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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

104条の3

平成24(ワ)18038 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年10月30日 東京地方裁判所

 技術的範囲に属する、ただし進歩性欠如として無効であると判断されました。
「地表面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢データ」の意義\n
ア 被告は,「地表面」との文言が,二次元的な広がりをもった「面」を意味するものである上,本件発明が,「直線と地表\面との交点を算出」(構成要件L)するものであることから,「地表\面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢データ」は,「面」の情報を含むデータである必要があると主張する。
イ しかし,構成要件Kは「地表\面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢データ」というものであり,その文言からは,「高度情報」が地表面の起伏を反映したものであることを要することが読み取れるのみであり,地勢データ自体が「面」としての情報を含むことが,文言上,必ずしも要求されるものではない。\n
ウ また,確かに,本件明細書によれば,本件発明に係る位置特定装置は,機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線と地表面との交点を算出し, 目標物の位置として特定するものであり( 【請求項7】),「三次元的な地勢データ」は,「地表面と直線との交点を算出」する際に用いられるものである(構\成要件L中段)。しかし,上記「地表面」(構\成要件L中段)は,「地表面記録手段からの出力に応答し」(構\成要件L前段),「三次元的に高度情報を含んで表される」(【0014】)ものであるから,「三次元的な地勢データ」は,その出力により,三次元的に高度情報を含んだ面を表\すことができるものであれば足り(なお,「三次元的に高度情報を含んだ面を表す」ことの意義については,構\成要件Lにおいて検討する。),「三次元的な地勢データ」自体が「面」としての情報を有するものである必要は必ずしもないものと解される。
エ 加えて,本件発明は,上記のとおり直線と地表面との交点を算出するに当たり,「地表\面」として二次元平面を用いると,目標物が三次元的な起伏のある地表面上に存在することにより,目標物までの直線を二次元平面まで延長した交点の位置が,目標物の位置を二次元平面に投影した位置と比較して,高度に対応する距離だけ異なる位置と判断してしまうことから(【0015】),「地表\面」として,二次元平面ではなく,三次元的な起伏のある地表面を用いることで,目標物の位置を,三次元的に精度よく特定することを可能\としたものである(【0014】,【0015】)。そうすると,「地表面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢データ」とは,緯度及び経度の情報のみを含む二次元平面データに代わるものとして記載されているにとどまるものであるから,緯度及び経度の情報に加えて,地表\面の起伏を反映した高度情報を含むことに意義を有するものということができ,「面」としての情報を有することに,その意義が見出されるものではない。
オ 以上によれば,「地表面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢データ」とは,三次元的な,すなわち緯度,経度及び高度の情報を含む地勢データであって,上記高度情報が,地表\面の起伏を反映したものであると評価することができるものであれば足り,これに加えて,「面」としての情報を含むものである必要はないものと解される。
(2) イ号装置における検討
ア イ号装置はメッシュデータが記録された記録媒体を有するところ(構成k),メッシュデータは,メッシュの位置情報(緯度・経度)及びメッシュ中心点の標高情報を含むモデルデータである(争いがない)。上記標高情報は,国土地理院が刊行する2万5000分の1地図に描かれている等高線を計測してベクトルデータを作成し,それから計算によって求めるものであるとされるから(甲10),地表\面の起伏を反映したものであると評価することができる。イ したがって,メッシュデータは,「地表面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢データ」に相当し,上記メッシュデータが記録された記録媒体を有するイ号装置は,構\成要件Kを充足する。・・・・本件発明は,主として災害発生現場等の位置を特定するという民生分野における利用を目的とした発明であるが,乙24発明とは航空機による目的物の地図上における位置の特定という技術においては共通するものであり,かつ,軍事技術分野における技術が民生分野に転用されることが多いことは公知の事実であるから,本件発明が主として民生分野における利用を目的とするものであるとしても,乙24発明に乙4発明を適用して本件発明に至ることの妨げとなるものではない。
エ 以上によれば,本件発明は,乙24発明に乙4発明を適用することにより,本件特許出願当時,当業者において容易に想到することができたものであり,本件特許権は特許無効審判により無効とされるべきものであると認められる。

◆判決本文

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平成23(ワ)15499 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年10月24日 大阪地方裁判所

