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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

104条の3

平成27(ワ)23087  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年12月6日  東京地方裁判所

 医薬品について、薬理データが記載されていないとして、実施可能性違反、サポート要件違反で無効と判断されました。\n
 特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は「その発明 の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることが できる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めると\nころ,この規定にいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明にかか る物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,\n明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が当該発明に係る物を生産し, 使用することができる程度のものでなければならない。 そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示さ\nれることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効 量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができ\nないから,医薬の用途発明において実施可能要件を満たすためには,明細書\nの発明の詳細な説明は,その医薬を製造することができるだけでなく,出願 時の技術常識に照らして,医薬としての有用性を当業者が理解できるように 記載される必要がある。
(2) 本件の検討
本件についてこれをみるに,本件発明1では,式(I)のRAが−NHC O−(アミド結合)を有する構成(構\成要件B)を有するものであるところ, そのようなRAを有する化合物で本件明細書に記載されているものは,「化 合物C−71」(本件明細書214頁)のみである。そして,本件発明1は インテグラーゼ阻害剤(構成要件H)としてインテグラーゼ阻害活性を有す\nるものとされているところ,「化合物C−71」がインテグラーゼ阻害活性 を有することを示す具体的な薬理データ等は本件明細書に存在しないことに ついては,当事者間に争いがない。 したがって,本件明細書の記載は,医薬としての有用性を当業者が理解で きるように記載されたものではなく,その実施をすることができる程度に明 確かつ十分に記載されたものではないというべきであり,以下に判示すると\nおり,本件出願(平成14年(2002年)8月8日。なお,特許法41条 2項は同法36条を引用していない。)当時の技術常識及び本件明細書の記 載を参酌しても,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業 者が理解し得たということもできない。
・・・
すなわち,上記各文献からうかがわれる本件優先日当時の技術常識と しては,ある種の化合物(ヒドロキシル化芳香族化合物等)がインテグ ラーゼ阻害活性を示すのは,同化合物がキレーター構造を有しているこ\nとが理由となっている可能性があるという程度の認識にとどまり,具体\n的にどのようなキレーター構造を備えた化合物がインテグラーゼ阻害活\n性を有するのか,また当該化合物がどのように作用してインテグラーゼ 活性が阻害されるのかについての技術常識が存在したと認めるに足りる 証拠はない。
・・・
以上の認定は本件優先日当時の技術常識に係るものであるが,その ほぼ1年後の本件出願時にこれと異なる技術常識が存在したことを認め るに足りる証拠はなく,本件出願当時における技術常識はこれと同様と 認められる。このことに加え,そもそも本件明細書には,本件特許化合 物を含めた本件発明化合物がインテグラーゼの活性部位に存在する二つ の金属イオンに配位結合することによりインテグラーゼ活性を阻害する 2核架橋型3座配位子(2メタルキレーター)タイプの阻害剤であると の記載はないことや,本件特許化合物がキレート構造を有していたとし\nても,本件出願当時インテグラーゼ阻害活性を有するとされていたヒド ロキシル化芳香族化合物等とは異なる化合物であることなどに照らすと, 本件明細書に接した当業者が,本件明細書に開示された種々の本件発明 化合物が,背面の環状構造により配位原子が同方向に連立した2核架橋\n型3座配位子構造(2メタルキレーター構\造)と末端に環構造を有する\n置換基とを特徴として,インテグラーゼの活性中心に存在する二つの金 属イオンに配位結合する化合物であると認識したと認めることはできな い。 以上によれば,本件出願当時の技術常識及び本件明細書の記載を参酌して も,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業者が理解し得 たということもできない。 したがって,本件明細書の記載は本件発明1を当業者が実施できる程度に 明確かつ十分に記載したものではなく,本件発明1に係る特許は特許法36\n条4項1号の規定に違反してされたものであるので,本件発明1に係る特許 は特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきも のである。
3 争点(1)イ(イ)(サポート要件違反)について
上記2で説示したところに照らせば,本件明細書の発明の詳細な説明に本件 発明1が記載されているとはいえず,本件発明1に係る特許は特許法36条6 項1号の規定に違反してされたものというべきである。

◆判決本文

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平成28(ワ)14131  特許権侵害行為差止請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年9月28日  東京地方裁判所(47部)

