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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

補正・訂正

令和1(行ケ)10117  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年12月3日  知的財産高等裁判所

 異議申立において取り消し審決がなされましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は補正が新規事項であるとの判断が間違いというものです。\n

 1 取消事由1(新規事項の追加についての判断の誤り)について
本件決定が,本件訂正は新規事項の追加に当たるとする理由は,本件明細書 等においては,駐車装置の利用者(以下「確認者」という。)が乗降室内の安 全等を確認する位置(訂正後請求項1の「安全確認実施位置」)及びその近傍 に位置する安全確認終了入力手段は,原則として乗降室内にあるものとされ, 例外的に,確認者がカメラとモニタを介して安全確認を行う場合にのみ,乗降 室外とすることができるものとされているにもかかわらず,訂正後請求項1に おいては,確認者が直接の目視によって安全確認を行う場合にも,安全確認実 施位置と安全確認終了入力手段を乗降室外とする(以下,これを「乗降室外目 視構成」という。)ことができることとなり,この点において,本件明細書等\nには記載のない事項を導入することになるというものであり,本訴における被 告の主張もこれと同旨である。
ところで,訂正後請求項1の構成Bは,「前記車両の運転席側の領域の安全\nを人が確認する安全確認実施位置の近辺及び前記運転席側に対して前記車両の 反対側の領域の安全を人が確認する安全確認実施位置の近辺のそれぞれに配置 され,人による安全確認の終了が入力される複数の入力手段と,」と定めるの みであって,安全確認実施位置や安全確認終了入力手段の位置を乗降室の内と するか外とするかについては何ら定めていないから,乗降室外目視構成も含み\n得ることは明らかである。
そこで,本件明細書等の記載を検討してみると,たしかに,確認者が目視で 安全確認を行う場合に関する実施例1,2,4においては,安全確認終了入力 手段は乗降室内に設けるものとされ,確認者がカメラとモニタによって安全確 認を行う実施例3においてのみ,安全確認終了入力手段を乗降室の内,外に複 数設けてもよいと記載されている(【0090】)のであって,乗降室外目視 構成を前提とした実施例の記載はない。しかしながら,これらはあくまでも実\n施例の記載であるから,一般的にいえば,発明の構成を実施例記載の構\成に限 定するものとはいえないし,本件明細書等全体を見ても,発明の構成を,実施\n例1〜4記載の構成に限定する旨を定めたと解し得るような記載は存在しない。\n他方,発明の目的・意義という観点から検討すると,安全確認実施位置や安 全確認終了入力手段は,乗降室内の安全等を確認できる位置にあれば,安全確 認をより確実に行うという発明の目的・意義は達成されるはずであり,その位 置を乗降室の内又は外に限定すべき理由はない(被告は,このような解釈は, 本件明細書【0055】【0064】を不当に拡大解釈するものであるという 趣旨の主張をするが,この解釈は,本件明細書等全体を考慮することによって 導き得るものである。)。
この点につき,被告は,乗降室の外から目視で乗降室内の安全を確認するこ とは極めて困難ないし不可能であると考えるのが技術常識であるから,本件明\n細書等において,乗降室外目視構成は想定されていないという趣旨の主張をす\nる。しかしながら,乗降室に壁のない駐車装置や,壁が透明のパネル等によっ て構成されている駐車装置等であれば,乗降室の外からでも自由に安全確認が\nできるはずであるし(その1つの例が,別紙2の駐車装置である。なお,被告 は,本発明は,「格納庫」へ車両が搬送される機械式駐車装置の発明であるこ とや,本件明細書等の図1の記載から,乗降室の外から乗降室内を目視するこ とはできないと主張するが,「格納庫」が外からの目視が不可能な壁によって\n構成されていなければならない理由はないし,上記図1は,実施例1の構\成を 示したものにすぎず,駐車装置の構成が図1の構\成に限定されるものではな い。),仮に乗降室が外からの目視が不可能な壁によって構\成されている場合 でも,出入口付近の適切な位置に立てば(したがって,そのような位置やその 近傍を安全確認実施位置として安全確認終了入力手段を配置すれば),乗降室 外からであっても,目視により乗降室内の安全確認が可能であることは,甲1\n9の報告書が示すとおりであり,いずれにせよ被告の主張は失当である。また, 仮に被告の主張が,訂正後請求項1は,安全確認実施位置や安全確認終了入力 手段が,目視による安全確認が不可能な位置にある場合までも含むものである\nという意味において,本件明細書等に記載のない事項を導入するものであると いうものであるとしても,「安全確認実施位置」とは,安全確認の実施が可能\nな位置を指すのであって,およそ安全確認の実施が不可能な位置まで含むもの\nではないと解されるから,やはり,その主張は失当である。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10165 特許権  行政訴訟 令和2年11月5日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項か否か争われました。知財高裁(3部)は、新規事項であるとした審決を取り消しました。クレームに追加した「透光性を有する」との記載について、明細書に明示的な記載がありませんでしたが、裁判所は自明事項である認めました。

2 本件補正の適否について
(1) 前記第2の2のとおり,本願発明に係る特許請求の範囲については,本件 出願時には「通気性が確保された不織布又は織布からなるカバー体」と記載 されていたものが,本件補正後には「通気性及び通水性が確保され且つ透光 性を有する不織布又は織布からなるカバー体」へと記載が変更されたもので あり,本件カバー体につき,「通水性」及び「透光性」を有する旨の記載が追 加されたものといえる。 そして,上記1のとおり,本件当初明細書等には,本件カバー体が通水性 を有する旨の記載(【0035】)は存するものの,「透光性を有する」との事 項に対応する明示的な記載は存しない。 そこで,本件カバー体が「透光性を有する」との事項が,本件当初明細書 等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて,以下,検討する。
(2) 工業分野一般において,透光性とは,物質を光が透過して他面から出るこ とをいう(JIS工業用語大辞典第5版(乙1))ところ,本願発明の技術分 野における「透光性」の用語が,これと異なる意味を有するものとみるべき 事情は存しない。 そうすると,本件カバー体が「透光性を有する」とは,本件カバー体が光 を透過させて他面から出す性質を有することを意味するものといえる。
(3) 次に,上記1のとおり,本件カバー体は織布又は不織布から構成されると\nころ,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する技術常識につい て検討する。 証拠(甲23,24)及び弁論の全趣旨によれば,本件出願よりも前の時 点において,遮光カーテンの生地に遮光性能を付与するために,有彩色の生\n地に黒色の生地を重ねて二重にする,有彩色の糸と共に黒色の糸を使用して 生地を製造する,黒色顔料を配合した塗料を生地に塗布積層する,黒色顔料 を配合したプラスチックフイルムを生地に張り合わせるなどの方法が採られ ていたことが認められる。また,証拠(乙4,10)及び弁論の全趣旨によ れば,本件出願よりも前の時点において,織布である樹木の萌芽抑制シート の遮光性を高めるために,糸材にカーボン粉末が練り込まれた黒色糸を使用 する方法が採られたり,織布又は不織布である野生動物侵入防止用資材の遮 光率を高めるために,繊維間又は糸条間の間隔を小さくして光を通しにくく する方法が採られたりしていたことが認められる。 このように,本件出願よりも前の時点において,織布又は不織布に遮光性 能を付与するために,特殊な製法又は素材を用いたり,特殊な加工を施した\nりするなどの方法が採られていたことからすれば,本件出願時において,織 布又は不織布に遮光性を付与するためにはこのような特別な方法を採る必要 があるということは技術常識であったといえる。そうすると,このような特 別な方法が採られていない織布又は不織布は遮光性能を有しないということ\nもまた,技術常識であったとみるのが相当である。 そして,繊維分野において,遮光性能とは,入射する光を遮る性能\をいう (「JISハンドブック 31 繊維」(乙8))から,遮光性能を有しないと\nいうことは,入射する光を遮らずに透過させること,すなわち上記(2)の意味 における「透光性」を有することを意味することとなる。 以上検討したところによれば,織布又は不織布について遮光性能を付与す\nるための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は不織布は透光性を 有するということが,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する 技術常識であったとみるのが相当である。
(4) 以上を前提として,本件カバー体が「透光性を有する」との事項が,本件 当初明細書等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて検討する。 上記(3)によれば,本件出願時における当業者は,織布又は不織布について 遮光性能を付与するための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は\n不織布は透光性を有するものであると当然に理解するものといえる。 そして,上記1のとおり,本件当初明細書等には,織布又は不織布から構\n成される本件カバー体につき,遮光性能を有する旨や遮光性能\を付与するた めの特別な方法が採られている旨の明示的な記載は存せず,かえって,本件 カバー体が通気性や通水性を有する旨の記載(【0035】)や,本件カバー 体の表面の少なくとも一部は本件カバー体を構\成する材料がそのまま露出し, 通気性や通水性を妨げる顔料やその他の層が形成されていない旨の記載(【0 036】)が存するところである。 このような本件当初明細書等の記載内容からすれば,当業者は,本件カバ ー体を構成する織布又は不織布について,特殊な製法又は素材を用いたり,\n特殊な加工が施されたりするなど,遮光性能を付与するための特別な方法は\n採られていないと理解するのが通常であるというべきである。 そうすると,本件当初明細書等に接した当業者は,本件カバー体は透光性 を有するものであると当然に理解するものといえるから,本件カバー体が「透 光性を有する」という事項は,本件当初明細書等の記載内容から自明な事項 であるというべきである。
(5) 以上によれば,本件補正は,本件当初明細書等の全ての記載を総合するこ とにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入す るものではなく,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたも のといえるから,特許法17条の2第3項の要件を満たすものと認められる。

