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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

その他特許

令和4(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年12月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。知財高裁は、新規性無しとして、権利行使不能とした1審の判断を維持しました。

(ア) 前記(2)のとおり、本件発明と乙1発明との相違点は、「医薬組成物につ いて、本件発明では、『非外傷性である前腕部骨折を抑制するため』のも のであると特定されているのに対して、乙1発明では、『骨粗鬆症治療薬』 であると特定されている点。」にある(相違点1)ところ、控訴人は、本 件発明につき、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者群において予測されていなかった顕著な効果を奏するものであり、エルデカルシトール\nの新たな属性を発見し、それに基づく新たな用途への使用に適すること を見出した医薬用途発明であるから、相違点1に係る本件発明の用途 (「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」)は乙1発明の「骨粗 鬆症治療薬」の用途とは区別される旨主張する。
(イ) そこで検討するに、公知の物は、原則として、特許法29条1項各号 により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、 その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した 発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公 知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解さ れる。 そして、前記1(2)のとおり、本件発明の医薬組成物は、高齢者や骨粗 鬆症患者等の骨がもろくなっている者が転倒等した際に、前腕部である 橈骨又は尺骨に軽微な外力がかかって生じる骨折のリスク、すなわち前 腕部における非外傷性骨折のリスクに着目して、その用途が「非外傷性 である前腕部骨折を抑制するため」と特定されている(相違点1)もの である。
(ウ) しかしながら、前記(3)イの技術常識によれば、当業者は、乙1発明の 「骨粗鬆症治療薬」につき、椎体、前腕部、大腿部及び上腕部を含む全 身の骨について骨量の減少及び骨の微細構造の劣化による骨強度の低下が生じている患者に対し、各部位における骨折リスクを減少させるた\nめに投与される薬剤であると認識するものといえる。また、前記(3)ア、 エ及びオの各技術常識によれば、当業者は、エルデカルシトールの効果 は海綿骨及び皮質骨のいずれに対しても及ぶと期待するものであり、海 綿骨及び皮質骨からなる前腕部の骨に対してもその効果が及ぶと認識 するものといえる。さらに、前記(3)イ及びウの技術常識によれば、当業 者は、骨粗鬆症においては身体のいずれの部位も外力によって骨折が生 じるものであり、また、前腕部における骨折リスクは、骨強度が低下す ることによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他 の部位における骨折リスクと共通するものであると認識するものとい える。
以上の事情を考慮すると、当業者は、骨粗鬆症患者における前腕部の 骨の病態及びこれに起因する骨折リスクについて、他の部位の骨の病態 及び骨折リスクと異なると認識するものではなく、また、乙1発明の「骨 粗鬆症治療薬」としてのエルデカルシトールを投与する目的及びその効 果についても、前腕部と他の部位とで異なると認識するものではないと いうべきである。
(エ) さらに、本件優先日前に公開された乙12の文献には、エルデカルシ トールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑制す ることが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されているこ とに加え、前記(3)エ及びオの技術常識によれば、エルデカルシトールに よる前腕部を含む全身の骨折リスクの減少作用は、経口投与されて体内 に吸収されたエルデカルシトールが、骨に対して直接的又は間接的に何 らかの作用を及ぼすことによって達成されるものであるといえるとこ ろ、本件明細書には、骨折リスクを減少させようとする部位が前腕部で ある場合と他の部位である場合とで、エルデカルシトールが及ぼす作用 に相違があることを示す記載は存しない。そして、前記(3)ウ及びオの技 術常識を考慮しても、本件明細書の記載から、エルデカルシトールの作 用に関して上記の相違があると把握することはできない。 そうすると、当業者は、前腕部の骨折リスクを減少させるために投与 する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデカルシトールの作 用が相違すると認識するものではないというべきである。
(オ) 以上によれば、エルデカルシトールの用途が「非外傷性である前腕部 骨折を抑制するため」と特定されることにより、当業者が、エルデカル シトールについて未知の作用・効果が発現するとか、骨粗鬆症治療薬と して投与されたエルデカルシトールによって処置される病態とは異な る病態を処置し得るなどと認識するものではないというべきである。 そうすると、本件発明については、公知の物であるエルデカルシトー ルの未知の属性を発見し、その属性により、エルデカルシトールが新た な用途への使用に適することを見出した用途発明であると認めることは できないから、相違点1に係る用途は乙1発明の「骨粗鬆症治療薬」の 用途と区別されるものではない。
(カ) したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 控訴人の原審における主張(原判決「事実及び理由」の第2の4(2)及び
(3))及び当審における補充主張に対する判断
(ア) 前記第2の3(1)〔控訴人の主張〕アの主張について
a 控訴人は、前腕部骨折は他の部位の骨折とは異なる特徴を有するこ と、乙1文献には前腕部骨折を抑制する骨粗鬆症治療薬が開示されて いるものではないことなどを理由に、本件発明の用途は乙1発明の用 途と客観的に区別することができる旨主張する。 しかしながら、前記(3)ウの技術常識によれば、前腕部骨折は、身体 的活動性が比較的高い前期高齢者等において好発する特徴があるとい えるものの、上記アで検討したとおり、前腕部の骨と他の部位の骨と で病態が異なるものとはいえず、また、前腕部の骨折リスクを減少さ せるために投与する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデ カルシトールの作用が相違するともいえないことからすれば、前腕部 骨折に上記の特徴があるからといって、本件発明の用途は乙1発明の 用途と客観的に区別することができるものとはいえない。
また、前記(1)のとおり、乙1文献には、エルデカルシトールにつき、 動物実験において、骨密度増加効果がアルファカルシドールよりも強 力であるところ、骨密度の増加は骨強度の増加を伴っていると考えら れること、第II)相臨床試験において、腰椎骨及び大腿骨の骨密度の増 加が認められ、ビタミンD補充効果に依存せずに強力に骨密度を増加 させたものと考えられること、新規椎体骨折発生頻度を主要評価項目 としてアルファカルシドールの効果と比較する更なる臨床試験が進行 中であることが記載されているところ、前記(3)ウないしオのとおり、 エルデカルシトールがアルファカルシドールに比して有意に優れた骨 強度改善効果等を有していることや、前腕部の骨折リスクは他の部位 と同様に骨強度が低下することによって増加するものであることが技 術常識であったこと、上記ア(エ)のとおり、本件優先日当時、エルデカ ルシトールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑 制することが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されてい る文献(乙12)が存在したことを併せ考慮すれば、当業者は、乙1 文献の記載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前 腕部についても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制 するものであることを、合理的に予測し得たものといえる。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 同イの主張について
a 控訴人は、一般に患者群の特徴に応じて薬剤が選択されており、骨 粗鬆症においても個々の患者の状態に応じて様々な薬剤が使い分けら れているところ、本件発明は、前腕部骨折の抑制が特に求められる患 者という限定された患者群に対して顕著な効果を奏するものとして、 従来技術とは区別された新規性を有する旨主張する。しかしながら、上記アで検討したとおり、前腕部の骨折リスクは、骨強度が低下することによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他の部位における骨折リスクと共通するものであるか ら、骨粗鬆症患者のうち、全身の骨折の抑制が必要とされる者と前腕 部の骨折の抑制が特に必要とされる者とを客観的に区別することはで きないというべきである。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 同ウの主張について
a 控訴人は、本件試験に係る結果において、エルデカルシトールが、 既存薬剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制 が特に求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されている旨主張する。\n
そこで検討するに、本件明細書には、アルファカルシドールを比較 薬とした無作為割付二重盲検群間比較試験である本件試験において、 非外傷性の前腕部骨折の3年間の発生頻度が、アルファカルシドール 投与群においては523例中17例(骨折確率3.63%)であり、 エルデカルシトール投与群においては526例中5例(骨折確率1. 07%)であったこと、これらの骨折発生頻度を層化ログランク検定 及び層化コックス回帰により比較した結果、アルファカルシドール投 与群の骨折確率を1とした際のエルデカルシトール投与群の骨折確率、 すなわちハザード比は0.29であったこと、これにより、エルデカ ルシトール投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したことが 判明したこと、これらの試験結果の結論として、アルファカルシドー ル投与群に対するエルデカルシトール投与群の明らかな優越性が認め られたことが記載されている。
しかしながら、上記アで検討したとおり、当業者は、乙1文献の記 載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前腕部につ いても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制するもの であることを、合理的に予測し得たものといえることからすれば、エルデカルシトール投与群における前腕部骨折危険率が減少することも\n予測し得たというべきである。また、ハザード比を用いた解析においては、対照群におけるイベントの発生率が小さい場合には、臨床上の\nわずかな差が大きな数値に置き換えられてしまうことがあることが知 られているところ(乙20、22)、本件試験においては、対照群であ るアルファカルシドール投与群における骨折確率が3.63%と小さ かったことからすれば、ハザード比の値に基づいてエルデカルシトー ル投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したと算定されたこ とについては、臨床上のわずかな差が大きな数値に置き換えられてし まった結果である可能性を否定することができない。また、本件試験において、アルファカルシドール投与群における骨\n折確率とエルデカルシトール投与群における骨折確率との差(絶対リ スク減少率)は、前腕部骨折については2.56%、椎体骨折につい ては4.1%であり、椎体骨折の方が前腕部骨折よりも大きな値とな る。
以上の事情を考慮すると、上記のハザード比の値のみに基づいて、 エルデカルシトールの前腕部骨折の抑制効果が、アルファカルシドー ルに比して格別顕著であり、当業者の予測し得る範囲を超えるものであると直ちに評価することはできないというべきである。\nb 以上によれば、このほかに控訴人が本件試験に関して縷々主張する 点を考慮しても、本件試験において、エルデカルシトールが、既存薬 剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制が特に 求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されたものということはできない。\n

