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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

104条の3

平成23(ネ)10080 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年11月14日 知的財産高等裁判所

 経緯が複雑です。1審では無効理由有りとして権利行使不能(特104条の3)と判断されました。権利者は控訴するとともに、訂正をしましたが、訂正要件を満たしていないので、訂正は認められないとして、1審と同じく請求棄却されました。 この侵害訴訟と並列に、無効審判でも争われています。特許庁は無効理由無しとしましたが、知財高裁はこれを取り消しました。特許権者は訂正請求し、特許庁は訂正を認めたうえ、無効理由無しと判断しました。これについても訂正要件を満たしていないので、訂正は認められないと判断されました。
 ウ 以上のとおり,本件明細書の全ての記載を総合しても,「前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上」としてラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレートが必須であること及び「前記他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上」としてメチルメタクリレートが必須であること並びにラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレート,及びメチルメタクリレートと,これらの物質にそのほか任意に重合性ビニル単量体を付加した構成とがいずれも機能\上等価であることに関する技術的事項が導き出せない以上,訂正事項1及び2により,多種類の他の化合物と同列に例示されていたにすぎないラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレート,及びメチルメタクリレートを必須のものとして含むように本件特許発明を訂正することは,本件明細書の実施例10及び11を上位概念化した新規な技術的事項を導入するものというべきであり,許されるものではない。
 エ この点について,控訴人は,1)ラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレート,及びメチルメタクリレートは,いずれも本件特許発明における発明特定事項の下位概念としての具体的単量体であり,訂正事項1及び2により,具体的単量体を必須成分とした発明に減縮されることから,訂正事項1及び2は,特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当する,2)本件訂正は,本件明細書に当初から開示されていた顕著に優れた効果について,「液晶パネル点灯時の光抜け防止」の特に優れた具体的効果を奏する構成として特定したにすぎず,本件特許発明の技術的評価を変容させるものではないなどと主張する。しかしながら,本件明細書において,ラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレート,及びメチルメタクリレートは,多種類の他の化合物と同列に例示されていたにすぎず,「前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上」としてラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレートが必須であること及び「前記他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上」としてメチルメタクリレートが必須であること並びにラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレート,及びメチルメタクリレートと,これらの物質にそのほか任意に重合性ビニル単量体を付加した構\成とがいずれも機能上等価であることに関する技術的事項が本件明細書に開示されていない以上,具体的単量体を必須成分とした発明に特定することをもって,訂正事項1及び2が訂正要件を充足するものということはできない。また,ラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレート,及びメチルメタクリレートを必須のものとして含むように訂正することこそが,新たな技術的事項を導入するものというべきである以上,本件訂正が,本件明細書に当初から開示されていた顕著に優れた効果について,「液晶パネル点灯時の光抜け防止」の特に優れた具体的効果を奏する構\成として特定したものであるか否かは,前記ウの判断を左右するものではない。

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成21(ワ)30094号

◆こちらは訂正取消審決です。平成23(行ケ)10431

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平成23(ワ)8218 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年11月15日 大阪地方裁判所

 侵害訴訟にて、無効抗弁が認められ、非侵害と判断されました。
 乙1発明を本件特許発明と対比すると,1)乙1発明の「基板」は本件特許発明の「載置板」に,2)乙1発明の「金属ケース」は本件特許発明の「ケース層」に,3)乙1発明の「開口」部分は,本件特許発明の「接続挟持層」に,4)乙1発明の「基板」の底表面と「金属ケース」との間に存在する層は本件特許発明の「板底挟持層」に,5) 乙1発明の「接触子」は本件特許発明の「第1接続端子」に,6)乙1発明の外部電子機器に設けられた接続端子は本件特許発明の「第2接続端子」に,7) 乙1発明の基板の底表面に固定された「電子素子」は本件特許発明の「電子装置」に,それぞれ相当することが認められる。したがって,乙1発明は,USB規格に基づくものであるか否かが明らかではないものの,その他の点では本件特許発明と同一の構\成であると認めることができる(原告も明らかに争っていない。)。乙1文献には,プラグの規格に関する記載が見当たらないものの,USB規格を除くなど,限定的に解釈する理由は見当たらない。かえって,乙6によれば,本件優先日(平成16年11月1日)当時,USB規格は広く知られていたことが認められる。前記(1)図1,図2aのプラグの形状からしても,乙1文献に接した当業者は,乙1発明におけるプラグの規格として,USB規格も想起したことが明らかである。乙1文献のプラグの規格にUSB規格を採用することについて,何らかの阻害要因が存したことを窺わせる事情もない。そうすると,上記相違点に係る本件特許発明の構成(プラグがUSB規格によったものであること)は,実質的に乙1文献に記載されているものと同視することができる。したがって,本件特許発明は,乙1発明と同一であると認められる。\n2 争点6(訂正の再抗弁1)について 原告は,乙1発明に本件訂正発明の構成要件訂正I及び訂正Jが記載されていないから,本件訂正によって前記1の無効理由が解消される旨主張する。しかしながら,以下のとおり,乙1発明に本件訂正発明の構\成要件訂正I及び訂正Jが記載されていないとは認めることができない。結局,前記1で述べたところを総合すると,本件訂正発明も,乙1発明と同一であると認めることができる。
(1)本件訂正発明の構成要件訂正I
本件訂正発明の構成要件訂正Iは「前記板底挟持層内の一部に該板底挟持層の変形を防止するための支持装置を設け,」というものである。前記1(1)の乙1文献に記載された各図には,基板1のコネクタ11側の端部を支持する金属ケース3の開口部に設けた部材(図2bの左端下側の斜線で描かれた階段状部分)が図示されている。当該部材は,基板1の厚みを有する段を備え,基板1のコネクタ11側の端を幅全体にわたって支持するものである。そうすると,当該部材の上記構成自体からして,基板1を支持することで乙1発明の基板1の底表\面と金属ケース3とで画定される層(本件訂正発明の「板底挟持層」に相当)の変形を防止するものであることは明らかである。したがって,上記部材は,本件訂正発明の構成要件訂正Iの「支持装置」に相当するものであると認めることができるから,乙1文献には,本件訂正発明の構\成要件訂正Iが記載されているものというべきである。
(2)本件訂正発明の構成要件訂正J
本件訂正発明の構成要件訂正Jは,「該板底挟持層の外界との接続面のみに前端保護層を設けたことを特徴とする,」というものである。前記1(1)の乙1文献に記載された各図には,基板1のコネクタ11側の端部を支持する金属ケース3の開口部に設けた部材(図2bの左端下側の斜線で描かれた階段状部分)が図示されている。そして,当該部材の上記構成自体から,乙1発明の基板1の底表\面と金属ケース3とで画定される層(本件訂正発明の「板底挟持層」に相当)の外界との接続面のみに設けられた部材であることは明らかである。そうすると,上記部材は,本件訂正発明の構成要件訂正Jの「前端保護層」に相当する構\成であると認めることができるから,乙1文献には,本件訂正発明の構成要件訂正Jが記載されているものというべきである。\n

