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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

冒認(発明者認定)

平成29(ワ)10038  特許権移転登録手続等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年10月25日  東京地方裁判所(47部)

 冒認を理由に、発明者に特許権を移転せよとの判断がなされました。
  前記(1)アないしウ及びオの認定事実によれば,原告代表者は,顧客である被\n告代表者から自動洗髪機の開発依頼を受け,先行特許の調査等を経て,エアバ\nッグを利用する方法を着想するに至り,それを踏まえて本件特許発明の構成が\n全て開示されている全体構想計画案等を自ら作成したものであるから,本件特\n許発明の発明者に当たるというべきである。
 他方,被告代表者については,前記(1)イ,エないしカの認定事実からすれば, 自動洗髪機の開発につき原告代表者に依頼し,本件特許発明につき特許出願す\nる段取りを整えたり,事業計画を策定して公的補助を受ける準備をしたりした ことは認められるが,本件特許発明の完成に当たり,発明者と評価するに足る だけの貢献をした具体的事実は認められない。
 これに対し,被告は,かねてから人間の手に近い感覚で頭皮のマッサージが できる自動洗髪装置の開発を志向していた被告代表者が,平成26年2月頃,\n被告手動洗髪用具の指状の突起部と同様の形状の突起部を有する装置で,被洗 髪者の頭を覆い,エアバッグ(袋状体)の振動を利用して頭皮をマッサージし ながら洗う機械を着想し,乙第2号証の図面を作成し,その後の同年3月7日 の打合せで,上記技術内容を被告代表者に対し説明して,具体的に機械の設計\nを依頼したものであって,この時点で本件特許発明は既に完成していたのであ るから,本件特許発明の発明者は被告代表者であって,原告代表\者ではない旨 を主張し,これに沿う証拠としては,被告代表者の陳述書(乙20)及び本人\n尋問における供述(以下,併せて「被告代表者の供述等」という。)がある。\n
 しかしながら,被告代表者の供述等については,乙第2号証の図面につき本\n件特許発明の構成が開示されているとは認め難く,他に上記打合せの時点で本\n件特許発明を被告代表者が完成させていたと認めるに足りる客観的な裏付け\nがないこと,前記(1)サで認定したとおり,乙第3号証に係る被告の主張等が大 きく変遷等していること(被告は当初,原告代表者が作成した全体構\想計画案 は被告代表者が作成した乙第3号証をほぼなぞっただけのものである旨主張\nしていたのに,原告から矛盾点の指摘を受けるや主張を変遷させ,被告代表者\n本人尋問においても,上記の当初の主張内容を訴訟代理人に説明していないな どと不合理な供述をしていること),被告代表者の供述等は,本件特許発明を\n着想するに至った経緯について曖昧かつ抽象的な内容に終始していること等 を併せ考慮すれば,その信用性は低いものといわざるを得ない。また,本件特 許発明の発明者が被告代表者であったと認めるに足りる他の証拠も見当たら\nない。そこで,被告の前記主張は採用できない。
 さらに,被告は,前記(1)カで認定したとおり,原告代表者がAから電子メー\nルに添付された出願関係書類の案の送付を受けた際,被告代表者が発明者とな\nっていること等につき何ら異議を述べず,本件訴訟に至るまで自らが発明者で あるとの主張を一切してこなかった点を指摘するが,前記(1)アで認定した原告 の業態からすれば,前記(1)カで認定したとおり,原告が開発した機械を製造す ることにより経済的利益を得られる限り,特許の取得等についてはこだわらな いという方針をとることも不合理ではないことからすれば,上記の点から直ち に被告代表者が本件特許発明の発明者ないしは共同発明者であったと推認す\nることはできず,原告代表者が本件特許発明の発明者であったという前記認定\nを左右するものではない。以上のとおり,本件特許発明の発明者は原告代表者であって,被告代表\者ではない。そうすると,原告代表者が本件特許発明の特許を受ける権利を有する一方,被告は本件特許発明の特許を受ける権利を有さないから,被告による出願は冒\n認出願であって特許法123条1項6号に該当する。したがって,原告代表者\nから特許を受ける権利を承継した原告は,被告に対し,特許法74条1項に基 づく特許権移転登録手続請求権を有する。

