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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

その他特許

平成27(ネ)10048等  特許権侵害差止等請求控訴事件,仮執行の原状回復および損害賠償の申立事件  特許権  民事訴訟 平成27年11月12日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 侵害判断は1審と同じですが、下記のメンテナンス行為の禁止が追加されました。 ただし,部品の交換としての行為に限るとの条件が付加されました。
 一審被告は,本件各発明における「共回りを防止する防止手段」は,「突起物」 であるところの本件板状部材に限られ,本件固定リングは,これに該当しないから, 新しい本件固定リングを被告装置に取り付ける行為は,特許法2条3項1号の「生 産」に該当しない旨主張する。 しかし,被告装置における「共回りを防止する防止手段」(構成要件A3)は,\n「表面側の突出部」,「側面側の突出部」であり,これは,本件板状部材が本件固\n定リングに形成された凹部に嵌め込むように取り付けられて固定されることにより, 形成されるものであるから,本件板状部材のみが,単独で「共回りを防止する防止 手段」に該当するわけではない。 被告装置においては,上記イのとおり,本件板状部材が,本件固定リングの表面\nに形成された凹部に嵌め込むようにして取り付けられ,固定されることにより,「表\n面側の突出部」,「側面側の突出部」を形成するものであるから,被告装置におい て本件固定リングを交換する行為も,特許法2条3項1号の「生産」に該当すると いうべきである。
エ 上記イのとおり,一審原告は,被告装置において,本件固定リング又は本件 板状部材を,新しい本件固定リング又は本件板状部材に交換する行為の差止めを求 めることができる。 なお,被告装置において新しい本件固定リング又は本件板状部材を交換する行為 は,通常,一審被告による本件固定リング又は本件板状部材の譲渡を伴うものであ ると解されるから,これらの部材の販売の差止めと重なる部分がある。 他方,本件メンテナンス行為1の差止請求に,部品の交換以外の態様で,これら の部材を取り付ける行為の差止めを求める趣旨が含まれているとすれば,そのよう な行為は実施行為に当たらず,侵害の予防に必要な行為にも当たらないから,当該\n行為の差止請求を認める根拠はない。 オ 以上によれば,一審原告は,一審被告に対し,特許法100条1項に基づき, 前記9の差止めに加え,被告装置のいずれかに対し,本件固定リング又は本件板状 部材を取り付ける行為(ただし,部品の交換としての行為に限る。)の差止めを求 めることができる。

◆判決本文

◆原審はこちら。平成25(ワ)32555

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平成27(ワ)14339  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成27年10月14日  東京地方裁判所

 物の発明か否かが争われました。これは単純方法発明だと結果物に効力が及ばないからです。東京地裁は方法の発明であると判断しました。PBPクレームに関する最高裁判決の後だけに、要チェックですね。
問題のクレームは「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,前期テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構\造物,または,人工造成地を配置する地盤強化工法であって,前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材を設け,前記テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応するようにしたことを特徴とする地盤強化工法。」です。
イ そして,「物の発明」は,技術的思想である発明が生産,使用又は譲渡のできる対象として具現化されているものをいうと解されるから,「物の発明」についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになる(なお,特許が「物の発明」についてされている場合において,特許請求の範囲にその物の製造方法〔経時的要素〕の記載があるいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームも存在するところであるが,「物の発明」についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構\造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である〔最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・裁判所時報1629号参照〕。)。\nこれに対し,方法の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,経時的要素(時間的要素)を記載して特定することになる。
(2)ア 以上を前提に,本件特許発明について見るに,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1には,その末尾に「地盤強化工法」と記載されているところ,「工法」の通常の意味は,「工事の方法」であると解される。 この点,原告は,建設業界において,「工法」を「構造・構\成」と同義に使用することは当業者の常識である旨主張するが,本件証拠によっても,そのような常識の存在を認めるには足りない。
イ また,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮すべきところ(平成14年法律第24号による改正前の特許法70条2項参照),本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,「上記構成の地盤強化工法によれば,鉄骨などの構\造材で強化され,テーブルを地盤上に形成し,前記テーブルの上部に,建築物や道路,橋,などの構造物,または,人工造成地を配置するようにしたので,」(段落【0005】),「施工手順としては,…テーブル1を配置し,しかる後に,テーブル1内に基礎6を設けて,建築物7を築造する」(段落【0008】)などと記載されており,分説Aと分説Bの時間的前後関係を裏付ける記載がある。\nそうすると,本件特許発明の構成要件のうち,分説A「鉄骨などの構\造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,」と分説B「前記テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または人工造成地を配置する地盤強化工法であって,」によれば,本件特許発明は,地盤に「テーブル」を設置した後に,「テーブルの上部」に構\造物等を配置する「工法」であると解され,分説A及び分説Bの「テーブル」は,そのような順序で施工されるものと解するのが相当である。 この点,原告は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載のうち,「設置し」,「配置する」との文言については,施工の手順を意味するものではなく,「物の発明」であっても,仕様説明のために動詞によって記載することは本件特許の出願時の当業者にとって常識であった旨主張し,これを裏付けるものとして鹿島特許を掲げる。 しかし,鹿島特許(平成15年6月30日以前にされた出願に係るものであるから,特許請求の範囲は明細書から分離されていない。)に係る明細書の特許請求の範囲の各請求項の末尾には,「防災都市。」と記載されていることから(甲7),同特許に係る各発明は,「防災都市」に関するものであることが一義的に明らかであって,「工法」に関するものと解する余地はなく,したがって,鹿島特許の存在は,何ら原告の主張の根拠となるものでない。
ウ 以上によれば,本件特許発明は,「物の発明」でなく,「方法の発明」であることが明らかであるというべきである。
(3)ア 上記(2)の点をひとまず措いて,原告が主張するように,「工法」を「構造又は構\成」と解することを想定したとしても,「物の発明」であるというためには,いかなる「物」の構造又は構\成についての発明であるかが当該特許請求の範囲に明確に示されていること,換言すると,生産,使用又は譲渡の対象となる物が特許請求の範囲に示されていることが必要である。 しかし,原告は,「テーブル」と「緩衝材」によって構成される「構\造」につき,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】の作用や段落【0015】の効果を得ることを目的とする「物の発明」である旨主張するにとどまり,「テーブル」と「緩衝材」によって構成される「物」が何か,すなわち本件特許発明の対象\n となる「物」が何であるかを明らかにした主張をしていない。 また,本件特許の出願時において,本件特許発明の対象となる「物」をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であったとか,およそ実際的でなかったなどの事情は,何ら主張立証されていないから,仮に,本件特許発明を「物の発明」と解するならば,本件明細書の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合しないことになるところ,本件特許が出願され,特許査定されたものである以上,あえて本件特許発明を「物の発明」であるとして上記要件を満たさないとするよりも,前記のとおり,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に従って,これを「方法の発明」と解釈することが合理的であることは,明らかである。