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和2(ワ)13326

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令和3(ワ)1390 特許権侵害差止請求権等不存在確認請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年8月30日  東京地方裁判所

 後発医薬品メーカが、特許権者である先発メーカに対して損害賠償不存在訴訟を提起しましたが、訴えの利益無しとして却下されました。

本件において、原告は、効能・効果を「手術不能\又は再発乳癌」等とする 「抗悪性腫瘍剤ハラヴェン静注1mg<エリブリンメシル酸塩製剤>」であ る被告医薬品の後発医薬品として、効能・効果を「手術不能\又は再発乳癌」 とする「エリブリンメシル酸塩静注1mg「ニプロ」」という販売名の原告 医薬品(別紙物件目録)の製造販売についての承認の申請をし、現在、原告\n医薬品の製造販売を予定して、製造販売についての承認の申\請及びGMP適 合性検査の申請のための原告医薬品の製造を行っている(前記第2の1(5)ア、 ウ)。
もっとも、二課長通知等は、後発医薬品(既に製造販売についての承 認を与えられている医薬品と有効成分、分量、用法、用量、効能、効果等が\n同一性を有すると認められる医薬品)の製造販売について、先発医薬品の有 効成分に特許が存在する場合や先発医薬品の一部の効能・効果等に特許が存\n在する場合に、厚生労働大臣の承認はしない方針であるとし(前記第2の2 (4)ウ)、また、後発医薬品の薬価基準への収載についても、特許係争のおそ れがあると思われる品目の収載を希望する場合は、事前に特許権者である先 発医薬品製造販売業者と調整を行い、将来も含めて医薬品の安定供給が可能\nと思われる品目についてのみ収載手続をとる方針であるとしている(同エ)。 また、被告エーザイRDが特許権者である本件各特許が存在する。本件各特 許権を有する。原告は、これらによれば、本件において、被告医薬品の後発 医薬品である原告医薬品の製造販売について厚生労働大臣の承認がされるこ とはないと主張する(前記第2の2(1)(原告の主張))。
これらの状況と本件各証拠によっては、近い将来において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされ、更に原告医薬品の薬価基準への収載がされる蓋 然性が高いことを認めるには足りない。原告が、医薬品医療機器等法等の定 め等(同1(1)、(4)ア、イ、カ)を前提として医薬品等の製造、販売等を目的 とする会社であり、上記法規等の定めに則った事業活動をすると推認される ことなどを考慮すると、近い将来において、原告が、製造販売についての承 認の申請及びGMP適合性検査の申\請のための原告医薬品の製造を除き、原 告医薬品を製造販売する蓋然性が高いとは認められない。
(3) 被告らは、原告が現に行っている製造販売についての承認の申請及びGM\nP適合性検査の申請のための原告医薬品の製造については、本件各特許権に\n基づく主張をしておらず、今後、本件各特許権に基づく主張をする意思もな いとし、現在、本件各特許権は侵害されていないから、被告らに損害は生じ ていないと主張する(前記第2の2(1)(被告エーザイRDの主張)、同(2)
(被告らの主張))。
したがって、承認の申請等のための原告医薬品の製造に関して、被告エー\nザイRDの原告に対する本件各特許権による差止請求権及び被告らの原告に 対する本件各特許権の侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求権が存 在しないことについて、現に、当事者間に紛争が存在し、原告の有する権利 又は法律的地位に危険又は不安が存在しているとは認めるに足りない。
(4) 被告らは、原告が、現在、承認の申請等のための製造(前記(3))を除き原 告医薬品の製造販売をしておらず、そもそも製造販売に必要な厚生労働大臣 の承認を受けていないことから、本件各特許権の侵害もそのおそれもないと して、現在、原告に対し本件各特許権に基づく主張をしていない(前記第2 の2(1)(被告エーザイRDの主張)、同(3)(被告らの主張))。 被告らは、令和3年5月に、原告から原告医薬品の製造販売について本件 各特許権を行使しないことの確認をするよう求める旨の通知を受け、原告に 対し本件各特許権を行使する可能性がある旨の本件回答をした(前記第2の\n1(5)ア)。もっとも、原告と被告らの間にはそれ以前に何らのやり取りもな く、被告らにおいて、原告が原告医薬品の製造販売をした場合に本件各特許 権に基づく権利行使をしないと直ちに確約することはできなかったことから、 上記のような回答をしたものと認められ(乙3)、本件回答をもって、被告 らが、現在の本件各特許権による差止請求権や不法行為による損害賠償請求 権の不存在を争っているとは認められない。
また、原告は、現在において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働 大臣の承認を条件とする本件各特許権による差止請求権等が発生し得るから、 被告エーザイRDに対する現在の本件各特許権による差止請求権等の不存在 確認請求には訴えの利益がある旨も主張する。しかし、原告医薬品の将来に おける製造販売について、被告エーザイRDの現在の本件各特許権による差 止請求権は、本件各特許権の侵害又は侵害のおそれを理由として発生し得る ものであり、被告らの本件各特許権の侵害を理由とする現在の不法行為によ る損害賠償請求権は、本件各特許権の侵害及び損害の発生等を理由として発 生し得るものである。そして、上記に記載した本件における状況に照らせば、 現在において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされ れば上記差止請求権等の権利を取得し得るという地位を被告らが有している と認めるに足りず、上記差止請求権等は、原告が原告医薬品の製造販売につ いての厚生労働大臣の承認を受けることを条件として発生しているものとは 解されない。
これらのことを考慮すると、被告エーザイRDの原告に対する本件各特許 権による差止請求権及び被告らの原告に対する本件各特許権の侵害を理由と する不法行為による損害賠償請求権が存在しないことについて、現に、当事 者間に紛争が存在し、原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存 在しているとは認めるに足りない。 なお、仮に、二課長通知等によれば本件各特許が存在するために原告医薬 品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされることがないとしても、 そのことによって、原告と被告らとの間に前記各請求権の存否に係る法律上 の紛争が存在することになるものとは解されない。
(5) 以上によれば、原告の被告エーザイRDに対する現在の本件各特許権によ る差止請求権の不存在確認請求及び被告らに対する本件各特許権の侵害を理 由とする現在の損害賠償請求権の不存在確認請求について、現に、原告の法 律的地位に危険又は不安が存在するとは認められず、これらの各訴えに、即 時確定の利益があるとは認められない。

◆判決本文

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平成30(ネ)10077  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 海外サーバからのサービス提供が特許発明の技術的範囲に属する場合に、1審は属地主義の原則からこれを認めませんでしたが、知財高裁2部は、日本特許の効力を認めました。

