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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

104条の3

平成30(ネ)1008 特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 外為オンラインVSネースクエアの控訴事件です。1審では差止請求が認められました。知財高裁も同じ判断です。

構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,…さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報\nを含む売り注文情報を生成する」の意義について (ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載から,構成要件Dの「注文情報生成手段」は,「前記金融商品の買い注文を行うた\nめの複数の買い注文情報」を生成する「買い注文情報生成手段」(構成要件B)と「前記買い注文の約定によって保有したポジションを,\n約定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報を 生成」する「売り注文情報生成手段」とから構成され,「売り注文情報」を生成するのは,構\成要件Dの「注文情報生成手段」のうちの「売り注文情報生成手段」であることを理解できるから,構成要件Gの「注文情報生成手段」及び構\成要件Hの「前記注文情報生成手段」は,いずれも「売り注文情報生成手段」を意味するものと理 解できる。
そうすると,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の\n売り注文が約定されたことを検知すると,前記注文情報生成手段は, 前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の売り注文 のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注 文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」にいう「前記注文情 報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」,「前 記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価 格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」と の記載は,「売り注文情報生成手段」が,「前記約定検知手段」の 「前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が 約定された」との「検知の情報を受けて」,当該「最も高い売り注 文価格」よりも「さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含 む売り注文情報を生成する」ことを規定したものであり,「売り注 文情報生成手段」が行う処理を規定したものと解される。 次に,本件明細書には,「シフト機能」による注文は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文\nや決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯と は異なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注さ せる態様の注文形態」であること(【0078】),この「シフト 機能」は,「相場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一\n注文情報や新たな第二注文価格の第二注文情報を生成し,相場価格 を反映した注文の発注を行うことができる」(【0018】)とい う効果を奏することの開示がある。そして,構成要件Hの文言及び本件明細書の上記記載から,構\成要件Hは,「シフト機能」のうち,\n更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決 済注文」(売り注文)がシフトする構成のものを規定したものであることを理解できる。他方で,本件明細書には,「シフト機能\」のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注 済の「決済注文」(売り注文)がシフトする構成の場合において,新たな「買い注文」の発注やその約定によって,「シフト機能\」の効果等が影響を受け得ることについての記載や示唆はない。 以上の本件発明の特許請求の範囲(請求項1)及び本件明細書の 記載を総合すると,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」,「前記複数の売り注文\nのうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注 文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」とは,「売り注文情 報生成手段」(前記注文情報生成手段)が,「前記約定検知手段」 の「前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文 が約定された」との「検知の情報」を受けたことに基づいて,「さ らに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生 成する」構成のものであれば,新たな「買い注文情報」の生成や「買い注文」の約定又はその検知に関わりなく,構\成要件Hに含まれるものと解される。
(イ) これに対し控訴人は,(1)本件発明の特許請求の範囲(請求項1) の記載によれば,構成要件Hの「前記検知の情報を受けて,…さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成\nする」とは,直前の検知の情報を条件として,これに続いて,前記 の売り注文が発生するという意味であって,これらの間に他の処理 が介在する記載はないこと,(2)本件明細書には,従前の新規注文B 1ないしB5及び従前の決済注文S1ないしS5が全部約定したこ とを検知し,この検知の情報を受けて,新たな新規注文B1ないし B5及び新たな決済注文S1ないしS5を一括発注するものであり (【0142】ないし【0154】,図35),「前記検知の情報 を受けて」(構成要件H)と,「さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」(構\成要件H)との間に,他の手続が介在するもの,例えば,新たな新規注文B1ないし B5と新たな決済注文S1ないしS5とを新規に一括発注せずに, まずは新たな新規注文B1ないしB5を発注し,その約定を検知し てから,新たな決済注文S1ないしS5を発注するようなものにつ いての開示はないこと,(3)本件出願の経過において,被控訴人は, 拒絶理由通知を受けて,本件手続補正書及び本件意見書を提出して, 本件出願に係る旧請求項1に構成要件EないしGを新たに加え,構\ 成要件Hを補正する手続補正を行うとともに,本件意見書において, シフトが生じるための条件として,最も高い売り注文の約定状況の みを監視することとし,それ以外の処理を監視することを除外する 旨を主張したことを総合すると,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の\n売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高 い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成すること」にいう 「前記検知の情報を受けて」とは,「前記相場価格が変動して,前 記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文 価格の売り注文が約定されたことを検知すると」,他の処理を何も 介在せずに,直ちに「前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文 価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り 注文情報を生成する」ことを意味するものと解すべきである旨主張 する。
しかしながら,上記(1)の点については,本件発明の特許請求の範 囲(請求項1)の記載中には,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」と「前記複数\nの売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ 高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」との間に, 「他の処理を何も介在せずに」とか「直ちに」との文言は存在しな い。
次に,上記(2)の点については,前記(ア)で説示したとおり,構成要件Hは,「シフト機能\」(【0078】)のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決済注文」(売 り注文)がシフトする構成のものを規定したものであるところ,本件明細書には,「シフト機能\」のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決済注文」(売り注文)が シフトする構成の場合において,新たな「買い注文」の発注やその約定によって,「シフト機能\」の効果等が影響を受け得ることについての記載や示唆はない。また,控訴人が挙げる本件明細書の記載 (【0142】ないし【0154】,図35)は,「発明の実施の 形態の3」に係るものであるが,本件明細書には,「上記の「シフ ト機能」は,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構\ 成において適用することもできる。」こと(【0151】)及び「上 記各実施の形態は本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態 のみに限定されることを意味するものではないことは,いうまでも ない。」こと【0164】の記載があることに照らすと,控訴人が 挙げる本件明細書の上記記載から構成要件Hを限定解釈すべき理由はない。\n
さらに,上記(3)の点については,被控訴人は,本件手続補正書(乙 14)により,本件出願に係る旧請求項1について,「前記相場価 格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち, 最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると, 前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受 けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさら に所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成 する」(下線は,補正箇所を示す。)と補正し,本件意見書(乙1 5)において,「本願発明においては,一の注文手続で生成された 複数の売り注文情報に基づく複数の売り注文よりも高い売り注文情 報の生成…は,一の注文手続で生成された複数の売り注文情報に基 づく複数の売り注文のうちの最も高い売り注文の約定…が検知され たことを基準に行われることになります。そのため,システムにお いては,特定の注文に係る注文情報(相場の移動方向側である,最 も高い買い注文価格の買い注文に係る買い注文情報や,最も低い売 り注文価格の売り注文に係る売り注文情報)の約定状況のみを監視 すれば,新たな注文情報の生成(一の注文手続で生成された中で最 も高い売り注文価格よりも高い売り注文価格の売り注文情報の生成 …を,ただちに生成することができ,システムの情報保持や情報監 視のための負担が大きくなることはありません。これにより,本願 発明においては,新たな注文情報の生成や,その注文情報に基づく 注文の発注等の処理を,システム負荷の軽い,簡易な手順によって 処理することができるという効果を奏します。」と述べたことが認 められるが,他方で,本件手続補正書及び本件意見書は,平成29 年4月11日付けの拒絶理由通知(乙18)において「引用文献1 に記載された発明に引用文献2に記載の技術を適用し,引用文献1 に記載された発明において,繰り返し注文を行う際,相場価格の上 昇傾向に対応して以前の注文価格よりも高い価格の注文情報を生成 するように構成することは,当業者ならば容易に為し得ることである。」との進歩性欠如の指摘を受けて提出されたものであることに\n照らせば,本件手続補正書及び本件意見書は,本件発明が,複数の 売り注文のうち最も高い売り注文価格の売り注文の約定に基づいて, 同注文価格よりも高い価格の売り注文を生成する点に技術的意義を 有し,進歩性を有する旨を主張したものであって,本件意見書の「約 定状況のみを監視すれば」,「ただちに生成する」といった記載か ら,両者の間に他の処理を介在させる構成や時間的間隔が存在する構\成を本件発明から除外したものということはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 構成要件Hの充足性について
(ア) 前記2(3)イ(イ)のとおり,(1)ないし(4)の売り注文のうち,最も高 い注文価格の番号113の売りの指値注文(指定価格114.90 円)が約定した後に,番号113の注文価格より「0.62円」高 い番号96の売りの指値注文(指定価格115.52円)がされて いることに照らすと,被告サーバにおいては,約定検知手段が複数 の売り注文のうち最も高い売り注文価格の売り注文の約定を検知す ると,注文情報生成手段が,この検知の情報を受けたことに基づい て,約定した最も高い売り注文の売り注文価格よりもさらに所定価 格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成したこと が認められる。 したがって,被告サーバは,構成要件Hを充足するものと認められる。\n
・・・・
控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Hに対応する「シフト機能\」に係る構成について,「いったんスルー注文」及び「決済トレー\nル注文」と組み合わせた,複数の新規注文の全て及び複数の決済注文の全て がそれぞれ1回ずつ約定した場合に複数の新規注文の全て及び複数の決済注 文の全てに対応する個数の新たな複数の新規注文及び新たな複数の決済注文 を発注させることしか記載されておらず,構成要件Hに含まれる「シフト機能\」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせたもの以外の構成のものについては記載されていないことからすれば,構\成要件 Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,特許 法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合する とはいえない旨主張する。 ア そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に は,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたこ\nとを検知すると,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知 の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成す る」との記載において,「注文情報生成手段」が生成する「所定価格だけ 高い売り注文価格の情報」を含む「売り注文情報」の個数を規定する記載 はないから,当該「売り注文情報」は,複数の場合に限らず,一つの場合 も含むものと理解できる。
イ(ア) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,(1)「シフト機能」について,「金融商品取引管理装置1や金融商品取引管理システム1Aにお\nいて,既に発注した新規注文と決済注文をそれぞれ約定させたのち,「シ フト機能」による処理を併用した取引を行うことも可能\である。この「シ フト機能」による注文は,上述した,「いったんスルー注文」や「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば後述する「リピートイ\nフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)等に基づいて,新 規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文 や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異 なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様 の注文形態である。」こと(【0078】),(2)「シフト機能」は,「相場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場\n価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一注文情報や新たな第二注 文価格の第二注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行う ことができる」(【0018】)という効果を奏すること,(3)「発明の 実施の形態3」は,「この実施の形態3の金融商品取引管理システムに おいては,「いったんスルー注文」と「決済トレール注文」とを,「ら くトラ」による注文と組み合わせ,さらに「シフト機能」を行わせる状態を示す。」(【0138】)ものであるが,「上記の「シフト機能\」は,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構成において適用することもできる。」こと(【0151】)及び「上記各実施の形態\nは本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態のみに限定されるこ とを意味するものではないことは,いうまでもない。」こと(【016 4】)の記載がある。 上記(1)の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される\n際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフ トさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シ フトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一 方のみの構成又は双方の構\成が含まれること,先に発注済の一つの注文 の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価格帯」をシフトさせる構\成のものが含まれることを理解できる。また,上記(1)ないし(3)の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いった\nんスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例え ば…「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」 等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。\n
ウ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,図35に示す「実施の形態 3」(【0144】ないし【0148】)として,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせたトラップリピートイフダン注文で行われ,\n決済注文S5,S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の 買い注文B5,B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売 り注文S5,S4が再度生成されるが,この時点ではシフトは発生せ ず,通常のリピートイフダン注文が繰り返され,その後相場価格が変 動して,S1ないしS3の売り注文価格がトレールし,S1ないしS 3が最も高い注文価格の売り注文として同時に約定すると,再度生成 された売り注文S5,S4は約定していないにも関わらずこれをキャ ンセルして,S1ないしS5のシフトが実行されることが記載されて いる。上記記載は,構成要件Hに含まれる,「シフト機能\」に「いっ たんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成の一つであることが認められる。\nまた,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせない場合には,図35において,S2及びS3の売り注文価格がトレールしないため,\nそれぞれの注文情報が生成された時点における価格のとおり,それぞ れ別々に約定し,その場合,実施の形態3の取引例でS5,S4が約 定した段階ではシフトが生じていないのと同様に,S3,S2が約定 した段階ではシフトが生じず,その後に最も高い売り注文価格の売り 注文であるところのS1が約定した段階でシフトが生じることになる ことを理解できる。 そうすると,複数の売り注文情報のうち最も高い売り注文価格の売 り注文が約定すると,それよりも所定価格だけ高い売り注文価格の情 報を含む売り注文情報を生成するという構成要件Hに係る構\成は,本 件明細書の上記記載から認識できるから,本件明細書の発明の詳細な 説明に記載されているということができる。
(イ) これに対し控訴人は,図35には,S5,S4が約定した後に再 度S5,S4が生成されることの記載はなく,B5,B4には,直後 に「キャンセル」と記載されていることからすれば,S5,S4が約 定しても,元の買い注文B5,B4と同じ注文価格の買い注文B5, B4がそもそも生成されないか,生成されてもすぐにキャンセルされ ていると理解できること,加えて,本件明細書の【0144】ないし 【0147】にも,新たな新規注文B5及びB4は,個別に生成され るのではなく,(従前の)決済注文の全ての約定((従前の)決済注 文S1ないしS3の約定)を待って,新たな新規注文B1ないしB3 とともに新たな新規注文が一括して生成されることが開示されている ことからすると,図35には,同図右上のS1ないしS3が同時に約 定し,もって,B5ないしB1及びS5ないしS1の全てが1回ずつ 約定した後に,「シフト機能」によるシフトが行われ,新たなB5ないしB1及びS5ないしS1が一括的に生成される場合が示されてい\nるに過ぎず,B5,B4に対応する決済注文S5,S4が約定すると, 元の買い注文B5,B4と同じ注文価格の買い注文B5,B4が再度 生成されることを看取できない旨主張する。 しかしながら,図35には,明示の記載はないが,決済注文S5, S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の買い注文B5, B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売り注文S5,S 4が再度生成され,通常のリピートイフダン注文が繰り返されること は,「図30に示すように,相場価格64が上昇から下落に転じ,1 ドル=100.60円未満になると,約定情報生成部14は,決済注 文S4,S5を約定させる処理を行う。これにより,(新規注文情報 18114,18115に基づく)新規注文B4,B5と,(決済注 文情報18119,18120に基づく)決済注文S4,S5による イフダン注文の取引がそれぞれ成立する。これにより,注文情報生成 部16は,元の新規注文B4,B5と元の決済注文S4,S5と同じ, 新たな新規注文B4,B5と元の決済注文S4,S5を生成する。」 (【0132】)との記載に照らしても明らかである。 したがって,控訴人の上記主張は,その前提において,採用するこ とができない。
エ 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「シフト機能」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせた構\成のもの(実施の形態3)のほか,構成要件Hに含まれる,これ以外の構\成の もの(最も高い売り注文価格の特定の一の売り注文が約定されたことを検 知すると,前記注文情報生成手段が,更に所定価格だけ高い「一の売り注 文情報」を生成するもの)についての開示があることが認められる。 したがって,構成要件Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであることが認められ,本件発明はサポート要件に適合するものと認\nめられるから,これと異なる控訴人の前記主張は理由がない。

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平成30(ワ)9909  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月23日  東京地方裁判所

 特許権侵害について、公然実施の無効主張がなされ、東京地裁(40部)は新規性違反(発明1,3)および進歩性違反(発明2,4)の無効主張を認めました。

 被告は,上記ア記載のA邸工事の施工方法又は防水構造は本件各発明の構\ 成要件をすべて具備すると主張するのに対し,原告は,同方法又は構造は構\ 成要件D等を充足せず,本件各発明と相違点1において相違するので新規性 は欠如しないと主張する。
(ア) 構成要件D等における「封止する状態にして固定」の意義\n
そこで,まず,構成要件D等の「封止する状態にして固定」の意義につ\nいて検討する。 本件発明1及び3の特許請求の範囲の記載(構成要件D及びK)によれ\nば,内部水切り部材は,その固定板下面と屋根に設けた開口部周囲の野地 板上面又は防水シート上面との間で液体の流通を封止する状態にして固 定して,水が開口部に侵入することを防止する機能を有するものであるか\nら,ここにいう「封止」とは,液体の流通を封じ,止めること,すなわち, 水等の液体が開口部に侵入しない状態にすることをいうものと解される。 また,本件明細書等の記載をみても,「開口部を固定板で直接的且つ内 外液密的に覆うように内部水切り部材(インナーフラッシング)を配置す る」(段落【0011】),「内部水切り部材の固定板を野地板又は防水 シート上に密着した状態で固定するものとした本発明」(段落【0017】), 「開口部12を完全に覆うことのできるサイズの固定板21を,その下面 端縁側が密着する状態で内部水切り部材20を固定」(段落【0022】), 「密着状態で接着・固定して,固定板21下面と防水シート11上面との 間で水が流通しない状態に封止する。」(段落【0031】),「固定板 21の防水シート11側への密着性(封止性)が極めて高いものとなり優 れた防水機能を実現」(段落【0035】)などとされているから,内部\n水切り部材は,その固定板の下面端縁側を野地板等に密着させることで, 水等の液体の開口部への侵入を防止する機能を有するものであると解さ\nれる。 そうすると,構成要件D等における「封止する状態にして固定」とは,\n内部水切り部材の固定板の下面と野地板等を,水等の液体が開口部に侵入 しない程度に密着させて固定する状態をいうものと解するのが相当であ る。 これに対し,原告は,構成要件D等の「封止」とは,「精密部品などを\n外気に触れないように,隙間なく包むこと。または,その技術。」を意味 すると主張するが,この定義は精密機械等に外気が接することを念頭に置 いたものであり,外気ではなく液体の流通が問題となる本件各発明におい ては妥当しない。
(イ) 構成要件F等における「前記固定板外周に沿って防水テープが貼\付され ている」の意義
更に進んで,構成要件F等における「前記固定板外周に沿って防水テー\nプが貼付されている」の意義について検討する。\n本件発明2及び4に係る特許請求の範囲の記載によれば,内部水切り部 材の固定板外周に沿って防水テープを貼付するのは,同固定板下面と開口\n部周囲の野地板上面等との間で液体の流通を封止する状態にして固定す るためであり,また,構成要件F等においては,「固定板外周に沿って」\n防水テープを貼付するものとされているから,「前記固定板外周に沿って\n防水テープが貼付されている」とは,内部水切り部材の固定板の外周全体\nに防水テープが貼付されていることを意味すると解するのが自然である。\n本件明細書等の記載をみても,防水テープ15で固定板21の外周に沿っ てその全周にわたって貼付する態様の実施例のみが記載されている(段落\n【0032】,【図4】)。 そうすると,構成要件F等の「前記固定板外周に沿って防水テープが貼\ 付されている」とは,内部水切り部材の固定板の外周全体に防水テープが 貼付されていることを意味するものと認められる。\n
(ウ) A邸工事と本件発明1及び3との対比
上記(ア)及び(イ)の解釈を前提として,A邸工事の方法等と本件各発明と を対比すると,A邸工事は,アルミフラッシングの「固定板の下面が開口 部周囲の野地板上面に密着して配置され」,かつ,「上記アルミフラッシ ングの四角形状の固定板の縁部分の棟側及び左右両側には,粘着剤層を有 する防水テープを貼付する」構\成を有するのであるから,A邸工事は,上 記固定板の下面が,野地板上面と,水等の液体が開口部に侵入しない程度 に密着して固定されている構成,すなわち「アルミフラッシングの固定板\n下面と開口部周囲の野地板上面との間で液体の流通を封止する状態にし て固定する」構成を有するものと推認することができる。\n したがって,A邸工事は構成要件D等を具備し,本件発明1及び3は新\n規性を欠くこととなる。
(エ) A邸工事と本件発明2及び4との対比
前記のとおり,本件発明2及び4の構成要件F及びMの「前記固定板外\n周に沿って防水テープが貼付されている」とは,内部水切り部材の固定板\nの外周全体に防水テープが貼付されていることを意味するところ,A邸工\n事においては,アルミフラッシングの四角形状の固定板の縁部分の棟側及 び左右両側には防水テープが貼付されているが,その軒側にはこれが貼\付 されていないから,この点で両者は相違することとなる。 したがって,本件発明2及び4が新規性を欠くということはできない。
ウ 進歩性の有無について
前記判示のとおり,A邸工事の方法と本件発明2及び4の構成要件F等は,\n固定板の外周のうち軒側に防水テープが貼付されているかどうかにおいて\n相違するところ,防水テープは,開口部に水が浸入しないようにするために 内部水切り部材の固定板に貼付するものであるから,四角形状の固定板の縁\n部分の上記3辺に防水テープを貼付した上,更に念を入れて軒側の下辺にも\n防水テープを貼付することについて,当業者であれば当然に想到し得たもの\nと考えられる。 これに対し,原告は,インナーフラッシングの固定板の3辺に防水テープ を貼付して固定していた構\成を,全周にわたり防水テープを貼付する構\成に 置き換えると,部材や工数が増加して過剰なコストや手間を要することにな るから,阻害要因があると主張するが,A邸工事の開口部は1辺が40cm程 度であること(乙12資料3)からして,軒側の1辺に防水テープの貼付す\nる部材のコストや工数の負担はごくわずかなものと考えられるので,原告の 主張するような阻害要因があるということはできない。 したがって,本件発明2及び4は,公然実施されたA邸工事に基づき当業 者が本件特許出願当時に容易に想到し得たものであるというべきである。
エ 小括
前記イのとおり,本件各発明に係る特許出願より前である平成19年6月 28日に公然と実施されたA邸工事は,本件発明1及び3の構成要件を全て\n充足するから,本件発明1及び3は新規性を欠く。 また,前記ウのとおり,A邸工事は,アルミフラッシングの四角形状の固 定板の軒側縁部分に防水テープが貼付されていない点で本件発明2及び4\nと相違するが,当業者は,同部分にも防水テープを貼付する構\成に容易に想 到し得るといえるから,本件発明2及び4は進歩性を欠く。 したがって,本件各発明は,いずれも特許無効審判により無効にされるべ きものと認められる。

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平成30(ワ)12609  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月9日  東京地方裁判所

 スマホ用のアプリについての特許侵害事件です。東京地裁29部は、無効理由無し、差止の必要性ありとして請求を認容しました。原告はヤマハ(株)です。被告アプリの名称から、下記サービスがヒットしましたが、これかどうかは不明です。https://www.cbnet.co.jp/archives/1978

 本件発明1は,(1)案内音声である再生対象音を表す音響信号と当該案内音声である再生対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音さ\nれた音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,(2)情報抽出手 段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,(3)情報要求に含まれる 識別情報に対応するとともに案内音声である再生対象音に関連する複数の関連情報 のいずれかを受信する受信手段,(4)受信手段が受信した関連情報を出力する出力手 段としてコンピュータを機能させることにより,赤外線や電波を利用した無線通信に専用される通信機器を必要とせずに,案内音声である再生対象音の識別情報に対\n応する関連情報を利用者に提供することを可能とする(【0005】)。
エ 以上に加えて,本件発明1は,前記送信手段が,当該端末装置にて指定され た言語を示す言語情報を含む情報要求を送信し,前記受信手段が,情報要求の識別 情報に対応するとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の 言語情報で指定された言語に対応する関連情報を受信するという構成を採用することにより,相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の言語情報で指\n定された言語に対応する関連情報を受信することができ,使用言語が相違する多様 な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものである(【0006】等)。\n
・・・
被告は,(1)乙9公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音 された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の 関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙9技術を開示しているところ,本件 発明1も乙9技術を採用するものであり,相違点1−5ないし同1−7は,情報要 求に含まれる情報の内容,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違 にすぎず,当業者が適宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は, 乙9発明1に,乙10発明又は乙5公報及び乙10公報記載の周知技術,並びに周 知技術(乙14等)を組み合わせるなどして,相違点1−5ないし同1−7に係る 本件発明1の構成を容易に想到し得た旨主張する。しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記(1)エと同様に,乙9 公報等に音響IDとインターネットを用いた同種の情報提供が開示されていたとし ても,本件発明1は,その手順や方法を具体的に特定し,使用言語が相違する多様 な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるから,相違点1−5ないし同1−7に係る\n本件発明1の構成が当業者において適宜設定できる事項であるということはできない。\n
・・・
5 争点6(差止めの必要性は認められるか)について 被告は,本件アプリについて差止めの必要性は認められないとし,その理由とし て,(1)本件口頭弁論終結時点において,本件アプリに係るサービスは実用化されて いなかったこと,(2)被告は,平成30年5月以降,本件アプリの配信を中止し,多 言語で情報配信を行う機能を取り除いた本件新アプリを配信しており,本件訴訟の結果によって本件アプリに係る事業を再開するか否かを決定する予\定であること,
(3)被告は,今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語の関連情報を提供することを禁ずる旨の約束や,案内音声である第1言語の再生対\n象音が表す発音内容を第2言語で表\\現した情報を提供することを禁ずる旨の約束を する意思があることを主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,本件アプリは,本件発明1の技術的範囲に属 し,本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないから, 前記第2の2(4)のとおり,被告は,少なくとも,平成29年5月頃から平成30年 6月頃まで,本件アプリを作成し,譲渡等及び譲渡等の申出をし,平成28年6月から平成29年3月までの間に3回にわたり本件アプリを使用することによって本\n件特許権1を侵害していたものである。 これらに加えて,被告が本件訴訟において本件アプリが本件発明1の技術的範囲 に属することを否認して争い,本件特許1について特許無効審判により無効にされ るべきであると主張していること,弁論の全趣旨によれば,被告は,現在も,ウェ ブサイトに本件アプリの説明や広告を掲載していると認められ,被告が本件アプリ の作成等を再開することが物理的に不可能な状況にあるとは認められないことなども考慮すると,被告は,今後,本件特許権1を侵害するおそれがあるものというべ\nきであるから,原告が被告に対し,その侵害の予防のため,本件アプリの作成等の差止を求める必要性は認められるものというべきである。\n

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平成30(ワ)16555  特許権侵害差止等請求事件  民事訴訟 令和元年10月29日  東京地方裁判所

 特許権侵害事件で、技術的範囲に属しないと判断されました。争点は、「プロカルシトニン3−116を測定する」の意義です。

 ア 本件発明の特許請求の範囲の記載は「患者の血清中でプロカルシトニン3 −116を測定することを含む,敗血症及び敗血症様全身性感染を検出する ための方法。」であり,その構成要件Aは「患者の血清中でプロカルシトニン\n3−116を測定することを含む」というものであるところ,特許請求の範 囲には,その意義について規定する記載はないが,「測定」とは,一般的に, 「長さ,重さ,速さなど種々の量を器具や装置を用いてはかること」(大辞林 (第3版))との意味を有する。 そうすると,特許請求の範囲の記載からは,構成要件Aの「プロカルシト\nニン3−116を測定すること」とは,敗血症等を検出するため,血清中に 含まれるプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味する ものと解するのが自然である。
イ また,前記1(2)のとおり,本件明細書の記載によれば,敗血症等の患者の 血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンについて,従前プロシ\nカルシトニン1−116と暫定的,一般的にみなされるなどしていたところ, 本件発明は,敗血症等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカル\nシトニンが,プロカルシトニン1−116ではなく,プロカルシトニン3− 116であるという発見に基づき,新規な敗血症等の診断方法を提供するこ とを目的とするものである。そして,本件明細書の発明の詳細な説明には, 「プロカルシトニン3−116を測定すること」の意義について,特段の記 載はない。そうすると,本件明細書の記載からも,構成要件Aの「プロカル\nシトニン3−116を測定すること」とは,敗血症の検出のため,上記の発 見に基づきプロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味し, その測定結果が敗血症等の検出に用いられることと理解できる。
ウ 原告は,構成要件Aの「プロカルシトニン3−116を測定すること」と\nは,プロカルシトニン3−116を敗血症等の検出に必要な精度で測定する ことをいい,プロカルシトニン1−116と区別してプロカルシトニン3− 116を特異的・選択的に測定することを必須とするものではない旨主張し, その根拠として,本件明細書の実施例において,プロカルシトニン3−11 6を特異的・選択的に測定することが困難なイムノアッセイによりプロカル シトニンの濃度を測定することが記載されていること,本件明細書の記載等 を踏まえると,患者の血清中でプロカルシトニン1−116とプロカルシト ニン3−116とを区別することなくプロカルシトニン一般を測定したと しても,その濃度は,おおよそプロカルシトニン3−116の濃度であり, 測定されたプロカルシトニン3−116の濃度は敗血症等の検出に必要な 精度になっていることを指摘する。 しかし,本件明細書のイムノアッセイによる測定に関する記載について, 正常者及び敗血症患者の血清中のプロカルシトニン濃度の測定結果と,これ と同時に行われたこれらの者の血清中のプロホルモン濃度の測定結果と対 比することにより,正常者と敗血症患者の間の濃度の差異がプロカルシトニ ンにおいて際立っていることを示すものである旨の記載があることからす ると(段落【0059】【0062】【0063】【表3】),上記測定は,「敗\n血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法」の実施例であるとは認 められないから,原告の上記主張の根拠となるとは認められない。 また,仮に,敗血症患者の血清中に含まれるプロカルシトニンの大部分が プロカルシトニン3−116であるという関係があるとしても,プロカルシ トニン3−116を測定することとプロカルシトニン一般を測定すること が同義とはいえないことは明らかである,また,敗血症等であるかどうかが 明らかではない患者については,その血清中のプロカルシトニンの大部分が プロカルシトニン3−116であるかどうかは明らかではないといえるほ か,本件明細書には,患者の血清中のプロカルシトニン濃度を測定すること により敗血症等を検出する技術は本件発明の優先日前に従来技術として存 在したところ,本件発明は,従来技術に対して新規のものである旨が記載さ れているのであって,原告の主張は採用することはできない。 以上によれば,原告の主張には理由がなく,これを採用することはできな い。
エ 以上によれば,構成要件Aの「プロカルシトニン3−116を測定する\nこと」とは,プロカルシトニン3−116の量を明らかにすることを意味す るものと解される。
(2)前記前提事実(第2の1(4)のとおり,被告装置及び被告キットを使用する と,プロカルシトニン3−116とプロカルシトニン1−116とを区別する ことなく,いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度を測定することができ, その測定結果に基づき敗血症等の鑑別診断等が行われていると認められる。被 告装置及び被告キットを使用して敗血症等を検出する過程で,プロカルシトニ ン3−116の量が明らかにされているとは認められない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告方法は,構成要\n件Aを充足するものとは認められない。

