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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

冒認(発明者認定)

令和3(ワ)31840  職務発明対価金請求事件  特許権  民事仮処分 令和5年5月26日  東京地方裁判所

職務発明の対価として約4000万円を請求しました。裁判所は、願書には発明者と記載されているが、発明者ではないとして、請求が棄却されました。

3 争点1(原告が本件発明の発明者であるか)について
本件発明は、本件構成を有するストレーナに関する発明である。被告では、平成26年5月22日までに、F向けに本件構\成を含む本件発明の構成が記載\nされた本件図面やその他の図面が作成された上で、原価についての概算見積も りがされ、平成27年2月13日にはFの甲工場において、実際に本件発明の 構成を有するストレーナの性能\実験がされ、同ストレーナは、実験対象の5件 の中で一番の性能ではないものの、一定の吹き戻し防止効果があることが確認された。そうすると、本件発明は、遅くとも同性能\実験の時点では完成していたと認められる。
ア 本件発明の特徴的部分は、本件構成であるところ(前記1 )、原告は、本 件構成の形状について、原告が発案したものであり、C等は原告の指示に基づいて図面を作成したにすぎないなどと主張する。\nしかし、原告は、前記2 で認定したとおり、本件訴訟の当初、本件発明 が着想され、完成するまでの具体的な経緯を説明せず、本件発明の特徴的部 分の完成に対する原告の具体的な関与の内容、時期が問題となったところ、 令和4年8月の準備書面で、平成25年初めころにジェットエンジンの形状 から着想したと主張したものの、原告が被告の社内において当該形状につい て言及したことについて、単にC等に図面等の製作を依頼したと主張するの みで、具体的な状況も、その時期についても明らかにしなかった。また、原 告は、本件特許の出願をした理由を記載するに当たりFに対し別の構成のストレーナの提案をしたことがあったことを述べつつ、本件構\成はDに提案したものであると主張した。しかし、前記2 ウ、エのとおり、本件構成は、Fの依頼に基づいて設計されて平成26年5月にはFに提案されたもので\nあった。また、原告が主張する平成25年初めの着想に関する証拠は何も提 出せず、それと本件図面が平成26年5月に作成されたこととの関係も不明 であった。被告はこれらの点を指摘したが、原告は、上記以上の主張をしな かった。
その後、原告は、発明者であることについての立証の最終段階として甲2 3陳述書を提出したところ、甲23陳述書には、原告が被告に初めて逆コー ン型の形状を提案したのは、平成26年8月末から同年9月初め頃にかけて であり、D向けのストレーナの開発過程において、Dの担当者に逆コーン式 のストレーナを提案したときであると記載され、また、それ以前に本件構成のストレーナの設計がされなかったと記載されていた。原告は、甲23陳述\n書をもって、本件構成を被告において明らかにした時期等について初めて本件訴訟において明示したところ、そこには、その時期は平成26年8月末か\nら同年9月初め頃にかけてであり、Dの担当者に対してであることや、それ 以前には本件構成のストレーナの設計がされなかったことが明確に記載されていた。\n
これに対し、被告が書面による準備手続に係る協議において、改めて、原 告の甲23陳述書の上記記載は本件図面が平成26年5月に作成されたこ とと矛盾することなど指摘したところ、原告は急遽陳述書を訂正したいとの 申出をし、本件図面が作成される前からもHの相談に応じて逆コーン式を提案していたなどと記載された甲25陳述書を提出した。しかし、甲25陳述\n書にもそのような提案をした具体的な時期についても状況についても記載 はなく、このことを裏付ける証拠も提出されなかった。 上記の原告の主張立証の経過及び原告が主張する原告の着想や具体的な 提案を客観的に裏付ける証拠が全くないことによれば、甲25陳述書の記載 うち、原告が、前記F向けの性能実験までの間に本件発明に実質的に関与していたと記載された部分はにわかに信用できない。\n
イ 他方、本件特許の出願に当たっては、原告がC及びBと共に発明者とされ、 前記2 キのとおり、出願を担当したIも原告を発明者として認識していた。 この点について、前記(1)で認定したとおり、本件発明はFに対するストレ ーナの開発過程で図面が作成され、実証実験を行って完成したものであると ころ、被告とFとの取引については本件構成を備えているものとは別の構\成 を備えるストレーナが採用され、本件構成を持つストレーナは採用されなかった。他方、平成26年5月の本件図面の作成後であり平成27年2月にF\nで行われた検証の直後には、被告とDとの取引では本件構成を有するストレーナが採用されたところ(前記2(1)オ)、上記開発過程やその採用の時期を 考えるとDに採用されたストレーナについては、Fとの関係で開発された本 件構成を備えたストレーナの知見が流用されたことが推認できる。なお、当時、本件図面を作成してF向けの実証実験をしていたCも、その開発過程で\nCの活動を承認等していたBも、Fのストレーナの開発を担当しており、D については担当していなかったことが認められる。また、前記2 エ、オの 原告の陳述書には、Dに本件構成を有するストレーナを採用させる経緯については試作図や3Dモデルの製作を指示したなど、やや具体的に記載されて\nおり、Dにおいて本件構成を有するストレーナが採用されたことについては、原告の指示や尽力が大きかったことがうかがえる。そして、前記2 キ の メールでのやり取りも考慮すると、被告は、本件構成を備えたストレーナについて、それを納入するDとの取引を始める前に、他人の特許出願にも対応\nすることができるように特許出願をしたことが認められる。
以上によれば、本件発明の構成を備えたストレーナは、Fの依頼に基づき平成26年5月に図面が作成されるなどしたもののFでは採用が見送られ\nた一方、原告の指示や尽力の下、Dとの取引において本件構成を有するストレーナが採用されて販売に至ったことがうかがわれること、Dとの取引の前\nに他人の特許出願にも対応することができるように本件発明が特許出願さ れたという経緯があること、被告において出願を担当していたIはFとの依 頼に基づき本件発明がされたという経緯について詳しい事情を直接見聞き したものではないことが推認できることなどから、Iは上記経緯等から原告 が本件発明に関与した者であると考えたか、又は本件構成を有するストレーナをDが採用する過程で尽力した者として発明者として取り扱うこととし、\n被告において、原告も発明者として本件特許の出願がされたことがうかがえ る。このことは、原告が、当初から、一貫してFではなくDとの関係で自身 が本件構成を提案していたと主張しながら、本件構\成が被告で具体化されて いった経緯について具体的に主張できなかったこととも整合する。 そうすると、Iが原告を発明者として扱い、被告が原告を本件発明の発明 者として出願したとしても、そのことが、前記 のとおり遅くとも平成27 年2月までに完成した本件発明の発明者が原告であることを裏付けるもの とはいえない。

◆判決本文

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