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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

補正・訂正

令和4(行ケ)10112  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年10月30日  知的財産高等裁判所

争点となった無効理由の1つが新規事項か否かです。知財高裁は審決と同じく、新規事項ではないと判断しました。

特許法17条の2第3項は、特許請求の範囲等の補正については、願書に最初に 添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなけ ればならない旨規定するところ、ここでいう「最初に添付した明細書、特許請求の 範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又 は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味するものとい うべきである。そして、第三者に対する不測の損害の発生を防止し、出願当初にお ける発明の開示が十分に行われることを担保して先願主義の原則を実質的に確保し\nようとするとの見地からすれば、当該補正が、上記のようにして導かれる技術的事 項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正 は「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するもの に当たるというべきである(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563 号同20年5月30日特別部判決参照)。
・・・
上記(3)のとおり、本件補正前の「前記有料自動機の動作状態を監視し、結果を前 記管理サーバへ送信する」こと(以下「監視して送信」という。)は、本件補正後の 「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を出力」す ること(以下「情報を出力」という。)に対応し、両者はともに当初明細書等に記載 された事項である。 ここで、監視のためには監視対象の情報を取得する必要があり、情報を出力する ためには出力したい情報に関するデータの入力が必要なことは自明のことであるか ら、上記「監視して送信」及び「情報を出力」のいずれの処理においても、その前 提として、ランドリー装置の動作に関係する何らかの信号を検知すること自体は当 然に行われることであり、当初明細書等において自明の前提であるといえる。そし て、この自明の前提は、検知する信号の種類(電流値、コイン信号等)や監視の具 体的な方法(計測値に基づく判断か、推測か等)を問わないものであり、本件補正 の前後で何ら変わることのないものであるといえる。 そうすると、本件補正前の請求項1の記載は、上記自明の前提を「前記有料自動 機の動作を検知するセンサーとを含み、」及び「前記センサーの検知信号に基づいて」 との事項によって更に特定したものであり、補正事項1において当該事項を削除す ることで、センサーの検知信号以外の情報に基づくものが含まれることになったと しても、上記自明の前提に照らせば、当初明細書等に記載された事項であって、新 たな技術的事項を導入するものとはいえない。またこの点は、上記自明の前提の具 体的な態様が「電流センサー」から他の手段に変わったとしても、「監視して送信」 や「情報を出力」する処理が行われる限り、本件発明1の課題(各設置場所を巡回 することなく有料自動機の動作状態を容易に確認することが可能な有料自動機の制\n御システムを提供する(甲2の【0005】))は解決され、効果に顕著な差が生じ ることがないことからも裏付けられる。 したがって、補正事項1は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導 かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないと いえる。 そして、本件補正の内容に照らすと、上記検討した補正事項1及び2のほかにお いても、当初明細書等に記載した範囲を超えるものはないと認められる。
(5) 原告主張について
原告は、1)当初明細書等には、センサーの検知信号に基づく構成が具体的に記載\nされており、他の構成は記載されていないから、センサーの検知信号に基づく構\成 は単なる例示ではない、2)本件審決の判断と異なり、有料自動機内の有料自動機制 御部10内の動作状態を示す回路の監視結果を示す信号を送信する方法は自明とは いえない、3)補正要件違反を認めないとすれば、センサーを含まず、料金収受情報 から有料自動機が動いているかを推測する方法が含まれることになる旨を主張する。 上記1)の主張について検討すると、センサーの検知信号に基づく構成は、上記自\n明の前提を具体化した態様の一つではあるものの、本件発明1は「監視して送信」 又は「情報を出力」により巡回せずにランドリー装置の動作状態を確認するという 課題を解決するものであるから、センサーの検知信号でなければ課題を解決し得な いということはなく、「監視して送信」又は「情報を出力」するために必要な情報が 入力されていれば足りる。当初明細書等にセンサーの検知信号に基づく構成しか例\n示がないとしても、上記自明な前提に対応する構成がそれのみに限定されることに\nはならない。 上記2)の主張について検討すると、本件審決は、有料自動機制御部10内にある 回路や素子からの信号が、センサー以外の検知信号に基づくものを説明のために例 示したものであって、当該例示が自明であることを補正の根拠として評価したもの ではないから、当該例示が自明であるか否かは、本件補正の適否の判断を左右する ものではない。

◆判決本文

関連事件です(当事者が同じ)。

◆令和5(行ケ)10040

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令和4(行ケ)10115 特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年8月10日  知的財産高等裁判所

 誤記訂正をしましたが「本件訂正による訂正後の記載として正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかであると認めることはできない」として、本件訂正が訂正要件を満たしていないと判断されました。