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平成31(ネ)10031  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月10日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 一審原告製の使用済み中空芯管をそのまま利用して生産された薬剤分包用ロールペーパの特許権・商標権を侵害すると判断されました。1審では、商標権侵害は認められていましたが、差止請求が棄却されていましたが、その点は同じです。

 本件訂正発明は,構成要件A〜Dからなる「薬剤分包用ロールペーパ」に係る\n発明であるところ(構成要件E),構\成要件Aには薬剤分包装置に関する事項が, 構成要件B及びDにはロールペーパ及びその中空芯管並びにロールペーパに配\n設される複数の磁石(以下,併せて「本件ロールペーパ等」という。)に関する 事項が,構成要件Cには薬剤分包装置及びロールペーパに関する事項が,それぞ\nれ記載され,構成要件Aにおいて,ロールペーパと薬剤分包装置の関係につき,\n前者が後者に「用いられ」るものとして記載されている。 本件訂正発明は,「薬剤分包用ロールペーパ」という物の発明であると認めら れるところ,物の発明の特許請求の範囲の記載は,物の構造,特性等を特定する\nものとして解釈すべきであること,「用いられ」が,構成要件Aの中で「・・・\nようにした薬剤分包装置に用いられ,」とされていることからすると,「用いら れ」とは,本件ロールペーパ等が構成要件Aで特定される薬剤分包装置で使用可\n能なものであることを表\していると解される。
(3) 被告製品の構成要件充足性について\n
ア 前記(2)を前提に検討すると,構成要件Aのうち「ロールペーパの回\n転速度を検出するために支持軸の片端に角度センサを設け」との記載は,本件ロ ールペーパ等の「複数の磁石」につき,支持軸の片端に設けられた角度センサに よる検出が可能な位置に配設されるものであることを特定するものと理解でき,\nまた,構成要件Aのうち「ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその\n固定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設 け」との記載は,本件ロールペーパ等について,薬剤分包装置の中空軸と接する 中空芯管の端に,中空軸と着脱自在に固定する手段を設けることで,そのような 態様で回転させられるものであることを特定するものと理解できる。 そうすると,本件訂正発明に係る薬剤分包用ロールペーパの技術的範囲は,構\n成要件B〜Eと,構成要件Aによる上記特定に係る事項によって画されるもの\nであるから,被告製品が構成要件A〜Eで特定される本件ロールペーパ等とし\nての構成を備えていて,構\成要件Aで特定される薬剤分包装置に利用可能なも\nのについては,被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属するものと認められ, 被告製品が構成要件Aで特定される薬剤分包装置に実際に使用されるか否かと\nいうことは,上記構成要件充足の判断に影響するものではないと解される。\n
イ(ア) 被告製品は,前提事実(6)のとおりの構成を有するところ,弁論\nの全趣旨によると,被告製品の構成a,b,c,dは,本件訂正発明の構\成要件 B,C,D,Eをそれぞれ充足するものと認められる。
(イ) 弁論の全趣旨によると,被告製品の中空芯管内部に配設された 3個の磁石は,支持軸の片端に設置された角度センサによる信号の検出が可能\nな位置に配設されたものであり,また,被告製品は,薬剤分包装置の中空軸に着 脱自在に装着されて,固定時に中空軸と一体となって回転し得るものであって, その手段がロールペーパと中空軸が接する端に設けられているものと認められ る。
(ウ) したがって,被告製品は,本件訂正発明の構成要件B〜Eと構\成 要件Aによる上記アの特定に係る事項を充足し,構成要件Aで特定される薬剤\n分包装置で使用可能なものであると認められる。\n
ウ よって,被告製品は,本件訂正発明の技術的範囲に属するものと認め られる。
(4) 一審被告らの主張について
ア 一審被告らは,本件訂正発明が用途発明であり,また,本件訂正発明 において保護されるべき特徴的部分は,薬剤分包装置側の構成又は機能\である ことなどから,被告製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられては\nじめて本件特許権に対する侵害が成立すると主張する。 しかし,前記(2)で検討したとおり,本件訂正発明は用途発明ではない。また, 本件訂正発明の技術的意義は,前記(1)認定のとおりであって,本件訂正発明の 特徴的部分が薬剤分包装置のみにあるということはできない。 したがって,一審被告らの上記主張は採用することができない。 なお,特許庁の審査基準(甲22)も,サブコンビネーション発明について用 途発明と同様に解釈することを求めているものとは解されない。
イ 一審被告らは,一審原告は,本件補正に際して,本件訂正発明の技術 的特徴が構成要件Aにあることを主張していたと主張する。\n一審原告は,本件補正に際しての意見書(乙9)において,本件補正に先立つ 拒絶理由通知の引用文献記載の技術に対して,「本願発明では『回転角度と測長 センサの検出信号を検出してロールペーパの巻量が検出可能な位置に配置され\nた磁石』の構成を有し,かつ『角度センサの信号とずれ検出センサの信号との不\n一致により上記中空軸に着脱自在に装着されたロールペーパと上記中空軸との ずれを検出するようにした』薬剤分包装置に用いられることを前提とするロー ルペーパについての発明であり,部分的な構成部材の抽象的,総論的な構\成が公 知,周知であるという理由だけで,本願発明の全体の構成が全て否定されること\nにはならないと考えます。」と主張しているものの,そのことから直ちに一審原 告が構成要件Aを充足する薬剤分包装置で用いられることが必要であるとまで\n主張していたとは解されないから,一審被告らの上記主張を採用することはで きない。
ウ 一審被告らは,原審裁判所の暫定的見解について主張するが,原審裁 判所の暫定的見解によって当審の判断が左右されないことは明らかである。
・・・・
一審被告らは,非純正品であることを明示して販売していたことや 購入者が調剤薬局であることなどからすると,購入者は被告製品が非純正品で あること,すなわち,一審原告の製品ではないことを正確に認識しており,出所 表示機能\や品質保証機能が害されていないから,商標法26条1項6号が適用\nされるか,実質的違法性を欠き,商標権侵害が成立しないと主張する。 しかし,以下の(ア)〜(オ)の各事情を考え併せると,購入者の全てが,被告製 品が非純正品であること,すなわち,一審原告の製品ではないことを正確に認識 していたとは認められず,一審被告らの上記主張はその前提を欠くものであっ て,採用することができない。
(ア) まず,前記(1)イのとおり,被告製品については,ウェブサイト のみならず,ダイレクトメールやFAX等による宣伝活動もされており,顧客が 一審被告らのウェブサイトを経由することなく被告製品を購入する場合もあっ たと認められるところ,ダイレクトメールやFAXにおいて,どのような態様で 宣伝がされていたのかは証拠上必ずしも明らかではない。
(イ) 一審被告らは,顧客に対し,非純正品であることを説明していた と主張するが,一審被告らの下で稼働していた従業員は,その点に関し,刑事事 件の公判廷において,「電話で口頭で説明するときに,『純正の紙と違うので』 と説明した。」,「電子メールで顧客に説明する際にも電話での説明の場合と同 様に非純正であることを顧客に説明したように思うが,よく覚えてない。」と曖 昧な供述をしている(乙4)上,同供述の裏付けとなるような顧客への対応マニ ュアルや顧客に送付された電子メールといったようなものは何ら証拠として提 出されていないから,一審被告らの主張するような説明が常に顧客に対してさ れていたとは認められない。
(ウ) 被告製品の購入を申し込むために顧客が一審被告らに対して送\n付する「注文書兼使用許可書」についても,「非純正」の文字(乙25の1・2) は,後から記載されるもので,常に記載されていたのかは証拠上明らかではない し,また,「非純正」の文字が取り立てて大きく表示されたり,強調されたりし\nていないことからすると,仮に記載されていたとしても顧客がこれに気付かな いこともあり得る。そして,前記(1)イのとおり,顧客から使用済み芯管の送付 を受けることなく,被告製品が販売された事例があることからすると,上記の 「注文書兼使用許可書」が常に使用されるものであったとも認められない。 納品書(乙26)についても,「分包紙はお客様からお預かりした芯で作りま した。」とだけ記載されており,非純正品であることが明示されているわけでは ない。
(エ) 前記(1)ウのとおり,一審被告らのウェブサイトには「非純正分 包紙」という記載があったものの,被告ネクストウェブサイトの非純正品ウェブ ページ1では,「ユヤマ分包機対応」との記載に続いて各種の製品が表示されて\nいるのみで,非純正品であることが明示的に記載されていなかった上,被告ヨシ ヤウェブサイトの非純正品ウェブページ2でも,「ユヤマ分包機対応」という記 載と共に各種の製品が表示されており,「非純正分包紙」という記載が左欄に小\nさく記載されているにすぎないことからすると,一審被告らのウェブサイトに 接した購入者の全てが,被告製品が非純正品であると正確に認識するとは認め られない。
(オ) 購入者が調剤薬局であるからといって,その注意力が常に一般 消費者に比して高いとまではいえず,購入者の一人が,被告製品が非純正品であ ると認識していたことがある(乙19,113)からといって,それにより全購 入者が同じ認識であったとは認められない。 なお,一審被告らは,調剤薬局の薬剤師の間では,当該調剤薬局で使用してい る薬剤分包用ロールペーパの仕入先や問合せ先に関する情報が共有されている と主張するが,上記(ア)〜(オ)で検討してきたところによると,そもそも,調剤 薬局において,被告製品を非純正品(一審原告の製品でないもの)として購入す るとは限らないというべきであるから,仕入先や問合せ先に関する情報が共有 されるかどうかは,本件の結論を左右するものではない。

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◆平成28(ワ)7536

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平成31(ネ)10014  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審同様、技術的範囲に属する、無効理由無し(サポート要件、実施可能要件、進歩性)と判断されました。

 上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク 質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結 合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使 用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は, かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって, PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより, 対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症 などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することにあると理解することができる。\n本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用 してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体 を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体 について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合 しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること, また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含 まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。 21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21 B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗 体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細 書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個 の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同 様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体 を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認 識できると認められる。 さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免 疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や 31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業 者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって, 本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗 体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら れる。 以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル 抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成 物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できることを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に\n適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結 合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定 される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照 抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし, 参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。\nそして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特 定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために, その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない(甲34,35)。\n前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し, 本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参 照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。\n
(4) 本件各訂正発明のサポート要件適合性
なお,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,本件各訂正発明も,いずれもサポート要件に適合するものと認められる。
(5) 小括
以上によれば,本件各発明及び本件各訂正発明は,いずれもサポート要件に適合 するというべきである。
4 争点(2)イ(実施可能要件違反)について
(1) 前記3(1)の認定事実によれば,本件各明細書の記載から,本件発明1−1及 び2−1の抗体及び本件発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し,使用するこ とができるものと認められるから,本件各明細書の発明の詳細な説明の記載は,当 業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができる。\nしたがって,本件各発明は,いずれも,実施可能要件に適合するものと認められる。\n
(2) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な\n時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能要件を満たさない旨主張する。\nしかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求められるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程\n度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる\nからである。 本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ, PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗 体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そして,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す\nることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離 されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度 の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ\nることまで記載されている必要はない。 また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない 抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認 識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に記載されているかどうかは,実施可能\要件とは関係しないというべきである。そして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細 書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範 囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得 る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 よって,控訴人の主張は採用できない。
(3) 本件各訂正発明の実施可能要件の適合性
なお,前記3(4)のとおり,本件訂正発明1は,本件発明1の参照抗体1(構成要件1B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体1’(構\成要件1B’)とするものであり,本件訂正発明2は,本件発明2の参照抗体2(構成要件2B)を可変領域のアミノ酸配列によってさらに限定した参照抗体2’(構\成要件2B’)とするものであるから,当業者は,本件各明細書の記載から,本件訂正発明1 −1及び2−1の抗体及び本件訂正発明1−2及び2−2の医薬組成物を作製し, 使用することができるものと認められ,本件各訂正発明も,いずれも実施可能要件に適合するものと認められる。\n

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平成30(ネ)10006等  特許権侵害行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月11日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 ゲームの特許について、約1.7億円の損害賠償が認められました。1審よりも損害賠償額が上がりました。これは1審では、A事件は特許無効と判断されましたが、知財高裁はA事件の特許に無効理由無しと判断したためです。

 これに対し控訴人は,本件発明A1の「拡張ゲームプログラムおよび /またはデータ」は,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容 を楽しむことが可能となるものであるから(本件明細書Aの【0020】\n等),標準のゲーム内容を置き換えるゲームプログラム及び/又はデー タを含まないと解され,本件発明A1と公知発明1との間には,相違点 1−1及び1−2のほかに,相違点1−3ないし1−5が存在する旨主 張する。
そこで検討するに,本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記 載によれば,「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は, 「標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラ クタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および\n/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲー ムプログラムおよび/またはデータ」であり,「第2の記憶媒体」に「包 含」されるものであって,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装 填され」,「上記ゲーム装置が」「第1の記憶媒体」が「包含する」「所 定のキーを読み込んでいる場合に」,「上記標準ゲームプログラムおよ び/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの 双方によってゲーム装置を作動させ」ることを理解できる。 一方,上記特許請求の範囲には,「上記標準ゲームプログラムおよび /またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双 方によってゲーム装置を作動させ」た場合に動作する「上記標準ゲーム プログラムおよび/またはデータ」が,「上記標準ゲームプログラムお よび/またはデータ」の全部であると限定して解釈すべき根拠となる記 載はない。そして,本件明細書Aの発明の詳細な説明にも,「上記標準 ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムお よび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」る場合とは, 「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」の一部しか作動し ない場合を含まないものであり,「上記標準ゲームプログラムおよび/ またはデータ」の全部が動作することが必要であると解釈すべき根拠と なる記載はない。 前記(ア)のとおり,本件公知発明1の「勇士の紋章DDII」は,魔洞戦 紀DDIから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以 上であるときには,(1)そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最 初から2となり,(2)神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。 がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され,アイテム「くさのつゆ」\n及び「しろきのこ」が1つ増える,という動作機能を実行するゲームプ\nログラム及び/又はデータを包含するものである。 そうすると,上記(1)の点は,「勇士の紋章」の標準のゲーム内容であ ればレベル1からスタートするゲームキャラクタのレベル(乙A4の2・ 11枚目,乙A8の1・8頁)をレベル2からスタートできるようにす るものであり(乙A4の1・8枚目),上記(2)の点は,標準のゲーム内 容であれば金貨(GOLD)で支払わなければ取得できないアイテム(乙 A4の1・13枚目,乙A4の2・8枚目)を神殿で祈ることで取得で きるようにするものであって(乙A9・2頁,乙A10・3頁),いず れも新たな機能をゲームキャラクタに持たせるものであるから,これが\n「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」に当たることは明らかである。\nまた,上記(2)の点は,「勇士の紋章」の標準のゲームの内容であれば, 神殿で祈ると「あなたのたたかいが ぶじおわりますよう。あくまに わ ざわいを!」とのメッセージのみが表示される場面を,神殿で祈ると「ゆ\nうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが 表示され,アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えると\nいう場面とするものであるから,これが「場面の拡張」に当たることも 明らかである。 以上によれば,本件公知発明1の「勇士の紋章DDII」は,「標準ゲ ーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム及び/又はデータ」に加\nえて,「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面の拡張」を\n達成するためのゲームプログラム及び/又はデータ,すなわち,本件発 明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」を包含するも のといえる。 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 他方,被控訴人は,公知発明1における「所定のキー」に相当する「キ ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」とは, (1)魔洞戦紀DDIが装填されたことを示すデータ及び(2)キャラクタ(じ ゅんく)のレベルが16以上であるセーブデータである旨主張する。 そこで検討するに,証拠(甲A4の1,4の2,13の2)及び弁論 の全趣旨によれば,本件ゲームシステムA1において,まず,勇士の紋 章DDIIを装填し,次いで,「まどうせんきのAメンをいれてください」 というインストラクションに基づき,魔洞戦紀DDIを装填し,キャラ クタ「じゅんく」を選択した後,再度,勇士の紋章DDIIを装填した場 合には,勇士の紋章においてもキャラクタ「じゅんく」でプレイできる ことが認められる。 しかしながら,魔洞戦紀DDIを装填することにより当然に,本件発 明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」に相当する, 本件公知発明1の「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面\nの拡張」を達成するためのゲームプログラム及び/又はデータと,標準 ゲームプログラム及び/又はデータの双方によって,ファミリーコンピ ュータが作動されるものではない。前記(ア)及び(イ)のとおり,本件公知 発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲームプ ログラム及び/又はデータの双方によってファミリーコンピュータを作 動させ」るには,魔洞戦紀DDIから,キャラクタ(じゅんく)のレベ ルが16以上であるセーブデータを読み込むことが必要であり,かかる データを読み込んでいない場合には,上記のようにインストラクション に基づき魔洞戦紀DDIを装填するなどの作業をしたとしても,本件公 知発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによって ファミリーコンピュータを作動させる」こととなる。 以上によれば,上記(1)のデータは,本件公知発明1の「拡張ゲームプ ログラムおよび/またはデータ」を作動させる条件であるとはいえない から,本件発明A1の「所定のキー」に相当する本件公知発明1の「キ ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」には, 上記(1)のデータは含まれないといえる。 したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 本件発明A1と本件公知発明1の対比 本件発明A1と本件公知発明1とを対比すると,以下の相違点が存在す ることが認められる。
(相違点1−1)
一の記憶媒体,二の記憶媒体が,本件発明A1は,「記憶媒体(ただし, セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し,本件公\n知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」である点。\n
(相違点1−2)
本件発明A1の「第1の記憶媒体」は,セーブデータを記憶可能な記憶\n媒体を除くから,「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し,本 件公知発明1では,魔洞戦紀DDIに包含される「所定のキー」が,魔洞 戦紀DDIに記憶されたセーブデータであって,魔洞戦紀DDIにセーブ されたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 本件公知発明1の技術思想
本件公知発明1の内容に加え,前記アに掲記の各証拠及び弁論の全趣 旨を総合すれば,(1)ディープダンジョン(DD)シリーズの後作「勇士 の紋章」は,前作「魔洞戦紀」の続編であって,両者は,魔洞戦紀にお いて,魔王が勇剣士に倒され平和を取り戻したものの,勇士の紋章にお いて,魔王が復活し,勇剣士が再び冒険するという一連のストーリーを 有するゲームであること,(2)「魔洞戦紀」の勇剣士のキャラクタを,「勇 士の紋章」に転送することにより,「魔洞戦紀」の「勇剣士」を,「勇 士の紋章」の「勇士」として復活させることができること,(3)「魔洞戦 紀」において,キャラクタのレベルが16以上であれば,レベル1から ではなく,レベル2のキャラクタとして「勇士の紋章」でプレイできる こと,(4)このような場合に,「魔洞戦紀」から転送されたレベル16以 上のキャラクタは,「勇士の紋章」においては「勇剣士の子孫」として 復活すること,(5)「魔洞戦紀」のキャラクタリストは,「魔洞戦紀」に おいて,特定のキャラクタでゲームをプレイしている途中で中断し,そ の後,中断した場面からゲームを再開してプレイするために,ディスク にセーブされたものと解されることが認められる。 上記認定事実によれば,本件公知発明1は,前作と後作との間でスト ーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲーム のキャラクタでプレイしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作 のゲームのプレイを有利にしたりすることによって,前作のゲームをプ レイしたユーザに対して,続編である後作のゲームもプレイしたいとい う欲求を喚起し,これにより後作のゲームの購入を促すという技術思想 を有するものと認められる。
(イ) 相違点1−1について
前記(ア)のとおり,本件公知発明1は,キャラクタでプレイするゲーム において,セーブされたキャラクタを前作のゲームから後作のゲームに 転送するものであり,前作のゲームにおいて,プレイ途中でセーブして, なおかつ,キャラクタのレベルが16以上である場合に,後作のゲーム において,ゲームのプレイが有利になるという特典が与えられるもので ある。 そうすると,本件公知発明1は,少なくとも,前作において,ゲーム をプレイ途中でセーブするとともに,ゲームをある程度達成した,すな わち,前作のゲームにおいて,キャラクタのレベルが16以上となるま でプレイしたという実績があることが,後作においてプレイを有利にす るための必須の条件であり,「キャラクタ」,「プレイ実績」を示す情 報を前作の記憶媒体にセーブできることが本件公知発明1の前提であっ て,「キャラクタ」,「プレイ実績」の情報をセーブできない記憶媒体 を採用すると,前作のゲームにおける「キャラクタ」,「プレイ実績」 の情報が記憶媒体に記憶されないこととなり,「前作のゲームのキャラ クタで,後作のゲームをプレイする」,「前作のキャラクタのレベルが 16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムを動作させる」 という本件公知発明1を実現することができなくなることは明らかであ る。 したがって,仮に,被控訴人の主張するとおり,ゲームプログラム及 び/又はデータを記憶する媒体としてCD−ROMを用いることが本件 特許Aの出願前において周知技術であり,また,同一タイトルのゲーム をCD−ROMやROMカセットに移植することが一般的に行われてい る事項であったとしても,本件公知発明1において,記憶媒体を,ゲー ムのキャラクタやプレイ実績をセーブできない「記憶媒体(ただし,セ ーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更する動機付けはな\nく,そのような記憶媒体を採用することには,阻害要因がある。 以上のとおりであるから,本件公知発明1において,相違点1−1に 係る本件発明A1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たもの\nであるとは認められない。
(ウ) 相違点1−2について
前記(イ)と同様の理由により,本件公知発明1において,相違点1−2 に係る本件発明A1の構成を採用することは,動機付けを欠き,むしろ\n阻害要因があるというべきであるから,当業者が容易に想到し得たもの であるとは認められない。
(エ) 被控訴人の主張について
これに対し被控訴人は,相違点1−1及び1−2は,本件訂正Aによ り,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」から「セーブデータを 記憶可能な記憶媒体」が除かれ,その結果,「所定のキー」からセーブ\nデータが除かれたこと(「除くクレーム」とされたこと)により生じた ものであることを前提として,除くクレームとする訂正により,形式的 に主引用発明との間に相違点が存在すると認められる場合は,(1)相違点 に係る構成によって,技術的観点から主引用発明と異なる作用効果が存\n在するか否かを検討し,(2)技術的意義が認められない場合には,実質的 な相違点とはいえず新規性が否定されると解すべきであり,(3)技術的意 義が認められた場合には,当業者において適宜なし得る設計事項に過ぎ ないか否かを検討し,設計事項に過ぎない場合には,進歩性が否定され ると解すべきであるところ,本件訂正Aは,シリーズ化された一連のゲ ームソフトを買い揃えていくことにより,豊富な内容のゲームを楽しむ\nことができるようにするという本件発明A1の課題との関係では,技術 的な解決手段を示したものとはいえず,技術的意義がないものであって, 本件発明A1の作用効果や技術的思想は,本件訂正Aの前後で変わらな いから,相違点1−1及び1−2は,実質的に相違点とはいえず,少な くとも,当業者が適宜なし得る設計事項である旨主張する。 しかしながら,前記(イ)及び(ウ)のとおり,本件公知発明1において, 相違点1−1及び1−2に係る本件発明A1の構成を採用することは,\n動機付けを欠き,むしろ阻害要因があるというべきものである。 また,本件発明A1において,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶 媒体」を「セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすること\nは,前作のプレイ実績にかかわらず,後作において拡張ゲームプログラ ム及び/又はデータによってゲームを楽しむことができるという作用効 果を奏するものであって,技術的意義を有するものであることからする と,相違点1−1及び1−2は,実質的な相違点であるといえるし,当 業者が適宜なし得る設計事項であるとは認められない。 したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ) 小括
以上のとおり,本件公知発明1において,相違点1−1及び1−2に 係る本件発明A1の構成とすることには,動機付けがなく,むしろ阻害\n要因があるため,当業者が容易に想到し得たこととは認められない。 したがって,本件発明A1は,当業者が本件公知発明1に基づき容易 に発明をすることができたものであるとは認められない。
・・・・
特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき 金銭の額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改 正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する 額の金銭」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では 侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除 された経緯がある。 特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許 が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最 低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの 実施料の返還を求めることができないなど様々な契約上の制約を受ける のが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術 的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許 権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約 を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項 に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施 許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特 許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受ける べき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろ うことを考慮すべきである。 したがって,実施に対し受けるべき料率は,(1)当該特許発明の実際の 実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界に おける実施料の相場等も考慮に入れつつ,(2)当該特許発明自体の価値す なわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,(3)当 該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の 態様,(4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に 現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) 認定事実
a 本件特許Aについての実際の実施許諾契約の実施料率は,本件訴訟 に現れていない。 そして,証拠(乙A115,116,乙B28)及び弁論の全趣旨 によれば,以下の事実が認められる。
(a) 株式会社帝国データバンクが「知的財産の価値評価を踏まえた特 許等の活用の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価 値及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜(平成22年3月)」 (乙B28。本件調査報告書)を作成するに当たって行った,特許 権に関するロイヤルティ率情報のアンケート(以下「本件アンケー ト」という。)の結果を記載した表2−2には,技術分類を「家具,\nゲーム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%(最大値 4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)(件数14件)と 記載されている。
(b)本件調査報告書には,本件アンケート調査結果の回答及び集計に 当たっての前提条件について,(1)ライセンス・アウト(ライセンス を与える側)の立場での回答であること,(2)国内同業他社へのライ センスを想定していること,(3)通常実施権(ライセンス提供先を独 占的にする訳ではなく,複数の者とライセンスを行うことができる 形態)によるライセンスを想定していること,(4)正味販売高に対す る料率を想定していること,(5)特殊な事情(エンタイアマーケット バリュールール(特許技術が製品の一部に使われているだけだとし ても,侵害された部品を含む製品全体の単価に基づいて損害額を計 算するルール)によるロイヤルティ算定,契約相手の事情など)を 捨象したケースであること,(6)ロイヤルティ料率相場はカテゴリ選 択肢で回答であるが,集計時には各選択肢の中央値をロイヤルティ 料率として集計を行ったことが記載されている。
(C) 経済産業省知的財産政策室編の「ロイヤルティ料率データハンド ブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(平 成22年8月31日発行)の「II 各国のロイヤルティ料率」には, (1)ロイヤルティ算定方式として最も広く採用されているのは,定率 方式であり,そのロイヤルティは,「対象製品の販売価格×ロイヤ ルティ料率」として算定されること,(2)販売価格の対象となるロイ ヤルティベースには,総販売価格,純販売価格(正味販売価格), 小売価格等が使用されるが,実務面では,純販売価格(正味販売価 格)が採用されることが比較的多いとされること,(3)純販売価格(正 味販売価格)は,総販売価格から一定の費用項目を控除した残額と して定義され,控除費用項目としては,一般的に,輸送費,保険料, 倉庫保管費用,リベート,包装梱包費等,販売地によって変動する 可能性のある費用項目が中心となるが,業界慣行や製品種類等によ\nって異なることが記載されている。
b 前記(1)アのとおり,本件発明A1は,ゲームプログラム及び/又は データを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲームシス テムを作動させる方法であって,上記記憶媒体は,少なくとも,所定 のゲームプログラム及び/又はデータと,所定のキーとを包含する第 1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラム及び/又はデータに加 えて所定の拡張ゲームプログラム及び/又はデータを包含する第2の 記憶媒体とが準備され,上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填 されるとき,上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合 には,上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲーム プログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させる ことにより,ユーザにとっては,一回の購入金額が適正なシリーズも のの記憶媒体を買い揃えてゆくことによって,最終的に極めて豊富な 内容のゲームソフトを入手したのと同じになり,メーカにとっては,\n膨大な内容のゲームソフトを,ユーザが購入しやすい方法で提供でき\nるという効果をもたらすものである。 このように,本件発明A1は,ゲームシステム作動方法の発明であ り,その構成及び効果は上記のとおりであるところ,イ−9号方法等\nは本件発明A1の技術的範囲に属するものであり,イ−9号製品等は, ゲーム装置に装填してゲームを実行するためのゲームソフトであって,\n本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当する,同発明を実施するた めに不可欠の物である。そして,前記(1)イのとおり,イ−9号製品等 は,本編ディスク(第1の記憶媒体)から所定のキーを読み込むこと により,アペンドディスク(第2の記憶媒体)に記録された標準のゲ ームプログラム及び/又はデータに加えて,拡張ゲームプログラム及 び/又はデータを作動させることができるものであるから,本件発明 A1は,イ−9号製品等にとって,相応の重要性を有するものといえ る。 また,家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作 動方法に関し,本件発明A1の上記技術についての代替技術が存在す ることはうかがわれない。
c(a) 前記bのとおり,本件発明A1は,イ−9号製品等に記録された 拡張ゲームプログラム及び/又はデータを作動するに当たり不可欠 な技術であるところ,家庭用ゲーム機本体に装着してゲームを楽し むゲームソフトにおけるゲームキャラクタのもつ機能\,場面,音響 が豊富であることは,通常,需要者の購入動機に影響を与えるもの といえる。 そして,被控訴人は,イ−9号製品等を販売するに当たり,製品 解説書(甲A5,7,8,10,11)において,MIXJOY機 能について紹介し,前作のディスク(本編ディスク)があると本作\n(アペンドディスク)とのMIXJOYを楽しむことができ,前作 のシナリオを本作のキャラクタでプレイしたり,前作では特定のキ ャラクタとのみ迎えることができたエンディングを全てのキャラク タと迎えることができたりする旨を説明している。 これらの事情を考慮すると,本件発明A1をイ−9号製品等に用 いることにより被控訴人の売上げ及び利益に貢献するものと認めら れる。
・・・
a 前記(イ)のとおり,本件訴訟において本件特許Aの実際の実施許諾 契約の実施料率は現れていないところ,本件特許Aの技術分野が属す る分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,本件アンケート結果で は2.5%(最大値4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%) であり,同実施料率は正味販売高に対する料率を想定したものである ことが認められる。そして,このことを踏まえた上,侵害品に係るゲ ームソフトにおいては,ゲームのキャラクタや内容,販売方法の工夫\n等が,その売り上げに大きく貢献していることは否定できないとはい え,本件発明A1に係る技術も,売上げの向上に相応の貢献をしてい ると認められることや,本件発明A1の代替となる技術は存在しない こと,控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど,本件訴訟に現れ た事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められ るべき,本件での実施に対し受けるべき料率(以下「本件実施料率A」 という。)は,消費税相当額を含む被控訴人の正味販売価格に対し, 3.0%を下らないものと認めるのが相当である。
b 被控訴人は,別紙1「販売開始日一覧表」記載の販売開始日から本\n件特許権Aの存続期間満了日までのイ−9号製品等の売上高(被控訴 人の卸売価格)が,別紙7「売上高(補正後)」の「売上高」欄記載 のとおりであると主張するところ,イ−9号製品等の売上高(被控訴 人の卸売価格)が上記金額を超えるものであることを認めるに足りる 証拠はない。そこで,同金額に消費税相当額(5%)を加えた金額を, 実施料算定の基礎となる価格とするのが相当である。 もっとも,前記(イ)c(C)のとおり,イ−9号製品等のうちには,本件 発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,1\n個ないし5個の当該ゲームソフトと同一シリーズのゲームソ\フト(記 憶媒体)が含まれるパッケージ商品も存在するところ,これらのゲー ムソフトは,本件発明A1についての本件特許権Aを侵害するもので\nはなく,かつ,イ−9号製品等に含まれなくとも,単体で販売の対象 となる商品である。また,前記(イ)a(b)のとおり,本件調査報告書には, 本件アンケート調査結果の回答及び集計に当たっての前提条件につい て,特殊な事情(エンタイアマーケットバリュールール(特許技術が 製品の一部に使われているだけだとしても,侵害された部品を含む製 品全体の単価に基づいて損害額を計算するルール)によるロイヤルテ ィ算定,契約相手の事情など)を捨象したケースであることが記載さ れている。そうすると,侵害品以外のゲームソフトの価格に相当する\n部分については,本件実施料率Aを乗じるべき販売価格から控除する のが相当というべきであるから,イ−9号製品等の販売価格を侵害品 であるゲームソフトとそれ以外のゲームソ\フトとの合計数で除したも のをもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。 また,前記(イ)c(C)のとおり,イ−19及び23(2)号製品には,本件 発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,「最\n強データ収録CD−ROM」やグッズが同梱されているものもあるが, 上記CD−ROMは,ゲームソフトで使用するデータ(キャラクタの\n能力値等が最大の状態のデータ)が記録されているに過ぎず,それら\nが単独で商品として流通するものではないから,当該製品の販売価格 全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当であ る。 他方,イ−39号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記 プレミ アムBOX」(希望小売価格9800円))は,同日付で発売された イ−35号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記」(希望小売価格\n4980円))に対して,4820円高く価格が設定され,その製品 の相違は同梱グッズのみであって,イ−39号製品に含まれる同梱グ ッズの価格は,おおむね同製品の2分の1に相当するものといえるか ら,同製品の販売価格の2分の1を本件実施料率Aを乗ずべき売上高 とするのが相当である。 さらに,イ−40号製品(「遥かなる時空の中でプレミアムBOX コンプリート」)は,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当する ゲームソフトのほかに,これと同一の「遥かなる時空の中でシリーズ」\nのゲームソフト5個が含まれるところ,同製品についても,イ−39\n号製品と同様に,同梱グッズの価格は,これと対応するゲームソフト\nの価格のおおむね2分の1に相当するものといえる。そうすると,同 製品の販売価格の12分の1をもって,本件実施料率Aを乗ずるべき 売上高とするのが相当である。
c 以上によれば,本件特許権Aの侵害について,特許法102条3項 により算定される損害額は,別紙10のとおり計算され,その合計額 は1億1667万3710円となる。
(エ) 控訴人の主張について
控訴人は,(1)本件発明A1及びA2は,イ号製品のユーザにおいて実 施されるゲームシステム作動方法であること,イ号製品のような本件特 許権Aの間接侵害を構成する製品の製造販売に関する特許権者の許諾は,\n当該製品がユーザに販売されることを当然の前提とすることなどから, 実施料率算定の基礎となるイ−9号製品等の売上高は,被控訴人の卸売 価格ではなく小売価格とすべきである,(2)イ−9号製品等に同梱される アイテムがある場合でも,イ号製品は,同梱されたアイテムを含む製品 全体で一個の商品(販売単位)であり,製品の販売等行為全体が一個の 特許権侵害を構成するから,イ−9号製品等の販売価格全体が本件実施\n料率Aに乗ずべき価格となる旨主張する。 しかしながら,上記(1)の点については,控訴人の主張を裏付けるに足 りる客観的な証拠はない。前記(イ)aのとおり,本件特許Aの技術分野が 属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率は,正味販売高に対する 料率を想定したものであることからすると,実施料算定の元となる売上 高は,被控訴人のイ−9号製品等の販売価格,すなわち卸売価格とする のが相当である。 上記(2)の点については,前記(ウ)bのとおり,イ−9号製品等のうち, 本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフト以外のゲー\nムソフトを含むものや,同梱されたグッズが,商品構\成や価格構成上,\n明らかにゲームソフトとは別の価値を有するもの,すなわち,別個の商\n品として扱われていると判断し得るものについては,これらのゲームソ\nフト及びグッズの価格に相当する金額を本件実施料率Aを乗ずべき価格 から控除するのが相当である。 控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するものでは ない。
(オ) 被控訴人の主張について
被控訴人は,(1)実施料率算定の基礎となるべき正味販売価格に消費税 相当額は含まれない,(2)本件調査報告書によれば,「家具,ゲーム」の 技術分野には,「ビデオゲーム」のような全体の一部に特許発明が実施 されているもの以外に,「家具」,「カードゲーム,盤上ゲーム,ルー レットゲーム;小遊技動体を用いる室内用ゲーム」も含まれるため,本 件特許Aの実施料率は,上記実施料率の平均値(2.5%)より低くな る,(3)同梱グッズについても,別紙7「売上高(補正後)」記載のとお り,そのアイテム数に応じて売上高を補正すべきである,(4)本件発明A 1は,セーブデータを「所定のキー」とする方法,「拡張ゲームプログ ラム等」の一部を「所定のキー」とする方法,第2の記憶媒体に「拡張 ゲームプログラム等」のみを記憶する方法により,同発明と同様の作用 効果を奏しながら,同発明を回避することができる,(5)控訴人は,競業 者と特許クロスライセンス契約を締結し,「ライセンスなどの特許権の 有効活用を促進」するとしたプレスリリースを公開しており(乙A83 の1〜3),むしろ開放的ライセンスポリシーを採用している,(6)イ号 製品は,武将やステージを新規に追加するものというよりは,「違った 遊びを提供するという概念で開発」されたものであり,本編ディスクで はプレイできなかったモードを提供することが主眼となった製品であっ て,それ単体でも十分楽しめる内容である反面,MIXJOYをするこ\nとで可能となるのは,本編ディスクでプレイできたモードやシナリオを\nアペンドディスクでもプレイできるというものであり,MIXJOYを 行う場面は限定されている旨主張する。 しかしながら,上記(1)の点については,消費税相当額も被控訴人の販 売価格の一部としてそれに含まれているものであるから,損害額の算定 に当たって消費税相当額を控除すべき理由はない。 上記(2)の点については,前記(イ)a(a)のとおり,本件アンケート結果 を記載した,本件調査報告書の表2−2には,技術分類を「家具,ゲー\nム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%であり,件数は1 4件である旨が記載されているものの,アンケート回答者の保有する特 許の内容,特許の実施品について,具体的な記載はない。したがって, 本件調査報告書の記載からは,本件特許Aの実施料率が,上記実施料率 の平均値より低くなると認めることはできない。 上記(3)の点については,前記(イ)c(C)のとおり,イ−9号製品等に同梱 されているグッズは,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当するゲ ームソフトの付属物というべきものであって,単独で商品として流通す\nるものではないから,イ−39及び40号製品に同梱されたグッズを除 き,当該製品の販売価格全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上 高とするのが相当である。
上記(4)の点については,i)前記(5)ウ(エ)のとおり,本件発明A1にお いて,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」を「セーブデータを 記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすることは,前作のプレイ実績にか\nかわらず,後作において拡張ゲームプログラム及び/又はデータによっ てゲームを楽しむことができるという技術的意義を有するものであり, セーブデータを「所定のキー」とする方法は,本件発明A1と同様の作 用効果を奏するものではなく,また,記憶媒体をセーブデータを記憶可 能なものにした場合は,大量の記憶容量を有し,安価で大量生産が可能\ なCD−ROM,DVD−ROM等の読み出し専用メモリーを用いるこ とができなくなること,ii)本件発明A1は,第1の記憶媒体に記憶され た「所定のキー」を読み込むだけで,第2の記憶媒体に記録された標準 ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによりゲーム装置を作動さ せるものであって,装置の作動中に第1の記憶媒体を入れ換え可能なも\nのであるが,「拡張ゲームプログラム等」の一部を「所定のキー」とす る方法では,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによるゲ ーム装置の作動中に,第1の記憶媒体を装填し続ける必要があること, iii)第2の記憶媒体に「拡張ゲームプログラム等」のみを記憶する方法 では,第2の記憶媒体単体で,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプ ログラムによりゲーム装置を作動させることができないことから,これ らの方法が本件発明A1の代替技術であるとはいえない。
上記(5)の点については,たとえ,特許権者が開放的ライセンスポリシ ーを有しているとしても,そのことは,特許権侵害者に対して事後的に 定めるべき実施料率を下げる理由にはならないものというべきである。 上記(6)の点については,前記(イ)c(a)のとおり,本件発明A1により ゲームキャラクタのもつ機能,場面,音響が豊富になるという効果は,\n通常,需要者の購入動機に影響を与えるものであるといえ,イ−9号製 品等においても,MIXJOY機能により,前作のシナリオを本作のキ\nャラクタでプレイしたり,前作では特定のキャラクタとのみ迎えること ができたエンディングを全てのキャラクタと迎えることができたりする ものであって,被控訴人は製品解説書でかかる機能を紹介し,宣伝して\nいるものである。そうすると,本件発明A1は,これをイ−9号製品等 に用いることにより被控訴人の売上及び利益に相応の貢献をするものと 認められるものであって,イ−9号製品等が単体でも十分楽しめるもの\nか否かという点や,MIXJOYを行う場面が限定されているか否かと いう点は,上記判断を左右するものではない。 被控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するもので はない。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆判決本文
判決理由は、A、B事件にそれぞれ分けられています。

