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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

その他特許

平成29(行ウ)297  異議申し立て棄却処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年11月20日  東京地方裁判所

 特112条の2第1項の「正当な理由」には該当しないと判断されました。
 (1)特許法112条の2第1項は,同法112条4項の規定により消滅したも のとみなされた特許権の原特許権者は,同条1項の規定により特許料を追納 することができる期間内に特許料及び割増特許料を納付することができなか ったことについて「正当な理由」があるときは,経済産業省令で定める期間 内に限り,特許料等を追納することができると規定する。 そして,特許法112条の2の上記文言が,特許法条約(Patent Law Tre aty)において手続期間を徒過した場合に救済を認める要件としての「Du e Care(いわゆる『相当な注意』)」を取り入れて規定されたこと(平 成23年法律第63号による改正,乙12)からすれば,同条の「正当な理 由」があるときとは,原特許権者として,特許料等の追納期間の徒過を回避 するために相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的な事情により これを回避することができなかったときをいうものと解するのが相当である。
(2) 本件について,原告は,「正当の理由」として,主に,本件追納期間中は 別件訴訟の対応で心身ともに余裕がなかったこと,同期間中にうつ病等の複 数の疾患を抱えており,特許料等を納付できる状態ではなかったことを主張 する。 しかしながら,一般的に自己を当事者とする訴訟を追行していたとしても, それ以外の事務を行うことができなくなるものではなく,特許料の納付期限 等について注意を払うことは十分に可能\であったといえるから,原告の主張 する別件訴訟に係る事情は,追納期間の徒過を回避することができなかった と認められる客観的な事情とは評価できない。 また,原告は,本件追納期間中にうつ病等の複数の疾患に罹患していたと 主張し,原告について診断日を平成22年3月25日として「遷延性抑うつ 反応」との診断を受けたことが認められる(甲9の1)。しかし,本件追納 期間(平成25年6月12日から同年12月11日まで)中に原告が精神科 に通院するなどしてうつ病の治療を受けていたことを認めるに足りる証拠は ないほか,原告は,1)上記診断において「遷延性抑うつ反応」に罹患したと される平成20年11月10日(本件交通事故による受傷日)以降も複数の 特許出願を行なっていたことがうかがわれること(甲9の1,乙7〔3枚 目〕,2)本件追納期間中もほぼ毎週整形外科に通院していたこと(甲15, 乙7〔平成26年5月15日付け青森県立中央病院医師作成の診断書から始 まる添付資料の2,4,8,13,14枚目,2013/4/02(44)との記載から 始まる添付書類の5ないし16枚目),3)本件追納期間経過後から間もない 平成26年4月に本件特許権が消失していることを知ると,同月17日頃に は特許庁に対して特許料追納手続を問い合わせる電子メールを送信し,同月 23日には,特許庁から送付された電子メールの記載に従った追納分の特許 料相当額の印紙を貼付した本件納付書を提出し,正当な理由に該当する旨を\n記載した回復理由書を提出したこと(乙5の1,2,乙7〔2枚目,「登録 室」から2014年4月17日午前10時24分に送られた電子メールの記 載から始まる【添付資料】の1枚目〕)などからすれば,原告が本件追納期 間中に「遷延性抑うつ反応」あるいは他の疾患により行動等の制限を受ける ことがあったしても,それが特許料納付の妨げになる程度のものであったと 認めるには足りず,原告の疾病に係る事情もまた,追納期間の徒過を回避す ることができなかったと認められる客観的な事情とは評価できない。 更に,原告は,特許庁から特許料納付に係る請求書の送付がなかったとも 主張するが,特許料及びその納付期限については特許法107条以下に定め られるなどしていて,相当な注意を尽くして情報を収集すれば容易に知るこ とができたというべきであるから,上記事情は追納期間の徒過を回避するこ とができなかったと認められる客観的な事情とはいえない。 その他,追納期間の徒過を回避することができなかったと認められる客観 的な事情は認められない。
(3)以上によれば,本件納付書による特許料等の納付のうち,第4年分の特許 料等に係る部分について,本件期間徒過につき正当な理由があるとはいえな いとし,第5年分の特許料に係る部分について,第4年分の特許料等の追納 が認められないために本件特許権は消滅しているとして,本件納付書による 納付手続を却下した本件却下処分には,特許法112条の2第1項の解釈適 用を誤った違法があるとはいえない。 原告は,本件却下処分または本件決定によって本件特許権が回復しないこ とが憲法29条に違反するとも主張するが,特許権は,性質上,法が定める 条件に従って,国家から付与され存続する権利であるから,法が定める特許 料の納付等の手続を経なければこれを失うものであり,前記のとおり追納を 認めなかった本件却下処分に違法があるとはいえないことから,本件特許権 が回復しないことが憲法29条に違反することはない。