◆判決本文

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平成30(ネ)10019  特許を受ける権利帰属確認本訴請求控訴事件,損害賠償反訴請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年8月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許を受ける権利の帰属確認を求めましたが、知財高裁(4部)は、1審と同じく請求を棄却しました。
 前記(1)及び(2)の認定事実を総合すれば,1)一審原告は,Aと知り合う前 から本件技術の研究を行っていたが,一審原告自身にはその研究開発を進 めていく資金がなかったため,Aと知り合って以降に,Aに上記事情を説 明し,Aが代表社員を務める一審被告と協力して,携帯電話端末等の民生\n用の技術として本件技術の研究開発を進めていくこととし,その研究成果 である本件発明について本件出願に至っていること,2)本件出願に当たっ ては,一審被告が本件特許事務所に対して出願手続を委任し,本件出願に 係る願書の「特許出願人」欄には一審被告の名称が記載されており,しか も,特許出願料,本件特許事務所に対する手数料等の本件出願に必要な費 用は,一審被告が負担していること,3)一審原告は,一審被告の担当者と して,本件出願に係る願書の作成に関与し,複数回にわたって,本件特許 事務所が作成した願書案の内容を確認してコメントを付したり,本件特許 事務所からの質問に回答するなどし,最終の願書案についても,Aに代わ って確認し,その願書案のとおりの内容で出願することを了承し,その願 書案中の1枚目の願書(「特許願」と題する書面)の「特許出願人」欄に は一審被告の名称が記載されていたことが認められる。 上記認定事実によれば,一審原告は,本件出願に係る願書の「特許出願 人」欄に一審被告の名称が記載されていたことが認められる。 上記認定事実によれば,一審原告は,本件出願に係る願書の「特許出願 人」欄に一審被告の名称が記載されていること及び本件出願に必要な費用 は全て一審被告が負担していることを十分に認識し,本件出願について特\n許査定がされた場合には,特許出願人である一審被告が特許権を取得する ことを理解していたものと認められる。 加えて,一審原告と一審被告との間で本件発明についての特許を受ける 権利の譲渡の対価額について具体的な交渉がされたことはうかがわれな いものの,他方で,一審原告が一審被告に対して無償で上記特許を受ける 権利を譲渡すべき事情も認められないこと,その他本件出願に至る経緯等 (前記(2))に鑑みると,一審原告と一審被告との間では,遅くとも本件出 願時までに,一審原告の有する本件発明についての特許を受ける権利を一 審被告に相当な対価で譲渡する旨の黙示の合意が成立したものと認める のが,当事者の合理的意思に合致するというべきである。
イ これに対し,一審原告は,1)願書案についての一審原告の確認対象は, 請求項の技術的な記載事項に限定されており,その他の記載は十分に確認\nしていないし,また,一審原告においては,特許出願手続や願書案の記載 方法について全く知識を有していなかったため,願書案の「特許出願人」 欄に記載される者が本件出願に係る特許を受ける権利を有している者を も意味する記載であると認識することは,極めて困難であったこと,2)一 審原告は,本件発明についての特許を受ける権利の対価の支払を受けてお らず,一審原告が無償で上記特許を受ける権利を一審被告に譲渡すべき理 由もないことからすると,一審原告が一審被告に対して本件発明について の特許を受ける権利を黙示に譲渡した事実はない旨主張する。 しかしながら,上記1)の点については,前記ア認定のとおり,一審原告 は,本件出願に係る願書の作成に関与し,複数回にわたり,願書案の内容 を確認し,最終の願書案についても,Aに代わって確認し,その願書案の とおりの内容で出願することを了承しているところ,願書案中の1枚目の 願書(「特許願」と題する書面)の「特許出願人」欄に一審被告の名称が 記載されていたのであるから,一審原告が願書案の確認を行うに際し,そ の記載に気付かないはずはないし,また,特許出願について特許査定がさ れた場合には,願書に「特許出願人」と記載された者が特許権を取得する ことは,特許出願手続や願書の記載方法について知識がなくても当然に理 解できる事柄である。 また,上記2)の点については,一審原告と一審被告間の本件発明につい ての特許を受ける権利の黙示の譲渡の合意は,無償ではなく,一審被告が 相当な対価を支払うことを内容とするものであり,仮に一審原告が一審被 告から上記譲渡の対価の支払を未だ受けていないとしても,そのことは上 記合意の成立を妨げるべき事情となるものではない。 したがって,一審原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括
以上のとおり,一審原告と一審被告との間では,遅くとも本件出願時まで に,一審原告の有する本件発明についての特許を受ける権利を一審被告に相 当な対価で譲渡する旨の黙示の合意が成立したものと認められるから,上記 合意により,上記特許を受ける権利は一審被告に移転したものと認められる。 したがって,一審原告の特許を受ける権利の帰属確認請求は,理由がない。

◆判決本文

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平成27(ワ)31774等  特許権侵害差止等請求事件  特許権 平成30年3月2日  東京地方裁判所(40部)

