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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

不正競争(その他)

令和5(ワ)893  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年3月18日  大阪地方裁判所

 商標権侵害であるとAmazonに申告することは、不正競争行為に該当すると判断されました。\n

不競法2条1項21号の「虚偽」とは、客観的事実に反する事実であるところ、 本件各申告の内容は、原告各標章を付した原告各商品の販売が被告商標権を侵害\nするというものであるから、以下、当該内容が客観的事実に反するか、すなわち、 原告各標章の使用が被告商標権を侵害しないといえるかにつき検討する。
なお、商標権侵害の判断の前提となる商標の類否は、対比される両商標が同一 又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混 同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、使用され た商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、 連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品又は役務に係る取 引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断される (最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民 集22巻2号399頁参照)。また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と\n解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は\n役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、 それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場 合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると\n思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部\n分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断する ことも許される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小 法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同 5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年 (行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号56 1頁参照)。
(1) 原告標章1ないし同10と被告商標との対比
ア 原告標章1ないし同10について
原告標章1ないし同10は、「Qbit」、「いつでも」、「簡単」、「トイレ」 の文字(同1、4、5、7、8)及びこれらの文字と丸い絵柄(円の外から 中央右下に向けて濃紺から淡い青を経て白色にグラデーションが施され、円 の内部に「Q」の字を模した白抜きがされたもの)から構成される結合商標\nである。これらの標章のうち、「いつでも」、「簡単」の文字部分は、順に、商 品の使用の時期、使用の方法又は効能を表\示するものにすぎず、「トイレ」部 分は普通名称であるから、これらが「いつでも簡単トイレ」と一体として表\n示されていることを踏まえても、これらの文字部分が商品の出所識別機能を\n有しているとはいえず、「Qbit」又は「Qbit」と上記丸い絵柄部分が 強い出所識別機能を有しているといえる。よって、被告商標との類否の判断\nにあたっては、文字部分を抽出するのは相当でなく、上記「Qbit」と丸 い絵柄の部分を抽出して対比することが相当である(なお、これらの標章の 中には、Qbitや上記絵柄部分と他の文字部分が、横並びになる構成のも\nのや上下の構成のものもあるが、これらの構\成の相違は、上記結論に影響し ないというべきである。)。 そして、「Qbit」及び丸い絵柄からは「きゅーびっと」との称呼が生 じ、特定の観念は生じない。
イ 被告商標について
被告商標は、片手で長い布様のものを所持する赤ちゃん様の絵柄と「いつ でも」、「どこでも」、「簡単」、「トイレ」との各文字部分から構成される。こ\nのうち、文字部分は、前記長い布様のものの上に「いつでもどこでも」と「簡 単トイレ」が2段に配置され、「いつ」「どこ」がロゴ化され、「トイレ」のレ の字には、用が足される様子を模式的に示す絵柄が付加されているものの、 商品の使用時期、提供の場所、使用の方法又は効能を表\示するものにすぎず、 「トイレ」部分は普通名称であるから、これらが一体として表示されている\nことをも踏まえても、これらの文字部分が商品の出所識別機能を有している\nとはいえず、赤ちゃん様の絵柄部分が強い出所識別機能を有しているという\nべきである(仮に文字部分の識別力を考慮するとしても、前記の配置やロゴ 化、絵柄の付加といった要素を捨象して考えることはできない。)。よって、 原告標章1ないし同10との類否の判断にあたっては、(標準文字としての) 文字部分を抽出するのは相当でなく、上記赤ちゃん様の絵柄を抽出して対比 することが相当である。そして、当該部分からは特定の称呼、観念は生じない。
ウ 対比
原告標章1ないし同10の「Qbit」又は「Qbit」と丸い絵柄部分 と被告標章の赤ちゃん様の絵柄部分とを比較すると、外観、称呼、観念のい ずれにおいても類似しない(双方の標章の文字部分と上記図柄の組合せを全 体として観察しても同様である。)。この点、被告商標の商標登録後に出願さ れた原告商標1及び原告商標2がいずれも商標登録されるに至ったことは、 上記判断と整合する。
(2) 原告標章11ないし同15について
これらの標章は、「いつでも」、「簡単」、「トイレ」の文字から構成されている\nが、上記のとおり、これらの文字部分は、商品の使用の方法や効能を表\示する ものや普通名称であり、出所識別機能を有しているとはいえないから、商標法\n26条1項2号の商標に該当すると認められる。よって、これらの標章に被告 商標権の効力は及ばない。
(3) 小括
したがって、原告各標章を付した商品の販売は、被告商標権を侵害する行為 に当たらないから、これに反する本件各申告の内容は「虚偽」であると認めら\nれる。
(4) 争点1のまとめ
以上に加え、前記1、2を総合すると、本件各申告は、不競法2条1項21\n号の不正競争に当たる。