◆判決本文

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平成29(ワ)27980  債務不履行に伴う契約解除により返還請求と,その契約不履行と相当因果関係にある損害の賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年10月25日  東京地方裁判所

 翻訳業者の翻訳が不適切であったとして、損害賠償を求めましたが、裁判所は棄却しました。該当の日本特許はこれです。

◆特許5926470号

 前記前提事実,各項末尾に記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事 実が認められる。
(1) 被告Bは,特許の翻訳を業とする被告会社の代表取締役であり,被告会社\nが設立される以前は,比較的大手の特許事務所に勤務していたが,弁理士で はない。原告も,そのことを認識していた。
(2) 原告は,本件特許発明の米国特許出願のため,平成28年1月,被告会社 に本件明細書等の翻訳を一定の報酬支払を約して依頼し,被告会社はこれを 承諾した(本件契約)。
(3) なお,原告は,本件契約以前,本件明細書の翻訳を翻訳者である訴外Dに も依頼していたため,被告会社は,当初は訴外Dによる翻訳をチェックして いたが,当該翻訳に適切でない部分が多かったため,次第に翻訳を初めから 行うことになっていった。(甲36,乙50,弁論の全趣旨)
(4) 翻訳の対象となる本件明細書等は,それが記載された特許公報が本文だけ で69頁,図も合わせると81頁にも及ぶ非常に大部なものである上,その 内容は,原告自身も自認するように,相当に複雑で難解なものであった。(甲 7,乙17,23,46,47)
(5) 本件契約が締結された同年1月当時,米国特許出願における特許請求の範 囲の記載(日本語)は確定していなかった。原告は,少なくとも同年2月1 5日,翻訳の対象となる特許請求の範囲の記載に修正を加えた。(乙3,4, 弁論の全趣旨)
(6) 同年2月22日には,原告は被告Bに対し,自らが翻訳ソフトを購入し,\n翻訳者が抜けのない翻訳をしているかを自分で確認する旨記載したメールを 送信した。(乙6)
(7) 同年3月3日には,原告は被告Bに対し,被告会社が修正を加えた翻訳を 訴外インド人弁理士に送付し,同人が1か月程度で校正を行い,被告会社が 最終版を作成するとの手順を示すメールを送信した。(乙7)
(8) 同日以降も,原告は,翻訳の対象となる本件明細書等について,断続的に 修正等を行い,その修正等についての翻訳を,被告会社に指示した。その際, まず訴外Dに翻訳をさせ,当該翻訳を被告会社に送付し,それを参考にして 翻訳するよう指示していた。同年4月11日,原告は,被告会社に対して ,「収束に向かってください。拡散した自分が,どんどんと文章を広げました。 D様もその為に,意味不明になりました。自分にも責任があります。」とメ ールした。しかし,同月16日には,「基本請求項を早朝作成します。出来 た後に,再度,B様とC様で打合せをしてください。結果が大丈夫なら,そ の他の従属項を3人で作成します。」などとメールし,同日の後刻には,「大 変迷走させまして,無駄な時間をお掛けしました。」などとメールした。(乙 8ないし21,50)
