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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

特許庁手続

令和1(行ウ)527  手続却下処分取消等  その他  行政訴訟 令和2年8月20日  東京地方裁判所  棄却

 期間徒過後に提出した国内書面について、特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるかが争われました。東京地裁(47部)は正当理由には該当しないと判断しました。

2 争点1(原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出できなかったこ とにつき,特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるか否か)に ついて
(1) 法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるときとは,特段の事情 のない限り,国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。以下同じ。)として, 相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間 内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうものと解する のが相当である(知財高裁平成28年(行コ)第10002号同29年3月7 日判決・判例タイムズ1445号135頁参照。)。
(2) これを本件について見るに,本件事務員は,本件日本事務所に対し,本件 メールを送信後,数分後に送信の不奏功を告知する本件送信エラー通知を受 けていたにもかかわらず,また,ほぼ同時刻に送信した他の5箇所の代理人 事務所からは送信と同日中に受信確認メールの送信を受けた一方で,本件日 本事務所からは受信確認メールの送信を受けていなかったにもかかわらず, 国内提出期間が徒過するまで,本件日本事務所に対して,本件指示メールの 受信確認等を一切行わなかったものである。さらに,本件事務員を監督する 立場にあった本件現地事務所代理人は,本件指示メールのカーボンコピーの 送信先となっており,同メールを受信できなかった事情が特段見当たらない 以上は同メールを受信していたものと認められるが,その後,国内書面提出 期間の徒過を回避するための具体的な役割を果たした形跡が見当たらない。 これらによれば,本件事務員及び本件現地事務所代理人が相当な注意を尽く していたとは認められないし,本件において「正当な理由」の有無の判断を 左右するに足りる特段の事情があったとも認められない。
(3) これに対し,原告は,法184条の4第4項の「正当な理由」の有無は, 当事者の規範意識を基準とすべきであり,本件においては米国の基準ないし 実務に基づいて判断すべきであるとした上で,本件事務員が,長年の経験を 有し,これまで一度も同様の問題を起こしたことのない者であったこと,本 件現地事務所の期限管理システムの下,本件現地事務所代理人が業務規則に 従い,本件事務員に対し的確な指導及び指示をしていたこと,国内書面提出 期間の終期の徒過を知った直後から,最善を尽くしたことなどを縷々主張す る。
しかしながら,法184条の4第4項の適用の有無は,国内移行手続にお いて判断されるものであるから,同項の「正当な理由」の有無については, 日本における規範・社会通念等を基準に判断されるべきである。また,本件 現地事務所が期限管理システムや業務規則により期限徒過を防止する態勢を 企図していたとしても,本件の事実経過のとおり,本件事務員が本件送信エ ラー通知を受信していたにもかかわらず,本件日本事務所に対して本件指示 メールの受信確認等を一切行わず,期限徒過を生じさせたことからすれば, 結局のところ,本件事務員が業務を適切に行っている限りは問題が生じない が,見落としや錯誤など何らかの過誤を発生させた場合,何らの監督機能や\n是正機能が働くこともなく,問題の発生を抑止できない態勢にとどまってい\nたと言わざるを得ない。また,その余の主張について慎重に検討しても,本 件において,正当な理由の有無の判断に影響を与えるものとはいえない。 以上からすれば,原告の前記主張は,いずれも前記判断を左右するもので はない。
(4) したがって,本件において,原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文 を提出することができなかったことについて,法184条の4第4項所定の 「正当な理由」があるということはできない。

◆判決本文

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令和2(行コ)10002    特許権  行政訴訟 令和2年7月22日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 追納期間経過後にした4年目の年金納付について、112条の2第1項に規定する「正当な理由」があるとは認定されませんでした。
 特許権者はA弁理士に無効審判の代理と、年金管理を委任していましたが、途中で前者は別の弁理士に変更されました。無効審判は請求人との間で取り下げられましたが、年金を納めていなかったため、特許が消滅したという案件です。