◆判決本文

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平成27(ネ)10097  差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成27年10月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ECサイトの楽天に対する特許権侵害について、運営者(楽天)による実施(販売)とは認定されませんでした。1審は技術的範囲外で請求棄却でした。
 控訴人は,被控訴人に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造, 販売及び輸出の差止めを請求しているところ,同請求が認められるためには,被控 訴人において被告製品の製造,販売及び輸出をしていること又はそのおそれがある ことが立証されなければならない。 しかしながら,本件において,控訴人は,被控訴人が被告製品の製造,販売及び 輸出をしていること又はそれらの行為に及ぶおそれがあることについて,何らの立 証をしていない。 なお,証拠(乙ハ1〜3)によれば,1)被控訴人がインターネット上で運営する ショッピングモール「楽天市場」は,出店者が,被控訴人との間の契約に基づき, 出店ページを開設するなどして出店者の物品の販売又は役務の提供を行うものであ ること,2)上記物品の売買又は役務の提供は,出店者と上記出店ページを閲覧した 者,すなわち,顧客との間で行われ,出店者は,顧客に対し,取引の当事者は出店 者と顧客であることを明確に表示する旨が上記ショッピングモールの利用規約(乙\nハ1)に明記されていることが認められ,これらの事実によれば,たとえ被告製品 が上記ショッピングモール上に紹介されていたとしても,直ちに被控訴人が自ら当 該被告製品を販売しているということはできない。 (2)控訴人は,被控訴人が共同不法行為責任を負うなどと主張する。それが,出 店者の販売行為を教唆,幇助するものであるという趣旨であるとしても,以下のと おり,被控訴人に対して特許法100条1項に基づく販売の差止めを請求すること はできない。 ア すなわち,特許法100条1項は,特許権を侵害する者又は侵害するおそれ がある者(以下「特許権を侵害する者等」という。)に対し,その侵害の停止又は予\n防を請求することができる旨を規定しているところ,特許権を侵害する者等とは, 自ら特許発明の実施(同法2条3項)若しくは同法101条所定の行為をした者又 はそのおそれがある者を意味し,特許権侵害の教唆,幇助をした者は,これに含ま れないと解するのが相当である。 このように解する理由は,以下のとおりである。すなわち,1)民法上,不法行為 に基づく差止めは認められておらず,特許法100条1項所定の「侵害の停止又は 予防」としての差止めは,特許権の排他的効力に基づき,特許法により特に定めら\nれたものである。2)他方,教唆又は幇助による不法行為責任は,自ら他人の権利を 侵害する者ではないにもかかわらず,被害者保護の観点から特に教唆及び幇助を共 同不法行為として損害賠償責任(民法719条2項)を負わせることとしたもので あり,上記1)の特許権の排他的効力に基づく特許法100条1項所定の差止請求権 とは,制度の目的,趣旨において異なる。3)教唆又は幇助については,その行為態 様として様々なものがあり,特許権侵害の教唆行為又は幇助行為に対して無制限に 差止めを認めると,差止請求の相手方が無制限に広がり,差止めの範囲が広範にす ぎるなどの弊害が生じるおそれがあるところ,特許法101条所定の間接侵害の規 定は,上記弊害の点に鑑み,特許権侵害の幇助行為の一部の類型に限り侵害とみな して差止めの対象としたものと解されるから,それを超えて幇助行為一般及び教唆 行為について差止めを認めることは,同条の趣旨に反するものということができる。 イ そして,前記(1)によれば,被控訴人が本件発明を実施したとは認められず, 特許法101条所定の行為をしたとも認められないし,そのおそれもないから,被 控訴人に対する製造,販売及び輸出の差止請求が認められる余地はない。