我が国は、特許権について、いわゆる属地主義の原則を採用しており、これによれば、日本国の特許権は、日本国の領域内においてのみ効力を有するものである(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷判決参照)。そして、本件配信を形式的かつ分析的にみれば、被控訴人ら各プログラムが米国の領域内にある電気通信回線(被控訴人ら各プログラムが格納されているサーバを含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内にある電気通信回線(ユーザが使用する端末装置を含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内でも米国の領域内でもない地にある電気通信回線上を伝送される場合等を観念することができ、本件通信の全てが日本国の領域内で完結していない面があることは否めない。
しかしながら、本件発明1−9及び10のようにネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。
c これを本件についてみると、本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって(甲3ないし5、44、46、47、丙1ないし3)、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明1−9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1−9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。
d 以上によれば、本件配信は、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当する。
なお、これは、以下に検討する被控訴人らのその余の不法行為(形式的にはその一部が日本国の領域外で行われるもの)についても当てはまるものである。
e 被控訴人らは、被控訴人ら各プログラムは米国内のサーバから自動的に配信されるものであり、提供行為は米国の領域内で完結しているから、本件配信は日本国特許法にいう「提供」に当たらない旨主張するが、上記説示したところに照らすと、これを採用することはできない。
(ウ) 以上のとおりであるから、被控訴人らは、本件配信をすることにより、被控訴人ら各プログラムの提供をしているといえる(特許法2条3項1号)。
イ 被控訴人ら各プログラムの提供の申出被控訴人らは、被控訴人ら各サービス(令和2年9月25日以降は被控訴人らサービス1。以下同じ。)の提供のため、ウェブサイトを設けて多数の動画コンテンツのサムネイル又はリンクを表\示しているところ(甲3ないし5)、これは、「提供の申出」に該当する(特許法2条3項1号)。\n
ウ 被控訴人ら各装置の生産
被控訴人らは、被控訴人ら各サービスの提供に際し、インターネットを介して日本国内に所在するユーザの端末装置に被控訴人ら各プログラムを配信しており、また、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものである(前記3(2)イ、被控訴人らが主張する被控訴人ら各サービスの内容)。そうすると、被控訴人らによる本件配信及びユーザによる上記インストールにより、被控訴人ら各装置(令和2年9月25日以降は被控訴人ら装置1。以下同じ。)が生産されるものと認められる。そして、被控訴人ら各サービス、被控訴人ら各プログラム及び被控訴人ら各装置の内容並びに弁論の全趣旨に照らすと、被控訴人ら各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当であり、また、被控訴人らが業として本件配信を行っていることは明らかであるから、被控訴人らによる本件配信は、特許法101条1号により、本件特許権1を侵害するものとみなされる。
エ 被控訴人ら各装置の使用
上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるし、被控訴人ら各装置を本件発明1の作用効果を奏する態様で用いるのは、動画やコメントを視聴するユーザであるから、被控訴人ら各装置の使用の主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人が主張するように被控訴人ら各装置の使用の主体が被控訴人らであると認めることはできない。
オ 被控訴人ら各プログラムの生産(端末装置における複製)
控訴人は、本件配信によりユーザの端末装置上に被控訴人ら各プログラムが複製され、これをもって、被控訴人らは被控訴人ら各プログラムを生産していると主張する。しかしながら、上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるから、ユーザの端末装置上において被控訴人ら各プログラムを複製している主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人の上記主張は、採用することができない。
カ 被控訴人ら各プログラムの生産(開発)
前記(1)カ及び(2)のとおり、被控訴人HPSは、被控訴人FC2と共同して、被控訴人らプログラム1を開発したものと認められるところ、これが被控訴人らプログラム1の生産に当たることは明らかである(特許法2条3項1号)。他方、前記(1)ケ及びサのとおり、被控訴人FC2は、被控訴人らサービス2及び3を第三者から譲り受け、ユーザに対する提供を開始したものと認められ、その他、被控訴人らが被控訴人らプログラム2又は3を開発したものと認めるに足りる証拠はないから、被控訴人らプログラム2及び3については、被控訴人らがこれを生産したということはできない。この点に関し、控訴人は、証拠(甲29の1及び2、30、36、37)を根拠に、被控訴人らは被控訴人らサービス2及び3につき各種機能の追加をしているのであるから、被控訴人らが被控訴人らプログラム2及び3の開発をしていることは明らかである旨主張する。しかしながら、これらの証拠により認められる被控訴人らサービス2及び3のアップデートの内容が本件発明1−9又は1−10の技術的範囲に属すると認めるに足りる証拠はないから、これらのアップデートをもって、被控訴人らが本件特許権1を侵害する態様で被控訴人らプログラム2又は3を開発したと認めることはできない。\n
キ 被控訴人ら各プログラムの生産(アップデートの際の複製)
控訴人は、被控訴人らは上記カのとおりの各種機能の追加を行う際、被控訴人ら各プログラムを複製して生産したと主張するが、被控訴人らがこれらのアップデートの際に本件特許権1を侵害する態様で被控訴人ら各プログラムを複製したものと認めるに足りる証拠はない。\n
ク 被控訴人ら各プログラムの譲渡及び譲渡の申出(被控訴人HPSによる被控訴人ら各プログラムの納品)\n
前記(1)によると、被控訴人HPSは、被控訴人らプログラム1を開発し、これを被控訴人FC2に納品したものと認められるが、前記(2)のとおり、被控訴人らが互いに意思を通じ合い、相互の行為を利用し、共同して被控訴人らプログラム1を開発し、被控訴人ら各サービスを運営するなどしてきたものと認められることに照らすと、被控訴人HPSが被控訴人FC2に対して被控訴人らプログラム1を納品する行為は、共同侵害者間の内部行為であると評価することができるから、これを独立した実施行為とみるのは相当でない。なお、前記(1)ケ及びサのとおりであるから、被控訴人HPSが被控訴人FC2 に対し被控訴人らプログラム2又は3を納品した事実を認めることはできない。
(5) 小括
以上によると、被控訴人らには、被控訴人らプログラム1の生産並びに被控訴人ら各プログラムの提供及び提供の申出を行うことによる本件特許権1の直接侵害と被控訴人ら各プログラムの提供を行うことによる本件特許権1の間接侵害が成立し、被控訴人らは、これらの侵害行為によって控訴人に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきである。\n
15 争点7(差止請求及び抹消請求の可否)について
(1) 前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人らサービス1に関し、本件特許権1を侵害する者に該当する。 もっとも、前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人ら装置1の生産又は使用をしている者ではなく、そのような行為に及ぶおそれがある者でもないと認められるから、この点については、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置1の生産又は使用の差止請求は理由がない。 そうすると、被控訴人らサービス1については、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人らプログラム1の抹消を命じるのが相当である。\n
(2)ア 前記14(1)トのとおり、被控訴人FC2は、SN社に対し、令和2年9月25日、被控訴人らサービス2及び3に係る事業を譲渡したものである。そうすると、現時点においては、被控訴人らがユーザに対し被控訴人らサービス2及び3の提供をするおそれはなくなったというべきであるから、被控訴人らサービス2及び3について、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置2及び3の生産又は使用並びに被控訴人らプログラム2及び3の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止請求は理由がない。もっとも、前記14(1)の事実及び弁論の全趣旨によると、被控訴人らが現時点においても被控訴人らプログラム2及び3を所持している蓋然性は高いと認められるから、侵害の予防のため、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム2及び3の抹消を命じるのが相当である。\n
イ 控訴人は、被控訴人らサービス2及び3の事業譲渡に係る契約書に多数の不備があることを根拠に、当該事業譲渡はされていない旨主張する。確かに、乙99の1の契約書には英文表記等の観点から幾つかの不備が認められるが、そのことのみをもって、当該事業譲渡の事実を否定することはできない。また、控訴人は、SN社が被控訴人らに対し被控訴人らサービス2及び3の再譲渡をする可能\性があるとも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人のこれらの主張を採用することはできない。
(3) 以上によると、控訴人の被控訴人らに対する差止請求及び抹消請求は、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人ら各プログラムの抹消の限度で認容するのが相当である。\n
なお、被控訴人らは、本件において認容される損害賠償請求の額に照らすと、控訴人が差止め及び抹消を求めることは権利の濫用に該当する旨主張する。しかしながら、当裁判所が認容する損害賠償請求の額(1億円及びこれに対する遅延損害金)に加え、被控訴人らによる本件特許権1の侵害の態様、現在における侵害の危険等にも照らすと、控訴人において差止め及び抹消を求めることが権利の濫用に該当すると評価することはできない。 また、被控訴人らは、被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものについては、公開が停止されたため、これに係る差止め及び抹消を求めることはできない旨主張する。しかしながら、仮に、被控訴人らが被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものの公開を停止したとしても、被控訴人らサービス1に関し、当裁判所が差止めを命じるのは、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出であり、また、当裁判所が抹消を命じるのは、被控訴人らプログラム1であり、被控訴人らプログラム1は、別紙被控訴人らプログラム目録記載1のとおりに特定されるものであるところ、当該特定に当たり、FLASH版であるか否かは問題とされていないのであるから、差止め及び抹消を命じる主文1項(1)及び(2)の対象たる被控訴人らプログラム1からFLASH版に係るものを除外する必要はない。

◆判決本文

1審はこちらです。1審では、第1,第2の表示欄の大きさを特定した構\成が非充足と判断されています。

◆平成28(ワ)38565
以上のとおり,「第1の表示欄」は動画を表\示するために確保された領域(動画表示可能\領域),「第2の表示欄」はコメントを表\示するために確保された領域(コメント表示可能\領域)であり,「第2の表示欄」は「第1の表\示欄」よりも大きいサイズでいずれも固定された領域であると解されるところ,被告ら各装置においては,動画表示可能\領域(被告ら装置1における「StageオブジェクトA」,被告ら装置2及び3における<iflame>要素又は<video>要素)とコメント表示可能\領域(被告ら装置1における「CommentDisplayオブジェクトD」,被告ら装置2及び3における<canvas>要素)は同一のサイズであるから,被告ら各装置は,「第1の表示欄」及び「第2の表\示欄」に相当する構成を有するとは認められない。\n 今回侵害となった特許4734471 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4734471/9085C128B7ED7D57F6C2F09D9BE4FCB496E638331DB9EC7ADE1E3A44999A3878/15/ja 1審と同じく侵害とはならなかった特許4695583 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4695583/7294651F33633E1EBF3DEC66FAE0ECAD878D19E1829C378FC81D26BBD0A4263B/15/ja

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令和2(ワ)13326  特許権侵害差止等請求事件 令和4年5月27日  東京地方裁判所

 用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。東京地裁46部は、新規性無しとして、権利行使不能と判断しました。\n