(ア) 本件訂正後の記載
前記第2の3のとおり、本件訂正後の記載は、「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれるもので軟化点を低くても70゜C)とする非アミドワックス成分(B)と、」というものである。
(イ) 本件訂正による訂正後の記載としての他の選択肢の存在
前記イ(イ)及び(ウ)のとおり、本件訂正前の記載に接した当業者は、本件訂正前の 構成にいう非アミドワックス成分(B)の中に「重量平均分子量をポリスチレン換\n算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70゜C)とする」との条件を 満たすポリオレフィンワックスが含まれるものと理解し、他方で、「重量平均分子 量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」との条件を満たすマイ クロクリスタリンワックス等が存在しないものと理解することにより、本件訂正前 の構成にいう非アミドワックス成分(B)の中にマイクロクリスタリンワックス等\nがおよそ含まれないものと理解し得るのであるから、仮に、当該当業者において、 本件訂正前の記載に誤りがあると理解するとしても、当該当業者にとっては、本件 訂正前の記載のうちポリオレフィンワックスに係る部分を全部削除した上、マイク ロクリスタリンワックス等に係る部分について重量平均分子量に係る条件(本件記 載)のみを削除するとの選択肢(本件訂正後の記載を採用するとの選択肢)のみな らず、本件訂正前の記載のうちマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部 削除した上、ポリオレフィンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満 たすもの)に係る部分のみを維持するとの選択肢(本件訂正による訂正後の記載を 「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を 低くても70゜C)とするポリオレフィンワックスからなる非アミドワックス成分(B) と、」などとする選択肢)も存在し得るものと理解すると認めるのが相当である。 そして、上記のとおり、当該当業者は、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス\n成分(B)の中に重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすポリオレフィンワ ックスは含まれるが、マイクロクリスタリンワックス等はおよそ含まれないものと 理解し得るのであるから、当該当業者において、非アミドワックス成分(B)に含 まれていた物質を維持し、およそ含まれていなかった物質を除外する趣旨の記載が 正しいと理解する蓋然性は、決して小さくないものと認めるのが相当である。
(ウ) 本件訂正後の記載が正しいことが当業者にとって明らかであるといえるか 否かについて
前記(イ)のとおり、本件訂正前の記載に接した当業者は、本件訂正前の記載から マイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィンワ ックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維 持する趣旨の記載が正しいとも理解することができるものであって、当該当業者に おいてこのような記載が正しいと理解する蓋然性は、決して小さくないのであるか ら、仮に、当該当業者において、本件訂正前の記載に誤りがあると理解するとして も、本件訂正後の記載については、当該当業者にとって、これが本件訂正による訂 正後の記載として正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の 記載、当業者の技術常識等から明らかであると認めることはできないというべきで ある。
エ 原告の主張について
(ア) 原告は、1)本件訂正により構成III)’(原告主張に係るもの。以下同じ。ま た、以下、構成I)’、II)’及びIV)’についても同じ。)が削除された結果、残った 構成I)’及びII)’に係る記載には誤記がある、2)本件訂正により構成III)’が削除さ れたのであるから、構成III)’に該当する物質が存在するとしても、そのことは、構\n成I)’及びII)’に係る記載に誤記が存在することと無関係である、3)本件決定は、 構成III)’が明確であることをもって構成I)’及びII)’も明確であるとすり替えるも のであるとして、構成I)’及びII)’に係る記載には誤記があると主張する。 確かに、構成I)’及びII)’をそれぞれ他の各構成と切り離し、これらをそれぞれ\n独立したものであるとみれば、前記イ(ウ)のとおり、マイクロクリスタリンワック ス等の分子量ないし重量平均分子量(ポリスチレン換算によるもの)がいずれも1 000未満であることは周知の技術的事項であるから、本件記載を含む構成I)’及 びII)’に係る記載のみに接した当業者は、本件記載が誤りであると理解するものと 認められる。しかしながら、前記イ(エ)のとおり、本件訂正前の構成にいう非アミ\nドワックス成分(B)に含まれ得る物質は、マイクロクリスタリンワックス、水素 添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの全部又は一部であると解される のであるから、構成III)’に該当する物質(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を 満たすポリオレフィンワックス)が存在する以上、本件訂正前の記載の全体をみれ ば、当業者にとって、これが誤りを含むことが明らかであると認めることはできな い。本件訂正前の構成を構\成I)’ないしIV)’に分け、これらの各構成に係る記載を\n一つずつ分析的に検討することを前提とする原告の上記主張は、本件訂正前の構成\nが非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質について「マイクロクリスタリン ワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので」 と規定し、当該物質がマイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリ オレフィンワックスのうちの一部であってもよいと解されること(これらの物質の 全てについて重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たす必要はないと解される こと)を看過するものであるし、また、本件訂正が構成I)’ないしIII)’についての 訂正(構成III)’の削除並びに構成I)’及びII)’に係る本件記載の削除)を同時に含 むものであるにもかかわらず、本件訂正によって構成III)’だけが論理的に先に削除 され、その結果、本件訂正前の構成に当初から構\成III)’が含まれていなかったかの ようにみなした上、構成I)’及びII)’のみをみて、これらに係る記載が誤記を含む か否かについて検討するものであるから、失当であるといわざるを得ない。 この点に関し、原告は、本件訂正前の構成が構\成I)’に該当する物質、構成II)’ に該当する物質及び構成III)’に該当する物質のいずれもが必ず存在することを規定 するものではないと解することは特許法36条5項前段に定める特許請求の範囲の 記載要件に反すると主張する。
特許法36条5項前段は、「第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、 各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認 める事項のすべてを記載しなければならない。」と規定するところ、上記のとおり、 本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質がマイクロ\nクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの一 部であってもよいと解されることに照らすと、本件訂正前の構成が非アミドワック\nス成分(B)に含まれ得る物質としてマイクロクリスタリンワックス、水素添加ひ まし油及びポリオレフィンワックスの三つを挙げているにもかかわらず、本件訂正 前の構成にいう重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすマイクロクリスタリ\nンワックス等が存在せず、その結果、本件訂正前の構成が当該条件を満たすポリオ\nレフィンワックスについてのみ規定していることになるとしても、本件訂正前の記 載につき、特許出願人(原告)が特許を受けようとする発明を特定するために必要 と認める事項の全てを記載していないということはできない。なお、仮に、本件訂 正前の記載が同条5項前段に規定する要件を満たしていないものであったとしても、 そのことをもって、本件訂正前の構成につき、これが重量平均分子量及び軟化点に\n係る条件を満たすマイクロクリスタリンワックス、当該条件を満たす水素添加ひま し油並びに当該条件を満たすポリオレフィンワックスの全てが必ず存在すると規定 するものではないとの上記解釈を妨げるものではない。
(イ) 原告は、本件訂正前の構成には非アミドワックス成分(B)に含まれる物\n質としてマイクロクリスタリンワックス等が明示され、また、マイクロクリスタリ ンワックス等は非アミドワックス成分(B)の構成成分として必須の事項であるか\nら、当業者において非アミドワックス成分(B)にマイクロクリスタリンワックス 等が含まれないと理解するはずがないと主張する。 しかしながら、前記イ(エ)のとおり、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス\n成分(B)に含まれ得る物質は、マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし 油及びポリオレフィンワックスのうちの全部又は一部であると解され、マイクロク リスタリンワックス等が非アミドワックス成分(B)の必須の構成成分であるとい\nうことはできないから、本件訂正前の構成において、マイクロクリスタリンワック\nス等が非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質として明示されているとして も、そのことをもって、本件訂正前の記載に接した当業者において、非アミドワッ クス成分(B)の中にマイクロクリスタリンワックス等がおよそ含まれないものと 理解し得るとの前記認定を左右するものではない。
