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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

その他特許

令和5(ネ)10041  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年11月16日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 本件商品の輸入が本件特許権を侵害すると主張して税関に輸入差止の申立てをしたことが不法行為に該当するとして、約4000万円の損害賠償請求がなされました。知財高裁は1審と同じく、無効理由がないとして請求を棄却しました。

原告は、甲7公報に記載されたバー10が独立した運動器具の発明である といえるかに関し、1)甲7公報記載の発明は、従来技術であるバーベル装置(バー 部分と重り部分からなるもの)における問題(バーが長いことによってバランスを とることが困難であるとの問題)を解消するため、バー部分を短く改良した三頭筋 運動器具であるところ、バーベル装置においては、重りを着けずにバー部分のみで 運動を行うことが想定されているのであるから、バーベル装置を改良した甲7公報 記載の発明においても、バー10単独での使用が可能である、2)甲7公報には、発 明の目的及び別の目的に係る記載があるところ、前者の記載にある「中央に位置す る重り支持セクションを有する」との文言が後者の記載からあえて削除されている から、甲7公報記載の発明は、重り支持プラットフォーム及び重りを備えない状態 で使用することを当然の前提にしている、3)甲7公報記載の発明は、バー10を単 独で使用することによっても一定の作用効果を奏する、4)バー10は、三頭筋運動 において非常に重要な役割を果たしているとして、甲7公報記載の発明においては、 バー10を独立して捉えることが可能であり、それ自体が独立した運動器具の発明\nであると主張する。
そこで検討するに、1)甲7公報には、「比較的長いバーを有しバランスをとるこ とが困難であるなどの従来のバーベル装置が有していた問題を解消するため、本件 各発明は、両側にあるハンドルを備える中央の重り支持セクションを有し、各ハン ドルが複数の握持位置を有する」旨の記載があるが、補正して引用した原判決第4 の1(4)アにおいて説示したところに照らすと、仮に、従来のバーベル装置が重り を着けない状態で使用されることがあるとしても、そのことは、甲7公報記載の発 明においても、バー10のみの状態(重りのみならず支持クランプ組立体をも取り 外した状態)での使用が想定されていることの根拠となるものではない。
また、2)甲7公報には、「本発明の目的は、中央に位置する重り支持セクション を有する、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフティング装置 を提供することである。本発明の別の目的は、複数の握持位置を備える両側にある ハンドルを有する、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフティ ング装置を提供することである。本発明の別の目的は、end to endの手 の配置を可能にする、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフテ\nィング装置を提供することである。最後に、本発明の全体的な目的は、安価であり、 高い信頼性を有し、その意図される目的を達成するのに高い有効性を有する、説明 した目的のための装置内にある改善された要素及び機材を提供することである。」 との記載があるが、これらの記載は、甲7公報記載の発明の目的について述べるも のであり、その具体的な構成について詳述するものではなく、補正して引用した原\n判決第4の1(2)イ(オ)のとおりの甲7公報記載の発明の具体的な構成に係る記載に\nも照らすと、「本発明の別の目的」及び「本発明の全体的な目的」に係る各記載中 に「本発明の目的」に係る記載中の「中央に位置する重り支持セクションを有する …ウエイトリフティング装置」などの記載がないことをもって、甲7公報記載の発 明において、バー10のみの状態での使用が想定されているということはできない。 さらに、3)前記1)において説示したのと同様、補正して引用した原判決第4の1
(4)アにおいて説示したところに照らすと、仮に、重りを取り外した状態で使用す ることによっても甲7公報記載の発明の効果を奏する場合があるとしても、そのこ とは、甲7公報記載の発明において、バー10のみの状態(重りのみならず支持ク ランプ組立体をも取り外した状態)での使用が想定されていることの根拠となるも のではない。なお、4)甲7公報記載の発明においてバー10が重要な役割を果たしているとしても、そのことは、原告の主張を直ちに根拠付けるものではない。以上のとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。
(2) 原告は、相違点1)に係る本件各発明の構成の容易想到性に関し、リング状\nの器具をトレーニング器具として用いることは慣用技術であるから、リング状のバ ー10をトレーニング器具とすることは、単にスポーツ器具用部品であるバー10 に慣用技術を適用するだけのことであり、当業者にとって極めて容易な事柄である と主張する。しかしながら、これまで説示したとおり、本件においては、バー10のみ(甲7発明)が独立した引用発明であると認定することはできず、バー10のみならず重 り支持部分をも備えた甲7発明(被告)が引用発明であると認定するのが相当であ るから、甲7公報記載の発明を引用発明とする本件各発明の進歩性の判断(相違点 1)に係るもの)に当たっては、そのような甲7発明(被告)から重り支持部分を取 り除くことについての容易想到性が問題となるところ、甲7発明(被告)における バー10は、甲7発明(被告)を構成する部材の一部であり、重り支持部分と不可\n分の部材であるから、バー10のみをもって、原告が主張するリング状の器具であ るとみることはできない(なお、原告の主張も、リング状の器具として、甲8公報 記載のトレーニング用器具、甲9公報記載の体育器具のほか、ラタンリング、ピラ ティスリング、ヨガリング、フープ等を念頭に置いている。)。 以上によると、原告が慣用技術であると主張する技術の適用により当業者が相違 点1)に係る本件各発明の構成に容易に想到することができたとは認められない。\n

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和4(ワ)3847

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平成27(ネ)10069  売買代金請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成27年12月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

かなり前の判決ですが、漏れていたのでアップします。
部品メーカが完成品メーカに対してした特許保証条項について、どのような義務があったのかが争われました。1審では、そもそも特許権侵害ではなかったのだから、払ったライセンス料相当額の損害との間に相当因果関係が認められないと判断しました。知財高裁は、侵害判断については同様ですが、相当因果関係ありとして、一定の範囲の損害賠償を認めました。ただ、過失相殺7割としました。

確かに,前記1のとおり,本件口頭弁論終結時においても,本件チップセットが 本件各特許権を侵害するものであると認めるに足りる証拠がない以上,結果的に見 れば,本件ライセンス契約が締結された時点において,控訴人がWi−LAN社と の間でライセンス契約を締結し,ライセンス料として2億円を支払う必要性があっ たということはできない。
イ しかし,以下の事情を総合すれば,被控訴人による本件基本契約18条2項 違反と,控訴人のライセンス料相当額の損害との間には,相当因果関係を認めるこ とができる。
(ア) 控訴人は,Wi−LAN社から本件各特許のライセンスの申出を受けたこ\nとから,被控訴人に対し協力を依頼した平成22年12月9日以後,継続して,被 控訴人又はイカノス社に対して,本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否 かについての回答を求めていたところ(前記2(1)ア,ウ,エ,サ),イカノス社か らは,平成23年3月22日には,コネクサント社等が詳細な技術分析の結果とし て,Wi−LAN社とライセンス契約を締結していることから,Wi−LAN社の 主張が妥当なものである可能性が高く,イカノス社において,多くの時間とリソ\ー スを費やして技術的分析を行うことは望んでおらず,コネクサント社製のチップ セットに比べてイカノス社製のチップセットの供給量は少ないことから,控訴人と Wi−LAN社とのライセンス契約が最良の解決であると考えていることが述べら れ(前記2(1)セ),同年8月には,技術分析の結果(乙20)に基づき,別件特許 については,これらの技術を使用していないとの報告がされたものの,本件特許1, 2,4,6及び9については,これらの特許がDSLAMに関連する特許であり, イカノス社が提供したCPEの機能に必要な技術とは無関係であるとの報告がされ\nたのみで,これらの技術を使用しているのか否かについての報告がなく,本件特許 3,5,7及び8については何らの報告もなく,かえって,Wi−LAN社に対し て支払うロイヤルティを3社で分担することが提案され(前記2(1)ト),同年10 月には,イカノス社の技術は,コネクサント社の技術と基本的に同じであって,コ ネクサント社が取得したライセンスでカバーされていない技術が残っているのか疑 問があり,Wi−LAN社の主張が妥当である部分については,掘り下げるつもり はないことが述べられ(前記2(1)ヌ),同年11月には,再度の技術分析の結果(乙 21)に基づき,別件特許については,これらの技術を使用していないとの報告が されたものの,本件各特許については,DSLAM送信機の請求項である,CPE の請求項と思われる,DSLAMの実装に固有の要素であり,CPEの実装には見 られない要素であるなどと,本件各特許の請求項についての簡単な報告がされたの みで,本件チップセットが本件各特許発明を充足しているのか否かについての報告 がされていない(前記2(1)ノ)。チップ・ベンダーであるイカノス社が,本件チッ プセットが本件各特許権を侵害するか否かについての調査依頼に対して,上記のよ うな対応をしたことから,控訴人は,同年12月には,ADSL Annex.C については明らかに本件各特許権を侵害するもので,技術的にこれが非侵害である ことを立証することはできない旨の認識を有するに至ったものである(前記2(1) ハ)。
(イ) また,同年4月には,被控訴人,控訴人及びイカノス社の間において,W i−LAN社とのライセンス契約締結に当たっては,ライセンス料,算定根拠等の 観点からの検討が必要であることが確認された。その際,控訴人からイカノス社に 対してロイヤルティ率の提示を要請し,イカノス社は,本件各特許のような特許権 に対する標準的な料率に関する情報を準備し,提示する旨述べたものの(前記2(1) タ,チ),同年7月13日には,合理的なロイヤルティ率については,具体的な数 字を提示することは困難であるとして,提示することができなかった(前記2(1) ツ,テ)。次に,イカノス社は,コネクサント社製のチップセットに適用されるロ イヤルティ率に基づく検討を提案し,同ロイヤルティ率を突き止めるよう努力して 結果を報告する旨述べたものの,これについても新たな情報を発見することができ なかったと報告するにとどまり(前記2(1)テ),結局,被控訴人又はイカノス社か ら,控訴人に対し,ライセンス料の算定に関する情報は何ら提供されなかった。
(ウ) そして,控訴人は,同年2月24日,Wi−LAN社に対し,チップ・ベ ンダーの一社であるコネクサント社がWi−LAN社との間でライセンス契約を締 結しているのであれば,ライセンス交渉の前提が変わるとしてその確認をしたい旨 通知したところ,同年3月1日には,Wi−LAN社から,コネクサント社にライ センス済みのものは控訴人とのライセンス交渉の対象外であること,控訴人に対す るライセンス料の提案額480万USドルは既に大幅に減額したものであって,コ ネクサント社とのライセンス契約の事実が影響するものではない旨の回答を受けた (前記2(1)コ)。さらに,控訴人は,同年3月13日,Wi−LAN社に対し,控 訴人のイカノス社からの購入数量に見合ったライセンス条件の再提示を求めたとこ ろ,同月23日には,Wi−LAN社から,コネクサント社に対するライセンス済 みの製品があることについては控訴人に対するライセンス料の提示において大幅減 額をした際に織り込み済みであること,控訴人が妥当であると考える数字を提案さ れたい旨の回答を受けた(前記2(1)ス,ソ)。控訴人は,同年4月頃に,Wi−L\nAN社に対し,コネクサント社とイカノス社から購入した各製品の数量を開示し(後 者は前者に比べて非常に小さい。),これらの数値を検討して新たな提案をするよ う求めたところ,その後,Wi−LAN社からは請求額を430万USドルに引き 下げる旨の回答を受け(前記2(1)タ,チ),さらに,同年7月ないし8月頃に,W i−LAN社に対し,ロイヤルティはチップセット数量に基づいて算出されるべき であり,現実的ロイヤルティ額は,例えば11万USドルから12万USドルの範 囲内にあるべきことを主張したところ,同年10月6日には,Wi−LAN社から, 控訴人とWi−LAN社の本件紛争の解決に対する見解には大きな隔たりがあると して,早期の解決をする場合にはどの程度の金額の提示が可能かを2週間以内に連\n絡するよう,Wi−LAN社は,控訴人からの提案を受け取った時点で,現在提示 している早期ライセンスのオファーを取り下げるか否かを決定し,2週間以内に回 答がない場合には,自動的に早期ライセンス交渉は終了することなどの回答を受け た(前記2(1)ナ)。さらに,控訴人は,同月7日には,Wi−LAN社に対し,W i−LAN社の要求する300万ないし400万USドルのロイヤルティは非ライ センス製品であるイカノス社からの控訴人の実際の購入量が小さいため適切でない 旨を説明したところ,同年12月には,Wi−LAN社からの提示額は290万U Sドルまで減額され(前記2(1)ハ),その後,本件ライセンス契約締結時には2億 円に減額されている。 このように,控訴人は,イカノス社からの購入数量は,コネクサント社からの購 入数量と比較して非常に小さいことから,イカノス社からの実際の購入数量に応じ てライセンス料も大幅に減額すべきであることを継続して主張していたが,Wi− LAN社からは,控訴人に対するライセンス料の提示に当たり考慮済みであるとさ れ,Wi−LAN社による提示額も漸減していたとはいえ,被控訴人及びイカノス 社からは,ライセンス料の算定に関する情報は何ら提供されなかったことから,こ れ以上は,減額交渉の材料が他に見当たらない状況であった。
(エ) 他方において,控訴人は,平成22年12月27日,Wi−LAN社から, 1)早期ライセンス,2)交渉された又は遅延したライセンス及び3)訴訟後のライセン スの3段階のライセンシングがあることを示され,平成23年3月15日までにラ イセンス契約を締結しない限り,早期ライセンスのオファーは撤回され,その後, 交渉された又は遅延したライセンス(第2ラウンド)(早期ライセンスが拒否され た場合又は遅延作戦が行われた場合,オファーは撤回され,ポートフォリオ全体に つき詳細な違反調査が行われ,ロイヤルティ率が著しく増加し,条件及び賠償金の 過去分について柔軟な対応を行いにくくなる。),さらには,訴訟後のライセンス (訴訟終了後,全ての既存のオファーは撤回され,交渉は振出しに戻り,ライセン スのオファーは裁判所により課された料率等でされ,全額賠償,増額賠償等の全て の費用を含み,裁判所により課された料率と係争中の条件を変更する柔軟性はほと んどない。)に進む可能性がある旨の申\出を受けた(前記2(1)イ)。控訴人は,同 年3月13日には,Wi−LAN社に対して,期限の猶予を求めたが(前記2(1) ス),同年10月6日には,Wi−LAN社から,控訴人とWi−LAN社の見解 には大きな隔たりがあり,早期解決のための金額提示が2週間以内になければ早期 ライセンス交渉は終了し,その後,特許権者としてのあらゆるオプションを留保す る旨の通知を受ける(前記2(1)ニ)などして,平成22年12月27日のライセン ス交渉以来,継続して,早期ライセンスのオファーが終了すれば,次のステージに 移行する可能性を告げられていた。そして,Wi−LAN社は,自らは保有する特\n許を実施しないNPE(Non Practicing Entity)として, それまで大手企業等を相手に差止請求を含めた多数の訴訟を提起し,結果としてラ イセンス料を得るなどの実績を有していたことから(甲8,9,乙2,5),早期 ライセンス交渉が決裂すれば,差止請求訴訟が提起される可能性があり,もし侵害\nの事実が認定された場合には,設計変更等を行うに当たっての損害額は2億円をは るかに超える可能性があった(前記2(1)ヘ)。
(オ) 以上のとおり,前記(ア)のとおりのチップ・ベンダーであるイカノス社に よる技術分析への対応等に照らせば,控訴人が,本件チップセットは,ADSL A nnex.Cに準拠し,Annex.Cに用いるものとしてFRAND宣言がされ ている本件各特許権を侵害する又は侵害する可能性が高いと考えたこともある程度\nやむを得ないところであって,前記(イ)のとおり,被控訴人又はイカノス社からラ イセンス料の算定に関する情報も提供されないことから,前記(ウ)のとおり,これ 以上,減額交渉の材料がない状況の下で,他方,前記(エ)のとおり,Wi−LAN 社からは,早期ライセンスのオファーが終了すれば,次のステージに移行する可能\n性を継続して告げられるなどして,差止請求訴訟を提起されるリスクを負っており, 侵害が認定された場合に被る損害は2億円をはるかに超えることが予想されたこと\nを総合的に鑑みれば,平成24年2月23日の時点において,控訴人が,本件ライ センス契約を締結し,ライセンス料2億円を支払うことも,社会通念上やむを得な いところであり,不相当な行為ということはできないのであって,被控訴人による 本件基本契約18条2項違反と,控訴人のライセンス料2億円相当額の損害との間 には,相当因果関係を認めることができる。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成24(ワ)21128