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第23512号

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平成26(行ケ)10235  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年8月26日  知的財産高等裁判所

特許法167条の「同一の事実及び同一の証拠」ではないと判断されました。
 本件審判の請求書における上記記載によれば,原告は,本件審判の無効理由とし て,甲1文献に記載された従来技術と甲3公報に記載された「OS1」との組合せ による容易想到性(特許法29条2項)を主張していること,すなわち,甲1文献 に記載された従来技術である「ガラス瓶,金属表面の洗浄において2%以上のNa\nOH(水酸化ナトリウム)水溶液が,キレート剤としてコンプレクサン型であるE DTAを添加して常用されていたこと」を主引用発明とし,生分解が低いという問 題があるEDTAを,それと同じくコンプレクサン型の生分解性に優れるキレート 剤に変更するという技術思想が甲2公報に記載されていることを動機付けとして, 甲3公報に記載された,同じくコンプレクサン型の生分解性に優れるキレート剤で ある「OS1」を,主引用発明におけるEDTAに代えて用いて,「2%以上のN aOH水溶液に,キレート剤として「OS1」を添加して,ガラス瓶,金属表面の\n洗浄に用いる」ことにより,本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到す\nることができたと主張しているものと解される。 イ 本件審判の請求書には,上記の記載のほかにも「甲第3号証には,グルタミ ン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウムとの相乗作用について記載が ない。しかし,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウムを含 有する「OS1」をそのまま甲第1号証のEDTAの代わりに用いるという構成が\n容易に想到される以上,グリコール酸ナトリウムによる効果を見出したことは単な る効果の発見である。ここで留意すべきは,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩と グリコール酸ナトリウムが夫々別の2つの刊行物に記載されていて,2つの刊行物 の記載を組み合わせることが容易である,と言うのではないことである。一つの刊 行物にひとつの組成物OS1として既に組み合わされているのである。」などとの 記載がある(甲8)。これは,甲1文献記載の主引用発明におけるEDTAの代わ りに甲3公報記載のグルタミン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウム を含有する「OS1」を用いる構成が容易に想到されることを前提とした記載であ\nり,第2判決が,本件発明1における,水酸化ナトリウム,アミノジカルボン酸二 酢酸塩類であるアスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並 びにグリコール酸ナトリウムの3成分を混合した洗浄剤組成物が,それぞれの相乗 効果により優れた洗浄性能を有し,この点は当業者が予\測し得ない効果である,と 判断したことに対する反論として述べた部分であると解される。第2判決は,第2 審判における無効理由(主引用発明を甲3公報ないし甲4公報におけるOS1とし た無効理由)について判断した第2審決の判断を是認したものであり,第2審判と は異なる無効理由による無効審判を求めている本件審判について,法律上の拘束力 があるものではないものの,当事者が予測し得ない効果と判断した上記部分は,本\n 件審判における無効理由の判断にも事実上の影響力があり得るため,原告は,本件 審判における請求書に上記のとおり記載したものと考えるのが合理的であり,この 記載は,本件審判において原告が主張する無効理由が前記認定のものであることに 何ら影響を与えるものではない。 また,本件審判の請求書には,「甲第1号証は,そのタイトル「入門キレート化 学」とあるように,学生レベルの参考書であり,1988年当時の技術常識を示す ものである。甲第3号証のOS1を技術常識に従って使用することを,数年遅れて 出願された特許で禁じるのは,不合理である。」