(ウ) 原告は、当業者は本件記載が誤記であること及びマイクロクリスタリンワ ックス等につき誤記のない正しい物質(重量平均分子量による特定のないマイクロ クリスタリンワックス等)を認識することができ、また、本件訂正前の構成はこの\n世に存在しないものをあえて含むものであるから、当業者は構成I)’及びII)’に該 当する物質が存在しないとなると、そのことに論理的な矛盾や不自然さを必ず感じ ると主張する。 確かに、前記(ア)のとおり、構成I)’及びII)’をそれぞれ他の各構成と切り離し、\nこれらをそれぞれ独立したものであるとみれば、本件記載を含む構成I)’及びII)’ に係る記載のみに接した当業者は、本件記載に誤りがあると理解することになるし、 また、前記イ(ウ)のとおりの周知の技術的事項に照らすと、重量平均分子量に係る 特定がないマイクロクリスタリンワックス等が正しい記載であると理解し得るもの である(もっとも、当該当業者において、分子量ないし重量平均分子量(ポリスチ レン換算によるもの)につき、これを「1,000未満とする」などと特定された マイクロクリスタリンワックス等が正しい記載であると理解する可能性もある。)。\nしかしながら、構成I)’及びII)’に係る記載を一つずつ分析的に検討することを前 提とする原告の主張が失当であることは、前記(ア)のとおりであるから、本件記載 を含む構成I)’及びII)’に係る記載のみに接した当業者において、本件記載が誤り であると理解するとしても、そのことをもって、本件訂正前の記載に接した当業者 において、本件訂正前の記載に誤りがあると理解するものと認めることはできない。 また、仮に、当該当業者において、本件訂正前の記載に誤りがあると理解するとし ても、前記ウ(イ)のとおり、当該当業者は、当該誤りを訂正する正しい記載として、 本件訂正後の記載を採用するとの選択肢のみならず、本件訂正前の記載のうちマイ クロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィンワック ス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維持す るとの選択肢も存在し得るものと理解し、当該当業者において後者の選択肢に係る 記載が正しいと理解する蓋然性は、決して小さくないのであるから、当該当業者に おいて、ポリオレフィンワックスに係る記載及びマイクロクリスタリンワックス等 に係る本件記載を削除した記載(本件訂正後の記載)のみが正しいものと理解する と認めることはできない。さらに、前記イ(エ)のとおり、本件訂正前の構成にいう\n非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質は、マイクロクリスタリンワックス、 水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの全部又は一部であると解さ れるのであるから、本件訂正前の構成が非アミドワックス成分(B)に含まれ得る\n物質として重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすマイクロクリスタリンワ ックス等(原告が主張する「この世に存在しないもの」)を挙げているとしても、 そのことは、上記解釈に反するものではない。以上のとおりであるから、構成I)’ 及びII)’に該当する物質が存在しないことについて、当業者が必ず論理的な矛盾や 不自然さを感じるとの原告の上記主張を採用することはできない。
(エ) 原告は、マイクロクリスタリンワックス等は分子量が特定された物質であ り、誤記(本件記載)を削除した後のマイクロクリスタリンワックス等は正規の意 味のマイクロクリスタリンワックス等を表示するものであると客観的に認められる\nから、当業者(特に本件記載は誤りではないかとの疑念を抱いた当業者)において、 本件記載を含む本件訂正前の記載を本件訂正後の記載の趣旨(本件記載がないもの) に理解するのは当然であると主張する。 しかしながら、仮に、本件訂正前の記載に接した当業者において、本件記載は誤 りではないかとの疑念を抱いたとしても、前記イ(エ)のとおり、本件訂正前の構成\nにいう非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質は、マイクロクリスタリンワ ックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの一部であってもよ いと解され、また、前記イ(イ)のとおり、当該当業者において、非アミドワックス 成分(B)の中に重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすポリオレフィンワ ックスが含まれるものと理解する以上、本件訂正前の記載の全体をみれば、当該当 業者において、本件訂正前の記載が誤りを含むものと理解すると認めることはでき ないから、当該当業者が本件記載は誤りではないかとの疑念を抱いたことをもって、 当該当業者が本件訂正前の記載の全体についても、これが誤りを含むのではないか との疑念を抱いたと認めることはできない。さらに、仮に、当該当業者において、 本件訂正前の記載が誤りを含むのではないかとの疑念を抱いたとしても、前記ウ (イ)のとおり、当該当業者は、当該誤りを訂正する正しい記載として、本件訂正後 の記載を採用するとの選択肢のみならず、本件訂正前の記載のうちマイクロクリス タリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィンワックス(重量平 均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維持するとの選択 肢も存在し得るものと理解し、当該当業者において後者の選択肢に係る記載が正し いと理解する蓋然性は、決して小さくないのであるから、当該当業者において、ポ リオレフィンワックスに係る記載及びマイクロクリスタリンワックス等に係る本件 記載を削除した記載(本件訂正後の記載)のみが正しいものと理解すると認めるこ とはできない。以上のとおりであるから、原告の上記主張を採用することはできな い。
この点に関し、原告は、構成I)’ないしIII)’が択一的な関係に立つものであるこ と及びマイクロクリスタリンワックス等の分子量がいずれも1000未満であると の技術常識が存在することに照らすと、本件記載を削除するとの訂正をする必要が あることは当業者にとって直ちに明らかであり、また、構成III)’ではなく構成I)’ 及びII)’を削除するとの選択肢が存在することは構成I)’及びII)’に係る本件記載 が誤りであることと無関係であるから、本件訂正後の記載が訂正後の正しい記載で あることは直ちに明らかであると主張する。 しかしながら、構成I)’ないしIII)’が択一的な関係に立つとの原告の主張(これ は、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質はマイ\nクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうち の全部又は一部であるとの前記イ(エ)の解釈を否定するものでないと解される。) 及び原告が指摘する技術常識を考慮しても、前記ウ(イ)のとおりの認定(本件訂正 前の記載に接した当業者において、本件訂正後の記載を採用するとの選択肢のみな らず、これと異なる選択肢(マイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削 除した上、ポリオレフィンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満た すもの)に係る部分のみを維持するとの選択肢)も存在し得るものと理解し、当該 当業者において後者の選択肢に係る記載が正しいと理解する蓋然性は、決して小さ くないとの認定)を左右するものではない。そして、当該当業者において、本件訂 正後の記載を採用するとの選択肢と異なる選択肢が存在し得るものと理解する蓋然 性が小さくないのであれば、本件訂正後の記載については、当業者にとって、これ が本件訂正による訂正後の記載として正しいことが願書に添付した明細書、特許請 求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかであるということはでき ない。
また、原告は、本件訂正前の記載に接した当業者において、本件訂正前の記載の うちマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィ ンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみ を維持するとの選択肢が存在するものと理解し得るとの被告の主張は本件決定にお いて触れられていない理由に係るものであり、当該主張を本件訴訟において提出す ることは適切でないと主張する。 しかしながら、前記第2の4(1)ア(イ)bのとおり、本件決定は、本件訂正前の記 載から、構成I)’及びII)’を削除するとの訂正(本件訂正の後の記載を「重量平均 分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても7 0゜C)とするポリオレフィンワックスからなる非アミドワックス成分(B)と、」と するもの)が選択肢として存在すると認めた上、これを理由に、当業者にとって、 本件訂正後の記載が訂正後の正しい記載として直ちに明らかであるとまではいえな いと説示しているのであるから、原告の上記主張は、前提を誤るものとして失当で ある。
さらに、原告は、本件訂正後の記載を採用するとの選択肢と異なる選択肢の内容 に関し、要するに、マイクロクリスタリンワックス等は本件訂正前の構成において\nも明示されていたのであり、誤りは本件記載にのみ存在するのであるから、削除さ れるべきであるのは本件記載のみであり、本件訂正前の記載のうちマイクロクリス タリンワックス等に係る部分を全部削除するとの選択肢に係る記載は訂正後の記載 として相当でないと主張する。 しかしながら、仮に、本件訂正前の記載に接した当業者において、本件訂正前の 記載のうちマイクロクリスタリンワックス等について「重量平均分子量をポリスチ レン換算で1,000〜100,000とし」との特定をする部分が誤りであり、 これにより、本件訂正前の記載に誤りがあると理解するとしても、本件訂正前の記 載からマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除し、ポリオレフィン ワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを 維持するとの訂正によっても、上記の誤りを解消することができるのであるから、 本件訂正前の記載のうちマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除す るなどする選択肢に係る記載が訂正後の記載として相当でないということはできな い。
オ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正前の記載が誤りで本件訂正後の記載が正しい ことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識 等から明らかで、本件訂正前の記載に接した当業者であれば、そのことに気付いて 本件訂正前の記載を本件訂正後の記載の趣旨に理解するのが当然であるということ はできない。 よって、本件訂正前の記載から本件記載を削除する本件訂正が特許法120条の 5第2項ただし書2号に掲げる「誤記…の訂正」を目的とするものに該当するとい うことはできない。 なお、原告は、本件記載は手続補正において原告の過誤により追加されたもので あるから、本件記載を削除する本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書2号 に掲げる「誤記…の訂正」を目的とするものであると主張するが、仮に、原告が主 張するような事情が存在するとしても、少なくとも本件においては、そのような事 情が存在することをもって、本件記載を削除する本件訂正が同項ただし書2号に掲 げる「誤記…の訂正」を目的とするものであると認めるには不十分である。\n
(2) 本件訂正前の記載から本件記載を削除する本件訂正が特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項(「誤記…の訂正」を除く。)のいずれかを目的 とするものに該当するか否かについて
原告は、本件記載は手続補正において原告の過誤により追加されたものであるか ら、本件記載を削除する本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げ る事項(「誤記…の訂正」を除く。)のいずれかを目的とするものであると主張す るが、前記(1)オのとおり、少なくとも本件においては、原告が主張するような事 情が存在することをもって、本件記載を削除する本件訂正が同項ただし書各号に掲 げる事項(「誤記…の訂正」を除く。)のいずれかを目的とするものであると認め ることはできない。 その他、本件訂正前の記載から本件記載を削除する本件訂正が特許法120条の 5第2項ただし書各号に掲げる事項(「誤記…の訂正」を除く。)のいずれかを目 的とするものに該当するとの主張立証はない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10070  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明についての特許権侵害事件です。1審の東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。控訴人は、請求項17に基づく侵害主張、および訂正の再抗弁を追加しました。知財高裁は、時機に後れた攻撃防御方法には該当しないとして判断自体はおこないましたが、最終的には無効として、控訴棄却しました。