 控訴人らは,1)特許庁は,年金管理事務を年金管理サービス会社などに外 部委託することを推奨し,特許権者は,年金管理サービス会社に年金管理を 委託し,相応の対価を支払うことで,自社で年金管理を行うことから解放さ れ,年金管理サービス会社からの期限通知に対し,権利維持の意思表示を行\nうのみで年金納付手続がされているという年金管理の運用実態に鑑みれば, 特許権者は,年金管理サービス会社に年金管理を委任した時点で,特許料の 納付期限の徒過を回避するために相当な注意を尽くしたと解すべきである, 2)控訴人中井紙器は,A弁理士に対し,本件特許権を含む多くの特許権の年 金管理を委任し,本件特許権の第4年分の特許料についても,A弁理士から の「年金通知のご案内」という納付期限が近付いている旨の通知を受け, 納付手数料,印書代,電子化情報処理料といった年金管理費用をA弁理士に 支払うことが予定されており,本件特許権の第4年分の特許料の納付期限で\nある平成28年1月18日及び本件追納期間の末日である同年7月19日の 時点において,本件年金管理はA弁理士に委任されたままの状態であったか ら,控訴人中井紙器は,A弁理士に本件年金管理を委任したことにより,相 当な注意を尽くしたものといえるとして,控訴人中井紙器が本件追納期間内 に本件特許料等を納付することができなかったことについて「正当な理由」 (法112条の2第 1 項)がある旨主張する。
ア そこで検討するに,前記第2の2の前提事実によれば,1)控訴人中井紙 器は,本件特許権の設定登録がされた平成25年1月18日ころまでに, A弁理士に対し,本件特許権の第4年分以降の特許料の納付管理(本件年 金管理)を委任したこと,2)A弁理士は,平成27年6月1日,控訴人中 井紙器のX1会長から,口頭で,本件無効審判に係る手続の代理人を解任 する趣旨の告知を受けた後,控訴人中井紙器に対し,同日付けで本件無効 審判に係る手続の委任を解除した旨の書面の提出を求める旨の甲3の書面 を送付し,控訴人中井紙器は,A弁理士に対し,同日付けで本件無効審判 に係る委任を解除したことに相違ない旨の甲2の書面を送付したこと,3) A弁理士は,X1会長から上記告知を受けたころ,A弁理士の事務所で特 許料の納付管理事務に従事していた担当者に対し,本件年金管理の事務を しなくてよい旨の指示をするとともに,控訴人中井紙器の本件特許権以外 の権利については今後も特許料の納付管理事務を行うよう指示をしたこと, 4)本件特許権の第4年分の特許料の納付期限の平成28年1月18日及び 本件追納期間の末日の同年7月19日が経過するまでの間,A弁理士は, 控訴人中井紙器に対し,上記納付期限の案内や本件追納期間に関する連絡 を行わなかったことが認められる。上記認定事実によれば,控訴人中井紙 器から本件年金管理に係る事務の委任により,その代理人となったA弁理 士は,控訴人中井紙器から本件無効審判に係る手続の委任の解除の告知を 受けた際に,本件年金管理に係る委任も解除されたものと認識したことが 認められる。
しかるところ,先に説示したとおり,特許権者が特許料の納付管理又は 納付手続を代理人に委任している場合は,法律関係の形成に影響を及ぼす べき主観的態様は原則として代理人の主観的態様に従って判断されるべき であり(民法101条参照),法112条の2第1項に規定する「正当な 理由」の有無についても,原則として原特許権者の代理人について決する のが相当であると解されるから,控訴人ら主張の年金管理の運用実態を勘 案しても,特許権者が年金管理サービス会社に年金管理を委任した時点で, 特許料の納付期限の徒過を回避するために相当な注意を尽くしたというこ とはできない。
したがって,控訴人中井紙器がA弁理士に本件年金管理を委任した時点 で控訴人中井紙器が本件追納期間の徒過を回避するために相当な注意を尽 くしたものと認めることはできない。
イ 次に,A弁理士は,控訴人中井紙器の代理人として,本件特許権の第4 年分の特許料の不納付及び本件追納期間の徒過により本件特許権が遡って 消滅したものとみなされる効果が生じることを認識し,又は認識すべきで あったことに照らすと,前記アのとおり本件年金管理に係る委任が解除さ れたものと認識したとしても,控訴人中井紙器に対し,自らの認識と控訴 人中井紙器の認識に齟齬がないかどうかを確認し,あるいは控訴人中井紙 器が本件特許権の第4年分の特許料の納付期限を明確に把握しているかど うかを控訴人中井紙器に確認するなど本件追納期間の徒過を回避するため に必要な措置をとるべきであったものと解される。そして,本件において は,A弁理士がかかる措置をとったことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,控訴人らが主張するように控訴人中井紙器とA弁理士との 間の本件年金管理の事務の委任契約が本件追納期間中も存続していたとし ても,A弁理士は控訴人中井紙器の代理人として本件追納期間の徒過を回 避するために相当な注意を尽くしたものと認めることはできない。 加えて,前記認定(原判決15頁9行目から21行目まで)のとおり, 控訴人中井紙器においては,本件追納期間内に締結した本件和解契約によ り,本件特許権の一部(持分)を控訴人グラセルに譲渡するに当たり,本 件特許権の第4年分の特許料が納付期限までに納付されているかどうかを 確認し,その納付が未了である場合には本件追納期間内に本件特許料等を 納付すべき取引上の注意義務を負っていたのであるから,自ら又はA弁理 士を通じて上記納付の有無について必要な調査・確認を行うべきであった にもかかわらず,かかる調査・確認を行っていないことに照らすと,控訴 人中井紙器自らも本件追納期間の徒過を回避するために相当な注意を尽く したものと認めることはできない。
ウ 以上によれば,本件特許権を共有していた原特許権者である控訴人中井 紙器が本件追納期間の徒過を回避するために相当な注意を尽くしたにもか かわらず,客観的な事情により本件追納期間内に本件特許料等を納付する ことができなかったものと認めることはできないから,控訴人中井紙器が 本件追納期間内に本件特許料等を納付することができなかったことについ て「正当な理由」(法112条の2第1項)があるということはできない。 したがって,控訴人らの前記主張は理由がない。