(9) 同年4月17日,被告会社は,「ご確認いただき,修正すべき点がありま したらご連絡ください。特に問題がないようであればインド代理人への送付 をお願い致します。」,「エンドレスな作業となっておりますので,ここで 一度区切りとさせてください。」などとメールに記載して,翻訳を一旦終了 し,原告に当該翻訳をメールにて送付した。この時点で,本件明細書等の大 部分について翻訳が終了していた。(甲47,弁論の全趣旨(平成30年8 月16日付け原告準備書面23,26頁))
(10) 同日以降も,原告は,累次にわたって,特許請求の範囲の記載の修正等, それに伴う明細書等の修正等を行い,その都度,被告会社にその修正等につ いての翻訳を指示し,このような指示は少なくとも同年5月17日まで続い た。その間,原告は,被告会社が原告に送付した翻訳について修正や変更を 求めたり,翻訳の内容について質問をしたりすることはなかった。(乙23 ないし41,50)
(11) 原告は,同年5月19日(米国時間),被告会社の事務所において,本件 米国出願を行った。被告会社は,本件米国出願までの間に,本件翻訳を原告 に対して引き渡した。
(12) 原告は,同年1月から7月にかけて,被告会社に対し,本件契約の代金と して合計269万2000円を支払い,被告会社はこれを異議なく受領した。 (甲6)
(13) 米国特許商標庁は,平成29年2月7日(米国時間),本件拒絶理由通知 を発出した。本件米国出願から本件拒絶理由通知までの間に,原告から被告 らに対して,本件翻訳の内容について批判が述べられたり,質問等がされた りしたことはなかった。(甲11,弁論の全趣旨)
(14) 原告は,同年4月3日,被告会社に対し,内容証明郵便により,本件翻訳 についての報告を求めた。また,原告は,同年5月18日,被告会社に対し, 内容証明郵便により,被告会社に債務不履行があるとして,本件契約の解除 の意思表示をし,契約代金の返還を求めた。(甲33,34)\n
・・・・
前記認定事実のとおり,本件契約は,原告が被告会社に対し,本件明細書 等の翻訳を一定の報酬支払を約して依頼し,被告会社がこれを承諾したもの であること,その後,原告は,本件契約の対価として,被告会社に対して合 計269万2000円を支払い,被告会社はこれを異議なく受領したことが 認められる。そうすると,本件契約は,被告会社が仕事の完成を約し,原告 がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約したものであるから,その 法的性質は請負契約(民法632条)であると解するのが相当である。 なお,原告は,本件契約における被告の業務内容には米国特許出願事務や PCT国際出願事務も含まれているかのような主張をしており,被告はこれ を争っているところ,本件の全証拠を検討しても,本件契約に米国特許出願 事務及びPCT国際出願事務の委任が含まれているものと認めるに足りる証 拠はない。原告は,被告会社が原告に対してPCT国際出願に関する助言を 行っているメール(甲39)を証拠として提出するが,これは被告会社が原 告の問い合わせに応じて返答しているものにすぎず,このようなやり取りを もって本件契約にPCT国際出願事務の委託が含まれていたものと認めるこ とはできない。また,原告は被告事務所において本件米国出願を行っている が,そのことから本件契約に米国特許出願事務の委任が含まれていたものと 認めることもできない。

