H17. 3.10 東京地裁 平成16(ワ)11289 特許権 民事訴訟事件

平成16年(ワ)第11289号 特許権侵害差止等請求事件
(口頭弁論終結の日 平成16年12月16日)
             判       決
          原        告    A
          原        告    株式会社日本省開削協会
         原告両名訴訟代理人弁護士  松本直樹
          同             松本ゆう子
          被        告    株式会社トプコン
          被告訴訟代理人弁護士    熊倉禎男
          同             田中伸一郎
          同             外村玲子
          同             佐竹勝一

             主       文
               1 原告らの請求をいずれも棄却する。
               2 訴訟費用は原告らの負担とする。
             事実及び理由
第1 請求
 1 被告は,別紙「物件目録」記載の装置を製造し,又は販売してはならない。
 2 被告は,その本店・営業所及び工場に存する前項記載の装置を廃棄せよ。
 3 被告は,原告Aに対し,1668万円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 4 被告は,原告株式会社日本省開削協会(以下「原告会社」という。)に対し,432万円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
     本件において,「土木工事用レーザ測定器」に係る特許権を有する原告A及びその専用実施権を有する原告会社は,被告の製造販売する装置が上記特許発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対して,原告会社が特許法100条に基づきその製造販売の差止めを求めるとともに同法102条3項に基づく損害賠償金(432万円。ただし,専用実施権設定登録後のもの)の支払を求め,原告Aが同法65条1項に基づく補償金及び同法102条3項に基づく損害賠償金(1668万円。ただし,原告会社に対する専用実施権設定前までのもの)の支払を求めている。

     これに対して,被告は,@被告の製造販売する装置は,原告らの特許権の技術的範囲に属しない,A特許発明には無効理由があることが明らかであって(冒認出願及び進歩性欠如),当該特許権に基づく原告らの本訴請求は権利の濫用に当たると主張して,原告らの請求を争っている。
 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実。証拠により認定した事実については,該当部分の末尾に証拠を掲げた)
   (1) 当事者
     原告Aは,有限会社米屋金物店(以下,単に「米屋金物店」という。)の経営者であり,その業務である下水道工事資材の販売などと関連して,関係工事技術の改良を研究してきた者である。
       原告会社は,特許権の取得,保有,利用,土木建築工事請負業務,土木工事に関するコンサルタント業務,レーザー機器,土留板のリース業等を目的とする株式会社であり,原告Aは,その取締役を務める。

       被告は,光学機械器具,計測機器等の製造及び売買等を目的とする株式会社である。
   (2) 原告Aの有する特許権及び原告会社に対する専用実施権の設定(甲1,2)
     原告Aは,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
       特許番号   第3303165号
       登 録 日  平成14年5月10日
       出願番号   特願2000−13988号
       出 願 日  平成10年7月31日
       分割の表示  特願平10−217461の分割
       公 開 日  平成12年6月6日
       発明の名称  土木工事用レーザ測定器
       原告Aは,本件特許権の範囲全部につき,原告会社に対して専用実施権を設定し,平成15年4月11日にその旨の登録がされた。
   (3) 特許請求の範囲の記載
       本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報〔甲1。以下「本件公報」という。〕参照)の「特許請求の範囲」のうち【請求項1】ないし【請求項3】の記載は次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件特許発明1」,請求項3に係る発明を「本件特許発明3」といい,これらを併せて「本件各特許発明」という。)。

     ア 【請求項1】
         路面に敷設パイプ類1本の長さに応じた距離を開削機械によって開削し,この開削部分に敷設パイプ類1本の長さ分の土留をして敷設パイプ類を敷設し,勾配等を敷設パイプ類に沿って設置したレーザ照射機構によって照射しながら開削作業を行ない,かつ上記開削機械で開削部分を埋め戻す工程を順次繰り返すようにしたレーザ開削工法に使用する土木工事用レーザ測定器であり,レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としたことを特徴とする土木工事用レーザ測定器。
   イ 【請求項2】レーザ照射部が、有線もしくは無線で遠隔操作されるようにしてなる請求項1に記載の土木工事用レーザ測定器。

     ウ 【請求項3】
         レーザ照射部が,エアバッグによって管路内に固定されるようにしてなる請求項1または2に記載の土木工事用レーザ測定器。
   (4) 構成要件の分説
       本件各特許発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下「構成要件A」などという。)。
     ア 本件特許発明1について
         構成要件A
         路面に敷設パイプ類1本の長さに応じた距離を開削機械によって開削し,この開削部分に敷設パイプ類1本の長さ分の土留をして敷設パイプ類を敷設し,勾配等を敷設パイプ類に沿って設置したレーザ照射機構によって照射しながら開削作業を行ない,かつ上記開削機械で開削部分を埋め戻す工程を順次繰り返すようにしたレーザ開削工法に使用する土木工事用レーザ測定器であり,
         構成要件B 
         レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としたことを特徴とする

         構成要件C
         土木工事用レーザ測定器。
     イ 本件特許発明3について
         構成要件D
         レーザ照射部が,エアバッグによって管路内に固定されるようにしてなる請求項1または2に記載の土木工事用レーザ測定器。
   (5) 被告の行為等(甲4)
       被告は,業として,別紙「物件目録」記載の「セパレートパイプレーザー(製品番号「TP-L3S」)」(以下「被告装置」という。)を製造,販売している。
 2 本件の争点
   (1) 被告装置が本件各特許発明の構成要件を充足するか(争点1)
   (2) 本件各特許発明には無効理由があることが明らかであって,本件特許権に基づく原告会社の差止請求及び原告らの損害賠償請求は,権利の濫用に当たるか(争点2)
   (3) 原告らの補償金及び損害金の額(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張

 1 争点1(被告装置が本件各特許発明の構成要件を充足するか)について
 (原告らの主張)
   (1)ア 構成要件Aは,省開削工法に使用するレーザ測定器であることを要件としているところ,被告装置が省開削工法に使用するレーザ測定器であることは明白である。上記省開削工法とは,「敷設パイプ類1本の長さ」ごとに,路面を掘って開削し,それごとにパイプ類を敷設し,埋め戻すことに特徴がある工法である(以下「省開削工法」というときは,同方法による工法を示すものとする。)。従来の工法では,下水管をわずかな勾配をもって正確に敷設していく必要から,少なくとも数本分の長さにわたって路面を開削し,そこに水糸を丁張りして,これに沿わせるようにしてパイプを敷設する必要があったが,省開削工法では,パイプ内を通したレーザー光を基準として敷設することにより,1本ごとに開削し埋め戻していくようにするため,一時に開削する箇所がパイプ1本分(プラスα)に限られ,土砂運搬の労力が激減し,合理化の効果が大きい工法である。