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平成27(ワ)25780等  特許権を受ける権利を有することの確認等請求,真の発明者ではない旨の宣誓手続請求反訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年1月22日  東京地方裁判所

随分前の判決ですが、漏れていたのでアップします。
納入業者がした発明について、納入先が特許出願をしました。発明者には当該納入業者は記載されていませんでした。東京地裁29部は、原告らは共同発明者であると認定しました。また人格的利益を侵害の慰謝料として33万円を認めました。

◆本件特許
原告らは、本件特許から遅れて、10ヶ月後、自ら別の出願していました。

◆原告ら特許

エ 被告は,Fが原告Aに対して,本件攪拌混合機ないし本件角堀掘削ヘッドに ついて特許出願したい旨を伝えたところ,原告Aが「うちはいいから,会社で出し て。」と述べた,また,原告Aは,平成25年12月21日,被告従業員らに対し, 本件特許出願の発明者について「私は年だから息子のほうをお願いします。」と述 べたなどと主張し,被告従業員らの各陳述書(乙30ないし32)があるほか,証 人Fも証人尋問において同旨の証言をする。 しかし,前者(原告Aが「うちはいいから,会社で出して。」と述べたとの事実) については,それがいつ,どのような場面において原告Aからされた発言であるか が主張上も,証人Fの証言上も明確でないから,同事実を認定するには至らない。 後者(原告Aが「私は年だから息子のほうをお願いします。」と述べたとの事実) については,Fは,証人尋問において,「A社長と相談したら,自分じゃなくて若 い者にしてもらったらいいかなというふうに聞いた」,「ありがとうございますと 言われたような気がします。」,「島根に来られたときなんで,ちょっとはっきり, 日付までおぼえてないですけれども。」などと証言するにとどまり,原告Aがいか なる文脈で,どのような趣旨で発言したのかについて明確に証言しないから,発言 した日時,場所等はもとより,原告Aが,本件各発明について,被告による本件特 許出願に際し,自らを発明者として記載せず,原告Bを発明者として記載すること を了承する趣旨で上記のような発言をしたとまで認定することは困難である。
(3) 本件各発明の発明者について
ア 発明者の意義について
「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうか ら(特許法2条1項),「発明者」というためには,当該発明における技術的思想 の創作行為に現実に関与することを要する。 そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する 者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度まで具 体的,客観的なものとして構成されていなければならず(最高裁昭和49年(行\nツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参 照),また,特許法が保護すべき発明の実質的価値は,従来の技術では達成し得な かった技術的課題を解決する手段を,具体的構成をもって社会に開示した点に求め\nられる。これらのことからして,「発明者」というためには,特許請求の範囲の記 載により画される技術的思想たる発明のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎 付ける部分(特徴的部分)につき,これを当業者が実施できる程度にまで具体的, 客観的なものとして構成する創作活動に現実的に関与した者であることを要すると\nいうべきである。
イ 本件発明1について
本件発明1は,「地盤を攪拌しセメントミルクを混合し硬化させて基礎杭を構成\nするためのものであって,先端部に該セメントミルクを噴射するノズル,進行方向 に掘削するための先端掘削翼,及び該先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横 掘削翼を,該先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ 設けたことを特徴とする地盤改良装置。」との特許請求の範囲により画される発明 である。 本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0 006】ないし同【0009】の記載によれば,本件発明1は,従来技術が有する 課題(地盤を攪拌し,セメントミルクを注入して杭を生成する地盤改良装置におい て,先端の攪拌翼〔掘削翼〕が回転するタイプであるため,重複して掘削する必要 があり,また,部分によりセメントの強度が異なるとの問題)を解決するため,従 来技術の構成(進行方向に掘削するための先端掘削翼)に加えて,先端部にセメン\nトミルクを噴射するノズル及び先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横掘削翼 を,先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ設けたと の構成を採用することにより,簡単に矩形状に杭を構\築できるとの作用効果を生じ, 上記課題を解決するものであり,これらの構成が本件発明1の特徴的部分というこ\nとができる。
しかるところ,前記認定事実((1)エ,なお(2)イも参照。)によれば,被告は,平 成22年1月10日,原告らに対して被告が新たに調達するリーダレス型のベース マシンに取り付けるオーガモーターや掘削ヘッドの製作を依頼するに際して,市場 に一般に流通していたツインブレード型の地盤改良装置を参考に,現在1号機や2 号機で使用されている先端掘削翼を有する掘削装置に,デファレンシャルギアなど を用いて回転軸と直角の回転軸を持たせこれに2枚の横掘削翼を設ける構成として\nはどうかなどと提案し,指示していることが認められるから,被告従業員らは,同 日に先立ち,水平掘削翼と,これと直角に回転する回転軸に設置された横掘削翼と から構成されるという,本件発明1の特徴的部分に通じる着想を有していたものと\n認められる。
なお,この点に関連して,原告らは,被告が原告らに製造を依頼したのは,「水 平方向に地盤を広範囲に連続攪拌する機能を備えた地盤改良装置」であって,角柱\n杭を形成することは予定されておらず,原告らが平成25年8月10日に行った試\n掘により覚知したと主張する。前記認定事実((1)エ,オ,ク)によれば,被告は, 浅層ないし中層の地盤改良装置を原告らの参考とさせ,原告らに交付した注文書に は「浅層改良機」との記載があり,また,平成26年に至ってから本格的に本件角 堀掘削ヘッドを深層まで杭を打ち込むことが可能な2号機において稼動させること\nを前提とした種々の発注等を行っていることなどが認められるから,被告は,当初, 角堀掘削ヘッドを浅層ないし中層の地盤改良用途を中心に用いることを構想してい\nた可能性が相応に認められる。しかし,浅層ないし中層の地盤改良であっても,杭\nを並べて打つことにより広範囲を改良する工法は一般的に行われているから(本件 明細書の段落【0007】の記載や,甲第45号証にもかかる工法をうかがわせる 記載がある。),被告が当初有していた着想が,角柱杭を形成することを予定して\nいなかったということはできない。
もっとも,被告は,原告らに対し,上記の基本的な構成のアイデアを示し,参考\n資料としてパワーブレンダー型地盤改良装置とツインブレード型地盤改良装置のパ ンフレットを交付したにとどまり,これを超えて,簡易な模型や図面等を提供した との事実は何ら認められないところ,前記認定事実((1)エ,オ)のとおり,原告ら は,これら基本的な着想を基に使用するべきギアを決めるなどして仕様を定め,本 件見積書やCAD図を作成して本件角堀掘削ヘッドの構成を具体的に決定し,また\n製作においては地盤改良装置等の重機の製造等に長年従事してきた原告Aをもって も半年以上の期間を要し,さらに,現実に動作する製品を製作するにはギアの調整 等に試行錯誤を要したことなどからしても,被告が平成25年1月10日に原告ら にした着想の開示さえあれば,これを具体的,客観的なものとして構成し,反復し\nて実施することが,当事者にとって自明程度のものにすぎないということはできな い。そうすると,被告従業員らにより示された本件発明1の特徴的部分の着想を当 業者が実施可能な程度に具体化する過程において,原告らが相応に創作的な貢献を\nしたものと認めるのが相当である。 したがって,本件発明1は,その特徴的部分の着想から具体化に至る過程におい て,被告従業員ら及び原告らがそれぞれ創作的に貢献したものと認められるから, その発明者は,被告従業員ら及び原告らの5名である。
ウ 本件発明2ないし同4について
本件発明2は,本件発明1に「該横掘削翼は,該先端掘削翼より根本側で,且つ 該先端掘削翼近傍に設けたものである」との発明特定事項を加え,本件発明3は, 本件発明1又は同2に「全横掘削翼の回転面と直角の攪拌面積が,該先端掘削翼が 掘削する面積の1/6以上である」との発明特定事項を加え,本件発明4は,本件 発明1ないし同3に「全横掘削翼は2つである」との発明特定事項を加えた発明で ある。これらの発明の特徴的部分は,前記イに述べた本件発明1の特徴的部分のほ か,上記発明特定事項にあるものと認められる。 そして,前記イに認定説示したところによれば,これらの特徴的部分の各着想か ら具体化に至る過程においては,被告従業員ら及び原告らが相応に創作的な貢献を したというべきであるから,本件発明2ないし同4の発明者も,被告従業員ら及び 原告らの5名である。
エ 共同発明者各自の貢献度について
これまで認定説示してきたとおり,本件各発明は,被告従業員ら及び原告らの共 同発明と認められるところ,各自の貢献度については,前記認定事実に認定したと おりの本件各発明に至る経緯を総合し,本件各発明の特徴的部分に係る着想と,そ の具体化の各過程の価値を等価なものとして,被告従業員らが2分の1,原告らが 2分の1として,さらに,被告従業員ら側内部における各人の貢献度,原告ら側内 部における各人の貢献度も,それぞれ等価なものと認めるのが相当である(なお, 仮に,本件各発明との関係で原告Bを原告Aの単なる補助者とみる余地があるとし ても,弁論の全趣旨によれば,原告らは本件各発明についての特許を受ける権利の 共有持分につき,各2分の1とする旨合意したことが認められるから,上記認定が 判断左右されるものではない。)。
したがって,本件各発明についての共同発明者間の各貢献度は,原告A及び原告 Bが各4分の1,F,D及びEが各6分の1ということになる。なお,前記1の認 定事実によれば,被告従業員らは,本件特許出願に先立ち,本件各発明についての 特許を受ける権利の共有持分を,少なくとも黙示的に,被告に承継させたものと認 められるが,原告らが本件各発明についての特許を受ける権利の共有持分を被告に 承継させたと認めることは困難であり,ほかに被告が原告らから本件各発明につい ての特許を受ける権利の共有持分を承継したと認めるに足りる証拠はない。
(4) 争点2の結論
以上によれば,原告A及び原告Bは,それぞれ,本件各発明について特許を受け る権利の各4分の1の共有持分を有しているものと認められる一方,被告は,本件 各発明について特許を受ける権利の各2分の1の共有持分を有しているものと認め られる。
2 争点2(発明者名誉権の侵害により原告Aが受けた損害の額)について
上記1のとおり,原告Aは本件各発明の共同発明者であるところ,前記前提事実 (第2,2(3))のとおり,被告は,本件特許出願に際して,本件各発明の発明者と して原告Aの氏名を記載していない。この点に関して,原告Aが,本件特許出願に 関し,本件各発明の発明者として自らの氏名を記載しないことを了承したと認める ことが困難であることは,前記(2)エのとおりであり,被告には,原告Aの氏名を記 載しなかったことにつき,少なくとも過失が認められる。 被告の上記行為は,原告Aが本件各発明について発明者として記載されるべき人 格的利益を侵害するものとして不法行為を構成するというべきであり,これにより\n原告Aが受けた損害を賠償する責任を負う。 そこで,原告Aが受けた損害につき検討すると,原告Aが本件各発明の共同発明 者と認定する本判決が確定すれば,原告Aは本件特許出願書類中の発明者の表記を\n訂正できる可能性があること,本件特許出願が公開されたのは平成27年8月3日\nであること,原告らは本件特許出願が公開される前に自ら本件角堀掘削ヘッドを基 にした発明について特許出願しており,原告らを発明者とする同特許出願は,平成 28年5月30日には公開されていることなどなどの事情によれば,発明者として 記載されるべき人格的利益を侵害されたことによる原告Aの損害としては,慰謝料 30万円,弁護士費用相当額3万円の合計33万円を認めるのが相当である。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10023  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年10月3日  知的財産高等裁判所

