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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

営業秘密

令和3(ワ)11898  保証金返還請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年8月24日  大阪地方裁判所

秘密管理性が否定されて、営業秘密とは認められませんでした。

(1) 被告は、原告が、代理店としての業務の中で被告の営業秘密である本件各情 報を取得し、不正の利益を得る目的で、又は、被告に損害を加える目的で、これを 使用している旨主張する。 そこで、まず、本件各情報が営業秘密に当たるかを検討する。
(2) 本件各情報が被告の営業秘密であるというためには、本件各情報が、秘密と して管理され(秘密管理性)、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって (有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)が必要である(不正競争防止 法2条6項)。そして、秘密管理性が認められるためには、秘密としての合理的な 管理方法が採られており、管理の意思が客観的に認識可能であることを要すると解\nされる。
そこでまず、秘密管理性について検討すると、本件各情報が記載された文書には、 いずれも被告の秘密情報であることを明らかにする表示はなく、むしろ株式会社ワ\nンワールドの資料であるかのような表示がある(乙12〜14)。また、前記1の\nとおり、本件秘密保持契約の定めに従った秘密情報としての特定が行われた事実や、 原告と被告との間で本件各情報が秘密情報であることが前提とされていた事実は認 められない。加えて、本件情報1)は、原告が被告から直接取得したものではなく第 三者から入手したものであるが(争いがない。)、P1の証言からしても図面のど の部分が秘密情報かがあいまいであり、また、本件情報2)及び本件情報3)は、被告 の主張によっても、被告製品の納入先や販売代理店には提供され、被告の営業スタッ フもアクセスすることができたというのであって、本件各情報は、それ自体、秘密 情報としての認識可能性が低いと考えられる。その一方、原告が被告の秘密情報で\nある旨を認識可能であったことを根拠付ける具体的事情は見当たらない。そうする\nと、本件各情報につき、被告による管理の意思が客観的に認識可能であったとは認\nめられない。
また、管理方法につき、被告は、平成30年頃に本件規定を定め、本件各情報を 本件規定の「機密情報」として管理していた旨主張し、これを裏付けるものとする 証拠(乙15、16、19、証人P1)がある。しかし、本件規定には、作成日や 施行日の記載がなく、同年当時の代表取締役はP3であったと考えられる(甲2、\n証人P1)にもかかわらず、「代表取締役社長」として令和3年2月に就任したP\n4氏が記載されているなど、作成時期に関し不自然な点がある。仮に本件規定が平 成30年頃に作成されたとしても、本件各情報が本件規定に沿って管理されていた 旨のP1の証言は、その内容が抽象的である上、客観的な裏付けを欠くから、本件 各情報の具体的管理状況は明らかとはいえず、本件規定に従って「機密情報」とし て管理されていたことを認定することはできないし、他に被告の前記主張を裏付け る証拠はない。したがって、本件各情報が秘密として合理的な管理方法が採られて いたともいえない。
(3) 以上のとおり、本件各情報は、秘密として管理されていたとはいえず、被告 の営業秘密とは認められないから、原告が被告の営業秘密を使用して不正競争行為 を行った旨の被告の主張は理由がない。

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令和2(ワ)8168  損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年1月26日  大阪地方裁判所

 漏れていたので追加します。つけまつげの装着方法について、秘密管理性無しと判断されました。なお、原告は本件「まつ毛エクステンション人工毛の装着方法」に特許を取得していました。

ア 「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)といえるためには、客観的に秘密 として管理していると認識できる状態にあることが必要であり、管理方法が 適切であって、管理の事実が認識可能であることを要すると解される。\nイ 前記(1)によると、本件では、本件秘密保持等契約書以外に営業秘密を具 体的に明示した文書はなく、原告が被告らに対し「ロングキープラッシュ」 の施術方法を教示するに際して本件特許出願の願書や明細書その他の添付 書類等を示しておらず、まつ毛エクステンションの装着方法に関して具体的 にいかなる範囲が秘密とされるのかを明らかにした書面もない。しかも、「ロ ングキープラッシュ」は、被告らの原告在職当時、原告の各店舗において、 不特定多数人に対して何らの制限もなく公然と施術されていた。また、まつ 毛エクステンションの業界においては、まつ毛エクステンションの装着方法 が全て秘密にされるわけではなく、新規の装着方法であっても、公開され、 他のアイリストに教授されることもあり、装着方法を秘密とするか否かや装 着方法のうち具体的にどこまで秘密にするかは、自明なものではない。 そうすると、本件秘密保持等契約書に規定された「特許技術」以外の本件 特許情報及び本件手技情報は、原告において適切に秘密として管理されてい たとはいえず、秘密として管理されているとは認識できない状態であったと いわざるを得ない。また、原告は、被告らに対し、「ロングキープラッシュ」 を教示したのであって、本件特許出願に係る願書等を示したわけではないか ら、本件秘密保持等契約書の「特許技術」は、その文言どおり、「ロングキー プラッシュ」についての本件特許情報、すなわち、本件特許情報のうち、地 まつ毛の上部に2本又は3本のフラットラッシュを装着し、地まつ毛の下部 に1本のフラットラッシュを装着する実施例に係る情報を意味するものと 解される。
そして、当該情報は、不特定多数の顧客に対して公然と施術される装着方 法であり、施術を受ければ視覚的に認識できるものであるから、やはり秘密 として管理されていたとはいえず、秘密として管理されているとは認識でき ない状態であったということになり、結局、本件秘密保持等契約書上の「特 許技術」も、不正競争防止法上の営業秘密とはいえない。 ウ 原告は、「ロングキープラッシュ」の技術は本件特許情報だけではなく、文 書化されていない非公開の手技があり、それを含めて営業秘密と指定し、秘 密保持契約を締結したので秘密管理性があると主張する。 しかしながら、原告の主張する文書化されていない非公開の手技について は何ら具体的な主張立証がなく、前記イのとおり、本件秘密保持等契約書の 対象は、本件特許情報のうち、地まつ毛の上部に2本又は3本のフラットラ ッシュを装着し、地まつ毛の下部に1本のフラットラッシュを装着する実施 例に係る情報であって、文書化されていない非公開の手技や本件付加情報は 含まれないから、採用できない。