         構成要件Aを充足するために必要なのは,「工法に使用する土木工事用レーザ測定器」であることであり,他に用途がないことまで要求されるわけではない。構成要件Aにおいて,「のみ」等の文言は使用されていないから,「省開削工法」が主要用途の1つであれば,構成要件Aを充足する。被告装置は,「省開削工法」以外の使い方をすることも可能であるが,主要用途が「省開削工法」であることは,被告のパンフレット(甲16)からも明らかである。
         したがって,省開削工法に用いられるレーザ測定器である被告装置は,構成要件A及び同Cを充足する。
     イ(ア) 構成要件Bの「レーザ照射部を分離」というのは,分離されたレーザ照射部を地下に置き,それ以外のものは基本的に地上に残すことができることを意味する。被告装置の「操作部」には,操作のためのスイッチ類や装置状態の表示装置や電池を備え,「操作部」においてあらゆる操作が可能であり,表示装置により装置状態を確認することができる。そして,被告装置の「発光部」には発光のための装備だけがある。したがって,被告装置においては,「操作部」が本体というべきものであり,本体から「レーザ照射部を分離」するものといえる。

       (イ) また,構成要件Bの「小口径マンホール」は,人が降りられるマンホールよりも小さな口径のマンホールを指す言葉として,一般的に使用されている(甲17,18)。すなわち,人が降りられる標準的なマンホールとしては,内径90センチメートルの1号マンホールが最小である(ただし,内径75センチメートルのものを0号と呼び,人が降りるように使うこともある。)ところ,それよりも小さな内径を有するものが小口径マンホールであり,当業者にとって,小口径マンホールの意味は自明である。
           そして,被告装置が小口径マンホール対応の装置であることは,被告のパンフレットから明らかである。
       (ウ) 上記によれば,被告装置は,レーザ照射部のみを敷設パイプ内に設置して使用することができる小口径マンホール対応の装置であるから,構成要件Bを充足するものである。

     ウ 以上のとおり,被告装置の構成は,構成要件AないしCを充足し,本件各特許発明と同一の効果を奏するものであるから,被告装置は,本件各特許発明の技術的範囲に属する。
   (2) 被告装置の標準構成品には,「エアバッグ」が含まれているから,構成要件Dを充足する。
       したがって,被告装置の構成は,構成要件Dを充足し,本件特許発明3の技術的範囲に属する。
 (被告の主張)
   (1) 構成要件Aについて
       原告らは,構成要件Aは発明の構成を限定するものではなく,単に省開削工法に使用できる構成であってそのように使用され得るものであれば足りるものであるから,そのような使用が可能なすべてのパイプレーザ(土木工事用レーザ測定器)は,本件各特許発明の技術的範囲に属すると主張する。しかし,本件特許権の出願経過に照らせば,原告らの主張するような解釈は採り得ないものである。

       すなわち,まず,本件特許権の出願時の特許請求の範囲においては,省開削工法への用途を限定しない土木工事用レーザ測定器の記載がなされていた(乙19)。この出願に対しては,特許庁から拒絶理由が通知され(乙15),出願人たる原告Aから省開削工法に使用する土木工事用レーザ測定器の要件を追加する補正がされた(乙16)(以下「本件補正」という。)。本件各特許発明は,原告Aが本件補正により加えた省開削工法に使用することによる作用効果を主張することにより登録に至ったものである。
       したがって,構成要件Aが,専ら「省開削工法」に使用する土木工事用レーザ装置に本件各特許発明の対象を限定するものであることは明らかであって,この点を否定する原告らの主張は,出願経過に反し信義則上許されない。
       一方,被告装置の用途は,一般のいわゆるパイプレーザ(土木工事用レーザ測定器)の用途と異なるところはなく,特に省開削工法に用途を限定するものではない。

       よって,被告装置は,構成要件Aを充足せず,本件各特許発明の技術的範囲に属さない。
   (2) 構成要件Dについて
       「エアバッグによって管路内に固定されるようになる」の意味は,レーザ照射部と管との間の全方向をエアバッグで充たして固定するということであり,被告装置は,エアバッグは標準パックに含まれているが,管路の外に別の器具を用いて固定する場合があることに加え,さらに管路内に設ける場合でも,脚部を有しているため,それにより固定されるもので,エアバッグを用いるのは,上部に隙間があり,必要なときにおいて上部隙間を埋めるためだけである。
       したがって,被告装置は,構成要件Dを充足せず,本件特許発明3の技術的範囲に属さない。
 2 争点2(本件各特許発明には無効理由があることが明らかであって,本件特許権に基づく原告会社の差止請求及び原告らの損害賠償請求は,権利の濫用に当たるか)について

(被告の主張)
   (1) 冒認出願(特許法123条1項6号)
       本件各特許発明は,被告がその技術,知識及び経験に基づき発明したものである。すなわち,被告は,原告Aから,従来のパイプレーザに関する改良要望を受け,かかる改良要望に基づいて,被告装置の開発をスタートさせ,被告従業員が,その構成に想到し,被告において,具体的な製品として技術化したものである。
       原告Aは,被告との会合において被告装置の内容について提示を受け,これにより本件各特許発明の出願をしたものと思われるが,本件各特許発明の発明者が被告従業員であることは明白である。
       打合せの際に,原告Aから,操作パネルの分離という話が出たのは事実であるが,それはあくまでも遠隔操作のためであって小型化のためではない。小型化をいかに行うかについては,被告装置を量産化することを原告Aに伝えた際に被告から説明したものである。

       したがって,本件各特許発明は,発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対して特許登録されたものであり,無効であること(特許法123条1項6号)が明らかである。
   (2) 進歩性の欠如@(本件特許発明1について。特許法29条2項,123条1項2号)
       本件特許発明1は,次のとおり,出願前に公知あるいは公用であった技術をもとに当業者が容易に想到できたものであるから,特許法29条2項に違反して特許されたものであり,無効理由を有することが明らかである。
     ア 構成要件Aについては,特開平4−289316号公報(乙14の1)及び特公平8−23141号公報(乙14の2)により公知である。
     イ(ア) 構成要件B及びCについては,本件各特許発明の出願日の3日前である平成10年(1998年)7月28日に開催された「下水道展’98北九州」(以下「本件展示会」という。)における被告装置の試作品の展示により,公知及び公用となっていた。

       (イ) 構成要件Bの「レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離」についてみると,乙1の2の54頁写真1に示されているように,バッテリーとリモコン操作部をレーザ照射部と分離することは,以前から慣用の技術であった。そして,構成要件Bの「小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としたこと」については,当業者が,上記の慣用の技術を踏まえ,小口径マンホールが登場した時点から,小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能とする装置を開発してきたものであって,このことは,平成元年(1989年)以前と平成8年(1996年)に頒布されたカタログ(乙10,11)から明らかである。すなわち,乙10は少なくともレーザ照射部を分離していること,乙11はリモコン及びバッテリー部に対し,その余のレーザ照射部を含む部位が分離されて小口径マンホールを通過できる大きさが開示されている。
     ウ 以上のとおり,本件特許発明1の構成は,特開平4−289316号公報(乙14の1)と特公平8−23141号公報(乙14の2),本件展示会の展示内容,あるいは,乙10,11のカタログに基づき,当業者が容易に想到できるものである。したがって,本件特許発明1は,特許法29条2項に違反して特許されたものであり,同法123条1項2号の無効理由を有することが明らかである。
     エ 特許法30条2項の主張に対する被告の反論
         特許法30条2項の「意に反して」の解釈については,公表の事実が発明者の不利な結果となった場合において,そのような結果を発明者が望んでいなかったとしても,そのことから当該公表が常に「意に反して」に当たるということはできない。発明者が自らの行為によって公表しなくても,発明の内容が公知となることが予想される状況にあることを知りながら,それを放置したときは,客観的にその発明者には発明を秘密にしようという意は認められず,したがって,公表されても「意に反して」の公表とは認められない。