◆判決本文

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 >> 技術的範囲
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平成23(ワ)24355  特許権 民事訴訟 平成24年10月30日 東京地方裁判所

 技術的範囲に属する、間接侵害を構成する、無効理由無しとして、差止請求のみの請求が認められました。経緯は以下の通りです。無効審判請求に対して、訂正請求がなされ、審判では無効と判断されました(第1次審決)。取消訴訟が提起され、知財高裁はこれを取り消した。差し戻し後、無効理由無しとした審決がなされました。
 本件訂正発明1の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項1)の記載中には,「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」との記載があり,「発光部」が発光する「光」は,「受光手段に投光するための光」であると規定しているが,この「光」を特定の領域の波長に限定したり,可視光に限定する旨の文言は存在しない。加えて,甲18(岩波理化学辞典(第5版))に,「光」は,「可視光線に限定することもあるが,ふつうは紫外線,赤外線をあわせ波長が約1nm〜1mmの範囲にある電磁波を光とよぶ。」との記載があること,本件訂正明細書(甲24)の「発明の詳細な説明」中には,本件訂正後の請求項1の「光」の用語を定義する記載や,この用語を普通の意味とは異なる特定の意味で使用することを説明した記載がないことに照らすならば,本件訂正後の請求項1の「光」は,その文理上,可視光に限定されるものではなく,赤外線を含むものと解される。
b 次に,本件訂正後の請求項1の文言,前記(イ)の本件訂正明細書の「発明な詳細の説明」の記載事項及び各図面を総合すれば,本件訂正明細書には,i)従来,キャリッジに複数のインクタンクを搭載して使用する記憶装置としてのプリンタにおいては,インクタンクの誤装着を防止するために搭載位置を特定する構成として,インク色に対応するインクタンクの搭載位置を定めた上,搭載部とインクタンクが係合する相互の形状を搭載位置ごとに異ならせ,他のインク色のインクタンクが装着できないようにする構\\成や,インクタンクの電気接点とキャリッジ等の搭載位置における本体側の電気接点とが接続して形成される回路の信号線を,搭載位置ごとに個別のものとし,この個別の信号線を用いてインクタンクからインク色情報を読み出し,インクタンクが正しい位置に装着されているか否かを検出する構成が提案されていたが,これらの構\\成では,インク色ごとに異なる形状のインクタンクを製造したり,信号線の配線数を増す必要があり,コスト増の要因となるなどの課題があったこと,ii)一方で,信号線の配線数を削減するための配線方式としては,複数のインクタンクと記録装置との間に共通の信号配線を用いる共通バス接続方式が有効であるが,共通バス接続方式を採用した場合,全てのインクタンクからの信号が共通の信号配線で送信されてくるため,インクタンクからの信号を受信しただけでは当該インクタンクがキャリッジ内に装着されていることを検出することはできても,その搭載位置を特定することができず,それが正しい搭載位置に装着されているか否かを検出できないという課題があったこと,iii)本件訂正発明1は,共通バス接続方式を採用しながらも,各インクタンクがインク色に応じてキャリッジの所定の位置に正しく装着されているか否かを検出することを目的とし,上記課題を解決するための手段として,キャリッジに搭載された複数のインクタンクにそれぞれのインク色情報を保持可能な情報部と,本体側の記憶装置に設けられた受光部に投光するための光を発光する発光部と,その発光を制御する制御部とを設け,インクタンクが受光部に対向する位置で発光する場合には受光部が受光できるようにし,キャリッジを相対移動させることにより,所定の位置で各インクタンクと受光部とを対向させ,本来装着されるべき位置のインク色のインクタンクを順次発光させ,受光部が受光できたときは当該インク色のインクタンクが本来の正しい搭載位置に装着されていると判断し,受光部が受光できなかったときは受光部に対向する位置には誤ったインク色のインクタンクが装着されていると判断するという「光照合処理」(前記(イ)i)の方法を採用することにより,共通バス接続方式を採用しつつインクタンクの装着位置の誤りを検出するという作用効果を奏するようにした点に技術的意義があることが開示されているものと認められる。そして,上記「光照合処理」は,インクタンクの発光部が発する光が赤外線であっても行うことができること(甲3ないし12)からすると,本件訂正発明1の上記技術的意義に鑑みても,本件訂正発明1の「光」から赤外線を除外すべき理由はない。

◆判決本文

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 >> 技術的範囲
 >> 間接侵害
 >> 104条の3

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平成23(ワ)6980 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年11月01日 大阪地方裁判所 