 特許権侵害が認定され、102条3項での損害額よりも、102条2項による損害額の方が高額ということで、3000万円強の損害額が認定がされました。
 原告製品及び被告各製品のほかにも,食品を収納するとともに,当該食材を加熱可能な容器が多数存在することは当事者間で争いがない。もっとも,このうちフラップ部と蓋を一体成型したものについては,原告製品,被告各製品及び乙30発明に係る実施品の存在を認めることができるにとどまる。本件各特許発明は,「加熱調理後,容器内の水分を,開口部を通じて,排出可能\である。この結果,本発明の容器は,パスタ等の調理に好適に使用可能となる。」(段落【0023】)という作用効果を奏する点に技術的意義があるものである。このような代替品の有無などに関する状況及び本件各特許発明の技術的意義に加え,本件で表\れた一切の事情を総合すると,本件各特許発明の被告各製品の売上げに対する寄与度は15%とするのが相当である。エ 損害以上によれば,売上高5億9510万5017円から経費合計3億9795万7004円を控除した額に寄与度15%を乗じた2957万2201円を,特許法102条2項に基づき算定される損害額と認める。
(3)特許法102条3項に基づく損害の計算
証拠(乙27の1〜3)によれば,プラスチック製品に係る実施料率は,平成4年度から平成10年度までの期間において,イニシャルペイメントがある場合において平均350%,イニシャルペイメントがない場合において39%であったことが認められる。このことに加え,前記で検討した代替品の有無などに関する状況及び本件各特許発明の技術的意義等も考慮すると,本件において相当な実施料率は35%であると認める。そうすると,売上高5億9510万5017円に実施料率35%を乗じた2082万8675円が相当な実施料額であると認める。
以上によれば,より高額である前記の計算に基づき,原告の損害(逸失利益)は2957万2201円であると認めるのが相当である。この約1割に相当する300万円の限度で,弁護士費用及び弁理士費用についても本件と相当因果関係のある損害と認める。

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平成24(ワ)11220 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年09月26日 大阪地方裁判所

 特許権侵害事件において、一部の請求項は無効、有効な請求項は技術的範囲に属しないと判断されました。
 前記(2)によれば,乙1発明のA からG までは,本件特許発明1の構成要件1A から1G にそれぞれ相当するものであり,乙1文献には,本件特許発明1の各構成要件をいずれも備えた発明(乙1発明)が記載されているものと認めることができる。原告は,乙1文献には構\成要件1C 及び1E に相当する構成(前記(2)C 及びE の構成)が記載されていない旨主張するので,以下,補足する。ア 本件特許発明1の構成要件1C に相当する構成(前記(2)C の構成)前記(1)のとおり,乙1文献には,「引張り試験の方法は,アムスラー万能試験機等に固定し,片端より管軸方向に加重をかけ,ブレード部分の離脱及び破断時の強度を測定するものとする。」という記載がある。この記載は,引張り試験において,ブレード部分の離脱及び破断が生じた後に,フレキシブルチューブの離脱又は破断が生じるという前後関係を当然の前提としたものである。そもそも,フレキシブルチューブ本体は蛇腹構\造のものであり,その名のとおり伸縮可能なものである(当事者間で争いがない。)のに対し,乙1文献のブレードはステンレス鋼(SUS304)であり,フレキシブルチューブの外面に均一に編まれたものであるから,構造上,フレキシブルチューブの伸長を防止する作用を奏するものであることが明らかである。本件特許1の出願時以前における技術常識についても,以下の点が認められる。昭和41年12月刊行の石井俊二著「螺旋管とベローズ型伸縮管継手のすべて」と題する論文(乙2)によれば,ブレードは,一般に,螺旋管に伸びを生じたり,外部からの衝撃から防護したり,美観を保持したりすることを目的とする部材である。また,平成9年7月1日発行の財団法人日本建築センター編『建築設備耐震設計・施工指針(1997年版)』(乙4)には,地震によるフレキシブル継手の破損状況が紹介されているところ,そこではブレードが破断したフレキシブル継手の写真が掲載されており,当該写真からはフレキシブルチューブがブレードの長さの約2倍の長さにまで伸長していることが読み取れる。以上のとおり,乙1文献には,フレキシブルチューブが破損するよりも先にブレードが離脱又は破断することを前提とした記載があること,乙1発明の構\造からすれば,必然的に当該構成が備わっていること,本件特許1の出願以前においても,当該構\成は公知のものであったことが認められる。そうすると,乙1文献に接した当業者であれば,乙1発明が本件特許発明1の構成要件1H に相当する構成(前記(2)H の構成)を備えていることについては,直ちに理解することができるものというべきである。\n
イ 本件特許発明1の構成要件1 に相当する構成(前記(2) の構成)\n
前記アのとおり,乙1文献には,フレキシブルチューブが破損するよりも先にブレードが離脱又は破断することを前提とした記載があること,フレキシブルチューブは蛇腹構造のものであり,その名のとおり伸縮可能\なものであるのに対し,ブレードはフレキシブルチューブの伸長を防止する構成のものであることが認められる。そうすると,乙1発明においても,ブレードが離脱又は破断した後,フレキシブルチューブは当然に伸長する。しかも,前記アのとおり,ブレードが離脱した後,フレキシブルチューブが約2倍の長さにまで伸長する構\成のフレキシブル継ぎ手が公知のものであったことも認められる。これらのことからすれば,乙1文献に接した当業者であれば,乙1発明が本件特許発明1の構成要件1 に相当する構成(前記(2) の構成)を備えていることについても,直ちに理解することができるものというべきである。\n
・・・
前提事実(3)イのとおり,構成要件2 は,「樹脂スリーブの小径内周の高さと金属スリーブの中間外周の高さおよび小径外周の高さの和を一致させ,」というものである。この文言からすると,樹脂スリーブの小径内周の高さと,金属スリーブの中間外周の高さ及び小径外周の高さの和は,同一であると解される。構成要件2Fにおいて「樹脂スリーブの大径内周径と金属スリーブの中間外周径をほぼ一致させたことを特徴とする」とされており,【特許請求の範囲】の記載において,「ほぼ一致」と「一致」とで書き分けられていることからも,上記のとおり解釈するのが合理的である。
・・・
前記のとおり,被告製品2−1が小径外周の構成を備えるか否かについては当事者間に争いがあるものの,樹脂スリーブの小径内周の高さが約13mmであり,金属スリーブの中間外周の高さ(又はこれと小径外周の高さの和)が約16mmであることについては当事者間で争いがない。そうすると,被告製品2−1において,樹脂スリーブの小径内周の高さは,金属スリーブの中間外周の高さ(又はこれと小径外周の高さの和)よりも短く,同一ではないから,構成要件2 を文言上充足するとは認められない。仮に,完全な同一を求めているとまではいえないとしても,上記3mmの違いは,全体の大きさや前記(1)に述べたことに照らしても,「一致」しているとはいえない。