         本件特許発明1は,原告Aが発明したものではなく,また,内容としても共同研究あるいは開発の対象とするレベルのものではなかった。しかし,この点をおくとしても,この展示は原告Aの意に反するものではない。すなわち,原告Aは,パイプレーザのメーカーである被告と打合せを持ち,そこで製品の改良要望をしたものであるから,被告が原告Aの要望にかなう商品を開発して販売することを望んでいたはずである。したがって,本件展示会において被告装置の試作品を展示したことは,むしろ原告Aの意に沿ったものである。仮に,原告Aが主張するように,公開することを認めていなかったのであれば,秘密保持契約を締結するか,あるいは,少なくとも秘密保持の要求をすべきであった。しかし,原告Aは,被告装置は開発当初から商品化する可能性があり,量産化される予定であり,具体的に平成10年春頃には販売を開始するとの見通しまで知っていたのであるから,これらについて原告Aから被告に対して何らの要求もしていない以上,本件特許発明1の内容が展示されることを防止しようとする意は有していなかったというべきである。
         したがって,被告装置の試作品の本件展示会における展示は,原告Aの「意に反して」なされたものとはいえない。
   (3) 進歩性の欠如A(本件特許発明1について。特許法29条2項,123条1項2号)
       本件特許発明1は,次のとおり,特許法29条2項に違反して特許されたものであり,無効理由を有することが明らかである。
       上記(2) に記載のとおり,構成要件Aについては,特開平4−289316号公報及び特公平8−23141号公報により,また,構成要件Bの「小口径マンホールを通過する大きさとし」とする点については,乙10及び11により本件特許発明1の出願前に公知ないし周知となっていたものである。
       したがって,これらに特願平11−354050号が拒絶された事由である特開平7−218225号(乙8。以下「引用例1」という。),特公平7−33967号(乙9。以下「引用例2」という。)を組み合わることにより,当業者は本件特許発明1に容易に想到できたものであるから,本件特許発明1は,特許法29条2項に違反して特許されたものであり,同法123条1項2号に掲げる無効理由を有することが明らかである。

   (4) 進歩性の欠如B(本件特許発明3。特許法29条2項,123条1項2号)
       本件特許発明3は,管路内に固定するためのエアバッグという構成を本件特許発明1に加えて限定するものである。
       しかし,エアバッグの構成は,本件各特許発明の出願前に公知ないし周知である(特開平6−167338号。乙17。以下「引用例3」という。)。また,上記(2),(3)に述べたとおり,本件特許発明1は特許法29条2項に違反して特許されたものであるから,本件特許発明3も,同様の無効理由を有することが明らかである。
   (5) まとめ
       以上のとおり,本件特許発明1及び3は,進歩性を欠如するもので,明白な無効理由を有するから,本件特許権に基づく原告らの請求は権利濫用である。
 (原告らの主張)
   (1) 冒認出願について
       本件特許発明1は,原告Aの指導を受けて被告が製品開発したものであるから,冒認出願ということはない。本件各特許発明は,下水道工事についての原告Aの知見をもとにしたものであり,被告には,下水道工事についての知見がなかった。このことは,平成9年12月に打合わせにおける記録(乙2)からも明らかである。同打合せ記録には,出席者として原告Aの名前が記載されているところ,その内容は,もっぱら原告Aの「改良要望」であり,原告Aが操作パネルをレーザ照射部から分離することを被告に教示したことが明らかである。このとき,原告Aが被告に教示した内容は,本件展示会において展示された試作品と同様のものである( 但し,この時点で,原告Aは,管内での装置の固定方法について,「エアバッグ」を使うことを考えていなかったため,本件展示会における試作品にもエアバッグによる固定方法は開示されていない。)。

       したがって,冒認出願であるとの被告の主張は当たらない。
   (2) 進歩性の欠如@について
     ア(ア) 本件展示会において展示された装置は,未だ光の出ない模型であったから,本件展示会における展示により,本件特許発明1の構成が公知ないし公用になったとはいえない。
       (イ) 乙1について
           乙1に開示されているのは,バッテリーが地上に置かれ,本体(操作部及び発光部)はマンホールの直下に置かれているものであって,バッテリーとリモコン操作部をレーザ照射部と分離するものではない。
       (ウ) 乙10,11について
           本件特許発明1では,地下に置くレーザ照射部を本体から分離するものであり,地上に置く本体=操作部で基本的にあらゆる操作が可能であるところ,乙10に開示されているのは,いくつかのスイッチが用意されているリモコンが本体から分離されているにすぎず,装置の状態を示す表示器などは本体に付いているのみである。

           また,乙10に開示された装置は,縦穴(いわゆるマンホール)の直下に置くことしかできない。横方向に延びる敷設パイプ内に置くと,表示を地上から見ることができず確認できない。
           さらに,乙11には,バッテリーを外付けにする等の内容が開示されているだけであり,小口径マンホールを通過する大きさとして,分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としたという本件特許発明1のような意味で,小口径マンホールに対応した装置ではないから,小口径マンホールが登場した時点から当業者が当然に解決してきたものとはいえない。
           したがって,乙10及び11において,構成要件Bの構成が開示されているとはいえない。
       (エ) 以上のとおり,本件特許発明1につき被告が進歩性の欠如の根拠として挙げるものには,本件特許発明1の構成が開示されているとはいえないから,被告の主張は失当である。

     イ 仮に,被告が主張するように,被告装置の試作品が本件展示会において展示されたとしても,それは,原告Aの意に反して行われたものであり,特許法30条2項により新規性喪失事由に該当しないから,本件特許発明1の構成が本件展示会の展示により公知となったとはいえない。
         原告Aは,平成9年末までに本件各特許発明の発想を得て,その後まもなく弁理士に出願の依頼をしたが,弁理士のところで出願書類の準備や,原告Aの確認などに時間を費やし,特許出願が平成10年7月31日となった。この準備の間に被告に発明内容を教えたところ,被告が勝手に模型を作成し,本件展示会において展示したものである(なお,このとき展示された模型は,商品としての機能を備えておらず,翌年に東京で開催された下水道展において展示された装置も,商品としての機能を備えていなかった。現に,被告装置の発売時期は,東京での展示会のかなり後の平成11年11月17日である。)。

