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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

記載要件

平成23(行ケ)10063 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年12月08日 知的財産高等裁判所

「天然鉱物であって,海道の浅茅野層,ポンニタチナイ層, 17線川層のいずれかから産する天然鉱物」を追加する訂正について、明確性違反無し、独立特許要件(進歩性)を有するとした審決が維持されました。
 原告は,堆積した時代も層相も異なる浅茅野層等について,それぞれの地層が地質図幅に基づき認識可能であるから,天然鉱物の範囲は明確であるとの判断に基づき,本件訂正発明を明確であるとする本件審決には根拠がないと主張する。しかしながら,浅茅野層等の堆積した時代も層相も異なることが,直ちに浅茅野層等から産出される天然鉱物に共通性がないことを示すものということはできない。本件訂正発明は,オパーリンシリカとスメクタイトを主成分とし,調湿性や自硬性における特性を共通とする天然鉱物が浅茅野層,ポンニタチナイ層及び17線川層等に広く分布していることを前提とした上で(【0013】【0015】),その産地を浅茅野層等に特定したものであり,かつ,浅茅野層等は,それぞれの地層が地質図幅(甲25の1等)に基づき認識することができるのであるから,特許請求の範囲の記載は,明確性に欠けるものとは認められない(特許法36条6項2号)。\n

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平成23(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年11月15日 知的財産高等裁判所

 明確性違反(36条6項2号)の審決が維持されました。代理人無しの本人出願です。
 請求項1は,「歯科治療を行う時上下顎の石膏模型や義歯等を咬合器にマウントしなければいけませんが,其のとき上下,左右,前後の位置,又咬合平面の角度を手早く調整すること。」というものであるが,その文言や内容に照らすと,「歯科治療を行う時上下顎の石膏模型や義歯等を咬合器にマウントしなければいけませんが,」の部分は,「手早く調整すること」がいかなる場面で行われるかという前提事項を説明したものと解される。また,「其のとき上下,左右,前後の位置,又咬合平面の角度を手早く調整すること。」の部分も,上記1で認定した,「時間と精密度を大きく改善出来る」や「下顎位を変えたいときなど手短に行なうことが出来る」などの記載と同趣旨であって,本願明細書に記載された発明の効果に対応する記載であると解される。そうすると,請求項1には,前提事項と発明の効果に対応する記載がされるのみで,いかなる装置又は方法によって「手早く調整すること」を実現するか,すなわち課題を解決するための手段が一切記載されていないことになるから,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。

◆判決本文

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平成23(行ケ)10043 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年10月11日 知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が維持されました。一つの争点が、クレームの「係合」の意味でした。
   ところで,特許明細書で用いられる一般的な用語を搭載した「特許技術用語集(第2版)」44頁(乙2)には,「係合」の用例として「左右の歯車が係合し,回転が伝達される。受け具と可動突起が係合してドアが閉鎖される。」との記載があるから,特許明細書において「係合」の語が使用される場合には,「2つの部材が,互いに噛み合わされたり,突出部と対応して凹部が引っ掛かったりして,『係合』される両部材の位置(関係)が相対的に動かないようにする」という意味で用いられることがあるということができ,かかる用語の意味な理解は一般的なものである。そうすると,本件発明1にいう「係合」も,「ごみ貯蔵カセット」を外部から支持し,かつ「ごみ貯蔵カセット」を小室内で回転できるようにするべく,「ごみ貯蔵カセット」の外側壁突出部分(構成)とごみ貯蔵カセット回転装置の一部が互いに噛み合うなどして,「ごみ貯蔵カセット」とごみ貯蔵カセット回転装置の相対的な位置関係が変わらないように(動かないように)することをいうと解される。審決は,上記の特許明細書作成上の一般的な用語の理解に従い,かつ請求項9の特許請求の範囲の記載を合理的に理解して,「係合」の意義につき「2つの物が,互いにかみ合うことにより,またはその突出部と対応する凹部がひっかかることにより,連動したり,両者の相対的位置が固定されたりするような構\成をとることをいう。」とする解釈を採用したものと解され,審決のかかる判断に誤りがあるとはいえない。