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令和3(ワ)4439  損害賠償等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和5年2月21日  大阪地方裁判所

不競法2条1項7号の不正開示行為として、損害賠償を求めましたが、秘密管理性なしとして、請求棄却されました。

原告は、本件早見表及び本件情報につき、被告P1が小堀鐸二研究所との契\n約上、本件早見表の利用許諾の対象を原告のみとしようとしたこと、原告が小堀鐸\n二研究所との契約上、秘密保持義務を負っていること、本件早見表のデータを保有\nしていたのは限られた人間だけであったこと、外部への持出しが禁止されていたこ と、被告P1が原告代表者として、原告内部で本件情報を共有するにあたり、取扱\nいを十分注意するよう呼び掛けていたこと、個別の現場において本件早見表\を用い るにあたって必要箇所以外はマスキングしていたこと、富士ネット工業において秘 密として管理されていたことから、原告において秘密として管理されていたと主張 する。
しかしながら、証拠(甲9、10)によれば、原告と小堀鐸二研究所との契約は 非独占的利用許諾の形式がとられている上、本件早見表の利用許諾の対象が、当初\n「原告及び原告の登録会員」であったものが、「原告及び原告の協力会社」と修正 されたにすぎないから、この変更が何ら原告や被告P1が本件情報を秘密として管 理していたことを示すものとはいえない。また、小堀鐸二研究所との契約上、原告 が秘密保持義務を負っているとしても、原告が現実に本件情報を秘密として管理し ていたかどうかには直接の関連性がない。前記(1)ア及びエ認定のとおり、本件早 見表を保有していたのは13名ないし14名の原告の従業員のうち、主に営業を行\nう5名ほどの者であったことが認められるものの、業務上必要のある者が保有して いたというにすぎず、他の従業員のアクセスが制限されていたとは認められない。 また、本件早見表の外部への持出しが禁じられていたこと、被告P1が原告におい\nて本件情報の取扱いを十分注意するよう呼び掛けていたことについては、いずれも\n被告P1が否定しているところ、原告の主張を裏付ける客観的な証拠は全くない。
さらに、個別の現場において本件早見表を取引先等に示す場合に必要箇所以外がマ\nスキングされていたからといって、本件情報の一部を担当者の判断で第三者に自由 に開示していることに変わりはなく、これをもって原告が本件情報を秘密として管 理していたとはいえない。加えて、富士ネット工業における本件早見表や本件情報\nの管理体制は、原告において秘密として管理されていたかどうかとは関連性がな く、被告P1が富士ネット工業在籍時に、本件情報の取扱いを注意するよう求める メールを他の従業員に送信していたとしても、富士ネット工業退職後、原告を設立 してからも同様の行動をしたことが推認されるわけではないし、前記(1)エ認定の とおり、被告P1が富士工業ネット工業在籍中に、本件早見表のデータにつき、そ\nの取扱いや電磁的記録媒体の紛失に注意を促す以外に、アクセス制限や拡散防止の 措置を講じていたものとも認められない。 本件情報の内容についても、天井部材落下防止ネットを張る際のいくつかの仕様 の組合せにより各支持部にかかる想定荷重について構造計算をした結果が一覧でき\nるため、便利ではあるが、仕様が異なればそのまま利用することはできないもので あるし、第三者が一級建築士等に依頼して独自に同種の早見表を作成することが困\n難とまではいえないから、本件情報を営業秘密として管理すべき必要性が客観的に 高いとは解されない。 そして、前記認定のとおり、本件早見表のデータは、営業秘密であることの表\示 等の措置のないままに、原告の従業員らの使用するコンピュータや持ち運び可能な\n電磁的記録媒体に保存されていたものであり、その使用後も、情報漏洩を防止する 何らの措置も採られなかったことなどに鑑みると、これらの情報は、いずれも秘密 として適切に管理されているとはいえず、秘密として管理されていると客観的に認 識可能な状態であったともいえない。\nその他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用 できない。
ウ そうすると、その余の点について検討するまでもなく、本件情報は、秘密管 理性が認められず、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当しない。

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平成30(ワ)33583  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 知的財産裁判例 令和4年1月28日  東京地方裁判所

 秘密保持契約に違反して、営業秘密を用いて製品を製造したとして、約610万円の損害賠償が認められました。損害額の計算には、競合する原告商品が存在する商品は5条2項が、そうでない商品は同3項が採用されています。