 薬品について、無効理由ありとして権利行使不能と判断されました。争点は無効かどうかのみです。\n
 上記各記載によれば,乙15には,「ヒトにおいて乾癬を処置するために皮 膚に塗布するための混合物であって,1α,24-dihydroxycholecalciferol(タ カルシトール),及びBMV(ベタメタゾン吉草酸エステル),並びにワセリ ンとを含有する非水性混合物であり,皮膚に1日2回塗布するもの」が記載さ れていると認められる。 そして,本件発明12と上記の乙15発明とを対比すると,両発明は,「ヒ トの乾癬を処置するための皮膚用の医薬組成物であって,ビタミンD3の類似 体からなる第1の薬理学的活性成分A,及びベタメタゾンまたは薬学的に受容 可能なそのエステルからなる第2の薬理学的活性成分B,並びに少なくとも1\nつの薬学的に受容可能なキャリア,溶媒または希釈剤を含む,非水性医薬組成\n物であり,医学的有効量で局所適用されるもの」で一致し,前記第2,1(7)記 載の相違点1及び3において相違すると認められる(なお,相違点1及び3の 存在については,当事者間に争いがない。)。 なお,原告は,相違点2(本件発明12は非水性医薬組成物であるのに対し, 乙15発明は非水性組成物であるか定かではない点。)の存在を主張するが, 以下の理由により,相違点2の存在は認められない。 すなわち,乙15にはTV−02軟膏についてはワセリン基剤であることが 記載されている。軟膏は基剤に活性成分を混合分散させたものといえるが,ワ セリンは油脂性基剤であって,混和性の点から,ワセリンと水が併用されるこ とは考えにくい。また,乙15では,TV−02軟膏塗布と白色ワセリン塗布 とが比較され(432頁),D3+BMV混合物塗布とBMV+ワセリン混合 物塗布とが比較されており(431頁,433頁),通常,比較においては, 活性成分以外の条件は揃えるから,TV−02の基剤はワセリンであると考え られる。そうすると,TV−02軟膏に,水は基剤として添加されていないと 考えるのが自然であるし,TV−02軟膏と混合するBMV軟膏についても, 混和性の点から,油脂性基剤が使用され,水は基剤として添加されてはいない と考えるのが妥当である。したがって,乙15発明に係るTV−02軟膏とB MV軟膏の混合物(D3+BMV混合物)についても,水が基剤として添加さ れていないものと理解される(なお,仮に,相違点2を一応認定するとしても, それは実質的なものとはいえないから,当業者であれば,相違点2に係る構成\nは容易に想到できるものといえる。)。

◆判決本文

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平成27(ネ)10122  不当利得返還請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年8月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁3部は、特許権侵害について、特許無効と判断した1審判断を維持し、請求棄却しました。侵害事件と並行して、無効審判が請求されており、特許庁は審理の結果、無効予告をしました。特許権者は訂正をしましたが、訂正要件を満たしていないとして、最終的に無効と判断されました。これに対して、特許権者は、審取を提起しました。\n原審(侵害訴訟)でも、訂正要件を満たしていないと判断されてます。
 訂正前の「…前記第1の位相から調節できるように固定された第1 の量だけ転位させた第2の位相を有する第3のクロック信号…」の記載 によれば,「第2の位相」の「第1の位相」からの変位量(転位の量) は,第3のクロックが調節されたとしても,第1のクロックが同じ量 だけ調節されれば,変位量に変化がなく,このような調節も「固定」 に含まれると解される。 これに対し,訂正後の「…第2の位相の前記第1の値をもつ第1の位 相を基準とした変位量は,第1の位相が前記第1の値をもっている状態 において第3のクロック信号の調整がなされるまでの間,固定された第 1の量であり,前記変位量は,第3のクロック信号が調節されたときは 調節される…」との記載によれば,変位量は,第1のクロックの調節に よらず専ら第3のクロックの調節により調節され,第3のクロック信号 が調節されれば,仮に第1のクロックが同じ量だけ調節されたとしても 変化するように,「固定」の技術的意味を変更するものと理解される。
(エ) 以上より,訂正事項2は,特許請求の範囲の減縮を目的とするもの に当たらないとともに,不明瞭な記載の釈明又は誤記の訂正を目的と する訂正であるということもできない。 また,訂正事項2が,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当 該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものでな いことは明らかである。

◆判決本文

◆1審はこちらです。平成25(ワ)33706

◆対応の無効事件はこちらです。平成28(行ケ)10111

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平成29(ネ)10014  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年7月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 本件発明の「緩衝剤」は,添加したものに限られると判断して、技術的範囲に属しないと判断されました。  
 確かに,本件明細書の段落【0050】には「実施例18」との記載はあ るが,他方で,本件明細書における実施例18(b)に関する記載をみると,「比較 のために,例えば豪州国特許出願第29896/95号(1996年3月7日公開) に記載されているような水性オキサリプラチン組成物を,以下のように調製した」 (段落【0050】前段)と記載され,また,実施例18の安定性試験の結果を 示すに当たっては,「比較例18の安定性」との表題が付された上で,実施例1\n8(b)については「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」と表現されている\n(段落【0073】)。そして,豪州国特許出願第29896/95号(1996 年3月7日公開)は,乙4発明に対応する豪州国特許であり,同特許は水性オキサ リプラチン組成物に係る発明であって,本件明細書で従来技術として挙げられる もの(段落【0010】)にほかならない。 上記各記載を総合すると,実施例18(b)は,「実施例」という用語が用いら れているものの,その実質は本件発明の実施例ではなく,本件発明と比較するため に,「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」,すなわち,緩衝剤が用いられていな い従来既知の水性オキサリプラチン組成物を調製したものであると認めるのが相当

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成27(ワ)28467

以下は類似案件です。

◆平成27(ワ)12412号

◆被告の異なる事件です。

◆これの原審はこちらです。平成27(ワ)28698

◆被告の異なる事件です。平成27(ワ)29001

◆被告の異なる事件です。平成27(ワ)29158

◆被告の異なる事件です。平成27(ワ)28467

◆被告の異なる事件です。平成27(ワ)28698

◆被告の異なる事件です。平成27(ワ)29159

◆被告の異なる事件です。平成27(ワ)12412

◆被告の異なる控訴審事件です。平成28(ネ)10046

こちらは、結論は非侵害で同じですが、1審では技術的範囲に属すると判断されましたので、それが取り消されています。また、控訴審における追加主張は時期に後れた抗弁として、却下されてます。