特許異議申立で取消審決がなされましたが、特許権者は知財高裁に取消訴訟を提起しました。知財高裁は、請求項の「内接」の意義を定義した上、審決を維持しました。出願人は「ドクター中松」で、本人訴訟です。
本件特許はこれです。多数の分割出願があります。

◆本件特許

(1) 本件発明は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複数の翼に内接させるこ とでプロペラガードとして兼用するとの構成を備えるものであるところ、個別の取消事由の検討に入る前に、ここでいう「内接」及び「プロペラガード\nとして兼用」の意義を明らかにしておく。
(2) 「内接」とは、国語辞典に「多角形の各辺がその内部にある一つの円に 接する時、その円は多角形に内接する…」との用例が挙げられているとおり (甲11)、図形の各辺とその内部の円などが接していることを表す用語である。\n
本件明細書の【0013】には、「図8は本発明第5の実施例で、上下用 プロペラ4つの回転軌跡39を全部内接させ、プロペラガードを設けずに4 枚の主翼24と先尾翼28と尾翼29をプロペラガードに兼用させたもので ある」との説明が記載され、図8には、上昇下降用の4つのプロペラが示さ れ、うち翼の間に配置された左右2つのプロペラの回転軌跡がそれぞれ前後 の主翼24と接するように示されている。 同様に、図7、9においても、翼の間に配置された上昇下降用の複数のプ ロペラの回転軌跡が前後の翼に接するように示されており、これに本件明細 書の【0012】〜【0014】(前記第2の2(2)イ)の記載を総合すれ ば、図7〜9に係る第4〜6実施例は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複 数の翼に内接させることでプロペラガードとして兼用するとの構成を示すものと解される。\nもっとも、プロペラの回転軌跡と翼が文字通り接する(接触する)場合、 プロペラの回転が妨げられることが明らかであるから、本件発明の「内接」 とは、プロペラの回転軌跡が翼と接触するには至らない限度で十分に近接していることを意味するものと解される。\n
(3) そして、本件発明の「プロペラガードとして兼用」とは、特許請求の範 囲の記載に示されているとおり、複数の翼の間に配置された上昇下降用プロ ペラの回転をガードする機能をいうものであり、この機能\は、複数の翼の間 に配置された上昇下降用プロペラの回転軌跡を前方又は後方の複数の翼に内 接させることによって生じるものであると認められる。また、本件発明の上記第4〜6実施例(図7〜9)では、複数の翼の間に配置された上昇下降用プロペラの回転軌跡の一部のみが翼に内接する構成が示されていることから、上昇下降用プロペラの回転軌跡の少なくとも一部が翼に内接していれば、翼がプロペラガードとして機能\するものと解される。
(4) 原告は、「内接」とは「プロペラ軌跡が両翼に挟まれ、かつ両翼端部を結んだ線を出ないことを意味する」とも主張するが(上記第3の1(2)ア)、図7〜9の実施例がそのような構成を有するものだとしても、特許請求の範囲に当該構\成を加える訂正(減縮)をしたわけでもないのに、「内接」という文言自体をそのような限定的な意味で解釈することは許されないというべきである。

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令和3(ワ)11286等  損害賠償請求事件(第1事件)、債務不存在確認請求事件(第2事件)  特許権  民事訴訟 令和5年7月13日  大阪地方裁判所

 特許製品の未購入行為について争われました。争点は、購入契約自体が錯誤により無効か否かでした。裁判所は錯誤による契約無効を認めず本件補償条項にもとづいて、約1億7千万円の支払いを認めました。

(1) 腸内のpH値及び本件物質の効能に関する要素の錯誤について\n
ア 甲1契約、乙3契約の内容
前記前提事実及び認定事実、乙1によると、●(省略)●であるところ、 本件特許Aの特許請求の範囲請求項1は、「結晶子径が1nm以上100n m以下のシリコン微細粒子又は該シリコン微細粒子の凝集体を含み、且つ水 素発生能を有する経口固形製剤。」というものであり、本件特許発明Bは本\n件製品のいわゆる用途発明である(なお、本件特許発明Aに係る明細書にお いては、pH7以上の領域において、シリコン微細粒子が水素を発生させる ことが記載されている。)。
そして、具体的な用途や製品は、●(省略)●
イ 甲2契約、乙4契約の内容
●(省略)●契約当事者に明らかにされている。
ウ 検討
前記ア、イのとおりの契約内容に照らすと、被告の主張に係る腸内のpH 値や本件物質の効能、生体内での作用機序等は、何ら契約書上明記されてお\nらず、また契約交渉過程において規範として形成されたとも言えないのであ って、そもそも契約の内容となっていないと言わざるを得ない。すなわち、前記前提事実のとおりの本件各特許発明の内容及び上記認定事実に係る甲1契約等に至る過程によれば、被告は、平成30年3月に、第2事件被告代表者から、生体内で水素を発生させてヒドロキシルラジカルを除去するシリコン製剤の研究につき説明を受け、これを用いたペット用及び人用サプリメントの商品化の検討を始め、原告ら(第2事件被告代表\者)から 提供を受けたサンプルを自ら動物への投与等を行ってその効能に関する被\n告なりの具体的検証を実施し、その結果甲1契約を締結するに至ったもので あるが、その過程を通じ、第2事件被告代表者は、乙9資料(マウスによる\n動物実験の結果)の内容をベースに、シリコン製剤が体内で水素を発生させ てヒドロキシルラジカルを除去し、各種疾病に対する効能が確認されたこと\nから、動物や人にもその効果が期待されると説明していたにとどまり、乙9 資料の内容を超えて、効能・効果それ自体を保証したことがないことはもと\nより、腸内環境として想定すべきpH値の妥当性が問題となったり(なお、 本件特許Aの明細書においては、pH7以上で水素発生能を発揮することが\n示唆されていることは前記のとおり。)、前記被告による具体的検証の内容が 問題となったりしたことはないのであって、本件製剤の用途が基本的に健康 食品(サプリメント)であることや本件物質の性能を生かした製品化を行う\nのは被告であることも考慮すると、被告主張の腸内のpH値や本件物質の効 能に関してそもそも誤信があったとはいえないし、仮に何等かの思い違いが\nあったとしても、その実質は、専ら被告の希望的観測との齟齬をいうものに すぎず、甲1契約等の締結にあたって、被告に要素又は契約の効力に影響を 及ぼす動機の錯誤があったとは認められない。
(2) 海外販売に関する要素の錯誤について
ア 前記第2の2(3)(前提事実)のとおり、●(省略)●と規定され、文言上、 明確に国内における通常実施権に関する契約であることが明記されている。 この点については、被告の契約交渉担当であったP1すらも、契約書どおり 国内の通常実施権に関する合意であるとの認識であったと供述する(P1証 人)。 また、甲1契約締結に至る過程では、専ら国内市場における予測需要につ\nいて検討がされており、海外市場における予測需要を具体的に検討した事情\nは見当たらない。 以上に加えて、被告が甲1契約の締結後に初めて具体的な海外販売に向け た行動を講じていること、またその過程で第2事件被告代表者から甲1契約\nにおいて海外販売を承諾していないとの説明があった上でそれについて特 段契約当時の認識との齟齬を表明していないことをも考慮すると、被告自身\nも甲1契約が海外販売を前提としていたと認識していたとは認められず、被 告主張の海外販売に関する錯誤があったと認めることはできない。
イ これに対し、被告は、第2事件被告代表者が、甲1契約締結前に被告によ\nる海外販売を容認する発言をしており、国内販売のみならず海外販売を前提 とすると合計100トンのシリコン製剤を消化することができると判断し たからこそ、合計100トンを最低計画購入量とする原告らの提案に応じた とか、甲1契約締結後に第2事件被告代表者が海外販売を支持する発言をし\nていたことなどをもって、甲1契約において、シリコン製剤を用いた製品の 海外販売が前提となっていたなどと主張する。
しかしながら、第2事件被告代表者が甲1契約前に海外販売を容認する発\n言をしたことを認めるに足りる証拠はなく、また仮にそのような発言や、甲 1契約後に海外販売を支持する発言があったとしても、前記の甲1契約の文 言から認められる実施権の範囲が左右されるとも解されない。被告の主張は、 採用の限りでない。