◆A事件

◆B事件

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平成30(ワ)2554  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年8月27日  大阪地方裁判所

 大阪地裁21部は、技術的範囲に属する、無効理由なしとして、差止請求を認めました。損害賠償請求については、準備手続き中に口頭弁論が分離されています。

 被告は,「挟み込んで保持する」という文言について経時的に解釈し,これを, 第二保持部がブレースボルトをその軸方向に沿って外周側から挟み込み,これを仮 に保持した状態でブレースボルトの軸方向に移動して位置調整を行った後に,ナッ トで締め付けて保持するという操作方法に限定される旨を主張し,ブレースボルト を第二保持部が挿通する場合はこれに含まれないから,ブレースボルトを第二保持 部に挿通する被告製品は,本件発明の構成要件を充足しないと主張する。\nしかしながら,構成要件1Cの「挟み込んで保持する」は,物の発明の一要素と\nして,ブレースボルトが,これを包囲する包囲部によりベース板部に固定されるこ と,すなわち「狭着保持」(本件各明細書の段落【0044】,【0049】ない し【0052】等)を意味すると解するのが相当である(なお,被告は,「挟着」 と「狭着」の違いについて,前者は「挟み込む」という予備的動作を指すのに対し,\n後者は「狭める」という最終的操作を意味する,と主張する。しかし,本件各明細 書においては,「挟み込んで保持する」及び「挟み込んで狭着保持する」という2 通りの言い回しがみられるものの,これらが被告の主張のように明確に区別して用 いられているということはできず,「挟み込んで」,「挟着」及び「狭着」という 文言は基本的に同義であると解すべきである。)。 本件各明細書の段落【0008】に,「この構成によれば,(中略)固定片の孔\n部に第二棒状体を挿通させる必要がなく」との記載がある点については,従来技術 において,ブレースボルトが長過ぎる場合,これを切断する等して調整せざるを得 ないが,本件発明の場合,固定片のナットをゆるめて,外周側からブレースボルト を挟むことができるということを,特別な場合における利点として述べたにすぎず, ベース板部と固定片の間に形成される孔部にブレースボルトを挿通することのでき る通常の場合にまで,外周側からブレースボルトを挟み込むことを要件とする趣旨 とは解し得ない。 そうすると,被告の主張するような上記操作方法は,本件発明における構成要件\n充足性の判断を左右するものではない。
(3) 被告製品の施工方法について(甲19,乙4,22)
被告が,被告製品1の施工に際し,安全性確保等の見地から,ブレースボルトを 第二保持部に外周側から挟み込むことはせずに,第二保持部にあらかじめブレース ボルトを挿通できる程度の間隙を開けておき,ブレースボルトを第二保持部の当該 間隙に挿通させて使用する(被告製品2については,第二保持部が開口部の狭いル —プ状板部で構成されるため,ブレースボルトを第二保持部に挿通して使用するこ\nとは明らかである。)ことは当事者間に争いはないが,上記⑴及び⑵で検討したと ころによれば,上記施工方法の結果は,本件発明の「挟み込んで保持する」に該当 するというべきであり,これに反する被告の主張は採用できない。
・・・
被告は,乙13を適宜設計変更したものとして副引用発明を設定するところ, 乙13発明は,同一平面上に配置された2本の棒状体の交差する箇所において,乙 13に記載された物品(以下「本物品」という。)を2つ,各棒状体をそれぞれ覆 うようにして対向配置させて装着し,それぞれの本物品の角度調整用の弧形状の孔 (角度調整用長穴)を利用してボルトにより緊結することにより,2本の棒状体を 連結・固定するものである。 これに対し,副引用発明は,本物品と,本物品から包囲部を取り除いた状態の平 面の板状部材(以下「平面部材」という。)から構成されているところ,平面部材\nは棒状体を覆うことができないので,本物品と平面部材を組み合わせても乙13に 記載されたような交差連結具として使用することはできない(本物品1個と平面部 材1個を組み合わせた場合,保持可能な棒状体は1本のみである。)。また,本物\n品及び平面部材は互いの角度を調整する必要がないから,両部材に存する上記弧形 状の孔の存在意義がなくなってしまう。 したがって,当業者が,乙13発明から副引用発明を導くことは困難である。 また,被告は,乙13以外にも乙12,14ないし20を引用し,天井から 吊設機器を吊り下げるボルトが交差する部位を連結する揺れ止め用交差連結具も慣 用技術であると主張し,当業者は,乙1発明の両端の外側狭着体の平面域に,斜め 支持体に代えて副引用発明を適用して連結することで,被告製品1(すなわち本件 発明)を容易に発明することができる,と主張する。 しかし,乙12,14ないし20に記載された発明も,乙13発明と同様に,同 一平面上に配置された2本の棒状体を,その交差する箇所を覆うように装着するこ とで,連結・固定して振れ止めするための交差固定金具に係るものであって,被告 の主張するような副引用発明の構成を示唆するものではない。\nなお,被告は,このほかにも,乙8,10,24ないし28を引用して,1本の 棒状体を狭着して固定するにあたって,狭着する一方が棒状体を包囲する包囲部を 備えた部材,他方が平面上の部材である慣用技術である旨主張し,乙8ないし11 を引用して,2本の棒状体を狭着して固定する連結具も慣用技術である旨主張する が,いずれにおいても,一対の部材のうち,一方の部材にのみ包囲部を設け,もう 一方の部材を平面状とする交差固定金具の技術は開示されておらず(乙8及び乙2 6に開示された発明は,2つの固定具の間に平板の基板を挟み込む形を採るが,そ れぞれの固定部が包囲部を備えている点については上記の他の発明と同様である。), 被告が主張するような副引用発明の構成を示唆するものではない。\n以上より,副引用発明は,乙13を含めて乙8ないし20のいずれにも開示 されているとはいえない。
オ 容易想到性について(相違点1)
被告は,本件発明や乙1発明のようなコーナー固定金具と,乙12ないし20に 開示されるような交差固定金具とは,同一の技術分野に属し,また,施工現場で同 じ吊設機器において併用されることが多いから,当業者には,コーナー固定金具の 第二支持部に交差固定金具を適宜設計変更して適用する動機付けがある旨主張する。 乙12ないし20に記載される発明から,被告が主張するような副引用発明が導 けないことは上記エで述べた通りであるが,仮にこの副引用発明の具体的構成を措\nくとしても,交差固定金具とコーナー固定金具は,固定する棒状体の本数も固定の 態様も全く異なるものであるところ,単に吊設機器上の近い位置で用いられる2種 類の金具であるからといって,適用の動機付けを認めることはできない。 したがって,設計変更される副引用発明の具体的構成がどうあれ,乙1発明に上\n記刊行物記載の発明を適用する動機付けがあるとはいえない。

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平成30(ネ)10040  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年8月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審では、サポート要件、実施可能要件違反で権利行使不能\と判断されていました。 控訴審は、サポート要件違反と判断しました。

 所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明について,特許 請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に適合するか否かは, 当業者が,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から,当該発明 に含まれる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決できると認識で きるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。 イ(ア) これを本件についてみるに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1) の記載によれば,本件発明は,アルミニウム缶内にワインをパッケージ ングする方法の発明であって,「35ppm未満の遊離SO2」と,「3 00ppm未満の塩化物」と,「800ppm未満のスルフェート」と を有することを特徴とするワインを製造するステップを含むものである から,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる。
次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の課題を明示し た記載はないが,【0002】ないし【0004】の記載(前記(1)イ(ア)) から,本件発明の課題は,アルミニウム缶内にパッケージングした「ワ インの品質」が保存中に著しく劣化しないようにすること,ここにいう 「ワインの品質」は,「ワインの味質」を意味するものと理解できる。 そして,本件明細書の【0038】ないし【0042】及び表1には,\n白ワインの保存評価試験の結果として,パッケージングされた白ワイン を30℃で6ヶ月間保存した後に,味覚パネルによる官能試験により,\n「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された」との記載が\nあることに照らすと,本件明細書の発明の詳細な説明には,ワインの品 質(味質)が劣化したかどうかは味覚パネルによる官能試験によって判\n断されることの開示があることが認められる。
一方,上記の「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認され\nた」ワインについて,表1には,別紙のとおり,保存期間「6ヶ月」に\n対応する「Al mg/L」欄及び「初期に対するAl含有量上昇率(%)」 欄に,アルミニウム含有量0.72mg/L,含有量上昇率44%(「直 立」状態で保存の缶),アルミニウム含有量0.68mg/L,含有量 上昇率36%(「倒立」状態で保存の缶)であったことの記載があるが, 表1を含む本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,当該ワ\nインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃度につ いての具体的な開示はない。
また,本件明細書の【0003】の「ワイン中の物質の比較的攻撃的 な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特に味質 に及ぼす悪影響にあると考えられる。」との記載及び【0034】の「良 好に架橋された不透過性膜によって,保存中に過度のレベルのアルミニ ウムがワイン中に溶解しないことを保証することが重要である。」との 記載から,アルミニウム缶からワイン中に溶出する「過度のレベルのア ルミニウム」がワインの味質に悪影響を及ぼすことは理解できるものの, 本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,アルミニウム缶に 保存されたワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいてワインの味質 が劣化したかどうかを判断できることについての記載も示唆もない。 さらに,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量 とワインの味質の劣化との具体的な相関関係に関する技術常識を示した 証拠は提出されておらず,上記の具体的な相関関係は明らかではない。 もっとも,本件優先日当時,遊離SO2とアルミニウムとの間の酸化還 元反応により硫化水素が発生し,この硫化水素によってワインのフレー バーを悪くするという問題があったことは技術常識であったこと(甲3 9,40等)が認められるが,かかる技術常識に照らしても,遊離SO 2の濃度にかかわらず,ワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいて ワインの味質が劣化したかどうかを判断できるものとはいえない。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件発明の 課題(「アルミニウム缶内にパッケージングしたワインの品質(味質) が保存中に著しく劣化しないようにすること」)を解決できるかどうか を確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験結果によらざるを\n得ないことを理解できる。
(イ) しかるところ,前記(ア)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明 には,白ワインの保存評価試験(【0038】ないし【0042】及び 表1)において「許容可能\なワイン品質が味覚パネルによって確認され た」ワインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃 度についての具体的な開示はなく,仮にこれらの濃度が,本件発明で規 定するそれぞれの濃度(「300ppm未満の塩化物」及び「800p pm未満のスルフェート」)の範囲内であったとしても,それぞれの上 限値に近い数値であったものと当然には理解することはできないから, 上記保存評価試験の結果から,本件発明の対象とするワインに含まれる 塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスルフェートの濃度範囲(8 00ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」が保存中に著しく劣 化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により確認された\nものと認識することはできないというべきである。 また,乙29及び甲175(「アルミ缶の特性ならびに腐食問題」2 002年,Zairyo-to-kankyo,51,p.293〜298)によれば,ワインを組成 する一般的な物質のうち,遊離SO2,塩化物イオン(Cl−)及びスル フェート(SO4 2−)以外にも,リンゴ酸,クエン酸等の有機酸がアル ミニウムの腐食原因となることは,本件優先日当時の技術常識であった ことが認められる。このような技術常識に照らすと,本件明細書の発明 の詳細な説明には,白ワインの保存評価試験に用いられたワインの組成 についての記載はないものの,これらのアルミニウムの腐食原因となる 物質も,当該ワインの組成に含まれており,表1記載の保存期間「6ヶ\n月」に対応するアルミニウム含有量や味覚パネルによる官能試験の試験\n結果に影響を及ぼしている可能性があるものと理解できる。\n以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日 当時の技術常識から,当業者が本件発明に含まれる塩化物の濃度300 ppm未満及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体 にわたり本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められない から,本件発明は,サポート要件に適合するものと認めることはできな い。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件優先日当時,1)ワイン中の塩化物及びスルフェートの濃度 は,生産国・地域,品種,収穫年,製造条件等の違いによりワイン毎に様々 であり,いずれの濃度分布も広範囲に亘っており,塩化物の濃度は3ppm から1148ppmの範囲で,スルフェートの濃度は38.6ppmから2 420ppmの範囲で分布していること,及び,「300ppm」以上の塩 化物及び「800ppm」以上のスルフェートを含有するワインが実際に存 在すること(甲24,41,42,51,57,58,101,乙67), 2)「淡水」とは塩分濃度が500ppm以下,塩化物濃度が約300ppm 以下の水であること(甲167,168,169の1,2),3)塩化物イオ ン(Cl−)及びスルフェート(SO4 2−)が,アルミニウムやステンレスの 局部腐食(不動態被膜の孔食)の原因となるイオンであること(甲88ない し90,115ないし117,169の1,2)は,技術常識であったこと に加えて,本件明細書の「このような不成功の理由は,ワイン中の物質の比 較的攻撃的な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特 に味質に及ぼす悪影響にあると考えられる。」(【0003】)との記載を 考慮すれば,当業者であれば,アルミニウムの腐食原因であるワイン中の物 質が「低い」濃度レベルであることを規定する,本件発明の「35ppm未 満」の遊離SO2,「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」 のスルフェートとの要件を満たすワインをパッケージング対象とすることに よって,これらの腐食原因物質の濃度が高いワインがアルミニウム缶にパッ ケージングされることを確実に防止できるという本件発明の効果を容易に認 識可能であり,本件発明は,この効果によって,「アルミニウム缶内にワイ\nンをパッケージングし,これによりワインの品質が保存中に著しく劣化しな いようにする」という課題(「アルミニウム缶の腐食によって保存中にワイ ンの中で増加してしまうアルミニウムイオン及び硫化水素によって,ワイン 品質(味,色,臭い)が保存中に著しく劣化しないようにする」という課題) を解決するものであることを容易に認識できること,そして,アルミニウム 缶の腐食原因である「塩化物」の濃度を300ppmよりも低くすればする ほど,同腐食原因である「スルフェート」の濃度を800ppmよりも低く すればするほど,アルミニウム缶の腐食防止効果がより高まることは容易に 認識できることからすると,本件発明の上記効果は,特許請求の範囲の全て において奏する効果であることを当業者が認識できることは明らかであり, 本件明細書の【0038】ないし【0042】記載の試験結果を参酌しなく ても,本件優先日当時の技術常識に照らし,本件明細書のその余の発明の詳 細な説明の記載及び本件発明の特許請求の範囲の記載から,本件発明は,当 業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる から,本件発明は,サポート要件に適合する旨主張する。 しかしながら,前記(2)イ(ア)認定のとおり,本件発明の課題は,アルミニ ウム缶内にパッケージングした「ワインの味質」が保存中に著しく劣化しな いようにすることにあるものと認められるところ,控訴人主張の本件優先日 当時の上記1)ないし3)の技術常識に照らしても,当業者が,本件明細書の発 明の詳細な説明の記載から,本件発明は,「35ppm未満」の遊離SO2, 「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」のスルフェートと の要件を満たすワインをパッケージング対象とすることによる効果によって, 本件発明の上記課題を解決するものであることを認識できるものと認めるこ とはできない。
また,控訴人が主張するようにアルミニウム缶の腐食原因である「塩化物」 の濃度を300ppmよりも低くすればするほど,同腐食原因である「スル フェート」の濃度を800ppmよりも低くすればするほど,アルミニウム 缶の腐食防止効果がより高まるといえるとしても,前記(2)イ(ア)認定のとお り,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量とワインの 味質の劣化との具体的な相関関係は明らかではなく,本件発明の上記課題を 解決できるかどうかを確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験結\n果によらざるを得ない。そして,本件明細書の【0038】ないし【004 2】及び表1記載の白ワインの保存評価試験の結果から,本件発明の対象と\nするワインに含まれる塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスルフェ ートの濃度範囲(800ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」が保 存中に著しく劣化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により\n確認されたものと認識することはできないことは,前記(2)イ(イ)のとおりで ある。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の 技術常識から,当業者が本件発明に含まれる塩化物の濃度300ppm未満 及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体にわたり本件発 明の課題を解決できると認識できるものと認められないから,控訴人の上記 主張は採用することができない。

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◆平成27(ワ)21684

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平成29(ワ)44053  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年5月29日  東京地方裁判所