◆判決本文

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平成30(ワ)10126  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年6月30日  東京地方裁判所

 104条の3の無効理由(新規事項、サポート要件違反)があるので、権利行使不能と判断されました。

 図103〜106のドットパターンに関係して,前記2のとおり,段落 【0184】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)の記載があ る。これらによれば,そのドットパターンは,格子状に配置されたドット で構成される。そして,格子ドットLDと呼ばれるドットを四隅に配置し,その4つの格子ドットLDで囲まれた領域の中心からどの程度ずらすかに\nよってテータ内容が定義され,例えば,同領域の中心から等距離の位置で 45度ずつずらした点を8個定義することで,8通りのデータを表現でき,このずらす距離を変更した点を8個定義することで16通りのデータを表\現できる。また,格子ドットLDは,本来,縦横方向の格子線の交点上で ある格子点上に配置されるが,その位置をずらしたドットをキードットK Dとして,このキードットKDに囲まれた領域,又は,キードットKDを 中心にした領域が一つのデータを示している。また,キードットKDを格 子点から等距離で45°ずつずらすことにより,その角度ごとに別の情報 を定義することができることなどが記載されている。(以下,図103〜1 06や上記発明の詳細な説明に記載されている技術思想のドットパターン を「図105ドットパターン」ということがある。) 図105について,垂直方向のラインについて,LV1,LV2などの 符号を付し,水平方向のラインについて,LH1,LH2などの符号を付 し,ドットにD1,D2などの番号を付したものが別紙図105その2で ある。
図105においては,例えば,垂直方向の格子線であるLV1,LV3, LV5と,水平方向の格子線であるLH1,LH3,LH5の交点に格子 ドットが配置され,格子ドットが四隅に配置されている領域が示されてい る(例えば,D1,D2,D13,D12(ただし後述)を四隅とするも の,D2,D3,D14,D13を四隅とするもの)。そして,その4個の 格子ドットで囲まれる領域の中心から等距離の位置でいずれかの位置に 1個のドットが配置されていることが示され(例えば,D7,D8),図 105全体では,上記領域の中心から等距離の位置で,45°ずつずれた 位置のいずれか1つの位置にドットが配置されることが記載されている。 また,図103には,交点から45°ずつずれた位置にドットを配置する 構成が記載されている。そして,D12やD56は,垂直方向の格子線であるLV3又はLV11上にあるが,水平方向の格子線であるLH1上に\nはなく,これらは,格子線の交点からずれたキードットKDであることが 示されている。
ア 本件補正1及び2による補正後の構成要件B1・G2は「(前記ドットパターンは,)縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中\n心に,前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした 方向のうちいずれかの方向に,どの程度ずらすかによってデータ内容を定義 し」である。
当初明細書1及び2の記載や図における図105ドットパターンにおい て,4個の格子ドットで囲まれる領域の中心は,それらの格子ドットが配置 されている格子線の中間にそれらと並行して存在するといえる格子線の交 点ともいえるから(例えば,格子点D1,D2,D13,D12で囲まれる 領域の中心は,垂直方向の格子線であるLV1,LV3の間のLV2と,水 平方向の格子線であるLH1,LH3の間のLH2の交点といえ,また,L V2,LV4,LV6,LH2,LH4,LH6は,縦横方向に等間隔に設 けられた格子線ともいえる。),上記構成要件B1・G2に係る構\成は,【01 84】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)及び図105に記載 されているといえる。
他方,図5ドットパターンにおいて,図5〜図8では,縦横方向に等間隔 で設けられた格子線(例えばLV4,LV7,LV10,LH4,LH7, LH10)の交点から等距離に,水平方向及び(又は)垂直方向にずらした 位置に各1〜3個のドットが記載されて情報を示している。これらでは,縦 横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に,情報内容 を定義するドットが格子点の中心からずれることで情報が示されていると いえるが,情報内容を定義するドットは,水平方向及び(又は)垂直方向に ずらされるのであり,等距離で90°ずつずらしているとはいえるとしても, 等距離で45°ずつずらしているものではない。図5〜図8では,格子線の 間に設けられた垂直方向及び水平方向のライン(例えば,LV3,LV5, LH3,LH5)が示された上で,それらのラインや格子線の交点に情報を 示すドットが示されていて(例えば,D9,D14),これは情報を示すド ットを格子点の中心から等距離で90°ずつずらすことを前提としている ものであり,このように交点に情報を示すドットを配置するこの図では情報 を示すドットを等距離で45°ずつずらすことは想定されていない。そうす ると,上記構成要件B1・G2に係る構\成は,【0023】〜【0027】 I),【0067】〜【0071】II)及び図5〜図8に記載されているもので はない。
イ 本件補正1及び2による補正後の構成要件C1・H2は「前記情報ドットが配置されて情報を表\現する部分を囲むように,前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上と,該第一方向ラインと交差 するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方 向ライン上とにおいて,該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配置さ れた(ドットパターンである)」である。
前記アのとおり,当初明細書I),II)には,図105ドットパターンに関す る記載において,本件補正1及び2による補正後の構成要件B1・G2に係る構\成が記載されていた。しかし,図105ドットパターンにおいては,縦横方向の格子線の交点上である格子点上に格子ドットLDが配置され,その 位置をずらしたドットをキードットKDとして,このキードットKDに囲ま れた領域,又は,キードットKDを中心にした領域が一つのデータを示すも のとされている。このようなキードットKDに囲まれた領域又はキードット KDを中心にした領域が一つのデータを示すものであり,「前記情報ドット が配置されて情報を表現する部分」(C1・H2)であるといえるところ,図105ドットパターンでは,前記のようにキードットKDによって,それ\nに囲まれた領域,又はそれを中心にした領域が情報を表現する部分とされているのであり,また,図105では,情報を表\現する部分はキードットKDにより囲まれていることが示されているのであって,そうである以上,「第 一方向ライン」及び「第二方向ライン」(C1・H2)として特定される水 平方向及び垂直方向のラインによって,情報を表現する部分を囲んでいると直ちにいえるものではない。したがって,「第一方向ライン」,「第二方向ラ\nイン」がない以上,情報を示すドットが配置されて情報を表現する部分を囲むような「第一方向ライン」及び「第二方向ライン」上にドットが配置され\nているということもできない。以上によれば,上記構成要件C1・H2に係る構\成は,【0184】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)及 び図105に記載されているとは認められない。 なお,図5ドットパターンについて,補正後の構成要件B1・G2に係る構\成の記載はないのであるが,図5ドットパターンには,情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように,縦方向の所定のドットの間隔ごとに水平方向に引いた水平ラインと,水平ラインと交差するように横方向の所\n定のドットの間隔ごとに垂直方向に引いた垂直ラインが存在し,また,それ らのライン上において,複数の格子点上に格子ドットが配置されているとい える。したがって,上記構成要件C1・H2に係る構\成は,【0023】〜 【0027】I),【0067】〜【0071】II)及び図5〜図8に記載され ているとはいえる。
ア 前記(3)によれば,当初明細書1及び2において,構成要件B1・G2に係る構\成は,【0184】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)及 び図105には記載されているとはいえるが,そこで記載されているドッ トパターンである図105ドットパターンは構成要件C1・H2の構\成を 有するものではない。また,当初明細書1及び2において,構成要件C1・H2に係る構\成は,【0023】〜【0027】I),【0067】〜【007 1】II)及び図5〜図8には記載されているとはいえるが,そこで記載されて いるドットパターンである図5ドットパターンは構成要件B1・G2の構\ 成を有するものではない。
そして,図5ドットパターンと図105ドットパターンは,情報ドットの ずらし方,1つの交点に対する情報ドットの個数,情報ドット以外のドット の配置,格子線又はラインのうち特定のものを「第一方向ライン」等として 特定するか否か,垂直ライン上のドットが本来の位置からのずれ方によって データの種類を表すか否か,1つのデータを区画するキードットKDが存在するか否か等,多くの点で相違しており,これらの相違は,各実施例が開示\nする技術的事項,すなわちドットパターンによる情報の定義方法が相当に異 なることに起因する。当初明細書1及び2は,極小領域であってもコード情 報やXY座標情報が定義可能なドットパターンを提供するとし(【0013】I),【0008】II)),複数のドットパターンを記載しているのであるが,そ こに記載されたドットパターンである図5ドットパターンと図105ドッ トパターンの情報の定義方法は上記のとおり相当に異なるのであり,また, 当初明細書1及び2に,これらの異なる情報定義方法を採用した各ドットパ ターンが採用する情報定義方法を相互に入れ替えたり,重ねて採用したりす ることについては何ら記載されていない。したがって,当初明細書1及び2 に,これらのドットパターンを組み合わせたものについての記載があるとは いえないし,それが当業者に自明であるともいえない。 以上によれば,当初明細書1及び2には,いずれも,本件補正1及び2に よって変更された構成要件B1・G2及び構\成要件C1・H2の構成をいずれも備えるドットパターンについての記載があるとはいえない。\nそうすると,当初明細書1又は2において,全ての記載を総合したとして も,当初明細書1又は2には,本件補正1及び2で補正後のドットパターン が記載されているとはいえず,本件補正は,当初明細書1又は2に開示され ていない新たな技術的事項を導入するものである。 したがって,本件補正1及び2は,当初明細書1又は2の記載等から導か れる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものである から,特許法17条の2第3項の補正要件に違反する。
イ これに対し,原告は,図103〜図106の実施例と図5〜図8の実施例 は,極小領域であってもコード情報やXY座標情報が定義可能なドットパターンを提案するという共通の課題を解決するための異なる実施例であり,こ\nれらを組み合わせることは当業者には自明の範囲のものであるから,構成要件B1・G2及び構\成要件C1・H2の構成は,いずれも当初明細書1及び\n2に記載されていると主張する。しかしながら,図5〜図8の実施例で示される図5ドットパターンと図103〜図106の実施例で示される図105ドットパターンでは,上記のとおり,情報の定義方法が相当に異なり,それを組み合わせることが当業者に 自明とはいえないし,当初明細書1及び2にそのような組み合わせを前提と した記載も存在しない。原告の上記主張には理由がない。
4 争点4−3(サポート要件に違反しているか)について
事案に鑑み,続いて,争点4−3のうち,本件発明3〜5についてのサポート 要件違反について判断する。