◆平成28(ネ)10031

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平成29(ネ)10009等  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年7月12日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁(3部)は、1審の判断(「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まない)を維持し、控訴棄却しました。
 本件発明1の構成要件1C(オキサリプラティヌムの水溶液からなり)\nが,オキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であることを意味するの か,オキサリプラティヌムと水からなる水溶液であれば足り,他の添加剤等 の成分が含まれる場合をも包含するのかについては,特許請求の範囲の記載 自体からは,いずれの解釈も可能である。そこで,この点については,本件\n明細書1の記載及び本件特許1の出願経過を参酌して判断することとする。
・・・
前記アの本件明細書1の記載によれば,オキサリプラティヌムは,種々 の型の癌の治療に使用し得る公知の細胞増殖抑制性抗新生物薬であり,本 件発明1は,オキサリプラティヌムの凍結乾燥物と同等な化学的純度及び 治療活性を示すオキサリプラティヌム水溶液を得ることを目的とする発明 である。そして,本件明細書1には,オキサリプラティヌム水溶液におい て,有効成分の濃度とpHを限定された範囲内に特定することと併せて, 「酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まない オキサリプラティヌム水溶液」を用いることにより,本件発明1の目的を 達成できることが記載され,「この製剤は他の成分を含まず,原則とし て,約2%を超える不純物を含んではならない」との記載も認められる。 他方で,本件明細書1には,「該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤, 緩衝剤もしくはその他の添加剤」を含有する場合に生じる不都合について の記載はなく,実施例においても,添加剤の有無についての具体的条件は 示されておらず,これらの添加剤を入れた比較例についての記載もない。
しかしながら,前記イの出願経過において控訴人が提出した本件意見書 には,本件発明1の目的が,「オキサリプラティヌム水溶液を安定な製剤 で得ること」及び「該製剤のpHが4.5〜6であること」に加えて, 「該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加 剤を含まないこと」にあること,さらに,水溶液のpHが該溶液に固有の ものであって,オキサリプラティヌムの水溶液の濃度にのみ依存するこ と,オキサリプラティヌムの性質上,本件発明1の構成においてのみ,\n「安定な水溶液」を得られることがわざわざ明記され,これらの記載を受 けて,審査官が拒絶理由通知の根拠とする引用文献1ないし3では,その ような「安定な水溶液」は得られないこと,すなわち,緩衝剤を含む凍結 乾燥物やクエン酸を含む水溶液では,「オキサリプラティヌムの安定な水 溶液」を得ることは困難である旨が具体的に説明されている。 その上で,本件意見書は,本件発明1が特許法29条2項に該当しない との結論を導いて審査官に再考を求めているのであり,その結果として控 訴人は,本件特許1の特許査定を受けているのである。 以上のような本件明細書1の記載及び本件特許1の出願経過を総合的に みれば,本件発明1は,公知の有効成分である「オキサリプラティヌム」 について,直ぐ使用でき,承認された基準に従って許容可能な期間医薬的\nに安定であり,凍結乾燥物を再構成して得られる物と同等の化学的純度及\nび治療活性を示す,オキサリプラティヌム注射液を得ることを課題とし, その解決手段として,オキサリプラティヌムを1〜5mg/mlの範囲の 濃度と4.5〜6の範囲のpHで水に溶解することを示すものであるが, 更に加えて,「該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくは その他の添加剤を含まない」ことをも同等の解決手段として示すものであ ると認めることができる。 してみると,本件発明1の特許請求の範囲における「オキサリプラティ ヌムの水溶液からなり」(構成要件1C)とは,本件発明1がオキサリプ\nラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含ま ないものであることを意味すると解するのが相当である。

◆判決本文

◆1審はこちらです。

関連事件(同一特許、異被告)です。

◆平成27(ワ)28699等

◆平成27(ワ)29001

◆平成27(ワ)29158

同一特許の別訴事件で、1審(平成27(ワ)12416号)では技術的範囲内と判断されましたが、知財高裁はこれを取り消しました。

◆平成28(ネ)10031

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平成28(受)632  特許権侵害差止等請求事件 平成29年7月10日  最高裁判所第二小法廷  判決  棄却  知的財産高等裁判所

 最高裁(第2小法廷)判決です。特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に特許法104条の4第3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことはできないと判断されました。本件については、別途無効審判が継続(審取中を含む)しており、法上、訂正審判の請求ができなかったという特殊事情があります。この点については、訂正審判を請求しなくても、訂正の抗弁まで禁止されていたわけではないと判断されました。
 特許権侵害訴訟の終局判決の確定前であっても,特許権者が,事実審の 口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂 正審決等の確定を理由として事実審の判断を争うことを許すことは,終局判決に対 する再審の訴えにおいて訂正審決等が確定したことを主張することを認める場合と 同様に,事実審における審理及び判断を全てやり直すことを認めるに等しいといえ る。 そうすると,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張し なかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判 断を争うことは,訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえ るだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させ るものとして,特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許 されないものというべきである。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,上告人は,原審の 口頭弁論終結時までに,原審において主張された本件無効の抗弁に対する訂正の再 抗弁を主張しなかったものである。そして,上告人は,その時までに,本件無効の 抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判の請求又は訂正の請 求をすることが法律上できなかったものである。しかしながら,それが,原審で新 たに主張された本件無効の抗弁に係る無効理由とは別の無効理由に係る別件審決に 対する審決取消訴訟が既に係属中であることから別件審決が確定していなかったた めであるなどの前記1(5)の事情の下では,本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁 を主張するために現にこれらの請求をしている必要はないというべきであるから, これをもって,上告人が原審において本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張 することができなかったとはいえず,その他上告人において訂正の再抗弁を主張し なかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれない。