 争点は、分割要件違反など色々ありますが、発明1,3についてはサポート要件違反なので権利行使不要、発明2については構成要件不充足と判断されました。\n

(3) 本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載
ア 本件明細書1及び3の【0015】,【0017】
本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載は,前記1(1)のとおりであり,発 明を実施するための形態として,「本発明の併用療法は,治療法が同時に行われ, すなわち抗CD20抗体は,同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進 んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)で投与される。本発明の 抗CD20抗体はまた,他の治療法の前または後に投与されてよい。」(【001 5】),「また本発明には,化学療法の前,その最中,または後に,治療上有効量 のキメラ抗CD20抗体を患者に投与することを含んでなる,B細胞リンパ腫の治 療法が含まれる。そのような化学療法は,少なくとも,CHOP,ICE,ミトザ ントロン,シタラビン,DVP,ATRA,イダルビシン,ヘルツァー(hoelzer) 化学療法,ララ(LaLa)化学療法,ABVD,CEOP,2−CdA,FLAG& IDA(以後のG−CSF治療有りまたは無し),VAD,M&P,C−Week ly,ABCM,MOPP,およびDHAPよりなる群から選択される。」(【0 017】)と記載されている。 しかしながら,上記において,抗CD20抗体ないしキメラ抗CD20抗体とし て示されるリツキシマブの投与時期について,【0015】では,「他の治療法の 前または後」と「同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが, 薬剤は全く同時に投与されるわけではない)」が併記されるにとどまり,また, 【0017】では,「化学療法の前…または後」と「その最中」が併記されるにと どまっており,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る説明はされ ていないから,これらの記載をもって,リツキシマブをCHOP療法の各薬剤の投 薬期間中に投与するという本件発明1の用途を認識することは困難であり,もとよ り,リツキシマブを含む医薬組成物と化学療法に用いられる各薬剤を化学療法の各 サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を認識することもできない。 このことに加えて,前記のとおり,本件発明1及び3は,いずれも,リツキシマ ブを含む医薬組成物について,対象疾患,併用される化学療法及び投与時期を特定 した用途発明であるところ,【0015】では,対象疾患及び併用される化学療法 が特定されておらず,【0017】でも,対象疾患が特定されておらず,併用され る化学療法であるCHOP療法も多数の選択肢の一つとして挙げられるにとどまっ ているから,その意味でも,これらが本件発明1及び3の用途を記載又は示唆する ものと認めるに足りない。
イ 本件明細書1の【0069】ないし【0071】,【0092】
(ア) また,本件明細書1の【0069】ないし【0071】及び【0092】の SWOGによる臨床試験に係る部分において,本件発明1の対象疾患である「低グ レード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」の患者に対するリツキシマブとC HOP療法の併用療法に係る実施例が記載されているものの,次のとおり,これら は,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与す るという本件発明1の用途を記載又は示唆するものであるとは認められない。 a すなわち,まず,本件明細書1の【0069】ないし【0071】には, 「新に診断された再発性低悪性度NHLまたは濾胞性NHLにおけるCHOPとリ ツクシマブ(登録商標)との併用を評価するために第II相試験」(【0069】) について,「CHOPは,標準用量で3週間毎にリツクシマブ(登録商標)(37 5mg/m3)を6回注入する6サイクルを行った。リツクシマブ(登録商標)注入 1と2は,最初のCHOPサイクル(これは8日目に開始した)の前の1日目と6 日目に投与した。リツクシマブ(登録商標)注入3と4は,それぞれ第3および第 4のCHOPサイクルの2日前に投与し,注入5と6は,6回目のCHOPサイク ル後のそれぞれ134日目と141日目に投与した。」(【0070】)と記載さ れており,参考文献21として甲38文献が参照されていること(【0071】) などに照らすと,これらは,甲38文献に記載されているCzuczmanらによる臨床試 験を記載したものと認められる(なお,【0070】の「第3および第4のCHO Pサイクルの2日前」は「第3及び第5のCHOPサイクルの2日前」の誤記であ ると認められる。)。 そうすると,【0070】の「リツクシマブ(登録商標)注入1と2」及び「注 入5と6」は,CHOP療法全体の開始前及び終了後の投与であり,また,「注入 3と4」も,Czuczmanらによる臨床試験の3回目及び4回目のリツキサンの投与と 同様に,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中の投与であって,当業者は,いずれに ついても,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するものではないと認識する と認められる。 したがって,【0069】ないし【0071】は,リツキシマブを含む医薬組成 物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を記載 又は示唆するものではない。
b また,本件明細書1の【0092】には,「SWOGにより行われた新に診 断された濾胞性リンパ腫でCHOPの後にリツクシマブ(登録商標)を使用する第 II相試験もまた,完了している。」として,SWOGによる臨床試験について記載 されているものの,同臨床試験においてリツキシマブが投与されたのは「CHOP の後」であるから,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬 期間中に投与するという本件発明1の用途を記載又は示唆するものではない。 (イ) さらに,本件明細書1の【0092】には,「マントル細胞リンパ腫が未治 療の40人の患者でリツクシマブ(登録商標)とCHOPの第III相試験も,ダナ ファーバー研究所(Dana Farber Institute)で行われている。21日毎の6サイ クルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与され,CHOPは1〜3日目に 投与される。この試験の発生項目は完了している。」として,ダナファーバー研究 所による臨床試験について記載されているものの,本件明細書1には,同臨床試験 の対象とされたマントル細胞リンパ腫が本件発明1の対象疾患である「低グレード /濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」に含まれることは記載されておらず,そ のように認めるに足る証拠もないから,上記の臨床試験に係る記載部分が本件発明 1の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。
ウ 本件明細書3の【0090】,【0092】
(ア) また,本件明細書3の【0090】において,本件発明3の対象疾患である 「中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」の患者に対するリツキ シマブとCHOP療法の併用療法に係る実施例が記載されているものの,その内容 は,「別の試験では,中または高悪性度NHLを有する31人の患者(女性19人, 男性12人,平均年齢49才)に,6回の21日サイクルのCHOPの1日目にリ ツクシマブ(登録商標)を投与した(35)。」というものであり,CHOP療法 の各薬剤の投与時期は記載されていない。 また,本件明細書3の発明の詳細な説明に,参考文献35として記載されている 乙9文献においても,前記1(2)イのとおり,Linkらによる臨床試験で,1サイクル 21日間(3週間)のCHOP療法を繰り返し実施するに当たり,リツキシマブは CHOP療法の各サイクルの1日目に投与されたのに対し,シクロホスファミド, ドキソルビシン及びビンクリスチンは各サイクルの3日目に投与され,プレドニソ\ ンは各サイクルの3日目から7日目まで投与されたことが認められる。 したがって,【0090】は,リツキシマブとCHOP療法の各薬剤をCHOP 療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を記載又は示唆する ものとは認められない。
(イ) さらに,本件明細書3の【0092】には,前記のとおり,ダナファーバー 研究所による臨床試験について記載されているものの,本件明細書3には,同臨床 試験の対象とされたマントル細胞リンパ腫が本件発明3の対象疾患である「中悪性 度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」に含まれることは記載されてお らず,そのように認めるに足る証拠もない。 また,「21日毎の6サイクルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与さ れ,CHOPは1〜3日目に投与される。」というだけでは,CHOP療法の各薬 剤が全て各サイクルの1日目に投与されたかは必ずしも明らかでないから,いずれ にしても,上記の臨床試験に係る記載部分がリツキシマブとCHOP療法の各薬剤 をCHOP療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を記載又 は示唆するものとは認められない。
(4)原告らの主張について
ア 本件発明1
原告らは,本件原出願日当時の化学療法とリツキシマブの併用療法は,化学療法 の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間の前又は後にリツキシマブを投与する 異日投与レジメンによっていたところ,本件明細書1の【0015】,【0017】 には,異日投与レジメンと区別して,化学療法の各サイクルにおける化学療法薬の 投薬期間中にリツキシマブを投与する同日投与レジメンが記載されていると主張す る。 しかしながら,本件原出願日当時,原告らが主張する異日投与レジメンによって リツキシマブと化学療法が併用されていたとしても,前記のとおり,【0015】, 【0017】には,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る記載は なく,化学療法の開始前,終了後,化学療法に用いられる薬剤の休薬期間中にリツ キシマブを投与するレジメンと区別して,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間中 にリツキシマブを投与するレジメンが記載されているとはいえないから,これらの 記載が本件発明1の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。
・・・
被告製剤についてみると,前記第2の2⑸ウのとおり,被告製剤の添付文書には, 用法・用量欄に「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合」が記載され,用法・用量に関 連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ 医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成 績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」 と記載されている。また,臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,未治療 の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品がR−CVP レジメンによって投与されたことが記載されているほか,先行バイオ医薬品の臨 床成績として,国外臨床第III相試験(PRIMA試験)において,ろ胞性非ホジ キンリンパ腫(NHL)の患者に,R−CVPレジメンによる寛解導入療法等が 実施されたことが記載されている。 そして,証拠(甲12,35)及び弁論の全趣旨によれば,被告製剤の添付文書 に記載されているR−CVPレジメンは,リツキシマブを1日目に投与するととも に,シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目,プレ ドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメン\nであると認められる。 そうすると,被告製剤は,添付文書に記載されたR−CVPレジメンがシクロホ スファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するも のでない点で,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。\n
・・・
以上のとおり,本件特許1及び3は特許法36条6項1号に違反しており,いず れも特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,同法104条の 3第1項により,本件特許1及び3に係る専用実施権者である原告による権利行使 は認められない。 また,被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属するとはいえないから,被告製剤 の製造販売等が本件専用実施権2を侵害するとはいえない。

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平成31(ネ)10019  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年7月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について均等主張も否定されました。1審では、構成要件Dについて均等主張をしていませんでした。控訴審では構\成要件Dの均等侵害を主張しましたが、第1要件を満たしていないと判断されました。被控訴人(1審被告)はYAHOO(株)です。

 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記(2)の本件明細 書の開示事項を総合すると,本件発明の技術的意義は,従来の住宅地図に おいては,建物表示に住所番地及び居住者氏名も全て併記されていたため,\n肉眼でも判別可能な実用性を確保するために縮尺度を低いものにする必要\nがあり,これに伴って全体として地図の大型化や大冊化を招き,この大型 化や大冊化が氏名の記載変更作業の実地調査に係る人件費と相俟って住宅 地図を高価格なものとし,更に氏名の公表を希望しない住人についても住\n宅地図に氏名を登載してしまうこととなるため,プライバシーの保護とい う点からも問題を有し,また,従来の住宅地図の付属の索引は,住所の丁 目及びそれぞれの丁目に該当するページだけが掲載されていたため,「目 的とする居住地(建物)を探し出す作業」(検索)が,煩雑で面倒であり, 迅速さに欠け,非能率な作業となっていたという課題があったことから,\n本件発明の住宅地図は,この課題を解決するため,検索の目安となる公共 施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については,居住人氏名や建物 名称の記載を省略し,住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すること により,縮尺度の高い,広い鳥瞰性を備えた構成の地図とし(構\成要件B 及びC),地図の各ページを適宜に分割して区画化した上で,地図に記載 の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建物の記載ページ及び記載区画を特 定する記号番号と一覧的に対応させた付属の索引欄を設ける構成(構\成要 件DないしF)を採用することにより,小判で,薄い,取り扱いの容易な 廉価な住宅地図を提供することができ,また,上記索引欄を付すことによ って,全ての建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容 易に分かるため,簡潔で見やすく,迅速な検索の可能な住宅地図を提供す\nることができるという効果を奏することにあるものと認められる。
イ この点に関し控訴人は,本件発明の技術的思想(技術的意義)は,「検 索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については 居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみ を記載すると共に,縮尺を圧縮して」(本件発明の構成要件B及び構\成要 件Cの前半)という構成により,「記載スベースを大きく必要とせず」(本\n件明細書の【0039】),これにより「広い鳥瞰性を備えた地図を構成」\n(構成要件Cの後半)する点にある旨(前記第2の4(1)エの「当審におけ る控訴人の主張」(ア))を主張する。
しかしながら,発明の技術的意義は,明細書に開示された従来技術の課 題について,特許請求の範囲の記載及び明細書の記載に基づいて,当該発 明がその課題の解決手段として採用した構成及びその構\成による効果を踏 まえて認定すべきものと解されるところ,控訴人の上記主張は,本件明細 書において,従来の住宅地図の付属の索引には,住所の丁目及びそれぞれ の丁目に該当するページだけが掲載されていたため,「目的とする居住地 (建物)を探し出す作業」(検索)が,煩雑で面倒であり,迅速さに欠け, 非能率であるという課題があったこと(【0003】),本件発明は,上\n記課題を解決するための手段として,地図の各ページを適宜に分割して区 画化した上で,地図に記載の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建物の記 載ページ及び記載区画を特定する記号番号と一覧的に対応させた付属の索 引欄を設ける構成(構\成要件DないしF)を採用したことにより,全ての 建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容易に分かるた め,簡潔で見やすく,迅速な検索を可能としたという効果を奏すること(【0\n039】)の開示があることを考慮しないものであるから,採用すること ができない。
・・・
控訴人は,仮に本件発明の構成要件Dの「区画化」の構\成が,地図が記載 されている各ページについて,記載されている地図を線その他の方法によっ て仕切って複数の区画に分割し,その各区画を特定する番号又は記号番号を 付し,利用者が,線その他の方法及び記号番号により,当該ページ内にある 複数の区画の中の当該区画を認識することができる形で複数の区画に分割す ることを意味するものと解し,また,仮に構成要件Fの「索引欄に…住宅建\n物の所在する番地を前記地図上における…記載ページ及び記載区画の記号番 号と一覧的に対応させて掲載した」との構成が,索引欄に所在番地の記載ペ\nージ及び区画の記号番号がユーザの目に見える形で掲載される構成に限られ\nると解した場合には,被告地図は,各ページに線その他の方法及び記号番号 が付されていない点及び「特定の緯度・経度を含む地点データと縮尺レベル 19ないし20を含むURL」が画面に「一覧的に」表示されていない点で\n本件発明と相違することとなるが,被告地図は,均等の成立要件(第1要件 ないし第3要件)を満たしているから,本件発明と均等なものとして,本件 発明の技術的範囲に属する旨主張する。 しかしながら,前記1(3)ア認定の本件発明の技術的意義に鑑みると,本件 発明の本質的部分は,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住 宅及び建物については,居住人氏名や建物名称の記載を省略し,住宅及び建 物のポリゴンと番地のみを記載することにより,縮尺度の高い,広い鳥瞰性 を備えた構成の地図とし(構\成要件B及びC),地図の各ページを適宜に分 割して区画化した上で,地図に記載の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建 物の記載ページ及び記載区画を特定する記号番号と一覧的に対応させた付属 の索引欄を設ける構成(構\成要件DないしF)を採用することにより,小判 で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することができ,また, 上記索引欄を付すことによって,全ての建物についてその掲載ページと当該 ページ内の該当区画が容易に分かるため,簡潔で見やすく,迅速な検索の可 能な住宅地図を提供することができる点にあるものと認められる。\n
しかるところ,被告地図においては,前記2(1)ウ及び(2)認定のとおり, 地図を記載した各ページを線その他の方法及び記号番号によりユーザの目に 見える形で複数の区画に仕切られておらず,索引欄に住宅建物の所在番地の 記載ページ及び区画の記号番号がユーザの目に見える形で掲載されていない ため,構成要件D及びFを充足せず,ユーザが所在番地の記載ページ及び区\n画の記号番号の情報から検索対象の建物の該当区画を探し,区画内から建物 を探し当てることができないから,このような索引欄を利用した迅速な検索 が可能であるということはできない。\nしたがって,被告地図は,本件発明の本質的部分を備えているものと認め ることはできず,被告地図の相違部分は,本件発明の本質的部分でないとい うことはできないから,均等論の第1要件を充足しない。

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◆平成29(ワ)34450

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平成31(ネ)10001等  特許権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年6月26日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 知財高裁(3部)は、確定した無効審決と実質同じ証拠であるとして、104条の3の無効抗弁を認めませんでした。

 (2)本件において乙17の1及び乙18の1を主引例として無効を主張でき るか。(当審における追加主張)
ア 特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に 基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は,同一の当事者 間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ, その趣旨は,無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものでは ない。そうすると,侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い,審決取消訴 訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には,同一当事者間 の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法 104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは,特段 の事情がない限り,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2 条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。 控訴人は,無効審判手続と特許権侵害訴訟における特許権者が置かれ ている立場の質的相違等から,特許法167条の趣旨は,侵害訴訟に適 用されないと主張するが,上記説示したところに照らし採用できない。 また,控訴人は,第三者の無効審判請求により特許権が無効とされるべ き場合にまで侵害訴訟において無効の抗弁を主張できないのは不当であ るという趣旨の主張もしているが,控訴人自身は,無効審判手続におい て無効主張をする機会を十分に与えられ,かつ無効不成立審判に対して\n審決取消訴訟を提起する機会も与えられていたのであるから,審決取消 訴訟を提起せずに無効不成立審決を確定させた結果,もはや当該審判手 続において主張していた特許の無効事由を主張できないこととなったと しても,その結果を不当ということはできない。
イ 認定事実
(ア) 本件無効審判請求1において,控訴人は,本件発明1は,1)乙1 7の1に記載された発明(乙17発明)に,乙18の1に記載された 発明(乙18発明),乙19又は23,42ないし45,33,34 に記載された技術事項及び従来周知の技術事項に基づいて,当業者が 容易に発明することができたものである,2)乙18発明に,乙17発 明,乙19又は23,42ないし45,33,34に記載された技術 事項及び従来周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明するこ とができたものである,とそれぞれ主張した。(甲14)(本件審決 1における甲1,2,3,7ないし13は,順に本件訴訟における乙 17,18,19,23,42ないし45,33,34に対応する。) このほか,控訴人は,乙20ないし22も証拠として提出していた。
(イ) しかしながら,本件審決1は,主引例である乙17の1及び乙1 8の1には,ローラの直交2方向への移動(及び移動に伴う肌の摘み 上げと押圧)という技術思想が存在せず,また,控訴人が提出した各 種証拠から認められる技術事項及び周知技術を考慮しても,この点を 容易に想到することができるとはいえないとして,上記無効理由のい ずれも認めず,本件発明1は,特許法29条2項の規定により特許を 受けることができないものとはいえないと判断した。(甲14)
ウ 乙17の1又は乙18の1を主引例とする進歩性欠如の無効主張の可 否
本件訴訟において,控訴人は,乙17の1,乙18の1をそれぞれ主 引例とした上,これに,乙17発明(乙18の1を主引例とする場合) 又は乙18発明(乙17の1を主引例とする場合),及び乙19ないし 23,33ないし35,42ないし45,101及び104に記載の副 引例又は周知技術を併せれば,本件発明1は容易想到であると主張して いる。 しかしながら,乙17の1及び乙18の1は,本件審判請求1におい ても主引例とされていたもの,乙19,23,33,34及び42ない し45は,副引例又は周知技術を認定する証拠として提出されていたも のであり,乙20ないし22も,明示的には主張されていないものの, 周知技術を認定する証拠等として提出されていたものと認められるから, 結局,本件審決1と本件訴訟における控訴人の主張立証との間では,主 引例は全く共通である上,副引例又は周知技術,証拠もほとんど共通し, 両者で共通していないのは,副引例ないし周知技術の証拠である乙35, 101及び104のみである(しかも,乙101は,乙35から分割出 願された発明であるから,両者は極めて類似している。)ことになる。 そして,乙35,101及び104は,いずれも4個のローラの直交2 方向への移動ということはおよそ想定していないものであるから,本件 審決1が認定した本件発明1と乙17発明及び乙18発明との相違点を 埋めるものであるとはおよそいい難いものである。
このように,本件訴訟独自の証拠である乙35,101及び104は 価値の乏しいものであるから,結局,本件訴訟における控訴人の主張は, 本件審判1と実質的に「同一の事実及び同一の証拠」(特許法167条) に基づくものと評価されるべきものである。 そして,本件審決1は,控訴人による審決取消訴訟が提起されること なく確定している上,本件において,前記アの特段の事情も窺われない。 したがって,本件訴訟において,控訴人が,乙17の1又は乙18の 1を主引例とする進歩性欠如の無効を主張することは,信義則に反し, 許されないといわざるを得ない。
(3) 結論 よって,控訴人の乙17の1又は乙18の1を主引例とする無効の抗弁 の主張はいずれも許されず,乙104発明を主引例とする無効の抗弁には 理由がない。

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◆平成28(ワ)4356

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平成30(ネ)10024  特許権侵害差止等本訴請求,損害賠償反訴請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年3月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審では、冒認の無効理由は否定されましたが、知財高裁4部は冒認と認定して、権利行使不能と判断しました。さらに、冒認の無効理由をしりながら権利行使したとして、1審原告に対して、不法行為と相当因果関係に立つ損害約330万円が認められました。

 特許法123条2項は,同条1項6号の冒認出願に該当することを理由と する特許無効審判は,特許を受ける権利を有する者に限り,請求することが できる旨を規定する。 ところで,同法2条1項は,「発明」とは,「自然法則を利用した技術的 思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定し,同法70条1項は,「特許 発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定め なければならない。」と規定している。これらの規定によれば,「発明者」 とは,当該発明の創作行為に現実に加担した者をいい,特許発明の「発明者」 といえるためには,特許請求の範囲の記載によって具体化された当該特許発 明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し,又は,その着想 を具体化することに創作的に関与したことを必要とすると解するのが相当 である。
そこで,以上を前提に,1審被告の従業員らが本件出願前に本件発明をし, 1審被告がその特許を受ける権利を承継したかどうかについて判断する。
・・・
(イ)a 1審被告は,FCM−A及びFCM−Cの稼働状況を撮影した動 画として,乙17の1及び乙18の1を提出する。 これらの各動画には,「型式FCM−A」,「取得年月86年9月 30日」,「(株)加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が付さ れた装置(乙17の1)及び「型式FCM−C」,「取得年月88年 2月29日」,「(株)加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が 付された装置(乙18の1)において,コイル巻き後に切断分離する 方法によるタングレス螺旋状コイルインサートの製造場面が撮影され ている。上記場面の撮影時期は平成27年12月であるが,上記各装置につ いて製造方法に関する構成が大きく変えられたことをうかがわせる証\n拠はないことに照らすと,乙17の1及び乙18の1は,昭和61年 ないし63年当時に1審被告がFCM−A及びFCM−Cを使用して 本件発明を実施していたことを裏付けるものといえる。
・・・
(ウ) 前記(ア)及び(イ)の認定事実とFCM−A及びFCM−Cの開発経 緯(前記2(2))によれば,1審被告は,昭和61年ころには,1審被告 らの従業員らの設計したFCM−Aを製造し,本件発明を実施していた ことが認められる。 そして,1審被告らの従業員らによるFCM−Aの設計は,前記1(2) 認定の本件発明の技術的思想を着想し,その着想の具体化に創作的に関 与する行為に当たるものと認められる。 したがって,1審被告らの従業員は,そのころ,本件発明を完成させ たものと認められる。
イ FCM−Bは,FCM−Aとサイズ違いのファミリー機種(乙133) であり,抜き潰し加工が一定間隔で施された線材をコイル巻きしてから加 工部分の中央で切断することを繰り返すもの(乙132)であるから,F CM−A及びFCM−Cと同様,本件発明を実施する装置であるものと認 められる。 そして,前記2(3)のとおり,昭和62年ころに5台のFCM−Aが福島 工場に移管されて稼働を開始し,同年から昭和63年にかけて5台のFC M−B及び1台のFCM−Cが福島工場に設置されて稼働を開始したこと, これらのFCM−A各機種は,平成7年11月,1台のFCM−Bを残し て,英国子会社に移管されたことが認められる。 したがって,1審被告は,昭和62年ころから平成7年11月までの間, 福島工場において,これらのFCM−A各機種を使用してタングレス螺旋 状コイルインサートを製造することにより,本件発明を実施していたこと が認められる。
・・・
エ 小括
以上のとおり,1審被告らの従業員は,昭和61年ころ,FCM−Aを 設計することにより本件発明を完成し,1審被告は,昭和62年ころから 平成7年11月までの間,福島工場において,FCM−A各機種を使用し てタングレス螺旋状コイルインサートを製造することにより,本件発明を 実施していたことが認められる。 上記認定事実によれば,1審被告は,本件発明の発明者である1審被告 らの従業員らから,昭和62年ころまでに,本件発明の特許を受ける権利 を承継したものと認めるのが相当である。
・・・
(ウ) 1審原告の当審における主張と原審における主張とを対比すると, 1)1審原告代表者が本件発明を着想するに至った時期(原審では「平成\n11年ころ」である旨主張していたのに対し,当審では「平成10年こ ろ」である旨主張している点),2)1審原告代表者の本件発明の着想の\n経緯,3)1審原告代表者が三晃のJに対し線材のサンプルの作製を依頼\nした時期(原審では「平成11年ころ」である旨主張していたのに対し, 当審では「平成10年ころ」である旨主張している点),4)1審原告代 表者が1審被告を訪れて線材の試作サンプルを1審被告のHに示した時\n期(原審では「平成11年5月10日ころ」である旨主張していたのに 対し,当審では「平成10年6月11日」である旨主張している点), 5)1審原告代表者のK弁理士に対する本件出願の依頼の経緯(原審では,\n1審原告代表者が1審被告を訪れた際に応対したHの無礼な態度に驚き,\nその日のうちにK弁理士に対し,1審被告から持ち帰った「試作品の線 材」と「タング無しコイルの実物」を渡して本件出願を依頼した旨主張 していたのに対し,当審では,1審原告代表者が本件発明が将来何かの\n役に立つこともあろうかと考え,「平成11年5月10日」に,K弁理 士に対し,「アキュレイト販売から入手していたタングレス螺旋状コイ ルインサートの現物」を手渡して,本件出願を依頼した旨主張している 点)などにおいて,大きく変遷し,その変遷の理由について合理的な説 明がされていない。 しかるところ,上記変遷した部分に係る1審原告の当審における主張 に沿う証拠としては,1審原告代表者の手帳(「Business D iary’98」。甲42)の「予定表\」中の「6月11日」欄に「H 部長 線材渡し タングレス」との記載部分,1審原告のMが2005 年(平成17年)6月9日に1審被告のHに送信した電子メール(甲4 3)中の「(1審原告代表者が)「将来何かの役に立つ事も有ろうかと\n考え特許出願した。」と申しております。」,「提案の日時は1998\n年6月11日」,「提案の場所は株式会社アドバネックス本社社長室」 との記載部分がある。 しかし,これらの証拠からは,1審原告代表者が平成10年6月11\n日に1審被告を訪れてHに対してタングレスの線材を渡した事実を認定 することができるものの,当審における1審原告の主張に係る1審原告 代表者が本件発明を着想するに至った時期及び着想の経緯,1審原告主\n張の上記線材を三晃のJに作製させるに至った経緯,1審原告代表者の\nK弁理士に対する本件出願の依頼の経緯を認めることはできない。他に これを認めるに足りる証拠はない。 また,1審原告代表者が1審被告のHに渡したタングレスの線材は,\n凹部及びテーパ部が加工済みであったことが認められるものの,上記の とおり,1審原告主張の上記線材を三晃のJに作製させるに至った経緯 を認めるに足りる証拠はない以上,上記のような形状の線材が存在する からといって直ちに1審原告代表者が本件発明をしたものと認めること\nはできない。
イ かえって,以下のような事情が認められる。 (ア)a 前記2(5)ア認定のとおり,1審原告代表者が平成10年6月11\n日に1審被告のHに渡した凹部及びテーパ部が加工済みのタングレス の線材は,1審原告代表者が三晃のJに依頼して作製されたものと認\nめられる。 しかるところ,1審原告代表者が,1審原告を設立し,1審原告が\n1審被告が製造するタング付き螺旋状コイルインサート(商品名「ス プリュー」)を販売するに至った経緯(前記2(1)),1審原告代表者\nが,1審被告の監査役に在任中に,福島工場をしばしば訪問しており (前記2(6)イ),その際に,同工場の製造ラインを視察する機会があ ったものと認められること,1審原告代表者は,本件出願をK弁理士\nに依頼する際に,本件発明の内容を口頭で説明していること(前記2 (5)イ)を総合すると,1審原告代表者は,螺旋状コイルインサートの\n形状,タング付きとタングレスの違い,螺旋状コイルインサートの材 料として用いる線材の形状,螺旋状コイルインサートの一般的な製造 方法等について知識を有していたものと認められる。 そして,1審原告代表者が,福島工場を訪問した際に1審被告の従\n業員から福島工場におけるタングレス螺旋状コイルインサートの製造 状況等について話を聞いたり,取引関係者と話をする中で,福島工場 では,凹部及びテーパ部が加工済みのタングレスの線材を使用してタ ングレス螺旋状コイルインサートを製造していることを認識するに至 ったものと推認することができる。 そうすると,1審原告代表者が,自ら本件発明をしたものでないと\nしても,三晃のJに対し,凹部及びテーパ部が加工済みのタングレス の線材のサンプルの作製を依頼することは可能であったものと認めら\nれる。また,三晃は,1審被告に対し,螺旋状コイルインサート用の 線材を供給していたから(前記2(1)イ),タングレス螺旋状コイルイ ンサート及びその材料の線材の形状,螺旋状コイルインサートの一般 的な製造方法等について知識を有していたものと認められ,1審原告 代表者から詳細な説明を受けたり,具体的な線材のサンプルを示され\nなくても,自社の螺旋状コイルインサート用の線材を加工して1審原 告代表者から依頼のあった上記加工済みサンプルを作製することが可\n能であったものと認められる。\nしたがって,1審原告代表者が上記加工済みのタングレスの線材を\n三晃のJに依頼して作製させたことは,1審原告代表者が本件発明を\nしたことの裏付けとなるものではないというべきである。
・・・
ウ 前記ア及びイの認定事実に照らすと,1審原告代表者の供述及び前記陳\n述書(甲11)中の1審原告代表者が本件発明をした旨の部分は措信する\nことができない。他に1審原告代表者が本件発明の技術的思想(前記1(2)) を着想し,又は,その着想を具体化することに創作的に関与したことを認 めるに足りる証拠はない。
・・・
4 反訴請求−争点(2)ア(本訴の提起及び追行の違法性)及びイ(1審被告の損
・・・
これを本件についてみると,前記2(8)のとおり,1審原告は,本訴提起前 の平成27年3月23日付け回答書をもって,1審被告から,1審原告代表\n者は本件発明者の真の発明者ではなく,1審原告代表者を発明者とする本件\n出願は冒認出願であり,本件特許には冒認出願の無効理由があるから,特許 法104条の3第1項により,本件特許権を行使することができない旨の指 摘を受けていたにもかかわらず,同年11月10日に本訴を提起したもので あること,前記3(2)で説示したとおり,1審原告代表者が本件発明の発明\n者であることを裏付ける客観的な証拠がないのみならず,1審原告代表者が\n本件発明を着想するに至った時期及び着想の経緯,1審原告代表者のK弁理\n士に対する本件出願の依頼の経緯などの1審原告代表者が本件発明をした\nことに関する重要な部分の主張を大きく変遷させ,変遷後の当審における1 審原告の主張に沿う証拠はほとんど提出されていないものと認められるこ とに照らすと,1審原告においては,本訴で主張する権利又は法律関係が事 実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常人であれば 容易にそのことを知り得たのにあえて本訴を提起し,これを追行したものと 認められる。 そうすると,1審原告による本訴の提起及び追行は,裁判制度の趣旨目的 に照らして著しく相当性を欠くものといえるから,1審被告に対する違法な 行為に当たるものと認められる。 705/088705