イ 不競法5条2項の利益の意義
不競法5条2項所定の不正競争行為により侵害者が受けた利益の額は, 侵害者が不正競争行為によって製造販売した製品の売上高から,侵害者に おいて同製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加 的に必要となった経費を控除した限界利益の額であると解すべきである。
ウ 売上高(限界利益の算定の対象とすべき製品の範囲)
(ア) 1)の製品について
1)の製品の売上高は,前記(1)アのとおりであり,合計4272万36 27円が限界利益の算定の対象とすべき売上高となる。
(イ) 2)の製品及び3)の製品について
a 被告は,1)の製品の売上高のみを対象として限界利益の算定をする のは相当でなく,2)の製品及び3)の製品に関する事情も考慮して,被 告製品の販売による限界利益の計算をすべきであると主張するので, 以下検討する。
b 3)の製品は,製造したが販売されなかった製品であり,前記(1)ウ (イ)のとおり,被告製品の販売を終了する直前の令和2年3月の無償提 供も1)の製品の販売と一体として行われたものとはいえないから,3) の製品の存在やその無償提供に関する事情を被告製品の販売による被 告の限界利益の算定に当たって考慮するのは相当でない。
c 2)の製品は,原価(原材料費)未満の額で販売した製品であるとこ ろ,被告は,このような廉価販売がされた事情について,前記第3の 4(被告の主張)(2)イ(イ)のとおり,新製品のプロモーション等のた めの値引き,レンタル事業者に販売する際の値引き,代理店又は販売 店を通じた販売の際の値引き,無料お試しキャンペーンの際の値引き, 被告製品販売中止の検討時期の在庫処分のための値引きなど,各種の 事情により,被告製品の販売開始当初から販売中止時期までにかけて 廉価販売を行ったと主張する。
しかしながら,上記の各事情によって,いつどの程度の値引きでど の程度の個数を廉価販売したのかについて,具体的な主張立証はなく, 2)の製品の値引きのうち,本件訴訟において原告が差止及び廃棄を請 求したこととは関係なく,1)の製品の販売に伴って不可避的に生じた といえるものがどの程度あったのかは,明らかでない。さらに,前記 (1)アのとおり,1)の製品は,被告製品1が1個当たり平均1万265 9円,被告製品2が1個当たり平均1万2653円で販売されたとこ ろ,前記(1)イのとおり,2)の製品については,被告製品1が4分の1 程度の平均3236円,被告製品2が6分の1程度の平均2020円 で販売されており,1)の製品との販売価格の乖離が大きいこと,被告 製品は廃棄請求の対象となるべきものであるところ,被告の主張を前 提としても,上記のとおり,2)の製品の販売には,本件訴訟が提起さ れた平成30年10月以降の時期に,在庫処分の趣旨で行われたもの があること,証拠(乙42,43)によれば,令和2年2月以降の被 告製品の販売のほとんどは廉価販売であり,同月及び同年3月には被 告製品が合計1640個販売されていると認められ,廉価販売された 被告製品2163個の中で,上記の販売終了に伴う在庫処分の趣旨で 行われたものが大部分であったと考えるのが自然であることも考慮す れば,2)の製品の販売について,1)の製品の販売と一体とみることは できないというべきである。したがって,被告製品の販売による不競 法5条2項の損害の算定に当たっては,2)の製品の販売を考慮せず, 1)の製品の販売のみを対象として被告の限界利益を算定するのが相当 である。
エ 限界利益の算定に当たって売上高から控除すべき経費について
(ア) 原材料費について
1)の製品についての原材料費が以下の金額であることは当事者間に争 いがなく,これは1)の製品の販売による限界利益の算定に当たり控除す べき経費である。
被告製品1 2512万4308円
被告製品2 504万3521円
(イ) 保管費について
証拠(乙61)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品の製造 後から出荷までの保管費用として,平成30年7月から令和2年3月末 日までの間に合計979万6000円を支出したものと認められる。こ のうち1)の製品に係る保管費用が,1)の製品の製造販売に直接関連して 追加的に必要となったものとして,限界利益の算定に当たり控除すべき 経費に該当する。
前記(1)ウのとおり,被告製品の総製造数は7553個であるから,1) の製品に係る費用の額は437万7267円(979万6000円×3 375個/7553個)と認められる。
(ウ) 販売サイト関連費,お問い合わせ窓口に係る費用及びインターネット広告費について
被告は,被告製品のネット販売のサイトに係る費用として合計115 8万5000円を,お問い合わせ窓口に係る費用として合計454万3 375円を,インターネット広告に係る費用として合計1676万79 26円をそれぞれ支出したと主張し,これらの額の請求に係る見積書 (乙62)及び請求書ないし買掛票(乙64)を提出する。 しかしながら,上記の見積書等に係る費用と被告製品の販売との具体 的な関連を示す証拠はなく,また,被告の主張を前提としても,上記の ような費用は,通常,製造販売される製品の個数の影響を受けて変動す ることが想定されないというべきであり,実際にそのような変動が生じ たと認めるに足りる証拠もない。したがって,被告の主張する上記の各 費用は,1)の製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったもの とは認められず,限界利益の算定に当たり控除すべき経費に該当すると はいえない。
(エ) 運搬費について
証拠(乙61)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品の出荷 に係る被告製品の運搬費として,平成30年7月から令和2年3月末日 までの間に合計911万7059円を支出し,そのうち,購入者が送料 を負担した分が78万0610円であったものと認められるから,これ を控除すると,被告が運搬費として実質的に負担した額は833万64 49円と認められる。このうち1)の製品に係る費用は,1)の製品の製造 販売に直接関連して追加的に必要となったものとして,限界利益の算定 に当たり控除すべき経費に該当する。 前記(1)のとおり,1)の製品の販売数は3375個,2)の製品の販売数 は2163個であるほか,3)の製品のうち無償で提供されたものが10 00個あり,証拠(乙68)によれば,その送料は被告が負担したもの と認められるから,上記の運搬費合計のうち,1)の製品に係る費用の額 は430万3382円(833万6449円×3375個/6538個) と認めるのが相当である。
被告は,運搬費として支出した総額は963万9427円であると主 張し,被告作成の「スマポ発送運賃」等の項目や金額が記載された書面 (乙57)には,被告製品に係る運賃の合計額につき同主張に沿う記載 があるが,同書面記載の運賃のうち,請求書(乙61)が提出されてい るものの額は合計911万7059円にとどまる。また,被告は,1)の 製品に係る運搬費の額について,1)の製品の販売数と2)の製品の販売数 のみを考慮して算定すべきと主張するが,3)の製品のうち無償で提供し たものの送料を上記請求書(乙61)とは別途支出したことを認めるに 足りる証拠はないから,1)の製品に係る費用の額は上記認定の限度で認 めるのが相当である。