◆判決本文


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◆令和1(行ウ)278

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令和1(行ウ)278  特許料納付書却下処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月22日  東京地方裁判所

 特112条の2第1項の「正当な理由」とは認められませんでした。

 法112条の2第1項所定の「正当な理由」があるときとは,原特許権者(代 理人を含む。以下同じ。)として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず, 客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかったときをいう ものと解するのが相当であるところ(知財高裁平成30年(行コ)第10006 号令和元年6月17日判決参照),以下のとおり,本件においては,本件追納期 間内に原告らが第4年分の特許料等を納付することができなかったことについ て,同項の「正当な理由」があったとは認められない。
1 正当な理由の有無について
(1) 原告中井紙器について
ア 原告らは,本件追納期間の徒過は,A弁理士が,原告中井紙器から本件年 金管理に係る委任についても解任されたと誤認したという人為的なミスに 起因するものであることを前提とした上で,本件年金管理につきA弁理士と いう適切な代理人を選任した時点で原告中井紙器としては本件追納期間の 徒過を回避するために必要な注意義務を尽くしており,A弁理士から甲3の 書面を受け取っていた以上,原告中井紙器が本件誤認に気付くことは困難で あったなどと主張する。 イ しかし,特許料の納付をするかどうかの判断,その支払期限の管理,特許 料の支出の確認を含め,自らの特許権に関する管理を行うのは,特許料納付 の手続を代理人に依頼していたとしても,特許権者の基本的な業務であり, かつ,容易になし得ることである。原告中井紙器は,本件特許の原特許権者 であり,しかも,原告グラセルとの間で本件特許の有効性をめぐり係争中で あったのであるから,本件特許の第4年分の特許料の納付期限が平成28年 1月18日であり,本件追納期間の末日が平成28年7月19日であること を認識し,同各期限までに特許料等が支払われているかどうかを容易に確認 し得たというべきである。 しかるに,原告中井紙器は,支払期限の管理,確認など特許権者として行 うべき基本的な管理を行うことなく,上記各期限を徒過させたものであって, 特許権者としての相当な注意を尽くしていたということはできない。 ウ これに対し,原告らは,本件追納期間の徒過は,本件年金管理事務を受任 していたA弁理士が,本件無効審判に係る手続のみならず,本件年金管理事 務についても委任を解除されたと誤認したという人為的なミスに起因する ものであると主張する。
しかし,前記第2の2(7)記載のとおり,原告中井紙器は,平成27年6月 1日付けの書面をもって,A弁理士に対し,当時係属中であった本件無効審 判に係る手続の委任を解除した旨の告知をしたところ,本件年金管理事務が 特許出願等の手続代理に付随する事務としての性質を有し,出願,無効審判 など各種の手続代理と年金管理事務とを異なる代理人に依頼するとは通常 考え難いことに照らすと,同原告により解除された委任事務は,本件無効審 判に係る手続のみにとどまらず,本件特許に係る全ての事務を包括するもの であったと解するのが自然である。仮に,原告らの主張するように,A弁理 士に対して委任していた事務の一部のみを解除するのであれば,その旨の説 明があってしかるべきであるが,原告中井紙器からA弁理士に対してそのよ うな説明がされたことをうかがわせる証拠は存在しない。 そうすると,本件特許の管理業務も解除された委任事務に含まれるとのA 弁理士の認識が誤信であるということはできず,本件追納期間の徒過がA弁 理士の人為的ミスに基づくものであったということもできない。 エ 仮に,原告中井紙器が本件特許の年金管理業務はA弁理士に引き続き委任 していたものと誤信し,あるいは,原告中井紙器により解除された委任事務 の中に本件特許に係る年金管理事務が含まれていなかったとしても,前記判 示のとおり,自らの特許権に関する管理を行うのは特許権者の基本的な業務 であり,しかも,A弁理士に対しては,特許無効審判に係る手続の代理の委 任を解除しているのであるから,同原告としては,同弁理士からの納付期限 の連絡を漫然と待つのではなく,自ら調査・確認し,又は同弁理士に自ら連 絡をするなどして,特許料等の納付期限の管理を行うべきことは当然であり, それが困難であったとも考えられない。 したがって,原告中井紙器がA弁理士に本件年金管理事務を委任したこと をもって必要な注意を尽くしたなどということはできないのであり,同原告 が特許権者として相当の措置を講じたということはできない。
