1審では、営業秘密、限定提供データのいずれではないと判断されました。知財高裁も同様です。利益分配に関する請求についても同様です。
ア 原告は、EL社が営業秘密又は限定提供データの保有者であり、被告AI及
び被告SAIはEL社から営業秘密又は限定提供データの開示を受けたと主張する
が、そうであるとすれば、開示された営業秘密又は限定提供データが原告の営業秘
密又は限定提供データであるということはできないはずである。もともと、前記補
正の上引用した原判決のとおり、スマホ留学の顧客情報は各組合員に帰属するもの
であり(本件組合契約5条1項)、被告AI及び被告SAIが自らに帰属する顧客
情報を使用することは、不正競争行為に当たるものではない。
イ さらに、本件組合契約は、スマホ留学以外の特定の商品又はサービスを「対
象案件」として、その紹介をするため、スマホ留学の顧客情報を用いることを予定\nしている(本件組合契約6条4項等)。したがって、被告らが、顧客情報をケンペ
ネEnglishやオンライン留学の紹介に用いたことをもって、直ちに本件組合
契約に違反すると認めることはできない。
ウ 原告は、本件組合契約7条2項を文字通り解釈すると本件組合契約締結以前
に提供された情報は、同項の「機密情報」には該当しなくなるから不合理である旨
主張する。しかし、原告及び被告らとの間で平成29年3月1日に締結された業務
委託契約書(乙A102)によれば、本件組合契約締結前のスマホ留学事業に関す
る機密情報については、上記業務委託契約書9条に本件組合契約7条2項と同じ内
容の機密保持に関する条項が設けられていることが認められ、本件組合契約の締結
により当該条項の効力が失われたと解すべき理由は見当たらない。したがって、当
事者の合理的意思解釈として、本件組合契約締結前の機密情報については前記業務
委託契約書9条に基づく保護の対象となると解するのが相当であるから、原告の主
張する点は、本件組合契約7条2項をその文言どおり解釈することの妨げとなるも
のではない。
◆判決本文
原審はこちら
◆令和2(ワ)23432
科研費契約に付随する秘密保持義務違反かどうかについて争われました。1審は義務違反無しとし、大阪高裁は、これを維持しました。
1 争点(1)(被控訴人は本件科研費契約に付随する秘密保持義務に違反したか)に
ついて
(1) 前記前提事実(4)アのとおり、本件物件は関係規定に基づき控訴人らから被
控訴人に寄付されたものであるところ、控訴人らは、上記寄付を受け入れた
研究機関である被控訴人としては、本件科研費契約上、補助事業者である研
究者に代わり本件物件を科研費の交付目的に従って適切に管理することが求
められるのであり、本件物件に化体している本件情報に関する権利について
は、同契約に付随して、信義則上、上記目的外で自ら使用したり、第三者に
漏洩・開示等したりしてはならない義務(秘密保持義務)を負っている旨を
主張する。
(2) そこで検討するに、公金である補助金により購入された設備等の取り扱い
については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律を始めとする\n関係各規定により詳細が定められ、本件物件もこれに従い控訴人らから被控
訴人に寄付されたものであるところ、まず寄付とは、一般的に、公共性、公
益性を有する事業や団体などに対し、財産を贈与することであり、その目的
が物であれば、その所有権の無償による譲渡を意味するものである。そして、
大学共同利用機関取扱要領22条によると、寄付を受けた設備等は、固定資
産管理規則に基づき管理するものとされているところ、同規則11条には、
「資産管理責任者は、固定資産等を寄附により取得する場合」との記載があ
ること、平成18年12月26日付けで作成された文部科学省の「研究費の
不正対策検討会報告書」には、「現在の競争的資金等の制度においては、例え
ば機器を購入した場合(中略)個人補助の科学研究費補助金の場合、所有権
はいったん研究者に帰属し、所属する研究機関に寄付することになっており」
との記載があること(甲63の1・2)、振興会作成の科研費ハンドブックに
掲載された「科研費FAQ」には、「直接経費により購入した設備等は、研究
代表者又は研究分担者が所属する研究機関に寄付しなければなりません。【Q\n4405】」、「科研費により購入した設備等は、購入後直ちに研究機関に寄付
することとしていますので、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別
の研究等で使用することは差し支えありません。【Q44071】」との記載
があること(甲21)がそれぞれ認められ、これらの記載はいずれも、科研
費により設備等を購入した研究者がその所属する研究機関に行う寄付が、留
保を伴わない所有権の無償譲渡を意味するものであることを前提としている
と解するのが相当である。これらに加え、平成23年に締結された被控訴人、