原告は,上記請求書(乙61)には,被告製品以外のものに係る請求 が含まれているから,その点も考慮すべきであると指摘するが,当該請 求書の件名としてはいずれも「スマポ 保管発送」と被告製品の名称の みが記載されていること,項目として「南京錠 開梱 同梱」等の記載 があるのは被告製品の付属品の取り扱いに関する記載と考えられること からすれば,上記請求書に係る運搬費はその全体が被告製品に係る費用 と認めるのが相当であり,原告の指摘は上記認定を覆すに足りるもので はない。
(オ) 金型費について
証拠(乙46,65)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品 の製造のために新規に金型を製作し,その製作費用及び被告製品の製造 を開始するための改造費用として,被告製品1について金型製作費47 81万円及び金型改造費717万2000円の合計5498万2000 円を,被告製品2について金型製作費5181万8000円及び金型改 造費671万6000円の合計5853万4000円を,それぞれ支出 したことが認められる(総合計1億1351万6000円)。 被告は,上記の金型費が,被告製品の製造・販売のために直接必要と なった直接固定費であり,全額が経費として控除されるべきであると主 張する。
確かに,被告製品の金型は被告製品の製造のために新規に必要 となったものではあるが,証拠(甲33,53,乙30)及び弁論の全 趣旨によれば,被告製品のような樹脂製品の製造に用いる金型には30 万ないし40万回程度使用可能なものがあると認められ,これに対して,1)の製品の製造数は,被告製品1について2813個,被告製品2につ いて562個にすぎないから,金型費の全額が1)の製品の製造販売に直 接関連して追加的に必要となったものということはできない。被告は金 型を廃棄済みであり,今後の使用予定がないことからも金型費の全額を経費と認めるべきと主張するところ,証拠(乙52ないし54)によれ\nば,被告は令和2年2月に被告製品の金型を廃棄していると認められる ものの,本件訴訟における被告製品の生産の差止請求を受けて廃棄され たものと考えられ,本件全証拠によっても,上記の金型の製作当時から 被告製品が少数のみ生産される予定であったとの事情は認められないか\nら,被告製品の金型が廃棄されていることを考慮しても,金型費の全額 が1)の製品の限界利益の算定に当たり控除すべき経費に当たるというこ とはできない。
そして,上記の金型の使用可能回数(少ない方の数値を採用)に対して,1)の製品の製造数が,被告製品1では0.9%程度(2813個÷ 30万回),被告製品2では0.2%程度(562個÷30万回)である ことからすれば,上記の金型の一部は共通部品の金型として被告製品1 と被告製品2の双方に使用されるものであったこと(乙52)を考慮し ても,上記金型費のうち,1)の製品の製造販売に直接関連して追加的に 必要な費用として限界利益の算定に当たり控除すべき経費に該当するの は,その1%に相当する113万5160円(1億1351万6000 円×1%)と認めるのが相当である。
(カ) 経費控除後の限界利益の額
以上によれば,1)の製品の製造販売により,被告が受けた限界利益の 額は,前記ウ(ア)の1)の製品の売上高合計4272万3627円から,前 記(ア)の原材料費合計3016万7829円,前記(イ)の保管費のうち4 37万7267円,前記(エ)の運搬費のうち430万3382円及び前記 (オ)の金型費のうち113万5160円を控除した273万9989円で ある。
オ 推定覆滅事由について
(ア) 不競法5条2項における推定の覆滅については,不正競争行為に及ん だ侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と被侵害 者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解さ れる。そこで,以下,被告が主張する事情について,上記の推定覆滅事 由に該当するか否かを検討する。
(イ) 原告が原告製品を販売していないことについて
被告は,原告製品は(省略)が販売する製品であって,原告は(省略) から請負契約に基づき製造の対価としての報酬を支払われる関係にある にすぎず,被告製品の販売による原告の逸失利益とは,(省略)から支払 われる報酬が喪失したというものであり,被告製品の販売による被告の 限界利益とは性質を大きく異にするものであるから,不競法5条2項の 推定は全部覆滅されると主張する。 しかしながら,原告において,被告による被告製品の製造販売がなか ったならば利益が得られたであろうという事情が存在することは,前記 アのとおりであり,原告製品を販売しているのが(省略)であって,原 告製品の販売による原告の利益が,その本体部分の製造について(省略) から受ける報酬であるとしても,そのような原告の利益の額が被告製品 の販売による被告の限界利益の額と乖離していることについて,具体的 な主張立証はない。したがって,被告の主張する上記の事情をもって, 推定覆滅事由に当たるとは認められない。
(ウ) 広告宣伝の効果について
被告は,GoogleやYahooといった検索サイト等にバナー広 告やリスティング広告を設置しており,被告製品の販売による限界利益 のうち,最低でも28.8%は広告宣伝が寄与したものであるから,不 競法5条2項の推定は28.8%覆滅されると主張する。 しかしながら,本件証拠上,被告が行った上記の広告の具体的な内容 は明らかではなく,競合品の販売における広告と比較して,被告製品の 販売を特に促進するような広告宣伝がなされたといった事情も認められ ないから,被告が主張する被告製品に係る広告宣伝の効果をもって,推 定覆滅事由に当たるとは認められない。
(エ) 原告製品以外の競合品の存在について
被告は,被告製品には原告製品以外の競合品が存在しており,被告製 品が販売されなかったとしても,被告製品の購入者は,原告製品よりも 安い他の競合品を購入し,あえて原告製品を購入する者は現実的にはほ とんどいないと予想されるから,不競法5条2項の損害の推定は少なくとも9割が覆滅されると主張する。\n原告製品と被告製品とが,自宅の玄関前等に設置可能な後付け型の荷\n物受取用樹脂製宅配ボックスという点で同種の製品であり,価格の違い にかかわらず,市場において競合する製品といえることは,前記アのと おりであるところ,被告製品が販売されていた平成30年7月から令和 2年3月までの間において原告製品以外の同種商品が販売されていた状 況やそのシェアについて,具体的な主張立証はない。したがって,被告 が主張する原告製品以外の競合品の存在についても,推定覆滅事由に該 当するとは認められない。
(オ) 以上によれば,1)の製品の製造販売による原告の損害について,不競 法5条2項の推定を覆滅すべき事情が存在するとは認められない。
カ 小括
よって,不競法5条2項によって算定される原告の損害額は,被告製品 のうち1)の製品の販売のみを対象とした被告の限界利益である273万9 989円と認められる。
(3) 不競法5条3項による損害額について
ア 不競法5条3項による損害額は,原則として,営業秘密を使用した侵害 品の売上高を基準とし,そこに営業秘密の使用に対し受けるべき料率を乗 じて算定するのが相当であるが,2)の製品については廉価販売がされ,3) の製品については無償提供又は廃棄がされており,同項の適用の可否及び 算定方法に争いがあることから,以下,まず,1)の製品についての同項に よる損害額を検討し,さらに,2)の製品及び3)の製品について,同項の適 用の可否及び適用される場合の算定方法について検討する。
イ 1)の製品についての不競法5条3項による損害額
(ア) 侵害品の売上高
1)の製品についての売上高は,前記(1)アのとおり,被告製品1につい て3561万2239円(販売数2813個),被告製品2について71 1万1388円(販売数562個)の合計4272万3627円である。