         原告Aは,このとき,本件各特許発明を被告に教示したが,それを公開することは認めておらず,被告が商品化する可能性は承知していたものの,原告Aとのライセンス契約が前提となるものと考えていた。
         原告Aが,被告装置の試作品が本件展示会において展示されていたことを知ったのは,本件訴訟提起前に,本件について被告と話合いを行っている際であり,仮に,試作品を本件展示会に出展する当時に,出展の計画を知っていれば,原告Aは当然に中止を求めたものである。
         特許法30条2項に規定する「意に反して」とは,現実に意に反するものであれば十分であり,開示者に義務違反があったなどの事情は要求されていない。
         したがって,本件展示会における被告装置の試作品の展示は,原告Aの意に反して展示されたものといえる。

   (3) 進歩性の欠如Aについて
       乙1,10及び11については,上記(2) ア(イ)及び(ウ)に記載のとおり,公知,あるいは,公用であったとは認められないから,これらを前提としてする被告の主張については争う。
   (4) 進歩性の欠如Bについて
       争う。
 3 争点3(補償金及び損害金の額)について
   (原告らの主張)
   (1) 被告装置の出荷価額は60万円以上と認められるところ,本件特許発明1及び同3以外に小口径下水道敷設のためのレーザ装置は開発されておらず,被告は無競争で販売しているため,高い利益率を確保していることから,本件各特許発明の被告装置1台当たりの実施料は,少なくとも6万円と認められるべきである。
   (2) そして,被告は,被告装置を少なくとも,平成12年について50台,平成13年ないし平成15年の各年に100台は製造販売している。

       原告会社の専用実施権の登録は平成15年4月11日で,年初から101日目であるから,平成15年の28台が登録前の台数に当たることになる。
       (計算式 100×101/365=27.67)
   (3) 原告Aは,被告に対し,平成9年12月に技術提案をし,平成10年秋には,試作品のテストなどでも協力しているが,被告装置が製品化されるころからは(被告装置の販売開始は平成11年11月17日),原告Aは,被告に対し,原告Aの有する特許の許諾が必要であることを書面等で申し入れ,協議している(甲13ないし15)。
       このとき,書面上,直接主張しているのは,基本工法特許(省開削工法特許)のみであるが,面談の際には,分割型装置の出願(本件各特許発明)についても伝えていた。こうした経緯からすると,被告が本件公報を見ていなかったとは考えにくいから,被告は,本件各特許発明につき,「出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知って」いたといえる(特許法65条1項後段参照)。

   (4) 以上を前提に,原告らの損害金等を計算すると,次のとおりとなる。
       原告Aの請求(補償金及び損害金)は,278台(50+100+100+28)×6万円=1668万円。
       原告会社の請求(損害金)は,72台(=100−28)×6万円=432万円
       したがって,被告は,原告Aに対して1668万円,原告会社に対して432万円,及びこれらに対する平成16年1月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
   (被告の主張)
       原告らの主張はすべて争う。
       ただし,被告装置の平均出荷額は60万円に満たず,製造販売台数は平成13年(2001年)のみ100台を超えたが,平均すると年100台に満たない。
       また,補償金請求については,被告が,「出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知って」(特許法65条1項後段)いた事実はない。原告Aと被告との間で,平成11年末頃から,原告Aの有する省開削工法に係る特許権(甲3)について書面のやりとりがあったが,そこでのやりとりの中で,本件各特許発明に関しては出願されたことさえ何ら言及されていないのであって,このやりとりを根拠に,被告が本件各特許発明について,出願公開後まもなく,公開された特許出願に係る発明であること知っていたとは到底いえない。

第4 当裁判所の判断
 1 争点2について
   本件については,事案の内容にかんがみ,まず争点2から判断する。
   (1) 本件各特許発明の内容及び本件特許権の出願経過
       前記「前提となる事実」(前掲第2,1参照)に後掲該当箇所記載の各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の各事実が認められる。
     ア 本件明細書(甲1)の「発明の詳細な説明」の欄には,本件特許発明1及び同3の目的,効果等について,次のとおり記載されている。
       (ア) 従来技術及びその問題点
         a「従来の下水道や暗きょ用の敷設パイプ類の埋設に際しては,敷設しようとする路面にバックホーなどで所定の開削を施した後に,木矢板によって開削部分を土留した上,水糸によって敷設パイプ類の芯出しを行うことにより施工がされてい」た(本件公報3欄1行ないし6行【0002】【従来の技術】)が,この方法では,「敷設パイプ類を埋設していくときに高さと長さ方向の勾配をレベルとトランシットによってそのつど見ていかなくてはならず,道路上をかなりの長さにわたって占拠した状態で,開削作業や発生土の処理,埋め戻しなどのために,バックホーなどの重機やダンプトラックを順次移動していかなくてはなら」ず,「所定の長さを施工する際には,敷設する敷設パイプ類の数に応じて所定の回数丁張りを行なう必要があり,作業が非常に面倒であった。」(本件公報3欄25行ないし34行【0005】【0006】)。

         b 「そこで本発明者は,特願平3−80812号(特公平8−23141号公報)に記載されたような,路面に敷設パイプ類1本の長さに応じた距離を開削機械によって開削し,この開削部分に敷設パイプ類1本の長さ分の土留をして敷設パイプ類を敷設し,勾配等を敷設パイプ類に沿って設置したレーザ照射機構によって照射しながら開削作業を行ない,かつ上記開削機械で開削部分を埋め戻す工程を順次繰り返すようにしたレーザ開削工法を開発した。」(本件公報3欄43行ないし4欄1行【0008】。)そして,この発明により,「敷設パイプ類の敷設作業における開削延長を短くすることができ,現場管理,安全面,交通問題などの点で非常に便利であり,また短期間で施工することができるようになったので急速に普及し」た(本件公報4欄12行ないし17行【0010】【発明が解決しようとする課題】)。
         c ところで,「各家庭への下水道の普及に連れて,施工場所が幹線道路から脇道へと伸び,それにしたがってマンホール106の径が小さくなる場合が増加している」ところ,上記発明を使用しても,マンホール106の径が小さい場合には,「施工終了後にレーザ照射機構105をマンホール106から取り出すことができない」という問題があることが判明した(本件公報4欄18行ないし28行【0011】)。
       (イ) 本件各特許発明の目的
           本件各特許発明は,従来例の上記(ア)に記載の欠点を解消したものであり,「マンホールの径が小さい場合でも,施工終了後にレーザ照射機構をマンホールから何ら問題なく回収することができ,なおかつ敷設パイプ類内への設置,照射角度等の微調整等をも簡単に行なうことができる土木工事用レーザ測定器を提供しようとするものである。」(本件公報4欄29ないし34行)。

       (ウ) 課題を解決するための手段
           本件各特許発明の土木工事用レーザ測定器は,「路面に敷設パイプ類1本の長さに応じた距離を開削機械によって開削し,この開削部分に敷設パイプ類1本の長さ分の土留をして敷設パイプ類を敷設し,勾配等を敷設パイプ類に沿って設置したレーザ照射機構によって照射しながら開削作業を行ない,かつ上記開削機械で開削部分を埋め戻す工程を順次繰り返すようにしたレーザ開削工法に使用する土木工事用レーザ測定器であり,レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としたことを特徴とする。」(本件公報4欄37行ないし48行【0013】)。
       (エ) 本件各特許発明の実施例における構成

