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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

冒認(発明者認定)

平成25(ワ)34182  特許を受ける権利確認等請求事件  特許権 平成28年10月24日  東京地方裁判所

 着想から完成に至る過程への実質的関与していないとして、共同発明者の一人ではないと判断されました。
 特許を受ける権利は,原始的には,発明をした者(発明者)に帰属するところ, 特許出願された発明の発明者とは,特許請求の範囲に記載された発明について,そ の具体的な技術手段を完成させた者をいう。ある技術手段を着想し,完成させるた めの全過程に関与した者が一人だけであれば,その者のみが発明者となるが,その 過程に複数の者が関与した場合には,当該過程において発明の特徴的部分の完成に 技術的に寄与した者が発明者となり,そのような者が複数いる場合にはいずれの者 も発明者(共同発明者)となる。ここで,発明の特徴的部分とは,特許請求の範囲 に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分をいう。なぜなら,特許権は,従来の技術\nでは解決することのできなかった課題を,新規かつ進歩性を備えた構成により解決することに成功した発明に対して付与されるものであり(特許法29条参照),特許\n法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術課 題の解決を実現するための,従来技術には見られない特有の技術的思想に基づく解 決手段を,具体的構成をもって社会に開示した点にあるから,特許請求の範囲に記載された発明の構\成のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分の完成に寄与した者でなければ,同保護に値する実質的な価値を創造した者とはいい難い からである(知財高裁平成18年(行ケ)第10048号同19年7月30日判決 参照)。
(2) 原告従業員Aiの情報(知見)について
原告は,原告従業員Aiが本件知見1)ないし4)を有しており,これらを被告従業 員等に提供したことから,同人が本件各発明の共同発明者の一人である旨主張する。 しかし,以下に詳述するとおり,これらの知見は,公知技術にすぎないか,具体 的な技術的裏付けを伴わない単なる願望ないし要望にすぎず,本件各発明の特徴的 部分の着想から完成に至る過程への実質的関与と評価し得るものでないから,同人 が本件各発明の共同発明者の一人であることを根拠付ける理由とはならない。 (3) 本件発明1について
ア 本件発明1の目的及び効果並びに従来技術との関係について
本件明細書1の段落【0004】及び【0008】の記載によれば,本件発明1 は,α−GGよりも優れた保湿性を発揮する材料が求められていたこと,α−GG の従来の製造方法は,手間や時間がかかるなど大量生産に適さず,コストが高くな るという問題があったことに鑑みて,発明されたものであり,α−GG単独の場合 よりも保湿性が向上し,大量生産も容易な糖組成物及びその製造方法を提供するこ とを目的としたものであって,本件発明1によれば,α−GG単独の場合よりも保 湿性が向上し,大量生産も容易な糖組成物及びその製造方法を提供できるとされて いる。 他方,前記1の認定事実のほか,特表2005−532311号公報(乙4)に\nよれば,本件出願1がされた平成22年5月10日より前である平成17年10月 27日の時点において,GGを化学合成法によって製造することができること,化 学合成法によるGGの製造の際,グルコースとグリセリンとを酸性触媒を用いて反 応させること,GGを化学合成法により製造した場合,反応物中にグリセリンが残 留すること,GG組成物を保湿剤として用いることについては,いずれも公知であ ったと認められる。
イ 本件発明1−1について
(ア) 本件発明1−1の特徴的部分について
本件出願1の願書に添付した特許請求の範囲(平成25年12月24日付け手続 補正書〔乙1〕による補正後のもの)の請求項1の記載によれば,本件発明1−1 は,1)α−GGとβ−GGとを45〜75:15〜25の質量比で含むこと(以下 「構成1)」という。),2)当該糖組成物中に含まれる全糖の合計量に対するα−GG の割合が58.4〜65.3質量%で,β−GGの割合が21.6〜24.5質量% であること(以下「構成2)」という。)を発明特定事項とするものである。 そして,上記アで説示した本件発明1の目的及び効果並びに従来技術との関係に 照らすと,本件発明1−1は,糖組成物の一種であるGG組成物を保湿剤とするに 当たり,構成1)及び構成2)をともに充足するところの,α−GGとβ−GGの混合 物からなるGG組成物を用いることによって,α−GG単独の場合よりも保湿性の 向上を図ったことを特徴とするものというべきである(本件明細書1の段落【00 08】,【実施例】〔【0031】以下〕)。 そうすると,本件発明1−1は,構成1)及び2)が同発明特有の課題解決手段を基 礎付ける部分であって,これらの構成が同発明の特徴的部分に当たり,同発明のそ\nの余の発明特定事項は,同発明の特徴的部分とは認めらない。 もっとも,糖組成物中のα−GGとβ−GGの量的関係が構成2)を充足する場合, 当然に構成1)を充足することになるから,本件発明1−1の特徴的部分を画定する のは,結局,構成2)であるということになる。
(イ) 本件発明1−1の発明者について