本件発明3の構成要件D3及び本件発明4の構\成要件E4の特許請求の範 囲の記載は「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位 置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している」との記 載を含み,本件発明5の構成要件D5の特許請求の範囲の記載は,「前記垂直 方向に配置されたドットの1つにおける当該ドット本来の位置からのずれ方 によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」との記載を含むもので ある。 これらには,垂直方向に配置されたドットの1つについて,本来の位置に配 置せず別の位置に配置すること,そして,「ずらし方によって」「ずれ方によっ て」ドットパターンの向きを示すとしていることからも,本来の位置と実際に 配置された位置との関係に基づいてドットパターンの向きが表現されることが記載されているといえる。\n
(2)ア 本件明細書3及び4には,前記1の記載があり,また,ドットパターンに 関係して前記2の記載がある。 ここで,本件明細書3及び4には,ドットを本来の位置とは違う位置に配 置し,本来の位置と実際に配置された位置のずれ方によってドットパターン の向きを表現することに関係し得るものとして,本件明細書3の【0009】III)に特許請求の範囲と同じ記載があり,後記イのキードットKDのずらし方 に関係する記載があることを除いて,何ら記載がない。 イ 【0240】〜【0242】III),【0234】〜【0236】IV)には,キー ドットKDにつき,撮像された格子ドットとキードットKDとの位置関係か らカメラの角度が分かり,カメラで同じ領域を撮影しても角度という別次元 のパラメータを持たせることができる旨の記載がある。このようにキードッ トKDの配置のずらし方によってドットパターンを撮像するカメラの角度 が分かることが記載されているところ,その角度が分かるためには配置のず らし方があらかじめ定められていることを前提としているはずであり,ドッ トパターンについていうと,キードットKDの配置のずらし方によって,ド ットパターンの向きを示すことが記載されているともいえる。 しかしながら,上記記載は,図105ドットパターンに関するものである (ドットパターンに関する明細書の記載及び図面は,当初明細書1及び2, 本件明細書1〜4では,いずれも同じであり,本件明細書3,4にも,図1 05ドッパターンと図5ドットパターンが記載されているといえる。)。前記 のとおり,図105ドットパターンにおいて,情報を示すドットは4 個の格子ドットLDに囲まれた領域の中心から等距離の位置で45°ずつ ずらしたいずれかの位置に配置されている。しかし,その中心点を交点とす るような垂直ラインと水平ラインを仮想的に想定したとして,それらは水平 方向あるいは垂直方向に配置されたドットから設定されたものではない。す なわち,図105ドットパターンにおいては,4個の格子ドットLDに囲ま れた領域の中心について,そこを交点とする垂直ラインと水平ラインを仮想 的に想定するとしても,それらの垂直ラインと水平ラインを設定するドット はない。そうすると,図105ドットパターンは,少なくとも,「前記水平 方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ラインと,前記垂直方 向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの 交点」である「格子点…からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」 (構成要件C3・D4・C5)に係る構\成を有するものではない。また,図 105,図106においては,キードットKDは,垂直方向の格子線上にあ るが水平方向の格子線上にはないという態様で格子点からずれていて,これ らのキードットKDは「等間隔に所定個数水平方向に配置されたドット」(A 3・B4・A5)の1つであり,「前記水平方向に配置されたドットの端点 に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」 (A3・C4・A5)ではないから,「前記垂直方向に配置されたドットの 1つは,当該ドット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターン の向きを意味している」(構成要件D3・E4・D5)ものには当たらないといえる。\n以上によれば,図105ドットパターンは,少なくとも,構成要件C3・D4・C5に対応する構\成を有するものではない。また,図105,図10 6のキードットKDは,構成要件D3・E4・D5の情報ドットではないともいえる。\n
そうすると,図105ドットパターンは,本件発明3〜5に係るドットパ ターンと異なるドットパターンである。そのような図105ドットパターン に関してキードットKDについて上記記載があるとしても,その記載をもっ て,本件発明3〜5について,「ずらし方によって前記ドットパターンの向 きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」(構\成要件D5)についての記載があるといえるものではないし,また,当業者にとって,その記載があると理解する ことはできない。
ウ 図5ドットパターンについては,水平ライン(図5その2のLH1,LH 13等)上に等間隔に配置されたドット(図5その2のLH1上ではD1, D8,D20,D30等)は「等間隔に所定個数水平方向に配置されたドッ ト」(構成要件A3・B4)「等間隔に所定個数,所定方向に配置されたドットを水平方向に配置されたドット」(構\成要件C5)であるといえ,垂直ライン(図5その2のLV1,LV13等)上に等間隔で配置されたドット(例 えば,図5その2のD2,D3等)は「前記水平方向に配置されたドットの 端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたド ット」(構成要件B3・C4),「前記所定方向に対して垂直方向に等間隔に所定個数配置されたドットを垂直方向に配置されたドットとして抽出し」(構\成要件C5)であるといえる。また,水平ライン及び垂直ライン上に設置さ れた上記各ドットを通過する縦横の格子線の交点から,90°ずつずれたい ずれかの方向にずれた情報ドットは,「前記水平方向に配置されたドットか ら仮想的に設定された垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたドットから 水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点 からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」(構成要件C3・D4・ C5)であるといえる。 しかしながら,「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味して いる」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する」(構\成要件D5)については,本件明細書3及び4には,関係する記載はないといえる。図5ドットパターンの図5〜8において垂直ライン 上にドットがないところがあり,そこにはドットが本来の位置と比べて,図 5では左(図5その2のD2),図6では左又は右,図7では左,図8では右 にずれた位置にドットが配置されているが,【0069】〜【0073】III), 【0063】〜【0067】IV)には,これらのドットについて,その本来の 位置と実際に配置された位置との関係に基づいてドットパターンの向きを 意味することを示す記載は全く存在しない。かえって,上記のドットについ て,図5及び図7では,左にずれたドットについて「x,y座標フラグ」と 記載され,そのドットパターンがx座標,y座標を示すことが記載され,図 6及び図8では,右にずれたドットについて「一般コードフラグ」と記載さ れ,そのドットパターンが「一般コード」を示すことが記載されている。そ うすると,これらのドットは,ドットの本来の位置と実際に配置された位置 との関係によってドットパターンのデータの種類を定義していることがう かがえる。 また,図5ドットパターンについて,【0072】III),【0066】IV)には, 水平ラインから垂直ラインを抽出した後,「垂直ラインは,水平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にない\nことから上下方向を認識する。」という記載があり,垂直ライン上のドット の有無によってドットパターンの上下方向を認識することが記載されてい る。しかし,ここでは,ライン上にドットがあるかないかだけを認識して上 下方向を判断することが記載されているのであって,構成要件D3・E4・D5に係る構\成である,本来のドットの位置と実際に配置されたドットの位 置との関係に基づいてドットパターンの向きが表現されることが記載されているとはいえない。\n
これらによれば,図5ドットパターンについても,本件明細書3及び4は, 「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」\n(構成要件D5)の構\成について,何ら記載はないといえることとなる。そ の他,本件明細書3及び4に,本件発明3〜5における上記構成について説明していると解される記載は存在しない。\n
エ 以上によれば,本件明細書3及び4には,「ずらし方によって前記ドット パターンの向きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」(構\成要件D5)の構成につい\nて,具体的に何ら記載がないといえるし,具体的な記載がないにもかかわら ず,当業者が,技術常識に照らして上記構成を理解したことを認めるに足りる証拠もない。\n したがって,本件発明3の構成要件D3,本件発明4の構\成要件E4,本 件発明5の構成要件D5は,本件明細書3及び4の発明の詳細な説明に記載したものとは認められない。\n ア 原告は,図5〜図8において,「ドットパターンの向きを意味している」ド ットは,「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」と兼用されている と主張する。 しかしながら,図5〜図8の記載は上記のようなものであって,そこでは ドットが「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」として記載されて いるが,それ以外に,ドットパターンの向きに関する記載はない。そして, 明細書の発明の詳細な説明においても,【0071】〜【0073】III),【0 065】〜【0067】IV)においては,ドットの本来の位置と実際に配置さ れた位置との関係によってドットパターンの向いている方向を認識するこ とについては何ら説明されておらず,また本件明細書3及び4のどこにも, ずれ方によってドットパターンの向きを意味するドットと,データ内容を定 義するドットとを兼用するとの説明は記載されていない。原告の上記主張に は理由がない。
イ 原告は,【0239】〜【0241】III),【0233】〜【0235】IV)に は,キードット(KD)につき,データ領域の範囲を定義する第1の機能と,ずらし方を変更することによりドットパターンの向き(角度)を意味すると\nいう第2の機能を有することが示されており,図105及び図106(d)では全てのキードット(KD)を一定の方向にずらすことによってドットパ\nターンの向きを表すことが開示されていると主張する。 しかしながら,これらは,図105ドットパターンに関する記載である。 前記(2)イのとおり,図105ドットパターンの情報の定義方法は本件発明3 〜5の構成要件C3・D4・C5に係る構\成の情報の定義方法と異なる。当 業者において,本件発明3〜5の情報の定義方法と異なる情報の定義方法を 採用する図105ドットパターンに開示された構成をもって,本件発明3〜5の構\成要件D3・E4・D5の各構成が開示されていると理解することは\nできない。原告の上記主張には理由がない。
5 小括
以上によれば,本件発明1及び2に係る本件特許1及び2は特許法17条の2 第3項に違反し,本件発明3〜5に係る本件特許3及び4は同法36条6項1号 に違反し,いずれも特許無効審判により無効にされるべきものである(同法12 3条1項1号,4号)。そうすると,その余を判断するまでもなく,原告は,同法 104条の3第1項により,被告各製品が本件発明1〜5の技術的範囲に属する ことを主張して本件各特許権を行使することはできない。