◆判決本文

◆1審はこちら。平成25(ワ)32665

◆2審はこちら。平成26(ネ)10124

◆無効審判の取消訴訟はこちら。平成26(行ケ)10198

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平成28(ネ)10047  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年10月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 少し前の事件ですが、漏れていたのでアップします。特許侵害事件において、無効理由無かつ技術的範囲に属するとした1審判断を維持しました。同一特許に係る審決取消請求事件の判決の理由中の判断は,侵害訴訟における技術的範囲の確定に対して拘束力を持たないとも言及しました。
 ところで,特許発明の技術的範囲の確定の場面におけるクレーム解釈と,当該特 許の新規性,進歩性等を判断する前提としての発明の要旨認定の場面におけるクレ ーム解釈とは整合するのが望ましいところ,確かに,本件特許2に係る審決取消請 求事件の判決(甲12)には,控訴人が指摘するとおり,「本件特許発明2は,ケ ーブルコネクタの回転のみによって,すなわち,ケーブルコネクタとレセプタクル コネクタ間のスライドなどによる相対位置の変化なしに,ロック突部の最後方位置 が突出部に対して位置変化を起こす構成に限定されていると解される。」旨の記載\nがある(39頁)。しかし,上記判決は,主引用例(本件における乙3)の嵌合過 程について,「…肩部56で形成される溝部49の底面に回転中心突起53が当た り,ここで停止する状態となる。…この状態で相手コネクタ33を回転させるので はなく,回転中心突起53を肩部56に沿って動かすことで,相手コネクタ33を コネクタ31に対してコネクタ突合方向のケーブル44側にずらした状態にして, 相手コネクタ33をコネクタ突合方向に直交する溝部方向に動かすことができない ようにし,その後,回転中心突起53を中心に相手コネクタ33を回転させている」 (36〜37頁)との認定を前提に,本件特許発明2と乙3発明とを対比するに当 たり,乙3発明には,「回転によって,回転中心突起53の最後方位置が回転前に 比較して後方に位置するという技術思想が記載されているとはいえない」,「回転 中心突起53の上方に肩部56の上面が位置するように,相手コネクタ33が傾斜 している状態で肩部56の前側から後側(ケーブル側)へ回転中心突起53を移動 させているものであって,相手コネクタ33の回転により回転中心突起56の最後 方位置が後方(ケーブル側)へ移動するものではない」(38頁)として,乙3発 明は,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケー ブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位 置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に 位置するものではないという点において,本件特許発明2と相違する。」旨認定し ている(38頁)。上記のように,乙3発明においては,ロック突部の突部後縁の 最後方位置の変化に,ケーブルコネクタの上向き傾斜姿勢からコネクタ嵌合終了姿 勢への回転を伴う姿勢の変化が関係していないこと(「回転によって,回転中心突 起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置するという技術思想が記載され ているとはいえない」こと)に照らせば,本件特許発明2と乙3発明とが相違する ことを認定するについては,本件特許発明2におけるロック突部の突部後縁の最後 方位置の変化が,ケーブルコネクタの上向き傾斜姿勢からコネクタ嵌合終了姿勢へ の回転を伴う姿勢の変化によって生じるものであれば足り,「回転のみによって」 生じること,言い換えれば,ケーブルコネクタを上向き傾斜姿勢からコネクタ嵌合 終了姿勢へと変化させる際に,姿勢方向を回転させることに伴って生じる「ケーブ ルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対位置の変位」が一 切あってはならないことを要するものではないというべきである。なお,同一特許 に係る審決取消請求事件の判決の理由中の判断は,侵害訴訟における技術的範囲の 確定に対して拘束力を持つものではない。 したがって,控訴人の上記限定解釈に係る主張は,理由がない。
(イ) 控訴人は,被控訴人が,特許の無効を回避するために,自ら,「本件特許 発明2は,「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が,「ケーブルコネクタが上向 き傾斜姿勢にあるとき」はロック溝部の溝部後縁から溝内方に突出する突出部の最 前方位置よりも前方に位置し,また,「ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢 にあるとき」は上記突出部の最前方位置よりも後方に位置することを規定している」 旨構成要件e及びfを限定解釈すべきことを主張しているのであるから,その技術\n的範囲の解釈に際しては,被控訴人の上記主張が前提にされるべきである旨主張す る。 しかし,特許発明の技術的範囲を解釈するについて,相手方の無効主張に対する 反論として述べた当事者の主張は,必ずしも裁判所の判断を拘束するものではない。 そして,本件特許発明2に係る特許請求の範囲には,控訴人が主張するような限 定は規定されていないし,前記(1)イ記載の本件特許発明2の課題及び作用効果は, ロック突部の突部後縁の最後方位置が,ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にある とき,すなわち,コネクタ嵌合終了姿勢に至る前は,常にロック溝部の溝部後縁か ら溝内方に突出する突出部の最前方位置よりも前方に位置しているのでなければ奏 し得ないというものではない。また,そもそも,本件明細書2には,本件特許発明 2に係る実施例の嵌合動作について,「ロック突部21’の下部傾斜部21’B− 2が,ロック溝部57’の後縁突出部59’Bの位置まで達すると,該後縁突出部 59’Bに対して下部傾斜部21’B−2が該後縁突出部59’Bの下方に向けて 滑動しながらケーブルコネクタ10はその前端が時計方向に回転して水平姿勢とな って嵌合終了の姿勢に至る。」(【0053】)と記載されているように,ケーブ ルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるときであっても,嵌合終了姿勢(水平姿勢)に 近づくと,ロック突部の突部後縁の最後方位置が,ロック溝部の溝部後縁から溝内 方に突出する突出部の最前方位置よりも後方に位置することが開示されているとい えるから,構成要件eを,「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるときは,ロ\nック突部の突部後縁の最後方位置が,ロック溝部の溝部後縁から溝内方に突出する 突出部の最前方位置よりも前方に位置する」ことを規定したものと解釈することは, 誤りである。
・・・・・
 ア 控訴人の明確性要件違反並びに新規性及び進歩性欠如に係る主張は,控訴人 が請求した無効審判請求(無効2014−800015)と同一の事実及び同一の 証拠に基づくものであるところ,上記無効審判請求については,請求不成立審決が, 既に確定した(甲8,12)。したがって,控訴人において,本件特許2が,上記 明確性要件違反並びに新規性及び進歩性の欠如を理由として,特許無効審判により 無効にされるべきものと主張することは,紛争の蒸し返しに当たり,訴訟上の信義 則によって,許されない(同法167条,104条の3第1項)。
イ なお,控訴人は,本件特許発明2が「ケーブルコネクタの回転のみによって, すなわち,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対 位置の変化なしに,ロック突部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構\n成に限定されている」ものと解釈されないとすれば,本件特許発明2は進歩性を欠 く旨主張する。 しかし,本件特許発明2の要旨を上記のように限定的に認定しない場合であって も,乙3発明における嵌合動作は,相手コネクタ33の回転中心突起53をコネク タ31の溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入し,次いで,回転中心突起5 3を肩部56に沿って動かし,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56 のケーブル44側に当接している状態にして,その後,回転中心突起53を中心に 相手コネクタ33を回転させ,嵌合終了姿勢に至るというものであり,本件特許発 明2と乙3発明とは,本件特許発明2では,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブル コネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき, 上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌合 終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し」ているのに対し,乙3発明では,コ ネクタ嵌合過程にて相手コネクタ33の前端がもち上がって該相手コネクタ33が 上向き傾斜姿勢にあるときのうち,少なくとも,コネクタ突合方向のケーブル44 側の端までずらした状態で回転中心突起53を中心に相手コネクタ33を回転させ るとき,回転中心突起の突部後縁の最後方位置が,相手コネクタ33がコネクタ嵌 合終了姿勢にあるときと同一の地点に位置している点,すなわち構成要件eの点で\n相違する。そして,乙3には,乙3発明の上記嵌合動作に関し,回転によって,回 転中心突起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置するという技術的思想 が記載されているとはいえず(甲12・38頁),また,乙3発明と乙7ないし1 0に記載された各コネクタとでは,その構造や形状が大きく異なるから,乙3発明\nにおいて,上記各コネクタの嵌合過程における突起部と突出部との位置関係を適用 しようとする動機付けがあるということはできないし,仮に適用を試みたとしても, 乙3発明において,上記相違点に係る本件特許発明2の構成を備えることが容易に\n想到できたとは認められない。