(イ) 使用料率について
a 使用料率の認定方法
不競法2条1項7号及び10号に係る営業秘密の使用及びこれによ って生じた侵害品の譲渡に対して受けるべき料率は,1)当該営業秘密 の実際の使用許諾契約における使用料率や,それが明らかでない場合 には業界における使用料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該営業秘密 自体の価値すなわち営業秘密の内容や重要性,他のものによる代替可 能性,3)当該営業秘密を製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献 や侵害の態様,4)営業秘密保有者と侵害者との競業関係や営業秘密保 有者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率 を定めるべきである。
b 使用料率の認定
(a) 原告による使用許諾の実績について
前記2(1)のとおり,本件データは本件新製品の最終試作品の製作 のための3Dデータであるところ,弁論の全趣旨によれば,原告が 本件データについて他社に使用許諾をしたことはないものと認めら れる。 また,原告が,他社に対して同種の3Dデータの使用を有償で許 諾した事例の有無や,その際の許諾の対価についての主張立証はな い。
(b) 原告による「設計費」等の請求について
証拠(乙1,2,30ないし35)及び弁論の全趣旨によれば, 原告は,通常,他社から受注を受けて樹脂製品を製作する場合に, CADの図面の製作費用を独立に請求することはなく,受注する製 品価格や製造のための金型価格を含めた全体で利益を確保するとの 方針を取っていること,本件新製品の製造については,当初原告に 製品と金型の発注がされる予定であったところ,本件新製品の開発協議の中で,金型を被告が調達することが検討され,その場合には\n原告に設計費を支払うことが協議されたこと,その後,原告におい て金型を調達する場合にも設計費を支払うよう原告が求めたこと, 原告は,前記1(14)のとおり,本件プロジェクトの終了後の平成2 9年10月に,本件新製品の「設計費」として203万2800円 のほか,「機会損失額」として1496万円の合計1699万280 0円を請求したが,当該支払について原告と被告間で合意に至らな かったこと,原告は,上記の「設計費」及び「機会損失額」の請求 に当たり,「設計費」については「設計工数:6,500円/H×2 96H=1,924,000円」,「モックアップ作成費:54,4 00円×2個=108,800円」と記載し,296時間分の設計 工数とモックアップ作成に要した費用の合計として合計203万2 800円を請求する旨を説明しており,「機会損失額」の算定根拠と して「製品:1,600セット/月×12カ月×2,600円× 5%×5年=12,480,000円」,「金型:49,600,0 00×5%=2,480,000円」の合計1496万円を請求す る旨を説明していたことが認められる。
上記の「設計費」及び「機会損失額」の請求は,その経緯からす れば,本件新製品について原告に製品と金型の発注がされる予定であり,原告はそれによる収益を見込んでいたところ,被告から原告\nへの発注がなくなったため,原告が作成した本件データを被告が使 用することの対価も含めて,原告への発注によって原告が得られた 利益に相当する額を算定し,その額を請求したものと認められる。 原告の上記請求内容は,被告との間で最終的な合意には至らなかっ たものの,本件訴訟前における原告の提案内容という限度で,本件 データの使用についての使用料率の算定の参考とすることができる というべきである。
被告は,本件データの使用料相当額について,上記の「設計費」 である203万2800円が上限である旨主張するが,上記のとお り,「設計費」のほか,併せて請求された「機会損失額」にも本件デ ータの使用の対価は含まれていたというべきであるから,原告の提 案内容として「設計費」の額のみを考慮するのは相当でなく,被告 の上記主張は採用することができない。 また,被告は,「機会損失額」の算定に当たり,上記のとおり「1, 600セット/月×12ヶ月×2,600円×5%×5年=12, 480,000円」との計算が示されていたことから,本件データ の使用料相当額について,被告製品1及び被告製品2の1セット当 たり130円(2600円×5%)が使用料相当額の最大値となる 旨も主張する。しかしながら,原告の「機会損失額」の提案は,本 件新製品について,原告が被告から受注する数を合計9万6000 個(1600個×12か月×5年)と想定した上で,1個当たりの 原告の損失を130円(2600円×5%)として算定しているも のであるが,被告製品の製造販売個数に応じて1個当たり130円 を支払うよう請求していたものではなく,また,「機会損失額」とし ては更に金型の受注についての機会損失額248万円を請求し,「設 計費」も併せて請求していたものである。そうすると,「機会損失額」 の算定根拠についての原告の説明内容から,被告製品の製造販売に ついての使用料相当額が1台当たり130円に限られるということ にはならず,被告の上記主張は採用することができない。
(c) 業界における使用料の相場等について
前記(a)及び(b)のとおり,本件データの使用許諾については,こ れを含む趣旨の原告から被告に対する訴訟前の提案があるにとどま り,原告の使用許諾の実績はないため,本件データの使用料率の算 定に当たっては,業界における使用料の相場等を考慮すべきである。 そして,本件報告書には,「技術ノウハウ」についてのロイヤルテ ィ料率の相場等について,アンケート調査結果として,技術分類の うち「成形」の分野においては,ロイヤルティ料率の平均値が3. 8%(最大値14.5%,最小値0.5%,標準偏差3.2%)で あることが記載されており,本件報告書以外に,本件データのよう なCADシステムのデータの使用許諾についての一般的な相場を示 す証拠は双方から提出されていないから,本件報告書に記載された 上記のロイヤルティ料率を本件データの使用料率の算定に当たって 考慮するのが相当である。
・・・
(f) 使用料率の認定
以上によれば,合理的な使用料率の算定に当たっては,前記(c)の 本件報告書に記載されたロイヤルティ料率の相場(平均値3.8%, 最大値14.5%,最小値0.5%,標準偏差3.2%)を考慮す べきであり,さらに,前記(d)の本件データの被告製品による利益へ の貢献や本件データの代替可能性,前記(e)の原告と被告とが競業関 係にあること,前記(b)の本件訴訟前の原告の提案内容といった事情 を総合考慮すれば,不正競争行為をした者に対して事後的に定めら れる,本件データの使用に対して受けるべき使用料率については, 6%と認めるのが相当である。
原告は,本件報告書について最大でロイヤルティ料率を14. 5%とする例があったことを指摘するが,本件報告書における平均 値は3.8%であり,前記(d)のとおり,本件データが同種製品の製 造に必須で代替不可能なほど重要なものであるとまではいえないことからすれば,本件報告書における最大値を基準とすべきとはいえ\nない。
(ウ) 使用料相当額
a 1)の製品についての使用料相当額を算定すると,前記(ア)の売上高合 計4272万3627円の6%に相当する256万3417円と認め られ,これが不競法5条3条による損害額となる。
b 前記aの使用料相当額の内訳は,被告製品1について213万67 34円(3561万2239円×6%),被告製品2について42万6 683円(711万1388円×6%)となり,被告製品1の販売数 が2813個,被告製品2の販売数が562個であるから,製品1個 当たりの使用料相当額を算定すると,次のとおり,被告製品1と被告 製品2のいずれについても759円となる。
