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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

補正・訂正

令和3(行ケ)10090 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月4日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、訂正要件違反として、無効理由無しとした審決を取り消しました。

原告は、本件審決は、本件訂正について、1)訂正事項1は、本件訂正前 の請求項1の「噴射製品」を「粘膜への刺激が低減された、噴射製品」と 訂正するものであるが、当該噴射製品は、害虫忌避組成物を充填した物の 発明であり、その害虫忌避組成物が有している粘膜への刺激という作用に 対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、実質的に害虫忌避組成物を充 填した物の発明の作用・用途が、発明の構成として限定されたものと理解\nすることができるから、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法 134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものということができる、 2)訂正事項2は、本件訂正前の請求項3の「噴射方法」を「粘膜への刺激 を低減する、噴射方法」とするものであるが、当該噴射方法は、「害虫忌避 組成物を噴射する噴射方法」の発明であり、その害虫忌避組成物が有して いる粘膜への刺激という作用に対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、 実質的に害虫忌避組成物を噴射する方法の発明の作用・用途が、発明の構\n成として限定されたものと理解することができるから、訂正事項2は、「特 許請求の範囲の減縮」を目的とするものということができる旨判断したが、 かかる本件審決の判断は誤りである旨主張するので、以下において判断す る。
(ア) 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「噴射製品」を「粘膜への刺 激が低減された、噴射製品」と訂正し、訂正事項2は、本件訂正前の請 求項3の「噴射方法」を「粘膜への刺激を低減する、噴射方法」と訂正 するものであり(甲46)、本件訂正前の請求項1の「噴射製品」及び本 件訂正前の請求項3の「噴射方法」の各記載事項に、それぞれ「粘膜へ の刺激が低減された」又は「粘膜への刺激を低減する」という作用に係 る記載事項を加えたものと認められる。
しかるところ、本件明細書には、「粘膜への刺激の低減」に関し、「本 発明者らは、適用距離における粒子径だけでなく、適用箇所を超えた位 置における粒子径も考慮し、それぞれの位置における粒子径の比が所定 の値以上となるよう調整された噴射製品であれば、粘膜を刺激しやすい 害虫忌避成分が配合されている場合であっても、粘膜への刺激が低減さ れ、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。」(【00 06】)、「本実施形態の噴射製品は、噴口から15cm離れた位置におけ る噴射された害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、噴口から30 cm離れた位置における噴射された害虫忌避組成物の50%平均粒子径 r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整されて いる。なお、本実施形態の噴射製品は、噴射された際の粒子径比が特定 の範囲となるよう調整されていることを特徴とする。そのため、その他 の構成(たとえば噴射製品の形状、他の成分および配合、容器内圧等の\n各種物性等)は、上記粒子径比の範囲を満たすものであればよく、特に 限定されない。」(【0010】)、「本実施形態の噴射製品は、粒子径比(r 30/r15)が0.6以上となるよう調整されている。そのため、噴射さ れた害虫忌避組成物は、噴口から30cm離れた位置であっても粒子径 が維持されたままである。その結果、噴射製品は、粘膜を刺激しやすい 上記特定の害虫忌避成分が配合されているにもかかわらず、粘膜への刺 激が低減され得る。」(【0023】)、「このように、本実施形態の噴射製 品は、噴射された害虫忌避組成物の粒子径比(r30/r15)が0.6以 上に調整されていればよく、このような粒子径比を上記範囲に調整する 方法は特に限定されない。」(【0024】)、「以上、本実施形態の噴射製 品(ポンプ製品)によれば、粘膜を刺激しやすい上記特定の害虫忌避成 分が配合されているにもかかわらず、噴射された害虫忌避組成物は、噴 射後に粒子径比(r30/r15)が0.6以上に維持されているため、粘 膜への刺激が低減され得る。」(【0028】)、「本実施形態の噴射方法に よれば、粘膜を刺激しやすい上記特定の害虫忌避成分が配合されている にもかかわらず、噴射された害虫忌避組成物は、噴射後に粒子径比(r 30/r15)が0.6以上に維持されるよう噴射される。その結果、本実 施形態の噴射方法によって噴射された害虫忌避組成物は、使用者等の粘 膜を刺激しにくい。」(【0044】)、「表1に示されるように、粒子径比\n(r30/r15)が0.6以上となるよう調整された実施例1〜14の噴 射製品は、N,N−ジエチル−m−トルアミド(ディート)を配合した 噴射製品(たとえば表2に示される参考例1)と同程度まで粘膜刺激が\n低減された。また、たとえば実施例1〜3と実施例11〜13との比較 から分かるように、本発明の噴射製品は、使用するポンプ製品(アクチ ュエータ)の寸法等(噴射方式、噴口径、1回吐出量等の諸条件)が異 なる場合であっても、粒子径比(r30/r15)が0.6以上となるよう 調整されていることにより、粘膜刺激低減効果が得られることがわかっ た。」(【0052】)との記載がある。これらの記載によれば、本件明細 書には、「粘膜への刺激の低減」の作用効果は、本件訂正前の請求項1の 「前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組 成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置にお ける噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子 径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され」との構成又は\n本件訂正前の請求項3の「前記噴口から15cm離れた位置における5 0%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における5 0%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となり」 との構成によって奏することの開示があることが認められる。一方で、\n本件明細書には、本件訂正前の請求項1及び3の上記各構成にした場合\nであっても、「粘膜への刺激の低減」の作用効果を奏しない場合があるこ とについての記載も示唆もない。
そうすると、訂正事項1及び2により加えられた「粘膜への刺激が低 減された」又は「粘膜への刺激を低減する」という作用に係る記載事項 は、本件訂正前の請求項1及び3の上記各構成によって奏される作用効\n果を記載したにすぎないものであるから、訂正事項1及び2は、本件訂 正前の請求項1及び3の各発明に係る特許請求の範囲を狭くしたものと 認めることはできない。
(イ) したがって、訂正事項1及び2は、「特許請求の範囲の減縮」(特許 法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものと認めることは できないから、原告の前記主張は理由がある。
イ 被告の主張について
被告は、訂正事項1は、害虫忌避組成物を充填した物の発明(本件訂正 前の請求項1)において、その害虫忌避組成物が有している粘膜への刺激 という作用に対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、実質的に害虫忌 避組成物を充填した物の発明の用途又は作用が、発明の構成として限定さ\nれたものと理解することができ、また、訂正事項2は、害虫忌避組成物を 噴射する噴射方法の発明(本件訂正前の請求項3)において、その害虫忌 避組成物が有している粘膜への刺激という作用に対し、当該粘膜への刺激 を低減したものと、実質的に害虫忌避組成物を噴射する方法の発明の用途 又は作用が、発明の構成として限定されたものと理解することができると\nして、訂正事項1及び2は、本件訂正前の請求項1及び3の各発明の特許 請求の範囲について、少なくとも用途又は作用を限定しているから、「特許 請求の範囲の減縮」を目的とするものである旨主張する。 しかしながら、被告の上記主張は、本件審決と同旨の理由を述べるもの であるから、前記アで説示したとおり、採用することができない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10008  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年11月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明の侵害訴訟の控訴審判断です。1審は技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断しました。知財高裁も同じです。なお、二審第1回口頭弁論期日においてした訂正の再抗弁は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下されました。

(4) 控訴人らによる訂正の再抗弁の主張について
当裁判所は、令和4年9月22日の当審第1回口頭弁論期日において、控訴人らが同月5日付け控訴人ら第4準備書面に基づいて提出した訂正の再抗弁の主張について、被控訴人の申立てにより、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが、その理由は、以下のとおりである。\n
ア 一件記録によれば、1)被控訴人は、令和元年12月19日の原審第1回弁論準備手続期日において、本件発明5に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点4−1及び4−3)等が存在するとして無効の抗弁を主張し、令和3年7月20日の原審第3回弁論準備手続期日において、本件発明1に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由が存在するとして無効の抗弁を追加して主張したこと、2)その上で、控訴人らが、同年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述した後、同日、原審が、口頭弁論を終結し、同年12月9日、被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めて控訴人らの請求を棄却する原判決を言い渡したこと、3)その後、控訴人らは、当審において、令和4年7月21日に書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったことが認められる。
イ 以上を前提に検討するに、本件特許権の侵害論に関する抗弁の主張は、本来、原審において適時に行うべきものであるところ、控訴人らは、原審において、令和3年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述するまでの間に、当審で主張する訂正の再抗弁の主張をしなかったものである。加えて、控訴人らは、原審が原判決において被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めた判断をしたにもかかわらず、当審における争点整理手続においても、書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったものであることからすると、当審における上記訂正の再抗弁の主張は、控訴人らの少なくとも重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるというべきである。そして、当審において、控訴人らに訂正の再抗弁の主張を許すことは、被控訴人に対し、上記主張に対する更なる反論の機会を与える必要が生じ、これに対する控訴人らの再反論等も想定し得ることから、これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。そこで、当審は、民事訴訟法297条において準用する同法157条1項に基づき、控訴人らの訂正の再抗弁の主張を却下したものである。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和1(ワ)25121

本件特許の審決取消訴訟です。

◆令和3(行ケ)10027

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令和3(行ケ)10163  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月29日  知的財産高等裁判所