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令和4(ネ)10046  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

知財高裁(大合議)は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」と判断しました。
 損害額については、ほぼ伏せ字になっています。102条3項の侵害は料率2%で計算し、それよりも2項侵害の額の方が大きくて最終的に約1100万円の損害賠償が認定さられています。
 なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。概要だけはすぐにアップされていましたが、全文アップは約1ヶ月かかりました。

ア 被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行為が本件発 明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に該当するか否 かについて
(ア) はじめに
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末 装置を備えるコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の 発明であるところ、その実施行為としての物の「生産」(特許法2条3 項1号)とは、発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為をい うものと解される。 そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介 して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(以下「ネットワーク型システム」という。)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構\成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有す るようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいう ものと解される。 そこで、被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行 為が本件発明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に 該当するか否かを判断するに当たり、まず、被告サービス1のFLAS H版において、被告システム1を新たに作り出す行為が何かを検討し、 その上で、当該行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか及び 当該行為の主体について順次検討することとする。
(イ) 被告サービス1のFLASH版における被告システム1を新たに 作り出す行為について
a 被告サービス1のFLASH版においては、訂正して引用した原判 決の第4の5(1)ウ(ア)のとおり、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定する(2))と、それに伴い、被控訴人FC2のウェブ サーバが上記ウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを ユーザ端末に送信し(3))、ユーザ端末が受信した、これらのファイ ルはブラウザのキャッシュに保存され、ユーザ端末のFLASHが、 ブラウザのキャッシュにあるSWFファイルを読み込み(4))、その 後、ユーザが、ユーザ端末において、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押す(5))と、上記SWFフ ァイルに格納された命令に従って、FLASHが、ブラウザに対し動 画ファイル及びコメントファイルを取得するよう指示し、ブラウザが、 その指示に従って、被控訴人FC2の動画配信用サーバに対し動画フ ァイルのリクエストを行うとともに、被控訴人FC2のコメント配信 用サーバに対しコメントファイルのリクエストを行い(6))、上記リ クエストに応じて、被控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイ ルを、被控訴人FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、 それぞれユーザ端末に送信し(7))、ユーザ端末が、上記動画ファイ ル及びコメントファイルを受信する(8))ことにより、ユーザ端末が、 受信した上記動画ファイル及びコメントファイルに基づいて、ブラウ ザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\と なる。このように、ユーザ端末が上記動画ファイル及びコメントファ イルを受信した時点(8))において、被控訴人FC2の動画配信用サ ーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末はインターネットを利用 したネットワークを介して接続されており、ユーザ端末のブラウザに おいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる から、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の 全ての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り 出されたものということができる(以下、被告システム1を新たに作 り出す上記行為を「本件生産1の1」という。)。
b これに対し、被控訴人らは、1)被告各システムの「生産」に関連す る被控訴人FC2の行為は、被告各システムに対応するプログラムを 製作すること及びサーバに当該プログラムをアップロードすることに 尽き、いずれも米国内で完結しており、その後、ユーザ端末にコメン トや動画が表示されるまでは、ユーザらによるコメントや動画のアップロードを含む利用行為が存在するが、ユーザ端末の表\示装置は汎用ブラウザであって、当該利用行為は、本件各発明の特徴部分とは関係 がない、2)被告システム1において、ユーザ端末は、被控訴人FC2 がサーバにアップロードしたプログラムの記述並びに第三者が被控訴 人FC2のサーバにアップロードしたコメント及び被控訴人FC2の サーバにアップロードした動画(被告システム2及び3においては第 三者のサーバにアップロードした動画)の内容に従って、動画及びコ メントを受動的に表示するだけものにすぎず、ユーザ端末に動画やコメントが表\示されるのは、既に生産された装置(被告各システム)をユーザがユーザ端末の汎用ブラウザを用いて利用した結果にすぎず、 そこに「物」を「新たに」「作り出す行為」は存在しない、3)乙31 1記載の「一般に、通信に係るシステムはデータの送受を伴うもので あるため、データの送受のタイミングで毎回、通信に係るシステムの 生産、廃棄が一台目、二台目、三台目、n台目と繰り返されることま で「生産」に含める解釈は、当該システムの中でのデータの授受の各 タイミングで当該システムが再生産されることになり、採用しがたい」 との指摘によれば、被控訴人FC2の行為は本件発明1の「生産」に 該当しないというべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、被控訴人FC2が被告システム1に 対応するプログラムを製作すること及びサーバに当該プログラムをア ップロードすることのみでは、前記aのとおり、本件発明1の全ての 構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が完成していないと いうべきである。
2)については、前記aのとおり、被控訴人FC2の動画配信用サー バ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインターネットを利用し たネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必要なファイルを受 信することによって、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能\を 備えた被告システム1が新たに作り出されるのであって、ユーザ端末 が上記ファイルを受信しなければ、被告システム1は、その機能を果たすことができないものである。
3)については、上記のとおり、被告システム1は、被控訴人FC2 の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインタ ーネットを利用したネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必 要なファイルを受信することによって新たに作り出されるものであり、 ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存されたファイルが廃棄され るまでは存在するものである。また、上記ファイルを受信するごとに 被告システム1が作り出されることが繰り返されるとしても、そのこ とを理由に「生産」に該当しないということはできない。 よって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(ウ) 本件生産1の1が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否か について
a 特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、 移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が 当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものであると ころ(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷 判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12年(受)第580 号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参 照)、我が国の特許法においても、上記原則が妥当するものと解され る。 前記(イ)aのとおり、本件生産1の1は、被控訴人FC2のウェブ サーバが、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを国内のユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、また、被控訴人FC2の動画配\n信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2のコメント配信用サー バがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信し、ユーザ端末 がこれらを受信することによって行われているところ、上記ウェブサ ーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバは、いずれも米国 に存在するものであり、他方、ユーザ端末は日本国内に存在する。す なわち、本件生産1の1において、上記各ファイルが米国に存在する サーバから国内のユーザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信 することは、米国と我が国にまたがって行われるものであり、また、 新たに作り出される被告システム1は、米国と我が国にわたって存在 するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生産1の1が、 我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題とな る。
b ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(以下、単に 「国外」という。)に設置されることは、現在、一般的に行われてお り、また、サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システム の利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵害物件であ るネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構\成する端末が日本国内(以下「国内」という。)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用するこ とは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義\nの原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえす\nれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る 特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。他方で、当該システムを構\成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を 生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。 これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許 権を適切に保護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り 出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについ ては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構\成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考\n慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができる ときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当 である。
これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的 態様は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが 送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われ るものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、 国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム 1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観 念することができる。 次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人FC2のサー バと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明1の主要な機能\である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表\示されるように するために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能\と構成要件1Gの表\示位置制御部の機能を果たしている。
さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利 用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケー ションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現し ており、また、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係る システムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るもので ある。
以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内 で行われたものとみることができるから、本件発明1との関係で、特 許法2条3項1号の「生産」に該当するものと認められる。
c これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の 効力が当該国の領域においてのみ認められる」のであるから、海外 (国外)で作り出された行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当 しないのは当然の帰結であること、権利一体の原則によれば、特許発 明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施することをいうことからすると、一部であっても海外で作り出されたものがある場合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきであ\nる、2)特許回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要 件を満たす物の一部さえ、国内において作り出されていれば、「生産」 に該当するというのは論理の飛躍があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判例においては、 カードリーダー事件の最高裁判決(前掲平成14年9月26日第一小 法廷判決)等により属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、そ の例外を設けることの悪影響が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは立法によってされるべきである旨主張する。\n
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に 関し、被疑侵害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法 2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システム を構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、前記bに説示した事情を総合考慮して、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生\n産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することがで きない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否か の上記判断は、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすというものではないから、2) の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特 許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定めら れ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意 味することに照らすと、上記のとおり当該行為が我が国の領域内で行 われたものとみることができるときに特許法2条3項1号の「生産」 に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しないというべ きである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁 判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たる ためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内において完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、また、我が国が締結した条約及び特\n許法その他の法令においても、属地主義の原則の内容として、「生産」 に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要であることを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用する ことができない。 したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(エ) 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)を 「生産」した主体について
a 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)は、 前記(イ)aのとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが、所望の動画 を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存された上記SWF\nファイルによる命令に従ったブラウザからのリクエストに応じて、被 控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2 のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末 に送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって、新たに作り 出されたものである。そして、被控訴人FC2が、上記ウェブサーバ、 動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設置及び管理しており、 これらのサーバが、HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファ イル並びにコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末によ る各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介することなく、 被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、 自動的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生 産」した主体は、被控訴人FC2であるというべきである。
この点に関し、被告システム1が「生産」されるに当たっては、 前記(イ)aのとおり、ユーザが、ユーザ端末のブラウザにおいて、所 望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定すること(2))と、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すこと(5))が必要とされるところ、上記のユ ーザの各行為は、被控訴人FC2が設置及び管理するウェブサーバに 格納されたHTMLファイルに基づいて表示されるウェブページにおいて、ユーザが当該ページを閲覧し、動画を視聴するに伴って行われる行為にとどまるものである。すなわち、当該ページがブラウザに表\示されるに当たっては、前記のとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが当該ページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末 に送信し、ユーザ端末が受信したこれらのファイルがブラウザのキャ ッシュに保存されること(4))、また、動画ファイル及びコメントフ ァイルのリクエストについては、上記SWFファイルによる命令に従 って行われており(6))、上記動画ファイル及びコメントファイルの 取得に当たってユーザによる別段の行為は必要とされないことからす れば、上記のユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブペ ージの閲覧を通じて行われるものにとどまり、ユーザ自身が被告シス テム1を「生産」する行為を主体的に行っていると評価することはで きない。
b これに対し、被控訴人らは、1)米国に存在するサーバが、ウェブペ ージのデータ、JSファイル(FLASH版においてはSWFファイ ル)、動画ファイル及びコメントファイルを送信することは、被控訴 人FC2が行っているのではなく、インターネットに接続されたサー バにプログラムを蔵置したことから、リクエストに応じて自動的に行 われるものであり、因果の流れにすぎない、2)日本(国内)に存在す るユーザ端末が、上記ウェブページのデータ、JSファイル(SWF ファイル)、動画ファイル及びコメントファイルを受信することは、 ユーザによるウェブページの指定やウェブページに表示された再生ボタンをユーザがクリックすることにより行われ、ユーザの操作が介在しており、また、仮に被控訴人FC2が1)の送信行為を行っていると しても、特許法は、「譲渡」と「譲受」、「輸入」と「輸出」、「提供」 と「受領」を明確に区分して規定している以上、被控訴人FC2が上 記受信行為を行っていると解すべきではない旨主張する。
しかしながら、1)については、前記aのとおり、被控訴人FC2 が、ウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設 置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファイル及びSW Fファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送 信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操 作を介することなく、被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプ ログラムの記述に従い、自動的に行われるものであることからすれば、 被告システム1を「生産」した主体は、被控訴人FC2であるという べきである。
また、2)については、前記aのとおり、ウェブページの指定やウ ェブページに表示された再生ボタンをクリックするといったユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブページの閲覧を通じて行われるにとどまるものであり、ユーザ端末による上記各ファイルの受\n信は、上記のとおりユーザによる別途の操作を介することなく自動的 に行われるものであることからすれば、上記各ファイルをユーザ端末 に受信させた主体は被控訴人FC2であるというべきである。 したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(オ) 小括
以上によれば、被控訴人FC2は、本件生産1の1により、被告シス テム1を「生産」(特許法2条3項1号)したものと認められる。
・・・
8 争点8(控訴人の損害額)について
(1) 特許法102条2項に基づく損害額について
ア 主位的請求関係について 控訴人は、被控訴人らが、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月 17日から令和4年8月31日までの間、被告各システムを生産し、被 告各サービスを提供することによって、●●●●●●●●●●円を売り 上げ、これにより被控訴人らが得た利益(限界利益)の額は、●●●● ●●●●●●円を下らず、このうち令和元年5月17日から同月31日 までの分(5月分)の売上高は●●●●●●●●円、限界利益額は●● ●●●●●●円を下らないと主張する。 しかしながら、控訴人が上記主張の根拠として提出する甲24によって、 上記の売上高及び限界利益額を認めることはできず、他にこれを認める に足りる証拠はない。 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
イ 予備的請求関係について
(ア) 本件生産1ないし3により「生産」された被告システム1ないし3 で提供された被告各サービスの割合 前記4のとおり、被控訴人FC2は、本件生産1により被告システム 1を、本件生産2により被告システム2を、本件生産3により被告シス テム3を「生産」し、本件特許権を侵害したものであり、本件生産1な いし3は、いずれも、サーバがユーザ端末に動画ファイル及びコメント ファイルを送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって行われ るものである。 しかるところ、被告各サービスで配信される動画でコメントが付され ているものの数は限られており、令和3年1月11日の時点において、 被告サービス1で公開された●●●●●●●●個の動画のうち、コメン トが付された動画は●●●●●●●個であり(乙85)、その割合は● ●●●パーセントであったこと、被告各サービスは、日本語以外の言語 でもサービスが提供されているものの、そのユーザの大部分は国内に存 在すること(甲9、弁論の全趣旨)からすれば、被告各サービスのうち、 本件生産1ないし3で「生産」された被告システム1ないし3によって 提供されたものの割合は、本件特許権が侵害された全期間にわたって● ●●パーセントと認めるのが相当である。
(イ) 被控訴人FC2の利益額(限界利益額)
a 被告サービス1関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和4年8月31日まで の期間の被告サービス1の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等\n一覧表の「限界利益額」欄の「被告サービス1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●●円であることが認められる。このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産1により「生産」\nされた被告システム1によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産1による売上高は、 ●●●●●●●●●●●円(●●●●●●●●●●●●円×●●●● ●)と認められ、被控訴人FC2が本件生産1により得た限界利益額 は、別紙7−2限界利益額算定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●円と認められる。
b 被告サービス2関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和2年10月31日 までの期間の被告サービス2の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス2」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等一\n覧表の「限界利益額」欄の「被告サービス2」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●円であることが認められる。このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産2により「生産」\nされた被告システム2によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産2による売上高は、 ●●●●●●円(●●●●●●●●円×●●●●●)と認められ、被 控訴人FC2が本件生産2により得た限界利益額は、別紙7−2限界 利益額算定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産2」欄記載のとおり、合計●●●●●●円と認められる。
c 被告サービス3関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和2年10月31日 までの期間の被告サービス3の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス3」欄記載のとおり、合計●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等一覧表\の「限界利益額」欄の「被告サービス3」欄記載のとおり、合計●●●●●●円であることが認められる。 このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産3により「生産」 された被告システム3によって提供されたものの割合は、前記(ア)の とおり、●●●パーセントであるから、本件生産3による売上高は、 ●●●●円(●●●●●●円×●●●●●)と認められ、被控訴人F C2が本件生産3により得た限界利益額は、別紙7−2限界利益額算 定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産3」欄記載のとおり、合計●●●●円と認められる。
d まとめ
(a) 前記aないしcによれば、被控訴人FC2が本件生産1ないし 3により得た限界利益額は、別紙7−2限界利益額算定表の「限界利益額(消費税相当分(10%)を含む)」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●円と認められる。\n なお、被控訴人FC2は、仮に、本件において被控訴人FC2に 対する損害賠償の支払が命ぜられるとしても、消費税上輸出免税 の対象になる旨主張するが、被控訴人FC2による被告各サービ スの提供が輸出取引に当たることを認めるに足りる証拠はないか ら、被控訴人FC2の上記主張は理由がない。
(b) 以上のとおり、被控訴人FC2が本件生産1ないし3により得 た限界利益額は、合計●●●●●●●●●●●円であり、この限 界利益額は、特許法102条2項により、控訴人が受けた損害額 と推定される(以下、この推定を「本件推定」という。)。
(ウ) 推定の覆滅について
被控訴人らは、被告各サービスにおいて、本件各発明のコメント表示機能\が、システム全体の機能の一部であり、顧客誘引力を有していないことは、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張する。\n そこで検討するに、被告各サービスで配信されている動画で、その売 上高に貢献しているものの多くはアダルト動画であり(甲4の1及び2、 9、11、弁論の全趣旨)、動画上にコメントが表示されることが視聴の妨げになることは否定できないこと、令和3年1月11日の時点において、被告サービス1で公開された●●●●●●●●個の動画のうち、\nコメントが付された動画は●●●●●●●個であり(乙85)、その割 合は●●●●パーセントにとどまっていることに照らすと、被告各サー ビスにおいて、コメント表示機能\が果たす役割は限定的なものであって、 被告各サービスの多くのユーザは、コメント表示機能\よりも動画それ自 体を視聴する目的で利用していたものと認められる。そして、本件各発 明の技術的な特徴部分は、コメント付き動画配信システムにおいて、動 画上にオーバーレイ表示される複数のコメントが重なって表\示されるこ とを防ぐというものであり(前記1(2)イ)、その技術的意義自体も、上 記システムにおいて限られたものであると認められる。
以上の事情を総合考慮すると、被告各サービスの利用に対する本件各 発明の寄与割合は●●と認めるのが相当であり、上記寄与割合を超える 部分については、前記(イ)d(b)の限界利益額と控訴人の受けた損害額 との間に相当因果関係がないものと認められる。 したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるか ら、特許法102条2項に基づく控訴人の損害額は、上記限界利益額の ●割に相当するものであり、別紙4−2認容額内訳表の「特許法102条2項に基づく損害額」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●円と認められる。\n
(2) 特許法102条3項に基づく損害額について(予備的請求関係)
ア 特許法102条3項に基づく控訴人の損害額については、1)株式会社帝 国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の 在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルテ ィ料率に関する実態把握〜」(本件報告書)の「II).我が国のロイヤルテ ィ料率」の「1.技術分類別ロイヤルティ料率(国内アンケート調査)」 の「(2) アンケート調査結果」には、「特許権のロイヤルティ料率の平均 値」について、「全体」が「3.7%」、「電気」が「2.9%」、「コンピ ュータテクノロジー」が「3.1%」であり、「III).各国のロイヤルティ 料率」の「1.ロイヤルティ料率の動向」には、国内企業のロイヤルテ ィ料率アンケート調査の結果として、産業分野のうち「ソフトウェア」については「6.3%」であり、「2.司法決定によるロイヤルティ料率調査結果」の「(i)日本」の「産業別司法決定ロイヤルティ料率(20 04〜2008年)」には、「電気」の産業についての司法決定によるロ イヤルティ料率は、平均値「3.0%」、最大値「7.0%」、最小値 「1.0%」(件数「6」)であるとの記載があること、2)前記(1)イ(ウ) のとおり、本件各発明の技術的な特徴部分は、コメント付き動画配信シ ステムにおいて、動画上に複数のコメントが重なって表示されることを防ぐというものであり、その技術的意義は高いとはいえず、被告各サービスの購買動機の形成に対する本件各発明の寄与は限定的であること、\nその他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、本件生産1ないし3 による売上高に実施料率2パーセントを乗じた額と認めるのが相当であ る。
そして、本件生産1ないし3による売上高(消費税相当分(10パー セント)を含む。)の合計額は、●●●●●●●●●●●円(●●●●● ●●●●●●円+●●●●●●円+●●●●円(前記(1)イ(イ)aないし c記載の本件生産1ないし3の各売上高に消費税相当分(10パーセン ト)を加えた額の合計額))と認められるから、●●●●●●●●円(● ●●●●●●●●●●円×0.02)となる。 これに反する控訴人及び被控訴人らの主張はいずれも採用することが できない。
イ そして、控訴人の特許法102条2項に基づく損害額の主張と同条3項 に基づく損害額の主張は、選択的なものと認められるから、より高額な 前記(1)イ(ウ)の同条2項に基づく損害額合計●●●●●●●●●円が本 件の控訴人の損害額と認められる。

