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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

特許庁手続

平成30(行ウ)424    その他  行政訴訟 令和元年6月18日  東京地方裁判所

 特許法112条の2第1項の正当理由について、判断基準として「一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な事情があるか」であると示し、今回のケースは該当しないと判断されました。

 特許法112条の2第1項は,同法112条4項の規定により消滅したもの とみなされた特許権の原特許権者は,同条1項の規定により特許料を追納する ことができる期間内に特許料等を納付することができなかったことについて の「正当な理由」があるときは,経済産業省令で定める期間内に限り,その特 許料等を追納することができると規定する。 この規定は,平成23年法律第63号による改正前の特許法112条の2第 1項では,期間徒過後に特許料等を追納できる場合について原特許権者の「責 めに帰することができない理由」により追納期間内に特許料等を納付できなか った場合と規定していたところ,国際調和の観点から,より柔軟な救済を可能\nとすることを目的として,手続期間を徒過した場合の救済を認める要件につき, 特許法条約の規定を踏まえて「Due Care(相当な注意)」の概念を採用 したものであると解される。 これらを踏まえると,特許法112条の2第1項にいう「正当な理由」があ るときとは,原特許権者(その手続を代理する者を含む。)において一般に求め られる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な 事情により,同法112条1項の規定により追納することができる期間内に特 許料等を納付することができなかった場合をいうと解するのが相当である。 原告らは,本件特許事務所から平成25年11月に本件特許権について第4 年分の年金のリマインダの送付を受け,電子メールに添付した本件注文書によ って,本件特許事務所に対して本件特許権の第4年分の年金納付の指示をした と主張する。 しかし,上記電子メールや本件注文書には特許番号が記載されておらず,ま た,特許番号に代替し得る本件特許権を特定するための情報は全く記載されて いなかった。特許番号を記載しなかった理由は,原告らの年金納付担当者の気 力がなかったというものであった。かえって,本件特許権の第4年分の年金の 納付期間の終期が平成25年12月3日であったにもかかわらず,電子メール 及び本件注文書には,年金納付を指示する特許権の年金が第17年分のもので あり,その納付期間の終期が同月16日であることをうかがわせる記載のみが あった。本件特許事務所は原告らの特許権について多数の特許出願及び更新手 続を管理しており,その特許権の中には年金の納付期間の終期が前同日のもの が含まれていた。
更に,本件特許権について年金納付の指示をしたのであれば,本件特許事務 所からそれに対応してその指示の受領の通知と本件特許権についての請求書 等が送付されるところ,そのような通知や請求書の送付はなく,原告らがそれ に気付くことはなかった。 これらによれば,本件注文書に「2013年11月15日付けの最終連絡に 基づく」旨が記載されていて,原告ら主張のとおり同最終連絡に仮に本件特許 権の年金納付の要否を尋ねる旨の記載があったとしても,原告らは,年金納付 をする特許権を容易に特定することができ,また,本件特許事務所が管理する 原告らの特許権には年金納付をする必要がある別の特許権があるにもかかわ らず,本件注文書やその電子メールをもって,本件特許事務所に対し年金納付 の対象の特許権が本件特許権であることを明確に認識できる形でその納付を 指示したとは到底いい難い。そして,原告らは,年金納付の指示をすれば当然 あるはずの請求書の送付等がないことを看過していた。原告らについて,本件 において,一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと 認められる客観的な事情があるとは認められない。 これに対し,原告らは,本件特許事務所は世界的なランキングに掲載される 有力な事務所であり,年金納付が確実に行われるように体制を整備していたの であって,そのような外部組織を適切に選任した以上,原告らには特許法11 2条の2第1項の「正当な理由」があるなどと主張する。 しかし,前記のとおり,本件特許権の年金の納付についての原告らの指示が 明確であったとはいい難く,また,その後,原告らは,当然あるはずの請求書 の送付等がないことを看過していたのであって,本件特許事務所を選任したこ とによって「正当な理由」があるとはいえない。 以上によれば,本件期間徒過について「正当な理由」(特許法112条の2第 1項)があるとはいえないから,原告らの請求には理由がない。