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令和1(行ケ)10080  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年7月2日  知的財産高等裁判所

 争点は新規事項か否か、進歩性違反があるか否かです。審決は、新規事項ではない、進歩性違反なしと判断しましたが、知財高裁は後者について取り消しました。

 原告は,アンチローリングタンクが,「浸水防止部屋」に相当する旨主 張するのに対し,被告は,「浸水防止部屋」とは,損傷を受けた場合に浸 水する「空間」であって,主として「浸水防止」を企図した「空間」であ ると解すべきところ,アンチローリングタンクは,主として「浸水防止」 を企図した「空間」ではないから,本件訂正発明の「浸水防止部屋」に該 当しない旨主張する。また,本件審決は,「浸水防止部屋」は,損傷を受 けた場合に浸水する「空間」であり,専ら「浸水防止」を企図した「空間」 であると解すべきであるところ,甲4発明のアンチローリングタンクは, 専ら「浸水防止」を企図した「空間」であるとはいえないから,本件訂正 発明の「浸水防止部屋」には該当しないとして,本件訂正発明と甲4発明 との対比等を行うことなく,進歩性違反の無効理由は成立しないと判断し た。
ウ 「浸水防止部屋」の意義
(ア) 特許請求の範囲の記載によれば,本件訂正発明1の「浸水防止部屋」 は,側壁及び隔壁に接すること,仕切板により形成されること,機関区 域に設けられること,側壁と隔壁との連結部を覆った空間であり側壁が 損傷した場合浸水することなどが特定されているものの,「専ら」ある いは「主に」浸水防止を企図した空間であるべきかは明らかでない。な お,当業者の技術常識として,「空間」とは,「空所」や「ボイド」と は異なり,必ずしも物体が存在しない場所には限定されないと認められ, このことは「下層空間13の船尾側に推進用エンジン14が配置されて いる」(段落【0022】)などの本件明細書の記載とも整合する。し たがって,「空間」であることから,直ちに「専ら」あるいは「主に」 浸水防止を企図していることは導けない。また,SOLAS条約によれ ば,浸水率の計算において,タンクは,0または0.95のいずれかよ りリスクが高くなるケースを用いて計算すべきとされており,タンクで あってもそれに面する側壁が損傷した場合浸水する場合があることとな るから,「空間に面する側壁が損傷した場合浸水すること」が,必ずし もタンクを排除するものとはいえない。
次に,本件発明の課題及び解決手段は,前記のとおり,浸水防止部屋 を設けて,側壁における隔壁の近傍が損傷を受けても,浸水防止部屋が 浸水するだけで,浸水防止部屋を設けた部屋が浸水することがないよう にすることで,浸水区画が過大となることを防止し,設計の自由度を拡 大することを目的とするものである。そうだとすれば,「浸水防止部屋」 は,それに面する側壁が損傷し浸水しても,それが設けられた「部屋」 に浸水しないような水密構造となっていれば,浸水区画が過大となることを防止するという本件発明の目的にかなうのであって,タンク等の他\nの機能を兼ねることが,当該目的を阻害すると認めるに足りる証拠はない(被告は,タンクが浸水すると,タンク本来の機能\を果たせなくなったり,環境汚染につながったりするから,タンクと「浸水防止部屋」は 両立しえないと主張するが,本件発明は,「浸水防止部屋」を意図的に 浸水(損傷)しやすくするわけではないから,上記認定は左右されない。)。 かえって,実願昭49−19748号(実開昭50−111892号) のマイクロフィルム(甲17)には,別紙5に示す第1図及び「本考案 は,横置隔壁2の船側部両端に,船側外板1を一面とした高さ方向に細 長い浸水阻止用の区画7を備えているから,横隔壁数を増加しなくても, 船側外板1の損傷による船内への浸水を該区画7内に,または該区画7 と隣接する1つの船内区画内にとどめることができ」(4頁下から7〜 1行)との記載があり,本件発明の「浸水防止部屋」の機能に類似する「空間7」を有する船舶の発明が開示されているところ,同文献には,\n「該区画7を小槽として利用することもできる。」(5頁7行)とも記 載されているから,浸水防止を目的とした区画を,小槽(タンク)とし て利用することは,公知であったと認められる。また,「浸水防止部屋」 が他の機能を兼ねることを許容する方が,設計の自由度が拡大し,その意味で本件発明の目的に資するものである。\n以上によれば,「浸水防止部屋」とは,それに面する側壁が損傷し浸 水しても,それが設けられた「部屋」に浸水しないような水密の構造となっている部屋を意味すると解するのが相当である。\n
(イ) 被告は,本件明細書の段落【0004】を根拠に,本件明細書では, タンクと浸水防止部屋は区別されている旨主張する。 しかし,段落【0004】は,ボイドスペースを海水バラストタンク として機能させるという従来技術が記載されているにとどまり,タンクと浸水防止部屋を比較して記載しているものではないから,前記「浸水\n防止部屋」の解釈を左右するものではない。
エ アンチローリングタンクについて
甲4発明のアンチローリングタンクは,タンクであって液体を貯留する ものであるから,それが設けられた部屋に液体が浸水しないような水密の 構造となっている可能\性がある。 しかるに,本件審決は,アンチローリングタンクが,専ら浸水防止を企 図した空間ではないとの理由のみから,これが浸水防止部屋に該当せず, 無効理由2−2は成立しないと判断したものであるから,本件審決の判断 には誤りがあり,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。 なお,原告は,本件訂正発明3,4については,無効理由2−2が成り 立たないとの本件審決の判断を争っていない。
(2) 甲6発明を主引例とする無効理由(無効理由2−3)について
ア 甲6文献の記載
甲6文献の55頁から61頁は,「2基2軸CPP装備・船尾双胴型旅 客船兼自動車航送船“3号はやぶさ”の概要」と題する文章であり,57 頁19〜28行の下記の記載のほか,「共栄運輸向け旅客船兼自動車航送 船“3号はやぶさ”」の一般配置図(別紙3【甲6図面】参照)が示され ている。
「(9)トリム及びヒール調整装置
本装置は車輌乗降時の岸壁と舷外ランプの高さを保つため,船首トリミ ングタンク(F.P.T.,No.1W.B.T.(C),No.2W.B.T.(C),No.3W.B.T.(C)) 及び船尾トリミングタンク(No.4W.B.T.(C)&No.4W.B.T.(P/S))を利用し て船体のトリムを調整し易いように配管されており,船橋操縦盤に組み 込みのタッチパネル式監視制御コンソールによりポンプ,弁の遠隔操作が出来るようになっている。」\n
イ 本件審決は,船尾トリミングタンクが,専ら「浸水防止」を企図した「空 間」であるとはいえず,「浸水防止部屋」に相当しないと判断したが,か かる浸水防止部屋の解釈が誤りであることは,前記(1)と同様である。 よって,本件審決の判断には誤りがあり,その誤りは審決の結論に影響 を及ぼすものである。 なお,原告は,本件訂正発明3,4については,無効理由2−3が成り 立たないとの本件審決の判断を争っていない。