           上記のレーザ開削工法(本件公報5欄28行ないし6欄36行【0021】ないし【0027】参照。)において,「レーザ照射機構105から少なくともレーザ照射部を分離し,分離したレーザ照射部のみを小口径マンホール106を介して敷設パイプ類102内に設置するようにしたことを特徴」とする。「レーザ照射機構105本体は路上111に設置され,・・・路面101に埋設された敷設パイプ類102内には,レーザ照射機構105から分離されたレーザ照射部112が,マンホール106を経由して投入されている。このレーザ照射部112はその周囲をエアバッグ113で包囲されており,エアバッグ113にエアを充満することによって敷設パイプ類102の内壁に密着し,保持されている。上記エアバッグ113は好ましくは複数に区分されており,各区分へのエアの充填量を調節すればレーザ照射部112の角度等を微調整することができる。」,「上記レーザ照射機構105には,CPU等を含むレーザ照射部112のための各種の制御機器類,遠隔制御のための機器類,またエアバッグ113によるレーザ照射部112の角度調整のための,コンプレッサやエアシリンダその他の制御機器類が内蔵されている。」,「レーザ照射部112は,レーザ発光源ランプとレーザ照射ヘッドとを内蔵しただけのコンパクトな構造とすることができるが,マンホール106から取り出せる大きさの範囲内でレーザ照射部112の制御機器類の一部やエアバッグ113の制御機器類あるいはその一部を内蔵させることもできる。」とされている(本件公報6欄37行ないし7欄13行【0028】ないし【0031】)。
       (オ) 本件各特許発明の効果
           「マンホールの径が小さい場合でも,施工終了後にレーザ照射機構をマンホールから何ら問題なく回収することができるようにな」り,本件各特許発明の土木工事用レーザ測定器によれば,「レーザ照射機構本体側でレーザ照射部を遠隔制御できるようにしたことにより,敷設パイプ類内へのレーザ照射部の設置,レーザ照射部の照射角度等の微調整等を路上において簡単に行なうことができ,しかもレーザ照射部が道路を通行する車両の振動等で位置ずれを起こした場合その他の場合においても,照射高さや照射角度等の微調整等を簡易・迅速に行なうことができるようになった。」(本件公報8欄7行ないし19行【0036】【0037】参照。)

     イ 本件特許権の特許出願時における当初の明細書(以下「当初明細書」という。)の特許請求の範囲の記載(乙19)(但し,請求項3及び同4は省略。)
       (ア) 請求項1(以下「当初請求項1」という。)
           レーザ光を照射するレーザ照射機構と,このレーザ照射機構を制御するための各種の制御機器類とを備えたレーザ測定器本体とで構成された土木工事用レーザ測定器を,地下に埋設した敷設パイプ類内の所定位置に位置決めしながら保持する保持機構を備えていることを特徴とする土木工事用レーザ測定器。
       (イ) 請求項2(以下「当初請求項2」という。)
           土木工事用レーザ測定器を,地下に埋設した敷設パイプ類内の所定位置に位置決めしながら保持する保持機構が,エアバッグからなる請求項1に記載の土木工事用レーザ測定器。

     ウ 特許庁から原告Aに対し,当初明細書に記載された本件特許発明1及び同3について,次に掲げる文献を引用し,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとして,平成13年10月18日,拒絶理由通知(乙15)が発せられた。
       (ア) 当初請求項1について
           特開平5−306919号公報(以下「引用文献1」という。)又は,特開平10−47960号公報(以下「引用文献2」という。)により,レーザ照射機構と制御機器類とを備えた点は当業者が容易に発明をすることができた。
       (イ) 当初請求項2について
           特公平7−33967号公報(以下「引用文献3」という。乙9)のバッグ7は,本件各特許発明のエアバッグに相当し,当業者が容易に発明することができた。
     エ 原告Aは,平成13年12月14日受付の手続補正書(乙16)により当初明細書の記載を本件明細書に記載のとおり訂正した上,同日受付の意見書(乙20)において,次のとおり意見を述べた。

       (ア) 「引用文献1および2には,確かにレーザ照射機構と制御機器類とを備えた点が記載されています。しかしながら本願発明の要部は『レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさとした』点にあるのであって,引用文献1および2はこの点を示唆するものではありません。もちろん,本願発明を上記のように構成したことによって,『マンホールの径が小さい場合でも,施工終了後にレーザ照射機構をマンホールから何ら問題なく回収することができ,なおかつ敷設パイプ類内への設置,照射角度等の微調整等をも簡単に行なうことができる土木工事用レーザ測定器を提供することができる。』という顕著な作用効果を奏することについても何も示唆しておりません。」
       (イ) 「本願発明は,本願発明者の発明になる特願平3 −80812号(特公平8−23141号公報)の発明の改良に係るものであります。すなわち,『省開削』と称する登録商標のもとに『敷設パイプ類1本の長さに応じ開削・埋め戻しを行なう点』を要旨とする前記特許発明を実施するに際して得られた知見に基づくものであります。本願発明は,上記『省開削』の工法において,小口径マンホールの増加に伴って発生した『施工終了後にレーザ照射機構をマンホールから回収することができず,なおかつ敷設後に敷設パイプ類内への設置,照射角度等の微調整等を行なうことが困難である。』という問題点を見出し,そのことによって初めて達成できたものであります。したがってこのような問題点を認識することなく,上記レーザ照射機構と制御機器類とが本願発明のレーザ照射機構とレーザ照射部とに相当するかどうかという議論をしても(もちろん相当しないと考えますが),何ら意味があるものとは考えられません。」

       (ウ) 「下水道の普及が過疎地に広がれば広がるほど道路の幅が狭くなり,従来の工法では対応できなくなっているのであります。そのような場所においては,大きいマンホールを採用することはできないため,推進工法等を用いたり,手作業で掘り進まざるを得なかった状況があり,本願発明ではそのような問題点を解消して,『敷設パイプ類1本の長さに応じ開削・埋め戻しを行う』ことによって道路の幅が狭くても効率的な工事ができる,という極めて顕著な作用効果を有するものであります。」
     オ「省開削工法」に関しては,本件特許権の出願前に,原告Aの出願に係る下記特許権が存在していた(甲3,乙14の1及び2,23)
       (ア) 特許番号    第2130643号
           登 録 日  平成9年7月11日
           出願番号    特願平3−80812号

