部分意匠であり,ストラップ部において,中間部及び先端部の2箇所に ビーズが現れることは,需要者の印象に大きく残るものであると認められる。これ に,公知意匠(乙10〜13)も考慮すると,原判決(第3,1,(3),ウ)が認 定するとおり,「耳かけストラップの中間部及び先端部の二箇所にビーズが現れる 形態」(構成イ)を含む本件登録意匠の構\成全体が本件登録意匠の要部であると認 めるのが相当であり,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(イ) 控訴人は,本件意見書は,拒絶理由通知の引用意匠(乙13)と本 件登録意匠との間に実際に存在している相違点を指摘しているにすぎず,要部であ ると主張したものではないし,本件登録意匠美感を凌駕するほどに強い美感を発揮 していると主張したものではない旨主張する。 しかし,本件意見書が本件登録意匠と引用意匠との相違点(耳掛けストラップの 先端部にもビーズが存する形態)が類否判断の上で重要であることを指摘している と認められることは,原判決(第3,1,(3),エ)が判示するとおりであって, 本件登録意匠の要部を認定するに当たり考慮することができるというべきである。 したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 公知意匠の認定について 控訴人は,乙11〜13が公知意匠としての適格性を欠いており,また,乙10 〜13の要部が本件登録意匠とは異なる旨主張する。 しかし,乙11〜13を公知意匠とし,これも参酌して本件登録意匠の要部を認 定することができることについては,原判決(第3,1,(3),イ及びウ)が判示 するとおりである。 乙10については,乙10の意匠が本件登録意匠の構成要件イウエの各構\成は有 していないことは認められるが,ストラップの先端部にビーズ形状が現われている アイマスクの意匠であるから,これをアイマスクの部分意匠(ストラップ部分につ いての意匠)である本件登録意匠の公知意匠とし,これを参酌して本件登録意匠の 要部を認定することができるというべきである。 また,乙11〜13の物品が本件登録意匠の構成要件イウエの構\成そのものを備 えていないとしても,「アイマスクの左右端の上部又は下部から伸びた紐が左右端 (左右同順)の下部又は上部(上下同順)に到達し,上記紐の中間部の一箇所に物 体が設けられ,上記中間部の物体は,上位紐を束ねており,移動可能である態様」\nを備えているから,これをアイマスクの部分意匠(ストラップ部分についての意匠) である本件登録意匠の公知意匠とし,これを参酌して本件登録意匠の要部を認定す ることができるというべきである。 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 本件登録意匠とイ号意匠の美感の類似性について 控訴人は,両意匠の一部の差異は,共通点の有する美感を陵駕しておらず,全体 としての美感を共通にしているから,両意匠は類似していると主張する。 しかし,両意匠が類似していないことは,原判決(第3,1,(4))が判示する とおりである。 控訴人は,本件登録意匠のデザインからビーズ一つを削除する改変は,ありふれ た改変であると主張するが,そうであるとしても,両意匠が類似していることには ならない。
(2) 不正競争行為該当性について
ア 商品等表示の判断枠組みについて\n
控訴人は,原判決が,商品の形態自体が出所を表示する二次的意味を有し,不正\n競争防止法2条1項1号及び2号にいう「商品等表示」に該当するための要件の一\nつとして,特別顕著性という要件を考慮したことが,明文のない要件のハードルを 過剰に高いものにしたと主張し,顕著性の程度の判断には,類似品が販売されてい たか否かだけでなく当該類似品が一般に出回っていることを広く需要者一般が通常 認識する態様であったのかどうかも検討すべきであると主張する。 商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有する\nものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至\nる場合があるため,このような商品については,不正競争防止法により,出所表示\n機能が保護されるものであって,そのためには,原判決(第3,2,(1))が判示 するとおり,特別顕著性と周知性が必要であると解される。そして,特別顕著性の 判断に当たっては,当該商品の類似品が一般に出回っているか否かも考慮すること にはなるものの,当該商品の形態に客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴が あるか否かを判断するのであるから,必ずしも類似品が一般に出回っていることを 広く需要者一般が認識する必要はないというべきである。
イ 控訴人の商品形態と類似商品があること
(ア) 控訴人は,乙2,3,26及び27の商品は,控訴人及び控訴人の 代理店など当業者においても被控訴人ら主張を受けて初めて認識するに至ったほど に人知れず発売されていた商品であり,あえてもろもろの検索条件で根気強く検索 を試みなければヒットしないような商品ばかりであると主張する。 しかし,乙3及び27の商品は,日経流通新聞に掲載されたものであることが認 められるし,乙2の商品は,パンジーストアと題するウェブサイトに,平成23年 9月6日付けニュースとして新規発売が紹介されており,乙26の商品も,株式会 社山善のウェブサイトに平成24年10月23日付けで新製品として紹介されてい るものであるから,控訴人及び控訴人の代理店などの当業者が被控訴人ら主張を受 けて初めて認識するに至ったほどに人知れず発売されていた商品であるとは認めら れない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできず,これらの商品の 形態を本件原告商品の形態の特別顕著性の判断に当たって考慮することができると いうべきである。
(イ) また,証拠(乙5,29)及び弁論の全趣旨によると,乙5及び2 9は,いずれも平成30年の発売情報であることが認められる。 しかし,証拠(乙2,3,4,26,27)によると,既に,平成23年〜同2 4年頃には本件特徴又はこれと極めて類似した特徴を有する複数の商品が市販され ていることが認められるところ,平成30年頃にも,本件特徴又はこれと極めて類 似した特徴を有する複数の商品が市販されているという,乙5及び29によって認 められる事実は,平成23年,同24年頃から平成30年頃までの間,本件特徴又 はこれと類似する特徴を有する商品が継続して多数販売されていたことを裏付ける ものとなる。乙5及び29は,上記のような意味において,本件原告商品の形態が 特別顕著性を有していたかどうかの判断に用いることができるものである。 なお,仮に,乙4について,株式会社ポーラとの間で控訴人が主張するようなや り取りがあったとしても,乙4の商品が発売された事実は認められるのであって, 本件原告商品の形態が特別顕著性を有していないとの原判決(第3,2,(2),ウ) の判断を左右するものではない。

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◆平成29(ワ)40178

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平成29(ワ)5011  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 平成31年3月28日  大阪地方裁判所

 爪切りについての意匠権侵害と不競法の品質等誤認表示が争われました。裁判所はいずれも認めました。意匠権侵害の損害額は、被告の得た利益のうち、推定覆滅事由として以下の2つを認め、利益のうち28%としました。1)部分意匠であること(70%)、2)爪切りであるので、商品のデザインを重視して商品が購入されることが多いとはいえない(40%)こと。

(5) 推定覆滅事由等
ア 被告製品1関係について
(ア) 意匠権侵害関係について
a 意匠権侵害関係については,原告実施品の販売減少による逸失利益が問題となるところ,前記認定の被告製品1の利益の額がその損害額と推定されるから,この推定に関する覆滅事由等が問題となる。
b 本件登録意匠が部分意匠であることの考慮について 本件登録意匠は部分意匠であり,意匠の対象となっているのは操作レバ ーとカバー部である(別紙「本件登録意匠の構成」参照)のに対し,被告製品1は\n爪切り全体であるから,本件意匠権侵害行為による原告の損害額と推定されるのは, 被告製品1の販売等による利益の額のうち,本件意匠権侵害部分である操作レバー とカバー部に相当する額である。そして,被告は,それらの爪切り全体に占める割 合について,表面積にしてせいぜい40%であるとか,その部分の製造原価は高く\nても20%程度であると主張している。 確かに,本件登録意匠の対象部分が爪切りの一部であり,表面積としてみても,\n爪切りの大半を占めるわけではないことは被告主張のとおりであるし,また爪切り における重要部分が刃であり,爪切り全体に占める操作レバーやカバー部の製造原 価が一部にとどまることも,被告主張のとおりと推測される。 しかし,ここで被告製品1の全体に占める本件意匠権侵害部分の割合を検討する 趣旨は,被告製品1の販売利益に占める本件意匠権侵害部分の割合を明らかにする ためであるから,その割合は,顧客吸引力の観点から,できる限り被告製品1の意 匠全体に対する本件意匠権侵害部分の貢献割合によって決めるべきものであり,被 告が主張する表面積や製造原価,特に製造原価の割合は,それを検討するための出\n発点として分かりやすいものではあっても,一要素であるにすぎない。 そこで,本件登録意匠の特徴を検討すると,本件登録意匠のうち,操作レバーの 末端部側が紡錘状となる形状を備え(別紙「本件登録意匠の構成態様」の構\成C), カバー部も,操作レバーの末端部側よりも一回り大きい紡錘状となる形状を備え (同構成D),操作レバーが先端部側から末端部側に至る中心面から上下に対称な\n湾曲した稜線を介して上下に傾斜して下る形状を備え(同構成E),カバー部が中\nほどの紡錘状の稜線を介して操作レバー側に窪み,その窪みにおける稜線の中央近 傍側でより深く窪んだ形状を備えている(同構成F)点は,爪切りを手に持ち,あ\nるいは置いて見たときに大きく目立つ点であり,本件の証拠に見られる他の爪切り の意匠(甲10,61ないし64,66ないし68,乙17,28ないし31)に は見られない特徴点で,爪切り全体の美感に与える影響が大きいと認められる。こ のことは,原告のホームページで,原告実施品(甲56の写真参照)について,機 能性だけでなく,「やさしさを感じさせる曲面フォルム」に触れられていることや,\nグッドデザイン賞の審査委員から,「バッタの様にも見える有機的な形態が魅力の爪 切りである。その新鮮なデザインを評価したい。」と評価されていることからもうか がわれる。そして,爪切りの先端側の形状は,それ自体には上記の他の爪切りの形 状と比べて顕著な特徴があるとはいえないが,上記の末端側に比べて細くすぼまる 形状や,各部分の大きさ(同別紙の構成H及びI)のバランスは,「バッタの様に\nも見える有機的な形態」との印象を与えるのに寄与しているといえる。 他方,被告製品1でも操作レバー及びカバー部の意匠は,本件登録意匠とほぼ同 一であり,爪切り全体の意匠としても原告実施品とほぼ同一であると認められると ころ,操作レバー及びカバー部以外の部分(別紙「本件登録意匠の構成」の点線部\n分に相当する部分)は,爪切り全体の中で相応に大きな面積割合を占めており,そ の形態も合わさって全体が「バッタの様にも見える有機的な形態」との印象を与え ることにもなっているものの,その部分の形態自体には,他の爪切りとの美感上の 顕著な差は認められない。そして,別紙「被告意匠の構成」の「パッケージ」欄の\nとおり,被告製品1がドン・キホーテの店舗で販売される際には,クリアケースを 通してその平面視の状態を,末端側が若干だけ隠れた形で視認できるように陳列さ れていたから(甲3ないし6),需要者は主として平面視の意匠を認識することにな る。そうすると,被告製品1の意匠全体の美感に対して本件意匠権侵害部分が与え る影響は高いというべきであり,被告が指摘する表面積や製造原価の点を考慮した\nとしても,被告製品1の意匠全体に占める本件意匠権侵害部分の割合は7割と認め るのが相当である。
c 本件意匠権侵害関係で被告が主張する他の推定覆滅事由について
(a) 被告は,本件登録意匠と同一の基本的構成態様を有する爪切りは\n多数存在するとして乙28の1ないし3の各意匠の存在を指摘するところ,この主 張は,本件登録意匠の被告製品1の顧客吸引力への寄与の低さをいうことにより, 被告製品1についての後記(b)以下の事情の重要性をいう趣旨であると解される。 確かに,乙28の1の意匠では,カバー部と操作レバーの末端部側がそれ以外の 部分と比べて若干ふくらんでいるように見える。しかし,本件登録意匠は,操作レ バーの末端部側を丸みを帯びた紡錘状となる形状とすること(構成C)と併せて,\nカバー部の末端部側をそれよりも一回り大きい紡錘状となる形状とすること(同 D)によって,爪切りをたたんだ場合に,その末端部側がふくらんでいることが強 調されている。これと対比すると,乙28の1の意匠では操作レバーの末端部側は カバー部の末端部側とほぼ同じ形態とされているにすぎず,全体として異なる美感 を有するものと認めるほかない。 また,乙28の2及び28の3については,爪切りがたたまれた場合の形態が不 明であるが,乙28の2の意匠はカバー部の末端部側がそれ以外の部分よりもすぼ んでいるように見えるから,本件登録意匠と異なる美感を有するものといわざるを 得ない。さらに,乙28の3の意匠はカバー部が操作レバーよりも末端部側がふく らんだ形態を有しているように見えるが,本件登録意匠の構成Bと異なり,操作レ\nバーがほぼ平坦なように見え,末端部側へ向かって緩やかに湾曲して下る形状を有 しているとは認められない。そして,上述のとおり,本件登録意匠では,爪切りを たたんだ場合に,その末端部側がふくらんでいることが強調されているところ,そ れには本件登録意匠の構成Bも寄与していると認められるから,同構\成を有してい ない乙28の3の意匠と本件登録意匠の美感が共通しているとは認められない。 以上より,乙28の各意匠の存在が,本件登録意匠の被告製品1の顧客吸引力へ の寄与の低さを基礎付けるとはいえないから,これにより推定が覆滅されるとはい えない。むしろ,前記bで述べたところからすると,本件登録意匠は,原告実施品 とほぼ同一の形態である被告製品1について,「バッタの様にも見える有機的な形 態」との印象を与える特徴的な意匠であるというべきである。
(b) 次に,被告は,被告製品1特有のデザインの存在を主張している。 しかし,被告が主張する被告製品1特有のデザインについて,美感に与える影響が 大きいとはいえないから,これを推定覆滅事由として考慮することはできない。
(c) もっとも,爪切りは爪を切るために使用する実用品であり日用品 であるから,需要者が購入するに当たっては,一般にその切れ味等の性能や使いや\nすさ,それらと価格とのバランスを重視するものと考えられ,商品のデザインを重 視して商品を購入することが多いとはいえない。確かに,原告実施品の場合は,複 数の百貨店や東急ハンズ等で販売され,日本製で定価が2000円(税抜)とされ ており,爪切りの市場においては,販売価格が500円を下回る爪切りや,100 0円前後の爪切りが販売されている(乙28,29,弁論の全趣旨)のと比べると, 爪切りの販売価格としては高いから,原告実施品は,価格の高い高級品として販売 されているといえ,そのような原告実施品を購入する需要者には,品質と並んでデ ザインを重視する者も多くいると考えられる。これに対し,被告製品1は,専らド ン・キホーテという総合ディスカウントストアで販売されており,店頭販売価格が 1280円(税抜)と他の爪切りにも見られる価格帯であり,それが専ら売られて いたドン・キホーテにおいても,1000円前後の爪切りやそれよりも安い爪切り が販売されていたことが推認される(乙31は侵害行為があった時期と異なる時期 のものであるが,これによっても推認可能である。)から,このような店舗と価格で\n被告製品1を購入した需要者において,商品のデザインを重視して商品を購入する ことが多いとは考え難い。また,爪切り市場において原告のシェアが高いとも認め られない。 したがって,以上の点は,推定の一部覆滅事由たり得るというべきである(なお, 被告は,自身の営業努力を主張するが,被告製品1をドン・キホーテで販売できる ようにしたという以上に,被告主張の営業努力が通常のものを超えたものであると いうことはできない。)が,前記のとおり本件登録意匠が爪切りのデザインとして特 徴的なものであり,相応の顧客吸引力を有すると考えられること,被告製品1と原 告実施品の価格差が著しいというわけでもないこと,原告実施品の利益率が被告製 品1の利益率に比べて特に低いともうかがわれないこと(なお,被告は,原告がO EM供給している製品については利益率が低いと主張しているが,そのような事実 を認めるに足りる証拠はない。)も考慮すると,推定覆滅率は60%と認めるのが相 当である。
d したがって,被告製品1の意匠権侵害行為に係る損害の額は,被告 製品1の利益の額の28%(0.7×0.4)となる。
・・・
(6) 原告の損害額
ア 以上の認定・判示によれば,意匠法39条2項及び不正競争防止法5条 2項に基づく原告の損害額は,次のとおり,●(省略)●円である。 (計算式) 被告製品1に係る被告の利益●(省略)●円×0.38(意匠 権侵害行為に係る損害と14号の不正競争行為に係る損害分)+被告製品2に係る 被告の利益●(省略)●円+被告製品3に係る被告の利益●(省略)●円×0.1 ≒●(省略)●円
イ また,原告は本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人弁護士に委任したとこ ろ,被告の不法行為及び不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用は●(省 略)●万円と認めるのが相当である。 ウ 以上より,被告の不法行為及び不正競争行為による原告の損害額は,合 計76万1265円となる。

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平成24(ワ)33752  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 平成27年2月26日  東京地方裁判所