 新規事項違反、進歩性違反の無効理由無しとした審決が維持されました。

一方で、本件明細書には、加工対象物の「シリコンウェハ」の表面又は\n裏面に溝が形成されていることについての記載や示唆はない。また、図1、 3、14及び15には、「切断予定ライン5」が示されているが、切断予\定 ライン5に沿った溝の記載はない。 そして、1)甲36(SEMI規格「鏡面単結晶シリコンウェハの仕様」) には、「6.1 標準ウェーハの分類」に「6.1.1.それぞれ標準化さ れたウェーハの寸法、許容寸法及びフラット・ノッチの特性は表3から表\ 9にて分類されている。」との記載があり、「6.1.2」には寸法等の特 性の異なる「鏡面研磨単結晶シリコンウェーハ」及び「鏡面単結晶シリコ ンウェーハ」(分類1.1ないし1.16.3)が掲載され(18頁)、「6. 9 表裏面目視特性」に「ウェーハは、発注仕様に規定された測定可能\な (目視または他の方法による)ウェーハの表裏面の品質要求をみたさなけ\nればならない。」、「表12 鏡面ウェーハ欠陥限度」の「2.8.11 く ぼみ」の項目の「最大欠陥限度」欄には「なし」との記載があること(4 1頁〜42頁)、2)「LSIに用いられるウェーハ表面は無ひずみで凹凸の\nない鏡面であることが必要であり…このような鏡面ウェーハは…鏡面研 磨することによって得られる」こと(「半導体用語大辞典」360頁))か らすると、本件優先日当時、半導体材料に用いられる標準仕様のシリコン ウェハは、単結晶構造であり、その表\面及び裏面に凹凸のない平坦な形状 であることが、技術常識であったことが認められる。 以上の本件明細書の記載(図1、3、14及び15を含む。)及び本件優 先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物: シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準\n仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凹凸のない平坦な形\n状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラ インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明で ある。
そうすると、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合すること により導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入す るものといえないから、本件明細書に記載した事項の範囲内にしたものと 認められる。 したがって、本件訂正事項は、新規事項を追加するものではなく、特許 法134条の2第9項で準用する同法126条5項に適合するとした本 件審決の判断に誤りはない。
イ これに対し、原告は、1)本件明細書には、「シリコン単結晶構造部分に前\n記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の明示\n的な記載がなく、その示唆もないのみならず、溝を形成するかしないか、 形成するとしてどこに、どのように形成するかといった観点からの記載も 示唆もないし、本件明細書を補完するものとして、図面を見ても、「シリコ ン単結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿った溝が形成されていない シリコンウェハ」が記載されているのと同視できるとする根拠も見当たら ない、2)本件明細書の【0027】には、「加工対象物がシリコン単結晶構\n造の場合」との記載があるだけであり、「シリコン単結晶構造部分に前記切\n断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の記載はな\nく、また、図1ないし4に示す「加工対象物1」が「シリコンウェハ」で あるとしても、どの部分が「シリコン単結晶構造部分」にあたるのか不明\nであり、「シリコン単結晶構造部分」が切断予\定ライン5に沿って存在する のかも不明である、3)【0033】は、「シリコンウェハは、溶融処理領域 を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコン ウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。」と記載\nしているだけであり、シリコンウェハの切断部位の形状(溝の有無)に関 係なく、溶融処理領域(改質領域)を起点としてシリコンウェハが切断で きるものであることの記載はないとして、本件訂正事項は新規事項を追加 するものでないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、前記アで説示したとおり、本件明細書の記載及び本件優 先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物: シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準\n仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凸凹のない平坦な形\n状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラ インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明で あり、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合することにより導 かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものと いえない。原告の挙げる1)ないし3)は、いずれも、上記判断を左右するも のではない。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10089  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月14日  知的財産高等裁判所

 経緯が複雑です。2つの無効審判が請求され、いったん併合すると通知されましたが、結局、分離されました。1つ目の無効審判では、訂正を認めたうえ、無効理由なしと判断されました。その後、2つ目の無効審判が開始され、特許権者は2回目の訂正をしましたが、審決は訂正を認めず、無効と判断しました。知財高裁はこの審決を維持しました。 無効理由は特段の効果なしです。

c 訂正明細書の【0075】には、基剤として使用可能な多糖類が、少\n量の水に溶解されると糊状になる「曳糸性を有する物質」であるとの記 載はあるが、その技術的意義の記載はない。また、訂正明細書の【00 93】では、引離法による経皮吸収製剤製造の初期段階で、フッ素樹脂 等からなる平板92の上に、目的物質を含有する基剤91を載せたと き、基剤として、水に溶解させると曳糸性を示す物質からなるものを用 い、糊状とすることが好ましいとの記載があるが、これは、目的物質を 含有する基剤を針状又は糸状に成形するという引離法における製造上 の便宜を示したものと解される。さらに、鋳型法による場合について は、訂正明細書の【0095】に、目的物質を含有する基剤が糊状であ れば孔から取り出した後に乾燥又は硬化させることができることが記 載されているところ、これも、粘度が低い場合には鋳型内で乾燥又は硬 化した後に取り出すことを要することと対照した製造上の利便性の記 載であると解される。
したがって、訂正明細書には、経皮吸収剤が「基剤、目的物質及び水 を含む曳糸性を示す糊状物が乾燥した物」であることと、経皮吸収剤そ れ自体の構造や特性との技術的関係についての記載は一切存在しない。\nd 甲2−1文献には、「液体溶液の粘度ならびに他の物理的および化 学的特性に依存して、さらなる力(例えば、遠心分離力または圧縮力) が、鋳型を満たすために必要とされ得る」(【0025】)と記載され、 さらに、粉末形態のマトリクス材料についての記載ではあるが、「粉末 形態がマトリクス材料のために使用される場合、この粉末は、有利に は、鋳型にわたって分離され得る。粉末の化学的および物理的特性に依 存して、次いで、粉末の適切な加熱が適用されて、鋳型内に粘稠性の材 料を融解または挿入し得る。」(【0026】)との記載もある。この ような記載に接した当業者であれば、鋳型で液体溶液を乾燥させる場 合、粘度が1つの重要な要素となり、粘度に応じた製法の調整をして対 応するほか、粘度自体も調整の対象となり得ること、粘稠性の材料であ っても鋳型に充填し得ることを理解するものといえる。
鋳型で乾燥させる液体溶液の粘度の調整については、当業者であれ ば、乾燥するという目的や、鋳型に充填する際の作業効率といった観点 から行うものであり、ヒアルロン酸水溶液が糊状であるか否かは、ヒア ルロン酸水溶液の粘度によって決定され、粘度がある程度以上高けれ ば、糊状になるといえることは前記bのとおりであるところ、上記のよ うに、甲2−1文献の記載から、粘稠性であっても鋳型に充填し得るこ とを理解することができるのであるから、乾燥するという目的も勘案 して、液体溶液の粘度を高いものとすることは容易に想到し得ること である。 そして、そのような液体溶液は粘度によって糊状にも粘稠な液体に もなり得るのであって、その差は相対的であり、いずれの状態になるよ うに調整するにしても、それは、当業者が適宜設定し得た事項にすぎな い。
ヒアルロン酸は曳糸性を有することは前記aのとおり技術常識であ る以上、当業者においてこのように適宜調整された液体溶液は、曳糸性 を示すものになるといえる。なお、甲57実験成績証明書及び乙19実 験報告書からみれば、希薄なヒアルロン酸水溶液は曳糸性を示さない が、鋳型で乾燥させてマイクロニードルを作るに当たって、乾燥させる という目的からみて、そのような希薄な溶液を使用することは想定さ れない。 以上によれば、引用発明2において、甲1−1文献に記載のヒアルロ ン酸を採用する際に、ヒアルロン酸と薬剤を含む液体溶液を、「曳糸性を 示す糊状物」とすることは、当業者が容易になし得たことというべきで ある。

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令和3(行ケ)10090 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月4日  知的財産高等裁判所