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◆原審はこちら。平成26(ワ)14006

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平成29(ネ)10005  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年6月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 被告製品が構成要件「加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも柔軟な」を充足するかが争われました。知財高裁(4部)は、1審同様、充足しないと判断しました。
本件各発明は,メラミン系樹脂発泡体からなる清掃具における「折り畳み可能な\n清掃具の変形能や,清掃対象面の形態に応じて変形可能\な清掃具の柔軟性等」が乏 しいという課題(【0006】)を解決することを目的とするものであり,その効 果は,「捩じり又は絞ったり,或いは,手指の動きに応じて多様な清掃対象物の汚 れを拭き取るといった布雑巾的な用法で使用可能な」ものを提供する(【0011】)\nというものであることからも,本件各発明における圧縮・加熱の工程を経たメラミ ン系樹脂発泡体が,加熱前のメラミン系樹脂発泡体「よりも柔軟な」ものになった ということは,圧縮・加熱前よりも,容易に折り畳みが可能で,清掃対象面の形態\nに応じて変形することができるようになったことを意味するということができる。 よって,本件各発明における「柔軟な」とは,容易に折り畳んだり,変形させた りできることを意味するものと認めることが相当である。
・・・
圧縮前後のメラミン系樹脂発泡体のサンプル平均を比較すると,甲45試験では, 圧縮前後の荷重の差は2.3Nであり,圧縮後のメラミン系樹脂発泡体の方が圧縮 前のものよりも,約5分の1の力で10mmたわんだとの結果になっている。しか しながら,乙11試験では,メラミン系樹脂発泡体の10mmたわみ時の荷重の圧 縮前後の差は0.06Nで,圧縮後の方がより弱い力でたわんだとの結果になって いるものの,約15%弱い力にすぎず,乙34試験では,その差は0.03Nとさ らに小さく,圧縮後の方が約5%弱い力でたわんだとの結果にとどまる。甲45試 験と,乙11試験,乙34試験の試験結果は,同一の試験機関によるものであると ころ,各試験で用いられた試料の圧縮の程度に差があることを考慮したとしても, 大きく異なるといわざるを得ないが,甲45,乙11,乙34の各報告書中には, これら試験結果に大きな差が生じ得たと考えられるような条件の記載はない。 圧縮後のメラミン系樹脂発泡体における10mmたわみ時荷重の平均値は,甲4 5試験において0.60N,乙11試験において0.41N,乙34試験において 0.62Nで,特に,甲45試験と乙34試験の数値は極めて近い。ところが,圧 縮前のものについての同数値は,乙11試験では0.47N,乙34試験では0. 65Nなのに対し,甲45試験では,2.90Nとされており,乙11,乙34の 各試験結果とは2.0N以上,約4倍の差となっているのであって,圧縮の条件等 による差が考えられない圧縮前の数値についてのみ,このような顕著な差があるこ とについて,合理的に理解することは困難といわざるを得ない。乙34報告書によ れば,厚さ40mmのメラミン系樹脂発泡体を10mmに圧縮したものについての 10mmたわみ時荷重は平均2.8N(サンプル数5)で,甲45試験と極めて近 接した数値となっていることも勘案すると,甲45試験の結果をもって,圧縮後の 方が「柔軟」になったと認定することはできない。