 技術的範囲に属する、間接侵害品に該当すると認定されましたが、104条の3により権利行使不能と判断されました。
 構成要件A3は,「当該接触検出回路で接触体(5)と被加工物又は工具ないし工具取付軸との接触を電気的に検出する位置検出器において」というものであるが,「接触検出回路」が「接触体」と「被加工物又は工具ないし工具取付具」との「接触」を「検出」する方法につき,「電気」や「電流」によって検出するとはせず,「電気的に」検出するとしている。一般に「的に」との用語を名詞の語尾に付けた場合,それそのものではないが,それと似た性質を持つものを含めた語感を持つことになるところ,「電気的に検出する」との表現は,「接触検出回路」が接触体,被加工物等及び位置検出器本体を流れた電流を直接検出する場合のみを指すのではなく,電気と似た性質を持つ媒体を介在させて検出した場合も含んだものと解するのが文言上自然である。イ 本件明細書の記載及び技術常識本件明細書においても,「接触体」と「被加工物又は工具ないし工具取付具」との「接触」を「検出」する方法につき,接触体,被加工物等及び位置検出器本体を流れた電流を直接検出するものに限定する記載はない。むしろ,本件特許発明は,接触体に通電,非通電を繰り返すことで接触体が磁化することに伴う誤差発生防止を課題として掲げるものであることに照らせば,位置検出の過程で接触体への通電を利用する構成であれば足り,「接触検出回路」がその電流を直接検出しているか否かで技術的範囲の属否を左右させる合理的理由は見出しがたいというべきである。
ウ 被告の主張について
被告は,「電気的に検出する」の意味につき,接触体と被加工物との間に流れる電気を直接に検出する構成に限定されると主張するが,あえて「的に」という幅を持たせる文言が使用されていることと整合しない解釈といわざるを得ず,採用できない。
エ 小括
以上によると,構成要件A3の「電気的に検出する」とは,「接触検出回路」が接触体,被加工物等及び位置検出器本体を流れた電流を直接検出する場合のみを指すのではなく,電気と似た性質を持つ媒体を介在させて検出した場合も含んでおり,電磁気学の技術常識に照らし,少なくとも磁気を介在させて検出した場合を含むと解するのが相当である。そして,ハ号スタイラスを装着したロ号検出器の構\成ロa3は,「前記励起コイルをもって励起されている本体及び接触体と被加工物であるワークとの接触を,前記接触体,前記ワーク,及び機械主軸により閉ループ回路が形成されることにより,前記検出コイルに誘電電流が流れ,電気的に検出する位置検出器」であるが,接触体,被加工物等及び位置検出器本体を流れた電流の電磁誘導によって検出コイルに誘導電流を流し,接触検出回路がこれを検出するというものである。そうすると,被加工物等との接触によって接触体などを流れた電流と接触検出回路が直接検出する電流との間には,磁気が介在することになるが,上記のとおり解釈したところの「電気的に検出する」構成といえる。したがって,ハ号スタイラスを装着したロ号検出器は,「接触検出回路」が,接触体と被加工物等との接触を「電気的に検出する」ものであり,構\成要件A3を充足する。
(4) 構成要件A2の充足性
原告は,構成要件A2の「接続」につき,物理的に有線で接触している場合だけでなく,相互に情報を交信できるような状態をも含むと主張するのに対し,被告は,接触検出回路が接触体と直接電気的に接続されていることが必要とされている旨主張するので,この点を検討し,充足性を判断する。
ア 特許請求の範囲の記載
構成要件A2は,「当該接触体に接続された接触検出回路(3,4)とを備え,」というものであるが,「接続」の意味を明示的に表現する記載はない。しかし,特許請求の範囲の記載全体に照らして考えれば,「接触体」と「接触検出回路」の「接続」は,「接触検出回路」が「接触体」と「被加工物又は工具ないし工具取付軸」との「接触」を「電気的に検出する」ことを可能\とするために必要とされる構成であることが読み取れる。そうすると,「接触体」と「接触検出回路」との「接続」は,上記「接触」を「電気的に検出する」ことが可能\な構成であることを求めているとはいえるものの,接触検出回路が接触体と直接電気的に接続されている,つまり,接触体に流れた電流が接触検出回路に直接流れるような構\成であることまでは求めていないと解される。
イ 本件明細書の記載
本件明細書において,「接続」の意味や射程を説明する記載は特にない。しかし,本件特許発明は,接触体に通電,非通電を繰り返すことで接触体が磁化することに伴う誤差発生防止を課題として掲げるものであることに照らせば,「位置検出回路」が「接触体」と「被加工物」等との「接触」という情報を,「接触体」への通電を利用して「検出」できるものであることが必須であるところ,「接触体」と「接触検出回路」との「接続」も,かかる情報伝達が可能な構\成を求める趣旨であると解して矛盾はない一方,接触体に流れた電流が接触検出回路に直接流れるような構成に限定する合理的理由は見出しがたい。
ウ 被告の主張について
被告は,「接続」につき,接触検出回路が接触体と直接,電気的に接続されていることが必要とされている旨主張するが,その主な根拠としては,この「接続」が,構成要件A3の「電気的に検出する」の前提となる構\成であることを挙げる。この点,「接続」が「電気的に検出する」の前提として必要とされる構成であることは被告の指摘のとおりである。しかし,「電気的に検出する」の解釈につき,被告の主張が採用できないことは,前記(3)において論じたとおりであり,「電気的に検出する」を前記(3)のとおり解釈する以上,その前提となる「接続」についても,前記ア,イのとおり理解するのが一貫性のある解釈といえる。したがって,被告の主張は採用できない。
エ 小括
以上によると,「当該接触体に接続された接触検出回路」の「接続」は,「接触検出回路」が「接触体」と「被加工物」等との「接触」という情報を,前記(3)で示した意味で「電気的に検出する」ことを可能とする情報伝達の構\成をとっていることを求めているものの,接触体に流れた電流が接触検出回路に直接流れるなど,物理的なつながりは求めていないと解するのが相当である。
・・・
(1) 特許法101条1号
証拠(甲2〜4)によれば,ハ号スタイラスは,これを備え付けても本件特許発明の技術的範囲に属することにはならない内部接点方式の位置検出器とも適合性を有することが認められるから,本件特許発明の技術的範囲に属する製品の生産に「のみ」用いる物(特許法101条1号)であるとはいえない。この点,原告は,ハ号スタイラスを内部接点方式の位置検出器に用いることは,社会通念上経済的,商業的ないしは実用的であると認められる用途に当たらないため,「その物の生産にのみ用いる」との要件を否定する理由にはならない旨主張する。確かに,内部接点方式の位置検出器では接触体は通電されないため,その接触部の磁化による測定誤差発生という課題はなく,接触部を非磁性体とした接触体を使う必要性に欠ける。しかし,ハ号スタイラスは,超硬合金であることに由来し,被加工物等との接触を繰り返すことで摩耗や変形による測定誤差が生じることを防止するという作用効果も有するのであるから,内部接点方式の位置検出器であっても,ハ号スタイラスを装着させる実用性は肯定されるというべきである。したがって,原告の主張は採用できない。
(2) 特許法101条2号