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平成22(行ケ)10348 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年09月15日 知的財産高等裁判所 

 記載不備および進歩性違反ともに、理由無しとした審決が維持されました。
 前記2(2)エに認定のとおり,引用例4に記載の上記各化合物は,いずれも鎖状のアミンにジチオカルバミン酸が結合した化合物であり,環状アミンにジチオカルバミン酸基が結合した本件化合物1及び2とは化学構造が異なる。したがって,引用例4に上記各化合物の記載があるからといって,これと化学構\造を異にする本件化合物1及び2が飛灰中の重金属を固定化できることを示唆することにはならない。また,前記2(2)アに認定のとおり,引用例1には,ジチオカルバミン酸基を有する低分子量の化合物の中から,飛灰中の重金属固定化剤として本件各化合物を想起させるに足りる記載又は示唆があるとはいえず,前記2(2)イに認定のとおり,引用例2には,そこに記載の化合物又は本件各化合物が廃棄物等の焼却により生じる飛灰を水やpH調整剤と混練するという環境下で,そこに含まれる多様な物質の中で鉛等の重金属と錯体を形成し,これを固定化するものであることについては何らの記載も示唆もない。さらに,前記2(2)ウに認定のとおり,引用例3に記載のピペラジンジチオカルバメート(I)及びピペラジンビスジチオカルバメート(II)は,それぞれ本件発明における本件化合物1及び2に相当し,引用例3は,本件化合物1及び2のようなジチオカルバミン酸基を有するキレート剤が白金属元素と錯体を形成することを明らかにしているものの,それが廃棄物等の焼却により生じる飛灰を水やpH調整剤と混練するという環境下で,そこに含まれる多様な物質の中で鉛等の重金属と錯体を形成し,これを固定化するものであることについては何らの記載も示唆もない。したがって,引用例3には,本件化合物1及び2のキレート剤が飛灰中の重金属固定化剤として利用できることについてまで記載や示唆がなく,引用発明4と引用例3の記載を組み合わせて本件発明1の相違点3に係る構成を想起させるに足りる動機付けがないというほかない。\n

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平成22(行ケ)10252 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年04月26日 知的財産高等裁判所

 記載不備ありとした審決が維持されました。
 上記5つの具体例を照らし合わせると,ZrO2及びSrOの含有量が増えるほど減衰係数が小さくなる傾向が認められるものの,比較例1,比較例2及び参考例1は,いずれもZrO2及びSrOの含有量が共に0重量%であるが,減衰係数は様々な異なる値となっている上,参考例1はZrO2及びSrOの含有量が共に0重量%であるにもかかわらず,「低音響波損ガラス」である「0.25dB/cm以下」の条件を充たしている。また,それぞれの具体例では,その他の成分についても変更されていることから,ZrO2及びSrO以外の成分による影響が生じている可能性があり,ZrO2及びSrOの含有量と減衰係数の関係が正確に導出されているのか不明といわざるを得ない。むしろ,上記具体例からは,ZrO2及びSrOの含有量のみから音響波減衰への作用・効果を予\測することは困難であって,ZrO2及びSrOの含有量が請求項1で特定される所定の範囲であっても,他の成分等により所定の効果(音響波減衰の低減)を得られない場合があることを示唆する結果であるといえる。よって,ガラスの成分と音響波減衰係数との関係について,原告が主張する出願時の技術常識を参酌したとしても,上記の5つの具体例から,音響波減衰を低減できるという本願発明の効果が得られる範囲として,ZrO2及びSrOのうち少なくとも一方の成分を1重量%以上含むことが裏付けられているとはいえない。(6) そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明は,出願時の技術常識を参酌したとしても,ZrO2及びSrOのうち少なくとも一方の成分を1重量%以上含むのであれば音響波減衰を低減できるという効果が得られると,当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載されたものではない。