とか「甲第1および2号証から周 知のように,コンプレクサン型キレート剤をアルカリ条件下にするための典型的な アルカリ物質として本件発明は水酸化ナトリウムを挙げたにすぎない。」とかの記 載もあるが,これらの記載も本件審判における無効理由が前記認定のとおりである ことと何ら矛盾するものではない。 なお,原告は,本件審判の請求書において,主引用例とか主引用発明とかの用語 を使用せず,本件発明と主引用発明との一致点,相違点も主張しておらず,この点 でどの発明が主引用発明であるかについてやや主張の明確性を欠いており,本来は, 審判請求書としてはこの点をより明確に記載すべきであった。しかし,本件審判の 請求書全体を慎重に検討すれば,その主引用発明を甲1文献記載の発明と解するほ かないことは前記認定のとおりである。 ウ これに対し,本件審決は,前記認定のとおり,本件審判において原告が主張 する無効理由における主引用発明は,第2審判における主引用発明である,甲3公 報ないし甲4公報に記載された「OS1」なる金属イオン封鎖剤組成物(引用発明 1bないし引用発明2b)であると認定したのであり,本件審決のこの認定は誤り である。
(2) 特許発明が出願時における公知技術から容易想到であったというためには, 当該特許発明と,対比する対象である引用例(主引用例)に記載された発明(主引 用発明)とを対比して,当該特許発明と主引用発明との一致点及び相違点を認定し た上で,当業者が主引用発明に他の公知技術又は周知技術とを組み合わせることに よって,主引用発明と,相違点に係る他の公知技術又は周知技術の構成を組み合わ\nせることが,当業者において容易に想到することができたことを示すことが必要で ある。そして,特許発明と対比する対象である主引用例に記載された主引用発明が 異なれば,特許発明との一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づ いて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになるのであるから,主引用発 明が異なれば,無効理由も異なることは当然である。 これを本件についてみれば,本件発明1は,「水酸化ナトリウム,アスパラギン 酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類及びグリコール酸ナトリウムを 含有し,水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1〜40重量%であることを特 徴とする洗浄剤組成物」であるのに対し,甲1文献に記載された主引用発明は, 「2%以上の水酸化ナトリウム熱水溶液及びEDTA等のキレート剤を含有するガ ラス瓶の洗浄剤組成物」であるから,水酸化ナトリウム水溶液とキレート剤を含む 洗浄剤組成物の点で本件発明1と一致し(水酸化ナトリウムの含有量も重複してい る。),キレート剤として,本件発明1が「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/また はグルタミン酸二酢酸及びグリコール酸ナトリウムを含有」するのに対し,甲1文 献に記載された主引用発明は,EDTA等であり,キレート剤の組成において相違 するものと認められる。これに対し,本件発明1と第2審判における主引用発明と の一致点及び相違点1’ないし相違点4’又は相違点5’ないし相違点8’は,前 記認定のとおりであり,これとは明らかに異なるものである。 また,主引用例は,特許発明の出願時における公知技術を示すものであればよい のであるから,甲1文献のように出願時における周知技術を示す文献であっても, 主引用例になり得ることも明らかであり,これを主引用例たり得ないとする理由は ない。さらに,主引用発明が同一であったとしても,主引用発明に組み合わせる公 知技術又は周知技術が実質的に異なれば,発明の容易想到性の判断における具体的 な論理構成が異なることとなるのであるから,これによっても無効理由は異なるも\n のとなる。 よって,特許発明と対比する対象である主引用例に記載された主引用発明が異な る場合も,主引用発明が同一で,これに組み合わせる公知技術あるいは周知技術が 異なる場合も,いずれも異なる無効理由となるというべきであり,これらは,特許 法167条にいう「同一の事実及び同一の証拠」に基づく審判請求ということはで きない。