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平成22(ワ)42637 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年08月30日 東京地方裁判所

 ライン照明モードについて技術的範囲に属しないと、また、スポット照明モードについては技術的範囲に属すると判断されたものの、公知発明から容易であるとして侵害は認められませんでした。
(ウ) ところで,本件明細書においては,共焦点作用について,「第一の次元での共焦点作用」又は「部分的共焦点作用」と「第一及び第二の次元での共焦点作用」又は「完全な共焦点作用」とを区別している。この点について,発明の詳細な説明においては,「発明の開示」において,「前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共焦点作用をもたらし,前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が,前記所与の領域外で受ける光を含まずに,またはこの光と分離して検出され,前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されていることを特徴とする」(4欄47行〜5欄3行)とされ,実施例に関する記載においては,「第3図の構成が部分的共焦点作用のみを発揮する理由は,CCDとコンピュータにより提供される空間フィルタリングが一次元でのみ起こり,二次元では起きないからである。これは,第1図のものと同じエレメントに空間フィルタ14を加えた第4図の実施例を使用することにより克服できる。…スリット30は一次元空間フィルタリングのみを提供し,ラマンバンド28のそれぞれが第5図の水平方向に空間的にフィルタリングされるようにしていることが認められるであろう。しかしながら,焦点19の外側からの若干の光が依然としてスリット30を通過し第3図の影を付けた領域に対応する第5図の領域において受領されることがある。これを克服するには,コンピュータ25を第3図の実施例におけると同様にプログラムして,線44同士の間にあるピクセルからのデータだけを処理し,線46同士の間にある他のピクセルを排除する。これにより,垂直方向における空間フィルタリングが得られ,スリット30により与えられる水平空間フィルタリングと一緒に,完全な二次元共焦点作用が達成される。」(6欄46行〜7欄33行)とされている。以上によれば,本件発明7は,焦点合わせの困難なピンホールを使用しない共焦点作用の技術において,Z軸方向の分解能\向上のために,単にCCDとコンピュータの組合せによる一次元空間フィルタリングを行うのみ(例えば,第1図の従来技術による部分的共焦点作用)ではなく,これにスリットによる空間フィルタリングを組み合わせることにより二次元の空間フィルタリングを行い,これによって完全な共焦点作用を達成しようとするものである。原告らは,完全な共焦点作用については,非分散性エレメントを用いる場合と分散性エレメントを用いる場合の2つに分け,部分的共焦点作用は分散性エレメントを用いる場合であるとするが,本件明細書において,そのような明確な区別をしているとみるだけの根拠に乏しく,いずれのエレメントを用いる場合においても,完全な共焦点作用と部分的な共焦点作用が生じるものと解するのが相当である。このような,本件発明7の技術的意義及び他に特許請求の範囲や発明の詳細な説明において「光」の意義を明らかにするような記載がないことに照らせば,構成要件Aの「光」の意義については,本件発明7の技術的意義を達成できるような光であるか否か,言い換えれば,本件発明7の構\成を備えた装置において,第一及び第二の次元での共焦点作用をもたらす光といえるか否かという観点から検討するのが相当である。
ウ そこで,ライン照明が第一及び第二の次元での共焦点作用をもたらす光といえるか否かについて検討する。
・・・
スポット照明の場合には試料のスポット光が照射された点から出たラマン散乱光のみがCCDに到達するのであるから,線44間の領域を読み取ることにより,Z軸方向の分解能が高くなり,第二の次元の共焦点作用が生じるものと解される。しかし,ライン照明の場合には,これと同様ということはできない。線PP間を読み取るということは,線PP間に到達した光全てを一括して1データとして読み取るということであって,線PP間に到達した光を検出器の各画素位置ごとに分解してデータを読み取るのではないことを意味し,これは線QQについても同様であると解される(原告らの実験である甲18別紙2の1頁14〜16行参照)。そうすると,ライン照明の場合には,たとえ線QQ間を読み取ったとしても,原告参考図6のように,他の点からの光が含まれており,Z軸方向の分解能\が高まるとはいえない。以上のとおり,原理的にみて,ライン照明の場合においては,QQ間のデータを読み取ったとしても,第二の次元の共焦点作用は生じないものというべきである。
・・・