オ さらに,前記第2の2(11)記載のとおり,原告らは,本件追納期間内であ る同年3月9日に,原告中井紙器が本件特許権の持分1%を原告グラセルに 譲渡する一方で,原告グラセルが無効審判請求を取り下げることなどを内容 とする本件和解契約を締結したと認められるが,原告中井紙器としては,本 件特許権の一部を原告グラセルに譲渡するに当たり,同特許権の特許料が期 限までに支払済みであることを確認し,その支払が未了である場合には本件 追納期間内に第4年分の特許料等を納付すべき取引上の注意義務を負って いたというべきである。 しかるに,原告中井紙器は,同契約に当たり,本件特許の第4年分の支払 の有無を調査すれば,その支払が未了であることを容易に確認し得たにもか かわらず,自ら又はA弁理士に確認するなどして,必要な調査・確認を行わ ないまま,漫然と,本件追納期間の末日を経過したのであるから,特許権者 として,相当な注意を尽くしたということはできない。
(2) 原告グラセルについて
ア 原告らは,本件和解契約において本件年金管理の義務が原告中井紙器にあ って原告グラセルにはないことを合意するなどして本件年金管理の義務が 原告グラセルにないことを明確にしているから,原告グラセルは,本件追納 期間の徒過を回避するために必要な注意義務を尽くしたと主張する。 しかし,本件特許権の持分1%を取得する原告グラセルとしては,本件和 解契約を締結するに当たり,自らの取得する本件特許権が有効に存続するも のであることを確認するのが通常であると考えられる。原告グラセルは,無 効審判手続の当事者であったのであるから,本件特許に係る第4年分の特許 料の納付期限が平成28年1月18日であることは認識していたものと考 えられ,本件和解契約に当たり,同特許料が支払済みであるかどうかを原告 中井紙器に確認し,これが未払である場合には,本件追納期間中に特許料等 の納付を求めることは容易であったというべきである。 しかるに,原告グラセルが原告中井紙器に第4年分の特許料の支払に関し て照会し,あるいは,その点について自ら調査したことをうかがわせる証拠 は存在しない。
イ そうすると,原告グラセルは,自ら特許料の納付の時期について適切に管 理すべき立場にありながら,原告中井紙器が本件年金管理を行うものと軽信 し,本件追納期間中にも自らの不注意によって本件追納期間内に特許料等の 納付をすべきことを認識しないまま,漫然と,本件追納期間の末日を経過し たのであるから,同原告が相当な注意を尽くしたにもかかわらず,客観的に みて追納期間内に特許料等を納付することができなかったということはで きない。 なお,原告らは,本件和解における本件特許権の持分の譲渡は実質的には 実施許諾契約の性質を有するものであったと主張するが,仮にそのとおりで あったとしても,上記結論を左右するものではない。
(3) 特殊な事情の有無について
原告らは,本件追納期間の徒過は,(1)A弁理士が本件年金管理に係る事務の 委任についても解任されたと誤認したことと,(2)A弁理士が自己の認識と異な る内容の書面を送付したことという2つの特殊な事情が重なって生じたもの であるので,正当な理由があると認められるべきであると主張する。 しかし,本件年金管理事務も解除された委任事務に含まれると解すべきであ り,この点について,A弁理士に誤認があったとは認められないことは前記判 示のとおりである。また,甲3の書面の内容は前記2(7)に記載のとおりである ところ,同書面に記載された内容とA弁理士の内心の認識に齟齬があると認め ることはできない。 また,仮に,原告の主張する上記事情が認められるとしても,本件追納期間 の徒過は,原告らが特許権者としての通常の注意を払っていれば容易に避ける ことができたものであり,これらの事情をもって通常起こりえない特殊な事情 であるということはできない。