◆判決本文

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平成27(ネ)10011  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成27年6月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特103条の過失の推定が争われました。知財高裁は1審の判断を維持しました。
 被告は,過失推定の覆滅事由として,被告が,管渠築造工事の完了ごとに, 一般的な形状のインバートであることを確認した上で,引渡しを受けていたこと, 被告が,インバートを適切に管理してきたこと,原告又は原告の関係者が,一般的 な形状のインバートを,本件特許権を侵害する態様に施工したことを主張する。 特許法103条は,「他人の特許権・・・を侵害した者は,その侵害の行為につい て過失があったものと推定する。」と規定している。ここにいう「侵害」とは,特許 権者又は使用権者以外の第三者が,特許発明を実施することであり(特許法68条 参照),物の発明の場合の実施とは,具体的には,その物の生産のみならず使用も含 まれる(特許法2条3項1号)。本件発明は,マンホール用のインバートに関する発 明であるから,本件特許の特許権者でも使用権者でもない被告は,本件発明の技術 的範囲に含まれるインバートを生産した場合はもちろんのこと,本件発明の技術的 範囲に含まれるインバートを使用した場合も,本件特許権を侵害したことになる。 そして,上記で認定したとおり,少なくとも,平成24年6月27日の時点におけ る被告物件1の構成が別紙2−1のとおりであり,平成24年9月12日の時点に\nおける被告物件2の構成が別紙2−2のとおりであるから,被告は,そのころには,\n被告物件1及び2を,本件特許権を侵害する態様で使用していたものと認められる。 したがって,被告は,かかる被告物件1及び2の使用行為についての過失が推定さ れることになる。 そして,特許法103条で推定されている過失とは,特許権侵害の予見義務又は\n結果回避義務違反のことを指すから,過失推定の覆滅事由としては,特許権の存在 を知らなかったことについて相当の理由があるといえる事情,自己の行為が特許発 明の技術的範囲に属さないと信じることについて相当の理由があるといえる事情な どが挙げられる。 以上を前提に,被告に過失推定の覆滅事由が認められるか検討する。
(2) まず,被告は,過失推定の覆滅事由として,管渠築造工事の完了ごとに, 一般的な形状のインバートであることを確認した上で,引渡しを受けていたことを 主張する。これは,自己の行為が特許権を侵害しないと信じることについて相当の 理由があるといえる事情を指摘するものと解される。 しかしながら,かかる主張は,被告が,被告物件1及び2の施工時において,十\n分な注意を払っていたこと,すなわち,特許発明の生産時における過失の覆滅事由 を指摘するものにすぎず,その後の使用時における過失の覆滅事由とはいえない。 なぜならば,被告物件1及び2が,一旦,本件特許を侵害しない態様で施工された としても,その後,仕様が変更され,本件特許を侵害する可能性があるからである。\n生産の時点で,特許侵害の有無を確認していれば,その後の使用期間中は,一切注 意を払う必要がないとはいえない以上,その後,被告が生産時の確認をもって,そ の後の使用時に特許侵害がないと信じたとしても,これを正当化することはできな い。下水道法3条は,公共下水道の設置のみならず,維持その他の管理をも市町村 が行うと規定しており,被告には,法律上,公共下水道の維持管理権限が付与され ているのであって,インバート使用についての維持管理責任を果たすことについて, 法的な障害はない。

◆判決本文

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平成27(ネ)10035  証書真否確認請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成27年6月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

本件各文書は民事訴訟法134条所定の「法律関係を証する書面」には当たらないと判断した地裁の判断が維持されました。
 この点,控訴人は,被控訴人代理人の別件訴訟の弁論期日における弁論内 容において,本件各文書は,本件借用証書に記載された被控訴人から控訴人 への1000万円の融資に関連して作成された文書であることが明らかにさ れていることから,本件借用証書と本件各文書には一体性があるとし,した がって,本件各文書が「法律関係を証する書面」に当たるか否かを判断する に当たっては,本件借用証書を参照して本件各文書の記載内容を特定するこ とができる旨を主張する。 しかしながら,既に述べたとおり,民事訴訟法134条所定の「法律関係 を証する書面」とは,書面自体の記載内容から直接に一定の現在の法律関係 の存否が証明される書面をいうものと解されるのであるから,本件各文書が これに当たるか否かの判断に当たっては,本件各文書の記載内容のみに基づ いて判断されるべきであって,これとは別個の書面である本件借用証書を参 照し,そこに記載された内容を補充して本件各書面の記載内容を特定するこ とはできないというべきである。 他方,仮に,本件各文書と本件借用証書とが,その体裁において一体とな っていたり,本件各文書の記載自体において本件借用証書の記載を参照すべ きこととされているような事情があるのであれば,両者を一体の書面とみて, 本件借用証書を参照して本件各文書の記載内容を特定することも許される余 地があると考えられるが,本件において,そのような事情は認められない。 控訴人が上記で主張するのは,要するに,本件各文書それ自体の体裁や記載 内容とは別の事情から,本件各文書が本件借用証書と関連する文書として作 成された事実が認められるということにすぎず,そのような事実が認められ るからといって,本件各文書が「法律関係を証する書面」に当たるか否かを 判断するに当たって,本件借用証書を参照することができるとすべき理由は ない。

◆判決本文

◆原審はこちら 平成26(ワ)25384

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平成26(行ケ)10206  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年6月24日  知的財産高等裁判所

