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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

冒認(発明者認定)

令和2(ネ)10052  特許権持分一部移転登録手続等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 「オプジーボ」について、原告Xは発明者であるとの確認を求める訴訟にて、知財高裁も、1審と同じく、「発明者ではない」と判断しました。原告Xは研究室にいた研究者と小野薬品です。

控訴人は,1)抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相 互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」な いし「着想」は,本件出願当時,公知であったから,本件発明の技術的 思想の特徴的部分は,上記公知の課題について具体的な免疫細胞と標的 となるがん細胞を用いて抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1 分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の賦活化の効果を実証し た点にあること,2)控訴人は,抗PD−L1抗体の作製に貢献し,指導 教官であるA教授から指導を受けながら,試行錯誤を重ねて本件発明を 構成する個々の実験系を構\\築し,主要な実験のほぼすべてを単独で行い, 特に2C細胞とP815細胞の組合せ実験に関しては,A教授から指示 を受けることなく着想して,遂行し,この点に関する控訴人の貢献の程 度は大きいこと,3)控訴人が本件発明と同内容のPNAS論文の筆頭著 者(共同第一著者)であること等からすると,控訴人は,本件発明の具 体化に創作的に関与したものといえるから,本件発明の発明者であると いうべきである旨主張する。 しかしながら,以下のとおり,控訴人の主張は,理由がない。
ア 1)について
控訴人は,抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相 互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」 ないし「着想」が,本件出願当時(原出願1の優先日平成14年7月 3日及び平成15年2月6日),公知であったことについて,JEM論 文及び1999(平成11)年9月に出願されたダナ・ファーバー癌 研究所等の特許出願の優先権主張の基礎出願に係る明細書の記載を根 拠として挙げる。 しかしながら,JEM論文(甲66)は,「新しいB7ファミリーメ ンバーによるPD−1免疫抑制性受容体の関与が,リンパ球活性化の 負の制御を導く」ことに関する論文であり,JEM論文中には,「ヒト 卵巣腫瘍から3つのESTがみられるように,PD−L1は,いくつ かの癌において発現されている。このことは,腫瘍が,抗腫瘍免疫応 答を阻害するために,PD−L1を使用している可能性を提起する。」との記載部分があるが,一方で,JEM論文には,腫瘍に発現したP\nD−L1が抗腫瘍免疫応答を阻害することを実際に実証する実験デー タやその分析結果等の記載がないことに照らすと,JEM論文の上記 記載部分は,腫瘍が抗腫瘍免疫応答を阻害するためにPD−L1を使 用している可能性があることの仮説を述べたものにとどまるというべきである。\n
次に,控訴人提出の甲60は,ダナ・ファーバー癌研究所等を出願 人,2000年(平成12年)8月23日を国際出願日,2001年 (平成13年)3月1日を国際公開日とする国際出願((PCT/US /23347)の国際公開公報,甲61は,その公表特許公報であって,本件においては,上記国際出願の優先権主張の基礎出願に係る明\n細書の提出はないし,また,控訴人の指摘する甲61の「PD−1を 介するシグナリングを阻害する作用剤を対象の免疫細胞に投与して, 免疫応答のアップレギュレーションから利益を受けるであろう症状を 治療することを特徴とする・・・1の具体例において,該症状は,腫瘍・・・ からなる群より選択される。」(段落【0009】)との記載から直ちに 抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害 することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」を導出するこ とはできない。 したがって,控訴人の1)の主張のうち,抗PD−L1抗体がPD− 1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の 賦活化の効果が,本件出願当時,公知であったとの点は,採用するこ とはできない。 そして,前記1(2)認定のとおり,本件発明の技術的思想は,PD− 1,PD−L1による抑制シグナルを阻害して,免疫賦活させる組成 物及びこの機構を介した癌治療のための組成物を提供するという課題を解決するための手段として,抗PD−L1抗体がPD−1分子とP\nD−L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもた らすことを見出した点にあるものと認められ,本件発明の発明者であ るというために,上記技術的思想を着想し,又は,その着想を具体化 することに創作的に関与したことを要するものと解されるところ(前 記(1)),控訴人が上記技術的思想の着想に関与していないことは,前 記(2)オで説示したとおりである。
・・・・
エ まとめ
以上によれば,控訴人は,A教授の指導,助言を受けながら,自ら の研究として本件発明を具体化する個々の実験を現実に行ったものと 認められるから,A教授の単なる補助者にとどまるものとはいえない が,一方で,上記実験の遂行に係る控訴人の関与は,本件発明の技術 的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認めることは できないから,控訴人は,本件発明の発明者に該当するものと認める ことはできない。 したがって,控訴人の前記主張は理由がない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)27378

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