◆判決本文

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平成30(ム)10003  特許権侵害行為差止等請求再審事件  特許権  民事訴訟 平成30年9月18日  知的財産高等裁判所

 技術的範囲に属しないとして確定した前訴判決について、対象特許が訂正で範囲が変わったので再審を求めました。知財高裁(2部)は、特104条の4には該当しないが、前訴で技術的範囲に属しなかった被疑侵害品が属することはあり得ないとして、請求を棄却しました。
 (ム)の事件番号は初めてみました。
 1 特許法104条の4は,特許権侵害訴訟の終局判決が確定した後に同条3号 所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決であって政令で定めるもの(以下, 「3号訂正審決」という。)が確定したときは,上記訴訟の当事者であった者は終局 判決に対する再審の訴えにおいて3号訂正審決が確定したことを主張することがで きないと規定している。その趣旨は,特許権侵害訴訟の当事者は,同法104条の 3により,無効の抗弁及びいわゆる訂正の再抗弁(訂正により無効の抗弁に係る無 効理由が解消されることを理由とする再抗弁)を主張することができ,判決の基礎 となる特許の有効性及びその範囲につき,主張立証する機会と権能を有しているこ\nとから,そうであるにもかかわらず,上記訴訟の判決が確定した後に,特許の有効 性及びその範囲につき判決と異なる内容の審決が確定したことを理由として確定判 決を覆すことができるとすることは,紛争の蒸し返しであり,特許権侵害訴訟の紛 争解決機能や法的安定性の観点から適切ではないことにあると解される。そして,\n特許法施行令8条2号は,特許権侵害訴訟の終局判決が特許権者の敗訴判決である 場合には,「当該訴訟において立証された事実を根拠として当該特許が・・・特許無 効審判により無効にされないようにするためのものである審決」が3号訂正審決に 当たると規定している。前記第2の2(3)のとおり,再審被告両名は,基本事件にお いて無効の抗弁を主張していないから,本件訂正認容審決は,特許法施行令8条2 号所定の「当該訴訟において立証された事実を根拠として当該特許が・・・特許無 効審判により無効にされないようにするためのものである審決」ではなく,3号訂 正審決には当たらない。
2 しかし,特許法は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面を訂正 するために訂正審判を請求することを認める一方(同法126条1項本文),その訂 正は,特許請求の範囲の減縮を含む所定の事項を目的とするものに限って許される ものとし(同項ただし書),さらに,「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更す るものであってはならない」としている(同条6項)。これは,訂正を認める旨の審 決が確定したときは,訂正の効果は特許出願の時点まで遡って生じ(同法128条), しかも,訂正された明細書,特許請求の範囲又は図面に基づく特許権の効力は不特 定多数の一般第三者に及ぶものであることに鑑み,特許請求の範囲の記載に対する 一般第三者の信頼を保護することを目的とするものであり,特に,同法126条6 項の規定は,訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範 囲に含まれることとなると,第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるた め,そうした事態が生じないことを担保する趣旨の規定であると解される。このよ うに,特許法は,訂正前の特許発明の技術的範囲に属しない被疑侵害品は,訂正後 の特許発明の技術的範囲に属しないことを保障しているのであるから,被疑侵害品 が特許発明の技術的範囲に属しないことを理由とする請求棄却判決が確定した後に, 特許権者が訂正認容審決を得て,再審の訴えにおいて被疑侵害品が訂正後の特許発 明の技術的範囲に属する旨主張することは,特許法がおよそ予定していないものと\nいうべきである。そして,再審原告は,基本事件において,前訴判決の基礎となる 本件特許に係る発明(本件発明及び本件訂正発明)の技術的範囲につき,主張立証 する機会と権能を有していたのであるから,前訴判決が確定した後に,本件訂正認\n容審決が確定したという,特許法がおよそ予定していない理由によって,前訴判決\nを覆すことができるとすることは,紛争の蒸し返しであり,特許権侵害訴訟の紛争 解決機能や法的安定性の観点から適切ではなく,特許法104条の4の規定の趣旨\nにかなわないということができる。なお,再審原告は,前記第2の2(3)のとおり, 基本事件の係属中に第一次訂正を行っていたのであり,基本事件の係属中に本件訂 正認容審決を得ることができなかったというべき事情も認められない。 これらの事情を考慮すると,再審原告が本件訂正認容審決が確定したことを再審 事由として主張することは,特許法104条の4並びに同法126条1項ただし書 及び同条6項の各規定の趣旨に照らし許されないものというべきである。 3 前記2によると,再審原告は,本件訂正認容審決が確定したことを主張する ことができないから,前訴判決の基礎となった行政処分である本件特許権に係る特 許査定が後の行政処分である本件訂正認容審決により変更されたことを理由として 民訴法338条1項8号の再審事由がある旨の主張は,その前提を欠くものであり, 理由がない。