知財高裁は、作用を追加する訂正事項がもともとの構成によって奏される作用効果を記載したにすぎないので、減縮には該当しないと判断し、審決を取り消しました。\n

(1) 訂正の目的の判断の誤りについて
ア 「特許請求の範囲の減縮」の目的の有無について
原告は、本件審決は、本件訂正について、1)訂正事項1は、本件訂正前 の請求項1の「噴射製品」を「粘膜への刺激が低減された、噴射製品」と 訂正するものであるが、当該噴射製品は、害虫忌避組成物を充填した物の 発明であり、その害虫忌避組成物が有している粘膜への刺激という作用に 対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、実質的に害虫忌避組成物を充 填した物の発明の作用・用途が、発明の構成として限定されたものと理解\nすることができるから、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法 134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものということができる、
2)訂正事項2は、本件訂正前の請求項3の「噴射方法」を「粘膜への刺激 を低減する、噴射方法」とするものであるが、当該噴射方法は、「害虫忌避 組成物を噴射する噴射方法」の発明であり、その害虫忌避組成物が有して いる粘膜への刺激という作用に対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、 実質的に害虫忌避組成物を噴射する方法の発明の作用・用途が、発明の構\n成として限定されたものと理解することができるから、訂正事項2は、「特 許請求の範囲の減縮」を目的とするものということができる旨判断したが、 かかる本件審決の判断は誤りである旨主張するので、以下において判断す る。
(ア) 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「噴射製品」を「粘膜への刺 激が低減された、噴射製品」と訂正し、訂正事項2は、本件訂正前の請 求項3の「噴射方法」を「粘膜への刺激を低減する、噴射方法」と訂正 するものであり(甲46)、本件訂正前の請求項1の「噴射製品」及び本 件訂正前の請求項3の「噴射方法」の各記載事項に、それぞれ「粘膜へ の刺激が低減された」又は「粘膜への刺激を低減する」という作用に係 る記載事項を加えたものと認められる。
しかるところ、本件明細書には、「粘膜への刺激の低減」に関し、「本 発明者らは、適用距離における粒子径だけでなく、適用箇所を超えた位 置における粒子径も考慮し、それぞれの位置における粒子径の比が所定 の値以上となるよう調整された噴射製品であれば、粘膜を刺激しやすい 害虫忌避成分が配合されている場合であっても、粘膜への刺激が低減さ れ、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。」(【00 06】)、「本実施形態の噴射製品は、噴口から15cm離れた位置におけ る噴射された害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、噴口から30 cm離れた位置における噴射された害虫忌避組成物の50%平均粒子径 r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整されて いる。なお、本実施形態の噴射製品は、噴射された際の粒子径比が特定 の範囲となるよう調整されていることを特徴とする。そのため、その他 の構成(たとえば噴射製品の形状、他の成分および配合、容器内圧等の\n各種物性等)は、上記粒子径比の範囲を満たすものであればよく、特に 限定されない。」(【0010】)、「本実施形態の噴射製品は、粒子径比(r 30/r15)が0.6以上となるよう調整されている。そのため、噴射さ れた害虫忌避組成物は、噴口から30cm離れた位置であっても粒子径 が維持されたままである。その結果、噴射製品は、粘膜を刺激しやすい 上記特定の害虫忌避成分が配合されているにもかかわらず、粘膜への刺 激が低減され得る。」(【0023】)、「このように、本実施形態の噴射製 品は、噴射された害虫忌避組成物の粒子径比(r30/r15)が0.6以 上に調整されていればよく、このような粒子径比を上記範囲に調整する 方法は特に限定されない。」(【0024】)、「以上、本実施形態の噴射製 品(ポンプ製品)によれば、粘膜を刺激しやすい上記特定の害虫忌避成 分が配合されているにもかかわらず、噴射された害虫忌避組成物は、噴 射後に粒子径比(r30/r15)が0.6以上に維持されているため、粘 膜への刺激が低減され得る。」(【0028】)、「本実施形態の噴射方法に よれば、粘膜を刺激しやすい上記特定の害虫忌避成分が配合されている にもかかわらず、噴射された害虫忌避組成物は、噴射後に粒子径比(r 30/r15)が0.6以上に維持されるよう噴射される。その結果、本実 施形態の噴射方法によって噴射された害虫忌避組成物は、使用者等の粘 膜を刺激しにくい。」(【0044】)、「表1に示されるように、粒子径比\n(r30/r15)が0.6以上となるよう調整された実施例1〜14の噴 射製品は、N,N−ジエチル−m−トルアミド(ディート)を配合した 噴射製品(たとえば表2に示される参考例1)と同程度まで粘膜刺激が\n低減された。また、たとえば実施例1〜3と実施例11〜13との比較 から分かるように、本発明の噴射製品は、使用するポンプ製品(アクチ ュエータ)の寸法等(噴射方式、噴口径、1回吐出量等の諸条件)が異 なる場合であっても、粒子径比(r30/r15)が0.6以上となるよう 調整されていることにより、粘膜刺激低減効果が得られることがわかっ た。」(【0052】)との記載がある。これらの記載によれば、本件明細 書には、「粘膜への刺激の低減」の作用効果は、本件訂正前の請求項1の 「前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組 成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置にお ける噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子 径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され」との構成又は\n本件訂正前の請求項3の「前記噴口から15cm離れた位置における5 0%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における5 0%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となり」 との構成によって奏することの開示があることが認められる。一方で、\n本件明細書には、本件訂正前の請求項1及び3の上記各構成にした場合\nであっても、「粘膜への刺激の低減」の作用効果を奏しない場合があるこ とについての記載も示唆もない。 そうすると、訂正事項1及び2により加えられた「粘膜への刺激が低 減された」又は「粘膜への刺激を低減する」という作用に係る記載事項 は、本件訂正前の請求項1及び3の上記各構成によって奏される作用効\n果を記載したにすぎないものであるから、訂正事項1及び2は、本件訂 正前の請求項1及び3の各発明に係る特許請求の範囲を狭くしたものと 認めることはできない。
(イ) したがって、訂正事項1及び2は、「特許請求の範囲の減縮」(特許 法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものと認めることは できないから、原告の前記主張は理由がある。
イ 被告の主張について
被告は、訂正事項1は、害虫忌避組成物を充填した物の発明(本件訂正 前の請求項1)において、その害虫忌避組成物が有している粘膜への刺激 という作用に対し、当該粘膜への刺激を低減したものと、実質的に害虫忌 避組成物を充填した物の発明の用途又は作用が、発明の構成として限定さ\nれたものと理解することができ、また、訂正事項2は、害虫忌避組成物を 噴射する噴射方法の発明(本件訂正前の請求項3)において、その害虫忌 避組成物が有している粘膜への刺激という作用に対し、当該粘膜への刺激 を低減したものと、実質的に害虫忌避組成物を噴射する方法の発明の用途 又は作用が、発明の構成として限定されたものと理解することができると\nして、訂正事項1及び2は、本件訂正前の請求項1及び3の各発明の特許 請求の範囲について、少なくとも用途又は作用を限定しているから、「特許 請求の範囲の減縮」を目的とするものである旨主張する。 しかしながら、被告の上記主張は、本件審決と同旨の理由を述べるもの であるから、前記アで説示したとおり、採用することができない。
(2) 小括
以上のとおり、訂正事項1及び2は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法1 34条の2第1項ただし書1号)を目的とするものと認められないから、そ の余の点について判断するまでもなく、本件訂正は同号に適合しない。 そうすると、本件審決には、本件訂正の訂正要件の判断に誤りがあり、こ の判断の誤りは、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明 の要旨認定の誤りに帰するから、本件審決は取り消されるべきものである。

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令和3(行ケ)10144  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年10月17日  知的財産高等裁判所

 無効審判にて訂正をしましたが、無効と判断されました。知財高裁は訂正要件(減縮)、サポート要件違反の無効理由ありとして、審決を維持しました。
訂正されたクレームは下記です。
媒体面上に形成され、且つデータ内容が定義できる情報ドットが配置されたドットパターンであって、
前記ドットパターンは、縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に、前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に、どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し、
前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように、前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上と、該第一方向ラインと交差するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方向ライン上とにおいて、該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配置されたことを特徴とするドットパターン。\n