◆判決本文

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平成30(行ケ)10156  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月19日  知的財産高等裁判所

 期間徒過後に、拒絶査定不服審判を請求しましたが、この却下処分について取消訴訟を提起しました。知財高裁は、「責めに帰すことのできない事由」ではないと判断しました。経緯はややこしいです。ある出願Aについて拒絶査定がなされたので、分割出願Bをしました。ところが、この出願Aは3代目の分割出願であり、拒絶査定不服審判と同時でないと分割出願ができない旧特許法44条が適用されるものでした。特許庁は、分割出願Bについて、特18条の却下処分を通知しました。出願人は、期間徒過後に、拒絶査定不服審判の請求とともに、分割出願Cをしましたが、拒絶査定不服審判の請求が審決却下されました。

 特許の出願人が在外者である場合,拒絶査定不服審判請求や分割出願を行 うためには,特許法施行令1条1号に定める場合を除いて,特許管理人たる代理人 を選任する必要があるが(特許法8条1項),その場合であっても,同在外者は, 誰を代理人に選任するのかについて,自己の経営上の判断に基づきこれを自由に選 択することができる。そうすると,出願人から委任を受けた代理人に「その責めに 帰することができない理由」があるといえない場合には,出願人本人に何ら落ち度 がない場合であっても,特許法121条2項所定の「その責めに帰することができ ない理由」には当たらないと解すべきである(最高裁昭和31年(オ)第42号同 33年9月30日第三小法廷判決・民集12巻13号3039頁参照)。
(2) 本件においては,前記第2の1のとおり,D弁理士は,本願からの分割出 願について,特許法44条1項3号の適用があり,拒絶査定不服審判請求をする必要はないものと誤信し,拒絶査定不服審判請求についての法定期間を徒過してし まったものである。 弁理士法3条によると,弁理士には,業務に関する法令に精通して,その業務を 行う義務があるところ,通常の注意力を有する弁理士が,通常期待される法令調査 を行えば,本件拒絶査定後,本願から適法に分割出願を行うためには,拒絶査定不 服審判請求を分割出願と同時にする必要があると認識することは十分に可能\であっ たと認められる。したがって,D弁理士が上記のように誤信をしたことは,弁理士 として通常期待される法令調査を怠った結果であるというほかない。D弁理士以外 の他の本件代理人らについても,いずれも原告本人から委任を受けた弁理士である 以上,適宜,必要な処置を講じて,本件のような過誤の発生を防止すべき義務があっ たといえ,D弁理士同様,弁理士として通常期待される注意を尽くしていなかった ものというべきである。 以上のとおり,本件代理人らが通常期待される注意を尽くしていたとはいえない 以上,本件において,特許法121条2項にいう「その責めに帰することができな い理由」があったとすることはできない。
(3)ア 原告は,本件代理人らの過誤は,原告本人にとって思いもかけないこと であり,外国法人である原告本人が,非本質的な手続である本件審判請求について の本件代理人らの過誤を防ぐことは不可能であったことなどから,「その責めに帰\nすることができない理由」があると主張する。 しかし,本件審判請求が,分割の機会を得るためだけにされたものであるとして も,そのことによって「その責めに帰することができない理由」があるとすること ができないのは,前記1(2)エで述べたとおりである。 また,前記(1)のとおり,原告本人は,自らの経営上の判断として,本件代理人ら に委任したのであるから,原告本人には過失がなかったとしても,自己が委任した 本件代理人らに過失がある以上,「その責めに帰することができない理由」はなかっ たと判断されるのもやむを得ないものというべきである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,本件分割出願1と本件分割出願2が同内容であることからする と,失効した権利の回復を無制限に認めることにはならず,また,第三者の監視負 担が増大することはないと主張するが,そのような本件における個別具体的な事情 を理由に,「その責めに帰することができない理由」があるとすることはできない。

◆判決本文

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