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平成29(ワ)9201  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年6月20日  大阪地方裁判所

 特許権侵害が認定され、102条3項の実施料率として7%が認定されました。大阪地裁はその理由を詳細に認定しています。H31.3の特許法改正規定の施行を先取りする形で、「通常の実施料率に比べておのずと高額になるであろうことを考慮すべき」と一般論を述べています。

 特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許権 …を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する 額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨 規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準と し,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 ここで,特許法102条3項については,「その特許発明の実施に対し通常受け るべき金銭の額に相当する額」では侵害のし得になってしまうとして,平成10年 法律第51号による改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。また,特 許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許の効力が明らか ではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合で あっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなど,様々な契約上の制 約を受けるのが通常である状況の下で,事前に実施料率が決定される。これに対し, 特許権侵害訴訟で特許権侵害に当たるとされた場合,侵害者は,上記のような契約 上の制約を負わない。これらの事情に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たっ て用いる実施に対し受けるべき料率は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契 約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,むしろ,通常の実施 料率に比べておのずと高額になるであろうことを考慮すべきである。 したがって,特許法102条3項による損害を算定する基礎となる実施に対し受 けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それ が明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特 許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能\n性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態 様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情 を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) 実施料の相場(1))
「実施料率〔第5版〕」(社団法人発明協会研究センター編,平成15年発行。 甲38)によれば,「医薬品・その他の化学製品」(イニシャル無)の技術分野に おける平成4年度〜平成10年度の実施料率の平均値は7.1%であり,昭和63 年度〜平成3年度に比較して上昇しているところ,その要因として,「実施料率全 体の契約件数は減少しているものの,8%以上の契約に限れば件数が増加しており, この結果,…実施料率の平均値が高率にシフトしている。」,「この技術分野が他 の技術分野と比較して実施料率が高率であることと,実施料率の高率へのシフト傾 向は,医薬品が支 れている。また,「バイオ・製薬」の技術分野においては,平均6.0%,最大値 32.5%,最小値0.5%とされている。
(ウ) 本件における実施料率を考えるにあたり考慮すべき事情(2)〜3))
a 原告は,本件各発明の技術的価値は極めて優れたものであり,また,速乾性 手指消毒剤の市場における泡状の製品の占めるシェアの動向から,経済的にもその 価値は高いなどと主張する。 泡状の速乾性手指消毒剤である被告各製品に係る宣伝広告(甲5,7,8),製 品情報(甲6,9)及び医薬品インタビューフォーム(甲10)では,液状の速乾 性手指消毒剤では手に取ったときにこぼれやすく,ジェル状の速乾性手指消毒剤で は増粘剤が配合されているためにポンプのノズルの詰まりや繰り返し塗布したとき の使用感が問題になることがあったところ,被告各製品は,これらの問題点を解決 する製品である旨がうたわれていることが認められる。 また,本件各発明の実施品である泡状の速乾性手指消毒剤(平成23年6月発売。 甲39,41の1〜41の5,弁論の全趣旨)の販売業者が医療関係者向けに開設 したウェブサイト(甲40)には,泡が目に見えるので消毒範囲が確認できるとと もに,泡が消えるまで塗り広げることが消毒時間の目安にもなる点や,増粘剤が入 っていないので,ポンプが詰まらず,手に擦り込んでもヨレ(増粘剤入りの消毒剤 や化粧品を手に擦り込んだ際に出る糊状の剥離物)が出ないことがうたわれている。 さらに,平成30年9月26日付け薬事日報ウェブサイトの新薬・新製品情報に関 する記事(甲44)においては,第三者の販売に係る「医薬品として日本で初めて 承認された低アルコール濃度72vol%の手指殺菌・消毒剤」の出荷開始予定について\n報じる中で,「同品の登場によって,手指消毒剤の課題であったアルコールによる 手肌への刺激が低減され,…このほか,▽きめ細かく弾力のある泡で,手からこぼ れるリスクを軽減する▽泡が目でしっかり見えるため,手指消毒の状態を確認でき る−といった使用感も特徴。」,「現在,医療分野における手指消毒剤市場は約1 60億円とされ,構成比は液状が6割,ジェル状が3割,泡状が1割という状況。\nただ,液状の構成比は年々減少しており,今後はジェル状と共に泡状も伸びていく\nことが見込まれている。」とされている。 加えて,被告サラヤが実施したアンケートによれば,アンケート対象者である医 療従事者の施設で使用されている速乾性手指消毒剤の種類は,平成25年にはジェ ルタイプ67%,液タイプ27%,泡タイプ6%であったものが,平成27年には それぞれ66%,24%,10%となっている(甲42,43)。 以上の事情を総合的に見ると,被告各製品と本件各発明の実施品に加え,第三者 の製品も,本件各発明の奏する作用効果(前記3(2)ア)と同趣旨と見られる効果を 利点としてうたっていることなどに鑑みれば,泡状の手指消毒剤において本件各発 明が持つ技術的価値は高いものと見られる。また,手指消毒剤の市場において,泡 状の製品のシェアが徐々に高まっていることがうかがわれることに鑑みると,本件 各発明の経済的価値も積極的に評価されるべきものといえる。もっとも,後者に関 しては,ジェル状の製品のシェアはなお維持されているといってよいことに鑑みる と,その評価は必ずしも高いものとまではいえない。実施料率の決定要因としては, 当該特許発明の技術的価値よりも経済的価値の方がより影響力が強いと推察される ことに鑑みると,このことは軽視し得ない。 これに対し,被告らは,本件各発明は平均的な発明に比して技術的に優れた発明 ではなく,また,泡状の手指消毒剤のシェアの拡大は直接的には当該製品の販売事 業者の営業努力によるものであり,シェア拡大をもって特許の経済的価値が高いと はいえないなどと主張する。 しかし,進歩性が認められる本件各発明の奏する作用効果と同趣旨と見られる効 果が実際の製品の利点としてうたわれていることなどに鑑みれば,上記のとおり本 件各発明の技術的価値は高いものと評価するのが相当である。また,販売事業者が 営業活動に当たって相応の営業努力を行うことは当然である上,泡状の手指消毒剤 に係る営業方法等が,ジェル状ないし液状のものに係る営業方法等と比較して,格 別のものであると見るべき事情もない。 これらのことから,この点に関する被告らの主張は採用できない。
b 被告各製品は,被告製品1(500mLの泡ポンプ付が定価1760円,3 00mLの泡ポンプ付が1200円,80mLの泡ポンプ付が670円,600m Lのディスペンサー用が2000円。甲5,28,乙13),被告製品2(500 mLの泡ポンプ付が1760円,300mLの泡ポンプ付が1200円,200m Lの泡ポンプ付が930円,80mLのものが670円,600mLのディスペン サー用が2000円。甲8,29,乙14)いずれも比較的低価格である。反面, これを踏まえて被告各製品の売上高を見ると,その販売数量は多いといえるから, 被告各製品はいわゆる量産品であり,利益率は必ずしも高くないと合理的に推認さ れる。この点は,本件各発明を被告各製品に用いた場合の利益への貢献という観点 から見ると,実施料率を低下させる要因といえる。
(エ) 小括
上記(イ)及び(ウ)の各事情を斟酌すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定め られるべき,本件での実施に対し受けるべき料率については,7%とするのが相当 である。これに反する原告及び被告らの各主張は,いずれも採用できない。 ウ 「特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」 以上によれば,原告が被告らによる本件各発明の実施に対し受けるべき金銭の額 に相当する額は,売上高に7%を乗じて算定すべきこととなる。

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平成30(ネ)10017  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年4月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許権侵害事件が控訴されましたが、1審と同様に、差止・損害賠償が認められました。損害賠償額は増えています。102条3項の実施料率について判断されています。具体的数値は伏せ字となっているため不明です。控訴審でも平均値である5.9%平均よりも、低く認定されたようですが、1審よりも高くなったと思われます。

  (1) 実施料率
ア 1)平成19年に日本で特許出願を行った国内企業・団体のうち,合計出 願件数の上位となっている企業・団体(対象2031件)に加えて,株式会社帝国 データバンク保有データ信用調査報告書ファイルの中からライセンス契約を実施し ていると判断された企業(対象975件)に対するアンケート調査(有効回答56 3件)において,化学分野(IPC分類のC01〜C14;103件)に係る特許 権のロイヤルティ料率の平均値は4.3%であるとされていること(甲67,乙5 8),2)財団法人経済産業調査会発行の「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特 許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(甲68)において,上記アン ケート結果をその技術分類と異なる技術分類で新たに分析した結果として,「有機化 学,農薬」分野(IPC分類のA61,C07,C40;54件)のロイヤルティ 率の平均値は5.9%とされていることが認められる。 本件各発明のIPC分類は,C07D,A01N,A01Pである(甲2の2) から,上記1)よりは2)の方が本件各発明からより遠い技術分野のサンプルが除外さ れており,2)の54件というサンプル数も少なくないということができるから,本 件各発明の相当実施料率の検討に当たっては,1)よりは2)を念頭に検討することが 相当である。
イ 証拠(甲2の2,乙1〜4)及び弁論の全趣旨によると,本件各発明は, 除草剤の有効成分又はその候補となる新規化合物を提供することを課題として,化 合物の一般式及び置換基の組合せを示したものであるが,発明の詳細な説明におい て,上記化合物の除草特性に関する個別の実験結果は示されておらず,本件出願日 当時の技術常識に照らして上記化合物が除草作用を有しており,除草剤の有効成分 の候補となり得るものであることが認識できるにとどまるものである。そうすると, 本件各発明の化合物を水稲など特定の作物に用いる農薬として利用するためには, 本件各発明の多数の化合物の中からテフリルトリオンのような特定の化合物を選び 出した上,その化合物が上記作物の栽培に当たり想定される具体的な雑草に対する 除草効果を発揮する一方,上記作物に対する有害性がないことを確認する必要があ り,相応の試行錯誤を要することは明らかである。 したがって,本件各発明の実施料率は,類似する技術分野の実施料率の分布にお いて,平均よりも一定程度低く位置付けることが相当である。
ウ 証拠(甲4,5,甲6の1〜4,甲7の1〜3,甲55〜61,72) 及び弁論の全趣旨によると,1)被告製品2は,いずれもテフリルトリオンに加えて もう1種類の有効成分(被告製品2(1)〜(3)のフェントラザミド,同(4)〜(6)のメフェ ナセット,同(7)〜(12)のトリアファモン。以下,「フェントラザミド等」という。)を 含有する農薬混合物であること,2)テフリルトリオンは,ノビエを除く幅広い雑草 に対する除草効果に優れ,スルホニルウレア抵抗性雑草(ホタルイ類,アゼナ類, コナギ等)に高い除草作用を有しているのに対し,フェントラザミド等は,いずれ もテフリルトリオンの除草効果が十分でないノビエに対して優れた除草効果を有し\nており,テフリルトリオンと相互に除草効果を補完する関係にあること,3)一審被 告が作成した被告製品2の技術資料やパンフレット等の広告宣伝でも,2種類の有 効成分が含まれた農薬混合物であることによってスルホニルウレア抵抗性雑草及び ノビエに対して優れた除草効果を発揮することが一貫して記載されていること(例 えば,被告製品(4)〜(6)の技術資料〔甲5〕においては,表紙である1頁に「2成分\nで白く枯らす。効きめが見える。」と記載され,4頁の「ポッシブルの特長」におい ても6項目中の1番目に「2成分で高い除草効果 ノビエをはじめとした一年生雑 草から,ホタルイ,ウリカワ,ミズガヤツリ,ヘラオモダカ,ヒルムシロ,セリ, オモダカ,クログワイなと〔判決注・「など」の誤記と認める。〕の多年生雑草に対 し高い効果を示します。また,新規成分テフリルトリオンとメフェナセットの2種 混合なので,減農薬栽培にも適しています。」などと記載されている。)が認められ る。
上記認定の事実によると,被告製品2においては,テフリルトリオンが,ノビエ を除く幅広い雑草に対する除草効果に優れ,スルホニルウレア抵抗性雑草にも高い 除草作用を有していることから,有効成分として主たる役割を果たすものと認めら れるが,フェントラザミド等は,テフリルトリオンの除草効果が十分でないノビエ\nに対して優れた除草効果を有しているところ,ノビエに対する除草効果も重要であ るものと認められる。 そうすると,被告製品2の顧客吸引力は,その過半がテフリルトリオンによるも のではあるが,その一部はフェントラザミド等によるものであると認められる。
エ 前記ア〜ウに併せて,一審被告が一審原告から本件特許の実施許諾を得 ずに被告製品2の製造販売等を継続していた一方,結果的に本件訂正により解消し たとはいえ,本件特許は無効理由を有していたことなど,本件に顕れた全ての事情 を総合すると,被告製品2に係る本件特許権侵害の不法行為の損害の額を特許法1 02条3項により算定する際に適用すべき実施料率は●●●●が相当である。 なお,証拠(乙65〜67)によると,OATアグリオ株式会社は,平成28年 8月頃,「サスケ−ラジカルジャンボ」,「半蔵1キロ粒剤」という水稲用一発処理除 草剤を販売していたこと,いずれも,ホタルイ,コナギ,アゼナ類などSU抵抗性 雑草に強いことを宣伝文句としており,有効成分にシクロスルファムロン及びベン ゾビシクロンを含む(その余の有効成分として,前者はカフェンストロール及びダ イムロンを,後者はペントキサゾンを含む。)こと,「サスケ」及び「半蔵」はBA SF社(一審原告又はその関連会社と推認される。)の登録商標であったことが認め られる。しかし,上記登録商標の使用許諾以外には,これらの除草剤の販売に一審 原告がどのように関わっているかや,これらの除草剤が被告製品2とどの程度競合 関係にあるかは,本件全証拠によっても明らかではないから,これらの事実につい ては,考慮しないこととする。また,前記認定のとおり,バイエル特許が存することが認められるが,被告製品2は,本件各発明の技術的範囲に属するから,本件特許を実施してはじめてバイエル特許を実施することができるものであり,前記のとおり,本件各発明の化合物を除草剤とするには相応の試行錯誤が必要であることは既に考慮しているから,バイエル特許が存することを,既に判示したところを超えて考慮する必要はない。

◆判決本文

原審では、実施料率について、以下のように認定されています。

◆平成27(ワ)2862

上記のアンケート結果をその技術分類と異なる技術分類で新たに分析した結果 として,「有機化学,農薬」分野のロイヤルティ率の平均値は5.9%とされてい ることが認められる。 上記事実関係に照らすと,被告製品2は,本件各発明の技術的範囲に含まれるテ フリルトリオンを有効成分の一つとする農薬混合物ではあるものの,本件各発明の 効果が特に顕著であるとみることはできない。また,被告製品2においては,テフ リルトリオン以外の有効成分もテフリルトリオンの除草効果を補完する重要な効果 を有しており,技術資料等においても二種類の有効成分が含まれた農薬混合物であ ることが一貫して記載されていることも実施料率を算定するに当たって十分に考慮\nされる必要がある。 加えて,本件各発明についての特許に上記3(1)及び(2)のとおりの無効理由がある ことからすると,被告が原告との間でライセンス契約を締結することなく被告製品 2を製造販売等して本件特許権を侵害してきたことをもって,実施料率をそれ程高 額なものと認定するのは相当とはいえない。 以上を総合すると,本件における特許法102条3項所定の損害の額は,被告製 品2の売上高に●(省略)●を乗じて算定するのが相当である。

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平成30(ネ)10063  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年6月7日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 知財高裁特別部、いわゆる大合議判決です。争点は充足論、無効論など、多々ありますが、102条2項の推定覆滅事由、同3項の損害額の判断基準について一般論を述べています。

(3) 推定覆滅事由について
ア 推定覆滅の事情
特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情 と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者 が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば, 1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),2)市 場における競合品の存在,3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),4)侵害 品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について,特許法1 02条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅 の事情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部 分のみに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することがで きるが,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の 覆滅が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における 位置付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するの が相当である。
イ 控訴人らは,炭酸ガスを利用したパック化粧料全てが競合品であることを 前提に,他の炭酸パック化粧料の存在が推定覆滅事由となると主張する。 しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競合関係 に立つ製品であることを要するものと解される。 被告各製品は,炭酸パックの2剤型のキットの1剤を含水粘性組成物とし,炭 酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生させ,得られた二酸化 炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させる炭酸ガスを利用したパック 化粧料である。そして,化粧料における剤型は,簡便さ,扱いやすさのみならず, 手間をかけることにより得られる満足感等にも影響するものであり,各消費者の必 要や好みに応じて選択されるものであるから,剤型を捨象して広く炭酸ガスを利用 したパック化粧料全てをもって競合品であると解するのは相当ではない。控訴人ら が競合品であると主張する製品は,その販売時期や市場占有率等が不明であり,市 場において被告各製品と競合関係に立つものと認めるには足りない。
ウ 控訴人らは,被告各製品が利便性に優れているとか,被告各製品の販売は 控訴人らの企画力・営業努力によって成し遂げられたものであると主張する。 しかし,事業者は,製品の製造,販売に当たり,製品の利便性について工夫し, 営業努力を行うのが通常であるから,通常の範囲の工夫や営業努力をしたとしても, 推定覆滅事由に当たるとはいえないところ,本件において,控訴人らが通常の範囲 を超える格別の工夫や営業努力をしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
エ 控訴人らは,被告各製品は原告製品に比べて顕著に優れた効能を有すると\n主張する。 侵害品が特許権者の製品に比べて優れた効能を有するとしても,そのことから\n直ちに推定の覆滅が認められるのではなく,当該優れた効能が侵害者の売上げに貢\n献しているといった事情がなければならないというべきである。
・・・
(ウ) 被告各製品及び原告製品は,いずれも本件発明1−1及び本件発明2−1 の実施品であり,炭酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生さ せ,得られた二酸化炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚に 適用して二酸化炭素を皮下組織等に供給することにより,美肌,部分肥満改善等に 効果を有するものであると認められるのであり,上記(ア)及び(イ)に認定した事実に よっても,被告各製品が原告製品に比して顕著に優れた効能を有し,これが控訴人\nらの売上げに貢献しているといった事情を認めるには足りず,ほかにこれを認める に足りる的確な証拠はない。
オ 控訴人らは,被告各製品が控訴人ネオケミアの有する特許発明の実施品で あるなどとして,これらの特許発明の寄与を考慮して損害賠償額が減額されるべき であると主張する。 侵害品が他の特許発明の実施品であるとしても,そのことから直ちに推定の覆 滅が認められるのではなく,他の特許発明を実施したことが侵害品の売上げに貢献 しているといった事情がなければならないというべきである。控訴人ネオケミアが, 二酸化炭素外用剤に関連する特許である,1)特許第4130181号(乙A18), 2)特許第4248878号(乙A19),3)特許第4589432号(乙A20), 4)特許第4756265号(乙B全7)を保有していることは認められるが,被告 各製品が上記各特許に係る発明の技術的範囲に属することを裏付ける的確な証拠は ないから,そもそも,被告各製品が他の特許発明の実施品であるということができ ない。よって,これらの特許発明の寄与による推定の覆滅を認めることはできない。 なお,被告各製品の中には,上記特許権の存在や,特許取得済みであることを 外装箱に表示したり,宣伝広告に表\示したりしているものがあったことが認められ る(甲7,8,17,20)が,特許発明の実施の事実が認められない場合に,そ の特許に関する表示のみをもって推定覆滅事由として考慮することは相当でないか\nら,この点による推定の覆滅を認めることもできない。
カ 控訴人らは,従来技術との比較の観点から,本件発明1−1及び本件発明 2−1の技術的価値が低いことを主張するが,控訴人らが指摘するジェルと粉末を 組み合わせる化粧料の技術(資生堂614及び日清324)は,炭酸ガスを利用し た化粧料に係るものではないし(乙A103,乙E全9,35,36),2剤混合 型の気泡状の二酸化炭素を発生する化粧料(石垣発明1及び2)は,炭酸ガスの気 泡の破裂により皮膚等をマッサージするための発泡性化粧料の技術であって,二酸 化炭素を気泡状で保持する二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのものではない (乙E全4,5,37,38)から,いずれも本件発明1−1及び本件発明2−1 を代替するものではない。そうすると,これらの従来技術の存在は,被控訴人の受 ける損害とは無関係であるから,推定覆滅事由に当たるということはできない。 キ 控訴人らは,乙A3の実験結果によれば,ブチレングリコールが配合され た被告各製品においては,本件発明1−1及び本件発明2−1の寄与は限定的であ ると主張する。しかし,本件発明1−1及び本件発明2−1は二酸化炭素含有粘性 組成物を得るための2剤型の化粧料のキットの発明であるところ,被告各製品は, 炭酸塩を含むジェル剤と酸を含む顆粒剤を混合して使用するパック化粧料のキット であるから,本件発明1−1及び本件発明2−1は被告各製品の全体について実施 されているというべきである。また,被告各製品にブチレングリコールが配合され たことによる効果が控訴人らの売上げに貢献しているといった事情も認められない 本件において,ブチレングリコールが配合されていることは,被控訴人の受ける損 害とは無関係であるから,控訴人らが指摘する乙A3の実験の結果は,控訴人らの 上記主張を基礎付けるものではない。
・・・
6 損害(特許法102条3項)(争点6−2)
(1) 特許法102条3項について
ア 被控訴人は,選択的に,別紙「損害額一覧表」の「被控訴人主張額」「3\n項による損害額」欄記載のとおり,特許法102条3項により算定される損害額も 主張している。特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最 低限度の損害額を法定した規定である。
イ 特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許 権…を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当す る額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」 旨規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準 とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
(2) その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
ア 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の 額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「その特許 発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ, 「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして,同改正により 「通常」の部分が削除された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無効に されるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い, 当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることがで きないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施 料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものと はいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契 約上の制約を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項 に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約に おける実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対 して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施 料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許諾 契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場 等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重 要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上 げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の 営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
・・・・
ウ 実施に対し受けるべき金銭の額
上記のとおり,1)本件訴訟において本件各特許の実際の実施許諾契約の実施料 率は現れていないところ,本件各特許の技術分野が属する分野の近年の統計上の平 均的な実施料率が,国内企業のアンケート結果では5.3%で,司法決定では6. 1%であること及び被控訴人の保有する同じ分野の特許の特許権侵害に関する解決 金を売上高の10%とした事例があること,2)本件発明1−1及び本件発明2−1 は相応の重要性を有し,代替技術があるものではないこと,3)本件発明1−1及び 本件発明2−1の実施は被告各製品の売上げ及び利益に貢献するものといえること, 4)被控訴人と控訴人らは競業関係にあることなど,本件訴訟に現れた事情を考慮す ると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し 受けるべき料率は10%を下らないものと認めるのが相当である。なお,本件特許 権1及び本件特許権2の内容に照らし,一方のみの場合と双方を合わせた場合でそ の料率は異ならないものと解すべきである。 したがって,本件各特許権侵害について,特許法102条3項により算定され る損害額は,別紙「損害額一覧表」の「裁判所認定額」「3項による損害額」欄記\n載のとおりとなる。
(3) 控訴人らの主張について
控訴人らは,被告各製品における本件各特許の寄与が限定されることを根拠に 実施に対し受けるべき料率を低くすべきであると主張するが,前記5(3)に説示し たところに照らし,本件発明1−1及び本件発明2−1を被告各製品に用いたこと による売上げ及び利益への貢献が限定されるとは認められないから,控訴人らの主 張は前提を欠く。 また,控訴人らは,被控訴人のビジネスモデルが不当に競争を制限するもので あると主張するが,前記5(1)イにおいて認定したとおり,被控訴人は本件各特許 の実施品を製造販売しているのであるから,被控訴人のビジネスモデルが不当に競 争を制限するものであると解する根拠がない。控訴人らの,MLMによる販売手法 に関する主張は具体的な主張を欠き,失当である。 控訴人らの主張するその余の点も,上記判断を左右するものではない。
7 総括
(1) 被控訴人キアラマキアート(被告製品5)については,上記6で認定した 特許法102条3項に係る損害額が,前記5で認定した同条2項に係る損害額より も高いから,同条3項に係る損害額をもって被控訴人の損害額と認めるべきことに なる。 他方,その余の控訴人らについては,いずれも前記5で認定した同条2項に係 る損害額の方が高いから,この金額をもって被控訴人の損害額と認めるべきことに なる。
なお,控訴人コスメプロらは,被告各製品を製造,販売するに至った経緯等に 照らし控訴人コスメプロらには故意又は重大な過失はなかったとして,同条4項に 基づき,このことを控訴人コスメプロらの損害賠償額を定めるについて参酌すべき であると主張する。しかし,控訴人コスメプロ,控訴人アイリカ,控訴人ウインセ ンス,控訴人コスメボーゼ及び控訴人クリアノワールは,化粧品の製造会社であり, 仮に同控訴人らの主張する諸事情があったとしても,同控訴人らにつき,特許権侵 害についての故意又は重大な過失がなかったということはできないから,控訴人ら の上記主張は採用できない。

◆判決本文

◆要旨

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◆平成27(ワ)4292

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平成30(ネ)10082  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年4月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審でも、訂正後の発明について進歩性ナシとして、差止請求などが棄却されました。控訴審で代理人が変更されています。一審後の訂正の再抗弁が時機に後れているかについて、該当するかはともかくとして,訴訟の完結を遅延させることとなるとまでは認められないと判断されています。