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令和5(ネ)1384等  損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和6年1月26日  大阪高等裁判所

大阪高裁は、アマゾンに対してサイト上に掲載した画像等が被告の著作権を侵害する等の申告をした行為が不正競争防止法(不競法)2条1項21号の不正競争行為に該当すると判断されました。1審の判決維持です。なお、著作物性無しと判断されたのは、芸能人を被写体とする写真が印刷された平面的な表\紙及び裏表紙を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影した画像です。\n

写真集及び卓上カレンダーに係る被告画像1、2及び4ないし10は、 インターネットショッピングサイトにおいて販売する商品がどのような ものかを紹介するために、芸能人を被写体とする写真が印刷された平面\n的な表紙及び裏表\紙を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影 した画像であり、上記表紙及び裏表\紙以外に背景や余白はないのであっ て、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、背景\n等に選択の余地がなく、上記表紙及び裏表\紙ひいてはそこに印刷された 芸能人を被写体とする写真を忠実に再現する以外に、その画像の表\現自 体に何らかの形で撮影者の個性が表れているとは認められないから、上\n記各被告画像には創作性が認められない。したがって、上記各被告画像 は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)\nとはいえず、著作物とは認められないから、一審被告が上記各被告画像 について著作権を有するとは認められない。
(イ) 被告画像3について
単語帳に係る被告画像3も、インターネットショッピングサイトにお いて販売する商品がどのようなものかを紹介するための写真ではあるが、 芸能人を被写体とする写真が印刷された表\紙及び裏表紙を金具のリング\nから取り外し、各写真を表にして平面上に上下に並べ、その右側に一部\n裏表紙と重なる形で、63枚の単語カードを写真側を表\にして金具のリ ングを要として扇状に広げたものを撮影したものであり、正面から撮影 されたものではあるものの、上記単語カードを扇状に広げることによっ てその重なり合いによる陰影が表現され、また、2枚目以降の単語カー\nドの白い縁取りからわずかに各写真が垣間見えるように広げることによ って各単語カードにそれぞれ異なる写真が印刷されていることを表現し\nており、白い背景によって表紙及び裏表\紙の写真等を浮き立たせる効果 も生んでいるといえる。このような手法が商品としての単語帳を紹介す る際にまま見られるもの(乙62、63)であったとしても、その被写 体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、背景の選択には 複数の余地があり、被告画像3の表現自体に撮影者の個性が表\れている と認められる。したがって、被告画像3は、「思想又は感情を創作的に 表現したもの」といえ、著作物性が認められるから、その撮影者である\n一審被告は被告画像3について著作権を有すると認められる。
(ウ) 以上に対し、一審被告は、被告画像1、2及び4ないし10についても、 手ブレ補正、露出補正、ホワイトバランス等の細かい調整を行い、光の 入り方に気を配って撮影場所にこだわり、複数の写真を撮影してその中 の一番良い写真について彩度、色合いを編集するなどの独自の工夫を凝 らしている旨主張するが、一審被告が主張するそのような工夫は、商品 である写真集ないし卓上カレンダーの表紙及び裏表\紙、ひいてはそこに 印刷された芸能人を被写体とする写真を忠実に再現するためのものであ\nって、上記工夫の結果、それらが忠実に再現された各被告画像が得られ たとしても、その表現自体に何らかの形で撮影者である一審被告の個性\nが表れているとは認められない。したがって、上記一審被告の主張は上\n記(ア)の判断を左右しない。
・・・
ア 上記のとおり、被告サイト上の被告各画像及び商品名のうち、そもそも著 作物性が認められるのは被告画像3のみであり、その余については著作物性 自体が認められず、一審被告が著作権を有しないから、一審原告がその著作 権を侵害した事実はおよそ存在しない。そこで、原告画像3の掲載が被告画 像3についての一審被告の著作権侵害に当たるかにつき、以下検討する。
イ 被告画像3の表現上の本質的特徴は、前記(3)ア(イ)のとおり、本件商品3 を撮影する際の被写体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、 背景の選択等を総合した表現に認められるところ、画像テンプレートを利用\nして作成された原告画像3は、単語帳から取り外した一部の表紙等を並べて\nその横に単語帳を扇状に広げて置くなどの点で商品の見せ方に関する基本的 なアイデアに被告画像3との共通点はあるが、取り外して並べられたのが表\n紙や裏表紙の写真面か、単語カードの韓国語単語が記載された面か、その枚\n数、色彩及び配置、金具のリングを要として扇状に広げられた単語帳がその 右側に配置されているか左側に配置されているか等の配置、同単語帳の1枚 目のカードに印刷された写真内容、同単語帳の単語カードの枚数、色彩、扇 状の広がり方及び陰影等で異なっていることが一見して明らかであって、そ の素材の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、色彩の配合、素 材と背景のコントラスト等において被告画像3と異なるから、被告画像3の 表現上の本質的特徴を直接感得させるものとはいえない。なお、原告画像3\nで選択された素材のうち、本件商品3の表紙を正面から撮影した画像部分の\nみは被告画像3と共通するが、その画像自体は、被告画像1、2及び4ない し10について検討したと同様、平面的な上記表紙を忠実に再現したのみで\n創作性が認められない部分であるから、同画像部分が共通しているからとい って、原告画像3が被告画像3と類似しているとは到底認められない。した がって、一審原告が原告画像3を原告サイトに掲載したことが、被告画像3 に係る一審被告の著作権を侵害するものとは認められない。
以上によれば、一審被告が、本件各申告によってアマゾンに告知した、一\n審原告が被告サイト上の被告各画像及び商品名についての一審被告の著作権 を侵害しているとの本件各申告の内容は、全て虚偽の事実であったというこ\nとになる。そして、前記第2の2で原判決を補正した上で引用した前提事実 (1)によれば、一審原告と一審被告は競争関係にあるといえ、また、上記著 作権侵害の事実を申告する行為は一審原告の営業上の信用を害する虚偽の事\n実を告知する行為といえるから、本件各申告は、客観的に不競法2条1項2\n1号に該当するということになる。