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令和5年5月26日 知財高裁特別部判決 令和4(ネ)10046号

知財高裁は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」というものです。  なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。\n

ア ネットワーク型システムの「生産」の意義
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備え るコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の発明であるところ、そ の実施行為としての物の「生産」(特許法2条3項1号)とは、発明の技術的範囲に 属する物を新たに作り出す行為をいうものと解される。 そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介して、サー バと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(ネットワー\nク型システム)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件\nを充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有 機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有する ようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解され る。
イ 被告サービス1に係るシステム(被告システム1)を「新たに作り出す行為」 被告サービス1のFLASH版においては、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指\n定すると、被控訴人Y1のウェブサーバが上記ウェブページのHTMLファイル及 びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末が受信した、これらのファイ ルはブラウザのキャッシュに保存され、その後、ユーザが、ユーザ端末において、 ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すと、上\n記SWFファイルに格納された命令に従い、ブラウザが、被控訴人Y1の動画配信 用サーバ及びコメント配信用サーバに対しリクエストを行い、上記リクエストに応 じて、上記各サーバが、それぞれ動画ファイル及びコメントファイルをユーザ端末 に送信し、ユーザ端末が、上記各ファイルを受信することにより、ブラウザにおい て動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる。このように、ユ ーザ端末が上記各ファイルを受信した時点において、被控訴人Y1の上記各サーバ とユーザ端末はインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、 ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが\n可能となるから、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の全\nての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り出されたものと いうことができる(以下、被告システム1を新たに作り出す上記行為を「本件生産 1の1」という。)。
ウ 被告システム1を「新たに作り出す行為」(本件生産1の1)の特許法2条3項 1 号所定の「生産」該当性
特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、移転、効 力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内にお いてのみ認められることを意味するものであるところ、我が国の特許法において も、上記原則が妥当するものと解される。 本件生産1の1において、各ファイルが米国に存在するサーバから国内のユー ザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信することは、米国と我が国にまた がって行われるものであり、また、新たに作り出される被告システム1は、米国 と我が国にわたって存在するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生 産1の1が、我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題と なる。 ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(国外)に設置されるこ とは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネ ットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵 害物件であるネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたと\nしても、当該システムを構成する端末が日本国内(国内)に存在すれば、これを\n用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者\nが当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るも のである。
そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格 に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在するこ\nとを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解するこ とは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該 システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととな\nって、妥当ではない。他方で、当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、\nこれも妥当ではない。
これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保 護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条 3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素\nの一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、 当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果\nたす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、\nその利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該 行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3 項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。 これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的態様は、米国 に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ 端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信 (送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信すること によって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われ たものと観念することができる。
次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人Y1のサーバと国内に存在 するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ\n端末は、本件発明1の主要な機能である動画上に表\示されるコメント同士が重な らない位置に表示されるようにするために必要とされる構\成要件1Fの判定部の 機能と構\成要件1Gの表示位置制御部の機能\を果たしている。 さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することが できるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の 向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、また、その国内における利 用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影 響を及ぼし得るものである。 以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内で行われた ものとみることができるから、本件発明1との関係で、特許法2条3項1号の「生 産」に該当するものと認められる。
これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の効力が当該国 の領域においてのみ認められる」のであるから、国外で作り出された行為が特許 法2条3項1号の「生産」に該当しないのは当然の帰結であること、権利一体の 原則によれば、特許発明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施す\nることをいうことからすると、一部であっても国外で作り出されたものがある場 合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきである、2)特許 回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要件を満たす物の一部さ え、国内において作り出されていれば、「生産」に該当するというのは論理の飛躍 があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、\n我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判 例においては、カードリーダー事件の最高裁判決(最高裁平成12年(受)第5 80号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)等によ り属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、その例外を設けることの悪影響 が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは\n立法によってされるべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に関し、被疑侵 害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」 に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバ\nが国外に存在する場合であっても、前記 に説示した事情を総合考慮して、当該 行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3 項1号の「生産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することが できない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かの上記判断は、 構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の\n効力を及ぼすというものではないから、2)の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その 成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該 国の領域内においてのみ認められることを意味することに照らすと、上記のとお り当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときに特許法2 条3項1号の「生産」に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しな いというべきである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁 判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たるためには、特 許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内に\nおいて完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、ま た、我が国が締結した条約及び特許法その他の法令においても、属地主義の原則 の内容として、「生産」に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物\nを新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要である ことを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用することができ ない。したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
エ 被告システム1の「生産」の主体
被告システム1は、前記イのプロセスを経て新たに作り出されたものであるとこ ろ、被控訴人Y1が、被告システム1に係るウェブサーバ、動画配信用サーバ及び コメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファ イル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送 信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介するこ となく、被控訴人Y1がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、自動 的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生産」した主体は、 被控訴人Y1であるというべきである。
オ まとめ
以上によれば、被控訴人Y1は、本件生産1の1により、被告システム1を「生 産」(特許法2条3項1号)し、本件特許権を侵害したものと認められる。