事案に鑑み、争点7(乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の当否)について、まず判断する。
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)イ のとおり、乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁は、時機に後れた攻撃防御方法であるとしてその却下を求めるが、この防御方法の提出が訴訟の完結を遅延させるものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討する。
(2) 無効理由の解消の有無等について
事案に鑑み、仮に、本件訂正が適法であり、本件訂正により本件訂正発明と乙22発明との間に当事者の主張に係る相違点が全て生じるとした場合、乙22発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消されるかをまず検討する。
ア 本件訂正発明1
相違点22−6ないし相違点22−8の容易想到性
相違点22−6ないし相違点22−8は、前記第2の4(1)イ aのと おり、本件訂正発明1において、1)閲覧者がWebブラウザに対して閲 覧指示を行った段階においては、Webブラウザは閲覧指示に対応する HTMLをサーバに要求するだけであること(相違点22−6)、2)サー バはWebブラウザからの要求に従い、画像表示に必要な演算を実行す\nる、HTMLに記述されたJavaScriptをWebブラウザに送信すること (相違点22−7)、3)WebブラウザがHTMLに記述されたJavaScr iptを受信する前に表示領域内に表\示する分割画像を特定する演算を行 わないこと(相違点22−8)というものであるのに対し、乙22発明 は、地図データの要求をサーバに送信するまでの間に、ディスプレイに 表示する地図データ(メッシュ地図)を特定する演算を行っているとい\nうものである。 Webブラウザを用いた表示では、閲覧者がWebブラウザに対して\n閲覧指示を行うと、Webブラウザが閲覧指示に対応するHTMLをサ ーバに要求し、サーバが要求に対応するHTMLをWebブラウザに送 信し、Webブラウザが受信したHTMLに基づいて表示を行うという\n表示ステップを経るというようなプログラム上の取決めがあることは顕\n著な事実であるところ、このようなHTMLを用いるWebブラウザの 処理におけるプログラム上の取決めがある以上、閲覧者がWebブラウ ザに対して閲覧指示を行った段階では、Webブラウザは閲覧指示に対 応するHTMLをサーバに要求するだけであり、WebブラウザがHT MLを受信する前の段階では、Webブラウザによって当該HTMLに 基づくいかなる処理も実行されることがないことは、上記取決めから生 じる当然の帰結にすぎない。 そして、JavaScriptは、HTMLに直接記述されるか、あるいはHT MLによって読み出される外部ファイルに記述されるかのいずれでもよ いものであることは、本件特許出願時の技術常識と認められるから(甲 46、48、49)、当業者は適宜それを使い分ければよく、Webブラ ウザにおいてJavaScriptを用いたときにJavaScriptがHTMLに直接記述されることは当業者の自然な選択の一つにすぎず、その選択をした場 合、WebブラウザがHTMLを受信する前に当該HTMLに直接記述 されたJavaScriptを実行しないことはいうまでもない。 そうすると、Webブラウザを採用して動的表示をJavaScriptを用い\nて実行しようとするならば、当業者が適宜になす自然な選択の結果、ほ ぼ必然的に相違点22−6ないし相違点22−8に係る本件訂正発明1 の構成をとることになるのであって、当該構\成についてとりたてて創意 を発揮する余地はない。そうであるところ、前記2(1)のとおり、本件特 許出願当時において、Webクライアントによる動的表示を行う処理を\nWebブラウザでJavaScriptを用いて行うことは周知慣用技術であり、 そして、この周知慣用技術を適用すればそれに起因して相違点22−6 ないし22−8の本件訂正発明1の構成となるというのであれば、上記\n相違点に係る本件訂正発明1の構成は容易に想到し得るものというほか\nない。
・・・
時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)ア のとおり、被告地図表示方法の本件\n発明17の充足性に関する主張は、時機に後れた攻撃防御方法であると してその却下を求めるが、この攻撃方法の提出が訴訟の完結を遅延させ るものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討 する。
相違点22−17−1の容易想到性について
a 本件訂正発明17は、本件訂正発明1について、1)同じ内容の画像 データを2)複数の倍率で有すること、3)各倍率の画像を構成する分割\n画像の画素数は表示倍率に関わらず一定であること、4)分割画像の分 割数は倍率が低い画像ほど少なく、倍率が高い画像ほど多いこととの 限定を付したものであるところ、乙22発明は、上記のような構成を\n有するとは特定されていない。
b 乙10文献には別紙9のとおりの記載がある。これによると、乙10技術として、次のような技術が記載されているものと認められる。 クライアントから要求される画像の指定、表示範囲の指定の変化に\n関わらず、高速かつ一定時間内に高精細画像を表示するためのデータ\n構造を備える高精細画像表\示装置を提供することを目的とするもので あって(【0006】)、 サーバに格納される画像データのデータ構造が、複数段階の解像度\nの画像を有するものであり(【0024】ないし【0026】、【図2】)、 それぞれ解像度の画像はそれぞれpピクセル×pピクセルのブロッ クに分割されて保持され、個々のブロックを単位としてアクセスされ るものであって、個々のブロックを構成する画素数は解像度に関わら\nず同じであり(【0028】、【0029】、【図3】)、 ブロックの分割数は解像度が少ない画像ほど少なく、解像度が高い 画像ほぼ多い状態であり(【図3】)、 クライアント側の表示装置において表\示される表示枠に関連する各\nブロックの画像データを、サーバからクライアントに伝送して表示す\nる技術(【0031】、【0032】)。
c 本件訂正発明1が乙22発明により容易に想到できるものであるこ とは、前記アにおいて判示したとおりであるところ、乙10技術は、 相違点22−17−1の構成に係る分割画像の格納形態を開示するも\nのであり、本件訂正発明17と乙10技術は、分野を同一とするもの であって表示領域より大きい画像データを領域分割し、表\示装置に対 応する分割画像を送信して表示することにより表\示を高速化するとい う機能も共通するものであるから、乙22発明の分割画像の格納形態\nとして、乙10文献記載の分割画像の格納形態を採用して、相違点2 2−17−1に係る本件訂正発明17の構成とすることは容易に想到\nできる。
控訴人らの主張について
控訴人らは、前記第2の4(1)イ e(g)のとおり、乙10技術は、個々 の分割画像(ブロック)を送信しているわけでもないし、同じ画像を複 数の倍率でかつ倍率ごとにそれぞれ複数の領域で分割してサーバから送 信しているわけではないから、乙22発明に乙10技術を適用して本件 訂正発明17の構成とすることは容易に想到できない旨主張するが、乙\n10技術の分割画像の送信手法と分割画像の格納形態とは、特に必須に 結合しているわけではなく、それぞれ独立した技術事項であるから、乙 10技術の送信手法までを乙22発明に適用する必要はなく、乙10の 分割画像の格納形態のみを採用することに阻害要因も見当たらない。 したがって、上記主張を採用することはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和1(ワ)21901