ア 訂正事項1について 訂正事項1は、前記第2の2(1)のとおり、本件発明1の「縦横方向に等 間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に、前記情報ドットを 前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの 方向に、どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し」との構成を、本\n件訂正発明1の「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子 点を中心に、前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°の2 倍である90°ずつずらした前記縦横方向のうちいずれかの方向に、どの 程度ずらすかによってデータ内容を定義し」との構成に訂正するものであ\nる。
本件訂正前の上記構成は、任意の45°間隔による8方向をドットの配\n置に利用できる方向として、情報の内容を表現するものである一方、本件\n訂正後の上記構成は、縦横の4方向をドットの配置に利用できる方向とし\nて、情報の内容を表現するものであるから、情報の内容を定義する情報ド\nットの種類やデータの表現方法を異にするものであり、端的に、両者は異\nなる構成というべきものであって、包含ないしは上位下位概念の関係には\n立たない。したがって、訂正事項1は、特許法134条の2第1項ただし 書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1による請求項1の訂正に伴い、特許請求の範 囲の記載と明細書の記載との整合を図るため、対応する本件明細書【00 09】の記載を訂正事項1と同様の内容で訂正するものであるところ、前 記アのとおり、請求項1に係る訂正事項1が認められない以上は、訂正事 項2は、その訂正に係る請求項について訂正をしないものと帰すから、訂 正事項2も訂正要件を充足しない(特許法134条の2第9項、126条 4項参照)。
ウ 原告の主張について
原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、1)訂正事項1は、8方向のう ちの「いずれかの方向」とする選択肢についてこれを4方向にする制限 を直列的に付加するものである、2)「いずれかの方向に、どの程度ずら すか」というのは、ずらす方向の数を意味しており、このずらすことの できる各方向の選択肢の数を減らす択一的要素の削除であって、「特許請 求の範囲の減縮」に当たる旨主張する。
しかしながら、原告が自らも前記第3の1(1)ア にて主張するように、 本件発明1の「いずれかの方向に、どの程度ずらすかによってデータ内 容を定義し」との構成は、1つの単一な構\成としてデータ内容を定義し ているのであって、ある格子点を基準にして「いずれかの方向」とされ る全ての各方向にドットをずらすか、ずらさないかによって当該格子点 を基準として定義し得る情報を特定するものであるから、ドットがずら されていない方向も、ドットがずれていないという意味で当該情報の定 義に用いられているのであって、ドットがずらされている方向のみが情 報の定義に利用されているというものではない。この点、原告は、「縦横 方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に、前記情 報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のう ちいずれかの方向に、どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し」 との記載の「いずれかの方向に、どの程度ずらすか」を、ずらす方向の 数を規定するものである旨主張する。しかしながら、「方向の数」との趣 旨を「どの程度」との文言で表現したとするのは文言解釈として不自然\nであって、「等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に、 どの程度ずらすか」とは、ある格子点を基準にして「いずれかの方向」 とされる全ての各方向にドットをずらすか、ずらさないかによって当該 格子点を基準として定義し得る情報を特定する際に、ドットをずらすの は等距離で45°ずつずらした各方向のうちどの方向にするのか、ずら されるドットは等心円上に配置されることになるが、この等心円の半径 をどの程度にするのかによってデータ内容を定義する趣旨であると理解 するのが自然である。また、本件明細書(本件訂正後)にも、1)「デー タは、図103に示すように、ドット605を格子領域内の中心点から どの程度ずらすかによってデータ内容が定義できるようになっている。 同図では、中心から等距離で45度ずつそれぞれずらした点を8個定義 することによって単一の格子領域で8通り、すなわち3ビットのデータ を表現できるようになっている。」(【0191】の前半)、2)「なお、さ らに中心点から距離を変更した点をさらに8個定義すれば16通り、す なわち4ビットのデータを表現できる。」(【0191】の後半)との記載\nがある(本件訂正前にも、別紙記載のとおり、「格子領域」とある部分の 一部が「格子ブロック」となっているほかは同旨の記載がある。)のであ るから、特許請求の範囲の「いずれかの方向に、どの程度ずらすか」は、 これらの記載に対応するものと解するのが自然であるし、上記1)及び2) のどちらも中心点からの距離についての記載であって、「どの程度ずらす か」が方向の数をいうものでないことは明らかである。 そうすると、それぞれの各方向を取り出してそれぞれに独立した意味 があるというものではなく、8方向全部が一体となり、中心点からの距 離と相まって、データ内容の定義に用いられているのであるから、8方 向を4方向に変更することは、ある格子ドットについて用いることので きる方向の数に制限が付されたとか、あるいは、ある格子ドットについ て選択できる選択肢の数を制限したとかという単純なものではなく、端 的に、異なる情報定義体系を採用したことを意味するものというべきで ある。以上によれば、訂正事項1を発明特定事項の直列的付加又は択一的要 素の削除であるとすることができないから、「特許請求の範囲の減縮」と 解する余地はない。したがって、原告の上記主張を採用することはでき ない。
原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、数値による限定は、数値によ って限定される範囲が小さくなるほど対象が具体的になるから、8方向 から4方向への限定は、下位概念化である旨主張するが、前記 におい て説示したところによれば、本件発明において量的な大小で包含関係又 は上位下位概念の関係を論じることが適切でないことは明らかであるか ら、その主張を採用することはできない。
なお、本件審決には、「(逆に、4個しか定義できない構成を8個定義\nできる構成に変更する場合であれば、そのための構\成を付加し、上位概 念から下位概念に限定したといえる余地もある。)」(6頁)旨の説示がみ られるが、単なる傍論にすぎないから、その説示の当否が前記判断を左 右するものではない。
エ 小括
以上のとおりであるから、その他の点について検討するまでもなく、本 件訂正は訂正要件を満たさないものであるから、これを認めなかった本件 審決の判断には誤りがない。
(2) 取消事由について
前記(1)のとおり、本件訂正を認めなかった本件審決の判断には誤りはない ところ、原告は、本件訂正が認められなかった場合の本件審決の誤りを主張 するものではないから、本件訂正が認められた場合についての予備的請求の\n当否について判断するまでもなく、取消事由は理由がないことになる。
(3) サポート要件の充足について
ア 原告の予備的主張中には、前記第3の1 アのとおり、本件発明がサポ ート要件を充足する旨の記載があり、その趣旨や内容は判然としないもの ではあるものの、これは、本件訂正を認めず、その上で本件発明がサポー ト要件を充足しないとした本件審決の判断の誤りを主張する趣旨と善解 する余地もないではないから、念のために、同主張についての判断を示す。
前記2(2)及び(3)のとおり、本件明細書には、図5ドットパターンと図1 05ドットパターンについての記載がある。原告は、本件発明1のドット パターンは縦横4方向の図5ドットパターンに斜め4方向を付け加えた 設計上の微差でしかないドットパターンであるか、あるいは、8方向にド ットをずらす本件発明1のドットパターンの一例として図5ドットパタ ーンを位置付けることができるとして、本件発明1のドットパターンが図 5ドットパターンに基づくものである旨主張するので、以下、これを前提 に、本件発明1がサポート要件を充足するか検討する。
前記(1)アのとおり、縦横4方向をドットの配置に利用できる方向として 情報の内容を表現する図5ドットパターンの構\成と、任意の45°間隔に よる8方向をドットの配置に利用できる方向として情報の内容を表現す\nる本件発明1の構成は、情報の内容を定義する情報ドットの種類やデータ\nの表現方法を異にするものであるから、両者の差異が微差であるというこ\nとはできない。また、同ウ のとおり、本件発明1の構成は、8方向全部\nが一体となり、中心点からの距離と相まって、データ内容の定義に用いら れているのであり、縦横4方向の図5ドットパターンの構成とは異なる情\n報定義体系を採用するものであるから、図5ドットパターンを本件発明1 のドットパターンの一例として位置付けることもできない。以上からする と、図5ドットパターンに基づき、本件発明1のドットパターンが発明の 詳細な説明に記載されたものということはできないから、本件発明1はサ ポート要件に適合しない。したがって、本件発明1の構成を全て含む本件\n発明2及び3もサポート要件を充足しない。
イ これに対して、原告は、前記第3の1(3)アのとおり、るる主張するとこ ろ、前示のとおり、いずれの点もその趣旨、内容は判然としないが、本件 訂正が認められるべきものであることを前提にする主張が採用できない ことは明らかであるし、本件明細書の記載が本件発明をサポートする内容 を含むものとは認められないことも前記アのとおりである。したがって、 この点に係る原告の主張はいずれも当を得ないものというほかない。

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令和4(行ケ)10008  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年9月28日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、訂正請求が新規事項であるので認められないとした審決が維持されました。

ア 本件訂正により、請求項1には、端末装置から取得された第1患者識別 情報とあらかじめ記憶された第2患者識別情報が一致すると判定された 場合に、1)端末装置から取得された看護師又は医師を識別するための第1 看護師等識別情報と、第2看護師等識別情報とが一致すると判定した場合 に、第2患者識別情報に対応する患者医療情報のうち前記看護師又は前記 医師が必要とする医療情報を含む表示画面を端末装置へ出力し、2)端末か ら取得された医師を識別するための第1医師識別情報と、第2医師識別情 報とが一致すると判定した場合に、医師専用画面を端末に出力する、発明 特定事項を含むものとなり、2)が訂正事項1−1−3に関するものである。
そして、本件明細書の【0143】ないし【0161】(実施の形態4) には、看護師又は医師が必要とする医療情報を含む表示画面を出力する構\ 成に関する記載があり、この実施の形態4に関するフローチャート(図3 7、図38)についてみると、 端末装置から取得された第1患者識別情 報とあらかじめ記憶された第2患者識別情報が一致すると判定された場 合に、端末装置に患者用画面を表示し(S21)(図11、図12)、 端 末装置から取得し出力されたIDを、医療用サーバを経て情報処理装置が 取得し(S85)、このIDが看護師IDであると判定される(S87、8 8)と、看護師用専用画面(図20ないし22)が表示され、 看護師I Dでなく(S87の「No」)、医師IDであると判定されると(S151)、 医師専用画面(図35、図36)が表示されるフローが開示されている。\n
この記載からすると、S87は看護師IDか否かを判定するステップであ り、S151は医師IDであるか否かを判定するステップであるといえる。 こうしたS87、S151は、端末装置から取得された看護師又は医師を 識別するための第1看護師等識別情報と、第2看護師等識別情報とが一致 すると判定した場合に、第2患者識別情報に対応する患者医療情報のうち 前記看護師又は前記医師が必要とする医療情報を含む表示画面を端末装\n置へ出力する(前記1))ことに対応するもの、すなわち、第2判定部及び 第2出力部に関するものであり、さらに、医師を識別するための第1医師 識別情報を端末から取得して(第3取得部)、第3判定部及び第3出力部に 関するフローが続けて行われることは、記載も示唆もない。なお、本件明 細書の【0088】ないし【0125】(実施の形態2)は、看護師IDの 判定と看護師用専用画面を出力し表示するフローが記載されており、医師\nIDであると判定した場合に看護師専用画面を出力し表示してもよいと\nの記載があるものの(【0125】)、第2判定部及び第2出力部に続けて、 医師を識別するための第1医師識別情報を取得し(第3取得部)、第3判定 部及び第3出力部に関するフローが続けて行われることに関するもので はない。その他、本件明細書には、第2判定部及び第2出力部と、第3判 定部と第3出力部の両方を備え、また、1つのシステムで構成されること\nについての記載も示唆もないし、このような事項は、当業者にとって自明 であるともいえない。
そうすると、前記2)、すなわち、訂正事項1−1−3は、本件明細書又 は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係 において新たな技術的事項を導入するものであるから、特許法134条の 2第9項が準用する同法126条5項の規定に反するものであり、訂正要 件を満たさないというべきである。
・・・
イ これに対し、原告は、前記第3の1 ア のとおり、本件訂正後の請 求項1は、本件明細書の【0066】ないし【0090】、図37及び図 38にそのまま開示されている旨主張するが、原告が指摘する【006 6】ないし【0087】は実施の形態1、すなわち、患者用バーコード を読み取り、一致すると患者用画面を表示すること(構\成要件A1ない しC1)に関する事項であり、訂正事項1−1−3に関するものではな い。そして、実施の形態4に関する本件明細書の記載事項と図37及び 図38によれば、訂正事項1−1−3が新たな技術的事項を導入するも のであることは、前記アのとおりである。 また、原告は、前記第3の1 ア のとおり、本件明細書の【014 3】の記載を挙げて、本件明細書の実施の形態4は、実施の形態2を取 り込んだものであり、実施の形態2の構成及び作用に加えて、【0147】\nないし【0149】の記載からすれば、本件明細書には、第3取得部及 び第3判定部に関する構成が開示されている旨主張する。\n
しかし、【0143】は、「実施の形態4は医師が患者の医療情報を確 認するための医師専用画面30を表示部35に表\示する実施の形態に関 する。以下、特に説明する構成、作用以外の構\成および作用は実施の形 態2と同等であり、簡潔のため記載を省略する。…」とあるが、前記ア で指摘した実施の形態4に関するフロー図(図37、図38)からする と、ここでいう記載の省略とは、前記アの (端末装置から取得し出力 されたIDを、医療用サーバを経て情報処理装置が取得し(S85)、こ のIDが看護師IDであると判定される(S87、88)と、看護師用 専用画面(図20ないし22)が表示されること)に関する説明(実施\nの形態2)を省略するものであり、【0146】ないし【0149】は、 端末装置から取得し出力されたIDが医師である場合に関する説明であ って、第2判定部で端末から取得した識別情報が医師IDであると判定 し(第2判定部)、看護師専用画面が出力(第2出力部)された後、さら に続けて、医師を識別するための第1医師識別情報を取得し(第3取得 部)、第3判定部及び第3出力部に関するフローが続けて行われる構成を\n開示するものではない。したがって、前記アの説示に反する原告の主張はいずれも理由がない。