213万6734÷2813個≒759円
42万6683円÷562個≒759円
ウ 2)の製品についての不競法5条3項による損害額
(ア) 1)の製品を対象として不競法5条2項による損害を算定する場合に, 2)の製品に同条3項を適用できるかについて
被告は,1)の製品を対象として不競法5条2項による損害を算定する 場合に,別途2)の製品について不競法5条3項による損害を算定して, これらを合算することは,填補賠償の原則に反して許されないと主張す る。 しかしながら,前記(2)ウのとおり,2)の製品の販売は,1)の製品の販 売と一体のものとして行われたものとはいえず,1)の製品の販売のみに 基づいて不競法5条2項による損害額を算定することは認められるとい うべきであるから,同項による損害の算定において対象となっていない 2)の製品について同条3項によって損害額を算定し,これと1)の製品に ついて同条2項により算定した損害額を合算しても,算定の対象とされ た製品が異なっている以上,損害を二重に評価していることにはならず, 填補賠償の原則に反するということにはならない。したがって,そのよ うな算定方法を採用することも認められるというべきである。
(イ) 2)の製品についての損害の算定方法について
2)の製品についての実際の売上高は,前記(1)イのとおりであるが,前 記(2)ウ(イ)cのとおり,2)の製品は平均すると1)の製品の販売価格の5 分の1程度の大幅に値引きされた額で販売されており,また,2)の製品 の販売については,被告製品の販売終了に近い時期に,在庫処分の趣旨 で行われたものが大部分であったと考えられる。さらに,このような在 庫処分の趣旨での廉価販売が,当裁判所により被告の行為が不正競争に 該当する旨の心証が開示された後に行われたことは当裁判所に顕著であ るから,2)の製品の販売の大部分については,本件訴訟における差止め 及び廃棄請求の対象となることを免れる意図に基づいて不相当な廉価に よってされたものと疑われてもやむを得ないというべきである。 しかも,2)の製品の販売は,営業秘密である本件データを使用して被 告製品を製造し,一般消費者向けに譲渡するものであり,その結果,被 告製品が原告製品と競合する市場に出回ってしまうことから,原告が相 当な使用料の支払なくそのような行為を許諾することはないという点に おいて,1)の製品の販売と共通している。 以上の事情を考慮すれば,2)の製品の販売について,原告が受けるべ き金銭の額を事後的に定めるに当たっては,前記(1)イの大幅に値引きさ れた実際の売上高に前記イ(イ)の使用料率を乗じて算定するのは相当では なく,被告製品1個の販売につき,1)の製品を1個販売した場合と同額 の使用料(前記イ(ウ)bのとおり,被告製品1と被告製品2のいずれにつ いても759円)をもって使用料相当額を算定するのが相当というべき である。なお,原告が主張する,2)の製品の売上高について,2)の製品 の1個当たりの販売価格を1)の製品の1個当たりの販売価格と同額とし て算定すべきとの算定方法も,これと同趣旨をいうものと解される。
(ウ) 使用料相当額
2)の製品についての使用料相当額を算定すると,1個当たりの使用料 相当額759円に,前記(1)イの2)の製品の販売個数(被告製品1につき 774個,被告製品2につき1389個の合計2163個)を乗じた1 64万1717円と認められ,これが不競法5条3条による損害額とな る。
エ 3)の製品についての不競法5条3項による損害額
(ア) 1)の製品を対象として不競法5条2項による損害を算定する場合に, 3)の製品に同条3項を適用できるかについて
被告は,1)の製品を対象として不競法5条2項による損害を算定する 場合に,別途3)の製品について不競法5条3項による損害を算定して, これらを合算することは,填補賠償の原則に反して許されないと主張す るが,しかしながら,前記(2)ウのとおり,3)の製品については,無償譲 渡された分を含めて1)の製品の販売と一体のものとはいえないから,前 記ウ(ア)と同様に,1)の製品の販売のみに基づいて不競法5条2項による 損害額を算定する場合に,同項による損害の算定において対象となって いない3)の製品について同条3項によって損害額を算定することも認め られるというべきである。 (イ) 3)の製品についての損害の算定方法について 前記アのとおり,不競法5条3項による損害は,原則として,侵害品 の売上高を基準とし,そこに営業秘密等の使用に対し受けるべき料率を 乗じて算定すべきところ,3)の製品については,販売されていないから, 売上高は存在しない。 しかしながら,被告は,前記(1)ウのとおり,被告製品の販売を終了す る直前の令和2年3月の時期に,3)の製品について,少なくとも,被告 製品1を1000個無償提供したことが認められるところ,当該無償提 供は,営業秘密である本件データを使用して被告製品を製造し,一般消 費者向けに譲渡することにより,被告製品が原告製品と競合する市場に 出回ることから,原告において相当な使用料の支払なく許諾することは ないという点において,1)の製品の販売と共通している。 しかも,その無償提供がされた時期が当裁判所により被告の行為が不 正競争に該当する旨の心証が開示された後であることは当裁判所に顕著 であり,本件訴訟における差止め及び廃棄請求の対象となることを免れ る意図によるものと疑われてもやむを得ないというべきである。 以上の事情に照らすと,被告による上記の行為に対し原告が受けるべ き金銭の額を事後的に定める場合には,3)の製品1個の無償提供につき, 1)の製品(被告製品1)を1個販売した場合と同額の使用料759円 (前記イ(ウ)b)をもって使用料相当額を算定するのが相当というべきで ある。
原告は,3)の製品全体が無償提供されたとして,3)の製品全体につい て不競法5条3項の損害の算定の対象とすべきと主張するが,無償提供 されたと認められるのが被告製品1の1000個に限られることは前記 (1)ウ(イ)のとおりであり,3)の製品のうちそれ以外のものについては, 既に廃棄済みであるか,本件訴訟における廃棄請求の対象となるものと 考えられるから,これを不競法5条3項の損害の算定の対象とするのは 相当ではなく,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 使用料相当額
3)の製品についての使用料相当額を算定すると,被告製品1の1個当 たりの使用料相当額759円に,前記(1)ウ(イ)の無償譲渡された3)の製 品の個数1000個を乗じた75万9000円と認められ,これが不競 法5条3条による損害額となる。
(4) 弁護士費用等を含めた損害のまとめ
ア 1)の製品について不競法5条2項,2)の製品及び3)の製品について不競 法5条3項を適用した損害額(原告の主位的主張)について 1)の製品についての不競法5条2項による損害額は前記(2)カの273万 9989円,2)の製品及び3)の製品についての不競法5条3項による損害 額は前記(3)ウ(ウ)及び同エ(ウ)を合算した240万0717円であり,被告 製品全体についての損害額は514万0706円である。
イ 被告製品全体について不競法5条3項を適用した損害額(原告の予備的主張)について\n
被告製品全体について不競法5条3項による損害額は,前記(3)イ(ウ)a, 同ウ(ウ)及び同エ(ウ)を合算した496万4134円である。 これは前記アの額を下回るから,被告が賠償すべき額は前記アの額に基 づいて算定する。