ア ハ号スタイラスは,本件特許発明の技術的範囲に属するハ号スタイラスを装着したイ号検出器及びハ号スタイラスを装着したロ号検出器の生産に用いるものである。加えて,本件特許発明は,その課題として,通電,非通電を繰り返すことで接触体が磁性化して誤差が発生することを防止するとともに,接触体が被加工物等との当接離隔を繰り返すことで摩耗や変形による測定誤差が発生することを防止することを掲げ,その解決方法として,「接触体(5)の接触部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる非磁性材で形成されている」(構成要件B)との構\成を採るものである。そうすると,「接触部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる弱磁性として非磁性材であるHAN6で形成されている」(構成イb,ロb)ハ号スタイラスは,まさに本件特許発明の掲げる課題を解決する構\成を成しているといえる。したがって,ハ号スタイラスは,「物の発明」である本件特許につき,「その物の生産に用いる物」であり,かつ「その発明による課題の解決に不可欠なもの」(特許法101条2号)といえる。イ そして,原告は,被告に対し,平成22年12月3日付の「催告書」と題する書面を送付し,被告はこれを遅くとも同月6日には受領したが,同書面には,本件特許の特許番号,登録日,本件特許発明の構成要件に加え,イ号検出器が本件特許権を侵害することなどが記載されていた(乙1,弁論の全趣旨)ところ,被告は同日以降,本件特許発明が「特許発明であること」及びハ号スタイラスが「その発明の実施に用いられること」を知っていた(特許法101条2号)といえる。ただし,同日より前の時点で,被告がそれら事実関係を知っていたと認めるに足りる証拠はない。
ウ 一方,被告は,ハ号スタイラスにつき,間接侵害(特許法101条2号)の除外要件である「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たる旨主張する。確かに,ハ号スタイラスの用途は,これを備え付けた場合に本件特許発明の技術的範囲に属することになるイ号検出器及びロ号検出器に限定されているわけではなく,本件特許発明の技術的範囲に属さない内部接点方式の位置検出器とも適合性を有するものではある(甲2〜4)。しかし,結局のところその用途は,位置検出器にその接触体として装着することに限定されており,この点,ねじや釘などの幅広い用途を持つ製品とは大きく異なる。また,そのような用途の限定があるため,実際にハ号スタイラスを購入するのは,位置検出器を使用している者に限られると考えられる。このような事情を踏まえると,ハ号スタイラスは,市場で一般に入手可能な製品であるという意味では,「一般に流通している」物とはいえようが,「広く」流通しているとは言い難い。また,そもそもこのような除外要件が設けられている趣旨は,「広く一般に流通しているもの」の生産,譲渡等を間接侵害に当たるとすることが一般における取引の安全を害するためと解されるが,上記のように用途及び需要者が限定されるハ号スタイラスにつき,取引の安全を理由間接侵害の対象から除外する必要性にも欠けるといえる。したがって,ハ号スタイラスは「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たらず,この点に関する被告の主張は採用できない。
(3) 小括
以上によると,被告によるハ号スタイラスの製造,販売は,本件特許発明との関係において,平成22年12月6日以降,特許法101条2号の規定する間接侵害の要件を満たすものといえる。
・・・
そこで次に,乙12発明の接触体の接触部について,「非磁性部材」の具体的材質の選択に当たり,乙14文献及び乙24文献の開示する技術的事項を適用して本件特許発明を想到することが容易であったかを検討する。まず本件特許発明の掲げる課題は,通電,非通電を繰り返すことで接触体が磁化することに伴う測定誤差発生の防止と,接触体と被加工物等との繰り返しの接触による接触体の摩耗や変形に伴う測定誤差発生の防止とであるが,前者は接触体の接触部を非磁性部材とすることで解決される課題であるから,乙12発明で未解決なのは後者の課題のみである。そして,乙12文献内に明示こそされていないものの,通電方式の位置検出器の接触体の接触部は,金属製の被加工物等と繰り返し接触することが当然に想定されていること,被告において,平成元年の時点で既に接触部を超硬合金とする接触体を製造,販売し,現在まで継続していること(甲2〜4,乙19〜23)からすると,接触体の摩耗や変形に伴う測定誤差という課題は,本件特許出願(平成11年4月7日)の時点で,当業者にとって周知の課題であったといえるし,また,その解決手法として,接触体の接触部を超硬合金とすることも周知技術であったといえる。一方,タングステンカーバイトにニッケルを結合材として焼結することで非磁性体の超硬合金が得られるとの技術的事項は,昭和45年には既に文献公知となり(乙24),平成2年頒布の「改訂5版金属便覧」と題する文献にも記載され(乙14),本件特許出願(平成11年4月7日)前に技術常識であったと認められることに加え,本件特許発明と用途や課題が異なるとはいえ,同一の技術分野において本件特許出願前に頒布された文献(乙17,18)中でも,同部材が利用されていた。そうすると,乙12発明の開示する「非磁性部材」の具体的材質を選択するに際し,上記周知課題及び周知技術の下で,「タングステンカーバイトにニッケルを結合材として焼結した非磁性の超硬合金」を選択することは,単に公知材料からの最適材料の選択に過ぎず,当業者の通常の創作能力の発揮であり,当業者が容易に想到することができたものといえる。したがって,乙12発明に,乙14文献及び乙24文献の開示する技術的事項を組み合わせて本件特許発明に想到することは容易であったといえる。
(5) 原告の主張について
この点,原告は,通電,非通電を繰り返すことで接触体が磁化することに伴う測定誤差発生の防止という本件特許発明の掲げる課題が,乙12文献ほか,本件特許出願前のどの文献にも開示されておらず,本件特許発明に至る動機付けに欠ける旨主張する。しかし,この課題は,乙12文献の開示する乙12発明の構成,つまり,「接触体の接触部を非磁性部材とする」ことで既に解決されているのであるから,当該課題にかかる動機付けがなければ本件特許発明の構\成に至ることができないなどというものではない。言い換えれば,通電方式の位置検出器において,「接触体の接触部を非磁性部材とする」構成は,主引例である乙12文献に開示されているのであるから,かかる構\成へ至るための課題の開示,動機付けの有無を問題とする必要はないといえる。また,「接触体の接触部を非磁性部材とする」構成の具体的な材料選択をする前提として,そのような上位概念で表\現された構成を維持することへの動機付けが求められると解したとしても,あくまで既に公知となっている構\成を維持するだけの動機付けがあるか否かの問題であり,新規の構成へ至る動機付けがあったかが問われるわけではない。通電方式の位置検出器において,「接触体の接触部を非磁性部材とする」ことでその磁性化を防止できることは,乙12文献でその構\成に触れた当業者にとって明らかであるが,通電方式の位置検出器における測定対象は通電性のある物質であること,乙12文献中の上記構成は強磁性の環境下における位置検出器で採用されたものであることからして,接触体の接触部の磁性化を避けることができれば,切削加工等で生じた切粉の付着など磁性化に伴う不都合を回避する効果が得られることも,乙12文献に触れた当業者が予\測し得る範囲内にある。そのため,「接触体の接触部を非磁性部材とする」構成を採る技術的意義は,その構\成自体が示唆するものといえ,これを維持するだけの動機付けがあるといえる。なお,同様の理由により,当業者の予測し得ない顕著な作用効果や用途を見出したともいえず,かかる観点から本件特許発明の進歩性を肯定することも困難である。したがって,課題の示唆がないことを理由として本件特許発明の容易想到性を否定する原告の主張は採用できない。
(6) 小括
以上によると,本件特許は,進歩性欠如の無効理由を有しており,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告に対し,本件特許権に基づく権利を行使することはできない(特許法104条の3)。