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令和3(ワ)8940 特許権移転登録抹消登録請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年4月12日  東京地方裁判所

 被告は、実印が押印された譲渡証により、特許庁に対して移転手続きをしました、裁判所は、本件特許権を無償譲渡することはないと考えるのが通常なので、被告には、取締役会決議等の社内決裁手続の確認義務があったとして、原告の移転登録の抹消を認めました。

(1) 前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を 認定することができる。
ア Aは、海外医療旅行株式会社の代表取締役として、平成28年7月11\n日、被告との間で、委託期間を2年間とする本件販売業務委託契約を締結 し、被告装置の販売業務を遂行していたが、被告装置を販売する上で、A に、被告における役員の肩書を付与する必要があるとの理由から、平成2 9年11月30日、被告の取締役に就任した。
イ Aは、令和元年10月31日、本件特許に係る発明の開発並びに同発明 を実施して製品を製造及び販売するため、原告を設立して取締役に就任し、 遅くとも令和2年9月1日までには、被告に辞任届を提出して被告の取締 役を辞任した(甲16、25、26、乙4)。
ウ Aは、令和2年4月17日、発明の名称を「亜臨界水処理装置」とする 特許出願をし(特願2020―73937)、同年7月20日、本件特許権\nの設定登録を受けた。
エ 被告の取締役であるEは、令和2年9月下旬から10月初旬にかけて、 複数の第三者から、Aが被告製品とは異なる有機廃棄物処理装置を販売し ようとしているとの情報を得て、原告の代表取締役であるCに対し、事実\n関係の確認をするとともに、抗議をした(乙11)。
オ Cは、令和2年10月5日頃、被告の代表取締役であるDに電話をし、\n原告の代表取締役として、Aが原告に本件特許権を取得させて被告製品の\n競合品である原告製品を第三者に販売しようとしたことについて謝罪し、 事態を収拾するため、本件特許権を譲渡したい旨申し入れた。Dは、同申\ 入れを受け入れることとし、Cに対し、「取締役会決議等の社内決裁手続は 取れているんでしょうね?」と尋ねたところ、Cは、「Aも了解しているし、 社内手続も大丈夫だ。」と述べた。しかし、実際には、原告の取締役会にお いて本件特許権譲渡の承認決議はされていなかった。(乙11、被告本人、 弁論の全趣旨)
カ 被告は、令和2年10月8日頃、弁理士に本件譲渡証書の原案を作成さ せて、これをCに交付し、Cは、Cの記名の横に改印後原告代表者印によ\nり押印し、本件譲渡証書を作成した(甲5、7、8、乙11)。
キ 被告は、令和2年10月9日、特許権移転登録申請書に本件譲渡証書を\n添付した上で、本件特許権の移転登録を被告単独で申請し、本件特許権の\n移転登録手続をした。なお、同手続がされた時点において、原告は、取締 役会設置会社であった。
(2) 前記認定事実に基づき、被告が、原告の取締役会決議がないことを知り、 又は知ることができたかについて、以下検討する。 ア 前記(1)エによれば、Dは、本件特許権の譲渡時までには、Aが、原告を 設立して原告に本件特許権を取得させ、被告製品と競合する有機物廃棄処 理装置を販売しようとしていたことについて、認識していたものと認めら れる。そして、本件特許権が原告にとって重要な財産であることは被告も認め るところであり、前記(1)イないしエに照らせば、被告は、原告が本件特許 権を実施することにより収益を得ようと企図していたことについても認識 していたものと認められる。これらの事情に照らすと、被告において、原 告が競合他社である被告に対し本件特許権を無償で譲渡することはないと 考えるのが通常であるといえる。それにもかかわらず、前記(1)オのとおり、 Dは、Cに対し、「取締役会決議等の社内決裁手続は取れているんでしょう ね?」と尋ね、Cが「Aも了解しているし、社内手続も大丈夫だ。」と述べ たことのみをもって、承認決議が存在すると考え、本件特許権の移転登録 手続を経たというのである。
このような本件特許権の譲渡の経緯に照らすと、Dにおいて、本件特許 権の移転登録手続を経る前に、Cに対し、原告の承認決議があったことを 裏付ける取締役会議事録を提出させるか、又は、原告の実質的経営者であ るAに対し、真実本件特許権を譲渡することに承諾しているのかどうかを 確認しておけば、本件特許権の譲渡につき、原告の取締役会による承認決 議がされていないことを認識できたというべきである。そして、本件特許 権の移転登録手続を経ることが、被告にとって急を要するものであったと はうかがわれないこと、また、Aが被告の取締役であり、被告とAは既知 の関係にあったこと(前記(1)ア)に照らすと、本件特許権の移転登録手続 を経る前に、上記の確認をとることは容易であったといえる。したがって、Dは、少なくとも本件特許権譲渡について原告の取締役会における承認決議がなかったことを知ることができたといえるから、本件においては、民法93条ただし書の規定を類推して、原告はCによる本件特許権の譲渡は無効と解するのが相当である。
イ 被告は、本件特許権の譲渡は、Aが被告に対し、競業避止義務違反及び本件販売業務委託契約違反となる行為を行ったことから、それに対する謝罪の意味でされたものであるなどと主張して、被告が原告の当時の代表取締役であったCが述べたことを信じたのは正当である旨主張する。しかし、前記アのとおり、原告が被告に本件特許権を無償で譲渡することを承諾することは通常考え難い上、仮に、Aが被告に対して競業避止義務違反となる行為又は海外医療旅行株式会社の代表\取締役として本件販売業務委託契約違反となる行為を行った事実があるとしても、本件特許権の特許権者は原告であり、原告がA又は海外医療旅行株式会社の上記義務違反の責めを負う理由はないというべきである。したがって、そのような事実は、被告が承認決議の不存在を認識していなかったことを正当化し得るものではない。

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令和4(行ケ)10010 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年4月6日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁も結論は同様です。なお、審判では基礎出願2に基づく優先権は認められていましたが、知財高裁はこれを否定しました。