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令和4(ワ)16072  不正競争防止法に基づく差止請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年2月21日  東京地方裁判所

非たばこ加熱式スティックに関する本件表示は、不競法2条1項20号の品質等誤認惹起行為に該当しないと判断されました。\n

(ア) 判断基準について
不競法2条1項20号は、商品や役務に、その品質や内容を誤認させ るような表示をし、又はその表\示をした商品を譲渡等することにより、 需要者の需要を不当に喚起するとともに競争上不当に優位に立とうとす ることを防止する趣旨の規定であるといえるから、本件表示が本件商品\nの品質及び内容について誤認させるような表示に当たるか否かは、本件\n表示によって、本件商品についての需要者の需要を不当に喚起し、被告\nらが不当に競争上優位に立つことになるか否かによって判断すべきと解 される。
(イ) 本件表示の目的について\n
本件商品は、一般消費者向けの茶葉を原料とする非たばこ加熱式ステ ィックであり(前提事実(2))、本件商品に係る広告においては、本件商 品はたばこであるか否か、有害な成分が入っているか否かについての質 問及び回答が掲載されている(前提事実(3))。このような事実に照らす と、本件表示の目的は、ニコチンの含有量を科学的な正確さをもって示\nすためのものではなく、本件商品が含有する成分は茶葉と同様であって、 たばこのように身体及び精神に悪影響を与えるような程度の量の成分を 含有していないことを示すためのものと認められる。
・・・・
(カ) まとめ
前記(イ)ないし(オ)のとおり、1)本件表示は、ニコチンの含有量を科学\n的な正確さをもって示す目的のものではなく、本件商品が含有する成分 は茶葉と同様であって、本件商品に身体及び精神に悪影響を与えるよう な程度の量の成分を含有していないことを示す目的のものと考えられる こと、2)本件商品が含有するニコチンは、茶葉そのものに含まれていた 内因性由来のものであって、その含有量は、人が摂取しても安全と評価 されており、生理活性がない可能性も指摘されている水準にとどまるこ\nと、3)茶葉を原料とする他の複数の非たばこ加熱式スティックに係る広 告においても、定量下限を1ppmとした分析によりニコチンが検出さ れなかったことを根拠として「ニコチン0」との記載がされているとこ ろ、これらの商品にも当該定量下限を下回る量の内因性由来のニコチン が含まれている可能性を当然に否定することはできないことを指摘する\nことができる。
以上の点に照らせば、本件表示に接した需要者は、本件商品が、ニコ\nチン含有の有無及びその量に関し、身体及び精神に与える影響との観点 から、他の非たばこ加熱式スティックと比較してより優れたものである と認識するものではないというべきである。 したがって、本件表示が、本件商品についての需要者の需要を不当に\n喚起し、被告らが不当に競争上優位に立つことになるものであるという ことはできず、よって、本件表示が本件商品の品質及び内容について誤\n認させるような表示に当たると認めることはできない。\n