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◆令和1(行ケ)10079

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令和1(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月17日  知的財産高等裁判所

 審決は、補正が新規事項であるとして、補正却下をしました。裁判所は、かかる処分については否定したものの、補正却下後の発明が独立特許要件を満たしていないので、結論は妥当として審決が維持されました。また、補正も新規事項と判断されています。判決分がコピペできないので、OCR変換しましたので、誤記があります。

 本件審決は,本件明細書の【0022】, 【0024】〜【0027】が新たな技術 的事項を導入するものであることを理由に,本件補正は,本件当初明細書に記載さi れた事項の範囲内においてするものとはいえないと判断した。 しかし,本件補正は,特許請求の範囲についてのみするものであり(乙18),本 件明細書の【0022】, 【0024】〜【0027】 に係る補正は,本件第1 補正に おいてなされたものであって,本件補正においてされたものではない。本件補正が 新規事項を追加するものであるか否かは,本件当初明細書の配載に基づいてなされ るべきものであり,本件審決が,新たな技術的事項を導入するものであることを理 由に本件補正を却下したことには,誤りがあるというべきである。 もっとも,本件補正発明1が,特許出願の際独立して特許を受けることができる ものでない場合には,本件補正は部められないので,以下,独立特許要件について 検討する。
・・・
引用例1には,先端部32は,支持構造体42内に埋め込まれ,支持構造体42 は,超伝導単層金属タイプカーボンナノチュープ、44に対する排熱装置及び超高真 空密閉体としても働き,超伝導単層金属タイプカーボンナノチューブ44は,電場 放出引出し電極として及び微小超高真空室としても機能することの開示があり(【0054】図2).放出先端部は,微小超高真空室にまって固まれていることが示唆 されている。 かかる記載によれば,引用発明1において,放出先端部の近傍に熱を加えられる 部位を具備しないようにすることは,当業者が容易に想到できることである。 よって,相違点2は,引用発明1から容易に想到することができるものである。
エ原告の主張について
原告は,引用発明1は,先端のだんだん半径の小さくなる先端の大きさとS/N 比値とを問題としており,略閉じサイズである移動部が続く構成である本件補正発\n明1とは異なる旨主張する。 しかし,本件補正後の請求項1は,略同じサイズで粒子移動部が続く旨を特定し ていないため,粒子移動部が略同じサイズで続かない構成を含むものである。\nまた,本件補正発明1の粒子移動部に相当する引用発明1の放出先端部32は, rO. 3ナノメートルから10ナノメートルまでの範囲の,比較的小さい直径を有 する」とともにチューブ形状である(乙21 【0053】)から,放出先端部は,そ のいかなる断面もナノサイズであると解される。 よって,原告の主張は理由がない。
(3) 小括
以上によれば,本件補正発明1は,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明を することができたものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができ たものではない。 よって,本件審決が本件補正を却下したことは,結論において相当である。
・・・
以上によれば,本件第1補正は,本件当初明細書に「ナノオーダの構造物」と\nしか記載のなかった本願発明の素子について,極めて高純度で無欠陥の超周期を含 む結晶性の良い金属材質の三次元系のワイヤ形状であることを特定した上,ナノワ イヤ形状の断面上での金属電子の量子状態を決定するに当たっては,一定の前提を 置いた運動方程式,角運動量保存則, B0nrの量子論を用いること等の説明を加 えている。 その上で,電気伝導を持つ使用ナノワイヤ内の熱による誤差が少ない伝導電子が 擬一次元的パリステック(弾道的)運動するためには,式(20) を満たし,ナノワ イヤの直径がおよそ30nni以下の太さとなることが条件であり,また,ナノオー ダの構造物を絶縁体で被覆すれば,その断面空間内にある粒子流の許されるエネル\nギー状態は量子力学で決まる最低エネルギー準位近くでは断面中心部での存在確率 が大きく断面の周囲での構成原子・分子による乱れの影響が少ないとして,ナノオ\nーダの構造物の断面積の大きさを特定したり,絶縁体で被覆するなどの技術的事項\nを追加している。 そうすると,本件第1補正に係る事項は,本件当初明細書には記載がなく,本件 当初明細書の記載から自明でもないことは明らかである。 よってa 本件第1補正は,本件当初明細書等のすべての記載を総合することによ り導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであっ て,新規事項に該当するというべきである。
(5) 原告の主張について
原告は,本件第1補正について,既知である科学的なことを書き加えたものであ る,新しいことを追加したが,それは説明を加えたものである,ナノワイヤと書い てなかったが,より広い意味のナノオーダの構造物について記載しており,ただ例\n示しただけである,例えば,材質については,電流を流すときに金属材料であると いうことを記載したにすぎないなどと主張する。 しかし,公知のものや本願発明についての説明であっても,出願時の明細書に記 載されているに等しいといえるものでなければ新規事項であるところ,ナノオーダ の構造物の具体的な物質,形状,寸法等がそのようなものとはいえないことは,前\n記のとおりである。よって,原告の主張は理由がない。 (6) 小括
以上によれば,本件第1補正は,本件当初明細書に記載された事項の範囲内にお いてするものとはいえない。  

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平成31(行ケ)10021  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月29日  知的財産高等裁判所