 4年以上前の事件ですが、漏れていたのでアップします。体組成計の意匠について、一部の被告製品は本件登録意匠と類似するとして、1.3億円の損害賠償が認められました。なお、被告製品のうち50%について販売不可事情が認定されました。
 本件意匠2と被告意匠は,上記第3,2,(1),アのとおり,1)正面視にお いて,板状体の正面ガラス板は隅丸横長四角形形状であり,板状体の正面に は,4つの隅丸縦長四角形形状の電極部分が上下左右に配置されており,上 側の左右に配置された2つの電極部で囲まれた領域のほぼ中央には隅丸横長 四角形の液晶表示窓があり,該液晶表\示窓の下側であって,かつ,上側に配 置された2つの電極部分の上辺を結んだ線,左側に配置された2つの電極部 分の左辺を結んだ線,下側に配置された2つの電極部分の下辺を結んだ線, 右側に配置された2つの電極部分の右辺を結んだ線からなる四角形の対角線 の交点を中心として隅丸四角形からなるスイッチ模様を複数配置して構成さ\nれており,2)側面視において,透明ガラス板と本体背面部とを積層一体とし た構造であるという構\成を有する点で共通している。
相違点について検討すると,正面視において,上記第3,2,(1),イのと おり,本件意匠2と被告意匠とでは透明ガラス板の縦横比が異なっている(本 件意匠2が約1:1.4であり,被告意匠が約1:1.43である。)ものの, その差異は極めて小さく,いずれも看者に対し横長長方形であるという印象 を与えるものというべきである。また,被告意匠には,液晶表示窓の周囲に\nある縁取模様があることが認められるが,これは液晶表示窓の大きさと比較\nしてさほど大きいものではなく,正面視において目立つ色彩でもない。さら に,透明ガラス板の隅丸半径,電極部分の幅と長さの比,液晶表示窓の底辺\nと上側の左右に配置された電極の底辺との関係やスイッチ模様の個数に差異 があるが,これらは,透明ガラス板の形状がほぼ同じであることから看者に 対して与える共通の美感を凌駕するものとはいえない。 本件意匠2と被告意匠とでは,背面視において,上記第3,2,(1),イの とおり,本体部の背面の形状に差異があるが,これは要部における差異では ない。 さらに,上記第3,2,(1),イのとおり,被告意匠には側面視において不 透明プロテクタ体があるが,不透明プロテクタ体は本体背面部と同系統の色 彩であり厚みも薄いことから,この点も要部における具体的構成の共通性か\nら看者に与える美感の同一性を凌駕するものとはいえない。 したがって,本件意匠2と被告意匠とは上記のような差異点があることを 考慮しても,看者に対して共通の美感を与えるものと認められるから,本件 意匠2と被告意匠は類似しているというべきである。
・・・
 被告は,被告製品の売上への被告意匠以外の要因が寄与していると 主張する。
証拠(甲30の1,乙23,24,26,28,86)及び弁論の全 趣旨によれば,a 被告は,原告に先んじて体組成計の販売を開始し, 平成15年までは体組成計の年間シェア(数量)の62.9%以上を占 めていたこと,b 平成23年の体組成計の年間シェア(数量)は被告 が38.7%で1位,原告が32.3%で2位あり,3位の企業は14. 5%であること,c 被告が販売する体組成計を購入した者の25.7 7%が被告ブランドを理由に購入していること,d 日経BPコンサル ティングが実施している「ブランドジャパン2011」において消費者 からみた総合力の上昇ランキングで9位とされていること,e 「ブラ ンドジャパン2013」においてコンシューマー市場編総合力と因子指 数において60位とされたこと(原告は同ランキングで183位であっ た。),f 被告が,平成23年7月19日,平成24年6月11日及び 平成25年5月28日にMDBネットサーベイを利用して行ったアンケ ートによれば,体組成計や体脂肪計のメーカーのイメージが強い最も強 い企業を選ぶ問いに対し被告と答えた者が順に68.2%,71.6%, 71.8%であったことが認められる。 以上の事実によれば,被告は体組成計のシェアを長期間にわたり安定 的に有しており,被告が製造する体組成計を購入した者の中には被告の ブランド力を理由とする者も多数おり,被告がブランド力の調査におい て上位にされることがあったのであるから,被告製品の売上に被告のブ ランド力の有する顧客吸引力の貢献もあるというべきである。 しかしながら,一方で,証拠(甲8の2ないし4,27の1・2,3 8)によれば,a 原告製品1又は2を購入した者に対するアンケート 結果では,商品を選択した理由として「デザイン(見た目)が良い」と いう回答をしている者が順に●(省略)●%,●(省略)●%に上って いること,b 一方,同アンケート結果では,「メーカー名」を挙げる 者は各●(省略)●%に過ぎなかったこと,c 体組成計を取り上げた テレビ番組でも,原告製品1について「従来無かったデザイン性の高さ が人気といいます。」,原告製品2について「コンパクトなタイプ。デザ インとカラーで人気を集めています。」などと報道されたこと(平成2 4年12月18日放送・ワールドビジネスサテライト)が認められるか ら,デザインが体組成計の購入動機とならないとはいえない。 なお,前示のとおり,本件意匠2はその出願時点における公知意匠と は異なる構成を有するものであるから,被告が本件意匠2について無効\n審判を請求していることを考慮しても,その創作性の程度が低いという ことはできない(なお,上記無効審判請求については,平成26年12 月24日に請求不成立の審判がされた〔乙99の2〕)。また,本件意匠 2は,部分意匠ではないし,被告意匠は全体として本件意匠2と類似す るのであるから,被告意匠が本件意匠2の一部と類似するに過ぎないと いうこともできない。 したがって,被告製品の売上には被告意匠以外の要因として被告ブラ ンドの顧客吸引力も寄与しているといえるから,このような事情につい ては原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができ ないとする事情として考慮することができるというべきである。
(イ) 被告は,原告が原告製品1及び2を追加的に販売する際に注文に対 応できない台数の割合があることを考慮すべきと主張する。しかしなが ら,原告は1か月に●(省略)●台の原告製品1及び2を輸入,販売す ることができると認められるところ(甲42),原告が原告製品1及び2 が売れすぎたために品切れを起こし販売を中止した期間があると認める に足りる証拠はない。したがって,原告が原告製品1及び2を追加的に 販売する際に注文に対応できない台数の割合があることを原告が被告製 品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができないとする事情とし て考慮することはできないというべきである。
(ウ) 被告は,原告製品1及び2には被告製品の他に競合品があると主張 する。確かに,体組成計について,原告製品1及び2の他に原告や被告 の他多数の企業から多数の製品が販売されていることは当事者間に争い がないが,証拠(甲30の1)によれば,平成23年の体組成計の年間 シェアは被告が38.7%で1位,原告が32.3%で2位あり,3位 の企業は14.5%であることが認められ,被告と原告とで体組成計の 年間シェアの71%を占めていることからすると,被告製品がなかった 場合,被告製品の購入者の大部分は被告が販売する製品か原告が販売す る製品を購入するものというのが相当である。そして,前示のとおり被 告製品を購入した者はメーカー名よりもデザインに着目して購入してい るところ,証拠によっても,平成24年10月から平成25年9月30 日までの間に被告が販売する被告製品以外の体組成計にその意匠が本件 意匠2と同一又は類似するものがあるとは認められないのである。そう すると,原告製品1及び2には被告製品の他にも競合品があるという事 情は,被告製品が販売されていた期間において原告製品1及び2か被告 製品しか選択肢がないという状況ではなかったから,被告製品がなかっ たとしても被告製品の譲渡数量の全てについて原告製品1又は2が購入 されたということはできない(しかし,大部分は原告製品1又は2が購 入されたといえる。)という程度において,原告が被告製品の譲渡数量の 全部又は一部を譲渡することができないとする事情として考慮すること ができるにとどまるというべきである。
(エ) 以上によれば,被告製品の売上には被告ブランドの顧客吸引力の寄 与もあるという事情,原告製品1及び2には被告製品の他に競合品があ り,被告製品が販売されていた期間において原告製品1及び2か被告製 品しか選択肢がないという状況ではなかったという事情は,上記説示の 範囲で,原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することがで きないとする事情として考慮することができる。また,前示のとおり, 被告製品の生産等は本件意匠権1を侵害しないという事情があり,これ も原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができない とする事情として考慮することができる。これらの諸事情を考慮すれば, 被告製品の譲渡数量のうち50%に当たる●(省略)●台(小数点以下 切り捨て。)について原告が譲渡することができない事情があるというべ きである。
オ 前記前提事実のとおり,原告は,1か月に●(省略)●台の原告製品1 及び2を輸入,販売することができたから,平成24年10月から平成2 5年9月までの間,原告製品1及び2を併せて●(省略)●台を輸入,販 売することができた。 カ 以上によれば,意匠法39条1項により損害の額とされる額は1億17 41万3662円である。

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平成29(ワ)849  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権 平成31年3月28日  大阪地方裁判所

 電子たばこケースにかかる意匠権侵害事件です。大阪地裁は先使用権を認めました。 判決文の最後に両意匠が掲載されています。判決文の最後に両意匠が掲載されています。

 また,具体的構成態様については,各収納部の底部と開口部(収納口)の位置関\n係(同イの一部,ウ),大型収容部の左側面窓部の透明のフィルムの有無(同オの一 部),ベルトの金属製の留め具の有無等(同ク),背面部の形態(同ケ)及び表面の\n色や生地(同コ)を除き,共通している。
そして,共通点のうちベルトの形状(具体的構成態様キ)及び各収納部の大きさ\n(具体的構成態様ア)は本件意匠の主たる要部であり,それにより,被告意匠には,\n本件意匠と同様のスマートでシンプルという印象が生じている(なお,被告意匠の ベルトは,本件意匠のベルトよりも数mm程度太いが,それによって以上の判断は左 右されない。)。 他方,本件意匠と被告意匠とは,各収納部の底部と開口部の位置関係(具体的構\n成態様イの一部,ウ)という副次的な要部において相違しており,確かに,被告意 匠では,各収納部の底部の位置がほぼそろえられていることによって,本件意匠と 対比すると,よりまとまりのある印象を与えているということはできる。しかし, 本件意匠の要部の検討で述べたとおり,引用意匠3ないし9と対比した場合の本件 意匠の大きな特徴は,各収納部やベルトの形態(主たる要部)によってスマートで シンプルな印象を与えるという点にあり,被告意匠が各収納部の底部と開口部の位 置の差異によって,よりまとまりのある印象を与えているとの点は,上記のスマー トでシンプルな印象の範囲内での相違にすぎず,それによって本件意匠と被告意匠 の美感が異なるものになったとまでいうことはできない。なお,原告は,原告製品 とは異なり,小型収納部の底部を大型収納部の底部とそろえた製品を販売するに至 ったが,これによって以上の判断は左右されない。 この点について,被告は,原告製品と被告各製品を購入した者がインターネット に書き込んだコメントの内容が異なっている旨主張し,乙37を提出しているが, 意匠に関するコメントは必ずしも多くないし,被告製品1の「おしゃれ」とか「か っこいい」というのが上記のスマート又はシンプルさを排斥するものとまで認める ことはできないから,これによって前記判断が左右されるとはいえない。 また,被告は,被告意匠では両収納部の底部の位置がほぼそろえられ,小型収納 部の開口部が大型収納部の開口部よりも下側にあることから,小型収納部にクリー ナーを収納できることを指摘するが,それは,そのような使い方もできるという程 度のものにすぎず,そのことによって小型収納部の形状自体が新規なものになって いるというわけでもないから,その点によって前記判断が左右されるとはいえない。
(イ) また,本件意匠と被告意匠のその他の差異点は,要部に関するもので はないことなどから,それによって本件意匠と被告意匠の美感が異なるものになる とも認められない。
この点,被告は,被告意匠2ないし6に関し,生地に関する差異点(具体的構成\n態様コ)によって,共通点を凌駕する程度に別異性が認められるとも主張している が,本件意匠は生地の態様に特徴のあるものでなく,被告意匠2ないし6も生地に 顕著な特徴があるとはいえないし,本件意匠に係る物品は電子タバコケースである から,需要者がまず着目するのは製品の形状であり,基本的にはケースの生地や色 が美感に与える影響が大きいとはいえないから,その差異点が上記共通点による美 感を凌駕すると認めることはできない。
ウ したがって,本件意匠と被告意匠とは一致点の印象が差異点の印象を凌 駕し,類似していると認めるのが相当である。
2 争点2(被告による先使用権の成否)について
・・・
上記の被告代表者の陳述及び供述のとおりであるとすると,被告は,本件\n意匠の登録出願日である平成28年6月20日の時点で,原告製品とは関係なく被 告各製品のデザインを決定し,その製造委託の発注までをシャインカラー社に対し て行うとともに,IMP社から被告製品2の販売を受注していたことになるから, 少なくとも日本国内において被告意匠の実施である事業の準備をしていたことにな る。そこで,上記の被告代表者の陳述及び供述の信用性について検討する。\n
・・・
ところで,原告製品は同年5月8日に発売されたから,創作者である被 告代表者が本件意匠を知らないで被告意匠を創作したといえるためには,同日以前\nの被告の開発状況が重要になる。そして,被告代表者の陳述及び供述では,シャイ\nンカラー社と最初に協議したのは同年5月4日であり,そこでデザインを決めてサ ンプル製作を指示した次の協議が上記の同年6月15日とされているから,同年5 月4日の時点での協議内容(前記(1)イ)の信用性が重要となる。
(ア) まず,被告各製品の開発についてのシャインカラー社との協議が平成 28年5月4日に行われたことについては,被告代表者の打合せノートの5月4日\nの記載(乙30の1及び2)がある。そして,同ノートの記載については,前記の とおり同年6月初旬ころないし同月15日の記載(乙30の4ないし6)が信用し 得ると認められることから,被告代表者が日常業務の上で作成していたものとして\n基本的に信用できると考えられる。また,被告代表者が同年4月から5月にかけて\n新規のIQOSケースの開発を考えたということには,被告が同年4月当時,セパレー トタイプのIQOSケースを開発し,同商品が同年5月18日までに販売されていたと 認められること(乙32)から,時期的にもあり得ることである。
(イ) そこで,乙30の1の記載を見ると,「サンプル」として,1)「セパレ ート」,2)「ガラ携のベルトケース」,3)「2段のスマホケース」が記載されている から,これらを見ながら協議したと認められるところ,1)が被告が開発していたセ パレートタイプ(乙12,32)であり,3)が中国で販売されていた2段重ねタイ プ(乙15,16)であると認められる。このうち2)は,「実用NG?」と記載され ているから候補から外れたと認められ,被告代表者も同旨を述べている。次に,1) については,「充のみ」と「充+カートリッヂ(タバコ)」の2通りが検討された記 載となっており,これが特段排除された記載はない。しかし,被告代表者は,セパ\nレートタイプは,金具で無理矢理つなげる点や男性的で客層を狭くする点に難点が あったことや,被告代表者の息子が作った商品であるために真似をしたくないとの\n思いがあったと供述しており,この供述は自然かつ合理的なものである。そうする と,この協議において,1)のタイプは採用されず,3)の2段重ねタイプが採用され たとの被告代表者の陳述及び供述は信用できると考えられ,その場合,乙15及び\n16の例のとおり,大型収納部と小型収納部を同方向に重ね,それらの幅や高さを タバコパッケージや携帯用充電器の大きさとほぼ同じようにするのは自然なことで ある。 そして,乙30の1においては,「別でクリーナーやミニUSBケーブル」との記 載があるから,クリーナーを入れられるようにしたり,ミニUSBケーブルを通す 孔を設けたりすることが検討されたと認められるところ,前者の点からすると,被 告各製品のように両収納部の底部の位置をそろえることにより,小型収納部の上部 に余裕空間を設けるのが合理的であり,そのようにすることが乙15及び16の例 からも自然であるから,このような方針となった旨の被告代表者の陳述及び供述は\n信用し得る。なお,前記のとおり後の同年6月15日の時点で,被告代表者は,サ\nンプルに対して小型収納部の底部を大型収納部の底部と同じ位置まで下げるよう指 示しているが,この点について,被告代表者は,サンプルで底がそろっていなかっ\nたのは,その方が縫製が楽であることから,シャインカラー社が構造的に楽なもの\nを作ったためであると供述しており,この点も被告代表者の同陳述及び供述と整合\n的である。 また,背面部の上端を正面まで伸長させたベルトについても,絞り込まれて幅が 細く,正面まで伸長させるものは乙15及び17にもあり,被告自身が販売し,人 気のあった手帳型の携帯電話のケースでは先端が半楕円形であって,平坦で,その 幅が均一で,細いベルトが備えられていたから(乙18,50),被告代表者が被告\n意匠のベルトの形状等に着想することは自然なことといえる。そして,このことは, 前記の同年6月15日のサンプルのチェック時には,ベルトについて修正指示がな かったこととも整合的である。 また,底部の携帯充電器用の孔や左側面の窓部についても,前者については上記 のとおり同年5月4日の打合せにおいて協議されていたことであり,その発想から すると後者についても協議されていても不合理ではない。 なお,前記のとおり,被告代表者は,同年6月15日のサンプルのチェック時に,\n裏の生地をハイクラス(合成皮革のライチ柄)にするよう修正指示しているが,同 年5月4日の打合せノートでも「ライチ柄(ハイクラス)」とされている(乙30の 1)から,その指示も同日の指示に従うよう求めたにすぎないと認められる。 そして,被告代表者は,このときの訪中時に,シャインカラー社に対してサンプ\nルを発注したことは,乙30の2から認められる。 以上のとおり,被告代表者は被告各製品の開発(被告意匠の創作)過程について\n具体的な供述をしており,その内容は各証拠とも整合していること,同年5月4日 の協議から同年6月15日のサンプル確認まで何らかの連絡協議が行われたともう かがわれず,かえって,被告代表者の月に1回程度訪中しているとの供述は,1回\nの訪中時に数日をかけて数社との打合せをしていること(乙30)と整合している ことを考慮すると,被告意匠を同年5月4日の協議の時点で創作していた旨の被告 代表者の陳述及び供述は,その信用性を認めることができる。\n
ウ 原告の主張について
原告は,原告製品が平成28年5月8日から楽天市場において販売されてお り,楽天市場で1位にランクインしたことがあることや,中国で模倣品が製造され ていること(甲15,16)を指摘し,被告代表者が本件意匠を知っていたと主張\nしている。 しかし,製品の開発過程で他社製品を参照することは一般的に行われることでは あるが,前記のとおり本件では,原告製品が発売されるより前に被告代表者がシャ\nインカラー社に対して被告各製品のサンプル製作を指示していたことにつき相応の 裏付け証拠があることからすると,原告製品とは関係なく被告各製品を開発した旨 の被告代表者の陳述及び供述は信用し得るというべきであり,原告主張の事情は,\n上記認定を左右するに足りるものではない。また,中国の実情(甲15,16)も 一般論にすぎず,被告代表者が本件意匠を知っていたことを直ちに推認させるもの\nとはいえない。
(3) 以上の検討からすると,被告は,本件意匠の登録出願日までに,本件意匠 を知らないで被告意匠を創作し,一部の被告各製品の製造の委託をシャインカラー 社に発注し,これは被告が日本国内で被告各製品の販売を行うためにされたことで あり,またIMP社から被告製品2の販売を受注するに至っていたと認められるか ら,被告は,少なくとも日本国内において被告意匠の実施である事業の準備を行っ ていたというべきである。

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平成30(ワ)6962  不正競争行為差止請求事件  不正競争  民事訴訟 平成31年2月20日  東京地方裁判所(29部)

 原告は、被告からイヤーパッドを購入し、これを含んだセット物を製造・販売しました。被告は、この行為が、当該イヤーパッドの意匠権侵害だと、拡布しました。原告は、かかる拡布は、不正競争行為に該当すると主張しました。東京地裁29部は、権利は消尽しているので、侵害ではないとして不正競争行為に該当すると判断しました。争点は、報告義務に違反して被告製品を販売した場合は、正当行為でないので消尽するのか?という点です。
 特許権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該特許製品を使用し,譲渡し,又は貸し渡す行為等には及ばず,特許権者は,当該特許製品がそのままの形態を維持する限りにおいては,当該製品について特許権を行使することは許されないものと解される(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁,最高裁平成18年(受)第826号同19年11月8日第一小法廷判決・民集61巻8号2989頁参照)。そして,このように解するのは,特許製品について譲渡を行う都度特許権者の許諾を要するとすると,市場における特許製品の円滑な流通が妨げられ,かえって特許権者自身の利益を害し,ひいては特許法1条所定の特許法の目的にも反することになる一方,特許権者は,特許発明の公開の代償を確保する機会が既に保障されているものということができ,特許権者から譲渡された特許製品について,特許権者がその流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないためであり,この趣旨は,意匠権についても当てはまるから,意匠権の消尽についてもこれと同様に解するのが相当である。
(2)前記第2の2の前提事実(3)のとおり,原告は,本件知的財産権を有する被告か ら,本件知的財産権の実施品である被告製品を購入しているところ,証拠(甲12〜 15)によれば,原告は,被告から購入したイヤーパッドである被告製品を,原告製 品であるイヤホン,無線機本体,原告製品を媒介するコネクターケーブル及びPTT スイッチボックスと併せて,それぞれ別個のチャック付ポリ袋に入れ,原告製品の保 証書及び取扱説明書とともに一つの紙箱の中に封かんした上で販売していると認め られ,そうであれば,原告製品に被告製品を付属させて販売していたにすぎないと認 められるのであり,被告による被告製品の譲渡によって被告製品については本件知的 財産権は消尽すると解される。 よって,原告が原告製品を製造等する行為は,被告の有する本件知的財産権を侵害 しない。
(3)この点,被告は,原告は,本件報告義務に違反して被告製品を販売したものであって,当該販売は不適法な拡布に当たるから,本件知的財産権は消尽しないと主張 する。しかしながら,本件報告義務違反によって消尽の効果が直ちに覆されるといえるかについての判断は措くとして,被告の上記の主張は,原告による契約上の義務違反を いうものにすぎず,本件知的財産権を有する被告によって被告製品が拡布,すなわち 適法に流通に置かれた事実を争うものではないから,被告の上記主張は,その前提を 欠き,採用することができない。
(4)そうすると,原告は,本件知的財産権を侵害していないから,本件行為におい て告知され,流布されている原告が本件知的財産権を侵害している旨の事実は,虚偽 であると認められる。

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平成28(ワ)12791  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 平成30年11月6日  大阪地方裁判所(21民)