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令和5(ネ)10097  営業侵害行為差止請求等控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和6年2月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審では、営業秘密、限定提供データのいずれではないと判断されました。知財高裁も同様です。利益分配に関する請求についても同様です。

ア 原告は、EL社が営業秘密又は限定提供データの保有者であり、被告AI及 び被告SAIはEL社から営業秘密又は限定提供データの開示を受けたと主張する が、そうであるとすれば、開示された営業秘密又は限定提供データが原告の営業秘 密又は限定提供データであるということはできないはずである。もともと、前記補 正の上引用した原判決のとおり、スマホ留学の顧客情報は各組合員に帰属するもの であり(本件組合契約5条1項)、被告AI及び被告SAIが自らに帰属する顧客 情報を使用することは、不正競争行為に当たるものではない。
イ さらに、本件組合契約は、スマホ留学以外の特定の商品又はサービスを「対 象案件」として、その紹介をするため、スマホ留学の顧客情報を用いることを予定\nしている(本件組合契約6条4項等)。したがって、被告らが、顧客情報をケンペ ネEnglishやオンライン留学の紹介に用いたことをもって、直ちに本件組合 契約に違反すると認めることはできない。
ウ 原告は、本件組合契約7条2項を文字通り解釈すると本件組合契約締結以前 に提供された情報は、同項の「機密情報」には該当しなくなるから不合理である旨 主張する。しかし、原告及び被告らとの間で平成29年3月1日に締結された業務 委託契約書(乙A102)によれば、本件組合契約締結前のスマホ留学事業に関す る機密情報については、上記業務委託契約書9条に本件組合契約7条2項と同じ内 容の機密保持に関する条項が設けられていることが認められ、本件組合契約の締結 により当該条項の効力が失われたと解すべき理由は見当たらない。したがって、当 事者の合理的意思解釈として、本件組合契約締結前の機密情報については前記業務 委託契約書9条に基づく保護の対象となると解するのが相当であるから、原告の主 張する点は、本件組合契約7条2項をその文言どおり解釈することの妨げとなるも のではない。

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◆令和2(ワ)23432

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令和5(ワ)70052  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年2月26日  東京地方裁判所

 囲碁将棋チャンネルは、YouTubeに、著作権侵害としてYouTuberの動画の削除申請しました。これが違法か否か争われました。争点は棋譜に著作権があるのか否かです。裁判所は約2万円の損害賠償を認めました。