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令和4(行ケ)10092  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月27日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、ゲームプログラムについて、新規事項である&進歩性なしとした判断は誤りであるとして、拒絶審決を取り消しました。

当初明細書等及び第2次補正後の明細書等に記載の発明の技術的意義は、前 記2(1)イ及び(2)記載のとおり、ユーザの強さの段階を基準として所定範囲内の 強さの段階にある対戦相手を抽出することにより、従来のように対戦相手をラ ンダムに抽出する場合に比べて、対戦相手間の強さに大差が出て勝敗がすぐに ついてしまう戦いの数を低減することができ、また、対戦相手の強さに一定の ばらつきを含ませて対戦ゲームの難度を変化させ、ユーザのゲームに対する興 味を増大させることにある。 そして、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユーザ」の「強さ」に、 攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが 本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間に争いがない(本件審決第 2の2(2)イ(ウ)〔本件審決12頁〕参照)。
上記のような、対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユー ザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細 書等記載の「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当で\nあり、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」とすることは、発明の一実施形態 としてあり得るとしても、技術常識上「強さ」に含まれる要素の中から、あえ て体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力と防御力の合 計値」に限定しなければならない理由は見出すことができない。言い換えれば、 「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的 意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付 加的な事項にすぎないと認められる。 そうすると、当初明細書等には、「強さ」の実施形態として、文言上は「攻撃 力及び防御力の合計値」としか記載されていないとしても、発明の意義及び技 術常識に鑑みると、第2次補正により、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」 に限定せずに、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータ」と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたも\nのとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認め られない。そうすると、第2次補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内 においてされたものであると認められ、特許法17条の2第3項の規定に違反 するものではないというべきである。 したがって、本件審決が、第1次補正発明の「強さ」について、第2次補正 により「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」と補正したことは新たな技術的事項を導入するものである\nとして、第2次補正は特許法17条の2第3項の規定に違反すると判断して第 2次補正を却下した(本件審決第2)のは誤りであると認められ、本件審決に は、原告主張の取消事由が認められる。
4 被告の主張に対する判断
(1) 被告は、当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の合計値」 に限定されるものであることは明らかである旨主張する(前記第3〔被告の 主張〕2(1)ア)。
しかし、前記3のとおり、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユ ーザ」の「強さ」に、攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテ ム数等が含まれることが本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間 に争いがない。そして、当初明細書等に、「強さ」について「攻撃力及び防御 力の合計値」と記載された箇所があるとしても、発明の技術的意義に鑑みれ ば、「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りるものと解され、「強さ」から\n「攻撃力及び防御力の合計値」以外の要素を除外する理由は見出されない。 対戦ゲームには様々な形態があり得るものであり、技術常識に照らすと、ゲ ームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパラメータが 想定されるものと認められ、段落【0028】に記載の「攻撃力及び防御力 等」における「等」や図2(b)における「…」が、「強さ」の要素のうち、 攻撃力及び防御力以外の体力、俊敏さ、所持アイテム数等の要素を示すと解 することは十分に可能\である。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(2) また、被告は、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の\n文言によっては、「強さ」にどのようなパラメータが包含されるのかが具体的 に特定できず、第三者に不測の不利益を生じると主張する(前記第3〔被告 の主張〕2(1)イ)。
確かに、対戦ゲームには様々の形態があり得るものであり、技術常識に照 らすと、ゲームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパ ラメータが想定されるものと認められる。 しかし、各形態のゲームにおいてどのような「強さ」のパラメータを設定 するのが適当かは、当業者であれば適宜判断し得るものと推認され、ユーザ の強さを基準として所定範囲内の強さを有する他のユーザを対戦相手として 選択することにより、ユーザのゲームに対する興味の低下を防ぐという発明 の技術的意義に照らせば、ある形態の対戦ゲームにおいて「強さ」にどのよ うなパラメータが含まれるかは、当業者であれば想定し得るものと推認され る。そうすると、「強さ」が「攻撃力と防御力の合計値」に限定されていない としても、第三者に不測の不利益をもたらすものとは認められない。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(3) 被告は、第2次補正によって「強さ」が広範な概念へと拡張され、新たな 技術的事項を追加するものとなったこと、「数値が高い程前記対戦ゲームを 有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の文言には、どのようなパラメータが包含されるの\nかが具体的に特定できず、第三者に不測の不利益をもたらすことから、第2 次補正は認めるべきでない旨主張する(前記第3〔被告の主張〕3)。 しかし、前記(1)及び(2)において述べたとおり、被告の上記主張は採用する ことができない。
(4) また、被告は、当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の 合計値」に限定されるものであることは明らかであると主張するが(前記第 3〔被告の主張〕4)、前記(1)のとおり、このような被告の主張は採用するこ とができない。

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令和4(行ケ)10061  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月16日  知的財産高等裁判所