           出 願 日  平成3年3月18日
           出願公告日  平成8年3月6日
           発明の名称  路面開削工法
       (イ) 上記特許権の特許請求の範囲
           「路面(1) に敷設パイプ(3) 類1本の長さに応じた距離を開削機械によって開削し,この開削部分にパイプ(3) 類1本の長さ分の土留をしてパイプ(3) 類を敷設し,勾配をパイプ(3) 類の内部に設置したレーザ測定器(9)によって測定するとともに,測定用のレーザ光で開削部分を照らしながら開削作業を行ない,かつ上記開削機械で開削部分を埋め戻す工程を順次繰り返すようにしたことを特徴とする路面開削工法。」
       (ウ) なお,上記特許権については,平成16年2月20日付けで,無効審判が請求され,同年9月10日,特許庁により,上記特許請求の範囲に係る発明は,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものとして,同法123条1項2号により無効とする旨の審決がされた。

   (2) 冒認出願について
     ア 前記前提となる事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
       (ア) 被告は,被告装置の製造販売以前から,下水道工事その他の土木工事に用いる光学測定器の製造販売を行っており,1995年(平成7年)6月15日には,商品名「TP−L2」のパイプレーザーの改良品として,電源部を外部に外すことで小型化する製品の開発を行っており,平成7年7月には,商品名「TP−L2A/TP−L2B」のパイプレーザーの販売を開始した。TP−L2A/TP−L2Bは,「高能率・高精度・小型・軽量の第2世代パイプレーザーです。設置に便利な”コードレス電源”を採用し,‥‥‥本体は一段と小さく(当社製品体積比78%)”外形φ116mmを実現”して径φ125mmの小口径管にも対応,能率と精度の向上に寄与いたします。」などと被告パンフレット(甲16)において紹介された(甲16,乙12の2)。

       (イ) 被告は,1997年(平成9年)11月5日,当時販売していたTP−L3の管内固定方法について,顧客からオプション等の依頼を受けていた件で,市販品での対応方法として,「市販のソフトバレーボールと空気入れを使用し,管内設置時TP−L3と管上部の隙間にソフトバレーボールを挿入し,空気を注入し固定」することを提案した(乙24に添付の資料6)。
       (ウ) 被告は,被告の代理店の取引先である原告Aから,パイプレーザーへの要望について話をしたいとの申し入れがあったため,1997年(平成9年)12月5日,原告Aが専務を務める有限会社米屋金物店において会合を持った。
           このときの原告Aと被告の打合せ記録(第1回)(乙2)には次のとおり記載されている(以下,原告Aとの第1回目の打合せを「第1回打合せ」という。)。

         「主題:TP−L3マシンホール対応特注品打合せ
           日時:97年12月5日 場所:(有)米屋金物店内
           出席者:(有)米屋金物 A専務
                   (有)杉本興業 B社長
                   (株)東京トプコン販売 C所長,トプコンD(記)
           概要
           1 TP−L3小型マンホール(マシンホール)設置用改良要望について
           2 下水工事工法等の情報収集
           詳細
           1 TP−L3改良要望
             @ 内容
               ●マシンホール径300o,200o,150o,管径100o,150o,200oの小型ホールに設置可能なパイプレーザーの開発。
               ●表示パネルを分離し,遠隔操作で本体操作。
               ●管内固定方法の検討。
             A 留意点
               ●上図(別紙「打合せ記録参考図」参照)の様に,管布設終了後取り出せる必要があるため幅,高さ,長さも小型化。

               ●操作パネルを分離し,現状の操作,表示可能とする。
               ●設置後ローリング等でズレてしまうと再設置不可のため管内固定,解除方法の検討。
               (とりあえず小型化とパネル分離のみでも可)
               ●マシンホールはアロン化成,Gが主。
                 (以下,略)                          」
       (エ) 被告は,上記の原告Aの要望を受けた後,市場調査を行い,近年マシンホールの売上げが非常に伸びており,マシンホールにおいて使用できるパイプレーザーには将来性があるとの判断に至ったことから,パイプレーザーをできるだけ小型化する開発を進めることとし,技術部に試作品の作成を依頼した。この際,被告の以前のパイプレーザは電源を外部に求めていたこと,「TP−L2」の小型化に際し,電池収納部を取り外して小型化した経験があったこと,既にあるものを変更していけば開発費が抑えられることなどを考え,既に完成し,販売していた被告の製品である「TP−L3」を利用し,「TP−L3」を照射部とバッテリー収納部の間で2つに分けることにした(乙24)。

           なお,被告の1997年(平成9年)12月17日付け社内連絡書(乙3)には次のように記載されていた。
           「特注品試作依頼の件(発信)
               掲題の件,下記製品につき製品化をご検討いただきたくご連絡申し上げます。
             1 パイプレーザーマシンホール対応型
                 TP−L3を発光部と操作部に分け途中をケーブルでつないだもの。
                 発光部 長さ250o以内
                 乾電池仕様。
                 基本性能はTP−L3と同等。
                 付属品は現行のものを使用できる。
                 通常方式の使用も可能。
                 パイプ内の固定方式,取り外し方式の検討。
               営業要望
                 試作品先行
                 98年3月試作品完成→7月始め目標とした場合の可能性を検討願います(4/15E)。」

       (オ) 平成10年2月10日の原告Aと被告の打合せ記録(乙24添付資料5)には次のとおり記載されており,原告Aから,小型マシンホールに設置可能な大きさにすることや,管設置後に動かないようにすることなどの要望が出された。
           「主題:(有)米屋金物打合せ
             日時:98年2月10日 場所:米屋金物店内
             出席者:米屋金物 専務,東京トプコン C所長,トプコンF課長,D(記)
             概要
             下水工事”開削工法”特許関係情報
             TP−L3改良要望についての打合せ
             『1.「開削工法」特許について』『2.今後のマンホールについて』は省略。
             3.TP−L3改良要望について
             トプコン進行状況
                 ・セパレートタイプで検討中。
                 ・来シーズン試作品作成し現場で試してもらうよう準備中。

                 ・型代がかかるため現状品より価格アップしそう。
                 ・マシンホールから引き上げるため止水プラグで検討。
             米屋要求仕様
             <マシンホール関係>
                 ・小型マシンホールに設置可能の大きさにする。
                 ・管設置後動かない。
                 ・左右に操作可能。
                 ・オートアライメント,グリーンレーザーはいらないから価格を下げる。
                 ・施工後引っ張り上げられる。止水プラグ形式では施工中,排水できない。
                 ・農業集落排水は末端管径100mmになるため100mmに対応可能の大きさ。
             <パイプレーザー全般>
               (以下,省略)」
               なお,最後に手書きで「今後,TP−L3マシンホール対応 来期試作品製作 8月,市場調査9月〜10月」との記載がある。

       (カ) TP−L3のセパレートタイプの製品開発は,平成10年4月に具体的開発計画が設定され,同年7月末に,セパレートタイプの製品がほぼ完成し,同月28日から31日までの間,本件展示会に被告装置の試作品が展示された(甲6の2,乙18,24)。
       (キ) そして,TP−L3のセパレートタイプについては,具体的機能を試験するために,「TP−L3セパレート試作機モニタースケジュールの件(発信)」と題した下記の社内連絡書に記載のとおり,平成10年11月27日から,モニターテストが行われた(乙4)。
           「TP−L3セパレート試作機モニタースケジュールの件(発信)
             標題の件,下記スケジュールで試作機貸出しいたしますのでご連絡いたします。
                           記
             1 モニター先