ア 本件発明1は、「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部 骨折を抑制するための医薬組成物」であるところ、前記(1)によれば、乙1文 献には、エルデカルシトールを骨粗鬆症治療薬として用いることが記載され ており、本件発明1と乙1発明とは、構成要件1A、1Cにおいて一致して\nいる。他方、本件発明1は、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」 (構成要件1B)医薬組成物であるところ、乙1発明は骨粗鬆症治療薬であ\nり、この点において本件発明1と乙1発明が相違するといえるかが問題にな る。 イ 本件明細書によれば、「非外傷性骨折とは、転倒などの一般的な日常生活 で起こる軽微な外力により生じた骨折を示す」(【0035】)とあり、「前腕 部は、橈骨と尺骨からなる」(【0022】)とされ、また、「抑制あるいは予\n防は、骨粗鬆症にり患していない者あるいは骨粗鬆症患者のいずれにおいて も、新たな骨折が発生しないことを意味する。」(【0022】)とされている。 したがって、本件発明1の「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」とは、 骨粗鬆症にり患していない者及び骨粗鬆症患者のいずれについても、転倒な どの一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨又は尺骨に新たな 骨折が発生しないようにすることを意味しているといえる。
ここで、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴として骨折のリスクが増大しや すくなる骨格疾患であり(前記2(1)ア)、骨粗鬆症治療薬は、骨粗鬆症を治療 することを目的とする薬物なのであるから、骨折のリスクを低下させること、 すなわち、新たな骨折を発生させないようにすることを目的としているとい える。そして、本件優先日当時、骨粗鬆症においては、骨強度の低下により、 通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで生ずる骨折である脆弱性骨折 が生ずることが問題とされており、骨折が生ずることがある具体的な部位と しては、大腿骨、椎体等と並んで、橈骨が含まれていたことが知られていた と認められる(前記2(1)イ)。 そうすると、乙1発明の骨粗鬆症治療薬とは、骨強度の低下によって通常 は骨折を生じさせない些細なきっかけで大腿骨、椎体、橈骨等に新たな骨折 を発生させないようにすることを目的とする治療薬であり、この中には、骨 粗鬆症患者に対する、通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで橈骨に新 たな骨折を発生させないようにすることについても用途として含まれるこ とは明らかである。
これに対し、乙1発明の骨粗鬆症治療薬について、原告は、エルデカルシ トールに骨折抑制効果があることは知られていなかったと主張する。しかし、 乙1文献の表題は「骨粗鬆症治療薬」というものであり、その表\題からも、 そこに記載されたエルデカルシトールが骨粗鬆症の治療薬であること、すな わち、エルデカルシトールが骨粗鬆症患者に対する骨折抑制効果があること に関する文献であることが理解できる。そして、乙1発明のエルデカルシト ールは活性型ビタミンDの誘導体であり、活性型ビタミンDが体内のビタミ ンD受容体と結合して作用するのと同様にビタミンD受容体に結合して作 用するという、活性型ビタミンDと同一の機序によって骨粗鬆症に作用する ことが想定されていた。活性型ビタミンDは、前腕部を含む骨における骨形 成を促進し、骨破壊を抑制することによって骨量を増やして骨密度骨強度を 増加させるとともに、転倒自体を抑制するといった作用を有することが知ら れており(前記2(3)ア、(4))、実際に、乙1文献には、エルデカルシトール が骨密度を上昇させる効果を有することが記載されている。さらに、当時、 一般に、骨量が多いほど骨折しにくくなり、骨量の多寡が骨折リスクの指標 になると考えられていた(前記2(2) )。これらからすると、当業者は、乙1 発明の骨粗鬆症治療薬について、前腕部骨折予防効果があると理解すると認\nめられる。原告が指摘する文献や記載は、上記技術常識等に照らし、当業者 に対して乙1発明のエルデカルシトールが上記骨折抑制効果を有すること に対して疑念を抱かせるものとは認められない。
以上によれば、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において一般的な日常生 活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用 途とする構成は、乙1発明のエルデカルシトールの用途と一致すると認めら\nれる。
ウ 原告は、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認 められると主張する。 しかし、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において、一般的な日常生活で 起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途と する構成について、前記イに述べたところにより、乙1発明のエルデカルシ\nトールにおいても、当然に当該部位に係る骨折予防についても有効であるこ\nとが具体的に想定されていたと認められる。また、乙1文献には、エルデカ ルシトールを活性型ビタミンD3製剤であると記載されていて、乙1発明に おいても、既存の活性型ビタミンD製剤と同様の機序、すなわち、ビタミン D受容体への作用による骨強度の上昇及び転倒防止(前記2 ア、 )が想 定されていたと認められる。本件明細書には、本件発明1について、技術常 識から認められる上記機序と異なる機序によって作用していることについ ての記載もなく、本件発明1も、乙1発明と同一の作用機序を前提にしてい ると認められる。仮に年齢等によって第1選択として投与される薬剤の種類 が異なるとしても、エルデカルシトールが投与されたとき、乙1発明のエル デカルシトールが投与されたのか、本件発明1のエルデカルシトールが投与 されたのかを区別することができるものではない。本件発明1の一部の用途 は、作用機序の点からも、乙1発明の用途と区別することはできない。
なお、原告は、本件発明1において、エルデカルシトールの前腕部骨折抑 制に関する顕著な効果が初めて見出されたとも主張する。原告が本件明細書 で明らかにされた医学的に有用であると主張する具体的な知見は、1)前腕部 の骨折予防の観点からは、アルファカルシドールよりもエルデカルシトール\nの方が顕著に優れていること、2)前腕部以外の部位においては、エルデカル シトールとアルファカルシドールの効果の差は前腕部における差ほど顕著 ではないという2点である。しかし、仮に原告が主張する上記評価が統計学 上正当であると認められるとしても、1)については、本件明細書で明らかに されているのは、エルデカルシトールがアルファカルシドールに比べて骨折 抑制効果が高いことのみであり、このことのみからは、エルデカルシトール がプラシーボに比べて顕著に優れている可能性も、アルファカルシドールが\nプラシーボに比べて顕著に劣っている可能性も、どちらともいえない可能\性 もある。さらに、乙1発明において、エルデカルシトールの骨折抑制効果が アルファカルシドールを上回ること自体が想定されていたことも認められ る(前記3)。2)についても、本件明細書の実施例で記載されている前腕部 骨折以外に関する分析結果は椎体骨折に関するもののみ(【0069】)であ り、前腕部についてのみ良好な結果が得られたのか、椎体についてのみ良好 とはいえない結果が得られたのかすら明らかにされていない。これらによれ ば、何らかの顕著な効果の存在を理由に乙1発明に対する新規性等が認めら れる場合があるか否かは措くとしても、本件においてはその前提となる顕著 な効果を認めることはできない。
さらに原告は、65歳の患者群やI型骨粗鬆症患者群においては前腕部に おける骨折抑制が特に求められており、独立の用途を構成するなどと主張す\nる。しかし、乙1発明のエルデカルシトールにおいても、一般的な日常生活 で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことに有効 であることが具体的に想定されていたと認められるなど、上記に述べた事情 に照らせば、原告が主張する上記知見は、本件において、乙1発明の用途を 前腕部の骨折予防に限定することに新規性を付与すべき事情に当たるとは\nいえない。
エ 以上によれば、本件発明1は、乙1発明で想定される橈骨の骨折抑制、大 腿骨の骨折抑制といった複数の骨折抑制部位に係る用途のうち、前腕部の効 果に着目したものと認められる。本件発明1において「非外傷性である前腕 部骨折を抑制するための」と限定した部分は乙1発明との相違点になるとは いえず、本件発明1は、乙1発明と同一であり、本件発明1は、新規性が欠 如しているといえる。

◆判決本文

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令和2(ネ)10057 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ICチップのメモリの書換えを技術的に困難にする措置をプリンターカートリッジに採用することが、独禁法が禁ずる行為に該当するのかが争われました。1審は、独禁法違反(権利濫用)としましたが、知財高裁は、独禁法違反ではなく、約470万円の損害賠償を認めました。