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◆1審はこちらです。平成27年(ワ)第9891号

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平成28(ネ)10083  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年5月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は特許権侵害を認め、無効理由無しと判断しましたが、知財高裁(2部)はこれを取り消しました。結論が変わったのは、引用文献の認定により進歩性欠如です。
(1) 相違点の認定について
被控訴人らは,乙1公報には「治療用マーカー」について何らの記載も示唆もな いから,本件発明が「治療用マーカー」であるのに対し,乙1発明は「治療用マー カー」ではない点も相違点として認定すべきである,と主張する。 しかし,前記1(2)ウのとおり,乙1発明は,皮膚用の入れ墨転写シールを含めた 各種用途の転写シールである。乙1公報には,乙1発明の転写シールが治療用マー カーに用いられることは明示されていないものの,皮膚用の入れ墨転写シールの用 途については限定を設けていないから,乙1発明が治療用マーカーではないとはい えない。本件発明と乙1発明との相違点4として,「本件発明が治療用マーカーであ るのに対し,乙1発明では皮膚用の入れ墨転写シールを含めた各種用途の転写シー ルである点」と認定するのが相当である。
(2) 相違点1,2及び4の判断について
被控訴人らは,乙9発明の「台紙」は「基材」と訳されるべきものであり,患者 の皮膚に接触したままにされるから,治療用の目印となるインク層を皮膚に接着さ せた後すぐに皮膚から剥がされることになる本件発明の「基台紙」とは,構造を全\nく異にし,乙1発明に乙9発明を組み合わせたとしても,本件発明との相違点4に 係る構成に想到するのは容易ではなく,また,乙9発明には「基台紙」がないから,\n乙1発明に乙9発明を組み合わせても,インク層と同一のマークを基台紙に印刷す ることを容易に想到できない,と主張する。 しかし,前記1(4)イ,ウのとおり,乙9発明の装置は,被控訴人ら主張のとおり, 「台紙」を患者の皮膚に接触したままにしておく使用方法もあるが,「台紙」が剥が れた場合のことをも想定しており,「台紙」が剥がれた場合には,「台紙」は,本件 発明において同じく皮膚から剥がされる「基台紙」と同様の機能を有するというこ\nとができる。したがって,乙9発明の「substrate」を「台紙」と訳すこ とは誤りとはいえず,また,本件発明との相違点1,2及び4についての容易想到 性についての被控訴人らの上記主張を採用することはできない。 (3) 相違点3の判断について
ア 被控訴人らは,乙1発明は,「水転写タイプ」を含む従来の入れ墨転写シ ールの課題を解決するために,「粘着転写タイプ」のシールを記載したものであって, 「水転写タイプ」を動機付けるものではなく,むしろ「水転写タイプ」を不具合あ るものとして排除している,と主張する。 しかし,乙1文献に明示的に記載されている実施例は「粘着転写タイプ」である ものの,「粘着転写タイプ」と「水転写タイプ」との違いは,セパレーターを取り除 いた後に,転写シールの粘着層をそのまま皮膚に貼り付けるか,転写シールを水で\n湿してから皮膚に押さえ付けるかの点にある(乙3)にすぎないから,乙1文献記 載の従来技術の問題点である「絵柄がひび割れる,剥離が困難」といった点は,水 転写タイプに特有のものとは認められない。また,乙1発明が課題解決の方法とし て採用した特性を持つ透明弾性層が,転写シールの粘着層を皮膚に貼り付ける前に\n水で湿すことによってその効果を発揮しないとか,その他乙1発明を水転写タイプ とすることが技術的に困難である事情は認められない。したがって,乙1発明が水 転写タイプを排除しているとはいえず,被控訴人らの上記主張を採用することはで きない。
イ 被控訴人らは,乙9発明は「基材」そのものが治療用の目印として皮膚 に転写されるから,水転写タイプを想起させるものではない,と主張する。 しかし,前記(2)のとおり,乙9発明の装置は,「台紙」が剥がれた場合のことを 想定しており,「台紙」が剥がれる場合には,「台紙」の皮膚に接着する側に配置さ れた第1インク層が皮膚に転写され,「台紙」は治療用の目印ではなくなり,インク 層のみが皮膚に転写されることとなるところ,水転写タイプもこのような構成を採\n用するものである(乙3)から,被控訴人らの主張を採用することはできない。

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◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第21436号

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平成28(ワ)298等  特許権侵害差止等請求事件,債務不存在確認等請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年4月20日  大阪地方裁判所(21民)