 珍しい無効理由です。特38条(共同出願要件違反)を理由に無効とした審決が維持されました。
 原告は,仮に,本件設計図を見た後に,Aが放出孔や薬剤袋との位置関係が 課題解決原理であると着想し,具体化したとしても,本件発明の課題解決原理を着 想したのはAのみということになるから,本件発明の発明者はAであると主張する。 確かに,Bが本件設計図において放出孔を外袋の上方に定めたのは,上方に設け た方が衣服に直接かかる二酸化塩素が少なくなり,衣服が漂白されるおそれが少な くなると考えたからであり(前記2(6)),Bは,CL−40の内袋の量について特 段CL−30の内袋の量から変更する必要があると考えていたものではなく(弁論 の全趣旨),本件設計図作成の際に外袋に薬剤袋を封入した試作品を作成したことも, 外袋の放出孔と薬剤袋の厚み方向の位置関係について特段検討したことがあるとも 認められない。また,審判での証言内容をみても,Bが,本件設計図を送信した当 時,外袋と内袋との間に隙間を設け,放出孔を同隙間部分に設けることの技術的意 義について十分に理解していたとは認められない。\nしかし,CL−40はCL−30の改良品という位置づけであるから,CL−4 0の外袋には不織布入りの薬剤袋(内袋)を封入して完成品とすることは当事者の 間で当然の前提となっていたものである。そして,前記のとおり,当時のCL−3 0の薬剤袋(内袋)の規定分包薬剤量は6.5gというCL−40の薬剤袋の規定 分包薬剤量(7g)よりも少ないものであり,本件設計図の外袋を試作し,CL− 30の薬剤袋と同様の薬剤袋を当該外袋に入れさえすれば,製品の下部においては 薬剤の重みと厚みのため内袋と外袋は接しているが,上部においては内袋と外袋の 間に隙間ができ,その部分に放出孔が位置するという発明特定事項hの構成を備え\nた製品となるのである。なお,被告も,本件設計図の作成に先立ち,平成23年3 月7日及び同月22日にはサンプルとしてCL−30をエンブロイから購入してお り(甲39,75),当時の薬剤袋(内袋)の規定分包薬剤量は6.5gであったと ころ,Bは,CL−40においてCL−30と異なる内袋を使用する必要があると の認識をもっていたものではないから,試作品を作成しなくとも,本件設計図の外 袋にCL−30の内袋を封入すれば,上部においては内袋と外袋の間に隙間ができ, その部分に放出孔が位置するということは当然に推測できたものといえる。 そうすると,完成したCL−40の試作品の外袋と薬剤袋との間に隙間があり, その隙間に放出孔が位置するという構成(発明特定事項h)となることに着目し,\n同構成により二酸化塩素の除放を可能\とするという技術的意義自体に気が付き,本 件発明1を完成させたのがAであるとしても,それはBの創作した外袋により生じ た発明特定事項hの構成についての技術的意義を発見したものであり,Aが単独で\n本件発明1の「創作」をしたものとはいえない。そして,Bは,前記のとおり別な 技術的理由に基づき,上記の外袋に構成に想到したとしても,少なくともそのよう\nな構成を具体化する上ではBの着想し,具体化した放出孔の位置が貢献したことに\nなるから,原告の上記主張は,Bが本件発明の共同発明者であることを否定する理 由とはならないというべきである。

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平成27(ワ)4552  不当利得返還請求事件  実用新案権  民事訴訟 平成27年5月28日  東京地方裁判所

 旧実案に基づく分割出願がH22年に登録されましたが、出願日からの制限によりすぐに抹消登録となりました。原告は登録前の実施について侵害として訴えましたが、請求棄却されました。本人訴訟かと思いますが、代理人がついてます。
 実用新案権は設定の登録により発生するところ(実用新案法14条1項),前提事実(1)のとおり,本件実用新案権について設定の登録がされたのは平成22年4月2日であるから,昭和59年9月5日から平成6年9月5日までの期間における被告製品の製造販売が本件実用新案権の侵害に当たることはなく,これにより原告に損失が生じ,又は原告が損害を被ったということはできない。したがって,同期間における被告製品の製造販売によって不当利得返還請求権又は不法行為による損害賠償請求権が発生したとは認められない。これに対し,原告は,不当利得返還請求権又は損害賠償請求権の発生原因事実は本件実用新案権の登録前に既に生じていたから,その登録に伴って不当利得返還請求権又は損害賠償請求権が権利として顕在化した旨主張するが,行為時に適法であった製造販売がその後に実用新案登録がされたことにより法律上の原因を欠き,又は違法になるとする余地はない。したがって,原告の主張を採用することはできない。

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平成24(ワ)7971等  特許権移転登録手続等請求事件  特許権  民事訴訟 平成27年4月24日  東京地方裁判所