 部分意匠について、侵害であるとして、差止、損害賠償が認められました。なお、損害額は約300万円です。これは、利益に対する貢献や寄与が低いと認定されたためです。
 登録意匠と対比すべき意匠とが類似であるか否かの判断は,需要者の視 覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされており, 意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用 途及び使用態様,並びに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取 引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と 対比すべき意匠とが,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを重視\nして,観察を行うべきである。 そして,本件意匠に係る物品の説明によれば,本件意匠に係る物品である検査用 照明器具は,工場等において製品の傷やマーク等の検出(検査)に用いられるもの であるから,そのような検査を必要とする製品の製造業者等によって購入されるも のであると推認される。したがって,意匠の類否判断における取引者・需要者は, そのような製造業者等である。 そこで,このような需要者の観点から,本件意匠の要部について検討する。
イ 公知意匠
平成15年6月16日に発行された意匠公報(乙12)において,乙 12意匠(別紙「乙12意匠の図面」参照)が開示されていた。そして,乙12意 匠は,前記1(8)イで認定したとおり,本件意匠の基本的構成態様AないしDと同じ\n構成態様を備えているほか,本件意匠の具体的構\成態様E,H,I及びJの一部並 びにF,K及びLと同じ構成態様を備えている。\nそうすると,以上の構成態様は,検査用照明器具の物品分野の意匠において,本\n件意匠の意匠登録出願前に広く知られた形態であったと認められる。 他方で,後端フィン及び中間フィンの各面が,支持軸体の通過部分以 外には貫通孔がなく,平滑であるという構成態様(同M)は,乙12意匠において\nも開示されておらず,前記1(8)で述べたとおり,検査用照明器具においてそのよう な構成態様を備えたものは公知意匠として存在していなかった(甲14で開示され\nている意匠においても,後端フィン及び中間フィンの上側に貫通孔が設けられてい る。)。この点,乙8意匠はタワー型のヒートシンクの意匠であり,その後端面は 平滑であるが,前記1(3)で判示したとおり,これがどのような物品の放熱部として 用いられるものかは明らかでなく,これと他の部材との位置や大きさの関係,ある いはヒートシンクの各部分の具体的な寸法等も明らかでないし,そもそも乙8の文 献はヒートシンクに関する一般的説明をしたものにすぎないから,要部の認定に当 たって参酌すべき公知意匠というべきものとはいえない。 そして,前記1で判示したとおり,本件意匠の具体的構成態様Mは,その意匠登\n録出願前の公然知られた意匠に基づき,容易に創作することができたものとはいえ ないから,公知意匠にない新規な創作部分であると認められる。
ウ 意匠に係る物品の性質,用途,使用態様等
一定の機能及び用途を有する「物品」を離れての意匠はあり得えないから,\n部分意匠においても,部分意匠に係る物品において,意匠登録を受けた部分がどの ような機能及び用途を有するものであるかを,その類否判断やその前提となる要部\n認定の際に参酌すべき場合がある。 このような観点から検討すると,本件意匠に係る物品は検査用照明器具でありL ED等を内蔵するところ,LEDを使用すると熱を発生し,器具内の温度が上昇す ることから,その放熱(設計)の必要性が指摘されている(甲21,22,24な いし25の2)。そして,本件意匠はその放熱部の意匠であり,特にそこに設けら れたフィンは放熱するための部材(放熱フィン)であるから,放熱を必要とする検 査用照明器具の需要者は,放熱効率という観点から,本件意匠の部材の形態や配置 の状況に着目すると考えられ,具体的には,放熱部である後方部材が前方部材の延 伸上にあること,放熱部である後方部材が,前方部材と同程度の大きさ(径)であ ること,複数枚のフィンが間隔を空けて配置されていること,フィンよりも支持軸 体の方が径が小さく,支持軸体の貫通孔以外のフィンの部分が放熱に寄与すること に着目すると思われる。 また,前記1で検討した公知意匠の内容に照らすと,フィンの枚数,間隔及び厚 みを変更したり(中間フィンと後端フィンの厚みの関係も含む。),フィンに面取 りを加えたり,支持軸体の径を変更したりすることは,ありふれた手法というべき であって,需要者がそのわずかな違いに着目するとは考えられないが,需要者が放 熱を重視する場合,少なくとも,フィンの枚数や厚み,支持軸体とフィンの径の関 係,フィンの間隔とフィンの径の関係が大きく変われば,受ける美感は異なってく ると考えられる。 他方,乙12意匠等の公知意匠では,後端面(後端フィンの後面)から電源ケー ブルが引き出されており,そのために後端フィンや中間フィンの上側に貫通孔が設 けられ,又は後端フィンの中心部に孔が設けられていたところ,電源ケーブルの引 き出し位置がどこであるかは,検査用照明器具としての使用態様に関わることであ るから,後端フィン及び中間フィンについて,支持軸体の通過部分以外に貫通孔が なく,その各面が平滑である点は,本件意匠において,公知意匠にはない,需要者 の注意を惹く点であると認められる。
エ 要部の認定
以上によれば,公知意匠との関係や,需要者が着目しその注意を惹くという 観点から,前記基本的構成態様及び具体的構\成態様を総合し,以下の点を本件意匠 の要部とするのが相当である。 前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材である。 後方部材の中心には,検査用照明器具の前方部材の後端面より後方に 延伸する支持軸体が設けられている。 支持軸体には,薄い円柱状の中間フィン2枚及び後端フィン1枚が設 けられている。 後端フィンは,中間フィンよりも厚くなっている。 支持軸体の径は,フィンの径の5分の1程度である。 中間フィン及び後端フィンの径は,前方部材の最大径とほぼ同じであ る。 フィン相互の間隔は,フィンの径の8分の1程度である。 中間フィン及び後端フィンには,支持軸体の通過部分以外に貫通孔は なく,その各面は平滑である。
(4) 被告製品の構成態様\n
別紙「被告製品の図面」及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の構成態様は,\n別紙「裁判所認定の構成態様」の「イ号物件」ないし「ヘ号物件」欄記載のとおり\nと認められる(符号は原告の主張をベースにしているが,構成態様の内容は,原告\nも異論がないとしている別紙「被告主張の構成態様」の内容等も踏まえ,一部変更,\n付加した。)。なお,「共通」とあるのは,「本件意匠」欄記載の構成態様と同じ\n構成態様であるという意味である。\n
(5) 本件意匠とイ号物件ないしハ号物件の意匠との類否
ア 本件意匠の要部(前記(3) いし )と前記(4)で認定した被告製品 の構成態様とを対比すると,イ号物件ないしハ号物件については,中間フィンが3\n枚であること(同 参照),支持軸体の径がフィンの径の3分の1強であること(同 参照),フィン相互の間隔がフィンの径の約10分の1ないし約6分の1である こと(同 参照),イ号物件及びハ号物件については,後端フィンの後面中心にね って,その後面又は各面が平滑でないこと(同 参照)といった差異点があり,そ の余は共通点であると認められる。
イ まず,中間フィンの枚数,支持軸体とフィンの径の関係,フィンの間隔 とフィンの径の関係について,大きく相違すれば異なる美感を生じさせる場合があ ることは前述したところであるが,本件意匠とイ号物件ないしハ号物件の各意匠と の差異はわずかであり,格別異なる美感を生じさせるとまでは認められない。
ウ 本件意匠の要部(ク)については、イ号物件ないしハ号物件の中間フィンに 貫通孔はなく,その各面は平滑であるものの,後端フィンについては,ねじ穴又は 貫通孔があり,その後面又は両面が平滑でない点で相違する。 しかしながら,イ号物件及びハ号物件については,後端フィンの後面中心にねじ 穴が設けられているため,ねじ穴自体は支持軸体の中にあって,中間フィンに貫通 孔はなく,ロ号物件については,後端フィンの左右対称位置にねじ穴があって,後 端フィンは貫通しているものの,中間フィンに貫通孔は存しない(別紙「被告製品 の後端フィンの後面に設けられたねじ穴に関する意匠(構成態様)」参照)。\n需要者が検査用照明器具の商品としての特長を把握しようとする際には,正面, あるいは斜め前方,斜め後方から見て,発光部の構造,放熱部の構\造,両者の構造\n的関係を把握しようとすると考えられ,この場合,後端フィンのみならず中間フィ ンにも貫通孔のある乙12意匠のような製品であれば,容易に貫通孔の存在を認識 するのに対し,イ号物件ないしハ号物件の場合,正面,あるいは斜め前方から観察 した程度では,ねじ穴の存在を認識することはなく,後方から観察した場合に初め て後端フィンのねじ穴の存在を認識すると考えられ,ねじ穴があるという機能の違\nいを認識することはあっても,格別これを美感の違いとして認識することはないと 思われる。
エ アないしウを総合すると,本件意匠の要部である前記(3)エ(ア)ないし(ク) とイ号物件ないしハ号物件の構成態様とを対比すると,差異点は存するものの,い\nずれも細部といえる点であって,需要者に視覚を通じて起こさせる美感が異なると いえるような大きな差異点はなく,基本的な構造としてはむしろ共通点が多いから,\nイ号物件ないしハ号物件の意匠は,いずれもこれを全体として観察した場合,本件 意匠と共通の美感を生じさせるものであって,本件意匠に類似するということがで きる。
・・・

(3) 本件意匠の寄与度ないし推定覆滅事由
ア 被告は,本件意匠の被告製品の売上げ(利益)に対する貢献や寄与は低 く,その寄与率は0.2%にも満たないと主張し,推定覆滅事由の存在についても 主張している。これに対し,原告は本件意匠の寄与度は100%であると主張し, 被告の主張を争っている。
イ そこで本件意匠の寄与度ないし推定覆滅事由について検討する。 まず,本件意匠に係る物品は検査用照明器具で,本件意匠はその後方 部材の意匠であるところ,イ号物件ないしハ号物件全体の中で,上記後方部材に相 当する部分が占める割合は,正面視における面積比において,最大でも4割程度と 考えられる(乙18参照)。そして,各物件には,本件意匠に係る物品と同じく, 前方部材には光導出ポート等が設けられ,LED等が内蔵されていると考えられる から,イ号物件ないしハ号物件全体の製造原価の中で後方部材の製造原価が占める 割合は,かなり低いと考えられる。 また,既に検討したとおり,イ号物件ないしハ号物件の意匠と本件意 匠には種々の共通点がみられるものの,これらの共通点に係る構成態様は,検査用\n照明器具の物品分野の意匠において,本件意匠の意匠登録出願前に広く知られた形 態であり,本件意匠の要部とはされない部分も多い。したがって,イ号物件ないし ハ号物件が部分意匠である本件意匠に類似するとしても,これが需要者の購買動機 に結びつく度合いは低いといわざるを得ない。 原告は,本件意匠の実施品とされる「第2世代HLVシリーズ」の製 品の販売開始に当たって,「従来品に比べ2倍以上明るい」こと,「従来より均一 度3倍アップ,明るさも26%アップした」ことを強調し,その特徴として,「低 消費電力・低発熱で環境にやさしい」ことや,「長寿命でメンテナンスコストを削 減」したこと,「軽量・小型設計で場所を取らず省スペース」であることなど,製 品自体の性能や機能\等を強調する一方で,本件意匠には言及すらしていない(甲1 5,16)。また,原告は同製品が掲載されたカタログにおいて,高輝度スポット 照明に関し,電源ケーブルを検査用照明器具の側周面から引き出した図面を掲載し つつも,その宣伝文句として,「明るさと均一度をアップした」ことや,「軽量・ コンパクト設計,しかも低消費電力で長寿命」であることを記載するとともに,製 品の説明において,「高コントラスト撮影が可能」,「従来比2倍の光量アップを\n実現」などと,製品自体の性能や機能\等を強調しており(甲8,乙6),甲17の 製品のカタログにおいても同様であった(甲17)。 被告も,製品のカタログにおいて,「鏡面ワークに最適 軽量・コンパクト」と いうことや,「パッケージ・液体・印字などの透過検査に最適」であることを強調 しており(甲5),乙23添付の他のカタログにおいても同様である(乙23)。 以上によれば,検査用照明器具の需要者は,検査を必要とする製造業者等である ことから,イ号物件ないしハ号物件を購入するに当たり,主に検査用照明器具それ 自体の性能や機能\等に着目すると認められ,本件意匠との類似性が購買の動機とな る程度は高くないといわざるを得ない。

◆判決本文

下記に、問題の意匠が掲載されています。

◆物件目録

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平成29(ワ)1129 意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 平成30年9月21日  東京地方裁判所

 高気圧酸素補給カプセルに関する意匠権侵害について、非類似であると判断されました。判決文中に両意匠が掲載されてます。
 以上のとおり,高気圧酸素補給カプセルにおいて,その全体形状が胴 部及び側部からなる円筒状をしていること(構成A),胴部の長手方向\nに正面視左端側から略中央まで及び,周方向に略中央からから上端を超 えた位置に及ぶ横長隅丸矩形状の開口部を設けること(構成B),胴部\nの内周側壁側に開口部の長手方向にスライドするスライド式ドアを設 けること(構成C)は,いずれも先行意匠にみられるものであるところ,\nその構成態様はその機能\や使用方法に基づくありふれた態様であり,取 引者,需要者の注意を惹く程度はそれほど大きくないということができ る。
d これに対し,原告は,本件意匠の基本構成態様を個別に開示する公知\nIV意匠が存在していたとしても,本件意匠における胴部における開口部の 配置及び位置並びにドアの構成の組合せを開示する公知意匠は存在し\nないと主張する。 しかし,上記各構成は先行意匠に普通に見られるありふれた態様であ\nり,取引者,需要者の注意を強く惹くものであるとはいえないことは前 記判示のとおりであり,同各構成を組み合わせることにより,取引者,\n需要者に強い印象を与えるような構成となるということもできない。\n また,原告は,上記各先行意匠は本件意匠に係る物品とはその性質を 異にするので,本件意匠の美感を検討するに当たりこれらの意匠を参照 することは相当ではないと主張する。 しかし,上記各先行意匠に係る物品は,いずれも酸素や大気等を充填 させた空間を有し,利用者が同装置内に入り横たわるなどした状態で充 填された酸素や大気等の補給を受ける点で本件意匠に係る物品と用途 及び機能を共通にするものであるから,本件意匠と被告各意匠の類否の\n検討に当たり,これらの意匠を参照することを妨げる理由はないという べきである。
e したがって,構成A〜Cは,基本的構\成態様を構成するものではある\nが,これらの構成が要部であるということはできない。
(イ)a 他方,本件意匠は,前記のとおり,側部がいずれも部分球形状であり, 透明で内部のベッドを覗き見ることを可能にする構\成態様(構成b),\nドアは透明な胴部の円弧に沿う形状であり,閉めた状態でも内部のベッ ドを覗き見ることを可能にする構\成態様(構成c)を備えている。\n この点について,本件公報(甲3)の【意匠の説明】には,以下のと おりの記載がある。 「カプセル両端の部分球形状に突出した部分は透明であり,内部のベ ッドを覗き見ることができる。カプセルの胴部分の出入口に設置されて IVいるドアは透明であり,閉めた状態でも内部のベッドを覗き見ることが できる。ドアを閉じた状態の参考斜視図及びドアを途中まで開けた状態 の参考斜視図において,透明部分には円弧状の平行斜線を施している。」 上記のとおり,本件公報の【意匠の説明】には,カプセル両端の部分 及びドアが透明であり,内部のベッドを覗き見ることができる構成とな\nっていることが強調され,胴部における開口部の配置及び位置やドアの 構成との組合せについての記載は存在しない。そして,上記各参考斜視\n図には,透明な側部部材及びドアの構成態様とともに,これらの透明な\n部分越しに見ることのできる高気圧酸素補給カプセル内部のベッドや 補強リブの構成態様などが示され,透明部分を設けることによって,物\n品外部の構成要素と物品内部の構\成要素が一体となって,本件意匠全体 の美感を形成している様子が示されている。
本件意匠のこのような特徴,特に,胴部のドア部分にとどまらずドア より大きな部分球形状の側部全体が透明となっているという構成態様\nにより,利用者は,外部から同物品を見る場合にはこれらの透明な部分 を通じて内部のベッドや補強リブなどを目にすることのできるととも に,内部に横たわった場合は,同部分を通じて内部の構成要素に加えて\n外部の景観を目にすることができる。かかる特徴を備えることにより, 本件意匠は,透明な部分がない又は少ない同種物品と比較して,利用者 を含む取引者,需要者に対し,開放感があって明るく広々した印象を与 えるとともに,物品外部の構成要素と物品内部の構\成要素の形状が一体 となって本件意匠全体の美感を形成する点において看者に強い印象を 与えると考えられる。
b これに対し,原告は,側部が透明であることは,意匠を構成する形状を\n補足的に特定する素材を示すにすぎないと主張する。 しかし,本件意匠に係る物品の側部が透明であることは,単に意匠を構\n成する素材を特定するにとどまるものではなく,その美感に大きな影響を 与えることは前記判示のとおりである。
また,原告は,筐体の一部を透明,半透明,不透明に変更する程度のこ とは一般的に行われており,本件意匠の透明の側部を半透明,不透明に変 更したとしても,美感に大きな影響を与えないと主張する。 しかし,上記先行意匠においても,胴部のドアを透明にした上で,更に 側部全体を透明にしているものは存在しないので,酸素カプセル等の側部 及び胴部のドアを透明にすることが一般的でありふれたものであるとい うことはできない。そして,側部及びドアを透明にすることにより,外部 の構成と内部の構\成が一体となって本件意匠の美感を形成し,また,本件 意匠に係る物品が明るく開放的な印象を与えることは,前記判示のとおり である。
c したがって,本件意匠の要部は,物品の側部全体及びドアが透明であり, 内部のベッド等を覗き見ることができる構成(構\成b,c)にあるという べきである。
イ 本件意匠と被告各意匠の類否
被告各意匠の基本的構成態様及び具体的構\成態様は前記のとおりである ところ,本件意匠と被告各意匠は,その要部において構成態様が相違するこ\nとは明らかである。これにより,被告各意匠においては,取引者,需要者が 本件意匠のような開放感があって明るく広々とした印象を受けることはな く,また物品外部の構成要素と物品内部の構\成要素が一体となって本件意匠 全体の美感を形成することもない。このように,本件意匠と被告各意匠とは その美感が大きく異なるものである。 したがって,本件意匠と被告各意匠がその構成態様において類似している\nということはできない。

◆判決本文

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平成28(ワ)9003  意匠権等侵害差止等請求事件  平成30年9月7日  東京地方裁判所