原告は、本件において虚偽の事実を告知等されたことによって、経済的損害に つき不正競争防止法2条1項21号に基づく損害賠償請求権が発生するほかに、 併せて人格的利益を侵害するものとして、別途不法行為に基づく損害賠償請求権 が発生する旨主張する。そこで検討するに、人格権ないし人格的利益とは、明文上の根拠を有するものではなく、生命又は身体的価値を保護する人格権、名誉権、プライバシー権、肖像権、名誉感情、自己決定権、平穏生活権、リプロダクティブ権、パブリシティ 権その他憲法13条の法意に照らし判例法理上認められるに至った各種の権利 利益を総称するものであるから、人格的利益の侵害を主張するのみでは、特定の 被侵害利益に基づく請求を特定するものとはいえない。しかしながら、原告は、 裁判所の重ねての釈明にもかかわらず、単なる総称としての人格的利益をいうに とどまることからすると、原告の主張は、請求の特定を欠くものとして失当とい うほかない。
もっとも、原告は、原告主張に係る人格的利益とは、最高裁平成16年(受) 第930号同17年7月14日第一小法廷判決・民集59巻6号1569頁(平 成17年判決)にいう著作者の人格的利益と同趣旨のものであり、大阪高裁令和 4年(ネ)第265号、第599号同4年10月14日判決(令和4年判決)も、 その趣旨をいうものである旨主張する。
仮に、原告主張に係る人格的利益が、上記判例を引用する限度で特定されてい るものと善解したとしても、平成17年判決は、著作者の思想の自由,表現の自\n由が憲法により保障された基本的人権であることに鑑み、公立図書館において閲 覧に供された図書の著作者の思想、意見等伝達の利益を法的な利益として肯定す るものであり、その射程は、公立図書館の職員がその基本的義務に違反して独断 的評価や個人的好みに基づく不公平な取扱によって蔵書を廃棄した場合に限定 されるものである。そうすると、私立図書館その他の私企業における場合は、明 らかにその射程外というべきものであるから、平成17年判決は、私企業である YouTubeにおける投稿動画に係る伝達の利益が問題とされている本件に は、適切なものといえない。
また、原告が引用する大阪高裁令和4年(ネ)第265号、第599号同4年 10月14日判決(令和4年判決)は、人格的利益に関わるものと説示しつつも、 投稿者の営業活動を妨害するという側面をも踏まえたものであるから、精神的価 値という法益に限定して法的利益性が主張されている本件には、必ずしも適切で はない。のみならず、平成17年判決が、上記のとおり、伝達の利益を法的な利 益として肯定する場面を、公立図書館の職員による極めて不公平な取扱等の場合 に制限している趣旨に照らしても、憲法で保障されている表現の自由から、直ち\nにYouTubeにおける投稿動画に係る伝達の利益を肯定するのは相当では ない。その他に、原告は、著作権法、電気通信事業法その他の法令を縷々指摘して、 原告主張に係る人格的利益が重要性の高い法益である旨主張するものの、原告が 掲げる法令は、原告主張に係る人格的利益を保護するものとはいえず、上記にお いて説示したところに鑑みると、原告の主張は、その特定及び根拠を欠くもので あり、採用の限りではない。

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令和5(ネ)1657  実験装置使用差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和6年2月9日  大阪高等裁判所