◆判決本文

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平成30(ネ)10019  特許を受ける権利帰属確認本訴請求控訴事件,損害賠償反訴請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年8月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許を受ける権利の帰属確認を求めましたが、知財高裁(4部)は、1審と同じく請求を棄却しました。
 前記(1)及び(2)の認定事実を総合すれば,1)一審原告は,Aと知り合う前 から本件技術の研究を行っていたが,一審原告自身にはその研究開発を進 めていく資金がなかったため,Aと知り合って以降に,Aに上記事情を説 明し,Aが代表社員を務める一審被告と協力して,携帯電話端末等の民生\n用の技術として本件技術の研究開発を進めていくこととし,その研究成果 である本件発明について本件出願に至っていること,2)本件出願に当たっ ては,一審被告が本件特許事務所に対して出願手続を委任し,本件出願に 係る願書の「特許出願人」欄には一審被告の名称が記載されており,しか も,特許出願料,本件特許事務所に対する手数料等の本件出願に必要な費 用は,一審被告が負担していること,3)一審原告は,一審被告の担当者と して,本件出願に係る願書の作成に関与し,複数回にわたって,本件特許 事務所が作成した願書案の内容を確認してコメントを付したり,本件特許 事務所からの質問に回答するなどし,最終の願書案についても,Aに代わ って確認し,その願書案のとおりの内容で出願することを了承し,その願 書案中の1枚目の願書(「特許願」と題する書面)の「特許出願人」欄に は一審被告の名称が記載されていたことが認められる。 上記認定事実によれば,一審原告は,本件出願に係る願書の「特許出願 人」欄に一審被告の名称が記載されていたことが認められる。 上記認定事実によれば,一審原告は,本件出願に係る願書の「特許出願 人」欄に一審被告の名称が記載されていること及び本件出願に必要な費用 は全て一審被告が負担していることを十分に認識し,本件出願について特\n許査定がされた場合には,特許出願人である一審被告が特許権を取得する ことを理解していたものと認められる。 加えて,一審原告と一審被告との間で本件発明についての特許を受ける 権利の譲渡の対価額について具体的な交渉がされたことはうかがわれな いものの,他方で,一審原告が一審被告に対して無償で上記特許を受ける 権利を譲渡すべき事情も認められないこと,その他本件出願に至る経緯等 (前記(2))に鑑みると,一審原告と一審被告との間では,遅くとも本件出 願時までに,一審原告の有する本件発明についての特許を受ける権利を一 審被告に相当な対価で譲渡する旨の黙示の合意が成立したものと認める のが,当事者の合理的意思に合致するというべきである。
イ これに対し,一審原告は,1)願書案についての一審原告の確認対象は, 請求項の技術的な記載事項に限定されており,その他の記載は十分に確認\nしていないし,また,一審原告においては,特許出願手続や願書案の記載 方法について全く知識を有していなかったため,願書案の「特許出願人」 欄に記載される者が本件出願に係る特許を受ける権利を有している者を も意味する記載であると認識することは,極めて困難であったこと,2)一 審原告は,本件発明についての特許を受ける権利の対価の支払を受けてお らず,一審原告が無償で上記特許を受ける権利を一審被告に譲渡すべき理 由もないことからすると,一審原告が一審被告に対して本件発明について の特許を受ける権利を黙示に譲渡した事実はない旨主張する。 しかしながら,上記1)の点については,前記ア認定のとおり,一審原告 は,本件出願に係る願書の作成に関与し,複数回にわたり,願書案の内容 を確認し,最終の願書案についても,Aに代わって確認し,その願書案の とおりの内容で出願することを了承しているところ,願書案中の1枚目の 願書(「特許願」と題する書面)の「特許出願人」欄に一審被告の名称が 記載されていたのであるから,一審原告が願書案の確認を行うに際し,そ の記載に気付かないはずはないし,また,特許出願について特許査定がさ れた場合には,願書に「特許出願人」と記載された者が特許権を取得する ことは,特許出願手続や願書の記載方法について知識がなくても当然に理 解できる事柄である。 また,上記2)の点については,一審原告と一審被告間の本件発明につい ての特許を受ける権利の黙示の譲渡の合意は,無償ではなく,一審被告が 相当な対価を支払うことを内容とするものであり,仮に一審原告が一審被 告から上記譲渡の対価の支払を未だ受けていないとしても,そのことは上 記合意の成立を妨げるべき事情となるものではない。 したがって,一審原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括
以上のとおり,一審原告と一審被告との間では,遅くとも本件出願時まで に,一審原告の有する本件発明についての特許を受ける権利を一審被告に相 当な対価で譲渡する旨の黙示の合意が成立したものと認められるから,上記 合意により,上記特許を受ける権利は一審被告に移転したものと認められる。 したがって,一審原告の特許を受ける権利の帰属確認請求は,理由がない。