不明瞭とされた拒絶理由に対してした補正について、不明瞭記載の釈明ではない、および新規事項であるとした審決が維持されました。

また、本件補正は、「前記検知手段の出力と前記油圧アクチュエータの 動作とに対応させて危険である場合」との記載を削除し、「前記検知手段 が人を検知している場合」との記載を追加する補正を含むところ、「前記 検知手段の出力と前記油圧アクチュエータの動作とに対応させて危険であ る場合」であっても警報を行わない場合を含むことになるから、同5項2 号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものでない。
イ 原告は、前記第3の1(1)アのとおり、本件補正は、本件拒絶理由通知書 の指摘に応じ、「警報を行う」条件を「前記検知手段が人を検知している 場合」に特定することにより、「前記検知手段の出力と前記油圧アクチュ エータの動作とに対応させて危険である場合」の意味内容を明確にしたも のであるから、特許法17条の2第5項4号の明りょうでない記載の釈明 に当たる旨主張する。
しかし、本件補正後の「前記検知手段が人を検知している場合」との記 載は、本件補正前の「前記検知手段の出力と前記油圧アクチュエータの動 作とに対応させて危険である場合」との記載の本来の意味内容に含まれる べき「前記油圧アクチュエータの動作」との対応関係を明らかにするもの と理解することはできず、本来の意味内容において「警報」を行う対象が オペレーターであったと理解することもできない。 そうすると、本件補正後の記載は本件補正前の記載本来の意味内容とは 異なるものになっているから、本件補正は、本件補正前の記載本来の意味 内容を明らかにするものにはなっておらず、明りょうでない記載の釈明に 当たるとは認められない。
(2) 小括
以上によれば、本件補正は、特許法17条の2第5項各号に掲げるいずれ の事項を目的とするものにも該当しないとした本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由2(本件補正における新規事項の追加に対する判断の誤り)につい て
(1) 前記2において説示したとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項各 号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、認められないもの であるから、この点で既に却下されるべきものであるが、なお念のため、本 件補正が新規事項を追加するものであるかについても検討する。 本件補正では、「前記検知手段が人を検知している場合に」警報を行うこ と及び「オペレーターに対して」警報を行うことを発明特定事項として新た に導入するものであるが、当初明細書等には、そもそも、コントローラが何 らかの条件で警報を行う構成すら記載されていない。\n当初明細書における【0002】の「機械と周囲の作業員等の障害物との 接触を防止するため、障害物との距離や建設機械の切削や旋回などの動作に 対応させて危険である場合に警報を行う」との記載は、その前の「この技術 においては、」という主語からみれば、特許文献1に記載された従来技術に ついての説明であり、このような従来技術の構成を【発明を実施するための\n形態】に記載の構成が備えることを開示するものではないし、このような構\ 成を前提としなければ【発明を実施するための形態】に記載の構成が成立し\nないという事情もなく、その他【発明を実施するための形態】に記載の構成\nが従来技術の構成を前提とするものであることをうかがわせる記載もない。\nそして、上記記載の本件補正による新たな発明特定事項は、当初明細書にお ける【発明を実施するための形態】に記載されていないことはもちろん、背 景技術に関する【0002】にも記載されていない。よって、本件補正は、新規事項を導入するものであるといえる。
(2) 原告は、前記第3の2(1)のとおり、補正前発明は従来技術が開示している 技術と関連している旨主張するが、仮に、補正前発明が従来技術が開示する 技術と関連性を有するとしても、当初明細書等に、補正前発明に関する構成\nとして、従来技術の構成が開示されているとはいえないことは明らかである\nから、いずれにしても、本件補正は、新規事項を導入するものというべきで ある。

◆判決本文

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令和4(ネ)10087  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権侵害として、1審で約800万円の損害賠償が認められました。双方控訴しましたが、控訴棄却されました。原告(控訴人)は代理人なしの本人訴訟です。

(1) 業界における実施料等の相場について
ア 一審原告は、前記第2の4(4)ア aのとおり、原判決が、甲55報告書 の例外的事象における実施料率を理由に、電気等の分野の実施料率の平均 値を採用しなかったのは不当である旨主張する。 しかし、原判決は、一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となると いう甲55報告書の指摘に着目して、電気等の分野の実施料率の平均値を 採用しないとしたのであり、その判断は首肯できるものである。 イ 一審原告は、前記第2の4(4)ア bのとおり、乙13陳述書における実 施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。 しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙13陳述書は、具体 的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示したものと 理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を吟味する必要 があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や分割出願制度等を 利用した出願を全てまとめて1パテントファミリーとして、パテントファ ミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、1件当たりのライセンス 料率が過少にならない工夫をしていること等に鑑みると、その信用性が否 定されるべきものとはいえない上、そもそも原判決は、乙13陳述書にお ける料率をそのまま採用しているのではなく、その他の各種事情を総合勘 案した上で、料率を決定しているのであるから、一審原告の主張は採用で きない。
(2) 代替品の不存在について
一審原告は、前記第2の4(4)ア のとおり、本件訂正発明によらずに、 本件訂正発明の効果を奏することは経済的に現実的ではなかった旨主張す る。 しかし、これを的確に裏付けるに足りる証拠はないし、その他の各種事 情を総合考慮すると、そもそもこの点のみをもって本件結論が左右すると はいい難いから、一審原告の上記主張は採用できない。
・・・
一審被告は、「本来解像度」の用語の意義について、本件明細書等【00 32】に「「本来解像度」とは「本来画像」の解像度をする。」と定義され ているので、「本来画像」の意義が問題となるところ、「本来画像」の用語 の意義、内容は不明確であるから、本件特許明細書には、構成要件G’にお\nける「本来解像度」の意義を理解するための記載がなく、サポート要件に反 する旨、当審において新たに主張するが、本件明細書等の「本来画像」及び 「本来解像度」に関する関係記載(【0006】、【0032】、【007 9】、【0115】、【0118】、【0119】、【0124】ないし 【0126】、【0128】ないし【0130】等)を総合すれば、当業者 は、「本来画像」及び「本来解像度」が何を意味するかにつき十分に理解で\nきるというべきであるから、本件訂正発明は本件明細書等の発明の詳細な説 明に記載したものといえる。 その他にも、両当事者はるる主張するが、いずれも本件結論を左右し得な い。
第4 結論
以上によれば、一審原告の請求は、主位的請求である不法行為に基づく損害 賠償請求権に基づき819万9458円及びこれに対する令和元年12月13 日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を 求める限度で理由があり、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由\nがないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、一審原告及 び一審被告の控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとお り判決する。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆令和1(ワ)32239

関連審決取消訴訟事件です。

◆令和3(行ケ)10139

◆平成28(行ケ)10257
同一特許についての別侵害訴訟の控訴審と1審です

◆令和4(ネ)10031

◆令和2(ワ)5616


◆令和3(ネ)10023

◆平成30(ワ)36690

◆令和4(ネ)10056

◆令和2(ワ)29604
この事件では、知財高裁は、損害額の算定について以下のように言及されています。
一審原告は、前記第2の3(4)ア aのとおり、甲26報告書の79頁 は、デバイスに関して、クロスライセンスの方式による場合において、 実施料率の相場が1%未満すなわち0.数%であることを示すにすぎ ないから、原判決のこの点に係る認定には誤りがある旨主張する。 しかし、甲26報告書の79頁によれば、デバイス等においては、製 品が数百ないし数千の要素技術で成り立っていること、互いの代表特\n許をライセンスし合い、実施料率の相場は1%未満であることといっ た一般的な事情が認められところ、これに加えて、引用に係る原判決 第4の11(3)イ 及び のとおり、一審被告が被告製品の製造販売の ためにした複数のライセンス契約におけるアプリ特許(標準必須特許 以外の特許)に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率 は平均●●●●●●●%であり、これを画像処理に関連する発明に限 定すると1件当たりのライセンス料率は、平均●●●●●●●●%と なること等、本件特有の事情も考慮すれば、原判決の相当実施料率の 認定に誤りがあるとはいえない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア bのとおり、ライセンス料は、主 として「代表特許」の価値によって決まるので、乙14陳述書の計算\nにおける標準必須特許を除く「全ての特許の件数で除した1件当たり のライセンス料率」は不当にディスカウントされたものである旨主張 する。
しかし、乙14陳述書は、代表特許(甲26の79頁にいう「相互\nの代表的な特許」)ではなく、標準必須特許(携帯電話事業分野の標\n準規格の実施に不可欠な特許)と、アプリ特許(通信規格に適合する ために不可欠とはいえない特許)を分けて扱っているのであり、それ 自体は合理的なことであって、このような方式を採ることが不当なデ ィスカウントに当たるともいえないから、一審原告の主張は採用でき ない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア cのとおり、乙14陳述書におけ る実施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。 しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙14陳述書は、 具体的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示し たものと理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を 吟味する必要があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や 分割出願制度等を利用した出願を全てまとめて1パテントファミリー として、パテントファミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、 1件当たりのライセンス料率が過少にならない工夫をしていること等 に鑑みると、その信用性が否定されるべきものとはいえない上、そも そも原判決は、乙14陳述書における料率をそのまま採用しているの ではなく、その他の各種事情を総合勘案した上で、料率を決定してい るのであるから、一審原告の主張は採用できない。