科研費契約に付随する秘密保持義務違反かどうかについて争われました。1審は義務違反無しとし、大阪高裁は、これを維持しました。

1 争点(1)(被控訴人は本件科研費契約に付随する秘密保持義務に違反したか)に ついて
(1) 前記前提事実(4)アのとおり、本件物件は関係規定に基づき控訴人らから被 控訴人に寄付されたものであるところ、控訴人らは、上記寄付を受け入れた 研究機関である被控訴人としては、本件科研費契約上、補助事業者である研 究者に代わり本件物件を科研費の交付目的に従って適切に管理することが求 められるのであり、本件物件に化体している本件情報に関する権利について は、同契約に付随して、信義則上、上記目的外で自ら使用したり、第三者に 漏洩・開示等したりしてはならない義務(秘密保持義務)を負っている旨を 主張する。
(2) そこで検討するに、公金である補助金により購入された設備等の取り扱い については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律を始めとする\n関係各規定により詳細が定められ、本件物件もこれに従い控訴人らから被控 訴人に寄付されたものであるところ、まず寄付とは、一般的に、公共性、公 益性を有する事業や団体などに対し、財産を贈与することであり、その目的 が物であれば、その所有権の無償による譲渡を意味するものである。そして、 大学共同利用機関取扱要領22条によると、寄付を受けた設備等は、固定資 産管理規則に基づき管理するものとされているところ、同規則11条には、 「資産管理責任者は、固定資産等を寄附により取得する場合」との記載があ ること、平成18年12月26日付けで作成された文部科学省の「研究費の 不正対策検討会報告書」には、「現在の競争的資金等の制度においては、例え ば機器を購入した場合(中略)個人補助の科学研究費補助金の場合、所有権 はいったん研究者に帰属し、所属する研究機関に寄付することになっており」 との記載があること(甲63の1・2)、振興会作成の科研費ハンドブックに 掲載された「科研費FAQ」には、「直接経費により購入した設備等は、研究 代表者又は研究分担者が所属する研究機関に寄付しなければなりません。【Q\n4405】」、「科研費により購入した設備等は、購入後直ちに研究機関に寄付 することとしていますので、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別 の研究等で使用することは差し支えありません。【Q44071】」との記載 があること(甲21)がそれぞれ認められ、これらの記載はいずれも、科研 費により設備等を購入した研究者がその所属する研究機関に行う寄付が、留 保を伴わない所有権の無償譲渡を意味するものであることを前提としている と解するのが相当である。これらに加え、平成23年に締結された被控訴人、 RCNP、TRIUMF及びウィニペグ大学の4研究機関によるUCNの共 同研究に係る合意(2011年覚書)には、被控訴人が本件物件の所有権を 有している旨の定めが置かれており(原文は英文)、本件情報に関して控訴人 らが主張する権利について特段の留保は付されていないことも認められる(甲 8)。
そうすると、そもそも控訴人らによる寄付を義務付けた関係各規定にいう 寄付は一般的な寄付と同様の意味に解されるし、本件物件の寄付を受けるこ とでその所有権を取得した被控訴人が寄付を受けた本件物件の使用、収益及 び処分について制約を受けるべき根拠は関係各規定中に見当たらないから、 控訴人ら主張に係る本件科研費契約なるものが科研費の交付決定に伴い関係 者間に成立するとしても、これに付随して、信義則上、被控訴人が、その一 方的負担となる秘密保持義務を控訴人らに対して負うことになると解する余 地はないというほかない。
(3) この点に関し、控訴人らは、科研費により取得される設備等に関し、設備 等の寄付を行った研究代表者等が他の研究機関に所属することとなる場合に\nおいて、当該研究代表者等に当該設備等の継続使用の希望があるときは、当\n該設備等を研究代表者等に返還しなければならない旨の「返還ルール」が定\nめられている旨を指摘し、同ルールは設備等(本件物件)の寄付を受けた被 控訴人において負担する上記制約の顕れである旨を主張する。
確かに、機関ルール2−3及び3−28には、上記趣旨の記載が存在する が、他方、上記科研費FAQには、補助事業期間中に他の研究機関に異動す る場合は、研究機関は研究機関の定めに基づき、当該設備等を当該研究者に 返還する旨【Q4405】、令和2年度以降に購入した設備等に関しては、研 究期間終了後(補助事業を廃止した場合を含む)5年以内の場合も同様に取 り扱う旨【Q4405、44071】、令和2年度以前に購入した設備等に関 しては、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別の研究等で使用する ことも差し支えない旨【Q44071】がそれぞれ記載されている。 しかし、これらの記載からすると、少なくとも令和2年度以前において、 「返還ルール」は、補助事業期間中のルールであり、研究機関が異動する研 究者の返還請求に応じるべきであるのは、補助事業期間中に限られているこ とを前提としているものと解するのが相当であるところ、本件物件のうち、 本件物件1に係る基盤研究Aの補助事業期間は平成12年から同14年まで、 本件物件2に係る基盤研究Sの補助事業期間は平成21年から同25年まで、 本件物件3に係る基盤研究Bの補助事業期間は平成18年から同20年まで というのであって(甲4、16〜18、当審第1回口頭弁論調書)、本件物件 については、いずれも補助事業期間を経過している。
したがって、上記のような「返還ルール」の存在を斟酌しても、寄付によ り本件物件の所有権を取得した被控訴人が、その使用、収益及び処分に制約 を受けることになる秘密保持義務を、控訴人らに対して信義則上負うべきも のとは解されない。
(4) なお、本件科研費契約に付随する秘密保持義務違反にいう秘密とは、控訴 人らが本件において営業秘密と主張する本件情報と同じものと主張されてい るが(当審第1回口頭弁論調書)、後記3(2)でみるとおり、本件情報は、本 件物件の外観を見ただけでは解析が不可能であり、控訴人らの関与なしには\nこれを取得できないというのである。そうであるとすると、本件物件をトラ イアンフその他の第三者との共同研究の用に供しているとしても、控訴人ら 主張に係る秘密(本件情報)は明らかにされることはないことになる。まして や、第三者が本件物件を分解して主張に係る秘密(本件情報)を探索するこ とも想定できないから、仮に秘密保持義務を負うとしても、そもそも第三者 との共同研究の用に供されることをもって、秘密保持義務違反の状態が起き ることはあり得ないということが指摘できる。 また、控訴人らは、秘密保持義務を根拠づけるものとして、本件物件の所 有権の所在とそれに化体しているノウハウなどの技術情報の所在とは別次元 の問題であり、寄付により本件物件の所有権を被控訴人に無償譲渡したこと になるとしても、控訴人らにおいて本件情報に係る権利まで譲渡する意思は なかったから、被控訴人が本件物件に化体したノウハウを自由に使用してよ いことにはならないとも主張する。しかし、上記説示のとおり、本件物件を 研究の用に供することのみでは秘密保持義務違反の状態が起きないから、本 件物件が価値のあるノウハウを使用したものであるとしても、そのことを理 由に本件物件そのものの使用、収益及び処分に制限を及ぼすことは、結局、 設備等の寄付を無意味ならしめるものであるといわざるを得ず、控訴人らの 上記主張は採用することができない。