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令和2(ワ)21047 不正競争  民事訴訟 令和4年10月5日  東京地方裁判所

営業秘密として保護されると認定しつつも、適法にそれを取得し、それを格納したUSBメモリを所持しているだけであれば、不正競争行為に該当しないと判断されました。一部の請求は却下、残りは棄却です。

以上を踏まえて検討するに、原告においては、就業規則により、従業 員に対し、原告の許可なく原告の機密、ノウハウ等に関する書類等を私 的に使用したり、複製したり、原告の施設外に持ち出してはならない義 務を課し、行動規範にも同様の定めがあり、被告が原告を退職するに当 たっては、被告から本件誓約書を徴求しており、原告が情報の管理を徹 底しようとしていたものであり、そのことを従業員も認識可能であった\nということができる。そして、本件ファイル1ないし6には、原告又は 原告を含むグループ会社の販売数量、売上げ、単価、利益率、顧客名等 の、原告の事業遂行に関わる情報が詳細かつ網羅的に記載されていると ころ、これらの情報が他社に知られれば、原告の市場における競争力に 大きな影響を与えかねないことは明らかであるから、上記の各情報が就 業規則等による管理の対象となっていたことも、従業員に認識可能であ\nったといえる。その上で、原告の従業員は、ネットワーク管理システム により管理されたID及びパスワードを入力しなければ、貸与されたパ ソコンにログインすることができず、SharePointを含む原告\nの社内ネットワークにもログインすることもできなかったものであり、 このSharePoint上の電子データは、これを取り扱う部門に属 する従業員のみがアクセスすることができるように設定されており、本 件ファイル1ないし6は、このようなSharePoint上に管理さ れていたものである。
そうすると、原告は、パソコンを貸与し、ID及びパスワードを付与\nした従業員で、かつ、本件ファイル1ないし6を取り扱う部門に属する 者のみに、これらのファイルに対するアクセスを許可し、原告の従業員 は、就業規則等や本件ファイル1ないし6の内容からして、これらのフ ァイルを原告の外部に持ち出すことが禁止されていることを認識するこ とができたといえるから、本件ファイル1ないし6は秘密として管理さ れていたと認めるのが相当である。
(イ) これに対して、被告は、1) 同じビジネスユニット内での異動であれば、 従前所属していた部署のフォルダに継続してアクセスすることができ、 原告はSharePointのアクセス権限を適切に管理していなかっ たこと、2) SharePoint上で管理されていた情報も、その性質 や機密性の程度等は様々であり、「秘密」や「Confidentia l」等の秘密情報であることを示す記載のないものも多数あった上、S harePoint上で管理されている電子データをプリントアウトし たり、貸与されたパソコンに保存したりすることは禁止されていなかっ\nたことから、本件ファイル1ないし6が秘密として管理されていたとは 認められないと主張する。しかし、上記1)については、別の部署に異動した後も、業務上、従前所属していた部署のフォルダにアクセスする必要があることも十分考え\nられ、これをもって、直ちに、原告がSharePointのアクセス 権限を適切に管理していなかったということはできない。また、上記2)については、そのような事情があったとしても、前記(ア)で説示した原告における秘密管理に関する体制並びに本件ファイル1ないし6の内容及びこれらに対して施されていた具体的措置に照らせば、本件ファイル1ないし6について、秘密として管理されていたことが否 定されるものではないというべきである。
・・・
(1) 原告は、被告が、営業秘密である本件ファイル1にアクセスすることがで きなかったにもかかわらず、転職先であるSUDARSHAN社で利用する ことを想定して、本件ファイル1を取得するために、本件プロジェクトを手 伝うと説明するなどの不正の手段によって、Cからこれを取得したものであ るから、不競法2条1項4号の不正競争に該当すると主張する。
しかし、前記1(2)、(3)、(5)及び(6)のとおり、被告がCから本件ファイ ル1を受領したのは令和元年9月2日であり、被告が本件プロジェクトに参 加することになったのは同日頃と考えられるところ、被告がBからSUDA RSHAN社への転職を勧誘された同年8月頃から間もない時期であるし、 実際に被告がSUDARSHAN社と雇用契約を締結したのは、被告が本件 ファイル1を受領してから約1か月半が経過した同年10月15日であるこ とからすると、被告が本件プロジェクトに参加することになった同年9月2 日頃の時点において、被告がSUDARSHAN社に転職することが決まっ ていたとは認められない。このことは、被告が、同月頃、原告の一部の従業 員に対し、SUDARSHAN社への転職を勧誘していたこと(前記1(4)) を考慮しても、同様である。
また、被告が原告から本件プロジェクトに参加するよう指示されたことを 認めるに足りる証拠はないものの、前記1(1)及び(2)のとおり、本件プロジ ェクトは、プラスチックに係る売上げを拡大するために市場の調査分析を行 うものであり、被告が属するマーケティング部門は、顔料事業部門全体の活 動を強化するために設けられた部署で、市場情報を網羅的に収集すること等 の業務を担っていたことからすると、被告が本件プロジェクトに関わること は不自然であるとはいえない。原告代表者(当時は、顔料ビジネスユニット\nの統括責任者)も、被告が本件プロジェクトに多少なりとも関わっているこ とを知りながら、特段注意をしていなかったものと認められる(原告代表者\n本人)。
以上の事情に照らして検討すれば、被告が、原告のプラスチック部門に係 る営業秘密を持ち出し、転職先であるSUDARSHAN社にて使用するな どするために、Cに対して本件プロジェクトを手伝う旨を申し出たと認める\nことはできないというべきであり、他に、被告が不正の手段により本件ファ イル1を取得したことを基礎付ける事情を認めるに足りる証拠はない。したがって、被告が不正の手段により本件ファイル1を取得したとは認められない。