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平成22(行ケ)10016 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年04月14日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反,記載不備違反無しとした審決が維持されました。
 以上の本件明細書の記載によると,本件発明1は,ガラスカッターホイールの刃先に形成した所定形状の突起により,ガラスカッターホイールの転動時,ガラス板に打点衝撃を与え,更に突起がガラス板に深く食い込むために,ガラス板を,不要な水平クラックが発生しないまま,板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させて,ガラス面をスクライブすることをその技術内容とするものである。ウ 「打点衝撃を与える所定形状の突起」の意義について前記イの本件発明1の技術内容によると,特許請求の範囲における「打点衝撃を与える所定形状の突起」の技術的意義は,不要な水平クラックを発生させずに,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることを可能とする形状の突起を意味するものと理解することができる。この点について,原告は,本件発明1の「打点衝撃を与える」という文言自体は,一義的に明確に理解されるべきものであるから,本件明細書を参酌することは許されないなどと主張する。しかしながら,「打点衝撃を与える」という用語自体が明確であったとしても,本件発明1と引用発明1ないし3との対比の際,「打点衝撃を与える所定形状の突起」という一連の記載の技術的意義を明らかにするために,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された技術的事項を参照して認定することに問題はなく,原告の主張は採用できない。本件審決は,本件明細書において,刃先ではなく,両傾斜面に条痕を形成した従来技術の刃先によっては,本件発明の作用効果を奏しないとされている(【0005】)から,上記対比の際,【0009】の記載を参酌して,「打点衝撃を与える所定形状の突起」の技術的意義を明らかにしたものにすぎない。\n

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平成22(行ケ)10247 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年04月14日 知的財産高等裁判所

 物の製造方法が記載されていないとして実施可能要件を満たさないとした審決が取り消されました。
 本件審決は,i)本願発明1で用いられる炭素膜の製造工程は,上記イの(ア)(イ)(エ)が必須の製造工程であるが,同(ウ)(オ)(カ)は選択的なものであること,ii)本願発明の製造工程は,従来の「ダイアモンド状の炭素あるいはCVDダイアモンド膜」の製造方法として甲1刊行物及び甲2刊行物に記載されている製造工程と実質的に同じものであり,その製造条件は,従来の「ダイアモンド状の炭素あるいはCVDダイアモンド膜」の製造方法として上記刊行物に記載されている製造条件を含むから,発明の詳細な説明に記載されている炭素膜の製造工程は,当該製造工程により従来のダイアモンド状の炭素あるいはCVDダイアモンド膜が製造できても,それを超える本願発明1に係る炭素膜の製造を保証するものではないこと,iii)炭素膜の製造方法における温度,圧力等の製造パラメータが多数あり,かつ,その数値範囲もCVDダイアモンド膜が製造できる数値を含んでいることから,当業者は,種々の製造パラメータにおける適正な範囲やそれらの組合せ,その他の製造パラメータについて更に特定して,所望の特性を有する炭素膜を製造する方法を見つけ出さなくてはならず,当業者が過度の試行錯誤を強いられること,iv)したがって,本願発明1の電子放出デバイスが有する「炭素膜」を実施するための製造方法に関して,発明の詳細な説明には,従来のダイアモンド膜を含む一般の「炭素膜」を製造する方法が記載されているにすぎず,請求項1に記載したUVラマンバンドに関する特性を有する特定の炭素膜を実施するための製造方法が,明確かつ十分に記載されているものとはいえないし,本願発明1の「炭素膜」を得るための具体的な製造方法が,当業者の技術常識であったともいえないと判断した。イ しかしながら,本件審決の上記i)ないしiii)の判断は,以下のとおり,誤りである。