 特許権侵害事件で、新規性喪失の例外主張における証明書では提出されていなかった証拠がある(関連したものでない)として、無効(特104-3)と判断されました。商品形態模倣(不競法2条1項3号)も否定されました。よって、取引先への告知は、営業誹謗行為(不競法2条1項15号)が成立すると判断されました。
 1 争点2(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について
(1) 証拠(乙2の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明の実施品で ある原告製品は,本件発明の原出願である実用新案の出願日(平成26年11月2 6日)より前である同年9月22日以前に,Q2コープ連合に対して納品され,ま たQ2コープ連合においてそのチラシに掲載されて販売され,さらに同年10月1 0日には,被告において市場で取得された事実が認められるから,本件発明は,出 願前に日本国内において公然実施された (特許法29条1項2号)というべきこと になる。
(2) 上記(1)の事由は,本件特許を特許無効審判により無効とすべき事由となるが, 原告は,本件発明の原出願において原告が行った手続により,特許法30条2項に 定める新規性喪失の例外が認められる旨主張する。 そこで検討するに,特許法30条2項による新規性喪失の例外が認められるため には,同条3項により定める,同法29条1項各号のいずれかに該当するに至った 発明が,同法30条2項の規定を受けることができる発明であることを証明する書 面(以下「証明書」という。)を提出する必要があるところ,証拠(甲3)によれば, 原告は,本件発明の原出願(実願2014−6265,出願日:同年11月26日) の手続において,同年12月2日,実用新案法11条,特許法30条2項に定める 新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書を提出した事実が認められる(特許 法46条の2,44条4項の規定により,特許出願と同時に提出されたものとみな される。)。 しかし,同証明書は,公開の事実として,平成26年6月2日,原告を公開者, Q1生活協同組合を販売した場所とし,原告が一般消費者にQ1生活協同組合のチ ラシ記載の「ドラム式洗濯機用使い捨てフィルタ(商品名:「ドラム式洗濯機の毛ゴ ミフィルター」)を販売した事実を記載しているだけであって,上記Q2コープ連合 における販売の事実については記載されていないものである。 この点,原告は,上記Q2コープ連合における販売につき,実質的に同一の原告 製品についての,日本生活協同組合連合会の傘下の生活協同組合を通しての一連の 販売行為であるから,新規性喪失の例外規定の適用を受けるために手続を行った販 売行為と実質的に同一の範疇にある密接に関連するものであり,原告が提出した上 記証明書により要件を満たし,特許法30条2項の適用を受ける旨主張する。 しかし,同項が,新規性喪失の例外を認める手続として特に定められたものであ ることからすると,権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在するような 場合には,本来,それぞれにつき同項の適用を受ける手続を行う必要があるが,手 続を行った発明の公開行為と実質的に同一とみることができるような密接に関連す る公開行為によって公開された場合については,別個の手続を要することなく同項 の適用を受けることができるものと解するのが相当であるところ,これにより本件 についてみると,証拠(乙16の1,2)によれば,Q2コープ連合及びQ1生活 協同組合は,いずれも日本生活協同組合連合会の傘下にあるが,それぞれ別個の法 人格を有し,販売地域が異なっているばかりでなく,それぞれが異なる商品を取り 扱っていることが認められる。すなわち,上記証明書に記載された原告のQ1生活 協同組合における販売行為とQ2コープ連合における販売行為とは,実質的に同一 の販売行為とみることができるような密接に関連するものであるということはでき ず,そうであれば,同項により上記Q1生活協同組合における販売行為についての 証明書に記載されたものとみることはできないことになる。
・・・・
上記検討した両製品において同一といえる形態的特徴のうち,本体部の形態 が長方形であるという点は,ドラム式洗濯機のリントフィルタに装着して用いる商 品である原告製品及び被告製品にとっては,リントフィルタの内面に沿って装着す るために必然的にもたらされる形態であるといえ,したがってこれは,その機能を\n確保するために不可欠なことであると認められる。また,もう一つの同一といえる 形態的特徴である本体部にスリットが存在するという点も,本件発明の効果をもた らすことに直接関係した形態であることからすると(上記第2の2(2)(10)),これも 両製品に共通する機能を確保するために不可欠な形態であるといえる。\nしたがって,これらの基本的形態で両製品の形態の同一性が認められたとしても, これによって両製品の形態が実質的に同一ということはできないというべきである (なお被告は,これらの形態の特徴をとらえて原告製品はありふた形態であって保 護されないと主張するが,原告製品が市販される以前に,同種の製品が市場に存し た事実は認められないから,商品の形態がありふれていることで保護されないわけ ではなく,機能確保に不可欠な形態として保護の限界が検討されるべきである。)。\n他方,上記検討したとおり,原告製品と被告製品は,機能確保のため必要とされ\nる形態的特徴以外の部分の細部における特徴的な形態というべき部分において形態 の差異が多数あるというのであるから,両製品の形態が酷似しているとはおよそい えず,結局,原告製品と被告製品は形態が実質的に同一であるとはいえないという べきである。
(5) これに対して原告は,両製品は主として通信販売されており,需要者が商品 を手に取って詳細に観察することがなければ両者の違いを認識し得ないから,両製 品の形態の差異は微細な差異で形態が実質的に同一であるということを妨げないよ うに主張するが,不正競争防止法2条4項に「商品の形態」は「需要者が通常の用 法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の 形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいう。」と定義されてい ることに明らかなように,本件で問題とすべき原告製品及び被告製品の形態とは, 上記検討したような包装袋から取り出された商品そのものの形態であって,これと 異なる前提に立つ原告の主張は失当である。 さらに,原告は,両製品の包装におけるチラシが共通することも指摘するが,原 告製品及び被告製品は,包装と一体となって切り離し得ないものではないから,原 告が指摘する包装のチラシは「商品の形態」とはいえず,原告の指摘は当たらない。
(6) 以上からすると,原告製品と被告製品とは,その形態が実質的に同一とはい えないから,被告製品は原告製品を模倣した商品とはいえず,被告が不正競争防止 法2条1項3号の不正競争をしたことを前提とする原告の請求はその余の判断に及 ぶまでもなく理由がない。
・・・・
(1) 原告は,平成27年6月11日頃,被告の取引先であるP1に対し,被告製 品は原告製品の形態を模倣した商品であり被告製品を販売する行為は不正競争防止 法2条1項3号に該当するとして,被告製品の販売の停止及び廃棄を求める内容を 記載した「申入書」と題する書面を内容証明郵便で送付している(本件告知行為)。\n上記2のとおり,被告製品は原告製品の模倣商品でないから,上記「申入書」の\n記載内容は虚偽の事実であるとともに,被告の営業上の信用を害する事実であると いうべきである。そして,原告と被告は競争関係にあるから,本件告知行為は,「競 争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」する行為といえ,不 正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。
(2) そのほか被告は,原告がした不正競争防止法2条1項15号該当の不正競争 行為として,原告が生活協同組合に対して被告の権利侵害の事実を理由として被告 製品の取扱いをすべきでない旨申し入れた旨主張する。\n確かに証拠(乙14の1ないし3,乙15,乙30)によれば,被告は,P2か ら被告製品の販売を中止された事実,及び,P2が被告に対し,被告製品の販売を 中止する理由として,原告の営業担当者から被告製品の販売企画を中止した方がよ いとの要望を受けたという生活協同組合のバイヤーから,そのことを理由に被告製 品の差替えの要望を受けたことを挙げていたことが認められる。 したがって,これらの事実によれば,P2における被告製品の販売中止が,原告 の営業担当の従業員がもたらした行為に起因することが認められそうであるが,前 掲証拠によれば,原告の営業担当者が生活協同組合のバイヤーに伝えた内容という のは「企画を中止した方が良い的な要望」というにとどまるというのであって,そ れだけでは原告が被告の権利を侵害したといった虚偽の事実が告知されたと認める に足りないものである。また,そもそも原告の営業担当の従業員が何らかの接触を したという生活協同組合のバイヤーは,どの生活協同組合であるかを含めて特定さ れておらず,その生活協同組合のバイヤーが実際に原告の営業担当の従業員から直 接働きかけを受けたのかを確かめようがないものである。これらのことからすれば, 原告の営業担当者の行為に起因してP2が被告製品の販売を中止したとしても,そ れをもって原告の不正競争行為を認定することは困難であるといわなければならな い。
(3) したがって,被告主張に係る原告がした不正競争防止法2条1項15号該当 の不正競争については,原告が,平成27年6月11日頃,被告の取引先であるP 1に対し,被告製品は原告製品の形態を模倣した商品であり被告製品を販売する行 為は不正競争防止法2条1項3号に該当する旨記載した「申入書」と題する書面を\n内容証明郵便で送付した事実の限度で認めるのが相当であって,それ以外の生活協 同組合に対する関係では同号の不正競争のみならず不法行為を構成する事実は認め\nられない。