(2) なお、前記1(7)のとおり、被告は、令和元年10月28日、Cから送信さ れた本件ファイル1を、更に自らの私的なメールアドレスに送信している。 しかし、上記のとおり、被告がCから本件ファイル1を受領したことは、 不当な手段によるものとは認められないこと、被告は、本件ファイル1を自 らの私的なメールアドレスに送信したにすぎず、被告の支配下にあるという 状況を変更したものではないこと、被告がいかなる目的で当該送信を行った のかは明らかでないが、本件ファイル1の内容(前記2(1)ア(ア))からする と、マーケティング部門に所属し、同年11月18日までは原告に出勤して いた被告(前記1(1)及び(10))において、本件ファイル1を使用することが 業務上必要でなかったとまではいえないことからすると、上記送信行為も不 正の手段に該当するとは認められないというべきである。
(3) したがって、原告の本件ファイル1に係る不競法2条1項4号並びに3条 1項及び2項に基づく請求は理由がない
・・・
(2) そして、前記前提事実(3)のとおり、本件誓約書の「秘密情報」とは、「会 社又はその関連会社が所有又は使用している経済的に価値のあるすべての専 有情報で、公に知られていないもの」をいうところ、本件ファイル1ないし 6は、前記2(1)のとおり、「営業秘密」(不競法2条6項)に該当すること に鑑みると、本件誓約書の「秘密情報」にも該当すると認めるのが相当であ る。他方で、本件情報7ないし13については、具体的にいかなる内容である かが明らかでなく、また、電子データ、書類等のいかなる形で記録されてい たかも明らかでないから、本件誓約書の「秘密情報」に該当するとは認めら れない。したがって、被告は、原告に対し、本件秘密保持契約に基づき、原告の許 可なく、本件ファイル1ないし6を開示し、又は使用しない義務を負う。
(3) ところで、被告が、現時点までに、本件ファイル1ないし6を開示し、又 は使用したことを認めるに足りる証拠はないことからすると、原告の本件秘 密保持契約に基づき本件ファイル1ないし6の使用等の差止めを求める請求 は、将来における被告の不作為を求める訴えと解すべきであるから、「あら かじめその請求をする必要がある場合」(民事訴訟法135条)に該当する と認められなければならない。
まず、本件ファイル1については、前記1(7)のとおり、被告は、これを自 らの私的なメールアドレスに送信しているが、被告は、同メールアドレスの 利用に係る契約を既に解約し、本件ファイル1を含む電子データにアクセス することはできないと供述しており、これに反する証拠は見当たらない。そ うすると、被告に対して、あらかじめ本件ファイル1の開示又は使用の差止 めを請求する必要があるとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠は ない。
また、本件ファイル2ないし6については、前記4のとおり、被告がこれ らを取得したとは認められず、使用し又は開示したとも認められないから、 やはり、被告に対してあらかじめ開示又は使用の差止めを請求する必要があ るとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(4) 原告は、本件秘密保持契約に基づき、本件ファイル1ないし6が記録され た文書及び電磁的記録媒体(別紙物件目録記載1及び2の各USBメモリを 除く。)の廃棄を求めている。
しかし、本件誓約書の記載を精査しても、これによって締結された本件秘 密保持契約上、被告が原告に対してこのような廃棄義務を負うと解すること はできないし、他に、被告が原告に対して廃棄義務を負う旨の合意が成立し たことを認めるに足りる証拠はない。
(5) 以上によれば、本件秘密保持契約に基づき被告に対して本件ファイル1な いし6を使用し、又は、第三者に開示若しくは使用させてはならないことを 求める部分は、訴えの利益を欠くから不適法である。そして、原告の本件秘 密保持契約に基づくその余の請求は、いずれも理由がない。
6 争点6(被告に本件USBメモリが譲渡されたか)について
(1) 証拠(乙2、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、1) 原告は、販売促進 のために顧客に配布するグッズとして、ボールペン、付箋、傘、水筒等を用 意しており、その中に、販促用USBメモリがあったこと、2) 原告は、これ らの販促用品について、配布した数量や配布先等の管理をしていなかったこ と、3) 原告の従業員はこれらの販促用品のうち余ったものを自由に使用して おり、原告が当該従業員に対して当該販促用品を返還するよう求めたことは 一度もなかったこと、4) 被告は、平成30年頃から、本件USBメモリを使 用していることが認められる。
上記認定事実のとおり、本件USBメモリを含む販促用USBメモリは、 顧客に無償で譲渡する販促用品の一つであるから、さほど高価なものとは考 えられず、原告の従業員は、余った販促用品を自由に使用しており、原告は これに異議を述べていなかったこと、被告は、SUDARSHAN社への転 職を決意したときより前から、本件USBメモリを使用しており、原告は、 他の従業員に対するのと同様に、原告において勤務する被告に対して本件U SBメモリの使用に異議を述べていないことからすると、被告が本件USB メモリの使用を開始したときに、原告と被告との間で、被告に対して本件U SBメモリを無償で譲渡する合意が成立したと認めるのが相当である。 (2) これに対して、原告は、販促用USBメモリは、あくまで販売促進のため に顧客に配布して利用することが前提となっており、従業員が私物として利 用することは予定されておらず、原告の就業規則上、従業員は会社の施設及\nび物品を会社の許可なく私的に使用してはならないとされていると主張する。 しかし、前記(1)の原告における販促用USBメモリの管理や使用の実態か らすると、原告が指摘する上記各事情は、前記(1)の認定の妨げになるものと はいえない。

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