 (3) 相違点1−2’に係る容易想到性の判断について
 ア 公然実施品1のサッシュは,断面形状が複雑であるため,製造コストが 掛かること,サッシュ自体の体積に比べて余分なスペースを大きく取るた めに保管や輸送の際に保管コストや輸送コストも掛かることは,当業者に とって自明なことであり,これらのコスト(製造コスト等)を削減するた めに,公然実施品1のサッシュを複数の部品で構成し,公然実施品1の製\n造時に,当該複数の部品を接合してサッシュとすることは,当業者の通常 の創作能力の発揮にすぎない。\nそして,乙13公報に開示されている「誘導加熱調理器において,サッ シュ(枠体2)とは別部材により構成され,かつサッシュ(枠体2)に当\n接させてねじで接合した,金属板からなる補強板(L字金具9)」(以下 「乙13技術事項」という。)は,公然実施品1のサッシュに相当する部 材を複数の部材で構成する技術であり,乙13技術事項の補強板(L字金\n具9)とサッシュ(枠体2)とを接合したものの方が公然実施品1のサッ シュよりも製造コスト等がかからないのは,当業者にとって自明の事項で あるから,誘導加熱調理器という同一の技術分野に属する公然実施品1と 乙13技術事項に接した当業者であれば,製造コスト等を削減する目的で 公然実施品1に乙13技術事項を適用することに格別の困難性があるとは 認められない。 したがって,公然実施品1に乙13技術事項を適用して,相違点1−2’ に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことで\nあるといえる。
イ 控訴人の主張について
控訴人は,1)乙13公報における「断面凸形状9a」の実質は,調理器 本体ケース5内への浸水を防止するためだけの役割を担った「浸水防止部 材」であるから,かかる「断面凸形状9a」は本件発明(構成要件D)の\n「補強板」には当たらないし,乙13公報に記載の構成によれば,「断面\n凸形状9a」は調理プレート1から離れる方向に相当強い力で引っ張られ るのであり,実質的に見ても「断面凸形状9a」が調理プレート1を補強 しておらず「補強板」とはいえないから,公然実施品1及び乙13公報に, 本件発明の構成要件Dに係る構\成は開示されていない,2)公然実施品1と 乙13公報に記載の技術とは,主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆, 技術分野の関連性及び課題や作用・機能の共通性が認められないから,公\n然実施品1に乙13公報に記載の技術を適用する動機付けもない,などと 主張する。
しかしながら,乙13公報において,本件発明の「補強板」に相当する ものは「断面凸形状9a」ではなく「L字金具9」全体であって,あたか もそれが「断面凸形状9a」に限定されるかのような控訴人の主張は,そ もそもその前提において誤解がある。また,たとえ乙13公報における課 題そのものは調理器本体内部の浸水防止を図る点にあったとしても,「L 字金具9」全体の形状を見れば,それが本件発明の「補強板」に相当する 機能を果たし得ることは,当業者であれば容易に想起できるものと認めら\nれる(この点は,「断面凸形状9a」が調理プレート1から離れる方向に 相当強い力で引っ張られるとしても変わりがない。「断面凸形状9a」に どのような方向の力が掛かっているかと,それが補強材としての機能を有\nしているかどうかとは関わりのない事柄だからである。)から,前記1)の 指摘は当を得ているとはいえない。 また,前記アのとおり,公然実施品1のサッシュは,製造コスト等が掛 かるものであるということは,当業者にとって自明のことといえるから, 公然実施品1には,かかる製造コスト等を削減するという自明の課題があ る。そして,誘導加熱調理器という同一の技術分野に属する公然実施品1 と乙13技術事項に接した当業者であれば,公然実施品1に乙13技術事 項を適用すると製造コスト等を削減できるのは明らかであるから,公然実 施品1に乙13技術事項を適用する動機付けはあるといえる。したがって, 前記2)の指摘も当を得ているとはいえない。
(4) 以上によれば,原判決がした,本件発明と公然実施品1との対比(一致点 及び相違点の認定)と認定した相違点(相違点1−2’)に係る容易想到性 の判断はいずれも正当であり,これによれば,本件特許について無効の抗弁 が成立する。 したがって,無効の抗弁の成立を争う控訴人の主張は採用できない。 被控訴人は,本件訂正の再抗弁につき,時機に後れた攻撃防御方法に当たる として,民事訴訟法157条1項に基づく却下を求めている。 しかしながら,本件訴訟の経過に鑑みると,控訴人による本件訂正の再抗弁 の提出が,時機に後れているか否かはともかくとして,訴訟の完結を遅延させ ることとなるとまでは認められないから,同条項に基づきこれを却下するのは 相当でない。 そこで,以下,本件訂正の再抗弁の成否について判断する。
(1) 控訴人は,平成30年12月14日,本件特許の明細書及び特許請求の範 囲を訂正することについて訂正審判を請求した(本件訂正,甲40)。
(2) 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(構成\n要件の分説は控訴人に従う。下線部は訂正箇所を示す。)。
A 誘導加熱をする第1及び第2の加熱器を左右に内設した本体ケースと,
この本体ケースの上面に設けられたトッププレートと,
前記トッププレートの周囲に設けられたサッシュとを具備し,
被組込家具に組み込まれる加熱調理器において,
B’ 前記トッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくし(ただし,トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じものを除く),
C 前記第1及び第2の加熱器の各中心部を,前記本体ケースの左右に等分した両側部の各中心部より外側であって,前記トッププレートの左右に等分した両側部の各中心部より中央側に配置すると共に,
D 前記トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方であって直下に前記被組込家具が位置する箇所に,前記サッシュとは別部材に構成され,かつ前記サッシュに当接させた,金属板から成る補強板を設け,
E この補強板と前記トッププレートとの間,又は補強板の下方に断熱層を形成したこと
F を特徴とする加熱調理器。
(3) 進歩性の判断
事案に鑑み,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1に係る発明(本件訂正 発明)の進歩性から検討する。
ア 本件訂正発明と公然実施品1との対比
(ア) 「トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義 本件訂正事項は,構成要件Bの「前記トッププレートの幅を前記本体\nケースの幅より大きくし,」との構成から「トッププレートの幅と本体\nケースの幅がほぼ同じもの」を除外する,というものである。 控訴人は,本件明細書等の記載や出願時の技術常識等(キッチン設備 のJIS規格等)を踏まえると,本件訂正事項により除外される「トッ ププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義は,本件特許 の出願当時における従来製品の加熱調理器のことと理解すべきであって, 具体的には,トッププレートの幅が約600mm,本体ケースの幅が5 50mm前後の加熱調理器を指していることは,本件明細書等の記載に 接した当業者にとって明らかである,と主張する。 しかしながら,控訴人が主張するトッププレートの幅が約600mm, 本体ケースの幅が550mm前後の加熱調理器やJIS規格(甲25) について,本件明細書等には何ら記載されておらず,示唆もない(本件 明細書等には,例えば,【背景技術】や【発明を実施するための最良の 形態】の欄においても,加熱調理器の寸法について具体的な数値は一切 記載されておらず,JIS規格等の引用もない。)。また,控訴人が主 張するJIS規格(甲25)も,機器を落とし込んで組み込む場合の「ワ ークトップの開口の呼び寸法」と「ワークトップの開口部の開口寸法」 について一定の数式を示しているだけで,「トッププレートの幅と本体 ケースの幅がほぼ同じもの」といえば,当然にトッププレートの幅が約 600mm,本体ケースの幅が550mm前後の加熱調理器を指すとい うことを認めるに足る具体的な記載はない。控訴人は,主要各社の製品 カタログや刊行物等を示して,従来製品の加熱調理器はトッププレート の幅が約600mm,本体ケースの幅が550mm前後のものであった とも主張するが,たとえ本件特許の出願時においてかかる寸法のものが 主流であったとしても,加熱器の配置との関係でトッププレートの幅と 本体ケースの幅の大小の関係を規定する本件訂正発明において,その技 術的範囲から除外される「トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ 同じもの」が当然にトッププレートの幅が約600mm,本体ケースの 幅が550mm前後の加熱調理器に限定されると解すべき理由はないと いうべきであるから,控訴人の主張は失当である。
そこで,本件明細書等の【0002】を見ると,「…図7は,そのも のを平面図で具体的に示しており,第1及び第2の加熱器1,2を左右 に内設した本体ケース3と,これの上面に設けたトッププレート4とは, その各幅W3,W4がほゞ同じで,第1及び第2の加熱器1,2の各中 心部O1,O2は,本体ケース3の左右に等分(W3/2)した両側部 の各中心部RO3,LO3(W3/4)とほゞ合致し,且つ,トッププ レート4の左右に等分(W4/2)した両側部の各中心部RO4,LO 4(W4/4)とも合致している。」と記載されている。この記載は, 前段の「…本体ケース3と,…トッププレート4とは,その各幅W3, W4がほゞ同じで,」に続く後段の部分で,「トッププレートの幅と本 体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義を規定しており,同部分(後段の 部分)は,第1及び第2の加熱器1,2の各中心部が,それぞれ,「ト ッププレート4の両側部の中心部に合致する」状態で,なおかつ,「本 体ケース3の両側部の中心部とほぼ合致する」状態であることを表すも\nのと認められる。ここで,本体ケース3の両側部の中心部と第1及び第 2の加熱器1,2の中心部との距離をDとすると,D=W4/4−W3 /4となり,トッププレート4の幅W4と本体ケース3の幅W3との差 は,W4−W3=4Dとなる。 このDがどの程度の距離であるかについて,本件明細書等には明示的 な記載がないが,1)第1及び第2の加熱器1,2の中心部は,それぞれ, 本体ケース3の両側部の中心部とほぼ合致するものとする【0002】 の記載や図7の記載からは,O1とRO3やO2とLO3が隣接してい ると理解し得ること,2)従来技術の課題を解決する手段の一部として, トッププレートの幅と本体ケースの幅については,単に,(トッププレ ートの幅)>(本体ケースの幅)としていること等の事情を勘案すると, D≒0であり,Dは,製造上や計測上の誤差程度と解するのが相当であ る。そして,加熱調理器に関するJIS規格(甲25)には,公差とし て,2〜5mmとする例が記載されていることを勘案すれば,Dについ ては,0<D≦5(mm),すなわち,大きく見積もっても5mmを超 えない程度のものと解することができる。 そうすると,トッププレートの幅と本体ケースの幅との差4Dは,0 <4D≦20(mm)となり,構成要件B’の「トッププレートの幅と\n本体ケースの幅がほぼ同じもの」は,トッププレートの幅と本体ケース の幅との差が,大きく見積もっても20mmを超えないものとなる。
(イ) 本件訂正発明と公然実施品1との対比
以上のとおり,本件訂正発明における構成要件B’の「トッププレー\nトの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」は,トッププレートの幅と本 体ケースの幅との差が,大きく見積もっても20mmを超えないものを 指すと認められる。 これを踏まえると,トッププレートの幅が599mm,本体ケースの 幅が550mmであって,それらの差が49mmである公然実施品1は, 本件訂正発明における構成要件B’の「トッププレートの幅と本体ケー\nスの幅がほぼ同じもの」とはいえないから,構成要件B’は,本件訂正\n発明と公然実施品1との相違点とはならない。 そうすると,本件訂正発明と公然実施品1との一致点及び相違点は, 以下のとおりになると認められる。
(一致点)
本件訂正発明と公然実施品1とは,構成要件A,B’,C,E及びF\nについて一致する。
(相違点)
本件訂正発明は,サッシュとは別部材に構成され,かつサッシュに当\n接させた,金属板から成る補強板を有するのに対し,公然実施品1はサ ッシュ自体が補強板となっており,サッシュとは別部材に構成され,か\nつサッシュに当接させた,金属板から成る補強板は有しない点。
イ 上記相違点についての判断
上記相違点は,本件訂正前の本件発明と公然実施品1との相違点(相違 点1−2’)と実質的に同じであるから,前記1(3)のとおり,本件発明と 同様に,本件訂正発明についても,公然実施品1及び乙13技術事項に基 づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 以上によれば,本件訂正発明は,そもそも特許を受けることができないも のである(特許法29条2項)から,本件訂正は独立特許要件(特許法12 6条7項)を満たすものではなく,また,本件訂正によって本件特許に係る 無効理由が解消するものでもない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件訂正の再抗弁 は理由がない。

◆判決本文

一審はこちらです。

◆平成29(ワ)22884

こちらは関連事件の控訴審判決です。
「構成要件Eを充足しない」として非侵害です。\n原告被告は同じで、対象特許が異なります。

◆平成30(ネ)10078
構成要件Eのうち,「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」の意義につい\nて検討する。
上記各文言は,調理容器との関係をもって加熱調理器の構成を示すものであり,\n文言のみから一義的にその意義を明らかにすることができないことから,本件明細 書等の発明の詳細な説明の内容を考慮して検討する必要がある。そこで,1⑴にお いてみたとおりの本件明細書等の記載を考慮すると,本件明細書等(【0003】, 【0005】,【0021】,【0028】,【0029】,【0030】,【0 032】)には,リング状枠はトッププレート上に印刷表示され,調理容器を有効\nに加熱できる領域として使用者に示されるものであること(【0003】),リン グ状枠は加熱部の領域を示し,鍋の最大径と同径で,鍋の外殻を表すものであるこ\nと(【0005】,【0021】)及び加熱部は最大の鍋径と同径で,リング状枠 であること(【0028】,【0029】)が示され,これ以外に,上記各文言の 意義の解釈を導くような説明がされていることは認められない。そうすると,「最 大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示され左右の加熱部の領域を示し,\nまた,リング状枠と同径のものであり,また,「調理容器の外殻」と一致するもの であると解するのが一般的かつ自然である。 この点,被告は,構成要件Eの内容は不特定であるなどと主張するが,同主張は,\n前記認定に照らし採用することができない。
(2) 被告製品関連製品の構成\n
ア 原告は,別紙3被告製品説明書(原告)において,被告各製品は,「左IH ヒーター及び右IHヒーター上で,調理容器の鍋底全体を加熱できる最大径である 直径26cmの領域を示す外殻線11,12」という構成を有し,これが「調理容\n器の外殻」であり「最大径の調理容器」である旨主張する。そして,被告各製品を 除く被告製品関連製品も被告各製品と同様の構成を有する旨主張する。\nイ しかしながら,前記(1)において認定したとおり,「調理容器の外殻」及び「最 大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示された加熱部及び有効加熱領域\nの領域を示すリング状枠と同径のものであるところ,原告の主張する外殻線11, 12は,原告において付しているものにすぎず,トッププレート上に表示されてい\nるものではないから,これらを「調理容器の外殻」又は「最大径の調理容器」であ るとみることはできない。そして,本件全証拠によっても,被告各製品には,加熱 部及び有効加熱領域を示す直径26cmのリング状枠が表示されているとは認めら\nれず,加熱部及び有効加熱領域を示すリング状枠と同径である「調理容器の外殻」 及び「最大径の調理容器」が直径26cmであると認めることもできない。 原告は,「調理容器の外殻」は,鍋底の最大径であり,被告は被告各製品におい て鍋底が直径26cmまでの鍋を使用することができる旨説明しているから,被告 各製品の「最大径の調理容器」は26cmのものであると主張する。しかしながら, 被告において上記のように説明することが,被告各製品で使用可能な最大径の鍋底\nを示すものといえるか否かについてひとまず措くとしても,前記(1)において認定し たとおり,「調理容器の外径」及び「最大径の調理容器」と同一であるリング状枠 及び有効加熱領域は,トッププレートに表示される必要があるのであって,表\示さ れていない有効加熱領域に基づく原告の主張はその前提を欠き失当である。
(3) 小括
以上のとおり,被告各製品は,原告主張の「調理容器の鍋底全体を加熱できる最 大径である直径26cmの領域を示す外殻線」という構成を有するとは認められな\nいから,この外殻線を前提に被告各製品が構成要件Eを充足するという原告の主張\nは採用できず,ほかにこれを認めるに足りる証拠もない。また,被告各製品を除く 被告製品関連製品が構成要件Eを充足することを認めるに足りる証拠もない。\nしたがって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品関連製品は,構\n成要件Eを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできな い。
一審はこちらです。

◆平成29(ワ)10742

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平成29(ネ)10090  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年4月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。知財高裁も、1審と同様に、数値範囲がその範囲であったとはいえないとして、先使用権を有しないと判断しました。なお、知財高裁は、傍論ですが、仮にその範囲であったとしても、同じ技術思想とはいえないとして、先使用ではないと判断しています。

 実際に用いられていたアルミピロー包材と同じ品番のアルミピロー包材の中に は,底部の折り曲げ部分のアルミが剥がれているものもある(甲18,26)。ま た,防湿性を確保したアルミピローの製造は,医薬品メーカーの管理方法を含めた 製造方法に大きく依存する旨指摘されている(乙48)。実際に用いられていたア ルミピロー包材に対して,専門家による立会いの下,リーク試験が行われ,気密性 が担保されていることが確認された旨報告されているものの(乙49),同リーク 試験は,検体を水没させ,一定の減圧条件(槽内圧力−40kPa,保持時間30 秒間)において,気泡が発生しないことを目視検査するというものである。水没試 験による気泡確認によって医薬包装の完全性を試験する方法は,個人の技量による 判別量の差や水槽内の細菌・水の表面張力による検出限界などの問題を有する旨指\n摘されているほか,−40kPaの圧力下において,直径5μmの孔からは5分経 過後も気泡が確認できず,直径10μmの孔においても,気泡の発生にばらつきが みられるとされている(甲27)。上記リーク試験の結果をもって,実際に用いら れたアルミピロー包材が気密性を有していたと確定することはできない。そうする と,サンプル薬が,長期間にわたって,アルミピロー包装下で保管されている間に, 湿気の影響を受けて水分含量が増加した可能性も,十\分にあり得るものである。 なお,サンプル薬の測定時の水分含量と,実生産品の水分含量(後記ウ(ア))や, 203サンプル薬を再製造したとされる錠剤の水分含量(2.18〜2.26質量%。 乙54〜56)は,ほぼ同じである。しかし,そもそも,サンプル薬と,実生産品 や203サンプル薬の再製造品が同一工程により製造されたものとは認められない から,この事実をもって,サンプル薬の測定時の水分含量が,製造時の水分含量と ほぼ同じであったということはできない。
(ウ) したがって,サンプル薬の測定時の水分含量が本件発明2の範囲内である からといって,4年以上も前の製造時の水分含量も本件発明2の範囲内であったと 推認できるものではない。
・・・
以上のとおり,サンプル薬を製造から4年以上後に測定した時点の水分含量 が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の製造時の水分含量も同様 に本件発明2の範囲内であったということはできない。また,実生産品の水分含量 が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の水分含量も同様に本件発 明2の範囲内であったということはできない。かえって,サンプル薬の顆粒の水分 含量を基に算出すれば,サンプル薬の水分含量は本件発明2の範囲内にはなかった 可能性を否定できない。その他,サンプル薬の水分含量が本件発明2の範囲内にあ\nったことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,控訴人が,本件出願日までに製造し,治験を実施していた本件2m g錠剤のサンプル薬及び本件4mg錠剤のサンプル薬の水分含量は,いずれも本件 発明2の範囲内(1.5〜2.9質量%の範囲内)にあったということはできない。
(3) サンプル薬に具現された技術的思想
ア 仮に,本件2mg錠剤のサンプル薬又は本件4mg錠剤のサンプル薬の水分 含量が1.5〜2.9質量%の範囲内にあったとしても,以下のとおり,サンプル 薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるということはでき ない。
イ 本件発明2の技術的思想
前記1のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分含 量に着目し,これを2.9質量%以下にすることによってラクトン体の生成を抑制 し,これを1.5質量%以上にすることによって5−ケト体の生成を抑制し,さら に,固形製剤を気密包装体に収容することにより,水分の侵入を防ぐという技術的 思想を有するものである。
ウ サンプル薬に具現された技術的思想
(ア) 控訴人が,本件出願日前に,サンプル薬の最終的な水分含量を測定したと の事実は認められない。
(イ) また,203サンプル薬及び303サンプル薬の製造工程では,A顆粒及 びB顆粒の水分含量を乾燥減量法による測定において●●●●●●●●にする旨定 められているものの(乙23の1・2,25の1・2),A顆粒及びB顆粒以外の 添加剤の水分含量は不明である。また,サンプル薬には吸湿性の高い崩壊剤や添加 剤が含まれているにもかかわらず,打錠時の周囲の湿度,気密包装がされるまでの 管理湿度などは不明である。 そうすると,サンプル薬に含有されるA顆粒及びB顆粒の水分含量について,● ●●●●にする旨定められているからといって,控訴人が,サンプル薬の水分含量 が一定の範囲内になるよう管理していたということはできない。
(ウ) さらに,012実生産品及び062実生産品の製造工程では,B顆粒の水 分含量を乾燥減量法による測定において●●●●●●●にすると定められており (乙24,26の1・2),サンプル薬と実生産品との間で,B顆粒の水分含量の 管理範囲が●●●●●●●●から●●●●●●●●へと変更されている。控訴人は, サンプル薬の水分含量には着目していなかったというほかない。
(エ) したがって,控訴人は,本件出願日前に本件2mg錠剤のサンプル薬及び 本件4mg錠剤のサンプル薬を製造するに当たり,サンプル薬の水分含量を1.5 〜2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたと も,1.5〜2.9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していた とも認めることはできない。
エ 以上のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分 含量を1.5〜2.9質量%の範囲内にするという技術的思想を有するものである のに対し,サンプル薬においては,錠剤の水分含量を1.5〜2.9質量%の範囲 内又はこれに包含される範囲内に収めるという技術的思想はなく,また,錠剤の水 分含量を1.5〜2.9質量%の範囲内における一定の数値とする技術的思想も存 在しない。 そうすると,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明2と同じ内容の発 明であるということはできない。
オ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,水分含量によってピタバスタチン製剤のラクトン体が生成する ことは技術常識であったから,控訴人は,本件2mg錠剤及び本件4mg錠剤の治 験薬製造前から,錠剤中の水分含量を管理する必要性を認識していたと主張する。 しかし,一般的に,医薬組成物において製剤中の水分が類縁物質生成の原因にな るという技術常識(乙8〜10)や,ピタバスタチンについては水分含量を調整し なければならないという技術常識(乙12〜14,20,57)が認められるとし ても,水分含量の調整方法は様々であるから,このような技術常識のみから,ピタ バスタチン又はその塩と特定の崩壊剤から成る錠剤であるサンプル薬について,錠 剤としての水分含量を一定の範囲内となるように管理することを控訴人が認識して いたといえるものではない。 したがって,本件出願日前の技術常識をもって,控訴人がサンプル薬の水分含量 を管理する必要性を認識していたということはできない。
(イ) 控訴人は,サンプル薬について,水分含量を調整することにより,水分に よる影響を受ける類縁物質が生成しない,長期安定な薬剤を製造する点は,確定し ていた旨主張する。 しかし,控訴人が,サンプル薬について,ラクトン体及び5−ケト体の生成の程 度について測定し,安定な製剤であることを確認していたとしても,前記のとおり, 控訴人が,サンプル薬を製造するに当たり,その水分含量を1.5〜2.9質量% の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたとも,1.5〜2. 9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していたとも認めることは できない。サンプル薬において,5−ケト体の生成を抑制できていたとしても,こ れをもって,控訴人が,サンプル薬の水分含量を1.5質量%以上に管理していた と推認できるものではなく,また,これが,控訴人がサンプル薬の水分含量を1. 5質量%以上に管理するという技術的思想を有していた結果として生じたものと評 価できるものでもない。 したがって,サンプル薬について,何らかの方法を採用することにより,水分に よる影響を受ける類縁物質が生成しない,長期安定な薬剤を製造する点が確定され ていたとしても,これをもって,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明 2と同じ内容の発明であるということはできない。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成27(ワ)30872 (東京地裁29部)

 本件出願日(平成24年8月8日)までに,被 告の社内において,本件発明2の内容を知らないでこれと同じ内容の発明がされて いた(被告が被告の従業員等から当該発明を知得していた)と認めることは困難で あるし,この点を措くとしても,後記(3)のとおり,本件出願日までに,本件2mg 製品及び被告製品(本件4mg製品)の内容が,本件発明2の構成要件Eを備える\nものとして,一義的に確定していたと認めることはできず,本件発明2を用いた事 業について,被告が即時実施の意図を有し,かつ,その即時実施の意図が客観的に 認識される態様,程度において表明されていたとはいえないから,被告に先使用権\nが成立したということはできない。
・・・
しかし,被告の提出に係る書証からは,実生産品とサンプル薬が同一の工程によ り製造されたものであると直ちに認めることは困難である。すなわち,本件で問題 となるのは,「PTP包装してなる医薬品」を構成する「錠剤」の「水分含量」が\n「1.5〜2.9質量%」の範囲となるよう管理されていたか否かであるところ, 水分は,有効成分でないばかりか,積極的な添加物でもなく,不純物として扱われ るものでもないため,錠剤が製造された後,PTP包装された状態で,錠剤の水分 含量がいかなる値となるかという観点から工程の同一性を論じるためには,被告の 提出に係る全ての書証をもってしても,情報が不足しているというほかはない(少 なくとも,打錠工程の湿度環境や打錠後の保管条件は,PTP包装された錠剤の水 分含量に影響するといわざるを得ないが,被告の提出にかかる書証では,これらの 条件は明らかにされていない。)。
イ 被告は,本件2mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:PTVD−203)及 び本件4mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:TVD−303)の水分含量につい て,いずれも本件発明2の構成要件Eの数値範囲内にあったと主張し,乙32号証\n(以下「乙32実験報告書」という。)を提出する。 しかし,乙32実験報告書に示される本件2mg錠剤のサンプル薬(ロット番号: PTVD−203)及び本件4mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:TVD−30 3)の水分含量の測定値は,これらの錠剤が製造されたとされる日から4年以上が 経過した時点のものである。そして,被告ないし同報告書の説明するところによれ ば,これらの錠剤は,その製造後,PTP包装とアルミピロー包装がされ,その状 態により,被告の中央研究所の検体保管庫に温度20℃,成り行き湿度(実測値: 75%RH)で保存されていたものであり,検体1錠をPTP包装から取り出して, 乳鉢で粉砕してカールフィッシャー法により水分測定を行ったというのであるが, 上記の条件下で4年以上が経過しても,錠剤の水分含量がそのまま保持されること を直接裏付ける証拠はない。 かえって,1)本件2mg製品の使用期限が2年6か月とされ,本件4mg製品(被 告製品)の使用期限が3年とされていること(甲4〔52頁〕)からすれば,4年 以上という期間は,予定されている保存期間を大きく超えるものであって,水分含\n量を含む錠剤の状態に影響を及ぼす可能性を否定できないこと,2)ピタバスタチン からラクトンが生成する反応は,脱水縮合であって,水が脱離することから,水分 含量増加の原因となり得ること,3)アルミピロー包装に使用される材料の防湿性が 高いことがうかがわれる(乙33)としても,PTP包装された上記サンプル薬を 収納したアルミピロー包装には,チャックがついていて(乙32,39),当該材 料のみでは構成されてはおらず,また,湿気等の影響を受けやすい商品の包装には\n充分に注意する必要があるとされていること(甲18),4)PTP包装やアルミピ ロー包装が施された他の医薬品について,所定の保存期間経過後に水分含量が増加 しているとみられる例があること(甲15,19)などからすれば,PTP包装と アルミピロー包装により,直ちに上記サンプル薬の水分含量の増加が完全に抑えら れていたと断ずることは,困難である。
被告は,上記サンプル薬の水分含量がそれぞれ本件2mg錠剤の実生産品(ロッ ト番号:B062)及び本件4mg錠剤の実生産品(ロット番号:B012)とほ ぼ同じ値であることから,保存期間中の吸湿の可能性が否定される旨主張するよう\nであるが,かかる被告の立論は,本件2mg錠剤のサンプル薬が本件2mg錠剤の 実生産品と同一の工程により製造され,また,本件4mg錠剤のサンプル薬が被告 錠剤(本件4mg錠剤の実生産品)と同一の工程により製造されていたことを前提 とするものであるところ,既に説示したとおり,本件2mg錠剤のサンプル薬及び 本件4mg錠剤のサンプル薬が,それぞれ本件2mg錠剤の実生産品や本件4mg 錠剤の実生産品(被告錠剤)と同一の工程により製造されたと認めるに足りる証拠 はないものというべきである。

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平成30(ネ)10060  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 UI関連の発明について、1審では、新規性無しの無効理由ありとして請求棄却されました。1審では、訂正審判がなされ審決が確定しましたが、時期に後れた主張であるして、口頭弁論は再開しませんでした。知財高裁は、構成要件Fが不明瞭のため要件を具備しないと判断されました。被告はAppleです。