6 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り)について
(1) 優先権について
ア 本件出願について、被告が基礎出願1又は2に基づく優先権を主張できるか 否かについて検討する。
イ(ア) 基礎出願1及び2がされた平成22年6月ないし7月頃時点で、一定のリ ソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素の一定量をリソソ\ーム蓄積症の患者のし かるべき組織等に送達することができれば、治療効果を生ずること自体は技術常識 となっていた一方で、どのような方法で補充酵素を有効に送達することができるか について検討が重ねられており、本件出願がされた平成29年9月においても、そ のような状況がなお継続していたものと認められる(甲1〜4、16、17、55、 56、弁論の全趣旨)。
本件発明1は、リソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物 であって、脳室内投与されることを特徴とするものであるところ、上記の技術常識 及び前記1(2)の本件発明の概要を踏まえると、本件発明1の薬学的組成物につい ても、中枢神経系(CNS)への活性作用物質の送達をいかに有効に行うかという 点がその技術思想において一つの重要部分を占めているものというべきである。
(イ) この点、本件明細書の【0005】には、「髄腔内(IT)注射または脳脊髄 液(CSF)へのタンパク質の投与・・・の処置における大きな挑戦は、脳室の上 衣内張りを非常に堅く結合する活性作用物質の傾向であって、これがその後の拡散 を妨げた」、「脳の表面での拡散に対するバリア・・・は、任意の疾患に関する脳に\nおける適切な治療効果を達成するには大きすぎる障害物である、と多くの人々が考 えていた」との記載があり、【0009】には、「リソソ\ーム蓄積症のための補充酵 素が高濃度・・・での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導 入され得る、という予期せぬ発見」という記載がある。\nまた、甲17の「発明の背景」においても、高用量の治療薬を必要とする疾患に ついて髄腔内ルートの送達に大きな制限があり、濃縮された組成物の調製にも問題 がある旨が記載されていた(前記5(2)カ及びキ)。
さらに、基礎出願2がされた翌年である平成23年に発行された乙6(「Drug transport in brain via the cerebrospinal fluid」Pardridge et al., Fluids and Barriers of the CNS 2011 8:7)においても、CSFから脳実質への薬物浸透 は極めて僅かであり、脳への薬物の浸透がCSF表面からの距離とともに指数関数\n的に減少するため、高濃度の薬物を投与する必要があるが、上位表面は非常に高い\n薬物濃度にさらされており有毒な副作用を示す可能性があることなどが記載されて\nいた。その更に翌年である平成24年に発行された乙13(「CNS Penetration of Intrathecal-Lumbar Idursulfase in the Monkey, Dog and Mouse: Implications for Neurological Outcomes of Lysosomal Storage Disorder」 Calias P. et al. PLoS One, Volume 7, Issue 1, e30341)には、「本研究は、組換えリソソ\ームタン パク質の直接的なCNS投与によって、投与されたタンパク質の大多数が脳に送達 され、カニクイザル、イヌ両方の脳および脊髄のニューロンに広範囲に沈着するこ とを、初めて示した研究である。」と記載されている。
そうすると、少なくとも基礎出願2がされた平成22年7月頃においては、CN S送達のための組成物として特定の組成物の組成等が開示された場合であっても、 当該組成等から直ちにその脳への送達の程度や治療効果を推測等することは困難で あることが技術常識であったものと認められる。 このことは、甲17に、「本明細書で用いる場合、「中枢神経系への送達に適して いる」という語句は、それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、この ような組成物の安定性、耐(忍)容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例 えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのよう な組成物の能力を指す。」(前記5(5)ナ)として、「標的送達部位(例えば、CSF または脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能\n力」が「送達に適している」ということの意味内容に含まれることが明記されてい ることとも整合するものといえる。
(ウ) 他方で、本件明細書の【0085】には、「いくつかの実施形態では、本発明 による髄腔内送達は、末梢循環に進入するのに十分な量の補充酵素を生じた。その\n結果、いくつかの場合には、本発明による髄腔内送達は、肝臓、心臓および腎臓の ような末梢組織における補充酵素の送達を生じた。この発見は予期せぬものであ・・・\nる。」との記載があり、標的組織への送達について、【0132】には、「本発明の意 外な且つ重要な特徴の1つは、本発明の方法を用いて投与される治療薬、特に補充 酵素、ならびに本発明の組成物は、脳表面全体に効果的に且つ広範囲に拡散し、脳\nの種々の層または領域、例えば深部脳領域に浸透し得る、という点である。さらに、 本発明の方法および本発明の組成物は、現存するCNS送達方法、例えばICV注 射では標的化するのが困難である脊髄の出の組織、ニューロンまたは細胞、例えば 腰部領域に治療薬(例えば、補充酵素)を効果的に送達する。さらに、本発明の方 法および組成物は、血流ならびに種々の末梢器官および組織への十分量の治療薬(例\nえば、補充酵素)を送達する。」との記載があり、【0133】においては、実施形 態により、「治療用タンパク質(例えば、補充酵素)」が、対象の「中枢神経系」に 送達され、あるいは「脳、脊髄および/または末梢期間の標的組織のうちの1つ以 上」に送達され、また、「標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末 梢標的組織であり得る。」などと記載された上で、【0134】以下で特に「脳標的 組織」について説明がされ、そして、実施例においても、例えば、実施例1ではI T投与が、実施例3ではICV投与及びIP(腹腔内)投与が、実施例5、実施例 10及び実施例13ではIT投与及びICV投与が用いられるなどしている。
そして、証拠(甲2〜5。後記7(1)〜(4)参照)のほか、本件明細書の記載内容 に照らしても、CNSへの酵素の送達においては、ICV投与とIT投与とは、そ れぞれ別個の投与態様として取り扱われ、組織への酵素の送達に関する実験やその 結果の評価においても、それらは別個に取り扱われること、換言すると、ICV投 与とIT投与の相応に密接な関連性を考慮しても、ICV投与による実験データと IT投与による実験データとを直ちに同一視することはできないことが、平成22 年7月頃における技術常識であったことが認められるというべきである。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)の技術常識を踏まえると、本件発明1が甲17に記載されて いた発明であると認められるためには、甲17に、本件発明1の組成物が実質的に 記載されていたものと認められるのみならず、甲17に、本件発明1の組成物によ る送達の効果が、ICV投与した場合のものとして、実質的に記載されていたと認 められる必要があるというべきである。
ウ(ア) その上で、甲17の記載を見るに、まず、「発明の背景」の記載(前記5(2)) は、専ら背景技術について説明するものである。「発明の概要」の記載(同(3))に は、本件発明1の組成物に含まれる組成物の記載があるといえるが、当該組成物が どのように送達されて治療効果を奏するのかについては記載がない。そして、「発明 の詳細な説明」(同(5))を見ても、組成物の構成やその使用方法に関する一般的な\n記載はみられるものの、どのように送達されて治療効果を奏するのかについて具体 的な記載はない。
(イ) 甲17の実施例1(前記5(6))には、15mg/mLのタンパク質濃度のリ ソソ\ーム酵素を含む組成物で、pH6〜7であってリン酸塩を含むものが記載され ていると見ることができるが、具体的にどのような酵素が用いられたかは不明であ り、また、どのような領域まで送達されて治療効果を奏するかについても記載がな い。
(ウ) 甲17の実施例2(前記5(7))には、「酵素治療薬の使用による繰り返しI T−脊椎投与の毒性及び安全性薬理を評価」や「酵素投与群」との記載はあるが、 酵素の種類も濃度も不明であり、また、どのような領域まで送達されて治療効果を 奏するかについても記載がない(なお、対照群との差異もみられていない。)。
(エ) 甲17の実施例3(前記5(8))には、用量1.0mL中酵素14mgとして 調製された酵素と、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0. 005%のポリソルベート20をpH7.0で含むビヒクルにより作成された製剤\nが髄腔内投与されたことの記載があるが、図5を含めて見ても、主に有害な副作用 の有無等が検討されたものと解され、治療効果については記載がない。
(オ) なお、甲17の図2には、30mg用量の髄腔内投与後のリソソ\ーム酵素の ニューロンへの分布が示され、尾状核のニューロンにリソソ\ーム酵素が認められた ことが示されているが、どのような組成物が投与されたのかも不明である。
(カ) さらに、甲17には、投与の態様としてICV投与とIT投与とが選択的な ものである旨は記載されているといえる一方で、いずれの方法によっても同様に送 達され得る旨等を明らかにする記載もないから、前記(ウ)〜(オ)は、ICV投与した 場合のものとして、本件発明1の組成物による送達の効果を記載するものでもない。
エ 以上によると、甲17には、本件発明1が記載されているものとは認められ ず、本件発明2〜8及び12についてこれと異なって解すべき事情も認められない から、本件出願について、基礎出願2に基づく優先権を主張することはできない。 基礎出願1についても、基礎出願2と異なって解すべき事情はない。
これと異なる被告の主張は、いずれも採用することができない。ICV投与とI T投与において、組成物はいずれの場合でもCSFに投与されるものであり、その ためそれらの間に処方としての共通性や標的組織等への送達における相応の関連性 があるということができたとしても、そのことをもって、具体的な送達の程度や治 療効果についてまで、一方の投与態様についての実験結果等の記載をもって直ちに 他方についての記載と実質的に同視することができるとの技術常識は認められない。 被告の主張は、甲16及び17の記載内容を、本件明細書の記載内容を前提にしな がら解釈しようとするものであって相当でない。
(2) 甲6が公知文献とされなかったことが直ちに取消事由に当たるかについて
ア 原告は、取消訴訟の審理範囲を根拠として、本件審決に当たり甲6を副引用 例として考慮しなかった本件審決は、優先権に係る判断の誤りによって直ちに取り 消されるべきである旨を主張するので検討する。
イ(ア) 証拠(甲61、62)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件審判請求においては、本件発明1の進歩性に係る無効理由として、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ甲5〜10を適用すること(甲5の適用については、甲5技術と実質的に同一の内容が主張されていた。)により容易想到である旨を主張し、その中で、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を主張する一方、甲6発明(ビヒクル)については主張していなかったことが認められる。本件審決は、基礎出願2に基づく優先権の主張を認めたことから、副引用例としての甲6記載の発明の適用について検討するには至らなかったが、上記のとおり、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を副引用例とする範囲で、審判手続においても審理の対象となっていたものであって、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ上記副引用例を組み合わせることにより進歩性を欠くという無効理由自体は、審判手続において審理対象となっていたものである。
(イ) そして、本件審決は、甲2発明ないし甲4発明と本件発明の相違点について、 甲5及び7〜10を適用して容易想到であるといえるか否かについて判断した一方、 優先権主張を認めたことから甲6は除外し、それゆえ相違点に係る本件発明の構成\nについての甲6発明(製剤)の適用について具体的には判断しなかったものの、甲 2発明ないし甲4発明に甲6発明(製剤)を適用することにより本件発明は容易想 到であるという旨の原告の主張自体については、これを認めることができないとの 判断を示したものである。
(ウ) 原告は、本件訴訟において、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とした上で、 前記(ア)及び(イ)のとおり本件審決で排斥された甲5技術の適用による容易想到性の 主張のほか、甲6に基づき、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を副引用 例として主張するとともに、甲6が技術常識(エリオットB溶液の技術常識及び高 濃度化の技術常識)を補足するものである旨を主張しているところ、本件訴訟にお いて、容易想到性が争いとなっている本件発明の構成(甲2発明ないし甲4発明と\nの間の各相違点)は、本件審決で判断されたものと基本的に同じであり、甲6発明 (製剤)や甲6発明(ビヒクル)の適用に当たり、本件審決で判断されたもの以外 の相違点が問題になるなどといった事情はない。
(エ) 前記(ア)のとおり、甲6の適用については審判手続においても問題とされ、当 事者双方において攻撃防御を尽くす機会はあったといえる。この点、証拠(甲6、 16、17、乙14、24。なお、訳文として甲6の2・3、乙36)及び弁論の 全趣旨によると、甲6は、基礎出願1及び2がされて間もない平成22年7月2日 に公衆に利用可能となった雑誌「注射可能\なドラッグデリバリー2010:製剤フ ォーカス」に掲載された「CNSが関与する遺伝学的疾患を治療するためのタンパ ク質治療薬の髄腔内送達」と題する論文であるところ、同論文は、基礎出願1及び 2に関わった研究者も関与して行われた研究発表に係るものであって、本件発明と\n同様の技術分野に属するもの、すなわち、酵素補充療法において、中枢神経系(C NS)病因を有する疾患の処置に係るリソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素 を含む薬学的組成物に関連するもの(前記1(2)ア)と解されるほか、その記載内容 は、かなりの部分甲16及び17と重なり合うものである。そのような甲6の性質 や、甲16及び17と本件発明との関係についても優先権主張の可否という形では あるが各当事者において攻撃防御を尽くす機会があったというべきことを考慮する と、上記のように審判手続において各当事者に与えられていた甲6の適用について 攻撃防御を尽くす機会は、実質的な機会であったといえる。
(オ) 以上の事情の下では、本件審決においては副引用例としての甲6発明(製剤) の適用が具体的には判断されるに至らず、また、甲6発明(ビヒクル)については そもそも審判段階で問題となっていなかったこと(この点、被告は、甲6発明(ビ ヒクル)を適用しての容易想到性に係る原告の主張について、特にそれが審理範囲 外であるとして争ってはいない。)を考慮しても、本件訴訟において、審判手続にお いて審理判断されていた甲2発明ないし甲4発明との対比における無効原因の存否 の認定に当たり、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を適用することによ って容易想到性の有無を判断することが、当事者に不測の損害を与えるものではな く、違法となるものではない。最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月1 0日大法廷判決・民集30巻2号79頁は、本件のような場合について許されない とする趣旨とは解されない。
(3) 以上によると、取消事由1は、優先権の判断の誤りという限度において理由 があるが、それをもって直ちに本件審決を取り消すべきという結論において、理由 がない。そこで、以下、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とする容易想到性の主張に係る取消事由5〜7について、検討する。

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当事者が同じ関連事件です。

◆令和4(行ケ)10022

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令和4(ワ)3847  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年3月23日  大阪地方裁判所

本件特許には無効原因があるにもかかわらず、被告が税関に輸入禁止の申立てを行った行為が不法行為に該当するとして、不法行為に基づく損害賠償が請求されました。大阪地裁は「理由無し」と判断しました。税関で、特許権に基づく輸入禁止認定がなされる例があるんですね。該当特許は、形状がユニークなトレーニング機器です。無効審判も理由無しと判断されています。