原告らの実験3及び4によれば,スポット照明では,検出器の列数が少なくなると,FWHMの数値が小さくなり解像度が上がっている。他方で,原告らの実験5によれば,一様なサンプルを用いたライン照明では,検出器の列数を3から1にするとFWHMが小さくなっているが,列数を7から5及び5から3にする過程ではFWHMが小さくなっているとはいえないから,原告らの実験によっても,一様なサンプルを用いたライン照明において共焦点作用が生じるとはいい難い。オ 以上のとおり,原理的には,ライン照明では,光検出器における所与の領域は,サンプルの所与の面からの光だけでなく,他の面からの光も相当量受光するから,「第二の次元」の「共焦点作用」が生じないものと解されるし,実験の結果からみても,ライン照明において「第二の次元」の「共焦点作用」が生じるとは認められない。そして,その他ライン照明において共焦点作用が生じることを認めるに足りる証拠はない。カ 以上を踏まえて,構成要件Aの「光」の意義について検討するに,上記オのとおり,ライン照明において「第二の次元」の「共焦点作用」が生じるとは認められない。そうすると,構\成要件Aの「光」は,スポット照明を意味すると解するのが相当である。
・・・
乙16発明では,前記試料に照射されたスポット光からの散乱光は,前記入射スリットにおいて,入射スリットの手前に導入されたシリンドリカル・レンズの光学系を介して入射スリットの幅方向において焦点に絞り込まれて前記入射スリットを通過するものである。これは,回折格子(グレーティング)を使用した分光器で使われている球面鏡のような反射型光学素子により生じる前記PS−PMT上での非点収差を,シリンドリカル・レンズにより補正するものである(上記アの乙16発明の認定を参照)。すなわち,「シリンドリカル・レンズ」の光学系によって,入射スリットにおいて,あえて非点収差を与え,この非点収差によって分光器により生じる非点収差を解消するものであると解される。このように,入射スリットの手前にシリンドリカル・レンズが存在する限りは,それによって非点収差が与えられることにより,サンプルの所与の面の焦点からの散乱光がスリットにおいてスポットとして焦点に絞り込まれることにはならないものと考えられる。しかし,乙31号証には,「凹面鏡で光軸外に集光されることにより生じる非点収差を補正するために,CCDカメラの前に円柱レンズ(図1に図示されない)が用いられた。」(訳文2頁7〜9行)と記載されている(「円柱レンズ」はcylindrical lensの訳)。そして,乙16発明において設けられた「シリンドリカル・レンズ」は,球面鏡のような反射型光学素子により発生する非点収差の補正を行うものであるから,乙31号証の「円柱レンズ」は,乙16発明の「シリンドリカル・レンズ」と機能が同一であると認められる。そうすると,乙16発明の「シリンドリカル・レンズ」の位置を,乙31号証のように単に光検出器の前に移動させることは当業者にとって設計的事項というべきものであり,そのように構\成したことによる格別の効果も存在しない。そして,「シリンドリカル・レンズ」の位置を乙31号証のように光検出器の前に移動させることによって,乙16発明において,サンプルの所与の面の焦点からの散乱光は,入射スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて入射スリットを通過し,サンプルの所与の面の焦点の前または後で散乱される光は,入射スリットにおいて焦点を結ばないことになる。なお,シリンドリカル・レンズが光検出器の前に置かれ,そこで非点収差が与えられるとしても,これはそれによって分光器によって生じた非点収差を解消するためのものであるから,「前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段」という構成要件Dの構\成が阻害されるものではない。したがって,相違点4に係る構成は,当業者にとって容易想到であったと認められる。\n
・・・
乙16発明では,光検出器としてPS−PMT検出器が用いられているが,これは,CCDのようなアナログ検出器とは異なり,PS−PMTがデジタル検出器であり,宇宙線ノイズが入ったとしても,そのエネルギーに比例した応答がされるわけではなく,1カウントと数えられるだけであるため,超微弱信号の検出の目的に沿っているからである(乙16・3頁下から9行〜4頁6行)。回折格子(グレーティング)を使用した分光器では反射型光学素子を使わざるを得ないので非点収差が発生し,二次元検出器上でY方向への像の広がりが大きくなってしまうので,Y方向に信号を積算して(ビンニング),X方向の一次元検出器に変換して使用する。乙16発明では,ビンニングによりノイズを大量に取り込んでしまうと感度が低下するという問題が発生するために,非点収差を補正して,ビンニングされる素子の数をできるだけ減らすことによりノイズの取り込みを抑えるものである(乙16・4頁10行〜5頁2行)。ビンニングされる素子の数をできるだけ減らすことによりノイズの取り込みを抑えるという効果は,「PS−PMT検出器の場合により顕著である。」(乙16・4頁下から4〜3行)とされているが,CCDの場合にこの効果が生じないとされているわけではない。そして,乙16号証には,量子効率の絶対値や赤外域の感度などを重んじるならばCCD検出器の方が優れているなど,目的によって選択は異なってくることが記載されている(4頁6〜8行)。以上に照らすと,乙16発明において,PS−PMTに代えて,CCD検出器を採用することは当業者にとって容易に想到できることであったと認められる。これに対し,原告らは,超微弱信号の検出以外の目的でCCD検出器を用いることがあるとしても,かかる目的の場合は乙16発明を用いる必要はないから,乙16発明においてCCD検出器を用いる動機付けはないなどと主張する。しかしながら,PS−PMTを用いた乙16発明が超微弱信号の検出で有利であるとしても,上記のとおりCCD検出器の方が優れている部分もあるのであるから,他の目的のために,検出器をCCDに置換することが考えられるのであって,原告らの主張は採用できない。