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平成22(行ケ)10249等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年04月07日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反ありとした無効審決が取り消されました。
 審決は,「訂正明細書の実施例4はタイプIの透明ガラス製アンプルにセボフルランと水を入れてフレームシールしたものであるから,そこで問題となるルイス酸は,そのほとんどがガラス容器に由来するものであると認められ,セボフルランの製造,輸送,貯蔵工程等,セボフルランがさらされる環境下において存在し得るガラス容器に由来するルイス酸以外のルイス酸が及ぼす影響を考慮に入れたものではない。・・・訂正明細書の各実施例はガラス製の容器に関するものだけである。そうすると,本件数値範囲・・・の下限である206ppmの水が存在する場合について,・・・実施例4において,40°Cの恒温装置に200時間置くとの条件下にセボフルランの分解が抑制することができた1例があることをもって,セボフルランを含有する麻酔薬組成物中の水の量を本件数値範囲・・・とすることによって,セボフルランがルイス酸によってフッ化水素酸等の分解産物に分解されることを防止し,安定した麻酔薬組成物を実現するという所期の作用効果を奏するものと当業者が理解し得ると認めることはできない。」と説示する。確かに,訂正明細書の2頁10行ないし17行には,容器であるガラスの成分である酸化アルミニウムがルイス酸としてフルオロエーテルを分解する旨が記載されているから,訂正明細書は,ガラス由来のルイス酸を念頭に置いて記載されているとも評価し得る。しかしながら,前記のとおり,訂正明細書の実施例の記載は,各訂正発明のような麻酔薬が通常使用される方法である,ガラス製アンプルに封入して保管する方法を想定してされたものであることが明らかであって,上記の通常の方法を想定したがために実施例の態様が一定のものになっているにすぎない(なお,上記の通常の方法を当業者が選択する限り,当業者が訂正明細書の発明の詳細な説明に記載の手順を踏むことによって,各訂正発明の作用効果を奏し得ることは明らかである。)。また,訂正明細書には「本明細書で用いる『容器』という用語は,物品を保持するために使用することができる,ガラス,プラスチック,スチール,または他の材料でできた入れ物を意味している。」との記載(11頁末行ないし12頁2行)があるから,ガラス以外の材料からなる容器内にルイス酸が存在する態様が除外されていないことは明らかである(なお,訂正明細書の2頁13,14行でも,「ルイス酸のソースは・・・酸化アルミニウムであり得る。」と記載されているにすぎず,ルイス酸の源が酸化アルミニウムであるとか,容器のガラス由来の物質であると必ずしも断定されているわけではない。)。そして,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載の内容に照らせば,ガラス以外の材料から成る容器内にルイス酸が存在する場合においても,当業者において,上記記載に従って手順を踏むことによって,各訂正発明の構\成を実施することが可能であると解して差し支えない。したがって,審決の上記説示は誤りであり,実施可能\要件の充足の有無に係る前記結論が左右されるものではない。

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平成22(行ケ)10109 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年02月28日 知的財産高等裁判所