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令和3(行ケ)10151  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月23日  知的財産高等裁判所

1次審決では無効理由無しと判断され、知財高裁はこれを取り消し、差し戻しました(1次審取訴訟)さしもどった2次審決では特許権者が再度、訂正をして、審決は無効理由無しと判断しました。知財高裁は審決の判断を維持しました。 争点は新規事項か否かです。

本件訂正前の請求項1の記載によれば、本件発明1の「浸水防止 部屋」は、側壁及び隔壁に接すること、仕切板により形成されるこ と、部屋の高さ方向にわたって形成されること、機関区域の部屋に 設けられること、側壁と隔壁との連結部を覆った空間であり空間に 面する側壁が損傷した場合浸水することなどが特定されている。し かし、「専ら」又は「主に」浸水防止を企図した空間であるべきかは 明らかでない。なお、当業者の技術常識として、「空間」とは、「空 所」や「ボイド」とは異なり、必ずしも物体が存在しない場所には 限定されないと認められ、このことは「下層空間13の船尾側に推 進用エンジン14が配置されている」(段落【0026】)などの本 件明細書等の記載とも整合する。そのため、「空間」であることから、 直ちに「専ら」あるいは「主に」浸水防止を企図していることは導 けない。また、SOLAS条約(「千九百七十四年の海上における人\n命の安全のための国際条約」、甲23)によれば、浸水率の計算にお いて、タンクは、0又は0.95のいずれか、より厳格な条件とな る方の値(もともと水で満たされているため浸水が0である場合と、 もとは空であるため浸水が容積の95%に及ぶ場合のうち、復原性 を悪くする方の値)を用いて計算すべきとされており、タンクであ ってもそれに面する側壁が損傷した場合浸水する場合があることを 前提としているから、「空間に面する側壁が損傷した場合浸水するこ と」が、必ずしもタンクを排除するものとはいえない。
次に、本件明細書等によれば、本件発明の課題及び解決手段は、 前記のとおり、浸水防止部屋を設けて、側壁における隔壁の近傍が 損傷を受けても、浸水防止部屋が浸水するだけで、浸水防止部屋を 設けた部屋が浸水することがないようにすることで、浸水区画が過 大となることを防止し、設計の自由度を拡大することを目的とする ものである。そうであるとすれば、「浸水防止部屋」は、それに面す る側壁が損傷し浸水しても、それが設けられた「部屋」に浸水しな いような水密構造となっていれば、浸水区画が過大となることを防\n止するという本件発明の目的にかなうのであって、タンク等の他の 機能を兼ねることが、そのような目的を阻害すると認めるに足りる\n証拠はない。かえって、甲17(実願昭49−19748号(実開 昭50−111892号)のマイクロフィルム)には、第1図及び 「本考案は、横置隔壁2の船側部両端に、船側外板1を一面とした 高さ方向に細長い浸水阻止用の区画7を備えているから、横隔壁数 を増加しなくても、船側外板1の損傷による船内への浸水を該区画 7内に、または該区画7と隣接する1つの船内区画内にとどめるこ とができ」(4頁下から7〜1行)との記載があり、本件発明の「浸 水防止部屋」の機能に類似する「空間7」を有する船舶の発明が開\n示されているところ、同文献には、「該区画7を小槽として利用する こともできる。」(5頁7行)とも記載されているから、浸水防止を 目的とした区画を、小槽(タンク)として利用することは、公知で あったと認められる。また、「浸水防止部屋」が他の機能を兼ねるこ\nとを許容する方が、設計の自由度が拡大し、その意味で本件発明の 目的に資するものである。
以上によれば、本件訂正前の請求項1の「浸水防止部屋」とは、 それに面する側壁が損傷し浸水しても、それが設けられた「部屋」 に浸水しないような水密の構造となっている部屋を意味すると解\nするのが相当である。そして、「浸水防止部屋」は、タンク等の他の 機能を備えることが許容されるものであると認められる。\n
b 「(ただし、タンクを除く。)」という記載の追加による新たな技術的 事項の導入の有無
前記aのとおり、「浸水防止部屋」は、タンクの機能を備えることが\n許容されるから、「浸水防止部屋」には、タンクの機能を兼ねるものと、\nタンクの機能を兼ねないものがあるものと認められる。本件明細書等\nには、浸水防止部屋としてタンクの機能を兼ねるもののみが記載され\nていると解すべき理由はないから、本件明細書等には、タンクの機能\nを兼ねる「浸水防止部屋」とともに、タンクの機能を兼ねない「浸水\n防止部屋」が記載されていると認められる。そして、タンクの機能を\n兼ねる「浸水防止部屋」を備える発明と、タンクの機能を兼ねない「浸\n水防止部屋」を備える発明は、いずれも本件明細書等に記載された発 明であったから、訂正事項1により、特許請求の範囲の請求項1の「浸 水防止部屋」がタンクの機能を兼ねない「浸水防止部屋(ただし、タ\nンクを除く。)」に訂正されて、タンクの機能を兼ねる「浸水防止部屋」\nを備える発明が除かれても、新たな技術的事項を導入しないことは明 らかである。
なお、本件訂正により、本件訂正後の発明が、側壁における隔壁の 近傍が損傷を受けても、浸水防止部屋が浸水するだけで、複数の部屋 に跨って浸水することはなく、船損傷時における複数の部屋への浸水 を防止することができると共に、複数の部屋の大型化を抑制して設計 の自由度を拡大することができるという本件発明の効果を奏すること なく、新たな効果を奏する発明となると解すべき理由はない。そのた め、本件訂正によって発明の作用効果が変わることによって新たな技 術的事項が導入されたと解する余地もない。
したがって、訂正事項1による「(ただし、タンクを除く。)」という 記載の追加は、当業者によって、特許請求の範囲、明細書又は図面の 全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係におい て、新たな技術的事項を導入しないものであると認められるから、新 規事項追加(法134条の2第9項、法126条5項)に当たらない というべきである。
c 原告の主張に対する判断
原告は、浸水防止部屋を、タンクを除くものに限定することによっ て、「タンクと比べて、設置スペースを低減することができ、配置の自 由度を向上できるという有利な効果を奏」し、「更に、浸水防止部屋と いう空間を設けることによって、タンクと比べて、損傷時復原性の計 算、二次浸水、環境汚染の観点からも有利な効果を奏する」という新 たな作用効果を奏するから、「(ただし、タンクを除く。)」という記載 の追加は、新たな技術事項を導入するものであると主張する。 しかし、原告が主張する上記の効果は、タンクの機能を兼ねる「浸\n水防止部屋」と比べた場合に、タンクの機能を兼ねない「浸水防止部\n屋」が有する効果を述べたものにとどまる。前記のとおり、本件明細 書等には、もともと、タンクの機能を兼ねる「浸水防止部屋」ととも\nに、タンクの機能を兼ねない「浸水防止部屋」が記載されていたもの\nと認められるから、タンクの機能を兼ねない「浸水防止部屋」が何ら\nかの作用効果を有するとしても、それは、もともと本件明細書等に記 載されていた発明の一部が作用効果を有しているというにすぎず、そ のことをもって、本件明細書等との関係で新たな技術的事項が付け加 えられたと解する余地はない。

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関連事件です。 令和3(行ケ)10150

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それぞれの1次審取訴訟です。 令和1(行ケ)10080

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令和1(行ケ)10079

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令和2(ワ)33027  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月25日  東京地方裁判所

 特許侵害事件において、出願経過時の補正が新規事項であるとして、権利行使不能(104条の3)と判断されました。

上記(2)によれば、本件特許の出願当初の請求項においては、本件発明の構成\nとして「有料自動機の動作を検知するセンサー」が含まれており、当該「セン サーの検知信号に基づいて前記有料自動機の動作状態」についての監視結果を 管理サーバへ送信することが規定されていた。ところが、本件補正により、「有 料自動機の動作を検知するセンサー」が本件特許の構成から除外されるととも\nに、「ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置」によって生成 された「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報」 を管理サーバに送信するという構成に変更されたことが認められる。このよう\nに、本件補正に補正された事項は、管理サーバに送信すべき情報が、有料自動 機の動作を検知するセンサーの検知信号に基づくものに限られることはなく、 当該センサーの検知信号以外の情報に基づくものであっても、これに含まれる というものと解するのが相当である。
これに対し、上記(2)の当初明細書等の記載内容によれば、有料自動機の動作 を検知するセンサーの検知信号以外の情報に基づき、有料自動機が運転中であ るか否かを判定したり、当該結果を推測したりする方法については、何ら開示 されていないことが認められる。そして、当初明細書等の記載に接した当業者 において、出願時の技術常識に照らし、上記補正された事項が当初明細書等か ら自明である事項であるものと認めることはできない。 そうすると、本件補正は、当初明細書等に記載した事項との関係において新 たな技術的事項を導入するものであると認めるのが相当であり、「願書に最初 に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」におい てするものということはできない。 したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項に違反するものと認めら れる。
これに対し、原告らは、本件特許の審査段階において、本件補正が新たな技 術的事項を導入するものと判断されておらず、本件異議申立ての審理において\nも訂正請求が認められているほか、当初明細書(【0038】)には、ICカ ードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置が接続されている前記ラン ドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を生成し、出力するという技術内 容が記載されている旨主張する。 しかしながら、本件補正により補正された事項が当初明細書等に記載されて おらず、これが自明である事項ということもできないことは、上記において説 示したとおりである。そうすると、原告らの主張は、上記審査及び審理の経過 を踏まえても、上記判断を左右するものとはいえない。また、原告らが指摘す る上記当初明細書の内容は、上記(2)において認定したところによれば、電流セ ンサーの検知信号に基づき有料自動機の動作状態を監視する構成のみを記載\nするものであり、センサーの検知信号によらずに動作状態を判定する構成を記\n載するものではないから、原告らの主張は、上記認定と異なる前提に立って主 張するものにすぎない。