RCNP、TRIUMF及びウィニペグ大学の4研究機関によるUCNの共
同研究に係る合意(2011年覚書)には、被控訴人が本件物件の所有権を
有している旨の定めが置かれており(原文は英文)、本件情報に関して控訴人
らが主張する権利について特段の留保は付されていないことも認められる(甲
8)。
そうすると、そもそも控訴人らによる寄付を義務付けた関係各規定にいう
寄付は一般的な寄付と同様の意味に解されるし、本件物件の寄付を受けるこ
とでその所有権を取得した被控訴人が寄付を受けた本件物件の使用、収益及
び処分について制約を受けるべき根拠は関係各規定中に見当たらないから、
控訴人ら主張に係る本件科研費契約なるものが科研費の交付決定に伴い関係
者間に成立するとしても、これに付随して、信義則上、被控訴人が、その一
方的負担となる秘密保持義務を控訴人らに対して負うことになると解する余
地はないというほかない。
(3) この点に関し、控訴人らは、科研費により取得される設備等に関し、設備
等の寄付を行った研究代表者等が他の研究機関に所属することとなる場合に\nおいて、当該研究代表者等に当該設備等の継続使用の希望があるときは、当\n該設備等を研究代表者等に返還しなければならない旨の「返還ルール」が定\nめられている旨を指摘し、同ルールは設備等(本件物件)の寄付を受けた被
控訴人において負担する上記制約の顕れである旨を主張する。
確かに、機関ルール2−3及び3−28には、上記趣旨の記載が存在する
が、他方、上記科研費FAQには、補助事業期間中に他の研究機関に異動す
る場合は、研究機関は研究機関の定めに基づき、当該設備等を当該研究者に
返還する旨【Q4405】、令和2年度以降に購入した設備等に関しては、研
究期間終了後(補助事業を廃止した場合を含む)5年以内の場合も同様に取
り扱う旨【Q4405、44071】、令和2年度以前に購入した設備等に関
しては、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別の研究等で使用する
ことも差し支えない旨【Q44071】がそれぞれ記載されている。
しかし、これらの記載からすると、少なくとも令和2年度以前において、
「返還ルール」は、補助事業期間中のルールであり、研究機関が異動する研
究者の返還請求に応じるべきであるのは、補助事業期間中に限られているこ
とを前提としているものと解するのが相当であるところ、本件物件のうち、
本件物件1に係る基盤研究Aの補助事業期間は平成12年から同14年まで、
本件物件2に係る基盤研究Sの補助事業期間は平成21年から同25年まで、
本件物件3に係る基盤研究Bの補助事業期間は平成18年から同20年まで
というのであって(甲4、16〜18、当審第1回口頭弁論調書)、本件物件
については、いずれも補助事業期間を経過している。
したがって、上記のような「返還ルール」の存在を斟酌しても、寄付によ
り本件物件の所有権を取得した被控訴人が、その使用、収益及び処分に制約
を受けることになる秘密保持義務を、控訴人らに対して信義則上負うべきも
のとは解されない。
(4) なお、本件科研費契約に付随する秘密保持義務違反にいう秘密とは、控訴
人らが本件において営業秘密と主張する本件情報と同じものと主張されてい
るが(当審第1回口頭弁論調書)、後記3(2)でみるとおり、本件情報は、本
件物件の外観を見ただけでは解析が不可能であり、控訴人らの関与なしには\nこれを取得できないというのである。そうであるとすると、本件物件をトラ
イアンフその他の第三者との共同研究の用に供しているとしても、控訴人ら
主張に係る秘密(本件情報)は明らかにされることはないことになる。まして
や、第三者が本件物件を分解して主張に係る秘密(本件情報)を探索するこ
とも想定できないから、仮に秘密保持義務を負うとしても、そもそも第三者
との共同研究の用に供されることをもって、秘密保持義務違反の状態が起き
ることはあり得ないということが指摘できる。
また、控訴人らは、秘密保持義務を根拠づけるものとして、本件物件の所
有権の所在とそれに化体しているノウハウなどの技術情報の所在とは別次元
の問題であり、寄付により本件物件の所有権を被控訴人に無償譲渡したこと
になるとしても、控訴人らにおいて本件情報に係る権利まで譲渡する意思は
なかったから、被控訴人が本件物件に化体したノウハウを自由に使用してよ
いことにはならないとも主張する。しかし、上記説示のとおり、本件物件を
研究の用に供することのみでは秘密保持義務違反の状態が起きないから、本
件物件が価値のあるノウハウを使用したものであるとしても、そのことを理
由に本件物件そのものの使用、収益及び処分に制限を及ぼすことは、結局、
設備等の寄付を無意味ならしめるものであるといわざるを得ず、控訴人らの
上記主張は採用することができない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和2(ワ)12387