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令和4(行ケ)10030 特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月9日  知的財産高等裁判所

異議申立の決定が取り消されました。審判部は、審判は補正は新規事項追加であると判断しました。知財高裁は、新規事項ではないと判断し、これを取り消しました。\n

訂正事項2は、請求項1を引用する請求項4を新たな独立項である請求 項15とし、かつ、「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、 その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く。)」との 事項を追加するものである。
訂正前の請求項1においては、「積層体」について、「少なくとも2層を 有する積層体」と特定しているのにすぎないのであるから、ここにいう積 層体には、「第1の層」、「第2の層」及びその他の任意の層からなる積層 体が含まれることになるところ、「無機酸化物の蒸着膜」及び「蒸着膜上に 設けられたガスバリア性塗布膜」も層を形成するものである以上、この任 意の層に該当するといえる。したがって、訂正前の請求項1における積層 体は、「第1の層」、「第2の層」並びに「無機酸化物の蒸着膜」及び「蒸 着膜上に設けられたガスバリア性塗布膜」からなる積層体(以下「積層体 A」という。)を含んでいたものである。
そうすると、訂正事項2は、「積層体A」を含む訂正前の請求項1におけ る積層体から積層体Aを除くものといえ、このように積層体を特定したこ とにより、訂正前の請求項4に係る発明の技術的発明が狭まることになる のであるから、訂正事項2が特許法120条の5第2項ただし書1号に規 定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかである。
イ 被告は、前記第3の1(2)ア のとおり、訂正事項2は、「積層体」から、 「無機酸化物の蒸着膜」及びその上の「ガスバリア性塗布膜」を「積層体」 内の構成としたものを除く記載とはなっておらず、「積層体」の外に該当す\nる「積層体」の「上」に、新たに「無機酸化物の蒸着膜」を設け、さらにそ の上に「ガスバリア性塗布膜」を設けたものを除くとする記載となってい るから、「積層体」の範囲自体を減縮していない旨主張する。しかし、本件 発明は、「第1の層」及び「第2の層」で完結した積層体を特定事項とする ものではなく、特許を受けようとする発明を、「第1の層」及び「第2の層」 を有する全ての積層体とするいわゆるオープンクレームに該当するもので あるから、権利範囲に含まれる具体的層構成を特定するに当たり、積層体\nの内外を形式的に区別しても意味がない(「第1の層」及び「第2の層」の 外部の層も全て、本件発明における積層体の構成要素となる。)。そして、\n前記アのとおり、訂正事項2における「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜 が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるもの」 の具体的な内容は、「第1の層」、「第2の層」並びに「無機酸化物の蒸着 膜」及び「蒸着膜上に設けられたガスバリア性塗布膜」を備えた積層体であ るから、結局、積層体Aと区別できないものである。したがって、訂正事項 2は訂正前の積層体から積層体Aを除く訂正であり、「積層体」の範囲を減 縮していることになる。
また、被告は、本件訂正事項2のような「除くクレーム」とする訂正は、 第三者に明細書等の記載に関して誤解を与える可能性があり、不測の不利\n益を及ぼす蓋然性が高いものというべきである旨主張する。しかし、被告 主張のような懸念が仮にあったとしても、それは、訂正後の請求項につき、 明確性要件やサポート要件等の適合性を巡って検討されるべき問題という べきであるから、いずれにしても、本件事案において、この点をもって直ち に訂正を認めない理由とすることは相当でない。
ウ 以上のとおりであるから、訂正事項2が特許請求の範囲の減縮を目的と するものに当たらないとした本件取消決定の判断には誤りがある。 また、訂正事項3ないし9が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに 当たらないとした本件取消決定の判断にも誤りがある。
(2) 新規事項の追加の有無について
ア 仮に、本件において、異議手続で審理・判断されていない新規事項の追加 の有無について審理・判断することができるとしても、訂正事項2は、新規 事項を追加するものとは認められない。 すなわち、訂正が、当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合 することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項 を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した 事項の範囲内において」するものと解すべきところ、訂正事項2によって 「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリ ア性塗布膜が設けられてなるもの」を除外することにより、新たな技術的 事項が導入されるわけではなく、新規事項が追加されるものではない。 本件発明の課題は、バイオマスエチレングリコールを用いたカーボンニ ュートラルなポリエステルを含む樹脂組成物からなる層を有する積層体を 提供することであって、従来の化石燃料から得られる原料から製造された 積層体と機械的特性等の物性面で遜色ないポリエステル樹脂フィルムの積 層体を提供すること(【0008】)であるが、上記除外によってこの技術 的課題に何らかの影響が及ぶものではない。
イ 被告は、前記第3の1(2)ア のとおり、訂正事項2は、本件発明の課題 に、引用文献の課題解決手段である「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が 設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜」を追加することで新たな 技術的事項を追加し、その追加した事項を前提に、それを除くとするので あるから、新たな技術的事項を導入するものである旨主張する。 しかし、訂正事項2による除外がされて残った技術的事項には、本件訂 正前と比較して何ら新しい技術的要素はないから、被告の主張は採用でき ない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10061  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月9日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審は29-2違反の無効理由有りとして、権利行使不能と判断しました。本件特許1を再訂正しましたが、知財高裁も再訂正後の発明について29-2違反の無効理由有りと判断しました。なお、再訂正発明については、審判では先願との同一性なしと判断されています。