 意匠権侵害および不競法の商品形態模倣かが争われました。裁判所(40部)は、前者については無効、後者については商品の形態は実質的に同一ではないと判断しました。
 原告は,原告商品の形態と被告商品の形態との間の他の共通点(形態 IV(ア),(オ)及び(コ))も創作的であると主張するが,これらの共通点に係る 形態は,女性用コートとして一般的なものであり,特に特徴的なもので あるということはできない。 また,原告商品と被告商品は,いずれもビジューの付いた装身具が設 けられ,その装着位置,形状において共通すると認められるが,女性用 コートにおいてビジューの付いた装身具を設けること自体が特徴的であ るということはできず,また,原告商品のビジューブローチは取り外し 可能であるのに対し,被告商品のビジューボタンがコートに縫い付けら\nれているという相違点も存在するので,この点をもって原告商品と被告 商品が実質的に同一であるということもできない。 以上によれば,原告商品と被告商品との間の上記各共通点をもって両 商品の実質的に同一であるということはできないというべきである。
ウ 原告商品と被告商品の相違点は,上記(3)イ記載のとおりであると認め られるが,このうち,ポケットは,原告商品においては,コート胴部の 両側に水平状に形成され,略横長長方形状のフラップが取り付けられて おり,コート前面において需要者の目を引くアクセントとなっていると いうことができる。 これに対し,被告商品においては縦の切替え線に沿って布部材がコー ト本体に縫い付けられ,フラップが形成されていないので,ポケットは それほど目立たず,コート前面は比較的シンプルで縦に流れる線が需要 者の目を惹く態様となっているということができる。 以上によれば,原告商品と被告商品の前面については,ポケットの形 状の差異により,需要者が受ける印象が相当程度異なるというべきであ る。
エ また,原告商品と被告商品とは,背面における飾りベルトの有無が相 違することは,前記のとおりである。 原告商品における飾りベルトは,腰部に水平方向に設けられ,その幅 も太い上,原告商品の背面には同ベルトに匹敵する目立つ構成部分は存\n在しないことから,当該飾りベルトは,コート背面において特に需要者 の注目を惹くものであるということができる。そして,この点において は,原告自身も,そのウェブサイトにおいて,「バックスタイルのベル トがポイント!!」(乙6),「バックウエストには飾りベルトを効か せて,後ろ姿にもメリハリをプラス」(甲7の2)などと強調しており, このことは,原告自身も飾りベルトが原告商品のデザイン上の特徴点で あるとの認識を有していたことを示している。 これに対し,被告商品では,飾りベルトが設けられておらず,切替え 線が設けられているにとどまることから,その背面は比較的シンプルで 目立つ構成部分が存在せず,すっきりした印象を与えるということがで\nきる。
以上によると,原告商品は,その胴部のほぼ同じ高さに飾りベルトと ポケットが取り付けられていることから,コートの正面視,側面視,背 面視ともに,横方向に流れる強い印象を与える構成が需要者の目を惹く\nのに対し,被告商品は,その前面及び背面ともに需要者の目を惹く態様 の構成が設けられていないため,全体としてシンプルな印象であり,身\n体のラインに沿った縦の線が需要者の目を惹く態様となっているという ことができる。このため,原告商品と被告商品は,コートの正面視,側 面視,背面視ともに,需要者に異なる印象を与えるというべきである。
オ 原告商品と被告商品のフードとを対比すると,原告商品に取り付けら れたフードは,背面視においてその横幅が肩口に及ばず,側面視におい て膨らみの少ないものであるのに対し,被告商品に取り付けられたフー ドは,背面視においてその横幅がが肩口まで及び,側面視において膨らみ の多い大きさである点で異なると認められる。このようなフードの大き IVさや形状の差違は,コート背面における美感に影響を与えるものであり, 飾りベルトの有無やフードとコート本体の色合いの違い(形態(サ))もあ いまって,需要者に背面におけるデザインが異なるとの印象を与えるも のであるということができる。
カ 以上のとおり,原告商品と被告商品との形態の相違点は,需要者の注 目を集める形態についての差違であり,その美感に対して異なる印象を 与えるものであるから,両者を実質的に同一の形態ということはできな い。
(5) 原告の主張について
これに対し,原告は,被告商品のポケットやベルト等の形態は,女性用 コートとしてありふれたものにすぎず,原告商品の形態をこれに置き換え ることは極めて容易である上,その相違点は,部分的かつ些細なものであ り,全体の形態に影響を与えないと主張する。 しかし,被告商品のポケットやベルト等の形態が特に特徴的なものでな く,置換が容易であるとしても,被告商品において飾りベルトやポケット の形状が需要者の目を惹き,コート全体の美感に影響を及ぼすものである ことは前記判示のとおりであり,その相違点が部分的かつ些細なものであ るということはできない。 また,原告は,平成28年から平成29年にかけて雑誌に掲載された女 性用コートの説明文から着目点を抽出したところ,ベルトやポケット等に 注目した記載は非常に少ないとの結果を得たと主張する。 しかし,上記の結果においてもポケットやベルトが着目点として一定程 度挙げられているように,女性用コートのポケットやベルトはコートの胴 部という目につき易いところに配置され,そのデザインも多様であること から,需要者がコートを選択する際の着目点となることは否定し難い。ま た,商品の形態が実質的に同一かどうかは,事案ごとに個別的に判断すべ IVきところ,本件においては,被告商品における飾りベルトやポケットの形 状が需要者の目を惹き,コート全体の美感に影響を及ぼすものであること は前記判示のとおりである。

◆判決本文

前者の関連事件はこちらです。

◆平成29(行ケ)10234

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平成28(ワ)6539  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 平成30年10月18日  大阪地方裁判所

 ゴミ箱について、意匠権侵害、著作権侵害、不競法違反、不法行為などを主張しました。裁判所は、意匠権侵害については認め(被告自認)、差止・損害賠償を認めました。ただ、その他に請求は棄却しました。
 被告ごみ箱の意匠は本件意匠に類似する(争いがない)から,被告ごみ箱を販売 する行為については,本件意匠権を侵害する行為である。
・・・
被告ごみ箱の形態が原告ごみ箱のそれと実質的に同一であり(争いがない),こ の形態同一性は依拠の事実も推認させるところ,この推認を覆す事情は認められな いから,被告ごみ箱は原告ごみ箱の形態を模倣した商品であると認められる。した がって,被告が平成27年1月31日までに被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ 箱販売1)については,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に当たる。 他方,被告が同年2月1日以降に被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ箱販売2及 び3)については,原告ごみ箱が最初に販売された日から3年が経過しており,同 号所定の不正競争行為に当たらない(同法19条1項5号イ)。
上記(1)イのとおり,被告が平成27年2月1日から同年6月14日まで の間に被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ箱販売2)については,不正競争行為 に当たらないし,本件意匠権侵害について過失があったとは認められないところ, 原告は,被告ごみ箱販売2については公正な自由競争秩序を著しく害するものであ るから,一般不法行為を構成すると主張する。\nしかし,現行法上,創作されたデザインの利用に関しては,著作権法, 意匠法及び不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律がその排他的な使用権等の 及ぶ範囲,限界を明確にしていることに鑑みると,創作されたデザインの利用行為 は,各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護され た利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではない\nと解するのが相当である。 したがって,原告の主張が,被告が原告ごみ箱の商品形態を模倣した被告ごみ箱 を販売したことが不法行為を構成するという趣旨であれば,不正競争防止法で保護\nされた利益と同様の保護利益が侵害された旨を主張しているにすぎないから,採用 することはできない。
ウ また,これと異なり,原告の主張が,被告が被告ごみ箱を販売すること によって原告の原告ごみ箱に係る営業が妨害され,その営業上の利益が侵害された という趣旨であれば,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の 利用による利益とは異なる法的に保護された利益を主張するものであるということ ができる。しかし,我が国では憲法上営業の自由が保障され,各人が自由競争原理 の下で営業活動を行うことが保障されていることからすると,他人の営業上の行為 によって自己の営業上の利益が害されたことをもって,直ちに不法行為上違法と評 価するのは相当ではなく,他人の行為が,殊更に相手方に損害を与えることのみを 目的としてなされた場合のように,自由競争の範囲を逸脱し,営業の自由を濫用し たものといえるような特段の事情が認められる場合に限り,違法性を有するとして 不法行為の成立が認められると解するのが相当である。 そして,本件では,原告の主張を前提としても上記特段の事情があるとは認めら れない。
・・・
被告は,上記(1)アのとおり,平成27年10月8日頃,原告から,被告ごみ箱を 輸入,販売する行為が本件意匠権を侵害するとの指摘を受けたことから,同月22 日付けで,被告に対し,被告ごみ箱を販売する行為は本件意匠権を侵害する可能性\nがあると判断して直ちに販売を中止した旨回答した(甲5)だけでなく,現に販売 を中止し,本件訴訟においても被告ごみ箱を販売する行為が本件意匠権を侵害する ことになることを争っていない(弁論の全趣旨)。したがって,被告がさらに被告 ごみ箱を輸入するおそれは認められず,また,被告は中国の業者から被告ごみ箱を 輸入して販売しているにすぎない(乙19)から,被告ごみ箱を自ら製造するおそ れも認められない。 しかし,被告は,被告ごみ箱を平成26年7月に合計3024個輸入し(乙1 6),それを平成27年10月22日の販売中止までに合計774個販売した(乙 10)と認められるから,多数の在庫を保有していると推認されるところ,被告が それら在庫を廃棄したことをうかがわせる証拠はない。そうすると,被告は,現在 も被告ごみ箱の在庫を保有していると考えざるを得ず,そうである以上,被告が被 告ごみ箱を販売するおそれを否定することはできない。したがって,被告ごみ箱の 差止請求については,その販売及び広告宣伝の差止めを求める限度で理由がある。
・・・
a 被告の過失ある本件意匠権侵害行為の期間は,被告ごみ箱販売1に 係る平成27年6月15日から同年10月21日までと認められるところ,被告ご み箱の単位数量当たりの仕入原価が205.543円であることは当事者間に争い がなく,この期間の被告による被告ごみ箱の合計販売数量は前記のとおり666個 と認められる。そして,被告がこの期間に被告ごみ箱を666個販売して得た売上 高が16万0380円であること(乙11)に照らせば,被告ごみ箱の販売の単位 数量当たりの売上高は240.811円(小数点第4位以下四捨五入)である。した がって,被告が被告ごみ箱を666個販売して得た利益は,2万3488円(1円 未満四捨五入)であると認められる。
(240.811−205.543)×666≒23,488
そうすると,2万3488円が意匠権者である原告の受けた損害の額と推定され るところ,上記推定を覆滅する事由に関する主張,立証はないから,原告の損害額 は,2万3488円であると認められる。
b これに対し,原告は,被告の平成27年7月及び同年10月におけ るインテリア計画メガマックス千葉NT店に対する販売については,販売額が仕入 原価を下回っており,独占禁止法第2条第9項に基づく不公正な取引方法第6項に 規定する不当廉売に当たるから,被告ごみ箱の販売の単位数量当たりの売上高を算 定するに当たっては,上記販売における売上額に基づくべきではなく,平成26年 8月における販売の売上額に基づくべきである(これに従えば,単位数量当たりの 売上高は540円となる。)と主張する。 しかし,販売額が仕入原価を下回るからといって直ちに独占禁止法が禁止する不 当廉売に当たるわけではない上,意匠法39条2項は,侵害者が実際に得た利益の 額をもって意匠権者の損害の額と推定する規定であるから,侵害者が原価以下で販 売した場合でも,それが実質的に見て侵害物の廃棄処分と同視し得るといった事情 のない限り,実際の販売額に基づいて侵害者の利益を算定すべきものである(意匠 権者がそれにとどまらない損害額の賠償を求めるためには,同条1項による損害額 を主張立証する道が用意されている。)。そして,上記で原告が指摘するインテリ ア計画メガマックス千葉NT店に対する販売のうち平成27年7月のものについて は,被告が原告から通知書(甲4)を受領する前の時期であるから,通常の取引行 為によるものと見るべきであり,その販売単価と同年10月の販売単価は同額であ る(甲10)から,それらの販売を実質的に見て侵害物の廃棄処分と同視すること はできない。 また,原告が被告ごみ箱の販売の単位数量当たりの売上高を算定するに当たって 基礎とすべきであるという平成26年10月における被告の販売(被告ごみ箱販売 1における販売)については,上記(1)イのとおり,被告が不法行為(本件意匠権侵 害)に基づく損害賠償責任を負うものではない。

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平成29(行ケ)10234  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 平成30年7月19日  知的財産高等裁判所

 審査段階で、新規性喪失の例外の主張をしました。しかし、公知にした意匠と証明書の意匠が異なるとして、例外適用が受けられませんでした。これを不服として審決取消を求めましたが、裁判所も同一とは認められないと判断しました。
 原告は,本件証明書に記載されている公開意匠(Arpege story「5wayコクーンコート」の意匠)と引用意匠は実質的同一の意匠であると主張しているので,要するに,原告が特許庁長官に提出した本件証明書(甲2の1)が引用意匠についての意匠法4条3項所定の証明書に当たる旨を主張しているものと解される。
よって検討するに,本件証明書に記載された公開意匠は,本件審決の「別 紙第3」のとおりであって,「5wayコクーンコート」なる商品名の女性 用コート(原告商品)であること,その販売価格は5万6160円であるこ と,同コートには,フードと袖口のファーとブローチが付いていること,こ れらのフードと袖口のファーとブローチはいずれも取り外しが可能であるこ\nと,袖口のファーはネック(コートの襟)に装着可能であることが,その記\n載内容から理解できる。もっとも,フードにファーが付くことや,フードの ファーが取り外し可能であることについては,本件証明書に一切記載されて\nおらず(これを示す写真も説明文もない。),本件証明書の記載から直ちに そのことを理解するのは困難である(甲2の1,乙12)。
他方,引用意匠は,本件審決の「別紙第2」のとおりであって,「【Ar pege story限定】コクーンコート」なる商品名の女性用コート(原 告商品)であること,その販売価格は6万3720円であること,同コート は,フードと袖口のファーとブローチのほか,フードのファーも付いている こと,これらのフードと袖口のファーとブローチとフードのファーはいずれ も取り外しが可能であること,袖口のファーはネック(コートの襟)に装着\n可能であることが,引用意匠に係る原告のウェブサイト(甲61,乙10の\n1及び2)の記載から理解できる。また,同ウェブサイトには,「ファー, フード,ビジューはそれぞれ取り外しが可能なので,自由に印象を変えて,\nアレンジを楽しめるのも大きな魅力!」,「”限定ポイント”アプの大人気 5WAYコートに袖とフードの両方にファーをつけました。」なる記載も認 められる。 以上によれば,公開意匠に係る商品も,引用意匠に係る商品も,共に「5 wayコクーンコート」なる商品名の女性用コート(原告商品)であって, フードと袖口のファーとブローチが付いている点,これらのフードと袖口の ファーとブローチはいずれも取り外しが可能である点及び袖口のファーはネ\nック(コートの襟)に装着可能である点で共通するが,引用意匠に係る商品\nは公開意匠に係る商品の限定品であって,袖口のほかにフードにもファーが 付いており,かかるフードのファーも袖口のファーと同様に取り外しが可能\nである点において,公開意匠にはない特徴を有するものと認められる。
(4) 上記のとおり,引用意匠は,フードにファーが付く点及びフードのファー が取り外し可能である点において公開意匠と明らかに相違すると認められる\nところ,かかる変化の態様が,本件証明書において説明ないし図示されてい なかったとしても,物品の性質や機能に照らして十\分理解することができる 範囲内のものであると認められれば,なお,引用意匠は公開意匠と実質的に みて同一であると評価する余地がある。 しかしながら,フードやファー,ベルト,ブローチなどを取り外して複数 の組合せを楽しむことができる女性用コートであれば,説明や図示がなくて も,通常はフードにファーが付くことや,当該フードのファーが取り外し可 能である,ということを十\分理解できると認めるに足る証拠はなく,商品名 に「5way」なる文言が付されていることも直ちにその認定を左右するも のとは認められない(アパレル業界,少なくともコートの業界において,「5 way」なる文言が多義的な意味で用いられていることは,被告提出の証拠 〔乙24ないし27等〕によっても明らかであるし,これらの証拠によれば, むしろ,変化の態様が公開意匠に近いものであっても,フードにファーが付 かないタイプのコートが現に存在することが認められる。)。 また,女性用コートの意匠において,フードにファーが付くことそれ自体 はありふれた構成の一つにすぎなかったとしても,現にフードにファーが付\nくか否かによって,その意匠から受ける需要者の印象が異なり得ることは明 らかというべきであるし,このことは原告自身も認めているところである(原 告は,原告準備書面(2)の3頁において,「通常,ファーはエレガント感を強 めるので,フードのファー,袖のファーの取付け,取り外しが簡単にできる ようにして,カジュアル感がなくならないように配慮したものである。」と 主張しており,これによれば,原告は,ファーの有無がエレガント感やカジ ュアル感の強弱に影響を与える意匠的特徴の一つであることを自ら認めてい るといえる。)。 そうすると,引用意匠及び公開意匠が,共にいわゆる動的意匠であって変 化の態様を有することを踏まえたとしても,フードにファーが付く点及びフ ードのファーが取り外し可能である点が物品の機能\や性質に照らして十分理\n解することができる範囲内のものであると評価することはできず,この点の 相違は実質的な相違に当たると認めるのが相当である。
(5) 以上によれば,引用意匠が本件証明書に記載されている公開意匠と実質的 に同一の意匠であるとは認められず,したがって,原告が特許庁長官に提出 した本件証明書(甲2の1)が引用意匠についてのものであると認めること はできない。 してみると,引用意匠については,そもそも,意匠法4条3項所定の証明 書が提出されていないことに帰するから,原告は引用意匠について同条2項 の適用を受ける余地はない。

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平成14年(ワ)8765号 意匠権  民事訴訟 平成16年3月22日  東京地方裁判所

 古い事件ですが、研修で取り上げられていたのでアップします。東京地裁は、類似と判断しました。なお、高裁では先使用権が認められて非侵害となりました。
(1)ア(ア)本件登録意匠の意匠に係る物品は輸液バッグであり、側面視にお いて、全体が薄型の形状をしているから、通常、看者の目に多く触れるのは、正面 及び背面であると認められる。そして、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の 境界部は、正面及び背面のほぼ中央にあり、また、輸液バッグの使用時には、同境 界部の弱シール部を連通させて使用することから、同境界部付近は、看者の注意を 引く位置にあるものと認められる。
  (イ)同境界部付近の構成をみると、その基本的構\成は、同境界部の中 央に帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部よ り幅の広い強シール部が形成されている(基本的構成態様(5))というものである。 そして、その具体的構成は、製剤収納部の下端左右コーナー部の外側のシール部\nは、弱シール部より幅が広く、弱シール部の左右両側の強シール部の上半分を形成 しており(具体的構成態様(11))、溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部のシー ル部は、弱シール部より幅が広く、弱シール部の左右両側の強シール部の下半分を 形成している(具体的構成態様(18))というものである。 このような同境界部付近の構成において、同境界部の中央に帯状の弱\nシール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部より幅の広い強 シール部が形成されているという基本的構成態様(5)は、同境界部付近の構成の骨格\nを特徴づけており、看者の注意を引くものと認められる。
  (ウ)基本的構成態様(5)は、その全体の構成が、本件登録意匠の意匠公\n報の必要図中、背面図にのみ表れている。しかし、本件登録意匠に係る輸液バッグ\nは、前記のとおり、側面視において全体が薄型の形状をしているから、正面と背面 が、通常、看者の目に触れるものと認められ、また、イ号意匠において、溶解液収 納側の袋体の目盛り及び数字が背面側のみに記載されていることも合わせ考える と、本件登録意匠及びイ号意匠に係る輸液バッグにおいては、アルミカバーシート が付された正面のみならず、背面も、看者の目に多く触れることが認められる。し たがって、基本的構成態様(5)の全体の構成が必要図中の背面図にしか表\れていない としても、それによって、基本的構成態様(5)を要部と認定することが妨げられるこ とはないというべきである。なお、本件登録意匠の意匠公報の【アルミラミネート シートをはがした状態の参考正面図】においては、アルミラミネートシートをはが した状態で、正面にも基本的構成態様(5)の構成が表\れることが示されている。もと より、登録意匠の権利範囲を確定する上で、参考図はあくまでも参考にとどまる が、同参考図によれば、基本的構成態様(5)が、本件登録意匠の構成中において、少\nなくとも無視されるべき構成でないことは認められるといえる。\n イ 本件登録意匠の出願前の公知意匠と比較すると、基本的構成態様(5)は、 出願前の公知意匠である甲第12ないし第16号証(オーツカCEZ注−MCのパ ンフレット)、第24号証(特許第3060132号公報)、第25号証(特許第 3060133号公報)、甲第33号証(「カルバペネム系抗生物質メロペネム (メロペン)キット製剤の有用性に関する実験的研究」新薬と臨床Vol.47 No.6)、第46号証(「ホスホマイシンナトリウムダブルバッグ製剤(溶解液付き 固形注射剤)の有用性に関する実験的研究」新薬と臨床Vol.47No.2)、乙第1号 証(意匠登録第1016887号公報)、第3号証(甲第12号証と同一)、第4 号証(「溶解液付き注射用固形抗生物質キット製剤のキット有用性に関する実験的 研究」日本包装学会誌Vol.4No.1)、第37、第38号証(味の素ファルマ株式会 社ピーエヌツインのパンフレット)、第39号証(本件登録意匠の出願前に発行さ れた公開特許公報に記載されたダブルバッグタイプの輸液バッグの図面)、第44 号証(特開2000−72925号公開特許公報)、第45号証(特開平7−15 5361号公開特許公報)、第46号証(特開平5−68702号公開特許公報) 各記載の輸液バッグには見られず、本件登録意匠の創作的な部分であると認められ る。
ウ 本件登録意匠の関連意匠である意匠登録第1107512号(甲第42 号証の1、2)、意匠登録第1108821号(甲第43号証の1、2)、意匠登 録第1108822号(甲第44号証の1、2)、意匠登録第1108823号 (甲第35号証の1、2)、意匠登録第1108824号(甲第45号証の1、 2)の各登録意匠には、いずれも基本的構成態様(5)が見られる。
エ 以上によれば、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の中央 に帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部より 幅の広い強シール部が形成されているという基本的構成態様(5)は、本件登録意匠の 中で需要者の注意を最も引きやすい意匠の要部に該当するというべきである。
(2)ア(ア) 原告は、ダブルバッグタイプの輸液バッグにおいて、アルミカ バーシートの視認性が重要であり、上方の製剤収納袋の吊下部を残して全面を覆 う、貼着部のシール線が表\れていない方形状のアルミカバーシートの周辺部のいず れかに、一つの小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片を設けた点 が本件意匠の要部であると主張する。
   (イ) しかし、本件登録意匠のアルミカバーシートに貼着部のシール\n線が表れていない点は、それ自体、外観上、目立つところではない。また、製剤収\n納側の袋体の吊下部を残して全面を覆うアルミカバーシートは、原告公知意匠に見 られ、そのアルミカバーシートには、貼着部のシール線が表\れているが、そのシー ル線は、製剤収納側の袋体の縁に沿って幅狭に存在するにすぎず、それほど目立つ ものではないから、それとの対比からしても、本件登録意匠においてアルミカバー シートに貼着部のシール線が表\れていない点は、看者の注意を引くとは認められな い。 また、本件登録意匠のアルミカバーシートの周辺部に設けられた一つ の小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片は、その大きさ、形状に 鑑み、目立つものではなく、本件登録意匠の関連意匠5件の各正面図においても、 引き剥がし用突片は、位置は様々であるが、いずれもそれ程目立つものではないこ とを併せ考えると、本件登録意匠のアルミカバーシートの周辺部に設けられた引き 剥がし用突片は、看者の注意を引くとは認められない。 したがって、原告の主張に係る、上方の製剤収納袋の吊下部を残して 全面を覆う、貼着部のシール線が表\れていない方形状のアルミカバーシートの周辺 部のいずれかに、一つの小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片を 設けた点は、看者の注意を引くものではなく、本件登録意匠の要部であるとは認め られない。  