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平成20(ワ)38602  特許権 民事訴訟 平成25年04月19日 東京地方裁判所

 特許権侵害事件です。審査中に行った補正が特許後に要旨変更と認定され、出願日が繰り下がり、特許無効と判断されました。
 旧特許法41条の規定中,「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができるというべきところ,上記明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項は,必ずしも明細書又は図面に直接表現されていなくとも,明細書又は図面の記載から自明である技術的事項であれば,特段の事情がない限り,「新たな技術的事項を導入しないものである」と認めるのが相当である。そして,そのような「自明である技術的事項」には,その技術的事項自体が,その発明の属する技術分野において周知の技術的事項であって,かつ,当業者であれば,その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができ,その技術的事項が明細書に記載されているのと同視できるものである場合も含むと解するのが相当である。これを本件においてみるに,前記のとおり,本件発明は,「交換システム」が備える「第2の手段」において,「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムの出口から送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムの入口で受信されるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を制御する」構\成(本件構成)を有するものである。そして,前記(1)のとおり,本件発明の要旨の認定に関しては,本件構成における「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムから送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムで受信されるように入トラヒックを当該交換システムが送信する時刻を制御する手段」にいう「交換システムから送信される」,「交換システムで受信される」,「交換システムが送信する」の各文言は,交換システムの出入口における送受信の制御のみならず,交換システムの内部における送受信の制御という動作をも含んでいると解されるものの,その文言解釈上,第一義的には,「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムの出口から送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムの入口で受信されるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を制御する手段」と解釈される。これに対し,本件当初発明にはこのような記載はもともと存せず,本件構\成のうち上記解釈される部分は本件補正によって新たに追加された構成である。・・・したがって,プロセッサからボコーダに送信される時刻を制御する技術的事項を開示するにすぎない本件当初明細書等には,本件構\成のうち,交換システムの出口から送信する時刻を制御する技術的事項については何ら記載されておらず,また,本件当初明細書の記載から自明である技術的事項であるということできない。以上によると,本件補正は,本件当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるとは認められないから,本件補正は,旧特許法41条所定の「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということはできず,要旨変更に該当するものというほかない。
・・・・
 これを本件についてみるに,前記3のとおり,本件当初明細書等の発明の詳細な説明と,本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は,その技術内容に係る記載において異なるものではなく,したがって,本件発明における構成要件F2(本件構\成)のうち,「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムの出口から送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムの入口で受信されるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を制御する手段」と解釈される部分は,本件明細書等の発明の詳細な説明に記載のない事項であり,入トラヒックを交換システムの出口が送信する時刻を制御する技術的事項につき,出願当時の技術常識からみても,当業者がそれを正確に理解でき,かつ過度の試行錯誤を経ることなく発明を再現することができるだけの記載があるとはいえないから,本件発明は,平成6年法律第116号附則6条でなお従前の例によるとされる特許法36条4項の実施可能要件を満たしておらず,本件発明1及び2に係る特許はいずれも特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。\n