◆該当特許

原告は、甲7公報の記載からバー10を抽出し、別紙「主張一覧表」の「無効理由1」の「原告の主張」欄記載の構\成a〜gを有するとして、これを引用発明(甲7発明)とし、本件各発明は甲7発明の構成を全て備える、本件各発明の構\成要件Fが甲7発明の構成fと相違するとしても、バー10を用いてトレーニングすることは可能\であるから相違点は軽微である旨主張する。しかし、甲7公報の記載から、バー10のみを分離して独立の運動器具としての発明と理解することは相当でない。すなわち、前記(2)イ認定のとおり、甲7 公報には、従来のバーベル機材およびダンベル機材において、比較的長いバーを 有する装置はバランスをとることが困難であり、重りを使用しない装置は本格的 なボディビルダーに対しては限定的な有効性しか有さないとの欠点や、三頭筋を 働かせるのに使用されるほとんどの器具が手のひらを上に向けることを必要とす るが、このようなタイプのハンド・ポジションは、特に重い重りを持ち上げなが ら肘を内側で維持することを困難にするとの欠点があったこと、甲7公報記載の 発明は、三頭筋をエクササイズするためのウエイトリフティング装置を提供する ことにより従来技術の短所を解消するものであり、バランスをとることの問題を 有意に低減する中央に位置する重りプレート固定手段を有し、複数のハンド・ポ ジションおよび間隔を可能にする三頭筋伸展装置を開示すること、装置は、バー・ハンドル組立体および支持クランプ組立体である2つの主要構\成要素を有すること、重り支持プラットフォーム26および解除可能なクランプ手段28が支持クランプ組立体を形成し、バー10が、中央に位置する重り支持プラットフォーム26に固定されること、プラットフォーム26をバー10に取り付けることが、\n好適には、故障を引き起こす可能性を排除するために、溶接によって達成されること、重り又は重りプレート40をプラットフォーム26上で位置決めするのに直立ポスト38が使用され、クランプ部材28がポスト38の周りで固定的に留\nめられ、それにより重りをプラットフォーム26上に固着することが記載される。 これらの記載からすると、甲7公報記載の発明において、重り支持プラットフォー ム26を含む支持クランプ組立体はバー10とともに装置の主要構成要素であり、バー10は溶接等の方法によりプラットフォーム26に固定され、バー10は重り支持プラットフォーム26等と物理的に一体であることが前提となっていると\nいえる。また、甲7公報記載の発明は、従来のバーベル機材等における、比較的 長いバーを有する装置はバランスをとることが困難であり、重りを使用しない装 置は本格的なボディビルダーに対しては限定的な有効性しか有さないとの欠点を 解消するため、バランスをとることの問題を有意に低減する中央に位置する重り プレート固定手段を有し、複数のハンド・ポジションおよび間隔を可能にする三頭筋伸展装置を提供するものであり、バー10は支持クランプ組立体と一体となって作用効果を奏するといえる。そして、バー10のみが独立してウエイトリフティ\nング・エクササイズにおける運動器具としての作用効果を発揮することは、甲7 公報には記載も示唆もされていない。
以上によれば、三頭筋運動器具の発明に関する甲7公報の記載から、その部材 の一つにすぎないバー10のみを抽出して独立の運動器具としての引用発明(甲 7発明)と理解することはできず、本件各発明の構成要件Fと甲7発明の構\成f は明らかに相違する。
・・・
原告は、甲7公報の記載からバー10を抽出した甲7発明を主引用発明と して、公知技術(甲8、9)を適用することにより、本件各発明は、当業者が容 易に発明することができる旨主張する。 しかし、前記(3)アのとおり、甲7公報の記載から、部材の一つにすぎないバー 10のみを分離して独立の運動器具の発明と理解することは相当でなく、トレー ニング器具の発明である本件各発明とは技術的内容・性質の異なる甲7発明を主 引用発明として、本件各発明が進歩性を欠如する旨の原告の主張は認められない。
イ 前記(3)ウのとおり、被告は、本件各発明と甲7発明(被告)を対比する と、少なくとも、相違点1)及び2)が相違する旨主張するところ、原告は、被告主 張の相違点を前提としても、相違点に係る本件各発明の構成は、公知技術(甲8、9)から容易想到である旨主張するので、以下、検討する。
ウ 容易想到性の検討
(ア) 相違点1)(本件各発明は、重り支持部分を備えないのに対し、甲7発明 (被告)は、重り支持部分を備える点)について
前記(3)アのとおり、甲7公報記載の発明は、ウエイトリフティング装置とし て、バー10に重り支持部分(重り支持プラットフォーム26、クランプ部材2 8、直立ポスト38)を固定し、重り又は重りプレート40を重り支持プラット フォーム26に固着して使用することを前提とした発明である。すなわち、バー 10は、重り支持プラットフォーム26等により形成される支持クランプ組立体 と物理的に一体となって作用効果を奏するものであるし、バー10が独立して運 動器具としての作用効果を発揮することは、甲7公報に記載も示唆もされていな いから、甲7公報に接した当業者に、甲7公報記載の発明から重り支持部分を取 り外す動機付けがあるとは考え難い。したがって、相違点1)に係る本件各発明の 構成は甲7発明(被告)から容易想到であるとはいえない。
これに対し、原告は、甲7公報の明細書に溶接前の単独のバー10が記載され ていること、甲7発明(被告)は重りのついた状態でも本件各発明と同様の作用 効果を奏すること、バー10の状態でも一定の三頭筋エクササイズの効果は得ら れるところ、よりエクササイズの幅を広げる目的で甲7発明(被告)から重り支 持部分を取り外す動機付けはあることを根拠として、甲7発明(被告)から重り 支持部分を取り外すことは容易想到である旨主張する。しかし、前示のとおり、 甲7公報には、バー10が単独で運動器具としての作用効果を奏することは何ら 開示されていない。仮に甲7発明(被告)が本件各発明と同様の作用効果を奏す るとして、甲7発明(被告)は、ウエイトリフティング装置として、バー10に 固定された重り支持部分を構成する重り支持プラットフォーム26に重り又は重りプレート40を固着して使用することを前提とした発明であるから、よりエクササイズの幅を広げる目的で重りを取り外して使用する可能\性はあるとしても、重り支持部分全体を取り外す動機付けがあるとはいえない。したがって、原告の主張は採用できない。
・・・
以上より、原告が主張する無効理由1〜3はいずれも認められず、本件各発明 について無効原因があるとはいえない。したがって、被告が本件特許権に基づい て行った本件申立てが違法なものであるとは認められず、本件申\立てについて、 不法行為は成立しない。

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令和4(行ケ)10009  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月27日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、異議申立の特許取り消し決定について、判断を誤っているとして取り消しました。

本件決定は、相違点1に関し、1)甲2技術的事項に接した当業者であれば、 「複数本数の容器弁付き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1 発明において、「窒素ガス」が、過剰圧力がかかった状態で防護区画へ放出さ れ得ることを防ぐために、窒素ガスが、過剰圧力がかからないように制御さ れた速度で、防護区画に順次放出されるようにすればよいことを容易に認識 するといえる、2)甲2技術的事項では、「メインバルブ22」と、「ラプチャ ーディスク16a」と、「ラプチャーディスク16b」の開放時間をずらすこ とで、「過剰圧力がかからないように制御された速度で、保護された部屋14 に順次放出されるようにする」ことを実現しているが、「複数本数の容器弁付 き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1発明において、窒素ガ スの過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出す るには、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこ とによって実現でき、ラプチャーディスク等を用いるまでもないことは、当 業者であれば普通に予測し得たことである、3)本件明細書の【0025】の 記載を参酌すると、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイ ミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであって前記第一 の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止す る前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」とは、制御部か らの信号により開弁のタイミングが決定づけられているということ以上を意 味していないと解さざるを得ず、そのタイミングを「前記一つの容器の容器 弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミン グであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が 重なることを防止する前記第二の開弁タイミング」とすることは、窒素ガス の過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出する ことを、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこ とによって実現するための必然的なタイミングでしかないから、「前記一つ の容器の容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の 開弁タイミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスの ピーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、 前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える」ことも当業者が容易に想 到し得たことである、4)甲7及び8の記載事項からみて、「複数の消火ガス容 器を備え、防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消火設 備において、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の容器の 容器弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容器弁の開 弁時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備の技術分野 において、本件出願前、周知技術であったといえる、5)甲2技術的事項に接 した当業者であれば、甲1発明において、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた 「容器弁」の開弁時期をずらすことで、相違点1に係る本件発明の発明特定 事項(構成)とすることは、当業者が容易に想到し得たというべきである旨\n判断した。 しかしながら、本件決定の判断は、以下のとおり誤りである。
ア 1)及び2)について
・・・
(ウ) 以上のとおり、甲1記載の「容器弁」付き窒素ガス貯蔵容器の「容器 弁」と甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」は、動作及び機能が異\nなること、甲1及び2のいずれにおいても貯蔵容器の容器弁又はガスシ リンダーのバルブの開閉時期をずらして複数のガスシリンダーからそ れぞれ順次ガスを放出することによって保護区域又は保護された部屋 の加圧を防止することについての記載や示唆はないことに照らすと、甲 1及び2に接した当業者は、甲1発明において、保護区域又は保護され た部屋の加圧を防止するために甲2記載のラプチャーディスクを適用 することに思い至ることがあり得るとしても、ラプチャーディスクを用 いることなく、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期 をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出するこ とよって加圧を防止することが実現できると容易に想到することがで きたものと認めることはできない。 したがって、本件決定の1)及び2)の判断は誤りである。
イ 3)について
本件決定の2)の判断は、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の 開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであっ て前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重な ることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」 とは、制御部からの信号により開弁のタイミングが決定づけられていると いうこと以上を意味していないと解さざるを得ないことを根拠として、容 器弁に接続される制御部を備える甲1発明において、「前記一つの容器の 容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タ イミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピ ーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、 前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える」こと(相違点1に係る 本件発明1の構成の一部)も当業者が容易に想到し得たことをいうものと\n解されるところ、本件発明1の「決定し」の用語のクレーム解釈から直ち にそのような結論を導き出すことには論理的に無理があり、論理付けが不 十分である。\n
ウ 4)について
仮に本件決定が述べるように甲7及び8の記載から、「複数の消火ガス 容器を備え、防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消 火設備において、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の 容器の容器弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容 器弁の開弁時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備 の技術分野において、本件出願前、周知であったことが認められるとして も、当業者が、甲1発明において、上記周知技術を適用することについて の動機付けがあることを認めるに足りる証拠や論理付けがない。
エ まとめ
以上によれば、当業者は、甲1、甲2技術的事項及び前記周知技術に基 づいて、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることを\n容易に想到することができたものと認めることはできないから、これと異 なる本件決定の判断は誤りである。

◆判決本文

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令和4(ワ)1848  特許権移転登録手続  特許権  民事訴訟 令和5年2月6日  大阪地方裁判所

 在職中の職務発明であって原告が特許を受ける権利を有しているとして、移転登録を求めましたが、裁判所はこれを認めませんでした。

原告は、訴状とともに提出した令和4年3月4日付証拠説明書において、甲 12規程の作成年月日を平成26年1月1日としていたこと、被告は、令和4 年8月9日付準備書面において、甲12規程の存在を否認し、その根拠として、 甲12規程に用いられる「取得」「相当の利益」との文言は、平成27年7月に 公布され、平成28年4月1日に施行された特許法等の一部を改正する法律 (平成27年法律第55号)で初めて採用されたものであって、平成26年1 月1日時点でこのような文言が使われた規程が存したのは極めて不自然であ ると指摘したこと、原告は、平成4年9月20日付け原告第1準備書面におい て、前記第3「2」【原告の主張】のとおり主張したこと、はいずれも当裁判所 に顕著である。
(2) 本件において、甲12規程は、原告が本件各発明に係る特許を受ける権利 を原始取得する根拠として不可欠のものであって、訴え提起の段階で、甲12 規程が適用されるかどうかについては、その制定過程及び本件各発明の完成時 期や被告代表者の退職時期との関係で慎重に検討されるはずのものである。し\nかも、この経緯は、専ら原告の領域内の事情であり、かかる検討を阻むものは ない。 しかるところ、原告は、当初甲12規程の作成日時を平成26年1月1日と 特定したにもかかわらず、被告から文言の不自然さを指摘されるや、その制定 日は平成30年9月3日であって、平成26年1月1日にさかのぼって適用さ れると主張したものであって、このように主張が変遷した経緯自体、被告代表\n者が原告に在職中に甲12規程が制定されたことを疑わしめるに十分である。\nまた、そのように作成されたのであれば、甲12規程は、制定日を明らかにし た上、同規程の適用を定めた10条は「さかのぼって適用する」と表現するの\nが自然と思われるが、同条にはそのような遡及適用の趣旨は記載されていない し、制定日も書かれていない。遡及の限度が平成26年1月1日である根拠も 何ら示されていない。
加えて、甲12規程が、被告代表者の原告退職時期に近接した平成30年9\n月3日に真実制定されたというのであれば、原告と被告代表者間で当然に退職\n時に本件各発明に係る特許を受ける権利の帰属について協議ないし確認がさ れるものと考えられる。しかし、原告は、被告代表者が原告を退職した後本件\n各発明について特許出願がされたことを知った後も、本件各特許権に係る発明 の実施品と思料されるボックス容器に関する大王製紙、原告、被告の取引に継 続して関与していたことを自認しているのであって、かかる協議や確認がされ たこともうかがえないどころか、被告が権利者であることを前提とした行動を とっているものというべきである。
(3) その他原告の提出する証拠等も、前記認定の経緯に照らすと採用の限りで なく、結局、平成30年9月3日当時を含め、被告代表者が原告に在職する期\n間中に、甲12規程が適法に制定されたと認めるに足りる証拠はないといわざ るをえない。
2 前記1によると、争点1に関わらず、原告が甲12規程により本件各発明に係 る特許を受ける権利を取得したとは認められない。本件各発明に適用される就業 規則(乙1)によっても、原告が特許を受ける権利を承継したとは認められない し、また当該承継の事実を被告に対抗できない(特許法34条1項)。 なお、原告は、当裁判所が口頭弁論を終結する予定の期日として指定した令和\n4年12月16日の期日の直前に、同年11月29日付け準備書面により本件各 発明を原始取得させる旨の黙示の合意が存した旨の主張をした。同主張はそもそ も時機に遅れた攻撃防御方法というべきであるが、前判示のとおり、本件各発明 において適用されるべき就業規則(乙1)が存するところ、かかる明示の合意の ほかに、原告主張の従業員が原告名義の特許出願に異を唱えなかった等の事情か ら特許を受ける権利の移転等に関する黙示の合意が成立する余地はないという べきであって、原告の主張は、それ自体失当である

◆判決本文

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