 サポート要件(36条6項1号)違反であるとされた審決が取り消されました。
 36条6項1号は,「特許請求の範囲」の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を要するとしている。同条同号は,同条4項が「発明の詳細な説明」に関する記載要件を定めたものであるのに対し,「特許請求の範囲」に関する記載要件を定めたものである点において,その対象を異にする。特許権者は,業として特許発明の実施をする権利を専有すると規定され,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した「特許請求の範囲」の記載に基づいて定められる旨規定されていることから明らかなように,特許権者の専有権の及ぶ範囲は,「特許請求の範囲」の記載によって画される(特許法68条,70条)。もし仮に,「発明の詳細な説明」に記載・開示がされている技術的事項の範囲を超えて,「特許請求の範囲」の記載がされるような場合があれば,特許権者が開示していない広範な技術的範囲にまで独占権を付与することになり,当該技術を公開した範囲で,公開の代償として独占権を付与するという特許制度の目的を逸脱することになる。36条6項1号は,そのような「特許請求の範囲」の記載を許さないものとするために設けられた規定である。したがって,「発明の詳細な説明」において,「実施例」として記載された実施態様やその他の記載を参照しても,限定的かつ狭い範囲の技術的事項しか開示されていないと解されるにもかかわらず,「特許請求の範囲」に,「発明の詳細な説明」において開示された技術的範囲を超えた,広範な技術的範囲を含む記載がされているような場合は,同号に違反するものとして許されない(もとより,「発明の詳細な説明」において,技術的事項が実質的に全く記載・開示されていないと解されるような場合に,同号に違反するものとして許されないことになるのは,いうまでもない。)。以上のとおり,36条6項1号への適合性を判断するに当たっては,「特許請求の範囲」と「発明の詳細な説明」とを対比することから,同号への適合性を判断するためには,その前提として,「特許請求の範囲」の記載に基づく技術的範囲を適切に把握すること,及び「発明の詳細な説明」に記載・開示された技術的事項を適切に把握することの両者が必要となる。・・・・前記のとおり,本願発明の特徴は,先行技術と比較して,「アミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し,非イオン性両親媒性脂質を含まない)」を適用するという前処理工程を付加した点にある。そして,i)特許請求の範囲において,前処理工程を付加したとの構成が明確に記載されていること,ii)本願明細書においても,発明の詳細な説明の【0011】で,前処理工程を付加したとの構成に特徴がある点が説明されていること,iii)本願明細書に記載された実施例1における実験は,前処理工程を付加した本願発明と前処理工程を付加しない従来技術との作用効果を示す目的で実施されたものであることが明らかであること等を総合考慮するならば,本願明細書に接した当業者であれば,上記実施例の実験において,還元用組成物として用いられたDV2が「アミノシリコーンを含有する還元用組成物」との明示的な記載がなくとも,当然に,「アミノシリコーンを含有する還元用組成物」の一例としてDV2 を用いたと認識するものというべきである。確かに,前記3(3)記載のとおり,原告は,本願発明の還元用組成物について,アミノシリコーンを含有しない還元用組成物である旨の意見を述べている。しかし,原告が,このような意見を述べたのは,本願発明が,先行技術との関係で進歩性の要件を充足することを強調するためと推測され,手続過程でこのような意見を述べたことは,信義に悖るものというべきであるが,そのような経緯があったからといって,DV2が「アミノシリコーンを含有しない還元用組成物」であることにはならない。なお,甲14ないし16によれば,DV2は,アミノシリコーンを含有しているものと推認される。イまた,実施例2,3においても,アミノシリコーンミクロエマルジョンを含有する前処理用化粧料組成物を毛髪に適用した場合とそうでない場合が比較され,本願発明の効果が示されているということができる。(4) 小括以上のとおりであり,審決が,i)本願発明について,「還元処理の前にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有する前処理用化粧料組成物を毛髪に適用して前処理をし,その後アミノシリコーンを含有しない還元用組成物により還元処理をする」との構成に係る発明であると限定的に解釈したと解される点,ii)「前処理をせずに,アミノシリコーンを含む還元用組成物により還元処理をした従来技術」とを比較した場合の本願発明の効果が示されていないと判断した点,及びiii)本願発明1ないし9について,「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるということはできないと判断した点に,誤りがある。

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平成22(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年02月10日 知的財産高等裁判所