◆判決本文

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平成23(ワ)10712 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年10月18日 大阪地方裁判所

 携帯のワン切り関係の特許について、第1特許については技術的範囲外、第2特許については104条の3により権利行使不能と判断されました。
 前記(ア)の出願経過によれば,原告は,審査官から「前記制御手段は,前記ID番号が前記電話帳メモリに登録されている番号の一つと一致したら着信音を発生させる一方,一致しなければ所定時間だけ着信音を発生させず,その後所定時間経過したら着信音を発生させること」という構成が新規事項に当たるとして拒絶理由通知を受けたことから,この構\\成を含まないものとして手続補正をし,これにより特許査定を受けたものというほかない。前記アの原告の主張は,本件特許発明2−3の構成要件Jの意義について,上記拒絶理由通知を受けた構\\成と同一であるというものにほかならないから,上記出願経過に照らせば,包袋禁反言の法理により許されないものというべきである。
エ 小括
これらのことからすると,本件特許発明2−3の構成要件Jの「着信情報」とは, i)通信端末装置が圏外や電源がオフの場合に,ii) 通信ネットワーク側の交換制御装置に記憶されるものであり,iii) 少なくとも発呼側のID情報及び呼出継続時間情報を含むものをいうと解するほかない。
(2)被告製品の構成
 被告製品について,i) 通信端末装置が圏外や電源がオフの場合に,ii) 通信ネットワーク側の交換制御装置に記憶されるものであり,iii) 少なくとも発呼側のID情報及び呼出継続時間情報を含むものとしての「着信情報」を受信する構成を有する旨の主張立証はない。この場合に,リンガーの発生を制御する構\\成を有する旨の主張立証もない。したがって,被告製品について,本件特許発明2−3の構成要件Jを充足するとは認めることができない。
2 争点3−1(先願発明の有無)について
以下のとおり,本件特許発明1は,乙14発明と同一であると認められる。(1)乙14公報に関する出願明細書には,以下の記載がある。
・・・
乙14発明の各構成は前記(2)のとおりであるが,同発明と本件特許発明1−1ないし1−3を対比すると,1Fを除いた乙14発明の構成が本件特許発明1−1ないし1−3の各構\\成要件と同一であることについて,原告は,これを明らかには争っていない。原告は,前記第3の5【原告の主張】のとおり,発呼側端末のID番号が格納されているのは,本件特許発明1−1では構成要件Fの「電話帳メモリ」であるのに対し,乙14発明では「電話帳及び/又は発信履歴」である点において相違する旨主張する。一般に,「及び」は,名詞相互をつなぎ,それらの指すものに一括して言及する場合に使われる接続詞であるのに対し,「又は」は,i) 複数のうち少なくとも一つが成り立つこと,ii) 複数のうちどれか一つだけが成り立つことをいう場合に使われる接続詞である。そうすると,乙14発明の「電話帳及び/又は発信履歴」という文言からすれば,電話帳と発信履歴のいずれか一つだけの場合も含まれることが認められ,これと異なる解釈をとるべき理由は見当たらない。そうすると,乙14発明の構成には,「電話帳」のみに発呼側端末のID番号が格納されているものとする構\\成も含まれるから,この点において,本件特許発明1−1と相違するとはいえない。よって,本件特許発明1−1ないし1−3は,乙14発明と同一であると認めることができる。

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平成23(ワ)7576等 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年09月27日 大阪地方裁判所

 「物の生産」は,「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構\成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為をいう」として、間接侵害不成立、さらに、無効理由有りと判断されました。
 「物の生産」の通常の語義等も併せ考慮すれば,「物の生産」とは,特許範囲に属する技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為を意味し,具体的には,「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構\成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為をいうものと解すべきである。一方,「物の生産」というために,加工,修理,組立て等の行為態様に限定はないものの,供給を受けた物を素材として,これに何らかの手を加えることが必要であり,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は「物の生産」に含まれないものと解される。前提事実のとおり,本件各特許発明の【特許請求の範囲】は,いずれも「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と,本件併用医薬品とを「組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。」というものである。したがって,本件各特許発明は,当該医薬品に関する発明,すなわち「物の発明」であると認めることができ,このこと自体は当事者間でも争いがない。なお,「組み合せる。」とは,一般に,「2つ以上のものを取り合わせてひとまとまりにする。」ことをいい,「なる」とは,「無かったものが新たに形ができて現れる。」「別の物・状態にかわる。」ことをいうものと解される。したがって,「組み合わせてなる」「医薬」とは,一般に,「2つ以上の有効成分を取り合わせて,ひとまとまりにすることにより新しく作られた医薬品」をいうものと解釈することができる。・・・,法101条2号の「物の生産」は,「発明の構\成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為をいう。すなわち,加工,修理,組立て等の行為態様に限定はないものの,供給を受けた物を素材として,これに何らかの手を加えることが必要であって,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれない。被告ら各製品が,それ自体として完成された医薬品であり,これに何らかの手が加えられることは全く予\定されておらず,他の医薬品と併用されるか否かはともかく,糖尿病又は糖尿病性合併症の予防・治療用医薬としての用途に従って,そのまま使用(処方,服用)されるものであることについては,当事者間で争いがない。したがって,被告ら各製品を用いて,「物の生産」がされることはない。換言すれば,被告ら各製品は,単に「使用」(処方,服用)されるものにすぎず,「物の生産に用いられるもの」には当たらない。\n

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平成23(ネ)10045 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年09月27日 知的財産高等裁判所

 侵害訴訟について、技術的範囲に属しない、および104条の3により権利行使不能と判断されました。
 本件発明1の作用効果は,誤入力が生じやすい軸別の移動命令ではなく,駆動対象をロボットとする移動命令を用いて,複数のロボットを制御することにある(本件明細書1【0006】,【0010】)。したがって,本件発明1の「移動命令判別手段」の技術的意義は,駆動対象をロボットとする移動命令から,ロボットに対応するドライバーを選定するところにあると認められる。これに対し,イ号製品のMOVP命令は,前記認定(原判決第4の2(4))のとおり,「ポジションNO.によって指定されるポジションデータに従って,所定の軸をポイント・トゥ・ポイント(PTP)移動させよ」という命令であり,駆動対象となる軸が決定されれば,それに対応するドライバーは一義的に特定されるものであり,ドライバーを選定する必要がない。したがって,イ号製品は,構成要件1−Fを充足するとはいえない。\n

◆判決本文

◆こちらは関連事件(1)です。平成23(行ケ)10261

◆こちらは関連事件(2)です。平成23(行ケ)10154

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平成23(ネ)10057 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年08月09日 知的財産高等裁判所

 104条の3によって権利行使不要との判断が維持されました。時期に後れた抗弁にも該当しないと判断されました。
 本件は,被告製品が本件特許の技術的範囲に属することについては当事者間に争いがなく,本件特許の無効事由の存否が主たる争点である。原審において,被告は,乙1資料及び乙5公報を主引例とする進歩性欠如等の主張をした(乙5公報には純度99.8パーセントのプラバスタチンナトリウムを得たとの実施例が記載されていたものの,本件特許に記載の製造方法については何らの言及がされていないものである。)。原審は,平成23年7月28日に,被告の主張を採用して,原告の請求を棄却した。
 (イ) 原告は,本件控訴を提起した。ところで,原告は,訴外協和発酵キリン株式会社に対して,本件特許権に基づき,特許権侵害訴訟を提起し,同事件の控訴審が大合議事件となった。当審では,大合議事件の審理等を優先することとし,当審での第1回口頭弁論期日を平成24年4月12日と指定した(その間,被告は,平成23年12月9日に,控訴状に対する答弁書を提出したが,答弁書においては,乙13公報を主引例とする進歩性欠如の無効理由の主張はされていない。)。
 (ウ) 平成24年1月27日,大合議事件において判決の言渡しがされた。その後,当審において同年4月12日に実施した第1 回口頭弁論期日において,被告は,本件特許には,乙13公報を主引例とする進歩性欠如の無効理由が存在する旨主張をした。
 イ 判断以上の経緯に照らし,時機に後れた攻撃防御方法に当たるか否かについて判断する。「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合の発明の要旨認定に関し,原審では,「製造方法」に限定されないとの理解を前提とした審理がされていた。そのような原審の審理を前提として,被告は,より純度の高いプラバスタチンナトリウムについての記載がある乙5公報を主引例とする無効理由を挙げて無効の抗弁をした。しかし,大合議事件判決において,本件発明の要旨の認定について,「製造方法」に限定される旨の判断がされたことから,被告は,当審の第1 回弁論期日において,同一の製造方法が開示された乙13公報に基づく無効事由を主張した。このような経緯に照らすならば,被告が上記の主張をしたことに合理性を欠く点はなく,また時機に後れたと解することもできない。よって,被告の主張が時機に後れているとの原告の主張は採用できない。