 マネースクエアHDの特許権について、訂正を認めないとの審決がなされましたが、知財高裁はこれを取り消しました。被告は外為オンラインです。

(2) 訂正事項1−1ないし1−3の特許法126条5項の要件の適合性の判 断の誤りについて
 原告は,本件審決が,本件訂正のうち,本件訂正前の請求項1の記載を本 件訂正後の請求項1に訂正する訂正事項1−1(請求項1の記載を引用する 請求項2,請求項2の記載を引用する請求項3ないし5,及び請求項1ない し5の記載を引用する請求項7も同様に訂正),本件訂正前の請求項2の記 載を本件訂正後の請求項2に訂正する訂正事項1−2(請求項2の記載を引 用する請求項3ないし5,及び請求項2ないし5の記載を引用する請求項7 も同様に訂正)及び本件訂正前の請求項6の記載を本件訂正後の請求項6に 訂正する訂正事項1−3は,本件訂正前の「売買取引開始時に,成行注文を 行うとともに,該成行注文を決済するための指値注文を有効とし」との事項 について,当該事項が「前記注文情報生成手段」によるものであり,「該成 行注文を決済するための指値注文」だけでなく,「前記成行注文を決済する ための逆指値注文」についても有効とするとの事項を追加したものであるが, 当該訂正事項については,願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の 範囲内においてしたものとはいえず,新規事項を追加するものであるから, 本件訂正は,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定 に適合しないと判断したのは誤りである旨主張するので,以下において判断 する。
・・・
以上によれば,本件明細書には,「本発明」の「一の実施形態」とし て,「注文情報生成手段」である「注文情報生成部16」が,「第一の 注文情報群」の生成をする際に,「第一の注文情報群」に含まれる「第 一注文」及び「第二注文」についてそれぞれ有効及び無効の設定を行い, 「約定情報生成手段」である「約定情報生成部14」が「第一の注文情 報群」に含まれる「第一注文51a」に基づく「成行注文」の約定処理 を行った時点で,その「成行注文」を決済するための「第二注文」(指 値注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理を 行うことの開示があることが認められる。 そうすると,本件明細書には,「注文情報生成手段」(「注文情報生 成部16」)が,「第一の注文情報群」の生成をする際に,「第一の注 文情報群」に含まれる注文情報の有効/無効の設定を行う技術的事項の 開示があるものと認められる。
また,「本発明」の上記実施形態においては,「注文情報生成手段」 (「注文情報生成部16」)が,「第一の注文情報群」に含まれる「第 一注文51a」の「成行注文」を決済するための「第二注文」(指値注 文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理は,「約 定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)によって行われ,「注文 情報生成手段」(「注文情報生成部16」)が行うものではないが,本 件明細書には,「上記実施形態は本発明の例示であり,本発明が上記実 施の形態に限定されることを意味するものではないことは,いうまでも ない。」(【0076】)との記載があることに照らすと,「本発明」 は,「第一注文」の「成行注文」を決済するための「第二注文」(指値 注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理は, 「約定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)が行う形態のものに 限定されないことを理解できる。
イ 本件訂正後の特許請求の範囲(請求項1)には,・・・
上記記載によれば,訂正事項1−1により,本件訂正前の「売買取引開 始時に,成行注文を行うとともに,該成行注文を決済するための指値注文 を有効とし」との事項について,「該成行注文を決済するための指値注文」 だけでなく,「前記成行注文を決済するための逆指値注文」についても有 効とするとの事項を追加したものであり,本件訂正発明1においては,「注 文情報生成手段」が「売買取引開始時」に「成行注文を行うとともに,該 成行注文を決済するための指値注文および前記成行注文を決済するための 逆指値注文を有効とし」とする処理を行うことを理解できる。 しかるところ,前記ア認定のとおり,(1)本件訂正前の請求項1には,「注 文情報生成手段」が「売買取引開始時」に「成行注文を行うとともに,該 成行注文を決済するための指値注文を有効とし」との処理を行うことの記 載があり,本件明細書の【0009】には,本件訂正前の請求項1と同内 容の記載があること,(2)本件明細書には,「注文情報生成手段」(「注文 情報生成部16」)が,「第一の注文情報群」の生成をする際に,「第一 の注文情報群」に含まれる注文情報の有効/無効の設定を行う技術的事項 の開示があること,(3)本件明細書に記載された「本発明」の「一の実施形 態」では,「第一の注文情報群」に含まれる「第一注文51a」の「成行 注文」を決済するための「第二注文」(指値注文)及び「逆指値注文」を 「無効」から「有効」に変更する処理は,「約定情報生成手段」(「約定 情報生成部14」)によって行われ,「注文情報生成手段」(「注文情報 生成部16」)が行うものではないが,本件明細書の【0076】の記載 に照らすと,「本発明」は,「第一注文」の「成行注文」を決済するため の「第二注文」(指値注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」 に変更する処理は,「約定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)が 行う形態のものに限定されないことを理解できることからすると,本件訂 正後の請求項1の「前記注文情報生成手段」は「売買取引開始時に,成行 注文を行うとともに,該成行注文を決済するための指値注文および前記成 行注文を決済するための逆指値注文を有効とし」との構成は,本件出願の\n願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面すべての記載事項を総合 することにより導かれる技術的事項の関係において,新たな技術的事項を 導入するものではないものと認められるから,訂正事項1−1は,本件出 願の願書に添付した明細書等に記載された事項の範囲内においてしたもの であって,新規事項の追加に当たらないものと認められる。 したがって,訂正事項1−1は特許法126条5項の要件に適合するも のと認められる。同様に,訂正事項1−2及び1−3は同項の要件に適合 するものと認められる。
ウ これに対し,被告は,・・・
訂正事項1−1に係る本件訂正は,本件出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものではなく,新たな技術的事項を導入する ものであるから,新規事項の追加に当たる旨主張する。
 しかしながら,前記ア(ア)認定のとおり,本件訂正前の請求項1の記載 から,本件発明1においては,「注文情報生成手段」が主体となって「売 買取引開始時」に「成行注文を行うとともに,該成行注文を決済するため の指値注文を有効とし」との処理を行うことを理解できるものであり,ま た,本件訂正前の請求項1に「注文情報生成手段」が上記処理を行うこと の記載があるかどうかの問題とその記載があることを前提とした場合にサ ポート要件に違反することになるかどうかの問題とは,別異の問題である から,上記(1)の点は採用することができない。 また,前記イ認定のとおり,本件明細書には,「注文情報生成手段」(「注 文情報生成部16」)が,「第一の注文情報群」の生成をする際に,「第 一の注文情報群」に含まれる注文情報の有効/無効の設定を行う技術的事 項の開示があること及び本件明細書の【0076】の記載に照らすと,「本 発明」は,「第一注文」の「成行注文」を決済するための「第二注文」(指 値注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理は, 「約定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)が行う形態のものに限 定されないことを理解できるから,上記(2)の点は採用することができない。 したがって,訂正事項1−1に係る本件訂正は,本件出願の願書に添付 した明細書等に記載した事項の範囲内でしたものではなく,新規事項の追 加に当たるとの被告の主張は理由がない。
(3) 小括
以上のとおり,訂正事項1−1ないし1−3は特許法126条5項の要件 に適合するものと認められるから,訂正事項1−1ないし1−3が同項に適 合しないことを理由に本件訂正は認められないとした本件審決の判断は誤り である。かかる判断の誤りは,無効理由の存否の審理の対象となる発明の要 旨の認定の誤りに帰することになるから,審決の結論に影響を及ぼすもので ある。

◆判決本文

本件の対象特許とは、下記の侵害事件の対象特許です。

◆平成29(ネ)10027

◆平成27(ワ)4461

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平成31(行ケ)10042  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月21日  知的財産高等裁判所

 マッサージ機の特許について、無効理由無しとした審決が取り消されました。 争点は補正要件(新規事項)、記載要件などです。裁判所は、明確性について構成要件Fについて実質判断していないとして審決を取り消しました。