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平成27(受)1876  不正競争防止法による差止等請求本訴,商標権侵害行為差止等請求反訴事件 平成29年2月28日  最高裁判所第三小法廷  判決  その他  福岡高等裁判所

 商標権に関する部分が興味深いです。周知商標に基づく無効審判請求(4条1項10号)は、5年の除斥期間があります(商47条)。よって、侵害訴訟において5年経過すると、無効抗弁(特104条の3)ができないかが論点となります。 最高裁は、原則、無効主張できないが、周知にした本人は除かれると判断しました。ただ、本件の場合、不正競争防止法における周知認定を誤っていると判断されていますので、そもそも、周知でないとの判断となるかもしれません。
 そして,商標法39条において準用される特許法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば,商標権侵害訴訟において,商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,商標権者は相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ,上記のとおり商標権の設定登録の日から5年を経過した後は商標法47条1項の規定により同法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判を請求することができないのであるから,この無効審判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が商標登録の無効理由の存在を主張しても,同訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認める余地はない。また,上記の期間経過後であっても商標権侵害訴訟において商標法4条1項10号該当を理由として本件規定に係る抗弁を主張し得ることとすると,商標権者は,商標権侵害訴訟を提起しても,相手方からそのような抗弁を主張されることによって自らの権利を行使することができなくなり,商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護するものとした同法47条1項の上記趣旨が没却されることとなる。 そうすると,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって,本件規定に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。
・・・・
そこで,商標権侵害訴訟の相手方は,自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている商標との関係で登録商標が商標法4条1項10号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することができるものと解されるところ,かかる抗弁については,商標権の設定登録の日から5年を経過したために本件規定に係る抗弁を主張し得なくなった後においても主張することができるものとしても,同法47条1項の上記(ア)の趣旨を没却するものとはいえない。 したがって,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求 されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても,当該商標登 録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず,商標権侵害訴訟の相 手方は,その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登\n録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標 であるために同号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利 の濫用に当たることを抗弁として主張することが許されると解するのが相当であ る。そして,本件における被上告人の主張は,本件各登録商標が被上告人の業務に 係る商品を表示するものとして商標登録の出願時において需要者の間に広く認識さ\nれている商標又はこれに類似する商標であるために商標法4条1項10号に該当す ることを理由として,被上告人に対する本件各商標権の行使が許されない旨をいう ものであるから,上記のような権利濫用の抗弁の主張を含むものと解される。

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◆関連判決(商標登録無効審判の取消訴訟)はこちらです。平成27年(行ケ)第10083号

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