 被控訴人らは,控訴人の本件請求は,控訴人が,原告電子部品(ICチップ) のメモリの書換えを技術的に困難にする本件書換制限措置という合理性及び必 要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品を取 り外して被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,原告電子部品(IC チップ)のメモリを書き換える態様により原告製品をリサイクルしたリサイク ル品の原告電子部品についての本件各特許権の消尽の成立を控訴人の意思によ り妨げ,そのような結果を利用したものであるという点において消尽の趣旨を 潜脱し,また,リサイクル品が装着された場合にディスプレイ上に「?」が表\n示されるような設定と本件書換制限措置という妨害行為を組み合わせる方法で, 純正品と同等のリサイクル品を競争上劣位におき,リサイクル事業者である被 控訴人らの取引を不当に妨害しているから,公正な競争を阻害するものであり, 競争者に対する取引妨害として,独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6 号,一般指定14項)に抵触することを総合考慮すると,控訴人が,被控訴人 らに対し,被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請求権及び損害賠 償請求権を行使することは,権利の濫用に当たり許されない旨主張するので, 以下において判断する。
(2) 被控訴人ら主張の本件書換制限措置による競争上の不利益について
被控訴人らは,1)トナーカートリッジの消費者は,トナー残量表示の有無\nを製品選択における重要な要素であると考えており(乙25),いくら価格 が安くとも,トナー残量表示のないリサイクル製品は,純正品と同等ではな\nい「中途半端な再生品」として消費者に受け入れられない,2)ICチップを 書き換えずにトナーを再充填した場合には,トナー残量表示が常に「?」と\nなりトナー残量が分からなくなるという不都合にとどまらず,トナーが少な くなってきた時のカートリッジ交換予告メッセージが出ないため,トナーが\nなくなった時に突然トナーの補給を求める表示が出てプリンタが動かなくな\nるという不便をユーザーが被ることになり,その結果,リサイクル事業者に 大きな不利益を与えるものである,3)残量表示がされず,「?」が表\示され る製品がユーザーに受け入れられないことは,被控訴人らの実施した聴き取 り調査の結果(乙25,66)から明らかであり,また,残量表示がされな\nいことは,官公庁の入札条件を満たさない(乙67の1ないし4,68の1 ないし4)ことからも明らかであり,このことは,本件アンケート調査(乙 70)の結果及び東京国税局の回答書(乙71)からも,裏付けられる,4) 本件書換制限措置を回避できたというためには,大量に販売されるリサイク ルトナーカートリッジが長期間安定的にプリンタで使用できる必要があり, 実用に耐えうる程度の本件書換制限措置の回避は事実上不可能か,著しく困\n難である,5)したがって,本件書換制限措置は,リサイクル業者である被控 訴人らに対し,競争上著しい不利益を与えるものである旨主張するので,以 下において判断する。
・・・
以上のとおり,本件書換制限措置が講じられた原告電子部品が搭載された 純正品の原告製品が装着された原告プリンタと使用済みの原告製品にトナー を再充填した再生品が装着された原告プリンタの機能を対比すると,再生品\nが装着された原告プリンタは,トナー残量表示に「?」と表\示され,残量表\n示がされず,予告表\示がされない点で純正品の原告製品が装着された原告プ リンタと異なるが,再生品が装着された場合においても,トナー切れによる 印刷停止の動作及び「トナーがなくなりました。」等のトナー切れ表示は純正\n品が装着された場合と異なるものではなく,印刷機能に支障をきたすもので\nはないこと,再生品が装着された原告プリンタにおいても,トナー残量表示\nに「?」と表示されるとともに,「印刷できます。」との表\示がされるので, 再生品であるため残量表示がされないことも容易に認識し得るものであり,\nユーザーが印刷機能に支障があるとの不安を抱くものとは認められないこと,\nユーザーは,残量表示がされないことについて予\備のトナーをあらかじめ用 意しておくことで対応できるものであり,このようなユーザーの負担は大き いものとはいえないことを踏まえると,残量表示がされない再生品と純正品\nとの上記機能上の差異及び価格差を考慮して,再生品を選択するユーザーも\n存在するものと認められる。また,前記認定のとおり,残量表示がされるこ\nとが公的入札の条件であるとはいえない。
一方,リサイクル事業者においては,残量表示がされないことについてユ\nーザーが不安を抱くことを懸念するのであれば,再生品であるため残量表示\nがされないが,印刷はできることを表示することによって対応できること,\n電子部品の形状を工夫することで,本件各発明1ないし3の技術的範囲に属 さない電子部品を製造し,これを原告電子部品と取り替えることで,本件各 特許権侵害を回避し,残量表示をさせることは,技術的に可能\であり,●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●からすると, 原告プリンタ用のトナーカートリッジの市場において,本件書換制限措置に よるリサイクル事業者の不利益の程度は小さいものと認められる。 次に,控訴人は,本件書換制限措置を行った理由について,原告電子部品 に本件書換制限措置が講じられていない場合には,原告プリンタに自ら品質 等をコントロールできない第三者の再生品のトナーの残量が表示され,残量\n表示の正確性を自らコントロールできないので,このような弊害を排除した\nいと考えて本件書換制限措置を講じたものである旨を主張し,経営戦略とし て,原告製プリンタに対応するトナーカートリッジのうち,ハイエンドのプ リンタであるC830及びC840シリーズに対応する原告製品に搭載され た原告電子部品を選択した旨を述べていること(甲75,76),その理由に は,相応の合理性が認められること,上記のとおり,本件各特許権侵害を回 避した電子部品の製造が技術的に可能であることを併せ考慮すると,控訴人\nが本件書換制限措置がされた原告電子部品を取り替えて使用済みの原告製品 に搭載した被告電子部品について本件各特許権を行使することは,原告製品 のリサイクル品をもっぱら市場から排除する目的によるものと認めることは できない。
上記のとおり,本件書換制限措置によりリサイクル事業者が受ける競争制 限効果の程度は小さいこと,控訴人が本件書換制限措置を講じたことには相 応の合理性があり,控訴人による被告電子部品に対する本件各特許権の行使 がもっぱら原告製品のリサイクル品を市場から排除する目的によるものとは 認められないことからすると,控訴人が本件書換制限措置という合理性及び 必要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品 を取り外し,被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,上記消尽の成 立を妨げたものと認めることはできない。 以上の認定事実及びその他本件に現れた諸事情を総合考慮すれば,控訴人 が,被控訴人らに対し,被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請 求権及び損害賠償請求権を行使することは,競争者に対する取引妨害として, 独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)に抵触す るものということはできないし,また,特許法の目的である「産業の発達」 を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するものであるということはできないか ら,権利の濫用に当たるものと認めることはできない。 したがって,被控訴人らの前記主張は採用することができない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)40337

上記(1)ないし(5)によれば,本件各特許権の権利者である原告は,使用 済みの原告製品についてトナー残量が「?」と表示されるように設定した\n上で,本件各特許の実施品である原告電子部品のメモリについて,十分な\n必要性及び合理性が存在しないにもかかわらず本件書換制限措置を講じ ることにより,リサイクル事業者である被告らが原告電子部品のメモリの 書換えにより本件各特許の侵害を回避しつつ,トナー残量の表示される再\n生品を製造,販売等することを制限し,その結果,被告らが当該特許権を 侵害する行為に及ばない限り,トナーカートリッジ市場において競争上著 しく不利益を受ける状況を作出した上で,当該各特許権の権利侵害行為に 対して権利行使に及んだものと認められる。 このような原告の一連の行為は,これを全体としてみれば,トナーカー トリッジのリサイクル事業者である被告らが自らトナーの残量表示をし\nた製品をユーザー等に販売することを妨げるものであり,トナーカートリ ッジ市場において原告と競争関係にあるリサイクル事業者である被告ら とそのユーザーの取引を不当に妨害し,公正な競争を阻害するものとして, 独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)と抵触 するものというべきである。
そして,本件書換制限措置による競争制限の程度が大きいこと,同措置 を行う必要性や合理性の程度が低いこと,同措置は使用済みの製品の自由 な流通や利用等を制限するものであることなどの点も併せて考慮すると, 本件各特許権に基づき被告製品の販売等の差止めを求めることは,特許法 の目的である「産業の発達」を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するもの として,権利の濫用(民法1条3項)に当たるというべきである。
イ 損害賠償請求について
差止請求が権利の濫用として許されないとしても,損害賠償請求につい ては別異に検討することが必要となるが,上記ア記載の事情に加え,原告 は,本件各特許の実施品である電子部品が組み込まれたトナーカートリッ ジを譲渡等することにより既に対価を回収していることや,本件書換制限 措置がなければ,被告らは,本件各特許を侵害することなく,トナーカー トリッジの電子部品のメモリを書き換えることにより再生品を販売して いたと推認されることなども考慮すると,本件においては,差止請求と同 様,損害賠償請求についても権利の濫用に当たると解するのが相当である。 ウ したがって,本訴において,原告が,被告らに対して,本件各特許権に 基づき,被告製品の製造,販売等の差止め及び損害賠償等の請求をするこ とは,いずれも権利の濫用に当たり許されないものというべきである。

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令和3(ネ)10072  特許権侵害行為差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁1部は、共同侵害あり、無効理由なしとした1審判断を維持しました。

 前記(1)の認定事実によれば、1)控訴人アンカー及び控訴人ジョウズは、 いずれも中国法人の中国アンカー社を中核企業とする国際的な企業グル ープ「Ankerグループ」の日本法人であり、控訴人ジョウズの全株 式は、中国アンカー社の完全子会社である POWER MOBILE LIFE、 LLC が 保有していること、2)控訴人ジョウズの設立当時(平成30年2月28 日)の代表取締役は、控訴人アンカーの代表\取締役と同一人(A)であ ったこと、3)控訴人ジョウズの本店所在地のオフィスの利用契約は、控 訴人アンカーが契約し、同年4月16日、控訴人ジョウズに契約上の地 位が譲渡されたものであり、かつ、利用契約上の利用者はA1名のみで あること、4)令和元年9月時点の控訴人ジョウズの従業員数は2名であ り、そのうちの1名のBは、平成30年4月から平成31年4月末まで 控訴人アンカーに在籍し、令和元年5月から控訴人ジョウズに在籍して いたこと、5)控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、控訴人ジョウズ設立 日の翌日の平成30年3月1日付けで、控訴人ジョウズが控訴人アンカ ーに対し、控訴人ジョウズの喫煙具製品の開発補助業務及びそれに付随 する一切の業務、喫煙具製品のマーケティング及びそれに付随する一切 の業務、会計事務及び経営管理に関する一切の業務、その他控訴人ジョ ウズと控訴人アンカーの協議の上決定された業務の全部又は一部を委託 する旨の本件業務委託契約を締結したこと、6)被告製品は、同年6月以 降、控訴人ジョウズのウェブサイトで販売が開始され、同年11月当時 には、アマゾンサイト及び楽天市場のサイトで、控訴人ジョウズを販売 者として販売されており、また、被告製品の輸入手続は、控訴人ジョウ ズを輸入者として行われたこと(乙14、37)、7)アマゾンサイトでは、 被告商品について、「米国・日本・欧州のEC市場において、スマートフ ォン・タブレット関連製品でトップクラスの販売実績を誇る『Anke r』のサポートのもと、精密かつ均一な温度管理と・・・最適な加熱環境を 作り出し、たばこ本来の香りと味を忠実に再現」などと紹介され(甲4 の1、5の1)、また、Ankerグループのオフィシャルストアの海外 のウェブサイトでは、被告製品が「Anker Jouz 20」など として販売されていたこと(甲14)、8)被告製品1及び2の記者発表に\n関する同年6月20日付け記事等(甲13の1ないし4)には、「Ank erグループが技術的にサポートしたことから、アンカー・ジャパンの A社長がジョウズ・ジャパンの代表取締役を兼任する」などと掲載され、\n被告製品3の記者発表に関する2019年(平成31年)4月9日付け\n記事(甲32)には、当時控訴人アンカーの従業員であったBが「ジョ ウズ・ジャパン株式会社事業戦略本部マネジャー」との肩書きでプレゼ ンテーションを行ったことが掲載されたことが認められる。
上記認定の控訴人ジョウズと控訴人アンカーの人的及び物的な結合関 係(1)ないし4))、控訴人ジョウズの控訴人アンカーに対する本件業務委 託契約に基づく委託業務の範囲が控訴人ジョウズの業務全般にわたって いること(5))、被告製品の広告宣伝の態様(7)、8))その他前記(1)認定 の諸事情を総合考慮すると、控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、被告 製品の販売等に関し、緊密な一体関係があるものと認められるから、被 告製品の販売及びその輸入手続が控訴人ジョウズ名義で行われていたこ と(6))を勘案しても、控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、平成30 年6月以降、共同して被告製品の販売等を行っていたものと認めるのが 相当である。
そして、被告製品は、被告方法の使用に用いる物であって、本件発明 1による「課題の解決に不可欠なもの」に該当することは、前記のとお りであるところ、控訴人らは、遅くとも、本件仮処分命令の送達により、 本件発明1が特許発明であること及び被告製品が方法の発明である本件 発明1の実施に用いられることを知ったものと認められるから、控訴人 らによる被告製品の上記販売等の行為は、本件発明2に係る本件特許権 の侵害(直接侵害)に該当するとともに、本件発明1に係る本件特許権 の間接侵害(特許法101条5号)に該当するものと認められる。 したがって、控訴人らについて本件特許権侵害の共同不法行為が成立 するものと認められる。
・・・
そこで検討するに、本件業務委託契約書には、控訴人ジョウズは控訴人 アンカーに対し業務委託料として毎月100万円に消費税相当額を加算 した額を支払う旨の条項(5条1項)があり、同条項によれば、控訴人ア ンカーの業務委託料は固定額であるといえるが、一方で、前記(2)認定のと おり、控訴人ジョウズと控訴人アンカーは、被告製品の販売等に関し、緊 密な一体関係があるものと認められるから、控訴人アンカーの業務委託料 が固定額であるからといって、控訴人アンカーが被告製品の販売等に関す る業務を一切行っていないということはできない。