 取締役会決議がなく、かつこれにつき悪意であるから合意は無効であるとの主張は認められませんでした。
   上記1で認定したとおり,本件各移転登録に関し,前提となる本件譲渡契約についての代金債務の一部とみられる特許保証金等につき,原告Cに対する貸付金債権との相殺処理等がされているところ,原告会社は,この処理は利益相反取引に当たり,原告会社における取締役会決議は存せず,エコラインはこれにつき悪意であるから各相殺合意は無効である旨主張し,A事件被告らは,本件の事実関係に照らせば原告会社が相殺合意の無効を主張するのは信義則に反する旨主張するので,以下この点につき検討する。 上記1で認定した事実によれば,本件譲渡契約の代金債務の一部とみられる特許保証金等について原告Cに対するエコラインの貸付金債権等との相殺合意につき,原告会社との関係で利益相反取引に当たるものが含まれ得るとみられるところ,平成20年5月ないし平成22年5月までの間においては,原告Cは,原告会社の代表者であるとともにエコラインの会長などとして同社の実質的な経営者であり,エコラインの代表\者ではない時期から代表者勘定を利用して上記相殺処理の前提となる使途不明金を作出した者であること,\n原告会社は,本件A事件の訴え提起時においても原告Cが代表者であったほか,その他の取締役も原告Cの姉などであり,前記1(10)のPの陳述書にみられるとおり,原告会社の社員でもエコラインの社員でもないPが平成16年頃から原告会社の現金出納を行うようになったとするなど原告会社は実体に乏しく,これは本件A事件訴え提起に至るまで同様とみられること等からすれば,原告Cの合意の下に行われた各相殺合意につき,原告会社において,同社の取締役会決議が存しないことを理由にその無効を主張するのは,仮に原告会社における取締役会決議が存しないものとしても,信義則に反し許されないものというべきであり,原告会社はその無効を主張することはできないというべきである。

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平成24(ワ)15621  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成27年1月22日  東京地方裁判所

 かなりレアの判断です。侵害ではあるが、過剰な差止を認めることとなるとして、差止請求が棄却されました。
 原告は,本件における差止めの対象を,被告合金1及び2のうち,X線ランダム強度比の極大値が6.5以上のものであると限定するが,同一の製造条件で同一組成のCu−Ni−Si系合金を製造した場合,当然に,X線ランダム強度比の極大値が同一になることまでをも認めるに足りる証拠はなく,かえって,前記のとおり,製造ロットや測定部位の違いによりこれが変動する可能性があることからすると,正確なX線ランダム強度比の極大値については,製造後の合金を測定して判断せざるを得ないことになるが,この場合,どの部位を測定すればよいか,また,ある部位において構\成要件Dを充足するX線ランダム強度比の極大値が測定されたとしても,どこまでの部分が構成要件Dを充足することになるのかといった点について,原告は,その基準を何ら明らかにしていない。\nそうすると,被告の製品において,たまたま構成要件Dを充足するX線ランダム強度比の極大値が測定されたとして,当該製品全体の製造,販売等を差し止めると,構\成要件を充足しない部分まで差し止めてしまうことになるおそれがあるし,逆に,一定箇所において構成要件Dを充足しないX線ランダム強度比の極大値が測定されたとしても,他の部分が構\成要件Dを充足しないとは言い切れないのであるから,結局のところ,被告としては,当該製品全体の製造,販売等を中止せざるを得ないことになる。そして,構成要件Dを充足する被告合金1及び2が製造される蓋然性が高いとはいえないにせよ,甲5のサンプル2のように,下限値付近の測定値が出た例もあること(なお,原告は,これが構\成要件Dを充足しないことを自認している。)に照らすと,本件で,原告が特定した被告各製品について差止めを認めると,過剰な差止めとなるおそれを内包するものといわざるを得ない。 さらに,原告が特定した被告各製品を差し止めると,被告が製造した製品毎にX線ランダム強度比の極大値の測定をしなければならないことになるが, これは,被告に多大な負担を強いるものであり,こうした被告の負担は,本件発明の内容や本件における原告による被告各製品の特定方法等に起因するものというべきであるから,被告にこのような負担を負わせることは,衡平を欠くというべきである。 これらの事情を総合考慮すると,本件において,原告が特定した被告各製品の差止めを認めることはできないというべきである。

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平成24(ワ)15621  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成27年1月22日  東京地方裁判所