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令和1(ワ)20286等 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年6月30日  東京地方裁判所

 任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟です。東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n原告は、本人訴訟です。特許は、特許第3382936号(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-3382936/03A51F6D5F3A043A6242B758D39317CEC3E7966037CD769975997EE07C2C14E4/15/ja)ですが、被告が無効審判(無効2020-800098)を請求しており、職権でサポート要件違反などが指摘されています。2022年8月現在では審決はなされていません。なお、2011/08/30に10年目の登録料を支払わずに存続期間満了による抹消がなされています。

 前記(ア)のとおり、乙4文献には、使用時に表示板2を見易い傾斜角度\nに開くことができる折畳み式の小型電子機器において、表示板2を手で\n回転させると、回転軸8の溝aないしeに回転軸止め用シャフト10が 弾性的に圧入され、回転軸8の溝b、c、d、eのところで、夫々クリ ック音を感触させながら位置II)、III)、IV)、V)で停止して表示板2を固定\nさせることが開示されており、第5図からは、傾斜角度が約120度か ら約170度までの範囲内の予め決められた1つの傾斜角度に対応した\n位置で固定可能なことも理解できる。\nまた、前記(イ)のとおり、乙26文献においても、表示体ケース2を開\n閉可能な小型の電子機器において、回転軸6の凸凹10とクリックツメ\n12を設けることで、表示体ケース2を任意の位置で停止させることが\nできることが開示されている。 そうすると、乙4文献及び乙26文献により、折り畳み式の小型電子 機器において、表示板を含む2つの部材のなす角度が、ユーザーが行う\n表示板の回動により約120度から約170度までの範囲内の予\め決め られた1つの角度に変化させられたとき、前記回動をストップさせて、 前記2つの部材の間を前記予め決められた1つの角度で固定する中間ス\nトッパであって、前記2つの部材のなす角度が折り畳まれた状態から広 げられて行く動作をストップする機能と、広げられた状態から角度を狭\nめて行く動作をストップする機能を有する中間ストッパを設けることは、\n周知の技術(以下「本件周知技術」という。)であると認めることができ る。
(エ) 本件相違点への本件周知技術の適用
乙1発明’は、前記(1)イのとおり、第1のパネル12と第2のパネル 14が蝶番手段16によって接続され、ユーザーが座ったり、立ったり、 又は、歩いたりする位置にあるときに、片手でコンピュータを保持し、 もう片方の手でデータを入力することを許容するコンピュータノートブ ック10の発明であり、これは、折り畳み式の小型電子機器に関する技 術であるという点で、本件周知技術と共通する。したがって、乙1発明’ において、「第1のパネル12及び第2のパネル14の両方が蝶番手段1 6を中心とした多数の角度において配向する」場合に、本件周知技術の 中間ストッパを採用することにより、本件相違点に係る本件発明1の構\n成とすることは、当業者において容易に想到し得たことである。

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令和3(行ケ)10111  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年6月22日  知的財産高等裁判所

訂正請求により無効理由なしとした審決に対する審決取消訴訟です。 知財高裁も審決の判断を維持しました。一つの争点が「前記加工対象物はシリコンウェハである」と記載されているのを、「前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」に訂正するのが訂正要件を満たすかです。

ア 訂正前の請求項1の記載は、「加工対象物」である「シリコンウェハ」に ついて、その文言上、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿 った溝が形成されているシリコンウェハ」を概念的には含むものであった のに対し、訂正事項1により、そのようなシリコンウェハを除く形で限定 されるものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とす るものといえる。 別の観点からいえば、訂正前の請求項1の記載は、その文言上、「レーザ 加工装置」の構成として、切断予\定ラインに沿った溝が存在するシリコン ウェハを切断し得る性能を有するが、そのような溝が存在しないシリコン\nウェハを切断し得る性能を有するとは限らない「レーザ加工装置」(溝必須\n装置)を概念的には含むものであったのに対し、訂正事項1により、そのよ うな装置を除く形で請求項1に係る発明のレーザ加工装置を特定したので あるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものともい える。
イ 原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、訂正事項1における「シリコン単 結晶構造部分に前記切断予\定ラインに沿った溝が形成されていないシリコ ンウェハ」については、加工対象物がシリコン単結晶構造の場合において、\n「シリコン単結晶構造部分」や溝の位置、どのような溝が形成されていな\nいのかが特定されておらず不明確であるから、訂正後の特許請求の範囲が 不明確であると主張するが、そのような具体的な事項まで特定されなけれ ば、訂正事項1が減縮か否かを判断できないほどに不明確であるとは考え られない。 また、原告は、前記第3の1(1)ア のとおり、訂正事項1によって、請求 項1の装置について、溝が形成されていないシリコンウェハを切断するこ とが用途になるとしても、レーザ加工装置の構成がそのような特定の構\成 に限られるものではないから、発明の構成を限定するものではないとか、\nいわゆるサブコンビネーション発明の理論によれば訂正の前後で発明の要 旨の認定は変わらない旨主張する。しかし、アに説示したとおり、訂正事項 1により概念上請求項1に係る発明が限定されることは明らかであり、特 許法134条の2第1項の「特許請求の範囲の減縮」への該当性を判断す るに当たっては、これで足りると解するのが相当である。また、本件発明を サブコンビネーション発明と解するかはさて措くとして、本件における上 記該当性を判断するに当たって、サブコンビネーション発明のクレーム解 釈や特許要件の考え方を直接参考にする必要性があるとは認め難いし、い ずれにしても本件においては、訂正事項1に係る事項は、加工対象物のみ を特定する事項にとどまらず、レーザ加工装置自体についてもその構造、\n機能を特定する意味を有するものと解するべきであるから(本件訂正前は、\n溝必須装置のように溝が形成されているシリコンウェハを切断する構造を\n有すれば、これをもって特許要件を満たし得たのに対し、本件訂正後はこ のような構造を有するのでは足りず、溝が形成されていないシリコンウェ\nハを切断する構造を有することが必要とされることになる。)、原告の主張\nするところは、本件訂正が、特許請求の範囲の減縮であることを否定する に足りるものではない。

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令和3(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年5月19日  知的財産高等裁判所

 審決では、無効審判に対して、特許権者は訂正をしました。かかる訂正は発明の範囲が実質上減縮されないとして、訂正請求は拒絶されました。ただ、無効審判は進歩性違反無しと判断されました。裁判所は進歩性違反なしとした審決を維持しました。 構成要件を追加して、実質上減縮していないというのは興味深いですが、裁判所では争点とはなっていません。\n
「前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角が半径略5〜15mmとなるよう形成されたR部」→ 「前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角が半径略5〜15mmとなるよう形成された,スプーンへの食物移載力転換機構としてのR部」に訂正しても,実質的に発明の範囲が減縮されるものではない。\n

 次に、本件発明1の特許請求の範囲の請求項1には、本件発明1の「R 部」は、「前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角 が半径略5〜15mmとなるよう形成された」構成を有することが規定さ\nれている。本件明細書には、「R部」に関し、本件発明1の実施形態とし て、「竹製食器100には、各収容部の立ち上がりと底面との取り合い部、 一つの立ち上がり部とこれに隣接する立ち上がり部との間の取り合い部、 に各々略10mm程度の半径によるRを設けてある。具体的に、たとえば 第4の収容部23において、底面部40と立ち上がり部33との取り合い 部に、図3に示されるような半径略10mmの曲線断面が図3の紙面と直 交する方向に延伸されて形成されている。また、平面においても、たとえ ば、立ち上がり70と立ち上がり13との間の取り合い部には、図1に示 されるような半径略10mmの曲線断面が図1の紙面と直交する方向に 延伸されて形成されている。」(【0030】)との記載があり、別紙1のと おり、図1及び3には、「R部」が図示されている。 そこで、「R部」に関する甲4の記載について検討するに、甲4文章部分 中の「φ23×H2.1(plate)」との記載から、甲4記載の「こども用 食器」は、直径(φ)23cm、高さ(H)2.1cmであることを理解 できるが、他方で、甲4の記載事項全体をみても、上記直径及び高さ以外 の寸法についての記載はない。
また、甲4全体写真及び甲4部分拡大写真(別紙2参照)のアングル、 解像度等に照らすと、甲4全体写真及び甲4部分拡大写真から、被写体で ある「こども用食器」の「R部」を形成する「立面と底面とのなす角」の 角度や「半径」の寸法についてまで認識することは困難である。 以上を総合すると、甲4に接した当業者において、甲4から、甲4記載 の「こども用食器」の「R部」は、「前記窪み部において穿削されて得ら れる立面と底面とのなす角が半径略5〜15mmとなるよう形成された」 構成を有することが開示されているものと認識することはできないとい\nうべきである。
・・・
原告は、1)甲4全体写真について説明した甲76の5枚目の左側の画像記 載のとおり、A(こども用食器の外径):B(こども用食器の竹の集成材から なる所定の厚みのある部分の内側の径):C(こども用食器の二層目の竹材平 板の内側の径)の比率は、100:94.8:88.3である、2)この比率 と甲4記載の実寸から、A´(Aの実寸)は230mm、B´(Bの実寸) は218mm、C´(Cの実寸)は203mm、D´(こども用食器の竹の 集成材からなる所定の厚みのある部分の幅の実寸)は6mm、E´(こども 用食器を真上から見たときの二層目の竹材平板の幅の実寸)は7.5mmと 算出される、3)甲76の5枚目中欄の「Rごとの見え方の違い」の表によれ\nば、E´が7.5mmである場合、その見え方は、R10の場合の見え方に 該当するから、甲4記載の「こども用食器」の立面と底面とのなす角は、半 径略10mm弱となるよう形成されたR部になるとして、甲4には、甲4記 載の「こども用食器」は、「立面と底面とのなす角が半径略10mm弱となる よう形成されたR部」の構成を有することの開示がある旨主張する。\nしかしながら、甲76は、原告従業員が作成した書面(作成日2021年 10月25日)であり、そもそも本件出願前に頒布された刊行物に当たらな いこと、甲4には、「こども用食器」の直径(φ)及び高さ(H)以外の寸 法についての記載はなく(前記(2)イ)、甲76記載のAないしCの比率やA ´ないしE´の寸法の記載もないこと、甲4には、甲76の5枚目中欄の「R ごとの見え方の違い」の表の記載はないことに照らすと、甲4に接した当業\n者において、甲4から、上記1)ないし3)の事項を認識し、又は理解すること はできないから、原告の上記主張は、その前提において採用することができ ない。