上記(ア)の本件発明1−1の特徴的部分を前提とし,原告従業員Aiが,当該特徴 的部分における技術手段を着想し,かつ,特徴的部分の完成に至る過程に技術的関 与した者といえるかについて検討する。 そもそも,化学合成法によりGG組成物を製造することや化学合成法により得ら れるGG組成物について,原告従業員Aiが何らかの新規かつ具体的な知見を有し ていたことを裏付ける的確な証拠はない。 むしろ,前記1(1)で認定したとおり,原告が被告に化学合成法によるGG組成物 の製造を依頼したのは,原告は,酵素法によりGG組成物を試作していたものの, コスト面での難点があり,他方で,原告が自ら化学合成法によってGG組成物を製 造することは困難であったため,他社に化学合成法によりGG組成物を低価格で大 量生産することを委託することとし,候補とした2社から被告を選択したという経 緯があることからすると,原告従業員Aiは,化学合成法によりGG組成物を製造 することについて,新規かつ具体的な知見を有していたものではなく,したがって, 化学合成法により得られるGG組成物についても,新規かつ具体的な知見を有して いたものではなかったと推認するのが合理的である。 そして,本件明細書1の記載によれば,本件発明1−1における構成2)の数値範 囲は,実施例1ないし3により導き出されたものであることが認められるところ, 前記1の認定事実によれば,これらの実施例は,いずれも被告従業員Aiiを中心と する被告従業員等が実験的に導出し,その効果を確認したものであって,この過程 に原告従業員Aiが実質的に関与したとみることはできない。 そうすると,本件発明1−1の発明者ないし共同発明者と評価され得る者は,被 告従業員Aiiを中心とする被告従業員等のみであって,原告従業員Aiが同発明の 共同発明者の一人であると認めることはできない。
(ウ) この点,原告は,原告従業員Aiがα−GGとβ−GGを一定比率で含有す る組成物からなる保湿剤を着想したとか,被告従業員等に示したHPLCチャート から導き出されたα−GGとβ−GGとの比率が本件発明1−1の構成1)の数値範 囲に含まれていることなどを理由として,原告従業員Aiが本件発明1−1の共同 発明者の一人である旨主張する。 しかし,そもそも,本件発明1−1は,α−GGとβ−GGを含んでなる組成物 のHPLCによる分析方法や,α−GGとβ−GGとをHPLCにより分離する方 法に関する発明ではない。 上記の点をひとまず措くとしても,HPLCチャートのうち,平成20年5月8 日に被告従業員等に示されたもの(甲29の2)は,α−GGとβ−GGのピーク が分離されているとはいえず,この時点で,原告従業員Aiの技術的関与があった とは認められない。
他方,平成21年5月1日に被告従業員等に示された甲30のHPLC分析結果 では,各ピークの裾野はつながっているものの,α−GGとβ−GGのピーク自体 は区別できるが,HPLCの条件及び結果は,本件明細書1記載の実施例について のHPLCとは異なるものである。また,そのα−GGとβ−GGの比率が示され た分析結果(甲31のHPLC分析結果)は,本件訴訟において初めて被告に示さ れたもので,甲30のHPLC分析結果とともに示していないこと,その後,同年 11月13日の時点においても,原告従業員Aiは,被告従業員Aivに対し,α− GGとβ−GGのHPLCによる分離確認方法を問い合わせていること(乙18) からみても,上記の原告従業員Aiの知見や原告による分析結果(甲30,31) により,原告従業員Aiが本件発明1−1の特徴的部分について技術的な関与をし たものとは認めがたい。 もともと,被告従業員Aiiは,原告からGG製造の委託を受けた平成20年5月 8日の時点においても,GG自体は製造したことはなかったものの,類似の物質の 化学合成法によると,α−GGとβ−GGの比率については,概ね7:3になるで あろうということを,それまでの被告における知見や経験から予想していたもので\nあるし,実際に,その後の平成21年12月7日の打合せにおいて,「GCI見解と して,液クロでは判断し難い。NMRで確認した結果,α:β=65:35となる。」 とし,α−GGとβ−GGの比率については,概ね当初の予想どおりの結果をNM\nRで確認しているのである。 原告は,この時点でも,被告従業員等がHPLCによる分析は難しい旨を発言し ていることから,被告にHPLC分析を行う技術力はなく,原告のHPLCによる 分析結果が本件発明1−1に寄与した旨も主張するが,そもそも,HPLCによっ て分析するという分析方法を単に示唆したというだけでは,本件発明1−1につい て,共同発明者の一人とみることができるような技術的関与があったとはいえない ことは明らかであるし,上記のとおり,原告におけるHPLCによる分析も十分な\n結果とはいえない。 そうすると,被告従業員等において,上記経緯を踏まえ,その後も実験,分析を 繰り返した結果,本件出願1に至る平成22年5月10日までの間に,本件明細書 1に記載の実施例に掲げられたHPLC分析の条件及びその結果を見出し,出願に 至ったものと認めるのが相当である。そして,仮に,その際,原告のHPLCによ る分析を参考にしたとしても,そのことをもって評価試験の実施につきその内容の 策定や具体的な条件や結果を獲得する過程に原告従業員Aiが具体的かつ実効的な 貢献をしたものとは評価し難い。したがって,本件発明1−1の構成1)及び構成2) について,原告従業員Aiが技術的に寄与したものとは認められない。

◆判決本文

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