◆判決本文

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平成31(行ウ)162  特許料納付書却下処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月23日  東京地方裁判所

 特許の訂正の登録がなされた登録日を年金納付期限の登録日と誤解したことを「正当理由」と主張しましたが、認められませんでした。

 原告は,本件特許権に係る特許料の納付期限を管理していたファイザー社の 担当者において,本件訂正時特許証の「登録日」欄の日付である平成25年9月3 0日が本件設定時特許証の「登録日」欄の日付である平成24年3月16日と異な っていたことから,特許料の納付期限の起算日となる本件特許権の設定登録日が本 件訂正時特許証のとおり訂正されたものと誤解し,本件期間徒過が生じたとし,(1) 特許料等に関する法107条ないし112条の3の各規定によって,訂正をすべき 旨の審決が確定しても設定登録日が変わらないことや特許証に複数の種類があるこ とを認識することはできないこと,(2)本件設定時特許証及び本件訂正時特許証には 「登録日」としか記載されていないため,どちらが本件特許権の設定登録日である か不明確であり,米国や欧州の実務と比べても,我が国の特許証の記載は紛らわし いものであること,(3)特許証の大半は設定登録時に発行されるものであるから,フ ァイザー社において,訂正すべき旨の審決が確定したときに発行される特許証が存 在することを当然に把握しておくべきであったとはいえないことなどに照らし,原 告には,本件期間徒過について法112条の2第1項所定の「正当な理由」が認め られる旨主張する。
(2) 本件特許権に係る特許料の納付期限を管理していた担当者は,原告の主張が 本件回復理由書及び本件審査請求書における主張(甲6,10)から変遷し,判然 としないが,ファイザー社の担当者において,前記のような誤解をしていたと認め られたとしても,以下のとおり,本件期間徒過について,原告が原特許権者として, 相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて追納期間内に特許料等を 納付することができなかったときに当たると認めることはできない。 ア すなわち,原告は,日本の特許権を保有していたのであるから,特許料の納 付等の管理を行うに当たり,一般に求められる相当な注意として,日本の特許法及 びその他の関係法令を理解しておくべきであるといえるところ,(1)特許料の納付期 限については,法107条,108条において,特許権の設定登録日から起算され ることが規定されており,訂正をすべき旨の審決が確定してその登録がされた場合 に特許権の設定登録日が変更される旨の規定は存在しないから,本件特許権につい て,本件審決が確定してその登録がされたからといって,特許権の設定登録日が変 更されないことは条文上明らかであること,(2)特許証の交付についても,法28条 1項において,特許権の設定の登録があったときに交付されることのほかに,訂正 をすべき旨の審決が確定した場合にその登録があったときなどにも交付されること が規定されていることなどからすると,担当者において,これらの規定を理解して いれば,本件訂正時特許証に「登録日」として「平成25年9月30日」と記載さ れていても,本件訂正時特許証に「この発明は,訂正をすべき旨の審決が確定し, 特許原簿に登録されたことを証する。」と記載されていることをも踏まえれば,上 記の「登録日」が本件審決の確定等に係る登録日を記載したものであり,特許料の 納付期限の起算日となる特許権の設定登録日が変更されたものではないと理解する ことは可能であったと認められる。\n
イ 本件訂正時特許証及び本件設定時特許証の「登録日」欄記載の年月日には1 年半ものずれがあり,特許権の設定登録日が訂正されたと考えることに疑念を生じ させるものであったといえるところ,特許権の設定登録日は,ウェブサイトに公開 されている特許情報や特許登録原簿等によっても確認することができるから,担当 者において,上記疑念を抱いて,相当な注意を尽くしてそのような確認をしていれ ば,本件特許権の設定登録日が変更されていないことを認識することは容易であっ たというべきである。
ウ 本件全証拠によっても,担当者において,本件訂正時特許証の「登録日」欄 の記載を上記アのように理解すること又は上記イのような確認をすることが困難で あったことをうかがわせる事情は認められない。
(3) したがって,本件期間徒過について法112条の2第1項所定の「正当な理 由」は認められない。
3 小括
以上によれば,本件納付書による特許料等の納付のうち,第4年分の特許料等に 係る部分について,本件期間徒過について法112条の2第1項所定の「正当な理 由」があるとはいえないとし,第5年分の特許料等及び第6年分の特許料に係る部 分について,第4年分の特許料等の追納が認められないために本件特許権は消滅し ているとして,本件納付書による追納手続を却下した本件却下処分が違法であると はいえない。

◆判決本文

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