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平成23(ワ)247  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 平成24年6月29日  東京地方裁判所

 少し前の事件ですが、漏れていたのでアップします。ACアダプターについて意匠権侵害が認められました。類似すると認定されたものの、損害額としては、販売不可事情として90%の減額が認定されました。
前記ア認定のエーシーアダプタの性質,用途及び使用態様によれ ば,エーシーアダプタは,携帯用の周辺機器の充電に用いる実用品であ ると同時に,身の回りに置き,あるいは,外出時に携帯するなど,日常 生活において目に触れる機会の多い製品であるといえる。 そして,前記イの認定事実によれば,エーシーアダプタの意匠におい ては,本件登録意匠の構成態様に係る「箱状の本体の背面に折り畳み自\n在の差込みプラグを設け,底面に周辺機器に接続されるUSBコネクタ を設ける」構成(前記(1)ア(1)),「本体は,縦横の寸法が同一の正四 角形で扁平な箱状であり」(前記(1)ア(2)),「本体の全周囲は面取り がされている」構成及び「縦(横)の寸法の約0.15倍の長さを半径\nとする面取りをする」構成,「差込みプラグが本体の平面部(上面部)\nから背面部に設けられ,プラグのピンは背面の凹部に折り畳まれた状態 から,後方又は上方に起立させて使用され,プラグピンの支持部の外周 は弧状をなしている」構成(前記(1)ア(4)),本体の「正面下部にラン プを設ける」構成(前記(1)ア(5)),「USBコネクタは,底部に設け られている」構成(前記(1)ア(6))は,本件出願時にいずれも公知であ ったものといえる。
他方で,本件登録意匠の構成態様のうち,「本体の全周囲は,厚さ方\n向に厚さの約2分の1を半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四 角隅部は,正面視において,いずれも,厚さの約2分の1を半径とする 四半球状となっている」点(前記(1)ア(3))は,公知意匠には認められ ない構成態様であり,この構\成態様により,需要者に対し,本体全体が 丸みを帯びた柔らかな印象を与えると同時に,本体正面視の四角隅部が 四半球状となっていることにより整った印象も与えるものとなってお り,上記構成態様は,他の公知意匠にはみられない新規な創作部分であ\nるといえる。 すなわち,前記イ(イ)のとおり,乙3には,充電器に係る意匠におい て,縦横の寸法が同一の正四角形の箱状の本体において,「縦(横)の 寸法の約0.15倍の長さを半径とする面取りをしている」構成が示さ\nれているが,厚さが縦(横)寸法の約0.6倍であって,これは本件登 録意匠の2倍に当たり,縦(横)の長さと厚さとの比が異なり,さらに は厚さに対する面取り径の比が本件登録意匠よりも小さく,本件登録意 匠のような全周囲が厚さの約2分の1を半径とする半円弧状の面取り をしておらず,また,本体の四角隅部が,正面視において,いずれも, 厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっているものともいえず, 本件登録意匠のような本体全体が丸みを帯びた柔らかな印象を与える ものとはいえない。他に本件登録意匠の上記構成態様が本件出願前に公\n然知られた形状であったことを認めるに足りる証拠はない。 以上を総合考慮すると,本件登録意匠において,需要者の注意を引き やすい特徴的部分は,「本体の全周囲は,厚さ方向に厚さの約2分の1 を半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四角隅部は,正面視にお いて,いずれも,厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっている」 点を含む,本体部全体の形態であると認められる。
(イ) これに対し被告は,通常の販売・流通形態(店頭,ウェブサイト) では,需要者は,エーシーアダプタを正面又は正面やや斜めから見るの が普通であり,需要者としては正面の形態に最も注目するから,本件登 録意匠においては,携帯電話等の周辺機器との接続部分,本体の正面の 形状及びランプの位置の正面形態全体がひとまとまりとして要部とな り,特に接続部分が最重要の要部である旨主張する。 しかしながら,意匠の特徴的部分の把握に際しては,意匠に係る物品 の販売・流通時において視認し得る形状のみを前提にするのではなく, 意匠に係る物品の性質,用途,使用態様等も考慮すべきであるところ, 前記(ア)認定のとおり,エーシーアダプタは,需要者が実際に手にとっ て携帯用の周辺機器の充電に用いる実用品であると同時に,身の回りに 置き,あるいは,外出時に携帯するなどされるものであることからする と,需要者が本件登録意匠の正面の形態にのみ注目するとはいえない。 また,被告が主張する携帯電話等の周辺機器との接続部分,本体の正面 の形状及びランプの位置は,前記イのとおり,いずれも本件出願前に公 知の形状であることからすると,本件登録意匠においては,携帯電話等 の周辺機器との接続部分,本体の正面の形状及びランプの位置の正面形 態全体がひとまとまりとして需要者の注意を引きやすい特徴的部分(要 部)を形成しているとはいえないし,ましてや接続部分が最重要の要部 であるとはいえない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(3) 被告意匠の類似性
前記(2)ウ(ア)認定のとおり,本件登録意匠において,需要者の注意を引 きやすい特徴的部分は,「本体の全周囲は,厚さ方向に厚さの約2分の1を 半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四角隅部は,正面視において, いずれも,厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっている」点を含む, 本体部の形態全体である。
そこで,この特徴的部分を中心に本件登録意匠と被告意匠を対比した上 で,両意匠が全体的な美感を共通にするか否かについて判断するに,前記(1) ウ(ア)(1)ないし(6)認定のとおり,両意匠は,この特徴的部分において共通す るのみならず,それ以外の基本的構成態様及び具体的構\成態様の多くの部分 においても共通しており,需要者に対し,全体として共通の美感を生じさせ るものと認められる。 他方で,前記(1)ウ(イ)認定のとおり,両意匠には,(1)本件登録意匠では, 本体底面に周辺機器に接続されるUSBコネクタが設けられているが,被告 意匠では,周辺機器に接続されるコードが断線防止部材を介在して,本体内 部の回路に接続されている点,(2)本件登録意匠では,本体の正面の形状が平 坦であるが,被告意匠では,中央部で周縁部よりも厚さの約0.03倍(約 0.5mm)程度膨出している点,(3)本件登録意匠では,ランプの中心が本 体右側面と底面からそれぞれ約17mmの均等な位置にあるのに対し,被告 意匠では,ランプの中心が本体底面から約12mmで,かつ,本体右側面か ら約16mmの位置にあり,本件登録意匠に比べて底面に寄った位置に設け られている点において差異があるが,これらの差異点は,需要者の注意をひ きやすい部分とはいえない上,差異点から受ける印象は,両意匠の共通点か ら受ける印象を凌駕するものではない。 したがって,本件登録意匠と被告意匠は,上記差異点を考慮しても,需要 者の視覚を通じて起こさせる全体的な美感を共通にしているものと認めら れるから,被告意匠は,本件登録意匠に類似している。これに反する被告の主張は,採用することができない。
以上を前提に検討するに,被告製品は,Docomo,SoftBank等の携帯 電話用のエーシーアダプタであり,一方,原告製品は,USBコネク タ(USBポート)を有するエーシーアダプタであり,上記携帯電話 の充電に使用する際には,上記携帯電話の接続口に対応したUSBケ ーブルが別途必要とされるものである。 ところで,エーシーアダプタが,携帯用の周辺機器の充電に用いる 実用品であると同時に,身の回りに置き,あるいは,外出時に携帯す るなど,日常生活において目に触れる機会の多い製品であること(前 記1(2)ウ(ア))に照らすならば,需要者は,エーシーアダプタの選 択に当たっては,充電可能な製品の種類,その他の性能\,価格,大き さ,重さのほか,デザイン,色などの諸要素を考慮するものと考えら れる。 しかるところ,原告製品と被告製品は,いずれもDocomo,SoftBank 等の携帯電話の充電に利用することができ,寸法,出力も概ね同じで あり,また,重さは原告製品の方が軽いが,ケーブルの有無が異なる から,ほぼ同程度と評価することができる。 さらに,原告製品とDocomo,SoftBank等の携帯電話用の接続ケーブ ルを合わせた価格(1360円から1753円)と被告製品の価格(1 279円から1453円)は,同じ価格帯に属するといえる。 そして,原告製品の本体の独特の丸みを帯びた印象を与えるデザイ ンは,このようなデザインを好む需要者が原告製品を選択する動機付 けになるものといえる。 他方で,(1)Docomo,SoftBank等の携帯電話のみを充電することがで きればよいと考える需要者にあっては,価格面でより安価であり,ケ ーブルが一体であって使い勝手のよい,被告製品の代替品を選択する 可能性が高いこと,(2)被告製品は,本体と一体となった接続ケーブル が本体と同色であるのに対し(甲50,乙7の1,弁論の全趣旨), 原告製品の本体の色によっては,市販されている接続用のUSBケー ブルと同色とはならないことから,この点を美観上好まず原告製品を 選択しない可能性があることが認められる。
b 次に,被告製品には,ピンク,レッド,ホワイト,ブルー,ブラッ ク等の色のバリエーションがあり(甲41ないし45,乙7の1), 原告製品にも,ホワイト,ブラック,シアンブルー,ピンク,バイオ レットの色のバリエーションがある(甲34)。 しかるところ,被告製品を購入した者が記載したインターネットの ショッピングサイト上のレビュー(利用者の感想)においては,「と にかくピンクがかわいいです。」(甲41),「見た目は真っ赤でお しゃれです。」,「赤なら自分の充電器かどうかわかりやすいのでは ないかという点にひかれて購入し」(以上,甲42)との記載がある ように,色が購入動機になっていることがうかがわれる。
c 前記a及びbの認定事実を総合すると,仮に被告による被告製品の 販売がされなかった場合には,被告製品の購入者の多くは,Docomo, SoftBank等の携帯電話用の被告製品と同種の接続ケーブルが一体と なった代替品を選択した可能性が高いものと認められる。\n また,本件登録意匠と類似する被告意匠は,被告製品の購入動機の 形成に寄与していることが認められるものの,その購入動機の形成に は,被告意匠のほか,被告製品がDocomo,SoftBank等の携帯電話用の 専用品であることが大きく寄与し,被告製品の色彩等(本体と接続ケ ーブルが同一色である点を含む。)も相当程度寄与しているものとう かがわれるから,被告意匠の購入動機の形成に対する寄与は,一定の 割合にとどまるものと認められる。 以上によれば,原告製品と被告製品の形態の違い,被告製品と同種 の代替品の存在,被告製品の購入動機の形成に対する被告意匠の寄与 が一定の割合にとどまることは,被告製品の譲渡数量の一部に相当す る原告製品を原告において「販売することができないとする事 情」(意匠法39条1項ただし書)に該当するものと認められる。 そして,上記認定の諸点を総合考慮すると,意匠法39条1項ただ し書の規定により控除すべき上記「販売することができないとする事 情」に相当する数量は,被告製品の販売数量(前記ア)の9割と認め るのが相当である。
(オ) 被告の主張について
a 被告は,Docomo,SoftBankの携帯電話用のエーシーアダプタが必要 な需要者は,当該機器が充電できればよいから,被告製品のようなエ ーシーアダプタと接続ケーブルとが一体となっている製品を選択し, 仮に被告製品が販売されなかったとした場合には,被告製品と同種の 廉価の代替品を購入するはずであり,あえて,別途上記携帯電話用の USBケーブルを必要とする原告製品を選択することはないのに対 し,他方で,多種の周辺機器の充電に用いるエーシーアダプタが必要 な需要者は,原告製品を選択することになるから,原告製品と被告製 品とでは,そもそも購入対象者が異なり,明確に棲み分けがされてい る旨主張する。 しかしながら,前記(エ)aに説示したとおり,両製品に共通する需 要者は,原告製品の丸みを帯びたデザインを重視するなどして,原告 製品を購入する可能性があるものと認められるから,被告の上記主張\nは,採用することができない。
b 次に,被告は,被告製品は,主にインターネットのショッピングサ イトで販売され,一体に接続されているケーブルを含めた全体につい て,正面から撮影された写真が掲載されているのみであり,また,被 告製品は,ほとんどその正面形状しか見えない状態でパッケージに梱 包されており,その意匠が需要者の購入動機に寄与することはなく, むしろ,インターネットのショッピングサイトにおける被告製品のレ ビューに照らしても,被告製品の購入動機となっているのは,被告意 匠ではなく,色である旨主張する。 しかしながら,被告製品が主にインターネットのショッピングサイ トで販売されていることを認めるに足りる証拠はないのみならず,被 告製品の梱包の態様(甲5,検甲1)やインターネットのショッピン グサイトの表示の態様(甲43ないし45)に照らすならば,需要者\nは,被告製品を購入するに当たり,被告製品の丸みを帯びたデザイン を看取することができるものと認められ,その意匠が需要者の購入動 機に寄与することがないとはいえない。 また,原告製品のレビューにおいて,「デザインが個人的に好きで すね。丸みがあり,艶々しています。」,「丸みを帯びたデザイン, 他機種と比較してかなり質感が高いです。」(以上,甲46),「そ のデザインと小ささ,軽さに大変満足しています。」,「iPodにマッ チしたデザインも気に入っている。」(以上,甲47)との記載があ り,これらの記載は,原告製品において,デザイン(意匠)が購入動 機となっていることを示すものといえる。加えて,被告意匠と本件登 録意匠と類似していることに照らすならば,被告意匠においても,色 のみならず,デザイン(意匠)も購入動機に寄与しているものと認め られる。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
オ 小括
以上によれば,意匠法39条1項により算出される原告の損害額は,被 告製品の販売数量(前記ア)に単位数量当たりの原告製品の利益額(前記 ウ(ウ))を乗じて得られた額である722万9506円から,「販売する ことができないとする事情」に相当する数量(上記販売数量の9割)に応 じた額を控除した後の72万2950円となる。
(2) 弁護士費用
本件事案の性質,審理の経過等諸般の事情を総合考慮すると,被告による 本件意匠権の侵害行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用相当額の損 害は,20万円と認めるのが相当である。

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平成28(ワ)5104  不正競争行為差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 平成29年6月15日  大阪地方裁判所(21部)