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令和1(ワ)25152  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月24日  東京地方裁判所

 ドワンゴvsFC2のコンピュータ関連発明の特許権侵害事件です。東京地裁29部は、海外サーバからの提供について、準拠法は認めたものの、被告システムは本件発明の技術的範囲に属するが、「生産」に該当しないとして、請求を棄却しました。 なお、国際裁判管轄については、被告FC2が争うことなく弁論をしてとして、日本の裁判所に管轄権を認めています。

2 争点1(準拠法)について
(1) 差止め及び除却等の請求について
特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法は、当該特許権が登録された 国の法律であると解すべきであるから(最高裁平成12年(受)第580同 14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)、本件の差止 め及び除却等の請求についても、本件特許権が登録された国の法律である日 本法が準拠法となる。
(2) 損害賠償請求について
特許権侵害を理由とする損害賠償請求については、特許権特有の問題では なく、財産権の侵害に対する民事上の救済の一環にほかならないから、法律 関係の性質は不法行為である(前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷 判決)。したがって、その準拠法については、通則法17条によるべきである から、「加害行為の結果が発生した地の法」となる。 原告の損害賠償請求は、被告らが、被告サービスにおいて日本国内の端末 に向けてファイルを配信したこと等によって、日本国特許である本件特許権 を侵害したことを理由とするものであり、その主張が認められる場合には、 権利侵害という結果は日本で発生したということができるから、上記損害賠 償請求に係る準拠法は日本法である。
・・・
前記(1)のとおり、被告システム1は、構成要件1Bないし1F及び1Hを\n充足し、前記前提事実(6)アのとおり、被告システム1が構成要件1A、1G\n及び1Iを充足することは、当事者間に争いがない。 そして、前記(2)のとおり、被告システム2及び3は、構成要件1Aないし\n1F及び1Hを充足し、前記前提事実(6)イのとおり、被告システム2及び3 が構成要件1G及び1Iを充足することは、当事者間に争いがない。\nしたがって、被告システムは本件発明1の技術的範囲に属するものと認め られる。
(2) 被告FC2による被告システムの「生産」の有無について
ア 本件発明1の関係での被告システム1(被告サービス1のFLASH版) の「生産」について
本件発明1の「実施」として被告FC2による被告システム1の「生産」 があるといえるかを、まず、被告サービス1のFLASH版について検討 する。
(ア) 物の発明の「実施」としての「生産」(特許法2条3項1号)とは、 発明の技術的範囲に属する「物」を新たに作り出す行為をいうと解され る。また、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められること を意味する属地主義の原則(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年 7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12 年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7 号1551頁参照)からは、上記「生産」は、日本国内におけるものに 限定されると解するのが相当である。したがって、上記の「生産」に当 たるためには、特許発明の構成要件の全てを満たす物が、日本国内にお\nいて新たに作り出されることが必要であると解すべきである。
(イ) 前記3(1)のとおり、被告システム1は、本件発明1の構成要件を全\nて充足し、その技術的範囲に属するものであって、被告システム1にお ける構成1aないし1iは、本件発明1の構\成要件1Aないし1Iにそ れぞれ相当する。 また、被告サービス1のFLASH版においてコメント付き動画を日 本国内のユーザ端末に表示させる手順は、前記(1)ウ(ア)のとおりであっ て、被告サービス1がその手順どおりに機能することによって、上記の\nとおり本件発明1の構成要件を全て充足するコメント配信システムであ\nる被告システム1が新たに作り出されるということができる。 そして、本件発明1のコメント配信システムは、「サーバ」と「これと ネットワークを介して接続された複数の端末装置」をその構成要素とす\nる物であるところ(構成要件1A)、被告システム1においては、日本国\n内のユーザ端末へのコメント付き動画を表示させる場合、上記の「これ\nとネットワークを介して接続された複数の端末装置」は、日本国内に存 在しているものといえる。
他方で、前記3(2)アによれば、本件発明1における「サーバ」(構成\n要件1A等)とは、視聴中のユーザからのコメントを受信する機能を有\nするとともに(構成要件1B)、端末装置に「動画」及び「コメント情報」\nを送信する機能(構\成要件1C)を有するものであるところ、これに該 当する被告FC2が管理する前記(1)ウ(ア)の動画配信用サーバ及びコメ ント配信用サーバは、前記(1)イ(ア)のとおり、令和元年5月17日以降 の時期において、いずれも米国内に存在しており、日本国内に存在して いるものとは認められない。
そうすると、被告サービス1により日本国内のユーザ端末へのコメン ト付き動画を表示させる場合、被告サービス1が前記(1)ウ(ア)の手順ど おりに機能することによって、本件発明1の構\成要件を全て充足するコ メント配信システムが新たに作り出されるとしても、それは、米国内に 存在する動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバと日本国内に存在 するユーザ端末とを構成要素とするコメント配信システム(被告システ\nム1)が作り出されるものである。
したがって、完成した被告システム1のうち日本国内の構成要素であ\nるユーザ端末のみでは本件発明1の全ての構成要件を充足しないことに\nなるから、直ちには、本件発明1の対象となる「物」である「コメント 配信システム」が日本国内において「生産」されていると認めることが できない。
(ウ) 原告は、被告システム1では、多数のユーザ端末は日本国内に存在し ているから、被告システム1の大部分は日本国内に存在している、被告 FC2が管理するサーバが国外に存在するとしても、「生産」行為が国外 の行為により開始されるということを意味するだけで、「生産」行為の大 部分は日本国内で行われている、本件発明1において重要な構成要件1\nHに対応する被告システム1の構成1hは国内で実現されている、被告\nシステム1については「生産」という実施行為が全体として見て日本国 内で行われているのと同視し得るにもかかわらず、被告らが単にサーバ を国外に設置することで日本の特許権侵害を免れられるという結論とな るのは著しく妥当性を欠くなどとして、被告システム1は、量的に見て も、質的に見ても、その大部分は日本国内に作り出される「物」であり、 被告らによる「生産」は日本国内において行われていると評価すること ができると主張する。
しかしながら、前記(ア)のとおり、特許法2条3項1号の「生産」に該 当するためには、特許発明の構成要件を全て満たす物が日本国内におい\nて作り出される必要があると解するのが相当であり、特許権による禁止 権の及ぶ範囲については明確である必要性が高いといえることからも、 明文の根拠なく、物の構成要素の大部分が日本国内において作り出され\nるといった基準をもって、物の発明の「実施」としての「生産」の範囲 を画するのは相当とはいえない。そうすると、被告システム1の構成要\n素の大部分が日本国内にあることを根拠として、直ちに被告システム1 が日本国内で生産されていると認めることはできないというべきである。 また、前記(1)ウ(ア)の2)−2及び5)からすれば、被告システム1にお いては、被告FC2のウェブサーバがユーザ端末に配信するSWFファ イルによって規定される条件に基づいて、2つのコメントが重複するか 否かを判定する計算式及び重複すると判定された場合の重ならない表示\n位置の指定が行われており、構成要件1Fの「判定部」及び構\成要件1 Gの「表示位置制御部」に相当する構\成1f及び1gの動作の実現は、 日本国内に存在するユーザ端末において行われるものであるということ ができ、これらのユーザ端末における動作からは、原告が指摘する構成\n要件1Hに対応する構成1hのうち「前記ユーザ端末のディスプレイに\nは、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間におい て、前記動画上に、右から左方向に移動する前記コメント1及び前記コ メント2とが、追いついて重複しないように表示される、」という部分に\n相当する動作は、日本国内に存在するユーザ端末において実現されるも のということができるものの、構成要件1Hに対応する構\成1hのうち 「前記サーバが、前記動画ファイルと、前記コメントファイルとを前記 ユーザ端末に配信することにより、」という部分に相当する動作は、米国 内に存在するコメント配信用サーバ及び動画配信用サーバによって実現 されるものであり、構成1hが日本国内に存在するユーザ端末のみによ\nって実現されているとはいえない。前記1(2)イで検討したところからす れば、本件発明1の目的は、単に、構成要件1Fの「判定部」及び構\成 要件1Gの「表示位置制御部」に相当する構\成等を備える端末装置を提 供することではなく、ユーザ間において、同じ動画を共有して、コメン トを利用しコミュニケーションを図ることができるコメント配信システ ムを提供することであり、この目的に照らせば、動画の送信(構成要件\n1C及び1H)並びにコメントの受信及びコメント付与時間を含むコメ ント情報の送信(構成要件1B、1C及び1H)を行う「サーバ」は、\nこの目的を実現する構成として重要な役割を担うものというべきである。\nこの点からしても、本件発明1に関しては、ユーザ端末のみが日本に存 在することをもって、「生産」の対象となる被告システム1の構成要素の\n大部分が日本国内に存在するものと認めることはできないというべきで ある。 さらに、前記(1)アのとおり、被告サービスにおいては、日本語が使用 可能であり、日本在住のユーザに向けたサービスが提供されていたと考\nえられ、同オのとおり、平成26年当時、日本法人である被告HPSが、 被告FC2の委託を受けて、被告サービスを含む同被告の運営するサー ビスに関する業務を行っていたという事情は認められるものの、本件全 証拠によっても、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月17日以 降の時期において、米国法人である被告FC2が本件特許権の侵害の責 任を回避するために動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを日本 国外に設置し、実質的には日本国内から管理していたといった、結論と して著しく妥当性を欠くとの評価を基礎付けるような事情は認められな い。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 以上によれば、被告サービス1のFLASH版については、本件発明 1の関係で、被告FC2による被告システム1の日本国内での「生産」 を認めることができないというべきである。
・・・
オ 小活
以上のとおり、本件発明1の関係でも、本件発明2の関係でも、被告サ ービス(FLASH版及びHTML5版)において、被告FC2による被 告システムの日本国内での「生産」を認めることはできない。