 冒認者が真の発明者に対して権利行使したことが不法行為に該当するとして550万円の損害賠償が認められました。
 まず,原告代表者自身の陳述書(甲11)によれば,原告代表\者は普 通高校を卒業後,本件特許の出願当時まで螺旋状コイルインサートの販 売事業に従事した経験を有するのみであって,螺旋状コイルインサート の設計や製造に関わった経験はないものと認められ,螺旋状コイルイン サートに関して原告代表者を発明者とする特許出願や原告が執筆した論\n文等も存在しない(乙25の1及び2,乙26)。 また,原告代表者自身,本人尋問において,タングレス螺旋状コイル\nインサートの技術については「素人なので一切知らない」旨の供述をし ているとおり(原告代表者〔本人調書8頁〕。以下,同様に本人調書の\n該当頁を併記する。),原告代表者がタングレス螺旋状コイルインサー\nトに関して専門的な知識を有していたことはうかがわれない。 さらに,前記(2)イのとおり,原告は,平成11年当時,被告の製造す る製品の販売会社にすぎず,螺旋状コイルインサートの製造設備や実験 設備を有していたとは認められない。 したがって,そもそも,原告代表者に本件発明を着想し,これを具体\n化するだけの知識,経験及び環境が備わっていたといえるのか,疑問が ある。
イ 発明の動機について
原告は,原告代表者が被告の製造するタングレス螺旋状コイルインサ\nートについてどうしたら生産性を上げられるか考え悩んでいたことが本 件発明の動機であると主張する。 しかし,原告代表者の供述によれば,被告の製造するタングレス螺旋\n状コイルインサートの生産性が低いという認識を持ったのは,被告の営 業担当者と飲食を共にしたときに聞いたというのみであり,原告代表者\nは,上記営業担当者の氏名は供述せず,そのような話を聞いた際の具体 的な状況についても明らかにしない。 しかも,原告代表者は,生産効率の低さを聞いたのは本件特許の出願\n後だと思うとも供述し(原告代表者〔16,17頁〕),また,生産効\n率の低さを聞いていたとしながらも,これを改善する方策を検討するに 当たり,被告にどのような問題があって,実際にどのように生産してい たかという点を「調べてない」と供述している(原告代表者〔20\n頁〕)。 以上のとおり,本件発明の動機に関する原告代表者の供述は抽象的で\n不自然な点が多く,被告のタングレス螺旋状コイルインサートの生産性 の向上が本件発明の動機であったと認めることはできない。
・・・・
訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において 提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである 上,提訴者が,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのこと を知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度 の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるもの と解するのが相当である(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月 26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁,最高裁平成7年(オ)第16 0号同11年4月22日第一小法廷判決・裁判集民事193号85頁参照)。 本件においてこれをみるに,原告の本訴請求は理由がないところ,前記2 (5)に説示したとおり,原告代表者は福島工場において本件発明を知得した\n上,本件特許を出願したものといわざるを得ないのであって,原告による本 件特許の出願は冒認出願であったというべきである。 そして,本件特許の出願をD弁理士に依頼したのは原告代表者自身であり,\n被告の福島工場を訪れたのも原告代表者自身であって,本件特許の出願につ\nいては原告代表者が主体的に関わったものと認められることなどによれば,\n原告代表者が記憶違いや通常人にもあり得る思い違いをして本件特許出願に\n及んだということもできない。 加えて,原告が本訴提起前に被告から本件特許の出願が冒認出願であると の指摘を受けながらあえて本訴提起に及んだと認められることは,前記2 (2)シ(イ)及び(ウ)記載のとおりである。
そうすると,本訴請求において原告の主張した権利又は法律関係が事実的, 法律的根拠を欠くものであることはもちろん,原告が,そのことを知りなが ら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴え を提起したというべきであるから,本訴の提起は裁判制度の趣旨目的に照ら して著しく相当性を欠くものと認められるといわざるを得ない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告による本訴の 提起は被告に対する違法な行為というべきである。
(2) 被告の損害発生の有無及びその額
ア 本訴の防御のための弁護士・弁理士費用その他の費用
証拠(乙58〜68,101〜107,122〜125,134〜1 37,142〜143,152〜154(いずれも枝番を含む。))によれば,被告は,本訴事件に応訴するため,弁護士との間で訴訟代理の委任契約を締結するとともに,特許業務法人との間で補佐人の委任契約を締結し,相当額の報酬額を負担したほか,郵送料,謄写費用その他各種手続費用を負担したことが認められるところ,本訴の事案の内容,訴額,審理の経過及び期間,立証の難易度その他本件に現れた諸般の事情に照らすと,このうち原告の不法行為と相当因果関係のある費用は500万円と認めるのが相当である。 イ 反訴のための弁護士費用
反訴の事案の内容,経過,認容額その他本件に現れた諸般の事情に照らすと,反訴提起のための弁護士費用のうち50万円を原告に負担させるのが相当である。

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