 かなりレアの判断です。侵害ではあるが、過剰な差止を認めることとなるとして、差止請求が棄却されました。
 原告は,本件における差止めの対象を,被告合金1及び2のうち,X線ランダム強度比の極大値が6.5以上のものであると限定するが,同一の製造条件で同一組成のCu−Ni−Si系合金を製造した場合,当然に,X線ランダム強度比の極大値が同一になることまでをも認めるに足りる証拠はなく,かえって,前記のとおり,製造ロットや測定部位の違いによりこれが変動する可能性があることからすると,正確なX線ランダム強度比の極大値については,製造後の合金を測定して判断せざるを得ないことになるが,この場合,どの部位を測定すればよいか,また,ある部位において構\成要件Dを充足するX線ランダム強度比の極大値が測定されたとしても,どこまでの部分が構成要件Dを充足することになるのかといった点について,原告は,その基準を何ら明らかにしていない。\nそうすると,被告の製品において,たまたま構成要件Dを充足するX線ランダム強度比の極大値が測定されたとして,当該製品全体の製造,販売等を差し止めると,構\成要件を充足しない部分まで差し止めてしまうことになるおそれがあるし,逆に,一定箇所において構成要件Dを充足しないX線ランダム強度比の極大値が測定されたとしても,他の部分が構\成要件Dを充足しないとは言い切れないのであるから,結局のところ,被告としては,当該製品全体の製造,販売等を中止せざるを得ないことになる。そして,構成要件Dを充足する被告合金1及び2が製造される蓋然性が高いとはいえないにせよ,甲5のサンプル2のように,下限値付近の測定値が出た例もあること(なお,原告は,これが構\成要件Dを充足しないことを自認している。)に照らすと,本件で,原告が特定した被告各製品について差止めを認めると,過剰な差止めとなるおそれを内包するものといわざるを得ない。 さらに,原告が特定した被告各製品を差し止めると,被告が製造した製品毎にX線ランダム強度比の極大値の測定をしなければならないことになるが, これは,被告に多大な負担を強いるものであり,こうした被告の負担は,本件発明の内容や本件における原告による被告各製品の特定方法等に起因するものというべきであるから,被告にこのような負担を負わせることは,衡平を欠くというべきである。 これらの事情を総合考慮すると,本件において,原告が特定した被告各製品の差止めを認めることはできないというべきである。

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平成25(ワ)21383  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成27年2月18日  東京地方裁判所

 FRAND宣言している場合の、差止請求権を有する旨の告知について、不競法の営業誹謗行為であると認定されました。被告は、ブルーレイのパテントプール管理会社です。
 本件告知は,「上記特許権の各特許権者は,貴社に対し,上記特許権侵害行為の差止めを請求する権利及び上記特許権侵害行為によって生じた損害の賠償をする請求する権利を有しております。」と記載しているところ(甲4),原告は,FRAND宣言を行った被告プール特許権者による差止請求権の行使は権利濫用となり,被告プール特許権者が即時の差止請求権を有しているとはいえないのに,これを有しているかのように記載したことは虚偽の事実の告知に該当する,と主張する。
イ そこで,まず,FRAND宣言と差止請求権の行使の関係について検討するに,FRAND宣言された必須特許(以下「必須宣言特許」という。)に基づく差止請求権の行使を無限定に許すことは,次に見るとおり,当該規格に準拠しようとする者の信頼を害するとともに特許発明に対する過度の保護となり,特許発明に係る技術の社会における幅広い利用をためらわせるなどの弊害を招き,特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがあり合理性を欠くものといえる。 すなわち,ある者が,標準規格へ準拠した製品の製造,販売等を試みる場合,当該規格を定めた標準化団体の知的財産権の取扱基準を参酌して,当該取扱基準が,必須特許についてFRAND宣言する義務を会員に課している等,将来,必須特許についてFRAND条件によるライセンスが受けられる条件が整っていることを確認した上で,投資をし,標準規格に準拠した製品等の製造・販売を行う。仮に,後に必須宣言特許に基づく差止請求を許容することがあれば,FRAND条件によるライセンスが受けられるものと信頼して当該標準規格に準拠した製品の製造・販売を企図し, 投資等をした者の合理的な信頼を損なうことになる。必須宣言特許の保有者は,当該標準規格の利用者に当該必須宣言特許が利用されることを前提として,自らの意思で,FRAND条件でのライセンスを行う旨の宣言をしていること,標準規格の一部となることで幅広い潜在的なライセンシーを獲得できることからすると,必須宣言特許の保有者がFRAND条件での対価を得られる限り,差止請求権行使を通じた独占状態の維持を保護する必要性は高くない。そうすると,このような状況の下で,FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者に対し,必須宣言特許による差止請求権の行使を許すことは,必須宣言特許の保有者に過度の保護を与えることになり,特許発明に係る技術の幅広い利用を抑制させ,特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害することになる。 そうすると,必須宣言特許についてFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者に対し,FRAND宣言をしている者による特許権に基づく差止請求権の行使を許すことは,相当ではない。 他面において,標準規格に準拠した製品を製造,販売する者が,FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しない場合には,かかる者に対する差止めは許されると解すべきである。FRAND条件でのライセンスを受ける意思を有しない者は,FRAND宣言を信頼して当該標準規格への準拠を行っているわけではないし,このような者に対してまで差止請求権を制限する場合には,特許権者の保護に欠けることになるからである。もっとも,差止請求を許容することには,前記のとおりの弊害が存することに照らすならば,FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しないとの認定は厳格にされるべきである。 以上を総合すれば,FRAND宣言をしている特許権者による差止請求権の行使については,相手方において,特許権者が本件FRAND宣言をしたことに加えて,相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意 思を有する者であることの主張立証に成功した場合には,権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されないと解される(以上につき,知財高裁平成26年5月16日決定・判時2224号89頁[乙21大合議決定])。

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