               @販売店名:米屋金物店(長野県茅野市)
               Aエンドユーザー名 杉本興業,昌栄土建工業,藤登土建
             2 スケジュール 
                 ・11月27日 米屋金物店あて発送
                 ・エンドユーザー各1週間デモ(計3週間)
                 ・12月24日 クオギ返却予定
                 ・12月末報告書提出
                 (以下略) 」
       (ク) モニターテストの結果,TP−L3のセパレートタイプの製品は防水性,レーザー照射部の固定等に問題があることが判明し,最終的に市場に出されたのは,平成11年(1999年)11月であった(甲20,弁論の全趣旨)。
     イ 判断
       (ア) 上記アにおいて認定した事実を前提とすると,原告Aは,被告に対し,第1回打合せ時において,小型マンホールでの使用のため装置の大きさを小さくすること,表示パネルを分離して遠隔操作で本体を操作すること,管内での固定方法を検討して欲しいと要望しただけであり,その後,被告において,以前に被告が製造販売していたパイプレーザは電源を外部に求めていたこと,被告の製品である「TP−L2」の小型化に際し,電池収納部を取り外して小型化した経験があったことなどから,被告が既に製造販売していた製品「TP−L3」の電源部を照射機構部分から別体化する方法で小型化することに想到したものである。

           また,前記(1)に認定の事実関係に照らせば,本件特許発明1の本質ともいうべき構成は,本件特許権の出願経過にかんがみると,「レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能とした」点にあるということができるところ,この点に関しては,原告Aが,第1回打合せ時に提案したものとはいえず,被告従業員が発明者というべきである。
           そうすると,本件特許発明1は,特許法123条1項6号の「発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してなされたもの」というべきで,無効理由を有することが明らかである。
           さらに,本件特許発明3は,本件特許発明1を前提とし,これをその内容の一部として引用する発明であるが,エアバッグを使用して管内に機器を固定する方法については,本件特許発明3の出願前に既に被告においても試みられていたものであるから(上記ア(イ)),仮に,これが原告Aから被告に対して提案されたとしても,原告Aをもってエアバックに関する構成の発想者といえないことが明らかである。

           したがって,本件特許発明3についても,上記本件特許発明1と同様,被告従業員が発明者であり,特許法123条1項6号の無効理由を有することが明らかである。
       (イ) なお,上記の点については,原告Aも,その陳述書(甲20)において,第1回打ち合わせ時に,被告に教示した内容として,「小口径マンホールで上手く使えるようにするためには,分離型にして上から操作できるようにするべき」であるということ,「小口径マンホールで上手く使えるようにすれば,今後は大いにニーズが期待できるだろう」と述べたこと,「私はレーザー装置のメカニズム自体の専門家ではないですから,そうした点についてご指導したわけではありませんが,使い勝手に即した工夫については十分な内容をご説明しました」などを述べるだけであり,具体的な装置の構成については自ら携わっていないことを自認している。原告Aが,本件特許発明1について被告に対して行ったのは,開発されるべき製品の性能等に関する要望を表明したものにすぎず,具体的な構成についての教示ということはできないものであり,原告Aを発明者と認めることはできない。

   (3) 進歩性の欠如@について(−本件特許発明1)
       仮に原告Aをもって発明者であるとしても,本件特許発明1は特許法29条2項に違反して特許されたものであり,同法123条1項2号の無効理由を有することが明らかである。
     ア 後掲各証拠によれば次の事実が認められる。
       (ア) 特公平8−23141号公報(乙14の2)の特許請求の範囲には,次のとおり記載されている。
           「路面(1) に敷設パイプ(3) 類1本の長さに応じた距離を開削機械によって開削し,この開削部分にパイプ(3) 類1本の長さ分の土留をしてパイプ(3) 類を敷設し,勾配をパイプ(3) 類の内部に設置したレーザ測定器(9)によって測定するとともに,測定用のレーザ光で開削部分を照しながら開削作業を行ない,かつ上記開削機械で開削部分を埋め戻す工程を順次繰り返すようにしたことを特徴とする路面開削工法」(以下「乙14の2の発明」という。)

       (イ) 平成元年9月ジオジメーター株式会社作成に係る「AMA SLP−86パイプレイヤー」のパンフレット(乙10の1ないし3)においては,「AMA SLP−86パイプレイヤー」が,上下水道埋設工事用レーザー装置であり,当該レーザー装置は,電源部及びリモートコントロール部と,レーザー照射部を含む部分とが分離されていること,レーザー照射部を含む部分は,小型マンホールや小型パイプの中に設置することができることが記載されている。なお,小型パイプの場合は,150oの小さなパイプの中でも使用でき,小型マンホールの場合は,直径225oのマンホールの中にも設置することができることが写真入りで説明されている。
       (ウ) 1995年(平成7年)AGL Corporation作成に係る上下水道埋設工事用レーザー装置「Grade Light 2000」のパンフレット(乙11。3頁左下)には,次の事項が記載されている。

           「小さいことは利点です。グレードライト2000は,動力パックが外せるので,異常に狭い逆アーチ状のものにも入れることができる。」
       (エ) 本件展示会において展示されていた被告装置の試作品について
           平成10年7月28日,本件展示会において,被告はその製品を展示していた。展示されていた製品は,被告の従来製品である「TP−L3」シリーズにおいて,レーザ照射部と表示部が分離された構造のものであり,分離されたレーザ照射部が小口径のパイプに設置された状態が展示されている(甲6の2,乙18)。
     イ 判断
       (ア) 上記のア(ア)ないし同(ウ)と本件特許発明1とを比較すると,乙14の2の発明には,本件特許発明1が示すレーザ開削工法及び当該工法に使用する土木工事用レーザ測定器が開示されているから(上記ア(ア)参照),本件特許発明1の構成要件Aが記載されている。

           また,乙14の2の発明においては,本件特許発明1における「レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能とした」という構成要件Bは開示されていないが,この点については,上記の乙10の1ないし3及び乙11からすると,レーザ照射機構から一部の機構を分離すれば,分離された機構が小型化され,小型マンホールや小型パイプ内に設置可能になることは公知であったというべきである(上記ア(イ)及び同(ウ)参照)。そして,レーザ光を用いて行う土木作業においては,少なくともレーザ照射部のみが分離されていれば足りることは,当業者であれば容易に想到できたものと認められる。
           さらに,本件展示会において被告が展示した被告装置の試作品は,レーザ照射部と表示部(操作部)が分離されたパイプレーザーであり,レーザ照射部が,小口径の管に設置できるものであったから,本件特許発明1の構成要件B及びCの構成については,本件展示会における被告装置の試作品の展示により公知となっていたと認められる。