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平成24(ネ)10092 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成25年04月11日 知的財産高等裁判所 

 間接侵害(特許法101条1号)について、専用品であるとの1審認定が維持されました。また、被告の無効主張は、時期に後れた抗弁としての却下はせず、採用したものの、最終的には無効理由無しと判断しました。
 第1審被告は,本件回転板が被告装置のために必須であるからといって,必ずしも本件発明を実施しないで使うことが使用形態として認められないというわけではなく,本件プレート板を使用しない形態が被告装置の経済的,商業的又は実用的な使用形態と認めることはできないとした原判決の認定は,事実を無視したものである,特許法101条1号は,他の用途がないことを要件とするものであって,「全く使用しないという使用形態」が要件となるわけではないし,本件プレート板を使用するか否かは,ユーザーの選択に委ねられているなどと主張する。しかしながら,特許法101条1号は,その物自体を利用して特許発明に係る物の生産にのみ用いる物についてこれを生産,譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであるところ,同号が,特許権を侵害するものとみなす行為の範囲を,「その物の生産にのみ用いる物」を生産,譲渡等する行為のみに限定したのは,そのような性質を有する物であれば,それが生産,譲渡等される場合には侵害行為を誘発する蓋然性が極めて高いことから,特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその効力の実効性を確保するという趣旨に基づくものであると考えられる。このような観点から考えれば,その物の生産に「のみ」用いる物とは,当該物に経済的,商業的又は実用的な他の用途がないことが必要であると解するのが相当である。そうすると,本件回転板及び本件プレート板は,本件発明における「共回り防止装置」の専用部品であると認められる以上,これらにおいて,経済的,商業的又は実用的な他の用途は認め難く,したがって,本件回転板及び本件プレート板は,「その物の生産にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ない。したがって,被告装置が本件プレート板を用いないで使用することが可能であることは,本件回転板及び本件プレート板が被告装置の生産にのみ用いる物に該当するとの判断を左右するものではない。
・・・・
 アの認定事実によれば,原審において,第1審被告は,被告装置は本件発明の技術的範囲に属しないと考え,無効の抗弁を提出しなかったところ,その後,第1審被告の予想に反して損害論の審理が行われるに至ったため,無効の抗弁を提出しようとしたが,原審裁判所は時機に後れたものとしてこれを認めなかったものと認められる。ウ 第1審被告は,当審において無効の抗弁を提出し,無効理由として,1)特許法36条違反,2)乙38文献に記載された発明に基づく容易想到性,3)本件発明と乙3文献に記載された発明との同一性について主張するが,特許法36条違反については,本件明細書等の記載を速やかに検討すれば早期に主張が可能であったものといえること,乙3文献は,平成22年9月1日の原審第1回口頭弁論期日において書証として提出されており,また,乙38ないし40の各文献は,平成24年5月9日の原審第12回弁論準備手続期日において書証として提出されたものであること(なお,乙39文献は第1審被告の出願に係る公開特許公報である。)からすると,原審裁判所が時機に後れたものとして主張を許さなかった無効の抗弁を当審に至って提出することは,時機に後れたものというほかない。そして, 無効の抗弁の提出が時機に後れた理由は,本件発明の技術的範囲に属するか否かについて,自らの主張が正しいと信じていたというにすぎないというのであるから,第1審被告には重大な過失が認められるといわざるを得ない。しかしながら,当事者双方は無効の抗弁について主張立証の追加を求めず,当裁判所は,平成25年3月14日の当審第1回口頭弁論期日において,弁論を終結したものである以上,無効の抗弁の提出が「訴訟の完結を遅延させる」(民訴法157条1項)ものとは認められず,また,「審理を不当に遅延させることを目的として提出された」(特許法104条の3第2項)とまで認めることはできない。よって,第1審被告による無効の抗弁の提出は,時機に後れた攻撃防御方法の提出として,これを却下することはできない。