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令和2(ネ)10059  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟__全文__ 令和4年2月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、アルギニンは,その後の発酵処理工程で初めて混合されるものであるから技術的範囲に属さないと判断しましたが、知財高裁は、属すると判断しました。1審判決後に訂正審判がなされ、これが確定しています。控訴人は訂正発明のみについての判断を求めました。争点は104条の推定規定の出願日が優先権基礎出願日が適用されるのか、推定が覆滅されるか等です。

 以上によると,基礎出願A,Bの上記記載に接した当業者は,上記本件優先日当 時の技術常識とを考え併せ,「大豆胚軸」以外の「ダイゼイン類を含む原料」を発酵 原料とした場合でも,ラクトコッカス20-92株のようなエクオール及びオルニ チンの産生能力を有する微生物によって,発酵原料中の「ダイゼイン類」がアルギ\nニンと共に代謝されるようにすることにより,発酵物の乾燥重量1g当たり,8m g以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを含有する,食品素材として用い られる粉末状の発酵物を生成することが可能であると認識することができたという\nべきであるから,本件訂正発明を基礎出願A,Bから読み取ることができるものと 認められる。 したがって,本件訂正発明は,少なくとも基礎出願A,Bに記載されていたか, 記載されていたに等しい発明であると認められ,本件訂正発明は,基礎出願A,B に基づく優先権主張の効果を享受できるというべきである。 そうすると,本件特許は,特許法104条の規定の適用については,本件優先日 である平成19年6月13日に出願されたものとみなされるから,本件訂正発明生 産物が同条の特許出願前に日本国内において「公然知られた物でない」か否かを検 討するに当たり,本件優先日以降に公開された乙B3(国際公開第2007/06 6655号。国際公開日2007(平成19)年6月14日)を考慮することはで きない。
ウ 「公然知られた物でない」に当たるか
その物が特許法104条の「公然知られた」物に当たるといえるには,基準時に おいて,少なくとも当業者がその物を製造する手がかりが得られる程度に知られた 事実が存することを有するというべきところ,本件訂正発明生産物が,本件優先日 当時に公知であった乙B16,乙B24に記載されていたとはいえず,また,乙B 16又は乙B24から本件訂正発明を容易に想到することができないことは後記3 (4),(6)のとおりである。そうすると,本件優先日時点において,乙B16又は乙 B24に触れた当業者が本件訂正発明生産物を製造する手がかりが得られたという ことはできない。 また,被控訴人らは,本件訂正発明生産物は,乙B16の「実施例1」の「乾燥 重量1g当たり,1mg−3mgのエクオールが生成」している発酵物「992m g」に栄養強化添加物である「97.48%」の純度のオルニチン(乙B67の国 際公開公報(WO2006/051940))を「8mg」加えたものであるにすぎ ないから,「公然知られた物」であると主張するが,前記アのとおり,本件訂正発明 生産物は,「オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物であって,前記発 酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール が生成され,食品素材として用いられる物」であるから,乙B16に乙B67を組 み合わせたとしても,「発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び 1mg以上のエクオールが生成された」物に当たらないから,上記被控訴人らの主 張は採用できない。
なお,被控訴人らは,本件発明による生産物について,乙B4により公然知られ た物に当たる旨の主張をしていたので念のため検討するに,乙B4に本件訂正発明 が記載されていたとはいえず,また,乙B4から本件訂正発明を容易に想到できた ものではないことは後記3(3)のとおりであり,乙B4によっても当業者が本件訂 正発明生産物を製造する手がかりが得られたということはできない。 したがって,本件訂正発明生産物は,本件優先日当時,「公然知られた物でない」 といえる。
エ 被控訴人方法の構成について\n
被控訴人らは,被控訴人原料の生産方法が原判決別紙「被告方法目録」記載の被 控訴人方法であることについて自白が成立しているから,特許法104条の推定は 働かないと主張する。そして,令和元年6月7日の原審第4回弁論準備手続期日に おいて,当事者双方が,被控訴人方法の構成について原判決別紙「被告方法目録」\n記載のとおりである旨陳述している(当裁判所に顕著)。 原審において当事者間に争いがないものとされた被控訴人方法と,当審で控訴人 が主張する被控訴人方法とでは,前者における「α3 前記酵素処理工程を経て得 られたダイゼインを含む処理液と,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●をアルギニンを含む培養液と共に混合して発酵処理をし,」との構成部\n分を,後者では「α3−1 前記酵素処理工程を経て得られたダイゼインを,アル ギニンを含むその他の成分と混合して培地とした上,これを滅菌処理して滅菌済培 地とし,」と「α3−2 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●を同滅菌済培地に植菌して発酵処理をし,」との構成に変更するというものであ\nるところ,同α3−1及びα3−2の内容は,α3の内容を更に具体化・詳細化し ようとするものであり,また,控訴人は,原判決における本件訂正発明に係るクレ ーム解釈に基づく場合の構成としてα3−1及びα3−2とすべきと主張している\nものであるから,まずは,原審において当事者間に争いがないものとされた被控訴 人方法(α1〜6によるものであって,α3をα3−1及びα3−2に変更しない もの)の構成について検討を進めることとする。\n
オ 推定の覆滅について
被控訴人らは,被控訴人原料の生産方法が被控訴人方法であり,これが本件訂正 発明の方法とは異なるから,本件訂正発明の方法を使用していないとの主張立証を しているものと解されるから,以下,被控訴人方法(まずは,α1〜6によるもの であって,α3をα3−1及びα3−2に変更しないもの)が本件訂正発明の方法 とは異なるものであるか検討する。
・・・
c 原判決は,構成α3の「アルギニンを含む培養液」は,本件発明の構\成要件 A−2,A−3の「アルギニンを含む発酵原料」に当たらず,被控訴人方法は本件 発明のA−2,A−3を充足しないと判断したが,本件訂正発明においても,構成\n要件B’−1に「アルギニンを含む発酵原料」とあるので,α3の「アルギニンを 含む培養液」が構成要件B’−1の「アルギニンを含む発酵原料」に当たるか検討\nする。 構成要件B’−1は,「前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料を」と\nいうものであるが,これは,構成要件A’においてダイゼイン類にアルギニンを添\n加したものを指すと解するのが自然である。そして,上記bのとおり,被控訴人方 法の構成α3においては,「ダイゼイン」を含む処理液と「アルギニン」を含む培養\n液を,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●と共に混合して発 酵処理をしているところ,「ダイゼイン」を含む処理液と「アルギニン」を含む培養 液の混合物を,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能\力を有する微生物」であ る●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●で「発酵処理」してい るから,上記混合物は発酵原料に当たるというべきである。そうすると,同混合物 は,「前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料」に当たるから,被控訴人 らの主張する被控訴人方法を前提としても,被控訴人原料の生産方法は,本件訂正 発明の構成要件B’−1を充足し,構\成要件B’−1の発酵原料を微生物で発酵処 理することを内容とする構成要件B’−2も充足する。\n
この点,原判決は,本件発明について,アルギニンは,発酵処理をする前の発酵 原料の調製をする段階において発酵原料に含まれているものであり,構成α3の「ダ\nイゼインを含む処理液」が発酵原料に当たり,「アルギニンを含む培養液」は発酵原 料ではなく,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分に当たるものと解した上で, 被控訴人方法は発酵処理段階においてアルギニンが初めて現れるから本件発明の構\n成要件を充足しないと判断した。
しかしながら,本件特許請求の範囲及び本件明細書をみても,ダイゼイン類にア ルギニンを添加した後に微生物を加えることと,ダイゼイン類とアルギニンと微生 物を同時に混合することとの間に何らかの差異があることをうかがわせる記載はな い。また,本件明細書をみると,【0091】に「発酵原料(発酵に供される原料)」 との記載があるものの,【0093】には「ダイゼイン類を含む発酵原料としては, ダイゼイン類を含む限り,特に制限されるものではない」と発酵原料に特段の制限 がないものとされており,そのほかには発酵原料を定義付ける記載はない。前記1 (2)のとおり,本件訂正発明においてオルニチン産生能力及びエクオール産生能\力 を有する微生物による発酵に供されるのは,「ダイゼイン類」と「アルギニン」であ り,ダイゼイン類にアルギニンが添加されたのちに微生物が添加されたとしても, ダイゼイン類に,アルギニンと微生物が同時に添加されたとしても,アルギニンが 発酵に供されることに変わりがない。そうすると,被控訴人方法におけるアルギニ ンが,発酵原料ではないというべき理由がない。
原判決は,本件明細書の【0033】の「当該エクオール含有大豆胚軸発酵物は, 発酵原料として大豆胚軸を用いて製造される」との記載及び【0036】の「大豆 胚軸の発酵において,発酵原料となる大豆胚軸には,必要に応じて,発酵効率の促 進や発酵物の風味向上等を目的として,酵母エキス,ポリペプトン,肉エキス等の 窒素源;グルコース,シュクロース等の炭素源;リン酸塩,炭酸塩,硫酸塩等の無 機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に,エクオール産 生微生物として,アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(中略)を\n使用する場合には,大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって,得 られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。この場合,アルギニンの 添加量については,例えば,大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して,ア ルギニンが0.5〜3重量部程度が例示される。」と発酵原料となる大豆胚軸には, 必要に応じて,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分を添加してもよいと記載さ れていることから,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分は,発酵原料とは別の 成分として扱われていると認定したが,ダイゼイン類を含む「大豆胚軸」が発酵原 料に当たることと,ダイゼイン類を含む処理液とアルギニンを含む培養液のいずれ もが発酵原料に当たると考えることは何ら矛盾するものではない。また,【0036】 の記載も,大豆胚軸にアルギニンを添加したものを発酵原料とみなすことと矛盾す るものではない。したがって,原判決の判断には誤りがあるというほかない。 そうすると,α3の「アルギニンを含む培養液」は,構成要件B’−1の「アル\nギニンを含む発酵原料」に当たると認めるのが相当であるから,被控訴人方法が構\n成要件A’,B’−1,B’−2を充足しないことが立証されているとはいえない。
・・・
(ウ) 以上のとおり,被控訴人原料の生産に本件訂正発明の方法を使用していない ことが立証されているとはいえないから,特許法104条の推定が覆滅されたと認 めることはできない。