 意匠権侵害に基づいて販売店への警告したところ、販売店が販売を中止しました。製造メーカが意匠権侵害に該当しないので、営業誹謗行為であるとして、不競法違反(2条1項15号)として意匠権者を提訴しました。大阪地裁は、原告の主張を認め、約55万円の損害賠償を認めました。
 ア 登録意匠と対比すべき相手方の意匠とが類似であるか否かの判断は,需要者 の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされてお り,意匠を全体として観察することを要するが,その際には,意匠に係る物品の性 質,用途及び使用態様,さらには公知意匠にはない新規な創作部分の存否その他の 事情を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として 把握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部において構成態様を共通にしている\nか否かを観察すべきものである。
イ 本件意匠の要部について検討すると,本件意匠に係る物品は,その物品の説 明によれば,柔軟性を有する合成樹脂製のシートであり,裏面を湿らせて手洗器付 トイレタンクのボウルに密着させて取り付け,ボウルの表面への埃,水垢等の付着\nを防止することができる使い捨てシートであると認められる。そして,これに別紙 意匠図面中の【使用状態を示す参考図】を参考にすると,その形状は,取り付ける 先の一般的な長方形の手洗器付トイレタンクのボウルの形状に規定されているもの ということができるから,取引者・需要者は,その規定された形状を前提として, 本件意匠につき,その形状がボウルの表面の埃,水垢等の付着し易い部分を十\分カ バーしているものであるか,その形状がボウルに密着して取り付け易いものである か,さらには取り付け易くなるよう工夫が施されるかなどの点に注目するものと考 えられる。 したがって,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分,すなわち要部は,基 本的構成態様ではなく,具体的構\成態様のうちでも,ボウルに装着した場合の使用 状態を決めることになる,本件意匠の外周の形状,すなわち「シート」の四隅の丸 みの半径の大きさの点や,ボウルの孔に対応する「シート」に設けられた貫通孔と 湾曲部の形状及びその位置関係などの点であると認められる。 この点,被告は,本件意匠の実施品は,手洗器付トイレタンクのボウルの表面へ\nの埃,水垢等の付着を防止するという課題を解決するアイデア商品であって,その 当時,市場に同種の用途,機能を有する物品はなかったことから,本件意匠はパイ\nオニア意匠であるとして,意匠に係る物品全体の形態,すなわち基本的構成態様そ\nのものが要部であるように主張する。 しかし,本件意匠の実施品が新品種の商品であって,その基本的構成態様が新規\nなものであったとしても,意匠に係る物品の説明に明らかなように,その物品の使 用目的から,取引者・需要者は,その基本的構成態様が,取り付ける先のボウルの\n形状に規定されているものにすぎないことは容易に理解できるところであるから, 本件意匠の基本的構成態様そのものをもって,最も注意を惹きやすい部分というこ\nとはできず,その点に要部があると認めることはできないから,被告の上記主張は 採用できない。
(3) 本件意匠と原告意匠の類否
以上により本件意匠と原告意匠の類否について検討すると,本件意匠と原告意匠 の共通点は,いずれも本件意匠の要部にかかわらないものであるといえる。 他方,シートの四隅の丸みの半径の大きさが異なること,本件意匠では貫通孔が 湾曲部と離間して設けられているのに対し,原告意匠では湾曲部の中央部と細いス リットによって接続されるように設けられているという具体的構成態様における差\n異点は,いずれも本件意匠の要部にかかわるものであり,とりわけ後者のスリット を設けられている点は,本件意匠に類似する要素はなく,シートをボウルに取り付 ける際に,シートをボウルの湾曲形状に密着させるための微調整を容易にさせる工 夫として取引者・需要者の注意を強く惹くものということができる。 そうすると,本件意匠が無模様であり原告意匠に模様が施されているという差異 点を捨象したとしても,両意匠を全体として観察した場合,看者に対して異なる美 感を起こさせるものと認められるから,原告意匠は本件意匠に類似していないとい うことができる。
(4) 利用関係について
被告は,原告意匠は本件意匠と利用関係にあり,原告商品の販売等は本件意匠権 を侵害するものと主張する。 しかし,上記(3)に説示したとおり,原告意匠は,要部に係る具体的構成態様にお\nいて本件意匠と大きく異なる構成となっており,それによって全体として本件意匠\nとは異なる美感を起こさせているものであるから,原告意匠が本件意匠に係る構成\n態様全てをその特徴を破壊することなく包含しているとは認められない。 したがって,原告意匠は本件意匠と利用関係にあるとして,利用による侵害をい う被告の主張は失当である。
・・・・
なお被告は,知 的財産権の権利行使の一環として行われた侵害警告を不正競争とすることが,知的 財産権の権利行使を委縮させかねない点も指摘するが,侵害警告の段階に留まるの であれば,これを知的財産権に基づく訴訟提起と同様に扱うことはできないし,ま た他方で,客観的には権利行使とはいえない侵害警告により営業上の信用を害され た競業者の事後的救済の観点も十分に考慮されるべきである。\nしたがって,被告の上記主張を採用することはできず,このような知的財産権の 権利行使の一環であったとの主観的事情を含む被告が違法性阻却事由として主張す る事実関係については,不正競争であることを肯定した上で,指摘に係る権利行使 を委縮させるおそれに留意しつつ,そもそもの知的財産権侵害事案における侵害判 断の困難性という点も考慮に入れて,同法4条所定の過失の判断に解消できる限度 で考慮されるべきである。
・・・・
(2) 知的財産権を有する者が,侵害行為を発見した場合に,その侵害行為の差止 を求めて侵害警告をすることは,基本的に正当な権利行使であり,その侵害者が侵 害品を製造者から仕入れて販売するだけの第2次侵害者の場合であっても同様であ る。しかし,侵害品を事業として自ら製造する第1次侵害者と異なり,これを仕入 れて販売するだけの第2次侵害者は,当該侵害品の販売を中止することによる事業 に及ぼす影響が大きくなければ,侵害警告を不当なものと考えても,紛争回避のた めに当該侵害品の仕入れをとりあえず中止する対応を採ることもあり,その場合, 侵害警告が誤りであっても,第1次侵害者に対する販売の差止めが実現されたと同 じ結果が生じてしまうから,こと第2次侵害者に対して侵害警告をする場合には, 権利侵害であると判断し,さらに侵害警告することについてより一層の慎重さが求 められるべきである。したがって,正当な権利行使の意図,目的であったとしても, 権利侵害であることについて,十分な調査検討を行うことなく権利侵害と判断して\n侵害警告に及んだ場合には,必要な注意義務を怠ったものとして過失があるといわ なければならない。 以上により本件についてみるに,本件通知書の記載内容(上記第2の1(4)イ)か らすると,被告は,コープPが本件意匠権の侵害者であるとしても,製造者ではな く仕入れて販売する第2次侵害者にすぎないことを認識していたと認められる。 しかし,本件告知行為に至る経緯をみると,被告は,原告商品を本件カタログで 発見するや実物を確認することなく本件意匠権の侵害品であると断定し,僅か2日 後には,第1次侵害者である製造者を探索しようともせずに,製造者の取引先とも なるコープPに対し,権利侵害であることを断定した上で侵害警告に及んだという のである。 すなわち,上記認定した本件告知行為に至る経緯において,被告が,警告内容が 誤りであった場合に,製造者に及ぼす影響について配慮した様子は全く見受けられ ず,不用意に本件告知行為に及んだものといわなければならない。 また,そもそも原告商品が本件意匠権の侵害品であるとの判断自体についてみて も,本件については,本件告知行為を受けたコープPの代理人弁理士が,当裁判所 と同様の判断内容で原告意匠と本件意匠が非類似である旨を短期間のうちに回答し ているように,両意匠が意匠法的観点からは類似していないというべきことは比較 的明らかなことといえるが(被告は,本件意匠の実施品が同種商品の存しない新種 のアイデア商品であり,先行意匠が存しないことから,意匠権で保護されるべき範 囲を過大に考えていたように思われる。),そうであるのに被告は,原告商品を発 見して極く短期間のうちに意匠権侵害であると断定して侵害警告に及んだというの であるから,この点でも,侵害判断が誤りであった場合に製造者である原告の営業 上の信用を害することになるおそれについて留意した様子が全くうかがえず,不用 意に本件告知行為に及んだものといえる。 以上のとおり,被告は原告商品の販売が本件意匠権の侵害であるとの事実を原告 の取引先であるコープPに対して警告するに当たり,原告商品の販売が本件意匠権 の侵害との判断が誤りであった場合,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告 知となって,製造者である原告の営業上の信用を害することになることなどを留意 することなく本件告知行為をしたものと推認すべきであり,意匠権の権利行使を目 的として上記行為に及んだことを考慮しても,以上の事実関係のもとでは,そのよ うな誤信がやむを得なかったとはいえないから,被告は,本件告知行為をするに当 たって必要な注意義務を尽くしたとはいえず過失があったというべきである。 したがって,被告は,本件告知行為により原告が受けた損害を賠償する責任があ る。

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平成28(行ケ)10239  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 平成29年5月30日  知的財産高等裁判所

 画面の意匠について、法上の意匠でないとして、拒絶審決が維持されました。 意2条2項で、画面でも操作するような場合には、法上の意匠として扱われますが、知財高裁も審決と同様に、本件画面はこれに該当しないと判断しました。本件は秘密意匠(意14条)として出願されてますが、内容が公開されています。非開示請求したら認められたのでしょうか?
 意匠法2条2項は,「物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にす\nるために行われるものに限る。)の用に供される画像であって,当該物品又はこれと 一体として用いられる物品に表示されるもの」は,同条1項の「物品の部分の形状,\n模様若しくは色彩又はこれらの結合」に含まれ,意匠法上の意匠に当たる旨を規定 する。同条2項は,平成18年法律第55号による意匠法の改正(以下「平成18 年改正」という。)によって設けられたものである。 ところで,平成18年改正前から,家電機器や情報機器に用いられてきた操作ボ タン等の物理的な部品を電子的な画面に置き換え,この画面上に表示された図形等\nからなる,いわゆる「画面デザイン」を利用して操作をする機器が増加してきてい た。このような画面デザインは,機器の使用状態を考慮して使いやすさ,分かりや すさ,美しさ等の工夫がされ,家電機器等の品質や需要者の選択にとって大きな要 素となってきており,企業においても画面デザインへの投資の重要性が増大してい る状況にあった。 しかしながら,平成18年改正前においては,特許庁の運用として,意匠法2条 1項に規定されている物品について,画面デザインの一部のみしか保護対象としな い解釈が行われ,液晶時計の時計表示部のようにそれがなければ物品自体が成り立\nたない画面デザインや,携帯電話の初期画面のように機器の初動操作に必要不可欠 な画面デザインについては,その機器の意匠の構成要素として意匠法によって保護\nされるとの解釈が行われていたが,それら以外の画面デザインや,機器からの信号 や操作によってその機器とは別のディスプレイ等に表示される画面デザインについ\nては,意匠法では保護されないとの解釈が行われていた(意匠登録出願の願書及び 図面の記載に関するガイドライン−基本編−液晶表示等に関するガイドライン[部\n分意匠対応版])。 そこで,画面デザインを意匠権により保護できるようにするために,平成18年 改正により,意匠法2条2項が設けられた。 このような立法経緯を踏まえて解釈すると,同項の「物品の操作…の用に供され る画像」とは,家電機器や情報機器に用いられてきた操作ボタン等の物理的な部品 に代わって,画面上に表示された図形等を利用して物品の操作を行うことができる\nものを指すというべきであるから,特段の事情がない限り,物品の操作に使用され る図形等が選択又は指定可能に表\示されるものをいうものと解される。 これを本願部分についてみると,本願部分の画像は,別紙第1のとおりのもので あって,「意匠に係る物品の説明」欄の記載(補正後のもの,別紙第1)を併せて考 慮すると,画像の変化により運転者の操作が促され,運転者の操作により更なる画 像の変化が引き起こされるというものであると認められ,本願部分の画像は,自動 車の開錠から発進前(又は後退前)までの自動車の各作動状態を表示することによ\nり,運転者に対してエンジンキー,シフトレバー,ブレーキペダル,アクセルペダ ル等の物理的な部品による操作を促すものにすぎず,運転者は,本願部分の画像に 表示された図形等を選択又は指定することにより,物品(映像装置付き自動車)の\n操作をするものではないというべきである(甲1,5)。 そうすると,本願部分の画像は,物品の操作に使用される図形等が選択又は指定 可能に表\示されるものということはできない。また,本願部分の画像について,特 段の事情も認められない。 したがって,本願部分の画像は,意匠法2条2項所定の「物品の操作…の用に供 される画像」には当たらないから,本願意匠は,意匠法3条1項柱書所定の「工業 上利用することができる意匠」に当たらない。
2 原告は,平成18年改正により意匠法2条2項が設けられた趣旨は,形態が, 物品と一体として用いられる範囲において,「物品の操作…の用に供される画像」に 関するデザインを広く保護しようとすることにあり,それ以上に保護対象を限定す る意図は読み取れず,本願部分の画像は,「映像装置付き自動車」という物品におけ る「走る」という機能を発揮できる状態にするための,シフトレバー等の操作の用\nに供されるものということができるから,同項の要件に適合すると主張する。 しかしながら,同項が設けられた趣旨,これを踏まえた同項の「物品の操作…の 用に供される画像」の意義は,前記1のとおりであり,これによると,本願部分の 画像が「物品の操作…の用に供される画像」に当たらないことも,前記1のとおり である。原告は,本願意匠に係る物品の「操作」は,「機械など」に相当するシフト レバーをあやつって働かせることであり,「一定の作用効果や結果」に相当する「走 る」機能を得るために,「物品の内部機構\等」に相当するトランスミッション等に指 示を与えるものであると主張するが,ここでいう「映像装置付き自動車」という「物 品の操作」とは,「走る」という機能を発揮できる状態にするための「一定の作用効\n果や結果」を得るために「物品の内部機構等」であるトランスミッション等に対し\n指示を与えることをいうのであるから,シフトレバー等は,あやつって働かせる対 象である「機械など」に相当するものではなく,「物品の操作の用に供される」もの であって,このシフトレバー等「の操作の用に供される画像」であるか否かを検討 しても,意匠法2条2項所定の画像であることが認められるものではない。

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平成28(ワ)13870  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 平成29年1月31日  東京地方裁判所

 意匠権侵害において、類似しない、かつ、間接侵害も成立しないと、判断されました。
 上記事実関係によれば,運搬台車を購入しようとする建設会社等の需要 者及びこれを使用する作業員らは,斜め上方から台車本体の載置面を見る だけでなく,車輪の取付態様その他底面の構成を観察するものと解される。\nまた,本件意匠に係る運搬台車又は被告製品の台車本体を斜め上方から見 る際には,載置面の表面だけでなく,凹部から車輪取付板の形状を認識す\nるということができる。なお,この点に関し,原告は,斜め上方からでは 凹部の底にある車輪取付板は視認できない旨主張するが,その主張の裏付 けとする写真(甲28)は,台車から約2m離れた地点において,約1m の高さから撮影したものであり,作業員らが通常の使用態様においてその ような位置のみから台車を観察するとは解し難いから,原告の主張は失当 というべきである。 そうすると,本件意匠及び被告意匠においては,原告が要部であると主 張する載置面の天板の形状等だけでなく,凹部上方から視認される車輪取 付板の形状及び底面視における車輪の取付態様や台車の骨格等も,これに 接した者の注意を引くと認められる。そして,前記ウのとおり,本件意匠 と被告意匠はこれらの点が相違するのであり,これにより両意匠から需要 者が受ける印象が異なるということができるから,前記ウの共通部分を踏 まえても,全体として異なる美感を生じさせると解される。
・・・・
原告は,被告製品は四隅に手押し棒(単管パイプ)を立設する態様でのみ使 用されるから,被告意匠が手押し棒の有無により本件意匠に類似しないとして も間接侵害(意匠法38条1号)が成立する旨主張する。 そこで判断するに,手押し棒を除いても本件意匠と被告意匠が類似するとい えないことは前項で判示したとおりであるが,これに加え,証拠(乙12〜1 5,18〜20,34)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品のような載置面 が平板な台車は,四隅に手押し棒を立設する態様のほか,手押し棒を2本立設 する態様,手押し棒を立設しない態様等でも建設現場における資材の運搬等の 用に供されると認められる。

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◆被告意匠です。

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平成28(行ケ)10034  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 平成28年9月21日  知的財産高等裁判所

 容器付冷菓について、一意匠であるのか争われました。審決は一意匠でないと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
 イ 本願意匠における意匠に係る物品は,「容器付冷菓」(甲4)であって, 上記別表第一に列挙されている物品の区分には該当しない。そこで,願書の「意匠\nに係る物品」欄及び「意匠に係る物品の説明」欄の記載を参照すべきところ,「容 器付冷菓」は,その名称からすれば,「冷菓」が主体であって,「容器」が付随し ているものと解される。 また,本願意匠登録出願に係る「意匠に係る物品の説明」(甲4)には,「本物 品は,参考断面図に示したように,容器部内に冷菓部材を充填し,次いで前記冷菓 部材の上面全部をあん部材で覆い,次いで前記あん部材上にもち部材を点状に配設 し,これらの全体を冷凍して容器部と一体に流通に付されるものである。」と記載 されている。上記記載を参照すれば,本願意匠に係る「冷菓」は,容器部内に冷菓 部材を充填し,その上部にあん部材,もち部材を順次配設した後,これらを冷やし 固めることによって製造するものと認識される。そして,冷菓部材,あん部材及び もち部材からなる「冷菓」は,「容器」と共に流通に付されるものである。使用の 場面においても,通常,「容器」に入ったままの「冷菓」をスプーン等ですくって 食することが想定される。よって,製造,流通,及び使用の各段階において,「冷 菓」は,「容器」に充填され冷やし固められたままの一体的状態であると認められ る。 さらに,上記製造方法からすれば,本願意匠に係る「冷菓」を,その形態を保っ たまま「容器」から分離することは,容易ではないものと推認される。しかも,「冷 菓」は,製造の段階から,流通,使用に至るまで「容器」から分離されることはな いから,「冷菓」が「容器」から独立して通常の状態で取引の対象となるとはいえ ない。 これらを総合考慮すれば,本願意匠に係る物品である「容器付冷菓」は,社会通 念上,一つの特定の用途及び機能を有する一物品であると認められ,「冷菓」の部\n分のみが「容器」の部分とは独立した用途及び機能を有する一物品とはいえない。
ウ これに対して,被告は,1)「容器」と「冷菓」は全く用途の異なる物品 であって,「容器」は,単体の形状として独立して創作される,2)内容物としての 「冷菓」も,同じ容器でも異なる形態の冷菓が存在し得るから,冷菓の形状として, 独立して創作される,3)冷菓は食用に供されるが,食用に供されることのない「容 器」は,冷菓を構成する部材や部品に該当しない,4)実施の実情からしても,容器 製造業者が容器を製造販売し,冷菓製造業者がそれを購入することもある,5)冷菓 を納めた容器には蓋がされているから,容器はむしろ蓋と一体となって商品として の外観形態を構成する,6)消費者が冷菓を食するときには,冷菓は容器に収容され た別の物品として認識する,ことを理由に,容器と冷菓とは一物品ではなく,二物 品である,と主張する。
しかし,1)「容器」と「冷菓」とを分離した場合のそれぞれの用途が異なること は,後記(4)の登録意匠例のように,用途又は機能が異なる物を組み合わせた物品が\n一物品と認められることがあることを考慮すると,本願意匠に係る物品が一物品と いえないことの理由にはならず,「容器」と「冷菓」とが,社会通念上一体として 一つの特定の用途及び機能を有するといえるか否かを検討すべきである。また,「容\n器」が単体の形状として独立して創作されることがあるとしても,本願意匠に係る 「冷菓」は,「容器」と独立しては製造,流通及び使用することが困難であり,し かも,「容器付冷菓」としての物品の主体は,「冷菓」であるから,付随する「容 器」の独立性を理由として,二つの物品と認めることはできない。 2)「冷菓」が,同じ容器でも異なる形態として独立して創作されることがあると しても,物品の一部が異なる形態として創作され得るのは通常のことであり,その ことを理由として,本願意匠に係る物品が一物品であることを否定することはでき ない。3)前記1)のとおり,用途又は機能が異なる物を組み合わせた物品が一物品と認め\nられる場合,全体が同一の用途又は機能とならないことは当然であり,本願意匠に\nおいて「容器」が食用に供されないことは,「容器」が「冷菓」と共に一物品を構\n成することを否定する理由とはならない。 4)意匠に係る物品が複数の部分から構成されている場合,それぞれの部分を異な\nる業者が作成し,それらを特定の業者が組み立てることは通常あり得るし,このよ うな物品につき,各部分を異なる者が製造販売したことにより,一物品であること が常に否定されるものではない。 5)本願意匠に係る物品である「容器付冷菓」は,前記イのとおり,社会通念上, 一つの特定の用途及び機能を有する一物品であり,しかも,「容器付冷菓」の物品\nとしての主体は,「冷菓」であるから,「冷菓」に付随するにすぎない「容器」に 蓋を設ける場合があるとしても,そのことを理由として,二つの物品と認めること はできない。 6)本願意匠に係る物品である「容器付冷菓」は,前記イのとおり,社会通念上, 一つの特定の用途及び機能を有する一物品と認められ,消費者が冷菓を食する場合\nであっても,冷菓を容器とは独立した物品と認識するとはいえない。 被告の主張には,いずれも理由がない。

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平成26(ワ)11557  損害賠償請求事件  意匠権  民事訴訟 平成27年10月26日  大阪地方裁判所

 意匠権侵害訴訟です。非類似と判断されました。
 名札入れについては,本件意匠の上部という比較的目立つ位置に存在 し,大きさも,前面部全体の10%程度と小さいとはいえないものの, その形状は,正面視でプレート内側に向けて浅い開口部が形成されてい るにすぎず(甲2,3),名札入れとしてさほど特徴的なものではない 上,その機能も,当該ロッカーの使用者を提示するもので,ロッカーの\n開閉及び施錠という本件意匠に係る物品の本来的な機能とは異なる付随\n的なものであることに照らせば,他の部位に比して,需要者の注意を惹 く程度は限定されるというべきであるから,この構成が需要者の注意を\n特に惹くとは認められない。そして,このことは,本件意匠と名札入れ の有無について相違がある意匠が本件意匠の類似意匠として登録されて いることからも裏付けられる。
オ 以上からすると,本件意匠の要部は,その基本的構成態様を前提として,\nつまみ及びその周辺部の具体的構成態様にあると認めるのが相当である。\nそこで,以下,これを前提にして本件意匠と被告意匠との類否を検討する。 カ 前記のとおり,本件意匠と被告意匠とは,本件意匠の要部であるつまみ 及びその周辺部の具体的構成態様において差異がある。すなわち,本件意\n匠のつまみは,円筒形の基底部とそこから直径に沿って滑らかに突出する 略直方体状の操作部とが一体成形されているのに対し,被告意匠のつまみ は,外周面に凹凸のある操作部を有する円筒形状で鍵穴を有するというよ うに,つまみ自体の形状が大きく異なる。また,つまみ周辺部についても, 被告意匠では,円弧状の開口部,矢印,並びに閉鎖及び解放された色違い の錠の印が存在するのに対し,本件意匠においては,つまみ基底部外周に 接する形で矢尻状の印が存在するのみであるなど,異なっている。特に, 被告意匠のつまみにおける鍵穴の長さは,つまみの直径の2分の1を上回 るものであり,それ自体目を惹くものである上,鍵穴は,鍵を挿入するこ とにより,ダイヤル錠が施錠状態でもデッドボルトを回すことが可能とな\nるという重要な機能を果たすものであること(乙10p13,弁論の全趣\n旨)も考慮すると,需要者の注意を強く惹くものであるというべきである。 原告は,鍵穴が設けられたつまみは本件意匠出願時公知であった(甲20, 21)点を指摘するが,そうであるとしても,鍵穴のあるつまみと,鍵穴 のないつまみとを対比した場合に,鍵穴の存在が類否判断に大きな影響を 与えるとの判断は左右されない。以上より,本件意匠の要部であるつまみ 及びその周辺部における差異は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼす ものというべきである。 他方,本件意匠及び被告意匠の共通点は前記のとおりであるところ,そ の基本的構成態様,手がかり部及びダイヤル操作部の共通点は,前記のと\nおりいずれも需要者の注意を惹くとは認められない。 そして,以上の点に加え,名札入れの有無及びそれに伴う手がかり部の 相違をも併せ考慮すると,本件意匠と被告意匠との差異点の印象は,共通 点の印象を凌駕し,全体として異なる美感を与えるものというべきである から,被告意匠は,本件意匠に類似するものと認めることはできない。