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平成30(ネ)10001  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年6月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 会社役員Aに対して、悪意又は少なくとも重大な過失があった(会社法429条1項)として、約350万円の損害賠償が認められました。
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (a) 1審被告Aは,1審被告白石の代表取締役であり,1審被告白\n石の事業全般を統括していたが,平成22年6月4日,1審被告白 石宛ての1審原告の通知書(親和製作所の装置の販売が本件特許権 侵害である旨を指摘するもの)を受領し,本件特許権の存在を知る に至った。さらに,1審被告Aは,平成24年1月12日,1審被 告白石宛ての1審原告の通知書(親和製作所と1審原告の和解に関 するもの)を受領した。(甲15の資料5,資料9,乙73)
(b) 東京地方裁判所は,本件仮処分申立事件についての平成26年\n10月8日の審尋期日において,被告装置(WK型)が本件特許権 に係る発明の技術的範囲に属する旨の心証開示をした。(甲18)
(c) 1審被告白石は,平成26年10月24日から同月28日まで の間に,渡邊機開から,被告装置(WK型)を合計14台,本件板 状部材153個及び本件固定リング123個を購入した。1審被告 白石の平成23年から平成25年にかけての本件固定リングの購入 数は合計20個未満であり,平成26年10月24日から同月28 日までの本件固定リングの購入量はこれまでの取引状況に比して突 出して多い。(甲17の1,2)
(d) 東京地方裁判所は,平成26年10月31日,渡邊機開による 被告製品(WK型),本件固定リング及び本件板状部材の販売等を 差し止める旨の本件仮処分決定をし,1審原告は,同年11月4日 付け通知により1審被告白石に対しその旨を通知した。(甲15の 資料10)
(e) 1審被告白石は,本件仮処分決定後は,平成26年11月14 日頃から平成27年4月1日にかけて被告装置を販売した。
(f) 1審被告白石は,平成27年2月26日,鶴商に型式名を「L S−S」とする被告装置(実質は「WK−550」)を販売し,ま た,同年5月までには,渡邊機開からWK型として仕入れた被告装 置(「WK−600」)に,構成の変更がないのに「LS−G」型\nの表示を付したものを取り扱っていた。(上記2(1),甲22)
c 1審被告Aは,1審被告白石の事業全般を統括していたのであるか ら,1審被告白石の取引実施に当たっては,第三者の特許権を侵害し ないよう配慮すべき義務を負っていたというべきである。この観点か ら1審被告Aの責任について検討してみると,まず,平成22年6月 4日及び平成24年1月12日の時点で,1審被告Aにおいて,被告 装置が本件特許権に係る発明の技術的範囲に属することを知っていた ことを認めるに足りる証拠はない。なお,平成24年1月12日頃に 1審被告白石が1審原告から通知書を受領したことは上記b(a)のと おりであるが,その通知書の内容は親和製作所の装置に関するもので あり,渡邊機開製の被告装置とは直接関わるものではなかったのであ るから,1審被告Aが上記時点において被告装置につき専門家に問い 合わせるなどの調査等をせず,被告装置の販売を中止しなかったから といって,1審被告Aに重過失があったとすることはできない。 これに対し,上記b(d)によれば,1審被告Aは平成26年11月 初旬には本件仮処分決定について知ったものと認められるから,これ によって被告装置が本件特許権を侵害するおそれが高いことを十分に\n認識することができたと認められる。ところが,1審被告Aは,本件 仮処分決定を踏まえて,中立的な専門家の意見を聴取するなどの検討 をした形跡もないまま,取引を継続し,さらに被告装置の型式名につ いて工作をするなどしているのであり,これら上記bに認定した本件 仮処分決定前後の経過に照らせば,同月以降の1審被告白石による被 告装置の販売を中止するなどの措置をとらなかった1審被告Aには, 1審被告白石による本件特許権侵害について悪意又は少なくとも重大 な過失があったというべきである。 よって1審被告Aは,1審被告白石による被告装置の販売に係る 同月以降の本件特許権侵害について,会社法429条1項の責任を負 う。

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平成27(ワ)21684  特許権  民事訴訟 平成30年4月20日  東京地方裁判所(40部)