 数値限定発明について、サポート要件違反とした審決を取り消しました。
 この点について,被告は,本件発明における(A−1):(A−2)のGPCの面積比と実施例における面積比の上限はかけ離れていること,本件発明の構成が定める面積比とその効果との因果関係や技術的意義が全く記載されていないことなどから,本件明細書の記載によっては,当業者は,GPCの面積比「(A−1):(A−2)=100:1〜100」の全ての範囲について,本件発明の課題を解決できるとは認識できないなどと主張する。しかしながら,本件明細書には,数値範囲の下限及び上限について,数値範囲の意義((A−1):(A−2)=100:1未満である場合,実質的なオリゴマーの効果が発現しない傾向があり,100:100を超える場合,接着剤の接着強度の低下や,接着剤の保存安定性が低下する傾向がある。)が記載されており,その範囲内の効果についても,「A−1とA−2とが,GPCの面積比で,(A−1):(A−2)=100:1ないし100であることが好ましく,(A−1):(A−2)=100:1.1ないし80であることがより好ましく,(A−1):(A−2)=100:1.2ないし60であることがさらに好ましく,(A−1):(A−2)=100:1.3ないし40であることが最も好ましい。」と指摘し,さらに,上記数値内における適宜の構\成を選択した実施例において,接着強度等の効果についての試験結果が明示されているのであるから,被告が指摘する実施例による開示が少ない点は,上記結論を左右するものではない。・・・本件審決は,本件発明1の課題について,i)高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤が提供されたこと及びii)保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤が提供されたこと認定しており,本件発明1の課題に関する認定については,何らの誤りはない。しかしながら,本件審決は,サポート要件の判断において,ii)接着剤の保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤の提供という課題についてのみ,当業者が認識することができるか否かについて判断を行い,i)の「高接着力で信頼性が高い接着剤」の提供なる解決課題が解決できるか否かについての判断を行っていない。また,先に指摘したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に係る接着剤の接着力について,その効果が実施例として具体的に開示されているのであるから,本件審決のサポート要件の判断には,本件明細書の発明の詳細な説明の記載内容に関する認定自体に誤りがあるものというほかない。
イ 本件審決は,本件発明1について説示した理由と実質的に同一の理由により,本件発明6ないし8及び10がサポート要件に違反すると判断しているところ,本件審決における本件発明1のサポート要件に係る判断が誤りである以上,本件発明6ないし8及び10についても,本件審決のサポート要件に係る判断が誤りであることは明らかである。なお,原告の主張に鑑み付言すると,本件審決は,サポート要件の判断について,「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」の点について判断をするとした上で,本件発明は,サポート要件を欠くものと判断しているところ,本件発明6ないし8及び10は,いずれも「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」について何らかの特定を有する発明ではないから,「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」についてのみ検討した上で,本件発明1ないし5及び9と実質的に同一の理由により,本件発明6ないし8及び10についてもサポート要件を満たさないとした本件審決の判断は,それ自体誤りであるというべきである。

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平成22(行ケ)10105 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年01月25日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件を満たしていないとした審決が維持されました。
 そもそも,本願明細書の「発明の詳細な説明」における「発明を実施するための最良の形態」の項において,発明を具体的に説明している段落【0016】ないし【0052】及び全8図の図面のうち,「等容積プロセス」を経た後の「定圧力プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うという本願発明に関して具体的に記載している部分は明細書の段落【0050】と図8のみであって,それ以外の部分は「等容積プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うことを前提としたものについて記載したものであり,本願発明の実施例とはできないものである。そして,本願発明のような「等容積プロセス」を経た後の「定圧力プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うものと,「等容積プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うものとでは,燃焼プロセスが異なるものであって,燃料の導入タイミング及び導入量等の条件は当然異なるものになるから,「等容積プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うものについての条件を,本願発明のような「等容積プロセス」を経た後の「定圧力プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うものに用いることはできないと考えられる。・・・原告が主張するように本願発明の燃焼サイクルの各プロセスにおける容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)が計算できたとしても,依然として,各プロセスを生じさせる燃焼噴射タイミングや,各噴射タイミングにおける燃料噴射量をどのように決定するのかが不明である。なぜならば,噴射された燃料が燃焼して熱が生じるには時間的なずれが生じており,燃料噴射タイミングと各プロセスの発生タイミングとは必ずしも一致しないことから,各プロセスにおける容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)が決まっても,各プロセスを行うための各燃料噴射タイミングと各燃料噴射タイミングにおける噴射量を決定することはできないからである。すなわち,本願発明の各プロセスでの容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)については,所望する値を算出することは窺い知ることができたとしても,そのような値となる各プロセスを実現するための各燃料噴射タイミングと各燃料噴射タイミングにおける噴射量を決定することについては,当業者に過度の試行錯誤を強いる。
 (3) 以上より,発明の詳細な説明に当業者が容易に本願発明を実施をすることができる程度に発明の構成が記載されているとはいえないとした審決の判断に誤りはない。\n

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