(3) 争点3−1(引用発明1−1に基づく本件再訂正後発明1の拡大先願要件違 反の有無)について
ア 構成要件1D−1及び1D−4−1について\n
(ア) 控訴人は、引用発明1−1の押さえ部は可動であり、仮に可動ではない場合 を含むとしても、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体を巻き出 す又は巻き取る構成は乙10公報に開示されていないと主張する。\n
(イ) しかしながら、乙10公報には、押さえ部を固定する場合を排除するような 記載はない。そして、「スクリーン本体4が被磁着体90に近接した位置にあると、 スクリーン本体4が被磁着体90に磁着しやすくて引き出し操作をスムーズに行い 難いし、スクリーン本体4の表面に傷が付くことがあることから、引き出しを開始\nする前に、図4に示すように、ベース板11に可動片12を重ね合わせた状態(ロ ック状態)にして、押さえ部5を被磁着体90から離した態様(第1配置態様)に 固定する。」(【0043】)との記載は、特許請求の範囲の請求項3に係る発明の実 施例に係るものと認められる。また、上記記載からすると、スクリーン本体4の引 き出し操作をスムーズに行うことができ、スクリーン本体4の表面に傷が付くおそ\nれがない場合には、引き出し時に、押さえ部を非磁着体(本件再訂正後発明1にお ける「設置面」)から離す必要がないものと読み取ることができる。さらに、乙1 0公報には、請求項3に係る発明の実施例についての説明として、「前記押さえ部 5を被磁着体90から離した第1配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着 体90との離間間隔(距離)は、20mm〜70mmに設定されるのが好ましい (図4参照)。」(【0049】)、「前記押さえ部5を被磁着体90に近接させた第2配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着体90との離間間隔(距離)は、 1mm〜15mmに設定されるのが好ましく、中でも2mm〜8mmに設定される のが特に好ましい(図3、5参照)。」(【0050】)との記載があることからして、引用発明1−1においても、押さえ部と被磁着体との位置関係にはある程度の幅が あることが想定されているといえるところ、押さえ部と被磁着体との間の距離を調 整することによって、スクリーン本体の引き出し操作をスムーズに行うことができ、 かつ、スクリーン本体の表面に傷が付くおそれがないようにすることが可能\である ことは、当業者にとって明らかであるといえる。 そうすると、乙10公報には、押さえ部を固定した構成が開示されていると認め\nるのが相当である。
(ウ) 上記を前提とすると、乙10公報の【図5】のような構成で押さえ部を固定\nすることも当然に想定されるから、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリ ーン本体を巻き出す又は巻き取る構成も、乙10公報に開示されていると認められ\nる。乙10公報の【図1】〜【図6】は、いずれも押さえ部を可動とした場合(す なわち請求項3に係る発明)の実施例であると認められるのであって、これらの図 をもって、乙10公報に、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体 を巻き出す又は巻き取る構成が開示されていないということはできない。\n
(エ) したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
イ 構成要件1D−4−2について\n
・・・
(ウ) ところで、乙10公報には、「前記可動体24の先端部26の横断面視での 外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面に形成さ れているので(図10参照)、引き出し操作の際のスクリーン本体4の傷付きを十\n分に防止することができる。」(【0062】)、「前記可動体24の先端部26の横断面視での外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面 に形成されているので(図10参照)、巻き取り操作の際のスクリーン本体4の傷 付きを十分に防止することができる。」(【0066】)との記載があり、これらの記\n載における「稼働体24の先端部26」は引用発明1−1の「押さえ部」に相当す る部分であることから、引用発明1−1において、押さえ部の横断面視の形状を円 弧面としているのは、引き出し操作及び巻き取り操作の際に、スクリーン本体が傷 付くことを防止するためであるものと認められる。そうすると、乙10公報には、 押さえ部の構成を工夫することによって、引き出し操作及び巻き取り操作の際にス\nクリーン本体が傷付くことを防止することが開示されているといえる。
(エ) そして、シートと接触する部分を回転可能とすることによる効果も、シート\nの移動時にシートが傷付くことを防止するというものである。 そうすると、引用発明1−1において、横断面視の形状が円弧面である押さえ部 を回転可能とし、その結果、押さえ部に接触しながら巻き出され又は巻き取られる\nスクリーンの摺動接触に起因して押さえ部が回転するものとすることは、当業者が 押さえ部の構成の工夫として適宜選択する範囲のものにすぎないと認めるのが相当\nである。
・・・・
ウ 構成要件1D−4−3について\n
・・・
(イ) 乙31(平成24年12月18日付けの株式会社ケイアイシーの商品カタロ グ)、乙32(特開2006−178916号公報)及び乙33公報には、ケース から巻き出す形態のスクリーン装置において、ケースに取手が設けられているもの が開示されており、本件特許1の出願当時、本件再訂正後発明1のようなマグネッ トスクリーン装置の技術分野において、ケースに取手を設けることは周知・慣用手 段であったと認められる。そして、引用発明1−1において収納ケースに取手を設 けることは、当業者が、運搬の便宜等のため、必要に応じて適宜選択できることで あると認められる。
(ウ) 控訴人は、本件再訂正後発明1においては、ケーシングを移動させてシート を巻き出す使用態様のために「取手部」が必須であるのに対し、引用発明1−1で は収納ケースを移動させてシートを巻き出すような使用形態は想定されていないか ら、収納ケースに「取手部」に相当する部材を設けることについては開示も示唆も ないと主張するが、本件再訂正後発明1においても、ケーシングではなく「操作バ ー」側を移動させてスクリーンを巻き出す態様も想定されているし(本件明細書1 の【0051】、【図12】)、また、取手部ではなく、ケーシング自体を保持して移 動させることが可能であることは明らかであるから、ケーシングを移動させてシー\nトを巻き出すために「取手部」が必須であるという上記控訴人の主張は採用できな い。
(エ) したがって、引用発明1−1は、構成要件1D−4−3に相当する構\成を含 むものと認めるのが相当である。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和2年(ワ)3297号

本件特許1は以下です。

第6422800号

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令和4(ネ)10078  不当利得返還請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟の控訴審判決です。1審の東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n控訴審において、控訴人(1審原告)は訂正の再抗弁をしました。知財高裁(4部)は、「本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加える」として、訂正の再抗弁について、判断がなされています。

ア 時機に後れた攻撃防御方法に当たるかについて
控訴人は、第4次訂正に係る訂正の再抗弁は、特許庁による令和4年4 月21日付けの審決の予告を受けてした第4次訂正請求に係るものであ\nって、本件特許に係る特許権侵害訴訟における手続においても当然に主張 できるものと考えるようである(同主張によって第3次訂正に係る訂正の 再抗弁が取下げ擬制されたとも主張している。)が、特許権侵害訴訟におい て無効の抗弁とその対抗主張ともいうべき訂正の再抗弁は、特許権の侵害 に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決するため、 特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことなく主張することが できるものとされたにすぎず、特許無効審判とは別の手続である民事訴訟 手続内でのものであるから、審理の経過に鑑みて、審理を不当に遅延させ るものであるときは、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下 されるべきである。
そこで、原審における審理経過についてみると、控訴人は、原審におい て、第1回弁論準備手続期日(令和元年11月18日)における本件特許 が新規性及び進歩性を欠く旨の無効の抗弁の主張(被告第1準備書面)を 受けて、第3回弁論準備手続期日(令和2年7月27日)までに、第2次 訂正に係る訂正の再抗弁に係る原告第2準備書面を提出したが、本件無効 審判の手続における訂正請求に合わせて、第3次訂正に係る訂正の再抗弁 を記載した令和3年3月3日付け原告第5準備書面及び同年5月27日 付け原告第6準備書面を提出した(これらの準備書面は、第4回弁論準備 手続期日(令和3年12月16日)において、訂正書面を含めて陳述され た。)。原判決は、第2次訂正及び第3次訂正に係る訂正の再抗弁はいずれ も訂正要件を充足せず、本件特許は特許無効審判により無効とすべきもの と判断したところ、控訴人は、控訴理由書で、第4次訂正に係る訂正の再 抗弁の主張を追加したものである。 こうした原審での審理経過に鑑みると、第4次訂正は、時機に後れて提 出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたことについて控訴人に は重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4 次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る 訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅 延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとす る。

◆判決本文

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