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平成22(ワ)26341 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年05月23日 東京地方裁判所

 化粧品について3億円を超える損害賠償が認められました。あとで提出した証拠は、時期に後れたとして、採用却下されました。また、売上高、実施料率などは全て伏せ字になってます。ただ、60億円までは達していないことは、下記の記載から読み取れます。
 裁判所は,平成23年5月31日の第5回弁論準備手続期日において,原告及び被告から,本件の侵害論に関する主張立証は終了した旨を聴取した上で,侵害論に関する審理を終結し,本件に関する裁判所の見解を示して和解を勧告するとともに,損害論に関する審理に入ったものであり,被告の上記準備書面(6)及び(7)は,損害論の審理が相当程度進行した時点で提出されたものである。加えて,被告が,平成22年11月5日付け被告準備書面(1)において,乙2の1文献に基づく無効理由を主張し,同日付けで,上記準備書面におけるものと同様の無効理由に基づき無効審判を請求している(乙3)ことも考慮すると,被告は,平成23年5月31日の上記弁論準備手続期日までの間に,上記補足主張をすることが可能であったというべきであるから,被告が上記(ア)のとおり行った補充主張及び書証(乙32ないし37号証,53号証)の提出の申し出は,重大な過失により時機に後れてなされたものであり,また,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることが明らかである。なお,被告は,損害論に入った後であっても,明白な無効原因があるときには,同無効原因を追加主張することは時機に後れた攻撃防御方法に当たらないところ,特許庁において無効審決がなされた場合には,明白な無効原因があるものとみるべきである旨主張する。しかし,乙2の1発明に基づく無効理由に関する当裁判所の判断,とりわけ前記5 (2)ウ及びエでみたところを考慮すれば,被告の補足主張によっても,本件各発明に明白な無効理由があるとは考えられず,これは,特許庁において無効審決がなされていることを考慮しても同様であるから,被告の当該主張を採用することはできない。したがって,民訴法157条1項に基づき,上記補足主張並びに乙32ないし37号証及び乙53号証の提出の申し出はこれを却下する。\n
 原告は・・・売上高は61億0964万円を下回らないと主張する。しかし,上記書証は,「商品別日別/月別売上照会」をデータ出力したものとして提出されたものであり,注文数量,注文金額等を黒塗りしたものではあるが,その体裁,内容等をみても,その信用性を疑わせるべき事情は直ちには見当たらない。また,証拠(甲43,44)によれば,被告のクレンジングオイル売上高は,平成21年において60.5億円,平成22年において59.5億円であることが認められるが,被告が,被告各製品のほかにも「薬用ディープクレンジングオイル」等のクレンジングオイル製品を販売していることにかんがみれば,被告の開示する金額が信用できないものということはできない。したがって,この点に関する原告の主張は採用できず,被告製品1及び被告化粧品セットの売上高については上記(ア)ないし(カ)のとおりであると認められる。

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平成21(ワ)31535 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年04月27日 東京地方裁判所

 訴訟物は異なるとはいえ、実質的に,同一の争いを繰り返すものであるとして、請求棄却されました。サポート要件違反などの無効理由もありと認定されました。
 前訴と本訴では,原告の請求権を基礎付ける特許権はいずれも本件特許権で同一であるが,前訴は本件特許権に基づく前訴マウスの使用等の差止請求権を訴訟物とするもので,前訴の確定判決により既判力が生じるのは,前訴の控訴審の口頭弁論終結時である平成14年7月9日における上記請求権の存否であるのに対し,本訴は前訴控訴審判決が確定した平成15年3月25日から本訴の提起日までの間における被告の本訴マウスの使用等による本件特許権侵害の不法行為又は共同不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とするものであって,前訴と本訴では訴訟物が異なり,前訴の既判力が本訴に直接に及ぶものではない。
・・・・
イ(ア) 他方で,本訴と前訴は,いずれも本件発明の構成要件Bの充足性が争点となり,その具体的な争点が,構\成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」の解釈及び各マウスのその構成の充足性である点では共通している。もっとも,前訴マウスと本訴マウスとでは,前記アのとおり,構\成が異なる部分があるが,ヌードマウスの皮下で継代したヒト腫瘍組織塊が同所移植された点では共通するので,上記構成が異なる部分があることが,上記争点の判断の結論に影響を及ぼすものではない。そして,前訴1審判決及び前訴控訴審判決は,上記争点について,構\成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」は,ヒト器官から採取した腫瘍組織塊そのもののみならず,ヌードマウスの皮下で継代した腫瘍組織塊を含むと解すべきであるとした原告の主張を排斥し,前訴マウスの構成要件Bの充足性を否定する判断を示し,原告の請求及び控訴をそれぞれ棄却したものである。ところが,原告は,本訴において,上記争点について,前訴でした主張と同様の主張を行い,本訴マウスが構\成要件Bを充足し,ひいては本件発明の技術的範囲に属する旨主張している。前訴1審判決及び前訴控訴審判決が示した構成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」についての解釈は判決における理由中の判断であって,本訴はもとより,前訴においても既判力の対象となるものではないが,本訴において,原告が構\成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」の解釈を再び争い,本訴マウスが本件発明の技術的範囲に属すると主張することは,前訴の判決によって原告と被告との間で既判力をもって確定している前訴マウスの使用等による本件特許権に基づく差止請求権の不存在の判断と矛盾する主張をすることに帰し,実質的に,同一の争いを繰り返すものであるといわざるを得ない。
・・・・
以上の(ア)ないし(ウ)を総合すると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願の優先権主張日当時の技術常識に照らし,当業者が,ヌードマウスでの皮下継代を経た脳以外のヒト器官から採取したヒト腫瘍組織塊が同所移植された本件発明のモデル動物がヒト腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る能力を有するモデル動物を作成するという本件発明の課題を解決できることを認識できるものと認めることはできない。したがって,本件発明の特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合しないというべきである。\n

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平成23(ネ)10069 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年04月25日 知的財産高等裁判所