           上記によれば,本件特許発明1は,乙14の2の発明に,乙10及び乙11,あるいは,本件展示会に展示され,公知となっていた被告装置の試作品の構成を組み合わせることにより,当業者が容易に発明することができたものというべきであるから,進歩性欠如の無効理由を有することが明らかである。
       (イ) この点に関して,原告らは,乙10のレーザー装置はリモコンが本体から分離されているにすぎず,装置の状態を示す表示器などは本体に付いており,横方向に延びる敷設パイプ内に置くと表示を地上から見ることができず,確認することができないから,パイプ内に設置可能とはいえないし,また,乙11のレーザー装置にはバッテリーを外すことが開示されているにすぎないと主張する。
           しかし,本件特許発明1においては,構成要件Bに関して,レーザ照射部を本体から分離して小口径マンホールを通過する大きさとし,このレーザ照射部が小口径マンホールを介して敷設パイプ内に設置可能となっていれば足るものであり,操作部,表示器の構成や設置位置に関しては特許請求の範囲に特段の限定がされていない。しかも,本件明細書においては,照射部について,【0031】「またレーザ照射部112は,レーザ発光源ランプとレーザ照射ヘッドとを内蔵しただけのコンパクトな構造とすることができるが,マンホール106から取り出せる大きさの範囲内でレーザ照射部112の制御機器類の一部やエアバッグ113の制御機器類あるいはその一部を内蔵させることもできる。」(本件公報7欄8行ないし13行)と記載されているのである。なお,操作部に表示器を設けることは通常行われることであるから,仮に操作部,表示器を別途設けることが本件特許発明1の構成であるとしても,当業者が容易に発明することができたものであることに変わりはない。

       (ウ) また,原告らは,本件展示会での展示は,原告Aの意に反して展示されたものであるから,公知性の喪失事由に該当しない旨も主張する。
           前述のとおり,本件特許発明1は,原告Aの発明によるものではなく,被告の発明に係るものであるから,そもそも原告らの主張はその前提を欠き,採用できないものであるが,仮に,本件特許発明1が原告Aの発明に係るものであるか,あるいは原告Aが共同発明者であったとしても,本件展示会での展示が原告Aの意に反するものであったとはいえない。
           すなわち,原告Aは,被告に対し,第1回打合せの平成9年12月5日に被告の製品である「TP−L3」の改良要望を伝えた後,平成10年2月10日における2回目の被告との打合せ時に,被告から,セパレートタイプの製品開発の進行状況の報告を受け,「来シーズン試作品作成し現場で試してもらうよう準備中」であること等を聞いたにもかかわらず(上記
(2) ア(オ)参照),被告と秘密保持契約の締結を要求するなどの行動を全くとっていない。
           特許法30条2項の規定は,新規性ないし進歩性を喪失していることにより本来特許されない発明について,例外を認めるものであるから,発明者の救済措置として必要やむを得ない範囲に限定して解すべきところ,共同発明者の一部や発明協力者が発明を公表したような場合には,共同発明者間,あるいは発明協力者との間で,秘密保持契約を締結するなど,発明の公表を制約する合意が存在しない限り,同項に該当するものということはできない。
           本件においては,原告Aと被告との間で,秘密保持契約等の発明の公表を制約する合意が存在したことが認められないから,本件展示会における展示が,同項に該当するということはできない。
   (4) 進歩性の欠如Bについて(−本件特許発明3)
       本件特許発明3は,本件特許発明1又は請求項2に係る発明を引用する発明である。請求項2に係る発明については,請求項2において本件特許発明1を限定する構成である,「レーザー照射部が,有線もしくは無線で遠隔操作されるようにしてなる」の構成は,乙10の1ないし3及び弁論の全趣旨に照らせば,本件特許発明3の出願当時において公知の技術であったというべきであるから,請求項2に係る発明もまた,本件特許発明1と同様に進歩性を欠くものとして無効理由を有することが明らかというべきである。そして,本件特許発明3は,本件特許発明1又は請求項2に係る発明につき,管路内に固定するためのエアバッグという構成を付加して限定するものであるが,次のとおり,進歩性欠如の無効理由を有することが明らかである。

     ア 特開平6−167338公報(乙17)には,次のとおり記載されている。
       (ア) 同公報の特許請求の範囲には,「管体と,管体内に据付けられるレーザ装置との間に弾性体を挿入し,該弾性体の弾発力とこの弾発力による摩擦力とによりレーザ装置を管体内に固定することを特徴とするレーザ装置固定方法。」と記載されている(以下「乙17の発明」という。)。
       (イ) 同公報の要約における構成には,「管体1と,管体1内に据付けられるレーザ装置2との間にバッグ7を挿入し,該バッグ7の弾発力(内圧)とこれによる摩擦力とによりレーザ装置2を管体1内に固定する構成とする。」と記載されている。
       (ウ) 同公報の【0022】【実施例】及び【0023】には,「本発明の一実施例に係る管体内へのレーザ装置固定方法を図1の正面図に基づき説明すれば,以下の通りである。」「土中に埋設される管体1内にレーザ装置2を挿入し,管体1の内周面の下部にレーザ装置2を置く。この後,管体1内でレーザ装置2の上側に形成される空間にゴム,弾性を有する合成樹脂等の弾性体で作られたバッグ7を挿入し,外部から圧縮空気をバッグ7に充填してバッグ7を膨らませ,所定の接触圧で管体1の内周面の上部とレーザ装置2の上部とにバッグ7を密着させる。」と記載されている。

     イ 上記によれば,乙17の発明における弾性体は,本件特許発明3のエアバッグに相当するものといえるから,同発明には,エアバッグによって管路内の装置が固定される構成が開示されているといえる。
         そして,乙17の発明を本件特許発明1又は請求項2に係る発明と組み合わせることは,当業者にとって容易に想到できるものである。
         したがって,本件特許発明3は,@乙14の2の発明,A乙10及び11の記載事項あるいは本件展示会の展示内容,B乙17の発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであって,特許法29条2項に違反して特許されたものであり,同法123条1項2号の無効理由を有することが明らかである。
   (5) まとめ
       上記によれば,本件特許発明1及び同3は,上記(2) に記載のとおり,原告Aの冒認出願により特許されたものであるから,特許法123条1項6号の無効理由を有することが明らかであり,また,上記(3) 及び(4) に記載のとおり,同法29条2項の規定に違反して特許されたものであって,同法123条1項2号に規定する無効理由を有することが明らかというべきであるから,本件特許権ないしその専用実施権に基づいて,被告装置の製造販売の差止め並びに補償金及び損害賠償金の支払を求める原告らの本訴請求は,権利の濫用に当たり許されない(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)。

 2 結論
   以上によれば,本件各特許発明は無効理由を有することが明らかであって,本件特許権に基づく原告らの請求は権利の濫用に当たるものとして許されないから,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本訴請求は理由がない。
   よって,主文のとおり判決する。


     東京地方裁判所民事第46部

                  裁判長裁判官      三  村  量  一


                       裁判官      鈴  木  千  帆

               
                         裁判官      荒  井  章  光