 本件審決は,明確性要件の判断において,構成要件G及びLについて判断したの\nみで,構成要件Fについては「請求人の主張の概要」にも「当合議体の判断」にも記\n載がなく,実質的に判断されたと評価することもできない。 したがって,本件審決には,手続的な違法があり,これが審決の結論に影響を及 ぼす違法であるということができる。
(3) 補正要件違反,分割要件違反及びサポート要件について
ア 本件審決には,補正要件違反等の原告の主張する無効理由との関係で,構成\n要件Fについての明示的な記載はない。 しかし,補正要件の適否は,当該補正に係る全ての補正事項について全体として 判断されるべきものであり,事項Fの一部の追加が新規事項に当たるという主張は, 本件補正に係る補正要件違反という無効理由を基礎付ける攻撃防御方法の一部にす ぎず,これと独立した別個の無効理由であるとまではいえない。その判断を欠いた としても,直ちに当該無効理由について判断の遺脱があったということはできない。 また,構成要件Fで規定する「開口」は,構\成要件H(「前記一対の保持部は,各々 の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」) の前提となる構成であって,事項Hの追加が新規事項の追加に当たらないとした本\n件審決においても,実質的に判断されているということができる。 そして,後記のとおり,当初明細書の【0037】,【0038】,【図2】には,断 面視において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載され,「開口部」とは, 「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し,一般的な体格の成人の腕 部の太さよりも若干大きい幅とされ,そこから保持部内に腕部を挿入可能であるこ\nとが記載されているから,構成要件Fで規定する「開口」が,当初明細書に記載され\nていた事項であることは明らかである。
イ また,新規事項の追加があることを前提とした分割要件違反に起因する新規 性・進歩性欠如をいう原告の主張も,同様である。
ウ サポート要件についても,本件審決には,構成要件Fについての明示的な記\n載はない。 しかし,サポート要件の適合性は,後記4(1)のとおり判断すべきものであり,上 記アと同様,事項Fの一部についての判断を欠いたとしても,直ちに当該無効理由 について判断の遺脱があったということはできない。 また,構成要件Fで規定する「開口」は,上記アのとおり,構\成要件Hの前提とな る構成であり,本件審決においても実質的に判断されているということができる。\nそして,後記のとおり,本件発明1は,本件明細書の【0010】に記載された構\n成を全て備えており,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明に より当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであり,加え て,本件明細書にも前記【0037】,【0038】,【図2】と同様の記載があることからすれば,構成要件Fで規定する「開口」が本件明細書の当該記載によってサポ\nートされていることも明らかである。
(4) 小括
以上のとおり,本件審決は,明確性要件についての判断を遺脱しており,この点 の審理判断を尽くさせるため,本件審決は取り消されるべきである。 もっとも,他の無効理由については当事者双方が主張立証を尽くしているので, 以下,当裁判所の判断を示すこととする。
・・・
ア 当初明細書の【0042】,【0044】,【0048】,【図5】,【0066】, 【0072】,【0074】,【図8】には,保持部の内面の略全体に空気袋が設けられている構成の記載がある。これらの記載に加えて,従来のマッサージ機においては,\n肘掛け部に例えばバイブレータ等の施療装置が設けられていないことが多く,被施 療者の腕部を施療することができないことが課題になっていたこと(【0003】) を併せて考えれば,当初明細書の上記各記載から,保持部の内面の対向する部分の 双方でなくとも,対向する部分の一方に空気袋が設けられていれば,腕部が保持部 によって保持され,保持部の内面の一方の側から空気袋の膨張・圧縮に伴う力を受 けることで一定の施療効果が期待できることは明らかというべきである。 そうすると,保持部の内面の互いに対向する部分の双方でなく,対向する部分の 一方に空気袋が設けられていれば,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に 設けた空気袋によって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕 部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題\nの課題解決手段として十分であることが容易に理解できる。\n
イ 当初明細書の【0042】には,保持部の形状について「略C字状」の断面形 状を有することの記載があり,【0037】,【0038】及び【図2】には,断面視 において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載されており,「開口部」と は,「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し,一般的な体格の成人 の腕部の太さよりも若干大きい幅とされ,そこから保持部内に腕部を挿入可能であ\nることが記載されている。そして,【0100】には,腕部を保持する保持部は,【図 13】(a)に示されるものに限定されず,同図(b)〜(e)に示されるものとし てもよいこと,さらに,同図(c)は,開口を「所定角度で傾斜させた」ものであり, 同図(e)は,開口を「上方に開口」させたものであることが記載されている。 以上の記載を踏まえると,【図13】(a)は,開口が所定角度で傾斜せずに横を向 いている保持部を示していると理解するのが自然であり,そうすると,当初明細書 には,所定角度で傾斜したものと傾斜していないものを含めて「開口が横を向」い ている保持部が記載されているといえる。 そして,「開口が横を向」いている保持部であっても,腕部を横方向に移動させる ことで被施療者が腕部を保持部内に挿入することができ,座部に座った被施療者の 腕部を保持部の内面に設けた空気袋によって施療することができることが容易に認 識でき,被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当\n初明細書に記載の課題を解決できることが容易に理解できるというべきである。
ウ 請求項2の「開口が真横を向いている」にいう「開口」とは,そこから保持部 内に腕部を挿入することを可能とするもの(【0038】,【図2】)であることから\nすれば,「開口が真横を向いている」とは,腕部の挿入方向に着目して,被施療者が 座部に座った状態で腕部を「真横」(水平)に移動させることで保持部内に腕部を挿 入することができるという技術的意義を有するものであると理解できる。 そして,当初明細書には,【図13】(a)及び(c)において,所定角度で傾斜し たものと傾斜していないものを含めて「開口が横を向」いている保持部が示され, 同図(a)は,開口が所定角度で傾斜せずに横を向いている保持部,すなわち,「開 口が真横を向」いている保持部を示していると理解するのが自然であるところ,「開 口が真横を向」いていれば,腕部を真横(水平)に移動させることで被施療者が腕部 を保持部内に挿入することができ,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に 設けた空気袋によって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕 部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題\nを解決できることも容易に理解することができるというべきである。
エ 当初明細書には,【0037】,【0044】,【0046】などにも,前腕部を 挿入する第2保持部分の内面において,被施療者の手首又は掌に相当する部分に振 動装置が設けられていることが開示されている。加えて,保持部が,被施療者の上 腕を保持するための第1保持部分と被施療者の前腕を保持するための第2保持部分 とから構成され(【0037】,【図2】),第2保持部分の内面であって被施療者の手首又は掌に相当する部分に振動装置が設けられ,この振動装置が振動することによ\nり,被施療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっていること(【0044】,【図2】)も記載されている。\nそうすると,保持部内に挿入された被施療者の手首又は掌を,保持部の内面であ って,手首又は掌に相当する部分に設けられた振動装置を振動させることで,被施 療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっており,その前提として,保持\n部が,被施療者の手首又は掌を「保持可能」とするような構\成を有していることは 明らかである。
オ 当初明細書のうち,第1保持部分を幅方向へ切断したときの断面図である【図 5】,【図8】には,空気袋(11b,11c,26b,26c)が全体として保持部 の奥側(図の右側)よりも開口側(図の左側)の端部にて高さが高くなるよう盛り上 がる形状が示されており,当初明細書の【0042】の記載も踏まえると,【図5】 には,保持部分の内面の略全体において略一定の厚み幅を有する空気袋11bと, 当該空気袋11bの上に積層する形で空気袋11cが設けられ,当該空気袋11c は奥側から開口側に行くにしたがってその厚み幅が漸増しており,空気袋11bと 空気袋11cをあわせてみたときに,空気袋は開口側の部分の方が奥側の部分より も立ち上がるように構成されていることが記載されているといえる。\nそして,空気袋が保持部の開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がるよう に構成されていれば,空気袋の膨張・圧縮の程度が保持部の奥側の部分よりも開口\n側の部分の方が大きく,腕部がそのような空気袋の構成に応じた膨張・圧縮に伴う\n力を受けることで,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に設けた空気袋に よって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕部を施療するこ とが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題を解決できるこ\nとも容易に理解することができる。 カ 以上によれば,本件補正は,当初明細書の全ての記載を総合することにより 導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものとはいえ ない。
・・・
4 取消事由3(サポート要件に係る判断の誤り)について
(1) サポート要件について
特許請求の範囲の記載が,サポート要件を定めた特許法36条6項1号に適合す るか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請 求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細 な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであ るか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当 該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) 本件発明1について
ア 本件明細書の記載 本件明細書には,(1)椅子型のマッサージ機にあっては,肘掛け部にバイブレータ 等の施療装置が設けられていないことが多く,被施療者の腕部を施療することがで きないという問題があったことから(【0002】,【0003】),被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供することを課題とし(【0007】),(2)当 該課題を解決するための手段として,被施療者が着座可能な座部と,被施療者の上\n半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において,「前記座部の両 側に夫々配設され,被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と,前 記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と,を有し,前記保持部は,\nその幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されて いると共に,その内面に互いに対向する部分を有し,前記空気袋は,前記内面の互 いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ,前記一対の保持部は, 各々の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設され」 ていること(【0010】),(3)本発明に係るマッサージ機によれば,空気袋によって 被施療者の腕部を施療することが可能となること(【0028】)が記載されている。\n
そして,本件明細書には,本件発明の「実施の形態1」の説明において,マッサー ジ機の全体構成やその動作について,保持部の構\成やその内面に設けられた空気袋 の構成や作用とともに記載され(【0037】,【0038】,【0042】〜【0045】,【0048】,【図1】,【図2】,【図5】),本件明細書の【0100】,【010\n1】及び【図13】には,本件発明のマッサージ機の保持部の種々の断面形状につい て説明がされているところ,マッサージ機を扱う当業者であれば,本件明細書の以 上の記載から,(1)の課題を解決するために(2)の解決手段を備え,(3)の効果を奏する 発明を認識することができる。 そして,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2(1)のとおりで あるところ,本件明細書の【0010】には,同発明が記載されている。また,当業 者が,本件明細書の前記記載により本件発明1の課題を解決できると認識すること ができる。そうすると,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明 の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のも のであるということができ,本件発明1の記載についてサポート要件の違反はない。
イ 原告の主張について
原告は,(1)構成要件Gは,空気袋につき,保持部の内面の対向する部分の一方の\n部分のみに設ける構成も含むが,本件明細書には,かかる構\成であっても解決でき る課題につき何らの説明もなく,(2)構成要件Hは,保持部の形状につき,本件明細\n書の【図13】の(a),(c)から導かれる形状とするものであるところ,本件明細 書には,他の形状を示す同図(b),(d),(e)との関係で解決される課題につき,何らの説明もないと主張する。 しかし,本件明細書によれば,保持部の内面の対向する部分の双方でなくとも, 対向する部分の一方に空気袋が設けられていれば,被施療者の腕部を施療すること が可能なマッサージ機を提供するという本件明細書に記載の課題の解決手段として\n十分であることが容易に理解することができる。また,保持部に形成する開口が横\nを向いていれば,腕部を横方向に移動させることで被施療者が保持部内に腕部を挿 入することができ,座部に座った被施療者の腕部を施療することが可能なマッサー\nジ機を提供するという本件明細書に記載の課題を解決できることが容易に理解する ことができる。 したがって,原告の主張は理由がない。
5 取消事由5(引用発明に基づく進歩性判断の誤り)について
・・・
このように,甲13文献に示されるパッド31は,せいぜい,パッド35ととも に肢にフィットするように全体にc字形をしており,開口を患者の側に向けて,パ ッド35とともに椅子21(肘掛け)又は床の上に「置く」ことができることが開示 されているにとどまり,「一対の保持部」について,相違点2に係る,各々の開口が 横を向き,かつ開口同士が互いに「対向するように配設」するという技術思想が開 示されているとはいえない。
(ウ) したがって,引用発明に甲13技術を適用する動機付けはないし,これを 適用しても,相違点2に係る構成に至らないから,これを容易に想到することがで\nきたものとはいえない。