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平成23(ネ)10087 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権 民事訴訟 平成25年03月05日 知的財産高等裁判所

 侵害との主張に対して、1審は特許無効とされるべきとして、請求を棄却し、その控訴審も棄却しました。1審弁論手続き終了後に、並列進行していた特許無効審判において、訂正がなされ、無効でないとの審決がなされました。本件、原告は、1審にてかかる主張を行いましたが、裁判所は時期に後れた抗弁としてこれを却下しました。控訴審では、上記審決が、審決取消訴訟にて取り消されたことも考慮したのか、時期に後れた抗弁については言及せず、訂正後の発明についても進歩性なしとして、請求を棄却しました。
 本件訂正発明1にいう「特定挙動」は前記のとおり「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」であって交通事故の発生を前提とするものではない(交通事故が発生しない場合も含む)が,本件訂正発明1においても,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えたか否かによって「特定挙動」の有無が判定されるから(本件訂正明細書の段落【0030】,【0034】,【0050】,図2,3等),装置の機能の面に着目すれば,本件訂正発明1において「特定挙動」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構\成は,上記周知技術において「交通事故」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構成と実質的に異なるものではない。加えて,上記周知技術と引用発明1とは,属する技術分野が共通し,前者を後者に適用するに当たって特段障害はないから,本件優先日当時,かかる適用を行うことにより,当業者が本件訂正発明1,2にいう「特定挙動」の発生前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集,記録する構\成に想到することは容易であるということができる。以上のとおり,乙第6号証記載の引用発明1に,「特定挙動」の発生前後の車両の挙動に係る情報を収集する条件を記録媒体に記録,設定する乙第2号証記載の発明と,「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする乙第1,第8,第11号証の1ないし5記載の周知技術を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,相違点Aに係る構成に容易に想到することができたというべきであり,本件訂正発明1は進歩性を欠く。\n

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平成23(ワ)16885 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年01月30日 東京地方裁判所

 特許発明の技術的範囲に属するが,本件特許は無効理由有りとして、請求棄却されました。
  ところで,乙6の【0007】には,「一般的に,望遠ズームレンズは,第1レンズ群が最も大型のレンズ群であり,フォーカシング時に繰り出されることが多い。このため,第1レンズ群を…補正光学系にすることは,保持機構及び駆動機構\が大型化し好ましくない。従って,本発明における正負負正負タイプも同様に,第1レンズ群を防振補正光学系にするのは好ましくない。」と記載されているから,第1群フォーカス方式が開示されていると解されるが,上記の「本発明」に対応する請求項1は,フォーカス方式を特定していない。そして,乙6発明の技術的意義に照らすと,乙6発明において第1群フォーカス方式であることが必須の前提であるとは解されない。そうすると,乙6発明は,第1群フォーカス方式以外のフォーカス方式を排除していないというべきである。また,証拠(乙8〜10)によれば,ズームレンズの技術分野において,1群フォーカスでは大型の構造になる欠点があるために,インナーフォーカスとすることは周知であることが認められる(乙8の【0003】,乙9の(従来の技術),乙10の[従来の技術と課題])。以上のとおり,乙6発明は第1群フォーカス方式の態様を含むのであり,上記の周知技術に照らすと,第1群フォーカス方式の態様において大型の構\造になるという課題を当業者は認識できる。
 (ウ) 乙7には,上記アのとおり,望遠レンズにおいては,第1レンズ群以外の比較的レンズ系の小さなレンズ群を光軸上移動させてフォーカスを行う内焦式フォーカス方式(インナーフォーカス方式)を用いている場合が多いことが記載されるとともに,インナーフォーカス方式を用いた望遠レンズにおいて,一部のレンズ群を偏芯させて防振を行うと,偏芯収差の発生量が著しく多くなり,特にフォーカスに際しての偏芯収差の発生量の変動が多くなり撮影画像の光学性能を著しく低下させる原因となっていることが記載されている。そして,上記の周知技術に照らすと,当業者は,乙7では,第1群フォーカス方式のレンズが従来技術と位置付けられているとともに,その課題を解決するためにインナーフォーカス方式が採用されてきたことに加え,インナーフォーカス方式における防振レンズでは,撮影画像の光学性能\を著しく低下させるとの課題が生じることが示されていると認識できる。
 (エ) そして,乙6と乙7はともに,本件特許発明の属する像シフトが可能なレンズの技術分野に属するものであるから,当該技術分野の当業者は,乙6と乙7とに同時に接することができる。そうすると,当業者は,1群フォーカス方式の態様を含む乙6発明において,1群フォーカス方式の欠点を解消するとともに,撮影画像の光学性能\を著しく低下させることのない防振レンズを構成するとの課題を認識することができるから,その課題を解決するために乙7発明を適用する動機付けがあると認められる。したがって,乙6発明に乙7発明を組み合わせることは容易であると認められる。\n