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令和3(行ケ)10097  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年4月28日  知的財産高等裁判所

 補正前後の請求項に係る発明が一対一又はこれに準ずるような対応関係にない補正が限定的減縮(特17-2第5項)に該当するかが争われました。裁判所は、該当しないとした審決を維持しました。

 ア 特許法17条の2第5項は、拒絶査定不服審判を請求する場合において、 その審判の請求と同時に特許請求の範囲についてする補正(同条1項ただし 書4号)は、同条5項1号から4号までのいずれかの事項を目的とするもの に限ると規定し、同項2号は、「特許請求の範囲の減縮」(同法36条5項の 規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するも のであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該 請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同 一であるものに限る。)と規定している。同法17条の2第5項の趣旨は、拒 絶査定を受け、拒絶査定不服審判の請求と同時にする特許請求の範囲の補正 について、既に行った先行技術文献調査の結果等を有効利用できる範囲内に 制限することにより、迅速な審査を行うことができるようにしたことにある ものと解される。このような同項の趣旨及び同項2号の文言に照らすと、補 正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するというためには、 補正後の請求項が補正前の請求項の発明特定事項を限定した関係にあること が必要であり、その判断に当たっては、補正後の請求項が補正前のどの請求 項と対応関係にあるかを特定し、その上で、補正後の請求項が補正前の当該 請求項の発明特定事項を限定するものかどうかを判断すべきものと解される。 また、補正により新しい請求項を追加する増項補正であっても、補正後の新 しい請求項がそれと対応関係にある補正前の特定の請求項の発明特定事項を 限定するものであれば、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当す るものと解される。 以上を前提に、補正事項1が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするもの に該当するかどうかについて判断する。
・・・
ア 前記(1)ウ認定のとおり、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項1 0と対応関係にあることが認められる。 しかるところ、前記(1)ウ認定のとおり、本件補正後の請求項8は、本件補 正前の請求項10の発明特定事項から、「前記ストラップセンサが、前記スト ラップの第1の部分に備えられた1個以上の第1接点と、前記ストラップの 第2の部分に備えられた1個以上の第2接点とを備えるか、あるいは、第1 接点および第2接点と通信可能であり、第1接点のうちの1個以上が、第2\n接点のうちの1個以上と選択的に接触可能であり、前記ストラップが閉じら\nれるか固定されたときに、第1接点の1個以上および第2接点の1個以上の 間の接触により測定回路を完成させるように構成されている導体によって、\n第1接点と第2接点とが結合されて、該システムが、前記ストラップセンサ によって測定された前記測定回路の少なくとも1つの電気特性に基づいて、 前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さを特定するよ うに構成されている」との構\成を削除した請求項であるところ、この削除に よって、本件補正前の請求項10の発明特定事項を限定したものと認めるこ とはできず、かえって、本件補正前の請求項10に係る発明を上位概念化し たものといえるから、補正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする ものと認められない。
イ これに対し原告は、1)本件補正後の請求項8は、本件補正後の請求項1な いし7に従属し、本件補正前の請求項1に内的付加に相当する追加的要件を 規定したものであるから、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定する ために必要な事項を限定するものである、2)本件拒絶理由通知では、本件補 正前の請求項1について新規性及び進歩性などの実体的要件に関する拒絶理 由の指摘はなく、本件補正前の請求項1に特許性が認められていることから すると、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項1に対する従前の審 査内容に沿って特許性を具備するものといえるから、本件補正前の請求項1 についての審査を十分に有効活用して、補正された発明の審査を行うことが\n可能であり、新たな先行技術調査等を要求することで審査遅延などの事態を\n生じさせないことも明らかである、3)厳密には、本件補正後の請求項8は、 本件補正前の請求項1と一対一で対応する請求項ではないとしても、これに 準ずるような対応関係に立つものであり、補正事項1は、既にされた審査結 果を有効に活用できる範囲内で補正を認めることとした特許法17条の2第 5項の制度趣旨に反するものではなく、同項2号が許容する増項補正に相当 するから、本件補正前の請求項1との関係で「特許請求の範囲の減縮」(同号) を目的とするものに該当する旨主張する。
しかしながら、前記(1)エで説示したとおり、本件補正後の請求項8は、本 件補正前の請求項1と一対一で対応する請求項に該当しないのはもとより、 これに準ずるような対応関係に立つものと認めることはできないから、この 点において、原告の上記主張は、その前提を欠くものである。 また、前記アで説示したとおり、本件補正後の請求項8は、本件補正前の 請求項10の発明特定事項の構成の一部を削除した請求項であるが、本件に\nおいては、本件補正前の請求項10の発明特定事項から上記構成を削除した\n請求項について、サポート要件等の記載要件の審査が行われた形跡はうかが われず、かかる審査が新たに必要となるものと考えられるから、本件補正後 の請求項8は、本件補正前の請求項1に対する従前の審査内容に沿って特許 性を具備するものと直ちにいえるものではなく、この点においても、原告の 上記主張は、その前提を欠くものである。

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令和2(ワ)19931等  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月16日  東京地方裁判所

 医薬用途発明の特許権侵害訴訟です。東京地裁(29部)は、本件発明1,2については実施可能要件・サポート要件違反の無効理由ありと判断しました。また、本件発明3,4について、均等侵害も否定しました。本件発明1,2は特許庁で訂正要件を満たさないと判断されており、審決取消訴訟に係属しています。本件発明3,4は特許庁で訂正が認められています。

 いわゆる医薬用途発明においては,一般に,当業者にとって,物質名, 化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのた\nめの当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該発明に係る医薬\nを当該用途に使用することができないから,そのような発明において実施 可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの\n記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,当該用途の 有用性及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載を要するものと解 するのが相当である。 本件発明1及び2の特許請求の範囲においては,本件化合物が「痛みの 処置における」(構成要件1B)「鎮痛剤」(構\成要件1C)及び「鎮痛 剤」(構成要件2C)として作用することが記載されているところ,いず\nれも本件化合物の鎮痛効果が認められる痛みは特定されていない。しかし, 本件明細書には,本件化合物について,「痛みの処置とくに慢性の疼痛性 障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定さ れるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み, 三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザ ルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー, 線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障 害および特発性疼痛症候群が包含される。」(前記1(1)イ)と記載されて いることに照らすと,本件発明1及び2は,本件化合物が少なくとも上記 各痛みに対して鎮痛効果を有することを内容とするものと解される。 したがって,本件発明1及び2について実施可能要件を満たすというた\nめには,本件明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと 同視し得る程度の記載をすることなどにより,上記各痛みに対して鎮痛効 果があること及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載が必要であ るというべきである。
・・・
前記(ア)の各文献の記載によれば,本件出願当時,術後疼痛試験は,ラ ットの皮膚,筋膜及び足蹠の足底側面の筋肉を切開することにより,痛 覚過敏を引き起こし,これに対する薬剤の効果を確かめる試験であるこ とが,技術常識であったと認められる。 そして,本件明細書には,「S−(+)−3−イソブチルギャバ」\n(弁論の全趣旨によれば,構成要件3Aを充足する本件化合物の一種で\nあると認められる。)が術後疼痛試験において有効であったことが記載 されており,さらに,「ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触 異痛を生じた。いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達 し,3日間維持された。実験期間中,動物はすべて良好な健康状態を維 持した。」(前記1(1)キ(キ)),「ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉 の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏および接触異痛を誘発するこ とを示している。本試験の主要な所見は,ギャバペンチンおよびS− (+)−3−イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対して\nも等しく有効なことである。」(同(コ))との記載がある。 以上によれば,本件出願当時,本件明細書の術後疼痛試験の結果に接 した当業者は,本件化合物について,侵害受容性疼痛としての熱痛覚過 敏及び接触異痛に対して有効であると理解し,その他の痛みに対して有 効であると理解することはなかったというべきである。
・・・
ア 被告医薬品が本件発明3の構成と均等なものであるかについて\n
(ア) 原告は,本件発明3は,慢性疼痛に対する画期的処方薬として,抗て んかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだ したものであり,その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用い る点にあるから,対象となる痛みが侵害受容性疼痛か,神経障害性疼痛 や線維筋痛症かは本質的部分ではなく,効能・効果を神経障害性疼痛や\n線維筋痛症に伴う疼痛とし,慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告 医薬品は,均等侵害の第1要件を満たすと主張する。
しかし,前記1(1)アのとおり,本件特許に係る発明は,てんかん,ハ ンチントン舞踏病等の中枢性神経系疾患に対する抗発作療法等に有用な 薬物である本件化合物が,痛みの治療における鎮痛作用及び抗痛覚過敏 作用を有し,反復使用により耐性を生じず,モルヒネと交叉耐性がない ことに着目した医薬用途発明であるところ,前記2(1)イのとおり,本件 出願当時,痛みには種々のものがあり,その原因や機序も様々であるこ とが技術常識であった。
そうすると,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発明 3において本質的部分というべきであり,その鎮痛効果の対象を異にす る被告医薬品は,本件発明3の本質的部分を備えているものと認めるこ とはできない。したがって,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載さ れた構成中の被告医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でない\nということはできないから,被告医薬品は均等の第1要件を満たさない。
(イ) また,前記(1)アによれば,原告は,本件訂正前発明3においては鎮痛 の対象となる痛みを限定していなかったところ,本件訂正により「炎症 を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」に限定していること からすると,本件発明3との関係においては,被告医薬品の効能・効果\nである神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を意図的に除外したと 認めるのが相当である。 したがって,被告医薬品は均等の第5要件も満たさない。
(ウ) 以上によれば,被告医薬品は,本件発明3の特許請求の範囲に記載さ れた構成と均等なものとは認められない。\n
イ 被告医薬品が本件発明4の構成と均等なものであるかについて\n
前記アと同様に,いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは,本件発 明4の本質的部分というべきであり,被告医薬品は均等の第1要件を満た さず,また,本件発明4との関係においては,被告医薬品の効能・効果で\nある神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛が意図的に除外されている から,均等の第5要件も満たさない。 したがって,被告医薬品は,本件発明4の特許請求の範囲に記載された 構成と均等なものとは認められない。\n