◆判決本文

関連事件です。こちらは無効理由無しとした審決が維持されています。

◆平成31(行ケ)10054

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令和1(行ケ)10074  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月23日  知的財産高等裁判所

 訂正要件を満たすとともに、進歩性違反無しとした審決が維持されました。

 本件訂正は,請求項1における「前記LED基板に搭載されるLEDの個 数を,順方向電圧の異なるLED毎に定まるLED単位数の最小公倍数とし ている光照射装置。」を,「前記LED基板に搭載されるLEDの個数を,順 方向電圧の異なるLED毎に定まるLED単位数の最小公倍数とし,複数の 前記LED基板を前記ライン方向に沿って直列させてある光照射装置。」に訂 正するものである。 そして,原告は,本件訂正は,本件訂正前は1枚のLED基板についての 発明であったものを,複数のLED基板をライン状に直列させて所望の長手 方向の長さの製品を得るという発明に変質させるものであり,実質上特許請 求の範囲を拡張し,又は変更するものであるから,特許法126条6項に違 反する旨主張する。 そこで,この点について検討する。
ア 本件特許の特許請求の範囲(請求項1)の「LED基板」の意義
(ア) 本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,「LED 基板」とは,「ライン状の光を照射する光照射装置」に「備え」られた「基 板収容空間を有する筐体」に「収容」され,「複数の同一のLEDを搭載 した」ものであって,「搭載されるLEDの個数を,順方向電圧の異なる LED毎に定まるLED単位数の最小公倍数と」するものであることを 理解できる。 一方,本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)には,「LED基板」 の個数について定義した記載はなく,「LED基板」の個数を単数に限定 して解釈すべき根拠となる記載はない。
(イ) 次に,前記(1)イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本 発明」は,複数の同一のLEDを搭載したLED基板と,前記LED基 板を収容する基板収容空間を有する筐体とを備えた光照射装置であっ て,電源電圧とLEDを直列に接続したときの順方向電圧の合計との差 が所定の許容範囲となるLEDの個数をLED単位数とし,前記LED 基板に搭載するLEDの個数を,順方向電圧の異なるLED毎に定まる LED単位数の公倍数とする構成を採用することにより,LED基板の\nサイズを同一にして,部品点数及び製造コストを削減できるという効果 を奏するものであり,さらに,上記LED基板に搭載するLEDの個数 を,上記LED単位数の最小公倍数とすることにより,LED基板の大 きさを同じにするだけでなく,その大きさを可及的に小さくして,汎用 性を向上させるという効果を奏する旨が記載されており,この点に本件 訂正前の特許請求の範囲(請求項1)の発明(以下「本件訂正前発明1」 という。)の技術的意義があると認められる。 また,当業者であれば,上記「汎用性を向上させる」とは,可及的に 小さな大きさのLED基板の直列枚数を変えることにより,LED基板 を様々な長さの光照射装置に用いることのできるようにすることなど を意味するものであることを理解できるものといえる。 そして,本件訂正前発明1の上記技術的意義に照らすと,上記LED 基板の個数を単数に限定する必然性はみいだし難い。 むしろ,本件明細書の【発明を実施するための最良の形態】に関する 記載は,複数の上記LED基板をライン方向に沿って直列させることが 可能であることを理解できるものであって(【0017】,【0041】,\n図1),このことも,上記理解を裏付けるものといえる。
(ウ) 以上の本件訂正前発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び 本件明細書の記載を総合すれば,本件訂正前発明1の「LED基板」は 個数が単数のものに限定されないと解される。 イ 訂正の適否について 本件訂正による訂正事項は,前記柱書のとおりであり,本件訂正前にお いては,LED基板の枚数や具体的な配置の特定がなかったものを,本件 訂正後においては,「複数の前記LED基板を前記ライン方向に沿って直列 させてある」ことを特定するものである。 そして,本件明細書には,2つのLED基板をライン方向に沿って直列 させること(【0017】,【0019】,図1)及びLED基板の直列させ る数を変更して,光照射装置の長さを変更させること(【0041】)が記 載されていることから,本件訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の 範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であると認められる。 また,本件訂正前発明1の「LED基板」は個数が単数のものに限定さ れないと解されることについては,前記アのとおりであり,本件訂正は, 訂正前に特定されていなかった基板の枚数や配置を特定するものに過ぎな いから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認 められる。 したがって,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものではな く,訂正要件に適合するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主 張の取消事由1は理由がない。
・・・・
前記(1)のとおり,原告製品「IDB−L600/20RS」及び「ID B−L600/20WS」(甲5)として,本件出願前に公然実施をされた 甲5発明は,LED基板に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異な るLED毎に定まるLED単位数の公倍数である,ライン状の光を照射す る照射装置であって,上記LED基板を2枚,上記ライン方向に沿って直 列させるものであるといえる。 しかしながら,上記の原告製品からは,いかなる技術思想に基づき,1 枚のLED基板に搭載されるLEDの個数を定めたのか,また,そのよう なLED基板を2枚長手方向に直列させることにしたのかは,明らかでな い(前記(1))。 また,前記2(1)及び3のとおり,本件出願当時,原告製品「IDB−1 1/14R」及び「IDB11/14W」(甲3)として甲3発明が,原告 製品「IDB−C11/14R」及び「IDB−C11/14B」(甲4) として甲4発明が,いずれも公然実施されており,これらの発明は,1枚 のLED基板に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異なるLED毎 に定まるLED単位数の最小公倍数であるものであるが,他方で,上記の 原告製品からは,いかなる技術思想に基づき,同製品のLED基板に搭載 されるLEDの個数を定めたのかは,明らかでない(前記2(1),3)。 さらに,前記2(2)ウのとおり,本件出願当時,LED基板の設計におけ る技術分野では,故障を防ぎ,品質を保持し,作業を効率化するために, LED基板間の配線及び半田付けを極力減らすようにすることが技術常識 であった。
そうすると,甲5発明に接した当業者は,仮に,当該プリント基板(L ED基板)に搭載されるLEDの個数が,赤色LEDを直列に接続する場 合の個数と白色LEDを直列に接続する場合の個数の公倍数であることを 認識し,かつ,原告製品として公然実施されていた,1枚のプリント基板 (LED基板)に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異なるLED 毎に定まるLED単位数の最小公倍数である甲3発明及び甲4発明を認識 していたとしても,甲5発明において,2枚のLED基板を長手方向に直 列させるという構成を維持したまま,1枚のプリント基板に搭載するLE\nDの個数を174個から,直列接続されている赤色LEDの個数「6」と 直列接続されている白色LEDの個数「3」の最小公倍数である6個に変 更する(相違点3に係る本件発明1の構成とする)ことの動機付けはなく,\nかかる構成とすることを容易に想到することができたものと認めることは\nできず,むしろ,1枚のプリント基板に搭載するLEDの個数を減らして, 同一数のLEDを配設するのに必要なプリント基板数を増やすことには阻 害要因があったと認められる。
イ 以上のとおり,当業者において,甲5発明に基づき,又は,甲5発明に 甲3発明ないし甲4発明を適用して,相違点3に係る本件発明1の構成に\n容易に想到することができるものとは認められない。

◆判決本文

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