 優先権主張が認められず、新規性無しとして特104条の3の規定により、権利公使不能と判断されました。
 本件特許発明1については,特許法29条等の規定の適用に関して優先権主張の利益を享受できず,現実の出願日である平成14年10月2日を基準として新規性等を判断すべきであるところ,同日以前に実施品「スイングクランプLH」が製造・販売されていたので,新規性を欠き,特許無効審判によって無効とされるべきものである。
・・・
原判決が認定するとおり(58〜63頁),平成13年11月13日にされた特許出願(第1基礎出願)に係る基礎出願明細書1(図面を含む。乙2)にも,平成13年12月18日にされた特許出願(第2基礎出願)に係る基礎出願明細書2(図面を含む。乙3)にも,平成14年4月3日にされた特許出願(第3基礎出願)に係る基礎出願明細書3(図面を含む。乙4)にも,クランプロッド5の下摺動部分12に4つのガイド溝を設けることを前提に,下摺動部分12の外周面を展開した状態における螺旋溝27(旋回溝)に傾斜角度を付けることは開示されているものの,傾斜角度の具体的範囲については記載も示唆もされておらず,本件特許発明1の構成のうち,「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定」するとの構\成(発明特定事項)については,平成14年法律第24号による改正前の特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでないから,本件特許発明1についての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できず,現実の出願日である平成14年10月2日を基準として新規性等を判断すべきである。

◆判決本文

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平成22(ワ)30777 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年03月29日 東京地方裁判所

 実験する条件について動機づけがあるので進歩性なしとして、非侵害と認定されました。
 乙7には,「WB法より簡便かつ高感度な方法の確立を目的として,ELISA法について検討」した結果の報告である旨の記載があるが(前記(1)ア(ア)),遠心分離処理条件の検討がされた旨の記載はない。乙7記載の方法を更に簡便とするため,目的とする物質の遠心分離が達成できる範囲で遠心分離処理条件を変更し,その検出結果を検討することは,当業者が当然試みることといえる。そして,乙7及び乙9は,ELISA法に用いてPrPScを検出する試料の調製法に係る文献である点で,その技術分野を共通にするところ,乙7には,「脳又は脾臓」から試料を調製する場合に,両者を区別せずに「69,000×g」で遠心すると記載されているのに対し,乙9には,脾臓,リンパ節等については,遠心を40,000回転とする一方で,脳の場合には15,000回転とされていること(前記イ(ア)d)に照らすならば,乙7及び乙9に接した当業者であれば,乙7記載の方法において,「脳」(脳組織)から試料を調製する場合に,「69,000×g」の遠心分離処理条件に代えて,乙9記載の「毎分1万5000回転」の遠心分離処理条件(相違点に係る本件発明の構成)を適用することを容易に想到し得たものと認められる。
 (イ) これに対し原告は,界面活性剤の種類,分析対象組織の種類,適用される遠心分離の方法,洗浄,再沈殿などの精製工程の有無は,結果に大きく影響するところ,乙7及び乙9を検討すると,超遠心分離の適用が原則であること,乙7では,Zwittergentとサーコシルの組合せよりも,トリトンX−100とサーコシルの組合せの方が良好であったことなどからすると,Zwittergentを使用する乙9に記載された遠心分離の条件を,乙7における既に良好である方法を変更するために適用する動機付けが存在しないから,乙7に記載された発明に,乙9記載の遠心分離条件(相違点に係る本件発明の構成)を組み合わせることは容易想到とはいえない旨主張する。しかしながら,前記(ア)で述べたように,乙7記載の方法において,目的とする物質の遠心分離が達成できる範囲で遠心分離処理条件を変更し,その検出結果を検討することは,当業者が当然試みることであり,しかも,乙9には「脳」(脳組織)から試料を調製する場合の遠心分離の回転数について15,000回転と記載されていることからすると,乙7記載の方法に,乙9記載の遠心分離条件を適用する動機付けが存在するものといえること,乙7には,「脳」から試料を調製する場合に,「69,000×g」の遠心分離処理条件を変更することに問題があることを積極的に示唆する記載はなく,上記の適用について阻害事由もないこと照らすならば,原告の上記主張は,採用することができない。

◆判決本文

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平成23(ネ)10002 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年03月22日 知的財産高等裁判所 

 切り餅事件について、特102条2項により求めた利益のうち、寄与度を15%として損害8億と認定されました。被告は、2012/4/3に、「上告した」との発表をしています。和解段階で、代理人が変わったりしたようです。
 被告は,被告製品について,i)平成15年9月ころから「サトウの切り餅パリッとスリット」との名称で販売し,切餅の上下面及び側面に切り込みが入り,ふっくら焼けることを積極的に宣伝・広告において強調していること,ii)平成17年ころから,切り込みを入れた包装餅が消費者にも広く知られるようになり,売上増加の一因となるようになったこと,iii)平成22年度からは包装餅のほぼ全部を切り込み入りとしたことが認められ,これらを総合すると,切餅の立直側面である側周表面に切り込み部等を形成し,切り込みによりうまく焼けることが,消費者が被告製品(別紙物件目録1ないし5)を選択することに結びつき,売上げの増加に相当程度寄与していると解される(甲4,21〜26,43,51,56の1〜22,甲60〜63,乙152,153,164〜167)。上記のとおり被告製品(別紙物件目録1ないし5)における侵害部分の価値ないし重要度,顧客吸引力,消費者の選択購入の動機等を考慮すると,被告が被告製品(別紙物件目録1ないし5)の販売によって得た利益において,本件特許が寄与した割合は15%と認めるのが相当である。
・・・・
 当裁判所は,被告代理人らが,控訴審の口頭弁論終結段階になって選任され,限られた時間的制約の中で,精力的に,記録及び事実関係を精査し,新たな観点からの審理,判断を要請した点を理解しないわけではなく,その努力に敬意を表するものである。しかし,特許権侵害訴訟は,ビジネスに関連した経済訴訟であり,迅速な紛争解決が,とりわけ重視されている訴訟類型であること,当裁判所は,原告と被告(解任前の被告訴訟代理人)から,進行についての意見聴取をし,審理方針を伝えた上で進行したことなど,一切の事情を考慮するならば,最終の口頭弁論期日において,新たな審理を開始することは,妥当でないと判断した。\n

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◆中間判決はこちら

◆1審はこちら

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平成20(ワ)27001 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年02月28日 東京地方裁判所

 特104条の3の規定により、権利行使不能と判断されました。
 ・・・(前記(2)ア,1(1)ア(エ))に照らすならば,別件知財高裁判決2が認定判断するように,乙C1記載発明において,二組のアーム同士及びコラムなどとの干渉を回避するために,ハンド部の伸縮方向を「第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向」とする構成を採用することは,設計事項にすぎないものということができる。(ウ) 以上によれば,当業者であれば,乙C1記載発明及び上記周知技術に基づいて,相違点1に係る本件発明2の構成を容易に想到することができたものというべきである。
・・・・
 以上のとおり,本件発明2は,当業者が乙C1記載発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明2は進歩性を欠くものであり,本件発明2に係る本件特許2には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。したがって,原告は,特許法104条の3第1項の規定により,被告に対し,本件発明2に係る本件特許権2を行使することができない。