 まず,構成要件Fの「入力」との文言の意味について検討する。
 (ア) 本件明細書には,構成要件Fの「入力」の意味を直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらない。\n他方で,本件明細書には,複数の箇所で「入力」との文言が使用され ているところ,例えば,段落【0008】の「摩擦力による入力を,直 接的または間接的に検出する」のように「物理的な力を加えること」と の意味や,段落【0012】の「図14は,…文字を入力する例を示し た図である。」のように「コンピュータに情報を与えること」との意味 など,同一の文言であるにもかかわらず文脈によって異なる意味で使用 されている。 なお,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び【006 2】の記載に基づいて,本件発明の「『当該変更結果を当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に\n記憶させる』とは,(背景の変更などの)変更結果を,(フォルダYに 保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味しているといえる。」と判断しているが,これは構\成要件Fの「入力」 は「コンピュータに情報を与えること」を意味すると解したものといえ る。
(イ) この点について,控訴人は,構成要件Fの「入力」は,「力入力検出手段」により検出された当該表\示対象に対する「力入力」,すなわち「物理的な力を加えること」を意味すると主張する。 しかし,この解釈は,構成要件H,A及びDでは,「物理的な力を加えること」として「力入力」との文言が明示的に使用されているにもか\nかわらず,構成要件Fでは敢えて「入力」のように異なる文言が使用されていることと整合しない。\n
また,構成要件Fの「入力」は,「当該変更結果」,すなわち,「保持された表\示対象以外の表\示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」を目的語としていると解し得るところ,こ の場合に「入力」を「物理的な力を加えること」と解釈することは不自 然である。さらに,「として」は,前に置かれた語を受けて,その状態, 資格,立場等であることを表す語であるところ,「入力」を「物理的な力を加えること」と解すると,「入力として・・・記憶させる」との文言が\n意味するところを理解できないというべきである。
(ウ) 控訴人は,本件訂正審決が「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として・・・記憶部に記憶させる」とは,「(背景の変更などの)変更結\n果を,(フォルダYに保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味している」と判断したことを指摘して,当該判断\nは控訴人の上記主張と整合するとも主張する。 しかし,「物理的な力を加えること」と「コンピュータに情報を与え ること」とは別個の概念であるから,構成要件Fの「入力」を「物理的な力を加えること」と解した上で,本件訂正審決の判断のように「コンピュータに情報を与えること」との意味をも有すると直ちに理解することは困難である(物理的な力が加わったことをコンピュータに検出させる場合には,両者の意味が重なっているともいい得るが,本件においては,上記説示のとおり,少なくとも「物理的な力を加えること」と解することは不自然であるから,両者の意味が重なっている場合と断ずることもできない。)。\n
(エ) 以上によれば,控訴人の主張によっては,構成要件Fの「入力」の意味を一義的に理解することは困難であるというほかない。\n
イ 仮に,構成要件Fの「入力」を,本件訂正審決が判断したように,「コンピュータに情報を与えること」と解したとしても,次のとおり,構\成要件Fの意義は依然として不明確であるというべきである。
(ア) 構成要件Fの「当該表\示対象」は,構成要件Cの「前記位置入力手段にて検出された位置の表\示対象」をいうと解される。本件明細書には,この「表示対象」の意味についても,直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらないものの,発明の詳細な説明の記載に照らせば,アイコン等(【0021】),アイコンや文字列等(【0029】),アイコンや文字,記号,図形,立体表\示対象など(【0035】)がこれに当たるものと解される。 しかし,表示画面にアイコン等を表\示させ,利用者が当該表示画面に接触した位置を検出し,当該接触位置に応じて処理を行う入出力装置においては,表\示画面に表示するアイコン等のデータそのもの(例えば,スマートフォンの画面に表\示されているカメラ様の画像データ)と,当該アイコン等と紐づけされた実体(例えば,カメラアプリケーション) とは,別個のものとされていることが多いと解されるところ,本件明細 書の記載を精査しても,本件発明における「表示対象」が具体的にどのようなものであるのかは明らかといえない。\n
(イ) また,上記ア(イ)のとおり,構成要件Fの「当該変更結果」は,「保持された表\示対象以外の表示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」と解し得るところ,「相対的に変更させた結果」についても,背景として設定されている画像が移動したピクセル数や,保持された表示対象と重なることとなったアイコン等の有無及びその種類など,さまざまなものがあり得る。\n そして,構成要件Fによれば,この「相対的に変更させた結果」は,「当該表\示対象」に対する情報として与えるものであるが,ある対象に与え得る情報は,当該対象がアプリケーションかデータかや,その実装方法によっても大きく異なるものと解される。 そうすると,上記(ア)のとおり,「当該表示対象」が具体的に意味するところが明らかでない上に,「相対的に変更させた結果」の意味内容も特定されていないことを考え合わせると,「当該変更結果を当該表\示対象に対する入力として記憶部に記憶させる」の意義も明らかでないというべきである。
(ウ) この点に関し,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び 【0062】の記載に基づいて,「当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に記憶させる」とは,「表\示要素『B』のデータをフォルダXからフォルダYに移動させて保存することを意味している」と判断した。しかし,本件訂正審決の説示においても,「表示要素『B』のデータ」がいかなるデータであるのかが具体的に特定されているとはいい難い。\n また,本件明細書の段落【0035】記載の「フォルダX」及び「フォルダY」と段落【0062】記載の「WINDOW1」及び「WINDOW2」の関係も明らかでなく,いかなる情報が「相対的に変更させた結果」に該当し,「フォルダXからフォルダYに移動させ」ると理解することになるのかについても具体的な指摘がされているとはいえない。
ウ 以上検討したところによれば,結局のところ,構成要件Fの意義は不明確というべきである。そして,構\成要件Fの意義が不明確である以上,被告各製品が構成要件Fを充足すると認めることはできない。\n

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)14142

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平成27(ワ)4292  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年6月28日  大阪地方裁判所

 漏れていたのでアップします。大阪地裁は、特許侵害として、差止請求および総計3.3億円の損害賠償請求を認めました。争点は、間接侵害、サポート要件、進歩性違反などたくさんあります。この事件は控訴されており、知財高裁の特別部での審議が発表されています。大合議事件にされた理由は、下記でしょうか?\n

 「共同不法行為が成立するためには,各侵害者に共謀関係があるなど主観的な関連 共同性が認められる場合や,各侵害者の行為に客観的に密接な関連共同性が認めら れる場合など,各侵害者に,他の侵害者による行為によって生じた損害についても 負担させることを是認させるような特定の関連性があることを要すると解すべきで ある。そして,例えば,製造業者が小売業者に製品を販売し,これを小売業者が消 費者に販売するという取引形態は,極めて一般的なものであり,製造業者と小売業 者双方が,このような取引形態を取っていることを認識し容認しているとしても, これだけでは共同不法行為責任を認めるに足りるだけの十分な関連共同性があると\nはいえない。
・・・
被告アンプリーは,被告ネオケミアから被告製品8を仕入れ,これを被告リズ ムに転売していたところ,被告リズムは設立当初から被告アンプリーに対して販売 する商品の相談をしており,その中で被告製品8を仕入れることになり,被告リズ ムにとって被告アンプリーは特別な取引先であるとの認識であった(乙B12の 1)。これに対し,被告アンプリーは,OEMメーカーではあったが,被告リズム の創業を応援しようと決めて被告リズムと取引を開始し,販路として育成していこ うと考え,被告リズムを「販路育成プログラム」対象企業の第一号という位置付け の企業にし,被告リズムと協力して炭酸ガスパックを売り出していたというのであ る(乙B13の1,弁論の全趣旨)。そして,本件訴訟では,被告アンプリーは被 告リズムとの間で顧客や顧客からの注文等に関する情報交換を密にしていたとまで 主張しているのであり,被告アンプリーと被告リズムとはそのような関係性にあっ たと認められる(以上につき弁論の全趣旨)。そして,被告リズムによる売上額は 3億円を超えており,被告アンプリー自身の売上額も1億円を超えており,他の被 告の他の製品の売上額と比較しても,桁違いに売上額が大きい。このような売上げ を上げることができたのは,以上のような被告アンプリーと被告リズムとの間の関 係性があったからであると推認され,両社は相互に利用補充しながら,被告製品8 の製造,販売をしてきたということができる。したがって,両社の行為には,客観 的に密接な関連共同性があったといえ,共同不法行為が成立するというべきである。 これに対し,被告アンプリーらと被告ネオケミアとの関係性についてみると,被 告アンプリーは被告ネオケミアの取引先ではあるものの,被告ネオケミアは他にも 自ら本件各発明の技術的範囲に属する同種製品(被告製品1,3,4及び15)を 製造するなどし,被告アンプリー以外の者に対しても販売していたのである。この ような実態に照らせば,被告アンプリーが被告ネオケミアの総代理店的な立場にあ ったとはいえないし,同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるな どともいえない。 以上より,被告製品8に関し,被告アンプリーと被告リズムとの間に限って共同 不法行為が成立する。」

◆判決本文

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平成30(ネ)10033  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年1月31日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 大阪高裁は無効理由ありとして、1審の判断を取り消しました。1審では時期に後れた主張とされた無効主張も却下されませんでした。
1 争点3−4(乙64の1を主引用例とする進歩性欠如の無効理由の有無)に ついて
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて\n
被控訴人は,控訴人が当審において追加主張した乙64の1を主引用例と する進歩性欠如(争点3−4)を無効理由とする特許法104条の3第1項 の規定に基づく無効の抗弁(以下「本件無効の抗弁」という。)について, 民事訴訟法157条1項に基づき,時機に後れた攻撃防御方法に当たるもの として却下することを求める申立てをしたので,以下において判断する。\n
ア 前記第2の1(前提事実等)の(6)及び一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 控訴人は,平成27年4月17日の原審第4回弁論準備手続期日に おいて,被告準備書面(2)に基づき,実施可能要件違反の無効理由(争点\n3−1)による無効の抗弁の主張をし,同年9月14日の原審第7回弁 論準備手続期日において,被告準備書面(5)に基づき,明確性要件違反(争 点3−2)の無効理由による無効の抗弁の主張をした。 その後,原審の受命裁判官は,同年10月27日の第8回弁論準備手 続期日において,本件の侵害論の審理を終了し,損害論の審理を進める と述べた上で,控訴人に対し,被控訴人の損害主張に対し具体的に認否 反論し,必要な書面を提出するよう求めた。
(イ) 控訴人は,平成28年5月19日,本件発明1,2,6及び8につ いての本件特許を無効にすることを求める別件無効審判を請求した。 同年12月13日の原審第12回弁論準備手続期日において,控訴人 は,被告準備書面(10)に基づき,別件無効審判と同一の無効理由(サポー ト要件違反(争点3−3)の無効理由及び本件無効の抗弁に係る無効理 由を含む。)による無効の抗弁を追加して主張したのに対し,被控訴人 は,同期日において,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下 することを求める申立てをした。原審の受命裁判官は,被控訴人の上記\n申立てを容れて,控訴人の上記無効の抗弁に係る主張及び証拠を却下した。\n
(ウ) 特許庁は,平成29年12月15日,本件訂正後の請求項1,6及 び8に係る発明についての本件特許には,サポート要件違反(争点3− 3)の無効理由及び本件無効の抗弁に係る無効理由が存在するとして, 上記特許を無効とする別件審決をした。 同月20日の原審第18回弁論準備手続期日において,控訴人は,被 告準備書面(15)に基づき,別件審決が認めたサポート要件違反の無効理 由及び本件無効の抗弁に係る無効理由による無効の抗弁を再度追加して 主張したのに対し,被控訴人は,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法 として却下することを求める申立てをした。原審の受命裁判官は,被控訴人の上記申\立てを容れて,控訴人の上記無効の抗弁に係る主張及び証拠を却下した。 原審は,同日,原審第2回口頭弁論期日において,本件訴訟の口頭弁 論を終結した後,平成30年3月22日,被控訴人の請求を一部認容す る原判決を言い渡した。 この間の同年1月20日,被控訴人は,別件審決の取消しを求める別 件審決取消訴訟を提起した。
(エ) 控訴人は,平成30年4月9日,本件控訴を提起した。控訴人は, 同年6月5日付けの控訴理由書において,被告準備書面(10)及び(15)を 引用して,サポート要件違反(争点3−3)の無効理由による無効の抗弁 及び本件無効の抗弁を記載した。 同年7月24日の当審第1回弁論準備手続期日において,控訴人は, 控訴理由書に基づき,本件無効の抗弁を主張し,被控訴人は,控訴答弁 書に基づき,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下すること を求める申立てをした。\n同年10月15日の当審第2回弁論準備手続期日において,控訴人は, 同年8月31日付けの控訴人準備書面(1)及び同年9月14日付けの控 訴人準備書面(2)に基づき,本件無効の抗弁の主張を補足し,被控訴人は, 同年10月1日付けの被控訴人第1準備書面に基づき,本件無効の抗弁に対する反論及び訂正の再抗弁を主張した。 その後,当裁判所は,同年12月10日の第1回口頭弁論期日におい て,本件口頭弁論を終結した。
イ 前記アの認定事実によれば,控訴人の当審における本件無効の抗弁の主 張は,原審において侵害論の審理を終了し,損害論の審理に入った段階で 提出されたため,時機に後れた攻撃防御方法として却下された主張と同旨 のものであるが,控訴人は,原審口頭弁論終結前に本件無効の抗弁に係る 無効理由の存在等を認めて本件特許を無効とする旨の別件審決がされた のを受けて,当審において再度提出したものであること,控訴人は,控訴 理由書に本件無効の抗弁を記載し,当審の審理の当初から本件無効の抗弁 を主張していたことが認められるから,当審における控訴人による本件無 効の抗弁の主張の提出が時機に後れたものということはできない。また,当審の審理の経過に照らすと,控訴人による本件無効の抗弁の主張の提出 により,訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められない。 したがって,当審における控訴人による本件無効の抗弁の主張を時機に 後れた攻撃防御方法として却下することはしない。
(2) 本件明細書の記載事項等について
ア 本件発明1,2及び6の特許請求の範囲(請求項1,2及び6)の記載 は,前記第2の1(前提事実等)の(2)のとおりである。
・・・
前記aの記載事項によれば,乙64の2には,押しボタン式バルブ の下側で不燃性液体の上側の位置に,通気性を有する「連続気泡状パ ッキング」を挿入した,不燃性液化ガスを充填した噴射口を有する「噴 気式清掃機」の記載があり,その「連続気泡状パッキング」は,缶体 を逆さまにして使用しても不燃性液体がバルブ側の空間に漏れて液体 のまま噴出することを防止するためのものであることの記載があるこ とが認められる。 そして,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」は,連続気泡 を有する多孔質体であり,図2(別紙3)から円筒状の缶体内に挿入 された円板状の形状であることを理解できるから,「円板状多孔質 体」として,本件発明1の「通気性蓋状部材」に該当するものと認め るのが相当である。
(イ) 乙64の1には,スプレー缶を倒立状態で使用した場合や缶を倒立 状態で保管する場合に液漏れの原因となり,可燃性液化ガスの液漏れに より火炎が発生するおそれがあるため,吸収性能・保液性に優れた吸収\n体を提供することが課題であること(【0004】,【0054】)の 記載がある。 一方で,乙64の2には,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」 は,缶体を逆さまにして使用しても不燃性液体がバルブ側の空間に漏れ て液体のまま噴出することを防止するためのものであることの記載があ ることは,前記(ア)bのとおりである。 そうすると,乙64の1及び乙64の2に接した当業者は,乙64の 1の第1発明において,スプレー缶を倒立状態で使用した場合の吸収体 に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防止を確実にするために,乙6 4の1の第1発明に乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」の構成\nを適用する動機付けがあるものと認められる。 また,乙64の1の「具体的には,スプレー缶形状に合わせて,その 内径に適した大きさの円筒状の成形体とすると,充填が容易にできる上, 使用中も安定してスプレー缶内に保持することができる。」(【003 2】)との記載から,スプレー缶の使用中に吸収体を安定して保持する 必要性があることを理解できる。 以上によれば,当業者は,スプレー缶を倒立状態で使用した場合の吸 収体に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防止を確実にし,吸収体を 安定して保持するために,乙64の1の第1発明において,乙64の2 の連続気泡状パッキングを適用する際に,乙64の2記載の連続気泡状 パッキングの構成のものを吸収体の表\面に密接に配置し,相違点2に係 る本件発明1の構成を容易に想到することができたものと認められる。\n
(ウ) これに対し被控訴人は,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング4」は,バルブ2の下側に空間を形成するため缶体1に固定されている 必要があるため,肩部からバルブ側に押し込むように固定され(図2), バルブ2側に十分大きい空間が形成されないので,倒立状態では,比重\nの重い液体が下側(バルブ2側)へ移動し,バルブ側の空間に容易に液 が漏れることになって,倒立状態のまま噴射を継続することができない こと,乙64の2には,図2以外に,「連続気泡状パッキング4」の充 填状態について具体的に説明する記載はないことからすると,乙64の 1の第1発明に乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」を組み合わ せる動機付けはないし,また,乙64の1の第1発明に乙64の2記載 の「連続気泡状パッキング」を組み合わせたとしても,本件発明1の通 気性蓋状部材の構成に至ることはない旨主張する。\nしかしながら,乙64の1の第1発明において,スプレー缶を倒立状 態で使用した場合の吸収体に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防 止を確実にするために,乙64の1の第1発明に乙64の2記載の「連 続気泡状パッキング」の構成を適用する動機付けがあることは,前記\n(イ)のとおりである。 また,乙64の2には,連続気泡状パッキングが図2で示された位置 に配置することが不可欠である旨の記載はなく,連続気泡状パッキング の具体的な設置方法及び設置場所は,当業者が適宜決定すべき事項であると認められる。 さらに,乙64の2の【0012】の「連続気泡状パッキング4を挿 入し,たとえ缶体1を逆さまにして使用しても不燃性液体3が液体のま ま噴出することなく,ガスの整流性が良くなる。」との記載に照らすと, 乙64の2の「噴気式清掃機」が連続気泡状パッキングを挿入したため に倒立状態のまま噴射を継続することができないものと理解すること はできない。 したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。
・・・
(7) まとめ
以上のとおり,本件発明1,2及び6は,乙64の1の第1発明及び乙6 4の2記載の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた ものと認められ,進歩性を欠くものであるから,本件特許には,特許法29 条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判 により無効とされるべきものと認められる。
2 争点3−5(訂正の再抗弁の成否)(本件発明1及び6に関し)について
被控訴人は,本件訂正により,訂正前の請求項1及び6(本件発明1及び6) の無効理由は解消され,かつ,被告製品は,本件訂正発明1及び6の技術的範 囲に属するから,被控訴人は,控訴人に対し,本件特許権を行使することがで きる旨主張する。 そこで検討するに,本件訂正発明1(本件訂正後の請求項1)は,灰分含有 量を「1重量%以上12重量%未満」とするものであり,本件発明2と同一の 構成であるところ,前記1(5)のとおり,本件発明2は,乙64の1の第1発明 及び乙64の2の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで きたものと認められるから,本件発明1の無効理由は,本件訂正により解消されるものとはいえない。 また,前記1(6)で説示したのと同様の理由により,本件発明6の無効理由は, 本件訂正により,解消されるものとはいえない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の上記主張 は理由がない。
3 結論
以上によれば,本件発明1,2及び6は,進歩性を欠くものであり,本件特 許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があ り,特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,被控訴人は, 同法104条の3第1項の規定により,控訴人に対し,本件特許権を行使する ことはできない。

◆判決本文

関連の審決取消し訴訟です。

◆平成30(行ケ)10012

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平成30(ワ)3018  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年11月29日  東京地方裁判所(46部)

 サポート要件などの無効理由なし、技術的範囲に属すると判断されました。
 前記(2)のとおり、本件各名作書には、本件参照抗体と競合する,PCSK 9−LDLR結合中和抗体を同定,取得するための,免疫プログラムの手順 及びスケジュールに従った免疫化マウスの作製方法,ハイブリドーマの作製 方法,スクリーニング方法及びエピトープビニングアッセイの方法等が記載 されている。そして,当該方法によれば,本件各明細書で具体的に開示され た以外の本件参照抗体と競合する抗体も得ることができるといえる。 そうすると,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範囲が,本件各\n明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1 若しくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限られる とはいえない。したがって,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範\n囲が本権各明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定のアミノ酸 の1もしくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限ら れることを前提として,本件各発明の技術的範囲が本件各明細書記載の具体 的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは数個のア ミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限定されるとの被告の主張 は採用することができない。
(4)また,被告は,1)本件各明細書では,本件参照抗体と競合する抗体であれ ば,PCSK9とLDLRの結合を中和することができるという技術思想を 読み取ることはできない,2)本件各明細書の実施例に記載された3グループ ないし2グループの抗体のみによって,本件参照抗体と競合する膨大な数の 抗体全てがPCSK9−LDLR結合中和抗体であるとはいえず,本件各明 細書には,本件参照抗体と競合する膨大な数の抗体がPCSK9−LDLR 結合中和抗体であることの根拠は全く示されていないと主張する。 しかしながら,前記 のとおり,本件各明細書には,本件参照抗体がP CSK9−LDLR結合中和抗体であること,本件参照抗体がPCSK9に 結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体,又は,本件参照抗体 とPCSK9との結合を立体的に妨害するような上記エピトープに隣接する エピトープに結合する抗体である,本件参照抗体と競合する抗体は,本件参 照抗体と類似した機能的特性を有すると予\想されることが記載されている。 そして,前記 のとおりのスクリーニング等によって得られた本件各明細書の表2記載の30の抗体(21B12参照抗体と31H4参照抗体を除く。)\nのうち,24の抗体はPCSK9−LDLR結合中和抗体であり,かつ,本 件参照抗体と競合する抗体であること,表37.1.のビン1(21B12\n参照抗体と競合し,31H4参照抗体と競合しない抗体)に属する19の抗 体のうち16個,ビン2(21B12参照抗体とも,31H4参照抗体とも 競合する抗体)に属する抗体のうち2個及びビン3(31H4参照抗体と競 合し,21B12参照抗体と競合しない抗体)に属する10の抗体のうちの 7個は,表2に記載された抗体であり,これら16個と2個と7個の抗体の\nうち,27B2抗体並びに21B12参照抗体及び31H4参照抗体を除く 少なくとも20個はPCSK9−LDLR結合中和抗体であることが記載さ れている。そうすると,本件各明細書には,特定のスクリーニング等を経て 得られた抗体のうち,本件参照抗体と競合する複数の抗体がPCSK9−LDLR結合中和抗体であることが示されているといえる。 なお,この点に関係し,被告は,本件参照抗体と競合する膨大な数の抗体 がPCSK9−LDLR結合中和抗体であることの根拠は全く示されていな いと主張するが,本件各明細書に記載された抗体以外に,本件参照抗体と競 合するがPCSK9−LDLR結合中和抗体ではない具体的な抗体が示され ているものではなく,また,本件参照抗体と競合する抗体中,PCSK9− LDLR結合中和抗体でないものの割合が大きいことも明らかではない。 さらに,被告は,本件参照抗体と競合する抗体は,PCSK9−LDLR 結合中和抗体であるとは限らないとも主張する。しかし,本件各発明は,P CSK9−LDLR結合中和抗体であることを構成要件とするものであるか\nら(構成要件1A,2A),上記のような例外的な抗体は本件各発明の技術\n的範囲に含まれない。
(5)証拠(甲5,7の1,2,甲8〜10)及び弁論の全趣旨によれば,本件 各発明について,被告が主張する限定的な解釈を採らない限り,被告モノク ローナル抗体は,本件発明1−1及び本件発明2−1の各構成要件を全て充\n足し,被告製品は,本件発明1−2及び本件発明2−2の各構成要件を全て\n充足すると認められるから,被告モノクローナル抗体は,本件発明1−1及 び本件発明2−1の技術的範囲に属し,被告製品は,本件発明1−2及び本 件発明2−2の技術的範囲に属すると認められる。なお,被告モノクローナ ル抗体は,本件訂正発明1-1及び本件訂正発明2−1の技術的範囲にも属 し,被告製品は,本件訂正発明1−2及び本件訂正発明2−2の技術的範囲 にも属すると認められる。

◆判決本文

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平成28(ワ)6494  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年12月18日  大阪地方裁判所