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平成25(ワ)2462 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成26年04月21日 大阪地方裁判所

 意匠の先使用権が認められました。原告の別件意匠権と抵触する意匠の制作を依頼された被告は、当該意匠権を回避する代替意匠を創作しました。原告のよる本件意匠の出願日の少し前に発注があったと認定されました。
 ア 被告は,平成21年7月14日,株式会社交建設計から,仙台市交通局の工事について見積依頼を受けたが(乙3),その際,使用する建材として,原告が製造していた乙1意匠の実施品(以下「乙1製品」という。)と同様のデザインの建築用パネルを指定された。乙1意匠は,平成20年6月18日,原告により登録出願され,平成21年4月24日,意匠登録されたものである(乙1)。イ 被告は,調査の結果,上記指定は,乙1意匠に係る意匠権を侵害すると判断し,乙1製品の代替製品を開発することとした。その結果,被告担当者が,3つの意匠を創作したが(乙4),そのうちの1つが,被告意匠である。ウ 上記工事の納入時期はしばらく先であったため,直ちに製造に着手しなかったところ,平成22年1月,株式会社錢高組(以下「錢高組」という。)から,相模原新築工事の引き合いがあり,乙1製品の使用の可否を問い合わせてきた。被告は,乙1製品の使用はできないと回答するとともに,乙1製品の代替製品の開発を再開し,上記3つの意匠のうち被告意匠に係る製品(被告製品)の口金を製作することとした(乙5)。被告は,有限会社藤沼工機(以下「藤沼工機」という。)に対し,口金の製作を発注し,同年3月31日までに納入を受け,検収した(乙6)。エ 被告は,被告製品を自社製品のラインナップに加えることとし,これを平成22年6月版の製品カタログに掲載し(乙7),その後,同年10月,上記相模原新築工事に使用するため,錢高組に被告製品を販売した。オ 原告は,その間,本件意匠を創作し,平成22年4月20日,登録出願し,同年12月3日,意匠登録(本件意匠登録)された(甲2)。
(2)本件意匠登録出願日における事業の準備
前記(1)によると,被告は,錢高組の実施する相模原新築工事に使用する被告製品を販売するため,その口金の製作を発注し,これを平成22年3月31日受領し,その後,被告製品を製造した上,錢高組に販売したことが認められる。したがって,遅くとも,上記口金を受領した平成22年3月31日の時点において,被告は,被告意匠を備えた被告製品の製造,販売に係る事業の即時実施の意図を有しており,その意図を客観的に認識される程度に表明したというべきである。すなわち,本件意匠登録出願日である平成22年4月20日に先立つ同年3月31日の時点で,被告意匠に係る被告製品の製造,販売に係る事業の準備をしていたと認めることができる。\n

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平成21(ワ)37962  商標権 平成25年10月10日 東京地方裁判所 

 ディアンジェリコ・ギターのレプリカバージョンの製造販売について、商標,意匠に関する権利を有するか否かが争われました。裁判所は原告にそのような権利を有していないと判断しました。
 ディマール・ギターズ社がAの死後に商標,意匠に関する権利を含むディアンジェリコ・ギターについての諸権利を有していたことは当事者間に争いがないが,原告が平成元年にディマール・ギターズ社の代表者Dから全世界に及ぶディアンジェリコ・ギターのブランド,デザインの全ての権利を取得したことについては,これを認めるに足りる証拠がない。もっとも,証拠(甲57,58)によれば,原告は,平成元年頃に,Dとの間で,D’Angelicoの標章の使用について交渉をしたことが認められるところ,原告は,そのころから原告レプリカモデルを製造販売しているものである。しかしながら,標章の使用について,両者間で合意したことを証するような契約書等が作成された形跡はないし,証拠(甲1,乙2)及び弁論の全趣旨によれば,原告の会長であったF(以下「F」という。)は,1993年(平成5年)2月11日,D夫人との間で,同人をディマール・ギターズ社の権利承継人であるとして,Fがロイヤリティを支払って,D’Angelicoの商標権,ロゴ及び意匠権等を譲り受けるとの内容の契約を締結したこと,原告は,1999年(平成11年)4月27日頃,GHS社との間で,同社が米国でのD’Angelicoの名称を保有していることを認めて,同社から北米でのD’Angelicoの名称をギター等の楽器に使用することのライセンスの供与を受けたことが認められ,これらの事実によると,Fや原告は,原告が平成元年にDから全世界に及ぶディアンジェリコ・ギターのブランド,デザインの全ての権利を取得したことと相容れない行動に出ているのであるから,上記事実をもって,原告がディアンジェリコ・ギターのブランド,デザインの全ての権利を取得したと認めることはできない。\n

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平成23(ワ)14336 意匠権侵害行為差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成25年09月26日 大阪地方裁判所

 販売不可事情があるとして、意匠法39条1項(特102条1項に対応)の損害額が85%控除されました。
 意匠法39条1項を適用して損害額を算定するに当たっては,侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を意匠権者が販売することができないとする事情があるときは,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとされる(意匠法39条1項但し書)上,意匠権者の実施品の利益に対する登録意匠の寄与した度合によっては,損害額の全部又は一部を減額すべきものと解される。ア そこで検討するに,前記3において,本件意匠部分2の要部に関して論じたとおり,原告製品は,「正面視が略横長長方形状で,平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜」(構成態様A2)し,その「傾斜する角度が前後方向の直線に対して約75°」(構\成態様C2)であることにより,正面からだけでなく,左側面からもその表示を視認しやすい点に特徴があり,その広告宣伝においても,「横から見てもこんなに見やすい!!」「横顔に自信アリ。」などと強調されている(甲141,乙24)。しかし,前記2及び3で論じたとおり,構\成態様A2及びC2は,乙7意匠によって公然知られた形態をありふれた手法で若干変更したにとどまるもので,この部分が原告製品の売上げや利益に寄与していたとしても,これをもって本件意匠部分2の寄与と見ることはできない。本件意匠部分2の創作性が肯定されるのは,あくまで上記態様に,「7個のセグメントが略8の字状に2個横並びで突出して配置」(構成態様E2)(構\成態様E2)との形状を組み合わせているからであり,本件意匠部分2の寄与度としても,このような組み合わせの形態であることによる寄与度を考えるべきである。この点,構成態様A2及びC2に,略8の字状のセグメントが突出する形状を組み合わせることで,数値等の情報表\示部の視認性がより高められており(甲141,乙24),一定の需要喚起効があるものといえるが(甲111),上記のとおり,構成態様A2及びC2は公然知られた形態をありふれた手法で若干変更したにとどまること,本件意匠部分2は正面視で左側部分のみの部分意匠であること,原告製品の広告宣伝(甲141,乙24)において,本件意匠部分2に係る部分とは異なるスイッチ部や液晶のデータ表\示部の機能なども強調されており,意匠のみを差別化要因とする製品ではないことからすれば,本件意匠部分2の寄与度は,相当限定的に見ざるを得ない。イ また,被告製品は,遊技機に関する数値情報等を表示し,遊技者などに伝達するとの用途及び機能\を備える点において,原告製品と共通するとはいえ,被告の販売する呼出ランプ「エレクスランプ」が遊技機に接続されていることを前提として設置される付属品である(乙3,25〜27,37)。この点において,他の機器を前提とすることなく遊技機と接続可能な呼出ランプである原告製品(甲141,乙24)との違いがあり,被告製品3996台の販売がなかったとしても,その前提となる「エレクスランプ」の販売台数も同台数だけ連動して減少し,同じく呼出ランプである原告製品の販売が同台数増加することまではなかったといえる。ウ 以上の事情に照らし,意匠法39条1項による原告の損害額算定としては,同項本文に従って求められた1924万0740円から,その85%に当たる1635万4629円を控除するのが相当であり,288万6111円と算定される。

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平成24(ワ)6771 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成25年08月22日 大阪地方裁判所

墓の意匠について、非類似を理由に、意匠権侵害なしと判断されました。
ア 共通点
本件意匠と被告意匠を対比すると,矩形部分と庇部分とで構成されていること,矩形部分の上面には,前方に向かって開口するオメガ状の縁取りが設けられており,オメガ状の縁取りの内側は隆起していること,庇部分が重層構\造であること,右側面視では,向かって左下(前方の庇部分)から右上(後方の矩形部分)に傾斜していることが共通である。
イ 差異点
本件意匠の庇部分は,左右両端が亀の甲羅の形状をした隆起部の周囲(底辺)の線と連続している(したがって,庇部分の横幅は,上記隆起部の横幅と変わらない。)のに対し,被告意匠の庇部分は,その横幅が後方の矩形部分よりも長い。庇部分の形状を比べると,本件意匠ではその中央のみが湾曲しているのに対し,被告意匠では庇部分の全幅にわたって全体的に湾曲している。また,被告意匠の庇部分は,矩形部分の横幅よりも相当程度外方に延伸しており,両端の先端部が上方に向かって尖っている。本件意匠の庇部分が3層構造であるのに対し,被告意匠の庇部分は2層構\造である。被告意匠のオメガ状の縁取りの先端には,本件意匠にはない半球状の突起物が付されており,本件意匠のオメガ状の縁取りが幅広で扁平な印象を与えるのに対し,被告意匠の縁取りは,細く,高い印象を与える。亀の甲羅の形状をした隆起部について,その隆起の程度は,本件意匠よりも被告意匠の方が相当に大きく,球体により近いものである。
ウ 判断
前記(3)ウで検討したところによれば,前記アの共通点に係る構成は,亀甲墓の屋根が一般的に備える構\成である。しかも,これらの構成の範囲でみても,前記イのとおり,被告意匠のオメガ状の縁取りの先端には,本件意匠にはない半球状の突起物が付されており,オメガ状の縁取りの幅も本件意匠と比べて細く,亀の甲羅の形状をした隆起部についても,隆起の程度,形状が異なるという差異点があり,これらの差異点は本件意匠と被告意匠とを対比した場合に明らかなものである(これらの差異点に係る被告意匠の具体的構\成態様及びそこから生じる美感は,本件意匠よりも各公知意匠に共通するものである。)。次に,前記イの差異点についてみると,被告意匠は,本件意匠の要部である,庇部分の左右両端がオメガ状の縁取りに囲まれた亀の甲羅の形状をした隆起部の周囲(底辺)と連続していること(その結果,庇部分の横幅が,上記隆起部の横幅と同程度となる。),庇部分の中央が上方に湾曲した(唐破風様)3層構造であることの2構\成を備えていない。したがって,両意匠が要部において構成態様を共通にするものであるとはいえない。また,前記(3)ウで述べたとおり,正面視の意匠は,需要者の注意を相当惹き付けるものであり,全体の美感に大きく影響するところであるが,被告意匠の庇部分は矩形部分の幅よりも相当程度外方に延伸しており,両端の先端部が上方に向かって尖っている点において,本件意匠の庇部分と対比すると,正面視の美感が一見して異なっている。これらのことからすれば,被告意匠と本件意匠は,要部において構成態様を共通にするものであるとはいえないし,上記のとおり矩形部分の構\成についても看過できない差異点があり,全体として美感を共通にするものであるともいえない。したがって,被告意匠は,本件意匠に類似するものであるとは認めることができない。

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◆関連事件です。平成24(ワ)6772

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平成23(ワ)10389  意匠権 民事訴訟 平成25年01月24日 大阪地方裁判所

 冒認の意匠出願に基づくロイヤリティーの支払いの争いです。経緯は複雑です。原告によって被告の意匠は無効とされましたが、原告に対するロイヤリティーの支払いは認められませんでした。
 原告は,同年8月,本件意匠の基となる道路灯の意匠をいくつかのパターンで被告に提供した(甲5・A−1〜5,C−1〜5)。被告は,前記第2の1(3)のとおり,原告から提供を受けた意匠を基にした本件意匠について,被告従業員を創作者,被告を権利者とする意匠登録出願を行ったが,原告は,被告に提供した意匠と実質的に同一の意匠について,平成11年10月5日,知的所有権協会の「知的所有権(著作権)登録」制度への登録を行った(乙6)。なお,原告が被告に提供した意匠について,被告は原告に道路灯のデザインの委託,参考資料の提供を行ったものの,具体的な意匠の指示をしたとまでは認められず,その創作者は原告というべきである。また,本件意匠は,原告が被告に提供した意匠と完全に同一ではないものの,同意匠の持つ独自の形態的特徴をそのまま有する実質的に同一の意匠であるから,その創作者は原告というべきである。
・・・・
 (ア) 原告は,平成18年1月30日,被告に対し,本件意匠の創作者は原告であるとして金銭の支払を求めたところ,被告は,同年2月,本件意匠につき原告が最初にデザイン製作にかかわったのは事実であるが,最終形のデザインは複数の設計担当者による検討過程から生まれており,創作者は開発に主に携わった被告担当者であること,仮に原告が創作者であるとしても,実施品の販売実績は伸びておらず,本件意匠の販売実績への寄与度も低いため,既払いの委託業務料に付加するには及ばない旨回答した(甲6)。(イ) 原告は,平成19年6月,被告に対し,本件意匠権を含む4件の意匠権について,創作者は原告であって冒認出願である旨主張して,権利の持分譲渡及びロイヤリティーの支払を検討するよう申し入れ(乙10),その後,前記第2の1(3)ウのとおり,本件意匠登録を無効とする審決を得た。
・・・
 原告は,本件条項について,被告の冒認出願により登録されていた本件意匠を念頭にロイヤリティーの支払を規定したものである旨主張する。しかしながら,前記認定したところによれば,原被告間の契約は雇用契約ではなく請負契約であり,原告が成果物を被告に引き渡し,被告が定められた報酬を原告に支払えば,被告は成果物についての権利を取得し,これを実施して利益を得たとしても原告にさらに報酬やロイヤリティーを支払う関係にはない。また,平成3年頃から平成13年頃までの間,被告は毎月一定の委託業務料を支払っていたところ,配線用ダクト及び光害対策型街路灯については,原被告間での個別の協議により,被告が特許出願,意匠登録出願を行い,当該意匠,発明が将来被告の業績に大きく貢献した場合には,原被告間の請負契約の条件で考慮する旨の合意がなされたが,その趣旨は,月額の委託業務料とは別に,原告に報酬やロイヤリティーを支払うとの趣旨ではなく,原告の創作等が被告の業績に大きく貢献した場合には,次期の契約における月額の委託業務料の定め方において考慮する旨を定めたものと解するのが合理的である。
・・・
 以上の事実関係によれば,被告は,配線用ダクトの意匠,発明及び光害対策型街路灯の意匠について,被告の業績に大きく貢献した場合には次期の契約条件で考慮する旨を約したにもかかわらず,契約関係の解消により,次期の委託業務料等に反映することができなくなるため,契約終了後も,これら意匠等が被告の業績に大きな貢献をしたことが具体的に検証できる場合には,何らかの金員の支払を検討することとし,これをロイヤリティーと表現したものと解するのが相当である。したがって,本件条項は,本来,配線用ダクト及び光害対策型街路灯に関するものであって本件意匠に関するものではなく,仮にその趣旨が本件意匠に及ぶとしても,そこにいう「具体的に検証できる場合」について,原告が主張するように,被告が実施する意匠の創作者が原告であると立証された場合のことであると解すべき理由はない。また,前記認定のとおり,原告のした創作,発明等の成果物について,請負契約の趣旨により,被告は当然にこれを実施する権利を有すると解されるから,被告が本件意匠の実施品を販売した数量に応じて,原告にロイヤリティーを支払うべき理由もないといわざるを得ない。\n

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平成23(ワ)3361 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成24年11月08日 大阪地方裁判所

 意匠権侵害が認められました。
 本件本意匠と被告意匠は,上記ア(ア)の共通点があるところ,これらのうち特に右側外形線の具体的形状は本件本意匠の要部に関するものであって,両者に共通の美感を生じさせるといえる。本件本意匠と被告意匠とは,上記ア(イ)の差異点が認められる。しかしながら,これらはいずれも本件本意匠の要部に関するものではない。左側外形線の下部の突起部分の有無(i))や下側外形線の構成(ii))については,意匠全体の外縁を画するもので一定の美感を形成するものということはいえるが,左側外形線については,全体的な形状が共通していることからすれば下部の突起部分によってそれほど美感の相違が生じているとはいえないし,下側外形線の構成は異なるものの,本件本意匠の要部に関する共通点によって生じる美感の共通性を失わせるほどの差異とまではいえない。また,孔部の具体的形状(iii))についても,孔部の位置や大きさに大差がない以上,上記程度の相違点が美感に及ぼす影響は小さいといえる。さらに,切込線(iv)v)vi))についても,被告意匠には,本件本意匠の切込線とほぼ同じ位置に切込線があることからすれば,その具体的な構成の差異は美感を異にするとまではいえない。また,右側外形線に対応する矩形の配置(vii))についても,そもそも矩形自体が細かい上,矩形の配置に需要者が着目するともいえないことからすれば,この点が美感に及ぼす影響もまた小さいといえる。(イ) 被告らは,本件各意匠及び被告意匠の構成に関して,各寸法比に差異があると主張するが,被告らの主張する寸法比を前提にしても,証拠(乙8,9)及び弁論の全趣旨によれば,両意匠の重なり合いの程度は別紙意匠対照図の程度と認められるから,この点を理由に両意匠は類似しないということはできない。
(5) 小括
したがって,本件本意匠と被告意匠とは,その美感を共通にするものであって,類似すると認められる。
・・・
証拠(甲9,乙11〜19,21〜30)によると,被告amiは,化粧品製造販売業者としての許可を有しており,平成21年3月頃から,被告美友が販売する化粧品について,その化粧液の成分表に基づく成分の確認や薬事法に係る申\請手続等の業務を請け負っていたこと,被告商品については,被告amiが製造販売元として表記され,被告amiにおいて,上記成分の確認や薬事法に係る申\請手続等を行っていたことは認められるものの,被告amiが,被告商品の実際の通関手続まで行っていたこと,及び被告amiが被告商品の輸入販売によって利益を得ていたことについては,これを認めるに足りる証拠はない。
(2) 以上を踏まえて検討するに,被告amiは,被告商品の輸入販売行為を直接行うものではないにせよ,被告美友の依頼を受けて被告商品の輸入販売に必要不可欠な手続を行っており,一般消費者にもその関与が周知されていたといえる。このような関与に照らせば,被告amiは,被告美友と共同して,被告商品の輸入販売等によって意匠権侵害を行ったと認めるのが相当である。したがって,被告amiは,本件の意匠権侵害について,共同不法行為責任を負い,侵害行為も認められる。

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平成23(ワ)9476 意匠権侵害差止請求事件 意匠権 民事訴訟 平成24年05月24日 大阪地方裁判所 