 特許権侵害事件です。争点は、本件発明「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法」は製造方法の発明か、サポート要件違反、実施可能要件違反などです。製造会社だけでなく、商社、コンビニが被告とされています。裁判所は、製造方法の発明かについては判断することなく、サポート要件違反・実施可能\要件違反として無効と判断しました。
 ところで,耐食コーティングに用いる材料の種類や成分の違いにより, 缶内の飲料に与える影響に大きな差があることは,本件特許の出願日当時, 当業者に周知であるということができる(乙34〜36)。例えば,特開平 7−232737号公開特許公報(乙36)には,「エポキシ系樹脂組成物 を被覆した場合,ワイン系飲料に含まれる亜硫酸ガス(SO2)をはじめと するガスに対するガスバリヤー性が劣っており,かつフレーバー成分の収 着性が高い。例えば,ワイン系飲料等を充填した場合,含有する亜硫酸ガ ス(SO2)が塗膜を通過して下地の金属面を腐食する虞があり,場合によ っては内容物が漏洩することもある。この亜硫酸ガスは下地の金属と反応 して硫化水素(H2S)を発生させるが,この硫化水素(H2S)は悪臭の 主要因となるばかりでなく,飲料の品質保持のため必要な亜硫酸ガス(S O2)を消費するため飲料の品質を劣化させフレーバーを損なうこととな る。また,この樹脂組成物は飲料中のフレーバーを特徴付ける成分を収着 しやすく,飲料用金属容器の内面に被覆するには官能的に充分満足のでき\nるものではない。」(段落【0004】),「一方,ビニル系樹脂組成物を被覆 した場合,…エポキシ系樹脂組成物と同様に亜硫酸ガス(SO2)等に対す るガスバリヤー性に乏しく,やはり腐食や漏洩の危険性及び官能的な問題\nがある。」(段落【0005】)との記載がある。これによれば,耐食コーテ ィングに用いる材料や成分が,ワイン中の成分と反応してワインの味質等 に大きな影響を及ぼすことは,本件特許の出願日当時の技術常識であった ということができる。
上記のとおり,耐食コーティングに用いる材料の成分が,ワイン中の成 分と反応してワインの味質等に大きな影響を及ぼし得ることに照らすと, 本件明細書に記載された「エポキシ樹脂」以外の組成の耐食コーティング についても本件発明の効果を実現できることを具体例等に基づいて当業 者が認識し得るように記載することを要するというべきである。 この点,原告は,本件発明の課題は,ワイン中の遊離SO2,塩化物及び スルフェートの含有量を所定値以下にすることにより達成されるのであ り,耐食コーティングの種類によりその効果は左右されない旨主張する。 しかし,塗膜組成物の組成を変えることにより塗膜の物性が大きく変動し, 缶内の飲料に大きな影響を及ぼすことは周知であり(乙34の第1表,乙\n35の第2,3表等),ワイン中の遊離SO2,塩化物及びスルフェートの\n含有量を所定値以下にすれば,コーティングの種類にかかわらず同様の効 果を奏すると認めるに足りる証拠はない。
(4) 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,具体例の開示がなく とも当業者が本件発明の課題が解決できると認識するに十分な記載があると\nいうことはできない。そこで,本件明細書に記載された具体例(試験)によ り当業者が本件発明の課題を解決できると認識し得たかについて,以下検討 する。
ア 本件明細書には,「パッケージングされたワインを,周囲条件下で6ヶ 月間,30℃で6ヶ月間保存する。50%の缶を直立状態で,50%の缶 を倒立状態で保存する。」(段落【0038】)との方法で試験が行われ た旨の記載がある。しかし,本件明細書には,当該「パッケージングされ たワイン」の「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度,そ の他の成分の濃度,耐食コーティングに用いる材料や成分等については何 ら記載がなく,その記載からは,当該「パッケージングされたワイン」が 本件発明に係るワインであることも確認できない。
イ また,本件明細書には,試験方法について,「製品を2ヶ月の間隔を置 いて,Al,pH,°ブリックス(Brix),頭隙酸素及び缶の目視検査に関 してチェックする。…目視検査は,ラッカー状態,ラッカーの汚染,シー ム状態を含む。…官能試験は,味覚パネルによる認識客観システムを用い\nる。」(段落【0039】)との記載がある。「頭隙酸素」については, 乙29文献(4頁下から2行〜末行)に「ヘッドスペースの酸素は,アル ミニウムの放出に関して非常に重大である」との記載があるとおり,ワイ ンの品質に大きな影響を与え得る因子であり,「官能試験」はワインの味\n質の検査であるから,いずれもその方法や結果は効果の有無を認識する上 で重要である。しかし,本件明細書には,「頭隙酸素」のチェック結果や 「目視検査」の結果についての記載はなく,「官能試験」についても「味\n覚パネルによる認識客観システム」についての説明や試験結果についての 記載は存在しない。