 被告製品は,特許権者製の使用済み芯管と一体化すると、本件特許の構成要件を充足するので、「のみ要件」を満たすと判断しました。\n
   イ 構成要件Aの「用いられ」の意味
前記アを前提に検討すると,構成要件Aのうち「ロールペーパの回転速度を\n検出するために支持軸に角度センサを設け」との記載は,本件ロールペーパ等の「複 数の磁石」につき,そのような位置に配置されることを特定するものと理解でき, また,構成要件Aのうち「ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその固\n定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設け」と の記載は,本件ロールペーパ等について,そのような態様で回転させられることを 特定するものと理解できるし,構成要件Cの「測長センサ」も,構\成要件Aの記載 によって特定されると理解できる。 そうすると,本件発明に係る薬剤分包用ロールペーパの技術的範囲は,構成要件\nBないしDと,構成要件Aによる本件ロールペーパ等の上記特定に係る事項とから\n画されるものと解されるから,一体化製品が上記技術的範囲に属すれば本件発明の構成要件を充足するものであって,一体化製品が構\成要件Aを充足する薬剤分包装 置に実際に使用されるか否かは,上記構成要件充足の判断に影響するものではない\nと解される。 被告らは,原告製使用済み芯管に,輪ゴムを介してロールペーパを巻いたプ ラスチック筒部をセットした一体化製品が構成要件Aの「用いられ」を充足するた\nめには,一体化製品に,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられる以外の用\n途が存在しないことが必要であると主張し,予備的に,仮にこれが認められないと\nしても,一体化製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられて初めて作用\n効果を奏するものであるから,現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いら\nれることが必要であると主張する。 しかしながら,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に使用可能\な構成を有し,そ\nの他の構成要件をも充足するものとして薬剤分包用ロールペーパが生産,譲渡され\nれば,その時点で本件特許権の侵害は成立するのであって,その後に構成要件Aを\n充足する薬剤分包装置に当該ロールペーパが使用されるか否かは,特許権侵害の成 否を左右するものではない。 被告らは,本件発明の出願経過に照らし,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に\n一体化製品が使用されることが本件特許権侵害に係る必須の要証事実であると主張 するが,原告が,手続補正の際に提出した意見書(乙25)において,本件発明は 構成要件Aを充足する薬剤分包装置に現実に用いられることを必須とする旨を述べたものと解することはできない。\nさらに,被告らは,本件無効審判において,本件訂正後の発明に新規性が認めら れるための構成が特定されたところ,その中には薬剤分包装置に関するものがある\nので,一体化製品が本件発明の技術的範囲に属するかの判断のために,どのような 薬剤分包装置に用いられているかを確認する必要があると主張するが,前記検討し た構成要件Aと,構\成要件BないしDとの関係に照らし,採用できないといわざる を得ない。
ウ まとめ
以上検討したところによれば,本件発明においては,構成要件Aの「用いられ」\nは,構成要件Aの記載によって構\成要件B以下の内容が特定されることを意味する ものとして使われているというべきであるから,そのように特定された構成要件を\n一体化製品が充足する場合には,構成要件Aの「用いられ」を充足すると解され,\nこれ以上に,構成要件Aの「用いられ」が,一体化製品が構\成要件Aを充足する薬 剤分包装置以外には使用されないこと,あるいは現実に構成要件Aを充足する薬剤\n分包装置が存在することを,要件として定める趣旨と解することはできない。
(2)争点(1)イ(一体化製品は「2つ折りされたシート」(構成要件A)を充足す\nるか。)について
ア 被告らは,構成要件Aの「2つ折りされたシート」とは,ロールペーパを薬\n剤分包装置内で2つ折りにするシングルタイプのロールペーパの使用を前提として おり,あらかじめ2つ折りにされたダブルタイプのロールペーパは含まれない旨を 主張する。
イ そこで,検討するに,本件明細書【0018】には,「分包部は,三角板4 で2つ折りにされた際にホッパ5から所定量の薬剤が投入された後,ミシン目カッ タを有する加熱ローラ6により所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシー ルするように設けられている。」との記載があるが,本件明細書【0011】の記 載によれば,本件発明は,一定の張力を保ったままシートを分包部に供給すること により,シートに耳ずれや裂傷が生じることなく薬剤を分包することを可能とする\nものであり,この技術的思想に関しては,給紙部から分包部に送られてくるシート があらかじめ2つに折り畳まれたダブルタイプであっても,折り畳まれてい ション現象が生じるため,)張力変動により分包部でシートを2つ折りした際にシ ートの縁部が正確に重ならない,いわゆる耳ずれが生じ」るという問題は,シング ルタイプのロールペーパを分包部において2つ折りにしてできた空隙に薬剤を投入 した後シートの両側縁部と幅方向に加熱融着する場合であっても,ダブルタイプの ロールペーパを分包部において折り目を広げてその空隙に薬剤を投入した後同様に 加熱融着する場合であっても,同様に生じ得る。 さらに,原告は,本件特許につき拒絶理由通知(乙24)を受けて本件補正を行 っているが,本件明細書【0018】の記載に基づくものであり,元の記載がシン グルタイプのロールペーパを分包部において折り畳むことのみを指すと解するのは 相当ではない(乙25)。
ウ 以上によれば,ダブルタイプのロールペーパを使用する一体化製品も,「2 つ折りされたシート」(構成要件A)を充足するというべきである。
(3) 争点(1)全体についての判断
ア 被告らは,一体化製品につき,構成要件Aのうち,「測長センサ」,「シー\nトを送りローラで送り出す給紙部」,「上記支持軸と上記中空軸の固定支持板間で」, 「中空軸のずれを検出する」といった要件を充足しない旨を主張するが,原告製造 の特定の薬剤分包装置の構成についての主張であり,構\成要件Aと構成要件B以下\nとの関係を前述のとおり解する以上,意味のない主張といわざるを得ない。
イ 一体化製品は,前記第2の1(5)のとおりの構成を有するところ,被告らは,\n構成要件Aに関し,争点(1)ア及びイについて争うものの,構成要件B以下の充足性\nについては争うことを明らかにしておらず(当初,構成要件B及びDの充足を争っ\nたが,後に撤回した。),弁論の全趣旨によれば,一体化製品の構成aは本件発明\nの構成要件Bを,構\成bは構成要件Cを,構\成cは構成要件Dを充足すると認めら\nれ,一体化製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置において使用されることが可\n能な構\成を有すると認められる。
ウ 以上によれば,一体化製品は,構成要件AないしEをすべて充足するから,\n本件発明の技術的範囲に属すると認められる。
エ なお,原告は,被告日進が前訴において構成要件Aの充足性を争わなかった\nことから,本訴訟において構成要件Aの充足性を争うことは信義則に反する旨を主\n張するが(争点(1)ウ),被告日進は,前訴とは異なる製品の関係で,構成要件Aの\n充足性を本訴訟で主張したと認められるから,この点を争うことが信義則に反する とまではいえない。
3 争点(2)(特許権侵害が成立するか。)について
(1) 問題の所在
ア 前記2によれば,一体化製品を完成して譲渡すれば,その時点において特許 権侵害が成立することになるが,前記第2の1(4)及び(5)のとおり,被告らは,一体 化製品それ自体を生産,譲渡しておらず,プラスチック筒部の外周に薬剤分包用シ ートを巻き回したロールペーパ,すなわち一体化製品のうち原告使用済み芯管のな い物を被告製品として生産,譲渡し,これを入手した利用者が,輪ゴムを介してロ ールペーパに原告製使用済み芯管を挿入し,これを一体化製品とした上で,薬剤分 包装置に使用している。
イ この点について,原告は,1)被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いる物 であるとして,特許法101条1号の間接侵害を主張するほか,2)被告らの行為は, 顧客との共同による特許権の直接侵害に当たること,3)被告らの行為は,顧客の特 許侵害に対する教唆又は幇助に当たることを主張するので,まず間接侵害の成否に ついて検討する。
(2) 争点(2)ア(被告製品は,一体化製品の「生産にのみ用いる物」と認められる か。)について
ア 被告製品の販売方法
証拠(甲4,5,21,36,文中掲記のもの)によれば,以下の事実が認めら れる。
被告日進の販売するロールペーパの製品には,商品名の冒頭に「A」の付く 製品(被告製品。以下「Aタイプ」という。)と「B」の付く製品(以下「Bタイ プ」という。)があり,両タイプは,それぞれ分包紙の材質として「グラシン」紙 又は「セロポリ」紙を選択できるようになっている。 被告日進が平成28年11月に公開していたウェブサイト(甲20)によれ ば,Aタイプの分包紙の芯管内径は67mmであって,「外径65mm前後の分包機用 芯管に装着可能」とされ,Bタイプの分包紙の芯管内径は52mmであって,「外径 50mm前後の分包機用芯管に装着可能」とされた。\n薬剤分包用ロールペーパとして,外径65mm前後の芯管を製造しているのは 原告のみであり,外径50mm前後の芯管を製造しているのは株式会社タカゾノのみ である(弁論の全趣旨)。
前記ウェブサイトの「よくある質問Q&A」の欄には,「Q.他社分包機に 装着するには特別な道具が必要ですか?」という質問に対し,「A.弊社分包紙は, 『使用済み分包機メーカー製芯管』を使用することによって,お客様ご使用の分包 機に装着することができます。つまり,『使用済み分包機メーカー製芯管』が1個 お手元にあれば繰り返し装着することができます。」との回答が記載されていた。 被告日進が平成28年1月頃にユーザである製剤薬局等に配布していた説明 資料(甲9)には,「使用済み分包機メーカー製芯管」に輪ゴム等を取り付け被告 日進が販売する分包紙製品に差し込むことにより,芯管の空回りを防止しながら被 告日進製以外の分包機において使用する方法がイメージ図や注意事項付きで詳細に 説明されている。
まとめ
以上によれば,被告日進が販売する分包紙のうちAタイプ(被告製品)は,原告 製使用済み芯管と一体化して原告製の薬剤分包装置に使用されることを前提として 生産され,原告製の薬剤分包装置を使用し,既に原告製使用済み芯管を保有してい る者に対し,購入の案内がされたものと認められる。
イ 他の用途について
被告日進製の薬剤分包装置
前記被告日進のウェブサイト(甲20)には,「複数メーカー機に装着可能」と\nいう文言と共に,「分包紙は当社分包機の専用分包紙であり,各社分包機メーカー 及び貴社ご使用の分包機メーカーとは無関係で,承認を受けた製品ではありません。」 という記載があり,前記説明資料(甲9)にも同様の記載があることが認められる。 しかし,被告らの主張によっても,被告日進は,経済産業省により「平成25年 度補正中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」に選定され た後,平成26年に被告日進製の薬剤分包装置について営業活動を開始し,平成2 7年にカタログを作成し,平成28年5月12日に1台,同年10月25日に1台 の被告日進製の薬剤分包装置を販売したことが認められるにとどまる(甲17,乙 1,11,36)。 他方,被告製品は平成26年12月から販売されており,原告代理人は,平成2 8年1月頃に,被告らに対し,本件特許権に基づき被告製品の製造販売の中止等を 求める警告書(甲10)を送付し,同年7月4日に本訴を提起したことが認められ る。 前記時系列によれば,被告製品の販売が開始された当初,これを被告日進製 の薬剤分包装置に装着することはおよそ予定されておらず,むしろ,原告との紛争\nが顕在化した後に,わずか2台を製造販売したにとどまる。 エルク製分包装置(甲19,乙2,14〜16) 被告製品を,エルク製分包装置において使用されている芯管(外径約60mm。以 下「エルク製芯管」という。)に挿入してエルク製分包装置に装着し使用するため には,被告製品の空回りを防止するために厚さ3.2mm程度のOリングを2個,エ ルク製芯管に装着することが必要であり,さらに,被告製品の外径(約193mm) が大きすぎるため,そのままではエルク製分包装置に正常に装着できず,使用開始 に当たって長さ330mの分包紙中約88ないし100m分を廃棄する必要がある ことが認められる。 よって,被告製品をエルク製分包装置に装着して使用することは相当の困難と無 駄を伴い,経済的に合理性のある使用とはいえない。
ウエダ製分包装置(甲23,乙17,18)
ウエダ製分包機については,特定の顧客が,その支持軸を独自に製作した支持軸 に取り換えるという改造を施すことにより,被告製品を装着して使用していること が認められる。 しかし,同顧客の保有するウエダ製分包機は20年以上前に販売が終了している 機種であり,ウエダ製分包機を保有する他のユーザが同様の改造を施して被告製品 を使用することは考えにくいし,改造を施さないウエダ製分包装置において,被告 製品を正常に装着して使用できると認めるべき証拠もない。 よって,被告製品をウエダ製分包装置に装着して使用することは,一般的な使用 方法ということはできない。
タカゾノ製分包装置(乙20,21)
株式会社タカゾノ製の薬剤分包装置において使用されている薬剤分包用ロールペ ーパが,被告製品と同様の構成であることを認めるに足りる証拠はない。\n
まとめ
被告日進製の薬剤分包装置については,被告製品の販売が一定期間行われた後に, わずか2台が製造,販売されたにとどまるものであるから,被告製品が使用された としてもごくわずかといわざるを得ないし,被告以外の薬剤分包装置に被告製品を 使用することには困難が伴い,現実的ではないといわざるを得ないから,被告製品 については,原告製薬剤分包装置に使用する以外の用途は,実質的には存在しない といわざるを得ない。
ウ 争点(2)アについての判断
前記ア及びイで検討したところによれば,被告製品は,原告製使用済み芯管と一 体化し,一体化製品として原告製薬剤分包装置に使用することを想定して生産,譲 渡され,これ以外の用途は実質的には存在しないというべきであるから,被告製品 は,一体化製品の生産にのみ用いるものと認めるのが相当である。
(3) 特許権侵害についての判断
被告らが被告製品を生産,譲渡した段階では,回転角度の検出に用いる磁石を配 置した原告製使用済み芯管はこれと共には存在せず,本件特許の構成要件の全部を\n充足するものではないが,前記(2)で検討した通り,被告製品は,原告製使用済み芯 管と一体化して,本件特許の構成要件を充足する状態で使用することが予\定されて おり,他の用途が実質的に存在せず,一体化製品の生産にのみ用いられるものと認 められるのであるから,被告製品の生産,譲渡は,特許権の直接侵害に至る蓋然性 が極めて高いものとして特許法101条 1 号の間接侵害に当たり,本件特許権を侵 害するものとみなすべきものである。

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平成28(ワ)4759  不当利得返還請求事件  特許権 平成30年12月20日  大阪地方裁判所

 特許の均等侵害における第1要件の判断において、先行の29条の2の先行文献を考慮して、本質的部分の判断がなされました。被告製品は、Amazonの「Kindle paperwhite」です。
(エ) 以上によれば,乙8には,「ホログラムの単位幅における格子部幅/非 格子部幅の比が,導光板の前面出射面から出射する光を効率よく,また,面内で均 一に出射されるように,管状光源から離れる側の方が増大せしめられている」構成\nが開示されているといえる。
ウ したがって,乙8発明は,本件発明の構成要件Bと同一の構\成を備える ものであるから,相違検討点2は相違点とはいえない。
エ 原告の主張について
原告は,乙8には,導光板に設けるホログラムの面積密度を増減させる技術思 想が開示されているだけで,回折格子の単位幅における格子部幅/非格子部幅の比を変化させる技術思想は開示されていないと主張する。 しかし,前記アのとおり,本件発明も,格子部の面積の変化を通じて,導光板の 表面における輝度を増大させ,かつ均一化させるものであり,本件発明と乙8発明\nはその解決課題と解決原理を共通にしている。 そして,上記のとおり,乙8には,本件発明の構成要件Bの構\成を備えたホログ ラムの構成が開示されていると認められるから,本件発明の構\成要件Bはこれを別 の表現で記述したものにすぎず,同一の構\成が開示されていることに変わりはない。 したがって,原告の主張は採用できない。
(6) 小括
以上によれば,本件発明と乙8発明とは,前記の相違検討点1において相違す るから,同一の発明とはいえず,乙8による特許法29条の2違反の無効理由が存 するとは認められないが,本件発明と乙8発明とは,その解決課題及び解決原理を 共通にしており,解決手段たる回折格子の種類についてのみ相違するにすぎないと いうことができる。
・・・
(ア) 本件明細書に記載された従来技術及びその課題
前記認定のとおり,本件明細書では,本件発明に関する従来技術として, 導光板の下面に多数の多面プリズムをもつ透明アクリル樹脂からなり,プリズムに よる光の全反射を利用する導光板が記載されており,その具体例として,特開平5 −127157号公報記載の平面照光装置(本件明細書の図6参照)が挙げられて いる。 そして,その従来技術によっても液晶表示パネルを下方から輝度ムラが少なく明るく照らすことができると記載されているが(【0003】),1)導光板の下面にある 多面プリズムの一辺が例えば0.16mmと,光の波長に比べて相当大きいものである うえ,各プリズムが協同することなく個別に光を全反射するものであるため,導光 板の輝度を全体に高めようとすると,各プリズムの間の谷間にあたる箇所で乱反射 が起きて上面に向かう光量が減り,照光面である上面に極端な明暗のコントラスト が生じるという課題,及び2)このような導光板を設けた平行照光装置を電池で駆動 される液晶表示装置に用いると,照光面に向かう上記光量の減少を補って高輝度を\n得るべく,光源を大電流で照らす必要があるため,電池の寿命が短くなって,長期 使用ができなくなるという課題があったことが記載されている(【0004】)。
(イ) 本件発明の課題解決手段
本件発明は,従来技術の上記課題を解決するため,「光の幾何光学的性質を 利用した従来のプリズムによる全反射でなく,・・・光の波動の性質に基づく回折現象 を利用して,従来より遥かに高く,かつ均一な輝度を照光面全体に亘って得ることが でき,ひいては光源の電力消費の低減による電池の長寿命化も図ることができる導 光板を提供すること」を目的として(【0005】),本件発明の構成を採用したもの\nである。その構成は,(a)透明な板状体である導光板の裏面に回折格子を設け,導光 板の少なくとも一端面から入射する光源からの光をその表面側へ回折させるという点(構\成要件A),(b)上記回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅/非 格子部幅の比の少なくとも1つを,上記導光板の表面における輝度が増大し,かつ\n均一化されるように変化させる点(構成要件B)である。
(ウ) 本件発明の作用効果
本件発明の導光板は,α 少なくとも一端面から光源からの光が入射する透 明な板状体の裏面に設けられた回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅 /非格子部幅の比の少なくとも1つが,上記導光板の表面における輝度が増大し,\nかつ均一化されるように変化せしめられているので,光の波長に比べて寸法が大き く互いに協同することなく個別に光を幾何光学的に全反射する従来の導光板裏面のプリズムと異なり,ミクロン単位の互いに隣接する微細な格子が協同,相乗して波動 としての光を格段に強く回折できるうえ,β 上記一端面から離れて光源から届く光 量が減じるほど,光をより強く回折するように上記断面形状または単位幅における 格子部幅/非格子部幅の比が調整されているので,導光板の表面は高輝度で非常に\n均一に照らされる。 したがって,γ この導光板を電池で駆動される液晶表示装置,液晶テレビ,非常口 を表示する発光誘導板などに適用すれば,従来に比して格段に少ない消費電力で明\nるく均一な照明を得ることができ,光源および電池の寿命を延ばし,長期使用を可 能にすることができる(【0009】,【0023】)
(エ) もっとも,本件の場合,本件明細書に従来技術が解決できなかった課 題として記載されているところは,以下のとおり,出願時の従来技術に照らして客 観的に見て不十分なものと認められる。
a 導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは光量が減るとの課題(上記(ア)1))を,導光板の裏面に回折格子を設け,回折現象を利用して解決する構成(上記(イ)の(a),上記(ウ)α)について
本件明細書では,導光板の従来技術として,プリズムによる全反射を利用したもののみが記載され,回折現象は今まで導光板に用いられることがなかった と記載されている。 しかし,原告は平成6年3月11日に自ら,発明の名称を「回折格子を利用した バックライト導光板」とし,特許請求の範囲(請求項1)を「成形加工及び印刷 (転写を含む)された回折格子を裏面に有する事を特徴とするプラスチック製のバ ックライト導光板。なをここで裏面とは,液晶面と反対側の面と定義する。」とする 特許の出願をし,その明細書では,【課題を解決するための手段】の項において, 「導光板裏面に光と干渉する程度に微細なスリット形状を成形加工ないし印刷(転 写を含む)し,この反射格子により導光板の一端から入射する光を液晶面側に回折 させる。」(【0006】)と記載し,【発明の効果】の項において,この発明によれば蛍光管からの光を回折格子という極小単位の形状(格子スリットのピッチがサブミ クロンから数十ミクロン)の大きさのものの作用により,導光板面を均一に輝らす\n事ができるので,従来からのドット印刷や全反射を利用した導光板裏面加工による 方式に比較して,格段の面輝度とその均一性が可能になる。」(【0017】)と記載\nしていた(特願平6−79172)(乙10,20)。そして,これは本件発明の構\n成要件Aと同じ構成を備えた発明と認められる。\nまた,前記1で技術的意義等を認定した乙8発明も,回折格子の種類は同じとは 認められないものの,導光板の裏面に回折格子を設け,回折現象を利用して光量の 増大を図る発明である(乙8発明のようないわゆる拡大先願発明も参酌すべきこと は後記のとおりである。)。 以上より,導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは光量が減ると の課題は,本件特許の出願日において,本件発明と同じく導光板の裏面に回折格子 を設け,回折現象を利用することによって既に解決されている課題であったと認め られる。
b 導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは照光面に極 端な明暗のコントラストが生じるとの課題(上記(ア)1))を,回折格子の断面形状ま たは単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の少なくとも1つを,上記導光板の 表面における輝度が増大し,かつ均一化されるように変化させることにより解決す\nる構成(上記(イ)の(b),上記(ウ)β)について 先に争点2−2(前記1)について述べたとおり,乙8発明も,導光板 の裏面にホログラムの回折格子を設け,回折現象を利用するものであり,かつ,本 件発明の構成要件Bと同一の構\成を備え,それにより,導光板の表面から出射する\n光を効率よく,また,面内で均一に出射されるようにするものである。もっとも, この乙8発明に係る特許の出願日は平成7年10月27日であり,本件特許の出願 よりも前に出願されたものであるが,乙8発明に係る特許について出願公開がされ たのは平成9年5月16日であり(乙8),本件特許の出願後であるから,乙8発明 はいわゆる拡大先願発明に該当するにすぎない。しかし,特許法29条の2は,特 許出願に係る発明が拡大先願発明と同一の発明である場合を特許要件を欠くものとしているところ,その趣旨の中には,先願の明細書等に記載されている発明は,出 願公開等により一般にその内容が公表されるから,たとえ先願が出願公開等をされ\nる前に出願された後願であっても,その内容が先願と同一内容の発明である以上, さらに新しい技術を公開するものではなく,そのような発明に特許権を与えること は,新しい発明の公開の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみ て妥当でないとの点がある。このように特許法が,先願の明細書等に記載された発 明との関係で新しい技術を公開するものでない発明を特許権による保護の対象から 外している法意からすると,均等侵害の成否の判断のために発明の本質的部分とし て従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を認定するに当た\nっては,拡大先願発明も参酌すべきものと解するのが相当である。 そうすると,導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは照光面に極 端な明暗のコントラストが生じるとの課題は,本件特許の出願日において,回折格 子として刻線溝又はエンボス型のホログラムを用いるか体積・位相型のホログラム を用いるかの違いがあるとはいえ,本件発明と同じく,回折格子の単位幅における 格子部幅/非格子部幅の比を,導光板の表面における輝度が増大し,かつ均一化されるように変化させることによって既に解決されている課題であったと認められる。\n
c そして,本件発明の,少ない消費電力で明るく均一な照明を得るこ とができないとの課題(上記(ア)2))は,上記a及びbで述べた課題が解決されるこ とに伴い解決されるものである(上記(ウ)γ)から,やはり既に解決されている課題 であったと認められる。
d 以上からすると,本件発明が課題とするところは,いずれも本件特 許の出願時の従来技術によって,同様の解決原理によって解決されていたといえる。 本件発明がそれらの従来技術と異なる点は,回折格子の単位幅における格子部幅/ 非格子部幅の比を,導光板の表面における輝度が増大し,かつ均一化されるように変化させることについて,体積・位相型のホログラムではなく,刻線溝又はエンボ\nス型のホログラムを用いた点にあるが,回折格子としては後者の方がむしろ通常で あること(前記1(4)ウ(ア),(エ),(オ))からすると,本件発明の従来技術に対する 貢献の程度は大きくないというべきである。
ウ 以上よりすれば,本件発明の本質的部分については,特許請求の範囲の 記載とほぼ同義のものとして認定するのが相当である。 この点について,原告は,本件発明の本質的部分は,光の波動の性質に基づく回 折現象を利用して,回折格子の断面形状又は単位幅における格子部幅/非格子部幅 の比に着目した点にあると主張するが,これまで述べたことに照らして採用できな い。
エ そうすると,被告製品の導光板では,前記のとおり,微細構造体が回折\nされた光が進行する側に設けられていることから,構成要件Aでいうところの「表\ 面」に微細構造体が設けられ,光源からの光が「表\面」側に回折させられている。 したがって,被告製品の導光板は構成要件Aの「板状体の裏面に設けられた回折格\n子」という部分を充足していない。よって,被告製品が本件発明の本質的部分を備えているということはできず,本件発明と被告製品とは本質的部分において相違すると認められるから,被告製品は,均等の第1要件を充足しない。

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平成28(ワ)25956等  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年12月27日  東京地方裁判所(46部)

 SONY VS 富士フイルムの特許侵害事件です。サポート要件違反の無効理由があるとして104条の3の規定により、権利行使不能と判断されました。\n
 以上によれば,式(1)には上限値は定められておらず,下限値である2 30以上の数値の全てにわたり式(1)を満たすことになるにもかかわらず, 本件明細書記載の実施例において課題を解決できることが裏付けられるH c×(1+0.5×SFD)の範囲は,230.1〜245.8(又は24 7.5)に限られることになる。そして,本件明細書にはこの範囲よりも大 きい数値の磁気録媒体の記録電流値の裕度を大きくすることができること に関する記載はない。 これらによれば,式(1)には,Hc×(1+0.5×SFD)の値の上 限値がないところ,実施例で示されているのは前記の範囲であって,その値 が実施例で示されたものよりも大きくなった場合などを含めた,式(1)の 関係が満たされることとなる場合において,当業者が,前記の課題を解決で きると認識できたとはいえないとするのが相当である。
エ 更に,本件発明においては,Hcの上限値やSFDの下限値は定められて いないから,ΔH,ひいてはSFDの値を大きくせず,Hcの値を例えば2 30以上の数値にすると,SFDの値が実施例を大きく下回る場合も式(1) の関係を満たすこととなる。しかし,このように実施例を大きく下回るSF Dの値の場合に当業者が前記課題を解決できると認識できるとはいえない。 原告は,文献(乙9),実施例2及び実施例4の記載に接することで,SFD が実施例の数値を大きく下回るなどの場合でも,式(1)によって課題を解 決できると認識することできると主張するが,式(1)の技術的意義,実施 例が示す範囲や本件明細書の記載は前記のとおりであり,採用することがで きない。
オ したがって,当業者は,本件明細書の記載から,式(1)によって記録電 流値の裕度を確保するという課題を解決できると認識できるとはいえず,ま た,本件出願当時の技術常識から,上記課題を解決できると認識できるとも いえない。 以上によれば,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が,本件明細書の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである とはいえず,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照 らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえな いから,本件発明にはいわゆるサポート要件違反がある。
3 本件訂正発明によるサポート要件違反の解消の有無について(争点 )
原告は,本件訂正によって,いわゆるサポート要件違反が解消したと主張す るので,以下,この点について検討する。
訂正事項1−1は,保持力Hcを210以上,221以下とするものである (構成要件F2)。
前記2 アのとおり,式(1)について,磁気記録媒体の技術分野で広く 知られている式であることを認めるに足りる証拠はなく,本件明細書におい て,式(1)の意義に関する記載はない。また,同イのとおり,原告の主張 は,式(1)の意義に関して,オーバーカレント状態において,磁性粒子自 体のHcのばらつきが大きくなることによって,そのばらつきが大きくない 場合に比べ,再生出力が大きくなり記録電流値の裕度が大きくなることをい うものといえるが,本件明細書にそのことを述べる記載がなく,また,本件 出願当時,当業者にとってそのことが技術常識であったことを認めるに足り る証拠はない。
イ 本件明細書をみると,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記2 アの とおり,実施例1ないし4及び比較例1及び2の数値が記載されている。 そして,Hcが210以上という本件訂正事項1−1によって,実施例2 は本件訂正発明の実施例でなくなる。したがって,実施例は,実施例3及び 実施例4のみであり,また,前記2 のとおり,「最適記録電流」の点から 実施例3が実施例とならないとすると,実施例は,実施例4のみとなる。 そうすると,式(1)には上限値は定められておらず,下限値である23 0以上の数値の全てにわたり式(1)を満たすことになるにもかかわらず, 本件明細書記載の実施例において課題を解決できることが裏付けられるH c×(1+0.5×SFD)の数値(範囲)は,245.8(又は245. 8〜247.5)に限られることになる。そして,本件明細書にはこの数値 (範囲)よりも大きい数値の磁気録媒体の記録電流値の裕度を確保すること ができることに関する記載はない。
 これらによれば,式(1)には,Hc×(1+0.5×SFD)の値の上 限値がないところ,実施例で示されているのは前記の数値(範囲)であり, その値が実施例で示されたものよりも大きくなった場合なども含めた,式 (1)の関係が満たされるといえる場合において,当業者が,前記の課題を 解決できると認識することができたとはいえないとするのが相当である。
ウ 更に,本件訂正発明においては,Hcの上限値は定められたが,SFDの 下限値は定められていない。そして,例えば,Hcが上限値である221の 場合,SFDが0.082であっても,式(1)を満たすこととなるが,実 施例4のSFDは0.341であり,実施例よりも大幅に小さいSFDの値 の場合に,当業者が前記の課題を解決できると認識できたとはいえない。被告は,上記のような場合でも,文献(乙9),実施例2及び実施例4の記載に 接することで,式(1)によって課題を解決できると認識することできると 主張するが,式(1)の技術的意義,実施例が示す範囲や本件明細書の記載 は前記のとおりであり,採用することができない。 以上によれば,当業者は,本件訂正後も,本件明細書の記載から,式(1) によって記録電流値の裕度を確保するという課題を解決できると認識できる とはいえず,また,本件出願当時の技術常識から,上記課題を解決できると認 識できるともいえない。
そうすると,本件特許には特許法123条1項4号の事由があり(前記2), 本件訂正によってもその事由が解消したとは認められないから,本件訂正請求 が訂正要件を満たすか(争点 )など,その他の争点を検討するまでもな く,原告は,特許法104条の3第1項により,本件特許権を行使することが できない。

◆判決本文

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平成29(ネ)10086  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年12月18日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審は無効理由ありとして権利行使を認めませんでした(特104条の3)(口頭弁論終結H29/6/20)。この1審判決の少し前に、併存していた無効審判について請求理由なしとの審決がなされました(H29/4/18)。1審原告は、知財高裁に控訴しました。知財高裁は無効審判での証拠については、一事不再理の証拠なので、採用できないとして、技術的範囲に属するとの判断をしました。
 無効理由1は,本件無効審判請求と同じく,乙24公報に記載の主引 例と乙25〜31の1公報に記載の副引例ないし周知技術に基づいて進 歩性欠如の主張をしたものであるから,無効理由1は本件無効審判請求 と「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものといえる。そして,本件 審決は確定したから,被控訴人は無効理由1に基づいて本件特許の特許 無効審判を請求することができない(特許法167条)。 特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に 基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は,同一の当事者 間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ, その趣旨は,無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものでは ない。そうすると,侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い,審決取消訴 訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には,同一当事者間 の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法 104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは,特段 の事情がない限り,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2 条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。 そして,本件において上記特段の事情があることはうかがわれないか ら,被控訴人が本件訴訟において特許無効の抗弁として無効理由1を主 張することは許されない。
イ 被控訴人は,特許法104条の3第1項の適用がないとしても,本件 特許は無効理由1により無効にされるべきものであるから,本件特許権 の行使は衡平の理念に反するし,いわゆるキルビー判決は,特許権を対 世的に無効にする手続から当事者を解放した上で衡平の理念を実現する というものであるから,控訴人が被控訴人に対し,本件特許権を行使す ることは権利の濫用として許されないと主張する。 しかし,被控訴人は,本件訴訟と同一の当事者間において特許権を対 世的に無効にすべく無効理由1に基づく無効審判請求を行い,それに対 する判断としての本件審決が当事者間で確定し,上記アのとおり,無効 理由1に基づいて特許法104条の3第1項による特許無効の抗弁を主 張することが許されないのであるから,本件において,控訴人が被控訴 人に対して本件特許権を行使することが衡平の理念に反するとはいえず, 権利の濫用であると解する余地はない。
(3) 無効理由2について
 無効理由2は,無効理由1と主引例が共通であり,本件審決にいう相違 点1A及び相違点2Aについて,「生体に印加する直流電源に太陽電池を 用いること」が周知技術である,あるいは,副引例として適用できること を補充するために,新たな証拠(乙44公報及び乙45公報)を追加した ものといえる。 本件審決は,相違点1B及び相違点2Bに係る構成の容易想到性を否定\nし,相違点1A及び相違点2Aについては判断していないのであるから, 被控訴人が相違点1A及び相違点2Aに関する新たな証拠を追加したとし ても,相違点1B及び相違点2Bに関する判断に影響するものではない。 そうすると,無効理由2は,新たな証拠(乙44公報及び乙45公報)が 追加されたものであるものの,相違点1B及び相違点2Bの容易想到性に 関する被控訴人の主張を排斥した本件審決の判断に対し,その判断を蒸し 返す趣旨のものにほかならず,実質的に「同一の事実及び同一の証拠」に 基づく無効主張であるというべきである。したがって,本件審決が確定し た以上,被控訴人は無効理由2に基づく特許無効審判を請求することがで きない。 そうすると,無効理由2についても上記(2)アにおいて説示したところ が妥当するから,被控訴人が本件訴訟において無効理由2に基づき特許無 効の抗弁を主張することは許されないものというべきである。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成28(ワ)4167

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