 意匠権侵害に基づき、差止が認められました。原出願は、特許出願から分割された出願で、分割要件違反を主張しましたが、分割要件は満たしていると判断されました。
 これによれば,「くさび形の空間部」は,i)その内部において,浮動くさび部材が移動可能に配設されていること,ii) くさび形の空間部を形成する外方側のくさび面は,浮動くさび部材の当接面と当接すること,iii) 浮動くさび部材の歯面は,第2アームに形成されたギア部と噛合することが認められる。そうすると,「くさび形の空間部」も,外方側のくさび面とギア部との間に形成される浮動くさび部材を収容する空間として構成されていることが明らかである。したがって,「くさび形窓部」と「くさび形の空間部」は,その意義・構\成において何ら異なるものではないから,「くさび形窓部」を「くさび形の空間部」と変更したことが分割要件違反に当たるとはいえない。

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平成22(ワ)32858 損害賠償 特許権 民事訴訟 平成23年12月28日 東京地方裁判所

 請求の範囲の文言「摘みを垂設」について争われ、技術的範囲外と認定されました。意匠権侵害についても非類似と判断されました。
 構成要件Fは,「外側の一部にはその切取りのための摘みを垂設し,」というものであり,身(環状突片)の外側の一部にその切取りのための「摘みを垂設」することを定めている。この「摘みを垂設」について,本件明細書には,「【0014】開蓋装置5については,環状突片11の基端に,下面開放形の切取溝13を設け,その切取溝13に沿って環状突片11を切り取り得るように,一端において環状突片11に摘み15を突設し,摘み15が下向きの舌片状に形成される。」と記載され,【図1】,【図2】及び【図5】には,摘み15が下向きの舌片状に形成された形状で図示されている。また,「垂設」という用語は一般的用語ではないが,「垂」については,「たれること。ぶら下がること。」という意味があり,「垂れる」については,「重みで下にだらりとさがる。先端がさがった状態になる。」という意味があるものと認められる(いずれも広辞苑第4版)。そうすると,構\成要件Fにおける「摘みを垂設」とは,垂れ下がるように,下向きに摘み15が形成されていることを意味するものと解するのが相当である。これを被告製品についてみるに,被告製品における摘みはいずれも水平方向(容器面に対して平行)に設けられており,垂れ下がるように下向きに形成されたものはない(弁論の全趣旨)。したがって,被告製品は,いずれも構成要件Fを充足すると認めることはできない。
イ 原告は,「摘みを垂設」とは,摘みが容器側面に対して略垂直方向(水平方向)に設けられていることを意味し,そのような構成を備える被告製品はいずれも本件発明の構\成要件Fを充足すると主張する。しかしながら,かかる用語の使い方は前記した「垂」の字の一般的な意味,用法に明らかに反しており,本件明細書に「垂」ないし「垂設」をそのような特別な意味,用法で使用することについての記載がない以上,上記解釈は採り得ない。したがって,原告の主張は採用できない。  

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平成22(ワ)3490等 商標権に基づく請求権不存在確認等請求本訴,商標権侵害行為差止請求反訴 平成23年09月15日 大阪地方裁判所

 商標権、意匠権侵害なし、権利者(意匠権)が警告を取引先に配布したことは、営業誹謗行為と認定されました。
 反訴原告は,反訴において,当初,反訴被告による反訴被告商品の製造販売行為が本件意匠権を侵害する旨の主張をしていたものの,第8回弁論準備手続期日において当該主張に基づく訴えを取り下げ,反訴被告はこれに同意している。また,そもそも本件意匠権侵害の主張は,反訴被告の取引先に送付した上記警告書には何ら記載されていない。また,上記警告書には,反訴被告商品の販売が,不正競争防止法2条1項2号に該当する旨の記載もあるが,反訴原告は,反訴において,反訴被告商品の製造販売行為が同号に該当する旨の主張は一切していない。そうすると,反訴原告が,反訴被告商品の製造販売行為が本件意匠権を侵害し,不正競争防止法2条1項2号に該当する旨の告知又は流布に及ぶおそれが今後もあるとは認められない。
(3) したがって,反訴被告の不正競争防止法3条,2条1項14号に基づく差止請求は,反訴原告に対し,本件商標権を侵害し,不正競争防止法2条1項1号に該当する旨の告知又は流布の差止めを求める部分については理由があるが,その余の部分(本件意匠権を侵害し,不正競争防止法2条1項2号に該当する旨の告知又は流布の差止めを求める部分)については,理由がない。

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平成22(ワ)9966 意匠権侵害差止等請求事件 平成23年09月15日 大阪地方裁判所

 意匠権侵害が認定されました。いわゆる100均で販売された場合の損害額の認定で販売不可事情も認定されました。
(ア) 被告商品の価格について
被告商品の税抜き小売価格は100円であり,原告実施品の税抜き小売価格500円と比較すると,比率では5分の1であり,価格差では約400円安い関係にある。絶対的な価格差でみると,原告がいうように,その差はわずか数百円という見方もできるが,被告商品は,単に原告実施品に比して安価である以上に,100円という,購入に当たって特段逡巡することなく気軽に購入できる絶対的な低価格であることが,商品を特徴づけ需要者の購買意欲をそそる要素になっているといえる。そうすると,原告実施品が,被告商品の5倍の価格設定であって当該同種商品としては通常の価格帯にあると考えられることからすると,原告が原告実施品を被告商品と同様に販売できたものとは考え難く,したがって,被告商品がそのような著しく低廉な価格に設定されているという事実は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事情の一つになり得るというべきである。
(イ) 販売ルートについて
被告商品は,いわゆる100円ショップの最大手であって,全国に数多くの店舗を構えるダイソ\ーで販売されており,実際に被告商品を取り扱った店舗は,2000店以上存在する(丙10)。そして,ダイソーは,多種多様な商品を原則としてすべて100円で販売することを特徴とする営業形態を採用しており,そのため,消費者において,特定の商品を買い求めるのではなく,100円であれば購入するという前提で,商品ジャンルを問わず掘り出し物を探す場合もあると考えられる。そうであれば,そのような消費者が,たまたま被告商品を購入したからといって,その消費者が,原告実施品を購入したはずであるとみるのは難しいといわなければならない。もちろん,原告実施品が販売されているという知識がある需要者が,より安価で原告実施品に相当する商品を求めてダイソ\ーを訪れる場合も存在すると考えられるが,そうであれば,そのような需要者は,もともと原告実施品を購入する可能性が低いものとみなされるのではないかと考えられる。したがって,被告商品が100円という均一で低廉な価格で多種多様な商品を販売しているダイソ\ーで販売されているという事実自体も,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。
(ウ) 競合品について
資生堂の商品(乙4)は,棒状や板状の爪やすり(甲22)ではなく,原告実施品と同じ,ラウンドタイプの爪やすりである。しかも,資生堂の商品は,本件意匠の要部である隆起部を有しないものの,爪やすりの本体が,一端が鋭角で立ち上がり他端が鈍角で立ち上がるD字形状板である点や,やすりが,本体の下端部の湾曲した側面に設けられた凹部に埋設されている点において,本件意匠の要部と構成を共通にしている。したがって,資生堂の商品と原告実施品とは,本体の正面・背面のデザインや,価格(資生堂商品は税抜き952円[乙4]ないし1000円[乙7の1〜3]で販売されている。)において異なっていても,市場では競合する範囲内のものであると考えられ,被告商品と異なる競合品の存在は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。
(エ) 本件意匠の寄与度について
原告は,原告実施品は,隆起部の窪みあたりを指で挟んで使用することで,しっかりと爪やすりを保持することが可能となり,軽くこするだけで爪を綺麗に削ることができるデザインとなっていると主張する。ところが,被告商品は,サイズが小さい分把持しにくい上,そのパッケージの使用状態を示す写真(甲4)には,隆起部の窪みとは関係のない部分を指で挟んで使用している様子が示されており(原告実施品のように隆起部の窪みのカーブを利用して指で挟むように把持した場合(甲14の1,甲22),鎖が垂れ下がって邪魔になるはずである。),結局,被告商品にとって隆起部はデザイン以上の意味はないものと考えられ,したがって新聞や雑誌等で高く評価されてきたという,原告実施品のデザイン性や機能性が発揮されている商品であるとはいえないものである。加えて,パッケージの謳い文句を見ても,軽くこするだけで良く削れることや,なめらかに仕上がるという爪ヤスリの本来の機能\よりも,可愛くて携帯に便利であることの方が,よりアピールされているとも考えられる(甲4)。さらに,上記のとおり,被告商品については,かわいくて携帯に便利であることがアピールされているところ,被告商品のかわいらしさには,被告商品の大きさが影響を与えているといえるし,携帯に便利であることについては,被告商品の大きさに加え,鎖の存在が影響を与えているといえる。他方,原告実施品の販売実績(甲25)を見ても,被告商品の販売開始前である2008(平成20)年と,被告商品の販売開始後である2009(平成21)年以降において,青・黄・緑・白(SS-403)については売上げが半減しているが,ピンク・白(G-1002)については増加ないし横ばいであり,原告実施品についても,本件意匠のデザイン以外の要素が販売数量に影響を及ぼしていたことは否定できない。したがって,被告商品の販売に対し,被告意匠のうち,本件意匠に類似していない特徴が寄与しているという点は,これもまた,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つとなるというべきである。
  (オ) 結論
これら意匠法39条1項ただし書の事情に該当する諸事実の存在を考慮すれば,被告大創による被告商品の譲渡数量のうち,原告が販売することができなかったと認められる原告実施品の数量を控除した数量は,被告商品の譲渡数量の3分の1と認めるのが相当である。

◆判決本文

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平成22(ワ)4770 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 平成22年12月16日 大阪地方裁判所

 意匠権侵害が認定されました。また、独占的通常実施権に基づく損害賠償も認められました。
  以上より,本件登録意匠の要部は,刃部の形状及び長柄鋏全体に占める固定連結部や柄部の長さの比率であると認めるのが相当である。・・・(ア) 要部に係る共通点・差異点について上記アのとおり,本件登録意匠と被告意匠とは基本的構成態様が完全に共通する上,要部の1つといえる長柄鋏全体に占める固定連結部及び柄部の各長さの比率において共通している。また,具体的構\成態様のうち刃部の形状は,本件登録意匠における最も重要な特徴点であるといえるところ,上記イで認定したとおり,両意匠は,固定刃及び可動刃の形状において,ほぼ一致している。これに対し,上記ウで認定したとおり,本件登録意匠では,可動刃連結部の下端は,固定連結部の上端に設けられた取付具に一体的に取り付けられているのに対し,被告意匠では,可動刃連結部の下端は,固定連結部の上端に設けられた取付具にねじ止めして取り付けられている。しかし,需要者は,刃部の形状自体については,長柄鋏における最も重要な機能を有する箇所であるため,注目するものの,そのなかでも,刃部の刃体の形状に関心が集まるのであり,その取付部に対する関心の度合いは高いとは考えられない。そして,両意匠とも,固定連結部の上端にある円筒状取付部の側面に垂直方向に取り付けている点で共通しており,被告意匠の方がタグ状の取付部があるため頑丈な印象を与える程度の違いにしか過ぎない。・・・オ 以上のとおり,被告意匠においては,本件登録意匠との共通点から受ける印象が,差異点に係る具体的な形状の違いから受ける印象を凌駕しており,両意匠が視覚を通じて起こさせる全体としての美感を共通にしているということができる。よって,被告意匠は,本件登録意匠と類似すると認められる。
・・・
 また,証拠(甲6)によれば,原告会社の代表取締役であり,本件意匠権者である原告Pは,平成22年7月21日,原告会社に本件意匠権の独占的通常実施権を明示的に許諾したことが認められが,他方で,他に本件意匠権を実施している者がいるとは認められない。そうすると,遅くとも被告が被告製品の製造販売を開始した平成21年9月以降は,原告会社は原告Pから本件意匠権にかかる独占的通常実施権を黙示に許諾されていたと推認するのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。よって,遅くとも平成21年9月以降,原告会社は,本件意匠権に係る独占的通常実施権を有していたと認められ,被告は本件意匠権を侵害することにより,原告会社の独占的通常実施権をも侵害したものと認められる。\n

◆判決本文

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 平成20(ワ)8761 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成22年08月26日 大阪地方裁判所

 登録意匠と類似するとして意匠権侵害が認定されました。最近は判決文にイ号とともに登録意匠も表示されるのでわかりやすいですね。
 前記アのとおり,本件登録意匠2と被告旧座金意匠は,上下面の中央を貫通して略円筒状にくり抜かれたICタグの収容孔を形成している点,収容孔の一端から外側面へ通じる垂直状の細幅の切り込み部を形成している点,収容孔の上面の口径を小さくしている点,外側面に略コ字状に凹む細溝を水平状に周回させている点で共通している。そして,これらの共通点は,いずれも本件登録意匠2を特徴づけるものであり,その視覚的効果は,意匠全体として,両意匠に共通した美感を起こさせるものである。
(イ) 差異点について
一方,前記イのとおり,両意匠は,収容孔の縮径の程度(差異点(ア)),上面側における収容孔と切り込み部分からなる形状(差異点(イ)),外側面の溝の位置(差異点(ウ))を異にする。しかしながら,差異点(ア)は,視覚的に十分識別できる程度の違いであるとはいえ,上面と底面を同時に見ることはできないから,看者はこれを,収容孔の縮径として捉える以上に,上面における収容孔と切り込み部の形状,底面における収容孔と切り込み部の形状として,それぞれ独立して認識すると考えられる。そうすると,前者は差異点(イ)に収斂されるし,後者は,通常の観察方向である斜め上方から観察た場合に得られる印象と比べ,看者に与える印象の度合いが小さいため,全体的な美感に影響を及ぼさないといえる。そして,差異点(イ)は,結局のところ,上下面を貫通する収容孔においてICタグが上に抜け出ないように段差を設けた結果,収容孔上面における口径の大きさを異にし,切り込み部との組み合わせにおける大きさの比率を異にしているものに過ぎず,むしろ,上下面の中央を貫通して略円筒状にくり抜かれた収容孔を形成している点(共通点(ア))や,収容孔の一端から外側面へ通じる垂直状の細幅の切り込み部を形成している点(共通点(イ))が,その新規性と相まって,看者に強い印象を与えているといえ,収容孔と切り込み部の大きさの比率及びその結果としての上面における形状の差異(鍵穴型をイメージするか否か)が,この印象を凌駕するほど大きなものであるとは認めがたい。さらに,差異点(ウ)も,視覚的に識別できる程度の違いとはいえ,外側面に細溝を水平状に周回させるという点(共通点(エ))の方がより特徴的で,需要者の注意を惹く態様であり,この共通点を超えて,上記差異点(ウ)が格別異なる印象を看者に与えるものではない。なお,被告が主張する,ICタグの存在により,原告座金と被告旧座金の混同が生ずるおそれがないとの点は,意匠自体の類否を判断するにあたって考慮されるべき要素ではない。

◆判決本文

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平成20(ワ)5712 損害賠償請求事件 意匠権 民事訴訟 平成21年09月10日 大阪地方裁判所

 意匠権および特許権に基づく損害賠償が請求されました。裁判所は104条の3の規定により、権利行使を認めませんでした。
 「原告は,ランドの面積を小さくするというのは,有限の小さい面積にすることであり,ランドの幅を実質0にするという思想ではないし,本件特許の出願前は,ランドの幅が小さ過ぎると,剛性が低下するし,飛距離も劣ると考えられており,ランドの面積を小さくすることからランドの幅を0.0mmにするという発想に至ることは,飛躍があって直ちにはできないと主張する。しかしながら,本件発明1においても,実際には,ランドの面積は有限の小さい面積となるし,ランドの幅は有限の細い幅となるのであるから,結局,ランドの幅を0.0mmに設定することは,ランドの合計面積を小さくすることの延長線上にあるといえる。また,ランドの幅と連動するディンプル占有率については,最適値に係る特定の見解が確立されておらず,当業者が,剛性の低下にも配慮しつつ,各自の見解に基づき,飛距離を伸ばすにあたって最適な範囲を設定していたのであり(甲36ないし44),これを定めるにあたり特段の制約があった事実は認められない。したがって,上記組合せにつき,特段の阻害要因も認められないといえる。・・・以上のとおり,引用例3及び5は,いずれもゴルフボールに関する発明であって,解決すべき課題も共通し,引用例3に引用例5を組み合わせることによる特段の作用効果も認められないか,認められたとしても予測し得る範囲のものであり,組合せについて特段の阻害要因も認められない。そうすると,相違点に係る本件発明1の構\成は,引用例3に引用例5を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たといえる。」

◆平成20(ワ)5712 損害賠償請求事件 意匠権 民事訴訟 平成21年09月10日 大阪地方裁判所

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◆平成18(行ケ)10136 審決取消請求事件 平成18年08月24日 知的財産高等裁判所

  参考図に記載されている意匠を分割できるかが争われました。裁判所は、分割要件を満たしていないとした審決を維持しました。
   一意匠一出願制度の下で,「二以上の意匠を包含する意匠登録出願」について,拒絶査定を回避するためには,同法10条の2第1項の規定による意匠登録出願の分割をすべきことになるが,同規定の「二以上の意匠」にいう「意匠」が「意匠登録を受けようとする意匠」に限定されるか否かが本件の実質的な争点である。・・・原出願は,意匠に係る物品を「ピアノ補助ペダル」とし,意匠登録を受けようとする意匠として,アタッチメントを取り付けていないピアノ補助ペダルに係る意匠を登録出願したものである。原出願に添付の図面の参考図においては,アタッチメントを取り付けた状態のアタッチメント部分を含むピアノ補助ペダルの意匠が示されているということができるが,それは,意匠登録を受けようとする意匠の理解を助ける目的で,当該意匠以外の意匠として示されている。本件出願は,原出願の参考図において示されたアタッチメントを取り付けた状態のアタッチメント部分を含むピアノ補助ペダルに係る意匠について,意匠に係る物品を「ピアノ補助ペダル」として,意匠登録を受けようとするものであるところ,本件出願において意匠登録を受けようとする本願意匠は,原出願において,意匠登録を受けようとする意匠ではないのであるから,本件出願は,意匠法10条の2第1項の要件を満たす分割出願であるということはできない。」

◆平成18(行ケ)10136 審決取消請求事件 平成18年08月24日 知的財産高等裁判所

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◆H16.10.29 東京地裁 平成16(ワ)793 特許権 民事訴訟事件

 被告製品を輸入販売する行為が、均等侵害か否か、内部部品としては類似する場合に意匠権侵害となるかについて争われました。前者については「均等の第1,第5要件から技術的範囲に属さない」と、後者については、「物品非類似として侵害とはならないと判断されました。意匠権についての判断部分のみ載せます。
 「本件においては,本件意匠に係る物品は「プリント配線板用コネクタ」であるのに対し,被告製品は,液晶テレビ,液晶モニターであり,両者は物品が異なるから,被告製品の意匠が本件意匠と同一又は類似とされることはない。また,被告製品は,液晶テレビ及び液晶モニターという完成品であり,被告コネクタは,被告製品に内蔵されているプリント配線板の一部品として使用されているのであるから(当事者間に争いはない。),被告が取り扱う過程での被告製品の流通過程をみる限り,被告コネクタは,被告製品に内蔵されたままの状態で外観に現れず,被告製品の取引者,需要者が外部から視覚を通じて認識されることはない。そうすると,被告コネクタの意匠は,被告が関与する流通過程においては,本件意匠権の保護の対象とはならないというべきであるから,被告製品の輸入販売は,本件意匠権の侵害とはならない。・・また,原告は,被告コネクタは被告製品中に不可分一体のものとして組み込まれているから,そのような被告製品の輸入販売は意匠法2条1項3号の意匠の「実施」に該当する旨主張する。しかし,前記(1)に判示したとおり,意匠権侵害の有無の判断に際しては,流通過程に置かれた具体的な物品が対象となるものというべきである。そして,被告が輸入販売した物品は,液晶テレビ及び液晶モニターであるのに対し,本件意匠権の意匠に係る物品は,プリント配線板用コネクタであるから,液晶テレビ及び液晶モニターを輸入販売したとしても,本件意匠を実施したことにはならない」

◆H16.10.29 東京地裁 平成16(ワ)793 特許権 民事訴訟事件

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