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◆平成30(ワ)18555

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令和3(行ケ)10016  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年11月30日  知的財産高等裁判所

 延長登録拒絶審決が維持されました。争点は 本件発明における「緩衝剤の量」です。

 特許権の存続期間の延長登録の制度は,政令処分を受けることが必要であったた めに特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とする ものであるから,本件医薬品の製造販売が,本件各発明の実施に当たらないのであ れば,本件処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることがで きなかったということはできない。 ところで,本件処分は,オキサリプラチンを有効成分とする「エルプラット点滴 静注液50mg」(本件医薬品)に係る本件処分に係る医薬品製造販売承認事項一部 変更承認申請当時(平成26年10月3日。甲2・参考資料7参照)の法14条9\n項に規定する医薬品の製造販売についての承認である。原告は,本件医薬品はオキ サリプラチンと注射用水からなり,本件医薬品中でオキサリプラチンが水と反応し て遊離したシュウ酸を緩衝剤とする旨主張している。 そこで,以下,本件医薬品の製造販売行為が,本件各発明の実施に当たるか検討 する。
3 本件各発明の「緩衝剤の量」について
(1) 本件各発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の1(2)のとおりであり,本 件発明1〜9及び15〜17については,1)オキサリプラチン,2)有効安定化量の 緩衝剤であるシュウ酸又はそのアルカリ金属塩及び3)製薬上許容可能な担体である\n水,を包含する「安定オキサリプラチン溶液組成物」に係るものであり,本件発明 10は,1)オキサリプラチン,2)有効安定化量の緩衝剤であるシュウ酸又はそのア ルカリ金属塩及び3)製薬上許容可能な担体,を包含する水性溶液である「オキサリ\nプラチン溶液組成物」に関して,緩衝剤を溶液に付加することを含む安定化方法に 係る発明,本件発明11〜14は,本件発明1〜9のいずれかの組成物についての 担体(水)と緩衝剤を混合することを含む製造方法に係る発明である。
(2) 原告は本件審決における「緩衝剤の量」の認定に誤りがあると主張するので 検討するに,上記(1)の特許請求の範囲の記載からすると,「緩衝剤」は,溶液に添 加したり,混合することを前提とするものと解するのが自然である。また,上記の 通り,本件発明1〜9及び15〜17が,オキサリプラチン,緩衝剤及び担体を含 む溶液組成物に係るものであるところ,オキサリプラチンを水に溶解させたときに 生じるシュウ酸を緩衝剤と称し,オキサリプラチンや水とは別個の要素として把握 するのは不自然である。さらに,「緩衝剤」の「剤」は,「各種の薬を調合すること。 また,その薬」(広辞苑〔第6版〕)を意味するから,この一般的な意義に従うと, 「緩衝剤」は,「緩衝作用を有する薬」を意味すると解される。そうすると,特許請 求の範囲の記載からは,本件各発明における「緩衝剤」に,オキサリプラチンから 遊離したシュウ酸は含まれないと解するのが相当である。
(3) 次に,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細書の記載を考慮して 解釈するものとされる(特許法70条2項)ので,本件明細書(甲1)の記載をみ ると,前記1(1)のとおり,「緩衝剤という用語」について,「オキサリプラチン溶液 を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンお よびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあら ゆる酸性または塩基性剤を意味する。」(【0022】)として,これを定義付ける記 載があり,上記の「剤」の一般的意義に照らしても,「緩衝剤」について,「緩衝作 用を有する薬」を意味するものと理解することは,本件明細書の記載にも整合する。 なお,原告は,本件において,本件明細書の記載を考慮すべきではない旨主張し ているが,特許法70条2項は一般的に特許発明の技術的範囲を定める場面に適用 され,特許侵害訴訟における充足性を検討する場面にのみ適用されるものではない から,原告の上記主張は採用できない。また,原告は,オキサリプラチンから遊離 したシュウ酸が緩衝剤としての役割を果たすと主張するが,同主張は本件特許の特 許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に整合していないし,一般に,有効成分 である化合物が水溶液中で分解した場合に,当該分解物を「緩衝剤」と称するとい うような技術常識があると認めるべき証拠もない。
(4) そして,前記1(2)のとおり,本件各発明が,オキサリプラチンと水からなる 従来技術よりも安定したオキサリプラチン溶液組成物を提供することを目的とする ものであることに加え,本件明細書には,緩衝剤としてシュウ酸が二水和物として 付加される実施例1〜17が記載され,オキサリプラチン及び水のみからなる実施 例18は従来技術である比較例とされていることなどの本件明細書のその余の記載 を考慮しても,「緩衝剤」にオキサリプラチンから遊離したシュウ酸を含むと認める ことはできない。そうすると,「緩衝剤の量」に,オキサリプラチンから遊離したシ ュウ酸の量を含めるべきであるという原告の主張を採用することはできず,本件発 明1の「緩衝剤の量」について,「オキサリプラチン溶液組成物の作製時に,オキサ リプラチン及び担体に添加,混合された緩衝剤の量を意味し,オキサリプラチン溶 液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸の量は, 当該『緩衝剤の量』に含まれない」とする本件審決の認定に誤りはない。
4 本件医薬品を製造販売する行為が本件各発明の実施行為に該当するか否かに ついて
(1) 証拠(甲9)によると,本件医薬品中のシュウ酸モル濃度は,製造直後にお いて5×10-5M,36箇月保存後において8×10-5Mであることが認められる ものの,前記3のとおり,オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経 時的に分解することで生じたシュウ酸の量は,本件各発明における「緩衝剤の量」 に含まれないから,本件医薬品のシュウ酸モル濃度から直ちに,本件医薬品が本件 各発明の「緩衝剤の量」の範囲の緩衝剤を含有するということはできない。そして, 証拠(甲3,10)によると,本件医薬品は,オキサリプラチンと注射用水のみを 成分とし,その他の添加物はないことが認められるから,本件各発明における「緩 衝剤」すなわち「オキサリプラチン溶液組成物の作製時に,オキサリプラチン及び 担体に添加,混合された緩衝剤」を含有しないというほかないから,本件医薬品は, 本件各発明における「緩衝剤の量」の範囲を満たす量の「緩衝剤」を含有しない。
(2) そうすると,本件医薬品を製造・販売することは,本件各発明の実施に当た らないから,本件医薬品には緩衝剤が外から添加されていないとして,特許発明の 実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないとした本件審決の判 断に誤りはない。

◆判決本文

延長対象の特許が同じ事件です。

◆令和3(行ケ)10021

◆令和3(行ケ)10020

◆令和3(行ケ)10019

◆令和3(行ケ)10018

◆令和3(行ケ)10017

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