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◆令和2(ワ)12387

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令和4(ワ)13396    不正競争  民事訴訟 令和6年1月17日  東京地方裁判所

発注した業務に関してインターネット上で行った投稿が、営業上の信用を害する虚偽の事実を流布するもので、不競法2条1項21号所定の不正競争に該当するかが争われました。
裁判所は、これを認めて50万円の損害賠償および投稿削除を命じました。

(イ) 前記(ア)の各事実を前提として、本件投稿部分1が摘示する「何度やり とりしても、原告は、被告担当者からの質問に明確に回答しない」との 事実が客観的真実に反するものであるか否かについて検討する。 a 前記(ア)aのとおり、本件アナライザー案件において、被告が仕様の 確定を行うべきとされていたことについては、当事者間に争いがない。 また、本件全証拠によっても、原告が、被告の作成した仕様を評価す る立場にあったと認めることはできない。
そして、前記(ア)cの原告と被告担当者とのやりとりの内容に照らせ ば、原告は、被告担当者からの質問に対し、一貫して、原告が「課題 管理表」の項番13において指摘した事項の趣旨を説明しつつ、本件アナライザー案件において原告が受注していない業務である仕様の評\n価にわたる事項については回答することができないとの趣旨を明確に 回答していると認めるのが相当である。
b また、原告が、被告担当者に対し、「なんで答える必要あるの?」と の文言どおりの回答をしていないことも当事者間に争いがない。 この点に関し、被告は、当該回答は、「今回当方へのご依頼は管理画 面の開発で、くじら IT サービス様でご用意される資料の評価は含まれ ていないという認識です。」との原告の回答を簡潔にまとめた表現であると主張する。\n
そこで検討すると、不競法2条1項21号所定の告知又は流布の内 容は、その相手方の普通の注意と読み方・聞き方を基準として判断す べきと解されるところ、本件サイトは、ソフトウェアやITシステムの開発業務を営んでいる者や、このような開発業務を依頼しようとす\nる者が専ら閲覧していると考えられる。そして、これらの者の普通の 注意と読み方を基準とすると、「なんで答える必要あるの?」との表現は、理由を一切説明することなく、回答を拒否したとの意味に理解で\nきるものである。これに対し、被告が指摘する原告の上記回答は、原 告が受注した業務の内容について説明した上、被告が用意する資料の 評価にわたる事項については回答することができないとの趣旨を回答 するものといえる。 したがって、「なんで答える必要あるの?」との表現は、原告の上記回答を要約したものとはいえず、被告の上記主張を採用することはで\nきない。
(ウ) 以上によれば、本件投稿部分1が摘示する「何度やりとりしても、原 告は、被告担当者からの質問に明確に回答しない」との事実は、客観的 真実に反するもの、すなわち虚偽のものと認められる。
・・・
(1) 無形損害について
前記1(2)のとおり、ソフトウェアやITシステムの開発において、受注者が、発注者との質疑応答に適切に対応できる資質や能\力を備えているか否かは、受注の可否にも直結する重要な事柄であると考えられるところ、本件投 稿部分1が摘示する事実は、これを閲覧した者に対し、原告がそのような資 質や能力を欠くとの印象を与えるといえるから、本件投稿は、原告の営業上の信用を大きく毀損するものと認められる。\nそして、前記1(1)イのとおり、原告の納品した成果物が、被告と合意した 仕様に合致するものであることについての立証がされているとはいえず、本 件投稿部分2及び3について不正競争及び不法行為が成立するとは認められ ないものの、被告は、成果物が仕様に合致していないことを意味する他の表現を採用することは極めて容易であると考えられるのに、「ゴミを納品され、\n捨てました。」と、原告による作業や成果物が有する価値のすべてを否定する かのような表現を敢えて用い、同業者が多数閲覧する可能\性のあるインター ネット上のマッチングサイトの評価画面に本件投稿をしたものであるところ、 不正競争に該当する本件投稿部分1と上記の表現とが一連一体のものとして本件投稿を構\成している以上、無形損害の額を算定するに当たり、この事情も考慮することができるというべきである。 以上の事情によれば、本件投稿によって原告に生じた無形損害の額につい ては、50万円と認めるのが相当である。