◆判決本文

◆別件知財高裁判決2はこちらです。平成22年(行ケ)10034
 

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平成22(ワ)11604 損害賠償 商標権 平成24年02月28日 東京地方裁判所

 商標権侵害に対して、商3条1項違反の無効主張に基づく権利濫用の抗弁がなされました。権利者は、商47条の除斥期間の適用があると反論してますが、これも排斥されました。
 以上によれば,原告による本件商標の登録出願は,商標法3条1項柱書きが定める商標の登録要件を欠くものであるから,本件商標の商標登録には同項柱書きに違反する無効理由(商標法46条1項1号)がある。(2) 権利濫用の成否についてア 上記(1)で述べたとおり,本件商標は,その商標登録当時,出願人たる原告において,自己の業務に現に使用していたとは認められず,かつ,自己の業務に使用する意思があったとも認められないものであって,その商標登録に商標法3条1項柱書きに違反する無効理由があることは明らかである。加えて,前記(1)イ(イ)で検討したところによれば,本件商標の商標登録後においても,原告が,本件商標を「墓地又は納骨堂の提供」の役務に係る業務において現に使用した事実は認められず,また,将来において本件商標を使用する具体的な計画があることも認められないものであるから,本件商標には,原告の信用が化体されているとはいえない。これらの事情に鑑みれば,原告の本件商標権に基づく損害賠償請求権の行使を容認することは,商標法の趣旨・目的,とりわけ,いわゆる登録主義の法制下においての濫用的な商標登録を排除し,登録商標制度の健全な運営を確保するという同法3条1項柱書きの規定趣旨に反する結果をもたらすものといえるから,原告の被告らに対する本件商標権に基づく損害賠償請求権の行使は,権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。
イ これに対し,原告は,本件商標については,商標法47条1項所定の除斥期間の経過により商標登録無効審判の請求をすることができず,したがって,被告らは,本件商標の商標登録が無効であることを理由とする権利行使制限の抗弁(商標法39条,特許法104条の3第1項)を主張することができないにもかかわらず,本件商標の商標登録に無効理由があることを根拠として権利濫用の主張を認めることは,上記除斥期間を定めた商標法47条1項の趣旨を没却することとなり,許されない旨を主張する。しかしながら,商標法47条1項の規定は,商標登録を対世的かつ遡及的に無効とするための無効審判請求との関係において,その請求のないまま一定の期間が平穏に経過した場合に,現存の法律状態を尊重し維持するために,商標登録についての瑕疵が消滅したものと扱う趣旨の規定であると解されるところ,商標権者の特定の相手方に対する具体的な商標権の行使が権利の濫用に当たるか否かの判断は,商標法47条1項の規定が対象とする無効審判請求の可否の問題とは異なる場面の問題である。上記権利濫用の成否は,当事者間において具体的に認められる諸般の事情を考慮して,当該権利行使を認めることが正義に反するか否かの観点から総合的に判断されるべきものであって,ここで考慮され得る事情については,特段の制限が加えられるべきものではない。したがって,商標権の行使が権利濫用に当たるか否かの判断に当たっては,当該商標の商標登録に無効理由が存在するとの事情を考慮し得るというべきであり,当該無効理由につき商標法47条1項の除斥期間が経過しているからといって,このような考慮が許されないものとされるべき理由はなく,このことが同項の趣旨を没却するなどといえないことは明らかであるから,原告の上記主張は理由がない。

◆判決本文

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平成22(ワ)31756 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年02月22日 東京地方裁判所 

 進歩性なしとして、権利行使不能と判断しました。
 乙8発明で挙げられた被処理物のうち,「醸造施設においてのモロミ」及び「食品製造施設においての水産物その他の加工食品」が食品原料に当たることは明らかであり,乙8発明の技術分野は本件訂正発明における食品原料の濾過システムの技術分野を含むものであるから,相違点i)は実質的な相違点とは認められない。次に,相違点ii)について検討すると,乙8文献に,ケーシング20の目詰まり防止が技術的課題として示されていることは,前記第4の2(3)エ(ア)でみたとおりであるところ,乙8発明が食品原料以外の汚泥,産業廃棄物等にも利用することができるものであることは前記のとおりであって,上記技術的課題は,被処理物の種類にかかわらず共通のものとして示されているものということができる。そうすると,乙8発明に接した食品原料の濾過システムの技術分野の当業者は,汚泥,産業廃棄物等の処理技術が食品原料の濾過システムの分野における技術分野に適用できることを容易に認識することができる。また,乙8発明には,上記目詰まり防止という課題の解決手段として,適宜の圧力を付与した清浄水を噴射させる方法が示されているものであることは前記第4の2(3)エ(ア)のとおりであって,乙8発明には,上記技術的課題を解決するための他の手段を検討するについての動機付けが存在するものということができる。そして,乙7発明は,汚泥の濾過式脱水圧搾機に関するものであり,上記濾過式脱水圧搾機の濾過孔の目詰まりを解消するため,スクリューコンベアブレードの外側端部の全体に沿って,濾過式脱水用媒体の内周面と隙間なく連続的に接触するコイルばね式清掃用ブレードを設け,これにより上記内周面に付着する固形物を清掃するものであることは前記第4の2(1)ア(オ)のとおりであり,乙7発明は,脱水処理機における濾過孔の目詰まり防止を技術的課題とするものであるということができる。そうすると,食品原料の濾過システムの技術分野における当業者は,目詰まり防止に関する技術が食品原料を被処理物とする場合に限定されず,汚泥処理技術にも共通することを容易に認識できるものである以上,乙8発明に接することよって,前記技術的課題(脱水処理装置における濾過孔の目詰まり防止)を動機付けられ,さらに,乙8発明と乙7発明は,技術的課題を共通にするものと認識した上で,解決課題において共通する乙7発明に記載された技術を適用し,上記課題解決手段として,乙7発明に示されたコイルばね式清掃用ブレードを適用して,乙8発明に記載された脱水処理装置を,シャフトの送り羽根先端に沿って,ケーシング20内周面と隙間なく連続的に接触するコイルばね式清掃用ブレード(「スクリュ状羽根の外周端面全域に沿って,前記フィルタエレメントと摺接し,スクリュ状羽根の前後に隙間を開けずに設けたスクレーパ機構」)を有するものとし,ケーシング20内周面に付着する固形物を清掃できる(「前記フィルタエレメントの周面に付着する濾カス固形分を引掻除去できる」)ことを特徴とするスクレーパ濾過システムとすることは容易であるということができる。\n

◆判決本文

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