◆判決本文

関連事件です。本件特許は同じですが、被告が異なります。なお、原告代理人はなぜか異なります。

◆令和2(ワ)19923等

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令和3(行ケ)10037  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月2日  知的財産高等裁判所

 一部のクレームについて、新規事項であるので訂正要件を満たさないとした審決が維持されました。

 以上の訂正前明細書の記載を全体的に総合して観察すると、訂正前 発明における「固定」には、摩擦力やチルト機構等を用い所定量以上の\n力を加えることによって状態の変更が可能な「半固定」と、ストッパ等\nを用い回動を停止させる「一時的に固定」の2種類が存在し、時に「半 固定」と「一時的に固定」とを混然と使用する箇所もないではないが、 これらを使い分けていることが理解できるし、これらが概念的に異なる ものであることはその性質上も明らかである。このことを考慮して、訂正前発明1の構成をみてみると、2つの表\示板を約120度から約170度までの範囲内のいずれかの角度に「ストッパにより」「固定する」構成eの中間左右見開き固定手段は、「一時的\nに固定」する手段であり、2つの表示板を「摩擦力により」「保持する」\n構成Cの任意角度保持手段は「半固定」をする手段であることは明らか\nであり、両者は異なる固定手段を用いる別な手段であることが当然に理 解できる。したがって、構成eの中間左右見開き固定手段の構\成を基に して、任意角度保持手段について「任意の角度」を約120度から約1 70度までの範囲内のいずれかの角度を意味するなどと限定して解釈 する根拠はないこととなり、任意角度保持手段の「任意の角度」は通常 の語義に従い、0度から360度の範囲が含まれると理解すべきもので ある。
(オ) 以上からすると、訂正事項1−4は、訂正前発明に、2つの表示板を\n0度から最大見開き角度までの任意の角度とすることができ、最大見開 き角度が約180度を超えるものを包含するよう訂正するものとなる ところ、このような構成は訂正前明細書には記載されていない。\nしたがって、訂正事項1−4は、訂正前の明細書の全ての記載を総合 することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事 項を導入しないものであるとはいえない。
イ 原告の主張について
原告は、前記第3の1(1)イのとおり、1)「ユーザーの任意の角度」とは、 ユーザが装置の構造上の制約の下に自由意思により変化・回動させること\nができる角度である、2)180度を超えてから360度まで回動させても 2つの表示板の各画面を容易に見ることができず実用的な意味は全くな\nい、3)0度から360度まで回動させるためにはヒンジ部の1つの回転軸 を2つの表示板の厚さ寸法を合計した長さ以上の巨大な直径を有する回\n転軸としなければならないが、訂正前明細書【図2】からみると訂正前発 明の表示装置はそのような構\造を有していない旨主張する。 しかしながら、「あらかじめ定められた角度にユーザが任意に変化させ られること」と「ユーザが任意の角度に変化させられること」とは、固定 方法を異にすれば両立する機能であるところ、どちらも角度の変化はユー\nザがその自由意思によりするものであるから、訂正前明細書にユーザが自 在に枠体を折り曲げられるとの記載等、角度の変化がユーザの自由意思に よるとの記載があったからといって、「任意の角度」が前者に限定されると する根拠にはならず、上記1)の主張は採用することができない。 また、引用文献1には第1のパネル12と第2のパネル14が背中合わ せで並置され、片手で装置を運び、もう片方の手でデータを入力する状態 が記載されていることからしても(9頁32行ないし10頁13行目、図 3)、表示装置の2つの表\示板の回動角度を270度ないし360度の範 囲にまで設定可能にする使用方法も十\分に実用的なものといえるから、上 記2)の主張も採用することができない。 また、上記3)の主張は、単なる実施例に関する図面に基づく主張にすぎ ず、訂正前発明は、ヒンジ軸の構造も、回転軸の直径も、表\示板の厚さも 何ら特定するものではないから、前提を欠くものとして失当である。 したがって、原告の上記主張はいずれも採用することができない。その ほか、原告はるる主張するが、いずれも、前記アの認定判断を左右しない。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1−4は新規事項を追加する訂正で ある。

◆判決本文

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令和2(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年12月16日  知的財産高等裁判所

 原告は、訂正発明は、進歩性違反、新規事項、委任省令違反などの無効理由があるとして、無効理由無しとした審決の取消を求めました。知財高裁は審決を維持しました。

特許法36条4項1号の委任する特許法施行規則24条の2は,発明の詳細な説 明の記載について,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発 明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解 するために必要な事項を記載することによりしなければならない」と規定するとこ ろ,原告は,本件明細書からはオルニチンを用いた本件訂正発明が,どのような課 題をどのように解決したか明らかでないこと,「発酵物の乾燥重量1g当たり」「8 mg 以上のオルチニン」という数値限定に対応する課題も効果も,本件明細書に記載 がなく,当業者において本件訂正発明の課題やその解決手段を認識することはでき ないから,上記委任省令要件違反である旨主張する。
(2) 本件明細書の記載について
そこで検討するに,前記1(1)のとおり,本件明細書の段落【0226】には,「ア ルギニンについては,発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。 従って,大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス 20-92 株で発酵処理する ことにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成させ得ることが明らかと なった。」との記載があり,本件明細書の段落【0228】【表3】にも,発酵によ\nり,アルギニンからオルニチンが生成することが示されている。また,本件明細書 の段落【0050】には,「ダイゼイン類を含む原料」の一例である「大豆胚軸」を 用いた場合のオルニチンの含有量について,「エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥 重量1g当たりオルニチンが5〜20mg,好ましくは8〜15mg,更に好ましくは 9〜12mg 程度が例示される。」と記載されており,当業者は,本件訂正発明は,こ の好ましい量の下限を採用したものであると理解できる(前記5(5)参照)。
これらからすると,当業者は,本件訂正発明の技術上の意義は,ラクトコッカス 20-92 株で発酵処理することにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成さ せ得ることを明らかにし,エクオール及びオルニチンを含有する発酵物(オルニチ ンの含有量は乾燥重量1g当たり8mg 以上)の製造方法を提供したことにあること 及び発酵処理によりこれを解決することが理解できるから,本件明細書の発明の詳 細な説明の記載には,当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が 記載されているということができる。
(3) 原告の主張について
原告は,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】段落【0010】におい てオルニチンに係る記載がないことを指摘するが,上記のとおり,特許法施行規則 24条の2は,「発明の詳細な説明の記載」に係る規定であるから,本件明細書全 体の記載から理解できれば足り,必ずしも,発明の技術上の意義を理解するために 必要な事項が「発明が解決しようとする課題」の項目に記載されている必要はない。

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令和3(ネ)10043  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月11日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審と同じく、知財高裁は、明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして権利行使不能\と判断しました。

以上からすると,当業者によって,当初明細書等の全ての記載を総合す ることにより導かれる技術的事項とは,低地球温暖化係数の化合物である HFO−1234yfを調整する際に,不純物や副反応物が追加の化合物 として少量存在し得るという点にとどまるものというほかない。
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,沸点の近い化合物を組み合せて共沸組成物とすることが本件 発明の技術的思想であることや,低コストで有益な組成物を提供すること ができること等を主張するが,当初明細書中には,沸点の近い化合物を組 み合せて共沸組成物とすることや低コストで有益な組成物を提供できる ことについては,記載も示唆もされていないから,その主張は前提を欠く し,このような当初明細書に記載のない観点から本件補正をしたというの であれば,それは新たな技術的事項を導入するものであり,まさしく新規 事項の追加にほかならない。

◆判決本文

1審はこちら

◆令和1(ワ)30991

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