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平成24(ネ)10030 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成25年01月30日 知的財産高等裁判所

 侵害訴訟について侵害成立を認めた1審判断が維持されました。1審被告の無効主張は時期に後れた抗弁として採用されませんでした。
 以上のように,原審の受命裁判官は,第1回弁論準備手続期日において控訴人らに対し無効論の準備をするように指示し,控訴人らは,本件訴訟の提起(平成20年11月19日,同月25日訴状送達)から2か月以上後の平成21年2月6日付け第1準備書面により,本件特許1及び本件特許2の請求項1,3,5について最初の無効主張を行い,同年6月12日付け準備書面(4)により請求原因に追加された本件特許2の請求項7,8については,追加から約3か月後である同年9月18日付け第8準備書面により最初の無効主張を行っている。そして,平成22年2月5日の第8回弁論準備手続期日において,受命裁判官は,本件各特許について無効理由の追加は原則として認めないとし,同年6月14日(本件主張期限)の第11回弁論準備手続期日におい当事者双方により技術説明が実施され,原審裁判所は,以後,侵害論についての主張立証の追加は認めないとしたものである。上記原審の審理経過によれば,原審裁判所が侵害論についての主張立証の追加は認めないとした平成22年6月14日(本件主張期限)は,本件訴訟の提起から1年6か月以上後で,本件特許2の請求項7,8が請求原因に追加されてから約1年を経過し,しかも,受命裁判官が無効理由の追加は原則として認めないとした第8回弁論準備手続期日からも4か月以上を経過しているのであるから,侵害論の主張を制限する期間として短すぎるとは認められない。控訴人らは,505号明細書を主引用例とする無効主張は,本件発明2−7,2−8とほとんど同じ構成の発明が記載されたものであること等を理由に,その主張立証は訴訟の完結を遅延させることとなるものではないと主張する。しかしながら,同無効主張を審理するためには,505号明細書に記載された技術事項及びこれに基づく容易想到性の論理付け等について被控訴人に反論反証の機会を与えなければならず,そのためには相当の期間を要するものと認められ,訴訟の完結を遅延させることは明らかである。また,控訴人らは,505号明細書は米国特許明細書であるから,提出が後れたことはやむを得ないものであった旨主張する。しかしながら,本件主張期限(平成22年6月14日)は本件訴訟の提起から1年6か月以上後である上,505号明細書を主引用例とする無効主張が記載された第25準備書面の提出及び505号明細書の証拠申\出がされたのは,更にその10か月以上後の平成23年5月9日であって,米国特許明細書であることを考慮しても,その提出がこの時期に至ったことにやむを得ない事情があったと認めることはできず,控訴人らの主張は理由がない。控訴人らは,無効61号事件において被控訴人が訂正請求を遅延させたために不利益を被った旨主張する。しかしながら,無効61号事件における訂正請求の内容は,無効190号事件における平成21年12月24日付け訂正請求と同一であり,被控訴人は,同訂正を内容とする訂正の対抗主張を,同年11月20日付け準備書面(11)によりしていたのであるから,本件訴訟において,無効61号事件における平成23年11月4日付け訂正請求が控訴人らに不利益を与えたということはできない。原審追加無効主張(平成22年12月15日付け第24準備書面,平成23年5月9日付け第25準備書面,同年8月4日付け第27準備書面及び同月30日付け第28準備書面による主張)及びこれらに係る上記各証拠は,いずれも本件主張期限から6か月以上も経過した後に提出されたもので,提出が当該時期となったことにやむを得ない事情は認められないから,控訴人らは,少なくとも重大な過失によりこれらの主張立証を時機に後れて提出したものというべきであり,かつ,これにより訴訟の完結を遅延させるものと認められる。したがって,原審追加無効主張を時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下した原審裁判所の判断に,誤りはない。
(ウ) 当審においても,原審追加無効主張は,上述したのと同様の理由により少なくとも重大な過失により時機に後れて提出されたものというほかなく,かつ,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることも明らかである。控訴人らは,本件のように改正法の公布,施行時をまたいで係属していた事件について,無効主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下すると,控訴人らは予想外の著しい不利益を被ることになるなどと主張する。しかしながら,上記イに認定した原審の審理経過によれば,控訴人らには無効主張を提出する十\分な期間があったというべきであるから,控訴人らの主張を採用することはできない。よって,当審において提出された控訴人らの原審追加無効主張は,民事訴訟法157条1項によりこれを却下する。

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