◆判決本文

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令和4(ワ)11394  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年1月16日  大阪地方裁判所

棋譜情報をフリーライド利用された被告が、Googleに対して著作権侵害であると申告したことが、不競法2条1項21号の不正競争に当たるとして、争われました。大阪地裁は、「虚偽の事実の告知」に該当すると認定し、約120万円の損害賠償を認めました。\n

本件動画は被告の著作権を侵害するものではない(この点について被告は争って いない。)にもかかわらず、本件削除申請は、グーグル等に対し、本件動画が被告\nの著作権を侵害する旨を摘示するものであるから、客観的な真実に反する内容を告 知するものとして、「虚偽の事実の告知」に当たると認められる。 これに対し、被告は、本件動画は被告の営業上の利益その他何らかの権利を侵害 する旨を主張するが、本件削除申請が虚偽の事実の告知に当たるかどうかの判断と\nは無関係である上、本件動画により被告の何らかの権利が侵害された事実も明らか でないから、採用できない。
2 争点2(本件削除申請は原告の「営業上の利益」を侵害するか)について\n
前提事実に加え、証拠(枝番号があるものは各枝番号を含む。以下同じ。甲4〜 13、15、16)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、ユーチューブ及びツイキ ャスにおいて、本件動画を配信して収益を得ていたところ、本件削除申請は、グー\nグル等のプラットフォーマーに対し、本件動画が被告の著作権を侵害する違法なも のであることを摘示する内容であり、これによって、原告は、ユーチューブにおい ては、別紙「原告動画目録」の「配信停止期間」欄記載の期間、動画の配信が停止 されたことが、ツイキャスにおいては、動画配信によって収益を得ることが少なく とも一定期間停止されたことがそれぞれ認められる。そうすると、本件削除申請は、\n原告が本件動画の配信という営利事業を遂行していく上での信用を害するものとし て、原告の「営業上の利益」を侵害したと認められる。
これに対し、被告は、原告による本件動画の配信は、被告が配信する棋譜情報を フリーライドで利用するという著しく不公正な手段を用いて被告ら棋戦主催者の営 業活動上の利益を侵害するものとして不法行為を構成することを指摘して、本件動\n画の配信に係る営業上の利益は法律上保護される利益に当たらない旨を主張し、こ れを裏付ける証拠として「王将戦における棋譜利用ガイドライン」(乙2)を提出 する。しかし、棋譜は、公式戦対局の指し手進行を再現した「盤面図」及び符号・ 記号による「指し手順の文字情報」を含むものと認められるところ(乙2)、本件 動画で利用された棋譜等の情報は、被告が実況中継した対局における対局者の指し 手及び挙動(考慮中かどうか)であって、有償で配信されたものとはいえ、公表さ\nれた客観的事実であり、原則として自由利用の範疇に属する情報であると解される。 同ガイドラインは、棋譜の利用権等を王将戦主催者が独占的に有する旨規定するが、 王将戦主催者が、原告を含めた被告の実況中継の閲覧者の関与なく一方的に定めた ものであり(乙2)、原告に対して法的拘束力を生じさせるものであるとはいえな い。また、前記1のとおり、本件動画は被告の著作権を侵害するものではなく、そ の他、原告が、被告の配信する棋譜情報を利用することが不法行為を構成すること\nを認めるに足りる事情はない。したがって、被告の前記主張は、その前提を欠き、 採用できない。

◆判決本文

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