ウ さらに,本件発明に係る特許請求の範囲はワイン中の三つの成分を特定 した上でその濃度の範囲を規定するものであるから,比較試験を行わない と本件発明に係る方法により所望の効果が生じることが確認できないが, 本件明細書の発明の詳細な説明には比較試験についての記載は存在しな い。このため,当業者は,本件発明で特定されている「遊離SO2」,「塩 化物」及び「スルフェート」以外の成分や条件を同程度としつつ,「遊離 SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度を特許請求の範囲に記載 された数値の範囲外とした場合には所望の効果を得ることができないか どうかを認識することができない。 加えて,耐食コーティングについては,試験で用いられたものが本件明 細書に記載されている「エポキシ樹脂」かどうかも明らかではなく,まし て,エポキシ樹脂以外の材料や成分においても同様の効果を奏することを 具体的に示す試験結果は開示されていない。
エ 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された「試験」は, ワインの組成や耐食コーティングの種類や成分など,基本的な数値,条件 等が開示されていないなど不十分のものであり,比較試験に関する記載も\n一切存在しない。また,当該試験の結果,所定の効果が得られるとしても, それが本件発明に係る「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の 濃度によるのか,それ以外の成分の影響によるのか,耐食コーティングの 成分の影響によるのかなどの点について,当業者が認識することはできな い。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明に実施例として記載された 「試験」に関する記載は,本件発明の課題を解決できると認識するに足り る具体性,客観性を有するものではなく,その記載を参酌したとしても, 当業者は本件発明の課題を解決できるとは認識し得ないというべきであ る。
オ この点,原告は,本件発明の特徴的な部分は,従来存在しなかった技術 思想であり,「塩化物」等の濃度には臨界的な意義もないので,その裏付 けとなる実験結果等の記載がないとしてもサポート要件には違反しない と主張する。 しかし,前記判示のとおり,特許請求の範囲に記載された構成の技術的\nな意義に関する本件明細書の記載は不十分であり,具体例の開示がなくて\nも技術常識から所望の効果が生じることが当業者に明らかであるという ことはできない。また,「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」 に係る濃度については,その範囲が数値により限定されている以上,その 範囲内において所望の効果が生じ,その範囲外の場合には同様の効果が得 られないことを比較試験等に基づいて具体的に示す必要があるというべ きである。
・・・
(5) 以上のとおり,本件発明に係るワインを製造することは困難ではないが, 本件発明の効果に影響を及ぼし得る耐食コーティングの種類やワインの組成 成分について,本件明細書の発明の詳細な説明には十分な開示がされている\nとはいい難いことに照らすと,本件明細書の発明の詳細の記載は,当業者が 実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできず,特許\n法36条4項1号に違反するというべきである。

◆判決本文

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平成29(ワ)36543  債務不存在確認請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年3月27日  東京地方裁判所(46部)

 変わった判決なので、アップします。ライセンス料の支払い請求権の不存在確認訴訟です。
 本件は,原告が被告に対し,原告は被告との間で本件各特許のライセンス契 約を締結したことはないにもかかわらず,被告から本件各特許に係るライセン ス料の支払を請求されたとして,本件各特許のライセンス契約に基づくライセ ンス料支払債務を負わないことの確認を求める事案である。   被告は,原告が被告との間で本件各特許のライセンス契約を締結した事実を 主張立証しない。むしろ,本件における被告の主張は,原告が被告とライセン ス契約を締結せずに本件各特許に係る特許技術を使用していることを問題とす るものであって,原告と被告との間で本件各特許のライセンス契約が締結され ていないことを前提としているものといえる。 以上によれば,原告と被告との間で本件各特許のライセンス契約が締結され たとは認められず,被告が原告に対して本件各特許のライセンス契約に基づく 特許権者から「ライセンス契約していないのにライセンス料を支払えとの請求を受けました」。ありました。債務が存在しないことを確認する」との主文です。

◆判決本文

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